死神と歌姫たちの物語 (終焉の暁月)
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第一章 始まり
第1話


このサイトでは小説書くの初めてです。書き方とかなかなか難しくて分からないけどよろしくお願いします!


登場人物紹介

 

月読命 咲夜《つくよみ さくや》 本作の主人公 過去に罪を犯しその名は嫌われているため偽名を使っている

 

宮本 奏斗《みやもと かなと》 主人公の幼馴染 同じく罪を犯し偽名を使っている

 

月読命 柏《つくよみ はく》 主人公の義理の妹 同じく偽名を使っている 兄である咲夜にベタ惚れ中

 

 

少年はこの世に絶望した…奪い合うだけのこの世界に

 

そんな時少年はある少女達の物語に巻き込まれていく

 

これは生きる希望を無くした一人の少年とそれを彩る少女達の物語である

 

 

 

 

 

「あ〜暇だー」

 

静かな家で俺、月読命咲夜は呟いた。俺は明日から『羽丘学園』という学校に入学することになっている。

去年までは女子校だったらしいが入学者が減ったため共学化したらしい…しかも聞いた中では男子は俺と俺の幼馴染を除いて他にいないとの事、地獄じゃねぇか

 

「暇なら一緒に出かけませんかお兄様?」

 

そんなことを言いながら部屋から出てきたのは妹の月読命柏だった。妹とは言っても血は繋がっていない

 

「出かけるっつってどこ行くんだよ?」

 

「あるライブハウスでガールズバンドのライブがあるんです!なのでそこに行きませんか?」

 

バンドねぇ…バンドに対しては思い出もあるしたまにはいいかな?

 

「しゃあねぇ行くか」

 

「ありがとうございますお兄様!」

 

「抱きつくな暑苦しい!」

 

「いいじゃないですか!」

 

こうして俺はライブハウスに行くことになった

 

________________________

 

 

「着きましたよ。ここがライブハウスのCIRCLEです」

 

「人がいるなぁ」

 

俺は基本心を開いた人としか話さない。なのでこういった所ははっきりいって嫌いなのだ

 

「嫌…でしたか?」

 

「ん?あぁごめん。せっかく連れてきてくれたんだしこんな顔したらダメだよな」

 

「ごめんなさい…」

 

「気にするな。そう言えばどんなバンドが出るんだ?」

「今日は"Roselia"と"Afterglow"が出るのですがRoseliaは相当なものですよ。昔の私たちほどではありませんが」

 

チケットを買って中に入煩く感じるほどに盛り上がっていた。まずはAfterglowかららしい

 

「今日は来てくれてありがとうございます。聞いてください"That is How I Roll!"」

 

なかなかなものだった。次はRoseliaだ

 

「結構驚くと思いますよ?」

 

柏が言うのなら確かなのだろう…そして演奏が始まると俺は言葉を失ってしまった

 

「凄いな…」

 

「最近お兄様の元気がなかったのでこれを見てあの頃を思い出して欲しかったんです」

 

「ありがとう」

 

えへへ…///」

 

そして演奏が終わった

 

「ファミレスでも寄っていくか」

 

「そそうですね。では行きましょう!」

 

胸の高鳴りはまだ治ってなかった



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第2話

なんだか最近ガルパガチャ運なさすぎる気が...


「さて、何食べる?」

 

俺たちは今ファミレスに来ていた

 

「私はこのチーズインハンバーグにしますね」

 

「じゃあ俺は若鶏のグリルかな」

 

俺が呼び出しボタンを押そうとすると店員さんが来てくれた。エスパーなのか?すると

 

「申し訳ありませんお客様。ただいま別のお客様が来ておりまして相席になってしまいますがよろしいでしょうか?」

 

「向こうがいいならいいですよ。お前もいいか?」

 

「構いませんよ。せっかくお兄様と二人きりだったのに…

 

「ありがとうございます」

 

そう言って店員さんは呼びに行った。面倒くさいやつじゃなきゃいいが…てか柏がめっちゃ機嫌が悪いんだけど

 

すると相席となる人達がやって来た…のだがその人物は俺が驚くには充分だった

 

「お邪魔するわ」

 

「あっどうも」

 

さっき演奏をしていたRoseliaだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Roseliaの人達が来たのはいいけど無言だな…人と話すのは嫌いだけど

 

「では今から反省会をやるわよ」

 

ボーカルの人がいきなりそんなことを言い出した

 

「えっ俺らがいるのにそんなことやっちゃって大丈夫ですか?」

 

「だってさっき貴方ライブに来ていたでしょう?」

 

何故分かった。するとギターの人が

 

「髪の色ですぐに分かります」

 

と言ってきた

 

ちなみに俺も柏も髪は真っ白、確かに分かりやすいかもしれん

 

「それに客観的な意見も聞いておきたいわ」

 

「…分かりました。」

 

俺がそれぞれの良かったところ悪かったところを指摘すると皆驚いていた。柏も少しだけミスを指摘していた。まだ機嫌が悪いけどどうしたんだ?

 

「貴方…一体何者なの?」

 

「確かに…自分たちでは把握できなかった部分まで、お名前をお聞きしても?」

 

ギターの人が名前を聞いてきたので俺は普段使っている偽名を名乗った

 

「神道翔《しんどうしょう》です」

 

「妹の神道花梨《しんどうかりん》です」

 

「「!?!?」」

 

ボーカルとギターの人がめちゃくちゃ驚いていた

 

「貴方が…まさかあの?」

 

「へ?友希那知ってるの?」

 

ベースの人がボーカルの人に聞くとギターの人が説明をした

 

「彼らは三年前“FWF”で優勝をした“Xahar”のメンバーよ」

 

「「「えぇ!?」」」他の三人も驚いてるようだ。テイウカバレタ

 

「ご存知だったんですね俺らのこと」

 

「勿論よ。私はあの演奏をテレビで観ていたもの」

 

「そして神道君に頼みたいことがあるの」

 

「何ですか?」

 

「Roseliaのマネージャーになって欲しいの」

 

俺の脳内に爆弾がおとされた。しかし俺は

 

「お断りします」

 

「何故かしら?」

 

「今の俺にそんなことをする資格はない。ですがこれだけ言っておきましょう」

 

「何かしら?」

 

「今の貴女たちには絶対的に足りないものがある。もしFWFに出るつもりならそれを見つけ改善することですよ」

 

「分かったわ。必ず貴方たちを越えて見せる」

 

「楽しみにしてますよ」

 

そう言って俺らは席を立ち会計を済ませた

 

「よかったんですか?」

 

「何が?」

 

「その、今まで生き甲斐を見つけることができなかったお兄様がやっと道を見つけたのかと思ったのですが」

 

「俺にそんな資格はない。本来なら生きることも許されてない。俺は生かされてるだけだ」

 

「そんなことは…」

 

「俺は今を生きる、これからも宜しくな柏」

 

「はい!」

 

「だから抱きつくな!」

 

お兄様の鈍感...

 

「何か言ったか?」

 

「何でもありません!」

 

「えぇー」

 

 

 

次の日

 

「さて、今日から学校か…面倒くさ」

 

「おはようございます」

 

「おはよう柏。寝癖凄いことになってるぞ」

 

そう言って柏の頭を撫でる

 

「ふぇ///」

 

「朝飯作るから待っててくれ」

 

「...分かりました///」

 

 

十分後

 

「できたぞー」

 

今日の朝飯は食パンにスクランブルエッグと味噌汁だ

 

「いつもありがとうございます。私もこれくらいできればいいのですが...」

 

「気にするな。お前にはいつも救われてるお礼だ」

 

「...分かりました」

 

「食べたら行くぞ」 ピンポーン

 

「?誰でしょうか?」

 

「あぁ、多分あいつだろう...」

 

「出てきますね」

 

「頼む」

 

「はーいどうぞー」

 

「お邪魔するぞー」

 

「来たか奏斗、飯できてるからお前も食え」

 

「咲夜の飯だよっしゃー!」

 

俺の家に来たのは幼馴染の宮本奏斗。俺の本名を知っている数少ない人物だ。ちなみにこいつも偽名を使っている

 

「そこまで大袈裟にしなくてもいいだろ...」

 

「だって美味いし、それより学校大丈夫か?偽名で通せたか?」

 

「まぁ理事長が俺の親戚だし大丈夫だろ。うちの財力舐めんな」

 

何を隠そう俺の家は世界の財閥トップ5通称ゴッドファイブのトップ月読命財閥である

 

「爺さんには言ったのか?」

 

「婆ちゃんに頼んどいた。一応大丈夫だ」

 

「なら良し。俺ら入学式で何か言わなきゃいけないんだろ?早くしようぜ」

 

「そうだな」

 

俺たちはさっさと飯を食い学校に向かった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

奏斗side

 

俺たちは今咲夜の家を出て羽丘学園に向かっている。ちなみに柏は中等部に編入だ

 

「学校か...楽しめるといいな」

 

俺がそう言うと

 

「俺は生きてる意味がないからな...適当に過ごすよ」

 

「っ!」

 

幼馴染としてそれは一番辛い。咲夜には昔から世話になってるしもっと前向きに考えて欲しい。俺と咲夜は子供の頃重い罪を犯し世間から非難を受けた。どれもこれも原因はそれぞれの親であり親が捕まった際親戚は誰も庇ってくれなかった。その時俺たちは世界の残酷さに気付き咲夜は感情を失った。

 

「...お兄様

 

ほら見ろ柏も悲しそうな顔してるじゃねぇか

 

「お前また柏を泣かせる気か?」

 

「...ごめん」

 

俺の目標は咲夜に生きる道を見つけさせることだ。俺は人に迷惑をかけた分人を楽しませて生きたいと思う。そのためにバンドも組んだのだから...

 

「次柏を泣かせたら許さんからな」

 

「分かってる」

 

こいつは前に同じことを言って柏を泣かせたことがある。柏は咲夜に生きる道を見つけて欲しくて頑張ってたのにそれを無駄にするようなことを言ったのでとりあえず殴った

 

「最低限正体がバレないようにしないとな」

 

「そうですね。お兄様たちは入学式で何か言わなきゃならないのですから急ぎましょう」

 

「だな」

 

俺たちは早足で学校に向かった

 

 

 

柏side

 

私たちは家を出て学校に向かっている。お兄様と奏斗さんは羽丘学園の高等部に入学するので私はそこの中等部に編入だ。

 

「学校か...楽しめるといいな」

 

奏斗さんがそう言うとお兄様は

 

「俺は生きてる意味がないからな...適当に過ごすよ」

 

と言った

 

思わず私は泣きそうになってしまう。前に同じことを言われ私はお兄様に抱きついて泣いたことがある。お兄様に生きる道を見つけて欲しくて頑張ったのにそう言われたことに悲しくなってしまったから。その時は奏斗さんが思いっきり殴っていた

 

「お前また柏を泣かせる気か?」

 

「...ごめん」

 

私の目標はお兄様に生きる道を見つけてもらうこと。これは奏斗さんと約束したことだ。どんな手を使おうとこれだけは譲れない

 

「次柏を泣かせたら許さんからな」

 

「分かってる」

 

「最低限正体がバレないようにしないとな」

 

「そうですね。お兄様たちは入学式で何か言わなきゃならないのですから急ぎましょう」

 

「だな」

 

私は改めて目標を達成させる決意を固めた

 

 

咲夜side

 

「着いたな。じゃあ柏、また後でな」

 

「はい。お兄様も頑張ってくださいね」

 

「あぁ」

 

まずは理事長室に行かなきゃならない。場所は...彼処の銀髪の人に聞いてみるか

 

「スミマセーンちょっといいですか?」

 

「何かしら...って貴方神道君!?」

 

「みっ湊さん!?」

 

「なんだサク...翔知り合いか?」

 

「この前花梨にガールズバンドのライブに連れてかれてその時演奏していたバンドのボーカルだ」

 

「あーそれ俺も行ったわー。Roseliaの友希那だろ?」

 

「貴方は?」

 

「妹尾琉太だ」

 

「!?てことは...貴方もXaharのメンバーなの?」

 

「なんだ知られてたのかよ」

 

「帰りに花梨とファミレス行ったら相席になってな、感想言って名前聞かれたんで答えたらバレた」

 

「男子生徒が入るって聞いたけど貴方たちだったのね。それでどうしたのかしら?」

 

「理事長室に行きたくて、場所が分からなくて...」

 

「それなら昇降口入って右に奥に行った方にあるわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「湊さんは二年ですか?」

 

「そうよ。貴方たちは一年なのね」

 

「はい」

 

「少し神道君と話がしたいのだけど...」

 

「いいですよ。琉太先に行っててくれ」

 

「分かった」

 

「それで話とは?」

 

「この前貴方に言われた言葉...あの意味が頭から離れないのよ」

 

「Roseliaに絶対的に足りないもの...ですよね?」

 

「えぇ」

 

「まぁ難しい問題でしょう。少しだけヒントを教えましょうかね」

 

「Roseliaは結成されてからあまり日が経ってないんですよね?」

 

「まぁそうね...」

 

「確かに全員の目標はFWFに出ることかもしれない。だけどそれだけでは叶わない」

 

「どういうことかしら?」

 

「これ以上は言えません。後はご自分でお考えください」

 

「ありがとう。最後に一ついいかしら?」

 

「なんでしょう?」

 

「これからたまに私たちの練習に付き合って欲しいのだけど...」

 

「それほぼマネージャーになってと言ってるのと同じですよね?」

 

「ごめんなさい...でも貴方がいると成長できると思うの」

 

「まぁいいでしょう。その代わり無駄だと思えば一生行きませんよ」

 

「構わないわ。ありがとう」

 

「頑張ってくださいね」

 

「それと...私のことは名前で...

 

「はい?」

 

「わっ私のことは名前で呼んで欲しいのだけど///」

 

「?いいですよ。これからよろしくお願いします友希那さん」

 

「よろしく翔」

 

「では僕から一つ忠告しておきます」

 

「何かしら?」

 

「あのギターの人、氷川紗夜でしたっけ?あの人は注意した方がいいですよ」

 

「何故?」

 

「心に深い“(悩み)”を抱えている」

 

「...分かったわ」

 

「ではまた」

 

「えぇ」




いつの間にかUAが500超えてる...ありがとうございます!


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第3話

最近やることがなくて困っています

東京喰種のアニメ見るくらいしかない

まぁ後はガルパとre:invokeだけだね


「すまん遅れた」

 

「別にそこまで待ってねえよ。何話してた?」

 

「この前彼女らには絶対的に足りないものがあるって言ったんだよ。それについて少しアドバイスした」

 

「やっぱお前も分かっちゃうよな...」

 

俺たちがRoseliaに足りないものと言ってること...それはメンバーのお互いの信頼感だ。彼女たちは結成して日が浅いらしい。特に湊と氷川はどうせ馴れ合いはいらないとか言ってんだろ

 

「目標は同じなのにメンバーを信じてないんじゃ意味ねえよ」

 

奏斗もどうやら俺と同じらしい

 

「んでたまに練習に付き合って欲しいと頼まれた」

 

「どうせ断ったんだろ?」

 

「一応暇な時に行くとは言っておいた」

 

「!そうか...よかった」

 

「?」

 

奏斗が随分と嬉しそうだけど何かあったか?

 

「とりあえず理事長室行くか」

 

「そうだな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

奏斗side

 

俺は入学式の日にいきなり驚くことになった。それは咲夜がRoseliaの練習に付き合うことになったことだ。今までの咲夜だったら絶対断ってたのに今回は違った...これをきっかけに道を見つけてくれればいいけどな

 

「担任はあの人なんだっけ...」

 

俺がそう呟くと

 

「そうするように手配しといた。彼奴は色々と話が長いからな...紹介が長ければドアを蹴破る」

 

「お前後で殺されるぞ...」

 

あの人というのは咲夜の姉の月読命華蓮《つくよみかれん》のことだ

 

「殺られる前に殺るだけだ。それよりまずは叔母さんに挨拶しないとな」

 

「よくあの爺さんが許可出したな」

 

「めっちゃ頼み込んだらしい...後で礼を言わなきゃな」

 

「そうだな。おっ着いたぞ」

 

目の前には理事長室と書かれた部屋があった

 

「失礼します」

 

俺たちはドアを開けて中に入った

 

咲夜side

 

「失礼します」

 

ドアをノックし開けると中には叔母の月読命瑠奈《つくよみるな》が居た

 

「久しぶりね咲夜、それに奏斗君も。とりあえず座りなさい」

 

「ありがとうございます」

 

俺と奏斗は瑠奈さんの向かいの椅子に座った

 

「改めて、久しぶりね二人とも。もう高校生なのね...」

 

「そうですね...案外早いものです」

 

「担任は言われた通り華蓮をつけたから安心してね」

 

「何から何まですみません瑠奈さん。爺さんにも無理を言って...」

 

「兄さんの説得は本当に時間かかったわね...咲夜がいると周りに迷惑かかるって」

 

「まぁ否定はできませんね。ではこれからよろしくお願いします」

 

「えぇ、貴方たちには入学式で少し喋ってもらうから」

 

「分かりました。では失礼します」

 

「頑張りなさい、奏斗君ちょっといいかしら?」

 

「なんでしょう?」

 

咲夜を頼むわよ

 

分かっています

 

「そろそろ行くぞ?華蓮に怒られるから」

 

「あぁすまん。ではまた」

 

「たまには遊びに来てね〜」

 

随分と呑気だな...瑠奈さんらしいけど

 

「これからどうすんだ?」

 

「もう全校生徒は体育館に集合してる。職員室に行って華蓮に会ってそれから向かう」

 

「了解」

 

華蓮に会うのも久しぶりだな...生きる道、見つかるのかな?

 

そんなことを考えながら俺たちは職員室に向かった

 

 

〜職員室〜

 

「失礼します、神道先生はいらっしゃいますか?」

 

「待ってたわよ二人とも、久しぶりね」

 

「久しぶり“祐奈”姉さん」

 

華蓮も俺らと同じように偽名を使っている。普段は神道祐奈《しんどうゆうな》で通っている

 

「今は他の先生もいないから素で大丈夫よ。改めて久しぶり咲夜」

 

「久しぶり華蓮」

 

「奏斗君も随分と大きくなったわね...二人ともイケメンになっちゃって」

 

「華蓮さんも随分と美人になりましたね」

 

「ふふっさぁ行こうかしら、そろそろ貴方たちの番よ」

 

「分かった。案内頼む」

 

「OKよ。着いて来て」

 

俺と奏斗は華蓮の後に着いて行く

 

「基本は自己紹介するだけでいいからね。咲夜はそもそもそれすら嫌かもしれないけど」

 

「これから三年間乗り切るためだ。致し方ない」

 

「私もなるべくサポートはするから安心してね」

 

「いつも悪いな」

 

「いいのよたまには、あんたはいつも一人で抱え込むから」

 

「そろそろ着きますよ?」

 

「よし!二人とも頑張って来なさい!」

 

「へいへい...」

 

面倒だけど仕方ないな...湊はもう知ってるだろうけど

 

 

〜羽丘学園体育館〜

 

俺と奏斗は今体育館の舞台裏で待機してる。現在瑠奈さんが入学生に軽く挨拶と話をしているところだ

 

「さて、今年から共学となったこの羽丘学園ですが新しく男子が二人入ってきました」

 

えー誰だろー?

 

かっこいいのかな?

 

 

女子たちが騒ぎ出したところで瑠奈さんが

 

「というわけで今からその二人を紹介したいと思います。出てきていいよー」

 

「じゃあ行くか」

 

奏斗に続いて俺も歩き出す。表に出たところで物凄い歓声を浴びた

 

「早速自己紹介お願いね」

 

「神道翔です。これからよろしくお願いします」

 

「妹尾琉太です。よろしくお願いします」

 

盛大な拍手を受けたところで俺たちは退場、そのまま終わりとなった

 

全員が教室に戻ったところで華蓮が来た

 

「お疲れ様、今から教室に案内するわ。貴方たちは1ーBだからよろしくね」

 

「こちらこそ一年間よろしくお願いします」

 

「それじゃあ着いて来て」

 

面倒くさい奴が居なければいいなぁ...そんなことを思いながら俺たちは華蓮に着いて行った

 

奏斗side

 

入学生での自己紹介を終え俺たちは教室前の廊下で待機している。今は華蓮さんがクラスの生徒に話をしているのだが...もう十分くらい経っている

 

「長い...早くしろよあの馬鹿姉貴」

 

咲夜はそろそろ我慢の限界のようだ。俺も流石にきつくなってきた

 

「ごめんねー話長くなっちゃった」

 

「大丈夫ですよ全然」

 

本音を言うともう三分縮めて欲しかった

 

「それじゃあ学校で二人しかいない男子がこのクラスに配属となったので入ってきてもらいまーす。どぞー」

 

華蓮さんに促されて俺と咲夜は教室に入った

 

「先程も紹介した妹尾琉太です」

 

「神道翔です」

 

「みんな仲良くしてねー」

 

この後クラスの女子から質問攻めにあったのはまた別の話

 

 

咲夜side

 

クラスの女子から質問攻めにあった後、クラスで自己紹介を済ませそこで終わりとなった。明日からは普通に授業があるらしい...なんか三、四人くらい見覚えのある人がいたけど気のせいだな

 

「この後どうする?」

 

奏斗に聞かれ俺は少し悩む

 

「そうだな...これといってやることねえな」

 

趣味も何も無い俺にとっては午前だけで終わるとやることがなくて困るのだ

 

「だよな...柏も待たせてるし三人で話し合うか」

 

「それが一番いいな」

 

俺は特に何も言わないのだが...

 

「おっあれ柏じゃね?」

 

よく見ると真っ白の長髪を靡かせて待つ柏が校門で立っていた

 

「悪りぃ待たせたか?」

 

「あっお兄様、それに奏斗さんも。大丈夫ですよ」

 

「それなら良かった。この後どっか行かないか?暇でしょうがなくて」

 

「それなら...久し振りに三人でショッピングでも行きませんか?」

 

「いいなそれ。咲夜はどうだ?」

 

「俺もそれでいい」

 

「よし、じゃあ一時ショッピングモール集合でいいな」

 

「分かりました」

 

話しながら帰っていたせいでいつの間にか奏斗の家の前に着いていた。ちなみに俺たちの家もこの近くだ

 

「じゃあまた後で」

 

「おう」

 

奏斗と別れ家に帰る。一時集合だから昼飯食った方がはやいな

 

「昼飯なに食べたい?」

 

「なるべくあっさりしたものがいいですね」

 

「そうだな...少し早い気がするけど冷やし中華でいいか?」

 

「はい。材料はあるのですか?」

 

「問題ない。野菜切るの手伝ってくれるか?」

 

「勿論です」

 

「じゃあさっさと帰って準備するぞ」

 

「分かりまし...何処からか声聞こえませんか?」

 

「...あぁ。声の種類からして男三人に女二人、おそらくナンパだろう」

 

「どうしますか?」

 

「昔の罪滅ぼしにはならんだろうが殺るか」

 

そう言って声のした路地裏に近づいていく。案の定女子高生二人が男三人にナンパされてた

 

「あの〜少しいいですかね?」

 

「あん?なんだ兄ちゃん、可愛い子まで連れて何のようだ?」

 

「ちょっとこの先にあるものに用がありましてね」

 

「なんだそんなことか...とっとと通れ」

 

ナンパされてた女子高生が悲しそうな顔してるが今助けるから勘違いすな

 

「いいか、今みたことは絶対に言うんじゃ...」

 

俺は一瞬で男の首に手刀を撃ち込む

 

「なっ!?テメェなにしやがった!」

 

他の二人が怒って突っ込んできた。目の前で仲間がやられたのにアホなのか?

 

「失せろ」

 

左足を軸にして二人の顎に回し蹴りを喰らわせる

 

「がはっ...」

 

二人とも気絶したようだ。とりあえず女子高生二人に無事か確認する

 

「二人とも大丈夫ですか?」

 

「えっえぇ...ありがとう」

 

薄い黄色の髪をした女の子が礼を言う。なんかどっかで見たことある気がする...

 

「あっありがとう...ございます...」

 

続いて水色の髪の子も例を言ってくる。こっちは男慣れしてなさそうだな

 

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。花梨、連絡済んだか?」

 

「今終わりました。書き置きもしておくので大丈夫です」

 

「ありがとう」

 

「その制服...もしかして羽丘学園の方ですか?」

 

「あっはい。そちらは...何処ですか?」

 

「花咲川女学園の白鷺千聖です」

 

白鷺千聖...思い出した

 

「どっかで見たことあるなと思ったら女優の白鷺千聖じゃん」

 

「えぇそうよ。花音、貴女も」

 

「えっと...松原花音です」

 

「神道翔です。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ松原さん」

 

「妹の神道花梨です」

 

「先程は本当にありがとうございました」

 

白鷺さんが頭を下げ礼を言う。しかしまだ警戒しているようだった。それもそうだな...見知らぬ男三人に襲われたんだし、それに足もまだ震えている

 

「たまたま通りかかっただけなので大丈夫です。怪我などはありませんか?」

 

「大丈夫よ。ではまたどこかで」

 

松原さんを連れて行こうとしたが

 

「その状態でどこへいくつもりですか?」

 

柏がいつもより冷たい声で言い放った

 

「っ...どういうことですか?」

 

「その震えた足でどこに行くのか聞いているんです。それにまだ私やお兄様を信じれていないのでしょう?」

 

「それは...」

 

確かに柏の言うことは最もだ。俺たちを信用できないのも当たり前だ。何故なら...

 

「今までにも何度かこう言うことがあったのでしょう...女優という立場から相手の見る目は全てそちらに向いてしまい自分自身を見てくれない」

 

柏ってこういうの見抜くのホントに得意なんだよな...エスパーか何かか?

 

「お兄様、何か失礼なことを考えてそうなので後で少し話しましょうか?」

 

「さらっと心読まないでくれるか?」

 

こいつは読心術まで持ってんのか?とりあえず柏の後に続いて俺も話す

 

「松原さんは貴女を初めて一人の女子高生だと見てくれた人なんだろう?」

 

「えぇ...」

 

彼女の目は涙でいっぱいだった

 

「確かに立場上そういったことはあるだろう。でも全員が全員そうじゃない。俺たちもそうだ。貴女は一人の女子高生、白鷺千聖。そう見る者もいることを貴女は知れたんだ」

 

そう感じる感情もないからどうしようもないけどね

 

「うぅ...うわあああぁぁぁん!」

 

我慢の限界が来たのか彼女は俺に抱きついて泣いた。聞いたところ彼女はアイドルもやっているので見つかればスキャンダルだけど...

 

「泣きたい時は泣けばいい。受け止めてくれる人は必ずいる」

 

「真剣に話をした方が良さそうですねお兄様」

 

「何故に?」

 

なんだか柏がめちゃくちゃ怒ってるけどどうした?

白鷺さんの声は静かな路地裏に響いていた




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第4話

Anfang最高!


「ごめんなさい...取り乱してしまって」

 

白鷺さんが赤くなった目で俺に謝る。その目は心の底から信じてるという感じの目だ。信じるって馬鹿馬鹿しい...

 

「大丈夫ですよ。少しでも楽になれたなら良かったです」

 

とりあえず表面上は優しく接しておく

 

「この後時間があればお礼をしたいのだけど...」

 

と白鷺さんが提案してくる。しかしこの後は奏斗や柏との約束があるので断らなければならない。元より行くつもりはないが...

 

「ごめんなさい、この後は予定があるので」

 

「そう、ではまたの機会に」

 

だから行かねえよ?

 

「すみません。ではまた今度どこかでお会いしましょう」

 

「えぇ。では行きましょう花音」

 

「うっうん。あの...ありがとうございました」

 

「貴女も気をつけてくださいね。可愛いんですから」

 

一応忠告しておく。可愛いのは事実だしまた襲われるかもな

 

「ふえぇぇ...///」

 

なんか顔赤くしてるけど大丈夫か?そんなことを考えてると柏に足を踏まれた。痛い

 

「お兄様には三時間程お話が必要らしいです」

 

そしてこいつは何故に怒っているのだ?感情を持たない俺にとって他人の感情を読むことは難しい

 

「お兄様には到底分からないことですよ!」

 

キレられた。こうなると手が付けられない...

 

「すまん。後でなんでもするから許して欲しい」

 

そう言うと柏は悪魔のような笑みを浮かべた。ヤバイ

 

「言いましたねお兄様?“何でも”ですよ?」

 

もうこれは腹を括るしかなさそうだ

 

「それより今何時?」

 

すっかり時間を忘れていたがこの後は奏斗と約束がある。一時に集合だからあまりもたもたしてられない

 

「えっと...12時30分!?」

 

「はぁ!?」

 

緊急事態発生。俺の家からショッピングモールまでは走って十分程かかる。そしてこの場所から家までは走って五分かかってしまう。さらには昼飯も食わなきゃいけない

 

「とりあえずコンビニ行くぞ!」

 

「はっはい!」

 

俺たちは全速力でコンビニへ向かいサンドウィッチとおにぎり買って自宅で食べた。そして外出用の服に着替えて家を出た。現在の時刻は12時55分、少し遅れるが仕方ない

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

奏斗side

 

「あいつら遅えな...何やってんだ?」

 

咲夜も柏もこういった約束事で遅れることはほとんどない。可能性としては何か厄介ごとに巻き込まれた、くらいかな?

 

そう考えてると案の定五分ほど遅れて走ってくる二人の姿があった

 

「ハァ...ハァ...すまん遅れた」

 

「大丈夫だ。大して待ってない」

 

「...死ぬ」

 

柏はめっちゃ息を切らしてる。それもそうだろう。咲夜は小さい頃から色々とハイスペックなのだ。柏も相当なものだろうけど、やはり咲夜には勝てんだろう

 

「奏斗は飯食ったか?」

 

もうこいつ息整ってるし...どういう体力してんの?

 

「いつも通りコンビニで済ました。それよりお前らが遅れるなんて珍しいな」

 

「誰かがナンパされてたんでちょっと助けてきた」

 

「あっ俺も」

 

「奏斗さんもですか...それにしては早くありません?」

 

「遅れないために早めに出たからな。まぁこの程度じゃ昔の罪滅ぼしにはならんけど」

 

「そうだな」

 

「それより早く行こうぜ。何から見る?」

 

「洋服屋行きたいです」

 

「じゃあそこ行くか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

柏side

 

私は今お兄様と奏斗さんと一緒にショッピングに来ている。三人で来るのは本当に久しぶりだと思う

 

「なんだか久しぶりですね。こうやって三人で何処かへ遊びに行くの...」

 

「そうだな。中学はバンドで忙しかったからな」

 

「まぁなんだかんだ言ってあの頃が一番楽しかったな。生きてるって感じられた気がする」

 

「「!!?」」

 

急にお兄様がそんなことを言い出した

 

「どうした?二人して驚いたりして」

 

「いや...その...」

 

「あの咲夜からそんな言葉が出て来るなんて思ってなかったからな」

 

「いくらなんでも失礼すぎるだろうが。流石に楽しいという感情はあるぞ?」

 

「「エェ!?」」

 

「ぶっ殺すぞテメェラ」

 

はっきり言ってお兄様に感情があるとは今まで思ったことはない。誰かが不幸にあってもなんとも思わない。特に他人の死に対してはそれがなんだ?という感じだ。感情は自分を苦しめるものとしてお兄様はそれを捨ててしまった

 

「まぁ相手の感情についてはなんとも言えんが」

 

何にせよ今までしてきたことは無駄ではなかったようで良かった

 

「さて、来たはいいものの...何これ?」

 

洋服屋の中にはすごい量の服が置かれていた

 

「こんだけあるとどれがどれだか分からなくなりそうだな」

 

「そうですね。とりあえず私は自分の服見て来ますね」

 

「了解」

 

「俺たちはどうする?」

 

「春用の服があまりないことに気付いてな。俺も見ようかと」

 

「奏斗が見るなら俺も見るとしよう」

 

どうやらお兄様たちも見るようだ。お兄様に褒められるようなコーデ考えないと...

 

私はそう思いながら服を選んだ

 

咲夜side

 

二人とも服を選ぶらしいので折角だし俺も選ぶことにした

 

「流石に夏用はまだ売ってねえか...春用はまだあるからいいんだけどな」

 

去年着ていた夏用の服が小さくなってしまったので折角だし買おうと思ったのだが流石に時期が早すぎたようだ

 

「こればっかりは仕方ないな...今度柏に選んでもらおうかな」

 

柏のコーディネートはプロのモデル並のセンスを持っている。たまに街を歩いているとモデルですか?と聞かれるくらいにえげつない

 

「あいつ将来モデルなれるんじゃねえかな」

 

「お兄様!今から試着するので見ていただけませんか?」

 

「分かった。今行く」

 

柏のコーディネート楽しみだな...

 

柏side

 

試着するから見て欲しいと頼んだらすぐに了承してくれた。今回は結構自信がある

 

「ジャーン!」

 

私がカーテンを勢いよく開けるとお兄様は、お〜と返してくれた。

 

「すごい似合ってるぞ。可愛いよ」

 

「あっありがとうございます...///」

 

お兄様は感情がないので無意識に女性が恥ずかしがることを平気で言ってくる。恥ずかしいけれどとても嬉しい

 

「もう一着あるのでそちらの方もお願いできますか?」

 

「構わんぞ。楽しみにしてる」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

私はカーテンを閉めて用意していたもう一つの組み合わせを着る

 

実はこちらの方が私は気に入ってる。これで否定されたら立ち直れないかもしれない...

 

「どっどうですか?」

 

「さっきのより全然いいと思うぞ?やっぱお前えげつねえコーディネートセンス持ってんな」

 

「そっそんな...///」

 

「折角だし両方買うか。それよこせ」

 

「いっいくらなんでもお兄様に悪いです!自分で買います!」

 

「どうせ俺には生きてる意味(金の使い道)がないからな、それに柏にはなにかと世話になってる。たまにはこういうのも大事だと教わっている」

 

「...分かりました」

 

「他に欲しいものはあるか?」

 

「特にはないですね。後は今日の晩御飯の材料を買うくらいですかね」

 

「そうだな、奏斗も待たせてるだろうし会計済ましてくるわ」

 

「お願いします」

 

私はずっと前から叶うはずのない想いをお兄様に寄せていた。それはお兄様に対する恋心だ。だがお兄様は私を家族として見ている

 

「...でも、諦めたくない」

 

いつの間にか私の声は涙ぐんでいた。視界もぼやけていて前が見えない。そんな時

 

「おーい花梨どうしたー?」

 

奏斗さんがやってきた。私を偽名で呼んだ理由はどうやら奏斗さんのそばに人がいたからだろう...

 

「琉太さん...」

 

「かっ花梨?お前なんで泣いてんだ?」

 

「えっ?」

 

慌てて自分の頬を触ってみるとかすかに濡れていた

 

「あれ?なんで...すっすみません」

 

「あの...よかったらこれを」

 

奏斗さんの横にいた人がハンカチを差し出してきた。いつもなら知らない人のなんて使いたくなかっただろうが、今日は何故かあっさり受け取ってしまった

 

「ありがとう...貴女は...」

 

「この間お会いした氷川紗夜です」

 

「何故二人は一緒にいたのですか?」

 

「さっきナンパされた人助けてきたって言っただろ?それが氷川さんだ」

 

「先程はありがとうございました」

 

なるほど、二人はそういうつながりか。氷川さんは奏斗さんのことについて知っているのだろうか?

 

「琉太さんについては知っていますよね?」

 

「えぇ、さっき彼から名前を聞いたわ。驚きね、昨日と今日で四人中三人のXaharのメンバーに会えるなんて」

 

どうやらもう知っているようだ。その時会計を済ませたお兄様がやって来た

 

「あーやっと見つけた。お前ら揃いも揃っていきなりいなくなるなよ...って氷川さん?」

 

「昨日ぶりですね。えーと...」

 

おそらく苗字で呼ぼうとしているがお兄様と私が一緒にいるのでそう呼べないのだろう

 

「私のことは名前で構いませんよ」

 

「俺も名前で大丈夫です」

 

「分かりました。翔さんたちは三人でお出かけですか?」

 

「まぁそんなところですね。貴女はお一人ですか?」

 

「私は妹と一緒に来ていて...あっそろそろ私は行きますね」

 

「えぇ、お気をつけて」

 

「もうナンパされないようにしてくださいねー」

 

「分かっています」

 

そう言って氷川さんは去っていった

 

「さて、咲夜たちは買い物終わったか?」

 

「あぁ。奏斗も終わったみたいだな」

 

「この後どうする?」

 

「今日の晩御飯の材料を買いに行く」

 

「やべー冷蔵庫空だったわ...」

 

「なら今日はうちで食ってけ」

 

「すまん。助かる」

 

「ところで氷川とはどんな関係だ?」

 

「昼間ナンパから助けた」

 

「そういうことか」

 

「妹があのパスパレの氷川日菜ということにびっくりしたわ」

 

「マジか...」

 

「てゆーか氷川さんいきなり呼び捨てにしたなお前」

 

「表面上は優しくしておくだけだ」

 

「まぁお前はそうだよな...ちょっと先行っててくれ。柏と話したいことがあるから」

 

「?分かった」

 

「さて、話の内容は分かるよな?」

 

「...はい」

 

「あの時、お前は確かに泣いていた。理由は言いたくないかもしれないが、できれば言ってほしい。安心しろ、咲夜には言わねえよ」

 

「奏斗さん...」

 

私は今までの悩みを全て奏斗さんに話した。それを聞いた奏斗さんは

 

「なるほどね...確かにあいつは柏を家族として見ている。しかも鈍感(無感情)ときたものだ。お前の気持ちに気付くのは難しいだろう」

 

っ...

 

奏斗さんの言う通りだ。感情のないお兄様が人の気持ちに気付くなんてまず無理だ

 

「でもお前は諦めたくないんだろ?」

 

「...はい」

 

「だったらあいつにお前が感情を与えればいい」

 

「与える?」

 

「あぁ。そうすればいずれお前の気持ちに気付くかもな。最も鈍感だから分からんけど」

 

「けど、どうすれば...」

 

「普段より感情を表に出してみろ。あいつには自称楽しい感情はあるとのこと、ならそれ以外の感情、悲しみや怒りを教えればいい。そのうち誰かに恋をするかもしれない。そしたらお前が恋心についてヒントを教える」

 

「...分かりました。やってみます」

 

「頑張れよ。俺も協力する」

 

「ありがとうございました!」

 

「おう」

 

これでもう一つの目標ができた。忙しくなるだろうがお兄様の感情を、そして私の想いに気付いてもらえるなら何でもする

 

「待っていてくださいねお兄様」

 

 



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第5話

ガルパ新イベントのガチャ20連やったのに星4出なかった...
友希那欲しいよ...


奏斗side

 

「さて、咲夜も待たせてることだし行くか」

 

「そうですね。行きましょうか」

 

結構話し込んだだろうからあいつもそろそろイラつき始めてる頃だろう...あんまり怒らせると後が怖いのでさっさと行くか

 

「晩御飯の材料を買うって言ってたから食料品コーナーにいると思うけど...」

 

「広すぎて何処にいるのか分かりませんね...」

 

「とりあえず電話してみるか」プルルルルルル

 

『もしもし奏斗か?どうした?』

 

「柏と話し終えて今食料品コーナーに来たんだけど広すぎて何処にいるのか分からん。今何処にいる?」

 

『肉売り場にいるんだが今日はハンバーグでいいか?』

 

「俺は構わんが柏はハンバーグでいいか?」

 

「勿論いいですよ。それにお兄様のハンバーグはとても美味しいですし」

 

「柏もそれでいいってよ」

 

『分かった。お前らは外で待っててくれ』

 

「了解。また後で」

 

『あぁ』プツッ

 

「外で待ってろだとよ」

 

「分かりました。そういえば奏斗さんは冷蔵庫の中身がないと言ってましたが大丈夫ですか?」

 

「面倒臭いから明日にするわ」

 

「明日の昼食はどうするつもりなんです?」

 

「いつも通りコンビニで済ませる」

 

「はぁ...そんなんじゃ身体がもちませんよ?」

 

「現に今までもってるから大丈夫だ」

 

「もういいです。そろそろ行きましょう、お兄様も買い物終わらせた頃でしょう」

 

「そうだな。じゃあ行くか」

 

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咲夜side

 

俺は晩御飯の材料を買い終えてショッピングモールの外に行くと既に二人は待っていた

 

「悪りぃ待たせたか?」

 

「俺たちもさっき来たばかりだから問題ない。さっさと帰ろうぜ」

 

「そうだな。もうそのまま家に寄っていけ」

 

「そうさせてもらうわ。ありがとな」

 

「あぁ」

 

「おい柏」

 

「なんですか?」

 

「なんですかじゃねえよ。こういう時にアピールしないとダメだろうが...」

 

「分かってますよ」

 

「お前らさっきから何コソコソ話してんの?」

 

「なんでもありませんよ」

 

いきなり柏が俺の腕に抱きついてきた

 

「だから抱きつくなっていつも言ってるだろ」

 

「別にいいじゃないですか。というかこれからどんどん増えていくと思いますよ?」

 

「...なんで?」

 

「ハァ...こいつ本当に鈍感だな...」

 

「なんか言ったか奏斗?」

 

「なんでもねえよ」

 

「What?」

 

「それより早く帰りましょうよ」

 

「おっおう...」

 

「ダメだこりゃ」

 

なんだか二人の様子がおかしい気がするけど...まぁいいか

 

「さて、今日はソースどうするかなぁ」

 

「ただのデミグラスだとつまんないもんな」

 

「バジルソースがいいです」

 

「バジルならあるからそれでいいか」

 

「お前の家なんでもあるな」

 

「去年育ててたバジルで作ったソースがあるからな。爺さんのせいで最低限の仕送りしか来ないから野菜とかハーブは自分で育ててる」

 

「種余ってたら俺にも分けてくれ」

 

「バジルは初心者でも簡単に育てられるからまずはそこから始めろ」

 

「あざーす」

 

俺の祖父にあたる月読命源十郎《つくよみげんじゅうろう》はうちの財閥の会長をやっている。本来なら仕送り等で金に困ることはないのだが、俺のことをめちゃくちゃ嫌っていて全然くれない

 

「ガキの頃にいろいろやらかしてるから分からなくはないが...何故に華蓮はもらえるのか分からない」

 

「確かにな。まぁなんとなく察しはつくけど...

 

「というわけでバイトを探さないと生活できないので何かないか?」

 

「知らんわそんなもん。それを知ってたらとっくにやってる」

 

「でしたら昨日行ったライブハウスはどうですか?確か高校生の時給で○○○○円くらいでしたよ?」

 

「マジで?」

 

「おそらくそのくらいはあったと思います」

 

「よし、明日面接行くぞ」

 

「珍しく咲夜がやる気だな」

 

「こうでもしないと本当にヤバいんだよ。金が...婆ちゃんからの仕送りも普段の電気代や水道代の生活費に持ってかれて、食費が払えなくなりそう」

 

「え!?じゃっじゃあさっき私に買っていただいた洋服は...?」

 

「あれで今月分尽きた」

 

「お前たまにバカなことするよな...」

 

「まぁ今日の分はなんとか賄える。明日からバイトしないと」

 

「俺も金ないしやるかな」

 

「そう言ってる間に着きましたよ?」

 

「じゃあ二人はちょっと待っててくれ。十五分以内に終わらせる」

 

「ありがとな。なら俺は食器でも並べとくよ」

 

「私は飲み物用意しておきますね」

 

「助かる」

 

この面子で晩飯も久し振りだな...今日は本気で作るか

 

奏斗side

 

今日は久し振りに咲夜の家で晩飯を食うことになった。咲夜の料理の腕前はもはやプロ並みでえげつない

 

「さてと、確か食器はあっちの方か」

 

何度もここに来たことがあるので大体の物の場所は把握している

 

「皿はカウンターに置いとくぞー」

 

「おう、サンキュー」

 

「こちらも飲み物用意できましたよー」

 

「じゃあ後は咲夜頼んだぞ〜」

 

「任せとけ。いつもより本気(ガチ)で作ってやる」

 

「そうか...楽しみにしてるよ」

 

彼奴が本気で作ると見た目までこだわり始めるからな...とんでもない芸術作品ができそうだ

 

「十五分で終わるか?」

 

「余裕で終わる。ていうかあと五分で終わりそうだ」

 

「ハヤッ!?」

 

こいつやっぱり人間じゃねぇ...どっからその才能引き継いだんだ

 

「多分料理は華蓮から受け継いでると思う」

 

「サラッと人の心読まないでくれるか?」

 

まぁなんにせよ咲夜の料理が食べれるのは嬉しいことだし黙って待つとしよう

 

柏side

 

私は奏斗さんと一緒にお兄様の料理ができるのを待っているところだ。お兄様の料理はプロ並みに美味しいのでとても楽しみだ

 

「楽しみですね」

 

「お前は毎日のように食べれるんだもんな。羨ましい」

 

「本当はお兄様の負担を減らせるように私もできねばならないのですが...料理は少し苦手で...」

 

「人はそれぞれ得意不得意あるもんだ。気にすることはないだろ」

 

「でも...」

 

「料理が苦手なら他のことができるようになればいい。例えば洗濯とか」

 

「他のこと...ですか」

 

「最初から全てできる人はいないさ。最低限の家事ならできるし時間があれば教えてやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「できたぞー。柏持ってってくれ」

 

「分かりました」

 

「待ってましたー!」

 

どうやら晩御飯ができたようだ。私は三人分のハンバーグを持って行こうとするが人間の腕は二本なので二つしか持てない

 

「無理はするな」

 

残りの一つはお兄様が持ってくれた

 

「...ありがとうございます」

 

「こりゃまあえげつない見た目だな...」

 

奏斗さんの言う通り、お兄様の作ったハンバーグの見た目は本当に凄かった

 

形は普通に丸いのだが、その上にあるバジルソースで描かれた絵や野菜で彩られたお皿はもはや一つの芸術作品だった

 

「なんだか食べるのが勿体無いですね」

 

「せめて写真だけでも撮っとこうぜ」

 

「カメラ持ってきますね」

 

私はカメラを持ってくるために席を立った

 

「なんだか今日の柏は随分とご機嫌だな」

 

「久し振りにこうして三人で遊びに行けたのが嬉しかったんだろう」

 

「普段柏には迷惑掛けっぱなしだったからな...喜んでもらえて何よりだ」

 

「!そうか...」

 

(柏、思ったよりも咲夜は変わってるみたいだぞ。もっと自信を持て)

 

「持ってきましたよー。なっ何ですか?二人してニヤニヤして...」

 

私の反応に対する二人の顔が何だかムカつく

 

「...」

 

私は二人のハンバーグを奪った

 

「なんのつもりだ?」

 

お兄様が少し怒ったような顔で私を睨んでくる

 

「ちょっとお二人の反応にイラっときたので」

 

「えっと柏?今から食べようというのにそれはちょっと酷く」

 

「何か言いましたか?」

 

私は威圧的な態度で奏斗さんを睨みつける

 

「イエナンデモ」

 

「そういえばお兄様昼間私に何でもするとおっしゃいましたよね?」

 

「...」

 

「もし謝ると言うのなら少しレベルを下げてもいいのですが?」

 

「スミマセンデシタ」

 

「よろしい」

 

そう言って二人にハンバーグを返す

 

「何だか最近柏が鬼み...」

 

「何か?言い分なら幾らでも聞きますよ?」

 

「ナンデモゴザイマセン」

 

「おい。そろそろ食おうぜ」

 

「それもそうですね。では戴きます」

 

「美味い!」

 

「これは中々の出来栄えだな」

 

「お肉が柔らかくて最高です!」

 

お兄様の作ったハンバーグはいつもより何倍も美味しかった

 

「二人の口に合って何よりだ」

 

十五分後

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

「いやー美味かった」

 

「奏斗は風呂どうする?」

 

「着替えもねえし家で入るわ」

 

「そうか。柏は先に風呂入ってろ、俺は片付けしておく」

 

「たまには私がやります。お兄様はお風呂でゆっくりしててください」

 

「?そっそうか...ありがとう」

 

少しでもお兄様の負担を減らしたい...そのためには少しずつでもできるようにしないと

 

「じゃあ俺はこれで帰らせてもらうよ」

 

「分かった。また明日」

 

「さようなら」

 

「おう」

 

「なら片付け頼んだぞ」

 

「はい!」

 

私は早速洗い物に取り掛かった

 

咲夜side

 

俺は今風呂の浴槽でくつろいでいる。普段は片づけ等は俺がやるのだが、珍しく柏がやりたいと言い出したのでお言葉に甘えて任せることにした

 

「彼奴も変わったな...」

 

俺たちが初めてあった頃なんか柏は怯えてずっと物陰に隠れて俺を見ていた。あの頃はまだ感情があったのかちょっとショックだったな...

 

「人は変わるもんなんだな...」

 

俺はどうだろうか?この十年で何か変われたのだろうか?

 

「考えても無駄か。生きる価値を見つけることのできない俺が変わったわけねえよな」

 

そうだ。俺が変われる筈がない。しかし一つ気がかりがある。何故俺は湊の提案に乗ってしまったのだろう...普段の俺だったら絶対に断っているのに

 

「まぁ、そのうち分かるか」

 

柏side

 

私は洗い物を終わらせお兄様が出てくるのを待っていた

 

「少しは役に立てたらいいのですが...」

 

これでも昔と比べたら随分と変わったと思う。初めてお兄様と出会った頃、怖くて全然近づくことができなかった。ずっと物陰に隠れてお兄様を遠くから見ていたので感情があったその時のお兄様には悪い思いをさせてしまったかもしれない

 

「上がったぞー」

 

「はーい」

 

私は疲れて重くなった身体に鞭を打ち立ち上がった

 

「へー結構綺麗にできてんじゃん」

 

お兄様が私のやった洗い物に対して褒めてくれた

 

「あっありがとうございます」

 

「お疲れさん。ゆっくり入ってこい」

 

「分かりました」

 

十五分後

 

「上がりましたー」

 

「りょーかい、じゃあ先に寝かせてもらうわ」

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

どうやらお兄様はもう寝るらしい。私も眠くなってきた

 

「私も寝ますか」

 

私は昼間お兄様に言われたことを思い出しながら自分の部屋ではなくお兄様の部屋へと向かった

 

「お兄様、まだ起きてますか?」

 

「どうした?」

 

「いえ、今日はお兄様と一緒に寝たいなと思いまして」

 

「なんだ夜が怖くなったのか?」

 

「ちっ違います!ただお兄様と寝たいだけです!///」

 

「冗談だ。ほら」

 

お兄様が許してくれたのでお兄様の布団に潜り込んだ

 

「でも急にどうした?今まではこんなことはなかったのに」

 

「昼間私に何でもすると言いましたよね?その代償を払ってもらおうとしただけです。お兄様は私と寝るの嫌ですか?」

 

「別に嫌じゃないけど...」

 

「なら問題ありません」

 

「ハァ...」

 

しばらくの間沈黙が続いたがさっきからずっと聞きたかったことを聞くことにした

 

「そういえばRoseliaの練習に付き合うことになったみたいですね」

 

「まぁ成り行きでそうなった」

 

「何故断らなかったのですか?いつもなら断ったのに...」

 

「俺にも分からん」

 

「え?」

 

返ってきたのは全く予想していなかった言葉だった

 

「分からないけど、不思議と引き受けてもいいと思ったんだ。これからその答えを見つけようと思う」

 

「...そうですか」

 

「でも一人で見つけれる自信が無くてな、柏も協力してくれるか?」

 

「はい!任せてください!」

 

「ありがとな。そろそろ寝よう、おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

この時私はあってはならない感情が芽生えていることに気がつかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女、湊友希那を恨んだことに




今更ですが咲夜たちが組んでいるバンド“Xahar”ですがもし意味が気になったら調べて見てください


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第6話

どうも黒い死神です!

最近テストがあってなかなか更新できない...


次の日

 

「ハクー準備できたか?」

 

「バッチリですよー」

 

「奏斗も家出たらしいから後少ししたら行くぞ」

 

「了解です」

 

私たちは現在奏斗さんを待っているところ。奏斗さんの通学路に私たちの家があるので、此処が待ち合わせ場所になっている

 

「はぁ〜授業ダリィなぁ」

 

「仕方ないですよ。それに担任はお姉様なのでしょう?あんまり不真面目にしてると殺されますよ?」

 

「殺し合いなら勝てる自信はある。だが怒らせると手がつけられないのでやめておこう」

 

「フフフ...流石のお兄様でもお姉様には頭が上がりませんね」

 

「華蓮からも多少の仕送りは貰ってるしな。何かと世話になってる」

 

「そういえば今日はバイトの面接に行くんでしたっけ?CIRCLEへの道は分かりますか?」

 

「大体は覚えてるがあまり自信がない...案内頼めるか?」

 

「勿論ですよ」

 

「ありがとな」

 

ピンポーン

 

「おっ来たか。それじゃあ行くか」

 

「はい」

 

「お待たせ。行こうぜ」

 

「あぁ」

 

咲夜side

 

奏斗が来て家を出発し十分くらいしたところで見覚えのある人がいた

 

「ふええぇぇ〜ここ何処?」

 

昨日助けた松原さんが道に迷っていた

 

「あの〜松原さん?どうしました?」

 

柏が松原さんに声をかける

 

「あっ花梨ちゃんに翔君、とえっと...」

 

「あっ俺は妹尾琉太です」

 

「私は松原花音っていいます。よろしくね」

 

「こちらこそ」

 

「それでどうしたんです?何やら道に迷っているようですが」

 

「えっと...その...実は私極度の方向音痴で」

 

「まさか...学校への道が分からないとかはないですよね?」

 

「...」

 

「普段はどうやって行ってたんですか?」

 

「いつもは千聖ちゃんと一緒に行ってるんだけど...今日はお仕事入っちゃったらしくて」

 

「確か松原さんは花咲川でしたよね?お兄様、今何時ですか?」

 

「自分で見ろよ...えーと7時半か」

 

「なら大丈夫ですね。案内してあげましょう」

 

「えっ?いいの?」

 

「時間も余裕ありますし大丈夫ですよ」

 

「あっありがとう...」

 

「んじゃ俺たちは先に行ってるわ」

 

「何言ってるんですか?お兄様も行くに決まってるでしょう」

 

「えっ」

 

何故俺まで行かなきゃいけねえんだよ

 

「か弱い女子だけで行かせるつもりですか?」

 

「...ハァ。分かったよ」

 

「俺はいいか?」

 

「琉太さんは大丈夫です」

 

「了解」

 

花音side

 

私は千聖ちゃんがお仕事入っちゃったらしいので一人で学校に行こうとしたのだが

 

「ふええぇぇ〜ここ何処?」

 

案の定道に迷ってしまった。どうしよう?美咲ちゃん呼ぼうかな?そう思ったそのとき

 

「あの〜松原さん?どうしました?」

 

昨日ナンパから助けてくれた翔君に花梨ちゃんがいた

 

「あっ花梨ちゃんに翔君、とえっと...」

 

「あっ俺は妹尾琉太です」

 

もう一人の男の人が自己紹介をしてくれた

 

「私は松原花音っていいます。よろしくね」

 

「こちらこそ」

 

私はあまり男の人が得意じゃないけどこの二人といるなら優しいと思ってあまり緊張しなかった

 

「それでどうしたんです?何やら道に迷っているようですが」

 

「えっと...その...実は私極度の方向音痴で」

 

「まさか学校への道が分からないとかはないですよね?」

 

「...」

 

「普段はどうやって行ってたんですか?」

 

「いつもは千聖ちゃんと一緒に行ってるんだけど...今日はお仕事入っちゃったらしくて」

 

「確か松原さんは花咲川でしたよね?お兄様、今何時ですか?」

 

「自分で見ろよ...えーと7時半か」

 

「なら大丈夫ですね。案内してあげましょう」

 

「えっ?いいの?」

 

「時間も余裕ありますし大丈夫ですよ」

 

花梨ちゃんが案内してくれると言ってくれた

 

「あっありがとう...」

 

「んじゃ俺たちは先行ってるわ」

 

「何言ってるんですか?お兄様も行くに決まってるでしょう」

 

「えっ」

 

「か弱い女子だけで行かせるつもりですか?」

 

「...ハァ。分かったよ」

 

「俺はいいか?」

 

「琉太さんは大丈夫です」

 

「了解」

 

どうやら翔くんも行くことになったけど、何か悪いな...

 

「翔くんも無理しなくていいよ?」

 

「まぁせっかくだし行くことにします。またナンパされそうですし」

 

「ありがとう...」

 

そんなこんなで私たちは花咲川女子学園に向かっている

 

「花音さんは何か趣味ありますか?」

 

只今絶賛花梨ちゃんと女子トーク中だ。私だけ名前呼びというのもアレなので二人にも名前で呼んでもらうことにした

 

「私バンドやってて、とっても楽しいんだ」

 

「バンドですか?ちなみに楽器は何やってるんですか?」

 

「私はドラムやってるよ」

 

「意外ですね。ドラムって花音さんのイメージと違いますし」

 

「そっそうかな...」

 

「ちなみに私たちも昔バンド()()()()んですよ。お兄様や琉太さん、そしてお姉様と一緒に」

 

「そうなんだ!花梨ちゃんってお姉さんもいたんだね」

 

「えぇ。お姉様はドラムが一番得意なので時間があったら練習一緒に行っていいですか?」

 

「勿論!メンバーのみんなも喜ぶよ!」

 

花梨ちゃんたちがバンドをやっていたのは意外だ

 

「翔くんは何の楽器やってたの?」

 

ずっと二人で喋るのは申し訳ないと思い翔くんに話を持ちかける

 

「俺はキーボードですね。一応ドラムもできますが姉さん程上手くはできませんね」

 

「そうなんだ。うちのバンドキーボードいないから今度一緒に合わせようよ!」

 

「時間があればその時に」

 

翔くんたちが来るの楽しみだなぁと思いながらどんどん歩いてゆく

 

そして横目で翔くんの顔を見てこう思っていた

 

『かっこいい』と

 

顔は美形でとても整っていて、声は凛々しい感じで白い髪がすごく似合ってる。さらに昨日助けてくれたときの

 

『失せろ』

 

が特にかっこよかった。思い出しただけで顔が赤くなってくる

 

「花音さん大丈夫ですか?顔赤いですけど」

 

「ふぇ!?ううん!何でもないよ!」

 

翔くんに見られて羞恥でさらに顔が赤くなる。多分耳まで赤くなってるだろう

 

「そっそうですか...」

 

この時私はある想いに気づいてしまった

 

 

 

 

私は翔くんに“恋”していると

 

 

 

 

たった一回助けられただけで私は彼に恋してしまったのだ

 

本当は今すぐに伝えたいけどその時ではないと思う

 

「...そろそろ着きますよ」

 

「あっホントだ。二人ともありがとね」

 

「いえ、ではまたどこかで」

 

「うん!じゃあね!」

 

少しずつでも彼に近づくことを誓った

 

咲夜side

 

俺は半強制的に松原花音の案内に連れてかれ、それが終わったので羽丘に向かっている

 

「柏、時間は間に合いそうか?」

 

「...」

 

「おい柏?」

 

「はっはい!?何でしょう?」

 

「いや、時間は間に合いそうかなと聞いたんだが」

 

「えっと...ギリギリですね。少し急いだ方がいいかもしれません」

 

「お前大丈夫か?ここんとこボーっとしてること多いけど」

 

「そっそうですか?全然大丈夫ですよ」

 

「そうか。あまり溜め込みすぎんなよ」

 

「ありがとうございます」

 

最近柏の元気がないように見える。それに以前より感情を表に出すようになったし、何かがあったのは間違いなさそうだ

 

「それより走りませんか?これだと着いたとしてもギリギリですから」

 

「分かった。荷物貸せ、流石のお前でも荷物ありはキツイだろ」

 

「...すみません」

 

「気にするな。じゃあ行くぞ」

 

「はい!」

 

何があったのかは知らないが、これ以上柏を悲しませたくない。俺にできることをやろう...

 

柏side

 

最近何故だか気分が乗らない。理由は分かっている、分かっているのに認めたくない自分がいる

 

「ハァ...ハァ...着いた」

 

どうやら考えてるうちに学校に着いたみたいだ

 

「あー疲れた。ほら、荷物返すよ。頑張ってこい」

 

「ありがとうございます。ではまた後で」

 

「放課後頼んだぞ」

 

「はい」

 

そういえばお兄様はCIRCLEでバイトをすると言っていた。放課後案内をしなければならない

 

「HR寝ますか...」

 

昨日なんだかよく分からない気持ちでいっぱいで全然寝れなかったため、私はHRで寝ることにした

 

奏斗side

 

「おせ〜なぁ。大丈夫か?」

 

松原さんを花咲川に送ると言って別れたがそろそろHRが始まる時間だ。華蓮さんも来ないし姉弟揃ってなにやってんだか...

 

「ふ〜着いた〜」

 

やっと咲夜が来た。せめて労いでもかけておこうか

 

「お疲れさん」

 

「ん...」

 

口数が少なくなってるあたり相当疲れてるんだろう

 

「お前最近柏の押しに弱くなったな」

 

「...何か彼奴段々と華蓮に似てきた気がする」

 

「私が何だって?」

 

「うおっ!?なんだ華蓮かよ...脅かすな」

 

「チワース」

 

「おはよう二人とも。んで咲夜。私が何だって?」

 

「いっいや、何でも「私が何だって??」...」

 

「話した方が身のためだぞ」

 

「あら?私は奏斗君にも聞いてるつもりだけど?」

 

「えっ」

 

「あんまり長引くと二人とも後でこの世から」

 

「「すみませんでした」」

 

「...よろしい。何か柏の名前出てきたけど」

 

「最近柏の奴、強情的になったっていうか...色々と押してくるようになってそれが華蓮に似てきたなと...」

 

「...へぇ。今度あの子に聞いてみようかしら」

 

「俺は彼奴の感情は分からんからな...今日あたり聞けば?

晩飯なら作ってやれるぞ?」

 

「バレると怒られるけどいっか。お願いね」

 

「了解」

 

「ねぇ奏斗君」

 

「はい?」

 

「絶対貴方の差し金よね?柏が感情表に出すようになったの」

 

「まぁそうですけど」

 

「確かにそれが一番いい方法かもしれないけど、あの子がそれを捨てた理由からして効果は薄い」

 

「どういうことですか?」

 

「そのままの意味よ。よく考えてこれからもよろしくね」

 

「...分かりました」

 

「それじゃあ皆HR始めるよー」

 

華蓮さんが言うからには何かがあるのだろう。後で柏と話し合いだな

 

咲夜side

 

朝から華蓮に殺されかけるという災難に遭ったが、その後は何事もなく授業をやり昼休みとなった

 

「昼ご飯何処で食べる?」

 

と奏斗が聞いてきたので

 

「屋上行くか?誰もいなさそうだし」

 

「そうだな」

 

そう言って屋上に向かうと案の定誰もいなかった

 

「綺麗だな」

 

思わずそう呟いていた

 

「あぁ。さて、食うか」

 

弁当箱を開けて卵焼きをつまもうとした瞬間ドアが開いた

 

「相変わらずここって綺麗だよね!」

 

「うん!ほら、モカと蘭と巴も早く!」

 

「分かったからそんな焦るなって...」

 

「ひーちゃんはしゃぎすぎ〜」

 

「全く...いつも通りでしょ?」

 

「うぅ、つぐ〜三人がいじめてくる〜」

 

「えっとその...すみません騒がしくしてしまって」

 

なんだか見たことあるような五人組が俺たちに謝ってくる

 

俺は喋りたくないので奏斗に目で合図する

 

「構わないよ。いいね、皆元気で」

 

「これが私たちの『いつも通り』ですから!」

 

「あはは...流石はAfterglowの皆さん」

 

「アフター...グロウ...あっ」

 

「ハァ、やっと気付いたか」

 

「なんだ、アタシたちのこと知ってたのか」

 

「俺は何度かライブ見させて貰ってるよ」

 

「ありがとう。そっちの人は?」

 

「...一度だけ」

 

「そうなんですね!ありがとうございます!」

 

「これからも頑張ってね。ボーカルの人以外は同じクラスかな」

 

「だね〜。ジ〜〜〜」

 

なんか白髪の女が俺を見てくるんだが

 

「...何?」

 

「...同志!」

 

「は?」

 

「う〜ん、多分その髪のこと言ってるんじゃないか?」

 

「これか...」

 

確かに俺の髪も白いがもっと純粋だと思う

 

「皆で仲良くお昼ご飯かな?」

 

「あぁ。そうだ、一緒に食べないか?ライブの感想も聞きたいし。皆いいか?」

 

「あたしは構わないけど」

 

「モカちゃんも大丈夫だよ〜」

 

「私もいいよ」

 

「私も!」

 

「翔もいいか?」

 

「...好きにしろ」

 

赤髪のやつコミュ力お化けだな

 

なんか知らんがAfterglowのメンバーと食うことになった




今回はAfterglowとご対面です。1章の間にタグで書いたメンバーと会わせるつもりなのでこれからもよろしくお願いします!

評価や感想来るといいな...


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第7話

こんにちは!黒い死神です!

今回で七話となりました。テストも終わったので投稿も少し早くなるかもしれません

ではどうぞ!


咲夜side

 

「まずは改めて自己紹介からしようか」

 

「そうだね。じゃあ私から!Afterglowのリーダーをやってます、上原ひまりです!」

 

「宇田川巴だ。よろしくな」

 

「羽沢つぐみです。よろしくお願いします」

 

「青葉モカで〜す。よろ〜」

 

「美竹蘭、よろしく」

 

「妹尾琉太だ。よろしく」

 

「神道翔だ。よろしく」

 

「は?」

 

美竹が俺たちの名前を聞いて驚いたような顔をしている。こいつも俺たちのこと知ってるのか?

 

「どうしたんだ蘭?」

 

「いや、だってこの人たち三年前にFUTURE WORLD FESで優勝した“Xahar”のメンバーだよ?」

 

「「「エェ!?」」」

 

やはりバンドをやっていれば俺らのことを知っていてもおかしくはねえか...ただ一人だけ驚かない奴がいるが

 

「...なんか俺らって案外有名なんだな」

 

「まぁあのフェスで優勝すれば多少は名が知れるだろう。他の連中じゃできないようなこともやってたし」

 

「どんなことやってたの?」

 

上原が聞いてくる

 

「ライブごとに皆演奏する楽器が違うの」

 

美竹が先に説明してくれたおかげで手間が省けた

 

「そうなの!?私なんかキーボード一つで限界なのに」

 

「てことは大体の楽器はできるのか?」

 

「まぁそうなるわな」

 

「へぇ〜凄〜い」

 

こいつ本当に思ってんのか?

 

「何が一番得意だったんですか?」

 

「俺はギターかな。ベースもできるけどやっぱりギターの方がやりやすい」

 

「へぇ〜。翔は何が得意なんだ?」

 

「俺はキーボードが一番得意だ。指先は昔から器用なんだ」

 

「今度私たちの練習に来てくれない?プロの人に見てもらえるともっと上手くなれると思うから」

 

「ごめん。俺はRoseliaの練習見ることになってるから行けそうにない」

 

「俺は何もないからたまには来れるよ」

 

「そう...ありがとう」

 

「じゃあ連絡先交換しようぜ。日程も知っといた方がいいだろうし」

 

「そうだな。じゃあこれ」

 

「ありがとう!翔君も交換しようよ!」

 

「えっ俺もか?」

 

「うん。動画とか送ってアドバイスだけでも貰えたらなって」

 

「...分かった」

 

「ありがとう!」

 

「ねぇ〜そろそろ食べようよ〜」

 

「あっ忘れてた。時間もあれだし早く食べよう」

 

羽沢がそう言うと全員が食べ始めた。皆普通の弁当だと思ったら一人だけ異次元の奴がいた

 

「...それ何?」

 

青葉が大量のパンを持っていたのだ

 

「ん〜?ただのパンだよ〜?」

 

「いや、そうじゃなくて...何その量?」

 

「あぁ。モカはいつもこんな感じでパンをたくさん買ってくるんだ」

 

「それ何処で売っている?」

 

「しょっ翔?」

 

「商店街の山吹ベーカリーだよ〜」

 

「...今度案内頼む」

 

「翔君どうしたの?」

 

「そういえばこいつ、パンめっちゃ好きだったな。こんな面して」

 

「...なんか意外」

 

「琉太最近よく俺のことディスってね?」

 

「そんなことはない」

 

いや絶対ディスってるだろ...

 

「じゃあ明日から行く?朝早めに行かないと混んじゃうけど〜」

 

「朝は強いからいい。何処に行けばいい?」

 

「う〜ん...○○公園分かる?」

 

「あそこか...分かるよ」

 

「ならそこに七時集合ね〜」

 

「了解」

 

「七時って早くないか?」

 

「モカちゃんの行ってる山吹ベーカリーはとっても人気で毎朝凄い行列できるんだよ」

 

「なるほどな」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「おっチャイムなったな。戻るか」

 

「じゃあまたね、美竹さん」

 

「またね、あと私たちのこと名前で呼んで。その方が距離感感じなくていいから。私もそうする。これからよろしく琉太、翔」

 

「分かった。よろしくな蘭」

 

「私たちも名前で呼んでね!」

 

「了解」

 

奏斗side

 

屋上でAfterglowと会い一緒に昼食をとることになった。色々と雑談していざ食べようとしたとき、青葉さんのビニール袋の中身が気になった

 

「...それ何?」

 

「ん〜?ただのパンだよ〜?」

 

「いや、そうじゃなくて...何その量?」

 

「あぁ。モカはいつもこんな感じでパンをたくさん買ってくるんだ」

 

毎日その量食ってんのか?信じられねぇ

 

「それ何処で売っている?」

 

急に咲夜が売っている場所を聞き始めた。そういえばこいつ...

 

「しょっ翔?」

 

「商店街の山吹ベーカリーだよ〜」

 

「...今度案内頼む」

 

「翔君どうしたの?」

 

「そういえばこいつパンめっちゃ好きだったな。こんな面して」

 

「...なんか意外」

 

「琉太最近よく俺のことディスってね?」

 

「そんなことはない」

 

と思う

 

「じゃあ明日から行く?朝早めに行かないと混んじゃうけど〜」

 

「朝は強いからいい。何処に行けばいい?」

 

「う〜ん...○○公園分かる?」

 

「あそこか...分かるよ」

 

「じゃあそこに七時集合ね〜」

 

「七時って早くないか?」

 

「モカちゃんの行ってる山吹ベーカリーはとっても人気で毎朝凄い行列できるんだよ」

 

「なるほどな」

 

そんなに人気なのか。今度俺も行ってみるか

 

キーンコーンカーンコーン

 

「おっチャイムなったな。戻るか」

 

「じゃあまたね、美竹さん」

 

「またね、あと私たちのこと名前で呼んで。その方が距離感感じなくていいから。私もそうする。これからよろしく琉太、翔」

 

「分かった。よろしくな蘭」

 

「私たちも名前で呼んでね!」

 

「了解」

 

俺には俺なりの道ができたそうだ。咲夜はどうなるかな...

 

咲夜side

 

Afterglowと屋上で話した後俺は色々考えていた。何故か俺は最近人と関わりすぎてる気がする

 

「なぁ琉太」

 

「ん?」

 

「なんか最近俺人と関わりすぎてる気がするんだけどなんでだと思う?」

 

「それはこっちが聞きたいよ。さっきもたかがパンで釣られやがって」

 

「パンをバカにしたことは許さんが、否定はできん。人なんて関わるだけでこっちが被害を受けるのに...」

 

何故俺は昔の過ちを繰り返そうとする?何のために感情を捨てた?両親が消え身寄りがいなくなった俺たちを親戚は誰一人として引き取ろうとしなかった。()()()()()()()()()()()()を知りながら俺たちを批難した

 

「感情がなければ苦しむこともない。確かにそうかもしれんが人は一人じゃ生きていけないぞ」

 

分かっている。柏や奏斗は俺の感情を取り戻すために尽くしている。だけど()()んだ。もう、苦しみたくない

 

「それより何か静かじゃないか?他の連中は先行っちゃったし...」

 

確かに廊下が異様に静かだ。チャイムが鳴ったとはいえまだ静かになるには早過ぎる

 

「おっ巴たちだ。巴ー!何があった?」

 

「やっと来た!お前らちょっとこっち来い!」

 

「なっ何?」

 

「Roseliaの湊さんは分かるだろ?」

 

「そりゃ勿論」

 

「今そこにいるんだよ。雰囲気が固くて誰も話せないんだ」

 

まぁ確かにあいつはオーラが凄いからな。あれ?湊がこっちに向かってるぞ?

 

「やっと見つけたわ。翔」

 

「友希那さん?どうしたんですか?」

 

「いえ、これを」

 

「これは?」

 

「私の連絡先よ。後で登録してもらえるとありがたいわ。練習日程とか教えられるようにしたいし」

 

「そういうことですか。分かりました、ありがとうございます」

 

「お願いね」

 

「ん?何かこれ、もう一つ入ってるんですけど...」

 

「あぁ、それはリサの分よ。どうしてもって言うから入れておいたんだけどそっちもよろしくね」

 

あのコミュ力お化けめ...余計な真似を。捨てるか

 

「一応言っておくけどそれ捨てると後が面倒くさいわよ?」

 

「ごめんなさい。しっかり登録いたします」

 

「ふふっ。じゃあまた今度」

 

「さようなら」

 

「すっ凄い...」

 

「友希那さんと連絡先交換してるよ...」

 

「頑張れ」

 

「ハァ...やるしかねえか」

 

友希那side

 

私は昼休みになると早々とお昼ご飯を食べ一年生の階に移動した。理由は翔に連絡先を渡すためだ。せっかく彼が練習に付き合ってくれると言ってくれたのだ。なるべく彼が来れる日程で組んでおきたい

 

ついでにリサの分も渡してほしいと言われた。断ると後が面倒なので引き受けておいた

 

日程を合わせるというのが一番の理由なのだがそれ以外にもう一つあった。

私は彼に個人的に興味を持っていた

 

初めて彼に会ったとき彼の目に光は無かった。まるで全てを諦めたかのように無表情で、人を避けているようだった。そして最初私の勧誘を断ったときの

 

『俺にそんなことをする資格は無い』

 

あれがどうも引っかかる。彼は何故あそこまで自虐的なのだろうか?何も知らない私が首を突っ込むわけにはいかない。彼の笑った顔も作り物のような顔だ。ファミレスで会ってあの顔を見たとき

 

私たちの音楽で彼を最高の笑顔にしたいと思った

 

余計なお世話かもしてない。それでも彼の心からの笑顔を見たい。彼と共に頂点に立ちたいと思った

 

何事も無く一年生の階に着いたのだが肝心の翔がいない。別のところでお昼ご飯を食べているのだろう...入れ違いになると面倒なので此処にいることにした

 

...とても気まずい。私は二年生だから一人だけ違う学年というのであれだし、私のことを知ってか普段からあまり人は話しかけようとしないので本当に気まずい

 

「あら?貴女二年生よね?こんな所でどうしたの?」

 

「ちょっと人を探してて...貴女は?」

 

「神道祐奈よ。1ーBの担任をやっているわ」

 

「!?まさか...貴女が?」

 

「ん?私のこと知ってるの?」

 

「知ってるも何も、Xaharのメンバーでしょう?」

 

「そういうことね。えぇ、私がXaharのメンバーの一人の神道祐奈よ。貴女は?」

 

「湊友希那です。弟さんを探してるんですが」

 

「あら、翔を?あの子なら何処かでお昼ご飯食べてると思うけど...ごめんね、分からないわ」

 

「そうですか。すみません」

 

「それにしてもあの子にガールフレンドができるなんてねぇ〜」

 

「っ...別にそんなんじゃ/////」

 

「あははは!あの子は人と関わるのを嫌うからね。私としては嬉しいよ」

 

やっぱり彼は人を嫌っている

 

「それで?彼に何か用?」

 

「実は彼にバンドの練習を見てもらえることになったんですが...日程を教えられるように連絡先を渡しておこうかと」

 

「友希那ちゃんもバンドやってるの?」

 

「Roseliaというバンドを組んでいます。私はボーカルをやっています」

 

「へぇー。歌なら妹が一番上手かったけど彼も相当な実力もってるからいいこと学べると思うよ」

 

「私もそう思って彼を誘ったのですから」

 

たった今一つ疑問ができた。祐奈さんは翔の二つ上だった気がする。ということは18歳の筈なのだが教師をやっているのはおかしい

 

「あの、一ついいですか?」

 

「どうしたの?」

 

「祐奈さんって確か18歳ですよね?今教師をやっているのはおかしいんじゃ...」

 

「えっと...」

 

「祐奈さん?」

 

「...内緒でお願いします」

 

「はっはい...」

 

「連絡先渡すなら私から渡しとくけど」

 

「いえ、伝えたいこともあるので大丈夫です」

 

「オッケー。バンド頑張ってね」

 

「ありがとうございます」

 

「あともう一つ」

 

「何ですか?」

 

祐奈さんは見たものを凍てつかせるとても鋭い目で

 

「翔をこれからよろしくね」

 

と言った

 

「わっ分かりました...」

 

「じゃあね!」

 

それだけ言うと彼女は明るい顔に戻り去って行った

 

私はあの目に軽く恐怖を抱いた。言葉とは違ってまるで

 

『彼に何かしたら許さない』

 

そう言ってるようだった

 

私は彼女の言葉の意味を考えながら彼を待った




読了ありがとうございました!

評価や感想等お待ちしております!


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第8話

こんばんは黒い死神です。この前の期末テスト学年3位でした!

スマホにAnfangダウンロードしたんですけどやっぱ最高!

それでは本編お楽しみに!


祐奈さんと会ってから十分くらい経つとようやく彼が来た

 

「やっと見つけたわ。翔」

 

「友希那さん?どうしたんですか?」

 

「いえ、これを」

 

「これは?」

 

「私の連絡先よ。後で登録してもらえるとありがたいわ。日程とか教えられるようにしたいし」

 

「そういうことですか。分かりました、ありがとうございます」

 

「お願いね」

 

「ん?何かこれ、もう一つ入ってるんですけど...」

 

「あぁ、それはリサの分よ。どうしてもって言うから入れてといたんだけどそっちもよろしくね」

 

いかにも嫌そうな顔をしている。きっと後で捨てることだろう。しかし捨てると後でとんでもないことになるので

 

「一応言っておくけどそれ捨てると後が面倒くさいわよ?」

 

と、忠告しておいた。すると彼は本当に捨てるつもりだったのか

 

「ごめんなさい。しっかり登録いたします」

 

素直に謝っていた。まぁ、人を嫌っている彼からしたらリサの説教はかなり堪えるでしょうね...

 

「ふふっ。じゃあまた今度」

 

「さようなら」

 

とりあえず彼に連絡先を渡せてよかった。五分くらい経つとスマホが鳴り出した

 

『これからよろしくお願いします。湊友希那さん』

 

フルネームなのが気になるが返信をしておく

 

『こちらこそよろしく。神道翔』

 

何となくこちらもフルネームで返す。そして、この時の私は知る余地も無かった

 

 

 

彼との出会いが私の人生を大きく変えることに

 

咲夜side

 

湊に連絡先を貰ったので早速登録してメールを送った

 

『これからよろしくお願いします。湊友希那さん』

 

何となくフルネームで送ってみた。すると向こうからも

 

『こちらこそよろしく。神道翔』

 

フルネームで返ってきた。後は今井の分も登録しておかないとあのコミュ力お化けのことだ。絶対説教される

 

『登録しておきましたよ。これからよろしくお願いします。今井さん』

 

○INEというのは便利なものだ。読めば既読の印が出るのだから。送って何故か3秒くらいで既読がついて

 

『こちらこそよろしくね!あと、私のことはリサって呼んでね!』

 

最近の女子はみんな名前で呼んで欲しいのだろうか?面倒くせえな...

 

『了解しました。リサさん』

 

『じゃあまたね!』

 

あと授業2時限分終わったらCIRCLEで面接か...まぁ楽器扱いは得意だから何とかなるだろう

 

午後の授業が終わり昇降口で柏を待っているとAfterglowの連中がこっちに向かって来た

 

「あっ翔に琉太じゃん。どうしたの?」

 

「妹を待っているんだ。彼奴は此処の中等部にいるからな」

 

「そうなんですね。あっもしかしてあの人ですか?」

 

羽沢が指差した方向には怪訝そうな顔を浮かべた柏がいた

 

「ハァ、ハァ...すみません。待たせてしまって」

 

「俺たちもさっき来たばかりだから問題ない」

 

「ところで何故お二人はAfterglowの人たちといるんですか?」

 

「さっき会った」

 

「いや、そうじゃなくて...」

 

「昼休みに一緒にお昼ご飯食べたんだ!それに琉太君は私たちの練習見てくれることになったの!」

 

「私たちのこと知ってるのか?」

 

「お兄様をライブに連れて行ったのは私ですから。というか、バンドのことばれたんですか?」

 

「1人詳しい奴がいてな。おそらく雑誌か何かで見たんだろう」

 

「...そうですか。まぁ何でもいいですがそろそろ行きませんか?」

 

「あぁ、そうだな。じゃあこれから俺たち行くところあるからじゃあな」

 

「うん、またね!あっ今度うちの喫茶店来てね!」

 

「時間があったら行かせてもらうよ」

 

「また明日。日程は後で教えるから」

 

「了解」

 

さて、今からバイトなのだが正直やったことないしな...

 

「俺ら採用されるかな...」

 

「珍しく咲夜が弱気だな。まぁやったことないししょうがないか...」

 

「二人とも早く行きますよー」

 

「悪りぃ、じゃあ行くか」

 

「おう」

 

採用されなかったらどうしようかと不安もあるが上手くいくことを願って俺たちはCIRCLEに向かった

 

柏side

 

私はHRを終え少し急ぎ足で外へ出た。さっき窓から外を見た時高校生が何人か歩いていたので2人を待たせてしまう。

 

「お兄様は髪の色が目立つので分かりやすいので楽ですね」

 

実際はぐれた時はとてもこの髪が役に立つ。門の近くに行くとお兄様と奏斗さん、そしてその周りに女子が5人集まっていた

 

「ハァ、ハァ...すみません。待たせてしまって」

 

「俺たちもさっき来たばかりだから問題ない」

 

「ところで何故お二人はAfterglowの人たちといるんですか?」

 

「さっき会った」

 

「いや、そうじゃなくて...」

 

そんなことは見れば分かる。お兄様はたまに天然な所があるので話の流れを掴むのが難しい

 

「昼休みに一緒にお昼ご飯食べたんだ!それに琉太君は私たちの練習見てくれることになったの!」

 

ピンク髪のベース担当、上原ひまりが説明してくれた

 

「私たちのこと知ってるのか?」

 

続いてドラム担当、宇田川巴が質問してくる。宇田川...どこかで聞いたことあるような...

 

「お兄様をライブに連れて行ったのは私ですから。というか、バンドのことばれたんですか?」

 

「1人詳しい奴がいてな。おそらく雑誌か何かで見たんだろう」

 

「...そうですか。まぁ何でもいいですがそろそろ行きませんか?」

 

「あぁ、そうだな。じゃあこれから俺たち行くところあるからじゃあな」

 

「うん、またね!あっ今度うちの喫茶店来てね!」

 

「時間があったら行かせてもらうよ」

 

「また明日。日程は後で教えるから」

 

「了解」

 

そう言って私たちは別れた

 

「俺ら採用されるかな...」

 

珍しくお兄様が不安そうだ

 

「珍しく咲夜が弱気だな。まぁやったことないししょうがないか...」

 

「2人とも早く行きますよー」

 

「悪りぃ、じゃあ行くか」

 

「おう」

 

私は中学生なのでバイトはできない。少しでもお兄様の負担を減らしたいのですが...

 

「柏どうした?顔色悪いぞ?」

 

そう言ってお兄様が私の額に手を当てる

 

「なっ何でもありません///」

 

「だっ大丈夫か?今度は顔赤いぞ?具合悪いなら奏斗場所分かるだろうし帰っても大丈夫だぞ?」

 

「大丈夫です!早く行きましょう!///」

 

「え〜」

 

やっぱりあの一件以来お兄様のことを意識してしまう。それと同時に、お兄様の周りにいる女子に嫉妬してしまう。以前のお兄様なら他人と関わろうとしなかったのでたった少しの出会いでお兄様とあそこまで仲良くなれるのが許せない...勿論今の状態から変わってくれるのは嬉しい。しかし私ですらお兄様とここまで仲良くなるのに時間がかかったのに何故あいつらは...

 

そしてその事で1番最初に頭に浮かぶのは湊友希那。お兄様があの依頼を受けたのは光を、()()()()()()()()()()()

 

...考えるのは辞めよう。このまま考え続けると自分が壊れてしまいそうで怖い

 

「面接、頑張ってくださいね」

 

「あぁ、ありがとな」

 

今はお兄様たちを応援しよう

 

咲夜side

 

柏の案内もあってすんなりとCIRCLEに着くことができた。これからここのオーナーに面接を申し込むわけだが

 

「よし、奏斗頼んだ」

 

他人と喋りたくないので奏斗に丸投げだ

 

「この野郎...後で覚えとけよ」

 

文句を言いながらも中に入って行く彼はそこそこのコミュ力を持っているので心配は無い...はず

 

「スミマセーン、ちょっといいですか?」

 

「はーい、どうしたの?」

 

「ここでバイトしたくて面接をお願いできないかと」

 

「あーそういうことね!とりあえず名前いいかな?」

 

「妹尾琉太です。んでこっちが神道翔」

 

「どうも、よろしくお願いします」

 

「妹の神道花梨です」

 

「...ちょっと待って」

 

「はっはい...」

 

「えっと、もしかして君たちXaharのメンバー?」

 

こいつも知ってんのかよ

 

「そっそうですが」

 

「うん、採用」

 

「へ?」

 

今なんつった?

 

「だって楽器扱い私より絶対上手だし、何より私1人でやってたから人手が増えて何よりだよ」

 

1人で?信じらんねぇ

 

「じゃあここで働いていいんですか?」

 

「うん!こちらこそよろしくね!私は月島まりな、まりなさんって呼んでね!早速今日からやってく?」

 

「どうする翔?」

 

「やらせて頂けるのなら是非」

 

「ではお願いします」

 

「オッケー!花梨ちゃんはどうする?」

 

「私は中学生なので...」

 

「そっか。じゃあ2人はスタッフルームからエプロン取って来て。花梨ちゃんは2人の仕事振りでも見てなよ、飲み物用意して来るから」

 

「ありがとうございます」

 

「すまんが待っててくれ」

 

「構いませんよ、お二人の初仕事見たいですし」

 

「...そうか」

 

何事も無く採用が決まってよかった。全ては生活のため、頑張りますか

 

月島からここでの仕事を教わりそれぞれ持ち場に着いたところだ。俺は中のカウンターでスタジオ予約者の対応、奏斗は外のカフェで受付だ

 

「今日はRoseliaにPoppin’Partyか。なんだこりゃ?」

 

Poppin’Partyって何?バンドか?

 

「スミマセーン、第一スタジオ予約のPoppin’Partyですがって君新人さん?」

 

「まぁ、今日からここでバイトさせてもらってます」

 

「そうなんですね!私Poppin’Partyのボーカルやってます、戸山香澄です!」

 

「練習頑張ってね」

 

「はい!」

 

「香澄〜!お前突っ走んな!ハァ...ハァ...」

 

このボーカル絶対メンバー振り回す奴だ

 

「えっとすみません。うちのメンバーがうるさくしてしまって」

 

「大丈夫だよ、元気なのはいいことだし」

 

ごちゃごちゃうるせぇとっとと行け

 

「2人とも速すぎ...りみも疲れちゃってるよ」

 

「ごめんごめん。沙綾におたえも揃ったことだし行こ!」

 

「お客さーん鍵忘れてますよ」

 

「あっすみません」

 

やっと静かになった。明日の予約表なんかを見てるとAfterglowとか色んなバンドいるし...何なの?

 

「第二スタジオ予約のRoseliaですけ...ど...」

 

「あっ友希那さん、こんにちは」

 

「...貴方、何でいるの?」

 

「生活のピンチを迎えたのでバイトです」

 

「そっそう...」

 

「友希那〜どうしたの?って翔じゃん!」

 

げっ今井来た

 

「どっどうも今...リサさん」

 

「む〜そんな嫌そうな顔しなくていいじゃん!」

 

「あー!この前の人だ!」

 

「あこちゃん...走ったら...危ないよ」

 

「貴方神道さんじゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」

 

「バイトです。生活のピンチなんで」

 

「皆には言ってなかったわね。これから翔がたまに私たちの練習見てくれることになったから」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

「友希那?初耳なんだけど?」

 

「言ってないもの」

 

「以前は断ったのに引き受けてくださるんですか?」

 

「少し興味がありましてね。敬語じゃなくていいですよ。年下ですし」

 

「えぇ、分かったわ」

 

「それにしてもここで練習してるんですね」

 

「学校や家から近いのよ。お金もあまりかからな...」

 

湊の言葉が何故か止まる。原因はすぐに分かった。俺でも寒気が走るくらいの殺気を柏が放っていた

 

「かっ花梨?殺気抑えないか?」

 

「殺気?何ですかそれ、美味しいんですか?」

 

「えっと...ひとまず落ち着こうな?」

 

「私はいつでも落ち着いてますよ?Roseliaの皆さんは早く練習しなくていいんですか?」

 

「じゃっじゃあ私たちはこれで...」

 

「またね!」

 

急ぎ足で向かう5人。柏怖くね?

 

「なぁ、お前どうしたの?」

 

「別に、お兄様があの人たちと話してるのが気に食わなかっただけです」

 

何故?俺があいつらと話して柏にデメリットでもあるのだろうか?

 

「お兄様じゃ考えても一生答えは出ませんよ」

 

「心を読むのは辞めて頂きたい」

 

「では私はRoseliaの練習見て来ますね」

 

「おい、あの殺気感じて送り出すバカが何処に」

 

「何か言いましたか?」

 

「なんでもございません」

 

おかしい。最近柏に逆らえなくなってきた。まるで華蓮が増えた感じだ。その時俺のスマホが鳴り出した。スマホの画面を見ると

 

『何か失礼なこと考えてそうだから今晩お話しましょうね?』

 

あっ俺死んだわ

 

俺は今まで感じたことないような絶望感に浸りながら仕事に励んだ




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第9話

こんばんは黒い死神です

それでは早速本編どうぞ!


友希那side

 

私はいつも通りバンドの練習をするためにリサと共にCIRCLEに来た

 

「今日は暖かいねぇ。練習やりやすそう」

 

「そうね。なら今日はいつもよりもハードでやるわよ?」

 

「オッケー!」

 

確かに今日はとても暖かい。あまりの暖かさに眠くなってくるがそんな時間はない。私はCIRCLEのドアを潜るとそこには思いもよらない人物がいた

 

「第二スタジオ予約のRoseliaですけ...ど...」

 

「あっ友希那さん。こんにちは」

 

なんと翔がカウンターで接客をしていたのだ

 

「...貴方何でいるの?」

 

「生活のピンチを迎えたのでバイトです」

 

そんなにお金無いのかしら...

 

「そっそう...」

 

「友希那〜どうしたの?って翔じゃん!」

 

「どっどうも今...リサさん」

 

彼はあからさまに嫌な顔をしている。余程リサが苦手なのだろうか

 

「む〜そんな嫌そうな顔しなくていいじゃん!」

 

「あー!この前の人だ!」

 

「あこちゃん...走ったら...危ないよ」

 

「貴方神道さんじゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」

 

「バイトです。生活のピンチなんで」

 

「皆には言ってなかったわね。これから翔がたまに私たちの練習見てくれることになったから」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

「友希那?初耳なんだけど?」

 

「言ってないもの」

 

ずっと言おうとしていたのだが忘れていた

 

「以前は断ったのに引き受けてくださるんですか?」

 

「少し興味がありましてね。敬語じゃなくていいですよ。年下ですし」

 

「えぇ、分かったわ」

 

「それにしてもここで練習してるんですね」

 

「学校や家から近いのよ。お金もあまりかからな...」

 

私は背後からの寒気に思わず言葉が止まる。翔の妹の花梨が恐ろしいほどの殺気を放っていたのだ

 

「かっ花梨?殺気抑えないか?」

 

翔もそれを感じたのか彼女を止めに入る

 

「殺気?何ですかそれ、美味しいんですか?」

 

本人はすっとぼけている。絶対確信犯だ

 

「えっと...ひとまず落ち着こうな?」

 

「私はいつでも落ち着いてますよ?Roseliaの皆さんは早く練習しなくていいんですか?」

 

「じゃっじゃあ私たちはこれで...」

 

「またね!」

 

これ以上ここにいると危険な気がするので私たちは急ぎ足でスタジオに向かった

 

「ぷは〜っ!花梨ちゃん怖!死ぬかと思ったよー!」

 

あこはずっと息を止めてたのか呼吸が乱れている

 

「本当だよ...あの子怒らせたらやばいやつだよ」

 

「さっきの彼女からは途轍もない殺気を感じましたね」

 

「怖かった...です...」

 

私も怖く無かったといえば全くの嘘になる。もしかしたら人生で1番恐怖を感じたかもしれない

 

「そういえばあこ、あの子のこと花梨ちゃんって呼んでたけどもうそんなに仲良いの?」

 

「花梨ちゃんあこと同じクラスなんだよ!」

 

「へえ〜」

 

あんな子がクラスにいたら恐怖で学校行ける気がしない

 

「さっ無駄話はそこまでにして練習するわよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

各自それぞれ楽器のセットやチューニングを終わらせ一曲目をやろうとしたとき

 

「失礼します」

 

何と花梨がスタジオに入ってきたのだ

 

「なっ何かしら?」

 

思わず声が裏返りそうになる

 

「ふふふ。そんなに怯えなくて大丈夫ですよ、それに殺気なんて出してませんから」

 

...絶対嘘だ

 

「えっと...それで、用件は?」

 

「いえ、少し練習を拝見しようかなと思いまして」

 

「そう、貴女がいてくれると助かるわ」

 

「湊さん、いいんですか?」

 

「えぇ、彼女は私たち以上の実力を持っている。そんな彼女に見てもらえるのは光栄だわ」

 

「では、『BLACK SHOUT』やっていただけませんか?」

 

「いいけど、何故?」

 

「好きなんですよ。あの曲」

 

「そう...ありがとう。なら皆、準備はいい?」

 

「全員いいよ!」

 

「分かったわ。聴いてください、『BLACK SHOUT』」

 

〜♪〜

 

「ふぅ。どうだったかしら?」

 

「やはり相当な実力を持っていますね。これならフェスの予選は突破できるでしょう」

 

「貴女には及ばないわ」

 

「まずは紗夜さん。2番のサビの後の間奏で少しずれてたんでそこを直せば大丈夫です」

 

「分かりました」

 

「次に今井さん。貴女は他の人と比べて全体的に劣っています。私はベースが1番得意なのであとで個人的に教えます」

 

「うっ...よろしくお願いします」

 

「あこは後半につれて走り気味になってるからテンポ良くいけるように。ドラムは曲の土台だから」

 

「う〜ん、やっぱり速くなっちゃうんだよな」

 

「次に白金さん。貴女はもっと自信を持って堂々と演奏したらいいと思います。すみません、キーボードは1番苦手なので大したことは言えません」

 

「やって...みます」

 

「最後に友希那さん。抑揚が足りない気がするので少しサビ以外の大きさを気持ち下げてください。そうすればもっと盛り上がります」

 

やはり彼女は化け物並みの実力を持っている

 

「分かったわ。ありがとう」

 

「そして全体的に足りないものがあります。これに気づかない限り...恐らくこれ以上は厳しいです」

 

「やっぱり。翔にも言われたわね...」

 

「友希那さん、1ついいですか?」

 

「何かしら?」

 

「私にこれを歌わせていただけませんか?」

 

「...分かったわ。皆もいい?」

 

私が聞くと全員が頷いた

 

「では始めましょうか。大丈夫、わたしを()()()()()()()。私も貴女方を()()()()

 

そしてあこのカウントと共に曲が始まった

 

〜♪〜

 

...凄い。私とは全然違う。皆とは初めてなのに完全に溶け込んでいる。完全に一心同体だ

 

「ふぅ。まぁこんなものでしょうか。ごめんなさい、途中音外してしまいました」

 

「「「「「!?」」」」」

 

そんな、いつ音を外したというの?私ですら全く気づけなかった

 

「私と友希那さん、何が違ったと思いますか?」

 

「何故でしょう...花梨さんとは初めてのはずなのにまるで1つに繋がったような」

 

紗夜の言う通りだ。今この5人は1つに繋がっていた。歪むことのない綺麗な輪ができていた

 

「その様子だと気づけていないようですね。ヒントは与えました、後は各自考えてください」

 

悔しい。彼女と私にここまでの差があるなんて...

 

「ヒント?一体どこで?」

 

「それを言ったら分かっちゃうじゃないですか。よく思い返せば分かりますよ」

 

「...もしかして」

 

リサが何かに気づいたみたいだ

 

「今井さんは分かったみたいですね。というより貴女のことだ、薄々気づいていたんじゃないですか?」

 

「...うん」

 

「リサ、どういうこと!?」

 

「友希那さんも急かさないでください。それにこれは全員が気づかなければいけないこと、彼女を責めないでください」

 

「今井さん、Roseliaを導いてあげてください。その陽だまりでRoseliaを照らしてあげてください」

 

「うん!分かった!」

 

「では、やるつもりだった曲合わせてください。その後個人で見ます」

 

「分かったわ。それじゃあ準備して」

 

私は皆に声をかけ準備を始める。そして1つ目標ができた

 

 

 

 

神道花梨に...勝ってみせる!

 

リサside

 

予定していた曲を合わせてやった後、私は花梨ちゃんの個人レッスンを受けていた。教え方が上手くて分かりやすい

 

「だいぶ良くなりましたね。他の人に追いつくのも時間の問題でしょう」

 

「花梨ちゃんの教え方がいいからだよ」

 

「それにしても呑み込みが速いですね。私よりも速いと思いますよ?」

 

「それは〜ないと思うな」

 

「あと、ベースの弦が切れかかっていたので昔私が使っていたのを試してみますか?」

 

「うん、そうしてみるよ」

 

「では、明日の放課後羽丘の校門で待ち合わせでいいですか?」

 

「それでいいよ!花梨ちゃんは中等部だっけ?あこと同じクラスなんでしょ?」

 

「えぇ、知ってる人がいて助かりましたよ。それと、私のことは呼び捨てで構いませんよ」

 

「分かった!これからよろしくね花梨」

 

「それにしても、Roseliaは実力はあるのに本当に勿体無いです」

 

「そのことなんだけど、花梨はいつ気づいたの?」

 

「初めて聴いたときに分かりましたよ。音に込められた想いがバラバラですもの」

 

「ウソ!?」

 

1回聴いただけで分かるなんて...この子凄すぎ

 

「私よりもお兄様の方が凄いですよ。昔はよくお兄様に教えてもらったものです」

 

「翔って何でもできる感じだよね」

 

「実際何でもできますけどね」

 

「マジですか...」

 

「では私は他の方を見て来ますね。その調子で頑張ってください」

 

「うん!ありがとう!」

 

さてと、皆に追いつくため頑張りますか!

 

友希那side

 

私は花梨のアドバイスを元に練習をしていた

 

「まだまだ、こんなんじゃ彼女には...」

 

「友希那さん」

 

後ろから花梨に声をかけられる

 

「練習するのもいいですが、やり過ぎは良くありませんよ?」

 

「貴女は普段どのくらい練習していたの?」

 

「まだバンドを組み始めた頃、私は他のメンバーよりも下手で練習しまくってましたね。丁度今の友希那さんくらいに」

 

「意外ね。貴女ならその辺はしっかりしてると思っていたけど」

 

「お兄様やお姉様、琉太さんもスペック高すぎるんですよ。そして段々焦り始めて...寝ることも忘れて練習してました」

 

「私よりも酷いじゃない...」

 

「その頃私は小学生だったので12時には寝てましたよ?どうせ友希那さんは2時とか3時くらいまで起きてるんでしょう?」

 

この子...結構痛いところついてくるわね

 

「そしてある時、学校で倒れて救急車で病院に運ばれました」

 

「そんな...」

 

「病室で見舞いに来たお姉様や琉太さんに結構怒られましたよ。でも意外だったのはお兄様でした」

 

「翔がどうしたの?」

 

「その頃からあまり感情を表に出すことは無かったんですがその時はブチ切れて胸ぐら掴まれて壁に叩けつけられたんですよ」

 

案外翔も怒らせてはいけないのかもしれない

 

「そして散々怒られて流石の私でも大泣きで必死に謝りました。そんな私をお兄様は優しく抱きしめてこう言ったんです」

 

『お前だけは失いたくないんだ。だから...無理をするな』

 

あの子も結構カッコつけるのかしら

 

「何かその言葉で安心したのかずっと泣きっぱなしで...見舞いに来たのが夕方の4時くらいだったんですが気づけば8時くらいになってました」

 

「その後は?」

 

「1週間後無事退院してそれからは練習もしっかり考えて休憩を取るようになりました」

 

「...何だか私が考えてないように聞こえるんだけど」

 

「だってその通りじゃないですか」

 

彼女の言葉が異様に刺さる

 

「中学生にここまで言われると流石に頭にくるわよ?」

 

「とにかく、あまり無理はしないことです。お兄様は誰よりも怒らせてはいけないことが分かりましたか?」

 

「神道家全員怖いことは分かったわ」

 

「...ケンカ売ってるなら買いますけど?」

 

「ごめんなさい...」

 

「さて、今井さんも随分と上達してるので貴女も頑張ってくださいね」

 

「えぇ、ありがとう」

 

やはり彼女に勝つのは難しそうだ。だがここで諦めたらフェスで優勝するなんて無理だ。私は改めて彼女に勝とうと決意した

 




読了ありがとうございました!

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第10話

皆さんこんばんは、今回でようやく十話突入です!

では本編をどうぞ!


柏side

 

Roseliaのメンバー個人にアドバイスをした後もう一度通してやってみた

 

「どうだったかしら?」

 

「先程言ったことがしっかりできていて良かったです。まだまだ荒削りですが、これからも頑張ってください」

 

「ありがとう。皆、そろそろ時間だから片付けるわよ」

 

「じゃあアタシは受付に言ってくるね!」

 

「待って、受付は彼よ?リサが行ったら嫌がるだろうし私が行くわ」

 

「む〜」

 

この人たちはどれだけお兄様に近づくのかしら?

 

「お兄様には私から言っておくので大丈夫ですよ?」

 

「そっそれはありがたいのだけど...その殺気を抑えてくれないかしら?」

 

「ですから何のことか分かりませんね」

 

「とっとりあえずお願いするわ」

 

「了解しました」

 

私はスタジオから出て受付に向かう

 

「お兄様、Roselia終わりましたよ」

 

「そうか...手続きしておく」

 

「やはり実力は確かなものですね。お兄様の言った通り、1つ足りませんが」

 

「俺が言えたことじゃねえが彼奴らもう少しお互いを信用しねえとこれから先前に進めねえよ」

 

「私の方からアドバイスしたら今井さんは気付きましたよ」

 

「あのコミュ力お化けがか。まぁお化けなら分かるかもな」

 

「こっコミュ力お化け...」

 

流石にその呼び方は酷いのではないだろうか。確かに彼女のコミュ力は異次元だが、何もそこまで言わなくても...

 

「あっそうだ。今日晩飯華蓮来るから奏斗に言って来てくれ」

 

「お姉様が?分かりました」

 

お姉様と会うのは何年振りだろうか。バンドを解散して以来だろうから2年振りくらいだと思うが

 

「最近お前ら会ってないだろ?それに華蓮も柏と話したいらしいからから」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「翔君〜今日はもう予約入ってないから上がっていいよ〜」

 

「分かりました。花梨、琉太にも頼む」

 

「了解しました」

 

お兄様は本名と偽名の使い分けがとても上手い。本名から急に偽名に変えるのは今だに難しくて間違えそうになる

 

「かな...琉太さんは何処に?」

 

ほら間違えた

 

「外のカフェ」

 

「ありがとうございます」

 

居場所を聞いて外に出ると奏斗さんが何やらやつれた顔で立っていた

 

「あの、琉太さん?大丈夫ですか?」

 

「バイトキツイ...人間嫌い」

 

「お兄様みたいなこと言わないで戻って来てください。今日は終わりらしいです。それと、お姉様が夕飯いらっしゃるらしいので」

 

「ん?華蓮さんがか、分かった」

 

奏斗さんは明らかに疲れている。流石の奏斗さんでも初めてのことはキツイらしい。それに先程のお兄様も顔には出ていなかったが何処か疲れていた。私には無理はするなと言いながら自分はしてるんじゃ...

 

「お兄様、少し疲れてました。夕飯も作るのにこれじゃ倒れちゃいますよ」

 

「確かにここんとこ彼奴妙に周りに気を使ってんな...もしかして」

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもない。ただ華蓮さんに聞かなきゃいけないことができただけだ」

 

「?」

 

お姉様に聞かなきゃいけないことってなんだろう?気になったが奏斗さんの顔がいつになく真剣だったので聞くのは辞めておいた

 

「まりなさんお疲れ様でした」

 

「あっお疲れ琉太君。後片付けは私がやっとくから今日はもういいよ。今度シフト表作っとくね」

 

「俺ら基本暇なんで毎日来れますよ」

 

「流石に高校生を毎日働かせるなんて無理だよ」

 

「俺らお金無いんでお願いします」

 

「翔君も!?う〜ん...じゃあ週に2日は最低休むこと。つまり週に5日間来る。これならいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

正気なのか?ただでさえ最近無理してるのにこれ以上は...

 

「ちょっお兄様!」

 

私はすかさず止めに入った

 

「ん?どうした?」

 

「どうしたじゃないですよ!最近お兄様は無理をしすぎです!家事も私が手伝おうとしても拒否するしこれ以上はお兄様の身体が持ちません!」

 

「前にも言っただろ。普段お前には迷惑かけてんだ。このくらいはしないと俺の気が済まない」

 

「その無理がこちらの迷惑になってるんです!」

 

「おい花梨少し落ち着け!」

 

「琉太さんは黙っててください!」

 

「何の騒ぎ?」

 

「あっ湊さん...ちょっとこっちに」

 

「花梨、何だか怒ってるみたいだけど」

 

「週5日間でバイトしたいって言ったら無理しすぎっつって花梨がキレて...」

 

「そういうことね。でも彼変なところで頑固そうだけど...」

 

「そのせいで花梨があんな感じに」

 

隣で何か言ってるが関係ない

 

「別に俺が倒れようが死のうが誰も何も思わんだろ」

 

「...ざけ...で」

 

「ん?」

 

「ふざけないで!」

 

「 っ!」

 

「お兄様が死んでも誰も何も思わない?寝言も大概にしてください!お兄様、前に私に言いましたよね」

 

『お前だけは失いたくないんだ。だから...無理をするな』

 

「あの言葉で私は救われた。貴方がいたからこうして私が生きているんです。それに...」

 

「?」

 

「私はお兄様が死んだら悲しいです」

 

「!?」

 

私は無意識にお兄様に抱きついていた

 

「だから...もう2度とそんなこと言わないでください」

 

「花梨...すまない」

 

「いえ、こちらこそ生意気なこと言ってごめんなさい」

 

「ハァ...おい翔」

 

「何だ?」

 

「外出て頭冷やしてこい。そして自分なりの答えだしてこい」

 

「...分かった」

 

奏斗さんに言われてお兄様は外に出ていった

 

「すみません。見苦しいところを見せてしまって」

 

「ううん、そっちにも色々と事情があるもんね。でもどうする?彼、結構真剣だったけど」

 

確かに、実際お金がないのは事実なのでお兄様は絶対譲らないだろう。私に家事ができればいいのだがあまりやったことない

 

「だったら...私をここで働かせてください」

 

「えぇ!?」

 

「花梨!お前まだ中学生だろ!それに彼奴だってお前に無理はして欲しくなかろうに」

 

「お兄様のお手伝いとしてここで雇ってください。給料はいりません。週に2、3日程やらせていただければ結構です」

 

「そんなこと言われても...」

 

「お願いします。これ以上...お兄様に負担をかけたくないんです」

 

「...なら、翔君としっかりお話ししてから決めようか。彼が許してくれたらいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「仕方ない。俺も手伝ってやる」

 

「琉太さん...」

 

まりなさんからの許可は得た。後はお兄様を説得できれば...

 

咲夜side

 

俺は奏斗に言われて外の空気を吸っていた。柏とあんな喧嘩をしたのはいつ頃だっけ?

 

「湊たちにも見られちったしな...しゃあないか」

 

それにしてもさっきの柏の言葉

 

『私はお兄様が死んだら悲しいです』

 

今まで俺が死んでも誰も何も思わないものだと思っていた。俺は柏の感情を読み取れないしずっと彼奴を苦しめてると、そう思っていた。しかし何故か今日は彼奴の感情が分かった。柏は怒り悲しんでいた、ということだけ

 

「何で、俺は...」

 

感情を捨ててから他人の気持ちさえ分からなくなってしまったのに何故今日は分かったのだろうか?そしてあの言葉を聞いて俺はどうしようもない感じになった

 

「認めたくはないが、どうやら認めるしかなさそうだな」

 

俺は少しずつ感情を取り戻しつつあるのかもしれない。だがこのままでは昔の過ちを繰り返すだけ。また自分が苦しむだけ。そうなるくらいなら俺は感情を捨て続ける

 

「...戻るか」

 

十分に考えたので俺は中に戻ることにした

 

「あっお兄様、1つお願いがあるんです」

 

「何?」

 

「私も一緒にここで働かせてください。週に2、3日程お兄様のお手伝いでやらせてください」

 

「働くつったってお前中学生だろう」

 

「これがここで週に5日間働く条件です」

 

参ったな...こうなると柏は自分の想いを貫くだろうな...

 

「...分かった」

 

「ありがとうございます!」

 

「全く、翔。俺からも条件だ。花梨に家事教えろ」

 

「いや、家事は俺がや「お に い さ ま ?」...分かりました」

 

「よし、すみませんお先に失礼します」

 

「はーい、気を付けて帰ってね〜」

 

「帰るか」

 

「はい!」

 

「私たちも帰りましょう」

 

「そうだね!ねぇ、皆でファミレス行かない?」

 

「「行かないわ」」

 

「うっごめんなさい」

 

「それじゃあお疲れ様でした!」

 

「お疲れさま...です」

 

「皆さん頑張ってくださいね」

 

「貴方たちは明日も来るのかしら?」

 

「えぇ、そのつもりです」

 

「まりなさん、明日はスタジオ空いてますか?」

 

「えっと...明日はAfterglowしか入ってないからいけるよ」

 

「ではお願いします」

 

「了解ね」

 

「時間があったら見てもらえると嬉しいわ」

 

「なるべく頑張ります」

 

「また明日」

 

「さようなら」

 

今日は人数多いし季節外れだが鍋でもしますか

 

「おい、季節外れだが鍋するぞ。何がいい?」

 

「私はレモンがいいです」

 

「俺はキムチかな...」

 

「だったら両方買えばいいか...スーパー行くぞ」

 

「分かりました」

 

「俺は商店街で野菜買って来るわ」

 

「頼む」

 

奏斗はこういうときに気が利くのでとてもありがたい

 

俺は柏とともにスーパーへ材料を買いに向かった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

柏と買い物を終え家に帰ると既に華蓮が帰って来てた。奏斗も来ていた

 

「あっおかえり2人とも、柏〜久しぶり!」

 

「お久しぶりです、お姉様」

 

「変わったね柏も!咲夜といい奏斗くんといい皆変わりすぎ!」

 

「そりゃ2年も会ってなきゃ少しは変わったように見えるだろ。今日は鍋にするから華蓮は柏と話してろ」

 

「料理できるの〜?」

 

「舐めんな。それにそこらはお前を引き継いでるらしい」

 

「私は姉だから引き継ぐのはないと思うけど...」

 

「気にしたら負け」

 

「アハハ...なら心配ないか。奏斗君も一緒にお話ししよ!咲夜の部屋で」

 

「おい、柏の部屋でしろ。お前荒らすだろ」

 

「む〜」

 

「まぁまぁ、それじゃあ咲夜よろしくな」

 

「あぁ」

 

それにしても今日の野菜は鮮度が良い。奏斗が全部選んで来たのだが彼奴目利き術持ってんのかな?今度聞いてみよう

 

「変わったのはお前もだろうよ。華蓮」

 

華蓮も随分と丸くなったと思う。昔なんか気が荒くて怒らせると手がつけられなくなったからな...俺と奏斗で何とか鎮めたけど

 

「変わるのは構わんがあの事を忘れたとは言わせねえぞ...俺はあの件を許したわけじゃないからな...」

 

華蓮side

 

私は柏と奏斗君と一緒に仲良くおしゃべり中。ずっと本家で暮らしてたからこんな感じはとても興奮する

 

「そういえば咲夜友希那ちゃんのバンド面倒見ることになったんでしょ?」

 

「えぇ、最初は断ってたんですけどどういうつもりなのか急に引き受けたんですよ」

 

「1番変わったのは咲夜か...」

 

「それと華蓮さんに報告しようと思って、今日起きたことを」

 

「え?何それ?」

 

「実は今日お兄様と喧嘩してしまって」

 

この2人が喧嘩なんて珍しい

 

「あんたたちが喧嘩って何があったの?」

 

「お金がなくてバイトしようとして俺ら基本暇だし毎日来れると言ったら柏が咲夜に無理しすぎだと言ったら...」

 

「お兄様が死んでも誰も何も思わないと言い出して何だか頭にきちゃって」

 

「ふ〜ん...やっぱ根は変わってないな」

 

「でも、私の声が届いたんです」

 

「咲夜は徐々に感情を取り戻しつつある。多分今日のことで彼奴も自覚したでしょう。でも彼奴はそれを拒み捨て続けると思います」

 

「そっか。ありがとう」

 

「貴女が言っていた今のやり方では完全には戻らないというのはどういう意味ですか?」

 

「教えるのもありだけど強い刺激を与えた方が影響を与えやすい。現に柏が咲夜に怒りと悲しみをぶつけたから感じることができた」

 

「強い刺激...ですか」

 

「多分今日の件で他人の感情を感じるのは多少できるようになったと思うよ」

 

「なら良いのですが...」

 

やはり話した方がいいかもしれない

 

「2人には話しておくよ。あの子が感情を捨てた本当の理由を」

 

「本当の理由?」

 

「確かに親戚や信じてた人に一瞬で裏切られ人の愚かさを知った。そして感情は自分を苦しめるだけ、それで捨てたのもあるけどそれは1部に過ぎない」

 

「お兄様は何故あそこまで拒絶するのですか?」

 

「私のせいなの」

 

「え?」

 

「咲夜が感情を捨てたのは...私のせいなの」

 

私の声はかすかに震えていた




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第11話

どうも黒い死神です!先日イオンに行ってBLAVE JEWEL買いに行ったのですが売り切れてた...悲しい

タイトル変更しましたのでこれからもよろしくお願いします!

では本編どうぞ!


「お姉様?一体何を言っているのですか?」

 

「柏はまだ小さかったから覚えてないんだよね。奏斗君は分かるでしょ?あの子が両親から何をされていたのか」

 

「えぇ...嫌という程に」

 

「お兄様は何をされていたんですか?」

 

流石にこのことは話さない方がいいかもしれない。そう思った私は

 

「知らない方がいいよ」

 

冷たい声で言い放った

 

「でも、それが何故感情を捨てる理由に?」

 

「あの件があって咲夜は恐怖を覚えた。勿論恨みもしたと思う。けど1番感じたのは両親に対する恐怖だった」

 

「お兄様が感情を捨てた訳は分かりました。できれば何があったのか知りたいですが、今回はいいです。ですがそれがお姉様のせいになる理由が分かりません」

 

「私が咲夜を見捨てたから...あの子を傷つけてしまったから」

 

「どういう...ことですか?」

 

「両親は私の目の前で咲夜を壊していった。止めなきゃって何度も思った。でも...怖くて何もできなかった。あの子を守ってあげられなかった」

 

私は溢れ出る涙を抑えることができなくなってしまった

 

「華蓮さん...」

 

「最低だよね...弟を見捨てるなんてさ。自分を守るために唯一の家族を捨てたんだもん。姉失格だよ」

 

「そんなこと...」

 

「だから2人にお願いしたいの。咲夜に光を与えてあげて。あの子は今でも私を恨んでる。私の声は届かない」

 

これが私にできること。2人のサポートをすること

 

「分かりました。必ず成し遂げてみせます」

 

「私も...やります!」

 

「ありがとう柏、奏斗君」

 

「おーい!飯できたぞ〜!」

 

「話はここまで。さ、ご飯食べようか」

 

「そうですね。柏も行こうか」

 

「分かりました」

 

何とか2人に託すことはできた。私もできることをしよう

 

私は心の中で決意した

 

奏斗side

 

まさか華蓮さんがあんなことを思っているなんて全く知らなかった。それどころか、咲夜が華蓮さんを恨んでるなんて...思いもしなかった

 

「華蓮さん、強い刺激と言っても具体的に何をすればいいんですか?」

 

「問題はそれなんだよね...1番効果的なのは忘れたがっているあの時の恐怖を思い出させることだけどそれは流石に人としてあれだし」

 

「やっぱり感情を正面からぶつけるのが最善だと思います」

 

「柏の言う通りかな。しばらくはそれで様子を見よう」

 

「それにしても、随分といい香りだな」

 

2階にいるのにここまで香りが漂って来る

 

「何だか咲夜に料理で負けそう...唯一勝てることだったのに」

 

「お姉様もハイスペックですし大丈夫でしょう」

 

そう言いながらリビングに降りて行く

 

「お前ら遅えよ。何分待ったと思ってんだ」

 

「ごめんって。久しぶりで楽しくなっちゃって」

 

「ったく...俺の部屋荒らしてないだろうな?」

 

「見てもないし触ってもいません」

 

咲夜がチラッと俺の方を見て来る。そんなに姉が信用ならんか

 

「見てないよ」

 

「ならいい」

 

「早く食べませんか?お腹がすいてきました」

 

「要望通りキムチとレモンの鍋にしたぞ。好きに取れ」

 

食卓には大きな鍋が仕切りで半分にされててそれぞれレモンとキムチの鍋があった

 

「「「いただきまーす!」」」

 

キムチを頼んだのは俺なのでキムチから食べてみると...ウマ!何これ!?普通の店よりめちゃくちゃ美味い!

