バーサーカーのヒーローアカデミア (残月)
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プロローグ

 

 

 

 

事の始まりは中国、軽慶市。

発光する赤子が生まれたことを皮切りに、各地では次々と超常現象と呼ばれる能力を持つ人間が生まれるようになった。

そして世界人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現代。

人々の持つ超常の爆発的増加に伴い、それを用いた犯罪も増加していた。

法律ができる速度を無視して増え続けるそれらの犯罪者に対抗するため、同じく超常を使い、犯罪者を捕まえる者たちが現れた。

 

 

『ヒーロー』

 

 

空想の産物でしかなかった存在が『特異体質』と呼ばれた『個性』を持つ者が成り得る職業となった。

 

そして……それと対する様に『個性』を犯罪に使う者を人々は『敵(ヴィラン)』と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが今の世の中である。人はヒーローという職業に憧れ、その道を目指す。間桐狂夜もその内の一人である。

 

 

「おい、間桐。何を黄昏てるんだ」

「っと……先生」

 

 

今此処は中学校で、狂夜は教室の窓から空を見ていたら後ろから声を掛けられた。振り返れば担任の先生が困った顔をしていた。

 

 

「なんすか、先生?」

「なんすかじゃないだろ……お前だけだぞ、進路希望出してないのは」

 

 

ああ、そういや出し忘れてたっけ、と狂夜は他人事のように思っていた。狂夜は机の中に入れっぱなしだった進路希望の用紙を先生に渡す。

狂夜が目指す高校は超難関。今年の偏差値は、なんと79にも及び、倍率が300倍と規格外の高校。国立、雄英高等学校。

 

 

「雄英か……いいのか?」

「もう決めましたよ。色々言われるだろうけど覚悟の上です」

 

 

先生の問い掛けは狂夜の個性を知っているが故である。狂夜の個性はヒーローと言うよりも寧ろヴィラン側だからだ。

 

 

「そうか……この学校から雄英に行くのは間桐だけだが頑張れよ」

 

 

先生は狂夜の肩をポンと叩くと進路希望の用紙を持って教室から出ていく。

悩むのも今さらだ。帰って受験勉強しよ。筆記の方はギリギリ……多分、アウトだから……と狂夜は自身の成績を嘆いた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

そんなこんなで迎えた受験日当日。狂夜は玄関で靴を履いた後に荷物確認をしていた。筆記用具、受験票、ジャージ、スマホ。忘れ物は無いと確認をするとグッと背を伸ばす。

 

 

「狂夜、忘れ物はないか?」

「ん、へーき」

 

 

玄関先まで見送りに来た義理の父である雁夜は狂夜に忘れ物はないかと訪ねるが、今ほど確認したので大丈夫な筈と答えた。

 

 

「頑張ってください、兄さん!」

「ありがと、桜。少し緊張してるけど頑張るよ」

 

 

義理の妹の桜からも激励を受けた。狂夜は桜を安心させる様に笑みを浮かべた。

 

 

「まったく……誰に似たんだかな、このブラコンとシスコンは……」

「年上のお姉さんみたいな幼馴染に恋をしていた親父の影響かな」

「わ、私はブラコンじゃ……」

 

 

雁夜の溜め息に狂夜は悪戯小僧のような笑みを浮かべ、桜は恥ずかしそうにモジモジとしていた。

 

 

「ああ、でも……緊張は解れたわ。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい、兄さん」

 

 

いつもの会話に緊張が解れた狂夜は雄英高校へと向かった。

 

 

これは『狂化』の個性を持った少年がヒーローになる物語。

 

 




『間桐狂夜』
捨て子だった所を雁夜に拾われて間桐家に引き取られる。
良くも悪くもノリが良く、付き合いが良い。
義理の父である雁夜が家にいない為に家事能力に優れている。


『狂化』
狂夜の個性で理性と引き換えに身体能力を向上させる。個性の使用状況によっては完全に理性を失うわけではなく、その際どれくらいの狂化されているかで理性が保てるかが決まる。

例.
狂化5% 軽い興奮状態になる。
狂化30% 単語のみの発言になる。
狂化50% 喋れなくなり、叫び声のみとなる。
狂化80% 敵味方の区別がつかなくなる。
狂化100% 完全に理性を失い、バーサーカーとなる。

個性使用中は瞳が赤くなる。



『間桐雁夜』
狂夜の義理の父。とある理由から狂夜を間桐家の養子とした。普段はフリーのカメラマンで家にいる時間が少ない。

『間桐桜』
狂夜の義理の妹。狂夜の一つ下の年齢。
本当の兄妹同然に過ごしたので兄妹仲は良好。雁夜が家に不在の時間が多い為、間桐家の家事を狂夜と共に引き受けている。ブラコン気味。


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入試試験①

 

 

雄英高校一般入試会場。流石は雄英と言うだけあって数多くの人がいた。

 

 

「すっげー……倍率の高さは伊達じゃねーのな」

 

 

狂夜が凄い量の人の山に少し驚いていると、その中でも妙に震えてる頭がモサモサの少年が目についた。面白いくらいに膝がガクガク揺れている。

 

 

「ま、緊張は俺も……あ」

 

 

転びそうになったモサモサ頭の少年を茶髪の女の子がモサモサ頭の少年を浮かせていた。

 

 

「なんかの個性か?」

「何が?」

 

 

突如、隣から声が聞こえたので狂夜が首を右に動かすと、そこにはオレンジ髪のサイドテールの女の子が狂夜を見上げていた。

 

 

「ああ、いや……彼処に居る奴が転びそうだったからさ」

「ああ……なるほど」

 

 

 

狂夜が指を指す方には、宙に浮いているモサモサ頭の少年と茶髪の女の子。それを見たオレンジ髪の女の子は納得した様な表情を浮かべた。

 

 

「あのモサモサ頭の奴が転びそうになったのを茶髪の女の子を助けたみたいでな」

「ふーん、良い奴なんだな」

 

 

オレンジ髪の女の子は感心したと頷くと、そのままクールに去っていった。グレートだぜ、と狂夜はリーゼントヘヤーの学ラン主人公の様にオレンジ髪の女の子を見送った。

 

 

「っと……俺も行かないと」

 

 

自身も受験するのだからと狂夜も試験会場へと急ぐ。最初は筆記試験。狂夜からしてみれば此所が最大の障害だった。

なんとか筆記試験を終えた後、ホールに集められた。暫くするとホールにサングラスをかけた金髪の男、ボイスヒーローのプレゼント・マイクが入ってきた。

 

 

「今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!!」

 

 

プレゼント・マイクの声がホールに響く。が会場の誰一人としてリアクションをしなかった。

 

 

 

「こいつはシヴィー!受験生のリスナー!!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHHH!!」

 

 

プレゼント・マイクだけが叫ぶ。凄ぇよ、あれで心が折れないなんて、と狂夜は一人、プレゼント・マイクを心の中で称賛していた。

 

 

「入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!演習場には仮想敵ヴィランを三種・多数配置しておりそれぞれの『攻略難易度』に応じてポイントを設けてある!」

 

 

同じ学校の友達同士の協力を防ぐ為って事か。……と狂夜は同じ中学校は友達が雄英を受験しないので、俺一人だけだなと、少し悲しくなっていた。

 

 

「各々なりの個性で仮想敵を行動不能にしポイントを稼ぐのが君達リスナーの目的だ!もちろん他人への攻撃等のアンチヒーローな行為はご法度だぜ!?」

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 

マイクの説明の途中で眼鏡を掛けた背が高くガタイのいい真面目そうな男子が立ち上がった。

 

 

「プリントには四種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!」

 

 

そして、転びそうになったモサモサ頭の少年を指差す。

 

 

「ついでにそこの縮毛の君、先程からボソボソと……気が散る!物見遊山のつもりなら即刻、雄英ここから去りたまえ!」

「……すみません」

 

 

そう言われたモサモサ頭の少年は小さくなり謝罪していた。狂夜からしてみれば、緊張してる奴にその言い草もどうなのよ?といった所である。

 

 

「オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!四種目の敵は0P!ソイツは言わばお邪魔虫!スーパーマリオブラザーズやったことあるか!?あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体!所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!」

 

 

それを聞いた、受験者はざわついた。戦っても意味がない部類の敵。避けるか素通りしなければならないと受験生はザワザワと話し合う。

 

 

「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校の”校訓"をプレゼントしよう……かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくもの』と!『Plus Ultra』それでは皆、良い受難を」

 

 

散々、冷えたリアクションをされていたプレゼント・マイクだが最後の一言には会場の誰もが震えていた。流石、ヒーローだと思わせるパフォーマンス。

 

筆記がヤバそうだし、実技試験で挽回しないと……狂夜は気合いを入れ直していた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

数分後…ジャージに着替え演習場に到着した狂夜。既に着替えを終えた連中で溢れかえっていたが、狂夜の視線はそちらではなく。

 

 

「うわー……」

 

 

目の前に広がる実技試験会場に向けられていた。会場に到着したのはいいが広い。とにかくこの一言に尽きるのだ。どんだけ敷地広いんだよ、ここは……と狂夜は実技試験会場を眺めていた。

 

 

「…すっご」

 

 

そんな中、キョロキョロと周囲を見渡してるモサモサ頭の少年を発見した狂夜。何処か地味だが妙な目立ち方をしているモサモサ頭の少年を狂夜は気にしてしまう。そして緊張してるのが丸わかり。そしてキョロキョロとしている間に何かを見つけたのか歩き始めた。

 

 

「そうだ。さっきのお礼言わなきゃ…」

 

 

ボソッと独り言が聞こえたので、狂夜はモサモサ頭の少年の歩く先に視線を向ける。と、先程の茶髪の女の子が胸をトントンと叩きながら深呼吸をしていた。

それを見た狂夜は助けられた礼でも言う気かな?と結論付けた。

だが、モサモサ頭の少年の行動は先程の眼鏡の男子によって阻まれてしまう。声を掛けようとしたモサモサ頭の肩を掴み、眼鏡の男子が物凄く睨んでいた。

 

 

「いっ!?」

 

 

モサモサ頭の少年は突然、掴まれたのでビビりながら振り返り……肩を掴んだ者の正体を見て更にビビっていた。

 

 

「あの人は精神統一を図ってるんじゃないのか?君は何だ?妨害目的で受験しているのか?」

「そ、そんな……僕は……」

 

 

睨まれ説教をされて萎縮するモサモサ頭の少年。正しい事なのだろうが狂夜としては、その言い方は間違ってると感じていた。

 

 

「あいつ校門前で転けそうになった奴じゃ…」

「注意されて萎縮しちゃったの」

「少なくともライバル1人は減ったんじゃね?」

 

 

そして周囲がクスクスと笑い始め、狂夜は我慢が出来なくなり説教を続ける眼鏡の男子とモサモサ頭の少年の所へと歩み寄る。

 

 

「だったら、お前の行動も妨害工作か?」

「なんだと?」

 

 

狂夜の発言に眼鏡はモサモサ頭の少年から狂夜に視線を移し、睨み始める。

 

 

「彼が先程から周囲に悪影響を与えているから注意しただけだ。それが間違ってると?」

「注意そのものは間違っちゃいないさ。だが言い方と相手の気持ちを無視しすぎだ」

 

 

睨み会う狂夜と眼鏡の男子。周囲で笑っていた受験生は静かになり、モサモサ頭の少年は慌てた様子で狂夜と眼鏡の男子を見ていた。

 

 

「ソイツは緊張して震えて受験していた。ガクガクに緊張して、不安でな。そんなコイツにお前は何を言った?先程助けて貰った事に対して礼を言おうとしたコイツの行動を止めたが人に助けられて礼を言うのが間違いか?」

「あ、いや……ちょっと待ちたまえ……」

 

 

狂夜が睨みながら言葉を繋げると眼鏡の男子は焦り始める。

 

 

「コイツの行動を妨害工作と言ったな?だったら、お前はコイツを萎縮させて受験から落とそうって妨害工作か?今、お前がコイツに言った発言で周囲がコイツをどういう目で見ていたか気にもしなかったんだろう?」

 

 

狂夜の言葉を聞いた眼鏡の男子はハッとしたように周囲を見渡す。先程まで笑っていた受験生はサッと視線を反らした。

 

 

「お前のした行動は正しかったのかもしれないが……」

「いや、もういい」

 

 

狂夜が言葉を繋げようとすると眼鏡の男子はスッと狂夜を手で制した。そしてモサモサ頭の少年の方に向き合うと頭を下げる。

 

 

「すまない。他の受験生の為にと思った行動は君の気持ちや感情を踏みにじったものだった。本当にすまない!」

「え、いえいえいえ!僕も周りに迷惑を掛けてばかりで!」

 

 

今まで自身を咎めていた眼鏡の男子に頭を下げられたモサモサ頭の少年は、却って慌てていた。

 

 

「それはそうと……キツい言い方になったのは俺も同じだ。すまない」

「いや、互いにそうだったんだ。この話は終わりにしよう。次は正々堂々と試験に望むとしよう」

 

 

狂夜が眼鏡に頭を下げると眼鏡の男子は話を打ち切った。

 

 

「あ、あの……すいませんでした」

「そこは、『ありがとう』だろ?気にしなくていーよ」

 

 

モサモサ頭の少年が狂夜に謝ってきた。狂夜は気が小さいけど良い奴なんだなとモサモサ頭の少年を認識していた。

 

 

「それに緊張してるのは俺も同じだしさ」

「そ、そうなんですか?あ、僕は緑……」

「んじゃスタート」

 

 

そしてモサモサ頭の少年が自己紹介をしようとした時、プレゼント・マイクの声が周囲に鳴り響く。

 

 

「今、スタートって言ったか?」

「えと……言ったね」

 

 

狂夜とモサモサ頭の少年が呆然としてると……

 

 

「何やってんだー!もう開始の合図したろ!?実戦じゃカウントもクソもねぇだろよ!賽はもう投げられてんぞ!?」

「……へ?」

「やべぇ、走るぞ!」

 

 

プレゼント・マイクの言葉に思考が追い付かなかった狂夜とモサモサ頭の少年だったが、試験は既に始まっていた。狂夜はモサモサ頭の少年の肩を叩き正気に戻すが、いち早く正気に戻った他の受験生は既に走り始めていた。

 

 

「す、すいませ……あ、いや、ありがとう!出遅れるかと思ったよ!」

「役に立てたなら何より!さて筆記の方が心配だからこっちで挽回しないとな!」

 

 

モサモサ頭の少年は狂夜の先程の発言を気にしてか謝罪から礼に言い直してきた。狂夜はモサモサ頭の少年に気にするなと叫んだ直後、1P仮想敵を見つけた。

 

 

「それじゃ……行くかっ!」

 

 

狂夜は個性を発動して1P仮想敵に飛びかかった。発動した個性は『狂化』。『狂化』の個性は狂夜の体に駆け巡り、力を増していく。狂夜は拳を振り上げて1P仮想敵を殴り飛ばした。

 

 

「せぁりゃぁぁぁぁっ!」

 

 

殴り飛ばした1P仮想敵を距離の離れた2P仮想敵にぶつけて破壊する。破壊された仮想敵に満足すると狂夜は周囲を見渡す。

 

 

「これで3P……よし、ドンドン行くか……」

 

 

気合いを入れた狂夜だがモサモサ頭の少年を見失っていた。気は小さいけど良い奴みたいだったから受かって欲しいものだと思うと同時に、まだ名前聞いてなかったな……と思っていた。

そんな事を思いながら狂夜は次々に仮想敵を破壊していくのだった。

 

自身の個性『狂化』に理性を食われないように調整をしながら……



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入試試験②

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 

狂夜は3P仮想敵を蹴り飛ばし、その反動で素早く近くに居た1P仮想敵に飛びかかる。

 

 

「これで!確か35ポイントくらいか?」

 

 

1P仮想敵を力任せにバキッ!と捻り上げて破壊する狂夜。『狂化』でパワーを増した体で仮想敵を破壊、この作業を繰り返して正確な数を数えてはいない狂夜だが、既に35ポイントを稼いでいた。

 

 

もう少しポイント稼ぎたいけど仮想敵も減ってきたか? 狂夜がそんな事を思っていると、地面が揺れる位の地鳴りを感じた。何事かと地鳴りの響く方に視線を移してみると、立ち並ぶビルと同じ位の大きさのロボットが顔を覗かせていた。その大きさ故に地面を踏んだ時の揺れは半端じゃない程にデカイものだった。 

 

 

「あ、あんな化け物もこの試験に出るのかよ!?」

「なんでもありか雄英!?」

「あんなの相手にしてられっか!」

「今は他の場所に!」

「0Pなら逃げないと!」

 

 

その場に居た他の受験生達は我先にと逃げ始めていた。狂夜もポイントの無い相手だし俺もサッサッと離れるか。そう思った次の瞬間、見覚えのあるモサモサ頭の少年が飛び出していた。

 

 

「な、アイツ!?」

 

 

狂夜は驚いた。先程までビクビクしてた奴が0Pに立ち向かった事や一瞬であの場まで跳ぶ跳躍力。何よりも一瞬で自分達を追い抜いたモサモサ頭の少年の姿は、この場にいる誰よりも『ヒーロー』だった。

 

 

「だけど、急にどうし……って、まさか」

 

 

モサモサ頭の少年走り出した方角。つまりは0P仮想敵の足元。そこに茶髪の女の子が動けずにいた。つまりモサモサ頭はポイント関係なく、女の子を助ける為に仮想敵に突っ込んで行ったのだ。

狂夜が驚いたま呆然としているとモサモサ頭の少年は大きく拳を振りかぶった。そして……

 

 

「スマァァァァァシュ!!」

 

 

モサモサ頭の少年はオールマイトと同じ掛け声と共に拳を振り抜き、0P仮想敵を一発で吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「って、なんか様子が……まさか!?」

「お、おい!待ちたまえ!」

 

 

嫌な予感がした狂夜は駆け出した。聞き覚えのある声が聞こえたが、狂夜はそれどころじゃない。モサモサ頭の少年は慌てた様子で自由落下している。受け身は明らかに取れそうにない。

 

 

「間に合うか……いや、間に合わせる!」

 

 

そう言って狂夜は自身の『狂化』のパワーを増した。一瞬目眩がしたが、自身の体に駆け巡る力が増した事を感じると狂夜は加速しながらモサモサ頭の少年の救出に向かった。

ほんの僅かな距離が届かないかと思ったが、先程の茶髪の女の子が瓦礫を浮かして宙を舞い、モサモサ頭の少年の事も浮かした。だが、そんな彼等の頭上に先程、モサモサ頭の少年が吹っ飛ばした仮想敵の破片や残骸が降り注がれそうになっていた。

それを見た狂夜は飛び上がり、落ちてくる破片に拳を振り抜いた。

 

 

「ULAAAAAAAAA!」

 

 

狂夜は、モサモサ頭の少年が吹っ飛ばした0P仮想敵の破片や残骸がモサモサ頭の少年や茶髪の女の子に降り注ぎそうだったので、拳や蹴りを駆使して破片や残骸を弾く。これでひと安心と気を抜いた狂夜の耳に、茶髪の女の子の苦しそうな声が届く。

 

 

「う、うぷ……けぽぽぽぽぽ……」

 

 

茶髪の女の子は青い顔をしたと思ったら盛大にリバースした。多分、個性の使いすぎでキャパオーバーしたのだろう。狂夜がその光景を見ないようにと顔を背けたのは武士の情けである。

そう思った狂夜の視界の端で何かが動いた。

 

 

「ワン……ポイント……せめてワンポイントでも……取らないと……」

 

 

それは狂夜の足元からだった。先程助けたモサモサ頭の少年は唯一無事だった左腕で這って前に進もうとしてる。まさか、0Pの後がない状況で助けに行ったのかと驚く狂夜。

 

 

「試験終了!」

 

 

そして無慈悲にもプレゼント・マイクの叫びと同時にブザーが鳴る。それは実技試験が終了したという事だ。

 

 

「そ、そん……な……」

「おい、大丈夫か!?」

 

 

モサモサ頭の少年は絶望からなのか、そのまま気絶してしまった。周りの受験生は凄い個性だとか言うだけでモサモサ頭の少年を助けようと動くものはおらず、狂夜はその事に苛立ちを感じていた。

 

 

「は~い、お疲れさま~お疲れ様、お疲れ様。はいはいグミだよ、グミお食べ」

「あっ、あざっす」

 

 

そんな狂夜の気持ちを察してなのか救護班が丁度到着する。その人物はリカバリーガール。雄英高の看護教員である。だが、何故かリカバリーガールは受験生にグミを配っていた。

狂夜は自身の『個性』を解除するとリカバリーガールに叫んだ。

 

 

「怪我人がいる!かなり重症だ!」

「はいはい。おやまぁ……自身の個性でこうも傷つくかい」

 

 

リカバリーガールは狂夜に支えれながら横たわるモサモサ頭の少年の前に立つと、いきなり唇を伸ばしてきた。

 

 

「チユ~」

 

 

リカバリーガールは伸ばした唇でモサモサ頭の少年の頭にキスをした。突然の事態に狂夜は固まるが、モサモサ頭の少年の腫れあがった右腕と両足が、みるみると元通りになっていくのを見てホッと溜め息をついた。

 

 

「傷は治したから後は起きるのを待つだけだよ。アンタ、悪いんだけど搬送ロボが来るから、その子を乗せてやってくれないかい?」

「分かりました……おい、持ち上げるからな」

 

 

リカバリーガールに頼まれて狂夜はモサモサ頭の少年を抱き抱え、担架を運んできた搬送ロボへ乗せる。そしてモサモサ頭の少年の安否も気になっていたので医務室へと歩き始める。

 

 

「気絶しちまったけど……コイツは今日一番カッコいいヒーローだな」

 

 

狂夜は気絶してるモサモサ頭の少年を見ながら、そう呟いた。

その後、狂夜は気絶したモサモサ頭の少年が目覚めるまで待とうとしたが中々起きず、最終的にプレゼント・マイクから帰るように促されて渋々、家路についた狂夜。

 

狂夜は合格通知が届く一週間程の間、受験合否とモサモサ頭の少年の安否を心配する日々を過ごす事となる。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

受験から既に一週間、狂夜は落ち着きの無い日々を過ごしていた。それというのも、家に帰ってから筆記試験の結果を自己採点してみたのだが、その結果は下手をすれば不合格になるかもしれない結果だったのだ。

 

 

「もう、兄さん。そんなに心配しないでも大丈夫ですよ」

「そうは言っても心配なんだよ」

 

 

桜は狂夜に心配ないと告げるが狂夜は不安だと呟く。寧ろ、何故に桜は此処まで大丈夫だと念を押すのか逆に聞きたくなっていた。

 

 

「だって……兄さんは頑張ったじゃないですか。それに先輩も大丈夫って言ってましたよ?」

「頑張ったのは他の人も同じだし……先輩の話は少し当てにならないし」

 

 

桜が大丈夫と念を押し、更にいつの間にか知り合いの先輩にも連絡をしていたらしい。狂夜と桜にとって共通の知り合いである先輩の太鼓判があったらしいが、狂夜からしてみれば正直、心配が増しただけである。

 

 

「もう、酷いですよ兄さん。先輩は頼りになる人なんですから」

「そりゃ……わかってるんだけどな」

 

 

そう言ってリビングから出ていく桜。狂夜はその先輩に過去に世話になっていたから彼女の事は信頼している。だが、それと受験の合否は別である。

因みに本日、雁夜は仕事で家には居なかったりする。

 

 

「そういや……先輩も雄英に受かるまでは部活の時もぼんやりとしてたっけ」

 

 

狂夜が思い出すのは先輩が合否の結果が出るまで引退した部活に幾度となく顔を出していた時の事だった。思えば妙にそわそわしていたなと先輩とよく顔を会わせていた頃を思い出していた。

 

 

「に、ににに兄さん!」

「落ち着け、桜。どうした?」

 

 

ぼんやりと先輩の事を考えていた狂夜だが、その思考は慌てた様子でリビングに飛び込んできた桜によって中断される。

 

 

「き、来ました雄英からのお手紙!」

「……遂に来たか」

 

 

狂夜は手紙を受けとると自分の部屋へと戻った。合否の結果は先ずは自身で確認しなければならないからだ。

狂夜は手紙の封を切る。すると中には一枚の小さな円盤が同封されていた。

 

 

『私が投影された!』

「うわっ!オールマイト!?」

 

 

突然、小さな円盤が光ったかと思うと渋い声と共に眼前一杯に人の顔が映し出された。その人物はナンバーワン、ヒーローのオールマイトだった。

 

 

『色々と話はしたいが先に合否の発表から行こう!安心したまえ!君は合格だ!』

「よっしゃ!」

 

 

オールマイトから合格通知を告げられると狂夜は立ち上がり、ガッツポーズを取った。そんな狂夜を尻目にメッセージは続く。

 

 

『筆記は合格ラインギリギリだったが、実技は飛び抜けていて、合格ラインを超えて合格だ!』

「良かった……でも、ギリギリだったか……」

 

 

実技は兎も角、筆記に不安を感じていた狂夜はギリギリの合格だった事に安堵を感じる。そしてオールマイトの話は終わっていなかった

 

 

『そして先の入試!見ていたのは敵ポイントのみにあらず!』

 

 

オールマイトは手で×を作ると新しい画面が映った。

 

 

『救助活動、レスキューポイント!しかも審査制!我々、雄英が見ていたもう一つの基礎能力!間桐狂夜、君のレスキューポイントは40点!レスキューポイントだけなら三位だ!』

「おいおい、マジですか……」

 

 

筆記と実技だけではなく、他の審査も極秘に行われていた事に驚きを隠せない狂夜。実のところ、狂夜は仮想敵を倒す中で他の受験生が危ないと思った際には、庇うように飛び出して仮想敵の殲滅を優先させていた。

それに加えてモサモサ頭の少年と茶髪の女の子を助けたのも大きいところだろう。

  

 

『来いよ間桐少年!雄英……ここが君のヒーローアカデミアだ!』

「よっしゃ……合格、やってやろうじゃん!」

 

 

この日、狂夜は雄英行きのキップを手に入れた。そして桜に合格を告げると桜は両手を上げて喜び、この日は桜が存分に料理の腕を奮ってご馳走となった。

 

 

「ああ、親父?雄英から手紙来て……ああ。合格」

『そうか……頑張るんだぞ狂夜……』

 

 

夕食を済ませた狂夜は夜になってから義理の父である雁夜に電話をしていた。勿論、雄英の合格を伝える為である。

 

 

『本当なら直接誉めてやりたいんだがな』

「親父も仕事なんだ、仕方ないのはわかってるよ」

 

 

電話口で悔しそうにしている雁夜に狂夜は仕方ないと告げた。狂夜や桜が小さい頃は逆に雁夜に迷惑をかけてばかりだったから今は我慢するよ、と遠回しに告げていた狂夜。

 

 

『頼もしくなったもんだな。帰ったらお祝い、楽しみにしとけよ?』

「ああ……そうする」

 

 

雁夜に雄英の合否を告げた後、狂夜は次の電話相手にコールした。

 

 

『もしもし。狂夜君、どうしたの?あ、試験どうだった?合格した?合格したよねー?』

「お久しぶりです、先輩。雄英に合格したんで、その報告をと思いまして」

 

 

電話の相手は件の先輩だった。狂夜が合格したと告げる前から質問攻めだった。そして狂夜の報告を聞いた先輩のテンションは最高潮になっていた。

 

 

『受かったんだ!良かった、これでまた一緒の学校だね!先輩になんでも聞いて良いよ!』

「相変わらずッスね、先輩。そんときはヨロシクお願いします。んじゃ、今日はこの辺で失礼します」

 

 

夜も遅いので電話を切った狂夜は天真爛漫な先輩の事を思い出してい改めて雄英に受かったんだな……と笑みを浮かべた。

 



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入学初日①

 

 

 

雄英入学の日。狂夜は準備を済ませて、雄英へ向かう為に玄関で靴を履いていた。

 

 

「兄さん、忘れ物はありませんか?」

「大丈夫だって。桜も今日からは俺と一緒じゃないんだから大丈夫か?」

 

 

桜は心配そうに狂夜に話し掛けるが、狂夜は昨夜の内に既に準備万端にしていたので、後は出発するだけである。逆に狂夜は、今まで自分と一緒に通学していた桜が一人で大丈夫なのかと心配になっていた。

 

 

「もう、兄さん!小学校の時も同じことを言いましたけど私は子供じゃありません!」

「はは、大丈夫そうだな。んじゃ行くか」

 

 

頬を膨らませて怒る桜に狂夜は笑みを浮かべると玄関の扉を開けた。今日からは雄英の生徒だ……そんな、狂夜の気持ちは……

 

 

「あ、おはよう!待ってたよ、ねえ知ってた?私が迎えに来るって!」

「ねじれ先輩!?」

「何してんスか、先輩……」

 

 

第一歩目から挫かれた。

玄関の扉を開けると、そこには見覚えのある先輩の姿が。

彼女の名は『波動ねじれ』

狂夜や桜とは同じ中学に在籍していて、狂夜は彼女に世話になっていた事があり今でも連絡を取り合う仲だった。桜も狂夜経由で、ねじれとは知り合っていた。

 

 

「先輩、どうして……」

「だって今日は狂夜君の初登校!同じ学校なんだから一緒に通おうかと思って!」

 

 

桜の疑問に、ねじれは楽しそうに答えた。

 

 

「すいません、気を使わせちゃったみたいで」

「いいよ、いいよ!行こう狂夜君!桜ちゃんも今度、遊ぼうね!」

「あ、はい!兄さん、行ってらっしゃい!」

 

 

わざわざ迎えに来てくれた先輩に狂夜はありがたいと思ったのだが、ねじれは気にしてないと明るく笑顔になって狂夜の手を取り、歩き始めてしまう。桜は戸惑いながらも狂夜を見送った。

 

 

「先輩……いいなぁ……」

 

 

見送りながらも狂夜と手を繋いでいる、ねじれを見て桜はポツリと呟いた。

 

狂夜はねじれと手を繋ぐのは満更でもない。だが、駅から雄英までの道のりを手を繋ぐのは流石に恥ずかしい。駅に到着すると然り気無く繋いだ手をほどくと、電車の中では持ってきていた小説を読みながら、ねじれと話して時間を潰し、ある程度読んだ所で駅に到着したので小説を鞄に仕舞うと学園に足を向けた。

 

 

「改めて……デカいッスね」

「そうだよ。ねぇねぇ知ってる?この門ってね秘密があるの!」

 

 

狂夜は目の前に聳え立つ雄英の校門に圧倒されていた。ねじれは自身の知っている雄英の門の事を話そうとした所で声を掛けられた。

 

 

「あ、入試の時の!」

「ん?……あ」

 

 

背後から掛けられた声に振り返る狂夜。そこには入試の時に出会ったオレンジ髪の女の子が立っていた。

 

 

「受かってたんだ」

「そりゃお互い様だな」

「誰々、友達?」

 

 

雄英高校に到着して狂夜は見知った顔があった事に安堵した。それとは対象的にねじれは狂夜の両肩に手を置いてオレンジ髪の女の子を見ていた。

 

 

「私は拳藤一佳。アンタ達は?」

「間桐狂夜だ。よろしく」

「私は波動ねじれ!三年生!」

 

 

簡単に自己紹介をすると拳藤は慌てて頭を下げた。

 

 

「ご、ごめんなさい!先輩だったんですね!」

「まあ、先輩には見えんわな」

「むー、狂夜君。どういう意味」

 

 

拳藤は頭を下げたが、狂夜はねじれの天真爛漫な感じは先輩に見えないよな、と呟き、ねじれは頬を膨らませと狂夜の背中をペチペチと叩く。

 

校門を潜り、昇降口で別校舎に行く、ねじれとは分かれ狂夜と拳藤は一年の教室を目指した。

 

 

「え、間桐はA組なの?」

「ああ、そういう拳藤はBか」

 

 

話をしている中で互いのクラスの話をした。狂夜はA組、拳藤はB組だった。

 

 

「知ってる奴がいるなら同じクラスが良かったんだがな」

「まあ、そうそう上手くはいかないって事だね」

 

 

互いに別クラスだった事に残念だったと話す二人。そんな話をしている間にヒーロー科の教室の前に到着していた。

 

 

「それじゃ、私こっちだから」

「おう、また今度な」

 

 

B組の教室の前で拳藤と別れ、狂夜は隣にあるA組の教室に向かう。

 

 

「よ、プレイボーイ!」

「おわっと!」

 

 

そして狂夜が歩を進めたと同時に背後から肩を組まれた。組まれた肩に視線を移すが、肩を組んだ人物は狂夜の知らない人物だった。

 

 

「お前、A組だろ?俺は上鳴電気、よろしく!」

「あ、ああ……俺は間桐狂夜。つか、プレイボーイって……」

 

 

ハイテンションで話しかけてきたのは金髪男子の上鳴電気だった。狂夜はいきなりプレイボーイ扱いされた事を疑問に思う。

 

 

「いやな……入学初日。しかも同中の奴が殆ど居ないようなこの状況でいきなり女子と仲良くなるとかプレイボーイだろ!」

「いや、拳藤とは入試の時に会ってたんだよ。名前を知ったのも、ついさっきだし」

 

 

狂夜と上鳴は並んでA組の教室を目指した。ノリの良さそうな奴だし友達になれて良かったと狂夜は思っていた。ついでに言うと、ねじれと共に登校した事は黙っていようと思った狂夜。

 

 

「しかし、早くに来すぎたかもな」

「あ、それは俺も思った。ヒーロー科なんて、ワクワクし過ぎてよ!」

 

 

時間を見れば入学式まで、まだまだ時間がある。狂夜は遅れるよりも早く行こうと思っていたのだが、上鳴は遠足の前の日の如くテンションが上がって逸る気持ちで早めに来てしまったらしい。

 

 

「まだ誰も居ないんじゃないか?」

「なら一番乗りか!」

 

 

一番乗りで教室に来たかな? と狂夜は妙にデカいヒーロー科の教室の扉を開けた。そして狂夜と上鳴の視界に教室の真ん中に浮く女子の制服が……

 

 

「おお、雄英高校ヒーロー科の教室に伝わる怪談話、宙に浮かぶ女子制服の怪」

「うおっ!独りでに制服が動いた!?」

「もう、お化けじゃないよ!」

 

 

狂夜は宙に浮かぶ女子の制服に思ったままを口にし、上鳴は狂夜のデッチ上げの怪談話を信じてビビった。そして浮かぶ女子の制服から抗議の声が上がる。

 

 

「私、葉隠透!個性は透明化!」

「なるほど、個性で体が透明なのか。俺は間桐狂夜、よろしく」

「俺は上鳴電気!流石、ヒーロー科!早速凄い生徒がいたな!」

 

 

制服の袖をピョコピョコと動かして身ぶり手振りで自己アピールをする葉隠。この手の行動に慣れてるんだなと狂夜は感じていた。

 

 

「間桐君、手を出して」

「ん、こうか?」

 

 

葉隠に促されるままに狂夜は右手を前に伸ばした。すると狂夜の差し出した右手にキュッと握られた様な感覚が伝わる。それは葉隠が狂夜の右手に握手をしたからだった。

 

 

「ヨロシクね!」

「ああ、よろしく葉隠」

「あ、俺も俺も!」

 

 

透明化してるので葉隠の顔は見えなかったが、多分笑っているのだろうと狂夜は考えていた。そして狂夜と葉隠が握手をしているのを見て、上鳴も俺も握手をすると騒ぎ、狂夜は細くて柔らかい手だったなと握手した右手の感覚を思い出していた。

そんな事をしている間にも、続々と他の生徒も登校して来たので挨拶と親睦を深める為に様々な話をする事となった。

 



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入学初日②

今回は短めです。


 

 

上鳴や葉隠といった友人も出来て楽しく話をしていた狂夜だが、その平穏は既に崩れ去っていた。

 

 

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

「あぁ?思わねーよクソが!テメーどこ中だ!?端役が!!」

 

 

目付きの悪い生徒、爆豪と入試の時にモサモサ頭の少年に絡んでいた眼鏡が言い争っていた。

先に教室に入ってきたのが爆豪だったが、彼は教室に入るなり、机に足を掛けた。そして次に教室に入ってきた眼鏡の少年が注意し、今に至る。

 

 

「ぼ…んんっ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!」

「聡明だぁ!?エリート中じゃねぇか!そりゃブッ殺し甲斐ありありだな、オイ!」

「君、酷いなっ!本当にヒーロー志望か!?」

 

