高町さんは甘えたい。 (stan)
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ハゲと私。

はじめましての方ははじめましてm(__)mご存知の方は毎度どうも。ということで新作です。
はやてに始まり、なのはに終わる。という言葉もある通り、今回はなのはさんメインです。
お前の書くなのはさん全然恋愛に向いてねえじゃん!という方ご安心下さい。できる限り、我慢する所存。できる限り‥ここ重要
この作品は魔法少女がハゲハゲ言うだけのラブコメです。過度な期待はやめてください。
尚、ハゲというワードに嫌悪感を抱く方はブラバ推奨です。いやマジで。
それではまたよろしくお願いいたしますm(__)m


さてさて。今日もお仕事頑張りますか。

私は六課の自分の机に座ると、パソコンを起動させつつ、ひと息ついて、周りを見渡す。

正面右に座る男性を視界に入れると、口許が綻ぶのを感じる。

 

ネクタイはヨレていて、無精ひげが残る顎を擦りながら、欠伸を噛み殺している男性。

だらしない。だらしないのに、何故か不快感を感じさせない、それどころか清潔感と愛嬌を感じさせる中年のおじさん。

私はゆっくり彼に近付き、挨拶する。

 

「おはようございます♪アルファードさん‥」

 

「ん?高町か‥おはようさん‥あふぅ‥」

 

私を一瞥すると、尚も欠伸を噛み殺しながら、挨拶を返してくれる。

 

「今日も眠そうですね?寝癖で完全に髪の毛が寝ちゃってますよ?」

 

「ああ?髪の毛なんか‥元からねえだろうが!」

 

 そう‥彼は‥

 禿げていた。

 

「そっか♪寝癖で見えなくなってるのかと思って♪そういえば最初からハゲてましたもんね♪略して最ハゲですね♪」

 

「無邪気な笑顔してこの子ったら‥いや、そんな最果てみたいな略し方聞いた事ないからね?」

 

「でもどうしてそんなにいつも眠そうなんですか?ハゲなのに‥」

 

「あと、無精ひげ位剃りましょうよ♪禿げなんだから♪」

 

「やだ‥めっちゃ禿げ強調してくるやん‥しかも、二つともハゲ関係ないやん‥てか、ハゲって言いたいだけやん‥」

 

と、彼が少し拗ねた感じで視線を逸らした所で、私は伝家の宝刀を抜く。

 

「そうだっ♪またシュークリーム作ってきたんですよ♪食べます?」

 

彼は甘いモノに目がない。

中でも私のシュークリームは毎度ご好評をいただいている。

チラリとシュークリームを入れたハコを見せつつ上目遣いで尋ねる。

ウィンクも付けるサービスっぷりだ。

 

「‥あざとい‥やり直し。でもシュークリームは貰う」

 

「はいはい♪紅茶入れてきますね♪」

 

あざといと切り捨てつつ、若干顔を赤く染める彼をチラチラ見ながらやはり口元が綻ぶのを感じる。

 

彼とのやり取りが毎度楽しくて仕方がない。

緩む口元を見せない為に、名残惜しいが、

ロープブレイクを選択する。

これ以上鼓動を、高められたら、寿命が縮んでしまう。

紅茶を淹れる為に湯沸室に入る前に、チラリと彼を振り返れば、シュークリームの入ったハコを膝に置き、幸せそうな顔を浮かべていた。

その様子に小さく吹き出しながら、私はお湯を沸かす。

これは、私が初めて彼に出会った時の物語。

そして、今も続く、片想いの物語。

それでは、暫し、お付き合いくださいなの。

 

======================

 

 

彼と初めて出会ったのは私がまだ子供の頃。

管理局に入局して

初めて配属された部隊での隊長が彼だった。

 第一印象は余り良くなかった気がする。

今と同じように、シャツの襟もシワシワで、ネクタイもいつも曲がっていて、無精髭もそのままに、ツルリと禿げ上がった中年のおじさん。

子供心に多少、恐怖も感じていた。

初めての環境下での上司と部下という、初めての関係性の人間に距離感を量りかねていたのは、まだ年端もいかなかった自分にとっては当然といえるだろう。

 こわそうだなー。こわいなー。やだなー。等と怪談噺でも始めそうな感想を思いながら、何とか仕事をこなしていた。

 だが、それでも何とか仲良くなろうと、子供ながらに決心した当時の自分には喝采を送りたい。

先ずは敵情偵察。

先入感を無くして、陰からひっそり観察してみれば、意外な事実も見つかるもので。

―彼の周りにはいつも人が集まっていた。

―彼の周りにはいつも笑顔が溢れていた。

―周りに集まる部下達の揶揄を笑って赦し、ツッコミを返す彼の眼差しはいつも優しかった。

怖い人では無いのかもしれない。

そう思ってからは、自分の行動は早かった。

あの輪に自分も加わりたい‥と思ったから。

苦手な書類仕事も頑張って終わらせ、

彼の元へと報告に行く。

その表情は若干誇らしげで、

褒めて褒めてとねだるペットのようだったと、

当時の周りの同僚にからかわれるのは少し恥ずかしい。

 

「どうした高町?もう終わらせたのか?」

 

「はい!」

 

近づく私に気付いた彼は、優しい声音で問い掛ける。

 

「いつも偉いな‥おい、お前ら、こんな美少女に働かせて、サボってんじゃねえよ」

 

いけない。彼に誉められると、ついドヤ顔になってしまう。‥美少女だって。

可愛いと、思ってもらえてるならうれしい。

 

 

と、周りに怒鳴るのではなくやれやれと、頭痛が痛い。といった風に仕事を促していた。

 

「ほら‥御褒美だ‥」

 

と、小声で彼はチョコレートを1つ握らせてくれる。

 

うれしい。彼は甘いモノが好きなようで、机には必ず、チョコが常備されている。

 

「あーっ?!隊長がまたなのはちゃんにお菓子あげてる!?」

 

「やっぱりロリじゃないか‥」

 

「‥通報しました」

 

チョコレートをもらったところを目ざとく見られてしまった女性局員に囃し立てられてしまう。

一声あがると連鎖するように、隊長を責める言葉があがり、笑顔が拡がっていく。

私も笑いながら、羞恥に顔が熱くなるのをかんじていた。

 隊長はよく揶揄をされているけど、誰も本気で言っていないのがわかる。

だからこそ隊長も笑って許しているのだ。

そしてそんな隊長を中心にいつも笑顔が拡がっていく。とても優しい世界がそこにはあった。

 

 

========回想終了=========

 

私がハッとすると、既にお湯が沸いてることをケトルが一生懸命告げていた。

いけないいけない。慌てて、火を止め、カップにお湯を注いでいく。

 

「あちっ‥」

 

長く蒸気に晒された、取っ手はとても熱かった。

指をふーふーしながら、カップにティーバッグを浸ける。

さて、だいぶ待たせてしまったかもしれない。

私は気持ち急ぎながら、彼の机へと急ぐ。

 

席に戻ると、彼は私が給湯室に入る前に見た姿と

寸分違わぬ姿勢で座っていた。

私はそれがおかしくて、小さく噴き出してしまう。

だってお預けされてる大型犬みたいなんだもん。

 

私が吹き出した気配で彼が此方を振り向く。

 

「どうした?高町?」

 

子供の頃から変わらない彼の問いかけ。

この声を聞くと、私はふにゃっとなってしまう。

 

「いえ、お待たせしました‥」

 

と、私が彼の机に紅茶をソーサーごと置くと、

彼にいきなりガシッと、腕を掴まれた。

突然の接触に鼓動がはねあがり、顔が熱くなってしまう。

けど、別に嫌なわけじゃない。

なので、振り払う訳にもいかず、私がとまどっていると、

 

「何やってんだお前は‥火傷してんじゃねえか‥」

 

と、見れば、私の指が先程熱かった所がうっすら赤くなり水ぶくれになりかけていた。

 

「いえ‥これは‥」

 

これは、マイナス査定である。

 紅茶一杯淹れるのに、火傷をするとかそんな家事オンチだと思われたくない。

いや、待てなのは。まだ慌てるような時間じゃない。クールにいこう。

 たまたま。そうこれは、たまたまなのだ!

この程度でこれ迄積み上げてきたお菓子作り上手な家庭的魔法少女のイメージが崩れるわけが‥

ないのだから‥!

それでもやはり私はなんだか気恥ずかしくて、

手を引いて、後ろに隠してしまう。

「ったく‥ちゃんと後で医務官に診て貰えよ?」

 

「はーい‥それより早く食べてくださいよー♪」

 

「お、おう‥じゃあ、頂くわ‥」

 

「はーい。召し上がれ♪」

 

と、私は笑顔が溢れてしまう。

だって仕方ないよね?

召し上がれ、なんて、ちょっと奥様みたいなの♪

 心の中で飛び跳ねて妄想しながら、私は彼がシュークリームを口に運ぶのを見つめる。

 いつかその内、あーん。なんかもしてあげたいなあ‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読み下さりありがとうございますm(__)m
感想御指摘等下さると、モチベが上がります。
因みに批判を頂くと、モチベが下がるチョロ作者です(´д`|||)
なんてね。何でもかんでも御待ちしております。
でもなるべくなら優しく‥して(゜ロ゜;ハゲちゃうから!


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ハゲと教導。

新作投稿する時ってみなさん出す前に書き溜めとかするんですかね?私は大体三話迄書いたら投稿ゴーしちゃうんですが。


私はビルの上から、眼下で繰り広げられる、若きFW達の奮闘を見下ろしていた。

 

「よーう、お疲れさん」

 

そんな能天気な声と共に現れたのは、アルファードさんだ。

欠伸を噛み殺しながら、ペチペチと頭を叩きながら、片手を上げてくる。

 

「お疲れ様です」

 

私はそんな彼を敬礼で出迎える。

 

「どうよ?今度の若いのは?」

 

「いいですね‥はやてちゃんが厳選しただけありますよ‥」

 

「へえ‥鬼の教導官樣がお褒めになるほどかい‥」

そう言って、彼もFW達を見て目を細める。

 

「やめてくださいよ‥」

 

教導といえば、私はこの人に教導してもらったのだ。故に、頭が上がらない。

確かに鬼の教導官なんて言われる事もあるが、

私の教導はこの人から学んだものだ。

だから私が鬼だというなら、それはこの人のせいなのだ。

貰い手が居なくなったら、どうしてくれるのだ。

 是非、責任を取ってもらいたい。

 

 

 

 

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それは‥私がまだ管理局に入局したばかりの頃‥私がまだ自分の戦闘スタイルも確立出来ていなかった頃のお話。

 

 局内の訓練室で私は倒れ伏していた。

当時、その類い稀だという魔力素養を認められ、鳴り物入りで入局した私は、当然のように、行き詰まっていた。

管理局には魔道師ランクというものがある。

これは、魔力値だけで得られるものではなく、魔力に属した問題解決能力を試される。

この時私はSランクの試験に落ち続けていた。

当時の管理局でいえば、まだSランクは数人しかおらず、AAランクでも一目置かれる程の狭き門。

まだ子供だった私は、簡単に言えば、持て囃されていた。もう十分だ。‥なんて言葉を周りの大人は掛けてくれたけど。

 それでも私は、諦めたくなかった。

このレベルで十分。と妥協することは簡単だったけど‥。

 でもそれはできなかった。

何故なら、友だちのためだ。

 自分が生涯付き合うと見定めた親友達。

彼女達は何の因果か、犯罪者のレッテルを貼られてしまった。

確かに、いけないことはしたのだ。

だが、それに深く関わった身として言わせてもらうなら、仕方の無いことだったのだ。

そうせざるをえない理由があって‥事情があって。

そう‥必死に生きただけなのだ。

だから私は決めた。一生彼女達と友だちでいようと、寄り添おうと、決めたのだ。

 

 そんな彼女達は、今も必死に頑張っている。

 一人は執務官という狭き門を目指して、猛勉強中で。

 一人は贖罪のためにと、特別捜査官として、色々な部隊を渡り歩き、色々な次元世界の人々の暮しを守っている。

 そんな格好いい二人と友だちで居るためには、

妥協した自身では足りなくて。

 そう思って、何とか疲労で重くなった身体を起こせば、そんな私に声が掛けられた。

 

「反省は終わったか‥?」

 

 目の前には、ハゲがいた。

しかも、憮然としたハゲだ。

 

「うっ‥くっ‥」

 

この人は今私が所属している部隊の隊長さんだ。

今回私がお願いして、訓練に付き合って貰っている。

未だ、疲労のせいで立ち上がれない身体をよじりながら、歯をくいしばって、顔を上げる。尊敬する彼に、みっともない姿を晒してしまっている事が悔しくて、恥ずかしくて、私は、軽く涙が滲んでしまう。

彼はそんな私の涙にギョッとしたように目を見開くと慌てだす。

 

「ど、どどどうした?何処か痛めたか?!」

 

そんな彼が可笑しくて、微笑ましくて、優しさがくすぐったくて、私は自然と微笑んでしまう。

 疲労も少し抜けた気がする。

 

「大丈夫です。アルファード‥隊長」

 

「そ、そうか?」

 

ホッとしたように息を付く彼に尋ねる。

 

「私‥才能無いんでしょうか‥?」

 

と、彼は訳がわからないといった顔をして、

 

「なんでそう思うんだ?」

 

と、聞き返してきた。

 

「だって‥何度やっても隊長さんに勝てないし‥」

 

私は行き詰まっていた。

だからつい‥ポロッと、弱音を溢してしまったのだ。

 

「そりゃ俺は隊長だしな‥良いか?隊長ってのはな‥部下の良いとこも悪いとこも全部把握してないと、務まらねえんだよ‥」

 

彼はそんな私の弱音を珍しいモノでも見るように、パチクリと目を瞬くと、少し考えて話しだした。

 

 

「良いところも、悪いところも全部‥?」

 

私は思わず、反芻してしまった。

 何か‥何かヒントを貰っているような‥

この閉ざされた視界を、行き詰まったレールを晴らす光が差したような、

漠然とそんな事を思ったが、自分の中で上手く答えにならず、それは霧散してしまう。

 

「わかるか?つまり、お前の良いとこを出させないように、悪いとこを攻撃出来るんだから、俺が勝つのは当たり前なんだよ‥」

 

「なにそれー!ずるいの!」

 

「hahaha」

 

両手を広げて笑う彼に腹が立ち、

 

「笑うなー!このハゲー!」

 

あ。やらかした。

つい思った事を口にしてしまった。

隊長をハゲ呼ばわりである。

流石に怒られるかと、恐る恐る彼をみると、

彼はキョトンとしていた。

と、そっと彼は私の頭に手を置くと、

 

「ついてきな‥」

 

とだけ言って、身体を翻した。

あー‥やっぱり怒られるー‥

それはそうだ。彼が優しい人だというのは、もうわかっているが、

 いや、優しい優しくないの話しではない。

礼儀、敬意の話しだ。

子供だから仕方ないなんて思われただろうか。

彼に嫌われたくない。そんな風に思われたくない。

 それは嘘偽りの無い気持ちで。私の心を後悔が締め付けた。

そんな自己嫌悪の中、私はトボトボと、彼の後を付いていく。

やがて、彼が入ったのは私が知らない部屋。

 私がキョロキョロしていると、彼が教えてくれる。

「ここはデータベース室だ。まだ入ったこと無いだろ?」

 

彼の言にコクリと頷きを返しながら、周りを見渡していると。

 

「ここにはな、全局員の戦闘データや訓練データがあるんだ‥まあ、当然だが、閲覧するには部隊長権限が必要だけどな‥それと、見れるのは、この部屋の中でだけだ。訓練データ‥その都度の訓練成績、結果、総評なんかはその場で確認するもんだが‥ここでならこういう見方も出きる。」

 

そう言って彼が具現化させたデータは、私の今迄の全ての訓練成績だった。

 

「誰もが一回一回の結果をみて、その都度反省するもんだがな‥ここまで積み重ねたモノを見るヤツはそうは居ないぜ?」

 

そう言われ、私は今迄の自分の訓練成績を見ていく。

確かに、こうしてグラフで偏向等を分かりやすくされると、よくわかる。

 

「どうだ?」

 

「あはは‥やっぱり、私‥ダメダメですね‥」

 

そう答えると、彼はひとつタメ息を吐き、

 

「なら‥こうしたらどうだ?」

 

そう言って、彼はデータをチョイチョイと、操作する。

操作する時に、身体が近づき、彼の匂いがフワリと鼻孔を擽る。

 甘いモノが好きだからだろうか、少し甘い香りがした。身体が近付いた事を全く不快に思わず、それどころか、少し、故郷の士郎さんを思い出してしまった。

なんで?士郎さんハゲてないのに。

そんな事を考えていると、何故か、心臓がひとつ高鳴った。

それを契機と、鼓動が高鳴りだす。

何故だろう。少し、顔も熱い気がする。

病気?

するとデータが、更に細分化された。

 私は慌てて、意識をそちらに戻す。

そこで私は気付く。

 

「これ‥私‥この時は、射撃の命中率が悪いのに、この時は‥全弾命中させてる‥?!」

 

「そうだ‥確かに、お前には才能が無い‥」

 

わかっていた事だけど、尊敬する彼に改めて言われると、やはりショックだ。

私が目に見えて落ち込むと、

彼は慌てたように付け加える。

 

「だがな?才能の無い事を頑張る余り、他の大事な才能を潰してないか?」

 

「どういう‥事ですか?」

 

大事な才能?解らない。才能無い事なら、余計頑張らないとダメじゃないの?

一生懸命考えながら私が問い掛けると、

 

「お前には確かに近接戦闘のセンスがない。だがな、お前には空間把握の才能がある‥」

 

「空間把握‥?」

 

「ああ‥それは‥遠距離射撃をする上で、これ以上ない才能だよ‥」

 

「遠距離射撃‥」

 

反芻するように呟くが、彼は尚も私から目を逸らさず、語り続ける。

 

「考えろ‥お前が射撃魔法を外した時と全部命中させた時の差を!」

 

そう言われ、私は再びデータに目を落とす。

 ‥そうか。私は近接戦闘、相手に距離を詰められた時に射撃の精度が落ちているのだ。

逆にこれも!この時も!遠く離れた場所からの射撃魔法の精度は悪くない。

隊長が言いたかったことはこれなのだ。

確かに、今迄私は相手が距離を詰めてきた場合はその場で踏ん張って張り合っていた。

でもそれは‥自分の才能。そう‥遠距離での自分の優位性を潰していたのだ。暗く、澱んでいた視界が開けた気分だ。

早速、レイジングハートと共に、必要な魔法を調べなければ。

そう‥遠距離でひたすら相手を撃ち抜く為の魔法を!

 

「あれ?‥でもちょっと待って?」

 

「良いとこ出させないように悪い所をつきまくるって‥かなり‥えぐくないですか?‥」

 

当時の私はまだ10歳になった辺り。

それ故の幼さが出た。

負けず嫌いな性格もあった。

納得いかない事には、全力で反抗して、今ならば、絶対考えもしないけど、若気の至りとでも言うのだろう。

その時の私は隊長がわざと意地悪をしている‥なんて考えてしまったのだ。

生意気盛りな子供の言を受けて、

こともあろうに隊長は‥

 

 

「hahaha」

 

なんて、またもや両手を広げて、惚けた顔で笑うものだから、

当時の私は余計にカチンときて、

 

「笑うなー!このハゲスティックハゲー!」

 

‥多分、私はサディスティックハゲと言いたかったんだと思う‥。

何はともあれ、私はまたやらかしたと思った。

流石に怒るだろうと、恐る恐るチラリと彼を見れば、‥彼は何事もなかったかのように、いつもの優しい眼差しで私を見てくれていて。

 

‥思えば、この時辺りからだったと思う。

 私が抵抗無く、彼にハゲと言い出したのは‥。

多分私は線を引いてしまったのだ。

この人には、ここまでは大丈夫。‥と。

無論それはただの甘えである。

いくら相手が怒らないからって、目上の人相手に例え子供といえど、ハゲだのなんだの暴言が許される訳じゃない。

子供心にもそのくらいはわかっていたと思う。

 それでも、一度引いてしまった線を無かった事にするのは、容易でなくて。

 何より、その甘えともいえる関係がとても心地好くて‥何故部隊の皆が隊長をからかうのか漸くその時私は理解したのだ。

 

 許容して貰える。ということ。

 

 ‥それが、こんなにも心地好いだなんて。

 私はこの時漸く、部隊の一員になれた気がしたのだ。

私がそんな事を思いながら、黙っていると、

ふと、彼が不安気に口を開いた。

 

「その‥な。悪かった‥。お前をけして嫌いなわけじゃない‥。これが、俺の教導なんだ‥」

 

 私が黙っていたので、

私が傷付いたと、勘違いしたのだろう。

 本当になんて優しい人なんだろう‥

この時の私はそんな事を思った気がする。

そして、とても心が暖かくなったのだ。

 

「隊長の‥教導‥」

 

私はその言葉を胸に刻み込むように、反芻した。

 

「ああ‥現場に出れば、危険はたくさんある‥いつでも俺が傍にいてやれるわけもない‥それこそ、命のやり取りすら、あり得るんだ‥お前が進む道はそんな過酷な道だ‥そんな道の上でお前を最後に守れるのは結局お前自身だけなんだ‥」

 

「その時、必要になるものは‥勿論、戦技もそうだが‥それ以上に必要なものがある‥何だか解るか?」

 

あまり見たことの無い、彼の真面目な雰囲気の問い掛けに私は首を横に振る。

 

 戦技よりも必要なもの‥解らなかった。

 

「考える力だよ‥出来ない事があったとき、どうして出来ないのか。どうすれば出来るのか‥これを常に考えなきゃいけない。千思万考‥これが俺の教導の前提だ」

 

「確かに、答えを先に教えてやるのは簡単だ‥だがな、先ず悪い所をきっちり叩いて、自分で考えさせた方が結局そいつの血肉になるもんだ‥戦場から生還出来るヤツってのは、結局そこんところをしっかり鍛えた奴だけだと俺は感じてる‥」

 

 千思万考‥

 

まさに今私がSランク試験に落ち続けている事への解だと思った。と、子供ながらにその言葉を心のタンスに刻み込んだのを覚えている。

 

「隊長‥!ありがとうございました!」

 

私は居てもたってもいられず、隊長に御辞儀をして、部屋を飛び出した。

 

「ぉー廊下はあんま走るなよー」

 

なのはが出ていったドアを見つめながら、アルファードは一人呟いた。

 

「やれやれ‥俺もまだまだ、甘えなあ‥」

 

ヒントを出しすぎてしまった。

彼の教導の根底は、今話した通りだ。

だが、年端もいかない少女がおよそ自分が知る限り、初めて漏らした弱音と涙。

それに動揺してしまったのは間違い無い。

教導をしていて1番辛い事は、教え子が自分の才能に気付かないまま、潰れてしまうことだ。

彼から見て、なのははセンスの塊だった。天才といってもいい程の空間把握能力。

 そして、ほとんどの魔法を使いこなせるであろう、魔力キャパシティ。

自分の才能に気付けば、中~遠距離から、相手に何もさせずに、終わらせるような、前代未聞の戦闘スタイルを確立させるであろう。

 

《そうですね‥でも私はそんなMasterが好きですよ‥》

誰にともなく呟いた事にまさかの愛デバイスから答えを返され、彼は気不味そうに自分の頭をペチペチ叩く。

 

「へっ‥そうかい‥あんがとよ‥『リア』」

 

「あいつは、強くなるな‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございますm(__)m
次はまた次の日曜に出す所存。
多分、前作同様周1投稿になると思います。


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ハゲとぼいん。

少し早いけど投稿。


 

お昼を告げるチャイムが鳴る。

 私は固まった身体を解すように伸びをする。

さてと、

アルファードさんをお昼に誘おうと彼に近付き、声を掛けようとするが。

そんな私と彼の間に影が滑り込む。

 

「アルファードさん‥お昼‥御一緒しませんか?」

 

「ん?ああ‥フェイトか‥?ん。別に構わんよ‥」

 

「やった♪それじゃ行きましょ♪」

 

 

と、フェイトちゃんに先を越されてしまった。二人で食堂へと歩き出してしまう。

私は相手の居なくなった席と、そこに伸ばしかけていた手をゆっくりと下ろし、出掛かった声を呑み込んだ。

 そして、二人の出ていったドアを睨みつける。

 あんの‥おっぱいオバケ‥!絶許!絶にだ!

 フェイトちゃんは私の心友だ。

なのに‥!

ああ‥なのにだ!

事もあろうに、私の好きな人を!あの、私にはない、脂肪の凶器で誘惑するのだ!

 まあもっとも彼がそんな色香に絆されるとも考えてはいないが!

 あえて言おう!

 おっぱい‥滅びれろ!‥と。

  思えば、昔から、要注意人物だった気がする。

======================

 

今日も今日とて日課の訓練を終え、訓練室の隅で、今日の訓練成績のデータを見て、失敗点、反省点を洗い出していると。

 

「なのは‥シャッス!」

 

「あ‥フェイトちゃん!メローン!」

 

同じく訓練終わりのフェイトちゃんがシュタッと手を上げながら、声を掛けてきた。

私も人さし指をフェイトちゃんに向けて上げ、ビシッと指差すように挨拶を返す。

 彼女は私の心友だ。名前はフェイトちゃん。

入局する前からのお友だちである。歳が近いのもあり、局内では部隊は離れてしまったが、何かとお互い都合を合わせて、一緒に訓練をしていた。

 

「最近、なのは‥強くなったね?」

 

「そう?」

 

「うん‥凄く戦い難くなった‥」

 

 そりゃ、そうなるように考えて動いてるもの。

隊長の教えを実践できている気がして嬉しくなる。

 

「そっか‥うれしいな♪フェイトちゃんは今更御世辞なんて言わないよね?」

 

「うん勿論‥何か、切っ掛けがあったの?」

 

と、彼女は不思議そうに聞いてくる。

 

「うん‥ウチの隊長さんにね?訓練してもらったの♪」

 

と、私は若干誇らしげに答えてしまう。

ドヤってたかもしれない。

 

「へえ?そういえば、なのはの所の隊長さん‥有名だもんね‥?」

 

「ほえ?そうなの?」

 

「知らなかったの?!」

 

フェイトちゃんは勢い良く聞き返してくる。

 だって知らないものは知らないのだ。

確かに、模擬戦闘では一度も勝てた事は無い。

つまり、強くて有名なのかな?

でもそれなら、もっと強い人はいる気がする。

例えば、クロノ君とか‥。

私が不思議そうに見つめていると、フェイトちゃんは答えを教えてくれた。

 

「私、時々、教導隊の方に訓練にお邪魔してるんだけどね?‥そこでアルファードさんは‥とても腕の良い教導官として有名なんだ‥」

 

「例えば、Aランクの魔力キャパの教え子をAAランクの魔導師試験に合格させた‥とか‥」

 

「ほえ~‥凄いね‥」

 

魔力キャパシティと魔導師ランクはそんなに密接な関係はないが、やはり、魔導師ランクには魔力キャパシティに即したランクを受ける人が多い。

この世に魔法は数あれど、それを使いこなせるかは、魔力キャパシティに依存するからだ。

だから、魔力キャパシティの高い人は、色々な魔法を使えるし、使用魔法をデバイスに沢山組み合わせることもできる。故に、魔力キャパシティが高いということは、障害に対する、対処法の選択肢が増えるということで、キャパシティ以上のランク挑戦はやはり、難易度は比例して跳ね上がるのだ。 

 これが厄介なのは、キャパシティは訓練しても、そんなに成長が見込めないということ。

それは、天性のもので、魔法は才能。と言われる所以なのだ。

特に、AランクのキャパでAAランク合格なんて凄い事なのだ。

私は知らないうちに、凄い人に教わっていたんだな‥と思うと、自然に顔が弛んでしまう。

 何故だろう。別に自分が誉められたわけでもないのは十分わかっている。

 ただ、隊長が他の人からも認められている。ということが、なんだかくすぐったくて‥。

 

「ねえ‥?なのは?」

 

「なあに?フェイトちゃん」

 

「お願いがあるんだけど‥?」

 

「うん?私に出来る事ならなんでも言って?」

 

と、2つ返事で返したこの時の私を殴りたい。

 

「‥私も‥アルファードさんに訓練‥見て貰いたいな‥って‥」

 

 なん‥だと‥

 

「私‥魔力出力低いでしょう?だから、今のままじゃ執務官の試験が‥不安で‥」

 

なるほど‥フェイトちゃんは本気で不安がっているようで‥表情には蔭が差している。

 そんな彼女の力になりたくて‥。

でも‥何故だか、隊長を紹介したくない。という気持ちもほんの少しあって。隊長がフェイトちゃんと訓練している姿を考えると、胸がチクリと痛んで、

でも‥結局は心友が困っているのを見過ごせない。という気持ちの方が勝って。

 

「うん!わかった!お願いしてみるよ!」

 

と、気が付いたら拳を握りながら、私は答えていたのだった。

さて。隊長にどうしたらお願い聞いてもらえるかな?

