正義の仮面 (マスクオブジャスティス)
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寄り道:もしもの出久君

持病の真面目な話ばかり書いていると死んじゃう病が発症したので息抜き外伝的な何か
本編を待っている人にはすまないと思っている、今は反省している、だが後悔はしていない。
あ、これは本編とは一切関係ないのでご注意下さい。


 緑谷出久はヒーローを目指している。テレビの向こうで華々しく活躍するヒーローに憧れたからだ。そんな彼が今目の前でヴィランに捕らわれている友人の姿を見て思わず飛び出しそうになったことは間違いではない。だが彼には力が無かった。それでも友人の助けを求める視線に足が自然と動きそうになった。しかしその時、彼を押しのけて前へと出る人物の姿があった。

 

 「下がっていろ」

 

 それは誰もが豚であると言った。どこからどうみても豚であり、申し訳程度に下半身には短いパンツを履いていた。そして腰に細長い棒のような物を持っていた。しかし豚らしくない物を持っていても豚にしか見えなかった。

 

 「ぶりぶりざえもん!」

 

 出久はその豚をぶりぶりざえもんと呼んだ。その様子を見ていた周囲の人々はその豚が彼の知り合いでかつ奇妙な名前であることに気が付いた。そんな人たちの中でヴィランの捕獲のために集まっていたヒーローは豚を止めようと一瞬だけ動こうとしたが思わず足を止めてしまった。ぶりぶりざえもんから、どうみてもただの豚にしか見えないにも関わらず、謎の気迫のような物を感じたからだった。こいつなら何かやらかすと、誰もが感じ取った。

 ゆっくりと一歩一歩進むぶりぶりざえもんの姿はヴィランから見ても異質であった。思わずごくりと唾を飲み込む。やがて彼の持っている棒が届く程の位置までやってきた。そこからの豚の行動にその場にいた者達は全員が唖然とした。

 

 「おらぁ! どっからでもかかってこんかい!」

 

 ヴィランの方を向いていた豚はくるりと体を反転させ、ヴィランと対峙しているヒーローたちの方へと向き直ってそう言った。

 

 「このクソ豚!」

 

 思わず出久の口から汚い罵り声が出る。

 

 「フンッ! 私は常に強いものの味方だ! 安心しろ私が来たからにはもう安心だ」

 

 そう言われたヴィランも何が起こっているかよく分かっておらず茫然とした表情をしていた。その隙を出久は見逃さなかった。勢いよく群衆の中から飛び出すとその勢いのまま蹴りを放った、豚に対して。

 

 「この馬鹿、今日こそはトンカツにしてやる!」

 

 「なんだと出久貴様! 貴様はトンカツにされる豚の気持ちを考えたことがあるのか!? 灼熱の油に晒される豚の気持ちがお前には分かるのか!?」

 

 「知るかこのクソ豚! そんなにトンカツが嫌なら豚汁にしてやる! 精々その脂ぎった体からまずい出汁を取ってやる!」

 

 「貴様言ってはならんことを! 表へ出ろ刀の錆にしてくれる!」

 

 「ここが表だろ! それにお前の持っているそれは刀じゃなくて千歳飴だろうが! いいからヴィランの人も困ってるだろ早くこっちに戻ってこい!」

 

 「あ、おいこらどこを触っている。あ、そこは……」

 

 「気持ち悪い声出すな!」

 

 問答無用と出久は豚の手を引いて群衆の中へと戻っていく。

 

 「あ、すいませんうちの豚がご迷惑をおかけしましたどうぞ続けて下さい」

 

 未だに動きを止めたままのヴィランとヒーローに頭を下げて元の位置まで戻っていった。そんな出久の腰には二本のマラカスが刺さっていた。救いのマラカスと呼ばれるそれを振ることによりどこからともなくぶりぶりざえもんが現れるのだ。ただし最近は何故か勝手に出てくることが出久の悩みの種だった。

 

 これは最高のヒーローを目指す少年と一匹の救いのヒーローの物語である。

 

 一方、ヴィランに襲われていた出久の友人は心の中で、あのクソ豚野郎は次に会ったら生姜焼きにしてやると思っていたとかいないとか。




緑谷出久
個性:救いのマラカス
救いのマラカス:彼が生まれながらにして所持していたマラカス、世間からはこのマラカスが個性であると認識されている。しかし本当にそれが個性なのかはいまいち本人も分かっていない模様、むしろこんなマラカスが個性であるくらいなら無個性の方がマシだと考えている。シャカシャカ振ることでカラオケ会場を盛り上げる程度の力を持っている。またおまけとして救いのヒーローである豚が召喚される。ただし最近は振ってもいないのに勝手に現れる。

救いのヒーローぶりぶりざえもん
個性:豚?
 救いのマラカスにより現れる救いのヒーロー(自称)の豚。現れる度に出久に迷惑をかける。最近では出久からの殺意がかなりマジになってきた。出汁は意外とおいしい。


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1話

 何年か昔に中国で光る赤ん坊が生まれたらしい。それを機に世界中で特異な能力や異形の姿を持った人々が現れ始めた。それらの能力はやがて個性と呼ばれるようになり、あっという間に世界は個性社会となった。しかし未だに個性に関する法整備は完璧とは言い難い。人間の多くは力を持てばそれを振るいたいと思う、それが生まれた時から当たり前に使える力であるなら尚更に抑圧されることを嫌う。法律で個性の使用禁止が決まっていても、当たり前に使える力を抑え込むことに耐えられない人間も多くいる。

 

 「ヴィランが暴れてるぞー!」

 

 多くは理性や善性といったもので抑えることが出来るが、そうでない者もいる。彼らは個性を犯罪行為に用いる。単純に窃盗などから、ただ暴れまわるなどだ。そんな彼らはいつしかヴィラン(悪役)と呼ばれるようになった。

 

 「ヒーローはまだか!?」

 

 そんなヴィランに対して、通常の警察では対応しきれないようになった。すると自然発生的にヴィランに対抗する者達が現れた。ヴィランを倒す者であることから彼らはヒーローと呼ばれた。ヒーローでなければ対応出来ない事案が広まるに従ってヒーローの社会的地位は上昇し一つの職業として認められた。

 

 「来たぞヒーローだ!」

 

 突然だが俺には前世の記憶がある。前世ではヴィランもヒーローもコミックの中だけの存在で個性なんてものは当然無かった。普通に生まれて普通に生きて普通に死んだ。特別に不幸というわけでもなく、特別に幸せだったわけでもない。日々の小さな幸せを感じることのできる普通の人生だった。それがなんの因果かこんな世界に生まれ変わった。個性の存在を知った時には前世の記憶がある個性かと思った。だが違った、明らかに他の人間より強靭な肉体と力、極めつけは腕からビームが出る、それが個性だった。そのビームを見た時に思い出した。前世で同じような技を使うヒーローがいたことを。勿論だが実際に存在していたわけではない架空のキャラクターだ。そんなヒーローの事が好きだった、他にもっと有名なキャラクターはたくさんいたが、それでもそのヒーローの事が好きだった。いつだってある子供の夢だったから、いつだって笑っていたから。

