未来戦姫スレイブニル_変わる未来へ (TAKUMIN_T)
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001.01-00:夢

不定期更新。

すっごくマイナーなエロゲーを原作に、再構成して色々やってく。オープニング曲はぜひ聴いて。

やる気が続けばいろいろ行けるかも。
終わりなんて見えてません。


 

 

 

 

 太陽系統一歴元年

 Solar system unified history first year

 

 

 

 

 地球の衛星軌道上をひと続きに繋がり取り囲む、リング状の宇宙ステーション(Spase stasion)

 

 名前を〈ユグドラシル〉。

 

 北欧神話に記述される、世界を体現する仮想の木。別の名を、〈世界樹(World tree)〉〈宇宙樹〉と呼ぶ。

 かつて世界がそれぞれ主義主張を唱えあい、太陽系を舞台に戦争を繰り広げていた全ての惑星国家(プラネットステーツ)が協力し合い築き上げた、希望の象徴(その全て)

 

 その中にある太陽系星間連邦議事堂のテラスに、彼は立っていた。

 

 窓から覗く眼下――視界に入る全て、見渡す限りの虚無、星の海が広がっている。

 一点を見つめると、煌く星が少しずつズレ、目を追わせることになる。広大というだけでは言葉が足らない、無限の空間に、赤い戦艦が視界の端に入る。航行中の船の眺めていると。

 

 ――歓声。

 

「そうか……、これは俺の……太陽系星間連邦〝初代大統領〟就任を祝う……」

 この日は、惑星国家(プラネットステーツ)同士が手を取り合い、その全てを統括する連邦国家の誕生を祝う式典が開催されている。

 テラスの眼下には、広場に集まった数えきれない人々、中に浮かぶホログラムモニター、到るところから、割れんばかりの拍手と喝采が空間を揺らす。

 この光景に、彼は目を瞑った。

 

 ここに至るまでの苦難の道のりが、走馬灯のように脳裏に蘇る。

 

 目を開け――って。

(ちょっと待て……)

 ()は思いとどまる。

(いや、そんな訳あるか……だって今は……)

 

 ――2013年の4月……。

 

(都内に住む単なる学生のハズ……だろ……)

 そのはずなのに、なぜ大統領?

 

 だったら、これは夢――と、決めつけられない。あまりにも現実味がありすぎるのだ。

 (げん)(まぼろし)か、果たしてどちらなのか――?

 そんな思考に軽いめまいを感じ、足元がぐらりと揺れる。それを見た周囲の男達が、彼に慌てて駆け寄ろうとする。

 だが、彼は護衛を手で制す。

「……心配ない……ちょっと立ちくらみがしただけだ……」

 そういったとき、(学生)は彼らが(大統領)の護衛だと気付く。

 

 そう、彼――太陽系星間連邦初代大統領――だ。

 

(――ちょっと疲れてるんだ……変なこと考えるのも、そのせいだろう)

 そう思いながら、制した手をさげ、彼はテラスの前方へと歩み出た。

 ――就任スピーチを待ち望んでいる。

 持っている全ての思いを、人々に伝えなくてはならない。

 

 統一は果たした。

 

 だが、問題は山積み。

 全ての(いさか)いを無くし、

 全ての人々が不自由なく、幸せに、

 

 ――暮らす。世界。

 

 そんなの無理だ。心なき人々からそう呆れ、失笑されて一蹴されるのは分かっている。

 だが、そんな夢物語でも作ってみせる。絶対に諦めない。たとえ本当に実現できなくとも……。

 

 ――笑顔が見たい。

 

 マイクの前にたどり着き、場を一瞥。言葉を発しようとした。

 

 

 〈――ずっと。守ってみせます!〉

 

 

 ――!

 「―aG―!」

 乾いた銃声が鳴り響いた。

 気付いたときには、左胸に焼けるような痛み。

 民衆の歓声は、静寂のあとに悲鳴へ一転し、視界が揺らいだ。

 

 (撃たれた……のか?)

 

 見下ろすと、噴き出す鮮血が傷口を押さえようとした手を真っ赤に染めていた。

 急激に失われていく血が、彼の意識を奪っていく。体が倒れ――。

 

 ――ることはなく。そっと、抱きとめられる。

 

 

 ――これは、遠い未来に起きる運命の出来事。そしてこれから、あなたが直面する――

 

 ――現実。

 

 

 

 

 ▷▷▷

 

 

 

 

 ピピピ!

「uruaAああ――!?」

 

 ピピピ!

 

「……」

 うめき声を上げ、起きた。息が荒く、額には汗玉が浮かんでいる。しかし、彼の様子とは無関係と目覚まし時計が口煩く鳴り響いている。

「夢……だったのか?」

 頭に手を当て、夢を整理しようとする。

 だが、夢とは信じがたい。

 あまりにも現実味帯びていた。あの臨場感が夢と思えなかった。あのときの自分の思考は。あのときのあの考えは。あのときの、あのときの、あのときの――痛みは何だった――。

 

「――んぐっ!?」

 

 胸に痛み。

 

 あの夢と、撃たれた場所と――同じ位置。

 

 直視できない。もし本当に撃たれていたら――。

 彼は目を瞑るしかなかった。今までに経験したことのない恐怖。本当に死ぬかもしれない、若者が経験し得ない死への恐怖(認識)だ。

 

「――――――――」

 

 だが、いつまで経っても意識がなくなることはない。

「ぁれ……」

 違和感を覚え、左胸を押さえる手を眼前に持っていく。なんてことはない、ほんのりと赤みがかっているだけで、いつもと変わらない自分自身の手だ。

「は……ぁ――」

 あの夢が現実でなかったことに安堵して肩を落とし、大きく息を吐いた。

「なんだったんだよ……アレ……」

 しかし、彼の脳裏に焼き付かせるには十分だった。

 

 だが。

「――――アレ……」

 彼は引っかかりを感じた。

「……まも…る…?」

 

