とりあえず実験を降りよう (あーくん)
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俺、この実験を降ります


 時は試しに。さらっと読んでいってください。

 プロローグだから短いのは許してね。



 (妹達ちゃんともっと関わらせたいとか決してそんな欲があったわけでもなくげふんげふんあわよくば妹達ちゃんと一方通行の恋愛物語もちょっと仄めかしたいのかそんな欲望があるわけでもなくごほんごほん)


 

 

 彼が眠りにつくと、決まって白雲が彼を覆い隠す。綿あめのようにふわふわとしている雲を、昔彼は必死に退けていたらしいが、先が見えない事に嫌気が差してその行為をやめてしまったらしい。

 どんなに掻き分けても続く白雲の道。しかし、それで彼に支障をきたしたわけではないので、特に深く考えずに彼はその白雲を無視し続けた。自分に害がなければ、それがあろうと無かろうとどうでもいいのだ。

 しかし、今日は違った。いつも通りに眠りにつき、親の顔より見慣れた光景を目にしてーーー何故か今回だけ、無性にその雲を掻き分けたくなった。

 何故だか分からない。理由も無い。ただ単に、その雲の先を見たくなったのだ。

 操り人形のように、彼はその雲を掻き分ける。ただひたすらに、無我夢中に、雲を掻き分けていく。昔はある程度進んだ所でリタイアしたが、今回はそのリタイアした所の先まで進んでいた。

 その雲を退けて、どれくらい経ったのだろうか。そろそろ腕も疲れてきた。ここでは能力が使えない。これ程能力がないことに不便だと感じたことがない。

 掻き分けて、掻き分けて、掻き分けて。

 

 ーーーそして、やっと、光が見えた。

 

 「ーーーー!」

 

 彼は目にする。雲の先に見えた、幻想の世界を。

 そして彼は悟る。何故雲が、これ程ーーーまるで彼を絶対に先へと進めないように、何重にも覆いかぶさっていた理由を。

 そして彼は、後悔する。

 

 

 

 ーーー自ら、面倒な事に首を突っ込んだ事を。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 ーーー絶対能力者(レベル6)というものを、ご存知だろうか。

 人類の限界を超えた超越なる存在。6つの段階に分けられるレベルの頂点、超能力者(レベル5)の先に存在する未知なるもの。一般には知られておらず、その存在を知るものは限られている。さらに、神ならぬ身として天上なるものと同一視されているらしい

 もしこの存在が学園都市中に知れ渡ったら、必ずその存在を追い求めるものが後を絶たないであろう。

 だが、言わずもがなこのような天地に辿り着くなど至難の業である。ハッキリと言えば、到達するのは『有り得ない』のだ。どんな研究者達が論争を繰り広げても、絶対能力者の可能性を秘めることはなかったーーーある時までは。

 ある者が、こう言ったのだ。「絶対能力者に近い存在がいると」。誰もが求め、誰もが期待したその名を、ある者は口にした。

 

 その者は、学園都市の頂点に立つ存在であった。能力開発によって幼き頃からその強大な能力で周りを圧倒した存在で、どんな銃火器を持ち合わせても決して地に伏せる事がなかった、学園都市最強の超能力者(レベル5)。ーーーー一方通行(アクセラレータ)、と。

 

 その彼を利用した計画が、今正に始まろうとしていた。

 (アクセラレータ)をいかにして絶対能力者に近づけるか。数多の研究者達が顔を合わせてまた論争を繰り広げた結果、学園都市超能力者(レベル5)の第三位、御坂美琴を128回始末すれば、彼は絶対能力者に到達すると、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が結果を出した。

 しかし、そんな事が出来るわけがない。そこで彼らは、同時期に進められていた、御坂美琴のDNAを用いて作られた彼女の体細胞クローンーー『妹達(シスターズ)』を利用することにしたのだ。

 しかし、彼女のレベルは精々強能力者(レベル3)程度。どうすればーーーそんな窮地に追いやられたその時、転機(樹形図の設計者)が訪れる。

 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の予測演算によれば、このクローンを二万体殺せば同等の結果が得られるとのこと。その事実を知った時、彼らは嬉々として計画を精密に立て始めたのだ。