 

 「ワッハハハハハハ!」

 

 だから俺も笑う。この個性社会では前世に比べヴィランによる理不尽な被害が絶えない。特別に幸せでなくてもいい、ただ当たり前の小さな幸せの溢れる日常を望む者達からヴィランは容赦なく奪っていく。そんな絶望を少しでも晴らし、未来には希望があると知らしめるために笑う。そして戦う。偉大なヒーローの能力を得たことによる使命感ではない。憧れたからだ、正義の仮面に。

 

 「アクション仮面、参上!」

 

 赤、青、緑といったカラフルに染まった鎧。腰にはAの文字が入ったベルト、そして赤いトサカと角のような装飾の入った顔の上半分を覆う仮面。

 

 「いくぞ! アクションキック!」

 

 パワー溢れるキック。

 

 「アクションパンチ!」

 

 悪を許さぬパンチ。

 

 圧倒的な猛攻でヴィランを押し続ける。時折ヴィランからの反撃が返ってくるが全て受ける。誤って周囲の人に被害がいかないように決して退かない。何度かの応酬が続いたあとヴィランが大きく後退し膝を突いた。ヴィランは形勢不利を理解し撤退するようであった。だが逃がすわけにはいかない、これ以上被害を広げないために、そしてこれ以上ヴィランに罪を背負わせないために。

 

 「逃がさん、アクションビィィィィム!」

 

 それは闇を切り裂く閃光。希望の光。

 

 腕から出たビームが撤退しようとするヴィランに命中する。このビームは見た目こそ派手だが威力はそうでもない、精々が強力なスタンガン程度で殺傷には至らない。ヴィランが倒れたのを確認すると後の処理は警察に任せる。だが仕事は終わっていない、辺りはヴィランが暴れまわって破壊した建物の瓦礫などが散乱している、それに見つかっていない怪我人もいるかもしれない、それら全てが終わってこそヒーローとしての仕事を果たしたといえるのだ。

 

 「ワッハハハハハハ!」

 

 そして全てが終わって俺は笑う。それこそがこのヒーローの在り方だと信じているから。




アクション仮面の良いところはしっかり笑うとこだと思う。
普通の仮面ライダーとかも好きだけどなんか暗いじゃん、もっと明るくいこうぜ。


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2話

 「私に教師を?」

 

 「そうだよ、是非とも君にここで教師をやってもらいたい」

 

 生まれ変わりアクション仮面の力を手に入れヒーローとして活動していた私の元にある依頼が入った。普段は春日部周辺でヒーロー活動をしているが、以前お世話になった人物からの依頼だったこともあってひとまず話だけでも聞いてみようかと思いこの場所にやってきた。

 

 「しかし私には教師をできるような能力があるか……」

 

 「なに別に一般教養の授業を受け持ってくれというわけじゃないんだ、それに今年からはオールマイトも教師として働いて貰う予定だ、彼に出来て君に出来ないようなこともないだろう」

 

 「しかし……」

 

 私の前にいる喋るネズミからそう言われる。正直に言えば教師になるというのは魅力的な話だ。アクション仮面は子供たちの夢でなければいけない、そのためにはヒーローとして活動するのも当然だが、直接子供たちに教えることもアクション仮面として立派な夢となれるだろう。ただやはり能力上でどうしても不安が残る。筋力だけでなく知力の方面でも研鑽は怠っていないつもりではあるが、頭がよいことや力が強いことと教え導く能力は別だろう。

 

 「まあ君の不安も理解出来るよ。だからまずはお試し期間ということにして結果がよければ正式採用という形にしようと思う」

 

 「そういうことであれば……」

 

 「それと君には一つ生徒達にある課題を与えて貰いたい」

 

 「課題?」

 

 「課題と言っても君が特別に用意する物は特にないよ、ただヒーローコスチュームを身に着けないで全ての授業を行って欲しい。そして君は自分がアクション仮面であることを生徒達に教えてはいけない、それだけだよ」

 

 つまり自分がアクション仮面であることを隠して活動しろということだろうか? となると生徒達に出す課題というのもなんとなく想像がつく。

 

 「それはつまり、生徒達に私の正体を見破らせるという課題を与えればよいということですか?」

 

 「察しが良くて助かるよ。ヴィランの中には当然その姿を偽装している者もいる、そういった人物を見分ける訓練の一つとしてね。君はアクション仮面としての知名度は高いが仮面の下の姿はそうでもないだろう?」

 

 確かに、特別隠しているというわけではないが、人前に出る時は専らアクション仮面としてで素顔を晒すことはそうない。プライベートな情報も基本的には非公開のままだ、公開しても困ることはないが誰かに公開することを強いられたことがあるわけでもなくなあなあのまま非公開となっている。

 

 「それともう一つ意味がある、生徒達にヒーローとは何かを教えることだ。君は資格さえ持っていればヒーローだと思うかい?」

 

 「それは違います」

 

 「そうだ、理由は聞くまでもないだろう。ではヴィランさえ捕まえることが出来ればヒーローかな?」

 

 「それも違います」

 

 「そうだ、それならヒーローコスチュームさえ身に纏っていればそれはヒーローかな?」

 

 「違います、確かにどれもヒーローを形作る要素の一つではありますが」

 

 「その通り、ではヒーローとは何だと君は思う?」

 

 それは非常に難しい問題だ。今の個性社会ではヒーローは一つの職業として認識されている、そんな世の中では地位や名誉、或いは金銭の為にヒーローになる者はたくさんいる。そのことを否定するつもりはない、人が人である以上は自尊心を満たしたいと思うのは当然であり、また生きていくためには金銭が必要とされることは必然だ。むしろ何かのために努力を重ねるその姿勢には敬意を覚える。しかし、私の目指すヒーロー像とは異なる。私の目指すそれは本物のアクション仮面だ。フィクションであるが故に常に正義であり希望であり、子供たちの夢であったヒーローだ。だから私の質問の答えはこれしかない。

 

 「私はヒーローとは光であると思います」

 

 「成程、光か」

 

 「ええ、今の世の中は個性という力に対して完璧とは言い難い。そんな混沌に満ちた世界で確かに進むべき指標となるのがヒーローであると考えます。もっともこれは私のヒーロー像ですので全てのヒーローがそうあるべきだとまでは言いません」

 

 「よろしい、満点の回答だよ、特に後半の部分がね。今ヒーローを志す子供達は確かにそれぞれの目標やヒーロー像を持ってここにやってくる。ただそれだけではダメなんだ。誰もが異なるヒーロー像を持っている、それを否定せずに受け入れること、それとどんなヒーローであっても志を忘れずにいればコスチュームを身に纏っていなくともヒーローとなれること、それを教えるのが僕たちの役目だ」

