「ん? 誰だこれ?」
とあるオフィスの一角で金髪の女性がそう声を漏らす。
女性は新人社員のデスクに置かれた携帯の待ち受け画面に映っている人物を見て疑問に思った。待ち受け画面に映っているのは二人。一人はこの携帯の持ち主である新人社員、そしてもう一人が赤髪の青年。仲良さげに体を密着させてのツーショットである。
この写真を観た金髪の女性はとある可能性にたどり着いた。
「まさか――青葉の彼氏?」
いや、でも、歓迎会の時いないって言ってたよなー、などと呟きながら待ち受けを見ていたら隣で仕事をしている女性から声をかけられた。
「なにさっきからブツブツ言うてはるんですか? それと、勝手に人の携帯みるんはどないかと思いますよ八神さん」
「ちょっとユンこれ見てよ! どう思う?」
「いや、だから勝手に人の携帯見るんは……」
と言いつつも、さっきから八神がなぜ新人社員の携帯を直視していたのか気にもなっていたので、駄目よ駄目よと言いつつ携帯をみるユン。
そして待ち受けを見た瞬間に驚愕の目で八神の方を視てしまっていた。
「――八神さん。これって……」
「だよな! やっぱり青葉の彼――」
「――二人ともさっきから何見てるんですか?」
突然背後からヒョコっと顔を出して声をかけらたことにビクッと驚く二人だったが、その人物を見るや否やホッと一安心する。
「なんだ。はじめか」
「びっくりしたー。ほんと驚かさんといて」
「? ところで一体何を見ているんですか?」
「実は――」
と続けながらはじめと呼ばれた少女に待ち受けを見せながら、青葉に彼氏がいるかもしれない、と八神は説明する。
。
「――青葉ちゃんに彼氏!?」
「ちょ、はじめ声がでかい! 今青葉ちゃんが戻ってきたらどうするん!」
「ごめんごめん。……でも八神さん、それって本当に青葉ちゃんの彼氏なんですか?」
「う~ん。そうなんだよな。歓迎会の時は彼氏いないって言ってたし、そこが今一引っかかるんだよなー」
「そんなのあの後彼氏が出来たに決まってはりますよ! だ、だって、こない密着してツーショットですよ!」
二人の意見に少々頬を赤らめながら反論するユン。
そんなユンの反論に賛否両論の反応を二人は見せる。
「ひふみ先輩はどない思います!?」
三人で騒いでいるにもかかわらず、その話に加わることなく淡々と仕事をこなしていた女性ーー滝本ひふみ。
「えっ……? ……えっと……なにが?」
「これです! これってやっぱり青葉ちゃんの彼氏だと思いません!?」
ユンから待ち受け画面を見せられたひふみは青葉と一緒に写っている赤髪の青年を見て眼を見開く。
そして口をパクパクさせながら"彼氏"と小さく呟いた。
「ですよね。やっぱりひふみ先輩もそう思いはりますよね!」
「でもさ~。これって結局青葉に聞かなきゃ本当のところ分かんないよね」
「じゃあ、八神さんが青葉ちゃんに聞いてくださいよ。上司なんだし」
「わ、私!? い、いや、これ上司とか関係ないし。ユンが聞いてよ。隣の席なんだし」
「私ですか!? それだったらはじめの方がそれとなく聞けるんとちゃう?」
「――皆さんこんなところで何やってらっしゃるんですか?」
トイレから自分のブースに戻って来た青葉が声をかけると、三者一同一斉にビクッと肩を震わせた。
(ほら八神さん! 聞くチャンスですよ!)
(えぇ~! 結局私が聞くの!?)
(頑張って下さい八神さん!)
なんで私が……、と思いながらも部下の押しに根負けして、八神は聞くことにした。
「ねえ青葉……」
「なんですか?」
青葉は不思議そうな顔でコテンっと首をかしげる。
「――こ、ここのキャラなんだけどさ、こんな風にやった方が良いよ」
「おおー! なるほど、勉強になります」
青葉はそう言い真剣にメモを取り始める。
(ちょっ! 八神さん!)
(やっぱ無理! あ、明日! 明日それとなく聞くからもういいだろ!)
―――
私の名前は涼風青葉。
今年からイーグルジャンプで働くことになった新社会人です。
そんな私には今日会社でとても気になった事がありました。それはお手洗いから戻った後のことです。キャラ班の皆さんが私の机の前で何か話し合ってたので何をしているのか聞いたところ、何故か三人でこそこそと話し合っていたのです。
一体何だったのでしょうか?
そんなことを考えていたら家の前に着いていました。
「ただいまー!」
私は玄関の扉を開きそう言うとリビングへと足を運んだ。
リビングではお母さんがキッチンで夕食の準備をしており、お兄ちゃんがソファーでぐったりと寝そべっている。
「青葉じゃん。お帰りー、今日は帰ってくるの早かったな」
「うん。今日は定時までに仕事終わらせたから残業無かったんだー」
「ふーん、良かったじゃん。まあ漸く、お前も仕事に慣れてきたっつーことなんじゃねえの」
「ふふーん、まあね~。このまま一気にキャラデザ任されちゃったりして……!」
「キャラデザに任命された涼風青葉! 八神コウは既に射程圏内、てか?」
それはまだ無理かな~、と言い私はお兄ちゃんのお腹の上にまたがる。
「それよりお兄ちゃん。仕事から帰って来た妹にソファーを明け渡すのだー! さもないと~」
「――こうだ!」
手をわきわきさせお兄ちゃんの脇をくすぐり出す。
最初は我慢していたお兄ちゃんもすぐに耐えきれなくなり降伏宣言をする。
「ちょっ、お前、やめろって。そ、それは、ズルい、ズルいぞ! わかった、わかったから! ソファーの半分をお前にやろう。これでどうだ?」
「よろしい」
私は笑顔でそう答えた。
そしてお兄ちゃんを起き上がらせるため、一旦お腹の上からどき、カーペットに立ち上がる。
お兄ちゃんは起き上がりソファーに座ると"そうだ!"と言い私に話し掛けてきた。
「妹よ。お前仕事で疲れてるだろ。お兄ちゃんがマッサージしてやるから、そこに寝転がってうつ伏せになれ」
「本当! 流石お兄ちゃん! 妹思いな兄を持てて私は嬉しいよ」
私はお兄ちゃんに言われた通りソファーに寝転がると、速くして欲しい余りかついつい急かしてしまう。
お兄ちゃんは急かす私をなだめつつ、ゆっくりと腰の辺りにまたがってくる。
「なあ青葉、知ってるか……?」
「? なにが?」
腰を揉みながらそう聞いてくるお兄ちゃんだか、何のことかさっぱりである
「俺さ、やられたら倍がえしでやり返したくなっちゃうんだ」
その一言で気持ちよくマッサージされていた体は硬直し、筋肉が堅くなっていくような感覚を覚える。
「ま、まさか、無抵抗な妹にやり返したりなんてしないよね……?」
私がそう聞くとお兄ちゃんは満面の笑みで、勢いよく私の腋をくすぐって来た。
「そのまさかだ! 今後兄にあんな事が出来ないように、兄妹のヒエラルキーをその体に刻み込んでやる」
「ご、ごめんなさい! だ、だから、やめ、やめて! こ、このままだと、私笑い死んじゃうよ。ウヒャ、アハハハ!」
「まだだな。お前はこれぐらいの事じゃ懲りずに、すぐ報復行為をしてくるからな」
「し、しないから。や、やり返さないから。きょ、きょうは、これでーー」
――プルルルル
"降参"と言おうとしたらその前にテーブルの上に置いてある携帯が鳴り出した。
お兄ちゃんの携帯である。
お兄ちゃんは私の腰に乗ったまま携帯を取り、そのまま電話に出た。
「もしも。どったの? え? 別にいいけど……。なんかあった? うん、わかった。じゃあ今からそっち行くね。オッケー。んじゃ、また」
プープープ。
電話が切れる。恐らく電話相手は彼女さんなのだろう。
今の彼女さんと付き合って数年経ってるらしいけど、私は彼女さんに一度も会ったことがない。
