魔法? んなもんねーよ (社畜系ホタテ)
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ぷろろーぐ

久しぶりに小説を書きますので駄文感は半端ないのでお手柔らかによろしくお願いします。

保険はかけとくもの(確信)


何か知らんが真っ白な空間にいた。頭が痛く、自分のここ最近の記憶が曖昧だ。ここはどこだ、俺は誰だ。なぜここにいる。ミュウツーの逆襲面白いよね。

 

つーか、何ここ。なんで真っ白なん? なんか神聖さがあるような……あぁ、なるほど、把握。

 

「所謂テンプレという奴か」

「その通り。お前は死んだ」

 

俺の呟きに反応した誰かが背後から不必要な回答をよこした。振り返るとそこには和服のひょっとこ青年が。

 

「なぜにひょっとこ?」

「なんか素敵やん」

 

なるほどなっとく。そんな俺の表情を見たひょっとこさんは首を一つ頷き言葉を続けた。

 

「今北産業」

「真っ白なテンプレ空間

 俺死んでテンプレ転生

 んでなんでお前が聞く」

「おk、把握。いやー、一応今来たばっかりだからネタを現実に使えるチャンスかと思って」

 

ネタに反応してしまう自分の口が悔しいです。ひょっとこさんはそういうと自分のひょっとこお面をずらして苦笑いしていた。あらやだイケメン。

 

「つーかお前誰だ」

「私は神だ」

「お前だったのか」

「暇をもてあましry」

 

最近の神様はネット用語と一昔の芸人に詳しいらしい。

 

閑話休題。どうやら本当に俺は死んでしまったらしく、よくある二次創作みたいな予定にない死だったため神様法則的に世界がなんちゃらかんちゃらなわけで、このひょっとこイケメン兄さんこと神様が転生させてくれるんだとか。で、これまたよくある二次創作みたいに元の自分の世界だと神様法則的になんちゃらかんたらだから他の、それも神様が新たに作った世界に転生するらしい。

 

「ほうほう、俺のために新たな世界をつくってくれるとな。俺の中のひょっとこさんの株が急上昇」

「それはだるいからここ最近この前似たようなことがあって世界作ったからお前にはそこに行ってもらう」

「俺の中のひょっとこさんの株は大暴落」

 

わかってないなちみー、って感じで両手でやれやれポーズのひょっとこさん。

 

「世界を作り直すっていうのはそれはもう大変な作業なんだぜ。お前の世界で例えるなら菜箸で豆掴むみたいな」

 

それならしょうがない。箸の持ち方がなっとらんと未だばっちゃんに怒られる俺には納得するしかない。

 

まぁ、でも無事に転生できるみたいなので俺は安心して転生させてもらおう。

 

「じゃあそろそろ転生特典でも言ってもらうか」

「ちょっと待て」

 

全然安心できなかった。というかひょっとこさんの所為で今は不安しかない。

 

転生特典ってあれだろ。危ない世界でコロッと死なないようにするために与える力のことだろ。

 

えっ? 俺って今から行く世界はそんな危ない世界なんですか?

 

「何故に敬語? まぁ、危ないっちゃ危ないか。原作だと地球滅亡の危機に直面するし、キャラが何人かお陀仏してるし」

 

原作とかなんぞ?

 

「知らないなら知らない方がいいと思うぜ。そういうの意識して普通に生活できないって人間を何人かではあるけど見てきたし」

 

ならいいや。

 

それよりそんな危ない世界への転生はしたくない。元は平和で堕落な生活をしていた俺には難易度ルナティック。世界の変更を求む。

 

「あの世界に転生するっていうのはもう決定事項なんだ。悪いが変更は出来ない」

「異議あり」

「却下」

 

さすが神様。俺達人間になんて選択権はないんですね、わかります。

 

くそー、どうすればいいんだ。地球滅亡の危機ってことは舞台は地球だろ。なんだよ核戦争でも始めようってことなのか。地球は核の炎に包まれて世紀末になるんですね、わかりたくありません。

 

「そろそろ時間もなくなってきたし、転生特典を早く決めちゃおうぜ。ちなみにランプの精の如く三つまで」

「制限時間とかあったのか。もっと早めに言ってほしかったでござる……」

 

なんという鬼畜な神様なんざんしょ。最初のいい神様感どこいった。デンデを見習え。

 

「俺は神であってナメック星人ではないからな。つーか、いいのか。そんなネタに走ってるとどんどん時間が経っちまうぜ。なんなら俺が決めちまおうか」

「ならお願いしよう」

「えっ?」

 

なんだ、その驚いた顔は。

 

「い、いや、ここは普通自分の欲望を爆発させる場面だろうが」

「制限時間をつけた奴とは思えんセリフ」

 

こんな切羽詰った状態で自分の欲望を爆発とか無理な話だ。俺は早漏ではないのだ。決して。ホントのホントだよ!

 

「知らんがな。……ホントにいいんだな?」

「オッケーオッケー。もう考えるのに疲れた。カーズ様状態の俺をさっきから読心術使ってるひょっとこさんならわかっているだろうに」

「……やっとそれに触れたのな」

 

頭の中でつっこまんぞ! 絶対にだ! って言い続けるのにも疲れたとです。

 

「というわけで、俺がその危な気な世界でも無事平和に暮らせるような特典をくださいな……おろ? 体が透けてくるとはなんという不思議体験。アンビリーバボーもびっくりだな」

「転生が始まった。特典の方は俺が適当に選んでおく安心して行ってくるがいい」

「テキトーじゃなく適当とは神様のただならぬやる気が」

 

そこで俺は意識が消えた。



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第一話

オギャーと言うのに疲れていた俺にとっては喋れるというこの現状に少なからず感動している。

 

つーか、なんで赤ん坊から転生なんだよ。これもテンプレですね、わかります。何を言ってもオギャーに変換される赤ん坊クオリティはすごいと思う。

 

だってウソダドンドコドーンって言ったつもりでもオギャーである。まぁ赤ん坊だからしゃあなしだろう。今の舌足らずだがなんとか喋れる俺にとって、赤ん坊翻訳機やほんやくこんにゃくが出来る時代が待ち遠しいかった過去の俺とはおさらばなのである。

 

転生して3年が経った現在、優しそうで美人である俺の理想のお嫁さん像のママンと、数分ごとに俺の様子を見に来る俺にデレッデレの筋肉隆々のじじ様。そして、その他の胴着を着たごっつい方々に囲まれてすごしている俺はすくすくと元気に成長しています。

 

決して現実逃避なんかしていない。じじ様が、素手で地面割ってちょっとした地震を起こしたり、ドラゴンボール的ななんかの波を撃っていたりしていたけれど、現実逃避なんてしてないったらしてない。

 

どうやら家の中では、これが普通のことだったらしく、赤ん坊だった当時、誰も何の疑問の声を上げないもんだから、さすがに痺れを切らした俺が「オギャー(お前ら突っ込めよ)!」といったのはいい思い出。

 

ママンも、じじ様が「修練じゃー!」 と言っては始めた修練中の、胴着の方々が次々と吹っ飛ばされていく様を見て、「あらあらお爺ちゃんたら元気でちゅねー」の一言で済ませていた。つーか、リアル三国無双とか初めて見たわ。じじ様こそ真の三国無双だー。

 

実はなんたら流という日本どころか世界でも有名な流派である家の道場。そして、全ての武の頂点に君臨しているのがお家のじじ様なのだとか。ごっつい方々はお弟子さんだったんですね。

 

そのことを知ってから俺はもう深く考えるのはやめた。地球だって滅亡してしまいそうなのだ。そういう世界なんだろう。どういう世界だコラ。

 

セルフ突っ込みはこの辺で現状を話そう。俺は今、家のお庭でじじ様にドラゴンボール的波を習っています。だってかっこいいじゃん。波だよ波。男のロマンですたい。

 

じじ様曰く、体の中にある気を掌に集め、凝縮し、それを前に打ち出すのだそうだ。

 

「つーか、気って何ぞ?」

「気とはいわゆる生命エネルギー。すべての物質の根源であり最も基本的な構成単位であり自然界に充満しているエネルギーのことじゃ」

「なるほどわからん」

「」

 

じじ様は理論型というより本能型だと推測。長嶋さんみたいに本能型の説明じゃわからん。

 

まぁ、いっか。適当にやろう。

 

俺は目を瞑る。イメージするのは強い奴と戦うことにワックワクしている某野菜人。パクリはよくないからあの格好ではなく自然体から拳を少し引き、深呼吸。おらに元気を分けてくれー。

 

 

「な、なんじゃ!? 気が集まってきておるじゃと!?」

 

 

そりゃあ元気分けてもらっているからね。なんか体が暖かくなってきた。

 

これが気ってやつですかい? 体が少し振動した。

 

俺の思考で返事をするとか気さんマジパネェ。ひょっとこさん並にパネェっす。

 

じじ様がいうにはこれを掌、いや、今回は拳か。拳に集めてブッパ、ということなんで脳内で拳にいけーって念じる。すると拳だけが暖かくなった。おー、なんて従順な子達なんざんしょ、気ってやつは。

 

時は来た。準備オッケーと気達に確認して了承を得た俺は狙いを丁度自分達の直線状にある数あるうちの木の一本につける。そして、カッと目を見開くと共に引いていた拳を勢い良く突き出した。

 

 

 

「師範やっと見つけました! 由美子さんが探して……え?」

「あ」「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチューン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう空閃ったらそんな物騒な攻撃を人に向けて撃っちゃいけません!」

「ひっぐ…ご、ごめんなさい……」

「ほ、ほら由美子や。空閃も泣いていることだし反省しておるからそこらへんで」

「お父さんは黙ってて! お弟子さんが生きてるからいいけど、下手したら大惨事だったのよ!」

「……はい」

 

 

本多 空閃(ほんだ くうせん)。元気な三歳児です。



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第二話

驚愕の事実! 俺のお家は沖縄付近のとある離島に建てられているらしい。島の名前は『本多島』という。なにそれこわい。

 

なんでも、第二次世界大戦時にじじ様がこの島で一人、米国軍と戦闘を繰り広げていて、遂には相手戦艦を占領してしまったのだとか。じじ様は米国に勝った男としても有名だとはアメリカンなお弟子さん談。

 

じじ様をリアル範馬雄一郎だと認識した瞬間である。つまり、その孫である俺はバキなんですね、わかります。胸が熱くなるな!

 

ていうかお弟子さん、本当にHAHAHAHAって笑うんですね予想外デス、あと歯が白い。

 

そのときの戦利品というか国からの礼みたいなのがこの島なのだとか。じじ様スゲーって本人に言ったら、ただならぬ雰囲気で「ワシはお国からここを守れと命を受けただけじゃ。今も昔も……そして、これからも」と言っていた。なんだかいろいろあるみたい。

 

だけど、俺はシリアルは好きだけどシリアスは苦手なので「なんだか知んないけど家のじじ様は最高にかっけーっすよ!」ってグッジョブポーズを笑顔で決めてその場を退散。戦略的撤退である。

 

あとからママンに聞いた話だとじじ様大号泣だとか。え、なぜに?

 

なんでも「あの人が言ったとおりにこの島が輝いている人が増えた。孫も島人も……この島にいるものは生き生きとして輝いておる。あの人との約束を守ってきてよかったわい」だそうだ。だからシリアスはやーめーてー。

 

閑話休題。じじ様の過去編なんて興味あるけどそう簡単には聞いてはいけないような気がしてならないからここはスルーしておいて、だ。

 

なんとね、ここ沖縄だったのですよ。道理で熱いと思ったね。台風もバンバン来るしさ。シーサーがいないから気がつかなかったわ。

 

シーサーがいない理由はじじ様がいるのに他の守り神がいる? って笑顔でママンに言われたら納得した。でも、シーサー。沖縄といえばシーサー。……まぁ、いっか。じじ様がシーサーだと思えば。

 

自己完結。

 

 

 

 

 

 

 

 

「空閃」

「んーなんぞー?」

「そろそろ空閃もいい歳じゃ。どうじゃ? 武術でもやってみんかのぅ?」

「お断りー」

「」

 

最近、じじ様の武術への勧誘がしつこい。いや、前からだったか。

 

今俺は4歳だから一年くらいは勧誘されている。ことの始まりはあのお弟子さんピチューン事件からだったか。嫌な事件だったね。

 

どうやら俺には武術の才能があるらしい。

 

普通は気というものは自分の生命エネルギーから使用していくのだが、俺のそれは違うらしく、なんでも、自然が放出する空気中に分散されている気を吸収して使用しているんだとか。

 

しかも、その吸引力も半端なく、近くにいたじじ様の周りから気が消えたと錯覚してしまうほどだったらしい。それなんていうダイソン?

 

「その能力を上手く成長させれば空閃はわしを越える武術家になるんじゃぞ。世界一じゃ、世界一。男の子が憧れる一番を空閃は手に入れられるんじゃ」

「二位じゃだめなんですか?」

「ばっかもーん。男なら一位を目指せ!」

 

明日から修練じゃぞ。と勝手に話を進めているじじ様を見て発言にミスったことに気づく。ネタへ速攻に走ってしまう自分の口が恨めしい。はー、と溜息一つ。

 

「じじ様。俺はね、争いとか闘いとかそういうの、興味が無いの。こうやって縁側でほのぼのお茶飲んだり、ダラダラゴロゴロしたり、お昼寝したり、そういう生活がしたいんだよ」

「ばっかもーん。男が争わないでどうする! 社会に出たら争いばっかじゃぞ! そんなんじゃったらすぐに窓際族になってしまじゃろ!」

「まぁまぁ。俺は将来、綺麗な奥さん見つけて紐にしてもらうから。社会出る気ないし」

「ばっかもーん。女は本能的に強い男を求めるんじゃー! 武術で世界一になったらウハウハじゃぞ」

 

もうやだこのじじい。あーいえばこういう。波平さんでも乗移ったのだろうか。こうなればまた戦略的撤退だー。

 

「あっコラ空閃! どこ行くんじゃー! 話はまだ終わって……なっ!? 体が動かんじゃと!?」

 

ちょっと気の皆さんにお願いして、じじ様を拘束してもらった。一つ一つは小さいけど、人間大に集まれば力は強くなるってね。

 

てなわけで、あばよーとっつぁーん!




原作はいつになれば入れるんだろうね。

作者でさえわかんないよ。行き当たりばったりだから。


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第三話

最近、じじ様が「いやじゃいやじゃー! わしは空閃と武術するんじゃー!」と駄々っ子顔負けの暴れっぷりにドン引きしていた俺なのだが、その姿をともに見ていたママンの説得のもと、仕方無しに武術をすることになった。

 

現在、俺はお家の道場でその元凶たるじじ様と相対している。プリン3つには勝てなかったとは言え、生き生きとしているじじ様に若干イラっとしたのは言うまでもない。

 

「ホッホッホ。空閃、お主の武術最強伝説はここから始まるのじゃ」

「帰りたいでござる」

 

俺の発言を聞かなかったことにしたらしいじじ様は今からやる修練の内容を説明し始めた。

 

なんでも、俺がどこまで出来るかを調べたいらしいので、組み手をやるんだとか。

 

クッピー知ってるよ。いつもお弟子さん達がスローで動いて拳を交えているあれのことでしょ。えっ、違う?

 

簡単に言うと八割ぐらいで戦う修練を家では組み手というらしい。なんとも無理な話である。俺は今まで武術どころか、スポーツでさえやったことがない。去年、披露した幼稚園のお遊戯とは勝手が違うのだ。

 

「まぁワシは攻撃せんから殴るなり蹴るなり好きにかかってくるがいい」

「把握。気の皆さん、やーっておしまい」

「ちょっ」

 

この前みたいに気の皆さんに拘束してもらって、去年習得した拳から波(無限パンチと命名)を至近距離からブッパしようと思ったのだが、拳に気が集まって光り輝いていたときにじじ様からストップがかかった。なんでさ。

 

「なんでもヘチマもない! お主はワシを殺すきか!?」

 

へーきへーき。じじ様無駄に頑丈だし、このピチューン技、相手が死なないことは、お家のお弟子さん達で実証済みなのさ。お弟子さんたちは犠牲になったのだ。

 

好きにかかってこいって言ったのはじじ様なのに何故か怒られた俺は、渋々気の皆さんにじじ様の拘束を解いてもらった。どうやら、じじ様は格闘的な組み手をお望みとか。先に言ってくれればいいのに。

 

やれやれ感を醸し出している俺は、仕方なしにテキトーに構える。それをみたじじ様もまた家の流派の型だろうと思われる構えをつくり、その目は猛禽類の如くギラギラしていた。あれ、ホントに攻撃しないよね? 空閃くんは痛いのは嫌いなので心配です。

 

俺の一挙一動を見逃さないとばかりの視線。買いかぶりすぎです、じじ様。

 

俺はあれよ。確かに気の皆さんとは仲良くさせてもらっているけど、それ以外は普通の一般ピーポー。無限パンチだって、気の皆さんにお願いしているだけで、俺拳を突き出すだけだし。

 

気が云々は多分神様特典だとして、あと二つの特典はわからんけど、今まで生きてきて俺に異常な能力がこれ以外になかったわけで。つまり俺は気と仲良しさんのただの4歳児ってことよ。

 

しかし、じじ様はそれに気づいてない。

 

無限パンチを見たことと、孫補正で、俺が才能あると思っている。だが、それは誤解だと、今から組み手をするじじ様なら気づくはずだ。

 

だって武の頂点にいるお方だよ。素人パンチの見極めなんてちょちょいのちょいやでーだろ。今回のことで、俺が世界一の武術家になるなんて妄想をやめてくれるのなら、ママンの提案に乗ったのはかえってよかったかもしれない。プリンも貰えるし。

 

「じゃあいっくよー」

 

子供特有の声音でのほほんと言った後、じじ様に4歳児の俺にとっては全力疾走! トテトテと走って近寄り、自分の身長的に丁度いい位置にあるバキッバキの腹筋目掛けてパーンチしようとしたのだが、なぜかじじ様に上から潰すように叩かれてしまった。

 

轟く音と書いて轟音。俺と床がぶつかった音である。

 

痛みは全然無かったから威力が床に吸収するような技でもつかったのかもしれないが、俺の頭がギャグ漫画よろしく床に突き刺さっているこの現状。じじ様、なにか言うことない?