 

 その計画の名は、絶対能力進化(レベル6シフト)計画。ーーーそして今、その計画が始まろうとしている。

 

 

 複数の研究者達の目が、実験場に立つ二人に向けられていた。

 片や有名な常盤台中学の制服を身につけ、重厚感のあるゴーグルをかける可憐な茶髪の少女。手には似つかわしくない拳銃が持たされている。

 片や銀髪に赤眼と、アルビノを思わせる細身の少年。

 可憐な少女が御坂美琴のクローン、『妹達(シスターズ)00001号』。そして、アルビノの少年が『一方通行(アクセラレータ)』だ。後数分で、第一次実験が開始されるところである。

 この時を、研究者達は今か今かと待ち侘びていた。やっと、悲願が達成する時が来たのだ。この実験が成功すれば出世は間違いないし、後世に偉大なる研究としても残せるであろう。

 さぁ、実験よ。早く始めろ。実験が始まる直前のこの静寂の時を、研究者達は手に汗握りながら忙しなく待った。

 

 ーーーそして、実験開始時刻が廻った。

 

 

 

 

 

 「つーかよォ」

 

 

 

 直後であった。

 00001号が攻撃を開始しようとした瞬間、一方通行が気だるそうに声を発した。

 00001号の動きが止まる中、一方通行は、まるでコンビニにでも行くかのような軽い声で、研究者達にこう言った。

 

 

 「ーーーもう、帰っていいかァ?」

 

 

 

 は?

 研究者達の頭が、その一言で埋め尽くされる。

 彼らが戸惑う中、学園都市最強の超能力者はつらつらと言葉を並べていった。

 

 「こンな経験値稼ぎみてェなことを、永遠にやるなンてことァなァ、ハッキリ言って面倒なンだよ。てか、これ意味あるンか?」

 

 「な、何を……あるに決まっているだろう!?この実験が成功すれば、君は最強の遥か先にーーー!」

 

 「行けねェよ、そンなとこ」

 

 研究者の言葉が、打ち返される。

 まるで確信を持ったような言い方だった。この実験は成功しない。自分は最強の先にへと行けない。そんな確固たる信念を持ち合わせていた。

 

 「これじゃあ、俺は最強の先になンざ行けねェ」

 

 誰だ、と誰かが零した。

 誰だ、彼は。最近会った彼とは、まるで別人のようだ。

 最強の先を追い求めた、あの血迷ったかのような瞳と違う。もっと、別のーーー。

 

 

 「で、帰っていいのかァ?」

 

 

 再度問いかけられたその言葉に、研究者達は返すことも出来なかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方通行(アクセラレータ)が『彼』の夢を見たのは、奇しくも第一次実験の当日であった。

 ソファから体を起こした一方通行は、暫く眠気を吹き飛ばした後、苛立ちを隠さずに頭を掻く。ぐしゃぐしゃになった髪をそのままにした彼は、そのまま『夢』のことについて思考し始めた。

 『彼』の夢は、まるで自分(一方通行)の今生、そしてその後の未来を描いたかのような夢であった。絶対能力進化計画を続ける『彼』。平凡なツンツン頭の青年に無様に殴られる『彼』。布切れ一枚で自分の後を付ける幼女。その幼女を自分の身を犠牲にしてでも守る『彼』。そのせいか、『彼』は現代的な杖を付いていた。その他にも色々あるが、これ以上上げたらキリがない。

 これが『彼』の夢ならば、一方通行は大して気にも留めなかった。くだらない夢だと、考えるのも無駄だと、少々考えることはあるかもしれないが、早々に切り捨てていたことであろう。

 そう、これが『彼』という、一方通行とは全く別人の夢ならば、だったら。

 

 「夢が『俺』っていうのが胸くそ悪ィ」

 

 そう、この夢。自分の未来をそのまま描いたかのようだと言ったが、本当にそうなのだ。姿形も、挙動も、全てが一方通行なのだ。夢に出てきたのも自分、ツンツン頭の青年に無様に殴られるのも自分、幼女を助けるのも、全て自分だ。声はさすがに聞こえなかったが、その姿だけで、容易に「これは自分だ」と把握出来る。アルビノという存在など限られるからだ。