 

「ん〜美味しい!咲夜腕あげたね!」

 

「ふむ...我ながら中々の出来だな」

 

「とっても美味しいです!特にレモン鍋!最高です!」

 

「キムチも最高!いくらでも食えるぞ!」

 

「そんなに焦らんとも鍋は逃げねえよ」

 

現在俺と華蓮さん、柏の3人で鍋の取り合い中だ。急がねえと無くなっちまう

 

「おい、俺の分もとっとけや」

 

「「「考えとく! (きます!)」

 

「ハァ...」

 

ヤバイ止まんねぇ!美味すぎて死にそう

 

「そういえば、今日の野菜凄い鮮度が良かったんだが奏斗目利き術でも持ってるのか?」

 

「ん?まぁ相○マナブでよく見てるからな...大体は分かるぞ」

 

「今度教えてくれないか?」

 

「オッケー」

 

「ねぇ!食べたら久しぶりに1、2曲やらない?ここなら完璧な防音室あるし」

 

「いいですね。お兄様たちはどうですか?」

 

「俺は全然いいぞ!」

 

「俺も構わんが」

 

「じゃあ決まり!早く食べちゃお!」

 

このメンバーで久しぶりに演奏か...楽しみだな

 

咲夜side

 

俺たちは華蓮の提案で家の地下にある防音室にいた。本家から追い出されてこの家を建てたとき、婆ちゃんが作ってくれたのだ

 

「それぞれ得意な楽器でいいだろ。各自チューニングからな」

 

俺の言葉で全員が頷き担当楽器のチューニングを始める

 

キーボード弾くのも久しぶりだな...5分くらいして皆のチューニングが終わったので次は曲決めだ

 

「何やる?」

 

奏斗の問いかけに

 

「unravel」

 

俺の即答で1曲目が決まった

 

「お兄様本当にそれ好きですね」

 

unravelというのはT○ from 凛として時雨の曲で俺が1番好きな曲だ

 

「まぁいいんじゃない?それじゃあやろうか!」

 

unravelはヴァイオリンなどでやるのだが今回はギターやベースでやるロックversionだ

 

そしてドラム担当華蓮のカウントで曲が始まった

 

〜♪〜

 

「フゥ、久々にしてはなかなかいいんじゃないか?」

 

「やっぱり感覚で覚えてるもんだね」

 

「とっても楽しかったです!お兄様はどうでしたか?」

 

「どうだろうな...分からないけど昔みたいで良かったよ」

 

まぁ世間一般では楽しいというのだろう

 

「もう一曲やろうよ!今度はオリジナルで」

 

「ならFWFのときの曲やろうぜ。何かとあれが思い入れあるしな」

 

「そうですね。奏斗さんもそれでいいですか?」

 

「異議なし」

 

「それじゃあ行くよ!Xaharの最高の曲、『月光』」

 

〜♪〜

 

「はぁ〜疲れた!」

 

「またみんなで演奏しましょう!」

 

「あぁ!またいつか!」

 

3人とも楽しめたみたいだな

 

「じゃあ片付けするぞ。華蓮は風呂どうする?」

 

「私はいいよ。そろそろ帰らないと色々まずいし」

 

「そうか。なら鍋の残り少し持ってけ」

 

「うん、ありがとう」

 

恨みはあるもののなにかと世話になってるんだしこれくらいはしなきゃな

 

「俺も風呂は自分の家で入るわ」

 

「分かった。じゃあ柏、先入ってろ」

 

「お兄様が先に入ってください。でないと洗い物だな全部お兄様がやってしまうじゃないですか」

 

この野郎、俺の行動まで読んでやがる

 

「...分かった。洗い物だけ頼む」

 

「了解しました」

 

家事を教えるのも約束の1つだし仕方ないか...

 

そういえば、明日青葉にパン屋に連れて行ってもらう約束してたわ。柏に言っとかないと

 

「柏、俺明日は朝早めに家出るから奏斗と2人で行ってくれ」

 

「?分かりました?」

 

すげぇ疑いの目を向けられてる気がするけど...まぁいいか

 

「それじゃあよろしく〜」

 

柏side

 

お兄様を無理矢理お風呂に行かせて早速洗い物をしようとしたところで思い出したようにお兄様が

 

「柏、俺明日は朝早めに家出るから奏斗と2人で行ってくれ」

 

早く出る予定でもあるのだろうか?友希那さんや今井さんが羽丘なのは知っているが2人ともそんなことは言っていなかったし...

 

「?分かりました?」

 

「それじゃあよろしく〜」

 

奏斗さんに聞いてみよう

 

「奏斗さ〜ん!」

 

「どうした?」

 

いつの間にか身支度を終わらせちゃっかり鍋の残りを持ち去ろうとしている奏斗さんがいた

 

「...何やってるんですか?」

 

「えっと...あまりにも鍋が美味かったので持って帰ろうかなと...」

 

「キムチならともかく、まさかレモンまで持ち去ろうとなんて思ってませんよね?」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

どうやら本気だったらしい

 

「んでどうした?」

 

「お兄様が明日朝早めに家出るらしくて、何か知っていないかなと」

 

「あぁそれね。今日の昼休みにAfterglowの面子と昼飯食ってな。ギター担当のモカに美味しいパン屋があると聞いて咲夜が案内を頼んだわけだ」

 

そういえばお兄様は大のパン好きだった...人が嫌いなくせにパンごときで釣られて大丈夫だろうか?

 

「今思ったこと、絶対咲夜の前で言うなよ。殺されるから」

 

そしてパンをバカにすると物凄く怒るのだ

 

「わっ分かりました」

 

「というわけだ。じゃあな!」

 

「ちょっ!レモン鍋返してください!」

 

鍋の取り合いを10分ほど続けていたら

 

「おい」

 

お兄様に見つかって説教されました

 

次の日

 

「おはようございます...」

 

重い身体を何とか動かしてリビングに向かうと既に準備を終えたお兄様がいた

 

「おはよう、相変わらずだなお前は。寝癖酷いぞ?」

 

お兄様はそう言って私の頭を撫でてくる。お兄様はこういったことを平気でやるので知らぬ間に女子の心を掴むことが多い。実際中学の頃もバレンタインを大量に貰ったり、1日に1回は告白されていた

 

「///」

 

「じゃあ俺は先行ってるから」

 

「いってらっしゃいませ。にしてもパンごときで釣られて大丈夫ですか?」

 

言い終わったところで自分のミスに気がついた

 

「...」

 

「ごめんなさい!無言で私のお弁当を持っていくのはやめてください!お願いですから許してください!」

 

「まったく...しっかり朝飯食えよ」

 

「分かっています」

 

「じゃあな」

 

「今日はバイト行くのですか?私は今日今井さんと出かける予定があるので行けませんが」

 

「今日の予約Roselia入ってたけど?」

 

「そうですか?なら行きます」

 

「了解」

 

「ではまたCIRCLEで」

 

「あぁ」

 

咲夜side

 

いつもより早起きして支度を終わらせると眠そうな顔をした柏が降りてきた。こいつは基本朝に弱い。寝癖も酷いしゾンビみたいな顔をしている

 

「...おはようございます」

 

「おはよう、相変わらずだなお前は。寝癖酷いぞ?」

 

柏の寝癖を少し直そうと軽く頭を撫でる

 

「///」

 

何か顔赤くなってきたけど熱はなさそうだしいっか...

 

「じゃあ俺は先行ってるから」

 

「いってらっしゃいませ。にしてもパンごときで釣られて大丈夫ですか?」

 

言い終わったところで柏がやってしまったみたいな顔をしているがもう遅い

 

「...」

 

俺は無言で柏の弁当を持ち去ろうとする

 

「ごめんなさい!無言で私のお弁当を持っていくのはやめてください!お願いですから許してください!」

 

どいつもこいつもパンを舐めてんのか?

 

「まったく...しっかり朝飯食えよ」

 

「分かっています」

 

「じゃあな」

 

「今日はバイト行くのですか?私は今井さんと出かけるので行けませんが」

 

「今日の予約Roselia入ってたけど?」

 

昨日月島が言っていたので間違いないと思う

 

「そうですか?なら行きます」

 

また殺気を放たないか心配だがそこはよしとしよう

 

「了解」

 

「ではまたCIRCLEで」

 

「あぁ」

 

密かにパンを楽しみ思いながら家を出た

 

 




中々ガルパキャラが出せない...次回はモカが出るはずですのでよろしくです

評価や感想お待ちしております!

ちなみに今回咲夜たちがカバーしたunravelですがとてもいい曲ですので皆さんも聴いてみてください!


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第12話

どうも黒い死神です!

紗夜も日菜も出なかった...

それではどうぞ!


モカside

 

今日はしょ〜君と一緒にパンを買いに行く日。まさか同じクラスにパン好きの同志がいたなんてねぇ〜。現在の時刻は6時40分。約束は7時だけど早く来すぎちゃったよ〜。何というか...早くしょ〜君に会いたい感じ?しょ〜君と話すと楽しいしカッコイイし...ってこれってあたしがしょ〜君のこと好きみたいじゃない?

 

10分ほどしてから

 

「お〜い青葉!」

 

しょ〜君が約束の公園にやって来た

 

「お〜しょ〜君、おっはよ〜」

 

「おはよう青葉。悪りぃ、待たせたか?」

 

「10分くらいかな〜?あたしが早く来すぎただけだから大丈夫だよ〜」

 

「そっそんな早く来たのか...」

 

「それより揃ったから行こうよ〜。この1秒1秒が大事なんだから〜」

 

「分かった。案内頼むぞ」

 

「任せなさ〜い」

 

いざ、山吹ベーカリーへしゅっぱ〜つ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

やった〜1番だ〜!これで好きなものとれる〜

 

「すげえな...1番じゃねえか」

 

「いや〜早く来た甲斐がありましたな〜。モカちゃんに感謝するのだ〜」

 

「あぁ。ありがとな」

 

開店まで20分くらいあるけどどうしよっかな〜?

 

「ねぇしょ〜君」

 

「ん?どうした青葉」

 

「しょ〜君はあたしのこと名前で呼ばないの〜?」

 

「何ていうか...慣れないんだよな。今まで人と関わるのが嫌いでな」

 

へぇ〜意外

 

「じゃあさ、試しに名前で呼んでみてよ〜」

 

「モッモカ?」

 

「オッケ〜。しょ〜君もこれから名前で呼んでね〜」

 

「...分かった。あっスマホ鳴ってるわ。ちょっと電話してくるな」

 

「りょ〜かい」

 

そう言ってしょ〜君は少し離れたとこまで走ってた。誰かと電話してるけど、な〜んか顔が険しいな〜

 

「ねぇねぇ君!ちょっといいかな?」

 

「?」

 

後ろから声をかけられて振り向くと柄の悪い男の人が3人いた

 

「君今1人?良かったら近くの喫茶店でお茶しない?あっ学校までには間に合わせるからさ!」

 

今時ナンパってよくあるもんだな〜。断ろうとしたけどうまく声が出せない

 

...怖い。助けて、しょ〜君...

 

「あの〜少しいいっすかね?」

 

「あ?」

 

タイミング良くしょ〜君が戻ってきた

 

「誰だお前?」

 

「いえ、その子は俺の連れでね。会話が聞こえたので声をかけたんですよ」

 

「ふーん、で?用件は何?」

 

「そいつとはこれから此処のパン屋で一緒にパンを買う予定があるのでナンパなら他を当たってください」

 

「てめえこの子と予定あんのか。じゃあてめえをぶっ飛ばせばいい話だ!」

 

リーダーみたいな人が急にしょ〜君に殴りかかる。それなのにしょ〜君は避ける素振りも見せない

 

「しょ〜君!」

 

「ハァ...待ってろ。すぐに終わらせてやる」

 

しょ〜君が1言言うとしょ〜君に殴りかかった人が急に倒れた

 

「「なっ!?」」

 

「え?」

 

何が起こったのか全く分からなかった。しょ〜君は特に動いてないのに不良は白目を向いて倒れているのだから

 

「さて、どっちから来る?」

 

「アァ!?てめえ1人倒したからって調子乗ってんじゃねえぞ!」

 

「あっ悪りぃ。言い方変えるわ」

 

そのあと急にしょ〜君の目付きが変わって

 

 

 

 

「どっちから死ぬ?」

 

その声のトーンに寒気を覚えた

 

「てってめえ舐めやがって!」

 

不良2人は同時にしょ〜君に襲いかかる。でもしょ〜君は簡単によけて片方の顎に回し蹴りを放った。脳が揺れたのかすぐに気絶した

 

「まったく...折角モカが此処につれて来てくれて上機嫌だったっつうのに電話相手は最悪だし面倒なことになってるし。とりあえず邪魔だから死んでくれない?」

 

呑気に喋りながら相手の頭を掴んで思いっきり地面に叩きつけた

 

「がはっ!」

 

そしてそのまま倒れた人の手の指をつま先で持ち上げるとそれを踏みつけた。辺りに鈍い音が響く

 

「イッ!?ギャアアアア!」

 

「うるせえよ、近所迷惑だろうが。だんだん人が並び始めてんだよ。2度とモカに近づくな。次は殺す」

 

「すっすみませんでしたー!」

 

残りの2人の頭を持って引きずり走り去っていった

 

「ふぅ、モカ!大丈夫か!?」

 

「しょ〜君が助けてくれたからへ〜き〜」

 

本当はそんなことないけどね〜

 

「足、震えてんぞ?」

 

「!」

 

しょ〜君って観察力あるね〜。こんな細かい動きに気付いちゃうもん

 

「怖かったよな。大丈夫、もう俺がいるから。生憎、俺は人の感情が読めない。モカが何を思っているのか俺には分からないけど、我慢する必要はないと思うぞ?」

 

あたしはしょ〜君にしがみついちゃった。しょ〜君の言葉に安心してしまった

 

「じょ〜ぐん...怖かった」

 

「あぁ。それにしてもモカって泣くのな。普段から呑気な口調だからイメージと違うわ」

 

「...」

 

あたしは無言でしょ〜君に目潰しをした。よけられたけど

 

「うおっ!?おい!いきなり何すんだよ!?」

 

「...しょ〜君のバカ〜」

 

「?」

 

しょ〜君って鈍感だよね〜。さっきの言葉といい絶対無意識だよね〜

 

「まぁいいや。そろそろ店開くみたいだし準備しとけよ」

 

「は〜い」

 

咲夜side

 

山吹ベーカリーに着いたら店の前には誰もいなかった。どうやら1番乗りみたいだ。後でオススメでも聞いておこう

 

「すげえな...1番じゃねえか」

 

「いや〜早く来た甲斐がありましたな〜。モカ誰もちゃんに感謝するのだ〜」

 

「あぁ。ありがとな」

 

口調はこんなに呑気なのに何故がムカつかない

 

「ねぇしょ〜君」

 

「ん?どうした青葉?」

 

「しょ〜君はあたしのこと名前で呼ばないの〜?」

 

またそれか。今まで人を嫌って親しくしようとしなかったので名字で呼ぶことが多かったから慣れていないのだ

 

「何ていうか...慣れないんだよな。今まで人と関わるのが嫌いでな」

 

「じゃあさ、試しに名前で呼んでみてよ」

 

「モッモカ?」

 

「オッケ〜。しょ〜君もこれから名前で呼んでね〜」

 

どうやらご満悦の様だ。そのとき、俺のスマホが鳴っていることに気が付いた

 

「...分かった。あっスマホ鳴ってるわ。ちょっと電話してくるな」

 

「りょ〜かい」

 

話の内容を聞かれないために少しモカから離れる

 

「もしもし?」

 

『咲夜か。久しいな』

 

「黙れクソジジイ。こっちは今からパン買うんだよ。何の用だ?」

 

()()が刑務所から脱獄したという情報が入った」

 

「何?本当か?」

 

『恐らく間違いないだろう...奏斗にはもう言ってある。そっちで調べておけ』

 

「チッ。狙いは俺か」

 

『だろうな。もし貴様の周りに被害が及べば...』

 

 

 

『貴様は消す』

 

「分かってんだよ。用件は済んだか?とっとと失せろ」

 

『ふん。死にたくなきゃ早く調べることだな』

 

やっと切れた。クソッ折角いい気分だったのにあのジジイのせいでめちゃくちゃだ。電話も終わったのでモカのところへ戻ると彼女はナンパされていた。...何故俺はナンパの現場に鉢合わせることが多いのだろうか?この前の白鷺の件もそうだし...さっさと助けとくか

 

「あの〜少しいいっすかね?」

 

「あ?」

 

「誰だお前?」

 

「いえ、その子は俺の連れでね。会話が聞こえたので声をかけたんですよ」

 

「ふ〜ん、で?用件は何?」

 

「そいつとはこれから此処のパン屋で一緒にパンを買う予定があるのでナンパなら他を当たってください」

 

「てめえこの子と予定あんのか。じゃあてめえをぶっ飛ばせばいい話だ!」

 

リーダーみたいな男が殴りかかってくる。動きは遅いし狙いは単調だしバカだよね...

 

「しょ〜君!」

 

モカが俺に向かって叫んでくるが問題無いのでひとまず安心させておこうか

 

「ハァ...待ってろ。すぐに終わらせてやる」

 

俺は男の首に素早く手刀を放った。結構軽くやったが一瞬で倒れた。...弱!

 

「「なっ!?」」

 

「え?」

 

他の男はもちろん、モカまでもが驚いている。何が起こったのか分かっていないのだろう

 

「さて、どっちから来る?」

 

俺はで少し低めの声で言い放った

 

「アァ!?てめえ1人倒したからって調子のんじゃねえぞ!」

 

「あっ悪りぃ。言い方変えるわ」

 

 

 

 

「どっちから死ぬ?」

 

「てってめえ舐めやがって!」

 

今度は2人同時に襲いかかって来る。1人は得意の回し蹴りで顎を蹴って気絶させる。もう1人は...骨折っとくか

 

「まったく...折角モカが此処につれて来てくれて上機嫌だったっつうのに電話相手は最悪だし面倒なことになってるし。とりあえず邪魔だから死んでくれない?」

 

頭を掴んで思いっきり地面に叩きつけた。そして手の指をつま先で持ち上げるとそれを踏みつけた。鈍い音が響く

 

「イッ!?ギャアアアア!」

 

痛みのあまり男が叫ぶ。今は朝だし俺たちの他に並んでるから非常にやめてほしい

 

「うるせえよ、近所迷惑だろうが。だんだん人が並び始めてんだよ。2度とモカに近づくな。次は殺す」

 

「すっすみませんでしたー!」

 

唯一意識があるため、他の2人の頭を掴んで引きずり逃げて行った。かわいそう

 

「ふぅ、モカ!大丈夫か!?」

 

「しょ〜君が助けてくれたからへ〜き〜」

 

口ではそう言っているが、足がかすかに震えている

 

「足、震えてんぞ?」

 

「!」

 

「怖かったよな。大丈夫、もう俺がいるから。生憎、俺は人の感情が読めない。モカが何を思っているのか俺には分からないけど、我慢する必要はないと思うぞ?」

 

モカは泣きながら俺にしがみついてきた

 

「じょ〜ぐん...怖かった」

 

「あぁ。それにしてもモカって泣くのな。普段から呑気な口調だからイメージと違うわ」

 

その瞬間モカが俺の目に目潰しを食らわせてきた。ギリギリでよけたけど

 

「うおっ!?おい!いきなり何すんだよ!」

 

正直、俺が今まで殺りあってきた奴らよりも速いんだけど...マジでビビった

 

「しょ〜君のバカ〜」

 

終いにはモカに罵倒されるし...一体何なのさ

 

「まぁいいや。そろそろ店開くみたいだし準備しとけよ」

 

「は〜い」

 

モカside

 

しょ〜君に助けられてから5分後やっと山吹ベーカリーが開店したよ〜。1番乗りだからなんでも取れる〜

 

「いざ、山吹ベーカリーへレッツゴ〜」

 

「そんなに焦らんともパンは逃げん」

 

「いらっしゃいませ〜。おはようモカ。それと...CIRCLEのスタッフさん?」

 

「貴女は昨日の...ナンダッケ?ポピ?」

 

「さ〜や〜おっはよ〜」

 

「Poppin’Partyのドラム担当、山吹沙綾です。よろしくね、えっと...」

 

「神道翔だ。よろしく」

 

「こちらこそ」

 

「あれ〜?2人とも知り合い〜?」

 

「昨日練習でCIRCLEに行ったとき受付してた人だよ。モカこそ知り合いなの?」

 

「同じクラスなのだ〜。しょ〜君彼処でバイトしてるの?」

 

「金が無いんだよ...稼ぎが良かったし楽器扱いは慣れてるから」

 

「ふ〜ん」

 

しょ〜君って貧乏なんだね〜

 

「ねぇ、此処のオススメって何?」

 

「う〜ん、やっぱりチョココロネかな?あとはカレーパンとか塩パンとか...」

 

「いろいろあんのな。じゃあ、そのオススメください」

 

「敬語じゃなくていいよ。同じ学年だから」

 

「分かった」

 

「お会計600円になりまーす」

 

「安いな。昼飯此処で買うか」

 

「ありがとね。はい、これお釣り!」

 

「サンキュー」

 

「モカちゃんはこれね〜」

 

何となく2人の間に割って入る

 

「うおっ。お前こんなに買ってんのかよ」

 

「モカはこんなんだよ」

 

「ふっふっふ〜」

 

パンがいっぱい〜幸せ〜

 

「そういえば時間ある?私この後此処出て学校行くから一緒に行かない?」

 

「俺は構わんが」

 

「モカちゃんもい〜よ〜」

 

「じゃあ決まり!ちょっと待ってて!」

 

さ〜やも一緒か〜。折角しょ〜君と2人きりだったのにな〜

 

「どうしたモカ?浮かない顔して」

 

「な〜んでもな〜い」

 

あたしは店を出てさ〜やを待った。後でからかわれることも知らずに




読了ありがとうございました!

評価や感想お待ちしております!


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第13話

どうも黒い死神です

BLAVE JEWELゲットだぜ!買いに行くたびに売り切れとか運悪すぎでしょ...

それでは本編どうぞ!


沙綾side

 

朝起きて店の準備をしていると店の外で誰かの叫び声が聞こえた。急いで見に行くと高校生くらいの男子が男の人の手の指を踏みつけて折っているところだった

 

うわ〜痛そう...何もあそこまでしなくてもって隣にいるのってもしかしてモカ?

 

男子高校生の隣にはうちの店の常連である青葉モカがいた。モカの彼氏さんかな?羽丘は共学になったらしいからありえなくはないけど...まさかモカに限ってそれはねぇ...

 

指を折られた男の人は横で倒れてた別の人を掴んで逃げていった。後で何があったか聞いておこうかな

 

「沙綾〜準備できたか?」

 

後ろからお父さんが声をかけてくる

 

「あっうん!こっちは大丈夫だよ!」

 

「5分後に店が開くから頼むぞ!」

 

「うん!」

 

さて、今日も頑張りますか!

 

5分後

 

「いざ、山吹ベーカリーへレッツゴ〜」

 

1番乗りでモカがやって来た

 

「そんなに焦らんともパンは逃げん」

 

後ろからさっきの男の子も入ってくる

 

「いらっしゃいませ〜。おはようモカ。それと...CIRCLEのスタッフさん?」

 

よく見ると、高校生の子は昨日CIRCLEで受付をしていた人だった

 

「貴女は昨日の...ナンダッケ?ポピ?」

 

どうやら私たちのバイト名が分かっていないらしい。ちょっとショックだけど、此処は丁寧に挨拶しておこう

 

「さ〜や〜おっはよ〜」

 

「Poppin’Partyのドラム担当、山吹沙綾です。よろしくね、えっと...」

 

「神道翔だ。よろしく」

 

「こちらこそ」

 

「あれ〜?2人とも知り合い〜?」

 

「昨日練習でCIRCLEに行ったとき受付してた人だよ。モカこそ知り合いなの?」

 

「同じクラスなのだ〜。しょ〜君彼処でバイトしてるの?」

 

「金が無いんだよ...稼ぎが良かったし楽器扱いは慣れてるから」

 

「ふ〜ん」

 

慣れてるってことは神道君って楽器やってるのかな?

 

「ねぇ、此処のオススメって何?」

 

「う〜ん、やっぱりチョココロネかな?あとはカレーパンとか塩パンとか...」

 

「いろいろあんのな。じゃあ、そのオススメください」

 

「敬語じゃなくていいよ。同じ学年だから」

 

「分かった」

 

「お会計600円になりまーす」

 

「安いな。昼飯此処で買うか」

 

「ありがとね。はい、これお釣り!」

 

「サンキュー」

 

「モカちゃんはこれね〜」

 

モカが私たちの間に割って入って大量のパンを持ってきた

 

「うおっ。お前こんなに買ってんのかよ」

 

「モカはこんなんだよ」

 

「ふっふっふ〜」

 

「そういえば時間ある?私この後此処出て学校行くから一緒に行かない?」

 

「俺は構わんが」

 

「モカちゃんもい〜よ〜」

 

「じゃあ決まり!ちょっと待ってて!」

 

私は急いで学校に行く準備をする。一緒に行くって決まったときモカが残念そうにしてたけど、これは確定かな?

 

「どうしたモカ?浮かない顔して」

 

「な〜んでもな〜い」

 

神道君にも気付かれてるし...でも彼人の気持ちに疎そう...

 

3分後

 

「お待たせ!それじゃあ行こっか!」

 

「山吹さんって学校どこ?」

 

「私は花咲川だよ。羽丘は共学になったんだよね?私たちは女子校のままなんだ」

 

「俺らの代からなったせいで男子は俺ともう1人しかいないけどな」

 

「それは...ちょっと肩身が狭そうだね」

 

私だったらそんなの耐えられない

 

「ねぇ早く行こうよ〜」

 

「はいはい分かってるよ」

 

「そういえばさっき店の外で叫び声が聞こえたんだけど、何があったの?」

 

「あぁ、ちょっとモカがナンパされててな。俺はその前に電話してて相手が最悪だったのとその件でイライラしてたからナンパ野郎をボコしといた」

 

「神道君強いね」

 

「親に護身術習ってたからな」

 

「しょ〜君カッコイ〜」

 

「ねぇモカ」

 

私は小声でモカに話しかける

 

「ん〜?何?」

 

「モカって神道君のこと好きなの?」

 

その言葉でモカの身体が硬直した。図星だね

 

「さっさ〜やの言ってる意味が分からないな〜」

 

「だって私と神道君が話してたとき間に入ってパンを持ってきたでしょ?あれ、嫉妬したからでしょ」

 

「うっ」

 

「他にも3人で学校行くって決まったときちょっと残念そうにしてたけど?」

 

「うっ」

 

「それに助けられたとき彼にしがみついてなかったっけ?まぁあれは怖かったからかもしれないけど」

 

「//////」

 

お〜モカが赤面してる!珍しいところが見れたし今日はこの辺にしておこっか

 

「あはは!安心して。彼は取らないから」

 

「俺を取らないってどういうこと?」

 

「ひゃっ!?もう!おどかさないでよ!」

 

「すっすまん...」

 

「今のは...何でもないよ」

 

「そっそうか。それよりあれどうする?」

 

神道君が指差した方向には身体を固まらせてショートしてるモカがいた

 

「モッモカ!?大丈夫!?」

 

「う〜」

 

「今にも倒れそうだな。熱あんのか?」

 

「これはちょっと恥ずかしくてなってるだけだよ!ごめんね、からかいすぎた」

 

「?」

 

やっぱり彼は人の気持ちに疎い。鈍感でよかった

 

「じゃあ私此処までだから2人ともじゃあね!モカ、頑張りなよ!」

 

「あっちょっと待て!これなんとかしろ!」

 

「頼んだよ!」

 

これは逃げるが勝ちというものだ。私はモカの幸せを少し祈って走って行った

 

モカside

 

さ〜やのせいで変にしょ〜君を意識しちゃう...あたしやっぱりしょ〜君のこと好きなのかな?

 

「モカ、大丈夫か?熱あるなら家まで送るぞ?」

 

「ううん、大丈夫〜」

 

「そうか。無理はするなよ」

 

そうやって気を使ってくるからまた意識しちゃう...きっとこれからも続くのだろう

 

「しょ〜君のたらし」

 

「はい?何それどういう意味?」

 

どうやら無意識で言っているらしい。意識的にならまだしも、無意識でというのはたちが悪い

 

「ふ〜んだ」

 

「そんなに拗ねなくても...」

 

「しょ〜君のバ〜カ」

 

「ハァ...」

 

「パン1つやるからそれで勘弁してくれ」

 

「2つで許してあげる〜」

 

「いや、流石に俺の昼飯がなくなるから...」

 

「ちぇっ。仕方ないな〜」

 

「フゥ」

 

自分の想いを自覚するとこんなにもドキドキしちゃうもんだね〜。いつかは告白したいな〜

 

「しょ〜君行っくよ〜!」

 

「あっおい待て!」

 

「きゃっ!」

 

あたしが歩道を渡ろうと走り出した瞬間しょ〜君がいきなり引っ張って抱きしめてきた。そしてさっきまであたしがいた所にはトラックが猛スピードで走り去っていた

 

「っ!」

 

「あの野郎...信号くらい守れやアホが。モカ、怪我はないな?」

 

「うっうん...」

 

1日に2回も助けられるなんて、あたしカッコ悪

 

「今回はモカには非はないが急に走り出すとああいったことがたまにある。次から気をつけろ」

 

「うん」

 

「まぁそこまで気に病む必要ないし、学校行くか。早く行かないと姉さんに怒られるし」

 

「姉さんって祐奈先生のこと?」

 

「あぁ。昔バンドやってたとき姉さんもやってたんだよ」

 

「へ〜」

 

そういえばしょ〜君はバンドをやっていたんだった。しょ〜君が練習に来れないのは残念だな〜

 

「さっ話はここまで、早く行くぞ」

 

「は〜い」

 

咲夜side

 

朝から災難に遭ってばかりだがなんとか学校についた

 

「HRには間に合ったな。少し急ぐぞ」

 

今日は体育があったな...男子はどうすんのかな?

 

「おっ翔じゃん。遅かったな」

 

教室に入ると奏斗が声をかけてきた

 

「まぁいろいろあってな。それより琉太、放課後話がある。姉さんも混ぜてのだ」

 

「分かった」

 

「あっ翔君いた!パンは買えた?」

 

「あぁ、お陰様でな」

 

「モカ遅刻しなかったか?」

 

「遅刻どころか約束の20分前に来てたらしい」

 

「へ〜。珍しいな」

 

「ともちんひど〜い」

 

「お前な...アタシがどれだけお前を起こしに行って遅刻したと思ってんだ」

 

「覚えてな〜い」

 

「この野郎...」

 

巴とモカが言い合いをしてるが口ではモカが最強だろう

 

「まぁまぁ2人ともそこまでにね」

 

すかさずつぐみが止めにかかる。こいつがいい感じでストッパーになってるな

 

「なぁ奏斗、モカに口で勝てる奴っていんのかな?」

 

「さあな。というか咲夜、モカは名前呼びなんだな」

 

「まぁ同い年だし裏で名字ってなんか怠く感じてきてな」

 

「Roseliaは?」

 

「あいつらはちょっと別だ。今井がちょっと苦手だ」

 

「あのギャルみたいなベースの人か?確かにお前は苦手かもな」

 

「それよりお前はバイトどうする?俺は行くけど」

 

「俺も行くぞ。今日はAfterglowが予約で入ってたから、休憩時間で練習に付き合うよ」

 

「なるほどな。俺もそうするか」

 

「Roseliaに曲でも作ってやったらどうだ?Xaharの作詞、作曲はお前担当だったろ」

 

「疲れるし嫌だ。あの時は徹夜で初めての頃なんかそれが1週間続いたんだぞ?」

 

「それでその後何も食わずに丸1日寝たもんな」

 

「だから嫌だ。そろそろHR始まるし席ついとくか」

 

「そうだな」

 

この後HRや午前の授業を終え昼休みになったときモカにパンを2つ盗られたのは別の話

 

奏斗side

 

午後の授業や帰りのHRを終えて俺たちは3人で教室に残っていた

 

「外には誰もいないな?聞かれたらまずい」

 

「えぇ、大丈夫よ。防音加工してあるから」

 

「何でもありですか...」

 

「細かいことは気にしないの。それより本題としましょう。()()が脱獄したのは聞いてるわね?」

 

「あぁ。今朝電話で聞いた」

 

「俺も同じく」

 

「突然のことでお爺様たちも混乱してる。人数やメンバーもあまり把握できてない。でも目的はおそらく...」

 

「俺たち...いや、俺への復讐か」

 

「でしょうね。流石の咲夜でも彼奴らを1人で相手するのは危険すぎる。奏斗君は咲夜と行動してくれるかしら」

 

「了解」

 

「私もできる限り咲夜の側にいたいんだけど...」

 

「お困りの様ね?」

 

「瑠奈さん?」

 

教室に此処の理事長である瑠奈さんが入ってきた

 

「兄さんには頼んどいたから、華蓮も暫くは咲夜や柏と暮らしなさい」

 

「瑠奈さん...何から何まですみません」

 

「いいのよこれくらい」

 

華蓮さんが咲夜と暮らすなら安心だろう

 

「じゃあ今日はここまでにしましょう。咲夜と奏斗君はバイトでしょ?行って来なさい」

 

「何で俺らがバイトしてるのを?」

 

「私の情報網を舐めないことね」

 

ここまで知られてると最早全て知られている気がして怖い

 

「なら俺たちは行ってきます」

 

「私も仕事が少し残ってるので」

 

「華蓮は少し残ってくれる?」

 

「?分かりました」

 

「じゃあな」

 

「えぇ、気を付けてね」

 

「また明日」

 

これからの生活は少し気を付けなきゃな...

 

俺たちはバイト先であるCiRCLEに向かった

 

華蓮side

 

2人がバイトに行った後、私は理事長室に連れていかれた

 

「瑠奈さん、話とは?」

 

「華蓮はまだあのこと気にしてるの?」

 

「あのこととは?」

 

「咲夜の件よ」

 

「っ!...はい」

 

「そう。あれは貴女のせいじゃない、そこまで気にしなくても」

 

「私が悪いんです!私が咲夜を見捨てたから...助けようとしなかったから」

 

そう、悪いのは全部私だ。自分の保身を優先して咲夜が目の前で酷い目にあってるのにそれを止めようとしなかった

 

「貴女がそこまで感じてるのなら今度はしっかり守ってあげなさい」

 

「分かっています」

 

「でもこれだけは言わせて。咲夜が貴女を恨んでるとは限らないから」

 

「え?」

 

言ってる意味が分からない。咲夜が私を恨んでない?そんなはずない

 

「話はそれだけよ。咲夜をお願いね」

 

「分かりました」

 

私は瑠奈さんの言葉の意味を考えながら仕事に戻った

 




読了ありがとうございました!

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第14話

どうも黒い死神です!

珍しく2日連続で投稿できました!

それでは本編どうぞ!




咲夜side

 

瑠奈さんからの話を受け終わり俺たちはバイト先に向かっていた

 

「そういえば柏は?」

 

柏は確か今井とどっか出かけると言っていた気がする

 

「何か今井とどっか出かけると言ってたぞ。何処に行ったかは知らん」

 

「でも今日Roseliaいたよな?大丈夫か?」

 

「そこら辺はしっかり説明してあるだろ。でないと後で死ぬからな」

 

「あの2人か...」

 

「そういうことだ。問題は柏がな...」

 

「どうした?」

 

「いや、この前俺がRoseliaと話してたとき彼奴が急に殺気を放ちやがって...俺でも寒気がしたわ」

 

「あの野郎...」

 

「奏斗?何怒ってんの?」

 

「ちょっと後で説教が必要みたいだ」

 

「ハ?」

 

奏斗が柏に説教?意味が分からん

 

「今日の晩御飯どうすんの?昨日鍋持って帰ろうとしたらお前らに止められて何も無いんだけど」

 

「あれは俺関係なくね?2人がくだらんことで喧嘩するからだろう」

 

「キムチ鍋...」

 

「ハァ...帰り寄ってけ。キムチ鍋だけ少しやる」

 

「アザーッス!」

 

全く、こいつも料理できるんだから自分でやればいいのに

 

「週末になれば給料貰えるからそれまで何とかしないと」

 

「最悪瑠奈さんに頼んでみるか?あの人ならもしかしたらくれるかも」

 

「そうだな。明日聞いてみるか」

 

そうでもしないと今月どころか今週分も賄えるか危ないところだもんな...金が欲しい

 

「おっ見えてきた。さて、やりますか」

 

「あの人見た目によらず人使い荒そうなんだよな」

 

「まぁまぁ、そういうこと言わないの」

 

「こんにちは〜神道です」

 

「妹尾で〜す。こんにちは」

 

「おっ2人とも来たね!早速着替えて来て!2人にはスタジオの準備をしてもらうから!」

 

いきなり面倒なの来たよ。やっぱ人使い荒いじゃん

 

「了解で〜す」

 

「スタジオの準備って何やるんですか?」

 

「基本はマイクや楽器のセッティングかな?できればチューニングもやって欲しいな」

 

「意外と簡単ですね」

 

「君たちにとってはそうだろうけど、私なんか最初は本当に慣れるのに時間かかったんだから」

 

「まぁ人それぞれでしょう。じゃあ俺たちは準備してきますね」

 

「は〜い」

 

奏斗side

 

俺は着替えを済ませまりなさんのいる第1スタジオに向かった。第1スタジオのセッティングと言われたが場所が分からん

 

「咲夜、第1スタジオって何処だ?」

 

「目の前にあるじゃねえか」

 

「あっホントだ。全然気付かんかった」

 

「お前確か昨日は外だったんだっけ?幾ら何でもそれは酷い」

 

「悪かったな。此処って誰が使うんだ?」

 

「Afterglowだ。第2スタジオでRoseliaが使うことになってる」

 

「へぇー。じゃあ行ってくるわ、受付よろぴく」

 

「さっさと行け」

 

咲夜って物覚えいいよな。彼奴のスペックの高さを考えたら当然か。中学では定期テスト全て学年1位だったし...俺か?残念だが全部学年2位だ

 

「まりなさん、よろしくお願いします」

 

「おっ来た。じゃあ早速、琉太君はAfterglowの練習見てあげてるんでしょ?」

 

「そうですけど、誰から聞いたんですか?」

 

「翔君だよ。面倒見ることになってるからできることを教えてあげてくれって」

 

彼奴、余計な真似してくれやがって...

 

「Afterglowの楽器の位置なら大体覚えてますけど」

 

「そうなの?じゃあドラムとキーボード、マイクの準備お願いね!ギターとベースは自分で持ってるから大丈夫だよ」

 

「分かりました」

 

「頑張ってね!私は翔君のところ行ってくるから」

 

そう言ってスタジオを出て行くまりなさん。チューニングもやって欲しいと言われたけど俺の得意な楽器はギターなのだ。勿論全部できるけど、ドラムは1番苦手であまり期待できない

 

「華蓮さんがいればなぁ...」

 

ブツブツ言いながらも作業を進めていく。10分ほどでチューニングも全て終わった

 

「戻るか」

 

スタジオを出ると同じく咲夜も出てきた

 

「えっもう終わったの?」

 

俺より遅くに説明受けたくせに同じタイミングで出てくるとかどうなってんの?

 

「月島...まりなさんが来た頃にはもう終わらせといた。丁度俺の苦手なギターがなかったからな」

 

羨ましすぎるわ!何それ!?俺なんかドラムのチューニングで5分かかったんだけど!

 

「5分で苦手なドラムを終わらせるのは頭おかしいと思うけど」

 

「心を読まないでくれるか?怖い」

 

「琉太君も終わったの!?2人とも速すぎ!」

 

「それはこいつに言ってくださいよ...」

 

「じゃあ2人で受付してくれる?今日は予約してるバンド2つだけだから来たら休憩していいよ」

 

「「分かりました」」

 

基本此処ではスタジオの準備と予約したバンドの受付が終わったら特にやることはないらしい...売り上げの計算などは全部まりなさんがやってくれるとのこと

 

「それにしても俺たちに合ったバイトがあって良かったわ」

 

「あぁ、そこに関しては感謝しなきゃな」

 

「こんにちはー!Afterglowですってエェ!?」

 

「おっひまりじゃん。さっき振りだな」

 

「なんで此処にいるの!?」

 

「見ての通りバイトだ。ほらこれ鍵、スタジオの準備は大体終わってる。後は自分たちで調整しな」

 

「ありがとね!」

 

「失礼しまーす。あれ?翔と琉太じゃん!お前らなんで此処に?」

 

「詳しくはひまりから聞け。つぐみはいないのか?」

 

「つぐみは生徒会の仕事で遅れるって」

 

「バンドと生徒会とかイカれてんな」

 

「よ、モカ。さっき振り」

 

「...」プイ

 

咲夜がモカに挨拶するとモカはそっぽを向いてスタジオに行ってしまった

 

「あれ?」

 

これには咲夜も予想外らしい

 

「モカ、さっきから元気なくて...何か知らない?」

 

蘭に聞かれるが俺は全く知らない

 

「俺は知らないけど、翔は知ってるか?」

 

「心当たりがなくは無いけど...」

 

「ちょっと、それどういうこと?」

 

「落ち着け蘭。いやな、朝モカとパン買いに行ったとき不良にナンパされてな。一応俺が助けてやったけどまだ気にしてるのかも。あと、トラックに轢かれかけた」

 

「そんな...」

 

「それが理由かは俺も分からない。練習には琉太も向かわせるから様子見だ」

 

「分かった」

 

「他のメンバーにも伝えておく。蘭は準備してこい」

 

「うん、お願いね」

 

「受付はRoseliaだけだ。お前は行ってこい」

 

「助かる」

 

折角練習を見ることになったんだ。やるからにはしっかりやりたい

 

「巴、ひまりちょっと来い」

 

「ん?どうした?」

 

「何かあったの?」

 

俺はモカの状態を2人に説明した

 

「それで元気がなかったのか...」

 

「それが理由かは分からない。けど、気にかけてやってくれ」

 

「分かった!ここはリーダーとしての腕の見せ所だね!」

 

「いまだにひまりがリーダーというのが理解できないんだが」

 

「ちょっとそれどういう意味!?」

 

「まぁまぁ」

 

「ほら行くぞ」

 

ひまりがリーダーという時点で先が心配だ...

 

モカside

 

「ストップ!モカ、また同じミスだぞ」

 

何故か今日は気が乗らない。あたしのせいで練習が止まりっぱなしだ

 

「ごめん...」

 

「モカ、さっきから元気無いけど何があったの?」

 

「それは...」

 

今1番聞かれたくないことを、1番聞かれたくない蘭に聞かれてしまった

 

「朝の件は翔から聞いている。もしそれが原因なら詳しく聞かせて欲しい」

 

言えるはずがない。朝から2回も助けられてしょ〜君に面倒だと思われ嫌われたのではないかと怖くなってるなんて言えない

 

「ごめん!遅くなっちゃった...みんな?どうしたの?」

 

生徒会の仕事を終え、つぐがやってきた

 

「実は...」

 

 

 

 

「そっか、それで元気がなかったんだね。モカちゃん、できれば話して欲しいな」

 

「なぁモカ、お前にとってアタシたちは何なんだ?」

 

急にともちんが意味の分からないことを聞いてきた

 

「え?」

 

「モカにとってアタシたちはその程度なのか?悩みの1つも相談できない程の存在なのか?」

 

そんなはずない。みんなは大切な幼馴染だ。でもそれとこれとは訳が違う

 

「モカ、みんな心配してるんだ。1人で抱え込んでも自分が苦しむだけだ。幼馴染を、Afterglowを信じて話してやれ」

 

「...分かった」

 

あたしは全部話した。しょ〜君に恋してることも全部

 

「そっか...そういうことだったんだ」

 

「それなら問題なさそうだな」

 

「え?それって...」

 

「彼奴は、翔は嫌いなやつとは絶対に関わらない。学校でも話しかけてただろ?さっきもそうだ。受付で話しかけてたじゃねえか。彼奴はモカのことを嫌ってねえよ」

 

そっか。しょ〜君あたしのこと嫌ってなかったんだ

 

「それにしてもモカが翔君のことをね〜」

 

「ひっひまりちゃん!今それは...」

 

「//////」

 

「あははは!中学の頃から彼奴はモテモテだったからな!早くしないと他の人に取られるぞ?」

 

「!?」

 

「モカ、驚きすぎ」

 

それだけは嫌だ。しょ〜君はあたしが貰う

 

「さて、モカの悩みも解決したことだし練習再開しようぜ!」

 

「そうだな。じゃあつぐみ来たから最初から合わせてやってみろ」

 

「了解!モカ、準備はいい?」

 

「オッケ〜」

 

「やるよ、私たちの()()()()()!」

 

咲夜side

 

奏斗たちがスタジオへ行ってから10分くらいして氷川がやってきた

 

「こんにちは翔さん。妹さんに怒られたのに今日もバイトですか?」

 

「花梨には許可貰ったんで、これ鍵です」

 

「ありがとうございます」

 

「あっいたいたー!紗夜!翔!」

 

げっ今井来たよ...ついでに柏も

 

「何だかお兄様、明らかに嫌そうな顔してません?」

 

「...そんなことはない」

 

「何ですか今の間は!?」

 

「2人が一緒とは珍しいですね」

 

「ベースの弦が切れかかってたから花梨にオススメ教えて貰ったんだ!張り替えも終わってるから問題ないよ!」

 

2人で出かけたのはそれが理由か

 

「そうですか。ではいつも以上の音を期待してます」

 

「そっそれはまだ慣れてないから...」

 

「あと3人か」

 

「あこと燐子はもうすぐ着くって連絡入ってたけど」

 

「みんなお待たせ」

 

「あっ友希那!みんな今来たばっかだよ!」

 

「こんにちは」

 

「花梨もいたのね。あとはあこと燐子ね?」

 

「スミマセーン!遅れましたか!?」

 

「ハァ、ハァ...ごめんなさい」

 

「予約の時間には間に合ってるから一応問題ないわ」

 

「全員揃ったことだしそろそろ行きましょう」

 

「はい!妾の闇の力...えっと...」

 

あこって中二病なところあるよな

 

「お兄様はどうしますか?」

 

「Roselia来たら休憩していいって言われてるし俺も行く」

 

「なら今日が初めてね、私たちの練習に翔が来るのは」

 

「そういうことになりますね。お待たせしました」

 

「できればマネージャーになってくれると嬉しいのだけど...」

 

俺にその資格があれば考えてもよかったんだがな

 

「そうだよ!花梨がいてくれるだけで凄く練習良くなるのに翔が来てくれればもう最高じゃん!」

 

「リサさんが風邪でも引いたら行きますね」

 

「ちょっと!?アタシへの扱い酷くない!?」

 

「気の所為ですよ」

 

「ほら、早く行くわよ」

 

「あっ待ってよ〜」

 

「あ〜疲れた」

 

「まだ始まってませんよ?」

 

「今井と話すと疲れるんだよ。何だよあのコミュ力...」

 

あのテンションについて行けるとしたらそいつのコミュ力は異次元だ

 

「まぁいいや、行くぞ」

 

いよいよRoseliaの練習か...俺は密かに楽しみに思いながらスタジオに入った




読了ありがとうございました!

中々イヴと花音が出せないよ...

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第15話

どうも、黒い死神です!

宿題って何であるんですかね?

「宿題は学生の本命ですから当たり前です」

げっ紗夜さん来ちゃった...

それでは本編どうぞ!


「Roseliaの曲って何があるんですか?この前のライブではBLACK SHOUTしか聴けなかったから分からないんですよ」

 

「そうね...何か紙はあるかしら?」

 

「ここにありますよ」

 

「ありがとう」

 

俺が湊にRoseliaの持ち曲を聞いてみると

 

BLACK SHOUT、Re:birthday、熱色スターマイン、ONENESS、Opera of the wasteland、陽だまりロードナイト、LOUDERの7曲だった。今までに色々と衝突もあったらしいが乗り越えて来たみたいだ

 

「これ全部友希那さんが作ってるんですよね?」

 

「LOUDERは元々父の曲なの。それを私たちがカバーしたのよ」

 

「へぇ〜。中々いい曲じゃないですか」

 

「あっありがとう///」

 

「おっ友希那照れてる〜」

 

「てっ照れてないわ!それより練習を始めましょう」

 

「なら2、3曲合わせてください。それから個人で見てもう1回合わせる。これを繰り返せば確実に修正できるので」

 

「分かったわ。じゃあ最初は熱色スターマインからやりましょう」

 

「「「「はい!」」」」

 

「さて、どんなものかな」

 

「聴いてて楽しいですよ。お兄様もすぐに分かります」

 

柏に言われて更に期待は上がった

 

そしてあこのカウントで曲が始まった

 

〜♪〜

 

何でだろうな...こいつらの曲を聴くと気持ちが高ぶるのは

 

「どうだったかしら?」

 

「とても良かったですよ。ただ、氷川さんがサビでワンテンポ遅れたのと白金さんが間奏で1回音外してたのでまた後で練習しましょう」

 

「分かりました」

 

「頑張り...ます」

 

「あっ俺キーボード1番得意なんで大丈夫ですよ?ギターは...ごめんなさい」

 

「貴方のギターも聴いたことあるけどあのレベルで苦手とか言うんじゃないわよね?」

 

「俺ギターマジで苦手なんですけど...」

 

いやこれ本当だからね?ギターのチューニング毎回奏斗に頼んでたくらいだよ?

 

「花梨はどう感じたかしら?」

 

「前に言ったことは修正されていたので良かったです。ベースも格段に良くなってますし」

 

「お前の仕業か、リサさんが上手くなってるの」

 

「仕業とか人聞きの悪いこと言わないでください。それより新しい弦はどうですか?」

 

「お陰様でとても扱いやすいです!」

 

「友希那さんは大したミスもなかったのでこの調子で頑張ってください」

 

「ありがとう。じゃあ次は...」

 

Roseliaの練習、何故か()()()()()()。この瞬間だけ感情を受け入れてもいいと思えてしまう

 

「お兄様?顔色いつもより良くなってますけど大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。では次お願いします」

 

細かいことは気にしない。やるからには全力でやろう

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後はLOUDERとRe:birthdayを合わせてやってもらい各自ミスしたところを確認してから俺と柏で教えていたのだが...ギターの教え方が全然分からん

 

「ギターってどう教えればいいんだ?」

 

「私に聞かれても...とりあえず翔さんもやってみてください」

 

「ギターお借りします」

 

「どうぞ」

 

ギターなんて本当に久し振りだな。多分3年ぶりくらいだろう

 

覚えてる限りの感覚を呼び起こし氷川がずっとミスしているところを弾いてみたら案外簡単にできた

 

「凄い...本当に苦手なのですか?」

 

「冗談抜きで苦手です。チューニングなんか毎回奏...そうじゃん彼奴いたわ!」

 

「え?」

 

「ちょっと待っててください!」

 

忘れてた。此処にはギターに関しては最強の彼奴がいるじゃないか

 

俺は隣の第一スタジオに突撃して

 

「琉太!いるか!?」

 

「しょっ翔?どうした急に?」

 

「とりあえず来い!」

 

「えっ何々?ちょっ痛い!腕もげる!」

 

Afterglowの面子は困惑してるけど少し我慢してもらおう

 

「悪りぃ、琉太借りるわ!」

 

そして奏斗を引っ張ってRoseliaのいる第二スタジオへ戻る

 

「氷川さ〜ん連れて来ましたよー!」

 

「えっと...こんにちは」

 

「せっ妹尾さん!?どうして此処に?」

 

「隣にいるAfterglowの面倒見てたんですけど、急に連れて来られました」

 

「琉太、氷川さんにギター教えてあげてくれ。俺じゃ無理」

 

「それは構わんけど彼奴らどうすんの?」

 

「向こうは俺が行くから少し頼むわ!」

 

「ハァ...了解」

 

奏斗がいて良かったわ。とりあえずAfterglowのところに向かうか

 

「ヤッホー」

 

「翔?さっきはどうしたの?急に琉太を連れて行って...」

 

「俺は隣でRoseliaの練習に付き合ってたんだけどギターの教え方が全然分からなくてな。それで急遽入れ替えさせて貰った」

 

「そうなんだ。大変だね2人とも」

 

「それよりモカは大丈夫なのか?」

 

「//////」

 

モカは急に顔を赤くして俯いてしまった。俺嫌われた?

 

「大丈夫、モカは翔が急に来て恥ずかしくなってるんだよ」

 

「はい?」

 

意味が分からん。何故俺が来て彼奴が恥ずかしくなるんだ?

 

「実はな...」

 

 

 

「あははは!なんだよそんなことで悩んでたのか!?」

 

「そんなことって...しょ〜君酷〜い」

 

「俺は嫌いなやつとは絶対関わらないから大丈夫だ。それより今どういう状況?」

 

「今それぞれのミスを確認して琉太に教えて貰ってたんだけど」

 

「そっか。じゃあもう1回合わせてくれ」

 

「分かった。みんな、準備はいい?」

 

「モカちゃんはいつでもいいよ〜」

 

「私も大丈夫だよ!」

 

「アタシもだ!」

 

「私もいいよ」

 

「それじゃあ行くよ!」

 

〜♪〜

 

Afterglowの音も中々のものだな。特にギターの2人は奏斗が教えてるだけあって前聴いたときよりかなり上達してる

 

「どうだった?」

 

「前のミスがどこだったかは知らないが、目立ったミスもなくて良かったよ。ただ、巴が走り気味になってそのせいで全体的にテンポが速くなっちゃったからそこ気を付けろ」

 

「うっすまん...」

 

「まぁ上出来だ。Roseliaにも劣らないんじゃないか?」

 

「当たり前でしょ」

 

「じゃあ各自自分がキツイと思うところを教えてくれ。できる限り俺が直してやるから」

 

「分かった。それなら此処なんだけど...」

 

早速蘭が質問して来たけど俺ギターはな...仕方ない

 

「俺ギター苦手だからちょっと貸してくれ。口で言うよりは見せた方がまだできる」

 

「そうなんだ...お願い」

 

「此処の部分は、こんな感じかな」

 

そう言いながら教えていく...難しいな

 

俺はギターのコーチに苦戦しながらもAfterglowの面倒を見た

 

紗夜side

 

私は急遽妹尾さんにギターを教えてもらうことになった。翔さんはギターは苦手と言っていたがそれにしてはレベルが高い

 

「妹尾さんはフェスではギターをやっていましたよね?得意なんですか?」

 

「えぇ、Xaharの中では1番できると思います。ドラムは苦手ですが」

 

「そうなんですね。それで、此処の部分なんですけど...中々指が追いつかなくて」

 

「此処か...これできる人はそうそういないですよ。これはこんな感じでやれば多少楽になります」

 

彼に言われた通りにやってみると簡単にできた

 

「凄い、こんな簡単に」

 

「紗夜さん飲み込みが速いな。俺すぐに抜かれそうだな」

 

「貴方には到底及びませんよ。でも、フェスに出るならそのくらいの実力はなければいけませんね」

 

「実力だけなら十分出れるんですけどね」

 

「やはり...翔さんの言っていた私たちに足りないものが」

 

「そうですね。まぁそこに関しては何も言えません」

 

「分かっています。これは自分たちで気付かねばなりませんから」

 

「紗夜さんはいつからギターやっていたんですか?これ程の実力だと相当なセンスと努力を要したでしょうに」

 

「家でも毎日やってるので。近所迷惑になるのでアンプには繋げませんが」

 

「どうしてそこまで?自分で言うのもあれですが、紗夜さんは俺とほぼ同レベルだ。基礎練習をしっかりやっておけば紗夜さんに勝てる人なんていないのに」

 

「確かに並の人には負けないかもしれません。けど1人だけ、日菜がいるんです」

 

「日菜さんが?」

 

「日菜は天才で見たものをすぐに自分のものにする才能を持っていました」

 

「凄いな」

 

「私は日菜に負けたくないという思いでたくさんの習い事をやって来ました。ですが日菜は私の真似をしてすぐに私を越えていって」

 

「私がギターを始めた理由はこれなら日菜に勝てると思ったからです。それなのに...」

 

「彼女がアイドルバンドとしてデビューしてギターをやるようになったと」

 

「はい。ギターだけは真似されたくなかったのに...」

 

「俺は日菜さんの音を聴いたことはないから分かりませんが少なくとも俺は紗夜さんの音が好きですよ」

 

妹尾さんは柔らかい笑みで言ってきた。その顔に恥ずかしながら見惚れてしまった

 

「!あっありがとうございます///」

 

「後は何かありますか?」

 

「1つお願いがあるのですが」

 

「何でしょう?」

 

「これからも、私にギターを教えてくれませんか?」

 

「それは個人レッスンをして欲しいと?」

 

「ダメ...でしょうか?」

 

「そこまで言われたら断れませんね。いいでしょう」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、俺はAfterglowとの約束があるのでそっちが優先になりますが」

 

「それでも構いません。あの、連絡先交換しませんか?お互いの予定をあわせておきたいので」

 

「分かりました」

 

私は彼に連絡先を渡してその場で登録した

 

「では細かい予定は後で連絡します」

 

「俺基本此処でバイトしてるか家にいるかのどっちかなんでAfterglowがいるとき以外は行けますから」

 

「1人で此処に来るときもあるのでそのときまたお願いします」

 

「了解です。花梨!そっちはどうだ?」

 

「あれ?何で琉太さんがいるんですか?ていうかお兄様は何処へ?」

 

「ギターの教え方が分からんからって連れて来られたんだよ。翔はAfterglowの所にいる。俺は戻るから」

 

「琉太、ありがとう」

 

「湊さんも頑張ってくださいね」

 

「えぇ」

 

そう言って妹尾さんが戻って行った。それと同時に翔さんが戻ってきた

 

「ただいま戻りました〜。氷川さんどうでした?」

 

「お陰様で彼に個人レッスンを頼めましたよ」

 

「そうですか。頑張ってください」

 

「翔も戻ってきたし、さっきやった曲を最後にもう1回合わせてやりましょう」

 

「「「「はい!」」」」

 

この後やった曲は最初よりも格段に良くなっていた




読了ありがとうございました!

☆10評価して下さった伊咲濤さん、ありがとうございました!

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第16話

どうも黒い死神です!

今日の昼からドリフェスだぁ!爆死の未来が見えるよ...

多分今日が今年最後の投稿です。それでは本編どうぞ!


咲夜side

 

Roseliaとの初めての練習を終えてスタジオを出ると、受付では華蓮がまりなさんと話していた

 

「あっ翔。おかえり〜」

 

「ただいま...何やってんの?」

 

「何って、翔のバイト先の見学に来たんだよ」

 

「もう終わりだけど」

 

「うん知ってる。だから一緒に帰ろうかなって」

 

「あっ祐奈先生だ!こんばんわ!」

 

「ん?ひまりに巴にモカにつぐみ?それと友希那ちゃんもいるけど...」

 

「私たちは蘭も加えての5人でAfterglowってバンドやってます!」

 

「へ〜。今時の高校生はみんなバンドやってんの?後ろの子たちは例のRoselia?」

 

「こんばんわ祐奈さん。昨日ぶりです」

 

「ヤッホー友希那ちゃん」

 

「失礼ですが、貴女は?」

 

「あっ他のみんなは知らないんだ。私は神道祐奈。翔の姉で、Xaharの最後のメンバーです!」

 

「えぇ!?すっすみません!」

 

「いいよそんなにかしこまらなくても」

 

「何だよ。友希那さんとは面識ありか?」

 

「昨日の昼休みにね。貴方のことを探してたからちょっと関係を聞いといただけ」

 

てことは湊は華蓮が教師をやってるのは知ってるわけか...いや待てよ?

 

「友希那さん、姉さんの年齢知ってる?」

 

「知ってるけど...」

 

おい!それじゃあ今教師をやってるのはおかしいってばれてるだろ!

 

俺は無言で華蓮を睨みつけた。すると華蓮は申し訳なさそうな顔で項垂れる

 

「祐奈さんは教師をやっているのですよね?だったら今の年齢では...」

 

「「わーっ!!!」」

 

ほらいたよ!此処にも詳しい奴が!

 

「そこのアイスブルーの髪の子、ちょっとお話ししようか!」

 

「え?ちょっと待ってください!」

 

氷川が華蓮に連れてかれた。最悪だ...

 

「何だか昨日もあった気がするわ...」

 

「友希那さん、このことは内緒でお願いします」

 

「えぇ。分かっているわ」

 

後で説教が必要みたいだ

 

「おい翔。早く帰ろう」

 

奏斗が腹が減ったのか帰ろうと急かしてくる。俺も帰りたいのだが華蓮の説得が終わらない限りは帰れない

 

「...何だか私、嫌な予感しかしないんですが」

 

柏が縁起でもないことを言ってくる

 

「あっ帰ってきた」

 

「ハァ...私この先大丈夫かなぁ?」

 

「その、うちの姉がすみません」

 

「いえ、そちらにも色々と事情があるのでしょうし」

 

「紗夜ちゃんお願いね」

 

「分かりました」

 

「ねぇ、さっきからどうしたの?」

 

Afterglowの奴らはこの状況が理解できてないみたいだ。まぁ俺としてはそっちの方が良い

 

「ちょっと姉貴が暴走してな。気をつけて帰れよ」

 

全く心配の気持ちはないが一応声掛けだけしておく

 

「うん、また明日」

 

「じゃ〜ね〜しょ〜君」

 

「またな」

 

Afterglowの奴らは先に帰って行った

 

「さぁ、私たちも帰りましょう」

 

「賛成!あーもうお腹空いたよ」

 

「じゃあみんなでファミレス...」

 

「「行かないわ」」

 

一瞬で論破されたあこ。それに伴い白金が慰めにかかる

 

「あははは!Roseliaって面白いね!」

 

「勝手にツボってないで帰るぞ。今日は昨日の鍋の残りだ」

 

「はーい」

 

CiRCLEを出て入り口で別れると湊と今井が同じ方向であることが分かった。そのため華蓮は湊と、柏は今井とずっと喋っている

 

「そういえば、柏には華蓮さんが住むことは話してあるのか?」

 

「一応な。理由までは話していない」

 

「そうか」

 

柏は華蓮のことを好いている様だが、彼女が住むのは一時的なものだ。今話せばおそらく悲しむだろう

 

「今日の練習どうだった?楽しめたか?」

 

急に奏斗がそんなことを聞いてくるが、そんなもの答えは1つだけだ

 

「...あぁ。()()()()()

 

前の方では他愛もない会話が続いている

 

「初めてだよ。感情に対してここまで憎悪感が湧いて来なかったのは。案外良いものだと、そう感じた」

 

「それが日常的になればもっと楽しいのにな。それとその鈍感も多少は治るだろうに」

 

「?」

 

俺が鈍感?何の話だ?

 

「柏には感謝しろよ。少しは彼奴のお陰なんだから」

 

「あぁ。分かってる」

 

「これからどうする?奴らがいつ仕掛けてくるかも分からないし、かと言ってバイトの数を減らすと金はないし」

 

「比べる所が全然違う気がするんだが...」

 

「咲夜はこのままだとあの爺さんに消されかねんぞ?どうするつもりだ?」

 

()()()だったらどうでもよかっただろう。でも今は違う。少し賭けに出ようかと思う」

 

「Roseliaに賭けるつもりか?」

 

「あぁ。特に湊には何か別のものを感じる。それを確かめたい」

 

「そうか...頑張れよ」

 

「ありがとう」

 

「2人ともおそーい!速く〜」

 

いつの間にか湊と今井はいなくなっていた

 

「今行きまーす!ほら、行くぞ咲夜」

 

「へいへい」

 

10年間生きる道を見つけることができなかった俺にようやく道ができた。Roseliaに賭けて何が生まれるのか、楽しみだな...奏斗に言われた通り、久し振りに曲でも作るかな

 

俺はそんなことを思いながら前にいる女子2人のもとへ走って行った

 

友希那side

 

私はリサと一緒に帰ろうとすると翔たちと帰り道が同じだったので一緒に帰ることにした

 

リサは花梨と、私は祐奈さんと一緒に話しながら帰っていた。翔と琉太は後ろで何かを話している

 

「友希那ちゃんはボーカルでしょ?今度聴かせてよ、その歌声」

 

「なら今度のライブよければ来てください」

 

「しっかし、翔が貴女たちの練習に付き合うなんてね〜」

 

「そこまで珍しいんですか?」

 

確かに最初は断っていたからそう感じるのも仕方ないかもしれない

 

「あの子小さい頃に色々あってね。自ら人と関わろうとなんて全くなかったもの」

 

「何があったんですか?」

 

「それは言えないけど、いつか話す時が来るかもね。その時は覚悟を持って聴いてほしいな」

 

「...分かりました」

 

「次のRoseliaの練習っていつ?」

 

「次は...金曜日を予定してます。予約もしてあるので」

 

「そっか。じゃあその日は私も行こうかな」

 

「お仕事は大丈夫ですか?」

 

「ちょっと訳ありで暫くは翔と一緒に行動しなきゃいけなくて。多分あの子もその日に合わせてバイトするだろうから」

 

「その時は色々アドバイスお願いしてもよろしいですか?」

 

「いいよ!ベース以外なら何でも聞いて!」

 

彼女はベースが苦手らしい。Xaharのメンバーはそれぞれ苦手な楽器が違うからバランスは良さそうだ

 

「そんなこと言いながらベースもできるのでしょう?」

 

「ある程度はね。ベースは花梨が1番かな?私はドラムが得意だけど」

 

「そうですか」

 

「この前はごめんね。あの時の私の目、恐かった?」

 

「えっえぇ。結構寒気がしました」

 

思い出しただけで未だに鳥肌が立つ

 

「最初は何が目的なんだろうなって思って...あの子に何かあったら私嫌だからさ。ついあんな態度取っちゃった」

 

「弟想いなんですね。祐奈さんは」

 

「逆だよ」

 

「え?」

 

「私は弟想いなんかじゃない。逆に彼を見捨てた、姉として最低なことをした。多分あの子は私を恨んでるよ」

 

言っている意味が分からなかった。でも1つだけ、神道家の過去には知ってはいけない闇があることだけ分かった

 

「だからこそ、友希那ちゃんに頼みたいことがあるの」

 

「何でしょう?」

 

「翔を救ってあげて。あの子がここまで貴女に接触するってことは何かを見つけたということ。だから...お願い」

 

彼が私に何を感じたのかは分からない。でも、答えは1つしかなかった

 

「勿論です。必ず私が、私たちRoseliaが」

 

「ありがとう」

 

「それでは私たちはこの辺で」

 

「うん!また今度」

 

「さようなら」

 

私は祐奈さんと別れリサと合流すると家に帰り翔について考えた

 

咲夜side

 

家に帰り奏斗に鍋の残りを少し渡した後3人で晩飯を食べていた

 

「柏は学校どう?友達はできた?」

 

「クラスの大半は仲良くできましたよ。それにあこもいたので結構楽しいです」

 

「あこって誰?」

 

「Roseliaのドラム担当だ。あの中では最年少だし身体も小さいが、よくもまぁあそこまでドラム叩けるよ」

 

「あの小さい子か!ドラムなんだね...名字は?」

 

「宇田川です。お姉様のクラスにもいるのでは?」

 

「巴のこと?そういえばさっき巴もいたなぁ。まさか巴もドラム?」

 

「そのまさかだ。姉妹揃ってドラムやってんだよ」

 

「へぇ〜。今度みっちり鍛えてやろうかな」

 

「華蓮も来るのか?」

 

「友希那ちゃんに聞いたら金曜日にやるらしいからそのときに行こうかなと」

 

「練習の日程なら湊からメールで貰ってる。後で送ってやるよ」

 

「ありがと。今日は火曜日だっけ?バイトは週に何回なの?」

 

「本当は金ないし毎日働こうとしたんだが柏に止められてな。条件付きで週5でやることになった」

 

「柏、よくやった」

 

「お兄様は私に無理するなと言っときながら自分は無理するのでどうしようもないです」

 

何か妹にここまで言われると悲しくなってくるな

 

「なぁ華蓮、柏にここまで言われる俺って大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないね」

 

「...2人とも遠回しに私のことディスってますよね?」

 

「今日含めてあと3日か...明日と明後日はバイト休むか」

 

「急にどうしたの?」

 

「Roseliaに曲作ろうかなと思ってな。久し振りだし時間がいる」

 

「ようやく決まったみたいね。貴方のやりたいこと」

 

「あぁ。俺はRoseliaに賭ける」

 

「...頑張ってくださいね」

 

そう言っている柏の顔は何処かとても寂しそうだった

 

「あぁ、ありがとう」

 

「友希那ちゃんから聞いたけど、貴方マネージャーは断ったんでしょ?」

 

「だから曲を作るんだ。作った曲を1週間で完成させたら俺はマネージャーを引き受ける」

 

「1週間って相当きついんじゃ...」

 

「あのフェスに出るならそのくらいの実力は必要だからな。現にお前ら、俺が作った曲3日くらいで完成させたじゃねえか」

 

「まぁ良いんじゃない?」

 

「その間俺は一切口出しはしない。彼奴らがお互いをいかに信じ合って協力するかが鍵だ」

 

「貴方の口から信じるって言葉が出るなんてね」

 

「うるせぇ。いつまでもこのままでいたら先に進めないんだ。感情とも向き合わないとな。逃げてばっかじゃ駄目だ」

 

「私は応援するよ。咲夜がここまでやる気になるなんて珍しいからね」

 

「...ご馳走様です。少し疲れたので先にお風呂入っていいですか?」

 

「別に構わんぞ。片付けは俺たちで済ましておくから」

 

「ありがとうございます」

 

柏の寂しそうな顔はまだ戻っていなかった

 

「柏...」

 

華蓮は何かを知っているみたいだ

 

「お前は知ってるのか?」

 

「予想だけどね。後で2人で話してみるよ」

 

「俺には分からないからな。頼む」

 

「任せて」

 

また知らない間に柏を悲しませたんだとしたら、俺は彼奴に会わせる顔がねえな..

 

今は華蓮に任せよう

 




読了ありがとうございました!

評価や感想お待ちしております!

それでは良いお年を!


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第17話

新年、明けましておめでとうございます!

今年も死神と歌姫たちの物語をよろしくお願いします!

それでは本編どうぞ!


柏side

 

私はお兄様たちに頼んで先にお風呂に入らせてもらった。お兄様の話を聞いていると悲しくなってきてしょうがなかった

 

「ふぅ...」

 

私はお兄様の感情を取り戻すため、生きる道を見つける手伝いをするために生きてきたといっても過言ではない

 

お兄様の話を聞いて私はとても嬉しかった。10年間ずっとそのことだけを考えてきたのだから。でも、それと同時に悲しかった

 

私が10年かけてもできなかったことを彼女、湊友希那は少し話しただけでやってみせた。とても悔しかった。会って数日の彼女が何故あれだけでお兄様の心を開くことができたのか不思議でならない

 

「柏ー!私もお風呂入りたいから一緒に入っていい?」

 

お姉様が呼びかけてきたのでしっかりと答えておく

 

「大丈夫ですよ〜」

 

「お邪魔しまーす」

 

その瞬間、お姉様はすぐに入ってきた。この人、私の許可が取れなくても入るつもりだっのでは?

 

「こうやって2人でお風呂入るのも何年ぶりだろうね〜」

 

「あのとき以来ですから10年ぶりですかね...」

 

「もう10年か...早いなぁ」

 

「何おばあちゃんみたいなこと言ってるんですか。まだ18歳でしょう」

 

「そうだけどさぁ...ハァ。何悩んでんの?」

 

「え?」

 

「さっきからそんな悲しそうな顔してさ。まぁどうせ咲夜のことでしょうけど」

 

お姉様はお兄様と違って人の気持ちに鋭い。ちょっとした変化ですぐに見抜かれてしまう

 

「...やっぱり、お姉様には敵いませんね」

 

「友希那ちゃんのこと、恨んでる?」

 

「勿論、彼女が憎いです。でもそれ以上に何もできなかった自分が憎いです」

 

お兄様を救うと言いながら結局何もできなかった。全て友希那さんに先を越されて、想いも伝えられずこの始末。私という存在に反吐が出る

 

「私が10年間してきたことは無駄だったのでしょうか?お兄様を救うという夢も、お兄様のことが好きだという想いも、全部無駄だったのでしょうか?」

 

「...呆れて言い返す気にもなれないわ」

 

「っ!お姉様に何が...」

 

「確かに結果的に咲夜に感情と向き合わせて道を持たせたのは友希那ちゃんかもしれない。でもさ、どれもこれもきっかけは貴女でしょ?」

 

「きっかけが...私?」

 

「だってそうでしょ?柏がバンドを組みたいと言わなければRoseliaのライブに行くことは無かった。それが無ければ2人が出会うことも無かった。全てのきっかけは柏、貴女にあるのよ」

 

「それでも...やっぱり私は」

 

「それに、咲夜は貴女に感謝してるわ」

 

「お兄様が、私に?」

 

「えぇ。さっき言った様に、貴女がいなければ友希那ちゃんと、Roseliaと出会うことは無かったし、何より生きることも諦めていたかもしれないって言ってたわ」

 

「お兄様...」

 

私は思わず泣いてしまった。最近泣いてばかりだ

 

「それに、咲夜の中では友希那ちゃん以外にもちょっと気になる子がいるみたいだから早くしないと取られちゃうよ?」

 

「いつかはこの想いを伝えたい。でも、今はそのときじゃないと思います」

 

「そっか...頑張ってね。それと、これからも咲夜をお願い」

 

「はい!」

 

どうやら私の想い違いみたいでよかった。そしてこの後お姉様に身体を弄られたのは別の話

 

咲夜side

 

華蓮と素早く片付けを終わらせ、俺は早速曲作りに取り掛かった。Xaharの作詞・作曲は全て俺がやっていたのだが、久し振りのため中々良い案が浮かばない

 

「くそっ...こんなんじゃ金曜に間に合わねぇ。何とか彼奴らに合った歌詞を書かないと...」

 

曲は何となくできたのだがそれに合う歌詞が浮かばない

 

「お兄様ー!お風呂空きましたよ!」

 

「咲夜ー!とっとと入りなさーい!」

 

どうやらあの2人が上がったみたいだ。休憩したいと思ってたし丁度良い

 

「今行く!」

 

部屋から出て風呂場に向かうと

 

「あっ曲はできた?」

 

華蓮が聞いてきた。いや、そんなすぐに終わるわけねえだろうが...昔ですら丸2日はかかったというのに

 

「終わるわけねえだろうが。歌詞が全然浮かばねえんだよ」

 

「ありゃりゃりゃ、あんた歌詞は得意でしょうに」

 

「頭が疲れた。おやすみ」

 

「まだ寝ないわよ。色々情報集めなきゃいけないし」

 

「あぁ〜そっちもあったな...」

 

参ったな...曲作りに夢中になりすぎてすっかりそのこと忘れてた。俺が頭を抱えていると

 

「貴方は曲作りに専念しなさい。こっちは時間はたくさんある。それに奏斗君もいるんだから」

 

「...すまない」

 

「もう!こういうときは素直にお礼を言うの!謝ってばかりだと相手は嬉しくないよ!」

 

「ごめ...ありがとう」

 

「それでいいの。私はこれくらいしかできないから」

 

「まぁとにかくありがとな。じゃあ風呂で休んでくるよ」

 

「そのまま寝ないでよ?」

 

「そんなことするわけ...ごめんなさい」

 

華蓮に睨まれてとっさに謝罪する

 

俺は疲れた状態で風呂に入るとたまに寝ることがあるのだ。そして朝風呂から出ると寒暖差で風邪を引き柏にめちゃくちゃ怒られる

 

「そういえば柏は?一緒に出たんじゃないのか?」

 

「あの子、鍋食べ過ぎてお腹痛いってトイレ行ったわ」

 

「えぇ〜」

 

彼奴もたまに抜けてるよな

 

「じゃあ華蓮も頑張れよ」

 

「えぇ」

 

今は風呂で頭と身体を休めるとしよう

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日

 

「かれ〜ん、金くれ」

 

「朝起きて第一声がそれ?おはようはないの?」

 

「...おはよう。とにかく金くれ」

 

「お金がないのは知ってるけどなんでそんなに?」

 

「今日の朝飯の材料がほとんどないんだよ」

 

昨日は俺がモカと一緒にパンを買いに行ったので辛うじて柏の分だけ作ることができた。しかし、今日は無理

 

「それなら大丈夫よ。本家から結構な量持ってきたから」

 

「そうなのか?...ホントだ、めっちゃあるじゃん」

 

いつ冷蔵庫に入れたんだ?

 

「それにもう作ってあるわ。柏起こしてくるから先に食べてなさい」

 

「下で何か音すると思ったら料理の音か」

 

「起きてたの?」

 

「起きてたも何も、一睡もしてねぇよ」

 

「はぁ!?あんたまさか、ずっと歌詞で悩んでたんじゃないでしょうね!?」

 

「そのまさかだ。結局何も思いつかんかったが」

 

「あんたね、1回倒れた柏にあれだけ言われてまだ懲りないの?こんなのが柏に知れたら...」

 

何やら華蓮が目を見開き固まっていたので俺もその方向を見ると...満面の笑みを浮かべた柏がいた

 

顔は笑ってるのに目が笑ってない。ヤバイ

 

「お・に・い・さ・ま?詳しく聞かせていただけますでしょうか?」

 

「えっと...その...」

 

「ほら、行ってきなさい」

 

「お姉様も、さらっと私のことディスりましたよね?」

 

「うっ」

 

「ちょっとそこで正座しててください。少しでも崩したら...分かってますよね?」

 

「「...承知しました」」

 

この後柏にめちゃくちゃ怒られて3人して学校に遅れそうになったのは別の話

 

 

 

 

 

 

学校に着いてからも俺はずっと歌詞作りに専念していた。授業もろくに聞かず考えたのだが...ダメだ。周りの音が邪魔で全く頭に入らない

 

そうこうしてるうちにあっという間に昼休みになってしまった

 

「翔君大丈夫?元気ないけど...」

 

つぐみが心配したのか俺に声をかけてくる

 

「あぁ、昨日の夜からずっと曲を作ってるんだが...どうも歌詞が浮かばなくてな」

 

「へぇ、翔君曲作れるんだね」

 

「まぁ担当が俺だったしな」

 

「そうだ!良かったらうちの店来ない?彼処なら静かで集中しやすいと思うけど」

 

「いいのか?そういえば、つぐみの店は喫茶店か何かだっけ?じゃあお邪魔させてもらうわ」

 

「帰ったら席とっとくね!」

 

「ありがとな」

 

「これからみんなでお昼ご飯屋上で食べるんだけど一緒に食べようよ!琉太君も行ってるよ」

 

「そうか。分かった、準備してから行くよ」

 

「うん、先行ってるね」

 

喫茶店なら美味い珈琲飲めるのかな?山吹ベーカリーでパン買っときゃよかった...最も、金ないけど

 

華蓮に作ってもらった弁当を持ち屋上に行くと、奏斗とAfterglow、何故か湊に今井、そして知らない奴が1人いた

 

「おっ翔来た。速くこいよ」

 

「なぁ、何で友希那さんたちいるの?そしてもう1人誰?」

 

「あら、私たちもたまに此処で食べるのよ?」

 

「そうなんですか...で、そこの人は誰?」

 

俺の発言で全員がありえないといった顔をして来た。何かおかしいことでも言っただろうか?

 

「翔、流石にそれはないわ...」

 

「しょ〜君常識知らず〜」

 

更には悪口言われるし...モカに関しては凄くムカつく

 

「日菜、一応挨拶しておきな」

 

「そうだね。あたしは氷川日菜、Pastel*Palettesっていうアイドルバンドでギターやってます!」

 

「白鷺と同じグループか...ん?氷川?」

 

「日菜は紗夜の妹よ」

 

「はぁ!?」

 

何それ!?性格真逆じゃん!

 

「翔君面白いね。るんって来た!」

 

「What?」

 

意味が分からない

 

「というか、何故俺の名前を?」

 

「そりゃこの学園では有名だもん!それに翔君も琉太君もあたしのクラスではめっちゃ人気なんだよ!」

 

「ハァ...そういうことか」

 

「というわけで翔君も一緒に食べるよ!」

 

「分かりました」

 

色々向き合うと言った手前心が折れそうになる。何こいつ、コミュ力とかそんなんじゃねぇ

 

「随分疲れた顔してるわね。大丈夫なの?」

 

「色々あって一睡もしてないんですよ...珈琲飲みたい」

 

「体調には気を付けなさいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ゆっ友希那が...他人の心配してる」

 

「しっ失礼ね!私だって人の心配はするわ!」

 

「ふ〜ん?」

 

「なっ何よ...」

 

「な〜んでもな〜い」

 

「ハァ...」

 

すげぇ...今井最強かよ。あの湊を何の問題もなくコミュ力で圧倒してるぞ

 

「琉太、俺今日と明日でバイト休むからまりなさんに言っといてくれ」

 

「ん」

 

あっさりと引き受けてくれた。おそらく、理由も分かっているのだろう

 

「あら、今日は休むのね?」

 

「ちょっとやることがありますので」

 

「そう...今日は自主練でスタジオ予約してあったから見てもらおうと思ったけど」

 

「すみません」

 

「いいのよ。こっちが無理を言って頼んでることだし」

 

「代わりと言っては何ですが、金曜日楽しみにしててください」

 

「?分かったわ」

 

言った後で気付いた。これだけ悩んでるのに金曜日に間に合うか分からねえじゃん。やらかした

 

「翔、食ったら戻るぞ。手伝ってやる」

 

「サンキュー」

 

「ねぇ、翔はさっきから何やってんの?」

 

「此処では言えない。つぐみ、絶対言うなよ?」

 

「うん!」

 

「え?つぐ知ってるの?」

 

「さて、戻ってやるか。ではお先に失礼します」

 

「えぇ。金曜日、期待してるわ」

 

放課後柏も連れて行くかな...

 

結局午後の授業でも考えたがいい歌詞は浮かばなかった




読了ありがとうございました!

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第18話

どうも黒い死神です!

ドリフェス30連目でようやく星4来ました!やっと星4が1体だけという地獄から解放されたよ

それでは本編どうぞ!


放課後、柏と一緒に商店街へ向かい羽沢珈琲店と書かれた看板のある店に入ると

 

「ヘイらっしゃーい!何にいたしやしょーか!?」

 

「「?」」

 

何故か寿司屋の板前みたいな挨拶が飛んで来たので、思わず戻って看板を見るとやはり羽沢珈琲店と書いてあった

 

「えっと...此処って喫茶店ですよね?」

 

「いっイヴちゃん!此処は寿司屋じゃないよ!」

 

「あっつぐみさん!お客さん来ましたよ!」

 

「つぐみ、説明頼みたい」

 

「説明って言われても...まずはこの子の紹介かな。今寿司屋の挨拶をしたのは此処でバイトしてる若宮イヴちゃんだよ」

 

「若宮イヴって...Pastel*Palettesのキーボードの人ですよね?」

 

「はい!Pastel*Palettesのキーボード担当、若宮イヴです!よろしくお願いします!」

 

「此処にもアイドルいたよ...んで、何故にその挨拶?」

 

「私、日本の文化に憧れてて中でもブシドーは日本の象徴です!」

 

「武士道ねぇ...」

 

まぁ何となく察しはついた

 

「まぁ細かいことは気にしたら負けということで、珈琲ください。花梨は何がいい?」

 

「私はカフェオレが飲みたいです」

 

「じゃあそれお願いします」

 

「翔君たちの席取ってあるから好きに使っていいよ」

 

「ありがとな。確かに此処なら落ち着けそうだ」

 

「では早速やりましょうか。曲の方はできてるのでしょう?そちらを聴かせてくれませんか?」

 

「ほい、これ音源だ」

 

「ありがとうございます」

 

「お待たせしました!珈琲とカフェオレです」

 

「速いな...ありがとうございます」

 

「翔君、イヴちゃん同い年だし敬語いらないんじゃない?」

 

「そうなの?年上かと思った」

 

「貴方も一年生なんですね。羽丘ですか?」

 

「えぇ。そういえばこっちは名乗ってなかったな。俺は神道翔、そして妹の神道花梨だ」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!私は花咲川なんです」

 

「そうなのか...んじゃ、珈琲いただきまーす」

 

そう言って珈琲を飲もうとすると若宮がめっちゃ見てくるから飲もうに飲めない

 

「えっと...どうした若宮さん?」

 

「その、その珈琲私が淹れたんです。だから感想聞けたらなと」

 

「へぇ。バイトなのに珈琲淹れれるのか...おぉ、美味い」

 

「ほっ本当ですか!?」

 

「あぁ、少なくとも今まで飲んだ珈琲で1番美味いよ」

 

「カフェオレもとても美味しいです」

 

「あっありがとうございます///」

 

「イヴちゃん、お客さん来たからお願い!」

 

「分かりました!それではごゆっくり」

 

「ありがと」

 

それにしてもこの珈琲美味いな...後でもう1杯頼もうかな

 

「そろそろ始めますか。お兄様は何に悩んでるのですか?」

 

「Roseliaに合うような歌詞が浮かばないんだよ。ハァ...」

 

「溜め息ばかりついてないでやりますよ」

 

「は〜い」

 

柏に言われて取り掛かろうとしたとこで

 

「すみません、ちょっといいかしら?」

 

「はい?何でしょ...」

 

誰かに話しかけられ振り返るとそこにはいつしか助けた白鷺と松原がいた

 

「やっぱり、あの時の。確か...神道君だったかしら?」

 

「お久しぶりです。白鷺さんに花音さん」

 

「千聖でいいわ。それより相席いいかしら?」

 

柏に目線を送ると渋々だがいいと言うので了承した

 

「ありがとう。珈琲代は私が奢るわ、この前のお礼として」

 

「別にいいですよ。大したことをしたわけじゃあるまいし」

 

「私の気が済まないのよ」

 

微妙に圧をかけてくるので奢ってもらうことにした

 

「久し振りだね2人とも」

 

「こんにちは、花音さんは迷わず来れましたか?」

 

「ちっ千聖ちゃんと一緒だから大丈夫だよ」

 

「まず1つ、この前は本当にありがとう」

 

「こちらの気分でやったことなので気にしないでください。それよりこんな所でどうしたんですか?」

 

「花音と2人でお出かけよ。休憩がてら此処に来たら貴方たちがいたのよ」

 

「なるほど...あれからは大丈夫ですか?」

 

「事務所でしつこく聞かれたけどなんとかね。さっきから何か悩んでるみたいだけどどうしたのかしら?」

 

「色々あって曲を作ることになったんですけど...歌詞が浮かばないんです」

 

「曲作りってことはバンドか何かやってるのかしら?」

 

「昔はやってましたよ。今回はある人たちに内緒で作ってあげようかと」

 

「今度私たちにもお願いしたいわね」

 

「千聖さんもバンドやってるんですか?」

 

俺の発言で場の空気が凍った。さっきからこんなことばかりな気がする

 

「お兄様、常識知らずにも程がありますよ...」

 

「まさか、こんな所に知らない人がいるなんてね。私はそこにいるイヴちゃんと同じグループ、Pastel*Palettesでベースをやっているわ」

 

「1日に何回アイドルに会うんだよ...すみません、その辺には疎いので」

 

「いいのよ。それより、手伝わせてもらってもいいかしら?力になれるかは別だけど」

 

こいつ、何でここまで俺に関わろうとする?たかが1回ナンパから助けただけじゃねえか。何か裏がありそうだな

 

「それは構いませんが...どうしてそこまで俺に関わるんです?」

 

「嫌だったかしら?私の友人が貴方に気があるらしくてね。私的にも興味はあったし...」

 

「ちっ千聖ちゃん!///」

 

何か知らんが白鷺の友人が俺に気があり、俺に興味があるからと?松原に関しては顔赤くしてるし何なの?

 

「...まぁ何となく察しはつきました。その辺に関してはお兄様は鈍感過ぎて話にならないレベルなので」

 

「おい、どういう意味だそれ」

 

「そっそう...花音、頑張りなさい」

 

「うん...」

 

「さっ話はここまでにして神道君の歌詞作りをやりましょう。どんなことで悩んでるの?」

 

こいつは信用できない。裏がある気がしてならない

 

「おい、話していいのか?こいつだけは信用できないんだが」

 

「私に言われても...ここは上手いこと利用すればいいのでは?私としては花音さんは信用してもいいのですが」

 

柏の松原は信用してもいいと言うのがよく分からんがまぁいいや

 

「曲を作るグループに合うような歌詞が浮かばないんです」

 

「そのグループについて教えてくれないかしら?」

 

「Roseliaというバンドなんですが」

 

「Roseliaなら一緒にライブしたことあるから知ってるわ」

 

「私もRoseliaなら知ってるよ」

 

そういえば松原もバンドやってるとか言ってたな

 

「あのバンドは落ち着いた雰囲気があるから、その感じの歌詞はどうかしら?」

 

「それも考えたんですが曲の感じに合わなくて」

 

「難しいわね...いつも私たちに作ってくれる人の気持ちが分かったわ」

 

自分たちに作るなら簡単だが他人にとなるとな...その時誰かの携帯が鳴った

 

「あら?ごめんなさい、少し電話してくるわ」

 

「分かりました」

 

芸能人は忙しいねぇ...俺は絶対嫌だ

 

そして電話を終えた白鷺が戻って来て

 

「ごめんなさい、仕事が入ってしまって。今日はここで失礼するわ」

 

「そうですか。頑張ってください」

 

「ありがとう。花音はどうするの?」

 

「私はもうちょっと考えるよ」

 

「そう、できれば花音を家まで送ってもらえると嬉しいわ」

 

「花音さん迷いますもんね。私はいいですよ」

 

「俺も大丈夫です」

 

「うぅ、ごめんね」

 

「いい歌詞を書いてね。ではまた今度」

 

「さようなら」

 

できればもう会いたくないけど

 

「それじゃあ再開しようか。私は別にRoseliaに合う歌詞じゃなくてもいいと思うな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「翔君はRoseliaに伝えたいことはある?」

 

伝えたいことか...あるにはあるな

 

「ありますけど...」

 

「じゃあそれを歌詞にしてみたらどうかな。そうすれば想いも伝わると思うよ」

 

「伝えたいことを歌詞に...!」

 

「私はやったことないから大したことは言えないけど...」

 

「いえ、今ので十分浮かびました。花音さん、ありがとうございます」

 

「ふぇ?そうなの?それなら良かった」

 

「後は家帰って仕上げるかな。すみませーん、若宮さん珈琲くれるか?」

 

「はい!少々お待ちください!」

 

「あれ?このお金は...」

 

「それならさっき千聖さんが置いて行きましたよ。お釣りは要らないそうです」

 

「明日お礼言わなきゃ...」

 

「お待たせしました!」

 

「おっ来た。ありがとう」

 

「それも私が淹れたんですが...」

 

「うん、美味しいよ。普通の喫茶店より全然」

 

「そっそうですか?ありがとうございます!」

 

「お兄様が飲み終わったら私たちも帰りますか」

 

「そうだな。花梨、会計済ませといてくれ」

 

「分かりました」

 

「つぐみー!会計頼む!」

 

「翔君帰るの?ならイヴちゃんも今日は上がっていいよ!お客さんも減ってきたし」

 

「分かりました!それでは失礼します」

 

「よければ私たちで家まで送りますよ?若宮さんもアイドルなのでストーカーとかいるかもしれませんから」

 

「...」

 

「若宮さん?」

 

「いっいえ!それではお願いします」

 

気のせいか?一瞬彼女の顔が曇ったように見えたのは

 

「花梨、俺は先に帰っていいか?」

 

「何言ってるんですか?若宮さんが襲われたら珈琲飲めなくなりますよ?」

 

「それは困るけど...ストーカーくらいお前1人で何とかなるだろ」

 

「...これはお姉様に報告ですかね?女子を残して帰ろうとするなんて」

 

「あーもぉ!分かったよ!」

 

「ふふっ」

 

「チッ...ご馳走様」

 

「大変だね...翔君も」

 

「ホントですよ」

 

「お会計終わりましたよ」

 

「こちらも支度できました!」

 

「よし、それじゃあ行くか。つぐみ、ありがとな」

 

「うん!また明日!」

 

さて、これからこの女子2人を家に送らねばならないのだが

 

「若宮さんと花音さん、どっちが家近いですか?」

 

「私は15分くらいです」

 

「私は...分からないかな」

 

「迷いすぎて本来の時間が分からないと...なら若宮さんから送りますか」

 

「...お願いします」

 

まただ。彼女の顔が曇った

 

まぁいっか。さっさと送るか

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

先に時間の分かる若宮を送っているわけだが...彼女の顔が曇った理由が分かった

 

「柏、気付いたか?」

 

「えぇ。誰かが私たちを、いや、若宮さんをつけている」

 

さっきから後ろの方で人の気配がする。おそらく若宮のストーカーだろう

 

「あっ見えてきました。では、私はここで」

 

「あぁ。珈琲美味しかったよ」

 

「さようなら」

 

「イヴちゃんじゃあねー!」

 

後は松原だけだが...その前に

 

「花音さん、千聖さんの連絡先知ってます?」

 

「知ってるけど...どうしたの?」

 

「彼女に伝えなければいけないことがあって...スマホ貸してくれませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

松原からスマホを受け取り白鷺に電話をかける。仕事が終わってればいいが...

 

『もしもし花音?どうしたの?』

 

「花音さんではありませんがもしもし。神道です」

 

『神道君?どうしたの?』

 

「ちょっとまずいことがありましてね。実は......」

 

『なるほどね。事務所に伝えとくわ』

 

「できれば他のメンバーには伝えない方がいい。おそらく心配をかけたくなくて黙っていたと思うので」

 

『えぇ、分かったわ』

 

「では、よろしくお願いします」

 

『任せて。ありがとう』

 

これで多少の対策はとれたか...

 

「ありがとうございます。これお返ししますね」

 

「うん。でも本当にストーカーがいるなんて」

 

「今時良くある話です。昔私もストーカーされたことがありますから」

 

「え、そうなの?」

 

「あん時か...あれは笑えたなぁ」

 

「人の苦労も知らないでよくそんなことが言えますね」

 

 

「どんなことがあったの?」

 

「面白いことですよ」

 

「そっそれじゃあ分からないよ〜」

 

「また今度お話ししますよ。家の場所は分かりますか?」

 

「えっと、スマホに登録してあるよ」

 

何故それで迷うんだ?

 

「それならいいです。もうストーカーもいないみたいですし、行きましょう」

 

さっきから嫌な予感がするな...何か面倒ごとに巻き込まれそうな...

 

俺はそんな予感がしながら松原を家におくりとどけた

 




読了ありがとうございました!

何だか時間が狂ってる気がしますが...次回からしっかりして行きたいと思います!

何かストーリーにリクエストがあれば感想等で教えてください!

評価や感想お待ちしております!


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第19話

どうも今日誕生日を迎えた黒い死神です!

それでは本編どうぞ!


家に帰った後、俺は浮かんだ歌詞を忘れないうちに繋ぎ合わせ曲を完成させた

 

「やっと終わったー!いやー間に合ってよかったわ」

 

今回は松原に感謝せねばならんな

 

「間に合ったじゃないですか。明日奏斗さんも呼んでそれやりましょうよ」

 

「そうだな。Roseliaに見本で提供するのに丁度いい」

 

だがその前に歌詞を重ねての音源を作らねばならない。ここはパソコンを使うのが1番速い

 

「これをこうして...できたな。柏、確認頼むわ」

 

「了解しました。...中々いい出来じゃないですか」

 

「後は華蓮にも聴かせて納得がいけば完成だ」

 

「曲名は決めてあるんですか?」

 

「あぁ。彼奴らにぴったりなやつを用意しといた」

 

明日バイト休むって言ってあるからなぁ...暇だ

 

「明日どうする?俺バイト無いから暇なんだよ」

 

「私は花音さんのバンドの練習に行きますが...お兄様はやめといた方がよさそうです」

 

「何故に?」

 

「花音さんのいるバンドのボーカルなんですが...あの弦巻家の令嬢だそうです」

 

「マジかよ。場所は?」

 

「弦巻の家だそうです。お兄様は顔が割れてますし行くのは危険かと」

 

世界でトップの財閥の御曹司が犯罪者ということは1部のうちと関わりの深い連中だけ知っている。弦巻グループもその1つだ

 

「あの家の娘はバカと聞いているが、親の方は多分知ってるだろうな」

 

「偽名も通じる可能性は低いと思います。私は顔も名前も知られてないので」

 

「羨ましぃな...肩身の狭い俺は家に引きこもるとするよ」

 

「そっその、花音さんとは連絡先交換してるので今から断ることもできますよ?」

 

「いつの間に交換してたのかよ。別に構わんぞ。お前はお前のやりたいことをやれ。自由に生きろ」

 

「お兄様...ありがとうございます」

 

「それにしても華蓮遅くないか?」

 

「確かに...暫くは仕事の終わりも早いと言っていたのに」

 

「ただいま〜」

 

そう言った矢先華蓮が帰って来たのだが

 

「おかえりってお前ボロボロじゃねえか!」

 

華蓮は所々血が出てて服もボロボロになっていた

 

「いや〜、帰り道で奴らに奇襲かけられて。ねじ伏せたけど」

 

「あのなぁ。連絡くらいしろやぼけなす」

 

「忘れてた。それより歌詞は浮かんだ?」

 

「お陰様で完成したよ。それより風呂入ってこい。傷を洗ってその後軽く手当する」

 

「スーパーで買い物した後だったから荷物守るので必死で...夜ご飯作ってくれない?」

 

「優先順位を考えろや。分かったよ、何が食べたい?」

 

「材料的に肉じゃがかな?よろしくね」

 

「了解。柏、手伝ってくれ」

 

「分かりました。お姉様、ゆっくりなさってくださいね」

 

「ありがと」

 

華蓮を風呂に向かわせ、肉じゃが作りにかかる。そろそろ本気で潰しにかかってんな...周りから消そうってか

 

この3分後に傷口がしみて華蓮の絶叫が聞こえたのは別の話

 

次の日の夜

 

「お邪魔しま〜す。咲夜、来たぞ」

 

「いらっしゃい、待ってたよ」

 

「これ、華蓮さんに土産だ。俺もああなるのも時間の問題かな...」

 

「縁起でもないことを言うな。あの2人はそろそろ準備を終わらせたところだ、俺たちも行くぞ」

 

そう言って俺たちは地下にあるスタジオへ向かう。今日奏斗を呼んだのはRoseliaに渡す新曲の正確な音源を作るためだ

 

「でもまさか、あの1日で完成させるとはな」

 

「松原のお陰だな。彼奴がいなけりゃ今頃死んでたわ」

 

「ははは...まぁギターが弾けるのは俺も嬉しいし、何よりこれからは4人でこんなことできるのも減るだろうから」

 

「そうだな。よし、今日は頼むぞ!」

 

「あぁ!」

 

スタジオのドアを開けると既にチューニングを終わらせた2人が待っていた

 

「おっ来たね2人とも!ギターとキーボードも軽くやっといたからあとは自分たちで調整しといて」

 

「サンキュー」

 

「華蓮さん、お土産持って来たんでよかったら食べてください」

 

「ありがとう!」

 

「柏、声の調子は大丈夫か?」

 

「バッチリです!任せてください!」

 

柏の歌は最高に上手いから心配ないな

 

「咲夜終わったか?」

 

「完璧だ。準備できたぞ」

 

「録画も録音もできてるからいつでもいけるよ」

 

「そうか。じゃあ華蓮、最初頼むぞ」

 

「了解!じゃあ行くよ!曲の名は...」

 

 

Legendary

 

 

 

〜♪〜

 

 

 

 

「ふぅ...どうだった?」

 

「最高だ。やっぱりお前らチートじゃね?ほぼ初見で完成させやがって」

 

「それは咲夜も同じだろう。俺なんかCiRCLEでずっと練習してたからな」

 

「私たちも帰ってからやや5時間くらいやってたね」

 

「疲れました...」

 

「お疲れ様、Roseliaも満足だろう」

 

「そうね。それじゃあ片付けしましょう」

 

とりあえず上手くいってよかった。この歌詞には俺の想いが込もってるから、彼奴らに伝わるといいけど...

 

「伝わるわ、きっと」

 

「...そうだな。ありがとう」

 

「それじゃあ俺は帰りまーす」

 

「おう、わざわざ悪いな」

 

「今度つぐみの店で奢りな。じゃあな」

 

「ありがとな」

 

奏斗は頷くと帰って行った

 

「私たちはお風呂入ってくるかな。ドラム叩いたら汗かいちゃった」

 

「また叫ぶなよ?心臓に悪いんだよ」

 

「だって...痛かったもん」

 

「湯船に浸からなきゃいい話だろ!とっとと入れ!」

「はーい」

 

あとは明日を待つだけだ。Roseliaが気に入ることを祈ろう

 

友希那side

 

今日は待ちに待った金曜日だ。翔が何かを用意しているみたいだが、何かは全く知らない

 

(何を用意しているのかしら...楽しみね)

 

午前の授業を終えリサとともに屋上へ行くとやはりというか翔と琉太、Afterglowのメンバーが揃っていた

 

「おっ友希那さん、こんにちは」

 

「今日の練習は楽しみにしてていいかしら?」

 

「えぇ、気に入るかは分かりませんが」

 

そうは言いながらも彼の目は自身でいっぱいだった

 

「祐奈さんも来るのでしょう?何か怪我をしたって聞いたけど...」

 

「もう2年の方まで情報行ってんのか...姉さんなら元気ですよ」

 

「それなら良かったわ。お昼、ご一緒させていただくわ」

 

「了解」

 

私は彼と話すのが好きだ。音楽の話で盛り上がれるし、何より初めてできた男の子の友達だから

 

「琉太、今日の予約は?」

 

「Roseliaだけだったぞ。誰かが早く来ればその分休憩も長く取れるだろう」

 

「そうなってくれるとありがたいな」

 

彼はそう言いながら私に視線を送ってくる。おそらく、早く来てくれということだろう

 

「ハァ...分かったわ。その代わり、私の自主練に付き合ってもらうわよ」

 

「喜んでお受けいたします」

 

台詞が勇者みたいになってるが、彼が言うと妙にしっくりくる。顔はイケメンの部類に入るし凛々しい声もよく似合っている。何より、2年の間ではこの2人はとても人気だからあまり関わると殺意の視線を送られる

 

「そういえば、高校入ってから翔告白1回も受けてないな」

 

「えっ翔君そんなにモテテたの?」

 

「まぁ朝のHR前に1回、昼休みに1回、放課後に1回と少なくとも中学の頃最低3回は告白されてたぞ」

 

「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」

 

「いつの話だよ。時間が削られるもんだからたまったもんじゃねえぞ」

 

正直、そこまでモテモテだとは思わなかった

 

「いや〜翔すごいね!2年の間では翔も琉太も人気だからそのうち告白の嵐が来るかもね」

 

「縁起でもないことを言わないでくださいコミュ力お化けさん」

 

「酷い!?」

 

「俺は1日に1回で済んでたから良かったけどな」

 

「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」

 

この2人何故元女子校の所に来たのだろうか?

 

「1年の間でも人気だもんね〜。あんまり一緒にいると凄く怖い目で見られるもん」

 

「アタシもたまにあるな。殺意の塊みたいなもんだ」

 

これからは少し会う回数を減らした方がいいかもしれない。たまに学校ですれ違う時音楽の話で盛り上がってしまうのだが、その時のクラスの視線がまた痛い

 

その時昼休み終了のチャイムが鳴った

 

「もう時間かよ...眠い」

 

「モカちゃんは寝るのだ〜」

 

「お前は何故授業寝ててそんないい点数が取れるんだよ」

 

「万年学年1位のてめぇがほざいてんじゃねえ」

 

彼は容姿も良ければ頭も良いらしい

 

「起きてるからな」

 

「話全く聞いてないだろ。1回死ね」

 

「りゅっ琉太君、落ち着いて」

 

「そうだそうだ」

 

「ぶっ殺す」

 

「殺し合いか?受けてたとう」

 

この2人中がいいのか悪いのか...

 

「ほら、早く戻るよ。授業遅れるし」

 

「「へ〜い」」

 

「このことを花梨に報告すればどうなるのかしら?2人が学校で殺し合いをしかけたなんて言ったら」

 

「「お願いですからやめてください!」」

 

「冗談よ」

 

そう言うと彼らは心の底から安心したような素振りをみせる。そこまで花梨が怖いのかしら?まぁ確かに彼女の殺気は恐ろしいものだけど

 

「それじゃあ翔、また後で」

 

「もうどうせなら一緒にCiRCLE行きましょうよ。その方が楽だし」

 

「そうね...分かったわ。先に終わった方から門の前で待つとしましょう」

 

「了解」

 

あと約3時間、かなり面倒だがそこは耐えるしかなさそうだ

 

...周りからの殺意の込もった視線に耐えられるかしら

 

咲夜side

 

午後の授業を何とか耐え切り俺は速足で校門前に向かった。何にしろ少し楽しみにしてたものなんでな

 

「もぅ2年いるなぁ〜。おっ湊発見」

 

約束通り門の前にいたので声をかけると湊は何だか困ったような顔でこちらを見てきた

 

「どうしたんですか?そんな顔して。美人が勿体無いですよ」

 

「ちょっ!?びっ美人...///」

 

何故か顔を赤くしてるし...感情って難しいね

 

「あの、ここでそういうこと言われると困るのだけど///」

 

「何でですか?」

 

「まっ周りからの視線が...」

 

そう言われて軽く辺りを見回すと全員がこちらを睨んでいた。解せぬ

 

「なんか悪いことしたかな?まぁいっか、速く行きましょう」

 

物凄く居心地が悪そうだったので湊の手を引っ張りCiRCLEへと向かった

 

友希那side

 

HRを終えて、校門へ向かうとまだ翔は来ていなかった。私たちが少し早く終わったのもあるだろうから、ここで待っていよう

 

10分くらい待ったところで彼が走ってくるのが見えた。周りの視線は彼に釘付けだ。そして彼が私の名前を呼ぶのでその視線はこちらに向き殺意の込もった物へと変わる

 

「どうしたんですか?そんな顔して、美人が勿体無いですよ」

 

「ちょっ!?びっ美人...///」

 

貴方のせいと言いたかったが、不意打ちを喰らってしまいそれどころではなくなってしまった

 

「あの、ここでそういうこと言われると困るのだけど///」

 

「何でですか?」

 

鈍感にも程がある。どう考えても彼のせいしかないというのに

 

「まっ周りからの視線が...」

 

そろそろ本当にまずい気がしてきた。今にも後ろから刺されかねない

 

「なんか悪いことしたかな?まぁいっか、速く行きましょう」

 

私の居心地の悪さを感じたのか彼は私の手を引っ張り歩きだした。少し嬉しかったが、今は逆効果にしかならない

 

それでも、このままでいたいと感じている自分もいたのであった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

CiRCLEに着くやら何やら、彼は受付をすぐに済ませ軽く掃除をしたら休憩していいと言われていた

 

「ふぅ〜。やっと終わった」

 

「終わるの早過ぎないかしら?まだ私の準備ができてないのだけど」

 

「じゃあ楽器の調整やっとくんで」

 

「ありがとう」

 

ここまでしてくれるのならマネージャーになって欲しかった。以前は彼の自虐的な精神に何も言えず、諦めてしまった。しかし、私としては彼にマネージャーになって欲しい

 

「終わりましたよ。何演奏しますか?」

 

「なら、BLACK SHOUTのドラムをお願いしたいのだけど」

 

「了解です」

 

そして練習に取り掛かろうとしたとこで

 

「失礼します」

 

紗夜が少し息を切らせながらスタジオに入って来た

 

「お2人とも早いですね...他の方はまだですか?」

 

「リサはもう少しで来るわ。今日は祐奈さんも来てくれることになってるから」

 

「そうなんですか?お仕事の方は...」

 

「姉さん暇人なんで問題ないです」

 

「そっそうですか...そういえば、翔さんは何か用意しておくと言っていましたが」

 

「もう用意はできてますよ。みんなが揃ったときか練習終わりどちらがいいですか?」

 

「気になって練習に集中できないのも困るし先に渡してくれるかしら?」

 

「分かりました」

 

それから紗夜も交えての練習をして、他の3人がやって来た

 

「全員揃いましたね。では少々お待ちください」

 

そう言って彼は鞄の中を探り始めた。とても楽しみだ




読了ありがとうございました!

評価や感想お待ちしております!


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第20話

どうも黒い死神です!

今回で第一章が終わりなのですが、1つにまとめたら長くなってしまいました。最後まで読んでいただけると光栄です!

それでは本編どうぞ!


「それでは早速、これをどうぞ」

 

「これは?」

 

彼から渡されたのは折りたたまれた複数枚の紙だった

 

「開けてみれば分かりますよ」

 

彼に促され5人で開けると中には知らない曲の楽譜が書かれていた

 

「これは...楽譜?」

 

「えぇ。何の曲だと思います?」

 

私はこの曲を知らない。他のメンバーに視線で聞くが、みんな知らないらしい

 

「まぁ知らないでしょう。そりゃ昨日できたんだし」

 

「どういうこと?」

 

「火曜日の夜と水曜日で俺が作ったんですよ。貴女たちRoseliaの曲としてね」

 

「!?まさか...2日でこれを完成させたの?」

 

「何とかね。それと、これ音源です。欲しいですか?」

 

「勿論もらうわ。今から聴いてもいいかしら?」

 

「いいですよ。まぁ気に入ってもらえるかは分かりませんけど」

 

「それは分からないけど、貴方の作った曲ならきっと気に入るわ」

 

曲の名前は...Legendaryね。どんな曲なのかしら?

 

〜♪〜

 

凄い。この曲に込められた想いが伝わってくる。それだけじゃない。これを演奏している人の技術もRoseliaを上回っている

 

「この曲、演奏技術が他とは比べ物にならない。まさか...」

 

紗夜が演奏者に気付いたようだ。私も分かる。これは

 

「お察しの通り、これを演奏してるのは俺たちXaharです」

 

「凄いカッコよかったです!りんりんもそう思うよね!」

 

「うん...とてもかっこよかった」

 

「これをわざわざアタシたちに作ってくれたの?」

 

「Roseliaじゃなかったら作ってませんよ」

 

「早速練習していいかしら?」

 

「勿論。ならそれを今日含めて1週間で完成させてください」

 

「1週間で!?何故ですか?」

 

「友希那さん、この前俺にマネージャーになって欲しいと言いましたよね?」

 

「えぇ。でもあの時は貴方が...」

 

「この曲、俺が作ったLegendaryを1週間で完成させたなら俺はRoseliaのマネージャーになる」

 

「えっいいの?」

 

「俺はRoseliaに賭けているんです。俺の人生を預けていいのか」

 

「人生を?どうしてそこまで...」

 

彼が私たちにそこまで賭ける意味が分からない

 

「俺は今まで生きる道がなかった。花梨がいなかったら生きようなんて思ってなかったでしょう」

 

「初めてRoseliaの演奏を見たとき、光が見えたんです。賭けてもいいんじゃないかって。その曲は貴女たちに渡しますよ。この賭けに出るかは貴女たち次第です」

 

私は祐奈さんに言われたことを思い出した

 

『翔を救ってあげて』

 

祐奈さんに約束した以上、答えは1つしかなかった

 

「その賭け、受けて立つわ!」

 

「友希那!?本気なの?1週間でって、アタシたちでもできるかどうか」

 

「翔が私たちにここまでしてくれた。この歌詞には彼の想いが込められていた。私はそれに答えたい」

 

彼の想い。それは『貴女たちと進んでいきます』

 

そんな感じだった。彼と一緒に頂点に立ちたい

 

「気付いてくれたんですね。よかった」

 

「湊さんが言うのなら、私はどこまでもついていきます」

 

「あこもやります!」

 

「私も...友希那さんについていきます」

 

「みんな...そうだよね。翔がここまでしてくれたんだもん。アタシもやるよ!」

 

「Roseliaは貴方の賭けに乗るわ。それでいいわよね?」

 

「ありがとな、湊友希那」

 

「翔?」

 

「賭けてよかったです。Legendaryについては俺は一切口出しはしません。姉さんか花梨にアドバイスをもらってください」

 

「分かっているわ。私たちに賭けてくれてありがとう。みんな、やるわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「どうします?早速今日からやるか、それとも今日は別のをやるか」

 

「そんなもの、決まっているでしょう?」

 

「...そうですね。なら行きますよ。時間が勿体無い」

 

「えっ練習には参加しないんじゃ」

 

「誰も練習には参加しないと言ってませんけど?Legendaryだけは俺は何も言わないと言ったんです。準備や片付けは全力でサポートしますよ」

 

「本当にありがとう。まずは個人で練習しましょう。それから少しずつ合わせてやるわ」

 

タイムリミットは今日含めて1週間。頂点に立つため。そして、彼の期待に応えるために必ず勝ってみせる!

 

咲夜side

 

湊たちとの賭けに出て10分後、華蓮と柏がやってきた

 

「ヤッホー!今日はよろしくね!」

 

「祐奈さん、こんにちは」

 

「お兄様、曲は渡せましたか?」

 

「あぁ」

 

「友希那ちゃん、ありがとね。翔は何も言えないんだし、私たちがサポートしてあげるから」

 

「ありがとうございます」

 

「あまり余計なこと言わないでよ姉さん」

 

「分かってるよ。Roseliaの音、楽しみだなぁ」

 

さて、俺はどうするかなぁ...口出ししないと言った以上見ることしかできないわけだが

 

そうだ。今井に言っとかなきゃいけないことあったわ

 

「リサさん、ちょっと来てください」

 

「なになに?お姉さんに相談かな?」

 

「二度と喋れなくしてもいいんですけど?」

 

「ごめんなさい」

 

やっぱり今井は嫌いだ

 

「今回成功するにはリサさん、貴女が鍵です」

 

「私が?」

 

「えぇ。リサさんはRoseliaの足りないことに気付いている。他のメンバーにどう気付かせるか、それができれば必ずできる」

 

「おそらく...友希那さんと氷川さんは周りが見えなくなる。あの2人をしっかりなだめてあげてください」

 

「うん、分かった!」

 

「それでは戻りますか。機材に異変があれば言ってください。それくらいはやりますから」

 

「オッケー」

 

Roseliaに賭けた甲斐があったみたいで良かった。きっと彼女らなら...俺たちを超えられる

 

俺はそんなことを思いながらスタジオに戻った

 

友希那side

 

早速練習に取り掛かろうとしたところでリサが翔に呼ばれていった。何やら真剣な顔つきで話している。どんな話かは分からないが、何故か羨ましかった

 

(何なの?この胸が締め付けられる感じは...)

 

彼がリサと話しているのを見ると胸が苦しくなる。今まではそんなことなかったのに...

 

「友希那さん、どうしたんですか?顔色悪いですよ?」

 

花梨に言われてなるべく平気な様に振る舞う

 

「いえ、大丈夫よ。コーチング、お願いできるかしら?」

 

「勿論です。この前も言いましたが、無茶はしないでくださいね」

 

「分かっているわ」

 

30分程個人で練習した後部分的に合わせてやってみた。やはり、それぞれミスが多く曲として不十分だ。私も結構音を外してしまった

 

「まだ合わせるには早いわね...流石に30分はきついか」

 

「お姉様、1時間もかからずで完成してませんでしたっけ?」

 

「そういう花梨だってベースと歌それぞれ30分ずつで大体掴んでたじゃん」

 

やはりこの人たち、人間ハズレの実力を持っている

 

「今日は合わせるのはやめにしよっか。これじゃ埒が明かないわ」

 

「花梨は友希那ちゃんとリサちゃんお願いね。私は他の3人見るから」

 

「分かりました」

 

祐奈さんは紗夜たちの方へ向かって行った。そして花梨は私たちを見ることになった

 

「さて、まずはイントロからやりましょう。何か聞きたいことはありますか?」

 

「ここなんだけど、どうやるのが1番やりやすい?」

 

「ここは...ベース貸してください。まぁ人によりますがこんな感じでやればいいと思います」

 

「おっホントだ!ありがとう!」

 

こんな感じで今日の練習は終わった。次の練習は日曜日だ

 

「各自今日できなかったところを重点的にやってきて。次回である程度合わせられるようにできるように」

 

「「「「はい!」」」」

 

メンバーに来週の予定を聞いたところ、リサのバイトや紗夜の部活など用事があり全体での練習は日曜日含めてあと3回しかない

 

「まりなさーん、お先に失礼します」

 

「お疲れ様!Roseliaのみんなも頑張ってね!」

 

「琉太はもう帰ったのね」

 

「みたいですね。今日はAfterglowもいなかったからやることやってシフト通りに帰ったんでしょう」

 

「翔、今日の晩御飯何にする?」

 

「肉じゃが食べ切っちゃったしなぁ...ファミレス行くか」

 

「あんたお金ないでしょ」

 

「お姉様の奢りで」

 

「花梨!?私まだ給料もらえてないんだけど」

 

「金あるだろうが。とっとと行くぞ」

 

「うぅ...」

 

「アタシたちはどうする?今日は普通に帰る?」

 

「当たり前でしょう。早く帰って練習しないと」

 

紗夜の言う通りだ。家でもしっかり練習しなければ間に合わない

 

「それじゃあ俺たちはここらでお別れですね。また今度」

 

「今日は本当にありがとう」

 

翔たちが帰り私たちもすぐに帰った。帰り道、私はリサにある相談をした

 

「リサ、少し聴いて欲しいことがあるのだけど...」

 

「どうしたの?」

 

「練習が始まる前、翔と話をしていたでしょう?何故かあの時、胸が苦しくなったの」

 

「どうしてかは分からない。けれど、貴女が翔と話しているのを見るととても羨ましかった。この気持ちは何なの?」

 

「友希那、それはアタシからは言えないよ。だってそれは友希那自信が気付かなきゃいけないことだから」

 

「そう...ありがとう。少し気が楽になったわ」

 

いつかこの気持ちに気付けることを祈って私は家に帰った

 

 

 

 

日曜日

 

今日はまりなさんが体調不良でいないため、翔は練習に来れない。祐奈さんは用事で花梨は来ることができた

 

「最初はまた個人で練習しましょう。分からないことがあれば私を呼んでください」

 

花梨の一言で練習が始まった。今日は前よりも良くなっていて、合わせたときはだいぶ曲として成り立っていた

 

「前よりは良くなってると思います。ただ、氷川さんが最後アウトロで音外したのが気になりました。あこも途中ずれたときがあったから修正しといて」

 

「すみません...」

 

「うぅ〜」

 

「まぁある程度は完成してますよ」

 

ある程度じゃダメなんだ。せっかく翔が私たちに全てを賭けてくれたのに、中途半端な演奏はできない

 

「...もう1回やりましょう」

 

「ちょっ!?あれから休憩なしで何時間やってると思ってるんですか!少し休んでください!」

 

「時間がないのよ!このままじゃ...」

 

そう言った瞬間、予想外のことが起きた。少し距離のあった私と花梨だが、花梨は一瞬でその距離を詰め私の足を払い抑えてきた

 

「分からず屋ですね!お兄様も友希那さんが倒れることは望んでないんですよ!...何なら今ここで死にます?」

 

「花梨さん!やり過ぎです!」

 

「...チッ」

 

紗夜の制止のお陰で花梨は拘束を解いてくれた。でも、私は上手く立てず声も出せない

 

「ごめんなさい。少しやり過ぎました」

 

「花梨、この前のこと言っていい?」

 

「...いいですよ。友希那さん、リサさんの言うことをしっかり聴いてください」

 

「...分かったわ」

 

ようやく声が出せた。それでもまだ震えている

 

「この前花梨が友希那の代わりに歌ったことあったの覚えてる?」

 

「...えぇ」

 

 

「あの時、花梨が歌う前なんて言ってたか覚えてる?」

 

「歌う前に...!」

 

『私を信じてください。私も貴女方を信じます』

 

「今井さん、まさか」

 

「うん、Roseliaに足りないのはお互いの信じる心。アタシたちはまだお互いを完全には信じ切れていなかったんだよ」

 

私のせいだ。私がいつも厳しい態度を取りすぎたせいでこうなったんだ

 

「...ごめん...なさい」

 

私は涙を抑えることができなくなってしまった

 

「友希那さん、時間はまだ残っています。このままやっても無駄なのは貴女が1番分かっているはず。今1番心の安らぎにできる人のところへ行って来てください」

 

私の中で浮かんだのは翔の姿だった

 

「...失礼するわ」

 

私はスタジオから出て受付の机に突っ伏している翔の元へ向かった。気配を感じたのか、翔は顔を上げ

 

「友希那さん、どうしたんですか?」

 

まるで全てを知っているかのような口調で言ってきた。彼が立ち上がると同時に私は彼に抱きついた

 

「私...私...」

 

「何も言わなくていい。泣きたければ泣けばいい。貴女がしたいことをすればいい」

 

私が身を彼に身を預けると、彼は優しく抱きしめてくれた

 

私は時間を忘れる程に泣いた。涙が枯れるまで、ずっと

 

「...落ち着けたわ。ありがとう」

 

「お役に立てたなら何よりです。さ、戻ってあげてください。今度こそR()o()s()e()l()i()a()()()()()。」

 

「えぇ!」

 

覚悟は決まった。あとはやるだけだ

 

私はスタジオに戻るとすぐに頭を下げて謝った。みんなはそんな私を許してくれた。こんなにもいい仲間を持っていたのに...