 

「……はっ、しまった!」

 

しまったじゃねぇよ。

 

「空閃ッ! 大丈夫か空閃ッ!? ……っ!?」

 

頑張って手足で踏ん張り、床から顔を抜き出した孫を見る顔ではない。

 

何に驚いているのか知らんが、それよりもまず、攻撃しないといったのに床に顔面叩きつけた理由でも聞こうじゃないか。

 

痛くなかったからまだいいものの、下手したら幼児虐待である。裁判所に行く覚悟は出来たか? 俺は出来てる。

 

「い、いや威圧感が増したと思ったら一瞬で距離を詰められてえげつない勢いで拳が飛んできたから体が勝手に動いて……そ、それより本当に大丈夫かのぅ空閃?」

「心配して誤魔化しても俺は騙されない。これは起訴してもいいレベル」

「……大丈夫そうじゃな」

 

あれ? なんかおかしい。じじ様なんでそんな焦ってんの?

 

「いやあまりの勢いだったからつい全力で迎え撃ってしまってのぅ。そんなことを孫にして焦らないじじいなんてそうそういないじゃろ」

 

えっ、全力? けど、俺何ともないよ。

 

 

「そうじゃ。無傷であるのはおかしいんじゃが……空閃」

「ん?」

 

名前を呼ばれて顔を上げると、ちょっとした衝撃を受けたと思ったら道場の壁に移動しているという不思議。なんというホラー。

 

この摩訶不思議現象の元凶であろう人物に目線を変える。

 

じじ様は先ほど俺達が話した位置で足を上げながらなんともいえない顔をしていた。例えるなら、そうだな。ボーボボに突っ込むビュティみたいな。多分驚愕している顔なんだと思う。そう思うことにした、うん。

 

「やっぱりじゃ」

「ん、なんぞ?」

 

じじ様の呟きに律儀に聞いてしまった。止めれば良いのに。いや、止めても俺のこれからの未来は変わらないか。

 

聞いても聞かなくても、本気のじじ様を誰も止められないのは未来永劫変わらない話である。

 

さてさて。んなわけで自分を入れて世界で初。俺の転生特典というか不思議体質に気づいてしまったじじ様はそれを口に出すのであった。

 

「空閃。お主は攻撃が効かない体質なんじゃ」

 

なにそれ怖い。割とマジで。




空閃くんは第五次バーサーカーでした!

っていうのは嘘ですけど十二の試練に少しだけ似ている能力です。


多分作中では、空閃の特典はこれだ! って確信づく事はないのでこの後書きでまとめますね。

特典1:気を従える能力。
特典2:戦闘になると身体能力+αが大幅に上がる。
特典3:受けた攻撃を無効化にする能力。

やったね空閃、平和が増えるよ!

攻撃が効かなきゃ平和にすごせるよな、って神様の考えです。私じゃありません。神様の考えです。

あとは降りかかった火の粉を軽く振り払える程度の戦闘力は必要だな。ということで戦闘関係の特典が与えられました。本多家に生まれたのもその関係で言うなれば神様のサービスです。

まぁこんなとこですかね。特典の説明は言葉通りなんでいらないでしょう。

ではでは、作者でした。


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第四話

やはりというか、なんというか。うん。本気になったじじ様は誰にも止められないとです。

 

あれから1年と数ヶ月。俺も今では歴とした武術家(五歳)。毎日毎日じじ様とバトっています。どうしてこうなったし。

 

いや、原因は俺だよ。もっと言うと特典を神頼みにした前世の俺。つーか、ひょっとこさんよ。なんでノーダメ体質にしちゃったんだよ。おかげで、お弟子の皆さんに人外認定されたじゃないか。ヌケニンでさえ、喰らう技があるというのに。最終的にじじ様の孫だからと納得していたお弟子さん達もどうかと思うけど。

 

……まぁ、いっか。過ぎた事は仕方ない。こうなったのも、特典を決めたひょっとこさんの所為じゃなくて他人任せにしたカーズ様状態の前世の俺に非があるんだし、今頃になって文句垂れているのはお門違いにもほどがある。切り替え切り替え。

 

「フタエノキワミー」

「ちょっ、それはいかん技……アッーーー!」

 

漫画やアニメの技もなんとか頑張って修練積めば実現できるこの神様ボディーを存分に楽しもう。プラス思考で生きてこー。

 

 

 

 

 

 

 

「突然じゃが、空閃や。都会に行きたくはないかの?」

 

寒かった冬がすぎ、ようやく暖かい風が吹き始めた三月。修練もほどほどにやった後、縁側でほのぼのとお茶を啜っている俺に、ふとじじ様が聞いて来た。

 

「都会とな? 名探偵空閃はこれを旅行の布石とみた。けどだるいからパス」

「そういうことじゃないんじゃが」

 

じじ様は苦笑いでござる。

 

「お主ももう小学生になるじゃろう。いい機会だし都会の小学校に行かせてはどうか、という話がでての」

「ほうほう、それで?」

「お主の世界を広げるためにワシも賛成なのじゃが、お主が行きたくないっていうなら話は別じゃ。行くか、行かないか。それは空閃。お主自信で決めといい」

 

久しぶりの真面目な話らしい。その証拠にじじ様の気達がピリってしている。ちょっと赤いし。多分、味はピリ辛なのだろう。

 

「んー、都会ってどこなん?」

「ワシの友人の息子が住んでいる海鳴市というところじゃ。お主の生活面などの面倒もその息子に見てもらう」

「まさかの知らん家に住み込みとかさすがの俺も驚きを隠せない件」

 

家族全員で引越しかと思ったら俺だけ行くのかよ。

 

まぁ、じじ様もママンも、各々の事情で家を離れらんないし、俺一人で暮らすのも無理な話だしな。一人暮らしとか1週間で餓死する自信があるわ。つーか、居候生活か。なんだそれ。胸が熱くなるな!

 

「じじ様、俺行くよ」

「……うむ。わかった」

 

俺の返事に少し悲しそうな表情の後、じじ様は優しく微笑んでそういった。その姿にじじ様からの愛を感じる。

 

そして、なんだか暖かい気持ちになる。この新しい人生でじじ様はママンの次くらい俺と一緒にいたんだ。離れ離れになるって考えるとぶっちゃけ俺もちょっと寂しかったりする。顔には出さないけど。

 

「で、その俺が住み込む家の人ってどんな人なん?」

「高町士郎といっての。御神神刀流の使い手で昔、少々手合わせをしたがワシに何太刀か入れるほどの実力者じゃ。ワシにも負けん色男じゃったわい」

 

え、なにその化け物。神様ボディーの俺でさえ、気の皆さんによる拘束を禁止したら、じじ様に一撃入れんのは相当苦労するって言うのに。ということは、その人は戦闘民族かなんかだろう。

 

確信。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは。わたし、高町なのは。もうすぐ小学生一年生になる平凡な五歳の女の子です。

 

 

どうやら今日は特別な日になりそうなの。昨日お父さんが、明日から新しい家族が増えるぞ、と言っていた。最初はわたしもお姉ちゃんになるんだと思っていたが、わたしに新たな妹、弟ができる話ではないらしい。

 

なんでも、お父さんのお父さん。私のお祖父ちゃんの友人の孫が、こっちの小学校に入学するために引っ越してくるんだって。けど、どうやらその家族が家庭の事情で海鳴市に来ることが出来ないから、急遽高町家で預かることになったらしい。

 

その子の歳は、どうやらわたしと一緒みたい。お父さんが言うには男の子で武術の天才なんだって。すごいね。運動神経が悪いわたしからしたら憧れてしまう。

 

 

お昼時、今日の来訪者さんのためにお父さんとお母さんが経営している喫茶店、翠屋はお休み。そのためリビングには、わたしの他にお父さん、お母さん。それにお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる。皆が皆、まだかまだかと新しい家族を待っていた。

 

ピンポーン、とインターホンが鳴った。胸がドキっと大きく動いた。お母さんがハーイといってお父さんと共に玄関へと向かう。そのあとにお兄ちゃん、お姉ちゃんが続いていった。

 

わたしは忙しくなく鳴っている心臓を沈めるため、少し深呼吸。すー、はー。

 

「よしっ」

 

随分よくなった。まだ幾分かドキドキしているがさっきよりは断然いい。わたしは新たな家族がいるであろう玄関へと向かった。

 

どんな子かな。仲良くなれるかな。意地悪な子じゃなきゃいいな。玄関へと向かう途中、わたしの心では様々な考えがぐるぐると渦巻いていた。楽しみであり、不安であり、いろいろ。

 

でも、多分楽しくなるだろう。だって、まだ会っていないのにこんなにもわたしの心をワクワクさせてくれるのだから。

 

いた。彼は、お父さんと握手をしている大きなおじいさんの隣に立っていた。少し遠くから見た彼の特徴はくるくる髪が印象的で面倒くさがりなんだろうなと思わせる目。身長はわたしよりかは大きいと思う。

 

そんな彼は何故か顔色があまり優れない。少し俯き気味だし、なにかあったのだろうか?

 

 

「あらあら、なのはったら。そんなとこに立っていないでこっちに来て空閃君に挨拶しなさい」

 

 

廊下で彼を観察しているわたしに、お母さんが気づいた。わたしはその言葉に慌ててお母さんの隣にまで走り、彼の目の前に立った。俯いている彼はわたしに気づいたのか顔を上げる。やっぱりわたしより大きい。いや、そんなことよりも自己紹介が先だ。

 

「わ、わたし、なのは! 高町なのは! ようこそ、高町家に!」

 

声が上ずっているのがわかる。まだ緊張していたらしい。彼には気づかれて無いだろうか? 気づかれていたら恥ずかしい。お母さんやお父さん。そして、お姉ちゃんとお兄ちゃんは気づいていたのだろう。くすくす笑っているし。恥ずかしい。わたしは思わず俯いてしまった。

 

でも。目の前の彼の反応が気になった。顔を少しだけ上げ、目の前の彼をチラッと見ると、なんだか驚いた顔をしている。気づかれてはいないらしい。だけど、どうしたんだろう?

 

すると彼の口は僅かに開かれ、そして、お父さんやお兄ちゃんとはまた違う子供特有の高い声音で呟いた。

 

「す、すげー……さすが戦闘民族一家。高町ナッパとか名前からして格が違った」

 

どうやらわたしは彼とは仲良く出来ないかもしれません。




なのはさんのこれじゃない感。まぁ仕方ないですね。これがホタテクウォリティーだと思ってください。

素人作者には大魔王なのはさんの心象描写は難易度が高かっただけの話です。

というか他視点はやっぱり難しいですね。多分もうやらないと思います多分。


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第五話

じじ様宅急便で本多島から海鳴市の高町家へと移動した俺に待っていたのは果てしない嘔吐感。なんでじじ様は新幹線以上のスピードで空を走れるんだよ。おかげで背中におぶさっていた俺へのダメージが天元突破。どうやら俺は乗り物酔いしやすいようだ。まだ気持ち悪い、うえ。

 

そんな状態の俺がなのはをナッパと聞き間違えたのは仕方ないことだと思う。

 

「だからって初対面の女の子に向かってナッパは酷いと思うの」

 

例の幼女はまだお怒りのようだ。

 

 

 

 

俺のナッパ発言に激おこプンプン丸である幼女こと、高町家次女、高町なのははベッドに腰を下ろしている俺から微妙な距離を取った位置に椅子を置いて座っていた。冷ややかな視線を送ってきて、怒ってますアピール。いかに訓練(ネタ的な意味で)されている俺でさえ、この幼女の冷たい視線には応えるものがあった。だって俺ドMちゃうし。

 

現在場所は例の幼女の部屋。この歳なのに一人部屋とか羨ましい。家はお弟子さん達がいたので一人部屋がなかったからすっごく羨ましいとです。

 

今、俺はこの幼女と仲直りしろというじじ様のミッションを遂行中。幼女の部屋で件の幼女と相対しているのである。じじ様やその他の方々は丁度届けられた俺の荷物を俺の新たな部屋に運んでいるらしい。俺もそっちの方をやりたかった。だけど、この幼女とはこれから共に生活するので、居候初日から溝ができてしまったら大変。頑張って仲直り中なのであります。成果はでてないけど。

 

さて、どうしたものか。先ほどからナッパって言ったのは俺の所為でなくじじ様が悪いんだと言っているのに取り合ってもらえない。つーんとそっぽを向いて時折こちらをちらちら見てくるだけ。二度見ならまだわかるが、15度見とか斬新である。もしや、これは彼女なりのメッセージ?

 

「なるほど、わかった。これはチラチーノ使いの俺への挑戦とみた。よろしい、ならば戦争だ」

「違うよ! ポケモン関係ないよ!」

 

じゃあ、なんぞ?

 

「わ、わたしは、ただ……君に謝ってほしいだけだよぅ……」

 

口を尖らせてそう呟く幼女。なんでも、さっきからじじ様の所為とか、全てはじじ様が悪いみたいなことを言って全然謝らなかった俺に怒っているとか。ほうほう、なるほど。

 

「つまりはナッパ発言には怒ってないってことかナッパッパ?」

「怒ってるよ! なんでもっと怒らす言い方をするのかな!?」

 

見たところ幼女はムカ着火ファイアーに進化したようだ。解せぬ。

 

「わたしは今日、すっごく楽しみにしてたんだよ。新しい家族が増えると思って……もう一人で寂しくなる日がなくなると思って……」

 

なんというトラップ。ダークサイドに落ちた幼女のシリアス空気が重いとです。シリアスが嫌いなのにそれをどうどうとぶち抜く俺もどうかと思うけど。……まぁ、いっか。

 

「ごめんね。本当に、ごめん」

 

俺はベッドから立ち上がり、なのはの側へと近寄ってそう言った。短い言葉。だけど、その言葉にどれだけの気持ちが乗っているかどうかに意味があると思う。だから、もう下手に言い訳しない。

 

俺の気配に気づいたんだろうなのはは、俯いている顔を上げ俺と目が合った。ちょっと赤い。涙目だった。そんな目でジッと俺の目を見てくる。それはまるで、俺の気持ちを探るような、そんな感じ。

 

まぁ、目と目で通じ合うって歌の歌詞にもあったから俺の反省の気持ちが届いたらいいな。無理なら土下座するわ。武術家は武士じゃないんで簡単に土下座しますですよ、はい。それでも無理なら実家に帰らせてもらいなす。……緊張のあまりなすとか言っちゃったよ! 心の中とはいえ恥ずかしいわ!

 

「……名前」

「名前?」

 

俺の謝罪から少々の沈黙。それを破ったなのはの言葉に俺は聞き返した。

 

「まだ名前教えてもらってない」

 

そう言えばそうだった。自己紹介とか一番重要なことじゃないか。俺としたことが。

 

「俺は本多空閃。気軽に空閃と呼んでくれても構わないんだぜ。クー君でも化。なのははなっちゃんだから、クーとなっちゃんでオレンジジュースコンビの完成だな」

「ふふふ、なにそれ」

 

笑ってくれてなによりです。

 

 

 

 

 

「へー。クー君は海鳴第三小学校に入学するんだ?」

「そういうなっちゃんは聖祥っていう私立に行くのか。小学生からお受験とかハードな人生送ってんのな」

「空を走るようなおじいちゃんと毎日闘っていたっていうクー君には言われたくないの」

 

その後、仲直りが済んだ俺となっちゃん(本人が気に入ったらしくそう呼べとのこと)は、ベッドに腰を下ろして、互いに自分たちのことを話していた。

 

なっちゃんはどうやらバス通で私立校に通うんだとか。それに比べ、俺は高町家から10キロ先にある公立校。じじ様の見様見真似で空を走っていこうと思う。

 

あれ絶対便利だよね。本人曰く、気で脚力を強化して空気の面を蹴るらしいので、俺は気の皆さんに頼めば一発で習得できそうな気がしてならない。気の皆さんの力は無限大なのです。

 

「そっかぁ……。一緒に小学校生活を送れないのは残念だよね」

「まぁそうだな。オレンジジュースコンビを世に知らしめるのは一先ずお預けか」

「それは一生知らしめなくていいと思うの」

 

なっちゃんってあだ名は気に入っているのにそういう言い方はないと思うの。

 

まぁ、せっかくこう仲良くなったのだ。一緒の学校に行きたかった気持ちもわからなくもない。だから、そんななっちゃんに俺はこの言葉を送ってやろう。

 

「学校は違えども我ら遊ぶときはいつでも一緒だ!」

「桃園の誓いみたく言わなくていいの。でも……うん、そうだね。その通りなの!」

 

 

なんか嬉しそうななっちゃんの言葉を聞いたと同時に俺の胃袋がビックバン。グーッと飯を求める音を鳴らした。

 

そんな俺を見て、なっちゃんは優しく微笑んだ。なぜ笑うし。

 

現在4時。時間も時間だし、お昼食べていないんだよなと考えているとふっと思い出したことが。

 

「そういえば士郎さんはクッキングパパだとか」

「お父さんはあんな顎してないよぅ……」

 

どうやら違ったらしい。じじ様め、嘘をついたな!

