僕と優子と鬼ごっこ (鱸のポワレ)
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第1話 僕と雄二と最後の日常

「竹原やってくれたね」

「あはははは、これで貴方は終わりですね」

「クソが」

「まあ、後は私に任せてゆっくり老後の生活を楽しんでください」

「あたしゃまだ、老いぼれちゃいないよ」

「いいえ。貴方はもう終わりましたよ。お前ら連れて行け」

「「ハイ」」

 

竹原の命令によって文月学園校長、藤堂カオルは連れていかれた。

 

 

ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

 

「遅刻だー!」

 

学校の鐘の音が聞こえてくる。でも、あと少しで校門だ。1歩2歩と踏み出して行くほど、走るペースが遅くなっている気がする。

うん。疲れた。

 

「はぁはぁ。づいだぁーって、あれ?」

 

遅刻だ吉井、と言って殴ってくる虐待教師が今日はいない?何かあったんだろうか。

ゴリラとレスリング中?いや、鉄人がゴリラ?それとも、レスリングが鉄人?

よく分からなくなってきたぞ。

 

「まあいいや。それより行かなくちゃ」

 

せっかく助かったのにバレたら困るしね。

それに、3年生に勝った今日からは、Aクラスの教室だ。早く行こう。最高の設備が待っている。

僕は重たい足を動かし、再び走り出した。

 

 

「あれ?まだEクラスの設備なんだ」

「遅刻だぞバカ野郎」

 

教室の中で悪友、坂本雄二が座っていた。

 

「雄二の方がバカじゃないか」

「ハッ!どう考えてもお前の方がバカだ」

「なんだと」

「やんのか」

「「痛ってえ!?」」

 

一瞬の内に頭に激痛が走る。横には鉄人が立っていた。なんていうか、暑苦しいな……。

 

「痛えな!虐待教師!」

「そうだそうだ」

「「やるなら雄二(明久)だけにしろ!」」

「「なんだと!!」」

「いいから座れ」

「「痛ってえ!?」」

 

本日2度目の拳を受ける。

くそっ!このバカのせいで。

鉄人が教卓の上に立ち話を始める。

 

「登校してきて早々にすまないが、臨時集会が開かれる。体育館に移動してくれ」

「なんかあったんですか、鉄人」

「西村先生と呼ばんか坂本!」

「教えてください、西村鉄人」

「吉井、お前はバカだからしょうがないな……」

「なんで僕には同情なんですか!!」

 

本当に朝から運が悪い。まあ、遅刻したのは僕が悪いけどね。

 

「悪いが俺も、何のための集会なのかはわからんがおそらく設備の件だろう」

 

僕ら2年生が召喚戦争で3年生に勝ってから、もう1週間が過ぎていた。いつになったら設備が変わるんだ、と雄二と抗議をしにババアの所へ行ったこともあったが、やっと変えてくれるのだろう。

 

「何はともあれ行ってみればわかる筈だ。早く体育館に行け」

「はーい」

 

僕らは立ち上がり体育館に向かった。




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第2話 僕と終わりと始まりと

僕らFクラスの面々が体育館に移動すると、すでに全校生徒が集まっていた。

 

「なんだろう?設備の話じゃないのかな」

「またババアが変なことするんじゃないか」

「前みたいなのは懲り懲りなのじゃ」

「…………(コク)」

 

僕の疑問に雄二、秀吉、ムッツリーニとお馴染みのメンバーが答えていった。

 

「えー、どうも教頭の竹原です。」

「お!始まったぞ」

「ババア長じゃないんだね」

「隠居したんじゃないか?」

 

フッ、と嬉しそうに雄二が笑う。

雄二ってそんなに学園長のこと嫌いなのか。

まあ、僕も人並みに嫌いだけど。

 

「今日集まって頂いたのは、重大な発表があるからです」

 

竹原の言葉に生徒たちが、ただ事ではないと感じたのか雰囲気が一変する。

 

「いくつかあるのですが1つ目は、藤堂カオル校長についてです」

「ん?ババアがどうかしたのか」

「さあ?」

 

僕らの会話が聞こえていたらしく、竹原が眉をひそめた。

 

「ごほん!藤堂カオル校長は辞任なさいました。ということで本日から私が校長となります」

「なんだと!?ババアはババアで最悪だったがお前よりはマシだぜ!」

 

雄二が辞任を反対するなんて意外だな……。

 