 

「ありがとう!なのは!」

 

と、フェイトちゃんは嬉しそうな笑顔で私を抱き締めた。

 

 なん‥だと‥

 

そんな私の顔にナニかやらかいものが当たった。

なんだ‥これは‥?まさか‥

確認すると、フェイトちゃんの胸だった‥

私は思わず、自分の胸に手をやる。

だがその手は何も触れる事なく空を切って‥。

虚しさが込み上げる。

魔力キャパシティは天性のモノ‥

胸の大きさも天性のモノ‥

一瞬黒い感情に支配されそうになったが。

頭を振って振り払った。

 

◆◆◆

 

「よろしくお願いいたします‥」

 

と、俺は何故か金髪のツインテールのお嬢ちゃんに頭を下げられていた。しかも不景気な顔でだ。もう一度言おう。不景気な顔でだ。

お悩み相談を受けたつもりはないんだが。

いきなり金髪美少女に不景気な顔で挨拶される‥

何ぞこれ?モニタリング?

これを罰ゲームと、とるか、御褒美ととるかは人其々だろう。因みに俺は前者だ。

 

 事の始まりは、同じ部隊の高町に友達の訓練を見て上げて欲しいと頼まれた事。

まあ、喫緊の仕事も無かった事。

 というか、高町がまさかの俺の分の仕事迄やってくれていた。事務仕事そんなに得意でも無いくせにだ。‥それだけ大切な友達なんだろう。

 そこまでされたら断るわけにもいかなかった。

ああ‥なんで事務仕事が苦手な高町が俺の分の仕事をこなせるんだって?

あいつめ。副隊長や、その他の先輩隊員迄巻き込んでやがった。

わからない所は聞きながら、しかも俺にばれないように根回しも、きっちり忘れずにやりきりやがった。

 どんな行動力だよ。

‥末恐ろしいやつだ。

とまあ、流石の俺も少女にそこまでされて、断れる程、鬼畜では無い。

だから、きちんとOKしたんだぜ?

だが、その後も高町は何故か俺の背後を付いて離れなかった。

 しかも、ドヤ顔でだ。

仕方ないからチョコを握らせて、頭を撫でてやったら、上機嫌でどっか行きやがった。

 お前、チョコ欲しかっただけかよ。友達ついでかよ。

 まあ仕方ないよな。チョコ旨いし。

と、高町はそこで、世話になったであろう副隊長や先輩達に声を掛けられ、彼女達の無言のサムズアップに対して、

ドヤ顔ダブルピースで返していた。

 アイツのドヤ顔可愛いんだよな。

だからか高町は部隊内でも、人気が高い。

 

 話を戻そう。

 

「フェイト‥テスタロッサ‥ハラオウンです‥この度は‥」

 

「あー、そういう畏まったのいいから」

 

なんかガキの癖に、随分礼儀正しいのが来たな。

おしゃまというか。お前本当に高町のお友達?

気とか合うの?

 

「恐縮です‥本日は‥よろしくお願いいたします‥」

 

「あいよ‥んじゃ早速やろうか‥」

 

「っ!‥は‥「ああ、ちょっと待って」‥ぃ?」

 

「ハラオウンてことは、リンディさんとこの?」

 

「は、はい。義理の母です」

 

「そか。んじゃ一応、筋を通しておかないとな‥」

 

「‥筋?」

 

「ん。ちょっと待っててね?」

 

俺はクロノの回線に通信をかける。この回線を使うのも久しぶりだな。

 

「はい?アルファード?!」

 

「よお。クロ坊‥久しぶりだな」

 

「ちょっと待ってくれスチャ」

 

「おい‥なんでわざわざグラサンかけた?!」

 

「眩しいからだが?」

 

「お前淡々とこの野郎!」

 

「で‥どうしたんだ?ゲハード?」

 

「ジハードみたいに言うんじゃねえよ?!ちょっと格好良くて、改名考えるわ!」

 

「マジか‥センスを疑うな‥」

 

「お、ま、え!が!言いだしたんだろうが!?」

 

「それでどうしたんだ?ハゲ‥」

 

「あれ?オブラートが消え失せたぞ?」

 

「とうの昔に全日に移籍しただろ?」

 

「それオブラーイト!?」

 

「若い子がわかんねえネタ言うんじゃねえよ!お前、俺が切れたら、提督だろうと辺り構わずぶっこぬくぞ!?」

 

「お前は何を言っているんだ?‥頭のネジが何本か‥外れて‥ああすまん。既に一本も無かったな?」

 

「一本も無いのは髪の毛だから!?ネジは一本たりとも外れてねえよ!」

 

「果たしてそうだろうか‥?」

 

「だから!お前淡々とこの野郎!」

 

そんな俺達のやり取りをポカンと見つめる美少女一人。

 

ああ。やっべ。

 

「ところで、フェイトちゃんって知ってるか?」

 

「‥っ?!」

 

「フェイトに何をする気だ!?このロリハゲ野郎!!?」

 

「何をする気も何も、今俺のとこに稽古つけてくれってきてんだけど‥」

 

「なん‥だと‥」

 

「一応、筋を通そうと連絡したんだがな‥」

 

「教導‥してやって、くれるのか‥?」

 

「ん~?家族の許可無しってことで、やめようかなと‥」

 

「待ってくれ!」

 

‥まあ冗談だけど。

高町に頼まれてるしな。

ちょっとクロノを苛めたくなっただけだ。

 

「どうしよっかなー‥」

 

「頼む!フェイトを導いてやってくれ!」

 

と、ウィンドウの向こうで必死に頭を下げるクロノ君。

彼も家族なりにフェイトちゃんの事を気にかけているのがわかり、微笑ましくなる。

‥このくらいにしとくか。

 一応上官だし。

 

「あいよ、おっけ。」

 

「んじゃそういう事で‥任されました‥」

 

「あ、ありがとう!恩に切る!」

 

と、通信を切る。

 

「クロノと、お知り合いなんですね‥?」

 

「ああ‥アイツが子供の頃にちょっとだけ教導つけたんよ‥」

 

「そうなんですか‥!」

 

あらあら眼輝かしちゃって。

 

「んじゃ軽く模擬戦闘してみようか‥」

 

「はい!お願いいたします!」

 

======================

 

 

俺の前で這いつくばるフェイトを見て、考える。

 

 実力的にはかなり申し分ない。

 

 強いて言うなら、力の入りすぎ。

分かりやすくいうなら、何か焦ってる。

経験上言うなら、あまり良くない兆候。

このままじゃ、遅かれ早かれこの子は潰れる。

なんで焦ってるのか、これが解れば手っ取り早いんだけど。

 

 こういうタイプには直で聞くのはアウト。下手したら、余計に殻に閉じ籠る。

 

 ちょっと話してみようかね‥。

 

「ん~。良いね。魔法は兎も角、戦闘技術が高い」

 

先ずはレベル高い方を誉めながらジャブ。

 

「あ、ありがとうございます‥」

 

嬉しそうにお礼をいうフェイトちゃん。

 素直でたいへんよろしい。

 

「何かやってたの?」

 

「幼い頃に家庭教師に‥」

 

「‥最近の家庭教師は幅広いんだねえ‥」

 

「基礎がしっかりしてるから、大概の事はこなせるでしょう?」

 

理由と共に持ち上げながら。

 

「でも‥私‥魔力出力が弱くて‥」

 

 と、フェイトちゃんは目を不安気に揺らしながら返してきた。

 

ん。これか?

 

「そう?全然及第点だと思うけど?」

 

ちょっとだけ食い下がってみる。

 

「でも!私の友達は‥出力もキャパシティも凄くて!」

 

「そう言えば、高町と友達なんだよね?」

 

「はい!なのはは私の初めての友達で‥彼女は凄いんです!」

 

と、彼女は嬉しさと悔しさが同居したような、複雑な表情を見せる。

 

ビンゴ。

 フェイトちゃんは明らかに高町を意識して焦っている。

 友達に置いていかれたくないとかかな?

ありがちではあるが、割と誰もが陥りやすい悩みだ。

さて。どうしようかな。

こういうタイプには‥理屈はきっちり説明しつつ、少し感情論を交えながら‥。

 

「とりあえずさ。出力の弱さは‥どうしようもない。だから切り捨てよう‥」

 

「え?」

 

不安気に目を見開くフェイトちゃん

 

「無い物強請りしてても仕方ないからさ‥」

 

「フェイトちゃんの戦闘技術だけど、もうかなりのレベルだよ?そこまで上達させるには良き師と、自分の気持ちが噛み合わなきゃいけないはず。」

 

「自分の気持ち‥?」

 

「うん‥訓練楽しかったんじゃない?」

 

「‥はい‥リニス‥いえ、家庭教師なんですけど、とても良くしてくれていて‥」

 

彼女は一言一言、噛み締めるように言葉を絞り出す。まるで思い出のパズルのピースを組み合わせるように。

素直で真っ直ぐだねえ。おじさん眩しくなっちゃうよ。眩しさなら負けないけどな(キリッピカッ

 

「そっか。ならさ。それを捨てるなんてとんでもない。よね?」

 

「勿論です!」

 

「誰でも行き詰まる時はある。そんな時はさ‥1歩下がってみるのも、ひとつの手なんだよ?」

 

「一歩下がる‥?」

 

「自分が楽しかった事を伸ばしてみたり、新しい事を始めてみたり‥ね?」

 

 好きこそモノの上手なれ。

自分が楽しかった事や楽しいと思える事は伸びやすい。

そして、そんな何かが伸びた先には‥思いもよらない武器になることもある。

 

「新しい事‥」

 

フェイトちゃんは反芻するように呟く。

出来ればこの先には自分でたどり着いて欲しい。

他人に促されて始めた事より、自分で撰んで始めたモノの方が伸びやすいのは自明の理なのだから。

 

「負けたくないと思ってるヤツがいるなら、現時点で自分がそいつに勝ってる所を考えてみな‥?」

 

 これが最大限のヒントかな。

 

「私が勝ってる所‥」

 

フェイトちゃんは不安気に瞳を揺らす。

 

「あるはずさ‥何もかもを敵わないと、本気で思ってるなら、人はそもそも、負けたくないなんて思わない‥」

 

フェイトちゃんは暫し俯き、考えた後、顔を上げた。

その瞳は勝ち気に、溢れていた。

うん。良い顔出来るじゃない。

 

 

 

◆◆◆

 

私は彼の言葉を噛み締めながら俯いていた。

 私がなのはに勝っている所‥

そんなモノ‥

あるだろうか?

心の強さ。魔力の出力。キャパシティ。

魔法関連は全滅に近い。

 でも彼は言う。

敵わないと、思っているなら負けたくないという気持ちは芽ばえないと。

そうか。私‥負けたくないと思ってるんだ。

友達であるなのはの横に並び立ちたいと、思いながら、

それでも魔法の才能は残酷で‥

努力しても埋まらない、その差に落胆、絶望しつつ、魔法を嫌いになりかけていたのかもしれない。でも‥そうだよね。それを捨てるなんてとんでもないよね。

うん。これは母さんが私に遺してくれたモノなのだから。無い物強請りしてても仕方ないのだ。

それに、母さんが私に遺してくれたモノは魔法だけじゃない。

そうだ。なのはに無くて、私にあるもの。

リニスが教えてくれた戦闘技術。

例えば、なのはと私が魔法無しで戦ったなら、勝つのは私だろう。

母さんはきちんと遺してくれていた。

魔力が少なくても戦っていける武器を‥!

胸が熱い‥!

見えた。私の進む途。

 

=====================

 

「よう!精が出るねえ!」

 

「ハッハッハッ‥おはよう‥ございます!フッハッ」

早朝から走り込んでいた私はアルファードさんとスレ違い、挨拶を交わす。

 あれから私は基礎トレをメインに組み込んだ。

走り込み。体幹。私の武器である戦闘技術をより確かなモノにするために。

 魔法でなく身体能力の強化にシフトしたのだ。

 身体能力の強化は結果が見えにくく、不安になる時もあるが、

シグナムとの模擬戦闘で誉められたから、多分、結果は出ているんだと思う。

何より間違っているならアルファードさんが方向修正してくれるはずだし。

私は歩みを止めない。これからも間違いながらも一歩一歩着実にあるいていくんだ。

私は何を焦っていたんだろう。

こんな母さん曰く失敗作の私にも、今では掛け替えのない仲間がいて、家族がいて、導いてくれる人がいる。

 信じてみよう。もう少し。

この素晴らしい仲間達を‥そんな人達が愛してくれる自分を‥。

 今日だって訓練室に入れば‥ほら。私の大好きな親友と教官が今日も笑顔で、出迎えてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
少女なのはさんにドヤ顔してほしいだけの人生だった―
ロリドヤ顔とか最高かよ。
次はまた来週‥と言いたいけどまた早めにでるかも(笑)


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ハゲと誕生日。

初の予約投稿‥上手く出来ているかは起きてからのお楽しみ‥ドキドキ(///ω///)♪



パチパチと、目を細めつつ、パソコンのキーボードを叩き、エクセルの表を埋めていく。

タブから別のエクセルシートに移れば、そちらも細かい数字の羅列。数字がぼやける。この所、少し視力が落ちてきたかもしれない。

肺から込み上げる空気を抑える事なく吐き出せば、「‥はあ‥」

と、所謂世間一般で言うところのタメ息というものが出て‥疲れを感じる心を奮い立たせて、再度画面へと顔を近づける。

 私はクシクシと目を擦りながら、表を見比べつつ、

粛々と数字を打ち込んでいく。

そんな画面とにらめっこをしている私の机にカサリと何かが置かれた。

見れば、可愛いリボンでラッピングされた小さな箱。

気配に振り返り見れば、

此方を振り返りもせず手を振りながら、歩いて行くハゲの後ろ姿。

パソコン画面の右下を見れば、今日の日付けは3月15日。

 

(ボンッ)顔が一気に熱を持った。

全く‥アルファードさんはいつも私をあざといとか言うけど、彼の方がよっぽどあざといと思う。

 と、其処で気付く。

プレゼントの箱は二つある‥。

何だろう?‥間違い?

私はもうそれが気になって気になって‥仕事に全く身が入らなくなってしまって‥。マウスポインタのカーソルを目で追いながらも、箱にチラチラと視線が行ってしまう。先程迄の気だるい疲労感は消え失せて、ウキウキ感が私を支配していた。

これはもう無理だ。

 私はおもむろに、2つのプレゼントを掴み、それを二つとも、胸元にしまい、パソコンを閉て、席を立つ。向かう先ははやてちゃんの席だ。

 

「お?どないしたん?なのはちゃん」

 

キョトンとしながら、私に声を掛けてくるはやてちゃん。

 

「ごめん‥今日は早退する」

 

「へ?具合でも悪い‥「‥帰るから」んか?」

 

それだけ告げると、私は職場を後にする。

 

「はやて‥どうしたの?」

 

「あ‥フェイトちゃん。今日はなのはちゃん、早退したから‥」

 

「え?具合でも悪いの?!」

 

「わからん‥でも‥顔真っ赤やったから、もしかしたらそうなんかもなー‥」

 

そう言いながら、はやてはチラリと机の上のカレンダーに目線を送る。

 

「まあ‥医者でも治せん病やけどなー‥さすがのエースオブエースもかたなしやなあ‥」

 

と、ポショリとはやては呟いた。

プレゼントを渡すのは、明日以降にしておこう。

親友としては悔しいが、今日渡しても、それは無粋でしかないのだから‥。

 

「‥女の友情は、儚いで‥」

 

そう呟くはやてをフェイトは不思議そうに見つめていた。

 

自室に戻ると私は急ぎ、自分の机にプレゼントの箱を二つ出し、

その内の1つを開けにかかる。

 逸る心に急ぎながらも包装を破かないように丁寧にそーっと、開ける自分は律義だと思う。

 ハヤクハヤクと急かす心を抑えつつようやく開けられ、

箱から出てきたのは、ピンク色のリボン。

それを手に取り、見つめれば、クスッと微笑みが溢れてしまう。

 私はそのリボンを大切に両手で包んで胸元に一度押し抱くと、手で優しく握りながら、衣装タンスの引き出しの1つを開ける。中には、色とりどりのリボンが一本ずつ綺麗に並べられていて‥私は1番手前に、そのピンク色のリボンをそっと置く。

数えてみれば、もう‥10本目のリボン‥。

 そう‥1番始めに彼からリボンを貰ってから、もう10本目だ。そうか‥あの運命の誕生日からもう10年になるのか。

 

======================

 

「「誕生日おめでとー」」

 

「みんなありがとうなの!」

 

その日、私は部隊のみんなとフェイトちゃんに誕生日をお祝いされていた。

今日は私の11才の誕生日である。

親友のフェイトちゃんはもちろん、大好きな隊長迄含めた部隊のみんなが私の誕生日をお祝いするために、こんな場を設けてくれた。

はやてちゃんはお仕事の都合でこれなかったけど。でも‥代わりにヴィータちゃんが祝ってくれたから、トレードオフである。

顔を真赤にしながらおめでとうを言ってくれたヴィータちゃんはほんとに可愛くて。

それだけでかけがえのない誕生日プレゼントになった。

 

「おめでとう‥なのスケ♪」

 

「ありがとうございます!キューブ副隊長!」

 

私をなのスケと呼ぶのはキューブ副隊長。

サラサラ茶髪を肩迄伸ばしたセミロングの綺麗な大人のお姉さんである。

何故なのスケと呼ぶのか尋ねたら、可愛いから。と返されてしまった。センスはよくわからないけど、悪意は全然感じないので私は許容している。

 私は心の広い女だからね!

 彼女は仕事の出来る大人の女性と言った感じで少し憧れている。

 

「よっ♪おめでとさん♪‥ドヤ町♪」

 

「‥ツーン」

 

‥私をドヤ町等と呼ぶのは、レオーネさん。

 同じ部隊の年上の男の先輩なのだが、軽薄な言動と雰囲気が私は少し苦手だ。しかも私をドヤ町とか呼ぶし、何故ドヤ町と呼ぶのか聞いてみたら、ドヤ顔が面白いから等ときたもんだ。こちらは悪意しか感じない。

 なので私は滅多に返事しない。

 私の心の容量は相手によって、決まるのだ!

 

「なのは‥おめでとう‥」

 

そう言って小さな袋を渡してくれたのはフェイトちゃん。

袋をそっと開けて、中を見ると、クッキーだった。

「わあ‥」

 

「母さんに教わって頑張って作ったんだ‥あと、こっちは母さんから‥」

 

と、もう1つ袋をくれる。

 

「ありがとうなの!食べて良い?」

 

「もちろん♪」

 

と、フェイトちゃんからのクッキーから摘まんで口に入れる。

 サクサクした食感と程よい甘さとバニラの香りがお口の中に広がる。

 

「ん~~♪‥スッゴく美味しいの!」

 

「良かった♪」

 

私の感想に安心したように、柔和な微笑みを浮かべるフェイトちゃん。

そこで私はリンディさんの方のプレゼントも開けてみる。そちらも中はクッキーだった。フェイトちゃんのクッキーをあっという間にたいらげてしまった私は、ニコニコしながら、そちらにも口を付ける。

 

 瞬間、時が止まった。

口の中を暴力的な甘さが暴れまくる。

何だろうこれは‥

砂糖なんだろうか‥?

痛いっ?!甘さが痛いっ?!

角砂糖の方がマシと言える、天元突破した甘さが暴れまくる。

私は慌てて、お茶を飲む。

お茶の渋味を感じてもまだ治まらない甘味。

目に見えて、落ち込んだ私に心配そうにフェイトちゃんが声を掛けてくる。

 

「なのは‥どうかした?」

 

「う、ううん?何でもないよ‥フェイトちゃん」

 

せっかくのプレゼントに文句を言うなんて、そんな失礼なこと出来るわけがない。

ましてやお前のかーちゃんのクッキーがヤバいだなんて‥。

 

「どうした?なのスケ?」

 

と、今度はキューブ副隊長が声を掛けてくれた。

 

「いえ‥」

 

正直に言うわけにもいかず、私はお茶を濁す。

 

「何か悩みでもあるんなら隊長に誕プレおねだりしちゃいなよ!」

 

「‥ええ‥?」

 

隊長からプレゼント‥貰えたら嬉しいけど‥おねだりなんてはしたないよね‥

 

「何遠慮してるの?私からもフォローしてあげるからさ‥」

 

 流石キューブ副隊長。

私が言わなくとも、気持ちを汲んでくれる。そこに痺れる憧れる。

そうだよね。今日は私の誕生日。私が主役の日なのだ。

きっとはやてちゃんなら「今日の主役」なんて書かれた襷を掛けながら、図々しくおねだりするんだろう。

私も勇気を出してみよう。

 高町なのは‥11才。

今日は11才らしく、隊長に甘えてみようとおもいます!

◆◆◆

 

キューブと何やらコソコソ話していた高町が此方をじっと見つめていたので、俺は声を掛けてみることにした。

 

「どうした?高町?」

 

と、問えば、高町は顔を綻ばせて、

意を決したように、口を開いた。

 

「隊長‥!なのは、誕生日プレゼントが欲しいの!」

 

‥お、おう。またダイナミックにせがんできたな。

これはキューブの影響だろうか?

だが、普段は滅多に我が儘も言わず、仕事を頑張っている高町の、たまのおねだりだ。

聞いてやるのも吝かではない。

多少高いモノでも聞いてやるつもりで、問い掛ける。

 

「なんだ?何が欲しいんだ?」

 

プレステ4か?ネオジオCDか?

 

俺がそう言うと高町はフニャリと笑うと、俯いてしまう。

やがて、顔を上げると、

 

「‥私!隊長の初めての女になりたいの!」

 

 なん‥だと‥。

斜め上過ぎるおねだりが来た。

流石にこれは教育が悪すぎる。

早生まれとかそういう問題じゃねーぞ。

 

 と、俺がキューブを睨み付けると、

キューブはブンブンと顔を横に振った。

どうやら、キューブ自体も寝耳に水のおねだりのようだ。

どうしたものか‥。

 俺が、固まっていると、

 

「ダメ‥ですか?」

 

 と、高町が泣きそうになっていた。

いや、泣きたいのはこっちである。

 正解がわかんねえよ。

とりあえず俺は、元々やるつもりだったプレゼントの箱を取り出し、高町に手渡した。

中身は安物のリボンである。

がっかり感が否めないが、

プレゼントを受けとり、キョトンとしている高町に告げる。

 

「まあ…その‥なんだ‥俺が‥生物学的、雌に贈り物をやるのは‥これが‥初めてだ‥」

 

それを聞いても、高町はキョトンとしたままである。

 ちくしょう‥顔がひたすら熱い。

 そんなフリーズしている高町にキューブが何事か囁くと‥

みるみる高町の口の両端がつり上がり、ドヤっていった。

ドヤアアァァァァァァァ!!という効果音が聞こえそうな位のそれはもう見事なドヤ顔だった。

まあ‥なんだ‥たかがリボン一本で、そこまで喜んでくれるなら、こちらとしても嬉しい。

 その横では、キューブが床に拳を打ち付けなが

ら‥

 

「隊長の初めてがあああ?!」

 

等と泣き叫んでいた。

‥やかましいわ‥あいつは後で殴ろう。

そして、その横ではレオーネが‥

 

「バカな‥まだ上がるだと‥ドヤ町‥お前がドヤ顔ナンバーワンだ‥」

 

等と愕然としていた。

やだ‥ウチの部隊、カオス過ぎぃ。心労が酷い。

 俺がハゲているのは、どう考えてもこいつらが悪い。

 そうだ‥この部屋には部隊外の天使がいたじゃないか‥

と、俺は助けを求めるようにフェイトちゃんに目をやると。

 

「‥なのは‥良いなあ‥」

 

等と、羨ましそうに、床にのの字を描いていた。

 

 ‥見なかったことにしよう。

 

 

=============回想終了=====

 

あの日から隊長は毎年私の誕生日にはリボンをプレゼントしてくれている。

あのカオスな情景を思い出すと、今でも笑顔が溢れてしまう。

そこで私はもう1つのプレゼントを思い出した。

急いで開けると、中にはブルーライトカットの赤いフレームの眼鏡。

可愛い‥。可愛いデザインのそれを手にとれば、心臓の鼓動はどんどん加速して。

 ドキドキしながらそれをかけてみる。

今までぼやけていた視界がクリアになる。

鏡を見ながら、角度を変えつつ、笑ってみたり、怒ってみたり、困ってみたりと、百面相。

それでも何時まで経っても、顔の熱は引かなくて‥胸の鼓動も治まらなくて‥。ずっとにやけたままの頬をムニムニと引っ張りながら、

顔が戻らなかったらどうしよう。なんてバカな事を私は眼鏡をクイクイしながら考えていた。

とりあえず、明日からはこの眼鏡を着けていくとして‥出来る女風に‥髪形もシニヨンでまとめてみようかな‥。纏め方、練習しないと‥似合ってる‥って言ってくれるといいな‥えへへ‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございますm(__)mこれで次は完全にストックが空なので、来週の日曜に出せれば(///ω///)♪ほなノシ


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ハゲとシュークリーム。

評価を付けて下さった方々‥ありがとうございますm(__)m身に余る光栄でございますm(__)m
お蔭様でモチベが上がって、時間があったのでサクサク書いてしまいました(笑)チョロい作者(笑)



誕生日の翌日。

 私は朝、出勤してから直ぐに、アルファードさんの姿を探す。

視界の端に肌色が目に入る。

 こういう時、ハゲは探しやすくて良い。

ススス‥と彼の背後に立ち、ソッと初めてシニヨンで纏めてみた髪に手を当てる。

セット良し。戴いた眼鏡もピカピカにレンズ迄、磨いてきた。軽く深呼吸をひとつ。呼吸を整えて、そうして漸く、彼の背後から声を掛ける。

 

「お早うございます‥♪」

 

「ん?高町か‥え?誰‥?」

 

彼は振り返り、私を見た瞬間、動きを止める。

彼は目をパチクリさせながら、聞いてくる。

 

「いやいやいや‥名前呼んでるじゃないですか!」

 

「お?おう。高町か?お早うさん‥」

 

「んー?んんん?んんー?どうしたんですかー?うっすら頭が赤いですよー?LEDですかー?」

 

と、私は眼鏡をクイクイしながら、彼を更に近くから見つめる。

 

「やだ‥省エネ‥んっ!んんっ!その‥なんだ‥思った通り、眼鏡‥似合ってるぞ‥あと、その髪型も‥」

 

と、彼は一応のツッコミの体で反抗しつつ、咳払いをして誤魔化すようにそんな事を真赤な顔で言うものだから‥。

 

「あ、ありがとうございます‥」

 

と、私も恥ずかしくなってしまったが、なんとか返事を絞り出す。

というか顔が凄い熱い。

‥これ‥私も顔真赤なんだろうなー‥。

 恥ずか‥死ぬ‥。

  ダメだ。ロープブレイクだ!

そこで私はいつものように伝家の宝刀を抜く。

 

「それで‥お礼にシュークリーム作ってきました!」

 

「お、おお‥!そうか!ありがたくいただくよ‥」

 

と、嬉しそうに早速シュークリームをほおばる彼をこそばゆい想いで見つめていると。

 そういえば、初めて彼にシュークリームを作った時も誕生日のお礼だったっけ‥。

 

 

 

======================

 

 

 

誕生日を祝って貰い、めでたく隊長の初めての女の地位を勝ち取った私は上機嫌でいた。

 隊長からいただいた白色のリボンを早速付けて、朝、出勤してみれば‥

 何故か職場にフェイトちゃんがいた。

私に会いに来たのかな?

 挨拶しようかと、声を掛けようとした時点で、私は何やら嫌な予感がして、様子を伺う事にした。

するとフェイトちゃんはススス‥と、隊長に近付き、

隊長に小さな袋を渡していた。

 あの袋には見覚えがある。

 あれは‥まさか‥。

 隊長は嬉しそうに袋からクッキーをつまむと、口に放り込んだ。

美味しそうに咀嚼したあと、フェイトちゃんの頭を撫でていた。

フェイトちゃんの顔は真赤だ。

 そして、目を弓にして、とても幸せそうでもある。

 やられたっ‥!

 悔しさに唇を噛む私の耳にフェイトちゃんの声が聞こえた。

喧騒の中なのに、何故かハッキリと聞こえたのだ。

そう。それはまるで私に聞かせる為の言葉。

 

「アルファードさんは‥こんな風に、女の子からプレゼント‥よく貰うんですか?」

 

「ん?恥ずかしながら、ないな‥」

 

「じゃあ!私が初めてですね‥!」

 

その時、なのはに電流走る‥!

