人理の救世主Vs正義の味方 (九十九猿)
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オープニング

 人類に期待を抱き、人類を情報として管理しようと考えた我は、かの敗戦で負った傷を癒す為にどの時代に行こうかと彷徨っていた。彷徨い迷う中、聖杯を用いて並行世界に飛んだ。その世界は『まだ人理焼却がなされていない世界』だった。その世界で我はとある海洋油田基地もとても魅力的に感じたのだが、人類にはどこまでの可能性があるのかという点を更に探り模索したい故に、興味を惹かれる世界を見つけた。傷を癒す、という点でもその世界は派手に動かない限りは安全だと思われた。幸いにも聖杯は我が手にある、ならばこの時代に手を加えて特異点と化し、観測、回復に努めるとしよう。

 

 その世界とは2014年、人理が焼却される1年前の世界である。かの敗戦、我らの敗因は設計ミスにある。だが、それでも我らをなぎ倒した人類に期待を抱いた、彼らはどこまでいけるのだろうかと、また普通の人間にもあれ程の力はあるのだろうかと。それ故に、我はこの世界の藤丸立香とマシュ・キリエライトを殺害。救世主のいないこの世界で人類が人理焼却を免れることが出来たのなら、それは我が管理するに値するだろう。

 

 2人を殺害した後、我はカルデア職員の1人の体を乗っ取った。観測される恐れがある故、意識の乗っ取りだけに留めておく。そうして、我は救世主のいない悲劇を特等席で見始めた__

 

 

 

 

 

 フラウロスは以前と変わらず爆発を起こし、カルデアの精鋭を瀕死に、職員も大勢が死に、設備の大半は機能を止めた。ここまでは以前と何も変わらなかった。違った点は藤丸立香とマシュ・キリエライトの代わりに選ばれた1人の女とその弟子の男が奇跡的に生き延び、レイシフトした点だ。彼らは冬木に飛ばされた後、シャドウサーヴァントを全て倒しフラウロスと対峙。カルデアの所長とやらはここで死ぬはずだったのだが、フラウロスが所長の魂をカルデアスに放り込むのを男が阻止、そのままフラウロスから聖杯を奪い取り、それでカルデアに所長の肉体を作ることを願い、誰1人欠けることなく生還した。

 

 ここまではまだ予測していた、彼らは藤丸立香とは違い魔術師だった。なんの経験もしていない一般人だった奴とは違い、既に技術や経験がある。冬木の特異点解決は当然のことだろう。だが、それを踏まえても彼らがこの時点で藤丸立香以上の結果を残したのは我を興奮させるのに充分だった。

 

 人類は成長するものだ。藤丸立香は一般人だった故にその伸び代には目を見張るものがあったが、彼らはどうだろうか、既にその伸び代は潰えてしまっているのではないか。つまり、彼らはその旅路を途中で力尽きてしまわないかと。

 

 しかし、我の予測は良い意味で裏切られた。彼らは第七特異点まで何の犠牲も出さずに解決した。藤丸立香と違い彼らは全ての英霊と絆を結べた訳ではない。けれど、彼らは共に人類を救う、共に戦う戦友として絆を結び、惹かれあった。男のマスターは自分で先陣を切り、女のマスターは彼を支える。そして、それに続く英霊達。形は違うといえども、彼らは人類を救う為に必要な力を持っていた。そして、カルデアはかの神殿と繋がる__

 

 

 

 

 

 神殿での戦闘は混戦を極めた。男と女が救い、共に戦場を駆け、絆を結んだ英霊が我らと争った。魔人柱と英霊の争いは互いに拮抗し、以前の光景と大差が無いように思えた。しかし、ゲーティアとマスター2人は違った。2人の方が圧倒的に押されていた。マシュ・キリエライトのような絶対的な盾などなく、片方は才能はあるもただの魔術師で、もう片方も戦闘力は英霊の域に達してはいるものの、この場を変えられる程の大きな力は持っていなかった。

 

 魔術王が介入してくるのか、それともその前に2人が倒されてしまうのか__

 

 ゲーティアが第3宝具『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの』を放つ。あぁ、ここまでか、人類とは予想通りこれまでのものだったのか、なら我が管理せねば、と思ったその時だった。

 

 女は自分の命と引き換えに第二魔法を完成させた。その女は自分が将来魔術を突き詰めて、最後に至ったかもしれない可能性を自分の命と引き換えに掴んだのだった。ゲーティアの第三宝具に向かって女が放ったそれは『擬似的な無尽エーテル砲』とでも言うべきものだろう。魔法使いが朱い月に放ったそれを、女__いや、遠坂凛は自分の命と引き換えに再現したのだ。その威力は絶大で第三宝具を相殺するばかりか、ゲーティアの魔力を根こそぎ消費させ、致命傷を与えた。ゲーティアの魔力は確かにほぼ無尽蔵だ、けれど本当の無尽蔵の魔力を使う遠坂凛の前に敗れた。