「落ち着きなさい。まだ話は終わっていない」

「なんだと!?」

「先日行われた2年生と3年生の召喚戦争だが、あれを無効とする。よって設備の交換は行わない」

「ふざけんな!!おいムッツリーニ、釘バットとスコップ持ってこい」

「…………心得た」

「ちょっと2人とも!?」

 

だめだ雄二とムッツリーニは完全に怒っている。

しかし、全体を見渡すと雄二だけでなく2年生全員から不満の声が漏れていた。

 

「……本当にうるさいな君達は。あと2つ発表がある。設備を取り返すチャンスはあるから黙りなさい」

「それはなんですかな?」

 

以外にも最初に食いついたのは鉄人だった。

 

「よくぞ聞いてくれました。まず1つは召喚獣の廃止です。もう誰も召喚獣は使えなくなっています」

 

なんだって!?じゃあ僕は物理干渉を一生味合わなくていいのか。

 

「最後に、あるスポンサーから話を頂きまして、この学校でリアル鬼ごっこを開始したいと思います」

「リアル鬼ごっこ……?」

 

リアル鬼ごっこというのは、あのリアル鬼ごっこだろうか。

捕まったら死ぬというあの…。

 

「ええ、ルールを今から配りますので参考に」

 

紙が前から配られてくる。簡潔にいくつかのルールが書かれていた。

 

リアル鬼ごっこルール

1、捕まったものは殺される

2、召喚獣の使用は一切不可能である

3、鬼が装着している特別な手袋によって触られたものは気絶する

4、鬼ごっこは毎日、朝の8時から20時までの間にランダムに3回行われる。

5、1回につき1時間が逃走時間である

6、食料や着替えなどは学校に備えられているため、リアル鬼ごっこ中は学校外には出る必要はないし出られない

7、期限は1週間とする

8、放送で流れるサイレンが鬼ごっこ開始の合図となる

9、教師は管理係とするため手助けを一切禁止とする

10、鬼の数は1日目が3人、そこから1日1人ずつ増えていくものとする

10、1週間後、逃げ切ったものが多いクラスから順に上位クラスの設備を与える。

 

こんなの無茶苦茶だ……。

 

「では、検討を祈ります」

「ふざけんなよ!!!」

「そうだそうだ。こんなのが許されるとでも思ってんのか」

「ええ、許されますよ。スポンサーはそれほどの権限を持っておられる」

 

そう言って竹原は消えて行った。

 

「どうすればいいんだ……」

「そんなの決まってんだろ。1週間逃げ切ってあいつをぶっ飛ばすんだよ」

「ワシらの力を合わせればできるのじゃ」

「…………鬼なんか怖くない」

「みんな!」

 

なんて頼もしいのだろうか。そうだ、みんなが力を合わせれば勝てるはずだ。

 

「1度教室に戻って作戦を立てるぞ!」

 

僕らは教室に向かって歩き出した。




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第3話 僕とFクラスと作戦会議

あれから数分後、僕たちはEクラスの教室で作戦会議を始めた。

 

「ここは代表の俺が仕切らせてもらう。異論はないな?」

「「「ああ」」」

 

Fクラスの面々が揃って賛同した。

やっぱりこういう時の雄二は頼りになる。

 

「まずはみんなの意見を聞きたい。何か作戦を思いついたら言ってくれ」

「じゃあいいか?」

 

手を挙げて立ち上がったのは須川君だ。

まさか、どうせ死ぬなら女子を襲おうとか言わないよね?

喜んで参加させていただきます。

 

「このクラスのドアを塞いで入れなくするのはどうだ?校内を逃げ回るよりは安全だと思うのだが」

 

須川君がまともなこと言ってるだと!?