 

 彼――如月カタナは、この記憶が未来を壊したことを、今は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 SLAVENIL_To the changing future

 未来戦姫スレイプニル_変わる未来へ

 

 

 

 

 




)2013年4月
原作では2013年7月

)夢
原作ではヒロインの一人に膝枕され、夢に挟み込まれて見せられていた。
顔にたわわを乗っけられて。


2018.10.11
英語表記の修正


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002.01-01:EXE_エグゼ / A

基本5,000文字以上でポンしていく。
10,000超えが理想。大変だけど。


 ちゅんちゅん。

 

 

 スズメが庭の塀から羽ばたいて飛び立つのを薄ら目で見つめる。

「はぁ……」

 カタナは息を吐きながら寝起きのだるい身体を動かし、玄関を開ける。

 

 

 あの夢から3日。4月18日。

 彼、如月カタナは、いつもと変わらない日常を謳歌していた。あの夢のことを綺麗サッパリと忘れたわけではないが、特にトラウマとなるはなかった。

 しかし、唯の夢と割り切れず、頭の片隅で悶々と考えふけっていた。

 

「じゃぁなーカタナー」

「おう。またなー」

 

 学校の正門。放課後、クラスの友人と別れて自宅の方向に歩く。特に重いものがカバンに入っているわけもなく、その歩みを順調に進め一歩一歩近づいていた。

「今日の晩ご飯は何にするかな……」

 カタナの両親はいつも自宅にいるわけではなく、海外出張で外国を飛び回っている。そのためいつも家には一人しかいず、自分のことは自分でしなくてはならない。

 流石に生活する為に両親から月額で仕送りは来る。だが、一人きりでいることは間違いない。

 しかし、そんな生活にも慣れ、寂しいとカタナは感じていない。そんなものと当の昔に割り切っていた。

「久しぶりに鯖の味噌煮(さばみそ)をおかずに突くか……」

 やっぱ和は正義だね。日本人の(さが)だよ。

「あとは適当に野菜でも見繕って……」

 ――サラダにでも。

 

 ピチュン――

 

「!?」

 聞いたことのない音。すぐ背後!

 とっさに身を屈めた。その瞬間、一瞬だけ背中に熱を感じた。そのまま後ろを見返す。

 

 ――見たこともない藍色の物体が駆動音を鳴らしながら、銃口と思わしき穴をカタナに向けていた。

 

「ヤバい――っ!」

 直感が告げていた。――アレは飾りなんかじゃない。

 咄嗟に走り出していた。カタナが持ちうる全てを使って、必死に逃げる。

 

 ――ピチュン

 

「......!」

 音――鳴る瞬間、身を翻らせる。

 ――眼の前を、黄色の線が貫いた。

「ビームかよっ!?」

 本当に当たったら、傷つくどころか消滅してしまう。証拠に、射線上にあったコンクリート塀が黒く焼け焦げている。しかも穴が若干空きかけそうだ。

「あっ――」

 だが、避けた先。足元に石が。

「――っぃ!?」

 どうすることもできず、転ぶ。

 全力疾走から急に回避行動を取ったこともあり、そのエネルギーを完全に殺すことはできず、一回転がった。

 体に少々の痛みを感じるが、気にも掛けずに逃げようと顔を上げた。

 

 ロボットの銃口が目の前で突きつけられている現実さえなければ。

 

「――――」

 恐怖しか感じなかった。いや、それ以外感じる余地もない。余裕すらない。

 間違いなく目の前にある銃口は、カタナを一撃でこの世から消し去るのに十分すぎるほどのものだ。あまりのも過剰と言える。

 

(まさか……)

 だが、この状況に一つだけ似たことを体感したことがある。

 

 あの夢と同じ。

 

 あのときも、犯人は(大統領)を殺そうとしていた事は間違いない。

 では、()()

 ――同じ状況だ。色々が違えど、このロボットがカタナを殺害しようとしていることには間違いない。

 あの夢がそのまま現実になったような。

 ありえないことでは無い。現実問題、そのロボットは空中に浮いている。

 

 これがあのSF()以外に何があるというのだ。

 

 考える間もなく、砲身から光が放たれる。

 カタナは咄嗟に顔を背けた。

 

 そんなときだった。

 影が上から降りて、カタナの前に立ちふさがったのは。

 

 何かが焼けるような音。カタナは熱を感じ、身を縮こませた。

 

「――大丈夫ですか」

 抑揚の無い、女の声。

 カタナはその声が聞こえ、目を開けて前を見た。

 

「――」

 

 ひと目。目を逸らせなくなった。

 彼女の周囲で、イチョウの葉の形をしたモノが浮いている。

 それよりも、彼女自身の纏っているもの。大事な部分が隠れてはいるものの、動けばたちまち見えてしまいそうなぐらいにしか隠されておらず、胸は大部分が、腹に至っては下腹部から背中まで肌色。

 足もストッキングにブーツを履いているようなものだが、絶対領域と称される部分の太ももが隠されていない。

 それ以上に、コスプレでもこんなのは見たこと――。

 

「あ、あぁ……」

 衝撃に、カタナは息が漏れるような声しか出せなかった。

 

 

 ――なぜ。

 

 

「わかりました」

 返事を聞くと、彼女は背を返してロボットへ視線を戻し。

「戦闘システム、起動」

 

 

 ――既視感を覚えている。

 

 

 一言つぶやくと、剣らしき物体が虚空から光を歪めながら出現した。

 彼女が手に持った剣――ビームソードの柄を右手で掴み、ロボットへ走り出す。

 数歩目、足を強く踏み出すと、彼女は空を駆けた。地上を走るより圧倒的に速い。

 ロボットは反撃――する間もなかった。

 

 一振り。

 

 そのボディが、ケーキの様に。上から。

 鉄が溶接されるような音を撒き散らしながら、ロボットは中の基盤をさらけ出し、断面が赤く変色し(溶けて)真っ二つに裂かれた。

 

 ――B,BBBBBbbbbbb------!!!!!!

