Fate/GrandOrder Arcade Real (ウータシリウス)
しおりを挟む

登場人物紹介

初めまして。

初めての投稿作品になります。
独自設定/ニワカ知識/駄文になりますが、楽しんで頂ければ幸いです。




【主な登場人物】

 

木枯 奇縁(こがらし きえん) 高校生 男

キャスターのマスター。本作の主人公。欲が少なく、あまり戦うことに興味を持っていない。アニメゲームの知識はある程度知っている。母子家庭の為、家事はある程度できる。

 

キャスター 真名『アイリーン・アドラー』 女

奇縁のサーヴァント。自分に正直で少々我儘なところがあるが、頭が切れるところがある。物事を点数で決める癖があるため、気に入らなければ『赤点』、程々なら『妥協点』、気に入れば『合格点』と評価する。

 

神前 優紀(こうさき ゆき) 高校生 女

セイバーのマスター。クールで戦いにおいては常に冷静に状況を見定める。弟が持ってきたカードをもらってしまい、マスターになってしまった。奇縁の隣のクラスで、学年1位の学力を持っている。

 

セイバー 真名『ダルタニアン』 男

優紀のサーヴァント。騎士道精神が強く、優紀に従順である。

 

斜木晴(ななき はる) 小学生 女

アーチャーのマスター。幼いのに戦いに巻き込まれてしまった。人見知りでアーチャーの後ろに隠れている。道に落ちていたカードを拾って、マスターになってしまった。

 

アーチャー 真名『ウィリアム・テル』 男

晴のサーヴァント。面倒見がよく、マスターの安全を常に考えている。貴族や高貴の人が嫌い。

 

常葉礼次郎(ときば れいじろう) フリーター 男

アサシンのマスター。自己中心的で、気に入らない人は徹底的に苦しめたりするが、立場が危うくなると逃げ出すヘタレ。

 

アサシン 真名『デイビー・ジョーンズ』 男

礼次郎のサーヴァント。卑怯者で、不意打ちだまし討ちが得意。礼次郎を悪の道の才能を見出している。

 

マーガレット 大学生 女

ライダーのマスター。日本の文化が大好きな留学生。日本の知識が少し偏っているところがある。

 

ライダー 真名『前田慶次』 男

マーガレットのサーヴァント。竹を割ったような性格で曲がったことが嫌い。

 

御剣 光一(みつるぎ こういち) 高校生 男

ランサーのマスター。御剣財閥の跡取り。実はゲームやアニメが好きなのだが、周囲の印象を考えて隠している。

 

ランサー 真名『鶴姫』 女

光一のサーヴァント。身内に仇名す者を決し許さない。光一に対して何やら思うことがあるらしい。

 

白川美麗(しらかわ みれい) 教師 女

バーサーカーのマスター。奇縁のクラス担任で剣道部の顧問でもある。由緒ある剣道家の血を引き継いでいる為、強者と戦いたいと思っている。

 

バーサーカー 真名『ペリノア』

美麗のサーヴァント。荒っぽく、聖杯の願いよりは、戦いを求めている。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 召喚

投稿のシステムがよくわかっていないまま、作っています。

よろしくお願いします!


 近くのゲームセンターは、いつも賑わっている。この田舎の町で、最新のゲーム機が置いているのがここだけなので、高校生の放課後はここに集まるのが日常だ。プリクラで写真を撮る女子と格闘ゲームで熱くなる男子が夕方頃に集まってくる。

 

 オレ、木枯奇縁《こがらし きえん》もその集まっている人の1人だ。そしてオレの前には同じ制服を着た男子が2人、意気揚々とオレを導いている。

 

 今日、遊びに来たのには目的がある。オレがFGOアーケードをやったことないって言ったら、クラスメートの友達たちは……

『FGOユーザーなら一回はやっておけ!』

との事で、放課後無理やりゲームセンターに連れていかれた訳だ。

 

「今日は運よく開いているな! 木枯、早速だが1,000円を両替してこい! 100円玉10枚だ!」

 

「ゲームで1,000円も使わないよ。300円ぐらいで」

 

「なめるな木枯! 少なくても1プレイで1,000円は飛ぶと思え!」

 

「そんなに使えるか!」

 

 FGOでも課金しないようにしているのに、ここで1,000円も使ってたまるか。

 