 

「じゃあ!私が初めてですね‥!」

 

フェイトのこの言葉が頭の中をこだまして回る‥。

 ハッとフェイトを見れば、彼女もこちらを見ていて‥。

 

 おや‥フェイトの様子が‥‥

 ドヤアアア!

‥そこには満面のドヤ顔のフェイトがいて‥。

 

フェイトちゃんがフェイト‥ドヤロッサに進化したの!

 

 私は思わず、その場でガクリと膝を付く。

そうだ‥私は何を浮かれていたのだ。

 流石は私の最強のライバル‥。

 振り返れば奴がいる。

 猛省‥っ!

猛省だっ‥!

そして直ぐに、私は立ち上がる。

反省と後悔は一瞬で良い。

 大事なのはこのあとだ‥!

その宣戦布告‥っ!確かに受け取ったよ!

フェイトちゃんっ!

でも、見てて!最後にドヤるのは私だから‥っ!

そして私はその場を後にした。

 

★★★★★★

 

仕事をかつてない速度で終らせた私は急いで自分の部屋に戻っていた。

やるべきことはシンプル。

 順番に関しては、最早どうしようもない。

どうしようもないことは切り捨てる。

 ならばどうする?順番以上のインパクト‥つまりクオリティで上回り、塗り替える!

 フェイトちゃんのクッキーは確かに美味しかったけど!‥それを‥越える‥っ!

そう‥お母さん直伝の翠屋シュークリームならば‥勝つる‥っ!

私は翠屋をお手伝いしていた時の記憶とレシピを呼び覚ましながら、工程を進めていく。

記憶を辿りながらも、何とかタネは完成。

 ‥後は焼くだけ。

天板に綺麗に列べてオーブンに放り込んだ所でチャイムが鳴った。

どちら様?と、ドアを開けると、

 ハゲがいた。

あまりの、衝撃に私が口をパクパクさせていると、

 

「ああ‥すまんな‥なんか急いで帰ったから‥具合でも悪いのかと思ってな‥」

 

「い、いえ‥すいません‥観たいテレビが有って‥」

 

等と焦った私は意味不明な言い訳を言ってしまう。

 

「そ、そうか‥ああ、勘違いなら良かった‥んじゃ、帰るわ‥邪魔したな」

 

と、彼は身を翻してしまう。

 

 どうしよう‥?

 今お部屋に誘って、シュークリームを食べていただこうか?

 

 でも、いきなりお部屋に隊長を入れるのは、恥ずかしい‥おそうじはいつもちゃんとしてるけど‥

それでも、なんだか気恥ずかしいのだ。それにシュークリームもまだ味見してない‥。

 多分大丈夫だとは思うが‥今回は失敗は許されないミッションである。

 と、あれこれ私が逡巡しているうちに、隊長はドアから離れてしまう。

 

「ぁ‥」

 

つい、少し名残惜しげな声が出てしまう。

それに気付いてか、気付かずか‥

彼がこちらを振り返り、いつもの優しい眼差しで‥

 

「どうした?高町?」

 

と、いつものように彼は優しく声を掛けてくれて‥。それでも私はこたえられず‥。

尚も黙っている私に彼は更に声をかける。

 

「それとな‥そのリボン‥思った通り、似合ってるぜ‥じゃあな‥」

 

と、彼は手を振りながら行ってしまう。

 私はまたもや、その場でペタンと、膝をついてしまう。

脳内で彼の言葉

を反芻する‥。(ぼふっ)

顔が沸騰するように熱い。鼓動が五月蠅い。

 

「不意打ちとか‥1番ずるいよね‥」

 

と、ポショリと呟いたそんな言葉は誰にも届かず、廊下へと溶けて消えた。

 

★★★★★★

 

翌日。

 

 私はウキウキしながら隊長の席へと急ぐ。

手にはわざわざ工作して作った翠屋のデザインに似せた箱を持って。中身は勿論シュークリームだ。

昨日味見をした結果、やはりお母さんには及ばないが‥十分及第点と判断し、今に至る。

 

 彼は喜んでくれるだろうか?

 

 甘いモノが好きとは言え、

一概にシュークリームも好きとは言えない。

ドキドキしながら私は隊長の隣に立つ。

 

「隊長‥これ‥先日のお礼なの‥」

 

「ん?高町か。お早うさん‥なんだ?くれるのか?」

 

と、

 彼は笑顔で私から箱を受け取って。

ソーッと中を開いて、中身を見て、目を見開いた。

「‥!シュークリームか!大好物だ!ありがとうな?」

 

やった!とりあえず彼の好みには合っていたようだ‥。

 

「じゃあ早速いただくな?」

 

と、彼は嬉しそうにひとつ手に取り、かぶりつく。

 

「こ、これは‥程好い甘さと口どけの良いクリームの食感!そして、皮のサクサク感!甘過ぎないのに、コクがある‥だと‥シナモンも良いアクセントだ‥!」

 

と、ひと息に感想を述べたあと、

 キュッと目を瞑ると、やや、顔を上に上げ、彼は何かを考えるように黙りこんでしまう。

 

「‥これは‥高町が作ったのか?」

 

「はい‥」

 

いつになく真剣な雰囲気の彼に圧され、恐る恐る私は答える。

 

「そうか‥やはりな‥俺が今までに食べたどのシュークリームの味とも一致しないから、驚いたよ‥いや‥美味しかった‥ありがとう‥そうだな‥今迄で2番目に美味しかった‥」

 

 やった‥!やった‥!やったー!

 

 嬉しさあまって私は隊長の椅子の背もたれにしがみつく。

しかしそれでも、テンションは治まらない。

‥良いや。

 もう‥押しちゃえ!

 

と、私は隊長を座らせたまま、椅子を押して、職場内を縦横無尽に駆けめぐった。

 冷静になって後から考えると、凄く迷惑行為だ。

 カッとなってやった。今は反省している。

 ドヤ顔の美少女に押されながら笑顔で迫り来るハゲ‥。

 人によっては、悪夢に見そうな、ユルハゲ大事件であった。‥と、当時の同僚に未だに冷やかされる。

 

 でも隊長も戸惑いながらも楽しそうに笑ってくれていて、

しかも後で一緒にみんなに謝ってくれて。

作って良かったと思える‥とても楽しい1日でした。

 因みに隊長が食べた1番美味しかったというシュークリームは翠屋のモノでした‥‥‥orz

 やっぱり‥お母さんには勝てなかったよ‥。

 でもいつかはお母さんを越える‥っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございますm(__)m
テンション上げて一気に書くとちかれるべー(´д`|||)まあ短めですけどね(。>д<)
今更ながら、stanのワンポイントメモ。

◆◆◆は視点変更。====は回想or時間経過。★★★は回想中の時間経過を表しております。
何の説明もなく使用していた(笑)ので今更ながら、の説明でした。詠みにくいから止めてというかたはご一報ください。考えます。(やめるとは言ってない)


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第六話。

今回は短め。良きサブタイが思いつかなかった(。>д<)
まあ、いっか(ノ´∀`*)


私がFW達の訓練メニューを作成して、フェイトちゃんと共有しようと、管理局の廊下を歩いていた時だった。

 

「なのはさん‥ちょっとお時間良いですか?」

 

と、腕組して、壁に寄り掛かっていたヴァイス君に声を掛けられた。

 

「ああ。ヴァイス君。どうしたの?」

 

「実は―」

 

「そっか‥ティアナが‥」

 

 どうやらティアナが訓練を終わった後にもろくに休まず、個人訓練をしているらしい。

 私の教導‥結果が見えにくいからなあ‥。

ちゃんとティアナも成長してるんだけど‥

 でも‥気持ちはわかってしまう‥。

 結果が出ないと、苦しいよね‥

どうしよう‥?アルファードさんに相談してみようか‥いやいやいやいや!

何を考えてるんだ私は。今は私が教導官なんだから!何時までも、アルファードさんに頼ってたらだめだ。それに‥今回の件はダメなのだ。

もし、知られようものなら、きっと‥

 

「蛙の子は蛙だなあ‥」

 

なんてからかわれてしまう。

 

======================

 

また今回も、Sランクの試験に落ちてしまった。

私はいつものように訓練室で射撃魔法の精度訓練を行っていた。

そんなに難しい事じゃない。ランダムに射出される色分けしたターゲットに各々、対応した射撃魔法で地面や壁に当たらないように当て続け、相殺するだけだ。

ビジョントレーニングと、射撃コントロールの複合訓練。

 余談で少し自慢になるが、これができるのは私だけだ。

ランダムに射出されるターゲットを把握しながら、20発の魔力弾をコントロールし続けるのはなかなか集中力と計算力が必要で、3000回を超えた辺りで、流石に疲れてきて。

 

Master!resting soon(そろそろ休憩してください)》

 

「うん。ごめんね?レイジングハート‥あと100回位で上がるから‥」

 

レイジングハートが心配して声を掛けてくれるけど‥私はやめなかった。

限界‥と思ってから更に100回上積みする。

これが私のトレーニング法だ。人というものは、なかなか自分を追い込みきれないものなのだ。

本人が感じる限界というものは実はだいぶまだ余裕がある状態なのだ。

これは昔何かの教本で読んだ事だ。

なるほど。と、思った。

実際に私は限界と思ってからも、100回くらいの、上積みはこなせているのだから。

勿論ヘトヘトになるけども。

 

◆◆◆

 

 

「あら‥?どうしたんですか?隊長?」

 

「ん?キューブか。何がだ?」

 

「何か‥凄い、怖い顔してましたよ?あら‥それ‥なのスケの訓練データですか?」

 

データベース室で、なのはの訓練データを見ていた俺にいつのまにか、キューブが近付いてきていた。

 

「ん?ああ‥」

 

「なのスケ‥また、Sランク落ちちゃったらしいですね‥」

 

と、心配そうに呟くキューブ。

 こいつは部隊の中でも特になのはを可愛がっているからな。

 

「俺の力不足だよ‥」

 

「そんな事ないですよ!隊長の教導でダメならきっと誰がやってもダメですよ!」

 俺の自嘲めいた言葉を遮るようにキューブが口を挟む。

 尚も、言葉を続けそうな彼女を俺は制す。

 

「キューブ!」

 

「それ以上‥言うな」

 

「すみません‥失言でした‥」

 

「いや‥俺こそすまん‥」

 

「悪いがシャマル医務官をよんできてくれ」

 

「かしこまっ!」

 

と、元気良く部屋を飛び出していくキューブに俺は苦笑する。

 

 ‥ったく。俺も成長しねえな。

 あんな才能の塊のヤツを合格させてやれないんじゃ、教導官失格である。

 

「‥焦ってるのは、俺の方か‥」

 

《Master‥大丈夫ですか?》

 

ああ‥ありがとよ、リア‥」

 

 教える側が焦るのは禁物だ。

それはどうしたって教える相手に伝染してしまう。

しかし、なのはの訓練データ‥。子供がこんな無茶を繰り返していては、いつか事故る。

 気持ちはわかるのだ。

俺は今アイツの基礎にしか手を付けていない。

あの位の歳なら、小手先の技術を鍛えるより、基礎を固めるべきだからだ。おかげでアイツには成果がいまいち見えていないのだろう。

 まあ、その成果が見せられないのが、教導官が三流の証なんだよなあ‥。

 アイツは気付いているのだろうか‥。

 俺はなのはの訓練データを見ながら思う。

 どんどん射撃精度と、身体の反射速度が落ちていることに‥。

 原因は簡単。おそらく疲労だろう。

 おそらく、知覚出来ない程度の疲労‥それが、少しずつ、少しずつ。アイツの動き、集中力を鈍らせている。

 アイツの頑張りを否定するのは、心苦しいが。

 

 ‥しっかりしろ!アルファード!お前はまた同じ過ちを繰り返すつもりか!

ベシイっ!と、強く頭に張り手をし、気合いをいれる。

と、そこでキューブがシャマル医務官を連れて戻ってきた。

のだが‥何か俺を見て固まっている。

‥なんだ?

 

えーっと‥」

 

「シャマル先生‥わざわざ御足労すみません」

 

と、シャマル先生に声を掛けるがシャマル先生はじっと、俺の頭を見て、

 

「えっと‥打撲で良いのかしら?」

 

「‥はっ?」

 

「ブフゥッ!」

 

と、キューブがこらえきれないというように吹き出した。

‥なんやねん‥。

 

「隊長‥これ‥」

 

と、キューブが差し出してきた鏡を受取り、それを覗けば、そこには頭に大きな紅い紅葉を付けた、ハゲが一人‥てか俺だった‥。

俺は羞恥で顔が熱くなりながら‥

 

「違います(キリッ)」

 

「プフッ‥格好良い顔で言わないでください‥プフッ」

 

突っ込まれてしまった‥。おまけに笑われてしまった‥。

 シャマルさんは案外愉快な人のようだ。

 

「見て欲しいのはこっちです‥」

 

と、俺はなのはの訓練データを渡す。

 特筆すべき箇所には既にマーカーをつけている。

シャマルさんはそれを受け取ると、直ぐに真面目な顔になり、

 

「なのはちゃんはどこ?」

 

俺がキューブに目をやると、

ただならない雰囲気を感じとったのか、直ぐに走り出した。

ホントに頼れる副隊長である。

 取り残された室内で何となく気不味い思いで、俺は口を開く。

 

「すみません‥俺の監督賞不行き届きで‥」

 

「何言ってるの‥貴方は気づいたじゃない」

 

返ってきた答えは存外優しい響きを含んでいて。

 

「いや、でも‥こうなる前にもっと早く気付いてやれたんじゃないかと‥」

 

「バカね‥手遅れにならなかった‥それで良いじゃない‥しかし、良く気づいたわね‥私だって、貴方に見るべきポイントを指摘された上で、見ていなかったら、見落としていたかもしれないわよ?」

 

「昔‥似たような失敗してるもんで‥」

 

「そう‥それは貴方が教導隊を辞した事と関係しているのかしら?」

 

「‥まあ‥そんなとこです‥」

 

と、ペシペシ頭を叩きながら、俺は答える。

 

「答え難いことを聞いたわ‥ごめんなさい‥」

 

と、シャマル先生は目で侘びを伝えてくる。

 

「いえいえ‥気にせんでください‥」

 

「クスッ‥聞いていた通り、優しい方ですね‥」

 

と、シャマルさんは涼しげに微笑む。

「ともあれ‥今回の件医務官として御礼を言います‥」

 

「いや、そんな‥」

 

「なのはちゃんは幸せ者ね‥」

 

そうして、シャマル先生は幾つかウィンドウを開いて、何か呟きだす。

 

「療養‥温泉‥ウフッ楽しみだわ‥何処に行こうかしら‥」

 

すると、シャマル先生はキリッと顔を、切り替えると、

 

「アルファード隊長‥?私は医務官として‥なのはちゃんに温泉地での療養を推奨します!」

 

「は、はあ‥」

 

先の呟きで全部台無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございますm(__)m
次は日曜にはなんとか‥m(__)m


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ハゲと温泉。

今回はいつもと違い、回想時のなのは視点からのスタートです。ご了承くださいm(__)m


 

私は揺れる車内から流れる車窓をウキウキ気分で眺めていた。

 突如告げられた温泉療養。

理由は良くわからないが、隊長も一緒なので素直に嬉しい。ただ、問題があるとするならば、隣に座るフェイトちゃんである。

いや、一緒に行くのは良いのだ。何だかんだ彼女と一緒に居るのは楽しいし。

 

でも、最早間違いないであろう確信がある。

 フェイトちゃんも隊長が好き。

 だけどいくらフェイトちゃんと言えど。

 むう‥悪いけどここは譲れないよ。

 今回の温泉は良い機会である。

 多分、フェイトちゃんもアクションを起こす気だろう。

 私も今回ばかりは少し勇気を出して、迫ってみよう。

何もせずに、指くわえて見てるだけなんて、私には出来ないから‥。

でも、せっかくだし温泉も楽しもう。

 何だか遠足みたいでわくわくするの。

 

「フェイトちゃん‥楽しみだね?」

 

「うん‥」

 

隣に座るフェイトちゃんの手を握りながら話し掛ければ、彼女も花が咲いたように頷き微笑む。

 くっ‥やっぱり可愛いの‥。

 

「小学校の時の遠足はお仕事で一緒にいけなかったから‥すごく、楽しみなんだ‥」

 

 小学校時、遠足のお便りを貰ってから、後日、泣きそうな顔で行けない。と、伝えてきたフェイトちゃんを思い出す。

 その時、彼女は既に、嘱託魔道師として働き出していたから‥それは‥贖罪も兼ねていたから、当時のリンディさん達でもどうにも出来なかったらしくて、ただ静かに涙を流すフェイトちゃんを三人で慰めたっけ。

 

「だいぶ、時間掛かっちゃったけど、あの時のリベンジだね‥?」

 

「なのは‥うん‥!‥うんっ!」

 

と、また涙を滲ませる、フェイトちゃんの頭をそっと撫でてあげる。

 

「えへっ‥ありがとう‥なのは‥」

 

「私はなんにもしてないの‥今回もなんで、いきなり温泉行くのか知らないし‥あっ‥でも、アリサちゃんやすずかちゃんには内緒ね‥遠足のリベンジはみんなで一緒にって約束だったし‥」

 

「クスッ‥そっか‥うん‥わかった‥」

 

「そうだっ!なのは‥おやつ交換しよっ♪」

 

「おっ‥お約束だね‥フェイトちゃんわかってるね‥!」

 

「うん‥ちゃんと300円以内で用意してきたんだ‥!」

 

「じゃあ先ずは私から‥」

 

と、フェイトちゃんはリュックサックを開けて中をごそごそ。

 

「私のターン!最後までチョコたっぷり!トッポだよ!」

 

「良いね‥!ならば私はこれ‥!」

 

と、私が出したのは‥

 

「みんな大好き茎わかめ!」

 

「なん‥だと‥」

 

「続いて私のターン!王道‥それにつけてもおやつはカール!チーズ味‥」

 

「きゃー!良いね!なのは、チーズ味大好き!」

 

「クスッ‥だと思ったんだ‥エイミィとアルフと一緒に選んだ、このチョイスに隙は無いよ‥」

 

「ならば私はこれ!」

 

「みんな大好き!都こんぶ!」

 

「なん‥だと‥」

 

そんなこんなで、私達は行きの車内を楽しんだ。

フェイトちゃんは

茎わかめを早々に平らげて、

 

「すっぱい‥シャキシャキしてる‥でも、美味しい‥。だけどこれじゃない感が酷い‥」

 

と、うわ言のように昆布をくわえながら繰り返していたけど。

 なのはよくわかんないの!

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「「温泉だあー!」」

 

と、二人で手を取り合い、万歳しながらハモる美少女二人に俺は苦笑する。

 やってきたのは、ミッド郊外の老舗温泉旅館。

何故かフェイトとシャマル先生が付いてきていたが、

当日朝、集合場所にまるで当然といった体で表情を輝かせて、集合していた彼女達を追い返す事なんて出来るわけもなく。季節は秋の行楽シーズン。冬も間近ということもあり、

 急遽の、人数追加の連絡はヒヤヒヤものだったが、旅館の方には、快くOKいただき、感謝感激ハゲあられである。

 因みに、キューブとレオーネは置いてきた。

だって、仕事はしないとだし‥。

それを伝えた時のあいつらの顔は夢に見そうなほど絶望していたが、

 結局は納得してくれ、留守を預かってくれた。

普段はアホだが、ちゃんと仕事はする大人なのだ。

 普段はアホだが。

 レオーネに至っては、

 

「留守中の仕事をしろというが‥別に、サボってしまっても構わんのだろう‥」

 

等と言っていたので、すこぶる不安だが。

 

 出る前にA4用紙一枚にぎっしり埋められた、第1回選択希望お土産リストなる物を渡されたが‥こんなものを作るくらいなら仕事しろ。とは流石に突っ込めなかった。

 許してくれ‥ここはお前らに任せて、俺は先に行く!

せめて土産くらいはなんとか‥と、お土産リストを眺めていると、

饅頭はともかく、タペストリーとか、熊の置き物とかホントに欲しいの?

あと、キューブよ‥二人の思い出、プライスレス(ほっこり)。ってなんだよ。

だが、レオーネ‥てめーはダメだ。シャマル先生の下着‥ってこれはあかんだろ‥。俺はリストの紙をビリビリに破いて捨てた。

 こんな紙を持っていること自体ギルティである。

 あ。お土産わかんなくなったな‥まあいいか‥。

 キューブは兎も角、レオーネには土産話で十分だろ‥。てか木刀だな。うん木刀に決めた!

 男は俺一人なので、俺は当然一人部屋だ。寂しくなんかないんだからねっ!

と、一人寂しく部屋に荷物を置いて、今の益体もない思考に行き着くわけである。お茶請けに置いてあった饅頭の包みを剥がし、口に入れる。

 美味いな‥。甘いモノは良いよね‥人生を豊かにしてくれる‥。‥おいおい‥あっという間に全部平らげてしまったぞ‥。

 お茶をすすりながら一息つき、窓の外を眺めれば、既に紅葉も終わり。

 まるで俺の頭のような裸の枝が寂しい木々が、並んで立っている。‥ってやかましいわ!

 のんびりするのもたまには、良いもんだな‥と、更に持ってきた非常用糖分をほおばる。

 高町の休息のためとはいえ、俺自身も、少し疲れていたのかもしれない。

 年甲斐もなく、温泉にワクワクしている自分がいた。

 しみじみと、部屋の中に響くのは、自分の茶を啜る音だけという静謐が妙に心地よい。

が‥そんな静謐を破るかのように、部屋の外からタタタタと、音が近付いてきた。

ふう‥と、俺はため息を付いて、湯呑みを、置いた。

と同時に、シパーン!と部屋の襖が開かれた。

 

「隊長隊長!お風呂いこーっ!」

 

「お、おう‥」

 

元気良く入ってきたのは高町。

 ‥こいつ、本当に疲れてるのかな‥?

 自信無くなってきたわ‥

 ハヤクハヤクと、俺の腕にしがみついてくる高町は喜色満面で、もし尻尾が、あるならブンブン振られているであろう程に身体全身で、楽しさを表現しながら、俺の腕を引っ張る。

 

「ハヤクハヤクー!入り放題‥ううん‥ハゲ放題なんだから少しでも入らないと勿体ないの!」

 

「なんで合ってたのに態々言い直したの‥そんなパケ放題みたいに言われても、全くお得感無いからね?」

 

と、腰を上げない俺に業を煮やしたのか高町はキュッと唇を結ぶと、ガシッと、俺の首へ腕を巻きつけ、抱きつくように、身体を預けてきた

 子供故に全く重くない。ないのだが、高町も、もう11才。体型はまだまだお子様そのものなのだが、なのだが、

顔立ちはそろそろ女の体を為してきているので、抱き付かれて、顔同士が近づくと、流石に、どぎまぎしてしまう。

 そんな、俺の精神状態を知ってか知らずか‥高町は俺の首に顔を埋め、スンスンと嗅ぎだした。‥ いや、ちょっ‥

流石に嗅ぐのはダメだろ‥。

俺が堪らず抗議の視線を向けると、

高町はそんなものは知らないとばかりに顔を背けてしまう。

 その結果、真赤に染まった耳が露になり、それが幾分ハゲに、冷静さを取り戻させる。

そんな彼女にハゲは何処か並々ならぬ決意を感じ、仕方無くさせるがままにする。

 

「やれやれ‥あまえん坊だな‥高町は‥」

 

 というハゲの言葉になのはは一瞬で顔を赤く染め、ハゲを睨みながら唸り出し、目に涙を滲ませる。

 どうやら、お姫様のお望みの言葉では無かったようだ。

 泣く子には勝てん。と、ハゲはため息を吐くと、ようやく腰を上げた。

 なのはをしがみつかせたままで。

二人の身長差で自然となのはの足は地面を離れ、

それでも彼女は抱き付いたまま離れない。

全く重さを感じないなのはの身体に多少の驚きを感じつつ、ハゲは自然となのはの腰へ、腕を廻し、バランスの安定を図る。

当然二人の身体は更に密着し。

それに比例するように、なのはの顔は赤くなっていく。その内、湯気でも出そうだな。等とハゲは考えつつ、どこか嬉しそうに笑う彼女から目を逸らす。

 どうしたもんかと考えながら、少し様子を見たが、なのはは離すもんか。とばかりにハゲへ抱き付く力を強めている。仕方ないかと、嘆息しそのまま、風呂に迎おうとするが。

 少し前なら、微笑ましい光景で済んだ筈なのだが、

少女ももう11才。

 年齢だけで見れば、子供がじゃれているだけとも言えるが、少女の身体はもう蕾ではなくなりかけていて、世の男の夢。と、言い換えられる場所に関してはノーコメントにするが、腰はしっかりくびれ、尻も丸みを帯び始めている彼女の身体は、最早子供と割りきるには成熟し過ぎてしまっていて‥。

 そんな彼女と、このままの体勢で公共の場を歩く?

