緋弾のアリア 〜Side Shuya √IF 相棒となった狂戦士〜 (希望光)
しおりを挟む

再始動(リスタート)01 結成(メイキング)

はい、初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりです。
希望光です。だいぶ前にあったリクエストにお答えして書きました。
注意書きにもあります様に本編の第10弾からの分岐ですのでそちらを読んでから閲覧することを推奨いたします。
では、本編どうぞ!


「……私のパートナーになってくれない?」

 

 その言葉は震えていて、赤紫(カメリア)の瞳には涙を浮かべていた……彼女はかなりの覚悟を持って頼んで来ているのだと思う。そんな顔されたらこう返すしか無いだろ。たとえ二つ返事であっても。

 

「ああ、良いぜ」

 

 やっぱり俺はお人好しなのかな? 本当はもう、約束した相手がいるのに。でも、そいつは話せば分かってくれると信じているからこう言えた。信頼しているからこそかもしれない。それに……誰かが悲しんでいるのを見過ごすことなんてできない。

 

「……あんた、今なんて」

 

 良く聞こえてなかったかな? 

 

「なっても良いって言った」

 

 彼女は目を見開く。そんなに予想外だったか? 

 

「それって——」

「なってやるよ。俺が——お前のパートナーに。だから教えてくれ。お前が対峙している相手の事を」

 

 パートナーをやる上では必要な事。何と対峙するかを知らなければ戦うことが出来ない。

 

「言えないわ。幾ら手伝ってもらうとは言え、相手の事を知るには危険すぎる……」

「……イ・ウー」

 

 俺の呟きに彼女はビクリと反応する。どうやら正解のようだ。

 

「あんた、なんでそれを……」

 

 こいつが言いたくない理由は何となくわかる。多分俺を危ない目にあわせないために。でも、俺は既にそちら側に立っているんだ。

 

「悪いけど昨日の話、聞かせてもらった。それに……俺も彼奴らを追いかけている」

 

 10年前のあの日から、俺はずっと彼奴らを追いかけて来た。

 

「だから、教えてくれ。彼奴ら——イ・ウーについて」

 

 少し悩んでから、アリアは口を開いた。

 

「良いわ教えてあげる。だから、これから宜しくね」

 

 アリアは笑顔でそう言った。

 

「ああ、宜しく」

 

 俺も微笑みながら返す。これで俺たちはパートナーか。一度動き出すとトントン拍子で話が進むな。

 

「でも、すぐには教えられないわよ?」

「良いよ。ちゃんと話してくれるならいつでも」

「約束するわ。それから——」

「……?」

 

 彼女は改まった様子で尋ねてきた。え、何? 

 

「明日って、空いてる?」

 

 突然言われた言葉に少し体を強張らせる。いや、だっていきなりだよ? ちょっと緊張するでしょ? 

 

「明日? 明日は外せない用事があるんだ。なんかあるのか?」

 

 明日は確か装備科(アムド)で頼まれてた武装の納品日だった筈。

 

「空いてないなら良いわ」

「悪いな。でも、武偵なら依頼人(クライアント)との契約(約束)は絶対だろ」

「……そうね。あんたの言う通り依頼人との契約は絶対ね」

 

 歯切れ悪く返答したアリアは、何かを納得するように頷く。ごめんな。本当は行ける事なら行きたかった。でも今回の依頼だけは外せないんだ。

 

「というわけだ。本当にごめん」

「良いわよ。別に大した用事でも無いし」

 

 俯きながら答えるアリア。コイツの反応からするに大した事あるみたいだな。でも、どうしようもないんだ……。

 

「そろそろ上がるよ。明日の件、仕上げないといけないから」

「分かったわ。ありがとう」

 

 アリアの声を背中で聞きながら、俺は病室の扉を閉める。ヤバい……立ってるのが辛い……。

 限界に達した俺は崩れ落ちるも、何とか膝立ちでとどまる。完全に徹夜での現場検証が響いてる……。

 

 あんだけ調べて何も出てこないとか……半端ないって! 犯人半端ないって! あんな風に隠滅出来へんやろ普通! 