 まるで一方通行のその後を、伝えているかのような。そんなリアリティが読み取れた。

 

 「予知夢……?はッ、馬鹿馬鹿しい」

 

 非科学的な事に、一方通行は嘲笑う。

 しかし、と、一方通行は今日のスケジュールを思い出した。今日は第一次実験の当日。今日やっと、彼は最強の先にへと足を踏み入れることが出来る。

 ーーーもし、あの夢の通りに本当に起こるのだとしたら。

 

 「……」

 

 馬鹿みたいなことを考えるのは良そう。と彼は考えるのを放棄したものの、あの「夢」がこびりついて頭から離れない。

 もしあの夢の通りに起こるのだとしたらーーーーああ、一方通行は全て見、知ったのだ。第一次実験の後に起こる出来事を、自分が実験を続けても、大して意味の無いことも。実験を続けても、最強の先には行けないこともーーー全て、知ってしまったのだ。

 

 「…………あァーーー」

 

 信じるのも、馬鹿らしいのに。

 いつの間にか、一方通行は無意識にこう呟いていた。

 

 

 「やる気、無くなった」

 

 

 

 

 そして彼は、この実験に価値を見いだせなくなったなり、実験を放棄するようになったのだった。

 

 ーーー夢は信じていない。その夢から得た情報で、最終的な決断を出しただけである。一方通行はそう思っている。

 

 しかし彼は知らない。

 

 この選択が、彼の未来を大きく変えることを。

 

 

 

 そして彼は、この世界が織り成す「未知の世界」に、片足を突っ込むことになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 これは、ある世界を知ってしまった青年が、己の為に「今の世界」を生きる物語である。

 

 

 

 




 タイトル適当に決めただろとかそんなこと言わないの!

 原作を知った一方通行がどういう行動を取るのか考えた結果この作品が生まれました。うーん俺得ゥ!
 一方通行も好きだし妹達ちゃん達も好きだしどうしようどうしようとなった結果こうなったとかそういう理由もあるんですけどね。
 え?欠陥通行が欲しい???しょーがないなーの〇太くんは!!!!!!!(殴)

 こんなテンションで進めていく予定です。妹達編最後まで書けたらいいなと思っている。そこから気力があれば続けていこうかなぁとも思っている。私は一方通行程頭が良くないので、そういった専門知識を兼ね揃えた説明文などは書けません。そんな所は軽く生暖かい目でさらっと読んでくれるとありがたいです。指摘されちゃうと私の頭がパンクしちゃう。
 というわけで次もあればよろしくお願いします。また次話で。


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1.海の底から引き摺り上げる夢


 あけましておめでとうございます(激遅ブンブン丸)
 原作者様のような多彩な才能はありませんが、気楽に読んでくださると助かります。誤字脱字報告は大変助かりますが、誹謗中傷だったり作者のモチベが削がれるようなものや、読者様を不快にさせるような感想は止めていただきますようお願いします。原作設定と違うという指摘は大歓迎でございます。ただちょっと優しめに……(ガラスのハート)
 以上注意喚起でした。


 

 

 

 彼はあの『夢』を信じている訳では無い。しかしその『夢』に影響されているのも事実。現に今、彼は『夢』で見た物を見に、態々ある場所に足を運んでいた。

 数ある飲料水が陳列されている中、彼はーーー一方通行(アクセラレータ)はコーヒーの陳列棚に佇んでいた。正確には、硬直していた、だが。

 予知夢なんていう非科学的な事を信じない彼には、これくらいの事でも動揺してしまう。これはまだ序の口なのだが、という言葉は敢えて言わないでおこう。

 

 「……マジでありやがる……」

 

 彼が陳列棚から恐る恐る手に取ったコーヒー。その缶には、「新商品!」とデカデカとラベルが貼ってあった。発売日も今日、入荷されたのもつい最近。このコーヒーは、本当に今日の新商品なのだ。

 一方通行はそのコーヒーを数秒見つめた後、深く溜息を吐いた。そしてその新商品のコーヒーを、ガシャガシャとカゴに入れていった。新商品のコーヒーとならば、飲まずにはいられないのだ。

