『ホムンクルス』個体識別番号23番 (ホテルベルリン)
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ファイルNo.0『プロローグ』

2092年、8月11日

 

 

 

 

 

防衛陸軍恩納基地よりほど近い港、そこからさらに約20km離れた海上にて、原因不明の大爆発が起こった頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───おい、早くしろ!間に合わなくなるぞ!!」

 

 

 

「重要な書類はすべて廃棄しろ!あちらさんに盗られるよりは万倍マシだ!!」

 

 

 

防衛陸軍那覇基地では、突如として渡嘉敷島近海に現れた国籍不明の艦隊により、大混乱に陥っていた。.......いや、『国籍不明』というのはつい先程までの話。現在は、既にその艦隊がかの隣国、《大亜連合》のものというのは周知されている。

 

 

 

 

「司令官!!第二、第三空挺部隊による敵残存兵の掃討が完了!!しかし、新たに出現した敵艦隊が既に海岸線より二十キロメートル付近に接近しています!!」

 

 

 

「ぬぅっ.....!!」

 

 

 

 

二十キロメートル。それはすなわち、敵の艦載射撃の射程距離範囲内に入った、ということである。だが、既に上陸してきていた敵兵に人員を割いていたこの基地には、もう新たな海上戦力に対抗しうるだけの兵力が残されていなかった。既に戦闘が終結に近づきつつあるという情報が入っている恩納基地からの援軍も、恐らくは間に合わない。

 

 

 

 

「......撤退だ!!総員、一刻も早く撤退し、恩納基地の部隊と合流するぞ!!」

 

 

 

 

悩んだ末に司令官が出した答えは、逃げること。これ以上、彼等にできることは残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸線より約二十キロメートル付近にて。

 

 

 

 

 

 

 

「........敵艦隊を確認。戦力、事前情報と相違ありません」

 

 

 

 

【身体の調子はどうだ?】

 

 

 

 

「現段階でこれといった異常は確認できません。異常はないかと思われます」

 

 

 

 

先刻より少しだけ高くなった波に揺られる一世紀ほど前のUSNA──その頃はまだアメリカ合衆国と呼ばれていた──の軍用ボート【ZODIAC】に、1人の少年が搭乗していた。

 

 

 

現在の彼の格好は、一般人が見れば『それっぽい』と評するであろう物。明らかに通常のものでは無いゴーグルに、黒づくめの装備。そして、その両手に抱えるライフル──CAD。この地点で、彼は一般人ではないというのが伺い知れる(海のど真ん中にたった一人軍用ボートで居る地点で既に一般人というのはおかしな話だが)。

 

 

 

その前方、ゴーグルの補助を受けて見た視界に映るのは、合わせて6隻の艦隊。大亜連合が送り出した、日本の国土を侵す者達。

 

 

 

 

今回の実験の標的は、彼等だった。目に光を宿さない、恐ろしいまでに平坦なその心で、『彼』は《天災》を紡いでいく。

 

 

 

 

 

「───魔法演算領域、異常なし。CADシステム、異常なし。重力子、掌握完了」

 

 

 

 

 

一度の行使で、十万人都市をも滅ぼすことが出来る悪魔の力。

 

 

 

 

 

【───【虚空爆破(エンプティ・バースト)】、発動】

 

 

 

「【虚空爆破(エンプティ・バースト)】、発動します」

 

 

 

 

豪、と。世界が揺れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............」

 

 

 

 

 

高波をかぶることおそらく数十回、その何十回目かで目が覚めた『彼』の目には、相変わらず光は宿っていなかった。濡れた頬に触れ、ほう、と一息。自分がまだ生きていることに僅かに持つ感情で驚くと同時に、『何故か』安心していた。過去の《実験》のデータはネットワークで共有しているが、《実験》の後に生命を繋いでいた個体は自分が初めてだった。

 

 

 

 

 

「.............」

 

 

 

 

 

 

虚ろな意識の中、通信機器を手に取る。が、既に鼓膜をふるわすのは(おそらく)数時間前に聞いたあの研究者の声ではなく、ただのノイズだけだった。壊れたか、もう死んだのだと見捨てられたか。おそらくは両方だろうと当たりをつけた『彼』は、諦めるかのようにその手を投げ出した。というより、もう動かす気力もなかった。

 

 

 

 

 

「............」

 

 

 

 

 

 

きっと自分も、このまま死ぬ。先に《実験》を行った『兄』達のように、衰弱して生命を枯らす。ほんの少し、それが先送りになっただけのこと。

 

 

 

 

 

「.........ッ」

 

 

 

 

 

 

だが、彼は欲張りだった。黄色く漂う液体の中、向けられた一抹の優しさを知った彼は、『兄』達よりも少しだけ欲張りだった。

 

 

 

 

 

 

「........生き、たい.......」

 

 

 

 

 

 

 

言葉にすれば想いが溢れる。ちっぽけな器を満たしていく初めての『願い』に、彼の心は打ち震えた。

 

 

 

 

 

 

「生き、たい......と、◼◼◼は............」

 

 

 

 

 

必死に伸ばしたその手は、空を切るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......まさか、本当にいるとは」

 

 

 

 

 

とある筋から手に入れた、『沖縄近海にて確認された大爆発を起こした術者がまだ海上を漂流している』という情報をどういう訳か信じた主人の姉に推される形で来てみれば、まさかまさかの展開だった。

 

 

仰向けに倒れている少年の傍らに膝をつき、観察する。年齢はおそらく12、3歳ほど。体型は痩せ気味......というより、痩せ過ぎだ。明らかに栄養が足りていない。呼吸を確かめると、本当に僅かながら息があった。

 

 

 

 

 

「....なぜこんなボートで漂流を......普通ならとっくの昔に海の底だぞ」

 

 

 

 

 

仮にこの少年(?)が本当にあの大爆発を起こした犯人ならば、間違いなく戦略級魔法師。国家が全面的に保護するべき存在を野放しにしておくなど、考えられないことだった。

 

 

 

 

 

「.......まあ良い。取り敢えず報告を──!?」

 

 

 

 

ガシリ、と。通信機器を取り出そうと上げた腕を、少年が掴んだ。たまらず振り払おうとする。この少年も魔法師である以上、油断はできない。

 

 

 

 

「......ぃき、た、い........」

 

 

 

 

 

一言。そのたった一言だけを言って、少年は再び意識を失う。再び起きる様子はない。腕を掴まれた男──黒羽貢は、驚きを残しつつも、任務を忘れることなく報告を行った。

 

 

 

 

これが、物語が始まる少し前の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。

 

 

 

 

「おはようございます、お兄様。と、ヒロイは本格中華料理店ばりのフライパン捌きを披露しつつ、ドヤ顔で挨拶します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......どうして、こうなった?」

 

 

 

 

愛しの妹と共に台所に立つ『彼』を見て、トラブル吸引装置こと司波達也は、こめかみをおさえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ヨロ(`・ω・´)スク!