まるで、変なこと考えてた僕がバカみたいじゃないか。まあ、バカなんだけどね……。

 

「いや、それはリスクが高い。教室の中に鬼が入って来ちまったら全員アウトだ。それに、ドアを塞いだって向こうは対策を考えてるはずだ」

「そうか……」

 

ものの数秒で論破されてしまった。なんか須川君が可愛そうだ……。

 

「そこでだ。俺が考えた作戦を聞いてほしい」

 

雄二のやつ、もともと自分の意見を言うつもりだったな。そのために須川君をだしにしたのか。

 

「まず、先程も話したように逃げ場がない場所に隠れるのは危険だ。基本は走って逃げる事を心がけろ。それと、なるべく1人ではなく5、6人で行動するようにしろ」

「なんで複数人で行動するんだ?鬼に場所がバレやすくなるだけじゃないか」

 

須川君。さっきの仕返しとばかりに論破しようとしてるね……。

 

「確かに見つかりやすいが最悪、武力行使ができるだろ?鬼に触らなければいいんだよ。みんなでやれば怖くないだろ?」

 

ニッ、と嫌な笑みを浮かべる。

 

「つまり、助け合いができるってわけだ」

「なるほど」

「それに女子と組んで危ない所を助けたら、一発でそいつに惚れる」

「「「なるほど!!!」」」

 

おお!なんてわかりやすいんだバカどもは。ちなみに僕もなるほどって言ったのは秘密です。

 

「じゃあチームを決める。みんなクジを引いてくれ」

「やってやる!」

「俺が姫路や木下と!」

「いいや俺だ!」

 

クラスの面々が盛り上がる。命がかかっていることを本当わかってるのか。

 

「私は3番でした。美波ちゃんは何番ですか?」

「私も3番よ」

「ワシも3番じゃ」

 

女子たちの会話が聞こえてくる。3番か、3番な、three!

 

「よっしゃあああ!3番こい!」

「「「うおおぉぉぉ!」」」

 

クラスの面々がさらなる盛り上がりを見せる。ちなみに僕もうおおぉぉぉ!って言ったのは秘密です。

 

「おい明久、お前も引けよ」

「うん。OK」

「まさか、明久君は三番引かないよね〜」

「引いたら殺しちゃうよ〜」

「コロス、吉井、コロス」

 

あれ?おかしいな。クラスメイトとの楽しい青春が出来そうもないや。

 

「いいから早く引け」

「うん」

 

あれ?クジが1枚しかない。

それを引くと3番と書いてあった。3番と書いて楽園と読む。

 

「吉井くーん。3番じゃないよね〜」

「コロス、コロス、コロス」

 

やだこの子達目から赤い涙が出てる。

 

「まあ待て、俺も3番だった」

「お前もか坂本〜」

「コロス、コロス」

「だから、こいつをすぐに鬼に差し出すと約束しよう」

 

ガシッ。雄二と須川君たちが強い握手を結ぶ。

あれ?僕も赤い涙が出て来たぞ?

 

「で?他に三番のやつはいるか?」

「…………三番」

「いつものメンバーだね」

「そのようじゃな」

 

一緒に行動するのは、僕、雄二、ムッツリーニ、秀吉、美波、姫路さんの6人となった。

 

「いや〜、女子3人と同じグループでよかったよ」

「いや、ワシは男じゃ」

「またまた〜」

「本当じゃ!!」

 

「うぃーん」

 

こんな日常が続けばいいのにと思った瞬間、まるで世界の終わりを知らせるかのようにサイレンが鳴り出した。

 

「鬼ごっこが始まったな」

「うん」

 

ついに始まってしまったんだ。リアル鬼ごっこが……。




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第4話 僕らと鼻血と最初の遭遇

やっと優子の登場です。


ついに、リアル鬼ごっこが始まってしまった……。

みんなの顔がこわばる中、1人が落ち着いて声をだした。

雄二だ。

 

「よし。行くぞお前ら!」

「「「了解」」」

 

雄二の作戦通り、Eクラスの教室から出て廊下を六人で歩く。

 

「そういえばさ、いつものメンバーになるなんて僕ら運がいいよね」

「は?何言ってんだお前」

「何言ってんだって日本語だよ。雄二、日本語わからなくなっちゃったの?」

「そういう意味じゃねえよ!!」

「じゃあどういう意味?」

「本当にたまたまだと思ってたのかって意味だ」

「え?違うの」

 

ん?でも確かにクジを引こうとしたとき、1つしかクジがなかったような……。

 

「そうか!雄二が仕込んだのか」

「そういうことだ」

「でもなんでこのメンバーにしたの」

 

いつものメンバーでもいいけどこれは命懸けだ。仲良しこよしでやってられ無いだろうし。

 

「ムッツリーニは言うまでもないだろ」

「うん。ムッツリーニは絶対頼りになりよね」

 

ムッツリーニは、情報収集から盗撮までお手の物だ。

あれ?鬼ごっこ関係なくない?