 

 エラー音にもならない断末魔を鳴らし、ロボットは各部に点くランプを点滅させる。しばらくすると、その光も徐々に弱々しくなっていき、完全に沈黙した。

 

 もう、なにがどうなってる……!?

 これじゃ、まるで……、

 

 あの夢のようだ。

 

 未だに目の前の現実を受け止めきれてないカタナに、彼女が近づいていく。

 

「大丈夫ですか」

 

 変わらず抑揚のない声。それでも、気にかけていることは言葉で伝わった。カタナは慌てて彼女に視線を移し、頭を上下に振る。

「だ、大丈夫、だ……」

 眼前の状況を取り敢えず置いておくことでなんとか理解を追いつかせ、彼女に返事をする。

「ところで、君は……」

 そして、気になったことを彼女に訊いた。

 

「私は、XDG-01EXE(エグゼ)

 

 答えられた問に、カタナは固まった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()、〝スレイブニル〟です」

 

 

 これが、彼らの未来を大きく変える、最初の出会い。

 

 

 

 

 1:EXE_エグゼ

 

 

 

 

 自宅。

 住宅街に立つ一軒家。両親合わせ家族3人で住んでも部屋が余るくらいには広い家。現在は一人で住んでいるため、数多くの部屋を使わずに余らしている。

 そのリビング、カタナは彼女(エグゼ)と対面していた。

 テーブルにはカップが2つ。両方にお茶が入っている。片方はあと少しで無くなりそうで、もう片方は一口も付けられていないために減っていない。

 

「あの……」

「はい」

 

 学校から帰宅し、制服そのままのカタナ。対して、まんまSFチックなコスチューム――、あのロボットの戦闘時と同じアタッチメント?を身に纏っているエグゼ。露出はそのまま。

 薄紫のロングヘアーに翡翠の目。無表情を地で行く彼女に、カタナは気後れしながら訊く。

 

「俺を守るって、どういうことなんだ?」

 

 守るという大前提にしても、狙われる何かをやった覚えがカタナに存在しない。ごくごく普通の一般人を貫く彼に、どんな理由があって狙われるのか。

 エグゼは表情を変えず、口を動かす。

 

「そのことを話す前に、まずは観てもらったほうが早いです」

「見てもらう……?」

 言葉のニュアンスが分からず、カタナは思わず聞き返す。エグゼは答えることはなく、目を閉じた。すると、カタナの意識が暗転する。

 

 

 ――太陽系星間

 

(あれ……)

 

 ――ちょっと疲れてるんだ……。

 

(この夢……)

 

 ――aG―!

 

 ――見たことある。

 

 夢。

 そのままだった。

 

 理解不能なあの夢。そのままだった。

 

 

 目を開けると、テーブルの対面にエグゼが目を開いて座っていた。

「それは夢ではありません」

 その前置きを持って、彼女は話を進めた。

 

「私が貴方の意識に投影した、未来の出来事」

 

 それは、あまりに突拍子のない話。

 

「貴方の子孫の身に起こる、――現実の出来事です」

 

 自分の子孫に起こる出来事が、なぜ自分に?

 

「如月カタナ」

 

 名前を彼女は告げ、口を動かし続ける。

 

「貴方の子孫は、太陽系星間連邦の初代大統領に就任しますが、常にその政敵に狙われることになります」

 

 確かにその通りだろう。惑星間航行を自由にできるようになった科学力。それは計り知れないものがある。政敵のレベルも今と比べたら雲嶺の差なのだろう。

 

「ですが」

 

 だが、そこから先が。

 

「その暗殺計画が失敗に終わった今、彼らはその標的を変えました」

 

 最悪だった。

 

「それは、遠い過去の――貴方」

 

 それはまさに。

 

「初代大統領の遠い祖先〝如月カタナ〟へ向けました」

 

 一切関係のない自分に向けられた、理不尽な死刑宣告。

 

「つまり、大統領へと連なる如月家の系譜の祖先に当たる貴方を暗殺」

 

「そして、大統領につながる子孫をすべて消し、」

 

 ――如月家の存在をなかったことする。

 

 エグゼの話は、到底受け入れられる、理解出来る話ではなかった。

 あまりにも理不尽。ただ自分自身の存在を保身する為、邪魔なその存在を消すためだけに過去まで行って系譜から一切を消そうとする。突拍子過ぎて理解が追い付かない。

「え~と……」

 相槌が漏れ、後の言葉が出てこない。現実逃避気味に、カタナはエグゼに訊く。

「現実の話……な――んだよな?」

 

「はい」

 

 即答。

 いっそ否定してくれたほうがよかったなぁ……。

「はい……て……」

 抑揚のない声で素っ気なく放たれる一言。これほど破壊力のある返事はないだろう。カタナは息を大きく吐き、肩を力なく落とした

「で、君は護るとか言ってるけど、それは……」

 

「私は、貴方の子孫である太陽系星間連邦〝如月ヤイバ〟大統領の命を受け、如月カタナの護衛と遺伝子の確保の為、1024年後の未来からやってきたスレイブニルです」

 

 せん・・・にじゅう・・・よねん・・・ご?

