「どーよ、でく! 俺がいっちゃんつえーんだ!」
「すごいなぁ、かっちゃん! 僕もはやく個性出ないかなぁ!」
幼い頃、緑谷出久は爆豪勝己に憬れた。
強い個性を持つ彼を僕は羨望の眼差しで見ていた。
個性とは何か。
そんなことを考えていた時期がある。
超常が日常となった近年の超人社会においては、個性という言葉はその人の持つ超能力を意味する。
逆にその能力の無い者は無個性と呼ばれ、僕のように蔑まれているのが今のこの社会だ。
この特異な能力があるために、
故に、
4歳児でも分かる簡単なことだ。個性を持て余すこともないのだから、ヴィランにもなれないだろう。
………そう、誰もが知っている公然の事実で、常識。
でも僕はヒーローになりたくて、なりたくて、なりたくて………。諦められず、母を困らせたこともあった。母は泣いていた。………あの日、あの時のことは今でも覚えている。
でも、僕は中学2年の時個性が発現して、世間一般でいう無個性ではなくなったのだ。自分の部屋でヒーローになれると、喜び、はしゃいだ。―――でも誰にも言わないでいるのだ。理性がその個性を周知させるのは危険だと警告を発している。
………母さんにもまだ黙っているけど、いずれは言わなきゃならない。僕はもう無個性じゃないって安心させたい。僕はヒーローになれるんだって。お母さんは何も悪くないんだって。
―――僕の名付けたその個性の名は『学習』。
学習すれば個性という能力を使えるようになる個性。
直接目で見た他人の個性を観察し、考察し、自分のものにする。
この時代、生まれこそが全て。誰もが平等じゃないこの世界の常識を覆すような個性。人生の在り方を決めてしまうほどの、個性という単一の能力を身体能力の一部にまで貶める個性。
「そんな個性、個性って呼んで良いのか………?」
中学3年にあがる春休み、その明朝。海浜公園のゴミ山の中で呟く。
………あるいは、今まで発現しなかった遅咲きの個性への当てつけとして、
―――僕はこの個性を『無個性』と呼んでいる。
□-□-□
僕はもう無個性のデクじゃない。でもそれは僕の中だけの話で。
相変わらずかっちゃんに虐められていた。
「かっちゃんの奴め、自殺教唆だぞ………」
餌じゃないぞ、と焦げたノートに群がる鯉に八つ当たりをしながらぼやく。
………仕方が無いこと。わかってる。僕の個性のことは誰にも言っていない。雄英に通えるようになったその時、みんなに打ち明けようと思う。
そもそも生半に鍛えているだけの現状じゃ、個性を使わず入学試験に合格するのは無理だろうから。
多分かっちゃんのことだ。『今まで俺のこと騙してやがったのかッ! ああ?!』って無茶苦茶怒りそうだ。
ついてないなぁ、と宙を眺めてぼやいた。
13冊目の『将来のためのヒーロー分析ノート』は僕の個性を補強してくれる。「考察」には時間を要するけど、ノートへまとめ終わる頃にはわずかだけど使えるようになっている。
今朝の事件で活躍した『Mt.レディ』の巨大化も今夜にはある程度使えるだろう。多分素っ裸になるから使わないけど。
汗を拭うためのタオルをびしょ濡れノートに巻き付けて鞄に突っ込み、僕は学校の敷地を出る。
見慣れた道を行く。
かっちゃんの鼻を明かせるようなヒーローに、憧れの
そんな時だった。
「………Mサイズの隠れミノ」
「!?」
ついてない。僕はヘドロ状のヴィランに襲われる最中、つくづくと今日の運の悪さを恨んだ。
―――藻掻く振りをしながら、冷え切った頭の中でどう対処するか考える。こんなところで知られてもいけない。ましてやヴィラン相手に、素顔を見られた状態で使い慣れた『個性』を使えば僕の素性がバレてしまう。
窒息しかけ。意識がおちそうになりながら、無個性の中学生を演じるのは楽じゃないや、と―――諦めかけたその時。
顔にへばりついていたヘドロが引き剥がされた。
風圧。否、暴風。
「もう、大丈夫だ少年!!」
聞きなれた声。何度も繰り返し見た、あの動画。
昔起きた大災害直後の………一人のヒーローのデビュー動画。
―――『見えるか!!?』
―――『もう100人は救い出してる!! やべえって!!』
―――『まだ10分も経ってねーって!! やべえって!!』
―――『もう大丈夫! 何故って!?』
「私が来た!!」
画面の向こう側だった存在。No.1ヒーロー『オールマイト』に僕は助けられた。
それが、僕の意識を失う最後の記憶だ。
□-□-□
―――ヘイ! ヘイ!!
頬を叩かれる。呼びかけられる声に、目を開けた。
「へッ………あ、よかった―――!!」
「お、おおお、オールマイトォォォォオオォォあああ!?!?」
「いやー元気そうで何よりだ!」
他でもないオールマイトに起こされた、と僕の心臓はバクバクと早鐘を打つ。
本物だ。間違いない。―――画風が、全然違う!!
「いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」
「しかし、君のおかげさありがとう!! 無事、詰められた!!」
矢継ぎ早に言うオールマイト。手にはペットボトルに詰められたヴィラン。
生で見れたことに過呼吸気味になりながらもサインを貰おうとした。
「してあるー!!」
流石、No.1ヒーロー。ファンサービスに抜かりない。
「わああ、ありっありがとうございます!! 家宝に! 家の宝に!!」
「じゃあ、私はコイツを警察に届けるので! また、液晶越しに会おう!!」
「え! そんな、もう………? まだ」
まだ聞きたいことが、ある。
そんな思いで、跳び立とうと力を溜めているオールマイトの足に、僕はしがみついた。
マンションの屋上に下ろされて、ようやっとまともに吸える空気を荒い呼吸で味わった。
一分にも満たない飛行。否、跳躍。風圧で、死ぬ思いになりながらも手を離さなかった僕を誰か褒めてほしい。
マジか、オールマイト。No.1ヒーローの所以の、その一端を体感した僕の頭の中はそんな感想で埋め尽くされている。
「全く! 階下の方に話せば下ろしてもらえるだろう! 私は、マジで、時間がないので本当にこれで!!」
言わなきゃ。聞かなきゃ。
「待って!」
「NO!! 待たない」
―――個性がなくても、ヒーローはできますか!?
「個性のない人間でも、あなたみたいになれますか?」
足を止めたオールマイトに、畳みかけるように言う。
………これは、けじめだ。嘗ての僕でも、それが可能だったのか。
時間のないNo.1ヒーローに聞くような話ではないかもしれない。でも、彼の言葉だからこそ、僕は決心できる。
皆に自分の隠している秘密を話してもいいのか、どうか。
「個性がないせいで、そのせいだけじゃないかもしれないけど、ずっと馬鹿にされてきて―――」
だからこそ、年々その思いは強くなった。
「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる! あなたみたいな最高なヒーローに………」
なれたかどうか。と。聞こうとして。
煙。
オールマイトのいた場所を取り巻く煙幕に、そして、中から現れた人物に、僕は言葉を失った。
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2話
「そういや、お前知ってるー? 最近噂のヴィジランテのこと」
「ああ?? んなもんキョーミねぇよ、ヴィランとなんら変わりねー奴らの事なんざ」
所詮はヒーローの出来損ない。ヒーロー資格も取れない奴らがやってることなんて気にするまでもない。爆豪勝己には今、無名の公立中学校から、唯一の雄英入学者という箔付けしか頭にない。
「いやーそれがさ。そのヴィジランテ、バクゴーみたいに手から爆発起こしてるんだってよ。それで夜な夜な空を飛び回ってるとか」
ちらりとむかつく顔が脳裡を過ぎったが、気になることが聞こえた。
「………詳しく聞かせろや」
自分じゃないのは確かだが、自分と同じ個性を使う奴がヴィジランテなんてやってれば、自分に疑いが掛かりかねない。噂でも受験に響きかねないと爆豪は危ぶむ。
「んな凄むなよ………。なんでも、夜中パトロールしてるらしいぜ。ヴィランを追っかけて、気絶させては夜巡回してる警察やヒーローに見つかるよう仕向けて、一切姿を見せない。おれら、てっきりお前がやってんのかと思ったけど」
「ま、んな器用なこと勝己できるわけねーよなー」
「まあバレたら雄英行けなくなるようなことしないよな」
「みみっちいし」
「ああ!? だぁれがみみっちいだ!! やろうとすりゃ出来るわ!!」
好き放題言うこいつらをどうしてくれようか、と一気飲みして空になった缶を爆破する。
むしゃくしゃしてやった。
やめろよ、こえーよ。そういった二人は手に持った箱から一本ずつ口にくわえる。
そんな二人の様子に目ざとく振り向き、手からは煙を燻らせる。
「つーか煙草やめろっつったろ!! バレたら俺の内申にまで火の粉かかんだろーが!!」
「ココアシガレットだっての!!」
「ほらみみっちい………」
「んなっ!!」
ん、と向けられた箱から棒状ラムネ3本程ひったくり、一気に噛み砕く。辛いものが好きな爆豪のお気には召さなかったようだ。
勿体ねーな、と思うが掌の爆破が向けられないだけましだ。それなりに付き合いの長いみみっちい級友に二人はあきれる。人からとったものだからと、吐き捨てないあたりがなんだかんだと爆豪の憎めないところだった。
「んにしても、おまえさァ幼馴染なんじゃねーの?」
「流石に今日のはやりすぎ」
「ああ? 俺の道にいたのが悪い」
ムカつく顔を思い出して、苛立ち紛れに落ちていたペットボトルを爆豪は蹴る。
所詮、あいつは捨てられたペットボトル。いや、リサイクルもできやしない、道端の石ころだ。
それが、自分と同じく雄英を目指すだなんて。夢見るのも大概にしろ。
「ガキのまま夢見心地のバカはよぉ、見てて腹が立つ」
そんな爆豪の様子を見かねた二人。
「もう一本いっとけって」
「楽になるぞ」
なお、ココアシガレットである。
カリカリとした様子に目を見合わせて。糖分たりてねえんだな、ともう一度向けた箱を今度はひったくられた。
「ちっ―――」
「「あ―――!?」」
がり、ばり、ぼり。一気に口へ放り込む。30円のものだ。高い、とはいえない駄菓子に過ぎない。
文句なんざ受け付けないと、これ見よがしに残り全部を食べきった爆豪に、二人は―――
「お、おい………」
「うし、ろ………」
―――二人は爆豪の後ろに見たそれに声を上げる。
「? あ―――」
「―――良い個性の―――隠れミノ―――!」
爆豪は背後のそれに襲われるまで気づけなかった。
□-□-□
ひょろりとした男性。着ている服こそ同じものの。しかし誰もが知るオールマイトとは似ても似つかない。………だが彼こそがオールマイトなのだ。
これが本当の姿なのだと。そう本人の口から聞かされた。
「一日約三時間。それが、今の私がヒーローとして活動できる限界だ」
嘘だ。そう思った。でも、見せられた傷が。オールマイトに刻まれた、見ただけでも痛ましいその手術のあとが、僕に現実を見せる。
「人々を笑顔で救い出す、平和の象徴は―――決して悪に屈してはいけない」
満身創痍。そういっても過言ではない。オールマイトが、『平和の象徴』が背負うものの大きさに、僕は打ちのめされる。
「プロはいつだって命懸け。
No.1ヒーローでさえ、命に関わる傷を負う。もしかすると、オールマイトがその傷を負ったとき、彼はNo.1ヒーローでなくなっていたかもしれない。あるいは………死んでいたかもしれない。
誰もが目を逸らし、有り得ないと信じていることが、有り得たかもしれない。ファンの一人として、あまりにも受け入れ難い事実だった。
警察にでもなったらいいんじゃないかな、なんて無個性だった僕にオールマイトはアドバイスをくれる。
「夢を見ることが悪いとは言わない。だが、相応に現実も見ないとな、少年」
その通りだ。だけど、僕は―――!
「あの!」
「………なんだい、まだ何か聞きたいことでも?」
僕はもう無個性じゃない。個性を手に入れた。僕の個性でいつかどんな傷でも治せるような、
「も、もし。その傷「ああ、だから。これについてあまり触れないでくれよ。あまり人に話すようなことじゃないんだ。じゃあね」
決心して言いかけた言葉はオールマイトによって気だるげに遮られた。
………オールマイトが去った後、帰り道を辿ろうとする。
しかし、この屋上から見える炎。粉塵。そして時折聞こえる爆発音に意識を持っていかれる。オールマイトと跳んできた方向だ。
嫌な予感がした僕は、急いでビルの屋上から
大丈夫。コツはもう掴んでる。大切なのは、イメージ。何回も練習もした。この個性で空は飛べる!
掌の皮膚を厚く変成してニトロのような物質を垂れ流し、着火。かっちゃんの『爆破』の個性で、落ちる身体は重力に逆らう。
近づくにつれて聞こえてきたのは、聞きなれた爆音。………みみっちいかっちゃんが、犯罪なんてするわけがない。やるんなら絶対バレないようにやる。確信に近い予感をもって、ヴィランの暴れている現場へ行く。
………爆発を操る個性持ちのヴィランなら、早々に取り押さえられても、おかしくない。こんな火災になることもなかったろう。だが、それがされていないのは、ヴィランでない、誰かが爆発を起こしているからではないか。
出来ることなら、外れていてほしかった予感。果たして、その予感は―――正しかった。
幼馴染みも着ている筈の学ランが、オールマイトが捕らえたはずのヘドロヴィランの端から見える。ヴィランに覆われているその両手からは爆発が迸り、商店街の一角が炎上していた。
人気のない路地に降りて、群衆に紛れる。
全部僕のせいだ。
オールマイトを引き留めようとさえしなければ、彼が―――かっちゃんが襲われることは無かった!
この場にヒーローは沢山いる。………オールマイトもやってきた。責任を感じて来たのだろう。みせて貰った傷跡を服の上から押さえて苦しそうにしている。
「私二車線以上じゃなきゃムリ~~~!!」
「爆炎系は我の苦手とするところ………! 今回は他に譲ってやろう!」
「そりゃサンキューッ! 消火で手いっぱいだよっ!! 状況どーなってんの!?」
「ベトベトで掴めねーし! 良い個性の人質が抵抗してやがる! おかげで地雷原だ、三重で手ェ出し辛え状況!!」
「ダメだ、これ以上解決できんのは今この場に居ねぇぞ! 誰か有利な奴が来るのを待つしかねぇ!」
そう言ってヒーローたちは被害を抑えることに注力している。相性の良い
ああ、この状況を解決できるこの場にいるヒーローはオールマイトくらいだろう。………そのオールマイトは今、動けない。
どうしたら良い。………でも、僕がなにか出来るか? プロヒーローですら何も出来ないでいるというのに? 無個性を装って? こんな大衆の目がある中で?
無理―――
否。
息継ぎのできないかっちゃんの顔。それが見えて。
―――気が付いた時僕の身体は大衆の中から飛び出していた。
個性紹介
『爆破』
おなじみ、皆大好きツンギレかっちゃんの個性!
手からニトログリセリンのような汗を出して爆発させることが出来るぞ!
どんなことが出来るかは原作コミックスを見よう!(ステマ)
空を飛ぶのにデクは約半年かかった。かっちゃんは始めての一回で出来た。何回か死にかけた。
女の子になったり、見下してる幼馴染みが美少女になったりとこの界隈では大変な目に遭う模様。強く生きろ。
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3話
まだ個性の発動条件的なのももう少し先のお話で。
「うわあああああああ!?!?」
「あ、おい! とまれぇええええええ!!」
叫ばずにはいられなかった。自分を奮い立たせるために。僕は制止の声を振り切り、かっちゃんとヘドロヴィランの元へ行く。
―――助けなきゃと思った。かっちゃんのあの目を見て。苦痛に歪む顔を見て。
ヘドロヴィランの個性で本当に人を乗っ取れるのか、どうかなんて知ったこっちゃない。でも、囚われた経験のある僕から言わせてもらえば、あの
「誰かその子供止めろおおおおお!!」
かっちゃんの個性でどれだけ火力を出せるのか、僕はまだその限界を知らない。これだけのことができるんだと今日知った。昔から思ってた。僕の幼馴染は才能マンだと。―――でも助けられたがってる。
こんな時に、こんなことを考えているなんて僕は馬鹿だ。………個性を使うべきかどうか。そういったことを考えるべきだと自分でも思う。
でも、そんな自分本位な事、かっちゃんの顔が見えたとき綺麗さっぱり頭から抜けてて。
―――奇襲! 晒す個性は最小限に! シンリンカムイの如く!
背負っていた鞄を投げつける。
「ぬ゛っ」
投げた鞄は中に入ってたノートや教科書をまき散らしながら、ヴィランの目玉に当たる。
目くらましは成功!
「かっちゃん!!」
「なんで、てめェが!」
「足が勝手に!! なんでって、それはわかんないけど!」
色々理屈は付けられると思う。ただ、あの一瞬はなにもかも忘れて。
「君が救けを求める顔をしてた!!」
精一杯、僕は笑って見せる。正直ビビってる。でも、この場で一番つらいのはかっちゃんだろうから。僕も君も憬れた彼のように笑ってみせる。
「や………め、ろ!」
かっちゃん、それ無理。このヴィランは言っていた。45秒あれば意識を飛ばせると。………幾らタフネスだといってもかっちゃんにも限界がある。
―――今日、直接会えたのは幸運だった。
一瞬でもいい。少しだけでもいい。あの力を、僕に貸してください!
個性が発動する感覚。大丈夫だ。使える!
僕は握りしめた拳を、振りかぶり一気に―――振り下ろした。
「このガキ、何しに来たんだ?」
(なにしてえんだ、クソが………!!)
僕の使った個性は―――オールマイトの
………あれ!? なんでだ!?
考察が足りなかったのかそれとも増強系じゃなかったのかじゃあ個性抜きであのパワーなのかいやでもそんなことありえるのかそうなると無個性と変わらないというのか流石オールマイト格が違ったって思考停止だ考えろオールマイトの力は個性によるものじゃないって考えは捨てろ個性が直接あのパワーに関与してないと言う可能性ならどうd―――「もう少しなんだから邪魔するなあ!!」
思考の最中、ヘドロヴィランの手が目前に迫り考察は強制的に止められる。
「自殺志願かよ、無駄死にだ!」
加速される思考。ゆっくりと動く世界。ここ最近の経験則からして走馬燈っていうらしい。現状を打開できる最適解の個性を脳内で捜索し、母さんの個性を使えばよかったと思い至るころには頬に散ってきた生ぬるいヘドロの感触。
例えるなら高さ5メートルの飛び込み台からプールに大の字で飛び込むような―――そんな衝撃を覚悟した。
□-□-□
結果、僕は生きていた。
咄嗟に『ゴム』の個性を使って衝撃を和らげようとしたものの必要なかった。
No.1ヒーローが無理を押して助けてくれたのだ。
振り下ろされた拳は僕と違って天候を変えるほどの圧を伴い、ヘドロヴィランは飛散して、僕とかっちゃんは助けられた。
降り出した雨によって火の勢いは落ち着き、騒動で昂っていた身体をも冷やされて、ギャラリーは自然と解散して。
かっちゃんは事態が収拾した後スカウトを受けていた。納得いかない顔してたけど、満更ではなかったようだ。
僕はというと………ヒーローたちに物凄く怒られた。無茶するな。
オールマイトにお礼を言わなきゃと思ったけども、マスコミに囲まれてて断念した。
そんなことがあって。あのままあの場所に居ても晒し者でしかない。
「デクっ!!」
「………かっちゃん」
落ち込みながら帰ろうとしていたところへかっちゃんが追いかけてきた。
「俺は………てめェに救けを求めてなんかねえぞ!! 助けられてもねえ!! あ? なぁ!? 一人でやれたんだ、無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ………恩売ろうってか? 見下すなよ! 俺を!!」
クソナードが! と吐き捨ててかっちゃんは反転。来た方向へと去って行った。
その後姿を見てタフネスだなぁと思うのと。かっちゃんの言う通り、自分が何かできたかといえば、何もできなくて。
何もできなかったから、オールマイトに無理をさせてしまった。
もっと個性を使いこなせるようにならないと。もっともっと頑張らないと。
僕は誰よりもスタートが遅れて―――
「私が来た!!」
「わ!?」
路地から急に現れたオールマイトに目を剥く。
「オールマイト!? なんでここに………さっきまで取材陣に囲まれて………」
「抜けるくらい、わけないさ! 何故なら私はオールマ―――ゲッボォ!!」
「わ―――!?」
喀血と同時にオールマイトは痩せぎすの姿、トゥルーフォームに変わってしまう。
実際にしっかりと目の当たりにしてしまうと、本人なんだと実感してしまう。慣れないけど。
「少年。礼と訂正………そして提案をしに来たんだ」
「へ?」
はて、なんの話だろうと内心首を傾げる。
「君が居なければ………君の身の上を聞いてなければ、口先だけのニセ筋となるところだった!! ありがとう!!」
ニセ筋って。
テレビでよく見るオールマイト………マッスルフォームはプールとかで常に力んでる人みたいなものって言ってたけど。別人って言われたら信じるくらいに違うその姿は、いっそ変身と言ってもいいくらいで。
ニセ筋とは言い得て妙だ、なんてつい思ってしまった。
「そんな、お礼なんて! ………そもそも僕が悪いんです。仕事の邪魔して。何もできなかったくせに、生意気なこと言って」
「そうさ!! あの場の誰でもない、小心者で無個性の君だったから! 私は動かされた!!」
心臓が早鐘を打った。
「トップヒーローは学生時から逸話を残している………彼らの多くが話をこう結ぶ!『考えるより体が先に動いていた』と!!」
胸に去来するもので僕はいっぱいいっぱいで。
長く個性が無かった。無個性だからと蔑まれ。無個性だからと、誰もが夢見るものに憧れることさえ許されなくて。
『ごめんねえ出久、ごめんねえ………!!』
―――母さえ、諦めてしまって。
「君も、そうだったんだろう!?」
「………ッ!!」
違うんだ。母さん。あの時言って欲しかった言葉は―――。
こんな強個性が発現しても、誰にも言えず。言ってもらうことなんて無かった。
「―――君はヒーローになれる」
誰かに認めて貰いたかった。
他の誰でも無い、No.1ヒーローにそう言われ。
ろくに個性も使えない、僕が。ヒーローになれると。なっても良いんだと。
「―――っあぁ………ッ!!」
声を殺した慟哭。僕は情けないくらい泣いて、喜んだ。
この日、夢は目標に。
言い忘れてたけど―――これは僕が最高のヒーローになる物語。
感想そして評価ありがとうございます。
まだ2話しかなかったのに10点を二つもいただけて感謝感激です!