 ……まあ、犯人にとってはあれが普通なんだろうけど。重い体を何とか持ち上げた俺は装備科棟の作業室へと向かうのであった——

 

 

 

 

 

 翌日、依頼されていた物の納品が終わった俺は寮の自室に戻りリビングのソファーで横になっていた。

 結局終わらなくて徹夜して仕上げた。めちゃくちゃ頭痛ぇ……。

 

「最悪だ……」

 

 ついでに言うとこの体勢でかれこれ1時間くらい経つけど眠れない……。流石に二徹は辛いです……はい……。なのに眠れないとか拷問ですかね? 

 寝ることを断念した俺はソファーに座り直すと携帯を取り出し電話をかける。かかるかな……? 

 5コールの後に電話が繋がった。

 

『もしもし?』

 

 電話に出たのは少女と思しき……いや、少女の声だ、

 

「もしもし、俺だけど」

 

 先に言っておこう。俺は決して詐欺をやっているわけでは無い。時たまそう勘違いされることがあるんだけど、俺なんか悪いことしてるのかな? 

 

『……シュウ君?』

「そうだよ。久しぶりだな、マキ」

 

 彼女は大岡マキ。武偵高の生徒でありながらロンドン武偵局に所属している凄腕の武偵。そして、俺の幼馴染でもある。

 

『久し振りだね。何かあったの?』

 

 相変わらずマキは鋭いな。俺が電話しただけで重大な要件だということを汲むまでが早い。

 

「まあ、ね」

『やっぱりね。で、結局のところどうしたの?』

「ああ、実は——パートナーの件なんだけど」

 

 そう言った途端、電話の向こう側が静かになる。そして暫しの静寂の後にマキの声が聞こえて来た。

 

『……パートナーが出来たの?』

「……ああ」

 

 震える声で問い掛けるマキに対して歯切れ悪く答える。

 

『……そう……なの』

 

 マキの悲しげな声が静寂を断ち切った。ごめん……マキとはそう約束していた。でも、俺は……アイツをあのままにしておくこともできなかった。

 

「ああ。だから——」

 

 この先を言ってしまったら、マキとの全てが崩れる。そう思えて来た。故に、俺は言葉が出てこなかった。

 

『……パートナーの件を降りて欲しいんだね』

 

 涙ぐんだ声で、俺の内心を言い当てるマキ。そこまで……分かるのか。

 

「ごめん……。でも——」

『やらなきゃいけない事が出来た、でしょ?』

 

 マキの口から飛び出した言葉に俺は驚きを隠さないでいた。一言一句、違っていなかったが故に。

 

『シュウ君がどう言う人なのかは知ってる。だから、こう言う時は何かある時なんだよね』

 

 やっぱりコイツは俺の知る中で1番俺を知ってるかもな。それも俺以上に。

 

『だから約束して。その目的を、必ずやり遂げるって』

 

 これは——俺を送り出してくれてるんだ。こんな、自分勝手な奴のために。だったら俺は誠意を持ってこう返す。

 

「ああ、約束する。必ず、達成すると」

『約束だよ。あと——』

 

 俺の言葉を聞いたマキはとても優しげな声で続ける。

 

『これだけは忘れないで。何があっても私はシュウ君の味方だよ』

 

 マキ、ほんとお前ってやつは——。

 

「ありがとな」

 

 本当はこの言葉だけでは足りなかった。だが、それしか言えなかった。

 

『じゃあ、頑張ってね』

「ああ、また」

 

 それだけ返し即座に通話を終了させた。そして携帯を置いた瞬間、俺の中に無数の想いが込み上げてきた。悲しみや後悔、苦しみや自己嫌悪、そして僅かな嬉しさ。

 それらはとどまることを知らずに俺の中を埋め尽くすかのようだ。その感情1つ1つを丁寧に紐解きながら、ソファーに横たわり右腕を顔の前に持っていく。それとほぼ同時に俺の瞳からは涙が溢れる。

 

(マキ……本当に、本当にごめん……こんな不甲斐ない奴で……それなのに止めるではなく、寧ろ送り出してくれるなんて……)

 

 本当は言いたい事は沢山あった。だが、俺は言えなかった。自分の本当の思いを押し殺してしまった。自身の目的の為だけに人を裏切った。そう思えてしまった。それがまた、俺に強い後悔と自責の念を感じさせた。

 

「約束破って……ごめん……」

 

