神を運ぶ者 (コズミック変質者)
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1話

注意)主人公はDies iraeのヴァレリア・トリファをモチーフにしていますが、彼みたいに上手く暗躍できません。
口調の変化はデフォルトです。


学園都市。東京都西部を切り拓いて作られた巨大な都市。人口230万のうち、八割は学生であり、学生達は特別な『カリキュラム』を受けている。

 

記録術や暗記術など、名前は普通そうだが中身は普通の学者では欠片も理解できない『カリキュラム』によって得られるものこそが、学園都市唯一のものであり、誰もが憧れるものなのである。

 

それは超能力。

 

漫画や小説の登場人物のように、火を出したり氷を出したりなど、能力の種類は様々である。それこそ、「手に持った物の温度を一定に保っておける」能力もある。

だが全員が全員、能力者と呼ばれるわけではない。六割。六割もの学生か『無能力者(レベル0)』の烙印を押されている。彼らはどんなに頑張っても、せいぜいがスプーンを曲げる程度でしかない。

 

選ばれなかった者もいるように、四割の中から選ばれた者もいる。それが『超能力者(レベル5)』。たった一人につき数十億の価値があり、軍隊を一人で滅ぼせるほどの力を持った学生達。

その数はたったの8人。

 

この物語は230万の中の8人の中の1人の物語である。

 

 

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学園都市のそびえ立つビル群の中で、一際目立つ巨大なビル。窓も入口もないそのビルは、『窓のないビル』と呼ばれている。

そのビルの中の一室に、どうやって入ったのかは分からないが、二人の人間がいた。

 

1人は赤いメガネをかけ、黒いブレザーを着た学生。身長は高く、180はある。一見は普通。

もう1人は緑色の手術衣を着た、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも悪人にも見える人間。その人間は液体の詰まった巨大なビーカーの中で逆さまになって浮いている。一見は異常。

 

「『幻想殺し』と第3位が接触したようです。プランの続行、並びに軌道修正についての必要は?」

 

『いや、今の段階ではまだ何とも言えない。君というLEVEL5が『幻想殺し』に手を出すのはまだ早い。まずは彼にはあちら側へ接触してもらわなければならない。第3位に関しては・・・』

 

「それは、万事私へお任せください」

 

学生の金色の髪が微かに煌めく。光の当て具合による簡単な現象。それがこの部屋で起こるのは少しだけ珍しいことだった。

 

「私達のやることの過程は変わらない。あなたはあなたの望むままに、『幻想殺し』を操り使命をまっとうすればいい。私は私の望むままに、私の理想へ届き得る『神』を作り上げる」

 

『そのためなら、この街の人間全員を切り捨てるのだろう?』

 

「まぁ、場合によっては、ですがね。それに必要ならば切り捨てる。あなたとて、その行為は否定出来ないはずだ。なにせあなた自身がそうしてきたのだから」

 

学生はそう言うとメガネを指で押し上げ、『人間』に背をそむける。

 

「あなたのプランがどうなろうと、私の知ったところではありません。が、お互いなるべくノータッチでいきましょう」

 

学生は歩き出す。出口のない壁まで。

 

『そうか。なら頑張りたまえ、『神を運ぶ者(クリストフ・ローエングリン)』』

 

『人間』は笑みを浮かべながら、彼の背中を見送った。

 

 

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「チェストォ!」

 

のどかな昼過ぎの公園に少女の大声と、その直後に何かを思いっきり叩く音が響き渡る。声の主の少女、御坂美琴は落ちてきたジュースを、己が蹴った自販機から取り出す。

御坂はたった今、犯罪にも等しいかもしれなくもない行為をしてしまったのだ。だがそれを咎める者はいない。誰も見ていないし、何より御坂はこの自販機に、かつて札を飲まれたのだ。故に、この行為は仕方がない。飲まれた分を取り戻すまで続けているのだ。実際には既に取り返してはいるが。

 

「うーん、外れね」

 

出てきたのはイチゴおでんという、明らかにゲテモノ感満載の缶。自販機に適切な角度で蹴りを叩き入れるという、御坂の通う学校に伝わるやり方では、好きな飲み物は出てこないのだ。

 

「また自販機を蹴ってタダで飲料取ってんのか。とっくの前に飲まれた分は取り戻したんじゃないのか?」

 

「うわ!!ビックリした!!」

 

御坂の後から声をかけてくる男。一瞬不審者かと思い、能力を発動させながら振り向けば、そこには見知った黒い制服と御坂の髪よりも長い金糸の髪。

御坂の幼馴染である男がそこにはいた。

 

「はぁ・・・全くお前という奴は。俺は何度、お前に注意を促せばいいんだ?」

 

「べ、別にアンタには関係ないでしょ!?」

 

男のヤレヤレといった行動に、御坂は顔を赤くしながら怒鳴る。

 

「まぁ、何を言ってももう手遅れだからな?面倒なのが来る前に早く移動するぞ。常盤台のエースがそんなことをしていたのがバレてしまえば、色々と厄介なことになるだろう?」

 

男はそう言うと御坂の手を取ってこの場を離れようとしたが、

 

「お姉様ぁ~!」

 

空中から突如現れた少女が御坂に抱きつき、そのせいで御坂を中心に男の体は弧を描いていき、自販機へ正面から激突した。

 

「お姉様ったら、またこんなスカートの下に短パンなんてお履きになられて」

 

「何見てんのよアンタは!!」

 

御坂の身体が放電を起こし、現れた少女のいる場所へ電撃が放たれるが、いつの間にか少女は御坂の右側に立っていた。

 

「あら?誰かと思えば鍍金(とがね)さんではありませんの。ご機嫌麗しゅう」

 

「白井も相変わらず元気そうだな」

 

ぶつかった場所を手で擦りながら違杯はようやく立ち上がる。服が土埃で汚れていたのでポンポンとすぐに払う。

白井と呼ばれた少女はコホン、と咳払いをする。また御坂への小言が始まるのかと思う。

 

「さて、お姉様。スカートと下の短パンのことや、黒子に内緒で殿方と逢瀬をしていたこと。じっくりお話しいたしましょう」

 

そう言って白井は御坂の手を掴み、共に消える。これが彼女の能力。学園都市でも有数の大能力者(レベル4)にして、さらに数少ない空間移動の能力。また精度が上がっているのを見て、鍍金は喜ばしい気分になる。白井は御坂にとって大切な存在なのだ。これから起こることを考えれば、彼女にはもっと成長してもらわなければならない。

 

「全く、ひどい人間ですね、私は」

 

とりあえずこの場から立ち去ろうとして足を動かそうとすると、

 

「あ・・・出遅れた・・・」

 

辺りは学園都市特有のドラム缶型の警備ロボ数台に逃げ道を塞がれていた。

 

 

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警備員(アンチスキル)の尋問からようやく解放された鍍金は肩を少しだけ落としながら、ようやく自分の学生寮に戻った。学生寮と言っても、学園都市でも有名校の中のさらに有数な数人にしか与えられない、VIPのための寮。

防音は当たり前のこと、共用ながら寮には図書館にプールや能力使用のためのトレーニングルーム、簡易的なコンビニもある優れもの。

 