 

「喫茶店の店長さんって意味ならクッキングパパかな? あっ、あと、お母さんの作るシュークリームはとても美味しいの」

「ふむふむ、なるほど。なっちゃん、余は物凄く腹が減ったぞい」

「ふふふ。多分夕ご飯は豪勢なものになると思うな。昨日からクー君の歓迎会をやるってお母さんとお姉ちゃんが張り切ってたの」

「余は楽しみじゃー」

 

そんなこんなで高町家に住むことになりましたとさ。




なのはってこんな感じだったっけー。多分違う気がする。

ホタテなのはと命名しましょう(提案)。


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第六話

春。ポカポカと眠気を誘うこの陽気を感じていると、孟浩然の詩にある春眠暁を覚えずというフレーズはよく言ったものだと思う。

 

陽気のいい春はなんだかボーっとしてしまい気味なのでうっかりミスを起こしてしまうのに気をつけたほうがいいだろう。

 

「それにしても最近の小学校の入学式がここまで盛大だとは流石の俺も驚愕だな」

「……わたしはクー君が聖祥の入学式にいることに驚愕なの」

 

おや、うっかり。

 

 

なっちゃんの指摘でここは俺の通う学校ではないと気づいて早数分。式典の最中だったが、気の皆さんをフルに活用して、バックレを成功させた俺は入学式を見に来ていた士郎さんと桃子さんにどうしようかと相談。

 

どうやら海鳴第三小学校の入学式は午後からだとかで、なっちゃんの入学式が終わったら皆で行くそうな。

 

だから、関係ない俺をここまで連れてきたんですね。朝起きるのが辛かったとです。

 

ということで、それまで時間が空いてしまった俺はなっちゃんの入学式を見学することになった。

 

片手にビデオカメラを構えている士郎さんの隣に、丁度椅子が空いていたで、腰掛ける。

 

この前、じじ様とやっていた組み手並にやる気を出している士郎さんは、なっちゃんの勇姿をそのビデオにばっちりと収めるんだとか。やー、お父さんとは大変ですなー。

 

それにしても色とりどりだなと思う。何がって? 髪の色がだ。

 

金や銀、紫に赤とはこれまた異色である。いや、顔に似合った髪色してるんだけどさ。それに何だか美少女とか美少年とかが多い気がするのは俺だけなんだろうか。

 

あぁ、なるほど、さすが私立校。顔で生徒を選んでいるんですね、わかります。

 

 

ようやく、入学者への洗礼だと思えるほど長い長い校長先生のお話がやっとこさ終わったと思ったら、次はお偉いさんの話が永遠のように続く地獄。

 

これはあれだ、機関による精神攻撃を俺は受けているんだ。タイムリープマシンはどこだ?

 

隣をチラッと見ると、カメラ越しに「なのはカワイイぞなのは」と呟いている士郎さんと、その姿を見て「あらあらうふふ」と微笑んでいる桃子さんを見ているとさすが大人だと思える。

 

機関の精神攻撃をものともしない。前世を合わせても20代前半の俺には、こういう大人の余裕というものは、まだ身についてないようだ。

 

大人ってすごいね。

 

 

 

 

 

 

「うぅ、腰が痛いの。あっ、クー君、そこにあるおかかのオニギリとって」

「おばあちゃん、昼食ならさっき食べたでしょ?」

 

ぺシッと頭を叩かれた。解せぬ。

 

時は昼時、俺達は士郎さんが運転する車の中で昼食をとっていた。向かうは海鳴第三学校。

 

なっちゃんは、長時間座りっぱなしの所為で腰に相当のダメージを与えられたらしく、さっきから腰をトントンと叩いている。

 

精神攻撃と同時に腰へと負担をかける身体攻撃とは、さすがは私立校。子供への洗礼が厳しすぎる件。

 

あっ、おかかとるんでそこにある水筒とって。

 

「はい、水筒。……あれ? そういえば、なんでクー君は平気なの?」

「ちょくちょく外へとエスケープしてた。つまり、俺は勝ち組」

「ず、ずるいよー!」

 

ずるくないとです。知らんおっさんの話なんて聞いてられるか。だから、ちゃんと聞いていなかった罰とか言って俺のツナマヨとらんでください。

 

水筒と交換? はいはい、どうぞ。

 

「それにしてもなのはのクラスは可愛い子や格好いい子が多かったわね」

「そうだな。その中でもなのはは一際可愛かったが」

「も、もうお父さん!」

「異世界小説もビックリのカラフルなクラスだった。なっちゃんもインパクトを残すために髪色と髪型を変えるべき」

「……ちなみに聞くけど、どういう感じ?」

「そりゃあやっぱりカミソリで」

 

バチンッと頭を叩かれた。

 

恭也さんの木刀を喰らったときと似たような衝撃だったので、俺のなっちゃん戦闘民族説はあながち間違いではなかったといいたい。

 

この幼女はあと二段階、変身を残している。確信。

 

「はっはっは、なのはと空閃君は仲がいいな」

「オレンジジュースの仲なんで」

「飲料会社的には敵同士なの」

「士郎さん、なっちゃんが冷たい」

「はっはっは、本当に仲がいい」

 

どこがですか。

 

「何年社会で揉まれてきたと思っているんだい? 表面上の言葉なんてすぐにわかるし、言葉の中にある副音声にも気づける。そして俺はお父さんだ。自分の愛娘の言葉にある温もりに気づかないわけがないだろ?」

 

なんというダンディズム。俺も将来はこういう大人になりたいものだ。

 

……うん? ちょっと待てよ。

 

「ってことは、なっちゃんの棘のある言い方はツンデレってやつなのか。ごめんな、なっちゃん。気づいてやれなくて」

「クー君。寝言は寝ていうから寝言であって、それ以外は妄言っていうの」

「士郎さん、なっちゃんが冷たい」

「はっはっは、大丈夫。暖かい暖かい」

 

本当ですかい。




次回以降のネタばれ:転生者多数。


なのはの一人称って私じゃなくてわたしなんですね。ちょっと修正します。


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第七話

実家にあるものより及ばない大きさだが、高町家には道場がある。

 

そのため、俺が居候として来てからも、俺の修練は行われ続けている。いや、実家にいたときよりも、やっているかもしれない。というか確実にやっている。

 

それは俺が武術家としての自覚を持ったからとか、そんな大層な理由ではなく、ただ単に体を動かしたいだけだったりする。人の運動神経は、子供の時にどれぐらい運動したかで決まるという噂もあることだし、これを続けない理由はない。

 

俺個人がただテキトーに技を磨いたり、士郎さんや、その息子の恭也さん、あと高町家長女の美由希さんが組み手や模擬戦の相手をしてくれることがあったりするので、修練とはいつしか、毎日欠かさず続けている日課になっていた。

 

それに、たまたま読んだ漫画の技を修練中に練習している。やりたい技を見つけたらすぐ練習するので、知らぬ間に修練している時だってあったりする。そして、そういう努力はいつだって実ってきた。つまりは技が完成され、確実のものとして習得するのだ。

 

やりたい技を習得し、組み手や模擬戦時に実現できたときの感動や興奮は半端ない。もしかしたら、それが修練を続けている一番の理由かもしれない。

 

実は今も、やってみたい技があったりする。そのために俺は今日も今日とて修練するのであった。

 

「クー君。一体それは、なんの修練なの?」

「スタイリッシュポーズによって、俺の未だ目覚めぬスタンドを呼び起こす修練」

「……矢に射ぬかれないと無理だと思うの」

 

実らない修練もあったりする。

 

 

 

 

 

 

朝。恭也さんと美由希さん。そして俺の三人が道場で修練をしていたのだが、なっちゃんの登場により、それを中断。

 

どうやら朝ごはんができたらしい。なっちゃんがここにいるってことは、つまりはそういうこと。いつも朝食が出来ると俺達を呼びに来るのである。毎朝すまんね。

 

「これもわたしのお仕事ですから。あっ、タオルどーぞ」

「高町家特有のいい匂い付きふかふかタオルきたー。これで勝つる」

 

俺はスタイリッシュポーズを解き、なっちゃんから渡されたタオルで体中の汗を拭いた。そのとき、ちょっと身震い。

 

春の朝はまだ肌寒い。しかも、ジョジョ立ちの体勢でいたため、今まで掻いていた汗が冷え、よけに寒さを助長させている。

 

それもこれも、俺を置いて、二人だけの空間をつくって修練をし始めた高町家兄妹に非があると思う。

 

そこんとこどうですか、末妹のなのはさん。

 

「にゃはは、二人は仲良しさんだから。……たまにわたしも置いてけぼりにされるし」

「俺もなっちゃんもボッチ同士か。スタンド使いはそうだけど、どうやらボッチ同士も引かれ合うらしい」

「残念でしたー。わたしにはちゃんと学校に友達がいますよーだ」

「……そういえば昨日、殴り合いで友情を掴んだって言ってたっけ」

 

なんでも、クラスメイトが一人の女の子をいじめていたらしく、それを止めるためになっちゃんは、そのいじめっ子を一発ぶん殴ったらしい。しかも顔を。なっちゃんが男らしすぎる件。

 

そして、ぶん殴られたそのいじめっ子は、いじめていた子から狙いをなっちゃんに変え、反撃。

 

そっから取っ組み合いの喧嘩に発展したらしいのだが、最後はそのいじめられていた女の子と、いつの間にかいた赤髪の男の子に止められて、最終的になんだかんだで友達になったのだとか。

 

ピッカピカの一年生になってから早数週間。俺にもそれなりに友達はできたが、拳で語り合って仲良くなった相手などいるわけがなく、初めてその話を聞いたとき、「さすが戦闘民族。友達の作り方も闘いなんだな」と呟いて、なっちゃんにバチコンと叩かれたのは仕方ないと思うんだ。

 

「それにしても、顔を殴ったときによく相手の頭が吹っ飛ばなかったな。普通のやつならビンタしただけで吹っ飛ぶというのに。そのいじめっ子は山のフドウみたいな大男だと予想」

「ちょっ、ちょっと! わたしはラオウなんかじゃないよ、もう!」

「……えっ!?」

「本気でびっくりしないでよ! わ、わたしは普通の女の子だよ」

 

はっはっは、ご冗談を。

 

「実は昨日、寝てるときに見ちゃったんだ。なっちゃんから覇王的な覇気がシュワシュワ出てたのを」

「それ夢なの! クー君、自分で寝てるときって言ってるもん!」

「俺はなっちゃんの将来を写した予知夢だと予想」

「大丈夫。現在のわたしが全力をもって、そんな未来を回避してやるの」

 

頑張ってください。ムキムキのツインテール少女なんて子供のトラウマになる以外の何者でもないんで。

 

想像しただけでも、テラ恐ろしす。

 

 

「ところで話は変わるんだけど、なっちゃんって修練しないの?」

「わたしに修練させてラオウにならせようなんて、そうはいかないの」

 

いや、だから話が変わるんだって。

 

「恭也さんや美由紀さんは御神なんちゃら流の剣術使いだから、なっちゃんはそうじゃないのかなーって疑問」

「昔、木刀の重さの所為で転んだのはいい思い出なの」

 

なっちゃん、不憫な子!

 

「わたしはお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに運動が得意じゃないんだよ。人には向き不向きがあるってことなの」

 

苦笑いでそう語るのは高町なのは(六歳)。

 

小学生になったばっかなのに、なっちゃんは悟り開いちゃってるようです。なら、いっそのこと、カミソリでばっさりいけばいいのに。

 

思うだけで口にはださない。だって、最近のなっちゃんの一撃は出会いの当初より徐々に重くなってきたから。

 

あれ? やっぱり闘いの才能あるんじゃね?

 

「まぁ、いっか。……あれ? 恭也さん達は?」

「何を自己完結したのかわかんないけど、お兄ちゃん達はとっくにお家に向かったの。私達もそろそろ行こ? 朝ごはんが冷めちゃうよ」

「んー、了解」

 

冷めたご飯なんて美味しいはずもないので、ここはなっちゃんの提案に了承。

 

いつの間にかいなくなっていた高町兄妹を追うように俺となっちゃんは道場をあとにするのだった。




最近時間が空いたらポケモンをやるか、小説を書くかの二択。

今日は厳選に飽きてからの、執筆でした。

5Vココドラちゃんが中々生まれない件。


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第八話

海鳴市の駅前商店街真ん中付近にある喫茶店。名を翠屋という。

 

ここは店長兼マスターの士郎さんとパテェシエ兼経理担当の桃子さんで経営していて、ケーキとシュークリーム、そして、自家焙煎珈琲が自慢の学校帰りの女の子や近所の奥様方に人気のお店である(なっちゃん談)。

 

今日も今日とて店内は賑わっている。流石は、たまになんかの雑誌に載ってるほどの、人気喫茶店である。

 

 

さあ、今俺はというと、その店内で戦慄していた。

 

「プリンが……プリンがないよぉ……」

「えぇっ!? クー君がガチ泣きしてる!? 」

 

訂正、号泣していた。

 

 

 

今日は祝日で学校はお休み。三時のおやつを食べようとなっちゃんに誘われて、俺は翠屋に来ていた。

 

前から行こう行こうと言っていたのだが、とあるゲームのトロフィーをコンプするために学校と修練以外は外に出なかったので、ここに来る機会が無かった。つまり、俺にとっては何気に翠屋デビューなのである。

 

だけど、言われるがままにホイホイついていった結果がこの仕打ちですよ。

 

プリンが……メニューにないのです……。

 

なんという死活問題。プリンがなければ俺の力は半減されるってとんでも設定を高町家のお人は知らないのだろうか。いや、されないけど。気分的に半減。

 

だけど、今なら、この悲しみで地球を滅ぼせるかもしれない。なるほど、ひょっとこさんが言っていた、地球を滅ぼす可能性っていうのは、どうやら俺のことだったのか。

 

いや、そんなことどうでもいいのです。

 

プリン……。プリン……。

 

「こ、これは重症なの」

「ちょっと待っててね」

 

嘆いていて数十分。俺の前に一つの容器が。

 

こ、これは……!?

 

「プ、プリンだぁー!」

「ごめんなさいね。あまりもので作ってみたのだけれど、どうかしら?」

「うまぁ……、プリンうまいよぉ……」

「こんな幸せそうにプリンを食べてる人、始めてみたよ」

「あらあら、よかったわ」

 

何を言われても、今の俺は馬耳東風。プリンを掬っては口へ、掬っては口へを繰り返す作業に忙しいのだ。それ以外のことには無関心なのである。

 

ママンが作ったプリンとは違うけど、これはこれで美味。こんな旨いもん食べてたら、先ほどの悲しみなんて一瞬で消え失せたわ。

 

「俺、地球がプリンで溢れていたら、戦争なんてなくなると思うんだ」

「地球を救った英雄、プリン太郎にはノーベル平和賞が送られるの 」

「彼の永遠の相棒であるカラメるんとのダブル受賞ですね、わかります」

 

日曜朝にヒーロー枠として放送されないかな? もしされたら毎週録画余裕なんですが。

 

「クー君、大変なの。プリン太郎の敵、ブラックコーヒーマスクが、世界を苦くするために攻めてきたみたい」

「大丈夫。彼はご都合主義でなんだかんだ改心してお砂糖二つのミルクコーヒーマスクになる予定だから。というわけで桃子さん、やっちゃってくんさい」

「はいはい。お砂糖二つとミルク入りのコーヒーね。なのはも同じでいい?」

「うん!」

 

子供にはブラックとか、まだ早すぎる。この前、ためしに飲んでみたけど数時間は苦味が消えなかった。早くもとの年齢にならんかねー。あと十数年か。先が長すぎるわ。

 

というか、なっちゃんってコーヒー飲めたっけ?

