銃よりも、剣よりも、強いもの (ノムリ)
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歌姫

 人間が生まれながらにして持っている武器がある。

 その一つが”素手”だ。

 拳は鈍器、手刀は刺突、目つぶし、から長い歴史の中で武器を持たずに戦う体術も多く生まれてきた。

 空手、柔道、中華拳法(クンフー)、ソバット、CQC、バリツ。

 

 自分の体であるからこそ攻撃からの防御、受け流など切り替えも早い。確かに射程や速度という弱点は存在する。だが、そこをカバーするのが技術だ。

 

 単純であるが故に柔軟な武器―――素手。

 

 

@@@

 

 

 

 

 バキィ!という音を立てて、男の頭は少年の握力によって文字通り潰れた。

 昔、リンゴを握って潰す、という芸が一時期流行った。それを人間の頭で再現したいるのだ。

 砕けた頭からは血が流れ、皮膚を突き破っている頭蓋骨。男には既に意識はなくそれはもう死体でしかないかった。

 

「なんなんだよ!アイツ!」

「化け物!」

「いいから撃て!」

 男たちは仲間の死よりも、次の殺されるかもしれないという自分の心配しかしていなかった。

 それもそうだろう、30人はいるはずの仲間は既に十人しか生き残っておらず、全員が少年の手によって次々と死体へと変わっていくったのだから。

 

「銃を使ったからって、自分が強くなったと思ってるからそうなるんだよ」

 頭を握り潰した男の死体をまるでボールでも投げるかのように、銃を撃ち続けて男たちに投げつけた。

 成人男性の体重は平均的に60キロ前後。

 それが人の手によって投げつけられてということは確かに驚愕だが、それよりも男たちは自分たちに近づいてくる死体(凶器)をなんてかして排除することを優先するしかなかった。

 

 

 

 

 少年は道中でマフィアの30人を確実に息の根を止めて。最後の標的マフィアのボスの居る部屋を目指して歩みを進める。

 一歩、また一歩と進むにつれて床にか血の足跡と両手につけた専用の黒い手袋から滴る血が床に斑点のように色をつけていく。

「ここか」

 

 ガン!と扉を蹴破ると部屋の中には、ソファに座っているバスローブを着た20歳前後の青年だった。

 青年は1年前に作られたこのマフィアのボスだ。

「な、なんなんだ、お前は!俺を誰だと思ってやがる!」

 横に置いてあった拳銃を取り、素早く銃口を少年に向けたが、引金を引く前に銃身を少年は掴み―――へし折った。

 青年は目の前の現実が受け入れられなかった。

 銃という力を武器にチンピラからマフィアにのし上がった青年の人生で、始めて銃が通用しない相手に対面しているのだから。

 

「わ、わかった!何が欲しい!金か、薬か、女なら今、丁度いいのがいるぜ!酒場で歌姫(ディーヴァ)って有名な餓鬼なんだがまだ処女だろうからな。ベッドの上でならいい声で泣くだろうぜ!」

 

 へし折った銃身を投げ捨て。

 青年の頭を掴んだ。

「あが!ああ、はな、離じ」

 青年は少年の手を振りほどこうと手首を掴み引っ張るが、動く気配はなく。むしろ頭を握る握力が徐々に強くなっていくのを言葉にならない痛みとともに感じた。

 

「じゃあね」

「ま!―――――ッ!」

 

 グシャ、という卵を握り潰した音が部屋に響く。

 青年はマフィアのボスはただの死体へと変わった。

 

「さて、教授(プロフェシオン)の命令の歌姫を連れて帰らないと」

 ポイ、とゴミを捨てるかのように青年だった死体を床に投げ捨て、隣に繋がる扉に手を掛けた。中を覗くと、ベベッドの上に白いロングドレスのワンピースを着たマシュマロブラウン色でセミロングのストレートの髪の少女が足枷をつけられて繋がれていた。

 

「誰ですか?マフィアの人…ではないですよね」

 俗にいうジト目で困った表情の眉というどう見ても歌姫という呼び名というイメージに合わない表情をしていた。

「シレーネ・リューナ。俺の依頼主が君を連れてきてほしいってことだからさ、一緒に来てもらうよ」

「それは無理があるかと、足枷がある限り私はどこにも行けないですよ。鍵はボスが知っているでしょうが、彼の心音はすでに消えているので聞くこともできません」

 シレーネは足につけられた鉄製の足枷を一撫でした。

 