その寮の中で鍍金の部屋は一番上。VIPの中のVIPということで与えられる部屋である。

 

部屋に入り、着ていた学生服の上をハンガーにかけ、ゆったりとパソコンの前の椅子に座る。パソコンを開き、一つのファイルを開き見る。そこには今日一日の何らかのグラフができており、下は0、上限は10億となっている。

 

「最近、また能力の使用率が上がってきている。それに電圧も。いい傾向だ・・・だが、やはり数だけでは質には影響は少ないようだ」

 

このグラフが意味するのは能力をどれだけの時間、どれだけの強度でどれだけの相手に使用したか。それを能力開発を受けた者が無意識に放つ微弱な電波を感じ取りらオートで24時間グラフとして刻み続けている。

 

「やはり一度、大きいことに関わらせるべき・・・か。暗部、はやり過ぎとすると。・・・ああ、そう言えば丁度いい相手がいたな。俺が手招きすれば、思うように動いてくれるでしょう」

 

思い浮かべるのは報告にあった一人の女研究者。何やら最近、何度も何度もツリーダイアグラムへのアクセス許可を貰おうとしている人間。二十数回、演算を申請しても却下されていたのは哀れだった。

 

「まぁ、仕方ない・・・か」

 

そう、仕方がない。なにせ申請した内容は学園都市でも秘匿されるべき研究であり、その事に対するさらなる追求を、たかが学園都市に腐るほどいる研究者の一人でしかない人間に、させるわけがない。

それに、

 

「貴方には、出来るだけ役に立って貰いたいですからね」

 

凍えるような冷淡な声が漏れる。

パソコンで新たなファイルを開く。そこに封入されているのは一人の人間の脳波を元にした音の波形。そして今現在、学園都市特有のネットに拡散され、今この時もどこかの無能力者や低能力者達が中毒のように聞いている。

その光景を思い浮かべると、自然に笑が浮かんでしまう。それは愚か者達を嘲笑う笑。

 

「もっと多く、沢山の能力者を集めなければ。そしてもっと成長しなさい。貴方が己が悲願を成就させたいなら。最も、それが幸せな結末になるかは、分かりませんがね」

 

全ては、神を生み出すために。かつて見た至高を、再びこの目に焼き付けるために。

 

例え血肉を抉られようと、無限の苦痛を味わおうと、虚無の彼方へ追放されようと、願いのためならば鍍金 聖(とがね ひじり)は止まらない。



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2話

私はここに、原作を轢き潰して轍にすることを誓います。


鍍金聖は異常である。知能も、肉体も、魂も。その異常は出生した時から始まっている。産まれる前、未だ母の胎児にいた頃より、彼は神を感じ、神を見た。

 

この世のものとは思えないほど、美しい悠久の黄昏。その世界にて女神を中心に、力を振るう三柱の神。嗚呼、なんと美しいことか。時は凍てつき、黄金は光を放ち、星は流星群のように降り注ぐ。美しきかなハレルヤ!

 

もっと間近で神々(彼ら)の力を感じたい!嗚呼・・・私は三柱の一柱、あの美しき黄金の(破壊)の権化になりたい!

 

生まれながらにして常人と変わらぬ知恵を持ち、考えられるだけの思考をしていた故の歪み。まだ何も知らぬ、純粋な存在故にその魂は歪み、目指してはいけないものを目指した。

 

やがて成長し、気付いた。自分の力は彼らと似て異なるもの。力の元は同じだが、性質が違いすぎる。彼らは己の()に力を放っていた。だが自分はどうだ?全ての力は己の()へ向かっている。

そうか、私ではダメなのか。私では彼らと同じにはなれない。

 

絶望などしている時間はない。命は有限。ほんの短い間にあの高みを目指さなければ。だが私では不可能なのは確信した。ならば、相応しい者を見つけよう。彼らと同じ高みに昇れる存在を見出し、試練を与え苦痛と苦悶の果てに辿り着かせよう。そして、私は更にその力を感じ取る。最も身近な位置で、永遠に。

 

そして見つけた。世界から隔離された都市で。直感した。この少女ならば、彼らと等しき高みへ到れると。理由?根拠?そんなものなんでもいい。私が選んだ。理由などそれだけで十分だ。

 

 

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順調に広がっている。学園都市でニュースとなっているグラビトン事件、一時期常盤台で話が広まった常盤台生だけを狙った不意打ち事件。その事件は共に私が彼女に与え、広められたレベルアッパーによる進化の賜物。無能力者を能力者に。弱能力者を今日能力者に。

過剰使用すれば脳は特殊なネットワークに接続され、能力者特有の高い演算能力はコンピュータの一部となり、能力者は演算を行うだけの機能となる。

 

「ふふ・・・もうすぐだ。もうすぐ学園都市に新たな法則が誕生する」

 

あと少しで使用者は一万人を超える。一万人の学生(能力者)の脳が集まるのだ。そうなれば学園都市最高の演算機である設計者の樹(ツリーダイアグラム)に届きうる性能を発揮するだろう。そして何より、このネットワークの中心であるレベルアッパーを拡散した人物だけに与えられる多才能力(マルチスキル)

未だに学園都市には存在しない多重能力(デュアルスキル)とは方式が違うものの、大変興味深い結果となるだろう。

理論上は、接続された一万人の能力を中心たる彼女が自由自在に操れる。そのままの能力を、そのままの強度で。

 

是非ともぶつけてみたいものだ。無論、勝つ方は決まっているが、どれだけ粘り、成長させる材料となるか。優しい彼女は何かしら思うところがあるだろう。故に、ただ倒すだけではない。

能力だけではダメなのだ。心も、魂も強くなくては。第一位(一方通行)ではダメだ。力と魂を見れば相当なものだが、アレの心は既に朽ちている。第二位(未元物質)はどこまで強くても所詮はスペアプランでしかない。事実、アレイスターは既に見切りをつけている。そんなものに価値はない。

 

「おや?」

 

携帯が震える。画面を開けば見慣れた名前からの一件のメール。内容は今暇かどうか。いや、関係なくすぐに来いと書いてある。

 

「ああ、勿論いいとも」

 

丁寧な口調をいつも通りの慣れない粗野な口調に戻し家から出る。目指すは第七学区、セブンスミスト。

 

 

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御坂美琴はソワソワしていた。何故か。それは目の前に置いてある可愛らしい花柄のパジャマが原因だ。

御坂は中学生だが、その趣味は子供よりも子供らしい。事実、御坂が気に入ったこのパジャマは、一緒に来た友人の佐天涙子と初春飾利からは子供っぽい、流石に中学生になってこれはないと言われてしまった。

 

だが御坂は一目で気に入ったこのパジャマを逃したくない。故に一つの手を打った。基本、お願いすれば大抵は叶えてくれる幼馴染を呼んだのだ。考え始めると丁度その人物は早足で近づいてきた。

 

「待たせたな。で、用っていのは」

 

「遅いわよ!もう10分近くも待ってたんだから!」

 

この怒りが理不尽なことは分かっている。そもそもここ、セブンスミストから鍍金の寮から徒歩では30分は歩かなければ着かない。

だが鍍金にはバイクという足があった。だからこれだけ早く着くことが出来た。

 