「帰るな、木枯! お前がカツカツってのはわかっている。だから俺たちから祝い金として300円ずつ出す。残りのお前が払うって話だ」

 

「300円ってお前らいいのか?」

 

「これで木枯が面白さにはまってくれるなら、安い出費だぜ!」

 

 ここまで言われたら無下にするのは心苦しい。オレは諦めて、両替機に1000円札を投入した。ジャラジャラと100円玉が流れてきて、それを財布に戻した。

 

「それじゃ木枯、新たなマスターになるのだ!」

 

 言われるがまま、100円玉1つ投入した。

 

                      ―★★★★★―

 

「10連回すのに1,000円も使うのかよ!」

 

 ある程度操作方法を覚えて、次のチュートリアル、『召喚』の説明を受けていたオレの最初の感想である。

 

「まぁ、最初はみんなそう言うよな」

 

「俺も10連は簡単に回せんから」

 

 後ろの2人もウンウンと頷く。しかも、単発召喚も1回100円と出費が激しいシステムである。

 

「木枯、物は試しだ、ここで10連チャレンジしてみろよ! 俺たちの600円があるんだから」

 

「オレ、結構使っている気が済んだが……」

 

「今なら初心者ユーザーは星4サーヴァント確定キャンペーン中だ。損はないって」

 

 言われるがまま、オレは1,000円分の硬貨を投入してしまった。

 

 見覚えのある召喚の画面だ。ここはFGOの召喚と同じなのか。

 

 これは線が1本だから礼装か。

 

 次は3本でサーヴァント……レオニダスか。悪くない。

 

 あ、演出だ! ★4以上サバ確定だな……。セイバーの金……ジークフリードか。

 

 次はヘラクレスだと!? FGOでも星4が連続で来たことないぞ!

 

「おぉ、バーサーカーは序盤では重宝するぞ! こいつは育てておけよ!」

 

 楽しい召喚もラスト1枚になった。すでに強いサーヴァントや礼装を手に入れて満足なので、10枚目は何が出てもいい気分になっていた。

 

 最後はサーヴァントみたいだ。クラスは何が来るかな……。

 

「……あれ? スキップした?」

 

 召喚画面が出てきたが、カードが表示されることなく、いきなり10連の結果画面に切り替わった。

 

 気になる10枚目を確認したが……。

 

「ねぇ、10枚目が?マークになっているけど、これもアーケードの仕様?」

 

 FGOで見たことあるサーヴァントや礼装が並んでいる中、最後の10枚目が白い靄がかかっているみたいで、見えなくなっている。

 

 あの演出を見た限り、サーヴァントであるのは間違えないはずだが……。

 

「いや、俺は初めて見るな。お前は?」

 

「俺も見たことねぇ。バグか?」

 

 どうやら後ろの2人も初めて見るらしい。とりあえず、カードが取り出し口から出るのを待つしかないか。

 

 それで少しして、例のカードが印刷された。

 

「なんだこれ? 真っ白じゃん」

 

 ★5のマークが入っていて、クラスはキャスターであるが、肝心のイラストが何もなかった。真っ白の背景のみのカードだ。

 

「ある意味レアだな。印刷されていないカードが出るなんてな」

 

「試しに読み込んでみたら、出てくるかもしれないぞ?」

 

 左側のカード読み込み口に例のカードを入れて、読み込みボタンを押す。しかし、

 

『エラー』

 

 出てきたのはエラー表示。読み込めない印刷ミスのバグカードって事か。

 

「どうしよう。このカード……」

 

「記念に持っておけよ! こんなカード星5サーヴァントよりレアだぜ!」

 

「同意! それに、そういう印刷ミスのものって数年後にマニアの間で超高額で売れるらしいぞ」

 

 あぁ、聞いたことある。お宝〇定団でも似たような言っていたような……。

 

「そうだな。100円も払ったんだ。捨てるのは勿体ないし、撮っておくか」

 

                      ―★★★★★―

 

「ただいま~」

 

 ゲームセンターで解散して、オレは自分の住んでいるアパートに帰ってきた。築何年か分からないボロアパートの一室がオレの家。玄関の横は台所で、あとは食卓と居間という昔ながらの部屋だ。

 

 居間のど真ん中で、タオルケットに包まっている大人が一人いる。あれはオレの母親だ。今日は夜勤だから昼間は眠っていたのだろう。

 