 

「えぇ……」

 普通は信じられないのだが……。

「いや、アレを見せられちゃうと……なぁ……」

 あのとき、ロボットから守ってくれたときの彼女の行動、そして何より、今のこのコスチューム。どう見たって未来からのものとしか言いようがない。

「じゃあ、服を一瞬で変えられたりするのか?」

 数少ないSF要素を脳から引っ張り出し、エグゼに訊いた。

 

「できます」

 

「お、おう」

 また即答。ともあれ、普通の服装があるならそれに越したことはない。なにせ今のエグゼは、思春期真っ盛り(健全)な青年であるカタナにとって、とても刺激的(肌色成分+α)な訳で。

「じゃ、じゃあ普通の服で」

「了解しました。ノーマルドレス、起動」

 エグゼが喋った瞬間、視界は光が溢れた。

「うぉ――!?」

 光が収まり、背けていた視線をエグゼに戻すと。

 

 至って普通のロングワンピースを着ていた。

 白にアクセントでラインが走る。どことなく儚げなエグゼによく似合ってる。

 

「これは()()()()()()()()()()によって構築した、平常時の衣服です」

「わぉ……」

 

 もうリアクションパターンなんて、目の前の現実を見ればすぐに吹っ飛ぶ。何も言えない。

 ともあれ、2013年を基準にしても、普通の服装になったエグゼ。カタナはもう考えるのを放棄し、取り敢えず聞くことに専念することにした。

「うん、分かってたけどね……。

 じゃあ、エグゼが言っていた〝スレイブニル〟ってなんなんだ?」

 

 スレイブニル。

 名称としては、〝スレイ()ニル〟。北欧神話に登場する神獣。主神オーディンが騎乗する8本脚の軍馬。そこから取られた名前なのだろうが、どういう意味なのだろうか。

 

「戦略、戦術、護衛、将補王、情報処理、愛玩、雑用等を目的とした、個人運用に特化した多目的人形支援ユニットです」

「支援ユニット……?」

 

 支援、ユニット。

 

 ()()と言われている時点で、なにかがおかしい。ユニット、目的のための手段の一つ。

「ユニット……いや、どう見てもエグゼはロボットに見えないんだが……」

「いえ、原体のクローン細胞を人工子宮によって育成した人体が素体となっております」

 つまり、人のコピーを作り、それを本当の子供同様に再現した環境下で機械的に産ませ、その子供にエグゼのように何かを施す。

 今の御時世から見れば、どこかの人権団体が憤慨、消化器と傘を持って殴り込みをかけてきそうだ。

「クローン、人工子宮――ってことは、細胞自体は人間と変わらないってことか……」

「はい。そのような認識で構いません」

 エグゼは話を続ける。

「その育成された有機素体に人工進化形ナノプローブを投入し、全細胞の強化、頭脳への電脳域形成を可能としています。

 その恩恵により、先程のように服飾はもちろん、別モジュールによる武装システムとのリンクを行うことができます。

 

 それが私達、〝スレイブニル〟なのです」

 

 そう締めくくるエグゼ。表情はとても誇らしげに微笑んでいた。

 それを訊いてカタナは一つの言葉が思い浮かぶ。

 

 人体改造。その一言に尽きる。

 

 サイボーグとは違う。何かを置き換えるのではなく、元を利用し、それをテクノロジーによって人体の可能性を最大限に引き出す、ヒューマンバイオテクノロジー技術。

 AIとも違う。トップダウンのようにどこからか何かを学んでくるのではなく、自分自身で思考し、生き物同様にボトムアップの思考をすることができる。

 AIの場合、人体の代わりの義体を作ったとしても、人間が手を加えなければ一歩を踏み出すことも、何かをすることもできない。一歩を踏み出すのに、各部位に取り付けられた各種センサーがCPUで即座に計算され、体重移動を行い、足を踏み出し、付く。

 生き物の場合は根本が違う。

 生きる為、細胞レベルにまでに染み込んだ本能だ。それをどこからともなく自己学習し、自分のものにしていく。それを徹底的に管理することによって、エグゼのような形が生まれる。

 

 まさに技術が進んだからこそできる人の新しい形だ。

 

 ただ、そこまで技術が進んでいない今だからこそ、考えられることもある。

「……」

 

 道具としか見ていない、負の部分。それはエグゼの言動から見ても例外ではない。

 

「そうか――」

 だが、その事を言ったところでどうにもならない。今はカタナを護る為エグゼが未来から来た、その認識だけでいいだろう。

 カタナは任務を訊く。

「それで、未来を変えない為に俺を守るってことだけど……」

「はい。それと、遺伝子の確保が私の任務です」

 

 遺伝子の確保。確かにその判断も正しい。

 もし護衛対象(カタナ)が暗殺されてしまった場合、その後に続く未来は変わってしまう。それを防ぐ為、カタナの遺伝子情報を前もって確保し、間接的ではあるがカタナの子孫を残す。

 未来へ繋ぐ手段としては、何も間違いではない。

 

「その任務に遂行する為、元のマスターである如月ヤイバ大統領より、如月カタナへと私の所有権を譲渡する決定が下りました。ですので、今後は貴方が私のマスターです」

「所有権――」

 

 彼女は、手段の一つ。

 その事実が、何より現代社会を知っているカタナに深く突き刺さる。

 

「所有権かぁ……」

「?」

 軽く呟いたカタナ。漏れる声にエグゼは不思議そうに首を少しかしげる。

 

 自立型のユニットは自壊機能を持つ。

 

 世界に溢れるSFの知識。それはエグゼに該当する。実際にあるだろう。そして、恐れもないだろう。

 だからこそ、この揺らぎようの無い感情を顔で見れる。

 

「……わかったよ。」

 カタナの言葉に、気のせいかエグゼが微笑んだように見えた。

 それは年相応の、少女の微笑み。

 

 だからこそ。

 

「でも……、エグゼ」

「はい。なんでしょうか」

 カタナは、エグゼに質問する。

 

「スレイブニルでいること。どう、感じてる?」

 

 エグゼにとって、真意を計りかねる質問。だから、彼女は違いを込めてこう答える。

「私の誇りです」

「それはわかってる。それ以外だよ」

 だが、その答えを出すことをカタナは分かっていた。意地悪な質問だ。何にも侵されずに、ただ仕えていた彼女にとっては。

 