‥ないだろ。流石に。と、そのくらいの判断が付く程度にはハゲは冷静だった。

ポンポンと、彼女の腰を優しく叩けば、

なのはも流石にそこを押し通すつもりは無かったようで、いや、彼女も、恥ずかしかったのだろう。素直にハゲを開放する。

開放した瞬間、彼女の胸には一抹の寂しさが去来したのだが、そこは微塵も表に出さずに、ポーカーフェイスを貫いたのは彼女の負けん気の強さ故だろうか。

そして、二人して浴場へ、歩き出した。

 道中、

 

「えいっ」

 

と、小さく声をあげてなのはが腕にしがみつて、手を絡ませてきたが‥

先程、ノーコメントにした場所の質量が嫌でも感じられて、

ハゲも流石に動揺する。

 羞恥に顔が熱くなりながら抗議の声をあげるが‥。

 

「お、おい‥」

 

が、なのはは意に関せず、

ドヤ顔で、

 

「ハゲてんのよ‥」

 

等とのたまってきた。

 

「その宣告今必要ある‥?」

 

尚も俺の突っこみを無視し、腕への力を強める彼女に、まぁいいか。と、させるがままにさせる。

 ハゲも男であり、この状況が不快なわけではないのだ。

ただ、今まで、子供と割り切り、娘のように可愛がってきた少女の突然の距離感の変化に戸惑いを感じはするが、そこは相手が思春期の少女である。

こんなこともあるかと‥嫌われているよりはマシであろう。と結論付けた。

 

 

「ちょっとー!なのはの制服‥隊長のと一緒に洗わないで!って言ったでしょー!ハゲたらどうするのー!マジ卍‥」

 

等と言われるよりは百倍マシであろう。

 

「隊長ー隊長ー!」

 

と、ハゲの手を握りながら朗らかな笑顔で呼び掛けてくるなのはを見て、ハゲは切に思う。

守りたい‥この笑顔‥と。

何時か反抗期が来るかもしれないが、とりあえず今は天使である。

 

「そうだっ!お風呂あがったらハゲンダーッ!‥食べよう?」

 

「そんなアイスはない」

 

等と小悪魔のような笑顔のドヤ顔で突っ込み待ちをしてくる高町に律儀に返せば、彼女も本当に楽しそうに笑う。

 他人から見れば、仲の良い父娘に見えるであろう二人はゆっくりと‥まるでこの時間を何時までも楽しみたいのだ‥というかのようにゆっくりとした歩幅でお風呂を目指す。

 

「でも‥なのは‥隊長と一緒にアイス食べたいの‥」

 

と、再び話しを戻すなのはになるほどそういうことかとハゲは笑う。

 

「ようはアイスを奢れってことか‥高町もなんだかだんだんレオーネに、にt‥」

 

「ちぇりお!」

 

と、高町はハゲの言葉を遮るように右拳をハゲの腹に撃ち込む。

利き腕でない右腕にしたのは、彼女なりの遠慮だろうか‥。何はともあれ、利き腕でもない、少女の細腕から繰り出される拳はハゲの筋肉に覆われた腹部にはいささかのダメージも与えられる筈もなく。

 

「hahaha」

 

と、ハゲは両手を上げ、煽るように笑っていた。

 

「隊長‥女の子にそれは酷い侮辱なの」

 

初めて見るなのはのとてつもない怒気にさしものハゲも焦り出す。

 お前のそれもレオーネにたいがいな侮辱してるけどな。とは、思うだけに留めたのは、ハゲの英断だったかもしれない。

 

「ふんだっ‥」

 

と、高町はハゲから顔を逸らすと、先に歩き出した。それでも、繋いだ手は離していないのがなんとも微笑ましい。

 高町に手を引かれながら、後ろを歩くハゲの鼻に漸く、硫黄のような、匂いが立ち込めてきて、

ハゲはワクワクしだしていた。

 

「隊長には私の傷ついた心を癒す義務が発生したの♪」

 

等と、微塵も傷ついたように見えない笑顔で高町は振り返る。

 

「異義あり」

 

「却下するの」

 

形ばかりの異義も即答で却下されてしまい、ハゲは黙る。

 

「何がお望みだい?お姫様?」

 

「くるしゅうないの」

 

「隊長にはこの温泉中、ずっとなのはと一緒にいてもらうの」

 

等と高町は言うが、その時には再び前を向いていたので、どんな顔でそんなセリフを吐いたのかわからないが、とりあえず耳は真赤であった。

 

「愛いやつめ」

 

と、高町の頭を撫でてみれば、う~!と唸られてしまう。視線で返事を急かしてくる少女に嘆息して、頭から手を放し、

 まぁいいか。と、承諾すれば、

ならばよし。と高町は天使のような微笑みで、はにかんでくる。

 その笑顔はとても可愛くて、思わずハゲは頬が熱くなる。

 そして照れ隠しに歩調を速めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




温泉に入らなかった‥だと。
ちょっといちゃいちゃさせようと思ったらこれだよ‥(。>д<)長くなって話自体が進まないパティーン(´д`|||)まあこれが私の作風(半ギレ)この感じを愛してくださいm(__)m(ガンギレ)開き直り
すみませんm(__)m次回はまた日曜日。


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ハゲと温泉②

Rを付けずに、少女達を絡ませる、たったひとつの冴えたやり方。


脱衣場から出てみれば、流石に冬の陽気。

 冬の冷気は容赦ないようで、裸にバスタオルを腰に巻いただけの、頭に至っては遮るモノのないハゲの肌は凍えるしかなくて。

 ハゲは、両手で両肘を擦りながらひとつ身体を震わせる。

 

「おっと‥貸し切りかい?」

 

 見渡す限り、他に客はいないようで、この広い湯船を独り占め出来るとくれば、更にワクワクしてくるもので。

 白いもやのような湯気の温かさに誘われ、湯船に近寄る。早く入り身体を暖めたい所ではあるのだが、先ずは身体の汚れを流さなければと、はやる気持ちを抑えて、手拭いを湯に浸し、石鹸を身体に擦り付けていく。

 寒さに耐えながら、手早く身体を洗い流し、そそくさと湯船の温度を確かめながら、足から浸かっていく。

 冷えた身体の芯から温められていく感覚。

  思わず大きく息をついてしまう。

 こういう時、髪が無いのは利点でもある。なんせ、行程をひとつスキップ出来るのだから。

世の中の髪がある連中に告げる。

 そう。お前らには、速さが足りない!と。

 ゆっくりと湯船に腰を下して肩迄浸かり、彼は漸く付いた人心地に大きく息を吐く。

 

「ふーい‥いーいゆーだーなっと♪」

 

「アハハン♪」

 

 と、突如響いた甘い声の合いの手にハゲは固まる。

 横を見ればいつの間にやら、隣にはなのはが居た。

 バスタオルを巻いているとはいえ、透き通ったお湯の中では、身体のラインが丸見えで。

 また、いつもと違い、ツインテールを下ろした彼女はいつもより大人っぽく見えて、額から、うっすら上気した頬を伝い、形の良い顎に流れる、輝く一雫すら艶かしくて。

 ハゲは思わず頬を赤く染めながら、つい、なのはから視線を逸らす。

 

「おまっ‥なにやってんだ?」

 

「頭流しに来ました」

 

「いうにことかいて、このやろう‥」

 

 いつものように言ってやった。と‥彼女はドヤ顔で、無くはない胸を張るモノだから、ハゲは再びなのはから顔を背けるしかなくて。

 

「‥いらねーよ」

 

と、苦しまぎれに何とか返事を搾り出せば、

彼女は更に笑顔を深めて、

 

「あれー?あれれー?どうしたんですかー?隊長ー?顔が赤いですよー?」

 

「のぼせたのかもな‥」

 

「はえーよハゲ」

 

「おまえな‥」

 

流石にひと言文句言ってやるかと、ハゲがなのはに振り向いた所で、ザバリとなのはが立ち上がる。

 バスタオルを巻いているとはいえ、濡れて張り付いたそれは、彼女の女の身体を強調していて。

 更に足をあげて、湯船から上がる彼女を凝視するわけにもいかず、ハゲは慌てて再び目を逸らす。

 湯船から出た彼女は彼を扇情的に見下ろし、あまり目立たない胸を寄せて、刹那の谷間を作り出し、それをハゲに見せびらかすかのように、

上半身を見せびらかすように、彼を下から見上げるように、こちらに屈んで来ていたが、

 窮屈なその体勢では常に寄せたままとはいかぬようで、

 寄せては返す波のように、屈むと同時に、ハゲにとっては、幸か不幸か‥なのはにとっては無情にも谷間は露と消えていた。

 だが、不屈の彼女は諦めない。めげることなく、立っては寄せ、再び屈んでは、がっくり。を繰り返す。

 ハゲがそんな茶番を微笑ましく見ていた刹那、ハゲの眼光が鋭く細くなる。

 

「高町!右に2歩ずれろ!」

 

突如、ハゲは叫んだ!

 

高町は谷間作りに苦心しており、

 一瞬、何を言われたかわからなかったが、

 ハゲの言葉は、いつもの訓練時と同等の、真剣さを孕んでおり、自然と彼女の身体が反応した。

気付いた時には言われた通り、右へと二歩分、身体をずらしていた。

 その刹那、なのはの左側を金色の二条の魔力光が貫いた。

そう。なのはが動いていなければ、直撃していたであろう、コース。

 高町は焦る。

‥敵襲っ?!

  一体誰が?!

 不味いことにレイジングハートは脱衣室だ。

いや、それよりもだ。

 

 光線を自分がかわした事で、その結果は‥?

 そう。射線上にはハゲがいた。

 っ!隊長っ!

悲痛な思いで、高町はハゲに手を伸ばす。

 ―最早、今このタイミングで自分が出来る事はない。そんな残酷な答えだけが、瞬時に導き出されているにも関わらず、それでも彼女は手を伸ばす。

 そして彼女は目撃する。

こんな状況下でも、不敵に笑う彼を。

 

「リア‥弾くなよ?」

 

《no problem!》

 

 ―見えなかった。

 彼女は目を瞑ったわけではない。

 それでも、ハゲの右手が揺らめいたようにしか見えなかったのだ。

 いや、それも視認出来たわけではない。

ハゲの右腕部分の風呂の湯が大きくさざめいたので、右腕を使ったのかなと予測しただけに過ぎない。そして彼女はその予測が当たっていた事を知る。

 何はともあれ、ハゲはその場に無事に立っていた。

その右手には一本の棒?いや、バールのようなものを握り締め、そのバールのようなものの緩く曲線を描いた側の二又の先には先程の金色の魔力弾が挟まっていて、バチバチと火花を散らしている。

 

 あれが隊長の得物。

 

 他称:バールのようなもの。

 

 正式名称は知らない。

 見た目で、みんなそう呼称しているだけである。

 

 

 隊長が言うには‥元々、摩力を帯びたバールのようなもの(デバイス)に更に二重に自身の魔力を覆わせる事によって、あの二又の先の方では相手の魔力弾を壊すことなく挟んで、固定することが出来、そして、その固定している間に自身の魔力で浸食し、相手の魔力弾を自分の支配下に置く事が出来るそうだ。もう一方の反対側の先の細く尖っっている方では相手のシールド魔法に突き刺し、そのまま引き剥がす事も貫通することも可能にしているらしい。

 なんて無茶苦茶なと、聞いた時は思ったけど、私はいつも模擬戦であのバールのようなものにボコボコにされているのだから。

 あれは私のような魔法主体の中~遠距離型には天敵のような得物である。

 

「さて‥どうしたよ?フェイト?」

 

 隊長の言に振り返れば、

そこにはフェイトちゃんがバスタオルをマントのように首で縛って、背中に纏って、まるで、小学校のプール時のような格好で、ドヤ顔でバルディッシュを構えて立っていた。

うーん。そのタオルの纏い方、なのはも昔よくやったけど‥流石はフェイトちゃん。何処か間抜けな格好のドヤ顔も可愛いの。

 そう。今の魔力弾はフェイトちゃんのモノだったのだ。

フェイトちゃんは何も答えず、此方に向けてゆっくりと歩き出す。

 

「高町‥」

 

その無言の迫力に軽く圧された私に隊長が声を掛ける。

 

「はい」

 

「言っとくが、お前は魔法禁止な?」

 

「ヱ"っ?」

 

「当たり前だろ。お前はここに何しにきたと思ってんだ?」

 

 言われてみれば、そうなのだが、今の状況で魔法禁止って。私‥死んじゃうんじゃないかな?

やがて、フェイトちゃんが私に肉薄するほどに近い場所で止まる。

 近いっ!近いよっ!

 

「フェイト?」

 

そんな私の不安をよそに、隊長はフェイトちゃんにも問い掛ける。

 フェイトちゃんは隊長の呼び掛けに、コクリとひとつ頷く。

 そして、私をひとつ睨むと、

 右手を身体の左側へと、大きく振りかぶると‥

 

「フェイトちょーっぷ!」

 

と、私の喉元へと、逆水平チョップを繰り出してきた。

ぐはっ‥天龍式は‥ずるいの‥。

私はあえて、胸を張り、そのチョップを受け止めるが、喉元に命中し、たまらず、後ろにさがる。

が、そこで退く私でもない。

 高町家の名に掛けて、肉弾戦でも、負けられないの!

 たたらを踏んだ足に力を込めて、踏ん張り、上半身を起こす。その反動のままに、私は左拳を突き上げる。

 

「なのは‥!ぱーんち!」

 

私の渾身のボディブローがフェイトちゃんの鳩尾を捉える。

 

「んぎっ!」

 

フェイトちゃんは一瞬苦しそうな声を出すが、それでも、動きは止めない。

 素早いバックステップで距離をとられてしまう。

 くっ。流石はフェイトちゃんである。

 あの速度には魔法無しじゃとてもついていけない。

距離を取った所で睨み合う私と彼女。

 目の前に立ち塞がるは生涯最高の親友にして最強の好敵手。

 そう思っているのは、私だけか。いや、フェイトちゃんもきっとそう思ってくれているだろう。

 お互い、隙を探るように、円を描くように、距離を保ったまま、ゆっくりと横へ歩く。

 

 わかる。彼女の考えてることが。

 

 

お互いの呼吸がシンクロするように同調していく。

 

 

―吸う。―吐く。

―吸う。―吐く。

 

 わかる。彼女の考えていることが。

 その息遣い、立ち居振舞から伝わってくる。

―やがて‥私達は動きだけでなく思考迄、同調していく。

 

脳裏に浮かぶは数日前、彼女と一緒に見たTV番組。

 まだ仲が良かった頃の私達。

 ‥ああ。友よ。最早、私達は戻れないのか。

 いつの間にか、フェイトちゃんの呼吸が感じ取れなくなっている。

 いや、呼吸を止めているのだ。

呼吸をするというタスクすらも、煩わしいと、私の隙を探す事に集中しているのだ。

 彼女らしからぬ博打だと思った。

彼女の息が限界を迎える迄、私が隙を見せなければ私の勝ちだ。

その時、フェイトちゃんの右足が、霞むように動いた。

 同時に何かが飛んでくる。

なんてことはない、ただの石鹸である。

落ちていた石鹸を足で蹴っただけ、虚仮威しにも程がある。

 こんなもの簡単に腕で弾ける。

だが、何故か一瞬、私の反応は遅れた。

心はどう動くべきかわかっているのに!

脳の指令に身体が従わないのだ。

その結果、私は小さく。ごく小さくだが、体勢を崩した。

 そしてフェイトちゃんも動いた。

 

「ば~か~や~ろ~!」

 

やはり、フェイトちゃんも其れを考えてたんだね

笑いを堪えながら、私も、受けて立つ。

 

「こ~の~や~ろ~!」

 

そう。数日前、私達が一緒に見てたテレビ番組は女子プロレス。

とても熱い試合で、私達は二人して、拳を握り締めて、見入っていたっけ。

 フェイトちゃんが覆い被さるように両手を此方に向けてくる。

 私も同じような形で受けて立つ。

ガシッと、ロックアッブの体勢で組み合い、お互い、押し合い圧し合い。

力はほぼ互角。

 だが、フェイトちゃんは私の髪の毛を掴んできた。痛みに軽く涙が滲む。

 私も負けじと、フェイトちゃんの髪の毛を掴み返す。

 そこからは組んずほぐれつ。

 髪だけでなく、果ては頬っぺたすら掴んで、無理やり口をだらしなく拡げたり。つねってみたり。

 

 最初のうちは互角だった。

 でも時間が経つにつれ、旗色はどんどん悪くなっていった。

 こちらは息が上がっているというのに、彼女は呼吸ひとつ乱していない。

 

 いつの間にこれ程の差が付いたのだろう。

 少し前迄は体力面でも、そんなに差はなかった筈なのに。

 今の彼女は力、速さ、体力。体幹の強さ。あらゆるハード面で、私を上回っていた。

 劣勢を意識しながらも、苦しまぎれに私が尚も伸ばした手は空を切り、

彼女のはためくバスタオルを掴んでしまい、

 勢い余って、バスタオルを引き剥がしてしまった。

 

 

◆◆◆

 

旅館に着き、割り振られた部屋を探し、部屋名を確認しながら、おっかなびっくりと、部屋へと足を踏み入れる。

中には当然人はいない。

私は背後にいるであろう相部屋のパートナーに声を掛ける。

 

「ねえ。なのは‥部屋‥ここで合ってるよ‥n‥」

 

 私は言葉を最後迄言えなかった。

何故なら、突然私の全身をピンク色の魔力の帯が縛り付けたから。

 

 これは‥バインドっ!?

 そしてなのはの姿は消えていた。

くっ‥やられたっ!

 先手を打たれてしまった‥。

なのはの行動は手に取るようにわかった。

何故なら、

 隙を付いて、私がやるつもりだったからだ。

だけど、まだ慌てるような時間じゃない。

彼女は、アルファードさんとお風呂に行くつもりだろう。

 目的地がわかっているなら、焦る必要はない。

 クールに‥クールにいこう。

 私は心を落ち着けて、バインドの解除に取り掛かった。

大丈夫。だって私には秘策があるのだから。

 

========フェイト回想========

 

「ほほ~う?温泉ねえ?

良いですとも!このエイミイちゃんにお任せあれ!

これを着て迫れば、フェイトちゃんの魅力ならイチコロコロリだぜ!ロリだけに!」

 

「せ、迫る?」

 

「ん?んっふっふ~♪」

 

「良いですとも!迫り方迄きっちり先生が面倒みましょう!」

 

「はいっ!エイミイ先生!」

 

私は姿勢を正して、メモを片手に正座をする。

 

「必要事項は3つ!」

 

「3つ!」

 

「先ずはぁ!頬染めてえ!」

 

「頬‥染め‥?!」

 

どうしよう‥いきなりどうすればいいのかわからないよ。

 

「目を潤ませてえ!」

 

「‥目っ!?」

 

またわからない。どうしよう。瞬きしないで目を乾かせばいいのかな‥?

 

「首傾げてえっ!」

 

良かった。漸くできそうな事だ。

 

「はい!リピートアフターエイミイしてね♪」

 

「私に夜の教導して下さい!」

 

「わたっ‥?!」

 

私はよく意味がわからなかったけど、とにかくメモをとることには成功した。

 その後、エイミイは突然現れたクロノに拳骨を食らって、どこかに連れて行かれてしまったけど。

 

===========回想終了=======

 

気づけば私を縛っていたバインドは霧散していた。

 ―流石私。

 そして私は荷物から、エイミイに持たされた、秘密兵器を取り出した。

 

◆◆◆

 

私がフェイトちゃんのタオルを引き剥がしてしまってから、私は目を疑った。

フェイトちゃんのタオルの下から現れたのは‥紺色の布地。

胸の前面には白地に ふぇいと と、平仮名で表記されており。

そう。それは‥世間一般でいう、スク水だった。

 唖然とする私。

 フェイトちゃんは恥ずかしそうに、頬を染めながら、両手を腰の後ろで組むようにして、胸を張りつつ、チラチラと隊長を見ていた。

 ハッとして私は隊長を振り返る。

すると隊長は顔を赤らめて、フェイトちゃんから顔を背けていた。

ときめき☆喰らいまくりっ!‥

 なのワ、見てわかった。

 やられたっ!

 悔しいけど‥今のフェイトちゃん。超‥エロい!

 とても同い年とは思えない私には無い、あの双子山。

 そして、少し小さめをチョイスしているかのように、色々食い込んでいるスク水の彼女はとても艶かしくて‥あざとかった。

 

―完全‥っ!敗北っ‥!。

 私は思わず‥片膝を付いてしまう。

 すると、その瞬間を狙っていたかのように、フェイトちゃんが一気に私へダッシュして、距離を詰めてきた。

 

 しまっ‥!

 そこでまた私の反応は遅れる。

フェイトちゃんの動きは見えているのに、身体が動かないのだ。

 私が反応するよりも早く、フェイトちゃんは私の地面に付いた左膝に右足を掛け私の動きを縫い止める。

 そして、その勢いのままに、私の顎を左膝で蹴りあげた。

顎に走る鈍い痛みと共に目の奥で火花が散り。

 そこで私の意識は刈り取られた。

 

 

 

 ―目が覚めると、知らない天井だった。

 

「起きた?‥何処か痛む所はないかしら‥?」

 

優しく掛けられた言葉に見れば、シャマルさんがいた。

 私は‥どうしたんだっけ?

 私の怪訝そうな顔を見て、シャマルさんは苦笑して、

「アルファードさんじゃなくて、ごめんなさいね‥」

 

と、言われてしまう。

 勘違いされてしまったようだ。

いや、強ち勘違いではないけれども。

 隊長‥そうだ!隊長は‥?!

 

「あの‥私‥?後、隊長は‥?」

 

「なのはちゃんはフェイトちゃんの一撃を食らって昏倒しちゃったの‥」

 

「そしてアルファードさんはフェイトちゃんにお願いされて、近くの運動場にトレーニングに行ってるわ‥」

言葉足らずな私の問いに、シャマルさんはゆっくりと、答えてくれる。

 

「そう‥ですか‥」

 

 フェイトちゃんに負けた。

 でも‥それよりも私は‥この場に隊長が居ない事の方が寂しくて。悔しくて。悲しくて。

 

「私も‥」

 

「ダメです」

 

 身体を起こそうとするが、シャマルさんがピシャリと、NOを突きつけてくる。おまけにバインドで縛るという念のいれようだ。

私はあきらめて、頭を枕に下ろす。

 

「診察の結果、異常は無いけれど、倒れた時に頭を打ってる可能性もあるの‥お願いだから、今は安静にしてちょうだい‥」

 

シャマルさんは泣きそうな顔でお願いしてくる。

 彼女は本気で心配してくれているのだ。

 

「わかりました‥」

 

「ねえ?なのはちゃん‥少し‥お話‥良いかしら?」

 

「はい」

 

「今回の温泉療養‥なのはちゃんの為なの‥ちゃんとわかってる?」

 

 え?初耳である。

 

 私が目をパチクリとしていることで、シャマルさんは察したようで、ひとつ溜め息を吐く。

 

「やっぱりあの人は優しいわね‥なのはちゃんは幸せ者ね‥」

 

「あの人?‥其れにこの温泉が私の為って‥?」

 

「あの人はアルファードさん。温泉療養に

関しては‥ちょっとこのデータを見てちょうだい」

 

と、言われて見せられたデータは私の訓練データをプリントアウトしたものだった。

 

「これは‥内緒ね」

 

と、シャマルさんは人さし指を口の前で立て、ウィンクをひとつ。

 相変わらず可愛い人である。

内緒というのは、データをプリントアウトして、持ち出した事だろう。

隊長が言っていた。このデータはデータベース室以外では見れないのだと。

つまり、シャマルさんは今回、禁忌を冒したということになる。

 しかも、私の為に。

申し訳ない気持が頭を支配する。

 

 

そのデータを見て、私は愕然とする。

 

「‥わかった?あなたの射撃精度、反射速度‥どんどん下がってる‥訓練の最初は変わらず、良い成績を出してるから、一回一回の訓練結果では、そこまで、差は出てないでしょうけど‥回数を重ねる毎に、反射速度も射撃精度も落ち始めるのが速まってる‥何故だかわかる?」

 

 私はフルフルと首を振る。

 

「それはね‥疲労なの‥」

 

「え?」

 

確かに、訓練で疲れはするけど、

そんなに深刻に疲れた事はない。

 というか疲れない訓練なんて意味無いと思う。

私の疑問が、顔に出たのか、

シャマルさんは首を横に振ると、答えを話しだす。

 

「これは‥アルファードさんも同意見なのだけど、あなたは疲れているの‥それも、自分で知覚出来ない程の、表面的なモノでなく、深層の疲労‥

なのはちゃん‥あなたは‥凄い子。普通の人なら、魔力が足りなくて、出来ない筈の事でも‥あなたは出来てしまう‥。魔力運用の才能なのでしょうね‥本来、出来ない筈の事が出来てしまう‥それは、凄い事であり、凄い才能だけど、正しくはないの‥それは、その分身体に無理をさせているのだから‥アルファードさんは無理なトレーニングをしているあなたを止められなかった‥本人の頑張りを否定したくないからと‥でも‥私は医者として、それは看過出来ません」

 

シャマルさんの話は私には衝撃だった。

 才能があるから‥出来てしまう‥それが問題だと、言われても‥じゃあどうしたら良いのか解らない。

それに、自覚症状が無い事が余計に私を混乱させた。

 だってそうでしょう?自分に不調があったとして、

それを自覚出来ないんじゃ、どうすれば良いのか解らない。それで止めろといわれても止められない。

そんな私の葛藤を見透かしたかのように、シャマルさんは更に言葉を紡ぐ。

 

「不調を自覚出来ない?じゃあ、さっきのフェイトちゃんとの戦いを思い出してみましょうか?本当に問題なかった?」

 

「それは‥」

 

言われて、私は愕然とする。

 そうだ。さっきのフェイトちゃんとの戦いで、私は自分の身体を思い通りに動かせなかったじゃないか。脳の指令を身体が無視するという、初めての感覚。あれが、シャマルさんのいう、疲労によるものだとしたら‥。

あれが、本当の実戦だったら‥。

怖い考えが脳裏を過り、

 私はひとつ身震いした。

 

「シャマルさん‥じゃあ私はどうしたら良いの‥?」

 

「それは‥」

 

 シャマルさんは俯き、口を結ぶ。

 そんな彼女に私は俯きながら言葉を重ねる。

 

 自分には、このやり方しかないのだから。

 今更、これを否定されてしまっては、私はもう‥魔法を使えない。

 すがるような想いで私は口を開く。

 

「でもね‥シャマルさん‥私は確かに、無理をしてきたのかもしれないです‥でも‥無駄じゃなかった!闇の書の管制プログラムさんと、戦った時だって、通すべき無理だったと‥私は思うの‥。お父さんがね‥言ってたの‥助けを求める人がいて、なのはが助けてあげられる力を持っているなら、全力で助けなさいって‥」

 

◆◆◆

 

「そう‥素敵なお父様ね‥」

 

ここでシャマルは説得の手立てを失う。

 なのはが狙ってか知らないが、持ち出した一例の通り、かつて、彼女に無理無茶をさせたのは、他ならない自分達なのだから。

 そしてそんな彼女の無理、無茶により、愛する主はやても、自分達騎士一同も救われて、今も幸せな生を過ごせている。

 それになのはも常に無理をする訳ではない。

大抵の事なら、彼女は、無茶をする必要もなく、解決してしまうだろう。

 彼女が無理を通すと決めたなら、そこには、助けを求める人々がいるのだ。そして、無理を通す必要がある時なのだろう。

 

 そう。かつての自分達のように。

 そして、覚悟を持って、無理を通し、助けてしまうのだろう。

 そう考えてしまうと、もうシャマルにはなのはを止められない。

 しかし、それでも、彼女にも医者の矜持というものがある。

かつて、自分達を救ってくれた大恩人。

 そんな彼女のイノセントな想い。

 ―彼女の想いを尊重したい。‥叶えてあげたい。

 ―また、そんな彼女が与えてくれた、医者としての新たな人生。その医者としての使命感、誇りもまた、シャマルが今最も大切にしたいモノのひとつだ。

 この捨てられない、2つの想い‥無形の物がシャマルの心を板挟みにした。

 この苦悩。苦しくも悩ましいこの想い。これも、なのはが与えてくれたモノだ。かつて、闇の書の守護騎士プログラムの一部であった頃には望むべくもなかった、正に生きている証。どちらもそう簡単には選べるものではない。

 それでもシャマルは決断をしなくてはならない。

このまま、見てみぬ振り等、もっての他だ。

もし、今見てみぬ振りをして、この先、彼女が怪我でもしようものなら、いや、怪我で済めば良い方だ。

彼女が身を置く世界は、蟻の穴程の隙が命取りになる、そんなシビアな世界なのだから。

もし、彼女が命でも落とそうものなら、私はこの先どうやっても償いきれない。

 主はやてに相談したいという甘えも一瞬頭に過った。

いっそ命令してもらえれば、楽なのに。と‥

だが、あの心優しき主の事だ。

 親友の安全と想いを天秤にかければ、

 より一層、あの小さい身体を小さくして、思い悩む事は想像に難くない。

 愛する主にそんな心労は掛けたくない。

それに彼女は決めていた。人間として、精一杯生きようと。

そう。この苦悩すらも、受けいれて、しっかり悩んで、自身の選択に誇りと、覚悟を持って、生きようと決めていたのだ。見てみぬ振りをするとしても、それを選択したのは自分なのだと、後に胸を張れるように。流されて、選択する事は、後悔の温床になる。それは騎士として永き時を繰り返し、生きてきた彼女が得た答えだ。

 

「んなもん簡単だよ‥」

 

悩み、悶える私の後ろから、声がした。

 私が振り返ると‥

 そこには‥ハゲがいた。

 

「ゆっくり、ちゃあんと休みながら、着実に鍛えれば、良いんだよ‥人間が成長するのに必要なのは、過不足の無い、チャレンジだけだ‥」

 

「高町よ‥お前はまだ子供なんだから、そんなに急がなくたって良いんだよ‥」

 

「隊長‥でも‥過不足の無いチャレンジって‥?」

 

「バーカ‥んなもんは俺が考えてやるよ‥だからよ‥高町‥腑甲斐無い教官で悪いが、もう少し俺に時間をくれや‥」

 

「はいっ」

 

そう答えたなのはちゃんは先程の重い悩みから解放されたように、いつもの笑顔で朗らかに笑っていた。

彼の答えは明朗だった。

 無茶を無茶でなくしてしまえば良い。

鍛えて、そして強くなれば、無茶は無茶でなくなる。至言だ。

とても難しい事だと思うのだけど、

それを聴いたなのはちゃんは笑顔だ。

露程も彼の言葉を疑っていない

元より、彼女にはそちらの方が性に合っているのだろう。自覚出来ない無茶をするなと、押し付けるより、単純に努力して、頑張った方が解りやすくて、彼女には合っていると思った。

 

―ああ。良かった。

―この笑顔が曇らなくて。

 そして彼はゆっくりなのはちゃんに近づくと、その小さな頭に優しく手を置いて、

 

「お前はちゃんと俺が鍛えてやる。‥んで、そんなお前をちゃんとシャマル先生がケアしてくれる‥お前は一人じゃねえんだ‥だから安心しろ‥ちゃんとお前に助けを求めてる人の所に、一直線で、最短距離で行けるようにしてやるから‥」

 

「‥ゲーハー‥」

 

「台無しだな!おい!」

可笑しいのを必死で堪えるようにドヤ顔で呟いたなのはちゃん。

アルファードさんは怒ったように、なのはちゃんのほっぺたをつつく。

 でも、私にもわかる。彼は全然怒ってない。

 この二人は、これが、ニュートラルなんだろう。

先程の重苦しい雰囲気等、なかったかのように、明るい笑い声が部屋を染める。

 

あらあら‥なのはちゃんたら、もうすっかり安心したように、緩みきった顔をしてるわ。

まるで、今にも、寝てしまいそう。

 良いわ。今はゆっくりおやすみなさい。

 しっかり休んでさえくれれば、ちゃんと私がベストコンディションに戻してみせるから‥。

 それにしても彼は凄い。

あの安心感と、説得力は何処から来るのだろう。

 そういえば、ヴィータもいつの間にか彼には懐いていたっけ‥。

 はやてちゃんもお世話になったみたいだし‥

いつか‥ちゃんとお礼しないと、いけないわね‥ふふっ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んで頂きお疲れ様ですm(__)m長くなってしまいすみませんね。
 シャイニングウィザード(閃光魔術師)はフェイトそんにピッタリの技名よね(///ω///)♪
 次回はまた来週の日曜ですm(__)m
解んない人はググって下さいな。割と有名なハゲの技です。