 

自己紹介をした眼鏡改め飯田は、おおよそヒーロー志望とは思えぬ台詞を吐く爆豪に驚きながらも、更なる注意を促すつもりらしい。

 

 

「なんか……スゲーなアレ……」

「チンピラ不良と真面目眼鏡……水と油だろ」

 

 

上鳴の言葉に狂夜も同意する。この手の人種は交わらない。狂夜が言い表した様に正に水と油なのだろう。

そこで狂夜は教室の扉が少し開いている事に気づく。そこからビクビクした様子で見覚えのあるモサモサ頭が見えた。

 

 

「ん……お前も受かってたのか。モサモサ頭」

「あ、試験の時の……あ、ありがとう。あの後、君が運んでくれたって聞いたからお礼がしたかったんだ」

 

 

狂夜は上鳴達と離れると、入試の時に会ったモサモサ頭の少年と挨拶を交わす。そこで漸く、狂夜にも気付いた飯田がズンズンと狂夜と緑谷に歩み寄る。

 

 

「俺は私立聡明中学の飯田天哉だ!」

「あ!僕は緑谷出久です…飯田くんに……えと……」

「間桐狂夜だ。よろしくな緑谷、飯田」

 

 

互いに自己紹介を済ませる三人。そこで飯田が口を開いた。 

 

 

「緑谷君、そして間桐君もあの実技試験の構造に気付いていたのだな?俺は…気付けなかったよ。君達を見誤っていたよ!悔しいが君達の方が上手だったようだ……」

 

 

ギリッと、何とも悔しそうな顔で歯を食い縛った飯田。それと同時に狂夜も緑谷も『いや、気付いてなかったよ』と心の中でツッコミを入れた。

 

 

「あれ?そのモサモサ頭は!地味目の人!それに最後に助けてくれた人も!」

「あ、あなたは!」

「お、これであの時のメンバー揃ってんな」

 

 

続いて教室に入ってきたのは、これまた入試の時に会った茶髪の女の子だった。

 

 

「良かったー受かったんだね!マイクの言った通りだったよ!すごいカッコよかったし!凄いパンチだったよ!」

「そ…それ程でも」

 

 

茶髪の女の子がべた褒めすると、緑谷は顔を真っ赤にして照れていた。

 

 

「き、君の直談判のお陰で僕もなんとか……その……き…君がさあんな事言ってくれたから僕もこうしているわけで…」

「え?何で知ってるの?」

「直談判?何があったんだ?」

 

 

緑谷が顔を真っ赤にしたまま何かを呟き、茶髪の女の子は小首を傾げ、狂夜は何があったのかと頭を捻った。そんな話をしている最中だった。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

「へ?」

「え?」

「む?」

「ん?」

 

 

突如、背後から掛けられた声に緑谷、茶髪の女の子、飯田、狂夜の順に声のした方に視線を移す。

そこには小汚い寝袋に包まれた男が一人。男はゼリー飲料をヂュッと一瞬で飲み干す。誰もがその光景に衝撃を受け、数秒前の歓声が一気に静まった。

 

 

 

「ハイ、君達が静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 

そう言うと男はモゾモゾと寝袋から出て来た。妙にくたびれた男はゆっくりと教室に入ってくる。

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 

このくたびれたオジさんがクラスの担任?とその場に居た者全員の気持ちが一つになっていた。

 

 

「早速だが……全員、これ着てグラウンドに出ろ」

 

 

相澤が寝袋の中から恐らく雄英の指定ジャージであろう体操服を取り出す。突然の事態にA組の生徒はただ呆然と相澤の指示に従った。



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個性把握テスト

 

 

 

「「「個性把握テスト?」」」

 

 

担任である相澤から体操服に着替えさせられグラウンドに出たA組の面々に告げられたのは、個性把握テストなるものだった。

 

 

「実技入試成績のトップは爆豪だったな。ボール投げの記録は覚えてるか?」

 

 

爆豪は相澤から個性なしのボール投げの記録を聞かれる。

 

 

「確か76」

「なら、個性ありでやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」

 

 

相澤からボールを渡され爆豪はボールを持って円の中に入り、振りかぶった。

 

  

「んじゃま……死ねやぁ!!」

 

 

ボールを投げると同時に爆豪の怒号が響き渡る。瞬間、衝撃が増幅されボールがありえないほど飛んでいくが、A組の面々は爆豪の掛け声の方に気をとられていたりする。

 

 

「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 

相澤がスマホで記録したボール投げの飛距離を見せながら呟く。スマホには爆豪の記録が表示されていた。

各人が気になってスマホを覗いてみると、表示された記録は706メートル。

爆豪が個性を使って出した記録にA組生徒はテンションが上がり、面白そうと、個性思いっきり使えんのか、とかなり盛り上がっている。

しかし、相澤にはこの雰囲気が気に入らなかったらしい。目をギラリと光らせて睨み付けてきた。

 

 

「よし、8種目トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

「「「はぁぁぁぁっ!?」」」

 

 

 

相澤は口端をニヤリと上げてA組生徒に死刑宣告にも似た台詞を吐き出した。これにはA組生徒、全員が悲鳴をあげる。

 

 

「生徒のいかんは俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ!」

「最下位除籍って入学初日ですよ!いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」

 

 

入学初日に除籍を受け入れらる筈もなく、茶髪の女の子が相澤に反論する。

だが、相澤は受け入れるつもりがないらしい。災害に事故に敵たち、日本は理不尽にまみれている。そして、それを覆すのがヒーローだ、とA組生徒に言って聞かせた。

 

 

「放課後、マックで談笑したかったならおあいにく、これから3年間雄英は君たちに全力で苦難を与え続ける。さらに向こうへ、Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい」

 

 

相澤の挑発じみた言葉にクラスメイトたちの表情も変わる。確かに最下位除籍はやり過ぎなような気もする。だが、ここでいきなり除籍は嫌だと全員が奮起した。

 

体力テストの内容はソフトボール投げ、立ち幅とび、50M走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈。

 

流石は雄英高校ヒーロー科に入学を果たした生徒達は、誰もが個性を使用し何か1つくらいはありえないような記録を打ち立てていく。

 

触手のようなものがある生徒、障子は腕を増やして500キロを超える握力を叩き出した。

反復横跳びでは頭に葡萄のようなものをつけた生徒、峰田が左右に謎のボールを設置して高速移動しながら反復横跳びをしていた。

そしてボール投げでは茶髪の女の子改め、麗日が無限という信じられないような記録を出して皆を驚かせた。

 

そんな中で狂夜は一番ではないにせよ良い記録を出し続け、ボール投げでは……

 

 

「っしゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

『狂化』で強化した身体能力を駆使してボールを勢い良く投げ、ボールは飛距離を伸ばす。流石に無限とまではいかないがグングンと距離は延びていく。

 

 

「613メートル!?」

「こっちも凄い!」

 

 

麗日、爆豪には届かないもののボール投げでは好成績となった。そして、ボール投げの順番は緑谷の番となったが記録は40数メートル。

 

 

「アイツの個性ってパワー型じゃなかったか?なんで、あんな記録なんだ?」

 

 

狂夜の呟きに答える者は居なかった。緑谷は自身の手を見つめながら「なんで……」と呆然としている。

 

 

「ったく……入試の内容は合理的じゃないな。お前みたいなのが合格しちまうんだからな」

 

 

そこで言葉を発したのは相澤だった。先程までとは雰囲気が違い、目を見開いて緑谷を見つめていた。

 

 

「あのゴーグル……そうか、イレイザーヘッド!」

「誰それ?」

 

 

緑谷は相澤の瞳やゴーグルを見て、相澤のヒーロー名に辿り着いたらしい。他の者は狂夜を含めてイレイザーヘッドの名を知らなかった様だが。 

緑谷の解説から相澤/イレイザーヘッドの個性が対象者の個性を消す個性だということが判明した。

 

 

「緑谷、大丈夫かな?」

「んー……俺は入試の時に緑谷を見てるから分かるけど……多分、大丈夫だと思う」

 

 

個性を消された緑谷は相澤に何やら怒られていた。正しくは指導なのだろうが、狂夜や他の生徒からはただ怒られている様にしか見えなかった。

その後、指導が終わったらしく緑谷がボールを投げた。そのボールは凄まじい勢いで飛んでいく。だが、緑谷の指は真っ赤に腫れ上がっていた。

ボールの記録は700メートルを超える大記録となっていた。

 

 

「700メートル越えた!爆豪に並んだぞ!?」

「だから言ったろ大丈夫だって。むしろ大丈夫じゃなかったのは……」

 

 

緑谷の記録にはしゃぐ上鳴だが、狂夜が指を差した部分に視線が移り、青ざめた。緑谷の指は見るも無惨に赤く腫れ上がっていたのだ。

 

 

「な、なんなんだよ……あれ」

「多分、個性の反動だな。因みに入試の時は右腕と両足がバキボキだったぞ」

 

 

狂夜の言葉に、入試の時の緑谷の姿を想像した者達は顔を青くした。

そんな話をしていると、爆豪が緑谷に恨み節全快で殴りかかろうとしているのを相澤が止めた。相澤が身に纏っていた布は特殊な捕縛武器なのだと相澤の口から語られた。

 

 

「たく、何度も何度も個性使わせるなよ。俺はドライアイなんだ!」

 

 

爆豪の動きを止めた相澤は叫び、その時、クラスの全員の心が1つになった。

 

『個性、凄いのにもったいない!』

 

見たものの個性を消す。強力な個性なのに本当にもったいなかった。

その後、荒れていた爆豪も除籍にするぞ、と相澤に睨まれた為に大人しくなり、個性把握テストは続いた。そして結果の発表になった。

 

結果として狂夜は3位に食い込んだ。そして、除籍処分となる最下位は緑谷だった。記録らしい記録がボール投げのみ。更にボール投げで指を負傷した緑谷は、他のテストにもそれが影響して結果は散々なものとなってしまったからだった。

 

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

 

相澤がポツリと衝撃の一言を落とした。

理解が追い付かないA組全員が口を開けてポカンとしていた。

 

 

「君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

「ええええぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

ニヤッとイタズラ成功した笑みを浮かべる相澤に緑谷は大袈裟に驚いていた。

 

 

「そんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

「うーん、普通に騙されてたわ」

 

 

呆れた様子で八百万が呟き、上鳴が騙されたと嘆くと他のクラスメイトもうんうんと頷いていた。

 

 

「これにて、終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから戻ったら目を通しておけ。後、緑谷は婆さんの所に行って指を治してもらえ」

 

 

相澤の一言で入学初日いきなり始まった個性把握テストは終わりを告げた。

緑谷は指の治療の為に帰りのHRは少し遅れて来たが、無事であることに狂夜は安堵していた。

 

 

 

そして帰り道。

 

 

「A組入学式にいなかったけど、何してたの?」

 

 

帰る間際に拳藤と会った狂夜は駅までの道のりを一緒に歩いていた。その際にA組が入学式に姿を現さなかった事を疑問に感じた拳藤は狂夜にその事を尋ねていた。

因みに、ねじれは用事がある為に帰りは別だったりする。

 

 

「個性把握テストしてた。しかも最下位は除籍処分」

「え、初日から?しかも除籍処分って!?何、入学初日からバイオレンスな事してんの!?」

 

 

狂夜の発言に驚く拳藤。そりゃ驚くよな、と狂夜は苦笑いだった。

 

 

「それは担任の相澤先生に言ってくれ。まあ、除籍は俺達の全力を出させる為の嘘だったんだけどな」

「A組とB組で内容が違いすぎるよ。B組は普通に入学式の後、ガイダンスだったけど……あ、B組の先生は体はゴツいけど、優しい先生で……」

 

 

A組とB組の違いを話し合う狂夜と拳藤。その姿はとても仲も睦まじく……

 

 

「やっぱプレイボーイじゃねーか、アイツ!」

「個性把握テストで上位で、別クラスの女の子と仲良くなってるって、羨まし過ぎるだろ!」

 

 

その光景を見ていた上鳴と峰田は血の涙を流していた。



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戦闘訓練①

 

 

 

ヒーローを育成するといっても高校生。午前は必修科目の普通の勉強がある。

それぞれの担当教科の教師は有名なプロヒーローなのだが…基本は普通。今現在は英語の授業なのだが……

 

 

「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?……おら、エヴィバディヘンズアップ盛り上がれー!!」

 

 

その授業風景にA組全員の気持ちが重なっていた。『普通だ』と。

しかも、プレゼント・マイクは授業を盛り上げようとしているが入試の時同様に誰も反応してくれない。

 

 

昼になれば大食堂でクックヒーローランチラッシュ一流の料理を安価で頂ける。

狂夜は上鳴、切島と昼食を楽しんでいた。

 

 

「午後の授業!いよいよだな!ヒーロー基礎学!」

「しかもオールマイトの授業!」

 

 

ヒーロー基礎学を学べると、切島と上鳴のテンションはかなりハイになっていた。

 

 

「とりあえず気持ちはわかるがメシを飛ばすな」

 

 

切島に至っては食べながら喋っていた為に、ご飯粒が狂夜のテーブル近くまで飛んできていた。

 

 

「おお、悪りぃ悪りぃ!」

「元気だね、アンタ等」

「ん、拳藤か」

 

 

悪いと言いながら口元のご飯粒を拭う切島。豪快な奴なんだな、と狂夜が思っていると後ろから声を掛けられた。振り向くと料理を乗せたトレーを持った拳藤が居た。

 

 

「声がデカいから目立ってるよ、アンタ達」

「だってよ、切島、上鳴」

「おお、悪い」

「やっぱプレイボーイだよなぁ……間桐って……」

 

 

拳藤から注目されていると言われ、狂夜に注意された切島は即座に謝罪をしたが、上鳴はブツブツと他の事を考えていた。

 

 

「そっちも午後からヒーロー基礎学か?」

「うん、こっちは担任のブラドキングだけど」

 

 

B組も午後からヒーロー基礎学なのだと拳藤から話を聞いた狂夜。もう少し話を聞きたいと思っていたが、拳藤は友達を待たせてるから、と行ってしまう。

 

 

「お前、もうB組の奴と交流があるのかよ?」

「入試の時と昨日、会ったばかりだよ」

 

 

切島の質問に簡潔に答えると狂夜はご飯を一気にかっ込んだ。昼食を食べ終わり…いよいよ午後の授業。 

 

 

「わーたーしーがー!普通にドアから来た!!」

 

 

午後のヒーロー基礎学が始まり、オールマイトがHAHAHAと笑いながらクラスに入って来た。オールマイトが来た事により教室内のテンションは更に上がる。

 

 

「オールマイトだ!すげぇ、本当に先生やってるんだな!!」

「銀時代シルバーエイジのコスチュームだ!」

「画風違いすぎて鳥肌が……」

「終始あのテンションなのか?」

 

 

ザワザワと盛り上がる教室でオールマイトは、その勢いで結構!と言わんばかりに話を進める。

 

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!単位数も最も多いぞ!早速だが今日はコレ!戦闘訓練!」

 

 

オールマイトが右手に持っていたのはBATTLEと書かれたカードだった。

 

 

「戦闘……」

「訓練……!」

 

 

戦闘訓練の単語に爆豪は面白そうに笑みを浮かべて、緑谷は少し、不安そうにしていた。

 

 

「そしてそいつに伴って……こちら!」

 

 

オールマイトは手にしたリモコンをピッと押す。すると、横の壁が動きだした。

 

 

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……コスチューム!」

「「「おおお!!」」」

 

 

戦闘服/コスチュームを貰えると知り、教室内のテンションはMAXとなった。

 

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」

「「「はーい!!」」」

 

 

オールマイトの言葉にA組生徒達は年相応の子供らしい返事を返していた。

 

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!自覚するのだ!今日から自分は…ヒーローなんだと!」

 

 

オールマイトの言葉を耳に刻みながら更衣室で着替える狂夜達。そして着替えを終えた者達が自分の戦闘服コスチュームに身を包みグラウンドに出てきた。

 

 

「間桐……お前のコスチュームって西洋甲冑?」

「そう言う、お前は私服か上鳴?」

 

 

グラウンド・βに到着した狂夜は上鳴からヒーローコスチュームは西洋甲冑なのかと問われていた。

狂夜のヒーローコスチュームは黒いフルプレートを纏った騎士の様な姿をしている。

対する上鳴は白のシャツに黒いジャージのような、シンプルな物で。ジャージの方にはイナズマを模した白いラインが入っている。

 

 

生徒全員が揃うまでは授業が開始されない為に、今はプチファッションショーと化していた。

 

上鳴みたいに私服にも見えない姿のような者も居れば、狂夜や飯田のように全身装甲の様な出で立ちもいて、葉隠に至ってはグローブとブーツのみだった。

それはナチュラルに裸なのでは?と思った狂夜だが、口にしたら女性陣から非難の声が上がるのは明白なので黙っていた。

そして少し遅れてから緑谷も合流するが、その姿はオールマイトのオマージュというのが丸出しのコスチュームだった。

ついでに言うなら、麗日のコスチュームはサイズが合っていない為かパツパツの状態になっており、麗日の体のラインが浮き彫りになっていた。それを見た上鳴と峰田はグッと親指を立てていた。

 

 

「先生!ここは入試時の演習場だと思われますが…また市街地演習を行うのでしょうか?」

「いや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練だ!!」

 

 

遅れてきた緑谷を含めて漸く、授業が開始された。飯田の言った通り、この場所は入試の実技試験が行われた場所である。

 

 

「屋内?」

「敵退治といえば大半が屋外での事をイメージしがちだが、統計で言えば逆に屋内の方が凶悪敵出現率が高いのさ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会において真に賢しい敵は屋内に潜む!君らにはこれからは『ヒーロー組』と『敵組』に分かれて2vs2の屋内戦を行ってもらう」

「基礎訓練も無しにいきなり?」

 

 

蛙吹は首を傾げながらオールマイトに疑問を投げ掛ける。

 

 

「その基礎を知る為の戦闘訓練だ!ただし!今回は入試の様なただぶっ壊せばオッケーってのじゃない所がミソだ!」

 

 

カッと気合いの入った一言を告げるオールマイト。それと共に生徒達の疑問は更に沸き上がった。

 

 

「勝敗のシステムはどうなりますか?」

「ぶっ飛ばしてもいいんすか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

「分かれるとはどのような分かれ方をするのですか」

「ヴィラン役は悪役みたいな変装するんですか?」

「ヒーロー役の方が女にモテそう!」

 

「んんん〜聖徳太子ィィ!」

 

 

それぞれが疑問を口にする中で、オールマイトは怒涛の質問返答にどう答えたら良いか悩んで苦悩していた。オールマイトは何処からかカンペを取り出し、そのまま戦闘訓練の説明に入る。

 

 

「いいかい?『敵組』がアジトに核兵器を隠してあり『ヒーロー』がそれを処理しようとしている、と言う設定だ」

 

 

オールマイトの説明に、やけに設定がアメリカンだ、と生徒全員が思っていた。

 

 

「『ヒーロー』の勝利条件は、『ヴィラン』を二人の捕縛または『核兵器』の回収、触れるだけでいいぞ!そして『ヴィラン』の勝利条件は『ヒーロー』を二人の捕縛、もしくは制限時間まで『核兵器』を守り切ることだ!捕縛には配布されている『確保テープ』を使うこと、これを相手に巻きつければ捕縛完了となるぞ!制限時間は15分!ヤバい場合は先生が止めるぞ!」

 

 

カンペのセリフを丸々読んだオールマイト。カンペが無ければ、とても先生らしいのに……と少し残念な絵である。

 

 

「そしてコンビ及び対決相手は…クジで決める!」

「ええ!?て、適当なのですか!?」

 

 

用意周到にオールマイトは既にクジを用意していた。クジでコンビを決めるのは適当なのでは?と飯田が声を上げる。

 

 

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることも多いしそういう事じゃないかな?」

「そうか…先を見据えた計らい!失礼致しました!」

「いいよ!早くやろ!」

 

 

緑谷の発言に飯田はオールマイトに頭を下げた。そしてクジによって選別されたチーム分けは以下の通りである。 

 

A 緑谷 麗日

 

B 轟 障子

 

C 八百万 峰田

 

D 飯田 爆豪

 

E 芦戸 間桐

 

F 砂藤 口田

 

G 耳郎 上鳴

 

H 常闇 蛙吹

 

I 尾白 葉隠

 

J 切島 瀬呂

 

このチーム分けでヒーロー側とヴィラン側に分かれて戦う。

初戦はAチームとDチームの戦い。AチームがヒーローでDチームがヴィランの設定である。狂夜は爆豪がヴィランって適役だな、と心の中で思っていたが、案の定といった感じで戦闘訓練が進んでいた。

 

爆豪は緑谷を狙い撃ちにしていた。その目付きや行動はヴィランそのものだと、モニターで見ていた全員の気持ちだろう。

麗日は緑谷と別行動を取って『核』の回収に向かったが、ヴィラン役に成りきった飯田に阻まれていた。訓練場の音声はオールマイトにしか聞こえないのだが、飯田はヴィランを演じようと必死なのは伝わってきた。

そして緑谷と爆豪の戦いは決着を迎える。

緑谷に殴りかかった爆豪だが、緑谷はそれを予測して爆豪の拳を受け止めつつ天井を拳で破壊した。天井を突き抜ける緑谷の拳は下のフロアから屋上までを吹き抜けにすると、麗日が柱をバットの様に扱いフロア破壊の際に出来た残骸や破片を殴り飛ばして飯田に攻撃する。それらを防ごうと構えた飯田だが、それと同時に跳んだ麗日が『核』を回収してゲームセット。

 

 

「勝者……ヒーロー!ヒーローチームWIN!!」

 

 

結果が出たとオールマイトの叫びがモニタールームと訓練場に響き渡る。

そして講評の時間となるが緑谷は不在だった。先程フロアを吹き抜けにした拳が再び、腕をバキボキにしたからである。

緑谷抜きでの講評は飯田がベストとされた。その理由は何故か?オールマイトの問い掛けに八百万が答えた。

 

 

「それは飯田さんが1番状況を理解し適切な行動をしたためです。緑谷さんは核があるとは思えない攻撃をし、麗日さんは気の緩み、爆豪さんにいたっては私怨丸出しの独断行動をしていたからです。飯田さんは訓練をキチンと理解し、相手への対策を練り、『核』の争奪される事を前提とした対処を行った。ヒーローチームの勝ちは「訓練」だという甘えから生じた反則勝ちみたいなものですわ」

「お、オーケーだ。八百万ガール……ま、まあ飯田少年もまだまだ硬い所があったがね」

 

 

八百万の答えが正確すぎたのかオールマイトは言う事を殆ど奪われてしまった為に表情が固くなっていた。

そして初戦から凄まじい戦いだったと残ったA組の生徒も奮起して訓練に臨んでいた。その後の訓練は順調に進み、順番が狂夜と芦戸の番となる。

 

 

「それじゃ行こっか間桐!」

「ああ……行こうか」

 

 

笑顔の芦戸に狂夜は『個性』が暴走しない様にしないとな……と考えながらステージとなっているビルへと足を踏み入れた。

 




狂夜のコスチュームはFate/zeroバーサーカー/ランスロットの姿です。


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戦闘訓練②

 

 

 

 

 

Eチーム間桐、芦戸 VS Fチーム砂藤、口田

 

 

ヒーローチームがEでヴィランチームがF。ヴィランチームは先行してビルに潜伏して『核』の防衛に回る。

ヒーローチームは潜入するまでの約5分間の間に作戦会議となる。

 

 

「間桐の個性ってパワー型だよね?」

「んー、まあ単純なパワー型じゃなくて制約多いけどね」

 

 

芦戸が狂夜の個性を尋ねてくるが、狂夜の『狂化』はそんな単純な物ではない。

 

 

「間桐って体力テストの時に、なんかパワーが凄くなってたから、そうなのかなーって」

「俺の個性は確かにパワー型だけど、『狂化』って言うんだ。簡単に言うと理性と引き換えに力を得ると言うか……」

 

 

狂夜は芦戸の疑問に簡潔に答える。すると芦戸は胸元を手で隠しながら僅かに後退る。

 

 

「エ、エッチになるの?」

「そう言う意味じゃねーよ!狂暴になって暴れるとかの意味だ!」

 

 

芦戸は『理性を失う』=『ケダモノになる』と解釈した様で狂夜は叫びながら訂正する。怒られた芦戸はゴメンと手を合わせる。どうやら分かった上でからかっていたらしい。

 

 

「そう言う芦戸の個性は?個性把握テストの時じゃ個性見れなかったから」

「んー、私の個性って個性把握テストじゃ使えなかったからね」

 

 

狂夜の質問に芦戸はビルに手を這わせる。と同時に、芦戸が触れた部分のビルの壁がジュワッ!と溶けた。

 

 

「私の個性は『酸』!なんでも溶かしちゃうよー!」

「凄いな……なら、この個性で……」

『屋内対人戦闘訓練開始!』

 

 

前半に余計な話をしていた為に、どんなプランで攻めようかと相談する前に戦闘訓練が開始されてしまう。

 

 

「とりあえず……行くか」

「そだねー」

 

 

何も戦闘プランを立ててないのに……と嘆く狂夜に軽いノリの芦戸。足並みは早速乱れていた。

 

 

「間桐は砂藤と口田はどう来ると思う?」

「確証はないけど……個性把握テストの時の砂藤の個性は緑谷みたいな増強型の個性だと思う。逆に口田は目立った動きがなかったから、どんな個性かは分からないな」

 

 

廊下を警戒しながら歩き、上を目指す狂夜と芦戸。警戒しながら対戦相手の砂藤と口田の事を話し合っていた。

 

 

「二人ともガタイが良いから増強型だとは思うけど……」

「見た目じゃ判断出来ないって事だよね。ところでさー」

 

 

砂藤と口田の個性予測をしていた狂夜と芦戸だったが、芦戸は狂夜に疑問を投げ掛ける。

 

 

「もう4階だけど……何も無かったねー」

「そうだな……『核』の前で二人が待ち構えてると思った方が良さそうだ」

 

 

そう。このビルは5階建てだが現在、狂夜と芦戸は4階までのフロアを散策して何もなかったのだ。

 

 

「もしくは……どちらかの個性で『核』を持ったまま移動してるとか?」

「その可能性もあるか……」

 

 

芦戸が良いことを閃いたと口を開く。その可能性があったかと狂夜も納得しかけたが……

 

 

「普通にフルディフェンスの構えだったな」

「言わなくてもいいってば!」

 

 

物陰に隠れながら、狂夜と芦戸は5階のフロアで『核』を守ってる砂藤と口田を見付けた。前に出るよりも完全防御の態勢で待ち構えていたらしい。自信満々で意見を出した芦戸は、顔を赤くしながら狂夜の肩をバシバシと叩いていた。

 

 

「どうするの?奇襲で強行突破して『核』を確保?」

「そうだな、だったら……俺が……をして、奴等の気を引くから芦戸は……」

 

 

物陰に隠れたまま簡潔に作戦プランを伝える狂夜。芦戸はフムフムと作戦を聞き、そのプランが決まれば面白いかもと笑顔を見せた。

 

 

「んじゃ、作戦通りに」

「りょーかい!」

 

 

狂夜の指示に芦戸は物陰に姿を隠したまま返事をする。そして狂夜は芦戸を残して行動に移す事にした。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「うーむ……来ないな」

 

 

砂藤は一向に来ないヒーローチームに違和感を感じていた。タイムアップになればヴィランチームの勝ちなのに、ヒーローチームに一切の動きがない。

 

 

何かあったのかな?と口田がジェスチャーで伝える為に砂藤の方へと振り返った。その時だった。

 

 

「……enemy……」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

「いや、どっちがヴィラン役だよ!?」

 

 

窓から見えた光景に口田が悲鳴を上げ、砂藤がツッコミを入れた。なんと狂夜は窓から部屋に侵入してきたのだ。それもホラー映画の怪人の様に窓枠に手をかけ、ゆっくりと顔を覗かせていた。しかも鎧の隙間から瞳が赤く光って威圧感を醸し出している。

 

 

「それは兎も角、『核』は渡さん!」

 

 

砂藤が部屋に入って来ようとしている狂夜を迎え撃とうと構えた。

 

 

「隙有り!」

「うわぁぁっ!?」

 

 

その直後、芦戸が滑る様に『核』の部屋に入ってきて、口田を確保証明ロープで縛り上げた。

 

 

「ああっ!?口田!」

「……next……」

 

 

あっという間に縛り上げられた口田に砂藤が驚き、その隙を突いて、狂夜が部屋に入って獣のように低い構えをしていた。

 

 

「ぬ、ぬおりゃあっ!」

「……battle……」

 

 

振り抜かれた砂藤の拳を避けた狂夜は跳躍し、壁を蹴ると天井まで飛び上がる。更に天井を蹴り、壁に着地すると素早い動きで砂藤を翻弄した。

 

 

「は、速い!?単なるパワー型じゃないのかよ!?」

 

 

狂夜の獣のような動きに付いて行けない砂藤は翻弄され、狂夜はその隙を逃さなかった。

 

 

「……straight」

「ぐふっ!?」

 

 

狂夜の拳が砂藤の鳩尾に叩き込まれる。追い打ちとばかりに狂夜は、くの時に曲がった砂藤の足を払い地面に叩き付けた。

 

 

「……フーッ……状況終了……」

「『核』確保!」

 

 

狂夜は砂藤を押さえ付け、芦戸はその隙に『核』を確保した。狂夜は勝ちが確定した瞬間に『狂化』を解除した。

 

 

「お疲れ」

「ナイスタッグ!」

「勝者……ヒーロー!ヒーローチームWIN!!」

 

 

狂夜と芦戸はパン!と片手でハイタッチをしたと同時に、オールナイトの叫びが訓練場に鳴り響きEチームの勝利となった。そして講評となる。

 

 

「さて、今回の間桐少年と芦戸ガールの戦いぶりで気付いた事は?」

「はい、間桐さんが前に出てヴィラン側の気を引き、一瞬の隙が生まれた瞬間に芦戸さんがフォロー。そして間桐さんが砂藤さんの行動を阻み、芦戸さんが『核』を確保。互いの行動を良く見た上でフォローするヒーローらしい行動でした。更に迅速な行動だったので砂藤さんと口田さんは個性を充分に使う暇が無かったと思います」

 

 

緑谷達の時同様に八百万が全てを話してしまいオールマイトは話す事がなくなってしまう。

 

 

「砂藤のは兎も角、口田は個性が分からなかったからな。スピード勝負に持ち込んだんだわ」

「そうそう、間桐の指示通り!」

 

 

狂夜の発言に芦戸は狂夜の肩を組んだ。狂夜が芦戸に話した事は数点。

 

 

『芦戸はこのまま少し待っていてくれ。俺が下の階から壁を上って窓から侵入するから』

『え、普通に危なくない?』

 

『口田の個性は不明だが恐らくは近接、または特殊な発動条件があると思う。砂藤の方はパワー型だから後でも対処できる。だから俺がアイツ等の気を引くから、隙を見て口田を確保してくれ』

『うーん……アタシの個性は足からも出せるから床を滑る様に移動は出来るけど……』

 

『だったら好都合だな。口田を確保したら俺が砂藤を抑えるから『核』の確保を頼む』

『わかった!初めての戦闘訓練、どうせなら勝ちたいしね!』

と簡潔に指示を出していたのだ。

 

 

本来なら芦戸の個性を含めた戦い方も考えるべきだったが、単純な戦いではなく今回の最大の目的は『核の確保』

その為、狂夜は芦戸の個性を使うやり方よりも、芦戸の柔軟な性格を生かす戦い方をしたのだ。

 

戦闘訓練を終えた狂夜達は教室へと戻ってきていた。午後の授業を終え、簡単にHRが開かれた後に今日の訓練の反省会をしていた。

 

 

「しっかし、間桐にはしてやられたぜ」

「どちらかと言えば相手の裏をかく事に専念したんだがな」

 

 

それぞれが今日の事を振り返る中、狂夜は砂藤と話をしていた。

 

 

「確かに裏はかかれたって気はするけど、単純にパワーで負けたのも悔しいぜ」

「少し多目に個性を使ってたからな、簡単には負けねーよ」

 

 

砂藤が悔しそうにするが、狂夜は簡単には負けないと笑みを浮かべた。

そんな話をしていると、戦闘訓練で気絶して運ばれた緑谷が目を覚まして教室に戻ってきていた。

 

 

「おおー、緑谷来た!お疲れ!」

 

 

爆豪との戦いを見て熱くなったのか、切島は真っ先に緑谷に駆け寄る。

 

 

「何、喋ってっか分かんなかったけど熱かったぜ、お前!」

「よく避けたよー!」

「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったよ!」

 

 

切島、芦戸、砂藤が一斉に緑谷に話しかけ、緑谷はアワアワと狼狽するばかりだった。

 

 

「俺は切島鋭児郎。今みんなで訓練の反省会してたんだ」

「私、芦戸三奈!よく避けたよー!」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺、砂藤!」

「オイラは峰田!」

「私、葉隠!」

「…………轟だ」

「障子、よろしく頼む」

 

 

それぞれから一斉に緑谷へ自己紹介をしていく。狂夜は緑谷が落ち着くタイミングを見計らって話しかけた。

 

 

「緑谷、入試や個性把握テストの時も見たけど無茶しすぎだ」

「ご、ごめん間桐君。気をつけるよ」

 

 

申し訳なさそうに縮こまる緑谷に、麗日は心配そうに声をかけた。

 

 

「デク君、怪我治してもらえなかったの?」

「これは僕の体力のあれで。あの……麗日さん、かっちゃんは?」

 

 

緑谷は爆豪がいない事に疑問を感じていた。緑谷の質問に皆が気まずそうな雰囲気になる。

 

 

「みんな止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ」

「……っ!」

 

 

麗日の言葉を聞いた途端に、緑谷は血相を変えて教室を飛び出していった。

 

 

「デク君、どうしたんだろ……」

「ちょうど、爆豪が彼処に居るから見えるかもな」

 

 

麗日が心配そうに呟くと狂夜が窓を指差した。そこには帰ろうとしている爆豪の姿が。すると走り追い付いた緑谷が爆豪と話を始める。

 

 

「何を話してるんだろ」

「幼馴染って話だからな。今日の訓練で思うところでもあったんじゃないか?」

 

 

窓から何かを話す緑谷と爆豪を狂夜達は窓から見ていた。狂夜は、個性把握テストの時や今日の訓練での爆豪を思い出すと何か因縁でもあるのだろうかと思ってしまう。そんな事を考えていると、緑谷と爆豪の会話に何故か、オールマイトも突然現れて会話に交ざっている様だ。緑谷と爆豪とオールマイトでどんな会話をしているのだろうと、窓から見ていた者達は首を傾げる。

 

 

「あ、やべ。俺はもう帰るわ」

「なんだよ、用でもあったのか?」

 

 

ふと時計を見た狂夜は鞄を肩に担ぐ。上鳴は狂夜が帰ろうとしているのを見て声を掛けた。

 

 

「俺は家の家事をしてるからな。今日は俺が夕食担当だから帰って作らないとなんだ。加えて特売を逃したくないんでな」

「主婦か!」

「家庭的なのね」

 

 

狂夜の発言を聞いて、上鳴がツッコミを入れ、蛙吹が感心した風に言った。

 

 

「んじゃ、また明日」

「ばいばーい!」

「またなー」

「おう」

 

 

狂夜が帰るとそれぞれが返事を返す。

 

 

「今日は……流石に先に帰ったよな」

 

 

狂夜はB組の前で足を止め、昨日、一緒に帰った少女を思い浮かべた後に少し残念そうにしてから帰宅した。

 



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クラス委員長①

 

「ねぇねぇ狂夜君、不思議。あれなんだろ?」

「なんか凄い人だかりですね」

 

 

戦闘訓練の次の日。いつもの様に、ねじれと登校していた狂夜だが、校門前に人だかりが出来ていた。

 

 

「不思議、今日ってなんかあったっけ?」

「特に学校行事があったとか聞いてないんスけど」

 

 

そんな話をしながら、歩いていると校門前の人だかりが移動し始め、狂夜とねじれの周りを囲む。

 

 

「はーい、ちょっといいかな?」

「オールマイトについて聞かせてもらえませんか!?」

「オールマイトが先生ってどんな感じですか!?」

「教師としてのオールマイトはどんな授業をしていますか?」

 

 

オールマイトが雄英の教師に就任したニュースは全国を驚かせ、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。