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ファイルNo.1『忍者?えっアレただの変態坊主じゃないの?』

全国の学生の皆さん、我々は意志を同じくする同志だ。




さあ立ち上がれ!拳を掲げろ!!腹から声出せ!!



せーのッッ!!!!




『『『『『テスト反対!!!!!』』』』』





.......はい、という訳で更新が遅れて申し訳ありません。模試が見事に被ったんです。タグに亀更新つけた方が良さそうだZo......





 

 

 

 

 

 

「.......で、なぜここにいるんだ」

 

 

 

 

 腕を組み、仁王立ちする達也。その隣に寄り添う深雪。

 

 

 

 ──その二人の前で、正座をさせられている少年。

 

 

 

 取り敢えずフライパンを置かせた達也は、深雪も交えて三人で目の前の少年の尋問タイムを開始した。当の被告人である彼は、質問の意図が分からないといった様子である。

 

 

 

「御当主様からの指示です。『どうせ同じ学校に進学するのなら、いっその事同居してしまえば色々手間が省けるでしょう?』とのことです。と、ヒロイは回答します」

 

 

 

 

「.....お前、昨日の入学式にいたか?見かけた覚えがないんだが」

 

 

 

 

「当然です、見つからないようにしていましたから。と、ヒロイはドヤ顔をかまします」

 

 

 

 

 拾がふんっ、と胸を張る。まったく反省していないようだ。

 

 

 

 

「その顔腹立つからやめろ。なぜそんなことを......」

 

 

 

 

「そんなの、驚かせるために決まってるじゃないですか。と、ヒロイは表情筋が仕事をしていないお兄様の仏頂面を見て、サプライズの失敗を悟ります」

 

 

 

 

「.......それで、今日になって押しかけてきた訳か。何も聞いていないんだが」

 

 

 

 

 いよいよ頭痛がしてきた達也が再び米神を抑えた。隣の妹が、「悩んでいるお兄様の横顔も素敵です!」などとフォロー(?)を入れてはくれるが、正直頭痛の種が増えている気がしてならない。妹よ、お兄ちゃんは悲しいぞ。

 

 

 

 

「それは可笑しいです。驚かせるつもりではありましたが、同居することはしっかりとメールをしたはずですが......と、ヒロイは認識の差に疑問を抱きつつ、自らの端末を確認します」

 

 

 

 

 懐から情報端末を取り出し、そして何度か文字に視線を滑らせ何かを確認すると、「フッ」と何故か無性にイラッとする含み笑いをしてから視線を此方に向けた。

 

 

 

 

「やはりしっかりと送信されています。お姉様からは『楽しみに待っているわ』という返信まで送られてきました。と、ヒロイは自分が正しかった事実を確認して胸を張ります」

 

 

 

「.......そうなのか?深雪」

 

 

 

 

 隣でニコニコとしている妹に聞くと、何やら嬉しそうに返事をした。

 

 

 

 

「申し訳ありません、お兄様。昨日の夕方頃に連絡があったのですが、どうせならサプライズして差し上げた方がお喜びになるかと思いまして......ご迷惑、でしたか?」

 

 

 

 

「そんなことはないよ。俺もどうせなら少しは面白みがあった方がいいと思うしな」

 

 

 

 

「うわぁ、あっさり意見裏返しやがったよこのシスコン軍曹.....と、ヒロイはお兄様の態度の変わり様にほとほと呆れてみます」

 

 

 

 

「拾、俺の拳は硬いぞ?」

 

 

 

 

「すいませんでした申し訳ありませんごめんなさい。と、ヒロイは自らの危機管理能力に従って最善の行動をとります」

 

 

 

 

 流れるような動作で額を地面に擦り付けたヒロイは、これから始まる新生活でこのシスコンブラコン兄妹の被害者が(物理・精神的に)どれだけ出るのかと考えて思わずため息をついた。既に一部女子生徒がその片鱗を垣間見ていることを彼が知るのは、これから数時間後のことである。

 

 

 

 

 

「.....まあいい。来てしまったものは仕方ないしな。部屋は後で用意するから、荷物は取り敢えず俺の部屋に置いておいてくれ」

 

 

 

 

「了解しました。と、ヒロイは悲劇の未来が去ったことに安堵しながら、そういえばこの後お兄様は朝稽古のはずですが時間は大丈夫なのでしょうかと時計を確認します」

 

 

 

 

 そう言われて確認してみれば、確かにそろそろ準備を始めなければ不味い時間になっている。「そうだな」と立ち上がり、手早く着替えて玄関に向かった。

 

 

 

 

「お姉様もいかれるのですか?と、ヒロイは問いかけます」

 

 

 

 

「今日は先生に、進学したご挨拶にいかなければならないの......そうだわ。お兄様、拾を先生に紹介した方がよろしいのではないでしょうか。これから何かと顔を合わせることもあるかもしれませんし」

 

 

 

 

「そうだな。拾、来るか?」

 

 

 

 

「お供しましょう。と、ヒロイはきびだんごは貰っていませんが快く了承します」

 

 

 

 

「鬼退治に行くんじゃないぞ。いや、確かに戦いはするが.....」

 

 

 

 

「マジですか。と、ヒロイは冗談が現実味を帯びていたことに驚愕します」

 

 

 

 

「.......まあ、来たらわかるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういうことでしたか。と、ヒロイは納得します」

 

 

 

 

 目の前で行われているのは、《とあるエロ忍者坊主》が体術を教えている中段以下の弟子達が達也1人相手の乱取りである。門に入った瞬間に複数の人間に襲いかかられた時はその人間達の衣服を爆破(・・)して阻止しようとしたが、深雪に事情を説明されて今に至る。

 

 

 どうやら達也は、ここにいる『忍術使い』として名高い九重八雲和尚から体術を指南してもらっているらしい。この乱取りは毎朝の恒例なんだとかで、もう既に最初いた人数の半分ほどが地面に転がされている。

 

 

 

 

 

「それにしても凄いですね。あれだけの大人数を相手にしているのにまるで攻撃を受ける様子がありません。と、ヒロイは驚きを顕にします」

 