「……何が言いたいんでしょうか」

「……それは、エグゼが見つけるべきだよ」

「見つける……? マスター、どういうことでしょうか」

「その問も俺は答えられない。それでも言えるのは――そのままの意味だよ」

「……」

 

 直ぐに分かりそうな問なのだが、エグゼは何も答えられず、なにか呟き始めた。

 

 パン、パン。

 

「はい、この話はここまで」

 カタナが手を叩いて思考をずらす。そしてそのまま話し始める。

「俺としてはマスター呼ばわりも、その、嬉しいんだけどさ……エグゼのこと全く知らないし、他人行儀だったり、周りの目がな……」

 若干本音が出てるが、今日出会ったばかりののエグゼにマスターと呼ばれるのはそれもどうなのか。カタナ自身恥ずかしげに頭を掻きながらも、目線を彼女に合わせ、

「だから、俺のことはカタナって呼んでくれ」

 カタナは微笑んでエグゼに言った。けども、道具にとって、それは選択とも言える。

 そう、選択だ。

 

「それは、命令ですか?」

 エグゼはマニュアル通りに答え。

 

 

 

 

「それを、エグゼが考えるんだ」

 

 

 

 

 その答えに〝NO〟を叩きつける。

 

 今まで無表情を貫いていたエグゼの目が少しだけ丸くなる。予想外の返事だった。

「……」

 再び無言に。カタナが語り掛ける。

「考えは甘いかもしれないけどな。俺としては、家族として接してくれたほうがありがたいかな」

「家族……ですか?」

 その響きに、エグゼが反応する。作られた存在である彼女にとっては、言葉の意味は理解していても、その深層を理解はしていないだろう。

「だって、ずっとなんだろ? 俺が死ぬまで」

 彼女の任務は、護衛と遺伝子の確保。なら、側に置いておけば自ずと達成出来るだろう。

「そうです」

 

「だからこそ、俺はエグゼとは対等の関係でいたい」

 

 カタナは、本心からの言葉をエグゼに投げかけた。

「だから、家族として」

 カタナの妙に的を得ない発言。エグゼは、まだ真意すら読み取れずに表面層を理解しただけだろう。

 それでも。

 家族――その響きをまた少し考えだし、口元が緩んだ。

 

 ――スッ、と。

 

 エグゼは手をカタナの前に差し出した。

 

「これから、よろしくお願いします」

 

 その手を見て、カタナも手を重ねた。

 

「よろしく、エグゼ」

「はい、カタナ」

 

 そう答えたエグゼの声は、こころなしか弾んでいるように聞こえた。

 

 

 

 

 彼女は気付かない。

 家族を概念でしか知っていなかったために。

 

 また彼も、そういうことになるとは思っていなかった。

 

 夢は、彼に影響を与え始めていた。

 

 

 




)如月カタナ
主人公。小説内設定では、1996年8月2日、16歳、高校2年。原作ではもっとテンパっていた。
キャラクターの年齢は原作設定にも無い為、ここでは完全なオリジナルに。
仕方ないね。エロゲだし。

)XDG-01EXE
通称、エグゼ。3020年11月23日、16歳。基本無感情で無表情。スレイブニルであることを誇りに感じている。まだカタナに裸を見られていません(重要

)ロボット
崩壊3rdの崩壊獣がイメージ。なんか浮いてる藍色の小さいやつ。
天命組織のビーム撃ってくる白いやつでもいいのよ?

)家族
慣れても一人ぼっちは寂しいじゃない。

2018.12.07
表記の修正


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003.01-02:EXE_エグゼ / B

気付いたら5,000文字いってた。
不思議。


 

 

「はぁ――」

 本日、投稿後カタナの開口一言目は、溜め息から始まった。

 理由? そりゃ……ねぇ……。

 

 

 4/19 06:41:20

 

 

 瞼を開き、仰向けのまま目を動かす。

 窓からは日光が、部屋の中を明るくしている。その向こう側にスズメが二匹。傍から見れば、仲よさげにお互いを突きあっている。その向こう側に空が、雄大に朝を知らせてくれる。

 

「おはようございます」

 

「どわっ!?」

 聞き慣れない高い声が耳元で! カタナは驚いて起き上がった。

 

「?」

 

 白いパジャマに、紫色のロングヘアー。どこかの御人(まないた)が嫉妬する立派なお胸。

 感情が読めない程度に無表情の少女、エグゼが()()にいた。いたというか寝ていた。

「……」

「どうしましたか?」

「あのですね、なんでこちらに入ってるんですか」

 何もしれない人から見れば、それはそれは()()と思われる。とってもニッコニコなお顔で『ゆうべはおたのしみでしたね』とか言われかねない。挙句の果て、()()()()()()()(意味深)とか変な事態にも以下略。

 

「護衛のためです」

「そうだと思ったよ!」

 

 だがしかし! 現実は非情である!

 ……助かったというべきなのかな。

 

 リビング。

 湯気がホクホクとご飯から立ち上っている。その隣にはお味噌汁がこれまたホクホク、バナナ、目玉焼き。朝食の王道がテーブルに2セットある。

「エグゼ、これ……」

「前もってご用意させていただきました」

 だが、カタナが準備したわけではない。まさかのエグゼが準備した朝食だ。しかも、とても美味しそう。

 白米はすっごくもっちもちのてっかてか。味噌汁はキラキラエフェクトが幻覚――( ゚д゚)ハッ!