 

「大人のレディーである私に死角はないの」

「大人のレディーはブラックを好みます」

「それよりもクー君がこんなにプリン好きだったなんて知らなかったの」

 

逃げたな。……まぁ、いっか。

 

「俺はプリンのためなら世界を敵に回してもいい覚悟があります」

「あらあら、そんなに好きだったのなら家の新作メニューとしてプリンを入れようかしら。はい、お砂糖二つとミルク入りコーヒー二つ」

「桃子さん、あなたは神か」

 

今の桃子さんからはひょっとこさん以上の後光が射しているように見えた。

 

俺は、全てを平らげたプリンの容器を横にずらし、桃子さんからコーヒーを受け取る。

 

ふーふーと二、三回息を吹きかけ、コーヒーをずずーっと啜った。体の芯から温まるほど暖かく、今の時期に程好い温度のホットコーヒー。砂糖やミルクによって子供の舌にも優しい仕様になっております。

 

うん、丁度いい甘さで余は満足じゃ。

 

「こりゃ人気が出るわな。コーヒーとか詳しくないからようわからんけど」

「お父さんの入れたコーヒーとお母さんの作るスイーツはどれも絶品なの! 全てが翠屋自慢の一品なんだよ!」

 

なっちゃんは嬉しそうに俺にそう言った。どうやら、ご両親のお店が褒められて嬉しいご様子だ。そんななっちゃんを見て、桃子さんもニコニコと微笑んでいる。

 

高町家は家族円満の良いご家庭のようです。いいことである。

 

『桃子さんすいませーん。シュークリーム四つ、注文が入りました』

「あっ、はーい。なのは、空閃君。私は席を外すけど、ゆっくりしていってね」

「はーい」「はーい」

 

ほのぼのと返事。桃子さんを見送った俺となっちゃんはほぼ同時にコーヒーカップを掴んで、口へと運ぶ。

 

ずずーッ。

 

あー、コーヒーが美味いとです。

 




行きつけの喫茶店って言葉はなんか響きがいいですよね。

まぁ、当然の如くそんな場所、私にはありませんけど。


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第九話

小学校生活に大分慣れてきた今日この頃、五月の連休をだらだらと過ごしつつ、その最終日、どうやらなっちゃんが相談したいことがあるらしく、夜、俺の部屋でお悩み相談をしていた。

 

俺は自身のベッドに腰をかけ、なっちゃんは俺の勉強机から椅子を取り出し、それに座る。ナッパ発言事件からお馴染みの位置である。

 

少々の沈黙。雰囲気作りが大切なのか、なんの音も無い静かな部屋になっているせいで多少のシリアス感を醸し出しつつ、なっちゃんは真剣な顔で重い口を開くのだった。

 

「最近、ストーカーの被害にあっているの」

「被害妄想乙」

 

バッチーンっ!

 

「最近、暴力の被害にあってるんだけど」

「クー君が話をちゃんと聞かないのが悪いの」

 

いやいや、それでも暴力はないと思うのですが。

 

仕方なくなっちゃんの話を聞いてみると、どうやら、小学校の同じクラスにいる銀髪クラスメイトがしつこいくらいに話しかけてくるらしい。

 

しかも、その内容も内容で、なっちゃんとその友達のことを自分の嫁だと公言していて、「愛しているぜ」と毎日のように愛を語ってくるので困っているという。

 

なっちゃんが「私は君のお嫁さんじゃないよ」と否定しても「照れてるなのはもかわいいな」と言われるだけ。どうやら、その銀髪クラスメイトは難聴主人公をめざしているらしい。えっ、違う? あっ、そう。

 

最近では、連休ということもあって友達とよく外出していたなっちゃんの行く先々に、その銀髪クラスメイトが出没しているのだとか。これは完璧にあれだな、なっちゃん。

 

「愛されてんな」

「愛が重すぎて、凄く怖いの。部屋のロッカーとかに潜んでそうで毎日気が気じゃないんだよ」

 

うんざりしたように溜息一つのなっちゃん。どうやら相当参っているご様子。普段誰にでも優しいなっちゃんでも、流石にストーカーには優しくなれないらしい。

 

つーか、俺よりも警察に相談した方がいいんじゃね?

 

「うーん、証拠がないからね。彼、先生の前とかでは真面目だからとても信頼されてるの。多分信じてもらえないと思うよ」

 

苦笑いのなっちゃん。

 

証拠か。昨日、なっちゃんの部屋で遊んでいたときも別に変な視線とか感じなかったから、小型カメラが設置されてるなんて可能性は無いと思うし。

 

うーん、難しいね。士郎さんには言ったの?

 

「お父さん達には迷惑かけたくないから。クー君にしか言ってないよ」

「俺には迷惑をかけてもいいと申すか」

「クー君はわたしに迷惑かけているからいいんですー」

 

えー、迷惑かー。心当たりが多すぎて、一体どれのことを言っているのかわからない件。

 

……まぁ、いっか。

 

「現状は行った先々にそいつが待ち構えているだけだろ。それ以上何にもされてないんじゃ大丈夫なんじゃないか? それに嫁とかいってるんだから大切に扱ってくれるんだと思うし」

「何かされてからじゃ遅いよ。それとも、わたしが病んだ彼にめった刺しに殺されちゃってもクー君はいいって言うの?」

「大丈夫、それはない」

 

なんで? 視線でそう問う、なっちゃんに俺は。

 

「そうなる前に、この連休中に習得したヤードラット星人流、瞬間移動を使って駆けつけるから」

「……クー君がどんどん人間離れしていくの」

 

誰が人外じゃ。俺よりも神様ボディじゃないのに人間離れのことをやってのけるじじ様や士郎さんの方がよっぽど人外だ。

 

「でも、……そうだね。ふふっ、そのときはお願いしようかな」

 

なにが嬉しいのか。微笑んでいるなっちゃんに疑問を持ちつつ、このお悩み相談は幕を下ろしのだった。

 

「あとクー君も気をつけて。彼、わたし達に近くにいすぎる男の子には容赦なく襲い掛かってるの」

「なにそれこわい」

 

なっちゃん、最後の最後にそういうフラグを建てんといてください。

 

 

 

 

 

翌日、学校が終わって家でゴロゴロしていた俺は、桃子さんから晩飯の材料が足りないとお使いを頼まれた。さっさとスーパーで夕食の材料を買った俺はルンルン気分で家を目指す。

 

今日はカレー。俺のテンションはそれだけで天元突破。

 

機嫌よく口笛を吹きながら人ごみを歩く。夕方ということもあって、人がごった返しているが、流石は神様ボディの上で子供ボディ。右手に食材を持っているにも関わらず、狭い隙間をすいすい進んでいける。

 

そうして調子に乗って突き進んでいくと、いつの間にか誰もいなくなっていた。

 

何を言っているのかわからねーと思うがry。ポルナレフ状態もいいとこである。

 

振り返っても先ほどからすれ違っていた人もどこへやら。なにがなんだかさっぱり分からない件。

 

「なるほど、ここは鏡の中の世界『ミラーワールド』だな。ここから俺の仮面ライダーとしての戦いが始まるってわけか。アドベントカードはどこだ」

「おい、お前」

 

さっそくモンスターか。でもちょっと待ってください。カードないと変身できないんでちょっくら探しに行ってきやす。

 

「ちょっ、お、おい、待てよ!」

「なんだ。モンスターかと思ったらキムタク……わーお」

 

キムタクでもなかった。声の方へ振り返ると、なんというか、銀。圧倒的銀が俺の目の前に。

 

長髪で銀髪の少年。しかも、赤と金のオッドアイである。格好も西洋の甲冑みたいなものを着ていた。なにそれ、カッコいい。

 

「やっと見つけたのに逃がしてたまるかよ。お前、入学式だけでなく、ちょくちょく俺の嫁に纏わりついているやつだよな? 俺の嫁をストーキングするとはいい度胸だな、おい」

 

なんか知らんけど、俺の驚愕をスルーして話を進めてくる銀髪少年。

 

ん、俺の嫁? ここ最近で似たようなワードを聞いたような気がするけど、うーん。……まぁ、いっか。多分気のせいだろう。

 

「だんまりか。……もしや、お前もあいつと同じ転生者か?」

「誰が変質者だ。仮に変質者だとしても、変質者という名の紳士だよ」

「黙れ雑種」

 

ブオーンっと一本の剣が俺の真横を通過していった。やだー、冗談じゃないですかー。真面目に受け取って真剣ブッパせんといてくださいよー。

 

つーか、そのお前の後ろにある武器がちらっちら顔を覗かせてる金のゆらゆらはなんだ?

 

「誰が話していいと言った。ここでは俺がルールだ」

「スクープ! リアルジャイアンついに現る……おっと危ない」

 

どうやら癪に障ったらしい。銀髪の怒号と共に金のゆらゆらから武器を撃ってきた。おぉ、銀髪、カルシウム不足とは情けない。

 

何やら面倒事の予感。そう感じた俺はすぐさま、人差し指と中指以外はグーにして、伸ばしている指だけを額に当てる。イメージするのは、俺の部屋。

 

イメージ完了。たくさんの武器が怒涛の雨の如く、こっちに向かってきていることだし、さっさと行くか。

 

 

さて、じゃあよろしく、気の皆さん。せーのっ!

 

 

 

シュンッ!

 

 

 

あっという間に世界が変わり、見慣れた俺の部屋へと一瞬で到着した。何という便利技でしょう、瞬間移動。

 

それにしても、なんだったんだろう、あの銀髪は。カルシウム不足にもほどがあるだろ。今度会うときはもっと、ツッコミの技術を磨いてほしいもんだ。

 

そんなことよりも、今はこの食材たちを桃子さんに渡さねば。夕食の準備を遅らせてしまう。

 

気の皆さんを消費したせいか、今の俺って結構腹ペコなんだよね。

 

「桃子さーん、買ってきたよー」

「あらあら、ありがとうと言いたいところだけど土足なのはどうかと思うわ」

 

ありゃ、瞬間移動したから忘れていたでござる。今度から気をつけます。

 

その後、桃子さんの命令で、今まで歩いた場所を雑巾掛けをすることに。それをやり終える頃には、丁度晩飯が出来ていた。

 

動いたこともあって、今日の晩飯の美味しさはここ最近で一番だった。

 

カレー、圧倒的美味ッ!




やっとでてきた、他転生者。

彼の能力とは一体なんなのだろうか(棒)


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第十話

梅雨の時期。今日も今日とて、ザーザーと降っている雨に憂鬱気味になっている俺となっちゃん。

 

雨の所為で、空を翔けることもできないので、ただ今俺は傘を差しながら、なっちゃんがいつも乗っているバスが来るバス停まで、なっちゃんと一緒に向かっている最中なのである。

 

最近のお日様は仕事をサボりがちらしい。顔を出さないことから今も布団の中で爆睡していることが予想される。俺も寝ていたいでござる。

 

それにお日様は、太陽系の中心に鎮座しているお方なので、もうちょい働いてほしいものだ。

 

「というわけでクー君、太陽さんをたたき起こして、働かせてやるの!」

「ガッテン!」

 

なっちゃんの命令によって、俺は右手に溜めた、雨続きのせいかあまり元気のない気の皆さんを空に向かってブッパ。久々の無限パンチである。

 

俺の突き上げられた右手と一緒に、天に向かって野太いビームもとい無限パンチが放たれた。だけど、いつもより勢いとノリが感じられない。どうやら気の皆さんのテンションによって威力が変わる仕様らしい。

 

騒々しい音を上げながら、無限パンチは天高く昇っていき、大気圏あたりで爆散した。そして、その余波によって、無限パンチの周りにあった雨雲たちは消滅していった。太陽が顔を出すと共に綺麗な虹が掛かる。

 

どうやら今日は、久々の晴れらしい。やったね。

 

 

 

 

 

学校も終わり、今日は無限パンチのおかげで多少疲れていることから修練をする気にならなかったので、散歩に出かけることにした俺。

 

晴れっていいよね。何がいいとかよくわからんけど、なんかいいよね。

 

こうお日様パワーっていうのかな。知らぬ間に元気が出る。久々に気の皆さんにもそれが溜まっているからか結構活発な気がするし。

 

そんな俺が、最近雨続きだったから、晴れの素晴らしさに浸っていると、いきなり衝撃が。

 

衝撃の勢いに身を任せて、トリプルアクセル。そのまま地面に着地して、衝撃の原因を確かめた。

 

ああっ、なるほど。車に轢かれただけか。

 

明らかなスピード違反の黒光っている車を一瞥し、車とぶつかった時の摩擦の所為か服が少々破れていたので、一時帰宅することにした。

 

いやー、それにしてもたいした原因ではなかったからよかったよかった。

 

 

それから家に帰る道のりで、なんとなっちゃんに遭遇した。なんという偶然か。というかいつも思うけど、ホントお帰りが遅いのね。さすが私立校。

 

なっちゃんは何故か地面にペタリと座りながら俺、っていうか俺が来た道を呆然と見ていた。

 

「んー、なっちゃんどったの? 青い顔しちゃってさ」

「……く、クー君? クー君ッ! た、たいへんなのー!」

 

いや、襟掴んで揺らさないで。あんたの目の前で首絞まって大変なことになってる人物が一名いるよ。もちろん、俺です。

 

俺って、どんなダメージでも無効化にできる体質だけど、普通に息とか止められたら死ぬから。

 

そんな俺の特典設定をつゆ知らず、なっちゃんは、その双眸に涙を溜めながら。

 

「す、すずかちゃん達、わ、わたしの友達が誘拐されちゃったのー!」

「なんですと?」

 

思った以上に大事件らしい。

 

 

 

どうやら詳しい話を聞くと、なっちゃんといつ面が普通に帰宅している途中に車からスーツ姿の大人が降りてきて、なっちゃんの友人三名に襲撃。そして、すばやく車に連れ込み、立ち去ったのだとか。

 

その時丁度、いつもどおり帰り道が途中で違うなっちゃんは自分だけ分かれた道にいたから助かったのだという。

 

「わ、わたし……、何も出来なかったの。怖くて……、ただただ怖くて、……足が動かなかった」

 

当たり前である。六歳児の幼女になにができるというのだろうか。

 

俺だったら、神様ボディを貰った今でも、そんな場面に立ち会ったらあまりの衝撃的な現実に頭パッカーンしているだろうさ。

 

っと、待てよ。

 

「確かなっちゃんの友達って山のフドウさんがいたような。あれっ? 大丈夫じゃね? 寧ろ危ないのはその誘拐した人たちの件」

「アリサちゃんはあんな巨体じゃないの! こんな時までふざけてないでよ、このくるくるパー!」

「おまっ、髪か!? 髪のことを言ったのか!?」

「髪の毛と頭の中のことを言ったんだよ、ばかー!」

 

ぜぇぜぇ、はぁはぁ。

 

数分勢いよく言い合いをしていたおかげで、ずいぶん心が落ち着いた俺となっちゃん。互いにこれからどうするか真剣に話し合うことに。

 

「士郎さんや恭也さんに連絡しよう。あの二人は現地の警察より頼りになる。あと誘拐された子の親御さんたちにも」

「うん、お父さん達や知っている人にはメールを送ってるの。他の人たちはこのあと家に電話する。……ねぇ、クー君の力じゃ探せないのかな?」

 

ガラパゴスを片手になっちゃんは俺にそう聞いてきた。

 

少し考える。うーん、そうだな。俺の技って基本戦闘系だし、瞬間移動だって自分が行った上でイメージできる場所じゃないと使えないし。

 

詮索能力は、海鳴市全土まで出来るけど、それは探したい相手の気を覚えているのが前提条件。誘拐された子は俺の知らない人たちだけだから無理な話だ。

 

……あれ?

