神様の気まぐれで転生させられます。(仮) (CHIEN)
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プロローグ

駄文ですが、それでもよければどうぞ。


 ---side

 

 気がついたら何もない真っ白な空間にいた。

 なにが起こった・・・? 俺はジョギングを終えて、玄関のドアを普通に開けただけのはず・・・それがなぜこんなところに?

 わけがわからないままキョロキョロと周りを見てみる。すると、俺と同じようにしているやつがいた。

 向こうも俺に気づき、こっちに歩いてきたから、こっちからも歩み寄る。

 

「よぉ。・・・お前も気づいたらここに?」

 

「・・・あぁ。電車に乗ったはずだったんだが、いつのまにかここにいた」

 

「俺も玄関開けたらいつのまにかここにいたんだが・・・どこだここ?」

 

「知るか! 俺が聞きたいわ」

 

「だよな~。マジでなにが起こったんだ、いったい・・・」

 

 と2人で話していると、もう1人こっちに近づいてきた。こっちからも近づき、話しかける。

 

「よぉ。・・・お前もいつのまにかここにいたって感じか?」

 

「・・・その様子だとお前らもそうみたいだな」

 

 これで3人目か・・・いったいなにが起こってるんだ?

 

「・・・とりあえず、この状況について少し話し合わないか?」

 

「まぁ、他にやることもないしな」

 

「そうだな・・・」

 

 そう言って話し合おうとしたら、声が聞こえた。

 

「おぉ、揃ってるね」

 

 声のした方を見ると、上下白い服を着た金髪の男なのか女なのかわからない中性的なやつが浮かんでいた。

 

「なんだ? お前」

 

「ん? ボク? ボクは君たちでいうところの神様ってやつだね」

 

 は? 神様? こいつが? マジでいってるのか・・・?

 

「その神様が何の用だ? こっちは今忙しいんだよ」

 

「君たちをここに連れてきたのがボクだってっ言ってもかい?」

 

「なんだと?」

 

 なに、こいつが俺たちをここに? いったいなんで・・・。

 

「実は、君たちには別世界に転生してもらおうと思ってさ~。IS〈インフィニット・ストラトス〉っていう世界なんだけどね」

 

 は!? 転生!? しかもIS!? 俺、最初の方しかわかんねぇぞ。

 

「IS〈インフィニット・ストラトス〉?」

 

「なんだ? お前、知らないのか? ラノベだよ。アニメ化もしてたし。

 ・・・まぁ、俺も言うほど詳しくないけどな」

 

「そういうのはあまり見てなっかたからな」

 

 皆、似たような感じだな・・・。

 

「・・・で、なんで俺たちが転生しなきゃいけないんだよ。

 別に死んだわけでもなけりゃ、あの世界に嫌気がさしてたわけでもねぇぞ」

 

 確かにそうだな。なんで俺たちなんだ?

 

「そりゃそうだろうね。・・・だって適当に選んだんだから」

 

 

 ・・・・・・は?

 

 

「・・・おい、今なんて・・・」

 

「だから適当に選んだの。ランダムだよランダム。

 あ、転生するの嫌だって言ってもムダだから。ていうか今更ムリって感じかな?」

 

「どういうことだ!?」

 

「もう前の世界の君たちの存在を消しちゃったんだ。例え戻っても、誰も君たちを認識してくれないよ」

 

 マジかよ・・・。

 

「なんでそこまでして俺たちを転生させたがる? なにか理由でもあるのか?」

 

 確かに・・・。なんでこんな有無を言わせないようなやり方なんだ?

 

「それは君たちは知らなくていいことだよ。

 君たちは転生して普通に暮らしてくれればOKだから!」

 

 いや、あの世界じゃ男は普通に暮らせないだろ!?

 

「あ、転生したらここであったことはすべて忘れるから。

 あと、転生前の記憶もなくなるから」

 

 

 ・・・は!? ・・・え!?

 

 

「おい、ちょっと待て!?」

 

「大丈夫! 特典もきちんとあげるよ。・・・ボクが勝手に選んだやつだけど。

 原作が始まる頃にはもらえるよ」

 

 いやいや、俺たち原作知識なくなるのに始まる頃とかわからんだろ!?

 

「おまえが選んだやつとか不安しかねぇ!?」

 

「ちゃんとISの適正もつけるし、主人公の幼馴染にしてあげるからさ。がんばってボクを楽しませてね」

 

「全然うれしくない!?」

 

「ISの適正? なんだそれは?」

 

「今、そんなこと吞気に聞いている場合じゃねぇだろ!?」

 

「じゃあ、いってらっしゃ~~い」

 

 

 そう神様が言って手を掲げると俺たちが立っていたところが消えた。

 俺たちは重力に従って落下していく。

 

 ・・・・・・え?

 

 

「「「うわあああああああああああ」」」 

 

 そこで俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これであとは悪役になる人を転生させて・・・。

 そしてもう1人には選ばせてあげようかな。

 

 

 

 

 

 ---正義の道をいくか悪に染まるかを・・・ね」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず主人公サイドの転生者たちの転生されられる話でした。
ちょっと無理矢理だったかもです。


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プロローグ2

相変わらず駄文ですが・・・。


 ×××side

 

「・・・ん?」

 

 目を開けたらそこは真っ白な空間だった。

 いきなり目の前が光り、おもわず目を閉じた。そして、光が収まり目を開けてみるとここにいたというわけなんだが・・・。

 こういう場合はどうすればいいのか・・・。

 そういったことを考えているうちにだいぶ時間が経っていたのか--

 

 

「もしも~し。聞こえてるかしら?」

 

 

 --と女性に声をかけられていた。・・・まったく気づかなかったな。

 

「あぁ、すまない。聞こえている」

 

「よかった、やっと気づいてくれたわね。

 ・・・で、会って早々で悪いんだけどあなたもお仲間ってことでいいのかしら?」

 

「・・・そう言うってことはもしかしてあなたも?」

 

「えぇ、いつのまにかここにね。

 う~~ん、困ったわね。お仲間がいるとはいえ、ここがどこかもわからないことにはねぇ・・・」

 

 

「まぁな。いちおう俺も考えてはいたんだが、皆目見当もつかない」

 

 などと話していたら突然---

 

 

「やぁやぁ、揃っているねおふたりさん」

 

 

 ---という声が聞こえた。

 声がした方を向くと、上下白い服を着た金髪のやつが浮かんでいた。

 

「どちらさまかしら?」

 

「ん? ボクは君たちでいうところの神様ってやつだよ。よろしくね」

 

 

 ・・・神様ねぇ。

 だからなのか知らないが、声を聞いても姿を見ても男か女かわからないな。

 

 

「おまえが俺たちここに連れてきたのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 やはりそうなるのか。

 

「君たちには別の世界に転生してもらおうと思ってね。

 まぁ拒否権なんてないんだけどね」

 

「転生? なんでまた私たちなの?」

 

「君たちを選んだ理由? ボクがある条件をもとにランダムに選んだんだよ」

 

「ある条件?」

 

「なんなの、それは?」

 

「ん~、それはおしえな~い。

 それはそれとして協力してほしいことがあるんだよね」

 

 何も教えずに協力しろとは・・・さすが神様ってことなのか?

 

「協力してほしいこと?」

 

「そ、協力してほしいことがあるんだよね。

 とりあえずそこの男に」

 

 しかも俺ご指名かよ・・・。絶対、ロクな内容じゃないな。

 

「君には悪役になってほしいんだよ。そして、全力を出したうえで限界以上の力を引き出した主人公たちに倒されてほしいんだ」

 

 

 ・・・どういうことだ?

 

 

「・・・なんでまたそんなことを?」

 

「ボクがみてみたいからだよ。

 別世界の力をもった悪にその世界の主人公たちがどういう力を引き出し、どう立ち向かい、どうやって倒すのかを」

 

 

 ・・・気まぐれっていうのかこういうの?

 まぁ、言いたいことはわかったが聞かなければいけないことがある。

 

「悪役になるのはわかった。

 だが、おまえが言うその世界とはどんな世界なんだ?」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったね。

 その世界っていうのは、IS〈インフィニット・ストラトス〉を基にした世界だよ」

 

 

 IS〈インフィニット・ストラトス〉?

 

 

「え・・・それってライトノベルの作品じゃなかったかしら?」

 

「そうだよ。・・・そこで悪役になってもらう。いいよね?」

 

 創作物の世界なのか。いろいろ面倒そうだが・・・

 

「わかった、やってやろう」

 

 やるしかないのはわかっているからな。

 

「っ!? わかったって・・・本当にいいの!?」

 

 ヤツの言う悪役の件を承諾した俺に、彼女が嚙みついてきた。

 

「なにか問題でもあるというのか?」

 

「あるに決まってるでしょ! このまま転生するとあなたは確実に死ぬってことよ! しかも短期間で! それでもいいの!?」

 

 それは俺も思ったが・・・しかし、

 

「いいもなにも、ヤツは拒否権がないと言っていた。ならやるしかないだろう」

 

 ・・・そう、ヤツは拒否権はないと言っていた。だから拒否の意思を伝えるだけムダなのだ。

 

「そうかもしれないけど! それでも---」

 

 

「は~い、ストップ~。話進まないからもう終了~」

 

 

「---っ!?」

 

 言い合っていた俺たちを見かねたのかヤツが声をかけてきた。

 

「とりあえずボクの言ったことに協力してくれるんだよね?」

 

「あぁ、そこに異論はないが、聞きたいことがもう一つある」

 

「ん?なにかな?」

 

「別世界の力とはなんだ?」

 

 嫌な予感しかしないが、これはいちおう聞いておかないといけない。

 

「あ~・・・仮面ライダービルドだよ」

 

 

「・・・なんですって?」

 

 

「だから~仮面ライダービルドに登場したライダーの力。

 ちなみに女の人はローグで男の方はエボルね」

 

 まぁ、悪役だしな。そうなってしまうか・・・。

 

「私が・・・ローグ・・・」

 

「そういえば女の人に聞こうとしてたことがあったんだ」

 

 彼女に? 今更何を・・・?

 

「な、何?」

 

 

「キミには選ばせてあげようと思って。

 主人公や他の転生者たちといっしょに彼と戦うか、彼といっしょに悪役になるか」

 

 

 よくわからんが、彼女には選ばせるのか・・・。というか---。

 

「他にも転生させたやついたのか・・・」

 

「まぁね。問答無用だったけど」

 

 

 ・・・ご愁傷様だな。

 まぁそれはさておき彼女はどうするのか。

 

 

「・・・ねぇ。他の転生者たちって何人いるの?」

 

「ん? 3人だけど?」

 

 なぜかわからないが、彼女は他の転生者たちの人数を聞いた。

 

「そう・・・。決めた。

 私は彼と同じく悪役になるわ」

 

 

 ・・・まさか彼女が悪役になることを選ぶなんてな。

 

 

「それでいいのかい?」

 

「えぇ。会社でもつくって彼のサポートをさせてもらうわ」

 

「なるほどね~。OK! わかったよ」

 

 俺のサポート・・・か。

 

「・・・よかったのか?」

 

「えぇ、あなた1人だといろいろ大変だろうしね。精一杯やらせてもらうわ」

 

「・・・ありがとう」

 

「感謝するのはこの件がうまくいってからでいいわ」

 

「・・・わかった。そうさせてもらう」

 

 これで少しはやりやすくなるだろうな。

 

 

「じゃあ、さっそく転生してもらうよ。君たちは前の3人と違ってここでの記憶も前世の記憶もそのままにしておくから。

 その方が暗躍しやすいだろうからね」

 

 

 前の3人どんだけだったんだ・・・? なんか不憫に思えてきたな。

 

 

「じゃあ、まずは女の人からね。特典はローグの力ね。それともう一つあるんだけど、それは転生してから確認してね」

 

「わかったわ」

 

「じゃあ、いってらっしゃ~い」

 

 

 そう言って神様が手を掲げる。

 

 

 別れ際、彼女は俺の方を向き、

 

「ある程度したらこちらから連絡するわ。楽しみにしてて」

 

 と、言ってきた。・・・彼女とは長い付き合いになりそうだな。

 

「わかった。また向こうで会おう」

 

「えぇ。また向こうの世界でね」

 

 

 そう言って彼女は光に包まれ、目を開けた時には消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




男の方の転生は次回に回します。すいません。


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プロローグ3

前回書けなかった男の方転生話です。


 ×××side

 

「・・・よ~し完了! じゃあ次はキミの番・・・って言いたいんだけど」

 

 俺といっしょにこの空間にいた女の人を転生させ終えた神様は、俺のほうを向き言葉を続けた。

 

「なにか聞きたそうな感じだね。いいよ、特別に聞いてあげる」

 

 やっぱりわかっていたか。なら遠慮なく質問させてもらおう。

 

「なぜ、彼女だけ先に転生させたんだ?おまえのことだ、2人同時に転生させることもできたんじゃないのか?」

 

 とりあえず、ついさっき起きたことについて聞く。

 

「まぁそうなんだけどね。キミには協力してもらうにあたってもう少し詳しく話をしておきたくてね」

 

 

「詳しく・・・というと」

 

「まず、さっきも言ったけど転生先はIS〈インフィニット・ストラトス〉を基にした世界。そこに仮面ライダービルドに登場したエボルの力を持って転生してもらう」

 

 ・・・まぁ、さっきも聞いたな。

 

「そしてキミには彼女と違い、今までの記憶とは別にIS〈インフィニット・ストラトス〉と仮面ライダービルドの原作やその他諸々のあらゆる知識をあたえる」

 

 それはありがたいんだが・・・。

 

「そこまでするのは基本的に原作に従って行動させるためか?」

 

 まぁ、俺そのIS? だったか? 全然知らないからな。知識をくれるだけでも大助かりなんだが--

 

「いや?別に原作無視してもいいよ」

 

「なんだと?」

 

「ボクが言った最終的な条件さえ達成してくれれば、原作なんていくらでも崩壊させていいよ」

 

 --マジか。

 まぁ、その方が動きがあまり制限されなくていいんだろうけど。

 

「すでにキミたちっていう原作にない存在があるんだ。なんの問題もないよ。

 どこで何をしょうと、誰を殺そうともキミの自由にしていいよ」

 

「まぁ、そのあたりは状況に応じてだな」

 

 誰かを殺す・・・か。悪役になり、倒されるためにはやらなければならないだろうな。

 

「あ、そうだ。主人公くんだけは殺さないでね。やっても半殺しまでね」

 

「半殺しまではやってもいいのかよ」

 

「けっこう暑苦しい感じの主人公だからね。そこまでやらないとおとなしくならない状況があるかもしれないから」

 

 まぁそれなら仕方ない・・・のか? それも状況次第か。

 

「転生者たちはどうなんだ? 主人公に協力? してるんだろう?」

 

「あいつらは・・・どっちでもいいよ」

 

 ・・・・・・え~。

 

「そう・・・なのか? じゃあなんのために転生させたんだ?」

 

「ん~。盛り上げ役・・・的な感じかな? 主人公側にも同じ力を持ったヤツがいれば少しは違うでしょ?」

 

 ホントに不憫だな。顔もしらない3人よ。

 

「とりあえず行動制限についてはわかった。最後に力についてだが・・・」

 

 これに関してはきちんと聞いておかなくては。

 

「キミに渡す力は、仮面ライダービルドに登場したエボルの力だよ」

 

「俺がエボル、彼女がローグということは・・・」

 

「うん。転生者3人はそれぞれビルド、クローズ、グリスだね」

 

 ・・・やっぱりそうか。

 

「ちなみにクローズの転生者は前世では男だったんだけど、今回は女になってもらったんだ。TS転生ってやつだね。」

 

 不憫な転生者たちの中でも一番の被害者だな。・・・ドンマイ。

 

「でもちゃんとビルドの転生者は天才物理学者にしてあげたんだよ」

 

 そういうところはきちんと反映させるのな。

 

「転生者たちのことはわかった。俺の力は仮面ライダーエボルの力ということでいいのか?」

 

「そうだね。でもエボルというよりはエボルトの力っていうほうがしっくりくるかも」

 

 ・・・ん? エボルト・・・だと?

 

「キミの体は転生するとエボルトのような地球外生命体になるんだよ。」

 

 ・・・つまり、

 

「俺は転生後は人間ではなくなる・・・と」

 

「まぁそうなるね。でも悪役なんだし問題ないでしょ」

 

 そうかもだけど・・・なんか釈然としないな。

 

「あ、ちゃんと誰かに憑依することもできるからね」

 

 ・・・マジか。それはちょっと試してみたいかも。

 

「それと、どこでどの力を使うかはキミの判断でいいからね」

 

「・・・わかった。あとは・・・」

 

「そうそう。エボルトリガーはパンドラボックスに入ってその世界のどこかにあるから」

 

 なんでそこはどこかって曖昧な感じにするんだよ。

 

「探せってことか・・・」

 

「これで少しは楽しめるでしょ」

 

 俺じゃなくておまえが楽しむための措置だろ、それは。

 

「ちなみに、パンドラボックスはボトルを集めなくてもキミが力を流し込めば開く設定になってるよ」

 

 それはありがたいな。ボトル60本集めるとか面倒くさいし。

 

「・・・このくらいでもういいかな?」

 

 ・・・そうだな。

 

「まぁ、多分大丈夫だろう」

 

「じゃあ悪役としてがんばってちょうだい」

 

「わかった。やれるだけやってみよう」

 

「OK~。じゃあ、いってらっしゃい!」

 

 そう言って神様は手を掲げた。

 

 

 ---直後に俺は目を開けていられないくらいの光に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ。彼も完了・・・っと。

 でも彼の性格、口調をもっと悪役にふさわしようにいじって・・・と。

 これでOK!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    --さぁて、ボクはこの特等席から楽しませてもらおうかな。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 




難しいです。


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プロローグ4

転生後の話です。
拙いですが・・・どうぞ。


 IS-正式名称〈インフィニット・ストラトス〉

 宇宙空間での活動を想定し、篠ノ之束が開発したマルチフォーム・スーツ。

 開発当初は注目されなかったが、〝白騎士事件〟によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用され、各国の抑止力の要となった。

 しかし、ISは女性にしか反応しないという欠陥があった。これにより世界は女尊男卑となっていく。

 また、コアを製造できるのは開発者である束のみであるが、ある時期を境に束はコアの製造を467で止め、姿を消した。

 彼女の❝2人の親友❞も束がどこでなにをしてるのかわかっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 神様によって地球外生命体として転生させられた男は、転生後に光の球体の状態で周囲の状況を確認した。その結果、主人公たちが生活している地域ということが分かった。

 すぐさま同じくらいの年齢の人間に擬態し、主人公たちに接触した。自らを 石動創一 と名乗って。

 

 その後、大人に擬態し生活場所を確保。お金は神様がなにかしたのか、かなりあったのでどうとでもなった。

 

 さらには主人公たちと同じ学校に転校し、クラスメイトとなった。事前に会っていたため、すぐに仲良くなった。

 織斑一夏や凰鈴音、転生前に不憫だと思っていた3人 桐生征兎 ・ 万丈龍華 ・ 猿渡和海 などといった面々と共に過ごし、親友と呼べる間柄になった。

 

 その傍ら創一は自身の目的のため、この世界のどこかにあるパンドラボックスの在処も調査していたが、こちらの成果は芳しくなかった。

 

 

 そのようにして日々を送っていたある日、織斑一夏がISの国際大会〝モンドグロッソ〟に出場する姉・織斑千冬の応援のため、ドイツへ行くことになった。

 他の面々はそれぞれ都合でいけないとのことだが、創一は自身の目的のためにいっしょに行くことにした。

 

 そして、創一の目論見どうり一夏の誘拐事件が起きた。創一はあえて一夏を助けようとし、共に誘拐されることにする。誘拐犯も織斑千冬が決勝戦を棄権する前にことが片付くことを恐れたのもあり、創一もいっしょに連れて行った。

 

 

 

 すべて創一の計画どうりだと気づかないまま・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一side

 

 長かった・・・。やっと・・・やっとここまできた。

 俺の目的を達成するために早めにヤツらと別れる必要があったんだが、こうして絶好の機会が与えらえた。・・・感謝するぜ、亡国企業さんよ。

 

 ・・・さて、今の状況は、と。手足は縛られてんな。まぁ、これはどうとでもなる。今、この場には誰もいない・・・か。

 

 一夏とは・・・別の部屋か。

 

 

「ククククク」

 

 

 最高だ! 思わず笑っちまうぜ。

 同じ部屋でもやりようはあったんだが、ここまで御膳立てしてくれるとはな。うれしくて涙がでちまうよ。

 

 

 

 さて、そのうち見張りのヤツがくるだろう。その時が--

 

 

 

 

    --俺のフェイズ始動の時だ!!

 

 




少し短いかもですが・・・。


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プロローグ5

相変わらず拙いですが・・・。


 創一side

 

 最高の状況に歓喜し、笑いをこらえながらもおとなしくしている。

 すると、誘拐犯の仲間であろうヤツらが部屋に入ってきた。

 

「気分はどうだ? 今しがた日本政府に犯行声明を出した。もうすぐ織斑千冬の決勝戦棄権の情報が入ってくるだろう」

 

 そんなこと俺にとってはどうでもいいことだ。重要なのはこのあとのことなんだからな。

 

「・・・しかし誘拐されたってのに随分静かじゃねぇか。お前は織斑千冬が棄権する前にことが終わらねぇためだけに連れてきたんだ。それが達成された今、どうなるかわかんねぇわけじゃねぇだろ?」

 

 そう言って誘拐犯の一人が銃を取り出し、こちらに向けてくる。

 しかし俺は今、恐怖なぞ微塵もしていない。この部屋に一人とわかったあのときから歓喜に打ち震えているんだから。

 

「クククククク」

 

「あん?」

 

「フフフフフフ」

 

「どうした? 頭イカレたか?」

 

「フハハハハハハハハ」

 

「さっきからなにがおかしいんだ! てめえ!!」

 

 おっと、あまりの嬉しさに思わず笑ってしまっていたか。

 見ると、怒りをあらわにした誘拐犯の3人がそれぞれ俺に銃を向けていた。

 

「申し訳ない。あまりの嬉しさについ」

 

「はぁ?なに言ってんだ、お前」

 

「お前たちには感謝している。おかげで今日この瞬間に俺のフェイズを始動させることができる」

 

「わけわかんねぇことごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! 死ね!」

 

 そう言って誘拐犯は引き金を引こうとした。

 

 

 瞬間、俺は自身の目が赤く光ると同時に体を赤黒く光らせ、エネルギーを放出させた。

 すると誘拐犯たちは部屋の中にあったガラクタといっしょに壁に吹き飛んでいった。同時に俺の手足を縛っていた拘束具も弾け飛んだ。

 

 

「ざ~んね~ん。殺せませんでしたねぇ」

 

「な、なんなんだ。お、お前いったい」

 

 俺は トランスチームガン を取り出す。

 

「知る必要はない」

 

「は?どういう・・・」

 

 コブラフルボトル を振りキャップを回す。

 

「お前たちはもう用済みだ」

 

 ボトルをスロットに装填。

 

 

『コブラ!』

 

 

 そしてあの言葉を言う。

 

 

「蒸血...」

 

 

 トランスチームガンのトリガーを引く。

 

 

『ミストマッチ!』

 

 

 特殊蒸気・トランジェルスチーム が噴出され、俺の全身を包む。

 

 そして--、

 

 

『コッ・コブラ...コブラ...ファイヤー!』

 

 

 赤と水色の火花と炸裂音とともにその姿が現れる。

 

 コブラの意匠が随所に見られ、その名の通り、血のように赤いワインレッドを主体とした洗練された容姿--

 

        --ブラッドスターク

 

 

 

「な、なんだよ・・・それ・・・」

 

「IS!? なんで男が!?」

 

 誘拐犯たちは恐怖しながらも、そのようなことを言ってくる。

 

「残念ながらこれはISじゃあない」

 

 そう言って俺は、両腕から 蛇の尻尾状の針・スティングヴァイパー を出す。

 

「まぁ、もうお前らには関係ないさ」

 

 スティングヴァイパーを誘拐犯たちに刺す。

 

「ぐっ」 「がぁ」 「ぎっ」

 

 そして、ヤツらに猛毒を流し込む。

 

「じゃあな」

 

 誘拐犯たちは断末魔もあげることなく、赤い粒子となり跡形もなく消えた。

 

 

 

 

「さて、一夏の様子でも見にいこうかねぇ。殺されでもしてたら神様に申し訳が立たないしな」

 

 ・・・っとその前に声を変えて行かないとな。

 

 ん~、とりあえず金〇さんボイスでいいか。他に思いつかないし。

 

「【ん、んん・・・よ~し。--さて、行くとしますか】」

 

 

 俺は誘拐犯たちが入ってきたところを抜け、一夏がいると思われる所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




描写下手ですいません。


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プロローグ6

相変わらず描写下手ですが・・・。




 一夏side

 

「・・・・・・ぐっ」

 

 目が覚めたら、ロクに身動きをとることができなかった。

 首だけ動かし周囲を見てみると・・・どこかの廃工場みたいなところか? そこの床にころがされているみたいだ。

 手足もけっこうガッチリ縛ってあるな。

 

 こうなる前のことを思い出す。

 --確か千冬姉の応援に行こうとして、見ず知らずの集団が現れて「ついてきてもらう」とか言われたんだっけ。

 その後は今の状況からもわかるが、ここに連れてこられてしまったのだろう。

 俺を助けようとしてくれた親友の一人である創一は無事だろうか。

 

 --そんなことを考えていると、

 

「お、ようやくお目覚めか」

 

 誘拐犯の一人が話しかけてきた。

 

「なんでこんなことを・・・俺をどうするつもりだ!?」

 

 精神的に余裕がなかったのか、気がついたらそんなことを言ってしまっていた。

 

「おいおい、落ち着けよ。

 俺たちの目的は織斑千冬の2連覇の阻止。お前はそのための人質ってとこだ」

 

 --っ!? ・・・ふざけんな! そんなことのために・・・。

 

 その言葉を聞いた俺はそんなやり場のない怒りと、姉の栄光を邪魔してしまったという不甲斐なさに打ちのめされた。

 

「首尾はどう?」

 

 そんな中、誘拐犯の仲間と思われるISを纏った女が男の一人にそう聞きながらこちらにきた。

 

「OKだ。先程、織斑千冬の棄権が伝えられた」

 

 --そうか。・・・ごめん、千冬姉。俺のせいで・・・。

 

「あっちのほうは?」

 

「さっき3人向かわせた。もうすぐ戻ってくるだろ」

 

 そんな会話を聞いたからか、自分といっしょに連れてこられたはずの友人のことが気になった。

 

「おい、創一は!? 創一はどうした!?」

 

「ソウイチ? ・・・あぁ、あんたといっしょにいた男ね。もう用が済んだから死んでもらうことにしたわ。さっき始末に行ったからもう終わっているでしょ」

 

 そんな・・・・・・。

 

「お。来たんじゃないか?」

 

 足音が聞こえてきたタイミングで誘拐犯の一人がそう言った。

 俺は親友を一人失ったということが受け入れられず、俯きながらもその方向に目をむけた。

 

 --がすぐにその目を見開くこととなった。

 

 なぜなら入ってきたのは誘拐犯の仲間ではなく、 宇宙服のような血色の全身装甲 を纏ったヤツだったからだ。

 

「【ここにいたか。随分捜したぜ】」

 

 と、俺の方をむいて言ってきた。

 

「な、なんなのあんた・・・。それIS、なの?」

 

「【向こうにいたヤツらと同じこと聞くなよ。面倒くさくて答える気も起きないだろ】」

 

 そう言って、気だるそうに肩をすくませる。

 

「おい! 向こうにいたヤツらはどうしたんだ!?」

 

 ここで、誘拐犯の一人が声を荒げながら聞いた。

 

「【あいつらなら死んでもらったぜ。邪魔だったからな】」

 

「なっ・・・!?」

 

 マジかよ!? ・・・しかもそんな理由で・・・!?

 

「【安心しろ。お前らも同じ道を辿るんだからな】」

 

 ヤツはそう言うと腕から触手を伸ばし、誘拐犯の男2人に刺した。

 刺された男たちは苦悶の声をあげている。

 

 なんなんだあれは・・・!?

 

 そんな風に驚愕している間に男たちは赤い粒子となって消えていった。

 

「な、なんなの、それ・・・。」

 

「【さて、あとはお前さんだけだ。おとなしくしてくれるとうれしいんだけどねぇ】」

 

「ふざけんじゃないわよ!!!」

 

 そう叫んでISを纏っていた女は、拡張領域からアサルトライフルを取り出し乱射した。

 

 

 --だがヤツは、腕を横に振るうだけで弾丸をはじいてしまった。

 

 

 --ってマジかよ!? どんな装甲してんだ!?

 

「--っ!!」

 

 ライフルは通用しないと思ったのか、女は今度は剣を取り出し斬りかかった。

 

 

 --しかしヤツは素手でそれを掴みとった。

 

 

「【弱すぎる。期待外れもいいとこだ】」

 

 

 そう言い、剣を掴んだまま女にひじ打ちを入れ蹴り飛ばした。

 そして剣を捨てたと思ったら、素早い動きで女の懐に潜り、持っていた銃の引き金を3回引いた。

 

 耳をつんざくような音が鳴り響き--、

 

「きゃあああああ!?」 

 

 かなりの威力だったのか、ISが解除され女は床を転がっていった。

 

 

 ・・・なんなんだコイツ。さっきの動きとか全然見えなかった・・・。

 

 

 そんな俺の心の内を知ってか知らずかヤツが俺の方に近づきながら話かけてきた。

 

 

 

 

 

「【--さて、はじめましてだな。織斑一夏くん】」

 

 

 

 

 

 

 




相変わらず駄文・・・。


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プロローグ7

もっと上手く書ければいいのですが・・・。


 一夏side

 

 目の前で起こっていることを理解するのに時間がかかった。

 

 千冬姉の優勝を阻止するために俺を誘拐したヤツらが、突然現れた 血色の全身装甲 を纏ったやつに大した時間もかからずにやられていった。

 

 二人いた男は、ソイツの腕から伸びた触手が刺さったと思ったら赤い粒子となって消えた。

 

 ISを纏った女は抵抗したが、あっという間にやられてしまった。

 

 

 --なんなんだコイツは。

 武装しただけの男たちならまだしも、ISを纏った女をあんな簡単に倒すなんて・・・。

 

 そう思考していると、ソイツはこっちを向いて、

 

 

「【--さて、はじめましてだな。織斑一夏くん】」

 

 

 --と、さっきまでのことがなんでもないかのように話しかけてきた。

 

「なんで・・・俺の名前・・・」

 

 俺は自己紹介もなにもしてない。それなのにコイツは俺の名前をなぜか知っていた。

 

「【ん?それは企業秘密・・・と言いたいところだが、向こうで消したヤツらがベラベラしゃべってくれてねぇ。それで状況を鑑みてお前さんにあたりをつけたってわけだ】」

 

 そんなことかと納得すると同時に、いっしょに連れてこられた友人のことが気になった。

 

「お、おい、・・・創一は? ・・・創一はどうした!?」

 

「【ソウイチ? 誰のことだ?】」

 

「向こうで俺と同じように捕まっていたヤツのことだ! ソイツのことはどうしたんだ!?」

 

 向こうに行った誘拐犯たちがコイツにやられたなら、創一は生きているはず。

 そう思ってヤツに聞いた。

 

 

 だが--、

 

 

「【あぁ、向こうで捕まってたヤツなら消えてもらったぜ】」

 

 

 ・・・・・・は?

 

 

「なん・・・だ・・・って・・・」

 

「【だから、消えてもらったんだよ。あいつらと同じで赤い粒子になったから、今頃その辺を漂ってるんじゃないか】」

 

 ・・・そんな。

 

「--っ!? ・・・ふざけんな!! なんで助けなかったんだ!?」

 

 俺は怒りに任せてそう叫ぶ。

 しかし、ヤツが次に言ったことはさらに衝撃的だった。

 

「【俺にはあいつを生かしておく理由がなかったからな。どうせ殺されそうになってたんだ・・・俺がやったって大して変わらないだろ】」

 

「--てめえ!!!」

 

 絶対に許さねぇ!!

 

 そんな気持ちを込めながら、ヤツを睨み付ける。

 

「【ハハハハハハ。・・・いいねぇ。--ん?】」

 

 いきなりヤツが笑うのを止めて別のところを見たから、つられてそっちを見てみた。

 

「・・・う・・・あ・・・」

 

 すると俺たちのやり取りで気がついたのか、さっき転がっていった女が目を覚まし、立ち上がろうとしていた。

 

 それを見たヤツは--、

 

 

「【なぁんだ、生きてたのか】」

 

 

 そう言って、さっき使った銃を取り出した。

 それと同時にボトルのようなものを取り出し、振った後キャップを回す。

 そして、それを銃にセットした。

 

 

『コブラ!』

 

『スチームブレイク! コブラ!』

 

 

 そんな音声が聞こえた後、銃口を女に向ける。

 

 --って、まさか!?

 

「やめっ--」

 

 言う間もなくヤツが引き金を引くと同時にエネルギー弾が放たれた。

 

 女はなすすべもなく直撃をくらい、小爆発とともにこの世から消えた。

 

「【まったく、手間かけさせやがって】」

 

「・・・あ・・・あ・・・」

 

 もう俺は、平気で人を殺せる目の前のコイツに恐怖してしまい、ロクに言葉を発せなくなってしまった。

 

「【ようやくゆっくり話せるなぁ。・・・と言っても恐怖でロクに話すこともできない・・・か。まぁ、仕方ねぇか】」

 

 そう言ってヤツは俺の周りを歩きながら話し始めた。

 

「【今回お前を助けたのは、俺の目的のためだ。今、お前に死なれると目的達成に支障がでるんでな。】」

 

 もう俺はなにも考えられなかった。

 ・・・目的? ・・・支障がでる?

 --もうわけがわからない。

 

「【そこらへんの説明・・・もしてやりたかったが】」

 

 --と突然動くのを止めた。

 

「【思ったより早かったな。・・・残念ながら今回はこれでお別れだ】」

 

 なんなんだ、急に。

 

「【もしかしたら、またどこかで会えるかもしれないしなぁ】」

 

 俺はもう二度と会いたくない。

 

 だが、なぜかヤツとはまたどこかで会う・・・そんな気がした。

 

 そしてヤツは再度銃を手に取る。

 

「【次、会ったときはもっと楽しませてくれよ。】」

 

 引き金を引くと霧が生まれヤツを包む。

 

 

「【Ciao】」

 

 

 そんな声が聞こえた直後にはもう、ヤツはいなかった。

 

 

 

 そのすぐあとにISを纏った千冬姉が俺を助けにきてくれた。

 ・・・アイツはこれを察知してたのか。

 

 

 千冬姉の顔を見た俺は・・・安堵と疲労、そして創一が殺されてしまったという悲しみに襲われ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 




無理矢理だった・・・かもです。


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プロローグ8

文才が・・・。


 創一side

 

「クククククク・・・フハハハハハ」

 

 拠点に戻り、一息ついた俺はドイツでのことを思い出す。

 すると、どうしても笑いがこみ上げてきてしまう。

 

 なかなかの成果が得られた。

 石動創一が死んだことになり、しばらく俺の行動に制限がなくなった。

 ブラッドスタークの力も試すことができた。ISと戦闘できたのも大きかったな。

 

 

 そして何より織斑一夏・・・。

 

 俺が誘拐犯共を消したときの恐怖した顔もよかったが・・・、友人を消したと言われたときのあの怒りに満ちた表情。

 ・・・最高だったな。次に会ったときにどんな反応してくれるのか・・・。

 楽しみで仕方ないな。

 

 

 

 

 そうして色々考えていたところ、端末に着信が入った。

 

 登録外の番号か・・・、誰だ?

 

 とりあえず応じてみる。すると--

 

『もしも~し。お久しぶり、私のこと覚えてるかしら?』

 

「・・・もしかして・・・あのときの女・・・か?」

 

『正解!』

 

 そういえば、ある程度したら連絡するって言ってたな。

 

『ようやく、そこそこの準備が整ったから連絡したの。・・・で、さっそくで悪いんだけどこっちにきてくれない? 色々話したいこともあるし』

 

「・・・わかった。--それで、俺はどこに行けばいいんだ?」

 

『決まってるでしょ。--私の会社よ!』

 

 ・・・ホントにつくったのか。

 

 

 彼女に詳しい場所を聞いた俺は、スチームガンを使い、転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---nascita

 

 仮面ライダービルドでは喫茶店だったが、この世界では超大企業として存在している。

 

 機械や電子機器・その他諸々の部品などの工業品全般をシェアしている。

 数年前からはIS産業にも乗り出し、基盤や内部の部品・外装に使う素材など多岐にわたっている。

 

 

 

 その大企業の社長室に創一は直接転移してきた。

 

 ある程度予想していたからか、そこにいた女性は驚きはしなかったが苦笑いはしていた。

 

「わかってはいたけど・・・ホントにそうやってくるなんてね」

 

「別にいいだろ?いちいち入口からなんてこの会社のデカさからして面倒だしな」

 

「そうなんだけどね。・・・まぁ、いいか。--ところで、あなたはここではなんて名前なの?」

 

「ん?名前か・・・、特にないな。人間に擬態してるときは石動創一って名乗ってるけどな」

 

「擬態って・・・、あぁ、なるほど。エボルの力・・・地球外生命体エボルトってことね」

 

 彼が授けられた力を知っていた彼女は、そこから結び付け納得した。

 

「まぁな。・・・ところで、おまえさんはなんて名前なんだ?」

 

「私? 私はここでは 氷室玄乃 って名前よ」

 

 その名前を聞いた創一は急に何かに納得した表情になる。

 

「・・・氷室玄乃・・・、なるほど、おまえが・・・」

 

「え・・・な、なに? 私の名前になにかあるの?」

 

 自分の名前を聞いた直後の反応に玄乃は不安になるが・・・、

 

「・・・篠ノ之束」

 

「・・・うっ」

 

 その直後に言われた名前に言葉が詰まる。

 なかなかに騒がしかった過去が走馬灯のように彼女の頭の中を駆け巡る。

 

 

 氷室玄乃 --この世界では ブリュンヒルデ・織斑千冬 と同じくIS業界ではかなりの知名度を誇るのだが・・・

 

 

「まさか、あの他人を認識しない大天災の親友の一人だとはな」

 

「ま、まぁね。・・・私にも色々あったのよ」

 

 そう言ったときの彼女は・・・目に光がともってなく、疲れ果てたような雰囲気がにじみ出ていた。

 

 

「・・・・・・それはともかく、話したいことってなんなんだ?」

 

 危険な流れを察して、創一は本来の要件を聞くことにした。

 

「・・・え、あぁそうだったね。とりあえず今後のことについてと・・・これが完成したから見せておこうと思って」

 

 そう言って玄乃は創一の前に完成したそれを--、

 

 

 

    --ビルドドライバーを置いた。

 



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プロローグ9

相変わらずですが、よろしくお願いします。


「これは・・・ビルドドライバー・・・か?」

 

 目の前に置かれたものを見て、創一は半ば確信しつつも聞く。

 

「えぇ、そうよ。ようやく完成したから教えておこうと思ってね」

 

「なるほど・・・これがおまえのもう一つの特典ってわけか」

 

「まぁね。・・・これらのものを作れるようになるってとこかしら? 正直、これらを作るために工業系の会社にしたんだから。・・・ここまで大きくなるとは思わなかったけどね」

 

「今のご時世、IS産業に手を出して、まして貢献すればそうなるだろ。資金が潤っていいんじゃないか?」

 

 これに玄乃は苦笑しながら、手を力なく挙げた。

 

「ところでこのビルドドライバー、性能は如何程で?」

 

「基本的にはビルドの原作と変わらないわよ。ただ、この世界に適応させたから飛行機能があるけどね」

 

 今後のことのためか思案顔をしながら、創一は聞いていく。

 

「そうなるとタカフルボトルなどの性能はどうなるんだ?」

 

「それらのボトルは飛行時のスピードが大幅に上昇するようにしておいたわ。他のフルボトルの性能は概ね原作通りだと思う」

 

「・・・ふむ」

 

 創一はここまでのことをまとめながら、これからの行動を考える。

 ふと、大事なことを聞いてないことに気づいた。

 

「そういえば、フルボトルはどうやって生成しているんだ?それこそ原作通りってわけじゃないだろ?」

 

 仮面ライダービルドでは、スマッシュから回収した成分が入ったボトルを 石動美空 が浄化して正規のフルボトルとなっていた。

 しかしここではどうやってフルボトルを生成しているのか?

 それが創一の疑問だった。

 

「そういえばボトルについて説明してなかったわね。・・・作る工程に関してはそんなに難しくはなかったわ」

 

 そう言って、創一の前にエンプティボトルを置く。

 

「そのエンプティボトルに入れる成分のデータを入れるだけ。・・・ただし、けっこう時間がかかるけど・・・」

 

「どういうことだ?」

 

「成分のデータを入れるまではすぐなんだけど、ボトルが成分で満たされるのにすごい時間がかかるのよ。これはどうにもできなかったわ」

 

「まぁ、原作の美空もボトルを浄化させるのにかなりの集中力を必要としてたみたいだしな。それがないだけマシだと思うしかないだろ」

 

「それもそうね」

 

 そう言ったときの彼女は、ボトルを浄化し終えた美空のようになっていた。

 

 

 

 

「そういえば、今後についてなんだけど・・・どうするの?」

 

「そうだな・・・。とりあえず原作開始までは準備を整えるぐらいでいいだろう。ただ、それとは別にやってほしいことがある」

 

「やってほしいこと?」

 

「あぁ。まず一つは亡国企業の所在を調べてほしい。特に原作に出てきたあの3人」

 

「亡国企業? まぁ、できなくはないけど・・・警戒でもしてるの?」

 

「警戒まではしてないが、俺が本格的に動くときに邪魔になりそうだからな。できるだけ早めに消しておきたい」

 

「そう・・・わかった。各地を転々としてるみたいだから、その時になったら教えて。現在地がわかるようにこまめに情報仕入れておくから」

 

「OK~」

 

 その時の創一は亡国企業をどう消そうか考えていたのか、かなり邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「それとパンドラボックスの在処も調べてもらいたい」

 

「パンドラボックス? この世界にあるの?」

 

「ある。アイツがそう言ってたからな。あの中には、アイツの条件を達成するために必要なものが入っている・・・何としてでも手に入れたい」

 

 その条件を知っている玄乃はかなり複雑な顔をしていたが--

 

「・・・わかった。やってみる」

 

 --と言うことしかできなかった。

 

「サンキュー。それとエンプティボトルを少し分けてくれない?」

 

「エンプティボトルを? 成分が入っているやつじゃなくていいの?」

 

「あぁ、時間はそこそこあるからな。自分で成分入れてみるわ。・・・ヤツらとボトルの中身がかぶってたら、盗まれたから新しくつくったとでも言えばいいだろ」

 

「そうね。・・・ちょっと待ってね」

 

 そう言い、10本のエンプティボトルをケースに入れて渡した。

 

「はい。大事に使ってね」

 

「ハイハイ。・・・っと、それと最後に一つ」

 

「なにかしら?」

 

「ここの地下の演習場、たまに貸してくれない?」

 

 この質問に玄乃は笑顔のまま固まってしまった。

 だが、すぐに回復する。

 

「よく知ってるわね。・・・一般には知られてないはずだけど」

 

 

 この会社の地下には製品の動作やテストのためなどをおこなうために、IS学園にあるアリーナ一つ分の大きさ・高さを兼ね備えた演習場がある。

 当然、一般には情報は出回ってなく、会社内部の人間しか知らないはずだが・・・。

 

 

「この会社の情報をハックしたからな。それで知ったんだ」

 

 --などと平然と言ってのける創一に、

 

「・・・まったく」

 

 と、あきれた顔をしながらも玄乃はOKをだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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プロローグ10

 征兎side

 

「なぁ・・・ホントにこの道であってんのか?」

 

「・・・わかんねぇ」

 

 隣の和海が問いかけるが、前を歩く一夏から返ってきたのは頼りない言葉だった。

 

 本日、中学3年生にとって、とてもとても大事な日--そう受験日当日。

 そんな大事な日に俺たちは会場内で迷子になっていた。

 

「そもそも、地図もないのに一夏なんかに先頭を行かせたのが間違いだったな。・・・俺も柄にもなく緊張してたってことか」

 

「まぁ、今日は仕方ないだろ。・・・けどこうなると、あの脳筋がいないのが痛いな」

 

「確かにな。一夏の勘はアテにならないし使えないが、万丈の勘・・・もとい第六感は変に役立つからな」

 

「征兎、なんかひどくない!?」

 

 ちなみに俺たちは、私立藍越学園を受験しようとしている。

 私立のわりに学費が安く、卒業後の就職率が高いらしい。

 一夏は千冬さんのために早く就職して楽をさせてやりたいんだとか。

 

 しかし受験会場がカンニング対策だとかで、設備内の一室になった。

 そのため、会場には入ったのだが受験が行われる部屋にたどりつけていない。

 

「龍華といえば・・・大丈夫かな?」

 

「まぁ、筆記はヤバいだろうな」

 

 そう、ここにはいない幼馴染の一人である万丈龍華。

 いわゆる脳筋、バカ

 あまりにもバカすぎて、どこを受験しても不合格が確定していたみたいで担任どころか先生全員が頭を抱えていた。

 最終的には・・・IS学園の実技試験にかけるしかない! --となった。

 まぁ、あいつは保健体育の成績とスポーツテストの結果はよかったからな。

 

 

 

 幼馴染といえば・・・ここにいる一夏と和海、万丈のほかにもいたんだが、元気にやってるかな?

 

 束さんがISを発表した関係で引っ越してしまった 篠ノ之箒 。

 色々あって一夏に惚れてるみたいだが・・・相手はあの朴念神だ、がんばれ。

 そういえば、剣道の全国大会で優勝したって新聞に載ってたな。

 

 中二の頃、両親の都合で中国に帰ってしまった 凰鈴音 。

 コイツも一夏に惚れてる・・・と思ってたんだが違ってた。コイツは意外なことに創一に恋してた。よくよく考えたらわかりやすかったがな。

 だからこそ、あのときは大変だった。

 

 そして・・・ 石動創一 。

 もうこの世にはいない俺たちの親友だったヤツ。

 一夏といっしょにドイツへ千冬さんの応援に行ったときに、事件に巻き込まれたあげく殺されたらしい。

 帰国してそのことを話す一夏とそれを聞いた鈴が目に見えて元気がなかったから皆で元気づけたっけ。

 

 そしてこの天才物理学者 桐生征兎 が俺たちの幼馴染だ。

 

 

 

 

 

「なぁ、もう次見つけた部屋に入ろうぜ。違ってても場所聞けるかもしれないしさ」

 

「まぁそうするしかねぇか」

 

「だな」

 

 

 

 

 そしてようやく部屋を見つけた。

 

「失礼しま・・・す?」

 

「おい、どうした?」

 

「いや、中に誰もいないんだ・・・けど」

 

「けど?」

 

「あれ・・・」

 

 そう言われ、気になったので中を見てみる。

 

「・・・IS?」

 

 そこには打鉄が3機置いてあった。

 

「なんでここにISが置いてあんだ?」

 

「俺に聞かれてもわからんよ」

 

「だよな。・・・ってあれ一夏は?」

 

 そう言われ、一夏のほうを見ようとしたんだけど・・・。

 ・・・嫌な予感しかしない。

 

 意を決してそっちを見た。

 すると、案の定の光景があった。

 

 一夏がISを纏っていた。

 

「「・・・・・・」」

 

「いや~、触ってみたらいつのまにか・・・ねぇ」

 

「マジか・・・」

 

「シャレにならんわ」

 

 そう言って和海がISに手をついたら--

 

「うおっ!?」

 

 次の瞬間にはISを纏っていましたとさ。

 

「・・・征兎」

 

「・・・な、なにかな?」

 

「こうなりゃ運命共同体だよな」

 

「・・・やれと」

 

「あぁ・・・」

 

「・・・よく考えてみよう。キミたち二人は例外としてISとは本来女性にしか反応しないもの。それをたまたま3人いた内の2人が動かしたからといってもう1人が動かせるとは限らないんじゃないかな」

 

「なら、それを証明するためにもやらないとな」

 

「・・・いいだろう」

 

 半ばやけくそだが、あいつらが例外なだけで俺には反応しないはず。

 

 そんな思いを胸にISに触れる。

 

 すると、頭の中に様々な情報が入ってきた。

 

「うそ~ん」

 

 俺もISを纏っていましたとさ。

 

 

 その後、試験官の方々やいろんな人が駆けつけてきた。

 その方たちに手伝ってもらい、なんとかISを解除したのち、別室に連れていかれることに。

 その中には、一夏の姉の千冬さんがいた。・・・またもご迷惑をおかけします。

 

 

 そして、当然のようにIS学園への強制入学が決定した。

 

 

 ・・・・・・最悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと最後は無理矢理だったかもです。


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プロローグ11

 征兎side

 

 受験に行ったはずが、ISを動かしてしまうという大ポカをやらかしてしまったのが数日前。

 あの後、家にマスコミやらわけのわからん勧誘などがきて大変だったのは記憶に新しい。

 

 そして今日この日、俺と和海は玄乃さんに呼ばれたため、nascitaへ来ていた。

 外へ出たら色々面倒なことになっていたかもだが、迎えがきてくれたから助かった。

 

 

 そして、nascitaへ着き社長室へと案内されいるのだが・・・緊張している。

 玄乃さんに会うのはかなり久しぶりだし、大企業の社長でもあるしなかなか・・・。

 隣を見ると和海もそうなのか、顔が強張っていた。

 

 

 社長室に到着し、入室を許可されたので緊張しつつも室内に入る。

 

「久しぶりね、征兎くん、和海くん。そしてようこそnascitaへ」

 

「お久しぶりです、玄乃さん」

 

「お久しぶりです、お元気そうで何よりです」

 

 俺と和海がそれぞれ緊張しながらも挨拶を交わす。

 

「ホントに久しぶりね。私が社長になってからはほとんど会ってなかったしね。こうも忙しいと束ちゃんがうらやましくなるわ」

 

 それに対して俺たちは苦笑いで返すしかないのだが・・・。

 

 

 

 

「それで、今日はなぜ俺たちを呼んだんですか?」

 

 少し話をしていたが、会話の区切りがいいところで和海が今日呼ばれたことについて切り出した。

 

「今日呼んだのは、あなたたちに頼みたいことがあるからなの」

 

「頼みたいこと・・・ですか?」

 

「そう。・・・あなたたち、この前ISを動かしてIS学園へ行くことになったみたいじゃない」

 

「・・・えぇ、まぁ」

 

「・・・大変不本意ですが・・・」

 

「そこで、二人には私たちが開発した機体のデータを学園で採ってきてほしいの。ようは、テストパイロットってことね」

 

 ・・・・・・え?

 

「て、テストパイロット!?」

 

「俺たちが・・・ですか!?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 マジかよ・・・、俺たちが・・・。

 あれ? でも・・・

 

「・・・でもそれなら一夏は? アイツもISを動かしましたけど・・・?」

 

「一夏くんには日本政府が専用機を用意させるみたい。千冬ちゃんの弟だからって理由だろうけど・・・ホント、いるだけで役に立たないあの無能共にも困ったものだわ」

 

 玄乃さん、政府の役人たち嫌いなんだな・・・。わからんでもないが。

 

「一夏くんには千冬ちゃんっていう強力な後ろ盾があるけど、あなたたちにはないでしょ? 自分で言うのもなんだけど、nascita所属っていうだけでどこも手を出せなくなるわ。」

 

「な、なるほど・・・」

 

「もし、手を出してくるところがあったら・・・?」

 

「その時はわたしのほうからお話して、その国へのわが社との取引を終了させるから。安心して」

 

 今の世界情勢でnascitaと取引できないのはかなりキツイだろうからな。

 確かにそう考えると安心かもな。

 

「・・・わかりました。テストパイロット引き受けさせてもらいます」

 

「俺もです。よろしくお願いします」

 

「ふふっ。こちらこそよろしくお願いね」

 

 

 その後、ビルドドライバーについての説明を受けた。

 フルボトルの性能やベストマッチなどについても教えてもらったが、なかなかに複雑で物理学者としての血が騒いだ。

 さらには、nascitaの独自開発ということで多少なりともテンションが上がってしまったのもあったんだろう。

 

 残念ながら和海の専用機はまだ完成してないみたいだったが、コンセプトはほとんど同じということでいっしょに説明を聞いていた。

 それでもGW前には完成して渡されるみたいだ。・・・さすがnascitaというところか・・・。

 

 

 その後は、地下の演習場で試運転をしたり、戦闘訓練を少しやった。

 ・・・というか演習場めちゃくちゃデカかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一side

 

「・・・で、あれからどんな感じだ?」

 

 もうすぐ原作が開始されようとしている。その前に頼んでおいたことがどんな感じに進んでいるのかを聞きに社長室にきていた。

 

「・・・まったく。来るなら事前連絡ぐらいしてよね」

 

 ・・・が、あきれた顔でそう言われる。

 

「別にいいじゃねーか。・・・で、どうなんだ?」

 

「もう・・・。亡国企業に関しては順調ね。夏休み期間に入る前には特定できると思うわ」

 

「さすがだな。・・・だが、その言い方だとパンドラボックスの方はあまり芳しくないみたいに聞こえるが?」

 

「ん~、芳しくないわけじゃないんだけど・・・」

 

「どういうことだ?」

 

「保管されている場所はわかったんだけど・・・。そこのどこにあるかまではよくわからなかったのよね」

 

「場所がわかっているなら充分だろ。あとは俺の方でも調べられるかもしれないしな。・・・で、どこなんだ?」

 

「・・・IS学園・・・」

 

「・・・なに?」

 

「だからIS学園よ」

 

「・・・なんでそこなんだ? 役人たちはアホなのか?」

 

「そんなの知らないわよ。織斑千冬がいるからとかそんな理由でしょ、どうせ」

 

 なるほど・・・。ならあの手が使えるな。

 

「・・・で、どうするの?石動創一は死んだことになってるから男性操縦者としては入れないわよ」

 

 問題ない。エボルトと同じあの方法がある。

 

「そこに関しては問題ない、手は考えてある。・・・ところで、そのうちおまえのローグとしての力を借りることになるが・・・いいよな」

 

「・・・ハイハイ、わかったわよ。さすがにその時は事前に教えてね」

 

「あいよ」

 

 

 さ~て・・・ヤツらにとっての楽しい楽しい学園生活の始まりだ。

 

 



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1話

 征兎side

 

 4月--。

 今日は俺と和海、一夏が強制入学させられたIS学園の入学式当日。

 

 式が終わり、今日からさっそく授業があるために教室の自分の席に座っているのだが……。

 

「なぁ……征兎……」

 

「なんだ……和海……」

 

「これ、どうにかできねぇのか……?」

 

「俺もどうにかしたいけど……まぁ、しばらくは無理だろうな……」

 

「「……はぁ」」

 

 そう、視線がキツイ。珍しいのはわかるけどこれはちょっと……。

 

 さらに言えば、席の位置も悪い。

 真ん中一番前が一夏。その後ろに俺。その隣が和海だ。

 ちなみに一夏は俺たちのように話す相手がいないからなのか、緊張してるからなのかは知らないが、さっきからずっと固まっている。

 

 そして……同じクラスに万丈がいる。

 

 あの女、ホントに実技試験の結果のみで受かったらしい。……どんな動きしたのかチョー気になるがな。

 そして中学の先生たち、めちゃくちゃ喜んでた。万丈の合格を聞いたその日は学校が半日で終わり、先生たちは午後からみんなでどこかに食事だか飲み会だかしらないが行ってしまった。

 

 

 

「そういや、征兎」

 

「ん? どうした?」

 

「お前の専用機の……ベストマッチ……だったっけか?あれからみつけられたのか?」

 

「まぁな。基本のアレを入れて、確か7つぐらいか……みつけたぜ」

 

「そこそこ増えたじゃねーか。この前訓練に行ったときは3、4つぐらいだったろ」

 

「あぁ。これで武器ができればそこそこは戦えるはずだ」

 

「そこそこなのかよ。そこは、いける! ……って言うところだろ」

 

「お前の専用機よりちょっとだけ性能に劣るみたいだからな。武器の設計図といっしょに強化プランも渡しておいたけど……完成時期は未定だそうだ」

 

 そう・・・実は専用機の詳しい説明を聞いたところ、俺のビルドは和海の専用機より少し性能が劣ってしまうらしい。

 だからビルドの強化アイテムのプランを考え、玄乃さんに渡しておいたのだが……さすがにそれなりには時間がかかってしまうみたいだ。

 

「そんなことしてたのかよ……。まぁ、確かにそうかも知れねぇがその分俺のはまだ完成してないからな。お前の武器が完成するほうが早いだろ」

 

「それはあるかもしれないが、玄乃さんのことだから別のものを作ってるかもしれないぞ?」

 

「……ありえるな。昔からそういうとこあったからな」

 

 玄乃さんも束さんも思いついたら即制作って感じのとこあったからなぁ~。

 

「それにあの話が本当ならヤバイだろうからな」

 

「あの話……か。ないと思いたいが警戒はしておくべきだろうな」

 

 先日、nascitaで開発していた俺たちの専用機とは別のシステムのデータが盗まれていたらしい。……トランスチームシステムだったか?

 盗まれたのは数年前みたいだが、あまりに巧妙に隠されていたため誰も気づけなかったらしい。

 さらについでと言わんばかりに当時、先行開発済のフルボトルも何本か偽物とすり替えられていたみたいだ。

 

「あのnascitaにそこまでできるヤツ……か」

 

「かなりヤバイ相手なのは間違いないな。……頭も恐ろしく回る。厄介なヤツかもな」

 

 そんなことを話ていたところ、ようやく先生らしき人物が教室に入ってきた。

 

 

 --ってか一夏はいつまで固まっているんだ?

 



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2話

 征兎side

 

「全員揃っていますね。それではSHRを始めますよ」

 

 緑色の髪をした色々アンバランスな先生が教壇に立ちそう告げる。

 ・・・あの人が担任か?

 

「皆さん、今日からこのクラスの副担任を務めます 山田麻耶 といいます。よろしくお願いします」

 

 副担任だったか・・・。

 ・・・ってか誰も反応してないな。ちょっとかわいそうだ。

 

「じゃ、じゃあ、自己紹介をお願いします。えっと、そちらの席の人から」

 

 ・・・なんか・・・ドンマイです。

 

 

 

 そうして自己紹介が進んでいき、ついに一夏の番になったのだが・・・、

 

「・・・・・・」

 

 ・・・あれ? ・・・一夏?

 

「織斑くん?」

 

 アイツ・・・まだ固まっていたのか・・・。

 

「織斑くん、織斑一夏くん」

 

「は、はい!?」

 

 ・・・あ、ようやく反応した。

 

 周りではみんな笑っているが、俺と和海はあきれている。

 

 

 それからオドオドしながら自己紹介をお願いする山田先生を一夏がたどたどしく落ち着かせ、ようやく自己紹介に入った。

 

「え~・・・えっと・・・織斑一夏です」

 

 さぁ、ここからなんて言うのか。

 クラスの女子たちは待っているぞ!

 

「・・・以上です!」

 

 ズゴーーーーーー!?

 

 そりゃあないよ一夏~!?

 

 

 

 一夏のまさかの自己紹介にあきれていると・・・

 

 --スパァン!

 

 という素晴らしい音とともに一夏がやられていた。

 

「まったく自己紹介もまともにできないのか、おまえは?」

 

 あ・・・あの人は・・・。

 

「げぇっ、関羽!?」

 

 --スパァン!!

 

「誰が三国志の英雄か」

 

 ・・・一夏、アホだろ。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終えられたんですか?」

 

「あぁ、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「い、いえ。副担任ですからこれくらいは」

 

 なるほど、このクラスの担任は千冬さんか。・・・これはまたなんとも。

 

 

 それから千冬さんの登場、過激な自己紹介により教室内は黄色い声で溢れかえった。

 まぁ、かなり鬱陶しそうにしていたが・・・。

 

 

「で、挨拶もまともにできんのか、お前は?」

 

「いや、千冬姉、俺は・・・」

 

 --ズガァン!!!

 

「織斑先生と呼べ」

 

「はい・・・織斑先生・・・」

 

 ・・・一夏・・・学習しろよ・・・。というかまだ立ってたんだな・・・。

 

「さて、自己紹介の続き・・・といきたいところだが、もうすぐSHR終了の時間だ。まだしていない者は空いた時間で各自で済ませておけ。次から授業があるので用意しておくように」

 

 な、なにーーーー!?

 この天っっ才物理学者の自己紹介が無しになるなんてーーー!?

 

 

 

 そんな思いむなしくチャイムがなり響いた。

 

 

 

 

「クッソオ~」

 

「なんだ?おまえどうした?」

 

「俺の自己紹介が一夏のせいでなくなったんだ」

 

「別にいいだろ、面倒がなくなって」

 

「なんか・・・すまん」

 

 和海と一夏がなんか言ってきてるが、それどころじゃない。

 

「それより、一夏はそのままだが・・・お前は改造してきたんだな」

 

「・・・なにを?」

 

「・・・制服だ」

 

「そういえばそうだな」

 

「相変わらず器用なやつだな」

 

 IS学園の制服は改造OKなのだが、和海と一夏は改造せずにそのまま着ている。対して俺は、上着をコートのように改造してみた。

 

「白い上着だからな。コートのようにかつ、白衣をイメージして改造してみた。やっぱ天っ才物理学者の俺、桐生征兎にはこれしかないだろ!」

 

 思わず立ち上がって意気揚々と言ってしまったが問題ない。この改造のすばらしさを知らしめることができるんだからな!

 

「「・・・・・・」」

 

 だが、一夏も和海もあきれた表情でこっちを見ていた。

 

「・・・よかったな」

 

「・・・? なにが?」

 

「自己紹介。・・・できたんじゃねぇの」

 

「・・・え?」

 

 そう言われ周りを見てみると・・・みんなこっちに注目していた。

 おやおや・・・。

 

「みんなこれからよろしく!」

 

 なんかいたたまれなくなったので、そう言って締めくくった。

 

 

 

 ・・・・・・万丈のヤツは笑ってやがったがな。

 



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3話

 創一side

 

「・・・ようやく始まったか」

 

「ようやく始まるね~」

 

「念入りに準備しようとしたからか随分時間がかかっちまったな」

 

「でもその分成果はあったでしょ?」

 

「まぁな。・・・でも一番はお前たちを加えられたことだな」

 

「お、うれしいこと言ってくれるねぇ~、そうくん。まぁ確かに、束さんたちがいれば百人力、万人力よりも上だもんね~。ね、クーちゃん」

 

「はい、束様。創一様、これからもよろしくお願いしますね」

 

「フッ・・・頼りになることで」

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇ」

 

 

「・・・ん?」

 

「どしたの、くろのん?」

 

「いかがなさいましたか?」

 

「ここ、どこだかわかってるのよね?」

 

「そりゃそうだろ」

 

「ねぇ~」

 

「nascitaの社長室ですよね?」

 

「そこであなたたちはなにをしてるのかしら?」

 

「なにって、今後の打ち合わせとかだろ」

 

「そうだ~、そうだ~」

 

「・・・えっと・・・」

 

 

 

「だったら・・・毎回毎回、連絡してから来てって言ってるでしょ!? しかもドアからじゃなくて部屋に直接現れるんだから・・・けっこう心臓に悪いんだからね!!」

 

 

「固いこと言うなよ。今更じゃねーか」

 

「束さん、指名手配されてるから普通に入ってくるなんてできないし~」

 

「えっと・・・なんか、申し訳ございません」

 

「うぅ~、クロエちゃんだけよ、そう言ってくれるのは・・・」

 

 

 などといったやりとりをしているのはnascita社長室。

 最初は俺だけだったアポなし訪問だったが、最近は束とクロエが加わったためか余計にこの部屋の主は驚いているようだ。

 驚き、アポなしに対し文句を言う。・・・ここまでがすでに一連の流れとして確立されつつある。

 まぁ、俺たちに改善するつもりなどまったくないがな。

 

「まったく・・・もう諦めてるけどね。・・・で、今日は何の集まり?」

 

「だから言っただろ、打ち合わせだって」

 

「それなのに、くろのんが横からチャチャいれてくるから~」

 

「あのね~~」

 

「まぁまぁ玄乃様、このお二人相手にそんなこと気にしてたらいつまでも終わりませんので・・・」

 

「わかっているんだけどね・・・。はぁ・・・続けて」

 

 玄乃がそう言って、うなだれながらも先を促してきたから俺も気にせず続ける。

 

「とはいえ、今日はちょっとした確認だ。これからはなかなか直接会うのは難しくなるだろうからな」

 

「だね~。本格的に動くもんね」

 

「まぁ、私はともかく、あなたたちはそうでしょうね」

 

「・・・でだ。束、アイツはどうしてるんだ?おとなしくしてるのか?」

 

「マドッち? おとなしくはしてるけどね~」

 

「・・・? なにかあるの?」

 

「えぇ、まぁ・・・なんと言いますか・・・創一様への忠誠心で抑えてはいるようなのですが・・・」

 

「ちーちゃんへの執心といっくんへの執着は相変わらず。訓練で少しは発散してるようだけどね~」

 

「まったく・・・そこは相変わらずか・・・。夏休み期間までは待ってろと伝えておいてくれ」

 

「あいあいさー」

 

「かしこまりました」

 

 ・・・そう、数年前おれは亡国企業よりも先にアイツこと 織斑マドカ を手中に収めていた。その後、仲間にした束に預けたのだが・・・当時から変わらずあの姉弟に執着しているようだ。

 まぁ・・・だからこそ利用価値があるんだがな。

 

「それから〝あの2人〟はどんな感じだ?」

 

「ん、あの2人?とってもおとなしいよ。早くそうくんの役に立ちたくてうずうずしてるような感じではあるけど」

 

「そうなると、調整は万全ってことか」

 

「万全も万全。 アレ もキチンと使いこなしてるし」

 

「なら近いうちに役立ってもらうか」

 

「きっと喜んで働いてくれると思うよ~」

 

 

 

「会話の雰囲気と違ってかなり黒い内容よね、これ」

 

「まぁ、あのお二人ですから・・・」

 

 と離れたところで話がされていたとか・・・。

 

 

 

 

「じゃあ、束さんたちは今日は帰るね~」

 

 あれから少し話した後、そう束が言った。

 

「束、お前も渡したアレを使いこなせるようにしておけよ」

 

「もーまんたい! もうバッチリだよー! もちろんクーちゃんもね!」

 

「はい。しっかり訓練しています」

 

「そうか、ならOKだ」

 

「でも、束さんたちの出番はまだまだ先だろうね~」

 

「確かにな。アイツらはまだまだ弱すぎるからな」

 

「だね~。まぁそのために色々やるんだからね」

 

「〝王国〟の方も俺がいない間は任せる。たまに連絡は入れるがな」

 

「了~解! ・・・あ、❝あの子❞はどうするの?」

 

「別にどうでもいい。大した脅威でもないからな。ほっとけ」

 

「は~い。じゃあ、帰るね~。とりあえず例の作戦前には連絡入れるから」

 

「では、失礼しました」

 

 そう言って束とクロエは帰っていった。

 

 

 

 

 

「・・・怒涛の展開だったわね」

 

「大企業の社長がなに言ってんだか」

 

「しかしね~・・・織斑マドカだけじゃなくて束ちゃんやクロエちゃんもだとはね」

 

「何事も試してみるもんだな」

 

 

 そう・・・俺はブラッド族が使った〝人間の心の闇を増幅させ、操る〟ということができるか試したのだが・・・正直、織斑マドカはともかく篠ノ之束にまで通用するとは思わなかった。その流れでクロエにも施したが、うれしい誤算だった。

 そして、篠ノ之束が拠点としていたルクーゼンブルクを掌握したんだが・・・

 

 

「ただ・・・ルクーゼンブルク第七王女とその護衛には効果が及んでないっぽいんだよな」

 

「ふ~ん。でもその子だけでしょ?なら特に問題ないんじゃない?」

 

「そうだな。ヤツがなにか喚いたところで、握りつぶされるのがオチだろうからな」

 

「っていうか、他のところもその力でどうにかすればいいじゃない」

 

「それじゃあ面白くないだろ?・・・それに・・・」

 

「・・・それに?」

 

「めんどくさい」

 

 そう言った俺に玄乃はなんとも言いたげな視線と顔を向けていた。



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4話

 征兎side

 

 なんとも言えない自己紹介などがあったSHRを終えて、1限目の授業も無事終了した。

 しかし、初歩中の初歩の内容だったからか俺には物足りなかった。

 

「あー・・・」

 

「ん? どうした、一夏?」

 

 そんな中、授業が終わったとほぼ同時にこちらを唸りながら向いてきた一夏に和海が対応する。

 

「和海と征兎はさっきの授業、理解できたか?」

 

「まぁ、なんとかな」

 

「余裕も余裕。朝飯前だな」

 

「だぁ~、そうだよなぁ~」

 

 そう言いながら一夏は机に突っ伏してしまった。

 こいつまさかこんな初歩の初歩でつまづいているのか?

