仮面ライダーガスト (影淵)
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一話 契約

少年は自らの運命を知りもせず、好きな人をみんなを守るために戦うことを誓った。
その結果がどんなに運命になろうとも。


その爪の速さはまるで雷だった。

 

体を潰そうと振り下ろされた爪。

 

雷のような速さだ。避けようとする試みをしても避けることはできない。

 

 

 

 

 

しかし、この身を貫こうとして放たれた一振りは、この身を守ろうとする少女に守られた。

 

 

 

がしゃがしゃ。とぶつかり合う音。

 

目の前に現れた少女は鎧を身に纏っていた。それは中世の騎士が身に着けるような鎧だった。美しい少女の顔つきに対し、纏っている鎧は異端だった。

 

「あなたが私のマスターですね」

 

変身。

 

正義の味方になるための契約を交わした。

 

この一夜の出来事は地獄に落ちようとも忘れることはないだろう。

 

月光は少女を照らし、鎧が月の光を反射する。

 

少年は、一枚のカードを握りしめていた。占いで使われるようなタロットのカードだ。

 

目の前に立つ少女がこちらを振り向く。空のような青の瞳に金色の髪が月光に照らされる。

 

彼は正義の味方になるために契約した。誰かを守るため、修羅の道を歩むことを決意する。一度変身すれば、逃げることも正義のヒーローとして投げ出すことは許されない。それは死ぬまで続くかもしれない修羅の道。

 

腰に装着されていたベルトのバックルに握りしめていたカードを挿入する。

 

少年は幼いころに見ていた特撮ヒーロー番組で主人公が正義のヒーローに変身するポーズと同じようなポーズを真似し、その場で一呼吸する。

 

そして、「変身!」と唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

王子様。優しくて、華麗で、誇り高い。

 

その笑顔は見る人に元気を与えてくれる。

 

争いは嫌いなのに、剣を握れば誰よりも強い。

 

そして正義のために戦う。

 

輝く剣を握って、邪悪なものから守ってくれる。

 

童話に出てくる王子様。

 

でも、現実に王子様はいない。どんなに探しても見つからない。

 

私はそう言われてきた。

 

父と母に。

 

こんなにも冷たくて酷い世界にはいない。

 

もしも、世界の色を言い表すならそれは限りなく黒に近いグレーだ。

 

王子様と王子様が乗る白馬もない。

 

そんな夢と幻のような人など世界にはない、と誰もが口を揃えて言った。

 

でも、私は信じている。

 

この世界には、王子様がいることを。

 

そう。

 

そして、その王子様が今私の目の前にいる。

 

藍色の鎧を身に付けた王子様。

 

白馬には乗ってなくてイメージとは違う王子様だけど、私の目の前には王子様がいる。

 

私達のこの出会いは元々運命だったんだ。

 

 

 

男は純粋だった。

 

何かを守るためには何かを見捨てなければならない。

 

それが世の中の道理であり、理である。

 

だか、男は全てを守ろうとした。

 

男は人としての何かが欠落していたのかもしれない。愚弄者だったのかもしれない。偽善者であったのかもしれない。

 

男は戦いのなかでこの世の道理を知った。

 

そして男は、悪を滅する完全なる正義者になることを決めた。

 

男の天秤で善悪を決めるのではなく、大衆が持つ天秤で善悪を決めた。

 

男は大衆の天秤によって、悪を滅してきた。

 

老若男女関係なく殺戮を繰り返し、大勢を救った。

 

心を無にし、血も涙もない非情で効率的な暗殺技術に長けている機械として残酷な世界で動く一つの歯車として動き続け、30年も及ばない短い人生を終えた。

 

だか、男は病死でも事故死でもない。

 

殺害された。

 

男を殺したのは、それは今まで守ってきた民衆である。

 

理想の先には己の死という結末しかなかった。

 

それは男の罪なのかもしれない。

 

何故なら、民衆の天秤によって悪と決められた友人や恋人も男は殺害したからだ。

 

理想の答えを得た男は絶望し、新たなる答えを得た。

 

 

 

四条彩野は全てにおいて完璧であった。容姿端麗、成績も優秀で彼女には欠点という欠点がない。だが、彼女の周囲には友人と言えるような友人は居なかった。

 

性格に難があるというわけでもない。

 