 二十本ものコーヒーをカゴに入れながら、一方通行はまた心の中で溜息を吐く。

 

 (……信じてはいなかったが、本当にあるとはなァ)

 

 だがこれだけのことで非科学的な事を信じる程、一方通行は甘くはない。こんなのがどうした。偶然の可能性もあるではないか、と。

 店員の引きつった笑みと感情が篭っていない声に背中を押される形で、一方通行はコンビニを後にした。

 

 

*****

 

 

 

 ーーーあの時の話をしよう。

 

 

 結局、実験は行われることとなった。一方通行(アクセラレータ)の突然の非協力的な発言に慌てた研究者達の必死の説得の賜物であろう。取り敢えず、という事で一方通行は渋々実験を行う事となった。

 一方通行自身は乗り気ではない。もっと言えば、彼女ーーー妹達(シスターズ)が持つ拳銃を見て、さらにやる気が失っていった。

 

 (『夢』で見たが、まさか本当に拳銃を持っているとはなァ。あいつらによると、超電磁砲(レールガン)の劣化版、って話だったか?)

 

 学園都市の超能力者(レベル5)、第三位の超電磁砲(レールガン)『御坂美琴』のクローン。当然、一方通行は御坂美琴(オリジナル)のような力を持っていると思い込んでいたのだ。

 しかし、実際は御坂美琴よりも遥かに下回る力。これでどうやる気を出せばいいと言うのだろう。

 

 「よろしくお願いします、とミサカは改めて挨拶をします」

 

 「ンなのどォでもいい。さっさと始めろ」

 

 「…………では、とミサカは拳銃を構えます」

 

 その00001号の言葉を合図に、本来数分前になる筈のブザーが鳴り響く。

 先に動いたのは、00001号であった。

 

 「先手必勝です、とミサカは銃口を一方通行に向け、発砲を開始します……ッ!」

 

 00001号は、バッ!と走り出しながら、手に持っていた拳銃の先を一方通行に向け、発砲する。

 バンッ、バンッバンッ!と甲高い音が実験場内に響き渡るが、それは別の音によって上書きされた。何かに跳ね返されたかのように銃弾が飛び、壁をうつ。

 

 「ーーー!跳ね返された……?」

 

 ーーー一方通行は、今の銃撃を受けても無傷である。その事実に少し動揺した00001号だが、直ぐに分析を開始して、今出来る最善策を取ろうとした。

 

 「やはり一筋縄ではいかないようですね、とミサカは一度距離を取ってーーー」

 

 刹那。

 00001号の体が宙を舞う。体はくの字に曲がり、手に持っていた拳銃も彼女同様に宙に放り投げられた。

 

 「ご、ぱ……!?」

 

 鈍痛が体中に響き、胃から押し出される異物を吐き出しながら、0001号は不気味な音を立てて倒れた。所持していた拳銃が、彼女の頭上でカラカラと音を立てて転がっていく。

 呆気なかった。何が起こったのかも、彼女には分からなかった。必死に今何が起こったのか分析しようと試みるも、不確定な事が多すぎて何もまとまらない。

 初めて感じる痛みに耐えながら、彼女は先程までいた場所を見た。そこには、億劫そうに髪を掻く学園都市最強がいた。彼の体には傷一つついていない。

 今自分は、彼に吹っ飛ばされたのか?では、何に?一体どうやって?そもそも、彼はあの場から1歩も動いていなかったはず。どうして自分の背後に?

 分からない。分からない、分からない。言い様のない不安が00001号に押し寄せてくる。早く解析しなければ。そして、彼に一矢報いなければ。

 

 「………………」

 

 焦る一方の00001号を冷徹な目で見つめる一方通行は、重い溜め息を吐く。そして、徐々に落ち着きを取り戻している科学者に顔を向け、億劫そうに言った。

 

 「実験は終わりだ。やる必要もねェ」

 

 『それは駄目だ、一方通行。あの実験体を処分するまでが実験だ』

 

 「………………」

 