 ・・・まさか万丈以外にもそんなヤツがいたとはな。

 

「ちょっといいか?」

 

 --と、そこで誰か話しかけてきた。

 

「・・・箒?」

 

 そちらを向くと俺たちの幼馴染であり、6年ぶりの再会となる篠ノ之箒がいた。

 

「おー、久しぶりだな」

 

「そうだな、元気そうでなによりだ」

 

「久しぶりだな、征兎、和海。すまないが一夏を借りてもいいだろうか?」

 

「どうぞ、どうぞ~」

 

 

 そう言った後、一夏と箒は屋上に消えていった。

 

 

 

「せ~いと、カズミン。ヤッホー」

 

 その直後にまた一人、俺たちのところにきて話しかけてきた。

 

「万丈か・・・」

 

「龍華、ホントに受かってたんだな」

 

「ちょっとどういうこと!?」

 

 和海の反応に万丈がビックリしているようだが・・・スゲー気持ちはわかる。

 

「そのままの意味だ。どうやって奇跡を起こしたんだ?」

 

「確かに、正直中学浪人になるかと思ってたからな」

 

「なに言ってんのさ、まったく。試験なんてあたしの第六感と・・・えーと・・・その他色々使えば余裕だよ!」

 

 なんて頭の悪そうな答えだ・・・。

 実技はともかく、筆記に第六感はないだろうよ・・・。

 しかも、その他色々って・・・せめてその他諸々にしてほしかった

 

「しかし、箒は相変わらず一夏におアツなんだねぇ。6年も離れてたから余計なのかなぁ?」

 

 さすがのバカでもそういうのには気づくのな・・・。

 

「どうせ、ツンデレ発動で失敗だろうけどね」

 

「一夏もどうせ気づかないだろうしな・・・」

 

 相手はあの朴念神だからな。無理だろうな。

 

「あ、もうすぐチャイム鳴る。じゃあまた休み時間にね~」

 

 なんて言い残し万丈は席に戻っていった。

 

 

 なお、一夏と箒は間に合わず、出席簿の一撃をくらっていた。

 

 

 

 そして、2時限目。

 

 明らかに挙動不審な一夏がいる以外は何事もなく授業が進んでいく。

 しかし、簡単すぎる退屈なんだけど。

 

 隣を見ると和海はそれなりにちゃんと聞いている。さっきもなんとかついていけてるって感じだったしな。

 

 前を見て一夏の様子を見てみると、相変わらず挙動不審だった。アイツもうついていけてないのかよ。・・・これからどうすんだ?

 

 ふと、一夏の机をみて気づいたが・・・アイツなんで参考書がないんだ?

 

 

 その後、山田先生にわからないところがないか聞かれたんだが・・・俺と和海が大丈夫と答えたのに対し、一夏は全部わからない・・・と言いやがりました。

 

 さすがの山田先生も顔がひきつってたよ。

 

 さらに織斑先生に参考書はどうしたか聞かれると、捨てたとか言う始末。もう救いようがありませんね。

 

 1週間で覚えろとか無茶言われてたけどまぁ自業自得・・・頑張ってください。

 

 ってか万丈、手あげなかったけど大丈夫なのかと思ってチラッと見てみたけど・・・アイツそもそも授業ちゃんと聞いてないんだったわ。・・・ほっとこ。

 

 



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5話

 征兎side

 

 2時限目が終わった後の休み時間。

 

 俺と和海が席を立った後、教室に戻ってきたら一夏が金髪さんに絡まれていた。

 そのまま戻れば俺たちも巻き添えをくらうのは目に見えていたから、万丈の席で事の成り行きを見ていた。

 

「・・・なにがあったんだ?」

 

「ん~? よくわからないけど金髪さんが一方的に突っかかっていったかんじだね」

 

「今どきの人って感じだと思うよ~。おりむ~が気に入らないとかそんな感じだと思うよ~」

 

「なるほどな。・・・・・・ってどちら様?」

 

 いつのまにか俺たちの会話にのほほんとした人が加わっていた。とりあえず名前を聞いておく。

 

「私~? 私は 布仏本音 だよ~。よろしくね、きりきり」

 

「お、おう。よろしく」

 

 なんとも独特な子ですな。・・・今まで呼ばれたことないあだ名で呼ばれたから少し戸惑っちまった。

 

「え~と、こっちが万ちゃんで~、そちらは~?」

 

 布仏さん・・・ん~、のほほんさんでいっか。--は、和海の方を向いて聞いた。

 そういえば、自己紹介の時も和海の番はなくなったし、これまでもみんな話しかけず遠巻きに見てただけだったからな。

 みんな何気に和海の自己紹介聞こうと聞き耳立ててるし・・・。

 

「・・・万ちゃん。・・・番長みたいでいいかも・・・」

 

 近くで万丈がなにか言ってた気がするけどスルー・・・。

 

「ん、ん。・・・俺の名前は猿渡和海、15歳、彼女はいない。カズミンって呼んでくれ」

 

 ヒドイな・・・。彼女いないとか別に必要ないだろ。

 

「お~、よろしくね~カズミン」

 

 そして呼んであげるのね。やさしいね~。

 

 

 などといったやりとりをしてるうちに向こうからなんかズッコケる音がした。

 

「・・・なんだ?」

 

「一夏が・・・代表候補生ってなんだ? ・・・って聞いたみたい」

 

 事の顛末を見てた万丈がそう答える。

 

「一夏のアホ発言なんていつものことだろ」

 

 言ってやるな、和海。万丈よりはマシなはず・・・多分。

 

 

 と、まぁ・・・そんなことを考えてたら、金髪さんが自分がエリートだからどうこうどうこうだの泣いて頼めばISについて教えるだの言ってた。

 

 ・・・間違ってもあんな態度のヤツに教わりたくないがな。

 

 すると、急にこっちを向いて、

 

「なんせわたくし、入試であちらの万丈龍華さんと同じように教官を倒したエリート中のエリートですから!!」

 

 ・・・と金髪さんが自慢してた。

 

 万丈がここにいる時点でなんとなく察しはついていたけど、やっぱりだったか。

 

「なぁ、万丈・・・」

 

「ん?なに?」

 

「お前、教官をどうやって倒したんだ?」

 

「どうやってって・・・殴ったり蹴ったり・・・剣で斬ったり・・・とかしてたらいつのまにか終わってた」

 

「ケンカじゃねぇんだからよ・・・」

 

 気持ちはわかる。・・・今のだけ聞いたらケンカしてきたようにしか聞こえない。

 

 そんな中向こうでは、一夏が自分も教官を倒した発言をしていた。

 

 ・・・相変わらず火に油を注ぐのが得意なヤツだな。

 

「あ、あなた方は!? あなた方はどうなんですの!?」

 

 ついに金髪さんの矛先がこっちにきてしまった。

 ・・・仕方ない、正直に答えますか。

 

「いや、俺たちはそもそも試験を受けてない」

 

「え!? そうなのか!?」

 

 俺の回答になぜか一夏がいの一番にくいついてきた。

 

「あぁ、所属した企業の社長が--強制的に入学が決まっているのにそんなことしたって無意味。そんなムダなことさせてないでこちらでの訓練を優先させろ。適性検査は終わっているから問題ないはず。文句があるなら直接こちらにご連絡ください。--って言ってたからな」

 

 ・・・あのときの玄乃さんは怖かったからな。気を付けなければいけないな。

 

「・・・マジかよ」

 

 そう言って一夏は机に沈んでいった。

 

 その後は金髪さんがなんか喚いていたけど、無視した。

 チャイムが鳴ってしまったから万丈とのほほんさんに一言かけて席についた。

 

 そして先生たちが教室に入ってきたが、さっきまでの授業とは違い今度は織斑先生が壇上に立った。



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6話

 征兎side

 

「この時間はISの近接格闘における諸動作と各武装についてを行う」

 

 この時限の授業が開始され、壇上の千冬さん--もとい織斑先生がそう告げる。

 

 まぁ確かに近接格闘と千冬さんはベストマッチだけれども。

 

「--っとその前に今度行われる クラス対抗戦 にでるクラス代表を決めないとな」

 

 ・・・・・・ん?

 

「クラス代表とはいわゆる・・・まぁ学級委員みたいなものだ。先程言ったクラス対抗戦のほかに、会議や委員会への出席などが主な仕事だ」

 

 うへぇ~~、めんどくさ。

 

「自薦・他薦は問わない。誰かいないか?」

 

 ちょっ!?

 そんなこと言ったら・・・。

 

「はい! 織斑くんがいいと思います!」

 

「私も賛成です!」

 

「え!?」

 

 誰かが一夏を推薦し、他の女子がそれに便乗し始めた。

 一夏は驚いているけど・・・推薦ってなった時点でこうなると思ったわ。

 まぁ・・・一夏だから別にいいか。

 

「私は~桐生くんを推薦しま~す」

 

 ・・・なんだと・・・?

 

 っていうか今の声は--!?

 

 そう思い、そちらを見ると笑っているソイツと目が合った。

 

 --おのれ万丈~~!

 

「じゃあ、私もきりきりで~」

 

 のほほんさんまで!?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はそんなのやらない--」

 

「推薦された者に拒否権はない。諦めろ」

 

 ・・・さすが千冬さん。

 

 あれ? ・・・そういえば和海が推薦されてないな?

 

 ふと、隣を見ると・・・我関せずと言わんばかりのヤツがいた。

 

「他にはいないか? それなら織斑と桐生で投票することになるが」

 

 こうなったら和海も巻き込んでやる!!

 

 俺は意を決し、口を開こうとした・・・その瞬間--

 

 

「納得いきませんわ!!」

 

 そう言いながら金髪が立ち上がった。

 

 

 ・・・金髪てめえ~、ふざけんな!

 

 

 

 そこからはまぁでるわでるわ金髪さんのご高説が。

 日本を文化的後進国だの、日本人を極東のサルだのと。

 

 --ってか文化的後進国って・・・ISを開発した人も、イギリスも大恩恵を受けてる大企業の社長さんも日本人なんだけど・・・。

 

 あの金髪さん大丈夫? 俺が玄乃さんに事細かに報告したら終わるんじゃない?

 

 隣の和海と目があ合ったけど、同じことを考えていたのか肩をすくめて見せてくれた。

 

 

 そんなことをしてたら、いつのまにか一夏と金髪さんがケンカをしていた。

 中身は、小学生かよ・・・って言いたくなるぐらいにはヒドイかったけど。

 

 

「決闘ですわ!!」

 

 

 などと話が広がっていた。

 

 え~、めんどくさいな~。

 

 勝手に決められたらたまらないから、断ろうとしたら--

 

「・・・待て、征兎」

 

「・・・ん?」

 

 なんだ? どうした?

 

「この流れでこのまま決闘を受けておけ」

 

「え~」

 

 もちろん抗議の視線を投げかける。

 

「ちょうどいい機会だ。専用機のデータも採れるし、新しくできるお前の武器も試せる。さらには企業での訓練以外での戦闘もできる。今後のためにも受けない手はない」

 

 なるほどな・・・。アリだな!

 

「・・・わかったよ」

 

 そう言って、和海と頷き合う。

 

 

「話はまとまったな」

 

 

 どうやら向こうも終わったらしい。

 

「勝負は1週間後の月曜日の放課後、場所は第3アリーナで行うものとする。各自それぞれ準備をしておくように」

 

 

 

 こうして俺のIS学園での初試合が決まった。

 

 玄乃さんに連絡して武器どうなったか確認しておかないとな。

 

 

 

 そうしてようやく各々が席に着き、授業が再開された。

 

 

 

 ・・・・・・あ・・・・・金髪さんの名前って結局なんていうんだ??

 



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7話

 征兎side

 

 なんやかんやあったが、ようやく初日の授業がすべて終了した。

 しかし、初日からこんなで先が思いやられるな~。

 

「ようやく・・・終わったな・・・」

 

「あー・・・ダメだ・・・全然わかんねー・・・」

 

 和海と一夏が終わって早々なんか言っている。

 一夏に至っては机に突っ伏しているし・・・。

 

「ホントに全然わかんないよね~」

 

 さらにそこに万丈が加わる。

 

「おまえはそもそも授業ちゃんと聞いてないだろうよ」

 

「だって聞いたって全然わかんないんだもん」

 

 まったく・・・相変わらずだな、コイツは。

 

「それより・・・3人ともどうするの?」

 

 ・・・ん? どういうことだ?

 

「廊下・・・すごいことになってるけど?」

 

 そう言われ廊下を見ると・・・他のクラスの人たちだろうか?なんかいっぱいいる・・・。

 

「マジかよ・・・」

 

「もう勘弁してくれ・・・」

 

 和海と一夏もウンザリしている。

 

 まぁ、教室を離れようとするたびこれだからな・・・。

 昼休みも大行列だったし。

 

 

 

「あぁ織斑くんたち、まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

 廊下のヤツらが減るのを待ってたら、山田先生がそう言いながら教室に入ってきた。

 

 一夏と和海もそちらに視線を向ける。

 

「えっと・・・ですね。寮の部屋が決まりました」

 

 ・・・え~、1週間は自宅からって言ってたじゃん。

 

 そこは一夏と和海も疑問に思ったらしく先生に理由を聞いている。

 

 まぁ、説明された内容はとりあえず感満載だったけど・・・。

 最後に政府から聞いているか聞いたってことは、そういうことなんだろうな。

 玄乃さんも言ってたけど、やっぱりアイツらは無能連中なんだな。

 

 1人は女子と相部屋らしくどうするかってなったけど、同じ企業所属云々で和海と同室になるよう押し切った。

 

「はぁ~・・・じゃあ、俺たちは荷物を準備しなくちゃなんでこれで失礼します」

 

「あ、いえ、荷物なら・・・」

 

「私が手配してやった。ありがたく思え」

 

 --と不意に千冬さんの声が聞こえてきた。・・・というかいつのまに。

 

「まぁ生活必需品だけだがな。着替えと携帯の充電器があればいいだろう」

 

 そう言って、荷物の一つを一夏に渡す・・・が当の一夏は微妙な表情をしていた。

 ・・・確かに趣味嗜好のものが何一つないからな。・・・ドンマイ。

 

「こっちのはお前たちの荷物だが・・・随分しっかりとまとめてあったな?誰の入れ知恵だ?」

 

「・・・あぁ、玄乃さんにこうなるだろうって言われていまして・・・」

 

「アイツか・・・。まったく・・・」

 

 ・・・そう、俺と和海は玄乃さんに言われてあらかじめ荷物を用意しておいた。

 どうせあの無能共のことだから云々・・・と長々と語っていました・・・。

 

 

 それから寮の食堂の使用時間と大浴場が使用できない旨を言われたのだが・・・

 

「え? なんでですか?」

 

 などと一夏が言っていた。

 コイツ・・・変態だったのか・・・。

 

「え~私、一夏といっしょに入るのはちょっと~」

 

 なんか万丈が言っているが、言わんとしていることは間違ってないのでほっとく。

 

 まぁ、そこから山田先生の暴走とそれを落ち着かせようと一夏が頑張ったりしていたが結局暴走したりしていた。

 

 

 

 

「・・・まぁ・・・征兎となら・・・いいかもだけど・・・」

 

「・・・お前も大概だな。もうちょい素直になればいいのに」

 

「--っ!? ・・・なんで聞いてるの・・・!?」

 

「こんな近くで言われりゃイヤでも聞こえるわ・・・」

 

「・・・うぅ~~・・・」

 

「まぁ・・・がんばれよ。・・・昔から言ってると思うけどな」

 

「・・・うん・・・」

 

 

 

 

 

 色々あったけど無事、寮の部屋に行き一日を終えた。

 ちなみに一夏は箒と同室になり、なんかやらかしたらしい。やっぱアホだな・・。

 

 万丈はなんとのほほんさんと同室だとか・・・。大丈夫か、その部屋?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --とある会社の社長室--

 

「【--で、俺の提案を飲む気にはなったか?】」

 

「何度言われても答えは変わらない! その要求を受け入れる気はない!」

 

 ここで赤いパワードスーツ--ブラッドスタークと高級なスーツを着た男が話していた。

 と言ってもスタークの要求を男が突っぱねているだけだが・・・。

 

「【困ったなぁ~。何が気に入らないのかねぇ】」

 

「すべてに決まっているだろう。貴様の要求に従ったら我が社はただの軍事企業になってしまう・・・」

 

「【別にいいだろ? ISなんてものを作ってる時点で大差ないだろうよ】」

 

「それとこれとは別だ!」

 

「【まったく・・・イグニッションプラン・・・だっけか? そのどうでもいい計画から外されそうなんだろ? なら、なおのこと俺の提案は魅力的だと思うけどなぁ~】」

 

「たとえ、計画から外されたとしても・・・貴様の要求は断固拒否する! もう諦めろ」

 

「【俺もそういうわけにはいかんのよ。・・・あぁそういえばお前、娘がいるんだったな】」

 

「なっ!? ・・・あの子に何をするつもりだ!?」

 

「【さてね。そこはお前さん次第ってとこだな】」

 

「ふざけるな! あの子に手は出させん!!」

 

「【今すぐにはどうこうするつもりはないさ。今日はもう帰るからな】」

 

「もう二度と来ないでくれ・・・」

 

 そんな言葉は聞こえてないかのように、スタークはカレンダーを指し示す。

 

「【そうだな・・・次はこの日に来るとするか。】」

 

「・・・・・・」

 

「【次が最後だ。娘のためにもいい返事を今度こそ聞かせてくれよ。Ciao】」

 

 そう言って、スタークは頭部のパイプから霧を出し、消えた。

 

「・・・・・」

 

「・・・あなた」

 

「・・・あの子を学園に送る準備を急いで進めよう」

 

「やっぱり・・・やるのね」

 

「あぁ・・・キミにも苦労をかける」

 

 そうやりとりする男と女は覚悟を決めたような表情をしていた。

 



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8話

 征兎side

 

 色々あった初日を終えた翌日。

 多少寝坊してしまったが無事に朝食を食べ終えて、寮長が千冬さんと知ったのが数時間前。

 今日の授業もなかなかに色々あったな。

 

 さっきやってたISの基礎知識についてのときには・・・

 山田先生に誰かが 体の中をいじられているみたいで怖い って言った質問に対し、山田先生はそれをブラジャーに例えて説明していたんだけど、俺たちと目が合うとなんか気まずい空気になった。 

 ・・・まぁ千冬さんがいたからそこまで脱線しなかったけど・・・。

 

 そんなこんながあったりした授業後の休み時間。

 相変わらず一夏は授業内容を理解できてないのか机に突っ伏している。

 

 そんな俺は和海に朝のことについて言及されていた・・・。

 

「まったく・・・、明け方までデータ打ち込んでて寝坊とか勘弁しろし」

 

「ハハハ・・・」

 

「また? 征兎も相変わらずなんだね」

 

「きりきり、大丈夫だよ~。私も朝、起きられないから~」

 

 もう俺は乾いた笑いしかできない・・・。

 

 昨日あれから部屋に戻ってからビルドの強化アイテムについて考えていた。

 そこでふと和海になんとなくどうすればいいか聞いてみたら・・・

 

「2つのボトルの成分を1つにすればいいんじゃね?」

 

 --と適当に言われたがこれに俺はピンッときた。

 そこからデータを打ち込みまくっていたんだが、気づいたら明け方だった・・・。

 いちおう寝たんだけど・・・見事に寝坊し、和海に叩き起こされた。

 

「明日からはもう知らねぇからな」

 

「わかってるよ・・・」

 

「征兎~、私が起こしてあげようか~?」

 

「・・・いや、それは遠慮しておく」

 

「なんでよ!?」

 

 ・・・いやだって・・・万丈に起こされるとかなんか負けた気がするし・・。

 なににかはわからないけど。

 

 そこで前の方から例の出席簿のいい音が聞こえてきた。

 ・・・どうやら一夏が叩かれたらしいな。今度はなにやったんだか。

 

 

 授業が開始されるかと思いきや、千冬さんから一夏に専用機が用意される旨が告げられる。

 女子たちがざわめき立つが一夏は何のことだかわかってない様子。

 まぁ、男性操縦者のデータ収集が目的だろうけどな・・・。

 

 しかし・・・ホントに玄乃さんの言ってたとおりになったな。

 

 どういうことか理解していない一夏に千冬さんが教科書のページを朗読させたり、箒が束さんの妹とわかりひと悶着あったりしたが無事収束した。

 

 ・・・が普段は鈍いくせにこういう時は地味に鋭い一夏が千冬さんに質問した。

 

「あれ?でもそういうことなら征兎と和海はどうなんですか?」

 

 ここでとっさに和海と千冬さんとアイコンタクト!

 

 ・・・が、まぁ別にいいか・・・という結論に即座に達した。

 

「お前は知らなかっただろうが、桐生は専用機をすでに所持している。猿渡も今は所持していないが、近いうちに完成するそうだ」

 

 これに女子たちが再度ざわめく。

 まぁそうなるだろうとは思ったけどな・・・。

 

「それって政府から・・・ですか?」

 

「いや、俺たちは企業所属ってことになってるからな。政府の支援は受けてない」

 

 そう答えたところで、誰かがまぁ当然と思わしき質問をした。

 

「先生、桐生くんたちの所属する企業って・・・?」

 

 ここで再びアイコンタクトを行ったが、俺は別に構わないと伝えた。

 

「・・・nascitaだ」

 

「・・・え?」

 

「桐生たちはnascita所属ということになっている。専用機もnascitaの独自開発したものということになる」

 

 ここでざわめきが最高潮に・・・。

 まぁ仕方ないか。世界有数の大企業の所属、さらにそこが独自開発した機体だもんね。

 あと、チラッと見えたけど金髪さんの顔色がちょっと悪かった。・・・自分がケンカを売った相手がヤバイと思ったのかな? 自分のせいで国のIS産業がどうこうなったらたまらないもんね。

 

「そういうことだ。・・・桐生、猿渡、お前たちの所属企業の社長からこちらに出向いてほしいと言われた。外出許可は出しておくから放課後向かってくれ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

「それと・・・もう少し政府に協力してやってくれ・・・とアイツに伝えておいてくれ」

 

「わかりました・・・けど答えはわかりきってると思いますけど」

 

 そう言うと千冬さんはため息をついた。

 玄乃さん政府の役人嫌いだからな~。データの提供についても・・・

 

「どうせアイツらは有効活用できないんだから必要ないでしょ」

 

 みたいな感じだった。もうホントすごいね・・。

 

 ・・・そんなこんなでなんとか授業は進んでいった。

 



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9話

 征兎side

 

 例の決闘を数日後に控えた今日この日。

 

 アリーナを使って訓練しようにも借りられないということで、ビルドの強化アイテム制作を進めようと部屋に向かっている。

 

 っていうか、アリーナが使えずろくな訓練もできないのに何で決闘にしたのか不思議でしょうがない。ホント意味わかんない。

 ・・・まぁ今更だけど。

 

 ちなみに今日和海は、専用機が完成したとのことで受け取りと慣らしを兼ねてnascitaに行っているため、学園にはいない。

 俺もいっしょに行ってnascitaで訓練すればよかったと思ったが後の祭り・・・。

 

 

 そんなこんなで部屋に到着したので鍵を回し、ドアを開けた。

 

 

「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

 

 

 --がすぐに閉めた。

 

 ・・・ふむ。なんか部屋の中にいた気がするけど気のせいだよな。そうだ、そうに決まってる・・・。

 

 意を決し、再度ドアを開ける・・・。

 

 

「おかえりなさい。私にする? ワタシにする? それともわ・た・し?」

 

 

 気のせいじゃなかった・・・。

 

 部屋の中には裸エプロン・・・あ、中になんか・・・水着か? 着てるわこの人・・・水着エプロン? の痴女がいた。

 

「ふふっ。ボ~っとしちゃって、ちょっと刺激強すぎだったかしら?」

 

「いえ・・・部屋に入ったら水着エプロン? の痴女がいたのでどう反応すればいいかと・・・」

 

「ちょっと!? 私は痴女じゃないわよ!!」

 

 ・・・え? 違うの? ・・・じゃあ露出狂という名の変態・・・。

 

「それも違うから! そんな性癖ないから!」

 

 うそ~ん。

 ・・・てか今ココロ読まれたな・・・。

 

「コホン! とりあえず自己紹介させてもらうわね。私は 更識楯無 、この学園の生徒会長をしているわ。よろしくね、桐生征兎くん」

 

 生徒会長・・・、更識・・・そしてこの容姿・・・なるほど。

 

「なるほど・・・あなたが・・・」

 

「うん? わたしのこと知ってるの?」

 

「ええ、まぁ。・・・ロシアの国家代表であり、対暗部用暗部更識家現当主ということぐらいですけど」

 

「っ!? ・・・そんなことまで知ってるなんてね・・・」

 

「まぁ、社長に教えてもらったんですけどね。そのうち会うだろうから知っておけって」

 

「・・・さすがはnascitaの社長さんね。もっと色々わたしが知られたくないことまで知ってそうな気がするわ・・・」

 

 たしかにありえそうで怖い・・・。

 しかしまぁ、俺たちがnascita所属っていうのも知ってたか。あれだけ大々的に発表したし当然か。

 しかも暗部故に所属した次の日にはもう知ってたって可能性もあるしな。

 

「・・・で、征兎くんはおねえさんのことをどれくらい知ってるのかな~? 是非ともおしえてほしいわ~」

 

「い、いやどれくらいって・・・」

 

 あろうことか痴女会長は猫なで声でこちらによってきた。

 ただでさえ薄い恰好なんだから勘弁してほしい。

 

「ねぇ~ねぇ~、おねが~い」

 

「あの、ですから・・・っ!?」

 

 そこに天からの助けか、はたまた地獄からの使者か・・・ノックの音が聞こえた。

 

『征兎~、いる~?』

 

「ば、万丈! ・・・っ!!」

 

 返事をしてから気づいた。・・・この状況はマズい・・・と。

 

「万丈! ちょっと待っ・・・」

 

「今日、和海いないでしょ? いっしょに夕飯食べ・・・な・・・い・・・」

 

 案の定ドアを開けた万丈に見られた。しかもあの感じ絶対誤解してる。

 

「・・・・・・」

 

 そのままドアを閉めて去っていった・・・。--って!?

 

「待ってーーーー!?」

 

 ・・・最っ悪だ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

『--おう、どうした?』

 

「カズミン・・・征兎が・・・」

 

『?? 征兎がどうした?』

 

「征兎が・・・裸エプロンの女の人と部屋でいちゃついてた・・・」

 

『はぁ?』

 

「うぅ~・・・」

 

『とりあえず今帰ろうとしてるところだからそっち行くまで待ってろ』

 

「うん・・・。あ、そこに玄乃さんいる?」

 

『あぁ、いるけど・・・』

 

「ちょっと変わってもらっていい?お願いしたいことがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、帰ってきた和海に万丈がかけた電話の内容・・・つまり痴女会長襲撃事件について言及され、事細かに説明した。

 というか万丈め、あの後和海に速攻で電話したのか・・・。

 その電話の際、万丈は玄乃さんに自分の専用機をお願いしたとか。しかもあっさりOKしたらしく和海もビックリだったみたいだ。

 なんで専用機? と思ったが・・・

 

「自分で考えろ」

 

 --と和海にちょっとバカにされた感じに言われてしまった。

 

 

 だがしかし、この後にやった万丈への弁解とご機嫌取りが大変だったためそんなことを考えるのをいつのまにか忘れてしまった・・・。

 

 しかしまぁそんなこんなで今度2人きりで出かけるってことでなんとか許しをもらえた。

 

 なんで2人きり? と思ったがまた機嫌が悪くなったら困るからあえて言わなかったけど・・・。まぁいいか!!

 

 

 さて、あと数日で例の決闘? だからな。ビルドのメンテでもしておくとするか。

 

 

 

 

 

 

 



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10話

 征兎side

 

 例の決闘宣言から1週間経ち、ろくな訓練もできぬまま当日となった。

 

 しかし、入学前からnascitaで多少訓練してたからよかったものの、してなかったらどうなってたことか・・・。

 まぁ武器も完成したことだし、試しも兼ねてやりますけどね。

 

 そして一夏はというと・・・箒と訓練していたみたいだだけど、1週間ずっと剣道をしてたらしい。

 まぁそうなるだろうとは思っていたよ。・・・だって箒だもん。

 そのことで一夏が箒に問いかけているが、仕方ないっちゃそうなのかもな。訓練機は借りれない、アリーナも使用できないだもん。ホント意味不明だよ。

 

 

 そして今何をしてるかというと・・・一夏の専用機の到着を待っている。

 つーかありえなくね? こういう日に遅れるとか企業としてどうなのよ。

 

 最初は一夏と金髪さんの試合を行う予定なのだが、これではどうしようもない。

 

「なぁ、征兎」

 

「ん、どうした?」

 

 とりあえず暇つぶしも兼ねて和海と話していよう。

 

「この前、専用機受け取りに行ったときに玄乃さんに聞いたんだけど・・・一夏の専用機を製造したのは倉持技研らしい・・・」

 

 倉持技研? ・・・確か打鉄をつくったところだったけか。

 

「だけど倉持技研はそのとき日本の代表候補生の専用機を製造してたらしく、一夏の専用機にまで手が回らないはずだったらしいんだわ」

 

 ・・・は? だけど一夏の専用機は今日届く・・・ってことは・・・

 

「・・・まさか」

 

「あぁ、代表候補生の専用機製造は凍結して、一夏の専用機のほうを優先させたらしい」

 

 ありえねー、企業としてどうなのよそれ・・・。元々受けていた仕事を放棄して、ネームバリュー優先させるとか・・・アカンやろ。

 

「まぁ事を知った玄乃さんによって懇意にしている企業すべてにこの所業が知らされて、そこからさらにその各企業から色々な企業に知らされていって・・・」

 

 マジか・・・世界各国に影響を及ぼすnascitaがそんなことしたら・・・。

 

「・・・今では日本政府以外のすべてのところからの業務提携、契約、依頼されてた仕事などすべて打ち切られたみたいだ」

 

 でしょうね。そうなりますよねー。

 しかし、さすが玄乃さん・・・容赦ないな。本人は否定しているけど、束さんの親友だけあってやることが似ている。

 

「まぁ自業自得だろ。受け持った仕事放り出す企業にはふさわしい末路だろ」

 

「だな。元々がnascitaの下位互換企業って言われてたし、他の企業にとってはどうでもよかったんだろ」

 

 そのわずかの信頼も今回のことでなくなったと・・・男性操縦者の専用機をつくって名をあげようとしたのか知らんが完全に裏目にでましたな。

 

「だけど日本政府はまだこれからも仕事を依頼するみたいだけどな」

 

「それはしょうがないだろ。nascitaは日本政府からの依頼は完全シャットアウトなんだから」

 

 前に玄乃さんが、日本政府からの封書を差出人を見ただけでシュレッダーにかけているのを見たことがある。ちなみに電話は即切るし、メールは即削除である。

 そんなんだから日本政府は倉持技研しか頼れるところがない。・・・もう政府の人間を玄乃さんに選んでもらえばいいのでは?そうすればnascitaも政府に協力してくれるようになるかも。保身しか考えてない政府のヤツらには無理だろうけど。

 他から見放された倉持技研に、そこを頼るしかない日本政府・・・終わってるな。改めてnascitaの影響力を思い知らされた形になった。

 

 

 --とそこへ、山田先生が走ってきた。どうやら一夏の専用機が届いたようだ。

 

 がんばれ一夏!倉持技研と日本政府の今後のために!!・・・・・・なんてな。

 

 

 そんなどうでもいいことを考えながら一夏たちの後に俺たちも続いた。

 

 



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11話

「はぁ・・・・・・」

 

 IS学園整備室の一つ。

 そこで1人の少女が溜息をつきながら作業をしていた。

 

 

  更識 簪

 

 

 日本代表候補生でもある彼女だが、目の前には製造途中の自身の専用機。

 

 本来、彼女の専用機は倉持技研が製造するはずだったが、男性操縦者でもある織斑一夏の専用機開発が優先されることとなり、彼女専用機開発は凍結されてしまった。

 

 そしてコアを引き取り、姉がそうしたように自分で専用機を組み上げようとしているのだが・・・なかなかうまくいっていないのが現状のようだ。

 

「・・・やっぱりお姉ちゃんと違って無能なのかな・・・私」

 

 そう言ってネガティブ思考になってしまう。

 

 

 --ならその体、俺が有効に使ってやるよ。

 

 

「・・・え。・・・だ、誰?」

 

 突然、自分以外誰もいないはずの整備室から声が聞こえたため、簪は慌てて周囲を見回す。

 

「・・・気のせい?」

 

 しかし、その背後には怪しく光る球体が浮いていた。

 

 

 --もらうぞ、その体!

 

 

「・・・え? あぐっ!?」

 

 その球体が体に入り込んだときにはもう彼女の意識は深く沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 簪の体に憑依したソイツは目を赤く光らせながら、手を握ったり開いたりして感触を確かめていた。

 

「【初トライにしては上手くいったな。言ったとうりこの体は有効活用させてもらうとするぜ。・・・さてと、そういえば今からあいつらの摸擬戦だったな】」

 

 ソイツは座りながらモニターを展開する。

 さらに自身の声を簪に戻す。

 

「現在のアイツらの力を拝見しましょうかね」

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 一夏が無事に専用機を受領して、初期設定以外を試合中にやれと言われ、しどろもどろしながら金髪さんと試合を行いしばらく・・・。

 

 

「行ってくる」

 

 --なんてカッコよく? 言い残して行ったが結果は・・・負け。

 しかも自滅・・・。

 

 途中までかなり劣勢だったけど 一次移行(ファースト・シフト) したことをきっかけに勝負を決めるかと思われたが・・・まさかのエネルギー切れ。

 

 一夏の専用機である 白式 の 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) 零落白夜 の能力をキチンと把握してなかった結果みたいだ。

 

 そのやらかした一夏は現在、千冬さんと箒にボロカスに言われている。

 ・・・まぁ、あんだけカッコつけて色々言ってたのにあの負け方だったからねぇ~。

 

「桐生、オルコットの準備が整い次第試合を行う。準備をしておけ」

 

「わかりました」

 

 さて、ようやく俺の出番か・・・テンション上がっちまうな!

 

「征兎! 勝ってこいよ!」

 

「まぁ、なんだ・・・その・・・がんばってこい」

 

 いつのまにか復活してた一夏と箒が激励してくれる。

 

「おう! 任せときな!」

 

「負けたら、玄乃さんに頼んで特別訓練だな」

 

 などと恐ろしいことを和海が言ってくる。

 ・・・確かに短期間だったがnascitaでやった訓練は超きつかったからな。

 あれは遠慮したい。玄乃さんもとても良い笑顔で課してくるからイヤなのよ。

 

「じゃ、じゃあ行ってくるわ」

 

 クソ~、せっかく上がったテンションが下がっちまったよ・・・。

 まぁ、いいさ。結局はやるんだからな。

 

「おい、征兎!? おまえIS纏わないのか!?」

 

 アリーナのほうに行こうとしたら一夏がそう言ってきた。

 

「ん? あ~、せっかくだからみんなにも見せてやろうかと思ってな。俺が専用機をその身に纏うところを」

 

 そう答えると和海は嘆息しながら肩を竦めやがった。・・・別にいいだろうよ!!

 

「そういえば、ISスーツに着替えず制服のままだな。いいのか?」

 

「あぁ。まぁすぐにわかる、楽しみにしときな」

 

 と、そんなこんなでアリーナに向かって歩く・・・あ。

 

「そうだ、一夏に聞こうとしてたことがあったんだ」

 

「おう? なんだ急に?」

 

 試合前にこれだけは聞いておきたかったんだよな・・・。

 

「金髪さんの名前ってなんていうんだ?」

 

 そう聞くと箒と和海共々ズッコケられた。

 

「・・・え!? 今更!?」

 

 ・・・だって仕方ないじゃん。聞こうにもタイミングが・・・。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに金髪さんの名前は セシリア・オルコット とのこと。

 

 よし、相手の名前も知れたしで・・・準備万端だな!

 

 IS学園での初陣、張り切って行くぜ!!

 

 

 

 

 



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12話

 征兎side

 

 一夏・箒・和海からの応援を受けて、アリーナで金髪さん--もといセシリア・オルコットを待って数分後・・・。

 反対側のピットから彼女がISを纏い出てきた。

 

 ・・・んだけど・・・なんというか・・・前までの彼女とはなんか雰囲気が違うような気がする・・・。

 

「・・・始める前に少しよろしいでしょうか・・・」

 

「ん? どした?」

 

 ホントにどうした? 以前なら罵倒の1つでも飛んできてるはずなのに。

 

「・・・その・・・先週までの数々の非礼お詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」

 

「お、おう・・・別に俺はそこまで気にしてないから・・・」

 

「ありがとうございますわ」

 

 お、落ち着け、俺!

 なにがどうして彼女が急にこんなしおらしくなった・・・!?

 

 確か・・・一夏との試合が始まる前までは今までと変わりなかった。

 つまり、一夏との試合中・・・またはその後に何かあった・・・?

 

 

 

 ・・・・・・あ。

 

 

 

 もしや・・・これはいつものパターンか?

 

 ・・・試してみるか。

 

「なぁ・・・ちょっといいか?」

 

「はい? どうかなさいまして?」

 

「もしかして、お前・・・一夏のこと・・・」

 

「なななな、なにをおっしゃっているのですか!?」

 

 は~い、決定~!

 わっかりやすい反応ですこと。

 

 しかし、一夏よ・・・どうやったらこんなことになるんだ?毎度毎度さすがだわ。

 

「まぁ、がんばれ! ライバルは多いだろうし、アイツ自身、超がつく朴念仁だからな!」

 

「~~~~~っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「お前が言うなよ・・・」

 

「あんただって人のこと言えないでしょ・・・バカ征兎」

 

 --と管制室と観客席で言われていたなど俺が知るはずもなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうとISはどうしましたの? まさか降参ってわけではないでしょうし・・・」

 

「そうだったな。時間は有限だし俺も行かせてもらうか」

 

 そう言いながら、ビルドドライバーを出し腰に押し当てる。

 するとベルトが自動で巻き付く。

 

 そして、手に ラビットフルボトル と タンクフルボトル を持つ。

 

 

「さぁ実験を始めよう」

 

 

 そう言って、手に持つボトルを振る。

 すると、何もないはずの空間から様々な数式が出てきた。これに目の前のオルコットは驚いているようだった。おそらく和海以外のみんなも驚いているだろう。

 

 ある程度ボトルを振ったところで、キャップを回し、ドライバーのスロットに装填する。

 

『ラビット!』 『タンク!』

『ベストマッチ!』

 

 その音声が聞こえたら、右側のレバーである ボルテックレバー を回す。

 

 すると、フルボトル内の成分 トランジェルソリッド が混ぜ合わされ、俺の周囲に小型ファクトリー スナップライドビルダー が形成される。

 さらに、液状となったソリッドがチューブ状の ファクトリアパイプライン に流し込まれ、前にラビット、後ろにタンクのハーフボディーを生成する。

 

 

『Are you ready?』

 

 

 その音声が聞こえた後に言う言葉は一つ!

 

 

「変身!!」

 

 

 そう叫ぶと、前後のハーフボディーが俺を挟み込むように結合する。

 

 そして--

 

 

『鋼のムーンサルト!』

『ラビットタンク!』

『イエーイ!』

 

 

 --変身完了ってわけだ!!

 

 

「そ・・・それは・・・いったい・・・?」

 

 

「これは俺の専用機であるビルド。創る・形成するっていう意味のビルドだ。以後お見知りおきを」

 

 

 そう言いながらポーズなんかを決めてみた。

 

 

 

 

 

 

 



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13話

 征兎side

 

 俺がビルドに変身してポーズを決めてから周りを見渡すと、目の前のオルコットはもちろんのこと、観客のみんなも驚いているようだった。

 

「それがあのnascitaが独自開発した機体・・・。しかも全身装甲ですか・・・」

 

 そうオルコットがつぶやくように言った。

 

「やっぱ珍しいのか、これ?」

 

「まぁそうですわね。全身装甲といえばわたくしたちの中では第一世代という認識ですから」

 

「なるほどな〜」

 

 そうだったのか。まだまだ勉強不足だな、俺も。

 

「ところで、そちらの機体・・・非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)もスラスターの類も見受けられませんが・・・もしかして飛行機能がないんですの?」

 

 そう、オルコットが聞いてきた。

 まぁ確かにアンロック・ユニットはないが飛行機能はしっかりあるんだな、これが。

 

「心配ご無用! --よっと!」

 

 地面を蹴り、ジャンプのような感じで宙に浮き、オルコットと同じ高さまで行く。

 

「--っと、どうよ?」

 

「・・・なるほど。さすがはnascitaの開発した機体。見た目に騙されてはいけませんわね」

 

 まぁ俺も最初は飛行機能がこれについてるとは思えなかったもん。

 

「それでは、そろそろはじめましょうか?」

 

「そうだな」

 

 オルコットはライフルを、俺はビルドの武器の一つ ドリルクラッシャー を手に持つ。

 

「随分と変わった形の武器ですわね?」

 

「ふっふっふ、俺がデザイン、設計、製造した武器の一つだ。チョーイケてるだろ?」

 

「え? ・・・そ、そうですわね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだよあれ!?」

 

「まさか全身装甲とはな・・・」

 

 管制室で様子を見てた一夏と箒も征兎の変身したビルドを見て驚いていた。

 

「まぁ確かに珍しくはあるみたいだな」

 

 皆の反応に納得するように和海が答える。

 

「全身装甲もそうだが、ISを纏うまでのプロセスが従来のものと違いすぎるのもそうだろう」

 

「ですね。そういうところもnascita独自ということなんでしょうか?」

 

 千冬と麻耶もモニターを見ながら話し合う。

 

「しかし、あの武器の形は・・・」

 

「あれは征兎のデザインだ。残念ながら・・・な」

 

「・・・なんだと?」

 

「征兎がデザインし、設計し、製造した武器だ」

 

「相変わらず征兎のセンスってどっかずれてるよな」

 

 などと3人で話している隣では--

 

「しかし・・・束といい、玄乃といい・・・もう少しまともなものを開発できないのか?」

 

「あはは・・・」

 

 そんな千冬の言葉になんと返せばいいかわからない麻耶は、乾いた笑いをすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

『試合開始』

 

 そのアナウンスが聞こえると同時にオルコットがライフルを構えた。

 

「先手、いただきますわ!」

 

 そう言うが早いか引き金を引き、レーザーを撃ってきた。

 

「そりゃっ!」

 

 しかし俺もそれは予測していたため、ドリルクラッシャーを振るい、レーザーに当て打ち消した。

 

「なっ!? しかし、そう何度もできないはずですわ!」

 

 その通りです!

 とにかく相手の先制パンチをしのいだということで、今度はこちらから行かせてもらおう。

 

 俺は足に力を込め、ラビットフルボトルの力でオルコットの元へ一気に飛び込む。

 

「--っ!?」

 

「はあっ!!」

 

 ドリルクラッシャーを振るいライフルをはじく。

 ここで手から弾き飛ばせれば儲けものだったんだが、そんなに上手くはいかないか・・・。

 

「もういっちょ!!」

 

 さらに、タンクの力を込めた蹴りを放つ。

 

「きゃっっ!?」

 

 そう悲鳴?をあげながらオルコットを飛ばす。

 

 --が、あっという間に態勢を立て直されてしまった。

 

 う~ん、思ったようにいかないな・・・。

 伊達に代表候補生を名乗っていないってことか・・・。

 

「今度はこちらの番ですわ!」

 

 そう言いながらライフルを構え、レーザーを何発も撃ってくる。

 

「さすがにこれはちょっとキツいわ」

 

 レーザーをがんばって避けつつ、ドリルクラッシャーをガンモードに変えて反撃する。

 

「こなろっ!!」

 

 近接武器だったものが遠距離武器になったからか、多少オルコットは動揺してくれたが普通に避けられてしまった。

 

「本当に機体といい、武器といい、見た目に騙されてはいけないというものの典型ですわね!」

 

「お褒めにあずかり光栄だよ!!」

 

 などと言い合いながらも、射撃を行う。

 

 --と、急に俺の死角だったところからレーザーが飛んできた。

 

「--ってぇ!?」

 

 って、ヤベっ!?

 ビット兵器のこと忘れてた。

 

「あらあら、ビットのことが頭から抜けてたみたいですわね」

 

「ぐっ・・・」

 

 その通りなのでなにも言い返せない。

 

「ここからは出し惜しみせずにいかせていただきますわ」

 

 そう言いながら、オルコットが俺へとビットを飛ばしてくる。

 

「さぁ踊りなさい!このわたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 

 

 さぁて、どう攻略しようかな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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14話

 征兎side

 

「おいきなさい、ティアーズ!!」

 

 オルコットの声と共に4つのビットが俺の周りを飛び回り、レーザーを打ち出してくる。

 

「ぐっ・・・」

 

 一夏との試合を見てたからなんとか避けられるけど、全部はどうしても難しい。

 アイツがビットで攻撃してくるとき、自身が動けないのはわかってる。

 

 そこを突こうとしているんだけど・・・このレーザーの雨が鬱陶しい!!

 

 とりあえず空中だと死角が多くなってしまうから、なんとか避けながら地上まで降りる。

 

 まぁ地上に降りても死角が減っただけで、ビットを攻略したことにはならないんだけどね・・・。

 

「地上に降りることで少しでも死角を減らそうということでしょうが、このまま押し切らせていただきますわ!」

 

 そう言い、ビットによる攻撃とライフルからの攻撃が・・・本当にこのまま押し切られてしまう。

 

 

 

 ・・・仕方ない・・・アレをやるか。

 

 

 

 だけど、なかなかそのタイミングがない。

 

 

 まぁ・・・だったら作り出すまでだけどさ!!

 

 

 俺は、ドリルクラッシャーをガンモードからブレードモードに変える。

 

「??なぜ近接武器に・・・?」

 

「こうするのさ!」

 

 ラビットボトルを取り出し、振る。

 そして、ドリルクラッシャーのスロットに装填。

 

『Ready go!』

『ボルテックブレイク!』

 

 その音声と同時にドリルクラッシャーの刃が高速回転する。

 

「な、なにを・・・!?」

 

 その回転している刃を地面に触れさせ、そのまま今度は俺自身を回転させその場に砂塵を起こす。

 

「--っ!?これは!?」

 

 レーザーは光学兵器だからね。

 こうすればとりあえずはこっちに攻撃できない。

 

「ですが、一時しのぎに過ぎませんわ!」

 

 その通り。

 

 だけど・・・その一時を活用させてもらう!

 

 新たに2本のボトルを取り出し、上下に振りキャップを回す。

 

 それをスロットに装填する。

 

『海賊!』 『電車!』

『ベストマッチ!』

 

 そして、レバーを回す。

 

 小型ファクトリーが、今度は前後に マリンブルーと黄緑のハーフボディー を生成する。

 

 

『Are you ready?』

 

 

「ビルドアップ!」

 

 前後のハーフボディーが結合し、新たなフォームとなる。

 

 

『定刻の反逆者!』

『海賊レッシャー!』

『イエーイ!』

 

 

 ビルド・海賊レッシャーフォームってね。

 

 

 そこでちょうど砂塵がおさまってきたみたいだが・・・案の定、オルコットはもちろんのこと観客のみんなも驚いているようだった。

 

「姿が変わった!?そんなことが・・・」

 

 驚いているのを横目に、カイゾクハッシャーを手元に出す。

 

「・・・弓・・・ですが微妙に形が・・・」

 

 ふっふっふ。

 

「気づいた?これも俺が設計、開発した武器で--」

 

「あ、説明は結構ですわ。長くなりそうですので」

 

 しょぼーん・・・。

 

「驚きはしましたが、わたくしがやることに変わりはありませんわ!」

 

 気を取り直したオルコットがレーザーを撃ってくる。

 

 俺も気を持ち直し、それを避ける。

 

 ときには、カイゾクハッシャーの攻撃型ユニット ビルドオーシャン号 で薙ぎ払い、ハーフボディーにあった右肩のマント? で防ぐ。・・・やってみたらなんかできたけど結構便利だな。

 

「っ・・・単発の攻撃はもうほとんど通用しませんか・・・ならっ!」

 

 --くるか!?

 

「おいきなさい!!」

 

 ビットが俺を包囲するかのような攻撃をしてくる。

 

 

 --だけど、俺はこれを待ってたんだ!

 この面倒なビットはここで墜とす!

 

 

 ビットからのレーザーを避けながら、電車型攻撃ユニット ビルドアロー号 を引っ張る。

 

『各駅電車』 『急行電車』

 

 まだだ・・・。 

 耐えろ、俺・・・。

 

『快速電車』

 

 もう少し・・・。

 

 そう自分に言い聞かせ、ユニットを引っ張ったままレーザーの雨を耐えしのぐ。

 

『海賊電車』

 

 きたーーー!

 

 その音声が聞こえると同時にビットの一つに向け、ユニットを離し、攻撃を放つ。

 

『ボルテックブレイク!』

 

 すると、エネルギー状のビルドアロー号がビットの一つを破壊する。

 

 しかし、それだけでは終わらず、電車が各駅に停まるかのごとく次々とビットを破壊していく。

 

「そ、そんな!? ビットが一気に・・・」

 

 さらには、オルコットのほうに行き、ミサイルも破壊してくれた。

 

 当然、オルコットは爆発によるダメージを受ける。

 

「きゃああああああ!?」

 

 まさかミサイルまで破壊してくれるとは・・・嬉しい誤算だな。

 

 

 

 --試合終了のブザーは鳴らない。

 

 つまり、オルコットはまだ健在ということ。

 

 ・・・・・・よし。

 

『ラビット!』 『タンク!』

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『鋼のムーンサルト!』

『ラビットタンク!』

『イエーイ!』

 

 俺は再び、ラビットタンクフォームに戻る。

 

 

 そうしていると、オルコットの姿が目に入ってきた。

 姿は満身創痍って感じだが、目は全然死んでいない。

 

「わたくしは・・・まだ負けてはいませんわ・・・」

 

 そう言いながらライフルを構えようとする。

 

 なら・・・俺もそれに応えなくちゃな。

 

 

 --ベルトのレバーを勢いよく回す。

 

 どこからか、グラフのⅩ軸が現れる。

 

「な、なんですの、これは!?」

 

 

『Ready go!』

 

 

 そう音声が鳴ると同時にⅩ軸がオルコットを拘束する。

 

「--っ!? くぅっ!」

 

 オルコットは必死に体を動かし、抜け出そうと試みている。

 

 俺はⅩ軸の上へジャンプし、その上をすべるように加速する。 

 

 途中の点mでさらに加速し、オルコットへエネルギーを乗せたキックを放つ。

 

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 

 

(あぁ・・・わたくしの負け・・・ですわね)

 

 最後のオルコットのすべてを出し切ったような満足そうな表情が印象的だった・・・。

 

 

『試合終了 勝者・桐生征兎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事です・・・完敗ですわ」

 

 試合後のアリーナで俺たちはピットに戻る前に互いの健闘をたたえ合っていた。

 

「いや・・・今回は事前情報でのアドバンテージがあったからな。同じ条件だったならどうだったか」

 

 俺は今回、オルコットの試合を見ていたのに対し、オルコットは俺の機体のことはなにも知らなかった。

 この差はやっぱり大きかったと思う。

 

「それを含めての勝負ですわ。今回はあなた方が男だと慢心し、情報収集を怠ったわたくしの落ち度。謙遜なさらずとも大丈夫ですよ」

 

「わかったよ・・・。ありがとさん」

 

「ですが、次はわたくしが勝たせていただきますわ。覚悟しておいてくださいな」

 

「残念だけど次も俺が勝つ。この天っ才物理学者のすばらしき発明品はまだまだあるからな」

 

 そう言い合いながらも、互いに笑顔なんだけどな。

 

 俺たちは手を出し、握手する。

 ・・・・・・女の子の手ってなんか柔らかいっていうかなんていうか・・・。

 

 

 

 --っ!!??

 

 

 

 なんだ!?

 今、ものすっごい殺気が・・・。

 

 

 

 

「・・・? どうかしまして?」

 

「い、いや・・・なんでもない」

 

 とりあえず、気を取り直して。

 

「改めて、桐生征兎だ。これからよろしく、オルコット」

 

「セシリア・オルコットですわ。それとわたくしのことはセシリアと呼んでください。わたくしも征兎さんと呼ばせていただきますので」

 

「わかったよ、セシリア」

 

 そう言葉を交わし、互いのピットに戻っていった。

 

 

 ・・・しっかし、あのときの殺気はなんだったんだ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・バカ征兎。握手ぐらいでデレデレしちゃって・・・。私と触れたときは全然気にしないくせに・・・。相手が美人だったりするとすぐこれだ。しかも胸も大きいし・・・。やっぱ胸なの・・・?確かに私は身長も胸もそこまで大きくないけどさ・・・だからといって・・・」

 

「ば、バンちゃ~ん? 大丈夫? なんか背中からどす黒いオーラが出てるよ~・・・」

 

 

 

「ね、ねぇ・・・万丈さんってやっぱり桐生くんのこと・・・」

 

「普段の行動からなんとなくそうかなぁ~とは思っていたけど・・・」

 

「この反応を見ると、もう間違いないね」

 

「ふふふ。いいネタ手に入れたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(龍華のやつ・・・握手ぐらいで嫉妬してんなよ・・・。しかもあんなに黒いオーラ出しやがって・・・クラス全員に知られんじゃねぇのか? ったく・・・あれで本人は隠してる気でいんだもんな・・・。しかし、龍華もそうだが、鈴といい、箒といい、なんで俺の幼馴染の女子たちはこんなにも素直じゃないんだろうか・・・。まぁ気づかない一夏や征兎も大概だけどな・・・)

 

(私も人のことを言えないが・・・龍華め、まさか握手をしただけで嫉妬するとは・・・。難儀なことではあるが・・・そのオーラはしまってやれ・・・みんなドン引きしてるぞ。・・・しかし、一夏といい、征兎といいなぜここまでされても気づかないんだ!?はぁ・・・お互いに苦労するな・・・龍華・・・)

 

 

 

 



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15話

 創一(簪)side

 

「試合終了・・・か」

 

 今まで1組のクラス代表を決めるための摸擬戦をモニターで見ていたが・・・いやはや。

 

 ビルドのほうはともかくとして、主人公くんなんて全然じゃねーか。

 

 まったく・・・俺の目的達成にはヤツの成長が必要不可欠なのによ。

 

 

 ・・・ま、いちおう数年間いっしょに過ごし、親友と呼ばれるようになった仲だ。大目に見てやるさ。

 まだ俺も準備期間って感じだしな。

 それまでに成長してくれることを願おう・・・切実にな。

 

 

 --さて、これからやることがそこそこあるが・・・とりあえずはブラッドスタークの改良だな。

 飛行機能をつけないと話にならなそうだしな・・・。

 

 

 そして、この制服は改造するか・・・。

 さすがにこれはちょっと・・・な。もっと動き易いのにするか。

 

 

 --あとは・・・

 

 俺は、いつもの所に連絡を入れる。

 

『ハイハイ・・・今日はなんの用?』

 

「おう・・・今日は大事な大事な用があって連絡させていただきました」

 

 いつも通り、ふざけ丁寧口調? で話始める。

 

『・・・・・・???』

 

「・・・ん?? なんだ、どうした?」

 

『・・・どちら様?』

 

 ・・・おい。

 

「【端末に着信相手が出てるだろうが。なんでだよ】」

 

 コイツ・・・俺が、更識簪の声のまま話したからって・・・。

 

『え? マジで? ごめん、モニターに切り替えてもらっていいかな?』

 

「【はぁ・・・】」

 

 面倒だ・・・と思いつつモニターに切り替えてやる。

 すると、Sound Only から互いが映し出される。

 

『・・・・・・』

 

「【どうだ? これで満足か?】」

 

『ホントにその子に憑依したんだね・・・』

 

「【まぁ、原作から考えるとなかなか都合がいいやつだからな】」

 

 ついでにあの幼馴染? 従者だっけ? とシスコンへの予防線にもなるしな。

 

『まぁ・・・違和感は多少あるけど、私も暇じゃないからね。・・・で、ご用件は?』

 

 このヤロウ・・・お前のせいで脱線してたんだろうが・・・。

 

「【・・・まぁいい。--今度、ここでクラス対抗戦が行われる】」

 

『えぇ、知ってるわ。私宛に招待状が届いていたもの。・・・面倒だから行かないって返事しておいたけど』

 

 忙しいとかじゃなくて、面倒だからかよ・・・。--だが、

 

「【なら話が早い。当日、俺といっしょにヤツらと遊んでもらう】」

 

『・・・あれ? その日って、束ちゃんお手製無人機がそこに襲撃するんじゃなかったっけ?』

 

 思案顔になりながら、ヤツはそう聞いてくる。

 当然の疑問だな。

 

「【その通り。だからその日は無人機にも襲撃させるが--

 

 

 

 

 

 

   --俺たちからも挨拶を・・・と思ってな】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 あの摸擬戦からの翌日。

 

 我がクラスでは現在、クラス代表となった人物が発表されていた。

 

「というわけで、1年1組のクラス代表は織斑一夏くんに決定です。あ、1繋がりでいい感じですね」

 

 とまぁ、一夏に決まった。

 俺は元々、摸擬戦が終わったら辞退するつもりだったからな。

 

「先生、質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

「俺は昨日の試合に負けたんですが、なんでクラス代表になっているんでしょうか?」

 

 と、一夏がここで質問。

 まぁ、当然の疑問だろうな。

 

「それはですね--」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

「ついでに俺も辞退した!」

 

 オルコットが発言したタイミングで俺もカミングアウトする。

 

「なんでだよ!?」

 

「え・・・? ・・・だってめんどくさいし」

 

「いや・・・そんな、何当たり前のこと聞いてんの? みたいな顔で言われても・・・」

 

 だって実際、めんどくさいし。

 

 その後、一夏はセシリアにも問い詰めていたが、特に聞く気もなかったから聞き流していた。

 

「そういえば、征兎」

 

「ん? なんだ急に」

 

「朝、全然起きないお前の代わりに、俺のところに連絡があったんだが・・・」

 

「連絡? ・・・誰からだ?」

 

「玄乃さんから」

 

「・・・・・・」

 

 和海から聞いた相手に俺は何故か、冷や汗が背中を流れる感覚がした。

 

 大丈夫、大丈夫だ・・・。

 摸擬戦はキチンと勝利したんだし・・・。

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

「明日の放課後、龍華といっしょに来てほしいそうだ。ついでに摸擬戦のことも聞きたいって言ってたぞ? 特に射撃に夢中になってビットの存在を忘れていたことについてだそうだ。・・・ちなみに俺は行かないからな」

 

 いやだな~、玄乃さん・・・。

 誰しもそういうことありますって・・・。

 

 クソぅ・・・明日の放課後まで、戦々恐々と過ごすしかないのか・・・。

 

 

 そう若干、現実逃避をしたくなりながら机に突っ伏した。

 

 

 いつのまにか千冬さんが来ていて、一夏がクラス代表ということでみんなが盛り上がり、この件は終了。

 

 一夏が自分の意思云々言ってたが、どうでもいい。

 

 

 

 ・・・だって一夏だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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16話

 征兎side

 

 本日この時間の授業は、グランド? での実習だ。

 

 俺と和海以外の面々はISスーツを着て、並んでいる。

 

「・・・なぁ、なんで征兎と和海はISスーツじゃなくてジャージなんだ?」

 

「ん? あぁ・・・俺たちの専用機はISスーツとか関係ないからな。最悪、制服でも大丈夫だ」

 

「え・・・そうなのか?」

 

「まぁな。いちおう実習だからジャージに着替えたけど」

 

 そう俺と和海が言うと、一夏はうなだれた。

 

 まぁ、着替えるの面倒だから、制服の上着脱いでジャージの上を着ただけなんだよね。

 

「マジかよ・・・。俺はこんなん着てるっていうのに・・・」

 

 まぁ確かに・・・ISスーツって、ちょっとあれだもんね。

 

 

 ・・・ふと、周りの女子たちを見てしまう。

 うん・・・あれだ・・・じっと見てると変態扱い間違いなしだな。

 

 

「ふんっ!!」

 

「ぐほぁ!?」

 

 

 そんなことを考えていたら、いきなり万丈に殴られた・・・。

 

 

「--っておい、いきなり何すんだ!? 万丈!!」

 

「ふーんだ。いやらしい目でみんなを見てるからでしょ」

 

 なぜわかった!?

 いやいや、間違ってもそんなこと言えん。

 主に俺の尊厳のために・・・。

 

「そ、そそ、そんなことない・・・だろうよ」

 

「・・・征兎・・・」

 

 違うんだ・・・和海・・・。

 

「そう・・・違うんだ! ・・・俺はただ--」

 

 

 --パァーン!!

 

 

「さっさと並べ」

 

「・・・はい」

 

 チクショウ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これよりISの飛行操縦を専用機持ちに実践してもらう。織斑、オルコット、前に出てISを展開。その後、試しに飛行してみろ」

 

 さて、気を取り直して本日の実習。

 

 一夏とセシリアがISで飛行するところを実演してくれるみたいだ。

 いちおう、俺と和海も専用機持ってるんだけど・・・。

 

「先生、桐生くんと猿渡くんも専用機を持っているんじゃ・・・?」

 

 と、俺と同じことを思ったのか一人のクラスメイトが質問してくれた。

 みんなもそう思っているのか、同様の表情をしている。

 

「桐生たちの専用機は、従来のISとは違うものとなってしまっている。故に、まずは織斑たちに飛行を実演してもらい、その後、桐生たちには専用機を展開してもらおうと思っている」

 

 確かに・・・俺たちの専用機は今までのISとは形状から全然違うもんな~。

 

 千冬さんの説明に納得したのか、みんなも、質問した女子もお礼を述べた。

 

「では、二人はISを展開しろ」

 

「「はい」」

 

 そう返事し、ISを展開した。

 

 --のはセシリアだけだった・・・。

 

 一夏はまだ展開できてない。

 

「遅いぞ。熟練した操縦者ならば1秒もかからないぞ」

 

「んなこと言われても・・・」

 

 まぁ確かに、セシリアは結構な速さだったからな。

 こればっかりは、がんばれとしか言いようがないな。

 

 

 そして、なんとか一夏が専用機を展開した後は--

 

「よし、では飛べ!」

 

 その千冬さんの合図で二人は一気に飛翔。

 

 だが--

 

「何をしている! スペック上では白式はブルーティアーズより上のはずだぞ!」

 

 一夏がまた千冬さんに怒られていた。

 

 アイツ・・・試合のときは普通に操縦してなかった?