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ハゲと部下と貍。

今回はなのはさん出番少なめ。


「なのスケ~♪」

 

「あっキューブ副隊長♪」

 

私がはやてちゃんと管理局の廊下を歩いていた時の事。たまたまそこで懐かしい顔とすれ違い、笑顔で駆け寄る。

お互い相手の存在を確かめるかのように、両手で触れ合う。

 

「お疲れ様です。八神三佐」

 

と、急に真面目モードに切り替わり、敬礼するキューブ副隊長。

 見れば、こちらも真面目な顔で敬礼を返すはやてちゃん。

 

「お久しぶりやね。キューブ三尉。」

 

「あれ?二人は知りあいなの?」

 

私は素朴に沸いた疑問を呈す。

すると二人はにっこり笑って。

 

「「私の元カノです」」

 

等と同時に宣った。

私が口をパクパクしてると、何が可笑しいのか、二人して噴き出しながら、視線を交わし合う。

 数瞬後、はやてちゃんが手を挙げて話し出した。

 

「せっかくやし、食堂でもいかへん?」

 

「あら?ナンパ?こんな良い女を誘うんなら、もっと誠意を見せて下さる?」

 

「せやな。おうおう姉ちゃんマブイなあ。茶ぁでもシバきにいこうや。」

 

「あらあらいけない人。お仕事は大丈夫なのかしら。」

 

「いけずなこと言う姉ちゃんやなあ。せっかくの機会や。多少サボっても、罰は当たらへんやろ。多分バレへんよ‥バレなきゃ‥サボリやないんやで‥」

 

と、悪い顔ですり寄るはやてちゃん。

 

「いや。その理屈はおかしい。クスッ‥けど、上官にそこまで誘われたなら、仕方無いですものね?御馳走になりますわ‥」

 

 それに対して、キューブ副隊長は優雅に笑って返してみせる。

 その笑顔はとても可愛くて、綺麗で。私は思わず、はあ~‥と、感嘆の吐息を漏らす。

 

「ホンマいけずな姉ちゃんやで‥」

 

そんな彼女に苦笑するはやてちゃん。

 

 と、二人は肩を並べて、歩き出す。

 ポカンとした私を置いて。

 

「なのスケ?何やってるの?早くいらっしゃい?」

 

「はーい♪」

 

私は微笑みながら、二人の背中を小走りで追い掛けた。

 食堂で、3人掛けのテーブルを確保し、思い思いの飲み物を準備。

 

「さて‥」

 

三人とも席に着いたのを確認して、はやてちゃんが口を開いた。

 

 

=========はやて回想========

 

 もう‥10年位前やろか。あの頃、私は、闇の書事件の贖罪として、特別捜査官として、色々な部隊を渡り歩いていたんや。

 家族である騎士達と離ればなれになるのは悲しかったけど。

 色々な部隊を渡り歩くのは、とても良い経験になったし。

 私にとっては、強ちマイナスな事ばかりでも無かったんよ。

 色々な所に知り合いも出来たしな。

グレアムさんというしっかりした後楯もあったから、犯罪者のレッテルでどうにか‥いうんは‥過激なのは、あんまり無かったわ。

 そんな時や。たまたま、あるシンジケートを追っている時に同じく追っていた、ある部隊と合同捜査をする運びになった。

 それがアルファードさんの部隊や。タイミング的には、まだなのはちゃんが配属される前やな。

 

「八神はやてです。この度は捜査協力を受け入れていただき、感謝致します」

 

「‥こりゃ随分と可愛い娘がきたな‥俺は‥この部隊の隊長のアルファードだ。よろしくな」

 

そう言って敬礼をくれた隊長は‥ハゲていた。

 年齢的にはまだ初老位に見えるのだが、綺麗にツルリとハゲていた。

 そして、人好きのする笑顔が印象的な人だった。

 

「んじゃ早速、お互いの情報の共有がてら、捜査会議といこうか」

 

「はいっ」

 

 

「―なわけで、ここが奴らのアジトの可能性が高い」

 

「―には、はぐれ魔道師が数名いるという情報があります」

 

「―推定ランクは―」

 

「―質量兵器は―」

 

 あれよあれよと会議は進み。

 私の微々たる情報も汲み取って貰い、そこから更に詳細な相手の状況を割り出していく。

 流れるようなその会議の進行速度に私は舌を巻いた。

 会議に参加している人は其々、違う観点を持ちながら、違う角度から、推理を進めて行く。

一人で足りなければ、二人、三人と、推理を重ね‥。

 まるで、会議に参加している全員が一人の人間であるかのような、錯角さえ覚えつつ。

 

 ‥うーん‥。

 

「と、このような意見が出ているが編成について、八神捜査官はどう思う?」

 

‥私は顔に出していたのだろうか‥

 私が正に編成について、不安に思った瞬間にアルファードさんから意見を求められた。

 

「は、はいっ。敵アジト内は決して広いとは言えず、敵はぐれ魔道師達との混戦も予想されるのではないかと申し上げます。故に、囲まれないような、また、囲まれた時のリスクヘッジが必要かと‥」

 

と、何とか危惧点の要点をまとめ、発言を絞り出せば、

 ファシリ役の隊長は優しい眼差しで大きくひとつ首肯き。

 

「‥そうだな。編成と作戦をもう少し、練ってみようか」

 

「「はいっ」」

 

 私はホッとひと息ついて、腰を下ろす。

 

 そして、程なく会議はお開きになった。

私はといえば、未だに座って、会議中の内容をメモっていた。

 つ、疲れた‥。こんなに密度の濃い捜査会議は初めてだった‥。

 

「よーう。お疲れさん」

 

と、隊長が声を掛けてきてくれた。

 私は何とか立ち上り、敬礼する。

 

「初めてで疲れたろ?」

 

「‥はい。驚きました‥」

 

「でも、良い意見出してたな‥参考になったよ‥」

 

なんて、お褒めの言葉もいただき、少し気が軽くなる。

 

「き、恐縮ですっ!」

 

「あーっと‥今回、合同捜査だけど‥その間一時的にこの部隊に編入‥というのは聞いてるかい?」

 

「はいっ!聞いてます聞いてます~」

 

 あれっ‥あかん。

 

「フッ‥なんだそれ。方言か?」

 

 私は何故か、つい方言を出してしまっていた。

 公的な場ではあまり出さないようにしていたのに‥。

「あっ‥失礼しました!はいっ。私の出身では無いのですが、両親の影響でして‥」

 

私は羞恥に頬を染めながら、元々小さい身体を更に小さくする。‥って、誰が小さい身体やねーん。

 

「ほーん。良いじゃないか。‥気にすることないさ‥ご両親との大切な思い出なんだろう?この部隊内では気にすることなく使いな‥」

 

「は、はいっ!恐縮です!」

 

 とても優しく笑う人だと思った。

‥なんだか、おとんを思い出してしまうような‥。

 だから、つい方言が出てしまったのかもしれない。

 いや、私のおとんはハゲてへんけどな!

 あんま覚えてへんけど‥多分。

 

「おーい‥キューブ!レオーネ!ちょっと来てくれ!」

 

 私が何だか軽いノスタルジーに浸っていると、隊長が二人の男女を呼んだ。

 程なくやって来た彼女ら二人は、私に向き合うと、にっこり笑って、敬礼をした。

 

「この二人を今日から、八神の教育係として付ける」

 

「「よろしく~」」

 

 女性の方がキューブ。とても可愛らしい容姿の人だと思った。出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んで、男好きするスタイルである。なんてうらやまけしから‥ゲフン。勿論、私も大好きだ。

 男の方がレオーネ。

 此方は何とも言えず、なんと言うか、雰囲気イケメンという言葉がピッタリだった。

 

「よろしくお願いいたします」

 

私は深々と二人に頭を下げる。

 

 

★★★

 

 この部隊に来てから早一ヶ月。

 書類仕事にもひととおり慣れ始め。

 私は奇妙な違和感を感じていた。

 それが何かはわからないのだが。

 

「おーい。まめた~♪」

 

「たぬて~?これ20部程、コピーしといて~?」

 

「それだああ!?」

 

「わお。ビックリした」

 

私の渾身の叫びに戦くキューブさん。

 

「もう‥何ですか?まめたって?」

 

「はやてちゃんてさ~何だかまめたぬきみたいで可愛いな~って。だからまめた♪」

 

 なんて可愛い顔で微笑みながら言われてしまった。

 その無邪気ともいえる笑顔に私は毒気を抜かれてしまって。

 

「で‥そっちは?」

 

ギロリと、音がしそうな勢いで、レオーネさんを睨み付ける。

 

「はやてちゃんて狸みたいで可愛いじゃん?だからたぬて♪ほら可愛い♪」

 

 こっちも笑顔でそんなことを宣うのだが。

 こっちは無邪気どころか邪気を感じる。毒島さんが気付くレベル。

 

「却下」

 

私は冷たく言い放った。

 

「ていうかレオーネさん?それ‥私の事‥マイルドにディスってますよね?」

 

「ええ?めっちゃ誉めてるつもりなのに‥」

 

等と、本気で落ち込むレオーネさん。

 あかん。この人ホンマもんのアホやわ。

 本気であれで誉めてるつもりっぽい。

 ぷいっと、私は顔を背けて、その場から立ち去る。

 

「ああ~待ってよはやてちゅあ~ん‥」

 

そんな情けない声を背後から浴びせられ、私は思わず小さく噴き出してしまう。

 悪い人では無さそう。なんて考えも片隅に沸いてきて。

 

 

「あっ?笑った!今の笑顔めっちゃ可愛かった!」

 

アホの癖に目敏い、彼のそんな指摘に顔が熱くなる。‥が。

 

「マジで可愛かった~♪狸も裸足で逃げ出すレベル!」

 

「それ(貍扱い)をやめいゆーとるんじゃあああ!?」

 

と、私はスナップを効かせて、手の甲を思い切り空気に叩き付けて、振り返り、ツッコミをしてしまう。

 そんな全力のツッコミをしたのは、久しぶりで。

 

「プッ!あはっあははははは!」

 

私はそんな自分が可笑しくなり、思わずおもいきり笑ってしまって。

 そんな私をポカンと見つめる二人。

 

「あっ‥すいません‥」

 

 思えば、今まで、ずっと気を張り詰めていた。

 特別捜査官なんて大層な役職名はあっても、

所詮は只の便利屋的な扱い。

 今回みたいに、部隊に編入することはあっても、 元犯罪者 として、腫れ物を扱うような扱い。

 本当に仲間として受入れられた事は無かった。

 前述した通り、表立って嫌がらせ。なんて事はなかったが。

窮屈な思いはしてきたのだ。

だが。ここはどうだろう。

 先ず視線。

他と違い、腫れ物に触るような、好奇の視線というものがない。仕事面でも純粋に1番の後輩。というか、下っ端のように扱ってくれる。

 さっきのレオーネさんに至っては、油断すると、自分の仕事を押し付けて、サボろうとしてくる。

 キューブさんは、とても優しい。私を陰からサポートしてくれているのを感じている。

 こんなに大口開けて笑ったのなんて、何年ぶりだろうか。

 私は目尻の涙を拭いながら、律義に言葉の続きを待ってくれている二人に更に言葉を続ける。

 

「この部隊っておかしいですね‥」

 

「ちょっと待って。まめたちゃん。レオーネはともかくどこら辺が?」

 

「姐さん‥流れるように俺を除外するのやめて?」

 

「あんた一人で部隊の名誉が守られるんなら本望でしょ?」

 

「えっと‥お二人は私の事をご存知ないですか?」

 

「「狸?」」

 

「なんでや!どう考えても狸関係ないやろ!」

 

「「スマソ」」

 

「仲良いですね‥」

 

「そう!俺と姐さんはなかy‥ダアンッ!」

 

と、キューブさんが突然私に壁ドンをしてきた。

突然の事に私がビクビクしていると、

見た事も無いような、冷たい目で‥

 

「まめた♪人には言って良いことと悪いことが有るんだよ?」

 

なんて言われて‥私は涙目でただ、頷く事しか出来なかった。

 

「姐さん‥今の行動で‥僕ちょっとわからないことが、あるんですけど‥」

 

「黙れ」

 

「イエスマム」

 

力関係は恐ろしい程にハッキリしていた。

 

「実は私は―」

 

‥ああ‥。話してしまった。

 これでまたここでも、腫れ物みたいな扱いになるかもしれない。

‥だが。例えそうだとしても。

もし、相手が知らないのであれば、黙っていて良い事ではない。

ましてや、こんなに良い人達が相手ならば尚更。

 

「「ふーん?」」

 

‥でも帰ってきたリアクションは私の予想とはまるで違っていて。

 

「えっ?あれっ?私‥説明‥ヘタでした?」

 

「いんや?つまり、まめたがあの有名な闇の書事件の関係者ってことでしょ?」

 

「はい‥」

 

「で?それが何か?」

 

「何かって‥」

 

予想の斜め上の反応に私は戸惑う。

 

「関係者は関係者。首謀者じゃない。それに、まめたはこうして今ちゃんと贖罪の努力をしてる‥はい。レオーネ?何か問題ある?」

 

「ありません。先生!」

 

キューブさんのノリに小気味良く返すレオーネさん

‥ああ。この人達は―

‥嬉しかった。

 事件云々でなく、今の私を見てくれている。

 そう考えると、自然に涙が溢れてしまって。

 今迄は、闇の書=八神はやてだったから‥。

 

「うっ‥うっ‥うえぇ~ん‥」

 

私は思わず、キューブさんの豊満な胸に飛びこんでしまった。

とても、柔らかかったです。

 その胸は豊満であった。

 キューブさんは優しく私を抱き止めてくれて。

そしてその横では何故かレオーネさんが両手を広げて、憮然としていた。

 いや、何でやねん。

 何で抱きついて貰えると思ったん?

 その姿がとても滑稽で、私は泣き笑いの様相に。

 そんな私の後頭部をキューブさんはずっと優しく掻く様に撫でてくれていた。

 何だか、お姉ちゃんみたいや‥。

 

「よしよし‥色々‥辛い思い、してきたんだね?まめた‥良く頑張った‥」

 

優しい声が頭上から掛けられる。

 でもやっぱり、まめた呼びは納得が行かない。

 

「でももう大丈夫。ここではそんなことは気にしないでいいからね?もし、なんか言ってくるようなヤツがいたら‥私に言うんだよ?私が‥守ってあげるから‥」

 

 と、ひときわ強く、抱き締めてくれるキューブさん。

 あったかいなあ‥

 

「そうそう‥俺達も、元 脛に傷 持ちだし‥」

 

‥へ?

 

「余計な事言うんじゃないよ‥」

 

「でも姐さん‥こういうのは、最初の方で言っとくべきで‥」

 

「そ、そうなんですか?」

 

私は二人を交互に見るが、とても、犯罪を犯しそうな人には見えない。

 

「あーまあね‥」

 

と、キューブさんは気不味そうに頬をかきながら、口を開いた。

 

「この人、こうみえて武闘派でさ‥隣の人と、ご近所トラブルになってそこのオバチャン殴っちゃったんだよ‥」

 

キューブさんが話す前に、割り込む形でレオーネさんがニヤニヤしながら、事情を暴露していた。

 

「ええ‥」

 

私の中での優しいお姉ちゃんイメージが‥。

 

「滅!」

 

「メッツコーラッ!?」

 

と、赤い顔で、レオーネさんに正拳突きを打ち込むキューブさん。

 あえなくレオーネさんは、腹を抑えて、その場に崩れ落ちた。

 

「レ、レオーネさんは‥?」

 

 こんな惚けたアホみたいな男にも、犯罪に手を染めるようなシリアスな理由、背景があるのだろうか?

 全く想像が付かない。

たいがい、失礼な話ではあるのだが。

 

「ああ‥こいつはね(姐さん勘弁して!)貼ってあった「咲」ってアニメのポスターを下から覗き込んで、何でパンツが見えないんだ‥とか、口走っていた所を近所の小学生に防犯ブザーを鳴らされて、補導されたんだ」

 

キューブさんが説明しているところにレオーネさんが割り込んだが、キューブさんは全く動じる事なく、淀みなく、説明してくれた。

 

「‥は?」

 

 胸を抱くようにして、自然と1歩下がった私は悪くない。

 しかも咲て‥。何故だか余計に嫌悪感が沸いてしまった。

 

「ああ?!はやてちゃん引かないでえ!あ…でもはやてちゃん‥咲ちゃんに声が似てr‥(滅!)ぷるぁっ!?」

私ににじり寄ってきそうだったレオーネさんの顎に再び、流れるようなキューブさんのストレートが綺麗に入り、またもや崩れ落ちるレオーネさん。

 

 私はそんな二人を見て笑ってしまって。

 そして、御腹を抑えて、笑う私を二人は優しげな眼差しでソッと見つめてくれていた。

 レオーネさんはこっちみんな。

 それ以来、私はこの二人を中心に部隊にも打ち解けられて。

 

 

 

★★★

 

 

「おいーす?八神?」

 

そんなある日、隊長が声を掛けてきてくれた。

 

「あっ!お疲れ様です!アルファードさん!」

 

「おつかれさん。だいぶ、環境にも慣れてきたみたいだな?」

 

「お蔭様で。みなさんに良くしてもらってます」

 

そんな私の返答に満足そうに彼は頷くと。

 

「そういや八神は部隊長志望なんだよな?」

 

「はっはいっ!非才の身ですが、いつかは、自分の部隊を持ちたいです!」

 

「うん。八神ならきっと大丈夫。」

 

 

この人に言われると、何だか自然とその気になってしまう。安心するというか‥。

 

 

「恐縮です」

 

 

「この部隊にお世話になっているうちは、アルファードさんを目標にして、勉強させていただきます!」

 

 

と、私が言うと、彼は難しい顔をして。

 

 

「八神‥俺なんかを目標にしちゃダメだ‥。もし、目標にするんなら、キューブにしときな‥」

 

等と言われてしまった‥。

 その理由はすぐにはわからなかったけど。

 

 

★★★

 

 

 

 

―楽しい日々は早く過ぎ去るもので。

 私達は早くもその日、シンジケートのアジトに突入の日を迎えていた。

 

「ここが、奴らのアジトで間違い無いな‥」

 

「ハッ」

 

 不気味に口を開けた洞窟の前で隊長が言い放ち、

それにキューブさんが追随する。

 

「よし。キューブ。お前とレオーネは八神のサポートにつけ。チーム編成はいつも通りだ」

 

隊長の号令にザザッ!と、チームが動く。

 どうやら、隊長とキューブさん、レオーネさんを其々分隊長として、分隊×3の一個小隊がいつもの編成らしい。

 私は前以ての希望通り、キューブさんの隊へ。

 隊長に言われた通り、彼女を観察したくて、志願したのだ。

 洞窟の奥へと歩きながら、緊張している私を見兼ねてか、キューブさんがソッと耳打ちしてくる。

 洞窟の奥への歩みは止めないままに。

 

「まめた♪心配しないで平気だよ♪隊長がイケると判断したんなら、先ず間違いなく平気だから」

 

 言葉の端端から、キューブさんの隊長への信頼が伺える。

 まあ。まだ日が浅い私から見ても、この部隊は優秀だと感じている。

 隊長の指揮能力を勉強させてもらう。経験を積む為。くらいのつもりでの、気軽な参加であった。

 私が平静を取り戻し、キューブさんに微笑み、頷いてみせると、

キューブさんは更に耳に口を寄せてきた。

 

「あ。でも隊長は基本的に『かかれ!』しか言わないから気を付けてね」

 

「‥は?」

 

なにそれ‥何処の柴田さん?

 何も気を付けようがないんですけど。

 

「この部隊での行動の基本は自分でどうう動くか考えよう!だから」

 

 へ?

 

 通常、隊での行動時は上官の指示に従って、連携して動く事が基本である。

 各々で、考えるのは良い。

だが、人の思考なんて千差万別。

現場での正解はそれこそ無数にあるだろう。

 その時々で一致するなんて事‥成功する確率は恐ろしく低いんじゃ‥無いだろうか?

 私は不満が表に出ていたのだろう。

 キューブさんが更に肩を抱いてくる。

 

「ま。倣うより馴れろってね。とにかくやってみてよ。まめたは、自分で考えてその場その場で、最善と思う行動をしてくれたらいいからさ‥後は私達がフォローするから‥」

 

「は、はあ‥」

 

「大丈夫。失敗しても、隊長が何とかしてくれるから」

 

「‥わかりました‥」

 

私が渋々頷いた所で、

 洞窟の風景が開けた。

‥天井が高い。

大きめの広場のようになっている。

 この広さは自然のモノじゃ無い。間違いなく、人の手が入ってる。

私は洞窟の壁に手を添え、確認しながら、エリアサーチを作り出して、更に内部へと跳ばす。

 其処で私は気付く。

 そんな私を囲むように、分隊のみんなが周りに詰めてくれていることに。

 しまった。私ったらなんの警戒もなく‥!

 もし、スナイパーや、敵魔道師に待ち伏せでもされていたら‥!そう思うと、自分の迂闊さを呪うしかない。

 だが、分隊のみんなはどうだろう。

 なんの声も掛けずにのこのこと、勝手な独立行動した私をなにも言わず、フォローしてくれているのだ。指示があったわけでは無いだろう。

 つまり各自が自分で‥私の護衛をするという選択をしたのだ。

こんな、部隊のムーブがあり得るのか‥。

 

「サーチの結果は?」

 

と、何でも無いことのように、キューブさんが問うてくる。

 そうだ。みんなは私のサーチをフォローしてくれているのだ。

 私は直ぐにサーチに意識を戻す。

 

‥これは‥?!

  既にこちらを囲むように動かれている?!

 しかも!予測より、数が多い!?

 

「予測よりおよそ10人程度、数が多いです!こちらを囲むように展開してきています!」

 

私は簡潔に状況を報告する。

 すると、それまで黙っていた隊長が口を開いた。

 

「部隊を薄く広く展開してかかれ!」

 

それを受けて、一瞬の逡巡後、キューブさんが叫ぶ。

 

「まめたの護衛に3人付いて!残りは広く展開して、突破口が開けた所に順次戦力投入!敵を一ヵ所に誘導して纏めるよ!」

 

そして、キューブさんは私を見る。

 なるほど。其処で私にまとめて殲滅しろと。

 私が頷くのを待たずに、分隊のみんなは既に展開を始めていた。

 なるほど。応用的なムーブを求められる時だけは、隊長が簡単な指示を出す。そして各分隊長のみならず、下士官に至るまで、みんなはその指示を最大限汲み取って、即座に適切な行動。

 こりゃ、強いで‥。でも‥参考には、ならへんな‥。だってこんなん‥一朝一夕の部隊じゃ、よう‥やれへんで。

 でもいつか‥自分の部隊を持てたなら‥!

なんて、目標を固めながら、私は魔力弾を作り出して、戦場を広く見つめる。

勿論、何時でも、フォローに入る為にだ。

‥ま、必要ないやろけどな‥。

と、私よりも若干戦場に近い位置で、流れ弾をなんなくいなしながら、どっしりと戦場を見つめる、隊長を見て思う。

 

「ウオオアアアアー!?タンマタンマアーー!」

 

突如戦場を切り裂く悲鳴に私が構えれば、

 視線の先にはレオーネさんが全くピンチになっていないのに叫んでいた。

 意外にもレオーネさんは強い。

 普通の犯罪者やはぐれ魔道師ごときでは、彼に傷ひとつつけられないだろう。

ただふざけているだけなのだ。

 あれはただの構ってちゃんなのだと最近解ってきた。

 そしてやはりいつもの事なのだろう。

 誰も彼の悲鳴に反応していない。

キューブさんの方を見てみれば‥

 

「ウオオォォーラアアアー!?!?逃げる奴は犯罪者だあー!逃げねえ奴はー!訓練された犯罪者だあー!?オラオラオラオラーー!?」

 

と、非殺傷モードのマシンガンを乱射していた。

 間違いなく彼女は武闘派だった。

 かと思えば、

 

「うし、此処まできたならもうちょいだ!増援が来るまで、現状維持だ!お前ら!気合入れろ!一ヵ所に集めるぞ!」

 

なんて、他のメンバーを鼓舞したりする。

 暴走してるかのように、他のメンバーを引っ張りながら、その実、戦場を冷静に観察して、効果的な指示も跳ばす。隙が見当たらない。

 なるほど。確かにキューブさんは私の目標だ。

 

そして程なく、敵集団は私から少し離れた所に、まとまった。

 先ず、キューブさんの分隊が敵包囲網を食い破り、そこに、流れるようにレオーネさんの分隊が雪崩れ込み、敵包囲網を寸断。敵は総崩れで、散り散りになり、形勢を立て直そうと、合流を選択。其れが、計算されつくした、させられた選択とも知らずに、奴らはまんまとこちらに用意されたスペースに合流して固まった。

 さあ。出番だ。

私は一歩踏み出し、

 

「‥詠唱入ります」

 

と、私が宣言するより早く、私の目前に大きな背中が立ちはだかった。

その頭は、ツルリとハゲていた。

やだ…。安心感、半端ない。

 さて。何で行くか?洞窟内だし、炸裂、爆発系は無し。

 ならば、純粋な魔力エネルギーでの殲滅が望ましい。なら‥決まりだ。リィンがいないから、手加減と調整が難しいけど‥範囲、威力共に最少設定にすれば、平気だろう。多分。

 

「みんな!少し奴らから離れてな!」

 

 

「―遠き地にて、闇に沈め!」

 

『Diabolic Emission!』

 

本来は術者を中心に摩力攻撃エネルギーを放つ魔法なのだが、私は固有資質により、遠隔発生を行える。

 私の言の葉に答え、奴らの中心点から半円型の摩力エネルギーが発生し、拡がり、奴らを飲み込んでいく。

 この魔法は相手のシールド魔法も阻害するので、はぐれ魔道師も一網打尽にできるはずだ。

 そして、その予想通り、摩力エネルギーがおさまった後には‥死屍累々。シンジケートの奴らが根刮ぎ倒れていた。

 ‥若干、こちらの部隊のみんなも倒れていた。

 だから離れてって言ったのに‥

 

「巻添えごめんなさい~‥」

 

うう‥やっぱリィンがおらんとダメダメや‥。

 

巻き込んでしまった仲間に飛びながら近付き謝り、救助してまわる。

 

「うっひゃー!はやてちゃんすっげー!」

 

「これがSランク‥もう軽々しくまめたなんて呼べないねこりゃ‥」

 

と、キューブさんとレオーネさんが称賛をくれる。

 私は照れ臭い思いで、言葉を返す。

 

「そんな‥良いですよ‥まめたで‥今まで通りで‥」

 

「了解‥たぬてちゃん♪」

 

「だからそれはやめろやあああ!?」

 

と、私のツッコミが空しく響いた所で、

隊長が更に指示を出した。

「よっしゃお前ら!かかれかかれーい!」

 

 ここでアルファード隊長。まさかの死体蹴りを選択。

 私がポカンとしているうちに、

分隊のみんなは‥

 

「よっしゃ!死体蹴りじゃあああ!」

 

と、蹂躙を始めていた。

‥なんて恐ろしい部隊‥っ!

 

 

 

=========はやて回想終了=====

 

「―とまあ、そんな馴初めです」

 

なんて、はやてちゃんは話していたけど。

 いやいや。何処にも元カノ要素無かったよね?

担がれただけかと、私が呆れた目線を向けていると、

ガシッと、はやてちゃんのこめかみに2つの拳がセットされた。

 ていうか、キューブ副隊長だった。

 

「ていうかまめた~?誰が武闘派だって~?」

 

「いたいイタイイタイ!姐さん許して~!し、死ぬ!痛すぎて死んでまう!」

 

と、はやてちゃんは涙目で助けを求めるように、逃げながら、こちらを見てきたけど。せっかくだから私はスルーを選ぶの。

だって‥二人共、とても楽しそうなの。

そして、食堂には、

 

「こ、殺されるう~!?あ、貴女を、犯人です~~!?」

 

という、はやての断末魔がひびいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございますm(__)m
うーん。やはりはやてを書くの楽しい(///ω///)♪
だから、今回も長くなっちゃったけどちかたないね。許してプリーズ。しかし、参ったね。
 隙あらば、ヒロインにしたくなってしまう(笑)
 はやてったら恐ろしい娘!?(´艸?`|||)


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ハゲとヴィータ。

今回はあとがきに没ネタおまけ仕込んでます。
読まなくても、全く問題ありません。



 

 

ある日の訓練室にて。

 私がレイジングハートを構える先には‥シグナムさんと、フェイトちゃん‥!