 バナナと目玉焼きは普通――目玉焼きが熟れたような色してる……。

「いつ準備したの?」

「〝ごじさんじっぷん(5時30分)〟の今朝ですが」

 早いですね。手作りだとそうなりますけども。

「で、なんで俺のベッドに入ってたんだ」

 準備したのなら、その後エグゼに充てがった部屋のベッドに戻ればいいのだが……。

 

「護衛のためです」

「繰り返すのね」

 

 真面目で何よりです――。

 

「おいしい――」

 

 味も見た目通り。良く言えば想像通りでした(ニッコリ)

 

 

 ▷▷▷

 

 

「見送らなくていいぞ」

「そういう訳にも行きません」

 

 玄関。

 エグゼは護衛目的でどうしてもついていくようだ。

「だからいいって」

「では私と「違うそうじゃない」

 訳も判る。いつ来るかわからない不確定要素を常日頃から備えなければならない。それを無防備で行くなど、〝どうぞ殺ってください〟と敵に風潮していると捉えられかねない。エグゼは何より、それを危惧している。

「どうにかして遠距離からはできないのか?」

 でも、常日頃から学校にまで近くにエグゼがいるのもそれはそれで問題。

「できません」

 だが、誰が銃弾に銃弾を命中させるなんて奇跡を毎回起こせるのか。エグゼ普通にやりそうだけど。

 

「――」

 確固たる意思を持つ瞳を、エグゼはカタナに向ける。断っても着いてきそうだけど。

「……行くか」

 どこか諦めた目で、カタナは玄関を開けた。

 

「着いてこないでね……?」

「……」

 

 不満気な顔を見せるエグゼに釘を刺す。

 結果。校門をくぐるまでストーキングされました。

 

 

 ▷▷▷

 

 

「はいここ、二次方程式――」

 

 また、空を見つめる。

 水色――大気の色しか見えないはずなのに、その先の色が見えるような気がする。

 

 また、空を見つめる。

 不思議な感じだ。遠い宇宙が近くに思えてしまう。

 

 また、空を見つめる。

 飛行機が飛んでいる。距離は――100kmか。

 

 

 また、空を見つめる。

 揺らめく炎が見えた。

 

 

 

 

 ピー

 一定のリズムで4分音符の電子音が部屋中に鳴る。

 その部屋の中央にはカプセルがひとつ置かれている。側面にはモニターが付いており、緑色の線と数字が、見えないスキャンラインが左から右に流れる(タイミング)で変動していた。

 

 86――――87――――86――――

 

 心拍数が変わる。また、音が鳴る。

 

 

「命に別状は無いようです」

 転送されたデータを、仮想ホログラム(モニター)が空間に映し出す。

「そうですか……」

 デスクの前に立つ男が状況を伝え、オフィスチェアーに座る男が、安堵から気が抜けたように息を吐いた。

「それで、ラーネル副大統領――

 この件も、やはり〈ネメシス〉が関与していると見られます」

「――概ね仮定していた通りでしたね……」

 目を細め、顔を上げた。耳まで伸びた金髪に、碧目。何も知らない人から見れば、何処かの男性モデルと見られておかしくは無い美貌を持っている。

 その彼。

 ラーネル・ロビイスト。

 如月ヤイバに次ぐ立場、太陽系星間連邦()()()()に就く人物だ。

 トップであるヤイバが凶弾に倒れている今、暫定的に大統領と同等の権限が、ヤイバから与えられている。裏を返せば、実権を与えても問題ないと、ヤイバがそれ程までに信頼しているのだ。

「それで、確保した犯人から何か聞き出せましたか?」

 その事を訊く彼の表情からは、ヤイバの命が無事であった事の安心感の他、これからの一挙一動による緊張の色が拭えない。

「いいえ。未だ口を割らない模様です」

「やはり、情報管理は徹底していますね――」

 仮にも組織の一員だ。下っ端であろうと油断すれば情報漏洩しても可笑しく無いのだが、〈ネメシス〉は、その末端組員でさえ口が開かない。徹底した教育をしていると推測できる。

「情報が入り次第、お伝えに上がります」

「分かりました」

 男が一礼、反転し歩を進め、部屋から退出する。

 ドアが閉まると、ラーネルは顔を俯かせた。

 

「ヤイバさん……」

 

 

 ▷▷▷

 

 

 4月20日。

 

「おはようございます」

 棒読みの声が聴こえる。寝起きの挨拶らしい。カタナは目を開く。

 目の前には絶世の美少女が(無表情で)こちらをのぞき込んでいる!

 

 吐息がかかる近さで。

 

「うわぁ!?」

 驚愕に驚愕。二重表現も辞さない程に、ゴキブリ並みにカサカサして眼前の顔からカタナは飛び退いた。

「?」

 原因を創った彼女、カタナの反応を不思議に見つめ、真っ白パジャマを着る。何も変わらない彼女の様子に、カタナは冷静さを取り戻す。

「ビックリした……――おはよう、エグゼ」

「はい、おはようございます」

 息を吐いて挨拶すると、エグゼは普通に返してくれた。

 急に現れた美少女と同棲することになって、朝起こしてもらう――。

 

 ……これなんてエロゲ?

 ※エロゲです。

 

 

 本日は土曜日。

 握手したあの後、就寝前にエグゼが「護衛のために」と言ってカタナのベットで添い寝しようとしていた。

 うん、正しいんだけどね。任務のためだし、無感情だし。

 カタナは固辞しようとしたのだが、気が緩んでそのまま一緒に寝た。一応パジャマも持っていたようで、また光って白無地のパジャマに着替えていた。

 例外として、風呂場に入ってこようとしていたのは断固として拒否したが。

 

 そんなで同居人が増え、多少賑やかになった朝食。器用に箸を使って白米をパクパクしているエグゼは、早朝からやっているテレビショッピングを見入っていた。

「あんな売り方があるのですね」

 エグゼの周囲に、商品を甲高い声で売る手法はなかったようだ。さすが未来といったところなのか、単純に知識としてなかっただけか。

「テレビショッピングだと一般的だよ。型落ちを大量に仕入れてオプションを付けて安めで売るのは。企業は、売れ残った在庫があったからそれを売りさばきたいって、どっちの会社にも利害が一致しているから」

「なるほど。確かに合理的です」

 一体何を学んでいる。

 