 

 

 ある程度上昇したところで、二人は何か話しているようだった。

 こっからじゃさすがに何を話しているかはわからんが・・・。

 

 少し上を見ていると声が聞こえたからそっちを見ると、箒が山田先生からインカムを奪って何か言ってる。

 山田先生は涙目だ。

 

 つーか、何やってんだよ・・・。

 

 直後、出席簿の一撃で箒は沈んだ。

 

「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表から10㎝とする」

 

 そして、セシリアが上空から急降下し、地面スレスレでストップした。

 しかも、10㎝丁度。さすが代表候補生だ。

 

 

 感心していたところで、地面に何かが墜ちてきた。

 

 そう・・・墜ちてきたのだ・・・。

 

 まぁ、何かなんてわかりきってるんだが・・・。

 

 その原因は見事なクレーターを作り、千冬さんや箒にボロカスに言われていた。

 

 

 ・・・ドンマイ、一夏。

 

 

 

 

 



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17話

 征兎side

 

 さて、一夏が地面に墜落し、見事なクレーターを作ったわけだが・・・

 

「次に・・・桐生、猿渡、前に出ろ」

 

「「はい」」

 

 いよいよ出番ですかい。

 

「めんどくせ」

 

 おい、和海くんや。ボソッと呟いたとはいえ、俺には聞こえてるからね・・・。

 

 

 そうしてみんなの前に出てきた。

 

「では、改めてお前たちの専用機を展開してくれ」

 

 そう言われた。

 

 ふむ・・・。ならここは--

 

「じゃあ、俺から」

 

 ビルドドライバーを腰に装着。

 

 ふっふっふ。

 新たなベストマッチフォームを見せてやるぜ!

 

 白と空色のボトルを取り出し、振る。キャップを回す。

 ベルトに装填。

 

『パンダ!』 『ロケット!』

『ベストマッチ!』

 

 ベルトのレバーを回す。

 

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『ぶっ飛びモノトーン!』

『ロケットパンダ!』

『イエーイ!』

 

 これぞ、ビルド・ロケットパンダフォーム!

 

 右腕は、巨大な爪 ジャイアントスクラッチャー。

 左腕は、全てのアーマーがロケットになっている。

 

 

 新たなビルドのフォームにみんな驚いているようだ。

 ふっふっふ・・・狙い通りだ!

 

「前回見たものとはまた違うのか・・・」

 

 その通りでございますよ!

 

「そうです! このビルドは様々なボトルの組み合わせで、多種多様な戦闘が可能なんです! いちおうベストマッチフォームじゃないトライアルフォームでも戦闘はできるんですけど、ベストマッチに比べてどうしてもパワーが落ちちゃうんですよね。でもベストマッチを探すのもなかなか大変で--」

 

「では、次--猿渡、展開しろ」

 

「はい」

 

 ガーーーーーン!?

 説明の途中だったのにー!?

 

 周りのを見ると、みんな引いていた。

 和海、一夏、箒、山田先生は苦笑い。

 

 ・・・なんで?

 

「はぁ・・・おバカ」

 

 万丈にも呆れられている。

 解せぬ・・・。

 

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで、和海の番。

 

 そういや、和海がみんなに専用機見せるの初めてか・・・。

 

「猿渡くんの専用機か~」

 

「どんなのかな?」

 

「やっぱり桐生くんと似た感じじゃない? 同じ企業なんだし・・・」

 

「カズミ~ン、ガンバ~」

 

 などなど、みんな思い思いに言っている。

 のほほんさんの緩い応援もあった。

 

「なんかこうなってくると緊張するな・・・」

 

 などと和海が言っているが・・・

 

「何言ってんだ。みんなに注目されてなんぼだろ」

 

「お前といっしょにすんな、ナルシスト」

 

 ・・・ヒドイ。

 

 

 そんなやりとりがあったが、ようやく和海が自身の専用機の展開準備に入った。

 

 ベルトを取り出し、装着する。

 ビルドドライバーと違い、水色のドライバー。

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 さらに、フルボトルではない別のもの。

 玄乃さん曰く、俺も持っているロボットフルボトルの成分をゲル状にし、それを入れたアイテム。なかなかゲル状にできるフルボトルの成分がない中、これはできた・・・とのこと。

 見た目は、とても小さいゼリー飲料の容器。

 

 ロボットスクラッシュゼリー。

 

 そのキャップを回し、ベルトのスロットに装填。

 

『ロボットゼリー!』

 

「征兎のヤツと全然違う・・・」

 

 と一夏が呟くが・・・気持ちはわかる。

 

 

 和海が左腕を前に出し、あの言葉を言う。

 

 

「変身」

 

 

 そう言い、右手でベルト右側のスパナ型レバーを押し下げる。

 

 ベルト中央にある左右のプレスパーツがゼリーを揉み潰し、抽出された成分が液状装備 ヴァリアブルゼリー に変換され、透明な装甲を形成する。

 

 さらに、ビーカーをモチーフとしたタンクが和海の周囲に出現する。

 これにはみんなも驚く。

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

 

 そして、頭部から噴出したヴァリアブルゼリーが和海の全身を包む。

 

『ロボットイングリス!』

『ブラァ!』

 

 和海の専用機・グリスはそうして変身が完了する。

 

 

 

 

 

 その後、武装の展開で一夏が千冬さんにまたもや遅いと怒られたり、セシリアが展開は速かったがポーズを直せと怒られたり、俺のロケットパンダフォームに展開できる武装がないことや和海のグリスに武装が ツインブレイカー しかなく呆れられたりした。

 

 ツインブレイカーはパイルバンカーのような アタックモード と二連装ビームガンの ビームモード の2種類に使い分けられる。

 モードを切り替えるときにはその砲身部分 レイジングビーマー を動かす。

 さらに、フルボトル装填スロットは二つあり、装填したフルボトルの数や種類によって攻撃が変化する。

 

 

 

 などと、和海の代わりに俺がツインブレイカーについて説明したら、またしてもみんなに引かれてしまった。

 

 

 うーーーん・・・。なぜだ?

 

 

 考えているうちに授業終了となり--

 

 

 

 

「征兎、和海!! 手伝ってくれ!! --っていねぇ!?」

 

 

 一夏がグランドに空けた穴埋めを手伝わされる前に退散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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18話

 征兎side

 

 和海の専用機をお披露目し、一夏が一人寂しくグランドに空けた穴を埋めた日の放課後。

 

 俺と万丈は、nascitaで万丈の専用機を受け取り、慣らしを終え、学園に戻っている。

 

 本当はもう少し遅くなってしまう予定だったが、万丈が予想以上に早く専用機を使いこなしたことと、一夏のクラス代表就任パーティー? だったかをやるらしく早めに帰らせてもらえた。

 

「パーティーって何するんだろうね~」

 

「まぁ実際はそういう建前の元、みんなで騒ぎたいだけだろうけどな」

 

「ふーん。そんな感じなんだー」

 

 などと、万丈と何気ない会話をしている・・・が、俺はとても疲れている。

 

 

 そう・・・すべてはさっきまでのことが原因だ・・・。

 

 

 

 

 

 万丈の専用機の受け取り、俺がやった摸擬戦の話を終えた後に万丈の専用機の慣らしをすることになった。

 

 ・・・が俺に、万丈の相手をしろというのだ。

 

 ここでようやく、わざわざモニター越しではなく、呼び出して報告させられた意味を理解した。

 

 このためだったのか・・・。

 

 あの、脳筋万丈の相手とかキツイにもほどがある。

 

 そんな俺の心情など知らんと言わんばかりに、万丈は準備を進めていく。

 

 nascitaの地下アリーナに放り込まれた俺をよそに、ビルドドライバーを腰に装着する。

 

 ・・・刑が執行されたのだ。

 

 万丈が手を伸ばすとどこからともなく、自立稼働のユニット・クローズドラゴンが現れ、手の中に収まる。

 

 それにドラゴンフルボトルを装填し、ガジェット形態へと変形させてからクローズドラゴンのボタンを押す。

 

『ウェイクアップ!』

 

 と音声が鳴った後、ビルドドライバーへとセット。

 

『クローズドラゴン!』

 

 そして、レバーを回すとスナップライドビルダーが展開され、前後にハーフボディーを生成する。

 ビルドと違い、前後同じ色だが、脇に別のアーマーが生成されている。

 

『Are you ready?』

 

 その音声が聞こえると--

 

「変身!」

 

 その言葉とともに万丈を挟み込むようにハーフボディーが結合され、その後に追加ボディーアーマー ドラゴライブレイザー・フレイムエヴォリューガー が上半身と頭部を覆う。

 

『Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!』

『Yeah!』

 

 そうして、変身が完了してしまった。

 

 

 その後あったことは・・・思い出したくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかし・・・俺と和海は入学前から少しずつ訓練受けてたからともかく、万丈は今日初めて動かしたはずなのにあっさり使いこなしやがった。

 

 ホントにこいつは、全身の神経が運動神経で構築されているんじゃないだろうか?

 

 --と思えてしまう。

 

「・・・な、なに?」

 

「・・・ん?」

 

「そんなにじっと見られると・・・恥ずかしいんだけど・・・」

 

「あ・・あぁ、悪い」

 

 思わずじっと見ちゃってたか・・・。

 あの万丈が珍しく顔を赤くしているから、結構な間見てしまってたみたいだな。

 ・・・反省、反省。

 しかし・・・万丈も恥ずかしがることがあるんだな・・・。

 

「・・・・・・」

 

 すると、なぜか万丈からジト目を向けられる。

 

「え? ・・・な、なに?」

 

「・・・別に・・・また、征兎は見当違いなこと考えてるなーって」

 

「見当違い? なにが?」

 

「自分で考えなさいよ、科学オタクめ」

 

 え~~~。

 

 

 

 暗くなった外の景色を見ながら、考えてみた。

 --が、何がどう見当違いなんだか・・・分からず仕舞いだった

 

 

 

 

 学園に到着したため、車から降りる。

 

「征兎・・・」

 

「なんだ?」

 

 こっちはお前に言われたことをがんばって考えていたのに。

 

「さっきのことは今後の課題だからね」

 

「・・・へ?」

 

 課題? ・・・どういうこと?

 

「早く行こっ!」

 

 そう言うが早いか、俺の手を掴み、万丈が歩きだす。

 

 ・・・なにがなんだかよくわからないけど・・・万丈もなんか嬉しそうだし、良しとするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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19話

 征兎side

 

 色々あった昨日が終わった今日。

 俺は昨日の失敗を悔やみながら登校していた。

 

 なにしろ昨日、食堂に行ったらパーティーは終了し、解散寸前だった。

 

 和海にも--

 

「間に合うんじゃなかったのか? 何やってたんだ?」

 

 などと言われる始末。

 

 チクショー・・・。

 こんなことなら、千冬さんのところに行って、万丈の専用機の登録をすることなど後回しにすればよかった・・・。

 

 二度とこんな失敗はしない・・・!!

 

 

 

「朝っぱらから、真剣な顔でなに考えているんだか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそうと、教室に着いたのはいいんだが・・・

 

「なんかあったのか?」

 

「俺が知るか」

 

 まぁそうだよね。

 

「あ、征兎とカズミン。なんか2組に転校生が来たんだって」

 

「転校生?」

 

 この半端な時期に?

 

「なんでも~中国から来たみたいだよ~」

 

 おや・・・のほほんさん、いつのまに・・・。

 

 

 しかし中国か・・・。

 アイツはどうしてるかねぇ。

 少しは立ち直れてるといいんだけど・・・。

 

 

 みんなが今度のクラス対抗戦の景品の話をしていたら、

 

「その情報、古いよ」

 

 ふと、そんな声が聞こえた。

 

 あ・・・アイツって・・・。

 

「鈴!? お前、鈴か!?」

 

 一夏もビックリしているようだな。

 

 声のした方には、扉に寄りかかり、カッコつけてます風な感じをした俺たちの幼馴染の1人 凰鈴音 がいた。

 

「中国代表候補生の凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

 代表候補生!?

 マジかよ・・・。

 俺たちと別れてから1年くらいだぞ。そんな短期間でなれるもんじゃないだろ。

 スゲェな。

 

「それと久しぶりね。征兎、和海、龍華」

 

「あぁ、そうだな」

 

「全然変わってないようで安心したよ」

 

「久しぶり~」

 

 俺はちょっと適当な感じに返したけど・・・

 和海はどういう意味だろうか? 聞いてはいけない気がするけど、ちょっと気になる。

 万丈は軽いな。

 

「それに・・・一夏も」

 

「・・・そう・・・だな」

 

 あ~・・・いちおう仲直りしたと思ったんだけど・・・。

 

 鈴はともかく、一夏の方が引きずっているみたいだな。

 

 こればっかはしょうがないかな・・・。

 

 

 

 そこでふと、横に視線をずらすと・・・

 

「あ・・・」

 

 和海は声に出たが、俺も出す寸前だった。

 

 なぜなら、鈴の背後には・・・・・・

 

「おい」

 

「ん? なに・・・っ!?」

 

 我がクラスの担任が立っていた。

 

「もうSHRの時間だ。早く自分のクラスに戻れ」

 

「は、はい・・・」

 

 なんていう威圧感・・・。さすがブリュンヒルデ。

 

「じゃあ、あんたたちまた後でね!」

 

 そう言い残し、そそくさと去っていった。

 

「一夏!!」

「一夏さん!!」

 

「さっきのヤツとはどんな関係なんだ!!」

「さっきの方とはどんな関係なんですの!!」

 

 直後、箒とセシリアが一夏に鈴のことで詰め寄っていたが、今はダメだ。

 

 

 --パアアアアアン!!!

 

 

「早く席につけ」

 

 こうなるからな。

 

 

 その後、SHRは滞りなく終了した。

 

 しかしその後の授業中、箒とセシリアは何度も出席簿の餌食になっていた。

 

 多分、一夏と鈴の関係について考えていたんだろうが、知っている俺らからすれば気にすることないって言いたくなる。

 

 まぁ、おもしろいから言わないけどな。

 

 --パアアン!!

 

「気持ち悪い笑みを浮かべてないで、授業に集中しろ」

 

「・・・ハイ」

 

 しまった・・・。

 無意識に顔に出てしまったか。

 

 

 --パアアアアン!!

 

 

「ふぎゃ!?」

 

「・・・起きろ」

 

 ・・・万丈が叩かれるのはいつもの通りだな。

 

 

 



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20話

 征兎side

 

「待ってたわよ! 征兎、和海、龍華、そして一夏!!」

 

 昼休みに食堂についた俺たちを迎えたのは、そう言った鈴だった。

 

 ってか、ずっとそこで待ってたの?

 アイツの持ってるのラーメンに見えるんだけど・・・。

 麺がのびるのでは?

 

「麺、のびるぞ・・・」

 

「ま、まだ大丈夫よ」

 

 和海の一言に、ホントに大丈夫なのか心配になってしまうように返す鈴。

 

「はい、鈴ちゃん邪魔だよ~。どいてね~」

 

「ちょっと!? ひどくない、龍華!?」

 

 気持ちはわかるが、ドストレートだな。

 

「と、とりあえず、俺たちも食券を出してくるから」

 

「むぅ~、わかったわよ。あたしは席を確保しとくからね。早く来なさいよ!」

 

「あぁ、わかったよ」

 

 なんで俺がこんな役回りを・・・トホホ。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 こっちもこっちで・・・。

 箒とセシリアはどうでもいいとして、一夏はなぁ~。

 

 こればっかは無責任に気にするなとも言えないし・・・難しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 注文の品を各々受け取り、鈴が確保してくれた席に座った・・・・・・が、

 

「「「・・・・・・」」」

 

 き、気まずい・・・。

 

 なんでこんなことに・・・。転校生を交えての昼食ってもっと盛り上がるもんじゃないの?

 

 よし、ここは俺が先陣を切るか!

 

「そ、それにしてもホントに久しぶりだな、鈴。いつのまにこっちに戻ってきてたんだ?」

 

「ん? あぁ、つい先日よ。色々バタバタしてたから連絡はできなかったんだけどね」

 

 和海、万丈・・・お前らもなんか話してちょうだい・・・。

 

「それよりも、あんたたちこそなにISを動かしちゃってるわけ? ニュースを見て本当にビックリしたわよ」

 

「ぐ・・・色々あったんだ。不可抗力だったんだ・・・」

 

 そう、色々あった・・・。

 動かしてしまった経緯はかなりショボいけど・・・。

 

「んん! ・・・あ~もうそろそろソイツとどんな関係か話してほしいんだが?」

 

「そ、そうですわ! 一夏さん、もしやこの方とその・・・お、お付き合いをしていらっしゃるんじゃないでしょうね!?」

 

「え? い、いや・・・俺と鈴は・・・」

 

 ・・・一夏・・・。

 

「そうだな・・・俺たちの関係は・・・まぁ幼馴染っていったところか?」

 

 え?和海くん・・・このタイミングで発言ですか?

 

「幼馴染・・・だと?」

 

 まぁ、箒は気になるところだよね。

 

「鈴は箒と入れ違いで中国から転校してきたんだ。まぁ、そっから仲良くなって・・・って感じだな」

 

「なるほどな」

 

「なつかしいわね。あのころは色々バカなことやったっけ」

 

「そうだな。それでアイツが加わってからはさらに・・・」

 

 あ! ・・・バカっ!?

 

「・・・っ!!」

 

「・・・一夏?」

「・・・一夏さん?」

 

「・・・すまん。なんでもない」

 

 ・・・・・・。

 

「しっかし、鈴はあんま変わんないね~。身長も胸も・・・」

 

「あんですって!? あんたにだけは言われたくないわよ、龍華!!」

 

 近くでワーギャーワーギャーやられるとうるさいな。

 

 まぁともかく、万丈の空気読めない発言で今回は助かったな。

 たまにはあのバカも使えるな。

 

 

 

 その後、鈴と箒、セシリアは互いに自己紹介をしていたが、

 

「あんたたちが心配してるようなことにはならないから大丈夫よ」

 

 と、言っていた。

 多分、一夏に対する恋愛感情云々だと思うけど・・・。

 

 

 

 

「さっきはすまなかったな」

 

 和海がそう言ってきたが、まぁ俺は特に気にしてない。

 

「大丈夫よ。あたしはもう気にしてないから・・・ね」

 

 鈴・・・。

 

「ありがとな」

 

「それにしても・・・一夏、大丈夫かな?」

 

「・・・確かにな。あれはちょっと・・・な」

 

「あたしからも少し話してみるわ」

 

「・・・わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・一夏、大丈夫か?」

 

「征兎・・・」

 

「あんま気にしすぎるなよ。あのときも言ったけど、あれは--」

 

「わかってる。・・・けどこれは、俺が向き合わなきゃいけないことだから・・・」

 

 そう言って行ってしまう。

 

 

 ・・・ったく。

 少しは俺らを頼れよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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21話

誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました。


 征兎side

 

 放課後。

 

 気落ちした一夏のことは鈴に任せ、俺たちは俺たちで訓練をすることにした。

 

 まぁ俺たちは今度のクラス対抗戦に出場するわけじゃないけど、いちおう今後のために・・・な。

 

 

 けど・・・

 

 

「ねぇ征兎~。これってどこにボトルをセットするの?」

 

「剣の鍔の中央に空洞があるでしょうよ」

 

 そう言いながらビートクローザーの中央部を指さし、この部分だと教える。

 

「ここ?」

 

『スペシャルチューン!』

 

「おぉ! ・・・で、この後は?」

 

 このおバカは・・・。

 

「グリップエンドを引っ張れ」

 

「グリップエンド?」

 

「ここだよ、ここ」

 

 再び、ビートクローザーのグリップエンドを指さす。

 

「ここを引っ張るの?」

 

 そう言い、万丈はビートクローザーのグリップエンドである エンドブレイグリップ を引く。

 

『ヒッパレー!』

 

「おぉ~!!」

 

 まったく・・・。

 

 そう安堵してしまった自分を叱りたい。

 

「それで・・・こう・・かな!!」

 

 その状態のまま万丈のヤロウはこっちに向けて剣を振り下ろしてきやがった!

 

 するとどうなるか・・・こっちに向かってビートクローザーのグリップエンドを1回引くことで発動する スマッシュスラッシュ の斬撃が飛んでくる。

 

「--っておいバカ!! なんでこっちに向けて攻撃するんだよ!?」

 

 なんとか避けたからいいものを!

 

 だが、アイツは俺の声が聞こえてないのか--

 

「じゃあ・・・こうすると・・・」

 

『ヒッパレー! ヒッパレー!』

 

 --グリップエンドを2回引いてやがった。

 

 すると今度は、剣を横薙ぎに振り抜きやがった。

 

 俺の元に ミリオンスラッシュ の蒼炎の火炎弾が飛んでくる。

 

「ちょっ!? マジか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 渾身の回避でなんとか当たらずに済んだ。

 

 ホント、万丈と訓練するとろくなことがないよ・・・。

 

 

 

「・・・俺、必要ないんじゃないか? ・・・帰っていいか?」

 

 それは勘弁してください、和海さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練を終えシャワーを浴びに行くと、手にドリンクを持ったまま座ってボーっとしてる一夏がいた。

 

「よう。お前もシャワーか?」

 

「あぁ、そのつもりだったんだけどな・・・」

 

「ん?」

 

「いや・・・さっきまで鈴と話してたんだ・・・」

 

 さすが鈴、行動が早い。

 

「そうか・・・で、どうするんだおまえは?」

 

「そうだな・・・とりあえず、鈴も前を向いてがんばってんだ。俺だけがいつまでもウジウジしてらんねぇとは思った」

 

「・・・そうか」

 

「創一のことを忘れる・・・なんてことはできないけど、それも受け入れて前に進んでいくよ」

 

 もう大丈夫そうだな。

 

 隣で黙って聞いてた和海も笑みを浮かべてる。

 

「さしあたっては、今度のクラス対抗戦だな! 鈴やクラスのみんなをガッカリさせねぇように訓練しとかねぇとな!!」

 

「張り切るのはいいけど、あんまり無様な試合だけはすんなよ」

 

「普通に1組の恥になるからな」

 

「お前ら!? そこは普通に応援してくれるとこだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一(簪)side

 

「準備の方は大丈夫か?」

 

『問題な~し! 今すぐでもOKなくらいだよ!』

 

『・・・はぁ~・・・』

 

 現在、クラス対抗戦乱入への最終確認中。

 モニターで話している2人のテンションの差がスゴイな。

 

『およよ? どうしたの、くろのん? 溜息つくと幸せが逃げるよ』

 

「緊張してるのか? 世界的大企業の社長がこんなことで緊張すんなよ」

 

『大丈夫だよ、くろのん! この束さんがついてるからね! 安心して行動してくれたまえ!!』

 

『・・・あんたたちのせいで不安しかないわよ。まったく・・・』

 

 今さらなに言ってんだ。

 

『まぁいいけど・・・。けど、そっちは大丈夫なんでしょうね? そっちに行ったらシスコン生徒会長がいるとかゴメンよ?』

 

「問題ない。なんか知らんが時々視線を感じるが、移動中のみだ。どこかの部屋に入ればすぐなくなるしな。試合中は控室に1人でいることになってるから大丈夫だろ」

 

 ホントにウザいんだよな、あの視線。

 

 教室と整備室、後は寮の部屋ぐらいしか安心できる場所ないんじゃないか?

 

 これじゃ、引きこもりになりたくもなるわ。

 

『それより~、よかったの?』

 

『なにが?』

 

『ゴーレムの強さ。もっと強くできるよ?』

 

「いや、いい。今回の目的はあくまでもヤツらに“倒してもらうこと”だからな」

 

 そう、パンドラボックスの在処を知るためにな。

 

「だから、カメラだけは壊されないようにしとけよ」

 

『あいあいさー!!』

 

『本当に大丈夫なの? 果てしなく不安なんだけど・・・』

 

 まぁ、なるようになるだろ。

 

 

 

  

 

 

 



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22話

 征兎side

 

 待ちに待った? クラス対抗戦当日。

 

 出場するわけでもない俺は和海とともに観客席に座って試合が始まるのを待っている。

 

 いちおう箒とセシリアみたいに管制室で見るという手もあったが、一夏の訓練を手伝ったわけでもないし、こっちにした。

 まぁ、さすがに移動する前に一言 がんばれ とは言っておいた。

 

 ちなみに万丈は別の場所で友達と見ているのだろう。ここにはいない。

 

 第一試合は 1組-2組 と発表があった。

 第二試合は 3組-4組。 なんの捻りもない組み合わせだった。

 

 そういえば4組の代表は、あの玄乃さんに追い詰められたクソ企業のせいで専用機がないから、今回は訓練機での出場になるらしいとのほほんさんが教えてくれた。

 

 しかも彼女は、自分で専用機を製造しているんだとか。

 ・・・一科学者として気になるな・・・。今度、見せてもらえないかな?

 

「征兎。一夏と鈴の試合、どうなると思う?」

 

「試合展開の話か? それとも結果の予想?」

 

「両方」

 

 ・・・ふむ。

 

「まぁ展開の方はともかく、結果は鈴の勝ちかな」

 

「なんでそう思うんだ? 大体想像つくけどな・・・」

 

「いやそもそも、この前初めて専用機を受け取ったヤツと国で1年間しっかり訓練した代表候補生だぞ? いくら一夏のポテンシャルが高かろうと、今すぐにひっくり返せるもんじゃないだろ」

 

 しかも鈴は、俺たちと別れたわずか1年で代表候補生になった。いわゆる天才の部類なのだろう。

 さらに、短期間でそこまでの地位を得たということはかなり努力したに違いない。

 昨日今日、訓練がんばったからといって覆せるものではあるまい。

 

「やっぱりそうかぁ。まぁでも、応援はするんだろ?」

 

「まぁ・・・いちおうな」

 

 俺たちのクラスの代表なんだからな。

 

 

 --と、ようやく二人がピットから出てきた。

 

 片方は、一夏と専用機・白式。

 

 もう片方からは、鈴が専用機である甲龍(シェンロン)を纏い出てきた。

 

「あれが鈴の専用機か・・・。なんというかとげとげしいな」

 

「本人の性格とかが反映されてんじゃねぇの?」

 

「お前・・・あとで殺されんぞ?」

 

 大丈夫。

 バレなきゃいいんだよ、バレなきゃさ。

 

 しっかし一夏にとっては経験もそうだが、機体の相性的にも厳しい試合になりそうだな。

 調べた感じ、鈴の専用機は燃費の良さをコンセプトの一つに置いている。そして一夏の白式は零落白夜を筆頭にとても燃費が悪い。

 相手に遠距離武器がないことが唯一の救いかな。近・中距離型の機体みたいだから。

 

 さらに、甲龍には初見では避けるのが難しい武装もある。

 アレを見切り、鈴の懐に潜り、零落白夜を当てる。

 一夏が勝つためには、最低でもこれらをやらないといけないと俺は思う。

 

 でも、勝負は時の運。

 流れ次第でどうとでもなるかもしれないし、そのままボコられて終わるかもしれない。

 わずかなチャンスを逃すなよ、一夏!

 

 

 

 

 そしてようやく、試合が開始された--。

 

 

 

 

 

 

 



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23話

 玄乃side

 

 クラス対抗戦への乱入? のために渋々・・・本当に渋々、あらかじめ聞いていた更識簪の控室内にスチームガンを使い、転移してきた。

 

 中では、すでにブラッドスタークになったアイツが試合をモニターで見ていた。

 

「【ん? 早いじゃねーか。もっとゆっくり来るかと思ってたぜ】」

 

「いちおう、早めに来ておこうと思ってね」

 

「【へぇ~。いい心がけじゃねーか】」

 

「はいはい・・・」

 

 本当は、アンタと束ちゃんが計画したことだから不安で仕方なかっただけなんだけどね。

 

 

 

 モニターを見ると、ちょうど一夏くんと鈴ちゃんが試合をしているところだった。

 二人とも面識があるだけに--特に一夏くんはこれから私たちがやることにかなり巻き込んでしまうことに多少罪悪感があるかな・・・。

 

 

 --あ・・・一夏くんが鈴ちゃんの専用機の武装の一つである衝撃砲で吹き飛ばされた。

 

「・・・衝撃砲・・・ね。どう思う?」

 

「【あ? ・・・そうだな・・・現時点ではまったく脅威にならないな。威力がそんなにないくせに使い手の目線で撃つ位置が簡単にわかっちまう。せっかく360度すべてに撃てるのに宝の持ち腐れだな】」

 

「そこは、これからの成長に期待するしかないわね」

 

 というか、もっと優しい評価してあげれば?

 いちおう多少なりとも一緒の時間を過ごしたんだから。

 

 そうこうしているうちに、一夏くんが衝撃砲を避け始め、反撃に転じようとしていた。

 

 

 --そろそろアレが来る頃ね・・・。

 

 

「【--そろそろか】」

 

 そう言って、となりのヤツは試合を見ているモニターの横に新たなモニターを出し、その下にコンソールを展開した。

 

 --って・・・

 

「そのモニターとコンソール・・・なに?」

 

「【これは無人機をコントロールできるようにするやつだ。束に任せておくと肝心なところで手心を加えそうだからな。・・・妹のこと・・・とかな】」

 

 なるほど・・・無人機をコントロールするため・・・ね。

 

 そして今の言葉で察した。

 原作通り、箒ちゃんが行動を起こしたときは、容赦なく殺す・・・と。

 

「大丈夫なの・・・?」

 

「【別に問題ないだろ。アイツだって主人公君を殺さなければいいって言ってたからな】」

 

 

 --やっぱり私があの空間からいなくなった後になんか話してたのね。

 私、そんなこと知らないし・・・。

 

 

「はぁ~・・・。まぁいいけど、やりすぎないように注意してよ?原作から離れ過ぎると後々の計画の修正が大変なんだから」

 

「【その時はその時さ。臨機応変に対応すればいいだろ】」

 

 

 ・・・行き当たりばったりの間違いじゃない、それ?

 

 まぁ、けど・・・うん、わかってた。

 コイツと束ちゃんに私がなにか言ったところで聞いてくれることなんてほぼほぼないもんね。

 

 

「【さて、始めるか】」

 

 モニターの向こうでは一夏くんがイグニッション・ブースト・・・だっけ?それを使って鈴ちゃんに向かっていくところだ。

 

 

「【--楽しませてくれよ?】」

 

 

 ヤツがコンソールのボタンの一つをタップする。

 

 すると、上空から一筋の光線がアリーナに放たれ、煙が立ち込める。

 

 

 

 --私たちの計画が始動してしまった瞬間だった。

 

 これからどうなってしまうのやら・・・。

 

 とりあえず、箒ちゃん・・・無事に明日を迎えられるといいね。

 

 

 

 

 

 



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24話

 征兎side

 

 一夏と鈴の試合を観戦中だったんだけど・・・。

 一夏が衝撃砲を避け始め、反撃に移ろうとした瞬間、上空から何かが降ってきた。

 

 ようやく煙が晴れたと思ったのも束の間、黒い機械的なヤツがそこにいた。

 ってか、アリーナのシールドを簡単に破ってきやがった!

 どんな威力してやがんだ!?

 

 次の瞬間にはソイツはそのヤバい威力の光線を一夏と鈴に向けて撃った。

 当然二人は避けるが、光線は後ろのシールドを破り着弾。

 

 この瞬間、アリーナの観客がパニックに陥ってしまった。

 

「--ぐっ!? クソっ!? どうする征兎!?」

 

「とにかく、まずは落ち着こう! このパニックだ。出口は混雑してどうせすぐには避難できないだろう。あそこで先生たちがやってる避難誘導を手伝おう! それに・・・このご時世、俺たちが先に避難しようものなら余計な非難を浴びるからな! ・・・なんて」

 

「・・・お前、こんなときにそんな気が抜けるような言うなよ」

 

 すまん。なんか唐突に思いついちまったから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一(簪)side

 

 無人機をアリーナに送り込んだはいいが、こんな時にお姫様抱っこをして吞気に話していた主人公君たちにイラつき、2、3発余計に撃たせてしまった

 

「ね、ねぇ・・・なんか原作より攻撃回数が多かった気がするんだけど・・・」

 

「【あぁ、ついムカついてな。こんな時にお姫様抱っこをして、さらに吞気に話しやがって・・・ずいぶんとナメた真似してくれやがったからからな】」

 

「そ、そう・・・(原作通りの流れだと思うんだけど・・・?)」

 

 しかし、通信を傍受していたが自分がなんとかするとか主人公君が言ってやがった。

 アイツは自分の今の実力を理解できていないのか?

 現に、強さを抑えて作った無人機に全然ダメージを与えられてない。

 

「--って流しそうになったけど、向こうの通信傍受できんの!?」

 

「【まぁな。俺と束だぞ? 当然できるに決まってるだろ】」

 

「・・・それで納得できちゃうんだから困るのよね。--で、なにをそんなにイライラしてるの?」

 

「【・・・なんでそう思う?】」

 

「ん~・・・なんとなく? そういう雰囲気が出てる気がしてね」

 

 無意識に出てたか・・・。

 今後は気を付けるか。

 

「【主人公君の自己評価の過大さが気に入らなくてな・・・。現に今も無人機に全然ダメージを与えられてないくせに、よく自分がなんとかするとか、みんなを守るとかホザけるな--ってな】」

 

 ホントに考えるだけでもイライラするな。

 

「【ったく、アイツがあんな条件つけなければ今頃殺してやってるのによ】」

 

「なるほどね~。(まー確かに、彼のそんなところが気に入らないから二次創作でアンチ作品や色々な改変が加えられたりしてたんだろうしね。・・・言わないけど)」

 

 

 モニターの様子とアイツらの通信を聞いてみると、ようやくアレが無人機だとわかったみたいだ。

 ったく、おせーよ。

 

「しっかし、オープンチャンネルならともかく、プライベートチャンネルも傍受しちゃうとはね・・・。」

 

 さて、そろそろヤツがやらかしてくれる筈なんだが・・・。

 

「【・・・? おい、そろそろのはずじゃなかったか?】」

 

「そういえばそうね。そろそろ放送を使ってやってくれる筈なのにね?」

 

 チッ・・・。

 変なところで改変起こしやがって。

 

 コンソールを操作し、アリーナをあらゆる角度から見渡す。

 

 --すると、ほとんどのヤツらが避難したであろうところにまだ残ってる一部のヤツら。

 そのメンツの顔を認識すると、仮面の下の顔がニヤケているのがわかる。

 

 コンソールを操作する。

 指が弾んでいる。

 

「ん? 急にどうしたの?」

 

 そう言いながら、隣にいるヤツがモニターをのぞき込んでくる。

 

「アリーナ・・・もう、みんな避難して・・・ってあそこにいるのって・・・!?」

 

 そこにいたヤツらに気づいたみたいだな。

 

 そう、俺の狙いはソイツらだ。

 

 

「【ハハハハハ!!】」

 

 

「あなた・・・まさか・・・!?」

 

 

 コンソールのボタンをタップする。

 

 

 アリーナの一部に向けて、無人機の腕から光線が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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25話

 征兎side

 

 突然の謎の機体の襲来。

 

 アリーナが大混乱して、少し避難が遅れてしまったような気がするけど、みんなが無事に避難したっぽいから和海といっしょに確認していた。

 

「和海、そっちはどうだ?」

 

「こっちは大丈夫だ!--もうみんな避難したか?」

 

「あぁ、多分そうだと・・・思う・・・けど」

 

 そう言いながらも最終確認を兼ねてアリーナをざっと見渡す。

 

 すると、ちょっとだけ離れたところに何人か残っていた。--って!?

 

「箒!?」

 

「なんであんなとこに!?」

 

 よく見ると、何人かといっしょか・・・?

 

 一人の子がケガしちまってるな。その子に肩を貸してるみたいだな。

 

「つーかアイツら、俺たちのクラスのヤツらじゃねーか!?」

 

 ・・・え? そうなの?

 

「・・・征兎、お前が考えていたことはだいたいわかるぞ・・・。クラスメイトの顔と名前くらい覚えておけよ」

 

「・・・すみません」

 

 --って!!

 

「こんなやりとりしてる場合じゃないんだった!?」

 

「とにかく、アイツらのところに行くぞ!」

 

 まったく、俺たちは・・・。

 

 とにかく、箒たちのところに行かないと・・・!

 

 箒たちは4人くらいで、箒がケガしてる子に肩を貸し、他2人が気遣っている感じかな・・・。

 ケガしてる当人は、おそらく自分なんかほっておいて逃げてとか言ってそうだからな。

 

 

 

 だが、そこに向かっている最中に気づいた・・・・・・気づいてしまった。

 

 

 無人機の腕が彼女たちに向いていることに・・・。

 

 そして、その腕にエネルギーがチャージされていることに・・・。

 

 

 このままじゃ、あのヤバい威力の光線が撃たれる・・・!?

 

 

「もういいよ!? 私のことは置いてみんな逃げて!!」

「何を言っている!! そんなことできるわけないだろう!!」

「そうだよ!大丈夫、きっとなんとかなるよ!!」

「このまま逃げちゃったらそれこそ後悔するしね!!」

「でも・・・」

 

 

 こんなときに、素晴らしい友情? を見ることができるなんて・・・。

 いや、こんなときだからこそ・・・か。

 

 だけど、本格的にヤバいのは確実。

 

 こうなったら・・・。

 

 

 ビルドドライバーを取り出し、装着する。

 

「和海!!」

 

「わかってる!!」

 

 和海もスクラッシュドライバーを取り出し、装着。

 

 

 ホントはベストマッチがいいけど、そんな余裕はない。

 

 とりあえずボトルを2本取り出し、装填。

 

『ライオン!』 『掃除機!』

『ベストマッチ!』

 

 あ・・・ベストマッチだ・・・。

 

 ラッキー!!

 

『ロボットゼリー!』

 

 和海も装填したみたいだな。

 

 やったことないけど走りながらレバーを回す。

 

 頼むから間に合ってくれ!!

 

『Are you ready?』

 

 よし・・・!!

 

「「変身!!」」

 

 

 変身が完了したその直後、光線が発射され、腕をクロスさせた俺と和海に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏side

 

 試合中に乱入してきたISを無人機と仮定し、鈴といっしょにヤツに改めて攻撃を仕掛けようとしていたところだったんだけど--

 

「--? なんだ?」

 

「どうしたの、一夏?」

 

「いや・・・なんかヤツの動きが・・・」

 

 こっちじゃなくて別の方を見てる・・・?

 

 ハイパーセンサーを使い、ヤツが見ている方を見てみる。

 --あれは!?

 

「箒!?」

 

「!? どうしたのよ、一夏!!」

 

「鈴、あそこ!!」

 

「え? --!?」

 

 鈴も箒たちを認識したみたいだな。

 

 とにかく、ヤツの注意を箒たちから逸らしたいけど、さっきまでと違ってまったくこっちに見向きもしねぇ!?

 

 それなら!!

 

「おおおお!!」

 

「一夏!?ちょっと!?」

 

 ヤツに斬りかかり、こっちに引き付ける!

 

 そうしたかったけど、ヤツは片腕を箒たちに向けたまま顔ともう片方の腕をこっちに向けて迎撃してきた。

 

 その攻撃で後退せざるを得なくなってしまった。

 

「クソッ!!」

 

「バカ! 何やってんのよ、アンタは!」

 

 バカなことやってるって俺だってわかってる。--けど、

 

「だけど、このままじゃ--」

 

「あたしだってわかってるわよ。だけど、なんの考えもなしに突っ込んだってさっきの繰り返しよ!!」

 

 クソ・・・どうすればいいんだよ。

 

 

 不意になんかエネルギーを溜める音がしたと思うと、ヤツが箒たちに向けている方の腕が今にも撃ちそうな状態だった。

 

 

「鈴! ヤツが!!」

 

「--!? まさか!!」

 

 

 撃たれる・・・!?

 

 

「やめなさい!! そこにはまだ・・・!!」

 

 鈴がヤツに衝撃砲を撃つも効いてないのか見向きもしない。

 

 もう、なりふり構ってられねぇ!!

 

 そうして飛び出したが--

 

 

 

 

 --無情にも攻撃が放たれた。

 

 

「やめてええええええええええええ!!」

「やめろおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --攻撃が放たれたところから、煙が上がっている・・・。

 

 鈴も俺も、すぐそこに敵がいるのに呆然としてしまう。

 

「ウソ・・・だろ・・・」

 

「そんな・・・」

 

 俺たちの心情など知らんとばかりに、無人機が今度はこっちに顔を向けてくる。

 

「一夏・・・気持ちはわかるけど・・・」

 

「あぁ・・・」

 

 わかってる・・・けど、このままじゃ・・・まともに戦えない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --!!!!!?????

 

 

 だけど突然、無人機がそんな反応したかのようにグラついた!

 

「・・・え?」

 

「な、なんだ!?」

 

 

 俺たちがそんな反応しているしている間にも無人機への攻撃は続いている。

 

 見ると、無人機の攻撃後の煙の中からだ。

 そこから、ビーム?が無人機へと放たれている。

 

 

 

『Ready go!』

 

 

 

 ・・・!?

 今の音声!!

 

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 

 その音声が聞こえたと同時に煙の中からライオン? の形のエネルギー波っていうのか? が無人機へ直撃した。

 無人機はさすがにこの威力は耐えられなかったのか反対側の壁に吹き飛ばされぶつかった。

 

 

 ってか今の攻撃は!!!

 

 

 攻撃が飛んできた方を見ると、さっきまで立ち込めていた煙が晴れている。

 

 

「あぁ~・・・こうするしかなかったとはいえ、ちょっと効いたな」

 

「さすがにあのバ火力だからな。俺もちょっとキツイわ・・・」

 

 

 そこにいたのは--

 

 

 少し汚れているけど無事な箒たちと、

 

 

 

『たてがみサイクロン!』

『ライオンクリーナー!』

『イエーイ!』

 

『ロボットイングリス!』

『ブラァ!』

 

 

 こんなときになのに、気が抜けそうなことを言っている--

 

 

 

 

 

 

 

 

   --専用機を纏った頼れる親友たちだった。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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26話

 征兎side

 

『征兎!! 和海!!』

 

 乱入者の攻撃をなんとか受け止め、ヤロウにお返しをした直後、一夏から大音量の通信がきた。

 

「あ~・・・一夏、とりあえずもう少し声を抑えてくれ。耳がやられそうだ」

 

『そんなことより!! 箒たちは!!?』

 

 そんなことって・・・。

 

「箒たちは大丈夫だ。なんとか間に合ってよかったよ」

 

『そうか!! はぁ~・・・よかった・・・』

 

 ようやく声を抑えてくれた・・・。

 気持ちはわかるけど勘弁してくれ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒たちを改めて避難させたところで、いつのまにか起き上がっていた乱入者を見る。

 

 なぜか、今この瞬間ですら攻撃をしてくる気配がない・・・?

 

「なぁ和海・・・アイツ、なんでなにも行動を起こさないんだ?」

 

「さぁな。・・・なら、とりあえず・・・一夏!!」

 

 何を思い立ったのか和海が急に一夏に通信する。

 

『なんだ?』

 

「アイツと戦ってみてなんか気づいたこととかないか?」

 

『俺と鈴はアイツが無人機じゃないかと思うんだ。こうやって話しているときに攻撃してこないのもそうだし、動きもどこか機械じみていたからな』

 

「なるほどな・・・」

 

 無人機・・・ね。

 

「・・・だ、そうだぞ征兎」

 

「・・・わかった。とりあえずヤツを無人機としてやるか」

 

 そのほうが気兼ねなく攻撃できるし。

 

 まぁ例え人が乗ってたとしても、あんなことをしやがったヤツに手加減なぞするつもりないがな。

 

 

 

 

 

「ところで征兎・・・」

 

「ん? ・・・なんだ?」

 

「さっきから気になってたんだけど・・・なんでそのフォームなんだ?」

 

「え・・・?」

 

「アイツの攻撃を防ぐならもっと別なフォームの方がよかっただろ?」

 

「そんな余裕なかっただろうよ・・・。とりあえず2本取り出したら、たまたまこれだったんだ」

 

 そりゃ俺だってもっと適したフォームがあると思うけど、あの状況じゃ仕方ないだろ。

 

「いや、お前がイメージすれば拡張領域から望んだボトルを出せるだろ・・・?」

 

「・・・・・・あ」

 

 そういえば・・・そんなことができたような・・・?

 

「・・・お前・・・まさか・・・」

 

「・・・・・・」

 

 いや・・・ね。

 ほら、人間だれしもミスはあるもんだからさ・・・。

 

 

『あのさ・・・もういいかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して・・・!!

 

「さて、改めていかせてもらおうか」

 

「さっきビームぶっ放された借りも返さねぇとな」

 

 

 新たにボトルを2本取り出し、装填する。

 

『タカ!』 『ガトリング!』

『ベストマッチ!』

 

 レバーを回し、前後にハーフボディーが生成される。

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『天空の暴れん坊!』

『ホークガトリング!』

『イエーイ!』

 

 とりあえず、これでいかせてもらうぜ!

 

「よし! 一夏、鈴! いくぜ!!」

 

『おう!!』

 

『あたしはいつでもいいわよ!!』

 

 手に ホークガトリンガー を出す。

 

「・・・相変わらず、独創的な武器だな」

 

「ふっふっふ。これぞ、このフォームのために作った武器・ホークガトリンガー!すごいでしょう!最っ高でしょ!!天っっ才でしょ!!!」 

 

「よし!一夏、鈴!いくぞ!!」

 

『おう!』

『OK!』

 

 あれ? スルー??

 

 まぁいいや。

 

 俺は、背中に出現した翼 ソレスタルウイング で羽ばたきながらこのセリフを言う。

 

「さぁ、実験を始めよう」

 

 武器を構え、ヤツに向かい飛んでいく。

 

 その下で和海が--

 

「心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

 --と右手を胸に当てながら言い、ヤツに向かっていった

 

 

 

 

 ・・・なに今のセリフ・・・カッコイイんだけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 こうなったら・・・この戦いでこの天才物理学者の真なる力を見せつけてやるーーーーーーー!!!!

 

 

  

 

 



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27話

 創一(簪)side

 

 無人機とヤツらの戦いをモニターで見ている・・・が、ビルドとグリスが本格的に参戦してきたということは、もうそろそろ終わるだろう。

 

「まったく・・・いくら問題ないとはいえ、ホントに撃つなんて・・・」

 

「【別にいいだろ? これも原作の流れの一つなんだからよ】」

 

「もう色々違うと思うんだけど・・・」

 

 ったく、終わったことをいつまでもウダウダと・・・。

 

「【そんなことより、もうすぐ終わるぞ。さっさと準備しとけよ】」

 

「はぁ~~、本当に私もやらなきゃダメ?」

 

 何を今さら・・・。

 

「【当たり前だろ。俺一人でアイツらを相手するのは、できなくもないが、面倒だろ?】」

 

「できるならやってよね・・・まったく・・・」

 

 そう言いながらも、スチームガンとボトルを取り出している。

 

 ボイスチェンジャーも搭載してヤル気満々のくせしてよく言うぜ。

 

 

 

「ふぅ~・・・」

 

 息を一つ吐き、ボトルを軽く振り、キャップを回す。

 

 そして、スチームガンに装填。

 

『バット!』

 

 

「・・・蒸血」

 

 

『ミストマッチ!』

 

 トリガーを引き、その音声が流れた後、噴出された トランジェルスチーム がヤツの体を包む。

 

 

『バット・バ・バット...ファイヤー!』

 

 

 火花と炸裂音とともに煙が晴れ、そこにいたのは、コウモリのような意匠を持った黒い姿。

 

 

 --ナイトローグ

 

 

「【フフフフフ・・・いいじゃねーか。】」

 

「【はぁ・・・】」

 

 声を変えても中身が変わったわけじゃねぇからな・・・。

 

 しかし、早々に溜息かよ・・・。

 まぁいい。

 

「【よし、いくぞ】」

 

「【さっさと終わらせるぞ・・・】」

 

 

 

 それは、ヤツら次第だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 クラス対抗戦に乱入してきたISを無人機とし、和海・一夏・鈴と一緒に戦っている。

 

 

 しかし、ヤツの装甲の硬さと無人機ならではの動きに翻弄されている感じがある。

 

 鈴の衝撃砲も全然効いてないっぽいし、近接武器による攻撃もその硬さ故にいまいち。

 和海のビームモードによる攻撃と俺のホークガトリンガーによる単発の攻撃も微妙。

 可能性があるとしたら一夏の零落白夜なんだが、そんなにホイホイ使えないし、俺たちが参戦する前に何回か避けられている。

 唯一の救いは、こちらが攻撃しなければ向こうも攻撃してこないということ。これは地味に助かっている。

 だけど・・・どうすればいいのよ!?--と嘆きたくなるような状況ではある。

 

 

 俺がいなければな・・・・・・なんて・・・。

 

 

「アホなこと考えてないでさっさと戦え」

 

「わかってるよ・・・」

 

 なんでわかったんだ・・・?

 

 

 

 でも、単発じゃ意味ないなら・・・

 

「デカいのを撃つ! ヤツから離れろ!」

 

 そう言いながら、ホークガトリンガーの リボルマガジン を回転させる。

 

『10! 20! 30!』

 

 そう音声が聞こえてくるけど・・・まだまだ!

 

『40! 50! 60』

 

 もう少し・・・見てろよ・・・!

 

『70! 80! 90!』

 

 よ~~し!

 

『100! フルバレット!』

 

 キターー! 装填完了!!

 

 いくぜ!!

 

 

 装填完了の音声の後に、トリガーを引く。

 すると--球状の特殊フィールドが展開され、ヤツを隔離する。

 

 これで周りへの被害を気にすることもないし、ヤツに避けられる心配もなくなる。

 

「くらえ!!」

 

 

 そして、100発の弾丸がヤツに撃ち込まれる。

 

 そこそこの轟音とともに煙があがり、ヤツの姿も見えなくなる。

 

 

 

 弾丸を撃ち終え、煙が晴れるのを待つ。

 

 みんなも静かにそのときを待っている・・・。

 

 

 

 

 --そして、煙が晴れたときに待っていた現実は・・・

 

 

 

「「「「----!?」」」」

 

 

 所々に傷はついているけど、けっこう元気そうな? ヤツだった。

 

 

「マジかよ・・・」

 

「冗談キツイわね」

 

 一夏と鈴が顔を引きつらせながら言っているが、気持ちは俺も同じだ・・・。

 

 

 チクショーーー!!

 けっこうな大技だったのに・・・。

 

「弾数が増えたけど、威力が変わらなかったからダメだったのか・・・?」

 

 ・・・え~。

 

「どうする?・・・征兎」

 

 和海にそう聞かれてるが・・・

 

 

 マジかよ~・・・。

 自信満々で撃っただけにけっこうショックなんだけど・・・。

 

 

 

 まぁいいさ。

 今回のことをふまえて威力の方は後で調整するとして・・・今はヤツをどうするかだな。

 

 

 

 

 

 --さて、どうやって倒すか・・・。

 

 

 

 

 



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28話

 征兎side

 

 ホークガトリンガーでの一撃があんま効いてないことはショックだったが、実は次なる手を考えてないわけではない。

 

 まずは--

 

「一夏、ちょっといいか?」

 

『どうした、征兎?』

 

 確認したいことがあって一夏に通信したかったから、アイツが会話してるだけのときに攻撃してこないのはありがたい。

 

「零落白夜・・・後、何回使える?」

 

『・・・残りのSEを考えると・・・あと1回だと思う』

 

 1回か・・・。

 

「・・・わかった。なら、俺たちでヤツの動きをなんとか止めるから、一夏と鈴でそれを決めてくれ」

 

『大丈夫なの?』

 

「あぁ、任せろ」

 

『わかったわ。ならこっちは絶対に決めさせるから、ちゃんとやりなさいよ!』

 

『決めさせるって・・・なにもなければ外すみたいに言うなよ・・・』

 

 まぁ現に外しまくってるからな・・・フォローのしようがない。

 

「動きを止めるって・・・なにか方法があるのか?」

 

「まぁな」

 

 和海にそう答えると同時に、さっき視界の端に見えた人物に通信する。

 

「失礼・・・今、大丈夫か?」

 

『えぇ、問題ありませんわ』

 

「なら、そこからヤツの腕の砲身を撃つことって可能か?」

 

『もちろんですわ。そこを狙えばよろしくて?』

 

「あぁ、次に仕掛けたときに頼む。タイミングは任せる」

 

『了解ですわ』

 

 そこで通信を終了させる。

 

 

 ・・・よし。

 

「・・・で、俺はどうすればいい?」

 

「和海はもう片方の砲身部分を頼む。俺はアイツの動きを止める」

 

「わかった」

 

 これで作戦は決まった!

 

 

 

 拡張領域から、茶色と水色のボトルを取り出し、ベルトに装填する。

 

『ゴリラ!』 『ダイヤモンド!』

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『輝きのデストロイヤー!』

『ゴリラモンド!』

『イエーイ!』

 

 右腕には巨大なナックル サドンデストロイヤー。

 左側の肩はダイヤモンドの形をしていて、胸部や腕にも小さなダイヤモンドが埋め込まれている。

 

 ビルド・ゴリラモンドフォーム。

 

 

 これで準備は整った!

 

 

「最初っからそれでいけばよかったんじゃね?」

 

 うるさいよ、和海くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、さっそくいかせてもらいますかね」

 

 言いながら、ヤツに向かって行く。

 

 

「おらぁ!!」

 

 

 ヤツが反応したが関係ねぇ!!

 

 右腕を振り抜き、思い切り殴りつける。

 

 すると、ヤツは軽く吹き飛び、転倒した。

 

 

「・・・マジ?」

 

「スゲェ」

 

 はっはっは! どうよ!!

 

 

 内心、高笑いしてるのもつかの間、ヤツが腕を振って攻撃してきた。

 何気にはじめてのパターンだな・・・。

 

 だけど、危なげなく後ろに飛びながら避ける。

 

 

 いつもなら、もう少しこのフォームでの戦闘を楽しみたいところだが、コイツ相手にそんなことはしない。

 今度こそさっさと終わらせる!

 

「いくぞ。準備はいいか? 和海、セシリア」

 

「誰に言ってんだ」

 

『もちろんOKですわ!』

 

 よ~し! いくぜ!!

 

 

「勝利の法則は決まった!!」

 

 

 

 俺は、ヤツの足元に飛び込み、ベルトのレバーを一気に回す。

 

『Ready go!』

 

 狙いは脚!!

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 その音声と同時に左腕を脚に当て、ヤツの片脚をダイヤモンドに変える。

 その後、右腕を振り抜き、それを砕く。

 

 すると当然、バランスを失い倒れそうになる。

 

「今だ!!」

 

 そう言うとほぼ同時に、左側の砲身部分にビットのレーザーが降り注ぐ。

 軽い爆発が起きると、とどめと言わんばかりに一筋のレーザーが直撃する。

 

 ヤツの左腕の砲身は爆発し、おそらく使えなくなっただろう。

 

 

 右側は--

 

「しゃぁ!!」

 

 和海はそう気合いを入れて? ドライバーのレンチを下ろす。

 

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

 

 その音声の後、和海は飛び上がる。

 

 その肩や背中からヴァリアブルゼリーが勢いよく噴出し、加速する。

 

「らぁぁぁぁ!!」

 

 そして、右側砲身部分にエネルギーが乗ったキックをくらわせた。

 

 

 以外に大きな爆発が起き、右腕が吹き飛んだ・・・。

 

 

 和海・・・容赦ねぇ・・・。

 

 

 まぁ・・・ともかく--

 

 

「今だ! 一夏!!」

 

 --と言い、一夏たちの方を見ると・・・

 

 

 鈴の衝撃砲を背中で受けている一夏がいた。

 

 零落白夜のエネルギーを外部からもらうためなんだろうけど・・・ムチャするな。

 

 

 その勢いのまま、零落白夜でヤツを斬りつけた。

 

 

 

 斬られたところが真っ二つになり、落ちる。

 そのままヤツは崩れ落ち、動かなくなった・・・。

 

「・・・・・・」

 

 ・・・やったか?

 

 

 しばらく様子を見ていたけど、動く気配がなかった。

 

 やった・・・!!

 

 みんなも安堵の息を吐き、互いを労ったりしていたところだったが--

 

 

 --ヤツの近くにいきなり煙が発生した。

 

 

 突然のことだが、みんなもちろん警戒する。

 

 

 

 --パチパチパチパチ

 

 

 煙の中から拍手が聞こえてくる。

 

 マジでなんなんだ・・・?

 

 

「【いや~、お見事だねぇ~】」

 

 

 そんなふざけた言葉とともに煙が晴れるとそこには--

 

 

 

 

 

 

 

 --赤いコブラのようなヤツと黒いコウモリのようなヤツがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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29話

 征兎side

 

 ようやく無人機を倒したのに間髪入れずに現れやがった二人組。

 

 次々と起こる出来事に嘆きたくなるけど、それを表に出さずヤツらを見据える。

 

 俺たちと同じ全身装甲。

 共通しているのは、色違いだがバイザーがつけられていることと額にある煙突のようなユニット。

 だけどその姿を見た第一印象は--

 

「赤いコブラ・・・と黒いコウモリ・・・?」

 

 思わずそう呟いてしまった・・・。

 

「【惜しい! 正解はブラッドスターク。こっちの黒いのはナイトローグだ】」

 

 聞こえたみたいで、余裕綽々とそう答えられてしまった。

 

 だがヤツらの名称を知れたのはありがたい。

 

「・・・で、そのブラッドスタークさんたちがこんなとこにいったい何の用だ?」

 

 答えてくれるかわからないけど、いちおう聞き出しておかないと・・・。

 

「【あぁ、それはだな--】」

 

 え?

 そんなあっさり答えてくれんの?

 

 

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

「【--ん?】」

 

 

 急に雄たけびが聞こえたと思ったら、一夏がヤツにいきなり斬りかかっていった。

 

 --って!?

 

「一夏!?」

 

「なにやってんだ、おい!?」

 

 

 俺たちの静止なぞ聞かずに一夏はヤツに攻撃した。

 

 だがヤツは、おそらく拡張領域から取り出したであろうバルブのようなものがついた短剣で、それをあっさり受け止めた。

 

「【久しぶりだなぁ、織斑一夏くん】」

 

「テメェェェェェ!!」

 

「【やれやれ・・・。せっかくの再会なんだ。もっと楽しくいこうぜ】」

 

「ふざけんな!!」

 

 そのまま戦闘を続ける二人。

 

 だけど、怒りで頭に血が上っているためか一夏の攻撃はかなり単調になっているため、簡単にあしらわれている。

 

 

 それよりもさっきのやり取りの中で気になるワードがあったな。

 久しぶり? 再会?

 一夏はヤツと会ったことがあるのか?

 そのときにアイツに怒りを抱くなにかがあったと・・・。

 

 考えても憶測の域を出ないな。

 一夏に教えてもらえるのを待つしかないか・・・。

 

 

 

「【残念だが、いつまでもお前と遊んでるわけにもいかないんでね。悪く思わないでくれよ】」

 

「ぐ!?」

 

 いきなりヤツがそう言ったが早いか、剣についてるバルブを回した。

 

『エレキスチーム』

 

「がぁ!?」

 

 そんな音声とともに剣を振ると一夏に電撃が放たれた。

 それにより、一夏の体が痺れてしまったようだ。

 

「【ISの機能があるからこんなのは一時しのぎにすぎないが、俺には充分だ】」

 

 剣を収納し、持っていた銃にボトルを振り、セットする。

 

 --って、ボトル!?

 

『スチームブレイク! コブラ!』

 

 トリガーが引かれ、一夏に紫色のエネルギー弾が直撃する。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

 一夏はその勢いのまま吹き飛ばされていった。

 ISも解除され、意識も失ってしまったようだ。

 

「一夏!!」

「一夏さん!!」

 

 コイツ、マジか・・・。

 

 これってかなりヤバイんじゃ・・・。

 

「あんた覚悟はできてるんでしょうね!!」

 

「許しませんわ!!」

 

 一夏がやられたことで冷静さを失ってしまったのか、鈴とセシリアがスタークに向かっていってしまう。

 

「鈴! セシリア! 待て!!」

 

 和海が声を掛けるも--

 

「【さっきのを見てなかったのか?】」

 

『ライフルモード』

 

 スタークが持っていた銃と剣を組み合わせ、ライフルのような武器になった。

 

「【ザコは引っ込んでろ】」

 

『コブラ!』

 

『スチームショット! コブラ!』

 

 それにさっきと同じボトルを装填し、ヤツがトリガーを引くと、エネルギー弾が不規則な動きでセシリアに向かっていく。

 

「え? な、なんですの、これ!?」

 

 セシリアはその不規則な動きに完全に翻弄されてしまっているみたいだ。

 そして--

 

「きやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 直撃を受けてしまった。

 

 しかも、その一撃でSEが尽きてしまったようだ。

 ISが解除されている。

 

「マジか・・・」

 

 無人機戦途中参戦で、けっこう残ってたはずのセシリアのSEを一撃でだなんて・・・かなりの威力なのでは?

 

「セシリア!!」

 

「【よそ見してていいのか?】」

 

 セシリアに気を取られた鈴にそう言い、ヤツがライフルに改めてボトルを装填する。

 

 だけど、聞こえた音声は--

 

『フルボトル!』

 

 なっ!? フルボトルだと!?

 

 ヤツはそのまま鈴に狙いを定め、トリガーを引いた。

 

『スチームショット!』

 

 そこから、ロケットのような形をしたミサイル? のようなものが鈴に飛んでいく。

 

「くっ!?」

 

 だけど、鈴は持ち前の? 反射神経でとっさに避けた--が、ミサイル擬きは方向を変え、鈴に向かう。

 

「まさか、誘導弾!? ----あぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 さっきまでの戦いでSEをかなり消費していた鈴はそれをくらった後にISが解除されてしまった。

 

 

 

 これで、残っているのは俺と和海だけになってしまった。

 万丈は・・・・・・どこにいるのかわからないし・・・肝心なときにいないんだからアイツは。

 

 

 しかし、ここまでの戦闘ではあのナイトローグとかいうヤツ・・・まったく動く気配がない。

 俺としてはこのまま静観していてほしいけど、まぁどこかで絶対動いてくるよね~。

 

 

 

 それにしても・・・さっきスタークが鈴に使ったボトルって、もしかしてロケットか?

 

 だとすると・・・コイツら・・・。

 

「【さて・・・あとはお前たちだ】」

 

「クソっ!」

 

「和海、ちょっと待ってもらっていいか?」

 

 戦闘態勢に入ろうとしていた和海にそう声をかけた。

 

「征兎・・・?」

 

 和海は不思議そうにしているが、気にせずヤツらの方に向く。

 

「おい、ちょっと聞きたいことがある」

 

「【ん~、なんだ?】」

 

 俺がさっきから気になっていること・・・

 

「さっき、お前が使ったの・・・フルボトルだよな?」

 

「【・・・それが?】」

 

「しかもロケット。実は俺も同じものを持ってるんだ」

 

 そう言い、ロケットフルボトルを取り出し、見せる。

 

「【・・・ほぅ】」

 

「それにさっき聞いた音声はスチームブレイクにスチームショット・・・それ、トランスチームシステムじゃないのか?」

 

「【・・・なにが言いたいんだ?】」

 

「・・・まさか・・・!?」

 

 和海も気づいたか・・・。

 

「お前らが前にnascitaに侵入してトランスチームシステムのデータとボトル数本を盗んだヤツらじゃないかって思ってな。少なくとも関係者なのは間違いないだろ」

 

「【・・・・・・】」

 

 ・・・・・・??

 

「【ククククク・・・・・・フハハハハハ!!】」

 

 なぜか急に笑い出すスターク・・・。

 おかしくなっちまったのか?

 

「【まぁそりゃわかるよなぁ、あんだけ見せちまったら】」

 

 どこか飄々とした感じで笑いながら言うスターク。

 

 バレたところでなんとも思わない・・・そんな感じだ。

 

「【そうさ、俺たちがやった。まぁ話に聞いてたよりも遥かに楽な仕事だったがな】」

 

「・・・テメェ・・・」

 

 あ・・・和海、そろそろ限界かな・・・?

 さっきも、いいところで止めちゃったし・・・。

 

「だったら、俺たちのやることは決まった」

 

 俺も和海もおそらくかなり気合いが入っているだろう。

 

『ラビット!』 『タンク!』

『ベストマッチ!』

 

「お前たちから奪われたシステムとボトルを取り返す!」

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『鋼のムーンサルト!』

『ラビットタンク!』

『イエーイ!』

 

 

「【やれるもんならやってみてほしいもんだ】」

 

「余裕でいられるのも今のうちだ! ----!?」

 

「征兎!?」

 

 

 

 スタークに向かって行こうとしたら、突然なにかに吹っ飛ばされてしまった。

 

「【お前の相手は私がしてやろう】」

 

「ナイトローグ・・・」

 

 今の今まで話すどころか動く気配もなかったくせに・・・ここで動くのかよ。

 

「【安心しろ・・・お前には私を倒すことなど出来はしない】」

 

 チクショウ・・・やってやる・・・!!

 

 

 ブレードを持ってこちらに近づいてくるナイトローグに対し、こっちもビートクローザーを取り出した。

 

 

 

 

 

 

「【・・・ったく、あのヤロウ】」

 

「どうやら、俺とテメェの勝負になるみてぇだな」

 

「【まぁいい・・・しかたない、遊んでやるよ】」

 

「そんな余裕がいつまでも持つだろうな!」

 

 

 

 

「「いくぜ!!」」 

 

 

 



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30話

 征兎side

 

「はぁっ!!」

「【ふっ】」

 

 俺はビートクローザー、ローグはブレードで互いに攻撃を仕掛けていく。

 

 時折、武器をぶつけ合い、攻撃を回避したりしていく。

 

 傍から見るともしかしたら互角に見えてるかも知れない。

 

 

 

 そう……傍から見た場合は--

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

「【どうした? もう限界か?】」

 

 だけど、実際は俺の方があからさまに回避や防御が多くなり、ついには防御することしかできなくなっていた。

 

 

 

 

「【そういえば、気づかないのか?】」

 

「ぐ……なにがだ?」

 

 何度目かわからないが、ローグのブレードを受け止めたとき、突然ヤツがそんなことを言ってきた。

 

 気づいてない? ……いったい何にだ?

 

「【なぜ、このような状況になっているのにお前たち以外がここに来ないのか……とかな!】」

 

「がっ!?」

 

 腹に蹴りを入れられ、その場から転がってしまう。

 

 

 ヤツに言われてみると、確かに観客の避難が--まぁちょっと危ない場面はあったが……--思いのほかスムーズにいった割には教員部隊が来る気配がない。

 

「お前らが……なにかしたのか?」

 

 ふらつきながら立ち、ローグを見据える。

 

「【簡単なことだ。お前たちは誘い込まれたんだよ】」

 

「なんだと……?」

 

「【無人機を暴れさせれば、お前たち専用機持ちは高確率で出てくると思っていた。後は、お前たちがアリーナに揃ったところで全ての出入口を封鎖すればいいだけだ】」

 

「つまり目的は俺たちってわけだったのか」

 

「【正確には、お前たちと無人機を戦わせる--だがな】」

 

 戦闘データが目的だったのか!? やられた!?