 

「全く、あの方は本当に...友希那さん、覚悟は決まりましたか?」

 

「えぇ」

 

「もうどうなっても知りませんからね。みなさん、友希那さんについて来れますか?」

 

「もちろん!」

 

「当たり前です」

 

「あこも!」

 

「私も...」

 

「それではもう1回合わせてください。貴女たちならできるはずです」

 

この後は休憩をこまめに取り練習した。終わってからも、家では早めに寝た

 

残り2回の練習は都合上花梨も来れないとのことで私たちだけでやった

 

「リサ、もっと一つ一つの音をはっきりさせて!」

 

「紗夜は音のズレがあるからそこを直して!」

 

2回とも厳しい練習だった。だけど、今までとどこか違った

 

 

 

 

あれから1週間、遂に翔に聴かせる時が来た

 

花梨も来たし、祐奈さんは仕事をほったらかしにして来たそうだ

 

「待ってましたよ。聴かせてください、Roseliaの本気を」

 

「当然よ。この日のために全てを込めて来た。みんな、準備はいい?」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それでは聴いてください」

 

 

Legendary

 

 

〜♪〜

 

 

演奏が終わり翔を見ると、彼の目からは涙が出ていた

 

「どっどうしたの?」

 

「お前らは何でそんなに俺を引き込ませるんだよ...」

 

「お兄様、答えてあげてください」

 

「最高でした。本当にありがとうございます」

 

「なら...」

 

「約束通り、今日から俺はRoseliaのマネージャーです」

 

「やったー!りんりん、私たちやったよ!」

 

「うん...よかった」

 

「翔、Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」

 

私の問いかけに彼は

 

「そんなもの決まっているでしょう。俺はRoseliaに全てを賭ける」

 

彼は心の底からの笑顔で答えてくれた。その時、また胸が締め付けられた

 

あぁ、そうだったんだ。私は彼に恋をしたんだ

 

「おめでとう友希那ちゃん!翔をこれからよろしくね!」

 

「はい」

 

「よーし!今日はみんなでファミレス行くぞ!私が奢るよ!」

 

「やったー!」

 

「姉さんこの前金ないとか言いながらよくそんなことできるね」

 

「細かいことは気にしないの!ほら、片付けて行くよ!」

 

祐奈さんの言葉で全員で片付けを始める

 

「友希那さん、これからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく。これから頼むわよ翔」

 

「えぇ」

 

こうして、Roseliaは神道翔をマネージャーとして迎え入れることができた

 

 




読了ありがとうございました!

次回から第二章が始まります!今後も死神と歌姫たちの物語をよろしくお願いします!

評価や感想お待ちしております!


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第二章 新たな道
第21話


どうも黒い死神です!今回から第二章の始まりです

それでは本編どうぞ!


咲夜side

 

Roseliaのマネージャーになってから1ヶ月が経ち、俺は今までより何倍も楽しい日々を送っていたのだが...

 

何故か今日は芸能事務所に来ていた

 

「何でこんなことに...白鷺の野郎マジで覚えとけよ」

 

俺が此処に来た理由は白鷺に緊急の呼び出しを喰らったからだ。松原から連絡先を教えてもらったらしく、夜中に電話された

 

「とりあえず中入るか...面倒なことになってなきゃいいが」

 

本来今日は湊に買い物に誘われてそっちに行くつもりだったんだがな

 

「すみません。白鷺さんに呼ばれて来た神道ですが」

 

「神道さんですね?中に入るならこの名札をお持ちください」

 

「分かりました」

 

白鷺からは事務所のロビーに来いと指示されている。言われた通りロビーに行ってみるとそこには呑気に珈琲を飲む白鷺の姿があった

 

「来たわね。待ってたわよ」

 

「あの、そろそろ用件教えてくれませんかね?わざわざ別の用をキャンセルしてまで来たんですよ?」

 

「ごめんなさい。でも、貴方にしか頼めないことなの」

 

どこまで俺を信じてるのやら...もう少し疑え

 

「...分かりました」

 

「ありがとう。ついて来て、状況を見れば貴方なら分かるわ」

 

何だろう。物凄く嫌な予感がする。今すぐ帰りたい

 

白鷺に言われて彼女の後をついて行く。そして連れて来られたのは会議室と書かれた部屋だった

 

「失礼します。連れて来ました」

 

中には氷川の妹と若宮、知らない2人がいた。面子の集まりからしてパスパレのメンバーだろう

 

心なしか若宮の顔が暗い

 

「あっ翔君!久し振り!」

 

氷川妹が急に抱きついてきた。いやいや、あんたアイドルだろう。しかも何気に力強いから痛いんだけど

 

「あの、痛いんで離れてもらっていいですか?」

 

「ごめんね!ほら、座って」

 

適当に椅子に座ると、マネージャーと思われる人が今回呼び出した理由を説明してきた

 

「初めまして、パスパレのマネージャーをやっている者です。今回お呼び出しした理由はイヴさんについてなの」

 

「若宮さんについて?」

 

「私から説明しましょうか。先日喫茶店で会ったあと、貴方はイヴちゃんを家まで送ったでしょう?」

 

白鷺がいきなり昔話をしてきた

 

「はい、そうですが」

 

はい、予感的中したわ。ここまで来ると呼ばれた理由は1つしかない

 

「気づいたかしら?貴方はイヴちゃんのストーカーの存在に一瞬で気づいた。イヴちゃんが隠していた理由も貴方の言う通りだったわ」

 

「そうですか...それで彼女のボディーガードをしろと?」

 

「えぇ。私を助けてくれた時のあの戦闘力、貴方が1番適任だと思ったのよ」

 

あのとき連絡するんじゃなかった...面倒臭いことになっちった

 

「もうちょっと早く言えば協力できたかもしれないのにな...生憎、俺は暇じゃないんでね。すみませんが他を当たってください」

 

「そんな...お願い!貴方しかいないのよ!」

 

そう言って白鷺が頭を下げてくる。暇じゃないって言ってんじゃん...

 

「私からもお願いします!イヴちゃんを助けてください!」

 

「ジブンからも...お願いします!」

 

「翔君。あたしからもお願い」

 

氷川妹やピンク髪、茶髪のやつまで頭を下げてくる。大抵のやつならここまで頼まれたら引き受けるだろう。俺はそんなお人好しじゃない。本人からの頼みもないしな

 

「若宮さん、貴女はどうしたい?」

 

「え?」

 

「貴女のために他のメンバーがここまでしている。このままストーカーに追い込まれたままで、彼女らに心配をかけ続けるのか?」

 

「イヴちゃん...」

 

「翔さん...助けてください...」

 

何か自分で面倒な方に持ってっちゃった気がするが...

 

「ハァ...仕方ない。やりますよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「神道君、ありがとう」

 

「その代わり1つ条件が」

 

「何かしら?」

 

「今度羽沢珈琲店で珈琲サービス頼むわ」

 

「はい!」

 

「帰り道を教えてくれ。そこから犯人がどこから出てくるかを割り出すから」

 

「分かりました。これ、お願いします」

 

若宮にスマホを見せてもらい帰り道を把握する。成る程な...それなら

 

「ありがとう。大体分かったよ」

 

「早くないかしら?」

 

「さて、こっちも応援を呼んどくか。ちょっと失礼します」

 

1言断って会議室から出ると俺はある人に電話をかける

 

「もしもし、今大丈夫か?」

 

『咲夜か?珍しいな、お前から連絡とは』

 

「ちょっと厄介ごとに巻き込まれてな。少し頼みたいことが...」

 

『そうか。分かった、こちらで準備しておく』

 

「助かる」

 

『それにしても、お前が他人の頼み事を引き受けるなんてな』

 

「うっせぇ。こっちにも道が見つかったんだよ」

 

『ふん、大切にしろよ』

 

「はいはい。じゃあな、任せたぞ」

 

『あぁ。今晩飯よろしくな』

 

「わーったよ。また後で」

 

これで準備ができたな。こちらもやらなきゃな

 

「準備はできた。早速今日仕掛ける」

 

「いっいきなり大丈夫なの?」

 

「信頼できる人に頼んだので問題はありません。1時間後事務所を出る」

 

「分かりました。それまで何しますか?」

 

「そうね...少し練習しましょうか」

 

「そうだね!彩ちゃん危なっかしいもんね!」

 

「日菜ちゃん酷い!」

 

一応こいつらもバンドだから練習するらしい。俺は少し寝させてもらおうか

 

「俺は後に備えて寝ます。1時間後起こしてください」

 

「分かったわ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1時間後、若宮と共に事務所を出て彼女の自宅へ向かう

 

「俺から絶対に離れるな。離れたら死ぬと思え」

 

万が一があると困るので腕を回しこちらに引き寄せる

 

「はい...///」

 

なんだこいつ?急に顔を赤くしやがって

 

「この辺りなんです。気配を感じるのは」

 

「みたいだな。居場所も何となく感じる」

 

隠れられてるつもりなのか知らんが、バレバレなんだけど...

 

あっ今写真撮ったね。この辺でいいかな

 

「おい、そろそろ出てこいやストーカー野郎」

 

「テメェ、気付いてやがったのか」

 

「逆にあれで何故気付かないの?って話なんだけど」

 

「ねぇイヴちゃん、そんな男といないでさぁ!こっにおいでよぉ!」

 

「ひっ!」

 

うわぁ...キモーい

 

「若宮さん、下がってろ」

 

「テメェ!俺のイヴちゃんから離れろぉ!」

 

ストーカーはナイフを出して襲いかかってくる

 

「翔さん!逃げてください!」

 

ナイフはそのまま俺の心臓へと向かってくる。俺は避けることはせずわざと左肩に刺させる

 

「クッ...痛え」

 

「翔さん!」

 

「死ねぇ!」

 

ストーカーはまたナイフを刺そうとしてくるが、もう受ける必要はない

 

「お前が死ねよ。()()の今までの辛さ、じっくり味わえ!」

 

ナイフを奪い取り膝と肘の関節を一瞬で切り裂く

 

「え?ぎゃああああああ!」

 

切り裂くのが速すぎて切られたことに気付くのが遅かった

 

「お前がやってんのは立派な犯罪だ。人の気持ちも考えず行動したからこうなる」

 

「ぐうぅ...」

 

「おい!そろそろ出てこい!さっさと連れてけ!」

 

俺の合図で何人かの人がストーカーを取り押さえた。俺が呼んだのは警察だ

 

「クソぉ!覚えとけよ!」

 

「オッケー忘れとく」

 

捨て台詞を吐きながら警察に連れてかれるストーカー。ダッサ

 

「咲夜、無事か?」

 

「何とか...っておい!今この場でその名は...」

 

「すっすまん!」

 

今俺と話してるのは平野彗人警部だ。俺がガキの頃によく世話になってて、俺の正体を知っている

 

「カメラは撮れたか?」

 

「あぁ、バッチリだ。そっちの彼女は怪我はないか?」

 

「はっはい!なんともありません...それより翔さんです!早く治療しないと」

 

「家帰ってからやる。急所は外してあるし問題ない」

 

「でも...私のせいでこんなことに」

 

「言ったろ。珈琲サービスお願いって。それだけで十分だ」

 

「後は俺たちで片付けとく。晩飯はいらない」

 

「流石にこの肩じゃ作れんわ。ありがとな、彗人さん」

 

「あぁ」

 

「若宮さん、家近いだろし送るぞ」

 

「あっありがとうございます。その、1つお願いが」

 

「何だ?」

 

「さっき私のことイヴって言いましたよね。これからもそう呼んでほしいのですが...///」

 

あぁ...そういえばそんなこともあった気がする

 

「...分かった」

 

「ありがとうございます!では参りましょう!」

 

「珈琲2杯な」

 

「勿論です!」

 

やったね。珈琲サービス量増えたぜ

 

この後イヴを家まで送りとどけ帰ろうとしたら、イヴの母親に彼氏と間違われるわ怪我についてめちゃくちゃ聞かれるわで面倒臭かった

 

イヴside

 

私は家に帰り夜ご飯を食べながらさっきのことを思い出す

 

『イヴの今までの辛さ、じっくり味わえ!』

 

あのときの翔さんの顔はとてもかっこよくて、思い出しただけで顔が熱くなる

 

「イヴ、顔真っ赤だけど大丈夫?」

 

「だっ大丈夫です!」

 

この気持ちを知られたら千聖さんに怒られてしまうかもしれない。でも、この気持ちは大切にしたい

 

「いつか、あの人にこの気持ちを伝えられれば...」

 

そんなことを思いながら夜を過ごした

 

咲夜side

 

家に帰ったら柏にめちゃくちゃ怒られた。かすり傷で済ませればよかったのにと文句を言われたが、その程度じゃ大した罪にならないからな

 

「そういえば、友希那さんが心配してましたよ?」

 

「後で連絡しとく。華蓮はまだ帰ってないのか?」

 

「お姉様ならお風呂に入っています。お兄様もすぐに入って消毒しないと」

 

「それならイヴの家で済ました。彼奴の母親に押されて断り切れんくてな...」

 

「...若宮さんちょっと殺して来ていいですか?」

 

「やめろ」

 

柏の目がマジで少し危ない

 

「上がったよ!咲夜帰って来た?」

 

「今帰ったよ!飯はできてるか?」

 

「カレーができてるから温めといて!お風呂は後でいい?」

 

「構わん。それより腹減った」

 

華蓮の料理は久しぶりかもしれない。もう店でも出せばいいのにと思うくらいレベルが高いので俺は好きだ

 

「いや〜極楽極楽って肩どうしたの?」

 

「ちょっとな。話すの怠いし詳しい話は彗人さんから聞いてくれ」

 

「ふーん。手当てはしてあるの?」

 

「終わってる。柏、皿持って来てくれ」

 

「分かりました」

 

温まったカレーを食べ風呂に入り部屋に入って湊に電話をかける

 

『もしもし、どうしたのかしら?』

 

「いえ、何やら心配されてたらしいので一応連絡を」

 

『そう、今日は何があったの?』

 

「パスパレの若宮イヴがストーカーに付きまとわれてるから護衛して欲しいって言われてですね」

 

『珍しいわね。貴方が引き受けるなんて』

 

「最初は断ったんですけど...羽沢珈琲店でサービス条件に引き受けました」

 

『それで、問題は解決できたかしら?』

 

「もう終わりましたよ。それと、今日はごめんなさい。折角の機会を潰してしまって」

 

『明日バイトはあるの?』

 

「明日は行きますよ。今日休んだので」

 

『それなら、私の自主練に付き合ってもらおうかしら?普段よりハードに行くけど』

 

埋め合わせのつもりなのか?そんなもんしなくても...

 

「どこまでもついて行きますよ。俺はRoseliaのマネージャーですから」

 

『ありがとう。それと、次のライブが決まったわ』

 

「場所と時間は?」

 

『CiRCLEで2週間後の土曜日よ。そこでLegendaryもやるつもり』

 

「セットリスト考えときますね」

 

『お願いするわ。そのライブなんだけど、翔にゲストとして出演してほしいのだけど』

 

「俺がですか?構いませんけど、楽器は何でいきますか?」

 

『私とのツインボーカルをやってほしいの。Legendaryを最後にやるつもりだから、その時に』

 

「分かりました」

 

『ボーカルと一緒に楽器できればやってほしいけど...貴方一応ギター苦手なのよね?ベース頼めないかしら?』

 

「何ですかその一応って。冗談抜きで苦手ですよ」

 

『...まぁそういうことにしておくわ。それじゃあ、明日頼むわね』

 

「えぇ、任せてください」

 

『おやすみ、翔』

 

「おやすみなさい」

 

ライブか...久し振りだな。ボーカルもやるらしいし練習しとかないとな

 

「柏、明日バイトは来れるか?」

 

「暇なので行けますよ?」

 

「2週間後のライブにゲストで参加してくれって湊に言われてな。ベースとボーカルやるから歌の練習付き合ってほしいんだ」

 

「そういうことなら喜んでやらせていただきます。ライブですか...私も久し振りにやってみたいですね」

 

「ギターなら出れると思うぞ?ギター苦手なの分かってベース頼んだみたいだし」

 

「なら明日頼んでみますね」

 

この後柏と地下のスタジオで練習した後すぐに寝た




読了ありがとうございました!

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第22話

どうも黒い死神です!

3連休が全て部活で潰されるという悲しい事実

それでは本編どうぞ


友希那side

 

春の暖かい空気も薄くなり、まだ夏と言うには早い時期。私は家で曲作りに励んでいた

 

本来なら今日は翔と一緒に出かけるつもりだった。もっと彼との距離を縮めて、近づきたくて私から誘ったのだ

 

しかし、彼は緊急で呼び出されたということで来れなくなってしまった。呼び出したのはあの白鷺千聖とのこと。リサにも頼んで服装まで考えてもらったのに台無しにされ私は機嫌が悪かった

 

「ハァ...翔、今頃何やってるのかしら?」

 

彼への想いを自覚してからというもの、時間さえあれば彼のことを考えるようになった。リサにこのことが知られたらからかわれそうだが...そんな時、スマホにメールが来たので休憩も兼ねて見ることにした。相手はリサだった

 

『ヤッホー友希那!翔とのデートは如何かな?』

 

リサには翔が来れなくなったことは言っていないので今頃出かけてると思っているのだろう

 

『翔なら用事ができて来れなくなったわ。今家で曲作ってるところよ』

 

思い出しただけで更に気分が悪くなる。白鷺さんを恨みたくなる

 

『そっか。じゃあ今から一緒に出かけない?友希那のことだし、どうせ気分悪いんでしょ?』

 

つくづく彼女の洞察力には驚かされる。これが幼馴染の勘というものなのだろうか?

 

『分かったわ。何時から行くの?』

 

『じゃあ15分後くらいに友希那の家に行くね!』

 

『分かったわ』

 

気分転換には丁度よさそうだ。曲作りも全く捗らなかったし、また今度出かける時にある程度知っといた方がいいだろう

 

約束通り、リサは15分後に私の家に来た

 

「ヤッホー。お、早速着てるじゃんその服」

 

「折角リサが選んでくれたんだし、似合うかどうか確認したかったから」

 

「よく似合ってるよ!これなら翔も友希那にメロメロだね〜」

 

「///」

 

いい加減リサのからかいには慣れたつもりだったが、まだまだみたいだ

 

「それより早く行きましょう。時間が勿体無いわ」

 

「そうだね。友希那はどこ行くつもりだったの?」

 

「...考えてなかったわ。その時に話し合えばいいと思ってたし」

 

「もう!そんなんじゃめちゃくちゃになって振り向いてもらえないよ?ある程度の計画は立てとかないと!」

 

「そっそう言われても...」

 

「今日は下見も兼ねて行くよ。アタシがしっかりレクチャーしてあげるから!」

 

「えぇ、ありがとう」

 

リサはこういったことは豊富に知識を持っているだろうし、頼りにはなりそうだ

 

リサside

 

アタシは自宅でベースの練習をしていた。午前中はRoseliaで練習だったから、その時の課題をやっていたところだ

 

実は今、友希那は翔とデートしている...筈。前に友希那が分からないって言ってた気持ちも理解して距離を縮めるにはどうしたらいいと聞かれた

 

アタシが買い物に2人で行けばいいと提案したら、それ以外思いつかなかったのかすぐに承諾した

 

まずは服装からということで友希那のコーディネートをしてあげた。でも翔はあまり興味なさそうだけどな...

 

何してるのか気になったアタシは友希那にメールで聞いてみた。すると珍しくすぐに返信が来て

 

『翔なら用事ができて来れなくなったわ。今家で曲作ってるところよ』

 

ありゃりゃりゃ...これは友希那機嫌悪そう

 

『そっか。じゃあ今から一緒に出かけない?どうせ友希那のことだし機嫌悪いんでしょ?』

 

翔が用事を優先するってことは何か緊急の呼び出しでも受けたのかな?ここは気分転換させないとね

 

『分かったわ。何時から行くの?』

 

意外とあっさり引き受けてくれた。やっぱり機嫌が悪いらしい

 

『じゃあ15分後くらいに友希那の家に行くね!』

 

『分かったわ』

 

ここは幼馴染としての腕の見せ所だね。しっかり友希那の機嫌をとらないと

 

アタシは急いで支度をして約束通り15分後に友希那の家に行った。家がすぐ近くだからとても楽なんだよね

 

「ヤッホー。おっ早速着てるじゃんその服」

 

友希那はアタシが今日のデートのために選んだ服を着て来てくれた

 

「折角リサが選んでくれたんだし、似合うかどうか確認したかったから」

 

友希那はたまに優しくなるときがあるんだよねえ...普段からこんな感じならもうちょっと好感度上げられるのに...

 

「よく似合ってるよ!これなら翔も友希那にメロメロだね〜」

 

「///」

 

友希那をからかうのって本当楽しいよね。今も耳まで赤くしてるし

 

「それより早く行きましょう。時間が勿体無いわ」

 

あっ今明らかに話逸らしたよね。まぁこれ以上は可哀想だから辞めておこうかな

 

「そうだね。友希那はどこ行くつもりだったの?」

 

「...考えてなかったわ。その時に話し合えばいいと思ってたし」

 

「もう!そんなんじゃめちゃくちゃになって振り向いてもらえないよ?ある程度の計画は立てとかないと!」

 

普通は男子が計画立てる方なんだろうけどね

 

「そっそう言われても...」

 

「今日は下見も兼ねて行くよ。アタシがしっかりレクチャーしてあげるから!」

 

「えぇ、ありがとう」

 

ちゃんと幼馴染の恋は応援しなきゃね。でも、羨ましいな...

 

アタシと友希那は早速ショッピングモールに向かった

 

友希那side

 

リサと一緒にショッピングモールを周りカフェなどの下見をしていると気づけば夕方になっていた

 

「いや〜たくさん周ったね。どう?少しは立てられそう?」

 

「えぇ、お陰様で私が行きたいところは大体決まったわ」

 

「そっか。それならよかった」

 

「ありがとう、リサ」

 

リサには感謝しなければならない。私の悩みのためにここまでしてくれたのだから

 

「どういたしまして。今度頑張ってね!」

 

「もう1つ聞いていいかしら?」

 

「ん?」

 

「翔と話すとき、やっぱり音楽の話で盛り上がるのよ。折角だから他の話もしたいのだけど...」

 

学校で話すときも音楽の話しか出てこなくてそれしか話していない。デートのときくらいは普通に話したい

 

「う〜ん...お互いを知るために好きなものとか趣味とか簡単なものから話してみたら?そっからどんどん広がってくものだよ」

 

「そうなのね。やってみるわ」

 

「でも1番は翔を楽しませることだから、翔が好きそうな話をするのがいいかな?最も、全く知らないけど」

 

私は彼の趣味を知らない。彼は自分の素性を他人に明かさない人なのか、好きな食べ物すら知らない。祐奈さんから唯一過去に何かがあったということだけ聞いている

 

「それにしても、翔って何だか不思議だよね」

 

「どうして?」

 

「だって急にRoseliaのマネージャーになるって言ったり人生まで賭けるとか言い出したり...」

 

「そうね...言われてみれば」

 

私は彼の過去を知らないから何も言えない。彼の口からは絶対に聞くことはほぼないだろう

 

「明日は何か予定あるの?」

 

「午前はスタジオ予約してあるから1人で自主練するわ。2週間後にはライブもあるし」

 

「あ〜忘れてた。アタシも頑張らなきゃな」

 

「セットリスト考えといて。ラストでLegendaryやるつもりだから」

 

「あっいいこと思いついた!」

 

急にリサが大声を出すから少しびっくりしてしまった

 

「あっごめんね。そのライブの最後でさ、翔呼ばない?ゲストとしてさ」

 

「確かにいいかもしれないわね。今度会ったとき聞いてみるわ」

 

「電話したら?翔は用事が終わってないかもしれないし、花梨に聞いてみたら?」

 

「そうね。ちょっと待ってて」

 

私は花梨に電話をすることにした。少ししてから花梨は電話に出た

 

『もしもし友希那さん?どうしたんですか?』

 

「翔はいるかしら?彼に聞きたいことがあって」

 

『お兄様ならまだ帰って来てないですよ。千聖さんに呼ばれて物凄く不機嫌でしたから』

 

「そうなの?珍しいのね」

 

『何を着て行けばいいか散々聞いてきましたから、余程楽しみだったのでしょう』

 

花梨の言葉を聞いて私はとても嬉しかった。彼が私との買い物にそこまで楽しみにしてくれたのが

 

『そろそろ帰ってくると思いますけどね。後でまた連絡するように「柏ー!ご飯何食べたい?」お姉様!?今電話中なんですが!』

 

「柏?誰のことらしら?」

 

『なっ何でもありません!お兄様には後で連絡するように言っておくので!ではまた今度!』

 

「あっちょっと花梨!」

 

「どっどうしたの?何だか荒れてたけど」

 

「分からないわ。何だか祐奈さんが花梨のこと『柏』って呼んでた気がするのだけど...」

 

「気のせいじゃない?それで翔はどうだった?」

 

「まだ家に帰ってないみたいよ」

 

「そうなんだ。あっもう家に着いたね」

 

「今日は本当にありがとう。お陰で気分転換にもなったわ」

 

「それならよかったよ。デート頑張ってね!」

 

「えぇ、また月曜日会いましょう」

 

「うん!じゃあね!」

 

こうしてリサとのデートの下見は終わった

 




読了ありがとうございました!

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第23話

どうも黒い死神です!

いつのまにか評価が増えていました

それでは本編どうぞ!


リサとの買い物を終え家に帰った後、夕飯などを済ませて作曲に取り掛かろうとした時、スマホに着信が来た。画面には私の大好きな相手の名前が書かれていた

 

「もしもし、どうしたのかしら?」

 

『いえ、何やら心配されてたらしいので一応連絡を』

 

間違いなく電話越しに聞こえるのは翔の声だった。それだけで気分が上がってくる

 

「そう、今日は何があったの?」

 

『パスパレの若宮イヴがストーカーに付きまとわれてるから護衛して欲しいと言われましてね』

 

成る程...だから白鷺さんに呼ばれていたのか

 

「珍しいわね。貴方が引き受けるなんて」

 

『最初は断ったんですけど...羽沢珈琲店でサービス条件に引き受けました』

 

「それで、問題は解決できたかしら?」

 

『もう終わりましたよ。それと、今日はごめんなさい。折角の機会を潰してしまって』

 

花梨は電話で翔が楽しみにしていたと言っていた。彼の言葉からも何となく楽しみにしていたことは分かって安心した。まぁ、少し埋め合わせはしてもらうとしよう

 

「明日はバイトあるの?」

 

『明日は行きますよ。今日休んだので』

 

「それなら、私の自主練に付き合ってもらおうかしら?普段よりハードに行くけど」

 

『どこまでもついて行きますよ。俺はRoseliaのマネージャーですから』

 

彼からは当然と言わんばかりの口調で返って来た

 

「ありがとう。それと、次のライブが決まったわ」

 

『場所と時間は?』

 

「CiRCLEで2週間後の土曜日よ。そこでLegendaryもやるつもり」

 

『セットリスト考えときますね』

 

「お願いするわね。そのライブなんだけど、翔にゲストとして出演してほしいのだけど」

 

『俺がですか?構いませんけど、楽器は何でいきますか?』

 

「私とのツインボーカルをやってほしいの。Legendaryを最後にやるつもりだから、その時に」

 

『分かりました』

 

「ボーカルと一緒に楽器できればやってほしいけど...貴方一応ギター苦手なのよね?ベース頼めないかしら?」

 

『何ですかその一応って。冗談抜きで苦手ですよ』

 

この話をするのも何回目だろうか?最早定番の会話となっている気がする

 

「...まぁそういうことにしておくわ。それじゃあ、明日頼むわね」

 

『えぇ、任せてください』

 

「おやすみ、翔」

 

『おやすみなさい』

 

彼からの了承は得ることができたし、彼の実力ならRoseliaを超えているから問題ないだろう

 

私はスマホをしまい作曲に戻った

 

咲夜side

 

あれから2週間が経ち、ライブ当日となった。今日は柏も出演することになっている。Roseliaと一緒に練習し、家のスタジオでも柏に教えてもらいながらやった

 

「いや〜一時はどうなることかと思ったわ」

 

「全くですよ。まさかあそこまで感覚が鈍っているとは思いませんでしたよ」

 

俺も柏も担当する楽器は得意なやつじゃなく、数年間やっていなかったせいで非常にヤバかった

 

「お〜い翔!喋ってないでお前も手伝え!俺もAfterglowと出ることになってんだよ!」

 

「知ってる。Roselia最後だからゆっくりできるよ」

 

「Afterglow最初なの知ってるよな!?最終調整したいからさっさと手伝え!」

 

何やら遠くで奏斗が叫んでいるが...まぁ準備はバイトの仕事だしやるか

 

「分かったよ。柏は湊たちと打ち合わせしておけ。俺も終わったら行く」

 

「分かりました。今日はお姉様はいらっしゃらないのですか?」

 

「彼奴なら臨時バイトで雇われて働いてるよ。ドラムは任せなさいとか言って走り回ってる」

 

「そっそうですか...では私は先に行ってますね」

 

「了解」

 

楽器のチューニングなんてあの2人で何とかなるだろうし、俺は照明の調整でもしとくかな

 

柏side

 

お兄様と別れた後、Roseliaの楽屋に行き打ち合わせに入った

 

「待ってたわよ花梨。調子はどうかしら?」

 

「ぼちぼちですね。ベースなら最高なんですが」

 

「翔がギターは嫌だって言い張るから...ごめんなさい」

 

「まぁある程度の感覚は戻ってるので大丈夫ですよ。皆さんはどうですか?」

 

「私たちは大丈夫よ。ライブが楽しみね」

 

「お姉様まで張り切ってますからね。まさか大トリやるなんて...」

 

「Xaharなら大丈夫でしょう?」

 

お姉様にライブの話をしたら出たいと言い出して、まりなさんに聞いたら即答で許可をもらった。しかも大トリをやってほしいというお願い付きで

 

「何度かやってるので多分いけます。ちゃんと練習はしたので」

 

「そういえば、1つ聞きたいことがあるのですが。貴女たちは普段何処で練習してるのですか?」

 

急に氷川さんが口を開き質問して来た

 

...どうしよう。なんて答えればいいのか分からない。下手に家でやっていると言えばこの人らは絶対に見せてほしいと言ってくる

 

「えっと...秘密です」

 

私は最終手段である黙秘に出ることにした

 

「そうですか。無理には聞きません」

 

「ありがとうございます」

 

10分くらいしてライブが始まった。司会はまりなさんだ

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう!それでは早速、Afterglowの登場です!」

 

まりなさんの合図によりステージ脇からAfterglowの5人が出てきた

 

「Afterglowです。今日はスペシャルゲストが来ています」

 

え?誰?

 

「それでは来ていただきましょう。妹尾琉太さんです!」

 

奏斗さんがステージに上がると、主に女性客から黄色い歓声が上がった

 

「本日はお招きいただき誠にありがとうございます。それではいきましょう、That is How I Roll !」

 

奏斗さんが面倒をみてるだけあり、レベルは高くなっていた。Afterglowや他のバンドの演奏が終わり、遂にRoseliaの出番となった

 

「最後はRoseliaだよ!それではどうぞ!」

 

友希那さんたちがステージに上がり、MCが始まった

 

「今日は来てくれてありがとう。それでは聴いてください、BLACK SHOUT」

 

続いて熱色スターマインとなり、Roseliaも最後の曲となった

 

「次は新曲です。この曲は私の尊敬する、大切な人が作ってくれた曲です。そしてRoseliaにもスペシャルゲストが2人来ています。それでは登場していただきましょう、神道翔さんと神道花梨さんです」

 

友希那さんの合図で私たちはステージに上がる。久し振りに本気で行ってみますか

 

咲夜side

 

熱色スターマインが終わり、湊のMCを聴いていると俺は彼女の言葉に驚いてしまった

 

『大切な人』

 

彼奴は俺のことをそんな風に思っていたのか?今まで感じたことのないような感情が湧いてくる

 

柏と一緒にステージに上がり自己紹介を済ませた

 

「それでは聴いてください。Legendary」

 

あこのカウントで曲が始まった。Roseliaとのセッションはとても楽しかった

 

Legendaryが終わり、Roseliaと一緒に退場する。だが、()()()の出番は終わっていない

 

「本日はこれで終わりです。と言いたいけど、実はまだ1組バンドが残っています!」

 

静かだった観客が途端にざわめき出す

 

「早速出て来てもらおうかな?FUTURE WORLD FESで優勝した最強のバンド、Xaharです!」

 

まりなさんの司会に合わせて俺たちはステージに上がる。殆どがさっきゲストとして出てきた人だからみんな驚いている。MCは毎度おなじみ柏だ

 

「こんにちは、Xaharです。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」

 

柏の挨拶で歓声が上がる

 

「皆さん、準備はいいかしら?」

 

イェーイ!

 

俺たちは曲が始まる前、必ず言うことがある。ゆうて言うのは柏だけど

 

「準備はいいみたいね。私たちの音楽で死になさい!」

 

一瞬の沈黙の後、今日1番の大歓声が上がった

 

「聴いてください、unravel」

 

まずは俺が大好きなunravelからはじまった。今日の俺は調子がいい。unravelが終わり2曲目に入る

 

「次はRoseliaのカバーをしたいと思います。BLACK SHOUT」

 

観客席から湊の顔が見えた。随分驚いてるみたいだ。まぁ耳コピでカバーしたからな

 

「ありがとうございます。次で最後にになります」

 

えぇ〜?

 

「それでは聴いてください。月光」

 

最後はオリジナルだ。フェスでやった曲でもある

 

月光が終わり今日のライブは終了となった

 

「ありがとうございました。Xaharでした」

 

観客が帰ると俺は奏斗と一緒にステージの片付けに入る

 

「ハァー疲れた。ライブなんて久し振りだな」

 

「あぁ。でもお陰で楽しめたよ」

 

「蘭には感謝しないとな。咲夜は湊さんか?」

 

「あぁ。2週間前に誘われたな。ベースの感覚鈍っててヤバかった」

 

「はははは!俺はギターやったから大丈夫だったけどな」

 

「奏斗はこの後どうする?」

 

「Afterglowとつぐみの家で打ち上げ。咲夜は?」

 

「俺もRoseliaとファミレス。今少し待ってもらってる」

 

「それなら早く終わらせるか」

 

「そうだな。あんまり待たせるのも悪い」

 

まりなさんと3人で片付けを済ませ、CiRCLEの入り口に行くとRoseliaと柏、華蓮が待っていた

 

「待ってたわよ。行きましょう」

 

「了解。姉さんの奢りで」

 

「私!?」

 

だって金ないし...喚く華蓮を他所に俺たちはファミレスへ向かった




読了ありがとうございました!

☆10評価を下さったtyuiさん、☆8評価を下さったひげねこ海賊団 殺人鬼 命さん、邪竜さん高評価ありがとうございました!

他にも評価や感想お待ちしております!


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第24話

どうも黒い死神です!

今回は咲夜と友希那が急接近の予感!?

それでは本編どうぞ!


Roseliaとのライブから3週間後、学校では終業式が行われ、明日から夏休みとなった。しかも午前で学校は終わりという最高な形で

 

それはいいのだが...俺は華蓮と奏斗に説教を受けていた

 

「さて、まずは1つ聞こうかな。何で彼奴ら1人()()()()()()()()()()

 

「あれは事故みたいなもので...」

 

「事故で人を殺すバカがどこにいるんだボケ。幾ら何でもやりすぎだ馬鹿野郎」

 

俺が説教を受けている理由は至極簡単、俺が人を殺したから。実はまぁ俺はある組織から命を狙われてるわけなんだけど...3日前に襲われて1人ずつ気絶させてたら勢い余って殺しちゃった

 

「だってよ、まさか気絶してた奴を盾に俺が投げたナイフを防ぐなんて思わんだろ?」

 

「普通に素手でやっても勝てるだろうが」

 

「咲夜のせいで私お爺様に呼び出されたんだけど?どうしてくれんのよ」

 

「あのクソジジイがどう思おうが俺は知らん。それよりもう説教は懲り懲りだ。あの後彗人さんからめちゃくちゃ怒られたんだよ」

 

「全く...次からは気をつけなさいよ?今回は初めだからニュースでもそこまで大きくなってないけど、次やったらヤバいんだから」

 

「りょーかーい」

 

他からみたら最早気をつけるどころの話じゃない

 

「ハァ...それじゃあ私は本家の方まで行ってくるわ」

 

「晩飯作っとくよ。何が食べたい?」

 

「親子丼食べたい」

 

「分かった」

 

「俺も帰る。この後紗夜さんの練習に付き合わなきゃならないからな」

 

「もう面倒見なくてよくね?氷川のレベルだって相当なものだぞ?」

 

「妹に負けたくないんだとよ。じゃあな」

 

そう言って2人は一緒に出て行った。よって家の中は俺だけだ。柏は友達とカラオケ行くって言ってた。彼奴がカラオケってもう最強じゃん...チートだ

 

あ〜暇だ。今日はバイトないしRoseliaの練習もない。そんな時、スマホに着信が来た。相手は湊だった

 

「もしもし」

 

『もしもし、翔は今日暇かしら?』

 

「物凄く暇ですよ。どうしました?」

 

『一緒に出かけないかしら?この前は翔が用事で来れなくなってしまったから』

 

「どっかの誰かさんのせいでね。勿論いいですよ。何処に集合しますか?」

 

「羽丘の校門のところで集合しましょう。1時くらいでいい?」

 

「大丈夫ですよ。それではまた後で」

 

「えぇ」

 

タイミングよくお誘いを受けた。これは行くしかないな。確かこの前に柏に見繕ってもらった服があった筈だ。それ着てこう

 

友希那side

 

誘えてしまった。前回はリサも一緒にいてくれたから簡単にできたが、今回は1人で彼を誘った。正直、コンテストの時よりも緊張した

 

「どんな服で行けばいいのかしら?彼の好みも分からないし...」

 

約束の1時まで後30分。荷物はまとまったが、肝心の服装が全然決まらない

 

「友希那?さっきからバタバタしてどうしたの?」

 

「おっお母さん!?いや、これは...」

 

最悪のタイミングでお母さんが来てしまった

 

「こんなに服散らかして...リサちゃんと出かけるの?」

 

「出かけるのは合ってるけれど...」

 

「まさか彼氏!?あの友希那に!?」

 

「ちっ違うわよ!///...その、男の人ではあるけど」

 

「ふ〜ん?これはお父さんに報告しなきゃね?まぁ大方何を着て行けばいいのか分からないんでしょ?ちょっと貸してご覧」

 

言われるがままに服を渡すとお母さんはものの5秒くらいで組み合わせて返してきた

 

「これがいいんじゃない?」

 

「あっありがとう...」

 

「どっちから誘ったの?」

 

「私からよ。この前も誘ったんだけど彼が用事で来れなくて」

 

「で?友希那の彼氏って誰なのよ」

 

「彼氏じゃないわよ///Roseliaのマネージャーをしてくれてる年下の子よ」

 

「誘ったのが友希那なら貴女が先に約束の場所に着いてないとダメよ。次からは自分で服決めなさい」

 

「でも、私はそういうの分からないし...彼が気に入ってくれるかどうか」

 

「貴女が自分で選んだ服なら彼も気に入ってくれるわよ。ていうか、気に入って欲しいってことはその子のこと好きなの?」

 

「なっ!?」

 

図星すぎて分かりやすいリアクションをしてしまった

 

「ふふふ...私は応援するわよ。娘の恋を無駄にはしたくないもの。お父さんも応援してくれるわ」

 

「ありがとう...行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

約束までは20分。家から羽丘までは歩いて15分程だから、少し急ぎめで行って早めに着いた方がいいかもしれない

 

私は少し楽しみに思いながら駆け足で向かった

 

 

 

約束の場所に行くと既に翔は来ていた

 

「あっ友希那さん、こんにちは」

 

「ごめんなさい、待たせたかしら?」

 

「俺もさっき来たばかりなんで大丈夫ですよ」

 

「それならよかったわ」

 

「それより何処行くんですか?俺そういうの分からないし...何が何処にあるのかさっぱりなんですよ」

 

「まずは楽器店に行こうかと思ってるわ。その後はショッピングモールで買い物したりカフェでお茶したり...そのくらいかしら?」

 

「成る程、じゃあ早速行きますか」

 

「えぇ」

 

彼の横に立ち一緒に歩く。彼の身長は180弱くらいだろうか?結構差があり気圧されそうだ

 

しかし、その気迫とは全然違う柔らかい笑顔で

 

「その服、とても似合ってますよ」

 

と言ってきた

 

「あっありがとう...///」

 

「どうしました?顔赤いですけど...」

 

「なっなんでもないわ。早く行きましょう」

 

おそらく彼は無意識に言っているのだろう。こんな至近距離で囁かれたら誰でも恥ずかしくなる

 

「ズルイわよ...」

 

「何がですか?」

 

「聞こえてたの!?」

 

「耳は鍛えられてるんでね。結構聴覚高い方だと思うんですよ」

 

「そっそうね...」

 

まだ最初の場所に着いてすらないのに...彼と会話するだけでこんなにも胸が高鳴る自分がいる

 

「翔は夏休み何するの?」

 

「そうですね...バイトして金稼がないといけないし。後は少し調べごとですかね?」

 

「大変ね...あまり無理はしないようにしなさいよ?」

 

「あはは、その言葉そっくり返しますよ。この前花梨にブチ切れられたんでしょう?」

 

「あれ以来は寝る時間ある程度決めてるわよ。もう倒されるのは御免だわ」

 

「ですよね...」

 

「思ったのだけれど、花梨は何であんなに強いの?どう考えても女子の動きじゃないわ」

 

「護身用として俺が教えたんですよ。あそこまで強くなるとは思わなかったけど」

 

「それを教えた貴方はおかしいと思うわ」

 

「否定はできませんね」

 

「そろそろ着くわよ。あそこね」

 

「こんな所に楽器店なんてあったんですね。初めて見たわ」

 

「Xaharはどこで楽器を手に入れてたの?」

 

「知り合いが楽器店やってましてね。そこのコネでもらいました。まぁ嘘だけど...

 

「そうなのね。翔は何か見るものある?」

 

「ギターやベースのピッグと弦買っとこうかなと。この前やった時古くて音の響きが悪かったので」

 

「そうでもなかったと思うけど...やっぱりXaharは違うわね」

 

「最初はそこまで求めてなかったんですけどね。いつのまにかこうなってたんですよ」

 

「いつかXaharの曲カバーしてみたいわ。最も、私たちのレベルでは無理でしょうけど」

 

「友希那さんはもっと自分を認めたほうがいい。お互いを認め合うからこそ成長していくものだから」

 

「ありがとう。これからもRoseliaをお願いね」

 

「えぇ。中はどんな感じかな〜」

 

軽い足取りで店へ入っていく翔。見ているとこちらの空気が和む

 

「いらっしゃいませー!」

 

「ギターとベースの弦どこにありますか?あとピッグも」

 

「あ〜はいはい。こっちだよ」

 

「友希那さんはどうします?」

 

「私は雑誌コーナーに行ってるわ」

 

そう言って雑誌コーナーに向かう。横目で彼を見ると、とても楽しそうな顔をしていた

 

10分くらいして選び終わった彼が私のところに来た。既に会計を済ませているらしい

 

「俺は用は済みましたよ。どうします?」

 

「私も大丈夫よ。次行きましょう」

 

「次は...ショッピングモールでしたっけ?何見るんですか?」

 

「映画を観ようかと思ってるわ。恋愛系の歌詞を書きたくて」

 

「あぁ、そういうことですか。Roseliaが恋愛系ねぇ...合わねえ」

 

「そうかしら?」

 

「イメージと全然違いますよ。でも、友希那さんが作る歌ならRoseliaに合った曲ができるんでしょうけど」

 

「なるべくそうするわ。翔はどんな曲が好きなの?」

 

「この前やったunravelが凄く好きですね。あとはBLACK SHOUTかな」

 

「え?」

 

「初めてRoseliaのライブに行ったときやっていたのがそれだったんですよ。とても引き込まれました」

 

「ありがとう」

 

私たちの曲をそこまで好きになってくれているとは思っていなかった。私はずっと言いたかったことを言うことにした

 

「翔、1つお願いがあるのだけど...」

 

「何ですか?」

 

「その、2人きりのときだけでいいから私のこと呼び捨てで呼んでほしいの。敬語もいらない、もっと貴方との距離を縮めたいから」

 

言ってから気づいたが、これは最早告白ではないだろうか?途端に顔が熱くなる

 

「呼び捨てか...分かったよ、()()()

 

「っ...///ありがとう」

 

「それじゃあ行くか。ほら」

 

「?」

 

いきなり彼が手を出してきたので私は意味が分からなかった

 

「人多いし、はぐれたら困るから」

 

「えっえぇ///」

 

私は彼の手を恥ずかしながらも握った。彼の手はとても大きく...

 

 

 

とても冷め切っていた

 

 




読了ありがとうございました!

新しく☆9評価をくださったKiriya@Roselia箱推しさんありがとうございました!

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第25話

どうも黒い死神です!

今回は少しシリアス入るかもです

それでは本編どうぞ!


ショッピングモールに着くと、最初はゲーセンに行った。音ゲーを体験させてもらったけど、音楽が関わっているおかげで何となくだができた。翔はというと顔色ひとつ変えずにフルコンボ?していた

 

「ふぅ〜久しぶりにやったわ」

 

「随分上手なのね。さっきまで人が集まってたわよ?」

 

「この程度なんて幾らでもいるよ。さて、次何処行く?」

 

彼に敬語をなくしてもらってから一気に距離が縮まった気がする。今までは妙に距離感を感じこちらとしては少し気まずかったが、現在は全くない

 

「そうね...少し疲れたしカフェで休憩しましょう」

 

「了解」

 

カフェに行き、それぞれ飲み物を飲む。私はカフェオレで彼はブラックコーヒー。あんな苦いものを飲むなんて信じられない

 

「カフェオレって美味しいのか?俺は甘くて無理だ」

 

「そうかしら?逆に翔こそ、珈琲なんてよく飲めるわね」

 

「普通だろう。甘いのはあまり好きじゃないんだ」

 

それからそれぞれの好みを話していると気づけば夕方になっていた

 

「うわっもうこんな時間かよ...映画観れないなこれ」

 

「私は全然構わないわ。とても楽しかったから」

 

「そうか...少しトイレ行ってくる。近くで待っててくれ」

 

「分かったわ」

 

彼は一言言うとトイレへ向かって行った。その直後、後ろから声をかけられた

 

「なぁ、ちょっといい?」

 

「何かしら?」

 

話しかけてきたのは3人組の男たちだった

 

「君今1人じゃん?よかったら今からお茶しない?」

 

「お茶ならさっき友人と済ませたわ。他を当たって頂戴」

 

「そう言わずにさ、ならその友達も一緒にね?」

 

「しつこいわね...貴方たちに興味はないの。分かったら消えてくれるかしら?」

 

「口だけは1人前だな...おい!」

 

私と話していた男の合図で他の2人が私を取り押さえてきた

 

「ちょっ触らないで!」

 

「俺を馬鹿にした罰だ。安心しろ、きっちり可愛がってやるよ」

 

「やめ...て...」

 

恐怖で声が出せない。周りの人は見て見ぬ振りをして誰も助けようとはしない

 

「翔...助けて...」

 

「了解。今助けてやる」

 

押さえられる力が急になくなり私はその場に倒れかける。それを誰かが支えてくれた。紛れもない、私が愛する人だった

 

「なっ!?お前、あの時の...!」

 

「ア?誰だお前。俺の()()()()に何してんの?」

 

彼の声は酷く冷たく、聞いたものを凍てつかせる覇気を持っていた

 

「パン屋の時の借りを返してやる!テメェラ出てこい!」

 

リーダーの男の合図で周りから20人程の不良が出てきた

 

「パン屋?そうか、モカの時のか。だったら分かってる筈だ、次は殺すと」

 

「この人数でよくそんなことが言えるな。流石のお前でもこれなら...」

 

急に男の肩にナイフが見えた。否、()()()()()()

 

「っ!?いつの間に...」

 

「言ったよな?次はないって。そのナイフには毒が塗ってある。安心しろ、全身が麻痺で動けなくなるだけだ」

 

男の肩にナイフにはを刺したのは翔だった。だが、彼は一歩も動いてない

 

「く...そぉ...」

 

男はそのまま意識を失った

 

「さて、次は誰だ?いや、言い方を変えよう。誰から死にたい?」

 

彼の言葉に全員が動けなくなる。それもそうだろう。目の前で自分らのボスが簡単にやられたのだから

 

「...もういい。全員で来い。友希那に手を出したらどうなるか、思い知らせてやる」

 

流石にここまで挑発され頭に来たのか、同時に彼に襲いかかった

 

「翔!逃げて!」

 

ようやく声を出せるようになった私は何とか彼に向かって叫ぶ。でも、彼は動いてくれなかった

 

「心配するな。すぐに終わらせてやる」

 

翔は懐から更に2本のナイフを出して、襲いかかったうちの10人程の膝の関節裏を一瞬で切り裂いた

 

「おい!逃げるぞ!彼奴は化け物だ!」

 

完全に怖気ついた人たちが次々に逃げて行く。足を切られ、立てなくなり逃げられなくなっている仲間を置いて

 

「逃がさねぇ」

 

彼は逃げて行く人たちとの間合いを一瞬で詰めて次々に足を切り裂いていった

 

「ひいぃ...助けて、命だけは」

 

「お前らみたいなゴミが死んだところで世間は何も言わないんだよ」

 

「死神...死神だ」

 

「!?」

 

誰かが呟いたその声で翔の動きが途端に止まった。それどころか、彼の身体はかすかに震えている

 

「どいつもこいつも...人を死神呼ばわりしやがって!」

 

「翔!危ない!」

 

背後から人影が見え咄嗟に声をかけるも間に合わず

 

「死ねぇ!」

 

さっきまで倒れていた筈のリーダーの男が刺されたナイフで翔を切りつけた

 

「がはっ!テメェ...チッ!」

 

「これでお前も毒で倒れる...ざまぁみろ」

 

「話す気力ないな...とっとと寝てろ」

 

翔は何事もなくリーダーを倒し、残る者はいなくなっていた

 

「もしもし...俺だすまない、後処理頼む。あぁ、殺してはいない」

 

彼は誰かに電話をかけ、終わるとその場に倒れた

 

「翔!しっかりして!」

 

「友希那...すまない、俺がしっかりしてれば」

 

「どうして...私なんかのために!貴方が死んだら私は...」

 

「泣くな。死なねえから、それより疲れたし帰りたい」

 

「でも、背中の傷が」

 

「家でどうとでもできる。悪い、肩貸してくれ」

 

彼の肩に私の肩を貸し、なんとか立たせる

 

「この人たちはどうするの?」

 

「知り合いに頼んだ。これは2時間くらい説教受けそうだ」

 

「家は何処?送るわ」

 

「大丈夫だ。人が来る前に抜けるぞ」

 

急いでショッピングモールから出て帰りにつく。彼の足はふらついている

 

「此処でいい。気をつけて帰れよ」

 

「やっぱり家まで...」

 

「早く帰って休め。明日も練習だろ。じゃあな」

 

彼の目には光は灯っておらず、それでいて無表情だった

 

私はその場に立ち尽くし彼を見送っていた

 

咲夜side

 

湊と別れた後、家に帰り華蓮に手当てをしてもらった

 

「これでよしっと。珍しいわね、貴方が雑魚相手に怪我なんて」

 

「昔のことを思い出しちまってな。反応できなかった」

 

「昔のこと?」

 

「俺の呼び名だ。誰かがそう呟いてな、急に動けなくなって...」

 

「そう...まぁ今日は休みなさい。お爺様から近いうちに咲夜を本家に連れてこいって言われてるから」

 

「おいおい、あのクソジジイからも説教か?冗談じゃねぇ」

 

「色々積もる話があるのよ。肉じゃができてるから、早く食べましょう」

 

「まさか俺の方が帰りが遅いとはな」

 

「友希那ちゃんと出かけるなら連絡くらいしなさいよ。誰もいないからビックリしたわ」

 

「柏は?」

 

「疲れて寝てるわ。カラオケで歌いすぎたんでしょう」

 

「点数気になるな。柏がカラオケで歌ったらどうなるのか」

 

「明日聞きましょう。貴方は予定ある?」

 

「バイト兼Roseliaの練習。どうしよう、明日湊と顔合わせにくい」

 

「頑張って。それじゃ、いただきまーす!」

 

「いただきまーす」

 

うん美味い。やっぱり教師じゃなくて店出せや

 

「なぁ、そろそろ店出したら?」

 

「教師の方が咲夜を監視できるってお爺様に言われてそうしたのよ。無理矢理勉強させられたし」

 

「何から何まで余計だな。さっさとくたばれ」

 

ていうか何故にそこまで俺が嫌いなのかね...さっぱり分からん

 

「そうそう聞いてよ咲夜。今日さ...」

 

それから華蓮の愚痴を聴きながら肉じゃがを食べ風呂に入った。傷口しみてマジで痛かった

 

「それじゃあお休み。華蓮は明日どうする?」

 

「まだ学校の仕事を終わってないからさっさと済ませるわ。明日には終わると思う」

 

大変だね...俺の監視と学校の教師とか休む暇ないじゃん

 

「終わったら労いで何か作ってやるよ。おやすみ」

 

「おやすみ〜」

 

明日から夏休みと...バイト行きたくないな。湊と何話せばいい?もういいや、今井使おう

 

俺はそんなことを考えながら眠りについた

 

 

次の日

 

 

「お疲れ様翔君。休憩いいよ」

 

「了解です。琉太は午後からですか?」

 

「うん。Afterglowが午後で予約してたからそれに合わせてくれって」

 

「成る程...まりなさんも休んでくださいね」

 

「ありがと」

 

さて、今からRoseliaの練習だ。最初に来たのが氷川だったから湊とはまだ話していない。それどころか話せない

 

「やべーマジで気まずい。なるべく視線を合わせないようにと...」

 

「こんにちは〜神道です。今日もよろしくです」

 

「あっ翔さんだ!見てください!あこ、ここできるようになりましたよ!」

 

「とりあえず落ち着け。自信があるなら演奏でみせてくれ」

 

「湊さん、翔さんも来たので最初から合わせますか?」

 

「...」

 

「湊さん?どうしました?」

 

「!ごめんなさい。もう1度お願いできる?」

 

「その、翔さんが来たので最初から合わせようかと思うのですが」

 

「...そうね。そうしましょう」

 

「友希那、朝から元気ないよ?1回休んだ方が...」

 

「大丈夫よ。始めましょう」

 

「ちょっと〜翔からも何か言って...翔?」

 

「ほぇ?どうしました?」

 

ボーッとしてて何も聞いてなかった

 

「もー!2人ともしっかりしてよ!ほらほら休憩!クッキーあるからそれ食べよ!」

 

今井のお陰で今回は助かった。気まずくて何も言えない

 

「...」

 

湊まで無言じゃねえかっていつものことか

 

「翔さんも仕事で疲れてるのでは?今日は練習には付き合わなくても...」

 

「ご心配なく、問題ありませんから...っ!」

 

急に背中に痛みを感じ体制が崩れる

 

「翔さん!?しっかりしてください!」

 

毒が完全には抜けてないのか思った以上に力が入らない。俺を支えた氷川だが、身長差のお陰で倒れる俺を支えきれず一緒に倒れてしまった

 

「あ...」

 

聞こえたのは湊の声。痛みをこらえながら目を開けると...

 

 

目の前に氷川の顔があり、唇が触れ合っていた

 

「...ごめんなさい。いきなり倒れてしまって」

 

「いっいえ...///」

 

クソ、更に気まずくなったじゃねえか

 

「2人とも大丈夫!?」

 

こうやってすぐに人を心配するのは今井のいい所だと思うけどな

 

「俺は大丈夫です」

 

「私も問題ありません。少し驚いただけです」

 

「よかった〜。友希那?」

 

「ごめんなさい。少し1人にさせてほしいの」

 

そう言って湊はスタジオを飛び出してしまった

 

「友希那!待って!」

 

「来ないで!」

 

スタジオに流れるのは静かな空気。この状況に誰も声が出せなかった

 

「友希那...」

 

俺はどうすることもできなかった

 




読了ありがとうございました!

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第26話

友希那side

 

何故飛び出してしまったのだろう...あの2人は何も悪くない。あれは事故で、仕組まれたものではないのに。2人がキスをしているのを見て胸が締め付けられて泣きそうだった

 

「どうして...悪いのは全部私なのに」

 

そもそも、彼が倒れたのは昨日の傷が痛んだからだろう。それに、毒を塗ってあると言っていたからまだ抜けていないのかもしれない

 

何も考えず走っていたら、いつの間にか公園に着いていた。私は椅子に座り心を落ち着かせようとするが、上手く思考が働かない

 

「あれ、湊さんじゃないですか。こんなところで何やってるんですか?」

 

不意に後ろから声をかけられ振り返ると、Afterglowの面倒を見ている琉太がいた

 

「琉太こそ、こんなところで何をやっているの?」

 

「午後からバイトだし、CiRCLEで昼寝でもしようかなと。今日はRoselia練習でしょう?」

 

「えぇ。でも、今それどころじゃなくて...」

 

「翔と何があったんですか?」

 

「!?どうしてそれを...」

 

「何となく分かりますよ。大方、昨日出かけたとき何かあったんでしょう?俺で良ければ相談には乗りますよ」

 

「実は...」

 

 

その頃CiRCLE 咲夜side

 

「友希那、どうしたんだろう...」

 

湊が急に飛び出したことでRoseliaの奴らも困惑してるみたいだった。俺も正直困っている

 

「何だか友希那さん、朝から元気なかったよね...りんりん何か知らない?」

 

「私も分からないかな...」

 

「今井さんは心当たりはないのですか?」

 

「アタシも全然。翔は何か知らない?昨日友希那と出かけたんでしょ?」

 

「俺のせいか...」

 

「翔?」

 

「原因自体は何となく分かりましたが、それの理由が分からない」

 

「心当たりがあるのなら話していただけませんか?」

 

心当たり言ってもな...昨日不良に絡まれたから元気がないとしか。まぁ話せばいっか

 

「昨日不良に絡まれたから、ですかね?」

 

「え?」

 

「帰る前、俺が少し目を離した隙に友希那さんが不良に絡まれたんですよ。助けたはいいけど、20人くらいいてですね。さっき倒れたのはそのとき背中を切られたのが痛んだだけです」

 

「まだ恐怖が残ってるのか...それとも他に理由があるのか。まぁ俺から言えるのはこれくらいですかね」

 

「何で分からないの?」

 

「何がですか?」

 

「友希那の元気がない理由だよ!友希那は責任を感じてるんだよ?自分のせいで翔が怪我したんだって」

 

「あれは反応できなかった俺が悪いんです。彼女が責任を感じる意味が分からない」

 

「そんなの決まってるじゃん!友希那は翔のこと...ごめん、ちょっと興奮しちゃって」

 

今井の言っている意味が分からない。聞いてるだけで不愉快極まりない

 

「分からねえよ」

 

「え?」

 

「他人の感情なんざ知らねえよ!俺には感情がない(人の気持ちが分からない)!んなもんはとっくの昔に捨ててやった!」

 

「そんな...」

 

「感情なんて自分を苦しめるだけだ!そんなものを持って何になる?」

 

理性はどこに行ったのやら俺はひたすら本心を話していた

 

「おかしいよ。そんなの」

 

「確かに感情があれば苦しむこともあるかもしれない。逆に楽しいこともあるんだよ?嬉しいって思えるんだよ?それを捨てるなんて...悲しすぎるよ」

 

「何で...そこまで俺にこだわるんですか?」

 

「翔が来てから友希那、前より笑うようになったんだ。今までこんなことなかったけど...翔が友希那を変えてくれた」

 

冷静になり今井の話を聞く

 

「それに、翔はRoseliaのマネージャーで大切な仲間だから」

 

「っ!?」

 

「翔に何があったのかは知らない。きっと話したくないことなんだと思う。でも、人として...もっと自分を大事にしてよ」

 

「...どうやら俺はリサさんのことを勘違いしてたみたいですね」

 

「どういうこと?」

 

「昔から他人と話すのは嫌いでね。人を全く信じようとしなかった。最初貴女がグイグイ来るもんだから結構面倒だと思ってましたよ」

 

「うっごめんなさい」

 

「それでも、他人への気遣いができる人だった。正直言ってRoseliaの練習見てると誰が倒れるかハラハラしましたよ。ねぇ氷川さん」

 

「私ですか!?」

 

「貴女と友希那さんですよ。リサさんに感謝してくださいね?」

 

「分かっています」

 

「さっきは急にキレたりしてごめんなさい。もう俺は感情を持つつもりはない。でも、向き合ってみようと思います」

 

「そっか...」

 

「今は友希那さんを待ちましょう。それまで俺が練習見ますから」

 

「そうですね。早速ここなんですが...」

 

「ギターは俺に聞かないでくれ!」

 

 

再び戻って友希那side

 

琉太に昨日あったことを全て話し、どうしたらいいのか相談していた

 

「翔、全然目を合わせてくれなかった。嫌われたかしらね」

 

「ただ単に気まずかっただけですよそれ。彼奴に気まずいという感情があること自体驚きだわ」

 

「どういうこと?」

 

「翔には...人としての感情がないんですよ」

 

一瞬時が止まったような気がした。彼に感情がない?それじゃあ今までのあの笑顔は...そう思った途端泣きそうになってしまった

 

「小さい頃に色々あって、苦しみから逃れるために捨てたんですよ。俺も1時期ありましたよ」

 

「でも、花梨や祐奈さんに言われて向き合ったからこそ今の俺があるんです。今まで俺たちは彼奴の感情を取り戻すために尽くしてきた。でも、なかなかそう上手くはいかなかった」

 

「...彼に初めて会ったとき、まるで作り物のような笑顔だった。彼の心の底からの笑顔が見たいと思った。そして彼がマネージャーになると言ったときのあの顔、とても綺麗だった」

 

「でも、それも全部嘘だったのかしら?」

 

「そんなわけないでしょう。嘘なら今頃Roseliaのマネージャーなんてやってませんよ」

 

「でも彼には...」

 

「彼奴はRoseliaに賭ける際、感情と向き合ってもいいかもと言っていた。今までの彼奴の笑顔は間違いなく本物だった」

 

「それじゃあ...」

 

「何も湊さんのことなんて嫌ってませんよ。むしろ俺たちを覗いて1番信頼してるじゃないですか?」

 

「そう...だと良いわね」

 

口ではそう言っているが、実際は今までで1番嬉しかった

 

「そもそも湊さん、翔のこと好きなんですか?」

 

「!?えっと...」

 

「彼奴は感情がない分鈍感ですからね。正直に言わない限り絶対進展しませんからね」

 

「随分と難しい恋をしたわね」

 

「まぁ俺もなるべくサポートしますよ。他にも彼奴のことを気にしてる奴は山ほどいますけど」

 

「...ハードル高すぎないかしら?」

 

「頑張ってください。さて、そろそろ戻りましょうか。暇なんで俺も付き合いますよ。今頃、紗夜さんにギター聞かれて喚いてるところでしょうから」

 

「そうね...行きましょう」

 

モヤモヤしたのも綺麗に消え、私は上機嫌でCiRCLEへ向かった

 

奏斗side

 

湊さんの相談を受け終えた後、今回は俺もRoseliaの練習に付き合うことになった。昼寝はしたかったけど、ギターは弾きたいし丁度良い

 

「まりなさんこんにちは〜」

 

「あれ?琉太君早くない?それに友希那ちゃんも...さっき飛び出して行ったけど大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

「ちょっとRoseliaの練習行ってきますね。シフト来たら教えてください」

 

「オッケー」

 

とりあえずスタジオに入ると必死に練習している他の4人と1人ずつ...紗夜さん以外の3人を見て回っていいる咲夜がいた

 

「あっ友希那さんおかえりなさい」

 

「あー!友希那さん帰って来た!」

 

「琉太もいるじゃん。どういう組み合わせ?」

 

「まぁたまたま会っただけですよ」

 

「さっきはごめんなさい。急に飛び出してしまって...」

 

「それならその分を今からの練習で取り戻せばいいでしょう。湊さん、早速やりましょう」

 

「えぇ...ところで、貴方たちは何をやっているのかしら?」

 

みんなが話している間、俺はというと咲夜を正座させていた

 

「俺が言いたいことは分かるな?はぐらかした瞬間殺すぞ」

 

「はい...誠に申し訳ございませんでした」

 

「昨日説教したばっかだよな?それなのに何故あんなことをするのかね?」

 

「あれはしょうがないというか...」

 

「その言葉何回も聞いたわ!お前が何かする度に彗人さんに怒られんだよ!ついでにあの爺さんにも説教喰らうんだぞ!?とばっちりを喰らう俺の身にもなれや!」

 

「んなこと言ったらお互い様だ!俺だって好きでやってるわけじゃねえんだよ!」

 

この野郎!

 

「最後には開き直りやがって!ぶっ殺す!」

 

「あ?殺るか?」

 

「ちょっと2人とも落ち着いて...」

 

「翔」

 

「琉太さん」

 

隣から最高に冷え切った湊さんと紗夜さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた

 

「何でしょ...う...」

 

「なぁ翔、嫌な予感がするのは俺だけか?」

 

「それはないな。モーレツにやばい気がする」

 

「紗夜、琉太は頼んだわよ。私は翔をやるから」

 

「分かりました」

 

「「ごめんなさい!」」

 

周り気にしてなかった。この2人怒らせたらどうなるのか分かったもんじゃない

 

「ハァ...2人ともこんなところで喧嘩なんてしないでくださいね?」

 

「はい...」

 

「全く...早くやるわよ。全体で合わせましょう」

 

「「「「はい!」」」」

 

危ねえ。死ぬところだったわ

 

「さて、どのくらい成長してるかなぁ」

 

「少なくとも前のライブよりは相当上がってる筈だ。まぁ楽しみにしとけ」

 

「あぁ」

 

耳を澄まして聞いてみればえげつない程にレベルが上がってたのは別の話

 

咲夜side

 

スタジオの予約の終わりの時間が来たため俺たちは片付けをしていた。奏斗はシフトのため抜けて、俺はバイトの一環で機材の片付けをしていた。こういうときってバイトと同時進行でできるから楽なんだよね

 

「ふぅ〜終わったね。アタシは受付行ってくるね」

 

「手続き俺がやるんでご一緒します」

 

大体次の予約の日は俺と今井で話し合い決めている。その辺1番しっかりしてるのは今井だし、他の連中は当てにならんしな

 

「じゃあ次はこの日にしようかな。翔は来れそう?」

 

「基本的には行けると思います。呼び出しを喰らわない限りは」

 

「誰に呼ばれるの?」

 

「色々ですね。俺は悪くないのにいつも説教されるんですよ」

 

「あはは...今日花梨いる?」

 

「いますけど」

 

「友希那とアタシと翔と花梨でどっか出かけようよ。折角夏休みだしさ」

 

「昨日の今日でですか...まぁいいでしょう」

 

「ヤッター!」

 

「リサ、次の予約はいつ?」

 

片付けを終わらせた湊たちがこちらへと向かってきた

 

「2日後だよ」

 

「それでは私たちは先に帰りますね。お疲れ様です」

 

「リサ姉じゃあねー!友希那さんと翔さんもまた今度!」

 

「さようなら...」

 

相変わらずあこは元気だねぇ...

 

「アタシたちも帰ろっか。友希那、この後出かけない?花梨も入れての4人で」

 

「え?でも...」

 

「俺のことなら心配しなくていいですよ」

 

今井によれば昨日のことを気にしてるみたいだからな、声かけくらいはしないと

 

「...分かったわ。映画も観れてなかったし」

 

そんなこんなでまた出かけることが決まった




読了ありがとうございました!

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第27話

今回結構短いです


俺は今、月読命家の本家に居る。理由は俺の祖父にあたる月読命源十郎に呼び出されたからだ

 

「ハァ...面倒くさ〜い。ここに来るのにも結構時間かかるってのに何で来なきゃいけないんだよ」

 

多分説教だろう。組織の奴ら1人殺しちゃったし、湊守るときに連中ボコボコにしちゃったからな...

 

「失礼すんぞー!くたばってねえかクソジジイ!」

 

「喧しいぞ。とっとと入れ人殺しが」

 

「全くよぉ〜説教は勘弁しろや。こっちも色々調べてんだよ」

 

「黙っていろ。情報が入ったから呼び出しただけだ」

 

「何それ?そっち何かとセコくない?」

 

「脱獄したものの中にバカ息子がいた。人数は恐らく20人。奴が筆頭で動いている」

 

「...そうか。理由はそれだけじゃないはずだ」

 

「最近何かと楽しんでるみたいだな。貴様にその資格がどこにある?生きる道も持てない貴様が」

 

「道なら見つかったさ。Roseliaと共に前に進む。それだけだ」

 

「お前が気にかけているのは湊友希那という輩のことか...咲夜、今すぐそいつらから離れろ」

 

「はぁ?舐めたこと言ってんじゃ...」

 

「お前なら分かる筈だ。最近組織の動きが活発になって来ている。この前だってそうだ。いずれRoseliaに、湊友希那に危害が及ぶことになる」

 

「っ!」

 

分かっていたさ。このままじゃ湊にまで被害が拡大する。彼奴だけじゃない。モカやイヴたちにまでいずれ...

 

「本来ならそうなる前にお前を消すのが最善なんだ。周りに感謝しろ」

 

「...話は他にあるか?」

 

「忠告はした。他にない」

 

「帰る」

 

朝から気分は最悪だな...家には誰もいないしコンビニで昼飯買うか

 

♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪

 

コンビニに行く途中、久し振りに迷子に会った。めんどくせえな...

 

「花音さん、何やってるんですか?こうして会うの何回目だと思ってます?」

 

「ふえぇ〜翔君が恐いよ〜」

 

「軽口叩いてないで、何処に行きたいんですか?」

 

面倒だけどここまで話して見放す程クズじゃない

 

「えっと、羽沢珈琲店に行きたいなって」

 

「何回も行ってるじゃないですか...ちなみに、俺と会わなかったらどうするつもりだったんです?」

 

「そのうち着けるかな〜って...」

 

こいつは外にでない方がいいと思う

 

「次回から出前をお勧めします。俺も珈琲は飲みたかったし一緒に行きましょう」

 

「ありがとう翔君。えへへ...」

 

こいつは何ニヤニヤしてんだよ。俺の顔になんかついてんのか?

 

「俺の顔になんかついてます?さっきからニヤニヤして」

 

「翔君と一緒に行けるのが嬉しいなぁ〜って」

 

「意味が分からん」

 

「もう、鈍感なんだから...」

 

何かブツブツ言ってるけど気にしない。気にしたら負けな気がするから

 

「そういえば、最近何かとそちらのバンドの練習に花梨が顔出してるみたいですが」

 

「うん、凄い勉強になるよ。翔君も来ない?」

 

「俺はRoseliaの方があるので少し厳しいですね」

 

あと行ったら弦巻の親にバレて俺が死ぬ

 

「そっか...しょうがないね」

 

「CiRCLEに来れば暇なら見ますよ。ドラムなら人並みにはできるので」

 

「じゃあこころちゃんに聞いてみるね」

 

「いや、花音さん1人の方がいいです」

 

「え?」

 

「弦巻家の令嬢ハチャメチャって聞いてるんで関わりたくないんです。その分花音さんは大人しいし」

 

「そっか...じゃあ今度スタジオ予約しないとね」

 

「安くしとくんでいつでも」

 

「ありがとう」

 

今思ったけど、俺って何でここまで松原に加担するんだ?何かよく分かんなくなってきたな...

 

「そろそろ着きますよ。イヴいねぇかなぁ...」

 

あれからたまに此処に来ると、イヴがいる時は必ず彼奴に珈琲を淹れてもらってる。彼奴の旨いんだよね

 

「いらっしゃいませ!あっ翔君に花音さん、こんにちは」

 

「よっ。イヴはいるか?」

 

「イヴちゃんは今日は仕事でいないんだ...ごめんね」

 

「そうか。じゃあつぐみの珈琲頼む」

 

「私はカフェオレお願いできるかな?」

 

「少々お待ちください!」

 

知り合い相手でもご丁寧に言っちゃって..真面目だな

 

「つぐみちゃん真面目だよね。お店凄く頑張ってて、それにバンドの方も」

 

「何処にそんな体力があるのか知りたいですね。俺は何かを頑張る気力もない」

 

「そうかな?私はそんなことないと思うな」

 

「...何がですか?」

 

知ったような口調で言いやがって...こっちはただでさえ気分が悪いというのに

 

「ごっごめんね、怒らせちゃった?でもさ、翔君は今CiRCLEのバイトとRoseliaのサポートやってるじゃん?それを両立させるのって凄い難しいことだと思うんだ。だから、自分では分からなくても頑張ってるんだと思うよ」

 

やめろ

 

「別に、このくらい大したことないです」

 

「花梨ちゃん言ってたよ、最近翔君が頑張ってるって。今まで何事にも興味を示さなかった翔君がRoseliaの為に色々考えてるって」

 

やめろ

 

「...」

 

「それに、私はそんな翔君がかっこいいと思う。貴方はとても優しくて、私を何度も助けてくれて...」

 

やめてくれ。俺はそんな人間じゃない

 

「何か悩みがあったらいつでも相談乗るからね!」

 

「...ありがとうございます」

 

4人目か...

 

「お待たせしました!珈琲とカフェオレです!」

 

つぐみが頼んだ飲み物を置き、新しい客の対応に回ってゆく

 

「あの、1つお願いがあるんだけど...」

 

「何でしょう?」

 

「連絡先交換して欲しいな。私もいつか相談したいし、翔君と話すの好きだから」

 

こいつといると妙に自然体でいられてしまう。ならやることは1つ、俺はこいつからも距離を取らなければならない

 

「連絡先だけなら、いいですよ。ただし、あまり俺と会わない方がいい」

 

「ふぇ?どうして...」

 

「危険すぎる。いつかその身に被害が及ぶ前に俺との関係をできる限り薄くしなきゃならない」

 

「そんな...」

 

「貴女のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、他と比べたら信用している方だ。完全に断つわけじゃない。そこは理解してほしい」

 

「...分かった。その代わり、毎晩連絡してもいい?」

 

「勿論、あまり遅くにならなければ」

 

「よかった...ありがとう」

 

「さて、それじゃあ帰りましょうか。奢りますよ」

 

「いっいいよそんなの...自分で払うから...」

 

「こういうのは俺が払うって花梨に教わってるんでね」

 

「...ありがとう」

 

何だか腑に落ちないといった顔であるが、無視した方が良さそうだ

 

「家への地図見せてください。送るので」

 

「ありがとう。はいこれ」

 

「...何でこんな近いのに迷うんですか?どう考えても小学生でも行けるレベルでしょう」

 

「うっ」

 

「ハァ...行きますよ」

 

「あっ待ってよぉ〜!」

 

この後家まで送ったら母親に彼氏と間違われ説明するのにめっちゃ時間かかった

 

 

それから30分後、俺はあることに気がついた

 

「コンビニ行くの忘れた...しまったな、つぐみんとこで何か食べときゃよかった」

 

俺は普段少食であまり食べない。普段はそこまで腹も減らないのだが、今日は珍しく腹減った

 

「どうすっかな...商店街にいたなら山吹ベーカリー行けば楽なのに。戻るか」

 

俺は山吹ベーカリーに行くことにした。しかし、その選択は間違いだった

 

 

湊に出会ってしまったのだ

 

「友希...那...」

 

「翔?こんなとこでどうしたのよ。それに顔色凄い悪いわよ?」

 

何をしてる。早くこの場から立ち去らなきゃいけないのに、身体が動いてくれない

 

「ちょっと、大丈夫なの?体調悪いなら病院に...」

 

湊が手を出して来る。だが、俺はその手を払い言ってしまった

 

「触るな!」

 

「っ!しょ...う?」

 

「あっ...すまない。体調は問題ないから。それと、これからはあまり必要以上に俺と関わるな。いつかお前を壊すことになる」

 

「そんな...待って!」

 

湊の静止も聞かず俺は走り出した。彼奴の顔も見ないでひたすら

 

 

 

 

本当にごめん、()()()




読了ありがとうございました!

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第28話

友希那side

 

私は何が起きたのか全く分からなかった。偶然翔に会い顔色が悪かったため話しかけただけなのに...ただ1つ分かったことは、彼に拒絶されたということ

 

「何で...教えてよ...」

 

あまりの出来事に思考が追いつかなくなっていた。頭の中が真っ白になり、気がつけば家に着いていた

 

「ただいま...」

 

「おかえり友希那。どうしたのよ、元気ないわよ?」

 

「少し体調が悪くて。今日は昼も夜もご飯いらないから...」

 

もうご飯を食べる気にすらなれなかった。誰とも話したくなかった。初恋の人に拒絶され、関わるなと言われた

 

どうしたらいいのか分からない。リサや紗夜、あこも燐子もRoseliaの大事な仲間だ。翔や花梨がそのことに気づかせてくれた。彼がマネージャーになって、私たちを支えてくれて、私を守ってくれて...

 

「あぁ...」

 

泣いてることにも気づかず私の意識は闇に落ちた

 

咲夜side

 

湊を俺から遠ざけることに成功した。今までの俺だったら喜んでいただろう。だが、今回は()()()()()()()。素直に悲しかったと言えないのは俺に感情がないからだろう。そこまで湊友希那という人は俺の中で大きな存在となっていた

 

「もう何も食べる気になれねえな...帰るか」

 

珍しく腹減ったという言葉は何処に行ったんだかね。結局家に帰ると不可解なことがあった。玄関の鍵開いてんじゃん

 

「誰かいるのか?いるなら出てこい」

 

中に入り呼びかけるが返事は帰ってこない。念のためナイフを2本用意し、リビングに突入すると華蓮が倒れていた

 

「おい華蓮!しっかりしろ!」

 

「ん...咲夜?」

 

外傷はない。強いて言うなら倒れたときに頭をぶつけて少しフラフラしている

 

「とりあえず何があった」

 

「えっと...学校の仕事終わらせて家に帰って来て。脱力感で意識飛んじゃって...」

 

「はい?」

 

つまりこいつは仕事が終わった安心感で倒れて寝たと?俺は問答無用で華蓮の頭を床に叩きつけた

 

「いだい!?」

 

「せめてソファーで寝ろや。床で寝るバカが何処にいるんだ」

 

「だって...折角仕事が終わった瞬間先輩から色々押し付けられたんだもん。それを最近ほとんど寝ないでやってたら2日で終わったんだけど」

 

「眠すぎて家に着いたら場所関係なしに寝たと。心配かけてんじゃねえバカ姉貴」

 

「ごめん...お昼ご飯は食べた?」

 

「食おうと思った瞬間松原に会ったり色々あって食べてない」

 

「松原?誰よその人」

 

「松原花音。ハローハッピーワールド!とかいうバンドのドラムをやってるやつだ」

 

「ドラム!?今度練習行きたい!」

 

「いや、ボーカルが弦巻の令嬢でな...」

 

「えっ」

 

「普段は弦巻の家でやってるらしいから俺たちが行った瞬間終わる」

 

「マジですか...あの子1回だけ会ったけど、とんでもない子よ」

 

「だから行きたくない。松原が今度1人でCiRCLE来るらしいからそのとき来れば?」

 

「そうするわ。一緒にお昼食べ行こうよ。あんた顔色悪いけど」

 

「え?顔色?いつも通りだろ」

 

「姉を舐めんじゃないわよ。弟の変化くらい分かるわよ」

 

「...お前には敵わんな。クソジジイに言われたんだ、湊たちから離れろってな」

 

「それって...」

 

「俺が近くにいたら彼奴らに危害が加わるかもしれないからって。俺も前から分かっていたさ。いつかは消えなきゃって」

 

「さっき帰って来る前、湊に会ったんだ。そのときに彼奴を拒絶してしまった。そしてそのまま逃げた」

 

「...そういうことだったのね。咲夜、貴方はこのままでいいの?」

 

「いい訳ないだろ。彼奴は、湊友希那は俺に道をくれた。だから()()()()見守って恩を返さなきゃいけない」

 

「見守るだけ?それだけでいいの?お爺様の言う通り、貴方と関わる限り常に命が危なくなる。だからこそ、貴方が側にいて守らなきゃいけないの」

 

「側に...」

 

「友希那ちゃんだけじゃないんでしょ?貴方が気にかけてる子は。その子たちのことも守ってあげなさい」

 

「でも、今更拒絶した湊とどう会えばいいのか分からない。また拒絶しそうで怖い」

 

「次のRoseliaの練習、私も行ってあげるから。友希那ちゃんは絶対に貴方を待ってる」

 

「...ありがとな」

 

「このくらい姉として当然よ」

 

果たして彼女は俺を許してくれるだろうか?いや、この際許されなくてもいい。俺は向き合わなきゃいけない

 

 

 

 

たとえ月読命咲夜だと知られても彼奴といられるように

 

 

リサside

 

今日はRoseliaの練習があるんだー!頑張らないとって思ったら友希那の元気が全くなくて聞いても何でもないって

 

「友希那、そろそろ休憩しよ?さっきから音外しっぱなしだよ?」

 

「...ごめんなさい」

 

「湊さん、集中できないなら今日は...」

 

「大丈夫よ」

 

絶対何かあると思うんだけどなぁ。翔も来てないし

 

「ヤッホー!みんなやってるかー!」

 

「祐奈先生!今は休憩中です」

 

「今は先生いらないから。教師なんて副業だし」

 

副業?他に何かやってるのかな?

 

「今日は翔さん来ないんですか?あこ、前よりもできるとか増えたから見てもらいたかったのに...」

 

「あ〜翔は今死にかけっていうか...」

 

「ちょっ大丈夫なんですか!?」

 

「まぁなんとかなるでしょ。無傷で帰ってこれるか分からないけど」

 

え〜。幾ら何でも酷すぎるでしょ...アタシこの人恐くなってきた

 

「弟の扱い酷くないですか?」

 

「いーのいーの。それより休憩中なら友希那ちゃん借りていい?少しお話があるから」

 

「友希那、どうする?」

 

正直、今の状態で話せるとは思わない

 

「...分かりました。貴女たちは時間になったら練習再開しといて」

 

「オッケー」

 

「それじゃあ行きましょうか。琉太君呼んでくるから、紗夜ちゃん」

 

「なっ何で私なんですか?」

 

「だって紗夜ちゃん琉太君のこと好きでしょ?」

 

「なっ!?そっそんなんじゃありません!///」

 

うわぁ分かりやすい。ていうか祐奈さん容赦ないな...

 

「おーい琉太君、こっちきてー」

 

「なんすか?俺眠いんですけど」

 

「紗夜ちゃんが来てくれないと死んじゃうって「そんなこと言ってません!」とにかくRoselia見てあげて」

 

「あははははは!」

 

「あっあこちゃん、笑いすぎだよ...」

 

「宇田川さん、後で覚えておきなさい」

 

「ごめんなさい!」

 

「ププッ!あははははは!」

 

「いっ今井さん!」

 

「うけるー!」

 

「俺帰っていいですか?」

 

「ダメ!」

 

ヤバイ超笑えるんだけど!紗夜が恋してるんだよ!?笑わない人なんている?

 

「それじゃ頑張れ」

 

「ハァ...眠い」

 

友希那side

 

私は祐奈さんに呼ばれてCiRCLEのカフェテリアにいた。話の内容は分かっている。私としては1番話したくないことだが

 

「さて、早速本題に入るよ。友希那ちゃんが元気ないのは翔に拒絶されたから、そうでしょ?」

 

「...はい」

 

やはり、そのことを知っていた。リサたちは知らないが、この人の情報網は侮れない

 

「翔の元気がなかったから問い詰めたら白状したわよ。貴女を傷つけてしまったって」

 

「今まで全く気づかなかった。私が彼の重荷になっていたことに。今更拒絶されてもおかしくないですよね」

 

いつの間にか私は彼を追い詰めていたのかもしれない。最初はマネージャーを断られ、何とか彼と近づきたくて練習を見るだけという条件を出させてもらった。あの日、Legendaryの楽譜を渡され課題をクリアしマネージャーになってもらったと同時に私は彼への想いを自覚した。それからというもの、彼と接触する機会も増え距離を縮めた。それが彼を追い詰めていた

 

「翔はね、友希那ちゃんを拒絶したことを凄く後悔してた」

 

「え?」

 

「自分に道をくれた貴女を傷つけてしまって、どうしたらいいのか彼自身分からなくなってた。あの子、ああ見えて繊細でね。少し触れただけで壊れちゃうの」

 

「だから、彼を許してあげて。そしてこれからも彼の側にいてあげて」

 

「私にそんな資格はありません。私は知らぬ間に彼を傷つけた。そんな私に彼と一緒にいることなんて...」

 

「...貴女はこのままでいいの?」

 

「っ...それは...」

 

いい訳がない。私は祐奈さんと約束したんだ。彼を救うと。このままでいい訳がない

 

「この際だから友希那ちゃんにだけ言っとくね。はっきり言って、私たちと関わるのはあまりにも危険すぎる」

 

「だったらその理由を教えてください!何も知らずに拒絶され、どうしたらいいのか分からない!私は...どうすればいいんですか!?」

 

「理由は言えない。知ったら待ってるのは闇だけ。もう未来はない」

 

「そんな...」

 

「翔と私、そして琉太君は命を狙われてる。いずれ貴女たちにも被害が及ぶかもしれない。だから自分から遠ざけるために翔は貴女を拒絶した」

 

「一体誰に?何故そんなことに...」

 

「知らない方がいいよ。翔は今、羽沢珈琲店で休んでる筈。彼のところに行ってあげて」

 

「...分かりました」

 

「Roseliaは私と琉太君に任せておけばいいから。彼を救えるのは今は友希那ちゃんしかいないの」

 

「よろしくお願いします」

 

私は全速力で走り出した。走るのに夢中で信号も無視したかもしれない。轢かれなかったのは幸いだった

 

10分後、目的地である羽沢珈琲店に辿り着いた。私は1度深呼吸をして目の前にあるドアを開けた

 

 

 

彼の待つその先へ

 




読了ありがとうございました!

最近なかなか4000文字以上書けないんですよねぇ...

☆8評価をしてくださったcepheid様ありがとうございます!

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第29話

この前日間ランキングに載ってました!

いつもありがとうございます!


私は彼の姿を確認すると、向かいの席に座った。お互い何も話さないまま時間が過ぎてゆく。沈黙を破ったのは翔だった

 

「まず1つ、この前は本当にごめん」

 

「友希那を危険な目に遭わせたくなかった。失うのが恐かった。だから拒絶した」

 

「でも、結果的に友希那を傷つけた。だから...本当にごめん」

 

彼の口から出てくるのは謝罪の言葉ばかり。謝らないといけないのは私の方なのに...

 

「私こそ、ごめんなさい!」

 

私は立ち上がり深く頭を下げた。彼は面食らったような顔をしていて、驚いていた

 

「...どうして友希那が謝る?悪いのは全部俺だろう」

 

「私は貴方がそこまで追い込まれているのに気づけなかった。Roseliaのリーダーとして、周りのことを見なすければならないのに...翔のことも気にかけなくてはいけないのに」

 

「だから、拒絶されてもおかしくないと思った。でも、受け入れられなかった。受け入れたらもう私は壊れてしまいそうで...」

 

ここまで自分を憎んだことはなかった。私をここまで成長させてくれた大切な人を追い込み傷つけてしまったのだ

 

「許されるとは思ってない。でも...私は貴方と一緒にいたい。貴方と一緒に頂点に立ちたい!」

 

私はひたすら本心をぶつけ続ける

 

「だから...行かないで...」

 

最後は声は霞んで聞こえるかどうかの大きさだった。そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた

 

「俺といればいつか必ず後悔することになる。それでもいいのか?こんな俺と一緒にいてくれるのか?」

 

「当たり前でしょう。貴方はRoseliaのマネージャーで私のパートナーよ?絶対に離さないから」

 

「...ありがとう。約束する。何があろうと、命に代えてでも友希那を守ってみせる」

 

「命は大切にしなさいよ。貴方が死んだら私は...悲しいわ」

 

「さぁ、練習に戻るぞ。今日の調子はどうだ?」

 

「さっきまでは最悪ね。でも、今は最高の歌声を聴かせられそう」

 

「そうか...楽しみにしてる」

 

こうして彼との距離はより一層縮まった

 

咲夜side

 

()()()と仲直りして、CiRCLEに戻ると奏斗が何やら走り回っていた

 

「...何してんの?」

 

「やっと戻ってきた!さっさとRoseliaのとこに行ってこい!さっきからAfterglowと掛け持ちで見てんだよ!」

 

「姉さんがいるだろうが。彼奴はどうした」

 

「祐奈さんなら晩御飯の材料買いに行った。んじゃ俺はAfterglowのとこに戻るから。()()によろしくな」

 

今こいつ氷川のこと呼び捨てにしなかったか?いつの間にそんな仲良くなってんだよ

 

「個人レッスンやってるときに紗夜がそうしろって」

 

「ナチュラルに心読むんじゃねえ」

 

それだけ言うと奏斗は隣のスタジオに入って行った。余程往復してたんだな...今度何か奢ってやろうかな

 

俺たちも扉を開けスタジオに入る

 

「ごめんなさい。迷惑かけたわね」

 

「あっ友希那と翔だ!2人とも大丈夫なの?」

 

「ご心配なく。少しトラブルがあっただけですので」

 

「何があったのかはこの際聞きませんが、あとで翔さんと話したいことがあるので練習後時間ください。()()も一緒に...」

 

こいつまで呼び捨てかよ。氷川はやらかしたみたいな顔してるし、今井はニヤニヤしてる

 

「紗夜?つい最近まで琉太のことさん付けだったよね?いつの間にそんな仲良くなったの?」

 

「そっそれは...」

 

「そういえば、琉太も氷川さんのこと紗夜って言ってましたね」

 

「確かに言ってたわね」

 

まぁ奏斗にも信頼できる人ができたということだし、結果としてはいいだろう

 

「なぁ友希那、そろそろ練習始め...」

 

やばい、やらかした。友希那から2人きりのときって言われてたの忘れてた

 

「ちょっと翔!」

 

「あれ〜?友希那まで呼び捨てにされちゃって〜」

 

「これはその...///」

 

「湊さんもいつの間に仲良くなったんですか?」

 

今井のやつ他人からかうの好きだな。友希那は顔赤いし...熱でもあんのか?

 

「友希那顔赤いぞ?熱あるなら帰った方が...」

 

「誰のせいだと思ってるのよ...」

 

「うわぁ...友希那さんも紗夜さんも大胆...」

 

「「あこ(宇田川さん)少し黙ってなさい」」

 

「何であこだけ!?」

 

「まぁまぁ...こういうのは静かに見守らないと...」

 

おい白金、それフォローになってねえからな?

 

「とりあえず早く練習しませんか?遅れた俺が言うのもあれなんですけど」

 

「だから誰のせいだと...そうね、私のせいでもあるしここはみんなに聞きましょう」

 

「あこ、Legendaryやりたいです!前より上手くなったんですよ!」

 

「ほぉ〜。それじゃあそっから行くか」

 

「私はちょっと音合わせだけするわ」

 

そう言って友希那が音合わせをする。何度聴いてもこの歌声は好きだな

 

「準備できたわ。始めましょう」

 

友希那の合図とあこのカウントにより曲が始まった。友希那の歌声は何処かいつもより響いていた

 

紗夜side

 

Roseliaの練習が終わったあと、CiRCLEのカフェテリアにて私と湊さん、翔さんに琉太の4人でお茶をしていた

 

「んで、話って何?俺たちこのあと片付けとかあるからできれば手短に頼む」

 

私のお願いですっかり敬語の抜けた琉太が聞いてきた。時間も遅いから早めに終わらせた方が良さそうだ

 

「単刀直入に聞くわ。琉太、それに翔さん。貴方たちは誰に命を狙われてるの?」

 

「「!?」」

 

2人は驚いた顔をして硬直していた。私が知っていたのが予想外だったらしい。因みにこのことは湊さんも知っている

 

「...誰から聞いた?相手によってはこちらとして面倒だ」

 

いつもよりも真剣な眼差しでこちらを見てきたため、少し気圧されてしまう

 

「祐奈さんからよ。私が羽沢珈琲店に行く前に直接聞いたわ」

 

「私も同じく」

 

「あのバカ姉貴...余計なことまで喋らなくても」

 

「過ぎたことは仕方ない。俺たちを狙ってる相手だろ?悪いが教えられない」

 

「...どうしてもですか?」

 

「あぁ。逆に知れば紗夜や湊さんにまで危害が及ぶ。それを避けるために翔は1度湊さんを拒絶した」

 

「だから湊さんの調子が...」

 

「黙っていてごめんなさい。祐奈さんからも詮索するなとは言われている。でも、力になりたいの」

 

彼は私にギターを教えてくれて、悩みを聞いてくれて...助けてくれた恩人だ。彼には返しきれない恩がある

 

「気持ちだけ受け取っておきましょう。貴女たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。できればこれ以上の詮索はしないよう...」

 

やはり話してくれなかった。私たちのことを想ってのことだろうが、話してもらえるほどまでに信頼されてなかったのが悔しかった

 

「それでは今日はここまでにしましょう。無理に時間を作ってもらいありがとうございます」

 

「夜も遅いし、送るぞ。あと少しで終わるから待っててくれ」

 

「ありがとう」

 

彼は優しい人だ。だから私は彼に惹かれた

 

「紗夜はいつから琉太のことを?」

 

急に湊さんがそんな質問をしてきたため、私は反応が遅れる

 

「そこを聞かれると返答に困るのですが...彼にギターを教えてもらい、何回か2人で出かけることもありました。その時ですかね。湊さんこそ、いつから翔さんのことを?」

 

「彼が私たちのマネージャーになったとき、彼の心の底からの笑顔を見てこの想いを自覚したわ」

 

「意外ですね。音楽にしか興味のなかった私たちがまさか恋をするなんて」

 

「私も紗夜も人間よ。必ずそういったことも起こる」

 

数分後バイトを終えた2人が戻ってきた

 

「お待たせ紗夜、行こうか」

 

「えぇ」

 

「俺たちも行くか。友希那、迷子になるなよ」

 

「バカにしてるのかしら?高校生にもなって迷子なんて」

 

「それがいるんだよなぁ...水色髪の人が」

 

「まさか...」

 

「わっ私じゃないわよ!まぁ察しはつきました」

 

もしかしなくても松原さんのことだろう...

 

「そういえば、今年は行くのか?去年は受験勉強やらで行けなかったけど」

 

「あの2人は行く気満々だったけどな。俺もあの景色は好きだし琉太が行くなら俺も行くが」

 

「日程考えとくか...どのくらいいるつもりだ?」

 

「いつも通り2週間くらいでいいだろ。彼処なら奴らからも隠れられるしな」

 

さっきから2人が変な会話をしている。何やら何処かに出かけるみたいだけど...

 

「2人とも、先程から何を話しているの?まさか高校生だけで遠くに行くつもりですか?」

 

「夏休みになると毎年海にある別荘に遊びに行くんだよ。ビーチも貸切状態だし、ベランダからの景色は最高なんだ」

 

「おまけに防音完備のバカでかいスタジオもあるしな。よく彼処で練習したな」

 

何だかとんでもないことを聞いてしまった気がする。湊さんも話の内容にあっけにとられている

 

「貴方たち、お金がないからバイトしてるのよね?別荘は何処から来るのよ」

 

「親戚にもらった。広すぎて部屋何個余るんだか...」

 

そういえば、スタジオがあると言っていた気がする。もしかしたら...

 

「その別荘にはスタジオがあるみたいだけど...」

 

湊さんの声で2人は急に目を逸らす

 

「...何のことだかさっぱりだな。あったとしても去年行ってないし埃だらけだろ」

 

「掃除なら私たちがするわ。一緒に行ってもいいかしら?」

 

どうやら私と湊さんの考えは同じみたいだ。CiRCLEでスタジオを予約するよりもお金はかからないし、計画していた合宿も同時進行でやれる

 

「ハァ...翔が余計なこと言うからこうなるんだよ」

 

「すまん。口が滑った」

 

「あら、私たちが行ったら都合が悪いのかしら?」

 

「「...」」

 

急に黙り込む翔さんと琉太。この調子ならあと少しでいけそうだ

 

「翔さんはRoseliaのマネージャーですよね?練習場所を提供するのも仕事のうちかと...」

 

「あぁーもう!分かったよ!姉さんと花梨の許可が降りたら連れて行ってやるから!」

 

「仕方ないな...蘭にしばらく行けないって言っとく」

 

「バカ!美竹に言ったら...」

 

何やら翔さんが慌てているがどうしたのかしら?

 

「もしもし蘭?俺たち暫く別荘まで旅行行くから練習見れないからな。え?誰と行くって?翔とかそこら辺とRoseliaも一緒に」

 

「終わった...」

 

「ねぇ、嫌な予感がするのは私だけかしら?」

 

「言うな友希那。それは俺が1番言いたいことだ」

 

「...はい。分かりました、日程が分かり次第連絡いたします。申し訳ございませんでした」

 

さっきまでタメ口だった琉太がいきなり敬語になっている

 

「どっどうしたのかしら?」

 

「氷川さん、そこは察してほしい」

 

「Roseliaが行くって言ったら自分が見てるAfterglowは置いて行くのかと言われ...まぁAfterglowも行くことになりました」

 

「バカ野郎...」

 

「元はと言えばお前がスタジオあるって口走ったからこうなったんじゃねえか」

 

「返す言葉も出ねぇ...」

 

どうやらAfterglowの人たちも一緒に行くみたいだ。部屋は足りるのだろうか?

 

「琉太、流石に人数が多いけれど、部屋は足りるの?」

 

「1部屋2人で使えば余裕で余る。ワンチャン1人1部屋でも行けるかもな」

 

「どれだけ広いのよ...」

 

「あの2人も良いってよ。明後日行くから準備しておけ」

 

「了解」

 

「他のメンバーにも伝えておきますね」

 

「私も準備をしておくわ。何を持って行けばいいかしら?」

 

「着替え数着持って行けばいいよ。どうせ3泊くらいだろ?」

 

「何を言っているの?きっちり2週間止まらせてもらうわよ」

 

「はぁ!?...もういい。ただし、宿題8割終わらせろ。それができていなきゃ3日で帰らせる」

 

「...」

 

「私はもう大半終わっていますけど...湊さんは?」

 

「...明日の練習の時間使ってみんなで終わらせましょう」

 

どうやら終わってないみたいだ。宇田川さんなんかはほとんど終わっていないだろう...

 

「Afterglowにも伝えとく」

 

「ハァ...めんど」

 

果たして行けるのか心配だが、とりあえず計画していた合宿以上に豪華なことができそうだ

 

不安材料は残りながらもRoseliaはAfterglowと一緒に夏合宿に行くことになった




読了ありがとうございました!

☆10評価をくださったsilverhorn様、高評価ありがとうございます!

他にも評価や感想お待ちしております!

次回から第三章夏合宿編です!


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第三章 それぞれの想い
第30話


今回から第三章です。この章ではそれぞれの想いについて書いて行こうと思います


咲夜side

 

俺たちは今、巨大な屋敷に来ていた。この屋敷は俺が瑠奈さんと婆ちゃんからもらったものだ

 

「...気持ち悪い」

 

「またなの?いい加減治らないのかしら?」

 

ここは好きなのだが今は最高に気分が悪い

 

「1時間も電車とか地獄だろ...うっ」

 

実は俺、乗り物にめっちゃ弱いんだよね。自転車は問題ないけどそれ以外は無理

 

「お兄様、とりあえず休まれた方がいいかと...」

 

「荷物貸せ。持ってやるから」

 

「ありがとう」

 

此処に来るたびにこうなるから酔い止めを持っていなきゃならないのだが、持って来るのを忘れた

 

「翔大丈夫なの?顔色すごい悪いわよ?」

 

「大丈夫ではないな...とりあえず1階にAfterglowで2階にRoselia入れとく...か...」

 

いつもは4人で来るからそれぞれ個人の部屋を決めてあり扉にネームプレートがあるのだが...バリバリ本名書いてあったわ

 

「おい華蓮、今すぐネームプレート変えてこい。奏斗も行け...」

 

「「あっ!」」

 

「どっどうしました?急に大きな声出して...」

 

「みんなはリビングに1回荷物置いて待ってて!」

 

「やばいやばい!すっかり忘れてた!」

 

玄関の扉を開け2人が全速力で駆けて行く。ウサ○ン・ボ○トより速いんじゃね?

 

「なぁ翔、琉太と祐奈先生走ってったけどいいのか?」

 

「問題ない。巴、とりあえずあのバカをなんとかしろ」

 

「アタシに言われても...」

 

「美竹さん、これはもう決まったことなの。今更変えれないわよ」

 

「そんなの聞いてないんですけど?先輩として後輩に譲るものだと思いますよ湊さん」

 

絶賛ボーカル2人で喧嘩中。理由は部屋の場所を1階か2階にするか。景色が綺麗だと言ったら友希那が2階に行きたいと言ったのでそうしようと思って決めたら美竹...蘭まで行きたいと言い出してこのザマだ

 

「おい、喧嘩するなら帰らすぞお前ら」

 

「「...ごめんなさい」」

 

「部屋は後で決めればいいだろ。おそらく1人1部屋はあるはずだ」

 

「ねぇ翔君、ホントは大金持ちなの?」

 

「んなわけあるか。ないからバイトしてんじゃねえか。ひまりは蘭をなんとかしろ」

 

「そんなこと言われても...」

 

「リサさんも友希那なんとかしてくださいよ」

 

「友希那落ち着いて...」

 

くっそ面倒くさい。連れて来るんじゃなかった...

 

「おーい終わったぞー!全員入れー!」

 

「おっきいー広ーい!お姉ちゃん凄い広いよ!」

 

「あぁ!しかもめっちゃ綺麗だぞ!」

 

「カーペットやバルコニーまで...どうなってるのよこの屋敷は」

 

「紗夜、そこはつっこむな」

 

「琉太たちは荷物置いたんだろ?俺の分も置いてあることだし、部屋割りするか...」

 

「私も自分の部屋に荷物置いて来ますね」

 

「分かった。ついでに外の空気吸ってこい」

 

柏も多少寄ったみたいで少し顔色が悪い

 

「さて、肝心の部屋だが...どう割る?数的にどっちかは下の部屋だけど」

 

「そんなもの決まってるでしょう?Roseliaが2階の部屋使わせてもらうわよ」

 

「ちょっと、勝手に決めないでくださいよ。Afterglowが使うに決まってるじゃないですか」

 

まぁた始まったよ...これじゃあ埒が明かないな

 

「いい加減にしろ。いつまで経っても決まらんだろ」

 

「なら貴方が決める方法考えなさいよ」

 

「...この野郎」

 

「だったら、琉太と翔さんで勝負してみては?翔さんはRoseliaの、琉太はAfterglowのマネージャーをしている。お互いのマネージャーで勝負すれば公平でしょう?」

 

「おい紗夜、何故そうなるんだ?お前たちで決めろよ」

 

「いいんじゃね?このままじゃ絶対決まらんし」

 

「ハァ...この中にテニス部はいるか?」

 

「アタシテニス部だよ!」

 

「私も!でもなんで?」

 

「中学のころ俺たちテニス部だったんだよ。ダブルスは2人で組んでた」

 

「確か全国優勝したよな。相手も中々だったな...」

 

「「えぇ!?」」

 

そんなに驚くことか?別にそんな難しいことじゃなかろうに

 

「ルールは簡単、俺とひまり、翔と今井さんで組んで1セットマッチで試合をする」

 

「でも、テニスコートが...」

 

「裏に2面ある。そこを使えばいい」

 

「よーしやるぞー!」

 

「リサ姉頑張れ!」

 

「ひまり、絶対勝てよ!」

 

「ひ〜ちゃん負けたら罰ゲームね」

 

「モカ!?言っとくけど、リサさん凄い強いからね!?」

 

「ひまりだって1年の中じゃトップクラスでしょ?」

 

「リサ、頼んだわよ」

 

決まりだな。久しぶりに本気でやるか

 

「それじゃあ移動するか。ひまりとリサさんは準備運動でもしててください。俺たちは軽くラリーして感覚戻すので」

 

「できるかなぁ...もう1年やってないしな」

 

確かにそこは心配だが、現役いるしなんとかなるだろ

 

こうして2階の部屋をめぐるくだらない戦いが始まった

 

リサside

 

アタシはひまりとラリーで準備運動してるところ。ひまりはとても上手いから、手を抜いたら負けちゃうかもしれない

 

「ひまり〜そろそろいい?」

 

「大丈夫ですよ!琉太君たちもすぐ来ると思いますよ」

 

アタシが1番驚いたのはあの2人がダブルスで全国優勝したこと。アタシはそんなに上手くないし、ついていけるか心配だ

 

「負けませんよ!と言いたいんですけど...正直私たちいらないんじゃないかなと思う」

 

「そうなんだよね...全国優勝ってどう考えても化け物みたいに上手いじゃん。なるべく邪魔しないようにしないと...」

 

「そういえば、翔君凄い酔ってたけど大丈夫かなぁ」

 

「まぁ大丈夫なんじゃない?隣見れば分かると思うけど」

 

隣のコートでは2人がレベルの高いラリーをしていた。ボールのスピードが半端じゃない

 

「さっきから1回もラリー切れてないですよね。そろそろ始めないと...」

 

「おーい2人とも!こっちはいいよー!」

 

「了解で〜す」

 

2人がこっちに来てサーブかレシーブどっちをやるか決めたらアタシと翔がサーブになった

 

「おい、ひまりのときは手加減しろよ。お前のサーブイかれてるし」

 

「そういう琉太も、リサさんときはスピード抑えろよ」

 

もうこの時点で嫌な予感しかしない

 

そんなとき翔が

 

「リサさん、前衛はできますか?」

 

と聞いてきた。ダブルスで大会に出るときアタシは前衛だから勿論できる

 

「できるけど、なんで?」

 

「流石のリサさんでも、琉太の球をストロークで返すのはきついでしょう?ボレーなら多少押されてもなんとかなりますので来たら叩いてくれれば」

 

「オッケー!アタシ、スマッシュ得意だからチャンスボール上げてくれると助かるな」

 

「了解しました。琉太はダウンザラインが上手いのでサイド警戒してください」

 

「分かった!」

 

聞くところ、翔って頭いいらしいしその辺も頭が回るみたい

 

最初は翔のサーブから始まった。スピードが凄かったんだけど、琉太は何事もなくストレートに返して来た。前持って翔に警戒するよう言われてたからしっかり反応できたけど、ひまりにフォローされてしまった

 

ゆっくり上がったボールはそのままアタシのところへ飛んで来た

 

「任せて!」

 

アタシは少し下がりコートの隅にスマッシュを打った。琉太でもこれは捕れずこちらのポイントになった

 

「やったー!」

 

「リサ姉最高!ナイスボール!」

 

「なんだよあれ...強すぎねえか?ひまりごめん」

 

「私もフォローしきれなかった...次頑張ろ!」

 

この後は一進一退で試合が進んで行った。お互いサービスゲームを取り合い気づけばタイブレークになっていた。今のカウントは6ー4でアタシたちのマッチポイントだ

 

「ハァ、ハァ...疲れた」

 

もうみんな体力に限界が来ている。幸い周りが木に囲まれていて日差しこそないけど暑い

 

「翔、サーブお願いね!」

 

「了解です」

 

アタシもネット前に立ち構えを取る。ここは絶対に落とせない

 

そして翔がトスを上げサーブを打った。センターギリギリのところに打ったため、レシーブで返せるのはクロス方向のみだった。アタシは賭けでポーチに出た。予想通りボールはクロス方向に来て吸い込まれるようにアタシのラケットの真ん中に当たった

 

「ゲームセット!この試合、翔さん・今井さんペアの勝ちです!」

 

「ぃやったー!」

 

アタシは嬉しさのあまり翔に抱きついてしまった。友希那が不機嫌な顔をしていたけど、今はそれどころじゃなかった

 

「いや〜よくあの状況ですポーチなんて出ましたね...まぁお陰で勝てましたが」

 

「...ごめん。負けちゃった」

 

「いいよ全然!凄くいい試合してたよ、お疲れ様!」

 

「ひまりお疲れ様!琉太も、そんな申し訳なさそうな顔すんなって!」

 

「ありがとな」

 

Afterglowのいいところはこうやってすぐにお互いをフォローして励ませるとこだと思う

 

「4人ともお疲れ様。まだお昼だけど少しお風呂入って来なさい。浴場も2つあるから」

 

「風呂入ったらとりあえず昼飯な。そっから練習しよう」

 

「じゃあ俺たち風呂入るからちょっと待っててくれ」

 

「アタシたちも入ってくるね」

 

この後行ったお風呂はめちゃくちゃ広かった




読了ありがとうございました!

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第31話

友希那side

 

4人による激闘が終わり、私たちは先に昼食をとっていた。今日の昼食は祐奈さん特製の冷やし中華だ

 

「みんなできたよー!1人ずつ持ってってー」

 

食堂にあるテーブルは私たち14人が一斉に食べられるほどの大きさだった

 

「友希那ちゃんはリサちゃんの分も持って行ってあげて。巴はひまりの分もよろしくね」

 

「「分かりました」」

 

この冷やし中華、お店でよく見るやつより見た目が華やかだ

 

「翔たちは長風呂だからね。先に食べとこうか」

 

「お風呂上がりましたー!」

 

「あれ?翔君と琉太君は?」

 

「あの2人長風呂でね。いつも遅いんだよね」

 

男子が女子よりお風呂が長いことってあるのね。意外だわ

 

「さて、部屋割りも決まったし食べたら早速練習しようか。私たちも見てあげるからね」

 

「祐奈先生は何の楽器やってるんですか?」

 

「今は先生いらないから。基本的に全部できるけどドラムが1番得意かな。ベースは当てにならないけど」

 

「お姉様、当てにならないとか言いながらできてるじゃないですか。私にも匹敵するレベルのくせに」

 

「比べる次元が違うからね?花梨こそ、キーボード人並み以上にできるじゃん」

 

この会話も何度か聞いた気がする。Xaharの苦手の水準が高すぎる

 

「会話の内容が既におかしいんだけど...祐奈さんはどっちを見てくれるんですか?」

 

「どっちでもいいよ?花梨がどっち見たいかで決めるわ」

 

「私もどっちでもいいです。...じゃあ今日はRoselia見ますね。私とお姉様は交代で見ればいいでしょう」

 

「おぉ、それ名案。Afterglowのみんなよろしくね。特に巴、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しておいてね」

 

「よっよろしくお願いします!」

 

「それでは私は楽器のチューニング済ませて来ますね。みなさんはごゆっくり」

 

「するわけないでしょう?みんな、早く食べて練習するわよ」

 

それにしても、翔たち遅すぎないかしら?もう30分くらい経っているわよ?

 

「花梨さん、スタジオは何処にありますか?」

 

「あぁ、奥に3つありますね。1つだけ大きいので他の部屋を使いましょう」

 

今この子はなんて言ったのかしら?この屋敷にスタジオが3つ?しかも1つ大きいってどうなってるのよ

 

「...案内してもらえますか?」

 

「楽器取ってくるので待っててください。ついでに氷川さんのも持って来ますか?」

 

「私はそこに置いてあるので大丈夫です」

 

「花梨、この屋敷はどうなってるのよ。どう考えてもおかしいわ」

 

「そう言われましても...親戚が気分で作ったんじゃないですか?」

 

「そっそう...まぁいいわ。みんな食べ終わった?」

 

「アタシはオッケーだよ!」

 

「あこも食べ終わりました!」

 

「私も大丈夫です」

 

「それじゃあ行きましょうか。花梨、今日はよろしくね」

 

「分かりました。最初は全体で通してやりましょうか」

 

「分かったわ」

 

翔や花梨がいるとメニューも一瞬で考えてくれるからとても助かる

 

私たちは食器を片付けスタジオへ向かった

 

蘭side

 

ひまりも食べ終わったので、私たちはバンドの練習をしていた。今日は祐奈さんが見てくれるらしい。他のみんなが仲良かったので聞いたら、どうやらみんなのクラスの担任らしい

 

「蘭、とりあえず自己紹介しとけよ」

 

「分かってる。ギターボーカルをやっている美竹蘭です。今日からよろしくお願いします」

 

「よろしくね。それじゃあ早速やろうか。とりあえず、最初から合わせてやってみて」

 

「分かりました。みんな、準備はいい?」

 

「いいよ〜」

 

「アタシもオッケーだ!」

 

ひまりやつぐみも準備はできているみたいだ

 

「それじゃあ行くよ。アスノヨゾラ哨戒班」

 

〜♪〜

 

「どうでしたか?」

 

「思ったよりもレベルが高くて驚いたよ。やっぱり琉太君が見てるだけあってギターの2人は凄いよ」

 

「あっありがとうございます...///」

 

ここまで褒められたのは初めてなので少し照れてしまう

 

「お〜蘭が照れてる」

 

「モカうるさい!」

 

「あははは...仲良いね」

 

「これが私たちの『いつも通り』ですから」

 

「成る程ね...少し気になったのはベースが少しずれたのと、キーボードが遅れてたところがあったことかな?今からそこ修正しようか」

 

ベースのずれは私も分かったけど、キーボードまでは分からなかった。やっぱりXaharの人たちは凄い

 

「分かりました」

 

「キーボードはいいけど、ベースは私当てにならないんだよね...」

 

「全然大丈夫です!私頑張ります!」

 

「感覚的になるけど、まぁこっちも頑張ってみるよ。ドラムとギターはペースも保ててたからその調子で頑張って。巴、後でライブで使えるテクニック教えてあげるからそれまで待ってて」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「じゃあ今から30分各自個人練習やるよ。そしたら休憩挟むからそれまで頑張れ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

メニューや時間配分もしっかりしていてとてもやりやすい。しかし、未だに琉太が来ない。何やってるのかな?

 

私は琉太のことを気にしながらも練習に励んだ

 

友希那side

 

練習にひと段落つき私たちは休憩をしていた。否、()()()()()()()。何故なら花梨が

 

『私が休憩と言ったらしっかりしてくださいね。でないとこの前友希那さんにしたことと同じことしますから。最悪それ以上もあるので覚悟しといてください』

 

と言われたからだ。私にしたことと言えば、足を払い床に叩きつけられたことだ。あれは本当に恐ろしかった

 

「それにしても、お兄様来ませんね...またお風呂で寝てるのかしら?」

 

「翔ってお風呂で寝るの?」

 

「疲れてる日なんかはたまにあるんですよ。それで次の日に風邪を引き私やお姉様に怒られる。こんな感じです」

 

こんな風にたまに抜けてるところがあるのがまた愛おしい。私はそこまで彼に惚れてしまっていた

 

「少し探して来るわ。休憩中暇だもの」

 

「それが普通なんですよ。貴女の休憩は休憩になってませんからね?それをいい加減自覚した方がいいですよ」

 

「...ごめんなさい」

 

「前から思ってたんだけど、花梨って友希那に対して容赦ないよね。友希那が簡単に口で言い負かされてるもん」

 

「リサ、少し黙ってなさい」

 

確かにその通りだが、面と向かって言われるとそれはそれで腹が立つ

 

私はスタジオを出て翔を探しに行った。彼の部屋が何処にあるのか分からないのでとりあえずリビングに行ってみる。しかし、そこには誰もおらず静かな空気が流れていた

 

「何処に行ったのかしら?彼が何も言わずに出かけるなんてそうそうないと思うのだけど...」

 

彼は普段の練習の時も何かあれば必ず私や他のメンバーにそれを伝えている。先程から何度かメールもしているのだが既読がつかない

 

1階の部屋以外は全て探したが何処にもいなかったので、次は2階を探した。外から見た時大きなバルコニーがあったのでそこにいるかもしれない。確認してみると、そこにはハンモックがセッティングされその上で寝ている翔と琉太がいた

 

「余程疲れていたのね...ありがとう」

 

まぁ苦手な電車に1時間乗せられた挙句、2時間弱によるテニス対決をすれば無理もない。練習は見て欲しかったがこればかりは仕方ない。それに、普段は冷たい顔をしている翔だがそのような面影は全く感じられないほど今の表情はやわらかかった

 

「...いっそのこと、ずっと見ていたいわね」

 

そんなことを呟きながら彼の顔に手を当てる。そして自然と彼の顔に私の顔が近づいていく。他から見たら寝てる間にキスをしようとしているように見えるが私は一切そんなつもりはない。できればして見たいのだが...

 

「...何やってるんですか?」

 

その声で全身に寒気が走った。声の主はAfterglowのギターボーカルである美竹さんだった

 

「こっこれはその...忘れて頂戴///」

 

「無理ですね。勝手にそうなっていただけでしょう?大方全然来ない翔を探しに来たと言ったところですか?」

 

「えぇ、美竹さんも琉太を?」

 

「はい。でも、流石に起こすわけにはいきませんね」

 

「そうね...練習は明日見てもらうとしましょう。そちらの練習はどうかしら?」

 

「お陰様でとても捗ってますよ。祐奈さんがとても優しい人なのでこちらからも話しかけやすくて助かります」

 

祐奈さんは陽気だから初めての美竹さんもやりやすそうだ

 

「あの人はドラムが1番得意らしいからそこはだいぶ強化されるんじゃないかしら」

 

「だといいんですけど。湊さんこそ、花梨さんは如何ですか?」

 

「相変わらずね。とても助かるのだけど...休憩が強制みたいになってしまって」

 

「ハハハ...それでは私は戻りますね。琉太の所在も分かったことだし」

 

「私もそうするわ。これ以上話して彼らを起こすのも悪いから」

 

「翔のこと、随分大事に思ってるんですね」

 

「当然よ。彼は私たちRoseliaのマネージャーで、私の大切な人だから」

 

「そうやって素直に言えるのが羨ましいです。ではまた後で」

 

「素直になるのはとても難しいけれど、自分の想いを自覚するのは結構簡単よ」

 

「...頑張ります」

 

この後練習に戻ったら顔を近づけていたのを花梨に見られていて、殺されかけたのはまた別の話

 

咲夜side

 

風呂から上がったらもう誰もおらず、奏斗と2人で昼飯を食べていた...のはいいいのだが、そこからの記憶がまるでない。記憶障害にでもかかったのだろうか?気づけばハンモックの上で寝ていて、起きたらもう夕方になっていたということだけ理解した

 

「ふわぁ〜...ねむ」

 

「あんだけ寝てまだ眠いとか...まぁ俺もだけど」

 

「俺昼飯食ってからの記憶がないんだよな。何があった?」

 

「何がって、疲れたとか言ってお前死んだような顔でハンモックセットしてそのまま寝たんだよ。それに乗じて俺も寝た」

 

「やばい。友希那に殺される」

 

「俺も蘭に殺されかねない。後で謝らないと...」

 

きっと探していたことだろう。まさか寝てて来れなかったとかバレたら絶対殺される(もうバレてる)

 

「何だろうな。何か忘れてる気がするんだよな...」

 

「奏斗もかよ。でも奇遇だな、俺もだ」

 

2人で考えること3分、一向に思い出せなかった

 

「そういえば、昼飯誰が作ったんだろうな」

 

「華蓮だろ。あの冷やし中華美味かっ...た...あ!」

 

「どっどうした?」

 

「晩飯の材料がない!ヤベェ今すぐ買いに行かねえと...!」

 

「おっ俺も行く!何にする!?」

 

「時間もないしカレーで行く。14人前計算しといてくれ」

 

「了解!」

 

そうだよすっかり忘れてた。初日から晩飯抜きとか洒落にならない。此処から歩いて10分ほどのところにスーパーがある。勿論、月読命財閥営業のが

 

俺たちは全速力でスーパーへ向かった




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第32話

奏斗side

 

近くのスーパーで買い物を済ませ俺たちは全速力でカレーを作っていた。14人前はクソ重かった...