家族内で唯一、お母さんだけが彼女さんを見たことがあるらしい。たまたまバッタリとデート中に遭遇してしまったらしい。
お母さんが言うには大人しそうで可愛らしい娘だったそうだ。
一体どんな人なのだろうか? 一度で良いから会ってみたい。
「よっこいしょっと。悪いな青葉。お兄ちゃんちょっと此れから彼女に会ってくるから。いや~、今日は会う予定なかったのに、急に"会いたい"って言ってくるんだもん。彼女からの愛が強すぎて困っちゃうな~」
やれやれ、みたいなポーズを取りつつもお兄ちゃんは嬉しそうな顔で表情は満面の笑みである。
そんな顔を見ていたらちょっと悪戯したくなってきた。
「でもー、急に会いたいってことは、急用ってことだよね? 案外別れ話だったりして。今すぐ別れて欲しいとか?」
「いやいや、あり得ないあり得ない。俺ら別れる原因なんて何処にもないし。……多分」
「多分!? えっ、何か思い当たることがあるの?」
自分から話を振っといて何なのだが、本当に思い当たる節があるとは……。
「いや、でもあれは別にただの数会わせだし。そのまますぐ帰ったし」
お兄ちゃんが何かを確認するようにぶつぶつ独り言を発している。
「よし! 何も無い! 大丈夫だ。それじゃあ行ってきますー!」
一人で何かに納得したようで、お兄ちゃんは元気よくリビングを飛び出していった。
new gameは一応全巻持ってて、キャラの口調とかは分かってるつもりですけど、ここが可笑しいとかのご指摘があれば是非教えて下さい。
あと文を書くのが下手で青葉の心情がうまく描けずに申し訳無いです。
もうちょっと青葉が兄をどう思っているのかをうまく書けたら良いのですが、今の自分には中々難しいです。
小説書くのって難しいですね……。
ストックとか無いんですけど次の投稿は一週間以内にはしたいと思っています。
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2話
やっぱりある程度ストック溜とくもんなんですかね?
俺の名前は涼風紅葉。
都内の美大に通っている大学三年生だ。フリーのイラストレーターをやっていたりもする。知名度は業界内だとそこそこあるんじゃ無いかな。……多分。
まあ、仕事がぼちぼち入ってくるぐらいの知名度はあると思っていてくれればいい。
そんな俺だが、ただいま彼女が住んでいるアパートの前にいる。
本来今夜彼女と会う予定は無かったのだか、夕方突然電話がかかってきて"今日会えないかな?"と聞かれたのである。もちろん断る理由も無く、即行で彼女の家に来た。
それにしてもなんか何時もより元気が無かったような気がする……。
「なんか会ったのかな?」
取り敢えず玄関を開けて貰うために、ピンポーンとインターホンを鳴らす。
すると此方へ向かってくる足音が聞こえ、ドアがガチャと開きこのアパートに住んでいる彼女が顔を見せる。
「よっ! ひふみ」
「……くれは君。……中に、入って」
「う、うん」
やはり様子がおかしい。しかしこれは元気が無いというよりも、なんか怒っているような気がする。
やはりこの間の件がバレているのか……?
取り敢えずひふみの後について、部屋の中に入る。
「おっ、宗次郎じゃん。おひさー」
そう言いハリネズミの宗次郎に指でチョンチョンと挨拶するが、プイッと顔を反らされて無視されてしまう。
ふむ……、おかしい。何時もならもうちょっとじゃれてくるのに。
「そういえばひふみ。急に会いたいなんて何か――」
"あったの?"と聞こうとしたがその言葉は発することが出来なかった。何故ならひふみからベッドの上にいきなり押し倒されたからだ。
ひふみはそのまま俺の腹部にまたがり、顔の横にドンッ両手をついてきた。
「あ、あの、ひふみさん? こ、こんな積極的になるなんて珍しいね。そんなに溜まってたの……?」
彼女の大胆な行動に内心ビクビクしながらも軽口をたたく。
「……違う」
「で、ですよねー。分かっていました」
やっぱりあの事かなー? と、この様な事になった原因をある程度予測して再び口を開く。
「なあ、ひふみ――」
「――青葉ちゃん」
「……へ?」
予想外の人物名が出て来たことに唖然とする。
なぜ今この状況で"青葉"の名前が出てくるのかが謎すぎる。俺の知っている限りではひふみと青葉は互いに面識が無いはずだ。家の家族でひふみと面識があるのは母さんだけのはずだ。
別に知られて困ることでも無いけど、なぜ青葉のことをひふみが……?
「……知ってるよね……青葉ちゃんのこと」
「あ、ああ。もちろん知ってるよ」
俺がそう返すとひふみは悲しそうな顔になり、目尻からは透明な雫がうっすらと流れ落ちていく。
「そうなんだ……誤魔化す気もないんだね」
や、やばい。何故この様な状況になったのかが一切分からない。
確かにひふみは普段から口数が多い方ではないので、ほぼ初対面の時は何を考えているのか分からなかった時も多々ある。
しかし数年も付き合っていればある程度何を考えているのかはだいたい分かる。分かるのだか……こと、今回に至っては一切分からない。
「ねえ 私何かした……? くれは君の気に触るようなこと……何かした? してたら謝るから……」
「それともやっぱり年上よりも年下の娘のほうが……好きだった?」
やばい。何故こんなシリアスな雰囲気になってるのかが現在進行形で分からない。
「ねえ 何か答えてよ……! 答えてくれないと分からないよ……!」
とうとう涙腺が崩壊したようで大量の涙がこぼれ落ち、俺の胸に顔を埋め号泣し始める。
未だに話の大枠が掴めていない俺はなんと声をかけていいのかが分からず、ただただ抱き締めてひふみを落ち着かせる事しか出来ずにいた。
ただ一つ分かったことがある。この話には青葉が関係していると……。
―――
夢を見た。
まだ私が上京してきたときの夢。
あの時はまだ東京の人混みにも慣れてなく右も左も分からない状態のときだった。
――お姉さん。何かお困りごと?
そんな時だった彼が声をかけて来てくれたのは。
――やっぱり、上京してきた人なんだ。うん、わかるよ。お姉さんの場合物凄く分かりやすかったよ。上向いてキョロキョロしてるんだもん。
彼は笑いながらそう教えてくると”どこか行きたい所でもあるの?”と聞いてきたので、私は内心恥ずかしながらも”自宅の場所がわからない”と答えた。
すると彼は愉快そうに”流石にそれは無鉄砲すぎるでしょ”と答え、道案内をしてあげると言ってきた。
そして別の日。
会社への行き方が分からなく困っていた私の目の前に、また彼は現れた。
――お姉さんまた帰り道分かんなくなったの? この間〇〇駅からの帰り道メモした紙渡したじゃん。無くしちゃったの? だからあれ程携帯で写メっときなよって言ったのに……。
――違うの? 会社までの行き方が分からないの。……いや、流石に上京したばっかりでもそれはやばいって。入社試験の時、一体どうやって面接会場まで行ったのさ……。
彼の私を見る目が、どんどん変な人を見るかのような目になって来て恥ずかしかったので、その場を立ち去ろうかしたのだが、結局会社への道が分から無かったので彼にまた道案内してもらうことになった。
そしてさらに別の日。
また彼に会った。いや、正確には会えた。
――おっ、お姉さん。お久し振りじゃん。そんなにキョロキョロしてまた迷ったの? 仕方ないな~。また道案内してあげるよ。
彼はそう言ってどこに行きたいのか聞いてきたが、今回キョロキョロしてたのは道に迷った訳ではなく、人を探していたから。そう、彼を探していたから。
――道案内のお礼? 別にいいのに、俺もちょうど暇してたから案内しただけだし……。あ、そうだ! じゃあ今日一日付き合ってよ!
