ゆるいキャンプin異世界 (Re鯖)
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第一章 肩代わりの栄誉
キャンプ場は綺麗に使いましょう


普段書いてる小説がこれっぽっちも筆が進まないけど何か書かないと落ち着かないから色々書いてたら割と溜まってきたので投稿してみようと思います。


 私には、何の取り柄もないと思っていた。

 貧しい人達から見ればふざけるなと殴り殺されるかも知れないが、思ってしまったものは仕方ない。この世界における貧富の差は重々理解しているからそれで許してくれるはずがないが許してほしい。

 恵まれた家柄と、恵まれた容姿。それ自体が取り柄だという人もいるかも知れないが、人は誰だって努力して着飾ればそれなりのものにはなると思っているし、そもそもそれだけのものを持っているのに親の操り人形だった私にとってそれらは溝に捨ててしまったも同然だ。

 そんな私が変わることができたのは、あの超がつくほどのお人好しが教えてくれたあのゲームがきっかけだ。

 ユグドラシル。

 日本におけるDMMORPGの金字塔とも言えるそのゲームに、早い話がのめりこんだ。現在ではとても体験できない広大な自然。身一つで空を飛ぶという経験。

 そして何より、一緒に夢中になって取り組む事ができるかけがいのない仲間。

 現実世界で最も欲していたものをユグドラシルは与えてくれた。

 何があってもユグドラシルだけは続けようと努力した。

 現実でのクソみたいな作業が日に日に増えていっても、ユグドラシルがあるから私は頑張れたような気がした。

 

 けど、この空っぽの円卓を見ると思う。

 もっとうまくやれたんじゃないかって。最終日くらいみんな集まれるように出来たんじゃないかって。

 

 でも、言わない。皆それぞれ事情がある。

 それにそんな事を口に出せば目の前のこの人はきっと壊れる。

 こんな見た目のくせして誰よりも優しかった骸骨さんは、きっと。

 

―――――――――――――――――――――

 

「へー、じゃあモモンガさんとアンさんでずっと維持費稼いでたんですか。維持費も馬鹿にならなかったでしょうに……」

「そうでもありませんよ。アンさんが地道な作業結構得意で、ログインした時にはノルマの3倍稼いでたなんて日もありましたもん」

「いやいや、あの日は奇跡的なまでにオフだっただけさ。事実そんなことはあの一度きりだっただろう」

「……モモンガさん、休日って都市伝説じゃなかったんですね」

「あはは……」

「……ごめん」

「いえ……っていうかスルーしてましたけどなんですかその口調」

「色々あったのさ、色々ね。敬語の方が良いかい?」

「別にどっちでもいいですけど……」

 

 ユグドラシルのゲーム内に存在する巨大なダンジョン、『ナザリック地下大墳墓』。現在ではギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド拠点となっているそのダンジョンの最深部。巨大な円卓が備え付けられてある部屋にて3人のプレイヤーが雑談を交わしていた。1人は紫色の粘液の体を持つスライム。1人は豪奢なローブに身を包んだ骸骨。1人は陶磁器のように白い肌と短髪が特徴の女型の天使。

 

「って、もうこんな時間か。すみません、自分もう落ちます。流石に眠すぎて……」

「ん、それなら仕方ないな。体は大事にしなくては」

「ですね。ヘロヘロさん、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした、モモンガさん、アンさん。また、どこかで会いましょう」

 

 表情こそ何も変わらないが、声色からして疲労を滲ませていた古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)、ヘロヘロが最後にそんな言葉を残し、その空間にいるのはアンさんと呼ばれた天使とモモンガさんと呼ばれた骸骨だけとなった。しばらくの間、両者の間にやや気まずい沈黙があったが、そんな雰囲気を払拭するかのようにアンさん、アンサング・ドールが言葉を紡ぎ出した。

 

「ふぅ、もう後20分か。サービス終了が発表されてからあっという間だったな」

「はい、とりあえず、ナザリック地下大墳墓が完成して何より、って感じですね」

 

 両者のやりとりに、悲しさを感じさせるものはなかった。互いに流せるだけの涙は流し尽くした。互いに翌日の仕事に支障が出るレベルで運営への文句をひたすらに愚痴りあった。ギルドメンバー全員で作ったこのナザリック大墳墓は最後を迎えるにふさわしいだけのものになった。思いつく限りでやり残したことは何もない。

 

「さて、私はもう行くよ。モモンガさんも好きにするといいさ」

「え、もうログアウトするんですか?」

 

 立ち上がり、円卓の間を出ようとするアンサングに対し、モモンガはどこか寂しがっているかのような声色で問いかけた。アンサングは足を止めた。こういう人だから、みんなこの人についていったんだろうな。そんな事を思いながら、アンサングはモモンガの方を向き、言葉を紡ぎ出す。

 

「まさか。外に出て適当なところを飛び回るさ」

「だったら別に大墳墓を出なくても」

 

 引き留めようとするモモンガを右手で静止、声だけでも悪戯めいた笑みを浮かべているであろうことがわかる口調でアンサングが言葉を紡ぎ出す。

 

「いいかい? 私は最も付き合いが長くなったモモンガ君との別れが運営による強制切断なんてのはごめんなのさ。最後の我儘ということで聞いてはくれないかい?」

「そうですか……わかりました。じゃあ、アンさん。またどこかで」

「うん、その時はまた皆でバカをやるとしようじゃないか」

 

 そう言い残すと、後腐れなく出ていくためだろうか、その指にはめたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを外し、円卓の上に置いた。アンサングは最後に優雅に一礼をした後、ナザリック地下大墳墓を出ていった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「次、か……」

 

 このギルドにずっと寄り添い続けてくれた唯一の存在が去り、とうとう自分1人となった円卓の間にて、モモンガはそうつぶやいた。ナザリック地下大墳墓。この一室だけを見ても、相当な手間と時間がかかったことが伺えるモモンガ達のギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点。モモンガはそんな部屋の風景を見渡しながら、部屋の壁に鎮座している絢爛豪華な装飾が施された杖『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を見る。このギルドの象徴であり、輝かしい記憶の残滓でもあるその杖を、モモンガは手にとった。

 杖を見ていると、この杖を造っていた頃の思い出が蘇ってくる、杖にはめられている宝石1つ1つを入手するために仲間とした苦労も、完成した時に分かち合った喜びも、このギルドが歩んできた道筋も。

 もっと続いてほしい、終わらないでほしい。そんな叶うはずもない願いが思考を支配する。

 

「いや、気にしたところで仕方ないな」

 

 そんな思考を頭を振ることで払拭した。流すだけの涙は全て流し尽くした。なら後やることはおとなしくこの終わりを受け入れることだけだ。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取り、席を立ち、その場を後にした。

 

「ギルドの皆も、今日くらいは俺の勝手にしても許してくれるよね」

 

 向かった場所は、自分が本来座すべき玉座の間。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「次、か……」

 

 ナザリック地下大墳墓を出たアンサングは、転移門を利用してアンサングが知る限りこのゲーム内で2番目に空が綺麗な場所に来ていた。その背にいびつな形の白い翼を生やし、空を舞う。その動きは非常に洗練されたものであり、素人が見たとしても、その技術は極まっているのだろうとわかるレベルの美しさを持ち合わせていた。

 

「まったく、あいつも最終日ログインするくらいの甲斐性はないのか。誰かが困ってるぞお人好しな誰かが……いや、仕方ないか」

 

 ギルドの仲間にしか意味はわからないであろう自問自答を一つした後、再び空を駆け抜ける。仮想世界に関する法整備が整っている現在では五感に関する規制はかなり厳しいものとなっているため、風をその身に感じることはない。だが、視覚や聴覚から得られる情報がそれに近いものを錯覚させてくれる。

 

「この空ともお別れか……」

 

 同じギルドの仲間であるブループラネットから教えられて初めてここに来たときにはひどく感動したものだとアンサングは当時の事を思い出す。プレイエリアの関係上どこまでもというわけにはいかないが、それでもどこまでも飛んでいけるのではないかと思ってしまうようなあの時の感動は今でも忘れられない。とはいえ、そのブループラネットが作った夜空は更に凄まじいものだったのだが。

 

「さて、そろそろか……」

 

 この空での感覚を少しでもこの身に焼き付けようと夢中になって飛び回っている間に思った以上に時間が立ってしまったようだ。ユグドラシルのサービス終了まで3分を切っていた。もう一度ナザリック地下大墳墓に戻り、モモンガと会いたいという欲が芽生えるが、プライドがそれを抑え、上空にて滞空する。

 

「すぅ……」

 

 気持ちの問題ではあるが、夜空の中で大きく胸を反らし、息を吸い込む。

 

「運営のぉ……バカヤローーーー!!!!」

 

 どこまでも響くようなその絶叫とともに、その怒りが形を成したかのような白い光の柱が地面に降り注ぎ、地面を抉る。威力そのものは大したことはないが、カルマ値がマイナスに振れているキャラに対して特攻効果を持つ第9位階魔法〈塩の柱(ネツィヴ・メラー)〉。見た目が派手というだけでアンサングのお気に入りとなった魔法の1つだ。

 

「不親切すぎるんだよおおおお!! 自分勝手に作って勢いが落ちたからって消えやがってええええ!! 敷居高すぎるだろうがああああ!!」

 

 そんな叫び声と共に塩の柱が乱射され、地面がえぐられる。最初は運営に対する文句から始まったが途中からはギルメンや自分自身、果てには装備やアイテムにまで愚痴を放つ始末。時折思い出したかのように塩の柱を乱射して地面を抉り木々を吹き飛ばす。早い話がそうして少しでも悲しみを和らげようとしているのだ。

 

 次。

 

 そんなものに捧げられる情熱が自分の中にあるとはとても思えなかったから。

 

「あああもおおおお!!!! ああああああああああ!!!!」

 

 最終的には愚痴も尽きてひたすらに叫びながら塩の柱を乱射し続けた。もはや自分でも何にキレているのかわからない状態だが、人間こういった行動をすると自然とハイになってくるもので、だんだん楽しくなってきたアンサングは喉が枯れ、MPが切れるまで塩の柱を乱射し続けた。

 

「…………ん?」

 

 そんな彼女が日付が代わってもログアウトしないことに気がついたのは、朝日が昇り始めてからだった。

 

――――――――――――――――――

 

 その日、その村の者達は世界が終わろうとしているのを見てしまった。

 村の近郊の上空にまばゆい光と共に彼らにとってはお伽噺の中での存在でしかない天使が降臨したのだ。

 結晶のようなもので構成された歪な形の翼と頭部に浮かぶ輪。光り輝くその姿はお伽噺のそれとはかけ離れたものではあったが、村人達にそれが天上の存在であることを確信させ、いっそ恐怖すら感じてしまうほどに美しいその風貌は村の者達の視線を釘付けにした。

 だが、次の瞬間、そんな魅了は一瞬にして解かれた。

 

 まるでこの世の全てを呪おうとするかのような叫び声とともに、気味が悪いほどに白い光の柱が降り注ぎ、地面を抉り、森を焼いていく。純白の極光は衰えるどころか加速度的に勢いを増していき、そう遠くないうちに村にまで光の柱が降り注ぐのではないだろうかという勢いを見せていた。村の者は大急ぎで最低限の荷物をまとめて一目散に逃げ出した。突如現れ、ひたすら破壊を撒き散らすあの天使の力から逃れるために。

 事実、その光が収まるまでに、その村の半分の家屋が吹き飛ばされてしまった。特に魔法への知識など持っているはずもない村人達が組み上げた家屋など塩の柱の前では紙切れにも満たない塵であったのだ。

 

「…………おい、マジか」

 

 まぁそれを見つめる彼女は内心で冷や汗が大量に伝っていたのだが。

 

-・-・-・-

 

(何だ何だ何だ何だ!? わかんない、全部わかんないぞ!?)

 

 表面上は無表情。というかアンサングの外見は見せかけのものであるため表情が動くはずがないのだが、彼女の内心は荒れに荒れていた。

 わからない。何が起きているのかも、ここがどこなのかも、そもそも何がわからないのかもわからない。

 テンションに任せて塩の柱をブッパし続けていたら見知らぬ大地に飛ばされ、なにがなんだかわからないうちに地表を見てみれば明らかに自分がやらかしたと思われる荒れ地が広がっており、所々には多分建築物であっただろうものの残骸があった。

 

「おいおい……」

 

 もしも他のプレイヤーの、建築物の材質から見て初心者が苦労して建てたものならばアンサングは罪悪感で軽く死ぬ自信があった。苦労して組み上げた建築物がログインしたら更地になっていたとか泣くに泣けない。

 とりあえず降り立って周囲の状況を確認しようとするアンサングだったがここである異変に気づく。

 

(焦げ臭い……って、臭い!? 電脳法も無視とか攻めすぎだろ運営!)