 

 

 

「ふふん、当然です。お兄様の腕ならばあの程度雑作もないことです。流石ですお兄様!!」

 

 

 

 

 なぜお姉様が得意げなのですか、と言おうとして、速攻で引っ込める。口は災いの元、言わぬが花、薮を続いて(スノークイーン)を出す。日本に古来より伝わるそれらの格言は、即ち先人達が残した偉大なる自己防衛のための叡智である。余計なことを言って氷の彫像に変えられる趣味は彼にはない。取り敢えず便乗しておこうと《さすおに》を言おうとしたところで──

 

 

 

 

「おおっ!?」

 

 

 

 

 ──深雪の背後に忍び寄っていた《とあるエロ忍者坊主》の気配を察知し、即座に回し蹴りをお見舞した。

 

 

 

 

「まさか、今のタイミングで防がれるとは思いませんでした。と、ヒロイは密かに驚嘆します。気配を消してお姉様に触れようとするとは......ここには随分と煩悩に忠実な人がいるようですね。と、ヒロイは警戒心を全開にします」

 

 

 

 

「いや〜こっちこそまさか気取られるとはおもってもみなかったよ。君、一体何者だい?」

 

 

 

 

「質問に質問で返すとは無粋な人ですね。モテませんよ。と、ヒロイはマナーのなっていないクソ坊主をこき下ろします」

 

 

 

 

「色欲は戒律に触れるからねぇ.....」

 

 

 

 

 このクソ坊主......と、もう2、3発ほど蹴りを見舞ってやろうとしたところで、深雪が二人の間に入った。

 

 

 

 

「こ、こら拾!何をしているの!!」

 

 

 

 

「お姉様を背後からニヤニヤして見ていた不埒者を排除しようとしていただけです。と、ヒロイはクソ坊主から目線をそらさずファイディングポーズを取ります」

 

 

 

 

「お、君もやっていくかい?かかって来なさい」

 

 

 

 

「いいでしょう、後悔させてあげます。と、ヒロイは──」

 

 

 

 

 ゴチン!!

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」

 

 

 

 

 清々しいほどの一撃。見ているだけで擬音が実際に聞こえそうなほどに綺麗に叩き込まれたそのゲンコツは、戦闘態勢に入っていた拾をしっかり沈黙させていた。

 

 

 

 

「お、お姉様、何をするのですか。と、ヒロイは頭部を抑えながら涙ながらに問いかけます.....」

 

 

 

 

「あなたが話を聞かないからです!先生も挑発しないで下さい!」

 

 

 

 

「いや〜ごめんごめん。つい面白くなっちゃって」

 

 

 

 

「やっぱぶっ飛ばしましょうかこのクソ坊主。と、ヒロイは両拳を固く握ります」

 

 

 

 

「だからやめさない!今度は凍らせますよ!!」

 

 

 

 

「.......申し訳ありません、お姉様。と、ヒロイはシュンとします」

 

 

 

 

 理由もわからずゲンコツを落とされ、そこに正座なさい!という氷の女王様の命令によって堅い石畳に正座させられる。拾君のメンタルはもうズタボロだ。

 

 

 

 

「いいですか拾、よく聞いてください」

 

 

 

 

「そうだよ、耳の穴をかっぽじってよーく.....あっすいません黙ります。いきがっちゃってホントすいません」

 

 

 

 

「.....この方は、九重八雲先生。かの忍術使いで、お兄様の体術の御指南をして下さっている方です」

 

 

 

 

「.............................Pardon?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした、先生。と、ヒロイは数分前の自分を殴り飛ばしたい衝動にかられつつ土下座を敢行します」

 

 

 

 

「こちらこそすまないね。ああゆう反応をされるとからかいたくなる性分なんだ」

 

 

 

 途中で手刀を振り下ろし乱入してきた達也の相手を終えた八雲に、少し前と同じく本能から最適解を選び出した拾は、再び地面に額を擦り付けていた。プライド?なにそれ美味しいの?土下座とは、即ち先人達が(以下略)。彼にとって、そんなものは生きていくのには犬の糞ほどにも役に立たないものなのである。

 

 

 

 

「.........ところで、そろそろ自己紹介をして欲しいんだけど.....」

 

 

 

「了解しました。と、ヒロイは立ち上がりながら答えます。このクモイの個体名称は拾、お兄様達の従兄弟(・・・)です。と、ヒロイは自らのプロフィールを語ります」

 

 

 

「......ふむ。従兄弟、ねぇ......そうかい。改めて、僕は九重八雲。巷では『忍術使い』で通ってる」

 

 

 

 一瞬細い目の奥が光ったような気がしたが、すぐにケロッとした様子になった八雲が返した。

 

 

 

「.....それにしても、お義兄様がここまでボコボコにされるとは驚きました。と、ヒロイは感想を述べます」

 

 

 

「それは当然だよ。まだ半人前の達也君に負けてしまうようでは、弟子達に逃げられてしまうさ。とはいえ、もう体術では達也くんにはかなわないかもしれないねぇ」

 

 

 

「ここまでやられた後にそれを言われては嫌味にしか聞こえませんよ.....」

 

 

 

 

「まあまあ、そこまで卑屈にならない方がいいよ。まだ君も高校生になったばかりだ。さ、もう登校の時間だろう?早く帰って準備しなさい」

 

 

 

「......はい、師匠。また明日もよろしくお願いします」

 

 

 

 

「拾君も、混ざりたくなったらいつでも来なさい」

 

 

 

 

「ありがとうございます。と、ヒロイは感謝を表明します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........あれが『NEXT』の遺物.......人造調整体魔法師【弟達(ブラザーズ)】の1人、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ファイルNo.2『はじめまして?魔法科高校』

亀☆更☆新!!いえええええええええええええい!!!!!!!