それは彼女の女子高生以外にもう一つの顔を持っていることにある。

 

彼女は魔術師であるからだ。

 

魔術師はハリーポッターに出てくる魔術師のようにほうきで空を飛べるし、杖で魔法を使うことも出来るが、それは既に時代遅れだ。

 

そもそもほうきで飛ぶなんて非合理的だし、なによりも目立ってしまう。

 

魔術師は魔女狩りが起きるまでは公衆の面前で堂々と活動していたが、魔女狩りが本格的に始まってからは息を潜め、静かに数百年も息長らえてきた。

 

そして、息を潜めている間に科学成長し続けて遂に魔法と科学の立場は逆転してしまった。

 

でも、現代の科学でも立証できない現象がある。それは魔法であり、人々から”奇跡”と称される。

 

まぁ、正直に話をすると魔術師になろうとするなら、普通の学校に行って普通に生活したほうが何十倍も幸せ者になれる。

 

それでも魔術師になる利点は色々とある。でも、魔術師の数は絶滅危惧種の生物と同じくらい珍しい。

 

それが魔術師の現状である。

 

 

 

 

 

プロローグ

 

 

予想外アクシデントに見舞われ、自宅から最寄りの駅に降りたときには、時刻は既に朝の五時過ぎだった。いつもより遅い。

 

駅のホームにキャリーケースとショルダーバッグをホームに下ろす。

 

深く、長い溜め息を吐く。冬の季節に入り、厚手コートは手放せない季節で、吐く息は白い。

 

朝日が眩しいこの場所で、早く帰宅して眠りたかった。

 

ようやく片付いた仕事だ。さっさと帰って寝たかった。

 

特に今回の仕事は疲れた。標的が多かったが、その分報酬がよかった。

 

懐から煙草を一本取り出し、火をつける。仕事終わりの一服は最高だった。肺に流れ込む煙草の芳香の痺れが、疲れた体に染み込む。

 

体に染み込む煙草の味を楽しんでいると、背後から声をかけられた。

 

「お疲れ様です。こちらが報酬です」依頼主の代理人であり、仲介業者の男が札束の入った茶封筒をサーニャに手渡す。

 

「貴方のお陰で家族を殺された依頼人の恨みは晴れたでしょう」

 

「・・・・良い仕事が見つかったら紹介してくれよ」

 

サーニャは仕事道具が入った荷物を掴み、ホームを歩き始める。

 

「えぇ、ではまた」

 

人混みの中に紛れながら駅構内を歩き続け、やっと外に出ることが出来た。

 

相変わらず外の空気は美味しくはなく、ガソリンと色々な人の匂いが混ざった不快な臭いがした。

 

それに駅の外には駅周辺を根城にする不法滞在者達が不快な臭いの元となるような臭いをまとっているせいでとてもにおう。

 

ボロボロの服を着た人間達だらけのなかで、黒のコートを羽織ったサーニャの姿は、かなり浮いている。

 

そこに煙草をふかしながら歩いているから、周りの人間からは疎まれて見られる。

 

私のことを娼婦呼ばわりしてくる浮浪者もいたが、構っても時間の無駄。

 

それにサーニャは頼まれた仕事以外で殺害はしない。

 

様々な紛争地域を渡り歩き、暗殺の仕事をこなしながら生きてきた。故郷を離れ、現実を見つめながら生きて、そしていつか死ぬ。

 

そんな生き方も悪くはないと思う。 駅のすぐ近くにある十二階建ての住居に帰宅しようと歩いているとき、激臭を感じた。頭がくらくらしそうなこの臭い、浮浪者の臭いよりも酷い。この臭いで脳裏に過るのは死体だ。

 

浮浪者が孤独死でもしたのかと考え、臭いの方向に視線をやる。

 

構内の隅っこに七、八才ぐらいの男の子が転がっていた。汚れた服に泥まみれの白い髪、痩せ細って骨が浮き出てるガリガリの体。

 

親に捨てられたストリートチルドレンだろう。死んでいるのだろうか。

 

その光景は見慣れてるから、特に特別な感情は沸かない。

 

この場所で野垂れ死にする奴は老若男女問わず、大勢いるし、その光景を何度も見てきた。

 