 

 風に乗って自分の元へやってきた木々の焦げる匂いは、本来なら知覚できてはならないもののはずだった。嗅覚と味覚は電脳法において干渉が一切禁止されている項目であるため、こういった仮想世界においては匂いや味は存在しないものでなければならない。にもかかわらず、アンサングは木々が焼ける匂いをはっきりと知覚していた。

 

(とりあえず、装備とか見た目はユグドラシルのままだし、モモンガさんに連絡をとってみよう)

 

 もしもユグドラシルの運営が最終日の日付が変わるまでに粘ってくれたプレイヤーたちに対してサプライズ的なものを送ってくれた、もしくはユグドラシルの後継ゲームに繋いでくれた(これも法律的にはアウト)のだとしたら当然この恩恵は彼女の友であるモモンガにも伝わっているはずだ。そう考えたアンサングは〈伝言(メッセージ)〉でモモンガとの連絡を取ろうとするが、

 

「えぇ……」

(コンソールがでなければログアウトの仕方もわからない、GMコールも使えない。少しはUIってものを考えたらどうなんだ……)

 

 もはや体に染み付いたとも言える操作をしても何も起こらなかった。確かにユグドラシルの運営はいろいろ不親切かも知れないが、最低限度のUIは保持していたユグドラシルがとうとう全てを振り切ったか。アンサングがそう考えていると、

 

「うわっ」

(頭の中にコンソールが。気持ち悪いな……)

 

 イメージの中に突然ユグドラシルで見慣れたコンソールが現れたのだ。いや、正確にコンソールではなく自分のステータスや使える魔法、再詠唱時間などが感覚的にわかるのだ。視覚を介して情報を見ているわけではないため若干の気持ち悪さを感じつつもこれが新しい操作方法なのだろうとアンサングは割り切り、慣れた様子で魔法の中に存在する〈伝言〉を選択してモモンガとの連絡を取ろうとするが、

 

「……繋がらない、か」

 

 どこか諦めを孕んだような口調でそうつぶやいた。

 繋がらなかった。抽選制なのだろうかとも思ったが流石に抽選でこんな事をするほど余裕があったらユグドラシルはもう少し続いていたことだろう。〈伝言〉の仕様が変更されたか、もしくはモモンガが〈伝言〉の届かないような場所にいるか。

 

「…………」

 

 建物だったであろう残骸の周りを歩き回りながら思考を巡らせる。

 とりあえず、この世界はユグドラシルではないことだけは確かだ。木々の焼ける匂いや、風を受ける感覚がある。これは味覚や嗅覚などの五感への干渉を制限している電脳法を犯しているものであり、即座に通報されてアウトだろう。

 ユグドラシルではない別のゲームに閉じ込められた。そう考えるのが最も濃厚な線だ。言い逃れなど不可能な犯罪であり、そうすることによるメリットは少なくともアンサングには思いつかないが、理由など一々考えられるほどの情報を現状持ち合わせていない。

 他に考えられる可能性として上がったのは仮想世界が現実となったということ……それこそありえないことだ、小説の読み過ぎである。そう考えアンサングはその案を即座に弾いた。

 何にせよ、いつになったらログアウトできるのかもわからない以上、落ち着くことができる場所がほしいというのが目下の目標だ。村はユグドラシルでもモンスターに襲撃されることが珍しくなかったため王国の都市とまでは行かずとも小都市くらいには居着きたいところだ。

 

(ナザリック地下大墳墓があればいいんだが……モモンガさんすら居るのかどうかわからないからな。そんなご都合主義期待できる運営でもないし)

「……よし」

 

 とりあえず当面の目標が決まったが、何にせよ、真っ先にやるべきことはただ1つ。

 

「真っ直ぐな木……真っ直ぐな木……」

 

 やらかした建物の代わりを建てるための材木集めだ。

 




オリ主至高の41人系が何番煎じかは知りませんがゆる△キャン見ながら本能の赴くままに書いたらこうなりました。至高の41人の男女比は37:4になってます。


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その頃お墓では

前回の段階で割と多くの方に読んでいただいたようで幸いです。今回は主人公の説明回です。


 アンサング・ドール。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー41人の中では比較的後期に加入したプレイヤーだ。勧誘したたっち・みー曰く、リアルの知り合いでDMMORPGは初めてではあるがなんでもそつなくこなす人で、悪い人ではないのだとか。

 事実、彼女は有能だった。メンバー達から教えられる知識をまるでスポンジのように吸収し、気がついたときには使いこなしており、得意分野でなければ抜かされることも珍しくなかった。

 アンサングが知らないダンジョンに連れていけば初心者プレイヤーにしたってもう少し落ち着いているだろうと言いたくなるレベルには様々なリアクションを見せ、本当にこのゲームを楽しんでいるのだろうとついつい同行者まで楽しくなってしまうため、よくメンバーと一緒にはしゃぎながらダンジョンへ向かうのをモモンガは見ていたし、同行することも珍しくなかった。

 

 そしてモモンガにとっては、このギルドに居続けてくれた恩人でもあるのだ。別にギルドを抜けたメンバー達を責めているわけではない。誰にだってリアルの事情があり、仕事がある。何ならいつまで経っても同じゲームをやり続けていたモモンガやアンサングの方が珍しいし、どこかおかしいのだろう。

 互いにほぼ毎日ログインはしていたもののログインする時間が合うのは週末程度で、その時にすることと言えばアインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリック地下大墳墓を維持するための稼ぎと雑談くらいのものだ。既にアンサングは他のゲームもいくつかやっているらしく、完全に自分の我儘で稼ぎに付き合わせている(と勝手に思っている)モモンガはこんな事を言ったことがある。

 

「別にわざわざ稼ぎに付き合ってくれなくてもいいんですよ? やろうと思えば自分1人でもできますし」

 

 ある種拒絶にも聞こえたであろうそのセリフに対し、アンサングは笑顔のスタンプと共にメンバーが少なくなってから少しでも雰囲気を明るくするために喋り始めたタメ口で答えた。

 

「突然何をいうかと思えば。ここは私にとってホームであり実家であり主戦場だぞ? そんな所の手入れもしないような奴になるのは私の望むところではないさ」

 

 そして、彼女は再び稼ぎに戻った。自分以外にもこのギルドを親身に思ってくれている人がいる。わかっていたはずのその事実に、モモンガはふと泣きそうになってしまった。

 

「さぁ、早くノルマを終わらせてしまおうモモンガさん。早くあれを完成させてしまわないとな」

「……そうですね」

 

 全盛期と比べれば拠点を除き見る影もないほどに小さい、もはやクランと呼んでも違和感のない組織となってしまったギルド「アインズ・ウール・ゴウン」。サービス終了まで難攻不落を貫いた大墳墓は、存外穏やかな気性の者達によって支えられていたのだ。

 

-・-・-・-

 

「アンさん? ……アンさん!!?」

 

 それは、ナザリック地下大墳墓がNPCやモモンガごと転移した日の翌日のことだった。突如としてモモンガ宛に届いた〈伝言〉。自分以外のプレイヤーが転移している可能性をこの時点ではまだ保持していたモモンガは、突然のそのメッセージにひどく動揺する。即座に精神の安定化が発動するが、それも数回発動しなければ抑えが効かないレベルだった。

 突如として至高の41人の内の1人であるアンサング・ドールの名前が出たことに周囲の守護者たちの間にざわめきが走るが、モモンガはそんなことはお構いなしに〈伝言〉を続けようとする。

 

『アンさん、今どこに居るんですか!? すぐにそちらに向かいます!』

『……繋がらない、か』

『……アンさん?』

 

 その一言だけを最後に、〈伝言〉は途切れてしまった。

 繋がっていますよ。そんな一言すらも、モモンガは言うことができなかった。彼女の声があまりにも弱々しかったからだ。

 ハッと我に返ったモモンガは再びアンサング宛に伝言を送るが、つながることはなかった。

 ユグドラシルが終わるその日まで、思えばモモンガはアンサングが本気で落ち込んでいる姿というものをほとんど見たことがなかった。課金ガチャで爆死したときも、万全の準備をして挑んだクエストが失敗に終わったときも、いつだって彼女は落ち込むことこそあっても諦めるようなことはなかった。

 そんな彼女など見る影もないような声だった。それだけのことが今彼女の身に起こっており、なおかつ〈伝言〉が一方通行にしかならないような異様な状況下にある。それだけでもモモンガはすぐさまアンサングを探しに行きたいという衝動に駆られたが、それは即座に精神の安定化によって抑制された。

 

「アルベド」

「モ、モモンガ様? 如何なされましたか?」

「アンサングさんが何らかの危機的状況にある可能性がある。ナザリックの防衛レベルを最大に引き上げ、大至急探索部隊を構成してアンサングさんの捜索にあたれ」

「っ!! ……かしこまりました」

 

 己の主であり愛する者でもあるモモンガの様子に心配そうな表情を浮かべていたアルベドだったが、モモンガから告げられた言葉を聞いてハッと息を飲んだ。その後、すぐさま表情を引きしめ頷き、〈伝言〉を飛ばし始めた。

 

 実際のところは、アンサングの素のテンションがモモンガが知っているそれの数段低いだけなのだが。

 

―・―・―・―

 

(これは、計画を変更する必要があるな……)

 

 アルベドに守護者への指示を一任し、玉座の間へとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移する。自分が本来座すべきである玉座の間には情報系のアイテムや魔法を完全に防ぐことができるワールドアイテム、『諸王の玉座』が有る。アンサングが何らかの危機的状況に巻き込まれている可能性がある以上、その矛先がモモンガやアインズ・ウール・ゴウンそのものに向く可能性は十分にあり得る。探査系の魔法への対策を取るのは至極当然のことと言える。

 先程までと比べればある程度落ち着ける場所にて、玉座に腰掛けたモモンガは思考を巡らせる。

 

(アンさんもこの世界に居るってわかったのは大きな収穫だ。だが、それ以上にアンさんの身に何が起こっているのかを知るのが先決か……)

 

 先程起きた現象。〈伝言〉の一方通行はユグドラシルにおいて知らないほうが少ないと自信を以て言うことができるモモンガであっても未知のものだった。〈伝言〉そのものが通じないということならば何らかの阻害魔法の影響によるものと考えられ、ユグドラシルプレイヤーが他にも居るという結論に至ることも容易である。

 だが、あちらの〈伝言〉は届くのにこちらの〈伝言〉が届かないというのは少なくともモモンガは聞いたことがない話だった。

 この世界特有の何らかの魔法やアイテム。それらを操った敵対勢力の存在。アンサングの現状。考えなければならないことに思考が散らばるが、ほんの少しした後に落ち着きを取り戻し、再び思考を巡らせた。

 

(何だ……? 少なくとも、ユグドラシルのものではないはずだ。アイテムや装備なら魔法を跳ね除ける装備の中に〈伝言〉も弾けるものがあったか……? いや、それにしたって少なくともアンさんはそんなの装備してなかったはずだし……ん?)

 

 ここまで考えた中でモモンガの思考に何か引っかかるものがあったため、更に思考を広げていき、記憶を掘り下げていく。

 そして、今現在もアンサングがまとっているであろう装備。元ギルドメンバーであるあまのまひとつとタブラ・スマラグディナ謹製(素材提供たっち・みー、餡ころもっちもち、ぶくぶく茶釜、やまいこ)の設定てんこ盛り堕天使装備に思い至った。

 

「……はぁ~」

 

 骨の手を頭蓋に当て、大きなため息を1つついた。そこに含まれているのは安堵と疲労。万が一に記憶に間違いがあってはならないと判断したモモンガは玉座を後にし、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で転移した。

 

―・―・―・―

 

 モモンガが転移した先はナザリック地下大墳墓の第9階層に存在する巨大図書館、「最古図書館(アッシュールバニパル)」。別に守護者達に見られてどうこうなる話でもないが、なんとなくコソコソとモモンガが目的の本を探していると。

 

「これはこれはモモンガ様。最古図書館にどのような御用向きでしょうか」

「っ……ティトゥスか。いや、少し探しものをな」

 

 モモンガの視線の先に突如として人と動物が融合したような骨格をしているスケルトンが現れた。彼の名はティトゥス・アンナエウス・セクンドゥス。この最古図書館の司書長を任されているアンデッドだ。

 

「非才の身ではありますが。命じてくだされば即座にご用意致します」

「そうか……では、タブラさんが記したアンサングさんのシナリオ本(伝記)を頼む」

「かしこまりました」

 

 そう言い深く頭を垂れると同時にその場から姿を消した。正直な所流石のモモンガもこの図書館のどこに何があるかを詳細に把握しているわけではないためラッキーだったな程度に思った。

 

「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか」

「早っ……んんっ、ご苦労だった。感謝するぞ」

 

 だが、2秒かかるかかからないかという圧倒的速度で、しかし図書館内には埃1つ舞わせること無く再びティトゥスが現れた。それもそのはず。ティトゥスからしてみれば初めての至高の御方から直々に下された命令。これを自分にできる最高の、否、それ以上の働きを以て応じようとすることはナザリックの守護者ならば当然のことと言えた。

 

「感謝などとんでもございません。ここを預かる者として当然の事をしたまでのことです」

 

 ああ、君もそんな感じなのね……。内心で若干辟易しながらも、モモンガは本を片手にその場を後にし、玉座の間へと戻った。

 

「さて……」

 

 玉座に腰掛け、そこそこな厚さを持つその本をパラパラとめくり始めた。

 この本は、アンサングが自身のキャラに対して込めようとした想いに非常に強い感銘を受けたタブラ・スマラグディナが記したTRPGシナリオだ。天上界にて神々の尖兵としてありながら、神々の意志に疑問を持ち、神の意のままに生きるしかない生命全ての為に抗い続けた堕天使。アンサング・ドールを中心としてストーリーが進められるそれは、何度かギルドメンバー達が夢中になってプレイしたこともあるほどにクオリティが高いものだ。当の本人はなんとも微妙な反応ではあったが。

 これと現状に何の関係があるのかと言えば、この本に記されている「アンサング・ドール」というキャラの設定は、その殆どがアンサングの装備のフレーバーテキストとして流用されているのだ。アンサングのレベル100到達記念&誕生日(情報源たっち・みー)プレゼントとしてギルドメンバー達からプレゼントされたそれは、流石に神器級とまではいかないもののどれもが当時のアンサングからしてみれば装備することも恐ろしい一級品ばかり。アンサングは神器級の装備を作成することができるようになってもそれらを手放さず、よほど難易度が高い戦闘でなければサービス終了日までメイン装備として装備し続けたため、もしアンサングがこの世界に来ているならば今もその装備を着用している可能性が高いのだ。

 そして、この世界においてフレーバーテキストがどれほど重要な存在であるかはナザリックの守護者達を見ても明らかだろう。ならばここに何らかのヒントがあるのではないだろうか。モモンガはそう思ったのだ。

 

(ええっと……)

 

 思えばこの本はGM(ゲームマスター)を務めることが多かったタブラを始めとしたギルドメンバー数人以外が読むのはご法度という暗黙の了解があったため、モモンガ自身読むのは初めてであった。設定などがあれば楽なのだが……そう思いながらページを捲っていると。

 

(お、あったあった)

 

 流石はメインキャラクターと言うべきか、しっかりとアンサング・ドールに関する設定がまとめられたページを見つけたため内心でガッツポーズをしたモモンガはそのページを読み進めていく。

 

―・―

 

『失楽の聖鎧』

 堕天したアンサングは天上においては過去類を見ない大罪を背負うこととなった。いくらアンサングが天使長とはいえど所詮は神の尖兵。神と天軍の追跡を逃れるのは不可能であった。だが、神の中にはアンサングと同じように現在の天界に疑問を抱く者も居た。そのような神々から原罪とは名ばかりの加護を与えられた鎧。元々は天使長が装備するものとして作成されたものではあるがその性質は大きく変質しており、(中略)これを着用した事により、アンサングは神々の追跡や探査魔法から逃れる事が可能となった。だが、それと同時にアンサングはこの鎧によりかつての仲間の声も届かぬ領域へと至ってしまったのだ。