 

「女子勢は他のグループだと何されるかわからないからな」

 

確かにバカどもと一緒は危なそうだ。

 

「ふむ、なるほど。じゃあ僕は?」

「お前はもちろん囮だ」

「何言ってるんだい?それは雄二の役目だろ」

「なんだと」

「やるか?」

 

ガスガス(すねを蹴り合う音)

 

「「痛ってえ!!」」

「はあ〜、バカねあんた達」

 

美波に呆れられてしまう。まるで僕がバカみたいだ。まあバカなんだけど。あれ?これ前も心の中で同じツッコミをした気が……。

 

「まあ、命が懸かってるからな一旦やめにするか……って翔子!?なぜ俺の目を狙ってる!!」

「……浮気の気配を感じだ」

「なんもしてねえよ!」

 

どこから出て来たのか、霧島さんがいつのまにか雄二の正面に立っていた。

こんな可愛い子に好かれているなんて妬ましい。あとで鬼に差し入れとして、あいつを渡しとこう。

 

「あの、翔子ちゃんは1人で来たんですか?」

 

姫路さんが質問をしていた。まあ、当然の質問だろう。

女の子が一人なんてあぶないしね。

 

「……優子と愛子もいたはず」

 

噂をすればというやつだろうか、工藤さんと木下さんが走って来た。

 

「もう代表、勝手に行動しないでよ」

「……ごめん」

 

流石に木下さんも怒っているようだ。

 

「ていうかお前ら3人で行動してるのか?」

「……Aクラスはみんなバラバラ」

「危ねえだろ。一緒に行動してやるよ」

「……優しい」

「べ、別に当然だろ」

「……雄二照れてる」

「バッ!?照れてねえよ」

「いや、照れてるわね」

「照れてますね」

「照れてるのじゃ」

「…………照れてる」

「お前らまで……」

 

逆に照れてないとでも思ってるのかな?

そうこうしているうちに、もう五分が経っていることに気づく

 

「雄二、これからどうするの?」

「とりあえずここら辺で待機だな」

「え?『よし。行くぞお前ら!』とか言ってたくせに?」

「うるせえ」

 

本当に今日の雄二はいじりやすいな……。

 

「ムッツリーニ君〜。ボクがピンチになったら助けてくれるよね?」

 

ん?何やら、いやらしい話をしているぞ。

いや待てよ。工藤さんだからって、いやらしいと決めつけるのは、流石に早とちりか。

 

「…………たぶん」

「お礼の前借りしとく?(チラ)」

「…………(ブシャァァアア)」

「ムッツリーニ!?」

 

早とちりじゃありませんでしたー。

ムッツリーニの鼻血が池のように広がって行く。

気がつくと横にいた木下さんが震えていた。

 

「どうしたの木下さん?」

「あれ、鬼じゃない?」

「なんだって!」

 

木下さんの声にみんなも反応する。本当に鬼がいる。でも、鬼は遠くにいる為逃げられそうだ。

ムッツリーニと工藤さんを除いて。

 

「ムッツリーニ君本当に大丈夫?」

「…………一生に悔いなし(ガク)」

「ちょっと!?早く逃げないと」

 

鬼が走ってこちらに向かってくる。このままじゃムッツリーニと工藤さんがやばい。

 

「ムッツリーニ早く走って」

 

僕の声が届いたのか、フラフラとムッツリーニが走り出す。

でも、鬼の方が全然早く走って来ている。やばい!追いつかれる。

 

「おい明久!あの鬼やっちまうぞ」

「わかった」

 

僕らが行こうとした瞬間、鬼は叫んだ。

 

「なんだこれ!?」

 

(ツルッ)

 

ムッツリーニの鼻血に滑り鬼がこけてしまった。

鬼は、こけた時に怪我をしてしまったようで追いかけて来なくなり、僕らは逃げ切れた。

なんか、緊張感ないな……。

 

「うぃーん」

 

サイレンが最初の1時間の終わりを知らせてくれた。

これはこれで結果オーライなんだろうか。

 




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第5話 僕と告白とグループ分け

最初の鬼ごっこが終わり5分後、僕たちはAクラスの教室で話し合いを始めた。

 

「とりあえず休憩だ。少しの間とはいえ、命の危険と隣り合わせで動いてたんだ、お前らも疲れただろ?」

「そうですね」

 