昔は少しぐらいは同情していたが、今の仕事で見馴れてきたお陰で慣れてしまった。人の死体を見てもなにも感じない。

 

でも、このまま放置すると臭いの元だろう。この死体を魔法で燃やそうと死体に近づき、物体を燃やす呪文を唱え、死体を触れようとする。

 

その時、サーニャとそいつの目が合う。驚いたことに、死体と思われていた子供は生きていたのだ。

 

「あぁ・・・」

 

少年が口を動かす。今にも途切れそうなかすれ声で悲鳴をあげる。

 

「助けて・・・」虚ろな目で助けを求める少年、まるで自分の昔を見ているようだった。

 

親に捨てられ、殺し屋に拾われて過ごした昔の記憶。その光景を体験してきたサーニャが今度は逆の立場で昔と同じような光景を体験している。

 

「助けてほしいか?」

 

「うん・・・」少年の声は先程よりも弱かった。その一言で十分だった。この子供をつれていく理由としては。

 

「坊や、名前は?」

 

「宏太・・・」

 

「宏太か、あたしの名前はサーニャ。サーニャて呼んでくれ」

 

「サーニャ・・・」サーニャは自力では立つことさえ出来なさそうな宏太を脇に抱える。宏太は軽かった。仕事道具が入ったキャリーケースよりも。

 

そして、二人の生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うちの学校には大きな食堂があり、大体の生徒はそこで学食を食べる。何でもうちの高校の学食は安くて美味しいと学生に評判らしい。

 

でも、一部の生徒は弁当を持参してくる生徒もいる。そしてその生徒は一人は俺と、目の前に居る風紀委員長だった。

 

「宏太、そのうまそうな唐揚げを一つくれないか」

 

「あぁ、いいけど。一動、お前肉少なすぎるぞ。いくら寺の子だからて、肉を食わなすぎだ」

 

「これを作っているのは祖父だ。祖父は昔の人でな。修行僧は質素に生きるべし、などと言う。まだ修行の身ではないのだがな」

 

「あの爺さんなら言いそうだな」一動は寺の息子で、住職である一動の親父さんとサーニャは旧知の仲だ。サーニャの友人は変な人が多い。

 

ほい、と弁当箱を一動に差し出す。

 

「これは、ありがたい」唐揚げを受け取り、おじぎをする一動。

 

「そうだ、宏太。昨夜、1丁目のほうで騒ぎがあったのを知っているか?ちょうど、宏太のバイト先あたりで」

 

「バイト先の辺り?・・・」確かに昨日の夜、バイトから帰る途中何台ものパトカーが走って行くのを見た。

 

「なんでも、殺人事件があったらしい。一家六人中、助かったのは幼い子供だけらしい。両親と祖父祖母、兄が刺殺されたらしく、その凶器が短刀らしい」

 

「――――――――――」想像する。深夜に家を侵入され、抵抗もできずに殺された被害者。生き残るたった一人の生存者。

 

「犯人は?」

 

「いや、まだらしい。これで3件目だな。最近は何かと物騒になってきたな、幽霊騒ぎに残虐な殺人事件。どうしたそんな険しい顔をして?」

 

「いや、別に」

 

「宏太がそんな険しい顔をするのは珍しくてな、そもそも食事中にする話ではないな」

 

すまん、と一動がすまなそうにする。

 

そんなに険しい顔をしていたのか。

 

と、生徒会室のドアが開く。

 

「食事中に失礼するわ。風紀委員長、ちょっと来てくれない?」

 

「あ、はい。生徒会長、何ですか?」一動は部屋に入ってきた生徒会長の彩野と何やら話し込む。何か重要な話なのだろうか、一動が真剣な顔で話をする。

 

「珍しいな」一動は彩野が苦手だ。理由は知らないが、あまり好きじゃないらしい。

 

「じゃあ、ほかの委員会の委員長にも伝えておいてね」と、生徒会長が退出する。

 

「何の話をしてたんだ?」

 

「あぁ、どうやら午後の授業は中止になったらしく、生徒はすぐに下校するようにと、言われたらしい。殺人事件の影響だろうな」

 

「そうか―――――」それを聞いても、何故か、先ほどの殺人事件のことが頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

生徒の安全を学校が優先した結果。数日間、学校が休校になることになった。

 