 

「咲夜、野菜の方はどうだ?」

 

「もう少しで終わる。人参だけ切っといてくれ」

 

「了解。終わったら順番に炒めていこう」

 

こう見えて俺も料理はできる。何せ1人暮らしだからな。咲夜とか華蓮さんには負けるけど、中学の頃は調理実習で周りに人だかりができていた

 

野菜を全て切り終わり、硬いものから順に炒めていく。その間に肉の仕込みやカレールーの準備などを同時進行でやっていく

 

「彼奴らの好き嫌い聞くの忘れたけど大丈夫だよな?友希那は苦いのが苦手としか聞いてないけど」

 

「俺もよく分からん。まぁこれだけあれば嫌いなもの食わんとも足りるだろ」

 

蘭は普通にありそうだが、紗夜はどうなのだろうか?見た目はクールなのに中身はポンコツなんだよなぁ...

 

「今夜は晴れだし月もよく見れそうだな」

 

「またかよ...咲夜本当に月好きだよな」

 

「バンド名もそうだしな。特に三日月は見てて心が落ち着く」

 

俺たちが組んでいるバンド、Xaharは咲夜が考えたものだ。意味はマルタ語で月だ

 

「昼間寝たせいで夜は寝れそうにないな...あの場所行くか」

 

「いい加減行き方教えろよ。俺も見たいんだよ彼処からの景色」

 

この屋敷は2階建てなのだが、1部だけ3階がある。丁度咲夜の部屋の上でベランダもある。どうしても行き方が分からず困っているのだ。唯一咲夜だけ知っている

 

「頑張って探せ。俺だって見つけるの苦労したんだよ」

 

「ハァ...そろそろ柔らかくなったか?肉も入れよう」

 

喋っていると案外時間の経過が早く感じるものだな。何事もなく順調に進んでいき、気がつけばカレーは完成していた

 

「やっとできた...こんなに作ったの初めてだぞ」

 

「そうだな...蘭たちに手料理振る舞うの初めてかも」

 

「言われてみれば俺もそうだな。普段は今井がクッキーやら持って来るからいらないと思ってたし」

 

「あの人見た目と中身に違いがありすぎる。ギャルのくせに面倒見がいいとかどうなってんの?」

 

人は見た目で判断してはいけない。まさしくそれに当てはまるな

 

「そろそろ呼んでくるか。カレーも冷めるし風呂はいる時間とかも考えた方が良さそうだ」

 

「それに夜も練習やるだろうからな、流石に見てあげないと...」

 

昼寝してて行けなかったとバレるだけでやばいのに(バレてる)夜まで休んだら蘭に殺される

 

「俺はAfterglow呼んでくるから咲夜はRoselia頼む」

 

「分かった」

 

何とかして機嫌をとれるように頑張ろう...

 

スタジオの前に立ち、深呼吸をしてから扉を開け中に入る

 

「失礼します...晩御飯できたのでみなさんどうぞ〜」

 

「...分かった。みんな行くよ」

 

詰んだなこれ。蘭の顔が明らかに不機嫌だ

 

「全く...後で謝っときなさいよ」

 

「はい...」

 

今日は華蓮さんがAfterglowを見てたらしい。と言うことは柏はRoseliaか

 

華蓮さんとスタジオを出ると死んだような顔で歩いてくる咲夜がいた。その後ろには蘭と同じく不機嫌そうな湊さんとその一行

 

「ハァ...ほら、翔も琉太君も行くよ。今日はカレーかな?」

 

匂いだけで今日の晩御飯が分かった華蓮さんが上機嫌な様子で歩いて行く。そういえばこの人、カレーめちゃくちゃ好きだったわ

 

全員が食堂に着き、席に座る。とても気まずい。この空気嫌い

 

「えっと...皆様お疲れ様です。それでは、いただきます」

 

『いただきます』

 

咲夜の掛け声で一斉に食べ始めた一行。我らながら結構なできなので、まぁ美味い。少しばかりニヤついてるやからもいるが...

 

「とりあえず翔、食べたら話があるから私の部屋に来なさい」

 

「...承知いたしました」

 

安定の招集。よかった、俺はかからなかった...と安心してたら

 

「琉太、あんたも後であたしの部屋に来てよ」

 

「...分かりました」

 

ダメだ、死ぬ未来が見えてくる。史上最高の恐怖だよ

 

その後は沈黙が続き、全員順調に食べ終わった。片付けは華蓮さんと柏がやってくれるとのことなので、咲夜は湊さんの、俺は蘭の部屋に行った

 

「失礼します...」

 

扉をノックし、蘭の部屋に入る。中には明らかに不機嫌そうな蘭がいた

 

「適当に座っていいよ。最も、琉太たちの場所なんだけど」

 

正座されられると思ったら普通にソファに座っていいとのこと。ここまでくると話の内容が分からないため余計怖い

 

俺は言われた通り適当に座ると、蘭はその隣に座ってこちらに身体を預けてきた

 

「らっ蘭さん?どうしました?」

 

予想外の行動に少し焦る

 

「昼間寝てたよね?バルコニーにハンモックセットして」

 

「!?」

 

バレてた。さようなら、俺の人生...

 

「別にそんな焦らなくてもいいよ。疲れてたんだろうし、()()()()()()()()()怒ってない」

 

なんだ怒ってないのか。心配する必要なかったな。ん?そのことについては?

 

「と言いますと...別のことに怒ってらっしゃると?」

 

「最初の休憩のときに探して、そのときは湊さんが先に見つけててあたしも後から見つけた。疲れてただろうしそのまま置いといたけど」

 

「...なんかありがとう」

 

「問題はその後、夕方の休憩になってもう1回見に行ったらいなかった」

 

「あ...」

 

晩飯の材料がないことに気づき急いで買いに行ったことを言っているのだろうか?

 

「今思えば夜ご飯の材料買いに行ったんだろうけど...凄く心配した」

 

「え?」

 

最初は言っている意味が分からなかった。俺がいなくなったところで心配する人なんて、咲夜ほどじゃないがいないと思ってた

 

「何も言わずにいなくなって、練習にも来なくて...帰ってきたことすらも言わずで...凄い心配したんだよ?」

 

蘭の声は少しずつ震えていき、遂には身体まで震え出した

 

「おい落ち着け。確かに悪かったけど...」

 

「落ち着けるわけないじゃん!もし琉太に何かあったらって思うと苦しかった!最悪死んじゃうんじゃないかって何度も思った!連絡しても何も返してくれなかった!」

 

「っ!」

 

ようやく自分犯した失態に気づいた。そりゃ心配もするよな...

 

「あんたに何かあったらあたしは...」

 

俺は蘭が言い切る前に強く抱きしめた

 

「すまなかった。いろいろ焦ってて全然気づけなかった。反省してる」

 

「...バカ」

 

「本当にごめん。お前がそこまで想ってくれてるなんて考えもしなかった」

 

「あたしだって分からないよ。素直じゃないから余計に」

 

「そうか?蘭のそういうところ、俺はいいと思うけどな」

 

「なぁ!?ちょっと、それどう言う意味!?」

 

「そのままの意味さ。他の連中は練習してるんだろ?俺たちも行くぞ」

 

「昼間の分も教えてよ」

 

「りょ〜かい」

 

俺たちは部屋を出てスタジオへ向かった

 

蘭side

 

気づけばあたしは琉太に怒鳴りつけていた。感情を抑えられなくなって、ひたすら思ったことを吐き出していた

 

そんなあたしを彼は強く抱きしめてくれた。彼の体温が直に伝わってきて心が落ち着いた。あたしは昼間湊さんに言われたことを思い出した

 

『素直になるのはとても難しいけれど、自分の想いを自覚するのは結構簡単よ』

 

今ならあの言葉の意味が分かるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

あたしは妹尾琉太が好きだ

 

でも、素直になって気持ちを伝えるのは今の状態では無理だ。あたし自身中々素直になれなくて、周りにきつい態度をとってしまうこともある

 

「どうした蘭、顔色少し悪いけど...」

 

「何でもないから、それより早く行こ?」

 

あんたの所為だと言いたいが、ここは我慢しなければならない

 

「無理はするなよ。夜遅くなるのもあれだから、10時半までな」

 

「...あと30分追加」

 

「折角2週間の長い合宿だ。体調崩したら意味がないだろ。どうしてもって言うなら個人で付き合ってやる」

 

「ありがと」

 

なんだかんだ言って最後まで付き合ってくれる優しさを彼は持っている

 

「琉太ってさ、ボーカルもやるの?」

 

「たまにやるな。でも蘭程上手くないし、花梨の方がレベル高い」

 

「そうなんだ...明日教えてもらおうかな」

 

「そうするといい。歌の実力なら軽く湊さんを超えてるから、教えられたことを全て吸収できれば湊さんを超えられるかもな。もっとも、彼女も花梨に教わってるけど」

 

あの子って、そんなに凄かったんだ...確か巴の妹と同い年って聞いたけど人は見かけによらないものだね

 

2人で話してるうちにスタジオに着き、琉太と祐奈さんのレッスンが始まった。最初は個人練習から始まり、休憩を挟みながらやった

 

「何か久し振りに蘭のギター聴いたけど、随分とレベル高くなったな。癖まで俺に似てきたし」

 

「そりゃあんたから教わってるんだし。歌の方はどうかな?」

 

「サビの前でキーを外してたからそこ注意な。そこまで目立ったミスじゃないからすぐに修正できる」

 

「分かった」

 

「今日はギター持ってきてるんだし、セッションやらないか?」

 

「いいの?」

 

「勿論、俺は蘭とやりたいんだよ」

 

「じゃっじゃあお願いします...」

 

「急に敬語なるなって。それじゃあボーカルは任せたぞ」

 

「分かった」

 

あたしは素直じゃないし、周りに変な態度をとってしまうことがある。それなのに、彼の前では少しだけ素直になれる。いつかこの気持ちを伝えたいと強く決めた




読了ありがとうございました

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第33話

祝お気に入り100件突破!

いつもありがとうございます!


咲夜side

 

友希那に心配をかけるなと説教を受け、練習が終わった後俺は屋敷の3階で星を見ていた。この場所は俺たちがここに初めて来たとき丸1日かけて探し当てた場所だ

 

「相変わらず綺麗だな...」

 

この場所は俺のお気に入りの1つで、晴れの日は月や星、その光を反射した海が見える最高の場所だ

 

「あっ松原に電話しないとな...」

 

あの日以来、俺と松原は毎晩電話をしている。彼女に頼まれたから仕方ないのもあるが、俺自身結構心を落ち着かせたりできる時間でもある

 

「もしもし、花音さん今大丈夫ですか?」

 

『うん、大丈夫だよ。いつもごめんね、こんな時間に電話させちゃって』

 

「中々会えないんだし、約束なので構いませんよ。俺も花音さんと話すの結構好きなので」

 

『ふぇぇ!?いっいきなりずるいよ〜!』

 

「何がですか?」

 

普通に本心を言っただけなのに何故そのようなことを言われなければいけないのだ?人の心というのはさっぱり分からん

 

『翔君、いつもより時間遅かったけど何してたの?』

 

「今海の近くの別荘にいるんですけど、そこでRoseliaとAfterglowの合宿が行われてるんですよ。友希那がどうしても行きたいと言ったので連れていったんですが...」

 

『...そうなんだ。大変だね』

 

気のせいか?松原の声から活気が失われたのは

 

「どうしました?なんだか元気なさそうですけど...」

 

『うっううん!何でもないよ!それより、どのくらいそっちにいるの?』

 

「だいたい今日から2週間を予定してますね。これから毎日練習となると少し気が重いですが」

 

本当に、その気力はどこから出て来るのだろうか?俺たちもここで練習したが、午前だけしかやってなかったぞ...

 

『頑張ってね!そうだ、帰って来たら一緒に遊び行かない?オススメの水族館があるんだけど』

 

「それはいいですけど...迷子になりませんか?」

 

『慣れてる場所なら大丈夫...だと思う』

 

「おい」

 

そこは断言しろよ。こっちが不安になってくるだろうが

 

『えへへ...じゃあ楽しみにしてるね。今度私のドラム見てね!』

 

「分かりました。ではまた明日」

 

『おやすみなさい』

 

やっぱりこの時間はいいな...心が癒される

 

気が楽になったところで自分の部屋に戻りフカフカのベッドで寝た

 

花音side

 

家で普通に夜ご飯を食べて宿題を終わらせ寝ようとしたとき、ある人から電話がかかってきた。相手は私が大好きな翔君だった

 

『もしもし、花音さん今大丈夫ですか?』

 

彼に頼んで毎晩電話させてもらっているとはいえ、私は彼の声が聞けて嬉しかった

 

「うん、大丈夫だよ。いつもごめんね、こんな時間に電話させちゃって」

 

『中々会えないんだし、約束なので構いませんよ。俺も花音さんと話すの結構好きなので』

 

「ふぇぇ!?いっいきなりずるいよ〜!」

 

わざとなのか分からないけど、翔君は私がドキッてすることを平気で言ってくる。おかげで毎日顔が熱くなる始末だ

 

『何がですか?』

 

あっ彼無意識で言ってるね。口調からして素で聞いてるもん...鈍感にも程があるよ

 

「翔君、いつもより時間遅かったけど何してたの?」

 

恥ずかしくなってきたので無理矢理話を逸らした。鈍感な彼なら気づかないだろう

 

『今海の近くの別荘にいるんですけど、そこでRoseliaとAfterglowの合宿が行われてるんですよ。友希那がどうしても行きたいと言ったので連れていったんですが...』

 

翔君、友希那ちゃんのこと呼び捨てにしてたんだ...私はさん付けだし敬語で話されてるからそのことに嫉妬してしまう。でも、問題はそれだけじゃなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして私とは会ってくれないんだろう...

 

翔君は自分と関わりすぎると私が危険な目に遭うって、心配して遠ざかって行った。それなのに、何故友希那ちゃんたちはいいのだろうか?あってはいけない黒い感情が湧いてくる

 

「...そうなんだ。大変だね」

 

『どうしました?なんだか元気なさそうですけど...』

 

「うっううん!何でもないよ!それより、どのくらいそっちにいるの?」

 

彼に悟られないようになんとか取り繕う。もっとも、彼なら気づかないかもしれないが

 

『だいたい今日から2週間を予定してますね。これから毎日練習となると気が重いですが』

 

「頑張ってね!そうだ、帰ってきたら一緒に遊び行かない?オススメの水族館があるんだけど」

 

ダメ元で誘ってみる。断られると分かっているのに、僅かな希望を頼りに誘ってしまう。しかし、彼から返って来た返事は予想外のものだった

 

『それはいいですけど...迷子になりませんか?』

 

なんと引き受けてくれたのだ。しかも心配してくれたのも、私が方向音痴なことくらい。理由は分からないけど、どうでも良くなるくらいに嬉しかった

 

「慣れてる場所なら大丈夫...だと思う」

 

『おい』

 

折角良い雰囲気になったのに、私の一言で彼からツッコミを受けてしまった

 

「えへへ...それじゃあ楽しみにしてるね。今度私のドラム見てね!」

 

『分かりました。ではまた明日』

 

「おやすみなさい」

 

また明日ということは、明日も電話してくれるのだろう。彼の優しさに嘘がないことを祈りたい

 

「あっ呼び方変えてもらうの忘れちゃったな...」

 

友希那ちゃんが大丈夫なら私も大丈夫だろうと思ってたのに、頼むのを忘れてしまった

 

「まぁいっか。明日頼も」

 

吹っ切れた感じで私は深い眠りについた

 

咲夜side

 

翌日、朝飯を食べた俺たちは早速練習に取り掛かっていた。今日は華蓮がRoseliaについている

 

「どうでしたか?」

 

「特に目立ったミスもなかったし、よかったと思うよ。あとは表現力とかライブ用に少しアレンジしてみたりとかしたらいいんじゃない?」

 

「そうだな。リサさんと白金さんは俺が見る。姉さんは氷川さんとあこを頼む」

 

「了解!それじゃあ早速やるよー。午前中はそれだけやろっか」

 

華蓮はドラムが得意だからあこは相当レベルが高くなりそうだ...氷川は微妙

 

「こちらもやりましょうか。まずは白金さんから、リサさんは友希那と少し待っててください」

 

「私は何をすればいいかしら?」

 

「友希那はリサさんと合わせながら自分なりに改善点を探してみろ。さっきもミスはなかったが、声に張りがなかったからそこ重点的にな」

 

「分かったわ」

 

「友希那、早速やろ!」

 

「えぇ」

 

「その、よろしくお願いします...」

 

「こちらこそよろしくお願いします。ではBLACK SHOUTのイントロのアレンジしてみましょう」

 

「分かりました」

 

それにしても、白金ってRoseliaの中で1番安定してるんじゃないか?今まで見てきた中で1番ミスも少ないし...唯一、臆病なのがネックか

 

「白金さんはどうしてRoseliaに入ったんですか?」

 

「え?」

 

「少し気になったんですよ。なんだかイメージと違ったので」

 

「私...昔から人が苦手で視線を感じると緊張で動けなくなってしまうんです...だから、そんな自分を変えたいと思って」

 

成る程ね...そういうタイプか

 

「だったら、視線を気にしなければいい。メンバー残り背中をひたすら追いかけるように見ればいい」

 

「メンバーの背中を...」

 

「友希那やリサさん、氷川さんの背中を見てれば自然と人目なんか気にならなくなりますよ。あこは横にいるし、友達を近くに感じられるでしょう」

 

「...分かりました。やってみます」

 

「そうすれば自然と緊張も解けて自由な表現が可能になります。それではアレンジの練習をしましょう」

 

「はっはい!」

 

それから30分程つきっきりで練習を見たが、飲み込みが速すぎて正直怖い

 

「どっどうでしたか?」

 

「めちゃくちゃ良かったです...この調子だと直に抜かされるな。ちょっと待っててください」

 

「何処に行くんですか?」

 

「自分のキーボード持ってきます。一緒にやりますか?」

 

「よっよろしくお願いします」

 

昨日来たときある程度のメンテナンスは済ませたが、2年程使ってないのでチューニングに時間がかかりそうだ

 

この後白金とセッションしてたら楽しくなって今井に怒られたのは別の話

 

リサside

 

アタシは翔に言われて、友希那と一緒に練習をしていた。ライブ用にアレンジしようということで、今は2人で考えている

 

「う〜ん...中々いい感じのがないな...」

 

さっきから色々なやつを試してるけど、これっ!ってやつが見つからない

 

「ここはリズムを少し変えてみたらどうかしら?そうすればテンポが良く聴こえると思うわ」

 

「分かった。友希那はどう?いい感じ?」

 

「こっちは順調よ。翔が指摘したところもよく分かったし」

 

友希那って、翔と会ってから棘がなくなったっていうか丸くなったよね。今では翔にメロメロだし

 

「燐子が独占してるから悔しい?」

 

「ちょっと!からかわないで!///」

 

「嘘だ〜。さっきから視線がチラチラ翔の方に向いてるもん」

 

「!?こっこれは...向こうは捗ってるのか気になっただけで...///」

 

「顔赤いよ友希那」

 

「誰の所為だと...」

 

「認めたね」

 

「っ〜〜〜〜〜///」

 

初心だね〜。ちょっとからかっただけでこんなに顔が赤くなるんだもん

 

「まぁ友希那の恋バナは置いといて...翔遅いな...」

 

中々来てくれないので翔の方を見ると、キーボードを持ってきた翔が燐子とセッションしてた。アタシは2人の元へ行き話しかける

 

「ヤッホー2人とも!調子はいかがかな?」

 

「白金さんの飲み込みが速すぎて正直怖いです。というわけでもうしばらくお待ちください」

 

「アタシのことも見てくれるんだよね?さっきからずーっと燐子のこと見てるけど」

 

「あと1時間くらいしたら...分かりました行きます!行くからその笑ってない笑顔はやめてもらおうか!」

 

笑ってない笑顔って何かな?アタシは満面の笑みを浮かべてるはずなんだけどなぁ...

 

「ハァ...すみません白金さん。あとはなんとか頑張ってください」

 

「はっはい...翔さんも頑張ってください」

 

「は〜い...」

 

チラッと友希那の方を見てみると、不機嫌そうな顔を浮かべていた

 

「ゆっきな〜どうしたのそんな顔しちゃって〜」

 

「別に...何でもないわ」

 

「体調悪いのか?どれどれ...」

 

翔が友希那の額に手を当てる。すると友希那の顔はリンゴとかトマトよりも赤くなった

 

「熱はないが...おっおい、顔赤いけど大丈夫か?」

 

「なんでもないわ///」

 

よくこれで気づかれないよね...感情がない故の鈍感さなのかな?

 

「翔、まずはその鈍感さを直しなよ」

 

「はい?何がですか?」

 

ダメだこりゃ...全く自覚してない

 

「まぁいっか。それじゃあよろしくね!」

 

「分かりました」

 

この後アレンジの練習をしてたら友希那の機嫌が最高に悪くなって翔と口をきかなかったのは別の話




読了ありがとうございました

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第34話

テストの所為で考える時間がなくてネタが浮かばなかった...
なので今回いつもより短いです


柏side

 

私は奏斗さんと一緒にAfterglowの練習を見ていた。面と向かって話すのは初めてなので少し緊張した

 

「ふぅ...どうだった?」

 

「ドラムが少し走り気味だったと思います。あとはベースが音外してました」

 

ほぼ初対面とはいえ遠慮しては彼女たちの為にならないので容赦無く言う

 

「モカがコードチェンジ1回遅れたのと、蘭もキーを外してたところあったからしっかりな。つぐみは安定してたよ」

 

それにしても、幼馴染で組んだバンドにしてはレベルが高い。Roseliaには流石に劣るが、大した差はない

 

「よし、それじゃあ個人練習移ろうか。俺はギターの2人見るから、花梨は他の3人よろしく」

 

「ちょっと待ってください。私キーボード無理なんですが」

 

「無理とか言いながらできるだろ。それじゃあよろしく」

 

「...」

 

少しムカついたので辺りに殺気を放つ。それを感じたのか奏斗さんは

 

「ごめんなさい調子乗りました」

 

「よろしい」

 

「ねぇ、私花梨ちゃんが怖くなってきたよ...」

 

「アッアタシもだ。なるべく怒らせないようにしないと...」

 

「さて、時間も惜しいので始めましょうか。ドラムは人並みにはできるつもりなので安心してください。ベースは得意なので覚悟しといてくださいね」

 

「「はっはい!」」

 

それから順番に教えていったが、2人とも飲み込みが速い。合宿中に相当レベルが上がりそうだ

 

その後も順調に練習を進めて行ったが、蘭さんが友希那さんと同じタイプだったので休憩しなかったら潰すと脅しておいた

 

奏斗side

 

Afterglowの練習もひと段落つき、俺は咲夜と一緒に昼飯を作っていたのだが...

 

「なぁ、本気でやるのか?」

 

「当たり前だろ。このために昨日から仕込んでおいたんだから」

 

俺たちが作ろうとしているのはパンだ。しかも生地から。咲夜曰く、山吹ベーカリーを紹介してくれたモカへの礼らしい

 

「何種類くらい作るんだ?俺あんまり分からないんだけど」

 

「5種類くらいで考えてある。昨日のカレーを使ってカレーパンでもと思ってる。あとはクロワッサンに塩パン、クリームパンにチョココロネ...」

 

ハードル高すぎないか?クロワッサンとかどうやってあの形にすんのさ...

 

「作り方なら事前に調べてある。早速取り掛かるぞ」

 

どうやら生地はできてるみたいなのでクリームやチョコの準備、パンの成形などを淡々と進めていく。案外簡単だったわこれ

 

1時間程で終わり、順番に焼いていく。あとは咲夜が1人でやるとのこと。俺はスタジオに戻り再びAfterglowの練習に参加する

 

「ただいま〜」

 

「おかえり。お昼ご飯はできた?」

 

「もう少し。あとは翔がやってくれるんだとよ。モカ、楽しみにしとけよ」

 

「?は〜い」

 

モカは案外頭良いし気づくと思ったが、そうでもないみたいだ。パンの焼き上がりを楽しみにしながら蘭たちの練習に付き合った

 

咲夜side

 

パンが焼き上がり、俺はRoseliaとAfterglowを呼びに行った。友希那にはもう少し見てほしいと言われたが、昼飯作ってんだから仕方ない。午後の練習つきっきりで見てやるか

 

今回はモカのために作ったようなものなので、まずいなんて言われたら幾ら何でもショックだ

 

「Roseliaのみなさ〜ん昼飯できましたよ」

 

「分かったわ。行きましょう」

 

「姉さん、勝手に食べるなよ。俺はAfterglow呼び行ってくるから」

 

「私はそんなことしないから...ていうか今日の昼ご飯何?」

 

「行けば分かる」

 

さて、モカがどんな反応するかだな...やばい結構不安なってきた

 

「お前ら、昼飯できたから一旦切り上げろ」

 

「おっできたか。よしみんな、とりあえず食うぞ!」

 

「もうお腹ぺこぺこだよ〜」

 

「アタシもお腹空いたな。ラーメンか?」

 

「残念ながらラーメンではないな。明日の昼飯それにしてやる。モカ、楽しみにしとけ...よ?あれ?モカは?」

 

「モカなら凄い勢いで走ってったよ。おかげでお昼ご飯が何か分かったけど」

 

「はぁ!?お前ら急げ!でないと食い尽くされるぞ!」

 

普通の人なら食べきれないくらい作ったつもりだが、彼奴の場合普通が通じないからな...全員で食堂へ走って向かうと今井に止められているモカがいた

 

「ちょっとモカ!まだみんな来てないから待ちなって!」

 

「パンが〜あたしに食べられたいって言ってるよ〜」

 

わけ分からん

 

「まぁ見ての通り今日はパンを作った。好きなだけ食べればいいさ」

 

『いただきます!』

 

掛け声と同時に全員がパンを皿に移していく。バイキングみたいな感じで置いといたが、これなら好きなだけ食べれるだろう

 

「ん〜美味しい!翔、今度作り方教えて!」

 

「また機会があればそのときに。モッモカ、その、どうだ?」

 

不安なので聞いてみると彼女はパンを手に持ったまま固まっていた。もしかしてまずかったか?

 

「えっと...まずかった?結構いい感じでできたと思ったんだけど...」

 

「おいし〜い」

 

「へ?」

 

「これは、山吹ベーカリーにも劣らぬ美味しさですな〜。しょ〜くん天才〜?」

 

「よかった〜!」

 

予想してたのと真逆の反応が出てきたので思わず叫んでしまった。いや、マジで焦ったわ

 

「これ全部貴方が作ったの?」

 

「琉太にも協力してもらってな。上手くできて何よりだ」

 

友希那からは信じられないといった目で見られるが、俺たちがガチでやればこんなもんだ

 

「午後の練習はしっかり見てもらうわよ」

 

「分かってるよ。午前は昼飯も作らなきゃいけないし我慢してくれ。なにしろ14人前だぞ?時間もかかるっつうの」

 

「だからって...」

 

あれ、友希那の様子がおかしいな。なんか不機嫌?なのか知らんけどあまり浮かない顔をしている。おいこら華蓮、横でニヤニヤしてんじゃねえ。あと柏も、呆れた顔をするな

 

「しょうがないなぁ...夜ご飯は私と花梨で毎日作るから、昼は翔たちに任せていいかな友希那ちゃん」

 

「...分かりました」

 

おい、何故そこでお前が許可を出す?普通聞くなら俺か奏斗だろう

 

「しっかし、最近の女の子は素直じゃないねぇ。男子は鈍感ばっかだし」

 

そう言いながら俺や奏斗の方を見る華蓮。だから鈍感って何のことさ...

 

「ちょっと待ってください、俺もですか?こいつと比べたら全然ましだと思うんですけど...」

 

「どの口が言ってるのかしら...」

 

「おい紗夜、なんか言ったか?」

 

「なんでもありません」

 

「もう考えるのが怠くなってきたな。ご馳走様、準備してくる」

 

「私も行くわ」

 

ここまで言われては流石に申し訳ないので速めに食べて準備する

 

部屋に戻りギターとベース、キーボードを順番にスタジオへ運びチューニングを行う。やはりギターはなかなか上手くできない

 

「大体こんなもんか。友希那、どれからやりたい?」

 

「そうね...ONENESSのサビのギター頼めるかしら?」

 

「ギターかよ。まぁ午前見てあげれなかったしな、分かった」

 

渋りながらも俺は言われた通りにギターを弾く。最近友希那に甘くなってきたかもな

 

「そういえば、そろそろ新曲どうかと思うんだが」

 

「そうね...この合宿の間に1曲くらいは作りたいけど、中々良い案が浮かばないのよ」

 

「だったら、明日は休憩がてら外のビーチで遊ぶか?1日くらいなら氷川さんも乗ってくれるだろう」

 

彼奴何かと友希那が言えばそれで納得しちゃうしな。チョロいもんだ

 

「そうするわ。翔も作曲手伝ってもらっていいかしら?」

 

「作詞なら構わんぞ。曲の方もできる限り協力させてもらう」

 

曲作りもLegendary以来か...また行き詰まらなきゃいいんだが

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました

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第35話

祝UA20000突破!

いつもありがとうございます!


友希那side

 

合宿3日目、私たちは屋敷の側にある海で遊んでいた。というよりは私は景色を見たり翔と話したりくらいしかしてないが。リサやあこははしゃぎ回っている

 

私たちが休むと言ったらAfterglowも休むことにしたそうだ。今は美竹さん以外の4人とリサ、あこに花梨に祐奈さんの8人でビーチバレーをしている

 

「全く...どこにそんな気力があるのかしら?」

 

「そんなこと言ったらどこに毎日丸1日練習気力があるんだって話だぞ」

 

「あのくらいは当然よ。頂点に立つためならあの程度まだ足りないくらいだわ」

 

翔からは呆れたような視線を送られたが、こればかりはどうしようもない

 

「まぁ今日はゆっくり休めよ。片隅に新曲について置いとくくらいで十分だ」

 

「えぇ、そうするわ」

 

因みに今の格好は水着の上からパーカーを羽織っている状態。何故水着があるんだと思ったが、どうやらリサがお母さんに頼んで荷物に仕込んだらしい

 

「それにしても、暑くないのか?幾ら日陰とはいっても流石にきついだろう」

 

「それは...」

 

確かに今日はとても暑い。本当はパーカーを脱ぎたいのだが、彼に水着姿を見られるのが恥ずかしいのだ。ただでさえ異性に見られるのが恥ずかしいというのに相手は私が好きな翔、恥ずかしくないわけがない

 

「脱水症状やらにはなるなよ。折角の休みだ、体調崩したら勿体無い」

 

「分かってるわ」

 

今私の視界にはビーチで遊ぶみんな、太陽の光を反射した幻想的な海が広がっていた

 

「綺麗ね...」

 

あまりの綺麗さに無意識に声が出てしまった

 

「昼間もいいが、夜の方が俺は好きだな。月明かりと星の光を受けて輝く海がなんとも言えなくなるんだ」

 

「今晩は晴れだし、その景色も見れるんじゃないかしら?」

 

「だといいな。いつも例の場所から見てるが、普段の部屋から見るのもいいかもな」

 

「あの3階のこと?私も少し探して見たけれど、階段なんてどこにもないしさっぱり分からなかったわ」

 

「逆に分かったら凄えよ。どうしても見たいって言うなら、今夜俺の部屋に来い」

 

「いいの?琉太や花梨も知らないのに私が知るとなると少し申し訳ないのだけど...」

 

「花梨はともかく、琉太は勘がいい。そのうち気づかれるさ」

 

「なら、お願いするわね」

 

少々納得いかないところはあるが、彼の好意に甘えることにした

 

「さっきから思ったんだが、氷川さんと蘭はどこ行った?琉太も見当たらねえし」

 

「美竹さんと紗夜なら琉太といるはずよ。もしかしたら2人が取り合いしてるかもしれないわね」

 

「取り合い?何の?てか誰が?」

 

「...」

 

呆れた。彼は自分に対する想いだけでなく、他人の色恋沙汰にも鈍感らしい。中学の頃あれだけ告白されてたのだから、もう少し感じやすくなっても良いのではないだろうか?

 

「貴方は少し他人の気持ちを分かるようにした方がいいと思うわ」

 

「すいませんねぇ。生憎そのような感情は持ち合わせていないものでして」

 

「だったら...私が貴方の感情を取り戻してみせる」

 

「...好きにしろ」

 

そう言って彼はそっぽを向いてしまった。こちらが顔を近づけても一向に逸らされてしまう

 

「もしかして照れてるのかしら?顔、少し赤いわよ?」

 

図星だったのか、彼の顔はより赫みを増していった。煌めく青い海と対照的な彼の赤い顔がとても美しい

 

「うるせえ。もういい、あの場所には連れて行かない」

 

「ごめんなさい」

 

そのことを言われたらこちらが何も言えなくなってしまう。暫く沈黙が続く。彼の目はどこか遠くを見ていて、とても寂しそうだった

 

「翔?どうしたの?」

 

「いつまで続くんだろうな」

 

「え?」

 

「この日常はいつまで続くんだろうなって。俺は今まで意味のない時間を過ごしてきた。生きる価値もないんだし、とっとと死ねばいいのにと思っていた」

 

「...」

 

私の耳に聞こえるのは彼の声と波の音、僅かな風の音だけ。それがあまりにも悲しくて、儚くて私は顔を俯かせてしまう

 

「でも、4ヶ月前お前たちRoseliaが闇に飲まれてた俺を光へと導いてくれた。お前たちに賭けて本当に良かったと思ってる」

 

「翔...」

 

「さっきも言ったが、俺には感情がない。こんなとき何を言えばいいのかわからないけど、これだけは言える

 

 

 

 

 

本当にありがとう、友希那」

 

「っ...」

 

私は嬉しさのあまり涙が出てしまった。でも、それと同時に悲しかった。まるでもうすぐ彼と会えなくなるかのような

 

「翔、貴方は...ずっと私たちの、私の側にいてくれる?」

 

「ずっとか...それはまた難しいお願いだな」

 

「...」

 

「別に嫌なわけじゃない。ただ単に俺がそこまで生きていられるかが問題だな。それに、いずれは友希那まで狙われかねないし」

 

「そんなもの...どうだっていい」

 

「友希那?」

 

「たとえ命を狙われようが構わない!私は貴方と一緒にいたい。だから...一緒にいるって言ってよ」

 

「...腹括るか。1つ条件だ。もし俺に何かあったらそのときは俺のことを忘れろ。そうならないためにもある程度力は尽くす。だけど、俺たちではどうしようもできないくらいに奴らの力は大きい。それだけは分かってくれ」

 

「...分かったわ」

 

「まぁ安心しろ。友希那に何かあったら必ず俺が助けに行ってやるから」

 

「ありがとう」

 

それから私たちは暫く景色を見たあと、みんなと合流して昼食を食べに街まで行った。紗夜と美竹さんはというと琉太と一緒に辺りを散歩していたらしい。琉太の取り合いは起こらなかったみたいだが

 

「なぁ、俺今いい歌詞が浮かんだんだが」

 

「奇遇ね。私もいい感じの曲が浮かんだわ」

 

「まぁ作るのは夜の景色を見てからでいいだろ。その方がもっといいのが出てきそうだ」

 

「そうね...私もそうするわ」

 

この後電車で街まで行ったのだが、翔が乗り物酔いで何も食べられなくなってしまったのは別の話

 

紗夜side

 

今日は湊さんの提案により練習は休みになった。新曲を作るために景色などを見たいらしい。折角なので私も休むことにした。第一に休まなかったら花梨さんに何かされそうで怖い

 

「ふわぁ〜。何しよっかな...」

 

琉太は何をするのか決めてないみたいだった。私たちに便乗してAfterglowも休むことにしたらしいので、暇になったのだろう

 

「あっあの、よかったら一緒に散歩しませんか?」

 

彼との距離を縮めるいい機会だと思ったので少し緊張しながらも誘ってみる

 

「それはいいけど、彼奴らと一緒に遊ばなくていいのか?」

 

「あの雰囲気について行けるとはとても思えないので...」

 

外では美竹さん以外のAfterglowの4人と今井さんに宇田川さん、祐奈さんに花梨さんの8人でビーチバレーをしていた。白金さんは審判を行っている

 

「紗夜ならいけると思うけどな。まぁあの2人の動き見てたらそうなるか」

 

普通にやる分にはいいのだが、祐奈さんに花梨さんの動きが最早プロを超えている。アタックのスピードと威力が桁違いだし、顔が真剣だ

 

「じゃあ俺のお気に入りの場所連れてってやるよ。あの場所は俺以外知らないけど、今回は特別な」

 

「いいんですか?」

 

「散歩したいと言ったのは紗夜の方だろう。ほら、行くぞ」

 

そう言って、彼は手を出してきた。最初は意味が分からなかったけど、すぐに手を繋ごうととしているのだと察した。私がその手を握ろうとすると

 

「琉太」

 

何処に行っていたのか、美竹さんが私たちの元へ歩いてきた

 

「蘭か。何処に行ってたんだよ」

 

「少し散歩してただけ。それより、あたしも連れてってよ。そのお気に入りの場所」

 

よく見ると彼女の顔は少し不機嫌そうだった。私はすぐに彼女が琉太のことを想っていると分かった

 

「俺は構わないけど...紗夜はいいか?」

 

正直言ってあまり来て欲しくなかったが、美竹さんと少し話したいことができたので私は小さく頷いた

 

「それじゃあ行こうか。あまりバレたくないから、静かに行くぞ」

 

「「分かりました(分かった)」」

 

それから彼に案内され15分程歩いた。砂浜を歩くので、結構足の裏が痛い。まだ着かないのかと聞くが、もう少し待てとしか返ってこない。聞くところによると此処も別荘の敷地内らしい。更に10分程歩いたところで私たちを待っていたのは

 

「此処だ。本当は夕方の方が綺麗なんだが今回は我慢してくれ」

 

言葉を失ってしまう程の幻想的な花畑だった

 

 

蘭side

 

琉太と氷川さんと一緒に歩いて行った先には綺麗な花畑が広がっていた

 

「此処には色々な種類の花がある。季節によって咲いてる花も多少違うから楽しみ方は様々だ」

 

そよ風によって花が少しだけ揺れている。その動きさえも綺麗と思ってしまう程あたしはこの景色に見惚れていた。氷川さんも同じのようでただボーッと花畑を見ていた。あたしはそれ以上にこの景色の前に佇む琉太に見惚れてしまった

 

「テレビなどでよく見るけれど、実際に見るのは初めてね...貴方はどうやって知ったの?」

 

「散歩してたら見つけたんだ。あのときはいつも通り4人で来ててな、自由行動をとってたときに此処に来たんだ」

 

「随分と遠くまで散歩するんだね」

 

「趣味だからな。よくジジイみたいだって言われるよ」

 

確かに、高校生の趣味が散歩って地味だよね...ちょっと意外かも

 

「でもいいんじゃない?ちょっと意外だけど、琉太らしくて」

 

「そいつはどうも」

 

暫く沈黙が続く。あたしは会話が苦手だからこういうときなんて言えばいいのか全然分からない。それを破ったのは意外にも氷川さんだった

 

「琉太、美竹さんと話したいことがあるので少し席を外してもらっていいかしら?」

 

「あぁ。何かあったら連絡しろ」

 

そう言って琉太は少し遠くの方まで行ってしまった。氷川さんの方を見ると、その表情はいつになく真剣で少し気圧されてしまった

 

「話って何ですか?」

 

あたしはできる限り平然を装って対応する。隠し切れていない部分はありそうだが、そこは目を瞑ろう

 

「そこまで身構えなくても大丈夫よ。美竹さん、()()()琉太のこと好きなの?」

 

あたしはとても驚いた。氷川さんのイメージといえば音楽一筋、湊さんと同じタイプだった。そんな彼女からさっきのような言葉が出てきてよく分からなくなった

 

「貴女もということは、氷川さんも琉太のことを?」

 

「えぇ、そうよ」

 

案外はっきり認めた。普通なら恥ずかしがるんだろうけど、そんな気配は全くなかった

 

「彼に手を出されて繋ごうとしたとき貴女の顔が不機嫌そうだったから、もしかしたらと思ったのよ」

 

「そうですか...でも、言いたいことはそれだけじゃないですよね?」

 

さっきの質問は最早確信してるような感じだった。だとすれば、話はまだ終わってないということ

 

「流石ね。私が言いたいのは貴女への宣戦布告よ」

 

「どういうことですか?」

 

「私は彼のことが好き。彼は私を何度も救ってくれた、とても優しい人よ」

 

「...」

 

「私だけだったならもう少し時間をかけるつもりだったけど、そうもいかないみたいね。美竹さん、どちらが彼を落とせるか勝負しないかしら?」

 

「中途半端な気持ちで彼を想うというのなら私は絶対に許さない。貴女にはこの勝負を受ける覚悟があるかしら?」

 

本当は怖い。氷川さんはあたしと違ってとても綺麗な人だし、誠実さもあってギターも上手くて、あたしが勝てるような要素はほとんどない。それでもあたしは

 

「その勝負、受けて立ちましょう。あたしだって琉太のことは誰よりも好きなつもりです。氷川さんこそ、中途半端に彼を想うのは許しませんから」

 

「...貴女なら引き受けてくれると信じてたわ。お互い頑張りましょう」

 

「えぇ」

 

あたしたちは強い握手をかわした

 




読了ありがとうございました

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第36話

無課金で貯めたスター17500個、全てつぎ込んだにも関わらず出たのは星4香澄だけ...友希那欲しい


友希那side

 

その日の夜、私は言われた通り翔の部屋へ向かった。ドアの前に立ちノックをすると、ラフな格好をした翔が出てきた

 

「来たか...とりあえず中に入れ。見つかったら面倒臭い」

 

彼に促され中に入ると、思った以上に部屋は綺麗でとても広かった

 

「結構掃除されてるのね。少し意外だわ」

 

「失礼な。俺は姉さんと違って潔癖症なんでね。それに2年も使ってないんだし、人を入れるなら多少の掃除は必要だろう」

 

「ふふっ。その格好、とても似合ってるわよ」

 

「ごちゃごちゃうるせえな。連れてって欲しくないのかお前は」

 

「調子乗ったわ、ごめんなさい」

 

以前の彼なら堅苦しくてこのような話はしなかっただろうけど、今は自然体で話せている気がする

 

「からかうのも程々にしろよ。他の奴は誰も知らないんだ、特別に教えてるんだからな」

 

「分かっているわ」

 

「さて、飲み物でも持って行けば暫く過ごせるだろう。どうする、今から行くか?」

 

「勿論、そこで話したいこともあるから」

 

「んじゃ、テーブルの上にあるやつ持ってくれ。俺は手ぶらじゃないと行けないから」

 

「?分かったわ」

 

何故物を持っていると行けないのかしら?私は疑問に思ったが、言われた通り飲み物を持って彼の元へ行く。彼は壁をペタペタ触って少しずつ前へ進んでいた

 

「何をしているの?」

 

「ちょっと待ってろ...此処か。下がってろ」

 

彼に言われて少し後ろに下がると、彼は力いっぱい壁を押し始めた

 

「クソ、相変わらず重いなこれ」

 

「これって...」

 

どうして誰1人あの3階への道を見つけられなかったのか、その理由がようやく分かった。私の目の前には真っ白の壁の中に隠し扉が広がっていた

 

「この部屋はあの場所の真下だからもしかしたらと思って探してたらこの扉を見つけたんだ。此処からしか行くことはできないし余程勘が良くない限りバレることはないだろう」

 

スマホのライトをつけて奥に進んで行く。やがて螺旋状の階段へ辿り着きそこを登って行く。階段を登り切るとまた扉があって、彼に開けてもらう。扉を開けると翔の部屋と似た構造の部屋があった

 

「この先にあるベランダで見れる。開けてみろ」

 

彼に言われて私はベランダのある方へ向かう。その間に飲み物を用意してくれるみたいだ。大きな扉は見た目よりも軽く、私でもあっさり開けることができた。そしてその先には

 

「綺麗...」

 

月の光と星の光を浴びて反射して煌く海があった

 

「昼間もいいが、夜の方が断然いいだろ?」

 

そう言って微かに笑う彼

 

「えぇ...確かに夜の方が私は好きね」

 

「喜んでもらえたなら何よりだ。これであまり変わらんとか言われたら、あれだけ言ってたこっちの立場がなくなっちまう」

 

「お世辞抜きで綺麗だから安心して。連れて来てくれて本当にありがとう」

 

彼には感謝しなくてはならない。実の家族にも教えていない秘密の場所を私に教えてくれたこと。それ程までに私のことを信じてくれたこと

 

「曲の方は作れそうか?こっちはもう完成したぞ」

 

「早過ぎないかしら?まぁ、私も大体は浮かんだけれど」

 

「友希那の曲に合ってればいいけどな...」

 

「それは分からないけど...貴方となら合う気がする」

 

「そうなることを祈っておこう」

 

私は確信していた。彼となら最高の曲が作れると

 

「ふわぁ〜。眠いな、俺は先に降りてるからそこの飲み物使って適当に過ごせ」

 

「えぇ、ありがとう。おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

相当眠いのか彼の目は細くなっていた。小動物の目みたいでなんだかとても可愛い

 

彼が用意してくれたザクロ酢を炭酸で割りながら景色を楽しむこと30分、私も眠くなってきたので片付けをして降りることにした。照明もないことはないのだが、スマホのライトで何とかなるだろうと思いつける。螺旋状の階段を降りて扉の前に着いた

 

「そういえばこれ、相当重いんじゃなかったかしら...」

 

思い返してみると、翔は結構な力でこの壁を押していた。私の力で開けることができるだろうか?荷物を置き、出せる限りの全力で壁を押す。すると、少しだけ動いたので明日筋肉痛になることを覚悟しながら地道に押していき、ようやく出ることができた。勿論、元に戻すことを忘れずに

 

「そういえば、此処翔の部屋だったわね。彼もう寝てるし」

 

部屋のベッドでは彼が可愛らしい寝顔を浮かべた翔がいた。普段の顔と寝顔に差がありすぎて思わず笑ってしまう

 

「飲み物を冷蔵庫にしまって...あとは起こさないように部屋から出れば」

 

私は気づいてしまった。今なら彼と一緒に寝ることができるのではないかと。ベッドは2人が使っても余裕で余る程の大きさだし、少し離れておけば問題ないのでは?私だって1人の女の子だ。好きな人と一緒に寝てみたいと思うし、できることなら早く付き合いたい。私にはそんな勇気はないし、今はその時ではないと思う

 

「多分他の人にはバレないわよね...」

 

私は欲に任せて彼のいるベッドに転がり込んだ。私が使わせてもらっているベッドと同じようにふかふかで気持ちいい

 

「おやすみ、翔」

 

そう言ったところで私の意識は深い闇の中に落ちた

 

 

咲夜side

 

「どういう状況だよこれ...」

 

昨日の夜友希那にあの場所を教えて、眠くなったので先に下に降りて()()と電話した後すぐに寝たはずだ。因みに花音と呼んでいるのは向こうに頼まれたから

 

今俺の隣では可愛らしいのかよく分からんが寝顔を浮かべた友希那がいた。しかも思いっきり俺に抱きついて寝てるし...とりあえずこの状況を何とかしなければ。今井に見つかればからかわれるし、柏に見つかれば確実に殺される

 

「おい友希那、起きろ!クソッこいつ抱きつく力強くないか?」

 

一向に起きる気配がないので引き剥がそうとするが、全然剥がせない。どうしようかと悩んでいたそのとき

 

「お兄様〜朝ごはんできまし...た...よ?」

 

あっこれ死んだわ

 

「ほぉ?お2人はいつの間にそこまで関係が進んでいたのですか?」

 

「待て、話を聞け!これはその、事故というか気づいたらこうなってたんだよ!夕べ俺の部屋で話してて先に寝たんだけど...朝起きたら友希那がいたんだよ!」

 

「つまり、お兄様には一切非がないと?」

 

「そゆこと!」

 

友希那を売る形になったが、俺は何一つ嘘をついていないから問題はないはずだ

 

「ちょっと動かないでくださいね。動いたらどうなるか分かってますね?」

 

「はい、承知しました」

 

言われた通りジッとしていると、柏は俺に抱きついて寝ている友希那の写真を撮り始めた

 

「おい、その写真どうするつもりだ?」

 

「勿論、RoseliaとAfterglowの全員に拡散します」

 

「!?」

 

こいつはやっぱり鬼だ。鬼畜だ

 

「友希那さん、起きてください。朝ごはんできましたよ」

 

「ん...花梨?何で...」

 

薄目だが柏の姿を確認した瞬間、顔が真っ赤になると同時に真っ青になった。真っ赤になる理由は分からんが、どちらにしろ詰んだな

 

「いっいつからそこにいたのかしら?」

 

「お兄様が起きて貴女を引き剥がそうとしていたところですかね?貴女はぐっすり寝てましたが」

 

「///」

 

友希那は顔を真っ赤にして布団に潜り込んでしまった。何気に俺に抱きつきながら

 

「おい、いい加減離れてもらおうか。俺の身動きが取れなくて困ってるんだよ」

 

「...分かったわ」

 

彼女は名残惜しそうに俺から離れた

 

「さて、2人とも起きたので私は写真の拡散をしてきますね」

 

「ちょっ写真!?待って花梨!どういうこと!?」

 

「詳しくはお兄様かRoseliaの誰かに聞いてください」

 

そう言葉を言い残すと、柏は朝飯を食べに行ってしまった

 

「...ごめんなさい」

 

急に友希那が謝ってきた。別に謝るようなことでもないと思うんだがな

 

「俺は全く気にしてないし別にいいよ。ただ...少し気まずいから今日の練習琉太に頼んでいいか?」

 

「...分かったわ」

 

あっでも柏の奴Afterglowにも拡散するって言ってたな。まぁRoseliaよりは気は楽だろうしいっか

 

色々悩みながらも俺たちは食堂へ向かった

 

 

友希那side

 

見られてしまった。こうなることを見越して早めに起きるべきだった。よりにもよって花梨に見つかってしまった

 

憂鬱な気持ちに襲われながらも食堂に向かうと、既に他のメンバーが揃っていた。全員私の姿を確認した瞬間ニヤニヤし始めた。Afterglowの人たちも心なしか笑いを堪えているように見える。最初に仕掛けて来たのはリサだった

 

「おっはよー友希那。昨晩の眠りはいかがかな?」

 

「///」

 

「友希那さん...凄い大胆」

 

「あっあこちゃん!あまり触れない方が...」

 

「あこ、後で覚えておきなさい///」

 

「だから何でいつもあこだけ!?」

 

「私もあれくらいできたら...」

 

リサにはからかわれるし、あこは余計なことを言うし燐子はフォローになっていない。紗夜に関しては小声でよく分からなかったが何故だか憧れの視線を感じた

 

「まぁまぁ、みんなその辺にしときなって。そういう年頃なんだからさ」

 

祐奈さん、それ全くフォローになってませんよ?それどころかリサの目がいよいよ危ない

 

「さて、友希那さんの恥ずかしがるところも見れたので私は準備して来ますね。ついでに琉太さんも起こして来ます」

 

「それなら翔が行ったから大丈夫よ。今日はAfterglowだっけ?今回は翔と琉太君トレードするからよろしくね」

 

「...分かりました」

 

美竹さんの顔が少し残念そうに見える。彼女、琉太のこと好きなのかしら?逆に紗夜は嬉しそうな顔をしていた。紗夜とは話もしたし、気持ちはよく分かる。そしてもう1人ご機嫌な様子の人がいた。青葉さんだった

 

さっきまで少し不機嫌そうだったが、彼らをトレードすると言った瞬間直ったように見えた。まさかこの子...

 

「あたしたちは準備して来ますね。みんな行くよ」

 

「オッケ〜」

 

「モカ随分とご機嫌だな。やっぱり...」

 

「ともちんそれ以上は言わなくていいからね〜」

 

「私たちも行きましょう」

 

この後罰としてアップテンポの曲を5曲続けてやり、あこが死にかけたのは別の話




読了ありがとうございました

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第37話

遅れて申し訳ありません。夜中に書こうとするたびに寝落ちするというこの始末...

今回からユーザーネームを変えさせていただきます

それでは本編どうぞ


モカside

 

今日はしょ〜君とりゅ〜君をトレードするって言ってた。そう聞いた瞬間あたしはとても嬉しかった。朝、湊さんと

寝ている写真を見て今までにないくらい嫉妬した。あたしもしょ〜君と一緒にいたいのに...なかなかその機会がない

 

「というわけで、今日はよろしくな。ギターは当てにならないから、姉さんに聞いてくれ」

 

「翔君写真見たよ!友希那さんとは恋人なの?」

 

ひ〜ちゃんがそう言った瞬間自分でもバレバレだと思うくらいに反応してしまった。しょ〜君は黒いオーラを出して

 

「ひまり、それ以上喋ると首が飛ぶぞ?」

 

「ごめんなさい!」

 

「ただでさえ向こうにいたら気まずいからAfterglowの面倒を見ることにしたんだ。こっちでも触れられても困る」

 

「でも否定しないってことはやっぱりこいび...」

 

「あ?巴まで死にたいか?」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

口調からして明らかに怒っている。少なくとも恋人ではなさそうだ

 

「ほら、無駄話はそこまでにして早くやるよ。最初はどうすればいい?」

 

「じゃあ2,3曲合わせてそこから個人練習にしようか。ギターは琉太君からメニュー聞いてるだろうしそこやればいいよ」

 

「分かりました」

 

〜♪〜

 

「モカ、今日は随分と調子良いな。何かいいことでもあったか?」

 

「別に〜?なんでもないよ〜」

 

確かに、いつもミスしてしまうような場所も今日は余裕でできた。やっぱり近くにしょ〜君がいるからかな?

 

「モカって案外単純だよね。表情がニヤニヤしてるもん」

 

「!?」

 

あたしそこまで分かりやすかっただろうか?よりにもよってひ〜ちゃんに気づかれてしまうとは

 

「モカちゃん、凄く顔に出てるよ...」

 

つぐにもバレてた。ポーカーフェイスのモカちゃんからしてはこれは失態だ。しょ〜君にバレてないといいが...

 

「何だかよく分からんが、調子が良いのは良いことだ。今から個人練習に入る。ギターとドラムは姉さんに、キーボードとベースは俺に聞け」

 

しょ〜君はギターが苦手だからあたしたちのことを見ることは殆どない。せめて、教えてもらえなくてもいいから...あたしを見てよ...

 

「翔!悪いんだけど、モカのこと見てあげてくれない?」

 

「は?いや、俺ギター無理って言ってるでしょ?全然教えれないのに見るのはモカに...」

 

失礼とでも言いたいのだろうか?そんなわけない。しょ〜君がいるからこそ、あたしは『いつも通り』が出しやすくなる

 

「しょ〜君、あたしからもお願いしま〜す」

 

彼の言葉を遮りいつも通りの口調で頼み込む

 

「モカにまで頼まれちゃあ仕方ないな...あまり期待はすんなよ?」

 

「イェーイ」

 

この後のあたしは今までで最高に良かった

 

紗夜side

 

今日は翔さんと琉太が入れ替わり、普段とは違った練習となっていた。最近は彼の個人レッスンを受けることができていなかったので、成長した私を見せる良い機会だ

 

「どうかしら?前と比べて大分良くなってると思うのだけれど」

 

「久し振りに紗夜のギターの音聴いたけど、確かに格段にレベルが上がってるな。弾き方も安定してるし、凄く良かったよ」

 

どうやら彼には好評だったらしい。Xaharの中でギターはトップの実力を誇る琉太からこれだけの評価をもらえたのだ。少しは自分の音に自信を持ってもいいかもしれない

 

「貴方にそこまで言われるんなら心配はなさそうね。何か他に直すようなところはあるかしら?」

 

「特にはないな...ただ、音の強弱をもう少しはっきりさせた方がいいと思う」

 

「分かったわ」

 

「じゃあ俺は白金さん見てくるな。また戻ってくるからそのときまでに直しといてくれ」

 

本当は行って欲しくないが、バンドのレベル向上のため仕方ない。琉太は普段Afterglowの面倒を見ているから、美竹さんよりも関われる機会が少ない。だからこそ、この少ない時間を使い距離を縮めなければならない

 

「...今は練習に集中しなければ。音の強弱...此処のことかしら?」

 

どの場所かまでは教えてくれなかったので、自分で考える必要がある。彼の教え方はこんな風に自分で考えさせてくれるのでとてもためになる。プロに教わるよりもずっと良さそうだ

 

ふと他の方の状況が気になったので周りを見てみると、何やら真剣な顔つきでパソコンを睨みつけている湊さんがいた

 

「湊さん、何をやっているのですか?」

 

「紗夜...新曲の案がまとまってきたから仕上げているところよ。翔は歌詞を作り終えているみたいだし、私も急がないと...」

 

「そうですか。楽しみにしてますね」

 

「ありがとう。細かい調整は彼がやってくれるみたいだから、できれば午前中に終わらせておくわ。紗夜の方はどうかしら?いつもより調子が良いように聴こえたけれど」

 

「そうですか?琉太には強弱をはっきりさせろと言われましたけどね」

 

頂点に立つためには必要なことだろうが、やはり私たちとは基準のレベルが高すぎる。言うなれば天と地の差だ

 

「確かにその方が良いかもしれないわね。お互い頑張りましょう」

 

「勿論です。バンドの方も...恋についても」

 

「そっその話は今はしないでもらえるかしら...///」

 

私が少し話を変えてみると湊さんは頬を朱に染めて目を逸らしてしまった。やはり、今朝の件を気にしているらしい

 

「ふふふ、私も湊さんのように大胆にできれば良いのですけどね。羨ましいです」

 

「っ〜〜〜〜〜///」

 

案外湊さんも人なのだと思える。彼女が音楽以外でここまで反応をするなんて考えられない

 

「紗夜、無駄話をする前に改善点を直して頂戴。お昼ご飯は翔と琉太が作るのだし、早くしないと見てもらえなくなるわよ」

 

「そうですね。湊さんも頑張ってください」

 

「えぇ」

 

それから自分なりに考えながら曲ごとに強弱をつけ、30分くらいしたところで琉太が帰って来た

 

「よっ。調子はどうだ?」

 

「今何処を変えればいいか探しているところよ。もう少し時間をくれるかしら?」

 

「紗夜がそうしたいんなら好きなように...と言いたかったけど、今回はちょっと難しかったかもな。ほら、今からつきっきりで教えてやる」

 

(ちっ近い...少し良い匂いがするわね。シャンプーの香りかしら?///)

 

今私の目の前には彼の顔がすぐ近くにある。その所為で私としたことが集中できなくて話の内容が全然入ってこない

 

「〜でここはだな...って紗夜、聞いてますか?」

 

「ほぇ?ごっごめんなさい。もう1回お願いできる?」

 

ぼっーとしすぎて思わず変な声が出てしまった。彼に気づかれてないといいけれど...

 

「...」

 

「琉太?」

 

どうしたのだろうか?先程から急に黙り込んで

 

「ふふふ...あはははは!」

 

「え?」

 

今度は急に笑い出す始末。1度病院に連れて行った方が...

 

「ほぇ?だってよ!何それ可愛すぎでしょ!?あはははは!」

 

「なぁ!?」

 

きっ気づいてたの!?そう思った瞬間羞恥で顔が真っ赤になるのが嫌という程分かった。きっと耳まで赤くなっていることだろう。でも、可愛いと言われて少し嬉しかった。ふと周りを見ると全員の視線がこちらへ集まっている。湊さんや今井さんはあっけに取られているし、宇田川さんや白金さんも何事かと言わんばかりにこちらを見ている。唯一花梨さんが琉太のことをゴミを見るような目で見ていた

 

「あ〜疲れた。というわけでもう1回説明するからちゃんと聞いとおけ...よ?」

 

「っ〜〜〜〜〜///」

 

「紗夜!?え、どうした!?顔めっちゃ赫いけど」

 

「もう知りません!」

 

「えぇ!?」

 

誰の所為でこうなったと思っているのだろうか?後で絶対に今井さんにからかわれることだろう

 

「全く...貴方はたらしなのかそれとも無意識でやってます?はっきり言ってお兄様並みに酷いですよ」

 

「彼奴と一緒にするのはやめていただこうか。紗夜、その悪かったから機嫌直していただけますか?フライドポテト幾らでも作るので許していただけませんかね?」

 

「そっそれなら...」

 

「チョロすぎですね...こんなのでよく生きてこれましたね」

 

「というわけで今からフライドポテト作ってくるから」

 

そう言って彼はスタジオから出て行ってしまった。まぁ私はジャンクフードなんかに興味はありませんが...

 

この後食堂の半分を占める大量のフライドポテトが出てきたのはまた別の話




読了ありがとうございました

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初めて活動報告を書かせていただきました。そちらの方もよろしくお願いします


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第38話

遅れて申し訳ありません。最近本当にネタが浮かばないんですよねぇ

というわけでリクエスト等あれば活動報告の方に返信よろしくお願いします

それではどうぞ


友希那side

 

午前中の練習を使い、なんとか曲を完成させることができた。それを翔に渡し、彼の作った歌詞と合わせてみると思った以上の仕上がりだった

 

「ふ〜ん...なかなか良いできじゃないのか?」

 

「そうね。軽く調整すれば完璧だと思うわ。それじゃあ、後はお願いするわね」

 

「了解した。今日中に完成させてやる」

 

そこまで急がなくていいのだが、初めて彼と2人で作った曲だ。早く歌いたいという気持ちもある

 

「それじゃあ俺は練習に戻るから、お前らも頑張れよ」

 

「えぇ、楽しみにしてるわよ。少し胃もたれがあるけれど...」

 

「あれはもう地獄みたいなもんだろ...作るだけで胃が痛くなったわ」

 

朝の件があり、昼食には大量のフライドポテトが出てきた。いつもファミレスでフライドポテトをたくさん食べる紗夜だが、流石に食べ切れず結局みんなで食べることになった。その結果、全員の胃がもたれるという散々なことになってしまったのだ

 

「まぁ無理はしないことだな。それじゃあまた後で」

 

「貴方も、無理はダメよ」

 

「分かってるよ」

 

そろそろ休憩も終わる頃だろうと思いスタジオに戻ると、何故か全員が座り込んだり倒れたりと不思議なことが起こっていた

 

「...何があったの?」

 

こういうときこそ冷静に対処しなければならないと思い訪ねると、最初に花梨から返事が来た

 

「友希那さんでしたか...ごめんなさい、あと10分だけ休憩をくれませんか?うっ...」

 

「だっ大丈夫なの?それより何があったの?」

 

「みんなフライドポテトの所為で酷いことになってるんですよ。というわけでお願いします」

 

まぁ実のところ私もきつかったし、丁度良いだろう。紗夜は特にダメージが大きいみたいだし、少し増やした方がいいわね

 

「分かったわ。各自回復したらまた再開しましょう」

 

それから10分程したところで全員ある程度は回復したので続きをやることにした。花梨の提案でもう1度合わせてやることになった

 

「皆さん朝の反省を生かしてやれるようにしてくださいね。それではDetermination Symphonyよろしくお願いします」

 

〜♪〜

 

「今日はここまでにしましょう。私は晩御飯作ってくるので片付けはよろしくお願いします」

 

「分かったわ。琉太、貴方も少し手伝ってちょうだい」

 

「了解しました。紗夜!ギターの片付けやるぞ!」

 

今日の練習はいつもと違った感じで良かったわね。特に紗夜は今回でまた一段と上達したみたいだしこの調子でいけば...

 

スタジオの片付けを済ませ、みんなで浴場に向かうと丁度のタイミングでAfterglowと鉢合わせた

 

「あら、そっちも終わったみたいね。彼の指導はどうだったかしら?」

 

「つぐみたちが特に上達しましたよ。普段と違った練習ができたので良かったです」

 

どうやら翔の指導は好評みたいね。まぁ当たり前なのだけれど...

 

「お風呂に入るなら先に入っていいわよ。少し翔と話したいこともあるから」

 

「翔ならとっくにお風呂に向かいましたよ。面倒なので一緒に入りませんか?その方が色々節約にもなるし」

 

「そうね...そうさせてもらうわ」

 

確かに別々で入ればその分電気代などもかかってしまうからその方が効率はいい。幸い浴場は私たち10人が余裕で使える程に広いし、彼らには此処を使わせてもらってるのだからなるべく節約する必要がある

 

「彼らは長風呂だから、少しゆっくり入りましょうか。今日はポテトの所為で色々あったし、疲れているでしょう」

 

「そだね。じゃあアタシイッチバーン!」

 

「あ〜ずるい!あこも!」

 

「2人とも走らないでください!」

 

「...私たちは普通に行きましょう。燐子はあこのことお願いね」

 

「はっはい...分かりました」

 

全く、昼間にあんなことがあったというのにどこにそんな元気があるのよ。紗夜なんかは1番食べていたというのに

 

「そういえば、Afterglowのみんなは大丈夫だったかしら?昼間のポテトで胃もたれとかなりそうだけど」

 

「おかげで練習どころじゃなくなりましたよ。特に翔が作るだけで気持ち悪かったとか言って酷かったです」

 

「確かにそんなこと言ってたわね。一体どれだけのジャガイモと塩が使われたのかしらね?」

 

脱衣所で服を脱ぎながら美竹さんと話す。やはり彼女とは気が合うみたいだ。私は少し気になっていたことを聞くことにした

 

「美竹さんって琉太のこと好きなの?」

 

「ぶっ!?」

 

丁度水を飲んでいたところだったので、彼女は盛大に吹き出してしまった

 

「ゴホッ!ゲホッ!なっ何でそう思うんですか?」

 

「翔と琉太をトレードすると祐奈さんが言い出したとき貴方の機嫌があからさまに悪くなっていたから、案外分かりやすかったわ」

 

「それ、前に氷川さんにも言われましたね...そういう湊さんこそ、翔のこと好きなのでしょう?昨晩あんなことするくらいだし」

 

「...忘れてちょうだい///」

 

もうこれは一生言われ続けるかもしれない

 

「意外ですね。貴女がこんなに大胆なことするなんて。それ程までにも彼のことが大事なんですか?」

 

「当然よ。彼は大切なことに気づかせてくれた。私をたくさんいた不良から守ってくれた。マネージャーになってから何度か衝突はあったけれど、それでもそばにいてくれた」

 

「彼は今まで会ってきた中で最高のパートナーよ」

 

それに、私は祐奈さんと約束したのだ。翔を救うと。彼の感情を取り戻すと

 

「パートナーですか...いいですね、そういうの」

 

「貴女と琉太もいいコンビだと思うわよ。紗夜もこれはなかなか難しそうね」

 

「昨日、氷川さんに宣戦布告を受けたんです。どっちが先に琉太を落とせるかって」

 

「...紗夜も案外大胆なことするわね」

 

「正直言って怖いです。あたしなんかじゃ氷川さんに勝てる要素なんて殆どない。とても綺麗で真面目で、ギターに熱心で...でも、彼に対する想いだけは負けたくないんです」

 

「だから...この勝負は絶対に勝ちます。湊さんも、ボーッとしてたら取られちゃいますよ?」

 

「青葉さんのこと?確かに彼女は警戒しなければならないわね。最近翔毎晩誰かと電話してるみたいだし、相手によってはその人も気をつけないと...」

 

「まぁお互い頑張りましょう。いつまでも彼らといれるためにも」

 

「美竹さん...」

 

「何ですか?」

 

彼女は知っているのだろうか?彼らと一緒にいるのはリスクがあることを。彼らが誰かに命を狙われているということを...もしかしたら知らないのかもしれない

 

「いえ、なんでもないわ」

 

もしものことを考えて、話すのはやめておいた。知ったらもう引き返すことはできないのだから

 

「じゃああたしは先に上がりますね。これ以上浸かってたら流石にのぼせそうですから」

 

「私はもう少しだけいるわ。どうせあの2人長風呂でまだ出てないでしょうから」

 

「分かりました」

 

ふと周りを見てみると、既に他の人たちは上がっていた。今この場にいるのは私だけだ

 

「のぼせる前に上がった方がよさそうね...流石に彼も上がった頃かしら」

 

新曲について話したいのだが、さっきまで美竹さんと話をしていた所為で無性に彼と話したかった

 

とりあえず風呂から出てパジャマに着替え、翔の部屋に行ってみると案の定彼は新曲の仕上げをしていた。ドアを開く音に気づいたのか、顔をこちらに向けて

 

「友希那か。ナイスタイミングだな、たった今新曲が完成した」

 

「聴かせてもらっていいかしら?」

 

「夜は付き合うからそのときにな。タイトルはSanctury」

 

「素敵な名前ね。作ってくれてありがとう」

 

「お安い御用さ。美しき歌姫様のためにかなり仕組んであるが、気に入ってもらえることを祈ろう」

 

「...///」

 

何故彼はこうも常人が恥ずかしがるようなことを平気で言ってのけるのだろう?顔が熱くなってゆくのが嫌という程分かった

 

「急にそんなこと言わないでくれるかしら。恥ずかしいわよ」

 

「?よく分からんが気に障ったならすまん」

 

「ただ...恥ずかしいだけで嬉しいのも確かだから///」

 

「そっそうか...」

 

「隣、いいかしら?」

 

「あぁ。こんなところをモカに見られたらパン10個くらい奢らされそうだけどな」

 

「ふふふ、そのときは2個くらいは負担してあげるわ」

 

「助かる。でも今日はどうした?いつもならこんな時間に俺の部屋には来ないだろうに」

 

「貴方と話がしたかった、からではダメかしら?」

 

「さいですか。なら俺は気の済むまで歌姫様の話に付き合わなきゃな」

 

「ありがとう」

 

それから私たちは色々な話をした。毎晩誰と電話しているのかなど、気になること全てを聞いておいた。案外素直に話してくれたが、よかったのだろうか?急に気が引けてくる

 

「時間が経つのは案外早いものだな。もう4日目が終わるなんてな」

 

「それだけ楽しめているということなんじゃないかしら。貴方にもそう感じられるということよ」

 

「そうなったのも全部友希那の所為と言うかお陰と言うか...まぁありがとな」

 

「約束だもの。貴方の感情を取り戻すと」

 

「あれ本気だったのかよ...んじゃ、気長に待つとしますかね」

 

「えぇ、必ず貴方の感情を取り戻してみせる。そうなったときは私の話をじっくり聞いてもらうわよ」

 

「へぇ、そいつは楽しみだな」

 

そのときにでも告白しようかと考えているが、正直言って不安だ。本当に私なんかで彼の感情を取り戻せるのか?余計なお世話ではないか?微かにそう思ってしまう自分がいることが実に情けない

 

「さて、そろそろ飯もできることだろう。早く食べて新曲の練習でもするか」

 

「そうね...この香りは何かしら?」

 

「柚子でも使ってるんじゃないか?花梨が好きだし」

 

「あの子、意外に大人なのね。柚子が好きな中学生ってあまり聞いたことがないわ」

 

「そうなのか?案外いるもんだと思ってた」

 

少なくとも私は初めて見たわね。もっとも、私は他人に興味がなかったから知らなかっただけなのかもしれないけれど

 

雑談をしながら食堂へ向かうと既に全員集まっていた

 

「おっやっと来たね。季節は違うけど、柚子鍋作ったからみんな熱いうちに食べちゃって!」

 

『いただきます!』

 

白菜を試しに口に入れると、ほのかな柚子の香りと味が広がってとても美味しかった。今まで食べた鍋の中で1番好きかもしれない

 

「今日は随分と凝ったものを作ったな。さっさと食べようにも食べれないな」

 

「私としては味わって食べていただけると嬉しいな。そもそもあんた熱いの食べれないでしょう」

 

「うるせえ」

 

早く食べて練習するつもりだったが、あまりにも美味しかったのでついいつもと同じになってしまった

 

「ハァ...美味かった、ご馳走様」

 

「お粗末様です。ほら、片付けはやるから練習に行って来なさい」

 

「ありがとな。夜はRoseliaに戻るよ」

 

「分かったわ。みんなに伝えとく」

 

「翔、準備はいいかしら?」

 

「あぁ」

 

「みんな、今晩は新曲やるわよ」

 

私の一言で全員に火がついたみたいだ。Sanctury...どんな曲になったのか楽しみね




読了ありがとうございました

☆8評価をしてくださった水原さんありがとうございます!


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第39話

咲夜side

 

Roseliaの新曲Sancturyを完成させ、早速夜から練習することになった。メンバーにスコアを渡しひとまず1時間程個人練習をした。俺はあこと白金、柏は今井と氷川と友希那を担当して見ることになった

 

「だいぶ良くなったな。あこ、此処の部分弱くなりやすいから落とさずに叩けるようにしよう」

 

「白金さんは所々音のズレが目立つので頑張って修正してください。指の回し方など分からなかったら聞いてください」

 

「それじゃあ...此処なんですけど」

 

それにしても2人とも飲み込みが速いな。あこはちょっと不安定だけど、白金は着実に言ったところを直している

 

質問に答えながら教えて行くと白金は8割型、あこも7割くらいはできるようになった。合わせるとなると難しいだろうが、それでもある程度はできるだろう

 

「よし、2人ともお疲れ様。飲み物作ってあるからそれ飲んで休憩しててくれ。俺は向こうの様子見てくるから」

 

一言断って他の3人の様子を見に行くと、珍しくも友希那と氷川がつまづいていた。奏斗からでは特に氷川は調子が良いと聞いていたんだが...柏に聞いてみるかな

 

「花梨、様子はどうだ?」

 

「あっお兄様。見ての通り、2人がつまづいていますよ」

 

「珍しいもんだな。まぁギターとボーカルは難しめに作ったし、仕方ないっちゃあ仕方ないんだけども」

 

「リサさんの方は順調ですよ。もう大方できるようになりましたので、あとは合わせてどこまでいけるかくらいです。あこと白金さんはどうですか?」

 

「あの2人も順調だ。おそらく合わせても問題はないだろうが、友希那と氷川があれだし今日はやめておこう」

 

今の状態で合わせても無駄になるからな。今日は各自パート練習重点的にやって明日から合わせていけば良いだろう

 

「お前は氷川を頼む。俺は友希那のところに行ってくる」

 

「分かりました」

 

「よっ友希那。珍しいな、お前がつまづくとは」

 

「此処の部分が中々音程がとれなくてズレてしまうのよ。他はなんとかなりそうなのだけれど...」

 

「あぁ、そこはちょっと難しいかもな。まぁ焦らずゆっくり修正していこう。あこに白金さんも大方できるようになったし、この調子なら明日には通しはできるだろう」

 

「そうね...私も早く完成に近づけないと」

 

「焦るなつったろ。焦っても何もいいことはねえ。少しずつ確実に直していけばいいさ。それに、俺は友希那の歌声好きだけどな」

 

「...ありがとう」

 

さて、これからどうするかな。友希那と氷川がなんとかなれば今日のうちに合わせることは可能だが、それではあまり効果がない。柏が本気でやれば氷川はすぐに直せる。ボーカルも柏が1番上手いが、そうもいってられないからな...俺がやるしかねえか

 

「とりあえず、まだ2時間弱はある。この間で直しておこうか。俺もできる限り協力する」

 

「ありがとう。あこと燐子はどうするのかしら?」

 

「2人には自主練させておくよ。あの2人は特に仲がいい。互いに教えあいながら練習すればもっと高みに行けるだろ」

 

「そうね...それじゃあお願いね」

 

「分かった。確認もしたいから10分後にそっちに行く」

 

「分かったわ」

 

友希那の元を離れてあこと白金の元へ向かう。案の定2人はお互いにアドバイスをしながら練習に励んでいた

 

「2人とも調子はどうだ?そちらが良ければ今から2人だけで合わせていただきたい。何やら友希那がつまづいててな、そっちの応援に行きたいんだ」

 

「はーい!妾の闇の力見せてくれようぞ!」

 

「がっ頑張ります...」

 

あこ大丈夫か?まぁ白金いればなんとかなるか

 

「流石にキーボードとドラムだけだとやりにくいだろうしやって欲しい楽器があれば言ってくれ。なるべくそれに応えよう」

 

「じゃあ、ボーカルお願いします...」

 

「分かりました。どうせならベースも一緒にやりましょう。あこ、カウント頼む」

 

〜♪〜

 

「友希那、終わったぞ」

 

「案外速かったわね。2人の調子はどうだったかしら?」

 

「結構良く出来てたよ。所々ミスはあったが、それでも1時間であそこまで仕上げたのは大したもんだ」

 

「私も負けてられないわね。じゃあ、今からお願いするわね」

 

「あぁ、とことん付き合ってやる。まずは一通り通してやってみるか。何かやってほしい楽器はあるか?」

 

「キーボードお願いするわ。いつも苦手なギターばかりでは申し訳ないもの」

 

「別に遠慮しなくていいぞ?俺はマネージャーだからな。Roseliaもとい友希那の為ならギターくらい幾らでもやってやる」

 

「あっありがとう...でも大丈夫よ。いつも助けられてばっかでは気が済まないわ」

 

「それじゃあお言葉に甘えてやらせていただこう。最初から合わせるぞ」

 

友希那の奴、前と比べて優しく?なったのか分からんが性格変わったんじゃないのか?いつもならこんな気遣いしないだろうに

 

微かな疑問を残しながら2時間たっぷり友希那の練習に付き合った

 

友希那side

 

今晩は完成したばかりの新曲、Sanctuaryを練習していた。音源やスコアも正確でとてもやりやすかったのだが、一箇所だけどうもつまづいてしまうところがあった。ここまで上手くできないのは初めてだった

 

「ダメね...このままじゃ私が足を引っ張ってしまう。なんとかしないと」

 

花梨に助けを求めようかと思ったが、生憎彼女はリサの指導をしていた。紗夜はというと私と同じように苦戦しているように見えた

 

リサへの指導が終わったみたいなので花梨の元へ行こうとすると翔がやってきた。花梨と少し話した後こちらの方へ歩いてきた

 

「よっ友希那。珍しいな、お前がつまづくとは」

 

「此処の部分が中々音程がとれなくてズレてしまうのよ。他はなんとかなりそうなのだけれど...」

 

「あぁ、そこはちょっと難しいかもな。まぁ焦らずゆっくり修正していこう。あこに白金さんも大方できるようになったし、この調子なら明日には通しはできるだろう」

 

「そうね...私も早く完成に近づけないと」

 

他のみんなができているのに私1人だけ遅れるのはあってはならない

 

「焦るなつったろ。焦っても何もいいことはねえ。少しずつ確実に直していけばいいさ。それに、俺は友希那の歌声好きだけどな」

 

「...ありがとう」

 

「とりあえず、まだ2時間弱はある。この間で直しておこうか。俺もできる限り協力する」

 

「ありがとう。あこと燐子はどうするのかしら?」

 

彼が私のところに来るとなれば、2人はその間誰も付かないということになる。大丈夫なのかしら?

 

「2人には自主練させておくよ。あの2人は特に仲がいい。互いに教えあいながら練習すればもっと高みに行けるだろう」

 

確かに、あの2人の仲のよさならそれも可能だ。それだけお互いを信じ合えているということだろう

 

「そうね...それじゃあお願いね」

 

「分かった。確認もしたいから10分後にそっちに行く」

 

「分かったわ」

 

そう言って彼はあこたちの元へ向かった。彼が来るまでに少しでも完成度を上げておこう

 

咲夜side

 

あれから殆ど付きっ切りで友希那の面倒を見て、なんとか修正することができた。氷川もつまづいていた場所は修正できたみたいだし、明日には合わせられるな

 

「ふわぁ...なんだかいつも以上に疲れたな。花音に電話してさっさと寝るか」

 

最近は花音とは水族館の話しかしてない。と言っても彼女が一方的に話しているだけだが。なんでもクラゲが好きなのだそうな。...今度連れて行ってやるか

 

10分程電話して寝ようとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。誰かと思いドアを開けると華蓮だった

 

「珍しいな。お前が来るとは」

 

「さっきお爺様から電話が来たわ。組織の動きが活発になって来てる。警戒しとけだってさ」

 

「わざわざそのことを伝えるために此処に来たのか?メールでよかったろうに」

 

「細かいことは気にしないの。ところでRoseliaの方はどう?」

 

「急に話題変えたな...順調だよ。新曲の方も明日には合わせられそうだ」

 

「Afterglowも曲作って欲しいって言ってたよ?作ってあげれば?」

 

「俺はAfterglowのマネージャーじゃないからな。それに、奏斗がいるだろ。彼奴だって何曲か手伝ってもらったことあるしできるはずだ」

 

「う〜ん...まぁ聞いてみるよ。あっそれと、最終日にお互いの演奏を披露させたいなって思うんだけど」

 

「それは構わんが、なんでまた?」

 

「お互いがこの2週間でどれだけ成長したのか、自分たちに足りないものを確認できるしね」

 

「そうだな...分かった。奏斗には俺から伝えとく」

 

「ありがと。夜遅くにごめんね、おやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

最終日までまだ1週間以上あるけどな...まぁ蘭を打ち負かすだの友希那を打ち負かすだの言えば勝手にやる気出すだろうしいっか

 

そろそろ意識が飛びそうなくらいに眠くなってきたので俺はベッドに飛び込んですぐに寝た

 

 

 




読了ありがとうございました

☆9評価をしてくださったしジャムカさん、ゆはらさん(漢字が分からなくてすみません)ありがとうございます!

他にも評価や感想お待ちしております


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第40話

合宿編が終わらないことに気づいたため、今回で終わらせます

それではどうぞ


夏合宿最終日、今まで使っていなかった3つ目の1番大きいスタジオを使うことにした。今日はお互い1曲ずつ披露してそれぞれの足りないものを確認しようということになっている

 

「さて、どっちからやる?正直どっちでもいいが」

 

「あたしたちからやるよ。早く緊張解きたいし」

 

「よし、それじゃあ準備しろ。Roseliaはクローゼットの中の椅子を持ってこい。俺たちの分も頼む」

 

奏斗からはAfterglowが何をやるのかは聞いていない。この2週間でどれだけ成長したのか、結構楽しみにしてたりする

 

Afterglowの準備が整い、いよいよお披露目会が始まった

 

「それでは聴いてください。Hey-day狂騒曲(カプリチオ)」

 

〜♪〜

 

「ふぅ...どうでしたか?あたしたちの『いつも通り』は」

 

「とても良かったと思うわよ。そうね...」

 

「待て、評価は後でお互い聞けばいい。その前にRoseliaのお披露目といこうか、友希那たち準備しろ」

 

「分かったわ。みんな、すぐに準備して」

 

友希那の一言で他のメンバーも準備にかかる。みんなどこか張り切っているように見える。特に友希那は1番気合が入っているようだ

 

そしてRoseliaの準備が終わり、始まった

 

「お待たせしました、それでは聴いてください。Sanctury」

 

〜♪〜

 

「どうだったかしら?」

 

「今までで1番良かったと思うぞ。それじゃあ意見交換と行こうか」

 

それからRoseliaとAfterglowの間で意見の交換をした。俺たちXaharは両方にアドバイスを送り、お披露目会は終了となった

 

「さて、これにて夏合宿終了!どうする?今日帰るか泊まってくか」

 

俺としては正直どっちでもいい。花音には正確な日時を伝えていないし、今日帰ろうが明日帰ろうが変わらない

 

「今日は折角なので打ち上げみたいなのを上げませんか?お互いに成長した祝いとして」

 

提案したのは柏だった。ふと周りを見ると今井やあこ、ひまりなどの目が輝いていた。これはやるしかねえな...

 

「反対意見はないな。琉太、買い出し行くぞ」

 

「了解。みんなは何が食べたい?」

 

「外でバーベキューしようよ!広い庭もあるんだし、そこ使ってやろうよ!」

 

「おっそれいいね!それじゃあ2人とも、いってらっしゃい!」

 

なんと発案者はひまり。仮にも女子がバーベキューとかもう少し気にするものがあるんじゃないのか?ていうか華蓮、お前も来いよ

 

「私はこっちで準備するから無理!花梨もこっちに残すから」

 

「心を読むな。気味悪りぃ」

 

そうなるとまた2人で行くのか...いくら俺たちでも重いんだよなぁ。途中坂道もあるし

 

「私も行くわ。いつも2人ばかり買い出しに行かせるのは申し訳ないもの」

 

「湊さんが行くなら私も同行します」

 

友希那と氷川が一緒に行くと言ってくれた。この2人なら安心だな...問題起こさないし

 

「...あたしも行きます」

 

「あたしも〜。蘭だけだと心配だからね〜」

 

「ちょっと、子供じゃないんだから...」

 

更にはモカや蘭まで行くと言い出した。こちらとしては助かるのだが、前の2人が妙に嫌そうな顔してるんだよな。何があったし

 

「メンバーも決まったし行くか。モカ、ちゃんと荷物持ちしろよ?」

 

「分かってる〜。しょ〜君のためだもんね〜」

 

こいつは何を言ってるんだ?俺のためとか意味分からんし...こら友希那、余計に嫌そうな顔してんじゃねえ。モカはお前で勝ち誇ったような顔を友希那に向けるな。喧嘩売ってんのか。というかお前らどういう関係だよ?

 

「なんでもいい、早く行くぞ」

 

色々疑問を残しながらも俺たちは6人という妙に多い人数で買い出しに行くことになった

 

友希那side

 

新曲、Sancturyを披露し2週間に渡る合宿は終わった。花梨の提案により今晩は打ち上げでバーベキューをすることになった

 

翔と琉太が買い出しに行くと言ったので私も行くことにした。いつも2人ばかりでは申し訳ないというのもあるが、翔と一緒にいたいというのが本音だった。紗夜も行くことになり、早速行こうとしたところで

 

「...あたしも行きます」

 

「あたしも〜。蘭だけだと心配だからね〜」

 

美竹さんと青葉さんも行きたいと言ってきたのだ。折角彼と話がたくさんできるというのに彼女らがいてはやりにくい。それは紗夜も同じのようで少し嫌そうな顔をしている

 

以前紗夜は美竹さんに宣戦布告をした為、気まずくなるのは目に見えている。私にとっても、青葉さんは警戒しなければならない。さっきは美竹さんが心配だと言っていたが、実際は翔と行く為の口実なのではないかと疑ってしまう。まぁ、私もそうなのだけど...

 

「メンバーも決まったし行くか。モカ、ちゃんと荷物持ちしろよ?」

 

「分かってる〜。しょ〜君のためだもんね〜」

 

よくもまぁそんな恥ずかしいことが言えるわね...鈍感な彼なら気付かないだろうけど。青葉さんはちらっとこちらを勝ち誇ったような顔で見てきた。まるで、貴女にこのような言葉が言えますかと言わんばかりの顔だった。私は顔が引き攣りそうになるのをなんとか抑えた

 

隣では紗夜と美竹さんが睨み合っていて、その横では翔と琉太が状況を飲み込めていなくて不思議そうな顔をしていた

 

「なんでもいい。早く行くぞ」

 

無事に買い出し終わらせられるかしら?少し不安に思いながら私たちは買い出しへ向かった

 

紗夜side

 

私は琉太たちと一緒に買い出しに行っている。材料などは男子2人に任せてあり、私たちは荷物持ちである。本来は逆なのだろうが、普段料理をしない私からしてはあまり何を使うのか分からないのでこちらの方がやりやすい

 

翔さんと湊さん、青葉さんの3人は肉や焼肉のタレなどを、琉太と美竹さんと私で野菜を買いに行くことになった

 

私たちの間には会話はほとんどない。というか、話せるような空気ではなかった。折角琉太と2人でいれるチャンスがあったというのに美竹さんに邪魔されてしまい、私は機嫌が少し悪かった

 

「美竹さん、もう少し右に行けるかしら?琉太が狭くなるでしょう」

 

「氷川さんこそ、もっと左に行ったらどうですか?少し寄りすぎだと思いますよ」

 

「お前ら、ただの買い出しで喧嘩なんてす」

 

「「貴方は(あんたは)黙ってて」」

 

「...ハイ」

 

ハァ...こんなとき、今井さんがいればこの空気をなんとかしてくれるというのに...私ではなんとかするどころか、より険悪な雰囲気にしてしまった。彼に迷惑をかけたくないのに...

 

それからというもの、私たちの間に会話は一切流れなかった。湊さんたちと合流したとき、私たちの空気を察したのか特に話しかけてくるということはなかった

 

会計を済ませスーパーを出ると、急に琉太と翔さんが立ち止まった。どうしたのかしら?

 

「全員俺たちから絶対に離れるなよ。離れたら死ぬと思え」

 

琉太からそんな忠告を受けた。それに、2人の顔がとても険しい。まるで敵が近くにいるのが分かっているかのような...

 

慎重に歩き、彼らから離れないようにみんなで寄りながら別荘へ戻る。本当に何かあるのかと疑ったそのとき

 

「伏せろ!」

 

琉太に方を掴まれ思い切りしゃがみ込む。先程まで私たちの頭があった場所にはギラリと輝く刀があった

 

刀の持ち主は黒いハットを深く被り黒いコートを着ていた

 

「全く...こんなときに襲って来るんじゃねえよ。こっちは連れがいるってのに」

 

その謎の人物はその言葉を無視して再び襲いかかってきた。それを翔さんが前に出て受け止めてくれた。どうやって?素手で刀を受け止めるなんて...

 

「翔!」

 

湊さんも思ったのか、彼の名前を叫ぶ。しかし、彼は平然とした声で

 

「心配すんな。幾ら何でも素手じゃ無理無理。ちゃんとナイフ使ってるよ」

 

何故そのようなものを持っているのだといつもなら注意していたところだが、今はそれどころじゃなかった

 

「それで、何の用だ?気配からしてお前1人しかいないみたいだが、たった1人で俺たちに勝てると思ってるのか?」

 

「...」

 

謎の人物は琉太の問いかけに答えず再び襲いかかってきた。2人はひょいと躱し、私たちを下がらせた

 

「友希那、みんなで固まっとくように見とけ」

 

「わっ分かったわ」

 

「さて、どうする?下手に手出しはできないぞ」

 

「手足を折る。その後は警察に任せよう。紗夜、警察呼んどけ」

 

彼に指示され私は警察に連絡する。場所を伝え、早く来てもらうようにお願いする。彼が死んでしまう...そう思わずにはいられなかった。しかし、それは意味のないことだった

 

2人は一瞬で黒いコートの人物に詰め寄り手に持っていたナイフで膝の関節を切り裂いた。そして倒れたところを狙い足の骨を折り、続いて両腕の骨も折った。その光景を見て私は立ちすくんでしまった

 

誰でも目の前でこんなものを見せられればそうなるだろう。だが、それだけではなかった。琉太の殺意に満ちた目を見て恐怖を覚えた

 

「ふぅ...悪い、変なもん見せたな。しばらく此処にいさせてくれ。こいつを警察に引き渡す」

 

最早何を言っているのか分からなかった。今私を支配するのは恐怖のみ。先程まで命を狙われていたという恐怖と、琉太のあの目に対する恐怖の2つだった

 

20分くらいして警察の方が来て、犯人は逮捕された。翔さんが事情を話し、終わると警察は帰って行った

 

「すまん、待たせたな。折角の打ち上げなのにこんなことになって悪かった。さぁ、戻ろう」

 

何も頭に入って来なかった。あれを見て平然といられる方がおかしいが、今の私は明らかに異常だった

 

「大丈夫だ。俺がそばにいるから、安心しろ」

 

「...ありがとう」

 

さっきまでの顔が嘘のように今の彼の顔は優しかった。お陰で少しだけ安心することができた

 

別荘に帰ると、既に準備は終わっていて早速打ち上げが始まった。料理のできる今井さんも加わりXaharの4人が次々と肉や野菜を焼いていった

 

「はーいできたよー!みんなじゃんじゃん食べちゃって!」

 

祐奈さんの一言でみんなが一斉に食べ物を取って行った。焼き加減が絶妙でとても美味しい。普段そこまで多く食べるわけではないが、今回はたくさん食べれてしまった

 

それからは時間を忘れ打ち上げを楽しんだ。みんなが食べ終わると、祐奈さんがバレーボールを持ってきてバンド対抗でバレーボールをすることになった

 

結果は私たちRoseliaの勝ち。翔さんと花梨さんの連携がとてつもなく、どちらかがスパイクを打てば必ず点かとれるという異常な試合だった。琉太と祐奈さんも相当なものだったが

 

遊び疲れたところで片付けが始まり、それぞれで分担しながらやった。洗い物を除いて片付けは10分程で終わり、10分後には洗い物も終わってしまった

 

これで終わりかと思った矢先、美竹さんの一言で場の空気が凍りついた

 

「ねぇ、聞きたいんだけど...さっき私たちを襲ってきたやつは誰?」

 

「「「!?」」」

 

祐奈さんに翔さん、琉太の3人はまさかそんな質問が飛んでくるとは思っていなかったのか驚いていた

 

「襲われた?どういうことだよ蘭」

 

「買い出しの帰り、急に変な人が刀を持って襲ってきた。普通焦るよね?にも関わらず2人は落ち着いてた。てことは襲われるのを知っていたのか、相手が誰なのか分かっているのかのどっちかでしょ?」

 

随分と勘がいいみたいね。彼らが命を狙われていることは知っている。だが、それを教えてくれるわけがない

 

「知る必要はない。事情が知りたいんなら友希那か氷川さんに聞くんだな。最もほとんど知らんけど」

 

「ちょっと翔、そこで私たちに振るのはやめてくれないかしら?私たちだって何も知らないのよ?」

 

「何であんたはそういう言い方しかできないのよ...悪いけど、貴女たちには関係ないことだから」

 

「実際に襲われたのに関係ない?そんなわけ...」

 

「最後の忠告よ。この件には一切関わらないで。無駄な詮索はしないことね。死にたくないなら」

 

絶対零度の如く冷気を帯びた祐奈さんの声は一瞬で美竹さんを黙らせた。他のみんなも何も言えなくなっている

 

「お姉様、少し言い過ぎです。これは貴方たちのためでもあります。ここは引き下がってください」

 

楽しいはずの打ち上げはこんなにも締まらない形で幕を閉じた

 




読了ありがとうございました

☆10評価をくださったyosito555さん高評価ありがとうございます!

次回からは花音とイヴを少しずつ出して行こうと思います


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第41話

ドリフェスで星4友希那とつぐみ、蘭ゲットだぜ!

う〜ん...メンバー的にめちゃくちゃ嬉しいけど、限定キャラが出てこないね。確率ってなんだろう?


咲夜side

 

合宿が終わってから2日後、俺は花音の家に向かっていた。帰ったことを伝えたら今日水族館に行こうということになったのだ。集合場所は近くの公園だが、彼奴の場合道に迷うのでこうして彼女の家に行っているのだ

 

それにしても、合宿は酷い終わり方だった。友希那と氷川は少しだけ事情を知っているのでよかったが、蘭やAfterglowの面子はしつこく聞いてきた。華蓮によって黙らされたけど

 

やっぱり距離を置くべきなのかもしれない。だが、友希那とは何があろうと守ると約束したんだ。花音もモカも、イヴも守らなきゃいけない

 

俺の家から花音の家までは約15分。集合は朝の9時なので30分前に家を出て先回りすることにした

 

予定通りの時間に着き、インターホンを押す。すると家の中からドタバタ走り回るような音が聞こえてきた。やがて家の扉が開き出てきたのは花音の母だった

 

「あら、神道君じゃない。花音は準備してるからもう少し待っててもらえる?」

 

「大丈夫ですよ。俺も早く来すぎてしまいすみません」

 

流石に早すぎたか...後で謝っとこう

 

「ふふ、それにしても花音が男の子と出かけるなんてね」

 

「そんなに珍しいことなんですか?」

 

彼奴は結構明るめな性格だしいくら花咲川が女子校とはいえ男友達もいると思ったが

 

「あの子女子校育ちだから男の子が少し苦手なのよ。それに余程信頼してる人じゃないと引っ込み思案なところが出てきちゃって...」

 

へぇ〜意外

 

花音の母と軽く話していると、随分と洒落た格好をした花音がやって来た。こいつ、相当化けたな

 

「待たせてごめんね...わざわざ家まで迎えに来てもらって」

 

「気にすんな。迷子になられたら心配だからな。それに、俺の方も早く来すぎた。ごめん」

 

「翔君が謝る必要なんてないよ。ありがとね、それじゃあ行こ?」

 

「あぁ」

 

そこら辺の男だったら今の上目遣いでどうにかなってそうだな。俺にはそんな感情全くないしそのようなことは起こらないけど

 

「そういえば、よく私の家が分かったね」

 

「前に花音を送ったときに大体の位置は覚えてたからな。集合場所に行くのに迷われても困るし先に行くことにした」

 

「うっだから慣れてる場所は大丈夫だって〜」

 

「いつかの電話で多分と言った奴はどこの誰だったかな?」

 

「ふえぇ〜...翔君がいじめてくるよ〜」

 

「冗談だ。ほら、水族館が混む前にさっさと行くぞ」

 

流石にこれ以上言ったら可哀想なのでやめておく。涙目になられるとこっちに被害が及ぶからな。社会的に

 

「あの、1つお願いがあるんだけどいいかな?」

 

「ん?」

 

「手、繋いでもいいかな?」

 

俺は別に構わんが...何でまた?柏からはそういうの女子は気にするから発言には気をつけろと言われているため何を言ったらいいのか分からない

 

「困らせちゃったかな?ごめんね、今のは無しで」

 

俺が返答に遅れた所為で彼女が勘違いしてしまったみたいだ。表情も暗いし、このままではいけないと思い片手を差し出す

 

「え?」

 

花音は驚いたような顔をしている。やはり断られたと勘違いしたのだろう

 

「勘違いさせて悪かった。突然のことで少し頭が追いついてなかっただけだ。ほら、人も多くなってきたし繋ぐなら繋げ」

 

「...!うん!」

 

俺の言葉がそんなに嬉しかったのか、花音はとても幸せそうな顔で俺の手を握ってきた。そんなに喜ぶことでも無いと思うんだけどな...

 

それから駅に向かいチケットを買うと改札を通りホームに出る。やはりまだ夏休みということもあり人が多い。花音を迷子にさせないためにもしっかり手を握っていないとな

 

「電車では絶対に俺の手を離すなよ。ただでさえお前は迷子になりやすいし、今時何されるか分からんからな。可愛いんだし」

 

「ふぇ!?かっかわ...///」

 

あれ?まだ電車にも乗ってないのに何で震えてんの?顔もめっちゃ赤いし...

 

「おっおい大丈夫か?何か気に障ったんならすまなかった」

 

「だっ大丈夫だよ。それより、そろそろ電車来るし準備しないと」

 

「そうだな。水族館まではどのくらいかかるんだ?」

 

「降りる駅までは30分弱くらいかな?そこから歩いて大体10分くらいしたところにあるよ」

 

「花音が歩いて10分なら近いな。電車に乗るのも...ちょっと待て電車に乗るのは何分つった?」

 

「え?30分弱だけど...」

 

「終わった...」

 

嘘だろ?自転車以外の全ての乗り物で酔うという重症なのにそれが30分も続くのか?地獄以外の何物でもないじゃん

 

「えっと...もしかして乗り物ダメだった?」

 

「そのもしかしてだ。自転車以外の乗り物俺無理なんだよ」

 

「ごっごめんね?無理に付き合わせちゃって...」

 

「別に花音が気に病む必要はない。俺の責任だし、何よりずっと前から約束してたことなんだ。このくらいは我慢するさ」

 

「...ありがとう。その代わり、きつかったら言ってね?」

 

「そうする」

 

やっぱり優しいな花音は。その優しさがお前を殺すことがないよう、俺は祈ってるよ

 

 

花音side

 

今日は待ちに待った翔君とお出かけする日。今日のために何日もかけて計画を立てて来たんだ

 

約束の場所までは近いしいくら私でも迷わない。だから少し余裕を持って準備していた。でも、それが仇となった

 

家のインターホンが鳴りカメラの映像を見てみるとそこにはなんと翔君が映っていた。突然のことに焦ってしまう

 

「お母さん!翔君来たからちょっと時間稼いで!すぐに準備するから!」

 

誘った私が待たせては立場がなくなってしまう。私は残っていた作業を急ピッチで進め服装を確認してから玄関に向かう

 

「待たせてごめんね...わざわざ家まで迎えに来てもらって」

 

我ながら本当に情けない。彼に恋してる者として好感度を上げなくてはならないのに待たせてしまうなんて

 

「気にすんな。迷子になられたら心配だからな。それに、俺の方も早く来すぎた。ごめん」

 

「翔君が謝る必要なんてないよ。ありがとね。それじゃあ行こ?」

 

「あぁ」

 

過ぎちゃったことは仕方ないよね。これから挽回しないと。大丈夫、千聖ちゃんにも協力してもらったんだし上手くいく...筈

 

とにかく頑張ろう!

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

それから彼と手を繋いでみたり、ときには腕に抱きついてみたりと計画通りに実行しているうちに目的地の水族館に辿り着いた。意外だったのは翔君が乗り物に弱いということ。苦手なものはないと思ってたけどそうでもないらしい

 

「翔君は好きな魚とかある?此処は色々な魚が展示されてるからもしかしたらいるかもしてないよ」

 

「普段こういうところに来ないから正直分からないけど...見た目が美しいというか、綺麗なやつあるか?クラゲとかクリオネとか?」

 

「クラゲ!?翔君クラゲ好きなの!?」

 

「うおっ!?花音一旦落ち着け!」

 

「あっごっごめんね...クラゲのことになるとつい...」

 

やってしまった。変な風に思われてないだろうか?今ので多分引かれたよね...

 

「クラゲ好きなんだな。花音らしくていいじゃないか。パンフレットによればクラゲはまだ奥の方だし...とりあえず順路通りに行くか」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

1つめの作戦として彼の好きなものを優先するというのがあったのだが、あまりないらしい。でも、見たいものが一緒だったので内心とても嬉しかった

 

「結構いるなぁ...花音はよく此処に来るのか?」

 

「たまにかな。普段は千聖ちゃんと来るんだけど、1人で来ることもあるよ」

 

「よく迷子にならずに帰って来れるな」

 

「だから慣れてる場所は大丈夫だってば〜!」

 

うぅ...私そんなに信用ならないのかなぁ...確かに最初の方はよく迷子になってたけど...

 

「ふっ...あははは!やっぱ花音は面白いな!」

 

「もっもしかしてからかってた?」

 

だとしたら物凄く恥ずかしいんだけど...

 

「すまんすまん。花音の反応が見てると楽しくて...」

 

「もう!翔君のバカ!」

 

私は翔君を置いて先に進んで行く。周りを見ずに進んだせいで自分がどこにいるのか分からなくなってしまった

 

「あっあれ?ここ...どこだろう?」

 

どうしよう...幾ら慣れてるとはいえ、闇雲に来ては分からなくなってしまう。優しい彼のことだ、きっと探してくれているだろう...

 

「ハァ...私、迷惑かけてばっかだな。折角のお出かけなのにこんなの意味ないよね」

 

「おーいかのーん!どこだー?」

 

「ふぇ?」

 

「やっと見つけた。少しからかい過ぎたな、ごめん」

 

「そんなことないよ。私が勝手に怒ってどっか行ったから...」

 

「それでも責任は俺にある。本当に悪かった」

 

やっぱり、君は優しいね。私が悪いのにその責任を全部自分に向けるんだもん

 

「もういいよ。お互い様ということにして、次行こ?」

 

「待て、ちょっとこっち来い」

 

「え?ちょっと待ってよ〜」

 

急に手を掴まれて連れていかれる。その力は優しいけれど、振りほどこうとはとても思えなかった。彼の顔を見ると、とても楽しみな顔をしていたのだ

 

「此処って...」

 

されるがままに連れていかれたのはクラゲが展示されている場所だった

 

「運の良いことに花音がこの近くに迷い込んでな。追いかけてる途中で見つけたんだよ。お前が気に入るのもよくわかる気がする」

 

そっか...私のためにわざわざ戻ってくれたんだ

 

「ありがとう翔君」

 

「こちらこそ、此処に連れて来てくれてありがとな。またいつか一緒に来よう」

 

「うん!」

 

なんだかんだあったけど、今までで1番楽しい日だったかもね

 

「よし、時間はまだあるし次行くか。見終わったとしても昼過ぎだろうし、飯はどこに行く?」

 

「それなら、この近くに千聖ちゃんとよく行くカフェがあるから、そこで食べようよ。サンドウィッチが凄く美味しいんだ」

 

「...よし、そこ行くぞ」

 

それからたくさんの魚を見て全ての場所を周り切ったのでお土産を買いカフェでランチすることになった

 

またまた意外なことに、彼はパンが大好物だということを知った。クールな見た目と中身にギャップがあってとても面白い

 

「ご馳走様。いや〜此処のサンドウィッチ美味かったな」

 

「でしょ?山吹ベーカリーにも並ぶと思うんだ」

 

「確かにな...帰り寄ってくか」

 

「それより、まだ午後あるけど翔君はどうしたい?」

 

「花音のドラム見てみたいな。前々から言ってたし」

 

「でも、スタジオが...」

 

「CiRCLEなら空いてるだろ。一応彼処でバイトしてるし空けようと思えば空けれる」

 

「そうなんだ...それじゃあ行こっか」

 

なんだか緊張して来たな...下手だって思われたらどうしよう...普段のライブよりも緊張して来ちゃった

 

「折角だしセッションしないか?ギターの練習もしたかったし」

 

「翔君ギターも弾けるの?」

 

「苦手だけど基本はできる。Roseliaのマネージャーやってると友希那とか氷川さんの面倒も見なきゃならないから、ある程度は克服しないと」

 

マネージャーって大変だね...ハロハピは黒服さんがなんでもやっちゃうからそういう感覚が鈍ってるのかも

 

運の良いことにCiRCLEのスタジオが空いていて、彼とセッションすることができた。彼にはギターボーカルをやってもらい、色々な曲をやった

 

「そろそろ時間だな。じゃあ片付けをして帰ろう」

 

気がつけば予約時間の終了間際になっていた。急いで機材の片付けをして鍵を返し帰路につく

 

「今日はありがとな。お陰で楽しめたよ」

 

「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう。また機会があったら一緒に出かけたいな」

 

「花音が望むならできる限りそれに応えよう。ほら、家まで送るぞ」

 

「ありがとう」

 

今日は楽しかったな...またいつか一緒にお出かけができますように

 

こんな日常がいつまでも続きますように

 

私はそんなことを願いながら家に帰った




読了ありがとうございました

評価や感想お待ちしております


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第42話

投稿遅れてすみません

ドリフェスで星4が6体出ました!


咲夜side

 

今までとは何もかもが違う夏休みを過ごし、それは終わりを告げた。今日は金曜日で始業式だけやって終わりだ。どうせなら月曜まで引っ張れよ...

 

「柏、準備できたか?」

 

「大丈夫ですよ。奏斗さんも今家を出たみたいです」

 

「分かった、とは言っても家隣だしすぐに『ピンポーン』ほら来た」

 

「では行きましょうか。お姉様は先に行ったみたいですし」

 

「なんか瑠奈さんに呼ばれたらしいぞ。話があるとか言って急いで出て行った」

 

なんだか嫌な予感がするな。それに俺と奏斗が被害を受けそうな感じがする

 

「どうしました?浮かない顔をして」

 

「いや、何でもない」

 

「おーいお前らいつになったら出てくんだって鍵開いてる?」

 

「悪りぃ、少し柏と喋ってた。鍵が開いてるのは華蓮が瑠奈さんに呼ばれて先に行ったから」

 

「ほぇ〜...んじゃ行くか。どうせ午前で終わりなんだし、午後からバイト行こうぜ」

 

「あぁ、それと瑠奈さんに仕送りねだりに行く。合宿で大半を使ったからな」

 

どっかの誰かが一緒に行くと言い出すからこうなるんだよ。流石に彼奴らから参加費をもらうわけにもいかず、費用は全て俺と華蓮、奏斗で賄った

 

「華蓮さんも給料入るまで節約しなきゃって呟いてたしな。悪いことをしたな」

 

どうせボーナス入ってるからあんまり気にしてないけどな。しかも瑠奈さんからおまけまでもらってるらしい。その金寄越せってんだよ

 

「瑠奈さんの所に行くなら少し急いだ方がいいんじゃないか?いつも通りの時間に出たから着くのはギリギリになるぞ」

 

「だな。柏、走るから荷物寄越せ」

 

「ありがとうございます。あの、少しは加減して走ってくださいね?私が追いつけないので」

 

「あれでも軽く走ってる方だけどな...まぁ善処するよ」

 

とにかく学校に行くか。瑠奈さん許可してくれるかな...

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

そんなこんなで俺たちは理事長室の前にいる。今から仕送りをお願いしに行くのだが、何故か言い出しにくい

 

「...妙に緊張するな。あの人のことだし断りしないだろうが...」

 

「何かしらの条件をつけて来ることはほぼ間違いない。そこは覚悟を決めよう」

 

前にも此処に入学させてほしいと頼みに来たとき、その場に溜まっていた書類整理を条件とされたことがあった。普通の人ならその程度かと思うだろう?だが量がハンパなかったのだ。朝行ったのに帰りは夜だったぞ

 

「HR始まる前に済ませるか。すみません、理事長はいらっしゃいますか?」

 

中に人がいるかもということを考えてあえて理事長と呼ぶ。すると中から

 

「いるわよ。入りなさい」

 

「失礼します」

 

ドアを開けた先には呑気に紅茶を飲む瑠奈さんがいた

 

「今は誰もいないから普通に話して大丈夫よ。それより2人してどうしたのかしら?」

 

「実は...今月の生活費がヤバいことになってまして。今月分だけ仕送りをいただけないかと...」

 

「あら、それは大変ね。分かったわ、それぞれに100万くらい入れとくわ」

 

「ありがとうございます」

 

おぉ、案外すんなりと引き受けてくれた

 

「ただ条件が1つ」

 

えぇ、あるのかよ

 

「来週から2人には1週間だけ花咲川女子学園に行ってもらうわよ」

 

「「は?」」

 

What?今この人はなんて言った?花咲川とかまだ共学になってないじゃん。それに1週間だけって

 

「最近花咲川も人が少なくなってきてね、羽丘が共学にすると言ったら向こうも来年からすることにしたのよ」

 

「事情はなんとなく分かりました。ですが何故1週間だけ向こうに行くのですか?」

 

「まぁ体験みたいなものよ。新年度いきなり男子が来るって言っても実感湧かないだろうから、少しでも慣れさせとこうって」

 

成る程ね...花咲川なら花音とかいるし、仕送りの条件となれば引き受けるしかないだろう。奏斗も納得のようだ

 

「分かりました。向こうの理事長とは話はつけてあるのですか?」

 

「勿論よ。丁度良かったわ、華蓮を呼んでこのことを話させようと思ってたけどいらなかったわね」

 

だから彼奴は呼ばれたのか。HRで話そうとしたけど俺たちが来たから意味がなくなったな

 

「話は終わりかしら?そろそろ始業式も始まるから1度戻りなさい」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

少し面倒なことになったが、仕送りはゲットできたし結果オーライだな

 

「教室戻るぞ。まだ移動はしてないだろうし」

 

「あぁ。後で友希那たちにも言っておかないとな」

 

「蘭たちにも言っておくか。紗夜には内緒にしとくよ、驚かせたいし」

 

「お前後で何されるか分かんねえぞ?まぁ奏斗がそうするなら俺も花音には内緒にしとくわ」

 

とりあえず始業式怠いな。瑠奈さんのことだしすぐに終わらせてくれるだろうけど

 

 

華蓮side

 

 

始業式を終えてクラスでは提出物の整理を行っていた

 

「みんなー整理が済んだら番号順に前に出してね。宿題の順番は黒板に書いておくから」

 

1学期の間で教師の仕事にはだいぶ慣れた。他の先生たちも優しくしてくれたおかげでもある。私のことは23歳だと思われてるので見た目が若々しすぎると年配の方からは嘆かれてしまうがそこまで居心地は悪くはなかった

 

全員宿題を出し終えてまとめられたので教卓に立ち話をする。毎度どう話すか考えるのがめんどくさい

 

「それじゃあ、改めてみんな久し振り!2学期も頑張っていこうね!2学期は体育祭があるからそっちの練習も頑張ろう」

 

私が体育祭の話をすると喜びの声や悲しみの声など様々な声が聞こえた。きっと運動が得意か苦手かで分かれていることだろう。ただ2人だけ無関心な奴がいるけど

 

「ほーら翔に琉太君、貴方たちもやるんだからもう少し関心を持ちなよ」

 

「んなこと言ったって体育祭とか怠いだけだろ?日に焼けるし」

 

女か私の弟は

 

「それに今年は花女と合同でやると聞きましたけど、向こう男子いないでしょう?そこんとこどうするんです?」

 

「そこは...多分話し合いが行われるからそれ次第ね。あぁそれと、2人に言いたいことが「来週から花女に行ってこいだろ?」...何で知ってんの?」

 

「さっき理事長に聞いた。少し頼み事をしに行ったときにな」

 

それじゃあ私が朝早く呼ばれた意味ないじゃん...というかこの2人絶対仕送り頼みに来たでしょ

 

「えぇー翔君花女行っちゃうの!?」

 

「琉太君も?」

 

クラスの女子からは嘆く声が飛び交う。まぁこの2人はこの学校では絶大な人気を集めてるし無理もないか。こらそこ、行く前に抱いてとか言ったやつ、弟に手を出そうってなら殺すわよ?

 

「1週間だけよ。再来週には戻って来るわ」

 

私の言葉で全員が安心する。特にモカなんか翔が花女に行くと言った瞬間絶望に満ちた顔してたもん。そんなに彼のことが好きなのね

 

「向こうには知り合いもいるしなんとかなるだろ。事前に挨拶とか行った方がいいか?」

 

「いや、月曜の朝直接行ってくれれば大丈夫よ。集会みたいなのやるらしいからその前に理事長室には行ってもらうけど。月曜は私も同行するから安心して」

 

「分かった」

 

でもそうなると本来の仕事である翔の監視ができないのよね...盗聴器つけてもいいけど一瞬でバレるし後で殺されかねないし...

 

「琉太君、翔の監視頼んだわよ」

 

「了解」

 

「いつまで見張られなきゃならないんだよ...あのクソジジイマジFuck」

 

「それじゃあもうすぐで帰りの時間になるからそれまで適当に喋ってて」

 

この後は特に仕事もないし上がるつもりでいるけど、暇なんだよね...何しよっかな

 

「ねぇ咲夜、今日ってCiRCLE誰が予約入れてる?」

 

周りでは結構な声で話しているので小声なら本名でもバレない...筈

 

「確かRoseliaにAfterglow、Poppin’Partyの3つだったと思うが」

 

「ふ〜ん。じゃあRoseliaとAfterglowは適当に見てあげよっかな」

 

「俺たちはバイトあるからそれまではなんとか頼む。それか臨時で雇ってもらえば?まりなさんなら許してくれるだろ」

 

「それもいいけど、久し振りにあの子たちの音を聴きたいのよ。時間になったら一緒に行きましょ?」

 

「分かった」

 

いや〜楽しみだなぁ。特にあこと巴はみっちり鍛えてやらないとね。あの2人性格似てるせいでミスの仕方も似てるというか本当に仲良いよね

 

咲夜は私のこと、どう思ってるのかな?




読了ありがとうございます。いつもより短くてすみません

評価や感想お待ちしております

突然ですが、気分的にもう1つ何か書こうか迷ってます。一応ヒロインは紗夜で考えてますが、希望があれば感想の方でよろしくお願いします


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第43話

咲夜side

 

 

ついに花咲川に通う1週間が来た。この件を友希那に話したら何故か残念そうな顔をしていて、今井にめっちゃからかわれてた

 

正直言って不安だ。花咲川には知り合いは殆どいないし、何より先生が俺たちの正体を知らない。普段よりも警戒して過ごさなきゃならないし、何より弦巻だ。おそらく学校の至る所にSPみたいな奴がいるだろうしある程度の監視はされるだろうから余計な行動は控えないといけない

 

「朝理事長室に行くって言ってたけど、少し早すぎないか?」

 

現在の時刻は7時。学校の門が開く時間だった

 

「他の生徒に見られたら大変だからってこの時間に来るように言われたのよ。朝礼が始まるまで理事長室で待機だってさ」

 

「大丈夫かな...俺ここの知り合い紗夜しかいないから不安なんだが」

 

「一応白金もいるだろう。まぁゆうて俺も花音とイヴしかいないけど」

 

「ポピパいるじゃん。少しは楽でしょ」

 

「「彼奴らは嫌だ」」

 

見事に俺と奏斗がハモった。ポピパはテンション高くてついていけんし、何よりうるさい

 

「ハァ...とりあえず正体がバレないようにしなさいよ。理事長ですら知らないんだから」

 

「まぁ普通にやってればバレないだろ。時間もあれだし行くぞ」

 

校内に入ると中には理事長の秘書がいて案内された。この秘書、女にしては身長高いな

 

なんてことを考えながら歩いてたらいつのまにかついていた

 

「鍵村です。神道さん御一行をお連れしました」

 

秘書がドアをノックすると中から了承の声が聞こえてきたので一言挨拶して中に入る

 

「初めまして、私は此処花咲川の理事長をしている加藤です」

 

「この2人の担任をしております、神道祐奈です。私の左にいるのが神道翔、右にいるのが妹尾琉太です」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「こちらこそ。この度はこちらの都合に合わせていただき感謝します。月読命理事長によろしくお伝えください」

 

「勿論です。こちらこそ1週間この2人をお願いします」

 

「早速だけれど、貴方たち2人にはこの後の朝礼で少しだけ自己紹介をしてもらいます。まだ時間はあるのでゆっくり考えておいてください」

 

「「分かりました」」

 

自己紹介か...入学式のときもやったなそんなこと。あのときみたいにやれば問題はないか

 

「それでは私はここで失礼します。2人とも頑張ってね」

 

「あぁ、ありがとな」

 

華蓮を見送り、俺たちはここで待機となった

 

「貴方たち此処には親しい知り合いはいるかしら?できればそこのクラスに配属させるつもりだけれど」

 

「1年の間でしたら俺は若宮イヴさんがいます」

 

「俺は1年にはいませんね。2年の方にはいるのですが」

 

「そう。2人には申し訳ないけれど、なるべく多くの生徒に体験させたいから別のクラスに配属させることになるけれどいいかしら?」

 

「構いません」

 

イヴがいるならまだなんとかなるだろ。奏斗はまぁドンマイだ

 

「あと30分くらいしたら移動します。それまでに準備をしておいてください」

 

いよいよだな。まぁなんとか頑張りますかね

 

 

紗夜side

 

 

今日は朝から学校は騒がしかった。なんでも今日から1週間2人ほど男子が編入されるらしい。そのため周りでは入ってくる男子はカッコいいのがいいなどそのような会話で持ち切りだった

 

今日は朝礼があるのでみんないつもより学校に来るのは早かった。身だしなみも大半が揃っていたのでチェックも楽だった

 

「それにしても、誰が来るのかしらね...」

 

ほとんど何も情報は入っていないので誰が来るかまでは分からない。朝礼で紹介されるらしいが、できれば真面目な人が来てほしい

 

「あっ氷川さん...おはようございます」

 

「白金さん、おはようございます」

 

「どうしたんですか?その...難しそうな顔をしていたので」

 

「いえ、今日から来る男子生徒が誰なのか少し気になっただけです。白金さんは何か知っていますか?」

 

「私も...分からないです...すみません」

 

「気にしなくていいですよ」

 

まぁ知らなくて当然だろう。担任からは男子生徒が来るとしか聞いてないのだから。ふと時計を見るとあと5分で移動開始の時刻だった

 

「それでは時間なのでそろそろ教室に戻りましょう」

 

「はっはい...」

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

そして朝礼が始まった。今は理事長が男子との関わりについて話をしている。此処の理事長は少しばかり話が長い

 

「それでは今日から1週間此処で過ごすことになった男子生徒を紹介したいと思います。出て来てください」

 

理事長の合図でステージ脇から2人の男子が出てきた。そしてその人物は私を驚かせるには十分だった

 

「...は?」

 

あまりの出来事に間抜けな声が出てしまう。それもそうだろう、何故ならステージに立っているのは

 

「羽丘学園から来ました、1年の神道翔です。よろしくお願いします」

 

「同じく妹尾琉太です。よろしくお願いします」

 

私の初恋である琉太、そしてRoseliaのマネージャーである翔さんだった

 

「それではみなさん仲良くしてくださいね」

 

周りでは黄色い歓声が上がっていたが、私は驚きのあまり何も聞こえなかった

 

 

奏斗side

 

 

ステージで軽く自己紹介をしたところで今日の朝礼は終わりとなった。あの後俺たちはそれぞれの担任に連れられて各教室へと向かった

 

あ〜咲夜がいないのは不安だ。ただでさえ羽丘にも俺たちしか男子がいなくて彼奴と一緒だったからなんとかなっていたものの、離れるとなるとかなり面倒臭い

 

「ハァ...」

 

「ため息ばかりついてると幸せが逃げるぞ。私のクラスはみんな優しい、安心しろ」

 

俺の担任はどこか男っ気があり威厳がある。目もなかなか鋭いし、逆らったらボコられそうだな。絶対勝てるけど

 

「そういえば、妹尾は1年には友人はいないみたいだがそこは大丈夫か?」

 

どういう意味の大丈夫だこの野郎

 

「一応知り合いみたいなのはいますけど、軽く話したことがあるくらいですから親しいとはいえませんね」

 

「どうせ周りの女子が寄って来るだろう。お前見てくれはかなりいいし、さっきの歓声を聞けば嫌でも気にはなる」

 

「まぁなんとかしますよ」

 

昼飯は紗夜と食べよう。他にまともな知り合いがいないし紗夜なら寄ってたかるようなことはしないだろ

 

「此処だ。弦巻がいるが悪いやつではないから安心しろ」

 

「えっ...」

 

嘘だろ?弦巻だけは同じクラスになりたくなかったというのに!