 

 「成程、しかし仮にもヒーローを目指す子供たちです、その辺りの事は理解しているのではないでしょうか?」

 

 「中にはそういった生徒もいるだろう、けれど大半の生徒は理解しているつもりになっているだけだよ。なぜなら彼らが本気でヒーローを目指す者達と本当の意味で並び立つのはここが初めてになるからね。彼らはまだ他のヒーローの卵達のことを知らないのさ」

 

 「そういうことですか、生憎私はなりふり構わず真っすぐにここまで来たのであまりそういうことが分からないのかもしれません」

 

 周囲のことなど見ることもなく、ただアクション仮面になるという気持ちでここまで走り抜けてきたのだ、友人と呼べるような人がいないわけではないが、確かに交友関係はあまり広くはない。誰かと並び立つという経験が少ない。

 

 「知らないなら知ればいい、ここでは教員だってPlus Ultra(更に先へ)だよ。さてひとまず今日のところはこの辺りにしようか、詳しい資料なんかは近い内に送らせて貰うよ」

 

 「分かりました根津校長」

 

 とにかくやると決まれば半端気持ちではいられない。何かと準備をしなければならない。喋るネズミ、ここ雄英高校の校長である根津校長に一礼し、部屋を後にする。

 

 「Plus Ultra、アクション仮面としてどこかで妥協するわけにはいかないな」

 




生徒ルートではなく教員ルートである


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3話

 「今日は俺のライブにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」

 

 プレゼントマイクが叫ぶ。残念なことだが今日は彼のライブではなく、ここ雄英高校の入学試験日だ。彼がいつもああいったDJ風なのは今日に始まったことではない。以前から彼のヒーローとしての底抜けの明るさには尊敬の念を覚える。

 それはさておき、彼が司会、もとい試験の説明を壇上で行っているようだ。試験のルールを纏めるとヴィランを模したロボットを倒して、各ロボットに振り分けられたポイントを取得していく。シンプルな内容だ。

 

 「以上で説明を終了する、といいたいとこだがもう一つ今回の試験にはポイントがあるぜー!!!」

 

 例年であればそこで試験は開催されるのだが、今年からもう一つ新しいルールが追加された。これは今年から教師として赴任するヒーローの人員が増えたことに由来する。試験とはいえ折角ここ雄英高校まできた生徒達だが、試験の倍率は脅威の300倍、会場にいる殆どの子供達は入学することは叶わない。残酷な話のように思えるがヒーローというのは過酷な仕事、そう簡単になれるものではないのも当然だ。更に言えばヒーローを育成する学校は何もここだけではない、ただ日本で最も大きいというだけの話、受かりそうにないならば他の学校を受験してもいいのだ。そんな入学が叶わない多くの学生達にもそれだけでヒーローという夢を諦めて欲しくない、そんな理念の元で新しいルールは追加された。

 

 「今回から各会場に一人、雄英高校の教師でもあるヒーローが紛れ込んでいるぞ!!! 彼らは普段はあまり素顔を晒していないタイプのヒーロー達だ、更に今回は簡単だが変装もしてもらっている!!! 彼は君たちと同じようにロボットを倒していく、言わばお邪魔キャラだ!!! ロボットの数には限りがある、ぼさっとしていると彼らにロボットが全滅させられちまうぞ!!!」

 

 「失礼! 質問よろしいでしょうか!?」

 

 「オーケー、さっきもお邪魔ヴィランロボについてリクエストしてくれたそこのリスナー、何が聞きたい!!!」

 

 「はい! 我々もヒーローを目指す身として鍛錬は怠っていないつもりですが、流石に本物のプロヒーローとの間には大きな隔たりがあると考えます。そんなプロヒーローと並べられてしまえば本当に碌なポイントを得られずに終わってしまうのではないでしょうか!?」

 

 「グッド!!! 俺たちヒーローは時には敵わない相手にも向かっていかなければいけない、だからと言って策も無しに突っ込むのはナンセンス!!! 自分の実力を把握出来ているいい質問だ!!! そんでもってアンサーだが、プロヒーロー達も君たちに試練を与えるつもりはあっても一方的に痛めつけるつもりなんて当然ノーだ!!! じゃあどうするかって!? 今回ヒーロー達には個性無しで参加してもらう!!!」

 

 プレゼントマイクの答えに周囲の子供たちが騒めき立つ。小さな声だが、個性もなしでどうやって、といった内容の会話がそこかしこから聞こえる。成程、前に根津校長が仰っていた『理解しているつもり』という言葉の意味が分かった気がする。

 

 「個性無し……!? それでは逆にプロの方たちには不公平過ぎるのではないですか!?」

 

 「本当にそうかな!? まあ本当にそうだったなら君たちには有利でしかないんだから気にするな!!! それと変装しているヒーローの正体を見破った奴には特別に追加ポイントを与えるぜー!!! おっと個性無しとはいったが常時発動型の個性とかは勘弁してくれよな!!!」

 

 「了解しました! ありがとうございます!」

 

 それにしてもこの質問をしている少年は真面目だ、悪い意味ではなく良い意味でだ。真面目過ぎるのも視野が狭まる原因になるかもしれないが、ヒーローという職業の特色上は真面目であることはプラスポイントだ。それに私の主観になるが、この少年はとてもいい目をしている。おそらくヒーローについての理解は子供たちの中でも高い方だ。身内か親しい知人にプロのヒーローがいるのかもしれない。

 

 「それじゃあ最後にリスナーへ我が校の"校訓"をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!! Plus Ultra!! それでは皆良い受難を!!」

 

 さて、説明は終わった。おそらくプレゼントマイクのことだ、突飛なスタート合図を出すだろう。それに構えて準備をしたいところだが、子供たちの多くはスタートに反応出来ないだろう。変装して、仮面を外して若く見えるように化粧を施して貰っている程度だが、そんな私がスタート合図と同時に飛び出してしまえば自らヒーローであることをばらすようなものだ。だからここはあえて周囲の子供たちに合わせることにしよう。

 

 「スタートー!」

 

 と思った通り、カウントダウンも何も無しに唐突にスタート合図が上がった。想像していた通り周囲の子供たちは何が起こっているのか分かっていないようだ。

 

 「どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れ!! 賽は投げられてんぞ!!?」

 

 プレゼントマイクが促すことで、ようやく全員が動き始める。少々厳しすぎる気もするがプレゼントマイクの言葉も最もだ。ヴィランに限らず災害なんてのは殆どが唐突に発生する。これくらいのことで動揺しているようではヒーローとては確かにやっていけない。

 

 「さて、それでは私も出るとしようか」

 

