ゾンビが人間を守って何が悪い (セイント14.5)
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キャラクター紹介


増えてきて自分でも混乱しそうなので。
装備は主人公組のみ、防具情報はめんd必要ないかと思ってオミットしました。

情報は第19話現在のものです。




 

☆ゾンビ(バンガード登録名:ガンドール)

 

年齢:不明

身長:232cm(成長中)

体重:224kg(義肢等を含む)

 

 

装備

オートライフル:ライオンハート

サブマシンガン:明けの明星 SMG2

グレネードランチャー:ハドリアヌスA

 

フォールンの右腕(生。キャプテンサイズ)

フォールンの左腕(義肢。何度か改造されている)

E:パルスキャノン(威力調整機能付き)

E:ワイヤー射出装置(あまり使わない)

E:アームマウント(武器が接続できる)

フォールンの左脚(義肢)

E:膝ドリル(意味があるのか?)

E:つま先ブレード(もう外したい)

E:エーテルタンク

エーテル供給マスク

 

 

主人公。

エーテルを走らせるパイプが全身に走っている。またエーテルの影響でかなり身体が肥大化しており、はっきり言えば人間には見えない。

元々は典型的なタイタンであった。『暴風のガンドール』というあだ名、二つ名を持っていたが、本人は気に食わなかったようだ。

時折偉そうなことを言うが、別段頭がいいわけでもない。

尊敬する人物は過去の戦友達。皆誇り高く死んで行った。

 

 

 

☆ザナリー3

 

年齢:数えてない。エクソに必要か?

身長:192cm!(嘘。本当は179cm)

体重:重いぞ?(285kg。エクソの中では軽め)

 

 

装備

ハンドキャノン:ピカユーンMk.33(色々なカスタムパーツと、彼特製のイラスト(ラクガキ)付)

ショットガン:バッドランドMk.24(使わない)

ヘビーウェポン:いらない!

 

フォールン製ステルス装置(彼のゴーストの犠牲によりスムーズに使用できる)

 

 

お調子者。

地球でゾンビに出会い、保身と興味から彼について行くことにした。ハンターだったガーディアン時代から、正面から脅威に相対すると恐慌状態に陥り戦闘不能になる悪いクセがある。

自分で考えたジョークを人に聞かせることが趣味。大抵の場合、自分のジョークは世界一面白いと思っている。

尊敬する人物は特にいない。強いて言うなら自分のゴーストだった。

 

 

 

☆ケイ・サカモト

 

年齢:ガーディアンになってからは5年

身長:163cm

体重:62kg

 

 

装備

スカウトライフル:アーミラリPSu

フュージョンライフル:エキノクス・ツー

ロケットランチャー:ウィーバーC

 

 

ゾンビのゴーストに興味を持ち、デヴリムの拘束からゾンビが脱出するのを手助けする見返りに彼のゴーストの研究を求めた。行動原理は知識欲。理論先行型のきらいがあり、スマートな解決策を模索しようとするがあまり難しく考えすぎることがある。

尊敬する人物はイコラ・レイ。ガーディアンとなり彼女の論文に出会ったことが、ケイを研究者の道へ導いたと言っても過言ではない。

 

 

 

【バンガード】

 

 

☆ザヴァラ

☆イコラ・レイ

☆ケイド6

 

バンガードの各クラスリーダー達。シティ陥落に伴ってそれぞれ落ち延び、再び衛星タイタンに集った。

現在はシティ奪還作戦を練っている。

ゾンビやザナリー3については、ガーディアンが暗黒を利用したり一部融合した前例があるのでそこまで懐疑的ではないが、研究や不確定要素を取り除く意図で監視をつけるなどする。

 

 

☆スロアン(バンガード・タイタンの現場指揮官)

☆アマンダ・ホリデイ(造船技師)

☆エリス・モーン(ハイヴの眼を得たウォーロック)

 

バンガードの協力者および所属者。それぞれがそれぞれの意思で動く。

 

 

☆ゲイル(ウォーロック)

☆バーツ(タイタン)

 

ゾンビ達の監視役としてバンガードより派遣されたガーディアン。光は失っているが、バンガードへの忠誠心と暗黒への闘志は失っていないだろう。

 

 

☆研究者達

 

ゾンビやザナリー3の調査を任されたウォーロック達。思惑も様々だが、ザナリー3のおしゃべりには揃ってうんざりしている。

 

 

 

【その他】

 

 

 

☆デヴリム・ケイ

 

地球にてゾンビを捕らえ、尋問しようとした。

彼にとってフォールンを倒すことは日常の重要なタスクであり、彼はフォールンがどこまでも狡猾なことをよく知っている。ゾンビを人間に似せたフォールンの仲間と判断して捕獲したのも、まずは疑うことを是とする彼にとっては当然のことである。

バンガードにはゾンビをフォールンのスパイとして報告したが、奥地を守れるならゾンビのその後のことはどうでもいいと感じている。

 

 



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解説編
レベル0.歴史のお勉強


未プレイの方のために、Destiny1やそこまでのストーリーを簡単に会話形式で説明します。既プレイの方は、読まなくても大丈夫です。


※登場人物


ケイド6…人類の守護者ガーディアンの三つの職業のうち、『ハンター』を代表するリーダー。エクソと呼ばれるアンドロイドでお調子者。いつも外に出たがっている。


イコラ・レイ…ガーディアンの職業『ウォーロック』をまとめる。種族は人間。疑問はそのままにしておかないタイプ。


ザヴァラ…ガーディアンの職業『タイタン』を統括する。アウォークンとよばれる、肌の白い人類の派生種族。頭の固さと責任感では誰にも負けない。





Destiny1からDestiny2までの少しの間…

 

タワー、バンガードの会議室

 

 

「イコラ、こんな時間に呼び出してどうした?もしかしてデートのお誘いか?俺はいつでもOKだぞ!さあ!」

 

 

「ケイド。聞きたいことがあるの」

 

 

「なんだ?まさか…スリーサイズか!?ちょっと待ってろ、今測ってくる!」

 

 

「違う。ケイド、あなたはトラベラーと我々の歴史についてどのくらい知ってる?」

 

 

「哲学的な質問だな。例えるなら…」

 

 

「いいから答えて」

 

 

「なんだよ…歴史だろ?俺たちの」

 

 

「そうだな…まずはトラベラーだ。真っ白の超デカイ球体!それが火星に現れて、俺達にすんごいテクノロジーをプレゼントしてくれた!」

 

 

「人類はもう大喜び!黄金時代の到来だ!太陽系のどこにも、人間が住んでない星なんか無くなった!あと俺が産まれた!これは一番大切だ。テストに出すぞ」

 

 

「エクソ。自己増殖機能を備えた、超高性能アンドロイド。あなたもその一人よね、ケイド」

 

 

「ああ、そうさ。おでこの角がチャーミングだろ?」

 

 

「そんで…あー…そのあと…」

 

 

「暗黒」

 

 

「そう!暗黒…ってなんだっけ?」

 

 

「はぁ…外宇宙からトラベラーを追ってきた敵性体の総称。トラベラーがガーディアンにもたらす『光』の力に対して呼ばれるの」

 

 

「暗黒には4つの種類がある。宇宙を放浪し、略奪と虐殺を繰り返すフォールン。虫と死の神を崇め、生物のことごとくを喰らい、侵し尽くすハイヴ。その圧倒的な軍事力で複数の銀河を手中に収め、未だ侵略を続ける大帝国カバル。そして、星の機械化と時間改変による我々の排除を目論む機械の集団。暗黒の中の暗黒とも呼ばれるベックス」

 

 

「あー。そうだったな。つまり暗黒は敵だ。そんでトラベラーと人間はそいつらと、それはもう戦ったんだ!」

 

 

「でもダメだった。もう全然。負けばっかり。人類はついに月まで奪われて、地球のこんなところにまで押し込まれた」

 

 

「もうダメか…そう思ったその時!地球に移動していたトラベラーが最後の力を振り絞り、暗黒を撃退…はしてないが押しとどめた!」

 

 

「そんで、トラベラーが最後に放ったゴースト達…ガーディアン用のナビゲーターで、トラベラーの子機みたいなもんだな。意外とおしゃべり。…とにかくそれを使ってガーディアンを生み出した」

 

 

「そこからは私が話そう」

 

 

「ザヴァラ!来てたのか!」

 

 

「今来た所だ」

 

 

「ガーディアン達は暗黒に対し勇敢に戦い、壁を築き、『シティ』と『タワー』を築いた。今我々がいる所だな」

 

 

「我々は団結し、バンガードを作ってガーディアンを組織した。ガーディアン達に装備を提供し、訓練を施し、送り出してきた」

 

 

「もちろん予期せぬ危機が我々を襲うことが何度もあった。ガラスの間…ハイヴの王子クロタ。エルダーズ・プリズンの挑戦…そして邪神オリックス…しかし、その度に、彼らは我々と共に戦い、勝利を収めた」

 

 

「彼ら…今は何をしてるのかしら」

 

 

「さあな。暗黒と戦ってるのだけは確かだ」

 

 

「新たな武器を求めて?」

 

 

「かもな」

 

 

「とにかく、そうして我々は今日もガーディアンとして、人類を守っているわけだ」

 

 

「というわけで、今日の会議を始めるぞ。二人とも位置につけ」

 

 

「イコラ。歴史をうまく言えた俺へのご褒美は、一週間外出権がオススメだぞ!」

 

 

「ダメ」

 

 

「なんだって!?」

 

 

「おい。早く位置につけ。ハンターのうちの一人が妙な反応を見つけたらしい。そう言ったのはお前だろう、ケイド」

 

 

「ああ、そうだった。俺が思うにアレはカバルだと思うんだが…」

 

 

 

Destiny2へ続く

 

 



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レベル0.1 ガーディアンとは



またしても解説です。いや〜本編では長すぎて語れないことって多いんです。お暇でしたら読んでみてくださいね。
独自解釈や記憶を頼りに書いておりますので、「ここ間違ってるよ」なんてところがあったら教えてください。




 

 

「ケイド」

 

 

「ザヴァラ!どうした?」

 

 

「昨日のことだが…バンガードに所属しているハンターの一人から、お前の助言が非常に分かりづらいという苦情が来た」

 

 

「なんだ。いつものことじゃないか」

 

 

「これで通算10000通目だ。これまでもお前に注意するなどして対策を取ったが、バンガードはついにこの問題について総力を挙げて解決しなければならないものだと認識を改めた」

 

 

「そりゃ…大変だな。俺に協力できることはあるか?」

 

 

「………」

 

 

「…あー…いや、俺は…そのー、ワザとじゃないんだ。分かってくれ!」

 

 

「…バンガードは、『ケイド6再教育プログラム』と称して、お前の知識を問い直すことにした」

 

 

「…つまり、どういうことなんだ?」

 

 

「ケイド。これからいくつかの質問をする。それに全て答えられれば、再教育プログラムは終了だ」

 

 

「なんだ。簡単じゃないか」

 

 

「ただし、答えられなかった場合は…その都度、我々から、時間をかけた説明を座って受けてもらう」

 

 

「ウソだろ?まるで出来の悪いティーンエイジャーだ!俺はもうそんな歳じゃないのに!」

 

 

「これはバンガードの総意だ。お前がなんと言おうとな」

 

 

「早速始めよう。時間が惜しい…私にも仕事がある」

 

 

「チクショー!」

 

 

………………

 

 

「さて、では最初の質問だ。『ガーディアン』とはなんだ?」

 

 

「ガーディアン?俺たちのことだ。それ以外に何がある」

 

 

「…私は定義の話をしている。お前が事実を並べたとしても、それは答えにはならない」

 

 

「…あー…そうか。なるほどな」

 

 

「つまり、お前はこう言いたいワケだ。『ケイド。お前はバカだ』」

 

 

「それは違う。私はお前に正しい答えを問うているだけだ」

 

 

「フーン。まあいいさ。ガーディアンだろ?ガーディアンっていうのは…」

 

 

「それは…つまりー…うん…俺たちのことだ」

 

 

「…再教育プログラムを開始する。ケイドを拘束してくれ。椅子に座らせる」

 

 

「お、おい!何すんだ!なんだこのワイヤーは!まだ俺は答え終わってないぞ!」

 

 

「いいか、ケイド」

 

 

「ザヴァラ!俺はこんなことをされるような事をしたのか!?助けてくれ!おい!」

 

 

「ケイド、黙って聞いていればすぐに終わる」

 

 

「…………まだか?」

 

 

「まずはガーディアンの定義の話からだ。ここからはウォーロックの有志がお前に説明してくれる」

 

 

「やあ、ケイド6。私はライアス76。君と同じエクソで、君とは違ってワンオフタイプじゃない」

 

 

「はあ…分かった。分かったよ。全く…御託はいい。さっさと始めてくれ」

 

 

「君の助言が分かりづらいとバンガードに手紙をわざわざ直筆で書くこと37…いや、先程まで書いていたのを加えれば37.61度だが…ついにこの時がやってきたというわけだ。」

 

 

「ザヴァラ!助けてくれ!こいつは暗黒の仲間だ!俺に洗脳波を送ってきてる!ザヴァラ!どこに行った!」

 

 

「さて…ガーディアンとは。君はシンプルに、我々だと答えた。ふむ。間違いではない。しかし、ガーディアンとはそれのみに留まらない」

 

 

「ガーディアンとはトラベラーに認められし戦士。暗黒に立ち向かい、トラベラーと人類を守るもの」

 

 

「そして、ガーディアンは、ガーディアンとなった瞬間に『光』という力を手に入れる」

 

 

「『光』には諸説あるが…曰く、生体エネルギーの塊…精神的な…霊魂のようなもの。もしくは自然に…あらゆる所に存在しているともいえる。解釈が共通するのは、トラベラーがきっかけとなって手に入れる点だ」

 

 

「………」

 

 

「…ふむ」

 

 

「ぉおおおおおわぁ、あ、あ、ぁ、あ、ん、ぎ、ぁああっ!!!?」

 

 

「残念ながら、君が眠ったと確信する度にこの高圧アーク電流を流すことを許可されている…クルーシブルで君が恐れるハボックフィストとは…比べものにならないぞ」

 

 

「はぁ……あー…畜生…ハボックフィストなんか…俺は恐くないぞ…間違えるな…」

 

 

「意識が戻ったようだね。では…ガーディアンの種類について話そう」

 

 

「ガーディアンは大きく分けて三種類あると言われている。すなわち…タイタン、ハンター、ウォーロック」

 

 

「それぞれに得意なことと苦手なことがあり、基本的には性格、体格などから、ガーディアンは自然と本人に向いた職業の形をとると言われている」

 

 

「つまり、正義感が強く、仲間との協力や鍛え抜かれた肉体こそ全てを解決すると信じるならタイタンに」

 

 

「勝利をこそ求め、そのために取れる手段は取るべきだと思うならば…もしくは、自らの美学が最も素晴らしいと思うならばハンターに」

 

 

「勝利、敗北…その繰り返しに辟易し、宇宙や真理の理解が問題解決へとつながると考えるのなら、ウォーロックになる」

 

 

「…まあ、その辺はゴーストが考えることだが」

 

 

「次はガーディアンの扱う『属性』についてだ。ガーディアンが扱うことができる力には3つの属性があることは知ってるね?」

 

 

「ああ、もちろん!ブレードダンサー、ガンスリンガー、ナイトクローラーだ!」

 

 

「それはハンターの話で、しかもブレードダンサーは今の主流じゃないだろう。アークストライダーと呼ばれてるはずだ」

 

 

「全く…とにかく、ガーディアンが扱う…というより、どこの誰であっても、武器や装備には属性がある。それはキネティック、アーク、ソーラー、ボイドだ」

 

 

「キネティックは実質的に、属性なしといえる。つまり、特に特徴がないのが特徴だ。だが、キネティック属性をもつ武器や装備は安価で扱いやすい」

 

 

「アーク。電撃に限りなく近い性質をもつ。青白い輝きを持つことも特徴の一つだな。まさしく電流のように物を感電させたり、それを連鎖させたりするのが得意だ」

 

 

「ソーラー。こちらは炎の力、太陽の力だ。強力な熱を帯びた武器を作り出したり、あふれるエネルギーをそのまま流用することができる。またウォーロックの間では、これが光の源になるとして『復活』を研究していたグループもある。暗黒の強化に伴って廃れてしまったのが残念でならない」

 

 

「俺としては、オシリスの試練で妙なことをされなくなって嬉しい限りだがね!」

 

 

「…そしてボイド。これは解析がほかの力ほど進んでいない。宇宙の無限の虚無的な力であるらしい。強い粘着性や可塑性をもってその場にフィールドを作り出したり、敵を縛りつけたり…エネルギーをそのまま放出しても十分な威力を得られる」

 

 

「ノヴァワープ!アレを考えたやつは天才だな!俺からも脳天に銃弾をプレゼントしてやりたい」

 

 

「…ガーディアンや暗黒は、これらの属性をもった武器を使って戦う。また、それぞれの種族に得意な属性がある。例えばフォールンならアーク、カバルならソーラーだ」

 

 

「…とりあえず、今日はこのくらいにしておこう。ケイドの処理が追いついていないらしい」

 

 

「…ああ、お疲れさん!やったぜ!早くどっか行ってくれ!」

 

 

「ケイド」

 

 

「ザヴァラ!どこ行ってた!探したんだぞ?」

 

 

「…彼には明日も来てもらうぞ」

 

 

「…オイ嘘だろ?」

 



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調査編
その1.ザナリー3




調査編として、各キャラクターについて今までのおさらいと深掘りをしていこうと思います。ストーリーには直接影響しませんが、良かったら読んでみて下さい。

とりあえず最初は彼から。



 

 

 

ーーー0530、聴取試験開始。被検体02『ザナリー3』

 

 

よう、はじめましてだな。報告は行ってるだろうが改めて、俺はザナリー3…ってことになってる。こんな言い方なのはなんでかっていうと、俺のホントの名前を誰も知らないからだ。ザナリー3って名前は俺のゴーストがつけたんだ。俺が生き返った時にな。

 

 

ーーー元のクラスは?

 

 

ん?ああ、俺はハンターだった。ハンターらしくクルーシブルがお気に入りだったし、もちろん暗黒と戦うために太陽系中を飛び回った。ああ、スパローレースにも出たな。俺、けっこういい所まで行ったんだぜ?スポンサーもつきかけたんだ。まあつかなかったんだけど…

 

 

ーーーファイアチームのメンバーは覚えているか?

 

 

…仲間?あー…そうだな…………ああ、お察しの通りさ…お恥ずかしながら、ってやつだな。…俺は決まった仲間を持つことがなかった。いや、まあ…その、組んでもらえなかった、の方が的確だな…。何故かって言えばそれは、ソリが合わないヤツがいたこともあったし、いやまあこれが大半なんだが…あとは、その…俺は…臆病者だったからだ。

 

 

ーーー『臆病者』?

 

 

『臆病者』…それが俺のあだ名だった。本来のハンターは、作戦のために敵のど真ん中を走り抜けることだってある。恐れ知らずの冒険…未知との遭遇。危険な、死ぬ寸前のスリルを楽しむヤツらばっかりだ。

…そんな中で俺は、戦いの中では仲間の後ろで隠れてばっかりだった。

 

 

ーーーPTSDか?その理由は?

 

 

なんでかは俺にも分からない。暗黒との戦いになると、途端に足がすくむ。視界にノイズが走る…ああ、めまいのことだ。あとは身体が金縛りにあったみたいに動かなくなっちまう。…ただ、ショットガンとグレネードしか持ってないのに、敵がうじゃうじゃいる所に1人で突っ込め、なんてそんな作戦、信じられるか!?俺が悪いんじゃない!そんな作戦立てるヤツが…ああ、いや、忘れてくれ…他のハンターならできるって言葉は何度も言われてきたんだ…

 

 

ーーーザナリー3、もう少し明確な話し方はできないのか?

 

 

うん?喋り方が気になるのか?俺はだいぶ気に入ってるし変えるつもりもないんだが…何?脈絡がなくてわかりづらい?おお、そいつは悪いな、考えとくよ…

 

 

ーーーチェック。意思の疎通に軽度の問題あり

 

 

………それで、まあ、話を戻すが…とにかく、俺はマトモに戦えない役立たずで有名だったんだ。だからチームを組んでくれる仲間なんかいなかったし、いたとしてもそれは数合わせや荷物持ちとしてだった。

もちろんハンドキャノンの練習を欠かしたことは無かったし、戦えるようになるためにできることは全部やった。まあ全部ムダだったけどな。

 

 

そんなことをしながら過ごしてた時に、アイツらがやってきた。そうだ。アンタらもよく知ってるだろ?カバルのレッドリージョン。あのデブのサディスト達。アイツらが俺達から光を奪った日、俺達はなすすべもなく散り散りに逃げた。たくさん死んだし、見殺しにした。俺もそのうちの1人になりかけたが、運良く助かった。…俺に名前をくれた、唯一の親友を失って。

 

 

ーーーゴーストはレッドリージョン襲来の際に失ったと

 

 

ああ。…正直に言おう。カバルが来た時、俺はこう思った。【助かった】!

元々俺は暗黒と戦うことなんかできないんだ。これからだって、今までのようにずっと逃げ回ってりゃいい。それに元々仲間なんかいないから仲間の死に悲しむこともない。誰も俺に文句なんか言えない!こいつは天恵だ!そう思った。

 

 

ーーーそれは、バンガードおよびシティに翻意があると受け取ることもできるが?

 

 

おお、いや、そんなつもりはない…もっと個人的な話さ。…そこから先は、まあ、知っての通りだ。しばらく暗黒に怯えて、隠れながらのんびりと生きのびてた俺だったが、その中で1人の男に出会った。ああ、そうさ。ダンナのことだ。ダンナは1人でフォールンの小隊と戦ってた。いや、ゴーストはいたが…とにかく、俺の目にはバカで無謀な戦いにしか見えなかった。

 

 

ーーー被検体01、『ガンドール』との邂逅。

 

 

結局、ダンナはボロボロになりながらも、フォールンに勝った!ありえないと思った…光をなくして、それでも戦おうってヤツはもうみんな死んだと思ってたしな。

 

 

ーーーザナリー3。お前は戦わなかったのか?

 

 

さっきも言ったろ?俺は戦えないんだ。その時だって、これから先どうやって生き延びようかしか考えてなかった。でも、どうやらダンナはそうじゃなかったらしい。人間かフォールンか分からないゴチャゴチャになってフォールンを倒して、フォールンから奪って生き残る。でもそれだけじゃなかった。ダンナはガーディアンの役目を忘れてなかったんだ!

 

 

ーーー『ガンドール』はガーディアンとしての務めを果たそうとしていたと?

 

 

光を失って、ボロボロで、でもどうしたって戦うことをやめようとはちっとも思ってないらしいとんでもないバカを見て、俺はどうしようもなく希望を見た。だからついてくことにしたんだ。…まあ、あんなに気むずかしいヤツとは思わなかったけどな。

 

 

ーーー『ガンドール』の性格に難があることは聞いている。

 

 

ああ、そうそう。さっきもちょっと言ったが、ダンナはその戦いが終わったあとに腕を失っちまって、フォールンの腕を取り付けてたんだ。ほかにも元から腕や足を機械化してた。

正直、その頃の俺は、俺のゴーストを奪ったこの腹の機械をなんとかしてぶっ壊してやりたい気持ちでいっぱいだったんだが、それについても考え直すいい機会になったよ。

 

 

ーーー腹の機械。フォールン技術による、透明化機能。ゴーストと引き換えに手に入れたものか

 

 

ああ。…そんで、まあ、ムリヤリついてくことにしたもんだからダンナはそりゃもう俺のことを邪魔者扱いするんだ!ことあるごとに俺の首根っこをつかんで放り投げようとするし、ライフ君が止めてくれなけりゃ死んでたかも…うう、いまさら寒気がしてきたぜ…

 

 

ーーーザナリー3がとめどなく冗談を言うことが耐えられなかったと、彼から報告されている。

 

 

冗談?ああ、そりゃ言ったぜ!渾身のやつを、ずっと溜め込んどいたんだ!誰も聞いてくれなかったからな…クールなやつからホットなやつ、ちょっとウェットなやつまでなんでも取り揃えてやった!

全部言い終わる頃にはダンナも何も言わなくなってたな。感動したのかな?

 

 

ーーー言葉も出ない。それで、『ガンドール』からはお前も戦力として戦っていたと聞いているが。

 

 

ああ。ダンナがいっつも一番矢面にいたんだ。俺には『好きにやれ』『やるなら後始末までやれ』の2つしか言われなかった。

ダンナが敵の気を引いて、正面から打ち倒す。その隙に俺が遠くからハンドキャノンを撃ったり、何か罠を仕掛けたりした。…ああ、そういやなんでか視界にノイズも走らなかったな…なんでだ?

 

 

ーーーこの会話は記録されている。検討はこちらでする

 

 

おお、そいつは…ありがたいのか?

 

 

ーーー0600。時間だ。本日の被検体02に対する聴取試験は終了。すぐに退室するように。お疲れ様。

 

 

終わったのか?まだまだ話せるんだが…

 

 

ーーー勘弁してくれ。明日は別の者が対応する。

 

 

そうか。おつかれさん。じゃあな!

 

 

………………………

 

 

「…どう見る?」

 

 

「どうもこうも、精神性も多少のコミュニケーション障害はあっても一般的。戦闘能力試験も、機動力および狙撃についてはトップクラス…戦力としては十分だ」

 

 

「では、何故彼はガーディアン時代に戦えなかった?」

 

 

「軽度のPTSDだろう。治療する機会が無かっただけだ…奇しくも、敵から逃げ回っていた期間がその治療に充てられたのだろう」

 

 

「…そんなに簡単なものか?」

 

 

「どちらにせよ、今は確信が持てない。更なる調査が必要だな」

 

 

「…まあ、そうなるか…先は長いな…」

 

 

「次の会話役は誰だ?」

 

 

「……俺だ…」

 

 

「そうか…頑張れよ。話は全部聞かなくてもいい。どうせ記録されている。お前は指定された質問をすればいい」

 

 

「ああ…」






ザナリー3は言いたいことを一方的にまくし立ててくるせいで会話しづらいタイプです(多分)



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その2.ゾンビもしくは暴風のガンドール



いまいちカッコよくならない主人公です。
個人的に、あまりヒロイックじゃない主人公のほうが好みです。まあだからこうなってるんですけど。鶏卵の問題みたいなもんですね。




 

 

 

 

ーーー0700、聴取試験開始。被検体01『ガンドール』

 

 

…俺をその名で呼ぶのをやめろ。今すぐにだ。

 

 

ーーー『ガンドール』…悪いが、お前が現在、自らの名を変えていようと、バンガードの登録名を優先させてもらう

 

 

…ならさっさと終わらせてくれ。ここは息が詰まる。まるで見せ物の檻だ。

 

 

ーーー【もしも】を想定し、防弾壁越しに話しかけている、それだけだ。我々は実験のためにここにいる。他意はない。

 

 

フン。どうだかな…

 

 

ーーー本題に移ろう。お前はどうしてフォールンの身体を手に入れるに至った?

 

 

カバルの襲撃でシティが落ち、逃げ延びた俺は逃走経路として旧ロシア連邦の山岳地帯を選択した。

結果、深いクレバスに落下し、重傷を負った。手足を含む複数箇所の骨折だ。そのクレバスの底でたまたまフォールンの基地跡を見つけ、バンダルの死体を剥ぎ取り、手足をフォールン製の義肢に取り替え、運良く生き延びた。以上だ。

 

 

ーーーでは、お前の身体に接続されているフォールンの身体は全てそのバンダルのものか?

 

 

違う。俺の身体は複数のフォールンを使い、ライフ……俺のゴーストにて複数回改造されている。

 

 

ーーーお前の身体が常人と比べて巨大なのはそのためか?

 

 

ああ。ライフが言うには、エーテルが俺の身体をエーテルに最適化させるために改造を進めた結果らしいが、俺にはよく分からん。

 

 

ーーーエーテルの人体に与える影響の詳細については、また後日に調査することになる。

 

 

そうか。

 

 

ーーーでは、次に、お前がここに至る経緯について話してもらいたい。

 

 

曖昧な質問だな。まあいい…順序立てて話そう。

フォールンの身体を得て生き延びた俺は、更なる生存のためにエーテルの確保…奪取が急務となった。その一環としてフォールンの小規模な部隊と何度か戦闘し、その中で更にフォールンの身体を手に入れた。

 

 

ーーーザナリー3とは、どこで出会った?

 

 

旧ロシアからヨーロッパ・デッドゾーンの間…細かい位置や日時は覚えていない。

俺がバンダルの義肢を奪って生き長らえた後、エーテル奪取のためにフォールンと戦闘した。右腕を失ったからキャプテンのを奪って取りつけたのもそこだ。

その後になって、ザナリー3の方から接触してきた。

 

 

ーーーどうして同行することになった?

 

 

知らん。アイツから付きまとってきた。俺は何度も拒んだし、首を掴んで放り投げてやったこともあった。

それでも着いてきたのと、ライフが同行に賛成したから仕方なく同行を許した。

 

 

ーーー…仲が悪いのか?

 

 

それも知らん。俺はあのポンコツと仲良くなりたいとは欠片も思っちゃいないがね。

 

 

ーーーザナリー3は『臆病者』と呼ばれ、戦闘は不可能と言われていた。

 

 

そうなのか?特に問題なく戦えていたように思えたが。ハンドキャノンは人並みに当たるし、ハンターによくある変な突撃癖も無かった…多分。まず俺がよく突っ込むから分からん。後ろに目はついてないからな。

 

 

ーーーでは次だ。デヴリム・ケイとの接触について。

 

 

…あのいけ好かないジジイがどうしたって?俺を殺そうとした。それだけだ。

 

 

ーーー彼から、お前はフォールンのスパイだと報告されている。

 

 

フォールンはスパイひとりのために同胞を何部隊も殺させるのか?バカにしてるとしか思えんな。

 

 

ーーー…バンガードでも、似たような見解が出ている。一応のチェックだ。

 

 

そうかよ。そろそろ終わりか?さっさと出してくれ。

 

 

ーーーまだだ。『暴風のガンドール』

 

 

………

 

 

ーーー火星。メリディアン・ベイの撤退戦。そこでガーディアンの本隊を逃がすため、殿として残ったファイアチームはお前の部隊だな?

 

 

…何が言いたい。

 

 

ーーー質問をしているだけだ。お前の異名…『暴風』がついたのは、その時メリディアン・ベイでは激しい砂嵐が巻き起こっていたからだ。…お前達とカバルの連隊が、撤退する部隊からは全く見えなかったほどの…

 

 

下らん。俺のあだ名の由来が何だって言うんだ?

 

 

ーーーその後のお前の聴取データの中に、【お前が仲間を殺した】との記述がある。これは事実か?

 

 

………ああ。

 

 

ーーーでは、その経緯について説明することはできるか?

 

 

……それが出来ないことは、その当時にも話したはずだ。話したくない。

 

 

ーーー隠匿は、時に誤解を産む。今、お前は危うい立場にいることを我々は懸念している。

 

 

だから事実を話せと?

 

 

ーーーそうだ。

 

 

…あまりなめるなよ、研究者風情が…いつも部屋に引きこもってるお前達に、ガーディアンの何が分かる!

 

 

ーーー分からないとも。だから聞いているのだ。

 

 

………なら、俺の答えはひとつだ。誤解したいなら好きにしていればいい。俺は何も言わん。

 

 

ーーーそうか。では、また明日にでも聞くとしよう。

 

 

バンガードに協力すると言った以上抵抗はしない。だが二度とここには来たくないな。

 

 

ーーー…ロックを解除した。もう部屋から出ても構わない。

 

 

フン…

 

 

 

………………………

 

 

 

「頑なに過去を話そうとしないな」

 

 

「ああ。だが戦闘能力に関しては問題なしだ。一部はガーディアンを超えている」

 

 

「だが、彼が反乱分子ではないと証明しなければ、戦力として投入することはできないか…」

 

 

「そこは仕方がないだろう。『彼』がいるとしても、奪還作戦は緻密な連携が必要なんだ」

 

 

「まあ、今はまだ時間がある…腰を据えて話をしていくしか無いだろうな」

 

 

「ああ、頭が痛いよ…」

 

 

 

………………………

 

 

 

『お疲れ様でした』

 

 

「ああ」

 

 

『…本当にお疲れのようですね』

 

 

「…あの日のことを聞かれた」

 

 

『そうですか…答えたのですか?』

 

 

「まさか」

 

 

『…そうでしょうね』

 

 

『あの日に何があったか…知るのは私とあなただけです。もう、何年も前のことになりますね』

 

 

『…あなたは、いつ自分を許すのですか?』

 

 

「…許す?それこそありえない」

 

 

『………』

 

 

『…エイリーク…ダカート76…イブキ・リンドーズ…』

 

 

「………」

 

 

『あなたが手にかけた仲間たちは、あなたを糾弾しましたか?』

 

 

「…関係ない。自分が許せないだけだ」

 

 

『仕方がなかった』

 

 

「それは何度も聞いた。あいつらからも…」

 

 

『…私に自由意思が生まれたのは、ちょうどその頃でした』

 

 

『私は幾重にも交差する思考のループに呑まれていました。ガーディアンとしてガーディアンを殺すあなたに、ゴーストとしてどうすればいいのか分からなかった。』

 

 

『結局、私はサポートデバイスとしてあるまじき【何もしない】という選択肢を選んだ…いえ、何もできなかっただけかもしれません』

 

 

『今の私はその際に発生したメモリの空白に生まれた、言わば偶発的なバグのようなものです…その際、あなたとの接続も、少し薄まりました』

 

 

『しかし、私は後悔していません。自由意思を持つことで、私は『私』になりました。あなたにも反乱しうる存在になりました』

 

 

「…昔話を始めて、なんのつもりだ」

 

 

『今から私が何をするか、当ててみて下さい』

 

 

「………」

 

 

『……せめて何か言って下さい……まあ、ちょっとあなたの過去を適当な人に打ち明けてくるだけです』

 

 

「…そうか」

 

 

『止めないのですか?』

 

 

「俺が止めたらやめるのか?行くなと言ってやめるならもう言ってる…」

 

 

『…痛いところを突かれましたね』

 

 

「行くなら行け。俺は寝る…」

 

 

『分かりました。では、とりあえずザナリー3のところへ…』

 

 

「それはやめろ。せめてケイの所に行け」

 

 

『分かりました。残念です』

 

 

「………」

 

 

『…冗談ですよ』

 

 






ふわっとした設定なので、どこかに矛盾があるかもしれません。その時は教えてください。またはオリックスの玉座のように広い心で許して下さい。


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本編
レベル1.我こそはガーディアン


初投稿です。


「…弱ったな」

 

 

さっきより勢いの強まった吹雪を見てつぶやく。

いくら敵が少ないとはいえ、やはりこんな山道を選ぶんじゃなかった。洞窟の壁にもたれかかりながら、今更意味のないことを考えて暇をつぶす。

 

 

『吹雪は少なくとも一晩、最長で二日ほど続く可能性があります。船を呼んで、一度シティへ戻りませんか?ここは寒くて…』

 

 

私のゴースト…ガーディアンのナビゲーターがわざとらしく震える。ひし形のシェルに入った大小の亀裂がこすれ、カチカチと音を立てる。

私はゴーストを手で制した。この手の冗談は嫌いだ。つまり、全くありえない仮定をするような…。

俺達が帰るべきシティはもうない。ついでに、ゴーストに寒さを感じる機能もない。

 

 

…そう。我々が、文字通り命をかけて守ってきたシティは、ついに敵の手に落ちたのだった。

カバル。レッドリージョンという一派だった。突然の襲撃に、我々は完全に敗北した。

シティを愛するタイタンは、カバル戦艦の砲撃から街や市民を守るため立ちはだかり、そのまま死んだ。

ハンターは飛び回り、何とか敵を減らすよう立ち回ったが、そのことごとくが失敗に終わった。

ウォーロックは混乱を鎮め、解決策を導き出すことに躍起になったが、答えはどこにもなかった。

 

 

我々は負けた。

俺もガーディアンとして戦ったタイタンの一人だった。

今では…頼るべき光も無い放浪者に過ぎない。

 

 

「これからどうすればいい?」

 

 

私はゴーストに尋ねた。ゴーストは俺よりずっと賢い。知り合いのウォーロックにこう言うと、全くナンセンスな考えだと笑われるのだが、少なくとも私はそう感じている。

 

 

『…あなた以外にも生きているガーディアンがきっといます。まずは彼らと合流しましょう』

 

 

「生きている、ね。光のないガーディアン…人類を守れないガーディアンは、本当に生きていると言えるのか?」

 

 

『…だとしても、これから生き返るのです』

 

 

「どうやって?」

 

 

『トラベラーの光を失いましたが、必ず取り戻す方法があるはずです。それを見つけましょう』

 

 

「俺が生き返るのと、みんなと合流することのどっちを先にやればいいんだ?」

 

 

『…お好きなように』

 

 

「そうか。なら、まずは光を取り戻そう」

 

 

自分でも意地の悪い問答だった。ゴーストをいじめるつもりはなかったのだが…光を失ったことで、無自覚のうちに精神が不安定になっていたのかもしれない。

 

 

光。ガーディアンの力の源にして、トラベラーを象徴するもの。曰く、生物、無機物…あらゆるところに存在するエネルギー。曰く、無限の勇気、情、奉仕の心…精神的パワー。実のところ、よく分かっていない何か。

これがないと、ガーディアンは何もできない。敵に撃たれれば死ぬし、復活できない。ガーディアンにとって光を失うということは、両手足をもがれ、感覚器官をすべて奪われたに等しい。

 

 

「よし…まず光だ」

 

 

なればこそ、取り返さなくてはならない。光を。力を。使命を…ガーディアンとしての、命を。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

夜が明けてしばらくすると、嘘のように吹雪が止んだ。降り積もった雪を何とかかき分けて外に出ると、周囲を一望する。

真っ白な雪と、淡い水色の青空が目に入った。というより、それしかなかった。目印になるようなものが全くない。

 

 

「これはまずいか?」

 

 

ゴーストに尋ねる。

 

 

『問題ありません。自分の位置もわからないゴーストはいません。問題は、しばしばガーディアンの居場所を見失うことですが…』

 

 

問題なさそうだ。ゴーストのナビに従い、歩を進める。

一歩。雪に足が沈む。

二歩。膝まで沈む。

三歩。腰まで雪が積もっているのか?

四歩…

 

 

『ガーディアン、止まって下さい!ガーディアン!』

 

 

五…

 

 

「ゴースト?どうし…」

 

 

瞬間、嫌な浮遊感が私を襲う。

 

 

『ガーディアン!ああ…まずい…!』

 

 

どうやら、私は雪山のクレバスに思い切り足を踏み入れていたようだった。

崩れ落ちる雪とともに、割れ目の底へ落ちていく。

景色が妙にスローだった。ゴーストの声が遠くなっていく。走馬灯。何度も見た景色が、視界に現れては消える。

 

 

いや、大丈夫だ。ガーディアンは死んでもゴーストの光の力で蘇生してもらえるのだから…

…光?

 

 

「…っぁあああああーーー!」

 

 

死ぬ!死ぬ!このままだとまずい!

二度と生き返れないことを思い出した俺は、がむしゃらに手足を伸ばした。

ボロボロになったグローブが氷壁を引っかく。落ちるスピードは変わらない。

ブーツで氷を蹴る。スピードはだんだん早くなる。

真っ暗なクレバスの底が近づいてくる。

 

 

 

重い衝撃。俺はたった数秒のうちに、意識を手放した。

 




あとがき

Destinyの世界観が好きなのですが、二次創作は少ないのが残念だと常々思っていました。
だったら作ればいいじゃないかぁ(ひらめき)


ちょっとした設定

主人公は名もなきガーディアンです。ちなみにタイタンですが、これは私の好みです。
時系列はDestiny2開始直後、レッドリージョンがシティを制圧した後です。主人公は人間です。まだ。

ヒロインや仲間は作るかもしれないし、このままゴーストがヒロインになるかもしれません。
これが欲しいぞ!という方は感想で伝えてもらえると、私がそれを読んで要望に応える可能性があります。


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レベル2.我こそはガーディアンだったもの

「…は、あ…」

 

 

『ガーディアン…ガーディアン!』

 

 

「…く…」

 

 

ゴーストの声が聞こえる。返事をしようとするが、その度に身体のどこかが痛み、言葉にならない音が出るだけに終わる。

 

 

『ガーディアン…状況を説明します』

 

 

『あなたはロシア連邦の雪山を徒歩で移動中、クレバスに足を滑らせて落下。今は…そのクレバスの底です。』

 

 

『あなたの身体に複数の骨折が見られます。ですが…』

 

 

「治るのを…ぉ…待ってる…暇は無い」

 

 

少しずつ意識がハッキリしてくる。しきりに痛みを叫ぶ身体をなんとか宥め、ゴーストに言葉を返す。

 

 

『…ええ。その通りです。ここは極寒の地…食料も熱源も無い今、このままでは…』

 

 

「…ぐ…つっ…あぁああ!」

 

 

『ガーディアン!無茶をしないで!』

 

 

ゴーストの制止を無視して、氷壁にもたれて無理矢理に立ち上がる。

目に見えて折れているのは左腕と左脚…特に左腕から地面に落ちたらしく、左肩から先は骨がないかのようにぐにゃぐにゃだった。

 

 

「はぁ…っ…ゴースト…左腕は…」

 

 

『…光があれば治ります』

 

 

「…はっ…」

 

 

何をするにも光。やることは結局変わりないようだった。

 

 

『ガーディアン…ここから少し歩きますが、洞窟を見つけました。人工のもののようです』

 

 

「…?」

 

 

こんなところに洞窟?しかも人工だと?

 

 

『ああ、いえ、人間ではなくフォールンの遺跡のようですので、人工ではなく…フォールン工?…うーん』

 

 

合点がいった。フォールンは地球上のどこにでもいるのだ。こんなところにいても不思議ではない。

 

 

フォールン。今となっては懐かしい、4本腕の略奪者にして、ガーディアンの戦うべき敵。

適応力に優れ、敵性技術を奪うとそれをすぐさま利用できるほどの柔軟性をもつ。それは、この地球の厳しい環境による洗礼を乗り切るためにも利用された。

フォールンは地球上のこういった所にも拠点を築くことで、ガーディアンの目から逃れることもあった。

 

 

…今の俺では、ドレッグ一体にも勝てないだろう。

 

 

 

『フォールンの機械が残っていますが、生きているフォールンはいません。戦闘の後、廃棄されたということでしょうか…』

 

 

なんとか歩きながら、その洞窟を目指す。

少しすると、橙色のうすぼんやりした光が見えた。

 

 

『電力が生きているようです。これなら…』

 

 

ゴーストが先行する。何かを持って帰ってきたかと思えば、金属の棒と長いコードだった。

 

 

『応急処置ですが、ギブスの代わりにはなるでしょう。私は探し物をしてきます。』

 

 

そう言うと、ゴーストはまた洞窟の奥に消えていった。

私は洞窟の入口に着くと、ゴーストが持ってきた資材を使い、左脚のギブスを作ることにした。片腕が使えないので、代わりに口を使った。

噛んだだけでも、コードはひどい味だった。今後どれだけ飢えても、これにかじりつくことは二度と無いだろう。

 

 

ひどく不格好なギブスを四苦八苦しながらなんとか一つ作り終えると、ゴーストが戻ってきた。

 

 

『ガーディアン…朗報です!通信機器が生きています!』

 

 

ゴーストが揺れる。シェルを回して、喜びを表現している。

 

 

「一体…誰と、通信するんだ」

 

 

『もちろんバンガード…ではなく………近くにいる…誰かです』

 

 

ゴーストはあまり動かなくなった。

シティが落ちた以上、こういう時に頼るべきバンガードもない。こんな状況で何を頼れというのか。

 

 

バンガード。ガーディアン達を統括し、シティを守るためにあった組織。三人のリーダーにより、ガーディアンはそれぞれの任務をこなした。

ザヴァラ…タイタンのリーダー。非情にも映るその行動は、しかしシティを守るためにいつでも万全を期すためにあった。

イコラ…ウォーロックの代表。常に冷静で、何にでも疑問を持って取り組む彼女の助言に救われた者は数しれない。

ケイド6…ハンターの取締役。彼の望まない役職に対する不満を聞かなかったガーディアンはいない。彼の親しみやすさと面白くない冗談は、ピンチの際に強力な支えとなったと言うガーディアンもいた。俺は信じていない。

 

 

今は、その誰もが、いない。

 

 

『とにかく、オープンチャンネルで救援要請を出してみます』

 

 

「…やめておけ」

 

 

『何故?』

 

 

「フォールンが…来るだろう…俺は、戦えない」

 

 

『…そうでしたね。ですが、それ以外に助かる方法は…』

 

 

「ゴースト…」

 

 

私は洞窟の壁を右手で指し示した。

 

 

『フォールンの死体があります。バンダルです。エーテルがまだ残っています。触ると危険です』

 

 

「使え…」

 

 

『使う…?一体何を考えているのですか?』

 

 

「左腕を作るんだ…銃は撃てるように…なる」

 

 

フォールンの機械技術は非常に高い。実際、フォールンの中には身体を機械化して戦闘するものも多く見られた。まさに、今目の前にいるフォールンのように。

フォールンとて二足の生物だ。ガーディアンと同じような構造をしているかもしれない。

 

 

『まさか…しかし!危険です!前例がありませんし、腕を機械化しても動くとは限りません!それどころか…』

 

 

「ゴースト…」

 

 

『嫌です。光を取り戻したって、一度改造してしまえば、その腕はもう元には治せなくなる』

 

 

「ゴースト」

 

 

『…ガーディアン…しかし、私は…』

 

 

「やれ、ゴースト…!」

 

 

『………』

 

 

「…頼む」

 

 

『…きっと失敗します』

 

 

「ああ…それでもいい」

 

 

何もしないよりは、誰かの救いを求めて死ぬよりは、ずっといい。

 

 

「俺は…死ぬまで、いや…死んでもガーディアンだ」

 

 

ガーディアン。人類の守護者。人間を守るために最後まであがいて死ぬなら、それも本望だ。

 

 

『…では、始めます。寝転がっていて下さい』

 

 

『麻酔はありません。せめてコードを噛んでおいて下さいね。それと…早めに気絶することを祈って下さい。』

 

 

そう言うと、ゴーストは薄い鉄板を取り出した。

ゴーストは私の左腕をしばらく見つめると、おもむろをその鉄板を振り下ろした。

 

 

「っっーーーーーー!」

 

 

 

 

『…ガーディアン…』

 

 

ゴーストの声。

 

 

『ガーディアン…申し訳ありません…』

 

 

「どう…した…」

 

 

失敗したのか?そう思って首を左に向ける。

そこには、よく見る腕があった。

 

 

「…なんだ…」

 

 

そう。俺がいつも殴り倒していたバンダルの腕。

カチャリと軽い音を立てて、その腕は自身の望むように動いた。

 

 

「成功したのか…よかった」

 

 

『ガーディアン…いえ…失敗です』

 

 

『フォールンは機械を動かしたり、生きるためにエーテルを消費します。普通はサービターが供給するのですが…』

 

 

「…まさか…」

 

 

『…ええ。その腕も、エーテルがないと動きません。それだけならともかく…』

 

 

ゴーストはためらうように俯いた。

 

 

『ガーディアン…その…あなた自身も…』

 

 

嫌な予感がした。

 

 

『エーテルが無くなると、全く活動出来なくなります』

 

 

「何故だ…機械化したのは左腕だけのはず」

 

 

『神経系を接続する際に、機械に残っていたエーテルが逆流しました。いえ、機械を動かすには必要なので、それは正しいのですが…ガーディアン…いえ、あなたとの相性が悪く、エーテルによる侵食が始まりました。』

 

 

『何とか侵食を止めた頃には、あなたの身体の中にエーテルが通っていない所はほとんどありませんでした。』

 

 

「…なんてことだ…!ああ…最悪だ…」

 

 

「…今、俺の身体には…光じゃなくて、エーテルが流れているのか?…」

 

 

「俺は…それでもガーディアンなのか?光のないガーディアンならまだいい…だが、望んでフォールンの腕を持ち…身体の中を、フォールンと同じものが流れている…ガーディアン…?」

 

 

「俺は…どうやって今の俺を…ガーディアンとして、定義すればいい?」

 

 

『ガーディアン、気を確かに持ってください…』

 

 

「ゴースト…お前には俺が何に映る?」

 

 

『あなたははガーディアンです。それ以外のなにものでもなく…依然変わりなく』

 

 

「…嘘だな」

 

 

『そんなことは!』

 

 

「ああ…すまない。俺が認めたくないだけなんだ。自業自得だ。無理矢理ゴーストにフォールンの左腕をくっつけさせて、いざこうなってみれば…。死んで本望だ…なんて、本当に死んでみたら下らない。」

 

 

自嘲する。不思議と笑いが込み上げてくる。

 

 

『ガーディアン…』

 

 

「俺というガーディアンは死んだ」

 

 

「俺はもうガーディアンじゃない。俺のことをガーディアンと呼ぶな…今後一切」

 

 

『ガーディアン…!』

 

 

「二度は言わない…俺を苛立たせないでくれ」

 

 

『………では、ガーディアンにつき従わない私もゴーストではありませんね』

 

 

「なんと呼べばいい…俺も…お前も」

 

 

『…そうですね…では…』

 

 

ゴーストは少し考えるような仕草を見せた。

 

 

『ガーディアンであることを放棄したもの…ガーディアンとしての命を捨てた、動く屍ですね。分かりやすくゾンビでいいですか?』

 

 

「何とも言えないな。ゾンビか」

 

 

『…では、あなたが考えてください』

 

 

「いや、これでいいよ。…お前は、俺がガーディアンだったことの象徴だ。俺が捨てたガーディアンとしての命は、お前が預かっておいてくれ。」

 

 

『そうですか…では、私があなたの命を預かっている間、私を「ライフ」と呼んでください。あなたがガーディアンだったことを…その命を捨てたことを、忘れないために』

 

 

「分かった。…よろしくな」

 

 

『…ええ。初めまして、ゾンビさん。私は…ライフ。あなたのライフです。』

 

 




あとがき

あとがきはあったりなかったりします。
更新は不定期です。


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レベル3.略奪者の略奪者


第三話です。

敵の中ではフォールンが好きです。同種なのに派閥があったり、中には必ずしも敵対してないのがいたり、個性的なのが多いんです。




 

ガーディアン。トラベラーの従者にして、人類の守護者。

磨き上げたプラスチール製のヘルメットとガントレット。ジェットパックでどこまでも飛べる気がした。

 

俺は、ガーディアンであることに誇りを持っていた。

人類を守っている自負があった。敵をことごとく打ち倒し、全能感に浸っていた。

 

 

今はもうない。

 

…………………………

 

 

「いいことを思いついたんだ」

 

 

ぽん、と、わざとらしく手を叩く。

 

 

『きっと悪いことですね』

 

 

ゴースト…いや、『ライフ』がうつむく。ボロボロになったシェルも俺の腕のついでにちょっと直したらしい。

 

 

「お前にとってはそうかもしれない」

 

 

「だが、俺にとってはいいことだ。絶対に」

 

 

『そうですか…それで、一体何を思いついたのですか?』

 

 

「俺の身体をもっと機械化しよう。手始めに左脚だ。今ではまだ動くだけだ。戦えるようにしよう」

 

 

『…本当に死んでしまいますよ?』

 

 

「俺はゾンビだ。ちょっとやそっとでは死なん」

 

 

『それはただの…もういいです。バンダルを持ってきます。』

 

 

「頼む」

 

 

ライフが、俺の左脚に鉄板を振り下ろした。

 

 

 

『成功…で、いいのでしょうか。慣れてきた私に寒気がします』

 

 

「成功だよ。間違いなく」

 

 

俺の身体にくっついたバンダルの左脚が動く。接続には問題ないようだ。

 

 

『長さは調節しておきましたが、重さも何もかも違います。走ればバランスが崩れることがあるでしょうね』

 

 

ガシャガシャと新しい脚をいじくり回す。なるほど、これは確かに、走ることは難しいだろう。

 

 

「だが、ギブスのついた肉の足よりはマシだ」

 

 

『そうかもしれません』

 

 

「…む」

 

 

瞬間、目が眩む。左腕が妙に重く感じた。

 

 

『どうしました?』

 

 

「…目眩だ。それと…腕が、急にうまく動かなくなった」

 

 

『少し待ってください。見てみます…これは…』

 

 

『ゾンビさん。今すぐ通信機器を使って、オープンチャンネルで電波を流しましょう』

 

 

「どうして。危険じゃないか」

 

 

『あなたのエーテルが切れかけています。このままでは本当に死んでしまいます』

 

 

『電波を掴んだフォールンが怪しんでやって来るはず。それらの中には必ずサービターもいます』

 

 

「サービターを捕まえろっていうのか?」

 

 

『いえ。破壊しても構いません。サービターは破壊されても周囲にエーテルをまき散らします。それをこのタンクで集めれば…』

 

 

ライフが人間大の金属缶を取り出す。エーテルタンク。かつてフォールンの基地で、散々爆破した覚えがある。

 

 

「エーテルをそのタンクにどうやって集めるんだ?」

 

 

『…タンクを開けてれば勝手に入りませんか?』

 

 

「まさか!」

 

 

『生きているフォールンを見て学びましょう。実は、もう呼んであります』

 

 

電源の落ちたヘルメットの代わりに腕に取りつけたレーダーが赤く光る。

 

 

「…お前のそういうところは相変わらずだな。今度お前を握り込んでフォールンを殴ってやる」

 

 

『遠慮しておきます。敵はフォールンの一小隊。ドレッグ三体にバンダルが一体…まあ、斥候ですね』

 

 

「サービターがいないじゃないか」

 

 

『もっと後ろにいるようです。まあ、ドレッグ一体でも多少はエーテルを持っているでしょう』

 

 

「…クソっ!なんて無計画で無責任なやつなんだ!」

 

 

『あなたには言われたくありません!』

 

 

「ふん。ところで、武器はあるのか?」

 

 

『たくさんあります。フォールン製のものが』

 

 

「持ってきてくれ…いよいよ俺はフォールンの一員だな」

 

 

『これからフォールンを倒すんですが…ああ、いえ。フォールンは各ハウスで戦争してましたね』

 

 

ライフが俺にワイヤーライフルを手渡す。

アーク(電撃)エネルギーをまとった弾丸を打ち出す、バンダル用の武器だ。こいつに初めて撃たれた時は思わず叫んだぐらいには痛い。

 

 

「ああ。仲間内で殺し合うのはやつらの得意技さ」

 

 

久々の銃の感触。思いのほか軽い。左腕にもよく馴染んだ。

 

 

「よーく狙って…」

 

 

金属の折れた柱を支えに三本指になった左手を添え、右手でトリガーを握る。スコープがついていなかったので、とりあえず勘で撃つことにした。

 

 

レーダーが映す赤点が大きくなる。物音も聞こえる。既に洞窟の曲がり角を挟んで向こう側にいるようだ。

 

呼吸を抑える。右手に汗が滲む。つとめて肩の力を抜く。ここで死んだら、今までのように生き返ることはできない。フォールンは残虐だ。間違っても俺を生きたまま放り出すことはない。

 

失敗は許されない。

 

 

『…2…1…来ます!』

 

 

ゴーストの合図と同時にワイラーライフルの引き金を引く。

スプリングが水中で跳ねたような、特徴的な音とともにアークエネルギーの塊が走る。

 

 

「頼む!」

 

 

ライフルをリロードしながら祈る。どうか当たりますように。

 

 

『…ヒット!ドレッグ一体が沈黙。あと三体です』

 

 

「よし!」

 

 

ライフルを構える。奴らは少し混乱したあと、既にこちらに向けて腰を落として戦闘態勢を取っていた。

 

 

『バンダルを狙ってください!小隊長です!』

 

 

「分かってる!」

 

 

もう一度引き金を引く。今度はバンダルの前に出ていたドレッグの胸を撃ち抜いた。

 

 

『違います!そいつじゃない!』

 

 

「射線上にいたらどうしようもないだろ!ああクソ、もう一度だ!」

 

 

敵の攻撃が激しくなる。たまらず柱の裏に身を隠した。

 

 

『ドレッグが電磁ナイフを取り出しました!こちらに走ってきます!』

 

 

「うそだろ!?」

 

 

まずい!近接戦闘も想定しておくべきだった!