感想は読んでますよーってアクションだけでも返したいので少し素っ気ないかもしれませんが、ご容赦いただければ。ユーモアがあればなあ。アイニードユーモア。
やっとコミック一話分ですが、毎週木曜日までには更新しますのでどうぞよろしくお願いします!ああああ!!
個性紹介
『ゴム』
全身ゴムの個性! 使用者は一介のヒーロー! 緑谷少年が目をつけてるヒーローの一人だ! 攻撃、防御、拘束と汎用性が高いぞ!
出来ることは大体皆さんが想像してるそれ。デメリット無いので強い。
尚デクは使い熟せてないので実際弱い。今後割と出るかもしれない。
『
拳一つで天候が変わっちゃう!
でも単純な超パワー個性じゃない。デクが唯一覚えてその一端すら出せなかった個性。
聖火の如く引き継がれてきた力は、認められてこそ、授けられてこそ。覚えたものとはその本質から違う。
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4話
―――君はヒーローになれる。
初めてそう言ってくれたのはNo.1ヒーロー。オールマイトだった。
登場以来、犯罪の発生率は年々減っていき、一気にNo.1の座に躍り出たトップヒーロー。
名実ともに平和の象徴である男が、『ヒーローになれる』と言ってくれたのだ。
ヒーローになれないと自分の夢を否定してきた人たちの声と顔を思い出しては、消えていく。
憧れのヒーローが言ってくれたのだ。―――これ以上の激励があるか!
「オーr「君なら私の力、受け継ぐに値する!!」―――………へ?」
………なんて言った?
「なんて顔しているんだ!? 『提案』だよ! 本番は此処からさ!」
いいかい少年! そう言ってすこしオールマイトは勿体つけて言う。少しテンションが高い。
「私の力を! 君が受け取ってみないか!?(喀血)」
―――。………チカラヲ?
少しばかり思考が停止する。何を言っているんだ、オールマイトは。あと血が凄い。
「私の、個性の話だ少年―――」
週刊誌などで幾度も『怪力』だ。『ブースト』だ、と囁かれてきた。決まってインタビューでは常に爆笑ジョークで茶を濁し、オールマイトは自分の個性の話を煙に巻いてきた。
今日、実際に会えて、自分が使おうとして分かったことでもある。単なる増強系の個性じゃないと。
「平和の象徴は、オールマイトはナチュラルボーンヒーローでなければならないからね」
オールマイトの力が誰かからの借りものだとしたら、それは確かに問題というか。なんというか。ファンとしてもちょっと嫌かもしれない。
風で靡く、しなびたトレードマークの髪が鬱陶しいのか、掻き上げるオールマイト。
「―――私の個性は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ」
「引き継がれてきた………もの!?」
「………そう、そして次は君の番だということさ」
「ちょっ! ちょっ待っ………待ってください!?」
オールマイトの個性は確かに世界七不思議の一つとして喧々囂々と議論されてきた。ネットじゃ見かけない日はないくらいにでも、個性を引き継ぐってそれはちょっと意味がわからないというかそんな話今まで聞いた事も無いし議論の中でも推測されていないわけでソレは何故ってつまり有史以来そんな個性は確認されてないからっていうかそもそもアレです生まれつきの固有の身体的特徴であって自己を確立する要素だからこその
「お、おう………い、一応信じて貰えたかな………?」
たじたじとするオールマイトに、考えが口から洩れていたことを悟った。
「私は、隠し事は多いが嘘はつかん。
『ワン・フォー・オール』
「ワン・フォー………オール」
一人はみんなの為に。
あまり聞かなくなった、チームワークが大切だというスローガンの一部。確か元は外国の小説だった気がする。
「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い、次へ。そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた―――力の結晶!!」
「そんな大層なもの何で………なんで僕に、そこまで―――」
「無個性で只のヒーロー好きな君はあの場で誰よりもヒーローだった! ………元々後継は探していたのだ。そして君になら渡して良いと思ったのさ!! ………まあ、しかし君次第だけどさ! どうする?」
また出そうになった涙を拭う。
―――ここまで言ってもらえて。僕なんかに大事な秘密まで晒してくれて。………あるか? 断る理由なんて………。
ある。
とびきりの理由が。
僕の、個性の話だ。
□-□-□
きっと、即答して受けてくれるだろう。
オールマイトはそう思っていた。
「………すみません、オールマイト。その個性は。無個性でないと引き継げなかったり、しますか?」
まだ名前を知らない少年の口からでたのは快諾の言葉ではなく。話の真意を問うような質問だった。
「いや、そんなことはないが………もしかして嫌だったかな」
「いや! そんなことはないんです! 僕が選ばれたっていうのは光栄なことですし、僕なんかが断ってもいいのかってぐらいで!! むしろこっちからお願いしたいくらいで………!」
「じゃあ何故少年はそんなことを?」
「それは………」
膝をついている少年は自分の両手を見た。自然とオールマイトもその手に視線を寄せられた。
「おいおい噓だろ………!!」
片手からは爆発が。片手はヘドロに変わり形が保てなくなる。
先程のタフネスな少年とヴィランを彷彿とさせる力に思わず口を押さえる。
「………勘違いさせてしまうようなことを言いました。いや、まるっきり勘違いってわけじゃないんですけど!! ………半年前ようやっと僕にも個性が発現したんです。それまではずっと無個性で。ずっと馬鹿にされ続けてて………」
それはわかる。自身も経験があったからだ。今ほどではないにしても、無個性であるというだけでその夢を語ることも、見ることも許されない世界をオールマイトは知っている。
「やっと、個性が発現したって思ったらこんな強個性で。今まで誰にも言えなかった。………オールマイト。あなたの話を信じられたのはこれが理由なんです。………名付けた個性の名は『学習』。直接見て、考察さえすれば、大体の個性が使えるようになってしまう。個性を、本来の意味で『無個性』にしてしまう個性」
―――だから僕は『無個性』って呼んでます。
そう自虐的に笑う少年に何と反応したら良いのか。まるで
オールマイトは無意識のうちに傷跡を押さえていた。
「君は、その
「い、いえ。………えっと、部屋でそのヒーローの真似事をしていたら、その。………使えちゃって」
恥ずかしがるのは、成る程とオールマイトは思った。自身も経験があったからだ。人はそれを中二病と呼ぶ。
「………」
でも有り得るだろうか、そんなことが。中学2年生の年齢と言えば14才。個性が発現するのには遅すぎる年齢だ。それこそ何者かの関与を疑わないことには。記憶を改竄する
「オールマイト?」
「………すまない、考え事をしていた」
いや、そう、あり得ない。こんなにも臆病で、あんなにもヒーローだった少年がヤツの関係者だとは到底思えない。
オールマイトが考え事をしている間に、少年はヘドロ状になった手を元に戻していた。
「オーケー。………それで、話しておきたい事はそれだけかい?」
そうだ。信じよう。単なる偶然だと。何せ個性とは突然変異。与える個性や奪う個性もあるんだ。何があってもおかしくないのだから。オールマイトは、自分を安心させるように言い聞かせる。
それに半年とはいえ、今までの反動からヴィランになってもおかしくなかったのだ。よく
「あ、はい………―――いやもう一つだけ」
「おいおい、まだあるのかい!」
「………う、いや。でも言って良いかなぁ―――」
言い淀む少年に、なんだ、何があるんだと身構えてしまう。この少年に継いで貰おうと決心したものが、揺らいでしまいそうだ。
―――こんな強個性持ってるんだから、要らないんじゃないかと。
いや、まて。オールマイトは自制する。隠していることは自分にもまだまだあるのだ。少年の隠し事の一つや二つぐらい受け入れられなくてどうする。
「最近この近所で噂のヴィジランテはご存じですか」
「………おいおいマジか」
その言葉だけで何となく話したいことを悟ってしまったオールマイトは、詳しい話を聞いてなんてことしてんだ少年!! と叫ばずにはいられなかった。
少し時間を置こう、と。オールマイトは2日後また直接会う約束をして少年と別れた。その間に少年―――緑谷出久の身辺調査を友達の警察官に頼み。このあたりで噂になってるというヴィジランテの事を聞き。
友達の警察官は何となく事情を察しながらも少年の関係者を1日で調べ上げた。
結果、緑谷少年は白。父親が単身赴任で海外に、実質母親に女手一つで真っ当に育てられたと。そして到底褒められる事じゃないが、件のヴィジランテの活躍は目覚ましいものだった。これは継がせなければと、オールマイトは使命感が湧く。
翌日、緑谷少年の素行調査が終わった夜。ほっと一息をつくオールマイトは、恐々としているだろう少年の電話に着信を入れる。………案の定情緒不安定だったが、無事伝えられた。
―――明日の朝6時。多古場海浜公園で会おう。
感想、評価ありがとうございます!
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第5話+α
日刊ランキング1位記念で更新! ちょっと長め!
おまけに「ぼくのかんがえたさいつよデク」のステータスシートを公開。
file.1
緑谷出久
緑谷'sヘアー:毛根がねじれている。
緑谷's汗:汗腺はザ普通。地味。
緑谷's涙:涙腺がブチ切れている。
緑谷'sシャツ:無地に文字プリント。シンプルイズベスト。
緑谷'sパンツ:ポケット沢山。機能美。
緑谷's靴:神のお気に入り。ゴリゴリ書き込むのが楽しいらしい。私も好き。
個性:『
直接「知る」こと! 「考える」こと!
この二つが出来さえすれば発動型、常時発動型、異形型問わず個性を『覚える』事が出来る!! 異形型、常時発動型はオンオフが可能! 使う個性に合わせて体のつくりを変えることが出来るぞ! 変身する個性みたいだな!!(例えばヘドロと岩の異形型個性を共存させることも可能! あまりやり過ぎると元の体に戻れなくなるかもしれない!?)
しかし個性の習熟には「体験」が必要だ! センスが問われるな!! Plus Ultra!!
※尚、出久個人の見解による
―――朝6時、多古場海浜公園。
ビクビクとしながら電話を待った昨夜。オールマイトからの電話におっかない想像をしながら出て。ほっと一息をつけたのは、電話越しにうけたNo.1ヒーローからのお説教の一時間後だった。
認められた、と興奮が収まらず、結局寝たのは日付が変わってからという。いま現在若干、寝不足気味だ。
指定された場所はここ、多古場海浜公園。早朝のゴミ山の中で、僕とオールマイトは再会して。僕はワン・フォー・オールを継ぐ意思を伝えた。
―――そして始まった。僕の修行が。
「ヘイヘイ、緑谷少年!! 全然進んでないぞ!! なんて座り心地の良い冷蔵庫なんだ!」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「もう一度言っておくが個性使うのは無しだぜ! 自力で運ぶんだ!!」
「ふぬぬぬぬぬぬぬっ!!」
冷蔵庫に括り付けられたロープを引っ張る。上にはオールマイト。
無理でしょ………。
「んーピクリとでも動けばちょっとはラクだったんだけどなあ!」
ちょっと力を抜いて小休憩だ。
「そりゃだってオールマイト274Kgあるんでしょ………」
「いやー痩せちゃって255Kg」
それでも重い………!!
というかマッスルフォームとトゥルーフォームで重さが違うってどういうことなんだ!? 質量保存の法則は!? いや、超人社会になって大概なくなった気がするけど!!
ていうか僕、何で海浜公園でゴミ引っ張ってるんだ………。
とはいえ、やらないと―――!!
それに、しても。
「オールマイト、なんで、こんな、ことを!?」
「ハッハッハ!! 何故って!? そりゃ君―――器じゃないもの!!」
「仰ってることが前と真逆!!」
思わず手をロープから放してしまい、べちゃ。という音がしそうな角度で前のめりに倒れる。泣きそう。
そんな僕をオールマイトは楽しそうにスマホのカメラで撮ってた。(オールマイトスマホは確か耐久性に優れているオールマイトモデルでファン垂涎の代物。高い!)
「HAHAHAHAHA! 身体だよ身体!」
………?
いや、あのウケるーじゃなくて。撮るのやめてください。連写も止めてください。
そんな嘆願を視線にこめているとやめてくれた………。百枚くらい撮られたのでは。
スマホをしまい、「いいかい」と前置きするオールマイト。
「
「四肢が!?」
えっと、じゃあつまり。
「身体をつくり上げるトレーニングのためにゴミ掃除を………?」
異形型の個性を使えば継げるんじゃないかと思ったが、この姿に戻ったとき四肢が爆散しそうだ。残りの人生を異形型の個性で過ごす覚悟は流石に出来ない。
「YES! だが、それだけじゃないぜ!」
コンと先程までオールマイトが乗っていた冷蔵庫はノックされただけで、255Kgの人間一人支えられていた側面にへこみが出来る。マジか。
「昨日ネットで調べたらこの海浜公園一部の沿岸じゃ何年もこの
「? ええ。なにか海流的なアレで漂着物が多くて。そこにつけ込んで不法投棄もまかり通ってて。地元の人間は寄りつかないです。………なので僕もここで個性の練習してました」
「OH! そいつは済まない。君の個性の実験場を奪うことになっちゃうかもしれないが―――」
オールマイトは冷蔵庫の上に手を置く。
「ヒーローってのは本来奉仕活動! 地味だ何だと言われようとも! そこはブレちゃあいかんのさ―――!」
メコ! メコ! ベコ!
そんな音を立ててオールマイトにプレスされていく不法投棄された冷蔵庫。
「この区画一帯の水平線を蘇らせる―――それが君のヒーローへの第一歩だ―――!!」
ぺっしゃんこになった冷蔵庫の先に朝焼けを見た。あるいは、僕のヒーローとしての日の出。
でも。
「第一歩………これを掃除―――全部!?」
途方もないゴミの量。中には軽トラまで。その軽トラの荷台には更に粗大ゴミが積まれている。途方に暮れながらも、オールマイトに視線を戻す。
「緑谷少年は雄英志望だろう?」
「はい!? はい!! ………雄英はオールマイトの出身校ですから。行くなら絶っっ対! 雄英だと思って、ます!」
「この行動派オタクめ! くー!!」
くるり、と回って画風の違う顔に影を落とすオールマイト。ソーシリアス!
「………前にも言ったが無個性で成り立つような仕事じゃない。悲しいかな現実はそんなもんだ。………ましてや雄英はヒーロー科最難関! つまり」
「入試当日まで残り10ヶ月。それまでにある程度身体を作っていかないと、オールマイトほどの超パワーは途中で使い始めては変な目で見られるから、か。………いや、でも僕の個性なら有り得るんじゃないですか?」
増強系の個性を掛け合わせたらワンチャン。
「ンンンー!! まあ身体作りをやっていって損はないさ! それに
早めに慣らした方が良い。そう言うオールマイトの様子は何か隠し事をしているようにも見えた。
―――でも、身体作りは確かに必要だと思う。僕自身の個性を十全に扱うためにも身体は鍛えないとダメだ。
少し怪しいオールマイトの挙動は見なかったことにする。
「ゴホン。そこで、こいつ! 短期間でOFAを君のものにするための、私考案! 『目指せ合格アメリカンドリームプラン』!! ―――
「寝る時間まで………」
「ぶっちゃけ超ハードね、これ。ついてこれるかな!?」
さらには朝4時に起床して、トレーニング。それから学校、ゴミ掃除とみっちりとスケジュールが組まれている。ざっと見ただけでもこれだ。
「そりゃあ、もう!! 他の人よりも倍は頑張らないと、僕はダメなんだ!!」
………でも個性を使いこなすための時間がない。いや、オールマイトがこうまでしてトレーニングプランを作ってくれたんだから、守らないわけにはいかない。いや、でもなあ………。
―――当日から早速開始されたトレーニングは、ちょっと鍛えていたぐらいの僕では中々にハードで。
流石に夜更かしをして個性の練習は出来なかった。
□-□-□
―――覚えた個性は脳じゃなく、身体が覚えている。
勿論何を使えるかは憶えてなきゃ使えない。でもノートにまとめさえすれば、ヒーローにまつわることなら自分でもびっくりするくらいの記憶力を発揮する僕だ。そこは大丈夫。
それに覚えた個性は鍛えれば鍛えるだけ。使わなくても衰えることはない。
ただ、使うときの感覚は忘れそうになる。
特にかっちゃんの『爆破』の個性で飛ぶときなんか最たるもので、身体制御のあの感覚を忘れたら、もう飛ぶことなんてできない。
僕の個性は強い。でも個性が
………このままじゃあ器用貧乏で終わってしまいかねない。
考え事をしながら、夜の住宅街を走る。自警行為はもう止めなさいとオールマイトにお説教されちゃったし。こうして寝る前に走り込むぐらいだ。
自警行為と言っても、大したことはして無かった。
でも、オールマイトに言われたように今後自分の持っている
じゃあ、個性を実践するには如何するか。
考え事をしているうちに―――僕は自然と個性の練習場にしてた海浜公園に足を運んでいた。馬鹿だなぁ僕。何だかんだであの雑多なゴミ山に愛着が湧いていたらしい。………ちょっとさみしい気持ちになってる。
ゴミ掃除を始めて少し見通しがきくようになった海岸では、もう派手な個性は使えない。………海岸では?
―――どうして気付かなかったんだ僕は! 海まで出てしまえば? いけるんじゃないか!?
「よしっ!」
波打ち際から気合いを入れて発動させるのは『水の上を歩く』個性。
名前の知らない去年の3年生の先輩が使ってた個性。
プールで同級生たちとはしゃいでいたのが目に入って、どこかで使えるだろうと覚えた。
だけど、これが中々難しい。発動中は足が水面から『落ちない』というべきか。波打つ水面に立っていると船に乗ってないのに船酔いしそうになるし、使いどころが限られる個性だ。海面で転けてしまえば足首から上の身体は海の中だ。
この個性の持ち主のやんちゃな先輩は仲間に『水流操作』の個性を持ってる人がいたのか、これでノーボードサーフィンしてたけど、中々の才能だったんだと今更だけど感心してしまう。
取り敢えずはこれで海岸から少し離れて、海の上で『爆破』を始めとした派手な個性の練習。
その後は海岸に戻って、地味だけど強い個性の練習をしよう。ヘドロ事件のあのヴィランの能力は、滅多に使うことは無いかもしれないけど、こと防御においてかなり使えるし、練習しておきたい。
海面を歩きながら考える。………同情するわけじゃないけど、あの
人型を保つのは中々に難しく、精密な動きは中々出来やしない。見た目は悪いし、服はあまり意味をなさない。………きっと―――
ううん。今は自分のことに集中。あの異形型ヴィランに同情して感傷に浸ってる時間は惜しい。
オールマイトのような最高のヒーローに―――そしてオールマイトを
ヴィランに同情するのは自分のこと、
だから今は個性の練習あるのみ!