どうやら朝からズッと校門の前に陣取って、生徒達にオールマイトの事を質問攻めにしているらしい。

 

 

「不思議。何でオールマイトのこと知りたいの?それで生徒達に迷惑をかけるのは、いけない事だと思うの。知ってた?」

「あー……俺達、学校に入りたいんでどいてくれます?」

 

 

ねじれはマスコミに注意をするが、質問攻めをやめないマスコミ陣。狂夜も学校に遅刻したくないから退いて欲しいと促すも、マスコミ陣は知ったことじゃないと更に捲し立てて来た。

恐らく今までも生徒達にインタビューしたが、スルーされ続けた為に強引に話を聞こうという気なのだろう。

退く気配のないマスコミ陣に狂夜は溜め息を吐くと、ねじれを抱き寄せた。

 

 

「悪いけど、失礼しまっす!」

「え?きゃあ!?」

 

 

狂夜はねじれを横抱き、すなわちお姫様抱っこをすると『狂化』を発動し、マスコミ陣に陣取られて通れない校門を飛び越えた。

ねじれは突如抱き上げられた事に小さく悲鳴を上げ、後はされるがままだった。

校門を飛び越えた狂夜はスタッと綺麗に着地した。

 

 

「見事な着地。10.00」

「着地は見事だが個性を使うのは0点だ」

 

 

狂夜が校門を飛び越え着地し自分のジャンプに点数を付けると、着地した先で点数を付けられた。視線を上げると其処には担任の相澤が立っていた。その瞳は個性が発動して赤くなり、ザワザワと拘束用の捕縛布が動いていた。

 

 

「マスコミが校門の前を陣取っていたから仕方ないとは言ってもやりようは他にもあっただろう。今回は見逃すが次はないぞ」

「あ……はい」

 

 

ギロリと睨まれた狂夜はコクコクと首を縦に振る。相澤はそのままマスコミの相手をしに校門の方へと歩いて行ってしまったが、狂夜は相澤の睨みにビビって固まっていた。

 

 

「ねぇねぇ、知ってた?これって、お姫様抱っこって言うの」

「と、とと……すいません」

 

 

ねじれが楽しそうに狂夜に話し掛けると、狂夜はねじれを抱き上げたままだった事に気づき、慌ててねじれを下ろした。

 

 

「あ、えと……相澤先生、マスコミの相手するみたいですけど、あの様子じゃマスコミも学校の中に入ってきそうですけど」

 

 

狂夜は顔を赤くしたまま誤魔化す為に、相澤の話題をねじれに振るがねじれはニッコリと笑みを浮かべた。

 

 

「知ってた?前に話した校門の秘密の話」

 

 

そう言って、ねじれは校門を指差した。狂夜が視線を移すと、相澤を追って一人のマスコミが学校に入ろうとしているが、それと同時に校門からシャッターが降りてマスコミの侵入を阻んだ。

 

 

「なんですかアレ!?」

「知ってた?雄英バリアー!」

 

 

狂夜が突然の事態に驚いていると、ねじれは待ってましたと答えた。

 

 

「凄まじくダサい名前なんスけど……なんですかそれ」

「学生証、通行許可IDを身に着けてない者が門をくぐるとセキュリティが働くの。不思議」

 

 

つまり校内のいたるところにセンサーがあって侵入者を阻むのか……と狂夜が考えた所で、ねじれが先を歩く。

 

 

「ねぇねぇ、知ってた?相澤先生が睨んでるから早く行った方が良いよ」

「うおっ!?んじゃ、先輩失礼します!」

 

 

ねじれの言葉に狂夜が振り返ると相澤が再び睨みを効かせていた。それに気付いた狂夜はダッシュで下駄箱から靴を取り出すと教室へと走った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、知ってた?私もドキドキしてたの……」

 

 

狂夜の背中を見送ってから、ねじれの頬は赤くなる。その呟きは狂夜には聞こえなかったが、ねじれは満足そうに呟いた。



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クラス委員長②

 

 

教室に慌ただしく入ってきた狂夜。ぜぇぜぇと息切れを起こしていると、相澤が教室に入ってきて朝のHRが始まる。

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ、VTRと成績見させてもらったが……爆豪。お前もうガキみたいな真似するな」

「………わかってる」

 

 

相澤から溜め息混じりの指摘をされた爆豪は、視線を逸らしながら返事を返す。

 

 

「で、緑谷は腕ぶっ壊して一件落着か?個性のコントロールが、いつまでも出来ないで通せねぇぞ。俺は同じことを2回言うのが嫌いだ、ソレさえクリアできればやれることは多い……焦れよ緑谷」

「はい!」

 

 

相澤からのお小言に身を震わせた緑谷だが、遠回しな激励に奮起する。

 

 

「さてHRだが……急で悪いが今日は君らに……」

 

 

相澤の言葉にA組全体がゴクリと息を飲んだ。なにせ入学初日にあれだけの事があったのだ。警戒するのも無理はない。

 

 

 

「学級委員を決めてもらう」

「「学校っぽいの来たぁぁぁぁっ!!」」

 

 

 

今まで学校っぽいことがあまり無かった反動なのか、クラスが一気に盛り上がる。思えば入学式やらガイダンスをすっ飛ばしてきたので、初めて学校行事らしい事をするのかもと狂夜はボンヤリと考えていた。

 

 

「委員長!やりたいですソレ俺!」

「リーダーやるやる!」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm」

「俺にやらせろ!」

 

 

普通科なら義務って感じでやりたがらないであろう役職も、ヒーロー科ならば別となる。ヒーロー科では集団を導くトップヒーローとしての素地を鍛えられるため、はたまた目立ちたがりが多い為か、ほぼ全員が挙手していた。

 

 

「静粛にしたまえ!」

 

 

ザワザワと騒ぐ教室だがの事を飯田の叫びがそれを遮った。

 

 

「『多』を牽引する責任重大な仕事だ!『やりたい者』がやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案だ!」

「そびえ立ってんじゃねーか、なんで発言した!?」

「会ってまだ数日なんだから信頼も無いわ飯田ちゃん」

 

 

正論を述べた筈の飯田の手は綺麗にそびえ立っていた。その事を切島にツッコまれるわ、蛙吹に指摘されるわで散々だったが、このままでは決まらないだろうと飯田の案が採用された。

 

そして、その結果……

 

 

 

緑谷 四票

八百万 二票

他 各一票または0票

 

 

 

「わかってはいた……流石は聖職……」

「他に入れたのね……」

「お前もやりたがってたのに何がしたいんだ飯田……」

 

 

その結果を受け、飯田が膝を突き、八百万や砂藤に憐れまれていた。

そして投票結果の通り、委員長、緑谷。副委員長、八百万に決まった。

因みに狂夜は0票である。

 

 

そして昼休みになり、狂夜はよく話す上鳴や切島と食べようと思っていたのだが、食堂に向かう途中で拳藤とB組の小大唯に誘われて一緒に食事となった。

 

 

「じゃあA組でもクラス委員長決めてたんだ」

「B組は拳藤がクラス委員長だったよ」

「へぇ、こっちは緑谷がクラス委員長になったぞ」

 

 

隣に座った拳藤からB組もクラス委員長を決めていた事を教えてもらった狂夜。そして拳藤の向かい側に座った小大から、拳藤がクラス委員長になった事を告げられた。

 

 

「緑谷って……あの入試の時にコケそうになってた奴だよね?大丈夫なの?」

「確かに緑谷はちっと気弱な所があるけどアイツは誰かの為に真っ先に動くタイプだ。そういう奴は自然と周囲を引っ張っていくから問題ないだろ」

 

 

拳藤の心配を狂夜は否定しながら緑谷を肯定していた。狂夜がお茶をズズッと啜ると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「ねぇねぇ、狂夜君。奇遇だねお昼ご飯?」

「あ、先輩」

 

 

狂夜が首だけ振り向かせると其処には食事を終えた、ねじれが居た。その隣には、ねじれの友人と思わしき女性徒も居た。

 

 

「あ、ねじれ。この子がねじれがいつも言ってる狂夜君?」

「そうなの、知ってた?この子が……」

 

 

ねじれが友人に何か言おうとした瞬間、校内に警報が鳴り響いた。

 

 

「警報!?」

「なんだろう!?」

 

 

『セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 

食堂に響き渡る警報とアナウンスにより、その場に居た者の半数が慌てて出口へと詰め寄る。

 

 

「先輩、セキュリティ3ってなんですか!?」

「不思議、学内に侵入者が出たんだよ。知ってた?セキュリティ3って事は校舎にまで来てるって事なの」

 

 

狂夜がねじれにセキュリティ3の事を聞くと、予想以上の事態だったらしい。

 

 

「って、何じゃこりゃ!?」「痛ぇよ!」

「押すなって!」「ちょっと倒れる!」

「落ち着けっ!」「痛いってば!」

 

 

パニックになった生徒達は、状況確認も出来ないまま出口に詰め寄るだけとなってしまう。

 

 

「不思議、人波に流されるの」

「ちょっと先輩!?」

 

 

何とか空いている空間に逃げようとしていた狂夜だが、ねじれが人波に拐われていく。思わず手を伸ばした狂夜だが、その手は空ぶった。ねじれはそのまま人波に流され続けた。ねじれを助けようとした狂夜、後を追っていた拳藤や小大も人波に一緒に流されてしまっていた。

そして……

 

 

「あっ……」

「ご、ごめん……」

 

 

人波に流され、壁際まで追いやられた。そしてそのままドンと壁に手を突かれる。

壁ドンと呼ばれる行為に至ったのは狂夜と拳藤だった。突然の事態に二人は固まったまま動けなくなってしまっていた。

 

 

「ねぇ……間桐君、拳藤。とってもラブコメなんだけど……普通、逆じゃない?」

 

 

小大は今の現状にコメントを出すが、その顔は非常に微妙な物を見る目だ。

何故ならば、壁ドンをしているのは拳藤で壁に押し付けられてるのが狂夜だからだ。

 

 

「あ、その……さ……」

「この場合、俺が顔を赤らめた方が絵になるか?」

 

 

恥ずかしそうにしている拳藤に狂夜は思った事を口にする。その直後、何かを叩きつけるような音が聞こえ、その場に居た者がそこに視線を向けると、出入り口の上の方に飯田が非常口のマークのような格好で張り付いていた。

 

 

「皆さん、大丈ー夫!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!ここは雄英、最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!」

 

 

飯田の叫びから、この騒ぎの原因はマスコミによるものだった事が判明した。

 

 

「飯田の奴……非常口みたいになってんな」

「単にマスコミが学校に侵入してたんだ……」

 

 

壁ドンの体勢のまま揃って飯田を見ていると突如、狂夜の耳が引っ張られた。

 

 

「痛だだっ!先輩!?」

「むぅ~」

 

 

ねじれは頬を膨らませて狂夜の耳を引っ張っていた。そして狂夜と拳藤の壁ドンの体勢を狂夜の耳を引っ張って無理やり解く。

 

 

「痛いッス先輩!」

「不思議、今とってもモヤモヤしてるの」

 

 

そのまま狂夜を連れていってしまう、ねじれ。突然の事態に拳藤と小大はポカンとしていた。

 

 

「なんだったんだろう?」

「うん……きっと、あの先輩の琴線に触れたんだと思うよ」

 

 

拳藤は何事だったのかとしているが、小大はねじれの行動に何かを察した様に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「ほら、委員長始めて」

「では他の委員決めを執り行って参ります!けど、その前に良いですか!?」

 

 

昼休みも終了して午後の授業となったが、未だに決まっていない他の委員を決める話になっていた。クラス委員長になった緑谷は八百万に促される。緑谷はガチガチに緊張していた。が、皆を見渡してから続きを話す。

 

 

「委員長はやっぱり飯田君が良いと思います。お昼の時、僕は何も出来なかったけど飯田君は皆を上手く纏めていたから、それが正しいと思うんだ」

「あ、良いんじゃね飯田、食堂で超活躍してたし!」

「非常口の標識みてえになってたよな」

「緑谷君……ふ、委員長の指名なら仕方あるまい!しっかりクラス委員長を務めさせて貰おう!」

 

 

緑谷に後を任され、皆の声援を受けて、飯田は委員長の交代を承諾した。

八百万は少し不満そうな顔をしていたがクラス委員長が飯田。副委員長に八百万が就任した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇おまけ①◆◇

 

 

 

放課後となり、拳藤と小大は並んで下校していた。

 

 

「今日の昼の警報は驚いたね」

「ん……でも直ぐに静かになった」

 

 

話題は昼のマスコミが学内に侵入した事だった。

 

 

「でも……間桐、大丈夫だったかな?なんか先輩に連れていかれたけど」

「ねぇ拳藤……ううん、前からの知り合いなんでしょ、あの二人。だったら二人にしか分からない事があるんじゃない?」

 

 

拳藤は狂夜の事を話題に出したが小大は黙っていた方が面白くなりそうだと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

◆◇おまけ②◆◇

 

 

 

 

「先輩……まだ食べるんスか?」

「ねぇねぇ、知ってた?女の子は甘いものが別腹なの」

 

 

狂夜は、ねじれと共に下校すると帰り道でねじれにクレープを奢っていた。昼間、不機嫌にさせた詫びとして帰りに甘いものを奢ると宣言したのだが、クレープの前に既に大判焼きを食べていたりする。

 

 

「兄さん、先輩。何をしてるんですか?」

「あ、桜ちゃんも食べる?」

「……もう好きにしてください」

 

 

更に中学校から下校途中の桜に見つかってしまった為に追加で甘いものが注文される事が決定され、ねじれから昼間の壁ドン(された)事件が桜に伝わり、桜も不機嫌になってしまうのだった。

 

ねじれと桜の機嫌が良くなる頃には、狂夜の財布の中身は当初の半分以下になってしまった事をここに記録する。



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USJ襲撃①

 

本日の午後からのヒーロー基礎学はレスキュー訓練。

ヒーロー基礎学は相澤とオールマイトともう一人の三人体制で見ることになった。

 

 

 

「本日の授業は災害水難なんでもござれ『人命救助レスキュー』訓練だ」

 

 

相澤は『RESCUE』と書いてあるプレートを持って見せてくる。

 

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

「ねー」

「ヒーローの本命じゃねーか!腕がなるぜ!」

「水難なら私の独壇場ね、ケロケロ」

 

 

上鳴、芦戸、切島、蛙吹の順にコメントを溢す。それぞれの個性で向き不向きがハッキリ分かれてしまう為に、乗り気な者とそうでない者との差が出ていた。

 

 

「おい、まだ途中」

 

 

相澤の睨みに、先程まで騒いでいた教室内が静かになる。

 

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない、中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな、訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく以上準備開始」

 

 

相澤の指示に従いA組は移動開始。バスの所まで行くと飯田がホイッスルを吹きながら全員を誘導していた。

 

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」

「飯田君、フルスロットル……」

「クソ真面目が空回りしてんな」

 

 

委員長に就任された飯田は責任感から仕切っている。その光景に緑谷と狂夜はタラリと汗を流した。

 

 

「こういうタイプだったか、くそう!」

「意味無かったねー」

 

 

結局、バスは二席ずつ並んでいるタイプのバスではなかったため、飯田は凹み、芦戸が慰めていた。

訓練所に向かう途中、時間が余る為にバスの中で談笑していた。

 

 

「私、思ったことはなんでも聞いちゃうの。緑谷ちゃん」

「あ、はい!なんでしょう蛙吹さん!?」

 

 

緑谷の隣に座っていた、蛙吹が緑谷に話しかける。

 

 

「梅雨ちゃんと呼んで。アナタの個性、オールマイトに似てる」

「そそそそ、そうかな!?いや、でも、僕はその!」

「まてよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ、似て非なるアレだぜ。それに似てるってんなら間桐のも似てるしな」

 

 

蛙吹に指摘されて慌てて緑谷が妙に慌てていたが、切島の発言からオールマイトは反動で怪我をしないということから別物と納得されていた。そして似てると言う事で狂夜も話題に出されていた。

 

 

「しかし、増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来ることが多い!俺の『硬化』は対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなー」

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!」

「……それを言うなら俺の『狂化』はデメリットがデケえんだよ」

 

 

切島は緑谷や狂夜の増強型を羨ましそうに言ったが狂夜は少し言いづらそうに口を開いた。

 

 

「デメリット?俺みたいにダルくなるのか?」

「俺の『狂化』は使えば使うほど俺の理性を奪っていく。それに一気に力を引き出そうとしても同じでな……調整が難しいんだわ。下手すりゃ個性に飲まれて暴走しちまう」

 

 

砂藤の問いに狂夜は自身の手を見詰めながら呟いた。その姿に皆が口を閉じてしまう。

 

 

「派手で強ぇってつったら、やっぱ轟と爆豪だよな」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

 

 

話を振られた爆豪だが、蛙吹が即座にヒーロー人気は出なさそうと告げる。

 

 

「んだとコラ!出すわ!」

「ホラね」

「そして出そうとして出るもんでもないしな」

 

 

即座に噛み付いてきた爆豪だが、その態度を蛙吹は予想してたのかビビる事もなく、狂夜もツッコミを入れた。

 

 

「この短い付き合いで、そのクソを下水で煮込んだ性格と認識されてるのがスゲェよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!」

 

 

更に上鳴から性格の事を言われてキレる爆豪。

 

 

「かっちゃんがイジられてる……!信じられない光景だ、さすが雄英……!」

 

 

爆豪がクラスメイトに弄られる。そんな光景に緑谷は震えていた。

 

 

「もう着くぞ。いい加減にしとけよ……」

「「ハイ!」」

 

 

 

相澤の一言で一斉に静まる車内。そしてバス移動が終わり、到着したのは遊園地のような訓練所だった。

様々な災害を再現したアトラクションのような場所。

 

 

「すっげー!USJかよ!?」

 

 

その光景に切島が叫ぶ。切島のみならず他のクラスメイトもテンションが上がっていた。

 

 

「水難事故、土砂災害、火事等のあらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名もウソの災害や事故ルーム!略してUSJです」

「「USJだった!」」

 

 

USJみたいだと話していたら本当にUSJだった事に驚く狂夜達。説明の為に現れたのは宇宙服のようなコスチュームを着て、頭まで隠しているスペースヒーロー『13号』だった。

 

 

「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせの筈だが?」

「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、今は仮眠室で休んでいます」

 

 

オールマイトの話をしている相澤と13号。話の内容はオールマイトがこの場に来れないという事らしい。

 

 

「不合理の極みだな、オイ」

 

 

溜め息を吐いた相澤。それに対して、授業を進める為に13号はA組生徒の前に一歩踏み出す。

 

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ、三つ、四つ……」

 

 

言おうとしている小言が増えていく13号。指折り数える度に狂夜達は『増えてる、増えてる』と心の中でツッコミを入れた。

 

 

「皆さん、ご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』 どんなものでも吸いこんでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 

緑谷の言葉に同調するように麗日が激しく頷いている。

 

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。君達の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 

 

13号の言葉に空気が重くなった。先程までの騒いでいたA組の面々も黙り、中でも狂夜は顔を俯かせていた。

 

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる『いきすぎた個性』を個々が持っている事を忘れないでください。相澤さんやオールマイトの授業で自身の力や危うさを知ったと思います。君達の力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 

13号の話が終わると誰からか拍手が始まり、ほば全員が拍手をしていた。狂夜も拍手はしていたが、いつもと様子が違う狂夜に緑谷は不安そうに狂夜に話し掛けた。

 

 

「間桐君……大丈夫?」

「ああ……大丈夫だ」

 

 

緑谷の問いに狂夜は誤魔化す様にヒーローコスチュームの兜を被り、その表情を見られない様にした。

 

 

「そんじゃあ、まずは……ん?」

 

 

カリキュラムを進めようとした相澤が何かに気づいたように、USJの中央広場にある噴水付近に目を向ける。

そこから黒い霧状のモヤ突然出現し、少しずつ大きくなり広がっている。

そのモヤから人の手を顔に張り付けた人間が現れ、それに続き、脳が剝き出しの大男や大勢の人間が出てくる。

 

 

「一塊になって動くな!13号、生徒を守れ!!」

 

 

相澤の叫びに真っ先に反応したのは13号。それに続いて異常事態なのだと気付いたのは狂夜、轟の二名。

 

 

「なんだアリャ……これって入試ん時みたく、もう始まってるパターンか?」

「違うな……」

「ああ、アレは……」

 

 

呑気な切島の発言を否定したのは轟と狂夜だった。そしてA組生徒を守る様に相澤がゴーグルを装備して、前に出た。

 

 

「動くな!あれは……ヴィランだ!!」

 

 

黒い霧状のモヤと人の手を顔に張り付けたヴィランが狂夜達を眺めながら話し掛けて来る。

 

 

「13号にイレイザーヘッドですか。変ですね……先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがいると伺っていたのですが……」

「どこだよ、せっかくこんなに大勢引き連れてきたのにさ…オールマイト……平和の象徴いないなんて……」

 

 

顔に手を張り付けたヴィランは残念そうに呟きは空を仰いだ。そして狂夜達の方を睨む様に見据えると……

 

 

 

「そうだな……子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 

顔に手を張り付けたヴィランから放たれた途方もない悪意。当てられたA組生徒はビクリと体を震わせ、動けなくなった。

 



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USJ襲撃②

 

 

「ヴィランッ!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホ過ぎるぞ!?」

 

 

皆の心を代弁した上鳴の叫びがUSJに響く。まさか雄英に直接乗り込んで来るなんて予想外の事態だった。

 

 

「13号先生!侵入者用センサーは!?」

「勿論あります……ですが………」

 

 

八百万の疑問に13号はセンサーがあると答えるが、ヴィランが侵入しても作動していないと言う事は即ち……

 

 

「セキュリティが作動していないって事はヴィランの中にセンサーを無効化……ジャミング出来る奴がいるって事か……」

「校舎と離れた隔離空間、そこに少人数俺等が入る時間割……バカだがアホじゃねぇな。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 

狂夜の言葉を引き継いで轟が推察を話す。その発言にA組生徒にも激震が走る。

 

 

「13号、生徒と避難を!センサーの対策も頭にある敵だ。救援呼べない様に電波系の個性で妨害している可能性が高い!上鳴、お前も個性で連絡試せ!」

「は、はいっス!」

 

 

相澤は13号と上鳴に指示を出すと捕縛布を展開した。

 

 

「無茶だ!イレイザーヘッドの戦法は個性を消してからの捕縛……多人数との正面戦闘は……」

「緑谷……一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ!」

「はい」

 

 

ヒーローオタクの緑谷は相澤の個性は集団戦闘には向かないと叫ぶが、相澤はそれを遮った。そして13号に生徒達を任せるとヴィラン達の中へ飛び込んでいく。

 

 

「射撃隊行くぞぉ!」

 

 

相澤が飛び込んで来た事でヴィラン達も動き出した。

身体の一部を銃に変えたり髪を触手にしたりして戦闘態勢を整える。

 

 

「なんだありゃ、自殺志願者か?」

「誰かは知らねぇが、一人で正面突っ込んでくるたぁ……」

「「大間抜け!!」」

 

 

相澤を蜂の巣にしようと個性を発動させようとしたヴィラン達だが弾が出なかった。

 

 

「ありゃ?」

「なんだ、撃てない?」

 

 

呆然としている連中の隙を相澤が見逃す訳もなく拘束布で縛りつけ、動きを封じた後に互いに激突させて沈めた。

 

 

「思い出したぜ!あいつは見ただけで個性を消すイレイザーヘッドだ!」

「個性を消すぅ〜!?へっへっへっ……俺等みたいな異形型も消してくれんのか……ごぶ!?」

「いや無理だ、発動型や変形型に限る」

 

 

相澤の個性を知っているヴィランも居て、異形型のヴィランが襲い掛かるが。相澤は意にも介さず異形型のヴィランの顔面に強く拳をめり込ませる。倒れる異形型のヴィランの足に捕縛武器を巻きつけ、そのまま残ったヴィラン達に投げ飛ばす。

 

 

「お前らみたいな奴の旨みは統計的に近接戦闘で発揮される事が多い……そこら辺の対策はしてる」

 

 

個性の能力だけでなく肉弾戦も長けており、ゴーグルで目線を隠しているので相手が判定できない。故に集団戦では敵達の連携を崩しつつ自分が有利に戦いを行える。

 

 

「す、すごい……多対1こそ先生の真骨頂だったんだ……」

「分析してる場合じゃないだろ!早く逃げるぞ緑谷君!」

「させませんよ」

 

 

出口に避難しようとしたA組生徒達の前にヴィランの1人に行く手を阻まれた。それは先程、現れた黒い霧を体に纏ったヴィランだった。

 

 

「お初にお目にかかります。雄英生の皆様。我々は『敵連合』僭越ながらこの度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして……本来ならオールマイトはこの場にいらっしゃる筈ですが…何か変更があったのでしょうか?」

「………は?」

 

 

黒い霧を体に纏ったヴィランの言葉に全員が固まった。オールマイトを殺す?目の前のヴィランはその為に雄英に侵入したとハッキリと言い切ったのだ。

 

 

「まぁそれとは関係なく…私の役割はこれ……おっと!?」

「「オラァッ!!」」

 

 

黒い霧の体を再度、ユラリと広げようとしたヴィランを爆豪と切島が奇襲を掛けた。

 

 

「……君達!?」 

「その前に俺等にやられる事は考えなかったのか!?」

 

 

不意打ちが成功した事に切島はドヤ顔をしたが、黒いヴィランには効果がなかった様だ。殴られた顔の霧が歪んだだけに過ぎず、すぐに元の形に戻っていく。

 

 

「……いやはや危ない危ない。そう……生徒といえど優秀な金の卵」

「駄目だ!退きなさい2人共!!」

 

 

ダメージの無かった黒いヴィランは黒い霧を広げようとし、13号は迎撃しようとしたが切島と爆豪が居た為に個性が使えなかった。

 

 

「散らして嬲り……ごろっ!?」

「お……効いた……」

 

 

黒いヴィランが黒い霧でA組生徒を包もうとした瞬間、狂夜が『狂化』を5%を使用した状態で黒いヴィランの頭にエルボースタンプを叩き込んだ。先程の切島と爆豪の奇襲と違って、何故か通じた事に狂夜は首を傾げたが、切島と爆豪を一歩下がらせた。

 

 

「ま、まさか私の霧を無効化して一撃与えるとは……あなたの個性は私と相性が悪いらしい……君は隔離させてもらう!」

「なっ……しまった!?」

 

 

予想よりも早い復活の黒いヴィランに、狂夜は切島と爆豪を庇って一歩下がらせて前に出ていた事で、黒い霧を避けられず飲み込まれてしまう。

そして、それは狂夜だけではなく他のA組生徒を巻き込んだ。

 



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USJ襲撃③

 

 

「うおっ!?空中!?」

 

 

黒いヴィランの霧に飲み込まれた狂夜は空中を自由落下していた。突如、空中に投げ出された狂夜は驚愕しながらも周囲を見渡す。

 

 

「此処は……土砂ゾーンか!?」

 

 

本来、今日の訓練で使用する筈だったUSJの土砂ゾーン。狂夜は其処に強制的にワープさせられた。

 

 

「よっと……」

「痛い!?」

 

 

狂夜は個性発動中だった事もあり、土砂ゾーンに綺麗に着地したが隣から悲鳴が聞こえる。視線を移せば、宙に浮かぶグローブと砂の上のブーツ。

 

 

「もしかして葉隠か?」

「痛たた……お尻打っちゃったよ……あ、間桐君!」

 

 

狂夜が話し掛けると、宙に浮かぶグローブは腰の位置から少し下の丸みを帯びた一定の位置を往復してる。それは即ち、葉隠が自身の一部を擦っているという事で、葉隠の台詞から導き出される答えは……

 

 

「あー……うん、無事で何よりだ」

 

 

フルフェイスの兜越しだから相手から狂夜の視線は見えないのだが、狂夜はそれでも顔を背けながら無事である事を喜んだ。

 

 

「なんだったんだろう?急に土砂ゾーンに来ちゃったね」

「多分、あの黒いヴィランの個性だろうな。あの霧に触れた物をワープさせる力があるのかもしれないな。兎に角、さっきの場所に戻ろう」

 

 

突如、先程までいた場所から転移させられた事に驚きを隠せない葉隠に狂夜は自分なりの答えを出しながら先程の場所に戻ろうと提案した、その時だった。足下がピキピキと音を立てながら凍ってきたのだ。

 

 

「これって……!?」

「轟の個性か!葉隠、掴まれ!」

 

 

一度、凍らせられた葉隠は身を震わせ、戦闘訓練の際にモニターで見ていた狂夜はこれは轟の個性だと気付くと葉隠を抱き寄せ、跳躍した。

跳躍と同時に狂夜と葉隠が居た地点が一瞬で氷漬けにされる。後、一瞬遅かったら狂夜と葉隠も凍らせられていただろう。

 

 

「あっぶねぇ……広域範囲すぎるだろ」

「間桐君、彼処に轟君!」

 

 

後一歩遅かったらヤバかった……と狂夜が考えていると葉隠がある地点を指差した。其処には凍らせられたヴィラン達と轟が居た。狂夜は凍らせられてない地点に一度着地すると轟の場所へと走った。因みに足下が凍って危ないので葉隠は抱き上げたままである。

 

 

「子供一人に情けねえ……しっかりしろよ。大人だろ」

 

 

転移させられたほぼ同時に、敵を凍らせて一瞬で無力化した轟。狂夜達の居た場所は轟の居た地点から離れていたから、凍らせられるのが僅かに遅かった。だから狂夜は葉隠を連れて逃げる余地があったのだ。

 

 

一方の轟は狂夜と葉隠が居た事は当然知らない為に目の前の大量のヴィランを相手にする為に迷わず個性を使った。

オールマイトを殺す。初見じゃ精鋭揃えて数で圧倒するかと思ったが、予想とは違う。蓋を開けてみれば生徒用のコマのチンピラの寄せ集め。

 

明らかにヤバそうなヴィランは、ワープを使用した黒いヴィランと人の手を顔に張り付けたヴィランと脳みそが剥き出しのヴィラン。それ以外は十把一絡げだろうと考えていた。

 

 

「さて、このままじゃ、アンタ等じわじわと身体が壊死していくわけなんだが……俺もヒーロー志望。そんな酷ぇことはなるべく避けたい」

「出来りゃ仲間を巻き込む事も避けてくれヒーロー」

「スゴいね、轟君。瞬殺だ」

 

 

氷のように冷え切った表情で敵に尋問をする轟だったが、自身の背後に現れた狂夜と葉隠に目を丸くした。

 

 

「お前等……どうして……」

「ここから少し離れた位置に居たんだ。危うく巻き込まれる所だったぞ」

 

 

まさか、クラスメイトが居たとは露程も思っていなかった轟は狂夜の言葉に驚愕した。

 

 

「悪い……巻き込んだ」

「いいよ!間桐君に助けてもらったし、ヴィランもやっつけてくれたんだから!」

「そう言う事だ。さて、ヴィランのお兄さん方、聞きたいんだけど……オールマイトを殺れるって根拠……策って何だ?」

 

 

謝罪する轟に葉隠は明るく気にしないでと告げる。狂夜は抱き上げていた葉隠を下ろすと氷漬けにされたヴィラン達に話し掛けた。

 

 

「お、俺達は詳しい事は聞いちゃいない……ただ死柄木さんは……オールマイトを確実に殺せるって言ってたんだ……オールマイトさえ殺せば、後はヴィランの天下だからよ……」

 

 

ガチガチと震える唇で狂夜の質問に答えたヴィランの一人。流石に氷漬けで壊死の危険があれば強がりも出来ないらしい。

 

 

「オールマイトを確実に……か。余程の自信があるみたいだな」

「兎に角、戻ろう!皆が心配だよ!」

「そうだな、学校と連絡がつかない以上、俺達自身でどうにかしないとな」

 

 

狂夜、葉隠、轟はヴィランの話を聞いて、残りのクラスメイトが心配だと、先程の場所へと急ぐ事にした。

 

 

「おいおい、待ってくれ!俺達は!?」

「寒ぃ!凍える!」

「死にたくねぇよ!」

 

 

ヴィラン達は先程の轟の脅しが効いているのと寒さでガチガチと震えていた。

 

 

「どうするの?この人達を解放したら、また暴れるかも」

「殴って気絶でもさせるか?」

「いや、凍らせた物ってのは中身が砕けやすくなる。殴るのは少しヤバい」

 

 

葉隠の疑問に狂夜が提案を出すが、轟はそれは止めた方がよいと口を開く。

 

 

「そう言えば前にテレビで凍らせた花を叩いたら砕けるって実験やってた!」

「なるほど……つまり、今コイツ等を気絶させようと殴ったりすると……」

「そう言う事だな……」

 

「テメェ等、本当にヒーロー志望か!?」

「恐ろしい処刑法を考えるんじゃねぇっ!」

 

 

葉隠の無邪気な発言に狂夜と轟の発言がヴィラン達の恐怖を煽る。

狂夜は兜を被っているが個性発動中で瞳は赤く光っている。それが兜の目の部分を光らせてより一層の恐怖を与えていた。

轟はヴィラン達を凍らせた張本人にして、恐ろしく冷たい視線で淡々と告げる事で恐怖を倍増させていた。

 

 



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USJ襲撃④

 

ヴィラン達を解放した後、狂夜達は元の広場を目指していた。狂夜は個性を発動し葉隠を背負って走り、轟は氷を生み出して波乗りの様に、滑り走る。

 

 

「あの人達、解放してよかったのかな?」

「あのままじゃ壊死の可能性もあった。かといって、俺達があの場に留まる訳にもいかないからな」

「それに、あの様子なら二度と悪さを考えようとは思わんだろ」

 

 

葉隠の言葉に轟は仕方がなかったと告げる。土砂ゾーンに居たヴィラン達の氷を溶かして大人しくしてろと告げて、あの場を後にしたのだ。狂夜の発言に葉隠は苦笑いを浮かべた。

 

 

「氷が溶けてから全員土下座だったもんね……」

「あんだけ、脅したからな」

 

 

葉隠の発言通り、ヴィラン達は狂夜達の脅しが異常なまでに効いて轟がヴィラン達の氷を炎で溶かすと同時に土下座をして詫びてきたのだ。

ここで反抗して苦しい思いをするなら、警察に自首しますと、それはそれは見事な土下座だった。ならば事態が収束するまではここで大人しくしてろと告げた後に、狂夜達は広場を目指す事にした。

 

 

「でも、大丈夫なのかな?」

「広場以外の出口はないし、あの様子なら大丈夫と思いたい……それに学校側と連絡が取れれば先生方プロヒーロー達も応援に駆け付けるだろ」

「そう言う事だ……今は広場に急ぐ……うっ!?」

 

 

走りながら今後どうするかを話し合っている最中、狂夜がうめき声を上げた。

 

 

「間桐君、大丈夫!?」

「おい、どうした?」

「だ、大丈夫……ちょっと個性を長く発動しすぎた……」

 

 

葉隠と轟が心配そうに声を掛けるが狂夜は大丈夫と手で制した。どうやら個性の発動時間が長かった為に理性が飛び掛かったらしい。

 

 

「その様子じゃ連れていくのも危ないな」

「そうだよ、ここで休んでた方が良いよ!」

「いや……むしろ好都合だ。さっきの連中……特に黒い霧を放った奴とかに俺の個性が通じたんだ。だったら狂化して奴等と戦った方が……」

 

 

心配する葉隠と轟を尻目に狂夜は『狂化』を強めた。

 

 

「……dash……」

「うっひゃぁぁぁぁっ!?」

「おい、待て……!」

 

 

狂化を更に強く発動した狂夜の体が黒い靄の様な物が身に纏われる。まるで発動した個性が溢れ出ているかの様だった。

葉隠を背負った狂夜は先程よりも速い速度で走り抜ける。轟は驚きながらも後を追った。

そして広場に戻った狂夜達が見たものは……腕を折られ、ボロボロの相澤の姿。

そして何故かバックドロップの体勢で脳ミソ丸出しのヴィランに脇腹を抉られているオールマイトの姿だった。

それを見た狂夜は葉隠を背から降ろすと叫び声を上げた。

 

 

「GRUAAAAAAAAA!!」

「なんだ……?」

「彼は、先程の……!」

「間桐少年!?」

 

 

狂夜の叫びに人の手を顔に張り付けたヴィラン・死柄木と黒いヴィラン・黒霧とオールマイトの視線が狂夜に向けられる。それと同時に脳ミソ丸出しのヴィラン・脳無の体が一部、凍らせられていた。