 直ぐに返答された言葉。何の感情も篭もっていない、それが当然と言わんばかりの平坦な声。

 一方通行は00001号を一瞥する。ふらふらと立ち上がろうとしている彼女。身体中は、一方通行の一撃を食らってボロボロの筈だというのに、それでも尚、自分の使命を遂行しようとするその姿はとても健気で、儚い。

 だからこそ一方通行は、気乗りがしなかった。

 

 (ああ、面倒臭ェ)

 

 『夢』で薄々気づいてはいたが、いざ目の当たりにすると疲れてしまう。

 『夢の彼』はこれを、どんな気持ちで受け止めたのだろうか。

 

 「…………了解、しました」

 

 一方通行が思考の波に陥る矢先、今まで分析に専念していた0001号が、か細い声で答える。消え入りそうな声に一方通行は既に何回目か分からない溜め息を吐くがーーーそこで彼は、待てよとある事を思い出す。

 

 (ーーー確か、この後は)

 

 この先の映像。『夢』で見た、第一次実験の最後。

 確か、確かその最後はーーー。

 

 「と、ミサカはーーーーー実験を、再開します」

 

 刹那。

 バァンッ!と、金属が擦れる音と何かを跳ね返す甲高い音が同時に響いた。

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 音に反応して、一方通行はゆっくりと彼女の方を向く。銃口を一方通行に向けている彼女は、ポカンと、締まりのない顔を一方通行に向けていた。

 銃口から煙が出ているのを察するに、撃たれたのは間違いない。その銃弾を跳ね返した音も、先程聞いた。

 

 (ーーー俺の能力が働いたか)

 

 一方通行の能力、『ベクトル操作(一方通行)』は、触れたものの向きを変える力を持つ。それは銃弾も例外ではない。そもそも彼は、如何なる戦闘機等を動員させても死ななかった男だ。こんな鉛玉で死ぬような間抜けな能力者ではない。

 一方通行は常日頃、体中に反射を纏うよう設定している。そして彼が反射の向きを意識すれば、何処に飛ばそうが自在に操る事が出来る。

 ーーーしかし、先程は特に意識もせずに、自動で反射された。意識もせずに反射された物は当然、来た方向とは真逆に向かう。

 つまり、言いたいのは。

 

 ーーー00001号の銃弾は、何処に向かったのか。

 

 「…………ぁ」

 

 00001号が、壊れた機械人形のように、視線を自身の脇腹の方へ移す。

 そこに真っ赤な花が咲き誇ったのを視界に入れた瞬間ーーー彼女は力無く倒れた。

 

 結論を言えば、真っ直ぐ彼に向かって撃たれた銃弾は跳ね返され、そのまま真っ直ぐ彼女の脇腹に撃たれたのだ。その結果、彼女は今までのダメージも蓄積され、さらに加えられた痛みと出血により倒れた。

 彼女にとって予想だにもしない自滅。一方通行の能力を知っていれば、傍から見れば自殺とも捉えられるこの行為。

 全ては、一方通行の能力を知らなかったがための知識不足。ただの彼女の、力不足であった。

 

 「………………」

 

 その光景を知っている(・・・・・)一方通行の瞳は、何を宿しているのか。

 

 『いやぁ、お疲れ様!これで実験は終了だよ』

 

 先程の一方通行の畏れを忘れてしまったかのように振る舞う研究達は、彼らをどう見るのか。

 全てが、世界が、本来のあるべき姿に戻りつつある(・・・・・・・・・・・・・・・)事に、誰も違和感を抱かない。

 当然だ。知っているのは一方通行()だけ。この光景を二度見ることになったのも、一方通行()だけ。

 

 「………………」

 

 結局放棄しても、運命は自分を嵌め込みに来るのか。

 一方通行がゆっくりと00001号から目を離そうとした、その矢先。

 

 「ーーーーく、らい」

 

 赤い血溜まりを生み出した00001号の呟きが、僅かに耳を掠めた。

 視線だけを元に戻す。相も変わらず彼女は血溜まりの中に沈み込み、手もピクリとも動かしていない。否、この場合は動かせないというのが正しいか。

 

 「ーーーうみ、の、そこ」

 