「仕方ないだろ。俺は空間移動(テレポート)じゃないんだから」

 

荒ぶる美琴をどーどーと抑えながら受け流す。そもそも街中での能力仕様は禁止である。美琴は毎日の様に使っているせいで忘れているようだが。

 

「まぁいいわ。あんたに用っていのは———」

 

「これを代わりに買ってくれと。・・・確かお前中学生だったよな?」

 

「別にいいでしょ!」

 

御坂が何かを言い切る前に、鍍金は横を通って御坂の後ろにあったパジャマを手に取る。やはり鍍金も柄を見て本当に中学生の趣味として正しいのか不安になってしまう。

男である鍍金にも言われて本当に自分の趣味は可笑しいのでは、と御坂が思い始めるのも時間の問題だろう。変わるかは別として。

 

「じゃあ送り先は御坂の寮の部屋でいいな?」

 

「まっ、まぁ別にいいけど・・・。ほら、直接渡しに来た方が良くない?それに部屋には黒子もいるし、届いた時にみ、見られるのも嫌だし・・・」

 

「いや、常盤台の寮は花園の園にあるんだぞ?女生徒ならばともかく、俺みたいな男子生徒がそう易々と入れるわけないだろう」

 

常盤台のある地区は花園の園と呼ばれる、男子ご禁制のお嬢様学校が密集している地区にある。いかに高位な能力者だろうと、許された時以外に必要以上に敷地内に踏み込むことは不可能だ。入れば即刻警備員が来て拘束されるだろう。

 

「それに、部屋着だから別に見られるのは構わないのだろ?彼女だってお前の趣味を分かって、お前を好んでいるんだから。そう必要以上に恥ずかしがる必要はない。ほら、友人が待ってるんだろ?」

 

「ちょっと待ちなさ———」

 

レジへ歩いていく鍍金を引き止めようと同じく歩き出す御坂だが、その直後、視界に映った人物が彼女の行動を無理矢理に引き止めた。

 

「おっ、ビリビリじゃねぇか」

 

トゲトゲ頭の少年は、頭から電気をパチパチと漏らす御坂に向けて、気軽にそう言った。

 

 

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「危なかった」

 

鍍金は先程いた階より一つ下の階にいた。手には丁寧に包装され、紙袋に入れられた先程の部屋着。御坂から離れたあと、すぐにレジを目指して足早に去った聖は、先程一瞬だけ見えた少年を思い浮かべる。

 

「アレが上条当麻か。生で見たのは初めだが、いやはやなんともおぞましい(・・・・・)

 

一瞬だけ視界に映っただけとはいえ、彼の異常性は己の目を疑いたくなるほどだった。一般人から見れば普通の少年にしか見えないだろう。能力者から見てもどこにでもいる無能力者(レベル0)にしか見えないだろう。だが鍍金は己の生まれ持った原石の力で、奥深く(・・・)まで見てしまった。

その中にいる悍ましい何かに、鍍金は気分を悪くした。故に足早に去ったのだ。

 

「あながち、アレイスターの忠告は無視してはいけなかったな」

 

かつて『人間』に言われたことを思い出す。時が来るまで、上条当麻を直に見てはいけないと言われたことがあった。その言葉にあまり何も感じなかったが、実際に見れば彼の言葉が正しかったことが理解できた。

 

「世界をありのままの姿に戻す右手。触れれば如何な能力であろうと、それが異能ならば善も悪も問わずに無に帰す。全く、魔術(・・)だけならば良かったものを・・・」

 

空虚に瞳を空に向けながら、鍍金はエスカレーターを使って更に下に降りていく。頭にあった少年については既に振り払った。今はまだそこまで考える必要はない。

それにこのあとは手に持つ部屋着を常盤台の学生寮にある御坂の部屋に送る準備をしに行かなければならない。

面倒だとは思わない。鍍金は御坂美琴という少女をよく理解しているからこそ、こうなる結果は目に見えていた。

 

「そういった所がまた可愛らしいんですけどね」

 

もし本人が聞いていたならば、電撃を漏らしながら全力で否定していただろう。幼馴染のそんな姿にほほ笑みを浮かべる。

 

「ああ、すいません」

 

考え事をしていたせいで、歩いてきた学生とぶつかりそうになってしまう。咄嗟に鍍金が避けて謝罪するが、学生はヘッドホンをしており、更に小声でブツブツと何かを呟いているため、聞こえなかったようだ。

 

その背中を見えなくなるまで見送ると、鍍金は心の中でせせら笑う。

 

「分不相応の力に取り憑かれた者の末路は、いつだって同じですよ」

 

その十数分後、セブンスミストで最近学園都市を騒がせていた重力波を操る能力者による、風紀委員(ジャッジメント)を狙った爆発事故が起きた。




主人公のモチーフがヴァレリア・トリファなら、異常を持ってないとね!


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3話

人影が全くない立体駐車場を、一つの影が動く。影はいつも通りの黒い制服を着ているのではなく、シンプルな黒のカソックに似せた服を着ている。この真夏に近い学園都市の気温の中で、彼は相当目立っている。目立つことは彼からしても不本意である。

そんな彼にとっても幸いなのが、近くに制服を置いてあるバンがあることだろう。流石に、こんな真夏で真っ黒なカソックを着て出歩くほど、不振行動をとるつもりはない。いや、年中長袖長ズボンの制服も可笑しいだろう。

 

彼———鍍金は改造されている青いランボルギーニを見つけると、ゆっくりと歩き、近くに人がいないことを確認してから右側の席である助手席に乗り込む。

 

車内には既に先客、と言うよりも持ち主がいた。女性だ。目にくっきりと隈が出来ている。ヨレヨレだが白衣を着ていることから研究者ということが見て取れる。メイクでもすれば美しくなるであろう顔は、日頃のオーバーワークからか疲れ切っている。

 

「お久しぶりです、木山春生」

 

「ああ、久しぶりだね第八位」

 

旧知の中、という訳でもないが気安く声を掛けられるくらいには仲はいい。少なくとも、木山春生自身から、彼女が抱える秘密を聴けるくらいには。

 

「能力者集めは順調だよ。流石だな第八位」

 

「いえ、私はあくまで幻想御手(レベルアッパー)の開発途中のデータを持ってきただけです。そこから完成まで届かせたのは木山春生、貴方だ。貴方の執念と努力があったからこそ、幻想御手(レベルアッパー)は形を成して、学園都市に広がっている」

 

幻想御手(レベルアッパー)———現在、数多い学園都市の都市伝説の中で、一番有名で一番現実味が出てきている、無能力者を能力者にし、低能力者を高能力者にする夢のようなアイテム。

彼らはそれを学園都市にばらまいた張本人。

 

「恐ろしいものですよ。人の欲というのは。特にこの学園都市。予兆も見せずに浸透し、皆一心不乱に使い続けている。デメリットがあるかもしれないなど、微塵も考えもせずに」

 

「考えている人もいるのだろうさ。だけど抗えないのだろう。能力開発を受けてない私達には分からないが、目の前に本物(・・)があるんだ。別に、使ったからと言って人生は劇的に変わる訳でもないのに」