 

「【どうせ今頃、システムをクラックしようとがんばっているだろうが、ヤツら如きに破れるわけもない】」

 

「だったらお前たちを倒して、開けさせるだけだ!!」

 

『Ready go!』

 

 俺はその場から真上に飛び、ローグにキックを放つ。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

 これでもくらえ!!

 

 

 

 

「【……甘い】」

 

 

 

 

「--なにっ!?」

 

 タンクの力を乗せた渾身の一発はローグに片手で受け止められてしまった。

 マジですか!?

 

 ってかこれヤバイんじゃ……。

 

 

 そのまま脚を離されたと同時に、ブレードで斬りつけられてしまった。

 

「ぐぁっ!?」

 

 

「【言ったはずだ】」

 

『アイススチーム』

 

「【お前は私に勝てない……と】」

 

 そのまま2回、3回と追撃を受けてしまう。

 

「ぐ……なんだこれ、凍って……!?」

 

 さらに、攻撃を受けたところが凍り付き、動けない。

 

『バット!』

 

「【終わりだ……】」

 

 銃口が俺に向けられる。

 

『スチームブレイク! バット!』

 

 トリガーが引かれ、身動きがロクに取れない俺はそれをまともに受けることになる。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 ダメージを受けすぎたからか、ついに変身が解除され生身が晒される。

 

「がはっ……クソ……」

 

「【……】」

 

 ローグがブレードを構え、こっちに近づいてくる。

 

 桐生征兎--まさしく絶対絶命のピンチを迎えております。

 

 

 ホントにヤベぇ……どうすりゃいいんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「征兎!?」

 

「【他人の心配している場合か?】」

 

 そうスタークが言うが早いか、ライフルのブレード部分で和海に攻撃を繰り出す。

 

「ちぃっ!」

 

 それをなんとかツインブレイカーで受け止める。

 

「【すぐにお前も同じようにしてやるよ!】」

 

「クソ……ナメんなぁ!!」

 

 なんとか距離を取り、ビームモードで攻撃をする。

 

 

 だが、スタークはライフルを横に振るい、それを簡単に防ぐ。

 

(クソ……! こっちは防ぐのが精一杯だってのによ……!)

 

 次にどう攻撃を仕掛けるか考えながら、内心で愚痴る。

 

(機体性能はどうかわかんねぇけど、アレの中のヤツの腕前がヤバイくらい高いのはわかる……)

 

 言動はともかくとしたスタークの高い腕前に、仮面の中の体に冷や汗が流れる感覚がしてしまう。

 

 その攻撃を躊躇したところを狙われてしまう。

 

「【隙ありだぜ!】」

 

 ライフルのトリガーを3回引く。

 

 その弾丸が次々と腕をクロスさせた和海に当たってしまう。

 

(しまった!?)

 

 攻撃を躊躇し、主導権を握られたことで和海の中に焦りが生まれる。

 

「【よく防いだな】」

 

『フルボトル!』

 

「【ならこれはどうだ!】」

 

『スチームショット!』 

 

 スタークがライフルにロケットフルボトルを装填し、和海に向けてトリガーを引く。

 

 発射された弾丸は和海に真っ直ぐ向かう。

 

「これは……さっきの誘導弾か!?」

 

 すぐさまビームモードで迎撃しようとするが、自身の周りを旋回する動きと焦りから当てることができない。

 

「ぐぁぁぁぁ!!?」

 

 その直後、上昇降下したロケットは和海に直撃する。

 

 変身は解除されなかったが、ダメージは大きく地面に片膝をつく。

 

 対するスタークはライフルを肩に担ぐように持ち、余裕そうに和海を見下ろしている。

 

(チクショウ……どうすりゃいいんだよ……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 現在、絶対絶命の俺……。

 

 体も痛くて動かせないし、マジでヤベぇ。

 

「【最後の情けだ。痛みを感じることなく終わらせてやる】」

 

 そんな情けいらん!!

 そもそも、もう体中痛いっつーの!!

 

 いや、それどころじゃない……。

 

 マジでここでゲームオーバーなのか……。

 

 

 

 

 --ガン!! ガン!! ガン!!

 

 

 

 ……なんだ?

 

 痛む体を無理矢理動かし、音の発生源へと目を向ける。

 

 音は、俺たちのすぐ後ろにある閉ざされた扉からしている。

 

 誰かが叩いているのか?

 ローグもそっちを注視している。

 

「【……冷やかしか? 無駄なことを】」

 

 だが、何も変化が起きないとすぐさま興味を失い、再び俺が狙われる。

 

 相変わらず俺の命は危機的状況のままだ。

 

 

 

 

 --ガァァァァァァン!!!

 

 

 

「--!?」

 

「【なんだ?】」

 

 

 さっきよりもデカい音が響いた。

 

 

「【--ぐ!?】」

 

 その音の直後、特徴的な音を響かせながらクローズドラゴンが飛んできて、ローグにブレスで攻撃している。

 

 ということは……!

 

 

「やっっっと開いたー」

 

 

 そこには、吞気にそんなことを言ってる万丈(バカ)がいた。

 

 っていうか“開いた”じゃなくて“開けた”だろうよ……。

 

 しかも、あの扉壊したの?

 どんな筋力してんだよ・・・

 

「--って征兎!? 大丈夫!?」

 

 倒れてる俺に気づいたのか、万丈がこっちに来た。

 

 

 

「万丈……」

 

「征兎!? 大丈夫!? 人工呼吸必要!?」

 

 ったくこのバカは……。

 

「いいから落ち着け! あと人工呼吸なぞ必要ない!」

 

 意識があるのに人工呼吸なぞされてたまるか!!

 

 

「ったく、いったい今までどこにいたんだよ?」

 

「いや~……人混みに流されたらよくわかんないとこに出ちゃってさ~」

 

 コイツ……。

 

「で、自分の第六感を頼りにクローズドラゴンと進んでたらあそこの扉の前に出て……」

 

 相変わらずの第六感……。

 ってか--

 

「なんでクローズドラゴン出してんだよ……?」

 

「玄乃さんが、これはもしものときナビゲーションしてくれるって言ってたから」

 

 言ってることおかしいってわかってる?

 ナビゲーションしてくれるのに何で第六感で進んでんの?

 

 なんかもう頭痛くなってくるわ。

 

 しかも、こんなヤツに命の危機を救われるなんて……。

 

 

 でもまぁ、助けてもらったのは事実だけどさ。

 

「万丈……」

 

「なに?」

 

「ありがと……な。おかげで助かった」

 

「--!!うん!!!」

 

 なんかスゲー嬉しそうだな。

 

 

 

「【仲良しごっこは終わったか?】」

 

 そうだ、まだコイツらは健在だ。

 

 --けど

 

「あんたなの? 征兎をこんなにしたの……」

 

「【……だったらどうする?】」

 

「決まってるでしょ」

 

 俺たちの周りを飛んでいたクローズドラゴンが万丈の手に収まる。

 

『ウェイクアップ!』

 

「あんたをぶっ倒す!!」

 

『クローズドラゴン!』

 

「【……やってみろ】」

 

『Are you ready?』

 

「変身!!」

 

『Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!』

『Yeah!』

 

 

 

「今の私は……負ける気がしない!!」 

 

 

 

 

 



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31話

 征兎side

 

「今の私は・・・負ける気がしない!!」

 

『ビートクローザー』

 

「【どうだろうな・・・】」

 

『ライフルモード!』

 

 万丈とナイトローグは互いに武器を構え、攻撃を仕掛けていった。

 

 

 

 

 

 --けど、こんな展開になるなんて思わなかった・・・

 

 ローグがライフルの射撃で攻撃するも、万丈はそれをあっさりかわし、ビートクローザーで攻撃する。

 一度は防がれ、ブレードでのカウンターをくらうかと思ったが、それを腕で弾き、そのまま攻撃。

 

『ヒッパレー!』

 

「おりゃぁ!」

 

『スマッシュヒット!』

 

 さらにビートクローザーのグリップエンドを1回引くことによって発動する スマッシュヒット で追撃。

 刀身に蒼炎を纏わせた斬撃がローグにダメージを与えた。

 

 

「【なんだ・・・この力は・・・!?】」

 

『ヒッパレー!ヒッパレー!』

 

 ローグが驚愕しているようだが、万丈は追撃の手を緩めない。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 刀身から波形状のエネルギー刃が伸び、そのままヤツの肩に当たる。

 

「強いでしょ?」

 

『ミリオンヒット!』

 

「私だけの力じゃないから、ね!!」

 

 そのまま振り下ろすと、さっきのエネルギー刃が衝撃波として飛ばされ連続ヒットとなる。

 

「それに、征兎を傷つけたアンタなんかに負けたくないし!」

 

 ローグもかなりのダメージを負ったのか、少しふらついている。

 

 

 つーか・・・俺、アイツに全然ダメージ与えられなかったのに・・・。

 地味にショックだ・・・。

 

 

 

「【ぐ・・・こんなはずでは・・・】」

 

「そして、言ったはずだよ!」

 

 万丈がベルトのレバーを勢いよく回す。

 

『Ready go!』

 

「今の私は負ける気がしないって!!」

 

『ドラゴニックフィニッシュ!』

 

「おりゃぁぁぁぁ!!」

 

 音声と同時に、万丈の背後にクローズドラゴン・ブレイズが出現する。

 そのドラゴンが放った炎を纏い、大きく飛び上がり、ローグにボレーキックを打ち込んだ。

 

 

 さすがのローグも吹っ飛ばされ、満身創痍って感じになった。

 

 

「【がはっ・・・バカな・・・】」

 

 こっちはなんとかなりそうかな?

 まだ、ヤツの変身? が解除されてないから油断はできないけど。

 

 ふらつく足でなんとか立ち上がりながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタークと戦っている和海だが、ライフルとブレードでの巧みな攻撃に翻弄され、防戦一方だった。

 

「【ん? ・・・おいおい、マジかよ・・・】」

 

 だが、ローグが龍華にやられたところをスタークが見たことで動きが止まった。

 

(ここしかねぇ!!)

 

 ここぞとばかりに最後の力を振り絞り、ベルトのレバーを下ろす。

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

 音声とともに飛び上がり、キックを放つ。

 

「【なに?】」

 

「おらぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 --しかし、このキックはスタークに受け止められ、押し返されてしまう。

 

「【まだこんな力が残っていたとはな・・・だが、無駄だぁ】」

 

(んなこたぁわかってたぜ・・・!)

 

 不思議と焦りはなく和海は次の行動に移っていた。

 

「本命はこっちだ!」

 

 スクラッシュゼリーをツインブレイカーに装填する。

『シングル!』

 

 ビームモードにしたツインブレイカーをスタークに押し付ける。

 

「【!?】」

 

「これでもくらっとけ!!」

 

『シングルフィニッシュ!』

 

 同時に強力なエネルギー弾がゼロ距離で命中する。

 

 

「【ぐあぁぁぁ・・・】」

 

 ダメージは負わせられたが、少し後ろによろけただけのスタークに和海は悔しそうにする。

 

「【・・・やるじゃねぇーか】」

 

(クソ、さすがにもうヤバイぜ・・・)

 

 

 だが、スタークがとったのは和海にとって予想外な行動だった。

 

「【さてと・・・潮時かねぇ】」

 

「なに?」

 

 

 次の瞬間には目の前からスタークがいなくなり、いつのまにかナイトローグのもとにいた。

 

「--!? マジかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 倒したナイトローグをどうやって拘束しようか考えていたら、いきなりブラッドスタークが現れた。

 

「--!? ・・・ブラッドスターク」

 

「【・・・スターク・・・】」

 

「【おうおう・・・ずいぶんやられたみたいだな】」

 

 

 和海と戦っていたコイツがここに来たってことは・・・和海は・・・?

 

 

 だが、俺の心配をよそにちょうどこっちに合流したところだった。

 見たところ、まぁボロボロだろうが大丈夫そうだな。

 

「まだやる気か? これ以上やるなら・・・今度は万丈が相手をするぜ」

 

「え!? 私!? そこは征兎が自分で行くっていうところでしょ!?」

 

 しかたないでしょうよ。

 俺は変身解除されてボロボロ、和海もスタークの様子を見るに大したダメージは与えられず、ほぼ一方的にやられてたに違いない。

 ということで比較的・・・どころかかなり元気な万丈が行く。

 うん! 完璧!!

 

「【残念だが、今回はここらでお暇させてもらうぜ】」

 

 ・・・え? そうなの?

 

「【あらかた目的は達成したからな。楽しみは次に残しておこうと思ってな】」

 

「俺たちは次なんてあってほしくないけどな」

 

 こんなヤツらの相手なんて二度とゴメンだ!!

 

「【そうつれないこと言うなよ】」

 

 いやいや、絶対みんなそう思ってるって!

 

 

「【スターク・・・】」

 

「【わかってるよ】」

 

 いつのまにか復活したローグがスタークを促す。

 

「【次に会うときはもっと面白いイベントを用意しておいてやる】」

 

 絶対、ロクなもんじゃないな・・・。

 そもそも、もう二度と会いたくない。

 

「【Ciao】」

 

 そうスタークが言ったところで、ヤツらは銃から煙を出し、自分たちを包み込んだ。

 

 

 煙が晴れたときには、ヤツらはいなくなっていた・・・。

 

 

 

 

 ようやく終わったのか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 この後、システムが戻ったのか、アリーナに入ってきた教員たちに俺たちは運び出された。

 俺はもちろんのこと、和海・一夏・鈴・セシリアもボロボロだったためか、保健室への宿泊が言い渡された。

 

 事情聴取やらなんやかんやは後日行うそうだ。

 

 とりあえず、今はゆっくり休ませてもらおうかな・・・。

 

 

 

 

 

「あれ? 私は? 私も戦闘に参加したよ! 私も征兎といっしょに保健室に泊まる~!!」

 

 あの戦闘をほぼ無傷で終えたはずのバカな少女こと万丈の願い? は当然我らが担任よって却下された。

 

 保健室に泊まりたいとかバカの考えはやっぱり読めないな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 



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32話

「あいててててて……」

 

「ありゃりゃ、ずいぶんやられたね~」

 

「なにやってんだか……」

 

 

 場所は篠ノ之束の拠点。

 対抗戦に乱入した2人は当初の予定通り、ここに転移してきていた。

 だが到着して早々、ナイトローグの変身者――玄乃が体の痛みを訴えていた……。

 

「だ、大丈夫ですか? 玄乃様」

 

「え、ええ……なんとかね」

 

「いや~こっちで見てたけど、りゅーちゃんに大分やられてたね~。せーくんのことはあんなに圧倒してたのにさ~」

 

「なにかあったのですか?」

 

「私が聞きたいわよ……まったく、ひどい目にあったわ……」

 

 そのときを思い出し、思わず苦い顔をしてしまう。

 

「俺にグリスを押し付けたからそうなったんだろ」

 

 同時に近くに座っていた今回の計画の発案者から呆れ気味に言われてしまう。

 

「あのシステムでグリスを相手にするのはキツイからね。お任せしたわ」

 

「……俺も同じシステムだったんだが?」

 

「私とアナタをいっしょにしないで」

 

「……やれやれ」

 

 そうハッキリ言われてしまうと何も言えず、肩を竦めるしかなかった。

 

 

 

 

「しっかしさ~」

 

 創一の方を見ながら束が唐突に切り出す。

 

「なんだ?」

 

「その姿・声でいられると、本当にそうくんなのかどうかわかんなくなるね」

 

 今、創一は簪に憑依している状態。

 声は変えられるが、めんどくさいからそのまま話していた。

 

「わかる! わかるわ!! 私も最初、誰!? ってなったし」

 

「お前らな……」

 

 

 

 

(大きな作戦の後のはずなのですが……これでいいのでしょうか?)

 

 ――と今後が少しばかり心配になった従者がいたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・生徒会室。

 ここでは現在、生徒会長である楯無と会計で本音の姉である虚が事後処理などを行っていた。

 

「しっかし、今日のあの子たちはお手柄だったわね」

 

「そうですね。さすがは専用機持ちと国を代表する候補生といったところでしょうか」

 

「それもそうだけど……」

 

 パソコンを操作していた手が止まる。

 

「桐生征兎さんと猿渡和海さん……ですね?」

 

 無言でうなずき、楯無が続ける。

 

「身を挺して他者を守る。口で言うのは簡単だけど、とっさのときにできるかと言われるとそうはいかないわ」

 

「専用機を所持しているといっても、危険なことには変わりありませんからね」

 

「彼らは文字通り人命を救った。本当に素晴らしいわ。――あとは……」

 

「これ……ですね」

 

 虚が楯無の前に1枚の書類を置く。

 それを見て楯無が頭を抱える。

 

 それはアリーナの扉――その修理に関するものだった。

 

「いやね……わかっているのよ。そうしなきゃいけなかったっていうのは」

 

 頭では理解している。

 それがなければ桐生征兎はやられていたかも知れないのだから。

 しかし、納得できるかと言われればそうはいかない。

 

「でも……それでもよ!!」

 

「落ち着いてください」

 

「……はい」

 

 熱くなりそうなところでピシャリと戒められてしまった。

 

「でもまさかあの扉を壊しちゃうなんてね」

 

「いちおうISの攻撃にも耐えられるはずなんですが……」

 

「まさか素手で壊しちゃうなんてね……」

 

 カメラの映像も何度も見直した。

 しかし、事実は変わらなかった。

 

「本当、どんな力してんのよ……」

 

「本音の話を聞く限りでは、悪い人ではないかと。まぁ学力がちょっとアレのようですが」

 

 

 どんなに嘆いても書類は減らない。

 遅くまで生徒会室の明かりは点いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・地下50メートル。

 そこにレベル4の権限を持つ者しか入れない場所がある。

 

 その場所で、千冬と真耶は無人機の解析作業を行っていた。

 

「やはり、これは無人機で間違いないですね」

 

「そうか……」

 

 動きを見た時点で予想していた千冬だが、解析結果をみて改めて納得する。

 

「これがどのようにして動いていたかは不明です。最後の皆さんの連携攻撃で中枢機能が破壊されたみたいですね」

 

「だろうな。しかも足は別の物質に変えられたうえ粉々に砕かれ、腕も……特に右腕は完全に破壊されてるからな」

 

 目の前の残骸となった無人機を見ながらそう言う。

 

「しかし、別の物質に変える……ですか。すごいですね。さすがnascitaということでしょうか?」

 

「一概にはなんとも言えんが、あのフルボトルとかいうものが関係してるんだろう。まったく、あのバカも面倒なものを開発してくれたな」

 

 誰のことを言っているのかわかっているだけに、真耶は苦笑いを返すことしかできない。

 

「コアの方はどうだ?」

 

「未登録のコアでした。念のためコアナンバーから調べてみたんですが、該当するものはありませんでした」

 

 そのときの千冬の頭にはある人物が浮かんでいたが、確証がなかったため口に出すことはしなかった。

 

 

 

「それにしても……」

 

「あぁ……」

 

 2人が見ているモニターに映っているのは、無人機を倒した後に現れた2人。

 

「ブラッドスタークにナイトローグか」

 

「一体何者なんでしょうか?」

 

「わからん。だが、実力が確かなのは間違いない」

 

「そう……ですね」

 

 映像はちょうどスタークが3人を倒すところ。

 

「専用機持ちをこんなにあっさり……しかも――」

 

「あぁ、コイツが使っているのは――」

 

 フルボトル――しかし、これはnascitaしか開発できていないもの。

 

「nascitaと何か関係あるのでしょうか?」

 

「それに関しては、あとでアイツに聞いてみるさ」

 

 

 

 

 それぞれの見解を述べながらも映像は進んでいく。

 

「しかし、これは向こうも予想外だったようですね」

 

 ちょうど龍華が征兎のもとへ来たところだったのだが、端に壊された扉が見える。

 

「まったくアイツは……」

 

 昔から龍華を知っているだけに千冬は頭を抱えてしまう。

 

「ま、まぁまぁ。あそこで万丈さんが来なかったら桐生くんもどうなってたかわかりませんし」

 

「わかってはいるがな」

 

 やるせない気持ちを抱えながらも映像は進んでいく。

 

  

 

 

 

「このブラッドスタークというヤツ、最後まで本気じゃなかったように見えるな」

 

 映像が終わり、千冬が開口一番そう言った。

 

「確かに、なんだか遊んでるという感じでしたね」

 

「性能は恐らくこのナイトローグというヤツと同じだろうから、中の搭乗者の腕がかなりのものなんだろう」

 

「今後、かなりの警戒が必要になりますね」

 

「まったく厄介な……政府といい、コイツらといい学園をなんだと思っているのか」

 

 そうぼやき、別の場所に目を向ける。

 そこには厳重に保管されている黒い箱のようなものがあった。

 

「この箱も本来ならここに保管するものではないだろう」

 

「それはそうなんですけど……でも、これ一体何なんでしょうね?」

 

「さぁな」

 

「解析したところかなりのエネルギーが内部にあることは間違いないと。しかも国どころか地球のパワーバランスを崩してしまうほどの……」

 

「だが、誰も開けられない。それで国同士の取り合いになるまえに中立であるIS学園に保管すると。バカバカしい。このようなところではなく、もっとキチンとしたところで預かってほしいものだ」

 

「そ、そうですね」

 

 

 

 そう話す後ろで残骸の中のカメラがそれを映していたことに2人は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ! 見つけたぁ!」

 

「おぉ~ホントにあったよ」

 

「さすがですね。玄乃様」

 

「いや……まぁそうなんだけどさ」

 

 無人機のカメラから送られてきた映像にパンドラボックスが映ったことで作戦が成功したと言える。

 反応はそれぞれ違うが……

 

「確かに、ここに保管されてるって調べたよ。そして、保管されてるならその場所だって思ったよ。けど、実際そこにあるのを見るとねぇ……」

 

「まぁそうだよね。いくらちーちゃんがいると言っても結局は学校だもんね~」

 

「守ってくれそうな中立の立場がいればどこでもよかったんだろ。保身しか考えられない能無しのゴミクズなんてそんなもんだ」

 

「否定できないのが今の世界の悲しいところよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!!!」

 

 あの後、創一が学園に戻って少し経ったとき、一人の少女が怒鳴りこんで来た。

 

「あら、マドカちゃん」

 

「どうかした~?」

 

「……アイツはどこ行った?」

 

 マドカと呼ばれた少女は部屋を見渡し、創一がいないことに気づき、そう聞いた。

 

「彼ならもう帰ったわよ」

 

「――チッ。ならいい」

 

「なんか用があったの? 伝えておきましょうか?」

 

「……必要ない」

 

 そう言い、部屋から出ていってしまった。

 

「クーちゃん。ちょっと様子見といて」

 

「はい。束様」

 

 言われた後、クロエが少女の後を追った。

 

「かまってちゃんなのかしら?」

 

「最近、相手してもらってないからね」

 

「ちゃんと相手してやれって言っとかないとね」

 

「まったくだよ、もう~。こっちが大変なんだからね~」

 

 そう言いながら続く束の愚痴を聞き流しながら、玄乃はそっとその場から撤退した。

 

(彼女が幸せになれるならこのままでもいいんだけど、アイツがそうさせないでしょう。なら、私なりに手を打たせてもらおうかな)

 

 

 

 

 

 



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33話

 創一(簪)side

 

「原作改変……ねぇ」

 

 束のところから戻り、いつものように整備室に籠る。

 

 手元の端末を操作し、データを整理する。

 目の前にはこの体の主が途中まで制作していたISがあるが、そもそも俺には完成させる気など微塵もない。

 まぁ……武装は使えそうだから後々利用させてもらうが。

 

 

 ともかく、無人機襲撃のときのように篠ノ之箒が放送室に現れないなど変なところで改変が起こっていたりしているため、こうしたことはたまにやっている。

 

 

「しかし、織斑の両親が実在していたとはねぇ……」

 

 これが何よりの驚きだった。

 あの神様のヤロウに与えられた知識では、両親は存在せず、あの3人は造られた存在のはずだった。

 それが存在していたんだから多少なりとも動揺はした。

 つまり、アイツらはキチンとした人間ということになる。それでも織斑千冬はチート級の身体能力なんだから笑ってしまう。そんなことを言ったら束もそうなんだがな……。

 

「まぁ実在“していた”だがな」

 

 その通り、もうヤツらはこの世にいない。

 襲撃した研究所のようなところで消した。今頃、粒子となったヤツらはどこかを漂っているだろう。

 そこを目撃されたマドカを洗脳し、連れてきたわけだ。

 

 そして、その研究所のデータを漁っていたときに見つけた興味深い名前――

 

 

 ―― 万丈 龍華

 

 

 ……まさか……な。

 俺がこの世界に来たのは凰鈴音がアイツらの学校に転校してきてから。

 そんなことはないはずだが……。

 

 

 あの神様のことだ……いちおう調べておくか。

 

 

 

 そういや……マドカや“アイツら”に会わずに帰ってきちまったな。

 まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

 

「……あ……かんちゃん……」

 

 

 チッ、面倒な……。

 

 

 整備室から出て部屋に戻ろうかというときに、偶然かはたまた狙っていたのかこの体の幼馴染に会ってしまった。

 布仏本音……だったか?

 

「……」

 

「かんちゃん!」

 

「……なに?」

 

「……えっと……その……」

 

 無視して行こうとしたら、なんか用があるのか何気に強く呼び止めるられてしまった。

 俺には何も用なんてないんだがね……。

 

「大丈夫だった? ……その……ケガとか」

 

「別に何もないよ。こうしてここにいるんだから」

 

「そ、そう……だよね」

 

 それだけ?

 ったく、そんなことでいちいち呼び止めんなよ。

 

「専用機の方はどう? もしよかったら私も……」

 

「いい。アレは私一人で作る。本音には関係ない」

 

 もういいかな?

 イライラして声が変わっちゃいそうなんだけど。

 

「でも……最近のかんちゃん少し変……だし」

 

「……変?」

 

「うん。制服もいつのまにか改造してたし……それに……」

 

「別にいいでしょ? 私が何してようと勝手じゃない」

 

 制服改造したのってそんなにダメ?

 ちなみに、スカートをヒザくらいのハーフパンツタイプにし、ストッキングを黒にした。靴も黒のミドルブーツにしたし、頭と腕についてたよくわからん機械は外した。メガネは小型のディスプレイだったから、使えるからそのままにしてある。

 

 

「用はそれだけ? ならもう行くけど」

 

「あ……」

 

「それと、もうこれ以上私に干渉してこないで。――じゃあ」

 

 あんまり、長引くとボロが出るかもだし……実際鬱陶しいし。

 

 

 

 最後に幼馴染とその後ろ――誰もいないように見えるが……――に目をやり、その場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

「かんちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

「……簪ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

  

 



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34話

 征兎side

 

 あの激動の一日から少し経ったある日。

 俺たちはあのときのケガも良くなり、無事に日常に帰還していた。

まぁ箒たちにお礼を言われたり、今回のことに緘口令が敷かれたりと色々あったが……。

 

 

 この日は、休日ということで思い思いに過ごしていた。

 

 俺は、ビルドの強化どうすっかな~と思いながらカタカタやっているが、そこまで根を詰めているわけでもなく暇つぶし程度くらいなもんだ。

 

 一夏は、家の様子を見に行くついでに友達の 五反田弾 のところに行くらしい。

 俺たちも誘われたが、丁重に断っておいた。

 

 そして和海は――

 

 

「…………」

 

 

 めっちゃ真剣な顔で動画を見ている。

 

「なぁ……和海。またいつものアイドルか?」

 

「ただのアイドルじゃねぇ。ネットアイドルだ。ユーたんはな、俺たちの心の癒しなんだよ」

 

 

 なんの動画かといえば、和海が大ファンのネットアイドルの動画だ。

 確か……ユウナ……だったっけ?

 ファンの間では、ユーやユーたんという愛称で親しまれている……らしい。

 俺はファンじゃないからそこまで詳しくは知らないけど。

 

 見た目は――黒みがかった銀髪に水色の瞳。髪にはいつも何かしらのヘアアクセサリーを付けていて、とても活発そうな印象を受ける。

 

 まぁ、実際の彼女がどんな感じかは知らないけど……そんなこと言ったら和海にボコられそうだから言わんけどさ……。

 

「あの……和海さん……?」

 

「うるせぇ。今いいとこだ、黙ってろ」

 

「……はい」

 

 あのアイドルのことになると、和海はかなり気が立っているからな……。

 

 

 俺もさっきまでの作業に戻るとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは夕食時まで続き――

 

「あれ? カズミンは?」

 

「いつものあれだよ。ネットアイドルの……」

 

「またぁ~? 好きだねぇ~カズミンも。ユーたん……だっけ?」

 

「あぁ……」

 

 などと万丈にまで呆れられる始末……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、部屋に戻ってもまだ熱中していた。

 コイツ……今日、夕食抜きになるのでは……?

 

「デュフ……デュフフフ……」

 

 

 

 

 その前に、頭を診てもらったほうがいいかも知れない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一side

 

「相変わらずがんばってやっているようだな」

 

『はい。おかげさまで』

 

「――しかし、何事もやらせてみるもんだな」

 

『やってみろって言った人のセリフとは思えないですね』

 

「こりゃ手厳しい」

 

『……まぁ別にいいんですけどね』

 

「それと、わかってるとは思うが……」

 

『はい。間違っても彼らに遅れをとるようなことはありません』

 

「ならいいがな。……じゃあ、また後で連絡する。しっかり頼むぞ――ユウナ」

 

『はい。マイ・マスター』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

「デュフ…………ん?」

 

 あ……ようやく帰ってきた。

 つーか、長すぎだろ……。

 

「おい……今、何時だ?」

 

「現在、21時。食堂はとっくに閉まってるぞ」

 

「マジかよ……」

 

 そりゃこっちのセリフだろうよ。

 よくそんな何時間も見続けられるわ……。

 

「どうすっかな……」

 

「諦めろ。この部屋には食いもんなんてないしな」

 

 自業自得だ。

 

「しゃーない。龍華からラーメン分けてもらうか……」

 

 万丈から?

 それってあの超大盛りカップメンの昇龍ラーメンか?

 

「でもあれ、万丈なかなか分けてくれねぇよな?」

 

 大量にストックしてるくせに、地味に高いからとか言ってくれねぇんだよな。

 

「そこは大丈夫だ。ちゃんと手は考えてある」

 

 まぁアイツバカだし、なんとでもなるのか?

 

「じゃあ行ってくるぜ」

 

 ……行ってしまった。

 

 

 

 戻ってきた和海の手にはカップラーメンとお菓子があった。

 いったいどんな手を使ったんだか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで……ラーメンくんね?」

 

「え~あれ高いんだよね~」

 

「わかってる。タダでとは言わねぇ。……ほれ」

 

「……なにこれ?」

 

「今日の朝の征兎の寝顔と昼間PCをいじってるときの征兎の写真だ」

 

「――!!!」

 

「これでどうかおひとつ」

 

「しょ、しょうがないな。1個だけだよ……あとついでにこのお菓子もあげるよ」

 

「サンキュー」

 

「えへへへ……征兎コレクションが増えた……」

 

(相変わらずちょろいぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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35話

 征兎side

 

 眠い……。

 これもすべて朝いきなり俺を叩き起こしやがった和海のせいだ。

 

 しかし、玄乃さんから――

 

『とっても大事な連絡があるの』

 

 ――と言われては直立不動にならざるを得ない。

 

 内容が内容だっただけにその時点では眠気が完全に覚めてしまった。

 

 しかし、教室に着いてからまた眠気が……。

 みんななんかISスーツについて話してるっぽいけど、俺たちはそんなん関係ないからどうでもいいな。

 

 そうして眠気と戦っているうちにいつのまにか先生たちが来ていた。

 

「みなさん、今日はなんと転校生を紹介します。それも2人です」

 

 なんで転校生が2人いて、両方このクラスなの?

 その時点で多少なりとも怪しいんだけど……。

 

 教室に入ってきた2人だがみんな驚いている。

 それぞれ金髪と銀髪だが、金髪の方の格好が……

 

「え……お、男?」

 

 男子の制服を着ていたからだ。

 みんなは4人目の男子だと騒いでいるが、俺は今朝聞いた話のせいでまったく男に見えない!

 確かに中性的かも知れないけど、所々女って感じが隠しきれてない気がする。

 

「初めまして。シャルル・デュノアです」

 

 シャルル・デュノア……ね。

 同じ境遇がどうこう言ってるけど、聞く気にもならんよ。

 そもそも一斉検査で見つからず、今頃出てきたとか怪しさ満点よ。

 しかもあのデュノア社……。

 頼むよ……変なことしないでよ……。

 

 

 

『今日あたりにそこにフランスから転校生が来ると思うの。男の格好をしてるけどただの男装女子よ。ハニートラップやデータを盗まれたりしたら、半殺しにしてすぐに連絡しなさい。フランスという国名がなくなるぐらいの報復をするから』

 

 

 ――という我らの所属企業の社長からのお達しがあるのでね。

 要点をまとめたところで恐ろしいこと言ってるのは変わりないわ。

 

 

 ――バシッ!!

 

 ……ん?

 

「私は認めない!お前があの人の弟であるなどと」

 

 ……え?

 何が起こったん?

 気づいたら一夏が銀髪の転校生に平手打ちをくらってたんだけど……。

 

 

 あ~……とりあえず一夏……ドンマイ!

 

 

 

 

 

「え~と……織斑くんと桐生くん、それと猿渡くんでいいかな? 僕は……」

 

「ゴメン! 挨拶は後だ! 行くぞ!」

 

「わあぁぁぁ!?」

 

 次の授業が2組との合同での実習ということで、移動するわけだが一夏がデュノアの手を掴み一目散に走って行ってしまった。

 どうせ転校生男子を見たいがために集まった女子たちに阻まれて終わりだろうけど。

 まぁ俺たちは巻き込まれないようゆっくり行きますかね。

 どうせ、着替える必要ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで案の定、一夏たちは授業に遅刻した。

 なぜか一夏だけが出席簿の餌食となったが、改めて授業が進められる。

 

「それでは、今からISの起動及び歩行訓練を開始する」

 

 しっかし、相変わらずISスーツってのは過激ですな……。

 ホントに視線には気を付けないと……。

 

「まずは……そうだな……オルコット、凰、前へ出ろ。お前たちにまず戦闘の実演をしてもらう」

 

 戦闘の実演か……。

 まぁ専用機持ちならすぐに始められるし妥当かな。

 

「はぁ……まるで見世物ですわね」

 

「まぁやるしかないわよね……」

 

 当人はあまりやる気はなさそうだが……。

 

 だが、それを見かねた千冬さんが2人に耳打ちをした。

 すると、セシリアが目に見えてやる気を出した。

 

「やはりここは、イギリス代表候補生である私の力を示さなければなりませんわね!!」

 

「あんたも現金ねぇ……」

 

 あんなにやる気になるとは……いったい何を言われたのだろうかね?

 

「勘違いする前に言っておくが、お前たちの相手は別にいるぞ」

 

「「え?」」

 

 相手? ……誰?

 

「きゃあぁぁぁぁぁ! ど、どいてくださーい!!」

 

 2人の相手が誰なのか考えていたところで、上の方からそんな声が聞こえてきた。

 

 ……上!?

 

 見ると、ISを纏った山田先生が上空から墜ちてきた。

 ……って避難しないとヤバイのでは!?

 

「……へ?」

 

 ボケーっとしてたのか、間の抜けた声を一夏は出していた。

 ……あ~しかも、アイツのとこに落ちるな。

 一夏だしもう別にいいか……。

 

 

 ――ドォォォォォン!!

 

 

 そして、そのまま一夏のところに墜ちた……。

 一夏よ……せめて何かしらのアクションを起こしてほしかった。

 

「お~い一夏~大丈夫か~?」

 

「あぁ……なんとか大丈夫だ」

 

「そうかそうか。それは良かっ……た……」

 

 いちおう声をかけ、無事であることを確認したのも束の間。

 直後の光景を見て、思わず固まってしまった。

 

 

 

 なんと――一夏が山田先生の胸を鷲掴みしてたのだ!!!

 

 ラッキースケベにも程がある!!!

 

 当人たちは何故か離れず、わけのわからないやり取りをしているが……。

 

「一夏、お前!! なんてけしから――んん! うらやましいことを!!!」

 

 アレ??

 思わず叫んじゃったけど……なんか違くなかった?

 

「征兎……お前……バカだろ?」

 

 和海にそう言われた直後、背後に殺気が……。

 

 振り返った瞬間、衝撃が――

 

「ぎゃぷ!!??」

 

「…………」

 

 そのまま漫画のように吹っ飛ばされ、壁に激突した俺はあっけなくダウン。

 ……万丈……もう少し加減してくれても良かったのでは……?

 

「さて、バカは放っておいて授業を再開する」

 

 ……そんなぁ~……。

 

 ――ガクッ。

 

 

 俺はそのまま意識を手放した……。

 

 

 

 

 ――目が覚めたのは、昼休み直前だった。

 

 

 

 

 

 

 



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36話

 征兎side

 

 午前中の授業で万丈にぶっ飛ばされ、ようやく意識を取り戻したときには昼休み寸前だった。

 おのれ万丈……覚えてろよ。

 

 だが、それとは別に問題が……。

 今は昼休み。つまり昼食を食べる時間なわけだが、財布が教室に置きっぱなしである。

 取りに行ってから食堂や購買に行くとなると、この保健室? からだとかなり遅くなってしまう。

 ここは……万丈か和海に財布を持ってきて貰い、そのまま合流して昼食という流れでいこう。

 我ながら完璧なプランだ。天才物理学者の頭脳のたわものだな。

 というわけでさっそく……とりあえず和海に連絡を――っと。

 

 ――俺のために俺の財布を持ってきてくれ!

 

 これでよし。

 あ……返信きた。早いな……。

 

 ――今、屋上いるからもう無理だ。諦めろ。

 

 な……なん……だと……。

 しかも屋上!? 今日に限ってなんでそんなとこで!?

 こうなったら万丈に……。

 

 ――万丈! 俺の財布を持ってきてくれ!!

 

 これで……今度こそ。

 ん? 返信がきた。頼むぞ万丈。

 

 ――ごめーん。今、みんなで屋上なんだよね。だから無理。

 

 ……。

 チクショーーー!!

 

 とりあえずその場から駆け出した。

 急げば購買で適当になんか買って食いながら教室に戻るくらいはできるはず。

 駆けろ! 疾風のごとく!

 

「おい……」

「え……」

 

 こ、この声は……なんでここに……。

 

「私の前で廊下を全力疾走とは……いい度胸だな」

「い、いや……これは……」

「まぁいい。昼休みが終わるまでまだ時間がある。ゆっくり話そうじゃないか」

「え……いや……えっと……」

 

 

 

 現実は非常だった。

 俺はその足でそのまま教室に戻ることすらできなかった……。

 

 

 

 

 腹……減ったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 今日はいつものメンツにデュノアを加え、一夏の訓練を行っていた。

 

「しっかし……ひでぇな……」

 

 和海がそう言ってしまうのもわかる。

 そう、一夏を訓練をするまではいい。だがいかんせん、そのコーチたちの説明の仕方がヒドイ。

 箒は擬音、セシリアは超理論、鈴は感覚。これじゃあ頭の悪い一夏は理解できないだろう。

 

 今はそれを見かねたデュノアが教えてるといったところだ。

 こういうところを見るとアイツが演技しているようには見えないんだよな……。

 

 

「なぁ……和海」

「……なんだ?」

 

 なんかすっごい嫌そうな顔をされている気がするけど、気にせずいこう。

 

「最近、俺……色んなイベント逃してるし……主人公感が薄れている気がするんだよな……」

 

 今日だって合同授業まともに起きてなかったし、昼休みも……まぁ色々あったしな。

 一夏がセシリアの作ったサンドイッチで死にかけたらしいが……どんなサンドイッチだったんだろうか。

 それだって見ることができなかったし。

 

「すげぇどうでもいいな……っていうか、主人公感ってなんだよ」

「大丈夫。征兎はいつでも主人公だよ」

 

 なんか適当に返されたな。

 というより万丈……いたのか。

 

 

 悲しい現実に打ちひしがれてたところ、なんか周りがざわざわしだした。

 顔を上げて、そっちを見てみる。

 

「織斑一夏、私と戦え!」

 

 なんとドイツからきた銀髪さん(名前をまだ聞けてない)が一夏にケンカを吹っかけていた。

 

「イヤだね。戦う理由がない」

「貴様にはなくとも私にはある」

 

 案の定、一夏はそれを断ったが、それでも彼女は食い下がる。

 そして、ついには――

 

「ならば戦わなければならないようにしてやる」

 

 ――と自身のISの肩部に付いているリボルバーカノンを一夏に向けた。

 

 

 この展開は!!

 

「俺の主人公感を復活させるチャンス!」

「は?」

 

 このチャンスをものにするべく、急いでベルトを装着。

 

『ハリネズミ!』 『消防車!』

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『レスキュー剣山! ファイヤーヘッジホッグ!』

『イエーイ!』

 

 よっしゃー!

 

「レッツ、レスキュー!!」

 

 自分でもよくわからんことを言いながら、一夏たちの方に駆けて行く。

 

「あ、おい!」

「ちょっと、征兎!?」

 

 2人がなんか言っているけど気にしない。

 

 

 だが、俺がたどり着く前にリボルバーは発射され、それをデュノアがシールドで見事に防いでみせた。

 俺は、その場で立ち尽くすしかなかった……。

 

 

 その後、教員からの放送を聞いた銀髪は興がそがれたとか言って帰っていったが、俺はその場に立ったまま。

 

「ん? あんた……何してんの?」

 

 そんな俺に気づいた鈴に聞かれるもなんとも答えようがない……。

 

 

 そんな俺を見るみんなの視線が突き刺さり、とても痛かった。

 

 

 

 

 



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37話

 

 征兎side

 

 デュノアと銀髪が転校してきてからしばらく。

 そういえば、セシリアのときみたく銀髪の名前を未だに聞けていないが、まぁいい。

 

 そしてここ数日、デュノアの様子を見ていたがなんとも……。

 男と偽っているところ以外はどうも演技ではなく素のようだし、白式のデータを奪うにしてもなんというか……う~ん。

 デュノアのあのなんでみんな気づかないのか不思議なくらいずさんな男装といい、デュノア社強いて言えばデュノアの親?たちの思惑も推測できなくはないけど、推測の域を出ないしなぁ。

 しかも俺の推測が本当なら、一高校生の力でどうにかできる問題でもないし……。

 

「あぁーーもう!」

「……ハァ。さっきからずっと考えこんでると思ったら急にデケェ声だしやがって。どうした?」

 

 ヤベ……思わず叫んでしまった。

 でもまぁ話すだけならタダだからな。

 

 

 そう思い、俺は和海にさっきまで自分が考えていた推測を話した。

 

「なるほどな……確かにそうなら、俺たちだけでどうこうできることじゃねぇな」

 

 話を聞いた和海もやっぱりそういう意見だった。

 ホントどうしたもんか……。

 

「とにかく今は様子見しかないだろうな」

「だよなぁ~」

 

 もういっそのことなんか現状を打破するような出来事が起きてくんないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一side

 

 今いる場所はデュノア社の社長室。

 社長室はアイツの会社で慣れてるけど、別の会社の社長室ってのも偶にはいいかもな。

 俺はその部屋のソファーにスタークになり座っている。

 

 デスクの方では社長の“アルベール・デュノア”とその妻の“ロゼンダ”が最終確認なのか、こっちには聞こえないが何か話しているみたいだな。

 

「あなた……」

「あぁ……」

 

 コソコソ話したところでお前たちの結末は変わらないのにな。

 

「あの娘は大丈夫かしら……」

「大丈夫だ。あの娘は強い。信じよう」

「そうね……」

「だから、こちらもしっかりやろう」

 

 話し合いが終わったのか立ち上がり、俺の前のソファーに腰掛ける。

 

(あの娘を……シャルロットを守るためなら、この命も惜しくはない!)

 

 なんかやけに気合が入ったような顔してるな。

 まぁいいがな。

 

「【話し合いは終わったか?】」

「あぁ。待たせたな」

「【別にいいさ】」

 

 足を組み替え、本題に入る。

 

「【さて、どうだ? 大分待ってやったが、考えは変わったか?】」

 

 ま……答えなぞわかりきってるがな。

 どうせ――

 

「残念だが答えは変わらん。あのようなことを受けることはない!」

 

 ――だと思った。

 

「【本当にそれでいいのか?】」

「もちろんだ。私たちの意思が変わることはない」

「【そうか……交渉決裂ということか……】」

「その通りだ。早いところお引き取り願おうか」

「【そう邪険にすんなよ】」

 

 残念だ……フフフフフ……あぁ残念だ。

 次いで、答えがわかりきってることをあえて聞いてみる。

 

「【そういえば娘はどうしたんだ? 交渉が決裂しちまったからな。是非とも協力してほしいんだがなぁ】」

「残念だが娘はもうここにはいない」

「【……ほぅ】」

「今、あの娘はIS学園にいる。あそこにはブリュンヒルデもいるし、nascitaも関わっている。おまえでも簡単には手を出せまい!」

 

 とても真剣な顔でそう返される。

 あぁ……予想通りの答えだよ。

 思わず笑いがこみ上げてきちまうよ。

 

「【ククク……】」

 

 ダメだ……こらえきれない……!

 

「【ククククク……ハハハハハ!】」

「な……なにがおかしい!?」

 

 社長さんからすればそうなるだろうな。

 後ろにいる夫人も怪訝な表情をしている。

 

「【フゥー……いやぁ悪いな。お前さんが俺が予想した通りのことを言うもんだから、思わず……な】」

「なんだと……? ……まさか!?」

 

 さすが社長さんだな。 

 どういうことかもう理解したのか。

 

「【そうさ。俺はとっくにお前の娘がIS学園にいることを知っていた。知ってたうえであえてこういうやり取りをしてたんだよ】」

「クッ……」

「そんな……」

 

 社長さんは悔しそうに俯いてしまった。

 夫人も信じられないとそんな感じに声を漏らす。

 

「まさか、学園にスパイを潜入させているのか……?」

「【さぁ? どうだろうねぇ】」

 

 スパイというか俺自身なんだがな。

 そこまで話したところで俺はソファーから立ち上がる。

 

「【――というわけで残念ながら交渉決裂。だけど俺はこの計画を遂行したい。なら、どうするかわかるよな?】」

 

 そう言うと社長さんと夫人は何をするのかと警戒するような素振りを見せる。

 だが、もう遅い。

 

 

「【お前には……消えてもらう】」

 

 

 社長に向け腕の触手“スティングヴァイパー”を伸ばす。

 

「あなた!!」

 

 だが、刺さるその前に夫人が社長をかばい、その背中に触手が刺さることとなった。

 

「ぐぅ……」

「ろ、ロゼンダ……ロゼンダ!!」

「【これはある意味予想外だ】」

 

 まぁ正直どうでもいいが。

 そうしてる間にも夫人の体には毒が注入され続けている。

 

「ロゼンダ! ロゼンダ! しっかりしろ!!」

「あなた……ごめん……な……さい……」

 

 そう言い残し、夫人は消えていった。

 つーか、前から思ってたけどビルド原作じゃ消えるとき紫だった毒が赤になってるんだよな。より強力になってんのか? 

 

「あ……あぁ……」

 

 社長は夫人を抱いていた腕を呆然自失といった感じで見ている。

 

「【これは予想外だ。まぁ何も差し支えないがな】」

 

 言うが早いか、俺は胸部のコブラ状の装甲からコブラを召喚する。

 

「【やれ。ただし、殺すなよ】」

 

 その命令を聞いたコブラは社長の方に向かい――

 

「え……」

 

 ――そのまま一飲みした。

 

「【よーし。そのまま死なないように保管しておけ】」

 

 そう言うとコブラはそのまま胸部装甲に戻っていった。

 ヤツにはとある実験に協力してもらわないといけないからな。とりあえず生きていれば問題ないだろ。

 

 さっきまで、色々やってたからやけに自分の足音が大きく感じる。

 とりあえず、社長のデスクにあるイスに座る。

 面倒だが、ここの社員を洗脳するのは明日だな。時間も時間だ。残ってるヤツがいてもそんなに数はいないだろう。

 あーあ……明日は欠席かな、こりゃ。

 

 

「【ん?】」

 

 明日やることを考えていたところ、急にデスク上の投影型モニターが着信を知らせた。

 相手のところには“シャルロット”――そう表示されている。

 

「【フフフフフ】」

 

 もう少しだけやることが残っていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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38話

 征兎side

 

「――って考えているんですけど、どう思いますか?」

『そうね……本人たちじゃないから断言はできないけど、間違ってはいないと思うわ』

 

 あれからなんとかならないかと考えた俺だが、和海と2人ではどうしようもないというわけで、あのときちゃっかり番号を登録してしまった痴女会長に相談してみた。

 

『もしかしたら緊急用の連絡手段くらいは持ってるはずだし、いざとなったらそれを使ってもらうのもありかも知れないわね』

「結局、なにかアクションを起こしてくれるのを待つしかないと……」

『まぁそうなるわね』

 

 うげぇ……めんどくさ。

 

『そういうわけで何か進展があったら教えてちょうだい』

「どうせ教える前にすでに知ってるくせに」

『フフ……どうかしら』

「はぁ……別にいいですけど。とりあえず、ありがとうございました。痴女会長」

『ちょっと!? 前も言ったけど私は痴女じゃ――』

 

 最後、なんか言いかけてたけど気にせず切った。

 

「で、どうすんだ? これから」

「う~ん……そうだなぁ」

 

 

 ――ドンドンドンドン

 

「ん?」

「誰だ?」

 

 こんな時間にドアを乱暴に叩くなよ。

 

『征兎! 和海! いるか!?』

 

 一夏? どうしたんだ? やけに慌てているみたいだけど。

 とりあえず、ドアの近くにいた俺が開けてやることに。

 

「なんだよ、こんな時間に。つーか近所迷惑になるだろ」

「あぁ……悪い。……じゃなくて! 頼む! 今だけ何も聞かず俺の部屋まで来てくれないか!」

 

 え~……めんどくさ。

 

「すまん一夏。俺にはそういう趣味はない。誘うなら和海だけに――」

「少し黙ってろ」

「――ごはっ」

 

 和海に思いっきり脇腹を殴られた……。

 和海といい、万丈といい最近ひどくない?

 

「――で、なにがあったんだ?」

「すまん! 訳はあとで話す。だから今は俺の部屋にきてくれないか?」

「……わかった」

「助かる!」

「おら、行くぞ! さっさとしろ」

「……へい」

 

 ホント、最近ひどいよみんな……。

 

 

 

 

 

 

 

「あ……桐生くんに猿渡くん?」

 

 一夏たちの部屋に行くと、ベッドに座ったデュノアがいた。

 服装はジャージだが……今まで出ていなかったはずの胸が出ていた。

 ふーん……鈴や万丈よりは全然あるんだな……。

 じゃなくて! そんな状態ってことは一夏にバレたのか……。

 

「なんで2人を?」

「あぁ……征兎たちならなんかいい知恵を貸してくれるかもって思ってそれで……」

 

 一夏……お前わかってるじゃねぇか!!

 

「任せろ! この天才物理学者、桐生征兎がお前たちでもあっと驚くような――」

「黙れ」

「――へぶっ」

 

 こ、今度は顔面パンチですか……。

 容赦ないっすね……和海さん。

 

「えっと……」

「気にするな。いつものことだ」

「そ、そうなんだ」

 

 こんなことがいつもであってたまるか! 俺の体が砕けるわ!

 

「で、どうして俺たちを呼んだんだ?」

「あ……えっと……」

 

 俺の心情なぞガン無視で話を進める和海さん。

 体を起こしながら、俺も会話に入る。

 

「てて……まぁ大方、一夏の変態行動でデュノアの正体がバレたってところじゃねぇか?」

「え……正体って……じゃあ」

 

 この反応……マジか。

 そんなに自分の男装(笑)に自信あったのか。

 

「俺も征兎も最初から知ってたぞ。お前が本当は女だって」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

 和海のカミングアウトに一夏とデュノアが大きな声を上げる。

 つーか、うるさいよ。

 

「し、知ってたって……いつから!?」

「いや、だから最初からだって」

「ということはつまり?」

「お前が転入してきたそのときからだ」

「そんな……」

 

 けっこうショックだったのかデュノアはうなだれてしまった。

 

「で……でもどうして」

「う~ん……とりあえず、仕草、体型、声、それから……ここ」

 

 そう言って俺は自分の喉……正確には喉仏を指さす。

 

「よく見てみるとお前には喉仏がなかったからな。それで疑惑が確証に変わったわけだ」

「でも、男性でも喉仏がない人だっているんじゃ……?」

「それはないんじゃなくて見えにくくなっているだけだ。ちゃんとある」

 

 あ……あとこれも言っておかんと。

 

「ちなみに俺たちに最初に教えてくれたのは、玄乃さんだ」

「え……? その人ってnascitaの社長さん……だよね」

「そうだが……」

「そんな人にまで……」

 

 まぁnascita所属の俺たちにはまだ何もしてないから大丈夫だろ……多分。

 

「っていうか玄乃さん、どうやってそんな情報掴んだんだ?」

「知らん。そもそも俺たちに伝えてくれたのだってデュノアが転入してきた日の朝だぞ?」

 

 そういえばそうだったな。

 

「マジかよ……玄乃さん、スゲェな」

「本当だね……」

 

 ホントあの人を含め、その親友? たちはヤバイ人たちだからな。

 デュノアが手を出してきたときに半殺しにしろとか言われていたことは言わないほうがいいな。

 

「とにかく、まずは……デュノア。事情……話してもらえるな?」

「うん。もうここまできて隠す必要はないからね」

 

 そして、デュノアは自分の事情を語ってくれた。

 自分の父親がデュノア社の社長で、その命令でIS学園に来たこと。

 愛人の娘で良い扱いを受けなかったこと。

 経営危機のデュノア社を立て直すために、白式のデータを盗む。そのために男装し、一夏に近づきやすくしたことなどを。

 

「…………」

 

 その話を俺たちは黙って聞いていた。

 さすがに茶々を入れる気にはならなかった。

 

「そういや、なんで征兎たちじゃなくて、俺だったんだ?」

 

 変なところに目ざとく気づいた一夏がそんなことを聞いてくる。

 お前は知らんのか? nascitaの影響力を。

 

「多分、nascitaを敵に回したくなかったんだと思うよ。あそこを敵にすることはほとんど倒産することと同じだから」

「まぁ……間違ちゃいない……かな?」

「マジかよ……」

 

 敵に回した者の末路は倉持技研が見せてくれたからな。

 

「とにかく、これからどうするかだが」

 

 と言いつつ、実は俺の中ではほぼ決まっていたりする。

 そういうのもさっきのデュノアの話で俺の考えが7~8割合ってると確信したからだ。

 

「とりあえず千冬さんを交えて相談しよう」

「だな」

 

 だが、一夏はそうしたくないのか渋った。

 

「え……いや……千冬姉には……」

「一夏?」

「そのさ……千冬姉には迷惑かけたくないっていうか……」

 

 なるほどな。

 気持ちはわかるけどな……。

 

「一夏……」

「……和海」

「それは千冬さんをバカにしてんのか?」

 

 和海……。

 ふ……ここはお前に任せるわ。

 

「なんでそうなるんだよ!? 家族に迷惑かけたくないっていうだけだろ!」

「それをバカにしてるって言うんだ。“迷惑をかける”と“困ったときに相談”は全然違うんだ」

「どこが違うっていうんだよ」

「……一夏、もし千冬さんが家のことで困ったことになり、色々決めて、解決した。しかしお前にはなんの相談も無く、全部勝手にそれは行われていた。……そうなったらお前はどう思う?」

「…………」

 

 言葉はなくとも、表情が雄弁に語っているってか?

 

「今のお前はそれと同じことをやろうとしていたんだ」

「俺は……」

「それに家族には迷惑かけたくないって言って、俺たちには迷惑をかけるのか?」

「違う! 俺は……」

「俺たちもそうだが、親友や家族に頼られて迷惑に思うヤツはいないはずだ。お前は千冬さんに頼られて迷惑に思うのか?」

「いや……思わない」

「だろ」

 

 いやぁやっぱこういうことは和海くんに任せるに限るね!

 

「……まぁ征兎はわからないがな」

「おい!?」

 

 俺だってやるよ!? ホントだよ!?

 

「和海……」

「ん?」

「ありがとな」

「……気にすんな」

 

 ハッ!? こういうことを任せてばっかいるから主人公感が薄れていくのでは!?

 なんてこった!? このままじゃ主人公はおろかモブを超え空気になってしまう!?

 させるか!!

 

「よし! 話はまとまったな! なら千冬さんのところに行くぞ!!」

「なんだ? 急に張り切りやがって」

 

 ハイハイ……行くよ!

 俺、和海、一夏、デュノアは部屋を出て、千冬さんのところに向かう。

 その際、デュノアを見られないように気を付けながら。

 

 

 ……あれ?

 そういえば、昔見た千冬さんの部屋って……。

 そのときは一夏に掃除させればいいか。

 

 

 

 

 



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39話

 征兎side

 

 そんなこんなで千冬さんの部屋――もとい寮長室に到着。

 

「千冬姉……大丈夫なのか?」

「やっぱり相変わらずなのか?」

「あぁ……アレはもう一種の才能だな」

 

 マジか~。

 やっぱり汚部屋なの?

 なんのことかよくわかってないデュノアはしきりに首をかしげているが、わからないままでいいと思う。

 とにもかくにもノックだな。

 

「もしも~し。千冬さん? いらっしゃいます?」

「征兎……勇者だな」

 

 え? なにが?

 数秒後、ドアが開かれ、千冬さんが出てきてくれた。

 

「一夏に征兎に和海、それに……デュノア。こんな時間にどうした?」

 

 デュノアの胸の部分を見て察したみたいだったが、あえてそう聞いてきた。

 今がプライベートの時間だからか俺たちのことを名前で呼んでいたけどな。

 

「実は千冬さんにちょっと相談したいことがあって……」

「……なにかあったみたいだな。いいだろう。ここではなんだから中で――」

 

 俺たちの雰囲気を感じ、部屋の中に入るよう促す途中で急に言葉が途切れた。

 自分の部屋を見てそうなったということはやっぱり……。

 

「この部屋じゃなんだから、やはり征兎たちの部屋で――」

「千冬姉」

「ぐ……」

 

 一夏がジト目で千冬さんを見る。

 千冬さんが珍しくたじろぐ。

 俺たちは察する。

 

「征兎、シャルル」

「一夏、どうしたの?」

「少しだけ待っててくれ」

 

 やっぱり汚部屋だったか……。

 

「和海、手伝ってくれ」

「しゃーねぇ」

 

 ……ん?

 

「あれ? 俺は?」

「そこでおとなしくしててくれ」

 

 ヒドッ!?

 

「お前の家のあの部屋の惨状を知ってる俺たちが掃除に参加させるわけないだろ」

「寮の部屋は片付けてるだろ!」

「俺がな」

 

 …………。

 

「なら、これ使うか?」

 

 そう言って出したのは手のひらサイズの機械。

 

「なんだこれ?」

「これは小型自動掃除マシーン! こんな大きさだが侮るなかれ! なんとこの中に組み込んだとある部品により竜巻サイクロン? を再現! さらにこの掃除機フルボトルを使えば同等の吸引力を発揮! この寮の部屋1つくらいな余裕で――」

 

 ――と、説明していたところでデュノアに肩をつつかれた。

 

「どうした?」

 

 すると、無言でドアの方を指さした。

 そちらに目を向けると……ドアは閉じられ、誰も聞いてくれていなかった。

 

「…………」

「アハハ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何の用で私のところに来たんだ?」

 

 あれからしばらく。

 無事に汚部屋の掃除も終わり、改めてここに来た要件を聞かれる。

 

「えっと……実は――」

 

 さっきまでのことを千冬さんに説明する。

 聞き終えた千冬さんはここに来た理由に納得しながら言葉を発した。

 

「なるほどな……。実を言うと私もデュノアが女であることは最初からわかっていた」

 

 ですよね。

 俺たちでもわかったんだもん。千冬さんがわからないはずないか。

 

「おそらくだが、山田先生も気づいている」

「あの人も見かけによらず、実力者みたいですからね」

「そうなん?」

「……そういや、お前はあの摸擬戦のときいなかったな」

 

 大変不本意なことにね!

 

「デュノアが明確な行動を起こさなかったからこちらも動きはしなかったんだが……」

 

 まぁそれはしゃーないですね。

 下手にやらかして各方面に付け入るスキを与えることもないからな。

 

「いつか誰かにバレるとは思っていたが、まさかこのバカがやらかすとは……」

 

 ちなみにデュノアの正体が一夏にバレたのは、シャワーを浴びてるときに一夏がボディーソープが切れてるとかで、遠慮なく浴室の扉を開けたから。

 ケッ……相変わらずのラッキースケベですこと。

 

「とりあえず、警察に連絡か?」

「おい!? 怖いこと言うなよ!」

「話を戻すぞ」

「「はい……」」

 

 千冬さんの一言により、空気が引き締まる。

 

「そうだな……征兎」

「はい?」

「お前のことだ。このことに関して何かしらの推測を立てているだろう。それを話してみてくれないか?」

 

 いきなりご指名をされたかと思ったら、俺が推測立てていたことを見抜かれていた。

 これもなんだかんだで付き合いが長いからなのかね。

 

「……わかりました。でも、あくまでも俺の推測であって、間違っているかもしれないことだけは言っておきます」

「別に間違っていたからといって責めたりはしない。安心しろ」

「ありがとうございます」

 

 大事な前置きを言い、俺は自分が推測した今回のこのことについてを話す。

 

 

 

 

 

 

 

「まず、親父さんがデュノアに命じた白式のデータを手に入れるってところがそもそもおかしいと思ったことがきっかけだったんだ」

「どういうこと?」

「例えデータを手に入れたとしても会社の経営状況がそう簡単に好転するとは思えない」

「そうなのか?」

「あぁ。データの解析をするだけでも時間がかかるのに、その後の設計、製造、下手すりゃ年単位でかかる作業だ。しかもその間も会社の経営は傾いたまま。ハッキリ言って意味がない」

 

 みんな俺の言うことを真剣に聞いてくれている。

 

「次にデュノアの男装だ」

「……え?」

「ぶっちゃけお粗末」

「うう……」

「経営が傾いたと言ってもデュノア社は有名な会社だ。そこが社運を賭けてスパイをさせるなら、もっと入念に準備をするはずだ。最低でも1~2年前から情報を集め、そのころから男装や仕草も徹底的に叩き込むぐらいはしないと。なのに実際は……」

 

 デュノアの方を見るとシュン……という感じになっていた。

 

「ちなみにどうやって男装してたんだ?」

「えっと、コルセットで胸を隠して、男物の服を着てただけ……」

「ないだろ……街でやる仮装かよ」

「うん……今更ながら僕もそう思うよ……」

 

 もっと早くにそう思ってほしかった……。

 

「いくら会社のピンチで焦っていたとしても、こんなお粗末な男装でスパイ行為なんて普通はさせない。会社がピンチだからこそスキャンダルを起こさないように変装には細心の注意を払うはずだ」

「お粗末お粗末、言い過ぎだぞ? デュノアのライフが早くも尽きかけてるぞ」

 

 だってお粗末なんだもの……仕方ないじゃない。

 

「そして何よりデュノアの親だ」

「親?」

「そうだ。デュノア、お前の親……母親の方はお前を憎んでいるんだったな?」

「うん……お父さんの本妻の人なんだけどね。思いっきりビンタされたよ」

「それがどうしたっていうんだ?」

 

 一夏の疑問はごもっともだ。普通に生活している分には考えつかないことかも知れないからな。

 じゃあなんで俺は知ってるのかって?

 気になりすぎて色々と調べまくったのよ。

 

「ハッキリ言うと、社長夫人がデュノアのことをホントに憎み疎ましく思っていたなら、間違いなくデュノアを殺害しているはずだ」

「「殺害!?」」

 

 一夏とデュノアが驚き、顔を青くしてしまった。

 和海と千冬さんは黙って聞いていてくれてる。

 

「デュノア社のような世界的企業の夫人ならなおのことそうするはずだ。事故に見せかけて殺す、自殺に見せかけて殺す、殺し屋を雇い殺す。いくらでもやりようはある」

「そ……そんな……」

 

 デュノアは顔を青くしたまま俯いてしまった。

 なんかすまん……。

 

「だけど……本当にそんなヤツいるのかよ!? 自分の子供を殺すなんて……」

「いる。今の世の中、自分の子供が男っていうだけで殺す親がいるんだ。残念なことにな……」

 

 なんか空気がかなり重たくなってしまった……。

 どうしよう……。

 チラッと和海を見ると、自分でなんとかしろと言わんばかりの視線だった。

 

「だ、だけどそうやってデュノアをいつでも殺せたはずなのにそうはしなかった。やったことといえば、ビンタをして、お粗末な男装をさせ、やったところで意味をなさないデータを盗めと命じてのIS学園への転入。それらをおかしいと思ったときに別の推測も立てられた」

「別の推測?」

「なんなんだ、それって?」

 

 君たち……わかってくれよ……。

 現にそこの2人はわかっているみたいだぞ?