 

 

「面白い、面白いぞ!人間にはやはり可能性がある!」

 

 

 魔神である我だが、この時ばかりは興奮してしまった。

 

 それからはあっという間だった。ほぼ魔力を使い果たしてしまったゲーティアに為す術はなく男の前に敗れた。他の魔人柱は魔術王が第一宝具を発動していないにも関わらず、使役するゲーティアがいなくなったことで、前回と同じ、いや更に酷い惨状だった。こうして藤丸立香とマシュ・キリエライトを欠く人類は勝利した。

 

 我は歓喜した、人間の可能性に。1人の犠牲を出したとはいえ、魔術王の手を借りる事もなく、今回は人の手のみで人理を救済した。そして、遠坂凛もキャスパリーグの手によって蘇生され、実質的に何の被害もなく彼らは二体ものビーストを打ち破ってしまった。

 

 我は自分が人間を管理するより、更に人間の可能性を見てみたくなった。即ち、この世界の彼らと藤丸立香とマシュ・キリエライトをぶつけてみたくなったのである。幸いなことにもう傷は癒え、力は戻った。さぁ、唄え、踊れ、人類よ。貴様らの可能性を我に見せてみろ__



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1話

中々筆が進まずボツを繰り返したので遅くなりました。私は一人称が得意なのですが、三人称の練習に書いているので拙い文になりますが、よろしくお願いします。


「レイシフト成功です!ところでここは本当に現代なのでしょうか……」

 

「ここは聖杯戦争の一種の聖杯大戦という儀式の舞台にはなったけれど、かなり田舎だからね。自然が豊かで人が少なく魔術師にとって中々良い場所だったんだと思うよ」

 

「って……なんでここにいるんですか!?ダ・ヴィンチちゃん」

 

「アハハ、私もカルデアに残るつもりだったんだけど何故か召喚されちゃった」

 

 藤丸立香率いるカルデアはこの世界では『まだ解決していない』ルーマニア・トゥリファスの特異点にレイシフトしていた。当然かの邪竜による導きは無く、別の要因によるものだ。

 

「マスター、どうやらそれぞれ別クラスの7機の英霊がカルデアから召喚されているようだ。マスターとマシュ嬢以外は最初に連れてくる予定の英霊は召喚されておらず、ランダムに召喚されたと見るべきだろう。それがこの特異点の性質なのかもしれないな」

 

 冷静に現状を分析するのは弓兵の英霊、エミヤだ。彼もキッチンに立っていた所、急にレイシフトに巻き込まれたらしく、片手に持っていた投影した包丁を消していた。

 

「さて、どうしようか……辺りに生命反応は無いらしいし、聖杯の情報も無いのか……」

 

「主殿、アサシンである僕が周囲の状況を探ってきましょう。まだよく分からない特異点を歩き回るのは得策とは言えないので」

 

「なら小太郎お願い。けど、まだ何があるか分からないんだから気をつけてね」

 

「そうだねぇ、それが良いかもだ。聖杯大戦が行われた地でクラスが違う7機の英霊が呼び出されたのが偶然だとは思えない。この特異点が聖杯大戦をさせようとしているのなら、探索は重要だろう。私からもお願いするよ、小太郎君」

 

「承知!」

 

 そこからも一番状況把握能力が高いダ・ヴィンチがこの場を仕切り、自分の知識とスキルを用いて拠点を作成、7機もの英霊がいることを贅沢に使って、砦とも言えるような堅牢なものを作り上げた。

 彼らが拠点を作り上げ息をついたその時、空に黒い雲が集まり、人の顔のようなものを形成して声を発し始めた。

 

『争え、2人の人間と7機の英霊達よ。これは聖杯大戦である。勝者には聖杯が与えられ、この特異点も消え去るだろう。こ こは貴様達が争う為に用意された特異点。さぁ、我を楽しませよ』

 

 もちろんこの声はゼパルである。何故ならこの世界は正義の味方の世界で、ゼパルがかの邪竜から聖杯と共に奪い取ったものだからだ。つまり、彼は人類の可能性を見極める方法としてお互いが同じ条件で争えるように『聖杯大戦』という方法を選んだのだった。だが今の彼らには誰が黒幕か、なんてことは知る由もない__

 

 彼らは戸惑い雲が去った後も警戒を続けていた。その中でもダ・ヴィンチは冷静に動く。

 