「母さん、すぐに夕飯にするからそろそろ起きて!」

 

「ん……。お帰りきーちゃん。今日は何作ってくれるの?」

 

「野菜炒めと昨日の残りの餃子」

 

「わ~い! きーちゃんのご飯はおいしいから好き~! 私に似なくてよかったねきーちゃん」

 

 オレの家庭はいわゆる母子家庭ってやつだ。父さんは死別したのか離婚したのか分からないけど、物心ついた時には既にいなかった。詳しく聞くのは少し怖いので、今はまだ聞かないでおくのがいいと思っている。

 

「早くシャワー浴びて来なよ。その間に作っておくから」

 

「きーちゃんは将来いいお父さんになれるよ~」

 

 母さんが風呂場に入っていく音が聞こえた。父親を見たことない時点でいい父親になれるとは思えないけど。

 

 こんな家庭環境のせいで、オレは中々の家事スキルが身についた。母さんは看護師なので出勤時間がいつもバラバラ。休みの日も不定期だから、家の事は基本的にオレがやっている。母さんは隠しているつもりらしいけど、どこか負い目を感じているみたいだ。もう少し学生らしい生活をさせてあげたいと、呟いているのを聞いてしまったことがある。

 

 それでも、オレは今の生活に不満はない。早く高校を卒業して、就職して、母さんを楽させたいのが今のオレの目標だ。

 

「さてと、炊飯開始っと」

 

 次は主菜作りか。

 

 黙々と夕食を作り、同時進行で母さんも仕事の支度をする。食卓に献立が並べ終えたと同時に、母さんも準備が終わったらしい。

 

「「いただきます!」」

 

                      ―★★★★★―

 

 午後9時。母さんが家を出て1時間たった。FGOの周回をある程度終わらせて、オレは暇つぶしに本を読んでいた。

 

 図書室から借りてきた『コナン・ドイル作品集』、要するにシャーロックホームズだ。推理小説好きなわけじゃない。FGOで只今絶賛PU中なので召喚できますようにと、願掛けのつもりで借りてきた。

 

 結果は、爆死でしたけど。10枚の呼符が綺麗に消えていったよ。今日の運はきっとアーケードに使ってしまったんだろう。今回のホームズは諦めよう。

 

「ふぁぁ……」

 

 滅多に本なんて読まないから、目が疲れてきたのだろう。急に眠くなってきた。

 

「何か、挿む物……あ、これがあった」

 

 あの白紙のカードが丁度近くに置いてあったので、しおり代わりに本に挿んだ。

 

「続きは明日にするか……」

 

 オレは、本を枕の上において、布団の中に入る。

 

 明日は確か、バイトがあったな。母さんの分の夕飯を作り置きしておかなきゃ……。

 

 重い瞼が徐々に考えることを止める。もう面倒くさくなってきた、明日の事は明日考えよう。今は、ただ寝たい。

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 どれくらい眠っていただろう? 急に意識が現実に戻ってきた。

 

 というのも、閉じた瞼からでも分かるぐらいのまぶしい光が、視界に入ってきたのだ。

 

 電気消すのを忘れていたのか?

 

 発光の正体を確認するため、オレは目を開けた。

 

「え?」

 

 青白い光が部屋の床に広がっていた。火事? いや、熱くないから火ではない。それに、この発光している光の模様どこか見覚えがある。FGOの召喚陣に似ている。

 

 すると、部屋の中を走り回る虹色の光が現れる。あれは星5サーヴァント確定の光だ。虹の光は回転し、3本の光の輪に変化して、部屋の中心に集まった。

 

 眩い光がオレの視界を奪う。一体何が起きているか、オレには分からない。もしかしたら夢を見ているのかもしれない。

 

 光が弱まっていく。消えていく光の中から、人影が1つ降りてくる。

 

 シルエットから分かるのは、ドレスのような服を着ているのが見える。だから女性?

 

「私《わたくし》のマスターは君かしら? 随分な間抜けな顔をしているわね」

 

 透き通るような声が上から聞こえる。恐る恐る、目をゆっくり開けた。

 

 そこにいたのは……4.5畳の居間にはとても似合わない、真っ赤なドレスを身に纏った藍色のロングヘヤーの女性が立っているではないか。

 

「私はキャスター、アイリーン・アドラー。早速だけど、コーヒーを用意してくださる?」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 キャスター

「アイリーン・アドラー……キャスター?」

 

 彼女の名前とクラスを改めて復唱する。

 

 信じられない。彼女はサーヴァントなのか? 現実なのか?