 ただプレゼントマイクはプレゼントマイク、私は私だ。手を抜くつもりは当然ないが、流石に子供たちのロボットを全て奪ってしまうようなことがない程度にはやっていこうか。




エヴィバディセイヘイ!って打ちにくい。
というかプレゼントマイクのセリフがフリーダム過ぎて打ちにくい。

プレゼントマイクのキャラは大好き。


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4話

普段は週末に書いてるけど思った以上に評価が高い上に感想も結構頂けたので調子に乗った。筆も乗った。



 試験も終盤に差し掛かった。ほどほどにロボットを倒し、それほど目立つ動きをしていたわけではないが私がヒーローであることがどうやらバレてしまっているらしい。私の正体を察したと思われる子供たちの行動は幾つかに分かれた。まずは私から離れて残っているロボを探す集団、次にそれまでと変わらずに私に近くても気にせずに周囲でロボと戦う者達、最後に私に向かって来る者が何名かいる。さらに最後の集団の子供たちは私がロボを破壊していくのを妨害してくる者達と追加ポイント目当てに私の正体を暴こうとする者達に分かれた。

 

 「なるほど、なかなか簡単にはいかないものだな、っと!」

 

 向かってくる子供達をいなす。あくまでもこれは試験であって向かってくる子供達はヴィランでもなんでもないので怪我をさせないように上手く立ち回る必要がある。流石にそんな状態であってはロボットを破壊する暇はない、私の妨害をしようとしている者達にとっては目論見通りといったところか。しかし、確信があるならばともかく本当にヒーローであるか証拠もないまま向かってくるのは下策だ。この試験では他の生徒への妨害は当然ながら禁止されている、ただしあくまで生徒への妨害であって私たちヒーローにはそのルールは適応されない。そういう意味でもし私が実は生徒だったならば向かってくる彼らは失格ないし減点の対象となるような行動をとるのはリスクが高すぎるとしか思えない。ヒーローを目指すならばもう少し慎重さを身に着ける必要がある。ここは教師らしく少しばかり授業をするとしようか。

 

 「てめえら! 他の生徒への妨害が禁止されてるのを分かってんのか!?」

 

 いつもとは口調を変え荒々しい態度で向かってくる子供達を一喝する。その私の言葉に向かってくる子供達は動きを止めた。向かっている相手が生徒であるかもしれないと脳裏を過ったのだろう。その一瞬の動揺は実際の現場では命取りとなる。

 

 「レッスン1だ。動きを止めるな、一度でも自分の考えを信じたならばヒーローは迷ってはいけない」

 

 そう言いながら一番近くにいた生徒に足払いを掛ける。体勢を崩したところで下から掬い上げるようにし離れたところに投げ飛ばす。仮にもヒーローを目指してここに来ている者達ならばこの程度は大した怪我を負うこともないだろう。

 

 「そしてレッスン2、味方が、いや今日の場合はライバルだろうが、共に戦う者の負傷に動揺してはいけない」

 

 思わず投げ飛ばされた生徒のほうへ視線を向けていた別の生徒の眼前に移動し、硬直している隙を突いて背負い投げる。

 

 「最後にレッスン3、不測の事態に陥っても直感だけで行動してはいけない、考えるんだ」

 

 やっとのことで事態を察した一人の生徒が、慌てたように私の方へと向かってくるが、直線的で読みやすい動きであったので腕を取り、巴投げの要領で後方へと投げ飛ばす。

 

 「さてヒーローの卵の諸君、今回の授業は如何だったかな?」

 

 動きを止めたままの生徒と投げた地点でようやく体を起こしている生徒達に向けて言い放つ。嫌味のような言い方になってしまったが、私としては折角プロヒーローと対峙しているのだから試験の点数ばかりを気にせずに出来るだけ学べることを学んでいって欲しい気持ちだ。

 

 「クソッ! これがプロか! もう時間もないのに相手してられるか!」

 

 あっさりと蜘蛛の子を散らすように子供達は方々に分かれていった。その考えは間違いではない、点数ばかり気にするなとは思っているが、これは試験であるので最終目標である合格に向けての行動として悪くない。悪くはないがな私としては是非とももっと向かって来て欲しかった。しかし彼らはこの試験に並々ならぬ覚悟と信念を持って来ている、そんな彼らの意思を尊重して追い打ちをかけるような真似はしない。だが、どうやらまだ一人だけ骨のある少年がいたようだ。

 

 「残念だが、力だけで押し切るには君にはまだスピードもパワーも足りていない」

 

 「ッ!」

 

 後ろからこっそりと近づいてきていた少年はある程度近くまで来たタイミングで一気に飛び込んできた。だがその動きは読めていた。軽く体をずらし横に抜けていった腕を掴む。そして相手の飛び込んできた勢いを殺さないようにそのまま一回転させて回転のエネルギーも上乗せした状態で手をハンマー投げのようにして放し投げ飛ばす。

 

 「さて生徒は一人だけになってしまったがレッスン4だ、終わったと思っても決して油断してはいけない。油断していると君のような者にあっさりとやられてしまうからね」

 

 投げ飛ばされた少年は上手く受け身を取ったようですぐに起き上がってきた。瞳の中に見える闘志の炎はいまだ消えていなかった。

 

 「どうやらまだやるようだね、ただあまり褒められた行動ではない。時間ももう少ない、私の事は無視して一体でも多くのロボを倒すことををお勧めするが?」

 

 そう言っても少年はファイティングポーズを取った。

 

 「意地でもそう来るか。何が君をそこまで奮い立たせる?」

 

 「ハア……ハア……、僕は、僕はまだ一体もロボットを倒せていません! 今から少しでもロボットを倒して間に合うか分からない。だから僕は、僕の得意なことでやるんです!!!」

 

 息を荒げながらも少年は吠えた。

 

 「ほう? 参考までにその得意なことを教えて貰ってもいいかな?」

 

 「僕は、ヒーローが好きです。オタクだとかナードだとか呼ばれることもあります、それぐらいヒーローの事は出来る限り調べて研究してきたつもりです! だから他の誰かに出来なくても僕ならあなたの正体を見破れる!!!」

 

 素晴らしい、自分ならば絶対に出来るというその自信、それは確かに彼がいままで積み上げてきた物からくる確固たる物だ。今まで誰かに無駄だといわれたこともあるかもしれない、それでも彼は好きであることを諦めなかった、それは誰にでも出来ることではない。

 

 「良いだろう少年! さっきのお勧めは取り消す! 全力で掛かってくれば私もうっかり個性を使ってしまうかもしれないぞ?」

 

 少年の狙いは間違いなくそこにある、ただ観察しているだけでは完全には分からない、ならばヒントを自ら引き出す、そういう魂胆だろう。そのヒントとは個性だ、ヒーローの個性というのは広く知れ渡っている、似たような個性もあるだろうが、それでも個性さえ見ることが出来れば私の正体を彼は見破るだろう。

 

 「ハイッ!!!」

 

 元気よく返事をしながら愚直に突っ込んでくる少年を迎え撃つために私も構えを取る。しかし寸での所で少年は足を止められることになってしまった。

 

 「うわっ!?」

 