 

「なっちゃん。その誘拐犯が使っていた車ってどんなのか覚えてる?」

「えっ? ……うーんっと。確か……黒だったような」

「ビンゴ!」

 

えっ? と驚いているなっちゃんをよそに俺は詮索は開始する。探す気の種類は、一番身近の俺から溢れ出ている気。

 

「これまたビンゴ! ダブルビンゴでボーナス獲得、っと。さーて、見つけたぜ」

「ホントッ!?」

 

黒の車。それにワードにティーンときた俺はすぐさま詮索。ヒットしたのは俺の気の残りカスだった。

 

どうやら、俺を轢いた車が誘拐犯の車だったでござる。

 

さっき事故ったことによって多少は車にこびり付いているだろうと思ったが、予想通り。俺の気の残りカスが海鳴市郊外に向かって猛スピードで向かっているのを見つけた。

 

「じゃあ行くか。ほら、なっちゃん」

 

隣にいるなっちゃんに背を向けて、少し屈む。おんぶして連れてくので早く乗ってください。

 

「えっ、……連れてってくれるの?」

「当たり前」

「……わたし、足手まといだよ」

「だいじょーぶ。俺及び、気の皆さんが全力をもって守るから。傷一つつかねぇと思ってくれていいよ」

「でも……」

「でもじゃない。今、なっちゃんはその場にいたのに友達を助けるために動けなくて後悔してるよな。なら、これで救出して、んなもん綺麗さっぱり忘れちまおうぜ。ついでに、腹いせで誘拐犯に一発かますってのもアリ」

 

ここ数ヶ月の付き合いだけど、なっちゃんはいろいろ溜め込むタイプだと俺は知っている。今回の件も、無事解決されても解決されなくても、どちらにしてもなっちゃんはこのことを忘れることができないだろう。

 

シリアスが嫌いな俺は、そんなものを抱えていても、無理して笑いながら話すなっちゃんと、今までどおりのやり取りをしていても面白くないのです。

 

だから、そんなものを払拭することをする。そして、今までどおりの生活に戻る。絶対に。

 

それに、なっちゃんに危険はない、安全は確実。無駄にスペックが高い神様ボディを嘗めてもらっては困る。

 

「そう……だね……。とうっ!」

「おっと」

 

背中に飛び乗るなっちゃん。足の踏ん張りによって衝撃を耐え、しっかりと支える。

 

「覚悟は出来た?」

「うん。誘拐犯の腹いせは一発じゃ済まさない……やられたらやり返す、やられてなくてもやり返す。八つ当たり倍返しなの!」

「まだ見ぬ誘拐犯さんにフルボッコフラグが建ちました」

「犯罪者に同情は必要ないの」

「……そりゃそうだ」

 

さてさて、行くとしますか。

 

「あれっ? クー君、ここ、服が破れてるよ?」

「あー、さっき誘拐犯の車に轢かれたからなー」

「えっ、なにそれこわい」

「そんなことより飛ぶぞ。しっかり掴まっていろよ」

 

なっちゃんに負担が掛からないように気の皆さんにお願いしてもらい、なっちゃんに覆ってもらう。これで、風の抵抗とかその他諸々を防いでくれるだろう。

 

なっちゃんが、俺の服をしっかり握っているのを確認してから、俺達は風になった。




この誘拐事件、ソースが無いらしいですね。私の検索能力が低いだけかもしれないですが。

もし、誘拐事件が起こる年や日にちが決まっていたら、すいませんが、この小説では一年生の六月ってことにしてください。

なぜこの日にちなのかというのは、もう書く日常が無くなって来たなんて裏事情を到底作者の口からはいえないので、追求は無しの方向でお願いします

それにしても、ネタ成分が足りない気がするのは私だけ……まぁいっか。


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第十一話

海鳴市のどこだかわからない場所のとある廃墟内の薄暗い部屋に私、アリサちゃん。そして、悠斗(ゆうと)君の三人が縄で縛られて監禁されていた。周りには、私達をここまで連れてきた誘拐犯たちが三人いる。

 

ここまで車で連れて行かれているときに、少なくとも六人は視認できたので、残り三人以上の誘拐犯がこの廃墟内を徘徊しているのだろう。

 

「なんで私達を誘拐なんてするのよ!? 私の家のお金が目当てなの!?」

「……そうだな。暇つぶしに教えてやるよ」

 

アリサちゃんの疑問に対して、黒服のリーダー格の男が今回の事件の詳細を話した。

 

どうやら、この黒服たちに誘拐を依頼したのが、私の叔父に当たる人物、月村安二郎らしい。私の姉が所有する自動人形であるノエルに使われている技術。それは莫大な富を生む。その技術を欲しがっている彼は、私を使って、それを手に入れるために今回の誘拐事件を依頼したのだと、黒服達は言った。

 

そして。

 

「月村すずか。こいつは人間ではない。夜の一族という名の吸血鬼であり、化け物だ」

 

私達を誘拐した黒服の一人が、私の正体を……私の最大である秘密を私の友達に向けて言い放った。

 

突拍子も無く、楽しかった日常が崩れていく音が聞こえた。今回、なにかの奇跡が起きて無事助かっても、今までどおりのいつもの日常には戻れそうもない。

 

そう考えると、私の目から、不意に涙が零れ落ちた。

 

なにがいけなかったんだろうか。

 

人間のように暮らそうと望んだこと?

 

人間の友達をつくったこと?

 

それとも、友達に嘘をついて騙しているのも関わらず、幸せに満ちていた生活を送っていたことだろうか?

 

多分これだ。神様は嘘つきには幸せをくれない。罪には罰を。人間の法律でさえそうなっているのだ。それ以上の存在である神様だからこそ、人、ましてや友達を騙して生きている私に酷い罰がくだしたのだろう。

 

だけど、神様お願いします。私はこのまま不幸になっていい。

 

けど、どうか友達だけは助けてください。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なっちゃん。右足つりそう」

「えぇー!? こんなとこで止めてよ! 真下は高速道路なんだから!」

「大丈夫。さっきっちょだけ。さきっちょが痙攣してるだけだから」

「全然大丈夫じゃないの! い、いやー! クー君落ちてるから高度上げて! 気合だよ気合!」

「無理言うな」

「ちょっ」

 

 

 

 

 

 

「すずかは……すずかは化け物なんかじゃないわよ」

「え? ……あ、アリサちゃん?」

 

黒服から私の秘密を聞いたというのに、それを否定するアリサちゃんは黒服を睨みつけた。

 

「すずかは、確かにこの容姿と性格の割には運動神経が抜群なのはおかしいと思っていたけど、それが吸血鬼としての能力の一部だとしてもすずかはすずか! 私の親友!」

「そうだな。確かにアリサの言うとおりだ」

 

アリサちゃんに続いて、今まで黙っていた悠斗君も口を開く。

 

「夜の一族で吸血鬼だとしても俺達とすずかが友達だっていうのは変わらないんだ。それに、化け物かどうかはお前が決めるんじゃない。俺達が決めることだ」

 

別の意味で涙が出てくる。暖かい涙が、心から込み上げて、瞳から流れた。

 

終わりだと思ってた。もう戻れないと思ってた。

 

だけど、違うんだね。

 

私達の日常は終わってない。吸血鬼である私は確かに人間じゃないけど、それでも、そんな私を化け物じゃないって言ってくれる。……友達だって言ってくれる。

 

「うるせえな。人が黙っているからって調子に乗りやがって。おい、お前ら。必要なのは化け物のガキだけだ。あとの二人はどうなっちまっても関係ない。大人に口答えした罰として調教してやれ。こいつら、顔はそこそこいいようだから、その道のマニアに高く売れるだろうぜ」

 

黒服の一人が苛立ちを隠そうともせず仲間に命令する。その言葉を聞いた瞬間、私の背筋が凍りついた。

 

そんな私をよそに黒服たちがゲスイ顔を見せながら私の友達に近づいていった。

 

「や、止めて! 私の友達には手を出さないで!」

「うるせえ化け物。お前はこの特等席で二人がめちゃくちゃになっていく様をじっくりと見てるんだな」

「誰がめちゃくちゃになるって?」

「え?」「は?」

「ゆ、悠斗。あんた縄……」

 

私は目の前の光景に驚愕した。そこには近づいた黒服二人が倒れていて、その近くで悠斗君が神秘的で綺麗な剣を片手に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「ようやく着いた。気で治療しながら走らなかったら死んでたな。Anotherなら即死」

「Anotherなら例え治療しても着地の際に何かに突き刺さって死んでるの」

「ここがAnotherの世界じゃなくてよかった」

「とにかく、ここにすずかちゃん達がいるんだね。けど、なんで屋上に着陸したの?」

「そりゃ、階段を昇るより降りた方が楽だろうに」

「なるほど、把握なの。……でも、階段の入り口が崩れていて通れないよ」

「偉い人は言いました。扉がないなら床ブッパ」

 

 

 

 

 

 

悠斗君は縄をとっくに解いていたらしい。どうやら、彼が持っている剣で切ったと思われる。だけど、あんな剣、見たことがない。どこに隠し持っていたのだろう。

 

私の疑問をよそに、彼は私とアリサちゃんの縄を切った。

 

「さて、あとはお前をどうにかしたら解決だな」

「おいおい、不意打ちで倒したからって粋がってるんじゃねーよ」

 

黒服は腰にあったナイフを抜き、物凄いスピードで悠斗君に迫った。それを悠斗君は剣で受け、相手のナイフだけを弾いた。これで相手は丸腰だ。

 

悠斗君は剣を相手に向けて振り抜いた。だが、黒服は、まるで、人間ではないような動きを見せる。悠斗君の剣を紙一重で避け、空中に飛んだナイフを掴み取り、そのまま悠斗君の首目掛けて振り下ろした。その顔に、さきほどの黒服たちのようなゲスイ笑みを貼り付けて。

 

「あっ、危ない!」

 

私が言ったのか、アリサちゃんが言ったのか定かではない。けど、このままだと、空振りした剣の勢いでバランスを崩している悠斗君は確実に命を落とす。

 

だけど、今の私達にはなにもできない。吸血鬼の能力をもってしてもこの距離は間に合わない。

 

 

そして、……そして。

 

 

 

 

 

 

 

ピチューン。

 

 

 

 

 

 

 

天上から降ってきた光に黒服が飲み込まれた。

 

「え、ええー!?」

 

三人ともこんな反応だったのは仕方ないことだと思う。

 

 




今日の文章にノリが感じられないのは、疲れているせいからか。それとも、他人視点だからか。……謎だ。

もう、やらん。他人視点むずいから絶対にやらん。多分。


あっ、誘拐事件のソースについて、わざわざ感想にまで書いて教えてくれた方々、ありがとうございました。

どうやら、とらハの出来事を二次設定でごちゃまぜにした感じだとか。なら俺も、テキトーに作ってもいいよね! と開き直った結果が第十一話です。これはひどい。

第十二話はネタ成分多目でいくので許してください。いや、いかなくても許してください!



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第十二話

目の前にはデカイ穴が奥底まで広がっていた。無限パンチをいつものように撃ったのだが、久々の晴れで元気いっぱいである気の皆さんがはしゃいだ結果、予想以上の威力を発揮した。

 

だけど一階で止まってるんじゃないかと思う。この技ってけっこうなご都合主義な感じがあるし。

 

まだ自分でもよく分かっていない気の設定は一先ず置いておいて、俺は再びなっちゃんを背負い、自分でブチ開けた穴の前に立った。

 

「じゃあ、探索といきますか」

「……一番下でヤムチャ化している黒服にはスルーなんだね」

 

黒服は犠牲になったのだ。

 

ここから二階ぐらい下に、神秘的な力を感じたので、そこから屋上までは何も感じないってこともあり、一応その階へ向かおうとなっちゃんに提案し、俺は穴へと飛び降りた。

 

重力に沿って落ちていき、お目当の階に差し掛かったときに、空気の面を蹴って方向転換。すたっと、綺麗に着地したその階には、紫、金、そして赤といったカラフルな髪型集団がいた。

 

誰もが皆、驚きの表情を見せ、だけど、いち早く正気に戻った赤髪のショタっ子が真剣な顔つきで一本の剣を俺に向けてきた。

 

「……お前は誰だ?」

「オッス、おら孫ゴックン。七個集めるとなんでも願いを叶えるちょっと湿っている玉、通称デロデロボールを探して旅してるんだ」

「そんな玉が実在していても直に触りたくないの」

「な、なのは!? どうしてここに!?」

「なのは? こいつはおらの相棒のナッ」

 

ばっこーん!

 

「最近なっちゃんの一撃に少なからずの痛みを感じてきたんですが?」

「愛の一撃なの」

 

なるほど、ゴム人間にも覇気無しの打撃でたんこぶをつくっちゃうっていう、あの愛の一撃ですか。なら、ダメージ無効の俺にも効くね。なっとくです。

 

「そんなことより、アリサちゃんにすずかちゃん、ついでに東条君、大丈夫!? わたし心配で助けに来たの!」

「東条君の扱いに全俺が泣いた」

「……いつものことだ」

 

なんか悟っちゃってる赤髪ショタっ子。どうやらこいつが例の東条君らしい。彼となっちゃんの間になにがあったのだろうか? ……まぁ、いっか。

 

「なっちゃん」

 

感動の再開中悪いんだがなっちゃんに一言掛ける。俺の言いたいことを察したなっちゃんが、なんのことかわかっていない友達を引き連れて俺達の元、もっと言えば、廊下に続く扉から離れた位置に移動させた。

 

それと同時に扉が勢い良く開く。エンディングで家に突撃するサザエさん一家の如く、雪崩のように黒服が集団でご入場してきた。

 

「デカイ音がしたと思ってきてみれば、なに? もしかして、ガキ共。あなた達がやったの? それになんか知らないけど増えてるわね」

 

五人の黒服が現れた。俺の頭の中で、そんなテロップが流れ出す。倒したらお金を落とすのだろうか。ドロップアイテムが黒い布とかだったら嫌でござる。

 

「……五人ぐらいはなんとかなるか」

 

そう呟いて一歩前に出る東条君。いつの間にか剣をもう一本出しており、二刀流で構える。なんだか宮本武蔵みたいでカッコいい。

 

「おい、天パ」

「なっちゃん呼ばれてるぞ」

「誰がどう見てもクー君のことなの」

「何をいってるんだか。よくテンパっているなっちゃんのことに決まってんだろ」

「……いや、お前のことなんだが」

「なん……だと……」

「一護乙なの」

「……あの、聞いてくれないか?」

 

はいはい、なんざんしょ?

 

「俺がこの五人と戦う。だから、隙をついてそこの三人を連れて外に逃げろ」

「悠斗君!?」「悠斗!?」

「俺は大丈夫だ。だから早く……ッ!?」

「おいおい、逃がすわきゃねーだろ」

 

黒服の一人がナイフを投合してきた。それを素早く反応して東条君が剣の一本で叩き落し、投げられたナイフは地面に突き刺さった。

 

それにしても、東条君が俺に任せてここは先に行け的な死亡フラグを発生させる前にそれを防いだ黒服さんマジカッケーッス。

 

「あなた達は人質だからこのままスムーズに取引が成立していたのなら無事帰れたのにね。あまりおイタをする悪い子にはお仕置きしないと」

 

そういって、黒服の一人が懐から黒光りを取り出した。それを、がしゃこんと俺達に見せびらかすように、前へと突き出す。

 

どっかから、悲鳴が聞こえた。取り出されたもの、それは近代兵器である銃であった。ってあれ? なんか俺に銃口向いてない、アレ?

 

「ふふん、私も本当はやりたくないのよ。日本の未来の宝である年端もいかない子供を撃ち抜くなんて非道なまね」

「……なにいってやがる。子供が泣き叫ぶ様に快感を覚える癖に」

 

呆れたように黒服の一人がそう呟くが銃をもっているやつが、どうでもいいように無視する。

 

そして、引き金に手を掛けた。銃口は依然として俺のまま。

 

「まずは足。次に手。で、体の臓器という臓器を撃ち抜いて、最後に脳。簡単には死なないで、私を楽しませるために悲鳴を上げなさい。絶望に染まった悲鳴をね」

「させるかよ! ……くっそ!」

 

銃を持った黒服の行動を止めようと、東条君は動くが、これまたさきほどの黒服に阻まれる。ちらっと見るとナイフを抜いた黒服と鍔迫り合いみたいな感じになっていた。

 

そして、ついには、何のためらいもなく黒服は引き金を引いた。

 

 

 

 

パーン。

 

 

 

 

乾いた音が部屋を包む。そして、悲鳴。

 

二つ聞こえるから多分なっちゃんの友達二人のものだろう。つーか、なっちゃん、そんな冷たい視線してないでもっと撃たれた俺の心配をしてください。

 

「心配されたかったらちゃんと撃ち抜かれないと」

「痛いのは嫌でござる」

 

はっ? と誰もが驚く中、俺は足の甲で止まっている銃弾を拾い、気の皆さんを注入。そして、親指を中で握って、コインを飛ばすような感じで、銃弾を親指の上に乗せた。

 

「返品でーす」

 

ピーンと俺の指で弾かれた銃弾はまっすぐ飛んでいき銃口からダイナミック帰宅。だが、勢いは止まらない。

 

そのまま銃ごと吹っ飛ばしてしまい、謎の爆発で大破した。どうやら、また気の皆さんがはっちゃけたらしい。

 

唖然とした空気。それを引き起こした俺が非常識みたいでなんか嫌になる。

 

「なっちゃん、俺、こんなときどうしたらいいかわからないんだ」

「クー君は存在自体が非常識だからどうすることもできないよ」

 

身も蓋もなかった。

 

「それよりも今のうちに黒服を片付けちゃったほうがいいと思うの」

「その発想はなかった。じゃあ、感謝の正拳突きもどきラッシュ」

 

打ち終わった頃にはヤムチャ状態の黒服達がそこら辺に転がっていたそうな。

 




今回で誘拐事件に終止符を打とうと思ったのですが、まさかのもうちっと続くんじゃよ状態。

やっぱり文章にノリがない。疲れているせいからか頭も回らない。

毎日更新を目標にしてたのですが、これでは難しくなりそうですね。


これからは不定期更新になりそう、とホタテは保険をかけときます。


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第十三話

最近修練でなんとなくやっていた感謝の正拳突きをラッシュ、つまりは瞬間広範囲ブッパで黒服全員を一瞬でヤムチャ化させ、完全に無力化した後、俺はさっさと家に帰ろうと一階へ行くための階段を目指そうとした。

 

だけど、黒服達をこのままほっとくのは不味いと、呆気にとられた顔から正気に戻ったらしい東条君に引き止められた。

 

どうやら黒服たちの報復を懸念していたので、なら士郎さんにこいつら引き渡せば全部解決じゃね? という案により、なっちゃんから士郎さんに連絡を取ってもらい、それからひたすら待機することに。

 

黒服が意識を取り戻したらブッパを繰り返しながら数十分は待っていた。

 

で、ようやく士郎さん達が到着したんだ。

 

そして、そう、ここから問題が勃発。

 

「さて、空閃。なにか言う事はないか?」

「小学生一年のショタっ子に強制正座させるとは恭也さんは変な性癖があるとみた」

「反省してないみたいだな。なのは、石板を乗せろ」

「了解なの!」

 

思った以上にシスコンだった恭也さん。黒服達が入ってきた部屋から、士郎さんと恭也さんが物凄い形相で入ってくるなり、なっちゃんの無事を確認。その後、恭也さんがなっちゃんを危ない目に会わせただなんだと、因縁をつけてくる始末。で、なんだかんだで罰として俺正座。

 

士郎さんはなっちゃんに何もないってわかってから終始苦笑いだったけど、もし、傷を一つつけてしまったら、これ以上の罰が士郎さんから執行されるんだなと予感めいたものが俺の脳裏に過ぎった。

 

それにしてもなっちゃん。了解なのじゃないでしょ。何いい笑顔浮かべて俺の足の上に石板乗せてんの。つーか、その石板どっから出した。

 

ダメージはないけど、足の痺れを助長してるんだよこれ。多分俺の体質を理解しているからこその罰なんだろうけど。発案者出て来い!