 

―・―

 

(えぇー……)

 

 その一節を読んだだけで何かが折れた音がしたモモンガはそれ以上読むこと無く本をパタリと閉じて途方に暮れた。精神の安定化が発動した。

 もしこれがまともに反映されているのならば探査魔法やアイテムの類は全て意味をなさないものとなる。というかテキストが本当に忠実に再現されているのなら何らかのアイテムや魔法を介して探そうとする場合ワールドアイテムや超位魔法でなければまるで役に立たないということもあり得る。

 どこまで広がっているのかもわからないこの世界で有効な探査方法は実質目視のみ。これで途方に暮れるなという方が無理な話だ。

 

(……アンさん鎧脱いでくれないかな)

 

 そんなアホらしい事を考えてしまうほどには無理難題なのである。

 

(けど、まだアンさんが危機的状況にあるっていう可能性がなくなったわけじゃない)

 

 とりあえず、アンサングと何故か連絡が取れない理由に関してはかなり強い理由を得ることができた。だが、彼女の口調などから、何らかの面倒事、とまではいかなくとも困っていることは確かなはずだ。そう考えたモモンガは再び緊張感を取り戻した。

 

(……何にせよ、まずは情報が必要だ。地理や国の情勢だけじゃない、この世界で俺達はどの程度の強さなのか、他にプレイヤーはどの程度居るのか。それと並行してアンさんの捜索を行おう)

 

 とは言え、現実を変えることは流石のモモンガにもできない。とりあえず、モモンガが何をするにしても情報が少なすぎる。モモンガが背負っているものを考えればうかつには動けない以上、早く様々なことをかなぐり捨てて仲間を探しに行きたいという衝動は無理やり押さえつけられ、ナザリックの主としてモモンガは行動を開始した。

 




基本的にナザリック勢は原作通りの行動をしますがアンサングを害した何らかの存在が居ると思っている&早くアンサングを見つけ出したいため原作以上に慎重かつやる時には大胆にやります。とはいえ一々書いてたらテンポが悪いって次元じゃないので原作通りの部分はある程度端折ります。
一応アニメを繰り返し見たり原作とwikiと睨めっこしながら書いていますが不思議に思った部分があればどんどん感想欄で言及してくださると幸いです。


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どこをキャンプ地とする?

いきなりバーに色がついて戦々恐々としている作者です。お気に入りや評価ありがとうございます。執筆の励みになっています。


 

「さて……」

 

 ようやっと見つけた素人目で見ても材木に適しているであろう木々の前で、アンサングは自分が普段使っている武具よりもかなりレア度が低いものである双剣を手に佇んでいた。彼女の「無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)」の中に入っていた中で最もランクが低いものだったが、それでも目の前の木々を切り倒すには十二分すぎるものであり、まるで濡れた障子紙でも切るかのように木々が切り倒されていく。

 

「こ、こんなとこか……?」

 

 ほんの1時間ほどで、目の前にうず高く積み上がった材木と副産物として発生した大量の薪を見て、アンサングは呟いた。同じギルドの仲間であったブルー・プラネットからそういった類の話はよく聞いていたが、百聞は一見にしかずとはよく言ったものだ。明らかに切り倒した木の量に対して材木の量が少なすぎる上に不格好な物も多い。双剣で切り倒していく中で徐々に上達こそしていったものの、無駄は相当多かっただろうことが伺える。

 そもそもユグドラシルで言う木造建築は現実世界で言うならばダンボールどころか画用紙で家を建てるようなもの。早い話が初心者の魔法一発で吹き飛ぶような弱小素材でわざわざ建てるようなメリットは存在しないため、ユグドラシルを相当やりこんだアンサングからしても未知の領域だ。

 だが、とりあえず吹き飛ばしてしまった家屋を再び組み直すには十分(と思われる)材木は集まった。

 流石にこれを組み立てて家にするだけの知識やスキルなどアンサングは持ち合わせていない。一応後からいくらでも加工できるように大きく切り取ったつもりだが、もしこれで使い物にならないとかだったらあの建物を建てたプレイヤーにも切り倒した木々にも申し訳が立たない。

 

(ベストは尽くした。私は頑張ったぞ!)

「……ん?」

 

 自己満足でもしなければ不安で押しつぶされそうだった。心の中で必死に言い聞かせながら材木の山を見ているとそこでようやく付近に生物の気配があることに気づき、そちらを向く。

 視線の先に居たのは、明らかにアンサングが壊した建物に住んでいたであろう老若男女様々な人々だった。

 

「あ、あなたは……」

「…………」

 

 明らかに怯えた様子である村人達に対し、アンサングは視線だけでなく体を向け、じっと村人達を見据える。未だに背中に生えた結晶の翼と頭頂部にて浮遊している歪な輪は健在であり、素人目に見ても尋常のものではないとわかる軽装ながらに豪奢な装飾が施された鎧をまとった彼女の姿は正しく天上の存在そのものであり、村人達からしてみれば、絶対的な上位者から品定めされているような気分だっただろう。

 

「…………」

 

 アンサングが言葉を紡ぐことはない。というのも、

 

(な、何だこの人達、NPCか? 本当に生きてるみたいだぞ……何だ? 私一人が対象の壮大なドッキリか何かか?)

 

 彼女からしてみれば目の前で起こっている現象はホラーか何かだからだ。ユグドラシルにおいて、NPCは決められた役割を持っており、こちらからなにか働きかけた場合には決められた反応を返すがNPC側から話しかけられることなどイベントなどを除けばほぼありえないことだ。

 これが特定の条件で発生するイベントならばわからないでもないが、NPCの民家を焼き払ってその場でじっとしてれば発生するイベントなど尖ってるにも程があるだろう。それをやりかねない運営も運営だが。

 とりあえず、万が一プレイヤーだった場合の事を考えて当たり障りのない会話で済ませる事にしたアンサングはゲームでは使うまいと考えていた営業スマイル(表面上は変わらず)を浮かべながら言葉を紡ぎ出す。

 

「えっと、この辺りにあった家の方々ですか?」

「天使様……なのですか?」

 

 が、成立したのは会話のドッチボールだった。だが、今の一言だけでもアンサングが得られた情報は大きい。

 しゃべる際に口が動いていることから、プレイヤー、もしくはプレイヤーが作成したNPCであるという線はほぼ消えた。そして今の口調や様子からして、おそらく彼はユグドラシルの後継である新しいゲームに登場する村人Aなのだろう。イベントとわかれば話は早い。そういったイベントでノリノリで魔王を演じていたどこぞの骸骨のように振る舞えばいいのだから。そう考えたアンサングは再び言葉を紡ぎ出す。1つ咳払いした後に、アンサングは言葉を紡ぎ出した。

 

「この地域にもそういった話が伝わっているのだね。いかにも、私は天使さ。とある悪魔と戦っていたら敵の転移魔法に引っかかって飛ばされてしまってね。それに加え、洗脳の効果がある魔法で意図的に暴走状態ににさせられてしまっていたようだ。魔法を乱射して君達の村を吹き飛ばしてしまった。本当に申し訳ない」

 

 そう言ってアンサングが頭を下げると、村人達の間にどよめきが走る。神々の使いである天使が人間たちに頭を下げるなどということは本来ありえないことだからだ。当の本人は今作のNPC良く出来てるなー程度のことしか考えていないのだが。

 

「一応、埋め合わせのための材木を用意したつもりだが、何分この辺りの建築に疎くてね。これで足りなかったり形に不満があったら教えてくれ。言うとおりに加工するし、教えてくれるなら組み立てるのも手伝うよ」

「い、いえ! そんな滅相もございません!」

 

 アンサングがそこまで喋ってようやく、村人達は彼女の背後にあるこれから城でも作るのかという程に巨大な材木と大量の薪が自分達への謝罪の品であることを理解すると同時に、仮にも神を信じる風習がある世界の者達に天使に指図する度胸などあるはずもない。首が取れるのではないかと思うほどに横にふる村人を見た天使はどこか機嫌が良くなったような雰囲気を醸し出しながら言葉を紡ぎ出した。

 

「そうか、それは何よりだ。それでは私は行くとしよう。何せまだ戦いは終わっていないのだからね!」

 

 現状では、アンサングの中での第一目標が「とりあえず落ち着ける場所を見つける」であることに変わりはない。こんなところで報酬も難易度も形式もわからないようなイベントに巻き込まれているような暇はないのだ。

 即座に翼を羽ばたかせて空を舞う。眼下から引き止めるような声が聞こえる気がしないでもないがお構いなし。

 

(手伝わなくていいって言ったからな! 言ったからな!)

 

 何故なら言質が取れたのだから。

 

――――――――――――――――――――――

 

 そして、モモンガがナザリックの主として行動を開始した頃、ナザリックの面々から心配されていたアンサングはというと。

 

「…………」

 

 徒歩であてもなく広大な野原を移動していた。頭部の輪と翼は現在しまわれており、顔は幻術を仕掛けることで表情などを変えられるようにし、探知阻害の指輪を装備することで、高位のスキルや魔法を使わなければごく普通の人間にしか見えない状態となっている。

 

(さっきの反応からして、亜人種とか異形種であることがわかると面倒なことになりそうだからな……)

 

 というのも、落ち着ける場所を見つけるまではできる限り先程のようなイベントに巻き込まれたくないアンサングとしては、自分からイベントを呼び寄せるようなことはできる限り避けたかったのだ。先程いきなり様づけされたことからも、異形種、もしくは亜人種は何もしなくても何らかのフラグが立ってしまう可能性が高い。

 故に徒歩。幸い彼女の種族である天使長に疲労や空腹と呼べるものは存在せず、あるとすれば延々と歩くことに対する精神的な疲労くらいだ。

 

(それにしても、本当に気持ちがいいなー……)

 

 先程からアンサングが感じていることはひたすらにそれに尽きた。周囲に遮蔽物がないためか、草原は常にやや強めの風が吹いており、それが運ぶ微かな草の香りと冷たさは自然などめったにお目にかかれるものではなくなってしまったアンサングやモモンガ達の現実世界では決して経験できないものだった。これが味わえるなら電脳法に抵触するのも悪くない。というかそんな輩が出るからこそ電脳法があるんだろうな。そんなことを思っていると。

 

(ん、あれは……)

 

 日が沈み始めて段々と暗くなってきた視界の端に村らしきものが映った。先程アンサングが半分ほど吹き飛ばしてしまった村よりもいくらか規模が大きな村であり、あれだけの規模があれば少しくらい場所を借りるくらいのことなら許してもらえるだろう。

 

(流石に精神的に疲れたからな……寝れるのかどうかわからないけど休憩は入れよう)

 

 徒歩で移動している最中に見かけたモンスターはどれもゴブリンや、よくてオーガなどと言ったユグドラシルでは初心者が真っ先に倒すであろう雑魚モンスターばかりだったため、草原で一夜を明かしても問題はないであろう。だが、それでいきなり初見殺しにあってアイテムをロストしてしまっては後悔してもしきれないし最悪詰みかねない。そう考えたアンサングは村に立ち寄ることにした。

 

-・-・-・-

 

 何の変哲もない一日になるはずだったその日。その村は本来辿るべきだった運命をそれることとなる。

 

「誰だありゃ……?」

「さぁ……冒険者……にしてはプレートもなさそうだしな」

 

 日もくれようかという時間帯、村の入り口に見目麗しい少女が立っていた。その表情は薄気味が悪いほどに無表情だが、彼女の容姿はこの村の住人たちが見たこともない程に整っており、白い髪と肌、そして宝石と見紛う翡翠色の瞳は非人間的な印象を村人に持たせた。彼女の体を包む軽装でありながら豪奢な装飾が施された鎧はそういったことに関する知識などまるでない村人達から見ても名のある一品であることが明確にわかる風格を漂わせ、彼女の存在感をより一層強めていた。

 

「…………」

 

 そんな彼女はそこから動くわけでもなくキョロキョロとあたりを見回していた。それは何かを探しているようでもあったが、村人達には彼女のような人が目当てとするようなものがこの村にあった覚えはない。

 

「なああんた。どっから来たんだい?」

「…………」

「い、いや、言いたくないならいいんだ。あんたみたいな立派なもん着た奴が来るのなんて珍しいからよ」

 

 そんな中、村人の1人が女性に向けて話しかけた。女性は話しかけてきた村人の方を向いた後に何かを考えているのか黙り込んでしまった。無視というわけでもなければ、なにか反応を返すというわけでもない。そんななんとも言えない彼女の様子に話しかけた村人が居心地の悪さを感じていると。

 

「そうだな、私は『アインズ・ウール・ゴウン』の者だ。この名に覚えはないかい?」

 

 先程まで黙りこくっていたのが嘘のように流暢に言葉を紡ぎ出した。

 

「何だそりゃ、国の名前か? 少なくとも俺は知らねえなぁ」

「そうか。まぁ知らないなら知らないで構わないさ。今は重要なことじゃない。それよりも、1つ聞きたい事があるんだが、いいかい?」

「あー、面倒事はゴメンだぜ?」

 

 どうやら話がわからない者ではなさそうだ。そう判断した村人達は幾分か緊張を解いた。そんな村人に対し、アンサングは苦笑いを浮かべながら言葉を紡ぎ出した。

 

「いやいや、別段そんな大層なことじゃないさ。村の近くで野宿をしたいんだけどどこかに許可を求めたほうがいいのかい?」

「ん? そんなもん勝手にやればいいだろ。別に誰も止めねぇよ」

「そうか、ありがとう。助かったよ」

 

 非常に整った容姿を持つ彼女が微笑んだだけで村人はわずかに顔を赤くした後に、「い、いや、別に大したことねぇよ」といってそそくさと立ち去ってしまった。彼女もどうやら本当にそれが聞きたいだけだったのか、村の外れにあるそこそこ大きな樹の下へと歩いていってしまった。

 

―――――――――――――

 

「うーん、良いぞこれは!」

 

 訪れた村の外れにある木の下で、表情こそ動いていないものの、非常にご機嫌なアンサングの姿があった。彼女が無限の背負い袋から取り出して腰掛けているお気に入りのロッキングチェアや、近くにいるだけで回復効果をもたらす即席テントなどを設置したその様は若干歪ではあるものの、アンサングとしては人伝に聞いたキャンプというものをやっているつもりだった。

 