「なら、足枷が無くなったら大人しくついてきてくれるんだな」

「どっちにしろ、私は行くべき場所も、居られる場所もありませんから」

 あっそ、と少年は言って、シレーネの足枷の片方を両手で左右から掴み。左右に引っ張った。すると、ドーナッツを半分にするかのように足枷は半分に分かれ、足枷としても役目も全うすることはできなくなった。

 

「音を聞いた限りでは怪力を持っているようですが、目にするととても異常だということを実感しますね」

 異常、という言葉に僅か少年は反応したが、何も言わずに反対側の足枷も外した。

 

 自由となった足を撫でて足枷が外れたことを実感しているのか、どことなく嬉しそうなシレーネ。

「んじゃ、行こうか。教授がお待ちだなんでね」

「そうですね。ですが、履くものと羽織るものくらいは調達したいものです。それで私は貴方の事をなんとお呼びすれば?」

 

「…ラウ。ラウ・リセンだ」

 



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入試

ラウside

 

「弱すぎだろ」

 足元に倒れる敵だった受験生を見下ろして、自分の手の中にある黒いマカロフを握り直す。

 ラウの本来の武器は素手だ。それも手袋ではなく、特注の籠手を装着しての格闘戦。だが、ラウは試験が始まってから一度も素手を使っていない。それどころかマカロフ一丁で全員を排除してきた。それはラウの強い、という証明でもあるが、他の受験生が弱すぎるということでもあった。

 

「試験は残り30分か」

 

 

 ラウが居るのは東京湾に浮かぶ人口島に作られて国家資格、武装探偵通称『武偵』を育成するために作られて学校。東京武偵高校の入試に来ていた。

 教授ことシャーロック・ホームズから、一度っきりの人生なんだ。学生生活くらい経験しておくべきだろう、という言って犯罪者組織イ・ウーから送り出された。

 

 階段を下りて下の階を見回すも人影は見当たらないが、気配だけは感じ取ることができた。

「出てきたらどうすか」

 コンクリートがむき出しになった柱の影から出てきたのは大人だった。

「気配を消していたつもりなんだがな」

「受験生な訳ないから、監視官ってことすか」

「ああ、監視カメラで見てるだけじゃ、評価が付けられない項目もあるからな」

 

 なるほど、教師というのはなかなか大変なもんだな。

 うんうん、と一人でに納得していると発砲する音が聞こえ、正面の監視官の手に持つ拳銃からゴム弾が飛んできていた。

「おっと!」

 マカロフを素早く発砲し、飛んできていたゴム弾に衝突させた。お互いに衝突したゴム弾が双方はあらぬ方向に飛んで行った。 

 

「そんな方法で防ぐかよ!」

 監督官の予想していなかったゴム弾の防ぎ方に驚きながらも後ろに素早く下がりながら、拳銃を構え直していた。

 流石は監督官。判断が早いな、でも、この手はどうやって防ぐかな。

「攻撃してきたってことは、攻撃しても文句は言われない、っか!」

 右手にもっていたマカロフを監督官の拳銃に向かって投げつけた。

 

 人間は集中している時や、極度の緊張にある時に、思いもよらない出来事が起こると思考が止まる。俺がやったのはそれだ。

 銃は飛んできた、という思いもよらない出来事は戦闘という緊張状態にある監督官を止めるには十分な効果を発揮した。監督官はギョッとした顔をしながら、無意識に投げられてマカロフを避けようと体を捻り。捻ったことで拳銃の狙い逸れて隙が生まれた。

 

「隙あり!」

 俺はマカロフを避けて、バランスを崩している監督官の腹目掛けて前蹴りを繰り出した。

 監督官はぐふ!と変な声を上げて、吹っ飛び。壁にぶつかると動かなくなった。

 

 

「やり過ぎた感はあるけど、まあ、最初に撃ったのはあっちだからな」

 床に転がっている俺のマカロフを拾い、脇のホルスターに戻して、また移動を再開した。

 

 その後、何度か部屋を移動したも、強い人が通った後なのか何人もの受験生が地面に倒れ。大抵の奴は気絶して、数人は直接攻撃を受けたのか、うめき声を上げていた。

 

「まともに戦える相手だといいな」

 

 通路を抜けて部屋の中を覗くと、丁度、監督官との決着がついた所のようだ。男には息切れも見られない。俺と同じように監督官を相手に戦い、余裕をもって勝利した。多分、ここに来るまでに倒れていた受験生を倒したのは、この男だろうしな。