 

「ねぇ、これ本当にこの子がやったの?」

 

そんな中、紫髪の高校生ぐらいの女性が疑問の声を上げた。士郎さんが連れてきた新キャラである。というか、なっちゃんの友達にちょっと似てないこともない。多分姉妹か何かだろう。

 

「見るからにそうだろうな。空閃の気がこの部屋に充満している」

「……夜の一族を……こんな子供が」

「夜の一族とか……ぷぷっ、中二乙」

「なのはちゃん、私からも石板の追加、お願いできるかしら?」

「任せて忍さん!」

「石板を早食い対決時の椀子そばを配る人の如く足に乗せてくるなっちゃんマジパネェッす」

 

というか、そろそろ真面目に足の感覚が消えてきたので勘弁してください。

 

 

 

 

 

俺への制裁が数分続いた後、ようやく話の本題である黒服達をどうするかの話し合いになった。

 

「夜の一族である一人を除いては一般の警察に引き渡すわ」

 

紫髪の女性、月村忍さんの一言で話し合いが終了。

 

あれ、話し合いってなんだっけ?

 

どうやら、突入際に、無限パンチで一階辺りでヤムチャ化していた黒服は、夜の一族という中二集団の下っ端的な存在だったらしく、自分のことを吸血気と勘違いしているほどの重度の妄想癖があるため普通の警察では手に負えられないとのこと。

 

ということなので、中二病である彼だけはそういった奴らだけを取り締まる特殊な機関に送られるとか。

 

「俺だ。どうやらとんでもない事に巻き込まれてしまったらしい。あぁ、そうだ、機関の連中だ。もし俺がやつらに葬られてしまったら高町家の冷蔵庫にあるプリンを俺の代わりに墓へと埋葬してくれ。……あぁ、お前もな。幸運を祈る。エル・プサイ・コングゥ」

「忍さん、クー君も特殊な機関に連行した方がいいと思うの」

「……なのはちゃん、彼は一体何をやっているのかな?」

「中二病ごっこ」

「……こいつはまだ勘違いをしているのか」

 

呆れた目で俺を見てくる恭也さんとその他一行。

 

なっちゃんは俺と同じで状況を良く理解していないのか、どういうこと? という視線を父である士郎さんに送っている。

 

「中二病……というのはなんのことか分からないが、いいかいなのは。月村家の人々は」

「士郎さん、……それは、私からなのはちゃんに伝えます」

 

と、士郎さんの話を遮ってまで出てきたのが、紫幼女。何かに怯えたようになっちゃんの前に立ち、口を開けては閉じ、それを何回か繰り返して、そして、ようやく決心したのかその口を開くのだった。

 

「なのはちゃん。私ね、化け物なんだ」

「確かに、すずかちゃんは運動音痴のわたしからしたら化け物なの。この前のドッジボールはニュータイプみたいに」

「違う! そうじゃないの! 見ててなのはちゃん」

「ッ!? すずかちゃん、何やってんの!?」

 

どこから拾ったのかわからないが、ナイフを自分の腕に軽く押し当てスーッと引いた。それによって引かれた部分から血が流れ出していった。

 

驚いたなっちゃんがすぐさま、紫幼女の下に駆け寄りポケットから自分のハンカチを取り出し、応急処置をしようとするのだが。

 

「……えっ? 傷が治って」

「……なのはちゃん。私達、夜の一族はね、本物の吸血鬼なんだ」

 

そう悲しげに呟く、紫幼女。

 

切られたと思われた部分は完全に傷が塞がっていた。何という治癒力。これは普通の人間では起きない事象である。それだけで、彼女が言っていた吸血鬼という信憑性が上がっていった。

 

つまり、えっ、……マジですか?

 

「えっと、……すずかちゃんや忍さんは本物の吸血鬼なの?」

「……うん。今まで黙っててごめんね。嫌だよね、友達が化け物なんて。気持ち悪いよね、吸血鬼なんて」

「何言ってんの! すごいことだよすずかちゃん!」

「……えっ?」

 

唖然としている紫幼女の両肩を手で掴んで興奮した面持ちのなっちゃんは言葉を続けた。

 

「吸血鬼ってことはあれなんだよね! ザ・ワールドとかゴールドエクスペリエンスの能力を使えるって事だよね!?」

「……ちょっと何言ってるのかわからないよ、なのはちゃん」

「まぁ、興奮する気持ちもわからんこともないが落ち着けなっちゃん。あの能力はジョースター家の血筋から受け継がれているんだ。決して吸血鬼からではない。だから、俺はアーカードさんみたいなチートの塊だと予想」

「なるほど、それは盲点なの! すずかちゃんは身体能力がすごいんだね!」

「……確かに、普通の人間より身体能力が高いかな。……こんな化け物が友達なのはやっぱりなのはちゃんは嫌だよね?」

 

その言葉にきょとんとするなっちゃん。そして、満面の笑みで。

 

「ううん。わたしはすずかちゃんみたいな凄い友達がいて嬉しいよ。それに、私の身近にも化け物がいるの」

「だってさ。士郎さん」

「ははは、空閃君。銃弾を避ける俺と傷一つ付かずに受け止める君。どっちが化け物だい?」

「なんという正論。だが、我らがラオウであるなっちゃんは銃弾をその覇気でジュッと」

 

バチーン! ドゴーン!

 

人間を叩いて壁に減り込ませる技をなっちゃんはここ数時間で身に付けたらしい。自分の行動が俺のなっちゃんラオウ説に拍車をかけていることに気づいてないのだろう。彼女は自分でどんどん首をしめている気がする。

 

「だから、すずかちゃんは人間であれ吸血鬼であれ、それこそクー君以上の化け物であってもわたしの友達なの。それは今までも、そしてこれからも変わらないことだよ」

「……なのはちゃん」

 

なっちゃんの言葉に、声音が震えている紫幼女。すすり泣いている声が微かに聞こえた。それに「私のことも仲間外れにしないでよね」とツンデレが似合いそうな声が重なって、この廃墟なのに暖かい空気が蔓延していた。

 

なんだか友達っていいねと思わせる。今のこの空気を「なのは、こんなにも成長して」と涙ぐんでいる士郎さんが台無しにしているが。

 

というか、そろそろ誰か、俺を壁から引き抜いてください。

 




なんか知らないけど一日ぶりにサイトを開いたらお気に入りが圧倒的に増えていた。なにが起こったし。

私は新手のスタンド攻撃を受けているんだと予想してるんだがどうだろうか?


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第十四話

夜の一族の秘密というか正体を知ったものは契約を交わすか記憶を消すかの二択から選ばなければいけないらしく、それは知りたくもないのに流れで知ってしまった俺も例外ではなかった。

 

吸血鬼の契約という言葉を聞いて、悪魔的なものが連想されて「じゃあ、記憶を消す方向で」と答えた俺は悪くないはずだ。

 

紫幼女が何か泣きそうな顔していたけど俺の知ったことじゃない。答えたあとになっちゃんにまた減り込まされたけど。

 

理由を聞かれたので、「今日会ったばかりの人に自分の魂は売れんでしょ」って言うと、何故か周りからバカかこいつという表情で見られた。なんでやねん。

 

どうやら、俺の思い過ごしのようだった。契約とは悪魔的なものではなく、夜の一族のことを他人には話さない上で、これからの時間を友達として共に歩みましょう、という口約束。

 

なんだよもっと早く言ってよ。勘違いしていた自分が恥ずかしい。

 

そうと分かれば、話は変わる。

 

俺は契約をすることにした。というのが、後日談である。

 

お淑やか紫幼女こと、月村すずか。ツンデレ金髪幼女こと、アリサ・カムチャッカインフェルノ。雰囲気イケメン赤髪ショタっ子こと、東条悠斗とは今ではいいお友達です。

 

友達の輪が増えるっていいよね。

 

 

 

 

 

 

「明日、すずかちゃんの家のお茶会に誘われたの」

 

誘拐事件から数ヶ月。

 

夏休み明けから丁度一週間たったある日、なっちゃんが俺の部屋にやってきたかと思うとおもむろに、そんなことをいい始めた。なんだ、仲間はずれの俺に対する自慢か。

 

そんな俺に「何言ってるんだか」とジト目で見てくるなっちゃん。

 

「クー君、今まで誘ってるのに変なことを優先してたから全然来なかったでしょ。夏休みだってギアナ高地で東方不敗極めてくるって言ったきり最終日まで帰って来なかったし」

 

若気の至りって怖いよね。

 

「アリサちゃん怒ってたよ。だから、明日は強制的に連れてこいって言われちゃったの」

「おっ、それって俺も行っていいってこと?」

 

頷くなっちゃん。明日の午後一時くらいに迎えが来るらしく、それまでに準備をしておけとのこと。

 

了解と伝えると、なっちゃんは嬉しそうに頬を緩ませながら自分の部屋へと戻っていった。

 

あぁ。そういえば、なっちゃんとも久々に遊ぶんだなと思い、俺は遠足前の子供のようにワクワクしながら床に付くのだった。

 

 

 

そして、翌日。

 

「リムジンとは予想外デス」

「にゃはは、アリサちゃんの家はお金持ちなの」

 

目の前には、ブルジョア的カー。前世を合わせてもこんなに近くで見たことがなく、庶民には縁がないリムジンがあった。どうやらこれで、月村家まで送っていってもらえるとのこと。

 

驚く俺の反応に、苦笑いのなっちゃんと恭也さん。恭也さんはすずかのお姉さんの忍さんと付き合っているらしく、今日も今日とてイチャイチャするために月村家に一緒に行くのだそうだ。リア充爆発しろ。

 

「驚いているとこ悪いけど、今まで私やすずかの誘いを断ってたのどういう了見なのかしら」

 

リムジンから華麗に降りてきたアリサは、俺の顔を見るなりそう言ってきた。その後ろにはダンディな執事が控えている。多分、あれは金持ち特有の高性能執事だろうと予想。そうだったらいいなー。

 

「まぁまぁ、アリサ、そう言うなって。空閃にも事情があったんだろう。それに今日は来てくれたんだ。怒っていたらこれからの楽しい時間が台無しになるぜ」

 

アリサに続いてフォローと共にリムジンから降りてきた東条君。その言葉に、「わかってるわよ」と答えるとアリサの表情は笑顔に変わり。

 

「久しぶり、空閃。夏休み明けだからかしら。ちょっと焼けてるわね」

「おう。焼けてるのは活火山付近で修練していたせいだな。体洗ってるけどまだ焦げ臭い?」

「……焼けてるの意味が違うわよ」

 

「相変わらずの規格外さね」と呟かれても、否定できない自分の不思議体質が憎いです。悔しいのう、悔しいのう。

 

火山はギアナ高地で修練した後のこと。火山で修練ってなんか特訓してる気になるからやってみたかっただけです。

 

「お嬢様、そろそろ出ないと約束の時間に遅れてしまいます」

「そうね、鮫島。話は車内でも出来ることだし、すずかの家に向かいしましょ」

 

初リムジン! ワクテカが止まんないぜ!

 

ふっかふかの座席で寛ぐこと数十分、着いたのは木々に囲まれた大豪邸だった。アリサだけじゃなくてすずかもブルジョアだったのか。

 

恭也さんがインターホンを押すと、出迎えてくれたのはこれまた紫髪のメイドさん。どうやら、月村家は紫の一族らしい。

 

「皆様、いらっしゃいませ。……空閃様はお初にお目にかかります。私、月村家のメイド長をさせてもらってますノエルといいます。すずかお嬢様から色々お噂を聞いております」

「吸血鬼に使えるメイド長……ふむ、ここは紅魔館だったのか。なっちゃん、ちょっくら、妹様探してくるわ」

「月村邸の妹様はすずかちゃんなの」

 

ということは彼女はアーカードさんの身体能力の上、きゅっとしてドカーンが行えるのか。流石はなっちゃんの友達。類は友を呼ぶとはよく言ったもんだ。

 

「どうぞ、こちらです」

 

ノエルさんに案内されるまま、長い廊下を歩いていくと一つの部屋に通される。そこにはすずかと忍さん、あと紫髪メイド幼女がいて、月村姉妹は優雅に紅茶を飲んでいた。つまりはティータイム中。

 

「いらっしゃい皆。あっ、空閃君も来てくれたんだ」

「煎茶が飲めると聞いて来たんだけどまさかの紅茶だったでござる」

「ご安心下さい。煎茶もご用意しています」

 

そう言って出されるのは一つの缶。有名店のお茶っ葉である。さすがはブルジョア月村家。なんというおもてなし精神だろう。

 

「この人はまごうことなき高性能メイドだ。一家に一台はほしい」

「でも、お高いんでしょ?」

「いえいえ、そんなことはありません。このメイド長の他に幼女メイドも付け加えてお値段なんと19800円!」

「ええ!? そんなに安くて大丈夫なの?」

「はい、決して損はさせません」

「……二人して何やってんのよ」

「「通販番組ごっこ」」

 

皆さん、そんな呆れた顔しないでください。

 

「あれ、すずか? そういえば猫達はどうしたのよ?」

「わからないけどついさっきに皆この部屋から逃げ出しちゃったんだ……あれ、空閃君どうしたの?」

 

またか……、また逃げちゃったのか……。

 

「にゃはは……、クー君には動物避けのスキルがあるの」

 

動物達は俺を過剰に拒絶する傾向がある。俺のことが嫌いというか、動物的本能が圧倒的強者に平伏すだけの話。

 

過剰な力に反応して、動物達は俺を避けていくのだ、とじじ様から聞いた。どうやら、じじ様もそうだったらしい。視線を遠くに泳がせていたから。

 

「本人は大の動物好きだからね。そんな動物達に逃げられちゃうといっつもこうやって落ち込んじゃうの。おー、よしよし大丈夫だよー」

 

前のめりに倒れこみ、両手を地面へ。見るようによっては土下座をしているような態勢で落ち込んでいる俺。というか絶望に打ちひしがれている。

 

今の俺のソウルジェムはどす黒いと思うのです。というか魔女化してもおかしくないレヴェル。俺男だけど。

 

そんな俺の頭を撫でて慰めてくれるなっちゃんの優しさが心に染みます。

 

そして、皆さんから注がれている生暖かい視線が別の意味で心に染みるとです。




明日、私の職が決まるかもしれない大一番なのに、今日はこうして執筆に精を出すという現状。

なんという余裕。優雅に綾鷹を飲みながらすごしている私には緊張なんてものはありません。

あるのは、何故か異常に震えている両手のみ。病気かしら?