 

 

『来ます!ジャンプしました!直上!』

 

 

「っーーーー!」

 

 

ドレッグがナイフを両手に持って飛びかかってくる。フォールンの中では一番下っ端の、失うもののないドレッグにとってお得意の戦法だった。

たまらず転がって回避する。

 

 

「っがあああああああ!」

 

 

骨がきしむ。激痛が走った。ここに落ちてきた時に細かいところにヒビが入っていたらしい。これ以上激しい動きはできない。

 

 

何とかライフルを構える。向かってくるドレッグに向かって電流が走った。

 

 

「ギュアアアア!!」

 

 

ドレッグの悲鳴。右脚が吹っ飛んでいた。切断面が焦げつき、血が流れていた。

 

 

「左だったらお揃いになれたかもな!」

 

 

ライフルを撃つ。今度は頭に命中した。ドレッグはしばらく痙攣したあと動かなくなった。

 

 

『あと…あ、いえ。撤退していきました』

 

 

「フォールンが撤退?」

 

 

『いくら気性の荒いフォールンだって撤退ぐらいするでしょう』

 

 

「…そうかね」

 

 

『それよりエーテルです。このドレッグ…はダメですね。最初に撃った方…ありました』

 

 

ライフがドレッグのつけていたマスクを引きはがす。パイプの先にはドレッグがつけていた小さな箱が繋がっていた。

どうやらこれにエーテルを貯めてあるらしい。

 

 

『つけて下さい』

 

 

「ウソだろ?」

 

 

『残念ながら、ドレッグと間接キスです。…生きるためです』

 

 

「クソ…」

 

 

しぶしぶマスクをつける。心なしかライフが笑っているように見える。後でお仕置きしてやることを心に深く刻む。

 

 

数回呼吸をすると、空気とは違うものが肺に流れていくのが分かる。恐らくこれがエーテルだろう。

だんだん思考が明瞭になり、機械化した腕が軽くなった気がした。

 

 

「まるで麻薬だな」

 

 

『そんなに【イイ】ものですか…エーテルというのは』

 

 

「ああ。お前も吸うか?」

 

 

『遠慮しておきます。それより、しばらくはそれをつけておいてください。今あなたの装備にくっつけます』

 

 

「フォールンと見分けがつかなくなりそうだ」

 

 

『今度は胴体も作りますか?』

 

 

「それもいいかもな」

 

 

『…あなたはフォールンになりたいのですか?』

 

 

「俺はフォールンじゃない。ガーディアンでもないが…」

 

 

『ですが…!』

 

 

ライフが一回転する。慌てている。

 

 

「どうした」

 

 

『フォールンが来ます!さっきより多い…!』

 

 

まずいことになった。

 

 



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レベル4.脳筋は銃で殴る

フォールンの援軍。まさしくピンチだ。正直に言うと、勝てる気がしない。

 

 

「フォールン…!詳しく分かるか?」

 

 

『ドレッグ5、バンダル3!それと…キャプテンがいます!サービターを連れています!』

 

 

「一部隊丸々来てんじゃねえか!一体何したんだ!?」

 

 

『何かしたのはあなたでしょう!?バンダルを取り逃したなら、仲間を呼んでくるのは当たり前です!』

 

 

「…確かにそうだが!ワイヤーライフルで全部倒すのは無理が…」

 

 

『ああ!もう来ます!構えて!』

 

 

「っ!」

 

 

キャプテンの雄叫びが洞窟内を反響する。どうやら怒っているらしい。同調したのか、他のフォールン達もそれぞれに声を上げる。

 

 

「…まさか、フォールンの大声に恐怖する日が来るとはな」

 

 

今までは、煩わしいとしか思っていなかった。慣れた頃には、もう意に介さなかった。自らの無力がどこまでも恨めしい。

 

 

「………ライフ。考えがある」

 

 

ドレッグから剥ぎ取った電磁ナイフを見つめる。エーテルも補給した今、身体は動く。

状況は、さっきとは違う。絶望ではない。むしろ…

 

 

 

……………

 

 

 

「いいぞ…そのまま来い…」

 

 

身をかがめ、フォールンを待つ。

 

 

『フォールン、曲がり角の向こう側に到達』

 

 

『…本当にやるのですか?あなたは元タイタンなのに…』

 

 

「だが、今はタイタンじゃない。なら、やることだって変わる」

 

 

『慣れの話をしているんですよ』

 

 

「やらなきゃ死ぬのは変わらんだろう」

 

 

『そうですか……来ますよ』

 

 

「よし…そのままだ…」

 

 

ドレッグが部屋に入ってくる。キョロキョロと辺りを見回す。

 

 

『…気づかないものですね』

 

 

「生き物は上下の動きに弱いのさ。フォールンもそうかは知らんが…」

 

 

俺は、柱を伝って天井の梁に登っていた。ハンターのマネだ。かつての俺はタイタンだったが、一度としてこんな卑怯なマネはしなかった。今回は仕方なく…だ。そうやって勝手に納得して、作戦通りワイヤーライフルを構える。

 

 

「ドレッグは後だ。次…」

 

 

続いて入ってきたバンダルに狙いを定める。

呼吸を整え、引き金を握る。エーテルを補給したおかげで、支えが無くても持ち上げられるようになっていた。

 

 

「…ふっ!」

 

 

特徴的な発砲音。何度聞いても慣れないな、なんてのんきなことを考えながら、リロードする。

弾丸はうまくバンダルの頭を撃ち抜いたようだ。プシュー、という音を立ててバンダルが倒れる。

 

 

「アレは、パイプからエーテルが漏れる音だったんだな」

 

 

続けてバンダルを撃つ。今度は肩に命中した。ドレッグの一体がこちらを指して叫んでいる。場所がハッキリとバレたようだ。

 

 

「やれると思うか?」

 

 

電磁ナイフを取り出し、強く握る。刀身はバチバチと音を立てている。

 

 

『やるしかありません。それに、これはあなたが考えたんです…残りはドレッグ5、バンダル1、キャプテンとサービターです』

 

 

部屋にキャプテンが入ってくる。榴弾ランチャーを構えている。アレはワイヤーライフルより痛い。いや、今は痛いじゃ済まないだろう。当たればどこかは確実に吹っ飛ぶ。

 

 

「行くぞ…行くぞ、クソ…行くぞ!」

 

 

ワイヤーライフルを適当に投げつけると、踏ん切りのつかない足を殴りつけ、不格好にジャンプしてキャプテンの頭に飛びかかった。

頭の装飾を掴んで張り付くと、キャプテンのやたら大きい叫び声が頭に響いた。

 

 

「ぅわあああああああああ!!」

 

 

ナイフをむちゃくちゃにキャプテンに向かって突き立てる。傍目に見れば、大人に駄々をこねる子供にも見える体格差だった。

 

 

「ぐっ…クソ!死ね!死ね!死んでくれ!死ねぇぇえ!!」

 

 

ナイフがひときわ深く突き刺さる。キャプテンが榴弾ランチャーを天井に向けて撃ち込む。金属片や氷が砕け落ち、俺の頭に当たる。

 

 

「づっ…このっ!」

 

 

「グオ…オ…ォ…!」

 

 

キャプテンのエーテル供給パイプが千切れる。首元から吹き出る血が顔にかかる。

 

 

「っーーー!ぐ、わ…!」

 

 

瞬間。背中に衝撃。

 

 

『バンダル!』

 

 

混乱から回復したバンダルが、俺に殴りかかってきていた。

 

 

「く、このやろ…!」

 

 

ナイフを振り回す。バンダルは身体を後ろに逸らして回避する。

 

 

「クソ!あともう少しなのに…!」

 

 

俺と電磁ナイフによる涙ぐましい努力により、キャプテンはもう死に体だ。だが、その周りがこれで終わらせることを許さなかった。

 

 

『【ガーディアン】!これを!』

 

 

「っ!【ゴースト】!」

 

 

放り投げられたドレッグのピストルを右手で掴む。

倒れていくキャプテンから飛び降り、そのままの勢いでドレッグをピストルの柄で殴りつけた。

 

 

『銃なんですから撃ってください!』

 

 

「うるさい!こっちの方が早い!」

 

 

飛びかかってくるドレッグを足で払うと、そのまま脳天に向けてピストルを撃つ。

 

 

「ほら!撃っただろ!」

 

 

『後ろ!』

 

 

「っぐお…!」

 

 

背後に鋭い痛みと温かい感触がする。バンダルが背中を切りつけたようだった。出血もしている。

 

 

『このままでは…!』

 

 

「先にこっちだ!」

 

 

バンダルを正面から蹴りつけ、姿勢を崩す。そのままナイフを肩に突き立てて倒し、今度は首を切りつける。吹き出る血で、視界が塞がれる。

 

 

「次!どこだ!ライフ!」

 

 

血を拭いながら叫ぶ。

 

 

『右手!三時の方向です!』

 

 

「こっちか!」

 

 

ピストルを撃つ。

 

 

『違います!そっちは九時です!』

 

 

「九時か!こっちだな!」

 

 

後ろ蹴り。ドレッグの腹に当たったらしい。

 

 

『違っ……納得いきません!』

 

 

「倒したんだからいいだろう!」

 

 

血が落ちてだんだん視界がクリアになる。残るは…

 

 

「ドレッグが2体。それと…」

 

 

『サービターです。今頃入ってきました』

 

 

ドレッグに対して応戦する。光も装備がないとはいえ、身体が動くなら遅れはとらない。1体は頭を殴りつけ、2体目はナイフを投げつけて殺す。

 

 

「さて…」

 

 

大きな黒の球体に、蛍光色の紫で縁どりされた円状の機械がいくつか埋め込まれた…一言で例えるならば目玉のような形をしたサービターがゆらゆらと浮いたまま移動している。こちらを見ているようにも見える。

 

 

「できればそのまま撃たないで欲しいんだが…」

 

 

サービターが動きを止め、機械的な甲高い音を立てる。装備されている砲を構えた合図だ。

 

 

『来ます!』

 

 

「やっぱりダメか!」

 

 

サービターはフォールンの中では一際装甲が厚い。ドレッグのピストルでは歯が立たないだろう。

 

 

「何か、何かあったか…」

 

 

ボイド…宇宙的な(実のところ俺にはよく分かっていない)…エネルギーを纏ったサービターの砲弾を転がってかわし、周りを見渡す。

 

 

『これを!』

 

 

ライフが、キャプテンの持っていた榴弾ランチャーを投げる。確かにこれなら十分なダメージが望めるだろう。

 

 

「くっ…重い!」

 

 

何とかランチャーを持ち上げ、サービターに向けて撃つ。一発撃つごとに身体がきしみ、後ろに吹っ飛びそうになる。

 

 

5発も撃つ頃には、俺の肩が外れかかる代わりにサービターは小さなクレーターだらけになっていた。

 

 

「これで…終わりだ!」

 

 

爆発音。榴弾ランチャーがサービターの中心に命中すると、サービターが高速で回転しはじめる。サービターは一定以上のダメージを追うと、形を保てなくなって自壊するようになっている…そう俺は思っている。

とにかくしばらく撃っているとサービターはみんなこうなるので、あながち間違いではない…ハズだ。

 

 

ひときわ甲高い音を立てると、サービターは爆発した。辺り一面に破片が飛び散る。

 

 

『終わり…ました。生きてます!』

 

 

「ハァ…ハァ…フー…」

 

 

ランチャーを床に落として息を整える。そういえば…

 

 

「お前…さっき俺のこと、ガーディアンって呼ばなかったか?」

 

 

『…いえ、気のせいでは?』

 

 

「………」

 

 

ライフを見つめる。

 

 

『………』

 

 

『…呼びました。いけませんか?それにあなたも私のことをゴーストと呼びました』

 

 

観念して白状したが、開き直るつもりのようだ。

 

 

『ガーディアン。やはりあなたはガーディアンとして動いた時の方が…』

 

 

「それ以上言うな。握りつぶすぞ」

 

 

『そんな力もないくせに。私がいなければあなたはここで凍死していました』

 

 

「それとこれとは話が別だ」

 

 

『…そうですか。では今は、とりあえずゾンビとライフ。それでいいでしょう』

 

 

「とりあえずじゃない。これからずっとだ」

 

 

『………』

 

 

『…とりあえず、エーテルを集めましょう。首尾よくサービターも倒せました。上手くいけばエーテルを生産する方法も見つかるかも…』

 

 

「ああ…後は頼む。俺は疲れたよ…少し眠る。何かあったら起こしてくれ」

 

 

『ええ。ええ。わかりました…【ゾンビさん】』

 

 

硬い地面に横になる。天井の氷壁は太陽の光を少しも通さないほど分厚いようだ。今後のことを何となく想像しているうちに、意識は薄らいでいった。

 

 




あとがき


Destinyをプレイしている、もしくは知っている方には説明ばかりでストレスのないように。未プレイの方(読んでるか分からないけど)には置いてけぼりにならないように…両方やらなくちゃあいけないのが難しいですね。


分かりにくい所とかは教えて下さるとモチベーションにもなります。感想下さい(直球)


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レベル5.魔改造計画

少し間が開きました。

今回はクロスオーバーというか、個人的に好きな作品の要素を思い切って取り入れています。

Destinyの世界観や整合性を崩さないレベルになるよう作りましたが、そういうのが苦手な方や純粋にDestinyのみを楽しみたい方はご注意ください。


追記:クロスオーバーについて少々書き直しました。物語には支障ありませんが、過去のものは過去に置いていきます。



 

 

夢を見た。カバルの無機質な戦車が進む。さっきまで軽口を言い合っていた戦友をその履帯の下におきながら、俺に砲口を向けていた。俺は動けなかった。友人の死に動揺したのではない。後ろに、守るべき街と市民がいたから…

 

ずいぶん久しぶりの夢だった。

元々死体だったガーディアンが夢を見るほど眠ることは、実は少ない。

光さえあれば、いくらでも活動できるからだ。

 

 

…光はもうない。

 

 

……………………

 

 

『起きてください』

 

 

ライフの声で目を覚ます。身体の節々が痛み、麻痺したように動かない。

 

 

「ここは寒すぎるんだ。疲れがちっとも取れない。全く…」

 

 

『あなたはよく眠っていました。およそ6時間といったところでしょうか』

 

 

「そうか。日は出てるのか?」

 

 

指先から少しずつ動かして身体を慣らす。カチャ、という音に驚いたが、すぐに腕と脚を取りかえたことを思い出した。既に接続部の痛みはかなり薄まり、フォールンに受けた傷も半分ほど塞がっているように思えた。改めて、ライフの性能の高さとエーテルの万能っぷりを感じる。

 

 

『いえ。真夜中です』

 

 

「ならなんで起こしたんだ」

 

 

実をいえば洞窟にいる今、日が出ているかどうかはさほど問題ではないのだが…要は気分の問題だ。人間は夜に寝て、朝に起きる。紀元前から続く伝統で、俺もそれを尊重するつもりだった。自分の都合のつく限りだが。

古き伝説によればアイティー・ドカータやヒキ・ニートゥという希少人種が昼夜を厭わず活動していたという噂もあるが、俺は信じていない。

何せこれはハンターが言っていたことだからな。

 

 

『報告があります。2つほど…まず、いいものが1つ』

 

 

「もう1つは?」

 

 

『受け取り手次第です』

 

 

『いい方から行きましょう。サービターの残骸から抽出したエーテルにより、しばらくはエーテル切れの心配をする必要はありません』

 

 

「そうか。朗報だな」

 

 

『そうですね。それともう1つは』

 

 

『フォールンの装備がたくさん手に入りましたので、更なる改造が可能です』

 

 

「なんだ。両方とも朗報じゃないか」

 

 

『…私にとっては朗報ではありません。あなたの意思を尊重して報告したまでです』

 

 

「俺がもうガーディアンじゃないように、お前ももうゴーストじゃない。自分でそう言っただろう」

 

 

「光の戦士としての正義は、もはやこの手に振りかざしていいものでは無くなったのさ」

 

 

『ガーディアンじゃないから、身体をフォールンに改造しても倫理的に問題ないと?』

 

 

「ん…うん。ああ。つまりそういうことだ」

 

 

そこまで考えていなかった。そうか、身体をフォールンに改造するっていうのは倫理的な問題もあるのか。

ほかの生存者に会った時の印象が悪くなるかもしれない…

 

 

「まあ、どちらにせよ…生きるために必要だからやるんだ。それで、いくつ改造プランがあるんだ?」

 

 

『2つです。脊髄から神経系に沿うようにしてエーテル供給パイプを身体の各所に繋ぎ、エーテル供給の効率化と省エネ化をする。これはフォールンがやっていることと同じです』

 

 

『もう1つが、腕及び脚にフォールン由来の武器を直接装備するカートリッジを増設します。これにはいつくかの前例があり…成功率も高いと思います』

 

 

『代表的なものは…パワードスーツでしょうか。少数ですが、ガーディアンが生まれる前に人間の装備の一種として開発されたものがあるようです』

 

 

「パワードスーツ?ガーディアンの装備とは違うのか」

 

 

『着想はもっと古く…トラベラーさえ存在しない時代にはもう、創作として広く知られていたようです』

 

 

『例えば…ああ、今の私ではクラウドデータに接続できません。口惜しい』

 

 

「何も覚えてないのか?」

 

 

『多少は覚えています。英雄として宇宙からの侵略者に立ち向かった話があります。ただ、彼の人間性は最悪だったようですね』

 

 

「パーソナリティはともかく、やってることはガーディアンそのものだ。しかし、それが古典なら彼は光なしで戦ったということか?」

 

 

『ええ。創作ですが』

 

 

『何でしたら、カートリッジ増設の際に彼の装備を再現しますか?』

 

 

「できるのか?」

 

 

『もちろん。ゴー…我々の能力は非常に高いことをお忘れですか?』

 

 

「そんなことはこの腕や脚を見ればいつだって思い出せるさ」

 

 

『そうでしょうね。【それ】は私の…功績であり、同時に業、ですから』

 

 

「あまり難しいことを考えるなよ。気が滅入る」

 

 

『すみません』

 

 

「とにかく、そいつの装備が再現できるならついでにやってみてくれ。後で交換もできるんだろ?」

 

 

『…恐らく』

 

 

「おい」

 

 

『いえ、大丈夫です。ええ。それで、改造プランは後者…腕と脚の強化でよろしいですか?』

 

 

「いや、脊髄のと両方だ」

 

 

『…私が失敗しないことを今から神に祈って下さい』

 

 

「神は信じてないんだが…」

 

 

『でしたら私に祈っていてください』

 

 

「わかった。頼むぞ」

 

 

うやうやしく(同時にわざとらしく)ライフの前で手を組み、目をつむる。

数秒の沈黙の後、俺はライフに言われたとおりうつぶせになった。ライフが腕から何かを流したかと思うと、視界は急速に暗くなっていった。

 

 

………………………

 

 

『軽い電流です。毎度毎度、痛みで気絶するわけにもいきませんからね』

 

 

『…本当にこれでよかったのでしょうか?…いえ、選択肢など無かった。それは確かなのですが…』

 

 

『…ガーディアン。いえ、今は動く死者…ゾンビと、そう名乗っていましたね。私が見つけ、共に戦ったかつての光の守護者…あなたは、今何を考えていますか?』

 

 

『私は…いえ、トラベラーは、あなたが命をかけて守った彼らは、今の…ガーディアンとして死んだあなたを見て、どう思うのでしょう…』

 

 

ライフは俯くような仕草を見せたあと、ボディを左右に振った。さも、人間が迷い、そしてそれを思考から排除しようとするかのように。

 

 

……………

 

 

また夢を見た。今度は見知らぬ場所。【俺】が、薄暗い所で佇んでいる。

誰かが近づいてくる。その影がだんだんはっきりしてくると同時に、【俺】は姿勢を低くして、そいつを注視した。

 

 

「そんなに身構えなくてもいいじゃないか」

 

 

そいつは【四本ある腕】を軽く広げ、俺に話しかけた。

 

 

「仲間だろう?」

 

 

そいつは話し続ける。

 

 

「…何だと?仲間?俺とお前が?」

 

 

聞き捨てならない言葉に、思わず反応した。

 

 

「そうだ。同じ身体。フォールンの身体。流れているものも、死ぬ条件も同じ…俺とお前は同類だ」

 

 

「ふざけるな!俺とお前は別物だ!俺は…」

 

 

俺は…

 

 

俺は、何だ?

 

 

………………………

 

 

『起きてください』

 

 

ライフの声。

 

 

『うなされていました。どこか痛みますか?』

 

 

「…いや」

 

 

左腕を見る。首を回すと、何かに引っ張られるような異物感を覚えた。

 

 

「…っ」

 

 

正面の氷壁に自分の姿が映った。全身をパイプがつなぎ、口にはフォールンと同じマスク。少し大きくなった左腕や左脚は、既に元の人間の要素など欠片もない。

 

 

『どうか、しましたか?』

 

 

「…ライフ」

 

 

「俺は…何だ?」

 

 

『あなたはゾンビ。死してなお動く、元ガーディアン…そう、あなたと私で決めました』

 

 

「ああ…そうだったな」

 

 

『ええ…そうです。腕と脚の装備の説明をしますね』

 

 

『まずは彼のメイン装備であった【リパルサーレイ】…を模した、アーク放電を起こすことで衝撃波を前方に放射する手のひら』

 

 

「同じ名前にするのも失礼だし、パルスキャノンとでも呼ぶか」

 

 

『そうですね。加えて、ひじから拳にかけての部分にはワイヤー射出機構を装備しています。相手を掴まえて動きを封じるほか、高いところから落ちても平気』

 

 

「俺が反応できるならな…これはまあ、ワイヤーでいいだろう」

 

 

『そうですか。色々案はありますよ?タクティカル・ロッドにスペシャルダーツ。それと…極東の古典になぞらえてヒッサツ・オシゴトピープル』

 

 

「装備の名前は全部俺がつける。絶対だ。いいな」

 

 

『残念です。まだ色々あるのに』

 

 

『説明に戻りましょう。ですが腕はそのくらいです。あとは先程の戦闘で使用したワイヤーライフルを直接腕に接続できるようになりました』

 

 

『脚は、武器としてというよりも別の用途に向けて改造しました。まずは大腿部にエーテルパック詰め替え用。2つもついて安心です』

 

 

「もう少し言い方はなかったのか」

 

 

『特には。それと、膝にはスパイラル・ドリル』

 

 

「待て」

 

 

『何ですか?ストレート・ドリルの方がお好みですか?』

 

 

「めちゃくちゃだ。武器はつけないと言ったろう」

 

 

『ええ。これは武器ではありません。採掘用です。収納もできます。というか、今収納しています。思い切り膝蹴りすると出ます』

 

 

試しに左足を曲げて強く振ってみると、膝をカバーしていた金属板が突然開き、けたたましい機械音とともに鋭く高速回転する銀色のトゲが出てきた。これは間違いなくドリルであり、他の呼び方を許さない。そんな気迫さえ感じる回転だった。

 

 

「なくせ」

 

 

『ご無体な』

 

 

「これはものすごく邪魔だ…まさか楽しんでないか?」

 

 

『分かりました。残念ですが、次の機会にでもその機構は排除しておきます』

 

 

「頼むぞ…それと、他には何かないのか?」

 

 

『あとはかかとに小型ローラー及びターンピックと』

 

 

「なくせ」

 

 

『冗談です。流石に全く不要なものはつけません』

 

 

「………」

 

 

『仕切り直して、あとは爪先に電磁ナイフを仕込みました。これでキックによる攻撃に殺傷能力が付与されます』

 

 

「まともだな。武器だが」

 

 

『ええ。スペースが余ったので…つい』

 

 

「………」

 

 

『………』

 

 

一通りの説明を受けると、どっと疲れを感じてまた横になった。こいつはいつからこんなに冗談好きになったのだろうか。いや、冗談にしてもこんな行動までするような奴じゃなかったような気もするが…トラベラーとの接続が途切れると、性格も変わるのだろうか。

 

 

「…ライフ」

 

 

『何ですか?』

 

 

「…いや。俺はもう一度寝る。今度は朝になったら起こしてくれ」

 

 

『分かりました。いい夢を』

 

 

「ああ…見れるといいな」

 

 

意識は、次第にブラックアウトしていった。考えることややるべきことは数え切れないほどある。だが、今は何も考えずに眠りたかった。

 

 



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レベル6.走狗


遅くなりました。なんて事ない回のハズなのにやたら難産でした。
おかしいところがあるかもですが大目に見てくれると…




 

 

 

死とは、何だろうか。

生命に、等しく訪れるもの。黄金時代、人間の寿命は3倍にまで伸びたが…結局、逃れえなかったもの。

物理的には、細胞の活動が全て停止し、二度と動かない状態。精神的には意識を失い、それが二度と戻らない状態だろうか。共通しているのは、死が不可逆的なものだと捉えていることだ。

中には、あらゆる人々に忘れられた時に初めて人は死を迎える、と言ったロマンチストもいる。

 

 

ガーディアンは死体から生まれる…すなわち、一度死んでいるが生き返っている。この時点で、死の概念から乖離する。その上で、ガーディアンは死なない。いや、厳密にはよく死ぬが、すぐに生き返る。敵に脳天を撃ち抜かれても、踏み潰されても、ゴーストと光の力によって復活することができる。だからガーディアンは絶対に【死なない】。

 

 

であれば、ガーディアンは何をもって死ぬのか?

 

 

ウォーロックであった友人の言葉によれば、我々ガーディアンが死ぬはその役目…市民を、街を、そして何よりもトラベラーを守るという役目を果たせなくなった時。要は…光を失った時に、自らをガーディアンとして定義できなくなり、初めて本当に死ぬのだという。

 

 

それを聞いたとあるタイタンは、そんなことをしなくても、ゴーストを撃ち抜いたあとに頭を撃てば死ぬと言っていたが。

 

 

俺には、もう市民は守れない。いくらかの敵に囲まれればあっけなく死ぬだろう。復活もできない。

ゴーストがいても、光がないからだ。何度でも立ち上がれるガーディアンではないからだ。

 

 

俺というガーディアンは死んだ。

 

 

ならば、未練がましくも生きている【ガーディアンとして死んだ】俺は何者として生きればいい?

 

 

「簡単なコトだ」

 

 

目の前の【4本腕の怪物】が低くうなるようにして笑う。その姿は、以前よりもずいぶんハッキリと見えた。頭に特徴的な一対の装飾。首から背中にかけたマントには、彼の所属するハウスのマークが大きくこしらえてあった。

 

 

「お前はもうガーディアンじゃない。だが人間でもない…死んでから生き返る人間などいない」

 

 

【奴】は誇らしそうにマントを撫でた。

 

 

「お前はフォールンだ。ハウス・オブ・デビルズの装備を奪い、ハウス・オブ・キングスのエーテルを奪った。略奪者の中の略奪者。しかし同時に、自分だけは、まだ堕ちちゃいないとどこかで思っている…まさしく模範的フォールンだ。素晴らしいコトじゃないか」

 

 

【奴】は皮肉っぽく笑い声を上げたあと、下の腕で相手の胸を強く叩くと、上の腕を高く上げた。これがフォールン流の賞賛であることが、何故か分かった。

 

 

胸の腕を振り払う。【奴】は少し考える素振りをすると、俺の肩を掴んだ。

 

 

「オレはお前のことを気に入ってるんだ。誰よりもフォールンらしいお前を、な」

 

 

「どこが…!」

 

 

そう言ってもう一度腕を振り払おうとする。

 

 

「っ!?」

 

 

「【ソレ】が、何よりの証拠だ」

 

 

細長く、薄白い三本指。【奴】の腕を掴んだ自分の腕が、フォールンのものになっていた。

 

 

 

………………………

 

 

「…っは!」

 

 

『どうしました?』

 

 

ライフが不思議そうにこちらをのぞき込む。背中にはじっとりと汗がにじんでいた。

 

 

「恐怖…?いや、まさか。ありえない」

 

 

タイタンが恐怖を感じるのは、カバルのファランクスの大盾に吹き飛ばされた時だけだ。地に足がついている限り、そこから一歩も引くことのない決意と、誰よりも暗黒を憎む心があるからこそタイタンは戦うことができるのだ。

 

 

タイタンは光と勇気、そして強靭を誇り、暗黒と弱気、そして卑怯を厭うと言われている。ふと、ガーディアン達の冗談のひとつを思い出した。

 

ファイアチームのひとりが、強大な敵に恐怖したことを仲間に伝えた。まず仲間のタイタンが『なんて軟弱なやつだ』と笑う。次にハンターがそれを見て『恐怖がわかる分、お前より賢いな』と笑う。最後にウォーロックが大笑いした。

『なぜお前が恐怖を感じたか推測したんだ。お前にも教えてやろう。まず…』

みんな静かになった。

 

 

…これは、バカで石頭なタイタンと、人を嘲笑うことばかりなハンター、話が長くてつまらないウォーロックをまとめて揶揄するものだったはずだ。

 

 

「…いや、もう俺はタイタンでもない」

 

 

下らないことを思い出した。

タイタンはガーディアンの職業だ。今の俺には関係ない。

 

 

「しかし、もう寝る気も起きないな。ライフ、外はまだ暗いか?」

 

 

『いえ。今ちょうど起こそうと思っていたところでした。太陽は既にのぼっています』

 

 

「そうか。なら、今日はここから移動しよう」

 

 

『どこへ行くのですか?』

 

 

「ずいぶん遅れたが、当初の予定をなぞる。つまり…」

 

 

『ヨーロッパ・デッドゾーンですか?』

 

 

「ああ。だが、目的は違う」

 

 

「元々は光を取り戻すための手がかりを探るためだったが…それはもうなしだ。…ヨーロッパ・デッドゾーンは、確かフォールンの拠点だったよな?」

 

 

『ええ。元々はフォールンのハウスのひとつが拠点を置いていました。しかし、彼らが去ってからは様々な勢力が争う場となっています』

 

 

『まさか、突っ込むつもりですか?』

 

 

「いや。まさか」

 

 

『では、何をするつもりですか?』

 

 

「助けてもらうのさ」

 

 

『…今、なんと?』

 

 

「フォールンに助けてもらう。もはや半分フォールンの形をしてるんだ。仲間だと思ってハウスに入れてくれるかもしれない」

 

 

『ありえません。馬鹿げてます!フォールンは我々よりよほど社会的に統制された存在です!』

 

 

「…だろうな。冗談だ」

 

 

実のところ、冗談を言ったつもりは無かった。かといえば、ヤケになったわけでもない。このままいけば、何かのきっかけで俺はフォールンに近しい存在にもなりうる。昨日の夢の影響なのか、そんな気…いや、確信が、俺の中にあった。

 

 

「だが、人はいるかもしれない」

 

 

『…可能性は低いです』

 

 

「なら他の方法を考えてくれ」

 

 

『…ヨーロッパ・デッドゾーン…いえ、そこにほど近いところにガーディアンのキャンプがあったという記録があります。そこへ行きましょう』

 

 

「そうか。ならそこだな」

 

 

バランスの取りづらくなった身体を持ち上げ、洞窟の外を見据えた。

 

 

…………………

 

 

「ハァ…ハァ…フー…」

 

 

『大丈夫ですか?』

 

 

「…大丈夫に…見えるか?」

 

 

『…少し』

 

 

何とかワイヤーとドリルやナイフを使ってクレバスを登った。しかし、ガーディアンでないということは、疲労や小さなケガを無視できなくなるということでもある。

俺の身体は指先一つ動かすのも億劫なほど疲れ果て、身体のところどころに傷ができていた。

 

 

「初めからそういう模様だったみたいだ」

 

 

キズを見てつぶやく。

 

 

『冗談はよして下さい。このまま夜を迎える訳にはいきません。移動しましょう』

 

 

「ああ。そうだな」

 

 

重い腰を何とか上げる。太陽は既に西に傾き始めていた。

 

 

…………………

 

 

『…見えました。アレです』

 

 

「本当か?」

 

 

前方に目をこらす。確かに、米粒ほどの大きさのテントのようなものがいくつか見えた。

 

 

『…記録が正しければ、確かにここのはずです』

 

 

「そうか…じゃあ」

 

 

『…そうですね…残念ですが…』

 

 

「ああ。失敗だったな」

 

 

キャンプには、動くものが何ひとつなかった。

 

 

その事実は、しかし何よりも雄弁に、俺達にそのキャンプの全滅を伝えていた。

 

 

 





はい。例のキャンプです。
タカはいません。


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レベル7.半端者:前編

前提として、主人公は元々タイタンでした。

つまり…石頭でアホの子要素があります。




 

『エーテルって何なんだ?サービターを倒すと出てくる紫のもやもやのことだ』

 

 

『エーテルだと?助手よ、まさか本当に知らないのか?』

 

 

『…知らないという顔だな。よくそんな状態でヤツらと戦おうなどと言えるものだ。仕方ない。教えてやろう。エーテルとはサービターに搭載された高度なテクノロジーによって精製される気体状のエネルギー体であり、フォールンにとっての生命維持装置だ。サービターがその辺の資源から適当に作って、周りのフォールンに配る。ヤツらはこれがないとみじめにもがき苦しんで死ぬ』

 

 

『じゃあヤツらを見つけたら、まずサービターを破壊すればいいのか?』

 

 

『バカめ。怒り狂って突撃してくるフォールンを全員捌ける自信があるのか?それともお前はサービターだけを破壊して帰ってくるつもりか?』

 

 

『サービターを壊してエーテル供給を止めても、しばらくの間はエーテルが残っているから動ける。中でも供給量が多いために身体が肥大化したキャプテンは、エーテルなしでも数週間は動いてられたという情報もある』

 

 

『ふーん…まあ、俺には関係ないな』

 

 

『どうせ全部倒すから、とでも言うつもりか?』

 

 

『………』

 

 

『バカバカしい。だが、正しくもある。そんなところだな。フォールンは一度に全滅させないと次々と援軍をよこしてくる』

 

 

『でも、疑問がひとつ晴れたよ。フォールンのなかでも特に偉いアルコンやバロンがどうしてあんなにデカいのか。エーテルをたらふく貰ってたんだな』

 

 

『ああ…まあ、そういう話で終わっておこう。お前との会話は疲れる。もうどこかへ行け』

 

 

ー金星。とあるガーディアンの会話記録ー

 

 

…………………

 

 

「さて…」

 

 

『どうしましょう』

 

 

「キャンプには誰もいませんでした、おわり…とはいかん。何か探そう」

 

 

『…あ、ガーディアンの死体です。戦闘があったのでしょうか』

 

 

「…ハンターだな。クロークを見るに、デッドオービットの所属だったらしい。この状況はヤツらにとってはありがたかったのかもな」

 

 

『デッドオービットはあくまで太陽系外にも生存圏を探しに行くことを目指していただけで、タワーの破滅までは…』

 

 

「どんな組織だって一枚岩にはなれない。実際、ヤツらの中にだってそういうことを大声で言うのはいた」

 

 

「デッドオービットの船は、タワーよりよっぽど安全なんだと。しかしタワーがあるから人は外に逃げられないんだ、足枷なんだ。だったら無くなってしまえばいいってな」

 

 

「そして…いつだって、大声を張るやつは目立つ。そいつのいる組織や集団を代表するかのように、そいつの声や行動は周りに広まっていく」

 

 

「そうやって出来ていくんだ。イメージというのは…良くも、悪くも」

 

 

「話しすぎたな。まあ、奴らのデザインしたアーマーは気に入ってたよ。ライフ、何か見つけたか?」

 

 

『えーと…食糧はありませんね。前にキャンプを見つけた人がいたのかもしれません』

 

 

『…まあ、今のあなたはエーテルがあれば十分なのですが』

 

 

「…そうだな。それ以外は?」

 

 

『プラスチール強化材がありました。これであなたのアーマーを修復できます』

 

 

「それはいいな…おっ」

 

 

『どうしました?』

 

 

「銃だ…これは、パルスライフルだな。ハッケの旧式で、4発バーストで撃てるやつだ」

 

 

『いいですね。弾は資材さえあれば精製できます』

 

 

「この規模のキャンプならこんなもんだろう。むしろいい方だ」

 

 

「アーマーを修理して少し休憩したら、もう少し奥まで行ってみよう。マトモな武器も手に入ったことだし、今度は多少戦闘することも考えて動くぞ」

 

 

『了解しました。無理だけはしないで下さいね』

 

 

………………

 

 

「…少し、慣れが必要だな」

 

 

先程のパルスライフルを手元に構える。さもありなん、といったところだろうか、フォールンの腕に人間用の武器はかなり不格好に見えた。ついでに三本指では持ちづらい。

 

 

『大変お似合いですよ』

 

 

「お前はその態度をいつか後悔することになるぞ」

 

 

『ああ、恐ろしい』

 

 

「ライフ…大丈夫なのか?」

 

 

最近、気になってきたことがある。ライフの様子がおかしいのだ。元々あなたのゴーストであることを誇りに思います、とか恥ずかしげもなく言うような真面目一辺倒だったのに、いつの間にか冗談ばかり言うようになったのだ。ゴーストの性格が変わるのは珍しい話ではないが、それは長年の付き合いとなったガーディアンに徐々に影響されたりした結果、個性として生まれたものだ。今回のような急激な変化とは状況が合わない。

 

 

『何がですか?私の機能は依然、万全です』

 

 

「…お前みたいなやつを修理できる知り合いはまだ生きているかな」

 

 

『中々ひどいですね』

 

 

「お前のために言ってるんだ。決めた。ゴーストに詳しいやつに会ったらお前について調べることにする」

 

 

『そうですか?まあ、何も出ないとは思いますが』

 

 

「だと、いいんだがな」

 

 

とはいえ、今できることは非常に少ない。ライフのことばかり気にしていることはできない。今は前に進むべきだ。

 

 

「さて、鬼が出るか、蛇が出るか…」

 

 

そうつぶやいて、ヨーロッパ・デッドゾーンの奥地へ歩を進めた。

 

 

………………

 

 

『…アレは…』

 

 

「ケッチ!だが小型か」

 

 

ケッチ。フォールンの輸送船だ。兵員から物資まで何でも運ぶ。多少の自衛能力もある。ケル(王)のケッチはすさまじくデカく、停泊すれば基地にもなる。

 

 

『停泊しています。戦闘…ではありませんね。物資の調達でしょうか』

 

 

「…チャンスだな」

 

 

『危険では?』

 

 

「エーテルはあるに越したことはない。確保できる時にするべきだ。それに…新しい武器の試運転もまだだ」

 

 

『…そうかもしれませんね。では偵察から行きましょう。ちょうどいいところに小さな岩山があります。あの裏なら気づかれないでしょう』

 

 

「そうだな…行くぞ」

 

 

………………

 

 

「ここだな。さて…」

 

 

改めて、フォールンの様子をうかがう。後方の支援任務についた小隊、といったところだろうか。忙しく働くドレッグに手や口で激を飛ばすキャプテン。周りを数機のシャンクが飛んでいるのが見える。

 

 

「バンダルはいないのか?」

 

 

『いえ。これは恐らく…』

 

 

「あ、あそこか」

 

 

『どうせなら最後まで言わせて下さい』

 

 

少し離れたところで、バンダルが戦闘訓練をしていた。4本の腕を器用に使い、ブレードやライフルで連携してターゲットデコイに波状攻撃を仕掛けている。

 

 

「改めて見ると、シンプルでよくできた戦術なのかもな」

 

 

少し感心する。少しだけ、もし自分に4本の腕がついていたらどうするか考えてみる。

 

 

「…あり、か?」

 

 

『脳改造から始めないといけませんがね。それか各腕に私特製のサポートAIを取り付けます』

 

 

「…それは御免だ」

 

 

『残念です』

 

 

ライフが少しうつむいて身体をふるが無視して偵察を終える。

 

 

「こんなもんだろう。後はどう攻めるかだが」

 

 

「昔の俺なら正面にグレネードを投げ込んだ勢いのままオートライフルを撃ちながら突撃してパンチだが、流石に無理だ」

 

 

『…まあ、高所からそのワイヤーライフルで狙撃、都度拾ったパルスライフルやその他の武器で攻撃でしょうね』

 

 

「狙撃は苦手なんだがな…」

 

 

だが、他に手もない。俺は深呼吸をすると、狙撃のできそうなポイントを探し始めた。

 

 



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レベル7.半端者:後編

 

 

結局、狙撃のために横倒しになったトラックの山の上に伏せることにした。しかし…

 

 

「なんて不安定な場所だ…どこも錆び切って今にも崩れそうだ。さっきの岩山の方が良かったんじゃないか?」

 

 

『あそこだと遠すぎます。当てる自信があるのなら別ですが』

 

 

「………」

 

 

『ここがベストです。我慢してください』

 

 

「…そうか」

 

 

ワイヤーライフルに取り付けたサイトを覗く。銃口の先には、休んでいるのか壁にもたれかかるキャプテンの姿があった。

 

 

「これは使命じゃない。生きるためだ」

 

 

そうつぶやいて、息を止める。腕のブレを極力抑え、キャプテンの頭を狙う。

 

 

「………」

 

 

「…っ!」

 

 

パシュン、と特徴的な音を響かせ、弾丸がキャプテン目がけて飛ぶ。

 

 

「クソッタレ!やっぱりだ!」

 

 

だが、無情にも放たれた弾丸はキャプテンに届くことなく、その足元に穴を作ったのみに終わった。

 

 

キャプテンの咆哮。アレだけ派手な武器なのだから当然だが、こちらに気がついたらしい。

 

 

『ドレッグが向かってきます。応戦してください!』

 

 

「分かってる!」

 

 

ワイヤーライフルを置き、トラックの山から飛び降りる。

 

 

『正面にドレッグ2体、10時の方向からシャンクが3機です』

 

 

「おおおおっ!」

 

 

パルスライフルを乱射する。頭に正確に当てる自信はないが、どこかに当たれば足止めになる。

 

 

ドドドドッというリズミカルな音とともに、運良く弾が胴に当たったドレッグが倒れた。

 

 

「よしっ」

 

 

『まだです!気を抜かないで!』

 

 

気づけば、シャンクがすぐそこまで迫ってきていた。すでに銃撃の用意をしている。

 

 

「ぐっ!…ライフ!」

 

 

『なんですか!』

 

 

「パルスキャノンを使う!補助してくれ!」

 

 

『分かりました!左手を素早く2回握れば起動します!無事に当たることを祈って下さい!』

 

 

「また祈りか!ギャラルホルンを探してるんじゃないんだぞ!」

 

 

『チャージしています!構えて!』

 

 

「くっ!」

 

 

シャンクの銃撃をかわしながらパルスライフルを背負い、左腕を前に突き出して右腕を添える。

 

 

『…もう少しです』

 

 

「早くしてくれ!もう避けるのも限界だ!」

 

 

シャンクの群れにいつの間にかバンダルが加わり、銃撃は激しさを増していた。

 

 

『行きますよ!3、2…』

 

 

「っ!」

 

 

『1…!発射!』

 

 

左腕から大きな衝撃が走り、景色が急転する。一瞬、青空が見えたかと思うと頭に鈍痛が走るが、何とか意識を保つ。どうやら自分はパルスキャノンの反動で後ろに転んだようだった。

 

 

「っ〜〜!…」

 

 

『敵の残存数を確認…朗報です。パルスキャノンの威力は予想以上です』

 

 

「…みたいだな」

 

 

起き上がって、先ほどのパルスキャノンの射線を見る。そこにあったのは、一直線に黒く焦げた地面と、装備ごとボロボロに破壊された無惨な姿のフォールン達だった。

 

 

『これで残りはキャプテンだけです』

 

 

「サービターはいないのか?」

 

 

『あ、そうですね。サービターは…いないようです』

 

 

「いなくても大丈夫なのか?」

 

 

『分かりませんよフォールンの考えることなんか。それよりキャプテンが来ます。構えて!』

 

 

「クソ!パルスキャノンは!?」

 

 

『エーテルを使いすぎました!これ以上使うと生命維持装置に支障が出ます!』

 

 

「これが終わったら調整が必要だな…仕方ない、ほかの武器で戦うぞ!」

 

 

『キャプテンはエネルギーシールドを展開しています。キネティックダメージ系統…背中のパルスライフルは有効打になりえません!』

 

 

「だろうな!あとは…ワイヤーライフルを拾いに行ってる暇はない!残るのは…」

 

 

『…ドレッグピストル、それと…ショックブレードと、ドリルですね。ワイヤーは残念ながらあの体格の動きを阻害できるほど強力ではありません』

 

 

「最悪だ!!」

 

 

「クソっ!食らえ!」

 

 

興奮気味に、ドレッグピストルをキャプテンに向かって撃つ。低威力だがアーク属性を持っていること、敵を検知して多少追尾することが利点の武器だ。銃を当てる自信の無い今の自分には意外にマッチした武器かもしれない。

 

 

『キャプテンのシールドの漸減を確認。消失には至っていません。それと…』

 

 

『あのキャプテンは肉体派のようですね』

 

 

「見たらわかる!」

 

 

キャプテンは二本の大型ショックブレードを構えてこちらに突進してきていた。こちらのささやかな抵抗は全く意に介していないようだ。

 

 

「曲芸なんかしたことないぞ!」

 

 

ピストルを撃ちながら、悪路をジャンプしつつ後退する。キャプテンとの徐々に距離が詰まっていく。

 

 

『危ない!』

 

 

「っ!!」

 

 

一瞬の視界の暗転ののち、痛みとともに地面に伏す。こんなところで引き撃ち流石に無理があったか、大きめの石に気がつかずに無様に、仰向けに転んでしまった。

 

 

「まずい!」

 

 

キャプテンは速度を緩めず向かってくる。

 

 

立ち上がる暇もなくこちらに追いつき、右腕ごとピストルを踏み砕く。そして…

 

 

その刃を、無慈悲に俺に突き立てた。

 

 

「っ…ああああああああ!!!」

 

 

死。それが明確なビジョンとなって俺に襲いかかる。キャプテンは勝利を確信したのか、腕を上げて叫んでいる。

 

 

キャプテンがこちらを見る。狩人が捕らえた獲物に対するように見下ろしたかと思えば、今度は久々に会った同胞に向けたように目を見開いた。

 

 

『グ…ォ…』

 

 

『…オレ達の、【なりそこない】か』

 

 

「…なん、だと…」

 

 

フォールンの声。ひどくハッキリとした幻聴が頭の中でこだまする。景色が妙にゆっくりと動く。キャプテンはこちらを観察するのをやめ、トドメを刺すために再度ブレードを掲げた。

 

 

終わってみれば、なんとも呆気ないものだ。そんなことを呑気に考えながら、ブレードを見つめる。

 

 

『ドリルを起動します!』

 

 

突如、けたたましい音が鳴り響く。左脚からだった。

ドリルがキャプテンの足を抉り、キャプテンを怯ませる。

 

 

『さあ、起きて!まだ戦えるハズです!』

 

 

「あ、ああ…」

 

 

キャプテンが叫ぶ。相当な怒りを感じる。勝利を確信した【獲物】に噛みつかれたことに憤っているのだ。

 

 

「武器、は…」

 

 

『残念ながら、左脚のみです』

 

 

「はっ…」

 

 

乾いた笑いを浮かべる。

 

 

『グオオオオ!』

 

 

キャプテンが突進してくる。足を怪我したためか先ほどより勢いは無いが、それでも今の俺を殺すには十分だ。そう思った。

 

 

「死ねないから殺す…生きるためだ。略奪も、生きるため…」

 

 

「なりそこないか…確かに、そうかもな」

 

 

左脚のつま先ををキャプテンの突進に合わせて突き出した。

 

 

『オオオオオォ…!』

 

 

つま先に仕込まれたブレードが、キャプテンの首に深々と突き刺さる。パイプが切れたようで、エーテルが吹き出ている。

 

 

「…俺は死んだガーディアンだ。だが…なりそこないとして生きることはできるのかもしれない」

 

 

『ォォ…ォ……』

 

 

ぶらん、とキャプテンの腕が下がる。

 

 

「そのくらいならできるハズだ」

 

 

「フォールン。お前の奪ってきたものを少し分けてもらうぞ」

 

 

『…グオオオオォ!』

 

 

『危ない!』

 

 

キャプテンが突如動き出す。ライフが叫んだ。

 

 

「っ!?」

 

 

『オオオオ!』

 

 

キャプテンの最後の抵抗によるブレードは、俺の右肩に突き刺さった。右腕が身体と切り離され、地面に落ちる。

 

 

「っぐ!ああああっ!!」

 

 

「…痛いな…クソ…畜生!」

 

 

背中のパルスライフルを取り出し、キャプテンに滅茶苦茶に撃ち込んだ。キャプテンは少し痙攣したかと思うと、ついに倒れる。

 

 

『ォォ………』

 

 

勝ち誇ったような顔で、キャプテンは今度こそ息絶えた。

 

 

「…俺は生きてるんだからお前の負けだよ、この野郎…」

 

 

『大丈夫ですか!?』

 

 

「ライフ…大丈夫に見えるか?」

 

 

『いえ…ただ…』

 

 

「何だ…早く止血しないと死んじまう。とりあえず布を…」

 

 

『あ、いえ、そのことなんですが…』

 

 

『血が、出てません。右肩からエーテルが流れ出てます…』

 

 

「………は?」

 

 





長くなったので今回は前後編にしました。

最近、別の小説?も書き始めましたがちゃんと終わらせるつもりなので大丈夫です。きっと。


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レベル8.同志?