......はい、すいません。駄作ですが良かったらどうぞです。


 

 

 

 

 

数十分後、3人は滞りなく準備を終えて登校していた。歩いているのは、第一高校まで1kmほどの一本道。それにしても、わざわざコミューターの降り場に『第一高校前』などというジャストミートな場所があるあたり、やはり魔法科高校とは世間的に見ても特別な位置付けなようだ。

 

 

 

そんなことを考えながら、拾は隣で度々形成される兄妹によるアブノーマルな桃色空間に砂糖を吐きそうになりつつも、事前に用意していた一口チョコレート(カカオ99%)を口に放り込みながら耐えていた。ちなみに、今食べたもので8個目だ。

 

 

 

 

 

「このままでは一日どころか学校に着くまでにストックが無くなってしまいます.....と、ヒロイは悲惨な未来を想像してガクブルします」

 

 

 

 

「何を言ってるんだお前は」

 

 

 

 

「いえ、こちらの話です。と、ヒロイは話題を変更すべくただ今ネットワークにメッセージが届いたことを報告します」

 

 

 

 

「メッセージ?」

 

 

 

 

「《弟達(ブラザーズ)》からの、です。と、ヒロイは補足します」

 

 

 

 

弟達(ブラザーズ)

 

 

 

 

 

とある実験(・・・・・)により生み出された、とある人物の軍用体細胞クローン。現在2000人ほどいる彼らについては、後々詳しく説明することにする。

 

 

 

 

 

「『入学おめでとう。お兄様達によろしく』という趣旨のメッセージが多数届いています。と、ヒロイはたった今届いた753号からのもので祝辞が合わせて1852通目になったことを報告します」

 

 

 

 

「入学式は昨日に終わっているんだがな......」

 

 

 

 

「まあまあ、良いではありませんかお兄様」

 

 

 

 

「ああ......」

 

 

 

 

深雪のフォローにもどこか決まりの悪い顔をする達也に、深雪が怪訝な顔をする。照れ隠しかとも思ったが、それにしては少々違和感があった。「ご迷惑でしたか?」という拾に、「いや、そういうわけではないが......」と、立ち止まる。

 

 

 

 

「何だか、お前を差し置いて俺が祝われると、立場的に思うところがあってな......お前だって、自分ではなく俺ばかり祝われたらいい気分はしないだろう?」

 

 

 

 

自分はガーディアン。深雪のボディガードであり、いざとなればその命をもって妹を守る存在である。そんな自分に祝言が届けられることに、何とも言えない心中を吐露した。が、しかし。

 

 

 

 

「何をおっしゃいますか、お兄様」

 

 

 

 

少しだけ前にいた深雪が、その言葉に即座に返答する。なんだそんなことか、と言わんばかりの口調だ。妹がするには珍しい反応に、達也は珍しく面食らってしまう。拾もその横でホッとすると、こちらに視線を向ける。

 

 

 

 

「あの人達は祝いの電話もなかったですが、その代わりにこんなにもお兄様を祝ってくれる人がいるんです。喜びこそすれ、不平を感じるなどということは決してございません。深雪は、お兄様のことで喜んでくれる人が沢山いることが嬉しいです。もちろん、私もお兄様が入学されたことを心より嬉しく思っております」

 

 

 

 

「ヒロイもです。情動を持たない身ではありますが、それでもお兄様が入学されたのは他の弟達同様とても嬉しいのです」

 

 

 

 

「だからお兄様、」と、二人がふりかえる。その時の二人の顔は、確かにとても喜んでいるように見えた。

 

 

 

 

「「ご入学、おめでとうございます」」

 

 

 

 

「.......ああ。ありがとうな、二人共」

 

 

 

 

忘れてしまった想い。心の中に暖かいものが広がっていく感覚。かつてはこれを『感情』と呼んでいたのだろうと、達也は確かに感じた情動にそう名前をつけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば拾、クラスは深雪と一緒なのか?」

 

 

 

 

 

「まさか、ヒロイは二科生ですから。と、ヒロイは答えます。お兄様と同じE組です。と、ヒロイは喜んでもいいんだぞ?と言わんばかりの期待の視線を投げかけます」

 

 

 

 

 

「.......二科生?お前が?」

 

 

 

 

 

それはおかしいだろう、と達也は冗談抜きにそう思った。

 

 

 

彼等《弟達》の脳内に存在する電磁情報網『クモイネットワーク』は、大規模な並列演算装置でもある。頭の中に超高性能の演算補助スーパーコンピュータを搭載しているようなものだ。これを利用するこで極限まで短縮された速度で構築された起動式を、《学習装置》によって整えられた脳構造を持つ《弟達》による2000人規模の『乗積作用(マルチプリケイティブ・キャスト)』を行うにより、深雪をも凌駕する魔法力を得ることが出来るのだ。もちろん魔法科高校の入試レベルでもそれは変わらず、なんなら拾が新入生総代になっても特段不思議ではないのだ。

 

 

 

 

 

「実は、入試当日にネットワークに問題が発生したのです。と、ヒロイは『不幸だぁぁ』と頭を抱えてみます」

 

 

「その台詞はこの作品では使っちゃいけない。わかったな?」

 

 

「.......何の話ですか?と、ヒロイはキョトンとしてみます」

 

 

「......いや、すまん。忘れてくれ。俺も大分疲れているようだ」

 

 

 

謎の圧力が自分の知覚範囲外から襲ってきたのは気づかないフリをする達也であった。

 

 

 

 

「それにしてもネットワークに不具合とは.....何があったんだ?」

 

 

「........博士がですね。研究の休憩中にダ○まちを見たらしく.....『そうだ、追尾ミサイルとか逸らす装置作ったら超役に立つことね?』とか言い出したのが発端でして.....と、ヒロイは博士のあまりの突飛さと間抜け加減にかなり呆れてみます」

 

 

「さてはアルク○・レイに影響されたなあの人。てか何でそんなピンポイントなアニメをわざわざ見たんだあの人は」

 

 

 

 

 

某都市最強派閥のエルフが使う魔法を思い出した達也は、今回の騒動の内容を大体察した。余談だが、達也が何故その事を知っていたかは、新魔法の開発に関して何か使えそうなアイデアはないかと一世紀前に最盛期だったアニメを漁ったからという割と真面目な理由があったりする。

 

 

 

 

 

「その通りです。と、ヒロイはお兄様の慧眼に感心します。その実験の際に博士がやらかしたらしく、かなりの高電磁波が放出されたのです。と、ヒロイはあの時のことを思い出して深く溜息をつきます」

 

 

 

 

 

クモイネットワークは確かに高い性能を誇るが、根源的には脳波などを電気的に制御することで構成されている。さて、そこに強力なジャミング──例えば強い電磁波のような──が加わればどうなるだろうか。当然ただではすまない。その後『博士』は、ネットワークの再調整に丸一日かけた。

 

 

 

 

「本当にあの人は自分の優秀な頭脳と行動力を無駄にしている気がしてならないな......」

 

 

「全くです。と、ヒロイは心の底から同意します.....あっ」

 

 

「ん?あ、達也君!おはよー!」

 

 

 

 