 

 

「うまい具合に隙が出来た……上等だ、間桐」

「これは……轟少年か!」

 

 

脳無の動きを封じた轟の氷にオールマイトは素早く脱出をした。そして黒いヴィランは丁度、到着した爆豪の爆破により動きを封じた。

 

 

「暴走野郎か……邪魔をするなよ!」

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 

死柄木が狂夜に狙いを定め、襲い掛かる。死柄木の『個性』は五指で触れた物を粉々にする。死柄木は狂夜の体を粉々にしようと掌を突き出すが、狂夜は叫び声を上げると死柄木の手を甲を蹴り落とし、蹴った足で着地すると回し蹴りで死柄木の脇腹を蹴り上げた。

 

 

「かふっ!?」

「……smash……」

 

 

脇腹に蹴りを食らって動きが止まった死柄木の鳩尾に狂夜の拳が突き刺さる。拳を食らった死柄木は地面に寝転んだまま動けなくなった。

 

 

「が……はっ……なんだよ、そりゃ……こんな奴がいるなんて聞いてないぞ……クソが!脳無、この鎧野郎を始末しろ!」

 

 

動けなくても口は動くらしく、死柄木は脳無に指示を飛ばした。

指示を受けた脳無は凍らされ、傷付いた体を再生させると狂夜に襲い掛かろうとするが、その手はオールマイトによって阻まれる。

 

 

「ありがとう、よく頑張ったな間桐少年!後は任せろ!」

 

 

そう言ってオールマイトは脳無に容赦の無いラッシュを浴びせた。その数、なんと300発。反撃の暇も与えられず、脳無はUSJの壁を突き破って空の彼方へと消えていった。

 

 



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USJ襲撃⑤

思った異常にUSJ偏が長くなってしまいました。


 

 

「さてと、ヴィラン。お互い早めに決着つけたいね」

「ふざけんなよ!俺の脳無が……オールマイトが衰えたって言うから殺しに来たんだぞ!それが、それが……どうしてこうなった!?」

「落ち着いてください……死柄木弔!」

 

 

脳無がオールマイトによって、吹っ飛ばされた事に苛立ちを隠せない死柄木。

狂夜達は砂埃の中に立つオールマイトと、ヴィラン達から視線をそらせないでいた。

 

 

「死柄木弔、落ち着いて下さい。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。どうやら子どもらは棒立ちの様子……後、数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携すれば、まだ殺れるチャンスは充分にあるかと……」

「…うん…うんうん…そうだな…そうだよ…そうだ…やるっきゃないぜ…目の前にラスボスがいるんだもの」

 

 

黒霧の発言に死柄木ブツブツと呟き、動く様子は見られない。

 

 

「何より…脳無の仇だ」

 

 

オールマイトに迫り、ワープゲートを大きく広げて襲い掛かる黒霧と、随従する死柄木。

そしてそんな様子を見ても動く気配のないオールマイトを助けるべく、いつの間にか個性で跳んでオールマイトの前にワープして現れた黒霧に突撃する緑谷の姿があった。

 

 

「な、緑谷!?」

「オールマイトから、離れろ!」

「二度目はありませんよ!」

 

 

死柄木が黒霧のゲートに手を突っ込み、ワープ先にいる緑谷に手が迫る。

緑谷に死柄木の手が触れる……その瞬間、だった。

 

 

「……quick……」

「また、君ですか!」

「イライラさせるなぁ!」

 

 

素早く、緑谷と死柄木、黒霧の間に割り込んで死柄木の手を手刀で打ち払い、正面蹴りで黒霧を蹴り飛ばす狂夜。

そして、狂夜が割り込んだ事でオールマイトとヴィラン側との間に距離が空いたと同時に銃声が鳴り響き、死柄木の手が銃弾で撃たれていた。

 

 

「ごめんよ、遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めて来た」

「A組クラス委員長、飯田天哉!ただいま戻りました!」

 

 

声のした方角に視線を移すと飯田が呼んだ救援、雄英が誇る教師陣プロヒーロー十数名が勢揃いしていた。

 

 

「あーあ、来ちゃったな……ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧……」

 

 

教師陣を見て面白くなさそうな声を上げる死柄木は黒霧の名前を呼ぶ。その姿は、遊び飽きた玩具を投げ出す子供の様だった。

しかし、帰ろうとした敵を教師陣がそのまま逃がす筈もなく。教師のスナイプが弾丸の雨を降らせて、死柄木の両腕両足を撃ち抜いた。

 

 

「ぐ……くそが……」

「この距離で捕獲可能な『個性』は……」

 

 

スナイプの言葉に応えるかのようにして、モヤがUSJ入り口に向かって吸い込まれるように引っ張られる。

 

その現象に黒霧は驚きながらも、階段の上を見る。それを出来るヒーローは1人しかいない。黒霧が深手を負わせて行動不能にしたはずの13号が、地面に這いつくばりながら『個性』を使う姿だった。

 

 

「僕だ……!」

 

 

右腕を伸ばし、指先のブラックホールで死柄木と黒霧を捕らえようとする13号。しかし、黒霧のワープの方が強かったのか死柄木と黒霧は姿を消していく。

 

 

「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」

 

 

死柄木の呪いじみた言葉を残して、黒霧はその穴を閉じていった。

ヴィランが姿を消した事で漸く一息つけたA組生徒達は、深い深い溜め息を溢した。

 

 

「……何も…出来なかった…」

「そんなことないさ。あの数秒がなければ、私はやられていた。また、助けられちゃったな!」

 

 

砂埃が未だに互いの視界を塞ぐ中で言葉を交わすオールマイトと緑谷。

 

 

「……無事で…良かったです…!」

「…………GRRRR」

 

 

何も出来なかったと嘆く緑谷は、オールマイトの言葉に救われた心地だった。だが、その気持ちを遮る様に、獣のうなり声の様な物がその場にいた全員の耳に届く。

 

緑谷が振り返ると、其処に居たのは纏った黒い鎧から黒い靄を出して昂っている様子の狂夜だった。フルフェイスの兜の瞳の隙間からは赤い光が発行し、異常な状態だと感じ取れた。

 

 

「ま、間桐!?なんだそりゃ!お前の個性か!?」

「Fooooosh……」

 

 

切島は狂夜を心配して近づこうとするが轟が手で切島を遮った。

 

 

「何すんだよ、轟!間桐の様子が……」

「ああ……間桐はさっき、暴走しそうになっていた。そしてそのまま戦闘に突入して『個性』を発動し続けていた」

 

 

轟が狂夜の先程までの状態を告げると、A組生徒はバスの中での会話を思い出す。『下手すりゃ個性に飲まれて暴走しちまう』この台詞通り、狂夜は今まさに暴走しそうなのではとA組生徒に戦慄が走る。だが、その空気を変えたのは切島を止めた轟だった。轟は狂夜の方に右手を翳す。

 

 

「……頭は冷えたか?」

「cold!」

 

 

轟は狂夜を一瞬で氷漬けにすると、狂夜は悲鳴をあげながら自身を拘束した氷を砕いた。

 

 

「ぐ……はぁはぁ……サンキュー……確かに頭冷えたわ……頭つーか、全身冷えたけど……」

「そうか……よかった」

 

 

氷の拘束から抜け出した狂夜は、膝を突いて息を荒くしていたが、『狂化』に飲まれた理性は取り戻した様で正気に戻っていた。経緯はどうであれ、狂夜の無事を感じた轟は「よかった」と呟いた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「16…17…18…19…20…両足重傷の彼を除いて…ほぼ全員無事か」

 

 

ヴィラン達が去ってからしばらくして、警察が到着した。刑事が状況確認をしていく中でオールマイトを助ける為に飛び出して両足を折った緑谷を除けばA組生徒全員が無事である。

USJの出入口から敵のチンピラが連行されていく。因みに土砂ゾーンに居たヴィラン達は狂夜、轟、葉隠を見付けると……

 

 

「すいまっせんした!」

「押忍、失礼します!」

「償ってきます!」

 

 

等と体育会系のノリの様に、狂夜達に頭を下げてから警察に連行されていた。

 

 

「お前等、あのヴィラン達に何をしたんだ?」

「なんか、尋常じゃない雰囲気だったけど」

 

 

当然なんでそんな事になったか聞いてくる狂夜、轟、葉隠以外の生徒達。そんな彼等にどう説明したものかと狂夜が頭を悩ませていると刑事が歩み寄ってきてA組生徒達に指示を出し始める。

 

 

「とりあえず君達、生徒は教室に戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

「刑事さん、相澤先生は……」

 

 

指示を受けたものの蛙吹が刑事に相澤の安否を尋ねる。蛙吹と峰田は相澤を運んだから、余計に安否が気になるのだろう。

その刑事はスマホを取り出すと、一言置いてどこかに電話を掛け始めた。

刑事は、スマホの通話をスピーカーにして全員に通話が聞こえるよう操作する。

 

 

『左腕の粉砕骨折と顔面の軽い骨折……幸い、脳系の損傷は見受けられません。ただ、眼窩底骨の一部が粉々になってまして……眼に何らかの後遺症が残る可能性もあります。擦り傷などは傷口の洗浄がされていたので感染症もなさそうですし、腕もきちんと固定してあり適切な応急処置でした』

「だそうだ……」

「ケロ……」

 

 

相澤の個性の発動は目である。そこに後遺症が残る可能性を指摘され、蛙吹が悲しげな声を漏らす。

 

 

「13号の方は、背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし、彼女もまた応急手当のお陰でそこまで酷くないそうだ。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能とのことで保健室へ」

「デクくん…」

「緑谷くんは…!?」

 

 

緑谷と仲のいい麗日と飯田が眉を下げて二人の安否を問う。名前に聞き覚えと搬送された生徒を思い出して刑事が説明を開始する。

 

 

「緑……ああ、彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室に用があるのでこれで失礼するよ。三茶!後頼んだぞ」

「了解」

 

 

三茶と呼ばれた猫頭の警察官に後を任せると刑事は行ってしまう。

教師陣に守られながらA組生徒は校舎に戻る事となるが、狂夜は自身の手を見詰めて立ち竦んでいた。

 

思い出すのは『狂化』に飲まれ掛けていた自分自身。轟に凍らせられて頭が冷えてなければどうなっていたかを想像し、狂夜は身を震わせていた。



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臨時休校

先日の敵ヴィラン襲撃で今日、学校は臨時休校になった。USJ内の修復とセキュリティの大幅強化を予定していて、警察の捜査で学校を隅々まで見回る必要があるみたいだ。

臨時休校となった事で狂夜はゆっくりと昼過ぎまで寝ていた。

 

 

「ふ、くわぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

眠りから覚め、ベッドから這い出た狂夜は大きなアクビをしながら自分の部屋を出る。

寝惚けた頭で朝食兼昼食を取る為にリビングに入ると、良い香りが漂ってくる。

 

 

「おはよう狂夜君。ご飯出来てるよ」

「あ、すんません先輩」

 

 

狂夜はテーブルに着くと並べられた料理に手をつける。その料理は非常に美味しく、寝起きの狂夜は次々に食べていく。

 

 

「ところで先輩……なんで家にいるんスか?」

「今日は休校でしょ。知ってた?桜ちゃんは普通に学校だから私が来たの」

 

 

散々料理を食べてから狂夜はねじれが何故、我が家に居る事を問う。ねじれは雄英が休校となった事で狂夜の家に来たらしい。

 

 

「どうやって入ったんスか……鍵かかってたでしょ」

「オジ様入れてくれたよ?お仕事に行く所だったみたいで丁度会ったの」

 

 

つまり雁夜が出勤の時に間桐家を訪れた、ねじれは雁夜と出会い中に招き入れられたと言う事だった。

 

 

「何してんだよ親父……」

「不思議。狂夜君の事、お願いしますって言われたよ」

 

 

それ絶対勘違いされてます、と狂夜は言いたくなったが言葉を飲み込んだ。

 

 

「休校になったからって俺んち来るとは予想外でした」

「……心配……したんだよ」

 

 

ねじれは狂夜を後ろから抱き締めた。顔は伺えなかったが、その声は震えていた。

 

 

「中学生の時みたいに……君を助けたかった……」

「……すんません」

 

 

中学生の時に、ねじれに助けられた経験のある狂夜はそれを思い出しながら謝る。その言葉に、ねじれの狂夜を抱き締める力が少し強くなった。

かつて狂夜は『狂化』を暴走させた。その際に様々な人達を傷付けた狂夜だったが、ねじれが狂夜の暴走を止めた。

 

 

「桜ちゃん心配してたんだよ?」

「そっすね……でも今の俺には、先輩が俺を止めてくれた時みたいに止めてくれる奴がいるんです」

 

 

桜も狂夜を心配しているとねじれが告げると、狂夜は申し訳なさそうにする。今は自身の暴走を止めてくれる奴が居ると言うと、ねじれの力が更に強くなった。抱き締めると言うよりは締め付ける感じに。

 

 

「………女の子?」

「いえ、男ですけど?熱と氷の個性を持ってる奴で、文字通り頭を冷やされました」

 

 

何処か凄みを増した、ねじれの言葉に少しばかり背筋に冷たい物が走った狂夜だったが説明をすると、ねじれの力も緩む。

 

 

「そっか……うんうん、そっかそっか」

「先輩?」

 

 

その後、機嫌の良くなった、ねじれと共に過ごした狂夜だが、学校から帰って来た桜の機嫌が急降下するのだった。

 



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体育祭の告知

 

 

 

雄英が臨時休校となった、その翌日。

 

 

「皆!朝のHRが始まる、席に着くんだ!」

「着いてるよ、着いてねーのオメーだけだ」

 

 

フルスロットルでクラス全体に指示を出す飯田。呆れたようにツッコミが瀬呂から入る。

 

 

「お早う」

 

 

チャイムと同時にやって来たのは包帯で顔も両腕もぐるぐるにされているミイラ男だった。気だるげな声と長い髪と服装からその正体は相澤と推測される。

 

 

「相澤先生復帰早ぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

重傷だろうから他の先生が来るだろうという予想を裏切り、遥かに早い復活を遂げた相澤にA組全員が驚愕した。

 

 

 

「先生、無事だったのですね!」

「無事言うんかなぁアレ……」

「いや、どうみても集中治療室行きの患者だが」

「俺の安否はどうでも良い。何より、まだ戦いは終わってねぇ」

 

 

飯田は相澤の無事を喜ぶが、麗日は相澤の姿を無事でカウントしても良いかと悩む。狂夜は明らかに無事ではない相澤の姿に、集中治療室行き患者と変わらないと思っていた。

杖も突かずにヨロヨロと歩いて、教卓に立った相澤は、包帯の隙間から、その鋭い眼光を飛ばす。

 

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

「「くそ学校っぽいの来たぁぁっ!!」」

 

 

相澤の発言にA組全員のテンションがMAXになる。雄英体育祭。

それは日本において『かつてのオリンピック』に代わる人気を誇るビッグイベント。全国のトップヒーローがスカウト目的で観ている。

そういった者達の目に止まる為にも張り切らねばならない。

 

 

「資格取得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」

「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」

 

 

上鳴の発言に耳郎のツッコミが入ると狂夜は「耳郎って上鳴への対応が塩だよな」と思っていた。

 

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に1回…計3回だけのチャンス。ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ」

 

 

相澤の発言にA組全員の体育会に対する熱意が上がっていく。午前中の授業が終わり昼休みになると話題は当然、体育祭の事となる。

 

 

「なんだかんだとテンション上がるな!」

「活躍して目立てりゃプロへの一歩を踏み出せる!」

 

 

切島や瀬呂などはノリノリで体育祭でどう活躍するかを話している。

 

 

「あっちはテンションMAXだな。轟は静かに闘志を燃やすタイプか?」

「やるだけやる……そんだけだ」

 

 

切島達とは対照的に静かな狂夜や轟。狂夜は『狂化』の事で考え事をしていて轟も何か考え事があったのか、いつも以上に静かだった。

そんな中もう一人、闘志を燃やす者がいた。

 

 

「デク君、飯田君……頑張ろうね、体育祭」

「顔がアレだよ、麗日さん!?」

 

 

緑谷の指摘通り、麗日の顔は普段のほんわかした物ではなく凄みが増している。

 

 

「どうしたの?うららかじゃないよ麗日」

「ややこしいな」

 

 

芦戸の発言にやんわりとツッコミを入れた狂夜。

 

 

「皆!私、頑張る!」

「おー!けど、どうした?キャラがフワフワしてんぞ!」

 

 

ビッと拳を振り上げ、気合いを見せる麗日に切島達は釣られて腕を上げるが、普段とは違う麗日のキャラに戸惑いを見せていた。

 

 

昼休みも無限ではない、それぞれが話を切り上げると昼食へと向かう。

 

 

「お前、蕎麦ばっかだな」

「ああ……好きなんだ」

 

 

ランチラッシュの食堂で狂夜は轟と食事をしていた。狂夜は日替わりセットを頼んだが轟は蕎麦を注文し、ズルズルと啜っている。

 

 

「オールマイト、デク君に何の話やったんやろ」

「彼はUSJの時にオールマイトを救おうと飛び出したんだろ?その関係ではないか?それに彼の『個性』もオールマイトに似ていると蛙吹君も言っていたしな」

 

 

麗日と飯田の何気無い会話。だが、轟はその会話を注意深く聞いていた。

 

 

「どうした、轟」

「いや……なんでも。それよりも間桐、お前体育祭はどうするんだ?個性がまた暴走する心配があるんだろ?」

 

 

その様子を不思議そうに見ていた狂夜は轟に話し掛けるが、轟はそれを誤魔化す様に体育祭の話を振った。

 

 

「ああ……まあ、個性の方は上手く制御してみるわ。ヤバくなったら、また轟が俺を止めてくれ」

「……ああ、任せろ」

 

 

狂夜は『狂化』の事を悩んでいたのも事実だったので、先日のUSJの時に止めてくれた轟を頼る事にしていた。

逆に頼まれた轟の方が狂夜の発言に面食らっていた。

 



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宣戦布告

 

 

 

午後の授業も終わった放課後。そこにいつもの光景は存在しなかった。

 

 

「何事だぁ!?」

 

 

教室内に麗日の叫びが響く。ザワザワとA組の教室前で生徒が大量に集まり、大渋滞となっている。

敵襲撃事件は雄英の全校生徒に知らされている。

メディアにも取り上げられているし、知らない人は殆どいないだろう。

自分達と年が変わらない学生が敵の襲撃に耐え抜いたのだ。興味を持つのは当然と言える。

 

 

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」

「敵情視察だろ、雑魚。ヴィランの襲撃を経験した俺等だ。体育祭の前に見に来たんだろ」

 

 

峰田の疑問に爆豪が答える。然り気無くディスる爆豪に峰田は悔しそうな顔で爆豪を指差すが、緑谷から「あれがニュートラルだから」と慰められていた。爆豪はそんな峰田を無視してドアの前まで歩く。

 

 

「とりあえず、そこどけモブ共」

「取り敢えず知らない人達をモブって言うのは止めよう爆豪君!」

 

 

教室の前を遮っている生徒達を睨む爆豪。

後ろから飯田が注意するが効果は薄そうである。

 

 

「どんなもんかと見に来たが、偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?幻滅するなぁ」

「馬鹿言うな。常に喧嘩を安売りしてんのはコイツだけだ」

 

 

爆豪の発言に人混みを割って出てきたのは、目の下にクマができている生徒だった。明らかに爆豪というか、A組に挑発してきてるので狂夜は訂正を入れた。

 

 

「んだと、コラ!」

「悪いな、コイツは素でこうなんだ。で、オメー等は何のようだ?」

 

 

沸点の低い爆豪の隣に立ち、先程の生徒に話しかける狂夜。

 

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴が結構いるんだ、知ってた?体育祭のリザルトによれば、普通科からヒーロー科に編入検討をしてくれる。その逆もまた然りらしいよ」

 

 

個性の向き不向きで入試の試験を突破出来なかった者達が在籍する普通科や他科。成果を上げた普通科はヒーロー科に異動出来るかもしれないし、成果を残せないのならヒーロー科から普通科に移動もあり得る。

 

 

「少なくとも俺は調子に乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞって、宣戦布告しに来たつもり」

「そりゃ、随分とやる気だな。そりゃ結構……こんな真似してなければ……な」

 

 

先程の生徒の発言に並々ならぬ気迫を感じた狂夜。だが、それは真っ向から来た場合での事だ。

 

 

「へぇ……どういう意味だい?」

「宣戦布告は兎も角、ヒーロー目指す奴が教室を遠巻きにみたり、教室前を占拠して帰れなくしたり、陰湿な事してなければ……」

「ハッ……姑息って事だな」

 

 

狂夜の言葉を遮って爆豪が更なる挑発をした。

それぞれがガンを飛ばし合う中、A組の前を占拠してる集団の後ろの方から誰かが出てきた。

 

 

「隣のB組のモンだけどよ!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思っていたんだがよ!エラく調子づいてんなオイッ!調子づいて体育祭本番で恥ずかしい事になんぞコラッ!」

 

 

A組前を占拠してる集団とは別にB組からも敵情視察に来ている者が居た。その様子を見て、A組全体で「また不敵な人キタ!」と心の中で思っていた。

 

 

「ちょっと鉄哲!迷惑かけてんじゃないよ!」

「何故、止める拳藤!俺は……」

 

 

鉄哲と呼ばれた生徒の前に同じくB組から拳藤が出てきた。拳藤は鉄哲を嗜めるが止まりそうにない。

 

 

「いや、恥ずかしい事になってんの、お前だからな。ヴィラン襲撃の件は情報漏洩を防ぐために箝口令敷かれてるって先生から聞かされなかったか?」

「な、なんだとっ!?」

「だから、止めに来たのに……」

 

 

狂夜の発言に鉄哲は驚愕し、拳藤は頭を痛そうに押さえた。

先生の話を聞かなかった上に違反を犯したとあっては鉄哲の立場がない。故に拳藤は止めに来たのだが間に合わなかった。

 

 

「恥ずかしいなヒーロー科……A組もB組もマトモなのが居ない」

「ああん、テメェはマトモなつもりか、モブが!」

「取り敢えず息を吸うように喧嘩を売るなよ!」

 

 

ヒーロー科全体を鼻で笑う目の下にクマを持つ生徒に爆豪が更なる挑発を重ね、峰田のツッコミが入る。

狂夜はいい加減呆れてきていた。今までの会話で周囲の生徒達からの視線も随分とキツい物になっていた。

 

 

「どうすんだよ、爆豪!オメーのせいでヘイトが集まりまくってんぞ!」

「関係ねえよ……上に上がりゃ関係ねぇ」

 

 

切島は慌てるが、爆豪はそんなこと問題じゃないと教室を出ていく。

爆豪の発言に全員が驚いて目を丸くして反論できなくなっていた。

 

 

「く……!シンプルで男らしいじゃねぇか!!」

「乗り越えるか……一理ある」

「爆豪……言うね」

「騙されんな、無駄に敵が増えただけだぞ!」

 

 

切島、常闇、砂藤、上鳴の順にコメントを溢していく。確かに不敵だったかもしれないが爆豪はこの場に居る誰よりも上を見ていた。

 

 

「先生方に注意される前にオメー等も帰ったら?」

 

 

狂夜の発言にA組前を占拠して生徒達はゾロゾロと帰っていく。先程、鉄哲に対していった言葉が効いているのかも知れない。

目の下にクマを持つ生徒は最後にA組を一睨みしながら、その集団と共に帰っていった。

 

 

「ゴメン、迷惑かけたね」

「まあ、こっちは構わないが……大丈夫かソイツ」

「俺は……俺はなんて事を……」

 

 

拳藤が狂夜に謝るが、狂夜は打ちひしがれてる鉄哲を気にしていた。

 

 

「後でブラド先生の所に行かせるよ。と言いつつ私も間桐が心配だったから話を聞きたかったけど」

「取り敢えず無事だから大丈夫。多くは語れないけどな」

 

 

拳藤も襲撃の話を聞きたかった様だが、先生の注意を聞いていたので狂夜の安否を確認したかったらしい。

 

 

「良かった……でも、体育祭じゃ負けないからね!」

「こっちも負ける気はねーよ」

 

 

狂夜の安否を確認出来た拳藤はビッと拳を狂夜に突き出す。先程までA組前を占拠して集団と違って清々しいと狂夜は思い、拳藤から突き出された拳に合わせる様にコツンと自分の拳を突き出した。

 

 

その光景を見ていた峰田と上鳴が悔しそうにしているのはご愛嬌。

 



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体育祭に向けて

 

 

 

体育祭まで、あと二週間ほど。それぞれが体育祭に向けて特訓を開始していた。

ある者は家に帰り、敷地内で個性の特訓をする。ある者は図書館で知識を詰め込む。ある者はランニングで体力の強化を試みる。ある者は放課後、訓練室を借りて訓練に勤しむ。

 

 

その中で狂夜は訓練施設で座禅をしていた。

心を落ち着け、静かに……それでいて体の中の個性を押さえ付ける様に。

 

 

「………ふぅー」

「なんか特殊な訓練方法だな」

 

 

深く息を吐いた狂夜に砂藤が話し掛けると、狂夜は座禅を崩して立ち上がる。

 

 

「俺の『狂化』って制御が上手く利かないからな。制御する為に『狂化』に負けない精神を鍛えようかと思ってな」

「あー……一筋縄じゃいかないもんな間桐の個性は」

 

 

狂夜の説明に砂藤は納得した。狂夜の『狂化』は先日の戦闘訓練とUSJの時に見ていた。制御が自分の『シュガードープ』とは比べ物にならないのは分かりきっていた。

 

 

「ま、これで完全に制御出来るとは思っちゃいないが必要だとは思うからな」

「体育祭までにやる事は多いよな……」

 

 

狂夜と砂藤は揃って溜め息を吐いた。体育祭は種目や競技は当日まで極秘とされている。何を鍛えるか生徒個人の推察力に試される。

これは未知の敵と戦う為や状況判断を鍛える為でもあるらしい。

 

 

「取り敢えずは『個性』を伸ばす事を考えるしかないな」

「ま、そうなるか」

 

 

狂夜の発言に砂藤のみならず、同じく特訓をしていたA組生徒達は頷く。

こうして各々が特訓に時間を費やし、あっと言う間に体育祭当日となった。

 

 

 

◇◆体育祭当日◇◆

 

 

 

雄英体育祭会場には観客やプロヒーロー達が所狭しと入っていた。

場所は変わって、生徒達選手控え室。

狂夜達はもうすぐ始まる行事に思いを馳せていた。

 

 

「競技……なんだろうな?」

「何が来ても乗り越えるだけだ」

 

 

不安そうな砂藤の呟きに常闇はいつもの調子で答えた。

皆が緊張しつつも、奮起する。そんな中で轟が緑谷に歩み寄った。

 

 

「轟くん……どうしたの?」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

 

 

緑谷の疑問に轟は自身の思っていた事を告げた。

 

 

「へっ!?うっ、うん…」

「お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」

 

 

狂夜を除けばクラスメイトと関わりが薄い轟が緑谷へ宣戦布告した。もっとも、狂夜との関わりも他に比べれば多いというだけで基本的には一人が多いが。

 

 

「おお!?クラス最強が宣戦布告!?」

「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって…」

「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だって良いだろ」

 

 

普段多く喋らない轟の宣戦布告を聞いて上鳴が驚き、普段から爆豪とよく一緒に居る切島が場を取り成そうとするが轟は意にも介さず手を振り払った。

 

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど…そりゃ、君の方が上だよ…。僕の実力なんて、大半の人に敵わないと思う……客観的に見ても…」

「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねぇ方が……」

 

 

緑谷は少し黙って俯きながら話し、ネガティブな緑谷を切島は慰めようと話し掛けるが、顔を上げた緑谷の表情は覚悟を決めたものだった。

 

 

「でも!皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れをとるわけには、いかないんだ!僕も本気で、獲りに行く!!」

「緑谷、カッコいいじゃん」

 

 

力強く宣言した緑谷。その顔を見た狂夜は楽しそうに笑う。緑谷の宣言と狂夜の発言にA組クラスメイトは緊張が解れ、改めて覚悟を決めた。

 

 

「さ、行こうか」

「うん!」

「……おお」

「ちっ!」

 

 

時計を見た狂夜は立ち上がる。時間は入場五分前となり、そろそろ移動しなければならないからだ。

狂夜の促しに緑谷は素直に返事をし、轟は頷き、爆豪は舌打ちをした。

ステージゲート手前で待機し、出番を待つ。そして入場時間と同時にA組クラスメイトは歩き始める。

 

 

『1年ステージ、生徒の入場だ!!』

 

 

入場と共に、プレゼント・マイクの声が響く。雄英体育祭、始まりである。

 



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雄英体育祭①

 

 

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に1度の大バトル!どうせテメー等アレだろ、コイツ等だろ!!?ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!ヒーロー科!1年!A組だろぉぉ!?』

 

 

A組の入場に合わせてプレゼント・マイクに実況される。その実況にスタジアムの観客達は大盛り上がりしていた。

 

 

「ノリノリだぁ……」

「凄い盛り上がりだな、流石雄英」

 

 

上鳴が勢いに押され気味なのに対して、狂夜は落ち着いてスタジアムを眺めていた。

各クラスが7つあるゲートからスタジアムに入場していく。その中で観客の声に消され気味だが、雑談は僅かながら聞こえる。

 

 

「マジでタルいんだけど」

「ま、俺たちはヒーロー科の引き立て役だからな」

「やる気でねー」

 

 

聞こえたのはC組の生徒の愚痴だった。愚痴を言った生徒の近くには先日、宣戦布告をしに来た目の下にクマを作った生徒も居る。

 

 

「選手宣誓!」

 

 

鞭を振るいながら壇上に立ったのは、過激すぎるコスチュームに身を包んだ18禁ヒーロー、ミッドナイト。

彼女の登場には観客もメディアも一部の男子生徒もテンションが上がっている。

 

 

「18禁なのに高校にいて良いのか」

「良い!」

「実にグッド!」

 

 

常闇の疑問に峰田と上鳴が全力で肯定した。

そんな騒がしい生徒たちを一喝しながら主審として競技に移るべく司会進行をする。あんなコスチュームでも真面目に先生なんだなと、狂夜はボンヤリと考えていた。

 

 

「選手代表!1-A爆豪勝己!」

 

 

選手代表の宣誓に爆豪が設置されたマイクに向かってやる気無さげに宣誓。

その時点で狂夜を始めとするA組クラスメイトは嫌な予感を感じていた。

 

 

「俺が1位になる」

「「絶対やると思った!!」」

 

 

切島と上鳴の息の合ったツッコミにA組クラスメイトは全員が頷いた。

案の定、生徒全員から爆豪へブーイングが飛び、飯田も叱責している。

 

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれや」

 

 

爆豪は追い討ちとばかりに右の親指で首を切る仕草をする。取り敢えず俺達を巻き込むなと狂夜はツッコミを入れたくなっていた。

 

 

「そして、もう一人!これから雄英体育祭への意気込みを語ってもらいます!1-A間桐狂夜!」

「えっ!?」

 

 

ミッドナイトの突然の発言に唖然とする狂夜。そしてその場に居た者の視線が一同に集まる。

行ってきなよ、と芦戸や葉隠に背中を押されながら狂夜は前に出た。

するとマイクのスイッチを切ったミッドナイトが小声で話しかけてくる。

 

 

「ゴメンね。爆豪君の選手宣誓がマトモなのじゃなかった場合の代わりなの」

「だったら事前に言っといてくださいよ」

 

 

ボソボソと小声で話す狂夜とミッドナイト。狂夜は不満をミッドナイトに溢すがミッドナイトは笑みで返した。

 

 

「あら、不足の事態に対応するのもヒーローには大事な事なのよ」

「はぁ……わかりましたよ」

 

 

ミッドナイトの言葉に反論できなくなった狂夜は、マイクのスイッチを入れると口を開く。

 

 

「えーっと……さっきの爆豪じゃないけど一位を目指します」

「さっきと同じじゃねーか!」

「ふざけんな!」

 

 

それは爆豪と同じく一位宣言。だが狂夜は此処で終わらせる気はなかった。狂夜は先程の普通科生徒達の愚痴を聞いて少し嫌な気分になっていたので、それを言う事にした。覚悟を決めて言葉を繋げた。

 

 

「これにはヒーロー科も普通科もサポート科も関係ないと思ってる。全力を尽くして一位を目指す……じゃなきゃ雄英に来た意味がない。普通科もサポート科もヒーロー科の引き立て役だと思い込んでいるなら雄英の校訓を思い出して欲しい。『Plus Ultra』お前等も雄英の生徒なら……ヒーローを目指すなら、上を目指してくれ」

 

 

狂夜のスピーチにスタジアムがシンと静かになる。そしてブーイングをしていた生徒達も静かになっていた。

言い過ぎたかな?狂夜はポーカーフェイスを装っていたがダラダラと冷や汗を流していた。

するとパチパチとスタジアムの客席から拍手が鳴り響き、それが合図の様に一斉にスタジアムが沸いた。

 

 

「すげぇぞ、あの一年!」

「まさか、雄英の校訓をここまで重く受け止めているとは」

「ヴィランに襲撃されたA組だとは聞いていたが向上心も高いな」

 

 

と、スタジアムの客席のヒーローや観客の絶賛の声が上がっていた。

 

 

「アイツ、俺達をちゃんと見ていたのか……その上でやる気を出せと言ってきたのか……」

「まさか……さっきの爆豪も、わざと憎まれ口を言って焚き付ける為に!?」

「そういや前にA組の前を占拠した時も間桐は忠告してくれた……」

「アイツ……本当にヒーローみたいじゃないか!」

「更に先へ……そうだ、Plus Ultraだ!」

 

 

更に先程までA組を敵視していた他のクラスも狂夜のスピーチによって、敵視からライバル視へと切り替わっていた。先程まで普通科やサポート科はやる気が見られなかったが、今は観客同様に非常に盛り上がっていた。

更に落ち気味だったA組の……と言うか爆豪の評価も上がった模様。

 

 

「ヒーロー科でなくても雄英の生徒がヒーローの卵であることには変わりはない。やる気の無い子達も奮起したわね……素晴らしいスピーチだったわ間桐君!さーて、盛り上がって来た所で早速第一種目、行きましょう!所謂、予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!さて、運命の第一種目!今年は……コレよ!」

 

 

ミッドナイトが指し示した仮想ディスプレイに映し出されたのは、障害物競争の文字。

 

 

「計11クラスによる総当たりレースよ!約四キロに渡るコースさえ守れば何をしても構わないわ。さ、スタートラインに並びなさい」

 

 

ミッドナイトの説明に生徒達はスタートラインになっているゲート付近に足を運んだ。そして緊張の面持ちで、その時を待つ。

スタートゲートの三つの緑のランプがカウントするように音を立てながら消えていき……最後の一つが消えた。

 

 

「では、スタート!!」

 

 

開始の合図がミッドナイトの声がマイクを通して響いたと同時に、スタートゲートには一斉に生徒達が詰め寄せた。

 

 

『さーて、実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!』

『無理矢理呼んだんだろが』

 

 

どうやら実況解説席にはプレゼント・マイクだけでなく相澤もいるらしい。声だけで不機嫌だと伝わって来た辺り本当に無理矢理連れてきたのだろう。

 

レースの方は生徒が一斉に走って行くが、スタートゲートが狭すぎる為に走り抜けるスペースが見つからず大混雑となっていた。それに追い討ちを掛ける様に、足下がピキピキと凍っていく。

 

 

「やっぱ、来たか!」

 

 

狂夜はスタートと同時に『狂化』を発動し、スタートゲートの壁を蹴って、前へと躍り出た。開けた場所に着地すると先頭を走る人物を見つけて、やっぱりかと笑みを浮かべた。狂夜の予想通り、開始早々にスタートゲートの地面が凍ったのは轟の個性によるものだった。

 

 

「そう上手くいかせねぇよ、半分野郎!」

「甘いわ、轟さん!」

「二度目はないぞ!」

「逃がさねーぞ、轟!」

 

 

爆豪、八百万、尾白、切島が飛び出してくる。A組クラスメイトは轟の個性を知っている為に、これくらいは予想していたのだろう。

それぞれが個性を使ったりタイミング良くジャンプして氷漬けを回避していた。

 

 

「やっぱ……こんなもんじゃクラス連中は避けられるか」

「そりゃクラスメイトを安く見積もりすぎだろ」

 

 