 そのうちの1人、千冬さんを見ると、続けろと目で訴えられた気がした。

 はぁ……仕方ないな。

 

「デュノア……これから言うこともあくまで俺が立てた推測だ。それでも聞くか?」

「……うん。例え君が立てた推測でも……僕はあの人たちの真意が知りたい」

 

 とても決意した強い目を向けられて、そう言われてしまった。

 それならいい……かな。

 再び、ピーンと空気が張り詰めてしまった中、俺は口を開く。

 

「おそらくだが、デュノアは親じゃない何者かに狙われていた」

「狙われて……!?」

「そうだ。それで社長と夫人はデュノアの安全を確保するためにあえてIS学園に転入させた」

「それならなんで男装させてスパイなんか」

「普通に転入させただけじゃソイツ――いやソイツらだろうな。それもデュノアを捕らえるために女の構成員を送り込んでくる。だから転入させる“大義名分”が必要だった」

「それって……」

 

 ようやく理解し始めたか……まったく。

 

「デュノア社のために織斑一夏の専用機、または当人のデータを入手すること。まぁ企業スパイだな」

 

 みんなを見ると、早く続きを! と言わんばかりだった。……はぁ。

 

「デュノアを狙っていたヤツらの目的はデュノア社を手に入れること」

「デュノア社を!?」

「そのためにデュノアを人質のようにして社長たちを脅迫しようとした」

「そ……そんな」

「だが、デュノアはソイツらが手に入れようとしている会社のためという名目でIS学園にいるから容易に手を出せない」

「なるほどな。あんな男装をさせていたのはバレることが前提だったってわけか」

 

 和海……急に入ってくんなよ。ちょっとビックリしちまったわ。

 確かにそこまで詳しく言わなかったけどさ。

 

「ビンタかましたのもそのためか。デュノアの口から自分たちの行いを話させ、必要悪となるために」

 

 和海が俺が言いたかったことを代わりに言ってくれてる。

 デュノアは驚愕といった表情で話しを聞いている。

 

「ふむ……両親から虐待を受け、無理矢理男装さられせ、さらにスパイをさせられた。学園側もそんな事情の生徒を無下にできず、なんとかして保護しようとする……か」

 

 千冬さんも教師観点から意見を述べてくれる。

 

「さらにデュノアにキツくあたってたのは、両親との仲が悪いとなればデュノアに人質としての価値はないとソイツらが思うかも知れないと考えてだろうな」

 

 だろうね。

 さすが千冬さん。

 

「そうやってデュノアの安全を確保しつつ、会社を狙っているヤツらをなんとかしようとしたんだろう。恐らく……自分たちの命を賭けて」

 

 最後は俺が締めた。

 ハァ~……。

 話し終わった。

 

「そんな……僕はなにも知らずに……」

 

 デュノアは泣いていた。

 まぁ仕方ないっちゃそうなのかな。

 

「最初に言ったが、あくまでもこれは推測だ。だけど俺はこれが正解であってほしいと思ってる」

「そうだな。それが本当なら――」

「シャルルは両親にとても愛されている」

 

 気持ち悪いが、顔を見合わせた俺たちは互いに笑顔だった。

 デュノアが泣き止むまで俺たちは静かに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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40話

 

 征兎side

 

 あれから少ししてからデュノアが泣き止み、落ち着いてきた。

 

「ゴメンね……僕のために話を中断させちゃって」

「気にすんな」

 

 ここまで来たら乗り掛かった舟どころか、もう乗り込んでるって感じだしな。

 

「なぁ……俺、思ったんだけど、生徒手帳に書いてある“特記事項”を使えばなんとかならないか?」

 

 特記事項?

 あ~あの……学園は色んな国や企業の介入を原則的に許可しないって感じのヤツか?

 

「これがあれば少なくとも三年間は大丈夫じゃないのか?」

 

 そう思いたくなる気持ちもわかる。

 だが、現実は非情なのだ。

 

「……一夏」

「千冬姉?」

 

 やっぱり千冬さんはこれの役に立たなさをわかっていたみたいだな。

 

「その考えは甘いと言わざるを得ない」

「な、なんでだよ……」

「理由はいくつかあるが、一番はデュノアが代表候補生であることだ。その時点でそれはほぼ適応されない」

「どういうことだ?」

 

 まぁ一夏の頭じゃ難しいかもな。

 

「簡単に言うと……代表候補生である以上国の命令には逆らえないってこった。デュノアの場合だと、フランス政府に国に帰ってこいって言われたらそれに従わないといけないってこと」

「……マジかよ」

「規則なんてそんなもんだ」

 

 俺のザックリとした説明に愕然とする一夏。

 いつの時代も規則は破られるためにあるのさ……ってか。

 

「ホント俺たちに相談してくれてなかったらどうなっていたことやら」

「そうだな。その点に関しては上出来だった」

「え?」

 

 突然の千冬さんからのフォローに一夏も呆けたような声を出していた。

 ちなみに俺も驚愕です。

 

「お前のことだ。迷惑をかけたくないとか言って相談するのを渋っっていたに違いない」

「う……」

 

 さすが姉弟。お見通しってわけですね。

 

「今度からはそんなアホなことは考えず、キチンと相談しろ。私はお前の姉であり、家族なんだからな」

「……千冬姉」

 

 あー感動的なシーンだなー。

 もう俺ら完全に空気じゃね?

 和海も肩を竦めてどうしようもない感を出している。

 

「なんにせよ、デュノアの両親と直接話してみてからだな」

 

 あ……感動シーンは終わってたのね。

 

「デュノアのことをなんとも思ってないのか、それとも先程の推測通りデュノアを守るためにやったことなのか。それを確かめないと動くに動けん」

 

 だよな……。

 さっきのはあくまで推測であって真実ではない。

 

「デュノア、なんか連絡手段みたいなのあるか?」

「あ、うん。あるよ」

 

 ポケットから小型の通信機みたいなのを出して、テーブルに置く。

 

「じゃあお願いできるか?」

「うん」

 

 デュノアがそれを少しイジると投影型のモニターが出てきた。

 音声だけかと思ったらまさかモニターが出てくるとは……。

 これは次の俺の発明に役立つのでは? もっとよく仕組みを理解して……。

 

「征兎、後にしろ」

 

 和海にたしなめられた。

 なんで考えてることがわかった?

 

「お、映った」

 

 その声に反応し、画面を覗くとどこかの部屋が映っている。

 

「これはどこだ?」

「多分、デュノア社の社長室だと思う」

 

 画面にはもう一つ、後ろを向いてる背もたれ付きの高級そうなイスが映っている。

 デュノア社の社長さんが座っていると思うんだけど……。

 なんでこっちを向かないんだ?

 

「お……お父さん?」

 

 恐る恐るデュノアが声をかけた。

 するとイスが回転し、正面をこっちに向けようとしていた。

 

 

 

 俺はイスが正面を向けば、デュノア社の社長――デュノアの父親が映ると思っていた。

 そう……高級そうなスーツを着た男性が映ると思っていた。

 

 だけどモニターに映ったのは――

 

『【残念だが、社長さんは今ここにいないんだ。悪いな】』

 

 ――俺たちが二度と会いたくないと思っていた赤い全身装甲。

 

 

 

 

 

 

 ――ブラッドスタークだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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41話

 征兎side

 

 なんで……なんでなんだ……?

 

『【おやおや、社長さんの娘からだと思いきや、そうそうたる顔ぶれだな】』

 

 なんでコイツが映っているんだよ……。

 

『【男性操縦者たちどころか、ブリュンヒルデまでいるとはな】」

「なんで……」

『【ん?】』

「なんでお前がそこにいやがる!?」

 

 ようやく出てきた言葉がこれだった。

 他のみんなもまさかスタークが出てくるとは思ってなかったからだろうか、驚愕したまま固まっている。

 無理もない。俺だってまさかコイツが出てくるとは思ってなかった。

 

『【そんなこと決まってるだろ? 商談さ】』

「商談だと?」

 

 いつのまにやら復活していた千冬さんが俺に代わりヤツに問いかけている。

 

『【実は前からあるものを造るためにデュノア社と交渉してたんだが、なかなか社長が首を縦に振ってくれなくてな。イグニッションプランから外されそうになってるところを狙ってやってたんだが、うまくいかなくてな】』

 

 イグニッションプラン?

 確か……ヨーロッパの方でやってる次世代ISがどうこうって計画だったっけ?

 

『【そこで俺は社長に、お前が協力してくれないなら娘に協力してもらうと言ってみたわけだが】』

 

 ……は?

 

「え……?」

『【そしたら社長、娘には手を出させないなんて言いやがってよ。思わず笑いそうになっちまったよ! まさか本当にそんなことを言うヤツがいるなんてな!】』

 

 このヤロウ……子を想う親の気持ちをそんな風に……!!

 みんなも少なからず怒りを抱いている。まぁ当然だよな。

 

「じゃ……じゃあ本当に……お父さんは……僕を守るために……」

「みたいだな」

 

 さっきまでの推測がほぼ正解だったことはうれしいけど、まさかコイツが関わっていたなんて……!

 

『【で、今日が交渉最終日だったわけだが、見事に決裂。挙げ句、協力してもらうはずだった娘も俺になんの断りもなくIS学園に転入させてやがった。……だから社長に罰を与えてやったんだよ】』

「……罰って……」

「お前……いったい何をしやがった!?」

『【安心しろ。社長はまだ生きてるからよ】』

「生きてるって……」

 

 普通は安心するところなんだけど、コイツが言うと全然そう思えない。

 

「おい……今の言い方だと他の人物は生きてないように聞こえるが?」

 

 突然の千冬さんの発言に俺たちは目を見開いてしまう。

 マジで? ……冗談じゃないぜ。

 

『【さぁ? どうかねぇ?】』

 

 ……このヤロウ……!!

 ホントにどこまで……!!

 

『【おっと……悪いな。まだやることが残ってるんでね】』

「他人の会社でこれ以上何をしようってんだこのヤロウ!」

『【じゃあ機会があったらまた会おうぜ。Ciao!】』

 

 そのまま通信は切られてしまった……。

 

「……」

「シャルル……」

 

 デュノアは意気消沈してしまってる。

 仕方ないことかも知れんがな。

 

「まさか……スタークのヤロウが関わってたとはな……」

「ヤツが関わっているとなると簡単には解決できそうにないな」

 

 チクショウ……。

 デュノアと両親が話してめでたく和解して解決! って流れになると思ってただけにショックがデカいな。

 

 

 

 

 

 

 

「デュノア……」

「ん? ……何?」

 

 みんな色々と落ち着いたところで、改めてデュノアに話しかける。

 聞きたいことがあるからな。

 

「お前はこれからどうする? ……いや、どうしたい?」

「え……」

「…………」

 

 再び場の空気が張り詰めたような感じになってしまったが、気にしない。

 それにこれは大事なことだ。今後のためにも。楽しい学園生活を送るためにも。

 

「僕は……」

「シャルル……」

 

 一夏が心配そうにデュノアに声をかける。

 

「シャルルが決めたことなら、俺は喜んで協力するぜ。もちろん征兎や和海だって」

 

 おい、勝手に決めるな。

 いや、協力するのが嫌とかそういうわけじゃないんだけどさ……。

 

「それにさっき、シャルルの居場所になってやるって言ったからな」

 

 コイツ……またそんなことを言って……。

 

「僕は……僕は……」

 

 さて、なんて言ってくれるのかな?

 

「僕は……ちゃんとした自分としてみんなと一緒にいたい! 学園生活を送りたい! そして、お父さんを助けたい!」

「よく言った!」

 

 その言葉を待ってたぜ!

 

「よっしゃ、やることは決まった! スタークのヤロウをブッ倒し、デュノアの親父さんとデュノア社を取り戻す!」

 

 見渡すと、みんなも力強くうなずいてくれた。

 絶対達成してみせる!

 

「まぁすぐには無理なんだけどな」

 

 ――とすぐにズッコケられることとなった。

 

「なんでそんなことを言うんだよ?」

「だって俺ら学生だぜ? 学校サボるわけにもいかないしさ……」

「それでもだ。空気を読め、空気を」

「僕もさすがにないと思うな……」

 

 まさかデュノアにまでそんなことを言われるとは……。

 俺はただ事実を言っただけだったのに……。

 

 

 

 

 



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42話

 

 征兎side

 

「そうだ。あのさ……これからシャルルは……どうなるんだ?」

 

 ブラッドスタークとの――モニター越しではあったが衝撃の邂逅を終え、一息ついたところで、一夏がそう切り出した。

 

「ふむ……そうだな……」

 

 そうだよな……。

 行為自体を否定も肯定もするつもりはないし、情状酌量の余地はあると思うんだけど……。

 

「スパイ行為はまだ未遂だから大丈夫だとして」

「問題は性別詐称の方だな。これはなんとかしないとならないだろうな」

 

 だよね~。

 こんな機密事項を取り扱っているところに経歴偽って入ってきたら、普通は逮捕ものだわな。

 

「だがこの世のだ。男子が女装していたならともかく、逆ならなんとでもなる」

 

 悲しいことに女尊男卑。これが今の世界の現実なのよね。

 今回はそれが幸いする形になったわけだけど。

 

「だが、明日から手続きや制服の用意をしたとしても来週まではかかる。それまではそのままでいてもらうことになるが、それでも構わないか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。それと……お手数をおかけします」

「いいさ。生徒の面倒を見るのも教師の仕事だからな」

 

 こういうときの千冬さんはカッコイイんだよな~。

 

 

 

 

 その後、俺たちはそれぞれの部屋に戻っていったが、来たときよりも足どりが軽かったように思う。

 

 

 ちなみにデュノアが――

 

「そういえば、2人の他にnascitaに所属している人がいたと思ったんだけど……その人は呼ばなくてもよかったの?」

 

 ――と聞いてきたんだが……。

 

「あぁ……万丈か……アイツは別にいいだろ」

「え……そうなの?」

「アイツはバカだからな。多分、さっきの話の一割も理解できないぞ」

「まさか……さすがにそこまではないよ……ねぇ?」

 

 さすがにそこまではないと思ったのか、デュノアは同意を求めて一夏と和海の方を見たが、2人は速攻で目をそらした。

 その反応がすべてを語っていた。

 さすがのデュノアも、まさか……そんな……と言わんばかりに困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

「【おう、来たな】」

 

 征兎たちとの通信を終えた後のデュノア社社長室。

 スタークのもとに1人の女が現れた。

 

「【久しぶりだな。――レイ】」

「本当にそうですね。束博士のところに来たときは私たちに会わずに帰ってしまわれましたから」

「【悪かったって】」

「私は別にいいですけどね、こうしてお会い出来ましたし。ですが、後であの子たちにも会ってあげたほうがいいですよ」

「【ハイハイ。わかってるよ】」

「フフ」

 

 スタークに“レイ”と呼ばれた女は黒いストレートのような髪をショートカットにしていて、マジメな感じが見受けられる。

 

「【それはさておき、お前には明日以降のここの社長代理をやってもらう。別に表に顔を出す必要はない】」

「かしこまりました」

「【明日、俺が社員共を洗脳する。そうしたらヤツらに“ガーディアン”を製造させろ】」

「はい」

「【ある程度製造されたら、ガーディアンにガーディアンと“ハードガーディアン”を並行して製造させろ】」

「そうなると、社員共はいかがいたしましょうか?」

「【処分していい。やり方は任せる】」

「わかりました。そのように」

「【頼んだぞ、レイ】」

「お任せください。マイ・マスター」

 

 

 



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43話

 征兎side

 

 あれから少し日にちが経った日の休み時間。

 デュノアも元気を多少は取り戻し、まだ男子として生活している。

 そんな中、俺と一夏は――

 

「はぁ……この距離、なんとかならないのかな……」

「だな。これじゃ究極まで我慢してたら間に合わなくなっちまう」

「いや……わざわざそこまで我慢しないけど」

 

 ――トイレに行った帰りなだけでした。

 しょうがないじゃん。研究してるとさ~どうしても我慢しちゃうんだって。

 

「なぜです、教官! なぜこんなところで教師など!」

 

 ……ん?

 

「なぁ征兎……今の声って」

「あぁ……」

 

 次の角を曲がると目的の人物たちの姿が――って……。

 

「隠れろ!」

「わぷっ」

 

 一夏の頭を押さえつけ、自分も茂みに隠れる。

 すぐそこにはドイツの銀髪と……教官って言ってたからもしやと思ってたけど、やっぱり千冬さんがいて、向かい合っていた。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

「このようなところで何の役目があるというのですか!」

 

 このようなって……。

 入学時のセシリアといい、ヨーロッパの方では日本ってこのような場所扱いなの?

 

「お願いです、教官。我がドイツ軍で再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

 いやいや、それを決めるのはキミではないでしょう?

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに値する人間ではありません」

 

 ……あん?

 

「意識が甘く、危機感が疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割く必要など――」

 

 アイツ……後でぶっ飛ばすか。

 隣でも一夏が拳に力を入れて耐えてるのがわかる。

 

「そこまでにしておけよ小娘」

 

 ――!?

 怖えぇ~! ヤベーよ、アレ! さっきまでの怒りが一気に冷めたよ……。

 銀髪も心なしかすくんでいるように見えるし……。

 

「少し見ない間にずいぶん偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気どりとは恐れ入る」

「わ、私は――」

「そろそろ授業が始まる。さっさと教室に戻れよ」

 

 多少はいつもの声色に戻った千冬さんにそう言われ、銀髪はその場を離れていった。

 

「おい、どうすんだよ征兎。出て行きにくいぞ」

「わかってる。だからここは千冬さんがどっか行くのを待って――」

 

 ん? なんか千冬さん、こっち見てね?

 

「そこの男子共。盗み聞きとは感心しないな」

 

 バレていました。

 しかも、男子“共”って言ったよ。複数いるのがわかるならまだしも、性別まで見抜くなんて……。

 

「千冬姉」

 

 ――パァァァン!!

 

「織斑先生だ」

「はい……」

 

 観念して出て行ったはいいが、一夏がいつも通り出席簿の一撃を受けた。

 

「それで? 何か用なのか?」

「アイツの……ラウラのことなんだけど」

 

 あ……あの銀髪、ラウラっていうんだ。やっと知れたよ。

 

「アイツが俺を憎んでいるのって……やっぱあの誘拐事件の……」

「終わったことだ。お前が気にすることではない」

 

 あの事件か……。

 一夏を恨むのはお門違いだと思うけどな。

 そもそも、誘拐犯を簡単に会場に入れたドイツ軍の落ち度だろ?

 言ったらまた余計なトラブルになるだろうから言わんけど。

 

「アイツもまた複雑な過去を持ったヤツだ。それをわかってはいるのだが……どうにも上手くいかんな、人に教えるというのは」

 

 なんだか儚げな表情で空を見上げる千冬さん。

 まぁ教育ってそんなもんなんだろうな。俺、まだ学生だけど。

 

「さて、もうすぐ授業だ。今なら少し廊下を走っても見逃してやるから、さっさと教室に戻るんだな」

 

 そう言って、千冬さんは行ってしまった。

 

「一夏、とりあえず戻るぞ」

「わかってるって。これ以上出席簿の餌食にはなりたくないからな」

 

 俺たちは走り出す。残念ながら授業に遅れないためだけど……。

 しかし、また何かロクでもないことが起こりそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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44話

 征兎side

 

 それはその日、食堂での夕食を終えた後のこと。

 なんだか急に炭酸飲料が飲みたくなり、自販機で購入し、部屋に戻る途中、それは聞こえた。

 

「一夏!」

「ん? 箒、どうした?」

 

 声の主は一夏と箒。

 ちょっと気になるな・・・・・・。

 ゲスいとは思いつつも聞き耳を立ててしまう俺。

 

「今度、学年別トーナメントがあるのは知っているな」

「あぁ……あの全員参加型っていうアレだよな」

「そうだ。それでだな……」

 

 ちなみにこのやり取りが行われているのは一夏たちの部屋の前の通路。

 今のところ誰もいないように見えるけど……。

 そういえば、デュノアはどうしたんだ? トーナメントが終わるまでは部屋はそのままだって聞いたけど。中にいるのか?

 

「少しでも勝ち残れるように頑張らないとだよな。鈴にセシリア、シャルルにあのラウラ、それに箒だっているし、征兎に和海、龍華もいるもんな」

 

 一夏が挙げたのはすべて専用機持ちないし、それに準ずる人物たちだが……。

 ふっふっふ。一夏よ、この俺を強敵と思うとはわかってるじゃないか。

 あと、箒が何か言いたそうにしてるから聞いてやれよ。

 

「それでなんだが……もしそのトーナメントで私が優勝したら……」

「お……おう」

 

 箒が優勝したら……?

 

「私と付き合ってくれ!!」

 

 

 …………え?

 

 

 

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

 

 まさかの告白!? こんなところで!?

 ヤッベー、ちょっとテンション上がってきちゃったよ!

 

「おう、いいぞ」

 

 箒の告白?に一夏はなんともないようにそう答えた。

 …………。

 マジで?

 

「本当にいいのか! 後から取り消そうとしてももう無理だからな!」

「お、おう」

「そ、そうか……いいのか……フフフフフ」

 

 なんか箒がブツブツ言ってるが、ハッキリ言ってちょっと怖い。

 

「んん! では、私はトーナメントまでにコンディションを整えなければいけないのでな! 失礼する! 一夏、約束は絶対に守ってもらうぞ!」

「お、おぉ。頑張ってな……」

 

 照れ隠しなのか、一気にまくし立てるように言って箒はその場から歩いていった。

 

「なんだったんだろうな箒のヤツ? 買い物なら別にいつでも付き合ってやるのに」

 

 ……コイツはいっぺん死んだほうがいいかも知れない。

 

 

 

 

 しかし、このときの俺は失念していた。

 ここが寮で、箒たちが話していたのが部屋の中ではなく通路だったことを。

 自分以外に聞き耳を立てていた人物がいた可能性を。

 

 

 それが、とある噂となって生徒たちに広まるのだが、俺たち男子生徒(男装中のデュノア含む)の耳に入ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日……。

 

 あんな事を目撃してしまった俺だが、言いふらすわけにもいかず、まぁいつも通りに教室に向かっていた。

 ――のだが、

 

「なんというか……」

「みんなソワソワしてるな」

「ここに来るまでもなんかひそひそと話してたね」

「なんなんだいったい?」

 

 そう、なんか女子たちがなんか落ち着きがないというか、なんかそんな感じなのだ。

 しかも、俺たちが近づくとハッとなって話を止めるし。

 ホントになんなんだか。

 

 

 不思議に思いながらも、教室にたどり着く。

 

「ここもなんか騒がしいね……」

「だな」

「とりあえず入るぞ」

 

 教室の扉を開けると、いかにも女子! って感じが視界に広がってきた。

 なんかみんな集まって話してるのだ。あの万丈まで。まぁヤツはあんな身体スペックだけどいちおう女だからな。

 

 

「そ、その情報は本当ですの!?」

「ふ~ん。あたしはあんま興味ないかな~」

 

 なんかみんな興奮してるなー。

 鈴はそうでもなさそうだけど。

 

「本当だって! 今じゃ学園中この噂で持ちきりなんだって! 今度の学年別トーナメントで優勝したら織斑くん、デュノアくん、猿渡くんの誰かと付き合えるって……」

 

 ん? なんか聞いたことのある名前が聞こえてきたような……?

 

「あれ? 征兎はなんでそん中に入ってないわけ?」

「あ~……それ? だって桐生くんは……ねぇ~」

「うんうん! だって桐生くんには万丈さんがいるし!」

「その2人を引き裂くなんて私たちにはできないよ!」

「ふきゅっ!?」

 

 お? 今度は俺の名前も聞こえてきたぞ! 

 やっぱり主役の話は欠かせないからな。

 なんの話をしてるかはサッパリだけど……。

 後、なんで万丈はあんなに顔を真っ赤にしてるんだ?

 

「ななななな!? べべ、別に私は征兎のことなんて……」

「ハイハイ。大丈夫大丈夫。わかってるから」

「そうそう、みんなちゃーんとわかってるから」

「うううう……絶対わかってないでしょ……」

 

 なんなんだ? ホントに。

 

 

 

 

 その後、始業のチャイムが鳴り、女子たちは解散した。

 そういえば、箒がずっと小難しいような真剣な顔をしてたな。

 まぁ一夏にあんなこと言った手前、どうやって優勝するかみたいなことを考えていたと思うけどな。

 なんかやる気に満ちてるというか、炎のエフェクトが見えたような気もするし、きっとそうだろ。

 

 



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45話

 征兎side

 

 そんなこんなで放課後。

 俺たち男子生徒組(デュノア含む)と万丈はトーナメントに向けてのトレーニングをするためにアリーナに向かっていた。

 トーナメントでは敵同士とはいえ、一人では何かと効率が悪いからな。

 

「そういや俺の白式って他の武器を入れられないんだよなぁ。なんでだ?」

「それは多分、零落白夜――単一仕様能力にほとんどの拡張領域を使ってるからだと思うよ。一夏のISには後付武装《イコライザ》が無いんだよね?」

「あぁ、そんなのは一切なかったな」

 

 で、今は一夏が自分の白式について聞いているところだ。

 

「そういえば、単一仕様能力ってなんだっけ?」

 

 このアホウは……。

 

「その名の通り、そのISだけが発動できる特殊能力みたいなもんだ。白式の場合だと零落白夜がこれに該当するな」

「自分の専用機のことなんだからしっかり知っておけよ」

「あれってそんなにスゲェものだったのか」

 

 俺の説明と和海の一言にこの返し……。

 コイツちゃんと勉強してんのか?

 

「通常は二次移行《セカンドシフト》して初めて発現するはずのものなんだよ? それが一次移行の時点で発現してるんだから……」

「それってそんなにスゴイことなの?」

「前代未聞だ」

「マジか」

「ヘェ~、そうなんだ」

 

 コイツらホントに大丈夫か?

 教科書読めばわかることだぞ、これ?

 

「それに確か、零落白夜って織斑先生が現役時代に使ってたISと同じ能力だよね?」

「らしいな。姉弟だからか?」

「さぁな。ISは未だに謎な部分が多いらしいからな」

 

 開発者である束さんでもわからないことなのかもしれないな。

 もしそうなら、その謎を是非ともこの天才物理学者の手で解明してみたいもんだ。

 

 

 

 

「んん?」

「どうした、万丈?」

 

 なんか万丈が急に立ち止まって疑問符を浮かべ始めたため、それとなく聞いてみる。

 

「いや、なんか周りが……」

「そういや、なんか騒がしいっていうか、慌ててるっていうか……」

 

 ふむ……確かに、周囲の女子たちが慌ただしくしているな。

 なぜだ?

 

「なんかアリーナで代表候補生が戦っている……みたいだな」

 

 通りがかった女子たちの話を聞いたんだろう。和海がそう教えてくれる。

 代表候補生……ね。ここにいない代表候補生っていうと、鈴とセシリア、あとはあのラウラってヤツ。

 ……なんだか嫌な予感がする。

 

「行ってみるか」

「そうだな」

 

 この予感が杞憂で終わってくれることを思いつつ、俺たちもアリーナへ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナに着いた俺たちの目に飛び込んできたのは、ラウラのヤロウが鈴とセシリアの首を締め上げてる光景だった。

 ――って何やってやがんだ、アイツ!?

 

「ヒドイ……。あれじゃ機体がもたないよ!」

「このままじゃ、2人が!」

 

 デュノアと万丈がそれを見て思わず叫ぶ。

 無理もない。それほどまでに状況はヤバイ。

 今はまだISの絶対防御に守られてるが、機体のエネルギーが切れたらそれこそ終わりだ。

 

「おい、やめろ!!」

「そいつらはもう戦える状態じゃないだろ!!」

 

 すかさず、一夏と和海がヤツに向かい叫ぶ。

 だがヤツはそれを聞き、やめるどころか、こちらを向きニヤリと笑いやがった。

 

「あのヤロウ……!!」

 

 もうキレそうだった。

 だが、今はまだそのときではない。まずは2人を救出しないと。

 

「とりあえず、デュノア! 誰でもいいから先生を呼んできてくれ! それと救護班もだ!」

「うん、わかった!」

 

 今の状況故か、デュノアは俺の出した指示にすぐさまうなずき、行動してくれた。

 後は、どうやってあそこに突入するかだが……。

 

「どうする、征兎?」

 

 なぜか一夏は俺に指示を仰いでくるが、この緊急事態だ。まぁいい。

 突入後のプランはすぐできた。

 ――が問題は、

 

「とにかく、この遮断シールドをなんとかしないと」

「わかった! 任せて!」

 

 と、自身満々に言った万丈は、手にドラゴンフルボトルを出し、それを振りながら腕を引く。

 

「――って、おい!? なにするつもりだ、万丈!?」

「なにって……これ壊すんでしょ?」

「いや、そうだけどさ!?」

「だったら問題ないでしょ!」

 

 いやいやいやいや!

 

「お前バカ!? ISの攻撃にも普通に耐えられることのできるシールドだぞ!? 素手でなんて無理に決まってるでしょ!?」

 

 これだからおバカさんは……!

 いくらフルボトルを振ると身体能力が上がるからっていっても、それはムチャでしょ。

 

「穏便にいきたかったが仕方ない! 一夏! お前の零落白夜でシールドを壊して突入! それからあのヤロウの気を引き付けろ! その間に俺が2人を救出! 和海は一夏の援護だ!」

「わかった!」

「よっしゃ!」

 

 2人に作戦を告げ、すぐさま行動を起こす。

 

「来い! 白式!」

 

 一夏が専用機を展開し、零落白夜を発動させようとした、そのときだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちの耳に凄まじい轟音が聞こえてきた。

 

 

 その後、アリーナ全体が静寂に包まれた。

 

 ……マジでなんなん?

 

 ラウラってヤツもアリーナで事を見ていた他の生徒たちも、揃って信じられないようなものを見る目でこっちを見ている。

 もちろん俺たちも……。

 

 さて、現実逃避はやめるか。

 

 俺たちの視線の先には、フルボトルを握った拳を突き出した状態の万丈。

 そして、その先にあったシールドはものの見事に砕け散っていた。

 

 うそ~ん!?

 コイツ……マジで素手で砕きやがった!? そりゃみんな啞然とするしかないわ。

 ISの攻撃を防げるはずのシールドだよ? 

 つまり、それを破壊したアイツの拳はこの間の無人機のバ火力ビーム並の威力があるってこと? ヤバくねぇ?

 

「マジでか……」

「信じらんねぇ……」

 

 一夏と和海も呆然といった感じで、なんとかそう口に出したって感じだ。

 だろうね。 俺も同じ気持ちだし。

 ってか、あのパンチをたまに俺はくらってるってこと? よく無事だな俺。

 

「ホラッ! なにボサッとしてんの! さっさと行く!」

「へ? ――おわぁぁぁぁぁ!?」

 

 万丈のヤツがいきなりそんなことを言ったかと思えば、シールドにできた穴からアリーナに一夏を投げ込んだ。

 

 おいおい、一夏って確かIS纏ってなかったっけ? どんな力してんだよ……!

 

「何してんの! アンタたちも行くんでしょ!」

 

 そう言って俺と和海の胸倉を万丈が掴む。

 いやいや、そこじゃなくてもっと別の場所がいいんじゃないかと……。

 

「――ってそうじゃない!」

「ま、待ておい。落ち着け!」

「行っっっっけぇーーーー!」

「「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 そのまま投げ入れられた。

 一夏はIS纏ってたけど、俺たちは生身なんだぞ!?

 

 

 そして、残念ながら俺たちは重力に従い、アリーナに見事に落ちた……。

 

 

 

 

 



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46話

 征兎side

 

 カッコ悪くも、とりあえずは無事アリーナに突入した俺たちは、とにもかくにも行動を開始する。

 

「よし、さっきの作戦通りいくぞ!」

「征兎……無理ないか……?」

「言うな。悲しくなる」

「わかってるけどよ……」

 

『パンダ!』 『ロケット!』

『ベストマッチ!』

 

『ロボットゼリー!』

 

『Are you ready?』

 

「「変身!」」

 

『ぶっ飛びモノトーン! ロケットパンダ!』

『イエーイ!』

 

『ロボットイングリス!』

『ブラァ!』

 

「よし! 行け、一夏!」

「おう!」

 

 そう言うと、一夏は雄たけびをあげながらラウラに向かっていった。

 

「俺も行く。和海、援護は任せたぞ」

「おうよ」

 

 和海からの返事を聞いた俺は、ロケットの推進力を使い、超高速で鈴とセシリアのところに行く。

 

「くっ! させるか!」

 

 いち早く、さっきの衝撃的出来事から復帰し、こっちにリボルバーを向けてくるが、

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 一夏がすかさずヤツに突撃をかます。

 

「ちっ!」

「!?」

 

 ヤツが手を向けた途端、接近した一夏の動きが完全に停止した。

 あ~なるほど、これがAIC……アクティブ・なんちゃら・キャンセラー……っていう停止結界か!

 いやはや、ドイツもメンドイものを開発したもんだ。

 一夏の白式にとっては天敵も同然だな。……1対1なら。

 

「一夏には悪いけど……もらったぁ!」

 

 ヤツの意識が完全に一夏にしか向いてなかったため、超高速でそこに行った俺は、右腕の爪でワイヤーを切断し、解放された2人をキャッチする。

 

「なにっ!?」

 

 それを見て、驚いたような反応をするラウラ。

 だけど、そうなるとAICを維持するための集中力も切れるということ――つまり、一夏が動けるようになる。

 

「おりゃあ!」

「ぐ……」

 

 一夏がブレードを振り下ろし攻撃するが、寸のところでガードされる。

 そして、またAICに捕まりそうになるが、当初の目的……鈴たちの救出は果たした。なら、アイツがしっかり援護するだろう。

 

「させねぇよ」

 

 アイツこと和海がビームモードでラウラに攻撃する。

 当然のごとく、ラウラはAICの発動に失敗する。

 

「貴様ら……!」

 

 そんな経緯を、鈴とセシリアを安全そうな場所に横たえながら見ていた。

 さて、そろそろ俺も本格的に参戦と行きますか!

 

『タカ!』 『ガトリング』

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『天空の暴れん坊! ホークガトリング!』

『イエーイ!』

 

「よーし、行くぜ!」

 

 背中のウイングを使い、一夏たちのもとへ行く。

 ちょうど仕切り直しになったのか、互いに距離を開け、睨み合っていた。

 

「ふん! また変なヤツが増えたようだが無駄だ! このシュヴァルツェア・レーゲンの前では無力! 例え3対1であろうと大した問題ではない!」

「さっきまで2人相手に苦戦してたくせによく言うねぇ~。そこにこの天っ才物理学者が加わるんだ。降参するなら今のうちだぜ?」

「ふん! なにが天才だ! 身の程を教えてやる!」

 

 散開しながら、和海がプライベートチャンネルで通信してくる。

 

「大丈夫なんだろうな?」

「あぁ。さっきまでのお前らとの戦闘でヤツのISの武装は把握したし、AICの弱点もわかってる」

 

 それに武装の一つのワイヤーブレードは、さっき俺が切ったからな。

 

「そうか。なら任るぜ」

 

 任された!

 通信を終え、仕掛ける。

 

「頼んだぞ、一夏! やることはさっきまでといっしょだ!」

「おう! 任せろ!」

 

 そう言い、一夏は再度、ラウラに向かって行く。

 さて、俺もしっかり援護しますかね。

 

 

 

 その後の展開は、さっきまでとほぼ変わらず。

 一夏が突っ込み、俺と和海が援護する。基本はこのパターン。

 だが、さっきまで和海のビーム2発ずつだったところに俺の援護が加わったことで、ラウラは思い通りに動けていないようだった。

 なんといっても俺のホークガトリングフォームの専用武器・ホークガトリンガーは、中央のマガジンを回すことで、10発づつ弾丸を装填できる。それをそのまま発射すれば、10発の弾丸がラウラを襲う。

 さらに、AICではビーム系の攻撃は止められないのか、和海のビームでの攻撃も、手のプラズマ手刀? で切り払うか、腕でガードするくらいだ。回避しようとしても、イイ感じに俺が攻撃する。

 ホント、こんな展開に持ち込める自分の頭脳が恐ろしいよ。

 

「くっ……こんなザコ共に……!」 

 

 ラウラは思うように動けない苛立ちからか、そう漏らす。

 

「そうやって、他人を見下しているうちは――」

 

『10!』

 

「――俺たちには絶対勝てないぜ!」

「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇ!」

 

 ついには激昂して叫びだした。

 まぁ関係ないが……。

 

「和海!」

「わかってる!」

 

『シングル!』

 

 和海が、ツインブレイカーにロボットゼリーを装填する。

 

『シングルフィニッシュ!』

 

「くらっとけ!」

 

 ツインブレイカーから、さっきまでより強力なビーム弾が放たれる。

 

「これももってけ!」

 

 次いで、俺のホークガトリンガーからも10発の弾丸が放たれる。

 それらがすべて、ラウラのもとへと着弾する。

 

「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 これで決める! ……俺じゃないけど。

 

「一夏!」

「おう!」

 

 待ってましたと言わんばかりに、一夏がラウラのもとへ向かって行く。

 

「おぉぉぉぉぉ!」

「ふざけるな! 貴様なんぞにぃぃ!!」

 

 一夏が雪片を振り下ろし、ラウラも手のプラズマブレードを苦し紛れに振り抜いた。

 俺は……いや、俺たちは恐らく2人のブレードがぶつかると思った。

 

 

 

 ――ガキィィィィィィィ!

 

 

「やれやれ……これだからガキの相手は面倒なんだ」

 

 ――と、2人のブレードは間に入ってきた人物に止められることとなった。

 

「ち、千冬姉!?」

「き、教官!?」

「織斑先生だ、馬鹿者共が!」

 

 そう、その人物とは、我らが担任の織斑千冬先生だった。

 いつものスーツ姿で、両手にISのブレードを持ち、それで2人のブレードを受け止めたようだ。

 

 しかし……あのブレードってISのパワーアシストがあってようやく持てるもののはずなのに、それを生身で、しかも両手に1つづつ、さらにはそれを普通に振っているんなんて……さすがとしか言いようがないわ。

 

「摸擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのシールドまで破壊する事態になった以上は教師として黙認できん」

 

 あ~……まぁちょ~っとだけハデにやり過ぎたか……な?

 

「この決着は学年別トーナメントで着けてもらおうか」

 

 次は3対1じゃないからこうはいかないと思うけど……しゃーないか。

 

「お前たち、それでいいな?」

「教官がそう仰るなら……」

「織斑先生だ」

「は、はい、織斑先生!」

「まったく……お前たちもいいな?」

 

 その問いかけに、俺たちはそろってうなずく。

 

「よし。では、トーナメント終了まで一切の私闘を禁止する!」

 

 その言葉に、その場にいた全員が返事をした。

 

「もうアリーナの使用時間は過ぎている。今日はもう解散しろ」

 

 はい、と返事をし、それぞれがアリーナをあとにする。

 

 

 

 だが――

 

「そうだ……織斑、桐生、猿渡」

 

 いきなり千冬さんに呼び止められた俺たちは、当然、何事かと立ち止まる。

 

「破壊されたシールドについてなんだが……」

 

 ……なぜだろう、冷や汗が止まらない……。

 

「破壊したのは誰だ?」

「あ~……万丈が素手で殴って破壊しました」

 

 一夏と和海が、売ったな……みたいな顔してるけど、万丈だし問題ないでしょ。

 

「桐生、私は冗談が嫌いなんだが」

「いやいやいや、マジですって! ホントに!」

 

 気持ちはわかるけど……でもそれが事実なんです!

 

「本当なのか?」

 

 確認された一夏と和海は、すごい勢いで首を縦に振った。

 お前らも同罪じゃん!?

 

「はぁ……あのバカは……この前のことといい、まったく」

 

 そう溜息をつく千冬さん。

 そういえば、この前の無人機騒動のときも万丈、アリーナの扉を破壊してたっけな。

 ISの攻撃にも耐えられるはずのものをこうも立て続けに破壊するとは……アイツホントどんなパワーしてんの?

 

「とりあえず、万丈はあとで捕まえて説教と反省文を書かせるとして……」

 

 あれ? そういえば、万丈のヤツいねぇ!? いつの間にいなくなったんだ!?

 

「桐生、お前にも報告書と反省文を書いてもらうぞ」

「え!?」

 

 なぜに!? そして、なんで俺だけ!?

 

「シールドを壊すように指示を出したのはお前だろう? デュノアにも色々と指示を飛ばしたみたいだしな」

 

 うそ~ん……。

 

「では、後で私のところに来るように。報告書と反省文用の紙を渡す。万丈にも伝えておけ。もしも来ないようならキチンと捕まえるから安心しろ」

 

 ではな、と言い千冬さんはその場を去っていった。

 

 後に残されたのは、両手両膝を地面に着けうなだれる俺と……ドンマイと言って肩に手を置いた一夏と和海だった。

 

 

 

 

 



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47話

 征兎side

 

 あれから少しして、俺たちは鈴とセシリアの様子を見に、保健室に見舞いに訪れていた。

 この後のことを考えると憂鬱だが、それはそれとして切り替えて行こう。

 

「鈴、セシリア、大丈夫か?」

 

 声をかけた一夏を先頭に中に入っていく。

 そこには治療を終えていたであろう2人と……万丈のヤツがいた。

 アイツ……いなくなったと思ったらここにいやがったのか。

 

「み、みんな!? へ、平気よ、このくらい!」

「そ、そうですわ! このくらいなんてことありませんわ!」

 

 あんま平気そうじゃないように見えるけど……。

 なんかスゲェ慌ててるな……。

 その後は、なんか無様な姿を見られたくなかっただの言って、楽しそうに言い合っている。

 

「……で、お前はいつの間にこっちにいたんだ?」

「ん? 先生たちが来たとき。鈴ちゃんたちを運ぶときにそのままいっしょに」

 

 なんか普通だな……。

 

「だいたい、征兎が戦いに夢中になっちゃったから、私が2人をみてたんでしょ。いっつも1つのことに集中して、周りが見えなくなっちゃうんだから」

 

 はぁ……とため息をつかれながらそう言われる。

 クソォ~……確かにそうかもだけど、万丈に言われるとなんか釈然としない。

 

 ま、まぁいちおう2人はケガ人だし、あんま無理させてもあれだしな。

 などとちょっと逃げの思考に入りつつ……。

 そういえば、この後、報告書と反省文を受け取りに行かないといけないんだよな……。

 

「さて、2人もゆっくりできないだろうから俺たちはこの辺で」

「……は~、征兎にもそんな気遣いができたんだね」

「だな……新発見かも知れねぇ。いつのまにか成長してたんだな」

「黙らっしゃい!」

 

 ったく、コイツらは……。

 

「アホなこと言ってないで行くぞ」

 

 

 ――ドドドドドドドドド!!

 

 

「ん?」

「な、なんだ?」

 

 なんか地響きのような音が聞こえてくる。

 しかも、なんかこっちに近づいてきているような……。

 そんな音が保健室のドアの前まで来たと思ったら、そのまま勢いよく開かれた。

 

「うぉっ!?」

「え、何事!?」

 

 各々がそれぞれ驚いている間に、その地響きの原因――大量? の女子たちがなだれ込んできた。

 

「「「「「織斑くん!!」」」」」

「「「「「デュノアくん!!」」」」」

 

 唐突に男子の名前を呼ぶ女子たち――って、アレ? 俺と和海は?

 まさか……眼中になし!?

 

「……」

 

 うん、わかってる……わかってるから、そんな目を向けるのはやめて万丈。

 別にね、やましい感情なんてこれっぽちも無いんだよ。いや、ホント。

 

「ど、どうしたの、みんな?」

 

 そんなこちらのことなぞ知らんとばかりに、デュノアが女子たちに問いかけていた。

 

「「「「「これ!!」」」」」

 

 これ?

 そう言った女子たちが持っていた紙を見せてもらう。

 

「え~と、なになに……学年別トーナメントルール変更のお知らせ?」

 

 え? なに? ルール変わるの? めんどくさ。

 

「今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的に行うため、二人一組での参加を必須とする。なお、ペアができなかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする」

 

 はぁ~ん……なるほどね。

 それでみなさんここにきたわけだ。

 

「織斑くん、私と組もう!」

「デュノアくん、私たちならベストカップルになれるよ!」

 

 みんな男子と組みたいからか、さっきからそんなお誘いが2人へ飛び交っている。

 というか、俺と和海は? なんでお誘いがないの? なんでなのねぇ、ねぇ?

 

「あ~、みんなゴメン。実は……」

 

 そう言いながら、一夏はデュノアの肩に手を置き、

 

「俺、シャルルと組んだんだ。だから、みんなゴメンな」

 

 などと言いやがった。

 まぁ、そうすれば2人同時にお誘いを断れるし、いいんだろうけどな。

 

「なぁんだ、そうなのか~」

「でも仕方ないか。男の子同士のほうが組みやすいだろうし」

「それに、男の子同士でだなんて……きっと特別な訓練をするに違いないわ!」

「男の子同士の絡み合い……!」

「そうよ、それよ! まずはアリーナで共に青春の汗を流し、その後更衣室へ」

「そして、そこでじっくりねっとりと……」

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 

 ……。

 納得してもらえてるのはいいんだろうけどさ……。

 いったい何をおっしゃっているの? この方たちは?

 なんか色々心配だ……。

 

「じゃあみんな行こっか」

「はぁ~い」

「この熱が冷めないうちに書き起こさないと」

 

 なんか一部おかしい人たちはいたけど……みんなそれぞれ帰路に着こうとする。

 

「あ、そうだ。……ねぇ、ちょっといい?」

 

 が、デュノアがそう言ったため、女子たちもなに? と立ち止まる。

 

「ペアの誘い、征兎もいたのになんで僕と一夏だけだったのかなぁと思ってさ」

 

 それ、俺も気になってました。

 ちなみにデュノアには俺たちの呼び方は好きにしていいと言ってある。

 アイツの呼び方は……まぁ正式に女子として入ったときに考えると言ってある。

 

「あ~それ? いや、だって……ねぇ?」

「うんうん」

 

 ……??

 なんだ? なにかしたっけ?

 いや……ペアについて知ったのはさっきのはずだし、それはない……と思いたい。

 

「だって、桐生くんは万丈さんとペアを組むんでしょ?」

「そうそう! この通知が出たのだってついさっきなのに、さすがだよね」

「さすがベストカップル候補だよね」

 

 そう興奮気味に教えられる。

 というかさ……は? え? なに? なんなの?

 というかなんでそんなことに?

 俺と万丈がカップル?

 

「……」

 

 チラッと万丈を見ると、なにやら顔を赤くしてモジモジしてた。

 否定しておくれよ。

 ホント……意味わからん。

 いつのまにやらデュノアのお礼おを受けた女子たちはいなくなっていたが……それどころじゃなかった。

 傍らでは、セシリアが一夏に自分と組めと言っていたり、鈴が別に自分は誰とでもいいと言っていたり、いつのまにか来ていた山田先生が2人のISがダメージレベルCだから今度のトーナメントは出場してはダメだとか言っていた気がするが。

 

「……」

「……」

 

 俺たちはお互いに向き合ってはいるが、顔はあさっての方に向けたりしてしまって、なんとも気まずい空気になっていた。

 

「あ~、その、なんだ……」

「う、うん……」

 

 もう、こうなったら仕方ない。

 今なら場の流れに乗っていける!

 

「ペア……組むか?」

「……! いいの?」

「あぁ、まぁ……」

「じゃ、じゃあ……お、お願いします……」

「お、おう」

「「……」」

 

 き、気まずい……。

 無事にペアを組んだはずなのに、これはいったい……。

 

 

 

 

「見合いかよ、お前ら」

 

 そんな空気を壊してくれるかのように、保健室のベッドの一つのカーテンが勢いよく開かれた。

 

「ったく、んな雰囲気にされちまったから出て行きにくいったらなかったぜ」

 

 そう言いながら、出てきたのは――和海だった。

 

「お前……いつからそこにいたんだよ?」

「あん? さっきの女子たちが来る直前にな。なんか面倒なことになりそうだったから隠れてたんだ」

 

 コイツのことに女子たちが触れなかったのはそういうことだったのか!?

 自分だけ見事に面倒事回避しやがって!

 ちくしょうめ!!

 

 

 ちなみに和海は抽選で決まった相手と組むことにするそうだ。

 今回のトーナメントはあんま上位を狙ってないのか?

 

 

 

 そして、ペアの申請に行ったとき、次いでと言わんばかりに千冬さんに報告書と反省文用の紙を渡されてしまった。

 なぜか俺の方が、万丈より紙の枚数が多かった。

 残念ながらあの人の圧力の前には抗議など何の意味もなかった。

 

 

 トホホ……。

 

 

 

 

 



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48話

 

 征兎side

 

 報告書とかなりの枚数あった反省文を書き終えたのが先日。

 ようやく、今日、学年別トーナメント当日となった。

 

 朝のSHRで今日のことに関する説明を受け、各々準備に取り掛かる。

 まぁ準備といっても、まだ対戦表は発表されてないから着替えるくらいなんだけど。

 

「いよいよだな」

「うん、そうだね」

 

 気合が入ったような一夏の言葉に、デュノアがそう返す。

 ホント、この日を迎えるまでだけでかなりの密度の日々だったからな。

 いちおう万丈や和海と訓練をし、連携も少しはとれるようになった……と思う。

 和海曰く――お前らに連携訓練なんて必要ないだろ。――とのこと。そんなことないと思うんだけどなぁ。

 

 しかし……前のクラス対抗戦はアクシデントにより中止になっちまったからな……。

 今回の学年別トーナメントは無事に終わることを心から祈る。

 割と切実に……。

 

 ……ん? ……アレ? これってフラグ?

 いや頼むよ! ホント、マジで!!

 

「それにしても、ずいぶん人が多いな……」

「う~ん……。仕方ないといえばそうなのかな? 一夏たち男性操縦者が出るし、征兎たちの専用機はあのnascitaの独自開発だからね。どうしても気になるんだと思うよ」

 

 さすがnascita。

 なんで政府と提携せずにそんなに業績を伸ばせるのか?

 これも玄乃さんの手腕の成せる業なのか?

 

 

「ぉ……対戦表が出るぞ」

「できれば、初戦から征兎たちや和海とは勘弁してほしいな」

「だな」

「俺はまず、誰と組むことになるかが気になる」

 

 まぁ和海はそうだろうな。

 

 

 対戦表がモニターに表示されたということで、まずは自分の名前を探し出す。

 

「え~……あ~……あった」

 

 俺と万丈のペアはちょうど真ん中辺りにあった。

 対戦相手は……うん、誰だかわからん。

 

「和海、どうだった?」

「悲しいかな、1回戦最後の試合だ……」

 

 うわ……。

 

「ペアの相手は……更識簪さん……か」

「更識……痴女会長の身内か?」

「だろうな。多分、妹かなんかだろ」

 

 まぁそんなとこだろうな。

 さて、一夏たちはどうだろうか。

 

「一夏、お前たちは――」

「あそこだ」

 

 ……最後まで言わせてよ。

 指さされたところを見てみると、確かに一夏とデュノアの名前があった。

 しかも、1回戦第一試合……。

 和海の最終試合もやだけど、最初の試合ってのもヤダな……。

 そして、さらに問題なのは、一夏たちの対戦相手。

 

 ――ラウラ・ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒

 

 わぁ~お。

 アイツのペアが箒なのはおそらく抽選だろうけど、これはまたなんとも……。

 つーかできすぎだろ。

 

 ホント無事に終わるのか? このイベント……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――ったく、なんで私がこんな面倒なことを……)

 

 IS学園の地下。

 ここにナイトローグこと氷室玄乃が佇んでいた。

 少し先に行けば、パンドラボックスが保管されている空間がある。

 それを知っていてあえてここで待機している。

 

(はぁ……こんなことなら面倒でもトーナメントに出席すればよかったかな? いや、でも、そうするとあの無能なクズ共を相手しないといけなくなりそうだし……)

 

 そんなことを考えているうちに、この場で待機する原因となったやり取りを思い出してしまう。

 

(ったく、今回だって少し前にいきなりだったし……)

 

 

 

『【お前さんには、地下空間の警備レベルを調べてもらう……という建前のもと、万丈とやり合ってもらう】』

「…………は?」

『【心配すんな。戦闘に関するデータは全部、束のところに送られる。それに、お前さんなら前回のリベンジということにもできるからな】』

「いや……そうじゃなくて」

『【安心しろ。たとえ負けたとしても、万丈と戦うことに意味がある。だからそこらへんは気にしなくていい】』

「あの……だから」

『【万丈は俺が責任をもってお前さんのところに送る。イベントならどさくさに紛れてどうとでもやりようはあるからな。だから先に地下で待っててくれや】』

「お~い……」

『【じゃあ、当日はよろしく頼むな】』

「あ、ちょっと!?」

 

 

 

 といったやり取りがあった……。

 

(っていうか、一方的に押し付けられただけよね? まぁ確かにサポートするとは言ったとのは私だけどさ……)

 

 自分で言ったこととはいえ、ちょっと後悔しそうになる。

 

(最近だって私に何も言わずに、フランスでなにかやってるみたいだし……原作から考えると、デュノア社……かな?)

 

 これが終わったら本人に聞くか、調べてみようと思ったそのとき、目の前で唐突に煙が発生した。

 

(――来ちゃったか……)

「ケホッ、ケホッ。もうなんなのいったい~」

 

 むせたような声とともに龍華の声が聞こえてきた。

 宣言通りキチンと送ってきたようだ。

 

(ハァ~……やるしかないか)

 

 煙が収まり、龍華の姿をしっかり認識できた。

 しかし当の本人は、まぁ予想通りというかなんというか……そんな反応だった。

 

「え? ここどこ? なに、なにが起こったの!?」

 

 急に地下に送られてきたからか、かなりうろたえている。

 確かに、準備を終え、征兎と合流しようとした矢先、急に煙に包まれ、見ず知らずの場所に放り出されたため仕方ないのかもしれないが。

 

「【……ここはお前が通っているIS学園の地下だ】」

「――!! アンタは……」

 

 ため息をつきたくなるのを抑えて、そう龍華に告げるナイトローグ。

 そして龍華も、ようやくナイトローグを認識したと同時に驚きの表情を浮かべる。

 

「なんでアンタがここに? っていうか地下? なんで私がここに?」

 

 矢継ぎ早に質問を飛ばしていく龍華。

 

「【……少しは自分で考えたらどうなんだ? ――相変わらずの頭なんだな】」

「んな!?」

 

 見ず知らずのヤツにバカにされたことで、驚愕と怒りを同時に感じる龍華。

 

 

 ――しかし、“相変わらず”という自分を多少なりとも前から知っていないと出てこないワードが出てきたにもかかわらず、龍華は気付かない。

 

 ナイトローグこと玄乃はこれに思わずため息をついてしまった。

 真意は知らないが、なにかしら気付いてほしいと思いあえて言ったのだが、相手が悪かった。

 

(まぁ……龍華ちゃんだしね~)

 

 当の本人も、やっぱりそうか、ぐらいにしか思ってないようだが。

 

「【まぁ、どうせバカにはわからないと思っていた】」

「はぁ!? なんで仲良くもないアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ!!」

(仲が良ければいいとか、そういう問題?)

 

 無視してるようで、内心ではいちおう突っ込んでおく。

 

「【本当は別の目的もあるのだが、それは簡単に済ませられる。――だが】」

 

 ナイトローグが、スチームブレードの切っ先を龍華に向け、告げる。

 

「【その前に、前回キサマに受けた雪辱……ここで晴らす!】」

「ちょっ!?」

 

 言いながら、スチームガンをいきなり撃たれたが、とっさに龍華はこれを回避する。

 

「いくらなんでも、いきなりすぎでしょ!」

「【どうした? 何もしないならそのまま死ぬだけだが?】」

 

 やる気になったのか、龍華はすでにベルトを装着している。

 

「上等じゃない! やってやる!!」

 

『ウェイクアップ!』

『クローズドラゴン!』

 

「後悔しても知らないんだからね!」

 

『Are you ready?』

 

「変身!!」

 

『Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!』

『Yeah!』

 

『ビートクローザー』

 

 変身を完了させ、即座にビートクローザーを握る。

 

「【そうだ……それでいい。たとえこれがヤツの手の上でのことだとしても、今はまだ……】」

「――は? なに言ってるの?」

 

 いきなり何かを呟きだしたナイトローグが不気味で、思わずといった感じで龍華が問いかけた。

 

「【キサマには関係ない】」

 

 しかし、ナイトローグは取り合わない。

 そして、改めてスチームブレードを構え、それを見て、龍華もビートクローザーを構え直した。

 

「【――行くぞ】」

 

 そう言った直後、2人はどちらともなく互いに向け、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 



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49話

 征兎said

 

 学年別トーナメント1回戦第一試合が始まった。

 一夏・デュノアペアとラウラ・箒ペアの試合。

 どう考えても普通に終わりそうにないこの組み合わせ。

 そんな俺の心の内なぞ知る由もなく、試合は進んでいく。

 

「一夏のヤツは、イマイチ攻めきれてないな」

「AICを警戒してんだろ。まぁ、警戒し過ぎな気もするけど」

 

 試合は今、二つに分かれていて、一夏とラウラは今話していたように、AICを警戒して接近できないのか、ラウラの攻撃を一夏がひたすら回避するみたいな感じになっている。

 さっきからデュノアの方をチラチラ見てるから、援護待ちか? 2対1にしてAICを攻略したい、みたいな。

 

 ――で、そのデュノアと箒の方はというと。

 

「あっちはデュノアが優勢だな」

「う~ん……機体云々というよりはデュノアの技量によるところが大きいな」

 

 状況に応じた武器の選択、そしてそれを高速で切り替える技術。

 さらに、一定の距離とリズムで戦う……えっと、砂漠の逃げ水こと……ミラージュなんちゃらとかいうのを駆使している。

 そのせいか、箒はいいように翻弄されている印象を受ける。

 

「箒、やられるな……」

「う~ん……機体性能はそこまで差はないはずだからなぁ~……やっぱり経験の差じゃないか?」

「経験? 箒だって剣道で全国を経験してるだろ? 身体能力では劣ってないと思うけどな」

「あ~……なんていうのかな~。単純な身体能力は箒の方が高いと思うんだけど……これはISの試合だからな」

「ほ~ん。なんか違うもんなのか……」

「お前のグリスだと分かりづらいかも知んないけど、普通はISを操縦するにはまた別な要素が必要なの」

 

 イメージインターフェイス……だったっけ? とか色々あるわけよ。

 

「というわけで、ISでの操縦時間の差やその他諸々が出てしまっているのではないかと思うわけよ」

 

 特に箒の場合、束さんとの関係でISを敬遠してたみたいだしな。ISの操縦自体あまりしてないんじゃないか?

 

「最初っからそう言えばいいだろうに。説明の仕方が回りくどいんだよ」

「うるさいよ」

 

 そうこうしているうちに、箒がやられそうに――あっ……やられた。

 

 ――これで2対1になって、一夏たちが望む形になったわけだ。

 けど、ラウラのヤツもそう簡単にはやらせてくれないだろうからな。

 アイツ、箒のことも最初っからパートナーとも思ってなかったみたいだしな。ワイヤーでぶん投げてたし。

 ここからも一夏たちにはキツイ展開になることもあるかもな。

 まぁ、俺から言えることは一つ! ――がんばれ~。

 

 

 っていうか、和海の方は相手の顔がわからないから仕方ないとして……。

 俺の今回のパートナー――万丈はどこ行っちまったんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄乃side

 

 あ~……嫌だ。

 本当、もう嫌……。

 

「おりゃあ!」

「【ふっ】」

 

 龍華ちゃんのビートクローザーと私のスチームブレードがぶつかる。

 これも、もう何度目かわからない。

 そして、即座に次の一撃がくる。計算されているような感じじゃないからどうとでもなるけど、地味に剣を振るスピードが速い。

 下手すると、千冬ちゃん並なんだけど!? おかしいでしょ!

 そして何より、身体能力高過ぎ! おかげで基本戦術がカウンターにならざるを得ないんですけど……。

 本当、勘弁……。これだから人外スペックは……。あぁ嫌だ、嫌だ。

 

「せぇりゃあぁぁぁぁ!」

「【チッ】」

 

 力を乗せたであろう一振りに思わず舌打ち。

 回避も受け流しもできなそうだし、受けるしかないよね~。

 さっきからブレードがぶつかる度に思ってるんだけど、一撃一撃が重たいのよね。腕が痺れてないのが奇跡に思えてくるわ。

 でもまぁ、これはこっちにとってもチャンスかな?

 

「【前回は不覚を取ったが、実力はまだ私の方が上のようだな】」

「――っ!」

 

 そう言い、ブレードのバルブを回す。

 

『エレキスチーム!』

 

 龍華ちゃんの体に電流が流れ、一瞬怯む。

 その隙を逃さず、一撃を叩き込む。

 

「ぐぁ!?」

 

 それをくらった龍華ちゃんが少し吹き飛ばされるも――。

 

『ヒッパレー! ヒッパレー!』

『ミリオンヒット!』

 

 即座に態勢を立て直し、ビートクローザーのグリップエンドを2回引いた。

 

「おりゃぁぁぁ!」

「【チッ】」

 

 そのままこちらに攻撃を仕掛けられる。――ビートクローザーにエネルギーを纏ったまま……。

 2度、3度と剣を振るわれ、回避と防御に回る。 

 ……アレ、当たると地味に痛いのよね。思わずまた舌打ちしちゃうくらいには。

 

 しかし、ついにブレードで受け損ね、攻撃をくらう。

 つーか痛い。チェーンソーの刃のようにガジガジくるから余計に痛い。

 

 でも今回はくらいながらも倒れず、なんとか後退しただけで済んだ。

 

「私にはこの後、征兎と一緒に試合に出るっていう大~~事なイベントがあるの。だからさっさと倒されてもらうから!」

 

 そう攻撃を当てた直後の龍華ちゃんに言われてしまった。

 ……ふむ。

 

「【調子に乗るなよ】」

 

 ではこちらも反撃といきましょうか。

 

「【お前には特別にこの技を見せてやろう】」

 

 言うや否や、背中からコウモリのような巨大な翼を展開させる。

 

「……へ?」

 

 龍華ちゃんが、なんか気の抜けるような声を出しているけど、気にしない。

 そのまま、その場で少し浮かび上がる。……本当は翼が無くても飛行できるよう改良してはあるけど、これを展開しているときのスピードは、通常の比じゃない。

 

「【さぁ……ついてきてみろ】」

 

 言うが早いか、超高速で接近し、背後のスペースへ。

 

「速っ!? ――ぐっ」

 

 そしてすれ違いざまに、腕に装着されているブレード“ダークネスウィンガー”で切り付けていく。

 元々、このナイトローグの腕部“ダークラッシュアーム”は、パワーとスピードを兼ね備えているから使い勝手がいい。

 これを横、斜めと移動しながら繰り返し、一瞬の隙をつき、天井部に張り付く。

 

「うぅぅ……アレ? どこに……?」

 

 急に攻撃が止んだことで、私がいなくなったことに気づき、探しているみたいだが、上にまで気が回ってないみたい。

 

「【もらった】」

 

 そのまま、龍華ちゃんに向かって行くと同時に、自分の全身をコウモリの翼で覆い、ドリルのように回転しながら突撃していく。

 

「……上? ――って!?」

 

 接近していた私に気付いた龍華ちゃんが、とっさにガードするが、構わず突っ込み、衝突する。

 

「ぐ……あぁぁぁ!」

 

 さすがに耐えきれなかったのか、龍華ちゃんは吹っ飛んでいく。

 でも――

 

「く……うぅぅ」

 

 ――変身が解除されてない。

 おかしいな……。これで変身が解除されるはずだったんだけど。

 千冬ちゃんや束ちゃんと同じ人外スペックだからなのかな?

 でも、今の状態ならいいかな。

 

「まだ……まだやれる……」

 

 なんとか立ち上がろうとしてる龍華ちゃん。

 

「【だが、もう終わりだ】」

 

 スチームガンを取り出し、ボトルを装填。

 

『バット!』

『スチームブレイク! バット!』

 

 銃口を龍華ちゃんに向け、トリガーを引いた。

 

 ごめんね……そう思いながら。

 

 

 

 

 



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50話

 

「【……】」

 

 スチームガンを下ろしながら、ナイトローグこと玄乃は、爆発により煙が舞い上がった場所を見つめる。

 

(任務完了! ……なんてね。なんか……ちょっと上手く行き過ぎて不安になるけど)

 

 気持ちが浮足立ちそうになったが、一抹の不安を感じたために、今一度気を引き締め、龍華が倒れているであろうところへ歩を進める。

 

(しっかし……これだけ騒いでいるのに、未だに学園から何もアクションがないなんて……)

 

 建前上いちおう気にしていたが、ここの警備は大丈夫なのかと思ってしまう。

 これなら、いつでもパンドラボックスを手に入れられるかな? と玄乃は考えながらも、まぁいいや、と目の前のことに思考を切り替える。

 

 ――と、もうすぐ龍華の状態が確認できそうなところまで進んだとき、いきなり何かが飛び出してきた。

 

「せりゃあぁぁぁ!」

「【――っ!?】」 

 

 飛び出してきたのは、龍華ことクローズ。

 そして、その勢いそのままナイトローグに怒涛の攻撃をしていく。

 

 あまりにもとっさのことだったために、玄乃も攻撃をさばき切れず、何回かくらっていた。

 

「【――ぐ……キサマ、なぜ……!?】」

「なんかよくわかんないけど、何かがさっきの攻撃を防いでくれたみたいでね」

「【クソ……調子に乗るな!】」

 

 何かってなに!? と言いたい玄乃だっが、とりあえずこの状況をなんとかしようと、競り合いになったときにこれ幸いにと、力を入れ、思い切り弾き飛ばす。

 だが、その直後――。

 

 

「【――!?】」

 

 ――ガガガガガガ!!