 たまたま休憩時間にまったりと、「なの散歩」をしていたら、模擬戦をするという、フェイトちゃんとシグナムさんに出会してしまって。

 あれよあれよと巻き込まれ、何故か今二人と対峙している。

 いや、2対1じゃないけどね?

 と、私の隣に立つヴィータちゃんに目を向ける。

すると、彼女も此方を見ていた。

 

「ヴィータちゃんと同じチームも久しぶりだね♪」

 

「だな♪」

 

と、私が問い掛ければ、ヴィータちゃんも好戦的な笑みで返してくる。

 全く‥戦闘狂め♪

 とりあえず、今訓練室にいる四人が四人共、同じ質の笑顔を浮かべているとだけ、記しておく。

 

 

===========ヴィータ回想=====

 

あれは私が1321航空武装隊に配属されたばかりの頃だった。

 正直不満だったよ‥。何で私がこんなこと‥ってな。でも主であるはやての決めた事だ。

 私に是非はなくて‥

  そんな不満が顔に出てたんだろうな‥。

 当時の隊の仲間との関係は最悪。

 連携なんざ当然とれやしない。

 そんなときだ。そこの隊長が私に声を掛けてきた。

 今ならわかる。隊長は純粋にあたしの事を心配してくれてたんだって‥。

 

「ヴィータ三曹‥!何度言ったらわかるんだ!一人で突出するな!」

 

「でも‥あたしは‥!」

 

「お前のその態度はお前を推薦した人間の顔を潰す事にもなるんだぞ!」

 

「ぐっ!?」

 

 私を推薦した人間‥考える迄もない。はやてであったり、もしくはグレアムのじいちゃんだ‥。

 その頃の私はとにかく尖ってた。はやてと一緒にいられないことが不満で不満で‥。

 けど、家族の顔を潰すなんて事、当然出来なくて‥。

 私ははやてと一緒にいたいだけなのに、一緒にいたいと願う事が家族の顔を潰す事になるなんて‥。兎に角‥苦しかった。

 仕方無く、我慢して部隊行動をとってたけど‥結局、連携面は改善されなくて。そりゃそうさ‥。

 部隊の簾中からすれば、私は命を預ける仲間なんだ。そんな不満を隠してる奴に信頼なんか預けられない。信頼は双方向で成り立つもの。あたしが彼らを信頼してないのに信頼してもらえるはずがない。

そして、ある日、隊長に、呼び出された。

 

「出向‥ですか?」

 

「ああ‥先方の隊長はアルファードと言って、優秀な教導官だった男だ‥今回何とか無理を言って、お願いした‥」

 

「それは‥体の良い、部隊からの追放ですか?」

 

「‥結局‥俺は、お前からの信頼を勝ち取れなかったな‥。すまなかった‥ツラい思いをさせたな‥全て俺の不徳故だ‥。だがな、ヴィータ。俺はあいつなら、アルファードなら‥お前を変えてくれると信じているよ‥」

 

「お世話になりました‥」

 

 隊長の言葉を聞いて、私は後悔したよ。

私は何でもっと早くこの人を信頼しなかったんだろうって‥。

 不幸中の幸いとでもいうのか、最後の最後に私はきづいたんだ。この人は純粋に私の事を心配してくれてたんだって。私が信頼を差し出してないのに、一方向で信頼をくれていたんだって。

 

★★★

 

「‥よろしくお願いします‥」

 

「こりゃまたブスっとしたのが来たなあ‥」

 

「うるせーハゲー!」

 

「どしたい?なんかつまらない事でもあったのかい?」

 

なんて、私の罵倒なんてどこ吹く風で返してくるコイツに最初からムカついてた。

 

「‥っ‥別に‥かんけーねーだろ!」

 

「そらそーなんだけどなー‥訓練なんてものはさ、ツマンネーって思いながらやるとさ、全然効果無いもんだからさー‥どうせならたのシーって気持ちでやろうぜー」

 

「わ"あ"ぁ"い"たのしいーなー!」

 

「おおう‥斬新な楽しさの表現だな‥ビックリするほど、楽しさが伝わってこねえわ‥」

 

「‥お前ハゲ過ぎじゃね?」

 

「‥ハゲとハゲ過ぎの境界線がわかんねえわ」

 

余裕ぶったコイツを怒らせたくて、私はハゲによじ登り、ペシペシとハゲの頭を手の平で叩いていたのだが。

 

「hahaha」

 

 しかし、ハゲは余裕綽々に両手を左右に挙げておどけながら、笑っていた。

 何をしても、どんだけおちょくっても、どこ吹く風なコイツの態度にあたしはとにかくムカついて。

(てかコイツの頭ツルツル‥ちょっとペシペシすんの楽しくなってきた‥てか、視線が高くてちょっと楽しい♪)

 

「なあー?」

 

「んー?」

 

気のぬけたあたしの呼掛けにも、気のぬけた返事を返しやがる。

 

 

 

「何でお前、怒らねえのー?」

 

「何?怒って欲しいの?‥そういう性癖にはちょっと付き合えないなー」

 

「ぶっ飛ばすぞ!」

 

と、そこでハゲはあたしを、肩の上からそっと下ろしたんだ。

 そして、ジッと、あたしを値踏みするかのように見つめた。

 

「お前はあたしを、教導するんだろー?!」

 

「んー。そう頼まれたんだけどさー」

 

「何がわからんのよ?」

 

「へ?」

 

「教導はさ、教え導くから教導なんだわ‥」

 

「んなのわかってr‥」

 

「だからさー。ヴィータちゃんは何がわからんのよ?」

 

と、ハゲはジッと私の目を覗き込んできたんだ。

 正直拍子抜けしたよ。

 こいつも今までの教官同様、漠然と、当たり前の、内容の無い事を言いながら、私を否定してくるもんだと思ってたから。

だからかな‥前の隊長の事もあったし。

 とりあえず、一度信じて話してみよう。と思ったんだ。

 

「あたしさー―」

 

「うーん‥チームでの動き方ねー」

 

「うし。暫くの間、俺のチームで簡単な任務をこなしてみようか」

 

★★★

 

 それから3ヶ月位が経った。

 この部隊は居心地が良い。

 何より、以前にはやても所属していたことがあるらしく‥隊員からはやては可愛かった。だの、はやては優秀だったと、話しを聞かされる度に私は鼻が高い。

 だが、たぬてだのまめただのはよくわからないが。誰だよそれ。

 それに加えて、隊長のハゲだ。ハゲは私が何か仕事をこなす度に、チョコをくれるのだ。

いや、決してチョコに釣られてるわけじゃないぞ。

それに、あたしのすぐ後に、にゃのはも配属されてきた。

 最初こそ、隊長の容姿に戸惑っていたようだったが、あのお気楽が服を着たような奴が、距離感を測りかねているのを見るのは面白かった。

 まあ、直ぐにとは言わないが、いつの間にか馴染んでいたが。

 

「ヴィーちゃん?」

 

 と、いきなり声を掛けてきたのは、キューブ副隊長。

 はやてに話しを聞くと、はやてもだいぶお世話になった人だそうだ。尚且つ、直の上司でもあるので、呼び方にはいまいち納得いかないが、とりあえず返事をしておく。

 

「なんだ‥ですか?」

 

「隊長がよんでたよー♪多分、今度のチーム演習の事じゃないかな‥」

 

「‥わかった」

 

「ありゃ?チョコじゃなくて残念?」

 

「っ‥そんなんじゃねーから‥」

 

 図星だった‥。隊長と聞いた途端に私の頭はチョコを期待していた。

  勿論、口には出さないが。

 だが、言い当てられた事に私の顔は熱を持つ。

 

「も~ヴィーちゃんたら可愛い♪‥代わりにお姉ちゃんがチョコあげちゃう♪」

 

「いらね」

 

これは強がりでもなんでもない。

 何故かは解らないが、隊長のチョコは特別なのだ。

 にゃのはとも、その日どちらが多く貰うかで競争したりしている。負けた時は、にゃのはのドヤ顔がたまらなくウザイが。

 隊長のチョコは何故か他のチョコの追随を許さない程、ギガ旨い。

 

「ほんじゃな‥」

 

 流石に上司にこのリアクションは無いかと思い直し、私は手を挙げて、挨拶だけする。

 まあ、どのみち、上司に対する態度じゃないのだが。でも良いんだ。

だって‥

 

「‥これがツンデレ‥」

 

と、ほふぅ。とため息ひとつでヴィータを送り出すキューブ。

 

「‥デレてねえから‥」

 

 と、ヴィータの照れ隠しのツッコミも、届かない。

 

 な?こういうヤツなんだ。

 まあ、無意に敬意がどうとか、講釈垂れて来るヤツよりは、よっぽど好感持てるけどな。

  私は騎士だ。

 そして既に、剣を捧げた主もいる。

 そんな私に敬意を求めるならそれなりの力を見せてほしい。その上で、敬意を払うべきと感じたなら、自然と敬意は払っている。

 つまり、そういうことなのだ。

 

「お呼びですか?隊長?八神ヴィータ。ただいま参りました!」

 

と、敬礼しながら、私は脱帽して隊長に正対する。

 つまりはそういう事なのだ。

 

「おう。ちょっと時間くれ‥」

 

 そう言って隊長は歩き出す。

  私はその背中を見ながら付いていく。

 自慢じゃないが、私の背はかなり小さい。

そして、隊長は巨躯と言っていい体格だ。

その二人が同時に歩けばどうなるか。

だけど、二人の距離は離れない。

だが私は別に、早足にもなっていない。

自分のペースで普通に歩いている。

なのにだ。‥それがどういうことか。

 言わずもがな‥答えは知れている。

 隊長が私に合わせてくれているのだ。

上司である隊長が部下である私の歩幅に合わせてくれているのだ。

 私を尊重してくれているのだ。

 初っ端から生意気な態度をとっていた私をだ。

デカイ‥いや、身長の話じゃねえよ?

 そうだ。最初からこの人は、私を真っ直ぐ見てくれた。そして、今も私を尊重してくれているのだ。

 騎士が戴いた敬意を返すに値する男だ。

 そして隊長はブリーフィングルームに入り、ホワイトボードを出すと、私に着席を勧めた。

 私は大人しく座り、隊長の言葉を待つ。

 

「さて、知ってのとおり、来週頭にある定例の管理局内での、チーム模擬戦があるわけだが‥今回はチームリーダーをヴィータに担当してもらうことにしました~♪わ~♪はい拍手~パチパチパチパチ‥」

 

「わ、 わ~パチパチパチパチ‥じゃないよ‥ですよ!」

 

「何で?何で、あたしなん‥で‥すか?キューブ副隊長だっているのに‥」

 

「うん‥一応、結構ヴィータにも俺のチームで動いて貰って、最近は上手くやれてるだろ?」

 

「は、はい‥お蔭様で‥」

 

「だからそろそろ次のステップ♪チームリーダーとして動けば、各ポジションの意味や、役割‥それが更に深く理解出来る。‥つまり、俺はお前に戦術理解度を深めてほしいんだよ」

 

「な、成程‥」

 

そう言われてしまっては、私には是非は無い。

 そして私はチームリーダーを受け入れた。

 

「あの‥それで‥チームメンバーは?」

 

「良い質問だ」

 

と、隊長はニヤリと笑った。

 うわ。この人はまだ何かたくらんでるのか。

 

「今回の相手は平均AAランクのベテラン強豪チームだからな。此方も、それなりのメンバーを集めたぜ♪」

 

「先ず、メンバーは‥シグナム。フェイトテスタロッサハラオウン。高町なのは。キューブ。レオーネ。そしてヴィータ‥お前さんの5人だ」

 

「‥ってシグナム?!」

 

「そうだ‥」

 

と、突然扉を開けて現れたのはシグナム。

 

「今回だけはこの烈火の将がお前の下に付く‥しっかり私を使えよ?」

 

「悪いね?シグナム」

 

「とんでもありません」

 

と、シグナムは隊長に膝を折り、頭を垂れる。

 

「我が主がお世話になり、ましてやこの度は、輩の成長にも資していただき、言葉もありません‥」

 

 あのプライドの高いシグナムが‥いよいよもって、隊長が解らない。

 

「しかし、良くこんなチーム編成通りましたね?」

 

 と、あたしは疑問を述べる。

 だってそうだろう?いくら模擬戦とはいえ、こんなチーム編成‥普通通らない。キューブ副隊長もだが、レオーネもなかなか強い。

 

「うん。ちょっと、パイプをフル活用しちゃった」

 

「それに、このメンバーにもちゃんと意味はあるから安心しな」

 

 私は事も無げに言い放った隊長に唖然とする。

まあ、そんな風に言われてしまっては、私はもう何も言えないのだが。

 勿論言うつもりも無いが。

 

★★★

 

 試合当日。

  私達5人は相手チームと向かい合う。

成程。ベテラン強豪チームと言われるだけあり、 全員勇壮活発な顔立ちのチームだった。

 一応、準備期間で、お互いの役割だけは確認している。あたしは今回、チームリーダーということで、いつものフロントアタッカーでなく、センターガードで動く。代わりにフロントアタッカーはシグナム一人。

 右ガードウィングにフェイト。そしてもう一人のセンターガードとしてなのは。今回なのはは、指揮は取らない。あくまで中衛としての参加だ。

 そして、キューブ副隊長がもう一人の左ガードウィング。レオーネがフルバック。として動く。

 サッカー風にいうなら、1ー4ー1というフォーメーションだろうか。

 レオーネの本職はガードウィングなのだが。

 サポート魔法を使えるのが、レオーネだけということもあり、今回渋々引き受けてくれた。

 正直、負ける気がしない。だってそうだろ?

こんなん、誰が、リーダーやったって一緒だよ。

 相手は5人チームのオーソドックスな陣形。フルバック一人。その前にセンターガードを一人配置。両翼にガードウィング二人。最前列にフロントアタッカー一人といった布陣だった。

 試合開始のブザーが鳴る。

 ‥そして、開始早々、あたしは頭を抱えた。

 

「シグナム!出過ぎだ!」

 

開始早々、相手チームフロントアタッカーに距離を詰め、防衛ラインすらお構い無しに、敵陣深くに斬り込んだ、烈火の将を私は怒鳴る。

 あまりに、出過ぎて、私達、センターガードと距離が開きすぎている。

これでは、私達も援護をしづらい。

仕方無く、私も前に出ようとするが。

 

「ヴィータちゃんダメ!」

 

と、なのはに止められてしまう。

 見れば、シグナムと私達センターガードの間のスペースが開きすぎたせいで、空いたスペースに敵ガードウィング二人が進入して此方に接近してきていた。

 何で?‥フェイトはなにやってんだ?!

探せば、シグナム同様、敵陣奥深くで、相手センターガードとやりあっていた。

 

 押してはいるが、相手フルバックのサポートに手を焼いているようだ。

 代わりに、キューブ副隊長が一人で、進入してきた相手ガードウィング二人とやりあっているが、流石に2対1じゃ分が悪い。レオーネのサポートも射程範囲外だ。それでも堕ちていないのは流石というところか‥。

 くそっ‥気付かないうちに、少しずつ、あたし達も前に釣り上げられていたようだ。

 前衛役と完全に分断されている。

 このままじゃマズイ。

 数的不利を作り出されているマッチアップがその内、各個撃破され、押し切られるのが、目に見えた。

 

「ヴィーちゃん?一度下がろう!」

 

と、キューブ副隊長が声を掛けて来るが、下がるってどうすればいいんだ?

 と、あたしが困惑していると、

キューブ副隊長は相手チームに向き直って。

 

「作戦ターイム!」

 

と、両手でTの形を取る。

いや、そんなん認められるわけが‥

 

「認める!」

 

と、相手のセンターガードが腕組して、言い放った。

 認めるのかよ!

  劇場版は毎度良い出来だと思います。

 そして、言葉通り、相手は攻撃の手を止め、敵陣へと、戻って行く。

あたし達も急いで集合して、話し合いを始めた。

 

「だから出過ぎだ!シグナム!」

 

「これが私の戦闘スタイルだ‥出なかったとして、何か、具体的な指示があるのか?」

 

 

と、私の注意に何処吹く風のシグナム。

と、返される言葉にあたしは息を飲む。

 ははっ。まさか私がこんなことを言うなんてな。

‥そうか。あの時の私はこんなだったのか‥

そりゃ、注意されて当然だよな。ごめんな‥。前隊長‥。

 

「てかフェイトもフェイトだよ!なんで今回に限って、そんなに突出してるんだよ!」

 

「だって私は何も指示出されて無いもん。~♪」

と、口笛吹きながら、あらぬ方を見るフェイト。

‥こんにゃろう‥!

 

◆◆◆

 

「お疲れ様です」

 

「おうおつかれ。」

 

観戦席でのんびり観戦していた俺に声を掛けてきたのは八神だ。

 

「シグナム借りてすまんかったな」

 

「良いですよ‥シグナムも何だかんだ楽しそうでしたから‥」

 

「しかし、どんな意味があるんですか?」

 

「ん?」

 

「私にシグナムに指示出させたでしょ?知りませんけど、多分フェイトちゃんにも隊長から同じ指示出してますよね?」

 

「お?わかるか‥流石だね‥」

 

「わかりますよ‥でなきゃ、フェイトちゃんがあんなムーブするわけないですもん‥開始と同時に、シグナムとフェイトちゃんが飛び出した時は、思わず腹抱えて笑ってしまいましたもん」

 

「はは‥ちょっとな‥」

 

「もう‥あんま、ウチの子虐めんといてくださいね?」

 

「人聞きの悪いこというねえ‥いやさ、あの子‥座学苦手そうだからさ。実戦したほうがわかりやすいかなってね」

 

「もう‥それで負けたら、どうするんですか?」

 

「大丈夫。いざとなったらキューブもいるし。高町もいる‥まあついでにレオーネも。それにさ。負けても良いじゃん?負けから得るモノだってあるだろうさ。」

 

そう。欠点ありきの、部隊運用なんざよくある。むしろ、欠点の無い部隊なんざ幻だ。

 だから、そんな弱みのある部隊をリーダーとして運用する事は、百聞一見如なり。

 良い経験になるだろうさ。

 

 

 

 と、半分本気な俺の言に八神はふう。と、ため息ひとつ。

 

「私の可愛い子達の輝かしい戦績にキズがついちゃうんですけど?」

 

と、カメラを持ちながら、唇を尖らせる八神。

 こいつはこいつで、模擬戦の最中のヴィータとシグナムをカメラにおさめまくっていた。

 運動会の父兄かよ。

 親バカめ。

 

「たかだか、模擬戦の黒星ひとつ。今後の成長を考えれば、安い買い物だと思うけど?」

 

「でもまあ、確かに、ヴィータは一時期に比べてよく笑うようになりました‥その点については感謝しています」

 

「そいつは何より。それに、心配しなくても、あいつにはお手本を何度となく見せてきた。きっかけさえあれば、アイツならたどり着くさ‥チームに1番大事な事はもう既に、あのチームにはあるからな‥」

 

「ほれ、そろそろどっか行きな‥おまえさんが、ここにいることがヴィータに知れたら、台無しになっちまう」

 

と、俺は八神を追い払う。

 

「もう‥久しぶりやのに、いけずな人やで‥」

 

◆◆◆

 

「それで?治す気はないと?」

 

愚問だ」

 

涼しい顔で答えるシグナムにあたしはイラつきを隠さない。

 

「ストーップ!今は作戦タイム中!わかってる?」

 

と、キューブ副隊長に諌められ、私もとりあえず引く。

 それもそうかと、みんなに意見を求めてみる。

 前衛、中衛が仕事しないんじゃ、私の頭じゃ有効な手立てが考えつかない。

 

 ‥待てよ?

 今の部隊に移ってからも、特にあたしは、自分のムーブを変えてない。

でも、部隊は問題なく機能していたっけ。

 隊長は‥アルファード隊長は、どうしてたっけ?

======================

 

「ヴィータ!出過ぎだ!」

 

「でも!あたしはフロントアタッカーだ!」

 

「最前線で相手の攻撃を引き付けて、受け止めるのが仕事だろ!」

 

と、あたしが叫び返せば、隊長は優しく頷いて、

 

「そうだ‥確かに、お前の実力なら突出しても、問題は無いだろう‥」

 

と、

肯定してくれた。

 

「だったら‥!」

 

「前に出るなと、言ってるわけじゃない。出過ぎるなと、言ってるんだ」

 

その時のあたしは隊長の

言ってる意味がわかんなかったっけ‥。

でも、今はわかる。

 フロントアタッカーが出過ぎれば、中衛の前面にスペースが出切る。

 その分、味方の中衛の危険が増すんだ。

そして、フルバックのサポートも受けにくなる。

隊長はあたしが出過ぎた時は‥何も言わず、部隊全体の位置バランスを調整してくれていた?

何で?

 何であたしの為に、そんな事を?

 

 そうだ‥隊長は、出過ぎるな。とは言ったけど、出るなとは一度も言わなかった。

 何となくわかったよ。それどころか、私の実力をちゃんと把握した上で、問題無いとまで言ってくれていたっけ。

 隊長は、あたしを活かす為に、チームを動かしてくれてたんだ!

 でも、それがわかっても、具体的に何したらいいのかは浮かばない。

私はチームのメンバーを見渡す。

 実力は各自、申し分無い。

こんな奴等を率いて負けたら、良い恥さらしである。こいつらを活かすチームの運用‥。

メンバー一人一人が点となって、頭に浮かぶが、其れを線で結べない。

 これが、経験不足って事なのか。

隊長が言ってた、戦術理解を深めれば、こいつらを活かしてやることが、出来るんだろう。

私が自分の腑甲斐無さに俯くと‥。

 

「あっちのリーダーはセンターガードの人で間違い無いよね?」

 

と、突然なのはが発言した。

 みんなもそれに異論は無いようで、首肯していた。

 

「うむ。なかなかの使い手だ‥」

 

とは、シグナム。

 

「そうだね‥隙がなかなか見当たらない。オールマイティタイプだね‥」

 

と、フェイトも追随する。

 

「じゃあ、定石通り、リーダーを狙う?」

 

 と、キューブ副隊長。

 リーダーを狙うのは‥定石。

 そこで、あたしは閃いた。

点と点が線で結ばれたのだ。

 

「うし!今から指示を出す!」

 

「みんな?協力してくれるか?」

 

「当たり前なの!」

 

と、ドヤ顔でなのは。

 彼女の言葉はいつも心強くてくすぐったい。

 もっとも不安なシグナムを見れば。

「初めから言っていた筈だ‥私を上手く使えと‥」

 

「うん‥勿論、良いよ」

 

とは、フェイト。

 

「お?ヴィーちゃん覚醒?!」

 

「なんだよー!撫でんなー!」

 

と、あたしを撫で回してくるキューブ副隊長を牽制する。

全く‥油断も隙も無い。

 

「はいはーい!チヴィ太ー!俺も頑張るよー!」

 

 お前には聞いてない。

ていうか誰がチヴィ太だ。ぶっ飛ばすぞ!

 

「とりあえず、シグナムとフェイトは思いっきり行っちゃって良い‥二人掛りで、最速で、相手のフロントアタッカーを潰しちゃってくれ!」

 

「えっ?でもそれじゃ‥」

 

にゃのはが不安そうな声を上げる。

 でも大丈夫だ。

 

「大丈夫だ‥今度はあたしも前に出るからな!」

 

 そう。開いたスペースは私が埋める!

 

「えっ?でもそれだと、相手ガードウィング二人に狙われるよ?」

 

「問題無い‥次に前に出るのは、センターガードのヴィータじゃなくて、フロントアタッカーのヴィータだからな!」

 

「にゃのはは、一人で、中距離射撃支援と、牽制の役目になるけど、‥出来るだろ?」

 

「‥任せて!」

 

と、ドヤ顔で返すにゃのは。

 

「ヴィーちゃん私は?」

 

「キューブ副隊長は、にゃのはとレオーネの護衛お願いします。可能ならあたしのサポートも」

 

「わお。可愛い顔して鬼のような指示。」

 

「出来るだろ?」

 

「ん。任せて」

 

「シグナムとフェイトも。前に出る以上は、キッチリ結果出してくれよ?」

 

「誰に言っている‥」

 

 と、憮然と返すシグナム。

 フェイトも無言でドヤ顔で頷いた。

 いや‥なんでドヤ顔だよ。

 

「失敗したら、責任はあたしがとる」

 

「「失敗?そんなものはない」」」

 

全く‥頼もしい奴らである。

 

「おお。ヴィーちゃん。今の少し、隊長みたいだったよ‥」

 

「マジか。サンキュな」

 

隊長みたいと言われると、少し安心出来る。そして嬉しい。

 そうさ。最初からわかってたじゃないかあたしは。

チームで大事なのは、信頼だって。

 あたしはこいつ等を信頼してる。

 実力だって正確に把握してる。それなら後は、実力に即した、役割を信じて任せるだけで良いんだ!

 そうするだけで、このチームなら‥勝つる!

 

「シュワルベ・フリーゲン!」

 

あたしが生み出した手の平サイズの魔力弾をアイゼンで打ち出す。それが、再戦の合図の号砲となり、各自が改めて動き出す。

 あたしは相手フロントアタッカーを狙って放ったのだが、直ぐに、相手センターガードに相殺されてしまった。

 やはり流石である。

しかし、相手フロントアタッカーが安心する間もなく、シグナムとフェイトが斬り込む。

相手フロントアタッカーは少し後退しつつ、二人を引き付ける。予想通りのムーブだ。

 あたしは開いたスペースを潰すように、前に出る。

 待ってましたとばかりに、相手ガードウィング二人が挟み込むようにあたしに襲いかかってくる。

 二人がかりだろうがわかっていれば、なんでもない。

 あたしは、手早くカートリッジをリロードして、用意していた魔法を解き放つ。

 

「パンツァーヒンダネス!」

 

強固なバリアがあたしを包み、相手二人の攻撃を拒絶して、跳ね返す。

そのバリアの堅さに相手は驚いたようで、動揺が伝わってくる。

わりいな‥あたしは、フロントアタッカーなんだ。堅さがウリなんだよ!

 其処らのセンターガードと、一緒にすんな!

 

「フィアーテ!」

 

あたしの言の葉に応え、あたしの両足に風の小型の竜巻がまとわりつく。

 更にカートリッジをひとつリロード。

 

「フランメ、シュラーク!」

 

あたしは一気に距離を詰め、相手ガードウィングに襲いかかる。相手もさるもので、流石の反応で、バリアを貼るが、甘え!

焔を纏ったあたしのアイゼンは相手のバリアを突き破り、爆発を巻き起こす。

 

「ぐあぁ‥」

 

先ず一人!

 もう一人は?‥いない?!

見れば、もう一人はあたしを無視して、なのはの方に向かっていた。

 しまっ‥。

なのはは、あたしを信じているからか、此方に気づいていない。

 あたしも慌てて追い掛けるが、フィアーテの効果は既に切れていて、

勢いに乗ったヤツの背中はどんどん遠くなり、

そこでなのはが漸く此方に気付く。

くそっ。まにあわ‥!

 相手の攻撃がなのはを捉えるかに見えた瞬間、

ひとつの影がなのはの背後から現れた。

その影はカウンターを相手に叩き込み、怯んだ相手を更にボコボコにしていった。

肉弾戦で‥。

 

「誰に断って、ウチのなのスケに手出してんだい?三下が!」

 

「キューブさんありがとうなの!」

 

なのはの礼にキューブはひとつ柔らかく微笑むと、

グルリと、戦場を見渡し、

レオーネへと向かう、相手フルバックの姿を確認すると、ため息をひとつ。

 

「ったく‥だだっ広いったら‥!」

 

そして、休む間もなく、飛び去った。

あたしはその背中に感謝しながら、戦場に敵を探す。

‥ミツケタ!

 

「アイゼン!」

 

yahoo!》

 

「コメットシュラーク!」

 

あたしは少しの溜めの後に少し大きめの魔力弾を造り出し、空中に放つ。

 

「にゃのは!合わせろ!」

 

「任せて!」

 

なのはの返事を聞くなり、あたしは、その魔力弾をアイゼンで打ち出す。

 狙うのは、相手センターガード。

 フルバックが離れたので、フェイトの相手が辛くなったのだろう。

 フェイトから距離を置いて、隙を伺っていた。

不意を突いた筈なのだが、流石というか、相手も気付き、再び相殺しようと、魔力弾をぶつけようとするが。

‥アメエヨ!

相手の放った魔力弾を避けるように、あたしの魔力弾は相手に向かう。

 相手も動揺しつつ、バリアを貼るが、

 そんな薄いバリアで大丈夫か?

あたしの魔力弾は相手のバリアに着弾すると、爆発を巻き起こした。

 爆煙の中から、ダメージを相殺仕切れなかった相手が落下するように、姿を現す。

 が、相手は落ちず、その場から逃げようとする。

 仕損じた?!