「エグゼ。遺伝子の確保ってどうやるんだ」

 二日前、エグゼの任務であったそのことをカタナは彼女に訊く。口をもぐもぐしてゴクンと喉が動く。

「はい、まずカタナの精液を採取します」

 食事中に訊くんじゃなかった。カタナの手に持つ箸がプルプル震えている。

「皮膚とかからのDNAじゃないのか……」

「可能な限り破損が少ない新鮮な遺伝子を採取することが目的ですので」

 確かに合理的だぁ(遠い目)。

「その採集した精液を、未来の伴侶となる女性の受精卵に受精させ、代用の子宮内で記録と誕生日に出産されるように育成します」

「何そのクローン育成みたいな……」

 そもそも、エグゼもクローンだったりするのだが。

「てか未来の伴侶って――まあ未来から来たんだからそりゃわかるか……」

 データベースなんてものがあるぐらいだ。最低でもそれくらいあるだろう。だた妙なのは、公文書は一定期間経つと破棄される筈なのだが……。流石に戸籍は破棄されるはずないよね。そりゃ残ってるわ。

 

「それで、未来の伴侶は――俺はともかく、エグゼにも伝えられていないよな」

「その通りです。もし知ってしまうと、伴侶となる女性と最悪結ばれないようになってしまう可能性があるため、教えるわけにはいきません。私も同様の理由で教えられてはいません」

 

 食事中にこれを訊くのは流石に気が引けるが、カタナはエグゼだからと思って訊いた。

「で、エグゼがどうやって採取すると……」

 デリカシーが無いと言われても仕方がないが、先を鑑みた上で聞かずにはいられなかった。

 

「私の膣内(ちつない)に射精していただければ」

 

 ご飯を口でもぐもぐしながら淡々と。頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「――は?」

 気が抜けた声が漏れたのは誰も責められないだろう。その()をエグゼはどう解釈したのか、

 

「性交」

 

 生物学的表現だが、ダメ押しが入る。

 

「セックスです」「おいこら」

 

 更に俗語で直接的な表現をし始める。

 

「カタナのペニスを私のヴァk「オーケー解ったそれ以上喋るなお願いだから」

 

 無表情で一体何を喋ってるんですかねこの子。

 ぐぐぐと鳴らしながらカタナは肘を付いて頭を抱える。

「仮にもしやったとして、一体何が遺伝子の確保になるんだ?」

「カタナの精子を私の胎内にて適切に保存し、母体の卵細胞(らんさいぼう)確保の後に受精を行います」

 ずいぶんと医学的に言いますねエグゼさん。直接的か?

 少し呆れているカタナをどう思ったか、エグゼは。

「私のt「もう言わなくてください結構ですエグゼさん」

 またダメ押ししようとする。自然とカタナはもうやめてと懇願。箸で豆腐を掬い、ぷるぷるする固体を見ながら。

「要するにだな、俺にエグゼと()()と言うか」

「はい。もし護衛対象が死亡した時の保険です」

「おい」

 聞きとうなかったそんなリアルな話。

「全力を以て守りますが、もしカタナが死亡してしまった場合は、人工受胎計画が発動し、データのプログラムが解除される仕組みになっています」

「で、データ通りのクローンに育成させるのか」

「正確には、カタナと伴侶の女性の人格データを入力したサイバネティック・ヒューマノイド(サノバノイド)にですが」

「そこは大変でもクローンにしてほしいかな……」

 中が機械で側が人工皮膚の人とかどんなだよ。まるで映画……今でしたね。

「あと、カタナにナノマシンを注入させてもらえないでしょうか」

 ナノマシン。

 字面通りにナノサイズのマシンという意味だが。

「ナノマシンって……体内とかに流して人体を強化することが出来るとかでの?」

「はい、その認識で問題ありません。私の身体にも、ナノマシンが細胞レベルで組み込まれております」

 すごいっすね。未来。

 

「メリットは?」

「カタナの自己防御の強化です」

 

「身体能力を向上させることが可能な為、私はオススメします」

「へぇ……」

 仕組みはよくわからないが、ナノマシンはあくまでも()()()()()()()()だ。その特徴を生かして人体に様々な影響を及ぼす事はできる。現代医学の治療器具の延長線のようなものだ。

 電気信号を発して目の網膜に擬似的なディスプレイ表記するのも可能だろうし、筋細胞を刺激して活性化させ身体能力の一時向上もわかる。もしかしたら脳の活性化もできるかもしれない。

 ただ、それ以上に分子合成とかなんだ。体内にFeとか保管してるのか。そもそもあの戦闘服はどこに。

 

 ――ん?

 

 のう()の――かっせいか(活性化)――?

 

 如月ヤイバとか、如月家が狙われた要因って。

 ……そのナノマシンが原因じゃ――。

 

「…………」

 てぃんと閃き、偶々辿り着いたカタナなりの結論。

 閃かなきゃよかった。

 

「体温の上昇を探知。風邪ですか?」

「未来を知って愕然としてるだけだからそっとしておいて」

 タイムパラドックスはこうして起きるんですね。SF学者さん。

 そしてエグゼはこんなときにも平常運転。羨ましい。

 恐ろしい想像をしたところで、カタナは目線をエグゼに向ける。

「で、それを俺に流し込むには?」

 

「セックスです」

 

「やっぱりバカだろその科学者!?」

 叫ばずにはいられない。せめて注射とかそういう手段はあっただろうに。

 ……物質創造できない? そうですか身体の中で保管するのが一番ですかそうですか。確かに効率で言えばトップかもしれませんね。

 というか、未来を守るためには……ナノマシンを体内に入れないとだめ……?