 試験会場が揺れた。それに動揺して少年は足を止めた。私も構えを解き振動の発信地の方へと目を向けた。

 

 「なるほど、あれが例の……」

 

 そこにはビルの高さをも超えるような巨大なロボットが立っていた。

 

 




たくさん感想をいただけて大変ありがたいのですが、経験上で個別に返信していると稀に困った方がいらっしゃることがあるので目を通すだけで返信はしておりません。感想自体は有難いので返信なんていらねえそれでも俺は感想を書くぜと言う方は遠慮なくどうぞ、しっかりと目は通させてもらい調子と筆の乗りを良くします。

追記、『東の栄』様、誤字報告ありがとうございます。


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5話

 試験会場に現れた巨大ロボがプレゼントマイクの説明していた0ポイントのお邪魔キャラだろう。生徒達との公平性を保つためにロボの詳細は参加しているヒーロー達には伝えられていなかったが、まさかこれほどとは想像していなかった。

 

 「さて少年、どうにもあれはこっちに向かっているようだ。もたもたしていれば我々もあっさりと潰されてしまうだろう。君には幾つか選択肢がある」

 

 巨大ロボに呆気に取られたことで動きを止めていた少年に声を掛けると、少年は私の言葉を聞いてようやく体勢を立て直した。

 

 「一つはあれがこちらに来るまでに私の正体を見破ること、次に私の事は諦めて一目散にこの場を去り一体でも多くのロボを倒すこと、最後にそれ以外の選択肢だ」

 

 「それ以外?」

 

 「ああ、そうだ。ただなんでもかんでも私が教えてしまうと他の生徒達と公平ではなくなるからね、それ以外の選択肢は自分で考えてみるといい」

 

 ちなみに私の中でのそれ以外の答えは巨大ロボを速攻で打倒し、かつ私の正体を見破ることだ。はっきり言ってあの巨大ロボはプロであっても打倒するには個性の相性にもよるが多少手間取るだろう、しかし不可能ではない。それくらい出来なければプロとしては失格だ。それにヒーローとして模造品とは言え街として作られた試験会場を破壊されることを容認するわけにはいかないからだ。

 

 「それ以外……なんだ? 僕は何をすればいい? 考えるんだ、プロのヒーローがわざわざ個別にそう言ったからには何かあるはずだ、正体を見破りつつロボから逃げる? いやダメだきっとそれではこのヒーローの人には逃げられてしまう……、考えろ、考えろ、考えろ……ッ!!!」

 

 少年は思考の海に潜ってしまった、深く考えこんで動きを止めている点はマイナスポイントだが、最善の結果を求めようとするその姿勢はプラスポイントだ。

 

 「補講の時間だ、レッスン5、よく見ることだ、ヒーローとしての正しい答えはいつだって目に映るところにある」

 

 「見る……?」

 

 どうにも自分でも深く考えないうちにこの少年のことを気に入っていたようだ、なんとなくヒントに近い物が口から漏れてしまった。ただ少年は他の子供達が諦める中、果敢にも私に向かってきたのだ、これくらいはしてあげてもいいだろう。

 

 「そうだ、よく見るんだ。今自分が何をしなければいけないのか、ヒーローならば何をすべきなのか」

 

 私と少年の視線の先では巨大ロボが縦横無尽に暴れまわっている。危うくその腕に弾き飛ばされそうな者や足に踏み付けられそうになって慌てて逃げ惑う者達が大勢いる。これは試験である上に彼らは仮にもヒーローの卵達だ、なにかしらの安全対策もされていることだろうし、大きな問題はない。ただもしあのロボが仮想ヴィランでなく本物のヴィランだったならばどうなるか、そして試験会場ではなく実際の街中であればどうなるか、逃げ惑う人々が無力な一般市民であったならば、それらの事を考えれば自ずと答えは出てくる。

 

 「答えは決まったかい?」

 

 「……ハイ、でも僕はそれじゃあヒーローにはなれないんです……」

 

 「ならば諦めるかい? 目の前の現実から逃げてヒーローという名の臆病者になるかい?」

 

 「……それはダメです! 僕はここでヒーローになれないかもしれない……、でもそれでも本物のヒーローならきっとこうする!」

 

 その時だった、瓦礫に足を取られた少女がロボに踏み付けられそうになっているのが視界に映った。それはきっと少年も同じだっただろう。あれでは逃げ切れない。

 

 「下は任せたまえ!」

 

 「分かりました!」

 

 説明はいらなかった、私と少年は同時に駆け出した。考えるよりも先に体が動き、その後に思考が付いてくる。あの少女を救う為にはどうすればいいか、簡単だ、目にも止まらぬ速さで少女を救出する、もしくはロボの方を排除する。あるいはその両方だ。少年はパワー型の個性だったようで、躊躇せずにロボの眼前まで跳躍していった。ロボを打倒するつもりであることははっきり分かった。しかしそれだけでは足りない、要救助者に対しての気配りが出来ていない。倒した衝撃で瓦礫となって降り注ぐかもしれない、その辺りのことまで求めるのは卵達にはまだまだ難しいだろう、しかしこれから学んでいけばいい。今、足りない分は私が、彼らの先輩で彼らよりも大人で、そして紛れもないヒーローである私が補うことにしよう。

 

 「S M A A S H !!!」

 

 少年が叫ぶと同時に拳をロボに叩きつける。見事な威力のそれはロボを吹き飛ばすには十分であったようで、ロボがあっさりと機能停止したことが窺える。その間に私は瓦礫を撤去し、動けなくなっていた少女を救出する。

 

 「どうやらあまり心配する必要はなかったようだが、やはり詰めが甘い」

 

 ロボの倒壊による二次被害を心配する必要は無いほどにロボは吹き飛ばされていた。しかし代わりといってはなんだがどうにも力の制御を誤ったのか脱力した様子で、少年は自由落下している。このままでは頭から地面に真っ逆さまだ。

 

 「少年! 気をしっかり持て!」

 

 その言葉に少年は一瞬だけ体に力を入れたように見えた。そこで器用にも空中で体を半回転させると足を下にして勢いよく落下した。落下地点を見ると地面に罅が走り、息も絶え絶えで汗と涙でひどい表情をした少年が倒れていた。どうにも相当に負担の大きな個性のようだ。

 

 「その様子ならば大丈夫かと問いかけるべきなのだろうが、ここはあえてこう言わせてもらおう。よくやった少年!」

 

 「ハイ……」

 

 「どうやら体は酷い状態のようだな、ならばここでレッスン6とレッスン7だ」

 

 「……?」

 

 「ヒーローなら痩せ我慢! そして笑え少年! 誰かを救った後ヒーローは悲観した顔をしていてはいけない。」

 

 「……ハハ」

 

 顔を引き攣らせながら、少年は笑顔を作った。

 

 「そうだ、ヒーローならば助けた者達の前で悲観してはいけない、希望は確かにあることを知らしめなければいけない」

 