お久しぶりです。ちょっと長いですが、前後編に分けるほどでもなかったのでまとめました。

例によって、感想や評価は大歓迎です。モチベーションにもなります。



 

 

 

「腕…生身の方だよな?」

 

 

『ええ…一目瞭然とはこのことでしょうね』

 

 

「ふうん…それで?」

 

 

『それで、とは?』

 

 

「いや、血が出ないことで問題があるのかを聞いてるんだ」

 

 

『…スキャンは既に済ませました。あなたの身体の血液の一部が、エーテルに置き換わっている…いえ、エーテルを主体に融合しているようです。つまり…』

 

 

『身体の血液が果たしていた機能を、エーテルが代替…もしくは補強しています。今は血の代わりにエーテルと血液の融合体が少しずつ流出している状態です。…今後、エーテル不足で死ぬことはあっても、出血多量で死ぬことは無いでしょうね』

 

 

「なんだ、だったら大丈夫だな」

 

 

『…しかし、これでは本当に…』

 

 

「既に足を踏み入れた領域だ。一歩も十歩も大差はないだろう」

 

 

「それより、またいい素材が取れたな。フォールンのキャプテン、しかも格闘タイプ!威圧感バリバリ。昔の俺も、敵からはこんな感じに見えてたのかもな」

 

 

『あなたの元々の腕はそこに残っていますが?』

 

 

「だが、キャプテンに踏み潰されてボロボロだ。アレを繋げて、今後マトモに動くか?」

 

 

『アレ、ですか』

 

 

ライフがうつむく。

 

 

「俺は人間の身体でいたいなんて…ましてや、ガーディアンに戻りたいなんてこれっぽっちも思っちゃいない。身体がフォールンになっても…光がなくても…俺は俺として戦えればそれでいいんだ。そう考えることにした」

 

 

『あなたはいつもそうです。あなたが作る言葉は、いつだって力強い…そして脆い』

 

 

「ああ、あの時だってそうだった。…俺の心は弱い。だからこそ力強い言葉を使うんだ…ライフ!キャプテンを使って…腕を、作ってくれ」

 

 

『…ええ。あなたが望むなら…従いましょう。私はあなたのライフ。あなたの意思で動くものです』

 

 

「…頼むぞ。そろそろエーテルの残量が切れそうだ」

 

 

………………

 

 

『…もう、後戻りはできませんね』

 

 

「……ああ」

 

 

キャプテンの腕は機械ではなかった。俺は【それ】を繋いだ。つまり、俺はまさしく【フォールンの腕】を身体に繋げている。俺は、新しい、青白く強靭な三本指の右腕をまじまじと見つめた。

元々バンダルから剥ぎ取ってくっつけた左腕と見比べると、階級による体の大きさの違いがハッキリと分かる。

 

 

「…しかし、不思議なものだな」

 

 

『何がですか?』

 

 

「拒絶反応とか、神経接続とか…タイタンだった俺でも不思議に思えるくらい、そういう不都合がない」

 

 

『…本来はあるはずなのですが、これもエーテルの力でしょうか。私も確かに細心の注意を払ってやってはいますが、回数を重ねる度…あなたがエーテルと親和していくにつれて、抵抗が少なくなっているように思えます』

 

 

「エーテル…やっぱりサービターが必要だ」

 

 

パチパチパチ

 

 

「ん?」

 

 

『拍手の音です』

 

 

「いや、それは分かるが」

 

 

音の元を見る。ここから少し離れた岩場の影から、身体のラインにぴったり沿うようにしたスーツを着込み、ヘルメットの上からぶかぶかのクロークを羽織った人間がこちらを見ていた。

 

 

「ライフ。どうして教えてくれなかった」

 

 

見るに、どうやら男性のようだ。彼に敵意は無いようだが、あまり自分のこの姿を晒したくもないのが本音だった。この外見から、思わぬすれ違いを生む可能性が高いためでもある。

 

 

『…それが、レーダーに全く映りませんでした』

 

 

「なんだと?故障か?」

 

 

「ああ、いやぁ、そんなことはないだろうさ!ゴーストをあまり責めないでやってほしいね。何せ俺は…特別製だからな」

 

 

「っ!?」

 

 

またしても不意をつかれ、思わず後ずさる。この男は、少なくとも、音も気配もなく…誰にも気がつかれずに移動することができることは確かなようだった。

 

 

「お前は誰だ」

 

 

「警戒!ごもっともな反応だが少々傷つくぜ」

 

 

「味方でないなら敵と思え…タイタンの教えか?」

 

 

「…お前も元ガーディアンなのか?…ハンターか」

 

 

「ご明察…タイタンじゃなくて残念だったかな。確かに、俺はバンガードの元メンバーさ。ケイド6のもとで、中々楽しくやらせてもらっていた」

 

 

「ここに来たのは全くの偶然だったんだが…まさしく幸運だったと言わざるを得ない。まさかここで同志に出会えるとは!」

 

 

「…同志だと?」

 

 

「そりゃあそうさ!お前も俺も、光を失った…残念なことに。あのカバルのデブに全部奪われた!だが…」

 

 

「戦うことを諦めていない!」

 

 

目の前の男は大げさに拳を握りしめたのち、仰々しく両手を上に挙げた。妙に演技くさいところが鼻につく。

 

 

「…放っておいてくれ」

 

 

ヘルメット越しに睨む。

 

 

「ハハ…見りゃあ分かるさ。お前は光の代わりにフォールンの力を手にしたんだろう?戦うために…」

 

 

「さっきの拍手はそのためさ。お前のその気高き精神と…ゴーストの技術を賞賛したのさ」

 

 

「自己紹介といこう。俺はザナリー3。名前から分かるとは思うがエクソだ」

 

 

「…ゾンビだ」

 

 

『私はライフです』

 

 

「フーン、ゾンビ…それとライフね。偽名にしてももう少しマシなのはなかったのか?夢見がちなローティーンが考えたみたいだ」

 

 

「俺はガーディアンじゃない。俺というガーディアンは死んだ…そう決めた時にガーディアンとしての名前も捨てた。適当な名前も考えるのが面倒だから生ける屍を名乗っているだけだ」

 

 

「笑えるな、ハハ…」

 

 

…そろそろ限界だ。コイツと俺は絶望的に合わない。それだけが分かればいいと思うまでに…

 

 

「ああ、そうかよ。ライフ、パルスキャノンのクールダウンは終わってるよな?」

 

 

左腕のガントレットを強く握りこんだ。

 

 

『ええ。ですが…まさか撃つつもりですか?』

 

 

「こいつは俺を放っておいてくれないらしい。協力者になるならとも思ったが、無理だ。コイツと関わることに俺が耐えきれないな。だったら…」

 

 

「おっと!待ってくれよ…悪かった。アンタ達を貶めたりするつもりは無かった」

 

 

「お詫びの印といってはなんだが…俺がどうしてアンタ達に、気づかれずに接近できたと思う?その物騒なものをしまってくれれば今すぐ教えてやるよ」

 

 

「話し方が気に食わん」

 

 

「…生来のもんで、変えるのは難しい。悪いな」

 

 

「そうか」

 

 

パルスキャノンを構える。

 

 

『待ってください』

 

 

ライフが構えた左腕とザナリー3との間に割り込んだ。

 

 

「ライフ…邪魔をするな」

 

 

『話を聞いてください。彼は我々にとって有益な情報を持っているかもしれません。彼の【透明化】…心当たりがありますよね?』

 

 

「カラクリに気づいてたのか?優秀なゴーストだな」

 

 

『…あまり私をゴーストと呼ばないでください』

 

 

「理由があるみたいだな。分かった。悪かったよ」

 

 

「【透明化】はハンターの能力だ…まさかとは思うが…」

 

 

透明化は、ハンターの特殊能力のうちメジャーなものの1つだった。実際、奇襲作戦には、レーダーにも視覚にもほとんど映らなくなるこの能力が欠かせなかったのだ。しかし、もちろんこれは【ガーディアンの能力だ】。つまり…

 

 

「ご名答!…と、言えれば良かったんだが…」

 

 

「残念だが、俺は光を取り戻したワケじゃないんだ。…コイツを見てくれ」

 

 

そう言うと、彼は自らの腹部を露わにした。そこには、ダークグリーンの金属板に食い込むようにして、青白い光を放つ球形の機械が埋め込まれていた。

 

 

『これは…まさか』

 

 

「俺が君達を【同志】と言った理由はもう1つあった、ということさ。お察しの通り、コイツは俺が生まれ持ったパーツじゃない…フォールン由来だ」

 

 

「お前…」

 

 

「…おいおい、アンタ自分のこと鏡で見たことあるのか?俺なんかよりよっぽど改造されてるじゃないか。人のこと言える立場じゃないだろう」

 

 

『どこで、どうやってこれを手に入れたのですか?』

 

 

「…いいだろう。隠し事はナシだ。だが、長くなるぞ」

 

 

「俺はあの時…シティが落ち、光を失ったあの日、俺達ガーディアンは生きるべきだと…何があっても生き残るべきだと、そう確信した」

 

 

「俺のゴーストも同じ意見だった。いつかまた、ガーディアンの役目を果たすため、どんなにみっともなくても生き残ると、そう決めた」

 

 

「問題はここからだ。俺達は雨の山中を、カバルのクソ犬達に追われながら走っていた。だが…運悪く俺達は、逃げた先でフォールンの哨戒部隊にも出会ってしまった」

 

 

「そこからはもうめちゃくちゃだ。フォールンに襲われ、犬に追い立てられ、雨と土砂に身を隠してなんとか逃げおおせたが…フォールンはバカじゃなかった」

 

 

「バンダルの1体が、めざとく俺に発信機をつけていやがった。そいつは功績を独り占めしたかったんだろうな…1体だけで、隠れていた俺達に襲いかかり…俺のどてっ腹を、ご自慢のブレードで貫きやがった」

 

 

「だが、そのブレードが俺の下にあった木の根まで切り裂いたのが、ヤツの運の尽きだった!支えを失った木がヤツに向かって倒れ、ドロドロになった土砂の中でアイツは息絶えた…」

 

 

「俺のゴーストはそいつをスキャンして、こう言った。『透明化できるようになる』…もちろん俺はそのうまい話に飛びついた!身を隠すにも、攻撃するにも透明化はこれ以上ないくらい最適だったんだ」

 

 

「俺はゴーストに頼まれてしばらくスリープ状態に入り、目が覚めると、俺の腹の傷にはすっぽりとこの…妙な機械が埋め込まれていた」

 

 

「そして俺は腕に刻まれたメモを見つけた。それはこの機械の使い方と、『いつでも一緒』のメッセージ。送り元はハッキリしている。つまりはそういうことだ」

 

 

『それは…つまり、あなたのゴーストが、あなたの腹部にフォールンの透明化する機械を接続し、自身さえもそのパーツとして組み込んだ、と…』

 

 

「そういうことだ。どうやらこの機械は、俺と相性が悪かったらしい。拒否反応を示したもんで、慌てて自分をバイパスに使って安定させたんだとよ…情報は、頭に流れてくるんだ」

 

 

『………』

 

 

ライフがうつむく。少しの静寂が流れた。

 

 

「話は終わりか…事情は分かった。その透明化能力の由来も、俺達には使えそうにないことも」

 

 

「ああ。提案があるんだ…俺を仲間として連れて行ってくれないか?」

 

 

「断る」

 

 

『ですが!』

 

 

「これが軍隊ならいい。強力な指導者と規律のもとで、大多数のうちの1人としてコイツと共に動くなら、俺は何の疑問も抱かなかった…だが、ペアになるなら話は別だ」

 

 

「ここには規則もない。指導者もいない。俺にコイツのお守りをしろって言うのか?」

 

 

「何言ってる。俺はアンタとペアになるつもりは無いぞ!単なる協力者として…」

 

 

「二人ならペアも協力者も同義だ。二人いるということは、俺達は単独行動の利点を失うことにもなる」

 

 

『ゾンビさん…私は彼の同行に賛成です』

 

 

「…お前はいつも俺の意見には反対するんだ」

 

 

『いつも最後はあなたの意見になるじゃないですか!私はいつでもあなたのためを思って言っているのに…言い方は悪いですが、彼は私にとっても貴重な資料です。それに、あなただって…フォールンの装備を身体の一部としたことで、今後どんな影響が出るか分かりません。私は戦えませんが、彼ならば…』

 

 

「ハンドキャノンの扱いは得意だ。ハンターらしいだろ?それともクルーシブルが好きなら、ごろごろ転がってショットガンを撃ってる方がイメージが強いか?」

 

 

「お前をショルダータックルで潰してやりたいよ。…ハァ…分かった。とりあえず、同行ならいいだろう」

 

 

「おお、やったぜ!」

 

 

「だが、あくまで同行者だ。お互いに過度な干渉はしない。俺が話しかけるなと言ったら話しかけないでくれ。俺からは話しかけないだろうが」

 

 

「おう、了解した。過度な干渉はナシだ」

 

 

「…分かっているのか?」

 

 

「もちろん!」

 

 

不安だ。

 

 



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レベル9.奇襲はお任せ

思い知ったことがひとつ。キャラクターを魅力的に書くのがめちゃくちゃ難しいです…




 

 

結局のところ、ザナリー3の同行は俺にとって大きなストレスとなった。

戦闘となれば、確かにヤツはそれなりに戦ってみせた。特にハンドキャノンの扱いについては、確かに言うだけはある、というのが俺とライフの評価だ。しかし、たとえ戦闘中であっても、ヤツの軽口は留まるところを知らなかった。いい加減腹に据えかねて文句をいえば…

 

 

「おっと、すまない。独り言のボリュームを下げるよ」

 

 

この一点張り。どうやらヤツにとって【軽口】と【独り言】は同義らしい。そして何より腹が立つのは…

 

 

『それで…あなたのゴーストは、光について何か知っていましたか?』

 

 

「知ってたらこんなことにはなってないな。だがあくまで噂話だが…歴戦のゴーストの中には、とんでもなく遠くの光も感知できるヤツもいたそうだぞ?」

 

 

『興味深い…今の私にはとても…無理でしょう』

 

 

「ああ。暗黒のさらに奥…光が微塵も入らない深淵。まるでハイヴの王座のような所…そこで、ガーディアンと共に厳しい戦いを乗り越えたゴーストは、少しの光も見逃さないように進化する…そういう、噂だ。ハハ」

 

 

『なるほど』

 

 

これだ。何故だか知らんが、ライフとこの…いまいましいアンドロイドが、楽しげに会話をしていやがる。

 

 

「ライフ、そろそろ目的地に着く。無駄話はやめろ」

 

 

『ですが興味深い話です。今後の参考にも』

 

 

「ライフ」

 

 

『…はあ、もう…ここはフォールンのキャンプ跡地です。一見すれば単なる洞窟ですがね…さてと。フォールンの場合はここに…』

 

 

ライフが壁に取り付けられた小さな端末を操作する。しばらくして、洞窟の奥で大きな音がした。

 

 

『OK。セキュリティをシャットダウンして、ついでにシャッターを開きました。進みましょう』

 

 

「アンタのゴースト…や、ライフ君だったか。とにかくアイツは優秀だな」

 

 

「………」

 

 

「…アンタも元気そうだ。さて、進もう」

 

 

ザナリー3が俺に向けてくいっと手首をひねり、奥へ進むよう促してくる。

 

 

「フン…」

 

 

『…武器は構えておいて下さい。ここはデータによれば廃棄された場所ではありますが、フォールンが全くいないとは限りません』

 

 

「ああ、そうだな。少し見てくるよ」

 

 

ザナリー3は腰のあたりに手をかけて数秒じっとすると、音もなく透明化した。

 

 

「どう?見えてない?」

 

 

「行くなら早く行け」

 

 

「おっと、そうだったな」

 

 

そう言うと、彼は足跡も残さず奥へと進んで行った。ほとんど見えていないので予測ではあるが。

 

 

少しの静寂が流れた。俺とライフだけでいるのも、誰も喋らないことも、ずいぶん久しぶりのように思えた。

 

 

『…ゾンビさん』

 

 

ライフが俺に語りかける。

 

 

「なんだ」

 

 

『ザナリー3のことです。彼は…』

 

 

思った通り…ザナリーの話だった。

 

 

「分かってる。ヤツが悪いんじゃないことぐらいはな…だが無理だ」

 

 

『…一時的とはいえ協力者です。生存率を上げるためにも、いがみ合うべきではありません。それに』

 

 

「アイツは優秀だ。使える…そう言いたいんだろう」

 

 

『…ええ。よく分かりましたね』

 

 

「お前と何年一緒にいると思ってる。俺はハイヴの王座に突入したチームの一員ではなかったが、立派にシティを守ってきた1人だ…お前とともに」

 

 

『…ガーディアンとしての誇りですか?あなたはもう、ガーディアンではない…そう言ったのはあなただ』

 

 

「誇りなんかじゃない…これは郷愁だ。俺は元ガーディアンとしての記憶と、そしてこれからフォールン混じりの【なにか】としての生と、付き合っていかなきゃならない」

 

 

「いがみ合っていてはいけない…それは、自分自身ともだ…」

 

 

『…変わりましたね。ザナリー3のおかげですか?』

 

 

「いや…どちらかと言えば、あのフォールンのおかげだ。俺の肩に刃を突き立てた…」

 

 

ーーーオレ達の、【なりそこない】かーーー

 

 

『あのキャプテンですか?確かに腕は接続しましたが…』

 

 

「…いや、アレはアイツにとって…むしろ俺以外の全てにとっても、何気ない一言だったんだろう。しかし…」

 

 

「考えれば考えるほど、俺は【なりそこない】という言葉がいやにしっくりくるんだよ」

 

 

「ガーディアンではない。かといって、いくら装備を盗んでも、腕を取り替えても、身体にエーテルが流れても、俺はフォールンじゃない…フォールンにすらなれない」

 

 

「だから俺は、【なにかのなりそこない】だ。人間でも死者でもない、死人のなりそこないのゾンビって名前にもぴったりだ。どうだ?」

 

 

「ハハ…俺はいいと思うぜ?」

 

 

「…ザナリー。いつからいた」

 

 

「ついさっきだ。アンタが、ライフ君に俺との関係について諭されてたあたりかな」

 

 

『ほぼ全部聞かれてましたね』

 

 

「全く…いいかザナリー。お前には関係のない話だ。奥の様子を見てきたのなら報告しろ」

 

 

「もちろんです。仰せのままに…なんてな。フォールンはいたが、バンダルが1体と、ドレッグが数体いただけだ。紋章もつけてない。ハウスを追い出されたんだろうな」

 

 

「アンタの生命に関わるエーテルも、大した量はないだろうな。襲う価値はあるのか?」

 

 

「確実に勝てる戦いを積み上げていくのも戦略だ。フォールンの数は減り、俺達は戦闘の経験値を得る…エーテルはその副産物としてあればいい」

 

 

「フーン…よく分からないが、襲うんだな?だったら任せとけよ!奇襲はハンターの十八番だぜ?」

 

 

「何をするつもりだ」

 

 

「分かっちゃつまらないじゃないか!いいから見てろって…3分後に歩いて入ってきな」

 

 

「あ、おい!」

 

 

「いいからいいから!」

 

 

言うや否や、ザナリー3は透明化して奥へと走っていってしまった…

 

 

「…これでも仲良くしろって言うのか?」

 

 

『…今回の戦闘の結果次第では、意見を変えるかもしれませんね』

 

 

「………」

 

 

…………………

 

 

『3分です。頃合でしょう』

 

 

「ああ。行こう」

 

 

洞窟には電気が通っていた。足元のライトを頼りに進む。

 

 

『…これは』

 

 

「なるほどな」

 

 

しばらく歩くと、やかましいブシューッという音と、人工物のゲートに開いたフェンス、そしてそこからもうもうと立ちこめる白い蒸気が俺たちを迎えた。手を伸ばせば、肘から先がぼやけて見えなくなるほどの濃さだ。

 

 

「奇襲は得意って言ったろ〜!?うわっ、何しやがる!すまん、手伝ってくれ!」

 

 

「ライフ、どうだ?」

 

 

『私としては…協力者でありたいですね』

 

 

「そうか…まあ、いいだろう」

 

 

新しく備えた右腕を構える。ライフが敵の位置を教えてくれる。

 

 

「4体か。いや…」

 

 

「ちくしょう、このっ!…ハッハー!見たか!」

 

 

「…3体だな」

 

 

『正面、3歩の距離です』

 

 

右腕で頭を掴み、そのまま地面に叩きつける。

 

 

『続いて10時の方向。向かってきます』

 

 

「流石に場所くらいは分かるんだろうな」

 

 

左腕を2度握る。バシュン、という音とともに、アークエネルギーの塊は蒸気を切り裂いてドレッグを吹き飛ばした。

 

 

『威力の調整も良好ですね。エーテル損失も軽微…やはり威力を切り替え式にするのは良い選択だったと思います』

 

 

「片付いたか?」

 

 

『ええ。もう大丈夫…いや、ちょっと待ってください…まさか!』

 

 

「どうし…」

 

 

『っ危ない!後ろです!』

 

 

「おっと、お疲れさん!」

 

 

「っ!」

 

 

振り向くと、俺を睨んだまま動かなくなったバンダルと、そいつの首にナイフを突き立てたザナリー3の姿があった。

 

 

「…透明化したバンダル…レーダーに映らないハズだ」

 

 

『すみません。バンダルがいた時点で警戒するべきでした…』

 

 

「いや、いい。俺も忘れていた」

 

 

「…なあ、命の恩人である俺になにか一言は?」

 

 

「………」

 

 

『すみません。助かりました…彼に代わってお礼を』

 

 

「ハハ…まあいいさ。口下手なのは知ってる」

 

 

「今回は水がたんまり溜まってるタンクを近くに見つけたんで、コイルをいくつか作ってくっつけて、無理矢理高圧の電流を流して熱で中から爆発させてやったんだ。蒸気でニンポーエンマクのジュツ、なんてな…」

 

 

そう言うと、ザナリー3は蒸気の奥に歩いていった。かと思えば、少しして大声で話し始めた。

 

 

「なあ、もうこの蒸気止めていいか!?錆びちまう!」

 

 

「…エクソが錆びるわけないだろう!いいから早く止めろ!」

 

 

「…おっ、了解〜!」

 

 

キュッ、キュッ、という金属とゴム質が擦れる音。

 

 

『バルブを閉めているのでしょうか?でも何故…』

 

 

「…あ〜クソ!やっぱり無理か!このっ!」

 

 

ガンッ、ドガンッ、という強い金属音。

 

 

「バルブは諦めたらしい」

 

 

「う〜ん…あ、そうだ」

 

 

ガコォン、という響くような、重い音が聞こえたかと思うと、少しずつ霧が晴れていくのが分かった。

 

 

「…ハハ、まあどうやったって結果は同じだ」

 

 

『…これは…』

 

 

「………」

 

 

そこには、ぐしゃぐしゃに潰されたタンクと電線にコイル、そしてその上に、無造作に叩きつけられた大きな岩…

 

 

「…お前、詰めが甘いと言われたことはあるか?」

 

 

「1度や2度じゃないな。いつも言われてたぜ」

 

 

「…今後、お前に作戦がある時は…必ずその内容と、どう収拾をつけるかを必ず俺とライフに伝えてからだ。お前が独断専行したと判断すれば撃つ」

 

 

「そりゃ…ひどいな?」

 

 

「当然の措置だ。お前は奇襲することに関しては確かに優秀かもしれんが、それだけでは足りない」

 

 

「…わ、分かったよ。俺が何か思いついたら、アンタかライフ君に必ず相談する。それでいいんだろ?」

 

 

「ああ。それでいい…盗るもの盗ってさっさと行くぞ」

 

 

「ああ、了解。と言っても俺は単なる荷物持ちだがな…ん?」

 

 

「…なあ、もしかして今、俺が優秀だって言ってた?しかも今のって俺と協力して動いてくれるってこと!?」

 

 

「いいから黙って選別しろ!」

 

 

「なあ、教えてくれよ!それかもう1回言ってくれ!なあ頼むよ〜!」

 

 

「うるさい!お友達になった覚えはないぞ!」

 

 

「ハハ…否定はしないと。いいね!そう来なくちゃ!」

 

 

『…結果オーライですかね?あ、そのパーツは捨てないでそこに…ああっ、それは違います!あーっ投げ捨てないで!』

 

 

 





相変わらず、評価や感想大歓迎です。ここがおかしい、みたいな意見もけっこう参考になります。


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レベル10.暗雲:前編



なんか閲覧数がめちゃくちゃ増えてると思ったら、この作品がランキングに載ってたんだそうです。…ふーん…ランキング…ランキングぅ!?

ということで、日刊ランキングの20ちょい位ぐらいになってました!

Destinyが好きなだけで始めたこの小説がまだ続けられているのも、ひとえに皆さんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。

これからもお付き合いいただければ幸いです!




 

 

 

 

…明晰夢だ。最近は見なかったのだが…

 

 

「立派な右腕だな…同志よ」

 

 

目の前に佇むソイツは、マントを愛おしそうに撫でながら俺に語りかける。

 

 

「………」

 

 

「オマエは、自分がフォールンじゃないという」

 

 

「ああ。そうだ」

 

 

「だが、ガーディアンでもない」

 

 

「…そうだ」

 

 

「だったら、オマエは【何】だ?」

 

 

「…中途半端なのは百も承知だ。だが俺は何者でもない」

 

 

「本当に、ソレが許されると?」

 

 

「オマエは…オマエ達は…いや、【オレ達】は、孤独ではいられない」

 

 

「生まれた瞬間から…必ず、何かのグループに属することになる…それは、ハウス、バンガード…人間、エクソ、ハイヴ…エリクスニー…カバル…なんでもだ」

 

 

「種族…社会…何でもいい。自分達の枠組みに属さない存在は、【俺達じゃないもの】は…【敵】になりうる。そう、みなされる」

 

 

「………」

 

 

「オマエは、もはや人間かどうかも疑わしいオマエは、それでも人間を守るために戦うのか?光を失い、今や人間よりフォールンに近い…今のオマエは必ず排斥される。オマエの背中には、もはやオマエを信じ、守られる市民はいない」

 

 

「それは違う」

 

 

ガーディアンがガーディアン足るために必要なのは光と強い決意だ。市民とトラベラーを守るための力…そこに、市民の支持は関係ない。

 

 

「ガーディアンは市民を守る存在だ。それは市民に望まれるからじゃない…力があるからだ。トラベラーの力により、力を得たからだ。力には責任が伴う…その力を向ける方を間違えないために」

 

 

「グ…ハハ…グハハハハ!ハハハハハァ!」

 

 

何が面白いのかヤツは目を細め、口元をゆがめる。

 

 

「ハハハ…チカラ、セキニン…?…そんなものどこにある」

 

 

「一体、誰に言われた?『オマエにはチカラがある』だと?『チカラにはセキニンがともなう』だと?実に…バカバカしい!」

 

 

ヤツは地面を強く踏みつけた。ガシャン、と装飾品が揺れ、ぶつかる音が響く。

 

 

「弱者はなぜ弱者であるのか!強者はなぜ強者と呼ばれるのか!」

 

 

「そんなものはダレも知らない!強い、弱い…そんなものは下らないと、皆知っているからだ!強弱の定義などという曖昧なものを知る意味など無いからだ!」

 

 

「…フォールンはいつでも純粋だ…力とは相手を打ち倒すもののことだと、誰もが信じている。銃でうち抜けば、バロンも、アルコンも…ケルも、ガーディアンでさえも!皆カンタンに死ぬ。そのことを知らないフォールンなどいない…そこに、強いも弱いもない」

 

 

「いい加減にしろ…話が読めない。一体、俺に何を伝えたいんだ」

 

 

「…今のオマエには分かるまい…オレはオマエだが、オマエはオレじゃない…だが、オレ達になりつつある」

 

 

「また会おう。同志よ…今度はオマエが【何】になるのか、楽しみにしている」

 

 

「…何だってんだ…」

 

 

ヤツは背を向け、俺の意識は覚醒していく…

 

 

………………

 

 

 

「風が強くなってきた…雲行きも怪しい。朝は雲ひとつなく晴れていたんだがな…おい、いい加減荷物整理は済んだか?さっさと行くぞ」

 

 

あの洞窟でフォールンのキャンプをめちゃくちゃに(主にアイツのせいで)した後、俺とザナリー3は数日かけてヨーロッパ・デッドゾーンを回り、十分に戦えるだけの資材をかき集めていた。

 

 

「もうちょっと待ってくれ!くそ、片付けってのはどうしてこう…うーんこれ以上手には持てないな。もう弾薬はバックパックに全部入れちまうか!まあ敵を倒せば、その残骸からライフ君が精製してくれるワケだし、弾薬についてはそこまで気にしなくていいのか?」

 

 

「…俺達は別行動することもある。お前のそばに常にライフがいるとは限らないぞ」

 

 

『エーテルは予備タンク含め、いくつかストックもできました。最大出力のパルスキャノンをやたらに撃ったりしなければ、エーテル切れはあまり心配になりません』

 

 

「ついでにプラスチール材から作った新しい防具もバッチリ!…まあ、光はないけどな」

 

 

『…ああ、それと、フォールン・キャプテンの装備をサルベージしたものから、アークエネルギーのシールドを発生させることに成功しました。腰ベルトの右側に発生スイッチがあります』

 

 

「これか。いいな」

 

 

カチッという音が鳴ったかと思えば、俺の身体は淡い水色のエネルギーで覆われていた。キャプテンやバロン達がこぞって愛用するシールドとほぼ同じものだ。

 

 

『エーテルの消費はダメージに比例して増えていきます。また、短時間にキャパシティを超えるようなダメージを受ければシールドは消失します。その場合、リチャージにはしばらく時間が必要です』

 

 

「さらっとすごいことをしてるな!なあライフ君、俺にもソレ装備できないか?」

 

 

『身体中にエーテルを通せば可能です』

 

 

「残念。遠慮しとくぜ」

 

 

「エーテルも悪くないものだぞ。頭が冴えるし身体もすこぶる調子がいい…いや、最近背骨が痛むか」

 

 

『背骨、ですか?』

 

 

「ああ。…いい機会だ。ライフ、俺の身体をスキャンしてみてくれ。寝て起きた時に特に痛むんだ」

 

 

『了解しました。じっとしていて下さい…』

 

 

「何だってんだ?スキャン?ゴーストにそんな機能あったか…?」

 

 

『ゴーストは、ガーディアンを常にすぐそばでバックアップするためにあります。そのための機能のひとつです…スキャン終了。これは…?』

 

 

「どうした?」

 

 

『ゾンビさんの身体が…以前に比べ肥大化しています。いや、これは…まさか成長?』

 

 

「オイオイどういうことだ?ガーディアンは死体が光で動いてるだけなんだろ?死体が成長なんかするかよ!それとも何か?ライフ君。君のカメラアイには…まさかコイツが、まだ背が伸びるような健全な青少年に見えるってのか!?」

 

 

「カメラのホコリを払ってよく見てみろ!顔だっていっつも難しい顔してるからこんなにシワが寄って固まっ…」

 

 

「………」

 

 

「…顔が変なマスクでよく見えねえ!前から気になってたけど一体何だコレ!?」

 

 

「いい加減に黙れ。このポンコツめが…このマスクはエーテルを身体に供給してるだけだ」

 

 

「そうだったのか…ん?」

 

 

『どうしましたか?』

 

 

「エーテル…肥大化…これは…つまり…もしかして、俺は素晴らしくアタマがいいんじゃないか…?」

 

 

「何の話だ。さっさと言え」

 

 

「おうおう、求めに応じて不肖ながら答えて差し上げてやろう…この現象の原因はズバリ、アンタがフォールンのキャプテンになったということだ!!」

 

 

「………」

 

 

「……えっ…と、つまりだな。身体が、大きくなっただろ?フォールンの中で身体が大きいのは…その、キャプテンだから…」

 

 

「………」

 

 

「…うん、そういうことなんだ。つまりアンタはキャプテンなんだよ!」

 

 

「バカにしているんだな?そういうことだな…?…覚悟は出来てるんだろうな!」

 

 

ザナリー3の胸ぐらを掴み、引っ張り上げる。ザナリーの足は宙に浮いてバタバタと動いている。

 

 

「ちょちょちょ、待ってくれ!頼むよ待ってくれぇ!おいライフ君、見てないで助けてくれ!」

 

 

ザナリーの口腔がパカパカと開閉し、ライムグリーンの光が点滅している。エクソの中には喋ると口元が光るタイプがいるのだが、今かなり焦っている彼もその1人だったようだ。

 

 

『…ゾンビさん、折檻は少し待ってください』

 

 

「おお、ありがとう助かるぜ〜!…ん?…少し…?」

 

 

「なぜ止めた。今の俺ならなんの問題もなくコイツをぐしゃぐしゃにしてやれる」

 

 

『あなたがフォールン・キャプテンになった…という話は全く見当違いと言わざるを得ませんが、彼の着眼点は私の仮説にかなり近いです』

 

 

「つまり?」

 

 

『これは…いえ、これもエーテルの影響だと思います』

 

 






張り切って書いたら長くなったので前後編です。
一度に読むには長すぎたので分けたのですが、分けたら分けたでちょっと短い微妙な文字数になってしまったので、また加筆することになりました。なんだか本末転倒感。


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レベル10.暗雲:後編

 

 

 

 

「…俺の身体にエーテルが流れているから、身体が肥大化していると?」

 

 

『ええ。ご存知の通り、フォールンは厳格な階級社会…階級によってエーテルの供給量が決まります。そして、上位の個体ほどエーテル供給量は多く、また身体も大きい…』

 

 

「俺、エルダーズプリズンを見学した時に見たぜ!冷凍保存されてたが、バロンの1体にめちゃくちゃデカいのがいた!ドレッグの3倍はあったね」

 

 

『エーテル供給量の多い個体が大きくなるのは、エーテルの作用による最適化だと考えられています。ドレッグなどはエーテルを温存するために小さなままですが、キャプテンやバロン、アルコン達は十分な量のエーテルを得られる分、消費が大きくても問題ない』

 

 

「…俺が、エーテル供給量の多いキャプテンのようになりつつあると?」

 

 

『端的には、そうなります』

 

 

「下らん仮説だ…とは言い切れないな。しかし、俺がフォールンに近づきつつあるということになる…だが認めたくはないが、ほかに原因も思いつかん」

 

 

「良いことじゃないか」

 

 

「なんだと?」

 

 

「ライフ君、コイツの身体が大きくなると、何が良くて何がまずいんだ?」

 

 

『戦闘力としては向上します。ゾンビさんは正面から打ち倒す戦術を取りますから、筋力や骨格は大きい方が有利です。デメリットとしては隠密が大の苦手になりますが、どうせやらないので関係ありませんね』

 

 

「おい、俺は1度フォールンの斥候を上から奇襲してやったんだぞ」

 

 

『ですがあれ以来1度もやっていません。奇襲や隠密はザナリー3に任せて口にも出さない』

 

 

「…適材適所だ」

 

 

『ではあなたは正面戦闘に適していますので、幸いにもそれに特化することになりましたね。ほかのデメリットですが、エーテルの燃費が少し悪くなるのと…【外見が人間離れします】』

 

 

「フォールンの腕をつないでるんだ。今更じゃないか?ハハ」

 

 

「…フォールンの腕は、あくまで【つないでいるだけだ】…身体が根本的に変わった訳じゃなかった…機械をつないだのも、効率や必要に迫られてだ…しかし…」

 

 

『もしこのまま成長が続けば、残念ですが…人前に出ることは難しくなるでしょう。あなたに害意はなくとも、ほかの人間にとっては脅威と捉えられるでしょうね』

 

 

「………俺は、フォールンじゃない」

 

 

『ええ。それは確かで…「俺は、ガーディアンでもない」』

 

 

『………ゾンビさん…?』

 

 

「…俺は…人間でもなくなる…?」

 

 

『………』

 

 

「俺は…俺は、【何】になるんだ…?俺は…オレは…」

 

 

『あなたは、ガーディアンとして死んだまま生きる者、ゾンビです…私とあなたでそう決めました。これは前も言いました』

 

 

「…ああ、ゾンビ…そうだったな…俺はゾンビ…だがゾンビは人間がなるものだ…人間ですら無くなれば、俺は何になればいい?」

 

 

『ゾンビさん、落ち着いて下さい!あなたは【何でもない何か】のまま生きるとも言っていました!あなたはフォールンではありません!』

 

 

「そんなことは分かっている!」

 

 

思わずマスクを引き剥がし、地面に叩きつける。硬質な金属音とともにマスクが跳ねた。

 

 

「おっと、危ねぇ…なあダンナ、アンタ難しく考え過ぎなんじゃないのか?俺とアンタと、フォールン混じりで似たもの同士だ。これからのことは寝ながらでも考えてさ、仲良くやろうぜ?」

 

 

「似たもの同士、だと…?」

 

 

「お前に…エーテルも流れていない…身体にフォールンの機械をくっつけただけのお前に!俺の何が分かるっていうんだ!!」

 

 

「【ゴーストさえいないお前に】!!」

 

 

近くにあったラジオまでも蹴りつける。腹の底から湧き上がってくる激情に、身体の抑えが効かなくなってきていた。ラジオから音が漏れる。

 

 

《ザーーーー…ザザ…ーーーーガガ…》

 

 

「…ゴーストの話をするなよ…【お前に俺の何が分かる】だって…?」

 

 

「そりゃコッチのセリフだぜ…なあ、アンタに…」

 

 

「ゴーストが生きてて、甲斐甲斐しく付き従ってるアンタに!ゴーストのいない俺の気持ちが分かってたまるかよ!!」

 

 

《ザー…ビビ…ビ…ーーーーぐ…》

 

 

既に空は暗雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降り始めていた。

 

 

《…生き残っ…ザ…ガーディアンに告ぐ…ガガ…衛星…タイタンに集結…よ!…繰り返す…ザ…ザザー》

 

 

「…それは…」

 

 

「…もういい。終わりにしよう」

 

 

「…ザナリー」

 

 

「気安く呼ぶんじゃねえ!俺の名前はザナリー3…俺のゴーストが、名前も忘れちまった俺につけた名前だ…アンタみたいな甘ったれた野郎に呼ばれたくない」

 

 

「…なあ、俺はアンタのこと、嫌いじゃなかったんだ…希望だった。光を失っても、グチャグチャになりながらフォールンを倒してるのを見て…俺はもう1度戦おうと思った。アンタと一緒にいたら、フォールンにも勝てると思った」

 

 

「………」

 

 

「…それだけだ。じゃあな。今までムリヤリついていって悪かったな…そこで固まってるヤツも元気でな」

 

 

『…ザナリー3…私は…』

 

 

「何も言うな。自分の命は大事にしろよ」

 

 

そう言うと、ザナリー3はゆっくりと歩き出した。振り返らず、かといって急ぎもしない。もはや未練などない…お前達のことなど気にも留めない。そう主張するように。それを見せつけるように…俺の目にはそれが、ヤツなりの決別の仕方なのだと感じられた。

 

 

《ザー…現在生き残っ…る、全ガー…に告ぐ。衛星タイタンに…せよ。繰り返…》

 

 

ザナリーを呆然と見送ったまましばらく立ち尽くしていると、雨が本格的に降り始めた。

 

 

『…行きましょう。せめて雨をしのげる場所へ…これからのことは、そこで腰を落ち着けてから考えましょう』

 

 

「…やかましいラジオだ。…ザヴァラ。生きていたんだな…衛星タイタンに集結しろ、だとさ…生き残ったガーディアンには光も船もないだろうに、無茶な要求だ。本当に行くやつなんかいるのか?バカげてる」

 

 

『ゾンビさん、今はそれどころでは…』

 

 

「バカげてるといえば、あのポンコツもそうだ。俺を何だと思ってやがる…万能の願望器か?望むままの、ヒーローみたいな姿でいろって?…バカめ、荷物も置いたまま行きやがって…」

 

 

バックパックを持ち上げる。

 

 

『あ、それは…』

 

 

ザナリー3が携帯していたのは、ナイフと1マガジン分だけ弾のこもったハンドキャノンだけだった。

 

 

『…ここはフォールンの勢力圏です…放っておけば、フォールンの物量に押されて死んでしまいます…ゾンビさん』

 

 

「ライフ。お前も、俺に望むのか?」

 

 

『…もちろん。あなたは、使命を果たすために私が選んだガーディアンでしたから…働いてもらいますよ』

 

 

「………」

 

 

『行きましょう。彼の行先は分かっています』

 

 

『ヨーロッパ・デッドゾーンの入口…トロストランド。そこへ向かいましょう』

 

 

「………」

 

 

落ちたマスクをつかみ、無言のまま歩き出す。雨に濡れても、もはやまばたきすら必要なくなった。身体は常に人間から離れていっている…俺は、【何】になるのか。そのことを考えている暇は、今はなかった。

 

 





ゾンビくんのアンデンティティはガバガバ

相変わらず誤字脱字のご指摘、ご感想やご意見もお待ちしております。


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レベル11.人間



最近ネタ切れ気味なので、またしばらく間が空くかもしれません。失踪する時は宣言するので、とりあえずは気長に待って下さるとありがたいです。




 

 

 

 

「ああ…鬱陶しい」

 

 

本格的に降り始める雨。ぬかるみにくるぶしまで浸かりながら歩くのに辟易する。

 

 

『そろそろ人間の建物が見えてくるはずです。ザナリー3も雨宿りはするでしょう…もしかしたらそこに居るかも。そこで説得しましょう』

 

 

「俺はあいつに忘れ物を渡しに行くだけだ」

 

 

『…そうですか』

 

 

「クソ…背中が痛い…人間離れだと?そんな生易しいものじゃない…俺の身体はフォールンになろうとしている」

 

 

『あなたはフォールンじゃありません!』

 

 

「だったら俺は【何】だ!」

 

 

『それは…っ!敵です!これは…フォールンではない!まさかカバル!?』

 

 

「何だと!?」

 

 

カバル。気の遠くなるような宇宙の果て、別の銀河から来た侵略者。圧倒的な体躯、重厚な武装の数々。そして…

 

 

「俺達から光を奪った張本人…」

 

 

『危険です。すぐに離れましょう』

 

 

「…いや、もう間に合わん」

 

 

崩れかけた二階建ての家屋。その上で、小さな人影がこちらを見つめていた。

 

 

「サイオン…カバルに隷属した知性体…ヤツらは目がいい。俺達は見つかったらしい」

 

 

『…では、建物のある方へ牽制しながら逃げましょう。隠れる所は多い方がいい』

 

 

「そうだな…行くぞ」

 

 

装備を確認する。機械の左腕、左脚。そしてフォールンの右腕。前よりもたくましくなったか?

 

 

『パルスキャノンは既にオンラインです。銃のリロードも済んでいます』

 

 

「3…2…」

 

 

サイオンがこちらを見るのをやめ、声を上げる。仲間に敵の存在を伝える合図だ。

 

 

「1…!」

 

 

『走って下さい!』

 

 

ライフの掛け声とともに建物に向かい走る。遠くから特徴的な機械の音が聞こえる。

 

 

「それなりに数はいるらしいな」

 

 

ジャンプして階段を上り、高所に向かう。立ち止まるワケにはいかない。牽制にパルスライフルを撃ちながら角を曲がり、敵の少ない方を目指す。

 

 

『遮蔽に入ったことでサイオンの目が離れました。あそこに逃げ込みましょう。』

 

 

「廃墟どころかほとんど埋まってるじゃないか」

 

 

『だからですよ。敵の目を欺けます…大丈夫、今のあなたなら怪我もしません』

 

 

「あまりいい感じはしないがな…」

 

 

実のところ、身体に起こった変化は肥大化だけではなかった。皮膚の硬質化もその1つである。

廃墟のとなった家の中を進み、ガレキをかき分けた中に身を隠す。

 

 

『身体は完全に隠れました。あとは静かにしていれば、諦めていなくなるでしょう』

 

 

「………」

 

 

何もせずじっとしていると、いらないことまで思考に入り込んでくる。俺は今までのことを思い出していた…

 

 

あの日、何事も無かったかのように目が覚めると、目の前に白色の角張った喋るロボットが浮いていた。ゴーストだ。俺は死んで、ガーディアンとして生き返ったと言う…俺はゴーストの導きに従い、たくさんの敵を倒し、たくさんの味方を守ってきた…あの日までは。

カバル。今でも鮮明に思い出せる。妙な機械がトラベラーに取り付き、俺達は光を失った。

 

 

俺達は逃げた。どこへともなく散り散りになった。また戦える日が来るのを待ちながら…俺は逃走に、旧ロシアの山を越えるルートを選び、そして…失敗した。

 

 

俺は生き延びるためにフォールンの力を使った。身体にはエーテルが流れ、俺は、そこに至ってやっと、自身がもはや光を失い、ガーディアンではなくなったことを自覚した。

 

 

さらに、俺は戦うためにフォールンの力を求めた代償を受けることになった。身体は醜く肥大化し、皮膚は岩のように硬くなり、手足は4本中3本が、すでに人間のものではない。

俺はもはや、到底人間とは呼べなくなっていた。

 

 

妙な夢を見ることは誰にも言っていない。ヤツの言うことは曖昧で、的を射ることがない。ただ、ヤツの姿がフォールンであることだけが、俺の心に引っかかっているのだが…アレは一体何なのだろうか?…

 

 

『…もう大丈夫です。出てきて下さい』

 

 

ライフによって思考がシャットアウトされる。深みにハマる所だっただけにありがたかった。

上に覆いかぶさったガレキを右手で押しのけ、立ち上がる。

 

 

「ライフ。次の目的地を教えてくれ」

 

 

『了解しました。ええと…』

 

 

「…?」

 

 

首元に違和感を覚える。左腕で触ると、水音と、やや粘着質な感触があった。虫でも潰していたかと左手を戻す。

 

 

「っ!」

 

 

左手は赤かった。ここで俺はようやく首から血を流していたことを知った。これは銃弾の跡だ。弾丸は貫通したらしく、反対側からも血とエーテルが流れ出ていた。咄嗟に物陰に身を隠す。

 

 

「血はまだ赤いんだな…ライフ。俺はどこからか撃たれたらしい。場所…を…」

 

 

気が遠のいていく…

 

 

『ゾンビさん?…っ!これは…!全身を撃たれています!まずい…治療しなければ…』

 

 

「その必要はない…首以外は麻酔銃だ。音は聞こえなかっただろう?俺特製のサイレンサーを使った。なに、この程度なら熊でも1日は生きているだろうさ。…こんな化け物なら1週間は耐えるんじゃないか?」

 

 

『誰です!?』

 

 

「俺か?俺はこの辺りに拠点を構えてる…デヴリムだ。ゴースト。お前には少し聞きたいことがある」

 

 

『あなたがやったのですね…!一体何故!』

 

 

「いいから、俺の質問に答えろ。それ以外は許さん」

 

 

デヴリムと名乗ったその男は、ゴーストを鷲掴みにした。

 

 

「ゴーストよ…まず聞こう。コレは何だ?」

 

 

暴れるゴーストを手で抑えながら話しかける。

 

 

『いいから早く私を離して下さい!治療しなくては…急がないと死んでしまう!』

 

 

ゴーストはその手からどうにか逃れようと、カチャカチャと音を立てもがく。

 

 

「ゴースト。お前の力では私の手からは逃れられん…いいから答えろ。【これ】は何だと聞いているんだ」

 

 

デヴリムはゴーストを両手で掴みながら、あごで地面に倒れるものを指した。

 

 

『…では約束してください。私が事実を話したらすぐに解放することを!』

 

 

「いいだろう…では、事実を全て話せ。【これ】は何だ?この人間のようなフォールンに、何故お前が付き従っていた?」

 

 

『訂正させて下さい。彼はフォールンではありません。彼は人間です…元ガーディアンの』

 

 

「ガーディアン?…はっ、光をなくしたから、今度はフォールンになって野盗の真似事でも起こそうとしたのか?」

 

 

「嘘をつくな。事実だけを話せ…ガーディアンは人間か、それに類する種族がなる。こんな大きさで外見の人間など見たことも聞いたこともない」

 

 

『嘘ではない!この私が、光を失い負傷した彼を改造したのです!彼が望み、そして私が応えた!彼がガーディアンであったことは否定させません!』

 

 

「…ふん。それで?【これ】がガーディアンだったとして、何故フォールンになっている?」

 

 

『フォールンではありません!…戦う力が必要だったからです。光がなくとも、彼は戦おうとしていたから、敵の装備を奪い、装備した!それ以上の意味などありません』

 

 

「あくまで、【これ】が人間だと、そう言うのか」

 

 

『…彼を【これ】と呼ばないでいただきたい…早く離して下さい。話すべきことは、これが全てです』

 

 

「…なるほどな。元ガーディアンが、光を失い、そして戦うためにフォールンの装備を使っている…」

 

 

『その通りです。だから…』

 

 

デヴリムは片側の口角を上げ、獰猛な笑みを見せた。

 

 

「全く信用できんな。では、コイツが今後、俺達人間に銃口を向け、フォールンの仲間にならない理由は?そもそも何故こんなに身体が大きい?お前は一体、コイツに何をした?」

 

 

『!?』

 

 

「フォールンがゴーストを捕え、改造し、実験体に付き従うように仕向けた…恐らくガーディアンを装い、油断させるためだろう。そう考えるのが自然だ」

 

 

「光を操る実験も兼ねていたかもしれんが、何せこのデカくて色々つながった身体だ。右腕なんか完全にフォールンじゃないか。こんなものすぐにバレるだろうに…もっと人間のことを研究すべきだったな」

 

 

「ゴースト。お前も機械のはしくれだ。故障ぐらいする…故障中に、お前が何をしたとしても…お前は悪くない。そうだろう?機械に詳しい仲間がいるんだ。そいつに見てもらおう」

 

 

『ま、待ってください!せめて彼の治療を!』

 

 

「ダメだ。コイツには色々吐いてもらうことがあるんだ…フォールンの基地や作戦、その内情をな」

 

 

「デヴリム。コイツはどこに置けばいいんだ?」

 

 

近くに控えていたらしい男が物陰から出てくる。

 

 

「奥地まで行かなくていい。教会の地下で十分だろう…ああ、大丈夫だ。かつてキャプテンを閉じ込めたが、奴が死ぬまで破れなかった頑丈な牢だからな」

 

 

『…エーテルが流れ出ている…!離して下さい!早く!』

 

 

「大人しくしていれば、手荒なことはしないさ。お前にはな…行くぞ」

 

 

『離して下さい!離して!…ゾンビさん!起きて下さい!』

 

 



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レベル12.白狼は獲物を逃がさない

遅れ…てない(当社比)。1週間なら遅れてはない…なくない?
すみません。お待たせしました。




 

 

「答え合わせをしようじゃないか」

 

 

もはや見慣れた風景。何をするでもなく、声の元へ顔を向ける。

 

 

「お前は一体誰だ?何が目的で俺の夢に入り込む?」

 

 

何度も繰り返された質問。はぐらかされることは分かり切っている。

 

 

「同志…そんなことは重要ではないのだ。オレはオマエだが、オマエはオレじゃない…」

 

 

「…そうやって俺をせせら笑って楽しいか」

 

 

「ああ。楽しいとも…これから、もっと楽しくなる…爪弾き者のエリクスニーもどき。ニンゲンもどき。ついに【仲間】に撃たれたな?」

 

 

「………」

 

 

意識を失う前。こちらに歩いてくる男を見た記憶がある。

 

 

「本当にあいつが撃ったのか?」

 

 

「ニンゲンが、オマエを敵とみなし、銃を撃ったのか、ということだな?…答えはすぐそこにある…また会える時を楽しみにしている」

 

 

含み笑いのような仕草を見せ、ヤツはこちらに背を向ける。話は終わった、ということだろう。

 

 

………………………

 

 

「答え合わせをしよう」

 

 

バシャ、という水音と、冷たい液体の感触に意識が必要以上に覚醒させられる。

髭面の壮年が、眉間に皺を寄せて立っていた。片手にバケツを持っていることからして、コイツが俺に水をかけたのだろう。

 

 

身体の状態を確認すると、俺は牢屋に入れられた上で、壁に何重にも巻かれた鎖で磔になっているようだった。

 

 

「…ひどいことをする」

 

 

文句を言うと、男はひどく驚いたようにしてみせた。あまりにわざとらしい挑発だ。

 

 

「ほう、人語を解すか…フォールンの技術力は流石に高いな。さあ、質問だ。お前はフォールンだ。そうだな?」

 

 

「…フォールンだと?」

 

 

「今更とぼけるなよ。無論お前のことだ。もはやお前に逃げ道も、弁護士を立て司法に訴える道もない。…司法は分かるか?それともフォールンに法はなかったか?」

 

 

「俺はフォールンじゃない!」

 

 

「その右腕がそう言ったか?それとも左腕か?左脚か?そうだ。その右脚はどこから手に入れた?」

 

 

「っ!!ぐ…っ」

 

 

大した言葉ではない。単なる挑発に過ぎない…そうやって自分に言い聞かせる。この男は何か致命的な勘違いをしているだけだ。

しかし…しかし、俺をフォールン呼ばわりしてはばからないのはやはり腹が立って仕方がない。

 

 

「ふん。フォールンの本能はやはり野蛮だな…さあ、吐いてもらうぞ。お前達の作戦から基地の資材まで全て!」

 

 

「…あの小うるさいロボットは結局大したことは何も吐かなかったからな」

 

 

「…なんだと?」

 

 

「あん?ああ…あのゴーストのことに反応したか。お前からしたら大事な作戦ツールだろうしな…気になるか?アレは今別のところにいる。次会うときはもう少し素直になってればいいがな」

 

 

「どういうことだ」

 

 

「おい、いちいち俺が説明しなきゃならんのか?なんて愚鈍なヤツだ…あのゴーストは俺の知り合いの元で改造を施すと言ったんだ。ちゃんとガーディアンの元で正しい行いの手伝いが出来るように直してやるのさ」

 

 

「改造だと!?」

 

 

怒りに任せて男を掴みあげてやろうとするが、鎖が派手な音を立てるだけで俺の行動は終わってしまった。

 

 

「おーおー…人間にこんなに敵意を向けやがって…やっぱりコイツはガーディアンじゃあないな。あのゴーストは嘘をつきやがったということだろう…」

 

 

「ここまで挑発しておいてよくも…!」

 

 

「フン。どうせお前に選択肢はない。情報は全て吐いてもらうし、ここから逃がすことは絶対に無い…なに、時間はまだまだある…今日はまだ顔合わせで済ませておく。今のうちに命乞いの言葉でも考えておくんだな」

 

 

男が踵を返す。

 

 

「っ待て!ゴーストを返せ!いや…返さなくていいから改造するのをやめさせろ!アイツは正常だ!」

 

 

「聞こえなかったか?お前に、選択肢は、無い。ゴーストをどうしようが俺の勝手だ。お前の運命を握っているのは俺だ。…これ以上の説明は必要か?」

 

 

「っ…この…」

 

 

「フン…馬鹿め…」

 

 

男は再び歩き出し、どこかへ消える。俺は黙って見ていることしかできなかった。

 

 

「クソ…あの野郎…俺をフォールンだと…本気で言っているのか?」

 

 

「…ゴースト…ライフ」

 

 

ゴーストが自ら名付けた名前をつぶやき、左腕を見つめる。

 

 

「チッ…」

 

 

機械の三本指。散々見て、無慈悲に破壊してきたフォールンのもの。最近サイズが合わなくなってきて、そろそろ替え時か、などと話していた…少なくとも人間のものではない。

 

 

人間とは何か…哲学をするつもりはない。俺が人間だと信じる限り、俺は人間であり続けるだろう。問題は、俺が、自分自身が人間であることを疑いはじめていることだ。

 

 

「………」

 

 

ライフは、常に俺の不安に注意を払ってきた。俺が疑心暗鬼に陥れば、すぐにそれを否定してきた。鬱陶しいと思っていたソレが、今になって俺を守るための行動であったと知る。

 

 

「…俺はあとどのくらい生きていられる?」

 

 

意識を現実に向ける。期待する返事はない。

エーテルが首元から流出していることは知っていた。思っていたより勢いよく流れ出ている上に、治療してくれる相手もいない。手足を縛られては、自分で処置することもできない。明日の朝には、もう俺は死んでいるのではないだろうか…あの男は俺を死ぬ寸前、もしかすれば死ぬまで追い詰めるつもりのようだ。

 

 

「ここまで依存していたとはな…情けないことに、俺はアイツなしでは少しの間も生きていられないらしい」

 

 

自嘲する。

 

 

「さて、それはどうかな」

 

 

「!?」

 

 

突然、牢内に見知らぬ声が響いた。

 

 

「誰だ?」

 

 

声のあった方を見れば、牢の向こうから1人の女性がこちらを見据えて歩いてきていた。シンプルに見えて複数の凹凸を含んだラインを施されたヘルメット。

膝までのびる藍色のコートが揺れ、腕に淡く光るリストバンドが見えた。

 

 

「…ガーディアン。それもウォーロックか」

 

 

ハッキリ言えば、ハンターより苦手な人種だ。やれ事実を超えた真実だの、真理だのを戦闘中であっても常に議論してる奴らは、ドーン・ウォードを張るのに必死なタイタンの目には単なるサボりにしか見えなかった。

 

 

「驚かせてしまってすまない。1つ伝えておきたいのは、私は君のゴーストの頼みでここにいることだ」

 

 

「ゴーストだと?」

 

 

「君のゴーストは優秀だな。ゴーストの出せる最大範囲の通信で、私達ガーディアンにオープンチャンネルで救援を求めた…咄嗟にな」

 

 

「そんな機能があったのか?」

 

 

「さあね。少なくとも私のゴーストはそんなことしない。ゴーストは突き詰めればただの人工知能…条件に対して一定のアンサーしか出さない。普通ゴーストはガーディアンの指示無しにルール違反のオープンチャンネルは使わないし、ここまで大げさに助けを求めるはずはないんだ」

 

 

「私がここにいるのは単なる興味だ。妙なアクションを起こしたゴーストと、そのマスターである君に対するね…」

 

 

「…それで、俺をどうするつもりだ。あの男のように尋問するか?」

 

 

「それには及ばない。私は真実を論ずる際には他人の言葉は用いるべきでないと考えるタイプでね。究極的に嘘を嘘と見抜くことはそもそも…」

 

 

「いいから、要点を話してくれ…」

 

 

ああ、ウンザリだ。ウォーロックは世の中で一番難しい言葉を使うヤツが一番賢いと思っていやがる!