(ブルー・プラネットさんが何で今更どうにもできないものをそんなに推すんだって思ったけどこれなら納得だ)

 

 雄大な自然を眺めながら、吹き抜ける涼風に椅子を揺らす。言葉で聞くだけならば何の魅力も感じなかったアンサングだが、一度経験してしまった以上、アインズ・ウール・ゴウンの仲間であったブルー・プラネットに足を向けて寝ることはできないだろう。

 

(こっちの通貨なんて持ってるわけないし、野宿なんて初めてだけど。これなら毎日これでも良いな)

 

 異形種であり、厳密に言えば神々の尖兵であるという設定のアンサングにとっては休養など不要のものではあるのだが、それでも彼女の精神は休みを訴えていたため、ロッキングチェアに身を預けながら、アンサングはボーッと青空を流れる雲を眺めていた。

 

(本当に、何なんだろうな。このゲームは……)

 

 何も起こらない静寂の中にいると、自然と思考はそちらの方向へと向かっていった。電脳法のほぼ全てに違反しているのではないかと思えるほどのリアルさ。目的どころか操作方法すらろくに確立できない不親切にも程があるユーザーインターフェース。確かにユグドラシルも相当不親切だったが、それにしたってやりすぎというものである。休日だったから良かったものの、ログアウトのやり方すら未だによくわからないのは大問題だ。そんな思考を巡らせながら漂う雲を眺めていると、ふと気になることが生まれた。

 

(そう言えば、ここまでよくできているならワンチャンいるかもしれないモモンガさんに届かないかなって思ってギルドの名前出したけど、大丈夫かな)

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』はその規模やワールドアイテム保有数、更には1500人の大連合の侵攻を防ぎきってみせたなど凄まじい経歴を持つ半面、ユグドラシルではあまり人気がなかった異形種オンリーのギルドという非常に珍しいギルドであり、DQNギルドとしての悪名も高く、敵もまた多かったのだ。そういったプレイヤーはもう大部分がユグドラシルを引退しているからこのゲームにもログインしていないものと思われるが、若干軽率だったかも知れない。

 

(そう言えば、まだ味覚に関しては確認してなかったな……そのへんの草でもかじればいいか)

 

 そんな事を思い、ロッキングチェアから立ち上がると。

 

「……え?」

 

 彼女の視界の端で、明らかに襲うつもりで来ているであろう馬に乗った兵士達が村に向かって突っ込んでいった。

 

 




毎度のことですがオバロは設定が緻密すぎてどこかで矛盾を起こしていないか不安で仕方ないので何か不思議に思ったことがありましたら感想欄でご指摘いただけると幸いです。


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受けた恩は返しましょう

どうしても原作で登場するスキルや魔法は悪寄りのものが多いので捏造してしまうしかないのが辛いところです。


(おいおい何だ何だ!? まさか私がここに来たせいとかじゃないだろうな!?)

 

 村へと突っ込んでいった騎兵達を見て、アンサングは自分の体が強ばるのを感じた。とりあえずロッキングチェアとテントを「無限の背負い袋」の中にしまい。入れ替えるように中から不可視化の指輪を取り出して指にはめた。これで、認識阻害に対する耐性を何らかの方法で持った者以外には見えなくなったはずだ。それでも慎重に、誰にも見られないようにアンサングは木の上に飛び、そこから村の様子を伺った。

 そこでは、一方的な虐殺が始まっていた。

 

「ぎゃああああ!!」

 

 誰のものともわからない悲鳴が連続して木霊した。恐怖に顔を歪める無抵抗な村人達を、騎士風の装備に身を包んだ者達が斬りつけていく。中にはそれを楽しんでいる素振りすら見せる者すらおり、あえて殺すのを長引かせているような者もいた。まだ騎士が襲撃してから1分も経っていないため幸いにも死者は出ていないようだが、もはや死を待つだけの村人なら既にかなりの数がいる。

 

「…………」

(グ、ロいなぁ……うん……)

 

 そんな虐殺の様子を眺めていたアンサングの中には、本人自身でも気味が悪くなるような複雑な感情が立ち込めていた。

 天使の五感というものがどれほど優れているのかは知らないが、既に五感を通じて虐殺の様子は現実のものなのではないかと錯覚するほどにリアルに伝わってきている。

 だが、アンサングの心は不気味なほどに揺れ動いていなかった。否、人々を殺す騎士達に対する怒りと呼べるものは確かに湧き上がってきている。だがそれ以上に、人が何人も殺されているという状況に対してあまりにも動揺していなかった。

 

(私のゲーム脳もここまで来たか……)

 

 だが、所詮はゲームなんだからこんなもんだろう。そう割り切ることにしたアンサングはほんの1秒に満たない間、思考を巡らせた。

 

(正直、助けるメリットは薄いし、リスクのほうが大きい)

 

 この村人達を助けてアンサングが得られるメリットは現状ほぼないと言っていい。ざっと見た限りではシナリオやイベントに関わってくるような何かは存在せず、重要そうな人物が居るわけでもない。言うなれば、何らかのイベントの際にその災禍に巻き込まれる名もなき村。といったところだ。

 現状、落ち着ける場所を見つけるまではそういったイベントにはできる限り巻き込まれたくないアンサングとしては

 

「誰かが困っていたら助けるのは当たり前、か……」

 

 頭の中に、せめてゲームの中だけでもと理想を貫いた正義の味方の声が鳴り響く。一つため息をついた後に、全身を対レイドボス用のガチ装備に変える。

 

(とりあえず村人達を助けよう。それであいつらのレベルを見てから戦うかどうかを決める。それでいこう)

「〈魔法広域化・大治癒(ワイデンマジック・ヒール)〉!」

 

 魔法を発動させながら、アンサングは右手に剣を持ち、左手に杖を持って村へと突入した。

 

―・―・―・―

 

 完全に兵士達の理解の外に存在するであろう絶対的上位者。兵士達が知るそれの数段、否、比べることすらおこがましい領域に居るであろう天使達が、兵士を蹴散らしていった。

 

「ぎゃああああ!!」

 

 瞬きをする間に兵士達が吹き飛ばされ、運の悪い兵士は死に絶えた。それは戦いと呼べるようなものではなく、欠片の抵抗も許さないそれはただの弱い者いじめだった。

 何故だ。何故こんな事になってしまったのだ。偽装兵達の隊長であるべリュースは必死に何が悪かったのかを頭の中で思い返す。

 簡単な任務だったはずだ。バハルス帝国の名を騙り、無抵抗な村人達を襲撃し続ければいいだけのはずだった。たかが村落1つに武装した戦力を迎撃できるだけの兵力なんてあるはずがない。

 べリュースはそんな事を考えていた数分前の自分を殴り飛ばしたい気分だった。そしてその胸ぐらを掴んでこう怒鳴りつけたかった。

 ならば今自分の目の前にいる形容し難い存在は一体何だというのか!?

 それは、一見すれば息を飲むほどの美しさを誇る美女だった。気味が悪いほどに白い肌と髪。宝石と見紛うほどに美しく光を反射する瞳。王国の姫であってもこれほどのものではないと確信を持って言える彼女に、下卑た視線を送る兵士も居た。

 

「〈第9位階天使召喚(サモン・エンジェル・9th)〉」

 

 そんな視線など意にも介さず、べリュース達をまるで虫けらでも見るかのような目で見つめながら紡がれたその言葉。その意味を兵士達が理解できなかったわけではない。だが、兵士達は笑いだし、ベリュースもその顔に嘲笑を浮かべた。そのような魔法は神話の中にすら存在しない。そこらの子供でももう少しマシなハッタリができるだろう。目の前の女性はただの見掛け倒しでハッタリしかできない唯の女だ。その場に居合わせた兵士達の多くがそう思った。

 だが、そんな笑いは彼女の背後に展開されたあまりにも巨大な魔法陣によってかき消された。

 魔法陣から現れたのは、辛うじて特徴から天使であると認識できる何かだった。

 絢爛豪華な鎧を纏い、3対6枚の翼を羽ばたかせ、明らかにこの世の理を逸脱している七色の輝きを纏う天使。見るものが見れば「恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)」という名を持つ高位の天使。だが、お伽噺に語られる魔神をも打ち倒した天使、「威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)」すらも遥かに凌ぐその存在に。兵士達は本能のレベルで理解という行為を放棄した。スレイン法国に身を置き、六代神を信仰する彼らは本能の域で理解させられたのだ。

 

 自分達は、神の怒りを買ってしまったのだと。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)神音(ガブリエル)〉!」

 

 恒星天の熾天使の輝きが更に強まり、熾天使が手を振り下ろすと同時に光の柱が降り注いだ。既に自分達の信仰の寄る辺を吹き飛ばされたも同然である兵たちに抵抗する気力など残っているはずもなく、兵士達の半分は吹き飛ばされた。

 

「さぁ、名も知らぬ兵士達よ。これで私の力はわかったはずだ。まだ戦うというのならば吝かではないが、どうする?」

 

 恒星天の熾天使を後ろに下がらせ、件の彼女、アンサング・ドールが前に出て兵士達へ向けて語りかけた。

 

(セラフが吹っ飛ばされるレベルだったら逃げるしかなかったけど、そこまで強いわけじゃなさそうだ……いやほんとによかった)

 

 その先程までに大仰な芝居がかった口調は、実は割と冷や汗をかいていた内心に引っ張られてテンパっていたが故のものであったのだが、偽装兵達にそんなことがわかるはずもなく、偽装兵達は力なく首を横に振った。

 

 その後発してしまった台詞を、アンサングは後悔し続けることとなる。テンパっていたから、もしかしたらあの人に伝わるかも知れないって唐突に思ってしまったから、様々な言い訳を用意しても尚当時の自分を殴らずにはいられないその台詞を。

 

「そうか、ならば行け。そしてお前達の主に伝えろ。お前達は愚かにも、我らアインズ・ウール・ゴウンの怒りを買ったとな!」

 

 そして、全ての発端となるその芝居がかった台詞を言い放った。

 

―・―・―・―

 

「本当に、なんと感謝を申し上げたら良いか……」

「いやいや、私はできることをしただけさ。寝覚めが悪くなったらたまったものではないからね」

 

 その後、襲撃の際に破壊された家屋の修復も大まかではあるが完了した夕暮れ時の村の中心にてアンサングは村人達と談笑を交わしていた。今彼女が話しているのはこの村の村長である壮年の男性であり、それに対してアンサングは表面上は幻術でにこやかな表情を浮かべながら会話に応じているが、

 

(おいおい、ほんとになんなんだこれ? AI進歩し過ぎだろう)

 

 内心では未だに疑問符と困惑が満ち溢れていた。異様に会話が弾むNPC(と思われる人物)。先程差し出された薄味とは言え味を感じるスープ。どれもこれまでのユグドラシルでは考えられないことだった。というか思いっきり法律に違反しているのだから考えられないのが当たり前なのである。

 

「さて、村を助けたお礼代わりと言っては何なのだが1つ頼まれてはくれないかい?」

「は、はい! 私達にできることなら何なりと!」

 

 先程からヘコヘコと頭を下げながら会話をする明らかに自分よりも年上であろう村長に対して若干の居心地の悪さを感じながらも、とりあえずやっておいて損はないであろう行動のために言葉を紡ぎ出す。

 

「私はここより遥かに遠い地から転移魔法を用いて来たのでね、何分この辺りの土地勘がないんだ。この付近にある街や都市の事を教えてはくれないかい?」

 

 流石にこれ以上へりくだって接されるのはアンサングとしては現実世界を思い出してしまうためなるべく威圧感を与えないように優しい口調で話しかけるものの、村長の口調は対して変わることもなく、そのまま会話は続いた。

 

「はい、ここから一番近い都市ですと、エ・ランテルかと」

「ほう、それはどの方角にあるんだい?」

「ここより北に数日の位置にあります」

「そうか、ありがとう。あと、もう一つ良いかい?」

「はい、もちろんです」

 

 村長が笑顔で頷いた後に、アンサングは少しの間考える素振りを見せる。その所作は一つ一つが美しく、村の中心に集まっていた村人の中にはそんなアンサングに見惚れる者も居たが、そんなことにアンサングが気づく様子はなく、1つ頷いた後に村長の方を向いて言葉を紡ぎ出した。

 

「この村の外れに大きな木があるだろう? 資材がどうしても足りないとかだったら仕方ないのだが、できる限りでいいから残しておいてほしいな」

 

 それだけを告げると、アンサングは立ち上がった。

 

「もう発たれるのですか?」

「うん、君達には悪いが、私も私で色々あるのさ」

 

 また縁があったらよろしく頼むよ。微笑みを浮かべながら手を振り、村を後にしようとすると。村の入口から先程まで物見櫓で見張りをしていた若い男が慌てた様子で走ってきた。

 

「村長、騎士風の一団がこちらへ向かってきています!」

(うえぇ……どう考えてもイベントが進行してるって感じの雰囲気だな……)

 

 その言葉を聞き、再び村人達の間に緊張が走った。先程の襲撃ではアンサングが即座に対応したため家屋を壊されるだけですんだが、次も安全という保証などどこにもないのだから。アンサングは少し考えた後に、こうなれば乗りかかった船だと判断し言葉を紡ぎ出した。

 

「村長、村人達を建物の中に隠そう。事情を説明する者が必要だから私と一緒に来てくれるかい?」

「は、はい! ドール様がお力添えをしていただけるならそれほど力強いことはありません!」

 

 村長としても願ったり叶ったりな話であることは確かだ。まるで誤作動でも起こしたかのように何度も強く頷き、それを確認したアンサングも頷き2人で村の入口へと歩き出した。

 

―・―・―・―

 

「……誰だい彼らは?」

「おそらく、リエスティーゼ王国の戦士団の方たちかと」

 

 先程起こったことが起こったことなため、村人達の間に緊張と恐怖が立ち込めた。村長が指示を飛ばして村人達が即座に家屋に入った後、村の入口で騎士風の男達を迎えることとなった村長と共に居るアンサングは村長に耳打ちをする形で尋ねる。村長は目視できる範囲まで近づいてきた彼らが纏う装備からおおよその推測を立てて答えるが、その表情には幾ばくかの怯えが存在していた。

 無論、その台詞だけではアンサングは何のことだかさっぱりなのだが、彼らが先程の兵士達と同じ強さである保証などどこにもないため警戒を深めて戦士たちを見据えた。

 