幸運なことに、眠ったら体力を全回復できる『回眠』の個性を覚えた。先日小学校の時の僕と同じいじめられっ子に再会して、こっそりと憶えさせて貰った。
傷は治らないようだけど、寝ている間の自然治癒は少し早まる。1日で傷ついた筋肉の組織が再生するくらいには。
まだ習得しきってないせいか、1日一回の制限付きだけど、翌日に疲労を持ち越さないのは大きい。
「頑張れ、僕」
船酔いにならないように歩いてきた。このぐらいの距離で丁度よさそう。
ものは試しだ。この前ヒーローに捕まっていたヴィランの『大量に汗を出す』個性でかっちゃんの『爆破』の個性にブーストをかけてみよう。―――かっちゃんの個性は反動で肩や腕に負担がかかる。念のため『剛肩』と『ゴム』の個性で負担を軽減して。
危なっかしくて中々海岸で使えなかったから。この機会に。今まで海まで出ることなんてなかったし。
思った以上に手の平から、どばばっと大量に放出されてしまったニトログリセリンのような汗は―――ロケットの如く僕を雲付近まで連れて行った。
………オイオイ、死んだわ僕。
「………死ぬかと思った―――」
上空の冷えた空気に凍えながら、何とか海面まで戻ってきたものの、自業自得な臨死体験に精神的にやられてしまい、早々と家に帰って寝た。
雄英入試当日まであと6ヶ月。
感想、評価、ありがとうございます!
びっくりした。お気に入り件数も凄い勢いで増えて………恐いからあんまり見ないようにしよう。
誤字報告も感謝してます。反映させていただきました。
コメントレス
ニードレス多いなぁと。私も好き。
自分の知らないキャラクターを想い起こされてる方もいらっしゃったので、それとなく紹介してくれたら嬉しいです(小声
個性紹介コーナー
『
そのまんま。去年一つ上だったちょっとチャラ男系の先輩から覚えた。エアーウォークなんて個性があるから多分ウォーターウォークなんて名前の個性。
力場作って立ってるのか、それともアメンボみたく浮かんでいるのかは謎。デクの考察によればアメンボ説。裸足でなかったので、もしかしたら力場も有り得る。
足の裏だけなので、転けそうになっても手をつけられない。水の上から落ちるなんて貴重な体験が出来る。
『
ヒーローに負けたヴィランから覚えた。体内の水を使っているわけでは無いため干上がることはない。周囲にある水分を自分の汗として放出している。周囲に無い場合は身体の水分を排出。ヴィランの決め台詞「これは水ではない―――汗だ」は対峙していたヒーローを震撼させた。詳しくは汗の主成分を検索。
『爆破』
おなじみかっちゃんの個性。詳しくは原作参照。手から汗の代わりにニトロのようなのものが排出される。前述の個性と掛け合わされて、デクは未確認飛行物体になった。観測者からは『打ち上がる流星』と称された。
『剛肩』
めっちゃ強い肩。砲丸投げの砲丸でソフトボール投げできるくらいには堅く、そして柔らかい。肩が抜けることは無く、まず故障はしない野球選手垂涎の個性。
これをデクは怪我をしないためだけに使った。
『ゴム』
第3話参照。ルフィ。以上。
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6話
前回私頑張ったからね。ちょっと間が長くなっちゃったけど、しょうがないよね。
ジョンって奴はまったくしょうがないなぁ!
雨にも負けず、風にも負けず。
流石に夏の厳しい暑さには参って、走り込みの代わりに半分の距離の水泳を毎日した。
受験勉強とトレーニングと。両立しながらの
くたくたの中、深夜の海で
明らかなオーバーワーク。でも、無個性の僕と同じようにいじめられてた彼の
「緑谷少年! ちょっとペース速くない!? スピード落とさない!?」
「全然! まだいけます!」
少し塩気のある唇を舐めて、スピードを上げる。
セグウェイに乗るオールマイトを追い越し、見慣れた並木道を走る。
「ちょっと待って少年! 一応、おじさんペースメーカーのつもりなんだけど!!」
「オールマイトはおじさんじゃないです!!」
「聞こえてるなら少しスピード落してくれないか!?」
木々はもう冬支度を始め、枯れ葉が木から落ちまいと風に揺られていた―――
「………?? オールマイト?」
ふと気になって足踏みしながら振り返ってみるとオールマイトの姿がなかった。
来た道を折り返して戻ってみるとセグウェイに乗ったまま立ち尽くすオールマイト。
「どうかしたんですかオールマイト」
「緑谷少年、電池切れちゃった!」
なんで充電しておかなかったんだろう。
少し予定している時間まで早いが、「ちょっと休憩にしよう」と中断の一声がはいる。僕は歩きながら少しずつ息を整えた。
地面に降りたオールマイトから、動かなくなったセグウェイを受け取る。
びゅう、と吹く風にトゥルーフォームのオールマイトは身を縮こまらせていた。
「はやいものだ。あと3か月。どうだい? さっきはああ言ってたけど、無理してないかい?」
「………ええと。はい」
違う、さっきの言葉の通りだ。まだまだ全然、余裕がある。
違和感を感じたのか。オールマイトの落ちくぼんだ視線が、僕を射抜く。
「………。緑谷少年。君、少しトレーニング過剰にやってるな。私の作ったトレーニングプランじゃあ、そんな体力はない。君の押しているソレも、ここ最近は私の思った以上にスピードをだしてしまっていた程だ。君の筋力は私の想定以上に強くなっている。………個性を使ってるわけじゃないんだろうが」
「言われた通り、トレーニングには使ってないです………」
「トレーニングには、か。なるほどね。確かに、私の言いつけには反していないよなあ………」
ふ、と。マッスルフォームの時に似た威圧感が消え、少し重たかった空気が軽くなった。
なにか不味かったのか。そんな風に思えてしまう反応だった。
「―――とはいえ、私の都合ではあるし、かといって使うなというのも酷な話だし………」
「オールマイト?」
「いや、いい。いいんだ。緑谷少年。………君の個性だ。誰かを傷つけようというつもりもなく、ただ自分の目標のため。………いや、私からの課題達成のため。私の言葉に反さない程度に使うのなら、問題はないというもの。………ちなみに、どんな個性を使ったんだい?」
「『回眠』っていう個性です。寝たら、体力を全回復するっていう。まだ1日一回しかできないんですけど。………えっと、小学校の時の同級生にばったり出会って。その子の個性がそれでして」
いじめられっこ仲間です、と苦笑いすると「OH………」とアメリカンな反応。
「恨むぜ、その子………」
「オールマイト!?」
「いいや、冗談さ!! HAHAHAHA!」
冗談に聞こえないトーンだった………!!
―――もし。仮に。
オールマイトが、僕自身の個性を使う事を良く思っていないなら………思っているところを言わないといけない。僕にはオールマイトが思っている以上に時間も、余裕もないってことを。
「オールマイト、聞いて下さい。あの時、貴方の個性を継ぐと決めたとき、もう一つ決めたことがあります。―――平和の象徴、それを継ぐんだと。だから僕は使えるもの全部使って、オールマイトのような………。いえ」
―――僕は貴方を超えるヒーローになる。
「緑谷少年っ―――」
面と向かって、現No.1ヒーローにこんなことを言うのは、なんというか今までの僕らしくなくて、すこし恥ずかしくなった。
「え、えーと! じゃあ休憩、終わります!」
………すこし逞しくなったからって気が大きくなってるな、僕。
セグウェイをオールマイトに返して、大きく身体を伸ばす。少し身体が軋んだ。手足をブラブラと解して、腕の筋も伸ばしていく。走り出すと段々とクールダウンしていた身体は少しずつ温まってくる。
200mも走れば、羞恥心は鳴りを潜めていた。
あと3ヵ月。それまでに、オールマイトの力を―――
□-□-□
「見据えていたのは、遥か先ってか………」
自らを置いて先へ行く少年の後姿に、肩の荷が下りたような感慨を覚えた。
なんの根拠もない。ただの直感だが。あの少年ならば、悪の道へ落ちることは無いだろう。そう確信できた。そして、この
自身の後継に選んだ少年は、はじめに見込んだ通りの少年だった。
―――確かに、無個性だと思っていた彼の個性を知った時、危うんだ。
その個性の強力さ故に。
あの宿敵を彷彿とさせる
その個性を使わせないようにするため、
素直に聞くだろうという打算で、トレーニングには個性を使わないようにと言って、既に持っている
目論見は外れたが、しかし蓋を開けてみれば、なんのことはない。
ただのヒーロー志望の中学生。
自身のマッスルフォームの胸元まで届かないその身から、溢れんとする義勇の心を除けば。極度(ちょっとひくくらい)のオールマイトオタクだったって話。
ヴィジランテをしていたのはいただけないが、それもまた、彼の精神が真にヒーローたり得る証とも言える。
「………弱ったな、私は」
肉体的にではなく、精神的に弱ってしまった。
打倒したはずの巨悪の陰を恐れるあまり、たかが中学生一人の個性に怯えてしまう。
情けない。情けない。嗚呼、なんと情けないことか。
かつてサイドキックに言われた己に宿る狂気。それに似たものをもつ少年が後悔をしないためにも。自分が、次代の平和の象徴を導いてやれば良い。
―――僕は貴方を超えるヒーローになる。
もう一度、その言葉を反芻して。
「はは、頼もしいじゃないか少年」
いつかの自分と見比べ、八木俊典は安堵する。そして、彼の個性と向き合うことを決めた。
………目下、今してやれることはトレーニングプランを彼の持っている個性に合わせて調整するぐらいだろう。
もう姿が見えなくなった少年は今の時点で既に、個性の無かった時代のマラソン選手以上の体力と短距離走の選手並みの俊足を持っている。既に、
感想、評価ありがとうございます。
誤字報告も感謝してます。
感想レス
個性についての質問や考察が捗っているようなので、その一助として後書きにその話で使った個性の詳細を載せます。なに、遠慮するでない。まえの回の話の分も載せるので良かったら見てネ。
ご質問ありました。同名の個性でも、その出来ることや強度は違ってきたりします。
認識としては同姓同名の人でも容姿が違う感じでしょうか。やはり本来唯一無二だからこその個性だという認識です。
つまり原作キャラと邂逅してるかもしれないし、してないかもしれない。以上!
PS.お仕事しんどすぎる。ああああ!!
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7話
お知らせ
個性紹介コーナーを後書きに設けました。よかったらご査収ください。
雄英入試まで残り1ヵ月となったある日。
「緑谷少年! ちょっとこっち来てくれるかい!」
「―――はい!」
さっぱりとした海岸は遠くに見えるゴミ山を除いて綺麗になっていた。
課題は既に達成している。指定された範囲は綺麗に片付けて、あとはゴミがあったという痕跡だけだ。この一区画はあとタイヤ一個で終わるし、取り敢えずはこれを片付けて、オールマイトのところへ行こう。
………まだまだ1ヵ月は時間がある。どうせなら目に見える範囲全部綺麗にして終わっておきたい。
オールマイトによる『目指せ雄英合格アメリカンドリームプランVer.2.0』によって僕はメキメキと地力が鍛えられて。ピンク筋って言うんだっけか。持久力も筋力も相当なものになった。
そろそろなんじゃないだろうか。
そんな、もしかしてを想像しながら。ダンプカーのタイヤ(60キロぐらい)を背負ってオールマイトの元へ急ぐ。
オールマイトの乗ってきた軽トラに積んで、少し汚れた手を払う。経年劣化したゴムや何やらで汚れるのはわかってはいるけど、あまり汚れたくないのが本音。
服は汚すと迷惑かけちゃうので上半身は裸でやってるが、もう真冬だ。動いて身体は温かくなっているとは言え、時折吹く風が少し肌寒い。
「ヒュー! お疲れ! ―――いやー綺麗になったね! まさかここまで早く片付けるとは思いもよらなかった!」
「ありがとうございます、オールマイト!」
「いいや! 君の頑張りさ! 私はなにもしていない。こうしてたまに見にくるだけだったからね!」
感心感心、と言いながら頷くトゥルーフォームのオールマイトはファーのついた暖かそうな上着を着ている。裾が地面に着きそうだ。完全防寒って感じだ。
「さて………。一区切りだ、緑谷少年」
「………。はい」
オールマイトは気が付けばマッスルフォームに。これから話すのは真に迫った話だ。そう直感した。
「ん、そうだ。ホラ、見てみろよ、10ヵ月前の君をさ!」
見下ろすマッスルフォームのオールマイトは僕にいつか撮った写真を見せてくる。連写されたうちの一枚だった。ひょろりとした僕が映ってる。情けない顔だ。
「よくがんばったよ、本っっ当に!! 私からの課題をこなし見事、
筋肉質になった手を見やり、見比べる。長く短かった時間を実感して、涙が出てきた。
「なんだか、ズルだな………僕は」
………強力な個性に目覚めて。でも強個性を発揮することなんか無くて。
………個性があってもヘドロ事件で何にも出来なかった僕が、オールマイトにヒーローになれると言われて。その力を受け継ぐことになって。
………オールマイトのようになりたいと思ってた僕は自分でも驚くくらい強欲で。No.1ヒーローを超えるって目標に変わって。
とりとめも無く、まとまらない思いが溢れて、滂沱と流れてる。
でも、なによりも。
「オールマイトにここまでして貰えて恵まれすぎてる………」
―――誰もが憧れるヒーローからの期待が、嬉しくて堪らない!
「HAHAHA! その泣き虫、直さないとな!」
「っはい!」
苦笑気味なオールマイトに背中へ活を入れられて、涙は引っ込む。これからだ。………ここからだ。
「さて、少年。改めて、よく頑張りました! おめでとう! 自信を持てよ、少年当初の予定よりも早いって事を!!」
―――
「ッッ!! はいっ―――!」
ワン・フォー・オールは僕の個性で覚えることの出来なかった
「これは受け売りだが、最初から運良く授かったものと、認められ譲渡されたものではその本質が違う! 肝に銘じておきな。君の個性でなんかじゃない、これは君自身が勝ち取った力だ!」
話を聞けば当たり前だった。歴史が、関わってきた人が―――培ってきたものが違う。僕の個性なんかよりも、遥かに凄い個性。
これ一つでNo.1ヒーローとして輝いてる人が実際に目の前に居るのだ。否応にもその力の差を実感してしまう。
―――責任。重圧。そんなものを漠然としたまま覚悟して、僕はコミックもびっくりの現実をこの手で―――
「食え」
「へあ!?」
ぷつ、と音と共に髪の毛一本抜いたオールマイトはそんなことを宣って―――今何と言った?
「別にDNAを取り込められるなら何でも良いんだけどさ! さァ、ほら食った食った!!」
「お、思ってたのと違いすぎる………!」
こう、手からぱーっと………ぱーって………。
―――入試まであと1ヵ月。新たに僕はオールマイトから課題を言い渡された。
『君が持つ全てを使って、この海岸を綺麗にするように!』と。
□-□-□
『徐行だよ、徐行! アクセルべた踏みはしないように! 複雑骨折するからね!!』
そう言い残して、今日からやることが沢山あるらしいNo.1ヒーローと別れて2時間後。
手に抱えられる程度の小さなものを入り口まで運びながら僕はオールマイトの言葉を思いだしていた。
ゴミ掃除に個性を使っても良いとお許しは出たけど、どうせだからOFAの練習に時間を使うべきだ。
「でも徐行って何ですかオールマイト………」
車の運転したことないのにそんな風に言われると困るというか。感覚って言ってたけど、これがよくわかんない。初めから使い熟せてたっていうオールマイトはやっぱり凄い。
増強系の個性は幾つか持っている。ちょっと参考にしよう。
今丁度使ってる、全身の筋肉量を一時的に増やすデメリットのない『ビルドアップ』。
とんでもない火事場の馬鹿力を発揮するが、一定時間で途轍もない倦怠感と疲労感に見舞われるリスキーな『リミットオフ』。
そのほかヒーローも持ってる『膂力増強』や『ブースト』、『怪力』みたいな個性もあるけど、どれもオールマイトがテレビの画面の向こうで見せてきたようなことはできない。天候を変えるようなことも勿論出来ない。
感覚としては増強系の個性を使うソレでいいんだろうけど………。
「試しに増強系だけ掛け合わせて使ってみようかな」
OFAを除く、僕の持ってる増強系の個性は十個程。中でもデメリットの少ないものは片手で数えられるくらいしかない。けど、それでもヒーローが実際に使っていた個性だ。強力なことには変わりない。
「取り敢えず『膂力増強』、『筋骨増強』、『ビルドアップ』の三つ使ってみるか」
発動。羽根でもついたかのように軽くなった身体で、厄介だった軽トラを掴んでみる。ベコっという音がした。
「お、おおおお!?!?」
難なく持ち上がった軽トラに驚きを隠せない。それぞれ使ったことはあったけど、ここまでじゃなかった。掛け合わせ凄い。………でもアクセルべた踏み云々、徐行云々ってのとは何か違う気がする。
「………
実際に使ってみるのが良いんだろうけど………。よく考えもせず骨折でもしたら目も当てられない。
ケツの穴ぐっと引き締める感じ、とオールマイトは言ってた。
自分の力の延長線上ってことだろうか。『ビルドアップ』だけ残して他を解除。持てなくなった軽トラが嫌な音を立てて落ちた。ヒーローはこれくらい持ててたんだけど………。要修行だな。
少し軽めの、業務用冷蔵庫を持ち上げてみる。うん。ちょっと力がいるけど、持ち上がらないほどじゃない。
「うーん。オールマイトの言うケツの穴ぐっと引き締めるってのは
腕だけOFAを使おうと意識。イメージするのはさっきまで使ってた増強系の個性。『ビルドアップ』をやめる。
「………!」
驚いた。腕の力だけでも持ち上がる。さっきは結構力を込めたんだけど。
「まあ、これくらいは出来て当然だよなぁ」
同じくらいの規格の冷蔵庫ぺしゃんこに出来るんだから。これくらい訳ない。
………。
「どれくらい出力上げれるんだ………?」
今できる僕の限界で。複雑骨折するという忠告を思い出して身震いしそうになるけど、その時になって使えないってのは困る。
「いっつ………!」
少し力めばOFAの出力は強まった。想定以上に。
腕の痛みに耐えかねて使用をやめる。100%の力を引き出すにはまだ時間はかかりそうだ。少し腫れた腕が痛い。全身で力まなくて良かった………。
少し寝て『回眠』を使った。1日三回になって自由度は増した『回眠』は、小さな切り傷や打撲程度なら使える回数を減らせば治せるようになってる。
初日で何となく感覚は掴めたのは幸先良いスタートだ。増強系の個性が無かったら、多分オールマイトの言ってた『べた踏み』してしまって、骨折してただろう。『回眠』でも骨折までは治せない。自重しないと。
使えたのはごくわずか。オールマイトは頑丈に作られてる冷蔵庫もプレスできちゃうくらいだ。この
「先ずは1%ってとこか………」
先は長い。後1ヵ月で100%は無理でも、せめて20%ぐらいは出せるようになりたい。
「いや、なるんだ。―――ならなきゃいけない!」
ちょっと前までの僕が恨めしい。何が時間はある、だ。雄英入試まで時間は少ない。受験勉強の最後の追い込みもある。今できることを一つずつこなしていこう。
今日から忙しくなるらしい、入試当日まで会えないオールマイトのこと驚かせるんだ。
それから。
「………そろそろ、話す覚悟しないと」
個性のことを。母さんや、父さんに。
―――そしてかっちゃんにも。
感想、評価ありがとうございます。
ご報告も反映させていただいております。ありがとうございます。
感想レス
前話で
>>自身のマッスルフォームの半分の丈ほどしかないその身から~~~
という記述がありました。
そして「いつの間に緑谷少年は峰田君並みの豆粒ドチビになったの? オールマイトは220cm!!」というご指摘。しかし、これは間違いではないのです。
偉大なオールマイトはその身に纏うオーラから、私たちの目からはまるで2倍になって見えるという意味であって、オールマイトからもマッスルフォームの視点でみると、如何に強力な個性を持っていたとしても緑谷少年は未だ守る対象。両の腕で10人分は抱えることが出来るという自信の表れから出た述懐だったのです。ですがわかりにくかったようなので、表現を変更しました。
今後このようなことがないよう、明朗快活わかりやすい小説を目指しますあああああああ!!