 

「お前ら席につけ。このクラスに先程の男子が1人配属となった。改めて紹介する、入れ」

 

先生の指示に従い教室に入る。すると中からキャーとか叫び声が聞こえてきた。耳が痛い

 

「え〜先程も挨拶をしました、妹尾琉太です。1週間という短い時間ですがよろしくお願いします」

 

「よし、それじゃあ彼処の空いてる奥沢の隣に座ってくれ」

 

名字を聞いて分かったがなんとまぁミッシェルの中身ではないか。彼女とはCiRCLEでライブをやったときに話すし少し助かった

 

「久し振り奥沢さん。これからよろしくね」

 

「こちらこそ、いつもこころがご迷惑をおかけしております...」

 

「あはは...敬語はいらないから、分からないことあったらよろしくね」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ5分後に授業を始めるぞ。各自準備しておけ」

 

この後残り5分だというのにクラスの女子から質問攻めにあったのは言うまでもない

 

 

咲夜side

 

 

奏斗と別れた後、俺は担任となった人に教室に案内されていた。この人はなんだかふんわりしていて空気が掴みにくい

 

「それじゃあ早速紹介しちゃおっか。一緒に入って来てね」

 

彼女と一緒に教室に入ると窓が割れるんじゃないかと思うくらいの叫び声が聞こえてきた。距離が近いため耳が痛い

 

「は〜いみんな静かに!今日から神道君が此処のクラスに配属されたからみんな仲良くね!」

 

「先程も紹介しました神道です。今日から1週間よろしくお願いします」

 

「じゃあ神道君は若宮さんの隣に座ってもらうね」

 

マジかラッキー。イヴとは仲良いし、何より数少ない俺が信頼している奴だ。それに久しく会ってないからな。話もしてみたい

 

「よっ久し振りイヴ」

 

「お久し振りです翔さん!元気にしてましたか?」

 

「あぁ。イヴこそ、仕事の方はどうだ?それとストーカーの件も」

 

「お陰様で大事にならずに済みましたよ。警察の方がすぐに片付けてくれました。まるで町奉行のようです!」

 

「それとこれとは違うんじゃないか...まぁ彗人さんは優秀だからな」

 

あの人確か組織の対策チームの最高責任者じゃなかったっけ?昔から世話になってるし、彗人さんには頭が上がらない

 

「は〜いそれじゃあ授業を始めるよ。みんな神道君とお話したいだろうけど我慢してね。終わったら幾らでもしていいから」

 

おい待て、俺の身が持たねえぞ。入学式のときもそうだったが、あの数を1人ずつ受け答えするのはかなり疲れるんだが

 

「ハァ...不安だ」

 

「翔さんもブシドーの心を持てば大丈夫です!」

 

「すまん、俺にはできそうにない。そうだ、昼飯一緒に食べようぜ。花音も後で誘うつもりだから」

 

「はい!是非ご一緒させていただきます!」

 

なんだかイヴの珈琲が飲みたくなってきたな。後で羽沢珈琲店のシフト入ってるか聞いてみよう

 

なんてことを考えながら俺は午前の授業を受けた

 

イヴにシフトを聞いたら今週はパスパレとかモデルの仕事の関係で行けないと言われ、酷く落ち込んだのは別の話




読了ありがとうございました

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第44話

遅れて申し訳ありません

姉の引越しの手伝いで書く暇がありませんでした


午前の授業が終わり、俺はイヴと一緒に花音の元へ向かう。花音のいるクラスは知っているし、髪の色も目立つからあまり困らないだろう

 

...周りの視線が痛い。廊下を歩いているだけでめちゃくちゃ見られるし、チラッと見るとキャーとか歓声が聞こえるんだもん。怖い

 

「早く花音探して別の場所に移動するか。おっいたいた、かのーん!」

 

「ふぇ?しょっ翔君!?」

 

名前を呼んだら驚かれた。俺そんなに影薄いかな?気配消すのは得意だけど

 

「昼飯一緒に食べようぜ。イヴもいるけどいいか?」

 

え?松原さん神道君と仲良いの?

 

隣にいるの1年の若宮さんだよね?やっぱ美男の近くには美女が寄るんだね

 

いいな〜私も一緒にお昼ご飯食べたい!

 

外野うるせえぞコラ

 

「勿論!千聖ちゃんもいるけどいいかな?」

 

白鷺か...彼奴はどうにも信用できないんだよな。女優をやっているせいで演じるのが上手い。どれが本当の彼女なのか分からないから迂闊に関わりたくない。まぁそこまで害はないので

 

「構わんぞ。俺は此処で待ってるから呼んでこい」

 

「ちょっと待っててね」

 

 

 

「お待たせ。それにしても貴方だったのね、此処に来る男子って」

 

「俺も先週聞かされたばっかなんですよ。まぁイヴがいたおかげでなんとかなりましたから」

 

「そう。それじゃあ行きましょう。私たちがいつも食べてるオススメの場所があるのだけど、そこでいいかしら?」

 

「勿論」

 

「そういえば、翔君といつも一緒にいる子は誘わなくて大丈夫なの?」

 

「彼奴はおそらく氷川さんと食べるだろ。それに白金さんもいるし」

 

本当に奏斗に関しては御愁傷様としか言えない。同じクラスに弦巻がいるとか終わりだろ。俺も戸山とか面倒なのいるけど

 

「それじゃあ早速参りましょう!」

 

「焦らんともその場所は逃げんよ」

 

イヴってどこか子供っぽいところがあるよな。日本の文化に憧れるのはいいけどなんかズレてるとこがあるっつうか

 

「?どうしました?」

 

「ん、いや、なんか可愛らしいなぁって思ってた」

 

「かっ!?///」

 

あれ、イヴの顔が赤くなっちゃったよ?これどうしよう...俺が狼狽えていると右足に強い衝撃が走った

 

「イッテェ!なにしやがる花音!」

 

何故か足を思いっきり踏まれた。校内靴って案外硬いから余計に痛い。オッカイシイナ、痛みには鈍くなってるはずなのに

 

「ふんだ!翔君のバカ!」

 

そう言うと花音は先に行ってしまった。おい待てお前が先に行ったら迷うだろ止まれ

 

「ハァ...天然のたらしに究極の鈍感。貴方最悪ね」

 

「ちょっと待ってくださいそれどういう意味ですか?前々から思うんですけど、鈍感ってなんですか?俺よく姉貴や妹からも言われるんですけど」

 

「言葉通りの意味よ。自分で考えなさい」

 

女子ってめんどくさ

 

「今思ったことは花音に報告しなきゃならないわね?」

 

「心を読むのやめてくださいごめんなさい」

 

どうして俺の周りの人はみんな心を読むのだろうか?読心術俺も使ってみてえ

 

そんなとき、俺のスマホに着信が来た

 

「誰だこんなときに...げっ」

 

マジかよあのクソジジイじゃねえかよ

 

「どうしたの?」

 

「すみません、先に行っててください。花音が迷子になる前に速く」

 

「わっ分かったわ。イヴちゃん、行きましょう」

 

「うぅ...///」

 

2人が行ったのを確認すると俺は物置部屋に入り電話に応答する

 

「何の用だ?あまりこの時間に電話はかけて欲しくないんだが」

 

『なら他の時間ならいいの「黙れ」ふん、随分と生意気だな』

 

「要件を言え」

 

『今やあちこちで組織の目撃情報が入っている。既に犠牲者が数人ほど出ている』

 

「みたいだな。これじゃあ10年前みたいに国が混乱することになるな」

 

『あぁ。お前も警戒を怠るな』

 

「わーってるよいちいちうるせえな。切るぞ」

 

不味いな。このままだとマジで友希那たちに被害が及びかねない。そうなったら洒落にならない。約束を破って早めに断ち切るか...

 

「流石にダメだよな。守ると言ったからには死ぬまで守らねえと」

 

そうなると近いうちに死ぬかもな。形見の品でも作っとくか

 

 

奏斗side

 

 

昼飯咲夜も誘おうとしたら彼奴は既に教室からいなくなっていた。松原さんでも誘いに行ったのだろうか?そうなるといよいよ食べる相手が紗夜しかいなくなる

 

「仕方ない。今日は2人で食べるか...」

 

今朝華蓮さんに作ってもらった弁当を持ち教室を出る。途中30人くらいから誘われたが先客がいると言って全部断った

 

「どうせ紗夜のことだし1人で食べてるだろうな...」

 

「私のことだというのはどういうことかしら?」

 

「ひょわ!?なんだ紗夜かよ、脅かすなっつうの」

 

「あっごめんなさい。それより、何故私が勝手に1人で食べていることになっているのかしら?」

 

「えっだってお前あまり友達いなさそ...痛い痛い!無言で指折り曲げんな!ごめんなさいごめんなさい!折れる!」

 

俺の必死の謝罪で紗夜はなんとか離してくれた。こいつ案外力強い「何かしら?」「ごめんなさい」

 

「全く...どうしたのよこんな所で。貴方1年でしょう?」

 

「紗夜と昼飯食べようと思ってきたんだよ。翔は他と食べてるし、久し振りに紗夜とたくさん話したかったからな」

 

「そっそう...///」

 

なんか顔赤いけど聞いたら殺されそうなのでやめておこう

 

「それなら白金さんも一緒にいいかしら?多分先に屋上に行ってると思うから」

 

「分かった。とっとと行こうぜ」

 

でないと周りからの視線が痛いからな。俺と紗夜が知り合いなのが余程びっくりらしい。やっぱりこいつ友達いないんじゃ

 

そう考えてると紗夜に足を踏まれた。痛い

 

「周りの連中相当驚いてるな」

 

「女子校育ちの人がここまで男子と仲いいのはまずないだろうし、当然といえば当然でしょう」

 

「休み時間の度に質問攻めにあうから本当に疲れるよ。彼女いるのか聞かれたからいないと答えたらその瞬間告白だし訳分かんねえ」

 

よく初対面の相手にそんなことできるよな。俺だったらまず手足の骨を折って抵抗できないようにするな

 

「それほど珍しいのよ。どうせ全部断ったのでしょう?」

 

「当たり前だろ。初対面の人を信用できるほど俺は心は広くないし、なんなら骨折って尋問してやるよ」

 

「捕まるからやめなさい」

 

こんな他愛のない会話も楽しく感じてしまう。今頃蘭はどうしてるかなぁ。暫く花咲川に行くと言ったら毎晩電話しろと言われた。子供が彼奴は

 

「それで、さっきの話の続きなのだけれど...本当に彼女はいないのよね?」

 

「いるわけないだろ。そもそも俺にそんな資格ないし」

 

彼女作ってのうのうと生きてるなんて世間に知れたら社会的立場がなくなる。えっ既にないって?それを言ったら終わりさ

 

「じゃっじゃあ、すっ好きな人は?美竹さんとか」

 

「好きな人もいないし、蘭はそんな目で見てないよ。そもそも俺そういう経験ないから知らんけど」

 

「そう...」

 

「紗夜がそんなこと聞いてくるなんて珍しいな。そういう紗夜はいないのか?好きな人とか」

 

「いるわよ。バカで鈍感でこっちが露骨にアピールしてるのに全く気づかない、でも危険なことがあると必ず守ってくれる、そんな人よ」

 

「もしかして翔?」

 

「...」

 

俺の名推理による結論を聞かせるとゴミを見るような目で見られた。えっ違うの?

 

「貴方は1回人生をやり直してきた方がいいと思うわ」

 

「仮にも風紀委員のお前がいう言葉じゃねえだろおい」

 

「ハァ...もういいわ。こっちから仕掛けないと無駄だということも改めて確認できたし。それに今なら距離を縮められるチャンスだから」

 

「よかったじゃん。頑張れよ」

 

また呆れたような視線を送られたがもうどうしようもない

 

「そういえば、今日は個人レッスンできそうだが来るか?」

 

「そうなの?なら、行かせてもらうわ」

 

「スタジオに時間入れておくから帰り一緒に行くか。今日は翔もいないし」

 

紗夜と話しているうちに屋上についた。羽丘より少し狭いがそれでも十分な広さだった

 

「あっ氷川さん...と妹尾さん?」

 

「どうもです白金さん。お昼、ご一緒させていただきますね」

 

「はい...」

 

それから弁当を食べた。紗夜の奴を少しもらったがどうやら彼女の手作りらしくめちゃくちゃ美味かった

 

 

咲夜side

 

 

学校が終わると俺はショッピングモールに来ていた。近いうちに死にそうな予感がしたので形見の品を作りにきたのだ。我ながら盛大にフラグ立てたと思う

 

「何がいいかな......肌に持っていられる奴がいいよな。そうなるとやっぱりアクセサリー。ネックレスとかかな」

 

正直俺はそういうの分からないのでもう適当だ。因みに作りに来たというのは此処にある店でアクセサリーをオーダーメイドで自分のアイデアを元に作るというものだ

 

「4人分だよな。友希那にモカに花音にイヴ、見ただけで俺のだと分かるようなアイデアがいいな」

 

1番最初に浮かんだのは死神。これは死を連想させてしまうので却下だ。そして次に浮かんだのが

 

「...月」

 

俺たちのバンドの名前にもなっている月。更には俺の本名にもついている

 

「決まりだな。すみませーん、オーダーメイドのアクセを作りたいのですが」

 

「かしこまりました。それでは彼処の机にてアイデアをまとめておいてください。いくつお作りになりますか?」

 

「5つで。1つだけ違うものですが」

 

「かしこまりました。ではこちらへ」

 

店員に案内され紙の置かれた机へと向かう。そしてある程度説明をすると持ち場へと戻っていった

 

「さて、早速取り掛かりますかね。なるべく綺麗に描かないと」

 

何故5つと言ったのか。それは簡単な話だ、1人だけもう1つ別で作るからだ。俺に道をくれたあの人に送る最高の品を

 

 

 




読了ありがとうございました

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第45話

こんばんは

本当はもう少し書くつもりでしたが、とてつもなく長くなることに気がついたので今回は少し短いです


3日後

 

 

オーダーした品が完成したとのことで俺はショッピングモールに来ていた。あのときはデザインを考えるのに1時間くらいかかって終わったときの疲労感が半端なかった

 

「上手くできてるといいんだがな......ネックレスの方はシンプルだしいいけどもう1つの方がな...」

 

大きさとデザインの細かさの比が全然合ってなくて見せたら店員は顔を引き攣らせていた。マジで申し訳なかったと思う

 

「気に入ってくれるといいんだがな...こればかりは祈るしかないな」

 

なんてことを言っているうちに店に着いた。カウンターに近づいたら何も言っていないのに店員が例の品を持って来た。よくよく見たらこの人俺がデザイン案の紙を渡した人だった。多分髪の色で俺のこと覚えてたんだな

 

「お待たせしました。こちらが今回出来上がった物になります。1度ご確認ください」

 

「ありがとうございます」

 

さて、仕上がりは如何かな...って凄!?えっネックレスも良くできてるけどもう1つのやつ完璧なんだが!?

 

「よっよくここまで再現しましたね...我ながら物凄く難しいデザインだった気がするのですが」

 

「我々の職人にかかればなんとかなります。それより、品質やデザイン等にご不満はありませんか?」

 

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

「それはどちら様にプレゼントされるのですか?」

 

「いつもお世話になっている人たちに送ろうかと。中でも特に世話になってる奴にはこの別に作った物を渡すつもりです」

 

「そうでございますか...頑張ってくださいね」

 

「?はっはい」

 

頑張るって何を?そんな特に頑張るようなことはないと思うんだけど...渡すだけだし

 

会計を済ませバイト先であるCiRCLEへ向かう。今日は友希那が1人で練習するとのことなので休憩時間を使い付き合うつもりだ。今日渡してもいいのだがなんとなく最後に渡したいので明日にしよう。明日はRoselia全員で練習だし

 

シフトの時間が迫ってきたので本気で走る。体力には一応自身はあるし、足も速い方だと思うのでなんとか間に合うだろう

 

と思ってたら信号に引っかかりまくり遅刻したのは別の話

 

明日は花咲川にいられる最後の日だしそのときにイヴと花音に渡すとしよう

 

 

イヴside

 

 

今日は翔さんがここにいられる最後の日。少しでも距離を縮めようと思うのですが...方法が全然分かりません

 

私自身このような想いを抱くのは初めてだし、チサトさんに相談したけど話す機会を増やすしかないとしか言われていない

 

「ハァ...」

 

「どうしたイヴ、ため息なんかついて」

 

そのため息となった元凶、私の想い人である翔さんが聞いてきた。貴方の所為だと言いたいが、チサトさん曰くドンカン?だから言っても意味ないとのこと

 

「いえ、最近ちょっと疲れてて」

 

嘘は言っていない。嘘はブシドーに反することだ

 

「そうか、あんま無理はすんなよ。でないと妹みたいに倒れるからな」

 

「翔さん妹さんがいらっしゃるのですか?」

 

「あれ、言ってなかったっけ。昔過労で倒れた馬鹿が1人な」

 

「そうなんですね。そのお弁当は妹さんの手作りですか?」

 

「これは俺が作ったやつだ。今日の担当が俺だったからな」

 

翔さん料理できるのですね。少し食べてみたいです

 

「今から昼休みだしまた花音誘って行こうぜ。食べたきゃ何かやるよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

正直なところ翔さんと2人きりで食べたいが、彼の希望なので仕方ない

 

「今日はチサトさんいないみたいですけど、いつもの場所にしますか?」

 

「なんだ、千聖さんいないのか。まぁ場所を変えるのもだるいしいいだろう」

 

お弁当を持ち2年の階へ移動する。翔さんと一緒にいると周りから異様な目で見られる。時には殺意のこもった視線も受けることがある

 

「あんま周りは気にすんな。何故にこっちを睨むのか知らんが、まぁ女子校に男子がいればこうなるか」

 

そうこうしている内にカノンさんを見つけ合流すると、普段昼食をとっている学校の庭に移動する

 

「にしても、今日で最後か。羽丘とまた違って良かったな」

 

「翔君は普段羽丘では誰といるの?」

 

「まぁ基本は琉太といるな。あとはAfterglowの面子に友希那やリサさんとか」

 

「翔さんはモテモテですね!」

 

「いやいや、周りに女子しかいないんだからしょうがねえだろ。まぁ中学の頃は1日3回は告白されてたけど」

 

「「えぇ!?」」

 

「そっそんな驚くことか?お前らだって可愛いし彼氏の1人や2人いそうだけどな」

 

「「かわっ!?///」

 

何故この人はこんなにも女性が恥ずかしがるようなことを言えるのでしょうか?最近こんなことばっかです

 

「あっそうそう、お前らに渡す物あったわ」

 

思い出したようにそう言った翔さんは、制服の懐から2つ紙袋を取り出し私たちに渡してきた

 

「これは...何でしょうか?」

 

「開けてもいいかな?」

 

「勿論。むしろ気に入ってもらえるか心配だしこの場で開けてもらえると助かる」

 

紙袋を開けみると中には三日月の形をしたネックレスが入っていた

 

「綺麗...」

 

カノンさんはあまりの綺麗さに無意識に言葉が出てしまったようだ。私はというと最早言葉が出なくなっていた

 

「日頃世話になってる人にプレゼントしようと思ってな、オーダーメイドで作ったんだ。特にこの1週間は本当に助かったよ」

 

「これ、私たちにくれるの?」

 

「当たり前だ。あと2人それと同じやつを渡すつもりだが、それは花音とイヴを含めた4人の為に作ったものだ。他に誰に渡すんだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとう、翔君」

 

「まぁ俺からの礼として受け取ってくれ。こちらこそ、いつもありがとな」

 

「つけてもいいかな?」

 

「あぁ」

 

翔さんにもらったネックレスを首につける。鉄の冷たさが首に伝わって気持ちいい。何より太陽の光を反射して輝くネックレスがとても綺麗だ。まるで本物の月のようだ

 

「似合ってるかな?」

 

「あぁ。凄い似合ってるよ。2人ともモデルみたいだってイヴはモデルか」

 

「本当にありがとう!大切にするね!」

 

「形見として待っててくれ」

 

「えっ縁起悪いよぉ〜」

 

「そうですよ!そういうのをフラグと言うんですよ!」

 

「あはは...さっちゃんと渡せたしそろそろ飯食うぞ」

 

「みんなでお弁当交換しようよ!今日のは私の手作りなんだ!」

 

「私も自分で作ってきました!」

 

「おぉ、実は俺も。イヴは知ってるだろうがな」

 

お2人のお弁当はとても美味しかったです。それに翔さんにもらったネックレスも、今日は最高の1日でした

 

 

友希那side

 

 

今週はなんだかいつもよりつまらなかった。理由は明白だ、翔がいないからだろう。お陰でリサにからかわれるし

 

昨日久々にCiRCLEで彼に会い、私の個人レッスンに付き合ってもらった。花咲川では若宮さんや松原さんなど知り合いもいるみたいなので上手くいっているみたいだった

 

今日はRoseliaの練習があるのでリサやあこと共にCiRCLEへ向かう。着いた時には既に彼がラウンジなどの掃除をしていた

 

「おっ来たな。悪いが、俺はまだ休憩になってないから先に始めててくれ。氷川さんと白金さんはもういるから」

 

「分かったわ、ありがとう」

 

「翔も早く来てね!」

 

「リサさんも一緒にどうですか?ここら一帯全部掃除ですが」

 

「ごめんなさい、ごゆっくり頑張ってください」

 

「しょー兄またね!」

 

あこはいつのまにか彼のことをしょー兄と呼ぶようになっていた

 

「そんじゃ行ってこい。友希那、しっかり休憩しろよ」

 

「練習の度に毎回言うのはやめてもらえるかしら」

 

「だってお前毎回言わないと理解しねえもん。それとも花梨にやられたことの倍のことしてほしいか?」

 

「ごっごめんなさい...」

 

あんなもの二度と喰らいたくない

 

「とにかく、俺はまだ30分くらい経たないと行けないからしっかりやれよ。リサさんこいつの監視お願いしますね」

 

「了解!」

 

リサは周りの面倒見が良く、翔が来る前からもよく休憩を促してくれていた。そこに翔の監視の依頼が来ればもう逃げられない

 

スタジオの扉を開けると中では紗夜に燐子が練習を始めていた

 

「待たせてごめんなさい。調子はどうかしら?」

 

「こちらはいつでもいけますよ」

 

「そう。翔が来れるまでまだ30分くらいかかるらしいから、それまでは各自調整や苦手箇所の練習をしましょう」

 

「「「「はい」」」」

 

今日は花梨も来ないし、久し振りに私たちだけでやるかもしれない。それでもやることは変わらない。何時如何なる時でも最高の音楽を響かせてみせる

 

そして必ずXaharを超えてみせる




読了ありがとうございました

評価や感想お待ちしております

次回で3章終了です


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第46話

今回でようやく3章が完結です。それでは本編どぞ


奏斗side

 

 

「咲夜〜俺休憩いつからだ?」

 

絶賛俺は今バイト中だ。今日はまりなさんがいないので気軽に咲夜を本名で呼べる

 

「お前な...いくらまりなさんがいないからって本名で呼ぶのはやめろよ。心臓に悪い」

 

「ははっ悪りぃ。それより休憩いつから?」

 

「あと5分だ。まぁ作業はほとんど終わったし、先に休憩してろ。Afterglowもう来てるんだろ?あとは予約入ってないし」

 

こいつ本当に作業速いな。まぁお陰で蘭たちのところに行けそうだ

 

「ありがとな。じゃあ先に休憩行ってるわ」

 

「おう」

 

Afterglowが練習をしている第1スタジオへ向かう。中に入ると全力で演奏をしている蘭たちがいた

 

俺が入ったことに気づいたのか彼女らは演奏を止めた

 

「琉太、バイト休憩入った?」

 

「翔があとはやってくれるらしい。演奏止めて悪いな」

 

「ううん、来てくれてありがとう」

 

「蘭ってば〜りゅ〜君がいなくて凄い寂しそうにしてたもんね〜」

 

「ちょっとモカ!変なこと言わないで!///」

 

「まぁずっと花咲川にいたからな...久し振り、蘭」

 

俺は自然に蘭の頭を撫でる

 

「あぅ...///」

 

「おーツンデレ蘭ちゃんがデレデレだ!」

 

「やっぱ蘭は琉太に弱いな!ヒューヒュー!」

 

ひまりに巴よ。そんなこと言ってないでなんとかしてくれよ

 

「うぅ...///」

 

「なぁ、蘭が戻って来ないんだが」

 

「責任とってね〜」

 

「お前らあっさり幼馴染捨てたな!?つぐみ、俺はお前を信じているぞ」

 

「えっと...頑張れ」

 

「おい!」

 

なんて薄情な!仲間をこんな簡単に捨てるなんて...あっ俺軽く殺してたわ

 

「そんなこと言ったってどうすりゃいいんだよこれ?」

 

「とりあえず手を離したらどうだ?」

 

「あっあぁ」

 

巴に言われた通り手を離すと蘭は意識こそ取り戻したもののすげえ残念そうな顔をしていた

 

「あのぉ蘭さん?そんな残念そうな顔をされると罪悪感が湧くというか...なんかその申し訳ない気持ちになるんですけど」

 

「...終わったらまた撫でてよ」

 

「あっはい」

 

あれぇ?蘭ってこんな性格だったかな?もっとこう、クールなイメージだったんだがな

 

「そろそろ始めるか。Scarlet Skyやってくれ」

 

「分かった。みんな、準備して」

 

さて、どれだけ成長してるかなぁ

 

 

咲夜side

 

 

作業を一通り終え、用があればスタジオに来るよう書き置きを残すと俺はRoseliaが練習をしている第3スタジオへ向かった

 

「あら、翔じゃない。休憩入れたかしら?」

 

「一通りは終わらせた。後は基本人が来ない限りやることないし付き合えると思う」

 

「そう。今は休憩中だから、貴方も休みなさい」

 

「友希那に休めと言われると無性に腹が立つな。いつも俺に言われないとやらないくせに」

 

「言ってくれるじゃない?これでも前よりは休むようにしてるのよ?」

 

「どうせリサさんに言われてやってんだろ?」

 

「...」

 

はいビンゴ。Roseliaに今井がいて良かったよ。いなかったらこいつら全員死んでたな

 

「ハァ...氷川さんや白金さんもなんか言ってやってくださいよ。こいつちっとも理解しねえ」

 

「まぁ私も人のことはあまり言えませんので」

 

「えっと...その...」

 

使えねえ!氷川はまだしも白金よ、せめてなんか言えや

 

「なんなんだよこのポンコツ集団は...まともな奴はいないのか?」

 

「あら、聞き捨てならないわね。私たちは至ってまともよ?」

 

「どの口が言ってんだこの野郎」

 

「まぁまぁ2人ともその辺にしときなって!ほら、クッキー食べてリラックスしよ?」

 

「相変わらず料理がお上手なことで。おぉ、蜂蜜がなかなか効いてて美味いな」

 

「ホント!?良かったぁ」

 

「まぁ俺は甘いのより苦いやつの方が好きですけどね」

 

「そうなんだ...作ってあげたいのは山々なんだけど...」

 

そう言うと今井は友希那の方に視線を向ける。こいつ苦いの無理らしいからな。雰囲気は大人でも舌はお子ちゃまってやつか

 

「無理に作らなくても大丈夫ですよ。これはこれで美味しいので」

 

「そろそろ始めましょう。みんな、準備して」

 

友希那の一言で全員が動く。やっぱ統率力はあるなぁ

 

「そういえば、さっきまで何の練習してたんだ?」

 

「各自苦手なところを重点的にやっていたわ。貴方が来てから合わせようと思って」

 

「成る程。それじゃあONENESS行こうか。その次はOpera of the wastelandやってくれ。感想はそのあと言わせてもらう」

 

「分かったわ」

 

 

〜♪〜

 

 

「ふぅ...どうだったかしら?」

 

「前より大分良くなってたよ。普段走り気味なあこもテンポ保ててたし、リサさんも影からじゃなく全面的に出て来るようになったし」

 

「やった!しょー兄に褒められた!」

 

「ただ、ONENESSで友希那の音の強弱がはっきりしていなかったのと、オペラで氷川さんがサビの前に一瞬だけ遅れたのが気になった。ここはすぐに直せるだろう」

 

「あの...私はどうでしたか?」

 

あぁ、白金の感想言ってなかったな。正直言って言うことないんだが

 

「白金さんは1番よくできてましたよ。ミスもなく氷川さんの遅れをアレンジでカバーした。危うく聴き逃すとこでしたよ」

 

「良かった...」

 

「もうこれ教えるところないんじゃないかな...キーボードに関しては俺いらない気がする」

 

唯一課題だった表現力も大分伸びたしいよいよ俺の立場が無くなって来た

 

「そっそんなことないです...翔さんはいつも私にアドバイスをくれますし...」

 

「まぁそう思っていただけているのなら良かったです。それじゃあもう1回やろうか。友希那、氷川さん、次は頼むぞ」

 

「「えぇ」」

 

 

〜♪〜

 

 

「どうかしら?」

 

「さっき言ったことをしっかり直せてたし、ミスもなくやり切れてたよ。みんなが1番分かってるんじゃないか?」

 

「そうね...確かに、今までで1番良くできたと思うわ」

 

「これならフェスの予選はトップ通過行ける筈だ。本戦で優勝はまだ難しいが、確実に進歩している」

 

あとはこのRoseliaでしか奏でられない音を探すだけだな

 

「貴方にそう言ってもらえてよかったわ」

 

「来年も出るんだろ?俺たちもいいか?」

 

「完全に潰しにかかってないかしら?幾ら何でもXaharを相手にするなんて無理よ。それに、トップで通過しなきゃ意味がないの」

 

「だからだよ。頂点に立つなら俺たちを超えてみせろ。ゆうて俺たちが優勝したのは3年も前だ。多少のブランクはあるし」

 

それに組織の件を片付けないと練習もできないから今から勝ちにいくのは少しきつい

 

「前から思っていたのですが、Xaharの皆様は何処で練習をしていたのですか?失礼ですがスタジオを借りるお金があるとは思えませんし」

 

えっ今その質問来る?どうしよう、家の地下にスタジオあるとか言ったら絶対に押しかけてくる。俺たちの家がバレるのは非常に不味い。組織にすらバレないように細工してあるのだ。家には昔の写真や使っていたナイフとか色々あるからな。適当に誤魔化そう

 

「実家の方にスタジオがあったんですよ。昔はそこを使っていました」

 

「今度案内してもらっていいかしら?」

 

「断る。家はバレたくないんでね」

 

「そう...残念ね」

 

「まぁいいや。次、陽だまりロードナイトと熱色スターマインやるぞ。時間的にこれが最後だ。フェスの決勝だと思って全力でやれ」

 

「分かったわ」

 

今のこいつらなら出来る筈。そういえば、友希那とモカのプレゼントどうやって渡そうかな

 

 

友希那side

 

 

練習を終えスタジオから出ると丁度Afterglowと鉢合わせた

 

「お疲れ様。調子はどうかしら?」

 

「順調ですよ。Roseliaの方はどうですか?」

 

「こっちも順調よ」

 

「友希那、蘭、お前らライブやるか?」

 

急に翔がそんなことを言ってきた。ライブをやるのは一向に構わない。経験も積んでおきたいし

 

「何時のかしら?」

 

「いや、今考えただけだが?まりなさんとも何も話していない」

 

何を言っているのだろうか私たちのマネージャーは。今考えたとか舐めてるとしか言いようがない。琉太も呆れているし

 

「何それ。まぁライブならいいけど...」

 

「ただのライブじゃねえよ。対バンだ」

 

「対バン?誰とやるのよ」

 

「勿論、AfterglowとRoseliaの2つでだ。この数ヶ月で随分と成長した。そろそろどっちが上かはっきりさせないか?」

 

成る程ね...確かにAfterglowはこの辺のバンドではレベルは高い。更には琉太に鍛えられている。やる価値は十分にありそうね

 

「私たちは構わないわ」

 

「あたしもいいよ。みんなが良ければ、だけど」

 

「了解した。まりなさんにはこっちから話をつけておくよ」

 

「お願いするわね。さぁ、時間も遅いし帰りましょう」

 

「あっモカと友希那は話があるから残ってくれ」

 

「は〜い」

 

何かしら?わざわざ残らせて話がしたいということは大事なことなのかもしれないけど...隣でリサがニヤニヤしているのが実にムカつく

 

「ほんじゃ、俺は残ったメンバーの護衛でもしてるよ。さっさと済ませろよ」

 

「分かってる」

 

1人でこの暗い中この人数を守るのは少し大変だと思うけど、琉太なら余裕そうね

 

私と青葉さん、翔を除いた他の人たちは先に外へ出て行った

 

「それで話って何かしら?」

 

「別にそんな対したことじゃねえよ。2人にちょっとしたプレゼントだ」

 

そう言うと彼はポケットから小さな紙袋を2つ取り出し私たちに渡してきた

 

「これは?」

 

「開けてみろ」

 

きっぱりと言われたので素直に開けてみると、中には三日月の形をしたネックレスが入っていた

 

「おぉ〜これは中々綺麗ですな〜」

 

「オーダーメイドで作ってみたんだ。デザイン考えるのに苦労したよ」

 

「これを、私たちに?」

 

「あぁ。何時も世話になってるからな。あとは花音とイヴにも渡したよ」

 

他にもいたのね。私たちだけだと思っていたから少し悔しい

 

「ねぇ〜つけてもいい〜?」

 

「好きにしろ。適当に形見として持ってくれていればいい」

 

形見って...何よもうすぐ死ぬみたいな言い方

 

「お前らは1度体験してるから知ってるだろうが、俺と琉太は命を狙われている。近いうちに死ぬ可能性は高い」

 

「そんな...」

 

青葉さんは初めて聞いただろうから相当驚いている。まさか自分の想い人がそんな目に遭っているなんて思いもしないだろう

 

「だからせめて礼がしたくてな。意味のなかった俺の人生に意味を与えてくれてありがとう」

 

目の前の彼の姿が滲んできたのはきっと気の所為だ。そうだと信じたい

 

「安心しろ。お前らを危険に晒すようなことは絶対にしない。最期まで守り切ってやるから」

 

そこじゃないわよ...何で死ぬことが当たり前のように言うのよ...

 

「まぁ話は以上だっと言いたいが、友希那だけもう少し時間をくれ」

 

「...分かったわ」

 

「ありがとな。モカ、気をつけて帰れよ」

 

「...うん」

 

青葉さんは暗い表情で外へ出て行った。私だけに話とは何だろうか?

 

「友希那には誰よりも世話になった。だからこれを渡しておく」

 

そう言って渡されたのは、青薔薇と月が重ねられた髪飾りだった

 

「Roseliaの青薔薇、Xaharの月。俺たちを繋ぐ物だ」

 

「でも、何で私だけ...」

 

「友希那は俺に生きる道をくれた。俺がこうして楽しく過ごせているのは全部友希那のおかげなんだ。本当に、ありがとう」

 

そう言って優しく微笑む彼に私は見惚れてしまった。あぁ、貴方はズルい。そんな顔を見せられたらずっと一緒にいたいと願ってしまう

 

「ありがとう。大切にするわ」

 

「それは良かったよ。さぁ帰ろう。みんな待ってる」

 

「えぇ」

 

今髪飾りを見られるのは恥ずかしいので大事に制服のポケットへしまった

 

「おっ来た来た!なになに2人で何話してたの?モカなんかすごい大事そうに何かを持っていたけど」

 

「秘密よ」

 

「そろそろ時間もあれだし、全員俺と琉太から離れるなよ」

 

今の私は相当浮かれていたのだろう。だからこそ気づくことができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既にこの日常が地獄へ向かっていることに

 

崩壊へ進んでいることに




読了ありがとうございました

評価や感想お待ちしております



新しい評価来ないかな〜(願望)


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第4章 死神たちの謎
第47話


今回から第4章の始まりです

4章では主に咲夜、奏斗、華蓮が中心となって物語が進んでいきます。そしてこれがこの物語の鍵となっております。みなさんどうか楽しみにしてください


咲夜side

 

 

「体育祭?」

 

「えぇ、2週間後花咲川と合同でやるみたいよ」

 

俺は今家で晩御飯を食べながら華蓮の話を聞いていた。体育祭、それはどの学校でもやるようなイベントだろう

 

俺は体育祭が嫌いだ。走ったりするのも面倒だし、何より日に焼けるのが嫌なのだ。後でピリピリ痛いし

 

「そういえばもうそんな時期でしたね。中学と高校では日程が違うと聞いていますが」

 

「うん。2週間後の木曜日が高等部、金曜日が中等部と言うことになっているわ。どっちかがやってる日はもう片方は休みよ」

 

「ほぉ。じゃあ柏の走ってる姿でも見に行くかね」

 

「恥ずかしいのでやめていただけるとありがたいです。それに、お兄様が来たら体育祭どころじゃなくなりますよ」

 

いやなんで?別に俺が参加するわけじゃあるまいし、何も起こらない筈なんだけど

 

「中等部の方ではお兄様と奏斗さんはとてつもなく人気なので行ったら取り囲まれますよ」

 

そういうことか。それだけは勘弁してほしい。変装して行くか

 

「変装するからいいよ。とにかく俺は嫌だ。日に焼けたくない」

 

「あんたは女かっての。日焼け止め塗ればいいでしょう。花咲川と対抗でやるから咲夜か奏斗君のどっちかにそっちについてもらうわよ」

 

「絶対に行かない。あんなキチガイしかいないところに行きたくない」

 

主に戸山とか弦巻とか北沢とか頭のおかしい連中のことを言っているが、あとは白鷺とかもいるし

 

「じゃあ奏斗君に行ってもらうわね。あんたらにはほぼ全種目に出てもらうことになってるからよろしくね」

 

「はぁ!?」

 

だから嫌だって言ってんじゃん!何、俺のこといじめようとしてる?

 

「リレーとかは2人にアンカーとして出てもらうわよ。盛り上がるし」

 

「...ちなみに拒否権は「ないわ」ですよねー」

 

ハァ...これはもう出るしかねえな。あーめんどくせー

 

「明日から徐々に練習が入っていくからまぁ頑張りなさい」

 

「お前もやれよ...18歳だろうが」

 

「一応高校は卒業したから。成績も勉強運動ともにトップだったし」

 

「クソが」

 

中学の頃はリレーも何もかも他が相手にならんくてつまらなかったことしか覚えていない。大体俺と奏斗でトップ取ってたからなぁ

 

「あっそうそう。高等部で最後ライブやりたいんだけど...」

 

「俺たちがか?」

 

「いや、ガルパのみんなよ。瑠奈さんが折角この辺では有名なバンドがこの2校で揃ってるんだしやろうって言い出して」

 

「ふ〜ん...それを俺に言ったということは友希那に聞いてくれと?」

 

「さっすが学年1位!Afterglowは奏斗君に頼んであるし、ポピパにハロハピは言えば勝手に出てくれるでしょう。パスパレは分からないけど」

 

いやいやこの状況で他にどんな答えがあるってんだよ。舐めてんのか?

 

「Roseliaだって出るとは限らんぞ?友希那とか氷川は興味ないだろうし」

 

「そんなもの咲夜が言えば一発よ。パスパレも咲夜が言えばなんとかなると思うよ」

 

どっからその自信が出て来るんだかね...後で友希那と白鷺に聞いてみるか

 

「一応両方聞いてみるよ。断られても文句言うなよ?」

 

「それは瑠奈さん次第ね。失敗したら給料減らされちゃう」

 

「めでたいことじゃないか」

 

「あんたね...仕送りも減らされるわよ?」

 

「えっ...」

 

いやいや、ただでさえ困ってるのにこれ以上減らされたら死活問題だぞ

 

「この前100万入れてもらったばっかなんだけど、返せとかないよな?」

 

「さぁ?」

 

「......」

 

マズイ。これはいけない。これは無理矢理でも参加させるしかない!

 

 

 

『いいわよ』

 

「へ?」

 

即答でOKをもらってしまった。あまりのことに変な声が出てしまった

 

『だから、そのライブ出てもいいわよって。新曲も披露してみたいし』

 

「いっいいのか?お前らってそういうの興味なさそうだし...」

 

『確かに普通に誘われてたら断っていただろうけど、他でもない翔の頼みだもの。断るわけないじゃない』

 

「そっそうか...ありがとう」

 

『でも急にどうしたの?なんだか凄い他人行儀に頼んできたけど』

 

「理事長命令だ。なんでも今回のライブは羽丘理事長が計画したらしくてな。オファーして来いって言われたんだ」

 

『よく知ってるわね。貴方が私たちと関係が深いなんて』

 

そりゃ親戚だからな。知ってて当然だろう...なんて言ったら色々とヤバイことになるので

 

「あの人情報網がえげつないらしいからな。その程度のことなら筒抜けだろう」

 

『そう。じゃあ貴方もセットリスト考えておいてちょうだい』

 

「了解。じゃあ俺は千聖さんに聞いてみるから、じゃあな」

 

『えぇ、おやすみなさい』

 

「おやすみ」

 

さて、次はパスパレか。彼奴らは事務所の許可が必要だからな。ダメ元で聞いてみるかな

 

 

 

『いいわよ』

 

「は?」

 

こいつは今なんと言った?何勝手に決めちゃってんの?

 

『何よは?って。パスパレもそのライブに出るって言ってるじゃない』

 

「いっいやでも、事務所の許可とか必要なんじゃ...」

 

『そんなもの私がちょっと物を言えばすぐに許可出してくれるわよ』

 

うわぁ。流石女王様だこと

 

『ねぇ、今失礼なこと考えてなかったかしら?』

 

「そっそんなことあるわけないじゃないですか」

 

『ふ〜ん...まぁいいわ。みんなには私から連絡しておくからあとは任せて頂戴』

 

「了解しました。ではおやすみなさい」

 

『おやすみなさい』

 

こうもあっさり物事がうまく進むと後が怖いな。ろくでもないことが起きそうな気がする。そんなとき、誰かからメールが届いた

 

「ん?奏斗か」

 

『Afterglowは出るってよ。そっちはどうだ?』

 

どうやら向こうもOKもらえたらしい

 

『Roseliaとパスパレも許可はもらっといた。あと2つは心配いらないだろう』

 

『分かった。俺は寝る』

 

『おやすみ』

 

奏斗のやつもう寝るのか?まだ11時にもなってねえぞ。暇だしセットリスト考えとくかな

 

「友希那は新曲やりたいって言ってたけどまたなんか作ってるのか?それともSanctuaryのことか?」

 

まぁ前者だと考えようもないのでここは後者で捉えるべきだろう。体育祭であれやるのもどうかと思うけどな...

 

 

奏斗side

 

 

俺は華蓮さんに頼まれ体育祭での特別ライブにAfterglowに出演してもらうべく蘭と電話をしていた

 

「というわけなんだが、どうだ?」

 

『あたしは全然いいけど、みんなの意見聞かないと』

 

「他の連中は即答でOK出すだろ。特にひまりと巴は」

 

『ていうかあたしじゃなくてひまりに聞きなよ。一応Afterglowのリーダーだし』

 

「半年間お前たちと一緒に過ごしているが、未だにひまりがリーダーというのが理解できん。蘭や巴の方が余程統率力があるぞ」

 

『そっそう?ありがとう...』

 

そもそも何故ひまりがリーダーをやっているんだ?俺がこうして蘭に聞いているのも蘭の方が適していると思っているからだ

 

「取り敢えずそういうことだから、セットリスト考えておいてくれ。俺は他のメンバーに伝えておく」

 

『あたしも伝えとくよ。琉太は巴とつぐみお願い』

 

「分かった」

 

あの2人なら物分かりが良いし少し説明すればすぐに理解してくれるだろう

 

「話は以上だ。モカとひまりはよろしくな」

 

『うん。じゃあおやすみ』

 

「おやすみ」

 

この後巴たちに伝えたが、2人とも理解が速くて助かった。それにひまりと違って変に盛り上がって電話が長くなることもなかったし

 

「そういえば、咲夜の方はどうなったんだ?」

 

華蓮さんからは彼奴にはRoseliaとパスパレを頼んであると聞いている。Roseliaは咲夜の言葉があれば一発だろうが、パスパレは事務所の許可が降りなければならない

 

メールで聞いてみるとRoseliaは勿論、パスパレからもOKが出たとのこと。仕事早いなホントに。つうかパスパレ本当に大丈夫なのか?幾ら何でも早すぎる気がする

 

何か闇を感じたので考えるのをやめ俺は眠りについた

 

 

華蓮side

 

 

私は自室で組織について考えていた。最近は動きが特に活発化し、襲われることも増えていった

 

夏休みの合宿のとき、RoseliaとAfterglowに命を狙われているのがバレたのはまずかった。1度全員消すことも考えたけど、大した情報が流れたわけでもないのでやめておいた

 

「ホント、どうしたらいいのかしら...」

 

最近は無傷でねじ伏せるのも難しくなってきた。心なしか数も増えてるし。周りの先生に疑われることも多くなり、隠し通せるのも時間の問題だ

 

「そろそろこっちも仕掛けないとヤバイわね...なんとかしないと」

 

なんとかすると言っても解決策が何もないのでどうしようもできない

 

「今度彗人さんに会ってみようかしら。あの人なら何か相談に乗ってくれそうだし」

 

しかもめちゃくちゃ強いしね。子供のとき私と咲夜、奏斗君の3人で彗人さんと戦ったけど為す術もなくボコボコにされた

 

明日は土曜日だし1度警察に顔を出してみようかしらね

 

 

 

 




読了ありがとうございました

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第48話

祝UA30000突破!

何時もありがとうございます!


咲夜side

 

 

次の週の月曜日、柏はクラスで朝練習があるとのことで先に行き俺は奏斗と朝飯を食べていた

 

「まだ2週間近く前だっつうのに朝練とは、柏も大変だねぇ」

 

「柏のクラス確か巴の妹いなかったっけ?その子は大丈夫なのか?」

 

「あこは勉強はあれだが、運動は多分できる方だ。あれだけドラム叩いてるんだし多少は体力もつくだろ」

 

それにいつもではないが、白金を置いて走ってるもんね。可哀想に

 

「何にせよ、そこは柏のイかれた運動神経が出ることだろう。彼奴この前50m走6秒代って言ってたし」

 

「うわぁ...中3の女子のタイムじゃねえ。どっからその化け物染みた身体能力が出て来るんだかね」

 

「昔彼奴も訓練だけは受けてたから、そのせいだろ」

 

10年前だから柏は4歳か5歳だな。まだ実戦には登用されてなかった筈だ。俺からも頼んでたし

 

「俺たちはまだないよな?俺話の内容全く覚えてないんだけど」

 

早すぎだろ。1度病院に行ってこい

 

「少なくとも今日はない。でも明後日くらいから本格的にやるって華蓮言ってたし、準備はしといた方が良さそうだ」

 

それにライブの方もあるし。セトリも考えた結果、何と俺の案が採用された。内容は秘密だ

 

「Afterglowはセトリとか決めたのか?そろそろ練習やらないと少しまずいだろ」

 

「蘭が決めてくれたよ。昨日からライブに向けて特訓してる」

 

「ガルパの5つの中でもRoseliaとAfterglowの2つは特に飛び抜けて上手いからな。まだまだ荒削りだが」

 

Roseliaは初めて聴いたときよりも格段にレベルが上がってきた。それこそ、フェスの予選はトップ通過できるくらいに

 

「そうだな...こちらも頑張りますかね。ご馳走様、皿洗うか?」

 

「いや、帰ってきたらでいい。長々と話したせいで時間が押してる。さっさと準備して行くぞ」

 

「うわっホントだ」

 

流石に歯は磨いて行かないとあれだし、まぁ遅刻することはないので大丈夫だろう

 

速攻で準備を済ませ家を出た

 

「...いないな。早く離れよう、家がバレるとまずい」

 

「逆によくバレないよな」

 

それは本当に思う。一体どうしたら組織にバレないような細工ができるのか。ていうか尾行してるんだし家まで突き止めろよ。まぁ巻いてるんだけどね

 

呑気にそんなことを考えていた、その刹那

 

「伏せろ!」

 

何かが飛んでくる気配を感じ、勘でしゃがみ込む。案の定先程まで俺たちの頭があった場所にナイフが飛んで来た

 

「朝っぱらなんなんだって多い!何この数!?」

 

「ちょっ!?おい待て普段の倍はいるぞこれ!」

 

住宅街だというのにまさかの20人くらいに襲われるという大惨事。いつもは10人くらいだから簡単に勝てるがこれは少々きつい。少々どころか割とガチでヤバイ

 

そんなことお構いなしとでも言うかのように連中は刀を抜き一斉に襲いかかって来る。クソッここ戦いにくいんだよな!

 

「おいどうする!?この数を捌くのは俺たちでも無理だぞ!このままじゃ最悪死ぬぞ!」

 

「走りながら戦って学校行くぞ!彼処まで着けばなんとかなる!」

 

「ああもう!なんで朝からこんな目に!」

 

まずいな...屋根からの攻撃も可能な住宅街でしかもこの数。無傷で逃げ切るのは無理だ

 

「奏斗!足刺されるくらいは覚悟しろ!ただ指1本もなくすなよ!」

 

「分かってるよ!」

 

走りながら飛んで来るナイフを避けたり切りかかって来る奴を倒したりしながら学校に全速力で向かう。これ学生の通学だよな?

 

「がっ...チィッ!この野郎...」

 

避けきれず1人の刀が足に刺さる。痛みには慣れてるから問題はないがこの状態はいよいよまずい

 

「咲夜!だいじょう...ぐあっ!」

 

「奏斗!?クソッ!」

 

両足を刺され身動きが取れなくなっている奏斗をすかさず助けに行くが、状況で言えば最悪だ

 

「おい!立てるか!?」

 

「あっあぁ...イテェなこれ。どうする、学校までは近づいたが」

 

「俺も片足をやられてる。今のままで戦っても死ぬのは見えてる。走れるか?」

 

「ギリギリだな。煙幕今日は持ってねえし」

 

「1個だけある。本当は閃光弾の方が良かったが、これがあれば十分だ。5秒後行くぞ」

 

「5、4、3、2、1...行くぞ!」

 

ボフン!

 

辺りに煙が立ち込め、視界が遮られる。そのうちに俺たちは走り逃げ出すことに成功した。あの煙には麻酔効果もあるし追って来ることはないだろう

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♯ ♭

 

 

 

「ハァ...ハァ...着いた......」

 

何とか学校に着き、お互い肩を貸しながらズルズルと歩いて行く。奏斗の方はもう限界のようで足が全く動かせないみたいだ

 

「ハァ...すまん咲夜。余計な手間かけさせちまって」

 

「気にするな。俺も片足が痺れてきた。多分麻痺の毒でも塗ってあったんだろ」

 

「これで教室最上階とか最悪だな」

 

「ほら、荷物よこせ。今のお前じゃ無理だろう」

 

「すまん、ありがとう」

 

右に奏斗、左に2人分の鞄を持ち少しずつ階段を上って行く。1年の階に着くのに10分かかった

 

「なんか気まずくないかこれ?いきなり傷だらけで教室入るとか」

 

「しかも30分近く遅刻してるしな...とりあえず中に入ろう」

 

身体の状態もあれなので教室のドアを開け俺たちは倒れこむように中に入った

 

「えっ...翔!?琉太君!?」

 

「ハァ...ハァ...」

 

「もう無理...」

 

華蓮をはじめクラス中の人が寄ってくる。勿論その中にはAfterglowの4人もいる

 

「翔!琉太!しっかりしろ!」

 

「2人とも大丈夫!?」

 

「しょ〜君!」

 

「2人ともしっかり!」

 

3人目はモカか...初めて聞いたなこいつの大声は

 

「巴!琉太君に肩貸してあげて!翔、捕まって」

 

華蓮が俺に手を差し伸べて来る。その手を掴もうとした瞬間、ふとある想いが浮かんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故()なんだ

 

あのとき俺を見捨てたくせに...逃げたくせに...!

 

 

パァン!

 

 

「...え?」

 

 

俺はその手を払った

 

「ちょっと翔、今はとりあえず保健室に...」

 

「今更なんなんだよ...」

 

「え?」

 

「今更なんなんだよ!こんなときだけ手を差し伸べやがって!」

 

「しょ...う...?」

 

俺は怒りに身を任せ華蓮の胸倉を掴み黒板に叩きつけた

 

「あのとき俺を見捨てた臆病者が!自分の保身をはかって逃げたお前が!今更手を出すんじゃねえ!」

 

「っ!それは...」

 

「それはなんだ!?何か間違いでもあるか!?何もせずに見ていただけのお前が!」

 

「翔!いい加減にしろ!」

 

「てめぇは黙ってろ!」

 

「黙るのはお前だ!時と場を考えろドアホ!」

 

「っ!」

 

ようやく落ち着きを取り戻した俺は華蓮を離した。だが、怒り自体は収まっていない

 

「...巴、琉太に肩貸してやれ。こいつは今歩けないから負担はでかいが頼む」

 

「...分かった。翔は?」

 

「俺はいい。片足だけで済んだからな」

 

それに、もう誰の手も取りたくない。俺は立ち上がったはいいものの、血を流しすぎたせいかバランスを崩してしまった

 

だが倒れることはなく、目の前に白い頭が見えた。モカだった

 

「...あたしも行く」

 

「いらねえ。身長差を考えろ。幾ら何でも」

 

「こんな状態のしょ〜君を放っておけない!あたしはこの状況で見過ごすことなんてできない!」

 

なんだよ...それ。そう言うモカの首にはあのときあげたネックレスがあった。着けててくれたんだな...

 

「...好きにしろ」

 

それを見て安心したのか、了承の返事を出してしまった

 

教室を出る間際、少しだけ座り込んでいる華蓮の方を見た

 

 

 

その目には光は無く、ただ呆然としているだけだった

 

 

華蓮side

 

 

私は何も考えることができなかった。咲夜が私に言ったことは全て事実だ。恨まれても仕方ない、嫌われても仕方ない、そう思っていた筈なのに...彼の言葉は私の心を破壊した

 

「ごめんなさい...ごめんなさい...」

 

何も音が聞こえない。聞こえるのは私の呟く彼に対する謝罪の言葉のみ。外で吹く風の音も、クラスの生徒の声も、何も聞こえない

 

ゆ...せい!祐奈先生!」

 

「!?」

 

ようやく誰かの声が聞こえ声がした方を見ると、涙目になっているひまりとつぐみがいた

 

「ひまり...つぐみ...」

 

「先生...大丈夫ですか?」

 

「...大丈夫よ」

 

「だったら、何故泣いてるんですか?」

 

「!?」

 

慌てて頬を触ると、嫌という程に濡れていた。それほど彼の言葉がショックだったのだ

 

「翔君や先生に事情があるのは分かりました。今の先生は明らかに不安定です。それ以上自分の中に溜め込まないでください」

 

やめて。その優しさを私に向けないで。これ以上私を壊さないで

 

「私は...どうしたらいいのよ...」

 

「あっ謝れば翔君もきっと...」

 

「簡単に言わないで!」

 

「え?」

 

「彼の怒り様を見たでしょう!?彼の殺意の込もった声を聞いたでしょう!?私に対する恨みが少しは分かったでしょう!?それなのに謝ればなんて簡単なこと言わないで!」

 

「すっすみません...」

 

「もうどうしたらいいか分からない。私は...」

 

「祐奈」

 

誰かに呼ばれ振り向くと、そこにはここの理事長である瑠奈さんが立っていた

 

「瑠奈さん...見てたんですか?」

 

「校門で傷だらけの2人を見つけたからもしかしてた思って来たのよ。そしたら案の定このザマね」

 

「えぇ。もう笑う気もしませんよ」

 

「今日は家に帰りなさい。今の状態でまともに仕事ができるとは思えないわ」

 

「でも...」

 

「私から説明しておくから。このクラスは今日は私が面倒見る。1度ゆっくり休んで落ち着きなさい」

 

「...分かりました」

 

「支度ができたら理事長室に来てちょうだい。家の方から迎えを頼んでおくから」

 

「ありがとうございます」

 

ハァ...情けな。周りの人に助けられてばかり。あのとき2度と同じ過ちを繰り返さないって決めたのに。何もできていない

 

「詳しくはあの子たちから聞く。貴女は無理をしないこと、いいわね」

 

「...はい」

 

私は荷物をまとめて教室を出る。瑠奈さんに感謝しつつ、私はずっと心の中で謝っていた。あのとき何もできなかったこと。目の前の現実から逃げたこと。貴方の助けになれなかったこと

 

 

本当にごめんなさい、咲夜

 




読了ありがとうございました

いやー急にシリアスぶち込むと変な感じになりますな

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第49話

遅くなって申し訳ありません。それではどうぞ!


モカside

 

いつも通り山吹ベーカリーでパンを買い、学校に行くと何故かいつもはいるしょ〜君たちがいなかった

 

「あっモカ、遅かったな」

 

あたしが来たことに気づいたともちんが声をかけてくる。それに伴いひ〜ちゃんやつぐも集まってきた

 

「みんなおっはよ〜。しょ〜君たちは?」

 

「まだ来てないんだ。いつもならこの時間には来てるのに...」

 

「祐奈さんに聞けば何か分かるんじゃないかな?確かあの2人姉弟だったよね」

 

「そうだな。ちょっと聞いてみるか」

 

その祐奈さんは先生用の机で本を読んでいた。読んでいるのが有名な恋愛小説で意外と思ったのは内緒だ

 

「祐奈さ〜ん。ちょっといいですか〜」

 

「ん?モカじゃん。それに巴たちも。どうしたの?」

 

「翔君たちがまだ来てないんです。何か知らないですか?」

 

「ん〜私が家を出た頃には既に起きてたし...琉太君からさっき家を出たって連絡入ってたからなぁ」

 

どうやらもう学校には向かっているらしい

 

「でもそれも30分以上前の話だから...ちょっとおかしいかも」

 

「まさか何かあったんじゃ...」

 

ともちんの言葉で祐奈さんの顔つきが急に険しくなる。何か知っているのかな?

 

「もしかしたら...いや、たとえそれでもあの子たちならすぐに片付けれる筈」

 

「祐奈さん?」

 

「あっごめん。流石にここまで遅いのは確かにおかしいし、巴の言う通り何かあっのかも...」

 

あたしには1つ思い当たることがあった。夏休みの合宿最終日、買い物の帰りに謎の人に襲われたことだった。あのときのことは今でも鮮明に覚えている。ここで死ぬのかもと言う恐怖があったが、それは一瞬にして別の恐怖で覆い尽くされた。あの日のしょ〜君とりゅ〜君の殺意の込もった目。思い出しただけでも足が震えて来る

 

「...あのときみたいに黒いコートの人に襲われている、とかですか?」

 

気がつけばそんな質問が口から出てきていた。ともちんやひ〜ちゃん、つぐはおろか祐奈さんまで呆気に取られている。余程今の質問に驚いたのだろう

 

「...どうだろうね。こればっかりは私にもさっぱり」

 

祐奈さんはとぼけるつもりのようだ。でも、実際に襲われたあたしには通用しない

 

「嘘ですよね〜」

 

「......」

 

「顔見れぱ分かりますよ〜。やっぱり祐奈さんは」

 

「それ以上喋ると首が飛ぶかもよ?」

 

ゾクッ!

 

何これ...?身体が動かない。言葉も上手く出てこない。他のみんなも同様に何もはなせなくなっている

 

「前回も言ったけれど、死にたくないなら無闇に首を突っ込まないことよ。悪いけど、私はいつでも貴女たちを殺す覚悟はできてるから」

 

「あ...」

 

あのときと同じだ。しょ〜君たちから感じた殺意。あのときの恐怖が蘇ってくる

 

「...な〜んてね。流石に翔や琉太君がここまで信じた貴女たちを殺そうだなんてしないわよ。でも、誰かに言いふらしたら許さないから、そのときは覚悟してね?」

 

「...分かりました」

 

「さっこの話は終わり!そろそろSHR始まるし、席についときなよ。翔たちについてはあとで確認するから」

 

この人は危険だ。あたしの第六感的なものがそう伝えてきている。この人を敵に回してはいけない

 

「しょ〜君...大丈夫かな〜」

 

「今はどうとも言えないが...少なくとも2人に何かがあったのは分かったな」

 

「うん。それに、あのときの祐奈さん凄く怖かった」

 

「あれ以上何か突っ込んでたら間違いなくヤバいことになってたよ...」

 

やはりあれだけの殺意を向けられれば恐怖の1つや2つは覚えるだろう。口では殺さないと言っているが、あの目を見るとやりかねない

 

「とりあえず、後で蘭に言っておくね〜」

 

「分かった」

 

ところがこの10分後、しょ〜君たちが傷だらけで教室に倒れこんできた。頭や腕、足などから血を流し息を切らしている

 

あたしたちはすぐに駆け寄った。祐奈さんの指示で1番背の高いともちんがりゅ〜君を、祐奈さんがしょ〜君を支えようとしたその刹那。しょ〜君は祐奈さんの手を払った

 

それからは酷いものだった。彼から出てくるのは祐奈さんへの罵声のみ。()()()()()()()など、意味の分からないことをひたすら彼は言い続けていた。やがてりゅ〜君の制止がありようやく彼の叫びは止まった。祐奈さんといえば放心状態となり、目に光は灯っていなかった

 

本来の目的である保健室に連れて行こうとしたとき、1人で行けると言った矢先彼は倒れそうになってしまった。間一髪であたしが支え、断られかけたが必死の抵抗でなんとか同行することはできた

 

「...何も聞かないんだな。目の前であんなことがあったっつうのに」

 

急にしょ〜君がそんなことを聞いてきた。本当は聞きたい。けれど、それは聞いてはいけないことだと自制する

 

「聞いて欲しいの〜?しょ〜君はあまり聞いて欲しくないことなんでしょ〜?だったらあたしは聞かないよ」

 

「...ありがとな、モカ」

 

「っ...」

 

その顔はずるい。そんな笑顔を魅せられたら、こんな状況にも関わらず君を求めてしまう。だが、それは許されることではない

 

保健室に着いたはいいものの、中には誰もいなくて今日は保険の先生は出張という張り紙があった。あまりのタイミングの悪さに少しイラついてしまう

 

「巴、とりあえず琉太を椅子に座らせてやれ。俺もちょっと座りたい」

 

2人を椅子に座らせある程度の手当てをし、ともちんとこれからどうするか話し合っていた

 

「どうする?あまり事を大きくするわけにもいかないし...かと言ってこのままじゃ2人とも危ないし...」

 

「う〜ん...やっぱり人を呼ぶしかないんじゃない〜?」

 

「それなら問題ねえよ。もうすぐ来る」

 

「「え?」」

 

しょ〜君がそんなことを言ったその瞬間、保健室のドアが開きなんと此処の理事長が入ってきた

 

「お久しぶりです、月読命理事長」

 

「この前会ったばかりじゃない。何をどうすればこの短期間でこんなことになるのよ」

 

「んなこと言われましてもねぇ...」

 

妙に仲のいいこの3人は少ない言葉で何があったのかを語っているように見えた。勿論、あたしは意味が分からない

 

「青葉モカさんと宇田川巴さん、だったかしら?Afterglowのことはよく知ってるわ。2人を連れてきてくれてありがとう」

 

「いっいえ...あの、大丈夫なんですか?」

 

「この2人のこと?まぁ人間ハズレの身体能力持ってるし、大丈夫よ」

 

「ちょっと待ってください。化け物扱いしないでください」

 

「それもそうなんですが...祐奈先生は」

 

その名前を聞いた瞬間、しょ〜君の身体がピクッと動いた。今この話をするのは彼にも良くないだろう

 

「ともちん、今はその話はやめとこ」

 

「え?あっ分かった」

 

理事長はあたしがともちんを止めた理由を全て知っているような顔をしていた。おそらく、ある程度の事情は知っているのだろう

 

「成る程ね。翔が貴女を信用した理由が分かったわ。いい人と出会ったわね」

 

「ホントですよ。まさかこんな人に会えるなんてね」

 

「琉太君も、貴方に関する情報は入っているわよ」

 

「それはどうも」

 

「それじゃあ、2人はそろそろ戻りなさい。私は3人だけで話したいことがあるから。心配だろうけど、あとは私に任せなさい」

 

ここで抵抗したところで、また脅されるのがオチだろう。無意味なことをしても彼らに迷惑がかかるだけだよね〜

 

「「...分かりました」」

 

「青葉さん、ちょっとこっちに来て」

 

「?」

 

何だろう?まだ何かあるのかな?

 

「今回は本当にありがとう。おかげで手当ても早く済んだわ」

 

「いえいえ〜。当たり前のことをしただけですよ〜」

 

「面白いわね貴女は。1つお願いいいかしら?」

 

「もっちろ〜ん」

 

「翔をこれからもお願い。たとえ彼の正体が分かったとしても、ずっと彼のそばに居てあげて」

 

「しょ〜君の、正体?」

 

「詳しくは言えない。でも、いつか知ることになるわ。でも、彼を裏切らないでほしい。青葉さんやRoseliaの湊さんたちが彼を裏切れば彼は2度と人を信じなくなってしまう。だから、お願い」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、面倒だけど祐奈をお願いね」

 

「はい」

 

彼を裏切らないで、か...あたしがそんなことするわけがない。何度もあたしを救ってくれた彼を、あたしは信じ続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえそれが地獄に繋がっていようとも

 

 

咲夜side

 

 

モカたちが帰った後、俺たちは瑠奈さんに事情を話していた

 

「成る程...だからあんなに傷だらけだったのね。いつもなら平然と顔に血がついた状態で歩いてくるから最初は何事かと思ったわ」

 

「いつも見てるんすね...まぁ今回はマジで死ぬかと思いましたよ。本格的に潰しに来てますね」

 

つか見てるんなら何か声かけてくださいよ。毎回無傷というわけじゃないんすよ?

 

「えぇ。さっき兄さんと彗人さんには連絡を入れておいたわ。今頃緊急で会議が開かれていることでしょう」

 

「うわぁ...今度飯奢ってあげよ」

 

「それより、いつまであの子たちに隠すつもり?今回の件でかなりの疑いを持った筈よ。特に青葉さん、あの子は勘が鋭いわ」

 

「彼奴寝てるくせに頭良いんだよな...最早時間の問題だな」

 

ホントにモカ怖い。1番恐ろしい

 

「でも、今のところは話すつもりはありません」

 

「それは裏切られるのが怖いから?」

 

「「!?」」

 

「図星ね。咲夜も奏斗君も、折角ここまで関係を築いてきたもの。もし正体がばれてあの子たちに裏切られたら、もう2度と貴方たちは人を信じないでしょう」

 

「「......」」

 

当たり前でしょう。友希那は俺に道をくれた。モカは初めて感情というものを感じさせてくれた。花音は相談に乗ったりしてくれた。イヴはストーカーの件のときこんな俺を心配してくれた

 

そして、みんなは俺に存在意義をくれた。ただ人を殺すだけの死神から変えてくれた

 

でも、俺の正体が世界的にも有名な殺人鬼、月読命咲夜だと分かれば幾ら彼奴らでも裏切られるだろう。んなもん、怖いに決まってる

 

奏斗の方も同じのようで何も言えなくなっていた

 

「怖いのは当たり前でしょう。だけど、それが分かってるなら最初から信じていない。そうでしょう?」

 

「「!!」」

 

「最後まで彼女たちを信じてあげなさい。そして、いつかは正体を明かすこと、いいわね?」

 

「...分かりました」

 

「あともう1つ。咲夜、貴方華蓮に随分とやったわね」

 

「っ...あんな奴今更...」

 

「私も詳しくは知らない。本人は何も話そうとしないし、奏斗君から少し聞いたくらいだから」

 

「お前か。瑠奈さんにあの事を話したのは」

 

「必要だと思ったからだ。悪かった」

 

反省はしてるみたいだが、別に責めているわけではない

 

「責めてはいない。奏斗が責任を感じる必要はない」

 

「咲夜、華蓮を許すつもりはないの?」

 

「当たり前です」

 

華蓮としては罪滅ぼしのつもりでやったのだろう。だが、それこそ俺は許せなかった。あのとき、彼奴が少しでも助けに入ってくれれば...

 

「そう。そもそも...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方は華蓮を本当に恨んでいるの?」

 

「...え?」

 

 




読了ありがとうございました

☆10評価をくださったyosito555様、☆9評価をくださったNatu7276様、高評価ありがとうございます!

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第50話

意味が分からなかった。俺が華蓮を恨んでいるのか?そんなもの、さっきの状況を知ってるんなら...

 

「言い方が悪かったかもしれないわね。咲夜、本当はあの子を恨んでいないんじゃないの?」

 

「...何故そう思うんですか?」

 

「私だって貴方の性格くらいは把握してるわ。人間不信だった貴方が華蓮を恨んでいるのなら、ここまで関わろうとはしなかった筈。これは奏斗君も分かっているんじゃないのかしら?」

 

「...えぇ」

 

「奏斗?」

 

「数ヶ月前、華蓮さんに咲夜が感情を失った本当の理由を聞いた。お前自身はその理由に気づいていないだろうがな」

 

「どういう...意味だ...?」

 

「まぁいつか分かるだろう。あの相談を受けたとき、俺でも不思議に思ったよ。あれから何度か考えたが、行き着く答えはやはり本当は恨んでいない、それだけだった」

 

「俺は...」

 

「もう1度考えろ。何のために組織に協力したのかを。最初は拒否していたお前が何故やる気を出したのかを」

 

俺がやる気を出した理由...なんだったかな?あのときの気持ちを少し考えてみる。すると、1つだけ思い当たることがあった。少し昔話でもするか

 

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

あれは今から10年くらい前だったか。当時の俺はまだ実戦に年齢を考えて採用されていなかったのでまだ訓練を受けるだけだった

 

俺だって好きで人を殺していたわけじゃない。始めは嫌だった。何のためにこんなことするのか、ずっと考えていた

 

姉である華蓮は既に実戦に採用されていて、重要な戦力として活躍?というか暗躍していた。華蓮の他にも何人か子供はいたが、彼奴だけはズバ抜けて強かった。そのため前線に出ることが多かった

 

そしてそのせいで華蓮は誰よりも怪我が多かった。任務の度に血を流して帰ってきて、俺と奏斗の2人でよく手当てをしていた。華蓮は強がったような笑顔で大丈夫と言っていた

 

俺はそれが嫌だった。他の連中も強いには強いのだが、はっきり言って俺たちより弱かった。毎回怪我をして帰ってくる華蓮を見るのが俺は嫌いだった。どうすれば華蓮が怪我をせずに帰ってこられるかをずっと考えた。結果は俺が強くなり、彼奴を守ることだった

 

それからは嫌々だった訓練も必死にやり、誰よりも強くなった。本格的に採用されるのは6歳からで、その時期は俺の誕生日に近く丁度良かった

 

やがて俺も奏斗も誕生日を迎え、見事に前線に出させてもらうことができた。仕事の際、常に華蓮の近くにいるようにして、彼奴が怪我をしそうになったら助けられるようにしていた。お陰で華蓮が怪我をすることは少なくなり、俺もいつの間にか人を殺すことに抵抗がなくなっていた

 

しかし、庇うことばかりしていれば当然任務を失敗することも増えるわけだ。俺の親は組織の中でもトップに近い階級にいて、その分厳しかった。いや、最早厳しいの幅を超えていたか

 

俺は任務が失敗する度に親から暴力を受けた。暴力で片付けられるほどじゃないが、この際はどうでもいい。ただされるがままにやられて、その場にうずくまっているだけだった

 

そのとき、華蓮はただその光景を見てるだけだった。何か庇うわけでも、止めるわけでもなくぼーっと見てるだけ。それから俺は日々のストレスを華蓮にぶつけることが多くなった

 

俺は華蓮を恨んだ。ずっとそう()()()()()()()。あのとき俺が本当に許せなかったのは、立ち向かう力がなかった()()()だった

 

 

 

 

 

「俺は...ずっと現実から目を背けて来ただけだったんだな。ただ華蓮のせいにして逃げていただけだった」

 

「やっと分かったのね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「礼なら奏斗君に言いなさい。彼のおかげで気づけたのだから」

 

「奏斗、ありがとな」

 

「おう」

 

「さて、今日はどうするの?別に帰ってもいいけれど」

 

「俺は残ります。華蓮に謝りたいので」

 

「あっ忘れてた。あの子なら帰らせたわ」

 

「へ?」

 

え、華蓮帰っちゃったの?

 

「貴方にキレられて相当落ち込んだみたいでね。精神的にダウンしてたから家の方から迎えを呼んで帰らせたわ」

 

「マジですか...」

 

「まぁ今会っても怯えちゃうだけだし、暫く時間が経ってからにしましょう」

 

「咲夜、暫く俺の家に泊まれ。今は華蓮さんを落ち着かせるのが最善だ」

 

「...分かった」

 

俺が蒔いた種だし、今は全ての状況を受け入れるしかないな。俺が密かに決意したそのとき

 

「翔(琉太)!」

 

友希那と蘭が保健室のドアを思いっきり開けて駆け込んで来た。そして俺たちの姿を見るなり友希那は俺に、蘭は奏斗に抱きついて来た

 

「良かった...無事で良かった」

 

「友希那?何で俺が此処にいるの知ってんだ?」

 

「Afterglowの皆から話を聞いた美竹さんが私のところに来て...それで...」

 

よく見ると友希那は泣いていた。何でだよ。何故お前が泣くんだよ

 

「泣くな。お前が泣く必要はない。だから...」

 

「バカ!」

 

「は?」

 

今度は何さ。いきなりバカと言われても困るんだけど

 

「彼女から話を聞いたとき、全身の血の気が引いたわ。生きてることは分かっててももし状態が酷かったらどうしようって...」

 

「友希那...」

 

「私は...貴方に何かあったら嫌なの!貴方がいなくなったら...私は...」

 

段々と感情が戻ってきた今なら分かる。友希那は悲しんでいる。それ以上のことは分からない。だけど、それを和らげることはできる。俺は友希那をそっと抱きしめた

 

「心配かけて悪かった。この性格上、お前が悲しんでいることくらいしか俺には分からない。理由だって分からない」

 

「理由?そんなもの...決まってるじゃない」

 

「?」

 

「貴方は、Roseliaの、私の大切な人。貴方にだけはいなくなってほしくない。だから...もうこれ以上心配かけないで」

 

「...すまない」

 

本当に友希那には敵わないな。こいつらのためにも、俺はやるべきことをやらなきゃいけない

 

「ふふっ。ホント、貴方の周りは素敵な人ばかりね。湊さん、そろそろ離れない?」

 

「え?あ...///」

 

瑠奈さんに言われて今の状況に気づいた友希那は顔を真っ赤に染めうずくまってしまった。奏斗や蘭も何やら温かい目でこちらを見ている

 

「おい。その目をやめてもらおうか。めちゃくちゃムカつくんだよ」

 

「いや〜目の前であんなもの見せられたらね」

 

「お前たちもやってたじゃないか」

 

俺の指摘により今度は蘭が顔を真っ赤に染めた。恥ずかしいなら最初からやるなよ

 

「さぁ、教室に戻るぞ。めちゃくちゃ気まずいけど」

 

「そういえば、今日の担任誰がやるんですか?」

 

「今日は私が面倒を見るわ。あの子も明日には少しはマシになっているだろうから」

 

「了解しました。ほら、友希那たちも帰るぞ」

 

「...えぇ」

 

全員で保健室を出てそれぞれの教室に戻って行く

 

「奏斗、お前今日バイトあったろ。その足で大丈夫か?」

 

「大分歩けるようにはなってきたが、まだキツイな...今日は紗夜の個人レッスンあるってのに」

 

「その怪我で行ったら絶対氷川にしつこく聞かれるぞ。まぁ俺の方は傷も少ないし、今日はシフト入っていないが手伝うとしよう」

 

「助かる」

 

それにしても、華蓮にどうやって謝ろうかな...許されなくてもおかしくないことをしたのだ。生半端な覚悟で謝る訳にはいかない。今晩徹夜で考えよう

 

 

奏斗side

 

 

教室に帰るとクラスの奴からしつこく聞かれたが、なんとか受け流し午後の授業まで終えることができた

 

咲夜と一緒にCiRCLEへ行ったはいいものの、まりなさんに30分、紗夜に関しては1時間近く怪我について説明するのに時間がかかった。それからは何故来たんだという説教。蘭と全く同じことを言われ最終的には泣かれた。2人とも心配してくれるのは嬉しいのだが、何もそこまでしなくても、ねぇ?

 

そんなこんなで一通り作業を終えたので紗夜のいるスタジオへギターを持って入った。とりあえず何曲か聴かせてもらったが、凄く上手くなってた

 

「大分よかったぜ。所々ミスはあったが気になるほどじゃない。まぁ気づく人は気づくし少しずつ直していこう」

 

「えぇ。最初は何からやればいいかしら?」

 

「ん〜...Determination Symphonyが1番ミスが多かったし、それからやろう。自分が苦手だと思うところを重点的に」

 

「分かったわ」

 

やっぱり楽しいな。蘭や紗夜といる時間は何よりも楽しい。だけど、これが長く続かないことは分かっている。その崩壊がもう目の前にあることも知っている。だからこそ、この時間を無駄にする訳にはいかない

 

「そこ!また遅れてる!もう1回やるぞ!」

 

せめて俺が死ぬ前に教えられることは全部教えないとな。それが彼女のためでもある

 

「よし、休憩にしよう」

 

「ハァ...ハァ...」

 

これは随分とお疲れだな。飲み物買って来てやるか。俺は近くの自動販売機でスポーツドリンクを2本買い、1本を紗夜に渡す

 

「ありがとう。今日はいつもよりも厳しいわね」

 

「嫌ならやめるか?」

 

「誰もそんなことは言ってないわよ。休憩も程々にして早く始めましょう」

 

「俺が持たねえ...無理はするなよ。さっきよりも厳しく行くからな。死ぬ気でやれ」

 

「分かったわ」

 

さぁ、紗夜にもそれなりの覚悟は決めてもらうぞ。俺がいなくてもRoseliaのギタリストとして咲き誇れるためにも

 

宮本奏斗だとバレて離れ離れになったとしても




読了ありがとうございました

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第51話

修学旅行前に投稿しようとしたらめちゃくちゃ短くなってしまいました。申し訳ありません


咲夜side

 

バイトを終えて、無事に家に帰ることができた。今から数日分の着替えを取りに行かなきゃならない。その間に事情を華蓮や柏に奏斗に話してもらう

 

「あっお帰りなさい、お兄様。それに奏斗さんも」

 

既に帰って来ていた柏が丁寧に迎えに来てくれた。エプロンをしている辺り、今日は彼女が晩御飯を作るのだろう

 

「あの、先程からお姉様の様子が変なんです。私が帰って来た頃には既に家にいたし、とても辛そうな顔をしていて...事情を聞こうとしても話したくないの一点張りで」

 

柏の言葉に酷く罪悪感を覚える

 

「そのことなんだが、俺は暫く奏斗の家に泊まる。事情は奏斗から聞いてくれ」

 

「わっ分かりました」

 

「俺は準備してくる。後は頼んだぞ」

 

「了解」

 

奏斗に一言告げ俺は自分の部屋に向かう。途中華蓮の部屋の前で止まり耳を澄ますと、彼女は泣いていた。それに、唯ひたすら、ごめんなさいと謝罪している声も聞こえる。謝るのは俺の方だ。華蓮を責め楽になろうとしていたのだから

 

「できれば早めに謝りたいんだがな...体育祭も近づいてるし」

 

担任である華蓮の状態が戻らなければ当然うちのクラスの練習も滞る。かと言って無理に俺が華蓮と会えば間違いなく彼奴に負荷をかけてしまう

 

「取り敢えずは華蓮が少しでも回復するのを待つしかないか...柏に協力してもらうかな」

 

俺がいない間に少しでも彼奴の傷を癒すためにも柏には協力してもらわなければならない。今となっては早く元通りの関係に戻したいんだが...

 

「原因である俺が望むことじゃないなこれ。今はできることをするか」

 

部屋のクローゼットから着替えを何着か取り出し、旅行用の鞄に詰めると、俺は奏斗たちが話しているであろうリビングに戻った

 

「準備はできた。事情は話せたか?」

 

「あぁ。柏も出来る限りの協力はしてくれるみたいだ」

 

「お兄様やお姉様のためですから。私としてもお二人には早く仲直りしてほしいですし」

 

「ありがとな。柏は華蓮が少しでも回復できるようにそばにいてやってくれ。おそらく学校に復帰するのも時間がかかるだろうし」

 

「任せてください」

 

「じゃあ後は頼んだぞ」

 

「はい」

 

「んじゃ行こう。晩御飯の準備もしなきゃいけないし」

 

「なんだったら持って行きます?今日はお姉様の好きなカレーにしたんですけど、作りすぎちゃって」

 

「ホントか?じゃあありがたく貰っておこう」

 

春までは全く料理をしてこなかった柏だが、日々の練習のおかげで今ではプロ並みの腕前だ。飲み込みが速すぎる

 

ある程度の量を別の鍋に移し替えそれを受け取ると、俺たちは隣である奏斗の家に入った

 

「よし。咲夜は空いてる部屋適当に使ってくれ。ほぼ全ての部屋空いてるがな」

 

「何故に家を2棟も建てたんだよ?俺ら3人で住めばよかったろうに」

 

「多分、おばさんの親切心だろう。ありがたく受け取っておこう」

 

「そうだな。じゃあ早く飯食べるか。それとも風呂先にするか?」

 

「腹減ったから飯が先。風呂から上がったらギターの練習する」

 

「此処他の楽器置いてあったか?」

 

「一通りは揃ってるからお前も好きに練習しろ」

 

「サンキュー。でも今日は華蓮への言葉を考えておくよ」

 

「...そうか」

 

それが俺なりのケジメだ。この件に関しては悪いのは全て俺なんだからな

 

 

柏side

 

 

まさか私のいないところでこんな大事になっているとは思いもしなかった。学校では私は中等部だから何も知らされないしスマホの電源も切ってあったのでそもそも連絡が来ない

 

家に帰ったらお姉様が死んだような顔で部屋で座り込んでいて、事情を聞こうとしても話してくれなかった。数ヶ月前に相談を受けた日から、本当はお兄様がお姉様のことを恨んでいないとは薄々勘付いていた。でなければ彼は関わる筈がない

 

出来上がったカレーをお姉様の部屋の前に持って行き、ドアにノックをして話しかける

 

「お姉様、夜ご飯を持って来ましたよ」

 

反応がない。寝ているのだろうか?ボソボソと聞こえた声も聞こえないし...どうしようか考えていると

 

「そこに置いておいて」

 

暫くの間があってから返事が来た。私は言われた通りにカレーを床に置き、話を持ちかける

 

「お姉様、食べ終わったら1度お話をさせてください。奏斗さんから事情は聞いています。お姉様が知らないこともあります。だから...」

 

「...咲夜は今何処にいるの?」

 

「お兄様は暫く奏斗さんの家に泊まるそうです」

 

「そっか...やっぱり嫌われちゃったか」

 

「それは違います。そのことも含めて後でお話をさせてください。1時間後、無理矢理でも貴女の部屋に来ますので。鍵を閉めても蹴破りますから」

 

後半は脅しみたいになってしまったが、こうでもしないとお姉様は話をさせてくれないだろう。一応許可は降りたのでリビングに戻り1人でカレーを食べる。今思うと、1人で食べるのは初めてかもしれない

 

昨日まで仲の良かったあの2人がこうも簡単に引き裂かれるなんて...日常とは壊れやすいものだ

 

少し速めのペースで食べ終わり、風呂に入る。中で話す内容を決めて、のぼせないうちに出ると時間が来るまで洗い物などの家事を済ませた

 

そして、約束の時間がやって来た

 

「お姉様、入ってもよろしいですか?」

 

「...いいよ」

 

中に入るとそこには、ボサボサの髪の毛にさっきまで泣いていたのか目の大きく腫れたお姉様がいた

 

「...お姉様。今から話すことは貴女にとって辛いことも含まれているでしょう。ですが、2人のわだかまりをなくすにはお姉様が知らなければならないこともあるのです。聞いていただけますか?」

 

「...分かった」

 

まだ弱々しいが、その目には覚悟ができていた。私は、全てを話した

 

 

華蓮side

 

 

柏の話には私が驚くようなことばかりだった。咲夜が本当は私のことを恨んでいないということ。私のことを気遣って奏斗君の家に行ったこと。彼が私に謝ろうとしていること、全てを

 

それを聞いた私は、止まりかけていた涙がまた出てきてしまった

 

「何で...グスッ...うあぁ...」

 

何で彼が謝らなくちゃいけないんだ。悪いのは全部私だというのに。彼を傷つけたのは紛れもない私だ。傷ついて当然のことをしたのに...

 

「お兄様は、とても後悔していました。自分の本心から逃げていたことを。自分を保つためにお姉様を責めたてたことを。だけど、お兄様はそれと向き合い変わろうとしています」

 

「......」

 

「今すぐにとは言いません。それでも、お兄様はお姉様を待っています。いつか、いつも通りの関係に戻れることを望んでいます。この話を聞いて、少しは言いたいことができたんじゃないですか?」

 

「...うん」

 

私の返事に柏はとても優しい表情を浮かべた

 

「話は以上です。本来なら今すぐ行ってほしいところですが、今はまだお姉様の回復が最優先です。しっかり休んで、元気な姿をお兄様に見せてあげてください。それが今お姉様にできることです」

 

「うん。本当にありがとう、柏」

 

まだ納得いかないところはある。でも、彼の本心を知ることができた以上、やることはただ1つ

 

「明日の夜、彼と2人きりの時間を作ってほしい。2人だけで話がしたい。お願いしてもいい?」

 

それを聞いた柏はとても嬉しそうな顔で

 

「勿論です。任せてください」

 

皆がそれぞれの覚悟を決めてきたんだ。私もそれ相応の覚悟を決めなければならない。話を聞く限り、彼は謝ってくるだろう。だけど、絶対に謝らせない。10年間の罪を、全てを乗せて彼と話す

 

彼は許してくれるだろうか?こんな私を受け入れてくれるだろうか?考えれば考える程不安になる。だけど、逃げちゃダメだ。逃げればあのときの二の舞だ

 

 

 

 

待っててね、咲夜。私頑張るから、最後まで見届けてください




読了ありがとうございました

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第52話

平成最後に投稿できなかった。GWに風邪引くってなかなかやると思いません?


次の日の夜、柏に咲夜を家に呼んでもらい私は部屋で待機していた。これから彼が来るからか緊張が止まらない。心臓も耳まで聞こえる程うるさい

 

少しでも気を紛らわせようと部屋を歩き回っていると、ようやく咲夜が来た

 

「俺だ。入っていいか?」

 

「うっうん!いいよ!?」

 

やばい。声裏返っちゃった。どうしよう?変に思われてないよね?

 

「えっと...久し振り...だね」

 

「...あぁ」

 

会話が続かない。こういうときは自分のコミュ力の無さを恨む。数秒の沈黙が何時間にも思えた。だが、咲夜がそれを破った

 

「その、この前は本当に「謝らないで!」華蓮?」

 

予想通り、彼は私に謝ろうとした。だけど、絶対に謝らせない

 

「咲夜は謝らないで。今回の件、そして10年前の件は全て私の責任よ。だから...本当にごめんなさい!」

 

私は深く頭を下げた。この程度で許されるとは思っていない。だけど、今の私にできるのはそれしかなかった

 

「頭を上げてくれ、華蓮。お前は悪くない。悪いのは自分の無力さへの怒りをお前にぶつけて楽になろうとした俺だ」

 

「でも...」

 

「俺は、多分甘えていたんだ。華蓮なら助けてくれるって。だけど、甘えすぎた。そのせいで俺はお前に責任を押しつけた」

 

「そんなことない!」

 

そんなことないよ。咲夜は頑張ったよ。親の暴力に耐えて、精神的のダメージも受けた筈なのに我慢して...

 

「貴方は今まで頑張って耐えてきた。貴方の負ったダメージは大きかった筈なのに。私は何もできなかった」

 

「だけど、もう終わり。何もできないのはもう嫌なの。今度こそ、姉として貴方を守りたい」

 

「...もう何を言っても無駄だな。だがこちらのけじめとして、一言だけ言わせてもらう。今まですまなかった」

 

「...うん。これからもよろしくね、咲夜」

 

「あぁ」

 

終わったんだ。長い間続いていた罪悪感も今日で終わりだ

 

「どうやら仲直りできたみたいですね。お兄様、お姉様」

 

タイミング良く柏が入ってきた。気配感じてたしいるのは分かってたんだけど...

 

「あのさ柏、私今物凄く恥ずかしいんだけど...」

 

「そりゃ気になるじゃないですか。2人がどのような会話をするのか」

 

「そうでもなくね?別に俺はどっちでも良かったが...」

 

この男!感情が無いからって調子乗りやがって!

 

「あんたは感情無いから良いよね!恥ずかしくなくて!」

 

「んな怒ることでも...分かった!謝るから刀しまえ!」

 

こんなオドオドしてる咲夜見るのも久し振りがするなぁ。帰ってきたって感じがする。何処にも行ってないけどね

 

「2人とも仲直りした矢先に喧嘩しないでください。ほら、昨日のカレー余ってますから早く食べますよ」

 

「ホント!?よっしゃ行くぞー!」

 

「おっおい!全く...テンション変わるの早すぎだろ...」

 

当然だろう。長い間抱えていた悩みと罪悪感を全て解決させスッキリしたのだから。おそらく、今までで1番舞い上がっていることだろう

 

「咲夜も柏も早くー!私もうお腹空いた!」

 

「わーったから家で走り回るんじゃねえ!床が軋むだろうがこの野郎!」

 

「私は野郎じゃありませーんよ!」

 

きっとこれからも衝突することはあるだろう。だけど、お互いに気持ちをぶつけ合えば今日みたいに分かり合える筈。私はそう信じてる

 

 

咲夜side

 

 

華蓮と仲直りしたその2日後。放課後の体育祭練習を終え俺は友希那と一緒にCiRCLEへ向かっていた。今井はバイト、氷川は風紀委員の仕事、あこや白金もそれぞれ用事があるとのことで今日は友希那が個人でやるらしい

 

「にしても、体育祭怠いな...当日サボろっかな」

 

「貴方がサボれば羽丘が負けてしまうでしょう。琉太は花咲川につくみたいだし」

 

「俺たちリレーとか全部出なきゃならないんだぞ?嫌に決まってんだろ」

 

俺として家に引きこもりたいんだけどな...1度でもいいから丸1日ずっと寝ていたい

 

「体育祭云々の前に貴方は怪我を治しなさい。貴方のことだから走れるでしょうけど、いつまでも心配かけないで頂戴」

 

「心配してくれるのはありがたいんだが、俺を人以外の何かみたいにしないでくれるか?割と心に刺さるんだよ」

 

「感情無いくせに?」

 

「テメェ...後で覚えとけよ」

 

全く、どいつもこいつも人を何だと思ってんだ。え、殺人者?それを言われたら何も言い返せないじゃん

 

「んで?今日は何をやるんだ?俺1人だとできることも限られるが」

 

「そうね...音源は持っているし、いつもみたいにアドバイスをくれればいいけれど...翔とセッションもしてみたいし」

 

「いつもやってんじゃねえか。まぁ友希那が望むなら俺はそれに答えるだけだ。ギターとベースなら持ってきてるが、どうする?」

 

キーボードは持ち運び少し怠いし、ドラムセットはそもそも持っていない。華蓮から借りれるだろうけど、後で直すの大変だからな。まぁ此処の機材借りればいいけどね

 

「じゃあベース頼もうかしら。曲はどうしましょう?」

 

「気分的にLegendaryだけど、体育祭のセトリに入ってないからな。セトリに入ってる曲にしよう」

 

「そうね。なら、セトリの曲を一通り通してやりましょうか」

 

うわぁキッツ。いつもならできるけど、今は腕が痛くて多分1曲しかできない。こういう大事な時に役に立たないのが腹立つ

 

「すまん。自分で言っておいてあれなんだが、今は1曲が限界なんだ。最初の曲だけやろう」

 

「あっ...ごめんなさい。無理をさせてしまって」

 

「いや、こっちこそ力になれなくてすまない。じゃあやろうか」

 

「...えぇ」

 

あ〜嫌な思いさせちゃったかな。あれだけ自分で覚悟を決めたっつうのに。情けないな。本当に

 

 

友希那side

 

 

今日はRoseliaのメンバーは皆用事で来れないらしく、私と翔の2人だけとなった。普段は周りに人がいるのでそこまでだが、2人きりということを自覚すると妙に緊張してしまう。いい加減なれないかしら...

 

「にしても、体育祭怠いな...当日サボろっかな」

 

そういえば、彼は体育祭で殆どの種目に出るみたいね。運動が苦手な私からしたらとても信じられない

 

「貴方がサボれば羽丘が負けてしまうでしょう。琉太は花咲川につくみたいだし」

 

合同でやるのに花咲川に男子がいないのは不憫ということで琉太がそちらにつくことになった。彼には悪いが、そっちの方が翔と一緒にいられるので私としてはそっちの方が都合がいい

 

「俺たちリレーとか全部出なきゃならないんだぞ?嫌に決まってんだろ」

 

「体育祭云々の前に怪我を治しなさい。貴方のことだから走れるでしょうけど、いつまでも心配かけないで頂戴」

 

これは後から聞いたことなのだが、あの時の2人はかなり衰弱してたらしく今こうして普通に動けているのが不思議なくらいだ

 

「心配してくれるのはありがたいんだが、俺を人以外の何かみたいにしないでくれるか?割と心に刺さるんだよ」

 

「感情無いくせに?」

 

「テメェ...後で覚えとけよ」

 

事実なのだからしょうがないだろう。自分で言うくらいだし。でも、自分がやっていることが少しは結果として現れていて安心した

 

「んで?今日は何をやるんだ?俺1人だとできることも限られるが」

 

「そうね...音源は持っているし、いつもみたいにアドバイスをくれればいいけれど...翔とセッションもしてみたいし」

 

「いつもやってんじゃねえか。まぁ友希那が望むなら俺はそれに答えるだけだ。ギターとベースなら持ってきてるが、どうする?」

 

「じゃあベース頼もうかしら。曲はどうしましょう?」

 

「気分的にはLegendaryだけど、体育祭のセトリに入ってないからな。セトリに入ってる曲にしよう」

 

「そうね。なら、セトリの曲を一通り通してやりましょうか」

 

「すまん。自分で言っておいてあれなんだが、今は1曲が限界なんだ。最初の曲にしよう」

 

「あっ...ごめんなさい。無理をさせてしまって」

 

「いや、こっちこそ力になれなくてすまない。じゃあやろうか」

 

「...えぇ」

 

忘れていた。先程も言ったが、彼は今怪我をしているのだ。それも腕だけではなく、足などの体全身を。本来なら休ませなければならないのに、私は彼に付き合わせている

 

最低だ。今まで何度も経験したにもかかわらず、また同じことの繰り返し。あの時の約束は一体なんだったのだろうか?

 

「そこまで気に病むな。怪我したのは俺の責任だし、お前が気にする必要はない」

 

「...ごめんなさい。今日はアドバイスだけで大丈夫よ。これ以上貴方に無理をしてほしくない」

 

「...分かった」

 

そもそも、私なんかが彼と普通に接していていいのだろうか?私より、青葉さんたちの方が彼を笑顔にできているのではないだろうか?

 

「そういえば、その髪飾りつけてたんだな。ネックレスもよく似合ってるよ」

 

「あっありがとう///」

 

彼に貰ったプレゼント。髪飾りは寝る時などは邪魔になってしまうから外すが、ネックレスはお風呂に入る時以外ずっとつけている。そうだ。これが証明してくれている。彼の想いがこの2つに込められている。変に気にする必要は無いんだ

 

「ありがとう。おかげで少し元気が出たわ。今からセトリ通りにやるから、しっかり聴いておいて」

 

「了解。本番も近いからな。無理はするなよ」

 

「分かっているわ」

 

他人なんてどうでもいいんだ。私は私のやり方で彼を救う。もっと彼の笑顔が見たい。彼に感情の良さを知ってもらいたい

 

私はその決意を胸に力強く歌った




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第53話

寝落ちしまくって遅れてしまいました。ごめんなさい

久し振りに4000超えです


咲夜side

 

 

遂に体育祭当日を迎えた。あれから組織に襲われることは1度も無く、不気味なくらいに平穏だった。何か嫌な予感がした俺は彗人さんを高校まで呼び出しいつでも対応できるようにしてもらっている

 

「わざわざすまんな。忙しいのにこんなのに付き合わせて」

 

「馬鹿言え。奴らが直接動くとなれば俺たちも動かないとならないんだし、むしろ感謝している」

 

「あくまで可能性の話だ。最近は2日に1回は襲われてたっつうのにここ1週間は1度も襲われていない。仕掛けるとすれば俺や奏斗が動きにくい今日だと思っただけだ」

 

「一応念のため何人か私服で紛れ込ませている。一般人の避難は彼らに任せろ」

 

仕事速いな。流石は若くして重大事件の最高責任者を任された人だ。部下からの信頼も相当あるのだろう

 

「組織も紛れ込んでる場合がある。怪しい奴は調べさせとけよ」

 

「分かっている。それと、上司やお前んとこの爺さんからは殺しの許可は出ている。もしもの時は好きに暴れろ」

 

「マジで?一応アレも持ってきたけど準備しておいて良かったわー」

 

「お前、まさかここで使うつもりか?あんなもん使うから警察からも死神呼ばわりされるんだろうが。ほら、3人分の拳銃は持ってきてるから、奏斗と華蓮にも渡しとけ」

 

「最早あんたが黒幕みたいだな。高校生に拳銃渡すとか」

 

「今更かよ。俺は立場上公に戦えないからな。しっかり殺れよ」

 

警察のくせに殺るとか言うんじゃない。後輩の教育に悪いでしょうが

 

「慣れてるからな。ちょっと腕が訛ってるかもしれないけど多分大丈夫だ」

 

「じゃ俺は持ち場に戻る。何かあったら耳につけた通信機に連絡よこせ」

 

「了解」

 

公に戦えないっつっても俺の家の力使えば幾らでも抹消できるのに。彗人さん馬鹿強いんだよ?有馬貴将並みに

 

「そういえば、奏斗の奴何処にいんの?花咲川軍団のどっかにいるだろうけど人が多すぎるからな...華蓮に頼もう」

 

そう思い華蓮に渡すと彼女は顔を引き攣らせていた。それどころか『頭おかしいんじゃないの...』と愚痴る程だ。まぁ急に銃を渡されれば普通はそうなるわ

 

他人にバレることも無く渡し終え、自陣に戻ると蘭以外のAfterglowの面子が蘭を慰めるという奇妙なことが起きていた

 

「お前ら何やってんの?蘭は何をそこまで落ち込んでいる?」

 

「いやぁ、琉太が花咲川に行っちゃったから一緒にいられなくて落ち込んじゃって...氷川さんに盗られるとか言ってるし」

 

「は?琉太って誰?」

 

「「「「「は?」」」」」

 

...あれ?俺今おかしなこと言ったかな...ってあぁ!

 

「ちょっ今の無しで...」

 

「しょ〜君友達の名前忘れるなんてひど〜い」

 

「翔、1回病院行くか?お前金無いみたいだし治療費はアタシたちでなんとか払うから」

 

「翔、流石に無いよ...」

 

「翔君、今のは酷いと思うなぁ」

 

「さいってぇ!」

 

やらかした。さっきまで本名で会話してたせいで思いっきり忘れてた。哀れみの視線を受けるし、蘭に関してはゴミを見るような目でブチ切れられた

 

「そんな怒らなくても...分かった!悪かった!だから足踏むのやめろ!」

 

「ふん!」

 

最後に思いっきり踏みつけられた。いや、何で蘭が怒る?

 

「しょ〜君、今の状況でやっちゃいけないよ〜。蘭はりゅ〜君のこと...」

 

「モカ!それ以上はダメ!」

 

「?あのさ、俺には蘭が怒る理由が全く持ってわからないんだけど?」

 

「翔、お前は1回死んできた方がいいぞ。そしてその鈍感を治せ」

 

「別に死ぬのはどうでもいいが、いい加減人のことを鈍感と言うのはやめてもら...痛い!モカ!お前まで人の足踏んでんじゃねえ!」

 

しかも蘭の倍くらい強いんだけど?何で?今の何処に踏む要素がある?

 

「おっおい。ホントごめんって。普通に痛いからそろそろやめていただきたいんだけど...」

 

「それは何に対して謝ってるのからな〜?モカちゃんは今超お怒りなので〜す」

 

「えっと...俺が蘭を怒らせたから?」

 

「......」

 

俺がそう言うとモカは更に体重をかけてきた。こいつ軽いからあまり変わらないんだけどな...おい、グリグリするのはやめろ

 

「巴、ヘルプミー」

 

「ハァ...お前はさっきアタシが鈍感を治せと言った時何て答えた?」

 

「えっと...鈍感を治せっつうのはやめろ?だったっけ?」

 

「何故そっちが出て来る...すまん。そっちじゃなかったな。アタシはその前にもう一言言った」

 

「1回死んでこいか?別に俺は死ぬのはどうでもいいって...あ」

 

「やっと分かったか?目の前に自分のことを大切してる奴がいるのに、翔はそれを踏み躙ったんだ」

 

「......」

 

やっぱり、感情を持つと面倒なことにしかならないな。昔の過ちを繰り返すばかり。だけど、今回はやらかした。モカの想いを...馬鹿にしたのと同じだ

 

「モカ。さっきは悪かった。お前の想いを関係無しにあんなこと言って、本当にごめん」

 

「...次言ったら絶対に許さないから」

 

「次、か...もう言わないよ」

 

それまでに生きてればの話だけどな

 

俺は優しくモカを抱き締め、少しでもモカを落ち着かせようとした筈だった

 

「しょっしょ〜君...///」

 

「翔、あんた何で泣いてんの?」

 

「は?」

 

蘭に言われて頬を触ると、微かに濡れていた。何でだよ?何で泣くんだよ?

 

「すっすまん。何で...」

 

「翔君、今日はなんか変だよ?どうしたの?」

 

「それに、何処かモカを抱き締める力強かったよ?何かあったの?」

 

「え...モカ、ごめん。痛かったか?」

 

「ううん。しょ〜君の顔、凄く悲しそうだった」

 

悲しそう?俺が?そんな筈無い。何を思ってそんなことが...死にたくないとでも思ったか?こいつらや友希那たちと離れたくないとでも思ったか?俺がそんなこと思って許される筈無いのに?

 

「翔、1回落ち着け。落ち着いて深呼吸しろ。理由を考えるのはそれからだ」

 

「...その優しさは俺に向けるなよ。巴、その優しさはAfterglowの為に使え」

 

そう言って俺は皆の元を去った。これ以上一緒にいるとどうにかなりそうだった。人目のつかない場所に移動し、その場に座り込む。自分でも何故そうしたのか分からない

 

「何やってんだこんな場所で」

 

急に後ろから声をかけられ振り返ると、奏斗が不思議そうな顔でそこにいた

 

「分かんねえよ。つうか、お前さっきの見てただろ」

 

「バレてた?お前急にモカを抱き締めるし泣き始めるし、らしくないな」

 

「俺は何処かで生きたいって願ってたのかもな。ずっと死んだ方がいいだの言ってきたけど、俺が望むべきじゃないことを望んでいたのかもしれない」

 

「そうか...俺だって生きたいさ。蘭や紗夜、Afterglowの皆と一緒にいたいし、分かってても願っちゃうんだよ」

 

「なんだ、お前もかよ」

 

「彗人さんとも話した。薄々気づいてるだろうが、一般人とは明らかに違う気配の奴がいる。おそらく組織の人間だろう」

 

「あぁ。準備しておいて良かったよ」

 

「仕掛けて来ることは確定した。そうなればもう隠せない。この件が終わったら、俺は全てを話す」

 

「その方がいいかもな。念の為4人宛に遺書みたいなの残しといたけど」

 

「考えることは同じみたいだな。俺もだ」

 

「もうある程度は話した方がいいんじゃないのか?今日死ぬかもしれないし」

 

「そうだな。俺は紗夜に話して来るよ」

 

「俺もAfterglowと友希那には話しておく」

 

俺は立ち上がり奏斗とは反対の方向に歩き出す

 

「奏斗(咲夜)!」

 

『死ぬなよ!』

 

俺はAfterglowの元に戻った。皆はめっちゃ心配方な顔してた

 

「も〜急にどっか行くから心配したじゃん!」

 

「すまんすまん。お前ら、1つだけ言うことがある。聞いてくれるか?」

 

「どうしたの?」

 

「俺は今日、死ぬかもしれない」

 

「...え?」

 

そう言った瞬間、モカが間抜けな声とともに力なく崩れ落ちた。巴が慌てて支えるが、モカは目の焦点が合っていない

 

「どういうことだ?説明しろ」

 

「蘭とモカは覚えてるだろ?夏合宿の時に襲ってきた変な奴」

 

「うっうん。でも、あの時は翔たちが倒したじゃん」

 

「その仲間が今此処羽丘グラウンドに忍び込んでる。それもかなりの数な」

 

「嘘...」

 

「狙いは俺と琉太、そして姉さん。俺たちが動きにくいこの日を選んだんだろう」

 

「嘘だよね?ねぇ!嘘って言ってよ!」

 

「蘭!落ち着け!」

 

「落ち着けるわけないでしょ!?でないと琉太が...死んじゃう」

 

胸ぐらを掴み怒鳴り散らす蘭だが、段々と力が失われていく

 

「勿論俺たちだってただで死ぬ訳にはいかない。最後まで足掻き続ける。だけど、死ぬ確率の方がずっと高い」

 

 

「蘭が琉太を大切に想うことはよく分かる。彼奴だって、お前を残して死ぬつもりは到底ないだろう」

 

「ねぇ、お願いだから嘘って言ってよ。怒らないからさ」

 

「残念ながら本当だ。仕掛けて来るとすればおそらくラストのガルパ勢によるライブだ。そうなると皆にまで被害が及びかねない。そうなれば俺たちは最優先でお前たちを守る。俺たちより自分たちを心配することだ」

 

「しょ〜君...死なないよね?」

 

「あくまで可能性の話だ。俺がそんな簡単に死ぬと思うか?」

 

「...ううん」

 

「じゃあ俺は友希那の所に行く。まずは体育祭を楽しめ。それと...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死神舐めんなよ」

 

俺はそう言い残し友希那の元へ向かう。こういう時はあの銀髪が役に立つ。友希那を見つけ声をかける

 

「友希那、話があるんだがいいか?」

 

「翔?いいけれど、どうしたの?」

 

「此処じゃ話せない。場所を変えよう」

 

俺は人から離れた場所に友希那を連れてモカたちに話したことをそのまま話した

 

「...冗談ではないみたいね」

 

「随分と落ち着いてんな。モカなんか倒れたっつうのに」

 

「私だって内心焦ってるわよ。でも、ここで取り乱しても貴方に迷惑がかかるだけ。なら私は貴方の為にできることをするだけよ」

 

「タイミングはさっき話した通りだ。当たってるかは分からないけど、お前はRoseliaを絶対に守れ。氷川さんも琉太から聞いてる筈だ」

 

「...死んだら許さないから」

 

「善処するよ。話は以上だ。死神舐めんなよ」

 

先程と同じことを告げその場を離れようとするが、少しだけ...

 

「友希那、最後に1つだけ」

 

「え?」

 

俺は友希那を抱き締め彼女の唇を奪った

 

「えっ...ちょっ...///」

 

「何でこんなことしたんだろうな...嫌だったらすまんな。俺もよく分かんねえ」

 

「//////」

 

固まった。これはまたやらかしたな?

 

「ごっごめん。そんな嫌だったか?」

 

「そんなわけ...ないじゃない///」

 

「そっそうか...」

 

「もう1回だけ、いいかしら?」

 

「えぇ〜俺自身なんであんなことしたのかよく分かってないんだけど」

 

「自分からしておいて...もういいわ」

 

友希那は背伸びをして俺にキスしてきた。身長伸びすぎじゃね?

 

「ん...///」

 

「これで充分か?俺は戻るからな」

 

何だろうな。この胸の奥で感じる何かは

 

「翔。絶対に死なないで」

 

「あぁ」

 

俺はこいつを守りたい。それだけが心に残った




読了ありがとうございました

評価や感想お待ちしております

体育祭編凄く長くなりそうなのでお付き合いしていただけたら嬉しいです


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第54話

今回は奏斗メインです


奏斗side

 

 

咲夜と別れた後、紗夜を探す為に2年生のいる場所へ向かった。アイスグリーンの髪がよく目立っており、すぐに見つけることができた

 

「紗夜!ちょっといいか?」

 

「琉太?別にいいけれど、どうしたの?」

 

「話がある。それも重大なやつだ。少し来てくれ」

 

「...分かったわ」

 

俺から出る雰囲気を感じ取ったのか、神妙な顔で見つめてくる紗夜。人目のつきにくい場所に移動すると俺は話を始めた

 

「まず1つ。俺は今日、死ぬかもしれない」

 

「え?」

 

最初は何を言っているのか分からないといった表情だったが、徐々に理解した彼女は信じられないといった感じになっていった

 

「嘘...よね?ただの体育祭で死ぬなんて...」

 

「夏合宿の最終日覚えてるか?俺たちを襲って来た奴のこと」

 

「えぇ。でもあの時は貴方が...まさか」

 

「そのまさかだ。組織の連中がかなりの数で忍び込んでる。狙いは勿論俺たちだ」

 

「そん...な...」

 

「伝えておこうかと思ってな。このことを知っているのは俺に翔、祐奈さん、紗夜に湊さんにAfterglowの皆。それと知り合いの警察も来てる。避難誘導は警察が何とかしてくれるさ」

 

「貴方達はどうするの?」

 

「言ったろ?狙いは俺たちだ。一緒に行けばお前達にも危害が及ぶだろうが。俺たちはまぁ殿みたいなものだよ」

 

一応殺しの許可は出ているし、遠慮無く暴れられるから紗夜達が怪我をすることはないと思いたい

 

「タイミングはおそらくラストの5バンド全員によるスペシャルライブだ。その間俺たちはステージ脇にいるから何かあったら呼べ」

 

「...分かったわ。だけど、死んだら絶対に許さないから」

 

「え〜...そこは綺麗な墓を作るとかさ〜もうちょっと何か無いわけ?」

 

「ふざけないでよ!」

 

「......」

 

あっこれは怒らせたパターンですね、ハイ

 

「私は...貴方が死んだら嫌なの。もっと貴方のことを知りたい。貴方と一緒にいたい。いつか貴方にギターで追いついて本気のセッションをしたい。だから...死なないで」

 

それがお前の想いだな。だったら、俺はそれにできる限り答えなきゃならねえね

 

「気持ちは分かった。1つ勘違いしてるけど、死ぬと決まったわけじゃない。俺だってただで死んでたまるかっての。この件が無事に片付いたら、その時は全てを話す。それまで待っててくれ」

 

「私も、できることをする。貴方は生きることを最優先にして」

 

「無理」

 

「なっ!?」

 

「今回のXaharの仕事は命に代えてでもお前達ガールズバンドを守ること。お前達に傷1つもつけさせないことだ。俺達が死ぬ云々より自分達の身を考えろボケナス」

 

「っ...分かったわよ。その代わり1つだけお願いを聞いてもらうわよ」

 

「ん?」

 

「生きて必ず私たちのところに帰って来て。私が望むのはそれだけよ」

 

何だそんなことかよ。んなもん言われなくとも分かってるってのこの脳筋め

 

「ねぇ、今失礼なこと考えてなかったかしら?」

 

「そっそんなことはない。ただの思い過ごしだ。あはは...」

 

おー怖い怖い。危うく紗夜に殺されるとこだったぜ

 

「まぁとにかく、ガルパの皆の誘導は任せたぞ。大丈夫、俺たちを信じろ」

 

「...美竹さんのところには行ったのかしら?」

 

「蘭のところ?翔が話してくれるだろうから行ってないけど」

 

「行ってきなさい。彼女は貴方を絶対に待ってる。多分この話を聞いて少なからず動揺してる筈よ。だから、行ってきなさい」

 

「...分かった」

 

まぁ念のため蘭達に会っておくかね。死ぬ可能性も十分あるわけだし

 

「じゃあ私は戻るわ。他にこのことを伝えた方がいい人は?」

 

「やめておけ。既にかなりの数の組織の連中がいる。情報が漏れたらこっちの計画が台無しだ」

 

「そうね。分かったわ」

 

「そんじゃあ蘭や俺の出番が来る前に会ってくるわ。紗夜も頑張れよ」

 

「えぇ。琉太もまずは体育祭を楽しみなさい」

 

「了解」

 

さて、羽丘勢に行くがてら組織の動向を把握しておくとするか。今日の為に昔使っていた俺の武器もしっかり手入れして持ってきてある。今は柏が全部管理してるけどな。華蓮さんも自分専用の持ってるけど、1番エグいのは咲夜だ。あれはヤバイTHE死神だ

 

「にしても、かなりの数いるな...これ本当に大丈夫か?嫌な予感しかしない。おっ蘭発見。らーんー」

 

「!!琉太!」

 

俺が名前を呼ぶと蘭やAfterglowの皆はこっちに走って来ておまけに抱きついて来た。いや人目を考えなさいお前は

 

「...話は翔から聞いてる。琉太も行くんだよね?」

 

「あぁ。こればっかりは俺達が招いたことだ。責任は取らなきゃいけない。安心しろ、そう簡単に死なねえよ」

 

「翔にも死んで欲しくない。彼奴が死ねばモカが悲しむから。でも、あたしは琉太が死ぬ方がもっと嫌だ」

 

「蘭...」

 

あーあ。折角冷静に保ってたっつうのにこれじゃもうダメだ

 

「だから...絶対に」

 

「それ以上は喋るな」

 

俺は蘭の口を塞いだ。指や手じゃない。キスをして塞いでやった。自分でも何でこんなことをしたのやら分かってない

 

「ん!?///ちょっ琉太!?恥ずかしい...///」

 

「ハァ...これでいいだろ。さっきから俺達が死ぬだの言いやがって。俺達がそんな簡単に死ぬと思うか?合宿の時の見てそう思うか?」

 

「でも...今回は...」

 

あーもう!こちとら元気付ける為にやってんのに逆効果じゃないのか!?慣れないことするんじゃなかった!

 

「おい、それ以上喋ればもう1回やるぞコラ。そう簡単に人を殺してんじゃ「いいよ」...何が?」

 

「琉太になら、されてもいいよ」

 

「あのなぁ、そういうのは俺からしておいてあれなんだけど好きな人に言うものだぞ?」

 

「...バカ」

 

何かバカって言われた。そう思ってたら蘭の顔が目の前に迫っていた。背伸びって案外伸びるのな

 

「ん...プハァ...///」

 

「蘭...お前何かいつもと違う」

 

「それはあたしのセリフ。死んだら許さないから、覚悟しておいてよ」

 

赫く染まった顔からとんでもないお言葉をいただいた。蘭の場合余裕で墓石蹴りそうだな。うん、死ぬのは嫌だな

 

「了解。んじゃ、俺は戻る。何かあったら3人の誰かに言え。花梨もいるから」

 

「分かった。気をつけてね」

 

何回人のこと心配するんだ。そんなにしてたら身が持たないぞ。そういえば、あの高校生に拳銃を渡す基地外は何処に行った?挨拶くらいしておかないとね

 

「あの人も大変だな...一緒に戦ってくれるんなら割と余裕で勝てると思うんだけどな。立場上無理か」

 

昔は結構荒れてたから街の不良を俺達3人で殺し回っててその度に彗人さんにボコられて...何気にあの頃は楽しかったな

 

「彗人さん、こんちはっす」

 

「おぉ奏斗。久し振りだな。アレはもらったか?」

 

「呆れたような顔した華蓮さんからもらってるよ。あんたも殺ればいいのに」

 

「あのなぁ。警察の俺がお前達と一緒に戦って殺してたら瞬間ネットで叩かれるぞ。別に3人で勝てるだろ」

 

「あんた俺達より強いだろ」

 

「あの頃はお前達もガキだったからな。今は1人相手でも勝てる気がしない。俺も歳とったんだよ」

 

ジジイか

 

「まぁいいや。客の避難は任せるからな。ガールズバンドの皆も逃がしてやってくれ。人質に取られたら俺達が何とかする」

 

「分かった。既に配置には付けてるから安心しろ。半分は柏に指揮を任せてある。お前と咲夜と華蓮は思う存分暴れてこい」

 

「そいつはありがたいな。んじゃ俺は戻るわ」

 

「おう。死ぬなよ。死んだら俺に責任が回る」

 

「はいはい。何回死ぬなって言われればいいんだか...」

 

皆俺達を舐めてんのか?今までに死にかけたことは幾らでもあるけど、最終的には全部叩きのめしてるからな。この前のやつはノーカンで

 

「さてと、時間的にそろそろ俺達の出番だな。ハァ...めんどくさい」

 

リレー種目は基本全部アンカーとして出ることになっている。その方が盛り上がるらしいけど、今はそれどころじゃないんだよな...帰りたい

 

俺のそんな祈りは届くことなく、まずは学年対抗のリレーが始まってしまった。いや、皆速くない?レベル高すぎだろこの羽丘と花咲川...