轟の独り言に返事をする狂夜。狂夜は爆豪達よりも僅かに前にいたのでアッサリと轟に追い付いて隣を走っていた。

 



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雄英体育祭②

 

 

轟の個性による凍結で足止めをしようとしたが、ある程度の人数を凍結させただけでA組を始めとするヒーロー科の生徒は回避していた様だ。

 

 

「クラスの奴等は当然にしろ…意外と残っちまったな」

「まあ、クラスの皆は予想してただろうからな」

「馬鹿め!お前らの裏の裏を読んでやったわ!」

 

 

先頭を轟と狂夜が並んで走る。その最中、そうは行くまいと言わんばかりに峰田が走り寄ってくる。

 

 

「ん?」

「お、無事だったか峰田」

「喰らえ!オイラの必殺グレー……ブルァァアッ!?」

 

 

峰田は頭の丸い髪を千切り掴んで轟を標的に定め、いざ投げようとした瞬間、突然横から鉄のような物体に突き飛ばされて飛んで行く。

 

 

『ターゲット、確認』

『ターゲット、大量』

「入試の時の仮想ヴィラン?」

「二体だけか?随分と少な……あ?」

 

 

峰田を突き飛ばしたのは入試の際に受験生が戦った仮想ヴィランだった。しかし、いくら仮想ヴィランだといっても二体だけで何が出来るのだろうか?そう思った狂夜だったが、その言葉は途中で言えなくなってしまう。

 

 

『さあ、最初の障害物と行こうじゃねーか!!』

 

 

プレゼント・マイクのアナウンスに狂夜のみならず、その場の全員が空を見上げた。

ただしくは前方なのだが、現れた物が巨大な為に見上げた者が多い。

ズシンと巨大な足音に皆驚きその音が発生したと思われる前方を確認する。

ヒーロー科の実技試験を受けた人ならば見覚えがあるだろう存在。

 

 

 

『まずは手始めの第1関門……【ロボ・インフェルノ】!』

 

 

プレゼント・マイクのアナウンスに皆が足を止めてそれを見た。そう、入試の0P仮想ヴィラン。そのサイズはビルにも匹敵する。しかも巨体が今回は一体だけではない。フィールド内に10体近くも道を塞いでいた。

 

 

「あれ、試験の時のドッスン!」

「あんなんと戦ってたのかよ、ヒーロー科!?」

「つーか、大量すぎて通れねぇ!」

 

 

道を塞がれた選手達は口々に叫ぶ。雄英の入試で出会っていなかったらヒーロー科の生徒達も同じリアクションだっただろう。

 

 

「一般入試用の仮想ヴィランって奴か」

「どこからこんなお金出てくるのかしら」

「あ、そっか。轟も八百万も推薦だったからコイツ等を知らないのか」

 

 

轟と八百万の発言に二人は推薦枠だった事を思いだし、推薦の入試では仮想ヴィランが出なかった事を知った。

狂夜がそんな事を考えていると、先頭に居た狂夜と轟に狙いを定めた0P仮想ヴィランが二人を潰さんとばかりに腕を振り下ろしてきた。

狂夜は後ろに退がろうとしたが、隣の轟は体勢を低く地面に手を這わせた。

 

 

「折角ならもっとスゲェの用意して欲しいもんだな……クソ親父が見てるんだからよ」

 

 

そう呟いて右腕を振り上げた隣。それと同時に生じた風が0P仮想ヴィランに命中すると、たちまち0P仮想ヴィランの全身が凍りついた。機能は停止し、腕を振り下ろすポーズのまま静止し続ける。

 

 

「こんなもんか」

「いやー……入試の時に苦労してたのが馬鹿みたいに感じるな」 

 

 

凍らせた0P仮想ヴィランの間を走る轟とそれに並走する狂夜。

 

 

 

「アイツが止めたぞ!」

「今の内だ!」

「あの隙間から行けるわ!」

 

 

轟と狂夜に続き0P仮想ヴィランの下を走り抜けようとする生徒達。轟は振り返ると後を追う生徒達に話し掛ける。

 

 

「やめとけ、体勢悪い時に凍らせたから……」

「志村、上」

「ん?」

「ほえ?」

 

 

轟の発言と狂夜が右手の人差し指を上に示す。その意味が理解できなかった生徒達だったが、その意味を即座に知る事となる。何故ならば凍った0P仮想ヴィランがグラグラと体勢を傾き始め、そのまま前に倒れ込んで来たからである。

 

 

「崩れるぞ」

「忠告が遅かったかな」

『1-A轟!攻略と妨害を同時に行った!こいつぁ、シヴィー!と言うか隣の間桐は何もしてないのに、ちゃっかり先頭に居るのはズルりーぜ!』

『間桐は上手い位置を走ってるな。あの位置なら轟は間桐を妨害しにくい。あまり間桐ばかり妨害をしていれば後続に追い付かれる。間桐が轟の隣を走るのは合理的だ』

 

 

凄まじい音と振動が辺りに響く。そしてプレゼント・マイクは狂夜が何もしてないのがズルいと言うが相澤は狂夜をフォローしてくれていた。

 



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雄英体育祭③

 

 

狂夜と轟は第二関門『ザ・フォール』まで来ていた。

崖から複数の足場へと渡るロープ一本しかない綱渡りなのだが…ただの綱渡りで終わらないのが雄英体育祭。

 

 

「高ぇな、オイ。高所恐怖症の奴がいれば動けないで終わるぞ、これ」

「なら、好都合だ。先に行くぞ」

 

 

崖下を眺めながら、うわー……とコメントを溢す狂夜に轟は個性を使用してロープを凍らせて、その上を滑りながらロープを渡っていく。

 

 

「轟の個性ってオールマイティーだよ……なっ!」

 

 

今回は流石に轟の後を付いていくのを無理だと判断した狂夜。少し距離を離すと助走を付けて走り出してジャンプした。狂夜は距離の短い足場へと『狂化』で一瞬強化した脚力でジャンプして渡っていく。

 

 

『コイツぁー、シヴィー!A組の轟はロープを凍らせて滑って進み、間桐は距離の短い足場をジャンプして行く!進み方は違うが先頭争いだぁ!』

『轟は直線距離で短いルートを選んでいるが間桐は足場の距離が短いルートを選んでる。少し遠回りだが足場から足場への移動時間は短い、ほぼ同タイムに到着するな』

 

 

プレゼント・マイクのコメントに相澤は説明をする。そして相澤の説明した通り狂夜と轟はほぼ同着で第二関門をクリアした。

 

 

「ほば……ぜぇ……同じか……ぜぇ……」

「息切れしながら言うか……無茶すんな」

 

 

しかし狂夜は体力を消費していた。短い足場を渡るルートを選んだ結果遠回りをする羽目になり、その度に個性を使用していた為に体力の消耗が轟よりも大きかった。

 

 

「逃がすかクソ共がぁ!」

「やべ……爆豪が追い付いてきた」

「アイツ、スロースターターだったのか」

 

 

連続で爆破を起こし、空を飛んでどんどん進んでいく爆豪。

更にその後ろには飯田が追いかけていた。

 

 

「恐らく、兄も見ているのだ…カッコ悪い様は見せられん!」

『カッコ悪ィィィィィッ!』

 

 

足のエンジンを鳴らしながらロープを一直線に進んでいく飯田。バランスを取りつつ、速度を緩めることなく直進していくが、ポーズが格好悪いせいで色々と台無しだった。寧ろ、その様は笑いを誘う。

 

 

 

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態。上位何名が通過するかは公表していないから安心して進め!。そして早くも先頭集団は最終関門まで辿り着いてんぞ!。最後の障害物、その実態は一面地雷原の『怒りのアフガン』!』

 

 

狂夜、轟、爆豪の目の前には有刺鉄線で囲まれた地雷原が広がっていた。よく見ればコースの看板には『danger』の文字が刻まれている。

 

 

『目を酷使すれば地雷の位置はよく見れば分かる仕様になっている。ちなみに地雷の威力は大したことはないが音と見た目は派手なので失禁必至だぜ!』

『人によるだろ』

 

 

プレゼント・マイクのアナウンスに相澤がツッコミを入れた。威力が大した事がないと言っても地雷原を走れとは酷である。

 

 

「先頭ほど不利な障害だな、これ」

「エンターテイメントだな」

「はっはー!俺には関係無ぇ!」

 

 

狂夜は足を止めてしまったが、轟は地雷の埋まっている地面を凍らせながら氷の道を走って行きながら炎で溶かしていく。爆破で空中移動ができる爆豪は一面の地雷を避けて、飛んで行く。それを見た狂夜は慌てて立ち止まっていた足を動かすが地雷を踏まない様に進む為に明らかにペースダウンしていた。

 

 

「ヤバっ……って言ってもさっきみたいにジャンプじゃ無理だなコレは……」

『おーっと!轟と爆豪は颯爽と進むが間桐は足止めを食らった!これで先頭争いは間桐、轟から轟、爆豪に変わった!』

『間桐の個性では地雷原を抜けにくい。第二関門の時みたいにジャンプして着地地点に地雷があったら洒落にならんからな』

 

 

先程までと違って明らかに移動速度が落ちた狂夜に、プレゼント・マイクのアナウンスと相澤の解説が入る。ジャンプして進もうかと思った狂夜だが相澤の指摘通り、着地地点の事を考えると実行できなかった。

 

 

その時だった。後方からの大爆発音が鳴り響く。それと同時に破壊された仮想ヴィランのパーツに乗った緑谷が空を飛んでいた。

緑谷は壊された仮想敵ロボのパーツを使い、地面に埋められている地雷を掘って数十個程度集めていた。

仮想敵ロボの装甲を盾にしながら、集めた地雷を全部同時に起爆させて大爆発を起こした。爆豪と同じように爆発を利用した大爆速ターボで一気に一位に躍り出た。

 

 

『後方で大爆発!?何だ!?あの威力!?A組緑谷爆風で猛追ぃぃぃぃっ!!?』

「げ、緑谷まで前に出てきた!?どうする?どうすれば……あ」

 

 

突然、緑谷が先頭に出た事で狂夜は更に焦る。先程まで先頭争いをしていたのが地雷原に足を止めてしまい、後続に追い付かれつつ状況に焦る狂夜は辺りを見回して、ある事を思い付いた。

 

一方で爆豪と轟は、緑谷に追い抜かれた事で足の引っ張りあいを止めると直ぐに緑谷を追い始める。

 

 

『元・先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!共通の敵が現れれば人は争いを止める!争いはなくならないがな!』

『何言ってんだ、お前』

 

 

プレゼント・マイクのコメント通り、緑谷に先を越された轟と爆豪は走り出していた。その背後から自身達に追い付いた影に気づかないまま。

 

 

『緑谷、間髪入れず後続妨害!なんと地雷原即クリア!イレイザーヘッドお前のクラスすげぇな!どういう教育してんだ!』

『俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

 

そして再びの大爆発。緑谷は轟と爆豪に追い抜かれない為に再び、仮想ヴィランのパーツを地面に叩き付け、爆発で加速を付けて先頭に躍り出た。更に爆発で轟と爆豪は足止めをされてしまう。

一番最初に戻ってきた生徒が確認されるとスタジアム内からはプレゼント・マイクの実況が聞こえてくる。

 

 

『さぁさぁ、序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男、緑谷出久の存在を!!』

 

 

大歓声に包まれるスタジアム。中継を見ていた者達は次いでスタジアムに来るのは轟か爆豪だと予想していたが、予想外の人物が二位通過してきた事に驚愕する。

 

 

『ってアレェ!?なんで間桐!?地雷原で遅れてなかった!?』

『お前が気付いてなかっただけだ。間桐は緑谷達が競いあってる最中、地雷原を囲ってる有刺鉄線の杭を足場にジャンプして進んで轟と爆豪を追い抜いたんだ。地雷原を囲ってる有刺鉄線の杭を走ったから遠回りになったが後から追い越したんだろ』

 

 

観客やプレゼント・マイクは驚いていたが相澤は狂夜を見ていたらしい。相澤の解説通り、狂夜は緑谷に追い抜かれた段階でコースの端に行くと、有刺鉄線を刺している杭の上に乗るとジャンプを繰り返して進んでいき最後には轟と爆豪を追い抜いた。緑谷の妨害もアシストされ、緑谷の次に狂夜は二位通過を果たしたのだ。

 

 

「悪いな、先に行かせてもらったぜ」

「ちっ……クソがっ!」

 

 

狂夜の発言に爆豪は明らかに舌打ちをして轟は無言のまま狂夜と緑谷を見詰めていた。

そして順次後続がゴールしていく。順位が決まるまで予選通過が決まらないので少しインターバルとなった。



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雄英体育祭④

 

 

会場は既に大盛り上がりであった。

一位通過の緑谷。一度は追い抜かれたが二位を勝ち取った狂夜。三位に終わったが終始一位をキープし独走していたエンヴァーの息子、轟と怒涛の接戦を繰り広げた四位の爆豪勝己。

 

 

「一位は緑谷君、二位は間桐君、三位は轟君、四位は爆豪君……それから四十二位までの結果はこんな感じね」

 

 

モニターに各順位が表示される。それを見て爆豪が額に青筋を走らせた。

 

 

「半分野郎や暴走野郎に……デクにまで負けるなんてっ!」

「お前に暴走野郎とか言われたくねーんだけど」

 

 

キレている爆豪に狂夜はツッコミを入れた。この状態の爆豪に普通に話しかける狂夜に周囲は驚いていた。

 

 

「次からが本戦よ!みんな、気張っていきなさい! そしてその内容はコレよ!」

 

 

ミッドナイトの叫びにモニターに次の種目が映し出される。モニターには『騎馬戦』と表示された。

そこで一同は少し考え込む。個性ありで騎馬戦とはどうやればいいのかと……しかし、その疑問は生徒達が勝手に想像してしまう。ポイント制で分けて、それぞれを奪い合うポイント稼ぎ方式である。次々に予想を口にしてミッドナイトの台詞を奪ってしまう。その事にミッドナイトは怒ってしまうが、おおよそのルールは合っていたらしく続いてポイントの説明に移った。

 

順位の下から低いポイントが与えられ、騎馬を組んだ段階で合計ポイントをハチマキにして、それらを奪い合う。そこまではまだ普通の騎馬戦とそう変わらないが、モニターに映し出された映像にピタリと生徒達の動きが止まる。そう、一位の選手にはポイントが1000万も振り込まれるからだ。

 

『さあ、狙ってください』と言わんばかりの点数に一瞬にして全員の視線が一位の緑谷に集中する。その視線を浴びた緑谷は冷や汗をダラダラと流し、視線は何処を見ているのか目が泳いでいた。

そして騎馬戦のメンバーを決めるためのタイムが設けられたのだが、狂夜は緑谷と組もうと思っていた。

 

 

「あちゃー……不運だな緑谷も」

 

 

それというのも緑谷が誰かに声をかけようとすればフイッとそっぽを向かれてはまた落ち込むを繰り返すという状況。

そんな光景を何回も繰り返していればさすがに緑谷も自身のポイントが障害になっているのは分かるというもの。

 

 

「しゃーない、組んでやるか……狙われる率が確実に上がるけど」

 

 

緑谷と狂夜が組むという事は一つの騎馬に一位と二位が固まっている事になる。それは他の騎馬からしてみれば、鴨が葱を背負ってきた……と言うよりは鴨が葱を背負って鍋とガスコンロまで持参している様なものだ。

 

狙われるリスクは高まるだろう。でも、組まれないのは寂しいよな、と狂夜が緑谷に声を掛けようと歩み寄ろうとした瞬間、狂夜は肩を叩かれる。振り返ると以前、A組の前を占拠していた男子生徒が狂夜の肩に手を置いていた。

 

 

「なあ、俺と組まないか?」

「ん、あれ……お前たしか……」

 

 

 

狂夜の意識はそこで途絶えた。

 

 

 



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雄英体育祭⑤

一年も間が空いてしまいました……しかも短めの話です。次回は早めに更新予定です。


 

 

 

 

それは急な感覚だった。

 

 

「………はっ!」

 

 

狂夜の意識が戻ったのは騎馬戦の最中だった。

気が付けば自身は騎馬の下に組み込まれていた。狂夜が前で後ろに尾白が右翼で左翼にはB組の庄田が組まれていた。

 

 

「な、なんで正気に戻ったんだ!?」

「なるほど……お前の個性か」

 

 

騎馬の上で驚いている心操の様子から狂夜は心操の個性で操られていたのだと判断した。

 

 

「取り敢えず……起きろ、二人とも!」

「ぐぼっ!?あれ、此処は!?」

「痛っ!?え、騎馬戦が始まってる!?」

 

 

狂夜は未だに操られている尾白と庄田に器用に蹴りを見舞う。すると蹴られたショックで二人の意識は洗脳の状態から解除された様だ。

 

 

「急な事で混乱してるだろうけど今は騎馬戦に集中してくれ、二人とも!心操、曲がりなりにもチーム組んでるんだから勝てる様に動け!」

「…………わかったよ」

 

 

狂夜は尾白と庄田に激を飛ばし、心操にも叫ぶ。心操も今は騎馬戦を優先させる為なのか大人しく狂夜に従い、騎馬戦を戦い抜いた。

 

他のチームが乱戦している最中の隙を突き、心操チームは他のチームのハチマキを静かに奪い去り、着実にポイントを獲得していった。

 

その結果、一位が轟チーム。二位が爆豪チーム。三位が心操チーム。四位が緑谷チームとなった。

騎馬戦が終わり、それぞれが最終種目に勝ち上がった事に喜ぶ者、敗北に嘆く者に分けられる。

 

そんな中、狂夜は尾白と庄田に事態の経緯を話していた。

 

 

「えっ、洗脳!?」

「多分……だけどな。心操の個性だと思うが……」

「それで意識が飛んでたのか……」

 

 

説明を聞いた尾白と庄田は衝撃を受ける。そして二人とも俯いてしまった。

 

 

「じゃあ……僕達は……」

「操られて……何も分からないまま最終種目に勝ち上がってしまったのか……しかも、間桐が起こしてくれなきゃ、それにも気付かなかった……」

「俺自身、何で洗脳が解けたのか分からないんだけどな」

 

 

心操に操られてしまった事にショックを受けていた尾白と庄田に狂夜自身も何故、洗脳が解けたのか謎である。

 

 

『一時間ほど昼休憩を挟んでから午後の部だぜ!じゃあなっ!おい、イレイザーヘッド、飯に行こうぜ!』

『俺は寝る』

 

 

プレゼントマイクの放送から一先ずは休憩となった。相澤は昼を食べずに寝るらしい。

 

 

「ま、勝ちは勝ちだ。取り敢えず飯に行こうや。腹が減ってれば気持ちも落ちこんじまう」

「ああ……」

「そうしよっか」

 

 

狂夜は落ち込んでいる尾白と庄田に気分転換をさせようと食事に誘うが二人の表情は曇ったままだった。

 



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雄英体育祭⑥




 

 

 

一時間程の昼休憩が終わり、午後の部が始まった。狂夜は昼休憩の間も尾白や庄田を励ましていたが二人の顔は晴れる事はなかった。

そして時間になり生徒が整列し、午後の部のレクリエーションが始まる。

しかし、一部は違った盛り上がりを見せる事となる。何故かA組の女子がチアガールの格好をしていたのだ。

 

 

『どーしたA組!?』

『なーに、やってんだアイツ等……』

「峰田さん、上鳴さん!騙しましたわね!」

「「ひょー!」」

 

 

八百万の怒鳴り声を聞きながら上鳴と峰田はサムズアップをしていた。チアガール姿の女子達の姿を見た狂夜は客席に見知った顔を見つけて『狂化』を発動し、その人物が持っていた物を奪い、女子達に近付く。

 

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

「まあまあ……」

「アホだろアイツら……!」

 

 

完全に策にハメられた八百万は地面に膝をついて落ち込んでいる。そんな八百万を麗日が慰めていた。耳郎は顔を赤らめながらポンポンを地面へと叩きつける。

 

 

「もう……でも、せっかくの体育祭なんだしこういうとこで盛り上げないかな?」

「そうだね!せっかくだし、やったろ!」

「三奈ちゃん、透ちゃん、好きね」

 

 

芦戸と葉隠はノリノリでチアのポンポンを振り出す。ノリの良い葉隠を見た蛙吹が呟いた。

 

 

「おいおい、せっかくいい感じの姿になってんだし、応援してやったら?」

「あのね間桐、結構恥ずかしいんだから……って何で、カメラ持ってんの!?」

 

 

狂夜の発言に抗議しようとした耳郎は振り返り、驚愕した。何故か狂夜はプロのカメラマンが持っていそうな一眼レフを構えて写真を撮っていたのだから。

 

 

「ちょっ……間桐君、なんで本格的なカメラマンになってるん!?」

「客席に親父が居たから借りてきた」

 

 

カメラを持つ間桐に驚いた女子達の言葉を代弁する様に麗日が叫ぶ。狂夜は客席を指差すと其処には苦笑いをしている中年男性がスタジアムの客席に居た。

 

 

「あの方が間桐さんのお父様なのですか?」

「ああ、親父はフリーのカメラマンでな。今回の雄英の体育祭の取材で来てたんだ。んで、丁度いい位置に居たからカメラ借りてきたんだ」

 

 

八百万の疑問に狂夜は何故カメラが手元に有るのかを織り交ぜながら説明をする。その途中で上鳴が狂夜の肩に手を乗せ、峰田が狂夜の足に抱き付いた。

 

 

「間桐、写真現像したらオイラにくれ!」

「頼むぜ、間桐!」

 

 

峰田が号泣し、上鳴は妙にカッコいい顔をしながら狂夜から女子達のチアガール写真を求めた。

 

 

「この馬鹿共っ!!」

「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 

しかし、写真を求めた事は耳郎の怒りを買ったのか上鳴と峰田は爆音を叩き込まれ、地に伏した。

 

 

「取り敢えず現像したら、お前らには配るわ。思い出になるだろ」

「マジで!?ありがと!」

 

 

狂夜は客席の雁夜にカメラを投げ返しながら女子達に告げる。チアガール姿は恥ずかしかったが思い出の写真は有り難いと芦戸は嬉しそうにしていた。

 

 

「とんだハプニングだけど、その前にトーナメント決めでもしましょうか!」

 

 

ミッドナイトがそう言ってくじ引きで決めようとしたのだが、そこで尾白と庄田が辞退を申し出たのだ。

理由は騎馬戦での出来事をほとんど覚えていないから出る権利がないと言う。狂夜に正気に戻してもらったんだとしても、その後は言いなりで自分の意思は其処には無かったと主張したのだ。

それに皆もせっかく見てもらえる機会なんだから思い直せというけれど、プライドが許さないという事。

 

 

「お前等にそれを言われると俺も出づらいんだけど……」

「いや、間桐は出てくれ。お前が起こしてくれなきゃ俺達は本当に何も知らないまま終わってたんだ。間桐には出る権利がある」

「そうだよ。僕達の思い……君に託すよ」

 

 

苦笑いの狂夜に尾白と庄田は拳を突きだし、主審のミッドナイトがその光景を見て震えていた。

 

 

 

「そう言う青臭いのは……好み!認めます!尾白君と庄田君は棄権、間桐君は二人の思いを継いで出場!」

 

 

 

そう言って尾白と庄田の意思を受諾して二人は辞退と相成った。

尾白と庄田の抜けた枠は話合いの結果、代わりにB組の鉄哲徹鐵と塩崎茨が入る事になった。

 

 

 

「それじゃ決めるわよ!」

 

 

 

ミッドナイトに促され、各自でクジを引いていき、トーナメントの結果がスクリーンに貼り出される。

 

 

 

第一回戦トーナメント表

 

第一試合 緑谷VS心操

 

第二試合 轟VS瀬呂

 

第三試合 間桐VS上鳴

 

第四試合 飯田VS発目

 

第五試合 芦戸VS塩崎

 

第六試合 常闇VS八百万

 

第七試合 切島VS鉄哲

 

第八試合 爆豪VS麗日

 

 

貼り出されたトーナメント表に各自のリアクションは様々だった。

対戦相手に絶望する者。闘志を燃やす者。対策を練る者と分かれる。

 

緑谷の対戦相手が心操だと知った狂夜は緑谷に心操の個性を説明しようと思ったが、尾白が緑谷を連れて控え室に歩いていく。すれ違い様に「俺から緑谷に説明するから間桐は自分の戦いに集中しなよ」と告げた。

 

 

 

 

 

第一試合

『緑谷VS心操』

 

緑谷が心操の挑発洗脳に引っかかるが緑谷は個性発動の衝撃で目がさめ、そこからは無言で心操を投げ飛ばす。

 

『勝者 緑谷』

 

 

 

第二試合

『轟VS瀬呂』

 

瀬呂が轟をテープで捕まえ場外に出そうとするも大氷壁で固められ戦闘不能。

 

『勝者 轟』

 

 

 

 

第三試合

『間桐VS上鳴』

 

 

 

「間桐が相手か。気は抜けねーな」

「こっちのセリフだっての」

 

 

狂夜と上鳴は互いを警戒していた。狂夜の個性によるパワーを知っている上鳴は接近される前に狂夜を倒さねばならない。対する狂夜は上鳴の個性みたいに遠距離技を持っていない。如何に電撃を潜り抜けて攻撃するかが勝負の決め手となるのだ。

 

 

『それではレディ……ゴー!』

「行くぜ、間桐!無差別放電……ほぶぅっ!?」

「………rocket」

 

 

ミッドナイトの試合開始とほぼ同時に決着が着いた。試合開始と同時に無差別放電を放とうとした上鳴の腹に狂夜の両拳がめり込んでいたのだ。

その威力に上鳴の意識は飛んでしまい、仰向けに倒れる。

 

 

『完全に気絶してるわね……勝者、間桐君!』

『早っ!?秒殺!』

『間桐は上鳴が放電しようとした一瞬の隙をついたな。上鳴が放電しようと両手を上げるのが分かっていたから間桐は『狂化』で強化した脚で跳躍。矢みたいに飛んでいったから、仮に上鳴の放電の方が早かったとしても多少は電撃を食らっても間桐の勢いは止まらない。そのまま上鳴を攻撃していただろうな。互いに短期決戦を狙っていた結果だな』

 

 

ミッドナイトの判定にプレゼントマイクが早すぎる決着に相澤の解説が入る。

相澤の解説通り、狂夜は上鳴の個性に対抗する為に短期決戦を考えていた。その為に多少のダメージ覚悟で自分の体を弾の様に扱い、上鳴に重い一撃を与えたのだ。

 

上鳴に勝ち筋があったとすれば、無差別放電で短期決戦を狙わずに距離をおいて地道に狂夜を電撃攻撃する事が唯一だったが、狂夜のパワーを警戒していた上鳴は短期決戦しか考えていなかった為に今回の結果となった。

 

 

『勝者 間桐』

 

 

 

 

第四試合

『飯田VS発目』

 

発目の口車に乗せられた飯田は発目が開発したサポートアイテムフル装備で参加。発目のサポートアイテムを見せつけるための宣伝塔代わりにされ……発目はひたすら説明したのち自分から場外へ。

 

『勝者 飯田』

 

 

 

第五試合

『芦戸VS塩崎』

 

塩崎のツルを芦戸が酸で溶かし、怯んだ塩崎に芦戸の拳による突き出しで塩崎場外。

 

『勝者 芦戸』

 

 

 

第六試合

『常闇VS八百万』

 

八百万が様々な武器や防具を生み出すも、常闇のダークシャドウに圧倒され敗北。

 

『勝者 常闇』

 

 

 

第七試合

『切島VS鉄哲』

 

似た者同士の個性によるぶつかり合い。クロスカウンターが決まり同時に倒れる。

 

『ダブルK.O. 後に改めて勝者を決める勝負を執り行う』

 

 

 

第八試合

『爆豪VS麗日』

 

爆豪の絨毯爆破に怯む事なく立ち向かった麗日。策を練り、試合場の瓦礫を浮かせて雨のように降らせるが爆豪の爆破に全て阻まれ、打つ手なし。体力切れで倒れて敗北。

 

 

『勝者 爆豪』

 

 

一回戦も順調に進み、二回戦が始まる。

 



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雄英体育祭⑦

 

 

二回戦の対戦表がスクリーンに映し出される。

 

 

第一試合 緑谷VS轟

 

 

第二試合 間桐VS飯田

 

 

第三試合 芦戸VS常闇

 

 

第四試合 切島VS爆豪

 

 

 

第一試合

『緑谷VS轟』

 

 

一回戦同様に緑谷を凍らせようと轟が氷を放つが、緑谷は指先から衝撃波を放ち、凍らせようとしている轟の攻撃を防ぐ。しかし、緑谷の攻撃は一発放つ度に指が折れていくデメリットの高い攻撃法だった。

試合中の最中、二人は何かを言い争っていた。

 

 

「キミの力じゃないか!」

 

 

それと同時に轟は今まで使っていなかった炎を使っていた。緑谷と轟の間に何があったのか理解できない観客達を尻目に二人の戦いは加速し……周りの空気が一気に暖められ爆風が起こる。

 

結果は緑谷の場外負けだった。

 

 

『勝者 轟』

 

 

 

第二試合

『間桐VS飯田』

 

 

対峙する狂夜と飯田。睨み合う中、狂夜が口を開いた。

 

 

「さあ、始めようか非常口飯田……それとも広告塔飯田と呼んだ方が良いか?」

「くっ……人の醜態を笑うのは良くないぞ間桐君!」

 

 

狂夜の発言に悔しそうな表情を浮かべた飯田がツッコミを入れる。そんな飯田を見て、狂夜はニッと笑みを浮かべた。

 

 

「一回戦があんなんだったから妙に顔がこわばってたぞ?今ので切り替えは出来たみたいだな」

「間桐君……わざと俺を挑発したのか?」

 

 

狂夜は一回戦で物の見事に広告塔された飯田が気合いが入りすぎだと感じ、わざと悪態を吐いてツッコミを入れさせたのだ。結果、飯田はいつものお堅い委員長飯田に戻っていた。

 

 

「さ……改めて始めようか?」

「感謝はするが……勝たせてもらうぞ間桐君!」

『ん~青春ね!それではレディ……ゴー!』

 

 

トントンと爪先で地面に叩き、体を慣らす狂夜と膝を曲げ、構える飯田。二人のやり取りを見ていたミッドナイトは満足そうに試合開始の合図をする。

 

 

「burst!」

「やはり来たか!だが、甘いぞ間桐君!」

 

 

試合開始と同時に狂化を纏い、一回戦で上鳴を仕留めた様に一気に距離を詰めた狂夜だが、飯田はレシプロバーストで狂夜の拳を避け、一気に距離を開ける。拳が空振った狂夜は体勢を崩すが体を捻り一回転して着地する。

 

先程と違ってジリジリと間合いを測る狂夜と飯田に観戦している観客達も息を飲む。

先に動いたのは狂夜だった。飯田の顔面目掛けて飛び蹴りを放った狂夜だが、飯田はそれを予想していたのか体勢を低くして避け、更に狂夜の腰を掴むと肩に担ぐ。

 

 

「待っていたぞ!」

「っ!?」

 

 

カナディアン・バックブリーカーで狂夜を捕らえた飯田はレシプロバーストで試合会場の端を目指して走り出す。

 

 

『おーっと飯田、間桐の攻撃を待ち構えて捕らえた!このまま場外に運ぶ気か!?』

『飯田は間桐の攻撃を予測していたな。狂化をした間桐の攻撃が単調になりやすいのを観察していたんだろう』

 

 

プレゼントマイクと相澤の解説に観客達も勝負あった……そう感じていた。

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

「な、なんだとっ!?」

 

 

狂夜は体に上体を反らし、脚を伸ばした。更に腕を伸ばして自身を捕らえている飯田の腕を掴み、グッと力を込める。次の瞬間、狂夜は飯田の腕にフックされていた腰のロックを外すと勢い良く体を反転させる。

驚き、動きを止めてしまった飯田の腰を捕らえた狂夜は着地と同時に飯田を持ち上げる。

 

 

「power slam!」

「ぬぐおっ!?」

 

 

持ち上げた飯田をパワースラムで試合会場に叩き付ける狂夜。叩き付けられ、地面に付した飯田の両足をガシッと掴んだ狂夜は飯田を掴んだまま、回転しながら飯田を振り回す。

 

 

「full swing!」

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

『おおーっと飯田の拘束から逃れた間桐。逆に飯田を捕まえてジャイアントスイングだーっ!』

『あの技は相手の方向感覚を失わせる。飯田に使うには良いチョイスだ』

 

 

飯田にジャイアントスイングをし続ける狂夜。その回転数が10を越えた辺りで狂夜は手を離し、投げ出された飯田は場外に投げ飛ばされ、外壁に叩き付けられる。

 

 

「ぐはっ!?」

『飯田君、場外!勝者、間桐君!』

「おっとっと……どーもです」

 

 

飯田をジャイアントスイングで投げた狂夜だが技を掛けた側もダメージがあった様でフラフラとしながらミッドナイトの判定に応えた。

 

 

『勝者 間桐』

 

 

 

第三試合

『芦戸VS常闇』

 

酸を放とうとした芦戸を常闇のダークシャドウが阻み、芦戸を場外に投げ飛ばす。

 

 

『勝者 常闇』

 

 

 

第四試合

『切島VS爆豪』

 

一回戦で鉄哲と引き分けた切島だったが腕相撲対決で勝利した切島が二回戦進出。

試合開始と同時に特攻を仕掛けた切島。爆豪の爆破を硬化で耐える切島が爆豪を追い詰めた様に見えたが、次第にダメージが入って行き最後はラッシュを叩き込まれ爆豪が勝利。

 

『勝者 爆豪』

 

 

二回戦が終了し、三回戦の対戦表が決まる。

 

 

第一試合 轟VS間桐

 

第二試合 常闇VS爆豪

 

 

 

トーナメントも終盤に差し掛かりつつあった。



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雄英体育祭⑧

 

 

 

「悪かったな、飯田。やりすぎた」

「いや、それだけ全力で戦ってくれたと言う事だろう」

 

 

 

試合終了後、ダメージが大きかった飯田に謝る狂夜だったが真剣勝負だったのだから気にするなと言われていた。

 

 

「それに手加減……と言うか、こちらに気を使った戦い方でもあっただろう?あの時、背中から投げ落とされたからダメージも少なかった訳だしな」

「ああ……確かに頭から落としてたらジャイアントスイングまでいかなかっただろうからな」

「確かにパワースラムじゃなくてパイルドライバーだったら確実にK.O.されてただろうね……」

 

 

飯田の言葉に砂藤や尾白が納得する。狂化で理性が少なからず薄れていた狂夜でも相手を気遣った戦いをしていたと判断された。

 

 

「さてと……そうなると次は……」

 

 

狂夜が呟くと共にスクリーンに視線を移すと三回戦の対戦表が映し出される。

 

 

第一試合 間桐VS轟

 

第二試合 常闇VS爆豪

 

 

「次は手加減とか気遣いとか考えられねーな。じゃないと……『どんまい』ってなってしまう」

「言うなよ、チキショー……」

 

 

狂夜の発言に瀬呂がへこむ。試合結果を気にしていたらしい。そんな瀬呂に笑みを浮かべてから狂夜はリングへと向かった。

 

 

第一試合

『間桐VS轟』

 

 

「さぁて……どーすっかな」

「………」

 

 

試合開始前に対峙する狂夜と轟。

スクワットをして、轟とどう戦うか悩む狂夜に無言で俯く轟。

その姿は対照的で戦いに望む者と悩む者に分けられていた。

 

 

 

『それでは三回戦レディ……ゴー!!』

「おおっと!」

 

 

試合開始と同時に狂夜を凍結させようと氷を放つ轟に狂夜は跳躍し、地を這う氷を避けた。

 

 

「何度もやってれば見切れるっての!」

「……そうかよ」

 

 

氷を飛び越えた狂夜はそのまま蹴りを放つが轟は体勢を低くして、それを避ける。

 

 

「だったら……こうだ!」

「なっ!」

 

 

轟は狂夜に凍結攻撃が効かないと判断すると周囲に氷の壁や氷の刺を発生させる。その氷はリングや場外にも及ぶ。

 

 

「お前の戦いはパワーを活かしたものに見えるが基本的には狂化で増したスピードが主体が多い。こうすりゃ動けねぇだろ」

「おいおい……デスマッチじゃねえんだぞ」

 

 

轟が作り上げた氷の結界。それは狂夜の動きを封じる為の戦法だった。更に轟は動きを封じた上で狂夜を凍らせようと氷を放つ。

 