 溢れる涙と共に自責の念を吐き出していると——不意に卓上に放り投げた自身の携帯が着信を知らせる。

 不思議に思いながらも涙を拭いつつ左手で携帯を探る。あったあった……というか誰だよこんな時に。

 

「……はい?」

『遅い! あたしが電話したらもっと早く出なさい!』

 

 電話の向こうから聞き覚えのあるアニメ声で怒られた。めちゃめちゃ耳に響くんですがあの。

 

「アリア?」

 

 番号を見ないで出てしまった俺は思わず聞き返した。え、あれ? 何で番号知って……あ、あの日渡したんだっけか。

 

『あたしよ』

 

 うん、確定だわ。というかいきなりすぎて怖いんだけど。さっきまでの感情どっかいっちゃったじゃん。

 

「どうした、突然電話なんかかけてきて?」

『明日ロンドンに発つから荷造りしなさい』

 

 突然の事に俺の思考は停止(フリーズ)した。

 

「え、は、ええ?!」

 

 我に帰った俺は素っ頓狂な声を上げていた。

 

『だから、明日の午後7時の便でロンドンへ行くわよ』

「ま、待ってくれ」

『何よ?』

 

 アリアの不満そうな声が電話越しに聞こてくる。色々と説明不足なんですけどちょっと。

 

「何しに行くんだよ?」

『手続きしに戻るのよ』

 

 ええ……俺も行くの? 

 

「で、フライトが?」

『明日の午後7時よ』

 

 勘弁してくれよ……。でも、パートナーになっちまったわけだし仕方ないか。

 

「……分かったよ。荷造りしとくよ」

 

 諦めた俺はそう返す。行くしか無いよね……これが運命だろうから。

 

『じゃあ明日、羽田で落ち合いましょ』

「了解」

 

 通話を終了した俺は、起き上がると荷造りに取り掛かるのだった——

 

 

 

 

 

 翌日、羽田空港国際線ターミナルへとやって来た俺。ここに来たのも何ヶ月ぶりだろうか。

 そんなことを考えながらアリアを探す。何処にいるかなぁ、あいつ。

 というか出国後エリアに来て暫くウロウロしてるけど——なんでいないの? 

 

「迷子……な訳ないよな」

 

 困り果てた俺は携帯を開いてみると……なんかメール来てるんだが。差出人アリアじゃねぇか。

 なになに……ラウンジで待ってる? そういうのはもっと早く連絡してください! 

 内心で文句を言いつつラウンジへ行ってみると……そこにいましたよ。アリアさんが。しかも、応接室で。

 

「遅い! 私と待ち合わせるなら30分前には来なさい!」

 

 開口1番怒られたよ。なんで? 俺は定刻通り来ただけ……まあ、途中であな貴女のこと探してたから少し遅れましたけど。でも理不尽。というか早すぎだろお前。

 

「お前、そんな前からここに居たのか?」

「そうよ」

 

 うん、早過ぎる。恐ろしく早い集合、基本的には間に合わないね。そんな早く来ても暇でしょ。

 

「飛行機乗るのにそんな早く来るって……」

 

 アリアは、俺の呟きが聞こえたらしく怪訝な顔でこちらを見てきた。

 

「何よ?」

「ナンデモアリマセン」

 

 うわ、怖すぎるよ……というか突然過ぎてカタコトになっちゃったよ。

 

「まあ、良いわ」

 

 ヤベェ……死ぬかと思った。久々死を感じたな、うん。

 

「出発時刻が近くなってきたわ。そろそろ行きましょう」

 

 そう言ってアリアはスカートを翻しながら立ち上がると歩き始めた。俺もそのあとに続いて歩いていく。ていうか俺は、ラウンジに何しにきたんだよ! マジでなんもしてねぇ! 