取り留めもない内容と割と衝撃の事実を織り交ぜた会話は、二人が教室の前にいる二人の女子を視界に入れたことで終了した。拾が声を上げたことで二人の女子の片方、赤い髪が特徴的な少女がこちらに気付いて手を振ってくる。

 

 

 

 

 

「おはようエリカ、美月。二人共今日は迷わずに来れたみたいだな」

 

 

「なによ達也君。私達が方向音痴だって言いたいわけー?」

 

 

「でもエリカちゃん、さっき間違えてF組の教室に入ろうとしてたよね?」

 

 

「ちょっ、美月ぃ!余計な事言わないでよ!」

 

 

「なるほど、千葉さんはドジっ娘属性持ちですか。と、ヒロイは既存の情報から分析します」

 

 

「どう分析したらそうなるのよ!見えんか!この溢れ出る気品が目に入らぬかッ!!」

 

 

「ちょっと何言ってるか分からない。と、ヒロイは白けた目で見つめてみます」

 

 

「ごめんエリカちゃん。私もよく見えないや.....」

 

 

「.....真面目に謝られるとこっちもリアクションしづらいからやめて欲しいんだけど.....って」

 

 

チラリ、と達也の横に目を向ける。警戒している.....とまではいかないが、それなりに怪訝な顔を彼女は浮かべていた。

 

 

 

「なんかサラッと人の事おちょくってくれてるけど.....誰?達也君の知り合い?」

 

 

 

「自己紹介が遅れて申し訳ありません。と、ヒロイは完全にタイミングを逃していたことに気付いてちょっぴり焦ってみます。このクモイの個体識別名称はヒロイ。お兄様の従兄弟です。と、ヒロイは先程のことはコミニュケーションの一環ということにして欲しい旨をさりげなく伝えてみます」

 

 

 

「.......えーっと、つまりどういうこと?」

 

 

 

「?」

 

 

 

はて、何かおかしかっただろうか。自己紹介をされたのに名前が分からないという珍妙な事態が発生していることに、拾が首を傾げる。すると、隣でこめかみを抑えながらため息をついた達也がフォローに入った。

 

 

 

「.......こいつは雲居拾、従兄弟だ。色々と変わってるところがあるが悪い奴じゃない。良かったら仲良くしてやってくれ」

 

 

「失礼な、ヒロイは至って標準的なステータスです。と、ヒロイはお兄様の補足内容に対して遺憾の意を表明します」

 

 

 

「そういうところだよ、全く......」

 

 

 

「........あはっ。確かに変わってるわよ、アンタ」

 

 

 

「....ふふっ....!ご、ごめんなさ....ふふ」

 

 

 

達也と拾がいつも通りに漫才を開始したところで、エリカは思わずといった様子で笑ってしまった。初対面で失礼かと思っているのか、隣の美月も口元を抑えているものの笑っていた。

 

 

 

「それに、せっかく綺麗な顔立ちしてるんだから。もうちょっと表情変えた方が初対面の人にはウケがいいわよ?」

 

 

 

「千葉さんも、初対面の人相手ならばノリツッコミはやめた方がいいと思います。ヒロイでなければドン引いてたと思いますよ。と、ヒロイは先程の下りを思い出して......ブフッ」

 

 

 

「んなっ....!」

 

 

 

「ふふっ、エリカちゃんすごい顔してるよ?」

 

 

 

「み、美月ぃ.....」

 

 

 

拾だけでなく美月にまで追い討ちをかけられたエリカは思わずノックダウンした。その様子がますます拾と美月の笑いを誘った。表情が豊かではない達也も、珍しいことに笑っている。

 

 

 

「......アタシ、千葉エリカ。この子は柴田美月。仲良くやりましょ。あと、この借りは近いうちに返すからね」

 

 

 

「これからよろしくお願いしますね、雲居君」

 

 

 

 

「......ヒロイ、と呼んでください。と、ヒロイはちょっぴり照れながら返答します」

 

 

 

 

 

生まれて間もない物語が加速していく。波乱の序章は、まだまだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 






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ファイルNo.3『モブ先輩との邂逅』チガウッオレハモブジャネェェェェェェ!!!!

遅れてすいませんでした。私としても心の中が申し訳ないという気持ちでおっぱい......失礼、いっぱいです。今後ともこの作品をよろしくお願いします。


 

 

 

 

「.......迷いました」

 

 

 

長い長い廊下の途中、彼はそう呟いた。

 

 

一日も終わり、各々の時間割を消費し談笑する生徒も多い中で、絶賛迷子である自分が心細くなってしまうのは仕方のないことだろう。

 

少し校内を散策したいので帰る時間になったら呼んでください、と深雪達に言ったのが約一時間なので、一人で大丈夫なのかと深雪に心配されてヒロイはできる子なのですと胸を張ったのも一時間前ということになる。

 

 

 

「自信満々にドヤ顔してた少し前の自分を殴りたいです.....と、ヒロイは一人後悔を吐露します.....」

 

 

 

 

飛び出してから10分経って、道がわからなくなった。そのままあれよあれよとえっちらおっちら歩き回る内に、最早自分の現在地すら把握出来ない。

 

ズーン、という擬音が目に見えそうな程に落ち込んでいる彼を、向かいから来た生徒がすれ違いざまに奇妙なものを見る目で見てくる。

 

 

その対応が彼の気分を一層暗くさせた。

 

 

ただ今の彼のテンションのグラフは、一昔前の世界恐慌よりも落ち込んでいるのである。

 

 

が、いつまでもうじうじとしていられるほど今の自分は暇ではないのだ。

 

 

「このままではお兄様達に迷惑をかけてしまいかねません.....と、ヒロイはいつ連絡が来るのかヒヤヒヤしながら必死で出口を探します」

 

 

全く表情が変わっていないのは置いておいて、このままでは本当に置いていかれてしまうかもしれない。いや、まだそれならばいい。

 

 

最悪なのは、このまま自分が脱出できるまで二人を待たせることだ。

 

 

いつ出口が見つかるのかも分からない、しかも現在地すら分からないような今の状況では迎えに来てもらうこともできないので、本当に日が暮れてしまう。

 

 

そんな時、携帯端末が震えた。

 

 

「..................」

 

 

震える指で取り出し、届いたメッセージを一瞥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《受信(1)》

 

 

差出人:お姉様

 

宛先:拾

 

 

───────────────────────────────

 

 

 

そろそろ帰るから、正門前で待っているわ。出来るだけ早く来なさい

ね。ええ、出来るだけ、ね。

 

(今日 **:**)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..............」((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ

 

 

何故こんなにも震えてくるのだろうか、わからないが取り敢えずなにやら女王様のご機嫌が斜めなのはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........いや、何で?