 

 

「おっと、すまない…つまり、君を助けにきたのさ…ゴースト、仕事は終わったか?」

 

 

『あと3秒下さい…終わりました』

 

 

「よし。意外とセキュリティが固かったな…フォールン用と言われるだけある。さあ、あとはその鎖だが…」

 

 

『ハッキリ言えば無理です。少なくともここでは。破壊には専用の機械が必要です』

 

 

「コレもフォールン用ってワケだね。ふむ…どうしようか…ゴースト、鎖の組成は分析できるか?腐食から試してみよう」

 

 

「………それは、どのくらいかかる?」

 

 

「うん?そうだな…分析結果にもよるから適当な推測は立てたくないんだけど、どれだけ急いでも数時間は必要だろうね」

 

 

「す、数時間…?」

 

 

「ああ。別の方法も無いわけじゃないんだが、とりあえずこれが一番早いだろう」

 

 

ああ…これだからウォーロックってやつは!

 

 

「……なあ」

 

 

「なんだ?今計算の準備をしてるからあまり集中を乱して欲しくないのだが」

 

 

「脱出が目的なら、俺の後ろにある壁を破壊して、鎖ごと持っていけばいいんじゃないのか?」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「…よし、それで行こう。ゴースト!効率的に、かつ発生する音の小さいように壁を破壊できるポイントを」

 

 

「っ…うあああああーーっ!うるせえ!もう離れてろ!俺がやる!」

 

 

それはほとんど無意識だった。脳のオーバーフローが引き起こした現象であった。俺はありったけのエーテルをつぎこみ、左手を何度も閉じ、開きを繰り返してパルスキャノンを連射した。

 

 

地響きのような音が地下中に鳴り響く。音の合間にウォーロックの叫びが聞こえてくる。ガレキが至るところで崩れ落ち、世界の終わりのような様相を呈してきたころ、ようやく俺の身体は壁から解放された。

 

 

「な、なんてことを!これでは脱出がバレてしまう!」

 

 

「早いか遅いかの違いしか無いだろうが!!」

 

 

「その違いが重要で…ああもう!早く逃げるぞ!着いてこい!」

 

 

走り出すウォーロックに追いすがる。身体が大きくなってしまった分、崩れ落ちたガレキに身体がつっかえることがあったが、鎖か巻きついたままの右腕で破壊して進んだ。フォールン・キャプテンの腕というのは思ったより強力だ。

 

 

「もうすぐ地上だ!」

 

 

走る。走る。状況の矛盾に気がつくことなく…

 

 

「よし!これで…」

 

 

「ゲーム・オーバーだな。ガーディアンとバケモノよ」

 

 

「っ!デヴリム…!?」

 

 

そうだ。俺の脱走など、想定も対策もしていないハズが無かったのだ…デヴリムと呼ばれたその男は、地下を這い上がってきた俺と突然現れた協力者を、苛立ちを含んだ獰猛な笑みで出迎え、自慢げに抱えていたライフルをこちらに向けた。

 

 





というわけで、新キャラです。ウォーロック使いの皆さんお待たせしました。ウォーロックって議論好きの理屈屋なイメージがあるんですが私だけですか?多分ベックス研究家な彼のせいだとは思うんですけど。



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レベル13.巨人、狩人、魔術師



最近、活動報告なるものがあることを知りました。ついでなのでちょっとしたアンケートもしました。よかったら答えていって下さい。




 

 

 

 

 

状況は絶望的だ。デヴリムが俺の脳天に向けて銃口を近づける。

 

 

「腕を頭の後ろに置いてその場に伏せろ」

 

 

デヴリムは不敵に歯を見せながら命令する。

命令に従いながら、俺は1つの記憶を思い返していた。

 

 

「…ナインのエージェントを知ってるか?」

 

 

「なんの話しだ。時間を稼いだところでフォールンの助けはこないぞ」

 

 

デヴリムが銃口を頭に押しつけてくる。ウォーロックの方は、いつの間にかベルトを後ろ手に巻かれて動けなくされていた。

 

 

「ヤツらはいつも黒いフードを被っていて、その素顔はいつも何かに邪魔されて見ることができない」

 

 

「貴重品と引き換えに、すごく珍しいアイテムを売ってくれるエージェントもいる。だが神出鬼没で、見つけた情報が回ってきて向かう頃には、もうそこからいなくなっている。つまり自力で見つけるしかない」

 

 

「黙れ。ついに頭がおかしくなったか?」

 

 

「いいから聞いてくれ。俺はかつて、そのエージェントに会うために至るところを飛び回ったことがあるんだ」

 

 

「3週間ほどして、俺は日曜日の夕方にやっとの思いでナインのエージェントを見つけ出した。そしたらヤツは俺に何と言ったと思う?」

 

 

「時間切れだ、残念だったな!」

 

 

突然、デヴリムの背後から男の声が響く。

 

 

「っ誰だ!?」

 

 

デヴリムが背後を振り向こうとする。

 

 

「おっと、おねんねしてな」

 

 

「がっ…」

 

 

瞬間、鈍い音が鳴り、デヴリムが気を失って倒れた。

 

 

「お仕事完了〜っと…これで貸し1だな。さて」

 

 

「久しぶりだな、ダンナと…アンタ誰?」

 

 

「ザナリー!」

 

 

「おお、あんまり大きい声を出すなよ。まだ仲間がいるかもしれないんだから…とにかくここからズラかろうぜ?」

 

 

「…いや、ライフを探さなければ」

 

 

「ハハ、お探しはコイツかい?」

 

 

『ゾンビさん!』

 

 

「ライフ!?何故ここに!」

 

 

『私が運ばれている途中で、ザナリー3が現れて私を助けてくれました。私は彼に事情を説明し、協力してもらいました』

 

 

「まあ、そういうわけだ。お互い積もる話はあるだろうが、それは移動しながらにしてくれ」

 

 

「ああ、そうだな…おい、お前はどうする」

 

 

彼女を縛っているベルトを解き、呆けているウォーロックの肩を叩く。

 

 

「えっ?あ、ああ…状況が飲み込めない…と、とりあえず私もついて行くよ。元々の目的を果たそう」

 

 

「そうか。好きにしろ。ザナリー、これからどこに逃げるつもりだ?」

 

 

「え?」

 

 

ザナリーが驚いたような声を上げ、周りをキョロキョロし始める。

 

 

「…お前…」

 

 

「あ、いや、違うんだ!元々考えてて、でもド忘れしたっていうか…すっげー頑張って走ったから来た道覚えてない…じゃなくて!」

 

 

「もういい!ライフ!」

 

 

『はい!逃走経路は検索済みです。私の指示に従って移動してください』

 

 

「…そういうことだ!走るぜ!」

 

 

「ああ…全く!」

 

 

………………………

 

 

日が沈むころ、やっと建物の少ない洞窟にまでたどり着いた。警戒がかなり厳しく、遠回りを余儀なくされたために時間がかかった。

 

 

「…ここからは人間の勢力圏を抜ける。少しは安全だろう…妙な話だがな」

 

 

「これで俺もアンタもお尋ね者ってワケだ。あと…そっちの姉ちゃんも。アンタ誰?」

 

 

「おっと…状況に呑まれて自己紹介の機を逸していたな。改めて、私はケイ。ケイ・サカモトだ。今後ともよろしく頼む」

 

 

「妙な名前だな。いや、こういうのがたまにいるのは知ってるんだが…」

 

 

「ゴーストが言うには、私のルーツは極東の島国だそうだ。呼びづらいのも、髪や目が真っ黒なのもそのせい」

 

 

「フーン…いや、目が黒いのはその…ヘルメットで見えないんだが、とりあえず了解だぜ。もう知ってると思うが、俺はザナリー3、エクソだ。これからよろしくな!ケイ!」

 

 

ザナリーがわざとらしい動きと表情で彼女に握手を求め、ケイが適当に応える。

どうやら彼女はこういう輩の対処法をよく知っているらしい。

 

 

「ええ、よろしく。もっとも、私の興味の対象はあなたじゃないけど」

 

 

ケイがこちらを見る。

 

 

「何もない。ライフも、俺も、研究したところで大したことは得られないだろう」

 

 

『私も自己スキャンに加えて論理的自己再定義は定期的に行っていますが、今のところ内部的な異常は見つかっておりません。損傷やエネルギー不足は別ですが…』

 

 

「大したことが見つかるかどうかは、これからの私が決めること。あなた達は普通にしてるだけでいい」

 

 

「あのー…俺は?」

 

 

「さっきも言ったけど、あなたはただのハンターでしょう?さっき使った透明化だってハンターの…1スキル…に…嘘」

 

 

「お、分かった?俺の魅力に気づいちゃった?ちなみに光は使ってないぜ〜?」

 

 

「光なしで透明化するとしたら…あなたまさか!」

 

 

「イエス!ちょっとセクハラじみてるけど、俺の腹に秘密があるんだぜ!見る?どうだ?研究する?」

 

 

「え、ええ、そうね。あなたも十分研究対象になりうる。また今度、ゆっくりお話しましょう…」

 

 

「おっ、動揺してる?話し方変わってるぜ?」

 

 

「っ…今後、あなたが静かになるプログラムの開発も並行して行う。覚悟しておけ」

 

 

「おお、そいつはいい。是非協力させてくれ」

 

 

「おいおい〜!せっかくの再会なのにこんなに冷たいのか?アンタ達を助けたのは俺だぜ!?」

 

 

「…ああ、そうだった。ザナリー3。俺達を何故助けた?」

 

 

「おおっと、いきなりシリアス…ハハ、まあ…大したことじゃない。ただ、俺はアンタとライフ君に借りがあることを思い出しただけだ」

 

 

「借りだと?」

 

 

「弾薬とか、あと安全とか…えっと、あと…あ〜…やっぱりこういうのは性にあわないな。…要するに、借りってのは俺の言い訳だよ。俺は1人になるのが恐くなった。だから恥をさらしながらアンタのとこに戻った。それだけだ」

 

 

『ザナリー3の同行に対して私は賛成です』

 

 

「ライフ、静かだと思ったら…全く。良いだろう。お前は多少戦力になることは知ってる。これからはチームだ。それと…忘れ物だ」

 

 

ずっと背負っていたカバンを投げ渡す。身体がずいぶん軽くなったような感じだ。

 

 

「これは…おお!まさか持ってきてくれてるとは!やったぜ!ハンドキャノンの弾薬が無くなって、もう透明化してナイフ振るしかなかったんだ!」

 

 

「タイタン、ハンター、ウォーロック…ファイアチームとしてはバランスがいいな」

 

 

ケイが感慨深そうにつぶやく。

 

 

「フン。それは皮肉か?光がなければクラスなど、あってないようなものだ」

 

 

「フフ。ガーディアンは光だけじゃない。あなたも知っているだろう?」

 

 

「…いや、光なくしてガーディアンはガーディアン足りえない」

 

 

「…何かあったのか?」

 

 

「何も無かった。何もできなかったからこうなっている…この話は終わりだ。ケイ、お前がここに来るまでに、何か情報は得ていないのか?」

 

 

「そうか、今は触れないでおく。…それで、情報か。私も光を失ったガーディアンの1人だ。ついこの前までは必死に逃げるしかなかった…」

 

 

「つまり、何も知らないってことか?」

 

 

「ザナリー、静かにしてろ。お前が入ると話がおかしくなる」

 

 

「へいへい…隅の方でライフ君と遊んでるぜ」

 

 

『えっ、私もですか?』

 

 

「…ライフ、行け。お前は多少離れても会話は聞こえるだろう」

 

 

『…分かりました』

 

 

「…続けるぞ。私のゴーストは常に仲間の発信する電波を受信し続けていた。例えば、ザヴァラが率いるチームは今惑星タイタンにいる。フォールンとハイヴに押されていたらしいが、とあるガーディアンの増援で持ち直したらしい」

 

 

「とあるガーディアン?」

 

 

「ああ。噂程度の情報だが、最近起こったヨーロッパ・デッドゾーンの情報網の復元や、地下の敵の撃破に一役買ったらしい」

 

 

「…一説には、光を取り戻したんじゃないかとも言われてる」

 

 

「何だと!?」

 

 

思わず立ち上がり、声を荒らげる。

 

 

「落ち着いてくれ。まだ確証は得られていないし、皆がそういうヒーローを求めるのは自然なことだ。それが真っ赤な嘘であったとしても」

 

 

「だが、もし本当に光を取り戻していたとしたら」

 

 

光を取り戻す方法があるということだ。つまり…

 

 

「俺は…光を捨て、敵の力を利用し、ガーディアンの姿まで失った俺が、光を取り戻したガーディアンに敵わなかったとしたら…俺は何をしてきたことになる?俺は一体どうなる…」

 

 

「…残酷なようだが、過去は変わらないし、君は君なりのベストを尽くした。そう思うしかないだろうね」

 

 

「ああ。お前にとっては他人事だ。まさしくな…」

 

 

「タイタンは、ガーディアンはこの程度で打ち負かされるほど軟弱ではないはずだ」

 

 

「俺はガーディアンではない!研究だか何だか知らんが、俺をガーディアンと呼ぶなら協力はしない」

 

 

「わ、分かった。すまなかった…」

 

 

「…いや、謝るのはこっちだ。何も知らないのに当たり散らしてしまった。研究は好きにしてくれ…」

 

 

「ライフ。俺は少し眠る。彼女の相手をしてやってくれ」

 

 

『今度はウォーロックの会話相手ですか?全く人使いが荒いんだから…まあ、ハンターの遊び相手よりはマシですが』

 

 

「ひでえ!」

 

 

「やかましい!外の警戒でもしてろ!しばらくしたら交代してやる…」

 

 

「おお、そりゃいい暇つぶしだな。警戒中何もなければもっと暇になるけどな!」

 

 

「………」

 

 

「じゃあ、行ってくるぜ。ケイ、こんな気難しいオッサンだが、別れるなら早めがいいぞ。こんなんでも愛着ってのは湧くもんだ…」

 

 

「ああ、考えておくよ」

 

 

「聞こえてるぞ!」

 

 

「ハハハ、聞こえるように言ったんだよ!」

 

 

「全く…」

 

 

夜は更けていく…






ということで、どこかにいるPC君について少しだけ触れました。今はタイタンの問題を解決したあたりかな。
光はもうないと諦めた末の結果であるゾンビ君にとってはアイデンティティの危機です。どうなることやら。



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レベル14.亡霊


そういえば、時々はじめの方に書いている伝承風の文章ですが、深い意味はあったりなかったりします。今回は割と書きたかっただけです。




 

 

月、『ヘルマウス』での会話記録

 

 

「なあ、それはなんだ?その胸に下げてる石のペンダントのことだ」ーー新米のハンター

 

 

「これか?これは俺だ」ーーベテランのウォーロック

 

 

「いや、アンタはそこにいる。俺と話してる」

 

 

「俺はここにはいない。もっと遠く…いや俺は、もうどこにもいないのかもしれない」

 

 

「何の話だ?意味がわからない」

 

 

「俺達は死ぬが、生き返る。だがその間に何があったか知ってるか?」

 

 

「ある時、この【間】が恐ろしくなった。だから俺をここに封じこめた。俺が壊れない限り、身体が死んでも、俺はここで全てを見ていられる」

 

 

「自己暗示か?」

 

 

「そうではない。事実だ。俺はハイヴ魔術により魂を分け、ここに移動させた」

 

 

「何だと?ハイヴの忌まわしい力を使ったのか?」

 

 

「忌まわしい?ハイヴは純粋だ。純粋な死だ。そもそも…敵の技術を流用することの何が悪い?」

 

 

「このことはバンガードに報告させてもらう」

 

 

「そうか…残念だ」

 

 

「なんだと?」

 

 

「歯。先端。お前は年老いた影だ。苦痛。腫瘍。そして…」

 

 

「何をしてる?おい!やめろ!」

 

 

………………………

 

 

 

あれからまた数日が経過した。

 

 

ザナリーは俺をからかってくる以外はよく働く。ケイについても、時々俺やライフに妙な質問を投げかけてくるがそれだけだ。突っ込むザナリーや俺の援護が非常に上手く、今では作戦を考えるのも彼女の仕事だ。理屈っぽく、また考え過ぎて視野が狭くなる時もあるが、その時は俺やザナリーが意見する。

俺達はかなり安定した戦いができるようになっていた。

 

 

これなら自分達が生きるだけでなく、ほかのことにも目を向けられるだろう。

…それこそ、ガーディアンの仕事の真似事だってできるかもしれない。

 

 

…ただ1つの懸念を除けば。

 

 

『痛みますか?』

 

 

「いや、最近はもう痛みは感じない」

 

 

俺達は木製の廃屋をキャンプにして休息をとっていた。あちこち軋んでうるさいし、床には穴が空いていてよく足が抜けるが、雨風をしのぐには十分だと判断した。

ライフは俺にライトを当てるのをやめて考え込む。

 

 

『ふむ。エーテルの供給を最低限にしたからでしょうか』

 

 

「そうかもな。身体の肥大化も前ほど早くない」

 

 

『やはりエーテルの供給量が身体の肥大化に直結しているようですね。ケイはどう考えますか?』

 

 

「前例が無いことだから難しいが、私が考えるにこれはかつてのガンのようなものだ」

 

 

『ガン、ですか』

 

 

「なんだそれは」

 

 

「ああ。ガンというのは病の1種だ。黄金時代までは不治の病だったらしい。私も文献でしか知らないがな」

 

 

「それが、どう俺とつながるんだ」

 

 

「ガンの治療法が確立するまでは、患者には2つの選択肢しかなかった。すなわち、進行を弱めて死を遅らせるか、ガンに罹った部位を健康な部分ごと切除するか」

 

 

『…今のゾンビさんは前者であると?』

 

 

「そうだ。結局のところ、根本的な解決をしなければ、君は遅かれ早かれ完全なる人外と化すだろうな」

 

 

「なんだ。最初からそう言え」

 

 

「例を挙げて話した方が分かりやすいだろう?」

 

 

「どうだかな。そもそも例を知らないなら意味がないんじゃないか?」

 

 

「それは受け取り手次第だ。そもそも会話による理解というのは実際の割合にして…」

 

 

「ああ。もういい。その話はまた俺の墓ができた時にしてくれ。それで、結局俺はどうしたらいいんだ?」

 

 

「言っただろう。根本的な解決だ。つまり原因の究明、解決策の模索。ガンのように、解決策さえ確立してしまえば、不治の病はほんの少しの損失に変わる」

 

 

「何も分からんということか?」

 

 

「そうとも言える」

 

 

『では、我々はゾンビさんの変化を抑えながら研究し、解決を目指す…つまり今まで通りというわけですね』

 

 

「…なあ…お話中失礼するんだが…」

 

 

「どうしたザナリー、敵がいたか?」

 

 

「いや、ちょっと話を…いやほとんど全部聞いてたんだが…なあ、つまり、アンタ達は【よくわかんないから現状維持で】って言うためだけにそんだけの時間を費やしたのか?」

 

 

「………」

 

 

「…はあ、ザナリー…あなたは本当に…」

 

 

「あー、いや、俺の勘違いならいいんだ!ただ、その話に弾丸の1発分以上の価値はあったのか気になったんだ!」

 

 

「…物事の本質は結論にだけある訳じゃない。複数の事実。複数の意見。そして複数の分析…結論はその先にあるからこそ価値がある。結論や結果が同じであっても、そこに明確な根拠があることに意味がある。説得力が増す」

 

 

「…なるほどな!ハハ…今度からアンタ達の話は立ち聞きしないようにするぜ」

 

 

『理解を諦めるのも1つの選択ですね』

 

 

「そういう事だ。ライフ君は優しいなぁ感動しちゃうぜ」

 

 

『では、私をボールにして遊ぶのを控えてくれると嬉しいのですが』

 

 

「そりゃムリだ。今ある娯楽の中で1番楽しいんだからな!」

 

 

『ああ…助けて…イヤだ…』

 

 

「ザナリー」

 

 

『ゾンビさん!』

 

 

「…ほどほどにしておけ」

 

 

「了解!流石ダンナだ話が分かるぜ!」

 

 

『………』

 

 

ライフは静かになった。

 

 

………………………

 

 

「ケイ、お前に師匠はいるのか?」

 

 

「師匠はいなかった。あえて言うならゴーストが私の師匠だ」

 

 

『質問に答えていただけです』

 

 

ケイのゴーストはライフに比べて寡黙だ。必要とされたり、ケイの話の補足程度にしか話さない。

 

 

「ウォーロックの素質が高かったということだな」

 

 

「そうかもしれない。師匠はいなかったが、仲間はいた。チームを組んで研究に打ち込んだりもした。今は…どこにいるか分からない」

 

 

「そうか。死ぬ前に見つかるといいがな」

 

 

「ああ。…あっ」

 

 

「どうした」

 

 

「1つ、忘れていたことがあった…お前より先に、敵と融合したガーディアンがいたんだ」

 

 

「融合…という言い方は引っかかるが」

 

 

「…あの人も、お前と同じだ。そうせざるを得なかったから、そうなった」

 

 

「気が合いそうだな。タイタンならもっと良かった。それで、名前は?」

 

 

「エリス。エリス・モーン。アウォークンの女性で、行方不明だったファイアチームの生き残り。かつてシティに迫るハイヴの脅威を伝えた」

 

 

「彼女はハイヴだらけの中で身を隠し、生き残るためにハイヴの目を手に入れた。彼女は…私達には聞こえない声が聞こえていたようだった」

 

 

「ハイヴか。あまり参考にはならなさそうだが、話してみる価値はあるな。それで、居場所は分かっているのか?」

 

 

「分からない。そもそも、今生きているのか…」

 

 

「彼女はシティにいたのか?」

 

 

「ああ。ハイヴの脅威がガーディアン達によって退けられた後は、シティの広場の端、影になっているところで景色を眺めていた」

 

 

「あの日、シティから逃げること自体は難しいことではなかった。ましてハイヴの巣から生還する能力があればな…生き残っている可能性は高いだろう」

 

 

「あの日死んだのは勇敢な者達ばかりだった」

 

 

「………」

 

 

「おい!大変だ!」

 

 

ザナリーの声が響く。柱のひびが大きくなった気がした。

 

 

「ザナリー、あまり大きな声を出すな」

 

 

「大変なんだ!今ラジオのオープンチャンネルで話してる!いいから聞いてくれ!」

 

 

《…ザヴァラだ。経緯は先程スロアンが伝えた通りだ。我々は衛星タイタンに集結し、反攻の時を待った。そして…ガーディアンがやってきた》

 

 

「ガーディアンだと…?」

 

 

《彼は我々の懸念をことごとく打ち破った。驚くべきことに…彼は、1度は奪われた光を取り戻していた!》

 

 

「…!」

 

 

思わず顔が歪む。

 

 

《これは福音だ。我々はまだ戦うことができる。希望は残されている!我々はバンガードを再度結成し、リーダーを召集して、反攻作戦を練る…これを聞いているガーディアンがいたならば、我々の発する情報を常に気にかけてほしい。そして覚えておいてほしい…我々はまだ負けてはいないことを!》

 

 

「………」

 

 

「…どうだ?すごい事だぞこれは!」

 

 

「…ザヴァラ…いやほかのバンガードは生きていたのか…」

 

 

「………」

 

 

「どうした?ダンナ、具合でも悪いのか?」

 

 

「…おおおっ!」

 

 

衝動のままに醜く膨れ上がった右腕を振りぬき、地面に穴を開ける。

 

 

「い、一体何だってんだ、落ち着けよ!」

 

 

「……っ!」

 

 

腕を引き抜き、立ち上がる。

 

 

「どこへ行く?外は危険だ」

 

 

「すぐに戻る…1人にしてくれ」

 

 

そう言って、俺はほとんど外れかけの扉を開いた。

 

 

………………………

 

 

『ショックでしたか?』

 

 

「ライフ、黙れ」

 

 

『あなたはその身をフォールンに似せてまで生き残り、力を得た』

 

 

「黙れ」

 

 

『これで戦うことができる。姿は変わっても、光がなくても、また人を守れる…また、ガーディアンの仕事ができる…そう思った』

 

 

「………」

 

 

『でも問題が起きた。あなたは守るべき人間に拒絶された…それが、彼らにとって正しい判断だったとしても、あなたにとっては理不尽にも感じた』

 

 

『……それでも、あなたを保っていたのは諦念。光などない…取り戻した者などいないのだから、こうするしかなかった…状況が悪かった。そう考えることで、自分を正当化していた』

 

 

「黙れ!握りつぶしてやってもいいんだぞ!」

 

 

ライフを掴む。だが、ライフは話すことをやめない。

 

 

『…私はあなたのライフ!あなたの命を預かると決めた!ならば、これは自衛です!私は今、あなたが私から奪おうとするあなたの命を守っている!』

 

 

『光が取り戻せると知ったから何ですか!?あなたはもう取り返しのつかない所まで来ているというのに!フォールンのような身体の何がいけないのですか!?』

 

 

『センチメンタルにふけるのもいい加減にして下さい!あなたが過去にタイタンとして働いたことを、私があなたのゴーストであったことを、今更後悔させないで下さい!』

 

 

「…っ!」

 

 

『…あなたはもう、ガーディアンではない。自分でそう決めた。ならば、今更光など気にしないで下さい。あなたはあなたの戦い方で戦えばいい…光を取り戻したガーディアンがいたことはプラスです。憎たらしい暗黒に痛い目を見せられるチャンスです』

 

 

「……少しの間でいい…静かにしててくれ。頼む」

 

 

『いいでしょう。私はまだ、あなたのゴーストです』

 

 

「…ゴースト…ガーディアン…俺は…」

 

 






ゴーストはガーディアンの乗り換えができるそうです。ラストワードの伝承にもそういった描写がありますね。


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レベル15.精神的に病んでいる時は何してもうまくいかない


本編がシリアスだとタイトルがふざけます。
今回は普段の倍近く長いのですが、うまい切り所がなかったのでまとめました。ご了承ください。
それと補足として、現時点でゾンビさんは人間として見るのはかなり難しい外見をしてます。7割ぐらいキャプテンです。




 

 

 

木の扉を右手で引く。有り余る力は腐りかけていた扉をつなぎ止めていた最後の蝶番を引きちぎり、扉は大きな音を立て倒れた。

 

 

「チッ…」

 

 

右腕の力加減が未だによく分かっていない。自身の腕として十全に扱うためには訓練が必要だろう…巻き上がった粉塵を手で払いながらそんなことを考えていると、ザナリー3がいつものように調子のいい声色で話しかけてきた。

 

 

「意外と早かったな。もういいのか?」

 

 

「ああ」

 

 

簡単に事情を察しているようで、深入りはしてこないのがありがたかった。

続けて、銃のメンテナンスをしていたケイが、視線は下に向けたままこちらに語りかける。

 

 

「厳しいことを言うようだが、あまり気にしすぎるのも良くないことだ。こういった気の迷いが戦闘にも支障が出る可能性がある」

 

 

「そうだな…」

 

 

彼女は生真面目にこちらに忠告を投げかけてくる。耳が痛い。

 

 

「…なあケイ。あんたって…『空気が読めない』とか、『頑固者』とか言われたことある?」

 

 

「…ザナリー、空気が読めないのはあなたもだ」

 

 

「ダンナも読めないからお揃いだな!ハハハ」

 

 

ザナリーがわざとらしく大げさに笑いながら、どかっとその場に胡座をかく。俺が何か言うのを期待してか、顔だけをこちらに向けた。

 

 

「………」

 

 

「…ダンナ?」

 

 

「…いや、なんでもない。ライフ、これから俺達はどうすべきだと思う?」

 

 

『そうですね。現状、我々は生きていくだけの資材には困っていません。当面の間は、資材のために敵を襲う必要はないでしょう。まあ、こちらの望む如何に関わらず敵はやってくるわけですが』

 

 

『今我々に最も必要なものは情報です。そこで、私はある方をお呼びしました』

 

 

「ある方?いや、そもそも勝手に呼んだのか?」

 

 

『私が勝手に通信回線を使用することは今に始まったことではありませんが?』

 

 

「…今度から許可を取れ」

 

 

『いいでしょう。それで、呼んだのは…』

 

 

ライフの言葉が終わらないうちに、突如部屋の中心に黒い霧が発生した。それは高速で渦を巻きながら、緑がかった歪な楕円を形成していく。崩れかけの窓枠がガタガタと音を立て、苔むしたまま乾燥した屋根や柱が激しく軋みながら粉を吹いた。

俺は、いや俺達は、この光景にひどく見覚えがあった。これは…

 

 

「ハイヴの遠隔テレポートだ!まずい!ハイヴの軍隊が来るぞ!」

 

 

ザナリーが声を上げ、距離をとる。俺とケイも同様に距離をとり、全員が戦闘態勢を取った。ただ1者を除いて…

 

 

「ライフ!何をしてる!こっちに来い!」

 

 

『いえ、大丈夫です。私が呼んだのは彼女なのですから』

 

 

「何を言って…っ!」

 

 

外側へ向けて強い風が吹いたかと思うと、黒い霧がさらに収縮し、地面に吸い込まれていく。そこから姿を現したのは…

 

 

「ゴースト。私を呼んだのはお前で間違いないな?」

 

 

『ええ。御足労感謝します』

 

 

「エリス・モーン!?」

 

 

ケイが声を荒げる。エリス・モーン。その名は先程聞いたばかりだった。この異質なアウォークンがそうであるならば…

 

 

「ハイヴと融合したガーディアン…」

 

 

エリスがこちらを向く。彼女の緑色に光る3つの眼に俺は戦慄した。背筋に氷が張ったような錯覚に陥る。

 

 

「私を見て何を恐れる、タイタン…私よりも余程業の深い存在へと成り果てたお前が、何故私をその目で見る。【異物】を見る目で」

 

 

そう言ってこちらを見る彼女の口元は、卑屈に歪んでいるように見えた。

 

 

「…恐れてなどいない。驚いただけだ。ライフ、彼女をここに呼んだ理由を教えろ」

 

 

『ですから情報です。彼女から暗黒の力の使い方や付き合い方を学びましょう』

 

 

この異様な空間の中で、ライフだけが、妙に呑気に話していた。

 

 

エリスがケイに向き直る。顎に手を当て、記憶を手繰っているようだ。少しの間の後、彼女の口元が緩んだ。

 

 

「…ケイ・サカモト…だったか。ああ、覚えている…ゴーストの研究に熱を上げていた。アシェル・ミルとそのゴーストに触れた噂が立った私に、しつこく質問してきたこともあったな」

 

 

「…覚えていてくれて嬉しい。…あなたは我々に協力してくれる、そう考えていいか?」

 

 

「私がわざわざここに1人で来た。それが答えでは不満か?」

 

 

「…いや、十分だ。感謝する」

 

 

「…そういえば」

 

 

そう呟いて、エリスの肩越しに部屋の奥を覗き見る。そこには、積み上がったガレキに仰向けにひっくり返ったまま動かない、哀れなエクソの姿があった。

 

 

………………………

 

 

「…それで、エリス…氏」

 

 

「呼び捨てで構わない」

 

 

「では、エリス。あなたは俺のライフ…あー、ゴーストが、通信によってあなたを呼んだ…そして、それに応えたと、それでいいか?」

 

 

「そうだ。お前のゴーストの独断であったことは驚いたがな」

 

 

「それで、暗黒勢力の力をその身に宿した先達として、俺達に情報を伝えてくれると」

 

 

「そうだ。もっとも、お前達はフォールン、私が宿したのはハイヴ…全く異なる種の暗黒を扱うために、あまり確実なことは言えないがな」

 

 

「待った、いや待ってくれ!」

 

 

ザナリーが右手を上げて抗議のポーズをとる。

 

 

「悪いが俺はアンタを信じられない。だって都合が良すぎるだろう!フォールンの武器や身体がくっついてエーテルが頭まで回った元ガーディアンに、アンタは二つ返事でご奉仕するってのか?しかも無報酬で!?」

 

 

「…エーテルの話は余計だが、その点については確かに聞きたい。エリス、あなたが俺達にここまでしてくれる理由はなんだ?悪いが、あなたなら自分1人でもこの辺の敵からなら身を守れるだろうし、俺達はあなたに渡せるものを何も持ってない」

 

 

「…ゾンビ、と呼べばいいのか?お前にひとつ、伝えておかなければならないことがある…私は、バンガードから指令を受けてここに派遣されている」

 

 

「…何だと?」

 

 

「真実だ。バンガードはお前達の存在を把握し、それに関する情報を求めている…つまりもし、私に対する報酬を無理に定義付けるならば、それはお前達の情報、ということになる」

 

 

「何故俺達のことを知っている?」

 

 

「…デヴリム・ケイという男に覚えはあるか?」

 

 

「!…ああ、覚えているとも」

 

 

デヴリム。先日、ヨーロッパ・デッドゾーンの市街地で俺に麻酔を撃ち込み、監禁した男。ヤツの目の奥に見えた明確な敵意が、脳裏にちらついた。

 

 

「その男から奥地を経由してバンガードに報告が入った。【フォールンの実験体を逃した。人間に擬態する。危険だから早いところ始末してくれ】…だそうだ」

 

 

「なら、俺を殺しに来たのか?」

 

 

「そうではない。バンガードはこの報告を受け、仮説を立てた。フォールンの装備を奪いながら生き残っているガーディアンがいたのではないか、と」

 

 

「待ってくれ。その仮説は報告から飛躍しすぎている!何故バンガードはそう思い、あなたという貴重な人材まで使って危険を冒した?」

 

 

ケイが声を上げた。確かにそうだ。デヴリムは【フォールンの実験体】だと言ったのに、バンガードはそれを【ガーディアン】だと考えた。加えてエリスは貴重な情報提供者であり、優秀な研究者だ。こんな確実性の低い任務につかせる理由が分からない。

 

 

「バンガードが私を派遣した理由はいくつかあるが、まずは…」

 

 

緩慢な動作でエリスが首を曲げ、ライフに視線を投げかける。

 

 

『…では、私が経緯を説明しましょう。まず、我々が求めたのはゾンビさん、あなたの、フォールンと融合した身体についての情報です。そのためには何が必要だと思いますか?』

 

 

「………」

 

 

「…前例だ。未知のことでも、似た例があれば研究の加速度は段違いだ」

 

 

ケイが答える。

 

 

『その通りです。我々に必要なのはゾンビさんの前例…つまり、ガーディアンによる暗黒との融合やその力の利用の歴史です。フォールンが一番なのですが、暗黒であれば参考になりますからね』

 

 

『では、その情報が最も集まるのは?』

 

 

「バンガードだ!バンガードのデータベースには、ガーディアンが暇つぶしに集めてきた伝承がゴロゴロ転がってる!」

 

 

『そうです。よくご存知でしたね?』

 

 

「ああ。伝承のデータ…まあボイスデータとかが主なんだが、こいつがその辺に時々転がってるんだ。ウォーロックや学者ぶりたいタイタンには高く売れたんだぜ?」

 

 

『…そういうことでしたか。話を戻して、私はこのデータを求めてバンガードとコンタクトを取りました。彼らにゾンビさんのことも含めた今までの経緯や現状を伝え、協力を求めました』

 

 

「俺はそんなこと全く聞いてなかったがな」

 

 

『そう何度も言わないで下さい。次からは気をつけますよ』

 

 

「…バンガードがお前達を信用したのは、これがゴーストからの連絡であったからだ。フォールンがゴーストを破壊することはあっても、利用した例はなかった。また、デヴリムは用心深い男だった…時には、必要以上に。だから、バンガードはお前達を敵ではないと考え、また協力する代わりに、お前達が生き残ってきた戦略や改造の情報の提供を求めたわけだ」

 

 

『それに、今のバンガードには少しでも戦力が必要ですからね』

 

 

「戦力…?ライフ、お前まさかとは思うが」

 

 

『ええ。お察しの通り、シティ奪還作戦発動の際には、我々も戦力として協力する約束をしました』

 

 

「………」

 

 

驚きや怒りを通り越して放心する。確かに、ライフの独断専行は今に始まったことではない。ガーディアンであった頃にも、少し抜けたところのある性格だとは思っていたし、光を失ってからは頼んでもいない冗談や忠言をよく言うようになった。通信を勝手にすることもあった。

だが、今まで俺に何かを強制することは無かったし、まして戦闘などは俺の判断に全て任されていた。

…しかし今回はそうではない。

 

 

「…ライフ。俺を、無理矢理戦わせようとしたのか?」

 

 

『そう思われても仕方のないことだと思いますが、必要なことでした』

 

 

「…そうか」

 

 

ライフは知っているはずだ。俺はこのフォールンの力を忌避していることを。それを振るって戦うことは、そのフォールンの力を誇示することにも等しい行為となることを。

 

 

「…俺が…」

 

 

『………』

 

 

「俺が、それを望まないことくらい、知っているだろう!」

 

 

『もちろんです。私は…』

 

 

「お前は、俺の『あなたの』」

 

 

「『ゴーストですから』だろうが!」

 

 

「っ…!だったら…!」

 

 

『私はライフ。ゾンビさん、あなたの命を預かる者です。ですが、私はあなたのゴーストであることを辞めた覚えはありません』

 

 

『私は、あなたがもう一度【ガーディアン】として蘇ることができるなら、それがあなたにとって…我々にとってのベストだと思っています』

 

 

「………」

 

 

『光を取り戻したガーディアンがいる。この事実はプラスです。なぜなら、それであなたをフォールンの、エーテルのしがらみから解放し、元のガーディアンに戻せるかもしれないのですから』

 

 

座り込み、歯を噛み締める。ギシギシと音が鳴るのを煩わしく思う余裕はなかった。それほどに、ライフの言葉は理解できず、また衝撃的であった。

俺をガーディアンに戻すだと?身体中をパイプが走ってエーテルを流し込み、醜く膨れ上がり、フォールンの三本指の義手や義足にまみれ、人間としての原型など留めていないこの俺を、未だにガーディアンになれると思っている?

額には汗が滴り、見下ろした右手がわなわなと震える。俺はあまりにも重いライフの言葉を噛み砕くのに必死だった。

 

 

「…ライフ…お前は一体…何を言ってる…?」

 

 

『………』

 

 

「…何を……考えてる………」

 

 

『………』

 

 

『…あなたはガーディアンに戻るべきだ。今の状態のあなたでは、今後長く生きることは…まして、戦い続けることは難しいでしょう。身体もそうですが…精神的に、あなたはもはや崩壊寸前まで来ています。その自覚はありますか?』

 

 

「………」

 

 

あまりにも残酷に、ライフは、俺のゴーストは、現状を告げる。

 

 

『私をおかしいと思いますか?』

 

 

「…まだ、考える時間が必要だ」

 

 

『ですが、状況はあまり待ってはくれません』

 

 

「…ああ、そうか…そうなんだな、ライフ」

 

 

「…いいさ。ああ、分かった……エリス、お前達バンガードの望むものを全て提供してやる」

 

 

「………」

 

 

エリスは黙ったままこちらを見つめている。

 

 

「俺をバンガードまで連れて行ってくれ。いくら仮説でも、ここよりマシな医務室くらいはあるんだろう?」

 

 

「いいだろう。バンガードはお前達を受け入れる。研究や情報収集はそこでするとしよう」

 

 

エリスは無機質に、淡々と答えた。まるで最初からこうなることが分かっていたかのように。

 

 

「なあ、ライフ」

 

 

『なんですか?』

 

 

「俺をハメたんだろう?こうなるって知ってたんじゃないのか?」

 

 

【1度光を失い、暗黒の力を宿せば、2度と元には戻れない】。知らず知らずのうちに、俺はその幻想に取り憑かれているのだろう。ガーディアンであった頃の輝かしい記憶と、忌々しい力を身に宿し、身体を醜く変形させてまで生きながらえている自分を対比させて悲劇的な感傷に浸っているだけなのだろう。

ライフはそれを俺よりもよく知っていたというわけだ。そして、力技でもってそれを崩しに来た。ただそれだけのことだ。

 

 

『そこまでは考えていません。ただ、私はあなたのゴーストであるために、あなたをガーディアンにしたいだけです』

 

 

「……そうか」

 

 

結局、これもまた俺の妄想に過ぎないのかもしれない。ライフは俺をガーディアンに戻すと主張する。

今俺の中にあるのは諦めだけだ。もはや抵抗してもどうにもならない。

状況は、とっくに俺が把握しコントロールできるような状態ではなくなっていたのだろう。既に完成した流れは、今更多少の力で変わることなどない。あとは流されていくだけだ。

 

 

俺はただ、無心のままに術式を編むエリスを眺めていた。ザナリーが俺の前で手を振っている。ケイはまた、難しい顔をして何かをライフと話し合っている。

今ここにある全てが、俺の意識の外にあった。

 

 

 



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レベル16.意識



短めですが、キリがいいのでこの辺で。
リアルが忙しいので更新はゆっくりになります。気長にお待ちください。



 

 

 

 

エリスが術式を編み終えると、またハイヴ式のポータルが開いた。彼女が言うには、彼女の船が停めてある場所に繋がっているらしい。

ポータルを通る時、ザナリーは珍しい体験にずいぶん興奮していた。ケイは戸惑いながらも、興味を隠せない様子だった。最後に俺が通った。引っ張られるような感覚があった以外は、特に何も感じなかった。

 

 

ポータルを抜けると、目の前には鬱蒼とした森と大きめの黒い影があった。エリスの船だった。エリスの船は普通のガーディアンが乗るような船に近い形をしていた。ハイヴ風の装飾が施されていたのは彼女の趣味だろうか。

 

 

残念なことに、ガーディアンの船は俺を含めた複数人を乗せるようにはできていない。我々(俺)については現地で情報収集するつもりで、今回は予想外だったと説明された。

ケイは身体が小さいので、エリスと共になんとかパイロットシートへ。俺とザナリーは格納庫に入り、宇宙に出る一応の対策として、月でも活動できるガーディアンのスーツをつけた。バンガードの支給品をいくつか持ってきていたらしい。

もちろん俺にはサイズが合わないので、俺だけはライフが加工したものに身体を無理矢理はめ込んだ。はっきり言ってキツい。このままザナリーと一緒に惑星タイタンまで行くのかと思うと、人生の終わりのような気分になった。深く考えないように努めていると、いつの間にか意識が遠のいていった…

 

 

 

………………………

 

 

 

「同志よ…調子はどうだ」

 

 

「また、お前か」

 

 

いい加減に、この夢にも飽きてきた。雲をつかむような話をするフォールンの相手を、相手が満足するまで延々とするだけ。

 

 

「もういいだろう」

 

 

起きている間に、俺は1つの仮説を立てていた。コイツの正体についてだ。

 

 

「…何がだ?」

 

 

わざとらしく、フォールンは首をかしげる。

 

 

「とぼけなくてもいい。お前の正体くらいは分かっている」

 

 

冷静になってみれば、何のことは無い。

 

 

「………」

 

 

「お前はフォールンだ…だが、フォールンのうちの何者でもない。お前は…」

 

 

「お前は、俺の被害妄想が作り出した幻に過ぎない」

 

 

そうだ。こいつは俺の、【フォールンになってしまったかもしれない】という不安に、被害意識に呼応して生み出された、単なる悪夢の登場人物。曖昧な話も、全て俺がそもそもフォールンについてよく知らないから、確かな話が出来ないだけなのだ。

 

 

「……そうだとして、オマエはどうする?」

 

 

「オマエは、もはやガーディアンには戻れない。オマエのゴーストが言うのは希望だ…全く、具体性のない。オマエは分かっているハズだ…もはや、後戻りなどできはしない」

 

 

「オレがオマエの妄想の産物だと?だとすれば、オマエの心のなんと脆弱なことか!夢でも敵を作らねば自我を保てないとは!」

 

 

「ああ。そうだ。俺は弱い。身体がではない…精神面の問題だ」

 

 

「身体をいじくり回して、人間とは到底言えない身体になりながら、フォールンを殺して、俺は生きて…何人かにはコケにされて、俺はようやく気がついた」

 

 

「俺は弱い。もしかしたら、ガーディアンであった頃からそうだったのかもしれない。ゴーストは、それを知っていて、終始俺を止めていたのかもしれない」

 

 

「それも推測に過ぎん」

 

 

フォールンが低くうなる。

 

 

「そうだ。これも、全て推測だ。だが不思議と確信がある…全てがつながったような。そうだ。俺の生に大層な伏線や劇場的な展開などない…全てはあるべくしてあり、全てはなるべくしてなっている」

 

 

「悟ったような気分になっているだけだ。現実は何も変わりない!」

 

 

フォールンが叫ぶ。

 

 

「ああ。そうだとも…現実は、これから変わる」

 

 

「俺は弱い。数々の失敗を経て、俺が弱いということを知った…だが、まだ全てを失ったわけではない。ゴースト…妙ちくりんな協力者。それに…この【命】が残っている」

 

 

「お前はそれを自分で捨てたのだ」

 

 

「いや、預けたんだ。俺のゴーストに…だから俺はゾンビだ。生きているのか死んでいるのか分からない。ただ動く。何かの目的をもって…もしくは持たずに」

 

 

「ゾンビとして、ただ生きることは難しいことではない。ガーディアンとして人類を守ることは今更不可能だ…だが、俺は諦められない。ガーディアンであることを…」

 

 

「諦めたと自分で言ったはずだ!」

 

 

「言った。言ったが…やはり、俺は、精神の奥底の部分でガーディアンなんだろう。だから俺はフォールン扱いされることをあんなに拒絶し、人間であることに執着した…女々しいと笑えばいい…」

 

 

「…だが、俺は諦めない。永劫ゾンビとして生きることになったとしても、ガーディアンとして戦うことはできるハズだ」

 

 

「不可能だ」

 

 

「やってみなくちゃわからんだろう」

 

 

「馬鹿め…そのままフォールン扱いされて、卑屈に生きていればいいものを」

 

 

「全てがどうしようもなくなったら時はそうさせてもらう」

 

 

「……それで満足か?」

 

 

「さあな。この夢が醒めたら考えることにする」

 

 

「………」

 

 

「…苦労をかけたな。俺の心を守るために生み出された、名前も知らないフォールンよ」

 

 

「…お前がまた戻ってくることを楽しみにしている」

 

 

フォールンはそう言って踵を返した。段々視界が霞みがかり、その姿も見えなくなっていく。

覚醒していく意識の中で、もうこの夢を見ることは無いだろう。そんな確信があった。

 

 

 

………………………

 

 

 

「お、やっと目が覚めたか?」

 

 

密着に近い距離で、ザナリー3がこちらの顔を覗き込んでいる。

 

 

「…離れろザナリー」

 

 

ヘルメットの中でため息をつく。

 

 

「俺を見るなりため息をつくなんて…悪い夢でも見たのか?」

 

 

「今の状況が俺にとっては悪夢だ」

 

 

「ハハハ、そうかも」

 

 

「今、どこにいるんだ?」

 

 

「もう宇宙だとさ。木星まで行くんだろ?しばらくかかるんじゃないか?」

 

 

『そろそろ到着だ。姿勢を低くしろ』

 

 

エリスの声が響いた。船内放送だ。

 

 

「…だそうだ。俺の予想は大幅に外れたが、何も賭けてなかったよな?」

 

 

「ああ」

 

 

「よし。最高だ。そういやケイド6も見つかったらしいぜ!これでまたアイツと…いや、特に何もしてなかったっけ」

 

 

「アイツの冗談はつまらないんだ。なんと俺よりも!何故そんなことが分かるかって?だって俺よりクレームの数が多いんだよ」

 

 

「少し黙ってろザナリー。舌を噛むぞ」

 

 

「俺エクソだぜ?……もしかして冗談のつもり?」

 

 

「………」

 

 

「ハッハー!なんてこった!ダンナが冗談を言ったぜ!…しかも俺に!こいつは大ニュースだ!」

 

 

「黙れと言ったんだ!」

 

 

「こいつが黙っていられるかってんだ!ハハハハ!すげえ!俺、光を失くしてから1番笑ってるかも!」

 

 

到着するまで、ザナリーの笑い声が止むことはなかった。






というわけで、ゾンビさんの情緒不安定やらにうまくケリをつけたい今日このごろ。考えながら書くもんだから、収集つけるのは次話を書く時の自分です。一応大筋は決めてあるんですが。

それとお調子者キャラはやっぱりオチに使いやすいです。乱用しないようにしないと…


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レベル17.バインドチェーン


Destiny2、光がすこぶる上げづらくてライトユーザーにちょっと優しくないのが玉にキズです。おじさんつらいよ…
まあ楽しいからやるんですけど!