 

「使えることそのものが刺激となり快感となるんでしょうね。ハハ、まるで麻薬だ。使用者に気分でも聞けば、世界が違って見えるだの、見下してた奴らに復讐を、等の愉快な妄言を言い始めるのでしょう」

 

「人の弱さに漬け込む、か。この学園都市では目に見えるくらい大きいからな。弱さというものは」

 

人の弱みに漬け込む。その行為に思うことは木山にもある。だが既に他者の気持ちなど度外視しているのだ。しなければいけないのだ。今更、人1人が倒れようが、ああそうかとしたか思わない。

 

「そう言えば、この前君に言われた件について調べてみたよ。全く、私も酷い悪魔に掴まされたものだな。・・・木原、か。まさかあの木原幻生のような者達が、まだあんなに居るとはな」

 

「科学の発展の裏には常に木原がいる、という都市伝説でしたか?まぁ異常すぎる故に気付けなかった、ということでしょう。木原というのは強大ですからね。何せ彼らは我々や普通の研究者とは考え方が根本から違う」

 

「そこの部分は研究者としては羨ましいものだな」

 

「貴方も十分優秀な研究者だと思いますが?」

 

「外に出ればそうだろうな。だがここでは並だよ、私程度は」

 

皮肉のように言う。なにせ学園都市は外と中では30年以上技術力が離れているのだ。外で優秀だった者が学園都市に来ても、あまりの技術格差にすぐについていけなくなる。本当に理解出来るのは学園都市で育ち、研究者になるべく精進してきた者か、一握り以下の天才のみ。

 

「子供達の保護は任せてください。と言っても守っているのは私ではなく冥土帰し(ヘブンキャンセラー)ですが」

 

「あの人には本当に頭が上がらない。何から何まで頼りっぱなしだ」

 

「気にしなくても大丈夫でしょう。なにせ子供達も、貴方も彼の患者なのですから。彼は患者のためなら、なんでもする男ですよ」

 

鍍金がそう言うと、ポケットに収めていた携帯がバイブ音を鳴らす。

 

「どうやら、今日はここまでのようです。では私はこれで」

 

「少し待ちたまえ」

 

「まだ、何か?」

 

車から出ようとした鍍金を木山が呼び止める。鍍金は投げ出していた半身を、再び車内に収める。

 

「君が目をかけている第三位、彼女が関わっている裏の実験についてだが———」

 

「絶対能力進化計画。勿論分かっていますよ。その細部まで、全てを」

 

「止めないのか?」

 

「必要なんですよ。彼女には」

 

「そうか・・・君がそういうのなら私はこれ以上は言わないさ。だが気をつけておきたまえ。如何に君であろうと、この街の闇の深さは測りきれないだろう」

 

木山がそう言うと何も言わずに今度こそ、鍍金は車から降りた。木山はため息をつき、車線に鍍金が居ないことを確認すると車を走らせた。

 

 

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一人だけ、残っている鍍金。そろそろバンは木山の車がでたのを確認した頃だろう。そうなればもうすぐここにやってくるはずだ。

 

木山春生。鍍金が見つけた、成長に必要な存在であり、彼女のための入口として機能させる予定の存在。木山春生の敗北を持って、鍍金の一つめのプランはようやく歩み出す。

 

「ふ・・・ふふふ、ふふふふふふ」

 

笑う声が漏れる。その声は未来への期待ではなく、木山春生という愚か者を憐れむ声。

 

「ハハハハ!!全く無知とは酷いものだ!まさか私が、この聖餐杯が学園都市の闇を把握してないとでも?全く・・・貴方に渡した幻想御手(レベルアッパー)の試作型を、どこから持ってきたかも知らずに。貴方程度が触れたものが、垣間見たものがこの街の闇だと?温いですよ、全く持って温い。本当の闇には、愛や勇気などといった物は等しく通用しないというのに」

 

木山春生が触れた学園都市の実験。それは能力者を意図的に暴走させることで暴走の規則性を見つけるというものだった。だがその程度がなんだという。木山自身が忠告してきた絶対能力進化計画(レベル6シフトプラン)の大まかな概要しか知らない者が知れる程度の闇を、学園都市の闇そのものにさえなれる聖餐杯に忠告。愚かな話だ。

 

「頑張ってください木山春生(踏み台)。そして狂い喜ぶといい。貴方が、彼女に与えられる初めての試練だということを」

 

全ては掌の上。信念も正義も悪も怒りも悲しみも喜びも勇気も愛も友情も憎しみも嫉妬も憧れも復讐心も、何もかもは学園都市———アレイスターと鍍金の思うままに動いているのだから。

 

全てを意のままにしており、進むべきプランが決定している以上、木山春生の結末は変えられない。

彼女の自分の生徒を救うという彼女の行動は無情にも、

 

 

 

失敗すると決められている。




主人公は正義の味方にはなりません。
主人公(鍍金聖)主人公(上条当麻)と相入れることはありません。
主人公は優しくなんてありません(屑です)


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4話

死んでないよ、生きてるよ


学園都市に隠し事が出来る場所など存在しない。遍く全ての場所は等間隔で、死角がないように監視カメラが設置されている。監視カメラが破壊されていようと、秘密裏に学園都市統括理事長がばら蒔いている万を容易く超える滞空回線(アンダーライン)が全てを捉え、隠している情報すらも容易く持っていく。

例えそれが意味のない廃ビルだろうが、人通りの多い場所だとしても。

 

だが唯一、例外があった。いや、あったと言うよりは生みだされた、作り出されたという言い方が適切だろう。学園都市という巨大な街に、気付かないほど小さいスポット。誰も入ることは出来ず、気づくこともできない場所。

 

そこは部屋自体が薄い光を放っている空虚な空間だった。そこには地面という地面が存在していない。まるで無重力のように際限ない暗闇が下に広がっている。唯一あるとすれば、どういう原理でそこにあるのか分からないが、豪奢と言うべき椅子である。椅子の装飾に銀色の二匹の蛇を纏わせている、なんとも趣味の悪い装飾。更に椅子から上へ伸びる装飾には、人の身では理解できない何かがある。

この摩訶不思議な空間で、鍍金は椅子を前に右手を胸に当て、片膝を立て頭を垂れている。

 

「お久しぶりです、副首領閣下」

 

いつの間にか、影がいた。いや、正確には影絵のような男がだ。男はかつてナチス・ドイツと呼ばれた国の軍服を纏い、鍍金を上から見下ろしている。

それは人の形をしているが人に在らず。それは蛇であり、水銀であり、怪物であり、理であり、神であり、宇宙である。人の身では直視すれば、その魂は永劫同じ時を彷徨うことになるなるだろう。

 

「ああ、久しいな、第二の聖餐杯」

 

「最後にお会いしたのは2年前、でしたか」

 

何度か、鍍金は副首領と会っていた。何度かと言ってもたったの3回。今回を合わせて4回しかない。無論のことながら、鍍金は副首領を信用していないし、信頼など以ての外。怪しさだけで統括理事長をぶっちぎりで超えているこの男を、どうして信用できようか。

 