 

「GRUAAAAAAAAA!!」

「なんだとっ!?」

 

 

狂夜は『狂化』を発動し、地面を這う氷を砕く。更に狂夜は砕いた氷を掴むと轟に向かって豪速球を投げる。

 

 

『おーっと、間桐。砕いた氷を轟に向かって投げる!物凄いスピードだ!』

『狂化のパワーで加速された氷は最早、弾丸と変わらんな。当たれば大ダメージだ』

 

 

 

プレゼントマイクと相澤の解説通り、狂夜の投げた氷は凄まじいスピードとパワーで轟を狙いつける。更に轟は避けているが避けられた弾丸は周囲の氷の結界を砕いていく。

しかし、狂夜の狙いはそれだけではなかった。

 

 

「何っ!?ぐうっ!」

『氷の弾丸の嵐を投げ込んでいた間桐だが、一瞬の隙を突いて轟の背後を取った!チョークスリーパーだ!』

『氷の弾丸は周囲の氷の結界を砕くと同時に目眩ましだったな。本当の狙いは接近する為か』

 

 

プレゼントマイクと相澤の解説している様に狂夜は轟の背後を取ると首に腕を回し、チョークスリーパーの体勢になっていた。

 

 

「て、め……」

「このまま勝負を決めさせてもらうぞ。凍らせたとしても俺のフックを外せるかな?」

 

 

狂夜がチョークスリーパーを選んだのは凍結させられる事を防ぐ為である。仮にこのまま狂夜を凍らせてしまえば轟は首を絞められたまま狂夜を固定する事になる。そんな事をしてしまえばダブルK.O.の可能性が高くなるだけだ。

 

 

「ぐ……が……」

「ギブアップか?それとも……って熱!」

 

 

轟にギブアップを進めようとした狂夜だが突然感じた熱さに思わずロックしていた腕を離してしまう。

轟から離れた狂夜が視線を轟に戻すと轟は半身から炎を燃え上がらせていた。

 

 

「そうなる前に……決着をつけたかったんだがな」

「ちっ……クソ……」

 

 

狂夜の呟きに轟は舌打ちと共に炎を更に燃え上がらせていた。狂夜は氷柱を引き抜くと狂化を再び発動させて轟に迫る。

 

 

『氷柱を持った間桐、それを剣みたいに扱って轟に迫る!対する轟は防戦一方だ!』

「quick!」

「氷が溶けねぇ……どうなってんだ?」

 

 

狂夜が持つ氷柱を溶かそうと炎を放つ轟だが狂夜は手にした氷柱で逆に炎を斬り裂いた。

轟の呟き通り、何故か狂夜の持った氷柱は炎を浴びても溶けなかったのだ。そして、その隙は決定打となった。

 

 

「burst!」

「ぐおっ!?」

 

 

氷柱を投げ捨てた狂夜は右拳を鳩尾に叩き込んだ。その威力に轟の体は宙に浮き、更に場外にも吹き飛ばされる。

 

 

『クリティカルヒット!轟、遂に場外か……って、あれ?』

 

 

 

プレゼントマイクは解説の途中で気の抜けた声を上げる。それもその筈、狂夜は吹き飛ばした轟の後を追うと轟の体を反対方向へと蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた轟はリングの中央に戻され、逆に狂夜は場外の氷の塊に頭から突っ込んだ。

 

 

『えーっと……間桐の場外負け?』

『さっき吹き飛ばされた轟があのまま場外に行くと尖った氷柱の塊に突っ込む所だった。意識が朦朧としていた轟は受け身が取れそうになかった。それに気付いた間桐は轟を助ける為にリングに戻し、自分が氷の塊に突っ込んだんだ』

 

 

呆然と呟いたプレゼントマイクの発言は観客達の言葉を代弁したかの様な物だった。それに対し相澤の解説が入り、観客達は漸く事態を把握していた。

リングに戻された轟は信じられない物を見る目で狂夜が突っ込んだ氷の塊を見詰めていた。

 

 

『間桐君、場外!よって勝者、轟君!』

 

 

結果がどうであれ、ルール上で場外となった狂夜は敗けと判定された。

 

 

 

 

 

『勝者 轟』

 



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雄英体育祭⑨

 

 

 

 

狂夜が轟を庇って場外敗けをした事で決勝は轟と爆豪で行われる事になった。爆豪と轟の決勝は爆豪が氷結されるも氷を爆破で掘り進め、左側の髪の毛を掴んだりして回避し続ける。しかし、轟の動きは緑谷や狂夜と戦った時よりも明らかに精細を欠いていた。最後は爆豪のハウザーインパクトの直撃で轟は場外に吹っ飛ぶされ場外に。爆豪は戦いの結果に納得できなかったのか場外で気絶する轟に詰め寄り、胸ぐらを掴み上げるがミッドナイトに眠らされた。

 

 

 

雄英体育祭トーナメント戦結果発表

 

 

1位 爆豪勝己

 

2位 轟焦凍

 

3位 間桐狂夜、常闇踏陰

 

 

 

『それではこれより、表彰式に移ります!!』

「もはや、悪鬼羅刹」

「一位……って言うか晒し者だな、これは」

「んんんんんんんんんんんんん!!」

 

 

ミッドナイトのアナウンスに狂夜と常闇は若干引き気味に一位の爆豪を見ていた。拘束され、暴れる爆豪の姿はヴィランそのものだった。

爆豪は暴れ、轟は俯き、常闇は順位を悔やんでいた。そんな中、狂夜は「負けちまったな」とぼんやり考えていた。

 

 

『メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!』

「私が!!!」

「メダルを持って来『我らがヒーロー!オールマイトォ!』」

 

 

ミッドナイトとオールマイトの声が重なる。物凄い微妙な顔になっていた。

 

 

「まずは間桐少年、おめでとう!」

「ありがとうございます」

 

 

オールマイトにメダルを掛けられながら狂夜は頭を下げる。

 

 

「キミは負けてしまったが、相手を思う気持ちが強い、それは他の誰にも負けないくらいにね。次は勝負にも勝ち、相手を思える様になろうな」

「精進します」

 

 

事実、オールマイトの指摘は的を射ていた。狂夜があの時、轟を殴り飛ばす方向を決めていれば。又は蹴り戻す時に自分がリングから落ちないようにしていれば結果は違った物になっていただろう。

 

 

「次は常闇少年、おめでとう。強いなキミは」

「もったいない、お言葉」

 

 

狂夜への送る言葉を終えた後、オールマイトは常闇と向き合う。

 

 

「ただ……相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

「……御意」

 

 

オールマイトに指摘された事に自覚があるのか、常闇は渋い顔で頷いた。

 

 

「轟少年。決勝で左側を収めてしまったのには何か訳があるのかい?」

「緑谷戦で切っ掛けをもらって……間桐と戦ってわからなくなりました。あなたが緑谷に目をかけるのも少しわかった気がします」

 

 

二位の段に上がったオールマイトは轟に話し掛け、轟は俯き気味に答える。

 

 

「俺もあなたのようなヒーローになりたかった、ただ俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃダメだと思った。清算しないといけないものがまだある」

「顔が以前と全然違う!深くは聞くまいよ、今のキミならきっと清算できる」

 

 

オールマイトは轟を抱き締めながら慰める。そしてオールマイトが一位の壇上に上がり、苦笑いを浮かべた。

 

 

「さて爆豪少年!っとこりゃあんまりだ」

「オールマイト!こんな一番に……なんの価値もねぇんだよ!世間が認めても俺が認めなきゃゴミなんだよ!!」

 

 

 

今の爆豪の顔はヴィラン顔負けの表情をしていた。それを見ていたオールマイトも教師も生徒達も観客ですら『スゲェ顔してる』と思っていた。

 

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ!傷として!忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろうが!」

 

 

オールマイトが無理やり首に掛けさせようとしているが爆豪が思いっきり抵抗する。するとオールマイトが少し力を抜き、爆豪の口にメダルを引っ掛ける。

 

 

「さぁ!今回は彼らだったが皆さん!この場の誰もがここに立つ可能性があったんだ!ご覧頂いた通り次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!てな感じで最後に一言!」

 

 

オールマイトが絞めの言葉に入り、会場全体が学校校訓である『プルスウルトラ』を叫ぶのだろうと身構えた。

 

 

「皆さん、ご唱和ください!せーのッ!」

「「プルス『お疲れ様でした!』ラッ!」」

 

 

会場全体はプルスウルトラと叫んだのにオールマイト1人の声にかき消される。

 

 

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!」

「あぁ……いや、疲れたろうなって思って……」

 

 

 

こうして、ちょっと締まらない形で雄英体育祭は幕を閉じた。

 



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体育祭を終えた振替休日

 

 

 

 

雄英体育祭から二日間は休みになるとHRで告げられた狂夜は、体育祭の翌日の半日を寝て過ごしていた。

昨日の段階で担任の相澤から体育祭後には職場体験があり、行き先は『プロからの指名』があり、学校側が纏めて休み明けに発表するとの事だった。

 

 

「おはよう、桜」

「おはようございます、兄さん。もう、お昼ですよ」

 

 

そんな事もあり、狂夜は体育祭で張り詰めた頭を緩めていた。昼頃までだらしなく寝ていた狂夜は寝ぼけた頭のままリビングに顔を出し、そんな狂夜を見た桜は緩みきっている兄に微笑んだ。

 

 

「あれ、親父は?今日は休みって言ってたけど?」

「お父さんならお見舞いに行くって朝から出掛けて行きましたよ」

 

 

休日に姿を見せない、雁夜に狂夜は疑問を覚えたが、桜からの返答で「ああ、なるほど」と納得した。

 

 

「成る程、幼馴染みのお見舞いか。マメだな」

「お父さん、あの人の事をずっと気に掛けてましたからね」

 

 

狂夜自身は会った事はないが雁夜が良く話をする幼馴染みの事を思い出す。その女性は雁夜とは一つしか年齢が変わらず、付き合いの長い幼馴染みだと聞かされていた。その女性が病院に入院した時から雁夜は休みの日には欠かさず見舞いに行っていた。

 

 

「やれやれ……昨日、親父から話を聞いた時はマジかよって思ったよ」

 

 

狂夜は昨晩、雁夜から聞かされた話を思い出して苦笑いをしていた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

轟冬美は弟である焦凍の行動に困惑していた。

焦凍が10年近く会いに行こうとしなかった母のいる病院に行くと言って出ていったからだ。

 

 

焦凍が生まれてから、父エンデヴァーは焦凍の個性にしか興味がないと言わんばかりの態度とスパルタ的な英才教育を止めさせようとするお母さんにも手を上げるようになり、母は次第に精神的に不安定になっていった。焦凍に熱湯を浴びせてしまうほどに追い詰められていた、母は病院に入院という名の隔離をされた。

 

その時、母の入院の手続きや家の事を助けてくれた人は「少し、追い詰められてしまったね。二人とも良くも悪くも真面目だからさ」と言って冬美の頭を撫でて慰めてくれていた。正直、あの人が居なければ冬美も夏夫や焦凍みたいに父を憎んでいたかも知れない。母の見舞いに行く冬美は幾度となく、その人物に会っていたので冬美にとっては、もう一人の父とも言える人物だった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

病院に到着した焦凍は受付で母の病室を聞いて、その病室の前に立っていた。

緑谷や狂夜との戦いで自分自身を見つめ直さなければ前には進めないと実感した焦凍は第一に母に会う事を決意した。拒まれるかも知れない、また嫌われるかも知れない、望まれてないかも知れない。だが焦凍は母に会い、父の呪縛に囚われている母を救いたいと考えていた。

 

 

「お母さ……?」

「……焦凍」

「おや、久しぶりだね焦凍君」

 

 

焦凍が目にしたのは母の病室の椅子に座り、母と対面する形で会話していた男性は何かを察したのかの様に静かな笑みを溢した。

 

 

「……アナタは?」

「キミは覚えてないのかも知れないが俺は昔、キミと会っているんだよ、焦凍君。冷さん、俺は帰るから焦凍君と話すといい」

「うん、ありがとう……雁夜君」

 

 

焦凍の疑問に雁夜は立ち上がりながら答える。雁夜は焦凍の肩をポンと叩きながら病室を出ていく。話し掛けられた冷はニコリと笑みを浮かべ、雁夜に礼を言う。

 

 

 

「あ、その……」

「俺は間桐雁夜。狂夜の親父だ。冷さんとは幼馴染みでね。たまに見舞いに来てたんだよ。狂夜にも話をしておくから休み明けの学校で聞くといい」

 

 

思考が追い付かない焦凍は困惑していたが、雁夜は去り際に自身の事と狂夜の事を話して去って行った。

 

 

「あの人が……間桐の親父」

 

 

焦凍は去って行く、雁夜の背を見ながら父エンデヴァーの肉体と比べれば小さな背中がとても大きく見えた。

 



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ヒーロー名、決定。

 

 

 

体育祭が終わってから二日後、狂夜はねじれと共に電車に乗っている最中、めちゃくちゃ声を掛けられた。

 

 

「体育祭、見たぞ」「凄いな、見ていてハラハラしたよ」「かっこよかったです」「プロレスみたいな戦い方ばかりかと思ったけど、アクション映画みたいな戦いでドキドキさせてもらった」

 

「不思議、狂夜君が人気者」

「俺自身、不思議ですよ。あの体育祭が中継されているのも含めても、こんなに注目されるなんて思わなかったです」

 

 

電車から降りた後もチラチラと狂夜を見ている人達が多かった。中には女子高生も居たので、ねじれの機嫌が悪くなっていたのだが狂夜は気付いていなかった。

そんなトラブルがありつつも、雄英高校に到着した狂夜は教室に入るなり、轟から声を掛けられた。

 

 

「間桐、その……話が……」

「ああ、親父と会ったんだってな。昨日、親父から話を聞いて驚いたぞ。親父の幼馴染の人が轟のお母さんだったなんてな」

 

 

教室の端に移動した狂夜と轟は自分自身の親の話をする。狂夜の父である雁夜と轟の母である冷が幼馴染である事や実は長年、轟家のアシストを雁夜がしていた事実を話し合った。

 

 

「俺は……何も知らなかった。いや、知ろうともしなかった」

「そりゃ俺も同じだっての。親父が偶に幼馴染の見舞いに行ってるのは知ってたけど、轟のお母さんとは知らなかったし」

 

 

自身の親達の交流関係が意外と近かった事に驚く子二人。因みにを言うと雁夜は見舞いに頻繁に行っている姉の冬美と交流が多かったので知らなかったのは狂夜と焦凍だけである。

 

 

「お前ら、席に着け」

「お、相澤先生が来たからまた後でだな」

「……ああ」

 

 

教室に相澤が来たので速攻で静かになる1-A教室。相澤の怪我が治ったのなんだの話も挟みながら相澤から今後の話が語られ、教室内にピリッとした空気が流れる。

 

 

「今日のヒーロー情報学は……『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「胸膨らむやつきたぁぁぁぁぁ!!」」」

 

しかし、相澤の口から語られた内容によってまたしても賑やかになる教室。だが、その騒ぎは相澤の睨みで一瞬で冷めて静かになる。

『ヒーロー名』それはヒーローとして活躍するためには必須な項目。

いい加減な名前を付けてしまったら生涯その名で呼ばれ続けることになるから大事な事である。

 

そして名と実績はプロヒーロー達によるドラフト指名が関係する。

先の体育祭を見てプロ達からの指名は既に行われておりそれを元にプロヒーローの所へ職場体験に行かせて経験を積ませようというのが学校の考えである。

 

 

「と言っても指名が本格化するのは2・3年……つまりは即戦力になってからだ。一年は大体将来への『興味』によるもので、情けない姿を見せれば一方的にキャンセルも珍しくない」

「大人は勝手だ!」

 

 

憤る峰田の声を無視して相澤は黒板に指名の内訳を映し出す。その内容にクラス中が騒ぎになる。

 

「例年はもっとバラけるんだか今回は片寄ったな」

 

 

轟 4123

爆豪 3556

常闇 360

間桐 355

飯田 301

上鳴 272

八百万 108

切島 68

麗日 20

瀬呂 14

 

 

「こんなにハッキリと分かれるとは」

「つーか、1位と2位の順番が逆転してんな」

「表彰台で暴れてりゃマイナスになるわな」

「ビビってんじゃねーよ、プロが!」

 

 

それぞれが思い思いの事を口にする。狂夜はボンヤリと「クラスでは上位だけど地味にドラフト低かった」とちょっとショックを受けていた。

 

 

「まぁ各自で思うことはあるだろうが、それも踏まえて全員にはこれから職場体験をしてもらう。USJでもう既に味わったと思うが、改めてヒーローとしてどうやるのかを学べるいい機会だ」

「そのためのヒーロー名なんですね!」

「ああ。だから慎重に決めろよ」

「そうよ! 適当に決めると地獄を見るわ!」

 

 

相澤の説明の途中でミッドナイトが教室に入ってくる。ミッドナイトからヒーロー名に関しての説明を受けた1-Aは各種それぞれヒーロー名を考えて発表する流れになった。

 

 

「ほんじゃ、俺からヒーロー名……『ターミネーター』」

「アタシもー!『エイリアンクイーン』!」

「未来からの侵略者に血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!」

 

 

やたらと早く手を挙げた狂夜と芦戸。内容は明らかにボケに走ったヒーロー名だった。芦戸は不満そうだったが狂夜はふざけたのは明らかだった。出だしから大喜利みたいな空気になり、他のクラスメイトが尻込みをしている中、蛙吹が馴染みやすい名前を出したので流れが変わり、皆も安心して発表出来る様になった。次々にヒーロー名が決まっていき残っているのは狂夜、緑谷、爆豪のみとなる。

 

 

「そんじゃ、今度は真面目に……『バーサーカー』」

「さっきとあんまり変わってなくね?」

「自分自身の個性と混ぜ合わせた名前にしたいのね。でも、この名前だと逆の意味で捉えられてしまうかも知れないわよ?」

 

 

発表した名前に上鳴がツッコミを入れ、ミッドナイトも名は体を表し、良い意味で受け取られないと苦言を呈した。

 

 

「だからこそ……こんな個性でもヒーローになれると示したいから、この名前でと決めた」

「なら、良いわ。間桐君も決まったし……後は」

 

 

狂夜のヒーロー名も決まり、後は緑谷と爆豪となった。緑谷は『デク』とヒーロー名を決め、爆豪は何度もリテイクが出された後に保留とされた。

 



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職場体験の行先

今回は短めです。


 

 

 

 

それぞれのヒーロー名が決まって、次は職場体験にどのヒーローの下へ行くか、悩んでいた。

 

 

「え、轟は親父さんの所に行くのか?」

「……ああ、色んなもんから逃げるのも、目を逸らすのも止めたんだ」

 

 

何処に行くかを話し合っていた狂夜と轟。その中で轟は自身の父であるエンデヴァーの所へと職場体験に行くと決めた事に狂夜は驚きを隠せなかった。

 

 

「間桐はどうするんだ?」

「まだ悩み中。出来たら個性を頻繁に使うヒーローの所に行きたいんだがな。コントロールのコツを聞きたいし」

 

 

クラスの何人かは即決で決めたが狂夜も含めて、決めあぐねている者もいる。狂夜と同じ様にまだ決めていない緑谷はブツブツと自己分析をしながら、近寄りがたい雰囲気を出しながらノートを書いていた。

その日の授業を終えて放課後になっても狂夜は職場体験先に悩んでいた。

 

 

「いっそ、直感で決めるのもありかもよ?」

「オイラみたいに決めるのもありだぜ!」

「うーん、それも考えたんだよなぁ」

 

 

机に項垂れながら、悩む狂夜に芦戸や峰田がアドバイスを送り、狂夜はリストアップされたヒーロー事務所を見ながら悩み続けていた。

 

 

「あれ、緑谷は?」

「ああ、間桐が悩んでる間にオールマイトが来て、連れて行ったよ」

 

 

自身と同じ様に悩んでいた緑谷が居ない事に漸く気付いた狂夜。それを見ていた上鳴が教えてくれた。

 

 

「オールマイトが?んじゃ、緑谷も指名が無かったけど目ぼしいヒーロー事務所でもあったのかな?」

 

 

緑谷とオールマイトは接点が多い事を狂夜は知っていたし、緑谷は指名が無かったから相談にでも乗っていたのだろうと考えていた。

 

 

「俺も先生方に相談すっかなー」

 

 

狂夜はリストと睨めっこをするだけの結果になり、その日は決まらず悩み続けて、翌日にあるヒーローの所への職場体験を決めた。そして職場体験当日。駅に集合した後にそれぞれのヒーロー事務所に行く事となり、担任の相澤から注意事項を説明され、気を付けて行く様にと促され、それぞれが新幹線に乗って、ヒーロー事務所へと向かって行った。

 

 

「間桐と耳郎はオイラと事務所が近いな」

「良くも悪くも一緒に行動してるヒーロー達が集まってる街だからな。もしかしたら何処かで会うかもな」

「チームアップとかで合同で動く時に一緒になりそう。ウチ達は職場体験だから手伝うくらいだろうけど」

 

 

おおよその行先が同じな狂夜、峰田、耳郎は並んで話をしながら一緒に電車に乗り込み、談笑を続けていた。本来なら緊張しそうなものだが、友達と会話しながら移動しているから緊張感も薄れて行った。

 

 

「此処からは別行動だな」

「うっひょー!美女がオイラを待ってるぜー!」

 

 

目的の駅に到着すると峰田は目を血走らせながら足速に駆けて行った。欲望丸出しの顔で。

 

 

「何考えてるか、分かりやすいなアレ」

「本当に男って……って間桐を前にして言う事じゃ無いか」

 

 

峰田の背を見送る形になった狂夜と耳郎は苦笑いを浮かべながら会話を続ける。並んで駅から出ると揃って立ち止まる。

 

 

「んじゃ、俺もこっちだから。そっちも頑張れよ」

「うん、お互いにね」

 

 

駅を出れば行き先はそれぞれ違う。峰田は先に行ってしまったし、耳郎とも分かれた狂夜は一人、目的地まで歩こうとしたが足を止めた。

 

 

「まさか、お出迎えしてくれるなんて思いませんでしたよ」

「何、パトロールのついでで来たんだ。気にするな、それよりも我の所に来た事を感謝するぞ」

 

 

足を止めた狂夜の前にスタっと人影が降り立つ。そのヒーローが誰なのか確認した狂夜は「これから、お世話になるのに気を使わせた。いや、木かな?」と苦笑いを浮かべる。

 

 

「ようこそ、我の職場体験へ。歓迎するぞ、バーサーカー」

「一週間、お世話になります。シンリンカムイ」

 

 

パトロールついでに狂夜を駅に迎えに来たのは若手実力派ヒーローのシンリンカムイだった。

 

 

 



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職場体験①

 

 

シンリンカムイの指名を受けた狂夜。一週間の職場体験を共に過ごす事となる。狂夜はヒーロースーツに身を包みシンリンカムイの隣を歩きながらパトロールとなった。

 

 

「我々はヒーローとは言っても国から給料を貰っているので一応公務員だが成り立ち故に公務員とは何もかも著しく違う。仕事の基本は犯罪の取り締まり。事件発生時に警察から応援要請が届き出動となる。事務所に待機しているヒーローも居れば我の様に常にパトロールをしているヒーローもいる」

「成る程……事件の時に直ぐに動くか、有事に備えて待機するかの差って事ですか」

 

 

シンリンカムイの説明に狂夜は自分なりの解釈を言うとシンリンカムイは頷く。

 

 

「そうだ。そして貢献した度合いにより専門機関の調査を経て給料と言う形で報酬が支払われる。我は事務所に籠るよりもパトロールで市民の安全や事件への対処を優先している」

「そして、それをマウントレディに横取りされた、と」

 

 

狂夜の一言にシンリンカムイは「うぐっ」と言葉を詰まらせる。事務所が近い事もあり、シンリンカムイとマウントレディは現場が一緒になる事が多い。狂夜の言った事とはシンリンカムイの現場に現れたマウントレディに何度か手柄を奪われた事である。

 

 

「そうならぬ様に……パトロールを強化せねば……」

「警戒してるのはヴィラン?それともマウントレディ?」

 

 

目が血走ってるシンリンカムイに狂夜はどっちに警戒してるんだか……と思ってしまう。でも現場で一緒になる事もあるんだし、相性は悪くないとは思うんだけど……と考えていた。

この日はパトロールはしていたもののヴィランは現れず、ひたすらパトロールだけとなってしまった。

 

それから三日後。毎日、変わらぬパトロールをしている最中、シンリンカムイが口を開いた。

 

 

「この数日見ていたが……キミは個性の使用を控えているんだな。怯えていると言っても良い様に見えたが」

「俺の個性はハッキリ言ってヴィラン寄りなんです。何度も使ったり、使用時間が長いと暴走してしまうので」

 

 

シンリンカムイに指摘された通り、狂夜は個性をなるべく使わない様にしていた。必要な時にしか使わず、使用時間も短く。それは雄英に入学する以前からのスタイルだった。

 

 

「『狂化』か……確かに凶悪な個性の様にも見えるが、それはキミが未熟だからだ。強過ぎる個性に体も心も追いついていないのだろう。個性を恐れるのは必要だ。だが、怯えて使わなければ成長もしないだろう」

「成長……か」

 

 

シンリンカムイの言葉に狂夜は立ち止まり、自分の掌を見つめた。言われてみれば確かに狂夜は自身の個性を恐れて必要最低限しか使って来なかった。だが、それは自身の成長を止めていたのと同義だ。

 

 

「恐らくキミが個性に飲まれてしまうのは慣れていないからだ。限界を知り、努力を惜しむな。何、心配するな。安心して失敗しろ。何の為の職場体験だ」

「シンリンカムイ……はい!」

 

 

シンリンカムイの宣言に感動した狂夜。その時だった。

 

 

「ご、強盗だーっ!」

「事件か!ついて来い、バーサーカー!」

「はい!」

 

突如、街中に響き渡る悲鳴。シンリンカムイは即座に切り替えて事件現場に向かおうとする。狂夜もシンリンカムイの後を追って走り出した。

個性を使い、ビルからビルへと飛び移るシンリンカムイを狂夜は前に気をつけながら走って追った。個性を使ってジャンプして追おうかと思ったが許可も無くやる訳にはいかないので見失わない様に気を付けながら走る事を選択したのだ。

 

 

「あれ、間桐?」

「お、耳郎……とデステゴロ」

「お前、シンリンカムイの所の職場体験か?シンリンカムイはどうした?」

 

 

同じ様に通報を聞き、駆け付けたデステゴロと耳郎が走ってきた。デステゴロは兎も角、耳郎は疲弊している感じが出ていて心配になったが狂夜はデステゴロの質問に答える事にした。

 

 

「彼処です。個性を使用して飛んで行っちゃったんで、こっちは地道に走って追いかけてました」

「アイツの個性は応用が効くからな。お、あの場所か!」

 

 

 

現場に急ぐシンリンカムイと距離が空いてしまってはいるが、シンリンカムイがビルから地上に降りていくのが見えたデステゴロは彼処が現場なのだと確信して叫ぶ。

 

 

「イヤホンジャックは避難誘導と怪我人が居た場合救助に回れ!お前は……」

「シンリンカムイに追い付いてから指示を仰ぎます!」

 

 

耳郎に指示を出すデステゴロに対し、狂夜は個性を発動せずに加速しながら答えた。現場に到着すると二人のヴィランがシンリンカムイと対峙していた。片方はシンリンカムイの個性で捕縛されているが、もう片方のヴィランは札束の入った鞄を抱えて逃げようとしているがシンリンカムイを警戒しているのか、仲間を助けようとしているのか睨み合いが続いていた。

 

 

「もう貴様等は逃げられん。投降しろ!」

「へっ……誰が降参なんかするかよ、そりゃ!」

 

 

するとシンリンカムイが捕まえていたヴィランの体から煙が吹き出して周囲を煙で覆った。

 

 

「煙幕か?ぬおっ!?」

「ハハハッ!あばよ!」

「シンリンカムイ、状況は……なんだ、これ!?」

 

 

視界を奪われ、更にトラブルがあったのか動揺しているシンリンカムイに突如現れた煙に狂夜も驚くばかりだ。

 

 

「くそっ!逃げれたか、我が拘束を破るとは!」

「シンリンカムイ、腕が……」

 

 

煙で見えなかったがシンリンカムイが個性で煙を振り払ったが腕の部分が一部欠けていた。

 

 

「煙を出したヴィランとは別の奴の個性だろう。煙幕に乗じて恐らく、刃か何かで仲間の拘束を解いたんだ」

「アイツ等、車で!」

 

 

逃げられた事を悔やんでいるシンリンカムイに狂夜はヴィラン二人が車で逃走を図ろうとした所を目撃する。

 

 

「くそ、車でとなると我の個性では追い付けん!他の地区のヒーローに連絡をして先回りを……」

「シンリンカムイ、俺に考えが…」

 

 

車で逃げられると流石のシンリンカムイも追い付けず他のヒーローに救援を送ろうかとした。狂夜は周囲を見渡して、『ある物』を見付けて浮かんだアイディアを実行に移すべくシンリンカムイに話しかけた。

 

 

その頃、避難誘導や他にヴィランが居ないかと警戒しながら現場に来たデステゴロと耳郎。しかし、現場には後処理をしている他のヒーローと警察だけでシンリンカムイと狂夜の姿は無かった。

 

 

「状況はどうなった?」

「シンリンカムイがヴィランの拘束に失敗して車で逃げたヴィラン二人組を追い掛けて行きました。黒い格好のヒーローも一緒でしたよ」

「あー……やっぱり間桐も一緒だったんだ」

 

 

警察から事情を聞いたデステゴロだったが耳郎の表情は苦笑いになっていた。何かを知っているのかとデステゴロは耳郎に話し掛ける。

 

 

「追いかけた?アイツの個性は車に追いつける個性なのか?」

「いや、最初はウチも目を……いや、耳を疑ったんですけど」

 

 

耳郎はイヤホンジャックをカチカチと鳴らす。個性で狂夜の動きを把握していたらしいが、それでも信じられない状況だったのだろう。未だに苦笑いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「へへっ……ちょろいもんだぜ」

「捕まったくせによく言うぜ。俺の個性がなきゃ逃げられ無かっただろ」

 

 

車を運転しているのは煙を出したヴィランでそのヴィランを笑っていたのはシンリンカムイの拘束を破ったヴィランだった。そのヴィランの指はノコギリの様に鋭い刃の様になっていた。シンリンカムイの予想通り、刃のヴィランは個性でシンリンカムイの拘束を切り裂いたらしい。

 

 

「へへ、そりゃお互い様だろ。俺が煙幕で隙を作らなきゃお前だって捕まってたんだからよ」

「まぁな。だが、最近人気のヒーローってのも大した事が……」

「GRAAAAAAAAA!」

 

 

車中で笑いながらシンリンカムイを嘲笑っていたヴィラン達だが突如、後方から凄まじい叫び声が聞こえ、同時に振り返り……言葉を失った。

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!」

「逃すかっ!」

「い、一輪車!一輪車で車に追い付きやがったのか!?」

「何て非常識な奴だ!」

 

 

ヴィランが驚くのも無理は無かった。なんと狂夜は一輪車に跨り個性を使用しながら全力で漕ぎ、シンリンカムイはその狂夜に肩車されながら車に肉薄しているのだから。通常ならあり得ない光景にヴィラン達の思考は停止してしまう。そして、それはヒーローからしてみれば決定的な隙だ。

 

 

「今度こそ、捕まえる!先制必縛ウルシ鎖牢!」

「し、しまった!?」

「馬鹿が!今度も俺の個性で……ふぐっ!?」

「SMASH!」

 

 

シンリンカムイは車の屋根に飛び移り、先制必縛ウルシ鎖牢でヴィランを車ごと拘束する。煙のヴィランは窓から侵入した木に完全に捕縛されてしまい、刃のヴィランは先程と同様にシンリンカムイの木を切り裂こうとしたが追い付いた狂夜の拳でK.O.された。

捕縛され、相棒も倒された煙のヴィランは観念したのか車を止めて今度こそ投降した。

 

 

「捕縛完了。今度は逃げられんぞ。警察が来るまで大人しくしていろ」

「も、もう抵抗しないって……」

「FUUUUU……FUUUUUU……」

 

 

煙のヴィランは大人しくなって刃のヴィランは狂夜によって気絶させられた為に無抵抗。狂夜は必死に暴走しそうな自分自身を抑えようとしていた。

 

 

「バーサーカー。個性を押さえつけるのでは無く、個性を掌握するんだ。無理に抑え込むのでは反発もあるだろう。個性も自分の一部だ、そう感じてコントロールをしてみろ」

「……… composure」

 

 

シンリンカムイの助言通りにすると狂夜の中の荒ぶる何かが僅かだが抑えられた感覚になる。その様子を見たシンリンカムイは満足そうに頷いた。

 

 

「それが個性のコントロールの基本だ。特別な力なのは違いないが自身の一部として認識を深めろ」

「ありがとう……ございます」

 

 

狂化を解いた狂夜はシンリンカムイに礼を言う。丁度、シンリンカムイ達の後を追って警察が到着したし始めた。

 

 

「警察も来たし、ヴィランの引き渡しと……」

「一輪車を返しに行かなきゃですね」

 

 

シンリンカムイはヴィランを引き摺り、狂夜は一輪車を担いだ。先程の言葉通り、狂夜はヴィランが車で逃走した際に近くにあったスポーツショップで事情を話して一輪車を借りたのだ。そして前途の様に乗り回し、一輪車で車に追いつくと言うサーカスもビックリな事をやり遂げたのだ。

 

 

これは後の話となるが、この一輪車のメーカーは『ヒーローが全力で漕いでも壊れない一輪車』として本格的な売り込みを開始し、プロモーションVTRにはバーサーカーが一輪車で車に追いつくシーンが起用される事となる。

 



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職場体験②

 

 

狂夜がシンリンカムイと共に解決した強盗事件の翌日。普通なら職場体験をした学生が事件解決などすれば、それなりにニュースになるのだが、それ以上のニュースが世間を飛び交っていた。

 

『ヒーロー殺しステインの逮捕』それにクラスメイトの緑谷、轟、飯田が関わっていると知ったのはシンリンカムイと共に警察に強盗のヴィラン二人を引き渡して事情聴取が終わってからだった。スマホのメッセージに緑谷から住所だけが送られて来ており、そこで狂夜の中で答えが繋がった。この住所が指し示す意味はヒーロー殺しがそこに居ると言う意味だったのだ。

 

 

「つまり、ヒーロー殺しに接敵してプロヒーローに通報をして欲しいって事だったんだな。すまなかったな気付かなくて」

『ううん、間桐君も他の事件に関わってたり、事情聴取があったんなら仕方ないよ』

 

 

狂夜は緑谷に電話をしてメッセージの意味と安否について聞いていた。怪我はしたものの無事だと言うので狂夜は安堵した。

 

 

『でも、凄いよ。シンリンカムイの下で職場体験して事件解決までするなんて』

「ヒーロー殺しに関わったお前達に比べれば大した事じゃねーよ。取り敢えず無事なら何よりだ。詳しくは話せないんだろうけど、学校でまた聞かせてくれ」

 

 

通話を終えた狂夜はシンリンカムイとパトロールに出る。昨日の事もあり、狂夜は街の人からヒーローの卵であると同時に凄い事をした学生と言う認識なのか挨拶をされたり、見られたりと落ち着かなかった。

 

 

「先程、電話していた様だが友人か?」

「ええ、昨晩のヒーロー殺しの件に関わってたみたいで」

 

 

歩きながらシンリンカムイから先程の通話の事を聞かれる狂夜。

 

 

「学生が事件に関わるか……」

「なんか思う所があるんですか?昨日、事件に関わった身としては複雑ですけど」

 

 

俯き気味になってしまったシンリンカムイ。狂夜はシンリンカムイは学生が事件に関わるのを嫌がっているのかと考えた。

 

 

「一年程前の話だが我はヒーロー活動をする最中で学生が事件に巻き込まれて人質になってしまった事がある。その時、我は爆炎が苦手と言う理由で助けに行けなかった……いや、行かなかった」

 

 

シンリンカムイはグッと拳を握りしめた。

 

 

「だが、その時……その学生の友人が助けに行ったのだ。他のヒーロー達が尻込みしていたのに、その少年は脇目も振らずに助けに入った。当然、その少年の力では助けられなかったが、オールマイトの助けにより、事件は解決して人質も解放された。その時、思ったよ……我はヒーローだったが、命懸けで戦うヒーローでは無かったとな。あの時の自分はオールマイトやあの少年の様な勇気が無かったと感じてしまってな」