 彼女は思った事を口に出し続ける。安直で、滅多に感じることの無いはず表現。暗く暗く、深い海の底に沈む姿を想像しているのだろうか。

 これが彼女の、最後の言葉。そう思いながら彼女の言葉を聞いても、一方通行は特に何も思わなかった。

 ただ、「喋っているな」という幼稚な感想が浮かぶだけ。

 

 「ーーーこれ、が…………死、ですか……?と、み、さ……か……」

 

 ……『夢』の彼は、これを一体どのように思ったのか。

 一方通行が見た限り、「やはり」という顔でこの場を去っていた気がする。

 やはり自分はこうなる運命だと、既に未来を悟っていたような、そんな表情をしていた気がする。

 『夢』の彼も、これにはあまり動じなかったのであろう。現に一方通行も、何もすることなくただ立ち竦むだけだ。

 

 (……このまま放っておけば、アイツは死ぬ)

 

 逆に、今駆け寄れば彼女は助かる。『夢』で見たあの方法を使えば、彼女はまだ助かる余地はある。

 しかし、足は動かなかった。彼の足は、一向に彼女を助ける為に足を動かさなかった。

 

 (……このままでいれば、恐らく『夢』とほぼ同じになる)

 

 まだ動かない。

 彼女の心臓は、徐々に鳴りを鎮めていく。

 血は広がり、溜りとなって、純白の床に染み込んでいく。

 まだ動かない。

 

 (…………俺は、アイツを、)

 

 まだ動かない。

 動けない。

 動きたい。

 だが、自身の心が、それを受け付けない。

 救済者(ヒーロー)のような真似事を、許してくれない。

 

 (……アイツ、を)

 

 お前は一生闇の中だ。

 お前は清きものを薄汚い手で汚すつもりか、と心が訴え続ける。

 ああ、確かに、自分は汚れ切っている。一方通行はそう自答した。

 『夢』の彼はそれに負けて、結局は命を奪ってしまったのであろう。

 ---だが、自分は『夢』ではない。

 

 (---)

 

 そして一方通行は、先程の迷いが嘘のかのように腑に落ちた表情を浮かべて、カツン、と足を彼女に向けた。

 コツ、コツと足音を高く響かせながら、彼女が流す血溜まりに恐れることなく踏み入れる。

 

 『……?』

 

 研究者達から訝しむ声が聞こえた時には、既に一方通行は0001号の傍で膝をついていた。

 そして彼は、迷うことなく銃弾が撃ち込まれた傷口に触れる。生暖かい感触が皮膚に直に伝わり、少々の気持ち悪さを味わう。

 

 (……『夢』のアイツは、女にある事をしていた)

 

 それは、宵闇に倒れ込む『夢』の彼と、白衣を着た女性。傍には同じく倒れ込む男性がいたが、それはどうでもいい。

 今の0001号と同じく、腹部に傷を負った彼女に、『夢』の彼はある事を施していた。

 

 (恐らく、あれは---血流操作)

 

 血流の流れを操り、慎重に彼女に血液を戻していく---『彼』は、そうしたはずだ。

 なら、今の状態の彼女にも同じ事をすれば。

 作業は一寸の狂いも許されない。一方通行にしか出来ない土壇場の芸当。

 大丈夫だ、『夢』と同じ事をすればいい。そうすれば、いいだけの事だ。

 

 

 そうして彼は、涼しい顔で、彼女の血液を操作し始めた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 ベッドに何十本ものコーヒーを入れたビニール袋を放り出し、その中から缶コーヒーを一本取り出す。プシュリ、と空気が抜ける音を立てて缶コーヒーを開け、一方通行はそれを一気に呷った。

 苦味を好む一方通行にとって、ブラックコーヒーを飲む行為は至高の一時である。ブラック特有の苦い味をゆっくりと味わいながら、空になるまで飲み続ける。

 やがて空になった缶コーヒーを机の上に置いた……その時、狙ったかのように家のインターフォンが家中に鳴り響いた。

 

 「……」

 

 一度動きを止めた一方通行であったが、二回目のインターフォンで渋々腰を上げる。こうして律儀にインターフォンを鳴らしているのを見る限り、少なくとも来ているのはスキルアウトの類ではないであろう。しかし、宅配便を頼んだ訳でもない。

 一体誰だ、と警戒心を跳ね上がらせながら、そっと扉を開けた。

 