 

「この階はもう、俺と君しか残っていないようだね」

 何と言うか、紳士っぽい喋り方。

 腕時計で残り時間を確認すると約10分。ゆっくり戦っている時間はないか。

 

「時間ないから、始めようか」

「銃もナイフも抜かないのかい?」

 男は俺が武器も抜かない事に疑問に思ったのだろう。

 

 ポケットから黒い手袋を取り出し、両手に装着。 

「時間ないからさ。大丈夫、素手の方が俺は強いから」

 手を開いて閉じてを繰り返し、手袋の装着具合を確認。そして両手の拳を握る。

 この入試が始まってから初めて、拳を構えた。

「ならこっちも、素手で行こうか」

 男も俺と同じように、拳を構えた。

 

「俺はラウ・リセン」

「遠山キンジだ。よろしく」 

 

 先に動いたのは俺の方だ。

 まずは、小手調べ。

 

 キンジと俺との距離は普通に歩いて三歩はある。だから、一気に距離を詰めた。

 縮地という移動方法がある。簡単に説明するなら上半身を動かさずに、地面スレスレを滑るようにジャンプする技だ。こんなものが実戦で使えるのか、と素人なら思うものだが、直接攻撃をするには距離が重要なものだ。離れればその分、移動する時間も必要なる。縮地は移動する時間を歩数と言ってもいいだろう。それを無くして一歩で移動する。何より、相手がいきなり近づいてきたら相手はびっくりするものだ。

 

「ほいっと!」

 ボォン!と縮地の加速と体重を乗せた右ストレートは、見事にキンジの体に命中した…そう命中はした。当たる瞬間に、拳と体の間に腕を入れて防御されたのだ。

 

 

「まさか、縮地しながらそのまま攻撃してくるなんてね、思ってなかったよ」

「なら、地味に防御してる、お前はなんだよ」

 

 反射速度が異様に早い。これが教授の言っていたヒステリアス・サヴァン・シンドローム略して『HSS』の力か、羨ましね全く。こちとら、地獄のような訓練と偶然の産物で手に入れた特殊技能しかないって言うのによ。生まれた時からのチート持ち、とか神様はどんだけ差別をするのやら。

 

「時間にも余裕なんてないし、サクッと決着をつけようか」

 手は握らず、手刀の形にして、左手は腰に添える。右手は前に突き出す。

 キンジは俺の見たことのない構えに警戒しながらも、腰を落とし、攻撃より防御に向いた構えを取った。

 

酉の型(とりのかた)羽受(はじゅ)羽攻(はこう)

 手を手刀にすることで、受け流しと同時に攻撃に優れ。無駄に力を入れないことで、動きが遅くなることを防ぐ。

 

「変わった構えだな、体の軸が綺麗に体の中心を通ってる。それじゃ、移動に向かないってことはカウンター系の体術か。まぁ、時間もないし乗ってやるよ」

 互いに覚悟は決まったと僅かに笑い、戦いは再開された。

 

 右手から掌底を繰り出し。それは狙い通りにキンジに体に直撃すると、キンジの体は回転扉のように打撃の衝撃を利用して回転し、加速した拳が返ってきた。

「うぉ!そういう仕組みか!」

「君の予想していた通り、カウンター系の構えだよ」

 

 腰に添えていた左手が自然に動いて攻撃を防御するが、また、その防御の衝撃を利用して回転しながら攻撃を繰り出してきた。

 そこからはループだ。

 俺が両手で攻撃と防御を一緒にするのに対して、キンジは受けた攻撃を利用して、一撃を繰り出してくる。

 攻守ともに優れてラッシュと攻撃を受ける度に威力が増していくカウンター。

 他人が入る余地のないインファイト。

 

 そのラッシュは僅かなズレで瓦解した。俺が攻撃をワザと体で受けたのだ。

「っぐ!、決着と行こうか。酉の型・両羽(りょうば)(げき)!」

 威力が強化された拳を体で受け止め、攻撃と防御に分けていたスタイルから両手で攻撃する構えに転じた。

 両手の平を合わせて合唱。相手に打ち込む両手がズレないようにして、両手を同時に前に突き出した。

 両手から繰り出される掌底は衝撃を効率よく相手の体内を駆け巡る。より相手を”破壊”することに優れて技だ。力の入れ具合によっては吹っ飛ばしたり、行動不能にする程度に威力を抑えることもできる。