 

 

全くもって自分には心当たりがない、いや、家に押しかけている地点で色々と迷惑はかけている自覚があるが、そもそも深雪は歓迎してくれていたはずなのでやっぱりわからない。

 

 

「......仕方ありません。道を聞きましょう。と、ヒロイは決心します」

 

 

何はともあれ、もう猶予がないことはわかった。ならば最後の手段を取るしかない。

 

 

知らない人で会話が気まずいとか言っている暇はない。この際上級生だろうが、先生だろうが構わない。誰か、誰か聞けそうな人は....!

 

 

 

 

 

「......そこのモブっぽい顔の人!助けてください!と、ヒロイは全身全霊でお願いしてみます!」

 

 

「誰がモブだ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか外に出れました....と、ヒロイは額の冷や汗を拭います」

 

 

あの後、モブ先輩(仮)の案内でようやく校舎からの脱出に成功した。

 

 

その最中やたらモブと呼んだことを気にしていたが、仕方ないだろう、だっていかにもモブっぽい顔をしていたのだから。

 

 

耳の穴かっぽじってよく聞けよ!と言われた名前は数秒後には忘れていた。

 

 

........うん、やっぱりモブだ。

 

 

何はともあれ、これでようやくお兄様達のところに向かうことが出来る。

 

 

そういえば忘れていたが、なぜ深雪はあんなにとがっていたのだろうか。そんなことを考えながら(なぜだろう、足が震えて歩きづらい)メールの通り正門に向かうと、なにやら大勢が集まっていた。

 

 

 

 

「何かあったのでしょうか。と、ヒロイは少し興味を示してみます」

 

 

 

 

気になって近づいていくと、何やらトラブルなようで言い争いが起きていた。その中心にいたのはエリカ、美月、そして二人と同じく朝のホームルームで知り合った大柄な少年、西条レオンハルト。諍いの相手は───

 

 

 

「......あれは、昼間の一科生ではありませんか。と、ヒロイは昼間のことを思い出して顔を顰めます」

 

 

思い出されるのは数時間前の出来事。

 

 

達也・エリカ・美月・レオ・拾の五人で食堂で昼食を食べていた時、そこに来た深雪にくっついてきたかと思ったら『一科生の方が偉いんだZO☆』とかなんとかのたまって席を譲るよう要求してきたのである。

 

 

その時は達也が機転をきかせたことで事なきを得たが、またいちゃもんでもつけてきたのだろうか。

 

高校生なんだから一度の失敗で学べよ.....と呆れながら、そこから少し離れたところでオロオロしている深雪とその深雪を宥める達也を見つけて駆け寄った。

 

 

 

「申し訳ありません、遅れました。と、ヒロイは謝罪します」

 

 

「ようやく来たか、深雪がメールをした割には思ったより遅かったな」

 

 

「はい?」

 

 

「見ての通りだからな。事態を収集して早く帰りたかったから、深雪に一芝居打ってもらった」

 

 

「......お兄様、なんだかヒロイは急に真空飛び膝蹴りの練習がしたくなってきました。練習台になっていただけませんか?と、ヒロイは何してくれてんだこの野郎」

 

 

「わかったわかった。すまなかったな」

 

 

一応謝ったので矛を収める。深雪の申し訳ないという表情を見たら怒る気も失せてしまったので、目下の問題である集団の方を見ると、

 

 

 

 

「いい加減にしたらどうなんですか!深雪さんはお兄さん達と帰るって言っているじゃありませんか!」

 

 

「僕達は彼女に相談することがあるんだ!」

 

 

「そうよ!深雪さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

 

 

 

 

相も変わらず同じような会話を繰り返していた。

 

特に中央の彼、あれが酷い。名前は知らないが、顔の系統がさっきの先輩に通ずるものがあったので奴も選ばれしモブの血を引く者(笑)なのだろう。小者臭がプンプンする。

 

そんなモブ男君とその愉快な仲間たちが、美月達と言い争っていた。美月が先頭になっていたのには少しだけ驚いたが、それよりも一科生達の言い分にもっと驚いた。

 

 

「はっ!そういうのは自活中にやれよ!そのために時間とってあるだろうが!」

 

 

「そういうことは深雪の許可を取ってからしなさいよ。それがルールなの。高校生にもなってそんなことも分からないの?」

 

 

全くもってエリカの言う通りである。

 

一科二科どうこうと話より、駄々を捏ねた子供を相手にしているようだ。あまりの暴論に、拾は開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

「うるさい!ウィードが僕達ブルームに口出しするな!」

 

 

 

 

「.......お兄様、彼らは馬鹿なのですか?と、ヒロイは尋ねてみます。最早呆れることすら出来ないのですが.....」

 

「滅多なことを言うな.....とは言え、さすがにそろそろとめた方がいいかもしれんな」

 

 

 

 

「同じ新入生じゃないですか.....私達二科生とあなた達一科生に、一体どれだけの差があるって言うんですか!!

 

「......どれだけ優れているのか、知りたいか?」

 

「面白ぇ、是非とも教えてもらおうじゃねえか」

 

 

 

 

「.......遅かったか」

 

「お兄様、どうされますか?指示があれば迅速に制圧しますが.....」

 

「...........」

 

 

 

 

 

 

 

「いいだろう、なら教えてやる。これが──」

 

 

サイオンが活性化し、モブ男──森崎が、術式演算補助装置──CAD(Casting Asistant Device)を腰のホルスターから引き抜いた。

 

その洗練された動きと起動式の構築速度は、彼が決して平凡な魔法師でないことを示している。

 

どうやら彼のことを少々侮っていたようで、拾はそれを見て自分の中で彼の評価を上書き修正しつつ───

 

 

 

 

「───才能の差だあがァ!!?」

 

 

 

 

──彼が引き抜いたCADを魔法で(・・・)撃ち抜いた。CADが術者の手を離れたことでサイオンは霧散し、魔法は不発となる。

 

 

 

命中(ヒット)確認です。と、ヒロイは報告します」

 

「拾.....お前」

 

「お言葉ですがお兄様、あのままではレオが負傷する可能性がありました。この判断は的確かと。と、ヒロイは自分の行いの正当性を主張します」

 

 

 

 

拾が涼しい顔で答える。

 

 

が、やられた方の森崎はそうもいかない。

 

 

 

 

「お、おい!何をするんだお前!!」

 

 

「はい?」

 

 