姫路さんが一息つきながら返事をした。

実際、みんなの顔から疲労が見られる。1週間で1日3回鬼ごっこがあるから……

 

「7×3で、ええと、24回かな?」

「21よ吉井君」

「あっ、そっか」

「まったく、どうやって高校入れたのよ」

 

さすが木下さんだ。Aクラスなだけあって頭がいい。

決して僕がバカなわけじゃないからね?Fクラスのみんなも出来ないはずだし……。

 

「で、吉井君は何を数えてたの?」

「鬼ごっこの回数だよ」

「あと20回もあるなんてすごく不安よね……」

「大丈夫。僕がついてるよ」

「吉井君!?」

 

あれ?木下さんの顔が真っ赤になってる。怒らせちゃったのかな。

 

「こんな時に愛の告白かアホ久」

「そんなの不潔です。せめて私にしてください」

「そうよそうよ。なんでウチに言わないのよ」

 

なぜか姫路さんと美波も怒ってる!?

僕はそんな変なこと言ったつもりないんだけどな……。

 

「た、頼りにしてるわよ吉井君」

「まんざらでもないようじゃない姉上」

「ヒューヒュー熱いね〜優子」

「う、うるさいわね」

「…………うらやましい」

「まあ須藤たちには後で報告するとして、そろそろ真面目に話していいか?」

 

雄二のやつ、さらっと危ないことを言いやがって。どうやって鬼にコイツを受け渡してやろうか。

雄二に反論をしようとすると、急に真面目な顔になる。

これでは僕がふざけてるみたいになってしまうじゃないか!

 

「Aクラスの3人と合流したのはいいが、9人だと多すぎる」

「ごめんなさいね。私たちやっぱり一緒じゃない方がいいかしら?」

「おい雄二、木下さんたちを見捨てるのか?」

「のろけてないで最後まで話を聞けって」

やれやれといった感じで雄二はため息をつき、話を続ける。

「さっきも言ったが九人だと多すぎる。だから4人と5人に分けようと思う」

「9人でもいいような気もするがのう」

「いや、これだけいるとさすがに鬼に見つかりやすくなっちまう。かといって2人とかだと女子陣を守れないし武力行使もできねえ。結局半分に分けるのが一番ってことだ」

「……雄二は私が守る」

「いや逆だろ!?」

「……?」

「お、俺がお前を守ってやるよ」

「……(ポッ)」

 

会場は満場一致で「何を見せられてるんだろう」です。

 

「ご、ごほん。とにかくいい塩梅になるように考えたから聞いてくれ」

「…………グループ分けは大事」

「1つ目のグループが俺、翔子、ムッツリーニ、工藤、そして2つ目のグループが明久、秀吉、姫路、島田、木下姉だ」

「うむ、確かにいい分け方じゃ」

「そうだねー」

「じゃあこれでいいな?」

「「はーい」」

「教室に溜まってて鬼ごっこが再開したら終わりだからな。早速2つのグループに分かれて解散だ」

「「了解」」

 

僕たちの休憩が終わり、再び命がけの戦いが始まるのだった。

 




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第6話 俺と翔子と大丈夫

「うぃーん」

 

今日2回目のサイレンが鳴った。

この鬼ごっこでは誰1人死なせはしない。絶対に。

俺、坂本雄二は、そう心に強く誓った。

ここまで偉そうに仕切ってきたが、実は俺はかなり緊張していた。守らなきゃいけない奴らがいるからだ。

一緒に行動しているメンバーは、ムッツリーニ、工藤、そして翔子の俺を含めて計4人。

みんな身体能力だって高い。大丈夫だ。

それにいざとなったら俺が……。

いや、根本的に鬼と遭遇する確率は低いはず、1週間生き残るためにも、今は心を落ち着けることが大事だ。

俺がキャラに合わず深呼吸をしようとした瞬間、女子生徒の叫び声が廊下中に響いた。

 

「代表、あれってうちのクラスの森さんじゃ……」

「……うん」

 

どうやらAクラスの生徒だったらしく、工藤と翔子が動揺し始めた。

 

「じゃあ助けなきゃ」

「…………まて、今行ったら危ない」

「でも森さんが!」

 

今度は工藤の声が廊下中に響き渡る。

やばいぞ、このままじゃ最悪こっちに鬼が来ちまう。

こういう時はどうすればいいんだ?