 

 俺が攻撃をワザと受けたことで、回転が止まってしまったキンジは僅かに速度が緩み、両羽《りょうば》(げき)をモロに受け。吹っ飛び、壁に衝突して止まると咳き込んでいた。

 

「ゲホ!ゲッホ!なんで絶牢が上手く機能しなかった…」

「回転扉は、片方から力が掛かることで回転するだろ。左右から同時に同威力が加わったら回転しないのは道理だ」

「数分で絶牢が見抜かれるなんてな」

 はぁ~、と溜息を吐き出したキンジ。

 

『そこまで!試験は終了や!』

 乱暴な声で試験の終了がアナウンスされた。

 

 これならランクAは確定だな。

 

 



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部下

「そっちはどうだ、シレーネ」

「はい、準備できました」

 洗面所の戸を開けて、出てきたシレーネは、いつもの見慣れて私服とは違い。受験に受かった武偵校の臙脂色を基調とした制服を着用していた。

 

「いや~、シレーネの制服姿か。身に染みるものがあるな」

 教授の命令とはいえ、マフィアを潰して助け出したシレーネが立派に成長した姿というのは、読み書きや一般常識を教えてきた身としては、感じる部分が多々ある。

 出会った当初とは違い、成長したシレーネは綺麗になった。

 髪の長さこそ当時と変わっていないが、バランスの取れた食事。趣味の楽器や歌を自由に歌い奏でている。最近では、シレーネと同じように、俺が戦場や裏のゴタゴタで拾ってきた部下の一人に化粧が習ったらしいが、けばい化粧はしない。分かりやすいおしゃれと言えば、音符の形をしたヘアピンを顔の左側の髪を留めているぐらいだ。まあ、俗に言う、ジト目は相変わらずだが。

 

「そいうのはいいので、早く行きましょう。バスが行ってしまいます」

 そう言って、扉を開けて先に行ってしまったシレーネ。

 …照れたな。

 

 

 

 

 

 

 無事にバスに乗り込み。人生初の入学式を終えて、一年間生活するクラス1-Aに移動する。教室の扉を開けると、一斉に俺に視線が集まった。特に俺が受けた強襲科(アサルト)の生徒からだ。

「よお、キンジ。久しぶりだな」

「ああ、ラウか。久しぶり」

 空席だった席に腰を下ろし、隣に座っていたキンジに声を掛け。シレーネは空いていた後ろの席に座った。

 

 キンジと他愛もない話で続けていると、いかにも優男という風貌のイケメンスマイルの人物が現れた。

「初めまして、僕は不知火(しらぬい)(りょう)。君たちと同じ強襲科だよ」

 キンジが俺は…、と自己紹介をしようとした時、不知火がそれを遮って、俺とキンジの名前を言い当てた。

「なんで、俺とラウの話を知っているんだ?」

 キンジが不知火に聞き返すと、当たり前じゃないか、と言いたげに、

「入試でランクSを取った二人が、有名にならないわけがないじゃないか。今じゃ、学校中で噂だよ」

 隣の席に頭を抱えているキンジだが、それもそうだろう。監督官を倒すような高校生は一般の武偵に当てはまるわけがない。

「諦めろよ、キンジ。というか既に後の祭りだ!」 

 ガタン!と大きな音を立てて扉を開けて教室に入ってきた女子生徒が一人。

「呼ばれてないけど飛び出して!ジャジャジャジャーン!りっこで~~す!」

 ……凄まじい登場をした。

 彼女の名前は峰・理子・リュパン四世。フランスの大怪盗アリュセーヌ・リュパンの曾孫だ。『イ・ウー』での同期に当たり、ナイフと銃の使い方を教えた弟子にあたる。

 150未満の身長に、金髪のツーサイドアップ。教室の男子陣の目が釘付けになっているのは、その登場姿だけではなく、その背丈に似合わない。たわわに実った胸にだろう。いわゆるロリ巨乳というやつだ。

 