 すると、部隊の先頭に居た屈強な体格を持つ男が名乗りを上げた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフだ。この付近を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐するために王のご命令を受け、村々を回っている者である」

 

 その名乗りに対して、村長は驚愕の表情を浮かべるが、アンサングの表面上の表情が変わることはない。名乗った役職からしてイベントに関連するキャラクターなのだろうかと思う程度である。ガゼフと名乗った男性は、村長に視線を向けた。

 

「この村の村長だな。そちらの女性は……」

「こ、こちらの方は……」

「いいさ、村長。私が名乗ろう」

 

 ガゼフが名乗りを上げてから先程以上に頼りなくなってしまった村長を見たアンサングは村長を手で制し、言葉を紡ぎ出した。

 

「初めまして、王国戦士長殿。私の名はアンサング・ドール。遠方の地にて研鑽を積んでいたが、見聞を深めるために旅をしている者だ。この村にとどまっていた所、その帝国の騎士達に襲われてしまってね。成り行きでこの村を助けたのさ」

 

 ガゼフが僅かながらに驚きの表情を浮かべた後に村長へと視線を向ける。村長はその意図を察したのか、アンサングの言に嘘はないと何度も頷いた。すると、ガゼフは馬から降り、アンサングの元へ歩み寄った。

 

「この村を救っていただいたことに。感謝の言葉もない」

「いや、この村には一晩の宿の恩があるからね。助けるのは当然のことさ」

 

 流石に王国でもそれなりの身分には居るであろう者が安々とどこの馬の骨ともわからない女に対して同じ視線で話すとは思わなかったアンサングは僅かながらに驚くがそれが表に出ることはない。見た目通りの一本気な男と見て良さそうだ。そんな事を思いながらアンサングがガゼフと言葉を交わしていると、ガゼフの部下らしき男が緊迫した面持ちでガゼフに話しかけた。

 

「戦士長! 周囲の複数の人影が、村を囲うような形で、接近しつつあります!」

「……そうか」

 

 その言葉を聞いたガゼフは表情を僅かながらに表情を険しいものとした後、アンサングの方へと向き直った。

 

「ドール殿、少し話があるのだが、良いか?」

「話だけならばね。村長、どこかに空いている家屋はあるかい?」

「は、はい! でしたらあちらにどうぞ」

 

 村長に示されるがままに、アンサングとガゼフは村の外がよく見える家屋へと入った。




今の所アンサングの主武器が近接なくせして多様な魔法が使えたりでなんでもできるマン疑惑になっていますが長時間稼ぎがしやすいようにしたスキルや魔法構成なので実際には割と器用貧乏です。


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事前の情報収集は念入りに

ちょっと意識していないミスリードが多すぎて心が折れそうですが今日も投稿します。一応付け足すと救った村はカルネ村ではなくカルネ村の前に襲われてた村です。


 とりあえず落ち着いて話をするために入った小屋から村の外の様子を見ると、魔法詠唱者らしき者達が機械的な印象を与える天使達を従えて村の周辺に等間隔で陣取っており、村を囲っていた。天使は、ユグドラシルのプレイヤーならば誰もが一度は倒した事があるであろう『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』であるということがわかり、アンサングは内心で疑問符を浮かべていた。

 

(炎の上位天使……? やっぱりユグドラシルの後継作なのか?)

「ふむ……確かに居るな」

「すまないが、私はこの辺りには来たばかりだからこの辺りの情勢には疎くてね。彼らが誰なのかはわかるのかい?」

 

 とりあえず今はどんな些細なことでもいいから情報がほしい。そう考えたアンサングからの問いに対し、ガゼフは一瞬考えた後に答える。

 

「あれだけの数の魔法詠唱者を揃えられるのは、おそらくスレイン法国だろう。それも、神官長直轄の特殊工作部隊、六色聖典のいずれかだ」

 

 ガゼフの言葉を聞きながらアンサングは目を閉じて腕を組み考え込むような仕草を見せる。もちろん、そんな専門用語だらけの推測を言われてもアンサングからしてみればまるで意味がわからないのだが、納得している体を装いながらも、頭の中では必死に思考を巡らせる。

 

「じゃあ、この村を襲ったのは……」

「装備は帝国の物だったが、おそらくスレイン法国の偽装兵だろうな」

「なるほど……この村は偽装までして襲う何かがあるのかい?」

「いや、他国に攻められるような理由はこの村にはないな」

 

 表面上ではそれほど変化はないが、疑念を孕んだ口調でアンサングがガゼフに問いかけた。

 少なくとも、アンサングが村の入口から軽く見た限りでは、そこそこ栄えてこそいるものの別段そこまで裕福というわけでもない村だった。おそらく何かしらのイベントの舞台なのだから何か宝でも隠されているのかとも思ったが、その様子もない。アンサングの情報が伝わるにしてもいくらなんでも早すぎる。となると消去法で相手の目的は1つしかなくなるため、アンサングはため息をついた。

 

「ドール殿に心当たりが無いのならば、答えは1つだ」

「……なるほど、君はまんまと釣り上げられたわけだ」

 

 ガゼフはアンサングからの指摘に対し、苦笑いをしながら頷いた。そんなガゼフを見ながら、アンサングは考えにふける。

 

(なるほど、これは邪魔に思われるわけだ)

 

 目の前に居るガゼフは身分からしてそれなりに腹芸もこなせるものだとばかり思っていたが、どうやらそういった事に対する適性はほぼないとアンサングの経験が告げていた。リアルでのアンサングはその職業柄そういったことに関しては怪物級に長けている者達の相手を嫌という程にこなしてきた。そういった者達には対面して話したときに独特の雰囲気を醸し出し、尚且それを隠すために非常に複雑な雰囲気を持っているものだ。

 だが、目の前のガゼフからはそういった雰囲気を一切感じられなかった。正真正銘の化物ならそういった雰囲気を隠しきることも不可能ではないかも知れないが、まず間違いなくその線はありえないだろう。ゲームのキャラ相手に考えすぎだと自分でも思うアンサングではあったが、無意識にそんな事を考えてしまうのもある種の職業病とも言えるだろう。

 腹芸ができないのに政治的な社交の場に出ざるをえない身分の人間など、アンサングならば即決で関係を断っている。弱点を自ら野ざらしにしているようなものだ。命を狙われるのも、ある種仕方のないことと言えるだろう。

 実際にはガゼフの命が狙われる要因はそれとは全く関係ないのだが。

 そんな事をアンサングが考えていることなど知る由もなく、ガゼフは軽く肩をすくめてみせた。

 

「本当に困ったものだ。貴族派閥だけでなく、スレイン法国からも狙われているとはな」

 

 ガゼフはその後すぐに表情を引き締め、改めてアンサングと向き合った。対するアンサングはこれから問われるであろうこともだいたい察しているが、何も言うこと無く表面上は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「ドール殿、よければ雇われないか? 報酬は望む額を約束しよう」

「ふむ……」

 

 アンサングは少しの間再び考えるような素振りを見せた。

 アンサングの中ではこの一連の出来事はゲーム内のイベントであることはほぼ確定している。このイベントは王国の戦士長という重要そうなポジションに居るガゼフというキャラが絡む以上、後々受けておいたほうが良かったと後悔する事のほうが多いことは明らかだ。そう結論づけたアンサングは笑みを浮かべ、答えた。

 

「今彼らが従えている天使が彼らの主戦力ならば私一人で問題ないだろう。だが、もしあれ以上の存在が出てきた場合は私の独断で撤退しても良い。という条件付きならば引き受けよう」

「おお、そうか! 感謝するぞドール殿!」

「いや何、ここまで来たら乗りかかった船というやつさ」

 

 ガゼフは破顔してアンサングの手を取った。アンサングとしてはこの世界についての若干の情報と、王国までの道筋を炎の上位天使の群れを倒すだけで手に入るのならば悪い話ではない程度の意識だったのだが、ガゼフからしてみれば死ぬことも何らおかしくない戦いに同行してくれるというアンサングの承認は非常に心強いものに思われた。

 

―・―・―・―

 

 彼らはゆっくりと村の入口から出てきた。その事に対し、村を包囲したスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典の隊長であるニグン・グリッド・ルインは怪訝そうな表情を浮かべた。陽光聖典の部隊は〈第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)〉を習得した精鋭部隊だ。ガゼフ率いる戦士団は練度としても規模としてもガゼフ以外は驚異にすらならないのだから、ガゼフ達が取るであろう手は撤退か奇襲のいずれかだと予想していたニグンは戦士団の先頭を歩くガゼフと、その隣にいる非常に整った容姿を持つ美女、アンサングに対して警戒の視線を向けた。

 アンサングはその顔に親しげな笑みを浮かべ、陽光聖典へと視線を向けた。

 

「やぁやぁ、初めましてスレイン法国の皆さん。私の名前は、アンサング・ドールという。まぁ好きなように呼ぶといいさ」

 

 自らの胸に手を添え、まるで演者のように名乗りを上げたアンサングに対し、ニグンはその顔に嘲笑を浮かべた。戦士団と「炎の上位天使」の集団では戦力差は明らか。そんな子供でもわかるようなことを理解していないのか緊張感の欠片もない彼女は、驚異に値しないと判断したからだろう。

 

「ほぅ、それで? そのアンサング・ドールが我々に何のようだ?」

「ああ、実は少し聞きたいことがあってね」

 

 未だに自分達の命がニグンの掌の上にあるという自覚がないのか、無邪気な笑顔を浮かべながらアンサングは言葉を紡ぎ出す。そんな彼女の様子は、彼女の纏う豪奢な装備も相まってニグンたちからしてみれば滑稽極まりないものであった。

 

「この村とは少し縁があるんだ。まぁそんな物騒なものを出してる段階で襲うつもりなんだろうけど、君達が襲うというのならそれなりに抵抗したいんだけど良いかい?」

 

 とうとうこらえきれなくなったのか、ニグンの傍に居た魔法詠唱者の内数人が静かにだが笑い声を上げ始めた。ニグンもその顔に浮かべる嘲笑を更に深めた後、

 

「やれ」

 

 ニグンが手を振り下ろすと同時に2体の炎の上位天使がその手に携えた光の剣で以てアンサングへと襲いかかった。炎の上位天使達の光の剣によって放たれた刺突は剣などまともに振るうことすらできなさそうなアンサングの体へと突き刺さる。

 

「フン、愚かなものだ。下らんハッタリしか知らん小娘だったとはな」

「ドール殿!!」

 

 ガゼフが驚きの表情を浮かべた後に剣を構え、アンサングのもとへ駆け寄ろうとするが、

 

「言っても無駄だろうが1つ言っておこうか」

 

 その一言で、場の雰囲気が凍りついた。先程までの友好的な雰囲気をはらんだそれとは全く異なる、まるで虫にでも向けるような慈悲の欠片もない口調。

 

「流石にここまで危機的な状況でヘラヘラ笑う年頃の美少女なんて居ないと思うぞ?」

 

 光の剣がアンサングに突き刺さることはなかった。彼女の軽装ではあるが豪奢な鎧に吸い込まれるように放たれた刺突は彼女の鎧に当たる一歩手前の所でまるで何かの障壁にでも阻まれたかのように止められてしまい、なんとかして剣を届かせようともがく炎の上位天使の無様な姿がそこにはあった。

 

「全く、まさか私も今更こんな雑魚の相手をするとは思わなかったよっと」

「なっ……!」

 

 ため息をついた後に、彼女の腰に下げられた得物である双剣を手に取り、それを軽く振るった。ソレだけで炎の上位天使はまるで濡れた紙のようにあっさりと引き裂かれた。当然、陽光聖典の者達からしてみれば、否、戦士団の面々からしてみても信じられない光景であり、少しの間。唖然とした雰囲気がその場に立ち込めたが。

 

「続けて天使を突撃させろ!」

 

 再びニグンが指示を飛ばし、炎の上位天使を倒されたものは次の炎の上位天使を召喚し始め、その間に待機していた天使達が突撃を敢行した。今度は先程の3倍の6体の炎の上位天使による多角的な攻撃がアンサングを襲うが、

 

「原因もわからずに失敗した手を繰り返すのは愚の骨頂だ」

「くっ……!」

 

 結果は先程と全く同じだった。炎の上位天使の攻撃はかすることすら許されず、逆にアンサングの攻撃は明らかに力を入れていないとわかる軽さであるにもかかわらず炎の上位天使達を作業のように一撃で切り捨てていく。

 

「全天使を突撃させろ! 全方位からだ!」

 

 彼女の後ろにいる戦士団への対処も忘れ、ニグンは矢継ぎ早に指示を飛ばした。先程から攻撃が当たらないことには何らかの防御系の武技が関わっているはず。だが、炎の上位天使の攻撃を無条件で防げる武技などそれこそガゼフ以上の大英雄級のそれだ。ならば何らかのトリックがある。少なくとも、全方位からの攻撃を防御できるような都合のいいものではないはずだ。そう結論づけたニグンの指示に従い、炎の上位天使が全方位からアンサングへ向けて突撃する。

 

「〈宵の明星〉」

「なん……だと……!?」

 

 だが、そんなニグンの考えも虚しく、炎の上位天使の攻撃は尽くがアンサングに届かず、突如として降り注いだまるで闇を孕んでいるかのように濁った光の柱により、炎の上位天使は全滅した。

 

「っ監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)! かかれ!!」

 

 ニグンはとっさに自らが使役する全身鎧に身を包んだ天使、『監視の権天使』に指示を飛ばした。一見すれば鎮座することで自軍に防御バフをかけることができるそれを攻撃に参加させることは悪手とも言えるが、炎の上位天使がまるで役に立たない以上そうする他ないのもまた事実だ。

 

「……やめにしないかい?」

「馬鹿な……っ!!?」

 

 だが、監視の権天使の一撃でさえもアンサングには届かず、アンサングとしては目の前で勝手に恐れ戦いている陽光聖典の面々が若干哀れに思えてきたのか、なんとも言えない表情を浮かべながら双剣で以て防御力に特化しているはずの監視の権天使を切り伏せた。

 

「ドール殿……あなたは一体……」

「まぁ、それはまた後でね。それで、どうする? まだやるかい?」

 

 もはや警戒するに値しないとすら見做されたのか、後ろにいるガゼフの方を向いてみせるアンサング。そんな彼女の様子はニグンからしてみればひどく屈辱的なものであり、撤退という選択肢を消し去り得るものであった。

 

「最高位天使を召喚する!! 時間を稼げ!!」

 

 こめかみに血管を浮かび上がらせ、乱雑に懐から魔封じの水晶を取り出したニグンの言葉を聞き、もはやここまでと絶望の雰囲気が漂っていた陽光聖典の間に活力が戻り、アンサングへ向けて魔法の集中砲火を放った。〈上位魔法無効化Ⅲ〉のパッシブスキルを持つアンサングからしてみれば一切効かないものではあるものの、ニグンの言葉を聞いて少々警戒を深めていた。

 

(魔封じの水晶、それに最高位天使……!? ああくそ、ぷにっと萌えさんに見られてたら説教ものだぞこのどんでん返しは!)