「とぼけるな!魔法を使ったのはお前だろう!!」

 

 

「そうですが、何かありましたか?と、ヒロイは尋ねます」

 

 

「何かって......」

 

 

 

森崎が拾に詰め寄った。が、当の拾の表情は全く動かない。

 

 

 

「あなたが魔法の不正使用をしたから止めたのではありませんか。と、ヒロイは盛大にブーメランをかます目の前の馬鹿に懇切丁寧に説明します」

 

「な、なんだとッ!?誰が馬鹿だ!!」

 

 

 

いや、気づくいて欲しいのはそこじゃないんですけど.....とツッこむ暇はなかった。

 

気付けば、森崎の後ろの一科生の集団の何人かが魔法を使おうとしていた。どうやらさっきの行動が反感を買ったようである。

 

もう一度さっきの魔法───空気弾(エア・ブリッド)で魔法を阻止することは簡単だが、複数名が使っているのがブレスレット型のCADなため、迂闊に手が出せない。いくら威力を落とすとはいえ、直接ぶち当てれば相当痛い。こんな時でも拾君は紳士なのである。

 

 

さて、どうするか。

 

 

取り敢えず回避行動を取ろうと足に力を込めた瞬間、それは起きた。

 

 

「みんな、ダメッ!!」

 

 

また一人、一科の生徒が魔法を使おうとCADを操作した、が、次の瞬間その魔法式は突如として打ち込まれたサイオンの塊によって砕かれる。衝撃で崩れる女子生徒、それを支えるもう一人の一科の生徒。

 

 

「やめなさい!魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 

 

 

そして現れる第三者。

 

少女の名は七草真由美。

 

この国立魔法科高校第一高校の現生徒会長にして、十師族・七草家の長女。十年に一人の天才と称されるほどの遠距離魔法の腕前を誇る『妖精姫』。

 

 

もう一人は渡辺摩利。

 

肩書きは風紀委員長。十師族ではないが、生徒会長である真由美にも決して引けを取らない実力者。

 

 

 

「君達は1-Aと1-Eの生徒だな。全員事情を聞きます。ついて来なさい」

 

拾は反論してやろうかと思ったが、魔法を使ったのは確かなので何も言うことは出来ない。

 

実質的にこの高校の頂点に君臨する二人に言われてしまっては、先程までは威勢のよかった生徒も黙るしかなかった。

 

.......が、しかし。いつの時代にも例外はいる。

 

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

 

一歩、前へ出る。

 

警戒した摩利が魔法を照準するも、一切怯んだ様子はない。

 

 

「はい。森崎一門のクイック・ドロウは有名ですので、後学のために見せてもらっていたのですが.....あまりにも真に迫っていたので、つい手が出てしまったようです」

 

 

これには当の森崎も目を丸くしていた。まさか庇われるとは思っていなかったようだ。実際は後々面倒になるのが嫌なだけだが。ついでに拾も目を丸くしていた。兄の作り話のあまりのクオリティに、これさすがに風紀委員長怒るんじゃないかなー....とビクビクしている。

 

 

「.....では、1-Aの女子生徒が攻撃性の魔法を使おうとしていたのはどうしてくれる?それも悪ふざけだと言うのか?」

 

 

当たり前だが、摩利が反論する。矛先を向けられた女子生徒がビクリと反応する。だが、その質問に対しても達也は冷静だった。

 

 

「あれはただの閃光魔法ですよ。威力もかなり抑えられていました。反射的に魔法を発動させられるなんて、さすが一科生ですね」

 

 

ますます白々しい。今の達也の言い訳はその一言に尽きた。だが、摩利が目を細めたのはそこではない。

 

 

「ほぉ....どうやら君は、展開された起動式を読み取ることが出来るらしい」

 

 

ピクリ、と、深雪と拾が反応する。

 

当然だろう、基礎単一系魔法だけでもアルファベット三万文字を超える膨大なデータの羅列を一瞬で看破するなど、どう考えても普通の学生がやる事ではない。

 

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

「......誤魔化すのも得意なようだ」

 

「誤魔化すだなんてとんでもない。自分はただの、二科生ですよ」

 

「兄の申した通り、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

達也のこの仰々しい、小馬鹿にしたような言い方に摩利が眉間のしわを益々深くするも、完璧美少女の深雪が何の小細工もなしに頭を下げたのを見て思わず目を逸らす。

 

 

「もういいじゃない、摩利。達也くん、本当にただの行き違いだったのよね?」

 

 

いつの間にか名前で呼ばれていることに達也が若干の不満を感じるが、今はこの流れにのっておくのが最善だろう。

 

真由美の話も終わり、二人がこれにて一件落着と踵を返す。が、一歩踏み出したところで振り返った。

 

 

「君の名前は?」

 

「1-Eの、司馬達也です」

 

「そうか。君は?」

 

「....え?」

 

「え、じゃない。名前を聞いてるんだ」

 

「......1-E、雲井拾です」

 

「覚えておこう」

 

 

そう言うと、今度こそ摩利は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

.......え?なになに、何ですか?

 

何故自分は今名前を聞かれたのだろうか。兄と違って『俺、分析得意なんだ( ー`дー´)キリッ』とか言ってドヤ顔してないし(してません)、『嘘なんかついてない(`・ω・´)フンスッ』とか言って(言ってません)白々しい嘘をついてもいない。

 

..........まさか、入学早々に問題を起こしてくれやがった問題児としてロックオンされてしまったのであろうか。いや、確かに魔法は使っちゃったけどさぁ。

 

 

 

「........拾、何をそんなに百面相しているの?」

 

 

「いえ。ちょっとフェルマーの最終定理について考えていました。と、ヒロイは複雑な心中を吐露します」

 

 

「何を言ってるんだお前は」

 

 

 

帰り道にて。『モブ崎のモブ崎によるモブ崎のための早撃ち披露大会()』の後、結局彼らは一緒に帰路についていた。そのメンバーの中には、魔法を発動しようとして真由美に止められた女子生徒・光井ほのかと、その親友の北山雫も含まれている。

 

最初の方はさすがにぎこちない感じがあったが、時間が経つにつれてそれもなくなっていき今ではエリカが持ち前のコミュ力で雫と女子トークを繰り広げていた。

 

 

「そういえば拾君、さっき凄い速さで魔法使ってなかった?確か拾君はあの一科生が起動式を展開した後に魔法を使った気がしたんだけど....そこんとこどうなの?」

 

 