うれしいが、その分長期の休みが減ると考えると何とも言えない気持ちだ。

 

「ありがとう、一緒に帰ってくれて」

 

「あぁ、帰り道一緒だし、お隣さんだしな」薫と一緒に帰ったりするのは、久しぶりだった。中学校の時まで一緒に帰っていたが、高校に入学してから委員会の仕事や薫の所属する部活動で一緒に帰る機会なんて滅多になかった。

 

久しぶりに一緒に下校しているからか、変に緊張してしまう。

 

住宅地を抜けて一動が住んでいる寺の前を通り、そして昨夜、殺人事件があった事件現場の前を歩く。

 

殺人現場の家は警察官の人たちが現場を調査していた。その付近には、報道の人や野次馬が群衆として集まっていた。

 

そして、その群衆の中でとある少女に視線を奪われ、立ち止まる。

 

黄色人種の中に白人の子が混じっていたのだ。

 

その少女の瞳は青色で金色のきれいな髪の子で、思わず息をのむ。

 

視線をその少女に注いでいると少女がこちらに気づき、こちらをじっと見つめ返す。

 

「あなたは変身しないのですか?」少女が呟く。その声は、まるで少女が自分の目の前で言ったかのようにハッキリと聞こえた。

 

「宏太?どうしたの?」薫が立ち止まっていた俺を不思議そうな顔で声をかける。

 

「いや、あそこに外国の子が居てさ――――あれ?」その少女のほうに指をさそうと再び視線を戻すと、先程までいた少女はまるで幽霊のように消えていた。

 

「外国の人なんて見えないけど、疲れてるの?」

 

「いや、居たはずなんだけど」頭をボリボリと掻きむしる。確かに少女は居たはず。でも、跡形もなく消えてしまった。まるで煙か幽霊のように。

 

頭を軽く振って、思考をクリアにする。ここ最近疲れがたまっていたのだろう。きっと幻覚か何かだ、そう片づけることにした。

 

「きっと疲れてるんだ。薫、帰ろうか」

 

「うん」薫が頷く。そうして視線を下げた薫の顔が、突然強張る。

 

「宏太、手―――」

 

「手?」薫の視線の先にあるのは俺の右手だ。右手を見ると、制服の袖部分が血で濡れていた。制服の袖を急いでたくし上げる。

 

「なんだこれ。なんかで切ったのか?」でも、血が流れているのに痛みがない。傷もなく、ただ左腕に腫れ物が出来ていた。でも、それはまるで紋章のような奇異な形の腫れ物だった。腫れは右手の甲から右ひじ付近まで伸びており、まるで龍のようにも見えた。

 

「何かわからないけど、痛みはないから大丈夫だ。大丈夫、気にするものじゃない」

 

「う、うん」血を見て気分が悪くなったのか、薫はうつむいたまま黙ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薫を家に送り、宏太は一人実家に帰った。

 

サーニャは仕事の関係で基本家にはめったに帰らない。だから家の住人は基本宏太だけだ。

 

食事と洗濯そして風呂を済まし、既に時計の針は8時前に差し掛かっていた。

 

スマートフォンのロック画面を解除し、無料通話アプリを起動する。

 

そこには数件の通知が来ていた。その上にはクラスで一番の友達の若野から通知が来ており、内容を確認しようとタップする。

 

「面白いもの見つけたから見せてやる。8時半に戸崎病院に来いよ」と、たった一文だけだった。

 

若野と一動の二人はかけがえのない友人で、その友人の誘いを断るわけにもいかないし、何よりも今は暇だ。暇つぶし程度の思いで戸崎病院に行くことを決断する。

 

それに戸崎病院はすぐ近くに建っている廃病院だ。十数年前まで開業していたらしいが、医院長の失踪や看護師や患者の死亡事故など色々な悪いことが重なり、廃れたらしい。それ以来戸崎病院のとある一室に失踪した医院長が現れるとか、とある病室の一室からうめき声が聞こえる、なんて心霊スポットになってしまった。

 

有名すぎて市外から来る心霊スポット巡りの客やテレビ番組の取材が訪れたこともあった。

 

所有しているマウンテンバイクに跨り、戸崎病院に向けて漕ぎ出した。

 

 

 

病院に着くなり、病院の出入り口に見覚えのある少女が居た。

 