 そう内心で嘆きながら飛行機へと乗り込むのだった——

 

 

 

 

 

 乗り込んだ飛行機の中は想像以上に凄かった。本当『空飛ぶリゾート』だよ。

 

「お前、これチャーターしたのか?」

「そうよ」

 

 マジかよ……。何気なく問いかけてみたけど、マジだったのか。聞くんじゃなかった……お値段とかは絶対に、聞いたら倒れそうだからやめとこう。

 

「流石貴族様、だな」

 

 倒れそうになった体を支えながらそう返す。にしても、さっきから妙な胸騒ぎがする。なんだろう……何もなければそれが1番なんだが、この感じだとそうは行かない気がする。

 まあ、その時はその時だな。こう言う時は武偵憲章7条『悲観論で備え、楽観論で行動せよ』に則った動きをするのが1番効率がいいからな。

 

「どうかしたの?」

 

 アリアの声で現実に戻る。おっと、考えることに没頭しすぎていたかな? 

 

「いや何も。なんでだ?」

「険しい顔してたから」

 

 顔に出てたか。それに関してはただの寝不足だと思う。寧ろそう思いたい。

 

「それはそれとして、帰国はいつの予定だ?」

「今のところは分からないわ」

 

 今回の1番の疑問をぶつけてみたら……え、嘘? 分かんない? 璃野になんも言わないで出てきちゃったなぁ……。

 

「なんで?」

「いや、戦妹(アミカ)に何も言わないで出てきちゃったなと思って」

「あんた、戦妹がいるの?」

 

 アリアが驚いた様に問いかけてくる。あー、出来たばっかりだから情報とかも載ってないもんね。

 

「ああ。出来たって言っても戦徒契約結んで1週間も経ってないけどな」

 

 璃野の事を思い返しつつも、無事に帰ってこれることを祈っていた。まあ、何とかなるでしょ。ここまで下手な戦場とかは歩いてきてないし。

 とりあえず悩んでも仕方ないので1回休もう。そろそろ限界……。

 

「眠いし寝てても良いか?」

「良いわよ」

「ありがとう」

 

 俺はソファーの上で横になり目を閉じる。そして暫しの後、薄っすらと目を開いてみる。

 視界には窓の外をただ呆然と見つめるアリアの姿が映った。何かに未練を感じている。そう言った状態の彼女がそこにはいた。

 

(アリアも……色々あったんだよな……)

 

 内心で呟きながら、俺は再び目を閉じる。しかし寝付けない。睡眠薬でも飲まなきゃダメかな? 

 漸くウトウトし始めた頃、部屋の扉の前で足音がするのが聞こえた。両方とも聞き覚えのある足音だ。扉が開く音共に俺は目を開く。

 

「……キンジ!?」

 

 アリアが声を漏らした。え、キンジって言った? 

 

「シュウヤ?」

「……キンジ?」

 

 意識がはっきりしないまま答えた。それからある事に気付いた俺の意識は急速的に覚醒し始める。ヤバい。役者が揃ってしまっている……! 

 キンジには悪いが、キンジがここへ来たことにより俺の胸騒ぎは予想から確信へと変わったのだった。




はい、今回はここまで。
次回はいつできるのやら……。
まあ、気長にお待ちください。
最後に、宜しければ感想や評価等お教え頂けると幸いです。
次回もどうぞ、お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再始動(リスタート)02 Killer of DA(武偵殺し)

どうもお久しぶりでございます。
希望光です。
前回投稿からとてつとなく時間が空いてしまったことを謝罪いたします。
では、本編をどうぞ。


 キンジがこの場に現れたことにより、俺の胸騒ぎが予感から確信へと変わった。

 

(——マズイ……このフライトで確実に何か起こる……ッ!)

 

 俺は直感的にそう悟った。しかし、どうすることも出来ない。何が起こるかが予想がつかないから……。

 このような時は基本的に対策を練るものだが、今の状況はそれができない。やろうにも情報が少なすぎるのである。それでもなんとかしなければならない。俺は切り替える為に、自身の中で武偵憲章10条を思い返す。

 

(——諦めるな。武偵は決して、諦めるな)

 

 どんな状況下に置かれても、俺たち武偵は諦められない。否、諦めてはいけない。俺はそれを頭の片隅に置く。その直後キンジに話しかけられ現実に戻される。

 

「なんでお前がここにいるんだ?」

「なんでって——俺がコイツ(アリア)のパートナーになったから」

 

 そう言った俺に対してキンジは少し困惑していた。そういえばキンジはこの事まだ知らないんだっけか? 