「……その少年二人は雄英でヒーローを学んでますよ。まあ、片方はそのヒーロー殺しに関わった奴ですが」

 

 

シンリンカムイの告白に狂夜は何処かで聞いた話だと思っていたが最後まで聞いて確信が持てた。シンリンカムイが言っている事件の少年二人は間違いなく緑谷と爆豪である。

 

 

「な、本当か……まさか、あの時の少年がヒーロー殺しの件に関わっていたのか?」

「多分、そうですね。本人からも当時の話を聞きましたけど状況が同じですし。それに悔いる必要も無いですよ。緑谷は貴方を恨むなんてしてませんし……」

 

 

シンリンカムイは驚いた様子で狂夜に詰め寄る。狂夜はそれに少々驚きながらも緑谷から以前聞いたヘドロ事件の話をした。

 

 

「そうか……雄英の体育祭で見掛けて、まさかとは思っていたが……」

「シンリンカムイが俺にやけに親身に個性のコントロールを教えてくれたのって緑谷の事があったからですか?あの時の後悔を抱えていたから……」

 

 

狂夜は思った事をシンリンカムイに尋ねる。

 

 

「それもあるが……悩む若者を今度は正しく導きたいと思ってな。特に個性に悩む、君を……な」

「シンリンカムイ……」

 

 

若手ヒーローの中でも急成長をしていると言われているシンリンカムイに言われて狂夜は感謝を感じていた。

 

 

「俺がヒーローになろうと思ったのって……個性の事で悩んでる時に助けてくれた先輩が居たからなんですよ。それから、俺みたいな個性でもヒーローに成れるって証明したくて……シンリンカムイみたいなヒーローにアドバイス貰ってヒーローに成れませんでした、なんて言えませんよ」

「バーサーカー……俺を慰めよ『オホホホホホッ!』とう」

 

 

狂夜の言葉に何かを言おうとしたシンリンカムイだが、それを遮る様に何者かの声が駆け抜けて行く。巨大化したマウントレディが走り去って行き、シンリンカムイの言葉はかき消されてしまった。

 

 

「……事件の要請があったみたいですね」

「ああ……我のスマホにも要請の連絡が来た。どうやら車の多重事故らしい。被害が大きいからヒーローにも要請が来た様だ」

 

 

シンリンカムイが何か良い事を言ったのだろうが聞けなかった狂夜と言葉を遮られたシンリンカムイは微妙なテンションになっていた。

 

 

「行きましょうか。さっきのは今度、聞かせてください。俺がプロになったら」

「なら、早くプロになるんだな」

 

 

狂夜とシンリンカムイは揃って走り始めた。これから数日間大きな事件は起きず、パトロールばかりとなったが狂夜にとって職場体験は有意義な物となったのであった。

 



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職場体験後の学校

 

 

 

職場体験を終え、通常の学校登校で久しぶりに会うクラスメイトと意見交換や感想を言いあう。それぞれが有意義な時間を過ごしたかと言えば違った例もある。

 

 

「ギャハハハハハハハハッ!マジか爆豪!」

「固まっちまって洗っても直らねぇんだ。笑うな……殺すぞ」

「やってみろよ、8:2坊や!」

「イメチェンにも程があるだろ、爆豪…!」

 

 

ベストジーニストに一週間念入りに強制的に8:2の髪形にされていた爆豪。切島や瀬呂と狂夜に笑われていて、キレていた。

 

 

「えー、活躍してたんじゃん」

「そうは言っても非難誘導とか、パトロールばかりだったから」

「私も似た様な感じだったわ。一度、隣国からの密航者を捕まえたけど」

「「それ、凄くない!?」」

 

 

他の場所では芦戸が耳郎と蛙吹と話していてヴィラン退治とかもやったとかで興奮していた。

 

 

「お茶子ちゃんはどうだったの?この一週間」

「とても……有意義だったよ」

「見事な構えだな。後で組手でもしてみるか?」

 

 

蛙吹の質問にお茶子は構えをしながら静かに息を吐いていた。

それはさながら今から格闘技でも始めるのではないかと言う雰囲気である。素早く拳を繰り出す様に狂夜も気になった様だ。

 

 

「目覚めたのね、お茶子ちゃん」

「バトルヒーローの所に行ってたんだっけ」

「一週間で変化がすげーよな」

「いや、上鳴。女ってのは本性を隠し持ってるもんなんだぜ?」

 

 

そんなお茶子を見ていた上鳴が呟く中、峰田は爪をかじりながらそんな事を言っている。マウントレディの所で嫌な経験をしたのだろうと、話を聞いていた者は察したがマウントレディに振り回されていたシンリンカムイの事を知っている狂夜からしてみれば苦笑いを浮かべる他ない。

この後、上鳴の迂闊な発言からヒーロー殺しの信念を肯定する様な一言が出てしまい、緑谷が上鳴を諫める。

 

 

「上鳴くん!」

「あ、ごめん……悪ぃ」

「確かに信念が通っている男だった。クールだと思う人もいるだろう。だが、俺はやはりヒーロー殺しの事は認められない……奴は粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうが、そこだけは間違いなんだ。俺のようなものを出さない為にも改めてヒーローを目指すのだ!」

 

 

ビシッと腕を振り、決意を新たにする飯田に緑谷は安心した様な表情になる。

 

 

「信念と因縁のぶつかりは必定……か」

「……なんだ、それ?」

 

 

何かを思い出したかの様に呟く狂夜に轟は首を傾げた。

 

 

「昔、なんかの本に乗ってた言葉……今の状況にピッタリだと思ってな」

「信念と因縁……」

 

 

狂夜の言葉に轟も思う事があるのか悩ましげな雰囲気になっていた。

雑談もそこそこに授業となる。機動力を確かめるテストとなり、此処で驚かれたのは緑谷と狂夜だ。

瀬呂、飯田、芦戸、緑谷、狂夜とクラスでも機動力が高い面子での障害物レースとなったのだが……

 

 

「緑谷、スゲーっ!」

「間桐も完全について行ってる!?」

 

 

二人は個性を上手く扱い始めたのだ。緑谷はフルカウルを上手く使い、跳ねる様に障害物を跳んで行き、狂夜は個性のコントロールが格段に上がった状態で足場から足場への着地と跳躍が素早かった。

 

 

「な、マジかよっ!?」

「二人とも速すぎるよ!」

「緑谷君、間桐君!なんて素早さと身のこなしだ!」

 

 

瀬呂、芦戸、飯田の順にコメントを零し、自分に優位なレースだと思ったのに置いて行かれた瀬呂は焦りながらも緑谷と狂夜を追う。二人の進歩……と言うよりも緑谷の進歩に爆豪は静かに怒りに震えていた。それは緑谷に対してなのか、自分自身に対してなのかは本人のみが知る所である。

 

 

「凄いな、緑谷。動きが格段に上がってるぞ」

「落ち着け、行ける!常に緊張と冷静を……あ」

 

 

ほぼ同じ速度で跳んでいた狂夜は緑谷に話し掛ける。緑谷は集中していたのか狂夜の言葉に反応出来ず、更に注意不足で落下してしまった。その間に狂夜が緑谷を追い越してトップでゴールとなり、緑谷は最下位となった。

 

 

「まあ、なんだ……付け焼き刃でも凄いと思ったから精進するしかねーよな」

「そ、そうだね……足場の悪い場所では着地地点と力の入れ方が……ブツブツ……」

 

 

落下した緑谷を慰める発言の狂夜と反省しながらも、いつもの様に自己分析に取り掛かる緑谷。この後は授業も進めつつ、誰が一位になるかや動き方の課題などで大いに盛り上がった。

 

◆◇◆◇

 

 

「なあ、間桐。帰りにハンバーガーでも食べてかね?」

「あ、悪い……今日は先輩の所に行かないと駄目なんだわ」

「え、何何!デート!?」

 

 

授業も終わり放課後になり、上鳴から寄り道の提案をされた狂夜だったが断った。恋バナが好きな芦戸が速攻で食い付いた。

 

 

「職場体験に先輩がインターンに行ってる所に誘われたんだけど、思う所があって断ったんだよ。そしたら先輩、超不機嫌でさ……今日は宥めに行かないと……」

「けっ!リア充が……!」

 

 

狂夜の発言にあからさまな舌打ちをした峰田。

 

 

「つー訳で悪いけど今日は遠慮しとくわ」

「お、おお……じゃあな」

 

 

バタバタと教室から去って行く狂夜に声を掛けながら見送る上鳴。

 

 

「あれが本当にモテる奴の行動だよな」

「ぢぐじょぉぉぉぉぉ、オイラは職場体験で地獄を見たってのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「マウントレディの所で本当に何を見たんだよ、お前は」

 

 

瀬呂の発言に血の涙を流す峰田。そんな峰田を見ながらツッコミを入れた上鳴。

 

 

「間桐って何げに天然だよね」

「素直にデートって言えば良いのに」

「後で話聞きたーいー!」

 

 

狂夜の恋愛観を語り合う耳郎、葉隠、芦戸。狂夜が去った後の教室でそんな会話が繰り広げられていた。

 



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ねじれの機嫌回復

 

 

放課後になり、ねじれの機嫌伺いに行っていた狂夜。ねじれは如何にも怒ってますと、頬を膨らませていたが普通に可愛く見えるだけだった。

 

 

「先輩、いい加減機嫌直して下さいよ……そりゃ、先輩のお誘いを断ってシンリンカムイの所に職場体験に行きましたけど」

「つーん」

 

 

狂夜の言葉にも、ねじれは頬を膨らませたまま、そっぽを向いた。相当にお冠の様だ。その証拠に喫茶店に来たものの、ねじれは狂夜が注文した紅茶とケーキに手を付けていない

 

 

「そりゃ先輩のインターン先には興味ありましたよ。先輩の所なら楽しく職場体験できたでしょうし……でも、先輩の所に行ったら俺を甘やかすでしょ間違いなく。俺を守ろうと張り切りますよね……それじゃ俺は成長出来ないと思ったんです。だから俺は先輩の所以外のヒーローを選びました。そして個性のコントロールや制御をシンリンカムイから学びました。俺は早く……先輩に並び立ちたいんですよ。それに……」

 

 

ねじれに職場体験の行先を選ばなかった理由を話しながら席を立ち、テーブルから身を乗り出して顔を近付ける。

 

 

「俺は先輩に守られたいんじゃなくて、先輩を守りたいんです」

「っ!」

 

 

狂夜の一言にねじれは頬を染めて、漸く狂夜の方を向く。狂夜はニッコリと笑みを浮かべていた。

 

 

「もう……不思議……とっても甘いの」

 

 

そう言って、ねじれは手を付けていなかったケーキを食べ始める。照れ隠しの行動なのは明らかだった。

ねじれの機嫌が直り始めたのを感じた狂夜は椅子に座り直した。これで悩みの一つは解決したな、と考えながら今日のHRの事を思い返していた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「えー、そろそろ夏休みが近づいて来たが……勿論、君らが夏休みを30日間一ヶ月も休める道理はない」

 

 

帰りのHRで発せられた相澤の言葉に騒つく教室。

 

 

「まさか……」

「夏休み、林間合宿をやるぞ」

「知ってたよやったー!」

 

 

何があるのか……一瞬静まり返った教室だが『林間合宿』のフレーズに賑やかになる教室。

 

 

「肝だめそー!」

「風呂!」

「花火」

「風呂!」

「カレーだな」

「行水!」

「ただし」

 

 

芦戸、蛙吹、飯田の順にコメントが溢れ、峰田が間に挟む様に風呂と行水を叫んでいたが、相澤先眼光に、騒いでいた教室内は一様に黙る。

 

 

「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、学校で補習地獄だ」

「「みんながんばろーぜ!!」

 

 

相澤の発言に切島と上鳴が切実な叫びを上げる。実は狂夜も叫びそうになったのは秘密である。

実際、狂夜は実技は兎も角、筆記の方はよろしく無くギリギリの成績だった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「頑張らないとなぁ……」

「不思議、何を頑張るの?」

 

 

狂夜の呟きに反応した、ねじれ。ねじれは食べていたケーキの生クリームが鼻に付いており、年上なのに子供っぽい所に狂夜は笑みを浮かべてしまう。

 

 

「クリームが付いてますよ。期末試験の対策をどうしようかと思いまして」

「あうっ……期末試験なら実技は対ロボの実戦演習だよ」

 

 

指でねじれの鼻に付いたクリームを取る狂夜。ねじれは戸惑いながらも期末の試験内容を教えた。

 

 

「対ロボットって事は入試の時のアレか……なら実技は大丈夫か。問題は筆記だな。あ、甘いッスねコレ」

「うん……甘いの」

 

 

狂夜はねじれから教えて貰った内容から入試の時のロボット達と戦うのだろうと仮説を立てた。そして指に付いたクリームをひと舐めすると、ねじれは顔を赤らめたまま消え入りそうな声で呟いた。

 

 



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期末試験に向けて

 

 

期末テストまで後、一週間を切る頃。教室内では勉強出来る者と出来ない者の差がハッキリと分かれていた。

 

 

「まったく勉強してねー!」

「体育祭やら職場体験でまったく勉強してなーい!」

「確かに」

 

 

上鳴と芦戸が叫ぶ最中、常闇が同意する。

 

 

「中間はなー……入学したてでなんとかなった感じだけどなー。行事が重なりまくったからな……それに期末は中間と違って……」

「………」

 

 

砂藤の嘆きに口田が無言ながらも頷いていた。クラス内でも普段、声を出さない口田との会話が成立している辺り、これはもう慣れであろう。

 

 

「演習試験が辛いところだよなー」

 

 

砂藤の言葉を引き継いで峰田が余裕そうに頬杖を付きながら話す。かなりのドヤ顔で周囲がイラっとする程だ。

 

 

「アンタは同族だと思ってた!」

「お前みたいな奴はバカで初めて愛嬌が出るってもんだろ!?どこに需要があるんだよ!?」

「ふっ……『世界』かな……?」

 

 

芦戸と上鳴の叫びも意を介さずドヤ顔のまま言い切る峰田。

 

 

「芦戸さん、上鳴くん。が、頑張ろう?みんなで林間合宿行きたいもん!」

「うむ!」

「普通に授業を受けていれば赤点なんて取る事なんてないだろ」

「言葉には気を付けろー!」

「……皆がお前等と同じ頭だったら苦労は無いって」

 

 

緑谷、飯田、轟が順に発言するが成績上位の三人のコメントなので上鳴が凄まじい反発をし、狂夜も成績不振である為にヘコみ気味である。

 

 

「お三方……座学であるのでしたら、わたくしがお力添えできるかもしれません」

「ヤオモモーーー!!」

 

 

若干、元気ぐ無さそうに八百万が勉強を教えてくれると告げ、芦戸が抱き着いた。芦戸と上鳴には天から垂らされた救いの蜘蛛の糸の様に見えただろう。

 

 

「演習の方は……その、からっきしでしょうけども……」

「ああ、演習なら入試の時のロボと戦うそうだぞ。だから実技の演習は大丈夫だと思う。先輩から聞いたから間違いないだろう」

「よっしゃ!グッドインフォメーション!」

「ロボ相手なら楽勝!」

 

 

俯いた八百万に狂夜はねじれから教えられた実技の演習の内容を話す。上鳴と芦戸はロボ相手なら楽勝とテンションが爆上がりだった。実技がロボなら問題は勉強だけとなる。

 

 

「上鳴と芦戸じゃないけど、ウチもちょっと二次関数で詰まってるところがあるんだけど、いいかな?」

「俺も俺も。古文が分からないんだ」

「俺もお願いできるかな?」

 

 

耳郎、瀬呂、尾白の三人がそう言って頼ってきたので八百万も頼られている事に嬉しさを感じて震える。

 

 

「人数、増えたけど大丈夫?」

「勿論、良いデストモ!!」

 

 

狂夜からの問いかけに八百万は頼られて歓喜のフィーバー状態であった。

 

 

「これが人徳の差だよな」

「俺もあるわ!テメェ。教え殺したろか!?」

「おお、頼むわ」

 

 

切島が爆豪を見ながら呟き、爆豪は叫びながら切島に勉強を教えてやると告げ、切島は感謝を口にする。その会話を聞いていた狂夜は「教え殺すって何だろう……」と口には出さないものの疑問が湧き上がっていた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

お昼休みになり、狂夜は食堂で緑谷、飯田、轟、麗日、蛙吹、葉隠の六人と一緒に食事を摂っていた。

 

 

「普通の科目は授業の範囲内で出るから何とかなると思ってたし、実技が間桐君の話通りロボなら何とかなりそうだね」

「うむ。事前に実技演習の内容を知れたんだ。突飛な事はないだろう」

「体育祭の時みたいに凍らせりゃ終わりだな」

「普通の科目はなんとかなるんやね……実技も楽勝そうの雰囲気やし」

「頼るべきは先輩ってな。俺は普通科目の方が高い壁になりそーだ」

 

 

出久、飯田、轟の三人は狂夜から教えられた内容になんとかなるだろうと予想していたが、狂夜は逆で筆記試験の方が危なそうだった。麗日も余裕そうな緑谷、飯田、轟にちょっと羨ましそうな表情になる。

 

 

「一学期でやった事の総合的内容」

「とだけしか教えてくれないんだもの相澤先生」

「戦闘訓練に救助訓練……後はほぼ基礎トレだよね」

「まあ、実技の内容は知れた訳だし頑張ろうや」

「そうだね、万全に整えておけば……あイタッ!?」

 

 

葉隠、蛙吹、麗日が狂夜が教えなければ実技は謎のままだったと話す中、狂夜と緑谷が頑張ろうと言おうとした時、緑谷の頭にトレーを持った誰かがブツかる。緑谷が振り返ると其処には嫌味な笑みを浮かべた男子生徒が立っていた。

 

 

「ああ、ごめん。頭が大きくて当たっちゃったよ」

「キミはB組の……ええと、物間君!」

「明らかにわざとだろ。体育祭の時もだが喧嘩売りに来てんのか?」

 

 

トレーを持った物間が、わざと肘をブツけたのは明らかだった事に狂夜は怒りを覚える。爆豪みたいに直接悪口を言うのではなく、ネチネチと嫌がらせをするタイプの物間に苛立っていた。

 

 

「君達、ヒーロー殺しに接触したらしいじゃないか。体育祭に続いて注目ばかり集まる要素ばかり増えていくじゃないか、A組は……ただ、その注目って期待値とかじゃなくってトラブルとかに関しての方が度合いが強いよね?あぁ、怖い怖い!いつか君達のトラブルに巻き込まれて被害を受けるかもしれないと思うと……ふぐ!?」

「シャレにならん。飯田の一件を知ってんでしょ。ヒーロー以前に人として間違ってるからね」

 

 

物間の発言に苛立っていた狂夜は拳を握り立ち上がろうとした。しかし、物間が最後まで言いきる前に後から来た拳藤が首筋に手刀を食らわせる。

 

 

「ごめんね。コイツ、ちょっと心がアレなんだ」

「いや、助かったよ。拳藤が止めなけりゃ、俺が三日は飯を食えなくなる程のボディブローを叩き込むつもりだったから」

 

 

拳藤の謝罪に拳を握り締めていた狂夜は顔を緩めた。その仕草に狂夜は本気で物間の腹に拳を叩き込み、胃にダメージを与えるつもりだったのを確信した一同。

 

 

「それはそうと間桐達も期末の実技の演習の事を知ってたんだね」

「ああ、先輩から聞いたんだ。そっちもそうだろ?」

 

 

互いに先輩方から話を聞いたと笑いあっていると物間が再び動き始める。

 

 

「なんて事だ。情報に劣る憎きA組を出し抜くチャンスだった……がっ!?」

「憎くは無いっての。ごめんね、コイツ他に連れてくから」

「出来たらゴミ捨て場に捨てて二度と戻ってこない様にしてくれ」

 

 

再起動した物間が悪態を突こうとした所で拳藤が再度、手刀を落として物間を引き摺って行く。狂夜は割と本気で捨てて来てくれと思っていた。

 



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八百万家での勉強会

 

 

 

勉強会の為に八百万邸に来た狂夜、上鳴、瀬呂、尾白、耳郎、芦戸。案内された住所に来た狂夜達だが八百万邸を見上げ、口を開けてポカーンとしていた。何故ならば八百万邸はTVでしか見た事が無い様な大豪邸だったからだ。

 

 

「な、なあ間桐?……本当に此処で合ってるんだよな?」

「教えてもらった住所は間違い無く此処だ。敷地が広過ぎて地図が役に立たなかったけどな」

「ある程度の豪邸は予想してたけど、飛び抜け過ぎでしょ」

 

 

上鳴が確認の為に狂夜に話しかけ、狂夜は間違い無く八百万の家が此処だと答えた。学校で八百万から住所と地図を受け取った狂夜だが屋敷の敷地が広過ぎて玄関……と言うか入り口を探すのにすら一苦労だった。それは耳郎も同じだったらしく豪邸は予想していたが予想を遥かに超えた豪邸に驚いていた。

 

 

「インターホン鳴らすのも緊張するな……だが押さない訳にもいかん」

『まあ、皆さん!お待ちしておりました!中へどうぞ!』

 

 

狂夜がインターホンを鳴らすと八百万の嬉しそうな声が聞こえてくる。相当、待ち侘びていたのだろう。インターホンが切れると同時に豪邸の正門の柵がゆっくりと開き始める。

 

 

「私達、別世界にでも迷い込んだ?」

「今更ながら八百万のお嬢様っぷりを再認識させられた感じだな」

 

 

中へ入ったものの庭も豪華でリゾート地の庭園の様だった。少々気後れしながらも狂夜達は本邸へと招かれる。芦戸の言い分も尤もであり皆が狂夜の発言に頷いた。そして中に入ってから狂夜達は更に恐縮させられた。

 

通された部屋はドラマでしか見た事が無いような豪華な部屋で高級感溢れる調度品やデザインの良い椅子やテーブル。ハッキリ言って世界が違いすぎたのだ。

 

 

「なんか……場違いすぎて緊張してきた」

「お、俺も……」

「……見た感じだけど、この椅子もアンティークで多分相当高価な品だぞ」

 

 

尾白の呟きに瀬呂も同意する。狂夜は自身の知識から自分達が座っている椅子が高級なものであると告げると上鳴、耳郎、芦戸が緊張して身を硬らせた。

 

 

「皆さん、お待たせしました。お紅茶の準備も済んでおりますので」

 

 

台車付きのトレーに紅茶を乗せて運んできた八百万に皆が笑顔を出した。しかし、狂夜の表情は優れなかった。

狂夜はその絶大な知識から八百万の持ってきた紅茶用のカップやソーサーも値打ち物だと即座に理解していたのだ。その空気を察したのか上鳴達も少々表情が硬くなる。

 

 

「まあ、皆さん……お紅茶はお嫌いでしたか?」

「ああ、いや……このカップやソーサーが値打ち物の様な気がして緊張してたんだよ。それにその紅茶も最高級の奴じゃないか?」

 

 

狂夜達の浮かない表情に不安そうになった八百万。その場の全員を代表して狂夜が答えた。尤も上鳴達は固まっているので答えられるのが狂夜だけだったと言うのも理由ではあるが。

 

 

「高価なカップだし高級そうな紅茶とかで作法も詳しくないから皆、緊張して割ってしまわないか心配だったんだよ、な?」

「まあ、そうだったのですか!?でも、ご安心ください。普通のお客様用のカップですので」

 

 

狂夜が上鳴達に同意を求めると全員が首を縦に振った。その仕草に八百万も納得したのかクスクスと笑みを溢しながら来客用のカップだと説明し、上鳴達も安心して紅茶を飲み始めていた。

 

 

(来客用のカップとは言ったが……そもそも八百万の家に来る来客ならセレブとかの貴賓なんじゃないか?)

 

 

八百万家の交友関係を考えれば来客のグレードも違うだろうと狂夜は察していたが口にはしなかった。それを口にしたら上鳴達の表情は間違いなく固まるだろうと判断したからだ。

 

緊張の解けた狂夜達は八百万を先生として勉強を開始していた。尾白や瀬呂、耳郎は兎も角、狂夜、上鳴、芦戸は成績が悪いので苦戦はしていたが八百万が丁寧に教えこんで着実に解決していった。日も暮れる頃になると流石に疲れからか少々ダラケ気味になっていた狂夜達は疲れを隠そうともせずに帰路に着いていた。

八百万からは夕食の提案もあったが狂夜は自宅で自炊しなければならないし、そこまで世話になる訳にはいかないと断り、上鳴達もそれに習って今回は帰る事にしたのだ。

しょんぼりとした八百万に「今度、機会を見て皆で夕食を」とフォローを入れた狂夜達だったが、帰路に着いた皆の気持ちは「紅茶であれだけの物が出てくるんだから夕食に招かれたら間違いなくテーブルマナーが必要な物が出てくる。俺達にそんなキャパねーよ」と言った次第である。

 

 

今回の勉強会を経て狂夜達は危なげながらも筆記試験を無事に突破したのであった。



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期末テスト・演習試験

 

 

 

 

 

 

 

期末テストの筆記を無事に乗り越えた狂夜達は演習試験に臨んでいた。

 

 

「ねぇ、なんか先生の数多くない?」

「5.6.7……」

「なんか嫌な予感するな……」

 

 

耳郎がロボ戦にしては教員の数が多い事に首を傾げ、葉隠も人数を数え、狂夜は嫌な予感がしていた。

 

 

「さて、諸君等は事前に情報を仕入れて試験がロボと戦うと知っているだろうが……」

「少々事情が変わってな。試験内容の見直しがされた」

「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ。と言うわけで……諸君等にはこれから二人一組でこの場に居る教師一人と戦闘を行ってもらう」

 

 

教師陣から試験内容の見直しがされた事でロボ相手の楽勝ムードから一転して暗雲が立ち込め始める。

 

 

「尚、ペア組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度。諸々を含めて独断で組ませてもらったから発表をしていくぞ」

「げ、マジかよ……」

「荒れるなコレは」

 

 

相澤の口からペアが次々と発表されていき、その内容に全員が様々な思惑に悩まされる事になる。

 

イレイザーヘッドVS轟・八百万

オールマイトVS緑谷・爆豪

校長VS芦戸・上鳴

13号VS間桐・麗日

プレゼント・マイクVS口田・耳郎

エクトプラズムVS蛙吹・常闇

ミッドナイトVS瀬呂・峰田

スナイプv葉隠・障子

セメントスVS砂藤・切島

パワーローダーVS飯田・尾白

 

 

それぞれが苦手としている分野や上位互換の相手となった。中でもクラス全員が緑谷と爆豪の組みを心配していた。緑谷は兎も角、爆豪は緑谷を一方的に敵視していて不仲なのは周知の事実だからである。

 

 

「大丈夫かなぁ……デク君……」

「あっちも心配だが、俺等は俺等で頑張ろうぜ」

 

 

狂夜は麗日と共に別の演習場へと向かった。演習試験の内容は敵役の教師から逃げてゴールまで行くか、敵役の教師の捕縛となる。

 

 

「どうするん間桐君?」

「13号先生の個性を考えれば捕縛は厳しいな。近付く事も出来ないし。一気にゴールを目指して13号先生の妨害があったら二手に分かれて一方が足止めして、一方がゴールを目指す方針で行こう」

 

 

狂夜と麗日の個性は基本的に接近戦がメインだ。狂夜の個性での戦い方は徒手空拳による戦闘であり、麗日の個性は対象物に触れなくてはならない。逆に13号の個性は『ブラックホール』による吸引。つまり狂夜と麗日の個性とは相性が最悪なのだ。

 

 

『それでは演習試験を開始する!レディ……GO!!』

「おっと、スタートか。13号先生は移動力が低そうだし、速攻で決めよう」

「うん!」

 

 

アナウンスが入り演習試験が始まる。狂夜と麗日は同時に走り出す。建物の中に入り、13号に遭遇しない様に一気に駆け抜けていく。

 

 

「13号先生、おらへんな?」

「向こうも俺達を探して走り回ってるのかもな。それとも何処かで待ち伏せをしているのか……」

 

 

ゴールへ向けて走る狂夜と麗日だが13号の妨害が無い事を疑問に思いながらもうゴールは目前となっていた。

 

 

「麗日、ここまで13号先生が出て来ないって事は多分ゴール目前で待ち構えてる可能性がある」

「そやね、だったら一度立ち止まって様子を探る?」

「そう簡単にはいかないぞ!」

 

 

狂夜と麗日は一度立ち止まると様子を伺いながら少しずつ前に進む。ゴールが見える距離になっても13号の姿は無い。そう思って一気に駆け抜けようとした狂夜と麗日の前に13号が現れた。

 

 

「ヤバっ!?走れ、麗日!」

「う、うん!」

「逃さないぞ!」

 

 

13号と遭遇し、戦闘よりも離脱を優先した狂夜は麗日に促し、麗日も一気に走り抜ける。13号は個性のブラックホールを指先から展開し、狂夜と麗日を捉えようとする。

 

 

「うおりゃ!」

「僕の個性は知っているだろう?効かないぞ!」

「あかん、全然効果があらへん!」

 

 

狂夜は走り回りながら拾った瓦礫や鉄パイプを個性を発動させながら全力投球するが13号のブラックホールに吸い込まれてしまい、足止めにもならなかった。

 

 

「私等と相性悪すぎやろっ!」

「んじゃ単純に走り抜けんぞ!一気にゴールまで走り抜けろ!」

「あ、待て!」

 

 

13号の個性に自分達の個性は相性が悪い事は知っていたが唯一の抵抗が足止めにもならない事にショックを受けながらも機動力の低い13号を相手にするよりも一気に走り抜けてゴールを目指す事にした狂夜と麗日。

13号は慌てて追おうとするが単純に足の遅さで遅れを取っていた。狂夜と麗日の足は速く一気に13号との距離が空いて行く。

 

 

「このまま一気に……ってヤバっ!?捕まれ麗日!」

「え、うひゃあっ!?」

 

 

一気に走り抜けた事でゴールまで後一歩と言う所まで来たが狂夜は背後から来る気配に危険を感じ、麗日の手を引くとゴール脇の鉄柵に押し出した。狂夜の叫びに麗日は咄嗟に鉄柵に捕まった。それと同時に麗日は背後から吸い寄せられる感覚を覚えた。鉄柵に捕まりながら振り返ると13号が個性を使用しながら追い付いていた。

 

 

「危ない、危ない……逃さないぞー!僕は戦闘が苦手だけど捕物には一家言あるんだ!」

「あ、後少しだったのにー!」

「そんな簡単にはいかないか……」

 

 

狂夜と麗日は鉄柵に捕まりながら13号の個性に吸い込まれない様に必死になっていた。このままではゴールも出来なければ13号に逆に確保されてしまうのも時間の問題だった。

 

 

「こりゃヤバいな……どう切り抜けるか……ん?」

「どうしよう……どうする……ク君なら……」

 

 

狂夜がこの状況下をどう攻略するか悩んでいると隣では麗日がブツブツと言っていた。その姿は明らかに考え事をしている緑谷だった。

 

 

「なあ、麗日……」

「何!?今どうするか考え……」

 

 

狂夜が話し掛けると麗日が叫ぶ。考えるのに必死で周りが見えてないのも、ある意味緑谷と同じだと狂夜は思っていた。

 

 

「その感じだと、緑谷ならどうするか考えてたみたいだな。緑谷は確かに土壇場での閃きが凄いとは思うが……その様子だと随分と緑谷に惚れ込んでるみたいだな。好きが溢れてんぞ」

「え、へ……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「え?うわっと!?」

 

 

狂夜の発言に麗日の顔は真っ赤になり、掴んでいた鉄柵を離して自身の頬に当ててしまう。そうすれば当然、13号のブラックホールに吸い込まれて行ってしまう。突然、吸い込まれに来た麗日に13号は慌てて個性を解除した。更に麗日はその隙を見逃さず、覚醒した。ガンヘッドの下で学んだ格闘技術が花開いたのだ。麗日は13号を一瞬で組み伏せた。

 

 

「なんの、まだ僕の個性は使え……痛っ!?」

「させるかっ!」

「確保完了!」

『間桐・麗日ペア条件達成!』

 

 

組み伏せられた13号は再度個性を使用して麗日を引き剥がそうとしたが狂化により素早さを増した狂夜が麗日が抑えている腕とは反対の腕の関節を極めた。動きを封じられた13号に麗日はカフスを取り付けて完全に13号の確保を完了させた。

 

 

「あ、危なかった……ブラックホールに飛び込むとか危な過ぎんだろ麗日」

「ギリギリやった……って間桐君の所為やん!?」

「二人とも、合格には違いないけど危ういよ。相手の個性に立ち向かうのは間違いじゃないけど、やり方は考えようね」

 

 

狂夜と麗日は確かに13号の確保には成功したが、攻略の仕方はめちゃくちゃな内容だった為に早速、13号からお説教が入っていた。そして狂夜と麗日は試験の条件達成を果たしたのでモニター室へと移動となった。

 

 

「なあ、麗日。緑谷との事で悩んだら相談には乗るぞ」

「〜〜〜〜っ!!?」

 

 

モニター室へと向かう道中。狂夜は麗日にコソッと一言告げてから先に行き、麗日は緑谷との事を指摘されて再度顔を真っ赤にするのだった。

 

 

 



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赤点発表と妹の話題

 

 

 

演習試験の翌日。A組クラス内では神妙な空気が流れていた。ホームルームが始まる前の時間だが上鳴、芦戸、切島、砂藤が涙目になって立ち尽くしていた。

演習試験で条件達成が出来ずクリア出来なかった者達である。

 

 

「みんなの……思い出話ひぐっ……楽しみに……うぅ……じでるがらねぇ……」

「芦戸はガチ泣きし過ぎだろ」

「まっ……まだ分からないよ。どんでん返しがあるかも知れないよ……」

「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ」

 

 

芦戸に至ってはガチ泣きをしており、狂夜がツッコミを入れ、緑谷が慰めようとするが瀬呂が反論する。

 

 

「試験で赤点取ったら林間合宿に行けずに補修授業!そして俺等は実技クリアならず!これでまだ分からんのなら貴様等の偏差値は猿以下だ!」

「落ち着け、長げぇよ」

「そして急所を突くな」

 

 

上鳴は叫ぶと共に緑谷の目を突く。その行動に瀬呂と狂夜はツッコミを入れた。

 

 

「わからねぇのは俺もさ。峰田のおかげでクリアはできたものの、途中から寝てただけなんだぜ?」

「確かに瀬呂の判定も今一わからないよな。で、先生の膝枕はどうだった?」

 

 

瀬呂は果たして赤点なのか、それとも合格できているのか。確かに峰田のお陰でクリアしたものの合格とは言われていない。ミッドナイトの個性で眠らされた後で膝枕されていただけなのだから。

狂夜の質問に瀬呂は「寝てたからそっちも分からない」と少々残念そうだ。

 

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 

バンッと相澤が教室に入り教壇に立った。先程までの騒がしい雰囲気から一転して静かになる教室。

 

 

「諸君、おはよう。今回の期末テストだが……残念ながら赤点が数名出た。したがって……林間合宿は全員行きます」

「「「「どんでん返しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

 

 

相澤の口から、どんでん返しの一言が飛び出し騒然となる教室。誰もが予想してなかった事態に驚いた。

 

 

「筆記試験では赤点ゼロだが実技試験では上鳴、芦戸、切島、砂藤そして瀬呂が赤点だ」

「行っていいんすか、俺達!?」

「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんなー……クリア出来ずの奴よりも恥ずかしいぞ、これ……」

 

 

相澤の説明に切島が反応し、瀬呂は両手で顔を隠しながら呟いた。確かにペアで試験をクリアしたら合格とは一言も言っていない。

 

 

「今回の試験は我々敵側を演じた教師に生徒達の勝ち筋を残しつつも、どう課題に向き合うかを見させてもらった。でなければ、今の実力じゃ合格出来なかった奴等も多いだろうからな。実際、詰んでた奴等も多かっただろ

「じゃあ本気で叩き潰すというのは……」

 

 

相澤から採点基準となる指針が話される。尾白は教師陣が本気で叩き潰す宣言をした事にある程度の予想は出来たものの疑問を口にせずに居られなかった。

 

 