 

 オレの頭の中がゴチャゴチャになっていく。空想と現実が入り混じって、真実が見えなくなっているような気がした。

 

「コーヒーはまだかしら? 私、待たされるのは嫌いなの」

 

「え? は、はい……インスタントの奴でよければ……」

 

 彼女の毅然とした態度に、オレは易々と言いなりになっていた。めったに出さないティーカップを取り出して、お湯を沸かし、インスタントのコーヒー粉を用意し、彼女の前に入れたてのコーヒーを差し出した。

 

「ふーん。香りは妥協点ね。味は……まぁ、素人が入れた物なら妥協点ね」

 

 素人って、ただのインスタントコーヒーだけど。

 

「えっとそろそろ話してもいいかな?」

 

「あ、そうね。まだお互い何もわからないわね」

 

「まず、君はサーヴァントで合っているよね?」

 

「えぇ」

 

「それで、オレはお前のマスターで良いんだよね?」

 

「そうじゃないの? カードは持っているのでしょ?」

 

「カード……あ!」

 

 この状況下でカードとなると、あれしかない。コナン・ドイル作品集の間に挟んでいたカードを取り出す。

 

「変わっている……」

 

 真っ白だったカードに人物が映っている。それは目の前で紅茶を啜っている、アイリーン・アドラーと瓜二つ、いや本人そのものだ。

 

 となると、彼女はこのカードから出てきたということになる訳?

 

「そう、それ。あなたが私のマスターの証拠。霊呪が後ろに刻まれているはずよ」

 

 カードの裏側には、確かに赤黒い刻印が刻まれていた。3画の霊呪が。

 

「それが私とあなたを繋げる魔力回路みたいなもの。そのカードに念じれば、私を強制的に従わせることできるわ」

 

「マジでフェイトの設定が来ている。つまりは聖杯戦争が行われているってことなのか?」

 

「私が召喚された以上、この町で行われているはずよ」

 

 つまり、セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、ライダー、バーサーカーの6騎が今この瞬間、どこかで戦っているのだろう。

 

「アイリーン……」

 

「聖杯戦争の最中で真名呼びするなんて、あなたは愚かね」

 

「あ、えっと……。キャスター」

 

「よろしい。今後は気を付ける事ね」

 

「キャスター、君は戦えるの?」

 

 アイリーン・アドラーが戦える人物とはとても思えない。だって、シャーロック・ホームズに出てくるオペラ歌手なのだ。しかもただのオペラ歌手ではない。名探偵の彼を唯一出し抜いた事で有名で、一説によればあのホームズが唯一気にかけた女性とも言われている。

 

「そうね。サーヴァントである以上、戦えなくはないわ。ですが、あまり戦闘は期待しないでほしいわ。私、ただのオペラ歌手ですし」

 

 わかっていたさ。彼女が戦闘向きではないことぐらい。ゲームの方だって音楽家(アマデウス)や童話作家(アンデルセン)も英霊として召喚されるんだから。彼女をFGOでの立ち位置に例えると、サポート役になるだろう。つまり、オレの手札は戦力となる力がないということになる。

 

「宝具はどんなもの?」

 

「そうね……。わかりやすく言えば、相手の戦意を削ぐといったところかしら?」

 

 デバフ系でした。もしかしたら宝具は攻撃系と淡い期待をしていたけど。

 

「そういうわけだから、主な戦闘はあなたに任せるわ」

 

「任せられても困るよ! オレ、戦ったことないぞ!」

 

「戦ったことなくても、護身術の1つや2つ心得ているでしょ? 私の知り合いには、頭脳派のくせに戦う術を習得した男もいるし」

 

 それはシャーロックホームズの事だろう。

 

「この世界で魔術師はいないの! 護身術って言っても不審者レベルの対応しか……!」

 

「はいはい、言い訳はそれぐらいでいいわ。今日はもう遅いみたいだし、続きは明日からってことで良いわね?」

 

 マイペースに話を切り上げる彼女に、オレはため息を出す。だって、オレが知りたいことが半分もわかっていない物。

 

 しかし、確かに今日はもう遅い。明日も平日だ。今は休息を取ることを優先させよう。

 

「ところで、私の寝室はどこかしら? それ以前に、あなたの住居はどこかしら?」

 

「住居って、ここがオレの住んでいる家だけど?」

 

「面白いことを言うのね。合格点よ。だってここは倉庫でしょ? こんな狭い家聞いたことないわ」

 

 サーヴァントって召喚された際、現代の知識をインプットするんじゃなかったけ?