「君の提示した少女は順調に成長しているようではないか。一先ずは、何も問題は要らないようだな」

 

「ええ。彼女の成長は目まぐるしいものがあります。必ずや、女神をはじめとした覇道神(・・・)の方々にはご満足していただけるかと」

 

覇道神。『座』と呼ばれる場所にいるこの宇宙を———全ての宇宙を司る存在であり、また宇宙の理を決めるモノのこと。その理は千差万別。決まるのは神が持つ渇望。渇望が深くなければ神にはなれず、神に届き得るだけに留まる。

 

『座』に居られる覇道神は基本は1柱のみ。だが鍍金は方々と言った。そう、今の宇宙には目の前の男も合わせると覇道神が4注存在しているのだ。本来ならば覇道共存など不可能だ。覇道神は己の渇望が世界へ流れ出していくもの。複数存在してしまえば、流れ出す渇望同士が鬩ぎ合い、宇宙は混沌の地獄と化す。

だが今の『座』にいる黄昏と呼ばれる歴代最高の女神は、その渇望の特性により覇道共存を成功させた。

 

「あまり悠長にはしていられないぞ。いつ女神が容量を超えるか、気が気でないのだ。早く昇華させなければ君の願いは、祈りは藻屑と消えるぞ?」

 

「・・・ハイドリヒ卿はなんと?」

 

「好きにしていい、だそうだ。全く、獣殿にも困ったものだ。現状を把握しているというのに、楽観しておられる。おそらくどちらに転んでも、獣殿にとって差異はないのだろう」

 

「ならばハイドリヒ卿にお伝えください。貴方から賜ったこの聖餐杯が、貴方の新たな爪牙になることを。そして、必ずや今の理を存続させることを」

 

「急げよ。既に未曾有の危機は迫っている。崩壊は近い。女神の理を守り、愛すべき女を守りたいというのなら、その願いが本心であるというのなら。躊躇いは捨てた方がいい」

 

「無論、そのつもりです」

 

鍍金の顔が曇る。図星を突かれた顔に、男は満足そうに微笑み、溶けるように消えていく。その姿を見届け顔を元に戻した鍍金は、不快な視線を椅子へ向ける。

既にあの男はいない。あるのは空っぽの椅子だけ。そんな空っぽの椅子に、未だにあの男がいる気がして、無性に気分が苛立ってくる。

的確に人の嫌な部分を突いてきて、全てを見透かしたような顔をしている男。逆らうことは簡単だ。だが逆らったところでその行為に意味なんてものは無い。抵抗しても蚊ほども影響なんてないだろう。

殴ろうが蹴ろうが撃とうがミサイルを撃ち込もうが、覇道神であるあの男には痒さ一つ与えられない。

 

「いつか、あの芝居がかった口調を閉じさせてあげますよ」

 

果たしてそんなことをできる日が来るのか。鍍金本人は間違いなく来ないと思った。

 

 

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幻想御手(レベルアッパー)事件。思った以上に取り込んでいるらしいじゃないか」

 

何時もの並木道。何時ものベンチ。ベンチに座っている鍍金は目の前で自販機を思いっ切り蹴りつけ、缶飲料を不当に手にしている御坂の背に話しかける。

ここであったのは偶然等ではなく、鍍金が呼んだのだ。この場所にはあまり人が来ないため、二人きりで秘密の話をするにはもってこいの場所なのだ。

 

「いい加減、その口調やめなさいよ。なんか背中がむず痒くなってくるのよ」

 

「ふむ、やはりお気に召しませんか?」

 

御坂に言われ、鍍金は粗野な口調から丁寧なものへ戻す。実はこの丁寧口調は生来のものであり、幼い頃から幼馴染として一緒にいた御坂からしてみれば、こちらが普通であり、粗野な口調は慣れないものなのだ。

 

「それで、どこまで関わったのですか?」

 

「現物を手に入れようとして失敗。その後、大脳医学者の木山春生って人に接触したのよ。って、なんで私がこんなこと、一々アンタに教えなきゃいけないのよ」

 

「心配しているから、ですよ」

 

「心配って・・・私はいつまでもアンタの思っているような子供じゃない」

 

「子供ですよ。少なくとも、感情の制御が出来ず、こんな危険な問題へ首を突っ込もうとしているんです。それも楽しそう、などと言う理由で。もし貴方に何かあれば、私は美鈴さんに顔向け出来ません」

 

「ママは関係ないでしょ!それに、私は楽しそうなんて思ってない!許せないのよ。ズルして能力を手に入れてるのが」

 

御坂美琴は自他共に認める努力家である。彼女は当初、レベル1の能力者だったが、度重なる努力の果てに、今のレベル5という常人では到達できない領域に足を踏み入れたのだ。

御坂美琴は学園都市における努力の成功例であり、誰しもが羨む理想でもあった。

 

「誰しもが、貴方のようになれる訳ではありません。努力は功をなさず、挫折を乗り越えることが出来ない者もいる。憧れに手を伸ばし、伸ばした腕を降ろす者もいる。他者よりも上手くできている、努力しているはず。そんな甘い考えを持つのが人間なのです。努力の限界を決めている者達なのです」

 

誰しもが御坂美琴になれるはずがない。憧れ、彼女のようにと手を伸ばすだけでレベル5に、最強になれるのなら、今頃学園都市は超能力者で溢れ返っている。

努力は実らず、時間は浪費されたまま。残るのは成長無しという過酷な現実のみ。

学園都市は能力の強度、種類によってそのものの価値が決まる。低能力者の者達は、無価値という残酷な烙印を押され、心のどこかで受け入れている。

学園都市ほど、人の心をふるい落とす場所はない。超能力という夢と希望の裏に、絶望と転落がある。

 

「それでも・・・私は・・・」

 

「ですが」

 

俯く御坂に近づき、彼女の頭に優しく手を乗せ、なれたような手つきで撫でる。子供の頃から何度もしてきた仕草。鍍金のその行為に、御坂は顔を上げる。

 

「もし貴方が助けたいと、落ちた者達の手を掴み、引っ張りあげたいというのなら、微力ながら私も協力させて貰いましょう。これでも私はレベル5の端くれ。何か手伝えることがあれば、いつでも言ってください」

 

御坂美琴は思う。自分の幼馴染はいつも厳しいが、最後には甘くなると。何があっても、結局は自分の味方になってくれる。自分の傍で常に支えてくれている。元々御坂が学園都市に行きたいと言った時、初めは両親は反対していたのだ。反対された御坂は泣き続け、それを見かねた鍍金が一緒に頼み込んでくれたのだ。

 

今の口調だって、自分が一言言ったから、態々口調を変えているのだ。

 

目を瞑りながら、鍍金の手に頭を委ねる。何度も体感してきた優しい感じ。まるで夢見心地に居るような心地良さ。

彼らの逢瀬は御坂の携帯に黒子の着信が入るまで、延々と甘ったるい時間が続いていた。



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5話

「素晴らしい。予想以上ですよ木山春生。貴方は私の予想を、理想を大きく乗り越えた」

 

『君にとってこの結末はそこまで有意義なものなのかね?』

 