「ガゼフ殿、下がっていてほしい。もしかしたら巻き込んでしまうかも知れない」

「わ、わかった」

 

 炎の上位天使達のせいで無意識のうちに警戒心を薄くさせられていた己の不注意を恥じながら、アンサングはガゼフ達に向けて言葉を発した。

 もはやガゼフ達戦士団の中ではこの数分で完全に常識の外側へと飛んでいってしまったアンサングからの忠告とあっては流石のガゼフも従わないわけにはいかず、ガゼフを筆頭とした戦士団はアンサングから距離をおいた。

 

「〈上位抵抗力強化(グレーター・レジスタンス)〉〈上位魔法盾(グレーター・マジックシールド)〉〈上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)〉〈天界の気(ヘブンリィ・オーラ)〉〈竜の力(ドラゴニック・パワー)〉」

(モモンガさんの支援無しでの大物は久しぶりだけど、天使でよかった。それならまだなんとかなる)

 

 最高位天使が召喚されるまでの僅かな時間でアンサングは自らに幾つかのバフをかけていた。そういった支援はモモンガに任せていたためそれほど習得していないアンサングのそれは万全と言えるものではない。だが、相性の悪い悪魔ならまだしも同族である天使ならば例え最高位天使である『至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)』であっても同じものを召喚して壁としてぶつけつつ攻撃を仕掛ければ倒せる。そう判断したアンサングはすぐにやってくるであろう最高位天使に備え身構えた。

 

「最高位天使の尊き姿を見よ!! 『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』!!」

「……ん?」

 

 どこか気の抜けた声を上げたアンサングを尻目に、それは召喚された。

 先程までの天使達とは比べ物にならない大きさと威光。光り輝く翼の集合体のような外見をしたそれは、紛れもなく先程までの天使達よりも遥かに格上の存在であり。陽光聖典の面々はその威容に歓声を上げ。アンサングの後方に居た戦士団はその存在に唖然とした表情を浮かべていた。

 そして、当のアンサングはと言うと。

 

「……この天使が、最高位天使?」

 

 表情こそ変わらないが呆然とした様子で、威光の主天使を眺めていた。最高位天使のあまりの威光に逃げることすら忘れてしまったのだろう。そう判断したニグンは勝ち誇った表情で言葉を紡ぎ出した。

 

「そうだ! お前にはこれを使うだけの価値があると判断した! 最高位天使の威光に滅ぼされる栄誉に溺れるが良い!!」

 

 だが、次にアンサングが見せた反応はニグンの期待からは大きく外れていたものだった。

 

 アンサングは今の自分の状態を見る。モモンガに支援されているときほどの心強さはないにしてもちょっとしたダンジョンのボスならば十分に戦えるレベルのバフ。既に発動までの所要時間を終えた〈第10位階天使召喚(サモン・エンジェル・10th)〉。先程まで携えていた双剣とは異なる神話級の武器。

 これらを威光の主天使の為に用意していた。そんな事実に。

 なんとなく、恥ずかしくなった。

 

「……そう」

 

 感情を感じさせない平坦な声でアンサングが呟くと同時に。

 威光の主天使など霞むレベルの天使、『至高天の熾天使』が降臨した。

 言うなれば、子供がゲームでワイワイ楽しく対戦している所にいきなり良い年した大人がガチ編成で殴り込みをかけたかのような大人気なさ。ダサい。みっともない。明らかに初心者向けのレベルのイベントに本気になって殴りかかるプレイヤーがいるらしい。先程までも感じていた圧倒的実力差から発生するそんな自己批判が先程まで威光の主天使程度で勝ち誇っていたニグン達陽光聖典の様子により数十倍に膨れ上がり、アンサングの中を駆け巡る。目の前の雑魚(・・)のために決して少なくない経験値を無駄にしたことも、彼女の羞恥心を刺激し、

 

 その後のことは、アンサングはあまり思い出したくない。

 

 ニグン達陽光聖典はガゼフに捕らえられ、そのまま王都へと送られる事となった。アンサングはぜひとも国王に会って欲しいというガゼフからの誘いにより、そのまま王都への道をガゼフと共にすることになる。

 

 明らかに初心者向けのイベントが進行している。それだけが分かれば良いのである。後にアンサングはそう語る。

 




自分は明らかに格下がボス面して出てくる戦闘とかちょっと恥ずかしくなるタイプです(隙自語)


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日差しは直接見ないこと

なんか異様に伸びていると思ったらどうにもランキングに乗ったそうで。ありがたい限りですしこれからも楽しんでいただけるようがんばりますがこのプレッシャーからくるキリキリとした痛みには慣れませんね。


 600年前に降臨した六大神と呼ばれる神々を信仰する国家。スレイン法国。自分達を救ってくれた強大な力を持つ6人、後に六大神として語られる存在を神と定めて信仰し、人類の守り手として人類の脅威となりうる多種族の征伐を行ってきた国家の深部。この国の意思を決定する者、神官長達が集う場所は、ここ数十年類を見ないほどの騒がしさを見せていた。

 その場に居合わせたほとんどの者達が浮かべる表情は、困惑や恐怖といった類のものだった。

 

「その情報は本当なのか!? まさかたかだか偽装兵如きの戯言を信じたわけではあるまいな!?」

「だ、だが、土の巫女姫も見たという話だぞ」

 

 議題を占めているのは、何の前触れもなく現れた最高位天使を超える天使を使役する謎の存在。偽装兵の話では『アインズ・ウール・ゴウン』という組織に属する者との話だったが、たかだか一兵卒の話を信じていては国が機能しなくなる。その話が現実味を帯びてきたのは、ニグン率いる陽光聖典を監視していた土の巫女姫の証言によるものだった。

 曰く、ニグン達とガゼフ達の間に、捉えられないがニグン達が話しかけている何者かが居た。それには陽光聖典のどのような攻撃も通じず、ニグンが最高位天使を召喚すると同時にそれよりも遥かに格上の天使を召喚し、ニグン達の戦意を潰したと。

 

「幻術の類ではないのか?」

「幻術如きでかの最高位天使を滅せるものか!」

 

 通常時ならば、土の巫女姫の気が狂ったと思うほうがまだ現実味がある話だ。

 かの十三英雄と魔神との戦いにおいて魔神を討伐したとされる最高位天使、威光の主天使よりも上に存在する天使など神話にすら登場しない。冗談にすらならない事を大真面目に語られたところで信じろという方が難しい話だろう。

 だが、消息を断った陽光聖典。帰還した偽装兵の中には傷ついた者が1人もいないにも関わらず、ある者は昼夜を問わず祈り続け、ある者は必死に虚空へ向かって許しを乞い続け、無理やり食事を摂らされた者を除けばそのまま餓死してしまった者がほとんどだった。精神系の魔法をかけられた気配が無いにも関わらず、まるで使い物にならなくなってしまった偽装兵たち。それが意味するのは、彼らの価値観が崩壊しうる超常の何かが起こったということだ。

 神人が現れた。もしくは偽装兵たちの様子を見る限りではそれ以上の存在、神に近しい存在が降臨したということ。

 

 それは、スレイン法国そのものを揺るがす一大事だ。それの善悪に問わず、スレイン法国はそのあり方を大きく変えられる事となるだろう。

 

「…………」

 

 神官長達のいっそ無様にすら見えるほどの慌てようを見届けた六色聖典の1つ、漆黒聖典の隊長はその場を後にした。報告の内容は全て語られた。これ以上この場に居たところで、不安に駆られた老人たちに八つ当たりされかねない。いくら自信という自信を根こそぎ刈り取られた彼であっても、そのような面倒事は御免だった。

 

(真偽がどうあれ、彼女には絶対に知らせてはいけないな)

 

 それに、彼からしてみれば、居るかどうかすらも不確かな神よりも、それに惹かれて暴走しかねない化物のほうが気がかりだからだ。

 

―・―・―・―

 

(う~ん、思っていたのとは違うけど、まぁいいか)

 

 ガゼフの提案に乗ることにしたアンサングは、王国までの道をガゼフ達戦士団に案内してもらうこととなった。戦士団達が馬で駆ける中、アンサングは天使の翼を使うこと無く、〈飛行(フライ)〉が込められた指輪を使用して並走していた。

 

「ドール殿、本当に馬は必要ないのか?」

「この状態を見て必要に思えるのかい?」

「いや、俺は魔法に疎いが、魔法とはそんなに無制限に使っても大丈夫なのかと……」

「フフフ、魔法とは割りかしなんでもありなのさ」

 

 戦士団は、先程までの村人達と比べればアンサングとしてはだいぶ居心地がいい空間を提供してくれた。一応の面子という物があるのかある程度の礼節を外すことはできないようだが、それでもだいぶ砕けた様子で話してくれる分かなり話しやすかった。

 

「それにしても、先程の強大な魔法。ドール殿は、国元では名のある魔法詠唱者なのか?」

「あー、うん。まぁね。それなりだったとは思うよ」

 

 とはいえ、この世界の情勢についてはアンサングもまだほとんど未知のままだ。しかも九割方ないとは思うがガゼフに腹芸ができないという保証はどこにもない。故に、このような質問をされると曖昧に返すことしかできないため下手なことを言わないように意識するのは若干のストレスが積もる。表情が直接表面上に出ないため意識する必要が全くないのは幸いというべきか。

 

「この辺りでは、どの程度の魔法が主流なんだい?」

「俺はそこまで詳しいわけではないが、バハルス帝国の化物魔法詠唱者が第六位階の魔法が俺の知る限り最高位の魔法だな」

「……なるほどね」

 

 この話題に触れすぎると確実に碌なことにならない。そう判断したアンサングはそれ以上話題を広げることはやめることにした。あくまでアンサングの目的は落ち着ける場所を見つけることなのだから、必要以上に目立つことは避けなければならない。王国の戦士長を敵国の特殊部隊から救い出すという大立ち回りを演じておいて今更何をという話ではあるが、大前提を忘れてはならない。

 

「さぁ、もうそろそろ王都が見える頃だぞ、ドール殿」

「……そうだね」

 

 そうして雑談を交わしながら王都への道を進んでいるうちに、、アンサング達一行の視線の先に、巨大な外壁が見えた。

 若干ではあるが声が弾むガゼフに対し、アンサングの声は幾分か沈んでいるようにも思われた。だが、それはガゼフに察せるほど明白なものではなく、アンサング本人も失礼に当たると判断したためか隠したため、その感情の機微に気づくものは居ない。

 ここまでの道中。決して短くない時間の中で交わしたガゼフを始めとした戦士団達との会話で、アンサングはこの世界に来たばかりの頃に思いついて即座に切り捨てた可能性が首をもたげているのを感じていたのだ。

 

「事実は小説よりも奇なり、か……」

 

 これから目にする王都の風景に思いを馳せながら、誰にも聞こえないレベルの小声でアンサングは呟いた。

 

―・―・―・―

 

「…………」

 

 王都へと至ったアンサングを待っていたのは、紛うことなき人の営みだった。人々の動きには1秒前と同じものは何一つとして存在せず。それぞれがそれぞれの人生を歩んでいることは明らかだった。

 

(良い夢で済めばいいんだけどな……)

 

 これを全てがAIであるというのはいくらなんでも無理がある話だ。こんな化け物じみた規模のものを動かす金など今の世界の一ゲーム企業が用意できるはずもなく、また、これらを全て人間が操作しているというのも同じく無理がある話だ。

 即ち、彼らは全員が生きているのだ。この世界で。

 もはや認めるしかないだろう。

 アンサングは仮想世界が現実となった異世界へと来てしまった。そうとしか説明ができないのだ。

 

「はぁ……」

「ドール殿、どうかしたのか?」

「いや、なんでもないさ……」

 

 ため息を1つついた後に、アンサングはガゼフ達の案内で王城までの道を戦士団の横を歩きながら、王都の町並みを眺めていた。

 

(何というか、割り切った途端に今まで以上にリアルに見えてくるな……)

 

 例え天使としての特徴を全て隠せたとしても、アンサングの非常に整った容姿を隠せるような装備をアンサングは持ち合わせていない。否、正確にはアンサングを見えなくするなどの手段を用いれば目立たなくすることも可能ではあるが、そんな事をしてガゼフから「顔を見られたら困る事情でもあるのか」といらない疑いをかけられる方が面倒だ。

 

(ある程度人目を引くことは覚悟していたが……)

 

 ガゼフの人望故か、それともアンサングの持つ美貌と絢爛豪華な装備故か。戦士団とアンサングの王城への道は、人の海を割ったかのような道を歩むこととなった。この世界の文明レベルや景気の判断材料が乏しかったことも原因としては挙げられるが。それを言い訳にしてはいけないレベルの盛況ぶりに辟易したアンサングは、確認のためにガゼフに問いかける。

 

「ガゼフ殿、この騒ぎはいつもの事かい?」

「まさか。無骨者の集団にこんな注目は集まらん。ドール殿が居るからだろうな」

「そう……」

 

 アンサングは内心でため息をつく。彼女自身、自分のアバターがNPCの中に突っ込まれればそれなりに目立つものである程度の自覚はある。だが、それにしたってこの騒ぎはアンサングの予想を遥かに超えている。

 

(ふむ……娯楽の類がないのかな)

 

 街の風景を眺めながら、非常に簡単ではあるが推測を行う。そうでもして気をそらさなければ、どうしてもこの見世物にされているような視線に嫌なことを思い出してしまうからだ。

 おそらくではあるがこの王都の中でも最も大きい通りであるにも関わらず、本通りを少しでも外れれば道路の舗装はされなくなり、地面を軽くならしただけのものとなっている。建物の雰囲気も、良い言い方をすれば情緒があるが、早い話が古めかしいだけのものだ。仮にも王都がこの様では、他の都市もたかが知れるだろう。

 建物の種類も多様とは言えず、住宅と生活に必要なものが取り揃えられる程度でしかないであろう店、後は多少の飲食店があるだけ。幾つかは大通りに映える豪華な建物もあるにはあるが、その程度当たり前のことだ。

 それらの街並みからアンサングが想起したのは、アンサングの世界における貧民階層の者達が過ごす場所だった。人々を潤わせる何かが存在せず、まるで人々を家畜にしようとしていると思わせるような街並み。そんな街に住む者達だからこそ、アンサングのような全くの未知である存在に大なり小なり心を惹かれるのだろう。

 

「近年、国力は低下の一途だ。少しでも明るい知らせがあるのならば飛びつきたいのだろう」

(やっぱりか)

 

 黙って街並みを見回すアンサングの雰囲気から彼女が考えていることをなんとなくではあるが察したガゼフからそんな事を言われ、アンサングは自分の読みが多少なりとも当たっていた事にほのかな充実感を覚えるが、それはすぐさま霧散した。

 

(にしても、王都がこれじゃ、心穏やかにアウトドアは難しそうだなー……)

 

 道中で出くわすことこそなかったが、野盗にでも襲われそうだ。そんな事をアンサングが考えているうちに、大勢の人々を巻き込んだ王城への行進は終わり、王都の最奥に位置する王城、ロ・レンテ城へとたどり着いた。現実では見たことがなかった歴史を感じさせる巨大な建造物に若干の感動を覚えるアンサングだったが、それ以上に人々の視線から一刻も早く離れたかったため、ガゼフと共に王城へと入った。

 

―・―・―・―

 

(それにしても、王様っていうのはそんなにホイホイ見知らぬ旅人とあって良いものなのか……?)