 

「……本当かそれ?」

本当(マジ)の話だ」

 

 ——本気(マジ)で知らなかったご様子で。

 

「しかし……さすがはリアル貴族様だな。これ、チケット、片道20万ぐらいするんだろ?」

 ダブルベッドの方を見ながらそんなことを言うキンジを、アリアは睨みつけていた。

 

「——断りもなく部屋に押しかけてくるなんて、失礼よっ!」

 

 アリアがキンジに文句言ってるよ。確かに部屋に押しかけてきてるってのは間違いじゃ無いけど。

 

「お前に、そのセリフを言う権利は無いだろ」

 

 何か心当たりがあるらしいアリアは、うぐ、と怒りながらも黙った。ハイキンジ君論破。これには流石の双銃双剣(カドラ)さんも反撃できないご様子。というか根暗でもやるときはやるのな。

 

「「お前(あんた)変なこと考えてるだろ(考えてたでしょ)?」」

 

 何故そこでハモる。というかそこで意見を合致させるな。

 

「そのようなことがあろうはずが御座いません」

 

 何処ぞの親父ィ宜しく返答しちゃいましたよ。これもうあれだ、人生選択失敗(プレミ)だね。え、もう既に選択失敗(プレミ)? それは1番言われてることだから。

 

「……本当かしら」

 

 アリアさんが凄い疑いの目を向けてきてるよ。怖い怖い。

 

「で、キンジ。お前はこんなところに何しにきたんだ?」

「そうよ……なんでついてきたのよ」

 

 俺の疑問に続いてアリアがキンジに問い掛ける。あー、アリアは分かってないのな。

 

「太陽はなんで昇る? 月はなぜ輝く?」

 

 ——コイツ、アリアの台詞をパクリやがったな。まあ、知りたきゃ自分で考えろってことなんだよな。俺に関してはその辺の推測はできているんだが。

 

「うるさい! 答えないと風穴あけるわよ!」

 

 アリアの方は……相変わらず分からないらしいな。キンジにセリフをパクられてカッとなってるみたいだし——お、スカートの裾に手をやった……って、抜かないのかよ。まあ、こっちとしてはその方がいいけどね。

 

「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対守れ」

 

 ……なんだ、核心の方を話すんじゃないのか。まあ、確かに付いて来た理由を聞かれた訳だしね。

 

「……?」

 

 アリアは未だに訳がわからないと言った感じで首を傾げている——アリアはね……すいません、これ以上は何も考えないんで睨み付けないでください。

 そんな感じの俺を他所に、キンジが口を開いた。

 

「俺はこう約束した。強襲科(アサルト)に戻ってから最初に起きた事件を、1件だけ、お前と一緒に解決してやる——『武偵殺し』の1件はまだ解決していないだろ」

「なによ……何もできない役立たずのくせに!」

 

 がう! と小さいライオンが吠える様にアリアは、キンジに対して犬歯を剥いた。アリアの言い分……キンジが役立たずだっていうのも無理はない。

 だが、それはこちらのキンジであり、()()()のキンジになれば話は別だ。正直なところ、今の俺はコイツに賭けている。

 さっき俺は、キンジが来たことによって事件が起こることが確定したと感じた。

 それは同時に、キンジがいることにより、その事件は確実に解決できるとも感じた。だがまあ、キンジが()()()になれればの話なんだが……。

 そんな事を考えつつ、俺は席を立った。

 

「何処に行くの?」

「喉乾いたから、1階のバーに行ってくる。すぐ戻るさ」

 

 俺はそう言い残して、部屋を出た。……さて、この先鬼が出るか蛇が出るか。

 内心を一蹴しながら、俺は1階のバーに踏み込む。中は……人気がない。怖いぐらい静かだ。

 周囲を警戒しつつ部屋の真ん中まで行き、懐に手を突っ込んだまま立ち止まる。

 

「——後方にはattention please(お気をつけ下さい)で、やがります」

 

 次の瞬間、俺の後頭部に銃口が突きつけられ、そんな言葉が投げかけられる。

 

「……逆だ。後方を警戒してるからこうなったんだ」

 

 軽く口角を釣り上げ、背後にいる人物へと告げる。予想通りの行動をしてくれたこの人に。

 

「……で、なんの真似だい。峰理子さん——いや、()()()()さん」

 

 俺はそう言い放つと同時に、感覚のみを頼りに右肘で肘鉄を打ち出すが、俺の右腕は空を切った。

 