個性紹介
『ビルドアップ』
ヒーロー『マッシブ』から学習。ボディービルダーのような芸術的筋肉ではない、機能美に溢れた筋肉の持ち主。一時的な全身の筋肉増強。筋肉は全てを解決するらしい。
『リミットオフ』
ヒーロー『リミッター』から学習。超火事場の馬鹿力。瞬間的な馬鹿力はオールマイトに匹敵するんじゃないかと、ヒーローファンの間では論争が絶えない。力の出力に応じて発動時間は前後する。時間が終わると死んだように気絶する。攻撃力と防御力は下がらない。エンドフェイズに自壊もしない。
なお活動限界時間は突破できない模様。無個性のようだが、上がり幅が半端ないので個性である。リミッターもそう言ってる。
『膂力増強』
どこぞの黒スーツも使ってた個性。これはクラスメイト産の産地直送。強い個性だが、結構持ってる人が多いので、凡個性。没個性ではない。大体持ってるやつはクラスの人気者。
『ブースト』
ヒーロー『ブースター』から覚えた。目下オールマイトの個性なんじゃないかと噂されてる個性ということもあり、ファンからは期待されている。諸々の増強を行えるがタメがいる。しかし、タメれた力は絶大。反動があるため加減が必要。目指せオールマイト!
『怪力』
ヒーロー『鬼ちゃん』から覚えた。頭から一本角の生えてる異形型のヒーローで、人当たりも良く人気のじわじわ出ているヒーロー。しかしヴィランにはソレはもう怪力乱神の如くあたりが強い。こわい。鬼の個性じゃないかと言われやすいため、あえて情報を公開している。(個性『鬼』の持ち主はもっと鬼オニしてる)
その実態は小さい子からお兄ちゃんと呼ばれたいがためにこんなヒーロー名にした変態。
デメリットが大きく長時間使用すると欲求が肥大化する。本来の持ち主は酒と小さい子からの羨望だが、デクの場合はちょっとマズいことになりかけた。察して欲しい。
ちなみに男装した女性。
『筋骨増強』
筋肉だけでなく骨も強化する。ヒーロー『フルボディ』の個性。純粋な強さで言えばトップ50入りも目じゃないが、如何せん素行が悪い。良くヒーローになれたな、おい。数少ないファン曰く時折見せる優しさが堪らないとか。
『
説明不要!
先程使っていたのは実は3%程で、出力をミスって20%もの力を出してしまっていた。才能マンじゃないのでまだ早い。ただし、増強系の個性を使えるお陰で、調整は覚えれた。
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8話
雄英入試当日。
オールマイトはある種の予感を持って海浜公園へやってきた。片付いているのは当たり前としても、その片付けには彼自身の個性を使ったに違いないと。………あれだけ脅したのだ。
OFAの練習を行うようちゃんと言っておくべきだった、と今になって思う。だが過ぎたことは仕方がない。自分の見立てによれば彼自身の個性でも充分に合格できるだろう。
入り口付近に積まれたゴミ山を抜けて、砂浜に出る。
―――見渡す限りの砂浜。不法投棄がまかり通っていたなんて噓だったかのような白亜が広がっている。砂に紛れるほどの小さなゴミも無くなっていることから、何らかの個性を使ったのだと察した。
「さて、緑谷少年は―――」
彼の個性は際限がないなと感心しながら、探す。
そしてオールマイトはこの光景を取り戻したMVPを見つけた。
見つけて、そして―――仰天することになる。
□-□-□
明朝。
すっかり綺麗になった海浜公園を端から端までをランニングして身体を温める。その後は海に出て個性の練習だ。
OFAは多分体感で10%ぐらいは発揮できるようになった。と思う。100%の力、つまりはオールマイトのようなことをしてしまえば、全身が複雑骨折してしまうことは間違いない。だから、多分10%。
10%の力を腕から脚、脚から腕へと切り替える。今はもう慣れたが、これが中々難しく、加減を間違えて四肢が打ち身、アザだらけになったこともあったっけか。
受け継いでからひと月で目標だった20%は無理だったが、これだけはできるようにはなった。しかし、当初考えていた異形型の個性の同時使用も試せてない。出来なかった。
不安だったのだ。僕の持っている個性を同時に使っても大丈夫なのか、どうか。
しかし、ただでさえ表面張力で保っている(だろう)器の
もし仮に爆散しかけても、『ヘドロ』の個性を使えば何とかなるかもしれないが、それじゃあ本末転倒だ。異形型の個性に頼らないで使えるようになることも、今まで鍛えてきた動機の一つだから。
「うーん………試して、みるかな。………いや、でも」
試験当日に新しいことをしても、身につくわけがない。やるなら、今日の試験を終えてからだ。
そう自分に言い聞かせて、好奇心を抑えた。………個性が発現してからというもの、妄想だけで終わらせていた考察が実験できるとあって、好奇心が昂って仕方ない。でもこれはヒーローに捕まってるヴィランの動機と同じだ。自警をしていた頃を思い出し、戒める。
まるでヴィランのそれだった。ヴィジランテなんて言葉はあるけど………結局は自分の好奇心を自警活動にぶつけていただけだ。活動中に出会うのはヴィランだけではない。被害者がいた事が何回かある。幸運なことに全部未遂ではあったけれど―――被害者の僕を見る眼は恐怖に満ちていた。
目だし帽をかぶっていた所為かもしれないけど―――ヒーローならあんな目を向けられることは無い。あの時そう思った。時折思い出すあの眼は、ヒーローにならなきゃいけないと僕に思わせた。
OFAの使用をやめて、持ち前の個性の練習に入る。
『ヘドロ』の個性で両腕を合せて、ヘドロ状にした後、筒を作る。
『汗を大量に出す』個性改め、『多湿多汗』の個性で手汗を
そして反動を抑えるための『ゴム』、『剛肩』の個性を使う。
………踏ん張って『爆破』の個性を発動。
そして―――腕から出るのは爆発をそのまま一点に収斂した拳大のレーザー状の爆炎。
ヘドロ状になった腕が蒸発しそうだが、『ヘドロ』という液体と多くの不純物を含む混合物は、普通の水よりも乾燥しにくい。あのヘドロ事件でもかなりの耐火性を誇っていた。でも、もって5秒だ。
―――空に浮かぶ雲を割いて、一線になった爆炎を見送ってきっかり5秒で使用をやめた。………ちゃんと人工衛星とか旅客機とかが通過してない時間帯のはずなので大丈夫のはず。たぶん。
「緑谷少年!!」
「………? あ、オールマイト!!」
駆け寄ってくるオールマイトに手を振って迎える。
「テキサススマーッシュ(トゥルーフォーム.ver)!!」
「アイター?!」
なんで!?
お説教を喰らった。真冬の寒い砂浜で正座をさせられて。
曰く、僕命名『かっちゃん砲』は心臓に悪い。人に向けて使うなよと忠告を。うん、そりゃそうだ。
10%は使えるようになったと、実際に使って見せてみる。そして僕はオールマイトに言われた。
「試験の際に君自身の個性は使用禁止。いいね!?」
「はい―――………え?」
つまり僕はワン・フォー・オールだけで入学試験を合格しないといけないらしかった。
□-□-□
バレないとは思うなよ! 見てるからなー! と僕を脅して去って行ったオールマイトの事を思い出しながら、電車に揺られる。
車両には雄英を受験すると思わしき同い年の学生が何人も乗っていた。
「見てるってなんだもしかしてオールマイト自身が持ってる個性とかいやいやだとしたらあの時の事件は未然にふせげていたはずだろうしそもそも事件なんておこらないだろうどんな理屈で僕が使ってないか使ってるかなんてわかるんだいやまてよ雄英はオールマイトの母校だしもしかすると特別なコネがあるのかもしれない―――(ぶつぶつぶつ)」
悩んでも結局はわからず。オールマイトがバレるといったんだから、使ったらバレるんだろう、という答えに落ち着いた。
電車が止まり、降りる駅になって顔をふと見上げると、学生服の皆さんから睨まれる。な、なんで………?
学生服着た集団からの凄い威圧を感じながら、着いた試験会場。
「ここが雄英―――」
多くのヒーローを輩出してきた名門、雄英高等学校。広大な敷地を持つまさにその場所で行われる今日の入試。同い年の学生が続々と校門から入っていくその様に圧倒される。何から何にまで圧倒される。建物自体が凄くでかい!
結局OFAの真価を発揮することなく、此処まで来てしまった。………正直不安しかない。
「どけデク!!」
ここの所聞いてなかった罵声に振り向けば案の定だ。
「かっちゃん!」
「俺の前に立つな、殺すぞ」
殺すぞって、そりゃないだろ………。いや、口が悪いのは昔からだし今更かもしれないけど、久しぶりの第一声がそれかよ。多分、僕の顔見て苛ついてるんだろうけど。
「お、おはよう、がんばろうねお互い………」
人生を別ける試験ももう目と鼻の先。かっちゃんもあれで緊張しているんだろう。返事は無かった。
素通りしていくかっちゃんを見送る。
あの日以来―――ヘドロ事件のあったあの日から、かっちゃんは僕に何もしてこなくなった。なんでなのか、その真意はわからない。でも、ヒーローに迷惑かけて、助けられた僕も、君も。本気で今ヒーロー目指してるんだと思う。
―――久しぶりでビビったけど、僕の鍛えてきた10ヵ月間。こんなところで足踏みしてる場合じゃない。震えてるぞ、僕の脚!
思い出せ、10ヵ月間!! 踏み出せ!
ガッ
嫌なチップ音と、迫る地面に僕は思考が一瞬停止する。
これだよ! 僕の第一歩散々だな!
縁起の悪い第一歩だ、と考えながら一秒にも満たない筈の一瞬が長い。………なかなか地面が近づかない。
おい、僕。またか! また走馬燈なのか! 死ぬほどじゃないだろ!?
「大丈夫?」
「わっ………え!?」
というか足浮いてる? 体、もしかしなくとも浮いてない? ………走馬燈じゃなかった。
引っぱられて僕は地面に下ろされる。小さい手だった。
「私の個性。ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね!」
両の掌を合わせるその人物に、たじろぐ。
………。―――女子!
「緊張するよねぇ」
「へ、あ………えと」
「お互い、頑張ろう! じゃー」
見送る僕。去って行く彼女。
女子と喋っちゃった―――!!(喋ってない)
「お、おぉおおおおお………」
僕を遠巻きに見る受験生の視線で放心状態から復帰する。
は、恥ずかしぃー………。
―――気持ちを切り替えて、受けた午前中の筆記試験。
不安は残るが、まずまずの出来だった。
感想、評価ありがとうございます。
確り読ませて貰っております。
ヒーローの詳細まで考えるのはしんどいので名前だけにします。
レス
業の深いヒーローを生んでしまった。本編には出てこないんで安心されると良い。
まあもっと業の深いヒーローを見つけてしまった。だから私は許されると思う。
連続アクメ快楽落ちさせるマン………いったい何者なんだ(ステマ)
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9話
「エディバイディセイ! HEY―――!」
レスポンスは無く、シーンと耳に痛いほど静まりかえっている説明会場。10000人はゆうに収容できる雄英の大講堂に集まっているのは僕やかっちゃんを含めた受験生。
「こいつあシヴィー―――!!受験生のリスナー! 模擬試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? ―――
レスポンスしたくても出来ないリスナーはこの中に何人いるだろう。そんなリスナーの一人である僕はというと、一人で場を盛り上げようとする生のその人に感動していた。
ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』! 凄い! ラジオ毎週聞いてるよぉ! 感激だなあ! 雄英の講師は皆プロヒーローなんだ―――
「うるせぇ」
ごめんかっちゃん。………口に出てたか。
パッとスクリーンにスライドが映し出される。
「入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!」
映し出された試験会場はAからGまで。それぞれにこの会場の受験生振り分けられるってわけ。
チラッとかっちゃんの受験票を盗み見る。
「………
「受験番号連番なのに会場違うね」
かっちゃんが僕と協力なんてまずない。仮に出来るとしてもしないだろう。
「見んな、殺すぞ」
酷いやかっちゃん。自分も見てたじゃん。
「………てめェを潰せねぇじゃねえか」
「………」
協力する気ないの知ってるけど! 物騒だなぁもう!
かっちゃんの受験票から目を離す。スライドが切り替わった。
「演習場には仮想ヴィランを
ほらみたことか。例え一緒の会場でも僕を潰すだなんてこと出来るわけ無いのに。………いや、僕にひっついて回って、得点を取らせないようにするってことはできるのか。かっちゃんならやりかねないなあ。
「質問、よろしいでしょうか!」
この空気の中で発言? すごい人がいる、と感心しかけて、やめた。ヒーローになろうって人間が高々数千人の前で萎縮しているようじゃいけない。日本の人口はこの場の受験生の比じゃないんだから。
「―――プリントには四種のヴィランが記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!! 我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
でも、やっぱすごい。こうも堂々と発言できるのか。余程自信に満ちた人なんだろう。かっちゃん並だ。でもすっごいカクカクしてる。
「―――ついでにそこの縮れ毛の君!」
感心していると彼は僕の方を指差して。………。縮れ毛って誰だろう。………まわりを見回しても縮れ毛なのは自分しかいない。
「!?」
「先程からボソボソと………気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻
「すみません………」
クスクス。クスクス。そんな風に周りから笑われる。………あの人のことかっちゃん並みに苦手かもしんない。
「オーケーオーケー! 受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな! 四種目のヴィランは0ポイント! 言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズやったことあるか!? レトロゲーの!」
世界でも人気、国民的ゲーム会社の看板ゲームだ。やったことある。結構難しいんだよなぁ。あと僕の事スルーしてくれて有難う御座います。プレゼントマイク。毎週聞いてます。
「あれのドッスンみたいなもんさ! 各会場に所狭しと大暴れしているギミックよ!」
避けて通るべき、か。なるほど。ゲームみたいだ。
でも、プリントにはヴィランとして載ってる。そのヴィランを避けて通るべき、なのか………?
僕が頭を捻っている間にカクカクしてるその人はお礼を述べて座っている。
「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校、校訓をプレゼントしよう! ―――彼の英雄ナポレオン・ボナパルトは言った『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!」
―――
「それでは皆、良い受難を!」
激励に震えながらもその事が少し引っかかっていた。
□-□-□
凄い。バスで移動してきたこともだけど、ホントに敷地内に街がある! 数字では事前に知ってたけど、実際に体感するのとでは全然違う!
実技試験の会場の模擬市街地を前にして、他の受験生も僕と同じように感嘆の声を漏らしている。
ざっと二百人ぐらいはいるだろう。スタート地点では受験生が各々の個性に合わせた装備なんかをしちゃったりして、自信に満ちた表情をしている。
………対して僕は緊張でガチガチ。今日使えるのは『ワン・フォー・オール』のみ。しかもそれは使えて精々が10%で、鉄板に穴を開けられる程度。それで十分かもしれないけど………一撃とはいかないだろう。
―――20%使えるか、今の僕に………。
いや、自信を持て。面を上げろ。威力は足りなくてもやれないことはないんだから。今この場には個性に自信のある人たちばかりなんだ。試験には使うなと言われたけど、試験前に使っちゃいけないとは言われてない!!
今後のためにも辺りを見回していると、見覚えのある姿を見た気がして目を凝らす。
………あぁ! 朝助けてくれたあの人! 同じ会場だったんだ!
そうだ。さっきのお礼、言わなきゃ―――
「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?」
聞き覚えのある声に足を止める。確かにそうだと思ったからだ。邪魔しちゃ悪い。
………でもこの聞き覚えのある声って。
「君はなんだ。妨害目的で受験しているのか?」
「ひぃ! こちらも!」
肩を掴まれて振り向けば、先程の眼鏡の方だった。同じ会場なんてツイてない………。
僕は雄英を受験しに来たんだ。君と同じように。そう言ってやりたかったけど。
「はいスタート~」
くどくどとした説教を受けつつも、足に纏わせていた『ワン・フォー・オール』で入り口へと跳んだ。
合図と同時に出れるように構えていてよかった。少し遠巻きに見られていたのも幸いした!
先頭に躍り出れた僕は、着地で蹴っ躓きそうになりながらも体勢を立て直して、走る。走る! 後ろからは受験生達の波がやってくる!
「「標的ハッケンブッコロス!!」」
建物を破壊しながら中から飛び出してきた1pt仮想ヴィランは二体! 一体を踏み台にして破壊、もう一体をOFAを腕に切り替え飛びかかり殴り飛ばす! 次!
―――スタートダッシュはうまくいって、2分で20ptは稼げた。でも相手してたのは1ptや2ptばかり。OFA10%でも何とか倒せてこれたけど、2ptは流石にすれ違いざまって訳にはいかず、二発は叩き込まないと駄目だった。
そして乱戦状態になってきた表通りから離れて。ヴィランが好みそうな人気のない路地裏に入り込んだはいいけど―――建物の裏口に当たる場所から飛び出してきた3ptヴィランを相手に苦戦してる。
でかい! 硬い! 強い! 移動スピードは遅いが攻撃が早い!
腕と脚でOFAの切り替えが追いつかない! たまに飛んでくるミサイルが鬱陶しい!
どうすりゃいいっ、考えろ僕!!
ってやばい! そんな考える時間なんてヴィランは与えてくれないっ! 一撃目を避けて、胴体でOFAを使―――
「シネェ!!」
「ぐっ―――」
いってええええええ!! 左腕か! ちくしょうっ、折れたんじゃないか! これ!?
少し距離をとれたのは不幸中の幸いか。じわじわと迫ってくる仮想ヴィランを相手に、僕は腕を押さえながら後ずさる。
ptも高く、難易度の高い仮想ヴィランはAIも上等なのか。てっきり身体狙ってくるのかと思って防御を間違えた。
―――どうすりゃいい。間に合わないなら………全身でつか、う?
でも、全身で10パーセントなんて試したことないぞ! 許容限界超えたらバッキバッキだ!
でも、やらないと! でも、でもっ!!
ドン! と頭上を通過してく仮想ヴィランのアームを引っ掴む。
「―――やるしかないッ!!」
覚悟の『ワン・フォー・オール』10%フルカウル! 土壇場でこんなことするくらいなら試しておけばよかった!
出来たけど制御が難しい、でも動けないってほどじゃない!!
引っ掴んだまま、仮想ヴィランを上に投げ、ちょっと無理して15パーセントでモノアイのついた頭部を殴り上がる。
………時間をロスし過ぎた。取り返さないと!
脳内麻薬ドバドバ出てる状態。立ち止まってるわけにはいかない。腫れあがった左腕を無視しながら路地裏を駆け抜ける。
「これで40pt―――!」
40体は倒したから多分! 姿かたちよく見てなかった! 実際今何点だ!? 3ptヴィラン結構いたぞ! どうなってんだ路地裏! 死ぬかと思ったッ!!
んで残り何分!? 興奮状態が少し収まってきて、腕の痛みが増してきてる!
早く、早く!
「―――あと6分2秒ー!!」
遠くから尚聞こえてきたプレゼントマイクの声に、焦る。痛みが鈍痛になってきた。これ、折れてるだろ。
上着を脱いで、袖を括って左腕を吊るす。ちょっとは増しになったけどっ、………これ以上はじっとしてられない!
30pt、40ptと獲得しているらしい人の声が表通りから聞こえる。
これじゃだめだっ、もっと倒さないと!
3ptのヴィランはよほど相性が良いか、強個性でもない限り倒され難いのか、この時間になって狙う人は少ないようだ。表に出ても結構残ってる。
でも、ヴィランはお構いなしに受験生を狙ってる。飛んできたミサイルにフルカウルを維持したまま突っ込んで、狙われていた受験生からターゲットを僕に移す。
まだ動きはぎこちないけど、
ミサイルを受けながらも跳び蹴りでカメラを潰すっ。多分50pt!
THOOOOOM!!