 

「ここは集合住宅のボロアパートの一室で。オレが住んでいる場所。一軒家とか高級マンションを期待しないでね」

 

「うそ……。こんな狭い所で人って暮らしていけるの? それじゃ、私もここで過ごすわけなの?」

 

 ずいぶん失礼なことを言うな。これでも母と二人暮らしにはちょうどいい広さなんだ……。

 

「あぁぁ! しまった!」

 

「何をいきなり騒いで!? 驚いてこぼすところだったじゃない!」

 

「そうだよ! キャスターが家にいると、後々面倒なことになる!」

 

「私の存在が邪魔だと言いたいの!?」

 

 思っているけど、口には出さない。

 

「そうじゃなくて、何も知らない人から見れば、オレは親がいない間に美女を連れ込んだ見ないなレッテルを張られるの!」

 

「何一つ間違っていないじゃない。実際にあなたが私をここに呼んだんでしょ?」

 

「好きで呼んでないよ! あ、そうだ霊体化だ! キャスター霊体化してみてくれ!」

 

 サーヴァントには霊体化という見えなくなる技がある。これで母さんから見つかる心配は……。

 

「あなたが、魔術師のマスターならできたかもしれませんわね」

 

 そうだった……。士郎とアルトリアの関係が確かそんな設定があった。

 

「なら、押し入れに閉じ込めておけば……。いや、万が一押し入れを見られたら、オレは拉致監禁の疑いがかかる! どうすればいいんだ!?」

 

 こういう時、ラノベやゲームの主人公はどう切り抜けたっけ? 焦って思い出せない。

 

「私のマスターなら、少しは落ち着きなさい。『微睡みの歌(スリープソング)』

 

「あ……」

 

 彼女が何か仕掛けたのはわかった。耳に入ってくるのは美しい女性の歌声。その歌はオレの思考を止め、体中の力が抜けていく……。瞼が徐々に視界を……閉じて……。

 

「ZZZ……」

 

「さて、私は……」

 

 

 

同時刻 某所

「え……? え……?」

 

 少女は戸惑っていた。自室で勉強していた最中、いきなり部屋が光りだしたからだ。

 

「な、何よ! どうなっているの!?」

 

 部屋の中は自分だけで、誰も答えてはくれない。それでも、今自分の目の前で何かが起きていることは理解できた。

 

 光は部屋の中心に集まり、影が一つ降り立った。

 

「初めまして、貴女様が私のマスターですね」

 

「だ、誰?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 翌朝

翌日

 

 スマートフォンのアラームで、オレの意識が現実に戻ってくる。

 

「ふぁ……あれ? オレいつの間に寝たんだ?」

 

 不思議な夢を見た気がした。フェイトみたいな夢で、オレがマスターになって、サーヴァントが召喚されて、聖杯戦争が行われているって言われて……。

 

「起きたのね、随分気持ちよく眠っていたわよ」

 

 夢じゃなかった。彼女、キャスターが当然のように食卓の椅子に座っている。

 

「……おはよう、キャスター」

 

「グッドモーニング……。早速だけど、朝食をお願い。えっと……そういえば名前を知らなかったわね」

 

 本当に今更だよ。

 

「木枯奇縁です」

 

「そう、キエンね。朝食はパンでお願い。サラダとコーヒーは忘れちゃだめよ。あ、できればラスクがあれば合格点よ」

 

「我が家の朝食はパンと紅茶だけだ!」

 

 というか、昨日の夜からずっとコーヒー飲んでいるよな?