窓のないビル。学園都市にある窓も入口も一つもない巨大建築物の中。そこの一室、というよりは部屋としてはたった一つの場所。そこでアレイスターよ入っているビーカーに映し出されている木山春生と御坂美琴の対決。そしてたった今、この世に形を得て生誕した化物(虚数学区)

 

「一万の脳でここまでのものが出来るのです。貴方としても目安にするには中々いいものなのでは?それに今まで知らなかったことを知る。未知を理解するというのはそれが何であれ、素晴らしいことだと思いますよ?」

 

『虚数学区についてはそこまで参考にはならなかったよ。どの道ヒューズカザキリに対しての目安では物足りないな。この程度、たった1万程度では』

 

いつもと同じ、男にも女にも子供にも老人にも聖人にも悪人にも見えるような、二人が共通して他者が抱くであろう笑みを浮かべている。

 

『それにしても、良かったのか?』

 

「良かった、とは。まさか美琴のことですか?」

 

『ああ。これまでこの街の闇から守り続けてきていたのに、掌を返すように引き摺り込む。そして初めから『木原』に関する物を与えるなど。度が過ぎれば再起不能になるぞ。そうなって困るのは君も私も共通しているだろう。彼女は学園都市の貴重な財産で、君にとっての大事な行動理由だ』

 

「だからこそ、ですよ。私はこれから何度か街を離れますからね。自立を促す為ですよ」

 

『君の目的は彼女の守護ではあったと、私は記憶していたんだが』

 

「今までは、ですよ。ですがもう、私が全てから庇う必要は無い。頼れる仲間もいます。何より、彼女はそこまで弱くはない」

 

睨むようにアレイスターを見上げる。見上げられたアレイスターは視線を意にも介さず、複数新たに展開されたウインドウへ目を通す。表示されたウインドウの数は一や十では足りない。少なくとも数百のウインドウが展開される。

 

『プランの大幅な短縮には期待できそうにない。やはり科学だけではこの程度しか得られないか。逃げ回っている禁書目録の方はどうなっている?』

 

「安心してください。五日以内にはご招待出来そうですよ。報告では学園都市行きの貨物船に乗っているようですし。丁度よく誘導することは簡単です」

 

『任せたぞ。アレと幻想殺し(イマジンブレイカー)の接触は今後のプランにも大きな影響を齎す。だが『窓口』である君が十分に機能しなければ、余計な停滞が必要になってしまう』

 

「『窓口』としての機能は十分に行なっていますよ。近いうちにイギリス清教必要悪の教会(ネセサリウス)に居場所をリークしますから。ローマ正教とイギリス清教、そしてロシア正教の牽制も。今はまだ停滞していますが」

 

『起爆剤を用意してくれるのはあちら側だ。私達はその気にさせるだけでいい。君は目の前のことを考えていたまえ。近いうちに会わなければならないのだから』

 

「本当に、私と彼の接触は必要なのでしょうか?」

 

『君があの幻想殺し(イマジンブレイカー)に何を見たのかはわからないが、君という刺激を打ち込むことは必要なことだ』

 

心底嫌そうな顔をする。上条当麻。幻想殺し(イマジンブレイカー)を担う少年。何度も報告に上がっている。何度も『闇』に関わってくる。何度も揉み消しを行った。間違いなく人のはず。人でなければならないはず。だがその中身は人とは思えない。もっと違う、常人とは根本からして感性がずれている。

 

はっきり言って気持ち悪い。鍍金には人が本に見えて、石や木をラジオに感じる。見て感じたのは人の本質、その物の本質。だがそれは時折であり、その回数も人生で数えられるほどでしかない。その何の役にも立たない、ただ気味が悪いだけのその力が、上条当麻を画像や映像で見ただけなのに、ひどい嫌悪感に襲われる。

 

忠告はされている。アレイスターから上条当麻は学園都市において重要な位置付けを担っていると聞かされている。なのに、鍍金は彼を見るとどうしようもなく殺したくなる。

それは上条当麻が『ヒーロー』だからか。もしくは『偽善使い(フォックスワード)』だからか。

 

救われない存在を沢山見てきた。

 

強すぎる力故に最強(孤独)となってしまった者。世界のズレを認識し続ける者。己の幸運を嘆く者。覚えて欲しい人に何度も忘れられる者。自分に憧れさせないために愛した者たちから離れる者。一年周期で愛する者が死ぬのを見届ける者。自分のいるべき世界を忘れた者。

 

上条当麻はあらゆる悲劇を粉砕する。切り落とされた者達を繋ぎ合わせ、砕かれた者たちを新生し、破かれた物を縫い上げる。

 

人の悪意を知って肯定できる善意の塊。自分の事なんて度外視で、ボランティアなんていう規模を遥かに超える善意を施す。立ち塞がる悲劇を右手で粉砕し、暗闇を踏破して救い出す。

 

鍍金聖はどうしようもなく、上条当麻を嫌悪する。

 

鍍金は切り捨ててきた存在だ。己の目的のために、庇護すべき存在のために悪意を被り、振り撒いてきた。殺人を行った回数など覚えてすらない。虐殺を行った回数は六回。自分を砕いてここまで来た。友と呼んでくれた存在を殺した。自分のことを好きだと言ってくれた女を捧げた。自分の命を救ってくれた存在を裏切った。

 

老若男女あらゆる人種を殺した。握った拳を振り下ろし、構えた銃の引き金を引き、爆弾のボタンを押し、殺した全てを取り込んだ。全ては目的一つのため。全てを贄にしてここに来た。

 

何かを切り捨てることが生きるということなのに、上条当麻は何も失っていない。それは鍍金にはどうしようもなく綺麗に見えて、憧れた。

故に嫌悪する。上条当麻は殺すべき存在なのだと、自分に悪影響を及ぼすのだと滅多に使わない本能で判断する。

 

だから、来るべき時が来て、許可がおりたらすぐに殺す。

 

一片の慈悲もなく、強者の余裕すら見せず、反撃の策を考える間もなく、誰かにピンチだという状況を伝える時間さえ与えず、嬲らず侮らず慢心せず躊躇なく滅殺する。

 

滅尽滅相。必ず殺す。

 

本来の目的からは遠回りになるが、決して逃がすことは無い。あらゆる手段を講じ、あらゆる戦力を投入し、あらゆる死力を尽くす。

この宇宙から上条当麻を消す。これは紛れもない鍍金の意思であり、神の意思でもある。

 

故に神の運び手であり、代行者たる鍍金聖が殺すのだ。

 

 

———————————————————————————————

 

 

ステイル=マグヌスは苛立っていた。後ろにいる客に迷惑になるほど14歳にしては大柄な体型。場所なんて気にせず、だが火は着けないで煙草を噛み潰す。赤髪に目の下にあるバーコードのタトゥーも相まって他の客はステイルに怯えている。

 

「来たか・・・」

 

正面から男が近づいてくる。ステイルと張り合うほどの身長。長い黄金を思わせる黄金(こがね)の髪を真ん中ほどで結んでいるカソックの青年。

ステイルも同じカソックを着ているが、こちらはまだ魔術的な防御術式を付けているため、青年の着ているカソックよりは派手である。

 