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第十五話

海鳴市に少し遅い冬が来て数週間。地球温暖化の影響なのか、最近の不安定な季節にはこの小さな体には優しくないと思ったが、慣れてしまえばどうということはない。

 

「コタツでまったり」

「ふわぁ……、ぬくぬくで眠くなるよー」

 

現在俺となっちゃんは二人してコタツでぐだぐだタイム。じじ様から送られてきたコタツが大活躍しているが、これを自分の部屋に置いたことで、最近なっちゃんが俺の部屋に入り浸っている。まぁいいけど。

 

コタツ。別名ニート量産機。人類が生み出した、最強の兵器である。どんなにお偉いさんでもその魅力に取り憑かてしまえば一溜まりもなく、仕事なんて放り出して毎日ゴロゴロしたい気分になる魔性の道具だ。

 

なっちゃんもその兵器にヌックヌクの骨抜きにされてしまったのは仕方ないこと。

 

「みかん剥いたけど食べる?」

「白いすじもちゃんと取って」

 

あいよー、とぷちぷち剥き、みかんを半分に割って片方をなっちゃんへと渡す。

 

ありがとうと、蕩けた顔で言いながら一つを剥いて、同時に口へ。

 

「甘いと思ったらすっぱかった罠」

「……一気に目が覚めたの」

 

どうやらはずれを引いたらしい。蕩けた顔からしかめっ面へと二人して変え、それでも頑張って残りも全部口へ入れ、お口直しにお茶を啜る。

 

「あっという間に12月ですね」

「うん。この前小学校に入学したと思ったら、もう12月だよ」

「キングクリムゾン!」

「学校生活の過程が吹っ飛ばされて新年を迎えるという結果が残る」

 

新年までもう少し。

ホント、あっという間である。

 

「というわけで今年一年を振り返ってみようと思います」

「唐突なの」

 

人生というのは唐突や予想外のことで満載なんですよ。

 

「で、どうだった?」

「うーん……、いろんなことがあった一年だったの」

「あー、誘拐事件とかあったしね」

「でも、あの事件のおかげで皆との友情が深まって、今まで以上に仲良くなったと思うの」

 

はにかんでそう言ったなっちゃんに俺も頷く。あの事件で俺はすずかやアリサ、そして東条君と友達になったんだ。

 

でも、すずかはそろそろ、生のきゅっとしてドカーンを見せてくれてもいいと思うのです。

 

「そういえば、例のストーカーの件どうなった?」

 

ふと思い出したことを口にしてみる。あの相談以来、なっちゃんの口からストーカーの話が出なくなったので、無事解決したのだろうか。野次馬根性丸出しで聞いてみた。

 

するとなっちゃんは先ほどのみかんを食べたときみたいに顔を苦くして。

 

「まだしつこいんだ。でも、今は東条君がメイン盾として機能してくれてるから前よりはましになったの」

「東条君の扱いの件」

 

前から思ってたんだけど、なんでなっちゃんはそんなに東条君に冷たいん?

 

言葉に棘がありすぎて、もう少し優しくしてあげてもいいと思うのです。

 

「初めて会ったときに『大丈夫か高町!? なんだか性格がおかしいぞ!』って物凄い形相で迫られたの。確かに自己紹介のときに『ただの人には興味ありません』ってネタに走ったのはやりすぎたと思ってるけど、さすがに初対面の人に自分の性格を否定されたら、自然と態度は冷たくなるよ」

「そりゃ、深夜アニメのネタなんて小一が知ってるわけないだろ。しかもそれを使ってるとか痛い人認定だろ」

「痛い人(笑)」

 

俺を指差すんじゃありません。

 

「まぁ、東条君のことはダストシュートに置いておくとして」

「東条君をごみと申すのか」

「クー君はどうだったの? 休日とか家を空けることが多かったと思ったんだけど」

 

俺? 俺の今年一年の出来事か。うーん……。

 

さすがにいろいろやりすぎて覚えていない件。

 

「漫画読んで、聖地巡礼して、しこたま修練してたぐらいしか覚えがないな。あっ、そういえば、最近やっと六式全部極めたよ」

「……クー君は一体何と戦ってるの」

 

俺が聞きたい。

 

「実際クー君はなんのためにそんなに鍛えてるの?」

「そりゃ、おめぇ、健康のために決まってるだろ」

「……健康のために鍛えた結果で世界一の武道家になるとか笑えないの」

 

まだ、世界一ではないし。あーたのお父さんとか、家のじじ様とか上にはまだまだ化け物がたくさんいる。彼らから勝ち越せる日はまだまだ遠そうだし、骨が折れそうだ。

 

「というか俺は戦うよりもこうやってまったりしてたほうがいい」

「それには同感なの」

 

二人して、コタツ机に顎を乗せてダラーン。

 

来年もこんな感じのまったりした一年をすごしたいものだ。

 

 




次は原作である三年時にとびます。

日常編を書くのが辛いとか、そんなしょうもない理由ではないと思います。多分。


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無印編
第一話


俺が高町家に居候して早24ヶ月とちょっと。つまり2年ぐらいの期間が経過した。時間が経つのは早いものだ。

 

俺は今ではコイキングも唖然とするほどのピッチピチの八歳児。余談だがなっちゃんも先日、お誕生日を迎えたので同じく八歳。

 

この前小学校へと入学したと思ったら、もう三年生なのである。

 

海鳴市にディアボロさんがいるのかと思えるぐらいに過程がすっ飛ばされている気がしてならないほど、あっという間の2年間だった。光陰矢のごとしとはまさにこのことだと思う。

 

「俺は時間すら超越する光になる。いくぜ、じじ様! 光化静翔(テーマソング)!」

「ぐぅっ……まだまだじゃ。ワシを倒すにはまだまだ力と速さとその他諸々が足りんわぁ!」

「……姿が見えないのに戦闘音だけ聞こえるの」

 

そんななっちゃんを連れて帰郷した春休みも昨日で終わり、今日から三年生。前世だと理科と社会が始まる学年である。

 

しかしまぁ、三年生になったからといって、これといった変化はない。

 

だけど、変わったことを一つだけ挙げるとするならば。

 

「なっちゃんなっちゃん。どう? 俺、スマートに操作出来てる?」

「クー君。嬉しいのはわかったからそんなに連続してスライドさせないの。指の動きが早すぎるから画面が残像を残してるよ」

 

俺、スマフォデビューしました。

白戸家の犬のお父さん、俺やったよ!

 

これは春休みの帰省中にじじ様から、「都会っ子には必要じゃろ」とのことでプレゼントさせた品である。前世では高校生になって初めて買ったので、この歳から所持できることは素直に嬉しい。

 

なんでも、このスマートフォン。じじ様の知り合いのマッドサイエンティストが製作したらしい。

 

電気ではなく気を注入することで使用することができるという。そう、動力が気なのだ。充電不足に困ることがない。

 

電気要らずとはなんというエコ。マッドサイエンティストなのに地球に優しいとか、なんか好感が持てるキャラをしている。

 

いかにも、フゥーハハハハ! と笑いそうなので、今度会ってみたいでござる。

 

他にもいろいろとオプションがついているとのことなのだが、説明書を読まないのがデフォルトの俺。なので、そのオプションとやらを知る日は一生こないのだと思うとです。

 

というわけで、念願のスマフォデビュー。これをしたことによって、三年生からの生活が劇的に変わる気がする。

 

もう、友達からの連絡を家電ですることはないし、調べ者をするためにいちいちパソコンを立ち上げる必要もない。

 

それに何といってもアプリとして地図が付いていることが最大のポイントだ。結構休日とか時間が空いたらちょっとした旅行に行ったりするのでこの機能は非常にありがたい。

 

それにカーナビ状態にして空を翔ければ、札幌に向かったのにモンゴル着く、なんて道に迷うことはないだろう。ところで、この地図の上に書かれている第97管理外世界とはなんのことだろうか。……まぁ、いっか。気にしても仕方ないし。

 

ともかくこれで、俺もようやく現代人の一員になったということだ。

 

さてと、えっちぃサイトでも探しますか……なにっ、年齢制限……だと……?

 

 

 

 

 

 

「ところでフェレットってなんだ?」

 

新学期が始まってから数日経った夕飯の時。

 

塾へ行く前になっちゃんが公園で怪我をしている迷子のフェレットを発見したらしく、飼い主が見つかるまで高町家で預かっていいかと士郎さんに聞いたところ、帰ってきた回答がこの疑問。

 

高町家の子供達は苦笑いである。

 

「ふーむ、フェレットか。空閃君は知ってるかい?」

「薬味の相棒である変態的妖精」

「あれはオコジョでありカモなの」

 

違ったらしい。どうやら恭夜さんと美由希さんが言うにはフェレットとはイタチの仲間であり、大分前からペットとして人気の動物なんだそうだ。

 

人気の動物なのに飼っているという情報とかを聞いたことがないのは何故か。とても不思議である。俺が情弱なだけの話かもしれない。

 

閑話休題。そんなことよりも。現状として今の高町家では動物を飼うことができない。

 

そのことをなっちゃんはお忘れなのだろうか。……忘れてるんだろうな。今のなっちゃん、結構興奮して舞い上がってるっぽいし。

 

仕方ない。俺がビシッと言ってやろうではありませんか。

 

「動物避けのスキルを持つ俺がいる限り高町家には動物が訪れないの巻」

「……確かにここ数年、家の周りで野良猫どころか鳥一匹見かけないけど、……それでも、あの子は人に馴れてそうだし、とりあえずクー君が近寄らなければ大丈夫だと思うの!」

「おい」

 

泣くぞ。いいのか? 俺の涙腺は崩壊寸前なんだぜ。ちょっとした衝撃を与えれば簡単に大洪水だわ。

 

あっ、桃子さんタオルは大丈夫です。ちょっと頬が濡れてるだけなんで。

 

「あらあら。じゃあ一応だけど渡しておくわね。それでフェレットのことだけど、なのはがしっかりとお世話できるのなら私はいいと思うわ」

 

どうかしら、と桃子さんはその他面々へと問いかけた。恭也さんと美由希さんに異存はなく、俺もこんな体質だが動物は常日頃365日年がら年中ウェルカムなことを伝え、それを聞いた最終的に士郎さんが高町家で預かっていいことを了承。

 

ということで、高町家に初のペットが出来ました。飼い主が現れるまでの期間限定だけど。

 

よかったね、なっちゃん。

 

「うん! あっ、フェレットさんは私の部屋で飼うからクー君は部屋付近に近寄らないでね」

「…………。ブワッ」

 

どこからともなく、溢れ出る何かを瞬間的にタオルで抑えた。

高町家の人々に慰められながら、桃子さんにタオルを借りておいてよかったと思う俺であった。

 




書いては消して、書いては消しての一週間。やっと完成したのが、こんな話。

プロットとか全然考えてないから、これからも日にちが開くと思いますがご了承ください。


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第二話

その日の夜。

 

俺がゆっくりと風呂に浸かっている時のことだ。

 

なっちゃんの気配が家から消えた。いや、消えたというか、ただ単に外へと行ったらしい。

 

こんな時間にどうしたんだろう、と少しは思ったものの、俺もたまにアメリカンの特大ハンバーガーを求めてこの時間帯からアメリカに出発することがあるので、なっちゃんも似た様な感情に駆られて家を飛び出したんだろうと解釈。

 

女の子は男の子より精神年齢が早熟するって聞くからこの年齢から夜遊びもするのかも。まぁ、なんかあったら俺のスマフォか高町家の家電にかけるだろうから、心配はいらないだろう。

 

さて、そろそろ風呂から出るか。今日は学校の友達の田中山君とオンラインでぷよぷよをやる予定である。相手の連鎖を相殺する作業に勤しんで永遠に続けてやろうと思います。

 

だから、恭也さん。俺に木刀を突きつけて、なのはを探しに行け、って言わんでくんさい。

 

彼女は勝手に帰ってくるって。自分の妹なんだから信じてやろうよ。それにあの子も高町家の戦闘民族としても血を確実に引いてるから心配なんて皆無だし。

 

ほら、わかったらその木刀を静かに下ろして、俺にぷよぷよをやらしてください。バス停前高校って言う特殊な高校に通ってるお兄さんを持ってる田中山君が俺を待ってるんだって。

 

えっ、ダメ?ですよねー。

 

あっ、俺のスマフォ取ってください。……田中山君へ、今日は無理になったよごめんね、っと。送信ー。

 

 

 

 

『僕に少しだけ、力を貸してください』

 

そう私の心に直接声が聞こえた。脳内だったかもしれないけどここでは心ってことにしておこうと思う。だってなんだかシリアスな感じだし。

 

その声は夕べの夢と……そして、昼間の声と同じであった。最初は気のせいだと思った。

 

だけど、なんだかほっとけなくて気づいたらわたしはパジャマから着替えて家を飛び出していた。

 

クー君には相談したほうがよかったのかなと一度は思ったが、朝の夢のことを話したときに、「なっちゃん、あなた疲れているのよ」と優しい顔の生暖かい目で言われたのを思い出したので、すぐさま首を振って今の考えを頭から追いやる。

 

そのことで、夕食の際に少々きつい対応をしてしまったけど、それは彼の自業自得。泣いてる彼には多少なりとも罪悪感を感じたけどちょっとは反省して欲しい。っと閑話休題。

 

今は先ほどの声を優先しなくちゃ。たぶん、あの声は夕べ助けたフェレットさんだと思う。声に呼ばれて行った先にあのフェレットさんがいたから間違いない。

 

そう、あの声はフェレットさんで、決してわたしが不思議ちゃんなわけではないのである。談じてない。ないったらない。

 

……違ったら私の心の奥底で封印しよう。誰かに話しちゃうと黒歴史認定されてしまうので墓場まで持っていってやる。絶対に。

 

そんなことを胸の中で誓いながら走っているとようやく、動物病院に着いた。

 

中へ入ろうと一歩踏み入れた瞬間、耳へキーンと音が鳴り響いた。フェレットさん(断定)の声が聞こえる前にも響いた音。……またこの音だ。同じキーンなのに耳鳴りよりも質が悪い。

 

どうにかこの音に耐え、鳴り終わったと思ったら、今度は世界が変わった。

 

何を言っているかわからないかもしれないが、わたしもよくわからない。今ならポルナレフの気持ちがよくわかると思うの。というか本当になに、これ。

 

閉鎖空間? 閉鎖空間なの? 摩訶不思議なことが連続して起きているせいでわたしのキャパは崩壊寸前。混乱しているわたしにさらに追い討ちをかける様に今度は獣の声が響く。

 

獣? 神人じゃないの? そんな疑問もつかの間。まるでかなりの質量がある物が壁に激突したような、そんな轟音が響いた。

 

急いで敷地内に入ると、フェレットさんが病院内から出てきて、それを追うようにして黒い物体も這いずり出てきた。

 

黒い物体はフェレットさんを潰すかのように突撃する。避けたのからぶつかって吹き飛ばされたのかわからないけど、こっちへと飛んでくるフェレットさんをわたしはしっかりとキャッチした。

 

「来て……くれたの……?」

 

しゃ、喋ったー!

 

「や、やっぱりね。ふふん、わ、わたしが不思議ちゃんじゃなくて現実に喋るフェレットさんがいるって考えは正解……にゃあ!?」

 

わたしの予想が当たってて安堵している間に、体勢を立て直したのであろう黒い物体がその眼光をキラリーンと光らせながらわたしを睨みつけてきた。

 

とりあえず、あれがバックベアードさんだと仮定すれば、ロリっ子であるわたしは助かるはず。だって、バックベアードさんはロリコンを取り締まってくれる妖怪だからね。大丈夫大丈夫……にゃあ!? 襲い掛かってきたの!?

 

バックベアード、あなたもロリコンだったんだね、軽蔑します。

 

わたしはすぐさま立ち上がり、もと来た道を駆けた。体力には自信がないけど、逃げなきゃ危ない。

 

バックベアードロリコン説がわたしの中で上がった今、あれに捕まったらひとたまりもないの。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少し、力を貸して」

「し、資質?」

 

逃げながらフェレットさんの話を聞いてみると、どうやらこの子はとある探し物のために別の世界から来たらしいく、だけど、この子一人の力ではどうにもならないので、資質をもった人にそれを探すのを協力して欲しいのだという。

 

この子が持っている力。それは魔法の力。それを扱う資質を持っているわたしに使ってほしいと、フェレットさんは頭を下げてきた。

 

……いつからわたしの周りがファンタジーチックになったのだろう。あっ、クー君が来たときからか。

 

そのとき、わたしのケータイが鳴った。画面を見たら、着信クー君、と書かれている。今、電話に出ている状況ではないのはわかっているが、クー君へとSOSを送るためにわたしは速攻で通話ボタンを押した。

 

『……俺だ。どうやら大変らしいな。状況を説明しろ』

「黒い物体が這いよるようにして襲い掛かってきてるから急いで逃げてるの! クー君助けて! へるぷみーだよ!」

『……ネタで言ったのに、本当に大変な事態に巻き込まれていて驚きな件』

 

今のクー君、絶対に呆然とした顔をしてるんだよなー、と画面越しの彼を思いつつ。

 

「どうやらこの状況から助かるためにわたしは魔法少女に変身しなきゃいけないみたい」

『魔法少女なのは☆マギカがはじまるんですね、わかります』

「わたしは魔女化とかしたくないし、魂をソウルジェム化にもされたくないの。だから早く助けて」

『あいよー。とりあえず、今どの辺?』

「え、わからないの?」

『ちょっと、なっちゃんの気がある箇所で忽然と消えてるんだよ不思議なことに。えーっと、この方角からすると……動物病院のほうか』

「うん! 今その辺りを走って逃げてるから……きゃあ!?」

 

空から降ってくるバックベアードもといロリコン。落下地点がわたしから離れていたため直撃はしなかったもののその余波が当たりに響いた。土煙が舞う。その隙にわたしは電柱の影に隠れた。

 

ケータイを耳に当ててみるも、聞こえるのは風の音と彼の多少荒れた息遣いだけ。多分、彼は今のわたしの悲鳴を聞いてすぐさまここへと向かったのだろう。まだ通話が繋がっているのに気づかず、一心不乱に。そう考えると少し頬が緩むのがわかった。彼は今、頑張って空を翔けてる。わたしはわたしのできることをしよう。

 

「ねぇ、フェレットさん。あなたのいう魔法って命や魂を消費するものなの?」

「違います! 僕達が言う魔法は科学の延長上にあるもので……こんな状況だから詳しく説明できないけど、命を代償とかそういった類のものじゃありません!」

 

ならよかった。この状況から助かるために、この先のわたしの未来を捨てるなんて出来るわけないから。言質は取れた。これで聞かれなかったから、なんて言ったらクー君からフルパワー無限パンチを受けてもらうことにしよう。

 

「わたしはどうしたらいいの?」

「これを!」

 

そう言って渡されたのは、赤いビー玉ぐらいの綺麗な宝石。少し光を帯びているそれは、なんだか暖かかった。

 

「それを手に、目を閉じて心を澄ませて。僕の言うとおりに繰り返して。……いい? いくよ」

 

わたしはフェレットさんのその言葉に頷いた。




なのはさんの変身はカット!(大嘘)

というわけで、魔法少女なのは☆マギカ、始まります。


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第三話

久しぶりなので誤字脱字違和感注意報発令ッ!