 

「あーやってんねー。ほぼ同時に来るな。咲夜、調子はどうだ?」

 

「ぼちぼちだな。仕事の準備運動としてやるけど、手は抜かねえぞ」

 

「上等」

 

中学の頃も毎年俺達がアンカーをやっていたけど、毎度の如く同着でいつまで経っても決着がつかない。そろそろつけたいね

 

そんなことを考えているうちにすぐ後ろまで来ていたため、俺達も合わせて走り出した。ほぼ同時にバトンを受け取りそのまま全力で走る。途中までは並んでいたのだが...

 

「え?ちょっ?咲夜速くね!?」

 

「なんだか知らんが今日は調子が良い」

 

まさかの急に咲夜が速くなるというアクシデントがあり負けた。嘘やん。割とガチで自信あったのに...

 

「ハァ...ハァ...何だよあれ。頭おかしいんじゃねえの?」

 

「もう走りたくない...これで終わり...じゃなかった」

 

「まだ学校対抗があるからな。もう容赦しない」

 

「次も勝ってやるよ」

 

次の学校対抗ではギリギリで俺が勝った。正直に言おう、疲れた。これライブまでに体力持つかな...何かXaharも強制的に出させられてるんですよね。主に湊さんと蘭のせいで

 

「とりま昼休みになるし柏のところ行こうぜ。多分華蓮と彗人さんもいる」

 

「りょーかい」

 

さて、午後に向けて英気を養うとしますかね。もしかしたら最期の飯かもしれないしな

 

「おーい。準備はできてるか?」

 

「お疲れ様です。こちらが今日の昼食になるので、ご自由にどうぞ」

 

「「いただきまーす」」

 

うん、美味い。最早プロの味。柏の奴咲夜や華蓮さんに料理教わってから腕前もイカれやがったな

 

「しっかしまぁ、どいつもこいつもでかくなったなぁ。昔はこんなちっちゃかったのに」

 

「煩いですよ。貴方はとっとと食べて持ち場についてください」

 

世間話をする彗人さんに柏が辛辣な言葉をかける。何故かは知らないが、柏は彗人さんのことを物凄く嫌っているのだ

 

「柏もますます捻くれてきたな。誰のせいだか」

 

「華蓮だろ」

 

「私!?咲夜の方が一緒にいたよね!?ていうか私何年も柏と会ってなかったのに何でそうなるの!?」

 

「あーはいはいそうですねー。ところで、アレは何処にある?」

 

「彼処にありますよ」

 

アレとはもしかしなくてもヤバイ奴のことだろう。2メートルくらいの木箱の中に入ってるけど、目立ちすぎてね?周りの人何これ?って目で見てるけど

 

「お前アホか?連中にバレたらどうすんだ」

 

「オッサンは黙っててください。ずっと私が椅子として使ってたので大丈夫ですよ。多分」

 

「確信を持て」

 

「まぁバレてなきゃいい。午後からはライブだ。衣装にも仕込んであるし、最初はそれで何とかしろ」

 

「「了解」」

 

こういった時の指揮は基本咲夜が取っている。その方が楽に進められるしね

 

「改めて今回の目的を確認する。まず1つはガルパの皆を守ることだ。これを最優先にする。2つ目は組織の殲滅。これさえできれば他はどうでも良い。このことだけを考えておけ」

 

「うーんゾクゾクしてきた!やっぱりこの感覚好きだわ」

 

「やっぱり華蓮さんが1番狂気持ってるよな。まぁ俺も楽しみだけど」

 

「お前らもうちょっと緊張感を持って...」

 

「「お前(あんた)が言うな!」」

 

「アハハ...」

 

これが今日で終わるか、これからも続くのか。それが今日で決まる。蘭や紗夜の為にも、必ず作戦を成功させてやる




読了ありがとうございました

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第55話

遅れてすみません。テストもう死んでほしいわ...


友希那side

 

 

今私はリサやリサの家族、私の家族と一緒に昼食をとっている。午後からはライブがあるので、それに備えて準備もしておかなければならない。だが、そんなことを考えている暇は今の私には無かった

 

...翔とキスをしてしまった

 

彼と別れる際、何をされるかと思ったら急に抱き寄せられキスをされた。誰がこんなことを予想できただろうか。今でも感覚が唇に残っている

 

「っ〜〜〜〜///」

 

「ねぇ友希那、さっきから何回も顔赤くして悶えてるけど大丈夫?ライブあるけど...」

 

「だっ大丈夫よ...それより、翔達は何処にいるの?ライブの打ち合わせもしたいのだけど」

 

「何かさっき30代くらいの男の人と喋ってたよ?その後祐奈さんとか花梨も合流してお昼食べに行ってたけど」

 

「その男の人、体格とかは良かったかしら?」

 

「え?まぁ凄く強そうな感じしたけど、どうしたの?」

 

「ちょっと気になっただけよ」

 

おそらく、彼の知り合いの警察の人だろう。彼の話によれば、既に警察の人が何人も紛れ込んでいて、保護者や生徒の避難誘導はやってくれるとのこと。私達は翔達の指示に従いその場からなるべく遠ざかることになっている

 

私には何もできない。相手は何度も翔達を殺しに来た連中だ。失敗こそしているものの、彼らに重傷を負わせるほどの力を持っている。私達がいては邪魔になってしまう

 

「友希那、さっきから浮かない顔してるけど本当に大丈夫?何か悩みがあるなら聞くよ?」

 

「大丈夫だから。ライブについて考えてただけよ。リサ、貴女は調子はどうかしら?」

 

「家で軽くやった時は良かったよ。友希那は言うまでもないよね、翔達と一緒にライブできるんだもん」

 

「なぁ!?ちょっと変なこと言わないで!///」

 

もう...さっきのこと思い出しちゃったじゃない。お陰で耳まで真っ赤になっていることだろう

 

「リサちゃん、その翔という子は誰のことだ?」

 

「あっそっか。友希那のお父さんは知らないんだ。アタシ達Roseliaのマネージャーをしてくれてる男の子で、ついでに言うと友希那の意中の人だよ」

 

「リッリサ!余計なこと言わなくていいから...///」

 

「ほぅ...是非とも会ってみたいものだな」

 

「もう凄いイケメンですよ!流石は友希那の意識を持っていく人だって感じ!」

 

今日は何回恥ずかしい思いをすればいいのだろうか?今までお母さんだけだったからまだ何とかなっていたものの、お父さんにまでばれたら家で質問攻めに会うことだろう

 

「リサちゃんがそこまで言うか...マネージャーと言ったが、彼にも音楽経験があるのか?」

 

「経験どころか、彼が所属しているバンドXaharは3年前FWFで圧倒的な差で優勝した、その演奏レベルは最早化け物よ」

 

「まさか...君たちが言う翔とはあの神道翔のことだったのか。私はあの時現地で見ていたが、確かに他のバンドとは比べものにならなかったな」

 

「ギターの妹尾琉太がAfterglowのマネージャーをやっているわよ。他にもドラムで翔の姉である祐奈さんがここで教師を、翔の妹のベースボーカル、花梨がここの中等部にいるわ」

 

私の話を聞いたお父さんは心の底から驚いている様子だった。それもそうだろう。こんなすぐ近くにフェスでの王者がいたのだから

 

「Xaharについて調べたことはあるか?」

 

「えぇ。彼らが優勝したと分かったあとに少し調べたわ。その時はコメントとか書いてあったけれど...」

 

「私も調べたが、おかしいところが幾つかあった。彼らに関する情報が殆どと言っていいほど無かったんだ。年齢や出身、見たら学生と分かるくらいだったのに学校も記されていなかった」

 

「やっぱり、優勝したらその辺の情報は公開されるの?」

 

「えぇ。本人たちの許可はいるけれど、普通は公開されるわ。でも、彼らに関する情報は名前しかなかった。顔写真すら載っていなかったわ」

 

「考えられることとしては、彼らの後ろには巨大な力が働いているのかもしてないということだ。そのお陰で優勝した訳ではないだろうが、そうでもない限りこれはおかしい」

 

彼らがただの高校生だとは到底思っていない。夏合宿の時や彼と出かけた時、いずれも手加減をしているように見えた。殺さないようにしているのではと思っている

 

「いずれにしろ、彼らについては少し警戒した方がいい。いつか大きな事件に巻き込まれる可能性だってあるからな」

 

「それについては今は置いておくわ。私は翔達を探してくるから、リサはAfterglowの皆と打ち合わせをしておいて」

 

「りょーかい!」

 

今回のライブは少し特殊だ。出演は全部で6バンド

 

 

Poppin’Party、Afterglow、Pastel*Palettes、Roselia、

ハロー、ハッピーワールド!、Xahar

 

ポピパ、パスパレ、ハロハピの人たちはそれぞれでライブをやるが、RoseliaとAfterglow、Xaharは違う。私たちはそれぞれが持つ曲を1曲ずつ、3バンド同時に演奏することになっている。最初はそもそもXaharが出ることすら計画になかったのだが、私たちが頼んで(強制)出てもらった。その時にあこが今回のことをやりたいと言い出したのだ

 

RoseliaからはBLACK SHOUT、AfterglowからはScarlet sky、Xaharからは月光を出すことになった

 

私たちの曲は勿論、Afterglowの曲も早い期間で仕上げたが、月光が異常なほどまでに難しかった。スコアを渡された時、見た10人全員が絶句するというくらいに次元が違った。まりなさんも見た時は言葉を失っていたし、あのお父さんですら何も言えなくなるだろう

 

あれからスパルタに近い特訓を受けて何とか完成まで持ち込んだ。特に花梨と祐奈さんが担当するボーカル、ベース、ドラム勢は死ぬほどしごかれた。初めて休憩したいと思ったわ

 

「次やる時はもう少し簡単にアレンジしてもらおうかしら...それにしても何処にいるのよ?」

 

さっきから何処を探しても見つからない。ライブまで1時間を切っているし、最後の大玉リレーが終わったら話す機会もない。どうしようかと悩んでいたところ、翔と一緒にいた警察と思われる人を見つけた。あの人に聞けば分かるかしら?

 

「ちょっといいかしら?」

 

「ん?俺に何か用か?」

 

「貴方さっきまで神道翔と一緒にいたわよね?彼が今何処にいるか分かるかしら?」

 

「なんだ、彼奴の知り合いか。彼奴なら日陰のあるところで今頃昼寝してるよ。多分妹とかもいるだろう」

 

「そう、ありがとう。刑事さん」

 

「俺のこと知ってんのか?お前、何者だ?」

 

途端に刑事さんの声音が低くなった。思わず背筋が凍るが、あの時の翔達の殺気に比べたらかなりマシだ

 

「翔がマネージャーをやっているバンドのボーカルの湊友希那よ。話は彼から大方聞いているわ」

 

「あんたが翔の言ってた奴か。悪いが仕事中だからさっさと行くなら行きな」

 

「彼らが狙われていることは知ってる。だから、貴方にお願いがある」

 

「...何だ?」

 

「彼を、翔を死なせないで。彼は私の大切な人なの」

 

「善処はする。だけど、俺の役割はあんたらの護衛だ。彼奴らが死ぬかは彼奴ら次第だ。あんたは信じて待っててやれ」

 

「...分かったわ」

 

最後に軽く挨拶を交わし、彼の元へ向かう。日陰を探していると彼は本当に寝ていた。私の気も知らないで呑気に寝ていることに腹が立つ

 

「翔、起きなさい。ライブの打ち合わせするわよ」

 

「ん〜...頼むから寝かせてくれ。あとに備えさせろ。ライブは事前の計画通りに進めてくれればいいから」

 

「寝過ぎて動けないなんてシャレにならないわよ」

 

「舐めんな。寝起きは良い方だ」

 

「そういう問題じゃ...とりあえず、ライブは成功させるわよ」

 

「当たり前だ。友希那やモカと一緒にライブできるなんて滅多に無いからな。それに、()()()()()()()()()、今後最高の状態じゃできなくなるかもしれないからな。できるうちにやるよ。着いて来れないとか無いよな?」

 

「愚問ね。どれだけ練習したと思っているの?Roseliaを舐めないで頂戴」

 

「ふん。時間まで寝かせろ。それまでに体力回復させとく」

 

そう言って彼はまた寝てしまった。彼と一緒に寝ようかと思ったが、彼の迷惑にはなりたくない。でも、欲には勝てなかった

 

「...おい。お前は何をしている?」

 

「見て分かるでしょう。貴方と一緒に寝ようかと思っただけよ」

 

「ハァ...後でリサさんにからかわれても知らねえぞ。あの人がなんでからかってるのかは知らないが」

 

「人のファーストキスを奪っておいて随分な言い草ね。私はもう1回やってもいいけれど?」

 

「嫌だね。ほら、寝るなら寝るぞ」

 

彼は背を向けて寝てしまった。してもいいというよりしたいの方が正しかったけれど...私は彼に寄り添うようにして意識を手放した




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第56話

最近週1でしか投稿できてない気がする...本当にごめんなさい


咲夜side

 

ついにライブが始まった。俺たち3人は衣装の中に無数のナイフを仕込んだ状態でステージ脇で待機している。これたまに刺さって痛いんだよな...

 

1発目はハロハピ。弦巻のいるせいか発想はぶっ飛んでる。そのおかげで盛り上がるわけだが。あっ花音がちらっと俺を見た。演奏に集中しろ

 

2発目はポピパ。やはりこのバンドはポップな曲が多い。ハロハピに続いて明るい曲が来たから客はどんどん盛り上がってく

 

3発目はパスパレ。前にイヴからキーボード教えてくれと頼まれて1日指導したことがあるが、そのときよりも格段に上手くなってる。アイドルの曲はよく分からんが、まぁ悪くない

 

パスパレの演奏が終わり、ようやく俺たちの出番となった。弦巻の家の黒服たちが異常な速さで楽器を入れ替えていく。月読命家の連中もこれくらいはできるのかな?

 

ものの数秒でセットが終わり、ステージのライトが明るくなる。客は楽器の多さに驚きを隠せないらしく、ざわざわしている。司会である花咲川の生徒会長の合図で14人一斉にステージに上がった

 

 

キャーーーーーー!!!!

 

 

姿が見えた瞬間悲鳴のような叫びが聞こえてきた。やっぱりAfterglowとRoseliaは人気だねぇ...(主に咲夜と奏斗に対する歓声)MCは俺と奏斗に押し付けられた。マジF○CK

 

「えぇ〜MCは俺妹尾琉太と神道翔がやる。まずは軽くメンバー紹介からいくぞ。お前たちから見て左側がAfterglowだ」

 

 

キャーーー!!!

 

 

奏斗の紹介に合わせてAfterglowが礼をする。す他のバンドとは盛り上がりが違う

 

「次だな。お前らから見て右側、Roselia」

 

 

キャーーーー!!!!

 

 

次は俺がRoseliaを紹介する。Afterglowより若干盛り上がりが多いな。まぁ実力は5バンドの中でトップだしな

 

「最後に、真ん中にいるのが俺たちXaharだ。今日はよろしく」

 

その瞬間、今日1番の歓声が聞こえてきた。鼓膜破れる痛い。どっからそんな声出してんだよ...

 

「今日は特別にこの3つでやらせてもらう。お前ら、準備はいいか?」

 

 

イェーーーーーーーイ!!!!!!

 

 

「...大丈夫だな。じゃあまずは1曲目、Scarlet sky!」

 

まずはAfterglowのカバーから。この曲は俺も結構お気に入りだったりする。歌詞には蘭の想いが込められているけど、柏や友希那もまるで自分が感じたかのように歌っている。この3人バケモンだな

 

「ふぅ...じゃあ次いくぞ。BLACK SHOUT」

 

2曲目は俺が道を見つけたきっかけとなったBLACK SHOUTだ。今回はアレンジしてリマスターverとなっている。Roseliaも随分成長したな...

 

「ハァ...次で最後だ。お前ら、死ぬつもりでついて来い!」

 

 

イェーーーーーイ!

 

 

「準備できたみたいだな。3曲目、月光」

 

最後は俺たちの曲だ。よく考えれば合同練習これが1番大変だった気がする。初めて作った曲なのでそこまで難しくしたつもりはなかったのだが、彼女たちにとってはキツかったらしい

 

キーボードとギターは飲み込みも早く普通に指導していたが、ベース、ボーカル、ドラムは死ぬ程しごかれたと聞く。何せあの友希那が休憩したいと思ったくらいだからな

 

...生きてたら労ってやろう

 

3曲目も問題無く終わり、残るは5バンド全員によるスペシャル演奏だけとなった。だがその前に休憩時間を設けてあるので一旦休憩だ

 

「あぁ〜疲れた。もう腕が動かないよう...」

 

「おい、お前はこれから仕事があるだろうが。華蓮が欠けたら俺らが死ぬぞ」

 

「分かってるよーだ。貴方たちも体力は残ってるの?」

 

「当たり前だ。演奏中も少しは周りを見てたんだが...」

 

「私も思った。奴らの気配が殆ど感じられない。少なくとも観客の中にはいなかった」

 

問題はこれだ。予想では観客に紛れて仕掛けて来ると思っていた。だが、そのような気配は一切無かった

 

「今奏斗と柏が見張りを立ててるが、このままじゃ埒が明かないな...どうする?」

 

「このまま進めるしかないわね。予定通り、私たちはステージ脇で待機、待つしかない」

 

「そうだな。俺は奏斗にもこのことを話してくる。華蓮も柏と一緒にステージの片方を見ててくれ」

 

「了解。ステージの裏にはいなかったから、あの子たちも今は大丈夫な筈よ」

 

「分かった」

 

何か嫌な予感がする。おそらく、向こうだって俺たちが待ち構えていることは分かっている。そう簡単にことが上手くいくわけないのだが、もう作戦は機能してない

 

「奏斗、どうだ?」

 

「駄目だ。見える限りの場所を探しているが、それらしき人物は誰1人見つからない。何処にいるんだ...」

 

「こうなったら奴らが仕掛けて来るのを待つしかない。いつでも殺れるように準備しとけ」

 

「分かった。例のものは何処に置いてある?」

 

「柏が持ってるよ。椅子の代わりにしてるけどな」

 

本人はそれで隠せてるつもりらしいが、幾ら何でも無理があるだろ。柏も柏でポンコツだよな...

 

「柏にも用意はしてあるが、なるべく使わせないように尽くしたいものだな。彼奴の綺麗な手を汚い血で汚すわけにはいかんからな」

 

「そうだな...こんなのは俺たちだけで十分だ。ここで終わらせてやる」

 

「あぁそうだ。これ、彗人さんから通信用のインカム貰ったから今のうちに渡しとく」

 

あの人そんな物まで用意してやがったのか。頼りにやるのはいいけど、ぬかりが無さすぎて怖い

 

「サンキュー。もしもし彗人さん、聞こえるか?」

 

『咲夜か。聞こえてるよ。そっちはどうだ?』

 

「全然気配が感じられない。何処かに潜んでる筈なんだが...彗人さんの方はどうだ?」

 

『部下たちにも探させてるが、こちらも怖いくらいに感じられない。もう作戦が滅茶苦茶だな』

 

「逆に上手くいったら凄えわ。もうすぐラストステージが始まる。いつでもいけるようにして置いてくれ」

 

『了解』

 

やっぱり向こうも駄目か...俺たちが1番動けなくなる状況、それは演奏中か皆が人質に取られたときの2つのみ。もう俺らが演奏することはないから、可能性は1つに絞られる。できれば避けたい状況だったが仕方ない

 

「奏斗、既に事態は最悪の方向に進んでるが彼奴らに傷つけることだけは避けろよね」

 

「分かってるよ。幸い、弦巻家の黒服たちがいるのが救いだな。あれにも避難誘導は手伝ってもらおうか」

 

そういえばいたな。絶望の中にも僅かな希望はあるものだな

 

そして、ついに今日のメインステージが始まった。5バンドのセンターを務めるのはやはりRoselia。1番の実力者であり、何よりもこの場を治める力がある。MCは友希那と今井の幼馴染コンビだ

 

『じゃあ早速行っくよー!せーの!』

 

『『『『『クインティプル☆すまいる!』』』』』

 

いよいよだ。今から始まるであろう演奏に耳を傾けようかと思ったその刹那

 

 

パチン

 

 

ステージの明かりが全て消えた

 

「!?今かよ!?華蓮、柏!周囲を警戒しろ!」

 

くそっ!本当に最悪のタイミングでやりやがった!観客のざわめきのせいで奴らの気配が感じにくくなってる...何処だ?

 

「...まさか!」

 

「奏斗?」

 

「ステージの下だ!ここの構造によれば下は空洞だった筈!微かに足音も聞こえる!」

 

「チッ!お前ら!今すぐステージ脇に...」

 

その瞬間、ステージの前方の下から何十人もの黒いコートに包まれた奴らが一瞬にしてガールズバンドの皆を取り押さえた。くそっ...油断した

 

『咲夜!そっち任せたぞ!』

 

不意にインカムから彗人さんの声が聞こえた。客や他の生徒の避難に移すつもりだろう

 

人数はざっと50人程。その真ん中に立つ男がマイクの前に歩き出した。全員マスクをしているので顔は分からない

 

『月読命咲夜、華蓮、柏、宮本奏斗、出てこい』

 

リーダーと思われる奴が俺たちを呼び出した。おとなしく俺たちはステージへと上がり表に出た。この声、何処かで聞いたような...

 

「久し振りだな...10年ぶりといったところか?随分と楽しませて貰ったぞ」

 

「顔も分からねえのに久し振りとかほざいてんじゃねえ。そいつらを離せ。でなければこの場で全員地獄に送る」

 

「ふん、生意気な。この数でまだそんなことが言えるか?」

 

「私たちを舐めないでもらえるかしら?別にこんなの、3人で十分よ」

 

「さて、皆を離してもらうぞ!」

 

奏斗はその言葉と同時に煙幕弾を地面叩きつけた。辺りに煙が立ち込め視界が奪われる。俺たちは持っていたロープでバンドごとに縛り上げステージの外に放り投げた。すまん

 

「さて、これで荷物はなくなった。そろそろ始めようか。柏!」

 

「はい!」

 

俺の合図により、柏は持って来ていた木箱を俺の方に投げつけた。俺はそれを蹴り壊すと、中からそれぞれ昔俺たちが使っていた武器が出てきた

 

華蓮は2本の日本刀。奏斗は巨大な薙刀。俺は

 

 

 

死神を思わせる巨大な鎌だ

 

 

ふと友希那たちの方を見ると完全に言葉を失っているようだった

 

「久し振りだな...こいつを使うのは」

 

「やっぱりこれがしっくりくるなぁ...」

 

「そうだな。柏、お前は皆を安全なところに連れて行け。彗人さんもすぐに戻って来る筈だ」

 

「でっでも...やはり私も」

 

「お前はそいつらを守ることに専念しろ!これはお前にしか頼めないんだ!」

 

「...分かりました。皆さん!私について来てください!」

 

柏が彼女らを連れて行こうとしたとき、組織のうちの5人が襲いかかって来た。させるわけねえだろ!

 

俺たちは迎え撃ち一瞬にして細切れにした。そういえば、これを見られるとなると...

 

『きゃああああ!!!』

 

後ろから悲鳴が聞こえて来た。そりゃそうなるよな、目の前で人が無惨にも殺されたのだから。しかも知り合いの手によって

 

「どんな奴だろうが、彼奴らを傷つける奴は何があろうと許さない。てめえら、死ぬ覚悟はできてるよな?」

 

俺の言葉に怯みを見せるが、すぐに立ち直る

 

「さぁ、showの始まりだ。奏斗、華蓮、行くぞ!」

 

「「おう!」」

 

命をかけた戦いが今、始まりの鐘を鳴らした




読了ありがとうございます!

次回からこの小説の山場となるのでどうぞお楽しみに!

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第57話

どうもです。戦闘シーンってキャラ視点難しいなと思ったのでナレーション的な感じが入ります。たまにキャラ視点入れるかと思います


今此処、羽丘学園のグラウンドには壮絶な光景が広がっていた

 

茶色かった筈の土は真紅の液体に染まり、そこかしこに人の腕や足、頭が転がっていた。その周りではかつて死神と呼ばれた者たちが見た者を恐怖に陥れるには十分な戦いを繰り広げていた

 

月読命華蓮。彼女は弟である咲夜の監視のために教師をやっていた。実年齢は18歳なのだが、親戚である理事長の権限もあり正体を偽り仕事をこなしている

 

そんな彼女が使うのは2本の日本刀。昔から剣捌きが誰よりも上手かった彼女は、組織内ではとても有名だった。先程殺した5人を除き残り45人で全員刀を持っている。他にも2人いるため単純計算で1人15人を相手することになる。普通なら不可能に近いだろう。だが、彼女にとっては簡単なことである

 

「後ろから5人、前から5人、周りで3人が私を囲んでる。まずは前の奴からやるのが妥当かな...後ろはナイフで何とかなるか」

 

そう呟きながら彼女は前にいる連中に狙いを定め一気に駆け出す。あまりの速さに反応できなかった連中は為す術もなく頭を跳ね飛ばされた。その瞬間、後ろから待機していた5人が華蓮に襲いかかる。今から刀を構えては間に合わない。だが

 

「その程度の速さで私を殺すつもり?持ってるのは刀だけじゃないのよ?」

 

華蓮は羽織っていたコートのボタンを一気に外した。すると、コートの裏側に何十本ものナイフが現れた。彼女はその内の5本を取り出しそれを全員の顔に向けて投げつけた。だがそう簡単にやられるわけでもなく、簡単に防がれた。しかし、ナイフを弾いた連中の目には既に華蓮はいなかった

 

「何処見てるのかしら?ナイフ1本に気を取られるとか頭悪すぎなんじゃないの?よくそんなので殺し屋なんてできたわね」

 

一体どういう足をしているのか。今の一瞬で後ろに回り込んだ華蓮は刀を逆手に持ち替え目にも留まらぬ速さで身体を回転させ奴らの身体を細切れにした。辺りに血が飛び散り、近くにいた彼女はその返り血をもろに浴びた

 

「ふふふ...美味しい♡」

 

顔についた血を舐め彼女はそう呟く。その小さな笑みには悪魔のような、妖精のような雰囲気が漂っている。久し振りの感覚に彼女は心の底から楽しんでいた

 

「あと3人...計算的に2人足りないけど...」

 

ふと思いつきガールズバンドの皆が避難している方を見ると、そこでは妹の柏が戦っていた。柏は昔訓練も受けていて、更には咲夜にも鍛えられている。だが、実践経験は0なのだ。流石に初めての実践のため苦戦しているようだった

 

(やっぱり柏には厳しいか...さっさと片付けて援護しないと)

 

周りを囲んでいた3人を殺しすぐさま柏の援護に向かう。華蓮たちの課題として、柏に人を殺させないということがあった。実践経験がないということは人殺しをしたことはないということ。そんな彼女の手を汚すようなことはさせたくないという想いの一致からできた課題だった

 

「柏!伏せて!」

 

華蓮が後ろから呼びかけた瞬間、柏はすぐに身体を伏せた。先程まで柏と戦っていた2人は突然の華蓮の出現に対応できず頭を切り落とされた

 

「すみません...私が非力なばかりに」

 

「あんたは実戦経験ないから仕方ないわよ。それより、後ろで青い顔してる子たち何とかしといてね。邪魔だから」

 

「分かりました。皆さん、早くこちらへ」

 

柏に促されガルパの皆はグラウンドの外側へ非難する。この場を出られないのは狙われている自分たちがこの場を出れば民間人に被害が及ぶ可能性があるからだ

 

「かっ花梨。これは...一体何なの?」

 

「見ての通り、お兄様たちが戦ってるんですよ。友希那さんたちも見たことあるでしょう?」

 

「でも...まさか人を殺すなんて」

 

「私も実際に見るのは初めてですけどね。それと、私はもう花梨ではない」

 

「え?どういうこと?」

 

「聞いてなかったのならそれでいいです。あと少ししたらどっかのおっさん警部が来るでしょうから、それまで何とか持たせます」

 

何も知らない友希那たちは只々困惑していた。いや、最早困惑する程の余裕なんて無いだろう。此処にいる全員が彼らと面識があり、多少は言葉も交わしている

 

中でも深い想いを抱いている友希那や蘭などの人は目の前の光景に目を瞑るしかできなかった。自分の想い人が人を殺しているなんて現実、受け入れられる筈が無い

 

「とにかく、皆さんは固まっててください。私1人では到底守り切れるものではありませんが...」

 

(お姉様の方は大方片付いたみたいですね。あとの2人もおそらく余裕でしょうし、このまま順調に行けばいいのですが...)

 

このときの柏の中では嫌な予感がしていた。それに柏の予感はよく当たる。主に悪い方のときにだが

 

 

その頃、奏斗の方では

 

 

 

(1、2、3......15人か。まぁこのくらいならどうとでもなるか。制限もなきゃこいつも使える。時間もかけたくないしさっさと済ませよう)

 

宮本奏斗。表では妹尾琉太としてAfterglowのマネージャーをしている。温厚な性格故にAfterglowやギターの弟子である紗夜からは絶大な信頼を得ている。だが、仕事となるとその性格は消え、明確な殺意が表れる。キレるとあの咲夜でさえ手が付けられないとのこと

 

時間をかけるのが嫌いな彼は刀を構えて動かない奴らに持ち前の薙刀捌きで斬りかかる。だが、単純な攻撃のため上に跳ばれ避けられる。その隙を逃さず彼はすぐさまジャンプして薙刀を横に振る。今の攻撃で5人が真っ二つにされ死んだ。後ろの方で構えていた連中は懐から拳銃を取り出し奏斗に向けた

 

「ありゃりゃりゃ。そっちも持ってんのね。まぁ意味ねえけど」

 

奏斗は持ち手の真ん中を持ち構える。そのすぐ後無数の銃弾が飛んで来たが、彼は自分の前で薙刀を回転させ全て弾き返した。弾き返した弾が当たったのか今ので半分くらい削れたみたいだ

 

「残り7人...お前ら、面倒だから全員でかかってこい。細切れにしてやる」

 

今の彼にある感情は怒りと殺意だけだった

 

「蘭と紗夜に手を出したことは何があろうと許さない。覚悟しろ」

 

奏斗は残った7人に向かって走り出し斬りかかる。怒りのためかその速さは異常なもので、誰1人反応できなかったため全員死んだ

 

(こっちは終わったな。華蓮さんも終わってるみたいだしあとは咲夜だけなんだが...どう見ても彼奴舐めてるだろ)

 

呆れる奏斗の視線の先では咲夜が戦っていた。というよりは一方的に避けているだけだった

 

 

 

月読命咲夜。表では神道翔として自分が所属するバンドXaharのリーダーを、更にはRoseliaのマネージャーもやっている。しかし、表と裏で1番性格が変わるのは咲夜だろう。自分の邪魔になる存在は何があろうと消す。それが彼の流儀だ。出会った者は全員殺されたことだろう。そのため彼につけられた通り名は...死神

 

(そろそろ身体も温まってきたか。ていうか2人とももう終わってんのか?いや、俺が遊びすぎただけか)

 

他の2人が戦っている間、咲夜は攻撃を避けたり受け流したりしているだけだった。本来なら速攻で終わらせられた筈なのだが、残念なことに昼寝をしていたせいで身体が固まっていたのだ

 

(言われたそばからこれかよ。寝なきゃよかった...)

 

頃合いと判断した彼はその巨大な鎌を高速で振り回し、取り囲んでいた計14人を一瞬で殺した。3人の中でも最強なだけに、彼の相手をしていたのは組織の元幹部ばかりだった。それを瞬殺とは流石は死神と言ったところだろうか

 

(あと1人。ステージでこちらを見ているだけか...さっきも指揮をとっていた辺り、彼奴がリーダーなのは間違いないだろうな。それにしても、さっきの声何処かで...)

 

「咲夜!終わったか?」

 

「あと1人だけだ。多分彼奴は強い」

 

「こっちも終わったわよ。2人とも怪我の方は大丈夫?」

 

「今の所はな。だが、あまり長くは持たないだろう。友希那たちに怪我はないか?」

 

「えぇ。柏が頑張ってくれたおかげでね。あの子も怪我はないわよ」

 

「そうか。奏斗と華蓮は彼奴の注意を引いてくれ。俺が殺る」

 

「「了解」」

 

咲夜の指示により2人は左右から同時に攻撃を仕掛ける。長年3人で行動して来たため、仕掛けるタイミングはバッチリだった。しかし、リーダーと思われるそいつはいとも簡単に避け刀を抜き斬りかかる。避けられたことに驚く2人だが、すぐに対応してその攻撃を躱す

 

その隙に背後から鎌を振りかざす咲夜だが、それも簡単に防がれてしまった

 

(こいつ...!普通の奴とじゃ全然比べものにならねぇ!)

 

「クソッ。流石にこの程度じゃやられてくれねえか」

 

「もう持てる武器全部使ってでも倒すしかないわね。どうする?一応リーダーっぽいし、生かせば少しは情報手に入るかもしれないけど」

 

「いりませんよ。何があろうと殺す」

 

「俺も同意見だ。彼奴らに危害を加えたことだけは絶対に許さない」

 

「...全く。その程度か?」

 

「あ?ごちゃごちゃうるせえんだよ。喋るんならその仮面筈してから喋れ」

 

「ふん。お前ら3人とも変わってねえな...」

 

リーダーと思われるそいつはゆっくりと仮面に手を伸ばしやがてその顔が明らかになった

 

「なっ!?あんた...まさか」

 

「っ!」

 

「お...まえ...は...」

 

「久し振りだなぁ。お前ら」

 

その者の名は月読命刃(つくよみじん)。咲夜と華蓮の父だった




読了ありがとうございました

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第58話

遅れてしまいすみません!テストに睡魔にガルパ!忙しい!

新曲、かっこよかったですねぇ。ガチャですか?自分は蘭とモカが出ましたよ

ピックアップって知ってる?


咲夜side

 

「何で...あんたがここに...」

 

今回俺たちを襲撃した組織のリーダーはまさかの俺と華蓮の父親だった

 

「目的ならお前らが1番分かってんじゃねえのか?咲夜、お前の首をもらう。それだけだ」

 

「あんた如きに...!?」

 

何だ?足が動かない。自分でも分かるくらいに震えているし、呼吸も荒い。目の焦点も合っていないし何よりも()()という名の()()が湧いてくる。何でだよ...!こんなことって...

 

「咲夜!」

 

「!?ガハッ!」

 

奏斗の声で我に返った俺だが、その瞬間に腹に強い衝撃が走り身体が宙に浮いた。それがクソ親父の蹴りだと気づいたのは浮いた身体が地面に叩きつけられてからだった。それと同時に腹に強い痛みがくる

 

「ゲホッ!ゲホッ!なんて蹴りしてんだよ...?」

 

腹を押さえようと触ると何か硬いものが手に当たった。嫌な予感がして見てみると

 

「なっ...嘘だろ?肋が...」

 

先程の蹴りで折れた肋がどうやら身体の外に出て来てしまったらしい。ダメージがデカすぎるとその瞬間はあまり痛みを感じないらしいが...確かにその通りかもな

 

そんなことを考えていた瞬間

 

ビキビキビキビキ!!

 

「ぐっ!?ああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

んだよこれ...!痛みが尋常じゃない。どう考えても人の蹴りじゃないだろ!

 

「咲夜!もういい。あんただけは許さない!」

 

「華蓮さん!1人じゃ無茶だ!」

 

「奏斗君は咲夜の手当てをしてて!こいつだけは...私が殺す!」

 

俺は痛みのあまり意識がろくに保てず、やがてその意識の大半は失われていった

 

 

 

華蓮side

 

 

 

憎い。お父さんが憎い。何もできない自分が憎い。こいつは咲夜をまた傷つけた。絶対に許さない

 

「あんただけは...私が殺す」

 

「威勢のいいことで。先に華蓮、お前から消すとしようか」

 

私はもう、こいつには負けない。あの頃とは違うんだ。今の私には力がある。絶対に...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシテヤル

 

 

 

友希那side

 

 

 

目の前で翔が蹴り飛ばされた瞬間、私は先程まで感じていた恐怖などは消え、全て怒りへと変わった。私が怒ったところで何も変わらない。それでも、あの男が許せなかった

 

だが、それも一瞬のこと。彼の叫びを聞いた瞬間、花梨の静止も聞かずに私は彼の元へ駆け寄った。青葉さんや松原さん、若宮さんらも一緒に来た

 

「翔!しっかりして!」

 

「ヒューヒュー...ゆき...な?」

 

「今は喋っちゃダメ!落ち着いて空気を吸って!」

 

「友希那さん!お兄様から離れてください!手当ての邪魔です!」

 

花梨に引き剥がされ私たちは翔から離れる。琉太も来て2人は素早い手つきで彼の手当てを進めていった

 

「...今はこれが限界か。柏、彗人さんに救急車呼ばせろ。家の方からって言えば手配はすぐに終わる」

 

「分かりました」

 

「琉太。翔は...大丈夫なの?」

 

「さぁ。今の状態が続けば死ぬ確率は高いだろうな。全く、朝お互いに死ぬなって言った矢先にこれだよ」

 

「うる...せぇ...」

 

「今柏に家の方から救急車呼ばせた。すぐに彗人さんが手配してくれるだろ。人の避難も終わってこっちに向かってるみたいだしあと少しの辛抱だ。咲夜、死んだらお前の墓燃やすから覚悟しとけよ」

 

よく分からないが、とりあえず救急車は手配されてるみたいで私は安心した。だけど、そうしている間も祐奈さんはあの男と戦っている

 

状況からして今は互角みたいだが、あの翔が一瞬でやられたのだ。とてもこのまま続くとは思えない

 

「咲夜、お前はあのとき何故動けなかった?お前の身体は何故そんなに震えている?恐怖の感情が何故芽生えたのか、今なら分かるんじゃないのか?感情を捨てた理由も」

 

そんなことを琉太は翔に問いかけていた

 

「翔、お願い...死なないで」

 

「死な...ねぇよ...ヒュー...ヒュー...約束...したからな...」

 

こんな苦しそうな顔をしているにも関わらず、何もできない私は只々祈ることしかできなかった

 

 

 

sideout

 

 

 

咲夜たちがそのような会話をしていたころ、華蓮は劣勢の位置に立たされていた。最初こそは互角に渡り合っていたが、先程の戦闘に加え、直前にライブもやったため体力があまり残っていなかった

 

「ハァ...ハァ...」

 

「おいおいどうした?もう限界なっちまったか?」

 

「黙れ!」

 

彼女にはもう戦略を立てるほどの余裕はなく、怒りに任せて戦っているだけだった

 

「あんたは私たちを地獄へと陥れた!あの子を、私を守ろうとしてくれた咲夜にあんなことをした!あんただけは...絶対に許さない!」

 

「ふん。確かに俺はお前たちを殺し屋の道へと引きずり込み、咲夜をあの様な目に遭わせた。だがな、それは華蓮、お前も同じだ」

 

「!?そんなわけ...」

 

華蓮の動きが止まる

 

「俺はあのとき態とお前の前でやっていた。その結果、お前は自分の保身を図り何も手を出さなかった。自分が同じ目に遭うことが怖かったからだ」

 

「違う!」

 

「それが事実だ。あの頃から咲夜のお前に対する態度が変わったのがその証拠だろう」

 

「...まれ」

 

「お前はただの自己中な臆病者なんだよ。華蓮」

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!!

 

華蓮は我を忘れ刃に斬りかかった。まともな体制をとってもいないのに彼に通用するわけがない。しかし、今の彼女にそのような判断ができるほど意識をしっかりさせることはできなかった

 

「その怒りやすい性格も変わってねえな...言ったはずだぜ、相手との斬り合いで敵の刀を折りつつ敵に重傷を負わせられる角度を」

 

刃はその場を動かず、刀を構えるだけだった。その構えは見事なもので、隙など何処にもない。だが、怒りのためにその判断ができない華蓮は刃に斬りかかる

 

その瞬間、刃は走りだし刀を振った。互いの目の前でぶつかった2本の刀だが、華蓮の刀は砕け散り、同時に彼女の右肩を大きく切り裂いた

 

「あ......」

 

華蓮はその場に力無く倒れ、その周りに彼女の血が広がっていった。続けて刃は倒れた華蓮に止めを刺そうとするが

 

「華蓮さん!」

 

駆けつけた奏斗によってそれは阻止された。1度体制を整えようと下がる刃。その間に奏斗は華蓮を後ろにいる柏の元へ投げつけた

 

「柏!華蓮さんも重傷だ!その人はもう戦えない!すぐに手当てをしろ!蘭と紗夜も手伝え!」

 

「了解です!」

 

指示を受けた3人はすぐに華蓮の応急処置を実行する。これだけ早く手伝えをすれば何とか助かるだろう

 

「さて、お久し振りですねおじさん。10年ぶりですか?」

 

「もうそんなに経つのか。ずっと牢屋にいたから時間感覚が未だに狂ってんだよな」

 

「どうやって出たんですか?」

 

「何か何処ぞの強盗殺人犯が脱獄しようと暴れたらしくてな。騒ぎに乗じて全員で抜け出した」

 

「成る程...もう1度刑務所入るか此処で死ぬか、どちらがいいですか?悪いんですけど、俺は今までにないくらいブチ切れてるんでね」

 

「その割りには落ち着いてんな」

 

「闇雲にやってもこっちが殺られるだけなんでね。そろそろ始めましょうか」

 

「そうだな。いいぜ、かかってこい」

 

奏斗は刃に向かって走り出し、薙刀を思い切り振り下ろした。避けようと構えた刃だが、それは刃に届かず彼の目の前地面に刺さった。別に奏斗がトチ狂ったわけじゃない。持ち手がしなるようにできている薙刀は奏斗を空中へ投げ飛ばした

 

奏斗は懐からナイフを10本ほど取り出し、それを投げつけた。1本1本に間隔があるため躱すのは不可能と判断した刃は飛んで来たナイフを全て弾き返した。その間に奏斗は地面に突き刺した薙刀を抜き刃に斬りかかった。だが、それも簡単に避けられてしまった

 

「昔よりもやるようになったな。そろそろ俺も疲れてきたしケリをつけさせてもらう」

 

「やれるものならやってみてくださいよ...ハァ...ハァ」

 

2人は同時に走り出し、激しい斬り合いが始まった。それは凄まじいもので、近くにいれば細切れにされそうだった。互角だったそれも、段々と奏斗が劣勢の位置に持ち込まれていく。そのとき

 

 

ズキン!

 

 

「グッ!?クソ、こんなときに...」

 

数週間前にやられた傷が完治するはずがなく、それが最悪のタイミングで疼いた。この一瞬の隙を逃さず、刃は奏斗に襲いかかった。反応できなかった奏斗は薙刀を弾かれ、そのまま腹を貫かれた

 

「ガフッ...」

 

その場に崩れ落ち吐血する奏斗。刃はそのまま奏斗を蹴り飛ばし、刀を一旦しまった

 

「琉太!!」

 

さっきまで華蓮の手当てをしていた蘭と紗夜はすぐさま奏斗のところへ駆け寄った

 

「琉太しっかりして!琉太!」

 

「花梨さん!道具を貸してください!こちらで手当てをします!」

 

柏は手当ての道具を紗夜に投げつけ、必死に今の状況を整理した

 

咲夜、華蓮、奏斗。この3人があっという間に倒され、柏はどうすればいいのか分からなかった。自分が戦ったところで負けるのは目に見えている。かといって何もしなければ全員殺されるだけ。誰から見ても最悪な状況だった。ガールズバンドの全員は目の前の光景に身体が竦むだけだ

 

(一体どうすれば...彗人さんが来たとしてもあの人に勝てるとは思えない。私が戦ったところで時間稼ぎにもならない。お兄様が復活すれば...)

 

 

 

咲夜side

 

 

遠ざかる意識の中、俺は奏斗に言われたことを考えていた

 

『今なら分かるんじゃないのか?感情を捨てた理由も』

 

確かに、今の状況と感じたことを考えれば流石に分かるな。いや、最初から分かっていたのかもしれない。その理由があまりにもかっこ悪くて、現実から目を背けているだけだった

 

俺は、怖かったんだ。月読命刃という男が。彼奴から受けたあの痛みが。俺はその恐怖が嫌で、逃げるために感情を捨てたんだ

 

昔だけじゃない。今もそうだ。華蓮や奏斗が戦っているのに俺は倒れているだけ。守るべき存在も守れないまま、終わろうとしている。そんなのでいいのか?否、いいわけがない

 

約束したんだ。友希那たちと一緒に高みに行くと。生きて歌姫に寄り添うと。友希那やRoseliaを支えると、俺は誓った!

 

こんなところで...邪魔されてたまるか!

 

「え?翔!まだ立っちゃ...」

 

「友希那、聞いてほしい」

 

「え?」

 

「俺を、人を殺すことしかできなかった死神を...Roseliaのマネージャーとして迎えてくれてありがとう」

 

「モカ」

 

「しょ〜君...」

 

「あの日、パン屋を紹介してくれてありがとう。俺に始めての感情というものを感じさせてくれてありがとう」

 

「花音」

 

「ふぇ?」

 

「俺が作詞に手間取ってたとき、手伝ってくれてありがとう。こんな俺に優しくしてくれて嬉しかった」

 

「イヴ」

 

「翔さん...」

 

「あのとき珈琲を飲ませてくれてありがとう。一緒に時代劇ものの映画に行ったときはお前凄く興奮してたよな。見てて楽しかったよ」

 

「みんな...こんな俺と一緒にいてくれて、ありがとう」

 

「そんなの...当たり前じゃない。私は貴方と頂点に立ちたいと思ったのだから」

 

「あたしも...不良から守ってもらったとき嬉しかったよ。ありがとう」

 

「私は...翔君だから手伝ったんだよ?私こそ、我儘に付き合ってくれてありがとう」

 

「珈琲なら何度でも淹れてあげます!あの日、ストーカーから守ってくださりありがとうございます!」

 

イヴはブレねえな...まぁ、だから信じられたんだけどな

 

友希那たちは互いに視線を交わすと立ち上がり

 

「「「「ありがとう!」」」」

 

「!!」

 

あぁ...ずるいなそれは。頬に冷たい感覚が伝わり触ってみると、濡れていた。中でも1人だけとてもその姿が美しく見えた

 

「全く...感情ってのは面倒なものだ。お前ら下がってろ。終わらせてくる」

 

俺は愛用の鎌を握りしめ立ち上がった。華蓮も奏斗もクソ親父にやられたみたいだ。お疲れ様、あとは俺に任せろ

 

生きて帰るから...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っててくれ、友希那




読了ありがとうございました

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第59話

どうもです。新規紗夜さんありがとうございます!


刃side

 

奏斗を倒し、少し疲れたので休憩していた俺はこの後のことを考えていた

 

咲夜はもう既に動けなくなっている筈。柏が戦ったところで俺には勝てない。あの刑事が来る前に咲夜を始末して此処から逃げるとするか

 

そんな余裕に浸かっていたとき

 

 

 

ゾクッ!!

 

 

 

!?この殺気...まさか!

 

急いで殺気がした方向を見ると、咲夜が()()()()と同じ雰囲気を出してこっちに歩いて来ていた。巨大な鎌を持って歩いて来るその姿はまさに死神そのもの。いくら彼奴が手負いでも覚醒した彼奴には勝てない

 

「さて...覚悟はいいか、クソ親父」

 

たった一言で華蓮や奏斗の手当てで騒いでた連中が一瞬で静かになった。今の奴には明らかな怒りと殺意がある。こうなったらもう逃げられない

 

「ふん。手負いは黙って死ね!」

 

あのときの代償はしっかり払ってもらうぞ、咲夜

 

 

 

咲夜side

 

 

 

クソ親父と斬り合いを始めてどのくらい経っただろうか?最低でも30分くらいやったのではないだろうか。この前受けた傷も広がってきたせいで血が出過ぎたためか意識もはっきりしていない

 

「ハァ...ハァ...ゲホッ」

 

「おいおいどうした!?高校生にもなってその程度か!?まだガキの頃の方が強かったぜ!」

 

うるせえな...さっさと死んじまえばいいのによ。いや、俺が死んだ方が楽かもな。いっそのこと死んで楽になろうか...

 

 

 

 

「翔!負けてんじゃないわよ!」

 

 

 

友希那?

 

「約束したわよね!一緒に頂点に立つって!こんなところで死ぬなんて許さないわよ!」

 

「ははは...好き勝手言いやがって。どの道消される可能性高いんだけどなぁ...でも、友希那の命令となれば従うしかねえな」

 

体力も殆ど残ってない。おそらく、次で決めなければ勝てないだろう。ここで決める!

 

「死ね!咲夜!」

 

「お前がな」

 

月読命刃。お前には無限の恨みと...

 

 

 

 

僅かな感謝がある

 

 

 

 

ガキの頃、幼稚園などに行けず勉強をすることができなかった俺たちに勉強を教えてくれてありがとう

 

俺たちに戦い方を教えてくれてありがとう

 

俺たちに人を守る力をくれてありがとう

 

そして、殺しても足りないくらいのクソ野郎でいてくれて、ありがとう

 

 

俺は奴の懐に入り細切れにしてやった。それと同時に友希那たちが来て抱きついてきた

 

「よかった...本当によかった...」

 

「ありがとう、友希那、モカ、花音、イヴ。とりあえず、痛いから皆離れてくれるとありがたい」

 

抱きつかれると特に肋が痛いんだよ。痛みには慣れたと思っていたが、時間の経過とともに薄れたみたいだな。お陰でこのザマだよ

 

「終わったか、咲夜」

 

後ろから声をかけられて振り返ると氷川や蘭に支えられながら歩く奏斗がいた

 

「奏斗か。生きてたのかよ」

 

「腹貫かれたくらいで死ぬかよ。お前こそ肋折れて何で生きてんだ」

 

「俺は割としぶといらしい。それと、すまなかった。俺がもっと早く動けてればこんなことにはならなかったのに」

 

「...気にするな。もう迎えは来てるし、華蓮さんは連れてってもらったよ」

 

「彼奴にも後で謝らないとな...ゲホッ!!」

 

やっべ...意識が...

 

その場に倒れる中友希那の顔を見たところで俺の意識は闇に落ちた

 

 

 

友希那side

 

 

 

翔が倒れた後、琉太が何かの合図をした。その瞬間謎の黒服の人たちが彼らを連れて行ってしまった。最初は弦巻さんのところか思ったが、今は避難先である花咲川にいる筈なので違うだろう。そして

 

 

 

 

あれから2週間が経った

 

 

 

私たちガールズバンドの皆は、目の前で人が殺されたショックから精神的にダメージを負った人が多く、弦巻さんのところの病院で1週間ほど入院となった

 

特に美竹さんや紗夜、青葉さんなどの彼らに好意を持っていた人たちは誰よりもダメージが大きく、退院した後も暫くは部屋から出ることすらできなかったようだ。私も、後に翔が人を殺したという現実に立ち直れなくなってしまった

 

事件があった羽丘と花咲川は1週間の休校をすることとなった。直接巻き込まれた私たち25人は3週間休むよう学校の方から言われた

 

お父さんから聞いたことなのだが、血で染められた羽丘のグラウンドはたった2日で元に戻ったそうだ

 

更に、何よりも不可解なことがあった。これだけ大きな事件にも関わらず、どのニュース番組でも取り上げられていなかったのだ。私たち以外はステージジャックを見ただけだが、それだけでもニュースにはなる筈。でも、その欠片もなくこの事件は闇に消された

 

最後に翔たちだ。あれから2週間、行方が分からなくなってしまった。弦巻さんに頼んで黒服の人たちに探してもらっているが、未だに見つかっていない

 

「翔...何処にいるのよ」

 

私は今は家でお昼ごはんを食べていた。今日は久し振りにRoseliaで練習する日なのだが、彼がいないだけでこんなにつまらなそうだ

 

「友希那、彼もきっと何処かで休んでいるよ。今は彼がいつでも帰ってこれるように待ってなさい」

 

「お父さん...そうね、リーダーの私がしっかり守らないと。彼の居場所を」

 

「今日の練習も無理はするなよ。暫くやっていないんだし、感覚を取り戻す程度でやった方がいい」

 

「分かったわ。ありがとう」

 

そうだ。私が彼を待たなくてどうする。いつまでも引きずって練習ができないなんて、帰って来た彼に会わせる顔がない

 

食欲も以前よりは戻ってきて、しっかり食べ切ることができたので支度をして家を出る。CiRCLEには既に皆来ていた。彼女たちと会うのも2週間振りね

 

「ヤッホー。久し振り、友希那」

 

「久し振りリサ。他の皆も、2週間振りね」

 

「えぇ。今日は感覚を取り戻す程度でゆっくりやりましょうか」

 

「そうね。それじゃあ早速始めるわよ」

 

少なくとも普通に会話ができるまでは皆回復しているようだった。だけど、いつもテンションが高いあこやリサも今日は静かだ。無理もないわよね

 

スタジオに入ると各自楽器を準備してチューニングを済ませた

 

「まずは何曲か合わせてみましょう。今日は久々の練習でミスも多いだろうし、いつもみたいにとやかく言うつもりはないわ。落ち着いて、ゆっくり直していきましょう。翔、貴方も...あ...」

 

しまった。ついいつもの感じでやってしまった

 

「...ごめんなさい。Legendaryからやるわよ」

 

 

 

〜♪〜

 

 

 

あれから何曲か合わせたが、やはり感覚は鈍っておりミスが多かった。それに先程の私の言葉で集中力が低下してしまった

 

「少し休憩にしましょう。紗夜、ちょっとお話しないかしら?」

 

「構いません。外のカフェで話しましょう」

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

「紗夜、琉太から連絡とかは来てるかしら?」

 

「1度も来てません。私の方から何度も電話してみたのですが、全く出てくれなくて...美竹さんも同じみたいです」

 

「そう。私も同じね。青葉さんもやってみてくれてるらしいのだけど結果は変わらないわ」

 

「やっぱり...夢、じゃないんですよね」

 

「っ!」

 

夢。その言葉に反応してしまう。私だって...

 

「この2週間、ずっとあの事件が夢ならばと思っていました。でも、何度連絡しても出てくれない琉太の反応を見て...あれは現実だったんだと突きつけられました」

 

「ずっと信じていた相手が、私たちを守ってくれた彼が、実は人殺しだったなんて...私は...どうすれば」

 

「紗夜、貴女の気持ちはよく分かる。私だって現実から目を背けていたのだから。だけど、いつまでもでも逃げちゃダメ。私たちで彼らの居場所を守らなきゃならない」

 

「彼らの居場所...」

 

「えぇ。彼らがいつでも帰ってこれるように、私たちはいつまでも待つ。それが今できることよ」

 

「...そうですね。私たちがしっかりしなければ」

 

「さぁ、そろそろ練習に戻りましょう。こんな状態で戻って来られたら怒られてしまうわ」

 

「そうね。お互い頑張りましょう」

 

紗夜はもう大丈夫そうね。あとの3人も、リーダーとして私が何とかしないと

 

「...湊さん?」

 

「美竹さん、どうして此処に?」

 

「どうしてって、練習してたんですよ。琉太がいつでも戻って来れるように」

 

「ふふ。考えてることは同じみたいね」

 

「あたしは帰って来てくれると信じています。だから、その...湊さんも信じてあげてください」

 

「言われなくても分かっているわよ。ありがとう」

 

「それでは、あたしは戻りますね。練習頑張ってください」

 

「貴女たちも頑張ってね」

 

美竹さんも彼女なりに待っているのだ。琉太を想う気持ちが彼女を強くしている。私も負けてられない

 

この後の練習は調子が良く、感覚も大方戻ってきた。あと2、3回はゆっくりやった方が良さそうね。片付けが終わりスタジオから出ると、同じタイミングでAfterglowが出てきた

 

「お疲れ様。調子はどうだったかしら?」

 

「だいぶ良くなりましたよ。Roseliaは大丈夫ですか?」

 

「えぇ。まだ完全には戻っていないし、あと2、3回は感覚を戻す練習をするわ」

 

暫く雑談をして帰ろうとしたとき、外のカフェにある人を見つけた

 

「あの人...もしかして...」

 

「友希那〜どうしたの?」

 

「今彼処で珈琲を飲んでる背の高い人、多分警察よ。それも、翔と一緒に話していた」

 

『!?』

 

何故こんなところにいるのだろうか?向かいの席に買い物袋があるのを見たところ、買い物帰りだと思うのだけれど...いや、そんなことはどうでもいい。彼らの居場所を聞くいい機会だ

 

「少し話をしてくるわ。あの人が私のことを覚えているかは分からないけれど、折角のチャンスだから」

 

「あたしも行きます。というより、皆で行きましょう」

 

皆の目を見ると、その瞳には覚悟を決めた強い意志が見えた

 

「分かったわ。行きましょう」

 

警察の人に近づくと気配を感じたのか、目線だけこちらに向けてきた。一瞬驚いた顔をしていたあたり、私たちのことを覚えているみたいね。意を決して話しかける

 

「少しいいかしら?彗人さん、だったかしらね」

 

「この前1人で来たと思ったら今度は10人かよ。何の用だ?」

 

「どうせ分かっているのでしょう?翔たちは何処にいるの?」

 

「それを俺が簡単に答えるとでも?」

 

「答えないなら答えるまで聞くだけよ」

 

「めんどくさ...まぁどうせ知らないだろうしいいけど、彼奴らなら今頃家でのんびりしてるよ。ていうか今外出禁止だし」

 

「案内してもらうことは?」

 

「できるわけないだろう。外出禁止って言ったら買い出し押し付けやがって...人使い荒すぎ」

 

答える気は無いらしい。でも、彼らが生きていることは確認できた。皆も少し安心した様子だ

 

「というわけで今日は帰りな...電話かよって今?あんたらちょっと待ってろ。もしもし」

 

誰からかしら?待ってろと言っても相手が分からないのに...

 

『遅い。何してんだ』

 

「カフェでゆっくりしてたら例の連中に絡まれた。お探しの様子だが」

 

『別に会うのは構わんけど...話さなきゃならんし。蘭と変わってくれ』

 

「蘭?誰?」

 

『前髪に赤メッシュがある人。いるんじゃねえの?』

 

「分かった。おい、そこの赤メッシュ。変われだとよ」

 

「え?あっうん...」

 

美竹さんが呼ばれ、彗人さんと変わる

 

「もしもし...」

 

『蘭か?』

 

「琉太!?今何処にいるの!?2週間もどっかいなくなって何してたの!?」

 

『ちょっと落ち着け。質問は1つずつにしろ』

 

「ハァ...ハァ...今何処にいるの?」

 

『家。2週間外出禁止喰らってな。明日からは外に出れるよ』

 

「2週間何してたの?何回も連絡したのに...」

 

『そこはすまなかった。こっちも色々対応に追われててな。そっちに構ってる暇が無かったんだ』

 

「そう...とりあえず、生きててよかった」

 

『死なないって言ったじゃん。蘭、お前に頼みがある』

 

「何?」

 

『明日CiRCLEに5バンド、25人全員を集めてくれ。そこで全てを話す。隠していたこと全部、お前たちに話す』

 

「分かった。無理矢理にでも連れていく」

 

『じゃあな。彗人さんに早く帰るよう言っておいてくれ』

 

「うん、また明日」

 

どうやら終わったみたいね。美竹さんの顔には安心と緊張があった

 

「彼は何て?」

 

「明日CiRCLEに25人全員を集めて欲しいそうです。そこで全てを話すと」

 

「分かったわ。まりなさんにも協力してもらいましょう。皆も連絡のつく人はお願い」

 

ようやくだ。ようやく彼らのことを知ることができる。彼らが何故命を狙われることになったのか。翔の過去も知ることができる。だけど、何かが引っかかる

 

さっき電話に出たのは琉太だ。翔はいなかった。その場にいたのかもしれないけど、それなら私か青葉さんに声を掛ける筈

 

翔、貴方は何処にいるの?

 

 




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第60話

どうもです。今回は奏斗、蘭、紗夜がメインです


蘭side

 

 

 

琉太と電話した翌日、まりなさんにも協力してもらって25人全員を集めることができた。今はCiRCLEの前で心の準備みたいなのをしている

 

「......緊張する」

 

「仕方ないわ。皆混乱しているし、事情を1番理解している私や美竹さんは特に神経質になりやすい」

 

湊さんが緊張でガチガチになっているあたしを宥めてくれる。何か悔しいな...

 

全員準備を済ませいざ中に入ろうとしたとき、中から昨日の警察の人が出てきた

 

「もう来てたのか。全員揃っているか?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

「分かった。んじゃ中に入れ。先に忠告しとくが、下手に喋らない方がいいぞ。今の彼奴らを怒らせたらその瞬間首が飛ぶ可能性あるからな」

 

警察の人はの言葉で全員が固まってしまった。琉太のことだし流石にそれはないと思いたい

 

「全く...今から話をするのに怖がらせてどうするのよ。幾ら何でもその子たちは殺さないわよ」

 

中から祐奈さんが身体中包帯で巻かれた状態で出てきた。前に会ったときよりも表情はどこか氷のように冷たい。瞳も輝きは失われ無機質なものになってしまっていた

 

「殺気丸出しで歩いてきたお前の台詞じゃねえよ。殺気の塊2人に囲まれる柏の身にもなれ。彼奴凄え胃が痛そうにしてたぞ」

 

「別に殺気を出してるつもりはないのだけど...まぁいいわ。久し振りね皆。あれから大丈夫だったかしら?」

 

「最初の1週間は入院して心の回復をさせてもらいました。今は大分良くなってると思います」

 

この中でXaharの皆や彗人さんと1番親しいのは湊さんだ。彼女が話した方がスムーズに進んでいいと思う。あたしなんか緊張で何も話せそうにない

 

「そう...あのときは変なもの見せてごめんね。本当は全員気絶させてから殺るつもりだったんだけど...時間がなくて」

 

そっそんなことしようとしてたんだ...やっぱりこの人は怖いな

 

「あの、琉太はいますか?彼に呼ばれたんですけど...」

 

「中にいるわよ。さっきまで野菜の見分け方教えてもらってたところ。貴女たちも良ければ教えてもらいなさい」

 

「けっ結構です」

 

これから重い話をするというのにこの人随分と呑気だな...いや、そう見せているだけかもしれない

 

「おい、早く行くぞ。俺も今日はあまり時間がない」

 

「分かってるわよ。それじゃあ行きましょうか」

 

 

 

紗夜side

 

 

 

祐奈さんに連れられて私たちはCiRCLEのラウンジに入った。中には居心地悪そうにソワソワして座っている花梨さん、そして琉太がいた。彼は一目見ただけで分かるくらい辺りに殺気を放っていた

 

「連れて来たわよ、まずは挨拶しなさい」

 

「ご苦労様です。皆、久し振りだな」

 

「琉太...!」

 

彼の姿を確認した美竹さんは飛び出し彼に抱きついた。彼はそれを受け止め、優しく美竹さんを包み込んだ。先程まで殺気しか浮かんでいなかった顔とは打って変わり、今はとても暖かな表情になっていた

 

「蘭、久し振り。今まで心配かけて悪かった」

 

美竹さんは彼を抱きしめる力を強めただひたすら泣き続けていた。そういう私も彼が生きていたことへの安心感に今すぐ泣きたい気分だった。すると彼は私の方へ視線を向けた

 

「紗夜も、今まで悪かった」

 

「本当よ...ずっと、貴方が帰ってくるのを待っていた」

 

「ごめん。下手にお前たちと連絡を取ってこれ以上巻き込みたくなかった。見て分かると思うが、俺たちもボロボロだ。今の状態じゃ紗夜たちを守れない」

 

「今日全てを話したら...俺たちは消える。といっても、何処かに隠れて暮らすだけだが」

 

「え...」

 

「だから...今のうちに言いたいこと、ぶつけたいこと、話しておけ」

 

そんなもの...幾らでもあるわよ。本当は全部言ってやりたい。だけど、これだけは必ず言ってしまいたい

 

私は彼に飛びつきそのまま身を委ねた

 

「生きててよかった...私たちを...守ってくれてありがとう」

 

「紗夜も、元気かどうかは分からんがよかった。ありがとう」

 

琉太は私を優しく受け止め、背中を摩りながら何も言わずに宥めてくれた。私が泣き止むと彼は全員をソファーに座らせた

 

「さて、何から話すべきか...とりあえず、何か聞きたいことがある奴挙手」

 

彼がそう言うと、湊さんが真っ先に手を上げた。おそらく、翔さんについてだろう

 

「はい、()

 

!今、湊さんのことを呼び捨てにした?今までは猫を被っていたということね。そんなのを気にすることもなく湊さんは質問をした

 

「私が聞くと言う時点で察しはつくだろうけれど、翔は何処にいるの?」

 

「!!っ...」

 

「かっ花梨?」

 

「いや、気にしなくていい。そのことについては後で話そう。だが、湊やモカたちにはそれなりの覚悟を決めてもらうからな。次」

 

この2週間ずっと聞きたかったことがあった私はすぐに手を挙げた。彼は他にいないことを確かめた後、私を指名した

 

「私たちを襲った黒いコートの人たち。そのリーダーと思われる人が貴方たちのことを別の名前で呼んでいた。月読命咲夜。月読命華蓮。月読命柏。宮本奏斗。そして、この名前に私は心当たりがある。というより、此処にいる大半の人は知っていると思うけど」

 

「...今聞いた名前に心当たりがある奴、聞いたことがあるだけでもいいから挙手」

 

結果は全員手を挙げた。やはり、この名前は全国的に有名ね

 

「驚いたな。まさか全員知っているとは」

 

「まぁあの時は相当なニュースだったし、知っていてもおかしくはないわ。まずはそれから話してあげなさい」

 

「貴女も少しは喋ってくださいよ...まぁいいや。全員知っているなら話は早い。今言った4人のうち柏を除いた3人は10年前、世界的に有名だったある殺し屋組織を壊滅させた。その組織の名は『イチイ』。ある花の名前で花言葉は...『死』だ」

 

「確か...その組織は主に殺人を犯した人を殺して回っていたわよね。そのため世間ではイチイを支持する声もあった」

 

「詳しいな白鷺。そうだ。イチイは殺人を犯した人、闇の世界で動く別の組織、裏でろくでもないことをする政治家を殺し回っていた。目的はよく分からんが」

 

「イチイでは子供もいたと聞いたことがあるのだけど...流石に嘘よね?」

 

「いや事実だ。大体30人くらいいただろう。その中にはさっきの4人もいた」

 

「何でその4人は組織を壊滅させたの?」

 

「1人はやってないけどな。最初は命令に従うまま人を殺していた咲夜、奏斗、華蓮だったがそのうち何のために殺しているのか分からなくなった」

 

「そして咲夜は、奪い奪われるだけの世界に絶望した。弱者は強者に喰い尽くされる。くだらない。そう思い、段々世界を憎んだ」

 

「思い立った咲夜は華蓮と奏斗と一緒に暴れ回り、仲の良かった友達、幹部などの連中を皆殺しにした。皆が寝てる夜中に決行したのよ。事前に警察にも連絡したから、トップに立つ人間だけ生かして警察に突き出したわ」

 

「その後、暫く牢屋に入れられた柏も入れた4人だったが、名前を変え世で生きることになった。今でも生きてるよ」

 

「1ついい?」

 

「今井か。何だ?」

 

「月読命って...世界トップの財閥のあの?」

 

「その通り。弦巻グループじゃ歯が立たないくらいの大財閥だ。新しく住むことになった家も、3人が無理を言って頼み込んだ。華蓮は財閥の元で暮らすことになったが。とりま4人についてはこの辺かな?」

 

「琉太、アタシも聞きたいことがある」

 

「何だ、巴」

 

「何で、そんなに詳しいんだ?何でそんな昔のことを知っているんだ?変えられた名前も知っているんだろ?」

 

「そりゃ勿論。ていうか、今の流れで分かるだろ?」

 

「その最悪のケースを想像したくないから聞いてんだよ!!」

 

宇田川さん、巴さんがテーブルを思い切り叩いた。部屋に沈黙が流れる

 

「...今の話を聞いて分かっただろう。改めて自己紹介しようか。俺の名前は宮本奏斗。10年前、イチイを壊滅させた奴の1人だ」

 

「私も自己紹介しとくわね。神道祐奈改め月読命華蓮よ。よろしくね」

 

「......月読命柏」

 

「そして此処にはいない神道翔が月読命咲夜だ」

 

これが、彼らの正体。本当の姿。幼かった私たちでさえ知っていた殺し屋は、すぐ隣にいたのだ。それにしても、先程から花梨さん、いや、柏さんの様子がおかしい。今にも壊れてしまいそうな表情だ

 

「大方俺たちの過去については話した。細かいこと聞きたいならまた今度個人的に聞いてくれ。お前たちには迷惑をかけたし、最大限答えよう。それまでこの街にいるか知らんが」

 

「私たちが貴女たちにこのことを話すということの意味を理解しなさい。これを知った貴女たちはもう後戻りはできないということを。闇を知ってしまったことを」

 

「自分だけで抱えきれないなら家族に話すのもアリだ。だが、そうなった場合俺たちの居場所はなくなるだろうがな」

 

『......』

 

「俺たちは皆を信じて全てを話した。誰にも話さないと信じた。もし誰かに話したなら、話した相手もろとも消えてもらう」

 

彼の一言で全員の顔が恐怖で染まった

 

「俺たちもそんなことはしたくない。だから、頼んだぞ。これ以上、人に裏切られるのは御免だ」

 

「前にもあったの?」

 

「最初はそれぞれ親戚に引き取られたんだ。事情を知っていたためか案外あっさり引き受けてくれたよ。俺たちはそれに望みをかけた。だが...」

 

「そのことで周りから非難されていることを知った瞬間、連中は俺たちを捨てた。唯一見捨てずに居場所を作ってくれたのは華蓮さんたちの祖母や叔母さんだった」

 

「そんな...」

 

「その時知ったよ。人は自分の都合の悪いことになると何もかもどうでもよくなって保身に図るって。思い出しただけで腹が立つ」

 

この時皆はそれぞれ何を思ったのだろうか?私は彼らの立場だったならと想像しただけで絶望感を感じた。今の彼に必要なのは希望しかなかった

 

「琉太。いや、奏斗」

 

「蘭?どうし...た...?」

 

美竹さんはいきなり彼に抱きついた。それも、先程より力が強い

 

「辛かったよね...今までずっと...苦しかったよね...ごめんなさい...」

 

「お前に何が分かる?同情のつもりならやめろよ。無意味な(虚しい)だけだ」

 

「確かにあたしには分からない。あたしが奏斗だったら、もう既に壊れてたと思う」

 

「だから...何だってんだよ」

 

「あたしたちが一緒にいたのはたったの半年だけ。それでも、奏斗の心の支えにはなれた筈。少しでも楽にしてあげられた筈なのに...何もできなかった」

 

「合宿のあの日から何かを抱え込んでいることは分かった。毎日どうやったらできるのか考えた。でも、何も知らないあたしでは無力だった」

 

美竹さんの言葉に奏斗は段々驚きの表情に変わり、力を失ったかのように膝から崩れた

 

「でも、やっとあんたのことを知れた。あんたを支える道が開けてきた。今ならできる。もう、我慢しなくていいんだよ」

 

「...クソ...何で...」

 

彼の目からは透明な涙が流れ出ていた

 

「分かり合うことは難しいけど、分かち合うことはできる。これからは...あたしが奏斗を支える。奏斗があたしにしてくれたことを、それ以上のことをする」

 

「奏斗はもう1人じゃないよ」

 

「クソ...クソ...」

 

限界に達した彼は美竹さんを抱きしめ泣いた。声こそ小さかったものの、今までの憎しみ、悲しみに包まれた彼の想いは吐き出され彼は涙が枯れるまで泣いた。近くにいた華蓮さんや柏さんも目には涙が浮かんでいた。落ち着いた彼は美竹さんから離れた。その時美竹さんが残念そうにしてたのは気のせいではないだろう

 

「...みっともないところ見せたな。ありがとう、蘭」

 

「うん...///」

 

奏斗は美竹さんに礼を言うと彼女の頭を撫でた。美竹さんは嬉しそうに目を細め頰を赤らめた。こんな状況でも羨ましいと思ってしまう自分が恨めしい

 

「俺たちの呼び方だけど好きにしていいぞ。人前で本名言わなきゃそれでいい。使い分けができそうにないなら今まで通りに呼んでくれ」

 

「私もそれでいいからね」

 

「さて、次は何を話そうか?もう大方話したんだけど。あっそういえば、俺らって何処に引っ越すの?やっぱ海外の方がいいかな?」

 

「当たり前じゃない。今回の件で全国の警察に目をつけられたのよ?只でさえ顔が割れてるのに国内はまずいでしょ」

 

やはり、此処を出てしまうのね...行かないでと言いたいのにその言葉が口から出てくれない。彼を引き止められるのは今しかないのに。すると、今まで黙っていた柏さんが口を開いた

 

「お2人とも話してるところ悪いのですが...海外逃亡は正直やめた方がいいかと思います。そうでしょう?彗人さん」

 

「あぁ。国内にいた方がマシだな。というか此処が1番安全」

 

「何で?」

 

「実はだな...お前ら全員世界的に目つけられてるんだよ。特にFBIとCIAは」

 

「「...はい?」」

 

「えっ?ちょっと待て。今なんつった?」

 

「いやだから、FBIとかに目つけられてるから海外行っても状況悪化するだけなんだよ。それに、此処なら俺が監視するって言えばどうとでもできるし」

 

「ねぇ、一応聞くけどいつから?」

 

「10年前からずっと」

 

「はぁ!?あんた何でそれを1番最初に言わなかったのよ!どう考えても1番大事なことでしょ!?」

 

「あんたバカなのか!?何で肝心なところだけ言わねえんだよ!」

 

「俺だって忘れてたんだよ!お前らが急に海外に逃げようって言ったときにようやく思い出したんだよ!正直いらないと思ってたし...」

 

「奏斗君、此奴1回張り倒しましょう!このアホをシメましょう!」

 

「そうっすね!まずは爪を剥がしましょう!」

 

「おい!物騒な真似はやめろ!」

 

なっ何だか喧嘩が始まったのだけど...この場にいる皆が呆気に取られている。柏さんも呆れているし...ただ1人だけ、湊さんは冷静に見ていた。その瞳には怒りが灯っていた。やがて彼女は立ち上がり

 

 

「いい加減にして!」

 

 

彼女の怒声によって3人はだまりこんでしまった

 

「私たちは貴方たちの喧嘩を見に来たわけじゃないの。この状況で痴話喧嘩なんて何を考えているの?」

 

「「「すみませんでした」」」

 

3人は流れるような動きで湊さんに謝罪をした。ここまで綺麗な謝罪初めて見たわ

 

「もう1度聞くわ。奏斗、華蓮さん、柏、彗人さん。翔は、咲夜は何処にいるの?」

 

「そういえばそんな質問もあったな...誰が話す?」

 

「私が話すわ。咲夜の姉として。咲夜がああなってしまった責任は元はと言えば私にあるから」

 

「分かりました」

 

「さて友希那ちゃん、彼の居場所だけど彼なら今月読命家が管理する病院で入院してるわ。大丈夫、生きているわよ」

 

「よかった...「だけど...」え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜は...記憶喪失になってしまった」




読了ありがとうございました

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第61話

どうも、暁月です。久し振りの週2投稿です。早速本編どうぞ


友希那side

 

 

 

「咲夜は、記憶喪失になってしまった」

 

その言葉を聞いた瞬間、時が止まったような感覚に襲われた。一体、その言葉を理解するのにどのくらいかかったのだろう?呼吸が荒い。身体に力が入らずその場に膝をついてしまう

 

「この前受けた傷で出血が酷くて、訳あって精神的にダメージも受けてたからそれが重なって咲夜は記憶を失ってしまったのよ。私たちはおろか、自分の名前すら覚えていなかった。勿論、友希那ちゃんたちのことも」

 

「そん...な...」

 

記憶がない?私たちと過ごした日々も、マネージャーになってくれたあの日も...全て忘れてしまったの?嫌だ。そんなの...嫌だ

 

「...今から彼に会わせてください。何か思い出すかもしれない」

 

「ダメよ。危険すぎる」

 

「っ!何故ですか!?」

 

「今の彼は自分が何者かも分かっていない。目が覚めた瞬間急に私たちに敵意剥き出しにして来たんだから。今は何とか信頼してもらえたけど」

 

「彼奴はまだ不安定なままだ。今会ったら殺されかねないぞ」

 

「...彼の記憶を戻すつもりはないの?貴方たちはこのままでいいの?」

 

「いい...ない...か」

 

「え?」

 

「いい訳ないじゃないですか!!!!」

 

「はっ柏?」

 

「貴女にお兄様の何が分かるんですか!お兄様にあの過去を、あの悲劇を思い出させることがあの人にとってどれだけ辛いことなのか!何も知らない貴女がお兄様を語らないで!」

 

「そんなつもりは...」

 

すると激昂した柏が私の胸ぐらを掴み私を薙ぎ倒した

 

「そんなつもり?じゃあどんなつもりがあったんですか!?悲劇を思い出させてどうするつもりだったんですか!?」

 

「柏!いい加減にしなさい!」

 

見かねた華蓮さんが柏を引き剥がし思い切り蹴り飛ばした。柏は壁に激突し、そのまま気絶してしまった

 

「ハァ...ハァ...」

 

何も言えなかった。私は何も知らないのに彼にとって辛い過去を思い出させようとした。柏が怒るのも当然だ

 

「ごめんね。柏も咲夜のことを想ってやったことだから、許してあげて」

 

「分かっています。柏は、何故あそこまで咲夜に肩入れするのですか?彼女が彼に抱く想いはとても兄に対する想いとは思えません」

 

「確かにね。兄妹といっても、柏は血が繋がっていないのよ。本当の家族ではない」

 

「つまり、義理の家族ということですか?」

 

「私と咲夜はちゃんとした家族よ?血も繋がっているしね。でも、あの子は違う」

 

3人の関係性は分かった。それなら、柏とは何処で出会ったのだろうか?

 

「皆何処で出会ったんだろうって顔してるね。いいわよ、ついでに全て話すわ。咲夜の過去についても。友希那ちゃん、モカ、花音ちゃん、イヴちゃん。覚悟の上で聞いて。奏斗君、私も正気を保てるか分からないからその時は頼んだわよ」

 

「了解」

 

「私たちが柏と出会ったのは11年前よ」

 

 

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

 

華蓮side

 

 

 

私たちが柏と出会ったのは11年前の秋、7歳だった私に4歳の咲夜と奏斗君の3人で買い出しがてら散歩をしている時だった。この2人早生まれだから誕生日遅いんだよね。イチイでは大人は大半が顔が割れてるため、ご飯の材料の買い出しはいつも子供たちでやっていた。その日は私たちが担当だった

 

「えっと...今日の材料は人参にジャガイモに豚肉に...今日カレーじゃん!やったー!」

 

「華蓮さん本当にカレー好きですね。将来組織辞めてカレー屋でもやったらどうですか?」

 

「よせよ奏斗。姉さんには無理無理。喰った客全員死ぬぞ」

 

「...咲夜ちょっとこっち来なさい。あんた最近私を舐め腐ってるからね。ここらで1回シバいとくわ」

 

あの頃はわだかまりなんて一切なく、とても仲が良かった。今は呼び捨てだけど、昔は咲夜も私のこと“姉さん”って呼んでたんだよ?咲夜のあの一言以来一生懸命料理の練習してたっけ。初めて美味しいって言われた時は凄く嬉しかったなぁ

 

そんなこんなで買い物を済ませて、休憩がてらに近くの公園に寄っていた。休憩が1番の理由だけど、もう1つあった

 

「さっきから誰か俺らのことつけてるけど、気づいてないとでも思ってんのか?」

 

「さっきチラッと見たけど、あれ俺たちよりも年下なんじゃないか?」

 

「何の用かしら?相手によっては首を飛ばしてもいいけど」

 

「首を飛ばすような相手なら1人では来ないだろう。金目当てかな?俺がやってくる」

 

「私も行くわ。奏斗君は荷物よろしくね」

 

「へいへい...いってらっしゃい」

 

私と咲夜は気配のする方に歩いてゆく。向こうも気づかれたことを悟ったのか隠れることなくこちらに向かってきた。その手にはナイフがある

 

「......金を寄越せ」

 

「カツアゲかいな。流石に女子に手を出すのは気が引けるんでな、俺が気を引くから姉さん頼むわ」

 

「りょーかい」

 

言われた通り私は気配を消して回り込んだ

 

「さて、知らない相手にカツアゲとは感心しないな。ずっとつけてたんだし知ってると思うが、買い物で3000円くらいしか残ってないんだわ。諦めろ」

 

「どうでもいい」

 

女の子は走り出し咲夜に斬りかかった。子供にしては良い動きをしてたけど、私たちに比べたら足元にも及ばなかった。咲夜が適当に避けてる間に私は後ろからその子の脇腹に回し蹴りを放った。結構弱めにやったつもりだったんだけど、軽すぎて吹っ飛ばしちゃった。そしてそのまま動かなくなっちゃった

 

「ちょっ姉さんやりすぎだって!一応息はあるけど完全に気絶してんぞ!?」

 

「この子が軽すぎたんだって!私だって手加減はしたもん!」

 

「あーもう!おい起きろ!」

 

咲夜が女の子の身体を揺さぶると意識を取り戻した。その子は気づいた瞬間一瞬で咲夜から距離を取り警戒態勢に入った。脇腹を抑えているのを見る限り、よっぽど効いたみたい

 

「ハァ...うっ」

 

「別に悪いようにはしないさ。とりあえず敵意を向けるのをやめてもらおうか。話し合おう」

 

「話し合うことなんてない」

 

「まぁそう言うなよ。お前は何故そこまで金が欲しい?親はいないのか?」

 

「親なんて知らない。帰って来ると言いながら帰って来なかった」

 

「!!そうか...」

 

つまり、捨てられたのね。この子は今までずっと生きるために他者から金を奪っていたんだわ

 

「私は私のやり方で生きる。誰にも邪魔はさせない!」

 

「...姉さん、後は俺に任せろ」

 

「分かったわ。手荒なことはしないようにね」

 

咲夜はゆっくりと女の子に近づいていく。それに伴い後ずさるけど、脇腹のダメージが大きすぎて動きも鈍い。やがて女の子の目の前に来た咲夜。何をするのかと思ったらいきなり抱きしめた。いや、何してんの?

 

「...辛かったよな。親に捨てられて孤独になって。でも、お前は偉いよ。孤独でも諦めず生きようとしてたんだから」

 

「っ...何も知らないくせに」

 

「あぁ知らねえよ。お前の気持ちなんて全く分からん。でもな、一緒にいてやることはできる」

 

「どういう...こと?」

 

「お前、名前は?」

 

「...柏。木と白で柏。名字は覚えてない」

 

「柏な。よし、これからお前の名前は月読命柏だ」

 

「月読命...柏...」

 

「俺は咲夜。さっき柏に思い切り回し蹴りを喰らわせたバカは姉の華蓮。それと、あそこで暇してるのが幼馴染の奏斗だ」

 

おい、今私のことバカって言ったよね?ホント、後でぶっ殺してやる

 

「今日から俺たちがお前の家族だ。よろしくな」

 

「家族...私が?あんなに酷いことしたのに?」

 

「生きるためにやったことだ。仕方ねえよ。柏今何歳だ?」

 

「...4歳」

 

「俺たちと同い年じゃん。誕生日は?」

 

「5月7日」

 

「てことは学年は1つ下だな。んじゃ、適当に兄さんやらで呼んでくれ。一応俺の方が年上らしいし」

 

「おっお兄様...」

 

「他人行儀だな。まぁ好きに呼べよ。これからよろしくな、柏。帰ろう、お前の家に」

 

「っ!!はい!」

 

家に帰る。ずっと孤独だった柏には家なんて無かった。柏は咲夜に抱きついてずっと泣きじゃくっていた。柏を連れて帰ったら皆に凄く驚かれたっけ

 

 

 

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

「それから柏は私たちと暮らすようになった。最初は慣れなくて距離を置かれてたんだけど、段々と本当の家族のように仲良くなった。自分を拾ってくれたことに対する敬意なのか今もずっと敬語のままだけど」

 

気づけば私の目からは涙が出ていた。私だけじゃない。此処にいる皆が涙を流していた。私だけじゃなかった。彼女も、柏も咲夜に救われたんだ

 

「事件当日、私たちは柏を警察のところに置いてから騒ぎを起こした。あの子も戦えたけど、まだ未熟だったし、咲夜が絶対に戦わせたくなかったから」

 

「そんなことが...」

 

「いつしか柏は咲夜に対して特別な感情を抱いていた。でも、感情を失い始めていた咲夜には意味がない。だから、あの子はどんな手を使ってでも咲夜の感情を取り戻すと決めた」

 

そういうことだったのね。柏があそこまで咲夜に執着する理由。彼女には咲夜に寄り添う覚悟があった。過去を知っているからこその覚悟だ。私とは程遠い

 

「こんなもんかな。私たちとの出会いは。最後に...咲夜の過去について」

 

「!!」

 

私が今までずっと知りたかったこと。彼に一体何があったのか。それをようやく知ることができる

 

「これから話すのは簡単に言えば悲劇よ。受け止める覚悟はあるかしら?」

 

「勿論です。話してください」

 

だが、私はこの話を聞いたことで後に苦しむこととなる。何故ならその内容は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも地獄だったから

 

 

 




読了ありがとうございました。咲夜の過去もこの話で書こうと思ってたんですけど、字数が4000弱まで来ていたので切り上げです

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第62話

気づいたら5000字超えてました。最後まで読んでいただけたら嬉しいです。それでは本編どうぞ


sideout

 

 

 

 

「何て話せばいいのかな?私も分からないことの方が多いし...」

 

「あぁ、華蓮さんは知らないのか。ここからは俺が話しますよ。華蓮さんも、覚悟の上で聞いてください」

 

「...分かった」

 

「ことの発端は11年前、イチイのメンバー総動員で行ったある大掛かりな作戦だった。丁度柏と出会った1ヶ月後くらいかな?」

 

「総動員というだけあって子供たちも参加した。ここで組織のルールを説明するが、子供が実戦に使われるのは6歳からだ。だから俺や咲夜、柏などの何人かは参加していない」

 

「だけど、たまに実力が高い者は早いうちから実戦に使われる。その代表が華蓮さんだった。彼女は他の同年代の誰よりも強かった」

 

「そうかしら?周りが雑魚すぎただけだと思うんだけど」

 

「貴女の基準はイカれてるんですよ。まぁそれで、華蓮さんは子供たちのリーダーをやっていた」

 

「何の作戦だったの?」

 

「当時、犯罪の仲介みたいなことをする組織があったんだ。強盗や闇の取り引き、殺人などの手助けをするって言えば分かるだろ。そして事件が起きたらその証拠を跡形もなく消す。そのせいで捕まっていない犯罪者もたくさんいた」

 

「その犯罪者は今もいるのかしら?」

 

「勿論こちらで始末したさ。情報は手に入っていたからな。んで、その組織の動きが活発になってきてな。このままだと面倒だから潰しちゃおうってなったわけ」

 

「そうなのね...今の話だと咲夜さんの過去が全く見えて来ないのだけど」

 

「焦るなよ。説明難しいんだって。それで、華蓮さんはリーダーなだけあって最前線で戦っていた。誰よりも功績を挙げた分、その時の怪我も大きかった」

 

「あの時は突っ込みすぎちゃって...帰ったら咲夜に怒られちゃったし」

 

「それが全ての始まりだったんですよ。華蓮さんが大怪我をして帰ってきたことが」

 

「...え?」

 

「華蓮さん、同じ時期に咲夜にある変化が起こった。それは何でしょう?」

 

「変化?そういえば...急に訓練に対してやる気出してたような」

 

「まさか...咲夜は」

 

察しがついた友希那。だが、奏斗によってその先は言えなかった

 

「湊待て。話はまだ終わりじゃない。咲夜はずっと前から思ってたんだ。毎回のように怪我をして帰ってくる華蓮さん。それが彼奴はずっと嫌だった」

 

「ちょっちょっと待ってよ。それじゃあ...」

 

「えぇ。咲夜はあの日以来、自分が強くなって華蓮さんを守ることを心に決めた。華蓮さんが特別に早い時期から実戦に使われていたことを思い出し、それまで嫌がってた訓練を必死に受けた。事情を悟った俺も同じく。本気でやってたせいか成績はトップ。僅か1ヶ月で採用が決まった」

 

「じゃあ、私が危なくなった時に庇ってくれたのも、私の周りの敵を殺し回ってたのも...全部、私を守るため?」

 

「えぇ」

 

「何で...咲夜はずっと私を守ってくれてたの?」

 

「おかげで華蓮さんが怪我をすることは少なくなった。その反面、咲夜は怪我が増えた。でも、彼奴はそれを苦に感じていなかった。『姉さんを守れるなら死んでも構わない』って言ってたくらいだし」

 

「何で...何でよぉ...私、貴方に守られてばかりじゃん...何もできてないじゃん...」

 

その場に崩れ落ち涙を流す華蓮。彼女は悔しかった。弟の真の目的に気づけなかったことが。守られてばかりの自分が

 

「咲夜は異常な活躍で組織からも将来トップに立てると期待されてた。だが、2人だけそれを許さない人間がいた」

 

「誰なの?」

 

「咲夜たちの両親だ」

 

『!?』

 

「あの2人は当時組織全体のリーダーだった。特に息子の咲夜に対しては特別だった。彼奴には生まれながらに持った殺戮心がある。その瞳に宿る殺意は死神そのものだって言ってたよ」

 

「だけど、咲夜は人を殺すより華蓮さんを守ることを優先していた。それを見た咲夜の両親は彼奴に暴力を加え始めた」

 

「そんな...」

 

「最初はそこまでだったが、すぐにエスカレートした。精神的に深い傷を負った咲夜は親に対する恐怖から逃れるために本能的に感情を捨てた」

 

「それが...彼が感情を捨てた理由...」

 

「蘭以外のAfterglowはこの前咲夜と華蓮さんが喧嘩したの覚えてるか?」

 

「2人が大怪我した日だよね?」

 

「あぁ。あれはその咲夜に対する虐待が原因だ。そこからお互いの食い違いにより発生したものだ」

 

「食い違い?」

 

「咲夜は親に暴力を受ける中、何もしてくれなかった華蓮さんへの怒り。華蓮さんは恐怖で何もできなかった後悔。だが、本当の理由は違った。咲夜は恐怖から逃げているのが嫌で現実から目を背けていただけ。華蓮さんは他にもいろんな理由が重なって更なる誤解を生んでしまった。今はもう和解している」

 

「それが、咲夜の過去?」

 

「まぁ大体は話したと思うぞ。人を信じなくなった理由も俺と同じようなもんだし。あっもう1個だけあった」

 

「何かしら?」

 

「咲夜たちの祖父にあたる月読命財閥のトップ、月読命源十郎さん。あの人は異様に咲夜を嫌っている」

 

「どうして?」

 

「さっきも言った彼奴に宿る殺意。最近は眠っていたみたいだが、あの頃は剥き出しだったし危険だと判断したんだろう。あの人はずっと咲夜は消すべきだと考えていた。だから華蓮さんだけ引き取った」

 

「今咲夜たちが住んでる家は私が頼んで作ってもらったの。同じ時期に親戚に捨てられた奏斗君の家も一緒に」

 

「今までは何とか言いくるめられたけど、今回はかなり厳しい。記憶喪失だから今のところは大丈夫と言って条件付きで生かしていいことになった」

 

「条件?」

 

「もし、何かの拍子で彼奴が暴れた場合、俺たちで始末する。それが条件だ」

 

「そんな...!何とかならないの!?」

 

「これが精一杯なんだ。あの人が言ってることは間違っていないからな。何か、あの人を納得させる方法があれば...」

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

 

咲夜のお爺様がそこまで彼を嫌う理由。奏斗の話を聞けば何となく分かる。だけど、それだけじゃない気がする。第一、彼が死んでいい理由なんて無い。今の彼には生きる道が、意味がある。私たちと一緒に進んでくれると言って...生きる...道?

 

「もしかしたら...」

 

「湊さん、何か分かったのですか?」

 

「単なる推測でしかないけれど...咲夜のお爺様は彼には生きる意味が無いと思ってるんじゃないかしら?」

 

「生きる意味?」

 

「えぇ。もし私たちと出会う前の咲夜と同じ思想なら...ありえるかもしれない」

 

本当にそうとは限らない。だけど、彼の本能的な殺意以外であるのならそれしか考えられない

 

「確かに、それなら可能性が高いわね。お爺様に直接...」

 

「ダメだ。あの人がそれを聞いたところで考えを変えるとは思えない」

 

「じゃあ、どうするのよ!」

 

方法なら1つだけ、可能性は低いがある。賭けるしかない

 

「どんな方法でもいい。記憶があろうがなかろうが、彼には道があることを証明すればいい。彼を必要としている人はいるのだと、思い知らせてやるだけよ」

 

「......何で咲夜があそこまであんたを信じたのか、ようやく分かった気がするよ。分かった、明日俺と華蓮さんでそのことを説明しに行く。湊やモカ、若宮に松原、協力してもらうぞ」

 

「えぇ。勿論よ」

 

「もち〜。モカちゃんやっちゃうよ〜」

 

「お任せください!ブシドーの精神があれば大丈夫です!」

 

「がっ頑張ります!」

 

認めさせてやる。相手が世界のトップだろうと関係ない。咲夜は、私たちを何度も救ってくれた。今度は私が彼を救う番。いつまでも彼の側にいるために

 

「...うっ...」

 

「あっ忘れてた。柏、肋は折れてない?」

 

「えっえぇ...ギリギリで受け身はとれたので」

 

どうやら柏の意識が戻ったようだ。というか、自分がやったのにそれを忘れるのは酷すぎるんじゃないかしら。柏は私に視線を向けるとすぐに敵意を剥き出しにしてきた。やはりまだ怒っているのね

 

「こら柏。友希那ちゃんだって悪気はないんだから怒らないの。あんたや咲夜の過去は話したから、もう許してあげなさい」

 

「...分かりました」

 

「ごめんなさい。何も知らないのに首を突っ込んだりしてしまって」

 

「いえ、こちらにも非はあるので。すみませんでした」

 

以前まで花梨として聞いていた明るい声は何処へ行ったのか、今は氷河の如く冷たく暗い声となっていた。すると柏は先程とはまた違う視線を向けてきた。その瞳には決意が込もっていた

 

「友希那さん、少しお話をしませんか?2人きりで話したいことがあるので」

 

「分かったわ」

 

「お姉様、奏斗さん。お兄様と友希那さんの件、私に任せていただけませんか?会わせるタイミングなど、全てを」

 

「貴女が決めたことなら私は文句は言わないわ。しっかりやりなさい」

 

「会わせるのは構わんが、彼奴絶対警戒するからな。気をつけろよ」

 

「ありがとうございます」

 

「よし、話は以上!あー疲れた!」

 

「2週間全く運動してないから身体もうバキバキよ...奏斗君、ちょっと表で殺りましょう」

 

今聞き捨てならないことが聞こえたのだけど気のせいよね?

 

「肩大丈夫ならいいですよ」

 

「お前ら一目のつかないところで殺れよ。見つかったら面倒だ」

 

「貴方警察なんですから止めたらどうですか?役立たずですね本当に」

 

「テメェマジで喧嘩売ってる?柏1人くらいなら相手できるぞ俺でもこら」

 

「私はお姉様に蹴られた箇所が痛むのでまた今度の機会に」

 

「ねぇ、そこで出されると罪悪感感じるんですけど...」

 

本当にこの人たちは仲がいいのか悪いのか分からないわね。明日について取り決めたところで今日は解散となった。そして私は柏に案内されある公園に来ていた

 

「この公園って...」

 

「はい、私とお兄様が出会った場所です。私の始まりの場所です」

 

それから私たちは奥まで歩き、柏がブランコに座ったので私も座ることにした。暫く沈黙が流れる。それを破ったのは柏だった

 

「...ずっと貴女を憎んでた」

 

「...え?」

 

「お兄様が感情を失い始めて以来、私は色々なことをしてきた。あの時救われたこの命を、あの人のために使おうと決めて、努力してきた。でも、何も変わらなかった」

 

「......」

 

「Roseliaの皆さんと出会ったあの日。ライブに連れて行ったのは私なんです。Xaharとして活動してた時のお兄様はとても楽しそうだった。だから、その感覚を思い出してもらおうとしたんです」

 

「そうだったのね...」

 

「そして貴女と、友希那さんと出会った。あれからお兄様は変わった。前よりも笑顔が増えた。とても楽しそうだった。私が何年もかけてできなかったことを貴女は一瞬にして成してしまった。ずっとそれが許せなかった」

 

「何で私じゃないんだろう。何であんな人にって、何度も思いました。私があの人を想っていることは薄々気づいてたんじゃないですか?」

 

「...えぇ。少なくとも、兄に対する態度ではないとは思っていたわ」

 

「もう、これから何をしていけばいいのか分からない。月読命咲夜はもういない。あの人の存在こそが私の生きる意味だった」

 

「結局...私のしてきたことに意味はなかった」

 

意味はなかった。この言葉を聞いた瞬間体の奥底からふつふつと怒りが湧いてきた。どいつもこいつも、生きる意味がないだのくだらないことばかり言って...

 

「いい加減にしなさいよ」

 

自分でも驚くくらいに冷たい声が出た。驚いた顔をする柏。私はそれを無視して喋り続ける

 

「咲夜も柏も咲夜のお爺様も、意味がないだのそんなくだらないことばかり言って。そんなつまらないことばかり言って何になると言うのよ?」

 

「貴女に何が分かるんですか!今までの努力が一瞬にして潰された悔しさが!」

 

「分からないわよ!分かりたくもないわ!そんな自虐しかできない人の気持ちなんて!貴女こそ何も分かってないじゃない!貴女がいたから咲夜は変われたのよ!」

 

「何を言って...」

 

「彼が変われた理由が私にあると言うのなら、その根本的な理由は柏にあるのよ。柏がRoseliaのライブに連れて来たから、ここまでの物語が描かれた。柏が咲夜を支え続けたから、彼は道を見つけることができた。貴女がいたから、私は恋をすることができた」

 

「!!」

 

「今日までの出来事も、貴女がいなければ始まりすらしなかった。貴女は咲夜だけじゃなく、奏斗も、華蓮さんも、Afterglowも、Roseliaも変えた。貴女がいたから今がある」

 

「本当にありがとう、柏」

 

これが、私から言える精一杯の言葉。口下手だけれど、これが私の想い。感謝の気持ち

 

「っ...グス...うわあああぁぁ!」

 

柏は我慢の限界を迎え、私に抱きついて大声を上げて泣いた。今までの苦しみが全て涙となって彼女から溢れてくる。来た頃には夕日があった空も、気づけば綺麗な月と星が広がっていた。泣き続けること20分。柏はようやく落ち着きを取り戻した

 

「明日の午後、お兄様に会いに行きましょう。最初は警戒されるでしょうけど、少しずつ心を開いてくれるかもしれません」

 

「分かったわ。咲夜のお爺様に会いに行った後に行きましょう」

 

「今のお兄様には記憶を取り戻されないよう前の偽名を教えてあります。他の人もそうです。あの人の前では以前のように呼んでください」

 

「了解したわ」

 

「私たちの我儘で申し訳ありませんが、あの人には普通の人として生きて欲しいんです。人殺しの死神ではなく、普通の男子高校生として」

 

「そうね。少し寂しいけれど、受け入れて前に進まなくては」

 

「ありがとうございます。夜も遅いので送りますよ。そこら辺のストーカーくらいなら瞬殺できるので」

 

「年下の女の子に守られるのって何だか複雑ね...まぁ、お願いするわ」

 

「分かりました」

 

ついに知ることができた、咲夜たちの過去。それはあまりにも残酷で世の非情さを思い知らされることばかりだった。でも、ここで立ち止まっては意味がない。私が全力で支えるから...

 

 

 

 

 

待ってて、咲夜




読了ありがとうございました

ついに明らかになった咲夜たちの過去。これから友希那たちがどのようにして向き合っていくのか、是非楽しみにしててください

評価や感想お待ちしております


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第63話

どうも暁月です。やっと書き終わったと思ったら6000字いきそうになってました

それではどうぞ


次の日、私たち4人は華蓮さんと奏斗に連れられて月読命邸に来ていた。何度か弦巻邸に行ったことはあるので、大きさもそのくらいだと思っていたのだが...

 

「何なのよこれ...」

 

「おっきい〜」

 

「敷地もとても広いですね...」

 

「ふえぇ〜。こころちゃんの家より大きい...」

 

今私たちの目の前に広がるのは巨大な屋敷に広大な敷地。私の記憶が正しければ、弦巻さんの家より倍以上はある。世界トップとは聞いていたけれど...

 

「流石にこれは大きすぎないかしら?」

 

「言うな。俺だって初めて見た時はびびったんだから。今でもびびるわ」

 

「私は流石に慣れたわ。んじゃ、これからは私について来てね」

 

華蓮さんに言われて彼女の後をついて行く。屋敷の中に入るとテレビで見るような豪邸とは比べ物にならないほど豪華で美しかった

 

「お爺様がいるのは1番奥よ。結構奥だし、その間に友希那ちゃんは説得の言葉を考えておきなさい」

 

「それはいいのですが、何故私だけなのですか?」

 

「それは自分で考えろ。それに、湊の方がこういうのに強そうだし。他の皆も言いたいことはあるだろうけど、ここは湊に任せてほしい。いいか?」

 

奏斗の言葉に3人は小さく頷いた

 

「ちょっ...幾ら何でも私には難しいわよ。そんな1番大事な役割を私1人で...」

 

「拒否権はねえぞ。俺も華蓮さんも他の3人も、あんたを信じてるんだ。もしもの時はフォローする。お前が言いたいこと、全て吐き出せ」

 

「...分かったわ」

 

そうだ。ここで立ち止まっては何も残らない。何もできないまま終わるくらいなら、やるべきこと全てをぶつけまくる

 

「此処よ。中にいる筈。最初のうちは私が喋るから、その後は友希那ちゃん、頼んだわよ」

 

「分かりました」

 

私の返事を確認した華蓮さんは目の前の扉にノックをした

 

「お爺様、華蓮です。少々お時間をいただいてよろしいですか?」

 

「...入れ」

 

それを聞いた華蓮さんは扉を開けて中に入った。後を追うように私たちも中に入る。中には白髪高齢の男性が椅子に座っていた

 

全てを貫くような鋭い視線には、世界のトップ立つに相応しい貫禄を持っていた。あの目で睨まれたら大抵の人は足が竦むだろう

 

「今日は何の用だ?」

 

「もう1度、咲夜のこれからについてお話をさせてください。今日は客人も連れてきていますので」

 

「ほう...」

 

「湊友希那よ。咲夜がマネージャーをするRoseliaのボーカルをやっているわ」

 

「青葉モカで〜す」

 

「若宮イヴです!よろしくお願いします!」

 

「まっ松原花音です」

 

「彼女らは彼奴が誰よりも信頼していた人たちです。彼女たちの話を聞いてあげてください」

 

「...いいだろう」

 

「それじゃあ友希那ちゃん、頑張って」

 

私は小さく頷くと少し前に出て咲夜のお爺様に話しかけた

 

「改めて、湊友希那よ」

 

「月読命財閥の会長をしている、月読命源十郎だ。今日は何の用で此処へ来た?」

 

「そんなに難しいことじゃないわ。咲夜を消そうとするのをやめていただきたいの」

 

「ほう...あの死神を生かしたいと?」

 

「えぇ」

 

「何故そんなに奴に肩入れする?貴様もあの場にいたなら分かっただろう。貴様が今まで信じてきた奴はただの人殺しだということが」

 

「確かに、この目ではっきりと見たわ。でも、()()()人殺しじゃないわ」

 

「何が言いたい?」

 

「彼は、私たちを守るために戦ってくれた。私たちのために自分を犠牲にしてまでも戦い続けてくれた。そんな彼がただの人殺しなわけがない」

 

「くだらんな。どんな理由があろうと人殺しは何処まで行っても人殺しだ」

 

「っ!」

 

後ろで華蓮さんが反応しているのを感じた。やはり彼女たちにも思うところはあるのね

 

「確かに、彼が今までしてきたことは決して許されることではない。それは華蓮さんや奏斗も同じ。でも、だからって彼が死ななきゃいけない理由なんてない!」

 

「分かっていないようだな。彼奴がこの世にいるだけでどれだけ危険なことか」

 

「貴方こそ、咲夜を何も分かっていない。感情を失った彼にも人としての心が、優しさがあったことを。そして、その優しさに救われた人がいることも。彼を想い彼を必要としている人がいるということを」

 

「意味が分からん。生きる意味も価値もない奴に...」

 

「黙りなさい!!!!」

 

「!?」

 

「ふざけんじゃないわよ!咲夜をその時感じたことだけで片付けようとする貴方に彼の何が分かると言うのよ!」

 

「私は彼のことを殆ど知らない!彼が何を思って今までを過ごしてきたのかも分からない!でも、音楽というもので半年間繋がってきたからこそ分かることもある!」

 

「何を寝ぼけたことを...」

 

「寝ぼけてんのは貴方よ!彼には生きる道がある!生きる意味がある!だから今まで必死に自分と戦ってきた!」

 

「彼は私たちに全てを賭けてくれた!私に彼の全てを預けてくれた!そしてその想いを歌に込めて伝えてくれた!だからこそ今の彼がある!私たちを守ろうとした彼がある!」

 

「今の彼にはその記憶がない。私にとってはかけがえのない思い出も彼は覚えていない。でも、記憶がなくても事実は変わらない。私が彼を想うこの気持ちも紛れもない真実よ!」

 

「だから、彼に意味がないなんて言わないで!」

 

これが私の気持ち。今の私にできる精一杯のこと。もう、ぶつけることはない。全て言い切った脱力感からか私はその場に崩れてしまった。それを奏斗か支えてくれる

 

「ハァ...ハァ...」

 

「源十郎さん。貴方が知る咲夜はもういない。俺が蘭や紗夜に出会って変われたように、彼奴も湊たちに出会って変わったんです。湊を、こいつらを信じてあげてくれませんか?」

 

「奏斗...」

 

「お爺様、私からもどうかお願いします。友希那ちゃんたちに咲夜を任せてあげてください」

 

華蓮さんも前に出て頭を下げた。それにつれて他の3人も頭を下げる

 

「...湊友希那。貴様には、あの死神に寄り添う覚悟はあるのか?」

 

「覚悟がなければこうして押しかけてこないわよ。私に咲夜を任せてほしい」

 

「...好きにしろ」

 

『!!!!』

 

「その代わり、奴が以前のようなことをすれば真っ先に始末する。いいな?」

 

「十分よ。ありがとう」

 

「やったー!!」

 

すると後ろから急に華蓮さんに抱きつかれた。奏斗以外の皆も釣られるように私に抱きついてくる

 

「ありがとう。本当に、ありがとう」

 

「この程度、私が咲夜に受けた恩と比べれば小さいものですよ。まだ、これからですから」

 

口ではそう言ってるが、実際私は今すぐ泣きたい気分だった。いや、頰に冷たい感覚があるあたり我慢できていないだろう

 

「とにかく、本当にありがとう。お爺様、ありがとうございます」

 

「好きにしろと言っただけだ。礼を言われる筋合いはない」

 

「それでは、これで失礼します」

 

私たちは月読命邸を後にし、それぞれ家に帰った。華蓮さんと奏斗にはこれから咲夜に会いに行くと言っておいた。柏とは昼食を食べた後に昨日の公園で会うことになっている

 

「ハァ...流石に言い過ぎたかしら」

 

「誰によ?まさか誰かと喧嘩したの?」

 

私の独り言にお母さんが聞いてくる。さっきまでは必死過ぎて気にしていなかったが、あれはどう考えても世界のトップに対しての言葉遣いじゃない。幾ら何でも黙れだのはやり過ぎた

 

「いえ、喧嘩ではないわ。ただ、この世で1番敵に回してはいけない人に黙れとか言っただけよ」

 

「はぁ!?あんたバカなの!?音楽以外はポンコツなの!?」

 

「しっ失礼ね!私にだってできることはあるわよ!」

 

「どの口が言ってるのかしら?あーあ、翔君嫁にもらってくれないかしら...」

 

「それができれば今まで苦労してないわよ。あの鈍感」

 

夏合宿以来、私の方からも自分なりにアピールしていたのだが彼は気づく様子も全く無く普通に接しているだけだった。いい加減気づいてほしいわよ

 

「へぇ〜。そういえば、友希那午後は出かけるの?」

 

「えぇ。翔の妹と彼のお見舞いに行くわ。居場所も分かったし」

 

「よかったじゃない。しっかり挨拶してきなさい」

 

「えぇ」

 

彼は私の姿を見て何を思うのだろう?何かを思い出すだろうか?それとも、警戒して近づきすらさせないだろうか?記憶は取り戻してほしいけど、それは彼の悲劇を思い出すことになる。とても複雑ね

 

「そろそろ時間が来たから行くわ」

 

「はーいね。距離縮めて家に呼べるくらいになりなさいよ」

 

「...余計なお世話よ」

 

私は身支度をして公園に向かった。家からはすぐ近くなので5分もかからず着いた。柏は既に着いていて、ブランコに座り空を見上げていた

 

「ごめんなさい。待たせてしまったかしら?」

 

「いえ、さっき来たばかりなので大丈夫ですよ。それでは、行きましょうか」

 

柏に促され私は彼女の後を着いて行く

 

「そういえば、柏が敬語以外で話しているのを見たことがないわね」

 

「何ですか急に。特に深い理由はありませんよ。貴女たちは年上という単純な理由だし、お兄様たちに関しては命の恩人なので。それに、あこにはタメで話してますよ?」

 

「確か同じクラスだったわね。普段のあこの様子はどうかしら?」

 

「相変わらず元気ですよ。何処からそんな気力が出るのか不思議ですよ」

 

「貴女も表では花梨として演じているのでしょう?疲れないの?」

 

「慣れてますから。友達も結構いますよ。私は何とも思ってませんが」

 

人をあまり信じない彼女にとっては他人はあまりどうでもよさそうね。私も大して変わらないけど

 

「何だか最近、私を怒らせてはいけないとかいう暗黙の了解みたいなのあるらしいんですよ。私は中等部では学年トップなんですけど、それを2位の人が面白くないのか喧嘩売って来ましてね。しかもお兄様にベタ惚れ。ムカついたので叩きのめしたらいつの間にか」

 

「思い切り事実じゃない」

 

「...後で指の骨全部折るので覚悟してくださいね」

 

「ごめんなさい、調子乗ったわ」

 

実際怒ったら何をされるか分かったものじゃない。さっき言ったこともおそらく本当だろう。経験者の私からしたら気の毒としか言えない

 

「ほら、見えてきましたよ。普段は普通の病院としてやっていますが、お兄様や奏斗さんたちは隠していた最上階を使っていたので存在は知られていません」

 

「もう何でもありじゃない」

 

「今回、いえ、これからも私たちのことはお兄様の前では偽名で話すようにしてください。貴女がお兄様の記憶を取り戻したい気持ちは分かります。ですが...」

 

「分かっているわ。もう、覚悟はできている」

 

「...ありがとうございます。では参りましょうか。私は受付に行ってくるので此処で待っていてください」

 

「分かったわ」

 

ようやく彼に会えるのね。あの日から今日まで2週間とちょっと。ずっとこの日を待っていた。彼と話せるこの日を

 

「お待たせしました。やはり他人を警戒しているようで、食事もまともに摂っていないようです。あまり刺激するようなことはしないようにしてください」

 

「善処するわ。だけど、私にも譲れないものはあることを分かっておいてほしい」

 

「そんなの随分前から承知しています。急に抱きついたりしたら潰しますので」

 

本当に中学3年生なのだろうか?最早女子が言うような言葉遣いじゃない

 

従業員用のエレベーターに乗り最上階まで上がっていく。やがて殺風景な廊下に出て1番奥の部屋へと歩いていく

 

「この部屋です。最初は私が喋りますのでなるべく合わせてください」

 

「分かったわ」

 

()()()。少し話がしたいのだけど...」

 

返事が無い。寝ているのかしら?

 

「...入ってくれ」

 

少しの間があり彼から返事があった。久し振りの彼の声に胸が高鳴ってしまう。ドアを開けるとそこには見るに堪えない光景が広がっていた

 

「こんな時間にどうし...!!」

 

私の姿を見るなり彼はベッドから飛び降り警戒態勢に入ってしまった。柏が言ったとおり、食事をまともに摂っていないのかとても痩せていて、身体には幾つもの包帯が巻かれていた

 

「花梨。隣の奴は誰だ」

 

「兄さん落ち着いて!この人は以前の兄さんの友人よ。いや、それ以上の関係でもある」

 

「...どういう意味だ?」

 

「詳しくは彼女から聞いて。友希那さん、お願いします」

 

「...湊友希那よ。私のこと、覚えているかしら?」

 

「残念ながらさっぱりな。花梨が連れてきたということでとりあえずは信じよう。お前と俺の以前の関係性次第だが」

 

「...話していいかしら?」

 

「構いません。2人の関係をありのまま話してください」

 

「私はRoseliaというバンドを組んでいるの。翔はRoseliaのマネージャーをやっていたわ」

 

「バンドか...つまり、関係性は良かったということでいいのか?」

 

「えぇ。私の他にも、貴方が信頼していた人は3人いる。また今度紹介するわ」

 

「そうか。すまない。いきなり敵意を出したりして」

 

「記憶を失っているのだし仕方ないわよ」

 

すると彼は突然よろめきその場に崩れてしまった

 

「翔!大丈夫!?」

 

「兄さん!しっかりして!」

 

「んなに大声を出すな。ただ、3日も何も食べてないからちょっと目眩がしただけだ」

 

もう、我慢できない。柏に後で殺されるかもだが、これだけは譲れない。私は彼を抱きしめこちらに引き寄せた

 

「おっおい湊...」

 

「ごめんなさい...私のせいでこんなことになって...ごめんなさい」

 

「別にお前が謝ることじゃ...」

 

「何も言わないで。貴方がこうなったのは私の責任でもある。ごめんなさい」

 

「もういいよ。湊が俺のことを大切にしてくれているのは理解できたから。俺の方こそ、覚えていなくてすまない」

 

「...生きててよかった。本当によかった」

 

「分かったから泣くな。綺麗な顔が台無しになるぞ」

 

「っ...////」

 

「全く貴女という人は...兄さん、退院はいつになるの?」

 

「さぁ?今の今まで誰も寄せ付けなかったせいかいつなのか全く知らん」

 

「...性格は何も変わってませんね。兄さんがいいなら今日退院させるけどいい?」

 

「構わん。そろそろ飽きたし」

 

「分かった。友希那さん、そろそろ兄さんから離れていただけると嬉しいのですけど」

 

「...分かったわ」

 

それから柏が病院の人を脅しという名の説得をして彼は退院することになった。まだ暫く学校はないので明日また5バンド集めて説明した方がよさそうね

 

「ハァ...記憶が無いのはスッキリしないな」

 

「忘れた分はこれから取り戻せばいい。以前の貴方にはとても助けられた。今度は私が貴方を支えてみせる」

 

「ありがとな湊」

 

「友希那でいいわ。以前もそう呼んでいたし」

 

「了解」

 

受け入れるのは難しい。だけど、奪い合うこの世界では奪われたことに対して受け入れなければ生きることはできない。大丈夫。彼とならきっとやっていける。たとえ記憶が無くても、彼と過ごした半年は決して無くならないから

 

 

 

 

 

さようなら、月読命咲夜。これからよろしく、神道翔




読了ありがとうございました。この話で4章は終わりとなります。次の5章からもよろしくお願いします

評価や感想お待ちしております


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最終章 歌姫たちの想いは永遠に
第64話


ついに第5章となりました。これが最終章となるのか、それとも6章まで続くのかは分かりませんが、これからもよろしくお願いします


翔side

 

 

俺が退院してから1週間経った。学校の記憶も無く勉強はどうしようかと思ったが、そこは問題なかった。どうやら頭は良いらしく、学校に行くまでの3週間分は姉さんと琉太に教えてもらい何とかした

 

クラスの連中は記憶のない俺にいつも通りで接していたが、元々こういう性格なのか誰一人信用できない。友希那の説明でRoseliaにAfterglowはひとまず信じることにした。他のグループは何とも言えないが、モカと花音、イヴの3人は自然と信じられた。前から信じていたのかもしれない

 

「琉太。今日この後予定とかあるか?」

 

「今日はCiRCLEでバイト。てかお前も来い。最近までお前の分も俺がやってたんだぞ」

 

「それはすまん。なら俺も行くとしよう」

 

「ついでにRoseliaの練習見てやれよ。お前マネージャーなんだし」

 

「友希那に聞いてみる。今の俺にできるとは限らないしな。昨日家でギター弾いてみたら全然できなかったし」

 

「そりゃお前前から苦手だったもん。翔の担当はキーボードだ」

 

「早く言えや...帰ったらやってみるか」

 

「まぁ、いれば湊が勝手にやる気出すだろ。何か分からないことがあれば俺かまりなさんに聞け。俺は基本休憩中はAfterglowの練習見てるからスタジオにいる」

 

「了解した」

 

そういえば、Roseliaの演奏ってどうな感じなんだろうな?聞くところによるとレベルは高く、プロ同然の実力を持っているらしい。そんなところのマネージャーやってたのか俺は?

 

頭の中で色々考えているうちに気づけばCiRCLEに着いていて、中には友希那と今井、氷川がいた

 

「お前ら早いな。いつもこんな感じなのか?」

 

「えぇ。あこと燐子が来たらすぐに始めるわ。翔はどうするのかしら?」

 

「休憩になったらRoseliaの練習見るよ。何か凄くレベル高いらしいしな」

 

「そう。無理はしないようにね。貴方に聴いてほしい曲があるからそれを聴かせるわ」

 

「そうか。楽しみにしてる」

 

何だろうな?俺に聴いてほしい曲って。何か深い思い入れでもあるのか?

 

「スミマセーン!遅れましたー!」

 

「ハァ...ハァ...すっすみません...」

 

あこと白金が息を切らしながら走って来た。この季節で汗をかいてる辺り、相当走ったみたいだな

 

「時間には間に合ってるから大丈夫よ。全員揃ったことだし、行くわよ」

 

「しょー兄また後でね!」

 

「おう」

 

「翔ー!後でお姉さんがクッキーご馳走してあげるからね!」

 

「毒でもあったら嫌なんでお断りだ」

 

「酷い!?ねぇ、何でアタシだけいつもこんなに辛辣なの?」

 

仕方ないだろ。こんなコミュ力お化けどう対応すればいいのか分からねえよ

 

「相変わらずだな...俺たちもバイト始めるぞ。制服はこっちにある」

 

「了解」

 

何でバイトしてるんだと思ったらうちには金が無いらしい。花梨によると、今月分賄えるか分からないとのこと。やばくない?一応仕送りはあるらしいけど何故か必要最低限しかくれない。姉さんは以前までとある事情により一緒に暮らしていたが、必要無くなったということで帰ってしまった、らしい

 

早く休憩になんないかな?Roseliaの演奏、楽しみだな...

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

咲夜たちと別れた後、私たちはスタジオに入り練習の準備をしていた

 

「そういえば、湊さん先程翔さんに聴かせたい曲があると言っていましたが、何ですか?」

 

あぁ、説明するのを忘れていたわね。あこと燐子は途中から来たので話が読めていないみたいだ

 

「BLACK SHOUTとLegendaryの2曲、これを彼に聴かせたいの。彼との思い出が沢山詰まった曲だから」

 

「いいけど、それじゃあ咲夜としての記憶が戻っちゃうんじゃ...華蓮さんや柏も記憶は戻したくないって言ってたし」

 

「確かにリスクは大きい。でも、この曲を聴いて何かを感じるだけでもいい。少しでも翔としての彼と信頼関係を築いていきたいから。柏からは許可も出てる。私の我儘で申し訳ないけれど、彼が来るまではこの2曲を練習したい」

 

「あこは大賛成です!だって凄くかっこいいもん!」

 

「私も...賛成です」

 

「湊さんが決めたことならそれに着いて行くだけです」

 

「も〜。その代わり、何かあったら友希那責任とってね?」

 

「勿論よ。ありがとう。それじゃあやるわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

楽しみにしてなさい、()

 

 

 

 

奏斗side

 

 

 

 

Roseliaの皆がスタジオに入った後、着替えを済ませカウンターに行くと丁度Afterglowの皆が来た。来たはいいのだが...