首を縦に頷くと、彼は私の手を取りおもむろに街中の方へと歩き出した。
急に手を握られた時はドキッとして、顔まで真っ赤になってしまったがそれを悟られないため、頑張って違うものを見てるふりをしながら彼から顔を逸らしていた。
今思えばこの時からもう私は彼のことが気になっていたのかも知れない――
―――
「ん……。夢?」
眼を擦りながら上半身を起こす。どうやら泣き付かれていつの間にか眠っていたようで、体には毛布がかけてある。
キッチンでは彼が何かを作っているようで、芳ばしい香りが此方まで漂ってくる。
「おっ、おはよう。 ひふみまだ晩御飯食べてないだろ? 後はお皿に盛り付けするだけだからちょっと待ってて」
彼はそう言い終わると、馴れた手つきで食器棚からお皿を取り出し、フライパンで炒めていたものを二つのお皿に分ける。
そして此方にあるテーブルへと持ってきた。
「ほら、くれは君特製チャーハンだぞ。あんまし料理しないから味は保証できないけどね」
彼はそう言いながら笑いかけてきた。
「ほら、冷めちゃわないうちに食べよう」
彼が食べはじめたのを見て私も"頂きます"と呟き食べ始める。
「やっぱ、美味しくないな」
「ううん 美味しいよ」
確かに彼の言うとおり味は美味しくない。でも、自然と心は満たされていく。
「そうか……?」
「うん」
彼は気恥ずかしそうに頭をかきながら笑いかけてくる。
その笑顔を見てると心が癒されてくる。
やっぱり私は彼のことが好きだ。
東京に上京してきて誰よりも永く一緒に過ごしてきた彼のことが好きだ。
彼が二股していると知ったときも怒りよりも、悲しみの方が強かった。
「ねえ くれは君」
私が話しかけると彼は真剣な顔で此方の話を聞く姿勢をとる。どうやら私が何を言うのかは見当がついているようだ。
「私はくれは君が好き。その気持ちは今でも変わらない。だから……別れたくない」
「青葉ちゃんと……別れて欲しい」
自分でも分かるぐらい心臓がドキドキしている。自分の気持ちは全部伝えた。後はくれは君しだい。彼がもし青葉ちゃんを選んでも私は恨まない。
「そう言うことか……プッ!」
私がそう決意を固めていると、彼はお腹を抱えて笑い始めた。微笑むとかではなく爆笑。ツボにハマったように盛大に笑い出した。
私も流石にその態度には少々カチンと来たのでもの申した。
「何が可笑しいの……くれは君!」
「い、いや、ひふみちゃん。青葉とは別れるも何も付き合ってないよ」
「へっ……!」
そんなはずは無い。あんな仲良さげにツーショットを撮っていたのだ。
まさか……。
「じゃあ……青葉ちゃんのこと弄んでたの」
「いやいや、あり得ねー。……あのね、ひふみちゃん。俺と青葉は兄妹だよ」
「へ……。そ、そんな嘘に今さら騙されない」
「いや、ほら。名字も両方"涼風"じゃん」
「そ、それは……たまたま」
「そんなに俺って信用無い? わかった。じゃあ青葉に今から電話かけるよ」
彼はそう言うとポケットの中から携帯を取り出し、電話をかけ始めた。
三回目のコールが鳴り通話相手が電話に出た。
『もしもしお兄ちゃん? 今彼女さんの所にいるんじゃないの? もしかして本当に別れ話だった?』
彼をからかう様に話しかけるその声は正真正銘、青葉ちゃんの声だった。
「ああ。本当に別れ話になるところだったよ。お前のせいでな……!」
『えぇー!? 何で私のせい?』
「俺にも詳しいことはわからん。取り敢えず、彼女が話したいらしいから代わる」
はい、と言い彼は私に携帯を渡してきた。
いきなり渡されても何を話せば良いのか分からず、名前を呼んでみることにした。
「……青葉ちゃん?」
『は、はい! はじめまして! 妹の涼風青葉です。って、この声何処かで……?』
「私……。滝本ひふみ」
『えっ!? ひ、ひふみ先輩……!? じゃあお兄ちゃんの彼女さんって、ひふみ先輩だったんですか!?』
「う、うん。青葉ちゃんもくれは君の妹だったんだ」
『は、はい。何というか、世間って以外と狭いですね』
「……そうだね。じゃあ……くれは君に代わるね」
青葉ちゃんの返事を聞き終え、くれは君に携帯を渡す。
彼は青葉ちゃんと何回かやり取りした後、直ぐに電話を切り携帯をテーブルの上に置いた。
今の私の心の中は先程までとは打って変わって、いろんな恥ずかしさで溢れ返っている。
今日の出来事を思い返すだけで顔から火が出るような気分だ。
「さてと……。ひふみちゃん!」
くれは君はそう言い笑顔で私の肩に両手を置いてくる。
彼のこの顔は意地悪をするときの顔だ。
「あ~あ。俺悲しかったな。ひふみから全然信用されて無くって。俺は何時だってひふみ一筋なのに……」
「ち、違うの。信用してなかった訳じゃなくて……」
彼の落ち込んだ姿を見て、私は慌てて弁解を始めるがこうなったらもう遅い。後はくれは君の掌の上で踊らされることになる。
「もう、数年間の付き合いなのに……」
そう呟くと目元を押さえ泣いている素振りを見せ始める。恐らくこれは嘘泣きだ。しかし嘘泣きだと分かっていても、今日のこともあり良心が削られる。
「ご、ごめんね。……何でもするから……許して」
私がそう言うと、待ってましたと言わんばかりの勢いで顔をあげる。満面の笑みだ。
「本当に何でも?」
「う、うん。……何でも」
彼はその言葉を聞き取ると"そっか、じゃあー"と続け。
――今夜は寝かさないぞ
と私の耳元に囁いてきた。
耳まで真っ赤になった私はこくこくと頷くことしか出来なかった。
「――それにしても良かった。てっきり合コン行ったのがバレてそれで怒ってのかと思ってたから」
「はっ?」
「あ……。やべ」
「くれは君……どういうことかな?」
「あ、い、いや、違うんだよ、ひふみ。あれは只の数会わせで行っただけで、直ぐ帰ったから」
「ふんっ……! くれは君なんてもう知らない」
「ご、ごめんなさい。何でもするから許して下さい!」
「今……何でもっていったよね? なら――」
何時も小説くときは先に落ちを決めて書くようにしているんですけど、たまに落ちまで上手く持っていけないことがあるんですよね。
ほんとは偶にじゃないんですけど( ´∀` )
本当は一番最後の会話を綺麗に落ちに持ってきたかったんですけどね……。
上手く繋げれなくて、申し訳程度に最後に持ってきました。
小説って難しいな~( 一一)
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3話
学校とバイトで書く時間が中々取れ無くて、遅くなってしまいました。
ごめんねー(>_<)
「あっ、ひふみ先輩。おはようごさいます!」
「あ、青葉ちゃん。……おはよう」
先日の電話で自分の彼氏と職場の後輩が兄妹だと知ったひふみと、自分の兄と職場の先輩が恋人同士だということを知った青葉の二人。
いざ、対面すると今まで只の先輩後輩の関係がちょっと違うものにみえてくる。
「それにても驚きましたよ~。まさかお兄ちゃんの彼女さんがひふみ先輩だったなんて」
「わ、私も……青葉ちゃんが……くれは君の妹だったなんて……驚いた」