「さて、これは困ったことになったね。ホームズ、そちらの観測結果はどうなんだい?」

 

 ダ・ヴィンチ不在のカルデアでは急遽シャーロック・ハームズが管制室をまとめていた。

 

「困ったことにその特異点に聖杯の反応は無いよ。これっぽっちもだ。私は先ほどの言葉を真実だと捉えるがどうだろう?」

 

「君がそう言うなら本当なんだろうね。それじゃ本当に聖杯大戦を行うしかないのか……黒幕の思惑に乗っていればいつかは何かの手がかりが得られるかもしれないね」

 

「まだ不確定要素が多くて、先程の声の主も分からないんだ。今はそうしておくべきだと思うよ」

 

 これからの方針を固めた彼らはすぐに行動に移し、聖杯大戦への準備を進めて行く。拠点の強化、地形の把握、全力の確認、その中、ようやく風魔小太郎が戻ってくる。

 

「主殿、只今戻りました!」

 

「お疲れ様小太郎、早速だけど諜報の結果を聞かせてもらえる?」

 

「はっ!先程の声によると戦う相手となる集団がいるはずですが、その集団の存在を確認しました。しかし、相手の陣営のアサシンと思われる存在に妨害され、交戦。それ故にあまり相手の詳細は分かりませんでしたが、マスターと思われる存在は2人の男女でした。また、アサシンと思わしきサーヴァントは銃を使っており、現代に近いサーヴァントだと思われます」

 

「ありがとう、小太郎。さて、これからの計画を立てようか」

 

 カルデアからの情報も交えて彼らは話し合いを進める。この場にいるサーヴァントの戦力に加え、この世界では少しだけ早く戦う覚悟を決め、機械の補助を得て戦えるようになったマシュもいる。そして何より戦力的に大きいのはエミヤという存在がいることである。

 彼は壊れた幻想(ブロークンファンタズム)を用いることで2kmを超える射程で、並の建物や英霊をを吹き飛ばせる威力を放つことができる。その上、もし迎撃されても、白兵戦をこなすことができる。相手のマスターを殺す訳にはいかないが、エミヤのしゃげきのうりょくを用いて奇襲をしかけ、相手のサーヴァントの数を減らして、序盤から数の利を得よう、という方針に固まった。

 

「さて、こんなものだろう。行動し始めようか、急がないと相手に先を越され__」

 

 ダ・ヴィンチがそう言い切る前に、堅牢な砦とも言える拠点が大きく揺れた。その振動は凄まじく、何重にも貼った魔術結界のおかげで拠点そのものには被害が少ないが、結界は全滅してしまっていることだろう。

 

「これは狙撃か__?どうやら相手の方が1つ上手だったようだな。マスター、迎撃に向かうぞ!」

 

「エミヤ、お願い!マシュとダヴィンチちゃんもついてきて、それ以外の皆は拠点を守りながら狙撃してきた奴以外の迎撃をお願い。相手は恐らくサーヴァントだ、油断せずに2人以上で動いて!」

 

 歴戦の彼はすぐさま周囲へと指示をだす。そしてマシュと2機の英霊を従えた彼は狙撃してきた方向に駆け、狙撃手と相対する。即ちそれは正義の味方との相対である。

 



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2話

本日2話目
一応これは聖杯戦争なのでこれから敵がいる時は味方からクラス名で呼ばれることにします。また、藤丸立香陣営の英霊を救世主の○○○、衛宮士郎陣営を正義の○○○(○○○はクラス名)と呼ぶことにします。何故こんな呼び方をしているのか、と思われた方は全てゼパルのせいにしておいてください。


 エミヤは衛宮士郎が至る1つの可能性である。(他人)を救う為に、(自分)を切り捨てた彼が行き着いた可能性。

 けれど、この世界の衛宮士郎は違った。彼の隣にはエミヤになるのを防ぐ師匠である恋人がいた。そして、カルデアの一般枠に選ばれ、彼女と共に人理を救った。間違いなくこの世界の衛宮士郎は『世界との契約抜きで』英霊へと届き得る存在であり、冬木の聖杯に直接使ってカルデアの所長を救ったが故に、エミヤには投影不可能な投影品を持っている。即ち、その戦力は英霊エミヤに届き得るのだ。

 

「まさかお前が敵側に召喚されていたとはな、アーチャー」

 

「いまから私達が戦うのが平行世界のカルデアで、人類最後のマスターが貴様だとはな、衛宮士郎」

 

 この場において、藤丸立香と衛宮士郎の相対よりも大切な出会いだった。彼らは共に第五次聖杯戦を経験した身、故に互いに殺意を宿す事はなく、お互いがお互いを複雑そうな目で見ていた。