俺が仕切んなきゃ始まらねえのに……。

俺は自信がなくなり俯いてしまった。

しかし、その視線の先には俺の前で屈んでいる翔子の姿があった。

 

「……雄二。大丈夫」

「翔子……」

「……落ち着いて」

 

翔子の言葉にハッとする。そうだ落ち着け俺。

こいつらを、翔子を守るんだろ。

考えろ。死ぬ気で。

 

「悪いな。サンキュ」

「……うん」

 

1つ息を吐いてから、言い争っているムッツリーニと工藤の間に入る。

 

「お前ら落ち着け」

「で、でもこのままじゃ森さんが、クラスメイトが死んじゃう」

「…………だがお前を危険な目には晒せない」

「ムッツリーニ君……」

 

え?何こいつらイチャついてんの?

いかんいかん。今はそんなこと言ってる場合じゃない。

俺は須川に言いつけてやりたい衝動を抑え、改めて説明する。

 

「とにかく、ムッツリーニの言う通り残念だが助けるのは無理だ。他の奴を助けてる余裕なんてないからな」

「そんな……」

「……愛子落ち着いて」

「俺たちは俺たちの身を守るんだ。とにかく近くに2-Fの教室がある。そこに行くぞ」

「…………教室は危ないんじゃないのか?」

「ああ、普通の教室はな。でも2-Fは別だ」

「……何するの?」

「着いてからのお楽しみだ」

 

 

「あの木下さん?そんなに近づかれると歩きづらいんだけど。主に女性陣に足を蹴られてるから」

「でも、吉井君が守ってくれるんでしょ」

「ま、まあ……」

 

守ってあげたいんだけどね。

そうすると、なぜか美波と姫路さんが敵になる気がしてならない。

 

「はあ、姉上。いい加減にせんか。それだと明久が疲れてしまうじゃろ」

「わ、わかってるわよ。場を和ませるための冗談よ、冗談」

「和んでるのは姉上だけじゃろ」

「僕も和んでるけど」

「「ガス!」」

「痛!?」

 

美波と姫路さんに思いっきり足を蹴られた。

僕なんか蹴られるようなことしたかな?

やっぱり乙女心は難しいなと思いつつ、廊下の角を曲がる。

その先には鬼、……ではなくF組の面々がいた。

 

「あ、みんな。久しぶり」

「よお、吉井。元気だったか」

「まあ、なんとかね」

「チッ」

 

あれ?今、舌打ちされたような。

気のせいかな?

 

「にしても、みんなはなんで一緒にいるの?雄二が大勢での行動は危ないって言ってたよね?」

 

僕の問いを聞くと、F組の面々は馬鹿にするかのように笑い出した。

 

「おいおい吉井〜、冗談きついぜ。男だけのグループでこんなことやってられっか!」

「で、でも結局集まってもみんな男しかいないんじゃ……」

「黙れ吉井!元はと言えばキサマが!」

「コロス。吉井。コロス」

「吉井って炒めるのと茹でるのと蒸すのってどれが1番好き?」

「それって料理のことだよね!?」

「ああ、新作料理だ。珍しい食材が入ってるぞ」

「絶対僕だよそれ!?」

「相変わらずお主らは馬鹿じゃの」

 

2-Fのみんなは、こんな状況でもバカやってる。

こういうのもなんかいいなとか思ってしまう。

 

「吉井君。もう行きましょ」

「き、木下さん!?」

 

突然、木下さんが僕の手を握りながら言った。

F組のみんなが、それを見て僕を睨みつける。

ついでに、後ろからは思いっきり蹴られてるんだけど……。

 

「やっぱてめえは燻製だ!」

「コロス。吉井。コロス」

「今なら心臓2個で勘弁してやるよ」

 

やっぱり最悪だこいつら!

僕は木下さんの手を引っ張ってその場から逃げる。

 

「行くよ木下さん!」

「ちょっと吉井君!?みんなとはぐれちゃうわよ」

「ごめん木下さん!でもまだ燻製にされたくないから」

「燻製って……」

 

「うぃーん」

 

木下さんの声と重なるように、終わりのサイレンが鳴った。

 

「あ、いつの間にか鬼ごっこ終わったね」

「ええ。でも……」

 

木下さんは、僕たちが走ってきた道の方を振り返った。

誰の気配も感じられない。

僕たちは秀吉、美波、姫路さんとはぐれてしまっていた。

 



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第7話 俺と工藤とワイヤーと

「きゃあーー」

 