 

 ん? それ以前に……。

 

「サーヴァントがご飯食べるの? 確か、食事は不要って聞いたことが」

 

「キエンだけ食事していて、私は見ているだけって言うのが嫌ってだけよ。口答えはいいから、早く用意しなさい」

 

 ……さいですか。

 

 食パンとインスタントコーヒーを二人分用意して、食卓に並べる。彼女にはブラックコーヒーで、オレは砂糖とミルク入れたもの。オレは苦いのは飲めない。

 

「これ、サンドウィッチのパンズじゃない。あなたこれだけしか食べないの?」

 

「オレの家はこれが普通の朝食なの」

 

「はぁ……貧しい家とは思っていたけど、ここまでだったとは」

 

「余計なお世話だ! いや、それよりもキャスターをどうするかだ」

 

 オレはこれから学校に行かないといけない。しかし、それだとキャスターを一人にさせてしまう。家においておけば、母さんに見つかってしまい、面倒なことになるのは目に見えている。

 

「どうするって、この町を廻ろうと思っているわ。せっかく現界したんだから、現在のオシャレをしてみたいもの」

 

「いやいや、なに旅行気分で出歩こうとしているの? 命がけの戦いの参加者でしょ君」

 

「だからって、私はこんな埃っぽい倉庫に1日いたら、肺炎を起こしてしまうわ」

 

 悪かったな人んちが埃っぽい倉庫で。

 

「そういう、あなたは私を置いてどこに行くつもり?」

 

「オレは学生だから学校に行かなくちゃならないの。学校には多くの他人がいる。そこにキャスターみたいな部外者が入ったら、パニックになる。分かるか?」

 

 もし、マスターとサーヴァントが学校にいると他のマスターたちに分かれば、何をしでかすか分からない。何せ、この聖杯戦争は秘匿もくそもない、ただの一般人が強制参加させられている。つまり、世間の目を気にせずに暴れまわる人がいてもおかしくなはいということだ。

 

 オレが一人でいる時に戦いが起こるのはいい。だが、全く関係ない人たちが巻き込むわけにはいかない。

 

「つまり、私がその学校で目立たないようにすればいいのね。簡単なことじゃない」

 

 彼女はわかっていなさそうだ。まるで他人事のように、話をまとめた。

 

「制服はあれね」

 

 キャスターは窓にかかっている制服を指した。確かにあれはオレの通っている制服だ。

 

「言っておくけど、お前の分はないぞ。あの1着はオレが着ていく分で……」

 

「1着あれば充分だ」

 

 キャスターは制服に近づいて、そっと服の表面を触る。まるで感触を確かめるように。

 

「仕組みが分かった。後は……ちょっと、レディが着替えるのよ! 扉ぐらい閉めなさい!」

 

 理不尽! 何をするか全く言わないで、勝手に行動を起こそうとしているのは彼女なのに。

 

 納得がいかないまま、居間の台所を仕切る襖を閉じた。

 

 襖の向こうでは、ゴソゴソと物音がしている。まるで鶴の恩返しみたいだな。覗く気は全くないけど。

 

 最後の一口の食パンを口に含んで、それを流し込むようにコーヒーを飲む。キャスターはまだ食べ終わって……いたよ。早食いだな彼女。

 

 2人分の食器を流し台に置いて、早くオレも着替えないと……。

 

「って、制服は向こうの部屋か」

 

 彼女が出てくるまでオレはここで待っていなきゃいけない。仕方ない、歯磨きしよう。

 

「待たせたわ。これでどうかしら?」

 

 襖が開いて、キャスターが出てきた。先ほどのドレスではなく、オレの学校の制服を着ている。ただし、女子のスカートではなく、男子の制服で。

 

「だから、オレの制服は……って残ってる?」

 

 居間の奥にはオレの制服がかかっている。

 

 だが、彼女の格好は間違えなくオレの制服だ。この家に、同じ制服は2着はないはずだ。

 

「私、男装した過去があるの。そのおかげで、男装だったらどんな姿にもなれるのよ。服装も魔力使ってコピーしたから、あなたも分の服が使われることはない。完璧でしょ?」

 

 アイリーン・アドラーが男装した記録なんてあったか? 早速スマフォで調べてみた。

 

 アイリーン・アドラー、男装、作品……あった『ボヘミアの醜聞』で男装していたらしい。

 

 改めて彼女の姿を見る。髪の毛はショートにしているし、顔だちも可愛い系男子って言えば違和感はない。

 

「分かった……。一緒に学校行くか」

 

「ちゃんとエスコートしなさいよ」

 

 なんで楽しそうなんだよ……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。