 「ハハハッ……」

 

 「うむその調子だ、本来ならばもっとこのように高らかにポーズを決めてワーハッハッハとするとよりカッコいいぞ」

 

 アクション仮面特有の片腕を斜め上に上げ、もう一方の腕を胸元に持ってくるポーズを取る。

 

 「ワーハハハ……ってあれそのポーズどこかで見たような気が……」

 

 「おっと私としたことがうっかりしていた、他の生徒達には内緒だぞ?」

 

 「あの……」

 

 少年と話をしていると、救出した少女が立ち上がって不思議そうにこちらに目をやってきた。私たちの会話の意味があまり分かっていないようだった。私としては正体がバレる心配がなく有難いことだ。ただひょんなことから見破られてしまうかもしれないので早々に撤収するとしよう。

 

 「君も無事でよかった、といっても私は精々瓦礫をどかした程度、本当に活躍したのはそこで倒れている少年だ。お礼なら彼に言ってあげるといい」

 

 そう言い残し、その場を去る。間も無く試験終了の合図が鳴らされた。終わってみればあの少年のことばかりが気になる、最終的に彼は普通にポイントを得ることは出来なかった。しかし、子供達には知らされていないが、この試験では救助ポイントが設定されている。文字通り誰かを救助したりしたなどの功績によって与えられるポイントであり、少年にはそのポイントを与えられるだけの十分な成果がある。それに恐らくだが私の正体を見破ったことによる追加ポイントもある、実際に彼にどれだけのポイントが与えられるか分からないが、十分に合格の可能性はある。

 

 「待っているぞ少年、ここが君のヒーローアカデミアだ」

 

 この後に、参加していた教員達は他の教員達と共に採点作業がある。その場で彼の合否がはっきりするだろう。



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6話

やべえよいつの間にか日刊ランキングに載ってたよ
思った以上に皆アクション仮面大好きでうれしいかぎり


 「生徒の如何は先生の自由。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 雄英高校1年A組の担任である相澤先生が、そう言い放った。入学式もガイダンスも無く唐突に体力測定を開始しようとする彼には当然ながら生徒達は反発と疑惑の声が上がったが、彼は自由の一言でそれらを一蹴した。確かに彼の言う通りヒーローとなるならばのんびりとしている暇はない、特にここ雄英では常にPlus Ultraだ。合理的にヒーローへの道を進むためには必要な試練だ。

 

 「相澤先生、せめて私の自己紹介の時間は頂いてもよろしいですか?」

 

 「ああ、すまない副担任なんてのには慣れていないもので考えていなかった。簡潔に合理的に頼む」

 

 「では、生徒諸君も先ほどから気になっているとは思うが、私は君たち1年A組の副担任を務めることになった。名前は伏せさせてもらうので仮にアルファとでも呼んでほしい」

 

 私の自己紹介を聞いて、一旦は静まっていた生徒達が再び騒めき出した。無理もない、これから生徒達には私の正体を探るという課題をこなしてもらうためとはいえ、副担任ともあろう人物が偽名では、彼らも不安となるだろう。

 

 「さて、私が偽名を用いることに諸君は疑問を持っているかもしれないが、詳しい話はまた私が授業を行う時に行う。あまり長話をしていると相澤先生に合理的ではないと叱られてしまうからね」

 

 「そういうことだ、では全員体操服に着替え次第すぐにグラウンドに集合するように」

 

 それだけ言って、相澤先生は先にグラウンドへと向かった。実に彼らしい合理的な行動だ。誰かを救うために、一人でも多くを救うために彼は合理性を極めていったのだ。これには敬意を払わずにはいられない、人によっては冷徹だとでも捉えられない彼の態度だが、それでも彼は心の中に熱い魂を持つ紛れもないヒーローだ。しかし無駄に生徒達からの評価を下げる必要もないだろう、ここは軽くだが彼のフォローをしておこう。

 

 「諸君、今君たちは担任の先生に少なからず不信感を抱いているかもしれない、それも今は仕方のないことかもしれない、しかし君たちには是非とも良く見るということをして欲しい。それは今だけでない、これから先もよく見ることで得られるものは確かにあるからね」

 

 見るということはヒーローとして活動する上では必ず必要になってくる。それを鍛えるいい機会になることだろう。

 

 「では、そろそろ動き出さないと本当に叱られてしまうからね、私たちも移動するとしよう」

 

 生徒達は不満な表情をしている者もいるが、全員が素直に移動を開始した。私は全員の退出を確認してから最後に出ようと考えていたが、生徒達の最後尾にいた一人の生徒が足を止めたのを見て少し待つことにする。

 

 「デク君どうしたの?」

 

 「あ、うん麗日さん、ちょっとアルファ先生に用事があってね、すぐに行くから先に行ってて」

 

 そんな会話を終えた少年は生徒達が全員退出したのを確認すると私の方に向いて口を開いた。

 

 「何か質問かい、緑谷出久君?」

 

 「あ、僕の名前……」

 

 「当然、副担任ともなるのだから生徒達全員の顔と名前は確認しているよ。それに君は入試の時にも会っているからね」

 

 「凄いや、流石プロは違うなあ」

 

 「はっはっはそうでもないさ、教師となるからにはやるべきことはしっかりやらねばね。それで何か用があるんじゃなかったのかい?」

 

 「あ、はい! ありがとうございました!」

 

 私が促すと、出久君は背骨が折れるんじゃないかという勢いで腰からしっかりと頭を下げお礼の言葉を述べた。急にお礼を言われるようなことには生憎と心当たりがないが、何のことだろうか。

 

 「あなたが入試で、僕に大切なことを教えてくれました。そのおかげで僕はここにいます」

 

 成程、彼の気持ちも理解できるが、それは少しばかり間違っている。

 

 「顔を上げたまえ出久君、確かに私は入試の時に偉そうにあれこれ述べたが、それをどう活かすかは君たち次第だった。そして君が行った行動は間違いなく君自身の魂の奥底から出てきた感情に基づくものだ、つまりは全ては君自身の功績だ。自信を持って胸を張りなさい」

 

 「いえ、それでも僕は先生にお礼が言いたかったんです。それに先生はやっぱりアクション仮面だったんですよね?」

 

 「ああ、その通りさ」

 

 「僕はあなたの大ファンなんです! 一番好きなヒーローって聞かれるとやっぱりオールマイトがすぐに思い浮かぶんです、けど次に思い浮かぶのはあなたなんです」

 

 「それは有難いことだ、しかしオールマイトの次なんて言われると少しばかり過大評価ではないかい?」

 

 「そんなことはありません! オールマイトが平和の象徴なら、僕にとってあなたはヒーローへの道標なんです。僕は前はヒーローに成りたいとは思っても、事情があって成れないと思うことがありました。でもそんな時にあなたの活動を見ました。オールマイト程の圧倒的な力を持っているわけじゃない、それでも絶対に正義の信念を曲げないその姿に憧れたんです。オールマイトみたいに絶対的な強さを持っていなくても確かにヒーローとして活躍するあなたの姿は、僕にとっての光です」