そんな悠長にポイントを稼いでいられるのは、地響きと共に街を破壊しながら現れた仮想ヴィラン―――ビルの高さを超える0ptの怪物が現れるまでのことだった。
□-□-□
BOOOOM!! と、とびきりでかい被害を街に与えて、コンクリートが。その下の地面がめくれ上がり砂塵が舞う。瓦礫が降ってくる。
舞った砂塵に収まらない大きさ。お邪魔虫ってレベルじゃない。
でかい。でか過ぎる。流石雄英だなんていってる場合じゃないけど、雄英ヤバい。
逃げろおおおおお!!
誰かが言った。無理もない。質量だけでも人を殺せる。逃げて当然。避けて当然。そう、圧倒的脅威。
僕の横を通り過ぎていく他の受験生たち。中にはあの眼鏡の方もいた。
尻餅ついて見上げる僕は「シャレにならんだろ」と呟く余裕があるくらい、意外と冷静だった。周りが混乱していると冷静になる、そんな状態なんだろう。
僕はクリアな思考でもしもを考える。
もし、ここが本当の街なら。もし、このヴィランをそのままにしていたら。
ヴィジランテをしていた僕は、そんな可能性を考え―――
「いったぁ………」
声の主。0ptの足もと。瓦礫の散らばる其処に。
『
朝、助けてくれたその人を見て。
「やらなきゃ」
メリットは一切ない。後5分も時間がある。その間に獲れる点数。きっと後悔する。
でもそれは、誰かを
―――フルカウルをやめて、全力を足に!
『ケツの穴ぐっと引き締めて心の中でこう叫べ!!』
―――全力を腕に!!
「
吹っ飛び仰け反りかえるヴィラン。
『ワン・フォー・オール』100%。オールマイトの力。
「お、おおおおおおおおお!?!?」
―――僕はその力の真価を此処にきてようやく、この身をもって知った。
感想、評価ありがとうございます。
ようやっと原作三話まで進みました。遅すぎですね。原作に追い付くことはなさそうです。
感想レス
個性使わんと意味ないかもな、と思いながらもここで100%使わないと今後いつ使うんだってなったので。かっちゃん砲は最強なんだ!
ご都合主義にも似た作者の事情はないとは言えないものの、オールマイトにオールヘイト(うまいこと言った)ってわけじゃないんだ。戦闘のプロが言うことだから何か理由があるんだよ!
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10話
バレンタイン間近ですね。
今年はチョコ貰えそうですか? ………そうですか。
私はたくさん貰えました。ソシャゲで。
私は想いだけもらって、マスター君には代わりにたくさん食べてもらいましょう。
ぶっ壊れた。ぶっ壊れた! ぶっ壊れた!!
ヴィランだけじゃない腕も、脚も!!
オールマイトならお茶の子さいさいなんだろうけど、僕の場合はお茶の子
風になびく腕と脚を目視してしまって、遅れてやってくる痛みに悲鳴を上げながら僕は落ちる、落ちる。重力に従って、地面に向かって。
痛みなんかよりもシャレにならない命の危機に、脳内麻薬が間欠泉のように出始めたらしく痛みが引いていく。
なぜか走馬燈はやってこない。ここのところ頻度が多かったからかもしれない。
流石に命の危機だ。オールマイトも許してくれるだろう。
もう『ヘドロ』の個性を使ってしまおうか。汚い地上絵になるだろうけど、死ぬよりマシ。他に流体の異形型個性があれば良かったんだけど、今無いものをねだっても仕方がない。
―――あ。
今朝助けてもらったように、あの人の個性を使えば良いんじゃないか!
でも全然分かんないや! 考察してない! どうやって使うんだ! 女の子と喋ったからって舞い上がり過ぎてた!(喋ってない)
あと15m! もう『ヘドロ』の個性を―――
「ぶっ―――!?」
バチンと落ちる僕の頬を引っ叩く誰か。破壊された3ptヴィランの部品に掴まるその人の姿を見て、使いかけていた個性を引っ込める。
そして浮遊感。重力による慣性は消失していって、僕は赤色かヘドロ色のアートにならずに直前で止まった。
「解、除!」
「ぶへぇ!」
―――。跳び箱から落ちた時みたいな衝撃に、一瞬息が出来なくなる。でも、ありがとう朝の人。助けられて良かった。助かった。
痛覚無くなってんじゃないだろうかってくらい、粉砕骨折の痛みが分からない状態で、一緒に落ちてきたであろう命の恩人の姿を探す。まだ意識があるうちにお礼、言わないと。怪我、してないかな。助けた筈が助けられて、それで怪我してたら、申し訳ない。
「………うぷ―――」
見つけたけど目を逸らす。………なるほど、あれがあの強個性のデメリット。
音を聞くのも申し訳なくて、朦朧としながら痛みを自覚して―――
気絶してる間に試験は終わっていた。口の中は砂っぽかった。
何か大事なものを失くしてしまった気がするけど、多分気のせいだろう。起きたら腕と脚が治っていたことと何か関係があるのは確かだ。………いや、知ってるけど。マウストゥーマウスされてないと信じたい。
『回眠』のお蔭か、体力的にも回復した状態だ。それから腕も治ってる。あんな試験を敢行して病院送りの人間が一人もいないというんだから、雄英はやっぱり普通じゃない。左腕を痛めて、右腕と両足複雑骨折したというのにこうして自力で帰れるんだから。
僕の目指しているのはそんなところ。だからこそ落ちたんじゃないかなぁ、と不安になる。後半僕は気絶して時間を大幅にロスしてしまった。あんな調子じゃヒーローになんてなれっこない。
………でもやれるだけの事はやったんだ。
そう自分に言い聞かせて帰路に着く。地下鉄を乗り継ぎ、40分。不安に揺られながら家を目指した。
□-□-□
「出久………出久?」
―――………。
「―――出久!? ちょっと大丈夫!? 何、魚と微笑み合ってんの!?」
「ああ………ごめん。大丈夫………!」
ぼーっとしすぎてた。なんで僕魚持ったままなんだ。身を齧って、白米をかきこむ。
ここ1週間こんな調子だ。
筆記は自己採点でギリギリ合格ラインを越えていた。ホントにギリギリだ。もうちょっと勉強をしてればと終わってから思ったけどしょうがない。かといって実技に自信があるかというとそうでもなかった。
むしろ一番不安なのは実技で。40体以上は倒してたはずだから、40ptはある筈で。………ほんとに40体も倒せたのか日に日に自信がなくなってくる。そんな風に気がつけば1週間だ。
行動不能にするってのが、中々判断難しくてオーバーキル気味に倒してた筈だから。大丈夫、大丈夫のはずなんだ………。
少なくとも3ptヴィランを5体以上は倒せたはずだ。だから15ポイントはあると思う。ああ、それでも不安は拭えない。
………気がかりがもう一つあって。
入試以降オールマイトと連絡がつかなくなった。あの日以来パッタリと。
どうしてなんだろ。入試の日まで会えなかったことと何か関係があるんだろうか。
「………通知、今日明日くらいだっけ!」
「んん」
物思いにふけっていると食事の片付けをしていた母さんに言われて。カレンダーを見てそうだったと思い出す。ここのところ心ここにあらずだったからすっかり抜けてた。
「もう! 雄英受けるってだけでも凄いことだと思うよ、お母さん!」
「んー………」
別に受けるだけだったら無個性だった頃でも―――いや、母さんの中ではまだ僕は無個性なんだ。無個性の僕にとっては凄いことなんだ。それでも我ながら気の抜けた返事だった。
母さんは郵便物をとりにいったらしく、玄関扉のきしむ音がした。
………オールマイトの超パワーであるOFA。その一端だけとはいえ、入試のために使った個性はそれだけだ。オールマイトに言われたように。そして一回きりだけどNo.1ヒーロー足る所以を身をもって知った。
不安だけど、合格したら無個性の筈の僕がどうして受かったのか、となりかねない。それは避けられない話題だ。無個性でいけるほど雄英は甘くない。
―――個性のこと話さないと。その時がきたんだ。明日、また明日と今日まで中々言い出せなかった話を。僕には『
母さんが帰ってきたら言おう。そうだよ。明日って今さ。
そんな風に決意していると母さんが丁度帰ってきた。
「お母さ」
「出いずいずく、出久!!」
慌てて、這うようにして部屋に入ってきた母の姿に言葉がつまる。
「来た!! 来てた!! ―――来てたよ!!」
手に持っている封筒の雄英高等学校の文字を見て。合否の結果を知ってからでも遅くないと、………僕はまた個性の話を先延ばしにした。
□-□-□
散々睨みあって。書類が入っているような厚みじゃない。覚悟を決めて封を切る。
ゴト、と何かが机の上に落ちた音がして。
「んっんん゛~~~!!」
机の上に転がったビデオレターから聞こえる聞き慣れた声にハッとする。
「私が投影された!!」
!? お、オールマイトぉ!?
「どうして!? なんで!?」
雄英からだよな!? どうしてオールマイトが!?
「諸々手続きに時間かかってなかなか連絡が取れなくてね。ゲホッ………いや、すまない!」
姿勢を正す姿に自然と自分も背筋が伸びる。
「私がこの街に来たのはね、他でもない。雄英に勤めることになったからなんだ」
今明かされる驚愕の真実! それで多忙なはずのオールマイトが僕を鍛えることができたのか!
それにしても雄英に! オールマイトが!!
後がつかえているのか、巻きの指示が出たらしい。長話はできないようだ。
「さて、そういうことだ本題に入るとしよう。結果から言うと合格だ、緑谷少年」
へ、っとあっけない声が漏れた。
「筆記はもとより、自信はなかっただろう実技試験は文句なしの―――合格だ!」
聞き間違えじゃない。聞き間違えじゃない!
「まあそう興奮するなよ! まだ話には続きがある! 話を聞くんだ!」
………。心が読まれてる。
「録画だよねコレ」
「念のため言っとくが録画だぜ」
やっぱり心が読まれてる。僕ってそんなにわかりやすいんだろうか。
「コホン、いいかい緑谷少年。落ち着いて聞いてくれ。筆記試験ではギリギリ合格ラインを超えるぐらいだった。そして実技なんだが………え! マジで時間がない!? いや、でも彼には本当に色々と話さなきゃならないことが!」
「ははは………」
初めて会った時も時間がないって焦ってた。そんなことを思い出してしまった。
「仕方がない! この映像だけは見せておこう!」
画面が切り替わって映されたのは、何かと助けてもらった例の女の子だ。プレゼントマイクもいる。
『~~~分かりますか………? っと地味目の』
僕のことを話しているようだった。
『その人にポイント、分けるってできませんか!? あの人、腕怪我してて! だからまだ全然ポイント稼げてないんじゃないかって………! だからせめて私のせいでロスした分………!!』
映像はそのまま、オールマイトの声がする。
「………覚えているかい。ヘドロ事件の時だ。私が動かされたのは無個性の君の勇気。それは勘違いだったわけだけどね。―――だが、個性を使うようになって尚、君の行動は人を動かした!!」
『あの人、助けてくれたんです!!』
「先の入試、見ていたのはヴィランptのみにあらず!」
寝間着の裾を僕は握りしめていた。
『分けらんねぇし、そもそも分ける必要がないと思うぜ、女子リスナー!!』
「
武者震いがとまらない。僕は間違えてなんかいなかった。
「きれい事、上等さ!! 命を賭してきれい事実践する仕事だ!! レスキューpt!! しかも審査制!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!」
「緑谷出久62pt!! ついでに麗日お茶子28pt!!」
………。はい!? そんなに!?
「そういうわけだ緑谷少年。つまりヴィランptに合わせて134pt―――合格は合格でも、主席合格だよ!! おめでとう!!」
………。はあああああああああ!?!?
「来いよ、ここが君のヒーローアカデミアだ!!」
the・補足!!
デク君の『学習』は
今後の話の展開に差し障るので深くは説明できませんので小話を。
1+1が2であることを誰もが理解できるのは1+1が2であると知っているからです。しかし、1+x=yとなってしまえばyの数値はわかりません。(結果)
仮に1+1が2であることを知らなければ仮にyの数値が2であったとしてもxの値は求められないわけです。(過程)
デク君の場合は結果を見て過程を考察、理解することで学習………使えるようになると言うわけです。
以上! これ以上は無理!!
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11話
別にタルタロスに収監されているわけではないので安心してください。
早く出てきませんかね、あの方は。
「出久!? どう、だった………??」
「………母さん。うん。合格、してた」
「っっっ!!!!! 夢じゃ、ないのよねっ!?」
「うん、うんっ………!!」
「っおめでとう出久………! おめでとう―――!!」
抱きしめられて。自分の事のように喜んでもらえて。
………僕はその日、個性の話を母さんにした。
『個性を持たせて生んであげられなかった』
そんな罪悪感が心労になっていたのだろう。ヒーローになることを諦められなかった僕の姿を見て、そんな想いを持っていたはずだった。
母さんは多くは言わなかった。でもそれは見て取れた。
「っ………よかったっ………よかったぁ………」
ただ「よかった」と繰り返し言って。
―――あの日、僕に個性が無いとわかった時のように。泣きながら僕を抱き寄せて、頭を撫でて。
□-□-□
「実技総合成績出ました!」
表示された『1』の数字の横には彼の名前がある。
「オールマイトの再来、ねぇ」
「確かに、あれは目を見張るものがあった」
「YEAH! って言い続けてたからな―――」
皆が驚くのは無理もない。………しかし入試の様子を見ていて正直、あの場で一番驚いていたのは自分だ。
合格は疑っていなかった。だが、苦戦はするだろう、というのがOFAを譲渡した時の予想だった。最後の0ptヴィランをぶっ飛ばすのが精々だろうと。
当日見た様子にまさかとは思ったが、あそこまで動けるとは思いもしなかった。
師匠たちに「身体を動かすことに関しては才能がある」と散々言われていた自分とくらべても、あれは異常だった。
「2位の少年と大差をつけてか。………いや、まあ2位の子も後半で多くが鈍る中、派手な個性で敵を惹きつけてptを稼ぎ続けた。タフネスの塊だ」
「それもレスキューptは0でヴィランptだけときた。純粋な継戦能力でいえば彼に軍配が上がるだろう」
「しかし1位の彼は………」
ヴィランpt一位の、ヘドロ事件の時の少年に迫る勢いでのpt獲得数。あれは爆破という個性が試験内容と個性の相性が良かったからこそ。
緑谷少年の使ったOFAは言ってしまえば世で語られるように増強系の個性で、よほどの運と実力がないとあのpt数は無理だ。
指導らしい指導ができるのだろうか、と弱音を吐いてしまいそうだった。
「YEAH!って言っちゃってたしなあ―――」
マイクくん、ちょっと今それ無くなった筈の胃に響く。
□-□-□
衝撃の合格通知の届いた翌日、夜8:00の海浜公園。
待ち望んだ電話を受けて僕はそこに。
海を臨む後ろ姿に叫ぶ。
「オールマイトォ!!」
「誰ソレ!!!(喀血)」
「オールマイト!?」「うっそ!? ドコ!?」
東屋の方から聞こえる男女の声にハッとする。
「Repeat after me 人違いでした………!!」
「人違いでしたぁ!!」
顔にかかりそうなオールマイトの血の量に僕の血の気が引きそうになる。当の本人はすっかり慣れた様子だが、こんなの慣れそうにないです、オールマイト。
―――すっかりキレイになった多古場海浜公園は地元の地方紙にデートスポットとして紹介されるほどにまでなってしまった。なんとか誤魔化せたようでほっとする。けれど自分の迂闊さは反省だ。
僕と同じように胸をなでおろしたオールマイトは染みの残るハンカチで口元を拭う。
「改めて。合格おめでとう緑谷少年!」
「っ! はいっ!」
向けられた掌にハイタッチ。何度目かになる、合格したんだという喜びがこみ上げて頬が緩む。
「いや、合格できるとは思っていたんだが。まさか正直主席合格だなんてことになるとは思わなかったよ。無茶を言ってしまったかなと気にしていたんだがね」
「そんな、いえ………確かにやり難さみたいなものはありましたけど、でも引き継いだ
「………緑谷少年。いや、私は君に謝らなければならない。君には力がある。それを真っ当に評価される機会を奪ったのだから」
「そう、なんでしょうか」
首をかしげる僕に「悪いことをしたね」と謝罪を口にしたオールマイト。確かに、もっと楽に試験はこなせたかもしれない。けどオールマイトが言ったことは何か意図があってのことだと、今では思ってる。
それに、OFAを使いこなせるようにならなきゃいけないのは事実だ。
「―――ああ、それと。一応言っとくけど学校側には君との接点は話してなかったぞ。君そういうのズルだとかで気にするタイプだろ」
「お気遣いありがとうございます………」
流石オールマイト、よくわかってる。………いや、わかりやすいもんな僕。
沢山話しておきたいことはあるけど、一番はあれだ。
「オールマイトが雄英の先生だなんて驚いちゃいました。だからこっちに来てたんですね………だってオールマイトの事務所は東京都港区六本木6-12-「やめなさい」
呆れられてしまう。すみませんオールマイト。
「学校側から発表されるまで他言は出来なかったからね。後継を探していた折に雄英側から
―――『元々後継は探していたのだ』
ヘドロ事件のあったあの日の言葉を思い出す。
本当は生徒の中から選ぶ予定だったんだ。僕みたいに本来の持ち主には一歩劣る『無個性』なんかじゃない、若き実力者たちから―――
「『ワン・フォー・オール』………オールマイトのような力で使えば一振り、二振りで体が壊れました。僕にはてんで、扱いきれない………」
「それは仕方ない。突如尻尾の生えた人間に『芸みせて』と言っても操る事すらままならんって話だよ。例えるなら、尻尾だけで逆立ちしろと言っているようなものさ」
「はぁ………」
「まァ、君は0か100のどっちかしか出来ない―――なあんてことは無かった! 採点していない、とは言っても試験の様子は見ていたからね」
「………」
雄英の教師になる話を聞いて薄々勘付いてはいたけど、『他の個性を使ったらわかる』ってそういう事だったわけか。
「そう、気負うことは無い! 器を鍛えれば鍛える程、力は自在に動かせる―――」
手にしていたスチール缶に入ったお茶を飲み切ったオールマイト。
「こんな風にね!!」
そう言ってマッスルフォームに変わり、空き缶はぺしゃんこにされた。
「まあ、元々君には個性がある。焦って使えるようにならなくても「待ってアレ、オールマイト!?」「何時の間に!?」やっべ!」
流石にマッスルフォームの姿を見られたら誤魔化しようが無い。
ざっざ、と砂浜を早足で歩いていくオールマイトに僕も続く。
聖火の如く―――譲渡した火はまだ火種。これから多くの雨風に晒され大きくなっていく。
そしてこっちはゆっくりと衰え消え入り役目を終える………。
「ううん、シブいね!!」
「???」
急な独り言に少し首を傾げた。
□-□-□
職員室に呼び出されて以降、感情を表に出さないようにするのがやっとだった。
『ウチの中学から雄英進学者が二人も出るとは!』
『特に緑谷は奇跡中の奇跡だなあ!』
爆豪勝己は冷静にキレていた。
隣にいた緑谷出久に言葉少なに着いてくるように言い、彼を連れ立って爆豪は場所を校舎裏に移した。
「どんな汚え手使やあ
「っ―――」
「史上初! 唯一の雄英進学者!! 俺の将来設計が早速ズタボロだよ! ―――他行けっつったろーが!!」
合格が取り消しになるかもしれない。あくまで胸倉を掴むだけ………爆豪はそのつもりだった。
「か、かっちゃん。手、離してよ。………久しぶりに、ちゃんと、話そう」
「ああ!? ―――ってめ!?」
ガシッ
声は震えていた。ただし、壊れ物を扱うような爆豪の手を掴む力は万力のようで、びくりとも動かない。
「この体勢でもいい、けど。………僕もう、ただの無個性のナードじゃないんだ」
「―――どういうこったそりゃよお? おいデクゥ………てめえは生まれつき個性が
「うん。僕もそう、思ってた。………でも2年の終わりに僕にも出たんだ、個性が」
遅咲きの個性。話には聞いたことがあった。複雑すぎる個性の発動条件が、無個性と思わせてきてしまう事がある。それは知識としてある。
しかし、目の前のナードが。道端の小石にしか思っていなかった存在がそれに該当する、という事実を。納得できない。
「はっ、大した個性でもねえ癖に「僕の個性は『学習』。人の個性を覚えて使うことが出来る」―――はァ?」
どろりとした粘性の液体。―――忘れもしないあの事件の時に嫌というほど喰らった個性。ヘドロと形容するのが相応しい液体に変わっていく腕を見て、爆豪の背筋が凍り付く。あれはそれなりに傷跡を残された事件だった。
掴んでいる胸倉を離して後ずさる。幸いにもガッチリとつかまれていた腕は離されて、すんなりと距離をとれた。
「ご、ごめん。驚かせた………。でも、あの事件のヴィランの個性なら覚えてると思って。それに―――」
ボッ
聞きなれた音が、自分以外の掌から熱と発光と衝撃が。
爆豪の開いた口は塞がらない。
どうして、何故、どうやって。混乱は止むことなく。
目に焼き付いた場景を夢でない、とだけ認識するので精いっぱいだった。
気が付けば爆豪は脱力して、家の自室の椅子に腰かけていた。
緑谷があの後何か言っていたような気がしたが、何一つ内容は入ってきていない。
この『爆破』の個性は自分だけの個性。自分だけの特別な力。自分は恵まれている天才。
………だと思っていた。でも違った。
傑物揃う雄英に行けば、そりゃあもっと強い個性を持った奴らはいるかもしれないと思っていた。しかし、そんな中でも埋もれる訳がねえ。そんな覚悟で爆豪は雄英を受けたのだ。
緑谷は眼中に無かった。道端の石ころだと思っていた。意識せずとも蹴飛ばせる程度の小石だと。
なまじ爆豪は頭がいい。クソナード程ではないにせよ、ヒーローの知識がある。―――爆豪も自らの個性がどこまでできるだろうかと研究するほどにヒーローになるためには必死だ。実践できてないだけで、必殺技も10や20は考えている。
だから。
他人の個性を自分の個性として使えることに、どれだけの優位性があるのか。どれだけ強力な個性なのか。あの一瞬、垣間見ただけでもわかってしまった。
「畜生」
―――あいつは嘲笑っていたのだろうか。クラスメイトも俺も、馬鹿にして貶していた間ずっと。
………………。
………。
そう思うと腹が立ってきた。
「クソが!!」
殴らねえと気が済まない。そう思った爆豪の行動は早く。
凡人ならばとっくに忘れ去っているだろう、昔の記憶を頼りに携帯電話から固定電話へと電話する。
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12話
結構な難産でございまして。ひり出すのに時間がかかってしまったよ。申し訳ないね。
今日、かっちゃんに自分の個性のことを話すことができた。ビビっちゃって吃ってたけど、それでも伝えるべきことは伝えれたと思う。
「勝己君から電話よー」
「………? ………。―――えええええええ!?!?」
カツキクンって誰だ、と一瞬分からなかった。かっちゃんだ。何年ぶりだ、家に電話かかってくるの!?