「くふっ。シュー君よく気づいたね。理子が武偵殺しだって」

 

 いつのまにか俺の盲点に入っていたらしい理子は、キャビンアテンダントの格好をしていた。

 

「そりゃあねぇ。この飛行機で、直接対決するんだろうなと言う予測は立ってたからな」

「ふーん。それはわかったけど、どうしてこの格好で理子だってわかったの?」

 

 理子は首を傾げながら俺に尋ねてくる。あー、自分じゃわかりにくいのよな。

 

「あんだけ戦闘力さらけ出してる客室乗務員なんて、そうそういないだろ」

「アレ? 隠せてなかったかな?」

「隠すも何も無いよ。そもそもの話をすると、お前の変装が1番わかりやすかったからな」

 

 俺の言葉を聞いた理子は、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「お前の変装は上手すぎる。だがな、それが仇になってたんだよ」

「ふーん……あの2人は欺けても、シュー君は欺けないってことか」

「そういうこと」

 

 理子は、若干不満そうに頷いていた。探偵科(インケスタ)Sランクってのも、伊達にやってるわけじゃないからね。

 

「さて、大人しくお縄についてくれると嬉しいんだけど」

「……理子がそんな風に見える?」

「——I can not see(見えないな)

 

 俺はそう言うと、ホルスターからDE(デザート・イーグル)を抜き、理子へと向ける。同タイミングで、どういうわけか理子はこちらへ向かって走り込み、地面を蹴って飛び上がる。

 それを見た俺は、空かさず間合いを保つためにバックステップを踏むが、理子は俺の予測を上回る勢いで襲いかかってくる。……まずい、回避が間に合わない。

 迎撃する方針に切り替えた俺は、DEを理子の方へと向け直す。その時、俺の右腕が()()()

 

「……ッ?!」

 

 突然の症状に、俺は動揺するも即座に立て直しをかける。だがその隙を見逃さなかったらしい理子は、俺の眼前に着地する流れで自身の持つワルサーP99で、俺の手元からDEをはたき落した。

 

「しまった……!」

 

 銃口を改めて突きつけられた俺は、両腕を上げ佇むことしかできない。しくじった……。

 

「くふっ。シュー君弱いなぁ。そんなんじゃ、理子が楽しめないじゃん」

 

 不敵な笑みを浮かべる理子。……楽しむ為、だと? 

 

「どう言うことだよ」

「そのまんまの意味だよ。シュー君推理が得意なら、自分で考えてみなよ」

「……お前の家系、なんかあるな」

 

 俺は直感的に思ったことを理子に伝えてみたのだが、どうも正解らしいな。

 

「……そうだよ。理子は、フランスの大怪盗の末裔だよ」

「大怪盗……?」

 

 フランスの大怪盗か……。自身の記憶という名の箪笥を隈なく探っていく。

 

「大怪盗の末裔で、且つアリアと関係がある家柄……」

 

 記憶の中にある情報を、1つ1つをジグソーパズルのピースの様に組み替え、当てはめていく。……繋がってきたぞ。

 

「理子……お前は、フランスの大怪盗『アルセーヌ・リュパン』の末裔だったのか……」

「そうだよ。理子の曾祖父様はアルセーヌ・リュパン本人」

「つまりお前は……リュパン4世ってことか」

「うん。私は理子・峰・リュパン4世。なのにね——」

 

 瞬間、場の空気が変化した。これは……理子が発した威圧(プレッシャー)だ。

 

「どいつもこいつも4世4世言いやがって! 私には『理子』って言うお父様とお母様からつけてもらった可愛い名前があるのにさ!」

「……で、それがこの一連の出来事とどう関係してるんだ?」

 

 俺は自身の思考力では補いきれなかった事柄を人が変わったように叫ぶ理子へと尋ねる。

 

「……シュー君は『イ・ウー』って知ってる?」

「逆に聞くが、お前は俺の経歴を知ってるか?」

 

 理子は、俺の言葉に対して頷いた。だよね、武偵殺しさん。そこまでは予想済みだよ。

 

「もちろん。シュウ君がどこの出身で、どんな体質なのかもきっちり抑えてるよ」

「そうか。そこまで知ってるなら、さっきの質問は答えなくてもわかるよな?」

「知ってるんだよね」

「もちろん」

 