あの時、殺人現場の前に居た少女だ。

 

「あ、あの時の――――」

 

「あなたはあの時の人。何故、ここにいるのですか?ここは危険です。悪いことは言いません、早く帰りなさい」

 

「いや、若野に呼ばれたから来ただけでさ」

 

「ご友人がここにいるのですか!?何故止めなかったのですか!」突然、怒鳴り声を上げる少女に宏太は反論しようとしたが。

 

ガシャーン、何か大きなものが倒れた音が病院から聞こえた。

 

「この感覚、翼主か!」少女がよく分からない単語を叫び、病院内に侵入していった。

 

「なんなんだ、あの子」若野に電話を掛けるが何度も掛けても若野は電話に出ない。戸崎病院は山の中にあるから電波が届きにくいだけかもしれない。でも、若野が心配だ。

 

「俺も入るか。まったく―――」病院に一歩踏み出そうとしたとき、「宏太!」

 

薫の声だった。俺は声の方向に振り替えると、そこには薫が自転車を引きながらこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「薫!どうしてここに?」

 

「若野君に呼ばれて、宏太も?」

 

「あぁ、でもさっきから電話に掛けても出なくてさ。今から入ろうと思ってたんだ」

 

「それなら私も行ってもイイ?私も家に出る前からずっと若野君に電話掛けてるんだけども出なくて」

 

「まぁ、若野ことだからどこかに隠れて俺達を脅かそうとしてるんだな」以前にもこんな事があった。アイツは昔から悪戯が好きな奴で、何度も悪戯をされたことがある。

 

帰る選択肢もあったが、若野を一人放置して帰るわけにもいかない。となると若野を見つけるしかない。

 

「若野を見つけてさっさと帰ろう」

 

「う、うん・・・・でも、ここ幽霊が出るて噂だよ?」

 

「幽霊なんて居るわけないだろ。そんなあり得ない存在」という宏太も魔術師という非現実的な存在だが、死人がこの世に留まるわけがない。

 

幽霊なんて見たこともないから信じる気はないし、もし居たとしても魔術を使って燃やすだけだ。

 

不安な表情の薫を連れ、廃病院に侵入する。

 

廃病院に侵入した途端、視界がグラつく。まるでジェットコースターを何回も乗ったかのような気分になり、胃から吐き気が上がってきたが、それを何とか堪えた。

 

病院の壁には何か黒い靄のようなものが張り付き、床は赤色の液体が付着している。

 

「何だよこれ・・・・」

 

「え?どうかしたの?」

 

「薫、壁に張り付いているの見えないのか?」

 

「何も見えないけど・・・」

 

「疲れているのかな」瞼を閉じて頭を軽く振り、再び目を開けるとその靄や液体は見えなくなっていた。

 

疲れているだけだ、そう答えを出すと再び歩き出す。

 

「若野~!若野~!」大声を上げながら院内を歩き、階を上がってゆく。

 

 

 

「あの携帯、若野君のだよね」それは5階の廊下を歩いている最中だった。

 

薫の言葉で立ち止まり、薫の視線のある方向に目を移すと廊下の真ん中にポツリとスマートフォンがおいてあった。

 

「本当だ。これ若野のスマートフォンだ・・・じゃあ、アイツはこの階に居るかもしれない。薫、若野を探そ―――」後ろを振り向いた瞬間。薫から十数メートル離れた所で影が揺らぐ。咄嗟にライト代わりにしていたスマートフォンの光を影に照らしたが、そこに居たのは人ではない異形の怪物だった。

 

「qr:w!!b4q!!!t6.!!!」怪物は人語ではない何かを叫び、胴体から生えていた手を挙げていた。

 

「薫!」足が勝手に動き出す。立ち竦んでいた薫の手を強引に引っ張り、怪物から逃走を図る。

 

アレに捕まったら殺される。だから逃げなきゃ。

 

逃げること以外に何も考えられず、足をひたすら動かす。

 

どこをどう逃げてきたのか、気が付くと1階のメインロビーまで逃げてきた。

 

「何なんだよ―――――アレ」はぁはぁはぁと喘ぎ、自分の行動に後悔を感じる。

 

外で若野を待っていれば良かった、あんなバケモノがこの町に住んでいるなんて。

 

そもそもアレはいったい何なんだ。

 