「はい。それにしても随分久しぶりじゃないの? 遊ばなくなって以来じゃない?」
「あ、あはははは………」
かっちゃんに虐められていたことは、母さんには話していない。無用な心配を掛けたくは無かったというのもあるけど。母さんだけじゃなく、身の回りの大人に言うのだけはなんとなく嫌だった。
でも、怖い。なんだろ、こんな時間に。ロクでもないことだって簡単に予想できる。保留を解除するのが、こんなにも躊躇することだなんて思いもしなかった。
ええい、勇気出せよ緑谷少年!! ―――心の中のオールマイトに叱咤されて、保留を解除した。
「………もしもし」
『………。デクか』
「う、うん。どうしたのかっちゃ『多古場海浜公園に来い、今すぐ』
用件をそれだけ言うと電話は切られる。
受話器越しに、声の調子から機嫌が悪いことはすぐにわかった。切れる瞬間、舌打ちのような音も聞こえたから相当機嫌が悪いのだろう。予想してた通りだ。これは絶対ロクでもない。
「どうしたの、出久」
「………ちょっと出てくるよ。かっちゃんがなんか直接話をしたいみたいで」
「そうなの。気を付けてね」
「うん。―――行ってきます」
理由は話せないまま家を出た。
多古場海浜公園。なんでみんなあそこ好きなんだろう。そんなこと考えてみて、近所にいい感じの広場が無いのを思い出した。小ちゃいころは近所の公園でも良かったんだろうけど、高校生や大人が集まって何かするにはあの辺りは手狭だ。
ゴミ捨て場だった公園も今じゃ立派な観光スポット。だけどこの時期、この時間。寒暖差による肌寒さが気になる浜辺の深夜は人が少ない。都合が良いんだ。きっと。
着いた先で、かっちゃんは海を背にして待っていた。
「よぉ、デク」
「かっちゃ―――ひっ」
あぶなっ!? 少し肌寒さのある海風が一瞬にして熱風に変わる。掌をこちらに向けて、個性を使った。その怒りの具合はハッキリとわかる。でも、目前で迸った爆炎は流石と言うべきもので、当たることは無かった。
「お前は俺より上か。なぁ、おい」
「そんな、上か下かなんて………」
「俺とお前が対等なわけねえだろ」
かっちゃんはらしくないことに静かだ。声が震えるのは僕だ。まったくもって僕らしい。
「デク。てめェ、個性がツエーからって、俺を見下してんじゃねえぞ、なぁ、おい………!!」
「そんなこと………」
「―――見下してたんだろがよぉ!! 俺や! クラスの奴らを!!」
BOOM‼ BOOM‼
両手から爆発が滾る。今分かった。かっちゃんの怒りは不発弾みたいなものだったんだ。いつ爆発してもおかしくなかった!
迫ってくる右手と爆炎―――やられるッ!
「個性使えや、クソデク―――!!」
………個性というものについて、物心ついてからの僕の人生で考えない時は片時も無かった。それはきっと他の人に取っても同じだ。
誰かを語る時、ヒーローを称える時。そして誰かを嘲笑い、貶め、優越感に浸る時。
必ず、それは持ち出される。誰もが持って当然のものであり、その点で言えば、千差万別であり共通の話題となった。
個性とはそもそも非日常。それこそアメコミの主人公が持ってるような特別なものだった。
その特殊な能力が、特殊でなくなり。腕っぷしの強さ、足の速さなんかの違いと大差ないものになっていく。誰もが特別な能力を持ってしまえば、それはもう特別でも特殊でもない。………だから、個性。多くの人にとってそれは超能力でもなんでもない。
「話し合おう、かっちゃん。今日、学校でも言ったけど。………未だに無個性だよ、僕は」
「ァアアあ!!? 話し合うだあ? ざけんじゃねーぞ!!」
無個性の僕は欲して止まなかった。個性という名の超能力。でも、今じゃそれは僕にとって個性ですらなくなった。超能力でも、特殊能力でも。ちょっと学べば使える技術みたいなもの。数学の公式だとか、英語の文法だとか。あるいは跳び箱の飛び方みたいなものだ。
「使えるんだ。キミの『爆破』も。ヴィランの『ヘドロ』も。あの人の力は、特別なものだけど、それ以外の大体は使えるんだ」
「チッ! あんときのヘドロか!」
全身をヘドロに変えてしまえば、かっちゃんの攻撃の一切は僕に通用しなくなった。腕をヘドロで捕える。………あんなに怖かったかっちゃんの個性も、今は全然怖くない。いや、顔は怖いけど。
「個性。自分だけの力。そんな力は僕には無いんだよ。かっちゃんの『爆破』は覚えた。一番身近にあった個性だったから。ヘドロヴィランの個性も覚えた。キミも僕も殺されそうになるくらい強い個性だったから。ヒーローの個性も、ヴィランの個性も。クラスメイトや家族の個性も。君が爆破したあのノートに書いてあった人達の個性は全部使える。………将来使える個性だと思ったから」
「何ブツブツ言ってやがる! いい加減その汚ェヘドロ解きやがれッ!!」
「でも、僕自身の個性じゃないんだ。力でしかない。本来の持ち主よりも、よっぽど使いづらい。結局は返せない、借り物なんだよ」
「ゴタゴタ言ってんじゃねーぞ! ぶっ殺す!」
「だから顔コワ―――いいよ、離すよっ!!」
ヘドロの中に手を突っ込まれたままだとどうなるかわからない。海の方へと放り投げて『ヘドロ』を解除した。宙を舞うかっちゃんは掌からの爆発で勢いを殺し、危なげなく砂浜に降りる。やっぱり天才だ。空で姿勢を維持するのにどれだけ時間がかかったことか。
「………やっぱり、かっちゃんは天才だ」
「あア? それは―――馬鹿にしてんのか、デク。ったりめーのこと言ってんじゃねーぞッ!」
「ちが、………本当にそう思ってるんだ。僕なんか君には到底及ばない。でも、こうして君の個性やあのヴィランの個性、いろんな人の個性を使えるようになって思ったことがあるんだ」
BOOM‼とかっちゃんは『爆破』を全開にして飛び掛かってくる。顔は険しいままだ。
「謝っても遅いけど、かっちゃんの個性使って、―――っヴィジランテしてた!!」
「もう気付いとるわ! テメーしか居ねーだろーがア!!」
受け流す。表面を『ヘドロ』で覆った腕で、『爆破』とその腕を滑らせ躱す。
一際大きい『爆破』。反動で戻っていった腕が―――凶器が。僕の顔めがけて飛んでくる。
ヴィランとヒーロー。一皮めくれば、それは超常の形をした暴力でしかない。
「ヒーローも、ヴィランも! そこに義勇の心がなかったら! 変わらないんだ!!」
「ちぃッ!」
―――『視力向上』、『反射強化』、『ゴム』化。普段使いしない、持て余してしまう
「僕はかっちゃんと同じだ!!」
「俺とお前が同じなわけねーだろが!!」
「いいや、君と同じだ! ―――僕はヒーローになるんだ!! なれるって言ってくれた!! だから―――!」
腕を『ヘドロ』に変えて腕を掴む。かっちゃんの戸惑いはたったの一瞬だった。直ぐ目つきを鋭くさせ、ヘドロの中に入った両手から盛大な『爆破』を起こす。本来の『ヘドロ』なら一撃で吹き飛ぶような今までで一番の威力。市街地で打てば大火災間違いなしの大爆破。―――しかし『ゴム』の個性でより強い粘性を帯びた『ヘドロ』は一瞬膨らむだけでその威力の衝撃を耐えた。
かっちゃんの『爆破』の個性は強力だ。それだけに相応の反動があることを、僕は知ってる。最大火力が生じさせる痛みに顔をしかめて硬直した隙は―――逃さない。
「かはっ―――!?」
ぐるりとかっちゃんの腕を持ったまま振り回し、砂の上へと叩きつけた。
ヴィジランテをして、オールマイトに出会って。この想いは決意へ。そして確信へ変わった。
ヴィランが己のしたいことをするというなら。したいようにするというなら。―――僕もしたいようにする。したいことをする。
「ヒーローになるよ! かっちゃん!」
―――君も、僕もそれは変わらない。………それだけは昔から変わらなかった。
□-□-□
走馬燈。いや、夢だ。夢を見ている。
―――すごいやかっちゃん!
古い記憶だ。緑谷出久が、勝己にとって木偶の坊のデクでなかった昔の事。個性が発現する前の事。
誠に遺憾ながら、出久は勝己にとっても幼馴染だった。凄い凄いと自分の事を持て囃す、気分を良くさせる。勝己にとっては特別な、その他大勢の一人。友情らしきものを感じていたのは、この頃だった。
いつも5人でつるんでいた。自分に知っている限り唯一無二の『爆破』の個性が目覚めて、自分自身の才能を合わせれば一番凄いのは自分だった。周りもそう言っていたから間違いない―――間違いない。
―――そしていっちゃんデクが凄くなかった。
『大丈夫? たてる?』
なのに、出久は足を滑らせて沢に落ちた勝己の事を心配した。なんともなかったのに。
『頭打ってたら大変だよ!』
―――おかしいだろ。一番すごくない奴が、一番すごい奴の事心配なんてするかフツー。
誰も心配しない。あの場で誰もが大丈夫だと言っていた。
帰るとズボンを汚した事を怒られた。渋々事情を話すと心配された。親だから。それは当たり前だと思えた。
しかし、だからこそ余計に、勝己にとって出久に心配された訳がわからない。不可解で不愉快だった。………あの不安と焦りを滲ませた出久の表情が未だに頭の中に残っている。心配されたことが、未だに勝己の中で消化できていない。
―――俺の方が上だ。
上だと思ってた。そして出久は下だと。………実際は手も足も出なかった。
相性が悪かった。そんなのは言い訳でしかない。何もかもねじ伏せてこそ、ヒーローだ。だからこそ、あの事件の時に動けなかった奴らをヒーローだと思えなかった。よくて職業:ヒーローというだけだ。あの時動いて、助けてくれたオールマイトはやはりヒーローだった。
『オールマイトカッコいいなぁ! 僕もなるんだ、オールマイトみたいなヒーローに!!』
オールマイト。感謝してる。依然として目標だ。
―――俺も、お前も憧れた。………諦めてなかったのかよ。無個性の癖に。
勝己の原点は変わってない。そのための努力は惜しまずしてきた。
それが出久も同じだったというだけの事。知らないフリをしていた。あのノートはその蓄積の一つだ。出久は、出来ることを、出来る限りやってきた。
―――同じって。一緒って………そういう事かよ。
どれだけ殴っても、どれだけ突き放しても。気が付けば後ろに張り付いてきていた。金魚のフンみたいなやつだった。しかし障害になり得ない道端の小石だと。―――けど、負けた。
いつまでも、やさぐれてはいられない。こっからだ。これからだ。………もう、誰にも―――!
□-□-□
大の字で気絶したかっちゃんをそのままにしてはおけず、目が覚めるまで待つことにした。流石に置いて帰るのはどうかと思った。
最近見かけた、個性を使ったパントマイムを行うストリートアーティストが持っていた『消音』。それを使ったおかげで、誰にも通報されることなく済んだ。
………僕は『
力の使い所を誤れば、ヴィランになりかねない。僕の力は、自分がどう思っていようと強力なものだ。オールマイトが僕にOFA以外を使うなと言ったのは、もしかするとそれを恐れていたのかもしれない。
散々と降り注ぐ星明かりだけの暗闇で、かっちゃんの腕が動いて目元を覆った。
「………………負けちまったのか、俺は」
「………起きたようだから。僕はもう帰るよ」
「待ってんじゃねークソ雑魚金魚のフンが」
雑魚なのか金魚なのかわかんないよそれじゃ。あとどっちも汚い。………にしても随分と元気だ。
「クソが。………俺に勝っていい気になったかよ。俺にとってお前は、ただの道端の小石だったろーが」
そんな風に思ってたのかよ。ひっでーなあ。
「そっか。でも、良い気分なんかじゃない」
「ああ?」
………良い気になんて、なれていない。全て『
むしろ突き付けられた。才能の差を。
「かっちゃんは凄いよ………」
「嫌味かてめえ!!」
「違うよ! ………ホントに、本気でそう思ってる。やっぱりかっちゃんは天才だって。凄いよ」
あんな動き。中学3年生に出来るか、普通。空中機動も、遠慮のなさも。それでいて怪我をさせない見極め。繊細な力加減。自分の事を知り尽くして尚、一秒一秒常に前へ、進化しようとする絶え間ない向上心。言動と人相の悪さを除けば、本当に誰よりもヒーローになるべき天才だ。
ずっと、ずっと羨ましかった。才能にも、個性にも恵まれたかっちゃんが。
「………借り物だとか言うんじゃねーだろうな」
「え?」
「俺はお前に負けた。それは変わらねーだろうが。借り物ばっか使って、自分の力じゃないって言うお前に負けた俺はどうなる? どうしたらいい。………お前自身の力だろ。じゃなきゃ、俺は誰を超えたらいいッ―――!」
はっとした。かっちゃんらしい凄い自分勝手な理屈だけど………でも、一理ある。
言い訳だ。『
助けられなかった時、誰かの個性の所為にするのだろうか。………しちゃいけないだろ。
「ごめん、かっちゃん」
「謝んじゃねー殺すぞ。………もういい。先帰れや」
「わかった。………あの」
「………っ。んだよ」
ありがとう、と。言いかけた。でも言ったら絶対怒るだろうと思ってやめた。
でも、気づかせてくれて感謝してる。気付けなかったら最高のヒーローになんて、なれなかった。
「………。いや、なんでもないよ。痛くしてごめんね」
「喧嘩売ってんのかテメーは!?」
これだけ元気なら大丈夫だ。うん、帰ろう。
少し晴れやかだ。ずっと感じてたかっちゃんとの
「………。痛くなったら病院行きなよ!!」
「余計なお世話だてめえ!!」
ちょっと心配だった。
□-□-□
ちくしょう。負けちまった。一瞬でも、絶対に敵わないと思ってしまった。
ちくしょう。次は負けねえ。絶対に負けてやるものか。
「ぐそ………ぢぐじょう゛………!!」
こんな姿あいつに見せるわけにはいかない。
―――この日、道端の小石は岩壁へ。
乗り越えなきゃいけない、余りにも大きい踏み台へ変わった。
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13話
「出久! ティッシュ持った!?」
「うん」
「ハンカチも!? ハンカチは!? ケチーフ!」
「うん!! 持ったよ!」
例の『回眠』で元気いっぱい。早朝の鍛錬もきっちりこなした。でも遅刻しそうだ。昼寝しなきゃよかった!!
「出久!」
「なァにィ!!?」
つい、大声出してしまった。母さん、ちょっと心配性が過ぎる!!
「超カッコいいよ」
………! へへ。ちょっと照れくさいや。
「行ってきます!」
体力も元気も有り余ってる。今なら何も使わなくても100メートル9秒切れそう。でも流石に電車に乗らないほど早いわけじゃない。スピード系の個性、使う訳にもいかないし。
ともかく急ごう。入学式早々遅刻なんて目も当てらんない!
雄英の校門をくぐり、何もかも馬鹿デカい校舎の中へ。広すぎる校内を把握するのには時間がかかりそうだ。
まず、目的の教室1-Aまでが遠すぎる。校内で迷って遅刻、なんてことになりかねない。ホントに笑えないぞ。
………でも未だ夢見心地だ。自然と浮足立ってしまう。この場所に足を踏み入れ、生徒として通う事が出来るようになるなんて。憧れのオールマイトの母校―――雄英高校。
推薦入試4名、一般入試の定員36名。毎年300を超える倍率を超える、その正体。校舎と同じく馬鹿デカかった校門に対して、ありえないほどの狭き門。その門戸を抜けた36名の中でも、僕が成績1位でこの場にいるなんて、ちょっと前までの僕なら夢にも思わなかった。
遅咲きの『個性』には色々と思うところはあるけど。………オールマイトに出会えて、ちょっとした誤解はあったけど、その人から認められたことを考えたら………。少しはこの『
顔がにやけるのが止まらない。そうだよ、僕。雄英に入学できたんだ!
中学のクラスメイト達には入学したこと自体信じてもらえず、不正まで疑われたけど。いやいや、天下の雄英で不正なんかできるわけないだろって話。笑ってお茶を濁したっけか。
まあみんなも信じられなかったんだろう。自分と同じく。
あれ以来かっちゃんも突っかかって来なくなった所為で信憑性を帯びたからか、それ以上話題に挙がることは無くなってた。
1-A、1-A………っとあった。かー! やっぱりドアでっか!
異形型の『個性』を持っている人もいるし、バリアフリーの為なのはわかるけど! 大きい!
そっと重そうな見た目の割に軽かったドアを引き、顔だけ突っ込んで中を覗いてみる。
「机に脚をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「おもわねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」
んんん!!! ツートップぅ!!
いや外から全然聞こえなかったけど、多分結構前から言い合ってたよね二人とも。教室の遮音性高いな。
「ぼ、俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明ぃ~~~!? くそエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそうだなあ!」
「君ひどいな、本当にヒーロー志望か!?」
ごめんね、その人それがデフォだから。あとホントにヒーロー志望です。柄悪いけど。
と、何だか申し訳なく思っていると彼と目が合う。スススとこちらに近づいてきた。
「俺は私立聡明中学の………」
「聞いてたよ! えっと。僕、緑谷。よろしく飯田君」
初対面、って訳じゃないけど。むしろちょっと印象悪かった気もするし、中々話しかけ辛いと思うんだ。物怖じしないなぁ、飯田君。
「緑谷君………―――すまなかった!」
「へ?」
バッと頭を下げる飯田君に思わず肩が跳ね上がった。
「君はあの実技試験の構造に気づいていただけでなく、試験開始の時、油断なく試験の開始を待っていたのだろう。でないと真っ先に動くことなんて出来なかったはずだ。………見誤っていたよ。俺は気づけなかった!! 悔しいが君の方が一枚も二枚も上手だったようだ! 」
いや、うん。ごめん! 気づいてなかったし、実際にあの子に一言お礼言っとこうとしてた。飯田君の勘違いだ。………訂正できる気がしないな。
「あ、そのモサモサ頭は!」
後ろから声をかけられて驚く。
「地味目の!」
噂をすればなんとやら、振り返ると例の良い人がいた。制服姿やっべええ!! 眩しいいい!!