「世の中って以外と狭いですよね~。ところでひふみ先輩とお兄ちゃんはどこで知り合ったんですか?」
青葉の質問にひふみは少々考えるような素振りを見せた後にこう答えた。
「……駅……かな?」
「えき……?」
「うん ……道に迷ってるとき……助けてくれた」
「あぁー! 駅ですね! 電車の駅ですね!」
「うん そうだけど……?」
何のことか分かって無かった青葉が合点がいったように何度も連呼するが、ひふみからしたら何故そこまで確認してくるのか不思議だ。
「な、なるほど。――それで、どっちから告白したんですか?」
ニヤリと口の端を歪めてからかう様に笑い、青葉はひふみに問いただす。
ひふみはそんな彼女の表情を見て、ゴクリと息を呑む。やはりくれは君の妹だ、と……。
「――二人とも何の話してるの?」
そんな二人の元に突然現れ、声をかけてきたのが八神コウである。
「あ、八神さん。おはようございます! 聞いてくださいよ! 実はひ――」
"ふみ先輩が"と続けようとした青葉はシー! シー!と必死にジェスチャーしているひふみが目に入り、苦笑いをしながら口を止めた。
「ひ……?」
途中で口を止めた青葉の様子を見て、八神は不思議そうに首をかしげる。そんな彼女の様子を見て慌てたように別の言葉を続ける。
「ひ、一人二役の練習を二人でやってたんですよ! ねっ、ひふみ先輩!」
「えっ!? ……う、うん」
「いや、訳がわからん。二人いるんだし一人一役でいいだろ……」
呆れたような顔でしばらくの間二人を見ていた八神だが、何かを思い出したかのように再び口を開き始める。
「そういえばさ~。最近私の携帯なんか重いんだよね。結構前のやつだし、もうそろそろ買え時かな~って思ってるんだけど、二人はどんなの使ってるの?」
「わ、私は……これ」
そう言ってひふみが出したのは国内大手メーカーのスマートフォンだ。
八神はひふみに触って良いか許可を取り、承諾を得て触り始めた。
「おぉー! 手に馴染んで操作しやすそうだね。青葉はなに使ってるの?」
「私はこれです! 好きに触ってもらって大丈夫ですよ」
そう言った青葉から携帯を渡された八神。
表面上はただ携帯の触り心地を確認しているだけの様に見える彼女だか、実は内心非常にドキドキしていた。
その理由は昨日の夕方、定時過ぎに"八神""はじめ""ゆん"の三人で考えた作戦を成功させるためである。
『――いいですか、八神さん? まず八神さんが"携帯変えようかと思ってるんだよね~"的なことを言って青葉ちゃんの携帯を触らせてもらうんです』
『で、それから待ち受け画面にして、あの男の人が彼氏かどうか聞くんでしょ。もう分かったってば』
『八神さん! 自然体ですよ! 不自然に聞いたらあきませんよ!』
『もうっ! 分かってるってば!』
昨日半ばやけくそ気味にああは言ったものの、いざそれを目の前にすると緊張と不安が入り混じった感情で中々口を開けずにおり、携帯を手の中でクルクルと回して感触を確かめるふりをしているのだ。
しかし青葉はそんな事はつゆ知らず、ひふみの時と違いうんともすんとも言ってくれない八神に少々不安を感じてしまう。
「わ、私の携帯って何処かおかしいですか?」
「えっ、いや、何処もおかしくないよ! い、いやー、手触りが良さ過ぎてつい夢中になっちゃったかなー!」
アハハハと誤魔化すように笑うと、青葉もホッとしたような顔になり"よかった"と呟くと。
「じゃあ、そろそろ返してもらって良いですか?」
「え……」
「え……?」
暫しの沈黙が二人の間に流れる。
「あっ、携帯ね! オッケー! オッケー!」
それ以外に何があるんだろう? と疑問に思いながら青葉は携帯を受け取ろうとする。
(あー、もうっ! あの時パーを出しとけばこんなことせずにすんだのに!)
内心で"くっそー!"と叫んでいる八神はとうとう覚悟を決めたようで、意を決して青葉へと疑問を問いかける。
「あっ、あっれー、待ち受けに青葉と誰か男の人が写ってるぞー」
八神がそう発した後、"下手か!"と言う二人の突っ込みがブース外から聞こえてくる。
その数秒後に、如何にも今出社しましたよと言わんばかりの表情でブース内に顔を出す二人の姿があった。はじめとゆんだ。
二人は"おはようごさいます"と挨拶をし、皆がそれぞれ挨拶を返す。
「ゆんさん、はじめさん、おはようございます!」
「……おはよう」
「二人ともおはよう――」
「――あっ、二人とも聞いてよ! 青葉に男が要るかもしれないんだ!」
「えっ! ほんまなん!? 青葉ちゃん!?」
ゆんが青葉に迫り興奮気味に聞く。
因みにここまでの流れはすべて三人の計画どりの流れだ。
しかしそのような事を知らない青葉は”男?”と首をかしげ、何の事だと思い自分の携帯の待ち受けを覗き見る。
「あー、これの事ですか? これはですね――お兄ちゃんと撮った写真ですね」
「え、えぇー!? お兄ちゃん!? これほんまに青葉ちゃんのお兄さんなん!? 恋人とかじゃなくて!?」
「はい、だだの兄ですよ」
ゆんの驚きっぷりとは裏腹に青葉は冷静にそう返答する。
「で、でも、普通こない密着してツーショットなんて兄妹で撮る?」
「え、撮りません? うちではよく、乗っかりあったりとかもしてますよ」
"乗っかりあったり……"とその場にいた全員がそう呟き、その光景を思い浮かべる。
「あ、青葉ちゃん家って兄妹仲良いんやね」
年の離れた妹と弟がいるゆんにはその光景が鮮明に想像でき、あははと苦笑いする。
「まあ、要するにこの人は青葉ちゃんの兄妹なんでしょ?」
はじめの質問に青葉は"はい"と答える。
その答えを聞き終えた彼女は勝ち誇ったような顔をして、ゆんへと喋り出す。
「ほら、やっぱりね。だから青葉ちゃんに聞いてみるまで分からないって言ったじゃ~ん。それなのにゆんときたら"絶対恋人や……!"の一点張りなんだもん。本当困っちゃうよね」
「う、うっさいわはじめ!」
「冗談だよ、冗談。ところで青葉ちゃんのお兄さんって大学生なの?」
「はい、美大に通ってる大学生3年生です!」
「へー、じゃあ青葉が絵を描きはじめたのは兄の影響もあったりするの?」
「そうですね……。絵を描きたいと思ったのは兄の描いた絵を見た後からですね。……で、でもキャラクターデザイナーになりたいと思ったのは八神さんに憧れてですよ!」
「お、おう。嬉しいこと言ってくれるじゃん」
青葉の一言に八神は頬を赤くさせてしまう。
「何顔を赤くさせてるんですか八神さん?」
すかさずはじめがニヤニヤした顔でそう聞く。
「う、うっさいはじめ!」
「でも、大学3年生ってことは21歳とちゃう? それだったら、うちとはじめと同い年やん。なんかこう、親近感わくな~」
「へぇ、はじめ良かったじゃん。同い年だし、かっこいいし、青葉に紹介してもらいなよ。上手く行けば彼氏が出来るかもよ」
先程のお返しと言わんばかりにニヤニヤとした顔で八神ははじめをからかう。
「な、何言ってるんですか八神さん! そんな事青葉ちゃんに頼めるわけ無いじゃないですか! ねえ、青葉ちゃん!?」
「あ、あははー。そ、そうですね、それはちょっとー……」