再びAクラスの森の叫び声が校舎中に響き渡る。

俺、坂本雄二はその声を聞き、罪悪感に襲われていた。

俺が見殺しにした。俺のせいで人が1人死ぬのか。

森と同じクラスの翔子と工藤は、泣きそうな顔をしている。特に工藤は………

 

「森さん。……私のせいで」

「…………お前のせいじゃない。気にするな」

「ムッツリーニ君……」

 

イチャついてやがる。どうやら工藤の心配はいらないようだ。

そんなことを考えている間に俺たちは目的地であるFクラスに到着した。

 

「よし。じゃあ始めるぞ!」

「……雄二。何をするの?」

「とりあえずムッツリーニと俺でこの壁をぶっ壊してEクラスと繋げる」

「本当に言ってるの?」

「ああ。Eクラスの方へ逃げたと思わせて窓から校庭に行く」

「…………素手じゃ無理」

 

珍しくムッツリーニが困惑した表情で言った。

 

「それは想定済みだ。だからこクラスを選んだ」

「どういうこと?」

「まずはFクラスの設備だ。このペラペラの壁なら壊しやすいからな」

「……でも」

「ああ。ムッツリーニも言ったが素手じゃ無理だ」

「…………ならどうやって」

「だからそれは……」

 

俺は黒板の裏に貼り付けられた物を取る。

 

「……この、トンカチを使う」

「トンカチ!?……ってなんでそんなものが?」

「…………明久か」

「その通りだ」

「?」

 

ムッツリーニは察したようだ。

さすがFクラス(クズ)の一員だ。

 

「ここは元々俺らの教室だ。数ヶ月前に見ちまったんだよ。須川たちが明久を消そうとしてこいつを教室に隠してるところを」

「……なんでまだあるの?」

「あいつら馬鹿だから忘れてたんだよ」

「なるほどね……」

 

翔子と工藤も納得したように頷いた。

 

「とにかく時間が惜しい。早速やるぞムッツリーニ」

「…………了解した」

「す、すごいね」

「……さすが私の夫」

「まだ結婚してないだろ!?」

「…………イチャつくな」

「どこがだ!?」

「全部だよ」

「い、いいから早く行くぞ」

 

俺とムッツリーニは壁を壊し終わり、次はこの教室からの脱出を始める。

 

「窓から出るっつっても高さがあるからな。ムッツリーニ先に下に行ってワイヤーで繋いでくれ。

「…………今日はワイヤー持ってない」

「いつもは持ってんの!?」

「……私持ってる」

 

翔子が黒いワイヤーを取り出した。

……おいおい。

 

「それって何に使う予定だったんだ翔子」

「……私と雄二の愛」

「なんで愛にワイヤーが出てくるんだよ!?」

「……ポッ」

「なんで照れたんだ……」

 

俺を縛りでもするんだろうか。

……今は考えないようにしよう。

 

「とにかくやるぞムッツリーニ」

「…………了解した」

 

紐を窓枠に結びつけ、ムッツリーニは窓の外へ飛んでいった。

やっぱりムッツリーニをこっちのグループに入れといて正解だったなとつくづく思う。

明久たち、全滅してなきゃいいんだが。

 

「よし。順番に行くぞ」

「……わかった」

 

翔子が紐を紐をつたって降りていった。

 

「工藤も行っていいぞ」

「さ、先言っていいよ坂本君」

「そうか?悪いな」

「後でね」

 

この時、俺は何も考えられていなかった。

工藤の気持ちを。

 

下に降り翔子たちと合流した。

しかし、それと同時にワイヤーが窓枠から外れてしまった。いや、工藤が自ら外した。

 

「おいこれって!」

「…………まずい」

「……まさか愛子、森さん助けるために」

「とにかく階段を登るぞ」

「…………遅い。先に行く」

「頼んだぞ」

 

ムッツリーニは今までに見たことがないような必死な顔をして走っていった。

 

「……雄二、私たちも」

「ああ」

 

俺たちもムッツリーニの後を追うように走り出した。

しかし、俺たちがFクラスに戻った頃には、工藤の姿はなく、ムッツリーニがポツリと1人で座っていた。

 

「…………もう工藤はいなかった」

「そうか」

「……愛子。ううっ」

「うぃーん」

 

翔子の涙が流れるのと同時にサイレンが鳴った。 



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