「はぁ・・・・何だったんだ、さっきの・・・」乱れた息を整えながら、先ほどの光景を思い出す。

 

見てはいけない何か、それだけは確かだった。

 

真夜中の廃病院の廊下に突如として現れた異形の怪物。思い出せるのはそれだけである。

 

でも、そのバケモノの後ろから何かが居た気がする。

 

「人が居た気がする・・・・」それがどんなのかは思い出せない。

 

正直、アレから逃げることで精一杯で後ろの存在など確認する余裕もなかった。

 

「ここまで逃げたから安全だな。薫」

 

「はぁはぁはぁ・・・う、うん」二人で一息つこうとしたとき。

 

「qr:w!!qr:w!!3qjt@えqえyq@!」その声は上からした。

 

天井が崩れ、上から先程の怪物が現れる。

 

「b4qqr:wh;3qjt@6tdふlc4q@」

 

「あぁあぁ――――」声がうまく出せない。思考が停止し、何も考えられなくなる。

 

漠然と、これで死ぬんだ、と感じた。

 

「b4q6j56えdc4q@6えdc4q^@qえh0p\vsq^@qえ」怪物の口が開き、鋭く強暴な歯が露になる。

 

「h0p\!」怪物の手が大きく上げられ、力一杯に宏太達に振られた。

 

この巨大な手で俺達は押しつぶされるんだろう。

 

それは何となくわかった。

 

そして、奴に食われるんだろう。

 

死ぬて、こんな何も感じないんだ。

 

理解出来なかった。

 

何も悪いこともしてないのに、こんな惨い殺され方しないといけないのだろう。

 

・・・・・ふざけてる。信じたくない。

 

生きていたい、死にたくない。

 

俺は生きて義務を果たさないといけない。

 

死んだら義務が果たせない。

 

奇跡があるとするなら何でも言うことを聞くから力をくれ。

 

薫を守りたい。生きたい。

 

「嫌だ!こんな所で死んでたまるかーーーー!!!」

 

 

 

 

 

「え?」

 

「なに・・・・・!?」

 

そして本当に奇跡は起きた。

 

眩い光の中、それは宏太達の目の前に現れた。

 

思考が停止し、何も考えられない。ただ、目の前に居る騎士があの少女であることだけ判る。

 

ギイイイン。と、宏太達に振り下ろされた凶悪な爪を跳ね返す。

 

「6j55え;えq@Zqt!」

 

怪物の一振りを振り払い、少女が手にしている剣が一閃する。

 

火花が散った。少女の一閃は、巨大な怪物を意図も容易く建物の外へと吹き飛ばした。

 

怪物を吹き飛ばし、少女はこちらを振り向く。

 

 

 

先程まで風など吹いてもいなかったのに、突如として建物内に強い風が吹き荒れる。

 

月の光が少女を照らす。月光が少女が身に纏う鎧を照らす。

 

それは騎士の姿をした少女。

 

「――――――」何も声が出ない。驚きではない。ただ、目の前の少女が可憐で、声を失った。

 

サファイヤのような瞳の少女。瞳をじっと見据えると。

 

「あなたが私のマスターですね」精悍な声で言った。

 

「マ、マスター?」何を言っているんだろう。彼女は一体何者なんだろう。

 

今判るものとすると、この目の前の少女は先ほどの少女であることだけ。

 

「英霊アーサー、あなたの声に従い参上した。マスター、変身してください。生き残るにはそれしかない」死の恐怖も絶望も全て消し去ってしまう程の奇麗な少女。そして二度目の声。

 

マスター、変身、その単語を聞いた途端。

 

「痛っ!」左手全体に痛みというよりも電気が走るような感覚に襲われる。思わず、手を抑えようとすると右手に一枚のカードを握っていたことに気づく。

 

そのカードはまるでタロットの占いで使われるようなカードだった。

 

イラストには、剣を握る一人の騎士の絵。

 

腰には変なベルトが巻かれていた。

 

「4t@t@####!!!」外からあの怪物の叫び声が聞こえる。

 

「マスター、時間が―――あり―――ませ―――ん。変――――身を!」少女の声が突然途切れ途切れに聞こえると。少女の足が少しずつ消えていくのが見えた。

 