慌てて追撃しようとするが。

 だが、その必要は無かった。

相手は既に逃げ場が無いほどの無数のピンク色の魔力弾に囲まれていたから!

 そして、その瞬間、あたし達のチームの勝利が告げられた。

 相手が降参したのだ。

 やった‥!

やり遂げた‥!

 

◆◆◆

 

「仰有った通りになりましたね?」

 

「お?八神か‥やっぱ優秀だよな。アイツは‥」

 

「隊長が何か‥?」

 

「いんや。俺は今回はなんもしてねえよ?」

 

「なら‥どうして?」

 

 これは本当だ。俺は今回ヴィータに何も言ってない。

 

「俺の部隊に来た時には、アイツは既に、自分の問題点を理解してた。チームメンバーと、信頼を築けないという問題点を‥」

 

「なら後は、信頼出来るようなチームを用意して、背中を見守るだけで良い。自分で問題点をわかってるヤツに教える事なんざ何もない。お膳立てだけで、出来るヤツは出来るもんだ‥何も言わずに、頑張ってる背中を感謝して見守る‥それもひとつの教導の形だあな‥」

 

「‥何もせず、背中を見守る‥クスッ‥ウチの子を‥信頼してくれて、ありがとうございます‥私も、勉強になりました‥」

 

「‥はは。相変わらず殊勝だねえ‥今日は目一杯ほめてやんな‥チョコ食うか?」

 

「頂戴します」

 

 チョコを俺から受け取り、上機嫌でスキップで去っていく八神の後ろ姿を微笑ましい思いで見ながら、

 ハゲはチームの中心で花が咲いたように笑うヴィータに目を向ける。

 今回のヴィータの作戦は、旧知のシグナムや高町だけでなく、キューブと、レオーネの実力もしっかり把握した上で、練られていた。

 そういった、実力を正確に測る目も持っているようだ。それも、才能か‥。

 ああいうタイプは教官にも向いている。

 未熟な蕾が成長して、華を咲かせる様は何回見ても、眩しく美しい。

 ま、俺の頭程じゃないがな。

 ご褒美のチョコをだいぶせがまれそうだねこれは。

 今回は少し多めに作るとするかね。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合後、キューブと、シグナム、なのはに交互に頭を撫でられ、あたしは、鬱陶しく思いながらも、やりきった喜びで笑っていた。そんな達成感の喜びの後、あたしの前には気まずそうに頭を下げる二人の女。

 シグナムとフェイトだ。

何でも、二人は隊長とはやてから、事前に特別な指示を受けていたらしい。

その内容は、二人して、前に出まくれ!というものらしい。

 ‥が、注意事項があり、もし、あたしから具体的な指示があった場合は、そちらを優先せよ。ということらしい。

 それであたしは怒るに怒れなくなってしまって。

 確かに、最初のあたしは、ろくに指示も出していなかったから。

 自業自得とも言える。

そんなあたしを見透かしたかのような、隊長の指示に顔が熱くなる。

 

「あんの‥ハゲーーー!?」

 

ギガントフォーム!》

 

あたしの怒りの雄叫びに合わせて、アイゼンが勝手にギガントフォルムをとったが、まあ、それは別にいいか。

 これはチョコ、山盛りじゃないと治まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




  「八神家のお母さん」

「ヴィーちゃんヴィーちゃん?」

「なんだよ?試合中だぞ!」

「あれあれ‥」

と、キューブ副隊長があたしに観客席を見る様促してくる。
見ればそこには、
カメラを構えながら、写真を撮りまくっているはやての姿。

「どーもどーも。あれウチの子達なんです‥」

 なんて周りの観客に笑顔満開で自慢しているはやての姿に胸に何だか暖かいモノが広がって。
 見れば、シグナムも俯き、プルプル震えながら、顔を赤くしていた。
きっとあたしの顔も赤いだろう。
 はやてが見ているんだ。不様な姿は見せられない。
 あたしは気合いを新たに、敵チームを睨み付けた。

「やーい。お前の母ちゃん、カッメラこぞー!」

なんて事を叫んでくるレオーネに、シグナムと頷き合うと、前後から襲い掛かった。
 みててくれ。はやて。あたしがはやてに勝利を捧げるから。
終わり。次回はまた来週。


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ハゲと恋心。

時間が出来たので、サクサク書いちゃいました。
そろそろ忙しくなりそうなので、書けるウチに書いて完結させないとね。完結こそが作者の最低限の責任也。("`д´)ゞ
あ。感想、及び誤字報告いつもありがとうございますm(__)m




 

 

 

ある日の昼下がりの休憩タイム。

 

「ん~~!」

 

今日のお仕事も後少し。最後の休憩時間に私は大きく伸びをする。身体が解れる感覚が気持ち良い。

 そんな最中の事。

 視界の端には、アルファードさんも同じように伸びをしていて。

 自然と目が合った私達は、お互い照れ臭い気持ちで、はにかみ合う。

 そんな、少しくすぐったくて、どこか甘い、温かい時間。

 私はそれが大好きだった。

 そんな二人の空気を壊すように、いきなり、フェイトちゃんがカットインして、彼に倒れかかってきた。

 両手を頭上に挙げて、私と同じように伸びをして、はにかんでいた彼は、当然のように反応出来ず。

 そんな彼の首に腕を巻き付けて、抱き付くフェイトちゃん。

 

「ご、ごめんなさい‥つまづいちゃって‥」

 

フェイトちゃんは真赤な顔で謝罪するが、

その口元は幸せそうに綻んでいた。

 違う。‥あれはわざとだ。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「ん。気をつけろよ?」

 

等と、アルファードさんも優しく彼女を許す。

 

「すみません‥最近、足下が良く見えなくて‥」

 

‥なんて、フェイトちゃんは自分の胸を腕で挟むように持ち上げながら、そんな事を言い放つ。

 つまり、あれか‥。

 胸がでかくなって、足下が良く見えなくて、つまづいてしまったと‥!

 それを受けてアルファードさんは‥

 

「お?おう?そういうものか‥じゃあ、仕方ないな‥」

 

なんて赤面しながら、そんな事を言い出して‥!

 私は、ユラリと、立ちあがり、二人に背を向ける。

 何がなんだか解らない。

 自分の感情が解らない。

 この感情は何?

 怒り?悲しみ?嫉妬?悔しさ?

 憎悪?

 誰への?

どれも、ピンと来ず、その実、どれも当てはまるように思えた。

 このままじゃいけない。

 このままここにいたら、良くない事が起こる。‥気がした。

 そして、私はいつの間にか走り出していた。

―無我夢中で走り続けていた。

 すると、いきなり、腕を掴まれ、私は引き留められた。

 みれば、私の腕を掴んでいたのは‥。

キューブ副隊長だった。

 

「なのスケ?どうした?」

 

 いつもの優しい微笑みと、声音の問い掛けに私は隊長の姿を重ねてしまって。

声にならない叫びと共に、

その豊満な胸へと、顔を埋めた。

 

「――っ!―っ!?」

 

そして、後から後から沸いてくる涙を拭う事もせず、

 思うがままに彼女の胸の中で叫んだ。

 それは、言葉になっていたかもわからない。

文法とか、言葉の意味すら一切気にせず、

ただ、声をあげて泣いた。

 まるで産まれたての赤ン坊の産声のように。

 キューブさんはそんな私の頭をずっと優しく撫で続けてくれていた。

 どれだけの時間泣いただろうか。涙は枯れていないが、咽は枯れてしまった私はキューブさんに肩を抱かれながら、食堂の椅子へと座らされていた。

 

「‥そっか‥なのスケも、もうお年頃だね」

 

「私‥自分の気持ちが、わからなくて‥どうしたら、良いのか‥」

 

絞り出した声はびっくりするほど、しゃがれていて、咽が痛かった。

 キューブさんはそんな私に、ソッと紅茶を入れてくれて。

 

「飲みな‥ハチミツ入りだ‥」

 

「わあ‥」

 

鼻孔を擽る、ハチミツの甘い香りに少しささくれた心が柔らかくなるのを感じる。

 

「あちち‥ふー‥ふー‥」

 

私はコップを両手で持ちながら息を吹きかけ、冷ましていく。

 

「‥美味しい!」

 

だいぶ冷めたので、少しだけ、口に運び、啜る。

と、暖かく、ハチミツのトロリとした質感と甘い味と紅茶の香りが口内を潤し、食道から心迄温めてくれて、私の気持ちを落ち着かせてくれた。

 

「うん‥落ち着いたかい?」

 

「はい‥取り乱しちゃってすみませんでした‥」

 

私は一先ず、キューブ副隊長に謝罪する。

 彼女の制服の胸の部分は、私の涙と鼻水でテカテカになっていた。‥申し訳ない。

 

「隊長の事かい?」

 

ドキリとした。

 

「どうして?」

 

解ったんですか?という続きは飲み込んだ。

 

「わかるさ。今やエースオブエースと呼び声高いなのスケがそんな風になることなんざ、隊長絡み以外じゃあり得ない。」

 

 ぐうの音もでない指摘に私の顔は熱くなる。

 私は羞恥で俯き、コップの水面に視線を落とす。

そこに映った自分の顔は、やはり暗く曇っていた。

 

「なのスケはどうしたいんだい?」

 

と、穏やかな声音で問い掛けるキューブ副隊長。

 

「解らないです‥自分の気持ちが、良く解らなくて‥」

 

「ふむ‥解らない?本当に?」

 

と、キューブ副隊長は訝しげに聞いてくる。

 ドキリとした。

 

「いえ‥私は‥隊長が、好き‥です‥大好き‥!」

 

そう。私は隊長が好き。それは間違いない。

でも‥隊長は‥?

 

「‥隊長の気持ちが解らない?」

 

 ドキリとした。

 私が何故?と、視線で問い掛けると、

 

「‥うーん。まあいいか‥。」

 

と、キューブ副隊長は照れ臭そうに話し始めた。

 

「私も隊長が好き‥だから気持ちは私にもわかるよ。あのハゲ‥自分の気持ちを全く見せないからね‥」

 

 ‥だと、思った。キューブ副隊長の独白は私の心にストンと落ちた。

 そうか。私は自分の気持ちというより、隊長の気持ちが見えなくて、不安だったんだ。

 そして、キューブ副隊長も隊長を好きという新たな事実。

 

 隊長の隣に立つキューブ副隊長はピタリとハマる。

 悔しいけどお似合いの二人だと思う。

 

「でも‥私はこの気持ちを伝えるつもりは無い」

 

 と、キューブ副隊長は苦々しく宣言した。

 

「え?」

 

 何で?私から見ても、キューブ副隊長と隊長は強い信頼で結ばれているお似合いの二人なのに‥。

 

「まあ‥私もね、隊長とはつき合い長いからさ‥今迄、色々なアプローチをしてきたのよ‥何度かそういう雰囲気になった事もある‥でもね‥そういうとき、あいつは必ずはぐらかしてきた‥。

 

 それで‥何となく、解ったんだ‥。

 彼は‥そういうのを、求めてないんじゃないかって‥。

 

「そういうの?」

 

「信頼はしてもらってる。現在管理局内で彼と1番強い信頼で結ばれているのは私。という自負もある‥でも‥それだけなんだよ‥多分、彼にはその先が見えてない」

 

「その先?」

 

「まあ、なのスケは未だ若いからさ、解らないと思うけどさ、私達位の歳になると、恋愛ひとつでも‥結婚迄意識するのよ‥重いかもって、自分でも思う。でも、恋愛ひとつ身軽に出来なくなるくらい、自分が歳を取ったのも、事実。」

 

「だから多分、アイツも必要以上にチキッてる‥」

 

「まあ‥慎重になってるのは本当だけど、なのスケの場合は少し違うかもね?」

 

「え?」

 

「だって、なのスケは可愛いもの‥」

 

「???」

 

「だからね?成人したばかりの可愛い可愛い女のコと、アラフィフのハゲオヤジじゃ釣り合わないとでも思ってるんじゃない?あのハゲ、自己評価低いし」

 

 キューブさんのきつめな言い種に私は小さく吹き出してしまう。

 

「‥だからなのスケ。あの、厄介なハゲに想いを伝えるんなら生半可な覚悟じゃだめだよ?全力全開でやんな‥」

 

「大得意なの!」

 

「うん。良いドヤ顔だ‥いつもの可愛い私のなのスケに戻ったね‥私は‥伝えない事を選んだけど‥。なのスケならもしかしたら‥」

 

そう話すキューブ副隊長は私を勇気づけるような、優しい笑顔と、その中に一匙の後悔を落としたような、複雑な表情をしていた。

 

「‥でも良いの‥?キューブ副隊長?」

 

「ん?」

 

「その‥私が、隊長とくっついても‥」

 私が言いにくそうに呟くと。

 

「フッ‥生意気‥」

 

と、私の頬を指でつついてくる。

 その顔はいつもの勝ち気な副隊長で。

 

「良いよ‥なのスケなら‥それより早く隊長とくっついて、私の恋を終らせて欲しい‥そうすれば、私も踏ん切りが着く‥自慢じゃないけど‥これでもおねえさんはモテるんだからね?‥このまま何時までも、隊長にしがみついてたら、売れ残っちゃう‥かと言って、諦めないままで、別の恋に行くなんて器用な事も出来ないしね‥」

 

なんて、おどけたように言ってくる。

 

 ―こうして、私の心は決まった。あとは、全力全開。

 

 

 ある昼下がり。

 1日の最後の休憩に私は背伸びをして身体を、解す。

 と、視界の端でアルファードさんと視線が絡み合った。

 私はパチリと、ウィンクひとつ。

 すると、彼は一瞬驚き、ぎこちなく、ウィンクをひとつ返してくれた。

 二人だけの秘密の些細なやり取り。

 こんな他愛もない事が堪らなく嬉しくて、ドキドキして、愛おしい。

 こんなくすぐったさに綻ぶ口許が弛むのは仕方ないのだ。

 お互いに薄く頬を染めてはにかんで。

  私はあれから、タイミングを窺う日々。

 何のタイミングかって?

 それは勿論、攻めるタイミングだ。

 無闇矢鱈に攻めても、隊長には届かない。

なんせ、私が思う理想の女性のキューブ副隊長を振るような人なのだ。

 ヘタしたら、本当にロリなのかもしれない。

ホモ‥ではないと、信じたい。

 覚悟してね‥隊長。

 隙を見せたら、一撃必殺。全力全開なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回も読んで頂きありがとうございます。
これで、クライマックスへの、導入は完了。
 というわけで、次回最終回です。
 今回の目標は1クール(12話)で纏め切る事だったので。一話が必要以上に長くなっても分割せずにやってきました(´д`|||)お陰で読みにくい想いをされた方もいらっしゃるかもしれません。
 そこは申し訳ない。
 最終回はもう書き上がってるので、これから校正して、次のお休み‥23日には出せると思います。
お楽しみにしていただければm(__)m


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ハゲとワイシャツと私。

予告通り、最終回です。
予想以上に沢山の方にハゲを愛して頂けて、幸甚ですm(__)m
 ここで皆様にご注意を、ハゲをハゲと煽って許されるのは、美少女だけです。
 だから、どこぞのおば様は叩かれまくりましたね?
皆様もお気をつけて下さいませ。
 ハゲをバカにするものはハゲる。これは太古から続く因果律ですm(__)m
―美少女にハゲと罵られたいだけの人性だった―


 

あー♪たすけてっ♪リボンがきーまらーないー♪

 

 夜の自室からこんばんは。

 みなさん悪戯心ワクワクしてますか?

 私はしてます。

 本日私は機動六課の当直なのです。

本来、睡眠時間が削られる当直はお肌の大敵。

なのに私がワクワクしている理由?

それはですね‥なんと、今夜の当直はアルファードさんと、一緒なのです!

 此れはチャンスですね。

 そう。攻めるチャンスです。

 ね?悪戯心ワクワクしてくるでしょ?

鏡を見ながら、漸くリボンの位置を決め、リボンの色を苦労して選び、お化粧直しをして、下着も余所行きで揃えて、漸く私は自室を出る。

 そして私は今日の夕方に作っておいたお手製のシュークリームを手土産にスキップを踏みつつ六課へと向かう。

 えへへ‥喜んでくれるといいな。

 何気に、一緒に当直は初めてなのです。

 私はワクワクしながら六課の扉を開ける。

しかし、そこには誰もいない。暗く静まった職場が広がるばかり。

 そりゃそうだ。もうみんな本日の勤務を終えて、家でグッスリだろう。

‥‥じゃなーい!

何で?何で一人?!

え?彼と一緒だと思ってたのは私の勘違い?これは夢?!

 実は一人で当直とか?

 私はガックリと、その場に崩れ落ちる。

うう‥ばんなそかな‥。

 勘違いなんて有り得ない。だって私は一ヶ月も前から今日の予定を確認してわくわく貯金をしていたのだ。

 期待してた分、一人かと思うと、急に寂しくなってきちゃった‥。

 いけない。どんどん心が落ちこんでいく‥お仕事‥しないと。

当直中にすればいいやと、昼間のお仕事は少し残してある。

 当直のお仕事は基本的には電話番。緊急の事件が起こった場合のみ、忙しくなるが、勿論滅多に起こらない。

だからみんな、昼間のお仕事を少し残しておくのだ。

 勿論、締切が2日以内のものは残さないが。

はあ‥でも‥ヤル気出ないなあ‥楽しみにしてたんだけどなあ‥

 

「ん?どうした?高町?そんなとこに座りこんで‥」

 

と、私の大好きな声が後ろから聴こえ、私はガバッと振り向く。

と、そこには‥ハゲがいた。

 そして安心したからか、私は泣いてしまった。

 

「エ"ッ?!ど、どどどうした?何処か痛いのか?」

 

私の涙を見て慌てだすアルファードさんを見て、胸に温かい何かが込み上げ、私はとめどなく涙が流れてしまって。

 さっき迄の落ちこんだ心はどこへやら。

私は目尻の涙をひとさし指で掬いながら、

 

「もう‥アルファードさん‥遅刻ですよ?」

 

ちょっと不機嫌そうに唇を尖らせて責めるように言ったつもりだったが、飛び出した言葉は喜色でまみれていて。

 そう。言い訳の仕様もないほどに、私は喜んでいた。

 

「ん?いや、少し飯作っててな‥

そういえば、わざわざ、リボン迄変えてきたのか?」

 

「え?は、はい‥」

 

 彼はこういう所が本当にあざとい。

 

と、私は赤くなっているであろう顔を隠すように、湯沸室に顔を向ける。

 確かに何やら良い匂いが‥。

そこで私のおなかが、くぅ‥と、小さく空腹を主張した。

 まさか、聴こえてはいまいと、自分に言い聞かせながら私は羞恥で更に顔が熱くなり、脂汗をダラダラ流してしまう。

 が‥アルファードさんはまるで何事も無かったかのように‥

 

「お前も食うか?高町‥今日のは割と自信作だぜ」

 

なん‥だと‥アルファードさんの‥手作り‥だと‥?

 食わいでかっ!?

 私は先程の羞恥心も忘れ、ブンブンと首を縦に振る。

 勢い良く振りすぎて頭がクラっとしたのは、乙女の秘密だ。

 

「うし‥んじゃ‥たぬての机でも、借りるとするか‥」

 

 ‥確かに、はやてちゃんの机なら広いので、丁度良いかもしれないのだが、

 

「プッ‥はやてちゃんの事そんな風に呼んじゃダメですよ~?」

 

私は一応咎める。噴き出してしまっている手前、説得力は皆無なのだが。

 

「ん?チビ狸よりはマシだろ?」

 

「も~そもそも、女の子にたぬきとかいったらダメなんですよ~?」

 

 そう。私以外の女の子にそんな気安くしちゃダメなんですよ。

 とは口に出さずに飲み込んだ。

 

「へいへい‥」

 

と、アルファードさんは、退散退散。と、湯沸室へと消えていった。

 直ぐに彼はお皿を両手に戻ってくる。

 私も慌てて立ち上り、手早くはやてちゃんの机の上を片付け、ハンカチにアルコールを噴射し机の上を拭いていく。

その上に彼が料理を並べていく。

 メニューは先ずはシーザーサラダ。そして主菜は焼きうどんだった。

 

「どうした?高町?‥なんかニヤニヤしてるぞ?」

 

 ‥なんか‥なんかこれって‥

 夫婦みたいじゃない?

 私がテーブルを片付けて、彼が作ったお料理を並べて‥そしてこのあと、二人でいただきます。するのだ。

 私は脳内に沸きだした、薔薇色の妄想を泣く泣く振り払う。

 

「いーえ。何でも。それより、アルファードさんは、お料理もなさるんですね?」

 

「ん?おう‥たまに、気が向いた時にな」

 

「へー。でも‥とっても美味しそう‥」

 

「ん。さんきゅ。冷めないうちに食っちまうか」

 

「はい!」

 

「「いただきます」」

 

二人で手を合わせて、食事を始める。

 先ずはサラダから。

 

「このゲーハーサラダ美味しいの♪」

 

「シーザーサラダな‥ハゲは食べ物じゃないから‥無いよね?」

 

「私にきかれても‥」

 

「お前が言い出した事だからね?」

 

 この焼きうどんウマッ!?

 私はアルファードさんのツッコミをスルーして焼きうどんに箸を伸ばしていた。

 程好いお醤油の味付けと、海苔とかつお節がきいていて、とても美味しい。

申し訳程度に入っている紅しょうがが小憎らしい。

 いーい仕事してますねえ‥。

 と、アルファードさんがニコニコと優しい眼差しで此方を見ているのに気付いた。

私が、首を傾げて??と視線で問い掛けると

 

「ああ‥すまん。あんまり美味しそうに食べてくれるもんだから嬉しくてな‥」

 

「―っ」

 

私は顔が一気に熱くなった。

 今のはヤバイ。

今の優しい笑顔‥あれはヤバイ。

 それに加えて、

 食べているところを見られるのは、乙女としては、やはり少々恥ずかしいものなのだ。

 

「どうした?急に顔を赤くして」

 

彼がキョトンと聞いてくる。

 

「お、女の子が食事しているところは‥あまり‥見るモノじゃないと思うの‥」

 

「ん?お、おう。そういうものか‥?」

 

「す、すまん。やはり自分の作ったものを美味しそうに食べてくれている顔を見るのは好きでな‥」

 

と、アルファードさんは済まなそうに謝罪を口にする。

 気持ちはわかるし、勿論私もそうだ。

 でも‥恥ずかしいモノは恥ずかしいのだ。

 御勘弁願いたい。

 

「と、とにかく‥あんまり見ちゃ‥やだ‥ょ‥」

 

「わ、わかった。すまん‥」

 

と、アルファードさんは残念そうに、謝罪をして、皿を持ち上げて顔をかくすように、食事を再開した。

そんな彼の不器用な気遣いに、私は小さく噴き出してしまう。

それから私達は楽しくお食事をした。

 私がお仕事の愚痴等をついついこぼしてしまうのだが、心地好い潮目で挟まれる彼の相槌と、要所で放り込んでくる、彼の自虐のようなハゲエピソードに私は愚痴の負の感情も忘れて、楽しくなってしまって。

 ‥ああ‥やっぱり私‥この人が‥好きだなあ‥。

  時間も忘れて私は夢中でおしゃべりを楽しんだ。やがて山盛りだったお皿も空になり。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ん。お粗末さま」

 

私が手を合わせて頭を下げると、彼も目を細めて儀礼を返す。

 

「あ。片付け位は私が‥」

 

 彼が要領よく食器を片付け始めたので、私も慌てて、手を伸ばす。

 すると、私がお皿を掴んだ時に、彼もまた同じく手を伸ばしていて、

お互いの手と手が触れ合ってしまう。

 

「ぁ‥」

 

「わ、悪い‥」

 

私が思わず小さく声をもらしてしまうと、彼も、照れ臭そうに小さく謝る。

 何となく、気不味い空気が沸きだした。

 何だろう‥子供の時はあまり‥気にしなかった彼とのふれ合いが、最近何だか、くすぐったくて‥照れ臭い。ていうか鼓動がうるさい。

 そして、触れ合った箇所は熱く火照り、なおかつ胸がザワザワし、離れると、何とも言えない仄かな寂寥感に支配されるのだ。

 これが恋。

 初めてのよくわからないモヤモヤ感に頭を傾げながら、私は食器を重ねていく。

 

 

「あ‥アルファードさん?またシュークリーム作ってきました‥」

 

 

「おお‥うれしいな。いただくよ‥うん‥相変わらず美味いな‥」

 

 

「えへへ‥ありがとうございます♪」

 

 

と、そこで私は軽くムードを作り出そうと、ジッと彼を見つめてみる。

 

「ん?」

 

 彼は私の視線を真っ正面から受け止めて、なんだ?と、首を傾げる。くっ‥やはり手強いの。

 そこで私は気付いた。

 

「ここ‥シミになってます。」

 

と、私は衿の部分を指差して、告げる。

 

「うあっ‥マジか~‥」

 

鏡で確認して、落胆する彼。

 

 先程の焼きうどんを顔をかくすように皿を持ち上げて食べていた時に付いたのだろう。

 私のせい‥とは言わないが‥私のせいではない‥とも言い難い。

 よし。

 

「早く洗わないと、残っちゃいますよ?私‥洗ってきますから‥貸してください」

 

「え?良いよ良いよ」

 

「ダメです」

 

意中の男性にご飯作って貰って、女子力を逆に見せつけられたままじゃ終われない。

 私も見せとかないとね。

 アルファードさんは、渋っていたが、私が引かないとみるや、渋々と、シャツを脱ぎだした。

彼はこういう時、必ず引いてくれる。

 なんていうか‥私の我が儘を聞いてくれるのだ。

 シャツの下から、彼の盛り上った筋肉が現れる。

 彼の裸は昔、温泉で見たことはあるけども。

 正直あの時は観察する余裕なんて全くなくて。

今こうして改めて見ると、やはり彼は男性なんだなあと、意識してしまって、自然と頬が熱を持つ。

 さあ。腕の見せどころだ。

 私はシャツと食器を持って湯沸室に入る。

 袖を捲って、フンスと鼻息荒く。

 先ずは、ケトルにお湯を湧かす。

その間に手早く、食器を洗っていく。

 丁度洗い終わった所で、お湯が沸いた。

 先ずは、食器用洗剤で小手調べ。

 沸いたお湯を自分のマグカップに注ぎ、十分に湯気がたっているのを確認したら、それを覆うように、シャツの衿、シミの部分を被せる。

先ずは蒸気で蒸してやることで、シミは落ちやすくなるのだ。

まだ時間もそんなに経ってないし、多分この程度のシミなら、食器用洗剤で十分落ちる筈。

ダメなら漂白剤でやり直しだ。

 十分に蒸らした所で、シミの部分を洗剤で擦る。

 すすぎはマグカップのお湯ですすぐ。

この時、火傷しないように注意。

すすぎ終わり、仰ぎ見れば、綺麗に落ちている。

 うん。これなら乙女の面目躍如でしょう♪

 私はドヤ顔で、アルファードさんに報告しにいく。

 

「アルファードさん。ちゃんと落ちましたよ♪」

 

「おお。本当だ。たいしたもんだ。ありがとな‥高町」

 

「ドヤァ‥いえいえ。それじゃ私‥乾燥がてらアイロンかけてきますから‥」

 

「エッ?!いやいや、そこまでしなくていいよ」

 

「ダメです」

 

 こんな奥様的イベント逃してたまるものか。

 私はウキウキしながら、彼のシャツを胸に抱きながら、自室へと急ぐ。

 自室へと戻ると、アイロン片手に、アイロン台にシャツを乗せて、見下ろす。

さて。いざ‥!全力全開で!参る!

 

 

 

 

 

‥そして気が付いた時には私はアルファードさんのシャツを着ていた。

 ファッ?!

 あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 私は彼のシャツにアイロンをかけていたのだ。

 かけ終わり、出来栄えを確認するために、シャツを持ち上げるじゃない?

すると、そこで、彼のあの独特の甘い香りがするじゃない?

 そんなん嗅ぐしかないじゃない?それで、私はシャツに顔を押し付けたんだ。そしたら次の瞬間には着ていたんだ。

 ね?仕方無いでしょう?

 催眠術だとか、超スピードだとかチャチなものじゃあ断じて無い。

 もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ。

 

《Frightening’s you(恐ろしいのは貴方です)》

 

レイジングハートのツッコミが今日は何だか厳しい。

 しかしなんだ。これが彼シャツとかいうものか‥。

 雑誌でしか、読んだことのない知識だが。

 なるほど。これは良いものだ。

 彼の独特の甘い香りがする。その甘い香りに身体が包まれているような。

 まるで、彼に抱き締められているような。

 私はダボダボのシャツに包まれた自分の姿を見下ろす。

 

そして、鏡にも映してみる。

 鏡の中の自分は気持ち悪い程、にやけていた。

 

「レイジングハート。写真撮って♪」

 

《Refuse but(だが断る)》

 

もう‥レイジングハートのいけず。反抗期かな。

 私はベッドの上に座って、色々なポーズを取る。

‥レイジングハート?早く‥しようか‥?