 

 先に今回の遠征についての報告のために王の元へと向かったガゼフとは異なり、王城へと入ったアンサングは客間へと案内されたアンサングは、歴史を感じさせるソファに身を沈め、特に何かを考えるわけでもなく、壁にかかった調度品を眺めながら時間が経過するのを待っていた。

 

(うーん、落ち着ける場所としてはリ・エスティーゼ王国は△かな……スレイン法国は碌な事にならないだろうし、あと近くにあるのはバハルス帝国か……)

 

 まだまだ大部分が不透明ではあるものの、今後の予定を考えながら調度品を眺めていると、ノックの音が響いた。ガゼフが呼びに来たのだろうか。そう思いながらドアへと近寄る。

 

「ガゼフ殿、用事は終わったの……かい?」

「あら?」

 

 が、扉を開けたアンサングの目の前に居たのは、まるでお伽噺の絵本の中から飛び出してきたお姫様のような印象を与える少女。美しい黄金の髪と宝石を思わせる深みのある青の瞳を持ち、『黄金』とすら呼ばれるこの国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと、彼女の兵士である青年、クライムだった。

 




予想外の長さになったため短いですがここで区切ります。
一応言っておきますが自分はアウトドアを楽しむオリ主と原作キャラと(今は言えないネタバレ)が書きたかっただけであって間違えてもデミウルゴス並みの化物との舌戦なんて書けるほど頭良くないです。


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コミュニケーションは大切にしましょう

初めに書いておきましょう。
プロット通りに書いたのに何でこうなったんですか。


(さて、どうしたものか……)

 

 ナザリック地下大墳墓のモモンガの自室にて、モモンガは思考を巡らせていた。「遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)」で確認した所、この付近にある幾つかの村とそれよりも少し距離がある場所に都市を発見した。いくら外の世界にアンサングを害した何者かがいる可能性を考慮したとしても、直接外に出なければ何も始まらないことは確かだ。今現在、各階層守護者には各階層の警備と監理を任せ、隠密能力に長けたモンスターによって構成された捜索部隊を外の世界に送ったが、アンサングに関する報告は上がっていない。

 だが、この辺りに存在するモンスターに関する報告は有益なものであった。

 

(この辺りに脅威らしい脅威はない。少なくとも、あの都市までの道くらいならば安全なはずだ)

 

 この付近に存在するモンスターはゴブリンやオーガなどと言った、ユグドラシルならば初心者が真っ先に倒すことになるであろう雑魚とすら呼べないようなモンスターばかり。大墳墓より北に存在する森林地帯にはもう少し強力なモンスターが存在するが、それもモモンガからしてみれば誤差としか言いようがないレベルだ。

 いきなり都市に行って無知から面倒事に巻き込まれてはたまったものではない。取り敢えずは近くの村へ向かい、僻地で魔法を研究していたため世情に疎い旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)といった感じの適当な言い訳をつけ、現地で直接情報を収集する必要があるだろう。

 

「何にせよ、動かねばならん時、か……」

 

 ふと口から溢れたそんな言葉に、モモンガの傍に控えていたアルベドが敏感に反応した。

 

「モモンガ様。ご命令くだされば、守護者一同、いつでも行動を起こす準備は出来ております!」

「あ、うん……んんっ、そうか、頼もしいな」

「勿体なきお言葉です!」

(あっぶな……NPCの前での振る舞い方も考えないとな……)

 

 突然割と大音量で話しかけられたため一瞬素の口調が飛び出してしまうが、小声だったため幸いにもアルベドに聞こえたような様子はなかった。だが、今後も大丈夫という保証はどこにもない。

 

(疲れるんだよなぁ……)

 

 外の世界のあるのかどうかもわからない脅威よりも、ある意味そちらのほうがモモンガの悩みの種となりつつあった。モモンガはこの世界へとやってくる前はユグドラシル以外趣味のないごく平凡な社会人だったのだ。上司からの理不尽な要求をどうにかこなし、給料の使い道など生活費とユグドラシル以外ほぼなかったような人間なのだ。

 そんな人間にいきなり絶対的な上位者として振る舞えと言われたところで無茶を言うなという話である。モモンガの中でそれに近しい知識といえば、ユグドラシルの中で遭遇したレイドボスと、ギルドメンバーから教えられたアニメや特撮に登場するキャラクター程度のものしかない。

 当然、その程度のものではほぼ役に立たないため、ギルドメンバーで遊んだTRPGや、ユグドラシルにて行っていたロールプレイで培った死の支配者としてのものでどうにか騙し通しているというのが現状だ。

 

(はぁー、アンさんが居てくれたらなぁ……)

 

 こういった悩みが思考を支配するたびに、思考の中をよぎるのは最後までアインズ・ウール・ゴウンに寄り添ってくれた彼女のことだった。

 彼女はゲーム内における戦術眼という意味ではモモンガと比べても大きく劣るが、ギルドの評判や他のギルドのトラブルを利用した盤外戦術においてはかのぷにっと萌えですらも「いや自分でもここまでエグくないですよ」と行ってのけるほどの辣腕を見せるのだ。

 そんな彼女が近くにおり、尚且愚痴なんかも聞いてくれるのだとしたらこれほどに心強い味方は存在しないだろう。

 

(いや、考えた所でどうしようもないか……アンさんを探すためにも、まずはこの世界のことをしっかり把握しないとな)

「モモンガ様? いかがなされましたか?」

「いや、なんでもない。少し考え事をな」

「左様でございますか……」

 

 モモンガの悩みの種筆頭となっているアルベドはどことなく不満げな様子だったが、それを口にだすことはなかった。

 

(なんであんなことしたんだか……)

 

 アルベドがモモンガに対して異常なまでの執着を見せつけているのは、アンサングと別れたあと玉座の間へ向かったモモンガが玉座の間にて控えていたアルベドの設定を「ちなみにビッチである」から「モモンガを愛している」に書き換えてしまった事が理由なのだが、少なくともモモンガが思っていたそれの数十倍重い愛を向けられることとなってしまったのだ。

 それに加え、アルベドはナザリックの守護者の中でも知恵者に分類されるだけの頭脳を持ち合わせている。自分の一挙一動をそんな女性に見られていると考えるだけでもモモンガは存在しないはずの胃が締め付けられる思いをしていた。

 

(うん、情報収集には俺が行こう! 籠もりっきりというのも良くないしな(偶には羽を伸ばしたい)!)

 

 そんな感じで、深淵なる考えなど無縁の領域で今後の方針が決定したのだった。

 

―――――――――――――――――

 

 アルベドは、憂鬱な思いを隠せずに居た。この大墳墓の主であるモモンガの前でそのような醜態を晒すことは、守護者統括としてあるまじきことではある。だが、1人の男に恋する女としてならば、無理も無い話ではあるのだろう。

 

(モモンガ様、またアンサング様のことをお考えなのですね……)

 

 モモンガから出された指示に従い、守護者に〈伝言〉を飛ばしている間も、頭の中の半分程度は先程のモモンガの様子が占めていた。

 至高の御方としての風格を漂わせながらも、かつての仲間を想い、アルベド達守護者では決して届くことのない領域で思考を巡らせる様は、アルベドが永遠に見ていたいと思うほどに素晴らしいものだった。少なくとも、アルベドの中では。

 

(アンサング様は、何をしておられるのでしょうか……)

 

 アンサング・ドール。モモンガと同じく、ナザリック地下大墳墓に最後まで寄り添い続けてくれた慈悲深き至高の御方。ユグドラシルからこの世界へと転移した際にナザリック地下大墳墓を出ていたためか現在は行方を眩ませているが、モモンガ曰くこの世界にいることは確かであるという天使を、アルベドは思い浮かべる。

 

(モモンガ様を悲しませる訳にはいかない……)

 

 守護者達にとって、モモンガとアンサングは等しく、至高の41人の中で最後まで残ってくれた慈悲深い主達だ。だが、アルベドにとってはそれらの意味合いは少々異なってくる。

 アルベドにとって、愛しい者であるモモンガをおいてどこかへと去り、今やどこに居るのかもわからない存在など、憎むべき対象でしかない。アルベドを創造したタブラ・スマラグディナに対してはその憎しみもやや薄れるが、憎むべき対象であることに変わりはない。

 

(何にせよ、早く見つけなくてはならないのは確かね……)

 

 では、そんな彼女にとってアンサング・ドールはどういった存在なのかと言えば少々特殊なものとなっている。

 

(アンサング様が居なければ何も進まない……!)

 

 何がと言われれば、アルベドの恋の行方である。

 アルベドはこの世界に転移する前から、玉座の間にて雑談を交わすモモンガとアンサングの姿を見てきた。

 彼らを除いて誰も居なくなってしまった、至高の41人。例えアルベドにとって憎むべき対象であったとしてもモモンガが彼らを何より大切に思っていたことはアルベドも理解している。そして、彼らが居なくなってしまったことがモモンガにとって耐え難い悲しみだということも。

 そんな中において、アンサングと話す時だけは、モモンガも、そしてアンサングも、その悲しみを忘れることが出来ていたように感じたのだ。

 そしてアルベドから見た玉座に腰掛けるモモンガと、玉座の肘掛けに腰掛けたアンサングが雑談を交わすその様は、非常にお似合いだったのだ。残された2人が互いに互いを温め孤独という寒さに耐えようとするかのように明るく雑談を交わす光景は、そのまま絵画にすることが出来ればこの世界の至宝にできるのではないだろうかとすら思えるほどに儚げで、美しいものだった。少なくとも、アルベドの中では。

 

 長々と語ったが、早い話がアルベドはアンサングを恋敵として認識していたのだ。

 

 無論、モモンガにもアンサングにもその気は欠片も存在しない。互いにリアルをゲームに持ち込むことを嫌う気があったため、互いに互いのリアルはあまり知らず、モモンガはアンサングのことをたっち・みーの知り合いだから勝ち組なんだろうけど良い人だから別に問題ない程度にしか認識しておらず、アンサングもまたモモンガのことはいっつもメンバーのことを第一に考えているお人好し程度にしか認識していない。普段からログインしているギルドメンバーがモモンガとアンサングになってからは互いに互いが大切な存在になったことは確かであるが、どこをどう間違えたとしてもそれは恋慕のそれではない。

 そんなことは露程も知らないアルベドは、モモンガの第一后となる際の最も高い壁としてアンサングを(悪意0で)敵視していたのだ。

 無論、アンサングが居ない間にモモンガと事を成してしまえば実質勝利だろうという誘惑や、捜索するふりをしてアンサングを亡き者にしてしまえばいいという暗い欲望がアルベドを襲うこともある。だが、そんな事をするのは「私は貴方が居ると恋を成就させることが出来ない負け犬です」と声高に叫ぶようなもの。栄えあるナザリック地下大墳墓の守護者統括であり、モモンガの第一后となる(予定の)者がそのような無様を晒せるわけがない。

 

(一刻も早く、アンサング様を見つけないと!)