 「---こんにちは、とミサカは一方通行に挨拶します」

 

 扉の前にいたのは、常盤台の格好をした、御坂美琴の体細胞クローン妹達(シスターズ)の一人であった。

 相変わらずの軍用ゴーグルを携えている彼女は、一方通行の姿を確認した後に丁寧に頭を下げる。

 

 「……お前、検体番号(シリアルナンバー)はいくつだァ?」

 

 「はい、ミサカの検体番号(シリアルナンバー)は00002号です。因みに、貴方が救った00001号は、現在も調整中です、とミサカはどうせこの後に聞いてくるであろう質問に先走って返答を提示します。」

 

 聞くのが当然、と言わんばかりに速攻問う一方通行に、彼女---00002号は迅速に返答する。若干のドヤ顔がとても憎たらしい。

 

 あの日のその後を語ろう。

 結果的に言えば---00001号は、一方通行の処置で一命を取り留めた。後一歩遅ければ息絶える状態の彼女を、彼は救ってみせたのだ。しかし損傷が激しく、今は療養という名の調整に入っている。

 彼が初めて救った命。彼がこの手で、初めて消さなかった命の火。

 研究員には色々と言われたが、もう会うことはないだろうと割り切っている。

 

 

 その研究員の遣いで出された彼女が、自分に何の用か。

 00002号が「上がらせてもらえないのですか?」と聞いてくるが、一方通行はそれを無視する。やがて諦めた00002号が、要件を口にした。

 

 「ミサカは、貴方が実験に参加する意思があるのかどうかを確認しに来ました、とミサカは簡潔に述べます」

 

 だと思った、と一方通行は予想がついていた要件に嘆息し、面倒臭そうに返す。

 

 「……ンなの、見るからに明らかだろォが。俺は実験に参加しねェよ」

 

 「何故か、理由を聞き出してこい、と言われました、とミサカは面倒だなと思いながらも貴方に問いかけます」

 

 「実験前に言っただろォが。あンなことしても意味ねェって」

 

 「どうして分かるのですか?とミサカはさらに問いかけます」

 

 「…………」

 

 しつこい。とてもしつこい。どうしてここまで執着するのだ、アイツらは。

 あの実験をしたいなら他の被験者を雇えばいいだけの話。一方通行よりも実験をする意思が明確に顕われる、被験者に。一方通行だけに限った話ではない。

 グッ、と眉を顰めると、それを何と受け取ったのか、00002号は口を噤んで一歩後退した。

 

 「……どうやら、これ以上問うてもあまりいい返事は貰えなさそうですね、とミサカは遺憾の意を一方通行に向けます」

 

 「勝手に向けとけ」

 

 「では、この事をお伝えする為に、ミサカは一度研究所へ戻ります、とミサカはまたね、と可愛らしく手を振りながら一方通行から離れます」

 

 「二度と来ンな」

 

 可愛らしく、とは程遠い無表情で手を振られるのはあまりにもゾッとする光景である。

 常盤台の制服が徐々にこの寮から離れていくのを見届けた一方通行は、苛立ち混じりに扉を強めに閉めた。そして、鍵をしっかりと施錠し、誰も入れないようにする。

 00002号の言葉が文字通りなのであれば、彼女は必ずまた訪れてくるであろう。そうなればまた面倒な話を持ちかけられるに違いない。それだけは絶対に回避したかった。だから施錠して居留守などの言い訳の準備をしたりしたのだ。

 

 (無理矢理こじ開けてくるのはさすがにねェだろう……)

 

 そんな騒ぎになるような事はさすがに避けると踏んだ一方通行は、この苛立ちからきたストレスを発散する為に、ソファで昼寝をしようと寝っ転がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人目は、能力の無知にて死亡。