 その音が聞こえたときには、銃弾が玄乃に当たる。

 

(なんなの……もう……)

 

 とっさにガードした玄乃だが、さっきから起こる突発的な出来事に、もっとスムーズに終わる予定だったのに……とうんざりしていた。

 

「不意打ちみたいなことしてごめんなさいね。でも、こっちもこれ以上好き勝手やられるわけにはいかないの」

(――げ!? 最悪じゃん……)

 

 その声を聞いて相手を察した玄乃だが、いちおう姿を確認し、やっぱり……となる。

 

「【――更識楯無、か】」

「あら、私のこと知っていてくれてるのね」

 

 まぁな。と返しつつ、目の前の相手を見据える。

 水色をメインカラーとし、装甲は少ないが、ナノマシンで構成された水のヴェールで機体を覆うことで防御力を保っているロシアの第3世代IS・霧纏の淑女《ミステリアス・レイディ》。

 先程の攻撃もアクア・クリスタルからヴェールを展開し、防いだのだろうと玄乃は考察した。

 

「あ! あんたは、あのとき征兎に裸エプロンで迫ってた変態女!」

「違うわ! 誤解よ! それにあのときはちゃんと下に水着を着てたんだから!」

(いやそれでもアウトでしょ……)

「5回!? 5回もあんな恰好で征兎に迫ってたの!? 信じらんない!」

「違~う! 誤解よ、ご・か・い!」

「やっぱり5回じゃん! だいたいあんなんで征兎をどうにかできると思ったら大間違いだからね!」

「だ~か~ら~!」 

 

 原作を知ってるが故に、他のファーストコンタクトのやり方ないんかい。と言いたい玄乃だが、とばっちりを受けたら面倒になりそうだから黙っていた。

 

「【……もういいか?】」

「全然良くないけど、今はそんな場合じゃないものね」

 

 ――が、不毛な言い争いにウンザリし、声をかけたが、ちょっと失敗かもと思った。

 

「――コホン。わざわざイベントの日に、こんなところに侵入してなにが目的かしら?」

 

 わざとらしく咳払いをした後、自身のISの武装であるランスを構え、楯無がそう問いかける。

 それに対し、特に誤魔化そうともせずに、あっさりと玄乃は答える。

 

「【私の目的は、そこの万丈龍華に前回受けた雪辱を晴らすこと。そして、その扉の向こうにあるパンドラボックスだ】」

「――! それって……あの黒い箱のことかしら?」

「【そうだ】」

 

 まさか機密でもなんでもなく、学園で保管されている黒い箱が目的と知り、驚いた。――だが、やるべきことは変わらないと楯無は気持ちを入れ直した。

 

「【お前たちが持っていたところで、宝の持ち腐れだ。私たちならそれを有効的に使うことができる】」

「あら? 確かあの箱、誰も開けられないって聞いたけど」

「【それはそうだろう。あの箱を開けるには条件があるからな】」

「条件?」

「【お前たちには、どうあがこうと満たすことのできない条件だ。気にするだけ無駄だ】」

 

 その条件が、地球外生命体の遺伝子を持つこと。などとは口が裂けても言えないため、玄乃は話を無理矢理終わらせようとする。

 楯無はかなり気になっているようだが、気にしない。したくない。

 言えたとして、彼女たちに――コイツ何言ってんの? と思われるのが嫌なのもあったが……。楯無はともかく、龍華にだけは尚更。

 

「【おしゃべりはここまでだ。さぁ、ここを通してもらおうか】」

「そう言われて通すと思う?」

 

 だよなぁといった感じで武器を構えるナイトローグを見ながら、楯無も自身の武器を構える。

 

「龍華ちゃん。ここは一時休戦して、いっしょに戦ってもらえるかしら?」

「はぇ?」

 

 龍華は、さっきまでの2人の会話にまったくついていけず、途中からボケ~としていたため、変な返事をしてしまった。

 

「……協力していっしょにアイツを倒しましょう」

「OK! さっきから難しい話ばっかりだったから、思いっきりやらせてもらおうかな!」

 

 龍華の反応に頭を抱えたくなった楯無だが、我慢して改めて声をかけた結果、案の定の答えだった。

 当人たちからすれば、何一つ難しい話はしてなかったつもりだが……。

 

(マジですか~。この2人相手とかキツイんだけど……)

 

 しかし、自分たちの戦闘に関するデータはすべて束のところに送られる。更識楯無の戦闘データと霧纏の淑女のデータ。いい土産にはなるだろうと考えた。

 

(ある程度戦って、やられて変身解除される前に撤退しよう)

 

 とても後ろ向きな玄乃だった……。

 そして、こうも考えていた。

 

 

(……もうそろそろ、ナイトローグの出番は終わりかな)

 

 

 

 

 

 



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51話

 

 征兎side

 

『非常事態宣言発令! 試合は中止! 状況レベルD! 直ちに避難してください! 繰り返します――』

 

 え~……実況の桐生です。

 今回のイベントでもなんか大変なことが起きております。

 あれから2対1になり、AICの弱点を突いたり、一夏がデュノアの銃を借りたりしていい感じの連携で攻めて行き、デュノアのパイルバンカーがラウラに決まり、ヤツを追い詰めたところで状況が一変。

 ラウラが急に雄たけびのような声をあげ、ヤツの機体から何かが溢れ出てきたと思ったら、あら不思議。どことなく千冬さんに似た黒いのが完成しましたとさ。

 どことなくあの黒いのが持っているのが雪片に見えるのですが、解説の征兎さん、いかがでしょうか。

 そうですね~……おそらくですが、アレはモンドグロッソのときの千冬さんを模しているかと思われます。

 ――と言いますと……アレはもしや……!

 えぇ、千冬さんの専用機である暮桜でしょう。

 そうなりますと、一夏たちが戦うには厳しいかと思われますが……。

 通常ならそうでしょう。しかし、アレは所詮コピー。本物のようにチートではないでしょう。そこに勝機が――。

 

「なにボケっとしてんだ。さっさと行くぞ」

「あでっ」

 

 またもイベント中に起こった非現実的な出来事に現実逃避してたら、和海に叩き戻されてしまった。

 

「大丈夫だろ。アレを見るかぎりそこまで急いで避難しなくても――」

「アホ。そっちじゃない。管制室だ」

「管制室? なんでまた」

「おまえ……自分が専用機持ちってこと忘れてないか……?」

 

 あ~……あっちで警備主任(織斑千冬先生)の指示を仰ぐってことね。

 

「……さて、行くか!」

「ここでおまえがグズグズしてたのがバレる前にな」

 

 怖いこと言うな! 

 もし、千冬さんにバレたかと思うと……うん、やめよう。デッドエンドしかないわ。

 

「よし、ホントにバレる前に……ん?」

「どうした?」

 

 ふとアリーナの様子を見て、行き先を変えることにした。

 ――ったく、あのバカ。

 

「和海、悪いけど行き先変更だ」

「あん?」

 

 黙ってアリーナのほうを指差すと、その様子を見た和海もなるほどな、と納得してくれたみたいだ。

 さて、今度こそホントに行きますか。

 だが、アリーナに向かう途中、和海が――。

 

「反省文、9:1な。もちろんおまえが9だけどな」

 

 ……え? マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アリーナに飛び出た俺たちが見たのは、まぁヒドイ光景だった。

 

「離せ! 俺はアイツを――!」

「ダメだよ一夏!」

 

 あの黒い千冬さん擬きを見て、怒り狂う一夏とそれを必死に止めるデュノア。

 

「あ……征兎、和海」

 

 そして、それをどうしようもなさげに見ている箒。

 

「え? 征兎、和海!?」

「征兎、手ぇ出すな! 俺はアイツを許せねぇ! あの剣は千冬姉だけのもんなんだ!」

 

 なんで俺だけ名指し?

 しっかし相変わらずシスコンだな。本人に自覚はないだろうけど。

 

「どうする……征兎」

「どうもこうも、まずアイツを落ち着かせないと、どうしようもないわな」

 

 箒の問いかけにそう答える俺。

 ったく、ホントにもう。

 

「だけど、おまえなら真っ先に一夏を止めに行きそうなのにな」

「……一夏の気持ちもわかる。私とて千冬さんに師事していた身だからな、アレをみて思うところはある。だからといってあそこまで向こう見ずというわけではないが」

 

 な~るほどね。

 そういえば、2人は昔、道場でいっしょに稽古してたな。

 

 ちなみに俺は当時から色々と研究みたいなことに没頭してました。そのおかげで束さんと出会い、気に入られてしまったわけだが。

 

 それはそうと、ホントにアイツどうしようか。

 

「……」

 

『ロボットゼリー』

 

 ……ん?

 

 アリーナに着いてからさっきまでずっと静かだった和海に急に動きがあった。

 急にどうした?

 

「変身」

 

 そんな俺の疑問をよそに、和海はベルトのレバーを押し下げた。

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ロボットイングリス!』

『ブラァ!』

 

「か、和海……?」

「……」

 

 恐る恐る声をかけても黙ったまま。……怖いんですけど。

 

「和海! アイツは俺がやる! 邪魔するならおまえでも――」

 

『シングル!』

 

 一夏が和海に色々と言ってるが、それにも答えない。

 代わりに一夏に近づき、ツインブレイカーにスクラッシュゼリーを装填した。

 え……? なに? おまえが千冬さん擬きとやり合うの?

 だが、それはちょっと違ったようで――。

 

「っこのバカヤロウが!!」

 

『シングルフィニッシュ!』

 

「がっ!?」

  

 そのまま、アタックモードで一夏に一撃くらわせた。

 ――って、ええええええぇぇぇぇぇ!?

 

「か、和海……? なにを……」

 

 戸惑いがちにデュノアが声を出すが、まぁ俺も同じ気持ちだ。

 

「ぐ……うぅ……」

「ちったぁ目が覚めたか?」

 

 よろよろと起き上がった一夏にそう言う和海。

 ヤンキーかおまえは。

 

「さっきからずっと怒り任せで、何やってんだおまえは。それじゃあアイツと同じだろうが」

 

 なんか知らんが、和海の説教が始まった。

 ……アレ? なんか前も同じようなことがあったような……。

 

「確かにアイツは千冬さんの剣を汚してるかもしれねぇ。お前には耐えがたいことかも知れねぇ」

 

 静かな口調で言葉を続ける和海。

 さすが昔からの俺のお目付け役(なんかそうなってた)。

 

「だけどそれを堪えろ、一夏。そして、自分が今本当にやるべきことをよく考えろ。怒り任せでやったとこで得られるものなんてなんもねぇぞ」

 

 キャーカッコイイー(棒)。

 なんで……なんでいっつも和海にいいとこ持ってかれんだー!

 こうやってまた、俺の主人公感が薄れていくんだ……。

 

「和海……悪い、カッコ悪いとこ見せたな」

「別に構わないが、そういうのは女子にやってくれ」

 

 和海の肩に額をくっつけながら謝罪の言葉を言った一夏に対し、そう言う和海。

 確かにこのシーンを一部の女子たちが見たら、興奮ものだろう。

 

「……で、だ。今ので白式のSEなくなったんだけどさ……どうすればいいかな?」

「……」

 

 そう告げる一夏と気まずそうに目をそらす和海。

 というか、マジで加減なしでやったのか。さすがだな、和海。

 

「そ、それなら僕のISのSEを一夏の白式に渡すよ!」

 

 この気まずい空気をなんとかしようと、デュノアがそう案を出した。

 まぁ他に案も無いし、即採用です。

 

 その後、デュノアが白式の待機形態にケーブルを繋ぎ、エネルギーを送る。

 その間、例の千冬さん擬きを見てたが、相も変わらず鈍重な動きでこっちに近づいてきていた。

 やっぱコピーだな。本物……というか本人なら、さっきまでのやりとりしてる間に俺たちは全滅だろうしな。

 

 エネルギーを送り終え、SEがなくなったのかデュノアのISは待機形態になった。

 けど、デュノアのISも、仕方ないことだが残りSEが少なかったため、白式の右腕しか展開できないみたいだ。

 まぁ、今の一夏なら充分だろ。

 

「行ってくる」

 

 なんてカッコよく言いやがって。

 

「さっさと決めてこい」

「クラス代表のときみたいにならないようにな」

 

 

 

 そして結果は――。

 

 

「零落白夜、発動!」

 

 

 見事にヤツを切り裂き、中にいたラウラを引っ張り出した。

 

 そして、千冬さん擬きもその形を崩し、ただのスライム擬きになった。

 

 

 



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52話

 征兎side

 

「一夏、ラウラは……?」

「大丈夫だ。気を失ってるだけみたいだな」

 

 ったく世話かけさせやがって、と言いながらもどこか満足そうな顔をしている一夏。

 おまえも和海に殴られてたよな? と思ったが口には出さなかった。

 

「さてと……とりあえず戻ろうぜ。いつまでもここにいてもしょうがないし」

「そうだね」

「だな。俺とシャルルと箒はSEもないしな」

「SEといえば……和海、いつまでそのままなんだ?」

「ぁん? あぁ、そういえばそうだったな……」

 

 一夏を殴り飛ばしてからずっとグリスになったままの和海にそう声をかけると、いかにも忘れてたと言わんばかりにそう答えられた。

 いや、忘れんなよ。そのまま戻ったら大変なことになってたわ。主に千冬さんからの制裁とかさ。

 はぁ……そういえばこの後、おそらくだが、反省文というものが待っているんだろうと思うと気が重い。このドタバタで忘れてくれてたりしないかな……。

 それに、なんかまた和海にいいとこ持ってかれて、オレの主人公感がまた薄れた気がするし、なんとかしないとな……。

 そして何より、万丈のヤツこんなときにどこ行ったんだ? アイツのことだからどこかで吞気にしてるんだろうけどさ。

 

「なぁ、和海……征兎のヤツ、なんか急にブツブツ言いだし始めたんだけどさ」

「……気にするだけ無駄だ。いつものアレだろ」

「いつもの……あぁ! 天才がどうとか主人公感がどうとか言ってるアレか」

「多分そんなとこだろ」

 

 なんか言われてる気がするけどこの際スルー。

 とりあえず、和海が変身解除したら戻るか。

 

 

 そう考えていた和やかな時間は、唐突に聞こえた指をパチンと鳴らしたような音によって終わりを告げた。

 ――え? なんだ?

 

「ん? なんだ――って!?」

「これって!?」

「なにが起こってるんだ!?」

 

 みんなが驚くのもわかる。

 さっきの音とともに、アリーナから出るすべての扉が閉じられ、シールドバリアーも展開された。

 

「おい……この状況、前にも……」

「あったな。ってことは、アイツらがいるのか……!?」

 

 この前のクラス対抗戦のときと同じ状況。

 つまり、それをやってくれやがったアイツらが今回も……と嫌な考えが――。

 

「【残念。今回は俺しか来てないんだよなぁ】」

 

 ――当たってしまった……。

 

「ブラッドスターク……!」

「あのときの……!」

 

 煙とともに姿を現したスタークを見て、一夏はヤツを睨み付け、デュノアは一夏ほどではないが、ヤツに厳しい目を向ける。もちろん俺と和海も(顔が見えないから多分だが)。

 

「【なんだ? みんなしてそんな怖い顔すんなよ。せっかくこうしてきてやったのによ】」

「どの口が言うんだ、テメェ!」

 

 まだ2回しかコイツと関わってないけど、それでもコイツがロクでもないヤツだというのはわかる。ロクでもないという表現でも控え目に思えるほどに……!

 

「征兎……コイツはいったい? なぜ、みんなこんなにも怒りをあらわにしてるんだ?」

 

 この中で唯一、スタークと関わったことのない箒が困惑気味にそう聞いてくる。

 いや……厳密には多少なりとも関わってはいるけど、箝口令を敷かれているため――おまえにビームを撃った無人機をけしかけたヤツなんだ! とは言えないし……。

 

「【ん? おまえは……あぁ、篠ノ之束の妹か! いやぁこうも立て続けにIS界の重要人物たちに会えるなんてな】」

 

 スタークがオレのほうを――正確には箒を見ながらそう言い放つ。

 

「くっ……」

 

 悔しそうに箒が声を漏らす。

 そりゃそうだ。本人を見ず、有名人の身内としてしか見ていないような言い方をされたんだから。そういう意味では一夏も千冬さん関連で大変だった時期があったな。

 しかし、スタークはわざとそういう言葉を選んで言ったように思える。あんなヤツのことなんて理解したくもないけどな。

 

「つまりおまえは、俺たちをイラつかせて、ボコられるためにわざわざ来たわけだな」

 

 和海が、ツインブレイカー・ビームモードの銃口を言葉通りイラつきながらスタークに向ける。

 そういえば、まだ変身解除してなかったね。

 

「【おいおい、勘違いすんなよ。俺は前回の約束を果たしに来ただけだぜ?】」

 

 約束? コイツとそんなんしたっけ? いや、するはずない。

 

「なんのことだ? 俺たちには覚えがないんだがな」

「【やれやれ……ちゃんと言っただろ?】」

 

 肩をすくめるようないかにもなジェスチャーをしながらそう言われたんだけど、コイツに言われるとなぜか釈然としない。

 

「【『次に会うときはもっと面白いイベントを用意しておいてやる』ってな】」

「……! 確かに言ってたかもだけど」

 

 そんなこと律儀に守ってくれなくていい!

 

「俺は次なんてあってほしくないって言ったはずだけどな」

「【そい言うなよ。せっかくこうして用意してやったんだから……な!】」

 

 なにをと聞く前に、ヤツの胸のバイザーからコブラ? が出てきた。

 

「――!? 和海!」

「わかってる!」

 

 すぐさま臨戦態勢。

 ヤベッ!? まだ俺、変身してない!

 

「【慌てるな……楽しみはここからだ】」

「は?」

 

 これ以上なにがあるんだ?

 そんなこと知らんとばかりにコブラが何かを吐き出した。

 ――って……え? 人? 人を吐き出した!?

 うぅ……と唸っているから生きてはいるみたいだけど……。

 

「お、お父さん!」

「「「「――っ!?」」」

 

 だが、デュノアがその人物を見て叫んだことで一変。

 お父さんってことは……。

 

「あの人がデュノア社の社長か」

「だけど、なんでわざわざここに連れてきたんだ?」

 

 人質か……? この状況で何のためのだ?

 わからない……ヤツはなにをしたいんだ?

 

「【感動の親子の再会だな】」

「うぅぅぅ……」

「お父さん! しっかりして! お父さん!」

「シャルル、ダメだ!」

 

 予想外のことに取り乱してしまったデュノアを、今度は一夏が止める。

 さっきと逆だな。

 クソ……! 何が感動の再会だ!

 

「【さて、今からいいものを見せてやる】」

 

 そう言ったスタークはヤツが使っているボトルと同じ紫のクリア素材で出来ているようなボトルを取り出した。何の成分が入っているか表すエングレーブは銀色だ。今、ヤツが持っているのには城? があしらわれている。

 そういえばあれって、俺たちが使っているボトルと違うのか? 少なくとも俺の持ってるボトルにあんなのはない。

 それをヤツは躊躇いなく、デュノアの親父さんの胸に押し当てた。

 すると、ボトルはそのまま体内に取り込まれていった。

 

「なっ……!?」

 

 いったい何をやってんだ、ヤロウは……。

 

「うぅぅぅ……あぁぁぁぁ……!」

 

 デュノアの親父さんが、急に苦しそうな声を出し始めた。けど、そこからは何にも変化は現れない。

 

「【ほぅ……娘を危険な目に遭わせないように耐えているのか】」

 

 親父さん……。

 

「お父さん……!」

 

 そんなスタークの言葉に俺たちは嬉しくなる。

 親父さん……あんた、そこまで娘のことを……。

 このまま親父さんをなんとか救えるかも知れない!

 

「【なら仕方ない】」

 

 しかし、そんな希望をぶち壊すように、ヤツがブレードを取り出して告げる。

 

「【俺が最後のひと押しをしてやるよ!】」

『デビルスチーム!』

 

 ヤツがブレードのバルブを回すと、今回は前回とはまた違った音声が聞こえる。

 その切っ先からは、いかにもヤバそうな青白い煙が出始めた。

 その気体を、ヤツはまたもや躊躇いもなくブレードを振るい、親父さんに浴びせた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そのヤバそうな煙に包まれてしまった親父さんの叫び声が辺りに響く。

 だが、さっきから続く頭の許容範囲外の出来事に俺たちの体が動かない。

 

「お父さん……お父さん!」

「な……何が起こってるんだ……?」

 

 そう呟いたのは誰か。

 

 

 そして、煙は晴れる……。

 

 

「【さて……どうなっているかな?】」

 

 

 

 そこにいたのはまさしく異形というものだった。

 上半身が赤、下半身が青のゴツイ体。

 

 

 

 

「【ハハハハハ!! 成功だ! 今、この瞬間このときをもってここに“スマッシュ”が誕生した! ハハハハハハハ!!】」

 

 

 

 

 



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53話

 

 征兎side

 

 一夏たちを安全な場所に下がらせ、改めて目の前のヤツらと向き合う。

 最初、一夏は自分もやると言ってやがったが、白式のSEがないことと、気絶したラウラや箒たちがいることを理解すると、シャルの親父さんを頼む。と言って下がっていった。

 

「……頼む……か」

 

 いつもなら頼られるとテンションも超上がるのだが……今回はなぁ。

 

「怖気づいたか?」

「まさか」

 

 確かに、今までとは違ってどうなるかわらなくはあるけどさ。

 

「覚悟はいいか和海」

「俺はいつでもできてる。今からのことでお前が懸念していることもな」

 

 そうかい。

 今回の懸念はまさしくどうなるか分からないところ。アレを倒したからといって親父さんが元に戻るという保証はどこにもない。仮に戻ったとしても、何事もなく無事な保証もない。最悪、命の保証はできないかもしれない。

 それを和海はいっしょに背負ってくれると言ってくれているのだろう。……多分。

 

 ふぅ……と一つ大きく息を吐く。

 いつまでも考えていると、逃げのためみたいでダメだ。

 和海にああ言った手前、俺もいい加減覚悟を決めるか。

 

 ――よし! やるか!

 

 改めて覚悟を決めた俺は、ヤツらに目を向ける。

 ブラッドスタークとヤツがデュノアの親父さんを変化させた異形の存在。

 

「……スマッシュ」

 

 そう呟いた。

 それが聞こえたのか、スタークがその存在を自慢するかのように意気揚々と語る。

 

「【コイツは、人体にネビュラガスという特殊なガスを注入することで変化させた存在だ。本来はキチンとした施設で注入させるところだが、これがあれば話は別だ】」

 

 そう言って取り出したのは、あのバルブが付いたブレード。

 

「【こいつがあれば、どこだろうと人間をスマッシュに変えることができる。どうだ? ガスといい、これといい、すごい発明だろう】」

 

 あのヤバそうなガスも、このロクでもない機能のブレードもアイツが作ったのか。

 というか……。

 

 ――は? これが発明?

 こんなみんなを怒り狂わせ、悲しませるものが?

 ……俺は絶対に認めない。認めてたまるか……!

 

「……けんなよ」

「【ん?】」

「ふざけんな!」

 

 感情の赴くままヤツに叫ぶ。

 

「そういうのは発明って言わないんだよ!」

 

 そう言い放ち、ベルトを装着し、ボトルを2本取り出す。

 

「【フフフフフ】」

「ん?」

「なんだ……?」

「【ハハハハハ!】」

 

 怪訝そうにしている俺たちをよそに、スタークがいきなり笑い声をあげた。

 ……なんだ? 今のどこかに笑うような要素があったか?

 

「【ふぅ……、まさかそんなことを言い出すヤツがいるなんてな。思わず笑っちまったよ】」

 

 なに? どういうことだ?

 

「【どうせお前のことだ、発明は人々の生活のためとか、笑顔のためだとか言うんだろ?】」

 

 だったらどうだっていうんだよ。

 そういった意味を込めてスタークを睨む。

 

「【わかっちゃいないな。発明だろうとなんであろうと、科学の行きつく先は破滅。つまり、人類はこのまま勝手に滅んでいくってことさ】」

「なにを……!?」

「【なぜ人類はミサイルを開発した? なぜ核兵器を開発した? 気に入らないヤツらを滅ぼすためさ。そして、やられたヤツらも同じものでやり返す。そうやっているうちに互いに滅んでいくのさ】」

「勝手なことを……!」

「【ISにしたってそうさ。篠ノ之束が宇宙進出ということで発表したときには見向きもしなかったくせに、白騎士事件のあとは、自分たちの無能さをさらけ出さんと言わんばかりの完全な手のひら返し】」

 

 ……おいこら、無能なのは政府のヤツらであって、人類すべてじゃねーよ。

 

「【人間にとって発明は――いや、科学とは軍事利用の側面しかない……そのためでしかないものなんだよ】」

 

 ざけんな! そんなわけない!

 

「違う! 科学を軍事利用するのは周囲の思惑だ。科学者の責任じゃない!」

 

 確かに、積極的に兵器を開発してる科学者がいないとは言わない。

 だけど、すべての科学者がそういうわけじゃない!

 

「束さんが開発したISも、玄乃さんが作ったこのビルドも兵器じゃない。俺が証明してみせる!」

 

 力強く且つ高らかにそう宣言する。

 さらに、件のスマッシュを指し、言葉を続ける。

 

「そして、そんなことを平気でやるお前を許すわけにはいかない!」

 

 パーフェクト……!

 これで、俺の主人公感がかなり上がったであろうことは明白。我ながら完璧だ……!

 いやもちろん、本心でもあるけどな!

 

「台無しだ……」

 

 ん? ……どうした和海? ずっと待たされてたから疲れたのか?

 

「【……なにも知らないというのは悲しいねぇ】」

 

 悦に浸ってた俺は、そうスタークがつぶやいていたなんて知ることもなく、改めてボトルをベルトに装填した。

 今回は紫と黄色。

 

『忍者!』 『コミック!』

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック!』

『イエーイ!』

 

「よっし! 行くぞ、和海!」

 

 専用武器の4コマ忍法刀を握り、隣の和海にそう言う。

 

「……」

 

 しかし、なぜかすっごい微妙な顔でこっちを……正確には俺の持つ武器を見ている。

 いったいどうしたんだ?

 

「なんだ、その相変わらずのセンスの武器は?」

「ふっふっふ。これは4コマ忍法刀! その名の通り、4つの素晴らしい機能を持つ画期的な武器さ! スゴイでしょ! 最高でしょ! 天才でしょ!」

 

 そうやっているうちに、いつのまにか和海が俺から離れていた。

 おや? っと思ったときと、スタークがスマッシュにやれ、と言ったのはほぼ同時。

 

「へ? ――おわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 飛んできたビームをまともに受けた俺は、ギャグキャラよろしくゴロゴロ転がった。

 クソぅ主人公たるこの俺が……!

 けど、なんとか変身は解除されずに済んだみたいだ。

 ぶっ飛ばされても無事とか、主人公の友人のギャグキャラじゃねーか!

 なら、主人公は和海!? 俺がギャグ要員!?

 認めない……! 絶対に認めないぞ!!

 

「……おいバカ。アホなことしてないでさっさと行くぞ」

 

 そんな考えに没頭していたところにそんな通信がきた。

 

「わかってるよ!」

「なに興奮してんだ?」

「いいか! 主人公は俺だからな! お前はその友人のサブキャラ! そこら辺理解しとけよ!」

「は?」

 

 わけがわからないと言った和海を放置し、俺もスマッシュに向かって行く。

 見てろよ……俺の主人公たる素晴らしき戦いを!

 

 

 

 

 

 ……後の和海曰く、スタークに言い返したときの俺は幻だったんじゃないか? とのことだ。

 ちょっと理解に苦しむな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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54話

 

「はあぁぁぁぁ!」

「【――!】

 

 龍華のビートクローザーによる直線的な攻撃をスチームブレードで捌きながら、スチームガンで反撃に転じようとする。

 

「ざんね~ん!」

「【チッ】」

 

 すると、絶妙なタイミングで楯無からのガトリングのよる砲撃、またはランスでのアシストが飛んでくるため、ほとんど玄乃は防戦一方となってしまっていた。

 

(さすが国家代表ってとこかしらね。ホンッット、いやらしいタイミングですこと!)

 

 ウンザリしながらも、なんやかんやでしっかり攻撃を捌いてるのはさすがといったところか。

 しかし、龍華が途端に攻撃を止め、後ろに飛び退いた。

 それを不思議に思ったのも束の間、楯無からランスとは別の武器による攻撃が繰り出されていた。

 それを見た玄乃は、急造コンビじゃなかったっけ!? と、思わず内心で愚痴る。

 剣と思いきや、ワイヤーでつながれた刃の部分が等間隔に分裂し、鞭のように変化して迫っていく。

 

(蛇腹剣かい!)

 

 だが意外と冷静なのか、スチームガンで分裂した刃の部分を撃ち、攻撃を防ぐ。

 

「さすがに通用しないみたいね。でも、こっちにばかり気を取られていいのかしら?」

「【なに?】」

 

 蛇腹剣での攻撃をあっさり防がれたことによる強がりかと思ったが、そうではなかった。

 その直後、その答えがわかった。

 

『スペシャルチューン!』

『ヒッパレー! ヒッパレー!』

 

「【――!?】」

 

『ミリオンスラッシュ!』

 

「くぅぅらぁぁえぇぇ!」

 

 気づいたときにはすでに遅し。

 龍華が横薙ぎに振るったビートクローザーから蒼い炎の弾丸が飛んできた。

 

「【がはぁ!?】」

 

 それを見事にくらった玄乃は、少し転がった後に立ち上がろうとする。

 だが、思ったよりダメージが大きかったのか、片膝をついてしまう。

 

(おのれ、龍華ちゃん……1度ならず2度も。もう絶対にこんなことやってやんないんだから!)

「どう? これ以上戦っても無意味だと思うし、おとなしく拘束されてくれない? 悪いようにはしないわよ」

 

 なんだかんだ言って悪役みたいなことを考えている玄乃に、油断せずランスを構えながら楯無がそう告げる。

 

「【ふっ……】」

「……何がおかしいの?」

「【自分の手の内を明かさずにいられているからこその余裕か? ずいぶんなことだな】」

「何のことかしら?」

「【私が何も知らないと思っているのか? ロシア国家代表よ】」

「…………」

 

 その言葉により少し静寂があったが、それを破ったのもまた玄乃だった。

 

「【……だが、分が悪いのも事実。ここはおとなしく引いてやる】」

 

 直後、ナイトローグの肩のユニットから煙が噴き出し、その身を包んでいく。

 

「――! させない!」

(さてと……さっさとアイツと合流して帰らせてもらいましょう。どうせろくでもないことやってるんだろうし)

 

 向かってくる楯無を無視して、玄乃はさっさとその場から消えた。

 

 

 

 

「……やられた」

「逃げられちゃったね」

 

 ナイトローグが去ったところを悔し気に見ながら言う楯無に、変身を解除しながら龍華がそう言う。

 

「…………」

「……? なに?」

 

 なぜか、不思議なものを見るような目で自分を見てくる楯無に龍華は思わずそう聞いてしまう。

 

「なんであなたはヤツを止めようとしなかったの?」

「いやだって、もう疲れちゃったし、いいかなって」

「……は?」

 

 思わずマヌケな声が出てしまった。

 まさか、そんな厭世的な理由で侵入者の逃走を許すなんて……、とそんな思いだ。

 

「それに早く終わらせないと、征兎といっしょに試合できなくなっちゃうし……」

「あら……」

 

 一転、恥ずかしそうにそう告げる龍華。

 それをかわいいと思いつつ、なぜかいいもの見つけたといたずらっ子のような顔をする楯無。

 

「というわけで、帰りたいんだけど……帰り道わかる?」

「ええ、わかるけど……」

「よっし、じゃあ早く行こう! 試合が始まる前に戻りたいし……ってまだ大丈夫だよね!?」

 

 早く早く、と急かしてくる龍華を微笑ましく見ていた楯無だったが、上での出来事を知っているために残酷な現実(龍華にとっては)を申し訳なさそうに伝える。

 

「残念だけど……上でも色々あって、タッグマッチトーナメントは中止よ」

「……え?」

 

 ポカーンとした顔で楯無をみる龍華。さながら、なに言ってるかわからないといった感じだ。

 そして、それを苦笑いで見る楯無。

 

「「…………」」

 

 ――静寂。

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 ――直後に絶叫。

 楯無の見つめる先で龍華が膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……なんで……せっかく征兎とペアになれたのに……いっしょに戦うことで距離を縮めるはずだったのに……」

 

 一難去ってまた一難?

 両手両膝をつき、地面に顔を向けブツブツ言い始めた龍華。

 それを、どうしたものかと完全に困った顔で見つめる楯無。

 

 

 ――なんとも言えない空気がその場を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

「はぁ! せい! おりゃ!」

 

 4コマ忍法刀でスマッシュに攻撃を仕掛ける俺。

 

「ふっ! らぁ! うらぁ!」

 

 ツインブレイカーのアタックモードでヤンキーよろしく攻撃する和海。

 そうして現在、デュノアの親父さんが変化させられたスマッシュと戦闘中である。

 

「……う~ん」

 

 さっきから思ってたが、やはり気のせいじゃなさそうだ。

 

 ――俺の攻撃あんま効いてない!

 

 絶対そうだ。

 和海の攻撃をくらったときと俺の攻撃をくらったとき。明らかに怯み方やよろけ具合に違いがあった。

 浅く入っただけかと最初は思ったが、そんなことなかった。

 ベストマッチ機能がない分、和海のグリスの方がパワーがあるのは知ってたが、ちょっと悔しい。

 

「まぁ、それは後でいいか」

 

 これが終わったら、強化アイテムを完成させることを固く決めて目の前の敵に集中、集中。

 すると、スマッシュが腕をクロスさせ、体中にエネルギーを纏い、こっちに突っ込んできた。

 

「甘いぜ!」

 

 もうアイツの攻撃をくらうなんて懲り懲りだ。

 4コマ忍法刀のトリガーを4回プッシュ。

 

『隠れ身の術! ドロン!』

 

 周囲に煙幕が発生し、俺を隠す。

 それを上手く利用し、そそくさと……。

 もちろんスマッシュの攻撃は空振り。辺りをキョロキョロし、俺を捜してるのかな?

 この隙を逃す俺ではないわ!

 今度はトリガーを1回。

 

『分身の術!』

 

 分身が実体化すると、ともにうなずき合い、ヤツに攻撃していく。

 

「せい!」「せい!」

「はぁ!」「はぁ!」

「どりゃ!」「どりゃ!」

 

 高速で交互に攻撃し、ある程度したところで、分身とともにトリガーを3回。

 

『『風遁の術!』』

 

 忍法刀に竜巻が纏われたところでヤツを攻撃。

 

「「『『竜巻斬り!」」』』

 

 俺と分身、そして音声×2。……ちょっとうるさかった。

 斬撃を浴びたスマッシュは吹っ飛び、すぐに起き上がる。

 

「和海!」

「わかってる!」

 

 そう答えた和海がスマッシュを追撃。

 怒涛のラッシュを浴びせる。

 さすがヤンキー、相手を殴るのはお手の物ですね。

 そしてある程度したところで、分身を消した俺がその後ろから行く。

 

「よし!」

 

 和海の肩を借り、上に跳躍しながら忍法刀のトリガーを2回押す。

 

『火遁の術!』

 

 そして、着地と同時に攻撃できるよう計算した俺のパーフェクトな斬撃が炸裂!

 

「『火炎斬り!」』

 

 火炎を纏った斬撃をまともにくらい、もうスマッシュは満身創痍っぽい。

 なんかフラフラしてるし。

 っていうか、飛行機能いちおうあるんだから肩借りなくてもよかったな……。

 

『ラビット!』 『タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

「ビルドアップ!」

 

 ラビットタンクフォームになったところで、隣に和海がきた。

 

「決めるぞ!」

「ああ、とっとと終わらせるぞ!」

 

 俺はベルトのレバーを回し、和海はレンチを下げる。

 

『Ready GO!』

『スクラップフィニッシュ!』

 

 共に跳躍し、これで終わりにするためにキックを放つ。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

「「はあぁぁぁぁ!!」」

 

 俺と和海の渾身の一撃は見事スマッシュに炸裂。

 そして背中を向ける俺たちの後ろで、緑色の炎を上げ、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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55話

 征兎side

 

 自分の背の向こうで、爆発音が聞こえたと同時に、やり過ぎたかな? という思いがでてきた。

 いくらスマッシュというものに変化させられたとはいえ、デュノアの親父さんなのだ。

 和海もそう思ったのか、顔を合わせようとした俺と速攻で目が合った。

 

 変身を解除し、恐る恐る後ろを見ると、デュノアの親父さんが倒れていた。

 ヤベー!?

 もちろん俺たちは慌てて駆け寄る。

 

「ちょっ、大丈夫ですか!?」

「すいません、やりすぎました!」

 

 なんかちょっと違う気がするが、そんなの気にしている余裕はない。

 別の方を見ると、一夏たちがこっちに近づいて来ているのが見えた。

 こっちに来る前になんとか親父さんがの無事を確認しなくては……!

 

 だが、ふと冷静になり違和感に気付いた。……気付いてしまった。

 俺の目の前に、光の粒子が舞っているのだ。

 え……なにこれ?

 そして、その原因がデュノアの親父さんであることにも……。

 まじで何が起こってんの!?

 直後、うめき声が聞こえ、親父さんの目が少し開かれた。

 俺は、思わず親父さんを抱き起こし、声をかけた。

 

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 

 ホントは何があったかとか聞きたいところだが、さすがに今はそれどころじゃない。

 この状況を把握し、なんとかしないと……!

 そうしている間にも親父さんから出ている光が強くなっている。直感的にこれがヤバいことはわかるけど、どうにもできない。

 

「クソ……! どうすりゃいいんだよ!?」

 

 思わずそう漏らしたとき、親父さんが震える手で上着の内ポケットからUSBメモリを取り出し、俺の手に握らせた。

 

「これは……?」

 

 そう聞くが、答えは返ってこず、只々今出せる精一杯の力で俺の腕を握ってくるだけだった。

 まるで、後は頼むというみたいに……。

 

「――!」

 

 言葉を発しようとした直後、親父さんの体が光の粒子となり、俺の腕の中から消えた……。

 

「…………」

「……マジ……かよ」

 

 視界の端で、デュノアが顔を手で覆い崩れ落ちたのが見えた。

 和海も呆然としている。

 俺もまさかの出来事にどうしていいかわからない。

 だけど、これだけはわかる。この元凶となったヤツを絶対に許してはいけないということだけは……!

 

 怒りに思考が染まりそうになるそのとき、ソイツの声が聞こえた。

 

「【……普通はスマッシュになると前後数時間の記憶はないはずなんだがなぁ】」

 

 ブラッドスターク……!

 何のことかよくわかんないが、ぶつくさ言いながらデュノアの親父さんに挿したはずの紫のボトルを拾っていた。

 

「【……やっぱりダメか】」

「スターク!」

 

 ボトルを見ながら何か言っているスタークだったが、俺の声でこっちを見た。

 

「【ハハハ、アイツが消えたことなら気にするだけ無駄だ。スマッシュになったときからアイツは消えるって決まってたんだからな】」

「……んだと?」

 

 和海がヤバい剣幕でいるが、そんなことまったく気にせずスタークは続ける。

 

「【ただでさえハザードレベルが2.0程度しかないヤツにロストボトルを挿し、そのうえネビュラガスを追加で注入したんだ。あっという間に限界値を超えたはずだ。むしろここまで持ちこたえていたのが不思議なくらいだ】」

 

 ハザードレベル? ロストボトル? 

 知らない単語が出てきて、余計に俺を混乱させる。

 

「【そもそも、最初の時点でかなり弱ってたんだ。本当によくがんばってたよ】」

 

 そう言いながら、バカにするように笑うスターク。

 ……許せねぇ。

 

「……要は、お前のせいでデュノアの親父さんは消えたってことだろ」

「【だとしたら?】」

 

 思えばこれは挑発だったのだろうが、怒りで頭に血が上っていた俺はそんなこと気にもしなかった。

 

「決まってるだろ!」

 

『ローズ!』 『ヘリコプター!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

「変身!」

『情熱の扇風機! ローズコプター!』

『イエーイ!』

 

 ぶっ殺す!

 新たなベストマッチ、ローズコプターフォームとなり、背中についているバトルローターブレードを持ちスタークに向かって行く。

 

「おおおぉぉぉぉぉぉ!」

「待て、征兎!!」

 

 和海が俺を制止する声が聞こえたが、俺はとまるつもりはない。

 今は目の前のコイツを……!

 

「オラぁ!!」

「【やれやれ……】」

 

 怒りのまま、がむしゃらにスタークにブレードを振るいまくる。

 自分らしくないとわかってるけど、止めるつもりはない!

 

「【そんな感情任せの攻撃でなんとかなると思ってんのか?】」

「うるせぇ!」

 

 ため息をつかれながら、涼し気に攻撃を避けられ、捌かれる。

 それによって、さらに頭に血がのぼってしまったのだろう。

 やってしまった、と思ったときにはもう遅かった。

 

「――っ!?」

 

 スタークの持つ銃が俺の腹部に押し付けられていた。

 

『スチームブレイク! コブラ!』

 

「ぐわあぁぁぁ!?」

 

 当然のごとく、見事にそれをくらった俺。

 吹っ飛ばされ、変身が解除されてしまう。

 

「【残念だ】」

 

 そう言い、俺に銃口を向けるスターク。

 和海が叫びながらこっちに来てくれているが、まぁ間に合わないだろう。

 つーかアイツ変身もしてないのに、まったく……。

 今度こそゲームオーバーか……。

 

 

 

 

 そう思い、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――が、いつまで経っても痛みがこない。

 

 

 

 

 

 

 

 ……はて?

 

「【……なんの真似だ?】」

 

 気になって目を開ける。

 そこには、ため息を吐いたスタークと、その銃を持った手を押さえつけているナイトローグ。

 

 

 ――って……あれ?

 

 

 ナイトローグ!? いつのまに!?

 

「【それは、今はダメだ】」

「【なに……?】」

 

 ……? 何のことだ?

 

「【……】」

「【……】」

 

 そのまま、睨み合うスタークとローグ。

 空気がとても重く感じる。

 正直、俺の近くでとか勘弁してよ……ただでさえ、命の危機なのにさ。

 

「【……わかったよ】」

 

 ローグの手を払いのけ、機嫌が悪そうに言うスターク。

 

「【ローグに免じて今日は帰るわ。Ciao】」

 

 そう言い、煙に包まれスタークは消えた。

 

「【……】」

 

 ローグはそれを見送り、一つ息を吐き、いつのまにか和海に支えられていた俺の方を向いた。

 

「【もっと強くなれ。次は――情け容赦なく消す】」

 

 ……え? なんでローグがそんなことを……。

 呆然としているうちに、いつのまにかローグもいなくなっていた。

 あ……ヤベ、普通に逃がしちった。

 

 

 

 

 結局、いいようにやられただけじゃねーか……。

 デュノアの親父さんも救えずに……。

 

 

 

 

 ちくしょう……ちくしょう……!!

 

 

 

 

 

 この悔しさ……屈辱……二度と忘れねぇ……!!

 

 

 

 

 

 



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56話

 

 征兎side

 

 あの日から少し経ったある日の放課後。

 俺は、例の強化アイテムを完成させるための最後のステップのために、整備室の一つを貸し切り、ある装置を組み立てている。

 

 

 

 スタークたちがいなくなったあの後、教員部隊が来て、当然だが俺たちはお役御免となった。

 部屋に帰ってからも無力感に苛まれ続けていた俺に対し、珍しく和海が優しかったことからも相当だったんだろう。

 つまり、そんなときに男子の大浴場使用がOKだと言われても行く気になるはずがない。まぁ、一夏は喜んで行ったらしいが……。

 

 しかし、そこで事件は起こっていた。

 なんとあの野郎、まだ女子として転入していなかったからといって、同じく山田先生に声をかけられていたシャルロット・デュノアといっしょに入ってやがったのだ。

 そのことをどこから嗅ぎつけたのか、とある女子がSHR中のシャルロットの自己紹介直後に暴露したからさあ大変。阿鼻叫喚の騒ぎになり、我らが担任が騒ぎの当事者たちを沈める――じゃなかった鎮めるまで続いたらしい。

 なんか、ラウラが一夏にキスしたとかどうとか言ってたが……とりあえず一夏、マジで爆発してしまえ!

 そうそう、俺たちはデュノアのことをシャルロットと呼ぶようにした。本人からもOKもらったしな。

 

 そしてなにより、この一連の出来事を俺は見ていない。

 風呂の件はともかく、教室の出来事は知っていてもおかしくないのだが、そういうときに限って寝坊し、大遅刻した。

 いやさ……前日あんなことがあったんだよ? 中々寝付けなくてもしょうがないじゃん? 次の日、起きれなくてもしょうがないじゃん! ていうか、みんな切り替え早くない?

 そして何より、和海も俺を起こすのを颯爽と諦め、見捨てて行きやがった。薄情者め!

 起きたときには、とっくに1限目が開始されていた。いや~時計を何度も見直したね。

 もちろん、大遅刻をかました俺に慈悲は無く、担任の鬼教官から罰を言い渡された。内容は割愛。ひたすらにキツかったとだけ言っておく。

 

 ちなみに、万丈のヤツ、あのときどこ行ったかと思いきや、なんと地下でナイトローグと戦ってたらしい。……なぜか痴女会長といっしょに。

 どういうこと? と思いはしたが、当の本人すら、よくわかんないけどそこにいたから、と言っていたのでバカには色々と理解できない事情があったんだと納得しておいた。

 

 

 

 

 

 

「……で、なんのようだ?」

 

 と、協力を要請しておいた助手の和海くんが来たようだ。

 そして、いっしょになぜか鈴と万丈がいた。

 

「一夏たちが、どっか出かけちゃってヒマなのよ」

「なんかおもしろそうだからついてきた!」

 

 いや、別にいいんだけどさ……でもなんていうか。

 

「鈴……お前、俺たち以外に友達いないのか?」

「ちゃんといるわよ! 失礼ね!」

「いや、だってさ……」

「そういうあんたこそ、あたしたち以外に友達いないでしょうが!」

「な!? んなわけないでしょうが!」

「どうかしら? あんたが和海や龍華以外と話してるの見たことないんだけど?」

「そんなこと――」

 

 ……あれ? そういえば、ここに入学して早数ヶ月。なにかをするときは、和海や万丈ぐらいしかいっしょに行動してないような……。

 一夏は常に女子にまとわりつかれているのに……。

 

「……バカな」

 

 突きつけられた事実に崩れ落ちる。

 

「ごめん……なんか……悪かったわ」

「今まで他者との交流よりも発明だなんだとやってたツケがきたな」

「大丈夫! 征兎のそばにはちゃんと私がいるから!」

 

 よりによって万丈に慰められるなんて……!

 ちくしょうーーー!!

 

「(さすが龍華。露骨なアピールね……)」

「(……どうせまともに聞いてないだろうけどな)――で、結局のところなんの用なんだ?」

 

 そうだった、当初の目的を忘れるとこだったぜ。

 

「これを見ろ!」

 

 さっきまで組み立てていた装置を見せる。

 

「これは、ビルドの強化アイテム製造最終過程に必要な装置だ。このアイテムと相性の良いベストマッチのボトルをここに挿すと、装置が光る仕組みだ」

 

 装置について説明したが、なぜか鈴と和海は胡散臭いものを見るような目を向けている。

 

「じゃ、後は任せた」

 

 まぁいいか、とボトルの選択と装填を任せ、俺は特殊部隊が使うような楯の後ろへ。

 

「……しょうがねぇ、さっさと終わらせるか」

 

 ため息をつきながらもボトルを選ぶ和海。

 

「じゃあ……パンダ・ロケット……っと」

 

 2つのボトルが装填され、装置が反応する。

 ピーピーピーピーといかにもヤバそうな音を出しながら。

 

「ぐおぉぉぉぉぉっ!?」

 

 そして、爆発音とともに和海が吹っ飛んだ。

 あ、壁にぶつかった。……痛そう。

 

「ちょ!? なによ、今の!?」

「パンダ・ロケットはダメ……っと」

「そんな吞気に結果をメモしてる場合!?」

 

 大丈夫、大丈夫……死にはしないって。

 なんだかんだ言いつつ、鈴がチャレンジを始める。

 

「なら、これね」

 

 鈴が挿したのは、ライオンと掃除機。

 だが、残念かな。さっきと同じ、ヤバめの音が鳴り響く。

 

「あんぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 あーあ……。

 鈴の体を電流が流れる。地味に効きそうだ。

 つーか、ぷっ……思わず笑っちまいそうだ。

 

「ライオンと掃除機もダメ、と」

 

 さて、順番的に次は万丈か?

 

「う、く、よーし、じゃあ……」

 

 万丈のヤツ、笑いこらえてね?

 

「待て、龍華! 俺がリベンジする」

 

 ボトルを選ぼうとした万丈を制止し、復活していた和海が再チャレンジするようだ。

 

「よし……これだ!」

 

 なんか、自棄になってない?

 挿したボトルは、ゴリラとダイヤモンド。

 結果は……。

 

「つぅ~~~……」

 

 ハズレ。

 大量のダイヤモンド? が飛び出して和海の顔面を直撃。あれは痛いわ……。

 

「次はあたしにやらせなさい!」

 

 次は、もう完全に自棄になってるであろう鈴。

 選んだボトルは、ハリネズミと消防車。

 

「…………」

 

 結果は……まぁ残念。

 噴水のように出てきた水を見事に被り、ずぶ濡れになった。

 

「ぷ、く、フフフ」

「く、く、く」

 

 ヤベぇ……笑いがこらえきれねぇ。

 しかし、水も滴るいい男ならぬいい女だな。

 

「……」

 

 思わず笑いがこぼれてしまったところで、ギロリと聞こえてきそうなものすごい顔で鈴に睨まれた。

 お~こわ……女の子がしていい顔じゃないだろ、それ。

 

「よ、よ~し。今度こそ私がいくよ」

 

 鈴に気圧されながらも、ようやく万丈がいくようだ。

 

「う~ん……よし! これだね」

 

 そう言いボトルを挿し込むと、さっきまでと違う雰囲気があり、そしてなんと、装置が光った。

 

「おぉ……光った!」

 

 挿し込まれたボトルは、ラビット・タンク。

 なんだかんだ言っても、最初のベストマッチだったか。

 やったね! と言わんばかりに万丈と珍しくもハイタッチ。

 和海と鈴はなんとも言えないような顔をしている。まぁ、あれだけ被害を受けたのにコレだからね。しょうがないわ。

 しかし、やっぱり素晴らしい!

 

「「さすが、俺/私 の発明品/第六感!!」」

 

 ん? と再び声が被る。

 さっき聞き捨てならないことが聞こえたような?

 

「ハハハハハ」

「フフフフフ」

 

 互いに笑いがこぼれる。

 こうなったらもう、互いに譲る気はない。

 

「「今日こそ決着つけてやる!!」」

 

 こんな脳筋に負けてたまるか!!

 

 

 

 

「……はぁ、また始まった」

「付き合ってられん。片付け手伝わされる前に帰るか」

「それもそうね」

 

 

 

 

 その後、不審な音が響きまくっていたのを聞きつけ様子を見に来た我らが担任によって、俺らは見事に沈められた。

 しかも、いつのまにか和海と鈴がいなくなっていたため、あの惨状を2人で片付ける羽目になった。

 脳筋万丈は大雑把だしホント勘弁だよ。

 あの裏切り者どもめ……覚えてろよ!!

 

 

「桐生、手が止まってるぞ。私も暇ではないんだ。さっさと! キレイに! 片付けろ」

「……はい」

 

 汚部屋の創造主のその言葉に釈然としないものを感じながらも、早くこの地獄から抜け出すため、俺は必死に手を動かすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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57話

 征兎side

 

「あぢぃ~……」

 

 ようやく強化アイテム完成の目途がたった今日この頃、なぜか俺はこの灼熱地獄の中、ショッピングモールなるところへ来ていた。

 

「なんでわざわざこんな暑い中来なきゃなんないんだよ……」

「別にいいでしょ。どうせ部屋でヒマしてたんだから」

 

 そんなことを言いやがるのは、俺を半ば無理矢理ここに連れ出しやがった万丈。

 ヒマじゃないよ。強化アイテム作ってたんだよ。

 

「なぁ……俺、来なくてもよかったんじゃないか? 帰っていいか?」

 

 ここにきて未だにそんなことを言ってるのは、俺が強引に連れ出した和海。

 俺が暑い中連れ出されるのに、コイツだけ部屋で涼んでいるとか許せん!

 

「……」

 

 なんか、万丈が和海のほうを複雑怪奇な顔で見てるけど……まぁいいか。

 さっさと用を済ませて帰りたい。

 

「(すまん、龍華)」

「(――!? な、なんのこと?)」

「(いやなに、二人きりにしてやれなくて悪いな、と)」

「(べ、べべべ別に私はそ、そんな……)」

「(はいはい)」

 

「んで、どこに行くんだ? さっさと済ませようぜ」

 

 いつのまにか俺が先頭で歩いていたが、目的地がわからないためそう問いかけた。

 

「ん~? 特にコレといった用はないよ。そこら辺ぶらぶらしようかな、ぐらいで」

「……は?」

 

 なん……だと……。

 こんな暑い中出てきたっていうのに……マジかよ。

 

「はいはい、じゃあ行くよ!」

 

 渋々……本当に渋々、歩きだした万丈に着いて行く。

 もう、気分がゲンナリして文句言う気も起きないよ。

 

「もういいや。行こうぜ、和海」

「ああ」

 

 はぁ……とため息をつき、もうここまで来たんだからと腹をくくり歩を進める。

 

「――おっと」

 

 いきなり和海がそう声を漏らしたから自然とそっちを見ると、誰かが和海の背中にぶつかったみたいだった。

 

「あ……す、すみません!」

「あ、いや、大丈夫です」

「本当にすいません! 治療費のほうはキチンと払わせていただきますから、どうか何卒!」

「いや、ケガとか全然してないから!?」

 

 和海の内側のヤンキーを察したのか、相手めっちゃ必死に謝ってるんですけど。

 腰のあたりまで伸ばしているストレートの銀髪の女の子。見た目だけなら、どことなくラウラに似ているような気がするな。

 ただ、全体の雰囲気というか……こうして和海に必死に謝っているとこを見ると、性格とかは全然違うんだろうなって思える。

 というか、珍しく和海からSOSの視線が飛んできてるが、おもしろいからこのままにしておくか。

 後で覚えておけ、と言わんばかりに睨まれている気がするけど気にしなーい。

 しかし……この相手の子、どっかで見たことあるような……?

 

「う~~ん」

「なんだ、裏切りのクソ野郎」

「……もうちょっとソフトな言葉にしてくれないかな?」

「黙れ、クソが」

 

 さっき助けなかっただけで、そこまで言う?

 俺じゃなかったら泣いてるよ?

 

「それよりこの子、どっかで見たことあるような気がすんだけど……?」

「なに?」

 

 そうして、女の子をまじまじと見る和海。

 傍から見れば完全にヤバイ人だな。相手の子もどうしていいかわからなそうにしてんぞ。

 

「……だ」

「ん?」

 

 なんだって?

 

「ユーたんだ」

 

 ゆーたん? ……はて? どっかで聞いたことがあるような……?

 

「あ、あの! ユーたん――じゃなくて……ユウナ、さん……ですか?」

 

 ゆうな? ……ってユウナ!? 和海が大ファンの、あのネットアイドルの!?

 

「え? あ、はい。そうですけど……」

 

 マジで!? 本物!? 普通のアイドルならともかく、ネットアイドルの彼女がなぜここに!?

 

「猿渡和海、15歳、彼女無し! ネットで初めてあなたを見たときから、心火を燃やしてフォーリンラブです!」

 

 驚愕している俺をよそに、背筋をこれでもかと伸ばして自己紹介を始めるバカ。

 そろそろ警備員とか呼ばれないか、本気で心配になってきた。

 

「えっと……猿渡……さん?」

「いえ、俺のことはカズミンと呼んでください!」

 

 コイツ、マジ何言ってんの?

 あんたら初対面でしょ?

 

「じゃ、じゃあ……カズミンさん?」

「敬語も要りません!」

 

 もうダメだ……。

 完全に頭のネジが吹っ飛んでるわ。

 

「なら……私にも敬語使わないでください。歳、同じみたいなので」

 

 こっちもこっちで何言ってんの?

 つーか、同い年すか。

 

「わかり――いや、わかったよ、ユーたん。それと握手……してもらっていい?」

 

 図々しいな、おまえ!

 おずおずと手を出す和海に内心ツッコむ。

 いや、それよりも心配なことが一つ。

 

「お、おい……和海? いちおう彼女、アイドルなんだし、気軽にそういうのを頼むのは……。それに、そろそろお前がただの変態にしか見えな――げふぅっ!?」

 

 せっかく忠告してやろうとしたのに、なんの躊躇いもなく殴ってきやがった!?

 しかも、まったく見えなかっただと……!?

 

「うん! 私なんかでよければ喜んで!」

 

 マジかい。

 どことなく嬉しそうに和海の手を取るユウナさん。

 いいの? アイドルがそんなに気軽にさ。

 和海はあまりの興奮でショートして動かなくなった。

 

「それより……彼は大丈夫なの? なんか急に倒れちゃったみたいだけど……」

「大丈夫、大丈夫。アイツ時々意味もなく倒れるんだ」

「あ、そうなんだ。なんか変な人なんだね」

 

 んなわけあるかーい!!

 時々意味もなく倒れるってなに!? 今の今までそんなことなかったはずでしょ、幼馴染!!

 そして、ユウナさんも納得しないで!?

 

「あ……もう行かないと」

 

 俺の頭ではもう色々と理解できない展開の中、携帯にきていたメッセージを見て、彼女がそう言った。

 

「じゃあまたね! 今度会ったらいっしょにお茶でもしようね、カズミンくん」

「あ、うん」

 

 そう言い、彼女は去っていった。

 和海のヤツはその場に呆然と突っ立っている。

 最後まで俺、空気だったな。いつもと違い、なんか只々むなしかった。

 もういいや……帰ろう。

 

「あれ? なんか忘れてるような……」

 

 いったいなんだ?

 

 

 

「……随分楽しそうだったみたいだね」

 

 

 ……あ、万丈。

 

「私のことを忘れて、他の女と随分と楽しそうにしてたね」

 

 ヤベー……なんかわかんねえけど、怖え……。

 逆らったら、ヤラレル。

 

 

 

 その後は、心を無にして万丈のご機嫌取りに努めた。

 アホの和海は、もちろんそのまま置いてきた。

 

 俺の心の負担が軽くなったと同じく、財布の中身も軽くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツ某所、VTS違法研究所。

 侵入者を知らせる警報が鳴り響いているここの床には、色々なものが散乱していた。

 書類であろう紙類、機械類やドアであったものの破片、そして人。

 動いているのは、この惨状を作った人物たちだけ。

 

「まったく、私たち二人だけで充分なのに、なんでマスターはアイツまで……」

「……ん」

「そう言うのなら、少しは手伝ったらどうなのですか」

 

 その場で佇み愚痴を言う二人に対し、唯一作業をしている人物がそう言う。

 

「イヤ……」

「イヤです」

「……即答ですか」

 

 思わずため息をついてしまう。それでも、作業の手を止めないあたりはさすがというところか。

 

「問題ないでしょ。レイさんはこの前、マスターとお会いしたのだから」

「……確かに」

 

 レイと呼ばれた女――前にスタークにデュノア社で会っていた彼女は再びため息をつく。

 

「どんな理由ですか。それに私だってそれ以来会っていません」

 

 そして、さっきから文句ばかりの彼女たちに振り返る。

 

「あなたたちだって、今度の任務でマスターに会うではないですか」

「だって、私たちはまだ会ってないから」

「……うん」

「なんですか、それ……」

 

 三度目のため息。

 それから、手に持ったUSBを見せる。

 

「とにかく、終わりました」

「じゃあ帰ろう」

「……うん」

 

 そして一人が、トランスチームガンに似た紫の銃を取り出し、銃口から出した煙で三人を包む。

 

「しかし……マスターはVTSのデータなんかを何に使うのか」

 

 その場から転移する前に、最後にレイはそうポツリとこぼしたが、二人には聞こえていなかった。

 

 

 

 IS学園での一件を受け、委員会の機関が乗り込んだのは、すべてが終わった後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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58話

 征兎side

 

 窓の外を景色が流れて行く。

 外は文句のつけようがない晴天だ。

 これから行われる臨海学校にふさわしい天気だろう。

 そう、バスに揺られながら思いたかった……。

 しかし、今はそれどころじゃなくなってしまっていた。

 それは――。

 

「うぷ……」

「……」

 

 まさかまさかのバス酔い。

 なぜだ、なぜこうなった。

 

「ヤバイ……出すかも」

「今やらかしたら、その窓から外に放り出すぞ」

 

 緊急事態宣言にもこの言いよう。

 和海くんはもっと俺にやさしくしてもいいと思うんだ。

 

「だいたい、投影型だから大丈夫だとかわけわかんねえこと言って、いつまでも画面を凝視してたからだろうが」

 

 ……うっ。

 大丈夫だと思ったんだ。

 だって、投影型だよ? 最新型だぜ?

 そうこうしてるうちに、海が見えてきた。

 

「ああ……あの海の青と同じ、俺の今の気分もまさしくブルーだ……」

「ふざけたこと言ってねえで、おとなしくしてろ。青い海の前にアスファルトの海に沈めんぞ」

 

 そんな殺生な……。

 しかし、もうすぐ到着とはいえリバースしそうでヤバいのも事実。

 ここは、おとなしくして無事に宿まで行こうではないか。

 やらかしたら、本当に窓から捨てられそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、無事にバスは旅館っぽいところに着いた。

 俺もリバースすることなく、アスファルトの海にダイブさせられることもなかった。よかったよかった。

 

「チッ」

 

 おいそこの、この前大ファンのネットアイドルに会えて浮かれまくってた猿渡和海! 舌打ちしたのハッキリ聞こえてんだよ!

 そんなに俺をアスファルトの海に落としたかったの!?

 

 その後、旅館の方々に挨拶し、男子の浴場の時間を作ってもらったことに一言お礼を言い、それぞれ部屋に向かう。

 この後は、自由時間となっているからみんな着替えて海に行くようだ。

 

「あれ? そういや、俺らの部屋ってどこだ?」

「そういえば、載ってないな……」

 

 一夏と和海もわかんないのかよ。

 もしかして……野宿!? いや、夏だから一日ぐらいならなんとかなる……かもだけどさ。

 いざとなったら、万丈の部屋で泊めてもらうか? いやダメだ。同室のヤツらにまたベストカップルだのなんだのと言われるに決まってる。そういう風に見られるのが嫌とかじゃなくて、俺とアイツは頭脳派と肉体派。相容れないのだよ。

 

「おいバカ。行くぞ」

「え? どこに?」

「お前……今、織斑先生がついてこいって言っただろ」

 

 ヤベ……どうでもいいこと考えてて聞いてませんでした。

 ちなみに、部屋は千冬さんと同じだそうです。夜中、女子が遊びに来るのを防ぐためとか。

 まぁ別にどうでもいいけど、千冬さんと同じ部屋とか……精神的にやられそうなんだけど。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、着替えて砂浜に出てきた俺たち。

 しかし、やっぱり季節は夏。

 

「暑い!」

「うるせえ!」

 

 だって、暑いんだもんよ。

 

「んなわかりきってること叫ぶな。だいたいなんだ、その恰好は?」

「ん? なんか変か?」

「ああ、悪い意味で目立ってるな」

 

 うそーん。

 ちなみに、俺の恰好は海パン、パーカー、白衣である。

 どこもおかしくないと思うけど。

 

「俺、時々お前が龍華よりバカなんじゃないかって思えるわ」

「なに!?」

 

 よりにもよって、万丈以下だと!? そんな非現実的なことありえない!

 

「征兎……!」

 

 ん?

 声をかけられそっちを向くと、そこに水着の鈴と万丈。

 なんというか……色々と残念な二人組だな。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「いやいやまさかー」

 

 こういうことに対する鈴は相変わらず鋭いな。

 

「鈴、吹っ飛ばすならあっちがいいぞ」

 

 そう言い、和海が指した方向は海と反対側。

 灰色のコンクリートの塀がそびえ立っている。

 

「――って、お前どんだけ俺をコンクリートに沈めたいの!?」

 

 なに、何なの?

 ケラケラと笑う和海を見てそう思う。

 今日のお前怖いよ!?

 

「しっかし、あんたのその恰好なによそれ? 悪い意味で目立つわよ」

「お前もか。そんなに変か?」

 

 和海に続き、鈴にもそう言われてしまった。

 そんなに変? そう思い、自分の体を見渡していると、不意に白衣の袖を弱々しく引っ張られた。

 

「その……どうかな?」

 

 暑さのせいか、顔を少し赤くして、万丈がそんなことを聞いてきた。

 どうって……その、水着のことだよな。

 

「…………」

 

 思わずジッと見てしまう。

 いやさ……中学時代に見たあのスクール水着? みたいな感じのやつじゃなくて、ビキニタイプの水着。

 如何せん色々と残念だが、キチンと引き締まっていて、そこはかとなく色気を感じるような……――って、何を考えてんだ俺はーーー!?

 違うそうじゃない。 

 でも、いくら脳筋とはいえ、ムキムキというわけじゃないんだよな。この体でなんであんな身体能力が発揮されるのか。見た感じ、硬いわけじゃなく、むしろ柔らかそう……――って、だから~~~~!

 

「……」

 

 ヤベ!? いつまで経っても何も言わないからか、なんとなく不安そうな顔をしてるように見える。

 クソ……万丈のくせにナマイキな……!

 

「あ~……その~……」

 

 くっ……なんでこんな恥ずかしいんだ。

 

「に、似合ってる……カワイイ……んじゃないか?」

「そ、そう? えへへ、ありがと」

「「!?」」

 

 あーーー! 顔が熱い! 

 なんでこんなことになってんだ!?