 

 その勘違いを指摘する者が居ないまま、アルベドは気合を入れ直して守護者統括としての仕事に戻るのだった。

 

―――――――――――――――

 

(うおお、何だ? すっごい、お姫様だ)

 

 突然目の前に現れた絵に描いたようなお姫様を見たアンサングは少しの間脳内の語彙力が消失していた。一方のラナーもまた目を丸くしており、彼女の後ろに控えていたクライムは、王城の中では見慣れない顔であるアンサングに対し、警戒を深めた。そんな彼が視界に入ったアンサングは、面倒なことになる前に親しげな笑みを浮かべて喋り始めた。

 

「これは失礼。つい見とれてしまっていたよ。私の名前はアンサング・ドールという。訳あって旅をしていた所王国戦士長殿の任務を手伝うこととなってね。それの礼を兼ねて招待されている身だ。遠方の地から来たせいで世情に疎くてね。失礼だが、お名前をお聞きしても?」

 

 アンサングが自らの身の上を話すと、クライムも取り敢えずの相手の身分がわかったからか警戒を解き、ラナーもまた邪気など欠片も存在しない花が開いたような笑顔を浮かべ、言葉を紡ぎ出した。

 

「まぁ、旅人の方だったのですね。私はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。この国の第三王女です。こちらは私の騎士、クライムです」

「ご丁寧にどうも」

 

 自分が紹介されたからだろうか、クライムが姿勢を正し、丁寧に一礼してみせた。そんな様子を見ながら、アンサングもまた親しげな様子を絶やさずにやや芝居がかった口調で喋り続ける。

 

「それで、王女ともあろう方が何故こちらに?」

「あの戦士長が客人を城に招くというのとても珍しいことですから、一体どんな方なのか気になってしまいまして」

「ああ、やはりガゼフ殿はそんな感じなんだね」

「はい、いきなり貴方のような美しい方を連れてくるものですから、ちょっとした騒ぎになっているんですよ?」

「ああ、もし迷惑をかけてしまったのなら謝るよ。とはいえ、今の私は無一文だからお姫様が満足するような謝礼は出せないけどね」

「迷惑なんてとんでもありません! それよりも、もしお時間があるのでしたら私に旅の話を聞かせてくれませんか?」

「ああ、それでいいなら、喜んで話すとしよう」

 

 ラナーは変わらない無邪気な笑顔を浮かべながら答える。それに対してアンサングは薄気味悪い違和感を感じながらも、ラナーとクライムを客間へ入れた。

 

―・―・―・―

 

「とまぁ、話として面白いのはこんなところかな。お姫様のお眼鏡に適ったかい?」

「ええ、とても! 私は外に出ることが殆ど無いので、とてもおもしろかったです! クライムはどうでしたか?」

「はい、自分としても非常に興味深い話でした」

「そうかい、それはなによりだ」

 

 取り敢えずユグドラシルにて行われたレイドイベントの内の1つを物語として語った。無論、規模はこの世界に合わせて相当ダウングレードさせてある。アンサングは語る際に閉じていた目を開き、ラナーとクライムを見据えた。表面上こそ礼節を持った口調ではあるが、クライムのその瞳は英雄譚を初めて聞いた子供のような輝きを隠しきれては居なかった。そんなクライムの様子を見た後に、アンサングは机を挟んで対面に座っているラナーに視線を向けた。その顔には相変わらずの穏やかな笑みが浮かんでいる。

 

(気のせいだと思いたいが……)

 

 この世界がゲーム世界ではない以上、アンサングは出会う人物全てに対してある程度警戒して接してきた。

 だからこそ、ラナーを見たときに感じた違和感の正体に気づくことが出来た。

 人は生き物である以上、完全に同じ表情を繰り返すということは出来ない。その日の体調、その瞬間瞬間の気分、周囲の環境。そういった様々な要因によって、一見同じように見える笑顔にも僅かながら差異が発生する。そういったものさえも判断材料にしなければならない会話を現実世界で嫌という程に行ってきたアンサングはそういったものを読み取る能力で言えば一流であり、その僅かな差異から相手の真意を見抜くことすら可能だった。

 

(楽観的が過ぎるよな……!)

 

 だが、目の前に座っているラナーからはその差異が一切見られなかった。まるで、こう言われたら笑顔A。ああ言われたら笑顔B。そう言われたら笑顔Aと予めそうプログラミングされているかのように表情を変えるのだ。

 あらゆる行動や仕草、表情や言動から本心を廃する。そういったものに気をつけなければ何をされるかわかったものではない世界を生きてきたアンサングからしてみればふざけるなとしか言いようがないレベルだった。

 今現在の段階でこそ、敵対する要素は何も存在しないが、もし目の前のこれが人並み以上に頭が回るならば単純な知恵比べで上回ることは不可能だ。

 乾かないはずの喉が干上がるのを感じながらもアンサングは表面上は親しげな笑みを浮かべて言葉を紡ぎ出した。

 

「さて、お姫様がいつまでも私のようなどこの馬の骨ともわからない奴と居るものではないよ。怒られる前に帰るといいさ」

「うーん、そうですね。名残惜しいですが、私もそろそろ戻らないといけません。ドール様、楽しいお話をありがとうございました。行きましょう、クライム」

「はい。それではドール殿、私達はこれで」

 

 ラナーが優雅に一礼をした後、クライムもそれに従って一礼し、出口へ向かって歩き始めた。

 

「ああ、ドール様。1ついいですか?」

「……何だい?」

 

 扉を開けるためにクライムがラナーより先に出たタイミングで、ラナーが後ろを向いてアンサングを見据えた。そのラナーの顔を見たアンサングの動きが一瞬硬直した。

 

「私はとある事情から、力のある方との繋がりを大事にしたいのです。もし、何かあった時には私に力を貸してくれますか?」

「……報酬次第、かな」

 

 その顔に浮かんでいたのは、先程までの穢れを知らない無垢な姫君が浮かべるそれとは正しく対極にあるものだった。狂気を孕むどころか瞳そのものの輝きは欠けているように見えるにも関わらず、その狂気が光を照り返して剣呑に輝いているかのように感じる瞳。辛うじて笑みの形を保っているに過ぎない唇。その表情を見たアンサングは少し黙った後に苦笑いを浮かべ、そういうのが精一杯だった。

 アンサングがそう言うと同時に、一瞬前まで浮かべていた表情は鳴りを潜め、再び花が開いたような笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます! 連絡は戦士長さんを通じて行えばいいですか?」

「ああいや、これをあげよう。お姫様でも使える〈伝言〉に似た魔法を込めた宝石だ。この宝石を持っている者同士でしか会話は出来ないが、用がある時はこの石に語りかけるといい。返事ができる状況ならば応じるよ」

 

 これを敵に回してはならない。本能でそう察したアンサングがそう言ってラナーに渡したのは簡易な装飾が施された赤色の宝石だった。

 

――――――――――――――――

 

「フフフ……」

「ラナー様、その宝石は……?」

 

 自室へと戻ってきたラナーは終始笑顔を浮かべていた。彼女が笑顔なのは割といつものことなのだが常日頃から彼女のそばにいるクライムから見ても、今の彼女は上機嫌に見えたため問いかけた所、クライムの方を向いたラナーはやはりいつもの数割増しで輝いている笑顔で喋った。

 

「とっても素敵な贈り物よ」

「はあ……」

 

 とはいえ、普段からラナーの傍にいれば高級な品を目にすることも珍しくないため一般人と比べれば少しは目利きが聞くクライムから見ても、その宝石はラナーの服飾に使われているものと比べて質が良いものとは思えなかったため、曖昧な返事を返すことしか出来なかった。

 

 気づいていた。否、気づかれた。

 先程からラナーの脳内を支配していたのはその事実だけだった。

 ラナーの内に秘める狂気を知る者は数こそ少ないが確かに存在する。だが、取り繕うことを覚えたラナーを見てその狂気を看破した者は彼女が──素性も何もわからない旅人、アンサング・ドールが初めてだった。旅人と言うには明らかに無理がある軽装ながら絢爛豪華な装備と、もはや芸術家が作った彫刻であると言われたほうが納得がいく程に整った彼女自身の容姿。

 

(ああ、何だろう、この気持ちは。恐怖? 羨望? 歓喜? わからない、わからない!)

 

 極めつけは、最後に見せた彼女の表情。まるで、お前も大変だなと言わんばかりの嘘偽りのないようにしか見えない苦笑い。そこにどんな本心を隠しているのかはわからないのに、何かを隠していることだけはわかる苦笑い。

 彼女は、アンサング・ドールは、自分と同じ人間なのかも知れない。いや、そう看破したからこそ、〈伝言〉と同等の機能を無制限で誰でも使用可能というこれ1つで立派な豪邸が建てられるであろうマジックアイテムを渡したのだろう。

 自分を使いこなしてみせろとでも言うのだろうか。それとも、お前など井の中の蛙だとでも言うのだろうか。それとも……

 沢山の判断材料を渡されたにも関わらずアンサングの真意がラナーにはわからなかった。その未知は、途方も無いほどに甘美なナニカとなり、ラナーを包んでいた。

 

「今日は良い天気ね」

 

 同じ光景しか見えないはずの、自室の窓から見える風景が、今日は何故か輝いて見えた。

 




ちょっと主人公の説明をしないと分かり辛いにも程があるので次の投稿は主人公の設定になると思います。
評価やお気に入りや感想ありがとうございます。執筆の励みになっております。


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キャラクター紹介 アンサング・ドール

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。今月いっぱいは投稿がやや難しい状況となっております。
キャラ紹介は原作風となっております。


 

アンサング・ドール  |  異形種

 

[アインズ・ウール・ゴウン]

――――――――――

 

Unsung・Doll

 

[ainz ooal gown]

――――――――――

 

心優しき堕天使

(TRPGシナリオ『讃えられざる人形』より)

 

――――――――――

 

役職――――至高の41人。

 

住居――――不定。

 

属性――――善良―[カルマ値:200]

 

種族レベル―天使――10lv

      大天使―10lv

      天使長―10lv

      堕天使―5lv

 

職業レベル―パラディン―10lv

ワルキューレ/ツインソード―5lv

クレリック―10lv

サモナー―15lv

      ほか20lv

 

[種族レベル]+[職業レベル]―計100レベル

種族レベル―35

職業レベル―65

 

能力表(最大値を100とした場合の割合)

HP(ヒットポイント):80

MP(マジックポイント):85

物理攻撃:90

物理防御:65

素早さ:90

魔法攻撃:80

魔法防御:55

総合耐性:85

特殊:98

 

解説

容姿は本人曰くめちゃくちゃ気合を込めたとのことであり、首に少しかかる程度で切りそろえられた白銀の髪と何も知らない人が見ればやや心配になるレベルの細身の体が特徴。キャラ作成の際に本人がイメージしたのは人形の素体とのこと。一見すれば人間にしか見えないが、彼女の外見はいうなれば見せかけの外皮のようなものであり、彼女の体に裂傷の類の傷をつけることが出来れば、彼女の本体である結晶によって作られた歪な人形が覗くだろう。とはいえ、外皮にも一応感覚は通っており、モモンガなどのアンデッドとは異なり五感は正常に機能しているため飲食も可能。顔面も魔力で動かすことが出来ないわけではないが幻術をかけっぱなしにした方が割と思い通りに動かせるため、異世界に転移してからは基本的に幻術を展開している。天使としての力を行使する際には結晶で構成された3対6枚の翼が展開される。

あまのまひとつとタブラ・スマラグディナによって作成された設定てんこ盛り堕天使装備を常に装備している。見た目としては女騎士がでてくるアニメなどにありがちな鎧のくせしてお前それきちんと守れてるのかという感じのところどころ素肌が見えている軽装の鎧。天使長の装備する鎧がそのまま闇落ちしたらどうなるのかというコンセプトのため、全体的には白銀の装甲を主体としているものの、所々に暗い紫色がアクセントとして用いられている。

防具のレパートリーとしてはこれ以外に攻略用の神器級装備一式とペロロンチーノからプレゼントされた何故運営にBANされないのか不思議でならないほど露出が高い痴女装備を持っているだけであり、その分メイン武器である双剣に関してはかなりの種類を持ち合わせている。

当初のコンセプトはたっち・みーによって鍛え上げられたアンサングのゲームスキルを最大限活用できるよう「当たらなければどうということはない」を体現した回避主体の超近接特化型キャラビルドだったが、稼ぎがメインになっていくに連れて範囲攻撃魔法や召喚魔法を取得した結果、稼ぎには最適なもののやや器用貧乏感が否めないビルドとなった。

堕天使のクラスは既に習得してある天使系の種族レベルに応じてステータスが上昇するという特殊なクラスではあるが、わざわざその為に5レベルを割くほどではないということでそれほど人気の種族ではない。

 

現実世界では超がつくほどの勝ち組であり、幼少期からお嬢様として勝ち組街道を爆走してきたような経歴を持ち現在では若くして大企業の女社長という身分についている。その上本人は認めないが要領も非常に良く、大体のことはそつなくこなせてしまう。が、父の会社を書類上で継いでからも基本的な業務は父が行い、自身は体のいい広告塔として利用される日々であったため、現実での彼女はさながら父の操り人形だった。自分の意志はほとんど自由にできないにも関わらず他の企業と顔を合わせて話すことが多い身分のため、他人の顔色を伺う能力とストレスだけが加速度的に溜まっていった。そんな彼女の様子を見かねた古い付き合いであるたっち・みーに誘われてユグドラシルを始め、3日でのめり込んだ。彼女のキャラには親の操り人形でしかない自身への皮肉と、せめてゲーム内だけでもその操り主に抗いたいという願いが込められている。

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の中では比較的後期に加入したプレイヤーであるということと、こういったゲームが初めてであり、他の人よりもかなりしっかりとした敬語を使っていたためかギルド内では出来る後輩キャラを確立し、いい感じに愛されるポジションを獲得した。モモンガ以外で仲が良かったプレイヤーは数少ない女性プレイヤーである餡ころもっちもち、ぶくぶく茶釜、やまいこ。自身のキャラのコンセプトを話した際に何かが琴線に触れたのか会話が多くなり、アンサング・ドールを題材としたTRPGシナリオを作るまで至ったタブラ・スマラグディナ。たっち・みーをどうにかして倒すために究極の一振り作成に付き合っていた武人建御雷。ギルド同士の衝突などに備えて話すことが多かったぷにっと萌え。女性プレイヤーの中では唯一エロに異様に寛容だった(本人曰くここまで開けっぴろげだとむしろ好感が持てる)ためか何故か馬があったペロロンチーノ。もともと自然に興味があった彼女にユグドラシル内の絶景やアウトドアを教えてくれたブルー・プラネット。

ゲームをストレス発散のためのツールと見ている部分があるせいか出来る後輩キャラに反してプレイスタイルは脳筋そのものであり、戦術面に関しては知的な部分は欠片もない。だが、ギルドの運営やギルド同士の衝突。または人間関係などに関してはぷにっと萌えですらドン引きするほどの頭の回転を見せ、敵対ギルドを戦闘無しで内部崩壊させたこともあるほど。そんな彼女ではあるがアインズ・ウール・ゴウンの運営にはそれほど関わらず、各個人の考えを尊重する立場が主だった。

ギルドメンバーが減ってからは自分を責める言動が増え始めたモモンガを気遣ってか敬語を外して彼女の対人能力を総動員してモモンガとの距離を縮めた。霊廟作成にも付き合っており、モモンガと比べて芸術的な面では秀でていたため霊廟の各プレイヤーの像、アヴァターラの作成は彼女が行った。それに加え、霊廟の最奥にとある施設を作り、彼女が唯一作成したNPCもそこにいるが、その詳細はモモンガしか知らず、守護者を始めとした者の場合統括であるアルベド以外は存在すら知らない。

元々昇進によってユグドラシルすらプレイできないほどに多忙の身となっていたたっち・みーと彼の妻以外にはそれほど親しい間柄の人物もおらず、富裕層の人間であるにもかかわらずウルベルト・アレイン・オードルと同程度なのではないかと言うほどに世界に失望しきっているためリアルへの未練はほぼない。

 




一度はこういう設定書いてみたかったんですよねぇ。気になる所がありましたら感想欄などで言及していただけると幸いです。


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