と言いながら青葉は内心ビクビクしていた。
周りの誰もが気付いてないのだか、八神が紅葉の話題を出した辺りから、ひふみの機嫌がどんどんと悪くなっていることに気づいているからだ。
なんとなくその心の内を察し、青葉は何とかしようと頑張るのだった。
「そ、そもそも兄には彼女さんがいますし! 家でも何時も彼女さんの話ばかりしてるんで……ごめんなさいはじめさん!」
「残念やったね、はじめ」
「ドンマイはじめ」
「ちょっ、何で私がフラれたみたいになってるんだよー!」
―――
――くしゅん
「おいおい、どうした風邪でもひいたのか? 夏風邪にはまだはやい季節だぞ」
「いや、誰かが俺の噂をしてるような気がする。」
まだムズムズする鼻を擦りながらながら俺は話し掛けてきた人物にそう答える。
「はーん! リア充ライフ満喫中のクレハくんは自意識過剰のようで大変そうだね!」
「いや、意味がわからん。何でそうなる?」
俺にさっきから話し掛けてくるこいつの名前はヒデタケ。何でも先祖代々、竹産業を営んでいるらしく名前には絶対竹が入るとか入らないとか。
「お前な、こっちはこの間大変だったんだぞ! お前が直ぐ帰っちゃうから、女の子達も"あの子いないなら帰るね"って言って帰っちゃうし……。お前に分かるか? 取り残された俺達の気持ちが……!」
「いや、知らんがな。ん……? じゃあお前らあの後男三人で飲んでたってこと?」
「ああ、三人で仲良く傷の舐め合いをしてたんだよ」
こいつら合コン行っといて男三人で傷の舐め合いとは笑えてくるな。やばい、表情に出てしまいそう。
「ど、どんまい! あの女の人達の見る目が無かったんだよ。次頑張れよ!」
「何がどんまいだ! テメエ顔がニヤついてて、なに考えてるのかバレバレなんだよ!」
その一言で今までバレまいと我慢していた枷が解き放たれ、腹を抱えて盛大に笑ってしまう。
「い、いや、だってあり得ないだろ。し、知ってるヒデタケ君? 合コンって言うのは男女で飲む場であって、男だけで飲むって、それもはやただの飲み会じゃん!」
「う、うるせぇ! そんなの俺達が一番分かってるんだよ! お前に、お前にオレたちの気持ちが分かるか? 彼女と過ごす幸せな大学生活を思い描いてここの大学に入学し、はや三年。一人の彼女も出来ずに、もう折り返しの年。彼女持ちのお前に、オレたちの気持ちが分かるか!?」
ヒデタケは俺にそう熱弁してくると、とうとう片腕で目元を押さえて泣き出してしまった。
この状況にはさすがにちょっぴりと罪悪感が沸いてくる。
「おい、ごめんってヒデタケ。ちょっと言い過ぎた。お前がそこまで深刻に彼女いないこと悩んでるなんて思って無かったからさ。俺に手伝えることあったら何でも言えよ」
そう言いヒデタケの肩をポンポンと叩くと"クレハ"と嬉しそうに呟き。
「じゃあ今度また合コンな!」
と涙など一切流れていない顔でニコニコとそう言いってくる。
どうやらさっきのは嘘泣きのようだ。
「俺の罪悪感を返せ!」
俺はヒデタケに思いっきり回し蹴りを叩き込んだ。
あべしっ!と叫び地面に倒れこんだヒデタケは此方を見上げて機嫌をとるかのように話し掛けてくる。
「い、痛いな~クレハくん。急に何すんだよ~」
「あのな、本当に彼女が欲しいんだったら合コンとかじゃなくて、もっと身近な処から探そうぜ」
「そ、そんな事言ったって、俺女子の知り合いいないし……」
捨て犬のような瞳でそう言ってくるが、この反応は何と無く予想できていた。
「任せろ。俺が紹介してやる!」
俺がそう言いきるとヒデタケの瞳がさっきまでとは打って変わって輝かしい物へとなり"本当か!?"と聞いてくる。
「もちろん本当だ。俺に任せとけ! どんな子がいい?」
「う~ん……あっ、じゃあ、今年になってよくお前と一緒にいたあの可愛い子がいい!」
「あー、あいつは駄目だな」
「えっ、何で? まさかあの子が彼女なのか!?」
「いや、あいつは妹の親友なんだよ。お前みたいなロリコンに紹介したと知れれば、妹に何されるか分かったもんじゃない。それに今留学中だから物理的にも紹介は無理だな」
「そうなのか、なら仕方ないな……って、俺は別にロリコンじゃなーい!」
「えっ? でもこの間、お前ん家に行った時にロリ系の同人誌ばっかり有ったんだけど……」
「ち、違うぞ。あ、あれはあくまで創作物として観てるだけだから……」
「ふーん。そう」
この反応を見る限りどうやらこいつのロリコン疑惑は真実のようだ。こいつとの関係を見直す必要があるかもしれない。
「や、やめて! そんな目で此方を見ないで!」
「やっぱ、紹介の話は無しだ。お前はお前のやり方で頑張れ。合コン以外だったら手を貸してやる。じゃーな」
「ち、ちょっと待ってクレハくーん! その"じゃーな"は金輪際会うことは無いでしょうのじゃーなじゃ無いよね!? もう、年下とかじゃ無くても良いんで、一回り年上のお姉さんとかでも良いんで紹介してください! お願いします!」
「はぁ……、仕方ないな。三年間のよしみだ。誰か紹介してやるよ」
ポケットから携帯を取り出して、誰か紹介出来そうな人がいないかを探してみる。
「この子は?」
「あー、こいつは妹の親友その2だから駄目だな」
「じゃあ、この子は?」
「それ、妹だからもっと無理だな」
「えっ、そうなの? じゃあこの人は?」
「それは彼女だから絶対無理。てゆうか手出したら殺す」
「出さないから、そんな怖い目でこっち見るなよ。それじゃあ……」
俺はヒデタケが何か言葉を発する前に携帯をポケットの中に突っ込む。
「――なあヒデタケ。よくよく考えたらさ、俺が持ってる女子の連絡先って、今ので全部だわ」
「そゆことなんで――バイビー!」
そう告げ俺は全速力で走る。後ろからヒデタケの叫び声が聞こえるが、構わずに逃げる。いま捕まってしまったら、確実にボコられてしまう。
正直なところ後半に至っては、自分でも「今何の二次創作書いてるんだっけ?」ってなっちゃいました。
でもnew gameってイーグルジャンプに入社しない限り、原作キャラとずっと会話って中々難しいんですよね。
やりようによっては出来るんですけどね……。多分。
あとは、小説をもっと上手く書けるようになりたいよー
小説って難しいな。
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4話
本当は先週更新する予定だったんですけど、5日間ぐらい高熱が続いてそれどころじゃ無かったです。
「いやー、ギリギリ間に合ってよかったー」
私の名前は篠田はじめ。
今日発売のされた先着100名の限定フィギュアをゲットするべく、仕事終わりに急いでお店まで行きフィギュアを買って、ただいま帰ってる途中である。
時刻は8時過ぎ。すかっかり日は落ちて、夜空が顔を出す時間帯。
そんなとき道端で座り込んでいる青年を見かけた。
赤髪で首に黒いチョーカーをしているのが特徴的な青年。
本人は立とうと頑張っているのだろうが、中々立つことが出来ずにいる。恐らくそうとう酔っ払っているのだろう。
「お兄さん大丈夫ですか?」