ある意味この場の全員(達也と深雪を除く)が聞きたかったことをエリカがズバリ聞いた。他人の魔法について根掘り葉掘りするのはマナー違反ではあるが、魔法師は何時の時代も知的探究心旺盛な生き物なのが世の常である。

 

 

「秘密です。と、ヒロイは口の前でバツを作ります」

 

 

「ケチー」

 

 

そんなことを言われても、教えられないものは仕方ない。申し訳ないというように肩を竦めた。

 

 

「それにしてもさっき初めて拾君を見た時は驚いたよ」

 

 

その時唐突に、ほのかがそんなことを言った。

 

 

「どうしてです?と、ヒロイは疑問をぶつけてみます」

 

 

「だって、まさか合格してるとは思わなかったんだもん」

 

 

「いきなりご挨拶すぎません?と、ヒロイは何故自分が初対面であるはずの光井さんにここまで言われているのか訳が分からず混乱してみます」

 

 

そりゃそうである。まさかこんな優しそうな面の皮の裏にはとんでもない悪女の顔があるのかと疑った拾だったが、そんな拾の心境を察したほのかが慌てて説明した。

 

 

「あっ、違う違う!!別に馬鹿にしてる訳じゃないの!!ただちょっと、意外だっただけだから!!まさかあんなことしてた人が合格してるなんて......」

 

 

「.............あんなこと?」

 

 

「拾.......あなた、一体何をしたの?」

 

 

「誤解です、お姉様。と、ヒロイは慌てて弁明します。このヒロイには全く心当たりがありません」

 

 

「覚えてないの?ちょうど筆記試験の時───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......よし、解けた」

 

 

おそらくはこのテストの中でも難問の部類に入るだろう問題を解き終えて、ほのかが満足そうに笑った。

 

ほかの問題もいささか不安はあるが、概ね合っているだろう。これであとは実技さえ上手く出来れば.....

 

 

「........ィ、は」

 

「.......?」

 

 

今、何か聞こえた気がした。気の所為だろうか。

 

 

「...ロォイ、ハ」

 

 

.......断じて気の所為ではない。明らかに、隣にいるおそらくは男子が、なにやら呟いていた。問題を解いているのかと思ったが、なんというか呟きというよりは段々とうめき声に聞こえてくる。

 

もしかして、体調でも悪いのだろうか。カンニングになってしまうだろうかと悩みながらも、優しい彼女は結局相手の安否を優先した。意を決し、ちらりと横を覗き見る。

 

 

「......ヒろォいは、ひrオィらは、ひろjkmpmtjag......」

 

 

どうしよう、明らかに無事じゃない。

 

 

目は虚ろだし、なんだか呂律も回ってない。というより言葉にすらなっていない。手に持ったシャーペンは答えを書くことなくガリガリガリとテスト用紙に穴を開けているし、それを持つ手も震えている。

 

 

体調が悪い......というか、なんかヤバいクスリでもキメたようにしか見えない。声をかけてやれ?馬鹿なことを言うんじゃあない。たまに見る漫画や小説ではテスト中になにやらコソコソ()やり取りしている描写があるが、あんなものは試験官が居眠りしていなければ出来ないのだ。そんなことしようものならいよいよカンニングな上にそもそも声をかける対象自体がが怖すぎる。

 

 

 

そんなこんなで、結局ほのかは試験終了1分前になってようやく収まった奇行に安堵することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.................あー、なるほどな」

 

 

ほのかの話を聞く限り、彼女の言い分は全く正しい。テスト中にそんなことをしてた人間が二科生とはいえ一校に受かっているなど、彼女からしてみれば不自然極まりない。

 

 

 

「た、確かにそのような行動をしたことは事実ですが、それにはちゃんとした理由があったのです!と、ヒロイは自分の汚名を払拭すべく立ち上がります!」

 

 

「じゃあ何で?」

 

 

「...............えーっとですね」

 

 

拾がテスト中におかしくなったのは、前に話した通り博士によるおかしな実験の失敗により発生した電磁波を近くにいた個体がモロに受けたためだ。ネットワークは並列であるため、一人の個体が影響を受ければネットワークを共有している【弟達】全員が被害を被る。

 

 

なお、拾の狂乱っぷりは、某リアル電波系少女の10777番目の妹がロシアでお姉様の電撃を受けた時の様子を想像していただければ最もわかりやすいだろう。

 

 

「そ、それよりエリカ、さっきの警棒はCADだよな?ちょっと見せてくれないか?」

 

 

詰まった拾を見かねた達也がフォローに入る。しかし、それはこの場においては完全に悪手である。

 

 

「.....へぇ、凄いね達也くん。これがCADって分かるなんて」

 

 

しまった、という顔の達也。普通の高校生なら、やはりエリカの警棒がCADとは気づけない。普段の達也ならばありえない失態だが、拾が絡むと彼は稀にポンコツになる。

 

 

「え、それCADなんですか?どう見てもただの警棒にしか......」

 

 

「.........刻印型の術式ですか。と、ヒロイは予想します」

 

 

「おっ、あったり〜。拾君の言った通り、これは刻印型の術式が内蔵されてて、柄のところ以外は全部空洞になってるの」

 

 

腰から抜いた警棒──刻印型の武装一体型CAD──をクルクルと回す。何処か得意げな彼女だが、それだと色々問題があるのではないだろうか。

 

 

「てことは、使ってる時にずっと想子(サイオン)を注入してんのか?よくガス欠にならねーな」

 

 

そう、そうなのだ。そんなスカスカの警棒を武器として振り回していたのでは、たとえ相手が木刀だったとしても一度打ち合わせただけで使い物にならなくなる。が、逆に常時想子(サイオン)を注ぎ込んでいたのでは普通の魔法師ならばすぐにガス欠になってしまう。

 

 

「お、流石に得意分野。でも惜しい、あと一歩ね。振り出しと打ち込みの瞬間にだけ想子(サイオン)を流し込んでやれば量はそこまで要らないのよ。兜割りと同じようなものね」

 

 

そう言って締めくくるエリカ。しかし、それを聞いていたその他大勢は空いた口が塞がらないというようにポカンとしていた。

 

 

 

「......どしたの皆?」

 

 

「エリカ.....兜割りってそれこそ秘伝とか奥義とかに分類されるものだと思うのだけれど.....想子(サイオン)量が多いよりよっぽど凄いわよ」

 

 

「.......もしかしてうちの高校って、一般人の方が少ないんでしょうか?」

 

 

「魔法科高校に一般人はいないと思う」

 

 

正論すぎる雫の一言に、その場の全員が納得した。

 

 

 

 

 



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