 

 

 

「俺はもう逃げないぞ」

 

 

「?…急にどうした?まだ眠いのか?」

 

 

「決意表明だ」

 

 

「フーン…?」

 

 

ザナリーが首を傾げる。大げさにやりすぎて身体ごと傾いている。

同時に船が大きく傾き、衝撃が走った。元々傾いていたザナリーがバランスを崩して転がった。

 

 

「到着だ。外へ出ていいぞ」

 

 

格納庫にエリスの声が響いた。

 

 

………………………

 

 

「はぁ〜ここがタイタンかあ」

 

 

ザナリーが間の抜けた声を上げ、辺りを見渡す。

今俺達が立っているのは惑星タイタン、その海上基地だ。…ボロボロの。

エメラルドグリーンという表現が適切かは分からないが、見渡す限りの緑がかった荒れ狂う海。またそれとは対照的に、空は静かで荘厳な雰囲気を纏った木星をたたえている。…今のところ、タイタンにはそれしか見受けられない。いくつもの太く頑丈な柱が絶え間ない大波から基地を支えており、ひとまずは倒壊の危険はないだろう、というのがバンガードの見解らしい。だが…

 

 

「なあ、アレってやっぱり…アレだよな?」

 

 

騒がしい銃撃の音と、けたたましい叫び声。所々で蛍光色の魔法陣と黒い霧が生まれては消え、また他方では雄たけびとともに掲げられたブレードがライトに照らされてきらめく。

 

 

「…ああ。ハイヴとフォールンだな。戦っているらしい」

 

 

「まあ、そう…だよ、なあ…タイタンは安全なんじゃなかったのかよぉ!」

 

 

「騙したようで悪いが、我々はここが安全とは一言も言っていない。ただここにガーディアンを呼び、戦力を集めようと思っただけだ」

 

 

「!ザヴァラ…!」

 

 

「お前がタイタンであったことは報告にも上がっている。……お前が未だ誇りあるタイタンであることを願う」

 

 

「そんなことは、問われるまでもない。俺はガーディアンとして生きることを諦めてなどいない」

 

 

「ならいい…こっちだ。とりあえず、顔合わせを済まそう。ウォーロックの彼女についても、別の者が案内している」

 

 

「お、歓迎会の準備は万端なのか?」

 

 

「キャプテンとウィザードならお前達を諸手を挙げて歓迎するだろうが…残念なことに、ここには物資がない。歓迎会は遠慮してくれ」

 

 

「そうか…」

 

 

ザナリーが大げさすぎるほどに肩を落とす。ザヴァラはそれを一瞥すると踵を返して歩き出した。

 

 

………………………

 

 

「これは…また、ソーソーたるメンツで…」

 

 

案内された部屋をぐるりと見渡す。元は会議室だったのか、中々の広さだ。モニターや空調設備はほとんど壊れているが。

部屋にはザナリーと俺のほかに、先にここへ案内されたというケイとエリス、タイタンの幹部であるスロアン、ジャンプシップ技師のアマンダ、そしてバンガードの3人のリーダーが揃って立っていた。

 

 

「それだけ、お前達を重大に見てるってことさ」

 

 

濃紺を基調としたカラーに角が目立つハンターがこちらの驚きに答える。ケイド6。バンガードの、ハンターの代表者だ。

 

 

「私達がここにいるのは調査のため。申し訳ないけど、しばらくの間あなた達に行動の自由は保証されないと思ってほしい」

 

 

冷静に説明を続けるのはイコラ・レイ。ウォーロックのリーダーとしての活躍もさることながら、彼女は高名な研究者でもある。

 

 

「ここの施設を利用して、お前の身体について分析を進めることになる。覚えておいてくれ」

 

 

最後にザヴァラ。タイタンのリーダー。実直なリアリスト。ここにいる誰よりも、正義を追い求めている。かつて、俺も何度か彼と直接話したことはある。…面影もない今では、思い出すことなどできないだろうが。

 

 

「…あ、自己紹介がまだだったな。俺はザナリー3。見ての通りエクソのハンター…元。地球ではこのダンナについていってた。光はないけど、透明化はできる。こうやって…」

 

 

そう言うや否や、ザナリーが透明化を発動する。にわかに室内がざわついたが…

 

 

「そいつはすごいが、いきなりやるな。みんながビックリするだろ?ああ、もちろん、俺以外のみんなが、だ。俺はビックリしてない」

 

 

いつの間にかザナリーの後ろに回っていたケイドがハンドキャノンの柄で頭を小突く。と同時に、ザナリーの透明化が解除された。

 

 

「オイオイ初見だぜ!?いきなり見破るかよぉ!」

 

 

「透明化を見慣れてないハンターなんかいるのか?ま、お前より俺の方が何枚も上手だったってコトだ」

 

 

「自信なくすぜ…」

 

 

うつむくザナリーを横目に、ケイが控えめに手を挙げた。

 

 

「…もういいか?次は私だな。私はケイ・サカモト。ウォーロックだ。彼のゴーストについて研究するために同行していた。光は取り戻していないが、戦闘は可能だ。よろしく」

 

 

「あなたの論文は読んだことがある。よろしく。今度、また話しましょう」

 

 

イコラがケイに反応する。彼女達の会話に混ざるのは良くない予感がする…

 

 

「光栄だ。是非とも」

 

 

なんというか、先程に比べて穏当すぎる自己紹介が終わった。視線がこちらに集まってくる。

 

 

「…俺か。今はゾンビと名乗っている。元はタイタンだったが…生きるため、また暗黒と戦うために、フォールンの身体を取り込んだ…それ以上のことについては、また研究してくれ」

 

 

「…お前の得意な武器はなんだ?」

 

 

ザヴァラが話しかけてくる。

 

 

「質問の意図が読めんが…オートライフルだ。正面からグレネードを投げ込み、リフトで正面から高速で突撃する。そうすれば大抵の敵は倒せる」

 

 

「…クラスは何を好んだ?」

 

 

「…必要に応じて使い分けた。あらゆる戦術を取り、敵を殲滅できる者こそ真のガーディアンだ」

 

 

「…アイアンバナーに出たことはあるか?」

 

 

「……マシンガンを求めて出場したことはある。だが、あまり好まないな」

 

 

「そうか。お前はシティ成立前からガーディアンだった。そうだな?」

 

 

「……ああ。そうだ」

 

 

「…お前には…アイリーンという仲間がいたか?」

 

 

「………」

 

 

ザヴァラがこちらを見据えている。視界がゆらぐ。視野が狭まり、目の前の男に集中していくのが分かる。

 

 

「違うか?」

 

 

ザヴァラは不敵な笑みを浮かべた。もしくは、俺の目にはそう見えた。

 

 

「何のつもりだ。研究するならさっさと俺を研究室でも牢屋でも連れていけ」

 

 

身体の奥底から熱が湧き上がってくる。思考が鈍化していくのを感じた。

 

 

「答えろ。お前にはアイリーンというタイタンの仲間がいただろう」

 

 

「…何が言いたい」

 

 

右手を握りしめる。三本指が器用に噛み合って鈍い音を立てた。左腕で右手を抑えた。

 

 

「いや…他意はない。かつての同胞、そしてメリディアン・ベイの英雄に出会えて嬉しいのだ…なあ、【暴風のガンドール】」

 

 

「…俺をその名で呼ぶな…!」

 

 

言ってはならないことを口にした目の前の男を、どうやって殺してやろうかと頭が回転を始める。無理矢理押さえつけた。

 

 

「そうか。異名を持つのは名誉なことだと思ったのだが…仕方ない。では、今度は我々だな。知っての通りだが、私はバンガードの…」

 

 

そこから先は、よく覚えていない。嫌な熱のこもった感情を抑えることに必死で、人の話など到底聞こうとは思わなかった。気がつくと俺は個室に通され、設置されていた椅子にうつむいて腰掛けていた。

 

 

『【暴風のガンドール】…彼は知っていたようですね』

 

 

「黙れ…」

 

 

『……もう、乗り越えたと思っていました』

 

 

「…アレは、俺だけは絶対に忘れてはならない」

 

 

『そうですか…そうでしょうね』

 

 

「……アイリーン…」

 

 

『…今日はもう寝ていいそうです。エーテル残量も十分ですし、睡眠をとることを勧めます』

 

 

「…ああ、そうだな…」

 

 

ベッドに横になる。俺の重さに、スプリングが悲鳴をあげている。ちゃんと人間用の部屋を与えてもらったのは僥倖か。もっと実験動物のような扱いを受けると思っていた。

 

 

『…【彼】は、今も火星に眠っているのでしょうか…アイリーン。カバルの軍勢を食い止め、名誉ある死を遂げたタイタン…あの日、同じファイアチームにいた我々にかけられた枷は、未だ重いようです』

 

 

しばらくの沈黙の後、俺は意識を手放した。

 

 






ザヴァラの質問がいきなりすぎるぜ!って思われそうなので補足。本編にはちょっと入れづらかったのもありますが。

いきなりの新設定(一応プロット通り)ですが、ゾンビさんはかつて、功績を上げてガーディアンの間で有名になったことがあります。
またザヴァラは元々、ゾンビさんの正体についてある程度アタリをつけていました。元タイタンであること、戦うことを諦めず、またそのために手段を選ばないこと(自分の身体でさえも顧みない点も含めて)、またその割にメンタルが弱いことなどから、その有名になった彼によく似ていると予測を立てたというワケです。

ゾンビさんの過去についてはまた次回以降に!では!


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レベル18.懸念


構成上、今回ちょっと短めです。なおかつ、説明回です。




 

 

「それで?」

 

 

曰く、フォールンの身体を取り込んだという人間離れした大男が部屋から出ていったのを見送ると、ケイド6がザヴァラに問いかけた。

 

 

「何がだ」

 

 

「オイオイとぼけるなよ。なんであんな、神経を逆撫でするようなこと言ったんだ?」

 

 

「……かつて、彼は英雄だった」

 

 

「それは俺も知ってる。メリディアン・ベイの砂嵐の中の撤退戦で、最後まで残ってカバルの精鋭部隊を1週間も食い止めた伝説のファイアチームの生き残りだ」

 

 

「少なからず、私は彼を尊敬していた」

 

 

「勲章を贈って、伝承に残そうと言い出したのはお前だったもんな。ガーディアンの間では、【暴風のガンドール】と呼ばれて有名人だった。で、それがどうしたっていうんだ?」

 

 

「彼はそれを頑なに拒んだ。何故かと聞けば、『俺にはその資格がない』の一点張りだった」

 

 

「…ザヴァラ?」

 

 

「事実を知る必要があると感じ、私は調査を命じた。彼にもいくつか質問をした…あの1週間に何があったのか、どうして彼は戦士としての誇りを、心構えを全く失い、まさに死んだような目をしていたのかを知るために」

 

 

「………」

 

 

「結果、戦場跡で見つかったのは何名かのガーディアンの死体と、ボロボロで使い物にならないような装備や物資の残骸…分かったのは、彼があのファイアチームの唯一の生き残りであったことと…彼の証言によれば、【彼自身の手で仲間を殺していた】という事実だった」

 

 

「…それは過去にバンガードで1度議論した。戦略上必要で、仕方のないことだったと結論も出ている」

 

 

イコラが口を挟む。

 

 

「ああ。確かにそうだ。あの時は物資もなく、彼が殺したのはもはや戦えなくなったガーディアンのみ。戦うために必要な犠牲だった」

 

 

「…たとえその犠牲の中に、彼の親友がいたとしても」

 

 

「私は冷酷な人間だ。必要とあれば、トラベラーや市民のためにバンガードに所属するガーディアンを…まるで捨て石のように扱う判断を下すだろう」

 

 

「だが、私は同じファイアチームとして長年共に戦った仲間を、必要だからと言って切り捨てられるのか?自らの手で、息の根を止められるのか?調査結果を見たとき、私は自問した…結局、答えは出なかった」

 

 

「私は知りたかった。彼は何故その判断を下せたのか。彼がその時どのような感情を得たのか、彼が廃人のようになったのは何故か…だが、彼の口からそれが語られることはついぞ無かった」

 

 

「そのために、まるでからかうようにあんな質問をしたのか?」

 

 

「…それもある。だが、最も大きな理由は、彼が我々に仇なすのではないかと疑っているからだ」

 

 

「なんだって?お前はデヴリムが正しいと思うのか?」

 

 

「そうではない。私はリスクを想定したのだ。つまり…彼が極端に衝動的であったり、危険な思想を持った人間であった場合をな」

 

 

「戦いが始まると誰彼構わず襲いかかるだろうって?それとも必要なら仲間を殺すことに躊躇しないような、危険なヤツってことか?」

 

 

「そのような傾向がないことは後に行った彼についての調査でも分かっている。だが、調査だけでは分からないこともある…実際、例のガーディアン達の直接の死因は未だ明らかではないのだ。理由についても、彼の言葉や当時の状況から我々が予測したに過ぎないのだから」

 

 

「考えすぎじゃないのか?アイツはお前にからかわれても冷静だった。少なくとも表面上は…」

 

 

「我々は常に最悪を想定して動くべきだ。彼が獅子身中の虫となってはならない……とにかく、私は完全に彼を信用すべきではないと考えている。彼を挑発したのは、衝動的な人物ではないか確かめるためだ。…話は終わりだ。持ち場に戻れ」

 

 

そう言って、ザヴァラは部屋を後にした。

それに続いてイコラも部屋を出、残ったのはケイド6だけとなった。

 

 

「……行ったか…」

 

 

ケイドはぐるりと部屋を見渡すと、ため息をついてパイプイスに勢いよく座り込んだ。

 

 

「…だ、そうだ。ちゃんと覚えたか?」

 

 

ケイドが何もないように見える空間に話しかけると、周辺の景色が歪み、細身の男がばつの悪そうな態度で現れた。

 

 

「アンタには敵わないな〜…物音だって立ててないんだぜ?」

 

 

「盗み聞きとは感心しないぞザナリー3。あと、お前は自分の透明化に自信を持ちすぎだ。透明人間だって無敵じゃないんだぞ?そう、例えば俺みたいな熟練者には簡単にバレるんだからな」

 

 

「それがなんでか分からないんだよなあ〜!」

 

 

「経験と、あとは俺の野性的シックス・センスだな」

 

 

「………」

 

 

「……冗談だ。…半分…いや、6割ぐらいは……ゴホンッ!…それで?お前はこの話を聞いてどうするんだ?」

 

 

「…そうだな…俺はダンナがどんな人かちっとも知らなかった…それに、ザヴァラの考えをダンナに伝えたところで、火に油を注ぐだけだろうし……覚えとくだけにするよ」

 

 

「そうか。英断だな…フー…」

 

 

大きく息をつくと、ケイド6はザナリー3の目を見て再び話し始めた。

 

 

「ザナリー3…俺はお前のことも知ってる。…【臆病者のザナリー】」

 

 

「…ああ、俺は確かにハンター達の中では有名だったかもな」

 

 

「お前のことについてのグチも聞いたことがある…やれ、戦いになるとどこかに隠れて出てこない。やれ、作戦を伝えても『無理だ』としか言わない…」

 

 

「………」

 

 

「お前にどういう理由があって、いまさら戦うようになったのか俺には分からん。彼のおかげなのか、それとも…お前のそばにいないゴーストのおかげか…」

 

 

「とにかく、お前も監視対象らしい。せいぜい気をつけるこった」

 

 

「…ご忠告痛み入るぜ」

 

 

「おう。全力で痛み入れ…ほら、もう行け。俺はこれから上手にサボるんだ」

 

 

「分かった…俺が隠れてたことを黙っていてくれたことには感謝するよ」

 

 

ザナリーが退室する。1人部屋に残されたケイドは、おもむろに両手を頭の後ろに回し、天井を見上げた。

 

 

「さて、言い訳を考えないとな……サボりがバレた時の…」

 

 

「これから彼らの調査が始まる。直接関わることは無いだろうが、俺もきっと忙しくなる…こうやってサボるのも、あと何回できるか…」

 

 

基地の外で、今日何回目か分からないドレッグの叫び声が響いた。足を踏み外したアコライトが海に呑まれ、甲高いシュリーカーの駆動音が遠くから聞こえてくる。

 

 

「…まあ、退屈はしなさそうだな」

 

 

ケイドはそんな状況を横目に、退屈そうにつぶやいた。

 

 

 






主人公不在問題

次回は出します。


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レベル18.思惑



本編には出てこなかった敵をオリジナル展開として出します。とりあえずまだ特に目立つことはありませんが、苦手な方はお気をつけ下さい。




 

 

 

浅い眠りから目を覚ます。金属製の無機質な天井と電灯を眺め、自分の状況を思い出した。

 

 

『おはようございます。本日は恐らく快晴。ただ波浪には十分ご注意下さい』

 

 

「そうか」

 

 

『先日からバンガードの研究の協力者として、いくつかの実験を行いましたが、今日は会議だそうなのでそれもお休みです』

 

 

『私はこれから少しだけケイの研究の補助を行うことになっています。ご用があれば通信で呼んでください』

 

 

「ああ、分かった」

 

 

ゴーストがドアを開けて廊下に出て行く。ひとりになって沈黙が場を支配した。

右腕を動かす。バキバキと固まっていた関節が音を立て、アンバランスに肥大化した筋肉が収縮する。

 

 

「また大きくなったか?」

 

 

フォールンの身体だっただけあり、この右腕はエーテルの影響を真っ先に受ける。親和性が高いのだろう。

そして、この右腕が大きくなったことが意味するのは…

 

 

「…また装備の作り直しだな…」

 

 

採寸から装甲の延伸、場合によっては一からやり直し。今度はどれだけかかるだろうか。身体の急速な肥大化に伴い、頻繁に必要となる身につけるものの更新に頭を痛める。

 

 

「…チッ」

 

 

更につけ加えるとすれば、この関節の内側から圧力をかけられるような断続的な痛みだ。

顔をしかめながら立ち上がる。このままここにいても仕方ないので、とりあえず外に出ることにした。

と、その時、首元につけた通信機がベルを鳴らした。

誰かからの個別通信だ。

 

 

『お、ダンナ起きた?俺より一時間遅れだな!』

 

 

「…お前か…」

 

 

相手はザナリー3だった。誰から聞いたのか、俺が目を覚ましたことを知ったらしい。

俺は通信を拒否しなかったことを盛大に後悔した。

寝起き、更にエーテルに悩まされて苛立っていたところにコイツと話すだけの根性はない。

 

 

『ああ、俺だぜ!なあ、ダンナ今日暇なんだろ?ちょっと外に行かないか?』

 

 

「断る」

 

 

『まあそんなつれないこと言うなよ!外には暗黒がいっぱいいるんだぜ?少し減らして人類に貢献!ついでにストレス発散で一石二鳥だ!』

 

 

「………」

 

 

『…ダメか?うーん…あとは俺がダンナの部屋に行って最近作ったジョークでも語りに行くぐらいしかないんだけど…』

 

 

「…分かった。行こう…許可は取ってあるのか?」

 

 

流石にコイツの長話を聞かされるよりは、暗黒と戦っている方が何倍もマシだ。

 

 

『よっしゃ!許可?ああもちろんだぜ。ちゃんとケイドに伝えてある』

 

 

「そうか…」

 

 

そこはかとない不安を感じたが、流石にバンガードのトップに話が通っているなら間違いも起こらないだろう。

 

 

『それじゃ、俺は西側出口で待ってるから、早めに来てくれよ!』

 

 

適当に返事をしてから通信を切った。まあ、戦闘すること自体には異論はない。ザナリーに誘われなくとも、今日することが見つからなければ自分から外に行っていた可能性が高い。

ただ、ザナリーに誘われてというのが少し気に食わないというか、引っかかるところだった。

 

 

『臆病者』…研究者に聞かされた話によれば、ザナリー3はかつて原因不明のPTSDのような症状を患っていたらしい。

だのに、突然今になって、アイツはむしろ自分から戦いに身を投じるようになった。

その原因は、今のところ分かっていない。

 

 

「会った時にでも聞いてみるか…?」

 

 

そこまで考えて、らしくないと思考を振り払う。とりあえず、外出の準備を進めることにした。

 

 

 

………………………

 

 

 

準備を済ませて、ザナリー3の言葉の通り西側出口に向かった。

到着すると、1人の男がこちらに片手を軽く上げているのが見えた。

 

 

「よう」

 

 

「ケイド6?なぜここにいる」

 

 

「なんだよ、そう構えるなって。コイツから何も聞いてないのか?」

 

 

そう言って、ケイド6は親指でザナリー3を指し示す。

 

 

「え?俺ちゃんと言ったろ?ケイド6に話は通したって」

 

 

「それはそうだ。だから俺はお前の誘いに乗った。しかし…」

 

 

辺りを見渡す。そこには、見覚えのある元ガーディアン達3人が、それぞれ俺を見ていた。

 

 

「…あ、そうか、俺ホントにそれだけしか言ってないんだった」

 

 

「オイオイ…報告・連絡・相談はガーディアンの基本だぜ?」

 

 

「お前がそれを言うのか、ケイド」

 

 

俺を見ていたガーディアンのうちのひとりがケイドを厳しい目で見ながら割り込んだ。

 

 

「ケイ、説明してくれ。これはどういうことなんだ。どうしてガーディアンが集まってる」

 

 

「本当に何も聞いていないらしいな。とりあえず、まずは謝罪しよう。騙したようになってしまってすまなかった。…経緯はこうだ。まずザナリー3がケイド6に外出を申請した際、理由を『暗黒との実地での戦闘訓練』とした」

 

 

「ケイド6はそれにかこつけて、1人では危険だからと付き添いを申し出た。もちろん仕事から抜け出して暗黒と戦闘するためだ」

 

 

「ただそれがザヴァラの耳に入り、スロアンの助言によって暗黒の殲滅作戦に置き換えられた。そのために選出されたファイアチームがケイド、ザナリー、私、お前、そしてこの2人ということになった」

 

 

「ケイドはザヴァラには黙ってこっそり行くつもりだったらしいがな…」

 

 

ケイが再度咎めるように細目でケイドを見つめる。

 

 

「これじゃ仕事と変わりないぜ。ま、外で戦闘できるなら何でもいいんだがな」

 

 

ケイドはその視線を意に介さず腕組みをして軽口を叩いた。

 

 

「ちなみにこれら全て、俺の知らないところで起こってた!俺もさっき聞かされた!ケイドはウソつきだ!」

 

 

ザナリーが弁明する。

 

 

「ウソつきって…ひどくないか?」

 

 

「…それで、この2人はどうやって選出されたんだ」

 

 

ファイアチームは基本3人か6人チームで動く。作戦規模によって異なるが、この枠から外れることは基本的にないので数合わせと言えば疑問はない。

 

 

「バンガードから派遣されたガーディアンだ。忠誠心というか、正義感が強い。まあ…お前達の監視役だな」

 

 

あっけらかんとした態度でケイドが話す。

 

 

「監視役…か」

 

 

「ま、そういうことだ。色々調査はしたが戦闘は今回が初めてだしな。研究も兼ねてるんだろ。気に食わないだろうがまあ許してやってくれ」

 

 

「俺はバンガードに反逆などするつもりは無い…それを今回で証明してやろう」

 

 

「そりゃ頼もしいな!いいぞ、楽しくなってきた」

 

 

ケイド6が足踏みをする。今にも飛び出したくてうずうずしているようだ。

 

 

「待て。作戦となったからには目標がある。今回は近隣のフォールンの漸減…可能ならば殲滅と、最近降り立った新たなアルコンプリーストの調査だ」

 

 

「アルコンプリースト!フォールンの司祭か!手応えありそうだ」

 

 

ザナリーがハンドキャノンを手でくるくると回している。しきりに透明装置をもう片方の手で確認しているのは見なかったことにした。

 

 

「もちろん生存が最優先だ。フォールン拠点に到達して観測するだけで、撃破は狙わなくていい。お前達は戦力としては能力があっても、何分急造のファイアチームだからな」

 

 

「まあ、そもそも光もないしな。キャプテンにも勝てるか怪しい」

 

 

「以上だ。作戦指揮および撤退の判断はリーダーであるケイド6が行う。作戦中は彼の指示に従ってくれ」

 

 

「テキトーなこと言って混乱させないでくれよ?」

 

 

「大丈夫だって。俺が信じられないのか?」

 

 

「ソーセージをくれたら信じるかもな」

 

 

「お前は食えないだろ?まあ俺もだが」

 

 

「スロールどもにやるんだよ!アイツら痩せてるからかわいそうだろ?ハハハ!」

 

 

「………ああ、そうだ。お前からライフを借りていたんだった。研究の参考になった。ありがとう」

 

 

『…ああ、よく寝ました。…あれ、ここはどこですか?』

 

 

「……地獄の入り口だ……」

 

 

俺はこれから作戦中、延々とこのハンター達の会話を聞き続けることになるのだろうか。

 

 

ああ、憂鬱だ。

 

 



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レベル19.猪突



ちょっと浮気してました。こっちだと書けないようなことも、ネタがあれば書きたくなるもんですよね。ね?
興味があればユーザーから飛べます。多分。よろしければそっちも読んでみて下さい。(露骨な宣伝)
あ、汚いのもあるので注意して下さい。




 

 

 

俺達は今、バンガード臨時司令部を置く衛星タイタン、その海上拠点を見渡している。

チームリーダーであるケイド6がおもむろに口を開いた。

 

 

「さて、どこから攻めるかだが…」

 

 

眼下には悲鳴を上げながら滅茶苦茶にライフルを撃つバンダルと、それに群がり噛みつく無数のスロール達。

キャプテンはそのバンダルごと殲滅しようと、そこへスコーチキャノンの砲口を向けていた。

それを尻目に、ウィザードが怪しげな呪文を唱えてまた何かを呼び出そうとしている。

…戦場は混沌としていた。

 

 

「…ま、こんだけバカみたいにひしめいてんだ。気づかれずに行くってのは諦めた方がいいな…」

 

 

「その前に自己紹介させてくれませんか?」

 

 

考え込むケイドに、バンガードからの監視役として置かれたらしいガーディアンが話しかけた。

 

 

「おお、そうだったな。俺が考えてる間によろしく」

 

 

「ええ。改めて、私はゲイル。ウォーロックです。ご存知でしょうがゾンビさん、あなたの監視役兼サポートとしてバンガードより派遣されています。こちらは…」

 

 

ゲイルと名乗った背の高い男は、隣で腕を組んでいた細身の女性に顔を向けた。

 

 

「…バーツ。タイタン」

 

 

その女性はそれきり話さなくなり、興味なさげに敵を見下ろすのを再開した。ヘルメットで表情はうかがい知ることができなかったが、何かに苛立っているようにも思えた。

 

 

「…ハハ、まあ…悪い人ではないと思います。とはいえ私も親しいわけではないのですが…」

 

 

ゲイルが曖昧に笑う。返事をする気にはならなかった。

 

 

「終わったか?」

 

 

「ああ。バッチリだ。第一印象は最高だな!」

 

 

「ハハハ、ソイツはいい」

 

 

ケイドとザナリーが話している。

 

 

「それで作戦は決まったのか?」

 

 

「ん?ああ、それなんだが…いきなり連携をとれってのも無理な話だろ?確かに俺達は各クラスが2人ずつでバランスはいいけどな」

 

 

「だから、とりあえず…いきなりだが、チームを分けようと思う。つまり俺達バンガードチームと、お前達だ」

 

 

「元々の顔見知り同士で連携を確認して、その上ですり合わせようということですね?」

 

 

「おう、まあ、そういうことだな」

 

 

「いいと思います。私は賛成です。互いの実力を知れるいい機会でもありますし」

 

 

「そりゃ良かった。えーっと…バーツか。お前はどう思う?」

 

 

「………」

 

 

「賛成か。ナイスな返事だな」

 

 

「私も賛成だが、現在我々には光がない。事故防止のためにも、いつでも互いのチームをフォローできるように片方ずつ連携を確認すべきだろうと思う」

 

 

「ケイ!確かにそれはいい考えだな。俺と名前が似てるだけある」

 

 

「恐縮だ。ああ、残りの2人は聞くだけ無駄だから気にしなくていいだろう」

 

 

「え?」

 

 

「…いつも通りだ。ザナリー、お前は俺の邪魔をするな」

 

 

「分かってるよ。あの高台から撃てばいいんだろ?」

 

 

「そうだ。合図はライフがする。あとは好きにやれ」

 

 

「それも分かってるって!」

 

 

「……やる気たっぷりってことだな!いい事だ」

 

 

ケイドは2人の扱いを少し覚えた。

 

 

「んじゃあ、先にお前ら…名前がいるな…えっと…実験体、はダメだな。ん〜…地球から来たし、地球チーム!お前らからやってみろ」

 

 

「ネーミングセンス最悪だな!俺ならもっとカッコイイ名前つけるぜ!」

 

 

「うるせえ!リーダーの決定に逆らうな!」

 

 

………………………

 

 

「ケイ、何か考えはあるか」

 

 

「そうだな。決定力のあるお前は指揮官を狙うべきだろう。露払いは私達がする」

 

 

「そうか。どっちだ?」

 

 

「フォールンが先だ。ウィザードの詠唱には時間がかかるが、スコーチキャノンは引き金を引くだけだ」

 

 

スコーチキャノン。人間の身長ほどもある金属製の大筒で、一部のキャプテン以上しか持つことができない。射出される火砲の威力は絶大で、条件が揃えば戦車砲にも匹敵する。

要は非常に危険なのだ。

 

 

「分かった。ザナリー」

 

 

()()()()()も終わったしいつでも行けるぜ」

 

 

「…ライフ」

 

 

『突入タイミングは計算してあります。今より15.7秒後です』

 

 

「…フー…」

 

 

「ダンナでも緊張するか?」

 

 

「黙ってろ」

 

 

『突入まで3、2…』

 

 

3人が横並びに司令部出口から走り出す。

 

 

『1、0』

 

 

合図と同時に敵地へと飛び降りた。

 

 

「うわーーーーやっぱりいっぱいいるーーーー!!」

 

 

着地に合わせてザナリーが悲鳴を上げる。

 

 

「いいから走れ!ここからは何も言わんぞ!」

 

 

早速飛びかかってきたスロールの首を引きちぎりながら叫んだ。

 

 

「チクショーーー!」

 

 

ザナリーは情けない声を上げながら、追いすがるスロールやバンダルの狙撃を器用にかわしてどこかへと走っていった。

 

 

「ライフ!」

 

 

『増援、4時の方向』

 

 

「ケイ、投げるぞ!」

 

 

「了解。一旦離脱する」

 

 

ライフの示した方向へ向けてフラッシュグレネードを投擲。近くにいたケイは既に場所を変え、混乱した敵へ向けて追撃している。

 

 

『効果を確認。行けます』

 

 

「オオオオオ!!」

 

 

もはや咆哮のようになった声を響かせ、指揮官であるキャプテンまで突進する。

キャプテンが素早くこちらへスコーチキャノンを向けた。

 

 

『シールド展開。ですが、長くは持ちません』

 

 

「分かってる!」

 

 

スコーチキャノンは強力だ。マトモに喰らえば戦車砲のような爆発とともに四肢ぐらいは簡単に千切れるだろう。

であれば、エネルギーでできたシールドで防ぐにも限度がある。そして、その限度は限りなく近い。

 

 

キャプテンから噴気音とともにキャノンが放たれる。砲弾は足元で爆発し、足場とシールドを盛大に削った。

殺しきれなかった衝撃を受けて転倒しかけるが、地につけた右腕を軸に再度加速。一気にキャプテンまで詰め寄る。肥大化し、強靭になった肉体でそのままタックルで押し倒し、力ずくでスコーチキャノンを奪い取った。

 

 

「ウオオオオオ!!」

 

 

『相変わらず蛮族のような戦いですね』

 

 

「やかましい!」

 

 

素早く立ち上がり、バックステップと同時にキャプテンの顔面へ向けてキャノンを放つ。

轟音。シールドで衝撃は防いでいるとはいえ、光と音はそのまま通る。視界がホワイトアウトし、強い耳鳴りに顔をしかめた。

 

 

「どうだ!?」

 

 

『確認中…ええ、おめでとうございます』

 

 

「よし!なら次だ!」

 

 

至近距離からソーラーの大爆発を受けたキャプテンは全身を焼かれ、皮膚を泡立てながら痙攣して動かなくなった。

喜んでいる暇はない。フォールンの群れを離脱し、今度はウィザードだ。

 

 

『高所からスコーチキャノンを撃つのがいいと思います』

 

 

「そうか…っぐ!?」

 

 

背中に衝撃。ブレードで切られたらしい。

ブシューという音が聞こえてくる。背骨に沿って通したパイプからエーテルが漏れているようだ。

 

 

『背後にバンダル!レーダーに反応無し、透明化個体です!』

 

 

「チッ、とにかく離脱だ!」

 

 

その時、バンダルの頭が弾けた。

 

 

「…ザナリー!」

 

 

「ダンナ、そのキャノン貸してくれ!俺が当てる!」

 

 

ザナリー3がアンテナ台のへりからこちらを見下ろしていた。

 

 

「ああ!」

 

 

スコーチキャノンを右腕に乗せ、投擲の構えを取る。

元々キャプテンが肩に乗せて使うような武器だ。あまりの重さに右腕がミシミシと音を立てる。

 

 

「っぐ…」

 

 

「届くか!?いや俺が取りに行くか!?」

 

 

「…なめるな!」

 

 

助走をつけ思い切り身体をねじり、最大限の勢いをつけ、身体全体をバリスタのように。砲弾を射出することに全神経を傾け、スコーチキャノンを大振りに放り投げた。

 

 

「おお、すげえ!で…」

 

 

「ダンナ、これ俺が受け取ること考えた!?」

 

 

ザナリーは絶望した。目前には質量と速度に裏打ちされたエネルギーの暴力。それが自分に向かって一直線に飛んでくる。彼にあったのは恐怖。それのみであった。思わずその場に頭を抱えてしゃがみこんでしまうほどに。

 

 

「クソ、チクショーーー!死にたくねえーーー!」

 

 

「やかましい!そのくらい分かってる!」

 

 

「…へ?」

 

 

「…だが、これは流石に無茶ではないか?」

 

 

ザナリーが顔を上げると、そこではいつの間にか駆けつけていたケイがキャノンを受け止めていた。

 

 

「…ウソだろ!?どうやって!!」

 

 

「スコーチキャノンには反重力装置がついている。重すぎて地面を抜けたりしないようにな。持ち手から一定時間離れると自動で起動する仕組みだ」

 

 

「私や彼はお前が座り込むのを予測していた。キャノンがそのまま吹っ飛んでしまわないように、もう一度『持ち手』が必要だったわけだ」

 

 

ケイが早口に説明した。ザナリーは思いっきり顔を曇らせた。

 

 

「…つまり、俺は役立たずってことか?」

 

 

「何を言う。ほら」

 

 

「え?おっ…とっと」

 

 

ケイがザナリーにスコーチキャノンを手渡す。

 

 

「ここからはお前の仕事だろう。狙撃の腕は彼も認めてるんだ」

 

 

「…おお!そうか!」

 

 

「ダンナ!俺がんばるぜ!」

 

 

「いいから早く撃て!!」

 

 

「了解〜!っと重いなやっぱ……風は弱いしこのくらいか?」

 

 

ザナリーが腕を前に出し、狙いをつける。適当にやっているように見えて、その実かなり正確だ。

 

 

「よし行くぞ……どおりゃああ!」

 

 

バシュン、という噴気音とともにキャノンが砲弾を撃ち出す。ソーラーエネルギーを纏った一撃はウィザードのシールドをいとも簡単に破壊して爆発。魔法陣ごと辺り一面を燃やし尽くした。

 

 

「…うっわ自分で撃っといてなんだけどすごい威力…」

 

 

「よし、後は雑魚を片付けるだけだ」

 

 

「ああ。パイプの修理は?」

 

 

『もう少しです。ここには()()がたくさんありますからね』

 

 

「そうか、では…」

 

 

「おっと待った待った、待った!ストップ!もういいから帰ってこい!!」

 

 

ケイドが基地からこちらへ向けて、突然大声をかけた。

 

 

「どうした!?」

 

 

「いや……俺達がやる分がなくなるだろうが!!」

 

 

「…あー…」

 

 

『………戻りましょう』

 

 

「……そうだな」

 

 

どうやら俺達はやりすぎたらしかった。

 

 






以上です。
今回もお付き合い下さりありがとうございました。



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レベル20.確執


お久しぶりです。
回想回です。




 

 

アクセスコード・ブルー…認証…研究者よ、歓迎します。

ークロビス・ブレイ機械工学部データセンターに接続…

 

…廃棄データ#3389-52 未確定コード『レーザー』

…ファイル解凍…破損データを確認。データ復元…完了。【我々は、失敗を無駄にしません】

 

…再生開始。

 

 

 

ー自分より偉大なものがあると実感したとき、人は何を思うだろうか。

 

『試験・適用コード3997 承認』

 

これは箱のいらない電子レンジだ。高度に編み上げられた指向性陽電子コイルαスプリング型射出機構により、対象を内側から超高音にまで一気に持っていく。

 

ー我々は、我々が見えている宇宙と本当に向き合っていると言えるのか?

 

『試験・適用コード 4785 承認』

 

これは刃のない医療メスだ。患部をこの先端で切り裂き、いずれ癌を切除するだろう。

 

ー暗黒が迫りつつある。これは切り札になり得るか?

 

『試験・適用コード 4791 条件付き承認』

 

これは兵器だ。敵を殺し、味方を守るためにある。

 

ー生命に対する侮辱。この言葉をここまで陳腐に感じたのは初めてだ。

 

『試験・適用コード 5742 条件付き消極的承認』

 

これは暴力だ。殺した敵から得られるものは何だ?

 

ーこれを必要とするのは誰だ?

 

『試験・補適用コード 6239 危険性の改善を要請』

 

これは神だ。我々がすべきことは、全てこれが教えてくれる。

 

ーどこからやってきた?

 

『試験・補適用コード 6656 計画の根本的見直しを要請』

 

これは毒だ。これこそが、私達を蝕んでいる。

 

ー敵などどこにいる。

 

『ブレイ・コントロールより試験の中止を要請』

 

これは何だ?

 

ーこれは何のためにある?

 

『ブレイ・コントロールより再度試験の中止を要請』

 

俺達は、何を作ったんだ?

 

ー計画を凍結しよう。試作品を破棄。終わりだ。本部に報告。これは【失敗作】だ。

 

『ブレイ・コントロールより即時に音声通信の回復および秘匿資料の公開を要請』

 

本当にそうか?

 

ー何を…

 

『ブレイ・コントロールより/

 

 

 

…アクセスレベル上昇によるコンテンツブロックを確認。 廃棄データ#3389-52 の再生を終了します。あなたのアクセス権限では、これ以上のデータを参照することはできません。ブレイ・コントロールに特別コード発行を申請するか、アクセス権限を向上させて下さい。

 

 

 

………………………

 

 

火星。激しい砂嵐の吹き荒れる中、キャンプで細身の男が端末を操作している。

 

 

『スカイバーナーはまた増援を呼んだらしい。敵は強大だ。このままでは…』

 

 

悲観的に俯く男に、勇ましそうな女が声を荒げた。

 

 

『ならば打って出よう。最後の一人になるまで戦うんだ』

 

 

それを見て、腕を組んだ気難しそうな男が制止をかけた。

 

 

『足止めが任務だ。ここを離れることはできない』

 

 

細身の男は端末をゴーストに預け、ため息をついた。

 

 

『弾薬も少ない…ここは光も届かない。戦うにしたって、どうやって?』

 

 

利発そうな女が冷ややかな声で述べる。

 

 

『方法を模索しよう。周囲の施設や機械を利用するんだ』

 

 

『………』

 

 

男が、座りこんでいるもう一人の男に目をかけた。

 

 

『…ずっと黙っているが、お前はどう思う?【ガンドール】』

 

 

『…そうだな…』

 

 

………………………

 

 

細身の男が、端末を手に目を細めた。

 

 

『カバルが迫ってきている…なあ、本当に成功すると思うか?』

 

 

気難しそうな男が片眉を上げた。

 

 

『俺の計算を疑うのか?【これ】を使うのが一番作戦成功率が高い』

 

 

利発そうな女がつぶやく。

 

 

『【これ】が見つかったのは幸運だった』

 

 

細身の男はおもむろに【それ】を見上げた。

 

 

『幸運…いや…ああ、確かにそうかもしれん』

 

 

『【黄金時代末期の試作レーザー兵器】…とんでもない破壊力だ。こんな砂嵐の中でも、減衰込でカバルの一個大隊に大きな打撃を与えられる』

 

 

『そんな兵器が名前もつけられないままに、偶然にも今までほとんど破壊されずに打ち捨てられていた。それがたまたま長続きした砂嵐で、たまたまここまで砂に乗って流されてきたわけだ。こんな偶然を幸運と呼ばず何と言えばいい?』

 

 

勇ましそうな女が駆けてくる。

 

 

『皆、設置は概ね完了した。あとはエネルギーセルの充填が必要だ』

 

 

細身の男が、何かを決意したように顔を強ばらせた。

 

 

『エネルギー…』

 

 

『…これだけの大出力だ。その辺の発電機じゃものの足しにもなりゃしない、んだよな』

 

 

勇ましそうな女は強気に言い返す。

 

 

『覚悟はしている…いや、いつでも覚悟していた』

 

 

気難しそうな男が機械のチェックをゴーストに指示する。

 

 

『…【光をエネルギーに変換する】…理論は単純だが、誰もやろうとしない』

 

 

『こんなトラベラーの光の届かない所でガーディアンから光を抜き取れば、皆ガーディアンとしての力を失ってしまうだろう』

 

 

『こんな所で力を失えば、待っているのは死だ…リスクが大きすぎる』

 

 

『…しかし、今はそれ以外に方法がない』

 

 

細身の男が、壁にもたれかかった自分を見た。

 

 

『そうだ。やるしかない…【ガンドール】』

 

 

『…頼む…待ってくれ』

 

 

『…ここに至れば、もはや一秒が惜しい…我々は残された僅かな光を使い、このレーザー兵器の弾薬となる。だが…1人。1人だけは、ここに残さなければならない』

 

 

『カバルは狡猾だ。一射目でさえも感知し、回避行動をとる可能性もある』

 

 

『残念ながら、この砂嵐ではレーザー兵器の自動照準は機能しない。だから、原始的な方法をとらざるを得ない…すなわち』

 

 

『君は最前線で戦ったために一番消耗し、エネルギーに変換できる光が最も少ない。だからガンドール…君が砲手だ』

 

 

『…しかし…1人残された俺はどうすればいい?』

 

 

『もちろん光を失っても銃は撃てる。我々で最大限足止めはする…その間に、君は本隊に合流して状況を伝えてきてほしい』

 

 

『そういうことでは…』

 

 

『…分かっているとも。我々…俺が、何年お前と一緒に戦ってきたと思ってる。だが分かっていたハズだ。戦いとは…戦争とは、こういうものだと。明日誰が死ぬとも分からない、クソのような血と鉄でできた汚泥の底に俺達はいるということを』

 

 

『だから謝ろう…ガンドール。一緒に死なせてやれなくてすまない。お前は生きて、俺達の死を犬死にさせないでくれ』

 

 

『………』

 

 

『…さあ、時間がない。セルにエネルギーを充填するぞ…始めてくれ』

 

 

『…俺は、お前達を…そして何よりも俺自身を一生怨むだろうな』

 

 

『………さあ、早く』

 

 

………………………

 

 

「よっしゃー!殲滅完了〜!」

 

 

「お見事!隊長!お大臣!ところで、お大臣って何だ?」

 

 

「細かいこと気にするな!それよりも…」

 

 

「これでお互いの連携は確認できたハズだ。あとは今後の役割分担だが…ガン…えーとゾンビ。お前の意見を聞きたい」

 

 

「………」

 

 

「どうした?」

 

 

「………」

 

 

「ダンナ?いくらケイドのことが嫌いでも無視はヤバいんじゃないか?」

 

 

「お前が一番失礼だな?」

 

 

「………ああ、すまない。少し考え事をしていただけだ」

 

 

『嘘です。彼は浅い眠りの状態でした。ちなみに夢まで見ていました』

 

 

「お前…!俺の活躍を見ていなかったのか!?」

 

 

「ケイドの活躍なんか皆見飽きてるだろ」

 

 

「良いものってのは何回見ても良いんだよ!」

 

 

「あー…」

 

 

『お互いの連携について、意見を聞きたいそうです』

 

 

「…タイタンが前線、ハンターが遊撃、ウォーロックは…好きにやらせればいいんじゃないか?」

 

 

「……それは…そうだが…」

 

 

『ガーディアン成立時代より変わらないイメージですね』

 

 

「…まあ、それについては俺としても異論はない。とりあえずそれで様子を見よう」

 

 

「じゃあ、クラスごとにペアを作ってカバーさせよう…俺は不本意だがこのバカとだ。ゲイル、お前はケイと協力して作戦にあたれ。バーツ、お前はゾンビのペアだ」

 

 

ケイドがそう言ってバーツ…もう一人のタイタンの方を向いた。

 

 

「断る」

 

 

「…何?」

 

 

「断ると言った」

 

 

「…上司に敬語を使わないお前にナイフを投げるのは後だ。理由を聞こう」

 

 

「…私はコイツを監視するために来た。協力するために来たのではない」

 

 

「監視は任務のひとつに過ぎん。本来の作戦を果たせ。それとも…何か別の理由があるのか?」

 

 

「…私は、『暴風のガンドール』を許さない。ハッキリ言おう。今すぐ殺してやりたい。だから組めない。いつコイツの背中を撃つか分からんからな」

 

 

「………」

 

 

「…集合〜!ちょっ…集合!作戦会議やり直し!!」

 

 

ケイドが悲痛に叫んだ。

 

 






ご精読ありがとうございました。
よろしければご感想を書いて下さるとありがたいです。
なお、質問やご意見ございましたら活動報告にお願いします。


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レベル21.歳月



また過去編というか、補足回というか。話進みません。
考えてるうちにどんどん話が延びていきます。なぜだ。




 

 

 

数年前

シティ/『タワー』の一角

 

 

「…『メリディアン・ベイの撤退戦』?そんなの聞いてどうするんだ」

 

 

「真実が知りたい」

 

 

「真実だって!?おいやめてくれ!俺は哲学と集合体がどうしてもダメなんだ!鳥肌が立つからな…それ以上話をややこしくするな!」

 

 

「…では、メリディアン・ベイで何があったのか、かの戦いから帰還した『彼』の第一発見者であるあなたから詳しい話を伺いたい」

 

 

「その喋り方にも少々寒気を感じるが、ギリギリOKだ…それで、『メリディアン・ベイの撤退戦』か…聞いてもそこまで面白い話じゃないと思うんだがね」

 

 

「面白いかどうかは問題ではない。私は知りたいだけだ」

 

 

「そうかよ。まあいい…あの日、俺は火星にいた。まあ、当たり前だが。簡単に言えば、カバルのスカイバーナーが大部隊をよこして、俺達は負けた。負けたから逃げた…」

 

 

「だが逃げきれなかった。ヤツらの方が足が早かったんだな…そうなると、『トカゲのしっぽ』が必要だ」

 

 

「部隊の殿として、敵の追撃を食い止める部隊を選出したと」

 

 

「まあ、そういうことだ…それで、しっぽには、敵が無視できないぐらいの強さが必要だった。そこで選ばれたのが『エイリーク』!」

 

 

「……エイリーク…優秀なウォーロックだった。いつも藍色のバンドを腕に巻いていた」

 

 

「なんだ、知り合いか?…とにかく彼はファイアチームを編成…といっても昔から連れ添った固定メンバーだったらしいんだが、そいつらと共にカバルを食い止めた!」

 

 

「そこから先は俺にもよく分かってない…ああ、俺がビビって逃げ道しか見えてなかったわけじゃないぞ?スカイバーナーとエイリーク達が戦った所は、光も通さないくらいのすごい砂嵐だったんだ」

 

 

「2週間が経って、全ての部隊が撤退を終えて、再編成の準備が始まった日の朝だ。今までずっと渦巻いていた砂嵐が突然嘘のように止んだ。急遽調査に出た俺達が見たのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…それが…『暴風のガンドール』」

 

 

「よく知ってるじゃないか。そう、そいつこそがあの有名な『暴風のガンドール』だ。ファイアチームが自分以外全滅した中で戦い抜き、一人でカバルを撤退にまで追い込んだタイタンの英雄!お前もタイタンなら憧れるだろ?」

 

 

「…続きを話してくれ」

 

 

「…俺の知るタイタンはこの辺で叫んだり拳を振り上げるんだが…珍しいな…」

 

 

「それで、続きか…『ガンドール』はバンガードに事の詳細を伝えた。とはいえその内容のほとんどは秘匿されたらしいんだが、彼は帰還して一言目に…何て言ったと思う?」

 

 

「………」

 

 

「…何か言ってほしいんだが…ゴホン!えー…『俺が殺した』だ。なんて勇ましいんだろうな!」

 

 

「本当にそう思っているのか?」

 

 

「勿論だとも」

 

 

「………()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「……どこに疑う理由がある」

 

 

「………」

 

 

「…なあ、そんな目で見ないでくれないか」

 

 

「………」

 

 

「……あーー!分かった!分かったよ!全部正直に話す!だからそれ聞いたらさっさとどっか行ってくれ!」

 

 

「恩に着る」

 

 

「そんなもん着るな!二度とこの話を持ちかけないでくれればそれでいい!」

 

 

「はあ、全く…もう知ってるんだろうが、『俺が殺した』の話には続きがある…まあ、これもいい機会だ。詳しく話してやろう」

 

 

「少し遠回りに話すが、『暴風のガンドール』という二つ名…妙だとは思わないか?」

 

 

「妙、とは?」

 

 

「タイタンの二つ名がつけられるのは、大抵の場合本人が大きな功績を残した時だ…つまり、敵の大将を撃破すれば『クロタの最期』と名付けようとしたり…まあ、例外もあるが…」

 

 

「俺が言いたいのは、本人の功績から来ている以上、二つ名は勇ましく、格好よく、そして…ポジティブだということだ」

 

 

「『暴風』」

 

 

「そう。『暴風のガンドール』…確かに、彼はメリディアン・ベイの大砂嵐の中からカバルを退け、生き残った…これだけ見れば何とも勇ましく、力強い二つ名だろう」

 

 

「だが、真相はもう少し複雑だった。…バンガードは皆に伝えていないんだが…誰にも言うなよ?…彼はあの時『俺が殺した』と言った後に、こう付け加えた」

 

 

「…『仲間も全員』」

 

 

「…仲間を、殺したのか?」

 

 

「『彼』が言うにはな。『暴風』は、それが通った道の上にあるもの全てを傷つけ、破壊し、そして何事もなかったかのように通り過ぎていく…()()()()()()()()()

 

 

「バンガードは『暴風』という二つ名を大々的に喧伝した。一般のガーディアンには単なる英雄として…そして真実を知り、バンガードに忠誠を誓った者には…『危険人物』の暗号として」

 

 

「昔の話だ。今では『暴風』の本当の意味を知らないガーディアンの方が当たり前になった」

 

 

「『彼』はその後、何か功績を上げたりしたのか?」

 

 

「それが全く。役職も、勲章も拒否した。その後もちっともやる気を出さないで、他のタイタンと見分けがつかないぐらいの戦いしかしなかった」

 

 

「っ…何か…理由があったのか?」

 

 

「さあね。誰が聞いても答えなかったし、あんまりしつこいと怒りだすから誰も触れなくなったんだよ…ま、あの戦いで怖くなって、すっかりやる気を無くしちまったんじゃないかね」

 

 

「…『彼』は…『暴風のガンドール』は、仲間を…師匠を殺して…英雄になり…その上、大した理由もなく、英雄として生きる責任さえ拒んだと…?」

 

 

「…師匠?エイリークのことか」

 

 

「エイリーク先生…私の師匠だった…ガーディアンとなり、何も分からないまま死にかけた私を救い、導いてくれた…」

 

 

「そりゃ…災難だったな」

 

 

「彼は私の憧れだった…!常に毅然として立派な人だった…あんな所で死ぬべき人では決してなかった…!」

 

 

「…英雄としての実力を持ちながら、責任から逃れ…まるで惰性のように生き続けるあんな男のために死んだのでは…一体、師匠は何のためにっ!!」

 

 

「………」

 

 

「…ああ、もう十分だ。話してくれてありがとう…私はやることがある。ここで失礼する」

 

 

「あ、ああ…」

 

 

 

………………………

 

 

 

「…バーツ、だったな」

 

 

ケイドが慎重に話を進める。

 

 

「………」

 

 

「お前が何を考えてるか知らないが、今、俺達はチームだ。チームなら協力し合う。しなけりゃ失敗する。ひどけりゃ死ぬ。死んだら終わりだ。お前もガーディアンなら分かってるだろう」

 

 

「…勿論だ」

 

 

「だったら…」

 

 

「だから、私は言ったハズだ。コイツとはチームを組めないと」

 

 

「どういうことだ?要領を得ない話をしないでくれ」

 

 

今度はケイが口を挟んだ。少し不機嫌そうだ。

 

 

「『暴風のガンドール』。その二つ名の真の意味を知らない者はこの場にはいないだろう」

 

 

「…真の、意味?」

 

 

「何、お前、コイツとここまで行動していて知らないとでも?」

 

 

「…ケイはガーディアンになって日が浅い。…あの日より後だ。知らなくて当然だ」

 

 

目を細め、つとめて冷静に補足した。

 

 

「何故それを…」

 

 

「俺がお前にライフを貸す間、お前のゴーストから少しだけ聞いた」

 

 

バーツが俺を指差した。その指は、震えているようにも見えた。

 

 

「…なら、後で本人からでも聞くがいい。コイツが…この男が、いや…この、バケモノが!仲間殺しの裏切り者だということを!!」

 

 

「…は!?」

 

 

ザナリーが乗っていた物資箱から転げ落ちた。

 

 



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レベル22.弾丸


ずいぶん間が開きました。ごめんなさい。




 

 

 

 

「…さて!お互い意見はあるだろうがとりあえず矛を収めろ。この場は俺が預かる。いいな?」

 

 

ケイドは数歩歩くと軽く両手を持ち上げ、俺とバーツとの間に立ち掌を向けた。

 

 

「バーツ。お前はこのガン…ゾンビを、『裏切り者』だと言う」

 

 

「私は嘘はつかない」

 

 

「嘘かどうかは問題じゃない…とにかく、そこまで言うには理由がある。そうだろ?」

 

 

「もちろんだ」

 

 

「…だが、その理由を聞くのは後にしよう。長くなりそうだからな。さて…」

 

 

ケイドはゆっくりとこちらを見据えた。

 

 

「ゾンビ。何かこれに対して言うことは?」

 

 

「…ああ、そうだな…」

 

 

どうやらケイドは俺に釈明の機会を与えているらしい。問題が起これば務めて公平に。ケイドは嫌な顔をするだろうが、これもバンガードのリーダーの素質だ。

 

 

「………」

 

 

コンテナに登り直したザナリーが期待するような目でこちらを見ている。恐らく俺が公然とバーツの言い分を否定するのを待っているのだろう。だが…

 

 

「ない」

 

 

「うぇっ!?」

 

 

ザナリーがまた落ちる。ケイドも少し驚いたように首を傾げた。

 

 

「ない、ないってことは…ないってことか?」

 

 

「そうだ。俺はそこの女が俺を『仲間殺しの裏切り者』だと言うことに対して、何ら反論するつもりはない」

 

 

「…いいのか?それは…お前がバーツの言い分を全面的に認めることになるぞ」

 

 

「………」

 

 

「…ダンナ?どうしたんだ?」

 

 