 

 光、その言葉が私の胸に染み渡った。私のヒーローとしての在り方、アクション仮面としての在り方は確かに伝わっていた。その事が無性に嬉しい、複雑な言葉はいらないただ嬉しい。私の憧れたアクション仮面が、目の前の少年に認められた、それだけで今ここに立っている意味が確かにあるのだと実感させられた。

 

 「ありがとう出久少年、その言葉だけで私はアクション仮面としていままで活動してきた全てが報われる気持ちだ」

 

 「そ、そんな大げさな……僕が勝手にそう思っていだけで……」

 

 「いや、本当にありがとう、ただその気持ちだけを素直に受け取ってもらえないかい?」

 

 「は、はい!」

 

 「うむ、それではこれからも君の光として頑張っていこう。おっと、初めに伝えておくが、他の生徒達には私がアクション仮面ということは内緒にしてもらえるかな?」

 

 「え、どうして?」

 

 「詳しくはまた説明する、それよりも少々長話をし過ぎてしまった、相澤先生に怒られないように急ぐとしよう」

 

 そう言って出久君を教室から追い立てる。

 

 「はっはっは……」

 

 誰もいなくなった教室で自然と笑いが零れた。




 大変沢山の評価や感想をいただいており感謝の限りです。あらすじには続くかは未定と書きましたが、この調子だと簡単にはやめられないな。

 数が多いので纏めてにさせてもらいますが、皆さん誤字報告ありがとうございます。


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7話

 「因みに除籍は嘘な」

 

 個性を用いた体力測定、相澤先生曰く個性把握テストが終了した。初日でかつ副担任とうことで私も同行していたが、仕事らしい仕事はなく、専らは機材の準備と片付けのみだった。あまり教師らしいことを行えていないがまだ初日であるのでこんな物だろう。それよりも、テスト開始前に相澤先生が最下位は除籍と言った問題だ。終わった今になってこそ嘘だとは言っているが、その嘘という言葉こそが嘘ではないかと考えている。

 

 「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 確かにそう言われてしまえば納得させられてしまうような気になる。実際に生徒達はその言葉を信じて納得している。しかし、私には、否、私でなくともプロとなったヒーローならば誰でもそれが嘘であると感じるだろう。プロになったものならば力が及ばずに悲惨な思いをした者達が幾人もいることをしっている、それがどれほど残酷で、どれほど辛く苦しいことかも知っている。そんな目に合うよりも前に傷が浅い内に諦めさせることは間違ってはいない。

 

 「相澤先生」

 

 「……なんだ、アルファ」

 

 それは優しさだ。生徒達がいつか辛い目に合わないようにという相澤先生の合理的虚偽だ。だが私にはその優しさこそが残酷であると感じる。幸いにも今回のテストでは全員が相澤先生の目に適ったようだったので問題はないかもしれないが、本当に除籍の可能性があったことを生徒達に知らせておかなければ、彼らは油断する、この程度でいい、流石に除籍なんてことはない、雄英高校に入ったのだから後は道なりに進めばヒーローに成れる、そんな風に勘違いするかもしれない。厳しいかもしれない、だがそれくらいの厳しさがなければヒーローとしてはやっていけない。

 

 「先生が優しい事は重々承知していますが、彼らは今本気でヒーローを目指しています。そんな彼らにあなたの嘘はあまりにも甘く残酷です、彼らを本当に認めたならばはっきりと言うべきでしょう」

 

 「……はぁ、真面目な奴だ。まあ確かにそっちの方が合理的かもしれない」

 

 「あの、一体何の話をされているのでしょうか?」

 

 私と相澤先生の会話の内容がいまいち理解出来なかったのか、クラスの中でも特に真面目そうな少女、八百万百君が口を挟んでくる。彼女は先ほど相澤先生の合理的虚偽が本当に虚偽に決まっていると推測していた少女だ、普通ならばその考えは間違いではない、入学したばかりの生徒を能力不足を理由に簡単に退学にさせるような学校などそうそうない。しかし、ここは雄英高校であり、なによりもヒーロー科だ。そのような普通の考えを持っているままだとどこかで困ることになるだろう。常識や普通、当たり前、そういった誰かが勝手に定めた壁を越えていくこそが『Plus Ultra』なのだ。

 

 「いいだろう、はっきり言ってやる。合理的虚偽という言葉は嘘だ。君たちのモチベーションを維持出来るかと考えた上での合理的虚偽だ。最下位を除籍というのは少し誤りがある、俺は最下位でもなくとも見込みが無ければいつだって君たちを除籍処分にするつもりだ」

 

 「ッ!? それはどういった意図があってのことか説明を戴いても?」

 

 「それは私が説明しよう、一度嘘を吐いた相澤先生では説明し難いだろうからね。最初に誤解して欲しくないのは相澤先生は悪意があって嘘を吐いたわけではない、むしろその逆だ。ヒーローが過酷な職業であることは君たちも理解しているだろう、生半可な覚悟ではどこかで折れてしまうことになる、だからそれよりも前に逃げる道を用意しようというのが除籍の意図だ。そしてなぜそれを隠そうとしたかだが、それこそ相澤先生の優しさだ」

 

 「おいアルファ」

 

 相澤先生が気まずそうに話を遮ってくるが話を止めるつもりはない。

 

 「先生は今回のテストで少なからず君たちを認めたということだ。だからと言って除籍の危機が無くなったわけではない、見込みがないと分かったならば残酷な結末を迎えてしまう前に相澤先生に限らず、私も君たちに除籍を言い渡す」

 

 「それは……少し厳し過ぎるのでは……?」

 

 「確かにそうだろう、しかし君たちはヒーローに成るのだろう? いざヒーローに成った時、自分では敵わないからとヴィランから尻尾を巻いて逃げるのかい? これは試練だ、ここの校訓は覚えているね?」

 

 「それは……Plus Ultra……」

 

 「そうだ、だから君たちには決して慢心しないでほしい。天下の雄英高校に入れたから安泰だなんてことは決してない、ここはまだスタート地点に過ぎない」

 

 私の言葉に生徒達の間に静寂が広がった。無理もない、私自身も言っていることは厳しい言葉だと分かっている。しかしそれを乗り越えてこそのヒーローだ。私の知るアクション仮面ならばきっと笑いながら乗り越える、だから妥協はしない。

 

 「……はぁ、全く合理的だ。まあそういうこった、全員気を引き締めていけ、俺はいつだって君らを容赦なく除籍にするぞ。今日の所はこれで終わりだからな、一度よく考えてみるといい、本当に自分がヒーローとしてやっていけるかな」

 

 相澤先生はそう言うとそっぽを向いて校舎の方に戻っていった。

 