「おや、確かイギリス清教は二人の魔術師を今回の件に駆り出したと聞いていますが、もう御一方はどちらに?」

 

「神裂なら先に帰りの分のチケットを取ってもらっている。別に、こんな人気の多い場所で人払いもせずに君と戦うつもりはないのでね。いや、人払いをしていたとしても、こちらは君とは戦いたくないのでね。ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリン」

 

「流石、噂に聞く天才。どうやら今回の件は迅速に終わらせてくれるようですね」

 

悪趣味な男だと思う。そもそも名前からしてどうかしている。このご時世にヴァレリア・トリファ———第二次世界大戦(WW2)で虐殺の大神父とも呼ばれた男と同じ名前を名乗るなどどうかしている。自分だったら即座に改名する。

 

「やはりイギリス清教も禁書目録の回収にはかなりの力を入れているようですね。まぁロシアやローマも動いてますし、魔術結社達にこの件が伝わるのは時間の問題だからでしょう」

 

「本来であれば学園都市側が彼女が侵入した時点で確保していてくれれば、こちらも面倒ごとを避けることができたんだ」

 

「ですがそうなると受け渡しなどの諸々の手続きは『窓口』である私になります。そちらとしても不都合でしょう?避けるべきことなのでしょう?学園都市にいる魔術師である私が、イギリス清教に禁書目録を提供(・・)するのは」

 

「ちっ」

 

そう。禁書目録はあくまでもイギリス清教の魔術師が確保(・・)することが重要なのだ。学園都市に入るまではいい。だが学園都市側がイギリス清教に禁書目録を渡すとなると、他の組織は学園都市とイギリス清教が手を結んだのだと勘繰るだろう。

そうなれば最悪、イギリス清教の突出を恐れた各組織達が揃ってイギリス清教に戦争を仕掛ける。それだけではない。世界各地の魔術結社までもがイギリス清教の財産を狙って騒ぎに便乗するだろう。

 

ならばヴァレリアはどうなのか。ヴァレリアは学園都市の魔術師。その肩書きがあるだけでヴァレリアがステイルと接触するのは避けるべきことである。だが現に、こうして人の目を気にしないで接触してきている。

答えはヴァレリア・トリファが学園都市の所属となっているが、その実イギリス、ローマ、ロシアなどの各魔術組織等のパイプ役や『窓口』としての役目を一手に担っているからである。

 

誰もがヴァレリアの価値を認めている証拠であり、ヴァレリアを敵に回したくないという表れである。それは彼が持つ様々な噂が恐れさせている。

有名な噂として、ヴァレリア・トリファに余計な手を出してしまった者、もしくは組織は実力派だろうが等しく皆殺しにされ、死体すら残らないという。

 

バカな話だと笑い飛ばせばどれだけいいか。数年前にロシア正教の司教クラスの一人がヴァレリアに対してかなりの無礼を行い、その数日後に行方不明になっている。

魔術を使って捜査などをしても、証拠の一つも出てこない。それどころかヴァレリアは事件が起こる前に違う国にいたという確かな情報がある。

 

学園都市にいて各宗教のパイプ役として存在している。異端や特異などの言葉では足りない。正しく異常である。

 

「学園都市側も最低限の証拠隠滅等はしてあげますよ。それと、くれぐれも学生に手出しはしないように。彼等は貴重な財産(生贄)ですので」

 

「無論そのつもりだよ。こちら側もそっちにいらない借りを作りたくない。むしろ心配なのは・・・」

 

学園都市側からの介入こそ、最も恐れるものである。不用意に戦闘に移行すれば、学園都市内部の治安維持部隊に追われることになる。優秀な戦闘型の魔術師であるステイルと、ある特殊な体質である神裂が手こずることは無いが、嬉嬉として追われたいとは思わず、また無関係な者達を易々と傷つけようとも思っていない。

 

「それはこちらでどうにかしておきますよ。貴方達はお客様です。そのような無礼は、この私の名にかけてさせませんよ。どうかごゆっくりと、任務にあたってください」

 

「それは、頼もしい限りだね」

 

冷めた目でヴァレリアを見る。ニコニコと万人受けする愛想のいい笑みをしているが、内心何を考えているのか。思考の探り合いを得意としていないステイルには、もう思考放棄してしまいたかった。



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6話

超電磁砲は大覇星祭までダッシュで行きます。


学園都市において『原石』の扱いとは大変微妙なものである。超能力者であれば一定の数を揃えられ、その中から細かく種類分け、レベル分けをしている。だが数少ない原石だとそうはいかない。

例えば超能力者(レベル5)八人の中で原石は第七位と第八位の二人。両者共に超能力者を称すに相応しい原石である。

 

第七位の削板軍覇。能力名すらも不明とされるこの能力。最早大道芸でもしているのかと言うくらいヘンテコであり強力な原石は、銃弾をモロに受けようが痛いですまし、音速の2倍以上で拳を振るえるなど、訳の分からない解析不能な能力だが色々と使い勝手はいい能力と、周りから認識されている。

 

対して第八位の鍍金聖。能力名は黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)。その能力は上記の削板軍覇の『原石』を率いても、核ミサイルの数十倍の殲滅兵器を撃ち込もうがかすり傷一つ負わず、能力者の能力による攻撃、同じ『原石』である削板軍覇でさえも無傷で済ます防御一辺倒の『原石』とされている。

 

『原石』とは基準にすべき点が曖昧なのだ。ただでさえ数が少なく、最上位の二人はわけが分からないオールラウンダーと防御最強。

 

故に、能力開発など出来るはずもなく、出来るのは能力の成長、もしくは劣化の確認。その確認も一つ一つが大規模なものとなり、また人員も時間も勿体なく、大した成果は得られていないため、『原石』の確認作業は最早流し作業と同等。回数も年に数回行われる身体測定(システムスキャン)と同じ回数だけである。

 

 

———————————————————————————————

 

 

「後始末ですか?」

 

最新流行りのペットカフェ。犬や猫、ハムスターなど、人気の高いペットの飼い主達がペットと共に交流しながらお茶をする場。

第七学区に最近多く見られるペットカフェ。数多あるカフェの中の一つ、犬専門のカフェに鍍金はいる。

別に鍍金は犬は飼っていない。それどころかペット自体も飼っていない。確かに犬猫に愛嬌を感じるが、時間を割いて世話をしたいと思うほど好んではない。

 

ならば何故、このような場にいるのかと聞かれれば、やはり秘密の密会である。

 

鍍金の隣に座っていたのは鍍金を呼んだ二人組———一人と一匹だった。幸薄そうな顔をしており、隣の椅子に行儀正しく座り、人間でも美味しく頂けるカロリーオフという触れ込みのドッグフードを食べている白衣の女性。こちらに関しては鍍金は気にもとめていない。そもそも呼び出したのは彼女ではなく、犬用の椅子に座りながら彼女が愛でている犬———ゴールデンレトリバーの方だ。

 

『ああ。ぜひ君にお願いしたい。というよりも、君だからお願いしたいんだ』

 

「はぁ・・・貴方にそこまで言われると少々断りずらいですね。分かりましたが引き受けましょう」

 

『助かるよ』

 