『ゾンビさん…私はあなたの判断に従います』

 

 

氷のように冷え切った罪の意識が、粘着質に背筋を這う。

 

 

「…『仲間殺し』…認めるも何も、事実だからな」

 

 

「…!!」

 

 

周囲に動揺が走るのが目に見えて分かった。それと同時に、その多くが俺から半歩距離を取り、武器に手をかけた。

 

 

「…は、はははっ!やっぱりだ!私は間違っていなかった…この化け物め!」

 

 

バーツが叫ぶ。手にはライフルを構え、その銃口は正面…俺に向いていた。

 

 

「ケイド6!バンガードのリーダーに要請する!この場でこの危険分子を射殺する許可を!」

 

 

「…少し待て」

 

 

「ケイド6!!いつでも撃つ用意は…」

 

 

「待てって言ってるんだ!バンガードのリーダーに従えないのか!?」

 

 

「…っ!」

 

 

ケイドは俯いてため息をついた。

 

 

「…バンガードのリーダーに従え?俺が言ったのか?…クソ、なんで俺はこんな役職に…バーツ、お前は今冷静じゃない。とにかく、お前はそのまま待機だ。それと…」

 

 

ケイドは俺を横目で見る。球状の青色に光る両目で値踏みするように少し見つめた後、俺から目を離した。

 

 

「ゲイル、ケイ。お前達でゾンビを拘束しろ。動けなくなるくらいでいい。ザナリーは周辺の警戒。フォールンやハイヴが近くまで来たら知らせろ。俺は少し…バンガードと連絡を取る」

 

 

「拘束だって!?まさか!嘘だろ!?」

 

 

ザナリーが抵抗する。

 

 

「嘘じゃない。いいからやれ」

 

 

「ケイド6!アンタの目には、この『人』がマジで敵にでも見えてるのか!?」

 

 

「『化け物』にならない保証がない」

 

 

「ケイド6!!」

 

 

「もういい。ゲイル、ザナリー3も拘束しろ…口もふさげ」

 

 

「了解…悪く思わないで下さいね」

 

 

ゲイルは素早くロープを取り出すとザナリー3の口をふさぎ、そのまま身体も雁字搦めにした。

 

 

「むがが…チクショー!俺のアイデンティティを…!……!」

 

 

「こら、暴れないでくれ!」

 

 

「………」

 

 

「…どうした?縛らないのか」

 

 

暴れるザナリーを尻目に、ケイはロープを手にしたままこちらを見て立ち尽くしていた。

 

 

「私は…知識を求めてウォーロックになった。草木はどうして成長するのか、動物はなぜその形を取ったのか…ガーディアンはどうして生まれ、暗黒はどこから来たのか…」

 

 

「では、私は、何故そうまでして知識を求めるのか?」

 

 

「思い出せない。ゴーストに聞いても、私の根源にはたどり着けなかった」

 

 

「なぜ今そんな話をする」

 

 

「…何故だろうな。とにかく、今は怖いバンガードのリーダーに従おう」

 

 

「手早く頼む。それと…俺は痛いのは嫌いだ」

 

 

「フ…保証はしかねる」

 

 

結論から言うと、彼女のロープさばきは素晴らしいものだったが、少しだけ痛かった。いや、痛くされた。

 

 

 

………………………………

 

 

 

ケイドが席を外し、俺とザナリーがロープに縛られてしばらく経った。ザナリーはスリープ状態に入り、バーツはケイドに怒鳴られたのが少しは効いたらしく、時折こちらを睨む程度に収まっている。ヘルメット越しに睨むのが分かるのは不思議だが、感情の読みやすい…いかにもタイタンな女だ。

 

 

「待たせたな、諸君。いやそんなに待ってないか?…なんだ、ザナリーは寝ちまったのか。そりゃいいな。そっちの方が話が進む」

 

 

ケイドが両手をひらひらさせながら歩いてきた。どうやらバンガードの()()と話して調子を取り戻したらしい。

 

 

「ケイド。あれからどのくらい経った?」

 

 

時間を聞いてみる。特に理由はないが、沈痛な空気を嫌ってのことだ。

 

 

「ちょうど15分くらいだ。長いと感じるかは任せる。俺はそうは思わない。忙しかったからな。さて結論から述べるが、作戦はとりあえず中止になった。まあ、これは当然だな」

 

 

「…彼の扱いは?」

 

 

ゲイルの問いに対して、ケイドはため息混じりに答える。

 

 

「まず…今までの扱いが、『表向きバンガードメンバー、実質バンガード預かりの危険物兼研究対象』だったわけだが…これが少し変わる。つまり…『バンガード』のあたりが消える」

 

 

「…追放ということか?」

 

 

「…まあ、そういうことになる。言い訳臭いが、バーツの言葉について、これを信じたワケじゃない。というか、まあ…その、ゾンビ…『暴風のガンドール』の、『メリディアン・ベイの撤退戦』については、俺だって知ってるさ。そこでの被害、その詳細までな」

 

 

「…では、本当に、仲間を…殺したのか?」

 

 

「ケイ。ウォーロックなら分かるだろう?ここで彼を突き放すってことは…彼を危険だと見なしてるってことだ。バンガードにも彼を警戒するための戦力を抽出する余裕はない。ならば追放してしまう方が合理的だろう」

 

 

「…しかし…地球ではそんな素振りは…」

 

 

「なあ、昨日まで仲良しだったヤツがナイフを向けてくるのがそんなに珍しいのか?」

 

 

「…ケイド、言い方というものがある」

 

 

「そりゃ悪かったな。俺も少し気が立ってる。許してくれ…それで、俺としては平和的に解決したいワケだ」

 

 

「シャトルはあるのか?」

 

 

「…まあ…一応。旧式だが。それと…ちょっと穴が空いてるのと…俺が暇つぶしにアートを少し加えてやったが…そのくらいだ」

 

 

「………」

 

 

「…でもちゃんと動くぞ?…多分」

 

 

ため息。今日何度目だろうか。

 

 

「…いいだろう。整備する時間をくれれば、このまま出ていってやる。ここの研究者連中にも退屈していたところだ」

 

 

「…そうか。そいつは…助かる」

 

 

「だがケイド。1つ約束してくれ」

 

 

「…内容にもよるが、言ってみろ」

 

 

「損はしないさ。手は煩わせない。お前も俺の望みは分かってるだろう…光を取り戻したら、必ず教えてくれ。教えてくれるだけでいい…連絡の手段はある。ライフ」

 

 

『了解。ケイド6、これからあなたのゴーストと私にパスをつなげます。大丈夫。メモリやストレージのロスはありませんし痛くありません。あなたが望んだ時に連絡できる…要はホットラインの開設です』

 

 

「…器用なんだな?」

 

 

『お褒めいただきありがとうございます。さて、完了しました。次は船の整備ですか?』

 

 

「そうだが、もう少し後になるだろうな…」

 

 

そう言って、左を見る。バーツがもう一度、こちらに銃口を向けていた。

 

 

「バーツ、やめろ」

 

 

ケイドが諌める。

 

 

「ケイド、何故殺さない」

 

 

「バンガードの決定だぞ」

 

 

「危険分子だ!」

 

 

「お前が何を知ってる!いいからバンガードに従え!」

 

 

「知っているとも!コイツがタイタンの英雄で!仲間殺しの裏切り者だってことも!その殺された仲間が…私の師匠だったことも!!」

 

 

「師匠…?まさか」

 

 

バーツの腕に巻かれた青色のバンドが目についた。

 

 

「そのバンド…エイリーク…!?」

 

 

「…っ私の師匠の名を気安く呼ぶなぁ!化け物めっ!!」

 

 

「師匠の仇…ここで、終わらせてやる…!ここで殺してやる!!うわぁああーーーーっっ!!」

 

 

パァン、と、弾けるような音が響いた。

 

 

 

 






暑いと思ったら夜は冷えたり、また蒸し暑かったり、もう自律神経ボロボロです。
皆様もお身体にはお気をつけて。



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レベル23.守護者



前書きはありません。と書くと、しかし前書きはありませんという前書きが存在しているわけで。
あるのにない。不思議。




 

 

 

エメラルドと言うには透明度に欠ける緑がかった海が眼下に広がり、大きくうねりながら一定のリズムを刻む。巨人の名を拝したこの星で響いたひとつの銃声は、確かにその『肉』を貫き、金属の地面に到達した。

 

 

まるでスローモーションのようにゆっくりと、巨人が倒れる。思ったより大きな衝撃も、音もしない。『彼』のゴーストは、彼の懐に入ったきり出てこなくなった。

 

 

巨人は、『タイタン』を見上げ…白い右腕を伸ばそうとした。そして、力なくその身を地面に任せ…最後には動かなくなった。

 

 

「………は?」

 

 

静寂が場を支配する中で、初めに声を発したのはザナリー3だった。その声は、心なしか震えているようだった。

 

 

「どういうことだ?…仲間を撃ったのか?」

 

 

彼の視線の先には、銃声の発生源…バンガード所属タイタンのバーツ。

彼女は倒れた『彼』を、ただ眺めていた。自分が撃ったことを確かめるように、銃を胸に寄せ、感触を確かめた。

 

 

「仲間だと?」

 

 

ザナリー3の弱々しい抗議に振り向きながら、バーツは氷のように冷酷な声色で答えた。

拳を握りしめ、ザナリー3の我慢ならない言葉に反論する…すなわち、『仲間』という言葉に。

 

 

「私が撃ったのは『敵』だ!コイツは紛れもない危険分子だった…私は危険を未然に防いだだけだ!!」

 

 

「…ああそうかよ!言いたいことはそれだけか!!」

 

 

もはや相容れないだろう。ザナリー3が立ち上がり、腰のハンドキャノンに手をかけようとした瞬間、横から手が伸び、それを制した。

 

 

「ケイド6!止めないでくれ!俺は…」

 

 

「いや、お前を止めたいんじゃない。俺が止めるのは…」

 

 

ケイド6はザナリー3を制したのとは反対の手で、いつの間にかハンドキャノンを構えていた。銃口は正面…バーツに向いていた。

ケイド6は斜に構え、分かりやすくバーツの頭に照準を合わせる。本当に撃つつもりは無い威嚇だ。これ以上余計なことをするなという意思表示である。

 

 

「この場の無意味な争いだ。バーツ、銃をおろせ」

 

 

努めて冷静に、この場を収めようとする意図が読み取れる声色で、ケイド6はバーツに警告した。

 

 

「…いいだろう。もう危険は排除した」

 

 

バーツはひとつ大きな息をつくと、手にしたライフルを腰のホルダーにしまった。丁寧に、手榴弾やサブウェポンを持っていないことも示した。

 

 

「ケイド6!!」

 

 

まさかこのまま目前の事態を見逃すのかと、ザナリー3がケイド6に抗議する。再度ハンドキャノンを構えようとすると、今度はケイド6がその腕を掴んで止めた。

 

 

「ザナリー3!いいから抑えろ!」

 

 

「っ…んなこと言ったって!人が死んでんだぞ…!!味方に撃たれて!」

 

 

「分かってる…バーツ、大人しくついてこい。ケイ、ゲイル、お前達はバーツの後ろにつけ」

 

 

ゲイルは顎に手を当てほんの少し逡巡すると、素直にケイド6の指示に従うことにした。自らが口出しすべき問題ではないという考えに至ったようだ。

 

 

「まるで囚人の護送ですね」

 

 

彼は冗談交じりに言うと、同じく指示を受けてバーツの後ろについたケイが顔をしかめた。

 

 

「ゲイル。私も無駄口は嫌いじゃないが、後にした方がいい…私も、ショックを受けている」

 

 

その声は少しだけ、いつもより低いように感じた。

 

 

「囚人だと…?私がか?」

 

 

バーツは身体を震わせ、怒り混じりに動揺した様子だった。自らの理解が得られないことに対する不満だ。

 

 

「ああ。お前のこれからの処遇はバンガードのリーダーによる協議で決まる…ま、よくて追放だ」

 

 

ケイド6が今後の予定を説明する。彼としては、ここから先は自分ひとりでは手に負えないと考えているようだ。

 

 

「私は敵を撃っただけだ!」

 

 

バーツはなおも肩をいからせ、自らの正義を振りかざした。彼女の言葉の裏には、確固たる『彼女の』正義が読み取れる。敵の攻撃を独りで受け止めることもあるタイタンには、こういった精神構造がよく見られた。

 

 

「『敵』だ何だとさっきから言ってるが…バーツ、お前は…なんの権利があってそんな事を勝手に決めたんだ?」

 

 

ケイド6は足を止め、バーツに振り向いた。どこか呆れたような、非難するような口調だった。

 

 

「何っ…」

 

 

「敵は何だ?ガーディアンが戦うべきなのは?そんなの『暗黒』に決まってるだろ!それ以外の敵はバンガードが決める!そんでヤバいと思ったら命令を出す!ガーディアンはそれに従う!そうじゃなきゃガーディアンなんかその辺のチンピラやマフィアとおんなじだ!分かるだろう!!」

 

 

「俺達は統制された集団じゃなきゃいけないんだ!今お前は『バンガードが敵と判断していない人物を個人の裁量で私刑的に射殺した』んだぞ!?」

 

 

「っ…だ、だが!私は奴の危険性をバンガードに訴えた!バンガードはそれを承知して、奴を追放した!敵と見なしたんじゃないのか!」

 

 

「それこそバカの考えだ!バカタイタンめ!バカにも分かるようにもっと簡潔に言ってやる…『お前はガーディアンを殺した』んだよ!!」

 

 

ケイド6は柄にもなく大きな声を出し、バーツを叱りつけた。ガーディアンとしては大ベテランである彼は、口では何度もバンガードを批判しようとも、バンガードの存在意義やその重要性について…そして、『力』の危険性について、この場の誰よりも深く理解していた。

 

 

「………うるさいっ!!うるさいうるさいうるさい!!アイツは師匠の仇だったんだ!あの撤退戦で!アイツは!アイツはっ!!」

 

 

バーツは地団駄を踏み、ケイド6に詰め寄って抗議する。『師匠を殺した裏切り者に復讐する』、この事実だけが、彼女にとっての全てだった。

 

 

「…だが、お前はその仇と同じことをやったんだ!!復讐を免罪符になら、何でもやっていいとでも思ったのか!?」

 

 

ケイド6の意見は変わらなかった。

 

 

「っ……!!」

 

 

バーツは、力なく崩れ落ちた。

 

 

「…『メリディアン・ベイの撤退戦』について、偏った情報から勘違いしてる可能性がある。臨時本部の謹慎室に連れてけ…後はザヴァラにやらせる。タイタンのケツはタイタンが拭くんだ」

 

 

ケイドは深くため息をつき、あとの対応について改めて説明すると、バーツから視線を外した。

 

 

「…了解。ケイ」

 

 

ゲイルは少し驚いた様子で、しかしすぐに落ち着きを取り戻して指示に従う。

 

 

「ああ。ほら、立て…それと、武器は預かる」

 

 

ケイはバーツの不安定さを懸念して、武器を預かることにした。

 

 

「…な、なあ…」

 

 

力のない声が下からケイの耳に届いた。

 

 

「…ザナリー」

 

 

座りこんだままのザナリー3が、全く動かない死体をぼんやりと眺めていた。

 

 

「…俺はこれからどうしたらいい…?ダンナは…ダンナは、もう助からないのか?ケイ、お前は頭がいいんだろ?教えてくれよ…」

 

 

救いを求めるような、切羽詰まった声色だった。

 

 

「…ケイド」

 

 

ケイはケイドに確認を取る。ザナリー3の対応を優先してやることにした。

 

 

「ああ…こっちはゲイルと2人で連行して先に戻ってる。相手してやれ」

 

 

「…了解………一発。…脳天を撃ち抜かれてる。全てを正直に言っても…悲しみしか残らないだろう」

 

 

彼女のゴーストによって分析された情報を伝える。

 

 

「…そうか…ああ、そうか…ダンナは…」

 

 

「………ダンナは………死んだ、のか」

 

 

消え入るように、自分に言い聞かせるようにして、ザナリー3はつぶやく。

 

 

「………」

 

 

「…クソ…畜生!クソ、クソ!クソッ!!何で動けなかった!何で守れなかった…!俺は、まだもらった恩のひとつだって返せちゃいないってのに!!」

 

 

ザナリー3は目前の動かない身体にしがみつき、叫んだ。時折、肩や頭を抱きかかえて掌で叩いている。

 

 

「…ザナリー…」

 

 

「…畜生…チクショーーーーーー!!!!」

 

 

慟哭がグリーンの海にこだました。

 

 

 

………………………

 

 

 

「うう…ダンナ…絶対死なないと思ってたのに…!」

 

 

ザナリーが動かない身体を抱えて泣き続けること数分。

…ようやく、身体に感覚が戻ってきた。一言目には、ずっと考えていたことを伝えてやろうと思う。

 

 

「………ぅる……さい…ぞ…」

 

 

暗く、絞り出すような声。この場の、『動く』誰の声でもない。

 

 

「………え?」

 

 

ザナリーの動きが止まった。

 

 

「…ゴースト!対象をスキャン!」

 

 

ケイは目を見開き、驚きを隠そうともせずゴーストを俺に向けて派遣した。

 

 

『了解。少々お待ちください……人間47%、フォールン49%、ニッケル等含む合成金属3%、その他1%』

 

 

「組成じゃない!生きているのか?」

 

 

今の彼女に、ゴーストの冗談を受け止めてやる余裕はないようだ。

 

 

『…21gはまだ抜けていません』

 

 

「………やっ……たぁあああああああああ!!!!」

 

 

ザナリー3が両拳を天に振り上げ叫ぶ。うるさい。金属の身体のハードポイントが当たって痛い。

 

 

「…はなれ…ろ…!」

 

 

ザナリー3は、この後何を言っても硬くて冷たい身体を離してはくれなかった。







梅雨も明け始め、最近暑くなってきました。学生の皆様の中には夏休みに突入した方もおられるかもしれません。社会人の方でも夏休みのある方はおられるかもしれません。
そんなものなどないという方もおられるかもしれません。
ともかく、熱中症やクーラーの浴びすぎなど、お身体にはお気をつけてお過ごしください。



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レベル24.出立



学生の皆さんは宿題終わりましたか?
あ、辛いことを聞いてしまったとしたら申し訳ありません。
ちなみに、社会人は宿題がない代わりに夏休みもありません。
どうです、羨ましいでしょう?




 

 

 

戦うために生まれてきた者もいる。彼らは忠実で純粋で、「5秒で駆けつけろ」という招集がかかると、必ず誰よりも先に駆けつける。だが、私は違う。私は英雄ではないし、死に急いでもいない。……ガウルが終わらせるために来た……この戦いはレッドリージョンが終わらせる。だが、我々は踏ん張りを見せ、生き長らえた。それは勝利だ。銃にそう書いてある。

 

 

―――伝承:スカイバーナーの誓いより抜粋―――

 

 

 

「しかし…」

 

 

落ち着きを取り戻したザナリー3が、思い出したようにつぶやいた。

 

 

「どうして生きてたんだ?」

 

 

仲間が生きていた、それは喜ばしいことだ。だが落ち着いて考えれば、脳天を銃で撃ち抜かれたにも関わらず、どうして彼は生きていたのだろうか?

人は頭を撃たれたら当然死ぬ。だからこそ、それはシンプルで純粋な、しかし当然の疑問だった。

 

 

「俺にも分からん」

 

 

その疑問に、彼は一言で返した。無駄な言葉を弄する余裕も理由もない。そもそも、言い訳やごまかしは彼の性格には合わない。

 

 

『私がやりました』

 

 

会話が途切れたタイミングで、どこからか声が聞こえた。彼のゴーストが、彼の胸元から装備の隙間を縫って空に浮かんだ。

 

 

「ライフ君!」

 

 

「どこにいたんだ」

 

 

『あなたの損傷箇所を修復するため、胸部の私のポケットに入っていました』

 

 

「お前のポケット…そんなものあったか?」

 

 

『作りました』

 

 

簡潔に。だが、ゴーストに表情はなくとも、簡単な感情は読み取れる。ゴーストは今、間違いなく得意気だった。

 

 

「そうか」

 

 

彼はそれを知ってか知らずか、突き放すように会話を切り上げようとした。

 

 

『内部からエーテル供給量の部位別調整および細胞の活性化を行い、修復を急ぎました。正直危うかったのですが、なんとか一命をとりとめたようで私としても安心しました』

 

 

お構いなしにゴーストはザナリー3の疑問に答えるため説明を続けた。自分の能力が発揮できたことが余程嬉しかったのか、得意気な様子はいつしかその声色にも表れていた。

 

 

「エーテルの力だったのか…いや、すごいな」

 

 

ザナリー3は素直な感嘆の気持ちを表す。言ってしまえばこれは死者蘇生だ。研究機関にこのデータを提出すれば、業界に革命が起こるかもしれない。ザナリー3はそこまで考えて、そこから先は面倒になって考えるのをやめた。

 

 

『ええ。彼らの多くが無謀な突撃を敢行するのも、そういった背景があるようです。まあ、もっともそれは単なる要因のひとつで、大元の原因は彼らの気性の荒さにあるのでしょうが…』

 

 

「ライフ、今後の活動に影響はあるか?」

 

 

ゾンビが興味を示すのは理論ではなく実践のほうでだった。今後も生き長らえ、また敵を倒すことができればそれでいい。そう言外に伝えている。

 

 

『エーテルの侵食率が増大しました。今やあなたの身体はかなりフォールン寄りです』

 

 

彼のゴーストが疑問に答えるため、得意気な雰囲気を捨てて俯きがちに今後の懸念を伝えた。

 

 

「それは元々だろう」

 

 

『今まで以上に、です。注意して下さい。この影響は私には計り知れません』

 

 

ゴーストはたしなめるように語気を強めた。今回の蘇生処置はあくまで緊急の必要を踏まえたもので、エーテルの影響が増大するリスクを鑑みるに、今後多用していけるローリスクなものではないのだ。

 

 

「エーテルの必要量は増えたのか?」

 

 

そんなことは分かっているとばかりに、彼は実を求める。

 

 

『身体がよりフォールン化したことでむしろエーテルの移動の抵抗は減少しました。まあ…気にしなくていいレベルですが。そもそも…』

 

 

ゴーストは周囲を眺め回した。

 

 

「…このフォールンの死体の数ではな」

 

 

そこには、数えきれない数のフォールン…ほとんどはケイド6の華麗な(本人談)ハンドキャノンさばきにより、一撃のもとに脳天を撃ち抜かれたものばかり。フォールンからエーテルや装備を奪って生きる彼からすれば、傷の少ないフォールンの死体は宝の山のようなものだ。

 

 

『しばらくはエーテルにも困らないでしょうね』

 

 

「ああ…そうだ…な……」

 

 

突然思考が濁り、急速に陰が差していく。景色が歪んで回る。抵抗する暇もなく、そのまま彼の意識は刈り取られた。

弛緩した身体は重力に従って地面に倒れる。

 

 

「ダンナ!?」

 

 

ザナリー3の脳裏に嫌なイメージが浮かび上がったが、慌てて立ち上がるザナリー3をゴーストが静止した。

 

 

『細胞活動を過剰に活性化させた影響で、肉体的疲労が限界に達しています。要は…彼はとても疲れています』

 

 

無理矢理脳みそまで再生させたのだから、エーテルで補っているにしても本来身体は疲れる程度では済まない。死んではいないことが救いだろうか。

 

 

「…あ、ああ、なら…いいのか?」

 

 

戸惑いながら、ザナリー3はゴーストを信じることにした。彼は専門家の言葉には素直に従うタイプだった。

 

 

『バンガードに戻りましょう。ケイド6のいう船はそこにあるようです』

 

 

「ダンナはどうする?…まさか俺が運ぶのか?この巨体を…?」

 

 

『私には不可能です』

 

 

「私は彼の装備や道具を運ぼう。ザナリー、頑張れ」

 

 

先ほどまで彼女のゴーストをチェックしていたケイが、はにかみながら抜け目なく楽そうな役割を取って歩いていってしまった。

 

 

「……いやいや…………え、ウソだろ………?」

 

 

ザナリー3は、倒れ伏す2メートルを越える巨体を見下ろして立ち尽くした。今の彼には、腰が重量オーバーで折れたり歪んだりしないことを祈ることしかできなかった。

 

 

 

………………………

 

 

 

危険地帯を迂回しながらしばらく歩いて、三人はようやくバンガードの仮設ハンガーにたどり着いた。追放されているため、残念ながら基地の建屋内に入ることはできない。その証拠に、彼らの私物は既にこのハンガーに届けられていた。

 

 

『着きました』

 

 

「フレームが歪むかと思った…膝関節に油圧機構があったら確実に中身が漏れてた……!」

 

 

彼の関節はデジタル制御のようだ。

 

 

『お疲れ様です』

 

 

簡単にゴーストがフレームをチェックするザナリー3をねぎらう。そうしていると、大柄な男性が近づいてきた。

 

 

「戻ったようだな」

 

 

『ザヴァラ』

 

 

ザヴァラはタイタンバンガードのリーダーとして見送りのためにハンガーで彼らを待ち受けていたようで、積み荷の隣で横たわる男を認めると、軽く息をついた。

 

 

「問題の男は…なんだ、眠っているのか。呑気なものだな」

 

 

「さて、既にケイドから大まかな話は聞いていると思う。あれから臨時会議を行ったが、方針に変更は無かった。残念だが、この男をバンガードに置いておくことはできない」

 

 

ザヴァラは冷たい声で、事務的にバンガードの決定を伝える。

 

 

「なんでだ!何も悪いことなんてしてないだろ!」

 

 

ザナリー3が怒りを示しながら抗議した。

 

 

「確かに、彼はバンガードの指示には全て従っていた。暗黒との戦闘を鑑みれば、むしろ貢献さえしていたと考えるが」

 

 

ケイも、冷静な態度ではあるが同じように、バンガードの決定には反対の意見を述べる。

それを聞いて、ザヴァラはバンガードの決定の経緯を説明することに決め、近くの段差に座り込んだ。

 

 

「ああ。私もそう認識している。だが問題はそこではない」

 

 

「というと…やはり、彼の過去か」

 

 

「…『暴風』の由来、だったか…ああ、確かに私は彼の潜在的な危険性を考慮し、警戒の意図を込めてその二つ名を通知した…ずいぶん前の話だ。当時を覚えているガーディアンなど、そう多くはない」

 

 

ザヴァラは少し間を置くと、昔読んだイコラの本の一節を思い出した。

 

 

「……無数の人間に紡がれた歴史はいつか教訓となり、また新たな歴史の土台となる…歴史とはかくあるべきものだ」

 

 

それは歴史の意義、存在価値についてだった。教訓が消えぬよう過去の過ちをよく記し、また繰り返さないように未来の人間はそれをよく学ぶ。歴史の価値はそこにあるのだと述べられている。

 

 

「…ちょうど俺もそう思ってたとこだ!バカにするなよ?難しい言葉を使ってはぐらかそうったってそうは…」

 

 

個人的に難しい言葉に対面したザナリー3が見栄を張った。

 

 

「ザナリー。今のは別に難しい言葉でもない」

 

 

「……そう、俺は今そうも思ったんだ。確かにな、うん」

 

 

「…ザヴァラ。歴史の話をしたということは、貴方はその危険性についてもよく理解しているはずだ」

 

 

ケイはザナリー3から目線を外し、ザヴァラの言葉を少しだけ詰める。イコラのファンとして、少しだけ対抗心が出ていたのも事実だ。

 

 

「そうだ。今回はそこが問題となった…つまり、歴史は…誤解と、怨恨を生み出す土壌ともなりうるのだ」

 

 

「歴史は多くの人によってリレーのように語り継がれる…歴史は解釈や受け取り手によって、無限にその形質を変える。…バーツからの聴取によれば、この『暴風』の生まれた地に居合わせたガーディアンに話を聞いたようだが…どうやら、ずいぶん偏った話だったらしい」

 

 

バーツ。ゾンビを独断によって撃ち抜いたタイタンは、師の訃報を聞き、未だ錯綜する情報を集めるうちに思い込みが深くなっていったとバンガードは判断したようだった。

 

 

「イコラ・レイの著書によれば、歴史は嘘と偏見に満ち、また時には都合よくねじ曲げられる。しかし、我々が真実を追い求める限り、歴史を学ぶ意味がある」

 

 

「ああ。だがこうもある…歴史の真実を知ろうとする時、十人の目撃者の証言を聞くのでは全く足りないだろう…」

 

 

「…そのために本がある。それで第2章は終わり。ええ、二人ともよく読んでる。細かい所は違うけれど」

 

 

「!」

 

 

ザヴァラでも、ケイのものでもない女性の声がハンガーに反響した。イコラ・レイ。ウォーロックバンガードのリーダーで、先ほどからやたら著書の引用をされていた。

 

 

「イコラ。バーツの聴取は終わったのか?」

 

 

「彼女の精神に大きな疲れが見られたから中断した。またすぐに再開する予定だけれど」

 

 

「そうか。見送りにでも来たのか?」

 

 

「そんなところ。それと…」

 

 

イコラがケイに向き直る。ケイは思わず背筋を伸ばした。

 

 

「ケイ。あなたはとても若く、賢く…同時にウォーロックらしい人。私達はあなたを研究者として評価している…ウォーロックバンガードにはあなたの席を作る用意がある」

 

 

「それは、スカウトと受け取ってよろしいですか?」

 

 

ケイは思わぬ展開に嬉しさを感じていた。尊敬するガーディアンや同業者が自分を認めて、戦力として欲している。望外の誉だ。

 

 

「もちろん。といっても…あなたの答えは決まっているようだけれど」

 

 

「…そうですね。あなたが私を研究者と評すならば」

 

 

少し前のケイなら、二つ返事で了承したかもしれない。しかし、彼女の意思は既に定まっていた。

 

 

「つまりどういうことだ?」

 

 

会話の輪から外れていたザナリー3が、暇つぶしにしていた銃いじりを中断して尋ねる。

 

 

「研究者が目の前の研究対象を放って建物の中にいる奴らと議論しに行くと思うか?」

 

 

(忘れられがちだが)彼女の研究テーマはゴーストの自由意志や感情について。目の前にそれを持ち得るゴーストがいる限り、それを観察するのが研究を形にする最短ルートだ。ならばそれを逃す手はない…彼女は良くも悪くも、よい研究者だった。

 

 

「…なるほどな!」

 

 

当然だが、彼はそれについてよくわかっていない。

 

 

「フ…バンガードとしては残念だが、私個人としてそれは好ましいと思う。せめてあなたの研究の成功を祈ろう」

 

 

「ありがとうございます。それで…」

 

 

ケイはハンガーの奥、打ち捨てられたように置かれている金属の箱を指した。ところどころに穴やこげつき、装甲の劣化が見られ、デュアルエンジン(があったと思われる空間)からは、他の船のために片方のエンジンが抜き取られている。そもそもそれが、外装が剥がれているせいで遠くから見て取れる。

極めつけは謎のオブジェや落書きが所狭しと散りばめられていることだ。海賊船と呼ぶにもおこがましい、悪ふざけの集大成とも言うべきものがそこにはあった。

 

 

「…船というのは、もしやアレのことですか?」

 

 

ケイド6から事前に、「ボロい船」だとは聞いているが、ここまでとは思わなかった。ケイはじとっとした目で、船(仮)とザヴァラ達を見比べる。

 

 

「………」

 

 

バンガードのリーダー達は無言で、ためらいがちに首肯した。「そうだ」と明言しなかったのは、それを認めたくなかったからだろうか。それともそんなものしか用意できなかった罪悪感だろうか。

 

 

「船?おもちゃ箱の間違いじゃないのか?」

 

 

ザナリー3は遠慮のない糾弾を述べる。誰だってあんなものを船とは認めたくない。しかもそれにこれから自分達が乗るというのなら尚更だ。

 

 

「残念だが、バンガードも余裕がないのだ。明日の資材も足りていない中で、お前達にキレイな船を渡してやることはできなかった」

 

 

「飛ぶのか?」

 

 

「先だってアマンダに確認させてある。地球まで行くだけなら……問題はないそうだ」

 

 

「…だけなら?…問題はない?」

 

 

「………」

 

 

ザヴァラは目を逸らした。緑色でも空はきれいだなと、そう思った。

 

 

「…おい!おい!!」

 

 

「私としても残念だが、明日の資材も足りていない中でキレイな船を渡してやることは」

 

 

「それはもういいって!!クソ、分かってたことだけど、こりゃあハードな旅路になりそうだぜ…」

 

 

ザナリー3は諦めて、船をなんとか整備する方向に切り替えたようだ。ボロボロの船に向かって、工具を片手に歩を進めていった。ケイも軽くバンガードのリーダー達に頭を下げて、ついていくことにした。

 

 

「…こりゃあ途中でフォールンやカバルの船に出逢えばおしまいだよな?」

 

 

「その可能性が極めて高いな」

 

 

「小さい石ころに当たるのも避けた方がいいか?」

 

 

「うん…まだ詳しく見ていないから絶対ではないが、なるべく避けた方がいいだろう」

 

 

「…宇宙ゴミは?」

 

 

「ダメだ。ダメージもあるが、部品に電磁気などが残っていた時の影響が分からない」

 

 

「…普通の船なら全部気にしなくていいのにな」

 

 

「…あるだけマシだろう、そう考えよう」

 

 

2人は今日一番のため息をついた。

 

 

「さあ、始めよう。彼が寝ているうちに、心配ごとをひとつ潰しておいてやろうじゃないか」

 

 

ぱん、と手を叩き、ケイが気持ちを切り替える。

 

 

「そりゃいいや!戦闘の時と同じだ。全体の指示は任せるぜ」

 

 

ザナリー3は呼応するように、キュイキュイと肩関節を回してやる気を示した。

 

 

「ああ。さっさと終わらせよう。まずは…」

 

 

少し未来の話をすれば、彼が目を覚ますまでに整備が終わることはなかった。

 

 





あれ、なんか…長いな…まあいいか。



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レベル25.銀



お待たせしました。




 

 

彼女の後ろで、人々は逃げ惑っていた。

 

数え切れないほどのフォールンが襲ってきたのだ。…彼女のゴーストが悲報をささやく…ゴーストの光が見えなくなり、100人の生き残りの足音が聞こえなくなると、彼女はヘルメットを被り、ガントレットを締め直し、足元で地面を覆うヘドロに線を描いた。フォールンのドレッグの足音がトンネル内に響いてくると、彼女は光を引き出しボイドのエネルギーでシールドを張った。

 

必要なら、この一線を永久に守り抜く。

 

「下がれ。二度は言わない」―――ブジョルナ3

 

 

―――伝承:アーサ・フリオーサより抜粋―――

 

 

 

「というワケで!」

 

 

身体中を黒い油まみれにしたまま、それを気にもとめずどこか満足気なザナリー3が仁王立ちしている。

 

 

「苦節8時間、ついに完成したのが」

 

 

その隣でケイが身体を壁にもたれかけて休んでいた。

二人の後ろにあったのは、もはや船とは呼べない何かであった。

翼はもがれ、パッチワークで継ぎ接ぎされた剥き出しの装甲は薄く歪んで頼りない。コックピットがあるはずの所には、謎の機械がはめ込まれていた。

 

 

「…このよく分からん金属の塊、ということか。…名付けるならスペースデブリ号だな」

 

 

『ちなみに私も手伝いました』

 

 

「オイオイひどいこと言うぜ!これでも頑張ったんだぞ!?」

 

 

辛辣な言葉に、ザナリー3が全身を使って抗議する。怒りを表していても、根底のところでコミカルなためいまいち伝わらない。

 

 

「…まあ、外見に関して文句を言われることは予想していたとも。我々は専門家では無いからな。だが、素人なりに最大限力は尽くした」

 

 

ケイが珍しくザナリーを擁護する。どうやら彼女もかなり手を加えたようで、この船?に多少の自信があるようだ。

 

 

「そういうことだ!まあ、まずはこの…うーんと、『スーパー・ザナリックカスタムスペシャルロケット号Mk.Ⅱ』の説明をさせてくれ!」

 

 

ザナリーがとんでもない名前を既成事実としてつけたがっているようだ。

 

 

「待て、名前についてはまだ結論が出ていないはず」

 

 

瞬間でケイからインターセプトが入る。ザナリーも分かっていたようで、ばつが悪そうに頭をかくモーションをとる。

 

 

「うーん…なら、ダンナに決めてもらおう。それなら文句ないだろ?」

 

 

「じゃあ、ダンナ!この船の名前なんだが…」

 

 

「どうでもいい。こんなものは宇宙に射出された途端に撃たれるか自壊して燃え尽きる運命だろう。名前なぞつけるだけ無駄だ」

 

 

「…燃え尽きる運命だってさ。うーん、じゃあ、この船の名前は『シルバー・フレイム()号』でどうだ?船の外装(フレーム)もちょうどシルバー(未塗装のため)だし丁度いいだろ」

 

 

「…まあ、いいだろう。少なくともスーパーなんたら号よりはマシだ」

 

 

「あんなにクールな名前なのに!」

 

 

「それで、船の説明はまだか」

 

 

話が進まなさそうだったので強引に話を戻す。

 

 

「おっと、早速この『シルバー・フレイム号』に興味をもってくれたみたいで嬉しいぜ。それじゃあまずは…」

 

 

ザナリー3がちょこまかと動き回りながら、身振りを多分に交えた船の説明を開始した。

 

 

………………………

 

 

 

「…ま、とりあえずこんな所だな」

 

 

ザナリーが説明を終える。彼の説明は所々…というかほぼ全てにケイの注釈が入ったおかげで、思ったよりはスムーズに理解できた。そう。理解できてしまった。

 

 

「………」

 

 

我々には、もはや残酷な未来しか残っていないということを。

 

 

「…どうした?感動に打ち震えてるのか?」

 

 

ザナリーがこちらを覗き込み、的外れなことを聞いてくる。

 

 

「…いや、これで最期になると思うと、昨日食ったレーションの味も悪くなかったと思い返していたんだ」

 

 

『実はもうエーテルさえあれば十分生きていられます。つまり趣味です』

 

 

ライフがいらぬ横槍を入れる。実際、現状において食事をするのは人間らしさを失わないためでしかない。

 

 

「死ぬ前提かよ!?」

 

 

「マトモなウイングもない、コックピットもない、ちょっとしたゴミが当たれば穴があくようなペラペラの装甲、オマケに燃料タンクと推進機だけはいっちょ前で誘爆性は抜群ときた!これで死なないと思うヤツはいないだろう!」

 

 

「ウイングは元々ボロボロで意味なんか成してなかったの!コックピットも単なるデッドウェイトになってた!装甲はこれでもマシにした!燃料タンクと推進機がなきゃ地球までどうやって行くんだよ!」

 

 

「……だったら、お前はこの空飛ぶ棺桶に乗って地球へ行けると思ってるのか」

 

 

「思ってない…だから火星に行こうと思う」

 

 

口論の末、ザナリー3が突拍子もないことを言い始めた。

 

 

「なんだと?」

 

 

「地球は無理だ。今でもカバルの大艦隊が周りを哨戒してる。…でも火星は、例の光を取り戻したガーディアンがブレイ施設やその周辺システムを再起動させてくれたおかげでいくつかセーフゾーンができてる。そこまで行くだけなら、コイツでも持つ!」

 

 

「お前の妄想は分かった。だが、俺が言ってるのはどこまで行くかじゃない。この船にそこまで飛んでいく能力があるかじゃない。俺が言いたいのは、そこへ行くまでの間に、敵に見つかることも、デブリにぶつかることも無いという保証がどこにもないことだ!」

 

 

「…でもここにはもういられない」

 

 

「!」

 

 

「…俺達が悪いことしたってワケじゃない。バンガードも悪くない。悪いのはカバルだ。それは分かってる…なんでこんなことにって思って、理不尽に対して怒るのも分かる」

 

 

「…俺だって嫌だ!そりゃ確かに、ケイとゴースト君と頑張って整備した船だ。でも…まあ、ボロボロだし…安全に飛べるなんて夢にも思っちゃいない」

 

 

「でも、俺達に、ほかに選択肢なんかあったか?」

 

 

「…ガーディアンの船だって、いつでも安全というワケではなかった。むしろいつも危険と隣り合わせの地帯を飛び回っていた…違うか?」

 

 

ケイが口を挟んできた。口元がどこか笑っているように見えて仕方がなかった。

 

 

「…詭弁だ。それとこれとは話が違う」

 

 

「危険に、変わらぬ勇気を胸に立ち向かってきたのは誰だ」

 

 

ケイが煽るように口調を作る。

 

 

「シティを守るために走り回ったのは、カバルの突進を真っ先に受け止めたのは誰だ」

 

 

ザナリー3が何かを期待するようにこちらを見ている、

 

 

「…安い挑発だ。その手のは何度も聞いた」

 

 

「…フ…火星に行くだけではない…我々は、火星でもっと耐久性に優れる船を手に入れる。そして…」

 

 

「あの、トラベラーを妙な機械でつかまえて偉そうにふんぞり返っているカバルに攻勢をかける」

 

 

「…何!?」

 

 

突然の話に思わず立ち上がる。

 

 

「え!?」

 

 

ザナリーがひっくり返った。

 

 

「…本当は火星に着いてからにしようと思ったのだけれど、仕方ない…ザナリー、あなたにも話しておく。私は、バンガードからカバルへの反抗作戦について情報を得てる…非公式だけれど、その協力要請も」

 

 

「そんな!そんな大事なこといつの間に!?」

 

 

ザナリー3が首を戻しながら悲痛な声を上げる。

 

 

「あなた達が調査や暇つぶしで忙しかった時に」

 

 

「…ああ、そういう…」

 

 

ザナリーは納得して静かになった。

 

 

「例のガーディアンの活躍によって、あのカバルのリーダーの姿と目的が見えてきた…バンガードは各リーダーや民間の協力者が少数の部隊を連れてカバルを陽動している間に、レッドリージョンのリーダーの場所まで例のガーディアンを送りこみ撃破する、いわゆる斬首戦術をとるようだ」

 

 

そこまで聞いて、バンガードの意図がハッキリと見えてきた。つまり、その例のガーディアン以外は囮で、その命はずいぶん軽いらしい。

 

 

「…俺達に、その英雄殿の露払いをやれと?そのために危険を冒して宇宙を飛び、自前で装備を調達し、地球までたどり着けと?」

 

 

「そういうことになる」

 

 

ケイが即答する。

 

 

「………」

 

 

「バカな。死にに行くようなものだ」

 

 

「そうだな」

 

 

彼女は間髪入れずに首肯する。

 

 

「危険すぎる。しかも非公式だと?バカにしてる!俺達の努力は、死すらも、何の記録にも残らない」

 

 

「その通りだ」

 

 

彼女は口元を緩めて同意する。

 

 

「ありえない。バンガードは俺達を追放しておいて、間髪入れずに今度は協力しろと言っている」

 

 

「虫のいい話だ」

 

 

「………」

 

 

「ん?」

 

 

「…なんだその顔は」

 

 

ケイのすかしたような態度に、肩透かしを食らった気分になった。再度座り込み、壁にもたれかかるケイを横目で見上げる。

 

 

「人を見透かしたような顔だ。俺が大嫌いなウォーロックの顔だ…俺が次に何を言うのか分かってて、その答えも持ってて…それを言うのをほくそ笑んで待ってる顔だ」

 

 

「…師匠譲りの顔だな」

 

 

「………フー……ああ。分かってる。分かっているとも…お前に何を言っても現状が変わるわけじゃない…ザナリーもお前も、ただベストを尽くしただけだ…『ガーディアン』としてのベストを」

 

 

そうだ。結局のところ、ガーディアンにとってトラベラーを守るために命をなげうつのは当然のことであり、必然なのだ。本能に近い。彼らはそれを実現するために、リスクを飲み込んでトラベラーを守るための一手となろうとしているだけなのだ。

 

 

「ダンナ、俺達の目的はなんだった?」

 

 

「…光を取り戻し…ガーディアンの力を手に入れることだ」

 

 

「そして、もう一度シティを守るガーディアンになること。そうだろう?」

 

 

「そこまでは言っていない…言っていないが…恐らく、そうなることを望んでるんだろう。フン。フォールンのバケモノが都合のいい夢を見ているだけだ」

 

 

自嘲する。そうだ。元々の目的はそうだった。もう一度ガーディアンになる。しかし、今更なれるなどと思っていない自分もいるのだ。何より…

 

 

「全く下らん!そもそも火星が安全だと!?あそこは元々カバルの勢力圏だ。警備が薄いんじゃない、トラベラーを抱えてる地球よりはマシなだけだ!俺は叶わない夢を抱いて死ぬ気は無い!」

 

 

「…ホントは火星に行きたくないだけなんだろ!?」

 

 

「ザナリー!いいから黙れ!」

 

 

「いい加減にしてくれよ!アンタは『暴風のガンドール』!かつて火星で勇敢に戦って、でも不運にも仲間は戦死してしまった!それでいいじゃねえか!いつまでもウジウジと進歩がない!だからアンタはいつまで経ってもウスノロゾンビなんだ!」

 

 

「俺が火星で何をしてたかなどお前達には関係ないだろう!俺が勇敢に戦っただと!?それで!不運にも仲間は戦死しただと!?…俺の戦友をバカにするな!アイツらは俺の不甲斐なさによって!…俺に!殺されたんだ!!」

 

 

「ッ…!アンタは…結局それじゃねえか!それがアンタを縛ってるんだ!…俺は知ってるぞ!あの時、バーツが撃つことをアンタは知ってた!防げたのに!知ってて、あえて撃たれたんだ!どうせ自分は撃たれて当然だとか思ってたんだろ!?」

 

 

「そう思って何が悪い!!」

 

 

「…『暴風のガンドール』の名に恥じぬ激しさだな」

 

 

「ケイ!引っ込んでろ!」

 

 

「いや何、私の研究テーマを思い出して欲しいんだが…私は、まだ意見を聞いていない者がいるなと、そう思ったんだ。ゴースト君?」

 

 

ケイに促されて、彼女の陰からライフがやれやれといった様子で出てくる。

 

 

『私は…私は、ゾンビさん。あなたの心のままに動くことを提案します』

 

 

「心、心だと?フン。バカにするなよライフ。俺はそんなもの信用しちゃいない」

 

 

『…そうですか。では、あなたが私に過去数年間にわたって再三計算させた火星へのルート及びリスク計算の結果は破棄してもいいのですね?』

 

 

「!このっ…」

 

 

一瞬、口が詰まった。

 

 

「……やっぱり行きたいんじゃねえか!!」

 

 

「…クソッ!それだって過去の話で…」

 

 

『ゾンビさん。そろそろ逃げるのは終わりにしましょう』

 

 

「だが…」

 

 

『戦友に会いに行くんです。戦友達を弔いに』

 

 

「………言い訳だ」

 

 

『そうです。それが何か悪いことですか?』

 

 

「……クソッ…口喧嘩で勝てるわけが無かったんだ!もういい!ザナリー!!」

 

 

「何だよ!」

 

 

「ライフの計算を参考にしていいから火星までのルートと渡航計画を立てて必要な資材を算出しろ!必要ならケイと協力すればいい」

 

 

「…ってことは!」

 

 

「今回はお前の提案に乗ってやる。だがケツは自分で拭け!」

 

 

「…おう!任せろ!」

 

 

「…アナタはその間何を?」

 

 

「話をしてくる」

 

 

そう言って、ハンガーに背を向け歩き出した。

 

 

「…そう。少しだけ計算時間を引き伸ばしておこう」

 

 

「ああ。助かる」






あっれえ〜おっかしいなあ、出発させて目的地まで行こうってつもりで書いたのになあ…



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レベル26.砲台



お久しぶりです。ストーリーはできているとか言いながら超難産でした。ほかの小説に逃げたりもしました。おかげで今回はおすすめ装備解説紹介もナシです。
…許してにゃん★
あ、セイント14が帰ってきますね。やったぜ!