 なんかとてもじゃないけど、万丈のほうも見れないし。

 

「(ウソでしょ!? 征兎が龍華にカワイイって!? カワイイって言ったわよ!?)」

「(あ、ああ。俺もビックリだ。この暑さで思考回路がおかしくなったのか?)」

 

 あーあーあーあー。

 何なんだよ、まったくさ。

 しばらく顔の熱はとれなかったが、その後は、まぁそれなりに青い海を満喫したと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、あなたは参加しなくてよかったの?」

 

 IS学園の生徒たちが海で遊んでいる光景を見ながら、玄乃は隣にいる人物に問いかけた。

 

「参加する意味を見出せないからな」

 

 隣にいた人物――更識簪はめんどくさそうに答える。

 

「そんなもんか。ところで、今回はあの二人を組み込むんでしょ?」

「まぁな。今後のことを考えて、ここらでお披露目しとかないとな」

「まったく……そのために例の紫の銃を三丁。地味にめんどくさかったんだけど」

「ちゃっかり、自分の分も作ってるじゃねぇか。一つ作るのも三つ作るのも変わんないだろ」

「知ってる? 1と3の間には大きな隔たりがあるのよ?」

 

 皮肉を込めて言った言葉もあっさりと返される。

 思わず玄乃の口からため息が漏れる。

 

「ところで」

「あん?」

「銀の福音……わざわざ暴走させる必要あったの? そんなことしなくてもあんたならどうとでもなるでしょ?」

「否定はしない」

「しないのかい」

 

 再びため息。

 いったい、コイツに関わってからどれだけため息をついたのか。

 そんな考えが頭に浮かんだが、直ぐにやめる。結果はわかりきってると、玄乃は自分でわかってるからだ。

 

「今後のイベントはともかく、アレとのイベントは主人公くんにとって大事な出来事だからな。是非ともパワーアップの瞬間を俺たちで演出してやろうじゃないか」

 

 大げさな身振り手振りでわざわざそんなことを言う。

 

「それに、俺は銀の福音が欲しいんじゃない」

 

 そして、本来の簪が絶対にしない醜悪な笑みえお浮かべ、言う。

 

「【第二形態移行した銀の福音が欲しいんだよ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう……と一つ息をつく。

 しばらくやることがないから、と先に帰ったヤツを見送り、自分はまだその場にとどまっていた。

 見つめる先には、自身の企業所属の人物たち。そしてその中の一人、万丈龍華。

 

(龍華ちゃん……)

 

 思い出されるのは、ヤツがいないときにした束との会話。

 

『これ……本当なの?』

『うん、間違いないよ』

『でも……どうして……』

『それは、まだ私にも分からない。でもこれが事実なんだ。

 

 

 ーーりゅーちゃんは一部だけど、アイツの……あの地球外生命体と同じ遺伝子を持っている』

 

 

(何がどうなっているのやら。少なくとも出生に関しては、数週間出産が早まったというだけで、なにも変なところはなかった。両親も健在だし)

 

 これ以上は考えてるだけじゃ意味ないな、と自分も戻ろうと踵を返す。

 最後にもう一度振り向き、彼らの姿を見つめる。

 

(夏休み明けてからが勝負かな)

 

 フルボトルとは少し違う紫のボトル、手の平の上に取り出したそれを少し見つめ、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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59話

 鈴音side

 

 現在、目の前にはアタシたちに視線を向ける千冬さん。

 何がどうしてこうなったの?

 

 自由時間を終えて、夕食、入浴と済ませて部屋でクラスメイト達とのんびりしてたところを急に呼び出され、来てみたらこの状況。

 

「さて、揃いも揃ってよくもまあ盗聴する気になったものだ。その興味の対象が、私か一夏か、はたまた征兎か和海なのかは知らんが」

 

 あんたらいったい、何やってたわけ? そんな思いを込めて、隣で正座をしている4人へジト目を向ける。

 案の定、即行で目をそらされる。

 

「まあ今は置いておこう。さっきもメンツでだいたい察しはついている。本人も居ないことだし聞いておこうか」

 

 本人――おそらく一夏のことだろう。

 メンツ的に他の二人は考えにくい。

 ……そういえば部屋に入ったときからその二人がいないわね。

 

「先生、そういえば征兎と和海は?」

「征兎のヤツは、発明品のアイディアを探しに行くとか言ってどこかへ行った。和海はそのお守りだ」

 

 こういうところに来ても相変わらずというかなんというか……。

 和海にとってはいつも通りの貧乏くじね。

 なるほど、だから龍華が大人しいのか。征兎がいないもんね。

 

「さて、話を戻そう。アイツは確かに器用だ。炊事洗濯をはじめとする家事全般はもちろん、さらにはマッサージなど特技が多い。どうだ、欲しいか?」

「「「「くれるんですか!?」」」」

「馬鹿者、やらん」

 

 現金にも反応した箒、セシリア、シャルロット、ラウラに意地の悪い切り返し。

 まだまだ話は続きそうだけど、アタシには関係ないかな。

 一夏のことは嫌いじゃないけど、恋愛対象とまではいかないかな。ようやくこの前気まずい関係から抜け出したばっかりだしね。

 壁際で、みんなが正座の中、脚を崩し、何かの本を読んでいた龍華と話そうと近づく。

 というか、あの龍華が読書? 教科書を開いただけで眠くなっちゃうような人物が? 征兎辺りが見たら、熱でもあるのか!? とか言いそう。

 さて、なに読んでいるのかな~。

 タイトルは――素敵な筋肉を作るための素敵な筋トレ! 

 まったく、珍しく龍華が本なんて読んでるから何かと思えば……。

 

「いや、なによ、これ!?」

「うわっ!? なに、鈴ちゃん!? ビックリするじゃん!? ていうか居たの?」

「アタシがこの部屋に来たことすら認識してなかったの!? どんだけ集中して読んでたのよ、その本!」

「いや~、けっこう興味深い内容だったからさ~」

「そもそも、女子高生が読むような本じゃないでしょそれ! そして何より、素敵な筋トレってなに!? おかしいでしょ!?」

「なかなか興味深い内容だよ。見る? 鈴ちゃん、見た感じ筋肉なさそうだし」

「有難迷惑もいいところよ! だいたいアタシは筋肉じゃなくて、身長と胸が欲しいの!」

「……無理じゃない?」

「あんですって~!」

 

 そこまで言い終え、ハアハアと荒い息を吐く。

 まったく、叫んでいたせいで、ちょっと喉が渇いちゃったじゃない。さっき千冬さんが出してくれたのは、飲んじゃったし……買いに行くのはめんどくさいし。

 ふと、龍華の傍らにお茶のペットボトルが置いてあるのが見えた。中身も八分目くらい残っている。

 何で龍華だけペットボトルなのかは気にはなるけど、とりあえず喉を潤すために少しもらいましょう。

 

「龍華、悪いけどこのお茶、少しもらうわよ」

「いいよ~……って、あ、それ……」

 

 龍華が何か言いかけてたような気がしたけど、気にせず飲んだ。

 しかし、直後に後悔した。

 口の中で、なんとも言えないヤバイ味が広がる。とにかく言えることは――クソマズい! セシリアの料理といい勝負できるわよ、コレ……!?

 結果、どうなるか……。

 

「ゴフエぁーーーー!」

 

 吐いた。

 

「あ~……鈴ちゃん、汚いよ。女の子としてどうなのそれ?」

 

 やかましい! こっちはそれどころじゃないっての!

 というかなに、このヤバイ飲み物!? こんなの平気で飲めるのアンタくらいよ!

 

「コレ、何、いったい!? かなりヤバイわよ……!?」

 

 ラベルはお茶だったのに、中身が全然別物だったとはね。代表候補生ともあろうものが不覚よ。

 ホント正直、今すぐでも意識がなくなりそうよ。

 

「これはね、征兎が考案した――筋肉増強滋養強壮マッスルドリンクだよ!」

「……はあ? なにそれ?」

「え~と、確か……最初に水で溶かしたプロテイン(そのときの気分の味)を入れて、後は体に良さそうなものをそのときの気分で入れるんだよ」

 

 聞いてるだけで、頭を抱えたくなるような飲み物ね。

 アタシに理解できたのは最初のプロテインまでね。

 

「ちなみにコレには何を入れたのよ……」

「え~と……トマト、柿の種、きのこの山、スルメ、チーズ、小梅ちゃん……とか?」

 

 それを聞いて、再び口を押さえたアタシは悪くない。

 また、吐き気が……うえぇ……。

 

「コレ……他に飲んだ人っているの?」

「ん? 前に最初に作ったときに征兎とカズミンが飲んだよ」

 

 というか、アイツらホント何やってんのよ。

 

「私は普通においしいと思うんだけど、カズミンは鈴ちゃんみたいに吐いちゃったんだよね」

 

 コレをおいしく飲めるのは、世界でもアンタくらいよ。

 そして和海、相変わらず巻き込まれてるのね。

 

「征兎は、カズミンに無理矢理飲まされてたっけ。吐き出さないように口を力づくで閉じられて……」

 

 なんででしょうね……全然、かわいそうと思えないのよね。

 むしろ、自業自得と思えるわ。

 

「ようやく飲んだと思ったら、なんか倒れちゃったんだよね」

 

 因果応報……どうしてかこの言葉が浮かんだ。

 だがしかし! こんなのを飲んでしまった原因はすべて征兎にあるとわかったわ。

 征兎、覚えてなさいよ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 ……!?

 なんだ? 今、急に寒気が……。

 外に居たから体が冷えたか?

 いや、でも、なんというか……ちょっとした怒りを向けられたかのような。

 

「おい、バカ。結局、なんで何でここに来たんだよ?」

「だから言ったろ? 発明品のアイディアを求めて……」

「何年いっしょにいると思ってんだ。今回のそれは違うとわかったから付いてきたんだよ」

 

 ったく、さすがだな。

 観念した俺は、早速モニターを出し、準備する。

 

「この前の戦いのとき、デュノアの親父さんにUSBを託された」

「この前? いつのまに……いや、そういえば消える前にお前の腕を掴んでたな。もしかしてあのときか?」

「ああ」

 

 察しが良くて助かります。

 

「で、この前中のデータを見てみたわけなんだが……」

「ん? どうした?」

 

 思わず、戸惑ってしまった。

 それだけ、このデータは衝撃的だった。

 

「まぁ、見りゃわかる」

 

 そう言い、モニターを和海に見せる。

 

「あん? これは……設計図……か?」

「そうだ」

「専門家じゃねえ俺にはそこまで理解できねえが、何かの装備か何かか?」

「残念だが、これはそんなやさしいものじゃない」

「なに?」

「これは……無人機の設計図だ」

 

 俺の言葉に驚き、思わずといった感じでこっちを見る和海。

 だけど、これのヤバさはそれだけじゃないんだよね。

 

「無人機っていうと、この前のアイツみたいな感じか? だが、それにしちゃ……」

「確かに、火力ならあっちのほうが高いが、これはおそらく人型……大きさも俺たち人間と同じくらいで、且つ、大量に造り出せる」

「なに?」

 

 さっきと同じ返しをした和海に、思わず苦笑してしまう。

 

「で、こっちのゴツイほうはさっきのヤツの強化版みたいな感じだな。強さもザコ兵とエリアボスみたいな感じでかなりだな」

「もっと他の例えはなかったのか?」

 

 ほっといてください。

 他に思いつかなかったんだよ。

 

「前に、スタークがデュノア社に商談を持ちかけたって言ってただろ?」

「ああ……トーナメント前のあのときか」

「そうだ、おそらくコレがスタークが持ちかけた商談だろう」

「なるほどな……」

「しかし、デュノアの親父さんは断った。そっからは俺たちも知る通りだろう」

「ったく、知れば知るほどスタークのヤロウのクソさが伝わってくるぜ」

 

 確かにな。

 アイツは野放しにしておいたらダメだ。

 絶対に倒さないとな。

 

 

 

 和海と話しながら、改めて打倒スタークを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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60話

 征兎side

 

 臨海学校2日目。

 今日はISの装備の試験運用が行われる日だそうだ。

 専用機持ちは何もないのかと思いきや、それぞれの国から大量の装備が送られてきているらしい。なぜにわざわざ臨海学校時に送ってくんの? と正直思った。

 ちなみに、nascitaからは何も送られてきていない。もしかして今日、俺らヒマ?

 そして、専用機持ちの集合場所では、現在ラウラがコアネットワークについての説明を行っている。彼女にしては珍しく集合時間に遅刻した罰のようだ。

 まぁ人間だし、たまにはこういうこともあるさ。

 それより、専用機持ちのところに箒がいることが気になる。実力云々はともかく、まだ箒は専用機持ってないんじゃ?

 わざわざ千冬さん直々にこっちに呼んでたから何かあるんだろうけど。……あ、ちょうど説明してたわ。

 

「急な話だが、お前には今日から専用機が――」

「ち~~~ちゃ~~~~ん!!」

 

 途中までで箒に専用機が与えられることはわかったが、問題は今、聞こえた声。

 マジか……あの人のご登場だぜ。

 地響きと砂を巻き上げ、ヤベー速度でこっちに来ている。

 科学者のはずなのに、身体能力は相変わらずですか。千冬さん、頭抱えてますよ?

 

「やあやあ会いたかったよちーちゃんさあハグハグしよう愛を確かめ合おう」

 

 そして、ものスゴイ勢いで千冬さんに抱き着こうとした。

 何気に言葉もノンブレスだし。

 

「やかましい」

 

 だが、千冬さんはそれを片手で見事にキャッチ。

 この人もやっぱり人間やめてんな……。

 

「ぐにゃ~~~~~!?」

 

 その流れのまま、アイアンクロー。

 

「潰れる、潰れる!? 束さんの脳が飛び出ちゃうよ~~~!?」

 

 ちなみに、束さんだからこの程度で済んでいるのであって、一般人ならおそらく即死です。

 

「久しぶりにみたな」

「だな」

「束さん相変わらずだね~」

 

 和海と万丈もこのやり取りに多少のなつかしさはあるようだ。

 確かに、しばらく見れてなかったからな。

 

「ふう……久しぶりだね! いっくん、せいくん、りゅーちゃん、かずみん!」

 

 何事もなかったかのように、アレから抜け出したのか!?

 マジでスゴイよ……。

 それぞれ、言葉を返しているのを聞きつつ、改めてそう思う。

 

「とりあえず、さっさと自己紹介しろ」

「え~なんでそんなことしないといけないのさ~」

「やれ」

「は~い。私が天才の束さんだよ、ハロ~。終わり」

 

 ヒドイ自己紹介を見た。

 こんなところも相変わらずだな……。

 この人が、ISを世に広めたかの天才――篠ノ之束さん。

 

「もう……束ちゃん、もっとちゃんとした自己紹介しないとダメじゃない」

 

 と、また新たな女性の声が――聞こえたと思ったときには、そこに千冬さんのアイアンクローがせまっていた。

 

「ごめんなさい、束ちゃんと違って私がそれをくらったらシャレにならないわ」

「なんでキサマまでいるんだ」

 

 それを何気に避けている時点でスゴイです。

 そして、どこか諦めたような声の千冬さん。ご苦労様です。

 

「お~、くろのん! くろのんも来てたんだね!」

「まあね。ちょっと野暮用があってね」

 

 そう……新たに登場したのは、我らがnascita社長――氷室玄乃さん。

 つーか、この3人が揃ってるの見たの久々だ。

 何気にスゴイ光景じゃね? 他のみんなもIS界の大物たちの登場に啞然としてますよ。

 いち早く復活した山田先生が関係者以外どうこう言ってるけど、片や唯我独尊・自由奔放を地で行く天才科学者、片や商談という言葉の刃での戦いを制しまくっている大企業の社長。結果は火を見るよりも明らかだった。

 

「さて、こっちの要件を済ませましょうか」

 

 そう言って俺、万丈、和海に向き直る玄乃さん。

 箒に何かで頭を叩かれた束さんを視界にとらえた。

 

「まずは……和海くんね」

 

 そう言い、和海に何かケースのようなものが渡される。

 あの……向こうでなんか箒の専用機っぽいもののお披露目してんですけど?

 大空をご覧あれ! って束さんが言った直後、なんか落ちてきたんですけど!?

 

「これって……」

「フルボトルよ。これで少しは攻撃のバリエーションも増えるでしょ?」

 

 ありがとうございます、と言いそれを受け取る和海。

 ふむ……これでツインブレイカーのツインの攻撃もできるようになったわけだ。

 

「そして、これが龍華ちゃんね」

 

 万丈にも同じようなケースが渡される。中身もフルボトルだろう。

 

「もう一つ、これね」

 

 ん? もう一つ?

 

「あ……」

「って、スクラッシュドライバー!?」

 

 なんでまた?

 万丈にはビルドドライバーとクローズドラゴンがあるのでは?

 

「ロボット以外にもスクラッシュゼリーが作れたんだけど、それがドラゴンだったの。そしたらさ、もうこれは龍華ちゃんに渡すしかないじゃないって」

 

 あ、そうっすか……。

 そのままの流れで、万丈がスクラッシュドライバーで変身することに。

 まあ普段、和海が使ってるの見てるし、大丈夫だろ。

 

「龍華」

「ん?」

「最初の1回はキツイけど、頑張れよ」

「……? よくわかんないけどわかった」

 

 わかってないじゃん。

 

「どういうことだ?」

「見てればわかる」

 

 和海に聞いてもこれだし……まあ別にいいけどさ。

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 そうこうしているうちに、万丈はドライバーをセットする。

 

『ドラゴンゼリー』

 

 和海のロボットスクラッシュゼリーとよく似たドラゴンスクラッシュゼリー。

 それをドライバーのパワープレススロットに装填。

 

「変身!」

 

 その声とともに、ドライバーの右側のレンチ型レバーであるアクティベイトレンチを押し下げる。

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

 

 そうすると、左右のプレスパーツがゼリーを揉み潰し、抽出された成分が液化装備であるヴァリアブルゼリーに変換され、透明な装甲を形成する。

 そして、ビーカーをモチーフとした特殊加工容器のケミカライドライドビルダーが周囲に出現する。

 しかし……人のこと言えないかもだけど、玄乃さんのセンスも相当だと思うんだよね、俺。

 誰も口にできないだろうけどさ。

 そして、頭頂部のスクラッシュファウンテンと胸上部のスクラッシュノズルから噴出したヴァリアブルゼリーが全身を包むことで変身が完了する。

 だが、ここで和海の忠告の意味を理解することになった。

 

「ん?」

 

 なんか、バチバチ電気っぽいのが流れ出したのだ。

 

「へ? あ、ぐ、ぎゃああああああああ!?」

 

 さすがの万丈もこれは効いたのか、女としてダメな声を上げている。

 まあ今さら感がありまくりだが、いちおう……な。

 

『ドラゴンインクローズチャージ!』

『ブラァ!』

 

 そんな万丈を無視するかのように、無事? 変身は完了した。

 

「おお……」

 

 これが、クローズチャージ……。

 和海のグリスが金なのに対し、こっちは銀。

 頭部と胸部にはクリアブルーでドラゴンの頭のようなものがあしらわれている。

 こうなると次は俺の番。ちょっと期待しちゃいますな。

 

「あ、征兎くんには今回はないわよ」

 

 ……え?

 そんな期待はもろくも崩れ去った。

 マジですか!? この流れで!?

 

「その代わり、強化プランにあった強化アイテム――完成したわよ」

 

 マ~~ジですか!!

 さっきの沈んだ気持ちもなんのその、一気にテンションがマックスだぜ!

 

「あれ? じゃあなんで……」

 

 玄乃さんの話では、完成したはいいけどちょとした問題があって、ここでは試運転させられないそうだ。

 だから夏休み期間で使いこなせるように頑張ってもらうことにした、ということらしい。

 そして、万丈と和海に今日渡したものをしっかり使いこなせるように、と言い去っていった。……やっぱ忙しかったのね。

 

「マジか……」

 

 そして、夏休み期間に頑張ってもらうということはつまり……。

 

「「…………」」

 

 思わず和海と目を合わせる。

 互いに顔が引きつっている。

 

「俺の夏休みがーーーーー!?」

 

 夏休みがほぼほぼ潰れたのと同義だからだ。 

 

 

 

 人の夢と書いて儚い。

 俺にできることはもう、夏休みと期間とはいっても1週間ぐらいだよね? ――という淡い期待を持つことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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61話

 征兎side

 

 目の前で海が夕焼けによって赤く染まっている。

 さっきまでいた旅館の部屋は空気が重くて出てきてしまった。

 そんな中俺は、とある作業をしながらアイツらを待っていた。

 

 事の発端は、あの後すぐに入った暴走したISを止めろとかいう指令だった。

 アメリカとイスラエルの共同開発した機体が暴走したとか言ってたが、なんか裏がありそうというのが個人的な意見。

 というか、そんなことを学生に任せるなよ。自分たちの無能を晒してるようなもんだぞ?

 まあそれはともかくとして、暴走したIS――銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)へのコンタクトが1度しかできないということで、一夏の白式の零落白夜が作戦に組み込まれるのは必然だった。

 そして、作戦を詰めていたところであの人が……束さんが現れた。

 束さんの一言でそれまで立てた作戦が一変、一夏と箒だけが行くこととなってしまった。

 箒はかなりやる気になっていた――いや……あれは専用機をもらい、且つ一夏といっしょにやれるからと浮かれていただけだったな。みんなかなり不安そうな顔だったし。

 思わず、作戦が始まる前に作戦室を出て行ってしまった。一夏たちには悪いが、箒のあの様子からして失敗するであろうことがわかってしまった。

 

 結果は案の定だった。一夏は重症、箒はかなり錯乱していたようだった。

 クソ……こんなことなら無理矢理着いて行けばよかったか? いや……そんなことを今更言ってもしょうがない。

 ここでずっとやってた作業が活かされる。

 

 

「来たぞ、征兎」

「お待たせ」

 

 なかなか良いタイミングで、俺が待ってたアイツらこと和海&万丈が来た。

 

「待ってたぞ、お前たち」

「ドヤ顔ムカつくから、さっさと用件を言え」

「そう慌てるなって」

 

 まったく、せっかちなんだから。

 

「俺たちで、福音を倒しに行こうと思う」

「わお」

「ほお」

 

 アレ……?

 意外と反応薄くない?

 

「……で?」

「ん?」

「当てはあんのか?」

「当て? なんの?」

「バカは黙ってろ」

「ヒドイ!?」

 

 まあ万丈に理解しろというのが無茶だろうからな。

 

「バカはほっといて……じゃん」

 

 モニターを2人に見せる。

 その一点が赤く点滅している。

 

「ここが福音の現在地だ」

「お前……こんなんどうやって……」

「企業秘密で」

 

 監視衛星ハッキングしました。

 実はずっと頑張ってた作業はこれ。けっこう骨が折れました。

 

 

「いいこと聞いたわ」

「んん?」

 

 何か聞いたことがある声が聞こえたかと思えば、いつのまにか鈴を筆頭に箒、セシリア、シャルロット、ラウラがそこにいた。

 

「お前ら……」

「アタシたちももちろん行くわよ」

「いいのか? 反省文とか色々あるかもだぞ」

「そんなの、みんなでやればすぐだよ」

 

 そう言うシャルロットにうなずくみんな。

 まったく、仲が良いこって。

 

「衛星へのハッキングを見逃してやるんだ。このぐらい別にいいだろう?」

「ラウラさん、どうせなら反省文を征兎さんに肩代わりしていただいてはどうでしょう」

「それいいわね!」

 

 おいこら待てや。

 なんで俺が……いや、ダメなことした自覚はあるけど……だからってさ~。

 

「ああもう! 行くぞ!」

 

『タカ!』 『ガトリング!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『天空の暴れん坊! ホークガトリング!』

『イエーイ!』

 

 俺の変身完了を皮切りに、それぞれ専用機を纏う。

 そして、和海と万丈以外が専用機を纏ったときにそれが現れた。

 

 

 

 

「ダメですよ、勝手なことをしては」

 

 

 

 ――!?

 突然聞こえてきた聞き覚えのない声に否応なしに警戒する。もちろんみんなも。

 つられて見ると、そこには金色の髪の2人組がいた。

 片方がロング、もう片方がミドルだ。

 

「……めんどくさい」

「ダメですよ、アリア姉さま。せっかくマスターに任せて頂いたんですから」

「わかってる……リリア、うるさい」

「ふふ、すいません」

 

 こいつら、姉妹なのか……?

 ちなみに、ロングのほうがアリア、ミドルのほうがリリアと呼ばれていた。

 

「こっちを無視して仲良くおしゃべりとはいい度胸じゃない!」

 

 短気代表の鈴が、彼女たちに向けそう言う。

 

「そうですね、では――」

「……ん」

「――こちらも目的を果たしましょう」

 

 リリアの方がそう言うと、“互いに一つずつ”紫の銃を取り出した。

 なんかどっかで見たような銃なんだけど……。

 

「マスター・スタークの命により、ここであなたたちの“一部を”足止めさせていただきます」

 

 スタークをマスター呼び!?

 こいつらアイツの仲間か!?

 俺たちの驚きをよそに、2人はボトルのようなものを出した。

 

『ギアエンジン!』 『ファンキー!』

『ギアリモコン!』 『ファンキー!』

 

 それを銃にセットし、引き金を引くと音声とともに煙が噴き出した。

 そうだ、あの銃……スタークとローグが使っていたスチームガンにそっくりなんだ!

 

「「潤動」」

 

 その言葉をきっかけに、周りの歯車のようなものが彼女たちに纏わりその姿を形づくる。

 そして煙が晴れると、それが姿を現す。

 

『エンジンランニングギア!』

『リモートコントロールギア!』

 

 そこにいたのは、それぞれエメラルドグリーンとホワイトの歯車のようなアーマーのヤツらだった。

 

「私がエンジンブロス。姉さまがリモコンブロスです」

 

 これはこれはご丁寧に。

 わざわざありがとうございます。

 

「では、今度こそ」

「……終焉のとき」

 

 ヤベ……お礼とか言ってる場合じゃねえ。

 二人は片手に例の紫の銃、もう片手にスタークやローグも使ってたバルブが付いたブレードを持ち、こちらに近づいて来ている。

 どうする……どうする!?

 ここで足止めくらって、福音の相手ができないのは論外。けど、コイツらを無視できるわけじゃないだろうし。

 どうすりゃ……!?

 

「――ったく、行け。ここは俺がやる」

 

 そんなとき、和海が前に出てそう言った。

 正直、未知の相手と戦うのに一人じゃ無茶かと思ったが、本来の目的と和海だしいいかということで即決させてもらった。

 

「よし! みんなここは和海に任せて行くぞ!」

「自分で言いだしたことだけどよ……もうちょっと悩めよ」

 

 あーあーあーあー聞こえなーい。

 

「しょうがないな~、私もいっしょに残るよ」

 

 そこに万丈からありがたい申し出。

 こんなやり取りしてるけど、実際はもうそこまで時間はかけてられない!

 

「よし……行こう」

 

 そうみんなに言い、みんながうなずいたのを確認。

 そして、俺たちは和海と万丈にこの場を任せ、福音目指し飛行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よかったのか?」

「なにが?」

「征兎といっしょに行かなくてってこった。別に任せてくれてもよかったんだぜ?」

「さすがに私でも、こんな時にそんなこと言わないよ。チャンスはまだまだあるだろうしね」

「そうかい」

 

『ロボットゼリー!』

『ドラゴンゼリー!』

 

「「変身!」」

 

『『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』』

 

『ロボットイングリス!』

『ドラゴンインクローズチャージ!』

『『ブラァ!』』

 

「わざわざ待っててくれるなんてな。それにアイツらのこと追いかけてなくていいのか?」

 

 目の前の敵にそう問いかける和海。

 

「……問題ない」

「ええ……あなたたちを倒してから追えばいいだけのことですから」

 

 何ともなしにそう答える二人。

 

「ちょっとムカついたね」

「ああ……もろに見下してやがんな」

 

 だが、そんな会話もすぐ終わる。

 突然のようで必然。

 互いに相手を見据える。

 

「「「「…………」」」」

 

 そして、相手に向け駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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62話

 征兎side

 

 スタークの仲間らしい金髪姉妹を和海と万丈に任せた俺たちは福音に向け、順調に飛行していた。

 アイツらだから大丈夫だろうが……とりあえず、これが終わった無事に再会できることぐらいは祈っておいてやるか。

 

「征兎、目標まであとどれくらい?」

「そうだな……あと――ん?」

「征兎?」

 

 突然、言葉を切った俺を不思議に思ってそう声がかけられる。

 だが俺は、モニターにはその存在が表示されてないが、前方に確かに見えた存在に気付いた。――絶対に無視できないヤツの存在に。

 

「ちょっと征兎! どうしたのよ!」

 

 おっと……ずっとだんまりだったからか、怒鳴り声が飛んできてしまった。

 

「悪い悪い……じゃあここで俺を置いてみんなは福音のところへ! このまま真っ直ぐ行けばたどり着くから」

「はあ!? いきなりなに言ってんのよ!?」

「左斜め前、見ろ」

「なに言って――」

 

 みんなが俺の言葉につられてそっちを見て、ようやくその存在に気付いたようだ。

 

「一人で大丈夫なの? なんなら誰か……」

「俺たちの本来の目的を忘れるな」

 

 俺たちの目的は福音の暴走を止めること。

 そのためには、こんなところで人数を費やすわけにはいかない。

 

「行け! ここは俺に任せろ!」

 

 お? なんか今の主人公っぽかったんじゃない?

 心のメモに記しておこう。

 そんなこんなで納得したかはともかく、みんなは福音のもとへと行った。

 俺はというと、いかにも待ってましたと言わんばかりに空中で佇んでいやがったヤツに向き直る。

 

「待たせたな」

「【もういいのか? もっと時間をかけてもよかったんだぜ?】」

「残念ながらこっちはそうも言ってられないんでね」

 

 そこにいたのはやはりというかなんというか……ブラッドスターク。

 いつもいつも行事ごとを台無しにしやがって。

 

「【これでお前たちとやり合うのも3回目か。どうだ? 少しは成長できたか?】」

「なんだと?」

「【お前たちとじゃれ合うのは俺にとって大きな意味があるんだからな】」

「じゃれ合いって……言ってくれるな」

 

 ちょっとイラッとしたが、前回の反省を生かし冷静に返す。

 

「【けど、やっぱりやらなきゃダメか……】」

「俺は最初からそのつもりだよ」

 

 フォームをラビットタンクにして、改めてスタークと対峙する。

 

「…………」

「【…………】」

「はあ!」

「【ふっ!】」

 

 そして、俺たちの戦いは互いに武器を持たない肉弾戦で幕を開けた。

 

「せあ!」

「【フハハハハ】」

 

 俺が攻撃をすれば、スタークがそれを受け止める、いなす。

 スタークが攻撃をしてくれば、俺はそれを受け止める、なんとかいなす。

 この時点でもう危ういが、やるしかない!

 コイツはここで倒す!

 

「ぐ……ふっ!」

「【はぁ! せい! ふっ!】」

 

 徐々に押されていき、ついにスタークの攻撃が俺を捉え始める。

 その拳が、蹴りが俺を襲う。

 

「【はあああ!】」

「ぐ、ぐわあああ!?」

 

 ついにまともに攻撃をくらった俺は、近くの島のようなところに背中から落ちる。

 

 クソ……やっぱり強ぇ、そして背中痛ぇ~。

 

 そして、いつのまにかすぐそこに来ていたスタークの拳が俺に振り下ろされる。

 

 ちくしょう、仕方ないか。

 

 その拳をとっさに出したドリルクラッシャーで防ぐ。

 そのままブレードモードのドリルクラッシャーに忍者フルボトルを装填。

 

『Ready go!』

『ボルテックブレイク!』

 

 ブレード部分が紫色に分身すると、それをそのままスタークに振るう。

 

「はあああ!」

「【ぐ……】」

 

 さすがに少しは効いたのか、後退させることに成功。

 そのまま追撃しようとするも、スタークも例のバルブが付いたブレードを出して応戦してくる。

 

 俺のドリルクラッシャーがスタークに当たる。

 スタークのブレードが俺に当たる。

 互いの武器がぶつかり合う。

 そうして戦いが進んでいく。

 

 そして、先に隙ができたのは悔しいことにやはり俺だった。

 

『エレキスチーム!』

「【せあああ!】」

「ぐ、があ!?」

 

 一撃、二撃、三撃とブレードでやられる。

 そして、止めと言わんばかりに銃での連続攻撃を受けてしまった。

 

「う……あ……く……」

 

 変身が解除され、その場に倒れ込んでしまう。

 

 やっぱりダメなのか……。

 

 そんな思いが……悔しさが溢れてくる。

 

「【勝負あったな】」

 

 そう言い、スタークは俺に銃を向ける。

 

「【これでわかっただろ? お前じゃあ……お前たちじゃあ俺には勝てない。お前も、あの何かにつけて守る守る言ってる織斑一夏も、結局何もできない。何も守れない。只々滑稽な足掻きをしているだけなんだということさ】」

 

 最後に……ということなのか何かはわからないが、嫌みのようにそう言ってきやがった。

 さらに、俺だけじゃなく一夏のことまでも馬鹿にするように。

 

「【安心しろ。お前たちの信じる正義なんて、この世界のどこにも存在しないんだからな】」

 

 こんなコケにされていいようにやられて……何やってんだ、俺は。

 このままやられていいのか? いや……いいわけがない。

 他人を平気で罵り、命を平然と弄ぶようなヤツなんかには……!

 

「……最っ悪だよ。ホント、ここまでコケにされるなんてな」

 

 けど、頭はクールに。

 怒りはあるが、それに支配されないように努める。

 

「俺たちが信じてきた思いは、幻なんかじゃない。お前にはわかんないだろうけどな……俺も、一夏も、誰かの力になりたくて戦ってきたんだ」

 

 体を起こしながら、俺は言葉を続ける。

 

「そこにいる誰かを守るために、何度も立ち上がってきたんだ」

 

 俺は立つ。

 目の前の敵を許さないために。

 

「お前になんと言われようと、俺には……みんなにだって、守るものがある。だから俺は、自分が信じる正義のために――」

 

 ここまで言ったところで、ふとあの時のことが頭をよぎった。

 万丈が玄乃さんから専用機を受け取ったときに行われた二人のやり取り。

 何で今、こんなことを思い返してんだか……。

 思わず笑っちまうよ。

 

 

『いい、龍華ちゃん。力を持つってことはそれ相応の責任と覚悟が伴うんだからね? 大丈夫?』

『はい! 任せてください!』

『ホントに大丈夫かよ……』

『私はこの力を――愛と平和のために使います!』

 

 

 まさかこの俺が、あのバカの言葉を使う日が来るなんてな……。

 けど……たまにはいいか。

 

「そして――愛と平和のために、お前を倒す!」

 

 そうして俺が取り出すのは、和海と鈴の犠牲のもとに作られた、ラビットタンクフォームのフェイスが描かれている缶のようなボトルの新アイテム。

 

「【ん? それは……】」

 

 困惑しているようなスタークを尻目に、俺はそれを振り、中身を活性化させる。

 そして、上部のシールディングタブを引き起こす。

 カシュッという音が鳴り、起動した後にビルドドライバーに装填。

 

『ラビットタンクスパークリング!』

 

 その音声が流れ、レバーを回すと通常とは違い、ベルトと同じビルドマーク型のスナップライドビルダーが前後に形成される。

 

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

 そしてそれが結合され、新たなアイテムを使った変身が完了する。

 

『シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング!』

『イエイ! イエーイ!』

 

「【なんだと?】」

 

 その名も、ビルド・ラビットタンクスパークリングフォーム!

 この瞬間を誰も見てないことが惜しくてしょうがない。

 

 

 

 さて……では、反撃といきますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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63話

 征兎side

 

 では、さっそく行かせていただきますか!

 

 まずは腰を落とし、一気にスタークへと迫ると、蹴りをくらわせた。

 このフォームの特徴は泡であり、これにより従来のフォームよりも能力が引き上げられている。

 右肩のBLDバブルショルダーと左脚のクイックフロッセイレッグからラピッドバブルを発生させ、高速移動を可能とする。

 さらに、左肩のBLDバブルインパクトショルダーと右脚のヘビーサイダーレッグからは攻撃時にインパクトバブルが発生し、破裂時に衝撃波を発生させ、さらなるダメージを与える。

 

 蹴りをくらったスタークは、俺に拳や蹴りを繰り出してくるが、それを避け、受け流し、そして再び蹴る!

 さらに蹴る! そして回し蹴り!

 ブレードを使われての攻撃もなんのその。

 繰り出しされてくる攻撃すべてを受け流し、スタークの胸に掌底を入れる!

 

「【やるじゃねぇか……なら、これはどうだぁ!】」

 

 意外と効いたのかスタークが苦しそうにそう言った後、胸のバイザーからいつしか見たコブラが出てきた……しかも2体。

 

 出てきたコブラどもは、体当たりや尻尾を使って俺を攻撃してくる。

 大きさが大きさだけに威力は高く、ギリギリで避けたときには思わず、危なっ!? とか言ってしまった。

 

 そんな攻防の末、ついにコブラどもに体に巻き付かれてしまう。

 つーか、結構ヤバイ力で締め付けてきてる……って、痛い痛い痛い!?

 

 けどな……ここでやられるわけにはいかねぇんだよ!

 

「はあああああああああ!」

 

 そんな思いのもと、締め付けられてる腕に力を込める。

 同時にインパクトバブルを発生させ、それが破裂することによる衝撃波を追加し、コブラどもを引きはがす。

 

 けどこれ、諸刃の剣だな……衝撃波が俺にまで……。

 

 それはさておき。

 コブラどもを引きはがした俺は、片手に1体づつの尻尾を掴み、さっきまでのお返しの意味も込めて、思いっきり振り回してやる。

 ある程度したところで、コブラどもを上空に放り投げ、同時に俺も飛び上がる。

 

「【マジかよ……】」

 

 ベルトのレバーを回す。

 すると、ワームホールのような図形が出現し、その中にコブラどもを拘束した。

 

『Ready go!』

『スパークリングフィニッシュ!』

 

「はあああ!」

 

 無数の泡とともにエネルギーを乗せたキックを放つ。

 そのキックは、2体のコブラを消滅させ、そのままスタークへと叩き込まれる。

 

 ガハァ!? という声とともにスタークが吹っ飛んだ。

 

 不謹慎ながら、あのスタークを吹っ飛ばしたという事実に感動してしまっている自分がいた。

 

「【まさか、この俺がここまでやられるなんてな】」

 

 この期に及んでそんな軽口を叩きながら、しかしキックをくらった箇所が痛むのかそこを押さえながらスタークが体を起こす。

 

「【ったく、それをまさか自力で作りやがるとは……お前なら、俺の目的を達成させられるかもな】」

「なに?」

「【俺をこんなにした褒美だ、一つ良いことを教えてやる】」

 

 いや、お前の目的とやらを話してからにしてくれるとありがたいんだけど……。

 超重要なことじゃん!

 

「【身近な人物に気を付けな。俺たちはお前たちが思っている以上に近くにいるからな】」

 

 は? なにそんな大事なことサラッと言っちゃってんの!?

 

「おい! どういうことだ!?」

「【そして大事なのは、お前たちの成長だ】」

 

 いや、聞けよ!?

 

「【精々頑張って強くなってくれよ? ――Ciao】」

 

 俺の言葉には全く取り合わず、言うだけ言ってスタークは消えた。

 

 そして気付く、また逃げられた……と。

 

 

「はぁ~……」

 

 さっきまでの緊張感も無くなり、変身を解除した俺は地面に大の字になって寝転がった。

 

 重要ワードがポンポン出てきやがったため、少し頭の中を整理したかった。

 

 スタークの目的。

 そして、身近な人物に気を付けろ、俺たちは近くにいる……か。

 正直かなり気になるが……気にし過ぎると日常生活に支障をきたすからな……どうしたもんか。

 ま、なるようになるでしょ。

 

 

 

 ――精々頑張って強くなってくれよ?

 

 

 ……やってやるよ。

 お前の仮面の下をさらけ出し、その顔に吠え面かかせてやるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ファンキードライブ!』

 

「龍華!」

「わかってる!」

 

 リモコンブロス――アリアが、ギアエンジンをネビュラスチームガンに装填して発動された歯車のような形状のエネルギー弾を和海と龍華はそれぞれ避ける。

 

「避けるのは上手いようですね」

「……ウザイ」

 

 言ってろ、と和海は内心で愚痴る。

 龍華は……怒り心頭になりかけている。

 

「姉妹だけあってコンビネーションはなかなかだな……」

「だったら私たちもコンビネーションでいくしかないね!」

「アホか、俺たちにんなもんあるわけねぇだろ」

「なんでよ! ちょっとくらいあるかもしれないでしょ!」

 

『エレキスチーム!』

 

「よそ見はいけませんよ!」

 

 エンジンブロス――リリアからスチームブレードによる攻撃が放たれる。

 和海はそれに舌打ちしながらも、昼間にもらったボトルの一つをドライバーに装填し、レンチを下げる。

 

『キャッスル!』

『ディスチャージクラッシュ!』

『潰れな~い!』

 

 掌を向けるとそこからゲルが噴出し、盾が形成されるとその攻撃を防いだ。

 

『シングル! ツイン!』

『ツインブレイク!』

 

 そこに龍華が、待ってましたと言わんばかりに動く。

 ツインブレイカー・アタックモードにドラゴンボトルとドラゴンゼリーを装填する。

 すると、ツインブレイカーのパイル先端から青い火炎弾が放たれ、姉妹の足元に着弾し、一時的に動きを鈍らせる。

 

「このまま畳み掛けるぞ!」

「わかってるよ!」

 

『シングル! ツイン!』

 

 和海はツインブレイカーをビームモードにし、ヘリコプターボトルとロボットゼリーを装填。

 

『クローズドラゴン!』

 

 龍華はアタックモードのままクローズドラゴンを装填。

 

『ツインフィニッシュ!』

『レッツブレイク!』

 

「オラ!」

 

 和海のツインブレイカーの銃口から、プロペラ状に形成されたゲルが連射され、姉妹の動きをさらに封じる。

 

「はあああ!」

 

 そこにすかさず、ツインブレイカーのパイルにクローズドラゴン・ブレイズを出現させた龍華のより強力な一撃が叩き込まれる。

 

「く……!?」

「……!?」

 

 それを受けた姉妹は、変身こそ解除されなかったものの後方へと飛ばされた。

 それを見た二人も警戒を怠らず、成り行きを見ている。

 

「……なかなかやりますね」

「…………」

 

 起き上がった姉妹だったが、リリアと違いアリアの様子はどことなくおかしい。

 

「……ろす」

「姉さま?」

「殺す!」

 

 なんだ!? と驚く二人をよそに、アリアはリリアのネビュラスチームガンからギアエンジンを奪うように取った。

 

「姉さま、ダメです!!」

「邪魔しないで!」

「今日、それになることはマスターに禁止されてるんですよ!」

「関係ない!」

 

 いきなりの展開に着いていけてない二人だったが、このままではいつ豹変したアリアが襲ってくるのかと気が気でない。

 しかし、それは唐突に終わりを告げた。

 

「「――!?」」

 

 急にビックリしたように姉妹が静かになった。

 

「……はい……はい……わかりました、戻ります」

「……了解」

 

 通信を終えたときには、さっきまでの豹変したアリアはすっかり鳴りを潜めていた。

 

「……帰る」

 

 そう言い、ネビュラスチームガンから煙を出し、アリアは消えた。

 

「では、私も失礼しますね」

 

 その後直ぐに、リリアもいなくなった。

 

 

 

「なんだったんだ?」

「……さあ?」

 

 変身を解除した二人だったが、最後の展開のためか、何とも言えない感じになってしまっていた。

 

 しかし、敵がいなくなったんだからいいか、と気を取り直し、疲れた体を休めながらみんなの帰りを待った。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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64話

 征兎side

 

「まったく貴様らは……自分たちのしたことを理解しているのか? 学園に戻ったら相応の処罰を下す。覚悟しておけよ」

 

 戦闘終了後、旅館に戻ってきた俺たちを待っていたのは、千冬さんからのそんなありがたいお説教だった。

 疲れているから休ませてほしいと思わなくもないが、無事に帰還できたからこそだと考えると、まあいいかと思えてしまう。

 

 そういえば、鈴たちが戻ってきたときに、なぜか行くときには居なかったはずの一夏がいた。

 なぜ? と思い聞くと、目が覚めたからとのこと。いやいやそうじゃないんだよ。

 というかキミ、重症だったよね……ケガは? え? 目が覚めたときには治ってた? なに、その超常現象?

 しかも、なんと白式が第二形態移行(セカンド・シフト)したとのこと。思わずはぁ!? って言ってしまった俺は悪くない。

 だって4月に受領したばっかりの機体だよ? 色々おかしいでしょ!?

 そして福音との戦いの最中、箒の専用機となった紅椿の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)が発動したとかなんとか。さらにそれが、ISのSEを回復させる能力だとか。

 さすが束さんお手製の機体。もうなんでもアリですね。

 

 そして何より、一夏たちが帰ってきたときに抱えてきた女性。なんと福音の搭乗者らしい。

 当初は無人機という報告だったはずだけど……。

 こうなってくると、ホントにただの暴走事故なのか怪しいところ。

 搭乗者の女性の今後とともにとても気になるが、いくら未来の天才物理学者といえども現在はただの学生。これ以上はどうしようもできない……悔しいが。

 

 それはさておき、ようやく説教が終わり、精密検査を受けたら残りの臨海学校を満喫しておけと言われた。

 ここからは思い思いに過ごすのだろうが、残念ながら俺は部屋で休ませてもらうことにした。

 スタークのヤロウのせいで体中痛くてしょうがない。

 あのヤロウ……次に会ったら絶対に倍返しだ!

 

 スタークといえば……正直、俺はアイツらの今回の行動に疑問を持っている。

 確かに、戦い自体は手抜きって感じはしなかったし、和海たちに任せた姉妹の方も、なんか姉の方がヤバかったらしい。よくわからなかったが、スタークからの通信がなかったらどうなってたかわからなかったとか……。

 けど……アイツら、本気で俺たちを足止めする気あったのか?

 なんか引っかかるっていうか……スッキリしないんだよな……。

 

 あーもう!

 せっかく終わったと思ったら、なんでこんなごちゃごちゃ考えなきゃなんないんだよ!

 

 

 今回の件で、やっぱりスタークと関わるとロクなことがない、と改めて思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「途中で姿を見なくなったと思ったら、こんなところにいたのか」

「おや、ちーちゃんじゃないか」

「少し聞きたいことがある――玄乃!?」

 

 旅館から少し離れたところにある岬。

 そこに腰掛け、モニターとコンソールを出し、何かをしていた束の元に千冬が来た。

 しかし、帰ったと思っていた玄乃がいたため、思わず驚いてしまった。

 当の玄乃はその反応を新鮮に思いつつ、今は話に入るつもりがないのか、手のジェスチャーで先を促した。

 

 そこからは白式のコアの話……白式をシロシキと読むとなどといった話をしていたが、原作知識がある程度ある玄乃は、そこそこ聞き流していた。

 

「そういえば、玄乃。お前、帰ったはずじゃなかったのか?」

「うん、一回帰ったわよ。でも、戻ってきたの」

「なに?」

「我が企業所属の子たちの戦いを見たくてね」

 

 それを聞いた千冬は、思わず顔をしかめた。

 今の玄乃の言葉は、最初の作戦が成功していたらありえなかったことだ。

 つまり、玄乃は作戦失敗を確信していた……。

 

「玄乃……お前は、一夏と箒が失敗するとわかっていたのか……?」

「ええ。寧ろ、成功する要因がどこにあったのか教えてほしいくらいよ」

「キサマ……!」

 

 それを聞いた千冬は玄乃の胸倉を掴んだ。

 

「まさか、ブラッドスタークとその仲間が出てくることも知ってたのか……!」

「ええ」

「言え! お前とアイツにはなにか関係があるのか!」

「…………」

「答えろ、玄乃!」

 

 鬼の形相のような千冬に凄まれても、玄乃は何ともないように涼し気にスルーする。

 しかし、千冬がそれで納得するはずもなく、玄乃を掴む力を強める。

 

「ねえ、ちーちゃん」

「なんだ」

「ちーちゃんは、アイツ……ブラッドスタークのことどう思ってる?」

「なに?」

「ただヤバイやつだって思ってない?」

「どういうことだ?」

 

 束からの問いかけに千冬が戸惑い、力が抜けた瞬間にはもう玄乃は千冬の手を解き、束の横にいた。

 自分は人外ではないと言いながら、この動き……。やはり玄乃も2人の親友と言われるだけはあった。

 

「千冬ちゃん、良いこと教えてあげる。もう私たちに残された時間はあまりないわ」

「なんだと?」

「残念ながら、このままだと地球は滅びるわ」

 

 突然の宣言に言葉が出ない千冬を傍目に、玄乃は自身のネビュラスチームガンを取り出した。

 

「お前、それは……!?」

「じゃあね、千冬ちゃん。またどこかで会いましょう」

「バイバ~イ!」

 

 そのまま2人は消えてしまった。

 

「束……玄乃……お前たちはいったい何をやろうとしてるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝。

 IS学園の生徒たちが乗ったバスを見送った福音の搭乗者であるナターシャ・ファイルス。

 それが終わると、建前上は暴走事故に巻き込まれたということになっているため、そこそこいるいかにもガードっぽい恰好の人物たちと行動していた。

 

「では、お送りするための車を回してきます」

「ええ」

 

 この後、国に帰っても自身と専用機がどうなるかなんとなくわかっているため、かなり憂鬱そうに答える。

 しかしその直後、状況が一変する。

 

「があっ!?」

「……え?」

 

 突然聞こえたそんな声。

 何が起こったのかわからず呆然としてしまったが、すぐにハッとなり状況を確認した。

 しかし、そのときにはもう、10人近くいたガードたちは全員いなくなっていた。

 

「【…………】」

 

 そこに、ため息をつきながら現れた一つの影。

 

「【ナターシャ・ファイルスだな】」

 

 完全にやる気のない玄乃ことナイトローグ。

 ナターシャは当然、警戒する。

 

「【我々の元に来い。こちらとしても手荒な真似はしたくない】」

「そんな誘い、受けると思ってるの?」

 

 ですよねー、とは玄乃の内心。

 

「【なら、仕方ないな】」

 

 何をしてくるのかとナターシャは当然警戒した。

 

「うっ……!?」

 

 しかし、痛みを感じたときにはもう遅かった。

 目の前の敵ばかりに意識を向け、背後への警戒を疎かにしてしまった。

 

「【後ろががら空きなのは、軍人としていかがなものかねえ】」

 

 意識が朦朧とする中、ナターシャが見たのは赤い全身装甲――ブラッドスタークだった。

 

 

 

 

 

 

 



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65話

 創一side

 

「【やれ……皆殺しでいい】」

 

 その言葉とともに、後ろで控えていたガーディアンどもが一斉に動く。

 銃を乱射する音、様々な悲鳴……実に心地いい。

 

 学校の方はテスト前だとかで、早々と終了。

 暇つぶし……というわけでもないが、予定を前倒しにして、今日はここ倉持技研の掌握を行うことにした。

 ついでにガーディアンの試運転も兼ねる。

 ここを掌握した暁には、デュノア社と同じように、ガーディアンどもの制作とガスの注入装置を設置する。

 

 けどこれじゃあ、保険で連れてきたユウナの出番は無えな。

 

「【おかしいな……ここの所長の姿がないな。スクール水着に白衣って聞いてたからすぐわかるはずなんだが……」

「アレ? その人物ならマスターが侵入早々消しましたよ」

「なに?」

「けっこう変な見た目だったので、なんとなく覚えてます」

 

 マジか~。

 まあ別に特に用があったわけじゃなく、目立つヤツが居なかったから気になっただけなんだが。

 ただでさえ取るに足らない存在だったからか、全然気にしてなかったんだろう。

 

 しっかし……なんとも逃げ惑うヤツらの滑稽なことか。

 警報装置が作動してないことを嘆いているようだが、俺と束にしてみりゃあまりのセキュリティの甘さにこっちが嘆きたくなっちまったくらいなんだが。

 それに、日本政府以外から見捨てられた企業など、どこも気にかけないだろう。

 

「マスター、終わったみたいですよ。後は、床に散らかっている()()を片付けて完了です」

「【了~解】」

 

 俺とユウナの声がやけに響くようになった研究所。

 とりあえず、赤く染まった床と所々赤い模様がついてしまった壁やドアを掃除させないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和海side

 

 臨海学校が終わって、IS学園に戻ってきた俺たち。

 まあ色々あったが、もうすぐ夏休み。

 みんなの雰囲気が浮ついていてもしょうがないだろう。

 

「くっ……英語が足を引っ張ったか……」

「このような点数になってしまうとは……不覚……」

「ギリギリだったけど、なんとか平均点越えた~……」

 

 今は、テストの結果について一喜一憂している。

 箒は英語、ラウラは古典でつまずいたみたいだな。

 一夏はああ見えて、そこまで頭が良くないからな……。

 ちなみに、俺もなんとかといったところ。

 

「アタシは思ってたよりもいい点だったわ」

「私もキチンと勉強したかいがありましたわ」

「ボクもそれなりかな」

 

 ラウラ以外の代表候補生たちは、まあなんというかさすがと言ったところか。

 

「けど、今回は気楽に受けられたわ」

「そうなのですか?」

「ええ、最下位になることはないってわかってたからね」

 

 俺と一夏以外は鈴の言葉にピンときていないみたいだ。

 

「そういえば、征兎と龍華は?」

 

 ここにいないのが気になったのか、そう聞かれる。

 ちなみに、征兎のヤロウは学年2位。とりあえず、殴っておいた。

 当の本人は1位じゃなくて、かなり悔しがってたがな。

 1位はいつだったか名前を見た更識簪さんだった。

 

「アイツらは先生に呼び出された」

「呼び出された? なんで?」

「龍華はともかく、征兎はとばっちりだな」

「龍華なにかやったの?」

 

 俺と一夏と鈴は、顔を見合わせて互いの認識が合っていることを確信した。

 さすがに箒は幼馴染だが、小4のころが最後だから仕方ないな。

 龍華が呼び出されたのは恐らく……。

 

「「「全教科で赤点を取った」」」

 

 だろうな。

 俺たち以外のメンバーはえ? といった反応をしている。

 

「冗談だよね……?」

「冗談言ってると思うか?」

「そういえばアタシ、龍華の点数で二桁の数字見たことないかも……」

 

 あ~……そういやそうかもな。

 

「なるほど……教官がテスト前に征兎に言ってた、わかってるな? とはこのことだったのか」

 

 結果はご存じの通りだけどな。

 

「IS学園に受かってなかったら高校浪人確定だったはずだからな……」

 

 ここまで聞くと、もうみんな何も言えなくなってしまったようだ……。

 

 

「もう1学期も終わりだね……」

 

 ……だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄乃side

 

「ええ……ええ……そう……ハイハイ」

 

 せっかく臨海学校から帰ってきて、溜まっていた仕事を片付けてても、こうしてアイツから狙いすましたかのようなタイミングで連絡が入る。

 今回は、倉持技研の掌握を前倒しで行ったとのことだった。

 

「準備は着々と進みつつある……か」

 

 窓から外の景色を眺めながら考える。

 さすがに、夏休み期間は色々とやることが立て込んでいるからか、今日はここに来ないようね。

 というか、アイツ……今の体の主、日本の代表候補生だけどそこら辺が関わる予定はどうするつもりなの? 私が気にしても仕方ないんだけどさ。

 

 かく言う私も、一企業の社長。それなりに忙しい。

 だと言うのに、当たり前のように作戦に組み込むんだから……。

 しかも今度は、アイツの仲間の彼女たちといっしょに。

 私、アイツの仲間に快く思われてないのよね……。特にアリアとリリア。ほぼ無視。

 他の2人も無視まではいかなくてもあまり口きいてくれないし……。

 まあそれは束ちゃんもみたいだけど……いったい何がそんなに気に入らないのやら。

 クロエちゃんとはそれなりに仲良くしているくせに……この差はいったい。

 

 

 まあそれはともかく。

 

 

 とりあえず、ここまでやれる準備はいちおうやった。

 段々と原作から離れてきている今、後は私含め、当人たち次第。

 

 

 私も、覚悟を決めなきゃね……。

 

 

 とりあえず、ハザードトリガーの最終調整をして、その後は……。

 

 

 そうして、今後やることを頭の中で整理しながら、改めて向き合いたくもないデスクに向き合った。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 職員室へ呼び出しをくらい、万丈のテスト結果のことで文句をなぜか俺が言われるという理不尽を味わった後しばらくして、メッセージが届いた。

 玄乃さんからだったが、内容は例の訓練期間のお知らせのようだ。

 

 ちなみに記載されてた期間は、8月17日~30日。

 

 え? 冗談だよね?

 夏休み後半、お盆休みが終わってすぐ、しかも夏休み終了前日まで!?

 オニだ……。

 

 きっと今頃、和海あたりも同じような感じだろうな。……万丈は知らん。

 

 てことは……前半で宿題を片付けねばならないのか……。

 後半遊ぶためならともかく、訓練のために……。

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 ちくしょうーーーーー!!

 やってやらぁーーーーー!!

 

 

 

 心の中で精一杯叫んだ。

 

 

 もうこうなったら、ヤケクソにでもならないとやってられない気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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66話

 鈴音side

 

 夏休みに入って早数日。

 もうすぐ、夏休みも中盤に差し掛かろうとしていた。

 

 今は、帰省していない面々と体を動かした後に食堂で話しているところ。

 アタシももうすぐ、一時帰国しなきゃなんないからね。代表候補生というのもなかなかめんどくさいのよね。

 

「そういえば、征兎たちは?」

「あいつらなら、もう帰省したわよ」

「そうなのか?」

「ええ」

 

 征兎、龍華、和海はもうすでに帰省している。

 理由は、とにかく集中して課題を終わらせるためだとか。

 

「毎度毎度アタシのところに、終わんない! ってメッセージがきてるわ」

「そうなの? 征兎のことだからすぐに課題を終わらせて、自慢してそうだけど」

 

 うんうん、とみんなしてうなずく。

 みんな、この短期間でよく征兎を理解しているわ。

 

「いつもだったそうなんだけどね」

「今回は違うと?」

「そ。今回アイツは、自分の分の課題の他に龍華の分の課題をやってるから」

 

 ん? という反応をみんながする。

 まあ気持ちはわかるけどね。

 

「龍華に渡してもやってくるはずがないからって、千冬さんが征兎に押し付けたのよ」

 

 お前の字でいいから回答欄を埋めてこい、って言われたらしいけど……。

 まあ、がんばれとしか言いようがないわよね。

 

「しかもそれにプラスして、テストの赤点課題と補習をやらない分の課題があるから余計に時間がかかってるんじゃない?」

「そういえば、今年の夏休みは何故か成績不振者の補習がなくなったって言ってたけど……」

「まず間違いなく、龍華のせいね」

 

 恐らく、これだとやっても無意味と判断されたんでしょう。

 聞いたところによれば、全ての点数がヒドかったらしいけど、その中でも数学、IS学が0点だったとか……。

 なんというか、さすがとしか言いようがないわね。

 

「本当によくここに合格できたよね……」

「和海が言ってたでしょ? 実技試験がなかったら高校浪人だったのよ、龍華」

「そういや龍華の合格がわかった日、俺が通ってた中学、半日で終わりになって、先生たちがお祝いだとかで飲みに行ったって聞いたな」

 

 そこまでだったのね……。

 確かに、アタシが中国に行く前から先生たち、龍華の成績に頭抱えてたもんね。

 

 龍華の頭の悪さを改めて感じ、みんな苦笑を浮かべつつも、終始和やかな雰囲気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創一side

 

『そういうわけですので、今はまだ行動には移せませ~ん!』

「【ああ、そうかい】」

『も~テンション低いですよ!』

「【お前が高すぎるんだよ……】」

 

 通信相手の相変わらずのテンションに、思わずため息がこぼれる。

 なんでいつもそんななんだよ……。

 

『マスターたちは、今どちらに?』

「【ヨーロッパのとある場所だ】」

『お~、例の作戦中というわけですね!』

「【まあな】」

 

 現在行っている作戦。

 それは、亡国企業(ファントムタスク)などというご大層な名前の組織を壊滅させること。

 確かにここを潰したからといって、あちこちに残党が残るだろうが、大事なのはそこじゃない。

 キーとなるヤツらを消すこと。これが大事。

 

『けど……マスター、なんかヒマそうですね~』

「【言うな】」

 

 いちおう、実力があるヤツらがいるからと、アリアとリリア、そして玄乃、そこそこの数のガーディアン、さらにはハードガーディアンまで何体か連れてきた。

 

 ……大失敗だった。

 

 俺の出る必要がまったくなくなってしまった。

 正直、作戦開始早々決着が着いたような展開になった。

 ザコどもはガーディアン&ハードガーディアンが蹂躙してたし、IS持ちも玄乃、アリア、リリアで充分どころか、釣りがくるレベル。

 

 結果、俺はヒマになった。

 

『そういえば、ユウナちゃんがとっても不満そうにしてましたよ~? この前のときに何もしなかったのに、今回、同行させてもらえなかったって』

「【ユウナには次の作戦に参加してもらうつもりだ。まあ大丈夫だろ】」

 

 ……音が止んできたな。

 そろそろ終わるか?

 

「【わかってると思うが、お前もしっかりやれよ?】」

『わかってますよ、マイ・マスター』

「【()()()()の方にもそう伝えておいてくれ】」

『ご自分で伝えればいいと思いますが……まあ普段から私たちに話しかけるわけにもいかないですからねえ~』

 

 このバカ……誰が聞いてるかもわからないのによ。

 

「【余計なことを言うな……】」

『ハ~イハイ、わかってますって』

 

 本当にわかっているのか、かなり怪しい軽さでそう返される。

 

『では、任務完了の暁には何かしらお知らせを入れま~す! では!」

 

 そう言って、通信が切れた。

 

 ったくアイツは……。

 

 暇つぶしに話してはみたが、本来アイツともう一人の存在を知っているのは俺、ユウナ、レイ、アリア、リリアのみ。

 玄乃も束もヤツらの存在は知らない。

 

「【ん……?】」

 

 そんな思考もそこそこのところで、こっちに近づいてくる気配が一つ。

 視線を向けると、今回からそうするようにしたのか、ナイトローグではなく紫の姿をした氷室玄乃その人が戻ってきた。

 

「ヒマそうね」

「【お前らが優秀だからかねえ】」

 

 どうせそんなこと思ってないでしょ……とため息交じりに言いながら、手に持っていた物を投げ渡してくる。

 

「ご所望の品よ」

「【Thank you!】」

 

 渡された物を少し眺め、拡張領域へとしまう。

 

「しっかし、ISの待機形態なんて奪ってどうするの?」

「【それは、後のお楽しみだ】」

「まあいいけど」

「【それはそうと、これを持ってきたってことは、ヤツを殺したのか?】」

「別に……解除まで追い込めばいいだけだったし。ただ、ちょっと痛い目にはあってもらうことになったけど」

 

 へえ……甘ちゃん思考のコイツがねえ……。

 

「そもそも、ハードガーディアンまで投入する必要あった、これ?」

「【試運転も兼ねてたんだよ。ここまで圧倒的なのは少し誤算だったがな】」

 

 ホントしっかりしろよ、亡国機業!

 いちおう、テロリストだろお前ら!

 

 そうこうしているうちに、アリアとリリアも戻ってきた。

 彼女らは玄乃を一瞬見た後、あからさまにヤツから顔を背け、どうぞと言って俺に持っていたISの待機形態を渡してきた。

 

 相変わらず、仲悪いなお前ら。

 

 まあ、何はともあれ無事に今回の作戦を終えられたのは大きい。

 今後は邪魔される心配もなく、安心して行動できる。

 手にしたアラクネ、ゴールデンドーンの待機形態がまさにそれを証明していた。

 

 

 ガーディアン、ハードガーディアンを回収して撤収した後、拠点にて一人高笑いをしてしまった。

 

  

 

 

 次の作戦のため、偶々そこにいたユウナに、うるさいですよ? と言われてしまったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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67話

 征兎side

 

 夏休みに入り、nascitaでの例の訓練期間が迫る中、今日は9月からの学校に備えて、買い出しに行くことになっている。

 

 なんで、8月入ってすぐに9月の準備しなきゃいけないのよ……。

 こんな夏休みは初めてだよ。

 

「「ごちそうさまでした」」

「はい、お粗末様」

 

 そして現在、なぜか万丈の家で朝食をご馳走になっている。

 まあ、おばさまに強引に誘われたからなんだけど。

 

「久しぶりに食べましたけど、相変わらずおいしいごはんですね」

「あら、ありがとう。和海くんも相変わらずお上手ね」

 

 和海がおばさまになんか言ってる……。

 俺も何か言わねば……!

 

「いやーホントに! この味噌汁の味とかけっこう好きですよ、俺!」

 

 変わらず微笑みながら、ありがとうと言ってくれるおばさま。

 しかし、視界の端で万丈のヤツが何やらムッとしたような顔をしていた。……なぜに?

 

「征兎! 味噌汁好きなんでしょ? お代わり注いできてあげるよ!」

 

 え? いやいらんよ。さっきごちそうさまって言ったじゃん。

 

「いや、いらな――ごふっ!?」

 

 いらないと言おうとしたところ、なぜか横の和海から脇腹へ重い一撃が飛んできた。

 なぜだ……。

 当然、俺は文句を言おうとする。

 

「…………」

 

 なんだ、万丈……その悲しそうな顔は……。

 和海、おばさま……ニヤニヤすんな!

 何なんだ、この圧は!?

 

 そんな……そんな顔でこっちを見るなーーーーー!!

 

「じゃ、じゃあ悪いけど、もう一杯もらおうかな」

「――! わかった!」

「龍華、私がやろうか?」

「いいの! お母さんはそこでジッとしてて!」

 

 2杯目か……。

 

「朝からよく食うな」

「うるせぇ……食いたいから食うんだよ。ほっとけ」

 

 間もなくして、はい、どうぞ、と味噌汁が俺のもとに運ばれてきた。

 

 ちくしょう……どいつもこいつも楽しそうにしやがって。

 

 おばさまと和海が異様にニヤニヤしているのを横目に、お椀を受け取りズズッと口にした。

 

 うん、美味い!

 美味いんだけどさ……重いし、熱い。

 

 万丈はニコニコ、おばさまと和海はニヤニヤ。

 2種類の笑顔? に見られながら、それを極力気にしないように味噌汁をがんばって飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、レッツショッピング!

 ……はぁ~。

 

「辛気臭ぇ顔してんなよ」

 

 キサマどの口が……!

 

「ねえ、あれ!」

「ん?」

「なんだ?」

 

 いきなり万丈がそう言ってくるから、仕方なくそっちを見る。

 

「あれ? かずみんくん?」

「ユーたん!?」

 

 はえ? ユウナさん!?

 

「ユーたんがなんでここに?」

 

 ホントだよ!

 バカもたまにはまともなことを言うんだな。

 

「あ、この前会った……今日は大丈夫ですか?」

「え?」

 

 なんで会って早々、ナゾの心配されてるの、俺?