「プレゼントマイクの言ってた通り受かってたんだってね!! そりゃそうだ、パンチ凄かったもん!」
「いや! あの、ホント………! あなたの直談判のおかげで僕は、その」
「へ? 何で知ってんの?」
それだけじゃなく、色々と。
「ホントにあの時は助けられてばかりで………」
「え、いやいやいや! 私だって助けてもらったもん! お互い様!」
「~~~!!!」
かー!! 笑顔が! ま、眩しいぃ!!
ただでさえまともに顔見れないのに、後光でも差してるんじゃないかな!?(差してない)
パーソナルスペースが狭いのからなのか、わからないけど距離感が近い。
「今日って式とかガイダンスだけなんかな」
ち、近い!!
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。―――ここは、ヒーロー科だぞ」
冷や水を浴びせられたように、興奮も熱も一瞬で冷めてった。
―――場所を移し、運動場。
雄英にしては
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間無いよ」
ばっさり言い切られ、とりつく島はない………いや、当たり前だ。相手は教師、すなわちプロヒーロー。議論の余地はなかったか。恩人の彼女は期待してたらしいからちょっと残念そうだ。
「雄英は『自由』な校風が売り文句。そしてそれは『先生側』もまた然り」
そう前置きして例を挙げていくのは中学でもあった体力テストの数々。唯一、本当の意味で無個性だったころの僕でも皆と肩を並べられていた体育の行事。
「中学の頃からやっているだろ? 個性禁止の学力テスト。………国は未だ画一的な記録をとって、平均を作り続けている。まあ文部科学省の怠慢だよ」
超常が日常のこの世界で、日本はその治安の良さと対比して、個性に対する世間の目は厳しいからなぁ。それでも頻発する個性犯罪はやっぱり根の深いものなんだろう。
「おい、緑谷。緑谷出久。聞いてるのか」
「は、はい!? 」
「前へ出ろ。中学の時のソフトーボール投げ何
「えっと………54、です」
呼ばれるとは思ってなかったからビックリした。
ヒーローになりたいと嘯いていた割には地力を鍛えてなかったから最後、かっちゃんには及ばなかった。確か67だったか。
「じゃあ『個性』を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」
先生の視線が鋭く刺さってくる。
「………思いっきりな」
―――と言われても。
「あの………個性、発動しないのですが」
「何やってんだ、さっさとしろクソデク!」
どうしたんだ。何が起こっていますの。今日初めて会ったばかりのクラスメイト達からもそんな戸惑いの声が聞こえてくる。
「………。忠告が遅れた。今個性を消している。思いっきりやれとは言ったが、入試の時のような大きな力は使うな。力の使いどきがわからないわけではないと思うが一応な」
「個性を消した………? あのゴーグル、そうか………!?」
―――視ただけで人の個性を抹消する『個性』。僕も、間近に見れることはなかった、表舞台にはあまり出てこないアングラ系ヒーロー、イレイザーヘッド!
知っている人は他にもいるようで、みんなも初対面からわからなかった先生の正体に興奮冷めやらない様子だ。
「調整が利くのなら、その限界までだ。お前の力は単純にして明快。強力で出来ることは多いのだろうが、木偶の坊になって助けてもらうようではヒーロー失格だ」
「わかり、ました!」
当たり前だ。確かに、入試の最後、僕は浅慮にもやらかした。結局助けるつもりが助けられちゃったし。でも後悔は微塵もしてない。けど確かに、まだ僕はオールマイトのようにはできないんだ。
「以上だ。
………でも、これって誤解されてないだろうか。使えるのは『ワン・フォー・オール』―――身体強化だけだと思われている?
学校に提出する個性届には『
まあ、でもとにかく。………やるからには僕の全力を。オールマイトには「人に向かって使っちゃいけない」と言われてるけど、別に人に向けて使うわけじゃないし。
―――弾は計測用のソフトボール。耐久性は不明だけど、多分かっちゃんの爆撃にも耐える。大丈夫。砲身は『ヘドロ』………だけじゃ駄目かな。一応『ゴム』も付与して衝撃を一点に集中させて念の為爆発が直接当たらないようこの前とは形状を変更砲尾を丸形に理科で使うフラスコみたいにして丸の部分に弁『多湿多汗』で汗の精製ただえさえ乾きやすい運動場の空気がカラカラに―――
「あいつ、何して―――なにやってんだ………?」
「腕が………」
―――よし。充填完了。これは計測だ。威力は必要ない。ダメ押しに新しく使えるようになった個性で、ボールにかかる
「Victor Canon!!」
またの名をかっちゃん砲・改!
Booooom―――Baaaan!!
手元の二回りは大きく膨れ上がった爆破の音を置き去りにして弾は射出。計測用のソフトボールは音速を超えて、雲を破り、空の遙か彼方へ。
顔に当たらないよう腕から熱を排出し、元の自分の手に戻す。いつか人の姿に戻れなくなるんじゃないかと考えたことはあるけど、不思議と不安自体はない。色々と考察は重ねてきたけど、僕のこれは変身の個性ではないんだと思う。円から出るとみんなポカンとした表情で空を見上げてる。
少し驚いたように、唯一イレイザーヘッド―――相澤先生だけは手元の計器を見る。
「(PiPi―――)………測定不能、ね。壊れたか、電波から外れてしまったか。………まあいい。お前の個性について聞きたいことが出来た。差し当たって今この場では聞かないが、後ほど説明をするように」
「はい、わかりました。一応、あれが僕の今出せる
「………列に戻れ」
咄嗟のことだけど思うようにできた。少し誇らしくして列に戻ろうとすると、クラスメイト達の放心状態が解けたようだ。
「うおお! すっっげええええ!! なんだあれ! なんだあれ!?」
「ど、どういう『個性』ですの!? 私の『創造』とは違うようですけど! 今、あの方は何をされたんですの!?」
「す、すごい! すごい! あんなことも出来たんだ、緑谷君!」
どういう『個性』なのか、はたまた、何が起きたのか。怒号のように、みんなが口々に言い始める。急に体力テストになってしまって自己紹介のできなかった、制服姿の眩しいあの良い人も驚いていた。
事情を知るかっちゃんの方を見ると、間抜け面晒していたようで、目が合ったら滅茶苦茶険しい顔になってあ、唾吐いた! いくらグランドだからって汚いなぁかっちゃん。
「………おかしいな。入試の時に使っていたのは明らかに違う『個性』じゃないか。まるでオールマイトのような超パワーで0Pヴィランを倒していたのに」
「………それどういうこった」
「あ、私も見てたよ! こう、跳びあがって、バコーンって! いやぁ、アレもすごかったけど、今日のも凄いよね!」
「あ!? おい、クソデクゥ! てめェ、やっぱし手ェ抜いてやがったな!?」
「ひっ、かっちゃん怪我しちゃうから使わなかったんだよ! そんな怒んないでよ!」
「怒っとらんわ!」
わいわい、きゃいきゃい。皆の緊張が解れたようで、ちょっとは頑張ってみた意味があったのかもしれないと安堵する。やり過ぎたかとちょっと心配でもあった。
「にっしても
「面白そう、か―――ヒーローになる三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
『!?!?』
誰もが思い、誰かが言ったその言葉に、近づいてきていた相澤先生が言ったその一言で、シンと静まり返る。緊張が走る。
「よし、トータル成績最下位のものは見込み無しと判断し―――除籍処分としよう」
なんだ、それは。
『はあああ!?』
「生徒の
―――雄英高校ヒーロー科だ。
……狭き門は、潜り抜けただけでは終わらない。
入学初日の大試練は、容赦なく僕たちを
一年経ちそう。めっちゃお久しぶりです。難産でした。
感想レス
前回はミッドナイトも大歓喜間違いなしだったようで、一安心。
いい加減草葉の陰の物間君が窒息死しかけてますが、うん。何も問題はなさそうなので続行です。もう死んでるじゃんとか言わない。
今更ですが、『学習』したOFAが使えなかったのは、どうして? というご質問をいただきました。
そういや物間君、原作『No.214 ぼくらの大乱戦』で使えなかったよね、君。まあ、明言は避けます。
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14話
どうぞご了承ください。
6/2 本文修正
個性使用無制限の体力テスト―――個性把握テストは8種目。
先ほど僕が実演したソフトボール投げに、立ち幅跳び。50m走。持久走。握力。反復横跳び。上体起こし。そして長座体前屈。これがただ、計測して「はい、終わり」ならどれだけ良かっただろう。
―――成績が悪い生徒は、除籍。容赦なく、この中の誰かは1-Aから追い出されてしまう。
きっと、この場の誰もが、努力してこの場に居て。少なくとも僕は文字通り、血と汗の滲むような鍛錬の果てにこの場に立っている。
「入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくても………理不尽すぎる!!」
恩人の子も、相澤先生に対して思うところはあるようで、それはこの場に居る誰もが思うことの代弁だった。
本当に、つい愚痴りそうになるくらいの理不尽―――でも。
「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン達………いつ、どこから来るかわからない厄災。日本だけにいえたことではないが、理不尽にまみれている」
―――そうなんだ。誰も、彼も、待ってくれはしない。
「そういう
さらに向こうへ―――
土壇場の緊張の中で、成果を出す。でも、今日のこれには自分の、誰かの命が掛かっているわけでもない。
成績最下位除籍―――僕たち生徒がやる気になって取り組むには、十分すぎる脅しだった。
第1種目:50m走
OFAを使用した僕が2秒56、次いで飯田君が3秒04の好タイム。あの個性は『エンジン』だろうか。インゲニウムの個性に似ている。何を燃料にしているのかわからないし、まだ使えそうになかったけど良い『個性』だ。隣を走ったかっちゃんが3秒05と悔しそうにしてた。殴られそうになった。
第2種目:握力テスト
1位はデメリットの少ない強化系個性と、最近できるようになったOFAの同時使用で僕。2位はポニーテールの女子。万力らしきもので数値を稼いでいた。さっきの50m走でもそうだったけど個性は『創造』かな。あんまり見れなかったけど。男子には刺激が強すぎた。最下位除籍を忘れるくらいには衝撃的だった。周りの女子から止められて、次は無いと思うので一安心。タコみたいに3対の腕がある男子も520Kgと、人間の出していい数値じゃなかったけど。耳たぶがイヤホンジャックになってる女子も結構健闘してた。『怪力』使ってたら危なかった。
第3種目:立ち幅跳び
1位、僕。『爆破』で空飛んで、翼出して滑空したりしてなんとかもぎ取った。かっちゃんに追いかけまわされそうになったけど、相澤先生に止められていた。『爆破』で空を飛べるかっちゃん(もう使いこなしてる………)だったり、恩人のあの子(多分名前は麗日さん)だったりと好成績を残してた。吐きそうにしてたけど。意外とヘソからビーム撃ってたキラキラした男子も中々の好成績。お腹痛そうにしてたけど。
第4種目:反復横跳び
色々と試行錯誤して2位に落ち着いた僕。なんだあれ、峰田君って言ったかな。残像が出来る程だった。………ちょっとよくわかんないけど、髪の毛もいで、くっついたり、弾いたり? 要考察。この種目は個性を生かせる人が少なかった。中学の頃から記録が格段に伸びたらしいのは峰田君ぐらいで、他の人たちはあまり伸びなかったようだ。
第5種目:ボール投げ
デモンストレーションも回数に含まれるとかいう理不尽を与えられたけど、僕が1位。次いで無限の麗日さん。僕もだったけどあれくらいなら全然余裕らしい。ポニテの子も大砲創って打ち出してたり、かっちゃんが爆風に乗せてかっ飛ばしてたり、結構これは個性を活用できる人が多かった。
第6種目:上体起こし
僕と隣でやってた尻尾の生えた男子が接戦。久々に腹筋がクッソ痛いくらい頑張った。その甲斐あって僅差で1位。尾白君って言うらしい。女子でもかなり健闘している人が多かった。まあ、雄英に入ろうって言うんだから鍛えてる人が多いのも頷ける。でも男子は半分くらいが集中できてない人が多かったようだ。………男女一緒に運動場でやるのが悪い。足を押さえる側になってわかった事だけど、目の毒過ぎる。
第7種目:長座体前屈
蛙っぽい女子が2位。『ゴム』を使って僕は1位だったけど、いい加減みんなの目がとんでもないモノを見るような目になってきた。………そろそろ自重しようかと魔がさした。けど全力でやるって決めたからには、最後まで全力でやるつもりだ。あと、かっちゃんの『手ェ抜いたら殺す』って視線による圧が凄い。
第8種目:持久走
最後、「負けませんわ!」と自己紹介と一緒に宣戦布告してきた八百万さんが、単車って言うんだっけか。小型のバイクを創造して1位に。あれはずるい、と言いたくなったけど、改めて思えば僕も大概おかしかったか。バイクのすぐ後ろを追っかけて走ってたから。時速60キロぐらい出てたんじゃないかと思う。
―――全ての競技が終わった。
相澤先生的には「合理的でない」と判断されるのだろうけど、体力テストの時間内で交流を深めた人たちも多かったようだ。なんとなく相澤先生の性格も掴めてきた。
「結果の集計が終わった。んじゃ、パパっと結果発表」
………他のみんなもそうだろう。けど、この中から一人、此処から去らなければならない。成績上位に居る自信はある。けど他の人は。
「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
成績がホログラムで表示されたのは一瞬だった。1秒、2秒。みんなが自分の名前を探し、殆どの人が安堵し、一人だけ青ざめた顔色に変わった。みんながその名前の主を見る。
「ちなみに、除籍はウソな」
『!?』
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
『はあああああああ!?』
なんてことのない言い方で相澤先生が言った。発していた言葉はそう多くない。けど先生の性格的にもしかしたらと、思ってはいた。いまいち確証に乏しかったから本当だと思いながら受けていたけど。………まさか、本当に嘘だったとは。
殆どの人が本気にしていた。麗日さんも、飯田君も。なんてことはなさそうだけど、かっちゃんも「やりかねない」とは思っていただろう。
「あんなのウソに決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ………1位は逃してしまったのが残念ですが。悔しいですわね………」
確かに、ちょっと冷静になって考えれば、そんな不条理が通じて堪るか、という判断になるだろう。
けど、あの凄味には本当にやりかねない意思を感じた。だから判断に困ったんだけど。流石はヒーローということだろうか。ハッタリも上手い。
「そゆこと。これにて終わりだ。………教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。明日からもっと過酷な試練目白押しだ。………それと、放課後マックをするなとは言わないが、支障のないようにな」
………その男子は最下位にいる自分の名前を見つけて顔色を真っ青にして、見た目そのまま葡萄みたいになって、今は生気の抜けたようになっていた。
やがて、血色はよくなっていき。
「ふっざけんなああああああ!!」
―――峰田実、心からの叫び。
□-□-□
少年の能力に不安は無かった。
「相澤君のウソつき!」
自分にとって後継者を持つことは最初で最後だ。親が子を思うような心配は拭えず、こうして相澤がこちらに来るまでじっと見ていた。
「オールマイトさん。見てたんですね………暇なんですか?」
「『合理的虚偽』て!! エイプリルフールは1週間前に終わってるぜ」
今年から同僚になった彼の担任、相澤消太。ヒーロー名、イレイザーヘッド。彼の除籍指導数は100を超える。
合理的虚偽でもなんでもなく、彼は容赦なくこれまで生徒たちを『除籍』してきた。少なくとも、先ほどまで見てきた書類ではそうなっている。
「いやあ、見ていてヒヤヒヤしたよ。峰田少年も災難だったろうに。特筆して何かできていなければ、容赦なく除籍してただろ、君って男は!」
「今年赴任したばかりだというのに、俺の事をよくご存知のようで。半端に夢を追わせるほど、残酷なものはありませんよ」
うーん、やはり馬が合わない。しかし、聞かなければ。
緑谷少年の個性は『
―――『覚えた個性を使えるようになる個性』と。
まるで巫山戯ているかのような能力。サイドキックの履歴書なら一蹴され、落されるような内容。
緑谷少年は、その冗談のような内容で、個性届けの提出は行なっていた。………そんな生徒は除籍されても然るべき、と担任になった彼なら考えるかもしれない。そんな不安が募った。
まぁ、杞憂に終わったわけだが。
実際に見ても想像の範疇を超える。虚偽の申告をしているわけではない。
しかしあの個性は規格外を知る者でないと理解が中々及ばない。かつてあった
「で、どうだったい。君の目から見たNo.1の彼は!」
ただ相澤は『視ただけで人の個性を抹消する個性』なんて、能力だけで見れば、反則的なものを持っている。テストを通じて察しはついた筈だ。
「どうって………何をするかわかったものではありませんね。片腕を犠牲に、入試の時の超パワーを使うと思いきや、まったく違う力を使って見せた。てっきりパワー系蓄積型の個性かと思っていたんですがね。個性届けのあれが冗談でないとなると、何の皮肉かと。生徒たちに強めの発破をかけて、釘を刺しとくつもりが失敗しましたし………愚痴っぽくなりました。すんません。結論を言えば、あれをそういう『個性』と割り切るには、あまりにも無理がある。………正直、危険と言わざるを得ませんね」
「私もまるで同じことを思ったよ、相澤君。………けど、彼は此処に来た。ヒーローになるために。彼の境遇を考えれば、ヴィランになっていた可能性だって十分にあった。だけど、ヒーローの道を選んだ彼の意思には揺るぎないものを感じないかい?」
「わかっていますよ。これでも俺らは教育者ですから。道を誤りそうになったら、全力で止めます」
「………そうかい、それを聞いて安心したよ」
「あなたもその一員でしょうに………」
「HAHAHA!! 確かにそうだった!」」
見た目こそ教師からはかけ離れているように見えていたが。その気の持ちようは生徒を受け持つ先生そのものだ。
頼もしい。後継者の育成を考え、自分も何かしら気負っていったのだろう。肩の荷が少し降りたような気がしてくる。
「ああ、それと。一応、新任のオールマイト先生に言うのもなんですが。あの爆豪と緑谷が巻き込まれた事件で知り合ったのかどうか、俺にはわかりませんが。自分と同じようなヒーローの卵を見つけたからと、一人の生徒に肩入れするのは教師としてどうかと思いますよ」
「ギクゥ………!」
相澤は「じゃ、まだ仕事あるんで」と去って行く。
やっぱり合わないなぁ、としみじみと思った。
□-□-□
更衣室で着替えているとそわそわと、皆が個性について話を聞きたそうにしていた。
話しかけてきた切島君に、「教室に着いたら話すよ」と言ってその場での話を切り上げ。いざ着替えて教室に帰ろうと思ったら、相澤先生に放送で呼びだされて職員室に。
僕の個性の件での呼び出しだった。
在籍する先生の殆どは今も活躍するプロヒーロー。ブラドキング、ミッドナイト、セメントスにエクトプラズム。今いる先生だけでも、有名どころばかり。
改めて生で、それもこんな身近でヒーローに会えて良いものかと、ドキドキしっぱなしだった。
でもついて早々に移動。生徒指導室らしき部屋で個性の詳細や発動条件を聞かれ、深いため息と、被服控除申請についてしなくて良いのかと質問された。
最終的には僕自身の髪の毛から作れる繊維でコスチュームを作ってもらうつもりだが。コスチュームは消耗品でもあるし、使えなくなるまでは、自前で用意しているものを使うつもりでいる。
その旨を伝えると、先生は目を瞑って考え込み、「わかった」と一言だけ。何か怒られるわけでもなく、それで終わった。
生徒指導室を出て、名残惜しさを感じながら職員室を後にする。
―――時間にすれば大した時間ではなかったけど、長く感じた。
そもそも授業時間の短い日。話を聞かせてくれって言ってたけどみんなもう帰ってるだろうなと思ってたら、飯田君と麗日さんが教室の前の廊下で待っていた。
「待っていたぞ、緑谷君!」
「あ、お帰りー! 入学初日から職員室に呼び出しだなんて穏やかじゃないよねー! えっと、私は『麗日お茶子』! 確か名前は、緑谷………デク君! だよね!!」
「デク!?」
ま、まさかそんな急に悪口を言われるとは思ってなかった―――!