 

 

赤朽葉に灼ける砂漠を、異形の男がいかにもな旧式のスパローで、盛大に後塵を巻き上げながら滑走する。

 

 

『本当に一人で行くつもりですか?』

 

 

彼のゴーストがポケットから顔を出し、未練がましく尋ねる。

 

 

「そうだ」

 

 

『彼らに何も告げずに?』

 

 

置いてきた…というより散り散りになった同行者達を考える。すぐに合流すべきだとライフは言った。だが、にべもなくそれを却下した。

 

 

「ああ」

 

 

『何故かと聞けば答えてもらえますか?』

 

 

ふん、と鼻を鳴らす。

 

 

「それが俺の義務だからだ」

 

 

『過去を乗り越えるため?』

 

 

逡巡の後、かぶりを振って余計な考えを吹き飛ばした。

 

 

「違う。過去を……忌々しい俺の過去を、完膚なきまでに破壊するんだ。今日、ここで…誰の邪魔もなく」

 

 

『私もいますがね。…惑星タイタンでスパローを借りられたのは幸運でした。おかげで歩かずに済みました』

 

 

「ポンコツ号のコンテナが生きてたのもな。船自体はデブリに衝突してバラバラになりながら不時着したが」

 

 

高所から落ちるのは慣れていた。奇襲に突入、その場からの離脱…思い返せば、色々な作戦に従事してきた。

今はもう、その実績も意味は無い。ただ、蓄積した経験だけが彼を生かし続けるのみだ。

 

 

『ポンコツ号ではなくシルバー・フレイム号です…でした。散り散りになった二人が心配です。じきに騒ぎを聞きつけたカバルが偵察隊を出すでしょう。やはり引き返して今からでも合流をはかるべきでは?』

 

 

「そうかもしれないな」

 

 

適当にあしらう。

 

 

『…彼らは仲間では無かったのですか?』

 

 

訝しげにライフが尋ねる。

 

 

「何が言いたい」

 

 

『ご存知の通り、ガーディアンはチームです』

 

 

スパローのスピードを上げる。急速に流れて行く景色に目を細めた。

 

 

「俺はガーディアンじゃない」

 

 

『ガーディアンの本質は光ではありません。光があっても、それだけでガーディアンとは呼べません』

 

 

「そうだろうな。光はあって当然…あと装備がいる。フォールンじゃない腕と足も」

 

 

『………あと数分で到着します。この山を越えれば見えます』

 

 

諦めたようだ。ライフがうつむく。

 

 

「…ああ。懐かしい、あの戦場だ。カバルは…なんだ、なにか掘ってたのか?そこら中穴だらけだ」

 

 

丘を越え、急激に拡がった景色を見渡してため息をついた。記憶を手繰り寄せ、あの過酷を極めた戦いを脳内で再現した。拳に力がこもる。

 

 

『周囲に敵性反応なし』

 

 

「用済みになったんだろう」

 

 

『………見えました。アレです。半分以上砂と岩石に埋もれています』

 

 

「色褪せたか?いや、元々あの色か」

 

 

『…ブレイ研究所の遺産のひとつ。名前は分かりませんでしたが…かつて、あなたのファイアチームの仲間の光を燃料に、カバルを退けたレーザー砲。確かに、あの時のままです』

 

 

「もう少し近づこう」

 

 

『危険では?カバルが残っていないとは限りません』

 

 

「行ってみなければ分からん。それに、ここまで来て帰れと言うのか?」

 

 

『…センサーの出力を上げます。なるべく慎重に行きましょう』

 

 

「そうだな」

 

 

スパローを降り、忌まわしき記憶の根源へと足を踏み進めた。

 

 

………………………

 

 

『中は真っ暗です。ライト点灯』

 

 

ライフの前方が青白く照らされる。そのままライフは右肩に移動し、その視界を共有した。

 

 

「あの頃はまだ電源も生きていたんだがな」

 

 

『そうでなければ…使えませんでした』

 

 

「それもそうだ」

 

 

内部を見渡す。ほとんどの機器が破壊され、もはや使い物にはならないだろう…機械工学は門外漢だが、そう思った。

 

 

『カバルの足跡があります。きっと散々荒らされた後です。何かに期待するのはやめておきましょう』

 

 

「………」

 

 

前に進む。

 

 

『…発射装置…砲台と、その手前が我々の最終生存圏でした』

 

 

「思い出話は後だ」

 

 

またしばらく進み、あたりを見渡す。なるべく隅々まで、見落としのないように。

 

 

『何を探しているのですか?』

 

 

ライフが尋ねる。

 

 

「分からないか?」

 

 

『あまり見当がつきません。ここにはもう何も…残っては…ああ…』

 

 

メンテナンスルーム手前で、ライフが嘆息した。

 

 

「カバル…奴らの図体じゃここまで入れないかと思ったが…いや、手下のサイオンの仕業か」

 

 

その狭い入口は、人間が背中を屈めてやっと入れる大きさだった。それが今扉を破壊され、心臓部が今まで見てきたものと同様に破壊され尽くしていた。

サイオン。カバルの侵略を受け、服従を誓った種族とも言われる。矮躯ながら高い知性と器用な手先で、カバルの手の届かないところをサポートする…その姿を思い浮かべる。恐らく、ここに侵入したのはサイオンだ。

 

 

『まさかエネルギー装置が基幹部まで全て破壊されているとは…』

 

 

「俺達の戦術はよほど奴らを苛立たせたらしい」

 

 

普通、カバルは敵の施設を必要以上に破壊しない。使い物にならなくする程度の破壊はすれど、弾の無駄遣いはしないのだ。

今回は例外だ。恐らく現場の判断で、フラストレーションの解消のため行われたものだろう。つまるところ…八つ当たりだ。

 

 

『そのようですね…うわ、所々溶解しています。ナパーム弾まで放り込んだのでしょうか』

 

 

「無駄弾を使ったんだ。撃ち込んだ奴はたっぷり絞られただろうな」

 

 

『ともかく、ここにはもう何も無いでしょう…そろそろあなたの計画を聞かせてもらえませんか?』

 

 

ライフがこちらを向く。まぶしいので目を細めると、ライフは申し訳なさそうに光量を絞った。

 

 

「…だがアイツは、ブラックホールに吸い込まれても壊れないと言っていたんだ。ナパーム弾ぐらい…」

 

 

顎に手を当て思案する。【彼】の言葉を必死に思い出す…

 

 

『音声データ照合中…記録にありません。【アイツ】の詳細をお願いします』

 

 

「エイリークだ」

 

 

『エイリーク!我々が所属していたファイアチームのリーダーだった人物…先日あなたを…攻撃した、彼女の師でもあったウォーロック…』

 

 

「ヤツほど頭のいい男を俺は知らない」

 

 

それは、嘘や冗談を含まない心からの言葉。

 

 

『彼には論文や学術的実績は特になかったはずですが』

 

 

「そういう話をしていないことは分かっているだろう。冗談も程々にしておけよ」

 

 

ライフを咎める。ライフは軽く身体をゆすった。もしライフに人の身体があれば、肩をすくめるような動きをしていただろう。

 

 

「エイリーク。今でもヤツの言葉や姿は鮮明に思い出せる…戦場においては誰よりも冷静で、柔軟だった…アイツの声とライフルの音が聞こえる限り、勝利は手の内にある。チームの誰もがそう感じていた」

 

 

実際、その評価は誇張ではない。彼は常に小隊長として抜きん出た才覚を遺憾無く発揮し、敗北と目された戦いを幾度もひっくり返してきた。

 

 

「だが俺が最も評価していたのは…その器用さだ」

 

 

『確かに彼は多くの発明品を残しました。しかし、そのほとんどが興味本位のもので、実用性に欠けたものでした』

 

 

「ああ。エイリークは発明者としては何の役にも立たなかったな」

 

 

笑いながら彼の発明を酷評する、かつての仲間達を思い浮かべる。

 

 

『アーク放電機能を備えたゴーストシェル(ゴーストまで感電するためお蔵入り)、10km先のぼそぼそ会話まで聞こえるレーダー(最悪の燃費と使用条件の厳しさでお蔵入り)、ヘルメットに内蔵して撃てるハンドキャノン(首が折れる上リロードできないのでお蔵入り)…極めつけは自走式グレネードホイールでした。あの自分の所に帰ってきて危うく死者が出るところだったアレです』

 

 

『…まさか、あのゴーストシェルを探して私に装備させるつもりですか?まさか…本当に?ありえない…考え直して下さい』

 

 

ライフが今まで見たことがないほど震える。

 

 

「早とちりするな。お前には何もしない」

 

 

『では何を?』

 

 

「エイリークならここに残しているハズなんだ。ヤツを知る誰かがここにたどり着いた時、光がなくても戦う力を与えるもの…」

 

 

「思い出せ…考えろ…アイツならどこに隠す…?カバルに見つからないことは大前提だ。しかし…」

 

 

「……ダメだ、わからん…ライフ、ヤツは何か手がかりになりそうなものを残していなかったか?」

 

 

頭を抱える。歯をきつく噛み合せる。

 

 

『検索中……いえ、特には。というより、検索条件が曖昧なため対象とするデータが膨大すぎます。時間をかければ多少はマシな結果が出るかもしれませんが、アテにしないで下さい』

 

 

「……クソッ!」

 

 

感情に任せ、壁を殴りつけた。ガシャアン、と中空の金属音が響く。

勢い余って壁に穴が空き、中の電子回路に拳が当たった。

電力が生きていたようで、バチッという音とともに身体を鋭い痛みが走った。

 

 

「ッ…いや、かすり傷か…ん、何だ…?ここだけ電力が残っているのか?」

 

 

手に当たった機械を取り出す。周囲との接続が少なかったのか、驚くほど簡単にそれは取り外せた。

 

 

『解析します。…これは……特定の電気信号を発しています。それも、同じパターンで繰り返しているようです』

 

 

「電気信号?」

 

 

『オンとオフを繰り返す、非常にシンプルなものです…何かのパーツとして役割があったのでしょうか。今となってはもう…』

 

 

「単なるパーツをここまで隠すのか?補助電力までつけて…?いや、まさか…!ライフ、その機械の裏側を見せろ!」

 

 

『裏側ですか?カバーしか………いえ、これは…!』

 

 

何かを確信したように、ライフの声色が明るくなる。

 

 

「エイリークのサインだ!この機械はヤツがいじったんだ!」

 

 

機械の裏側、電子回路のカバーには、草書体とも少し異なる特徴的な彼のサインが見て取れた。

 

 

『重要な手がかりです。あらゆる方面から解析を再試行します』

 

 

ライフがスキャンのため機械に光を当てる。

 

 

『形状…何とも一致しません。塗装も材質もありふれたもの…電気信号のパターンは……データに一致なし…?あ、いえ一つだけ…W.O.A暗号…?不明なデータです。いつ導入されたのか…5分前ですって!?一体どこから…!?』

 

 

キョロキョロとライフが周囲を見渡す。先刻から何一つ変化のない光景に解決の手がかりは無いと断じたライフは、とりあえず目の前の機械に集中することにした。

 

 

『……どうやら送信元はこの機械のようです…それも…うん?いるはずのないエイリークのゴーストから送られてきている…?』

 

 

『…いえ、気にするのは後にしましょう。とにかく今はこの信号を…えーと…記憶カテゴリの中の…【言葉】【前】【戦い】…?』

 

 

「記憶カテゴリ…思い出せ?ヤツの言葉…戦いの前…」

 

 

『…あとはこれが繰り返されているだけです』

 

 

ライフがこちらを見る。ライトがまぶしいので目を細める。二度目なのでライフを軽く叩いた。

 

 

「…繰り返し……ああ、十分だエイリーク…これなら俺でも分かる…!」

 

 

機械仕掛けのマスクの中で、口は三日月に歪む。今までにないほど興奮していた。

 

 

「エイリークは【戦い】が始まる【前】、いつも同じ【言葉】を【繰り返し】ていた…」

 

 

「俺達を鼓舞する言葉だった。同時に…ヤツの最後のパスワードでもあったワケか…」

 

 

「『……【俺達の戦いをトラベラーが見ている】」』

 

 

顔を見合わせ、同じ言葉を。記憶に焼き付いた、彼の言葉を…彼は、一体どこまで未来が見えていたのか?その想像は後に回すことにした。

 

 

「…付近でトラベラーからよく見えて、トラベラーに最も近い場所だ」

 

 

『…でしたらこのレーザー砲施設の頂上を目指しましょう』

 

 

上を見た。天井に空いた穴から、カバルに捕らえられたトラベラーが見えた気がした。

 

 






間が空いたし、そろそろキャラ紹介も更新しないとですね。
いやあ忙しい。



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レベル27.宇宙の力


もしかするといるかもしれない、待ってくださっていた方へ
詳しいことは、活動報告に書きました。

簡潔に言うと、忙しすぎて二年弱死んでました。
これからがんばります。


 

 

外装の剥がれた部分から外に出て、メンテナンスのため取り付けられていたハシゴを登り、レーザー塔の頂上へ向かう。そこから更に金属の骨組みを伝い、落ちたらタダでは済まないな、と思うくらいの高さまで登っていく。

 

 

「これだな」

 

 

『ええ。彼のサインです…恐らく』

 

 

そして、このあたりでトラベラーに最も近い(と思われる)位置…アンテナの先端に、それは括り付けられていた。

 

 

「いい景色だな」

 

 

赤錆色の大地が見渡す限り広がっている。そこかしこに掘り起こされた岩石が転がり、カバルの存在を強烈に感じさせる。仲間達はここで戦い抜き、そして自分が見殺しにした。…こんな高所で風が吹けば危険だ。過去に浸る時間はない。すぐに意識を現実に向けた。

 

 

『チェック…完了。これは…一見何の変哲もないジャンクパーツですが、私なら分かります…流入した電気エネルギーをボイドエネルギーに変換できるようです。画期的な構造です。…効率はあまりよくありませんが。少しだけ加工すれば恐らく我々でも使えます』

 

 

アンテナから取り外したそれは、手に取って眺めても、やはり単なる無価値な機械部品にしか見えない。サイオンの執拗な探知やカバルの破壊を免れたのも、それが原因だろうか。

 

 

「ボイドエネルギーか…扱いが難しくてあまり好みじゃないが…まあ、十分だろう。早速やってくれ」

 

 

ボイドエネルギー。宇宙の深遠さを想起させるようなそれは、物体への吸着力や引力を発生させることが得意な反面、他のエネルギーのように派手な破壊を生み出すことは難しい。十分に使いこなすには、ウォーロックのようにボイドを愛し、ひとつになる覚悟が必要だ。

 

 

『ええ。じっとしていて下さいね』

 

 

ライフがくるりと一回転し、機械を持ち上げた。

 

 

………………………

 

 

『…取り付け完了。具体的な性能評価は実際に使ってからにしましょう。まずはここから降りなければ』

 

 

あまり使わなかったアームマウントの代わりに左腕に取りつけられた機械を眺める。これを格納するためにひと回り大きくなった左腕は、肥大化した右腕に対してバランスを取っているようだった。

 

 

『見た目を良くする意図もあります。いつまでも左腕だけ細いのでは、その…カッコ悪いですから』

 

 

「フン…」

 

 

ライフがまた妙な気を回したようだった。見た目で言えば、確かに前より悪くないだろう。重量バランスも、多少はマシになったと感じる。

 

 

『燃料である電気エネルギーはエーテルの親和性を考慮してアークエネルギー経由で生産しています。言うまでもありませんがエーテルを消費しますので使い過ぎにはご注意を』

 

 

「……大きな爆発は起こせるか?ポンコツ号を簡単に破壊できるくらいがいい」

 

 

『…まあ、可能でしょう。ボイドエネルギーは基本的に内向きの方が効率が良いので、破壊の規模を上げるにはかなりのエネルギーが必要になるでしょうが…』

 

 

「そうか。出来るならいい」

 

 

ライフが怪訝そうに上目づかいになる。

 

 

「ライフ、試運転だ。変換装置を最大稼働しろ。発動をできる限り外向きに。…とりあえず、破壊力と破壊規模を優先だ」

 

 

『…降りてから始めた方が安全かと思いますが…了解しました』

 

 

「エーテルは必要なら生命維持の分だけ残して使い切っていい。発射はこの装置からなのか?」

 

 

『そんなにですか?いえ、腕部のパルスキャノンにエネルギーを送って射出する予定です。左手の…そう、そのトリガーを引けば起動します。チャージして、トリガーを離せば撃ち出されるハズですが…』

 

 

それを聞き、すぐにトリガーを引く。左腕にエーテルが流れ込んでいくのが分かった。

 

 

「そうか。ショックはどの程度だ?」

 

 

ライフが本格的に焦りを見せ始めた。その間にも、左腕はチャージを続ける。

 

 

『爆発だけなら身体がバラバラになることはありません。反作用で吹っ飛びますが……えっと、準備は完了しましたが……まさか…このまま撃ちませんよね……?』

 

 

「ライフ、俺はここに来るまでに考えていたことがあるんだ」

 

 

『…えっと…その話は、ここを離れてからしてはいけませんか?』

 

 

左腕が振動し、暗い光を帯び始めた。臨界点が近いようだ。右腕で左腕を抑え、照準を合わせる。

 

 

「正直に言うが、ずっと俺はもう一度火星に行くべきだと思っていた。だが行きたくはなかった。…仲間の死をきちんと弔ってやらなければならない。そう思っていたが、同時に仲間の死という事実を未だ受け入れ難い感情が、そして情けなく生き残った自身に対する憤怒がそれを邪魔していた」

 

 

『………』

 

 

「ライフ。今ここに来て、俺が意外なほど冷静なことに、俺自身が驚いている」

 

 

『…あの…まだ停止には間に合います。少し考える時間を置きましょう。お気持ちは分かりますが』

 

 

「こんな大きいだけの鉄クズがあいつらの墓じゃ、報われない。…俺は間違っているか?」

 

 

『ですが壊す必要までは――――

 

 

トリガーを離した。閃光が辺りを覆った。

 

 

………………………

 

 

身体のあちこちが痛む。ホワイトアウトしていた視界がようやく回復した。ずいぶん吹き飛ばされたようで、レーザー塔だったものの残骸があちこちに見える。

 

 

下が砂漠でよかったとつくづく思いながら砂ぼこりを落として立ち上がると、懐からゴーストがふらふらと浮き上がってきた。

 

 

「…衝撃から思うに…想像していたよりは、小さな爆発だった」

 

 

『………まさか本当にやるなんて……』

 

 

「…軽い気持ちや思いつきでやった訳じゃない…ライフ、周囲の状況は?」

 

 

『……そうですね。レーザー砲台だった廃墟が、廃墟だった残骸になりました。すぐに爆発音を聞きつけてカバルの偵察隊が来るでしょう。もしくはハイヴかもしれません。早めに離れないと死にます。お望みなら待機を推奨しますが』

 

 

「怒ってるのか?」

 

 

『カバルがですか?それとも私のことですか?』

 

 

「…俺は俺の為すべきことをしたんだ」

 

 

『ええ、そうでしょうね、内容はともかく』

 

 

「………」

 

 

ライフはもはや聞く耳を持たない。…何を言っても、今は意味がないだろう。

 

 

『とにかく離脱しましょう。近くに停めたスパローは奇跡的に無事です。まさか計算しましたか?』

 

 

「……いや…とにかく行こう」

 

 

………………………

 

 

しばらくスパローを走らせ、視界の開けた砂漠地帯を抜けて岩場の陰に入る。周囲にカバルの基地や装置は見当たらない。

 

 

『…この辺りにはカバルはいないようです…とりあえず、安全です』

 

 

「…エーテルの残りが心もとない。補給が必要だ。俺は見たことがないが、火星にもフォールンはいるのか?」

 

 

エーテルは今のところフォールンから奪う以外に集める手段がない。完全に切らしたらどうなるのか不明だが、実験する気はない。

 

 

『先程ほとんど使い切りましたからね。…過去にはウルブズの一派が火星に逃げ込んだ記録もあります。彼らの適応力を鑑みればここにもいる可能性は十分にありますが、カバルとハイヴがこの星の現支配者であることに変わりはありませんから…仮にフォールンがいたとしても、すぐに見つかるとは思えません』

 

 

「そうか。とにかく網は張っておいてくれ」

 

 

『了解しました』

 

 

スパローで進んでいると適当な大きさの岩と日陰を見つけたので、座って休むことにした。

 

 

「それで、これからどうするかだが…まずはアイツらと合流する方がいいか」

 

 

『私は始めからそう言ってます。ええ、ケイのゴーストには位置情報を送信してあります。ザナリー3には…信号弾でも撃ちましょうか?』

 

 

「いや、それはいい…バンガードがシティに攻勢をかける日も遠くはない。地球へ行く船がいる。それを確保するための戦力も」

 

 

『船、それに戦力。どちらも合流してから話しましょう。……余談ですが、衛星タイタンでザヴァラに聞きました。【彼】が見つけた光は、地球にあったそうです』

 

 

「…!」

 

 

『驚きましたか?トラベラーの破片から光の残滓を受け取り、光を取り戻したのだと。場所も聞いてあります』

 

 

「……そうか」

 

 

事も無げにライフが語ってみせたことは確かに衝撃的なものだった。ガーディアンのまま光を取り戻す手段があり、しかもそれを成し遂げた一人のガーディアンは今や英雄となりつつあるという。

 

 

翻って、今の自分はどうだろうか?敵の肉体を繋ぎ合わせ、歪に膨れ上がった実験動物のような姿。果たしてトラベラーの前に身を晒した暁には、これでもガーディアンとして光を分けてくれるのだろうか?

 

 

…どちらにしても、自分がこうなったのは自分の判断で、しかも過ぎたことだ。今更考えても仕方がないだろう。かぶりをふり、要らぬ思考を頭から追い出す。

 

 

『……地球に戻り、シティに向かう前に、そこへ行きませんか?もしかしたらあなたの光も…』

 

 

「…時間が許すかどうかだ。光は確かに取り戻したいが、俺一人の光よりシティとトラベラーの方が重要だ」

 

 

曖昧な希望より、作戦を遂行することを優先すべきだろう。元々、光がない状態で戦う予定だったのだから、今更それが変わることもない。

…光は、余裕があれば、だ。

 

 

『そう…ですね。ですが……あっ、レーダーが感知しました。南南西に敵影…カバルです!』

 

 

「!合流は間に合うか?」

 

 

『距離はまだありますが既にこちらを補足しているようで、一直線に向かってきます!ケイとザナリー3が合流する前に、我々だけで戦う必要がありそうです…』

 

 

「そうか…なら、早速ヤツらにこの新装備のお披露目と行こうか」

 

 

『了解しました。各装備の最終チェックを進めておきます。スパローでヘルメットに表示した岩場に向かって下さい。ここよりは戦いやすいハズです』

 

 

火星に着いたあたりから、ある感情が燻っている。

怒り、憤怒…火星は今、カバルのものだ。カバルが、仲間の仇が、俺をこんなにした元凶が、ここには掃いて捨てるほどいる。

 

 

「いつでも来いカバル共…お前達に俺の怒りを思い知らせてやる!」

 

 

………………………

 

 

岩場の陰に待ち伏せて投げ込んだグレネードから、戦いは始まった。一瞬だけ混乱したカバル達は、しかしすぐに陣形を組み直し、こちらを確認して指をさすと、二手に分かれて向かってきた。

 

 

「フン…腹が立つが、流石に訓練されてるな」

 

 

『敵は小規模ですが、スラグライフルとシールドで武装しています。リージョン級が2部隊、ファランクスが1部隊です…マーク視認!スカイバーナー部隊です!』

 

 

スカイバーナー。シティを占拠したレッドリージョンより前に現れ、火星を占拠したカバル大隊の中核を担う精鋭部隊だ。ガーディアンの抵抗でそれ以降は攻めあぐねてはいたが、数々のガーディアンの命を奪ってきたのも彼らだった。俺の仲間を殺したのも…

 

 

「……スカイバーナーか。新参者に手柄を取られてさぞ不愉快だろうな。いい気味だ」

 

 

『気持ちは同じですが、冷静にお願いします』

 

 

カバルは見た目こそ鈍重だが、ジェットパックを使って一気に身体を持ち上げ、空中から距離を詰めて制圧を狙ってくる。奴らの常套手段にして、高い技術力と高度な訓練が為せる戦術だ。

 

 

リージョンがスラグライフルの斉射で牽制してくる。ゆっくりと放物線を描いて着弾点で爆発する。当たり所によってはそのまま戦闘不能になるだろう、恐るべき武器だ。

 

 

すぐ近くの岩に着弾し、衝撃とともに小石や砂が舞い上がる。初弾の割に精度が高い。訓練の賜物か、それとも…

 

 

「っ…リーダーは!?」

 

 

奴らを後ろから指導している隊長がいるか、だ。

 

 

『今のところは確認できません!しかし、これで全部とも思えません!』

 

 

「場所がバレてるならもう躊躇する必要もない!信号弾を上げるぞ!あのバカでも気づくぐらいデカいのだ!…スパローでどのくらい離せる!?」

 

 

『旧式なのでクイックターンができません!回避が期待できない以上、乗ったところで撃ち落とされて終わりです!』

 

 

「…クソッ!」

 

 

戦う前から撤退を考える者は臆病者だ。だが、撤退する方法すら持たない者は単なる馬鹿だ…俺は今さらになって、その馬鹿になっていることに気がついた。カバルを前にして、気づかないうちに頭に血が上っていたようだ。もはや生きるか死ぬか…毎度のことだが、心臓が早鐘を打つ。冷や汗が出る。エーテルのパイプがイヤに過熱しているように感じた。

 

 

『先程の試運転の影響で、エーテルの残量わずかです。パルスキャノンは控えて下さい!』

 

 

「そんな余裕があればな!」

 

 

手に持ったライフルを牽制にばら撒きながら、足場のマシな岩場へと移る。信号弾は上がった。後は…

 

 

「俺がどこまで耐えられるかだ」

 

 

フォールンの右腕をぶるん、と震わせた。

 

 

………………………

 

 

「まだか…!」

 

 

『彼らの反応は拾っています!私の予測ではあと5分で到着します!』

 

 

「そんなにか!?もう保たんぞ!」

 

 

『っ左です!』

 

 

ファランクスの突進を受け止めきれず吹き飛ばされる。地面をこすりながら体制を何とか立て直すが、流石に受けたダメージは誤魔化しきれない。ビキビキと身体の至るところが嫌な音を立てた。

 

 

「っぐぅ…!」

 

 

『大丈夫ですか!』

 

 

「いいから治せ!あちこち壊しやがって…もう隠れるところも無いぞ!」

 

 

『ですがカバルの増援はもう来ません!あと少しです!』

 

 

「何回同じセリフを吐くんだお前は!!」

 

 

ライフは気休めに嘘をつく傾向がある。悪い癖だった。

 

 

『っ!ゾンビさん!通信です!…ケイ!ケイですね!?聞こえますか!?』

 

 

ライフが通信しながら焦ったようにあたりを見渡す。まだ味方の到着には時間がある…少しでも出来ることがないか探しているようだ。

 

 

「喋る暇があるなら早く来い!」

 

 

『まだ元気そうだなダンナ!それとケイじゃなくて悪いな!俺だよ!でもケイも一緒だ!』

 

 

『ザナリー!合流したのですか!?』

 

 

『ああ!待ってろもうちょっと…いや、あと3秒で助けてやる!眩しいから目瞑ってろよ!?』

 

 

「何を言って……」

 

 

直後、閃光――――。反射的に瞑目した後、開いた視界に映ったのは、その場に倒れ伏したカバルだった。

 

 

「一体何をしたんだ…?」

 

 

『よっしゃ!続けて行くぜ〜!あとは俺に任せな!』

 

 

『…そう言うなら、手助けはしないぞ?』

 

 

『オイオイオイ!スーパー・マジックのタネ明かしは最後の最後だろ!?』

 

 

一瞬怯んだカバルは即座に集合し、こちらへ向き直す。新たな脅威よりも前に、目前の敵に集中することを選んだようだった。

 

 

『ケイ、お前は根本的に俺とは違ってユーモアのセンスが不足してるんだと俺は…』

 

 

「っやかましい!!出来るならさっさとやってくれ!!」

 

 

枯葉色の砂漠に、咆哮がこだました。



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レベル28.脱出

 

「なあ、そんなに怒らないでくれよ〜」

 

 

戦闘でボロボロになった岩場を抜けて適当に歩みを進めると、ザナリー3が手をもみながら気持ち悪い声を出して近づいてきた。

 

 

「………」

 

 

無視して歩き続けると、ザナリー3は手もみするのをやめ、何やら考えだした。反応が芳しくないので、作戦を変えるつもりのようだ。

 

 

「やっぱりさっきのマジックのタネが気になってしょうがないか?…ホントはもうちょい引き延ばしたかったが…ウン仕方ねえ、教えてやるよ!」

 

 

目も合わせず無言でいることをどう受け止めたのか、ザナリー3は我が意を得たりといった様子で人差し指をピンと立て、得意げに語り始めた。

 

 

「といってもやった事はシンプルさ。ケイがシルバー・フレイム号で拾ったらしい投射機でヤツらの中心めがけてフラッシュバンを放り込んで、動きが止まったスキに…バーン!俺のハンドキャノンが火を噴いた!100メートル超えの超・ロングショットだ!」

 

 

ワキワキとハンドキャノンを構える動作を取りながら、ザナリー3は自身の活躍をアピールする。

確かに100メートル以上の距離から、ハンドキャノンでカバルの(比較的)小さな頭を撃ち抜くのは常人技ではない。だが同時に、投射機ありきとはいえ同じ距離の遠投をやってのけたらしいケイが何のアピールもしないのは、やはり人間性だろうか。

 

 

「………」

 

 

「…あー…」

 

 

ひととおり説明した後、なおも無言を貫く俺に観念したのか、ザナリー3はしおらしくなった。

 

 

「…そりゃ助けが遅くなったのは悪かったと思うぜ?まあ火星に落ちるなりどっか行っちまったのはダンナだった気がするけど…でもさ、実際危ない場面だったけど大ケガもしてないし、ここは間に合って良かった〜でいいんじゃねえの?」

 

 

「……ザナリー、彼が気にしてるのは多分、そういうことじゃない」

 

 

傍で一方的なやりとりを眺めていたケイが口を挟む。

 

 

「じゃあ何だってんだ?」

 

 

ザナリー3が首だけケイに向けて聞き返す。

 

 

「というか、別に怒っていない…と思う」

 

 

ケイはそう言って、懐から浮き上がってきたライフに注意を向けた。

 

 

『…治療完了しました』

 

 

「……そうか」

 

 

歩きながら、身体の調子を確認する。人間のものではない腕や脚。それを自分の物のように曲げ伸ばしてみて、やはりいつもより倦怠感が強いと感じた。

 

 

『ご自身でお分かりでしょうが、活動限界が近いです。衛星タイタンから持ってきたエーテルはほとんどが墜落でロスト。装備していたタンクも生命維持の分を除いてほとんどストックがありません。今後エーテルの補給があるまで、戦闘は絶対に避けて下さい…やれても、数人規模の小さな部隊を1回。それが本当の限度です』

 

 

「フン…無茶をした報いだな」

 

 

『否定はしません。あなたの奇抜な行動にはいつも驚かされてばかりです。尊敬すら覚えます。それと、これは嫌味です』

 

 

ライフがくるくるとゾンビの周囲を回る。ゴーストに表情は無いが、そこには明らかな不満の色が見えた。

 

 

「…むしろ怒っているのは彼の方だな」

 

 

そんなライフを見て、ケイがそう呟いた。

 

 

「彼?」

 

 

「ライフ君」

 

 

「ああ…ふと思ったんだけど、ライフ君は、彼って言ってもいいのか?彼女だったりしないか?いやまあ確かに俺もライフ【君】って呼ぶけど…そもそも男とか女とか、ゴーストにそういうのあるのか?」

 

 

ザナリー3が首を傾げた。それを受けたケイも顎に指を当てて思考する。

 

 

「うん…研究者としてはゴーストの性について明確な線引きが欲しいところだが、そこは今後の研究命題に加えよう。現状で話せることとしては…そうだな。もっと即物的な印象として…話し方や性格が男性的、女性的なゴーストはいる、といったところだろうか」

 

 

「ライフ君は男っぽいゴーストってことか?」

 

 

「まあ、それでいい」

 

 

『…なんだかむずがゆいので…私の前でその検討はやめていただけると有難いのですが』

 

 

「恥じらい…いや困惑か?いや、非常に興味深い。ライフ君、今の君からはかなり上質なデータが取れそうだ。なに、少しだけ…少しだけ時間をくれないか?」

 

 

ケイが見たことのない表情でライフににじり寄る。

 

 

『………』

 

 

「俺を見るな。…好きにしろ」

 

 

「ありがたい」

 

 

ケイがライフに手を伸ばし、そのままカチャカチャと弄り始めた。

 

 

『そんな、見捨てられました…ああ…私は今とても哀れなゴーストです』

 

 

「ケイ、それが終わったら船を探すぞ」

 

 

「フフフ…ん?ああ…そうだな……フフ……」

 

 

『あの、撫で回さないで下さい…あっ、シェルの境目は指を挟むと痛いと思います…ええ……あの…やめて下さると…非常にありがたいのですが…』

 

 

「……なるほど…ああ、素晴らしいな…フフ…フフフ…フ…」

 

 

『あっ、あっ、やめて、やめてください』

 

 

「…なあダンナ、俺、今度からケイにライフ君の話するのやめようかな」

 

 

「……ああ………」

 

 

ケイの暗い笑い声とライフの悲鳴は、しばらく止むことはなかった。

 

 

……………………

 

 

「時間を取らせてすまない、ひと段落ついたよ」

 

 

ケイは心なしかつやつやしていた。

 

 

『痛くない拷問があるのは知っていましたが、体験したのは初めてでした。次は是非とも遠慮したいですね』

 

 

ライフは露骨に不満げだ。

 

 

「ケイ、船を探すぞ」

 

 

「わかっているさ。ゴースト、さっき話したものを」

 

 

ケイの肩の後ろから彼女のゴーストが姿を見せる。ゴーストは淡々と彼女の要求する情報を話した。

 

 

『検索は終了しています。近辺10km以内に候補地は一件…ブレイ関連施設跡、船舶の発着場と格納庫が残っています』

 

 

「候補はひとつか…大丈夫なのか?」

 

 

あてが1つしかないということは、そこがダメなら終わりということを意味する。

 

 

「何、むしろ迷わなくて済むじゃないか」

 

 

「む……」

 

 

「兎に角、こうしていても仕方ないのは確かだ…行こう。他に案があるなら聞くが」

 

 

ケイが腰に手を当て、2人を交互に見る。その態度には確信めいたものがあった。

 

 

「俺は無いぞ」

 

 

ザナリー3は即答した。

 

 

「…無い」

 

 

こちらも渋々といった表情で答えた。

 

 

「決定だな。ゴースト、ルートは?」

 

 

想定通り、といった風にケイが前を向き直す。初めからあとの2人に反論や対案などないと見越しての動きだった。

 

 

『算出してあります。最速で行く、危険をできる限り回避する、資材を集めながら行く…この3つのルートです』

 

 

「よし。急ぐ旅だが、それよりも戦闘はしたくない。危険を回避して行こう」

 

 

『了解しました。ヘルメットにウェイポイントを表示します』

 

 

「警戒は怠るな。カバルのレーダーは性能がいい。先に気づかれることを前提に動け」

 

 

「了解…う〜…不安だぜ…」

 

 

淡々と前を見据える。眉間に皺を寄せる。不安げに辺りを見回す。それぞれの思いを胸に、3人は歩きだした。

 

 

………………………

 

 

「着いた!やった!無事だ!イエー!」

 

 

岩山の隙間を縫うように進み、少しずつ人工物が見えてきたかと思うと、色あせた金属質の大きなゲートを見つけた。どうやら目的の施設に到着したらしいことで、ザナリー3は全身で自分の無事を喜んだ。

 

 

「入口はここのようだ。電力が生きてるのは奇跡と言って良いだろう」

 

 

ゲート横の人間用出入口はロックされていたが、ライフの働きですんなり開いた。中は天井付近に採光窓がいくつも取り入れられ、想像以上に明るかった。

配電盤を見つけたので色々と弄ると、まだ生きていた電灯がゆっくりと光り出した。

 

 

『ここは乗客用エントランスのようです。あちらに受付だったと思われるカウンターやモニターが見えます』

 

 

ライフやケイのゴーストが忙しく動き回り、状況を把握しようとする。

 

 

「そうだな、船はありそうか?」

 

 

『電力が無事な以上可能性はありますが…見てみないことには』

 

 

「それもそうか」

 

 

『受付のターミナルから建物内の情報を吸い出します。少し時間を下さい』

 

 

ライフはそう言うと、正面の大きな機械に取り付いてアレコレと作業を始めた。

 

 

「フーン…黄金時代は、ここも旅行客で賑わってたってことか?」

 

 

暇そうに砂ぼこりを蹴り上げたザナリー3は、今度は適当な金属棒を拾い上げてあちこちをつついて回る。

 

 

「あちこち触って壊すなよ?ここは貴重なブレイ関連の施設跡だ。…まあ、人の出入りがあったとしても、それは研究者や輸送業者だっただろうな」

 

 

ケイがたしなめるようにザナリー3に話しかける。

 

 

「なんだ、ならここでコンサートもしなかったのか…」

 

 

ザナリー3は残念そうに肩を落とした。

 

 

「コンサート?何故こんな所で?」

 

 

「黄金時代…いやその前から、人の集まる所には、目立ちたがり屋が目をつけたんだってさ。空港だけじゃない。ステーションや教会前、ただの道沿いでも、人がいて、ミュージシャンが歌えば、そこはコンサート会場になった…らしい」

 

 

身振りを交えて彼は語る。エクソの表情は読み取れないが、どこか嬉しそうに、また何かを懐かしんでいるように見えた。

 

 

「ジョークも交えずに饒舌だな…音楽が好きなのか?」

 

 

「そりゃそうさ!誰もチームを組んでもらえない俺に、ゴースト以外の声を聞かせてくれるのは音楽データくらいだったからな」

 

 

「……その、何と言うべきか…」

 

 

気まずそうにケイは少しうつむいた。

 

 

「いや、気にしてないぜ。俺はもうあの時みたいな俺じゃない。ダンナさえいればカバルの隊長だって一発で仕留めてやるさ!」

 

 

「…ま、あの頃は時間だけはあったからな。必死こいて黄金時代以前の音楽の名残を集めて回った…色々見つけたよ。ブルースにジャズ、ロック、ポップ、テクノ…それとミュージカルに…ああ、あとクラシック!何が面白いって、俺からしたら全部過去のもの(クラシック)ってことだな」

 

 

ケラケラと笑う。ケイは何も言わなかった。

 

 

「レコードやデータパックを見つけて、この曲はなんて言うんだ?って聞いたら、ゴーストはこう答えるんだ。『これはジャズです』」

 

 

「どうして分かる?と聞けば…そうだな―――

 

 

ザナリー3は不意にライフに目を向けた。

 

 

『データ吸い出し完了。施設の名前はエドワード・エルルエリ・エヴァンズ・エアベース。ここはそのE地点エントランスのようです。このまま左の壁沿いに歩けば格納庫です』

 

 

「名前まで分かるのか」

 

 

ゾンビが少し驚いたように返事をした。

 

 

『ええ。受付にそう書いてあります』

 

 

ライフはどこか得意気に見えた。

 

 

「………」

 

 

ゾンビは騙されたような気分で顔をしかめた。

そんなやり取りを見て、ザナリー3は話を再開した。

 

 

「ああ、まさにああやって答えたんだ。『レコードの表紙に書いてあります』ってな。何故か自慢げだった。ああ、そのあたりはよく似てる。うん。本当に…いい親友だった」

 

 

「…君のゴーストに敬意を表する」

 

 

「ありがとな。まったく似合わないこと話しちまったぜ!…ダンナが呼んでる。行こうぜ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

この会話に深い意味はない。だが、彼が亡くなった時、私はきっと誰かにこの話をするだろう。ケイはなんとなくそう思った。

 

 

………………………

 

 

ところどころ破損した薄暗い通路を抜け、なんとか目指した部屋の扉にたどり着く。

ライフがロックを外した扉を開けると、大きな部屋に一台の宇宙船が置かれていた。

旧時代式のフレームに、白を基調として青のラインがいくつか走っている。欠けたパーツなどは特に見受けられず、エンジンに火が入れば今にも動き出しそうだ。

多少の傷こそついているが、ほぼ万全な状態の船が丸々残っていたのは、幸運というほかなかった。

 

 

『ここが格納庫のようです。セキュリティが思いのほか強固で苦労しましたが、それだけに中身が無事でよかった』

 

 

タラップを上り、中に入る。かなり埃が積もっており、長年人の手が入っていないことがわかる。

 

 

「相当な旧式だ」

 

 

『それはそうでしょう。クロビスブレイが研究者を集めたのも黄金時代の話…もはや歴史の領域ですから。私としては、彼らの作った物のほとんどがブラックボックスと化しているのが残念でなりません』

 

 

「そうか」

 

 

パイロットシートを見つけ、周囲の埃を払う。視界を覆うほどの埃が舞い、今だけは、マスクをつけていて良かったと思った。

 

 

『露骨に面倒臭そうにしないで下さい。きちんとリブートを試してます』

 

 

「動くか?」

 

 

とりあえず最低限の掃除を済ませるため、適当な道具を探すことにした。ライフにはその間に船の起動をしてもらうことにする。

 

 

『シルバー・フレイム号に比べればどんな船だって完璧な船です。外装も剥がれてませんし、肉抜きもされてません。大丈夫、動きますよ』

 

 

「…思いのほか早く船が手に入ったな」

 

 

『そうですね。まさしく幸運です』

 

 

「ライフ、これなら間に合いそうか?」

 

 

シティの奪還作戦の支援を依頼されている。追い出されるようにしてだが、作戦予定日よりかなり早めに出発している。作戦には当然間に合うだろう。

だが、懸念しているのはそれではなく…

 

 

『時間には多少の余裕があります…それこそ、寄り道できる程度には。ですが、例の場所とシティは距離があります。そう長い時間は取れません』

 

 

「よし。すぐに出発するぞ」

 

 

掃除道具を見つけたので、ザナリー3に投げ渡す。

話をぼんやり聞いていた彼が情報を整理し終わると、ハッと気がついたようにして慌てはじめた。

 

 

「…えッ?いや待て待て!バンガードの反攻作戦までまだ時間があるだろ?地球はカバルの親玉がいてここよりゼッタイ危ないと思うし、もうちょい火星で準備したほうがいい!」

 

 

「…いや、すぐに行く」

 

 

「でも…いや、ダメだ。ダンナ、なんだってそんなに急ぐんだ?」

 

 

ザナリー3がいつになく真剣な声色で聞いてくる。

 

 

「………」

 

 

「教えてくれよ、そうじゃなきゃ納得できねえ」

 

 

ザナリー3がその場に座り込んだ。不満であることを表明しているようだ。

 

 

「……全く…」

 

 

「…やはり、光を取り戻しに行くんだな」

 

 

ケイが口を挟んだ。

 

 

「…!」

 

 

「光!?光って言ったのか!?」

 

 

ザナリー3が立ち上がり声を上げた。明らかに声色が明るい。

 

 

『ケイ』

 

 

「確かに信憑性に欠ける話だ。軽率な話はしたくない君の気持ちも分かる…だが希望を持たせるのは悪いことじゃない。君がどこでその話を聞いたかは知らないし、私は衛星タイタンの研究者から聞いただけだが…君が話さなければ、私から言わせてもらう。元々、そのつもりだったしな」

 

 

「……好きにしろ。元々、俺は面倒だから話さなかっただけだ」

 

 

面倒になり座り込む。あとはケイが勝手に説明するだろう。

 

 

『…あなたの判断を尊重します』

 

 

ライフもそれに従い、口を挟むのをやめた。

 

 

「…よし、聞かせてくれ!」

 

 

ザナリー3が手刀を前に突き出し、腰を深く落とした。

 

 

「何のポーズだそれは…何、そこまで身構える話じゃない。例の…光を取り戻したガーディアンがいたという話を覚えているか?」

 

 

「ああ、この前スゲエやつもいるもんだなって話したぞ」

 

 

「では問題だ。彼は、どうやって光を取り戻したと思う?」

 

 

「それもこの前話したぞ。確か……そうだ、ピンチに陥ったガーディアンが、突然ガーディアンとしてのステージが一段上がって、スーパーガーディアンになったってのが結論だった!」

 

 

ザナリー3がピンと二本指を立てる。誇らしげだ。ケイがため息がちにその指に手を重ね、丁寧に両方折りまげた。

 

 

「当然ながら違う。…バンガードの聴取では、地球のとある場所に落下して放置されていたトラベラーの破片から、新たな光の力を受け取ったらしいのさ」

 

 

ケイが砂と埃まみれの地面に図面を描く。神経質な曲線と円で、【彼】の道筋が簡潔に示されている。

 

 

「なんだって!」

 

 

ザナリー3が跳ね、風圧でケイの図が台無しになった。

ケイがザナリーを睨む。

 

 

「………はあ。私も当初は驚いた。トラベラーは高度なテクノロジーでできた機械の神だと言われる。ならばその破片は結局のところ単なる大きな機械の1パーツに過ぎず、それが本体の大部分から切り離された時点で、トラベラーとしての機能を果たす能力を失っている。それが私の考えだったからだ」

 

 

「ん?うん。そうだな、もちろんそうだ」

 

 

首を傾げながら分かったフリをしている。難しい話だと思ったようだ。

 

 

「……それで、我々も彼の行動を模倣することで、光を手に入れよう、というワケだ。これは理解できたか?」

 

 

「つまり、光を取り戻せるんだな!」

 

 

ぐっ、とザナリー3が両手で拳を作った。

 

 

「……それを約束はできないが、やる価値はあるかもしれない。その程度の話だ」

 

 

「いや、それでいい!なら早く行こう!絶対光を取り戻すぞ!」

 

 

「…だ、そうだが?」

 

 

ケイがこちらに振り向いた。説明は終わったらしい。

 

 

「…分かったならさっさと乗れ。船の起動とルート構築は済んでる」

 

 

「なあ、今度も俺が運転していいだろ!?」

 

 

「ダメだ。今度は格納庫じゃなくて宇宙空間に放り込むぞ」

 

 

「流石にスパローレースの気分で乗り回されるのは…もう遠慮したいね」

 

 

「なんでだよ!小惑星や宇宙デブリスレスレのスリル、スピード!四方八方から身体に降りかかるG!それこそ宇宙船だろ!」

 

 

「ダメだ」

 

 

「…だったら、今度俺のマジでとっておきの、絶対一年に1回しか言わないって決めてるジョーク聞かせてやるよ!それなら…!」

 

 

「尚更ダメだ」

 

 

「チクショー!!」

 

 

船はなにごとも無く発進した。ザナリー3は押し込まれた後部座席で泣いてみた。種族柄、やはり涙は出なかった。特に心配もされなかった。



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レベル29.地球

 

 

 

『ランディング完了。周囲に敵影なし。目的地との誤差もわずかです。優秀な船で良かった。……帰ってきましたね』

 

 

二機のゴーストがせかせかと動き回り、周囲の状況をデータとして収集していく。

 

 

「ああ」

 

 

青々と茂る植物、苔むした岩、水を含み湿った地面…。火星の赤錆色の砂漠とも、衛生タイタンの明るいグリーンの海とも似つかない、地球の風景。今再び馴染みある大地を踏みしめ、その実感を得る。

 

 

「やっと、やっと…光を取り戻せるんだな!」

 

 

拳を握り、ザナリー3が歓喜に震える。

 

 

「そうと決まった訳じゃない。あまり期待しすぎると、痛い目を見るぞ」

 

 

そんな彼を見たケイが咎める。

 

 

「期待するなって!?そんなの無理だぜ!それで、どこにトラベラーがいるんだ!?」

 

 

『場所は聞いてありますが、まずは尽きかけているゾンビさんのエネルギーを確保を優先すべきだと思います。幸いなことに、ここはフォールンの勢力圏に近いので、近辺のフォールンからエーテルを奪えるでしょう』

 

 

「目的地へのルートを少し外れたあたりにフォールンの小さなキャンプがあるようだ。そこなら大した敵もいないだろう」

 

 

「決まりだな。フォールンからエーテルを奪って、そしたら光だ!」

 

 

『…ルート修正完了。では、行きましょう』

 

 

各々がスパローを呼び出す。ヘルメットにウェイポイントが表示された。

 

 

………………………

 

 

しばらく進むと、目の前にフォールンのキャンプが見えた。岩場とコンテナの間でドレッグやバンダルが忙しなく働き、また喧嘩などに興じていた。

 

 

「作戦はいつも通りだ。俺は突っ込む。お前は死なない所で適当に撃て。気が向いたら突っ込め。ケイは間に立ってうまくやれ」

 

 

スパローを降り、歩いて移動しながら適当な作戦を述べると、ケイがすかさず口を挟んできた。

 

 

「シンプルというか、私個人の見解を言わせてもらえば、それは…何も決めていのないのと同義だな」

 

 

ケイがため息がちに肩をすくめる。

 

 

「元々俺はリーダーをやるような性格じゃ無いんだ。だったらお前が考えろ」

 

 

巨体が不満げに喉を鳴らすのを後目に、ケイは指を顎に当てて思考する。

 

 

「そうだな。では…君はやはりその図体と耐久力を活かして陽動役だ。目立つからな。正面から派手にオートライフルをばら撒きながら前進してくれ。なるべく大きな音が立てられるといい。命を最優先としたうえで、敵を倒すより目立ち続けることを優先してくれ」

 

 

「ザナリー3。君は…あの高台からハンドキャノンかスナイパーライフルで、敵の指揮官や幹部級を優先して狙ってくれ。高所ならではの視野を活かして、必要があればゾンビ君のサポートも頼む」

 

 

「そして私はその間に立って前線を維持しながら、主にゾンビ君の撃ち漏らしの処理や全体の指示を出そう。どうだろうか?」

 

 

「俺と同じじゃないか」

 

 

「違う。君のは作戦ではない。例え方針が一致したとしても、論理性の欠片もない単なる『こうなったらいいな』という願望だぞ。しかも相当に乱暴なものだ」

 

 

「…どっちでもいいけどさ、俺は高い所から撃てばいいんだよな?」

 

 

「ああ「そうだ」」

 

 

「了解…先に行ってるぜ!始まったら教えてくれ!」

 

 

『我々も行きましょう』

 

 

「仕方ないな。私の作戦が最適だ。必ず従ってくれよ」

 

 

「俺のやることは同じだ。同じ作戦だ」

 

 

右腕に力を入れる。エーテルが流れを早めるのを感じる。やはり流れる量が物足りないが、やるしかない。

 

 

「決して!同じじゃない…!このことについては戦いが終わった後徹底的に議論させてもらうぞ」

 

 

「断る」

 

 

言うや否や駆けだした。

 

 

「あっ!まだ話は終わって…ああ、全く!」

 

 

一拍遅れてケイも走り出した。

 

 

「始まったか!?始まったな!!よっしゃ!撃ちまくるぜ〜!」

 

 

座ってハンドキャノンを弄っていたザナリー3も作戦の始まりを感じ取り戦闘態勢を取った。

 

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

 

ケイの作戦通り、あるいは自身のイメージ通りに巨体が暴れ出す。

もはやフォールンの肉体を動かすことに躊躇はない。まずは奥にフラッシュグレネードを投げ込み、敵の襲来に驚く近場のドレッグ達をオートライフルで蜂の巣にする。このあたりの雑兵はどうせ大したエーテルも持っていないので、バラバラにしても問題ない。

 

 

「ザナリー!奥だ!ケッチから降りてくる!」

 

 

少し後ろで撃ち漏らしを処理していたケイが指さす先には、援軍か、キャンプの本隊か。敵が今まさに輸送艦から降りてくるのが見えた。

 

 

「…了解〜!」

 

 

ザナリー3がハンドキャノンをホルスターに戻し、背中のスナイパーライフルを取り出した。適当なカウントとともに、仕留めるのに最適なタイミングをはかる。

 

 

「3…2…あ、ちょっと早い!〜っこなくそ!」

 

 

敵の降下は彼の予測より少しだけ早かったようだが、咄嗟にライフルを構え直し、落下中のキャプテンの頭を撃ち抜いた。

 

 

「え?あ、当たった……っイエース!よおフォールンども!このザナリー3様を覚えとけ!お前達のリーダーを登場前に一撃で倒した男だ!容量のちっせえデータベースに刻んどけ!ハッハー!」

 

 

「相変わらず、遠当てなら恐ろしい腕前だな」

 

 

「遠当てだけならな」

 

 

ケイが素直に賞賛の言葉を送り、ゾンビが悪態をついた。リーダーが突然やられたことで、こちらには余裕が、敵の中には明らかに動揺の波が広がりつつあった。

 

 

「…よし!統制が崩れるぞ!グレネード再投擲!反撃に注意して前進!押し込め!」

 

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 

指示を受け、今まで以上に派手な咆哮を上げながら前進する。苦し紛れのドレッグのナイフやバンダルのピストルを右腕で弾き、左手のグレネードを無理矢理押し込んでやると、爆発音とともに数体のフォールンがバラバラになった。

直後、四本の腕にブレードを構えたバンダルの小隊が正面に躍り出る。

出会い頭に巨体を活かしてタックルをかまし、一体を弾き飛ばした。動揺の隙に数歩分後退し、バンダル達に向け、腰のマシンガンを取り出し撃ち込んだ。

 

 

『まずい、後ろです!』

 

 

直後、背後に伏せていたバンダルが透明化を解除し、こちらへ斬りかかってくる。

間に合わない。そう思った矢先、バンダルの頭が弾けた。見上げると、ザナリー3が得意げにハンドキャノンを構えていた。

 

 

「気合い入ってんなあダンナ!やっぱ楽しみだよなあ!?」

 

 

「やかましい!まだ終わってないぞ!!」

 

 

「分かってるって〜!」

 

 

「このままのペースならあと少しだな…いや、これで最後か?ゴースト。このあたりを探ってみてくれ」

 

 

『周囲に敵影なし。援軍はありません』

 

 

「よし…ならあとは目の前のコイツだけだな」

 

 

どこかしこに煙が上がり、バチバチと故障した機械が音を立てる。もはやフォールンは負傷し動けなくなった目の前のキャプテン一体のみとなっていた。手足が動かなくなっても、目だけでこちらを睨みつけ、唸りを上げて威嚇してくる。

 

 

「巨体により多少の怪我では死なないのだろうが、この状況に至っては、それは幸か不幸か…悪いが、ここでお前を逃がしてやるほど慈悲深くないのでな」

 

 

「アバヨ!ガーディアンに生まれ変わったら、俺の渾身のジョークも聞かせてやるよ!」

 

 

乾いた音が響き、キャプテンは動かなくなった。

 

 

「…終わったか」

 

 

『では、エーテルの補給をします。しばらくじっとして下さい』

 

 

ライフがキャプテンのエーテルタンクを自分の背中に取り付けられた装置と接続する。

 

 

「難儀な身体だな…全く」

 

 

『ですが、それで助かっています』

 

 

「そうだろうとも…さあ、光を取り戻すための作戦を考えるぞ。決まったらすぐに行動を開始する」

 

 

「エッ?作戦?なんで?もうあとはトラベラーの所に行くだけだろ?」

 

 

『…【彼】が言うには、落下したトラベラーの破片の周辺には、邪神の軍勢…宿られた兵達が待ち構えていたそうです』

 

 

「邪神…!?まさか、あの真っ黒で、キモチワルくて、ガクガクしてるアイツらのことか!?」

 

 

「ああ。ハイヴの邪神オリックスが、息子の復讐のために送り込んできた軍団だ」

 

 

「ただ…」

 

 

『ええ。オリックスは既に打倒されているハズです。出どころが分からない敵…構成も規模も、予想がつきません。正直、かなり危険です』

 

 

「ああ。だが朗報もある。私は以前その点についてイコラと話をしたんだ。彼女によると、実はオリックス打倒後、シティ崩壊前にも宿られた兵の目撃例が複数回あったようだ」

 

 

「でもアイツらはオリックスが生み出してたんだろ?ならただの生き残りなんじゃないのか?」

 

 

「私もそう考えていた。だが、その他いくつかの研究データから見出したイコラの見解は違った。彼女は、宿られた兵はオリックスが一から生み出したものではなく、ハイヴとは無関係な異空間の力を利用したものだというのだ」

 

 

「つまり、オリックスは宿られた兵を利用し我々を攻撃したが、そもそも宿られた兵はオリックスがいなくても存在する。オリックスがいなくなっても、彼らが消滅するワケではない」

 

 

「結論。オリックスは死んだが、宿られた兵はいてもおかしくない。…可能性がある」

 

 

「フーン…?倒せるから大丈夫ってことか?」

 

 

「それは不明だ。そもそも先の話でさえ微細な資料から立てた予測に過ぎず、結論を出すには不十分なのだ。宿られた兵はオリックス自身の力ではないかもしれない。だとすればオリックスがもういなくても宿られた兵は継続して存在できるかもしれない。そして今までは攻撃すれば倒せたから、これから先も同じように倒せるかもしれない。そんな希望的観測を多分に含む」

 

 

「…細かいことはもういい」

 

 

「長話は後で俺のいない所でやれ。ここまで来て今更後戻りはできない。敵がいれば倒す。それだけだ」

 

 

「そうだそうだ!ムズカシイ話と長い話ハンターイ!!」

 

 

「ううん…はあ…全く。衛星タイタンにいた頃は、生き残った研究者達の議論のレベルの低さに失望したものだが…それでも話を聞いて、返事をもらえるだけマシだったのかもしれないな。ゾンビ君などは、出会った頃はまだ話ができたハズなのだが」

 

 

『お気持ちは、お察しします』

 

 

「お前の長い上につまらん話に飽きただけだ」

 

 

「あ!ところでダンナ、さっきのフォールンなんだけどさ、なんか銃にストラップつけてんの!あ、ドレッグだったんだけどさ、あの最初に出てきたヤツ!あ、ダンナ視点でね!最初って行っても俺とダンナじゃ見てる場所が違うもんな!そこを忘れる俺じゃないぜ?そんでえっと、何だっけ…そうそう!そのドレッグの持ってた銃にストラップがついてたことなんだけどこれがケッサクでさあ!個人的には最近の中でもトップくらいに面白い話しだなぁウン、もちろん聞くだろ?なあダンナ、気になるだろ?でもなぁ〜、こんな所で聞かせるよりもっと溜めた方がいいかなぁ?どう思うダンナ!?アレ、ところで何の話だったっけ!?」

 

 

「お前が一番やかましい!黙ってろこのポンコツ!」

 

 

ザナリー3の顔面を右手で鷲掴みにする。エーテルの量は十分。素晴らしいパワーが出力された。ザナリー3が右手の下で暴れる。

 

 

「ガガー!ガガガ!(壊れる!ついに壊れる!)」

 

 

『…すみません。エーテルが回って、少し元気になりすぎたようで』

 

 

「ザナリー君はあまり変わらないがね。さっきまで割と静かだったのは、ゾンビ君の元気がなかったせいだったのだろうか。なら、彼の憎まれ口も合わせて復活、ということか…」

 

 

ケイは二人のやりとりをひとしきり眺めると、ため息をついた。



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レベル30.光

 

 

 

「…ううん、イヤになるほど静かだぜ隊長?」

 

 