「当然追い込むためだ。事前に仕入れた様なロボ戦みたいな演習内容だったらお前らは必死にすらなんねぇだろ?そもそも林間合宿はお遊びに行くんじゃなくて強化合宿だ。赤点を取る様な奴ほど、ここで力をつけてもらわないと困るんでな。ようするに……合理的虚偽って奴さ」

「「「「「ゴーリテキキョギィィィィィっ!」」」」」

「またしても……またしてもしてやられた!さすが雄英だ!ですが、二回も虚偽を重ねられると今後の信頼が揺らぐのではないかと思われます!」

「わあ、飯田君水刺す」

 

 

相澤の発言に上鳴、芦戸、切島、砂藤、瀬呂が喜びと驚愕に叫び、飯田が席を立ちながら相澤に進言し、麗日がツッコミを入れた。

 

 

「飯田の意見は尤もだ、省みるよ。だが、全部は嘘ではない。赤点は赤点だ。赤点者達には別途に補習時間が設けられている。ぶっちゃけ学校に残って補修の方が良かったと思える程度にはキツいからそのつもりでいる様に。合宿のしおりを配るから良く目を通しておくようにな」

 

 

それを聞いて喜んでいた赤点五人組みの動きがピタッと止まる。そして徐々に悲しい顔になっていった。その後、淡々と相澤が夏休みの注意事項や強化合宿の話が進められて行くが赤点五人の顔が晴れる事はなかった。

 

 

「まぁ、なにはともあれ……全員で合宿に行けるのはよかったね」

「そうだな。居残りがいたら俺等も合宿に行きずらかった」

「うん……でも、ちょっと心が痛い」

 

 

尾白と狂夜の発言に複雑な気持ちながらも頷く一同。しかし、赤点五人のメンタルは若干傷付いた様だ。しかし凹んでばかりもいられず、クラス内で、しおりを見ながら話し合う姿が見られる。着替えなどの荷物や待ち合わせていない物を考えるとそこそこの量になる。各自で何を持っていくかで討論が交わされていた。

 

 

「水着とか持ってねーや。買っておかないとな」

「暗視ゴーグルも必須だぜ!」

「お前の場合、用途が間違ってんだろ」

「一週間だから結構大荷物になりそうだ」

「あ、じゃあさ。明日、休みだしテスト明けも含めて皆で買い物行こうよ!」

 

 

A組内で足りない物の話をあれやこれやと離している最中、葉隠の提案に皆が顔を上げた。

 

 

「お、いいじゃん。何気にそう言うの初じゃね」

「爆豪、お前も来いよ?」

「行ってたまるか、クソが」

「轟君も行かない?」

「悪い、休日は見舞いなんだ」

「空気読めやKYイケメン共が!」

 

 

上鳴が真っ先に賛同し、切島が爆豪を誘うが速攻で断られていた。緑谷も轟を誘うが、轟は母の見舞いの為に断り、団体行動をアッサリと乱した爆豪と轟に峰田がツッコミを入れた。

 

 

「間桐さんは如何なさるのですか?」

「明日は元々買い物に行く予定だったから行くよ。ああ、でも妹も一緒になるけど良いか?」

「え、間桐の妹!?」

「興味あるね、ちょっと見てみたいけど」

「お父さんは前に見たもんね!妹さんも見るの楽しみだ!」

 

 

八百万から明日の予定を聞かれた狂夜は元々買い物の予定だったから丁度良いと考えていた。ただし日用品の買い物もあったので妹の桜も同伴させようとは思っていて、その提案に芦戸、耳郎、葉隠が食い付いた。

 

 

「妹さん、前に可愛い子だって聞いてたから、ちょっとワクワクしちゃうわ」

「うむ。家族を大切にするのは大事だ!」

「間桐の妹か……血肉を分けし妹が如何なる存在か」

「盛り上がってる所、悪いけど俺と桜は血は繋がってないからな?んじゃ明日」

 

 

普段この手の話題に乗らなそうなクラスメイトである蛙吹、飯田、常闇でさえ妹の桜の事を想像して気になっている様子だった。そんな中、狂夜は桜との関係を暴露してから教室を出て行った。

 

 

「待て、そんなサラッと言う事じゃないだろ!」

「何とんでもない事をカミングアウトしてんだ!」

 

 

切島と上鳴のツッコミを聞きながら狂夜は颯爽と帰路に着いていた。明日の買い物に行くメンバーは明日の待ち合わせまで様々な事を想像して夜は中々寝付けなくなってしまうのだった。

 



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間桐家の事情

 

 

 

ショッピングモールに到着した爆豪、轟の両名を除いたA組。皆が揃って買い物をする一大イベントの筈だが、皆の視線はA組ではない者に向けられていた。

 

 

「は、初めまして間桐桜です。本日は皆さんとお買い物をご一緒させて頂きます!」

「「「可愛い〜っ!!」」」

 

 

A組全員が狂夜と共に来た妹の桜に興味津々であり、緊張しながら挨拶をした桜に芦戸、葉隠、麗日が桜に抱き着いた。

 

 

「マジで可愛いな、間桐の妹」

「おっぱいもこれから大きなっ……へぶっ!?」

「最低ね峰田ちゃん」

「自慢の妹だよ。それとありがと梅雨ちゃん」

 

 

上鳴が桜を誉めたのはまだ良いが峰田は邪な目を向けて最低な発言をしたので蛙吹の舌が峰田の頬を叩いた。桜を誉められたのは純粋に嬉しいが峰田の発言は許せなかった狂夜は蛙吹に礼を言いながら峰田にアイアンクローを極めていた。

 

 

「それで間桐……その……」

「ああ、俺も桜が血が繋がってない話だろ?因みに親父とも繋がってねーよ。俺は元々捨て子だったのを親父が引き取ってくれて、桜はある家から間桐の家に養子に出されたんだよ。その頃は爺さんが存命で遠縁の家と交流があったかららしいが」

「この間も言ったけどサラッと言う話題じゃないからな!?」

 

 

尾白が聞きにくそうに狂夜に家族の話題を振ると狂夜は何事も無かった様に答え、上鳴がツッコミを入れた。

 

 

「正直、桜の自意識が芽生えるかどうかくらい小さい時の話だからな。俺もガキの頃の事でよく覚えてないし、桜の元の家との交流もないしな。なんでも、その家は家訓が『常に優雅たれ』らしいんだが代々『うっかり』が酷いらしくて没落したとかなんとか」

「物凄く重要な事が凄く曖昧になってない?」

「兄さんの言うとおり、私の元の家の事は分からないんです。でも私は兄さんやお父さんと一緒に暮らせて幸せですから」

 

 

狂夜の説明に耳郎がツッコミを入れる。芦戸達に絡まれていた桜が会話に加わり、今が幸せである事を告げると涙脆い切島を筆頭に全員が目頭を抑えるか目眩を起こしたかの様なリアクションになる。

 

 

「良い子だ……凄い良い子だよ」

「桜さん……」

「ケロッ……」

 

 

先程は桜に抱き付かなかった耳郎、八百万、蛙吹も桜を甘やかしに入った。八百万に至っては目の端に涙を溜めて力強く桜を抱き締めていた。

 

 

「桜のそう言う所に俺も親父も救われてるんだよ。尤も俺や桜の存在が親父の負担になってないか心配だけどな」

「そういや体育祭の時にスタンドに居たな間桐の親父さん」

「轟の所とは違った意味で家庭に問題あんな間桐の家って」

 

 

女子達が桜を離しそうにないので男子グループは会話を続ける。狂夜の発言に上鳴が思い出した様に呟き、砂藤がクラス内の家庭環境に微妙に闇がある事にタラリと汗を流したら、

 

結局、桜の事に感涙した女子達と男泣きをしてる切島が落ち着いてから各自、買いたい物のグループに分かれて行動する事になった。

 

 

 



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ショッピングモールでの接敵

 

 

 

それぞれが買いたい物が別々なので各グループに分かれて買い物をする事になった狂夜達。

狂夜は桜と共に行動をし、耳郎と八百万も一緒に行動をしていた。

 

 

「この間も思ったけどさ……間桐って重い話を軽いノリで話すよね」

「重く話そうが軽く話そうが事実は変わらんだろ。だったら軽く話した方が相手も受け止めやすい。昔っから家族の話は何度もしてるからな。この方が楽だって思ってんだ」

「兄さんはその辺り、達観してますから。それに私もそう思いますし」

「間桐さんは……いえ、ご家族皆さんで乗り越えて来られたのですね」

 

 

大きめのキャリーバッグを品定めしながら会話は未だに間桐家の事だった。耳郎や八百万は間桐家が血は繋がらなくても濃い絆があると感じていた。

 

 

「ま、そう言う事だから俺らの事は気にすんな。お、これいいな」

「このサイズでこの値段ならお手頃ですね。お父さんから貰った予算内ですし」

「あ、それ良いね。ウチもこれにしようかな」

「デザインなら此方の方が良い気もしますが。他にも見てみましょう」

 

 

狂夜が手にしたキャリーバッグに桜、耳郎、八百万はそれぞれの意見を出しながら他の物もチョイスをする。そんな中、狂夜は視界の端に麗日を見つけた。

 

 

「んー……あの感じ。面白くなりそうだ」

 

 

顔を赤くしながら早足でショッピングモールを歩く麗日に狂夜は緑谷との事で面白い展開になっているのだろうと確信をしていた。この時、狂夜は『面白い事が起きそうだから見に行こう』と思った。それから行動は早かった。

 

 

「悪い、ちょっと桜と一緒にいてくれ。理由は後で話す」

「兄さん?」

「ちょっと間桐?」

「理由を後で話されるなら桜さんはお任せ下さい」

 

 

その場を後にしながら桜の事を耳郎と八百万に任せた狂夜は麗日の後を追った。人混みで見失いそうになったが、無事に麗日を見つけた狂夜は麗日の視線の先に緑谷が居るのだろうと視線を向けた。

緑谷は確かに居た。だが、フードを目深く被った男と一緒に居た。一見仲が良さそうに並んで座っている様にも見える。狂夜はその人物の顔が見えた訳ではないが、その人物が放つ雰囲気が自身の知るヤバい奴と一致していた。頭の中で警報が鳴り響いた狂夜は一気に距離を詰めた。

 

 

「デクく……ん?お友達じゃ……ないよ、ね?」

「だ……駄目だ、麗日さん!来ちゃ……」

「下がれ麗日。随分と大胆な事してんな。この間の一件でお尋ね者のポスターに載ってる様な奴がショッピングモールで買い物してんじゃねーよ」

「ごめんごめん。連れが居たのか。俺はもう行くよ。わかってるとは思うけど後を追おうなんて考えんなよ」

 

 

麗日が緑谷と男に話しかけながら歩み寄ろうとしたが狂夜が隣に立ち、麗日の歩みを手で制した。男はニカっと笑うと緑谷を解放して立ち上がる。

 

 

「待て死柄木……オールフォーワンは何が目的なんだ」

「さぁね…… 知らないな。それにしてもお前も居たとはな。緑谷といい、お前といい……殺したくてイライラする奴が揃ってるなんてな……」

 

 

緑谷は男……死柄木に問い掛けるが死柄木は「知らない」と答え、狂夜の隣に並び立つとギョロッと睨む。

 

 

「緑谷が何を聞きたかったのか知らないが、その辺りも聞きたいからお茶でもどうよ?」

「せっかくのお誘いだが遠慮しとくわ。それよりも次、会った時は殺し合いだから覚悟しとくんだな」

 

 

狂夜の問い掛けに死柄木は視線を外しながら去って行く。狂夜は死柄木を殴り飛ばして人混みから離れた所までブッ飛ばそうかとも考えたが他に敵連合がいるかも知れない可能性があると思い踏み止まった。

去っていく死柄木の背を見ながら狂夜は周囲の警戒をした。それこそ他のヴィラン連合が居るかも知れないのだ警戒を怠る訳にはいかない。完全に死柄木の姿が見えなくなった後、振り返ると麗日が緑谷に寄り添いながら電話をしていた。

 

 

「もしもし警察ですか!?ヴィランが……はい、場所は……」

「悪いな、麗日。全部任せちまったな」

 

 

この後、麗日が呼んだ警察とヒーローがショッピングモールに到着し、ショッピングモールは一時閉鎖された。

死柄木の捜索が即座に実行されたが見つからず、直接接触した緑谷、麗日、狂夜は事情聴取の為、警察署へと連れて行かれた。

ある程度、会話をした緑谷と違って麗日と狂夜は死柄木とはろくに会話をしていない。だが、それでも事情聴取はされるもので拘束時間も長いものだ。事情聴取が終わる頃には辺りは暗くなっていた。

 

 

「やれやれ……長くなったな」

「兄さん!」

「間桐!」

「間桐さん!」

 

 

ボヤきながら警察署のロビーに出ると桜、耳郎、八百万が駆け寄ってくる。どうやら狂夜が事情聴取が終わるのを待っていた様だ

 

 

「あれ?桜は兎も角、耳郎と八百万も残ってたのか?」

「他のみんなは帰されたし、ウチ等も帰る様には言われたけど桜を一人には出来ないでしょ」

「桜さんの事を間桐さんにも任されましたし、気になりましたので」

 

 

桜は家族として警察署に残っており、耳郎と八百万は付き添ってくれていた。

 

 

「兄さん、兄さん……っ!」

「おい、桜!?」

「間桐の事、心配してたんだよ。ずっと震えてたんだから」

「私達に出来るのは寄り添って声を掛けてあげる事だけでしたけど……」

 

 

桜は狂夜に抱き付いて涙を流し、耳郎と八百万は桜の為に残っており、耳郎は桜の頭に手を添えて、八百万は桜の背を撫でた。

この後、桜は落ち着くまで狂夜に抱き付いており、耳郎と八百万はそれぞれ家族が迎えに来たので帰って行った。と言うよりも二人は桜の為に家族が迎えに来ても待って欲しいと言っていたらしい。

 

狂夜と桜は雁夜が迎えに来るまで耳郎と八百万の家族と共に過ごし、雁夜が警察署に到着した後に自宅へと帰るのだった。

 

 

翌週、緑谷、麗日、狂夜がヴィラン連合と接敵した事で夏休み中の林間合宿が行き先変更となり、行き先も当日まで明かされない運びとなった。

 



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夏休みの予定は計画的に。

 

 

 

 

 

担任の相澤から林間合宿の行き先変更が告げられ、終業式を終えた雄英高校一年A組はそれぞれの予定を組みながら雑談に興じていた。

 

 

「しっかし夏休みに入るのに遊びにも行けないのはツラいぜ」

「雄英襲撃事件にヒーロー殺し、ヴィラン連合のショッピングモール騒動と立て続けだったからな。仕方ないと言えば仕方ない」

 

 

上鳴と狂夜はダラダラと話をしながら下校準備をしていた。話題は勿論、夏休みの行動についてだ。

 

 

「夏休みに入ってから学校のプールの使用申請は出したけど、遊べる機会がそれだけってのは悲しいぜ」

「プールの使用許可か、そりゃ盲点だったな。俺は家族旅行の予定だったから、その発想は無かったわ」

 

 

上鳴が学校のプールの使用申請を出してる事に驚きつつ、狂夜は自身のスケジュールを明かした。

 

 

「旅行?遠出は駄目なんじゃなかったっけ?」

「行き先の指定や理由次第で許可が下りるみたいでな。ちゃんと行き先を告げて、ヒーローが居るかどうかの有無も大事みたいだけど、行くところにはその心配がなくてな。因みに行き先はI・アイランドだ」

 

 

上鳴の疑問は尤もである。そもそも最近物騒であるから家族旅行や遠出が禁じられたのに家族旅行の申請を出してアッサリと許可が降りた狂夜に疑問を抱いていると狂夜はパンフレットを取り出した。そこにはI・アイランドが掲載されている。

 

「マジかよ!?なんで間桐が行けるんだ!?これってヒーローや研究者しか行けないんじゃなかったっけ!?」

「親父がカメラマンだろ?『良かったら、ご家族で』ってチケット貰ったんだよ。それで遠出の家族旅行とヒーローコスチュームの申請出したら通ったって事だ」

 

 

巨大人工移動都市『I・アイランド』とは世界中の科学研究者達の英知が集まった人口島で、個性やヒーローアイテムの研究成果を展示した個性技術博覧会『I・エキスポ』が開催される事になっている。当然ながらゲストとしてヒーローやスポンサー、取材陣も招かれ事となっていて、狂夜の父である雁夜はカメラマンである事からチケットを貰ったらしく家族旅行として皆で行く事が決まったのだ。

その事もあり、狂夜は家族旅行とヒーローコスチュームの申請を相澤に提出しており、許可は無事に降りていたのだ。

 

 

「マジかよー……羨ましい。俺もI・アイランドに行きたかったぜ……」

「だったらバイトで行ったらどうだ?I・エキスポ中はバイト募集してるみたいだし、ヒーローも沢山来るから警備も万全だし許可が下りやすいかもしんないぜ?」

 

 

項垂れる上鳴に狂夜はパンフレットとは別の紙を差し出した。そこにはI・アイランドのバイト募集を募る広告が記載されていた。

 

 

「おおっ!サンキュー間桐!よっしゃ、申請出してくるわ。またな!」

「おー、上手くやれよ」

 

 

バタバタとバイト募集のチラシを持って上鳴は行ってしまう。あの様子ではI・アイランドにバイトで行くのは間違いないだろう。

 

 

「さて、と。そろそろ……」

「狂夜くーん、一緒に帰ろ?」

 

 

鞄を肩に掛けたタイミングでA組の扉が開かれ、ねじれが元気良く入ってくる。グッドタイミングと狂夜はそのまま教室の出入り口へと向かう。

 

 

「帰りましょっか、先輩」

「うん!」

 

 

狂夜から差し出された手をねじれが笑顔で取る。そして手を繋いだまま狂夜とねじれは教室を出て行った。

 

 

「やっぱやっぱ、あの二人って!」

「だよね、だよね!」

「気にはなるけど聞きにくいよね」

「ケロ……詮索するのは良くないわ」

「いけない事とはわかってはいるのですが興味深いですわ」

「うぅ……やっぱ間桐君て進んでるんやなぁ……」

 

 

葉隠、芦戸、耳郎、蛙吹、八百万、麗日の順で盛り上がるA組女子。麗日に関しては緑谷の事を指摘された分、尚更意識してしまっているのかも知れない。

 

峰田が血の涙を流していたのは言うまでもないだろう。



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先輩とプールのお誘い

 

 

 

狂夜は自室で荷物を纏めていた。来週、行く予定のI・アイランドと林間合宿の為の荷造りである。

 

 

「むー……狂夜君だけズルい……」

「家族旅行と林間合宿なんですから……俺も夏休みに先輩と遊びに行けないのは残念ッスけど」

 

 

狂夜の自室に入り浸ってるのは夏休みに入り、暇を持て余しているねじれだった。ねじれは狂夜と背中合わせに座っており、ぐりぐりと頭を狂夜の背中に押し付けていた。

狂夜はその重みを心地よいと思いながらも苦笑いで答えた。

一緒に居たいと思う気持ちは勿論あるが家族旅行と林間合宿では一緒に居るなんて出来そうにない。ねじれもそれは分かっているからこそ、この態度なのだろう。

 

 

「先輩も一緒に過ごせるなら良かったんですけどね。でも、学校行事でも学年が違うと……お?」

 

 

ねじれの機嫌回復の為にこれからデートでも……と考えていた狂夜だったがスマホにメールが来た。内容を確認して見ると緑谷からで『上鳴君と峰田君が学校のプールで強化訓練の申請をしたから来ない?』との事だった。

 

 

「学校のプールで強化訓練か、面白い事を考えたな……っと!?」

「プール……」

 

 

狂夜の肩にねじれが顎を乗せてスマホを覗き込んでいた。目はキラキラと輝いており、表情からは期待が溢れていた。

 

 

「えーっと……体力強化の目的なんで遊べるかどうかは……」

「むーっ……」

 

 

狂夜が苦笑いをしながら学校のプールに一緒に行っても遊べないと告げると、ねじれは分かりやすく頬を膨らませていた。

 

 

「緑谷がメールを寄越したって事はA組全員にメールしたかな……ちょっち待ってて下さい、先輩」

 

 

狂夜はねじれの機嫌回復の為と遊びたい気持ちから、ある人物に電話をする事にした。

 

 

「ああ、もしもし?今大丈夫か八百万?」

『はい、どうされたのですか間桐さん?』

 

 

間桐が電話をしたのは八百万だった。

 

 

「さっき緑谷から学校のプールで強化訓練をしないかってメールが来たんだが女子達の方にも来なかったか?」

『はい、緑谷さんからメールは頂いていましたけど、私達は日光浴でプールの使用申請をしていましたので……』

 

 

緑谷からのメールはやはりA組女子にもメールが行っていたらしい。狂夜はそれに便乗して、ねじれも同伴出来ないかと考えたのだが女子達は女子達でプールの使用申請を取っていたらしい。それを聞いた狂夜は好都合だと考えた。

 

 

「だったら女子達のプール使用申請をもう一人追加申請してくれないか?ねじれ先輩も一緒に連れて行って欲しいんだ」

『ねじれ先輩とは間桐さんの先輩でしたわね。そう言う事でしたら学校には私から連絡させて頂きます』

 

 

狂夜はねじれの事を八百万に任せた。女子達が日光浴で使用申請をしているのなら、学年は違うがねじれも入れないかと考えたのだ。対する八百万も快く引き受けてくれたので狂夜は「頼む」と一言添えてから通話を切った。

 

 

「つー訳で、先輩。一緒にプールに行きませんか?学校なんで指定の水着着用になるから一旦、先輩の家に……」

「うんうん!行こう!」

 

 

狂夜の言葉を遮ってねじれは狂夜の手を取り、嬉しそうにしていた。こんなに喜んでくれるなら誘って八百万にも頼んだ甲斐があると狂夜も笑みを溢す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

狂夜からの頼まれ事を担任の相澤に伝えると『学年は違うが雄英生でもあり、先輩の波動なら問題はない。プールの使用時間は守れよ』と注意を促されながらも許可を得た八百万はホッとした。まずは狂夜からの頼まれ事をクリアしたのだから。

そして、その事を狂夜にメールで伝えた後、A組女子にも『本日の日光浴に先輩が一人参加されます。間桐さんの先輩の波動ねじれ先輩です。皆様もよろしくお願いします』も送った。直後に芦戸や葉隠から『間桐の彼女!?話聞かなきゃ!』『間桐君、学校のプールで先輩とデート!?』と驚きと恋バナに期待するメールが届いた。

 

 

「そう……波動先輩は雄英の先輩……是非ともお話しをお聞きしなければ」

 

 

その聞きたい事とはヒーローとしてなのか、恋バナ的な意味なのか。既に芦戸と葉隠は恋バナを聞く気満々だ。

 

その辺りはヒーローを志す者とは言っても女の子なのである。八百万だって話は聞きたいのだ。



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プールへ

 

 

 

「よーっす。女子達は全員勢揃いか」

「男子達はこれからでしょ?」

「その人が間桐君の彼女?!お話、聞きたーい!」

「ケロ、先輩なのよね?」

「男子側のプールって上鳴と峰田が企画したんでしょ?あの二人が訓練を申し出るって怪しいんだけど……」

「デク君達も一緒らしいから本当に訓練ちゃうん?」

「波動先輩のプール申請も許可が下りました。ご一緒にどうぞ」

 

 

ねじれと共に雄英高校に対着した狂夜は既に揃っていたA組女子に挨拶をするとそれぞれに今回のプールに対する話が上がる。対するねじれは狂夜の服の裾を引く。

 

 

「皆、狂夜君のクラスメイト?」

「ええ、皆良い奴なんで安心して……先輩?痛いっス」

 

 

ねじれはA組の女子達の顔を見回した後に膨れっ面になり狂夜の背をパシパシと叩き続けた。その様子にA組女子達は全員が含みのある笑みを浮かべていた。

中でも芦戸がねじれの背後に回り込むと耳元で囁く。

 

 

「初めまして波動先輩……ご安心を。私達、本当にただのクラスメイトですから。先輩から間桐は取りませんよ」

「むー……」

「さぁ!行きましょ行きましょ!」

「先輩、なんか勘違いを……」

「む、もう来ていたのか間桐君!荷物を運ぶのを手伝ってくれたまえ!」

 

 

芦戸の囁きにねじれは狂夜を睨みながらも葉隠に背中を押されながら校内へと入って行った。狂夜はねじれがA組女子に対して何か誤解をしていると感じ誤解を解こうとしたがタイミング悪く荷物を抱えた飯田が狂夜を呼び止めた為に叶わなかった。

軽くため息を溢しながらも飯田の抱えていた荷物を受け取る。

 

 

「なんだよ、コレ?」

「スポーツドリンクやジュースの差し入れだ。熱中症の事も懸念しなければならないからな!俺達は皆が来る前に準備を済ませよう!」

 

 

大量のスポーツドリンクやジュースを折半して持ちながら狂夜と飯田も更衣室へと向かう。どうやら他の皆が来る前に準備万端にして集まり次第、即訓練しようと考えているのだろう。真面目ここに極まる。

 

 

「あの調子じゃ先輩、絶対誤解してんだろーなー。そして無駄に誤解されて不機嫌になって割を食うのは間違いなく俺っと。ったく……俺は先輩一筋だっての」

 

 

更衣室で着替えを済ませた狂夜は先程のねじれの不機嫌な様子を考えていた。あの様子では誤解され疑われて互いの関係に亀裂が入りかねない。

そんな不安を抱えていた狂夜の思いは……

 

 

 

「あ、狂夜君。あの子達、皆良い子だね」

「なんスか、その変わり身。お前等、先輩に何を話した。そして、そのニヤニヤはなんだ」

「べっつに〜?」

「いやぁ、間桐君も進んでるねぇ」

「ロックだね、間桐」

 

 

アッサリと許されたのだった。ねじれは嬉しそうに狂夜の手を取り、芦戸・葉隠・耳郎が超ニヤニヤしていた。葉隠の姿は見えないが声音からニヤニヤしていると察するのは容易かった。

 

 

「あの……私達の方でフォローさせていただきました。波動先輩が間桐さんと私達の事を疑っていた様でしたので訂正を……」

「ケロ……過激ね、間桐ちゃん」

「間桐君……やっぱり相談させて貰っても良い?」

 

 

モジモジとしながら八百万・蛙吹・麗日がコソッと話しかけてきた。この時点で狂夜はねじれが口を滑らせて言わなくても良い所まで話したな、と確信した。恐らく八百万達のフォローを受けた後に気を良くして口が軽くなったのだろう。

年頃の乙女に恋愛話は最高のアルコールとなった事だろう。話した側も聞いた側も浮かれているのが目に見えた。

 

 

「じゃあ先に行くね」

「男子達も揃ってきたみたいじゃん」

「後でねー」

「皆、準備運動を忘れるなよ!」

 

 

ねじれを含めたA組女子達は先にプールへと纏まって移動して行った。飯田が女子達にプール前の準備運動を促しながら更衣室から出てくる。

その出立は水着に水泳キャップにゴーグルとフル装備だった。

 

 

「真面目だな、飯田」

「水難事故等を考えれば当然の処置だ!」

「間桐、飯田。早いな」

「緑谷達はまだなのか?」

 

 

いざ、プールへ行こうと飯田が持参したクーラーボックスを担いだ狂夜だったが同時に後ろから声を掛けられる。振り返ると轟と瀬呂が来ていた。

 

 

「緑谷達はまだ来てないぞ。ま、言い出しっぺだし、そのうち来るだろ。女子達はもうプールへ向かったぞ。お前達も着替えたら早く来いよ。訓練なんだからな」

「その格好は明らかにツッコミ待ちだろうが!」

 

 

狂夜は水着に着替えたもののサングラスにアロハシャツを着ており、訓練に臨む者とは思えず明らかにバカンスに行く姿だった。クーラーボックスを持っているのもそれに拍車を掛けている。パラソルかスイカでも持っていたら役満状態だっただろう。

 

 

「間桐君!訓練なんだぞ、なんだその格好は!?」

「日差しで目を悪くしない為のサングラスと体が冷えない様に上着を用意したんだ。対策だよ」

 

 

当然ながら飯田からツッコミが入るが狂夜の言い分に「それは……確かに」とアッサリと言含められ、瀬呂から「論破されんなよ!」とツッコミが入ったのだった。

 

 

 



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プールへ②

こんなに長くプール回をする気はなかったのですが何気に長くなっちゃいました。


 

 

女子達はプールてサイドで準備体操をしていた。その間に男子達もゾロゾロと集まり始め、来ていないのは緑谷、上鳴、峰田、爆豪、切島となっていた。

 

 

「やっぱ皆、来てんだな」

「そりゃ夏休みに何処にも遊びに行けないってなればそうだろ。プールで訓練って言っても半分は遊びに来てる様なもんだし」

「って言うかなんでアロハ?」

 

 

瀬呂の発言に狂夜は同意し、尾白から地味に服装に関してのツッコミは貰った狂夜。確かに訓練の名目ではあるが、夏休みに学校でプールとなれば気持ち的には遊び心も出るだろう。事実、女子達は日光浴でプールの使用許可を得ているのだから。

そんな話をしていると上鳴と峰田がプールに走り込んできたと同時に崩れ落ちた。女子達を見て沈んでいる辺り、女子達の水着姿が目当てだったのは目に見えている。

 

 

 

「やあ、上鳴君、峰田君。夏休みに学校のプールで訓練とは盲点だったよ。さあ、訓練に勤しもう!」

「ちょ、待……飯田!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!めっちゃ筋肉質!?」

 

 

飯田は上鳴と峰田の提案に感銘しており、二人を抱き上げると訓練しようと連れて行ってしまう。当然ながら女子達の水着目当てだった上鳴と峰田の目論見は崩壊しており残念な気持ちのまま追い打ちをかける様に男の抱擁と救いがなかったりする。ある意味では自業自得ではあるが。

 

 

「さってと。俺達も訓練しますか」

「狂夜君は遊ばないの?」

 

 

アロハシャツを脱いで男子達と共に訓練に参加しようとした狂夜だったがねじれに袖を掴まれる。いっそこのまま女子達に混ざって遊びたいと言う気持ちはかなりあるがそれをしたら上鳴と峰田がヴィランよろしく襲ってくるのは目に見えていた。

 

 

「流石に最初は訓練してます。後で少しでも良いから遊びましょう先輩」

「むー……でも許したげる」

 

 

ねじれは狂夜の腕に身を寄せながら不満そうにしたがすぐに笑みに戻り、狂夜から離れてA組女子達と遊び始める。先程、女子達がフォローしたと言っていたのでその効果もあるのだろう、と狂夜は結論付けて男子達との訓練に勤しむのだった。

 

 

そして残り時間も少なくなってきたときに男子達がプールで一位を決めるとか話しだしたので、女子達は応援をする事となる。後から合流した爆豪や切島もレースに参加して三組に分かれてそれぞれ勝負が行われてたのだが爆豪は個性を使用し爆破で空を飛んで一位となった。「泳いでねーだろ!」とツッコミが入るものの個性の使用は有りとされていたのでルール違反とはならず一位となった。

 

二組目では轟が同じく氷を発生させて一気に滑り抜けようとしたが狂夜は狂化を発動させなんとプールの仕切りのコースロープの上を走り抜いたのだ。強化された脚力にコースロープの上を走る事で一瞬の浮力を利用して走ったのだ。水に片栗粉を混ぜたものの上を走る実験と同じ容量である。

 

しかし、そんな奇想天外な事でも轟の氷の速度には僅かに及ばす、狂夜は二位となってしまい脱落。

 

三組目では飯田が狂夜と同じ様にコースロープの上を走り、一気に一位に躍り出たが緑谷の猛追に最後は追い抜かれ、緑谷が一位となった。

 

 

「個性使うと50メートルの自由形も凄い事になるな」

「忍者みたいに水の上を走り抜けた奴が言う事かよ」

 

 

とんでも50メートル自由型に笑う狂夜だが砂藤の言う通り狂夜もビックリ人間側であったりする。

 

残ったのは最終戦に爆豪、轟、緑谷の三名。それぞれが『駆け抜ける』『滑り抜く』『泳ぎ切る』と気合が入り、いざスタート……のタイミングで三人の個性が解除され三人はプールに落とされた。

 

相澤がプールの使用指定時間の5時を過ぎたと告げに来た事で勝負はお預けになってしまい、A組全員が不満を口にしたのだが相澤の睨みで鎮圧され解散となってしまったのだった。

 

 

 

「先輩、今日は楽しめましたか?」

「んー……狂夜君とは少ししか遊べなかったからちょっと不満」

 

 

帰り道、狂夜とねじれは腕を組んだまま帰路についており、狂夜が今日の事をねじれにと問うとねじれは少しだけ不満そうにしたがニコリと笑みを浮かべた。

 

 

「でも、皆と仲良く出来たし狂夜君がカッコ良かったから満足」

「俺も先輩と過ごせて良かったです」

 

 

コツンと狂夜の肩に頭を乗せるねじれに狂夜はねじれと共に過ごせる夏休みに良かったと告げる。

来週からは狂夜は家族旅行だし、その後は林間合宿なのだから夏休みは実質的にねじれと過ごせる時間は無いだろう。その中で今日という日にねじれと共に過ごせて良かったと言うのは狂夜の偽りざる本音だった。

 

 

「えへへー」

 

 

その事をねじれも感じ取って狂夜に明るい笑みを溢す。

 

当然ながらその光景を見ていたA組一同は嫉妬に狂う者と羨ましそうに見る者に分かれるのだった。

 




次回からI•アイランド編です。


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I・アイランドへ

 

 

 

I・アイランドに到着した間桐一家。雁夜の招待券で同伴した狂夜と桜は興奮気味に辺りを見ていた。

 

 

「流石、Iエキスポ!色んなもんがあるな!」

「凄いですね兄さん!」

「ハハハッ。二人ともはしゃぎ過ぎだぞ」

 

 

遊園地の様な街並みにI・アイランドに招待されたヒーロー達にいつもよりテンション高めの狂夜に同じくはしゃいでいる桜。久しく見ていなかった子供達のはしゃぐ姿に雁夜の頬も緩んでいた。

 

 

「そこまで楽しんでいるのを見ると誘った甲斐があるもんだ。俺はこの後、仕事で離れるがI・アイランドを二人は楽しんでくれ。ああ、夜にはレセプションパーティーだから時間には遅れるなよ」

「親父は仕事に来てんだろ。ここに連れてきてもらっただけでも嬉しいよ」

「お父さん、ありがとうございます。それに今日と明日は仕事でもその後は一緒に過ごせるなら大丈夫ですよ」

 

 

雁夜はI・アイランドから招待は受けたもののカメラマンとしての仕事で来ている為、家族旅行で来てはいても仕事をしなければならない。その辺りを理解してる兄妹は雁夜に気にするなと告げる。

子供達の成長を喜ばしく思いながら雁夜は仕事に向かって行った。

 

 

「今日と明日は仕方ないよな。ま、夜にはレセプションパーティーだし、それまでには合流出来るだろ」

「そうですね。私達は楽しんで夜にお父さんに話しましょう。それもお仕事の助けになるでしょうから」

 

 

雁夜を見送った狂夜と桜はI・エキスポ中のI・アイランドを満喫しつつ、その事を雁夜に話すつもりでいた。カメラマンである雁夜には有り難い情報となる。

 

 

「さぁーて、と。どこから回るかな。何処に行ってもヒーローに会えそうだし、色々と見る物もあるからな」

「あ、兄さん。凄い人集りが」

 

 

狂夜と桜が何処に行こうかと一歩踏み出そうとした瞬間、二人の視界には大量の人集りが出来ていた。何事なのかと覗き込んで見ると……

 

 

「オールマイト!?」

「マジかよ!?」

「ナンバーワンヒーローの!?」

「本物だわ!」

「握手、握手!」

「画風が違う!」

「サインして〜!」

「HAHAHA!!熱烈な感激をありがとう!サインは順番にね!」

 

 

人が波のように集まっていく先にはオールマイトが立っていた。視界の端には人の波に流されて離れて行く緑谷の姿も見えていた。

 

 

「凄い人気なんですねオールマイト。兄さんの学校の先生って話は聞いてましたけど流石ナンバーワンヒーローですね」

「エキスポにオールマイトも招待されて緑谷がその同伴者って所かな。どんなヒーローに会うのかと思えば最初がナンバーワンヒーローで知った顔とはね」

 

 

ドンドン集まっていく人を遠くから見ていた桜は驚いた様子で見ており、狂夜は落ち着いたらオールマイトと緑谷と合流してみようと考えていた。



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