 

 

 

 

 結論:未来を守るために俺はエグゼとやらなきゃいけない(決定事項)

 

 

 

 

 orz

 

 

「――――」

 

 もう言葉が出ないご様子。

「今ならたった一万円☆」

「いりません脱がないでください」

 さっき放送してたテレビショッピングの謳い文句を言い(棒読み)ながらも、エグゼのドレスが薄ら輝いているのは気の所為ではないはずだ。目が細められる。

「私と性交するのは嫌なのですか」

「いいえむしろウェルカム」

 

 カタナ、脊髄反射で本音が漏れる。

 

 やっちゃったとカタナが固まる。対してエグゼは。

 

「では」

「ではじゃないです」

 

 またエグゼのまた服がキラキラさせ、カタナが即座に反応する。

 エグゼの顔がムスッとなる。

「どうしてでしょうか」

「どうしてもです」

「理由を聞いても」

「気が乗らない。以上」

 エグゼの問をカタナははぐらかす。

「何故、気が乗らないのでしょうか」

「それを理解することがエグゼの宿題につながるな」

「はぁ」

 何故はぐらかすのか、理由が判らず、エグゼはただ返事する。

 

 ▷▷▷

 

「これ、食べていいですか」

 エグゼが持っているのは板チョコ。ビターというおまけつき。食べたいらしい。

「それ? いいよ」

 何枚かまだ残っているし、そこまで消費の激しいモノじゃない。カタナの返事を聞き、頷いてパックを端から裂き始める。

 中から普通のチョコより濃い茶色の板チョコが。パキッと割って、エグゼはひとかけら口にする。途端、動いていた口が止まった。

「……苦い」

 無表情でそう告げられてもあまりわからない。が、思っていたのと違っていたらしい。

「分かってたんじゃ……」

「チョコレートは甘いものだと教えられていまして」

「ビターだよそれ」

「……」

 ビターの単語に目をぱちくりさせ、手元の板チョコを見るエグゼ。〝Bitter chocolate〟とパックにプリントされているのだが。

 未来にビターはないのか……?

 

 

「そうだ、戸籍とかは?」

 板のビターチョコを半分程度パクパクしているエグゼを眺め、カタナは気付いた。

 この先暮らしていくとなると、戸籍がないとなんやかんや大変だ。身分を証明するものが何一つ存在のは、法治社会の昨今を生きる事は出来ない。

 ……まあ、両親のいざこざで無戸籍状態でいる子供もいるらしいですし。

「ありませんが」

「そりゃそうだわな……」

 当たり前のことだが、エグゼは未来から来た。勿論戸籍なんてものは無い。作る事もできはするのだが、役所でなんやかんやの手続きをする必要がある。

 だが、この先エグゼがこの時代で活動していくにも、戸籍は作っておいたほうがいい。

 しかし。

「作るにしても、どうやってやるか……」

 生憎、カタナはその知識を持ち合わせていない。普通無戸籍状態になることは無いからだ。それより、どうやってエグゼに言い訳やら付けて戸籍を取らせるのかがキモ。詳しい方法は省くとして。

「作るんですか?」

 無くてもいいらしいエグゼ。戸籍があったらあったで面倒臭いからだろうか。

「作らないの?」

「いえ、ありがたいですけど」

 違うようだ。

「作る方法が分からないからなぁ……」

 

「一応、知識としてはもっておりますが」

 

「持ってるの!?」

 まさかの発言にカタナが声を荒げる。

「はい。電脳領域にて法務省のサイトを閲覧していました」

「なんつーSF」

 どうやってネットに――あぁ、通信事業者の電波ですか。電波法に引っかかりませんかそれ。無断使用で訴えられませんかね。

「全て記憶しておきましたので、不備はありません」

 

 もうわけがわからないよ。

 

 

 翌日。

 

「……本当に申請通ったし」

「よかったです」

 

 役所に申請書類を出したら、なんだかんだ確認だけされ、本当に申請が通ったのだ。ザルすぎやしませんか。これが法治国家ですか。

 ちなみに、エグゼの情報も少し書かれていた。

 11月23日。これがエグゼの誕生日らしい。というか、1024年後も太陽暦が使われているのか。キリスト教様々ですね。

 実年齢はカタナと同じ16歳。事前に聞いた実際の生まれ年、3020年と書くわけには行かないので、1996年と記入した。

「同い年だったんだな……」

「私はあまり興味が無いですが」

 16歳だよ、16。それでこの()()()()()()。世の中の少年(高校生)の夢がここに詰まってるぞ。

「胸を見てどうしました?」

「発育良すぎでしょうよう」

「そうでしょうか」

 ……まさか周りにいたエグゼと同じスレイブニルも全員このくらいが普通だったというのか。

「見たいのですか?」

「公然でそんな事言うんじゃありません」

 周囲から奇異の目で見られてしまう。迷惑防止条例違反とかで()()()()されてしまう。

「私は、別に構いません」

「だからやめなさいって!」

 

 あぁ、もう……。リアル感情育成って大変だ……。

 

 でも、まあ……。

 エグゼの手にあるクリアファイル。その書類に、書かれている。

 

 

 

 

 〈如月エグゼ〉――新しい、XDG-01EXE(エグゼ)()()()()()名前。

 

 

 

 

 ――

 

 

 2013.4.21

 

 如月カタナ。

 如月ヤイバ大統領の祖先

 

 発見時に〈対人専用〝ファランクス〟特殊作戦兵装型(IO-F9)〉からの襲撃を受けていた為、これを殲滅。

 

 その後、如月カタナをマスターと承認。

 マスターからの要望で、カタナと呼称することに。

 

 後日、2013年代の戸籍申請を行う。

 名前は、如月エグゼ。

 

 

 今まで見てきたマスターと、カタナは何処か違う。

 元のマスターも私の扱いは丁寧だったが、カタナの場合は思考している事が全く違う事かもしれない。

 

 

 

 

 




戸籍:
法務省のページで調べてきた。
抜かりはないぜ。

数学:
わざわざ文部科学省の学習指導要領を見てきた。参考にならなかったよ。
素直に教科書ちら見すれば良かった。


2019.04.18
別枠で書いていたモノを追記、統合。約2,000字。
一部誤字の修正。


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