「あ!シレレーン!」

 俺の後ろに座るシレーネと理子の目があると、獲物を見つけたとばかりにシレーネの元へ高速で移動して抱き着いた。

「久しぶりだねシレレーン。前より可愛くなったけど、胸も大きくなったね。」

「ひゃ~!理子さん離してください!胸なら自分のを揉んでくださいよ!私の胸はラウさんだけのものです!」

「シレレーンはやっぱり、ラウラウにゾッコンだね。ペロ」

「ひゃう!」

 理子に胸やらお腹やらを揉まれ、弱点である耳をペロリと舐められてシレーネは、普段出すことのない甘い声を上げてしまった。

 諺に女三人寄れば姦しい、という言葉があるが、この場合はバカと美少女が居ればイヤらしい、となるようだ。

 二人の百合な行動に思春期真っ盛りな男子たちは興奮を隠せないようだが、シレーネの「私の胸はラウさんだけのものです!」のセリフは一瞬にして俺へと非リア充のヘイトを集める事となった。

 

 そろそろ助けてやるか。

 シレーネの腕を引っ張り、理子の胸の中から助け出すついでに受け止めつつも抱きしめる。

「理子。シレーネは俺のもん()だぞ。お前にやらん」

 偶然にも、シレーネの胸に俺の手が当たる態勢になってしまったが、問題ない。なにせ、今までに幾度となく触っている。

 

「ふぅ~!ラウラウ大体だね!」

 こうして、俺が非リア充からのヘイトを集め、シレーネは俺の女としてクラスに位置づけられた

 

 

 

 

@@@

 

 

 

 一日目の学校が終わり。武偵校に所属した俺の部下たちを招集した。

 

「あひゃひゃひゃ!アタシの勝っちだ!」

 手札をぶっちゃけてたシャウ・テル。金髪にボサボサの髪質のベリショートが特徴でウィリアム・テルの子孫で狙撃銃の名手。戦場で出会い助けて以来、部下として付き従ってくれている。

 

 その隣では、黒髪のショートに149と理子並みの低身長。 

「む~、また私の負けか」

 口に咥えてポッキーをポリポリと食べ進めるエルフリーデ・グランデルト。

 コイツに関しては軍人の名門の出だが、低身長を理由に正当な評価が受けられなかったことで軍人であることを捨て、途方に暮れているところを拾った。

 

「二位は俺様だな」

 自分を様つけで呼んでいるのが石川 梓門(しもん)。日本で有名な義賊の石川五右衛門の子孫だ。子孫である梓門は仕事の報酬として手に入った金の一部を寄付したり、義賊として同じく有名な鼠小僧の子孫と協力して金持ちから金を盗んでいるらしい。梓門に関しては部下というより、協力関係が正確だろう。

 

「自分も上がりッスね」

 特徴的な語尾に黒いストールを首に巻き、黒髪に小さく作ったサイドポニーテル。望月 千羅。望月千代女の子孫でリアルくノ一だ。

 千羅は、元は山奥にある忍者の里に暮らしていたが、試験で幼馴染の親友に裏切られ大怪我を負い。俺が仕事終わりに血を川で洗い流していた時に、桃太郎の桃の如く流れてきた。それからは、前の名前も捨てて俺に忠義を誓ってくれている。

 

「キシシシシ!エルはポーカーフェイスが下手なんだよ」

 頭から生えた一本のアホ毛が目印の彼女は、鳥羽 鶉。

 元は昔の日本で諜報活動をしていた家だったが、彼女が依頼された仕事を完遂したのはいいが、その依頼が上司にバレ、自分の立場が危うくなると彼女をスケープゴートにした。家も両親も巻き込まれることを危惧して彼女を切り捨て、後ろ盾を失った彼女は本来なら殺されるはずだったが、上司と知り合いだった俺に鶉を殺害が依頼されたが、鶉から話を聞いたら口違いが出てきたので、再調査させたら出るわ出るわ汚職の数々。結局、鶉の依頼者は海の底へコンクリに詰められて。鶉は、裏切った家にも帰る気にはなれずに、俺の部下になった。

 

「シレーネさんは心音で嘘か本当かわかるんで、ゲームに強制的に非参加ッスけどね」

「別にいいです。その分、ラウさんにくっつけるのです」 

 俺の膝に頭を乗せているシレーネの頭を撫でながら全員を見る。

 

 

 

「他のメンバーは、武偵校に入学する奴もいるが、入らない奴もいるからな。日本内の仕事は基本、このメンバーで動くことになるぞ」

 俺の部下は、大半が家やら自分の出生に問題を抱えている。それは俺自身もだ。それでも生きていかなくてはならない。

 世界に平等はなく。正義も悪も関係ない。

 なにせ、生きることに夢中な奴は、正義だ、悪だと考える余裕がないからだ。

 俺たちはただ”生きる”。誰にも邪魔されずに自由に、思うがままに。

 

 



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