「私が―――消えれ――――ばあなた――――達は死んで――――しまう!変身を!」

 

現状が良く分からないが、死にたくない。

 

そうなると少女の声に従うのみ。

 

宏太は立ち上がり、ベルトのバックル部分にカードを挿入する。

 

幼いころに見ていた特撮ヒーロー番組で主人公が正義のヒーローに変身するポーズと同じようなポーズを真似し、その場で一呼吸する。

 

「変身!」カードを挿入していたホルダーの部分を引っ繰り返した。

 

周囲に風が巻き起こり、目の前に居た少女が粒子となって消えるとその光が宏太の全身を覆う。

 

得体も知れない光なのにとても温かい。

 

全身から力が湧いてくる感覚に襲われる。

 

全身の神経が研ぎ澄まされ、体の魔力が全身を這いまわる。

 

視界を閉ざし、全身から光が放たれる。

 

そして目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

そこには居るのは結月宏太という少年ではない。

 

全身が硬質な青色の鎧で覆われ、龍の様な兜を被った仮面ライダーとして変身した少年。

 

鋭く尖った緑色の目が光る。

 

力がみなぎったこの体に怖いものはなかった。一気に病院の外へと身を馳せらせる。

 

手を差し出すと今まで何もなかった空の空間に剣が現れ、それを掴む。廃病院から飛び出し、外に吹き飛ばされた怪物までの距離を一気に詰めて襲い掛かる。

 

怪物は向かってきた宏太に再び爪で一突きしようとする。

 

だがそれを払いのけ、さらに繰り出された爪の連撃の度に攻撃を弾き返し、自身よりも2倍以上大きい巨体を後退させてゆく。

 

信じられなかった。

 

先程まで逃げることで精一杯だったのに今ではこちらが圧倒していた。

 

怪物の攻撃を全て弾き返し、間髪入れずに剣での連撃を繰り出す。

 

「4t@##!!!」怪物はよほど戦いづらいのか、先程までの連撃がなくなり、防戦一方になる。

 

「今だ!」怪物が生んだ一瞬の怯み、それを宏太は見逃さなかった。大きく踏み込み、剣から繰り出される一撃を怪物の腕に叩き込む。

 

蟹の腕のように硬かった大きな腕はたった今繰り出された一撃で落とされた。

 

「3###!」怪物がつんざくような呻き声を上げたが、攻撃を繰り出している宏太にそれは次の一撃を与えるピンチとなった。

 

「次で決着をつけましょう」少女の声が頭の中に響く。

 

「あぁ!」闘い方も分からなかった。なのに体が自然と動いた。

 

そして次の一手で怪物が死ぬことも何となく分かった。

 

「風の精霊達よ、風を与えよ!光の精霊達よ、光を与えよ!」

 

両手で剣を握り、神に祈りの言葉を告げるようにつぶやく。両手で握る剣が光り、宏太の周りには風が生まれ、突風へと生まれ変わってゆく。

 

剣の封印が解かれ、剣の先端部分へと収縮する光。

 

光りと風の力を纏っているその剣はまさしく聖剣と呼ぶに相応しいものであった。

 

宏太が契約した少女はかって存在した国の王であった少女。

 

「闇を蹴散らせ!!エクスカリバーーーー!」それは一筋の光線だった。

 

触れるすべてを切断する絶対な光の刃。

 

光の刃の一刀を受けた怪物の巨体は一瞬で消滅するほどの威力だ。

 

これが街中で使われたら街は大きな傷を負うことになるだろう。

 

エクスカリバー。

 

イングランドの伝説として存在した伝説のお話。

 

少女の名前はアーサー王伝説でブリテンの王であったアーサーである。

 

風が静まり返り、体を覆っていた風と光の鎧が消失する。

 

「宏太!大丈夫!?さっきの怪物は倒したの?」

 

建物の中から見守っていた薫がこちらに走ってきた。

 

「あぁ。俺とあの子が一緒に倒したんだ」

 

「これが俺達の変身・・・」

 

消失した光が再び一つの物体として集まり、少女がそこから現れる。

 

 

「仮面ライダーガスト。それが私たちの名前です」

 

「仮面ライダーガスト・・・・そうだ、君の名前は?」

 

「私の名前はアーサーです。これからよろしくお願いしますね、コウタ」

 

 



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