近くまで駆け寄ると青年の身体からお酒の匂いが漂ってくる。案の定酔っ払ってたみたいだ。
「だれ、お姉さん……? 逆ナンならならノーセンキューだゾっ」
「違いますけど……!?」
私がそう否定するとお兄さんは愉快そうに笑いはじめた。
なんて失礼な人なんだろうか。せっかく心配して通ったのに。まあ、酔っ払ってるから仕方ないことかも知れないけど……。
これから酔っ払いには極力関わらないようにしよう。
「ねぇ、お姉さーん。お水を恵んでくれないですか?」
彼は私が持っているペットボトルに指を指しながらそう聞いてくる。
別に何ら構わないため彼に"どうぞ"と言いながら渡す。
「ありがとう! では、ありがたく頂きます」
彼はペットボトルの蓋を開けるとそのまま口をつけて飲み始めた。ごっくんごっくんと喉から体内に入って行くのが分かる。
その光景を見た私は、思わず"あっ……"という声をあげてしまう。間接キス。そう、初対面の人と間接キスだ。
「ぷはー! 生き返ったー! ありがとうお姉さん!」
彼は笑顔で残り半分ぐらいになったペットボトルをこちらに返してくるが、私はそれを受けとるのを全力で拒んだ。
「あ、あの、そのお水全部あげます!」
「……? あ、うん。ありがとう。それよりお姉さん顔真っ赤だけど、どうしたの?」
自覚は無かったがどうやら顔は真っ赤になっているらしい。
「熱かな? ちょっとおでこ貸して」
彼はそう言うと、自分のおでこと私のおでこをくっ付けて来た。
近い近い! 鼻先が今にも触れそうな距離だ。
彼のその行動のせいで自分の体温が更に上昇していくのを感じる。
「熱っ! お姉さんヤバイって! 高熱だよ! 今すぐ病院行った方が良いって!」
彼は慌てたようにそう言うが、誰のせいでこうなったと思っているのやら。
「大丈夫です! 熱じゃないんで。ただ体温が高いだけなんで!」
"それを熱って言うんじゃ……"等と呟いているが、私は無視することにした。
彼のせいでまだ顔が熱い。
私が手でパタパタと顔を冷やしていると、彼はふらふらっとどうにか立ち上がり話しかけてきた。
「まあ良いや。酔いも覚めて来たし。そろそろ私はこの辺で失礼させて貰いますっ!」
彼はビシッと敬礼をするとそのまま危ない足取りで歩き始めた。
何故敬礼? と思い暫くの間彼の後ろ姿を眺めていたら、突然何もないところでつまづいて転んだ。
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
私が近くまで行くと彼は"痛い"と呟き涙目になっていた。その表情に不覚にもドキッとしてしまった。
「手のひら擦りむいた……。どうしよう? 血が一杯でて死んじゃう」
「だ、大丈夫ですよ。かすり傷程度で血も出てないし、死にませんよ」
死ぬことはないから、そんな捨て犬みたいな目でこっちを見ないで欲しい。自分の中にある庇護欲が物凄くくすぐられる。
「ほら、まだ酔いも全然覚めて無いじゃないですか。危ないから家まで送ります。肩貸すんで捕まってください」
「お姉さん、ありがとう……」
そう言い私は彼に手を差し伸べた。彼はその手を掴むと多少ふらつくが何とか立ち上がり、私の肩に寄りかかる。
「ぐっすん。優しいね……。こんな時に優しくされたら、俺惚れちゃいそう」
彼は冗談混じりに言っているつもりなのだろうが、その言葉で元に戻っていた私の体温が再び上昇していくのを感じる。
「な、何言ってるんです!? そうゆう冗談はあらぬ誤解をうみますよ!」
「あははは! お姉さん顔真っ赤! かーわーうぃーうぃー!」
彼は愉快そうに笑い、人差し指で私のポッぺをつんつんとしてくる。
そのバカにした態度に少々カチンと来たものだから、冷えきった声で脅してみた。
「お兄さん一人で帰ります?」
「ご、ごめんなさい。調子に乗りすぎました」
つんつんしていた指を止めしょんぼりした顔で謝ってくる。
別にそこまで怒っていないから、その顔をやめて欲しい。無駄に庇護欲がくすぐられる。
「そ、そう言えばお兄さんの名前は何て言うの?」
「なまえ? 名前は紅葉だよ。"紅葉"って書いてくれはって読むんだ。お洒落でしょ!」
彼はそう言いながら微笑むと、私の名前を聞いてきた。
「私の名前は篠田はじめ。改めてよろしくね」
「ふーん。そう言えばお姉さん何歳なの?」
せっかく名前を教えたのに名前で呼んでこないとは、一体何のために聞いていたのだろうか。
「私は今年で21歳だよ。紅葉くんは?」
「俺も今年で21! 俺達タメじゃん! イエーイ!」
彼は嬉しそうにハイタッチをしてくるが、私の心の中では何が引っ掛かった。
赤髪、21歳、そしてこの笑顔。何処かで見たことがあるような無いような……。
「あっ……!」
思い出した。青葉ちゃんの携帯の待ち受けに映っていた人そっくりだ。
ま、まさかとは思うけど青葉ちゃんのお兄さん?
「く、紅葉くんって美大に通ってたりする?」
「うん! 美大の3年生だよ!」
その返事をきき、ゴクリと息を飲む。
私は紅葉くんの正体を明確にするため更なる質問を投げかける。
「も、もしかして紅葉くんって妹とかいたりする?」
「うん、いるよ! 2つ年下の妹が!」
これは恐らく決まりだろう。
青葉ちゃんは今年で19歳。私や紅葉くんは今年で21歳。2歳差。紅葉くんは青葉ちゃんの兄。
「ねえ、紅葉くんの妹って青葉って名前じゃない?」
「そうだけど……? なんでお姉さんが家の妹の名前知ってるの?」
どこから説明しようか考えていたが、そんな私の顔を見て紅葉くんは察し良く何かに気付いたように"まさか……"と呟き考え込む素振りを見せた後、再び口を開いた。
「お姉さん……ストーカー? 俺が通う学校も知ってたし、妹の名前まで知っている。まさか家族構成どころか家の住所まで――」
「――違うよ! 青葉ちゃんと同じ会社に勤めてる先輩だよ!」
彼の私を見る目が訝しげなものになっていくものだから、話している途中だったけれど全力で否定させてもらった。
「えっ!? そうなの? これはこれは、何時も青葉がお世話に成っています」
「あ、いえいえ。こっちこそ青葉ちゃんには助けて貰ってばかりで」
彼が急に礼儀正しくしてきたものだから、こっちも反射的に礼儀正しく会釈をする。
「でも、紅葉くんが青葉ちゃんの兄か~」
誰に話しかける訳でもなく、お昼の会話を思い出していると、八神さんから言われた言葉が脳裏を過る。
――青葉に紹介してもらいなよ。上手くいけば彼氏が出来るかもよ
"紅葉くんが彼氏? ないない"と思いつつも、ちょっぴり心の何処かで意識しているのか、彼の顔を見てしまう。
うん。たしかに顔は中性的な顔立ちをしていて、女性にモテそうな顔をしている。性格は……酔っ払ってるせいなのか素がこれなのか分からないけど、とりあえず癖がある。
"やっぱり、ないない"と首を降りつつも、やはり心の何処かで気になっているのか、ちらりと横目で彼のことを見てしまう。
「ねぇ 紅葉くんはさ。どんな人と付き合いたいとかある?」
「付き合いたい人……? 俺の彼女のこと? 何で俺に彼女がいるって知ってるのお姉さん?」
彼女? ……あっ!