 

「奏斗、今からバイト?」

 

「あっあぁ。ほい、これ鍵」

 

「ありがとう。ねぇ、何か最近あたしにだけ態度おかしくない?いつもより言葉詰まってるし。視線合わせてくれないし」

 

「そっそんなことは無い。と思う」

 

「ふ〜ん...休憩まであと何分?」

 

「掃除が終わったらだかりゃ!?」

 

舌噛んだ!やばい痛い。血の味がする。マジで痛い

 

「ちょっ!?大丈夫!?」

 

「らいりょうふ...いってぇ」

 

「気をつけてよ...これ以上怪我増やさないでね?心配なんだから」

 

「あっありがとう...で、休憩までは多分30分くらいかかるから、それまで個人練習な」

 

「分かった。後で色々聞かせてもらうから覚悟しなよ」

 

「え...」

 

そう言い残すと蘭たちはスタジオの中に入ってしまった

 

「...言えるわけねえだろうが」

 

この前蘭に抱きつきながら泣いたことが恥ずかしくて目を合わせられないなんて口が裂けても言えない。それ以前勢いで蘭の唇奪ったりとか何やってんの?

 

「...いつか伝えるからそれまで待っててくれ、蘭」

 

 

 

 

蘭side

 

 

 

 

最近奏斗の様子がおかしい。時期的にはあたしたちに奏斗たちの過去を話してくれた日以来から。話すとしどろもどろになるし、目も合わせてくれない。奏斗としての性格なのか、前よりは雰囲気が冷たくなったけどそれとは何かが違う

 

「あたし何かしちゃったのかな...?」

 

「ん?どうしたんだ蘭」

 

「何か最近、奏斗の様子がおかしいんだよね。あたしと話す時だけ」

 

「そういえばさっき舌噛んでたな〜。別にアタシたちと話す時は普通だけどな」

 

「あたしも普通だったよ〜」

 

「私も普段とあまり変わらなかったかな。前よりは少し雰囲気が冷たくなったけど」

 

「奏斗は何か言ってたの?」

 

「誤魔化された。だから何かしちゃったのかなって」

 

心当たりは特に無い。あの日以来、あたしは少しでも奏斗の心に寄り添えるようにたくさん話しかけるようになった。でも、それが鬱陶しく感じられたとしたら...

 

「嫌われちゃったかな、あたし」

 

「んなわけ無いだろ」

 

巴が速攻で否定してくる

 

「でも...」

 

「前の琉太としてだったら分からなかったけど、今は奏斗だ。素の彼奴の性格からして嫌いだったら関わりすらしないだろ」

 

「そうかもしれないけど...」

 

「あんま深く考え過ぎんなよ。蘭が聞いてもどうせまた誤魔化されるし、後でアタシが聞いとくよ」

 

「ありがとう」

 

やっぱ巴は頼りになるな。妹がいるからか姉御肌が凄い

 

「ほら、奏斗が来る前に練習しようぜ。久し振りに聴かせるのに下手になってたらシャレにならない」

 

「そうだね。30分後くらいに来るらしいからそれまで個人練習やっとけだってさ」

 

「了解。じゃあ皆やろうぜ」

 

奏斗の態度が気になるけど、今は練習に集中しないとね。どうか嫌われていませんように

 

 

 

巴side

 

 

 

練習を始めて30分後、休憩に入った奏斗がスタジオに入って来た。それと同時にアタシたちも休憩になったので、さっきの蘭の相談について聞くことにした

 

「奏斗、ちょっといいか?」

 

「どうした?あとお前ら、本名で呼ぶのは構わないけど人がいる前ではやめてくれよ」

 

「分かってるって」

 

使い分けできるようにしとかないとな。外のカフェに移動して2人で向かい合うように座る

 

「んで話って何?」

 

「蘭についてなんだけど...」

 

「!?」

 

アタシの言葉に驚いたのか奏斗は机の脚に自分の足をぶつけてしまった。何か前より可愛くなってる

 

「だっ大丈夫か?」

 

「多分...蘭が何か言ってたのか?」

 

「最近お前の態度がおかしいから嫌われたんじゃないかって心配になってたぞ。どうしたんだよ?」

 

「えっと...」

 

「大丈夫。誰にも言わないから」

 

「...まぁ巴ならいいか。蘭とひまりだけは絶対に言わないでくれ」

 

「分かった」

 

蘭は分かるけど何でひまりもなんだ?

 

「実は...」

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

「て訳なんだが...」

 

「......」

 

えっと...ちょっと何を言ってるのか分からない。奏斗が蘭に?まさかな。うん、アタシの聞き間違いだろう

 

「おい、何か言えよ。こちとらマジで恥ずかしいんだけど」

 

「いや、奏斗にそんな感情があるなんて...」

 

「失礼だなおい。咲夜と一緒にするんじゃねえぞ。それに今の彼奴はおそらく感情が戻ってる」

 

「アタシからしたら信じられないことなんだけど。いや、多分聞いた皆同じこと思うぞ」

 

「そんな?お前たちの中で俺は何だと思われてんだ」

 

「鈍感」

 

「あ?」

 

そう言われてもなぁ...今まで本性を隠してきた奴にそんなこと聞かれても答えようがないじゃん。それに鈍感は事実だし。2人から好意寄せられて気づかないなんてな

 

「んで、奏斗はどうしたいんだ?」

 

「そりゃいつかは伝えたいけど...とりあえず緊張せずに話せるようになりたい」

 

「それはモカの方が良いんじゃないか?彼奴経験者だし」

 

「そうなんだけどさ...バレたら危険な気がするんだよ。特にモカとひまり」

 

「あ〜そういうことか」

 

確かにあの恋愛脳ひまりは危ないな

 

「まぁそういうことだ。暫く蘭と話せないかもだけどもしもの時は頼む」

 

「了解。その前に、誤解だけは自分で何とかしろよ。蘭の奴、本当に心配になってたからな」

 

「分かってるよ。あ〜ちゃんと話せるかな...」

 

本当に大丈夫か?いっそのこと付き合わせた方が良いんじゃないか?奏斗には悪いけど、モカやひまりに話して蘭の告白を押していくとするかな。てか、モカもさっさと告ればいいのに

 

と恋愛未経験のアタシはそんな呑気なことを考えながらスタジオに戻って行った

 

 

 

蘭にどうやって説明しよう?




読了ありがとうございました

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第65話

どうもです。FIRE BIRDは皆さん買いましたか?自分は発売日に買いました。Roseliaは神。これ一般常識。おけ?

それでは本編どうぞ


翔side

 

 

まりなさんに教わりながら仕事をすること1時間弱。休憩に入っていいと言われた俺はRoseliaが使用している第2スタジオへ向かった

 

「休憩入ったぞ。そっちはどうだ?」

 

「丁度私たちも休憩していたところよ。貴方が十分に休めたら再開するわ」

 

「別に気にしなくていいけど。俺だってそこまで貧弱じゃ...嘘ですごめんなさい」

 

やめろ。そんなジト目で見るんじゃない。幾ら記憶を失ってて怪我の理由が分からないからってそんな目で見られたら何も言えなくなる

 

「全く...あと3分だけ休憩するわよ。終わったら披露しましょう」

 

「翔、クッキー食べる?」

 

「...毒入ってないよな?」

 

「当たり前でしょ!?さっきまで皆食べてたんだからね!ほら、さっさと食べる!」

 

「分かったから無理矢理食わそうとするな!あと友希那の目が危ない!ハイライト消えてる!」

 

何でだよ?俺何かした?何故そんなに色々な視線ができる?やばい奴だよなRoseliaって。あっこのクッキー美味い

 

「そろそろ始めるわよ。皆、準備して。翔はそこに座って聞いててくれればいいわ」

 

「了解」

 

どんな曲なんだろうな。激しい曲かそれとも静かな曲か。全く分からないけど、きっと良い曲なんだろうな

 

「準備できたわね。それでは聴いてください。BLACK SHOUT」

 

〜♪〜♪〜

 

...凄いな。一人一人の技術は勿論、お互いを信じ合って心の底から楽しめている。日々の努力が伝わってくる。心が昂りただただ聴き入ってしまう。何も考えることはできない

 

 

ズキン!

 

 

「クッ...」

 

何だ?頭が...クソ。今だけは治ってくれ。彼女らの演奏を最後まで聴きたいんだ

 

『おい』

 

!?誰だ?

 

『本当に何も覚えてないんだな...そのうち分かるさ』

 

不意に聞こえた謎の声はすぐに消え気づけば演奏は終わっていた。頭痛も今はしていない

 

「ふぅ...どうだったかしら?」

 

「凄く良かった。若干ミスはあったけど、それもすぐに直せるだろう」

 

「顔色悪いけれど大丈夫かしら?あまり酷いなら今日は帰った方が...」

 

「問題ない。少し目眩がしただけだ。他にあるか?」

 

「もう1曲だけ。それじゃあ行くわよ。これは、以前の貴方が私たちのために作ってくれた曲。聴いてください。Legendary」

 

〜♪〜♪〜

 

さっきのBLACK SHOUTも良かったけど、この曲はもっと別の何かを感じる。俺が作ったからなのか?前の俺結構良い仕事してたんだな

 

 

ズキン!!!!

 

 

「がっ!?あが...あああぁぁぁ!!」

 

「翔!?しっかりして!」

 

頭が...さっきとは比べ物にならない痛みが俺を襲う。その痛みが消える様子は全く無く、俺はその苦しみに支配された。その時、あの声が聞こえた

 

『お前には何がある?記憶を失い空っぽの状態。人の身体を何に使うつもりだ?』

 

「何を...誰なんだお前は!」

 

『俺はお前だ。分かりやすく言えば...前のお前?』

 

「前の俺...だと?」

 

『そうだ。Roseliaの曲の中でも特に思い入れがある2曲を聴いたおかげでこうして表に出てこれた。その点については感謝する』

 

「何が目的だ!言え!」

 

「翔!しっかりして翔!」

 

『いずれ分かるさ。歯車は今動いた。時が来るまで待つんだ』

 

「おい待て!話はまだ...」

 

 

 

ズキン!!!!

 

 

 

「グァァ!あああぁぁぁ!!」

 

 

「翔!」

 

 

「!?ゆき...な?」

 

「翔!大丈夫!?どうしたの!?」

 

「...ありがとう」

 

この言葉を境に俺の意識は途絶えた

 

 

 

友希那side

 

 

 

何故無理矢理にでも休ませなかったのだろうか。1曲目の時点で彼には異常があった。本来ならそこでやめるべきだったのに彼がいいならと続けてしまった。結果、2曲目で彼は限界を迎え発作を起こしてしまった

 

「ごめんなさい...ごめんなさい...」

 

「やっぱり無理があったよね...友希那、とりあえず奏斗のところに連れて行こう?」

 

リサに言われて翔を連れて行こうとすると、スタジオの扉が急に開いた。やって来たのはなんと柏だった

 

「全く...自分の身を考えないのは変わってないですね。1番治って欲しかったのに」

 

「柏...ごめんなさい」

 

「友希那さんが謝る必要はありませんよ。悪いのは自分の身に異常があるのにそれを無視したこのバカですから」

 

「何故、彼が発作を起こしたのが分かったのですか?」

 

「お兄様の服に発信器と盗聴器をつけてあるので、貴女たちの会話も丸聞こえです」

 

「翔どうするの?暫く起きそうにないけど...」

 

「とりあえず事務室に放り込んでおきましょう。あとはまりなさんに任せます。Roseliaの練習は私が見ます。リサさんと氷川さん、お兄様を運ぶので手伝ってください」

 

柏はリサと紗夜を連れて彼を運んで行った。今この場にいるのは私とあこ、燐子の3人だけだ

 

「...ごめんなさい。私のせいでこんなことになってしまって」

 

「友希那さんは悪くないです!しょー兄が倒れちゃったのはびっくりしたけど、それが友希那さんのせいなわけ無いです!元気だしてください!」

 

「柏ちゃんも...分かっていましたし...誰も友希那さんを責めませんよ」

 

「...ありがとう」

 

倒れる間際に言ったあの言葉。あれは何だったのだろうか?そしてあの独り言。誰に向けて言っていたというの?記憶が戻ったかどうかは彼の意識が戻らないと分からない。私にとっては戻ってほしいが、多くの人はそれを望んでいない。私1人の考えで事を運ぶのはあまりにも傲慢すぎる

 

暫くするとリサたちが帰ってきた

 

「彼の容体は?」

 

「ぐっすり寝てますよ。すぐに目を覚ますでしょう。奏斗さんにこのことを伝えに行ったらモカさんが血相変えてお兄様の元へ行ってしまいましたが」

 

「...そう」

 

「先程も言いましたが、貴女は悪くない。それよりも早く練習を始めましょう。いつでもお兄様に聴かせられる音を保てるように」

 

「分かったわ。お願い」

 

「フェスで優勝するならどんな精神状態でも最高の音を奏でなくてはならない。こういう時こそやれば更に成長できます」

 

「そうね。皆、頑張りましょう」

 

「それと...」

 

「?」

 

「あの人の記憶を取り戻したいのは私たちも同じです。でも、それが正しいのか、誰にも分からない。だから私やお姉様は何も動くことができない。でも、貴女は自分の選択を信じて前に進んだ。その想いを誇りに思ってください」

 

「...ありがとう」

 

「もう覚悟はできました。友希那さん、お兄様の記憶を取り戻すのを手伝ってくれませんか?Roseliaの皆さんも、どうかよろしくお願いします」

 

そう言うと柏は深く頭を下げた

 

「そんなにかしこまる必要なんて無いわよ。断るとでも思ったのかしら?」

 

「ほら、頭上げてよ柏。アタシたちも全力で支えるから」

 

「柏さんには大きな借りがありますからね。私も協力します」

 

「妾の闇の力...えっと、頑張るぞー!」

 

「一緒に...頑張ろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「柏、貴女も1人じゃない。私たちがいるから。それじゃあ、練習始めましょう」

 

「では先程の2曲のミスを言うのでそれを直していきましょう」

 

彼の記憶を取り戻す方法。そんなもの分からないけれど、きっとできる。だから待ってて、()()

 

 

 

モカside

 

 

 

あたしは今CiRCLEの事務室で寝ているしょ〜君の看病をしている。Afterglowの皆には悪いけど、あたしにとってはこっちの方が大事だった。皆はそれを責めること無く送り出してくれた。多分、奏斗があたしの代わりをやっていることだろう

 

柏から彼が倒れたと聞いた時、身体全身に寒気が走るのが分かった。事務室で寝ていると分かった瞬間身体は勝手にその方向へ向いていた

 

「しょ〜君...」

 

彼はぐっすり眠っている。こちらの心配も知らずに。倒れた原因はRoseliaの演奏。おそらく、彼の中の記憶が関係しているのだろう

 

あたしの中には彼が無事なことに対する安心ともう1つ、湊さんに対する少しの怒りがあった

 

Roseliaの演奏を聞けば何かしら彼に異変が起こると分かっていた筈。なのに、あの人はそれを実行した。その結果がこれだ。何故湊さんはこんなことをしたのか。あたしには分からなかった

 

ふと時計を見るとスタジオ利用時間の終わりに近づいていた。流石に片付けをしないのは悪いと思ったあたしはスタジオに戻った

 

「帰って来たか。翔はどうだ?」

 

「ぐっすり寝てるよ〜。ごめんね〜途中で抜けて」

 

「気にするな。よし、そろそろ片付けよう。巴、来い」

 

「アタシ?何だよ、いつもみたいに...」

 

「ラーメン奢ってやる」

 

「よし乗った」

 

奏斗、どうしたんだろう?いつもなら蘭と一緒に次の予約取りに行くのに。蘭も不思議そうな顔してるし...

 

「やっぱあたし何かしちゃったのかな...巴にまで誤魔化されたし」

 

「ん〜私的には嫌っているようには見えなかったけどなぁ。どっちかと言うと緊張してるっていうか...」

 

「私も思った。奏斗君、蘭ちゃんの時だけ凄く身体が固くなってたし多分緊張してるんじゃないかな?」

 

話す時に緊張...もしかして

 

「あたし分かっちゃったかも〜」

 

「え?モカ分かるの?」

 

「多分蘭も経験したことあると思うよ〜」

 

「あたしも?全然分かんない」

 

「言ったら面白くないからね〜。まぁ少なくとも嫌ってはいないから安心して〜」

 

「...分かった」

 

まさか奏斗がね〜。これはもうくっつけちゃった方が良いかもね〜

 

片付けを終え外に出るとRoseliaも同じタイミングで出て来た。湊さんの顔を見た瞬間あたしの中で黒い感情が湧いてくるのを感じた

 

「もっモカ...?どうしたの?」

 

「モカがキレてる...何があったんだ?」

 

「初めて見たかも...」

 

「こっ怖い...」

 

「ねぇ〜」

 

「「「「!?」」」」

 

自分でも驚くくらいの冷たく低い声が出たかもしれない。皆も驚いたみたいで身体を震わせていた

 

「ちょっと湊さんのところに行ってきていい〜?」

 

「うっうん...あまり遅くならないでね」

 

「は〜い」

 

「ちょい待て俺も行く。今のお前マジで危ない」

 

「ちょっと黙っててくれると助かるかな〜。奏斗には関係無いことだから〜」

 

「無いわけあるかアホ。モカがキレてる理由は何となく分かる。だったら着いて行くしかないだろ」

 

「ふ〜ん...」

 

「あっそういえば翔どうしよう?柏と2人で担いで行くしかなさそうだな...」

 

この後Afterglowの間で青葉モカを怒らせてはいけないという暗黙の了解ができた、らしい




読了ありがとうございました。皆さんもモカを怒らせるのはやめましょう

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第66話

最近長い話が多かったので今回は短めです(ただネタが思い浮かばなかっただけ)

フェス限友希那来ましたね。スター無いんだけどどうしてくれるんだろ?無課金勢舐めんなし

それでは本編どぞ


友希那side

 

 

練習も終わりスタジオから出た途端、殺気を感じた。柏程の恐ろしさは無かったが、鳥肌を立たせるには十分だった

 

「ねぇ、あれモカだよね?こっちを睨んでるの」

 

「私たちというよりは完全に友希那さんでしょう。要件は粗方お兄様関連ですね」

 

「...行ってくるわ。彼女とは1度本気で話したかったから」

 

「では私は奏斗さんと一緒にお兄様の回収をして来ます」

 

私はあまりRoselia以外の人とはあまり関わりが無いため分からないが、少なくともあそこまで怒っている青葉さんを見たことは無い

 

「青葉さん、少しお話しないかしら?」

 

「いいですよ〜。あたしも丁度湊さんと話したかったので〜」

 

口調はゆったりとしているが、込められた感情が明らかに普段とは違う。私もそれなりの意思を持って話さなければならないわね

 

私たちはCiRCLEの前にあるカフェに向かい合うように座った。時間も遅いし、できるだけ素早く終わらせましょう

 

「さて、貴女が私を睨んでいたのは分かっているわ。翔のことでしょう?」

 

「...何であんなことしたんですか〜?湊さんなら分かっていましたよね〜?しょ〜君にRoseliaの演奏を聴かせれば何かしらの異変が起こることくらい」

 

「えぇ。私もあんなに強い発作を起こすとは思わなかったけれど」

 

「だったら...!」

 

「私からも質問するわ。青葉さんは彼の記憶を取り戻したいの?」

 

「それは...」

 

「私は何が何でも取り戻そうと思ってる。例えそれが彼の悲劇を思い出させることになってしまったとしても。今までのことを無かったことになんて私にはできない」

 

「今までのこと...」

 

「彼と出会った日。彼が初めて練習に来てくれた日。彼がマネージャーになってくれた日。彼と初めて一緒に出かけた日。彼とライブをした日。彼と喧嘩した日。彼と夏合宿をした日。彼が私たちを守ってくれたあの体育祭の日。辛いこともあったけど、どれも私にとっては掛け替えのない日々だった。彼がいたから今の私がある。なのに、それを彼の記憶と一緒に消し去るなんて私には絶対にできない」

 

咲夜。貴方は私たちと、私と過ごした日々をどのように思っていたのかしら?今はその答えを聞けないけれど、少しでも良いように思ってくれてたら嬉しいわね

 

「私もこれが正しい選択だとは思っていない。でも、いつか選択を迫られた時、必ずその答えを出さなければならない。そして、結果は答えを出さない限り誰にも分からない」

 

「結果は誰にも...」

 

「私は彼の記憶を取り戻すことを選んだ。柏も、覚悟を決めて彼の記憶を取り戻すことを選んだ。おそらく、華蓮さんも選ぶでしょう」

 

「無理に選べとは言わないわ。でも、後できっと後悔する。貴女はどうしたいのか。それに対して今何をするべきなのか。考えてから答えを出しなさい。もし邪魔をするのなら私は容赦しない」

 

私はそう言い残すと席を立ち皆のところへ戻った。戻ると既に翔は目覚めていて、少し顔色は悪かったがほっとした

 

「翔、大丈夫なの?」

 

「あぁ。悪いな、演奏最後まで聴いてあげられなくて」

 

「私の方こそ、もっと貴方のことを考えるべきだった。ごめんなさい」

 

「あの時、声が聞こえたんだ。奴は前の俺とか言っていたけど、よく分からない」

 

「他に思い出したことは?」

 

「何も。思い出そうとすると途端に頭痛がしてな。それどころじゃなくなっちまう」

 

「翔、貴方は前の記憶を取り戻したいと思う?」

 

「どうだろうな。思い出したいけど...怖いんだ。またさっきみたいに暴走するのが。誰かを、友希那を傷つけてしまいそうで」

 

彼は恐怖を振り払うように手を強く握りしめた。私はその手を両手で優しく包み込んだ

 

「1人で抱え込まなくてもいい。貴方の周りにはたくさんの人がいる。花梨や祐奈さん、琉太。私たちRoselia。いつでも貴方の味方よ」

 

「...ありがとう。怖いけど、少しずつ向き合っていこうと思う。手伝ってくれるか?」

 

「愚問ね。最初からそのつもりよ。一緒に頑張りましょう」

 

こうして咲夜としての記憶を取り戻すことになった。そろそろ準備しないといけないわね。想いを伝える準備を

 

 

 

モカside

 

 

 

完全に言い負かされたあたしは皆のところへ戻った。湊さんの言っていることは正しい。あたしには覚悟が足りていないのだ

 

「お帰り。湊さんと何を話したの?」

 

「大方、咲夜の記憶の件で揉めて言い負かされたんだろう。あの人言ってることは的を得てるからな。結構精神的にくるぞあれは」

 

「...モカ、帰ろう」

 

「...うん」

 

あたしたちは帰路につき、ゆっくり歩き出した。まだ6時過ぎだというのに辺りは暗く、気温も低い。まるで今のあたしの心を表しているようだった

 

「モカ、お前はどうしたいんだ?」

 

「え?」

 

「咲夜の記憶を取り戻したいのか聞いているんだ。モカはどうしたい?」

 

「あたしは...」

 

あたしはどうしたいんだろう?咲夜に悲劇を思い出させる代わりに今までの思い出を全て思い出させるか、全てなかったことにしてしまうか。そんなもの...

 

「あたしは...記憶を取り戻したい」

 

「じゃあ、その気持ちのままに動けばいい。俺もできる限り協力するから。俺だけじゃねえ。Afterglowの皆がいる。皆を頼れ」

 

「...ゔん」

 

「モカ」

 

「蘭?」

 

「あたしはモカじゃないから、モカの気持ちは正確には分からない。でも、何年も一緒に過ごして来たからこそ分かることもある。あんたは1人じゃないから」

 

限界を迎えたあたしは蘭に抱きつきその場で泣きじゃくった。それを蘭は優しく抱きしめてくれて、受け止めてくれた。多分、10分は泣いただろう

 

「ありがとね〜蘭」

 

「別に...あんたがそんな調子じゃこっちまでおかしくなるから」

 

「出たツンデレ」

 

「なっ!?奏斗!/////」

 

「イッテェ!お前傷口に蹴り入れる馬鹿がどこにいるんだ!?開いたらどうしてくれんの!?」

 

「あんたさっきからあたしと話す時だけよそよそしくして!いい加減理由くらい話したら!?」

 

「言えるかボケぇ!おい巴!お前何て説明した!」

 

「いや、特に何も言ってない」

 

「今度伸びたカップ麺お前の家に送りつけてやる!」

 

「陰湿すぎないか?元暗殺者がそんな陰湿なことする?」

 

相変わらず蘭は蘭だった。もうとっとと付き合っちゃえばいいのに

 

「蘭〜。いいこと教えてあげる〜」

 

「何?」

 

「奏斗はね〜蘭のこと...」

 

「おいちょっと待てそれ以上は言うな!言ったら色々とまずい!パン奢るからお願いしますマジでやめて!」

 

「乗った」

 

「ねぇ奏斗があたしのこと何だって?パン奢るから言って」

 

「乗った」

 

「ホントにマジでやめろ!」

 

「言って!」

 

咲夜。あたしは君がいないと寂しいよ。あたしも協力するから、どうか戻って来てください

 

 

 

 

???side

 

 

 

 

家の屋根から6人の少女と白髪の1人の少年を見つめている。あの子の顔を見るのも久し振りね

 

「まさか記憶を失っているなんてね...これは面白くなりそう」

 

その瞬間、何かが飛んで来る気配を感じた私は持っていた刀で弾き返した。飛んで来たのはナイフ。こんなことをするのはただ1人

 

「華蓮...」

 

「久し振りね。()()()()

 

私の娘である華蓮が2本の刀を手に持ちそこに立っていた

 

「随分と大人びたわね。以前なあんなに小さかったのに」

 

「10年も前の話よ。あまり馬鹿にしないでくれる?」

 

久し振りの再会だというのに随分とお怒りの様子ね。全く...短気なのは変わってないわね

 

「私はあの時のことを許すつもりはない。また咲夜に手を出そうってのならこの場で殺す」

 

「いい加減そのブラコンを治しなさい。安心しなさい。()()何もしないから」

 

あまり長居してると目の前の狂犬が何をするか分からないのでそそくさと退散した。これはおもしろくなりそうね




読了ありがとうございました

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第67話

どうも、最近ツナグ、ソラモヨウにどハマりした暁月です。ドリフェス友希那出なかったのでスマホの方でリセマラやりまくりました

それでは本編どうぞ


友希那side

 

 

 

「...此処か」

 

「えぇ。此処で合ってる筈よ。とりあえず受付を済ませましょう」

 

「おけ」

 

私は翔と2人で青森県の十和田市に来ていた。何故こうなったかというと時間は3日前に遡る

 

 

 

 

 

〜3日前〜

 

 

 

 

 

 

「ペアチケット?」

 

「さっき商店街のクジ引きで当てた」

 

いつも通りCiRCLEで練習をしていて休憩に入ったところで翔が急にチケットを取り出したのだ。何とそれはペアでの旅行チケットだった

 

「適当に引いたら何か当たっちゃってな...今度3連休だし誰か行きたい人いるか?」

 

「翔行かないの?花梨とか琉太と行けば?」

 

「花梨と琉太はAfterglowと練習だってさ。姉さんは忙しいとのこと。Roselia3日間とも練習無かったし誰か行きたい人いないかなと。友希那と今井とか」

 

「アタシ家族で出かける予定あるから無理なんだよね〜」

 

「じゃあ氷川と妹」

 

「日菜はパスパレの仕事があるらしいです。私もその日は少し用事があるので...」

 

「あこと白金」

 

「あこもその日行けないです」

 

「私は...外に...出たくないです」

 

「マジかよ」

 

私は特に何もないけれど...流石に誰も行かないのは勿体無いわね。戸山さん辺りに渡せばきっと行けると思うけど

 

「じゃあさ、翔と友希那で行けばいいじゃん!」

 

「...は?」

 

え?今リサ何て行ったのかしら?私と翔の2人で?旅行?2人きりで?

 

「俺は別に構わんけど...友希那に任せる」

 

「ちょっちょっと待って。リサ、こっち来なさい」

 

「わわっ!ちょっとゆきなぁ〜!」

 

私はリサの腕を掴み外へ連れ出した

 

「いきなり何を言い出すのよ貴女は!/////私と翔で旅行なんて...」

 

「本音は?行きたいんでしょ?顔に書いてあるよ」

 

「そっそれは.../////」

 

確かに、本音を言えば行きたい。行けば確実に距離を縮められるし、雰囲気次第では告白も...無理ね。私に告白なんてできるわけが無い

 

「折角の機会なんだし、行って来なよ。翔も無関心に見えるけど、なんだかんだ友希那といる時が1番楽しそうだよ」

 

「...分かったわ」

 

 

 

そして現在に戻る

 

 

「何だか凄く高そうなホテルだけど、此処で合ってるのよね?」

 

「さっき自分で言っただろ。とりあえず、部屋に荷物置いてこよう。流石に重い」

 

彼が辛そうにしてたのですぐに受付を済ませ、部屋の鍵を貰い部屋へ向かった。受付の際受付の人に『美人な彼女さんですね』と言われとても恥ずかしかった。しかし彼は速攻で否定したので傷口を殴った

 

部屋に着くと彼はすぐに謝って来た

 

「なぁ悪かったって。友希那と彼女ってのを否定しただけだから。美人は合ってると思うし」

 

「だから鈍感って言われるのよ...」

 

「何?」

 

「何でもないわ。今日は私の言うことを聞くこと。それで許してあげる」

 

「仰せのままに歌姫様」

 

「/////」

 

たまにこうやってキザな台詞を言ったり仕草をしたするのを本当にやめてほしい。ドキドキしすぎて心臓に悪い

 

「さて、どうする?昼飯にはまだ早いか?何処か行きたいところあるか?」

 

「そうね...特に考えてなかったけど、翔は行きたいところあるかしら?」

 

「奥入瀬渓流に行きたいな。この時期は紅葉が綺麗なんだと。でも明日がいい」

 

「じゃあ今日は普通に街の観光に行きましょう」

 

「了解」

 

それから私たちは街の方に出て観光に行くことにした。交通手段が無いためバスで行くことにしたのだが

 

「うぅ...気持ち悪い」

 

どうやら記憶を失っても乗り物酔いは無くならなかったらしい。顔色は青を通り越して蒼白となっていた

 

「大丈夫?キツイなら降りて歩いていけばいいと思うけど」

 

「歩いたら30分以上かかる。折角の旅行をそんなんで潰されてたまるかっての...」

 

「ハァ...いいけど、本当に苦しくなったら言いなさいよ?怪我も治りきってないのにそれ以上無理をされたら困るわ」

 

「へーい」

 

本当に分かっているのだろうかこの男は?

 

15分もかからないうちに街に着き、まずは翔の休憩がてらお昼ご飯を食べに近くのカフェに入った

 

「...死ぬかと思った」

 

「だからあれほど言ったのに...何か食べれそうかしら?」

 

「メニューによるな。じゃあアイスコーヒーとサンドイッチ頼む」

 

「分かったわ。私が頼んでおくから貴方はちょっと休憩してなさい」

 

「そうする」

 

彼はそう返事するとすぐにテーブルに突っ伏してしまった。そんなにキツイなら最初から歩けばよかったのに...まぁ彼の時間を無駄にしたくないという気持ちに免じて許してあげよう

 

5分ちょっとで私たちが頼んだであろうサンドイッチらが目に入ったので彼を起こした。たった5分だというのに彼の目は凄く眠そうでトロンとしていた。可愛い

 

『いただきます』

 

軽く手を合わせてから私は彼とは違ったサンドイッチを食べる。私のは数種類のフルーツと生クリームが挟まれたサンドイッチだ。見た目的にとても甘そうだが、それほどでも無いので食べやすい

 

「それ甘くないのか?生クリームだらけで食べたらおかしくなりそうだけど」

 

「そうでもないわよ。少し甘さが抑えられていて食べやすいわ」

 

「ふーん。一口くれ」

 

「分かったわ」

 

私は彼にサンドイッチを渡した。サンドイッチを食べた彼は徐々に青ざめていきついには...ん?ちょっと待ってこれって...

 

「あっま!これで控えめ!?友希那お前味覚大丈夫か?」

 

「かっ間接キス.../////」

 

「おーい友希那?何で顔赤くなってんだ?」

 

翔が何かを言っているがそれどころじゃなかった。無意識とはいえ何をやってるのよ私は...

 

「おーい。ゆーきなぁー」

 

「へ!?なっ何かしら?」

 

「いや、そろそろこれ返したいんだけど」

 

「あっ、ごめんなさい。貴方は前から本当に甘いの苦手ね」

 

「みたいだな。中身は殆ど変わってねえみたいだ」

 

「体調の方は大丈夫かしら?大丈夫そうなら早く食べて観光に行きたいけれど」

 

「大分良くなったよ。さっさと食べて行くか。先に土産買いに行こうぜ。明日1日遊びたいからな」

 

「そうね。それでいいと思うわ。貴方は誰に買うのか決めてあるの?」

 

「とりあえず花梨と琉太と姉さん。それとAfterglowの皆にも買ってやろうかと思う。Roseliaは友希那に任せていいか?」

 

「えぇ。私は戸山さんにも渡そうかと思ってるわ」

 

「そうと決まれば行くか。会計済ませてくるから友希那は外で待っててくれ」

 

「分かったわ」

 

彼に私の分を渡そうとしたらいらないと言われてしまった。その辺の気遣いができる辺り、本当に何も変わっていないわね。彼の姿を見るとどうしても咲夜だった頃のことを思い出してしまう

 

「ねぇねぇ、君今暇?」

 

横から声をかけられたので振り向くと柄の悪そうな人が3人。何処に行ってもナンパはあるものね。彼と初めて出かけた日のこと思い出したわ

 

「悪いけど、今は友人と来ているの。他を当たってちょうだい」

 

「まぁまぁそう言わずに...」

 

しつこいわね。折角の旅行なのに気分が悪くなる

 

「あのーそいつ俺の連れなんでやめてくれませんかね?」

 

「あ?何だよお前。この子の彼氏か何かか?」

 

「ちゃうわ。何つーか...俺の恩人?」

 

何だろう。助けられている筈なのにイライラしてくる自分がいる

 

「はぁ?」

 

「とにかく、これから土産買いに行くから消えてくれると助かる。なんなら...此処で死ぬか?」

 

「ヒィ!?すっすみませんでしたー!」

 

柄の悪い3人は彼の殺気の込もった声にびびって一目散に逃げていった。この光景もそろそろ見飽きたわ

 

「気持ち悪いな。友希那、大丈夫か?」

 

「えぇ。特に問題無いわ」

 

「何か随分と慣れたような態度だな」

 

「もう正直言って何回目か分からないわ。こう言ってはあれだけど、貴方に助けられたのも何回目か分からないわ」

 

「まぁ友希那見た目は美人だもんな。中身はポンコツだけど」

 

「っ〜〜〜〜〜〜/////」

 

こうして恥ずかしくなるのも何回目だろうか?って...

 

「誰がポンコツよ!」

 

「何か分かんないけど自然とポンコツという単語が思い浮かんでくる。前から思ってたんじゃないか?」

 

つまり咲夜の所為ね。記憶が戻ってたら覚えてなさい

 

「全く...でも、お陰で助かったわ。ありがとう」

 

彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元に戻った

 

「これくらいじゃ友希那に貰った恩は返しきれねえよ。邪魔も消えたしそろそろ行くか」

 

「えぇ」

 

私たちはお土産がありそうな店を探して歩くことにした。地元とは違った光景で何だか新鮮ね

 

「3連休なだけあって普段よりは人がいる感じだな。はぐれると面倒だし手繋ぐか?」

 

「あっ貴方がいいなら私は...」

 

「そんじゃ失礼」

 

彼は私の手を優しく包み込むようにして繋いできた。以前のような氷のような冷たさは無く、とても温かかった

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました

最近4000字以上書くのが難しくなってきたのでこれからは3500字程度でいこうかと思います。これからもどうぞよろしくお願いします

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第68話

どうも、最近左目だけ視力が悪くどうしようか悩んでいる暁月です(どうでもいい)

今回は友希那と翔のイチャイチャ回です


翔side

 

 

旅行2日目。俺たちは奥入瀬渓流に来ていた。十和田湖の近くにある此処奥入瀬渓流はこの時期、紅葉がとても綺麗らしい。ホテルの人も言ってたから相当なものなのだろう。そしていざ来てみると

 

「凄いな...」

 

そよ風に散り舞う紅葉。流れる澄んだ川。予想をはるかに超える景色が目の前に広がっていた

 

「綺麗ね...」

 

「あぁ。ホテルの人からも聞いてはいたけど、まさかここまで綺麗とは思わなかったな」

 

「貴方のお陰ね。旅行券を当てるなんて」

 

「本当だよ。俺としてはあの時ティッシュ箱詰め合わせを狙ってたんだがな...」

 

何せ金が無いからな。山吹ベーカリーでパン買った時に引換券みたいなの貰って、景品にティッシュ箱の詰め合わせがあったからそれ狙おうとしたら何故か特等が当たってしまったのだ

 

「...残念だったわね。ティッシュが貰えなくて」

 

俺の話を聞いた友希那が不機嫌そうな顔を浮かべている。

何か勘違いしてないか?

 

「勘違いしているようだが、結果的にこうして友希那と旅行に来れたんだ。ティッシュなんかより全然嬉しいさ」

 

「...ありがとう」

 

景色を十分に楽しんだ俺たちはその場を後にしてこの後について話し合っていた

 

「どうする?時間的にちょっと歩けば昼飯の時間になるけど、問題はその後だ」

 

「渓流も見たしお土産も買ったし、特にすること無いわね。お昼ご飯を食べたらホテルでゆっくりしましょうか」

 

旅行に来たのにホテルでゆっくりとは何か微妙だけど、まぁそれ以外すること無いし仕方ないか

 

「分かった。どっか行きたいところ調べといてくれ。友希那が好きなやつで構わん」

 

「それじゃあ魚があるところに...」

 

「......」

 

「ごめんなさい。謝るからその左手に持ったナイフをしまってくれないかしら?」

 

こいつ危険すぎる。俺が魚介類苦手なの分かってて仕掛けて来やがった。俺が調べたいところだが...

 

 

 

俺機会の操作マジでできないんだよなぁ

 

 

 

どうやら以前から機械操作は壊滅的だったらしく、いつも花梨に教えてもらいながらやっていたそうだ。頑張ってスマホは大方使えるようになったが少し不安だし、パソコンはまるでダメだ。下手に不器用に調べて友希那に機械操作が苦手なことバレたら多分暫く立ち直れない

 

「此処の喫茶店なんてどうかしら?サンドイッチやパンが美味しいらしいわよ」

 

「確かに美味そうだな。それに、雰囲気も羽沢珈琲店に似てて落ち着けそうだ。じゃあそこに行こうか」

 

「分かったわ」

 

それにしても、友希那ってよく見ると本当に綺麗だよな。すれ違う男皆友希那の方見てるもん。女子まで見てるのは何故かは知らないけど。友希那も視線を感じてるのか少し嫌そうな顔をしている

 

「大丈夫だ。俺が側にいるし、昨日みたく声かけられたりしねえよ。視線は嫌かもしれないが我慢してくれ」

 

「じゃあ...こうさせてもらうわ」

 

そう言うと友希那は俺の腕に手を回し抱きついて来た。いや、何やってんの?余計視線感じないか?

 

「お前は何やってんの?自分から視線感じるようなことしてんじゃねえよ。やっぱりアホだ」

 

「失礼ね。こうすると安心するのよ。視線を我慢しろと言うならこれくらいは許しなさい」

 

「へいへい...好きにしてくれ」

 

全く、友希那の考えることはよく分からん。そういうのは自分が最も信頼できて最も好きな人にやるべきだと思うんだけどな...

 

10分くらい歩くと目的の店に辿り着いた。外見からでも落ち着いた雰囲気が伝わってくる。此処絶対いい場所。中に入るとこれまた木の香りとかがして凄え。最高

 

「いい店だな。これで珈琲が美味かったら嬉しいな」

 

「その珈琲の評判もいいみたいよ。なんでもサンドイッチと合わせるととても美味しいらしいわ」

 

「マジか。よし、今日の昼飯はそれでいこう」

 

「私も同じのをお願いするわ」

 

店員を呼んで注文すると、ものの数分で品が届いた。どんな仕組みになってんだ?早速1口食べてみると...

 

「うま〜い。珈琲もイヴのやつほどじゃ無いけど確かに美味い。明日も此処来ようぜ」

 

「いいわね。確かに、他の喫茶店より全然美味しいわ」

 

あー急にイヴの珈琲飲みたくなってきたな...今度淹れてもらおう

 

「前から思っていたのだけど、貴方いつもアイスコーヒーなのね。この時期なら普通はホットじゃないのかしら?」

 

「俺もそう思ってたんだけどさ、俺猫舌らしいんだよね。それも重度の。どれくらい重度かと言ったら友希那の苦いもの嫌いと同じくらい」

 

「うるさいわね...でも、大体分かったわ」

 

普段少食の俺でもこれならたくさん食べれそうだな。いつの間にか食べ終わっており特に留まる理由も無いのでそそくさとホテルに帰った

 

「少し昼寝していいか?流石に疲れたし足痛い」

 

「構わないわよ。私も疲れていたし。それに、今の翔に無理はさせられないもの。しっかり休みなさい」

 

「サンキュー。んじゃ、おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

多分、意識が飛ぶのに3分かからなかったと思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえた。あの時と同じ声が

 

『俺の名前、呼んでみな』

 

促され呼ぼうとするが口が動かない。怖いんだ。呼んだら俺という存在が消えてしまいそうで、今は眠るもう1人の俺の闇に飲まれてしまいそうで...

 

「それは...できない」

 

それがやっとのことで話せた言葉だ

 

『何で?俺が怖いか?』

 

「...あぁ。お前は俺と違って強い。お前の名前を呼んだら俺はその強さに、闇に飲まれてしまいそうで、消えそうで怖いんだ」

 

『何故そう思う?』

 

「昨日、友希那が知らない奴に声をかけられてた時。殺り合いにになってたら今の俺ではどうにもできなかったと思う。俺はお前みたく強く無いから。だから...」

 

 

 

 

「消えてもいい。俺に守る力をくれ。月読命咲夜」

 

長い沈黙。一体どのくらいの時間が経ったのだろうか?離れた場所にいた彼はいつの間にか俺の目の前に来ていた

 

『俺は強くなんか無い。それどころか、守るべき存在を置いてきちまった。だから頼む。俺を......消さないでくれ」

 

彼は涙を流していた。あぁ、そうか。怖かったのはお前も同じだったんだな...

 

「...じゃあ、俺がお前を救ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

「ん...」

 

目が覚めると時は既に6時。どうやら4時間近く寝ていたらしい。辺りを見回すと友希那の姿が見えない。何処行ったんだ?

 

「おーい友希那。起きたぞ〜」

 

返事が無い。とりあえず部屋回ってみよう

 

「友希那〜。いるなら返事してく...れ...」

 

「あっ...」

 

洗面所へのドアが開いていたためふとそちらを見てみると...風呂上がりと思われる友希那がそこにいた。おそらくたった今上がったのだろう。勿論服なんか着ているわけが無く...

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜/////」

 

顔を過去最高に紅潮させた彼女は一瞬にして風呂場に消えて行った。...何かごめんなさい

 

暫くすると部屋着に着替えた友希那が未だに顔を赫くしたまま戻って来た。うわ〜気まずい

 

「えっと...起きていたのね。十分に休めたかしら?」

 

「お陰様でさっきまでぐっすりしてたよ」

 

「そっその、翔.../////」

 

「ん?」

 

「みっ見たかしら?か...身体/////」

 

「......」

 

何て答えればいい?実際少しだけ見えた。だが事実を言えばセクハラになりかねないし、かと言って嘘を言えば余計ややこしくなるし...

 

「その、怒らないから...正直に言って/////」

 

「...胸を少しだけ」

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜/////」

 

「恥ずかしいなら聞くなよ!俺だって割と恥ずかしいんだからな!」

 

「仕方ないじゃない!その、男の人に見られたの初めてなんだから!/////」

 

「見たことは悪かった。だけど、故意では無いことだけは理解してほしい」

 

「むしろわざとだったら今この場で殺すわよ」

 

「こーわ」

 

女子が殺すだの物騒な言葉を言うんじゃない。全く、誰の影響を受けたんだか...

 

「貴方のせいね」

 

「人のせいにするなてか心読むな」

 

何故俺の周りの人間は人の心を読んでくるのだろう?普通に怖いからやめてほしいんだけど

 

「後で埋め合わせするから、許せ」

 

「...分かったわ」

 

「この後どうする?少し早いが晩飯食いに行くか?」

 

「貴方の好きなタイミングで構わないわよ。先にお風呂に入ってきてもいいし」

 

「風呂は後でいい。友希那がいいなら今から晩飯食いに行く」

 

「分かったわ。着替えてくるから待ってて頂戴」

 

「了解。万が一があるから鍵閉めとけよ〜」

 

「思い出させないでよ!/////」

 

俺か当てた旅行券の中には此処のホテルでの食事券も入っていた。此処は食べ放題形式で、サラダバーやドリンクバー。肉や魚など全国各地の食材が沢山あるのだ。昨日はサラダバーでずっと野菜食ってた

 

「お待たせ。行きましょうか」

 

「オッケー」

 

「今日はお肉もしっかり食べなさいよ」

 

「えぇ〜...今井なら分かるけど友希那に言われると腹立つな」

 

「ちょっとそれどういう意味よ」

 

だってなぁ...普段今井がいないとポンコツ化する奴に言われたら誰だってそう思うぞ

 

というわけで今日も安定のサラダバーでした。小言言われるの嫌だから肉も食ったけど。友希那が魚まで持ってきたのでアイアンクローかましといた

 

そんなこんなで晩飯も食べ終わり、部屋に戻ったところで俺は風呂に入った。若干いい香りがしたのは気のせいだろう

 

「上がったぞ。特にやること無いし、寝るか?」

 

「そうね。明日はどうするの?」

 

「夕方の新幹線に乗って帰ろうかと。だから午前はフリーだ」

 

「なら明日になってから考えましょう。私は寝るわ」

 

そう言うと友希那は布団を被った。いや、あのさ...

 

「そこ俺のベッドなんすけど」

 

「知ってるわよ。夕方の埋め合わせで今夜は一緒に寝てもらうわ」

 

「何言ってんの?お前やっぱりバカなの?1回病院行くか?」

 

「...花梨やリサたちに翔に裸見られたって言っておくわね」

 

「ワーイユキナトネレルーウレシーナー」

 

「ふふふ...」

 

こいつ何てこと言いやがる。俺を殺しに来てるのか?

 

「じゃあおやすみ。寝てる間に蹴飛ばすとか襲うとかやめろよ」

 

「襲わないわよ!/////早く寝なさい!/////」

 

「へーい」

 

この後薄れゆく意識の中頬に柔らかい感触があったのはおそらく気のせいだろう




読了ありがとうございました。知ってました?この2人付き合ってなんですよ?

次回はアンケート結果第2位の咲夜×モカを番外編として書こうかと思います。ついでにアンケート更新しようと思います

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第69話

iPadの方のデータでNFOあこ姫ゲットだぜ!

スマホのデータでまさかのかのちゃん先輩2連続&水着友希那様ゲットだぜ!


華蓮side

 

 

 

とある日の朝。いつも通り授業をするために移動しているところだった。私が教えているのは数学。理由は単純に得意だったから。咲夜にも負ける気はしない

 

「えっと、次は3-Cか。このクラスは何か私のこと怖がってるんだよね...何でかなぁ?」

 

ていうか私が行ってるほぼ全クラスの人に怖がられてる気がする。特に何もしてないんだけど...強いて言うならたまに来る何処かの男子高校生がナンパしてた時にストレス発散ついでにボコボコにしてるくらいかな。あの程度で怖がられるのはおかしいと思うんだけど(華蓮主観)

 

「はーい皆席ついてね〜。授業始めるよー」

 

羽丘は進学校なだけあって皆理解が速いからとても助かる。分かりやすいように毎晩徹夜で授業を考えてるけど、実感が湧くから意外とやりがいを感じてたりする

 

授業が始まって10分くらいしたところ。教室の外に人の気配を感じた私は黒板に書く手を止めた

 

「...グズグズしてないで入ったらどうですか?ただ単に授業してるだけなんですけど」

 

私の言葉を聞いて遠慮を無くしたのか男が2人入ってきた。ザワザワする生徒たちを抑え私は入ってきた男に向き合う

 

「何の用かしら?見たことない顔だけど手短にお願いするわ」

 

すると2人は胸ポケットからある物を取り出した。それは、警察バッジだった。警察寄越すなら彗人さん連れて来いっての

 

「警察が来るということは私のことを知っていると認識していいのかしら?何の用?」

 

「平野警部からの命令だ。此処では話しにくいから理事長室に行くぞ」

 

「...チッ。皆ごめんね?私今からこのおっさん2人とお話ししてくるから。プリント配るからそれやっててね。ほら、あんたらも手伝え」

 

時間短縮のため2人にもプリントを配らせる。意外と手付きが速くて驚いた

 

「それじゃ皆しっかりねー。...んで?この事瑠奈さんには話してあるの?」

 

「平野警部が話をつけてある。時間が無い、早く行くぞ」

 

何なのよ一体。一応言っておくけど私何もしてないからね?あれ以来誰も殺してないからね?

 

理事長室に入るとそこには彗人さんになんと奏斗君もいた。ますます呼ばれた意味が分からなくなってきたわ

 

「彗人さん。これは一体どういうことかしら?奏斗君まで呼ばれてわざわざ理事長室を貸し切りにして。そんなに大事なの?」

 

「そういうことだ。お前らは人が来ないように見張っとけ」

 

「「分かりました」」

 

私を呼びに来た刑事2人が外に出る。あまり聞かれたく無いことなのかしら?

 

「まずは単刀直入に言う。今、お前たちに殺人容疑がかかってる」

 

「「ハァ!?」」

 

「ちょっと待て!俺たち最近何もしてねえぞ!?てか殺人容疑とか今更すぎないか!?」

 

「そうよ!最近は組織に襲われてないし私たちは一般人に手を出したことは無いわよ!」

 

「まぁ落ち着け。とりあえずこの映像を見てくれ」

 

鞄からiPadを取り出す彗人さん。うわっ、それ最新の機種じゃん。羨ま寄越せ

 

「これは3日前、商店街近くの路地裏に設置されている防犯カメラの映像だ。時間帯は大体夜の10時過ぎ」

 

その映像を見た私は自分の目を疑った。何故ならそこに映されていたのは...

 

「私...じゃない...」

 

私が向かってくる人を殺してる姿だったのだから

 

「あぁ。被害者はそこらをうろついてる不良どもだ。見て分かる通り瞬殺されている。現場を見るとそこら中に首が落ちてたよ。あれ程綺麗に人の首を落とせるのは少なくともお前たちしかいない」

 

「でっでも!3日前の夜なら私は家に帰ってたわ!使用人も見てる筈よ!」

 

「まぁ落ち着け。もう1つあるから、それも見てくれ」

 

画面を操作してもう1つの動画を再生すると今度は奏斗君が人を殺してる姿が映った

 

「今度は俺か...これは何時のだ?」

 

「これは一昨日の夜の同じくらいの時間だな」

 

「おいおい。その日なら柏や翔と晩御飯食って夜遅くまでセッションしてた筈だ。柏に聞けば分かる」

 

「問題はそこなんだよ。月読命邸の使用人から華蓮の目撃証言は出てるし、さっき柏からも奏斗のことは聞いた。つまり、これに映っているのは偽物ということになる」

 

「じゃあ何で私たちに容疑がかかっているのよ?アリバイはあるのに」

 

「どうやら他の連中はお前たちならそのくらい幾らでも交錯できると思っているらしい。さっさと逮捕令状出せとか騒いでる」

 

「ふざけてるのかしら?何で私たちがそんなこと...」

 

私たちだって好きで人を殺してたわけじゃない。今では無くなったけど、あの頃は月読命邸の使用人からも軽蔑の目で見られ居場所なんて何処にも無かった

 

「まぁ過去の俺たちの行いを考えれば分からなくもないが...誰がこんなことを」

 

「分からない。だがこのままじゃお前たちは身動き取れなくなる。そうなれば対抗できる戦力は無くなる。何とかして真実を見つけないとならないんだが...心当たりは無いか?」

 

殺人技術を見る限り組織の人間であることは間違い無い。それもかなりの腕前だった。構えも私たちに似ていたし、繋がりがある筈。顔を真似る...変装...まさか

 

「1人だけ、可能な奴がいる」

 

「何?」

 

「月読命詩織。私のお母さんよ」

 

「詩織さんが!?でも、あの人は...」

 

「この前、RoseliaやAfterglowが練習を終えて帰ってる時。翔が倒れた日ね。翔の様子を見に行ったらいたのよ。屋根の上から翔たちを見下ろすお母さんが」

 

「...それで、華蓮はどうしたんだ?」

 

「奇襲をかけたけど、失敗したわ。あの時は“今は”何もしないって言ってた。おそらく今も何処かに潜んでる」

 

「確かにあの人の変装技術なら可能でしょうけど...何故そんなことを?」

 

「お前たちの動きを封じるためだろう。警察内ではお前たちに対する信用は0だ。当然お前たちを疑い動きに規制をかけようとするだろう」

 

「目的はやっぱり...」

 

「翔、咲夜でしょうね。おそらく記憶を失っているのも知っているだろうし、そのタイミングを狙ったんだと思う」

 

「厄介だな...詩織さんは正直言って刃さんより強い。あの人に勝てるとすればこの世にただ1人」

 

「覚醒した咲夜しかいない。でも...」

 

悔しいけど、彼は今戦えない。身体は覚えているようでナイフの扱いとかは咲夜その物だったけど、今の状態では勝てない

 

「今は様子を見よう。俺も頑張って上の連中を説得してみる。そっちは任せる」

 

「分かったわ。柏にはできるだけ翔の近くにいてもらうように」

 

「待ってください」

 

「?どうしたの?」

 

「詩織さんは頭が良い。正面から襲いに来ることは絶対しない。昔だってそうだ。あの人の作戦のお陰で失敗は無かった」

 

「確かに...お母さんなら私たちという邪魔が入りそうな状況でやるとは思えないわね」

 

「俺たちの動きを完全に封じつつ、なおかつ翔を引きずり出す方法。抵抗できなくする何かをあの人は必ず用意する筈だ」

 

「2人とも、話してるところ悪いが今度の会議に来てほしい。居心地は最悪かもしれんが頼む」

 

「彗人さんの頼みなら断る理由は無いわ。できる限り協力する」

 

「俺も同じく」

 

「助かる。じゃあ俺は先に戻ってる」

 

「えぇ。ありがとう」

 

彗人さんは席を立ち帰って行った。さて私たちもそろそろ戻りましょう

 

「私もお母さんに一太刀くらいは浴びせたいなぁ...人をブラコン呼ばわりしやがって...!」

 

(事実じゃねえか...久し振りに会ったというのにあの人相変わらず地雷踏み抜くな)

 

「とりあえず戻りますよ。俺もできるだけ翔のこと見てるんで」

 

そういえば、奏斗君さっき翔を引きずり出す方法って言ってたわね。それはつまり...

 

「ねぇ、さっき言ってた翔を引きずり出す方法って彼奴の動きを封じることも入ってるのよね?」

 

「え?まぁ俺はそのつもりで言いましたけど...」

 

翔が完全に動けなくなる方法。彼の大事な物とかを利用すればできると思うけど...大事な物...大事な人...人質...まさか

 

「...まずいかもしれない」

 

「何がですか?」

 

「翔を動けなくする方法よ。1番効果的なのは人質、彼の大事な人を奪うことよ」

 

「それってまさか...」

 

「友希那ちゃんが危ない」

 

 

 

 

詩織side

 

 

 

 

 

そろそろね。咲夜、まずは貴方が大事にしてる物から壊してあげるから...




読了ありがとうございました

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第70話

奏斗side

 

 

一通り話を終えた俺は放課後Afterglowの皆を屋上に呼び出した。さっきの話をするためだ

 

「わざわざ悪いな。これから練習だってのに」

 

「大丈夫。それより、話って何?」

 

「皆に頼みたいことがある。湊を守ってやってほしい」

 

「...え?どういうこと?」

 

訳が分からないといった顔してんな。まぁいきなりこんなこと言われても分からんか

 

「蘭以外は知ってると思うが、午前中俺呼び出し食らってたろ?実は彗人さんに呼び出されてたんだ。今俺には殺人容疑がかけられてる」

 

『!?』

 

「何でよ!奏斗はもう...」

 

「落ち着け。俺はやってないよ。ハメられただけだ」

 

「誰にだ?他にまだいるのか?」

 

「咲夜と華蓮さんの母親だ。正直言って今までで1番手強い。多分俺たちじゃ勝てない」

 

「嘘...」

 

「あの人は作戦を立てるのが誰よりも得意だ。正面から咲夜を殺しにかかるようなことはしない。咲夜を確実に、なおかつ俺たちも動けなくする方法」

 

「まさか...湊さんを人質に?」

 

「察しがいいな蘭。湊を捕まえれば俺たちは誰も動けない。咲夜を殺すにはこの作戦が1番なわけだ」

 

「でも...私たちじゃどうにもできないよ?」

 

「湊を1人にしなければいいだけだ。流石に周りに誰かがいるとあの人も手を出しにくい。最低1人、湊のそばにいればいい。既に今井と大和、日菜には伝えた。俺はこれから花咲川に行って残りのガールズバンドの皆に伝える」

 

「...奏斗は大丈夫なんだよね?」

 

心配そうな表情でこちらを見てくる蘭。いい加減覚えてほしいものだな

 

「死なねえって言っただろ?俺は問題無い。こっちも準備を進めないと...」

 

「準備って何をするんだ?アタシたちにできることなら...」

 

「あの人に勝つ唯一の方法。咲夜の記憶を取り戻し彼奴の中に眠る殺意を呼び起こすこと。もうそれしか無い」

 

「分かった。あたしたちも何とか頑張ってみる。奏斗も頑張って」

 

「ありがとな。じゃあ皆、頼んだぞ!」

 

『うん(おう)!』

 

信じてるからなお前ら。だが、誰も死ぬんじゃねえぞ

 

全速力で花咲川まで走り、まずは紗夜と白金を呼んだ。委員会の仕事があったおかげで学校で話せた

 

「話は以上だ。何かあれば柏に頼るんだ。そして俺か華蓮さんに連絡しろ」

 

「分かったわ。他にすることはあるかしら?」

 

「翔の...咲夜の記憶を取り戻す手がかりを探して欲しい。あの人に勝つにはもうそれしか無い」

 

「やって...みます...」

 

「頼んだ。じゃあ気を付けて練習行けよ。本当は俺がついてあげたいが、他の奴にも話さなきゃならない」

 

「大丈夫よ。奏斗も気を付けて」

 

「ありがとな」

 

さて、あとはポピパか。ハロハピには瀬田に伝えてもらってるからいいかな。心配だけど。パスパレも大和に頼んであるし。緊急時用として5バンド全員の連絡先を持ってて正解だったな。市ヶ谷に頼んで学校の庭に集まってもらっている。時間が無いし此処2階だから飛び降りれるな。俺は窓から飛び降りてポピパが待つ庭に向かった

 

「あっ来た!おーい!奏むぐっ!?」

 

「香澄!その名前を言うな!りゅっ琉太!全員集めといたぞ!」

 

「助かる。戸山、使い分けできないなら偽名で呼べ。それより、今は時間が無い。実は...」

 

 

 

「という訳だ。お前たちには誰かなるべく湊の近くにいてほしい。勿論他の奴にも頼んでるからできる範囲で構わない」

 

「分かった!皆で友希那先輩を守ろう!」

 

「お前は大丈夫なのか?今の話を聞いた限り、お前たちのことも潰しにくるんじゃ」

 

「一応ナイフはたくさん持ってるからそれで対応する。俺の心配より自分の心配しとけ。じゃあ後は頼んだぞ。今日はRoseliaの皆もいればAfterglow、柏もいる。今日はいつも通り過ごせ」

 

「了解。奏斗君もうちのパン屋来てね」

 

「今度行かせてもらうよ」

 

よし、これで全員か...さっさとCiRCLEに行かないと彼奴らが心配だ

 

「急がないと...!!」

 

この気配...まさか! ヒュンッ!

 

「ッチ!」

 

反射的に身体をそらすと頬あたりに僅かな痛みが走った。触ってみれば血が流れている。よけてなければ死んでただろう。こんなことができるのは...

 

「詩織さん...貴女ですね?」

 

「久し振りね、奏斗君」

 

最悪の危険人物、月読命詩織が立っていた

 

「何時からいたんですか?俺ですら気がつけなかった」

 

「偶々よ。これから咲夜のところに行こうとしたら貴方がいたから」

 

「貴女が正面から咲夜を狙う筈が無い。やはり狙いは...」

 

「察しがいいわね。湊友希那だったっけ?あの子を借りるわよ」

 

「行かせるわけ無いでしょう。此処で貴女を足止めする」

 

「一応言っておくけど、私だけじゃないからね?こうしてる間も仲間が向かっているわ」

 

「...本当に面倒な人ですね。殺り合おうと思ってたけど、ナイフだけじゃどうにもなりませんね。ここは一旦引きますよ!」

 

俺は懐から煙幕弾を取り出し地面に叩きつけた。辺りに煙が立ち込めその隙に逃げ出した

 

(華蓮さん...すぐに来てくれ)

 

ふとスマホを取り出す。その画面には通話中の文字が。実はずっと俺と華蓮さんと柏の3人で通話状態にしていたのだ。他の2人もこの状況を理解したことだろう

 

屋根を伝い走る中何かの気配を感じナイフで弾き返す。流石に完全には逃げ切れなかったか。黒いコートを着た連中は刀を抜き襲いかかって来る

 

「お前ら...邪魔をするなぁ!」

 

 

 

 

柏side

 

 

ワイヤレスで繋いだイヤホンから会話を聞いていた私は焦っていた。あと少しで連中が此処に来る。私では守り切れるものではない

 

「花梨どうしたの?顔色悪いよ?」

 

「リサさん、琉太さんから話は聞いていますか?」

 

「うん。まさか何かあったの?」

 

「えぇ。今非常にまずい状況です。友希那さんと兄さん以外、全員私のところへ来てください。友希那さんと兄さんは部屋から絶対に出ないでください」

 

「?分かったわ」

 

「りょーかい」

 

友希那さん以外のRoseliaを集め刀を持ちラウンジに出る。隣で練習していたAfterglowも引っ張り出した。

 

「何があったのですか?」

 

「今、奏斗さんが母に襲われています。仲間が此処に向かっているそうです。直に私たちも襲われるでしょう」

 

『!?』

 

「奏斗は!奏斗は無事なの!?」

 

「電話の音を聞く限り何とか耐えながらこちらに向かっているそうです。お姉様も駆けつけています。皆さんは1度Roseliaのスタジオで待機してください。お姉様が来るまで私が何とか...」

 

 

 

ガシャアアアアン!

 

 

 

「!?チッ!皆さん早くスタジオに行って!氷川さんは指揮を頼みます!」

 

「了解です!」

 

全員を見送った後、私は目の前に立つ3人に向き合う。私より背も高く体格も良い。だけど、負ける訳にはいかない。手を汚す覚悟はずっと昔からできてる

 

「兄さん...いや、お兄様。貴方との約束は果たしてみせます」

 

全てはお兄様のため。私はこの手で奴らを殺し皆を守る!

 

 

 

 

友希那side

 

 

柏が急に皆を連れて行ったと思ったら今度はAfterglowの皆まで一緒に慌ただしく戻って来た。翔も何が起きてるのか分からないといった表情をしている

 

「お前ら何してんの?Afterglowまで増えてるけど...」

 

「翔さんと湊さんは絶対に部屋から出ないでください!何があってもです!」

 

「いきなりそんなこと言われても...状況を説明してくれないかしら?何やら大きな音もしたけれど」

 

「それは後!2人ともアタシたちから離れないでね!」

 

「「?」」

 

意味が分からない。だけど、皆の焦った表情を見る限り、ただ事では無さそうだ

 

(本当に何なのよ...状況くらい説明してくれたっていいじゃない)

 

そういえば、今日はやたらとリサが私のそばにいたわね。クラスでも大和さんがずっと話しかけて来たし、日菜もやたらと一緒にいたし、それと関係があるのかしら?

 

 

 

 

 

柏side

 

 

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

格闘すること20分。何とか勝ち3人を殺すことに成功した。初めて人を殺したという感覚に私は混乱していた

 

 

ガシャアアアアン!

 

 

「っ!?また...!」

 

敵かと思い刀を構えるが、ガラスを破り入って来たのはお姉様だった

 

「柏!大丈夫!?」

 

「ハァ...何とか大丈夫です。全員1箇所に固めてあります」

 

「ありがとう。これを貴女がやったの?」

 

「えぇ。すみません。2人の願いを聞けなくて」

 

「それが貴女の選んだことなら文句は言わないわ。後は奏斗君だけど、既に連絡が途切れているの」

 

「そんな!」

 

「まだ決まったわけじゃない。今は待つしか...」

 

 

ガシャアアアアン!

 

 

「「!?」」

 

 

何度目か分からないガラスが割れる音。中に転がり込んで来たのは血だらけの奏斗さんだった

 

「奏斗さん!」

 

「奏斗君!しっかりして!」

 

「ハァ...ハァ...あの人...衰え知らなさすぎだろ...」

 

「逆に貴方が丸くなってるだけなのよ」

 

「「!?」」

 

全身に寒気が走るかのような冷たい声。声がした方を見ると月読命詩織が立っていた

 

「お母さん...」

 

「この前振りね華蓮。柏も随分大きくなったわね」

 

「黙れ!咲夜だけじゃなく奏斗君を、更には友希那ちゃんまで狙うなんて...此処で殺す!柏は中に入って奏斗君の手当てを!」

 

「はい!」

 

私は奏斗さんを持ち上げスタジオに連れて行く

 

「全員で彼の手当てをお願いします!私はお姉様の援護に行ってきます!」

 

「おい花梨!何がどうなって...」

 

「兄さんは部屋から絶対に出ないで!」

 

この2人は何があっても守らなければならない。咲夜としての記憶を取り戻し、あの人に勝たなければならない

 

スタジオを出ると既にお姉様は敗れその場に伏せていた

 

「お姉様!」

 

「生きてるわよ。峰打ちみたいなものだから直に目を覚ますと思うわ。昔の方が強かったんだけど...とりあえずそこどいてくれるかしら?」

 

「お断りするわ。お兄様との約束を守るために此処であんたを止める」

 

「威勢だけは認めるわ。だけど、奏斗君と華蓮が負けたのに柏が勝てるかしら?」

 

「無理でしょうね。それで友希那さんたちを守れるなら構わない」

 

「咲夜にそっくり...いいわ。かかってきなさい」

 




読了ありがとうございました

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第71話

どうも、暁です。久し振りの投稿です


奏斗side

 

 

 

襲撃から2日が経った。俺たちは為す術もないままやられ、瀕死の状態となった。翔も参戦したがすぐに倒され湊は攫われてしまった。今は全員入院中だ

 

「ハァ...短期間で何回入院するんだろ。いっそのこと死にたくなってくるわ」

 

「は?奏斗、もう1回言ってみな?」

 

「ごめんなさい蘭様謝るからその果物ナイフをしまってください」

 

蘭は毎日見舞いに来ては果物を持って来て皮を向いてくれる。だがさっきみたいに不要な発言をすればすぐにキレられる

 

「全く...咲夜もそうだったけど、いい加減すぐに死にたい発言するのやめな?あんたらが死んだらどれだけの人が悲しむと思ってんの?」

 

「...ごめんなさい」

 

何と今日は説教までおまけでついてきた。この反骨赤メッシュキレると普通に怖い

 

「それにしても、まさか全員負けるなんて...」

 

「だから言っただろ。咲夜じゃないと勝てないって。生きてるだけまだマシだ。幸い、指の1本も無くなってないし」

 

でも、やっぱりおかしい。あの人の力があれば簡単に殺せた筈。どうせ後でまた邪魔して来るんだしさっさと殺せばいいのに

 

「詩織さんの要求は明日翔を1人で行かせること。それまでに記憶を取り戻さねえと...」

 

「翔の怪我が少なかったのが救いだね」

 

「後で潰すつもりだったんだろ。あの人めちゃくちゃ腹黒いからな。多分今頃えげつないこと考えてるぞ」

 

「イチイは頭のおかしい奴しかいないの?」

 

おいこら。俺たちまで一緒にすんな。俺たちはあんなにバカじゃねえ。何も考えずに突っ込むよりいかに素早く殺せるかしっかり考える方だ

 

「聞き捨てならないな。ちゃんとまともな奴もいるぞ」

 

「はいはい。ほら、皮剥けたから食べていいよ」

 

「あざーす。美味し」

 

やっぱりフルーツは最高ってそれ1番言われてるからね。毎日食える

 

「華蓮さんと柏の容体はどうなってる?詳しく聞けてないんだ」

 

「その、華蓮さんはそこまで大きな怪我はしてなかったんだけど...柏が」

 

「どうした?」

 

「翔もやられて湊さんが連れて行かれかけたときまだ意識はあって 最後まで抵抗したんだけど、そのせいで...追い打ちかけられて意識が戻らないの」

 

「なっ...」

 

「命に別状はないよ。でも...多分、あの時の咲夜並みには怪我してると思う」

 

何だよそれ。咲夜との約束も守れず柏の手を汚させ挙句の果てには意識不明の状態ときた。何のために今まで人を殺してきた?守る力を持ちながら...

 

俺は蘭からナイフを取り上げ部屋の隅にあった花瓶に向けて投げつけた。本気で投げたため花瓶は割れ破片が辺りに散らばった

 

「ちょ、奏斗!?」

 

「ハァ...ハァ...どんだけ失えばいいんだよクソ野郎」

 

「......」

 

長い沈黙が続く。だがそれは思いもよらない出来事で破られた

 

「うるさいですよ!人が折角寝てたのに...どうしたんですか、そんな驚いた顔して」

 

「は、柏!?」

 

「柏ですけど何ですか?」

 

なんとそこには意識不明の筈の柏がキレながらいた

 

「おい蘭。どういうことだ」

 

「ちょっと待って!あたしも知らないよ!?本当に今まで意識が戻ってなかったんだって!」

 

「2人とも何を話してるんですか?意識が戻らなかったって、ちょっと気絶して寝てただけでしょう?」

 

さも意味が分からないと言った顔をしながら首をかしげる柏。人の気も知らないで腹立つなこいつ

 

「お前丸々2日寝てたんだとよ。柏だけ意識が戻らないってこちとら心配してたってのに...」

 

「2日!?それじゃあ友希那さんは...」

 

「あぁ。今も捕まってる。翔も軽く怪我してるけど大したものじゃない。華蓮さんも無事だ。怪我はしてるが」

 

「そうですか...私が非力なばかりにすみません」

 

「お前はよくやったよ。今は身体を休めとけ。柏もこれ食え。果物たくさん、最高」

 

「いいんですか?」

 

「うん。食べていいよ」

 

にしてもどうするかなぁ。明日までに記憶を取り戻すとかほぼ無理だし、かと言って何もしなければ殺されるだけだし

 

「ちょっと華蓮さんの所行ってくる。あの人は起きてんだろ?」

 

「うん。多分リサさんがいると思うよ。あとは巴とあこも」

 

「了解。蘭、見舞いありがとな」

 

「......///」

 

柏も目を覚ました。でも、あの怪我では暫く動けないだろう。比較的軽傷な俺と華蓮さんで作戦考えとかねえとな

 

 

 

 

蘭side

 

 

 

奏斗が病室を出て、柏とあたしだけになった。柏はさっきまで寝てたというのに呑気にあたしが持って来た果物を食べている

 

「ねぇ、いつ起きたの?」

 

「本当にさっきですよ。花瓶が割れる音ですっかり目が覚めて、私的には数時間の睡眠だったので邪魔した腹いせに怒鳴り込もうとしたら...」

 

「...なんかごめん。柏の容体を話したら奏斗がキレちゃって」

 

「あの人も失ってばかりの人生でしたからね。自己嫌悪に陥ってしまったのでしょう」

 

確かに、奏斗はどれだけ失えばいいんだよと言っていた。彼が今までどれだけのものを失ったのか、あたしには計り知れない

 

「蘭さんはこの世が何で回っていると思いますか?」

 

「え?」

 

突然の質問にあたしは反応できず、その場で黙り込んでしまった

 

「いきなりすぎましたね。大体の人はお金だのと言うでしょう。だけど、実際は違う」

 

「そうなの?」

 

「奪う、奪われる。囚える、囚われる。従う、従わせる。する、される...肯定と否定を繰り返し、私たちは失わないように戦ってばかりいる」

 

「この世は何かを失うことで回っているんですよ」

 

「残酷だね。守りたいものもいつかは失わきゃならないなんて」

 

「えぇ。人は失って初めて大切なものに気付く。それに気付いた人はそれを糧に変わっていく。何かを失わない限り人は変われない」

 

「失っていくしかないこの世界で唯一の希望は、繋がること。自分の鼓動が、生きた時間が、無駄では無かったと、思えること。希望とはそれだ」

 

「誰かを守るというのは本当に難しい。でも、その想いだけは尊いと思うんですよ」

 

柏の言葉にあたしは耳を傾けた。その言葉はまるで奏斗や咲夜たちの人生、想いをそのまま語っているようだった

 

「これは私が大好きな漫画の言葉です。何度も何度も何かを失い、1度は死を選ぶもかっこ悪くても生きようと決意する。少し私たちに似ているなと思ったんです」

 

「凄く共感できるかな。あたしは失うのが怖くて殻に閉じ籠ってた。だからかな、現実から目を背けてばかりなのは」

 

「まぁ所詮これは私の主観にすぎません。蘭さんには失う前に気付いて欲しいと思ったから話しただけです」

 

「ありがとう。お陰で少しだけ心が軽くなった気がする」

 

「それならよかったです。果物いただいたお礼に奏斗さんとのオススメデートスポットを教えましょうか?」

 

「詳しくお願いします」

 

奏斗とのオススメデートスポット?そんなの聞くしかないよね。柏に感謝

 

「全く...お兄様もそうでしたが、鈍感にも程があります。しかもそれに気付いていないとか、話にならない」

 

「あはは...あたしも結構頑張ってるんだけどな...」

 

「もうさっさと告白したらどうですか?モタモタしてたら氷川さんに盗られますよ?」

 

「!?」

 

告白って...あたしにできるかな?なんて言えばいいのかすら分からないのに

 

「こっちにも論外いましたね。この際はっきり言いますけど、奏斗さんが1番信用しているのは私たちを除きおそらく蘭さん、貴女です」

 

「え、あたし?」

 

「気付いてないんですか?人のこと言える立場じゃないですよ貴女。でなければ貴女が見舞いに来てあんな顔しませんよ」

 

「そ、そうなんだ...よかった」

 

「その点では友希那さんの方が分かってましたね」

 

「は?」

 

湊さんの方が分かってる?音楽以外興味無しのあの人より酷いってこと?何それ腹立つ

 

「本当に友希那さんのことライバル視してるんですね...目指すものが違うのに比べても意味無いでしょうに」

 

「それはそうだけど...なんか悔しい」

 

「今日練習は?」

 

「無いよ。CiRCLEボロボロだし」

 

「そういえばそうでしたね。よくよく考えれば私たちのせいじゃないですか」

 

「そうなるね」

 

「まぁ、どうせ月読命の連中がとっくに直してますよ。何せ弦巻をも超える財閥ですから」

 

「嘘でしょ...」

 

「行きますよ。玉座に輝いた本気の歌声。貴女にもお見せします」

 

「いいの?」

 

「友希那さんと張り合いたいのでしょう?それとも、ついてこれるか不安ですか?」

 

不安?今1番言っちゃいけないこと言ったよね?いいじゃん、やってやろうじゃん

 

「教えて、王の、柏の本気」

 

「分かりました。それでは行きましょ...?」

 

「柏!?」

 

柏が立ち上がると急に顔から倒れてしまった。顔、痛そうだなってそうじゃなくて!

 

「ちょ、大丈夫!?どうしたの!?」

 

「...よくよく考えれば、私今大怪我してるじゃないですか。記憶を辿るとあの日手足折られた気がするんですよ」

 

「へ...」

 

「つまり今私の身体はボロボロな訳で、その状態で走り込んで来たとすると...」

 

「さっさと病室戻れ!あんたはまともだと思ってたのに実際はバカなの!?」

 

「失礼ですね!貴女よりは100倍マシです!」

 

「中学生のくせに生意気な!あたしよりでかいのつけといて!」

 

「ちょ、何処触ってるんですか!貴女覚えといてくださいよ!回復したら半殺しとして骨103本折りますからね!」

 

「やれるもんならやってみな!」

 

「殺す!」

 

...しまらないなぁ。この後奏斗と華蓮さんにめちゃくちゃ怒られた

 



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第72話

遅れてすみません。早速本編どうぞ


友希那side

 

 

 

CiRCLEでの激闘から3日。私は極普通のマンションで監禁されていた。特に縛られているとかは無く、外出するなと言われているだけ。翔の母親が出かけるのはご飯の材料を買いに行く時だけでそれ以外は基本マンションの部屋にいる。買い物に行っている間に抜け出せばRoseliaに被害が及ぶ。そう脅されているため何もできない

 

「随分不機嫌そうな顔ね。特に不自由は無いでしょうに」

 

「この状況で機嫌が良かったらおかしいでしょう。目の前で殺し合いが始まって平気でいられる人なんてそうそういないわよ」

 

「ま、それもそっか。今日は咲夜を呼び出してあるから、楽しみにしてなさい。貴女の目の前で咲夜を殺してあげるから」

 

「っ!?ふざけないで!咲夜を殺し屋の道に引きずり込んだ挙句、気に食わないという理由で彼を傷つけた貴女が、今度は彼を殺す?冗談じゃないわ!」

 

こいつだけは許さない。私の大切な人を、散々傷つけたのだから。それだけでは足らず、今度は殺すと言いした。イかれてる

 

「私は真面目よ。あの子たちが裏切ったせいでめちゃくちゃになったもの。10年分の報いは受けてもらわなきゃ」

 

「報いを受けるのは貴女よ。彼は絶対に負けない」

 

私にできることは彼を信じることだけ。何もできないのはもう嫌なんだ。現実的には何もできないだろう。でも、彼を、咲夜の復活を信じることはできる

 

「その態度もいつまでもつかな...まぁいいわ。予定の時間までまだあるから、それまでゆっくりしてなさい」

 

私は彼を信じる。Roseliaのマネージャーを、私の想い人を、死神を。だから...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を助けて、咲夜

 

 

 

 

 

華蓮side

 

 

 

「じゃあ今から友希那ちゃん奪還作戦を話すわよ」

 

「了解」

 

私の病室にいつものメンバーと彗人さんを集め会議を開いた。相手はあのイかれお母さんだ。無計画で行ったら普通に死ぬ

 

「まずは翔だけど、あんたは向かってきた敵だけ殺せばいいわ。無駄な体力使ってお母さんと殺り合う時に疲れてたらどうしようもないから」

 

「分かった」

 

「私と奏斗君でできる限り翔の周りの連中を仕留める。敵にバレないようにナイフと銃メインで使うわよ。しっかり首元狙ってね」

 

「了解です」

 

「最後に柏。貴女は彗人さんと一緒に裏口から潜入。見張りとかは全員殺して構わないわ。彗人さんには音を最小限に抑えた拳銃3つくらい渡しとくから、あと2人銃の扱い上手い奴に渡しといて。貴女もナイフで首元狙って一瞬で仕留めて。そして翔とお母さんが戦ってる間に友希那ちゃんを救出して」

 

「分かりました」

 

「万が一翔以外の誰かの存在がバレたらどうする?」

 

「そうなったら強行突破しか無いわね。1人でもバレたらインカム使って連絡すればいい」

 

「でも、それだと湊が殺されかねないんじゃ」

 

「友希那ちゃんを殺せば私たちを縛るものは無くなる。言い方は悪いけど、そうすれば私たちは自由に暴れられる。幾らお母さんでも、私たち全員が本気でかかれば勝てない」

 

友希那ちゃんには悪いけど、今回は彼女を利用する。人質にとられている分、向こうにも制限がかかるからそれを狙うしかない

 

「ざっとこんなところかしら。他に何か質問はある?」

 

無言でこちらを見つめる皆を見る辺り、異論はなさそうね

 

「翔が呼び出されているのは2時間後の午後3時。それまでは各自身体を休ませましょう。30分前になったら此処を出るからね。あと、そこで盗み聞きしてる何人か、出てきなさい」

 

私が言うとドアの向こうからRoseliaとAfterglowが出てきた

 

「お前ら何やってんのさ。まさかとは言わねえが連れて行けとか言うんじゃ無いだろうな?」

 

「そのまさかよ。琉太、私たちも連れて行って」

 

「貴女たちはバカなのですか?今回は体育祭の時とは訳が違うんです。危険すぎます」

 

「危険なのは十分分かってる。でも、友希那が捕まってるのに何もしないなんてRoseliaとして、幼馴染としてアタシはできない」

 

「お願いします。なるべく迷惑はかけないようにするから...」

 

ハァ...本当にこの子たちは面倒な性格してるわね。頭痛くなってきたわ

 

「...分かったわ。その代わり、翔以外の3人の誰かと一緒にいること。これが条件よ」

 

『はい!』

 

「ハァ...紗夜に蘭、モカのギター組は俺と一緒にいろ」

 

「分かったわ」

 

「ではリサさんとひまりさんのベース組は私といてください。白金さんとつぐみさんキーボード組は彗人さんといてください」

 

「じゃあ宇田川姉妹は私が受け持とうかな。2人とも絶対に私から離れないでね」

 

作戦は決まった。あとは実行するだけ。そして、咲夜の復活を祈るだけ

 

「皆、絶対に友希那ちゃんを助け出すわよ!」

 

『はい(おう)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

翔side

 

 

 

 

ついに約束の時間がやってきた。場所は少し離れた場所にある廃ビル。廃ビルにしては少し綺麗な辺り、連中が隠れ家にしてたんだろう

 

「今から中に入る。皆も準備頼むぞ」

 

『『『了解』』』

 

確認をとった後、俺は意を決して中に入った。静寂に包まれた中は何処か物々しさを感じる

 

「よく来たわね。待っていたわ」

 

後ろから声がして振り返るとそこには姉さんによる俺たちの母親が立っていた

 

「言われた通り来たぞ。友希那は何処だ?」

 

「この上にいるわ。着いて来なさい」

 

此処で無駄な抵抗をしてやられては意味が無いため、素直に命令に従う。階段を数階分上がり目的地であろう部屋の前に来たところで何かを感じた俺はとっさにバク転で躱すと、さっきまで俺がいたところにナイフが数本刺さっていた

 

「やっぱりこのくらいじゃやられてくれないか...流石に身体は感覚で覚えてるみたいね」

 

「ふざけてんのか。さっさと友希那を返せ」

 

「いるじゃないそこに」

 

「翔!」

 

「友希那!大丈夫か!?」

 

「私は大丈夫よ!それよりも今は貴方が...」

 

「さ、再開もできたことだし...」

 

詩織はそう言うと指を鳴らした。その瞬間、四方八方から敵が出てきた

 

「死ね、咲夜。やれ!」

 

彼女の合図で一斉に襲いかかって来た。俺も同時に刀を抜き応戦する

 

(数が多過ぎる...このままじゃすぐに殺られる...!)

 

その時、以前受けた傷が俺を襲った。そしてそのまま体制を崩し敵の内の1人から腹に蹴りを喰らった。枝が折れたような音がした辺り、ヒビは確実に入っただろうな

 

(やば...意識が...)

 

やがて俺は深い闇に落ちていった

 

 

 

 

 

 

『おーい、俺を救うんじゃなかったのか?』

 

「うるせえな。んなこと言ったってあれは無理だろうよ...」

 

『そうか?あの程度なら俺の鎌使えば一瞬なのに』

 

「そんなもん持ってんのかよ...頭おかしすぎるわやっぱり」

 

『んで?お前はこのまま終わっていいのか?少なくとも俺は嫌だよ?』

 

「そりゃあな。友希那をまだ助け出してねえからな。終われるわけねえだろう」

 

『本当はあの体育祭の日、死ぬつもりだったんだよ』

 

「え、俺死にたかったの?」

 

『あぁ。だが、中途半端に生き残ってまた友希那を危険な目に遭わせちまった。だから、今度こそ友希那を守って...俺は人知れず死にたい』

 

「それが、お前の望みなのか?」

 

『あぁ』

 

お前の望みは眠りと破滅の夢だけ。虚しいものだな。いつの間にか、欲しがっていいって勘違いしてた

 

『できるか?』

 

「...あぁ」

 

あの日目覚めてからの短い期間が走馬灯のように蘇ってくる。以外と楽しそうにしてたんだな...

 

 

『おやすみ、翔。お疲れ様』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は、もういい

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

「翔!しっかりして!」

 

お腹に蹴りを受けた彼はそのまま動かなくなってしまった。敵は彼を取り囲みトドメを刺そうとしている

 

「案外あっけなかったなぁ...もう殺していいよ」

 

『了解』

 

「待って!私はどうなってもいい!彼を殺さないで!」

 

「はい黙った。その目で大好きな人が死ぬ瞬間を焼き付けておきなよ」

 

嫌。やめて...お願いだから...

 

「やれ」

 

彼女の指示により全員が一斉に刀を振りかぶる

 

「翔!」

 

彼が殺される。そう思ったその瞬間

 

 

 

「ただまー」

 

 

ズバババババババババ!

 

 

彼を取り囲んでいた連中が一瞬にしてバラバラに切り裂かれ、辺りに血が舞い離れていた私にまでかかった。何が起こったのか分からなかった。詩織の方を見ると私とは正反対でニヤリとしていた

 

「おやおや...」

 

彼女の視線の先には意識を失っていた筈の彼が立っていた。先程とは雰囲気がまるで違う。私はこの雰囲気を感じたことがある。彼はもう、神道翔ではない

 

 

 

 

 

「ごちゃごちゃ...うるせえんだよ」

 

 

死神の復活だ

 




読了ありがとうございました

ついに復活した死神。因縁の相手との最終決戦、お楽しみに


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第73話

ついに最終決戦、始まりです


()()side

 

目が覚めると、目の前には刀を振りかざした何人かの知らない連中。あの野郎、変なタイミングで寝やがって...

 

「何年振りだお袋?随分老けたじゃねえか」

 

「黙りなさい。あんたたち、咲夜を殺しなさい!」

 

お袋が指示すると今度は15人程出てきた。その程度の数なんてな...

 

「邪魔なんだよ。とっとと失せろ」

 

先程同様、斬りかかって来た連中を八つ裂きにしてやった。やっぱり愛用の鎌の方が殺ってて楽しいな

 

「兄さん!友希那さん!」

 

「?」

 

声のした方を見ると柏と彗人さんが走り込んで来た。兄さんと呼ぶ辺り、記憶が戻ってることに気付いてないんだな。その手には愛用の鎌が持たされていて、少し重そうな顔してる。いや彗人さん持てよ

 

「久し振りだな、柏。若干見違えたか?」

 

「え...!?まさか...!」

 

「そのまさかだ。改めて久し振り、柏」

 

「お兄...様...うあああぁぁぁ!」

 

「何だ。戻ってたのか」

 

柏は大声で泣き出し飛び込んで来た。あの、今戦ってる最中だから離れてくれると助かるかな。あと肋折れてるから締め付けられると痛いんだよね。あと彗人さん、それ酷くね?

 

ドカアアアァァン!

 

「ヒョワッ!?」

 

突然後ろの壁が爆発を起こし、素っ頓狂な声を出してしまった。え、何普通に怖いんだけど

 

「あー怖かった!やっぱり手榴弾なんて使うもんじゃないわ!」

 

「誰のせいだと思ってるんですか!?貴女の方向音痴のせいでこうなってるんですよ!」

 

何と爆発の煙から出て来たのは華蓮と奏斗。こいつら手榴弾まで持ってやがったのか...何に使うつもりだったんだ。氷川と蘭とモカなんてげっそりしてるけど

 

「お前らな...こんなところまで来て喧嘩はどうかと思うぞ。てか華蓮はいつになったら方向音痴治るんだ?」

 

「え、華蓮って...貴方、まさか咲夜!?」

 

「おひさー。奏斗も久し振り」

 

「おー...本当に記憶戻ってる。久し振り、咲夜」

 

つうかよく見るとRoseliaとAfterglowの皆までいるじゃん。あ、そういえば着いて来てたんだった

 

「皆も随分会ってない気がするな。ま、挨拶は後だ。皆は彗人さんについて友希那の介護を頼む。奏斗、他に敵はいるか?」

 

「此処に来るまでの敵は全て殺した。柏たちも同じだ」

 

「成る程。てことは...残るはあんただけだ」

 

「......」

 

無言でこちらを睨みつけるお袋。若干焦ってはいるみたいだな。最初から部下程度じゃ俺たちに勝てないと分かっているだろうに。俺の記憶が戻ったせいか

 

「柏、お前は俺たちについてこれるか?」

 

「何年お兄様と稽古をして来たと思ってるんですか?この程度、何ともありませんよ」

 

「悪かった。手を血で染めさせちまって」

 

「構わないと言ってるでしょう。覚悟はして来ましたからね。そろそろ殺りますよ。あの人も待ちくたびれてます」

 

「だな...」

 

「私も一太刀はやらせてね」

 

「俺にも頼むぞ」

 

さぁ、初めてのXahar全員での仕事だ。友希那を傷つけた分はしっかり払ってもらおうか

 

「お寒い覚醒劇をありがとう。さてさて、昔の貴方たちとどっちが強いかなー」

 

「寒いのはあんただろ。死ねよ」

 

友希那が感じた痛み、思い知れ!

 

「Xahar、Let's go!」

 

「「「おう!」」」

 

 

奏斗side

 

 

咲夜の記憶が戻ったことにより、形勢は大逆転。俺たちが押していた。このままなら勝てる

 

(詩織さん...貴女だけは絶対に許さない。昔のことも含めて全て。だけど、蘭を危険な目に合わせたことだけは何があろうとケジメをつけさせてやる)

 

昔からお馴染みのコンビネーション。今はそれに柏が加わりより明確な殺意が表れた。人を殺すためだけのチームワークとでも言うべきか

 

『......』

 

今の俺たちの間には言葉などいらない。アイコンタクトのみの意思疎通。それだけで十分、互いが何をしたいのかが分かる

 

(柏の奴、気配消すの上手いな。詩織さんですら反応できないなんて)

 

思ったよりも柏が強かった。長年咲夜に鍛えられて来ただけはあるが、俺たちについてこれるとは思わなかった。咲夜は正面から対峙、俺と華蓮さんで横から動きを封じる。今はそれに柏の気配を消した奇襲攻撃が加わった

 

その時、柏が投げた数本のナイフが詩織さんの膝の関節に刺さった。その隙を逃さず俺と華蓮さんは腕を切り落とす。もう反撃はできない

 

「咲夜!いけ!」

 

「咲夜!」

 

「お兄様!」

 

「りょーかい!」

 

咲夜が巨大な鎌を振りかぶる

 

「俺たちが受けたことはもうどうでもいい...だがな、友希那やモカたちを巻き込んだことだけは絶対に許さねえ!死ね」

 

咲夜は彼女の頭を切り落とした。その光景はまるで死神が処刑を行っているかのような、そんな感じだった

 

「ハァ...ハァ...終わったぞー!!!!」

 

『しゃあああぁぁ!』

 

「アハハハ!何これあっさりすぎない!?もっと苦戦するかと思ったんだけどー!」

 

「咲夜の記憶が戻ったからでしょ!やっぱお前バケモンすぎ!アハハハ!」

 

「柏だろ!?此奴気配消すの上手すぎ!何処にいるのかさっぱり分かんねぇ!」

 

「ちょ、皆さん笑いすぎですって...ククク」

 

何か皆に引かれてる気がするけど、まぁいいよな。お腹痛え

 

「ククク...あー笑いすぎて折れた肋がやばそう。奏斗ちょっと肩貸して」

 

「了解。それにしてもよくこのタイミングで記憶戻ったな。持ち前の運の良さが働いたか?」

 

「みてえだな。彗人さん、後片付け頼んでいいか?それと俺らの武器もまたしまっておいてくれ」

 

「既に手配してある。お前らは帰ってゆっくり休め。今度何か奢ってやるよ」

 

「俺はサラダバーで」

 

「俺は串カツ食べ放題」

 

「私スイーツバイキングー!」

 

「私はお寿司が食べたいです」

 

「お前らせめて一つに絞りやがれ!俺の給料飛ばす気か!」

 

見事に食べたい物別れたな。咲夜は相変わらずサラダバーだし。本当に戻ったみたいで良かった

 

「お前らも帰るぞ。友希那は念の為月読命家の病院で2、3日入院だ。他の奴らも怪我は無いみたいだし、明日から学校あるんだから休んどけ」

 

唯一変わったところと言えば気遣いができるようになって素直になって、表情が柔らかくなったところくらいか。これも、彼奴らのお陰なのかな

 

「奏斗、お疲れ様。カッコよかった」

 

「蘭か。人を殺すところがカッコイイというのはおかしいぞ。まぁありがとな。俺たちも少しだけ入院するからまた果物頼む」

 

「分かった」

 

ようやく、全てが終わった。あとは蘭にこの想いを伝えることと...

 

(咲夜、死ぬことだけは許さねえからな。ちゃんと生きろよ)

 

これから死ぬつもりであろうバカ死神を生かすことくらいか

 

 

 

 

蘭side

 

 

 

湊さん奪還作戦の次の日。いつも通り学校に行って適当に過ごした後、あたしはすぐに奏斗のところへ行った。勿論、果物も忘れずにね。でも、今日の目的はそれだけじゃない

 

「奏斗大丈夫かな?昨日あたしを守ろうとしてちょっと怪我させちゃったし...」

 

そう。実は奏斗はまた怪我をしていたのだ。そこまで深いものではなかったが、それでも痛い筈だ。病院に着いて面会の手続きを済ませ病室へ向かう。中には何かの小説を読んでいる奏斗がいた

 

「お、蘭じゃねえか。ありがとな」

 

「大丈夫。それより、昨日の傷は大丈夫?」

 

「軽く切られたくらいだし何ともねえよ。慣れてるからな。昔やらかして両足の骨折られた時に比べたらマシだ。

 

「ヒッ...」

 

話を聞いただけでゾッとする。両足折られたらそこからどうやって生活するの?

 

「そんな怖がらなくてもいいわ。それより今日の果物は...」

 

「はいはい。今日は洋梨とブドウ持って来たから、洋梨に皮剥けるまでブドウ食べて待ってて」

 

「あざす」

 

本当に果物好きだね。子供が面白そうなおもちゃ見つけた時の顔してるもん。そんな彼の顔を見てるだけであたしの心は満たされていく

 

「退院はいつになるの?」

 

「明日にはしていいって。湊も怪我ないし明日には退院できる。咲夜と柏は怪我が多いからあと3日くらいはいるかな。華蓮さんは脱走した」

 

「はい?」

 

いや何してんの?此処に来た時看護師さんが妙に騒がしかったのはそのせいか。Xaharってやっぱり自由だね

 

「俺の見舞いもいいけど、湊のところも行ってやれよ。今日はRoseliaの連中皆用事あって来れないらしいから」

 

「そうなんだ。後で行っておく。はい、洋梨剥けた」

 

「いっただっきまーす」

 

物凄い勢いで梨とブドウが減っていく。お腹空いてたのかな?まぁいいや。此処に来たもう一つの目的を果たさなきゃ

 

「...奏斗、少し話し聞いてもらっていい?」

 

「ん?ひひお(いいぞ)」

 

飲み込んでから喋れ

 

「色々あったけど、あたしたちを守ってくれて改めてありがとう。奏斗と出会って半年になるけど、まだ知らないことの方が多いね」

 

「まぁ最近になって話したからな。急にどうしたんだ?」

 

「最初はこの感情が何なのか分からなかった。でも、湊さんに言われてこの気持ちを自覚して、それから色々頑張って...本当の奏斗の姿を知れて」

 

「蘭?」

 

伝えるんだ。この想いを。長い間溜めた気待ちを今、全部ぶつけるんだ

 

「あたしは...宮本奏斗、貴方が好きです。あたしと、付き合ってください」




ついに決着がつき、全てが終わった咲夜たち。残り少ないですが、今後もよろしくお願いします


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第74話

あと何話で終われるかなぁ...友希那の誕生日までに終わりたいなぁ


奏斗side

 

 

「あたしは...宮本奏斗、貴方が好きです。あたしと、付き合ってください」

 

その言葉を理解するのに一体どれだけの時間がかかったのだろう。1秒が何時間というとてつもない長い時間のように感じる。何を話せばいいのか、全く分からない

 

「ごめんね。急にこんな話しちゃって。でも、あたしは本気だから。奏斗にも本気で答えてほしい。返事も今じゃ無くていいから」

 

何故、この場で答えられないのだろう。自分の想いをそのまま言えばいいだけなのに、その言葉を発することができない

 

「じゃああたしは湊さんのところに行くね。奏斗も気まずいだろうし。返事、待ってるから」

 

「...あぁ」

 

呆れた。あれだけ考えてこれしか言えないとか。やっぱ悩んでんのかな。蘭たちから離れるべきなんじゃねえかって

 

組織の残党は粗方始末したし、襲われる危険性は減った筈だろう。だが、完全に消えたわけじゃない。蘭のそばにいる資格が俺にあるのか、分からない。その時、俺のスマホにメールが届いた

 

「誰だこんな時に...!?」

 

『明日の放課後CiRClEに来てください。一緒にセッションしましょう。そこで大事なお話があります』

 

相変わらず堅苦しい文面。送り主は紗夜だった

 

「どうすりゃいいんだか...」

 

俺の呟きは誰にも聞こえない

 

 

 

友希那side

 

 

無事に退院することができ、久し振りに学校に行った。クラスの人にはしつこく事情を聞かれたが、唯一知っている大和さんがクラスを宥めてくれた。今日はRoseliaの練習も無いし、まだ入院している咲夜のところに行こうかしら

 

「ゆーきな。お昼ご飯一緒に食べよー」

 

「えぇ。準備するから少し待ってて」

 

リサの誘いを受けすぐに支度をする

 

「屋上でいいわよね?少し奏斗と話したいことがあるから」

 

「およ?浮気は良くないよゆーきな」

 

「浮気じゃないわよ!///そもそもまだそんな関係にすらなれてないわよ!」

 

「へぇ〜。()()ってことはなる予定はあるんだね?」

 

「っ〜〜〜〜〜/////」

 

リサにからかわれながらも、私たちは屋上へ向かった。屋上には既にAfterglowと奏斗がいてお昼ご飯を食べていたのだが

 

『......』

 

美竹さんと奏斗の様子が明らかにおかしい。2人とも無言でご飯を食べ、チラチラとお互いを見てはすぐに視線を逸らしている

 

「...何があったか聞いてもいい?」

 

「えっと、その...2人ともちょっとこちらへ...」

 

羽沢さんに促され私とリサは屋上の端へと移動した

 

「それで?どうしたの?」

 

「実は...蘭が奏斗に告白したらしいんですよ。それでお互い気まずくなってるというか」

 

「「は?」」

 

美竹さんが...告白?異性に付き合ってくださいとか言うあの告白のことかしら?

 

「成る程ね〜。それはしょうがないかなー...アハハ」

 

リサも苦笑を浮かべながら話しているが、私は最早話すことすらできない

 

「どうやら昨日お見舞いに行った時に告白したらしくて、その場の雰囲気やらでお互い恥ずかしくて...」

 

「そう...とりあえず、奏斗と2人で話がしたいのだけれど、大丈夫かしら?」

 

「本人さえよければ」

 

奏斗には悪いけど、今回は真面目な話だから遠慮してる時間は無い

 

「奏斗、ちょっといいかしら?」

 

「ん?あ、あぁ。構わんが」

 

許可は取れたのだが...美竹さんが物凄い形相でこちらを睨んでくる。私の好きな人なんて知っているでしょうに...

 

「彼は盗らないから安心して。奏斗、ちょっとこっちへ来て」

 

奏斗を連れて校舎内へ一旦戻る。屋上手前の扉の前で止まると、早速話を切り出した

 

「要件は1つだけよ。咲夜の自殺を止める方法」

 

「...やっぱり気づいてたか。伊達に咲夜を想ってるってわけじゃ無いわけか」

 

「うるさいわね///...それで、どうすればいいの?」

 

「それが分かってたら苦労しねえよ。だが、死にたいという気持ちが本心ではないことだけは確かだ。大方、湊たちに迷惑をかけたくないと思ってんだろう。俺も同じだ」

 

「だから、美竹さんの告白の返事に困ってるいるのね?」

 

「し、知ってんのか?」

 

「さっき聞いたわ。それに、昨日お見舞いに来てくれた時様子が少し変だったから」

 

「あっそう。それより咲夜の件だが...止められるとしたらお前しかいない」

 

「何故?貴方たちでは止められないの?」

 

「できるならとっくに実行している。さっきも言ったが、本心ではない筈だ。今彼奴が最も信頼を寄せている人間、つまり湊が咲夜の存在が迷惑ではないこと、生きていいということを分からせればなんとかなると思う」

 

「私が...」

 

私にそんなこと、できるのだろうか?私の言葉が彼に届くのだろうか?途端に不安に駆られる

 

「安心しろ。あの源十郎さんの意思を捻じ曲げたんだ。お前ならできる。咲夜のこと、よろしく頼むぞ」

 

「...えぇ」

 

「ついでに告れば?場の雰囲気もあって成功するかもしれないぞ?」

 

「...考えておくわ」

 

それもいいかもと思ったが、今はそんなことを気にしている暇は無い。彼にこの命が救われたように、今度は私が彼を救うんだ。約束を放棄して死ぬなんて許さない

 

「覚悟してなさい。咲夜」

 

私はその決意を胸に皆のところへ戻った

 

 

 

咲夜side

 

 

 

「はい俺の勝ちー。なぁ、そろそろやめないか?多分お前一生俺に勝てないと思うんだけど」

 

「もう一回お願いします!次は勝てる気がするんです!」

 

あと2日は入院しろと言われて暇だった俺は、柏とチェスをやっていた。柏の怪我は誰よりも重く完治までに半年弱かかると言われてしまった。流石に骨折られてんのにあれだけ動けばそうなるか

 

「お前なぁ...幾ら足が動かせないからって苦手なチェスを挑むのはどうかと思うわ。今までで一度も勝ったこと無いじゃん」

 

「うっ...せ、せめてもう一戦...」

 

かれこれ多分20戦くらいやってるだろうが結果は全て俺の勝ち。第一に、柏はボードゲームがめちゃ弱い。華蓮や奏斗を混ぜてやっても必ず負ける。トランプは結構強いけどな

 

「ハァ...あと一回だけだぞ。俺も疲れたし寝たい」

 

「ありがとうございます」

 

そしてもう一戦だけやったが勿論俺の圧勝だった。トランプ強いんだからトランプやればいいのに...

 

「お疲れ様。お前は一番怪我が多いんだしゆっくり休んどけ。俺も明日には退院して学校行くから」

 

「流石にそこまで寂しがり屋じゃありませんよ。付き合ってくれてありがとうございます」

 

「...そうか。じゃあな」

 

「待ってください」

 

「?」

 

「お兄様が何を考えているのか、これから何をしようとしているのか。私には分かります。それが貴方の選択だというのなら()()止めません。ですが、貴方を必要としている人はたくさんいるということを知っておいてください」

 

「...了解」

 

悪いな。誰が何を言おうと、俺は消えなくちゃならない。俺はもう十分生きた。本来ならありえなかった日常を過ごせた。それだけで十分だ

 

「あとは頼みますよ。友希那さん」

 

 

 

 

紗夜side

 

 

 

 

秋も深まり、周りの草木が黄色に染まってゆく。若干肌寒さも感じるこの時期。私はCiRClEの前のカフェテリアで奏斗を待っていた

 

昨日お見舞いに行けなかった私はメールで彼を呼び出した。理由は彼と純粋にセッションがしたかったのともう一つ、彼に私の想いを伝えるため

 

「...寒いわね。もう少し厚着してくればよかったかしら」

 

中で待てばいいと思う人もいるだろうが、呼び出した私が呑気に中で待つのは気が引ける。わざわざ来てくれるのだから、私が楽する訳にはいかない

 

「お待たせ、紗夜。遅くなった」

 

そんなことを考えていた時、彼はタイミングを見計らったかのように現れた。これからセッションするというのに緊張で身体が固まってしまう

 

「私も来たばかりだから大丈夫よ。呼び出したのは私なのだし、先に来るのは礼儀というものよ」

 

「相変わらずだな。さ、中に入ろう」

 

彼と一緒に中に入りスタジオのチェックインを済ませる。慣れた手付きでギターのチューニングを済ませお互いの調子を確認する

 

「大丈夫そうだな。何弾く?」

 

「そうね...Determination Symphonyでいきましょう。奏斗はコーラスをお願い」

 

「分かった。手は抜かねえぞ」

 

「上等よ!」

 

スマホから曲の音源を流しそれに合わせてギターを弾く。暫くギターを弾いていない奏斗だが、その程度では彼の実力は全く衰えることなく王者としての音を出していた。私もそれに着いて行くように弾きながら歌う。曲はあっという間に終わり、互いの顔を見合わせて小さく微笑んだ

 

「やっぱり楽しいなギターは。少しだけ罪を忘れられる。ずっと弾いていたいと思える」

 

「私も、だんだん心の底から音楽を楽しむことができるようになってきている。自分だけの音が、少しずつできあがってる感じがする」

 

いつまでもこの時間が続けばいいのに。不可能な願いをどうしてもしたくなる。そのくらい彼と過ごす時間は楽しい

 

「次は何弾く?適当にカバーでも...」

 

「その前に、私の話を聞いてくれるかしら?」

 

「...あぁ」

 

もう後戻りはできない。全てを彼にぶつける

 

「私の性格上上手い言い回しはできないから単刀直入に言うわ。私は貴方が好き。私と付き合ってください」

 

「...薄々気づいてたんじゃないか?俺が昨日、蘭に告白されたこと」

 

「えぇ。私と会った時若干緊張しているようだったから、何となく察したわ。貴方のことだし、また危険な目に遭わせるかもと思って答えは出していないのでしょう?」

 

「当たりすぎてて怖い」

 

「確かに危険な目に遭うこともあったけど、そんな理由で曖昧にしないで。私も美竹さんも、覚悟の上で貴方に告白した。貴方も覚悟を持って正直に答えてほしい」

 

「...少しだけ時間をくれ」

 

「分かったわ。聞いてくれてありがとう。さぁ、続きをしましょう」

 

後悔は無い。やることはやった。たとえ選ばれなくても、私は美竹さんを祝福できる。今なら、そんな気がする



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第75話

長らくお待たせして申し訳ありませんでした!


咲夜side

 

 

「やっと着いた...相変わらず此処に来るのしんどいな...」

 

苦手な電車に揺られ来たのはあの海辺の別荘。目的はただ一つ。俺と友希那だけが知るあの場所、彼処で死ぬためだ

 

「特に後をつけてる奴もいないし、奏斗たちにも言ってないから今バレることはないだろ。死んだ後も臭わないよう細工しとかないとだし...怠いな」

 

まぁ消息不明になった時点で奏斗や華蓮には近いうちにバレるだろうな。おそらくこの場所に来るだろう。彼奴らの身体能力があればワイヤー銃とか使えばあの場所にも行けるだろうし、遺書残しておけば後処理してくれる...筈。分からんな、彼奴らブチ切れて仏さん切り刻んできそう

 

「...さて、さっさとやりますか」

 

俺は屋敷に入りあの場所へ向かった

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

人が入ってくる気配を感じた。おそらく咲夜だろう。やっぱり此処に来た

 

「...誰もいないよな。うん。てかいるわけない。この場所知ってるのは俺と友希那だけだもんな」

 

そのもう一人が既にいるなんて思ってもいないでしょうね。一か八かの賭けだったけど、当たってよかった。今はクローゼットの中に隠れている

 

私が此処に来るに至った経緯は昨日

 

 

 

 

 

 

「夏合宿の屋敷に行きたい?急にどうしたのよ?彼処に行っても何も無いけど...」

 

華蓮さんを呼び出し放課後誰もいない教室で話していた。彼女も既に退院していて元気になっていた。脱走してこっぴどく怒られたらしいけど

 

「咲夜を止めるためです。私は彼が死のうとしているのを許すつもりは毛頭ありません。貴女が嫌と言っても連れて行ってもらいます」

 

「殺し屋に喧嘩売るとは中々肝が据わってるわね...勿論連れて行くわ。貴女は私たちの希望だから。咲夜を、弟を止めてください」

 

そう言って彼女は頭を深く下げた

 

「任せてください。必ず、彼を止めてみせます。奏斗、柏。隠れてないで出て来なさい」

 

「「!?」」

 

廊下に向けて言い放つと大きな物音がした。数秒後、教室に二人が入って来た

 

「マジかよ...気配消してたつもりだったのに」

 

「友希那さんに見破られるって結構ショックなんですけど...何故分かったのですか?」

 

「なんとなくかしら?最近結構人の気配が分かるようになってきたのよ」

 

「なるほど。いっそナイフ扱いでも「は?」申し訳ありませんでした」

 

「こっちは真面目な話をしているのだけど...それで、貴方たちは私に任せてくれるかしら?」

 

「俺はこの前も言ったからな。柏も異論は無いな?」

 

「勿論です。お兄様を頼みます」

 

準備は整った。後は一週間練った計画を実行するのみだ。お母さんたちにも言っておかないといけないわね

 

「じゃあ今日の夜友希那ちゃんの家に行くわね。これ発信機。これ頼りに家まで車で迎えに行くから」

 

「華蓮さん、車の免許持ってたんすね」

 

「本家に帰ってから遠くなったから緊急で取ったのよ。でもお陰で外出も楽でいいけどね」

 

「ではそういうことでよろしくお願いします。一か八かですけど、多分彼はあの場所に来ます。私たちの思い出の場所に」

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

(何はともあれ予想が当たってよかったわ。彼が死のうとしたタイミングを見計らい飛び出して食い止める。絶対に止めてやる)

 

「これをこうして...完成かな?防腐剤と防臭剤もしっかり染み込ませて、よし!こういう時は手先の器用さに感謝するわ〜」

 

ふざけてるのかしら?今すぐにでも飛び出して殴ってやりたい

 

「んじゃ、友希那には悪いが約束は放棄させてもらう。俺がいなくても頂点に立てよ。Roselia」

 

 

 

プツ

 

 

 

そう言いながら懐からナイフを取り出す彼を見て私の中で何かが切れた。もう我慢できない。許さない。

 

「いい加減に...」

 

「へ?」

 

バンッ!!

 

 

「いい加減にしろ!月読命咲夜!」

 

 

私はクローゼットの扉を蹴破り彼の前に現れた。そしてそのまま彼に向かって体当たりをする

 

「友希那...なんで...」

 

その発言も、その腐った考え方も、全部気に食わない。もう止まらない。この瞳に灯るのは怒りのみ

 

「ちょっと説教よ。咲夜」

 

 

 

咲夜side

 

 

 

「ちょっと説教よ。咲夜」

 

何故此処に友希那がいる?幻覚でも見ているのか?頬を抓ってみるが、視界から彼女が消えることはなかった。現実なのか、これは

 

「人がキレてる時に頬を抓るとはいい度胸ね。話す内容が増えてなによりだわ」

 

「...なんでお前が此処にいる?俺が今日この場所に来ることは誰にも言ってねえ筈だ」

 

「貴方が考えることなんてお見通しなのよ。と言っても、此処に来るかは賭けだったけれど」

 

完全に読まれてる...友希那の奴、最初から俺が死のうとしてることに気付いてたんだ。奏斗や柏、華蓮が手を出してこなかったのは全部友希那に任せるため

 

「やられたな。柏があの日『私は』を妙に強調したように聞こえたが、こういうことかよ」

 

奏斗たちが手を出して来たならまだ戦ってわざと負けて死ぬとかはできた。だが、友希那相手にはそれもできない

 

「面倒なことしてくれたな。お陰で計画がおじゃんだよこの野郎」

 

「随分余裕そうね...そんなに長々と説教がされたいのかしら?」

 

あ、これマジギレしてるやつだわ。多分今までで一番キレてる。下手に喋ったら今以上の逆鱗に触れることになる

 

「それだけは勘弁だな。友希那の前で死ぬのは少しばかり気が引けるんだが、此処を立ち去っては...」

 

「するわけないでしょう。馬鹿なのかしら?そもそもナイフも今持ってないくせに」

 

「何言ってんの?ナイフなら...あれ?ない」

 

おかしいな。作業前に手元にあるの確認して出した筈なのに...

 

「さっき貴方にぶつかった時に奪ったわ。華蓮さんに教えてもらったの」

 

「あんにゃろぉ...!」

 

ヤバイ。完全に詰んでるやつじゃ...いや、まだ一つだけ方法があるじゃねえか。最低最悪な方法が

 

「ナイフを友希那が持ってるんなら丁度いい」

 

「何を...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が俺を殺してくれ」

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

「お前が俺を殺してくれ」

 

彼から発せられた言葉に思わず口角がつり上がりそうになる。何故なら()()()()()()()()()()()()()

 

彼から自殺する手段を奪えば彼の性格を考えると私に殺すように頼んで来る。考えた計画を振り返ると少々危険だがやるしかない

 

(とりあえず最初は動揺しているふりをして、彼を油断させましょう)

 

「そんなこと...出来るわけないじゃない。そもそも私が何の為に此処に来たのか...」

 

「分かってるさ。正直、その気になればお前を気絶させナイフを取り返すことくらい簡単にできる。だが、友希那にそんな手荒な真似が出来るわけがない。それに、自殺だなんてそんなキザなことあまりしたかないからな。だから、お前が俺を殺してくれ」

 

腹が立つ。ここまで怒りを覚えたのはいつ以来だろうか?今すぐにでも彼の顔を殴ってやりたい。だけど、今はその時じゃない。我慢しなくてはならない

 

「友希那には手を汚させてすまないと思っている。だけど、お前にしか頼めない。お願いだ。死なせてくれ」

 

「っ...私が貴方を殺した後はどうするの?」

 

「そこにある箱の中に詰め込んでくれりゃいいよ。それかその辺に埋めるでもいいし、適当に処理してくれりゃいい」

 

そろそろ頃合いか

 

「...一生恨んでやるから、覚悟してなさいよ」

 

「ありがとう」

 

私は手に持っていたナイフを握り締め、彼の目の前に立つ。そして腕を振りかざし彼の心臓に狙いを定める

 

「目は瞑ってもらっていいかしら?ナイフが心臓に刺さるところなんて見たくないでしょう?」

 

「そうだな。よし、いつでもいいぞ」

 

彼が目を瞑ったのを確認すると私は一歩下がった。そしてそのまま腕を振り下ろし......

 

 

 

 

 

咲夜side

 

 

 

 

ナイフが肉に刺さる音がした。きっと死んだんだろうな。その割には痛みとか全く感じなかったけど、即死したのか?

 

「あぐ...く...」

 

今、友希那の声が聞こえたような...いや、そんな筈はない。俺は死んだんだ。目を開けたところで友希那がいる筈が...

 

恐る恐る目を開けるとそこには見慣れた歌姫の顔があった。しかし、表情は強張っていて、何かに耐えているような感じがする

 

 

 

...ポタ

 

 

 

 

「え?」

 

何だ今の音?水が落ちたのか?雨漏りなんてする筈ないしそもそも晴れだった筈。足元を見るとそこには深紅の血の池。だが、それは俺のではない。俺は死んでいない

 

「友希那...おま、なんで」

 

友希那は自分の足を刺したのだ。俺を殺すふりをして、動揺したふりをして、ずっとこの機会を待っていたのだ。彼女は自分に刺したナイフを勢いよく抜いた。そしてそれを投げると

 

 

 

パチィン!

 

 

頬に鋭い感覚が伝わった。それが彼女からのビンタだと気付くのに数秒かかった

 

「本心を言いなさいよ!咲夜!」

 

「ゆき...」

 

「何度も約束したわよね!頂点に立つまで見届けるって!私たちを支えるって!体育祭の日も誓ったわよね!それを今更放棄ですって!?ふざけんじゃないわよ!」

 

「俺...は...」

 

「もう十分生きた?もういい疲れた?悔いはない?ここまで来ると逆に褒めたくなってくるわ!よくそんなくだらないこと考えついたわね!どれだけ近くで貴方を、貴方だけを見て来たと思ってるの!?本心じゃないことくらい分かるわよ!」

 

「たった半年の付き合いだけど、それでも、私にだって分かる!本当の貴方を!嘘偽りのない貴方を!私をここまで惚れさせておいて置いて逝くなんて絶対に許さない!」

 

「何を...言って」

 

「私は...咲夜、貴方が好き。世界で誰よりも、愛してる」

 

「!?」

 

友希那は俺を抱き締め、甘く囁いた。俺はバランスを崩し膝をついてしまった

 

「例え貴方が希望を失っても、世界から嫌われようとも、自分を信じれなくても、私は貴方を愛してる。貴方を信じてる」

 

「だから...生きて。頂点のその先も、私たちを、私を支えて、そばにいて。貴方の存在が私に力をくれる。私には貴方が必要なの」

 

「...生きてもいいのか?生きたいと願っていいのか?こんな俺でも、誰かに愛されていいのか?誰かを愛してもいいのか?」

 

「えぇ。世界が許さなくても私は許す。いつまでも、私は貴方の味方よ。Roseliaのマネージャーは貴方以外務まらない。不安に襲われても分かち合えばいい。壁にぶつかっても一緒に乗り越えればいい。今の貴方にはそれが出来る」

 

「...少しだけ、このままでいさせてくれ」

 

「気が済むまでこのままでいなさい。貴方は一人じゃないから」

 

それから俺は友希那の胸で泣いた。涙が枯れるまで、ずっと




次回の投稿もいつになるかわかりませんがよろしくお願いします!