 俺の脳裏には、あの日——イ・ウーに襲われた日の記憶が過ぎる。俺の、忌まわしき記憶が。

 

「……ッ。で、そんな『イ・ウー』がなんだって言うんだ?」

「理子は『イ・ウー』のNo.3——」

「『無限罪のブラド』、か」

 

 俺は、No.3の名前を告げる。イ・ウーのNo.3無限罪のブラド。奴らについて調べている内に名前だけ明らかになった奴。何者なのかについてはわからないが、1つ言えることがあるとすればとても強い奴、ということだ。なにせ、あの組織のNo.3というぐらいだからな。

 それで、理子とそんな奴がどんな関係性があるっていうんだろうね。

 

「うん。ブラドに、言われたの。理子がパートナーを持ったホームズ4世を倒せば、本物だと認める、って」

 

 俯いたまま述べた理子は、両手を強く握りしめる。……なるほどね。つまりは、お前はブラドの言いなりってことか。

 

What are you doing Riko(理子はどうしたいんだ)?」

 

 突然の俺の台詞に、理子は少し驚いていたがすぐに口を開いた。

 

「——I will be me(私は私になる)

「わかった」

 

 俺は理子の台詞に対して、少し笑いながらそう返す。そして、落ちていたDEを拾いホルスターへと戻す。

 

「お前が自分になるのを手伝ってやるよ」

「え……でも」

「これは、ある意味では俺のやりたいことだ」

「シュー君の?」

「俺は、誰であろうと困っている人の味方だ。それが俺、樋熊シュウヤという武偵。だから、お前のやろうとしてる『自分になる』っての、手伝ってやるよ」

 

 嘘偽りの無い本心を彼女に対して吐露する。さて、理子はどうするのかな。

 

「……本当に?」

 

 恐る恐る、と言った様子で問い掛けてくる理子。その瞳は、こちらの様子を伺っていた。

 

「ああ。ただし、アリアとの対決の時は、俺はサポートに回る程度だ。ただ、お前に対して不利な事があれば、それは勿論お前を助ける。それでいいか」

「どうして……理子の為にそこまで……」

 

 理子は、俯きながらそんなことを尋ねてくる。

 

「言ったろ。俺は困ってるやつの味方だって。それに——理子が助けて欲しいって顔してたから、かな」

 

 俺はそう言って、背を向ける。誰かに助けを請うような顔されちゃあ、ね……。

 

「で、やるのか?」

 

 切り替えた俺は振り向きながら尋ねる。対する理子は、俺の言葉に首を縦に1回振る。

 

「なら、2人をここに呼び出すぞ?」

「お願いするよ」

 

 俺は頷くと、インカムを開く。周波数は確か……ここだったかな? 

 

「……アリア」

『どうかしたの?』

「キンジと、1階のバーに来てくれ」

 

 俺はそれだけ言うと、インカムを切る。これで準備は整った。後は、理子次第だよ。

 

「さてと……俺はこの裏で待機してるとするよ」

「分かった」

 

 短く言葉を交わした後、俺はカウンター裏に、理子はカウンターの前の座席の1つに座る。そしてしばらくすると、足音が2人分聞こえてきた。来たみたいだ。

 

「シュウヤ? 何の用なの?」

 

 アリアが、そう言った。声からして、間違いないことだった。

 

「……来やがりましたね」

 

 理子は、そう言って変装を解いた。

 

「……ッ! 理子?!」

 

 驚いた様に彼女の名前を口にするのはキンジ。初見だとそういう反応しちゃうよね。特に親しいやつだと。

 

「くふっ。どう? 驚いた?」

「なんでお前が……」

「……あんたが、武偵殺しなのね」

「正解! 理子が武偵殺しでした!」

「ところで、シュウヤはどうしたの?」

 

 激しい剣幕で理子へ問い掛けるアリア。呼び出した当人が見当たらないとそうもなるよね。

 

「あー、シュー君なら理子がやっつけたよ」

「「……!?」」

「さっき1人でここに来て、理子が奇襲したら倒れちゃって」

「シュウヤを……どこにやったの……!」

「くふっ。理子に勝てたら教えてあげる」

 