――そもそも兄には彼女さんがいますし! 何時も彼女さんの話ばかりしてるんで――
そういえば紅葉くんには彼女がいるんだった。
完全にそのことを忘れていた。
はぁ……、何だろうこの気持ち。言葉では上手く表せないけど、なんかムカムカする。
「いや、青葉ちゃんが言ってたんだよ。兄と彼女さんはラブラブだって」
私がそう言うと彼は照れたような顔でこっちに話しかけてくる。
「えへへへ。まあ、たしかに、俺と彼女はめっちゃラブラブで、お互いのことを愛し合ってるけどね!」
余りにも彼が幸せそうな顔でそう言ってくるものだから、ちょっと彼の彼女のことが気になって聞いてることにした。
「へ、へー。……紅葉くんの彼女さんってどんな人なの?」
「う~ん? 可愛くて、可愛くて、とにかく可愛い! 結構嫉妬深いんだけど、そこがまた良くて、可愛いんだよね!この間なんかさ――」
彼は熱が入ったようで、暫くの間満面の笑みで彼女の話をするのだか、私は終始ムカムカした気持ちで愛想笑いをしその場を凌いでいた。
自分から質問しといて何なのだが、聞かなければよかったとちょっぴり後悔した。
暫くすると彼が足を止め、直ぐ側にあるアパートに指差した。
「あれが、俺の第二のマイホーム!」
「ん……? 一人暮らしってこと?」
でも青葉ちゃんは一緒に暮らしてる風なこと言ってたけど……?
私がそう疑問に思っていると、彼はチッチッチッと指を左右に降り始めた。
「違うんだな~。あすこは彼女の家です! 明日仕事が休みなんで今日はお泊まり会です!」
「へ、へぇー。そうなんだ~」
「お姉さんも泊まってく?」
「いや、いいよ。修羅場になりそうだし……」
彼の彼女さんはそうとう嫉妬深いらしいし、急に知らない女の人と一緒に帰ってきたら一悶着どころか二悶着ぐらいありそう……。
「ふ~ん、そう。じゃあ! これにて私は帰らせて頂きますので! ……お姉さん送って行かなくて大丈夫? 女一人で夜道は危険だよ」
彼はアパートに向かって一歩踏み出そうかした時に、そのような質問をしてきた。私の身の安全を心配してくれることは嬉しいことだが、一体何のためには此処まで送ってきたと思っているのだろうか?
「何のために此処まで送ってきたと思ってるの……!?」
「あっれ~? 何でだっけ?」
これは本気で忘れている様子っぽい。
「酔っ払ってる君が危なかったからだよ……!」
「ハァー、もう。私はいいから早く彼女の元まで行ってあげなよ」
「うん! ありがとうはじめ!」
彼は最後に満面の笑みでそう言い残すと、ふらふらとした足取りでアパートの一室に向かって行く。
「……ばーか」
今までちゃんと呼んでくれなかった名前を最後の最後で呼ばれ、多少の嬉しさと少々の照れくささを感じながら誰もいなくなった場所で一人そう呟いた。
自分の考えをそのまま文字にするのって中々難しいですよね。作者にもうちょっと小説を書く技量があればいいんですけどね。
中々自分の思った通りに書けないです。
小説って難しいですね。
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5話
社会人になって忙し過ぎて、少しずつ書き留めていたのがやっと投稿しても大丈夫かな?ってクオリティーになったので出します!ネタ的に古いのがあるけど気にすんな!(やけくそ)
ps.NEW GAMEが完結して嬉しいような悲しいような気持ちです。皆さん画集買いましょう!
「お兄ちゃん朝だよー!」
「ぐへっ!」
とある休日――朝気持ちよく寝ている所を妹にダイブされ起こされる。
「朝っぱらから何すんだよ。ほらとっととどきやがれ、俺はまだ寝てたいの」
無理やり起こされたことに多少の苛立ちを感じつつも、睡魔の誘惑がすごく再び眠りにつくため毛布にくるまる。
しかし次は体を揺さぶられ妨害されてしまう。
「お兄ちゃんもう10時だぞ~!いい加減起きなよ~!」
「あー、もうわかった!起きるから、起きるから揺さぶるのやめろ」
二度の睡眠妨害により中途半端に意識が覚醒してしまい、この状態だと寝付けそうにない。何より目の前にいる駄妹が寝させてくれない。
上半身をお越しベットに座ったまま元凶の駄妹を見ると、何処かへ出かけるのかお洒落な恰好をしていた。
「ん?お前どっか出かけんの?」
「うん。ねねっちと映画観に行くんだ!会うの久しぶりだし元気にしてるかな?」
「さあ?あいつのことだし周りから『中学生』とか言われてからかわれてるんじゃないの」
「あははは。そう言えば電話で周りの人から『中学生』ってよくバカにされるって言ってたなー」
冗談混じりに口にした言葉だったが、どうやら本当にバカにされてるらしい。愚妹、もとい青葉の幼馴染み桜ねねは確かに見た目だけで言えば中学生にしか見えない。なので大学に入ったらからかって来る奴がもしかしたらいるかもとは思っていたが。
「それは災難なことで。……ところでお前は会社でからかわれたりしないの――青葉」
「え?会社で……?なんで?」
「いや、だってお前もねねと一緒で見た目完全に中学生じゃん」
そう、目の前にいるこの妹も幼馴染みと同じく見た目完全に中学生なのである。類は友を呼ぶというか何と言うか。
「はぁ~~~~~~~!?そんなこと無いよ!高校生ぐらいには見えるよ!お兄ちゃんのバカッ!」
青葉はそう言うと顔を真っ赤にしながら俺の部屋から出て行った。
「はいはいバカで結構ですよっと」
うるさい妹が部屋を出て行ったので俺は再び眠りにつくため毛布に包まり目を閉じる。
「……寝れない」
一度覚醒した状態から眠りにつくことは中々難しいみたいなので、寝ることを諦め朝食をとるため一階のリビングへと向かう。
リビングでは母さんがキッチンで洗い物をしており青葉の奴はいないようだ。もう出かけたのか?
「母さんおはよう。青葉は?」
「青葉ならさっき出かけたわよ。それより食器が片付かないから早くご飯たべちゃって」
「はいはーい」
それにしても青葉のやつ映画に行くっていってたっけ? 映画……。映画……?何故だろう……。”映画”という二文字が妙に心の何処かで引っかかる。
何故だろう……?