私は軽く怒気を纏う。

 

《‥standby lady‥》

 

うん。良い子なの。

 その後、私は一人きりの撮影会を楽しんだ。

 

《master?電探にハゲの反応ありです》

 

なんだって‥流石レイジングハート。有能である。

 私は急ぎシャツを脱ぎ、アイロンをかけ直す。

(コンコン)

 

「はーい」

 

 隊長だろう。何とかアイロンもかけ終わり、私は急いでドアを開ける。

 

「おう。高町。急かしてすまんが‥流石にこの時期に裸はな‥その‥寒く‥てな?‥ってお前なんて格好してんだ!?」

 

と、彼は後ろを向いてしまう。

‥格好?

と、私が自分の身体を見れば、そこにはオレンジの花模様のブラジャーが見えた。

 あ‥。急いで隊長のシャツ脱いで‥それから私‥何も羽織ってないじゃん‥。

 私は肩を抱くように、その場にしゃがみこんでしまう。

 

「ひ、ひゃああああぁぁぁ!?」

 

「わー!。高町ストップストップ!。頼むからこの状況で悲鳴は勘弁してくれ」

 

珍しく慌てたようなアルファードさんの声に私は今の状況を鑑みる。

私の部屋の前で、裸のハゲに襲われたような格好でしゃがみこむ、下着姿の美女←なんか文句ある?

 確かにこれは不味い。

 私は何とか冷静さを取り戻し。

 レイジングハートを呼び寄せる。

 フヨフヨと飛んできたレイジングハートを掴むと。

《standby ready》

 

「セーットアーップ!」

 

 と、バリアジャケットを纏い、何とか人心地。

バリアジャケットを纏った私にアルファードさんも安心して、此方を振り向いた。

 

「見ました?」

 

「」

 

と、直球な私の問い掛けに彼が固まる。

 かつてないほどに目を游がせながら、彼は、

 

「結構なお手前で‥」

 

 なんて返してくる。

 そうか。魅力を感じてくれたのは、真赤になった目の前の茹でダコを見ればわかる。

 

 ―ならばよし。 ―好機と見た。

―ここは攻める。

 

「責任‥取って♪」

 

「」

 

そして彼はまた固まった。

 

「あーっと‥何を‥すれば良いんだ?」

 

ポリポリと頭をかきながら、惚けたように聞き返す彼。

 

私はその物言いにカッとなってしまった。

 キューブ副隊長の言っていた通りだ。彼はわかっていてはぐらかそうとしている。

確かに此方も軽い感じで言ってしまったのは否めないが。

 それでも私の鼓動が証明している通り、私にとっては一世一代の攻めだったのだ。

 今の心地好い関係を壊してしまうかもしれないという、覚悟を持って、攻めたのだ。

ならば、好みでない。とか!他に好きな人がいる。とか!そういう理由ならば仕方が無いが。

 だけど‥子供扱いで誤魔化して、本気で受け取って貰えない‥なんて。惨め過ぎるじゃないか!

 確かに、どさくさ紛れであり、ムードも何も無い告白だけど。それでも、私は届け。と、声を絞り出す。

 

「‥ぃで‥」

 

「へ?」

 

「いつまでも!子供扱いしないで!」

 

と、私は吠えた。

 

「そうか‥」

 

と、彼は瞳に理解の色を灯すと、

 俯いてしまう。

 

「そうか‥娘みたいに‥思っていたんだがな‥」

 

ズキリ。と、彼の言葉に胸が痛む。

尚も彼は葛藤するように、虚空を見つめる。

 ここで更に攻めるか?

いや、まずは彼の中で決着をつけてもらおう。

さっき私の下着姿を見た彼の反応、そして今までの長い二人の関係からすれば、分の悪い賭けではないはずだ。

 ハゲの思考は手に取るようにわかる。ハゲを極めた私は‥ハゲそのものなのかもしれない。

 

「あーその‥な?」

 

「お前は良い女だ‥。だから‥俺みたいな、ハゲオヤジじゃなく、もっと良い男と‥な‥?」

 

「ふざけんな!」

 

「高‥町‥?」

 

「誰を好きになるか位は自分で決めるのっ!私はそのハゲオヤジが好きなんだっ!例え隊長といえども!私の好きな人を卑下するのは許さないのっ!」

 

 私は思いの丈を隊長へとぶつけた。

 

「た、高町‥」

 

叫び終わり、肩で息をする私へ、恐る恐る声を掛けながら、近付いてくる隊長。

 隙ありっ

 

「ちぇりお!」

 

 ‥と、私は彼の唇に自分の唇を合わせた。

ムードも何もなかったけど、持てる武器は全部使う。そして私は‥

 

「これ私のファーストキスです♪責任がもうひとつ増えましたね♪」

 

 と、ドヤ顔で告げるのだった。

 顔は沸騰するほどに熱いが。

 全力全開なの。

 さあ‥想いよ‥届け。

まだ上がるかというほどの鼓動の心拍数に驚きながら、私は隊長の答えを待つ。

 隊長は暫し呆然と唇に触れていたが、

やがて、手を下すと、苦笑しながら

 

 

 

 

「全く‥とんでもないヤツだな‥解った‥責任‥とらせてもらうよ‥後悔‥すんなよ?」

 

と、告げた。

 

 

 …届いた…

 

「後悔‥ハゲに立たずなの‥」

 

「‥台無しぃ!‥あれ‥?ちょっと上手い?」

 

いつもの彼の間の抜けたぼやきのような返しに私はいつも通り、口許を綻ばせて、

 ゆっくりと彼に抱き付き、静かに歓喜の涙を流した。

 こんな場面でも、彼に甘えてしまう私は‥甘えんぼうなのかもしれない。

 でも‥ちゃんと彼は許してくれる。

 

 だから‥私はこの心地好さに抗えないのだ。

 だって、出会った時からずっと、私達はこうしてきたのだから。

 脳裏に色々な思い出が過る。

―書類仕事を頑張って、チョコを貰った事。

―お誕生日にリボンを貰い続けた事。

―初めてシュークリームを食べて貰って、美味しいと言ってもらえた事。

―温泉で一緒にお風呂に入った事。

―ヴィータちゃんとご褒美チョコの数の競走をしたこと。

―隊長の椅子を押して職場内を走り回った事。

―そして、一緒に謝って回った事。

思い出の中の美少女の私はいつも笑顔‥若しくはドヤ顔だった(汗)。

それは、柔らかな、密やかな記憶のカケラ。

そう。思い出をいつも笑顔にしてくれていたのは、隊長だったのだ。

 だから此れからも私は彼をハゲと呼ぶ。

 それが私達のニュートラルだから。

 

 

 

 

 

 

     高町さんは甘えたい~fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 読んで頂きありがとうございますm(__)mいや、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございましたm(__)m
何とか三作完結させられて、一先ず安心しております。はやてからお付き合い頂き、感想をくれ続けた方には、感謝しかありません。
 お伝えした通り、忙しくなりそうなので少しゆっくりしようと考えています(///ω///)♪
 暫くは連載はやらず、思い付きの一発ネタの短編だけをひっそりやろうかなと(///ω///)♪
もし見かけた際には、ご感想、応援等いただけると、幸甚ですm(__)m
 それでは、ありがとうございましたm(__)m(五体投地)


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ぼーなすとらっく。
高町さんは甘えたい。ぼーなすとらっく。「ハゲとデート」前


一話に纏めきれなかった‥己れの未熟さよ‥



 

 

 

 私が隊長に告白して‥受けいれて貰った日から数日。

 デートとか行ってみたいなあ‥私から誘うべきなのだろうか、いや、やはりここは隊長に誘って貰いたいなあ‥。等と考えながら、

いつもの「なの散歩」をしていると、

食堂の隅に肌色が見えた。

 あの光り具合いは隊長だ。

私がその反射を見逃さず、目を向けると、そこにはやはり隊長がいた。

声を掛けようと近づくが、

 隊長は一人ではなかった。

私は声を思わず出掛けた言葉を呑み込んでしまう。

テーブルには隊長と、キューブ副隊長がいた。

 私は何故か、二人の死角に回り込み、息を潜める。

 二人の会話が漏れ聞こえてくる。

何を話しているのだろうか。

好奇心に勝てず、つい聞き耳を立ててしまう。

 

「なのスケと付き合う事にしたんだって?」

 

「耳が早いな‥」

 

「そりゃあたしにとって、大事な二人の事だしね‥無いと思うけど、もし、なのスケを泣かせるような真似をしたら、いくら隊長と言えども許さないからね?」

 

「そうだな‥せっかく選んで貰ったんだから‥目一杯幸せにしてやるさ‥」

 

「お熱いことで‥」

 

「脅しといて茶化すなよ‥」

 

「振った女のぼやき位、流しなよ‥」

 

「‥すまん」

 

「ごめん‥意地悪言ったね‥」

 

「‥すまん」

 

「2回も謝らないでよ‥」

 

「‥んじゃさ!なのスケのどこが好きなのか教えてよ!」

 

「‥マジで?」

 

「マジで」

 

「うーん‥そうだなあ‥」

 

ゴクリ‥!と、唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。

 心拍数は上がりっぱなしだ。

 

「フェイトに訓練付けて欲しいと頼んできたときに、俺の仕事をアイツが代わりにやったことあっただろ?」

 

「‥ああ‥ありましたね‥」

 

「ああいう、友達の為に頑張る所とか‥なんか良いよな‥」

 

「確かにね‥あたしも急に手伝い頼まれて、戸惑ったけれど、あれであの子の事気に入ったんだよね」

 

「後、変に意地張るとことか‥その癖、結構すぐ泣くとことか‥時々、予想出来ない事も仕出かすし、なんか、気が付いたら、目を離せなくなってた‥うん。なんか可愛いんだよあいつ」

 

「‥そっか‥うん‥解るよ‥私もあの子、すごく可愛いし‥」

 

‥限界だ。

 そこで私は食堂を走り出る。

 

「‥あれ?」

 

「どうしたの?スバル?」

 

「うん。ティア‥今なのはさんが食堂から走り出てきたんだけど‥」

 

「けど‥何よ?」

 

「見間違いかもだけど、すんごいにやけてた」

 

「‥見間違いね」

 

◆◆◆

 

「‥行ったか」

 

「‥ふふ‥隊長。顔真っ赤」

 

「‥うるせ」

 

と、俺は俺の前で悪戯っぽく頬笑むキューブを睨み付ける。

高町が聞いているのをわかっていながら、妙な話を振って来たキューブを恨めし気に見ながら、俺は額に手をやる。確かに、キューブの言う通り、ひたすら熱い。

 

「で?何の狙いだったんだ?」

 

恨めし気に問い質すと、キューブは悪怯れることなく鋭利な言葉のナイフを投げてきた。

 

「どうせ隊長の事だから、なのスケに好きとか言ってないんでしょ?」

 

「‥うっ」

 

 ぐうの音も出ない言葉に咽から妙な息が漏れる。

 

 するとキューブは呆れたように溜め息をつく。

 

「あのね‥言葉にしなくても伝わってる‥なんてのは、男の甘えでしかないからね?」

 

「はい」

 

キューブのナイフのような尖った言葉に俺は小さく呻くように返事をするしかなかった。

 

「‥いいこと?甘えが許されるのは女だけなんだよ‥ハゲオヤジの甘えとかキモいだけだから‥ユーアンダスタン?」

 

「イエスマム」

 

 ちょっとキューブちゃん‥辛辣過ぎませんかね?

 俺‥ハゲちゃうんじゃないかな。‥もう手後れだった‥。

ドン!と、食堂のテーブルを叩き、キューブは俺を睨み付ける。

 

「なら直ぐに行動!どうせ、デートだってしてあげてないんでしょ?!」

 

「へいへい‥」

 

いつものキューブらしからぬ剣幕に俺も苦笑いしながら、腰を上げる。

 

「女を待たせていいのは良い男だけなんだからね‥」

 

その言葉には、何やら反論出来ない重みがあった。

 

‥ぐうの音も出ない。

 俺は急いで立ちあがり、高町を探しに、席を離れる。

 

「‥ふっ‥ま、隊長は良い男だけどね‥でも、時間切れ‥もう、待ってあげない‥」

 

私は隊長が去った後、一人呟くと、残っていたお茶を一気に煽る。

 

「今夜は呑むとするかな‥なのスケ‥幸せにね‥お姉さんのお節介はここまでなんだからね‥」

 

◆◆◆

 

「うー‥」

 

 部屋で私は鏡を見ながら、顔をマッサージしていた。

 にやけた顔が戻らないからだ。

 赤みも引かないし、どうしよう。

隊長とキューブ副隊長の会話が思い出そうとしてないのに、脳内で繰り返されてしまう。

その度に私の顔は熱くなり、口許は綻んでしまう。

 冷水で顔を洗おう!

 私は洗面室に駆け込み、冷たい水で顔を擦る。

 冷水の冷たさに頭も冷えて、少し落ち着いた気がする。

 まあ、まだ仕事が残っているので、もう一度、お化粧しないとだけど。

 私は顔を拭き、再度お化粧を施していく。

 うん。これなら何とか‥。

私は漸く落ち着いた自分の顔に安堵しつつ、残りの仕事を考える。あれとあれは今日中で‥

 

 

 

仕事のタスクを考えながら、私は油断してしまったのだ。

 相手は不意討ちが得意なあざといハゲだというのに。

 

(コンコン)

 

急に訪れたノックに私は何も考えずにドアを開けてしまった。

 

「‥はーい」

 

そこには‥ハゲがいた。

 落ち着いていた鼓動が再び早鐘を打ち出す。

 

「‥よお。急にすまんな‥」

 

 彼の気まずそうな、言葉に私の動きが止まる。

が、彼はそんな私にお構いなく‥

 

「その‥急なんだが‥今度のオフ‥一緒に出掛けないか?」

 

 ‥は?

 

 今度こそ、私の思考はフリーズした。

 

「‥まち?おーい?高町ー?」

‥ハッ。

隊長に肩を揺すられて、漸く私は再起動した。

 

「うん‥急過ぎたな‥すまん。また誘うわ‥」

 

 何を言い出すのだ、このハゲは。

 行く!行きたい!こんな短い単語が口から出てくれない。早くしないと、お預けになってしまう。

 

「ちぇりおっ!」

 

 私は何とか隊長の胸に拳を打ち込み、彼の言葉を止める。

 殴られた隊長は口をパクパクさせている私を見てキョトンとしている。

 

「‥勿論行くの!」

 

と、言葉を絞り出した。

 これだけの言葉を言うのに、酷く疲れた。

‥恋って大変だ。

 

「お、おうそうか‥」

 

と、隊長は肩で息をする私に心配そうに声を掛ける。

 

「‥じゃあ、今週末にな‥何処か行きたい所あるか?」

 

「ハーゲン!ハーゲンセール行きたいの!」

 

「バーゲンな‥ハゲのセールって何だよ‥鬘のセールか?OKんじゃ昼は向こうで食うとして‥朝10時位に駅前で良いか?」

 

「了解であります!」

 

と、私はドヤ顔で敬礼する。

 そして彼は部屋を立ち去った。

 全く‥彼は不意討ちばかりだ。

そこで私は気付く。

 急いで鏡を覗けば、やはりというか、顔は赤く染まり、緩みきっていた。

 そう。振り出しに戻っていた。

 私ははやてちゃんに午後の仕事に遅れる旨を伝える。

はあ‥今日は残業か‥。

 ‥恋って疲れるけど‥悪くない。

と、私は今の心地好い疲労感と幸福感が混ざりあった、複雑な心境をそう評した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 完結後の蛇足読んでいただきありがとうございます。後編はそう時間掛けずに投稿するつもりでは、ありますが、気長に御待ちいただけますと、幸甚ですm(__)m


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高町さんは甘えたい。ぼーなすとらっく。後編「快活な愛」

どうも。御待たせ致しました。



所は駅前、現在朝9時50分。

 私は待ち合わせ場所に急いでいた。

 服を選んでいて、なかなか決められず、遅くなってしまった。

うう‥あまり、服装には気を遣わず来た過去の自分が恨めしい。

最後の最後迄、正装用のリクルートスーツが候補に残っていた時点でお察しである。

 悩んだ末に小学校時代からお気にいりの白のワンピにジャンパーを羽織るというコーデに逃げた。

え?小学校時代のワンピを何故切れるんだって?

 そんな正論聞いてない。

 正論にはブレイカーをお返ししよう。

待ち合わせ場所には既に隊長が居て、待っていた。

 

「隊長!ごめんなさいなの!」

 

「おう‥問題無い‥んじゃ行くか‥」

 

「‥はーい♪」

 

 走ってきた私を隊長は一瞥すると、駅構内へと歩き出した。

 私はそんな彼の腕に抱き付き、腕を組む。

 彼の服装はダブルブレストのジャケットスーツに灰色のトレンチコートを纏ったクラシカルなコーデ。スキンヘッドすらも、コーデの一部に組み込んだと思わせる彼は、正に渋いおじ様だった。

お、大人っぽい‥。私はジャンパーの衿をギュッと握り、中のワンピを隠す。私の逃げのコーデが恥ずかしい。

 

 彼は少し驚いたように私を見たが、私がにっこり頬笑むと、させるがままにさせてくれた。

二人の身長差は私がしがみつく体勢になるのが自然で‥。彼の堅く太い腕に私の鼓動はますます高鳴る。

 えへへ‥。これは良いものだ。

ま、周りの人が見ている気がする‥。

す、少し‥は、恥ずかしいかも‥。

 顔の熱さが治まらない。

私達は電車に乗って、都心部へ。

これから、更に人が多い所へ行くのだ。

私‥耐えられるかな‥。

もつかな‥。私の心臓。

と、私は未だに早い鼓動を刻む心臓に不安を覚えながら、それでも彼の腕にしがみつくのをやめない自分に若干呆れながら、頬笑む。

彼が言っていた。

 私の変に意地を張る所が可愛いと。

その指摘に若干の恥ずかしさも感じるが、

まさに私というものを見てくれていると感じた。

 だから、今日も私は意地を張る。

 そう。これは仕方ないのだ。

程無く電車は駅に到着し、私達はバーゲンをしているモールへと歩き出す。

 と、道中、私は彼の腕に更に強くしがみつく。

が、彼が遠慮がちに口を開いた。

 

「どうした?高町?苦虫を噛み潰したような顔して‥」

 

は?

 何を言い出すのだこのハゲは。

この可愛いなのはちゃんがそんな顔をしているわけが‥

と、私は手鏡を開いて、顔を確認する。

 ‥‥あった。

そこには、にやけた顔を引き締めようとして、

なんとも言えない、表情をした私がいた。

いや、それよりも!それよりもだ!

と、私は頬を膨らませる。

 

「どうした?高町?今度はフグみたいになってるぞ?」

 

「‥のは」

 

「は?」

 

「なのはって呼んで!」

 

「たかま‥」

 

「な!の!は!」

 

「‥なのは‥こっち側に来い‥」

 

と、彼が照れ臭そうに私の名を初めて呼んでくれた。

 ふ、ふぉおおおお!!!

その照れたお顔。

優しい声‥。尊い。後光が見えた。いや、ハゲ関係無しに。

 

と、感動している私を彼は苦笑交りに、反対側へと誘導する。

見れば、車道から私を遠ざけるような位置関係だ。

 聞いたことあるの!

紳士は淑女を守るように、自分が車道側に立って歩くものだって‥。

 流石隊長。ハゲてても紳士なの。

 ハゲ(ン)トルマンなの。

私は大人しく彼に従い、反対側へと回り込む。

 

「えへへ‥でも心配し過ぎじゃないですかあ?」

 

「顔‥ドヤってるぞ‥」

 

と、彼が指摘してくるが‥だって仕方無いのだ。

今の状況で顔を弛めるな‥という方が無理な話なのだ。

 仕方無いから私は隊長から顔を隠すように、

彼の腕に顔をコテンと預けた。

モールへと入ると、そこは人の波。

年の暮れも近いバーゲンとあって、人で溢れていた。

 

「‥何を買うんだ?」

 

と、げんなりと、物怖じしたように隊長が聞いてくる。

 

「服!」

 

私は即答した。

そう。これを機会に服を買おう。幸いお金は余り使っていないので貯まっている。

これから先、隊長と出掛けた時に恥ずかしくない大人っぽい服を買うのだ!

 

「じゃあ、二時間後位で‥」

 

等と言って立ち去ろうとする、隊長の襟首を私は捕まえる。

 逃がすわけない。

 

「アルファードさんに選んでほしいな?」

 

と、私がにっこりお願いすると、

彼はヒクヒクと口もとをひきつらせながら‥諦めたように、肩を落とした。

 何故なの。

それっぽいお店に入り。

私達が物色していると、

 

「いらっしゃいませ‥」

 

と、落ち着いた感じで店員さんが現れた。

 

「隊長!隊長!店員さんがなんかすごいの!」

 

「‥なにがだ?」

 

私のテンション高めの報告にも隊長は意味がわからないといった答えで‥。

 

「だって‥私の知ってる店員さんの接客はもっといぃらっしゃいませぇ~~っ♪‥って感じで、甲高い声なの!」

 

と、私が軽くモノマネ交りに報告すると、

隊長は口をあんぐりと開けて、私の口を押さえてきた。

「どうも‥すみませんね‥」

 

「いえ‥クスクス」

 

と、隊長が店員さんに謝ると、店員さんも小さく微笑みながら、御辞儀をしていた。

どうやら、私は何か恥ずかしいことをしてしまったらしい。

 

「す、すみません‥」

 

 とりあえず私は落ち着いてから店員さんに謝る。

しかし店員さんもさるもので‥すぐに顔を切り替えると、

 

「どのようなモノをお探しでしょうか?」

 

と、聞いてくるので‥私はとりあえず‥。

 

「大人っぽい服!」

 

と、答えた。

 

「」

 

と、店員さんは困ったようにニコニコと微笑みながら、1歩私に近付いて、囁いてきた。

(彼氏樣に合わせる感じですか?)

‥か、彼氏‥。

私は一瞬で顔が沸騰する。

そんな私をニコニコ微笑みながら、店員さんは隊長を見て、

 

(大人っぽい方ですもんね)

と、更に囁く。

私はコクコクと頷き、

 店員さんに助けを求めるように見つめる。

店員さんは理解の色を浮かべながら、

(大人っぽい方とお付き合いすると女性は大変ですよね‥彼氏樣に合わせるようなお召し物で宜しいでしょうか?)

 

見繕って貰えるなら有り難い。

私は藁を掴む思いで頷く。

と、

 

「あー‥待ってくれ‥」

 

と、隊長が突然声を挙げた。

 

「こいつにはトラッド系は似合わん。フェミニン系で合わせてやってくれ‥」

 

隊長の突然の提案に私と店員さんはポカンとする。

 

「そうだな‥なのははスタイルが良いから、切り返しのブラウスなんかが良いな‥オレンジ系統が似合う。‥あるかい?」

と、隊長の言葉を受けて、店員さんも

 

「か、畏まりました!」

 

と、私の身体をジッと、流し見ると、奥へと、引っ込んでいった。

 なのははスタイル良い‥スタイル良い‥と、私は隊長の言葉をリフレインしながら、店員さんを見送る。

 

「御待たせ致しました~」

 

程無く、店員さんが複数の服を持って帰ってきた。

隊長はそれを受け取ると、

その中から何着かを選び、私に手渡してきた。

 

「これとこれ‥ちょっと着てみな?」

 

「こちらでーす♪」

 

と、店員さんに連行され、私は試着室へ。

着てみると、オレンジのブラウスに黄色の菜の花を眩しくあしらったデザインのスカートは大人っぽいのにどこか可愛らしい女らしさ‥を残していて。

 私は一瞬で気に入ってしまった。

 

「‥どうだ?」

 

と、外から不安気な隊長の声が聞こえる。

隊長が選んでくれた服である。私には当然是非はない。

 

「気に入ったの!」

 

「そら何より。会計は済ませたから、そのまま来ていきな‥」

 

「い、いつのまに‥」

 

「お前が着てきた服は今店員さんが包んでくれてるから」

 

 私は鏡を見て、おかしな所が無いか確認して、カーテンを開け放つ。おかしな所‥顔が緩みっぱなしだったが、それはもう手遅れである。

 今日中には治るまい。

 

「あ、アルファードさん!私‥お金払います!」

 

「流石のバーゲンで安かったから気にすんな‥ほい‥」

 

と、更に隊長は私に服を渡してくる。

 

「流石にその恰好じゃこの時期は寒いからな‥」

と、見れば、真白なチェスターコート。

ポケットのファーがこれまた可愛い。

 

「うう‥何から何まですみません‥」

 

「気にすんな‥いつも旨いもん貰ってるからな‥お返しだ‥」

 

こんな‥何から何まで、買って貰うつもりじゃなかったのだ。でも、隊長にしては珍しく、ここは譲ってくれそうになかった。

 私はカーテンをもう一度閉じて、

コートを羽織る。

 ふ、ふぉおおおお!

一気に大人っぽくなった‥。

 これなら、隊長と歩いていても遜色ないよね!

私は自信に溢れながら、カーテンを開いた。

 

「‥ドヤってるぞ‥」

 

そんな私を見て、隊長がひと言‥。

 

「ちぇりお!」

 

と、私は拳を突きだしたが、なんなく隊長にいなされてしまう。

 そこは似合ってるとか可愛いとか‥

 

「可愛いぞ‥」

 

「わ、私‥声に出てました?」

 

「いんや、声には出てないが、顔には出てた」

 

「うう‥」

 

 私の顔は羞恥で熱くなる。

店を出る間際、先程の店員さんがちょこちょこっとよってきて。

 再び囁いた。

 

(素敵な彼氏樣ですね)

 

「はいっ♪」

 

「なのは、ドヤってるぞ」

 

肩越しに指摘をしてきた隊長の背中に私は拳を打ち込む。

 

「ちぇりお!」

 

「飯だ飯。なんか食いたいもんあるか?」

 

と、私の拳を意に介さず、彼は歩き出す。

 

「うーん‥回らないお寿司!」

 

「寿司?‥ここにあったっけ‥?」

 

と、首を捻りながら、彼は周りを見渡す。

タコなら目の前にいるの。

 と、彼は急に立ち止まり、此方に歩いてきた。

 え?あれ?私今、声に出してないよね?

しかし彼は、私の手を握ると、また別方向に歩き出し、

一角にあったベンチに腰を下ろした。

 

「座んな‥」

 

私は戸惑いながら、彼の隣に腰を下ろす。

 

「すまんな‥寿司屋じゃタイミング無さそうなんでな‥ムードは勘弁してくれや‥」

 

と、彼は懐から包装された小さな箱を此方に差し出した。

私は箱を受け取ると、

 

「あ、開けてもよろしいので?」

 

すると隊長はゆでダコに成りながら、頷いた。

私が包みを開けると、中からは菜の花をあしらった腕輪?アミュレットリング?が出てきた。

 

「‥これは?」

 

「お前に好きと言わせたまんま‥俺からはお前に伝えてなかったな‥俺はお前の笑顔が好きだ。初めて会った時から、元気一杯で‥無邪気で無垢な笑顔に元気づけられていた‥そう。お前が居てくれたお陰でここ10年間は楽しかった。

菜の花には「快活な愛」という花言葉がある。

そう。俺は此これからもお前の笑顔を見ていきたい。アミュレットは言うなればお守りだ。

菜の花のアミュレットは‥お前との快活な愛を守って行くという、俺の決意表明だ‥ゴニョゴニョ‥」

 

と、隊長は‥いや、ゆでダコは真赤で湯気を出している。

私はアミュレットを腕に嵌めてかざして見る。

眩しい黄色が二人の思い出と未來を照らしてくれる気がした。

 どんな明日へも歩いていける。

 

 隊長となら‥。

 

 

高町さんは甘えたい。  ~fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。
意外と難産でした(。>д<)おわかりの方もいるでしょうが。今作はストライカーズEDビューティフルアミュレットへのオマージュです。
イメージはハゲと大人なのはさんの間に子供なのはさんを挟んで手を繋いで三人で歩いているイメージ(ノ´∀`*)
最終回もだいぶ寄せたのですが、やはり中途半端だったので、心残り。
今作で回収完了してスッキリ。大好きな曲なので、何とかイメージ通りに出来たかなと、感じています。なので、高甘はこれにて、本当に一巻のお仕舞いですm(__)m長らくお付き合いくださいましてありがとうございましたm(__)m
それではまた何処かでノシ


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