 二人目は、能力の誤認で死亡。

 三人目は、能力の過信で死亡。

 四人目、五人目、六人目---そして、やっと自分が手をかけたのは、もう数え切れないくらいか。

 『声』がないせいで、それが何回目の実験なのか定かではない。しかし、走馬灯のように流れるのを見るに、結構な数を言った気がする。

 『彼』が初めて手をかけたのは、路地裏の一角。そこで彼は少女の四肢を折り、潰した。赤い鮮血が撒き散らされ、路地裏の染みを深くさせていく。

 自身の能力によって返り血は浴びなかったようだが、『彼』は少女を殺した後、ジッと殺めた手を見つめていた。

 その時見ていた視点は彼の後ろ姿だった為、彼の表情を詳しく知ることは出来なかった。---しかし、その背中が何処か憂い帯びていた。

 後悔でもしているのか?---否。

 懺悔でもしているのか?---否。

 『彼』が自分なら、分かる。

 

 

 あれは、何も抱いていない「無」だということを。

 

 

 

 

 

 

 「--ッ!」

 

 この空間に、本来なら居ない筈の気配に気付いた一方通行は、目を開けて状態を起こす。そして、辺りを血眼になってくまなく見渡した。

 そして、見つけた。窓付近で悠然と佇む、昼頃にも見た常盤台の制服を着た少女が。

 しかし昼と少し違ったのは、体の至る所に包帯を巻いていることと、身の丈より一回り小さなギターケースを担いでいることであった。痛々しそうな見た目とは裏腹に表情筋を一切動かさない彼女は、「おはようございます」と無機質な声を一方通行に向ける。

 

 「……どォやって入ってきた」

 

 「この窓から入ってきました、とミサカは明言します」

 

 「---能力でも使って入ってきたってかァ?クソッ」

 

 舌打ちをした後、一方通行は「検体番号は?」と速攻聞く。

 それに彼女は迷うこと無く、こう答えた。

 

 「ミサカの検体番号は00001号です。つまり、貴方に助けてもらったミサカです、とミサカは照れ臭さを感じながらも一方通行に返します」

 

 00001号。

 彼女の言葉通りに、彼が初めて救った命。

 その彼女が一体、恐らく調整もまだ済んでいないのに、どんな案件でここに来たのだろうか。こんな彼女を行かした訳であるから、相当な重要件である事は間違いないであろう。

 

 「で、要件は?」

 

 「はい、では簡潔に……というより、本題に入ります」

 

 一方通行が促すと、00001号はギターケースを下ろし、チャックを開く。そしてガチャガチャと、何かを漁り始めた。

 一方通行からの視点からは、ギターケースが上手く重なって彼女が何をしているのか見えない。

 

 「---先に謝っておきます、ごめんなさい、とミサカは謝罪の言葉を口にしながら、作業に取り掛かります」

 

 ガキ、と何かを組み立てる音が響く中、00001号が唐突にそのような事を言う。

 謝罪?何故だ、何処に自分に謝罪する要素がある。意味が分からず00001号に意味を問おうとしたその時、彼女がゆっくりと立ち上がった。

 

 「---」

 

 そして、同等の動作で一方通行に向けられたそれに、彼は瞠目する。

 鋼鉄で覆われた黒く光る物体。中心に並ぶは、黄金色の弾。ガチャリ、と金属質の音が静寂と化した部屋に響き渡る。

 それは、彼女が、00001号が持っているのは---マシンガン。

 安全装置を下ろしたのが合図だったのか、00001号は一方通行が理解する前に---その要件を、言い放った。

 

 

 「これより、第00001次実験を開始します」

 

 

 

 刹那、火花散る集中砲火が、一方通行を襲った。

 

 

 

 





 正直な話、妹達編終わらせられたら重畳かなって思っている。その後は書くかどうか未定。
 0001号ちゃん生かすか死ぬか迷ったんですが、一方通行を追い詰めるために生かしました。ゲスいですね。動けない程の怪我受けてたのに頑張って実験してる0001号ちゃん……ふええ、可愛いよ~。
 銃の描写が分からず一人試行錯誤していたらなんか簡素な描写になりました。あと銃の構造も分からなくて……やはり描写は難しいですね、もっと勉強してきます。
 作者は原作者様のように頭が良いわけでもなく、逆にどんどん抜け落ちていくタイプのものなので、文章が非常に物足りないという方もいらっしゃいます。そういう方々も含めてここで謝辞を置かせていただきます。ここまで呼んでくれてありがとう。次回も生きていたらまた会いましょうね。


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