――ポキポキ♪
そんな思考に浸っているとスマホから一通の通知が鳴り響いた。
通知音からしておそらくLI〇Eだろう。
画面を開きトーク履歴を見るとどうやらひふみから送られて来たらしく、そこにはこう書かれていた。
『おはよう(^∇^)
待ち合わせの時間より早く着いちゃったから近くのカフェで待ってるね(๑´ڤ`๑)テヘ♡
近くまで来たら連絡して。遅刻厳禁だゾ(ρω< )』
「――やっべ。完全に忘れてた」
そうだった。今日はひふみと映画を観に行く約束をしていた日だ。どうする?今から家を出ても待ち合わせの時間には間に合わない。
仕方ない。言い訳は取り敢えず行きながら考えるとして、出掛ける支度をしよう。
「母さん、急用出来たから朝ごはんいらない!」
俺は母さんにそう伝え勢いよくリビングから飛び出した。
後方から聞こえてくる”はぁ!?ちょっと待ちなさい!”と言う声を華麗にスルーしいそいそと出掛ける支度を始めるのであった。
――
「ごっめ~んひふみちゃん! いやー、LI〇Eでも伝えたけど電車が遅延しててさ~。もう本当に困っちゃうよね」
待ち合わせ場所には彼女の姿が既にあり、遠目からでも判るくらい不機嫌そうなオーラを放っていた。具体的にはナンパ男が一瞬だけ声を掛けるが、オーラにあてられて一目散に撤退する程だ。
そんな彼女に俺は出来るだけ申し訳なさそうな雰囲気で声を掛ける。
「いや、ひふみちゃん本当ごめんね。間に合うように家を出たはずなんだけどさ、ちょっと遅延しててさ」
「――うそ」
「へ……?」
「……うそ……だよね」
彼女は冷ややかな視線を一度こちらに向けると、スマホを人差し指で操作しながら此方に画面を見せつける。
「くれは君の……乗ってきた路線が遅れてるなんて情報……何処にも……無かった」
ひふみからそう言われても俺は驚きはしなかった。そりゃそうだ。だって遅延なんてしていないんだから。ここに来る途中、電車の中で思いついた言い訳なのだから。実際は遅延なんて一分一秒たりともしていない。
もう嘘ついたってバレてるし今日の約束忘れてたこともろもろ素直に謝るしかないか……。
憂鬱な気持ちを抑え込み意を決して謝罪の言葉を発しようとしたその時、ワンテンポ早く彼女の口が開いた。
「――寝坊して……遅れたんだよね……?」
彼女の言葉に一筋の光を見つけた俺は全力で肯定する。
「う、うん……! そうそう! 寝坊して遅れたの! 本当ごめん!」
「ううん……。素直に謝ってくれたから……別に気にしてない」
なんて寛大な彼女なんだろう。大幅に遅刻した俺を怒らない処か謝ってくれたから無条件で許すと。あまつさえ遅刻理由まで推察してくれて、真実を誤魔化すようにセルフ誘導までしてくれるなんて。
忘れてたなんて真実は墓場まで持って行こうと心に誓おう。
「ホントごめん! 次から気を付けるから!」
「それ……もう何回も聞いた。くれは君が……時間にルーズなの……知ってるから。遅れてきても……何とも思わない」
俺の謝罪に対してひふみはプイッと顔を背けてそう言ってくる。
「あ、あれ? ひふみちゃん? やっぱり怒ってる?」
「別に……怒ってない」
以前としてプイッと顔を背け、俺と目を合わせようとしない。
これ絶対怒ってるじゃん。遅刻、もとい約束を忘れていた俺が悪いのだが。
にしても一回不機嫌になると中々どうして機嫌が良くならないで有名なひふみだからな……。これは困った。こんな雰囲気でデートととかしたくないんだけど!デートするなら楽しくしたいじゃん!……まあ、原因を作った俺が言える立場では無いのだけど。
「あっ、そう言えば映画の時間大丈夫? まさかもう始まってたりとか……?」
「大丈夫……。くれは君のことだから……どうせ遅れてくるだろうと思って……早めに待ち合わせしてた……」
「な、なるほどな」
さ、流石ひふみ。俺の事をよくご存じで。
「な、ならさ! まだ時間あるならタピオカでも飲みに行こう! ほら、ひふみも飲んでみたいって言ってたじゃん!」
「べ、別にいらない。飲みたいなんて……言ってない」
おっ、ツーンってしてた表情が一瞬揺らいだぞ。てかこの間一緒に飲みに行こうって誘ってきただろ。
「ほら、強がってないでタピオカ飲みに往くぞ」
そう言ってひふみの手を取り強引に目的地まで引っ張って行く。
"まだ行くって言ってない”と抵抗してくるが、満更でも無さそうな声色なのでそのまま無視して連れていくことにする。その証拠に先程よりも幾分か頬が緩んでいるような気がする。
行き行く人々とすれ違いながら歩くこと十数分、俺たちはタピオカ屋さんに無事たどり着き購入していた。
「タピオカミルクティーを二つ」
店員から二つのタピオカを受け取り、その内の一つをひふみに手渡す。
「はいこれひふみの分」
「ん……ありがと」
ひふみは俺からタピオカを受け取るとストローに口を付けて飲みだした。
つい十数分前まで"飲みたいなんて言ってない"なんて言ってたのに今じゃ嬉しそうな顔して飲んでる。
「ひふみ?美味しい?」
「うん……美味しい」
ストローから口を離し俺の質問にそう答えると、再びストローに口を付け幸せそうに飲み始める。そんな上機嫌になったひふみの姿を見て連れてきて良かったと思う俺であった。
――
「そういえばさ、何の映画観るの?」
タピオカで餌付けし見事上機嫌になったひふみと無事映画館まで来たのだが……何の映画を観るのか決めていない。否、教えられていない。そもそも今日ここに来たのはひふみが”観たい映画があるから一緒に観に行こう……!”と熱い眼差しで誘って来たからだ。俺が”何観に行くの?”と聞いても”くれは君も好きそうなの”としか答えてくれなっかた。なので絶賛俺は何を観るのか知らされていない。
まあ、たが予想は凡そ付いている。ヒントは俺も好きそうなもの!そして今絶賛公開中の大人気映画「鬼〇の――」
「――ムーンレンジャー」
「……へ?」
ひふみは今なんと言った?俺の聞き間違いか?ムーンレンジャー……?あ、あれか!鬼〇の刃、無限列車編→ムゲンレッシャ→ムゲーンレッシャー→ムーンレンジャー!的な奴か。まあひふみ変に文字る所あるからな。
「よし!じゃあムーンレンジャー観るか!」
「うん……!やっぱり、くれは君も好きだったんだねムーンレンジャー……!」
俺の反応を見て瞳を輝かせてチケット売り場まで早く行こうと言わんばかりに手を引っ張てくる。
「うん……俺も好きだよ。ムゲーンレンジャー」
「ムゲーンレンジャー……?」
楽しみだなームゲーンレッシャ―(遠い目)
「大人一枚、大学生一枚で」
「はい、では確認しますね。
「……はい」
チケットを受け取り、店員さんの”ありがとうございました”と言う声を背にその場を後にし、チケットに書かれているスクリーン二番へと入り指定の席に座る。
……はい。何となく予想は付いていました。鬼〇の刃で無いことは予想付いてました。だけどまさか……低年層向けの魔法少女アニメだったとは。と言うか俺はこのアニメをまともに観たことが無いのだが、何故ひふみは俺が好きそうな映画と言ったのだ?
「ひふみちゃん、俺別の奴と勘違いしててこのアニメあんまり観たこと無いんだよね。ちなみに何だけど、何で俺がこれ好きそうって思ったの?」
「えっ……!?そ、そうなんだ……」
俺の言葉に上映間近で待ち遠しそうな表情が少ししょんぼりと残念そうな表情へと変化する。
「な、何でって……、だって……くれは君が前家に泊まりに来た時……一緒にDVD観てくれてたからてっきり……こういうアニメ好きなのかなって思って……」
「なるほど……」
うん。多分それ、徹夜明けでウトウトしてただ隣に座ってただけだ。全然記憶にない
ーー
「あれ?今の後ろ姿?ーー紅葉くん?」
久しぶりに投稿したけど楽曲とか付けれるようになってる?!
次の投稿予定は未定です。。。。
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