ゴールデンレトリバーは肉声で出しているのか機械で出しているのか分からない、だがどことなくダンディーな声を発すると、隣の白衣の女性が取り出したUSBを、肉球で踏みながら鍍金の方に滑らせる。

 

『そこに今回の標的である『木原』の情報が乗っている。正確には動機や活動拠点や現在の装備、あとは私生活についての諸々かな』

 

「プライバシーがあったものじゃありませんね。それよりも、いいのですか?同じ『木原』を売り渡すような真似をして」

 

『構わないさ。今回の『木原』はそこまで『木原』としての活躍は期待できない。木原幻生の孫娘らしいが、どうやら祖父の才能は遺伝しなかったようでね。近々面倒な問題を起こすらしいから、事前に潰しておきたいんだ。やり方は君に一任するがね』

 

「では、どのようなやり方でも、どのような人材でもよろしいのですね」

 

『どうするつもりかね?君の子飼いの治安維持部隊でも動かすのか?それとも、君自身かね?私としては君がやってくれることが一番安心できるのだがね』

 

「私の、愛しきお気に入りですよ」

 

『・・・そうか』

 

鍍金の言葉で何かを察したゴールデンレトリバーは、気の毒だと言いたげに目を伏せる。そんな様子を隣で見ていた白衣の女性は指を気持ち悪く動かしながら抱き上げようとするが、直前で椅子から飛び降りられて失敗に終わる。

 

『君が何を企んでいるかは分からないが、過ぎた陰謀は身を滅ぼすぞ』

 

最後に言葉を置いて、犬は出ていく。

 

 

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「良かったのですか先生?彼に任せてしまって」

 

『構わないとも。彼ならば『加減』を知っている。それに彼はアレイスターの計画(プラン)の全貌を知る数少ない人間だ。今後、私達の立場を考えれば、彼に取り入っておくことは悪くない』

 

先生と呼ばれたゴールデンレトリバーはから笑いの様な音を発しながら犬らしく四足歩行で歩く。途中喋っていることが奇っ怪なのか、通行人の視線に晒されるが、誰もが新しい動物を率いた機械なのだろうと、直ぐに興味をなくす。一時の物珍しさは一瞬で消えていく。それが学園都市。異常に対する神経を擦り減らしていく場所。

 

『唯一君も一度、彼を良く観察してみるといい。時間はかかるが理解はできるよ』

 

「観察?彼の何を観察すれば?」

 

『表面、もしくはメッキ』

 

躊躇い無く答える先生に、唯一と呼ばれた女性は首を傾げる。

 

『彼はまるで金色の鉄板を身に纏っているだけに見えるんだよ、私からは。誰もが思う学園都市第八位というメッキか、もしくは『窓口』としてのメッキか。まぁ名は体を表すだ。彼の場合はいき過ぎているがね』

 

だからここまで不気味なのだ。鍍金聖。鍍金の聖者。その本性はまるで自分の内面———邪悪さを必死に隠そうとしている愚者。一度剥がれてしまえば、もう再起することはない。故に歪。

 

『もしかしたら彼の『原石』はそういうところから来ているのかもしれないね』

 

黄金聖餐杯。万物の攻撃全てを通さず、あらゆる攻撃もあらゆる干渉も断ち切る城の如き鎧。その城がハリボテだったとしたら、それはさぞ愉快だろう。

 

 

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依頼された以上は、何がなんでもやりきる。鍍金聖にとっては当たり前のこと。どんな汚れた依頼であれ、引き受けた以上はどのような手を使っても完遂する。

 

「目立ちすぎますね」

 

第七学区にある廃墟区画、スキルアウト達の縄張り。区画自体は決して大きなものではないが、それでもかなりの人数がスキルアウトとしてこの場にいるため、組織としては巨大である。

足の爪先ほど『闇』に足を突っ込んでいる者もいるが、上層部はスキルアウト如きに目などくれるはずもない。少しくらいなら放置で構わないと決定している。

 

道行くスキルアウト達からの視線がウザったい。落ちこぼれの彼らにとって、優秀な能力者、そして研究者の卵が集まることで有名な高校の制服を着ている鍍金など、敵でしかないのだから当然といえば当然だろう。

 

針の筵のような視線を浴び続けて、慣れたような足取りで奥へ奥へと進んでいく。進んだ先にある一際目立つ廃墟。中からは喧しいほどの音楽が聞こえてくる。

壊れかけ、錆び付いている扉を開ける。勿論、ニコニコとした笑顔も忘れない。

 

錆び付いた扉が空いた音で、全員の視線が鍍金へ向けられる。

 

「半蔵君はいますか?」

 

「はいはい、俺が半蔵だ」

 

鍍金の呼びかけに、リーダー格の大男と金髪の男を押しのけて、軽そうな男が出てくる。生憎と、鍍金は半蔵の顔を知らないので、彼を信じるしかない。

 

「で、優等生の中の優等生、生まれながらの天才である超能力者(レベル5)様が、こんなちっぽけな落ちこぼれに何の用だ?」

 

自分を卑下しながら、この場にいる全員の意識を警戒から完全な敵意へと変化させた。唯一例外なのは大男だけだろう。彼だけは冷静に鍍金を見つめ、値踏みするような視線を送っている。

 

「私の事を知っているなら話は早く済みますね。端的に言いましょう。貴方から、というよりも第七学区のスキルアウト達から情報を買い取りたい。無論、報酬は望むものを用意させていただきます。金でも武器でも、兵器でも」

 

「へぇ・・・。で、何をお求めで?第七学区のお嬢様達のスリーサイズでもご所望か?」

 

「いえ。最近スキルアウト達に与えられたとあるシステム。それを持っているチーム達の情報を」

 

「俺達に仲間を売れってか?」

 

「仲間?貴方達は傷を見せ合っているだけの相手を仲間というのですか?違うでしょう。苦悩を共有し、痛みを和らげ合うことが仲間のはずだ。仲間などでは決してない。事実、貴方達はそうしている。こうしてスキルアウト同士で、チームを組んで活動している。私が売って欲しい情報は、ただ自分と同じ傷を持つだけの他人だ」

 

「どういうことだテメ———」

 

「やめろ、浜面」

 

侮辱されたのかと思ったのか、浜面と呼ばれた金髪の男が身を乗り出すが、後ろから大男が肩を掴んで止める。

 

「いいだろう。半蔵、コイツに売ってやれ。だが忘れるな。俺達は売って、お前は買ったんだ。請求には確実に応じてもらう」

 

「話が早くて助かります。では、これを」

 

「これは?」

 

「そのUSBメモリにはとある『ショップ』の情報が乗っています。そこに行き、同時に記録されている暗号を定員に言いなさい。そうすれば、大抵のものはタダで揃えられます。もし何かあれば、私に連絡でもください。私の連絡先も同伴してありますので」

 

「分かった」

 

鍍金が渡したUSBメモリを、確かに懐に入れる大男。と、同時に駆け足で奥へ向かっていく半蔵。今から集めるのか、もしくは情報の整理か。まだまだ時間はかかりそうだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・一曲歌うか?」

 

「・・・では、お願いします」

 

待ち時間の間、無駄に睨み合いを続けるのはどちらも御免らしい。



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