 直後、ホルスターから拳銃を抜く音がした。今のは、ガバメントの音だな。それに対抗するように、別の銃が対抗するように抜かる音が聴こえてくる。こちらはワルサーの音。つまりは、理子だ。

 

「キンジ、近接拳銃戦(アル=カタ)で勝負をつけるわ! 援護して!」

「ああ!」

 

 その会話の後に、発砲音が鳴り始める。……始まったか。俺はカウンターの陰から、そっと様子を伺う。

 その途端、アリアのガバメントが弾切れを起こす。アリアの使うガバメントは理子の使うワルサーよりも弾数が少ないが故の事態だな。

 

「キンジッ!」

 

 アリアは、理子の腕を押さえたまま顔だけを振り向け、キンジへと叫んだキンジは、その言葉に反応してベレッタを抜く。

 それを確認した俺は、キンジよりも早くDEを抜きキンジのベレッタを撃ち落とす。

 

「……なっ!」

「……遅いぜ、キンジ」

 

 ちょうど西部劇のガンマンのように、構えた銃の上に手をかざした状態の俺は、カウンターの裏から立ち上がる。

 

「なんで……あんたが……」

 

 アリアは、赤紫色(カメリア)の瞳を目一杯見開く。キンジも同様に、ありえないと言った表情をしていた。

 

「お前、どういうつもりなんだ……」

「多分、2人が思っている通りだよ」

 

 俺はDEを持った右手を下ろしながら告げる。こちらを見て唖然としている2人に俺は注意を促す。

 

「そんな事より、よそ見してる方が危ないんじゃないか?」

 

 俺がそう告げると、アリアはハッとした表情になり理子と対峙する。

 

「アリア……理子とアリアは似てるよね」

「……?」

 

 首を傾げるアリアの手前、理子は言葉を続ける。

 

「キュートなところもそっくりだし、なによりも『双銃双剣(カドラ)』って名前も」

 

 不敵に笑った理子はワルサーの銃口を2人へ向けたまま続ける。

 

「でも、アリアの『双銃双剣』は、完璧じゃない」

 

 そう言った理子の髪が、重力に逆らって動き出す。……あー、なるほどね。だから理子は余裕ぶってたのか。

 

「……超能力(ステルス)……か」

 

 目の前の現象を眺めながら俺は零す。ヨーロッパにいた時、何回か見た光景だ。

 などと考えている俺の視界の中で、理子はそのツーサイドアップのツインテールを器用に動かしナイフを抜く。そして、髪でナイフを構えアリアへと斬り掛かる。

 

(勝負あったな……)

 

 俺そう確信しながら、2人を見守る。アリアは、1撃目を躱すが反対側からの攻撃を喰らい、深く斬り付けられた。

 

「……アリアッ!」

 

 叫ぶキンジの手前、斬りつけられたアリアは鮮血を散らしながら倒れる。そんな彼女に駆け寄るキンジと、再度ナイフを構える理子。

 

「これで……これで私は私になれる!」

 

 その言葉と共にトドメの1撃を振りかざそうとする理子。カウンターを飛び越えた俺は、袖口からフォールディングナイフを抜き出し理子の刃を抑える。

 

「もう決着は付いた。十分だろ?」

「まだ、私は私になれていない! コイツを倒して初めて曾祖父様を超えたことになる!」

 

 鋭い視線で此方を睨みつける理子。……チッ、こいつマジか。

 

「それより、何で私の邪魔をした!」

「……俺は殺しの手伝いをするとは微塵も言ってないぞ?」

 

 理子とキンジ達の間に割って入る様にして立ち塞がる。そして俺は、キンジの方へと振り向く。

 

「オイ、アリアを連れて行け! ここは——俺が食い止める」

 

 数瞬の後、その俺の背後ではキンジが走り去る足音が聞こえてくる。——行ったか。

 さて、ツケは高くついたみたいだが、やるか。

 

「理子・峰・リュパン4世、お前を殺人未遂の容疑で逮捕する」

 

 鋭い視線で彼女を見据え、まっすぐとその言葉を突きつけた。




今回はここまで。
次回投稿は、未定です。
宜しければ感想・評価等宜しくお願い致します。
次回もどうぞ、お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。