 「明日の授業からは私も本格的に参加する。いろいろ厳しいことを言ったとは思う、しかしそれを全て乗り越えてこそヒーローだ。諸君らの研鑽を期待する」

 

 いまだ呆けている生徒達を後にし、相澤先生の背中を追う。願わくば彼らの中から脱落者が出ないことを祈ろう。

 

 




 気が付いてる人もいると思うけどデク君がデク君って呼ばれ始めるのは初日の放課後だったりとか、なんやかんや原作と微妙にずれてるけどそれは伏線とかそういう上等な物ではなくただ単に作者のミスです。アルコール摂取しながら原作をパラパラ見ながら書いているのでそういったミスが結構あります、設定に大きな問題が出るようなところはすぐに直しますが時間もないので細かいところは余裕があれば直しますので、なにか間違いを見つけた場合はこいつ間違ってるなあと静観するか、おいこら間違ってんぞと報告するか、この二次創作ではそういう設定なんだなあと納得しておいて下さい。

 いつも誤字報告ありがとうございます。誤字報告が多いことを感謝すべきか、誤字が多いことを反省すべきか……


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8話

 遅くなった。


 「オールマイト、まだ時間に余裕がありますが……?」

 

 本日は雄英高校の1年A組の副担任となって授業二日目、今回は生徒達がそれぞれヒーローとヴィランのチームに分かれての模擬戦を行った。生徒達は初めてのヒーロー科らしい授業ということで気分も上がっていた中でそれぞれが自分の全力を出してよく頑張っていたと思う。ただ細かい点を上げればまだまだいくらでも改善の余地がある、その辺りの事は授業担当のオールマイトがしっかりと伝えてくれていたと思う。

 しかし全チームの模擬戦が終わった今、授業の時間はまだ余っていた。

 

 「当然、それも計算の内さ。アルファ、ここは一つ我々で生徒達の模範となろうじゃあないか」

 

 「というと?」

 

 「私と君で生徒達と同じルールで戦おうじゃあないか。一対一では戦略性が少ない、それぞれ一人生徒を付けてでどうだ?」

 

 余った時間も計画の内であったようで、教師陣による模擬戦がオールマイトにより提案された。ここは是非行っておくべきだろう、私も平和の象徴であるオールマイトにどこまで通用するか確かめてみたい気持ちもある。それになによりプロ同士の戦闘は生徒達にとって良い勉強となるだろう。

 

 「成程……、チーム分けはどうしますか?」

 

 「君さえよければだが、ヴィラン側を頼む」

 

 この模擬戦のルールではヴィランは建物内で時間まで核兵器を模したオブジェクトを守り切れば勝利、対してヒーローはヴィランの確保、または核兵器の確保が勝利目標だ。オールマイトの実力はある程度把握している、私も決して負けるつもりがあるわけではないが、やはりオールマイトに対して防衛側に周るというのは困難であるように感じる。ただ勝利だけを目指すならばヒーロー側で上手くオールマイトを出し抜いて核兵器を確保することが確実だろう。しかしそれではいけない、私はヒーローなのだ。

 

 「いいでしょう、私はヴィラン側に」

 

 困難であるならば、そこに壁があるならば乗り越えていかなければいけない、それがヒーローだ。実際の現場では悠長に壁を乗り越えている暇はないかもしれないが、これは模擬戦だ、存分に乗り越えさせてもらおう。

 

 「決まりだな、それで付ける生徒だが指名式にしよう。本当は公平にランダムにするべきなのだろうが、生憎と既に戦闘不能になっている者もいる。ここは彼らに不満が出ないようにあえて私たちが選ぼうじゃあないか」

 

 「いいでしょう、私から指名させてもらって?」

 

 「勿論、チーム決めでは譲ってもらったからね」

 

 さて、そうと決まれば私が指名する人物は自身の相性などを考慮して選ぶことが最善なのだろうが、はっきりいって未だヒーローの卵である生徒ならばこちらが合わせることで誰とでも上手くやれる自信がある。ならばここは自身の直観を信じてみよう。

 

 「では峰田実君、私と一緒に戦って貰えるかい?」

 

 「え!? おいら!?」

 

 誰が選ばれるかと緊張した面持ちでいた生徒達の中から頭がブドウのようになっている生徒を指名する。肝心の本人は自分が選ばれるとは思っていなかったようで随分と驚いているようだ。

 

 「ああ実君、ダメかい?」

 

 「そ、そんなとんでもない! でも本当においらでいいんですか?」

 

 「ああ、自信を持ちたまえ。君は少し自己評価が低いように感じるぞ」

 

 どうにも彼はあまり自分が凄いとは感じていないようだが、雄英高校に入学出来ている時点で他のヒーローの卵達とはちょっぴりだが先を行っている、それは十分に凄いことだ。それに彼の個性は単体ではそれほど強力な物とは言えないにも関わらず上手く使いこなすことにより、かなり有用な物にしている。個性を上手く扱うことに掛けてはクラス内でもかなりの物であると感じている。それが私が彼を指名した一番の理由だ。

 ただそれだけでなく彼はどうにも女好きのようで、時折セクハラ紛いの行動を取っている。やり過ぎれば勿論ヒーローとして見過ごしておくわけにはいかないが、その好色ぶりを見ているとどうにも思い出すことがある。私の夢であるアクション仮面、そのアクション仮面のとびきりのファンだった嵐を呼ぶ少年の姿が実君を見ていると思い起されるのだ。それが彼を選んだもう一つの理由だ。

 

 「は、はい! おいら頑張ります!」

 

 「うむ、いい返事だ」

 

 好色な面を除けば素直で良い子であると思う。

 

 「決まったようだね?」

 

 「ええ、そちらは?」

 

 「私は彼と組むことにした」

 

 そう言ってオールマイトが指したのは、飯田天哉君だった。彼は入試の時にも見かけたが、真面目でヒーローにとても向いている少年だと思う。なによりもその個性、エンジンと呼ばれるそれにより彼は驚異的なスピードで移動することが出来る。素早いことは戦闘においてはかなりの優位性だろう。それになにより速いことはヒーローにとって最も重要であると言っても過言ではない。ヒーローはいつだって遅れてやってくる、そう言われるようにヒーローはいつだって事件が起きてからしか動けない、そんな時に一秒でも一瞬でも早く現場に駆け付けることがヒーローには求められる。天哉君本人はその重要性は未だ理解が薄いように感じるが、それは模擬戦の後でアドバイスをするとしようか。

 

 「それでは作戦タイムを設けて後にスタートしよう」

 

 さて、それではオールマイトに勝つために、壁を超えるために、しっかりと計画を立てるとしよう。

 

 




 遅くなったうえに短いとかいう無能は私です。
 言い訳をすると遅くなったのはdeltarunaをプレイしていたせいであり、短いのは次の戦闘シーンに向けての繋ぎだからです。これ言い訳になってねえな。
 すまねえすまねえ、次話から本気出す。きっと、たぶん、メイビー。


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