「え、だってテストの時爆豪って人が『おいこらクソデクてめェー!!』って言ってたから。流石にクソデクは違うと思ったんだけど………もしかして違った!?」
かっちゃあああんんんん!!
「あ、あの本名は
「蔑称か………」
「え―――!! そうなんだ!! ごめん!」
許せる。うん。別に、怒っても無いしね!
「でも、『デク』って『頑張れ!!』って感じで。なんか好きだ、私!」
「デクです!」
「緑谷君!! 浅いぞ! 蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回………」
もうデクがいい。180度変わってしまった。
「コぺ? えっとー、じゃあデク君で良いのかな。よろしくね、デク君!」
こんな風に二人が笑いかけてくれるとあの頃が嘘のようだ。………僕が僕であるってだけで、ヒーロー志す想いも否定され、笑われていた中学時代を思い出す。
―――頑張らなきゃいけない。出来ることを増やしていかないといけない。
でも、オールマイト。
今は二人も友達ができたこと、喜んでも良いですよね。
「あ、そうだ。デク君、みんなって訳じゃないけど、教室で待ってるんだった!」
思い出したかのように、麗日さんが言った。え、他にも人いるの?
「うむ、話を聞きたいのだろう。かく言う俺もそうだからな!」
「私もー! 凄かったよねぇ! 色んなこと出来て!」
「いや、そんな!」
飯田君が引き戸を開けると、教室の中にほとんどの人がそろっている。
「おう、待ってたぜ! 詳しく話聞かせてくれよ! ついでに自己紹介もな! さっきもしたけど『切島鋭児郎』な! よろしく!」
「え………あ、緑谷! 緑谷出久、です」
「いやー凄かったぜ唖然ボー然ってやつ。俺は『瀬呂範太』。よろしく!」
「俺、『上鳴電気』! 結局、緑谷の個性って何なんだよ! このままじゃ気になって夜しか眠れねえ!」
「いや夜寝れたらいいだろ」
「教えてください! 私も気になりますの! 納得いきませんもの! このままだと悔しくて夜も眠れませんわ!」
「だから夜寝れたらってうぉい! 八百万さんか! てか上鳴と違って寝れないのね! ごめんね!」
わっと集まってくるクラスメイト達。名前と顔を覚えるのには自信はあるけど、流石にここまで一気に話しかけられると………!
「デク君人気者やねー!」
てんやわんやになるのを見て麗日さんが呑気にいうけど。そう、かな。人生で初めての経験でわかんなかったけど、麗日さんが言うんなら、今のこの状況はそう言うんだろう。
いったん深呼吸して、整理する。まず何から話そうか。
「えっと、さっき相澤先生にも話したんだけど………―――」
個性について話した。相沢先生との面談の焼き直しになるけど他人の個性を覚えて使う事の出来る個性。今使える個性と、今日使った個性を話していく。
一通り話し終えると反則的、あるいはずるいと皆から口をそろえて言われた。
少し、心配だったんだ。この個性が芽生えて、何時からか考え始めたこと。他人の個性を使えると言う事は、その人にとって気持ちの良いことなのか。
覚えるだけだったらまだいい。でも、それを人前で使うとなれば。
自分は無個性だったから、そうでもないけど、他の人はどうなんだろうと。
隣にいる麗日さんや飯田君は手放しで凄い凄いと言ってくれている。そして、この場に居るみんなも。反則的だと、言っているけど、その言葉の裏に悪意は感じない。概ね好意的に思ってくれてはいるようだ。
「じゃあ、緑谷に教えよっか? 私の個性も」
「いいねえ! 組手の相手してくれよ、緑谷! 俺の『硬化』といざ尋常に勝負、ってな!」
「あ、あの、さっきも言ったけど、オリジナルの個性にくらべたら全然使いこなせないから………!」
「でも、使える使えない、で言ったら使えた方が良いんじゃない? 使いこなせないって言っても、今日の個性把握テストでもかなり使いこなしてたし!」
男子の切島君だけでなく、耳郎さんや、芦戸さんがそう言ってくれる。他人の、今日あったばかりのクラスメイト達からこんなに優しくされるなんて思っていなかった。
「おい緑谷何泣いてんだよ、急にどうした!?」
「え、緑谷泣いてるの!?」
思わず、嬉し涙が。
「ひとに、こんなにも優しくされたことあんまりなくって………!」
涙が止まってからもしばらく生暖かい目で見られた。
―――雄英高校、登校初日。一部の人を除いて、個性を教えてもらえる約束ができた。
THE・補足!
最後クラスに居なかった若干名は、既にデクの個性について知ってるかっちゃんと、現在進行形で尖ってる轟です。どっちも「なれ合うつもりはねぇ」と思ってるようだぞ! 案外似た者同士!
と、これで終わりたかったのですが前回、
「なんで相澤先生口で注意しないの、馬鹿なの? 阿保なの? s」
というご指摘をいただきました。
わかりにくくて本当に申し訳ありません。
もちろん、相澤先生も考えあっての事です。インパクト、あるいはギャップを求めての事だったのです。ムリすんなよ………と。決して、デクの個性消してマウントとりに行っただけではないのです。
このような補足が最後になるよう、もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい小説になるよう頑張ります。あああああああ!!
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15話
机の明かりの下、カキカキとノートに書きこんでいく。
―――かっちゃんを止めていた時の手の動き、力のかかり方。その生き物のように動く捕縛術は、ちょっと真似したくなる格好良さ。異形系のヴィランでも一切の動きを止められてしまうような特殊繊維なのはわかるけど、どんな材質なのかは流石に視ただけではわからない。
「んんんー………はあ」
―――と、ここまで書いてペンを置き、丸めていた背中を伸ばした。
今日は驚きの連続だったなあ。まさかイレイザーヘッドが担任になるとは、思いもしなかった。
発動系個性持ちのヴィランに対して滅法強く、また、能力の効きづらい異形系ヴィラン相手にも、怯むことなく得意の捕縛術で無力化する。
―――アングラ系ヒーローイレイザーヘッド。
アンダーグラウンド。表にあまり出てこないヒーローたちは他にも存在しているけど、彼、いや、相澤先生は特にメディアへの露出が少ない。嫌っていると言ってもいいぐらいに。
………だから今日、直接見て、知ることが出来てよかった。
能力の発動条件。大まかに言えば色々と出来るとしか言いようのない僕の『個性』だけど、テレビ越しでは何故か覚えることが出来ないのが欠点。
そして、ただでさえメディアを嫌う相澤先生。その捕物を実際に見た、という人もネットじゃ少ないぐらいで、今までその
「でも、自分で使えてるかわからないな」
何か力を使っている感覚はある。けど、これがそうなのか、どうなのか。眼を介する発動系の個性。この超常時代、今じゃ廃れつつあるファンタジー的な表現をすれば魔眼。相澤先生の『抹消』や読んで字の如く『千里眼』のような個性の類い。手や足を使わず、特別な動作を必要としないという意味では使い勝手の良い個性だろう。
でもわからない。
僕の
けど自分へ使っても効力が無い。神話のメドゥーサの伝承を真似て鏡と相対してもダメだった。異形系の『ヘドロ』も『ゴム』も、発動系も全然使える。フグや毒蛇みたいに、有毒生物が自分の毒で死なないのと同じ理由かもしれない。
感覚の問題だから本当のところは定かじゃない。あえて専門用語で言うなら個性因子の停止、といったところだろうか。
完全な対人対発動系の個性。素で頑健な相手には意味をなさないだろう。もし、相澤先生が雄英出身で、その当時も同じ入試の実技試験だとしたらかなりの苦労があったんじゃないだろうか。
生身の脆さを補うための捕縛術だとしたら、ナチュラルボーンヒーローのオールマイトとは真反対。人一倍の努力をしないとプロヒーローにはなれていないだろう。
―――気がつけばまたノートに向かって、ペンを握っていた。
「ふー………わ、もう12時だっ」
急いでベッドにもぐりこむ。今日出会ったクラスメイトたちの考察とまとめを行い、イレイザーヘッドの情報を更新していたらもうこんな時間になってしまった。
もう今日だけど。明日から初の授業。出鼻を挫かれたような1日だったけど、流石に明日は急にテストなんて言われない、と思う。
ああ、楽しみだ。
―――興奮は抑えられず、1時間くらい寝れなかった。
□-□-□
翌日。
雄英も結構普通の授業するんだな、とプレゼント・マイクの流暢な英語を聞きながら思った午前中も一通り終わり。
お昼には一流の料理人でもあるクックヒーロー『ランチラッシュ』の料理を安価でいただける! なんて、畏れ多さと食への感謝と、白米の美味しさに興奮鳴りやまず。ごちそうさまでした!
………そして、午後の授業―――いよいよ、待ちに待ったヒーロー基礎学!!
「―――わーたーしーがー!!」
っ! 来た!
「普通にドアから来た!!」
普通に高笑いしながら来た―――!!
「オールマイトだ………! すげぇや、本当に先生やってるんだな!!」
「
わかる。
ていうか、やっぱりみんなオールマイトのファンなんだなって改めて実感する。目に見える範囲で、目の輝いてない人はいない。生のオールマイトはやっぱり迫力が違う!
でも、こんな………こうしてみんなが憧れる平和の象徴か。実感わかないな、僕がその後を継ごうとしてるなんて。
こんな懸念、過去のオールマイトにはあったのだろうか。ざわざわとしている教室をなんのその。緊張なんて知ったことかと鼻歌交じりに、教壇の前に立つオールマイトの姿からは微塵も感じない。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ! 単位数も最も多い! 早速だが、今日はコレ! 戦闘訓練!!」
オールマイトが何処からともなく「BATTLE」とかかれたプレートを取り出して掲げる。
でも、戦闘訓練。戦闘訓練かぁ………。後ろからでもわかるくらい、かっちゃんもやる気満々だ。
「そして、そいつに伴って、こちら!!」
!? 教室の側面がせり出して来る!
「入学前に送ってもらった『個性届』と要望に沿ってあつらえた………
「「「「おおお!!!!」」」」
「コスチューム………」
あそこに、自分のコスチュームはない。自前の………母さんが作ってくれたものが、ここにある。
いつかヒーローになることを夢想して書いた、僕自身のコスチュームの落書き。それを見た母さんは態々材料を買い集めて作ってくれた。―――ついに、これに袖を通す時が来たんだ。
諦めてしまったことへの罪滅ぼしかもしれない。けど手放し全力で応援すると、あの心配性な母さんが言ってくれた。その期待は裏切りたくない!
「恰好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女! 自覚するのだ、今日から自分は―――ヒーローなんだと!!」
そう締めくくり、オールマイトは高笑いしながら先に教室を出ていった。………活動限界があるから、ちょっとでも時間の節約をしたいのか。激しい動きをしなければマッスルフォームって結構持つって言ってたから。
そんな自分しかわからないことを考えつつ、みんながコスチュームを取るのを待ってから移動を開始する。
着替えを終えて、グラウンド・βに移動。
「―――始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」
そんな声が遅れて入った自分の耳に入ってくる。辺りを見渡すと、ヒーローさながらのクラスメイト達が居た。
着替えてる最中も思ったけど、やっぱりみんなの
目出し帽を改造してつけてもらったオールマイトを意識した飾りは、中々難しかったと母さんが自慢していた。
最新鋭でなくてもいい、母さんの気持ちだ。これを着ずして何を着る。そう、思ってはいるんだけど。
こうしてざっと見ただけでも、みんな立派なコスだ! カッケェー! プロがデザインしただけあって、機能性や美的センスも本人とマッチしている!
どうせ個性届け出したんだし、注文しとけばよかったかなあ………
「あ、デクくん!? かっこいいね! 地に足ついた感じ!」
そんな後悔をしかけたけどそんなものなかった。ありがとう麗日さ―――
「うおお………!!」
え、えええエッッッ!
「要望ちゃんと書けばよかったよ。パツパツスーツんなった。はずかしい………」
半透明のメットにパツパツスーツ。宇宙服のような意匠の
「ヒーロー科最高」
「ぅええ!?」
見とれてしまっていたけど、ススと近寄ってきた峰田君の言葉を聞いて正気に戻る。ちょっと魅力的過ぎたからって不躾に見過ぎだぞ僕!
これ以上見てたら峰田君を見るような目で見られていたに違いない。
女子のコスチューム姿に目移りしている峰田君。………昨日の個性把握テストの最中、遠慮することなく女子たちの測定をガン見していた彼。結果発表の際、さすがにその時は皆が除籍かと哀れな視線を向けたけど。
「こんなにレベル高い女子揃ってるのに本当に除籍かと思ったじゃねぇかよぉおおお!!」
と、下心を隠さず絶叫する姿に一転、みんなの視線が冷めたものになった。でもあれで少し、入試の時のようなギスギスしていた空気が払拭された気はする。
少なくとも、ああして短い時間で峰田君も含むみんなと友誼を結ぶことはできなかっただろう。あれも才能の一つだろうか。
でも「スライムってエロいよね」てなんなんだ。なんで僕に言ってきた。
「良いじゃないか、皆。カッコイイぜ! ………ムム!?」
? オールマイトがこっち見て笑うの耐えてる?
やっぱりどこか変ですかオールマイト! 麗日さんは良いって言ってくれたんですけど!
と目で訴えていると、横にいたインゲニウムに似たコスチュームを着た男子がビシッと手を挙げてた。
「先生! ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!」
あ、飯田君だ! カッコいい! そういや個性もよく似てるんだよなぁ。
「いいや、もう2歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!」
対人戦闘。それも屋内………少し苦手かも知れない。
「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売。このヒーロー飽和社会ゲフン! ………真に賢しいヴィランは
確かに、オールマイトを始めとしたトップヒーローと呼ばれるヒーローたちの捕物しかり、メディアで獲り立たされるのはそういう目立つ事件ばかりだ。言ってしまえば強個性を持て余してるだけの人たち。………オールマイトが怪我を負った事件も、世間は知らないようだし。
「君らにはこれから『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「!!?」
本当に対人なのか!? 入試の時みたいじゃなく!?
「基礎訓練も無しに?」
「その基礎を知る為の実践さ! ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
蛙吹さんの質問にオールマイトが答えたのを見て、ほかのみんなも質問し始める。
「勝敗システムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか………?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」
「ちくわ大明神」
「誰だ今の」
「んんん~~~!! 聖徳太子ィィ!」
本当に誰だ今の。質問に継ぐ質問攻めに(一部変なの混ざってたけど)、新任教師のオールマイト先生のキャパはそこまではないらしい。
あ、小さいカンペを取り出してる。
「いいかい!? 状況設定はヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている! ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事コンビ及び対戦相手は………これだ!」
一気に読み上げきって、オールマイトはカンペを仕舞い。かわりに取り出したのは
「くじですか!? そんな適当なもので………!?」
飯田君が信じられないと言わんばかりに言う。
確かにチームのバランスは偏ってしまう可能性もある。でも、
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多いし、そういう事じゃないかな」
―――自分で言っていてなんだけど、ヘドロ事件のことが頭によぎった。
あの場に集まったヒーローたちも連携はできていたんだと思う。ただ担当する役割が、よくなかったんじゃないかと。
あの時は見ていて少し、他力本願な気がして。ヒーローに対してどうなんだとほんの少し思ってしまったけど。
この抽選って結構重要かもしれない。
「そうか………! 先を見据えた計らい! 失礼致しました!」
「いいよ!! 早くやろ!!」
―――そして、くじ引きによるチーム分けが終わり。
「なんかよく一緒になるね! よろしくねデク君!」
「よ、よろしく!」
マジか。
箱から取り出したボールに描かれていたのは『A』。麗日さんとチームを組むことに。ちゃ、ちゃんと喋らないと………!
「最初の対戦相手は―――こいつらだ!!」
みんなのチーム分けが終わり、残るは『ヴィラン』と『ヒーロー』の選定。
「Bコンビがヒーロー! Aコンビがヴィランだ!」
えっと、僕たちAコンビがヴィランで、Bコンビは………っ!
「障子君! それから轟君、だったけ?」
「う、うん。………気を引き締めていかないと」
「ヴィランチームは先に建物内に入ってセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ! ヴィランチームの緑谷少年、麗日少女。二人はヴィランの思考をよく学ぶように! これはほぼ実戦! 怪我を恐れずに思いっきりな! 度が過ぎたら中断するけど………度がすぎないよう、注意はしてくれ!」
建物の中に入って如何にもって感じの核爆弾のオブジェクトを確認して、重さの確認。触られそうになったら持って逃げれるかどうか、設置されている部屋の間取りの確認も終えた。
「建物の見取り図覚えないとね」
「そ、そうだね………」
つい声をかけられるとどもってしまう。そういうとこだぞ僕。
「デク君、緊張してる?」
「いや、緊張してるってほどのことじゃないんだけど。………うん、緊張少し、してるかも」
「私も。でも、オールマイトって優しくて、テレビで見るのとイメージ変わらんから、安心して授業にのぞめるよー。相澤先生と違って罰とかないみたいだし。………そういえば相手の二人、どんな個性やったっけ?」
「えっと、障子君が『複製腕』で、轟君? が炎と氷を使ってるのは見たけど」
昨日の個性把握テストを見た限りじゃ、轟君はオールレンジの氷と炎。
障子君は昨日聞いた異形型発動系の『複製腕』。体の一部を複製できる腕を二対持っているわけだけど………高校入ったばかりとは思えない体格。あのフィジカルは侮れない。一応障子君の
逆に轟君は能力の概要はわかるけど、どの程度できるのかはさっぱりだ。昨日見た限りだと出力はかなりあるんだろうけどデメリットもその分ありそうだし―――
「デク君の高速ブツブツ、ちょっと怖いよ?」
「えっ! あ、口に出てた!?」
「うん、バッチシ。でもそうやって考察、だっけ? するんだね。それで人の個性が使えるようになるんだから、凄いよね! ………ブツブツ怖いけど!」
「うっ、マジか。………気をつけます」
もう癖だ。考え始めたら周りが見えなくなっちゃうのは。直していかないと。
「良いよ良いよ、そのうち気にならなくなると思うから! おかげで、相手の二人がどんな個性かもわかったしね! 情報共有ってやつ!」
麗日さん良い人過ぎて泣けそう。
………僕の個性の特質上、考察して理解を深めればそれだけ、ヴィラン相手なら優位に立てる、筈。でも今のままじゃダメだ。周りもしっかり見えるようにならないと、やらかしかねない。
考察して相手の個性を覚えようと思ったら、発動したところを見る関係でどうしても後手に回ってしまう。
理想としては、そのカバーができるように並列して、思考ができるようになれれば良い。
無理に覚えようとは思わなくても良いのかもしれない。けど、元々のヒーローにまつわる情報への蒐集癖に、自分の個性とが合わさって余計に覚えようとしてる。
個性を持て余してる人がヴィランになってることが多いから、結構使える個性多いんだよね。
ヘドロ然り。……見た目はアレだけど。
ポンと手を打った麗日さんが聞いてくる。
「さっき二人の個性が使えるみたいなこと呟いてたけど、もしかしてデク君、私の個性も使えるようになってる?」
「………昨日言いそびれたけど、実は。轟君のはまだ使えないんだけどね。麗日さんのは、その、昨日のテストでもちょっと使ってました」
―――ただでさえ距離が近いのに、さらに詰め寄ってきた!
「そうなんだ!? どうどう? 使ってみた感想は?」
か、感想!?
「ええっと。自分に使うとすごく気持ち悪くて。他のものを浮かせる分には全然余裕はあったんだけど………」
凄い勢いで首を縦に振ってくれている。
「そうなの! すぐグロッキーになっちゃう。3tぐらいまでは余裕なんだけど、なんでか自分に使ったらスッゴク酔っちゃって。だから自分に使うのは私の超必です!」
「なるほど………」
3tか。多分僕の限界はもっと下だろう。まだ精々が1tぐらいじゃないかな。
―――と、耳につけた通信機から開始の合図が知らされる。
いつ、何処から仕掛けてくるかわからない。索敵系の個性はあるけど、多分おそらく―――!?
「麗日さんごめん!!」
「え、ええ!? ちょ、デク君!?」
指示は間に合わないと思って、『無重力』を僕が使って麗日さんを浮かした。
ピキピキと凍りつく室内。
まさかとは思ったけどやっぱり開幕ブッパ仕掛けてきた!!
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