翔ける。翔ける。翔ける。

 

俺は空気の壁を蹴り、夜空を全力で翔けて行く。目指すはなっちゃんの気が忽然と消えたであろう動物病院。気の皆さんを総動員させている結果、いつも以上のスピードを出しており、その速さは流れていく光が今の速度を物語っている。

 

音よりも早い、光速。

 

なっちゃんとの電話の最後。地響きと破壊音となっちゃんの悲鳴。それだけで俺は必死になって、一心不乱で空を翔ける。

 

焦る。焦る。焦る。

 

速くもっと速くと気の皆さんにお願いするも速度は上がらない。それが俺に焦るを起こす。

 

とはいえ、光速での移動である体感時間は長くても他人からしたら一瞬だ。動物病院についた。

 

けど、そこは普通に病院があるだけで、どこか崩壊してるとかそんなことはなかった。

 

不思議になって、しかし耳に残っているなっちゃんの悲鳴を思い出し集中してなっちゃんの気を探してみる。

 

しかし、結果は変わらない。この動物病院の前であの子の気が消えている。それはもう忽然と。神隠しにあったように唐突に消えているのだ。

 

訳が分からない。

 

こんなことは初めてだった。もしなっちゃんが瞬間移動を取得していたとしても今の俺の詮索範囲はここから最大でアメリカまでだ。ジョニーやアントニーの居場所だって集中した状態の今なら手に取るようにわかる。

 

そんな俺の詮索能力に引っかからないのはいくらなっちゃんが化け物の卵だとしてもあり得ないことだ。それはもう別の世界にいっていたら話は別だが次元移動能力は俺でさえ身につけてない能力である。

 

そんなことができるのだったら俺に教えろください。

 

さて、焦りが一周したおかげで落ち着いてきた。とりあえず、だ。

 

「へい、東条君。そんな電柱に隠れてないで出てきたらどうだ?」

「空閃‥‥やっぱりお前だったのか」

 

私だ、と答えそうになるがなんとか踏みとどまる。つーか、こんな夜中に真っ黒な服装で電柱の影に隠れないでください怖いので。お化けとか無理なので。

 

「このタイミングでお前が来たってことはやっぱりお前も転生者だっか。薄々はそうじゃないかと思っていたんだ‥‥」

 

なんかブツブツ言っている東条君。とりあえずは正気に戻ってもらい、事情状況その他諸々を説明する。かくかくしかじか。

 

説明終了。てなわけでなんか事情を知ってるくさい東条君。なっちゃんはどこですか?

 

「なのはは結界に閉じ込められてるよ。誰が張ったかは予想がついているけどあいつならなのはに手を出すことはないだろう」

「おおふ、東条君も中ニ病にかかってしまった」

 

なんとも悲しいことかと思っていたがどうやらそうではないらしい。俺の態度に焦って説明してきた東条君がいうにはこの世界には魔法というものがあって東条君自身も魔法を扱うことが出来る魔導師というものらしい。

 

中ニ病もここまでくると‥‥‥と思っていたのに気づいた東条君は自身の右手に剣を出現した。なるほど、トリックか。

 

「いや、魔法なんだって。いい加減認めろ」

「あーい」

 

なんか涙目になってきた東条君が可哀相だったのでそういうものもあるんだと自分に言い聞かせて、

 

「で、なっちゃんはその結界(笑)に閉じ込められてると?」

「なんか言い方に違和感が‥‥」

 

気にせんといて。

 

「閉じ込められてるってのは語弊になるがなのはは結界内にいるよ。俺も入ろうとしたんだが、結界が強力すぎてな」

 

入れなかったんですねわかります。

 

やー、結界か。初めて結界というやつに携わるからようわからんけどもここに別の世界を広げているということか。

 

先ほども述べたとおり俺はまだ次元移動する術を持っていない。だから移動するのは困難だ。

 

んー、と頭を悩ませていると東条君の呟きが聞こえた。

 

「王佐のやろう。なのはの変身シーンを独り占めするためだけにまさか強力な結界を張るとは‥‥。嫁嫁言ってるからなのは自身には手を出さないし危なくなったら助けるだろうけども‥‥」

「今の話を詳しく」

 

なっちゃんの変身シーンだって? なにそれ面白そう。マジでなっちゃん魔法少女になるの?

 

「はっ? お前ここが『魔法少女リリカルなのは』の世界だろ。そんなの当たり前だ‥‥空閃まさかお前転生者じゃないのか!?」

 

なんか大声出してる東条を放っておく。

 

なっちゃんの変身シーン‥‥これをカメラで取るしかないでしょ!

 

そうと決まったら、俺はうんこ座りの要領で屈むと左手に気の皆さんを集中。そして、圧縮、圧縮、圧縮ぅ!

 

「空閃、お前何を?」

 

左手が黄金に輝く。それはもう太陽のように光輝いていた。ご近所迷惑かもしれないけど今だけは許してちょ!

 

そしてその左手を全力でフルパワーでこれでもかというくらいに地面へと叩きつけた。

 

「地球割り」

 

轟ッ! と鳴り響き、これまた近所迷惑。しかし、その成果もあって、

 

「な、なに!? 結界が割れていくだと!?」

 

ピシピシと世界に響きが空間にヒビが入った。なんか衝撃とかそんなので割れたんじゃね? この世界割と適当だし。ほら、地面殴ったのに結界だけ割れてるのが何よりの証拠。

 

つまり、結界というのを割ってみようとテンションとノリでやってみたら出来てしまう、そんな日常。

 

「ねーよんな日常!」

 

東条君に怒られてしまったけど仕方ない。反省も後悔もしてない。

 

さてさて、と。急いでスマフォの高画質カメラに切り替え今か今かと割れていく結界をワクワクしながら見守る。

 

そして、

 

ガシャーンッ!

 

よし割れた!

 

割れた瞬間になっちゃんの気を詮索。この感じは上!

 

詮索に引っかかったと同時にその方向へとカメラを向け、富竹フラッシュ! 富竹フラッシュ!

 

「あっ」

「あっ」

 

シャッター音で俺に気づいただろうなっちゃん。そして、同時に俺も気づいてしまった。

 

なっちゃんの格好はなっちゃん自身が通っている聖祥の制服みたいな服装だった。それはつまりスカート。そして彼女は俺の真上にいたということで。

 

「いくらなんでも黒は早い」ピチューン

 

言葉が終わる前にピンク色のレーザー的な何かに飲み込まれました。



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第四話

久しぶりすぎてキャラ崩壊誤字脱字注意!

口調とかこんなんだっけかなー、と探り探りしながら1日で書きました。

暖かい目で読んでくれたら幸いです。


世間一般的な話をするとピンクは淫乱の色らしい。

 

というのもまず淫乱ピンクという言葉を皆さんはご存じだろうか。

 

わからない人のために簡単にだが説明すると、二次元のキャラクターでピンク色の髪の毛を持つヒロインがチョロインすぎワロスという意味らしいのだが、最近では髪の毛ピンクの脳内妄想エロすぎワロスも淫乱ピンクという言葉を作った要因みたい。

 

まぁどっちでもいいとして、今重要なのはピンク色は淫乱ということである。

 

ピンクという言語は英語では「なでしこ」という意味らしいが、やはり現代日本ではピンクとは性的な色合いを意味することが多いのではないのだろうか。

 

事のつまり、なっちゃんがピンク色のビームを出している時点で、お察し。

 

あいつ普段そういったエロ関係の話題になるとお顔真っ赤にして必死に話題をそらそうとしている癖に内心エロエロなんじゃないか、と疑ってしまうのは仕方ないことだし、黒っていう大人の権化的な下着を穿いていたのも納得する。

 

「なんだよ。なっちゃんむっつりだったのかよ」

「言いたいことはそれだけなの?」

 

俺はまたもやピンク色のビームに飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前がピンク色に染まるという経験は何度受けても馴れないもので、たとえ俺がダメージを受けない体質だとしても精神的に来るものがある。

 

しかも、俺の手元にあるスマフォは俺と違ってダメージを受けないコーティングを施している訳もなく、プスプスと黒い煙を上げていることも相まって俺のテンションはダダ下がりである。

 

まだこれをもらって一年経ってないから保障期間であるのが唯一の救いである。

 

ちなみに俺の近くにいた東条君と、なんか見たことある銀髪ショタっ子も極太ピンクビームに飲まれたらしく地面にヤムチャってたが、なっちゃん的には彼らの存在を大嘘憑きよろしくなかったことにしたらしく、俺もそれに合わせることにした。

 

他意はない。

本当にない。

 

たとえ彼らが俺のスマフォと似たような煙をプスプス上げていたことから、あっ、これ触れちゃダメな奴だわ、とか思ったわけでもないので、スルーすることについては全くもって他意はないのである。

 

スルーついでに彼らをこの状態へと殺った(誤字にあらず)犯人だと思われたくもないので、なっちゃんの手を掴み、そのまま高町家の俺の部屋に瞬間移動。これチョー便利。

 

さて、ここなら落ち着いてしゃべれるだろうよ。

 

つーか、まだ聖祥の格好してるんだ。

え、それ魔法少女の格好なの。

つまり聖祥は魔法少女養成学校でFA?

 

んなわけないの。そっか、ねーよな。

とちょっとしたやりとり。

 

その後、自身のパンツを写真で撮られたことを思い出したのか、なっちゃんはいつも以上にワタワタして、

 

「わ、わたしのパンチラ画像はそう安くないの。そ、そんなに撮りたかったらマネージャーを通してほしいのです」

 

お顔を真っ赤にしてそんなことを宣って恥ずかしいのを誤魔化していた。

 

なっちゃんの容姿的にその筋の人には大変素敵な光景ではあるが、俺の場合、記憶に甦る二体の屍(比喩)のせいで台無し感が否めない。

 

まぁ、俺はその筋の人ではないので、ただただネタに走ろうとしたとしても、恥ずかしいのなら言わなきゃいいのにと思うだけである。馴れないことはやめときーって。

 

「ま、魔法少女のパンチラを無償で撮れると思ったら大間違いなの! だからたとえクー君がローアングラーだとしてもお金はきっちり払ってもらいます」

 

誰がローアングラーだ、誰が。

 

「つーか、人のスマフォぶっ壊しといて金とるとかどんな鬼畜だよ。これ鬼畜の所業だよ」

「ふふん。なんとでも言えばいいの。どんな事言われても痛くもかゆくもないの」

「鬼、悪魔、なっちゃん!」

「わ、わたしの名前を悪口みたいに使わないでよ! ねぇ!」

 

酷く傷ついた! みたいな表情でそう言うなっちゃんに、そう言えばと尋ねる。

 

「さっきも今もなっちゃんものすごく余裕そうなんだけど、なんかピンチだったんじゃないの」

 

自分で自分の事を魔法少女と言っちゃう程度には余裕そうに見えるんですがそれは。

 

そんな俺の質問に右手に持っていた素敵ステッキを俺に見せて、

 

「さっきまでバックベアードもといロリコンに襲われていたんだけど、魔法少女に変身してこのステッキもといレイジングハートでフルボッコにしたの」

「素敵ステッキでフルボッコ(物理)ですね、わかります」

 

どうだとばかりに胸を張って緑色の宝石を素敵ステッキから取り出し見せつけてきたなっちゃんにそう返答する。

 

緑色の宝石。なんでもこれがバッグベアードの元らしい。手渡されて眺めてみたが、こんな綺麗な宝石にバッグベアードが封印されていたとか。あれ、これプレミアつくんじゃね?

 

「おっしゃ! これ換金してこようぜ! たぶん高く売れるでしょ」

「やめてください! それはとっても危険なものなんです!」

 

これでがっぽりお金が貯まると思いそう提案したところ、どこからともなく否定的な声が聞こえた。

 

それは、なっちゃんの肩から聞こえたみたいでよーくみるとなんかイタチみたいなの身振り手振りとやめちくれーとばかりに訴えてきた。ほうほう。

 

「しゃべるイタチとは珍しす。‥‥こいつも売り行こうぜ!」

「えっ? えっ?」

「ドナドナなの! ワクテカするの!」

 

困惑しているショタッ子ボイスのイタチ君と何故か売ることにノリノリのなっちゃん。

 

つーか、提案しておいてなんなんだけど、このイタチ魔法少女の相棒的な位置だと思うんですが、そんな売ることに積極的になっていいんですかね?

 

「大丈夫、問題ないの」

「売られそうになっている身としては問題でしかないんだけど……」

 

悲しそうにつぶやくイタチをしり目に俺はそう言えばととある事実に気づき、そのことについて驚愕し、そして感動していた。

 

お、俺の、ど、動物避けのスキルが発動してねぇ!

 

「……ねぇなのは、……この人なんで急に泣いているの?」

「あー、なんとなくわかったけど、気にしないであげて。ユーノ君はそのまま普通にクー君に接してくれればいいだけなの」

 

苦節9年。やっと、やっと報われるときがきたのかー!

 

そっか、このイタチはユーノっていうのか。

 

優しそうな名前だ。そして、俺のスキルなんかものともしないであろう強さを感じる名前だ。

 

しかも、さっきまでなっちゃんの魔法少女化でテンションマックスだったから気づかなかったが、よくよく見るとすんごくかわいい。もふりたい。

 

誰だ、この天使みたいな動物を売ろうとした心ないバカは。

 

「心ないバカは私の目の前にいるの」

「なんのことか。全くもって記憶にない。なっちゃんがノリノリで売ろうとしていたこと以外の記憶は俺にはないんだ」

「なんて素敵な頭をしてる人なんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、ということはつまり、魔法は地球以外では結構蔓延していて、ユーノ君は考古学者で珍しいマジックアイテム的なものを発掘していて、今回はなんでも願いが叶うっていう鳥山的な宝石をたくさん発掘して運んでいたら、事故ってそれ全部を海鳴に落としてしまったのか」

「だ、だいたいあっているよ」

 

日本が急にファンタジーチックになったので、一応事情を知っているユーノ君に聞いてみたところ、いろいろと驚愕の事実が発覚。

 

話が長かったので俺的にまとめてこれで合ってるよね?的に聞いたらため息気味に返答されたでござる。解せぬ。

 

「駄目だよクー君。三行でまとめないからため息つかれるんだよ」

「あの長い話を三行でまとめろとかどんな苦行だよ」

 

無理無理。と手をぶんぶん横に振る。

出来るわけがありませんよ。

 

「今北産業」

「ユーノ君有能。

事故で危険物を海鳴にブッパ。

ユーノ君無能」

「なるほど、把握なの」

「……いやいや、なんにもわからないからね」

 

なっちゃんの無茶振りに応えてみたらもっと深いため息を吐かれたでござる。解せぬ。

 

「まぁとどのつまりこの宝石を全部集めればいいってことか」

「……手伝ってくれるの?」

「いいよ。つーか、なっちゃん見て。やる気に満ちて素敵ステッキで素振りしてるよ。風圧がこちらに届くほどの」

 

イチローもビックリのスイングスピードである。

 

魔法を知っているユーノ君も魔法(物理)は知らないようだ。開いた口が塞がらない様子。

 

「……僕はとんでもない子に魔法を教えてしまったのかもしれない」

 

それは間違いない。しかし、時すでにおすしである。

 

「でも、今の僕ではジュエルシードを封印できるほどの力はない。……僕の責任を君たちに押し付ける形になってしまうし、危険を伴うようなことだけど……、本当にお願いしてもいいのかな?」

「まぁいいんじゃないか、俺も出来ないことは他人に任せきりだし」

「わたしも、これがわたしのできることなら……最後までお手伝いしたいの」

 

なっちゃんのこの異常なまでのやる気はどこから来るのだろうか。ようわからん。

 

たぶん、やっと自分ができることを見つけたとかそんなような理由だと思うのだが、ちょっとはしゃぎすぎて不安になる。

 

主にこれから封印のために駆け回るであろう海鳴のライフがゼロになる的な意味で。まぁいいか。

 

「そんな訳でようこそユーノ君。人外魔境の巣窟、高町家に」

「……今更こんなこというのもあれだけど、今の言葉で責任とかすべてを放って、物凄く家に帰りたくなってきたよ」

「大丈夫なの。人外の常識外れ異常者はクー君だけで高町家はごく普通の一般家庭だから」

「えっ?」

「えっ?」

 

あれ? 一般家庭ってなんだっけ‥‥?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーン? んなもんねーよ。


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