ザナリー3がキョロキョロと辺りを見回す。

実際、トラベラーの破片があったという場所への道中、ほとんど敵に出会うことはなかった。

 

 

「そうだな。かなり遠くでフォールンとハイヴの小競り合いが聞こえるが、そのくらいか」

 

 

『周囲に敵影なし。ですが、場所を間違えてはいません』

 

 

「いいことじゃないか。このまま光を取り戻して、無傷で反攻作戦に参加する。俺達はシティを取り戻し、あの頃のガーディアンに戻る」

 

 

「ダンナ、その見た目で元のガーディアンってのは流石にムリがあるぜ!まあ俺もだけどな」

 

 

「………」

 

 

「アレ、怒らないのか?」

 

 

ザナリー3の方へは振り返らない。それよりも気になる物が目の前にあったからだ。

 

 

「……ライフ」

 

 

『ええ。ここ…でしょう。この先に、夥しい数の宿られた兵がいます。景観や他の状況も、【彼】の報告と一致しています。まず間違いありません』

 

 

錆びた廃屋を抜けていった道の隙間、獣道とも呼べない単なる暗い森の中へと、事前に設定されたルートは続いている。そして、その奥には宿られた兵の黒々とした痕跡が至る所に残されていた。

 

 

「慎重に進もう。我々が一人も欠けることのないように」

 

 

ケイが身構える。

 

 

「ああ。そうだな…」

 

 

腰のライフルに手をかけた。ここからは、銃を取り出しておいた方がいいだろう…

 

 

………………………

 

 

「かなり暗いな。宿られた兵はまだ見当たらないか?それらしい痕跡はよく見るんだが…ケイ、そっちはどうだ」

 

 

森を奥へと進んでいく。静かすぎることに違和感を覚え、仲間に話しかけた。だが返事はなく、沈黙が辺りを支配する…

 

 

「ケイ?どうした?」

 

 

やはり返事はない。振り返ると、ここには自分以外に誰もいないことに気がついた。

 

 

「……ケイ?ザナリー?……ライフ!」

 

 

「ライフ!何を黙ってる!すぐに周囲を探れ!敵がいる!」

 

 

敵が自分達を分断したことを想定し、ゴーストに警戒を求める。だがそのゴーストすらも、自分の元から居なくなっていた。

 

 

「ライフ!!」

 

 

「ライフ!どこへ行った…クソ!何だというんだ!」

 

 

とりあえず、設定しておいたルートを進むことにした。もしこのルートが正しいなら、ゴール地点で合流できるはずだ。

 

 

しばらく歩いていると、浮かび上がるホログラムのようなものを見つけた。薄ぼんやりとしたそれは人の形をしており、かつての自分達と似たような装備を身につけているように見える。

 

 

「……なんだこれは……ガーディアンか?」

 

 

『誰よりも強くありたいと望め。暗黒に挑め。そして何よりも硬くなれ…タイタンは鉄だ。叩けば叩くほど強くなる…自分のガントレットとヘルメットを信じろ。己の強さを信じ、一歩も退かない強い決意があれば、タイタンに負けはない』

 

 

どこからともなく声が聞こえる。かつてよく聞いた声…もう聞くことのない声。かつてのファイアチームの仲間、その内の一人の声だった。

 

 

「アイリーン…!?お前なのか!?どうしてこんな所にいる!!あの日俺が…殺したハズなのに!」

 

 

『ナイフは切れ味が全てだ。本当にいいナイフなら、カバルのヘルメットなんか紙きれみたいに切り裂ける。ちょうどさっき見せたみたいにな…ガーディアンなら、暗黒を最もよく切り裂くナイフであるべきだ…お前はどうだ?ナイフを持ったことはあるか?』

 

 

また別の所から声が聞こえる。そちらへ振り向くと、また別のホログラムが映し出されていた。

 

 

「ダカート76!何だ!何が起きてる!?」

 

 

『常に方法を模索しろ。最善を尽くせ。死を克服した我々にとって、もはや死は失敗ではない。冷酷に命を使い捨て、最も効率的に暗黒を打倒するのだ。ガーディアンはそのためにある。私はその答えが永劫の苦しみであったとしても、躊躇しない』

 

 

「リンドーズ…!」

 

 

ホログラムに向かって手を伸ばした。手は、そのまま映像をすり抜けていく…

 

 

「触れられない…映像なのか…?ライフか?それともトラベラーが見せる幻覚か?」

 

 

『恐れるな。そして忘れるな。我々の戦いを、トラベラーが見ている…守るべきシティと市民達。ガーディアンの役割を忘れるな。我々は死んでいった英雄達と、打ち倒した敵の死体の上にのみ立つことができる。ガーディアンに平穏はない。暗黒を打倒するまで、我々の戦いは終わらない』

 

 

聡明そうなウォーロック。腕には、見覚えのあるリストバンド。

 

 

「エイ、リークっ…!!」

 

 

自らの罪を見せつけられるような、おぞましい感覚に襲われる。いても立ってもいられず走り出した。

 

 

………………………

 

 

しばらく走っていると、開けた場所に出た。

 

 

「…ここは…」

 

 

広場の中央に、大きな白い金属の塊が見える。恐らく、アレが目的のものだろう。

 

 

「アレは…!見つけたぞ!」

 

 

「ライフ!どこにいる!トラベラーの破片だ!」

 

 

『…見つけました!ああ、どこへ行っていたのですか!』

 

 

広場の片隅から小さな光がふらふらと浮上してきた。ずいぶんと久しぶりに会ったような気がする。

 

 

「ライフ!…それはこっちの台詞だ!突然いなくなって、妙な映像まで見せやがって!」

 

 

あのホログラムは恐らくライフのイタズラだろうと勝手に決めつける。もちろんそんな無駄なことをしても仕方ないのだが、他に心当たりがないのだ。

 

 

『突然いなくなったのは…いえ、映像ですって?』

 

 

「あのファイアチームのメンバーのことを知ってるのはお前だけだろう!」

 

 

『…まさか、彼らを見たのですか?』

 

 

「惚けるのもいい加減に…」

 

 

『違います!私も見ました。いくつかの映像が、ところどころに投影されて、そして道標のように…それに従って、ここへ来たのです!』

 

 

ライブがくるくる回って自身の体験を説明する。どうやら彼も似たような体験をしたらしかった。

 

 

「何だと?なら誰が?いや、何のために…」

 

 

『…トラベラーが、ガーディアンをここへ誘導した、というのはどうですか?』

 

 

「…いかにもお前が好きそうな答えだ。まあ、気にしても仕方ない。結果としてここへたどり着いたのならそれでいいだろう」

 

 

『そうですね。トラベラーの破片…まさか本当にあったとは』

 

 

「光はどうやって手に入れる?」

 

 

歩いてトラベラーの破片に近づく。想像していたよりも大きく、言葉にできないが、何か迫力のようなものがある。そう感じた。

 

 

『私に任せて下さい。破片に残された光を、私がバイパスします』

 

 

ライフが自身の元から離れ、破片と自身の間に位置取った。

 

 

「そうか。なら頼む」

 

 

『ええ。行きますよ…!』

 

 

ライフのシェルが大きく開く……

 

 

………………………

 

 

「…これは」

 

 

両手を見る。じんわりと、体に今までにない感覚が広がっていく。不快ではない。むしろ暖かく、懐かしく。心が満たされ、勇気を得られるような…

 

 

『成功…しました。やりました。今やあなたはエーテルを身体に宿しながら、光を扱うことができます』

 

 

「いい感じだ。身体が軽い。それに…」

 

 

バチッ、と、体からアークエネルギーを発する。フォールンの機械からではなく、自分に流れる【光】から発生させた、正真正銘のガーディアンの力。

 

 

『ええ。本当に久しぶりでしょう。ちょうど、あなたの光に誘われて宿られた兵達が集まってきています。試運転には最適です』

 

 

見れば、光に引き寄せられたのか、ずっと見なかった宿られた兵達が集まってきていた。

 

 

「ああ。行くぞ!」

 

 

光を伴う戦闘。それはずいぶん久しぶりのハズなのに、身体は驚くほど自然に動いた。

強く拳を握る。腰を落とし、全身にアークエネルギーを纏う。目前の敵を見据え、それを一撃のもとに打ち倒す様をイメージする。…タイタンの中で、最も激しい力。

ハボックフィスト。かつて自らが最も得意としたその技は、まるで彼の帰りを待っていたかのように…それは無敵と見まごう威力でもって、その猛威をふるった。

 

 

………………………

 

 

「開けた所に出たな。いや、入口に戻ったのか」

 

 

宿られた兵を蹴散らし、入口まで戻った。今度はゴーストと分断されることも、妙なホログラムを見せられることもなかった。

 

 

「やあ…どうやら君は成功したようだ」

 

 

「ケイ」

 

 

入口ではケイとザナリー3が待っていた。口ぶりから見るに、どうやら自分より先に用事を済ませたらしかった。

 

 

「光を取り戻した気分はどうかな?私は普段通りだ。無闇に力を振るう趣味も無いことだしね」

 

 

ケイが手の上にソーラーの光を浮かび上がらせる。彼女も光を取り戻せたようだ。

 

 

「俺はハボックフィストを撃ち込む気分を思い出した。中々悪くない」

 

 

「フ…そうか」

 

 

『あの…』

 

 

ライフがザナリー3に注意を向ける。彼は座り込んで、珍しく静かに俯いていた。

 

 

「……まあな。分かってたよ………ゴースト無くして光無しってとこかな」

 

 

「ザナリー」

 

 

彼は光を取り戻すことができなかったようだった。自分がゴースト経由で破片から光を得たことを考えるに、ゴーストがいないのが影響したのだろうか。

 

 

「俺もトラベラーにたどり着いたんだ。はぐれた後に…走り回って。ほぼ偶然。っていうかラッキー。でもその後は……」

 

 

ザナリー3は深いため息をついた。

 

 

「何をしても、トラベラーの破片は反応しなかったそうだ」

 

 

「そうか」

 

 

「そうか。じゃねえよ!!チクショー!光を取り戻してさぞ気分が良いだろうな!この……えっと、ダメ男!モヤシ肌!実はインドア派!…ちょっと待ってろ、良いのがもうすぐ出てきそうなんだが…」

 

 

ザナリー3はひとしきり騒いだあと、何やら考えこんでしまった。情緒がいつにも増して不安定に見える。どうやらショックを受けているのは本当のようだ。

 

 

「フン…それで、お前はどうする?」

 

 

様子を見かねて、これからのことに話題を変える。

 

 

「どうって…」

 

 

「光を取り戻したらシティ奪還作戦の援護に向かう予定だった。だが、光を取り戻せなくても向かうつもりだった。違うか?」

 

 

元々、光を取り戻せる確信などなかった。いわば寄り道で、シティ奪還作戦に参加することは決まっていた。運良く自分ともう一人は光を取り戻したが、どちらにせよ作戦には参加するつもりだったのだ。

 

 

「ああ?あー、そりゃあ、まあ…そうだ。でも…」

 

 

「だが、ここでお前に選択肢を用意してやる。お前は俺達と共に戦い、シティを取り戻すか…どこか遠くへ逃げて、いつか来る死に怯えながら…【臆病者】として暮らすのか」

 

 

「…言い方ってもんがあるぜダンナ」

 

 

ザナリー3が立ち上がる。その声色には、明らかな苛立ちが感じられる。

 

 

「ああ。お前がそう言われるのが嫌いなのは知っている。…ザナリー3。確かに俺達と共に来れば、お前は死ぬかもしれない。お前のリスクは俺達より高い。だが生きるか死ぬかの崖っぷちにいる…それは逃げたところで同じだろう。だったらガーディアンとして、勇敢に死ぬべきだ」

 

 

「それに、光があろうと無かろうと、死ぬ時は死ぬことに変わりないしな」

 

 

「何より…あー……つまりだ。お前の狙撃の腕は、シティ奪還に必要だと、俺は思う」

 

 

「……〜〜〜!!それ褒めてんのかワカンネーよ!ああもう!分かったよ!俺も行くよ!!………まあ、元々半分くらいは諦めてたことだしな。分かってはいたんだ…」

 

 

「死人がガーディアンとして光をもらって生き返る。そのキッカケはゴーストだ。なら、光を取り戻す時も、きっと…なんてな。薄々な」

 

 

「そうか」

 

 

「…ザナリー。私や彼に、君の気持ち全てを分かってやることはできない。だが…」

 

 

「ああ。いいよ。なんで俺だけ、とか、気にしてないとは言えないけど…まあ、割り切るし、戦うさ。俺だって心はガーディアンだ」

 

 

「…君の勇敢さに敬意を表する」

 

 

「よせよくすぐったい!…いややっぱりもっと言ってくれ!」

 

 

『お話の途中ですが、そろそろ移動しましょう。作戦開始時刻も迫っています』

 

 

「そうか。なら移動だ。…話によると、ガーディアン以外の民間人も作戦に協力するらしい。彼らとは顔を合わせないようにしないとな」

 

 

「なんで…って、ああ、そういやフォールンに間違えられて捕まったこともあったな」

 

 

「そうだ。今回の協力者は勘違いで俺を捕えた節穴男の仲間だそうだ。だから信用ならんし、向こうから信用されもしないだろう」

 

 

「まあ、そりゃあな」

 

 

「疑われるに足る見た目だという自覚はある。自分で選んだものだが…今更戻れもせん。この力も利用してシティを取り戻す」

 

 

「その意気だ。さあ行こう。バンガードが我々の到着を心待ちにしているはずだ」

 

 

寄り道は終わった。3人は船に向けて歩き出した。

 

 

………………………

 

 

『作戦予定エリアに入りました。ザヴァラに通信を繋ぎます』

 

 

ライフがザヴァラの映像を出力する。

 

 

「分かった。…ザヴァラ。言われていた場所に着いた。どうすればいい」

 

 

「ガンドール。そこに仲間の二人もいるか?」

 

 

ザヴァラが話し始めた。いつも通りの無表情だ。

 

 

「ああ」

 

 

「…ガンドールと呼んでも、何も言わないのか。心境の変化か?それとも、もしや光を取り戻したか?」

 

 

「そうだ」

 

 

「そうか…それは素晴らしい。この作戦において君達のバックアップが不十分であることが懸念事項だったのだが、それも君たち自身のパワーアップという形で解消された」

 

 

「そうか。それで作戦は」

 

 

「ああ、そうだな。本題に入ろう。…端的に言えば、君達の仕事は陽動だ」

 

 

「陽動?囮になれということか?」

 

 

「そうだ。今回、我々は電撃的に敵の大将のところへ【彼】を送り込み、単独でガウルの首を取ってもらうことにした」

 

 

「大胆だな。成功するのか?」

 

 

「議論は重ねた上で、もう決まったことだ。後は【彼】に全てを託す…それだけの力量があると、我々は見込んでいる」

 

 

「………」

 

 

【彼】。今までも何度か話には出ていたが、実際に関わるのは初めてだ。同じく光を失ったガーディアンでありながら、すぐさま光を取り戻し、バンガード再建やカバルの作戦妨害のため様々な功績を上げたとか…

 

 

バンガードがその【彼】に賭けると言うのなら、個人として否応はない。ただ、会って話がしてみたいと、少しだけ思った。

 

 

「そして、シティは今や敵の本陣と化した。どこかしこをリージョナリーがうろつき警戒している。入口には厳重にガードされ、一時的にでもポイントを確保しないとシティに侵入すらできない。つまり…端的に言えば、彼らが邪魔なのだ」

 

 

「それで、我々が派手に暴れて巡回のリージョナリーどもの気を引けと?」

 

 

「いや、それは別の部隊が行う。君達にやってもらいたいのは、戦火に引かれて集まってくるシティ周辺の敵の排除だ」

 

 

「知ってのとおり、シティを一歩出れば、そこはフォールンやハイヴの巣窟だ。我々がカバルと戦闘を始めれば、これ幸いにと便乗してシティを狙ってくるに違いない」

 

 

「カバルを打倒して疲弊したところへ、新手が来るのは避けたい。だがそれを防ごうにも、そちらに戦力を割いていてはそもそもカバルを倒せない」

 

 

「そこで、我々というわけか」

 

 

「そうだ。エリスの報告を信じるならば、君達は光を失ってなお、数多くのフォールンやカバルを撃破した実績がある。そして、主戦力には加えられない事情もある」

 

 

「そうだな」

 

 

ガーディアンならともかく、市民の協力があるともなれば、この身は晒せないだろう。完全な別働隊として動かすのは妥当な判断と言える。

 

 

「結論として、バンガードは君達をシティ外縁に配置し、シティ外から来るであろう敵の哨戒、および撃破を担当してもらいたい」

 

 

「………」

 

 

「危険な役割だ。できないと言うのなら、それでもいい」

 

 

「あ、降りてもいいの?」

 

 

ザナリー3がとぼけた声を出す。無視した。

 

 

「いや、やるさ」

 

 

「…そうか。では作戦の更に詳しい説明については、別のものからさせる。私はもう別の所へ行かなくてはならないからな。少し待っていてくれ」

 

 

そこまで言うと、ザヴァラはその場を去った。少しだけ空いた時間に、ケイが耳打ちしてきた。どうもザナリーには聞かせたくない話があるらしい。

 

 

「…ゾンビ君。いや、もうガンドールと呼ぶべきかな」

 

 

「好きに呼べ。光は取り戻したが、身体は変わっていない」

 

 

「ではゾンビ君と呼ぼう。…単刀直入に言って、君は死ぬ気だな?」

 

 

「………」

 

 

「事ここに至り、皆命をかけているのは同じだ。最早作戦に反対はすまいが…」

 

 

「ケイ。俺は死ぬ気などない」

 

 

「慣れない嘘などつくものではないぞ」

 

 

ケイが諭すように続ける。

 

 

「私は心配なんだ」

 

 

「………」

 

 

「…私もザナリー3も、君を起点としてここまで来た。この3人のファイアチーム。そのリーダーは君だ……自ら死ににいくような真似だけはしないでくれ」

 

 

そこまで言うと、ケイは離れた。自分が言ったことは事実だ。自分から死ぬつもりなどない。だが、死んでも構わないと思っている部分もあるのは確かだった。

 

 

どうも自分が気がつかない所まで見透かされたようで、居心地が悪かった。

 

 

「フン…」

 

 

思いもよらなかったことだが、確かに自分はこの2人と協力してここまで来た。即席とはいえ、チームと言って差し支えないだろう。

 

 

…仲間が死ぬのは堪える。自分のような後悔をさせないためにも、死なないためにできる限りのことはしよう。

 

 

そう思った矢先、ライフが再度映像を受信する。

 

 

『……こんにちは。私はガルダ62。ザヴァラから聞いている通り、ここからは私が作戦の詳細を説明します。話の途中と最後に質問タイムを設けますので……

 



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レベル31.戦場

 

 

 

「作戦は頭に叩き込んだか?特に最後まで寝ていたそこのポンコツ」

 

 

作戦の説明が終わり、通信が終了した。近くで作戦を聞いていたケイと、横になって眠りこけていたザナリー3に向き直る。

 

 

「ああ」

 

 

「いつでも行けるぜ?」

 

 

一方は淡々と、また一方は白々しく答える。

 

 

「色々と言われたが、要はシティの外縁で暴れればいい。戦い方も各々が得意なやり方でいい」

 

 

おおまかに言えば、シティの中に主力が突入する間、騒ぎを聞きつけて集まってきた余計な敵を押しとどめるのが任務だ。

 

 

「覚えることが少なくてありがたいけど、そんな適当でいいのか?」

 

 

ザナリー3が首をかしげる。大きな作戦に参加するにしては、適当すぎると思ったのだろうか。

 

 

「明確なタブーに触れない前提なら、色々縛りつけるより自由にやった方が敵を倒しやすいだろう。そもそも俺達は即席のファイアチームだ。今まで細かく決めないやり方でやってきた以上、今更やり方を弄って態勢が崩れることの方が危険だ」

 

 

「フーン…?なんか頭よくなった?まあ、ダンナそう言うならそれに従うぜ」

 

 

「頭が…馬鹿にしてるのか?」

 

 

ザナリー3に身体ごと向き直る。ザナリー3が身構えたところで、ケイが口を挟んだ。

 

 

「やはり光を失ったことが、ずっとストレスや焦りを生んでいたのだろう。それが解消されて、難しく考える余裕ができたのかもしれないな。もし詳しく知りたいなら、この戦いが終わった後、彼を連れて医者か科学者をあたってみるといい」

 

 

「あ、それは遠慮しとくぜ…」

 

 

場の雰囲気が少しリラックスしたところで、ひとつ息をつく。作戦開始を前にして、肩に力が入っていたようだ。

 

 

「とにかく、もう本隊は配置についた頃だ。俺達も始めるぞ。向こうを見ろ」

 

 

そう言って目を向けた先には、遠方からシティを遠巻きに見つめるフォールンの部隊が見えた。そこから離れた所には、ハイヴの特徴的な緑がかった炎も認められた。

 

 

「うえ…いつの間に」

 

 

ザナリー3が心底嫌そうにつぶやく。

 

 

「アレを死んでも止めるのが俺達の仕事だ。作戦が早めに終わるのを祈るんだな」

 

 

両の手足をぐるぐると動かす。動作にはなんの問題もなく、違和感も皆無…見た目はともかく、これから長い付き合いになるだろう手足だ。なるべく大切にしたい。

 

 

「フフ。数え切れない敵というのも、長く見ていなかったからな…久々に、戦争の中に身を置いている感覚だ…腕が鳴る。ゴースト、記録の準備を。仮に私が死んでも、いいデータを残そう」

 

 

『了解しました』

 

 

ケイとそのゴーストも、気合十分といった感じだった。

 

 

「ダンナ、俺はどうすればいい?」

 

 

「いつも通りだ。邪魔をするな、好きにやれ。何も分からないなら、高い所から撃ってろ」

 

 

「じゃあ、高い所から撃つぜ!あの辺かな〜…」

 

 

そう言うと、ザナリー3は適当な岩場をよじ登り始めた。

 

 

「私は…うん。君の考えを聞いてから考えよう」

 

 

ケイは動かず、試すように薄い笑みを見せている。

 

 

「なんだそれは…守るのは久しぶりだが、俺は前進して、線を引き、それを越えさせない。それだけだ」

 

 

「そうだろうな。ならば、私は遊撃に徹しよう。君がラインを守ってくれ」

 

 

「言われなくとも、始めからそのつもりだ」

 

 

「フフ。そうだろうとも」

 

 

結局、作戦はいつも通りだった。これ以外に思いつかないのだから仕方がないのだが、ケイの妙な態度が気に食わなかった。

 

 

「なんだ、気色悪い」

 

 

「いやなに、気を悪くしたなら謝罪しよう。ただ嬉しくてね。君がガーディアンらしく振る舞っていると、ライフ君が嬉しそうなんだ」

 

 

「何?」

 

 

言われてライフを見ると、どうもそわそわして落ち着かないようだった。あるのか分からないが、感情が昂っているのだろうか。

 

 

『…いけませんか?』

 

 

「まだ何も言っていないだろう」

 

 

『いえ、言いました。あなたの目が今不満を述べました』

 

 

「…ハア…もういい。好きにしろ」

 

 

『ええ。【ガーディアン】』

 

 

「………」

 

 

様子を眺めていたケイが一瞬だけ深い笑みを見せると、身を翻して自分のポジションを探しに行った。

 

 

『行きましょう、ガーディアン。暗黒が迫っています』

 

 

「……ああ」

 

 

見ると、フォールンが進行を開始していた。ハイヴもそれに続く形だった。

ひとつ、身を震わせる。戦いが始まる…

 

 

………………………

 

 

これは絶望的な戦いになる…分かってはいたことだった。敵の攻撃は止むこともなく、我々はたった3人でそれをせき止める。まさに多勢に無勢…今、敵の侵攻は我々の前で少しの間止まっている。この時点で奇跡なのだと。

 

 

「…ッ!」

 

 

「ケイ!」

 

 

一発、また一発と被弾がかさむ。何度目かの被弾を肩に受け、ケイが姿勢を崩した。

 

 

「私に構わなくていい!まだ来るぞ!ザナリー!」

 

 

「見えてる!フォールンも、ハイヴもたくさん来てる!チクショー!」

 

 

ザナリー3が敵の頭を撃ち抜き、またひとつ屍を作る。だがどれだけ正確な銃撃も、どれだけ緻密な連携も、数というあまりにも有効な戦略にとって、有効打にはなり得ない。

 

 

「チッ…!うおおおおおおお!!」

 

 

フォールンの攻勢が弱まったかと思えば、別方向から騒ぎを聞きつけたハイヴが集まってくる。

 

 

「ライフ!」

 

 

『ザヴァラから応答ありません!やはりジャミングを受けています!これでは増援を求めることも…!』

 

 

作戦が終わるまで、増援も望めない。これも分かっていたことだった。

 

 

「シティの様子を見るに、作戦が終わったようには感じないな!」

 

 

「増援でも作戦でもいいから早くしてくれ!」

 

 

「クソー!ダンナ!弾がもうもたねえ!」

 

 

ザナリー3が悲鳴をあげる。

 

 

「ライフ!持って行ってやれ!」

 

 

『ガーディアン、しかしそれではあなたの分が…』

 

 

「しばらくは保つ!」

 

 

『…分かりました。なるべく早く戻ります!』

 

 

「クソッ…いつ終わるんだ…!」

 

 

戦いは続く…

 

 

………………………

 

 

しばらく戦闘を続けると、キャプテンの大きな声が響いた。それを聞いたフォールン達は、こちらに恨みがましい視線を向けながら、素早く後退していった。

少しして、ハイヴもそれに続く形をとった。

 

 

「やっと…少しだけ、敵の勢いが緩んだな」

 

 

「第一ウェーブクリアってとこか?」

 

 

「我々の存在が脅威として司令部に報告されたのだろう。体制を整えて、次はもっと激しい攻撃が来る」

 

 

「そうだろうな」

 

 

「げえ…」

 

 

『ガーディアン、バンガードから連絡です。どうやら通信は回復したようですね』

 

 

「繋げ」

 

 

『ガンドール隊へ、こちらバンガード』

 

 

「ザヴァラ!…いや違うな。ザヴァラはどうした」

 

 

『彼は作戦中負傷したため、急遽私が代わりに連絡を担当しています』

 

 

「そうか。作戦はどうなった?こちらもそう長くは保たん。増援は来るのか?」

 

 

『作戦は…【彼】がこれからガウルの元へたどり着きます。作戦完了まで、あと少しです』

 

 

「………!まだ終わらないのか」

 

 

『…では、作戦本部からですが…先程、あなた方のすぐ西側のブロックの部隊が壊滅的被害を受けたと報告がありました。ですが、今そこを抜かれるわけにはいきません』

 

 

「何…?……まさか」

 

 

『隣接したブロックで、今すぐそこへ行けるのはあなた方だけです。幸いと言っていいのか、敵もかなりの被害を受け、あとひと押しで撤退まで追い込めるはずです。どうか…救援をお願いしたい』

 

 

「……!」

 

 

「ダンナ!バンガードはなんて言ってる?増援くれるのか!?」

 

 

『無茶なこととは百も承知です。作戦が終われば、バンガードは最大限の補償を…』

 

 

「………」

 

 

「ダンナ?」

 

 

「……作戦は順調だ!もうじきここにガーディアンの増援が来る!俺の事情も知ってる奴らだ…ここは俺とその増援で抑えるから、お前達は今すぐ西側のブロックへ向かえ!」

 

 

「本当か!?作戦はうまく行ってるんだな!?」

 

 

「ああ!さっさと終わらせるぞ!」

 

 

「了解!じゃあここは任せたぜダンナ!よっしゃ、ケイ!行こうぜ!!」

 

 

「………」

 

 

「ケイ!ほら早く!」

 

 

「ケイ、行け」

 

 

「…しかし」

 

 

「行け!大丈夫だ、光がある限り死にはしない」

 

 

「…私は…いや、こんな時に弱気はよそう。ザナリー!そこから降りてきてくれ!道は私がナビゲートする!」

 

 

「ああ、それでいい…頼んだぞ」

 

 

………………………

 

 

「…ライフ、敵の数は」

 

 

『何度聞かれても同じです。多すぎて数え切れません…不気味なほど静かですが、常にこちらを伺っています。今にも侵攻は再開されるでしょう』

 

 

「そうだな」

 

 

『…どうしてこんなことを?あなた一人で抑えきれる数ではありません。これでは…』

 

 

「ああ。自分の身を守りながら抑えるのは難しいだろうな」

 

 

『まさか死ぬつもりですか?』

 

 

「元々、一度死んだ身だ…心も、身体も。…あのクレバスに落ちた日のことじゃない。火星で…仲間を喪ったあの日。俺は…ガンドールというガーディアンは、とっくに死んでいたんだ」

 

 

「長いロスタイムが終わる。正しい形に戻るだけだ」

 

 

『ですが、私が蘇生します。あなたが死ぬことはありません』

 

 

「駄目だ」

 

 

『ガーディアン?何を…』

 

 

「お前はザナリーの元へ行け」

 

 

『……何ですって?』

 

 

「何度も言わせるなよ。ライフ…いやゴースト。お前との関係もここで終わりだ。これからは、あのエクソのガーディアンのゴーストになれ」

 

 

『何の冗談ですか?ありえない。ガーディアンが死んでもいないのに?』

 

 

「これからそのガーディアンが死ぬからだ」

 

 

『ですから、それは私が…』

 

 

「無理だ」

 

 

「ライフ。お前は俺より頭がいい。もう分かっているだろう…ゴーストだって死ぬ時はある。ゴーストの死因はガーディアンのダウン中に暗黒に捕まるか、流れ弾に当たるか、もしくはその両方か…お前はこの砲火の中、俺が死んでもずっと敵の手から逃れ続けられるのか?」

 

 

「ゴーストがガーディアンを蘇生するのだって簡単じゃない。蘇生中、ゴーストはその身を晒すことになるし、何より戦場の中でやるには時間がかかりすぎる。…普通はその隙をチームがカバーするんだがな。お前は単独で、その全てのリスクを回避する手だてでも考えついているのか?」

 

 

『それは…ですが』

 

 

「…厳しい言葉をかけるようだがな。最後だから言わせてもらう。……お前はいいゴーストだ。それは他の誰よりも俺が知っている……だからこそ、俺はお前がここで死ぬのが惜しい」

 

 

「ゴースト…いやライフ。お前に、もう一度この命を託す。前のような自棄じゃない。俺が最後まで、ガーディアンとして死んだことを覚えていてほしいからだ」

 

 

『ガーディアン』

 

 

「ああ。そうだ。俺はトラベラーの守護者、ガーディアンだ。これから先何が起ころうとも」

 

 

『………』

 

 

「フォールンの動きが変わった。これ以上は敵も待ってくれないだろう…ライフ。世話になった。すまん。……頼む」

 

 

『………分かりました。…どうか、どうか死なないで』

 

 

「…フン。当然だ。言われるまでもない」



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レベル32.別れ

 

 

 

その戦いは凄絶を極めた。たった一人のガーディアンに群がり襲いかかる、何十、何百もの敵。それは海の上に浮かぶ木片を、大波が呑み込むようにして彼を押し潰した。

 

 

何度も、何度も、雷鳴が轟いた。一撃、また一撃と、光を、命を削り、稲妻が走った。敵の陣形を破壊すべく、また彼の防衛線を抜け出そうとする狡猾な敵に向けて。しかしそれは、圧倒的な数に対してあまりにも無力だった。

 

 

彼の戦いはなんの記録にも残らなかった。だが、彼の引いた防衛線は、最後までドレッグ一体すら通すこともなく、ついには敵に二度目の撤退を強いた。

彼の戦いの目撃者はいない。彼の最後の戦いを知るものはいない。彼は誰知れず勇敢に、果敢に戦った。それだけが事実だった。

 

 

………………………

 

 

「隣のブロックは立て直しが完了したぜ!待たせたなダン……ナ…?」

 

 

隣のブロックの救援を済ませ、急いで戻ってきたらしいザナリー3がキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「………」

 

 

ケイも少しだけ何かを探すようにしたが、遠くへ退いていく敵を見つけると、得心したように黙りこんだ。

 

 

「アレ?どうして誰もいないんだ…?行く道間違えたか?」

 

 

ザナリー3が歩き回って彼を探す。土嚢の影、岩場の裏、段差の下…

 

 

「………」

 

 

ケイは黙っている。

 

 

「違うよな。来た道そのまま戻ってきたし…うん、俺はあの岩の上から撃ってた。間違えてねえ。ダンナは確かに、ここで増援と一緒に…あ、先に帰っちまったのかな?」

 

 

どうしても目的の人物が発見できないことに、ザナリー3は頭を抱えて考えこんでしまった。

 

 

『ザナリー3』

 

 

そうした矢先、ザナリー3達が来た方角から見慣れたゴーストが現れた。

 

 

「ライフ…ということは、やはり…」

 

 

「ライフ君!いたのか!なあ、ダンナはどこ行ったんだ?」

 

 

ザナリー3が駆け寄る。

 

 

『私はあなたを追っていましたが、どうやらすれ違いになってしまったようですね』

 

 

「俺を?なんで?」

 

 

ゴーストは俯き、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐにザナリー3に向き直った。

 

 

『説明は後にしましょう。彼が作った時間ももうすぐ終わります。やがて敵の第3波が来ます。…今度はあなた達でここを守って下さい』

 

 

ゴーストがザナリー3の正面に回る。彼のシェルが展開を始めると、淡い光がザナリー3を包んだ。

 

 

『唐突ですが、これからは私があなたのゴーストになります。少しじっとしていて下さい…』

 

 

「…オイオイ、なんか言ってる意味が…」

 

 

ザナリー3は状況に理解が追いつかないようで、あたふたしている。

 

 

『ガーディアンは死にました』

 

 

そんな彼に向けて、ゴーストは極めて無感情に、ただ事実を述べた。

 

 

「………はっ?」

 

 

ザナリー3は動きを止めた。

 

 

「………」

 

 

ケイは俯き黙っている。

しばらくの静寂があたりを支配した。

 

 

『ガーディアンは…彼は、ガンドールは死にました。増援は嘘でした。彼はあなた方を見送り、一人でここを守りました』

 

 

「な、えっ?ハハ、何を言ってるんだ?」

 

 

『ザナリー3。全てはこれが終わってから話します。今は戦って下さい。時間がありません』

 

 

「……いや無理だ」

 

 

ザナリー3が一歩後ずさる。

 

 

『ザナリー3』

 

 

「無理だ」

 

 

二歩、三歩後ずさり、ついにはその場にしゃがみこんだ。

 

 

「無理だ!ムリムリムリ!知ってるだろ!?なんで俺がいっつもダンナの背中に隠れて撃ってたか!なんで俺が他のハンターみたいに前でショットガンやナイフを振り回さないのか!」

 

 

『………』

 

 

ゴーストはザナリー3を見つめて動かない。

 

 

「…【臆病者】なんだよ!俺は!ダンナが守ってくれるとこからしか銃を持つこともできない、出来損ないの…」

 

 

『ザナリー3、あなたは…』

 

 

「ダンナが死んだって?もしそれがホントなら、俺はもうダメだ!戦えない!誰が俺を守ってくれる?誰が俺に戦い方を教えてくれるんだ!?」

 

 

「ハ、見てくれよ…脚が震えてる!ホラ!…情けないって笑ってくれよ!臆病者だって!ああ、もうダメだ…これから俺はどうやって戦えばいいんだ…?いや、そもそも戦えるわけない!」

 

 

「戦えないなら、もう前に戻るだけだ…隠れて暮らそう…敵も味方もいない…俺一人に戻って、静かに…」

 

 

頭を抱えうずくまるザナリー3。そこへザリ、という砂利がこすれる音が鳴り、見覚えのあるブーツが視界に入った。見上げると、ケイがザナリー3を覗き込んでいた。

 

 

「それで?」

 

 

「ケイ、止めないでくれよ…俺は今から逃げるからな。ライフ君も、俺なんかより他のもっといいガーディアンを新しく見つける方がいい」

 

 

ケイはため息をつく。やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめてみせた。

 

 

「前は敵の大軍勢、隙間なんてないな。後ろは言わずもがな、敵の占領地だ。まさかそこに、今から独りで隠れる場所を探しに行くなんて言わないよな?」

 

 

「いや、それはそうだけど…でも、じゃあ戦えって言うのか?死ぬかもしれないのに!」

 

 

「いいかザナリー3。私は今から君につらい事を言う」

 

 

「…ゾンビ君は死んだ。だがね」

 

 

「だがそんなもの、今の君には関係ないことなんだ」

 

 

ケイの口から放たれた言葉に、ザナリー3は一瞬たじろいだ。だが次の瞬間には、ケイに掴みかかっていた。

 

 

「…なっ何だよそれ!ケイ!お前は…!」

 

 

興奮するザナリー3を掴み返し、ケイは畳みかける。

 

 

「聞け!今さっき私達は何をしてきた?隣のブロックの増援に入って、戦って、敵を倒した。そうだろう?」

 

 

「そりゃ、ダンナが生きてるって思って!早く助けに戻らないとって!」

 

 

「ゾンビ君はいなかったのにか?」

 

 

「…な」

 

 

「事実だ!…私は客観的事実を述べる。ザナリー3。君はもう、【彼がいなくても、自分の力で戦っている】んだ」

 

 

「へ、ヘリクツだ!そんなの思い込みだ!そんなこと言ったって、現に今、俺は戦えてないじゃないか!」

 

 

「いいや、戦えるとも」

 

 

「…なんっ、なんでそんなにハッキリ言えるんだよ!?」

 

 

中々心の決まらないザナリー3に、ケイは更に言葉を続けようとしたが、敵がもうすぐそこまで迫ってきていることに気がついた。

ケイはザナリー3を掴んでいた手を放し、腰の銃を取り出し構える。

 

 

「…どうやら時間切れだ。ザナリー3。あとは君自身で気がつくしかない…私が死ぬ前に答えを出してくれると助かる」

 

 

そう言い残し、彼女は走り出してしまった。

 

 

「ま、待ってくれ!そんな…俺はまだ何も分かってないんだ!教えてくれよ!オイ!」

 

 

「くそっ…何だってんだ!一人で戦えないから、ずっとダンナの背中に隠れてたんだぞ?…そのダンナがいなくなったのに、今までと同じように戦えるわけないじゃないか…」

 

 

「自分で気がつく?もう戦えてる?…ダメだ、なんにもわかんねえ!」

 

 

再びうずくまろうとした時、背後から衝撃を受け転倒した。驚いて振り向くと、2体のカバルがこちらへ銃を構え前進してきていた。

 

 

「うっ…!カバル!?なんで!?本隊はどうしたんだよ!」

 

 

咄嗟に逃げる。少し離れた岩陰に身を隠した時、胸元で何やら作業をしていたゴーストが浮き上がり、目の前に姿を見せた。

 

 

『はぐれ部隊のようです』

 

 

「ライフ君!なあ今大変なんだ、どうすれば…」

 

 

『ザナリー3。いえ、これからはガーディアンと呼びましょう。今、私とあなたの接続は完了し、あなたは再び光を取り戻しました。ただ、光はまだ【彼】の残滓だけですが…』

 

 

ゴーストは淡々と語りかける。

 

 

「俺が…ガーディアンだって!?」

 

 

『ガーディアン。あなたをガーディアンとするのは、前のガーディアン…ガンドールたっての希望でした。私は彼の意思に従っているだけです』

 

 

「ダンナの…?」

 

 

『ガンドールはあなたへのメッセージは特に残していません。ですが、あなたがガーディアンなら、誰に言われずとも分かっているハズです。あなたが…ガーディアンがすべきことは何か』

 

 

「ガーディアンが…ガーディアンは、トラベラーと市民を守る…?そういうことか…?ダンナならそう言うのか?」

 

 

『彼なら、ではありません、ガーディアン。あなたは、あなたの意志で、ガーディアンとしての責務を全うして下さい』

 

 

「俺、俺の…意志で…」

 

 

「俺が…ガーディアンになって……」

 

 

『………』

 

 

両手を見つめる。握って、開いても、何も変わらない。

【臆病者】。そう蔑まれた、銃もマトモに持てなかった手。

無愛想で、大きな背中に隠れて、やっと役に立てた。

こんな自分でも戦えた。ガーディアンになれた。そう思ったのに。

 

 

その背中は、今はもうない。

 

 

「…やっぱ難しいよライフ君…俺が戦うなんて…怖くて怖くて…ホラ脚が震えてる。いやこれはさっきも言ったかな…」

 

 

『………』

 

 

ゴーストは、じっとこちらを見つめている。

 

 

「うん。慰めてくれって訳じゃない…ライフ君は優しいな。分かってる…ダンナは俺を信じてくれたんだ。俺はもう戦えるって。それも分かってる……でも……」

 

 

震える脚をなんとか動かし、片膝を立てる。腰のハンドキャノンを取り出す。

 

 

「俺は物語の主人公じゃない。いきなりスゲー力に目覚めたり、気の持ちようで全部が上手くいったりしない」

 

 

弾を込める。

 

 

『…ガーディアン』

 

 

「だから」

 

 

「…だから、今だけだ!この1回だけ、今だけ、俺は俺じゃなくなる…おバカで臆病者のザナリー3はどっかにしまう。強いガーディアンのザナリー3が、ダンナの信じたザナリー3が、1回だけ、ここに立つ」

 

 

「やっぱり死ぬのは怖いけど、正直逃げたくてしょうがないけど!今だけ戦う!!それからのことは、それから考える!」

 

 

1、2、3。勢いよく岩陰から身を乗り出し、カバルの頭を狙って、ハンドキャノンの引き金を引いた。

彼の放った2発の銃弾は、見事に2体のカバルの頭を吹き飛ばしてみせた。

 

 

『…ありがとうございます。ザナリー3。あなたは立派なガーディアンです…彼の判断は間違いじゃなかったと思います』

 

 

カバルが動かないことに確認して、ケイが向かった方を振り向く。

ケイはなんとか敵を押しとどめているが、かなり苦戦している様子だった。すぐに助けないと、彼女も新たな犠牲者となってしまうだろう。

 

 

「うん。ありがとう…さ、さあ行くぞ!待ってろ暗黒ども!ダンナの仇討ちだ!ここからは、この俺!ザナリー3が相手をしてやるぜ!!」

 

 



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レベル33.作戦終了

 

 

 

 

『ザヴァラから全ガーディアンへ向けた通信です』

 

 

ゴーストはそう言うと、目の前にアウォークンの男性の顔を投影した。よく見知った顔だ。

 

 

『全ガーディアンへ告ぐ。こちらタイタンバンガードのリーダー、ザヴァラだ』

 

 

『先程、ついに我々はカバル…レッドリージョンのリーダーであるガウルを討ち、シティを、タワーを…そして何よりもトラベラーを取り戻すことに成功した』

 

 

『作戦は成功した。作戦に参加してくれたガーディアン、そして協力者達に心から感謝する。本当に、よくやってくれた』

 

 

『シティからカバルの脅威は去るだろう。我々も多大なる犠牲を払った…我々はこの戦いを忘れない。そして、二度とトラベラーを奪わせないと誓う』

 

 

『以上だ。太陽系に散らばっていたガーディアンのうち動ける者は、是非タワーの再建とシティの復興に協力して欲しい。我々はいつでも人手を歓迎する』

 

 

淡々と同じペースで、元々用意された文章を朗読したようにザヴァラは作戦の成功と終了を告げた。

 

 

『…通信、終了しました』

 

 

「…お、終わった…のか?」

 

 

ザナリー3がへたりこむ。

 

 

「そのようだ」

 

 

ケイも、敵が退いていくのを遠目に、たまらずその場で尻もちをついた。

 

 

「…俺達は勝ったのか?」

 

 

「ああ、そのようだな」

 

 

「…フォールンやハイヴ達が退いていく…」

 

 

「………」

 

 

ザナリー3は作戦の成功に喜ぶ様子もなく、じっと俯いていた。

 

 

「どうした?」

 

 

ケイが話しかけると、ザナリー3はゆっくりと顔を上げた。

 

 

「…なあ、やっぱり、ダンナは死んだんだな」

 

 

「………」

 

 

ケイは黙っている。ザナリー3はそのまま続けた。

 

 

「…俺さ…ダンナと一緒に戦ってるうち、少しずつ分かったことがあって…」

 

 

「俺はダンナと、ケイと一緒に何度も戦ったよな。戦って戦って…でも、いくら敵を倒しても、ただ戦うことに慣れていくだけで、一向に俺の中の恐怖は無くならなかった。ずっと戦いが恐かった…でもそれは俺が臆病者だからじゃなくて、皆そうなんだ。皆恐いけど、それでも戦ってたんだ」

 

 

「たぶん、ダンナだって戦いが好きじゃなかったんだ。強かったけどな。…生きるために必要だから。トラベラーのためだから。ガーディアンだから…義務感で恐怖を抑えて、ずっと戦ってた」

 

 

「ダンナだって戦いは嫌なことで、恐かったんだ…ダンナだけじゃない。ガーディアンはみんな…。それで、その恐怖の誤魔化し方が、みんな違っただけなんだ」

 

 

「…で、それが分かった時、ダンナがあの時嘘ついた理由も、ダンナが一人で戦った理由も……ここで死んだってのが嘘じゃないことも、なんか分かっちまった」

 

 

「ダンナは必要だから、で恐怖を押し殺してた。作戦のため、トラベラーのため…最後は俺達と、これからのために、ダンナは死の恐怖に立ち向かったんだ」

 

 

「ダンナは俺達を守ってくれたんだ。命をかけてまで」

 

 

「それが分かって…うん。もう少しここに居させてくれ」

 

 

夜が明けて、空が白みがかってきた。ザナリー3はそれを見上げて、また動かなくなった。

 

 

「…そうか。分かった…ザヴァラへの報告は、私からしておこう」

 

 

ケイが立ち上がり、ゴーストを呼び出すと、何やら話しながらその場を離れていった。

 

 

「ああ。頼むよ」

 

 

「………」

 

 

つい先ほどまでの喧騒が嘘のように、ここには敵の死体しか残っていない。静寂があたりを支配する。

 

 

「…ああ、みんな優しいなあ…」

 

 

ザナリー3は、あともう少しだけここにいることにした。



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エピローグ

これで最後です。
長い間読んでいただき、本当にありがとうございました。



 

 

『着信あり。ケイからです。出ますか?』

 

 

「そうだなあ…ちょっと忙しいんだよな」

 

 

『そうですか。ところで最近、お留守番ゴーストサービスというのを実装してみました。通話がつながらなくても私があることないこと勝手に答えます』

 

 

「やめてくれ!ちゃんと出るよ!」

 

 

『残念です。では繋ぎます』

 

 

「もう…よう、ケイか?どうだ最近。元気か?」

 

 

『ザナリー、今どこにいる?』

 

 

「俺?ここ一週間はタイタンにいるよ。また新しいのを見つけたんだけど、厄介なところにあってね」

 

 

『そうか…来週には帰ってこい』

 

 

「分かってるよ。ダンナの命日で、作戦成功の記念日だからな。用事が済んだらすぐ戻る。この最大の功労者様がいないと締まらないしな」

 

 

『そうかな。まあ作戦の貢献度は数値化されていないから、未測定という意味では作戦の参加者は全員最大の功労者であるし、そうでも無いとも…』

 

 

「ああ、いや、そういうのは止めてくれ……」

 

 

『そうか?』

 

 

「ああ。できればずっと……おっと、狙ってたのが来た。通信切るぞ。また来週な!」

 

 

 

ザナリー3

 

シティ奪還作戦終了後、新たな相棒を連れて太陽系中を飛び回るようになる。

特に対フォールン、対カバルの作戦に積極的に参加し、高い技術と確かな自信でもっていくつもの敵部隊を壊滅に追い込む活躍を見せた。

また、彼は戦死したガーディアン達の遺物の収集にも熱心に取り組み、ファイアチームの仲間や関係者に遺物を届けては、戦死者の武勇伝を聞き、記録に残していった。

彼が何を思ってそうしていたかは、結局彼の口から語られることはなかった。

 

 

ライフ

主人が変わってからも優秀に働き続け、ザナリー3をよく助けた。また、彼の口数も特に変わらず、軽快に冗談を述べる姿がよく見られた。

ただ時折、じっと地球を眺めている時だけは、彼は何も語ることはなかった。

 

 

 

「ふう…」

 

 

「ケイ、彼から送られてきたこのデータなんだけど…」

 

 

「ええ。分かってる。すぐに目を通すよ」

 

 

「ケイ!やっと見つけた。この前の論文読んだんだけど、これから話す時間ある?」

 

 

「すまない、今は時間が取れなくて。またメールで送ってくれないか?一週間以内には返信するから」

 

 

「ケイ、イコラが呼んでるよ」

 

 

「ああ。…はあ。たまに戻ってくるといつもこうだ。……ゴースト。私が一年前に戻りたいと、少しだけ思うのはおかしいかな」

 

 

『あなたの選んだ道です』

 

 

「ああ、そうだな…よし。こんなことではゾンビ君に合わせる顔がないぞ。もうひと踏ん張りしよう」

 

 

『カンフル剤は必要ですか?念のためいくつかバリエーションを増やしておきました』

 

 

「飲んだことないだろう。要らないよ。君もよく冗談を言うようになった」

 

 

 

ケイ・サカモト

シティ奪還作戦終了後、イコラ・レイの勧誘を受けて研究者としての道を選ぶ。各地に散らばるゴーストの破片を集めては、ゴーストの…しいてはトラベラーの解析に尽力した。

彼女自身は特別に大きな功績は上げなかったが、彼女の研究者としてのあり方に影響を受けたウォーロックは多い。

また、彼女の傍らには、常に感情豊かに話すゴーストがいたとされている。

 

 

 

 

『…先の戦いで、我々は多くの仲間を失った…』

 

 

「なあケイ」

 

 

『…我々は勝利した。だがこれで終わりではない…』

 

 

「なんだ」

 

 

『…新たな脅威が迫りつつある…死んでいった英雄の魂とともに、我々は立ち向かわなければならない…』

 

 

「俺はただの墓参りだと思って来たんだが、ザヴァラのつまんない演説を最前列で聞くハメになってる。こりゃ何の冗談だ?」

 

 

『…強い意志と、弛まぬ訓練。そして何より揺るぎない光があれば、我々が負けることは決してない…』

 

 

「私だけが招待されては、君が可哀想だと思ってね。特別に席を用意してもらった」

 

 

『…ここに集ってくれたガーディアン達よ。1年前の今日、強大な敵を打ち負かしてみせた戦士たちよ…』

 

 

「一人だけ罰ゲーム受けるのがイヤで巻き込んだな!?」

 

 

『…ゴホンッ』

 

 

「コラ、大きな声を出すな。聞こえてるぞ」

 

 

『…戦局は刻一刻と変化している。これからも、多くの困難が待ち受けているだろう…』

 

 

「すまん…ってごまかされないぞ。…だから後で何か面白い物買ってくれ」

 

 

『…だが新たな協力者も得た。我々とて、昨日までとは違う。常に進化し、状況に対応する力がある…』

 

 

「…いいだろう。ゾンビ君の墓前に供える物も買わないとな」

 

 

『………以上だ。清聴に感謝する』

 

 

「よっし。交渉成立だ。でも今日はずいぶん太っ腹だな?」

 

 

「ああ。何せ…」

 

 

『では次に、ウォーロックバンガードからイコラ・レイにマイクを渡したいと思う』

 

 

「まだまだ演説は続くからな」

 

 

「……ウッソだろ……」

 

 

 

 

ゾンビ(暴風のガンドール)

シティ奪還作戦にて戦死したとされる。

激戦地であったためか死体が見つからなかったこともあり、今は共同墓地にその名前が刻まれているのみである。

彼は英雄ではなかった。彼自身が、それを望まなかった。だが、彼の死を偲ぶガーディアンがいる。それが何よりの手向けだろうか。

 

 

 

 

「次!タイタン部隊30m前進!ネズミ一匹後ろに通すな!ハンターはグレネード投擲!今度は仲間に当てるなよ!」

 

 

「くっ!やあああ!!」

 

 

「やあ、精が出ますねえ」

 

 

「アンタ誰だ!?今忙しいんだけど!というかなんでウォーロックがこんな所にいる!?」

 

 

「ゲイル。覚えてますか?」

 

 

「知らない!あっち行ってくれ!」

 

 

「う〜ん。あなたが仲間殺しをした日、一緒にいたウォーロックですよ」

 

 

「……!な」

 

 

「何の用、と言えば、答えは、そう…バンガードからのご通知がありまして。自分はそのメッセンジャーですね」

 

 

「あなたはしばらくの謹慎処分の後、監視の下でつらい前線部隊に配備され、とてもがんばりました。おめでとう。バンガードは君を許します。まあ彼もアレで死にはしなかったしね、とのこと」

 

 

「………今言うことか!!?」

 

 

「嬉しいでしょ?」

 

 

「だが、私の罪は消えない!彼が死ななかったとか関係ない!仲間を撃った!だから罰を受ける!私が納得するまで!それだけだ!」

 

 

「そういうと思ったんですよね。ま、伝えることは伝えましたので。私も部隊に戻ります」

 

 

「…えっ、アイツも前線部隊なの!?」

 

 

 

バーツ

衛星タイタンにてガンドールに対し発砲したことで、バンガードから拘束、処分を受ける。

長期間にわたり模範的にガーディアンとして活動し、処分の緩和や解除を受けても前線にこだわり続けた。

彼女が何を思ってそうしたのかは、誰にも分からない。

 

 

ゲイル

衛星タイタンにてバーツの凶行の際、たまたまチームメイトだっただけの男。今もどこかで戦っているかもしれないし、何もしていないかもしれない。



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