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第76話

久し振りに週ニ投稿できた...後書きにお知らせがあるのでそちらもお願いします


友希那side

 

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

「あぁ。ありがとな」

 

「そう。よかった...っ!」

 

「友希那!大丈夫か!?」

 

ナイフを刺した足でずっと立っていたが、限界が来てその場に崩れ落ちてしまった。すぐに咲夜が支えてくれたので倒れることはなかった

 

「...ごめん。俺のせいで...」

 

「貴方を止められるならこのくらい安いものよ。申し訳ないけど、暫くは歩けそうにないわね。運んでもらっていいかしら?」

 

「分かってる。すぐに病院に連れて行かねえと」

 

「外に華蓮さんたちがいる筈よ。彼女らに運んでもらいましょう。手当だけしてもらったら家に帰るわ」

 

「了解。親にはどう説明するつもりだ?」

 

そういえば何も考えてなかったわね。此処に来る時にも適当に誤魔化して来たから急に足に大怪我して帰って来たら何て言われることやら

 

「適当にやり過ごすわ。それより、皆にもしっかり謝っておきなさいよ。それと、青葉さんにも。彼女だって気付いていたのだから」

 

「モカにもバレてたのか。明日会いに行くよ」

 

屋敷の外に出ると、華蓮さんと奏斗、柏が出迎えて来た。三人とも安心した顔をしているが、柏だけ若干怒っているのが分かる

 

「ちょっ!友希那ちゃんその怪我どうしたの!?咲夜、あんた何してんの!?」

 

「これは、その...俺のせいで」

 

「私が自分でやっただけです。すみませんが、病院に連れて行ってもらっていいですか?」

 

「分かった。奏斗君、友希那ちゃん運ぶの手伝って」

 

「分かりました。咲夜、話は後だ。俺と華蓮さんはお前が生きる決断をしてくれただけで十分だが、柏はそうもいかねえぞ。さっさとシバかれてこい」

 

「了解」

 

やっぱり柏は怒っているのね。車での移動中も、戻ってきたら二度と死にたいと思えないくらいにボコボコにしてやるとか言っていたし、分かってはいたことだけど...気の毒ね

 

「貴方たちの望んだ結果にはなったかしら?」

 

「怪我して来たことはいただけないが...ありがとな、湊。お前に頼んでよかった」

 

「身体を張ってまで止めたのだから許して欲しいわね。それより、紗夜にまで告白されたらしいけど、どうするのかしら?」

 

「何故知ってるんだ」

 

「様子がおかしかったところをリサに問い詰められて自白したわ。リサにバレた時点でもう終わりみたいなものよ」

 

「あの筑前煮ギャルが...」

 

あの時の紗夜の顔と言ったら今でも忘れられないわね。 リンゴのように赤くなった顔。そして、どこか諦めたような顔

 

「でも、奏斗の中では答えは既に出ている。違う?」

 

「あぁ。俺は...蘭を選ぶ。その為の準備もしているさ」

 

「そう...一つだけ約束しなさい。その選択に後悔せず、美竹さんを最後まで支えること。それが紗夜にとるべき態度よ」

 

「分かってるさ。紗夜とは最高の友人として、ライバルとして、これからも関わっていきたいからな」

 

奏斗の声には相当の覚悟を感じることができた。それが確認できただけで十分ね

 

「それより、お前は告白できたのか?」

 

「あれを告白と言っていいのか分からないけど、私の想いは全てぶつけたわ。彼に選んでもらえるかは不安だけど」

 

「お互い鈍感かよ...めんどくさ」

 

「何か言ったかしら?」

 

「何でもねえよ。まぁ楽しみにしとけ。そろそろ彼奴らも戻って来るだろ」

 

「?」

 

楽しみにしとけってどういう意味かしら?いきなり訳の分からないことを言われ頭を悩ませていると、満足そうな顔をした柏と逆に死んだような顔をした咲夜が戻ってきた。本当に何があったのよ...

 

「柏怖い...妹怖い...」

 

「いつまで言ってるんですか?早く車に乗ってください。どっかの誰かさんのせいで友希那さんが怪我したんですから」

 

「...はい。申し訳ありません」

 

咲夜が可哀想に見えてくるわ。別に私は気にしてないし、結果咲夜を止められたのだからむしろ嬉しいのだけど

 

「柏、あまり咲夜を責めないであげて。彼もかなり追い詰められてたみたいだから」

 

「...分かりました。お兄様、以後このようなことが無いようにお願いします。私だって貴方がいないのは嫌なので」

 

「分かってる。本当にすまなかった」

 

この後、病院に行ったら完治するまで暫くかかると言われ咲夜がまたショックを受けてしまうわ、家に帰ったら父に問い詰められるわでとても面倒臭かった

 

 

 

咲夜side

 

 

俺の自殺騒動から二日後、普段通りに学校へ行った。朝まずすぐにモカに謝りに行くと屋上へ来いと言われたため向かうと、そこには何やら緊張した様子のモカがいた

 

「来たぞ、モカ。先に俺から話していいいか?」

 

彼女は無言で頷く。ここまで無口になられると調子が狂うけどまずは謝らなければならない

 

「...モカ、本当にすまなかった。お前や友希那たちの気持ちも考えず自分勝手に死のうとして...お前らを傷つけた。ごめん」

 

「...本当は、あたしもあの場所に行きたかった」

 

「咲夜と湊さんの思い出の場所っていうのはすぐに予想できた。でも、あたしはその場所を知らない。何もできない自分が嫌だった」

 

「モカ...」

 

「このことはイヴちんたちも知ってるし、どうせ電話で怒られたんでしょ〜?」

 

「何から何までお見通しか...あぁ。こっぴどく叱られたよ。でも、お陰で気付けたんだ。こんな人殺しの死神でも、想ってくれる人はいるんだって、愛されていいんだって。おまけに告白までされたよ。されて嬉しい告白なんてこの前の友希那との一件以来だ」

 

“嬉しい”なんて感じるの何年ぶりだろうか?この10年間、つまらない日々を過ごして、毎日毎日上っ面の告白受けて、ストレス発散に街の不良殺しまくって。いつしかストレスすら何も感じなくなって...

 

「咲夜は変われたと思う?」

 

「あぁ。お前たちのお陰でな。でも、最初に俺を変えたのは...モカ、お前なんだ」

 

「え?」

 

「あの日、お前と共通の好きなものが見つかって、毎週山吹ベーカリーに朝早くから並んで、お互い買いすぎて沙綾に怒られて...あの日々が楽しくてしょうがなかった。モカが俺に感情をくれたんだ」

 

「だから...本当にありがとう、モカ」

 

心からの感謝。俺が彼女に伝えなければならない言葉。口下手だけど、俺なりの精一杯の気持ち。全てぶつけた

 

「...折角諦められそうだったのに〜諦めきれないじゃ〜ん」

 

「モカ?」

 

「あたしは、咲夜が好きだよ。初めて一緒にパンを買いに行ったあの日から、ずっと好きだよ。だから...あたしと...」

 

最後の方は涙を堪えきれなくて言葉が出なくなってしまっていた。しかし、彼女は強かった

 

「あたしと...付き合ってください。咲夜」

 

彼女からの想い。四度目の嬉しいという感情。目の前には秋と言うには冷たすぎる風に白の髪を靡かせる少女。俺を変えてくれた人。こちらも真剣に答えなくてはならない

 

「...モカの気持ち、凄く嬉しかった。でも、お前の気持ちには答えられない。俺は...友希那が好きだ」

 

「イヴちんたちの告白も断ったんでしょ〜?」

 

「あぁ。でも、この答えに後悔はしない。後悔はモカや花音、イヴにも失礼だ。お前たちの本気の想いを俺の身勝手な気持ちで壊すなんて、許される筈がない」

 

「やっぱり、咲夜は変わったね〜」

 

「変えたのは何度も言うがお前たちだ。本当に感謝してる。また身勝手な気持ちになるが...モカ、これからも、俺と“最高の友人“として、一緒にいてほしい。死神がこれからどうするのか、モカにも見届けてほしい」

 

「...ゔん。咲夜も、あたしのこれからを見届けて」

 

「勿論だ。これからもよろしくな、モカ」

 

「...因みに〜湊さんとどれくらい差があったか聞いていい〜?」

 

こいつ...今までのムードを全てぶち壊しやがって...まぁ、彼女らしいな

 

「正直、友希那がいなかったらダントツでモカだったな。あの場にいたのがモカだったら危なかったかもしれん」

 

「そっか〜。もうちょっと頑張ればよかったな〜」

 

「全く...さぁ、そろそろ戻るか。授業始まっちまう」

 

「そ〜だね」

 

「改めて、これからもよろしく。モカ」

 

「もち〜。油断してると湊さんへの意識がモカちゃんに向いちゃうぞ〜?」

 

「気を付けておくよ」

 

この時のモカの笑顔は今まで見た中で最高の笑顔だった




読了ありがとうございました!

前書きでも書きましたが、一つお知らせがあります



この『死神と歌姫たちの物語』が完結した後、時間に余裕ができたら新作を出そうかなと考えております入試があるので暫くは書けないかもしれませんが...

RASの恋愛もの書こうかと思ってるのですが、ヒロインで希望があれば感想、もしくは活動報告にて書いていただけたら嬉しいです。ご協力お願いします


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第77話

今回は紗夜と奏斗がメインです


奏斗side

 

 

ある日の放課後、俺はCiRCLEの事務室に咲夜と柏、まりなさんを集めた。理由は前から考えていた計画を話すためである。湊が咲夜を止めてなかったら無理だったろうけど

 

「つーわけで、今から皆への感謝ライブの計画を話したいと思いまーす」

 

「つーわけも何もいきなり何を言い出すんだお前は。理由を一から説明しろ。唐突に変なこと言うのいい加減直せ」

 

失敬な。こちとら真面目に考えて二週間もかけて立てた計画だと言うのに変なこととは何だ

 

「そのままの意味だ。咲夜の一件も片付いたことだし、彼奴ら25人には世話になった。普通に感謝の気持ちを伝えておきたいと思っただけだ」

 

「それでライブですか...いいんじゃないですか?私たちなら言葉よりもそちらの方が伝えやすいでしょう」

 

「そういうことか。まりなさんを呼んでるってことはCiRCLEでやるってことでいいのか?」

 

「いいっすよね?まりなさん」

 

「いいよ。君たちには日頃から助けられてるからね。あの後、月読命の人たちが来て三日もかからずで直しちゃったから此処も問題無く使えるし。ついでに機材新しいの貰っちゃった」

 

何か機材が綺麗だと思ったらそういうことかよ。あの爺さん何気に律儀だな。まぁ場所が確保できるなら何でもいいか

 

「何時やんの?」

 

「週末だ。今から曲を作るのは無理だから俺の方で何曲かカバーを探しておいた。今日は月曜日だし、まぁ完成させられるだろ」

 

感謝ライブって言ってもあんま長くやるつもりはないからな。精々3、4曲やって後はパーティーっぽくラウンジ使って晩飯食べるだけだから。それに幾ら俺たちでも数日で何曲も完成させるのは無理だ

 

「俺と柏はいいが、華蓮がキツいんじゃないか?最近、仕事が次から次へと舞い込んでくるって死にそうな目で言ってた記憶があるぞ」

 

「華蓮さんなら大丈夫だろ。そんなことで倒れる程あの人やわじゃ無いしな。お前と違ってパソコン扱いも上手いしどうせその日のうちに終わってるよ。さっき説明したら泣きそうな目で喚いてたけど」

 

「それもそうか。よし、やるか。まりなさん、休憩時間空いてるスタジオ使わせてもらっていいっすか?」

 

「勿論。私も出来る限り手伝うから、困ったことあったら言ってね」

 

「二人とも、お姉様の扱い酷すぎる気がするのですが...RoseliaやAfterglowの指導はどうするのですか?」

 

それなんだよな...急に休憩時間ギターの練習させて欲しいって言ったらモカ辺りに勘付かれるし、Roseliaの方でも今井が気付くだろう。どうするかなぁ

 

「別に隠す必要無いんじゃね?突然感謝ライブやるから来てくれって言っても予定合わんかもしれんし、あらかじめ言っておいた方がいいだろ。パスパレ辺りなんか特に」

 

「いや、日菜に頼んで全員予定が空いてることは確認済みだ。まぁ、蘭にさえ勘付かれなきゃ何でもいいや」

 

「やっと蘭さんに返事出すんですね。しかもライブの時にって、完全に狙ってますよね」

 

「うっせえ。咲夜もモカたちフったんだろ。さっさと湊に返事出してやれよ」

 

「言われなくてもそうするつもりだ」

 

「...ねぇ、私だけ置いていかれてる気がするのは気のせいかな?何時の間にか告白されてるの?それに何か大詰めみたいな感じになってない?」

 

「まりなさん少し黙っててくれません?」

 

「ごめんなさい」

 

人から言われるのすげー恥ずいんだけど。自分で言うのも気が引けるけど

 

「まぁそういうわけだ。今日はAfterglow練習無いし、休憩時間はスタジオ籠るわ」

 

「Roselia今日あるからな...事情説明して今週は自分たちでやってもらお」

 

「もう休憩入っていよ。今日はそこまで多くないから咲夜君もRoseliaに説明だけしてスタジオ入りなよ。後は私がやっておくから」

 

マジかまりなさんめちゃ優しいな。ここは彼女の御厚意に甘えるとしようか。ギターチューニングしねえと

 

「ありがとうございます。柏、声とベースの調子はどうだ?」

 

「まだ何とも言えません。軽くアップしてから様子を見ます。ベースはそもそも肩にかけた後が心配ですね」

 

「そういえばお前重傷だったもんな。無理しない程度でやっておけ。俺はRoseliaが来るまで受付にいる」

 

「了解。柏、準備するぞ」

 

「分かりました」

 

「咲夜、終わった後紗夜と話がしたい。すまないが、お前の方から言っておいてくれ」

 

「...あぁ」

 

甘えた答えなんて出しちゃいけないんだ。覚悟を決めて告白してくれた紗夜や蘭にも失礼だ。後悔しないと決めた。もう迷わない。だから俺は、蘭を選ぶ。他でもない、俺自身のこれからのために

 

 

 

紗夜side

 

 

 

Roseliaの練習があるためCiRCLEへ行くと、まだ私以外は来ておらず、受付には咲夜さんが座っていた。彼の顔からは以前見た時よりかなりスッキリした様子が見られる

 

「咲夜さん。お久し振りです」

 

「氷川か。久し振りというほどでもないだろ。そもそも学校が違うわけだし。友希那たちはそろそろ着くってさっきメールが来た。白金は?」

 

「図書委員の仕事で少し遅れるそうです。先に練習に入りますね」

 

「了解。それと、週末此処でお前らに向けての感謝ライブをやろうと思ってる。随分世話になったからな。出来れば予定と空けてもらえると助かるな」

 

「感謝ライブですか...分かりました。空けておきますね」

 

彼らからの感謝ライブ。それをやろうとする辺り彼らも随分変わったわね

 

「その微笑みはやめてもらおうか。無性に腹が立ってくる。あと、俺らも練習しなきゃならないから暫くは練習見れやれそうにないから各自よろしくな」

 

「分かりました。私の方から伝えておきます」

 

またXaharの音が聴けるのね。私たちの憧れの音にして私たちが越えなければならない音。考えただけで胸が高鳴るし、早く練習したくなる

 

「楽しみにしておきますね。それでは、私は先に...」

 

「それと...」

 

「?」

 

「奏斗が練習終わったら話がしたいらしい。割と大事な話っぽいからすっぽかさず話してやってくれ」

 

「っ...分かりました」

 

咲夜さんは恐らく分かっているのだろう。私と奏斗の間にあるものを。奏斗が私に告白の返事をしようとしていることを

 

「んじゃ、練習頑張れよ。まりなさーん、俺もスタジオ入りますね!」

 

「りょーかーい!頑張ってねー!」

 

今日の練習は集中出来ないかもしれない

 

 

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

 

私がスタジオに入った数分後、湊さんたち羽丘組がスタジオに入り、そのまた数分後に白金さんもスタジオに入った。どうやら走って来たようで息を切らしていたので、白金さんの呼吸が整うまで待つことにした

 

「そういえば、受付に咲夜がいなかったけれど彼は?」

 

「そのことなんですが...」

 

私は先程受けた説明をそのままRoseliaのメンバーに話した。今井さんや宇田川さんは大喜び、白金さんも微かに微笑んでいる。しかし、湊さんは喜びもあるようだが何処か緊張しているように見えた

 

恐らく、咲夜さんへの告白の返事が気になっているのだろう。湊さんが彼に想いを伝えたのは知っている。しかし、まだ返って来ていないことを考えると...

 

(良かったですね...湊さん)

 

私が彼女が選ばれると思う理由。根拠としては薄いが、今日の松原さんの顔だった。いつも明るい彼女が今日は暗い雰囲気だった。何となくだが、フられたのだと悟った。これから私も同じになるだろうに

 

「彼らが来れないとなると、今週は咲夜のメニューを中心にやった方が良さそうね。いつも通り何曲か合わせて、不安な箇所を修正していきましょう」

 

今は奏斗のことは頭から離しましょう。迷いや不安はメンバーの音にまで影響してしまう。それだけは絶対にあってはならない。深呼吸をして心を落ち着かせる。今なら大丈夫そうだ

 

「紗夜、深呼吸多いけど大丈夫?」

 

「大丈夫です。いつでもいけます」

 

「それじゃあ、Rからいくわよ。あこ」

 

「はーい!」

 

 

 

奏斗side

 

 

 

スタジオに入ってから二時間くらいが経過した。時計を見るとシフトの時間もとっくに過ぎていたので俺は残りの二人に声をかける

 

「今日はこんなもんでいいだろ。そろそろ片付け始めよう」

 

「奏斗、今日晩飯家で用意するから来てくれ。今日中に八割は出来るようになっておきたい」

 

「了解した。材料足りないなら家から出すけど」

 

「いや、大丈夫だ。丁度買い物に行こうとしてたところだし。柏、お前は何か食べたいものあるか?」

 

「特にこれといったものはありませんね。出来れば軽めのものがいいです」

 

「善処する」

 

改めて思うが、何で家の地下にスタジオなんて作ったんだ?あの頃は別に音楽にハマっていたわけでもないし...逆にスタジオあるのを知って興味持ったくらいだ

 

考えてるうちに片付けが終わったのでスタジオを出ると、カウンター前でRoseliaが待っていた。紗夜を見た瞬間緊張してきたな。彼女も同様に緊張しているのが分かる

 

「終わったみたいね。貴方たちの音、楽しみにしてるわ」

 

「久し振りに本気で練習しましたね。最近友希那さんや蘭さんが追いつき始めたのでこれを機に突き放しておこうかと」

 

「感謝ライブってのに張り合うな。ほら、とっとと買い物行って飯食って練習するぞ」

 

「分かりました。では皆さん、道中お気を付けて」

 

「じゃあねー柏!りんりん、行こ!」

 

「うん...」

 

「奏斗、何処で話すの?」

 

「そこのカフェでいいよ。そんじゃ咲夜、また後でな」

 

「うぃ」

 

皆が帰路についたのを確認すると、俺と紗夜は向かい合うようにカフェの席に座った

 

「...紗夜。話しの内容は分かってると思うが、告白の返事をさせてほしい」

 

「...聞かせて。貴方の答えを」

 

少しの沈黙をおき、俺は答えを出す

 

「俺は...蘭が好きだ。だから、紗夜の気持ちには答えられない」

 

俺の返事を聞いた紗夜は...どこか分かっていたような雰囲気で笑っていた。でも、目は潤み泣きそうになるのを必死で我慢しているように見えた

 

「やっぱり...分かっていてもそれなりに堪えるわね。でも、貴方に伝えられてよかった。この気持ちを知ってもらえてよかったわ」

 

「俺も、紗夜に告白されて嬉しかった。紗夜に出会えて本当によかった。紗夜がいたから今の俺がある。こんな俺を好きになってくれてありがとう」

 

「フった相手に言う言葉じゃないわよ。もっと突き放しておかないと、諦められなくなるわよ」

 

「それは出来ないな。紗夜にはこれから俺の友として、ライバルとしていてほしい。俺を越えるんだろ?途中で投げ出させはしねえぞ」

 

「...そうね。私は必ず貴方を越える。その時まで待っていなさい。宮本奏斗」

 

「あぁ。これからもよろしくな、紗夜」

 

「えぇ」

 

こうして、紗夜の恋は終わりを告げた。だけど、俺はまだ終わっていない。週末のライブで俺は蘭に想いを伝えなければならない

 

(待ってろよ、蘭)




次回、最終回





新作についてのアンケートもよろしくお願いします


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最終回

ついに最終回です


友希那side

 

ついにXaharによる私たちへの感謝ライブの日がやってきた。どうやら朝から夜までずっとやるらしく、CiRCLEは今日一日貸切状態となっている

 

今は咲夜たちが準備をしているため、私たちはラウンジで待機している。正直、今週は落ち着いていられなかった

 

「友希那大丈夫?さっきからソワソワしてるけど。体調悪かったら言ってね」

 

「リサ...大丈夫よ。別に体調どうのこうのではないの。少し落ち着いていられなくて」

 

「まぁ確かに楽しみだもんね。Xaharの音が聴けるなんて滅多にないし、この機会に柏の技術盗んでおかないと。それに、咲夜に頼んで筑前煮作ってもらってるからさ〜もう一刻も早く始まってほしいよー」

 

別に楽しみすぎて落ち着けないわけではないのだけど...

 

(告白の件、彼は考えてくれているかしら...どさくさに紛れて言うものじゃなかったわよね。終わったらもう一回言わないと)

 

この一週間、告白の返事が気になりすぎて学校の授業どころかバンドの練習すら集中出来なかった。ミスは少なかったけれど、他のパートのミスに気付けなかった

 

(考えすぎても意味はないわね。とりあえず楽しみましょう)

 

 

 

 

蘭side

 

 

 

 

今日はXaharの感謝ライブの日。わざわざCiRCLEを貸切にしてまでやってくれて凄く嬉しかった。感謝しなきゃいけないのはあたしたちの方なのに

 

(告白の返事、まだ貰えてないな...気になりすぎてライブどころじゃなくなりそう)

 

あの日から既に一週間以上が経っている。今までにないくらいに落ち着けなくて、学校やバンド、華道のことにも支障をきたしかねない状態だった

 

モカが咲夜にフられたことは本人から聞いた。でも本人は逆に吹っ切れた様子で顔つきもかなり変わったように感じる

 

それに比べてあたしはどうだろう。奏斗にフられた時、あたしは耐えられるだろうか。素直に氷川さんを応援出来るだろうか

 

「考えても無駄だよね。決めるのは奏斗なんだから。信じて待つしかない」

 

どうか、あたしが選ばれますように

 

 

 

 

 

咲夜side

 

 

 

 

「柏、もうちょいベース音量上げれるか?」

 

「奏斗君もう少しだけ響かせられる?」

 

「お姉様はもう少しだけ力強くできますか?」

 

CiRCLEのライブ会場。朝早くから集まった俺たちは最終調整に入っていた。フェスで頂点に立った者として、感謝を伝えるための演奏を聴いてもらうため、下手な演奏は出来ない

 

「咲夜、ソロのところ音量上げれるか?出来るだけ目立たせたい」

 

「了解。柏、喉の調子は?」

 

「順調です。フェスの時並み以上はいけるかと」

 

「私も今日は凄く調子いいよー!三日分の仕事徹夜で終わらせた甲斐があったよ」

 

華蓮には悪いことしたな...今度カレー作ってあげよう

 

「華蓮は調整終わったら寝とけ。体育祭の俺みたいに寝て身体が固まらないように出来るならだが」

 

「じゃあ悪いけど少しだけ寝かせてもらうね。柏、貴女も無理しないようにね。一番怪我多いし酷いんだから」

 

「分かっています。大分痛みにも慣れてきたのでなんとかセトリの4曲はいけると思います」

 

いや痛みあんのかよ...まぁ本人が大丈夫と言っている以上、このまま進めるしかないか。出来るだけ怪我の少ない俺と奏斗で準備を進めておかないとな。まりなさんにこれ以上無理を言うわけにもいかないし

 

「よし、じゃあ調整は終わりだ。柏も休みがてら友希那たちと話してきな。後は俺と奏斗で終わらせる」

 

「ありがとうございます」

 

「咲夜、機材も問題無さそうだ。会場もまりなさんがセットしてくれたし、何時でもいけるぞ」

 

「了解。15分後に友希那たちを入れる。それまで各自休もう」

 

友希那への返事の言葉考えとかないとな

 

 

 

 

 

柏side

 

 

 

 

 

最終調整を終わらせた私はラウンジで待機している友希那さんたちのところへ向かった。一歩歩くたびに足に痛みが走る。お兄様たちの前では強がったが、慣れてきたとはいえかなり痛い

 

(完治まで半年かかるって言ってたけど、この痛みがまだ数ヶ月続くって考えると気が重くなるなぁ...)

 

終わったらストレッチの方法でもネットで探しておこうと心の中で決意。ラウンジに着くとドアを開けて中に入る

 

「皆さん、準備が終わったので15分後くらいに開始しますね」

 

『はーい』

 

息ピッタリだこと。正直RoseliaとAfterglow以外は関わりが薄いので気まずいことこの上ない

 

「柏、筑前煮ちゃんと作ってくれてる?」

 

「ギャルのクセに筑前煮が好物ってどうかと思いますがね。お兄様が頑張ってましたよ。コミュ力お化けにも世話になったからって」

 

「今一度アタシのことどう思ってるのか話し合いしておきたいな...あと柏も、人のことギャルとか言わないの」

 

「さて、私は他の方にも挨拶してきますね」

 

「あれ!?無視!?」

 

リサさんの言葉を受け流しながら他の方へ挨拶しに行く。ハロハピとポピパは余程楽しみなのかはしゃいでいる。いや、多分弦巻が色々やってるからだわこれ。あの中に入る勇気は生憎持ち合わせていない

 

諦めてパスパレが集まっている方へ歩く。よくもまぁ予定が空いていたなと思う。実は白鷺さん推しなのでサインを貰っておいた。部屋に飾ろ。今度ベースを教えてほしいと言われたので快く引き受けた

 

「Roseliaのとこにも行きたいけど時間無いな...後でいいや。皆さん時間が来たので会場へ移ってください!」

 

さぁ、始めましょう。Xaharのショーを

 

 

 

 

 

奏斗side

 

 

 

 

 

「本日はお集まりいただき感謝します。存分に楽しんでください」

 

準備を終え、ついにライブが始まった。MCはいつも通り柏がやっているが、途中俺たちも割り込もうと思ってる。と言うよりもほぼ会話みたいになりそうだ

 

「改めて、今日は来てくれてありがとな。俺たちなりに皆への感謝を伝えたいと思って集まってもらった。まず、俺たちを知りながらも一緒にいてくれてありがとう」

 

咲夜の言葉に全員が頭を下げる。言葉だけでは足りない分、今から音で伝える

 

「皆には返しきれないくらいの恩があるからね。特に弟がお世話になったし」

 

「余計なこと言うな!」

 

咲夜のツッコミに会場が笑いに包まれる。咲夜を見ると若干顔が赤くなっている。恥ずかしそうにする彼奴初めて見たかも

 

「ライブとしては4曲と短いけど、この後のパーティーも楽しんでくれたら嬉しい。じゃあ早速1曲目やるか」

 

「そうですね。それでは聞いてください、ハルウタ」

 

 

 

1曲目はいきものがかりのハルウタ。いきものがかりは俺の大好きな音楽グループだ。先に言っておくと、ラストもいきものがかりの曲になっている

 

メンバーの調子も良く、いい形でスタートを切ることが出来た。ハルウタが終わるとともに拍手の音が会場を支配した

 

「まずは1曲目ありがとうございました。あまり長引くと私の身体がもたないので2曲目やらせていただきます。聞いてください、katharsis」

 

2曲目はTK from 凛として時雨のkatharsis。unravelかどっちにするかで迷ったけど、ギターのフレーズが気に入ったのでこっちにした

 

順調に2曲目も終える。katharsisはドラムがかなり難しく、華蓮さん曰く完成に一番時間がかかったそうだ

 

「ありがとうございました。続いて3曲目、STYX HELIX」

 

今度はMYTH & ROIDのSTYX HELIX。英語が多くて柏はかなり苦労した模様。テンポもゆっくりなのでkatharsisの後に最適だと思ってこの曲にした。因みに女子二人がMYTH & ROIDが好きらしい

 

3曲目も終わり、次で最後の曲となった

 

「ハァ...次で最後です。おそらく、Xaharとしてステージで演奏する最後の曲になるでしょう。それでは最後、笑顔」

 

ラストはいきものがかりで一番好きな曲、笑顔。この曲は歌詞を読むだけで感動する。初めて聴いた時泣くかと思った

 

 

〜♪〜♪〜♪〜

 

 

クライマックスに近づくにつれてあることに気が付いた。柏の声が震えていたのだ。顔を見ると彼女は泣きそうになっていた。これには咲夜と華蓮さんも驚くばかり

 

(嬉しいんだな...こうして心の底から楽しいと思うことができて。今まで咲夜のために生きてきた彼奴が、自分をもてなかった彼奴が、ようやく自分の生きる道を見つけられたんだ)

 

それと同時に虚しさもあるのかもしれない。この日が終われば暫くは虚無感に駆られるかもしれない。でも、前に進むと決めたからこそ、乗り越えられるものだと今は思う

 

曲が終わると同時に耐えていた涙を抑えきれなくなったのか、柏は頬に雫を流していた

 

「...本当に、ありがとうございました!!」

 

そしてそれは清々しい笑顔とともに吹き飛ばされる。深々と頭を下げる柏に続いて俺たちも頭を下げる。盛大な拍手を送られ、終わったことを実感する

 

「この後のパーティーも楽しんでください!皆さんにとって今日が最高の一日になったら嬉しいです!」

 

さて、最後の大仕事といこう。蘭にこの気持ちを伝えるために

 

 

 

 

 

蘭side

 

 

 

 

 

 

Xaharによるライブが終わると、あたしは柄にもなく涙を流していた。理由は言わずもがな、彼らの想いが伝わったから。心からの感謝が心に響いたから

 

(いつか...あたしたちもあんな風に演奏出来たら...)

 

そう思いながらラウンジへ戻ろうとすると

 

「蘭」

 

奏斗があたしを呼び止めた

 

「どうしたの?料理ならまりなさんが運んでくれてるらしいし、奏斗も早く行こう」

 

「その前に大事な話がある。来てくれ」

 

「っ...分かった」

 

まさかと思いながら、素直に従い彼に着いて行く。控え室の一室に連れて来られたあたしは、まるで異空間に飛ばされたかのような感覚に陥っていた。緊張してるのだろう

 

「...告白の返事、していいか?」

 

「...うん。聞かせて」

 

「俺は...」

 

川の激流の如く流れる血があたしの心臓を襲う。やがてその衝撃は身体全体まで広がり、立っているかも分からなくなる

 

「蘭、お前が好きだ。これからも、そばにいてください」

 

瞬間、鈍器で頭を殴られた気がした

 

「う、嘘...じゃないんだよね?」

 

「あぁ。俺は蘭が好きだ」

 

「ほ、ほら。氷川さんの方が美人だし、ギターも上手いし...あたし、嫉妬深いし...奏斗が他の女の子と話してるとすぐイライラしちゃうし」

 

「それも含めて、蘭が好きだ。本来ならあの時病院で答えを出せた筈なのに、先延ばしにしてごめん。誰が何を言おうと、俺は蘭を愛してる。俺と一緒にいてほしい」

 

「...こんなあたしでいいなら...改めて、奏斗。貴方が大好きです。世界で一番、愛しています。あたしと付き合ってください」

 

「喜んで」

 

選んでくれた。奏斗はあたしを選んでくれた。氷川さんじゃなくて、あたしを。もう絶対に離さない。あたしが奏斗を支えるんだ

 

「大好きだよ、奏斗」

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

 

 

 

ライブ終了後、咲夜にステージで待っていてほしいと言われた私は若干緊張しながら彼を待っていた。自力で立てるくらいには足は回復したが、歩くのはまだ難しい。そして数分後、彼は戻って来た

 

「...待たせて悪い。話がしたくてな」

 

「大丈夫よ。それより、話って?」

 

分かっているくせに。少しでも返事を遅らせたくて、フられるのが怖くてつい余計な一言を発してしまう。だけど、それは無意味に等しかった

 

「告白の返事、させてほしい」

 

「......」

 

恐怖のあまり、目を瞑ってしまう。瞬間、私の唇に柔らかいものが触れた。初めてではないその感覚が、彼の唇だと理解するのに時間はかからなかった

 

「ちょっ!/////咲夜!?」

 

「これが俺の答えだ。俺は友希那が好きだ」

 

「わ、私なんかで本当に...いいのかしら?家事も出来ないし、歌うことしか出来ない。それに、多分独占欲かなり強いわよ?」

 

「だからなんだよ。独占欲なんて誰にでもあんじゃねえの?今までそういった経験無かったから分からないけど...そういうところも好きなんだよ」

 

「友希那の目が、髪が、声が、全てが好きだ。咲き誇る紫の薔薇が。俺に道をくれたお前が好きだ」

 

彼から発せられる言葉一つ一つがスッと胸の中に入っていく。夢か現実か。嘘か真か。もう何が何だか分からない

 

「あの日、友希那は俺に本音を言えって言ったよな。俺は、生きたい。友希那と一緒に、友希那のそばで生きたい。友希那とたくさんの思い出を作りたい。それが俺の本音。願いだ」

 

「...引き返すなら今のうちよ」

 

「アホ。そんなんなら、そもそも呼び出してない。それ以上何か言うなら友希那が言った分の倍以上は言わせてもらう」

 

...くさいセリフ言ってくれて。恥ずかしくないのかしらね

 

「もう一度言うわ。咲夜、貴方が好きよ。誰にも渡さない。貴方の道は、私が導く。死神だなんて言わせない。一人の人間として、私は生涯貴方を愛し続ける」

 

もう誰にも邪魔させない。私と彼の間に邪魔をしようものなら容赦はしない。相手が誰だろうが、彼だけは渡さない

 

「もう一度言うけれど、私の愛は重いわよ」

 

「安心しろ。全部受け止めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

もう一度口付けを交わす。私たちの愛を形にせんとばかりに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛してるわ、月読命咲夜

 

 

死神と歌姫たちの物語 完




今まで本当にありがとうございました!筆が進んだらAfterstoryみたいなの書こうかなと思ってます

こうして続けてこれたのも読者の皆さんのお陰です!もう一度、本当にありがとうございました!!!


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番外編
蘭誕生日記念 新しいいつも通り


この作品初めての番外編です!蘭さん誕生日おめでとう!

作品の都合上時間軸は蘭と奏斗が出会ったところらへんです


奏斗side

 

「蘭の誕生日?」

 

「あぁ!明日は蘭の誕生日だから琉太もパーティに来て欲しいんだ」

 

この学校に来て1週間も経っていない。何故かAfterglowのみんなと仲良くなったが、まさかいきなりパーティに誘われるとは思っていなかった

 

「ほら、琉太と私たちってまだ会ったばかりじゃん?私たちもそうだけど、蘭は特に関係が薄いわけだし折角だからと思ったんだけど」

 

成る程...まぁ確かにこれからAfterglowの練習に付き合うとなればそれなりに仲良くなる必要はある。ずっと咲夜の心配ばかりしてたけど、俺だって折角道ができたんだ。無駄にはしたくない

 

「...分かった。俺もお邪魔させてもらうよ」

 

「よっしゃ!これで役者は揃ったな!」

 

「それじゃあ〜()()()()()みんなで誕生日プレゼント買いに行こ〜」

 

「じゃあ今から行くか。今日はバイトも入ってないし」

 

「蘭にはまだ琉太君が来るってことは内緒にしてあるからなるべくバレないようにね」

 

「了解」

 

さて、何あげればいいかな?女性へのプレゼントなんて柏と華蓮さんにしかあげたことないから何あげればいいか分からないんだよね

 

「なぁ、蘭の好みとかって分かるか?女性へのプレゼントってあんま分からないんだが」

 

「そうだな...無難にポーチとか日常で使えるやつを基本渡してるけど」

 

「成る程。じゃあ俺もそうするかな」

 

それぞれ誕生日パーティは毎年やってるらしいので、蘭もみんながプレゼントを買いに行ってるのはなんとなく分かってるとのこと。あとは俺がバレないよう一緒に行き、明日サプライズ的な感じで会場に現れればいい、らしい

 

「それじゃあ今からそれぞれ蘭の誕生日プレゼント買いに行こー!集合は何処にする?」

 

「今の場所でいいだろ。変に変えて分からなくなるのも面倒だし」

 

「そうだね。じゃあ1時間後に此処集合でいいかな?」

 

「おっけ〜」

 

「決まりだな!じゃあ早速行くぞ!」

 

「おっおい、せめて誰か1人だけでも...行っちゃった」

 

俺分からないって言ったやん...仕方ない、喜んでもらえるか分からんが無難にアクセサリーでも見てこようかな

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

「ん〜どれにしよう...」

 

はい、案の定迷いました。正直蘭の好みとか全く知らないし、なんなら色だって知らない。イメージとしては赤とかそういう系だけど...どうしたらいいんだか

 

約束の時間まであと10分。早く選ばないとみんなを待たせてしまう

 

「どれもなんだかいい感じがするからな...ん?これは...」

 

ふと目に入ったのは赤い蘭の花の形をしたネックレスだった。何故かそれは他のやつよりも輝いて見えた。俺はそのネックレスを即買い集合場所へ急いで戻った

 

 

 

「悪りぃ、選ぶのに時間かかっちまって。みんなは選び終わったか?」

 

「うん、しっかり選んできたよ!琉太は何を選んだの?」

 

「それは明日になってからのお楽しみだ。その方が面白いだろ?」

 

「そうだな。じゃあ帰るか!そろそろ帰らないとあこにも心配かけちゃうし」

 

「私もお店の片付け手伝わないと...」

 

「あたしは山吹ベーカリー寄ってくね〜」

 

みんなそれぞれあるみたいだな。俺も帰ろうと思ったが、少しやることを思いついたので

 

「俺はもうちょっと買いたいものあるから、みんなは先に帰っててくれ」

 

「ん?まだ何か買うのか?」

 

「あぁ。それじゃあな、気をつけて帰れよ」

 

「琉太も気をつけてね!明日の詳細はあとでメールで送るから!」

 

「了解」

 

 

みんなと別れ向かったのは花屋だった

 

「えっと...確かあの花が...おっあったあった!」

 

昔別荘の近くの花畑を見たときに花に興味を持ち、色々な花の花言葉を調べたことがあった。そのおかげで大体の花の花言葉は頭に入っている

 

「この花だったな。ぴったりな花言葉があるのは」

 

お目当ての花を見つけた俺は店員に頼みその場で花束にしてもらった

 

「よし、これで準備はできたな。これ大事に保管しないと...」

 

綺麗な状態で渡さないと蘭に失礼だからな。家に着くと同時にひまりからメールが届いた

 

『明日は夜の8時から羽沢珈琲店でやるよ!蘭を驚かせたいから、琉太はつぐみの家に隠れて少し遅れて登場してね。タイミングはまた明日に伝えるから!だから明日は7時半くらいに来てね!』

 

「こういうところはしっかりしてるんだな...普段の様子を見てると全く想像がつかん」

 

初めてひまりがリーダーと聞いたときはマジで驚いた。こんな奴がリーダーでこのバンド大丈夫か?と思ったくらいだ。でも、今はなんとなく理解できたかもしれない

 

さて、明日が楽しみだな

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

次の日、4月10日。家で早めに晩御飯を済ませ、約束通り7時半に羽沢珈琲店へ向かった。他のメンバーは既に集合していて、中の飾り付けをやっていた

 

「こんばんは、みんなご苦労様。俺もなんか手伝おうか?」

 

「あっじゃあ天井の飾り付けやってくれない?巴ちゃん1人だと少し大変で」

 

「分かった。つぐみ、悪いがこの机使わせてもらうぞ」

 

「店のやつは自由に使っていいから、お願いね!」

 

許可をもらってから机の上に立つ。流石に人の家の、しかも店として使う机の上に勝手に立つのは気が引けるのでしっかり聞かなければ

 

「巴、何を飾ればいい?」

 

「じゃあこの紐を持ってそっちに行ってくれ。一定間隔で天井に付けてくれるか?それメッセージ書いてある紙ついてるから慎重にな」

 

「了解」

 

よく見るとその紐には三角の紙に1枚1文字ずつで『誕生日おめでとう!』と書いてあった。言われた通りに飾り付け、残ったやつも全て付け終わった頃には既にパーティ開始15分前になっていた

 

「ふぅ〜終わった!」

 

「サンキューな琉太。いつもアタシ1人でやってたからさ、毎回終わるのがギリギリだったんだ。凄え助かったよ」

 

「役に立てたのならそれでいい。俺は裏で待機してるから、時間になったら出るよ」

 

「オッケー!あとはアタシたちに任せろ!」

 

この後の予定としては8時に蘭が此処に来る。そしてAfterglowのみんながそれぞれプレゼントを渡し終えたところで俺が登場。用意しておいた花とネックレスを渡してケーキを食べる。ざっとこんな流れだ

 

「そんじゃ、また後で」

 

「あぁ!派手に決めてくれよ!」

 

派手に決めろと言われてもな...まぁ言われたからにはやるしかないな

 

 

 

蘭side

 

 

 

今日はあたしの誕生日。毎年つぐみの家でパーティを開いてくれてて、今年もいつも通りやることになった。指定された時間につぐみの家に行き、扉を開けると

 

 

パァン!

 

 

何かが弾けるような音がした

 

 

『誕生日おめでとう!』

 

 

「あっありがとう...///」

 

何度やっても慣れない。こういうのは恥ずかしいし、今のクラッカーの音も毎年来ると分かってても驚いてしまう

 

「おめでとう蘭!ささっこっちこっち!」

 

ひまりに促され店の隅の方の席にみんなで座る

 

「改めて、誕生日おめでとう蘭!早速みんなからプレゼントだ!」

 

「あたしはこれね〜」

 

「はい!これ私の!」

 

「おめでとう蘭ちゃん!」

 

「みんな...ありがとう」

 

「さて、いつも通り今からケーキ食べようっといきたいところだが、今日はもう1人来てるんだ」

 

「え?」

 

みんな以外にあたしの誕生日を祝ってくれる人なんて思いつかない。自分で言うのもなんだけど、あたしは友達が少ない。最近知り合った琉太と翔も、まだ友達と言えるのか分からない。いよいよ誰なのか分からなくなってきた

 

「その様子だと誰が来てるのか分からないみたいだな。おーい!もういいぞー!」

 

巴の声で店の裏からある人物がやって来た。その人物はあたしを驚かせるには十分な人だった

 

 

「琉太...」

 

「誕生日おめでとう、蘭」

 

最近知り合った、Afterglowの面倒を見てくれることになった琉太だった

 

「え?なんで琉太が此処に...?」

 

「みんなに誘われてな。俺たち最近知り合ったばかりだし、この機会に仲良くなろうってことで」

 

「そうなんだ...」

 

大方、誘ったのはひまりか巴だろう。そうとしか考えられない

 

「ほら、これが俺からの誕生日プレゼントだ。気に入ってもらえるかは知らないが」

 

琉太に渡されたのは蘭の花の形をしたネックレスだった

 

「...!ありがとう!」

 

「喜んでもらえたならよかったよ。あとこれ、もう1つ渡すもんあった」

 

続いてカモミールの花束をもらった

 

「蘭はあの有名な美竹の家と聞いたからな。カモミールの花言葉なら知ってるだろ」

 

勿論知っている。この花の花言葉は『これからもよろしく』だ。あたしは去年までのパーティとは比べ物にならないくらい嬉しかった

 

「本当にありがとう、琉太」

 

「さて、プレゼントも渡し終わったし、ケーキ食べようぜ」

 

「もう私我慢できない〜!」

 

「こらひまり、蘭が先だぞ!」

 

「ひ〜ちゃん太るよ〜」

 

「モカ!それは言わないで!」

 

「あはは...」

 

はしゃぐみんなを見てると、()()()()()を実感することができる。だけど今日からは違う。新しい()()()()()になるんだ

 

「これからよろしく、琉太」

 

「こちらこそ、よろしくな蘭」

 

このときあたしはこの先に気づくであろうある想いが芽生えたことを全くしらなかった




読了ありがとうございます!

評価や感想お待ちしております


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花音誕生日記念 死神と迷子少女のデート

間に合わなかった...遅れて申し訳ございません!

花音さん誕生日おめでとう!


咲夜side

 

 

今日は5月10日。特に何もない日だ。だけど、明日は違う。俺が信頼してる人の1人、松原花音の誕生日なのだ

 

誕生日を祝うなんて華蓮や柏、奏斗くらいだったからな。正直何をあげればいいのか分からない。前に好きなものは何かと聞いたら、クラゲと返って来た。柏に頼んでクラゲが綺麗そうな水族館を探してもらい、チケットを取って花音を誘ったところ即答で行きたいと言っていた

 

今はその水族館について調べているところだ。ここで俺の欠点を紹介しよう。俺は機械操作が壊滅的にできない。今開いているサイトも柏に用意してもらったものだ

 

「この時間からか...花音が喜びそうなイベントだな」

 

1度そのサイトを見つければ内容は大方覚えられるので何とかなるだろう。伊達に学年トップじゃない。記憶力には自信がある

 

「大体のリサーチはできたか...そろそろいいかな。柏〜これどうやって消せばいい?」

 

「良い加減覚えたらどうですか?今時の高校生がここまでパソコン使えないって普通ありえないですよ。今度パソコン教室にでも行きますか?」

 

「断る。こんな意味の分からない物体の教室なんて行っても意味無いし」

 

「スマホもろくに扱えない人が何をほざいてるんですか...まぁ電話とメールが使えるならまだ何とかなるでしょう。花音さんはすぐに迷子なるので目を離さないようにしてくださいね」

 

「分かってるよ。彼奴の場合最悪勝手に退場してる可能性があるからな。手でも繋いでおくよ」

 

(そんなことするからいろんな女子が寄って来るんじゃないですか...)

 

何か柏が凄く呆れたような視線を送って来るんだが、俺何かしたか?機械が使えないのはいつものことだし、今更呆れるようなことでもないと思うんだけどなぁ...考えても分からん

 

「大体の計画は立てられたでしょう⁇パソコンの電源消したら私は寝ますので」

 

「おう、付き合わせて悪いな」

 

「そう思うならそろそろ機械操作を覚えてください。では、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

柏は部屋に戻って行った。俺も寝ようかと思ったが、まだ10時半だしな。寝るには早すぎる。何をしようか迷っていたところ、花音から電話がかかってきた

 

「もしもし、どうした?」

 

『ごめんね。急に声が聞きたくなっちゃって...』

 

「あっそう...」

 

『む〜何か冷たくない?それより、明日は何処集合にすればいいのかな?』

 

「俺が花音の家に向かうよ。下手に迷われたら困るからな」

 

『うっそんなしょっちゅう迷うなんてことは「あるだろ」ごめんなさい』

 

「とにかく、明日は俺が迎えに行くから花音は家で待っておけ。10時くらいに行くから、それまでに準備済ませときゃいいよ」

 

『分かった。ありがとね、わざわざ私を誘ってくれて』

 

こいつ自分が誕生日だから呼ばれてるって気づいてないのか?まぁその方がサプライズ感あるしいっか

 

「花音じゃなかったら誘ってない。じゃあ俺は寝るからな。前みたく準備に時間かけすぎて遅れるなよ」

 

『善処します...じゃあおやすみ!』

 

寝るには早すぎると思ったけど、明日朝早いから今日は寝るか。本当はRoseliaの練習があるのだが、友希那に事情を話したら渋々だが了承してくれた。その代わり今度どっか連れてけと言われた

 

「全く...子供じゃあるめえしな。まぁ友希那の命令となれば行くしかないか」

 

これは柏の仕事が増えそうだな。そんなことを考えながら俺は明日に備えて眠りについた

 

 

花音side

 

 

今日は翔君と一緒に水族館に行く日だ。最近中々会えてなかったから今度何処か一緒に行こうと誘おうと思ったところで、タイミング良く彼からお誘いが来た。あの時の嬉しさは今でも覚えている

 

「スマホに財布に...モバイルバッテリーも持ってった方がいいよね。あとはリップとかの小物あればいいかな」

 

以前2人で出かけた時、準備に時間がかかりすぎて彼を待たせてしまうという失態を犯したことがあった。なので、荷物は昨晩のうちに済ませ、着る服もあらかじめ決めておいた。そのせいか、約束の30分も前に終わってしまった

 

「準備早すぎたかな...翔君早く来ないかな」

 

時間まで暇だな...メールして早く来てもらうのもありだけど、それだと翔君に迷惑かけちゃうからな...待つしかないよね

 

「花音、翔君来てるわよー!」

 

「ふぇ!?ちょっと待って!」

 

まだ時間まで30分あるよ!?早く準備しておいて良かったぁ...

 

「おっお待たせ!どうしたの?まだ時間まで30分あるけど」

 

「いや、時間通りに行くとまた花音がバタバタしてそうだから少し早めに行って余裕持たせようと...」

 

「そんなに私はドジじゃないよ!」

 

私は翔君の足を思いっきり踏みつけた。硬めの靴を履いていたから、痛さのあまり彼は悶絶していた

 

「わっ悪かったって...まぁ準備も終わってて丁度良かったじゃん。いてて...」

 

「ふんだ。早く行くよ」

 

「へいへい。今回は少し遠出するからな。駅とかで迷子になるなよ」

 

「迷子になっても翔君が見つけてくれるからいいもん」

 

「全く...ほら、発信機あげるからこれ持っとけ。それがあれば居場所が分かる」

 

「ありがとう。ねぇ、手繋いでもいいかな?」

 

なんてことを聞いているのだろうか。付き合ってもいない女子と手を繋ぐなんてありえないよね

 

「別にいいけど、勘違いされても知らんからな」

 

「別に翔君となら勘違いされてもいいけどね...」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「何でもないよ。ほら、行こ?」

 

「ほいよ。多分着く頃には昼になるから、何か昼飯で食べたいやつあったら店考えとけよ」

 

「分かった」

 

水族館近くのカフェ探してそこで食べればいいかな。それより、自分から言い出しておいてあれだけど、翔君と手を繋ぐのはやはり恥ずかしい

 

駅に着き改札も通りいざ電車へ乗ろうとした時、急に彼の顔が青ざめた。どうしたんだろう?

 

「翔君、顔色凄く悪いけど大丈夫?」

 

「だっ大丈夫だ。...多分」

 

「もしかして電車苦手?」

 

「電車というか乗り物全般無理だな。乗って30秒後には酔ってる」

 

「ふぇ!?そっそんな無理しなくてもいいのに...」

 

「此処まで来て帰るとか嫌だよ?折角花梨に協力してもらってチケット取ったんだ。無駄にしてたまるか」

 

水族館のチケット花梨ちゃんに取ってもらったんだ。それなら何で2人で行かなかったんだろう?

 

「花梨ちゃんに取ってもらったのに2人で行かなかったの?」

 

「は?花梨には花音と出かけたいから頼んだだけだが?」

 

「あっありがとう...///」

 

翔君が私と出かけたいだって...とても嬉しいけれど、それと同時に恥ずかしい。もう死んでもいいかも

 

「とりあえず酔ったらその時は頼むわ。寝ると余計酔うから花音は寝てていいぞ」

 

「いいの?じゃあお言葉に甘えさせてもらうね。おやすみ」

 

私は意識を手放した

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

タイミンよく目的地のすぐ手前で目が覚め、ふと翔君を見ると彼の顔は青を通り越して蒼白となっていた

 

「翔君!?大丈夫!?」

 

「起きたか...大丈夫だと思う」

 

いやいや大丈夫には全く見えないよ!今にも倒れそうな顔してるんだけど!

 

「とっとりあえずもうすぐ着くからそれまで頑張って!」

 

駅に着いた瞬間翔君の手を引っ張り自動販売機で水を買い彼に飲ませた。水を飲んだおかげで少しずつ顔色も良くなった

 

「ハァ...ありがとな花音。水まで買ってもらって」

 

「ううん。私こそ、呑気に寝ててごめんなさい」

 

「お前が気にすることじゃない。それより、昼飯どこで食べるか決めたのか?」

 

「水族館の近くにカフェがあったから、そこに行きたいんだけどいいかな?」

 

「分かった。地図見せてくれ。見れば大方覚えられる」

 

「そうなの?記憶力凄いんだね」

 

「これでも学年1位だからな。中学の頃からこれだけは変わらない」

 

「えぇ!?そんなに頭良かったんだ...」

 

「花音も見た目は頭良さそうだけどな。この際聞かないでおくが」

 

「そうしてくれるとありがたいかな。どう?場所は分かった?」

 

「あぁ。時間的に混み始めるだろうからさっさと行くぞ」

 

「また手繋いでもいいかな?」

 

「好きにしろ」

 

「やった!えへへ...」

 

これって側から見たらデートだよね。それも彼女の方が積極的な感じの。反対的に翔君はそういうのに興味無さそうだし。どうすればいいのかな?

 

そうこう考えているうちに例のカフェに着いた。とてもシンプルなカフェだったけど、パンケーキがとても美味しかった。翔君がパンがあると言った瞬間凄く食いついてメニューを見ていた。その時の顔が面白くてこっそり写真を撮ったのは内緒だ

 

お昼ご飯も食べ終え、ようやく水族館に辿り着いた。あらかじめチケットは取ってあったから並ばずに入ることができた。さっきから翔君が頻繁に時間を確認してるけどどうしたんだろう?

 

「...時間だな。花音、行くぞ」

 

「ふぇ!?ちょっまだ見れてないよ!」

 

「急げ。時間がない。今回の目的はそれなんだからな」

 

「まっ待ってよ〜!」

 

急に手を引っ張られてどんどん奥に連れて行かれる。目的って水族館じゃないの?

 

「間に合ったか。数分待ってろよ」

 

連れてこられたのはクラゲコーナー。私が大好きな生き物なんだけど、単に来るだけなら普通にこれば良かったはずなのに...言われた通り待っていると急に明かりが消えた

 

「え!?停電!?」

 

「落ち着け。すぐに戻るから」

 

まるで今から何が起こるのか分かっているような口調だ。混乱していると辺りが明るくなった。だけど、照明が戻ったわけではなかった

 

「これって...」

 

「今回の遠出のメインイベントだ。間に合って良かった」

 

クラゲの水槽がカラフルな色でライトアップされていて、思わず見惚れてしまうほど幻想的な景色が私の前に広がっていた。翔君が急いでいたのはこれを私に見せるためだったんだ

 

「俺からのプレゼントだ。と言ってもイベントに連れてきただけだけど」

 

「え?プレゼント?」

 

「だって今日花音の誕生日だろ?」

 

「あ」

 

そうか。すっかり忘れていたけど、今日私の誕生日だった。前に言ったの覚えててくれたんだ

 

「誕生日おめでとう、花音。これからもよろしく」

 

「ありがとう!翔君!」

 

私は嬉しさのあまり彼に抱きついてしまった

 

「おい、離れろ!暑苦しい!周りの視線が何か鋭いんだけど!」

 

「いいでしょ?今日は私の誕生日なんだから」

 

「ぐっ...」

 

今日起きたことを私は絶対に忘れないだろう。だって、彼が祝ってくれた誕生日なんだから

 

 

ありがとう、翔君

 




読了ありがとうございました

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イヴ誕生日記念

本当にごめんなさい。寝落ちしてごめんなさい。イヴちゃん誕生日おめでとうです


イヴside

 

 

「映画、ですか?」

 

「うん、明日イヴちゃん誕生日でしょ?だからこれで映画行って来なよ!」

 

今日は久し振りの羽沢珈琲店でのバイト。事務室で着替えていると、ツグミさんがやって来て映画のチケットを渡された。ツグミさん曰く、日頃のお礼らしいです。しかも、ずっと前から見たかった銀○2です。とても嬉しいのですが...

 

「何故2枚あるのですか?」

 

そう、2枚も貰ってしまったのです。何故か聞いてみると、ツグミさんは何を聞いているの?と言わんばかりの顔で言ってきた

 

「勿論、翔君を連れて行くためだよ。折角の誕生日なんだし、翔君連れて行かなきゃ意味ないでしょ?」

 

「...へ?」

 

今この人は何て行ったのでしょうか?ショウさんと一緒に行く?私の手元にチケットがあるということは私がショウさんを誘わなくてはならない。そんなの...

 

「むっ無理です!私なんかがショウさんと映画なんて...」

 

「もう!そんなこと言ってたらいつまで経っても進展しないよ?ほら、携帯出して!今すぐ誘う!」

 

「でっでも...」

 

「いいから誘う!」

 

「はっはいぃ!」

 

うぅ...ツグミさんが怖いです...私は携帯を出し恐る恐るショウさんに電話をかけてみる。暫くのコールの音の後、スピーカーから声が聞こえてきた

 

『もしもし。何か用か?』

 

「えっと...その...」

 

チラッとツグミさんの方を見ると、早く誘えと言わんばかりの顔でこちらを見ていた。やっぱりやらなきゃダメでしょうか...

 

『悪りぃ。今Roseliaの練習中だから用があったら手短に頼む』

 

「すっすみません!あの、明日一緒に映画行きませんか?」

 

『明日?ちょっと待ってろ』

 

ショウさんに言われ待っていると、再び声が聞こえてきた

 

『すまん。明日もRoseliaの練習が入ってて行けそうにない。他を当たってくれ』

 

「そうですか...練習中にごめんなさい」

 

『構わん。じゃあな』

 

やっぱり無理ですよね。練習があるのは本当だと思いますが、私なんかと行きたいなんて思いませんよね...

 

「どうだったの?」

 

「明日はRoseliaの練習があるみたいで行けないそうです」

 

「...へぇ〜。イヴちゃん、ちょっと携帯貸してもらっていいかな?」

 

「え?はっはい。どうぞ」

 

「ありがとう」

 

どうしたのでしょうか?ツグミさんが私の携帯を使ったところで意味ないと思うのですが...

 

何をするのかと思ったら、ツグミさんは誰かに電話をかけた

 

「あの、誰に電話をしているのですか?」

 

「勿論翔君だよ?」

 

「え?あっあの、ショウさんは今Roseliaの練習中で...それどころじゃ」

 

そうこうしてる間にショウさんは電話に出てしまった

 

『まだ何かあったか?時間がないからすぐに済ませてくれ』

 

「ヤッホー翔君。練習中にごめんね?」

 

『つっつぐみ?何故にお前が出てくる?』

 

「さっきイヴちゃんの誘い断ったよね?明日練習があるからって」

 

「そうだが?仮にもマネージャーだし流石に練習休むわけには...」

 

「誘いを断られたとき、イヴちゃん目に見えて落ち込んでたんだよねぇ。そりゃそうだよね?明日誕生日なのに翔君と映画行けないんだから」

 

『そっそれはすまない。ていうか、明日イヴの誕生日なのか?おめでとうって言っておいてくれ』

 

「それだけ?折角誕生日にパスパレやモデルの仕事ないのに翔君は電話越しにおめでとうって言うだけなんだね。一緒に出かけるとかそういうのはないのかな?」

 

『いや、だから明日は練習が...休んだら友希那に殺されるし...』

 

「ふ〜ん...まぁいいや。千聖さんにイヴちゃんの気持ちより練習優先させる薄情者だって言っておくから」

 

『ちょっ!?それだけはやめろ!悪かった!友希那に頼んでみるからそれだけはやめろ!』

 

ツグミさんがスピーカーをONにしているおかげで会話が丸聞こえだ。ショウさんが怯えるような声もしっかり聞こえてくる。暫くすると

 

『...何とか許可は出た。イヴはいるか?明日について話し合っておきたい』

 

「うん、分かった。イヴちゃん、変わって」

 

「はっはい。もしもし?」

 

『もしもし。まぁ色々あって明日は行けるようになった。映画の時間とか集合とかは今日の夜でいいか?』

 

「はい!ありがとうございます!」

 

『まぁ俺もイヴと出かけてみたかったし、明日は楽しみにしてるよ。じゃあな』

 

彼はそう言い残し電話を切ってしまった。もう少しお話ししたかったけど、今は練習中なのでそうも言ってられない

 

「あの、ありがとうございます」

 

「いいよこれくらい。全く...誕生日に映画に誘うって時点で気づいて欲しいよね。明日は頑張ってね。翔君デートとか疎いししっかりエスコートしてあげてね」

 

うぅ...緊張してきました。デートなんて今までやったことないし、エスコートなんて到底できるとは思えない。でも、やるしかないですよね...

 

私は期待と不安を胸にアルバイトに取り組んだ

 

 

 

咲夜side

 

 

 

つぐみにイヴと出かけるよう命令...じゃなくてお願いされた次の日、俺はイヴの家に向かっていた

 

友希那には昨日の練習のときにめちゃくちゃ頼みこんで何とか許しを得た。その際今度一緒に出かけろと言われたがよく分からん。今井やあこはニヤニヤしてるし白金は微笑んでるし氷川は呆れてるしでなんか疲れた

 

約束の時間である10時にイヴの家に着き、インターホンを押すとイヴが出てきて出発となった。モデルをやっているだけあってコーディネートがしっかりしている。いつもは柏に頼んでいるけど、今日はイヴに頼んでみよう

 

今日の予定は映画が昼から始まるため、先に洋服屋とかに行きながら昼食を済ませそれから映画を観るという流れだ。そういえば、1つ言い忘れてたな

 

「イヴ、誕生日おめでとう」

 

「え?あっありがとうございます///」

 

何か顔赤いけど問題ないな。熱あるならこんな普通に歩けないだろうし...

 

「何処から行く?イヴの好きなところからでいいけど」

 

「そうですね...でしたら、洋服屋に行きましょう。丁度新しい夏用の服が欲しかったので」

 

「了解。ついでに俺のも選んでくれ。プロのモデルが選んだやつなら文句なしでいいのができるだろうから」

 

「任せてください!ショウさんにぴったりのコーデを考えてみせます!ブシドー!」

 

「和服とか持ってくるんじゃねえぞ?」

 

心配だ。イヴがブシドー!と言ったときは何をするか分かったもんじゃない。頼むから普通の服持ってきてくれ...

 

 

 

「これなんてどうでしょうか?」

 

「おぉ、流石はイヴ。持ってくる服が凄え。ちょっと試着してくる」

 

前言撤回。センスの塊だったわ

 

俺は基本派手な色は似合わないので白や黒、灰色の服を着ることが多い。彼女もそれを分かっているのか、その3色を主としたコーデを考えて持って来てくれる。柏よりも全然上だわこれ

 

「どうだ?自分でも結構似合ってると思ってるんだが」

 

「......」

 

反応がないな。何かこっちを見たまま固まってる

 

「おーいイヴ〜大丈夫か?」

 

「...あっ!とても似合ってます!凄くショウさんらしくてかっこいいです!」

 

「そうか。じゃあこれ買うか。ちょっと待っててくれ」

 

俺は元の服に着替えるとさっき着た服をレジに持って行き会計を済ませた。やはりというか何というか、値段は高かった。まぁ全く損はないので良しとしよう

 

「お待たせ〜。次はイヴの服見に行こうぜ」

 

「はい!あの、私の服を選んでもらってもいいですか?」

 

「え?俺のなんかより自分で選んだ方が良いと思うけど」

 

「大丈夫です!ショウさんが選んだ服着てみたいです!」

 

「...分かった。ただし、あまり期待すんなよ」

 

これは随分と難しいな。服なんて殆ど自分で選んだことがない。いつもは柏に選んでもらってたし...やるしかないか

 

俺たちは女子用の服屋に行き選考開始となった。服なんて自分のすら選んだことないため初めてだ。10分くらい悩んだところでイヴの髪色と同じような白いワンピースを持って行き、試着してもらうと思った以上に似合っていた

 

他のも見ようかと思ったらイヴはこれがいいと言い出しレジへ走り去ってしまった。とりあえず捕まえてワンピースを奪い俺が会計を済ませた。誕生日なのに何も買ってあげないのは流石の俺でもしない

 

気づけば昼になっており、軽く昼食を済ませ映画館へ向かった。時間も迫っていたため速攻でチケットを買い急いで席についた

 

「何とか間に合ったな。イヴ、疲れたりしてないか?」

 

「大丈夫です!それより、もうすぐ映画始まりますよ!」

 

「分かってるよ。とりあえず静かにしような」

 

この後映画が始まり、銀○2を観たのだ...結構面白かったと思う。幾ら感情がなくてもこのくらいは感じれるらしい

 

途中チラッとイヴの顔を見ると目がとてもキラキラしていてその顔が可愛く感じたのは内緒だ

 

「今日はありがとうな。おかげで楽しめたし、いい気分転換になった」

 

「こちらこそ、ありがとうございます!服も買っていただいて...」

 

「それは俺からの誕生日プレゼントとして受け取ってくれ。ほら、日がくれる前に帰るぞ。送ってってやるから」

 

「お願いします!あっあの、手を繋いでもいいですか?」

 

「?別に構わんが?」

 

「ありがとうございます!」

 

そこまで喜ぶことかねぇ。まぁ喜んでもらえたならいいか。こうして俺とイヴのショッピング兼映画鑑賞は幕を閉じた




読了ありがとうございます

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モカ誕生日記念 ゆるふわ少女へのプレゼント

今日はモカの誕生日記念です。モカちゃん誕生日おめでとう!

Roseliaの新曲最高でしたね!Roseliaの皆さんもFUTURE.WORID.FES出場おめでとうございます!

因みにRoseliaとRASの合同ライブ2日間とも当たっちゃったんですけど、受験生何で行けないんですよね...虚しい


咲夜side

 

 

 

「今日1日此処で働かせてください」

 

「え?」

 

ある日の朝。俺は山吹ベーカリーに頼み事をしに行った。内容はさっき言った通り今日1日此処で働かせてもらうこと

 

「えっと...因みに何で?」

 

「明日モカの誕生日なんだ。前に一緒に合宿に行った時にパンを作ったんだが、やはり家にある物では限界でな。本格的な物を作りたい」

 

あの時も美味しそうに食べてくれたけど、誕生日となれば別だ。もっとしっかりした物を食べさせたい

 

「そういうこと?お父さんに聞いてみないと分からないけど...作ったことはあるんだよね?」

 

「あぁ。1日だけだし、無給で大丈夫だ」

 

「ちょっと待ってて」

 

沙綾は一言断ると店の奥へ入って行った。断られたら家で作るしかないけど...できることなら此処で作りたいな。5分くらいしたところで沙綾が出てきた

 

「お待たせ。お父さんが一回パンを作ってみてくれって。その結果次第かな」

 

「了解。ありがとな」

 

まずは第一段階クリアといったところか。まだ気は抜けないがな

 

「材料は家のやつ使っていいからね。着いて来て」

 

沙綾に案内され店の厨房に入る。めちゃ綺麗じゃねえか。これだけ揃ってればあの美味しさもよく分かる。中には沙綾の父と思われる人がいた

 

「君が此処で働きたいという子かな?見たことある顔だね。うちの常連さんかい?話は沙綾から聞いているよ。経験はあるみたいだね」

 

「まぁ1回しか作ったことありませんけどね。料理は得意なつもりです」

 

「翔君の料理凄く美味しいんだよ。前にライブの打ち上げで作ってくれたんだけど、凄かった」

 

「沙綾がそこまで言うなら心配無いだろう。作り方は改めてこちらで教えるから、エプロンに着替えてきなさい」

 

「ありがとうございます」

 

優しい人だな。大事な人に贈るんだ。妥協は許さない。最高のものを作ってやる

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

「できましたよ。味見お願いします」

 

「分かった。沙綾も食べてみなさい」

 

「はーい」

 

できあがったパンを沙綾と彼女の親父さんに渡す。ヤバイ緊張してきた。俺的にはかなりいい感じにできたと思うけど...

 

「...どうですか?」

 

「とても美味しいよ。生地もしっかりしてるし味もとてもいい。あとはふんわり感が出せれば最高だ」

 

「翔君やっぱり凄いね。私より上手いかも」

 

「流石に沙綾には負けるさ」

 

「是非うちで働いてほしいものだね。君みたいな人なら大歓迎だよ」

 

「そうしたいんですが...これ以上バイトを増やすと妹に殺されるというか...」

 

「花梨ちゃんのこと?確かにあの子怒ると怖そうだね」

 

「怖いなんてもんじゃねえよ。キレれば刀振り回して襲いかかって来るぞ」

 

「...絶対に怒らせないようにします」

 

「じゃあそろそろ取りかかろうか。翔君には店の商品も一緒に作ってもらうからね。私がしっかり教えるから安心しなさい」

 

「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

 

さぁここからが本番だ。プロに教えてもらえるなんてこんな滅多な機会もう無いだろう。覚えられることは覚えてモカへのプレゼントに相応しいパンを作ってやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったー!」

 

「お疲れ様。今日はありがとう。お陰で助かったよ」

 

「いえ、むしろ迷惑だったでしょうに...」

 

「飲み込みが早くて驚いたよ。すぐに店に出せるレベルになったし、君がレジにいる間なんて女子高生が殺到して来たからね」

 

「やめてください思い出したくないんで。今日はありがとうございました」

 

「翔君お疲れ様。これ、今日のバイト代だよ」

 

そう言って沙綾は大量のパンを持って来た

 

「無給でいいって言ったんだけど...まぁありがたく受け取っておくよ。沙綾も今日はありがとな。お陰で最高のものが作れたよ」

 

「また今度手伝いに来てくれると助かるんだけど、いいかな?」

 

「時間があれば何時でもやりますよ。妹に見つかりさえしなければ」

 

柏に知られたらおそらく3日は口を聞いてもらえないだろうな。最近シフトを1日だけ減らしたんだし、これくらいは許してほしい

 

「じゃあそろそろ店閉めるから、もう帰ってもいいよ。本当にありがとね、翔君」

 

「あぁ。何だかお前の妹たちに気に入られちまったしな。たまにはそっちにも顔出すよ」

 

「分かった。じゃあね」

 

「おう」

 

さて、後はモカにあげるだけだな。モカがいつも頼むという商品を作ったんだし、これなら喜んでもらえるだろう。明日はAfterglowの予約入ってたし、その時に渡せばいいか

 

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

 

モカside

 

 

 

「モカ、誕生日おめでとう」

 

「モカちゃん、おめでとう!」

 

「おめでとうモカ!」

 

「おめでとう!」

 

「モカ、おめでとう」

 

「ありがとね〜」

 

今日はあたしの誕生日。朝つぐの家に集まると皆が祝ってくれた。これから練習なのにパーティーしたくなっちゃうな〜。今までと違うのは此処にりゅ〜君がいることかな

 

「おめでとう。パーティーはまた今日の夜にやるから、楽しみにしててね」

 

「はーい。じゃあ練習行くよー」

 

「張り切ってるなモカ。アタシも張り切らなきゃな!」

 

「張り切りすぎてテンポ速めるなよ巴」

 

「うぐっ...気をつけます」

 

他愛ない会話をしながらCiRCLEへ向かう。いつも通り、りゅ〜君と蘭がイチャついてあたしとともちんで弄って蘭が顔を真っ赤にして...こんな日常が続けばいいのにな〜

 

(そういえば...しょ〜君は覚えててくれてるかな?)

 

前に誕生日を聞かれたから教えたけど、彼は覚えているだろうか?忘れられてたら暫く立ち上がれないかもな〜。どうか覚えててくれますように。それと...

 

「りゅ〜君は何でそんなにニヤついてるのかな?」

 

「いや、顔に翔から誕生日プレゼント貰えないかなって書いてあったから...ククッ」

 

「りゅ〜君の意地悪///」

 

それでもなおニヤニヤしているりゅ〜君があまりにもムカついたので脛を思いっきり蹴った。痛みに悶えながらつぐに慰められ、それを見た蘭に更に蹴られる。ちょっと可哀想だな〜

 

「いってぇ...こいつら人が怪我してるところピンポイントで蹴ってきやがる」

 

「前から思ってたんだけど琉太怪我多くないか?何をしたらそうなるんだ?」

 

「えっ!?いや、まぁ...色々とな」

 

あからさまに怪しい反応をしている。しょ〜君もそうだけど、絶対に何か隠してるよね

 

「今度みっちり聞かせてもらうからね。ほら、着いたよ」

 

「それまでに生きてたらな」

 

「?何か言った?」

 

「何でもねえよ。じゃあお前たちは先に始めててくれ。最初は3曲くらい合わせてから個人練習な。苦手なフレーズをしっかり確認しといてくれ。今日は翔もいるし、キーボードとドラムは困ったら彼奴に聞け」

 

『了解』

 

「琉太遅えよ。シフトギリギリじゃねえか」

 

中に入ると既にしょ〜君が受付に入っていた

 

「悪りぃ。すぐに準備する」

 

「俺もRoseliaあるんだからな。それとモカ、行く前にちょっと来てくれ」

 

「?はーい」

 

「しっかりな」

 

「うっせえ」

 

何か2人が話してるけど何だろう?まさか誕生日プレゼント...な訳無いよね

 

「どったの?」

 

「お前今日誕生日だろ?だからこれ、プレゼント」

 

「え...」

 

「もしかして嫌だったか?」

 

「そっそうじゃなくて...覚えてたの?」

 

「当たり前だろ。伊達に学年トップじゃないからな。昨日沙綾に頼み込んで山吹ベーカリーで作らせてもらったんだ。合宿以来の手作りパンだが、結構自身はあるぞ」

 

「っ...ありがとねしょ〜君/////」

 

「あぁ。誕生日おめでとう、モカ」

 

「っ〜〜〜〜〜〜/////じゃっじゃああたしは練習行くからねー」

 

「頑張れよ」

 

心臓がうるさい。さっきの微笑んだ顔を思い出すだけでどうしようもなく胸が高まってしまう。彼はズルい。無自覚であんな顔をしてしまうのだから

 

「お待たせー」

 

「やっと来た。お楽しみの時間はどうだった?」

 

「へ...///」

 

「モカめっちゃ顔赤くしてたな!珈琲欲しくなるぜ!」

 

「モカのさっきの顔、凄く面白かった」

 

ここぞと言わんばかりに蘭とともちんがあたしを弄ってくる。この時初めて蘭弄りも程々にしようと思ったのだった

 

 

 

因みに夜のパーティーにもしょ〜君は来てくれて、Afterglowの皆から弄られたのは別の話

 

 

 

今年の誕生日は今までで最高の誕生日となった




読了ありがとうございます

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そろそろ本編も進めないとですね...勉強しないと...


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友希那誕生日記念 月の死神と青薔薇の歌姫の誓い

本当に間に合わなくてごめんなさい。寝落ちしてすみませんでした

友希那と咲夜は既に付き合っている設定でいかせていただきます


咲夜side

 

 

「というわけで明日俺の家でパーティーをやりたいので協力していただきたい」

 

「説明速すぎて分かんないから最初から説明してくれない?」

 

今日は10月25日。友希那の誕生日前日だ。1週間前から練っていた計画だが、遂行するには今井らRoseliaの協力が必要なので昼休みを使って今井のところに押しかけた。友希那に勘付かれないよう大和に足止めしてもらってる

 

「明日午後から夕方まで練習あるだろ?その後俺の家でサプライズみたいな感じで友希那の誕生日を祝いたいなと思って」

 

「それ自体は賛成だけどさー。翔の家知ってるんだしサプライズは無理があるんじゃないかな?気づかれちゃうよ?」

 

「練習終わりに今井のクッキーに少量の睡眠薬を混ぜて眠らせようかと...痛い痛い!無言で抓るな!最後まで話を聞け!」

 

突然キレだした今井をなんとか宥め説明を再開する。腕の皮膚めっちゃ痛え...

 

「使うのはほんのちょっとだ。練習後で疲れてる状態なら少しだけでも多分効果は出る。安全には最大限考慮してある」

 

「いきなり何を言い出すかと思えば...アタシクッキーに睡眠薬なんて入れれないよ?それに紗夜が何て言うか...」

 

「氷川は押せば何とかなるし最悪ポテトで釣れるからいい。睡眠薬なら柏に手伝ってもらえばすぐにできるぞ。明日の午前中に友希那以外の全員でパーティーの準備をする」

 

我ながら完璧な計画だと思うんだがな。やり方は手荒かもしれんが、サプライズとしては最高の形だ。起きたらいきなり祝われるってよくない?

 

「紗夜たちの許可が得られたらいいよ。今日も練習あるからその時に聞いてみる。ダメでも別の方法ならアタシは協力するよ」

 

「サンキュー。今日まりなさんいなくて休憩あまり取れそうにないから柏を指導に就けておく。柏にも計画は話してあるから2人で頼む」

 

「分かった。それじゃお昼食べよっか。友希那は?」

 

「大和や氷川妹と屋上で食べてると思うから俺たちも屋上に行こうか。此処は居心地があまりよくない」

 

「あ〜...翔と友希那の関係知られてないもんね。お陰で毎日のように翔見て騒いでる女子に対してキレそうになる友希那を宥めるのに苦労してるんだよ」

 

「俺は別に知られてもいいんだがな...まぁそういうことだ。今日は頼んだ」

 

今更なんだけど、此奴本名と偽名の使い分け上手くない?俺たちでさえ慣れるのに相当時間かかったのに

 

「オッケー。それと、よく他の女子に翔に告白したいから手伝ってって言われるけど、面倒だからできれば公表してくれるとありがたいかな」

 

「何故俺の暇な日に限って来るんだと思ったらお前のせいか!んなもん友希那に言えや!彼奴が公表したくないって言ったんだからな!」

 

コイツ何てことしやがる。こちとら貴重な昼寝の時間は削られるわ、毎度友希那に説教受けるわで大変だというのに全ての元凶がまさか此処にいるなんて

 

「んじゃ、久し振りに本気出すとしますかね」

 

とりあえずバカ親父たちを殺した時並みの本気は出そうか

 

 

 

因みに氷川の説得には1時間かかった

 

 

 

友希那side

 

 

今日の練習は咲夜が休憩に入ることが難しく彼は来れない。代わりに柏が私たちの指導をしてくれている。やはり彼女の実力は異次元クラスで、半年指導を受けた今でも私では歯が立たない

 

「まぁこんな感じでしょうか。少し休憩にしましょう。あこ、課題やるから準備して」

 

「う...ホントにやるの?」

 

「手伝ってあげるだけマシだと思いなよ。それとも一学期の二の舞になりたい?」

 

「そ、それだけは...」

 

「なら早く準備しろ」

 

「はいぃ!」

 

どうやら、あこはこれなら課題をやるらしい。近々テストがあるからそのためでしょうね。相変わらず柏の威圧は背筋が凍る

 

「アタシも課題まだ少しだけ残ってるからやろうかな。紗夜、分からないところあるから教えてくれない?」

 

「構わないわよ。私のできる範囲なら協力するわ」

 

「友希那もやりなよ。まだ少しだけ残ってたでしょ?」

 

何故リサは私の課題の進行状況を知っているのかしら?クラスも違うのに知られているのは流石に怖い

 

「私はいいわ。それよりリサのクッキーを...」

 

「この前テストで一定点数以上取らないと咲夜からデート禁止って言われてたでしょ?紗夜と燐子もいるんだし、今のうちに教えてもらっときなよ。あと、クッキーは今回は特別だから最後ね」

 

「...分かったわ」

 

渋々了承し、念の為持っていた課題を取り出す。紗夜はリサに就いているので燐子に教えてもらうことにした。時々悲鳴のような声が聞こえるが気にしないでおこう

 

30分程勉強し、課題も終わったので練習を再開することにした。最後のアドバイスを貰ったところで終了時間になったため、皆で片付けを始めた

 

「友希那、これ新作のクッキーだよ。味付け変えてみたんだけど食べてみて?」

 

「ありがとう、いただくわ。...あんまり変わってないような...あれ?」

 

何だろう。急に眠気が...意識が朦朧としてきた

 

「リ...サ...何を」

 

「ゴメンね?少しだけ眠っててもらうよ〜」

 

必死の抵抗も虚しく、私の意識は飛んでいった

 

 

 

 

咲夜side

 

 

 

シフトの終わりの時間が近づいてきたため片付けをしていると、スタジオの方からRoseliaと柏が出てきた。友希那は眠り、柏に抱えられている

 

「上手くいったみたいだな。あと数分で片付け終わるから待っててくれ」

 

「私も手伝う。起きられて間に合わなかったら困るから」

 

「助かる」

 

()()()()以来、柏は俺たち家族に対して敬語をなくすようになった。と言うよりは俺と華蓮で強制的にそうさせたんだけども

 

友希那を起こさないよう細心の注意を払いつつ飾り付けを行う

 

「これをこうして...完成だ」

 

「いいじゃん!これなら友希那も喜ぶよ!」

 

今井は大絶賛。他の奴も拍手してる辺り異論はなさそうだな

 

「じゃあ電気を消して待機だ。これ、インカムと暗視スコープ渡しとくから。タイミングの指示はあこに任せる」

 

「はーい!」

 

さぁ、どんな反応をするのか。楽しませてもらおうか。友希那

 

 

 

友希那side

 

 

 

目が覚めると、そこは真っ暗な世界だった。裸足になっているため室内であることは間違いない。前に攫われた時の記憶を思い出し不安になる

 

「確かリサの新作とか言うクッキーを食べて...急に眠気が襲ってきて...」

 

そこからの記憶がまるでない。一瞬で時間が飛んだかのようなそんな感覚だ。その時、後ろで大きな物音がした

 

「っ!?誰!何をしているの!?」

 

返事は無い。恐怖で泣きそうになってしまった、その時。急に光が射し大きな音が聞こえた

 

 

「「「「「誕生日おめでとう(ございます)!!!」」」」」

 

 

「...へ?」

 

現れたのはテロリストなどではなく、Roseliaのメンバー、そして恋人の咲夜だった。周りを見てみると飾り付けが沢山されている

 

「どういう...こと?これは一体...」

 

「見ての通り友希那の誕生日パーティーだ。サプライズ大成功だなってうおっ!?」

 

さっきまでのは恐怖が残っていた私は思わず咲夜に抱きつきそのまま泣いてしまった

 

「...グスッ...怖かったじゃない...あの時みたいで...」

 

「あー!咲夜が友希那泣かせたー!ひっどー!」

 

「俺か!?いやそうなんだけど...協力したお前たちにも多少の責任はある筈だ!皆同罪だ!」

 

「随分とヤケクソになってますね...咲夜さん」

 

「うっせえ!」

 

暫く咲夜の胸で泣いた後、ようやく落ち着きを取り戻した私は改めて皆からのお祝いを受けた。リサからはヘアアクセ、あこからは指輪、紗夜からはマフラーなどと、沢山用意してくれた。咲夜は後で渡すらしい

 

「さて!今日の晩飯は俺と柏が本気で作ったものばかりだ!全員遠慮無く食え!」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

それからは料理を食べたりカラオケ大会をしたり、ゲームをしたりとはしゃぎまくった。去年も祝ってくれたが、今年の方が断然楽しかった。咲夜が祝ってくれたからだろう

 

時間を忘れ楽しみ、気付けば夜の10時になっていた。あこは疲れて眠ってしまい、他の皆も疲れている。無論、私も疲れている

 

「そろそろ解散するか。片付けはいいから、皆家まで送って行くぞ。あこと白金は柏が送ってくれ」

 

「分かった。ほら、起きてあこ。帰るよ」

 

「咲夜、今日は泊まってもいいかしら?」

 

「いいけど...親は許すのか?」

 

「問題無いと思うわ。着替えを取りに帰るけれど...夜遅くなるのはリサが言っているのでしょう?」

 

「言ってあるよ。一応泊まり道具も用意しておいてって言ったけど」

 

私の行動読まれすぎじゃないかしら...幼馴染と言うのは侮れない

 

「それじゃあ行くか。友希那にはプレゼントも渡したいしな」

 

咲夜からのプレゼント。それだけで胸が高鳴り顔が赤くなってしまう。楽しみでしょうがない

 

一度家に帰り用意されていた着替えを持ち咲夜の家に戻った。本当に用意されていた時は驚いたが。まだ柏は戻って来ておらず、2人きりとなっている

 

「咲夜、その...プレゼントって...」

 

「あぁ。正直被ったからどうしようかと悩んだが...仕方ないか。意味合いも違うし」

 

そう言って彼はポケットから小さな箱を取り出した。この大きさ、そして形。見覚えがある。これは...

 

「誕生日おめでとう。そして、今まで本当にありがとう。友希那がいたから俺はこうして幸せな人生を送れている。だから今度は俺が友希那を幸せにする番だ」

 

「美しき青薔薇の歌姫様。月の死神と永遠にこれからを、頂点のその先も共に生きてくれ。何があろうとも、俺は貴女を支えそばにいることを誓おう」

 

彼は私の前に跪き、箱の中から指輪を取り出した。俗に言うプロポーズ。永遠の愛を誓う瞬間だ。答えは決まっている

 

「...はい。喜んで!」

 

私、湊友希那は月読命咲夜と永遠に共に生きていくことを誓います




友希那さん誕生日おめでとうございます!

2人がどのように結ばれたのか、本編をお楽しみに!


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死神の看病大作戦

予告通り番外編です。久し振りに5000字超えました

まだ暑い日は続きます。皆さんも熱中症に気をつけましょう。去年自分もなりましたが、結構きついです




咲夜side

 

「モカが風邪引いた?」

 

「うん。だからお見舞いに行ってあげてほしいんだけど」

 

ある日の朝。今日はバイトは無くRoseliaの練習だけあったため今日のメニューを考えようとしたのだが、蘭によってそれは阻止された

 

「お前らは行かないのか?って今日Afterglowの予約入ってたか」

 

「休みにしようと思ったんだけど、モカが琉太に代わってもらえって」

 

成る程な。行けないことは無いが友希那がそれを許すかどうかだな...

 

「ちょっと友希那に確認してみる。あまり期待はするなよ」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

電話帳から友希那を選び電話をかける。数秒後、スピーカー越しに透き通った声が聞こえてきた

 

『もしもし?どうしたの?』

 

「モカが風邪引いたらしくて見舞いに行きたくてな。今日の練習休ませてほしい」

 

『...分かったわ。私たちは貴方に頼んでいる側だし無理は言わない。けど、今度私の個人練習に付き合ってもらうわよ』

 

「了解。ありがとな」

 

『リサたちには私の方から言っておくから大丈夫よ』

 

「助かる。それじゃあまた今度」

 

「えぇ」

 

案外簡単に許可降りたな。そうと決まればお粥とかの材料買いに行かなきゃな。幸い明日は土曜日だし夜遅くなっても特に問題は無い。てか親は?

 

「許可は降りた。それはいいんだが、モカの両親はいないのか?」

 

「モカの両親は今旅行中だって。だから今はモカ1人しかいないみたい」

 

「大丈夫なのか?めっちゃ心配になってきたんだけど...」

 

「だから翔に頼んでんの。あんた料理上手いし、そのまま夜ご飯も作ってあげれると思って」

 

「成る程な。それじゃあ俺はさっさと準備して行くとするよ。何かあったら連絡するから対応できるようにしておいてくれ」

 

「分かった。でもどうやって家の中に入ろう?」

 

「あ......」

 

おいおい。どうやって中に入れってんだ。仕方ない。奥の手を使うか

 

「1つだけ入る方法があった。後は任せろ」

 

「ありがとう」

 

放課後

 

柏にRoseliaの練習付き合うよう言っておくか。後は針金があればピッキングして家の中に入れるから1回家に帰って...

 

あれこれ考えながら歩けば気づけば家に着いていた。スマホを見ると学校を出てから。病人いるってのに何やってんだ俺は

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい。今日は少し遅かったですね」

 

「蘭と話しててな。モカが風邪引いたらしくて、彼奴の家に見舞いに行くことになったから夜ご飯はいらない。華蓮と2人で何か食え」

 

「モカさんがですか?珍しいですね」

 

「それな。俺もモカは風邪なんて引かないと思ってた」

 

パンばっかり食ってるくせに太らないし割と健康体だし...今は違うか

 

「Roseliaはどうするんですか?今日練習入ってたでしょう」

 

「友希那には伝えてある。悪いが今日は柏が付き合ってやってくれ。そろそろボーカルとベースは見直しといた方がいいと思うから」

 

「了解しました。では私は準備してから行きますね」

 

「俺もお粥の材料とか買いに行かなきゃな。着替えてくるから一緒に出るか」

 

あまり時間をかけるのもモカが心配なので秒で終わらせてすぐに家に出た。スーパーに直行し額に貼る冷たいやつとお粥の材料を買いあさった。この時間僅か10分

 

お粥の作り方は以前柏が風邪引いた時に調べておいたので分かる。作るより調べる方が大変だったのを覚えている。奏斗もいなかったから本当に大変だった

 

モカの家に辿り着き念の為インターホンを押す。寝ているのだろう。反応は無い。ここはこれの出番だな

 

俺はあらかじめ用意しておいた針金を鍵穴に差し込み解錠にとりかかった。上下解錠するのに20秒はかからなかったと思う。昔潜入する時にめっちゃやったからな...

 

中に入るとまずは先程買ったお粥の材料を冷蔵庫に入れ、すぐにモカの部屋に向かった。部屋では顔を赤くして苦しそうに寝ているモカがいた

 

「熱はっと...あっつ!これはまずいな...とりあえずさっきの冷たいやつ貼って...」

 

額を触ると信じられない程熱くなっていたのですぐさま冷たいシートを貼った。冷たさに驚いたのかモカはゆっくりと目を開けた

 

「あ...れ?しょ〜君?」

 

「お目覚めか。風邪引いたって聞いてな。見舞いに来た。蘭たちはお前に言われた通り練習してるよ」

 

「しょ〜君は?」

 

「花梨に任せた。これは蘭の頼みでもあるし、何より俺が行くと決めたんだ。あまり気にするな」

 

「...ありがとう」

 

「さて、体温計何処にある?1度熱を測った方がいい」

 

「そこの机に...」

 

「あった。身体起こせるか?測ってやるから」

 

「じっ自分でやるから...///」

 

「そうか?あまり無理はするなよ」

 

別にそのくらい任せりゃいいのに...若干顔も余計に赤くなってきてるし

 

 

感情が無いこの死神。体温計を入れるなら多少服をはだけさせなければならないが、この男はそれがモカにとってどれだけ恥ずかしいことなのか知らない。そしてこの男自身、そういったものは感じない

 

 

「鳴ったよ...はい」

 

「どれどれ...39.8C°!?モカ、寝ろ!」

 

俺は無理矢理モカをベッドに寝かせ首筋にもう1枚シートを貼った。首は体温に影響しやすいからな

 

「思ったよりも容体は悪いな...早いところお粥作って寝かせるか」

 

部屋を出ようと立ち上がったその時、裾に違和感を感じ振り返るとモカが掴んでいた

 

「モカ?悪いが、今からお粥を...」

 

「...か...いで」

 

「え?」

 

「行かないで...」

 

今にも消えそうな声でそう呟くモカ。身体の調子は精神の調子にも影響する。身体が弱ったことで精神的にもかなり弱っている。そんな中孤独感というのはとても危険すぎる

 

「まずいな...下手に離れたら余計に悪化させちまう。かと言って何もせずに此処に留まるのも...」

 

「...もち...い」

 

「どうした?」

 

「汗が気持ち悪い。しょ〜君...身体拭いて?」

 

「はい?」

 

 

この男は感情を持たない。だがしかし、学校の保険の授業で最低限ながら知識はある。勿論、恥ずかしさなどは一切湧かない。でもそれはまずいことだということは流石に分かる

 

 

「えっとだな。それは流石に色々と問題が...バレたら友希那と蘭に殺されかねなくて...」

 

「...ダメ?」

 

涙目の上目遣いで見てくるモカ。そんな目で断れる奴が何処にいるってんだチクショウ

 

「...分かった。タオルとか持って来るから。安心しろ、すぐに戻って来る。今は独りじゃ無いからな」

 

安心させるためにモカに語りかける。その言葉が効いたのか少し苦しそうながらも安心したような顔になった。そうと決まればすぐにとりかかろう

 

あれだけの熱があれば相当な汗をかいただろう。風邪を引いた身体にはあまり良くない。洗面台にあった桶にお湯を入れタオルと共に持って行く。扉の前まで来たので桶を1度置いて扉を開けると、モカが身体を起こそうとしていた

 

「おいモカ!何してんだ!」

 

すぐに彼女を支えベッドに寝かせる。こいつ、何をしようとして...

 

「だって...起きないとしょ〜君が身体拭けないから」

 

「んなもん俺が支えながらやれるわ!40C°近い熱出してる病人が人の心配してんじゃねえドアホ!今は自分のことだけ考えてろ!」

 

「...ごめんなさい」

 

今にも泣きそうな表情のモカ。しまった、言い過ぎた

 

「悪い。俺も言い過ぎた。でもな、俺は今お前が心配で、お前のためにこうして動いてる。黙って甘えてろ」

 

「...ゔん」

 

「ほら、拭いてやるから。その、1回服脱いでくれると助かる」

 

若干抵抗がありながらも指示すると、モカの方は何の抵抗も無く服を脱いだ。こいつ、思考力鈍ってやがる

 

服を脱いでもらったので彼女の背中を優しくこする。気持ち良さそうにしてるあたり、余程気持ち悪かったんだろうな

 

「終わったぞ。前とか足は自分でやってくれ。その間に俺はお粥作って来るから」

 

「ねえ...今日、泊まっていってほしいんだけど、いいかな〜?」

 

「え?なして?」

 

「1人はその、寂しいから...今日は独りは嫌だ」

 

まぁ無理もないか。仕方ない、今日は大人しくモカの頼みを聞いてあげよう

 

「分かった。じゃあ先に着替え取りに行かせてくれ。すぐに戻る。暫く寝てろ」

 

「...うん」

 

柏には伝えとかないとな。まだ練習中と言ったところか

 

「もしもし、今どんな感じ?」

 

『今は休憩で、先程まで友希那さんとリサさんを徹底的に叩き直してたところですけど、どうしたんですか?』

 

「程々にしてやれよ...今日はモカの家に泊まることになったからそれを伝えたかっただけだ」

 

『ほぉ?年頃の男女が一夜を共にするのですか...モカさんもいい度胸してますね』

 

「何怒ってんのか知らんがあくまで看病のためだ。友希那には言うなよ殺される」

 

『分かりました(後で言ってやりましょう)』

 

さて、そうと決まれば着替えを取りに行かないとならないな。モカの家から俺の家までは走って10分くらいで着く。往復の時間も考えればその間に寝てくれるだろう

 

「じゃあ行って来るから、しっかり寝ろよ」

 

「は〜い」

 

速攻でモカの家を出た俺は時間短縮のため他の家の屋根を伝って俺の家まで戻った。組織にいた頃の技術がこんなところで役に立つとはな...

 

1泊分の着替えをバッグに詰め込みさっきと同じように屋根を伝いモカの家に向かう。本来なら30分近くかかるであろう時間が15分で終わった

 

「流石に寝たかな...おっ寝てる。顔色も少しだけ良くなってるし暫くは大丈夫そうだな。なら、お粥作った方がいいか。台所借りるからな〜」

 

お粥なんて作るのいつぶりだろうな。俺も柏もあんまり風邪引かないから滅多に作らない。意外と奏斗が風邪引きやすいんだよな

 

「さてと、どうせなら俺の分も作って晩飯にすればいいか。モカの状態考えるとあまり量は食べれそうにないけど...モカだからなぁ」

 

毎日異次元クラスのパンを食べているモカを見てたらどれだけ作ればいいのか分からないんだけど。まぁ足りなくなるよりはマシだな。多めに作っとくか...

 

「これをこうして...よし。久し振りにしては上出来だな。食べてくれるといいけど」

 

できたお粥を持ってモカの部屋に向かうと彼女は来た時よりはマシな表情で寝ていた。汗も拭いたから少し楽になれたんだな

 

「モカ。お粥できたから1回起きてくれ」

 

「ん...」

 

目を覚ましたモカはゆっくり身体を起こした。まだ自力だと難しいあたり衰弱してることには変わらないな。おそらく1日じゃ治らないだろう

 

「1人で食べれるか?食べれそうならその間に風呂借りたいんだけど」

 

「大丈夫だよ〜。ゆっくりしてきて〜」

 

「ありがとう。何かあったら俺の携帯に電話かけてくれ。対応できるようにしておくから」

 

「は〜い」

 

結構美味しそうに食べてくれてるし、問題無さそうだな。最初来た時はヒヤリとしたけど、回復力が高いお陰で何とかなって良かった。この家風呂めっちゃ綺麗

 

「それにしても、俺が人のためにここまでするなんてな...友希那たちのお陰かな」

 

この半年くらいで相当変わったと自分でも思う。以前の俺だったら他の人がどうなろうがどうでもよかったというのに

 

「あんまり時間かけてられないな...普段から長風呂してると急ぐの大変だわこれ」

 

普段なら20分以上かかるのがまさかの15分で終わった。あんまり変わってないわ。まぁ特に連絡も無かったので安心した

 

風呂から上がった俺は飯を食べてモカの様子を見に行った。お粥は綺麗に完食されていて、顔色もまた良くなっていた。回復力どうなってんの?

 

「モカ、調子はどうだ?一応熱も測っておこう」

 

「お昼よりは良くなったかな〜?まだ頭痛いけど〜」

 

「流石に1日では治りきらんよ。で、熱は?」

 

「......」

 

体温計に記された数値を見たモカはそれを布団の中にサッと隠した。いやおい

 

「...何故隠した?」

 

「いや〜...あまりの回復の速さに感動しちゃうね〜」

 

あからさまに目を泳がせながら言うモカ

 

「見せろ」

 

「見たら気絶しちゃうよ〜?」

 

「ええい黙ってろ!いいから寄越せ!」

 

布団を剥ぎ取り体温計を奪い取る。そこに記されていた数値は...

 

 

39.5C°

 

 

「変わってねえじゃねえか!」

 

前言撤回。回復力は普通でした

 

「お前なぁ...病人なんだからそんな面倒なことするな。悪化したらどうすんだ」

 

「だって...しょ〜君とお話したかったんだもん///」

 

「話くらい何時でも付き合ってやる。俺は歯磨いて洗い物してくるから、お前は寝てろ」

 

「...すぐに戻って来るよね?」

 

「あぁ。15分で戻って来てやる」

 

「10分」

 

「ハァ...了解」

 

全く。そんなこと言ってる余裕が何処にあるのだか。独りは嫌だとか言ってるけど、一人と独りは違うからな。今日はそばにいてやるよ

 

モカの要望通り10分で済ませ彼女の部屋に戻った

 

「まだ起きてんのか。さっさと寝ろ」

 

「一緒に寝て?」

 

「座って寝ろと?そのくらいなら別にいいが」

 

するとモカはむすっとした顔をしてベッドを叩き始めた。やめなさいベッドが傷むでしょう

 

「此処で寝て」

 

「なして?風邪うつるかもしれんだろ。つうかバレたら友希那たちに殺される」

 

「...ダメ?/////」

 

だからその赤らめた顔に上目遣いのコンボはやめろ。断れなくなるだろ

 

「...今日だけな」

 

「...湊さんと寝たくせに...」

 

「あれは俺は悪くない。友希那が勝手に布団に入って来ただけだ」

 

「ふ〜ん...まぁいいや。今日はありがとね、しょ〜君」

 

「気にするな。お前が望むなら俺はそれにできる限り応える。それがお前にできる恩返しだ」

 

「...ありがとね〜。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

色々あって疲れたのか、意識が飛ぶのに時間はかからなかった。頬に柔らかい感触があったのは気の所為だろう

 

 

 

翌日も風邪は治っていなかったので1日看病となった。因みに何故かモカの家に泊まっていることが友希那にバレ、説教が確定した。なして?




読了ありがとうございました

評価や感想お待ちしております


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歌姫のバレンタイン

バレンタイン編です


咲夜side

 

 

 

今日は2月14日。世間で言うバレンタインの日だ。正直言って俺はこの日が嫌いだ。中学1年の頃の話をしよう。その日俺と奏斗はいつも通り朝学校に行っていた

 

 

 

 

『なぁ奏斗、バレンタインって何のためにあんの?』

 

『俺が知るか。逆に俺が聞きたい。女子が男子にチョコあげるって何のためにやるんだか。好きな人にあげたり、友達としてあげたりだとか色々あるらしいけど、結局何が目的でやってんのかさっぱり分からん。それに、ホワイトデーで返さなきゃならないらしいし』

 

その頃の俺たちは大分落ち着き始めて感情的に人を殺すこともなくなり、彗人さんに叱られることもなくなっていた

 

『まぁ、貰ったことないし考える必要なくね?組織にいた頃なんてそれどころじゃなかったし、華蓮さんや柏だって興味なさそうだったから』

 

それもそうかと納得し、学校に着いたところで俺と奏斗は絶句することとなる

 

『『嘘だろ...』』

 

目の前にはサンタが持っていそうなな袋が2つ。所々角があることから、中には無数の箱が入っていることが伺える。その袋の周りには何十人もの女子が集まり、次々に持っていた箱を詰めていく。やがて、その集団を率いていた3人の女子がこちらの姿を確認するなり

 

『あ、翔君に琉太君!2人ともこっちに来て!』

 

呼ばれて無視するのもあんまりなので素直に行ってみると

 

『これ、皆からのバレンタインだよ!人数が多かったから一人一人の数は少ないけど、皆手作りだから食べてくれると嬉しいな!』

 

『お、おぉ。ありがとう』

 

『でも、こんなに貰っても返し切れそうにないぞ?』

 

『気にしなくていいよ!これだけの人に返すのは大変だろうし、受け取ってくれるだけで十分だから!』

 

意外と考えてはくれてんのなと思った。学校で食べるのはマズイので家に持ち帰り、無駄にするのも気が引けた俺たちは毎日少しずつ食べた。甘いものが苦手な俺は食べるのに物凄く苦労した。そしてそれは3年間続いたのだ

 

 

 

 

「ハァ...帰りたい」

 

「どうした?元気なさそうだな」

 

「お前、今日が何の日か分かってんのか?」

 

「今日?えっと...あ」

 

何の日か思い出した奏斗は顔を真っ青にして震え出した

 

「...俺、今日お腹痛いから保健室行ってくr」

 

「行かせねえぞ。死ぬ時は一緒だ」

 

「ふざけんな!俺はあの地獄はもう懲り懲りなんだよ!中学の頃の連中は気遣いが上手かったから何とかなったものの、高校までそうなるとは限らねえんだぞ!お前1人の犠牲で手を打ってやらぁ!」

 

此奴何て薄情な!?さらっと仲間を捨てやがった!何気に正論を言ってくるのが更にムカつく

 

「ていうか、今日貰うんならもうとっくに貰ってる気がするんだが」

 

「...そういえばそうだな。いつも朝なのに...」

 

中学の頃の3年間は当日の朝に昇降口の前のスペースで大きな袋と共に渡されていた。しかし、今年はそれが無い。大抵、中身はチョコと一緒に付き合ってくださいだのと色々書かれた手紙が入っていたのだが...ん?もしかして...

 

「なぁ、バレンタインって好きな人とか友達にあげるのが一般的なんだよな?」

 

「俺はそう思っているが?」

 

「ひょっとして...俺らには既に蘭と友希那がいるからじゃねえか?」

 

「...あぁ!」

 

別にこの学校の女子と特段仲が良いと言うわけではない。話すのだって基本は奏斗か華蓮、Afterglowや友希那に今井といったガールズバンドの奴らだけだ。話したことない奴から告白されていたが、友希那と付き合っていることを公表して以来それはなくなった。つまり

 

「渡すことが出来ないというわけか。それはいいとして、そうなると...」

 

「「友希那(蘭)に貰えるかが不安になってくる」」

 

次の問題はそれだ。何とも思ってない奴から貰ったところで何も感じないが、友希那となれば話は別だ。友希那のことは好きだし、友希那からプレゼントを貰えば当然嬉しい。逆に言えば、貰えなかったら結構ショックだ

 

「ヤバイ。お腹痛くなってきた」

 

「それな」

 

どうか貰えますように

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

 

「...受け取ってくれるかしら」

 

帰りのHRが終わった私はいつも通り昇降口で咲夜を待っていた。今私が手に持っているのは小さな袋。昨日、リサに手伝ってもらいながらも一生懸命作ったチョコレートだ。甘いものが苦手な彼のためにカカオの配合率が高いチョコを使ってある

 

一応味の確認はしたし、問題は無い、筈。リサにもOKをもらったので心配は無いが...受け取ってもらえるか心配なのだ。以前、バレンタインについての記憶を彼に聞いたことがあった。最初は渡すことを少し躊躇ったが、日頃の感謝の気持ちを伝えたいという想いが勝って結果的に作ることになった

 

「...緊張するわね」

 

さっきから心臓の音が煩い。深呼吸をして落ち着かせようとしたが、それは叶わなかった

 

「...友希那」

 

「!」

 

HRを終えた咲夜がこちらへ来ていた。彼は何処か緊張しているかのような様子だった

 

「えっと、これ。貴方にあげるわ」

 

「これは...もしかして」

 

「前に貴方にバレンタインについての思い出は聞いていたのだけど...受け取ってくれるかしら?」

 

「当たり前だろ。むしろ友希那から貰えて嬉しいよ。正直貰えるか不安だったからな。食べていいか?」

 

「えぇ」

 

彼は袋を開け、中から小さなチョコを取り出し口へ運んだ。その瞬間、彼の顔に驚きの色が見える

 

「これって...」

 

「甘いものが苦手だと聞いていたからカカオを多めにして作ってみたのだけど、どうだったかしら?」

 

もしかして口に合わなかっただろうか?そんな不安が私を襲うが

 

「すげ〜美味しいよ。嬉しい」

 

彼は笑顔で答えてくれた

 

 

 

「ありがとな、友希那」

 

 




明日に蘭と奏斗の書こうかと思ってます


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ツンデレ反骨赤メッシュのバレンタイン

昨日言った通り蘭と奏斗編です


蘭side

 

 

 

「それじゃ、今から奏斗へのバレンタインチョコを作るよ!えい、えい、おー!」

 

「よろしくね、ひまり」

 

今日は2月13日。バレンタイン前日だ。奏斗に初めて渡すバレンタインだから、手作りが良いと思ってひまりに無理を言って手伝ってもらうことにした。以前、バレンタインには嫌な思い出があると彼から聞いていたから、最初は渡すのは諦めようと考えたけど、恋人にもなれたのだし渡したいという気持ちが勝ってしまった

 

「えっと...何かやけにホワイトチョコが多いんだけど、これは何で?」

 

「奏斗、甘いのが好みらしいからビターよりはホワイトチョコの方がいいかなと思って」

 

折角作るのだし、奏斗が好きな味にしたい

 

「成る程...因みに、蘭はどんな形にして渡したいの?カップケーキにしたいとか、溶かして好きな形に固め直したい、とか。それによって色々やり方も変わるから」

 

「...ト...つ...」

 

「え、何て?」

 

「ハ、ハート型のやつにしてメッセージを書こうかと.../////」

 

「」

 

は、恥ずかしい/////...正直こんなのあたしのキャラじゃないなんてことくらい分かってる。でも、こんな形でしか気持ちを伝えられないあたしにとっては必要なことなのだ。奏斗のためにもやらなきゃ

 

「そ、それじゃ早速取りかかろっか。まずはチョコを溶かして...」

 

それから何度も試行錯誤を繰り返し、数時間後ようやく完成させることが出来た。よくつぐみの家の新作の味見をしているひまりにもOKをもらえたし、味に問題は無い。あたしも食べたけど、甘くてちょっと合わなかった。奏斗、喜んでくれるといいな...

 

 

 

 

 

 

奏斗side

 

 

 

 

 

 

「ハァ...ヤバイ緊張するマジで怖い」

 

休み時間に咲夜とバレンタインについて話してから蘭に貰えるか不安でさっきからずっと頭を抱えていた。気付けばもう帰りのHRが終わっていて、帰る時間となっていた。と言っても、俺はこれからCiRCLEでバイトだし、Afterglowの予約も入ってたから一緒に行くことになるだろう。蘭と目を合わせられるか心配だな

 

「...よし、平常心平常心。挙動不審になってたらねだってると思われても仕方ない。出来る限りいつも通りでいないと」

 

ふと周りを見ると咲夜もいなければ巴たちもいない。咲夜の場合は今日はバイトないから先に帰ったのだろう。彼奴は湊から貰ってんのかな...

 

昇降口まで降りるとそこには見慣れた少女、美竹蘭の姿があった

 

「あ、琉太。お疲れ」

 

「お疲れ。皆は?」

 

「先に行ったよ。あたしたちも行こう」

 

蘭に緊張している様子は見られない。逆に俺は緊張でどうにかなりそうだ。犯罪組織潰しに行く前の緊張よりも全然ヤバイ。むしろあれは緊張ほぼしなかった。いつも通りの道でCiRCLEへ向かう。普段あまり口数が多いわけではないが、今日はいつも以上に少ない。俺が緊張で何も話せないだけだけど。気付けばもうCiRCLEに着いていた

 

「か、奏斗...その、これ」

 

蘭は恥ずかしそうな顔で鞄から小包を取り出した

 

「これは...」

 

「奏斗と初めてのバレンタインだし、手作り渡したいなと思って、昨日作ったの。前にバレンタインの思い出については聞いてたから迷ったけど、やっぱり渡したかった」

 

「いやその、むしろめっちゃ嬉しいよ。蘭から貰えるか心配だったくらいだし...」

 

「そ、そうなんだ。ねぇ、一口食べてみてよ」

 

「あぁ」

 

小包を開けて中身を出す。中はハート型の少し大きめのホワイトチョコだった。蘭の奴、俺が甘いの好きなこと覚えててくれたんだな...それに、普通のチョコレートで

 

『ハッピーバレンタイン。大好きだよ、奏斗』

 

と書かれていた。正直、食べずに永久保存したいけど、作ってくれた蘭に失礼だし今回は写真で我慢しよう。写真を数枚撮った俺は一口食べた

 

「...めっちゃ美味しい。これ、蘭が作ったのか?」

 

「うん。ひまりに手伝ってもらいながらだけどね。結構上手く出来たと思うけど、口に合ってよかった」

 

そう言いながら微かに微笑む蘭。何この子、今すぐ抱き締めたい。いつの間にか俺は蘭を優しく抱き締めていた

 

「ちょ!?か、奏斗!恥ずかしい.../////」

 

「ありがとな、蘭。愛してる」

 

 

 

今年のバレンタインは本当に最高だ




読了ありがとうございます。暁空の方もよろしくお願いします


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Afterstory
蘭と奏斗のその後


意外と早かったAfterstory


蘭side

 

 

 

 

奏斗と付き合い始めてから一週間が経った。徐々に恋人という距離感にも慣れてきて、いつも通りを過ごせるようになった。今はバンドの練習の休憩の時間だ

 

「ねぇ蘭、奏斗とはデートの予定立ててるの?」

 

「......あ」

 

そういえば何も考えてなかった。付き合えたことが嬉しすぎてその後のことを考える余裕がなかったのだ

 

「まぁ別に無理にする必要はないだろ。一先ず付き合えたんだし、奏斗の場合他の女子に靡くなんてことはないだろうから」

 

「そ、そうだよね...急に距離縮めすぎても変に意識しちゃうだけだし、焦らずゆっくり」

 

「でもさ〜この前奏斗他の子から告白されてたよ〜?」

 

「え」

 

ま、また?週に三回以上はそれ聞くの気のせいかな?付き合う前なんて聞く度に自分の臆病さにショック受けてたのに付き合った後は不安に駆られることになるなんて...

 

「で、でも奏斗君断ったって言ってたよ?好きな人がいるからって断ったらしくて、今だと奏斗君の好きな人は誰だって大騒ぎで...」

 

「だ、大丈夫だよね?あたし見捨てられないよね?」

 

「蘭がめっちゃ弱気になってる...こんな蘭初めて見たかも」

 

「心配なら公表すれば?ぶっちゃけ、Afterglow全員疑われててアタシら肩身狭くなりそうなんだよ。奏斗は別に気にしないって言ってたんだろ?」

 

「それはそうだけど...やっぱり公表した方がいいかな」

 

でも、あたし一人で決めるわけにはいかない。出来ることなら奏斗の意見を尊重したいし、不安な芽は摘んでおきたい

 

奏斗のことだしあたしが言えばすぐに了承してくれるだろう。そうすれば奏斗が他の子から告白されることはなくなる。でもそれは、ただのあたしの願望にすぎない。エゴでしかない

 

「まずは奏斗と話し合ってみなよ。しっかり話せば奏斗もちゃんと考えてくれるよ。奏斗もうんざりしてる様子だったし、多分二つ返事で了承するだろうけどね」

 

ひまりがそう言ってるのを聞いてとりあえず相談することが決定。そろそろ練習を再開しようかと思ったその時

 

「休憩入ったぞ。なんだ、そっちも休憩中かってどうした?何か話してたか?」

 

奏斗の疑問の声に全員の視線があたしへ向く。今話せということらしい。気を遣ってくれたのか、皆は一度スタジオの外へ出た

 

「皆急にどうした?蘭は行かなくていいのか?」

 

「その、相談があるんだけど...」

 

 

 

 

 

「...成る程な。すまない、不安にさせちゃったな」

 

「謝らなくていいよ。奏斗に惚れるのはあたしが一番よく分かってるから」

 

奏斗はその言葉に少しだけ頬を赫く染めた。言ったあたし自身凄く恥ずかしかったが、その姿に思わず笑ってしまう

 

「笑うなよ...俺だって恥ずかしくなることはあるんだからな。それより、どうする?今まで好きな人はいないから誰とも付き合わないって断ってきたけど、そういうわけにもいかないし。てか好きな人いるって言っちゃったし」

 

「奏斗さえよければ公表したいなって思うんだけど」

 

「俺はいいよ?なんかAfterglow全員疑われてるらしいからな。巴たちにもこれ以上黙ってたら迷惑かかりそうだし

やるなら早めにだけど」

 

よかった。まずは奏斗の了承は得られた。あとはどう公表するかだ

 

自分は奏斗と付き合ってるって声高に宣言するのは気が引けるし、奏斗にもそんなことあまりさせたくない。誰が一人にでも言えればすぐに広まると思うけど

 

「聞かれたら素直に答えるとかでいいだろ。次告白された時その子に蘭と付き合ってるって言えばあっという間だろ。正直、毎度毎度面倒だし」

 

「そうだね。一応聞くけど、全部断ってるよね?」

 

「当たり前だろ。何度も言うが俺は蘭が好きだ。他の誰にも靡きやしねえよ」

 

「そっか...ねぇ、今度一緒に出かけない?ちょっとだけ遠くまで」

 

「いいな。お互いの予定が合う日に行こうか」

 

よし、デートの約束取り付けた。あたしの大事な彼氏を何処ぞの馬の骨に盗られてたまるか

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、奏斗は告白してきた子にあたしと付き合ってることを暴露。その日のうちに中等部一年から高等部三年までの生徒約半分が絶望に崩れ落ちそうだ

 

残りの半分は...咲夜か。咲夜は湊さんと付き合ってるしもう半分も時間の問題かな

 

朝教室に入ったらクラスの皆に睨まれたのは言うまでもない




読了ありがとうございました。アンケートの方もよろしくお願いしますです


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友希那と咲夜のその後

どうもAfterstory第2弾です。アンケート見ると今のところ六花ちゃんが一番多いみたいですね。自分はレイかチュチュが一番多いと思ってたので意外です

まだアンケートは続いているのでご協力よろしくお願いします


友希那side

 

 

 

 

あの日からもう1ヶ月。彼と結ばれて恋人となり、もう1ヶ月だ。彼の新しい一面が見られたりしてとても充実した日々となっていた。既に2回デートしている。だが、良いことばかりではなく1つだけ問題があった

 

「湊さん、神道君に会えるか聞いてもらっていい?」

 

「私も!話したいことあるから聞いてほしいんだけど」

 

「えっと...」

 

原因は2週間くらい前。奏斗が告白してきた子に美竹さんと付き合っていることを暴露。その結果、中等部含めた全校生徒の半分が絶望に崩れ落ちた。別にこれは彼らの問題だからいいのだけど、問題はその後だ

 

奏斗、もとい琉太が彼女持ちと分かった以上、標的はただ一つ。そう、神道翔に絞られるのだ

 

(どいつもこいつも彼を知らないくせに...告白しても無駄だというのに)

 

あれから咲夜は毎日のように告白されている。彼と関係の深い私やリサ、Afterglowの皆や大和さんに彼と接触出来るか頼み込んでは告白しているのだとか

 

勿論私は不愉快極まりないため適当に理由をつけて会えないようにしている。大和さんもそうしてくれているようだが、時間の問題だろう。リサには

 

『毎回毎回相手するの疲れるからさーもう公表しちゃいなよ。アタシも流石に毎日来られるのは勘弁してほしいから』

 

公表しないように言ったのは私だ。恥ずかしかったのもあるが、学校中で人気の彼に恋人がいるとなれば混乱に見舞われるのは分かっていた。今回の奏斗と美竹さんがいい例だ

 

適当に女子たちをあしらったところで私は彼と話し合いをしようと彼にメールを送った

 

『騒ぎの件について話したいから放課後いいかしら?』

 

そう送るとものの数秒で

 

『分かった。ていうか、出来ればとっとと公表してくれると助かるな。俺もう面倒になってきてるから』

 

彼も相当堪えているようね...奏斗と同じことしてもらえばいいかしら

 

『今日告白してきた子に打ち明けてもらえばそれで十分よ。多分それで何とかなると思うわ』

 

『了解。念のためまた後で話そう』

 

また学校全体が暗くなることになりそうね。いい気味だわ。彼と恋人になろうだなんて高望みもいいところだわ。今は昼休みだしリサがそろそろ来るかしら

 

「友希那〜。お昼ご飯食べよー」

 

「今行くわ」

 

噂をすれば何とやら。リサが私のクラスまで迎えにきた。お弁当を持ってリサのところまで歩く

 

「本当に大変だねー。毎日毎日囲まれて。翔の気持ちが分かった気がする...アタシもう勘弁してほしいよ〜」

 

万が一のことを考えて学校では偽名で呼ぶようにしている。大分慣れてきて今では完全に使い分け出来るようになった

 

「そのことなんだけど、もう公表することにしたわ。どうせ今からまた彼が告白されるだろうから、そろそろ知れ渡ると思うわ」

 

「やっとー?琉太も公表して以来めっちゃスッキリした感じだし、翔もやっと地獄から解放されるねー。友希那もよく耐えたねー。見る度に友希那の目に殺意が込もってたからヒヤヒヤしたよ」

 

「そこまでやらないわよ。私がやるより彼がやった方が効果あるだろうし」

 

「それは洒落にならないからやめようね。学校が血の海になるから」

 

屋上に着くと、咲夜に奏斗、Afterglowの面々が昼食をとっていた

 

「お、友希那〜!公表しといたぞー」

 

「ごめんなさい。公表したくないと言ったのは私なのに」

 

「気にすんな。俺としては気が楽になったしこれで平和が訪れる」

 

「ねぇねぇ翔。この前の筑前煮の作り方を...」

 

「断る。あれ作るのにどんだけ時間を費やしたと思ってんだ。教えてほしけりゃ柏超えろ」

 

「ハードル高!?お願いしますあれをもう一度食べたいんです!」

 

「時間ありゃまた作ってやるから我慢しろ」

 

「やったー!」

 

彼のリサに対する態度も随分変わったわね。出会ったころなんて見ただけで嫌そうな顔していたのに

 

「...湊さん」

 

突然、美竹さんが私に声をかけてきた。何やら神妙な顔つきだ。何か大事な話でもあるのかしら?

 

「翔との関係を打ち明けて、翔はおそらく楽になったでしょう。でも、湊さんは多分地獄が待ってますから覚悟しておいた方がいいですよ」

 

「どういう意味かしら?」

 

よく見ると、後ろの青葉さんたちも微妙な顔をしている。すると上原さんが

 

「学校中で人気の翔を狙っていたとします。そして、自分たちが狙っていた翔に彼女がいたことが判明。するとですね...その彼女は一生分の恨みをぶつけられることになります」

 

「...え?」

 

上原さんが言ったことを一度頭の中で反復する。つまり...

 

「今の湊さんは〜学校中の女子の恨みを買ったってことですよ〜。ご愁傷様で〜す」

 

「...美竹さん、対処法があれば教えていただけるかしら?」

 

「翔に牽制してもらってください。あたしも琉太に押さえつけてもらってるんで今は何とかやれています。多分、1ヶ月は続きますよ」

 

この後教室に戻ると、溢れんばかりの殺意が込められた視線を受けた。過去最高クラスで学校に行きたくないと思ったのだった

 



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