 

「1つ訂正がある、俺は人類最後のマスターじゃない。遠坂もいるからな」

 

「そうか、凛も__」

 

 エミヤは空を仰ぎ、少しの間だけ目を瞑って何かを思い返しているようだった。彼はすぐに視線を正面に戻すと剣を構えた。

 

「一つ問おう。この場に及んでまだ戦わなくても良い方があるなどほざくのか?」

 

「いいや、生憎俺もこの旅の中で現実というものを嫌という程叩き込まれたよ。自分の世界を守る為なら、他の世界を壊しても俺は正義を実行するよ」

 

「そうか、安心した。貴様は貴様なりの正義を見つけることができたのだな」

 

「あぁ、遠坂のおかげでもある。さて、それじゃあ行くぞ、アーチャー!」

 

「来いッ!」

 

 2人の双剣使いが激突する。そこに殺意は無く、あるのは互いの信念のみ。繰り広げられる剣戟は達人のソレで、他者の介入を許さないだろう。十数年前とは比べ物にならない程成長した士郎はエミヤに遅れを取らず、またカルデアで霊気再臨を繰り返したエミヤも士郎に超えられる事はなく、互いの実力は均衡していた。

 彼らはヒートアップしていた。しかし、彼らと共に来たものは置いてけぼりになっていた。

 

「味方のサーヴァントを置いて、敵のサーヴァントに突撃するとかシロウ頭大丈夫かのう……」

 

「彼とはその、一応因縁があるので……」

 

「それにしてもヤバイと思うのじゃが……」

 

 困惑する正義の陣営のセイバーとアーチャー、真名は織田信長とアルトリア・ペンドラゴンである。

 

「いきなりアーチャー先輩、敵のマスターに突撃してしまいました……」

 

「彼英霊じゃないよね?私の目がおかしくなければうちのアーチャーと互角に打ち合ってるんだけど」

 

「加勢は必要ない、って言って飛び出して行ったけど俺どうするべきなんだろう……」

 

 こちらも普段は冷静で頼りになるエミヤが急に熱くなり、感情を露わにしていることに驚き、更に敵のマスターが互角に打ち合っていることに驚いていた。彼らは完璧に蚊帳の外である。

 しかし、ここで勝負が大きく動いた。マスターの奇行に耐えられなかった織田信長が彼らに介入したのだ。

 

「えーい!サーヴァントを差し置いてサーヴァント戦するとかおかしいじゃろ!マスターは下がっておれ、ここからは儂が相手じゃ!」

 

「ちょっと待てアーチャー、こいつの相手は俺が!」

 

「そう言ってさっきから均衡状態じゃろうが、このままだとエーテル体の儂らは疲れないのに対して、マスターは疲れて不利になるだけ。鉄砲で撃たれたく無いのなら下がっておれ!」

 

 そう言って強引にマスターを下がらせる信長、それに対してエミヤは不敵に笑っていた。

 

「ほう、アーチャー如きが私の相手をすると?」

 

「貴様もアーチャーじゃろうが……マスターと何の因縁があるかは知らんが、ここで朽ちよ!鉄砲放てぇ!」

 

 エミヤに対して放たれる数十の弾丸。並の英霊なら避けることも難しい攻撃を彼はいとも簡単に防ぐ。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!」

 

 そう叫んだエミヤの前には7つの花弁があり、弾丸から彼を守っていた。

 

「アーチャー、奴は俺のありえたかもしれない未来の可能性だ!こいつは大体俺が出来ることは出来る、気をつけろ!」

 

「それもっと早く言って欲しかったんじゃが!飛び道具無効とか儂と相性悪すぎじゃろ!」

 

「だからアーチャー如き、と言ったのだがな。さて、殺られる覚悟は良いか?正義のアーチャー」

 

「待ちなさい、救世主のアーチャー。私達の陣営のアーチャーを倒そうとするのなら、まずは私が相手だ」

 

「ようやく出てきたか、セイバー」

 

「当たり前だ、味方がやられるのを黙って見ている私ではない」

 

 後ろで見守っていたアルトリアが現れる。聖剣に風を纏い、凛々しく在るその姿はエミヤの攻撃を止めるのには充分だった。

 

「さて、混戦となってきたみたいだし、私達が参戦しても問題ないよね!」

 

「アーチャー先輩援護します!」

 

 立香の指示によって前線に出てきたダヴィンチとマシュ。ここに三対三の構図が出来上がった。

 

「何っ?!その盾は……」

 

 ようやく聖杯大戦の第一幕がここに落とされる。過去の因縁渦巻くこの戦場の行方は__

 




何故ノッブが介入するのシリアスが崩れるのか()


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