 

「この前も急に倒れちゃったし……」

 

 あ~、あのときのことね。

 あのときは、和海にやられただけなんですが……。

 

 そう言えれば、楽なんだけどね……。

 とりあえず、大丈夫の意を示しておく。

 

「(ねえ、なんのこと?)」

「(なんでもない、黙ってろ)」

「(なにそれ)」

 

 ハイハイ。

 

「そうだ、ユーたんもいっしょにどう?」

 

 和海くん、なに言ってんの?

 

「ホント! じゃあお願いしちゃおうかな」

 

 そこのネットアイドルもなに言ってんの?

 

 願いむなしく、そのままとんとん拍子でユウナさんの同行が決定した。

 

「……なんで女の子って買い物が好きなんだろうな」

「知~らない」

 

 なんでそんなツンツンしてんのよ。

 

「それより……なに? 俺らこれからあの二人の面倒なやりとりに付き合うの?」

「そうなんじゃない?」

 

 ホントもう、何なのよ……。

 

「…………」

「…………」

「なんで女の子って、買い物が好きなんだろうな?」

 

 なぜか同じことをもう一度言う、俺。

 

「私が男に見える?」

「そういや、そっか!」

 

 瞬間、体中に走る鈍い痛み。

 はいそうです。万丈に殴られました。

 

「最っ低!」

「すいませんっした」

 

 倒れながらもそう言う、俺。

 きっと周りから見れば、かなり情けない絵面だろう。

 

「大丈夫ですか!? また急に倒れて……」

 

 だから違うのよ……。

 なんで今回もこの人、肝心なところ見てないの?

 

「大丈夫、征兎の面倒は私が見るから!」

「え、あ、はい」

「ほら征兎! いつまでも寝てないでさっさと立つ!」

 

 俺は腕を掴まれ、無理矢理起こされる。

 (´Д⊂グスン……。

 

 みんな、もう少し俺にやさしくしてくれてもいいんじゃない?

 

「(ねえ! かずみんくん! この二人、もしかしてもしかする?)」

「(残念、龍華の片想い)」

「(そうなの? それにしては……)」

「(まあ……かなり前からだからね。それも小学生のときから)」

「(へ~、一途なんだ~)」

「(俺が言うのもなんだけど、趣味悪いでしょ、アイツ)」

「(いえいえ、そんなことないと思うよ)」

 

 

「ほら、行くよ!」

「わかったよ」

 

 万丈が、俺の腕を引っ張りながら、歩き出す。

 当然、俺も行くしかない。

 

「っていうか引っ張るなよ」

「引っ張ってないよ。征兎が遅いからそう思うだけ!」

 

 え~……。

 なぜか、さっきまでのツンツンした態度から一転、どこか機嫌良さそうな万丈。

 

「おい、行くぞ!」

「わかってるよ」

「今日はよろしくお願いします」

 

 とりあえず、後ろでコソコソなんか話してた二人を呼び、本来の目的を果たすことにしよう。

 

 

 

 それにしても、なんだったんだ万丈のヤツ?

 機嫌悪いかと思えば、急に良くなったり。

 俺にはサッパリですよ。

 

 わからんわ……。

 

 長い付き合いだが、未だにこういうところはナゾのままだ。

 

 とりあえず、暑いから腕、離してくれないかな?

 

 

 俺の腕を引っ張り、進んでいく万丈を見ながら、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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68話

 征兎side

 

 さてさて、色々あったがようやく始まったショッピング。

 

 まあしかし、なんやかんやで行動開始が遅れたのもあって、先に昼食にしてからとなったが。

 けど、荷物が増えてから食べて面倒な思いをせずに済んだからよかったといえばよかった。

 

 食べたところは、俗に言うファーストフードだったんだが、アイドルのユウナさんがいっしょだったこともあり、正直ここでいいの? と躊躇いはした。

 和海なんて、ユーたんのためにもっといいところ探してくる! などと言い出す始末。

 結局ユウナさんの、滅多に来られないからここで! という一言により、決定した。

 ちなみに、俺たちはそこそこメジャーなハンバーガーを注文したんだが、万丈のものだけなんかおかしかった……。

 肉が5枚くらい挟まっていて、さらにその肉の間にベーコンやチーズ、エッグといったものがあった。野菜など、どこにも見当たらない。しかもそれが2つ。

 もちろん俺たちは気にはなったが、なんとなく聞いてはいけない気がして、その事実からそっと目をそらした。

 万丈は、その重たそうなブツをポテトとともにしっかり完食していた。

 

 さて、そんなこともあった昼食を終え、無事に買い物を開始した俺たち。

 ユウナさんには、関係ない買い物に付き合わせてしまって申し訳なかったが、万丈と女の子同士で話したり、和海と話したりして楽しそうにはしてくれていた。

 

 そして現在、どういう流れでそうなったのか、万丈の服をユウナさんが選んであげるとのことで、女性服専門店に来ている。

 女尊男卑の影響か、こういう女性専門店がとても増えている。悲しいことだ。

 そして、この店では下着も扱っている。

 ということは、つまり……。

 

「…………」

「おい……」

「…………」

「おい」

「うるせえ、静かにしろ」

「いや、お前だってさ……」

 

 どう見ても、ただの変態ですよ。和海くん。

 

 店内では万丈とユウナさんが仲良さげに服や色々なものを見ている。

 それを店外からガン見している変態。

 

 ただでさえ居場所がないから、外にいるのに……止めてほしいのですが。

 

『征兎……選んでくれる? 征兎の好きな下着つけてあげるよ?』

 

 往来でそんなことを言い出しやがったアホな万丈は後でシメる。

 おかげで、和海とユウナさんにまたニヤニヤされてしまった。

 

『いいんじゃない? ほら、男の人でも誕生日とかに下着をプレゼントすることがあるとかないとか』

 

 今の世の中、そんなことしたらヤバイんですよ、ユウナさん。

 そして、和海……絶対今度、送ろうとか思ってるだろ。

 

『ちなみに、男の人が女の人に下着をプレゼントするのは、着せたいからじゃなくて脱がせたいから……らしいよ』

 

 へえ~…………え?

 

『そ、それじゃあ征兎は……私の裸を見たいってこと!? で、で、ででで、でも、征兎が望むなら……いいよ』

 

 いいよ、じゃねーよ。ふざけんな。

 そもそもまだ、下着をプレゼントしてないし。

 いや、まだもなにも、下着なんてプレゼントする気ないし……。

 隣にいる変態みたいに、その場面を想像し悶えたりもしない。

 

『征兎は……カワイイのと大人っぽいのどっちがいい?』

『さっさと行ってこい!』

 

 

 

 

 

 

 

 ったく、あのバカ。

 

「とりあえず、どうやって時間つぶそうか」

「俺はユーたんを警護してる」

 

 お前、マジでそろそろ通報されるぞ?

 

「なぁ、そこのお兄さんたち」

「しっかし、万丈もなんだかんだで女なんだな」

「それを本人に言ったら、またぶっ飛ばされるな」

 

 怖いこと言うなよ……。

 

「おい!」

「ん? なんか聞こえたか?」

「空耳だろ」

 

 だよな。

 

「テメェらだよ、テメェら! 無視してんじゃねぇよ!」

 

 ったく、さっきからなんだよ。うるせぇな。

 

 聞こえてきたウザったい声の方を向くと、まぁなんというか、いかにもなヤツらが気持ち悪い笑みを浮かべながら俺たちを見ていた。

 

「連れの女の子たちカワイイな」

「あんな子たちを独占しちゃダメだよな」

 

 コイツら何言ってんの?

 ユウナさんはともかく、万丈がカワイイ? 頭と目、大丈夫か?

 

「っていうわけでさ、アンタらの幸せ分けてくんね? ってかお前らに拒否権ないけどな」

「そういうわけだからお兄さんたち、今日は家に帰った方がいいよ。ってか帰れ」

 

 スゲェ……。

 俺、生まれて初めて、人の相手するのしんどいって思った。

 つか、コイツらアホだろ。

 

「うぜぇな」

 

 不意に和海がボソッと言った。

 

「あ? なんか言ったか?」

「テメェらごときをユーたんに触れさせるわけねぇだろ」

 

 え? そこ?

 

「俺ら親切で言ってやってるのに、お前ら死んだわ」

「うぜぇ」

「テメェら、もう謝ったって許さねぇぞ」

 

 テメェら? 俺、何も言ってないよ?

 

「ユーたんの貞操のためだ。心火を燃やしてテメェらをぶっ潰す!」

 

 もうダメだ、コイツ……。

 

 それからヤツらは路地の方に入っていった。

 

 さて、俺も行くか。

 

「いい、俺が殺しておく」

 

 俺にそう言って、和海はヤツらを潰しにいった……。

 なら、俺は……。

 

「あ、すいません。ショッピングモールの路地に男の形をしたゴミが転がっているので、回収をお願いできますか? はい、はい、すいません玄乃さん。俺、nascita所属ぐらいしか肩書きないんで。ええ、ええ、すいません、然るべきところへの連絡お願いします。はい、ではまた、17日に」

 

 今の世の中、電話して女が出たら、色々面倒だからな。

 こうするのが、スムーズに解決する一番の方法だわ。

 

「終わったぞ」

 

 早っ!?

 まだ、お前らが路地に入って数分だぞ?

 

「俺がそこら辺のゴミにやられるわけねぇだろ」

 

 あ、お前も同じように思ってたのね。

 普段はそんなこと思わないけど、今回はねぇ……。

 ああいうのを社会のゴミっていうんだろうな。

 

 なにより、千冬さんや玄乃さんの恐ろしさに比べれば……。

 ヤベ……なんか、寒気が……。

 

 

 

「おまたせ~!」

「おまたせしました」

 

 それから少し経って、ようやく二人が店から出てきた。

 その様子を見るに、さっきまでのことは知られてないようだ。

 まぁ……俺も和海も知ってほしいとは思わないが。

 

 

 

 それからは、まぁそれなりに楽しみ、ユウナさんとも別れた。

 去り際に楽しかったと言われ、和海の顔がだいぶキモイことになっていた。

 

 そういえば、途中でなんか、変な野郎どもの声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

 路地から出てきた人たちもきっとゴミを拾いに来てくれただけだろうしな。

 

 

 

 

 

 もうすぐnascitaでの訓練期間が幕を開ける。

 憂鬱だ……。

 

 しかし! 俺提案の強化アイテム案のために、なんとか頑張ろうじゃないか!

 

 ベストマッチを超えるベストマッチ!

 

 

 その名も――スーパーベストマッチ!

 

 

 どんな感じのアイテムになってるのか、チョー楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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69話

 

 玄乃side

 

 現在、遠路はるばるイギリスに来ている。

 イギリスが開発したという機体のお披露目会に招待されてしまったわけだ。

 

 まあ招待されなくても行かなきゃいけなかったんだけど……。

 本当に憂鬱……。

 

 当日、前日に泊まったホテルの前に政府からだという迎えの車に乗り、会場へ。

 会場はドーム状で、天井が開くようになっているようだ。

 

 やろうとしてること丸わかり……完全にアイツの手の上ね。

 

 中に入るとVIP席へと案内された。

 本当、ここまでしてくれなくもいいんだけど……。

 けど、面倒なヤツらと話さなくてもいいからそこは感謝。

 

 周りを見てみると、仕事上見知った顔がチラホラ。

 その人たちと言葉を交わしながらいると、いかにもなスーツを着た男がマイク片手にステージに上がってきた。

 

 ああ……あの男、どっかの企業の社長だったわ。

 

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」

 

 ようやく始まったかと思えば、自身の企業の歴史、業績、機体が開発されるまでを語り出した。

 

 心底、どうでもいい……。

 

 そんなどうでもいい話を聞かされ、帰りたいゲージがMAXに近づいてきた頃、ステージにシートで覆われた物体が運ばれてきた。

 

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。それではご覧ください! 我が社が開発した新型機“サイレント・ゼフィルス”です!」

 

 その言葉とともにシートが取り払われる。

 光量を増したスポットライト、所々からあがる歓声、焚かれるフラッシュ。

 そこには予想された通り、蝶をイメージしたようなISがあった。

 

「お次は、このサイレント・ゼフィルスの性能をお見せいたしましょう!」

 

 社長がそう言うと、ドーム状の天井が開く。

 意気揚々としていて、これから起こることの可能性などまったく考慮していないようだ。

 

 そうこうしていると、次第に会場がざわつき始めてきた。

 さっきまで意気揚々としていた社長の顔にも焦りが見られる。

 ……どうやらテストパイロットがいつの間にかいなくなっているとのことで、どうするのか揉めているようだ。

 

 あぁ……絶対、アイツの仕業よね……。

 

 そのことを理解してしまったと同時に、サイレント・ゼフィルスの近くに煙が発生。

 その中から今回の作戦の首謀者が登場した。

 

「【どうもお待たせいたしました】」

 

 そんな陽気な一声とともに突然現れた赤い全身装甲を受け入れるヤツなどいるわけなく、勇気ある(無謀なアホとも言える)企業の社長がヤツに詰め寄る。

 

「な、なんだキサマは! ここは今、我が社の大事な――」

「【うるせぇ!】」

 

 何が気にくわなかったのか、有無も言わせず腕の触手を社長の顔に刺した。

 

「が、あ、あ……」

「【さっきからどうでもいい話を長々と聞かされて、ウンザリしてんだよ】」

 

 そんな理由で……。

 っていうか、聞いてたんだ……さっきまでのどうでもいい話。

 

 そして、あっという間に社長は消えた。

 そして始まる阿鼻叫喚の嵐。

 

「【マドカ】」

「わかっている」

 

 さて私もそろそろ行動を……と思いステージの方を見ると、すでにマドカちゃんがISを身に纏い、ファースト・シフトを済ませているところだった。

 

 早くない? 何がどうなったらそんなスピードでできるの?

 

 そう思ったがすぐに考えるのを止めた。アイツと束ちゃんが関与している時点でもう何でもアリなんだろう……。

 

 

 

 そんな非常識な光景を横目に、逃げ惑うヤツらに紛れ、人気のない場所へと。

 しかし、どうしても思ってしまう。

 

 今回、私要らなくない?

 

 しかし、そうはさせてもらえないだろうから、渋々準備する。

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 ドライバーを装着し、フルボトルとは少し違う紫のボトル――クロコダイルクラックフルボトルを手に出し、キャップを回す。

 

『デンジャー!』

 

 音声が流れると、ボトルから待機音がなる。

 そして、その状態のボトルをドライバーのスロットに装填。

 

『クロコダイル!』

 

 レンチ型レバーを下げ、左右のプレスパーツでボトルを押し割る。

 すると、ボトルの成分がドライバーのゼリータンクにチャージされ、ケミカライドビルダーが展開される。

 

『割れる! 食われる! 砕け散る!』

 

 中がボトルの成分が入ったヴァリアブルゼリーで満たされると、左右から巨大な吻が現れそれを噛み砕くと、その衝撃でゼリーが飛び散る。

 それと同時に“クロコダイラタンアーマー”が形成され、頭部をワニの顎型の装甲が噛み砕き、ひび割れが入るようにマスクを形成し、変身が完了する。

 

『クロコダイルインローグ!』

『オーラァ!』

『キャー!』

 

 ……さて、行きますか。

 

 

 

 

 

 ネビュラスチームガンを使い、会場へと戻ってきた私が目にしたのは、戦う気のなさそうなブラッドスタークと自身の専用機であるISを纏ったセシリア・オルコット。

 マドカちゃんはとっくに離脱したようだ。

 当然、彼女の目が私に向く。

 

「新手……ですか」

 

 まあ……いちおうそうですね。

 

「もう一度聞きます。あなたたちの目的は何なのですか!」

「【…………】」

「…………」

 

 え~……。

 いや、わかるでしょ?

 機体を奪いにきたんですよ。

 アイツがゲンナリしてる理由がわかった。そりゃあそのくらいわかれ! って感じよね。

 

「なら、力づくで聞き出します!」

 

 いや聞き出さなくても、考えればわかるでしょ。

 

 そんな思い通じず、ライフルからの一発。

 そんな素直な攻撃に当たってあげるわけもなく、当然避ける。

 

『【じゃあここは任せた】』

 

 直後、プライベートチャンネルからそんなふざけた通信がきた。

 え? 冗談でしょ?

 

『【Ciao】』

 

 冗談でも何でもなく、本当に消えやがった。

 ボイスチェンジャーを搭載しなかったのがこんなところで仇になろうとは……。

 

「このブルー・ティアーズにはBT兵器がありましてよ!」

 

 いや知ってますけど。

 こうなったらさっさと終わらせるのが得策!

 

 宣言通りにBT兵器を展開してきたセシリア・オルコット。

 まあ、偏光制御射撃《フレキシブル》も並列思考《マルチタスク》もできないようなヤツにやられるつもりは毛頭ないけど。

 

 ネビュラスチームガンをセシリア・オルコットに向け、一発。

 くっ!? っと声を漏らしながら避けられる。まあそれが狙いなのだけれど。

 これだけでBT兵器の動きが止まってしまう。

 

『エレキスチーム!』

 

 狙い通りいったことが嬉しいが、もっとしっかりしろと悲しくもなる……。

 ブレードを振るうと、4つの内2つが破壊される。そのままネビュラスチームガンで残りの2つを破壊する。

 

「そんな!?」

 

 驚いているヒマがあるなら、なにか行動しなさいな。

 

 呆れつつ、ネビュラスチームガンにクラックフルボトルをセットする。

 

『クロコダイル!』

 

 銃口を向け、狙いを定める。

 千冬ちゃん、もっとちゃんと指導しなきゃダメよ。

 

『ファンキーブレイク!』

 

 トリガーを引くと、強力であろうエネルギー弾が発射され、彼女へ直撃した。

 

 案の定な叫び声を上げ、彼女のISが解除された。

 しかし、気を失うまではいかなかったようだ。

 まあ、何ができるというわけでもないだろうけど。

 

「ま……待ちなさい」

 

 いざ帰ろうとすると、そんな声が飛んできた。

 チラリと目を向けると、残った力で精一杯睨んでいるようだ。

 

 睨むくらいならせめて、並列思考くらいできるようになってね。

 

 まあ無理だろうけど。

 

 

 一つため息をつき、改めてネビュラスチームガンを使い、その場を後にした。

 

 

 

 

 帰ったら当然、私を置いて帰りやがったアイツに文句を言った。

 ……結局、ハイハイと聞いてるのかどうか怪しい……いや、絶対聞いてなかったであろう反応……というか、あしらわれただけで終わった。

 

 

 しかも最後に次の作戦への参加を言い渡された……。だから私、忙しいっちゅうねん。

 

 

 

 とりあえず、溜まってしまった業務を片付けつつ、征兎くんたちのトレーニング内容を詰めることにする。

 半ば現実逃避が入っているとわかっているが、やらずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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70話

 IS学園アリーナ。

 夏休み中ということもあり、利用者もほとんどいないはずのそこには現在、倒れて動かない人物が2人と、それを見下ろす人物が3人いた。

 

「なんか……思っていたより弱い相手だったね」

「まあ、なんだかんだ言っても所詮は候補生ってことなんじゃないの?」

「そういうことなのかなぁ?」

 

 そんなことを話しながら、倒れている2人から待機形態となったISを奪い取る。

 

「ヘル・ハウンドにコールド・ブラッドか……」

「イージスなんて呼ばれていても、ユウナちゃんの敵じゃなかったね!」

 

 それは言い過ぎ、と窘めつつユウナは2つのISを自身の拡張領域へとしまう。

 

「最初こそ、ISなんて手に入れて何に使うのかと思ったけど……そのおかげで私の“コレ”ができたわけだからね」

 

 そう言い、自身が持つ特殊なボトルとアイテムを手に出す。

 

「本当に世の中なにが役に立つかわかんないよね~。あのウサ耳女が造ったやつじゃなくて、その辺の有象無象が造ったやつだったから尚更」

「まあ確かにね」

「今度はコレでなにするつもりなんだろう? またなんか造るの?」

「どうかしらね。最近はISの装備とかワンオフとかを結構見てるけど……」

「ふ~ん。けどさ~どうやってISの情報とか見るの? そういうのって結構ガードが堅いイメージなんだけど」

「マスターお得意のハッキングよ。恐らく、各国ISの全容から専用機の装備、ワンオフ持っている機体はその能力まで、全て……ね」

「さすがマスターだね!」

「そのついでに実際に戦闘してみたりして、機体能力と搭乗者の腕をすり合わせているみたいね」

 

 それをやるかやらないかはマスターの気分だけど……ということは自分の胸の内にしまっておくことにしたユウナだった。

 

「ただ、白式のデータは完璧には取れていないって愚痴ってたから、今度また何かお願いされるんじゃない?」

 

 めんどくさいやつじゃないといいなぁ~、と言うの聞きつつふと気付く。

 3人いるはずなのに、2人でしか会話してないことに……。

 その当の本人は、アリーナの壁に寄りかかり、目を閉じていた。

 まあいつものことだからとスルーする。

 

「じゃあ、あんまり長居もできないことだし、撤収しましょうか」

「了~解。――おっと、忘れてた」

 

 壁のところにいたもう一人を呼び、ユウナ以外の2人がボトルを取り出すと、キャップを開け、それを振った。

 すると、そこから大量のネビュラガスが散布され、倒れていた2人を消滅させた。

 

「これでよし!」

「証拠隠滅完了~」

 

 ようやく声を発した1人のなんとも間延びした声を聞き、消滅を確認したユウナが声をかける。

 

「よし、撤収!」

 

 2人のそれぞれの返事を聞き、アリーナのカメラのハッキングを解除した後、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

 nascitaでの訓練という名のしごきが始まり早数日。

 最初は新アイテムが手に入り、それを使えるということで気分が向上していたが、いざ始まるとそれどころではなくなった。

 

『はい、これがご所望の征兎くんのための新アイテムの“ハザードトリガー”。なんと、私と束ちゃんの合作よ』

 

 渡されるときにそう言われた。

 

 マジで勘弁してほしいんですけど……。

 これ、俺の想像していた以上のとんでもアイテムだった。

 

 確かに、これを使ったときのパワーは凄まじい。ベストマッチのとき以上のパワーが出ている。

 しかもこれ……俺が造ったスパークリングよりもパワーが上なのでは……?

 けっこうショック……。

 

 さすが、玄乃さん&束さん作。

 片方が造っただけでもかなりのものなのに、合作と来たもんだ。

 正直、世間に知れたらとんでもない争奪戦になりそう。

 

 

 それよりも……この数日での成果がまったく出ていないほうが問題だ。

 いや……出ていないっていうわけではないと思うけど……。

 

 

 

 俺が渡されたハザードトリガーというアイテムは、使用者の力を限界まで……いや、限界以上に引き上げるものらしい。

 しかし、そんな強力なアイテムになんのリスクもないわけがなかった。

 僅かな時間使用したたけで使用者の脳を破壊し、自身が死ぬかトリガーが外れるまで、敵味方問わず周りのすべてを破壊しようと暴走してしまう。

 

 

 使用後すぐに意識がなくなり、気が付いたときには万丈と和海が倒れていたり、医務室のベッドで寝ていることが多々あった。

 つまり……俺はまったくハザードトリガーを制御出来ていないということなんだろう。

 和海と万丈には、かなり迷惑をかけちまってるな。

 いつもがんばって俺のベルトからトリガーを外してくれているんだろうか……。もしかして……和海と万丈にはそれが訓練だとか……? そんなはずないか。

 

「はあ~……」

 

 思わずため息が出てしまう。

 

 ホント、どうすりゃいいんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄乃side

 

 渡してしまった……。

 

 ハザードトリガー……本当は渡したくなかった。

 

 けど、これからアイツと戦うためには必要なものでもある……のよね。

 

 あれはすべてを破壊する悪魔のトリガー。

 

 でも……私は信じたい。

 征兎くんたちなら、あのトリガーを希望の光にすることができると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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71話

 鈴音side

 

 夏休みももう終わろうかという今日この日。

 私たち代表候補生と一夏、箒の専用機持ちは代表候補生合宿なんていう面倒なことも終わり、みんなで集まって談笑していた。

 まあ、学園に戻ってもやることも特にないし、一夏の家に集まってんだけどね。

 そんな中で発せられたこの一言。

 

「そういえば、鈴と一夏たちって幼馴染なんだよね?」

 

 その一言に、アタシと一夏がそうだけど? みたいに答える。

 

「なにか、征兎たちのおもしろいエピソードみたいなのとかってある?」

 

 そんなことを聞かれた。

 征兎たちのおもしろ……もとい、やらかしエピソードねぇ……。

 箒は幼馴染だけども、小4までだったからか特にはないみたい。

 さすがにその頃は、まだ大人しかったのね。

 

「「う~ん……」」

「い、いや、あの、ないなら無理しなくてもいいからね!?」

 

 アタシたちが考え込んでしまったからか、シャルロットが慌てだしてしまった。

 違うのよ。

 考え込んでたのはそうじゃなくて――。

 

「「ありすぎて、どれを話せばいいのかわからない」」 

 

 ――である。

 みんなが、ええ~……みたいな反応をしているが、実際そうなんだからしょうがないじゃない。

 

「アイツら多分、けっこうこの辺りじゃ問題児よ。だいぶやらかしてるもの」

「ああ、そうだな。俺と鈴が先生に呼び出されて、お前たちが止めなくて誰がアイツらの暴走を止めるんだ! って言われたこともあったし」

 

 あったわね、そんなこと……。

 とはいえ、どれをチョイスしようかしらね……。

 少し考え、夏休みにあったエピソードの一つがパッと浮かび、あっと声を出した。

 当然、みんながこっちを見てくる。

 

「そういえば中1のころの夏休みに、ひったくりを捕まえたことがあったわ」

「え? 俺、それ知らないな」

「あんたと弾は居なかったからね」

 

 そして、創一も……。

 そこはあえて言わなかった。

 

「ふむ、ISや制圧のための武器もなかったのだろう? どうやったんだ?」

 

 なら、教えて差し上げよう。

 少し、落ち込みそうな気分を無理矢理上げ、そのときのことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中1の夏休みのとある日。

 アタシと龍華、和海は突然、征兎に家の前に集められた。

 一夏と弾(あと創一)は用事があるとかで断られたらしい。

 何の用事もないからって集まるとか、龍華はともかく、和海もアタシも人が良いわよね。

 

「というわけで!」

「どういうわけだよ……」

「今日は、最近この先の通りで多発しているひったくりの犯人を捕まえようと思う!」

「「はあ?」」

 

 その心がけは立派なのだろうが、なぜ急にそんなこと思い立ったのか。

 和海の顔も胡散臭いものを見るような顔だ。

 

「さすが征兎だね!」

「だろ! たまには市民の役に立つことをしとかないとな!」

 

 龍華の持ち上げに、調子に乗る征兎。

 アタシは……まあ和海もだろうけど、嫌な予感が出てきた。

 大体、征兎が学校外でやらかす前には、このセリフが飛び出すから。

 

「じゃあ、和海。まずは女装をしてくれ」

「は?」

 

 唐突にそんなことを言われた和海は、当然の反応。

 

「なんで女装?」

「ん? だって被害者は女性ばっかだからな、囮になってもらう」

「それならアタシや龍華でもいいじゃないの?」

「万丈には別の役目があるからちょっと……」

 

 征兎はそう言い、和海にほらほらと女装道具? を押し付ける。

 和海も半分諦めが入ってきてる。

 

「家にあった母さんのオバサンくさいのだけど――おぎゃっ!?」

 

 突然、征兎の頭に鍋の蓋が、きれいな回転をしながら飛んできて、直撃した。

 家の前で余計なことをいうから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、渋々女装をした和海を引きつれ、被害が多発しているという通りにやってきた。

 ちなみに、和海の女装は地味に似合っていた。

 

 そして、女装した和海にバックを持たせ、適当に歩かせる。

 それをいかにもなところから見るアタシたち。

 

「ねえ、本当に来るの?」

「ああ、俺調べではこの時間から2時間くらいが活動時間だ」

 

 本当に大丈夫?

 そうして待つこと数分。

  

「よし、かかったぞ!」

 

 征兎のその声を聞き、見てみると和海(女装ver.)のほうに確かにスクーターがいかにもな感じで近づいている。

 そして、スピードを上げたスクーターは和海の肩にかかっていたバッグを奪っていった。

 

「いや~~ん」

 

 合図の悲鳴? をいちおう上げた和海だが、思わず吹いてしまったアタシは悪くない。

 そして、アタシたちの前をけっこうなスピードでスクーターが通過。

 ナンバープレートも隠しているようで見えなかった。さすが常習犯。

 

「ちょっと、どうする気!?」

「大丈夫だって。――万丈!」

「うん!」

 

 征兎が龍華に一言そう言っただけで、龍華はスクーターの後を追った。

 いやよくわかったわね。このやりとり、さすが征兎と龍華だわ。

 

「――って速!?」

 

 龍華の後をいちおう追いかけているが、龍華は、もうスクーターに追いつきそうだ。

 かなりのスピードだったし、スタートするのも遅かったはずだけど……。

 いや、そもそもなんでダッシュで追いつけるのよ!? 

 

 そして、間もなく追いついた龍華は、スクーターに乗ってたひったくり犯に飛び蹴りをくらわせた。

 当然、ひったくり犯は地面をすべる。

 自業自得だけど、容赦ないわね……。

 

 直後、ひったくり犯は追いついてきた和海に、仰向けに起き上がろうとしていたところ、お腹(おそらく鳩尾)に足を乗せられた。

 かなりの勢いだったから多分、女装させられた八つ当たりも入ってたでしょうけど。

 

「お前ら何なんだよ!? ひったくったヤツは気持ち悪いし、80キロにダッシュで追いついてくるし!?」

 

 龍華スゲー!?

 よく追いつけるわね!?

 そして、征兎はよくそれができることを当たり前に考えてたわよね!?

 

「それに蹴りの威力ハンパじゃねーし!? 何なんだよ本当によ!」

「ああ? 龍華はちゃんとヘルメットを蹴っただろ? 感謝しろよ」

「お前わかってんのか? 万丈の蹴りをまともにくらえば意識なんて無くなるぞ?」

 

 征兎その言葉にはなんか、すごく実感がこもっていた。

 そして、ひったくり犯が被っていたヘルメットを見ると、確かにどんな威力だったのか、蹴られたところから広範囲に深いヒビが入っていた。

 そりゃ、あんな泣き言を言いたくもなるわ……。

 

 

 

 その後、こんな大騒ぎを起こしたからか、誰かが通報したであろう警察が駆け付け、この件は終了した。

 征兎たちを見て、またお前たちか……とため息をつかれたけど……。

 

 ――しかし、これですんなり終わらないのが征兎。

 

「ん? あ!? お前、また!」

「ヤベ!?」

 

 おそらく、いつも通り発明品のためだとかそんな感じだったのだろう。警察の人が乗ってきたバイク? を分解しようとしてたところ、見事に見つかったていた。

 

 ……アホね。

 ちなみに、龍華も和海も助ける気はないみたい。

 

 後日聞いた話では、派出所に置いてあるバイクに使われている警察特注の部品が欲しかったとかなんとか。

 例えそうだとしても、普通やらないわよ……。

 

 アタシたちの呆れたような視線を受けつつ、征兎はひったくり犯といっしょにパトカーにドナドナされていった。

 

 なお、未遂だったため罪に問われるとかはなかったが、顔なじみになったお巡りさんに反省しなさいと、1日留置場にお泊りしたらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という感じだったわね」

 

 懐かしの話その1? を語ったが、なんかみんな啞然としてるような?

 

「前から思ってたけど、龍華って人間?」

「まあいちおう?」

 

 気持ちはわかるわ。

 そう思ってるのはあんただけじゃないはずだもの。

 

「征兎さんって、頭がいいのか悪いのかわからなくなりますわ……」

「アイツは、バカと天才は紙一重っていうのを体現してるようなヤツだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――くしゅん!」

「きたねぇな」

「風邪?」

「征兎が風邪? ありえねぇだろ」

「どうして?」

「バカは風邪ひかねぇだろ」

「そりゃ万丈のことだろ!」

「ちょっと、どういうこと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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72話

 

 征兎side

 

 色々ありなんだかんだツラい夏休みが終わり、新学期が始まった。

 千冬さんの一喝もあり、気の緩みを引きずることも許されそうにない空気の中、俺はとあることから抜け出せないでいた。

 

 それは……玄乃さんからもらったビルドの強化アイテムのハザードトリガー。

 これをまったく制御できないのだ。

 夏休みの特訓の期間中から大した進歩もなく、使用してもすぐ暴走してしまう。挙句の果てに和海と万丈を傷つける。これの繰り返し……。

 夏休み中はnascita内だけだったからなんとかしてもらえたが、学園ではそうもいかない。学園のみんなに多大な迷惑をかけることとなってしまう。

 

 そんなことにならないようにするためにも、どうにかならないかとここ数日もああでもない、こうでもないと考えてはみたものの、未だに解決策を見つけられるずにいた。

 さすがは、玄乃さんと束さんの合作といったところ。一筋縄ではいかない。

 

 だからなのかどうなのかは自分でもわからないが、新学期開始直前、和海にあるモノを渡しておいた。

 

『和海……お前にこれを渡しとく』

『あん? ……なんだこれ? ボトル……とは違うな。カバーはついてるがボタンがついてるな』

『もしも、学園で俺が暴走するようなことがあったら、それを押してくれ』

『なに?』

『そうすれば、俺ごとドライバーを爆破することができる……』 

『お前……! そんなもん人に渡して……正気かよ……!』

『じゃあ、頼んだ……』

『征兎!』

 

 呼び止める和海を無視して、その場は立ち去った。

 

 

 

 そんなこんなで、新学期が始まってもどうにもならず、ウダウダしていたある日。

 昼休みももう終わろうかという頃、唐突に和海に声をかけられた。

 

「征兎」

「ん?」

 

 なんだ、急に?

 

「今日の放課後、ちょっと付き合え」

「は?」

「アリーナを貸切ることができた。――そこで、本気で俺と戦え」

「は?」

 

 突然の言葉にまともな返事ができない。

 

「俺は心火を燃やしてお前を倒す」

 

 ――逃げんじゃねえぞ。

 

 最後に、俺の肩に手を置くと同時にそう言い去っていった。

 

「何なんだよ……」

 

 そう言わずにはいられなかった。

 というか、教室で席隣じゃん……と思ったが、気を遣ったのか何なのか午後の授業に和海は現れなかった。

 千冬さんが何も言わなかったことから、アリーナの使用許可を取ったついでにそこの許可も得ていたのかもしれない。

 そんな風に色々考えているうちに、放課後を迎えてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 和海side

 

「ねえ……アレ、何とかなんないの?」

 

 休み時間に入るなり、鈴に呼ばれたかと思えば、唐突にそう言われる。

 

「アレってなんだよ」

「征兎よ、征兎!」

 

 そう次いで言われた言葉には、納得せざるを得ない迫力があった。

 ああ……と声が出る。

 

「新学期も始まったっていうのに、いつまでもあんな風にウジウジされると、こっちが困るのよ!」

「そうは言われてもな……」

「だいたい、なんでアイツあんな風になってるわけ?」

「まあ、ちょっとな」

 

 原因は多分、新アイテムが使いこなせてない……というか、制御できてないことだと思う。

 ハザードトリガーだったか?

 アレを使ったビルドはパワーもスピードもハンパじゃなかったからな。暴走した後なんかは特に。

 あの状態の征兎を止めるために、龍華といっしょに何度やられたかわからねえ。

 それを征兎のバカは過剰に気にしてるんだよな。あのバカが……!

 

「ふーん、なんか教えられない感じ?」

「詳しくは……な。ちょっと企業秘密というかなんというか」

 

 新アイテムが使いこなせてないだけ、と言えば簡単だ。

 ただ、その一言で済ませるにはあのアイテムはヤバすぎる。

 征兎から聞いたが、玄乃さんと束さんの合作だろ? その時点でヤバいわ。

 

「けど、まあ……確かにいつまでもあのままだと鬱陶しいわな」

 

 なんとかやってみるか。

 

 思い立ったが吉日。 

 鈴と別れ、その足で千冬さんのもとへ行き、アリーナの使用許可を求める。

 幸い、空いていたらしく、即座にお願いする。ついでに関係者以外立ち入り禁止もお願いする。

 一般の生徒に見られたら、あらぬ噂を立てられかねない状況になる可能性大だからな。

 千冬さんには怪訝な顔をされたが、さすがに教師には理由を説明し、了承を得た。

 

 後は、アイツに頼んどくか。

 昼休み終了前に捕まえたその人物にある頼み事をし、その後を過ごした。

 午後の授業は、征兎と気まずくならないよう、空いている場所で精神を集中させていた。

 

 そして放課後……先にアリーナのフィールドで待っていた俺の前に、なんでこんなことになっているのかわからない、と顔にバッチリ出ている征兎が来た。

 

 征兎……お前にわからせてやる。

 

 お前が暴走しようと、みんなを傷つけることになったとしても、俺や龍華、みんなが絶対に止めてやるってことをな。

 

 愛と平和――ラブ&ピースだったか? スタークとの戦いの映像、玄乃さんに見せてもらったが、もとは龍華が言い出したこととはいえ、お前がそんなこと言い出すなんてな。

 それを胸に生きる世界をお前が造れるよう、今回は俺が一役買ってやるよ。

 

 

 この身を賭けてもな……!

 

 

 

 

 



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73話

 アリーナのフィールド中央。

 そこで征兎と和海は向き合っていた。

 管制室では担任でもあり、今回のことに使用許可を出した千冬、副担任の真耶、専用機持ちたちがいた。

 専用機持ちたちに関しては和海が、お前らならいいか、と言ったことで許可されていた。

 

「征兎、遠慮はいらねえ……全力でこい」

 

 そう言い、ドライバーを装着する和海。

 直後、征兎もドライバーを装着した。しかし、ハザードトリガーを制御できていないということから、それを使用するという気は起きなかった。

 

(それ以外で勝利の方程式を導き出す……!)

 

『ラビット!』『タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

「変身!」

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク!』

『イエーイ!』

 

『ロボットゼリー!』

「変身!」

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ロボットイングリス!』

『ブラァ!』

 

 変身を完了させ数秒、動き出したのはほぼ同時。

 互いに繰り出した拳からの肉弾戦から始まった。

 

 征兎の拳が和海にヒットすれば、和海がお返しとばかりに殴り返す。

 蹴りを繰り出せば、それを返す。

 

 それが繰り返され続けると、段々と征兎が焦り出してきた。

 基本スペックのパワーの違いによるダメージの差が出てきたからだ。

 

 征兎が、ドリルクラッシャーを出現させ、それを使いつつの攻撃に移る。

 しかし和海は、それを意に介していないかのように、ツインブレイカーでその攻撃を捌く。

 なんだかんだで、夏休みの特訓? で和海の実力のそれなりに上がっていた。

 ソードモードの攻撃にはアタックモードで、ガンモードの攻撃にはビームモードで。

 ここまでの征兎の攻撃は、大したダメージを与えられていなかった。

 

「クソ……」

「違うだろ? 俺は本気でこいって言ったよな?」

 

 その声のトーンに多少なりとも動揺しつつも、征兎は次の手を打つ。

 

『ラビットタンクスパークリング!』

「ビルドアップ!」

『シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング!』

『イエイ! イエーイ!』

 

 直後、蹴りを放ち、ガードした和海を後ずらせる。

 その流れで、ホークガトリンガーとガンモードのドリルクラッシャーの銃撃で追撃する。

 

「効かねえな……効かねえよ!」

 

『シングル! ツイン!』

『ツインフィニッシュ!』

 

「おらぁ!」

「ぐ……!」

 

 ビームモードのツインブレイカーにヘリコプターボトルとロボットゼリーを装填し、すかさず攻撃。

 その攻撃を受け、今度は征兎が後ずさる。

 そのままそこに、和海がラッシュを叩き込む。

 

「まだまだいくぜ!」

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

 そして、ドライバーのレンチを下げる。

 前腕部にヴァリアブルゼリーでロボットハンドが形成され、それで強烈なパンチが征兎に叩き込まれた。

 それをくらい、征兎が飛ばされ、転がる。

 

「まだ終わりじゃねえぞ」

 

 和海は肩や背中からヴァリアブルゼリーを噴出させ、そのまま征兎めがけ、キックを繰り出す。

 

「ちくしょう……!」

 

 それに気づいた征兎もエネルギーを乗せたキックで迎え撃つ。

 

 互いのキックのエネルギーがぶつかり合い、小爆発が起きる。

 その中から2人が出てくるが、和海は何事もなく着地し、征兎は足を押さえ地面に倒れていた。

 

「く……あ……」

「どうした? こんなもんじゃねえだろ、征兎!」

 

 膝立ちになり下を向く征兎に和海はそう叱咤する。

 その言葉に思わず反応してしまったのか、その手にハザードトリガーを出した。

 しかし、使用する決心がつかないのか、そのまま硬直してしまう。

 それを理解している和海は、征兎を見据えたまま動かない。

 

(俺にコレを使いこなせるのか……? また暴走するのが……アイツらを傷つけるのがオチなんじゃないのか……)

 

 そんな思考が征兎の頭の中を占める。

 

(ハザードトリガーを起動させたら止められない。誰かに俺を倒してもらうか、トリガーを外してもらうしかない……けど)

 

 征兎は立ち上がり、ハザードトリガーのスイッチの保護カバーを開ける。

 

「……!」

(いざという時のものは和海に渡してある。もしものときは和海がアレのスイッチを押してくれるはずだ!)

 

 決意を固め、スパークリングをドライバーから外す。

 そしてついにそのスイッチを押す。

 

『ハザードオン!』

 

 その音声が発されると、トリガーをドライバーのBLDライドポートに挿し込む。

 その接続された状態でドライバーにフルボトルを装填する。

 

『ラビット!』『タンク!』

『スーパーベストマッチ!』

 

 そして、レバーを回す。

 

『ドンテンカン! ドンテンカン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

 

 そんな音声とともに、ハザードライドビルダーが前後に形成される。

 

『Are you ready?』

「ビルドアップ!」

 

 そして、それが結合されたときそれは完了する。

 そこに現れたビルドは、複眼部以外が黒く染まり、頭部や肩アーマーに新たに装甲が追加され、黒い気体を放出していた。

 

『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード!』

『ヤベーイ!』

 

 これがハザードトリガーと、ベストマッチとなるボトルを使用するベストマッチフォームの強化形態。

 夏休み中、征兎が制御しようとしていたもの。

 その間、和海と龍華を傷つけてしまったもの。

 

 ――ハザードフォーム。

 

(【まあ、そうだよな……出すしかないよな】)

 

 こっそりとそれを観戦しているヤツがトリガーを使用したところを見てそう思う。

 

 直後、黒い影が和海に向け、動き出した。

 

 

 

 

 

 



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74話

 ハザードフォームとなったビルドに和海が吹き飛ばされる。

 

「ぐあ……!?」

 

 しかし、すかさずそこに追い打ちをかけ、ラッシュを叩き込む。

 

「そうだ……それでいい、征兎!」

 

 怒涛のような攻撃に晒されつつも、そう言う和海。

 自身も脚部や掌、肩のユニットからヴァリアブルゼリーを噴出させ、高速での移動や攻撃を行う。

 

 征兎は、自身の脳に襲い掛かるダメージになんとか耐えつつ攻撃していた。

 時間がないと自覚しているが故に、攻撃が荒くなってしまっている。

 

(まだ……まだだ……!)

 

 必死に攻撃を繰り出すが、和海もそう簡単にはやられない。

 瞬時に反撃に転じ、殴り返してくる。

 

「どうした! こんなもんじゃねえだろ!」

(クソ……ヤンキーが! さっさと倒れろ! それかトリガーを外せ……!)

 

 そしてついに、征兎に限界がきてしまった。

 

「ぐぅ……!?」

 

 脳の神経が焼き切れて行くような感覚。

 思わず頭を押さえてしまう。

 

(やめろ……やめろ……! やめてくれ……!)

 

 腕が垂れ下がり、顔を俯かせ、動きが止まる。

 しかし、すぐに顔が上がり、その目が和海を捉えると高速で接近し、再びラッシュを浴びせ始めた。

 

 さっきまでと同じ荒い攻撃ではあったが、その攻撃にはさっきまでになかった破壊の意思があるように和海は感じた。

 自分を引きずり倒し、踏みつけるように足を叩き付けてくるのを見て、余計にそれを感じていた。

 

「とうとう始まったか!」

 

 反撃として何発かやり返したが、あまりダメージは感じてないようだ。

 征兎の攻撃を躱し、空中からの勢いを利用した一撃を入れようと飛び上がり、降下していく。

 

『タカ!』『ガトリング!』

『スーパーベストマッチ!』

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

『ブラックハザード! ヤベーイ!』

 

 その間に征兎はボトルを入れ替える。

 そして、自身に迫っていた和海をそのまま叩き落とす。

 

『マックスハザードオン!』

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

 

 再度ハザードスイッチを押し、レバーを回す。

 

『Ready go!』

『オーバーフロー! ヤベーイ!』

 

 これにより、内蔵された強化システムによりオーバーフローモードへと移行し、圧倒的な戦闘力が発揮される。

 タカボトルにより使えるウイングを使い、和海の周囲を高速で旋回しながらホークガトリンガーで銃撃する。

 

「ぐあ!? ぐああ!? があああ!?」

 

 そして、高速で接近し、上空に蹴り上げ、ドライバーのレバーを回す。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

『Ready go!』

 

 オーバーフロー状態でドライバーのレバーを再度回すとハザードフィニッシュ使用できる。

 それにより、上空の和海が拘束される。

 

『ハザードフィニッシュ!』

 

 そして、そこにホークガトリンガーで銃弾が打ち込まれた。

 

「ぐああああああ!?」

 

 和海はそのまま落下し、変身が解除された。

 

「がはっ……う……」

 

 仰向けに倒れ、起き上がろうとするが、ダメージからかそれは叶わない。

 観戦していたみんなは1人を除いてこれで終わったと思った。正直、観戦していても和海が何をしたかったのかわからなかったが、アリーナに向かい、2人に声をかけに行こうとした。

 

(【バカなヤツらだ……おもしろくなるのはこっからだろ!】)

 

 しかし、征兎が変身を解除しない。

 しかも、倒れている和海のもとへ歩き出したから尚更。

 そして和海へと辿り着いた征兎は、手を伸ばす。

 起こしてやるのか……と安心した瞬間、それは裏切られた。

 

「ぐ……!?」

 

 征兎が和海の首を掴み、持ち上げたからだ。

 そして、掴んでいない方の拳に黒いエネルギーを溜めていく。

 

『ちょっと征兎、何する気!?』

 

 さすがにおかしいと思ったのか、管制室のマイクを使い、鈴音や他のみんなが呼びかける……が、あまり効果はない。そもそも征兎には聞こえていない。

 そしてついに、和海に止めを刺すかのように腕が動いた。

 

『征兎! ダメー!!』

 

 そんな叫び声を無視し、征兎の拳が和海に向け放たれる。

 和海も目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人を除き、全員が思わず目を逸らしてしまうが、直後に聞こえてきたのは金属同士がぶつかるような音だった。

 

 

 

「ゲホゲホ……ゴホッ」

 

 

 そこにあった光景は、和海に放たれた拳を受け止めたクローズチャージに変身した龍華とその際に、後ろに放り投げられたであろう咳き込む和海であった。

 

「もっとやさしくしろよ……」

「うるさい! こっちもギリギリだったの!」

 

 自分がやられ、こうなることを見越して龍華に頼んでおいた和海だったが、さすがにこの扱いには文句を言いたくなった。

 このときになってようやく管制室の専用機持ちたちは、征兎が関わっているのに龍華がいなかった理由を知った。

 

 そんな空気関係なしに征兎は再度、拳を振るうがそれも龍華は受け止める。

 

「……征兎、ずいぶん調子良さそうじゃん!」

「龍華、後は任せる」

「わかった……!」

「けど、無理はすんな。もしものときは……」

 

 和海は、征兎に渡された例のトリガーごと自分を破壊するというスイッチを取り出す。

 

「ダメ……そんなの使わせない! 私がやる! 征兎を止める!」

 

 気合いを入れたような声を上げ、掴んでいた征兎の腕を払い、自分の腕を振るい攻撃を浴びせ始める。

 それを起点に連続で拳を叩き込む。

 

「目を覚ましなさいよ! バカ征兎!」

 

 しかし征兎もすぐさま反撃。

 痛みを感じてないかのように拳を受け、すぐさま殴り返す。

 そのまま追撃し、倒れた龍華に脚を振り下ろし続ける。

 その脚が掴まれたと思えばすぐに引き、首を掴み無理矢理起き上がらせると、そのボディーに攻撃を入れていく。

 

 龍華もやられたらやり返すかのようにすぐさま反撃に転じる。

 殴り殴られの攻防がそこから続いていく。

 

(私が……私が助ける! そう……今、征兎を救えるのは……!)

 

 ツインブレイカーをアタックモードにして、構える。

 

「――私だけなんだぁぁぁぁぁぁ!」

『クローズドラゴン!』

 

 クローズドラゴンを装填し、さらにドライバーのレンチを下げる。

 

『スクラップブレイク!』

「はあああああ!」

『レッツブレイク!』

 

 腕を振るい、クローズドラゴン・ブレイズ型のエネルギー波が征兎へ放たれ、直撃。

 それは征兎に確かなダメージを与えていた。

 

「いい加減、目を覚ませ!」

 

 その攻撃が終わったと同時に、龍華の目の前に移動した征兎が拳を振るう。

 しかし龍華もカウンターパンチを放つ。

 

「バカ征兎!」

 

 

 

 

 互いの拳が互いにヒットする。

 

 

 

 

 そしてついに力尽きたのか、ついに征兎の変身が解除され仰向けに倒れる。

 龍華の変身も解除され、その場に膝を着いた。

 

 

 

 

 

「【青春だねぇ】」

 

 そう言い残し、招かれざる観戦者は煙に包まれ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 征兎side

 

「……う……ここは……?」

「もう終わったよ……かずみんには勝ってたよ、良かったね」

 

 目を覚まし、現状を把握しようとして出した声に反応があった。

 そっちに顔だけ向けると、ここに来たときにはいなかったはずの万丈がいた。

 けど、なんとなくこの動かない体と向こうで転がっている和海、膝を着いた万丈を見てなんとなく把握した。

 

「お前が止めてくれたのか?」

「まさか……そんなわけないでしょ」

 

 どこか明るい声でそう言われてしまう。

 そして、こっちに他の専用機持ちたち駆け寄って来てくれているのが見えた。

 俺と目が合い、口元が笑っている和海。すぐそこで疲れたような笑いをこぼす万丈。

 

 

 

 

 なぜだかわからないけど、涙がこぼれて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、雰囲気ぶち壊しのごとく、俺と和海が千冬さんに長い長い説教を受けたのは言うまでもない。

 他のみんなにも心配させやがってチックなことを言われたが、そんなものの比ではなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 



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75話

 征兎side

 

 なんやかんやで色々とあり、もういざとなったら和海と万丈に丸投げでいいやとか思った出来事から少しした頃。

 

 今日は集会があるということで、メンドイながらも体育館へと足を運んできた。

 隣では一夏がため息ついてるし……。実習で鈴に負け、なんか知らないけど次の授業に遅刻してきてシャルロットの銃撃の的になってたり(千冬さんの許可のもと)してたからかな?

 しかも遅刻してきたときに、知らない女の人にうんたらかんたらと言っていたから余計に面倒なことに……。まあどうでもいいけど。

 

 そんなこんなで集会が始まり、痴女会長が壇上に上がったところで、一夏がなんか変なものでも見たかのような顔をしている。

 

「どうした?」

「あの人だよ、あの人!」

「はあ?」

「さっき俺が会った人!」

 

 へえ、そうなんだ~。

 割とどうでもいいことだったので、華麗に聞き流す。

 

『やぁみんな、こんにちは。今年は色々とあってちゃんとした挨拶がまだだったわね』

 

 そして、痴女会長の話が始まる。

 

『私の名前は更識 楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしくね』

 

 うん、知ってる。

 直後、こっちを見て笑った? が、それが俺に向けてなのか、一夏に向けてなのか……正直知りたくない。

 

『さてさて、今月の一大イベントである学園祭の開催が迫ってきているわけだけど、それぞれの催し物をみんなで頑張って決めるように!』

 

 意外と普通の話だ……。ただの変態痴女会長じゃなかったんだな。

 けどな~、メンドイんだよな~、準備とかさ。

 

『――と言ったところでいつも通りじゃやる気も出ないし、面倒くさいって思う人もいるでしょう?』

 

 心を読まれた!?

 しかも一瞬こっちを見てから言ったのは気のせい?

 

『そこで、みんなの奮起を促すために今回限りの特別ルールを導入するわ』

 

 え……なにそれ?

 確かここの学園祭では、各部活動やクラス単位で出し物をして、最後にそれに対する投票をする。そして優勝すれば、予算アップやらなんやらといった感じだったはず。

 

 ――といったところを今、痴女会長が説明中。

 

『今回、見事に優勝したクラス、部活には――』

 

 なにを言い出す気だ……?

 

『――男子生徒3名の1ヶ月貸し出しを認めましょう!』

 

 はああああああああああああああ!?

 

 アホ痴女会長のトンでも宣言に会場からは狂喜乱舞のような声があちらこちらから聞こえる。

 

「一夏、これはどういうことだ!!」

「おおお俺に言うなよ! 俺だって今、初めて聞いたんだ!」

 

 そしてそこでは、一夏が箒に問い詰められ、言い訳中。

 

「テメェ、一夏! 今度は何やった!? 何をやらかしたらこうなるんだよ!」

「征兎まで!? 俺、何もやってねぇって!」

「ちょっと征兎、どういうこと!? 何なのこれ!」

「ば、万丈!?」

「またあの変態に誘惑されたんでしょ! そうなんでしょ!」

「いや、俺は何もしていない! 全部、一夏が悪いんだ!」

「おい!?」

『こらこら、みんな静かに』

 

 いや、あんたの発言のせいだからね!?

 

『ちなみに貸し出しっていうのは文字通りよ』

 

 説明によると――優勝したのがどこかのクラスなら1ヶ月の間、男子生徒3人と同じクラスになれる。部活なら、1ヶ月そこの部員。

 

 最っ悪だ……。

 というか良いのか生徒会長、こんなことして……!

 壇上に目を向けると、こっちにウインクなんぞしてきやがった。

 

『ああ、もちろん生徒会も参加するからね』

 

 いや、知らんし。

 

『生徒会からの話は以上よ。みんな一丸となって学園祭を盛り上げて、成功させましょう!』

 

 ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「一丸となってる場合じゃないわ!」

 

 ……へ?

 

「何としてでも、うちのクラスで優勝をかっさらうわよ!」

 

 誰とも知らないそんな声におー! という声。

 ……ちょっと!?

 

「優勝はうちの部でもらうわよ! 放課後から作戦会議よ! 全部員に召集を!」

「言われなくても集まるわよ!」

「で、でも大会に向けての練習が……」

「大会なんてどうでもいいの! 栄光よりも男子のいる1ヶ月よ!」

 

 いや、ダメだろ……。

 そこは栄光を取れよ……。

 

「最大の敵は生徒会か。何か対策を練らないと」

「燃えてきたー!」

 

 俺は気持ちが萎えてきたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうして、クラスの出し物を決めるために教室に戻り、話し合う。

 前には、クラス代表である一夏が出て、進めていったのだが……まあ出てきた案が中々ヒドイ。

 

 男子生徒のホストクラブ、男子生徒とツイスター、男子生徒とチョコスティック遊び、男子生徒と王様ゲームetc……。

 

 うん、結構ヒドイね!

 ホストクラブとか絶対無理なんスけど。

 

 後は、桐生征兎の発明品展示会、桐生征兎と楽しく科学、桐生征兎の物理学講座。

 

 うん、これはいいね、完璧!

 どれでもバッチコーイ!

 

「とりあえず、男子生徒関連のものは全部却下」

 

 一夏がそう言うと、女子たちから当然のごとくブーイングが飛ぶ。

 

「誰が喜ぶんだよ、こんなもん」

 

 一夏のこの言葉に女子たちからは、私は嬉しいだのそうすれば優勝間違いなしだの色々言われる始末。

 

「男子生徒の所有権はこの1組にあるのよ! これを最大限に活用しなくてどうするの!」

 

 いや、所有権て……。

 

「そもそも学園祭でこんな企画許されるわけないだろ!」

 

 ねぇ山田先生? と話し合いを見守っていた山田先生に助けを求めた一夏。

 

「えーと……わ、私はチョコスティックなんかいいと思いますよ?」

 

 もうダメかもしれない……。

 

「いや……」

 

 待てよ? よくよく考えれば有りかもしれないな、チョコスティック。

 要は、合法的に女の子とチューができるわけだ。

 チョコスティックという短い距離が故に顔を赤らめる女子。

 互いの息遣いを感じながら、近付いていく唇。

 耐えきれず目を瞑る女子。恥ずかしそうな顔をしながらをこっちを見つめたまま必死に食べ進めていく女子。

 

 有りだな!

 

「ぐぼはぁ!?」

 

 チョコスティックを行ったときの脳内シミュレーションを行ってたところ、後頭部と脇腹に強い衝撃がきた。

 消しゴムが落ちていたからこれが飛んできたんだろうけど、消しゴムとは思えない衝撃だった。こんなことができるのは万丈しかいない。件の人物へ顔を向けると、ふん! と顔をそらされた。

 何なんだ、いったい?

 そして、もう一つの衝撃の原因――和海に追及。

 

「何しやがる……!」

「いやお前、かなり気持ち悪い顔してたぞ……。思わず殴っちまった」

 

 失敬な!

 

「喫茶店はいいんじゃないかな? 一夏たちには、執事か厨房を担当してもらえればいいし」

 

 ん? なんかいつのまにか話が進んでる。

 

 え? これこのまま決定?

 

「でも、メイドに執事じゃありがちじゃない? インパクトに欠けるというか……」

「ベタだけど、有りといえば有りだろ。とりあえず意見としては採用な。他に何かあるか?」

「インパクトならやっぱり王様ゲームが一番だと思うけどな~」

「却下だ!」

 

 ここだ!

 

「なら俺はチョコスティックを――」

「黙ってろ」

「――ハイ」

 

 チョコスティックを支持しようとしたら、隣の席のヤンキーから恐ろしいトーンで声が飛んできた。

 

 シクシク……俺のチョコスティック~。

 女の子との甘いひと時が~。

 

「どんだけだよ……キショイわ」

 

 和海の言葉が次々と俺に刺さってくる。

 ちくしょ~……。

 

「じゃあ、1組の出し物はご奉仕喫茶で決定ね!」

 

 そんな声とともに、拍手が起こる。

 

 終わった……何もかも。

 

「アホか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ? 俺が最初に出した意見は?」

「ああ、あの発明品展示会とかのやつか?」

「そうそれだよ、それ! なんでスルーしてんだよ!」

「却下に決まってんだろ」

 

 なんで!?

 

「お前は、来年以降の学園祭を中止させるつもりか?」

「どういう意味だよ!」

 

 確かに取り扱い注意のものはあるかもだけど、俺の発明品はそこまで危険じゃないよ!

 

 

 

 ホントだよ!!

 

 

 

 

 

 



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76話

 和海side

 

 学園祭の準備も進み、開催日も迫ってきた今日この頃。

 

 今日を迎えるまでにも色々とあった……。

 中でも一番は、会長(征兎は相変わらず痴女会長と呼んでいる)が一夏と同室になったとかいうことだろう。ここで箒たち――一夏が好きな面々とひと悶着。ちなみに、一夏も水着エプロン? というのをやられたらしい。会長が痴女というのも征兎にしちゃ間違っちゃいないのかもしれない。

 そしてそれに伴い、ISの操縦も指導するとかで、箒たちと大揉め。めんどくさいこととなった。

 あまりに殺伐としているから、もう勝手にしろという感じで放置している。

 しかしまぁ、それなりにちゃんと指導されているのか、食堂で眠りこけているのをたまに見かける。相部屋の件含め、ご愁傷様といったところか。

 

 

 そして今日も授業が終わり、学園祭の準備へと入るわけだが……。

 

「…………」

 

 征兎のやつが自分の席で腕を組んだまま動こうとしない。

 ちなみに、征兎と龍華は早々に料理班から戦力外通告を受けた。龍華は、なぜか料理や菓子にプロテインやサプリメントを入れるし、征兎にいたっては謎の調味料(本人曰く、自分で配合したどんなものにも合う科学調味料)を入れようとする始末。その為、速攻で飾り付けに回されることとなった。

 

 それはさておき、本来ならこのアホに声をかけて準備をしなきゃいけないのだが、如何せん躊躇ってしまう。

 付き合いが長いからか、なんとなくだが必要なことを考えているときと、どうでもいいことを考えているときがわかるようになってきてしまった。

 そして、今回は絶対にどうでもいいことを考えている。断言できる。

 

「征兎、どうしたんだ? みんな、もう準備始めてるぞ」

 

 どうしたものかと思っていると、一夏が征兎に声をかけてしまった。

 ほっときゃいいのによ……。

 

「一夏……俺は考えていたんだ」

「何を?」

「このままでいいのかってな」

「え?」

 

 重々しく語りだしたアホは目を見開き、続ける。

 

「俺の夏休みは課題と訓練で死んだ。しかも、万丈の分の課題とアイツがやらかした追加の課題もプラスしてやる羽目になった」

 

 それはお前が、千冬さんの圧に簡単に屈したからだ。

 

「しかもそれ以外の日も、夏休み終わりギリギリまでやることになった訓練の準備と新学期への準備に追われ、1日2日買い物へ出かけてもそれの買い出し。しかも、出かけた先では変なのに絡まれる始末」

 

 そんなこともあったかもしれないが、お前はほぼ何もしてないだろ。

 

「そうして夏休みを犠牲にしたにもかかわらず、新学期早々、和海と万丈にボコボコにされた」

 

 アレをどう見たらそうなるんだ?

 それにどっちかというと、俺のほうがボコボコにされてたと思うんだが。……まぁ意識がないお前にだが。

 

「そして俺は思った……このままでいいのかと!!」

 

 バン! と机に思いっきり手を叩き付けた。

 うるせぇ……。周りにいたヤツらビックリしてんぞ。

 そして、何気に小声で痛ぇ……って言ってんの聞こえてるからな。

 

「そこで俺は考えた! 夏休みを取り戻すにはどうすればいいのかを!」

「どう考えても無理だ、諦めろ。さっさと準備手伝え」

 

 ようやく、俺はこのアホに声をかけた。

 だが、そんなこと気にもしてなかったのか、まあ聞けって、と制してくる。なんかムカつくな。

 

「そう! それは彼女をつくることだ!」

 

 ほぼ女子しかいない学園でそんなことを言いだすアホ。

 周りの女子は、えぇ……といった感じ。龍華だけはビックリしたっぽい反応をしていたが。

 

「というわけで、今からモール行ってくる!」

「ちょっと待てコラ」

 

 わけのわからないことを言いだした挙句、脱走をしようとしたアホを制止させる。

 

「なんで止めるんだよ、和海!」

「今の話からなんでモールに行くことになる? ただ遊びに行きたいだけだろ」

 

 そう言うと、征兎は肩を竦め、わざとらしくため息一つ。

 コイツ……殴ってやろうか……!

 

「バカだなぁ和海くん。いいかい? この時間は放課後だ……つまり」

「つまり?」

「モールに行けば、学校帰りに遊びに来ている女子たちがいるわけだ! そこをナンパして彼女をゲットする!」

 

 もう開いた口が塞がらなくなりそうだった……。

 コイツはなにを根拠にそれが成功すると思っているのか……。

 だから、自称天才物理学者なんだよ。

 そんなことを知ったことではないであろう征兎は、行動を開始しようとする。

 

「俺の完璧な作戦に言葉が出ないようだな!」

 

 後半関してはその通りだが、前半については否定させてもらう。

 

「はっはっは! 彼女を見事ゲットして、お前たちに自慢してやる! 楽しみに待っていろ!」

 

 そう言い、もう止める気力もない俺たちに背を向け、駆け出そうとした征兎。

 

 

 直後、その後頭部に高速で飛来した何かが直撃した。

 グヘ!? という声を上げ、床に倒れ伏した。

 

「ごめーん、手がすべったー」

 

 当然のこと犯人は龍華だった。

 直撃した物体はフライパンだった。どうりでいい音がするはずだ。

 

「おい、生きてるか」

「脳が……揺れ……揺れ……」

 

 とりあえず、生きているから大丈夫だろ。

 準備の邪魔になりそうだったアホは教室の隅に蹴りとばして、みんなと準備を再開させた。

 

 

 帰るときは面倒だったが、運ぶのもダルいため叩き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅし、完了だ」 

 

 学園にある整備室の一つ。

 そこにいる創一の前には、室内に所狭しと並べられたガーディアン。

 

「中々壮観だ」

 

 そう言いつつディスプレイを一つ開くが、それを見る顔は言葉と違い晴れない。

 

「遺伝子Ⅹを持つ突然変異生命体ねぇ……」

 

 見ているのは、織斑の両親が研究していたであろう万丈龍華のデータの一部。

 そこに記されているものを見て、どうしたものかと思ってしまう。

 遺伝子Ⅹ……どう見ても自分と同じ遺伝子だからだ。

 

「コイツの遺伝子、回収するか否か……。正直、しなくても問題ないといえばないが」

 

 後の障害はなるべく排除したい、その思いは当然ある。

 

「ったく、アイツ(神様)もこういう存在にしたならそうと言ってくれればな……」

 

 どうして万丈龍華が自分と同じ遺伝子を持っているのか、理由が必要となる気がする。そんな直感があった。

 しかし、そこはあの自分をサポートすると言った女社長に丸投げすることに決めた。

 

「差し当たっては、学園祭……!」

 

 周りにいくつかのディスプレイを展開する。

 そのどれもにIS――それもそれぞれの専用機のデータが記されている。……一部を除いて。

 

「【まずは、白式のデータ……しっかりいただこうか!】」

 

 

 興奮のあまり元の声を発し、瞳を赤く光らせながら。

 エンプティボトルをかざした創一はそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 久々の更新なのに……駄文&蛇足になってしまいました。
 申し訳ないです。


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