変換日本 艦これ世界奮闘記 (あけぼの)
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プロローグ 物語の始まり

西暦1973年 日本 とある神社

 

 ここは転移メンバーが生まれ育った世界。

 

 そして、転移メンバーの転生後は史実世界と呼んでいたこの世界の日本では、今現在、高度経済成長期真っ只中にあった。

 

 しかし、この時代はまだ転移メンバーも生まれてすらいなかった。

 

 いや、それどころか転移メンバーの親ですらも子供や赤ん坊、あるいは生まれていない頃である。

 

 そんな時代のある神社に1人の巫女が祈りを捧げるように膝まずいていた。

 

 

「・・・」

 

 

 目を瞑って黙想したまま、その巫女は一切体を動かさない。

 

 だが、この巫女は確かに何かを願っていた。

 

 しかし──

 

 

「う、ううぅ」

 

 

 突然、胸を抑えて苦しみ出した。

 

 その苦しみの声を聞くものは居なかった。

 

 この神社は人里離れた所に建てられており、人は滅多な事で近寄らないからである。

 

 そして、苦しみ続けて数分後。

 

 その巫女は突如として倒れた。

 

 そして、それっきり動かなくなった。

 

 巫女は死んだのだ。

 

 最後にこう呟いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か・・・・・・え・・・・し・・・・・て・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この言葉が何を意味しているのかは誰も知らない。

 

 本人以外は。

 

 そして、この40年後、人気のプラウザーゲームである『艦隊これくしょん』は誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇東歴1945年 8月某日 

 

 ここは西暦と呼ばれる世界とは対を成す世界。

 

 この世界は平和だった。

 

 勿論、戦争が全く無かった訳では無かったが、少なくとも西暦の世界よりは少なかった。

 

 と言うより、この世界と西暦世界の最大の違いは帝国主義が無かったという点だろう。

 

 どちらかと言えば、戦後の日本のような経済体制を取っていたと言える。

 

 この経済体制によって、経済の方は西暦世界よりかなり先進していた。

 

 20世紀の初期には、西暦世界での20世紀後半のアメリカ並みの経済力を持つ国も居た程だった。

 

 だが、一方で軍備の方は鏡を見るかのように逆転している。

 

 ちなみに此方の世界の軍備がどれだけ遅れているかと言うと、陸軍では1930年代の時点で19世紀に有るようなガトリングガンが現役といった感じで、戦車や機関銃に至っては影も形も無かった。

 

 そして、海軍に目を移すと戦艦は史実より経済状況が良かっただけあって数だけはあった。

 

 だが、1930年代に至っても、漸く日露戦争で活躍した三笠クラスの戦艦が新型艦という有り様だった。

 

 ちなみに潜水艦に至っては南北戦争時の潜水艦が主流という有り様である。

 

 最後に戦いの勝敗を左右する航空機はと言うと、航空機主兵主義の「こ」の字も無いといった感じで、それどころか、その航空機すらも西暦世界でライト兄弟が開発したものを少し進化させたものという有り様だった。

 

 したがって、この世界では未だ大艦巨砲主義が主流である。

 

 まあ、空母は存在すらしていないのだから、当然と言えば当然の話なのだが。

 

 つまり、西暦世界と比べると、軍事技術は30年以上遅れていたのである。

 

 そんな中で、東歴1939年9月1日。

 

 史実の西暦世界では第二次世界大戦が始まった日にそれは現れた。

 

 深海凄艦。

 

 突如として海に現れ、この世界の船を襲い続けている存在である。

 

 そして、『艦隊これくしょん』をプレイした事のある人間なら分かるだろうが、深海凄艦の技術力は西暦世界での第二次世界大戦時の船とほぼ同じである。

 

 つまり、この時点で20世紀初頭クラスの軍事技術しか有していないこの世界の軍事力では全く太刀打ち出来なかった。

 

 と言うか、深海凄艦の射的の的と言った方が正しかったかもしれない。

 

 だが、幸い、深海凄艦の大きさは普通の艦船の大きさと変わらなかったので、駆逐級や軽巡級ならなんとか撃破出来た。

 

 しかし、全体としては圧倒的に深海凄艦が有利であった。

 

 更に深海凄艦などと呼ばれていたが、その名前とは裏腹に、陸の上でも安心とは言えなかった。

 

 ワ級と呼ばれる輸送艦によって、陸上兵力らしきものが運ばれてくるからだ。

 

 しかも、その中に戦車が出てきたのだが、それは転移メンバーが聞いたらこう呼ぶべきものだった。

 

 シャーマン戦車、と。

 

 これに対して、戦車を持ってすら居ない、と言うより存在すら知らないこの世界の陸軍では太刀打ち出来よう筈も無かったのである。

 

 更に航空戦に至っては、もう言うまでも無い状態だった。

 

 そもそも深海凄艦の艦載機はただでさえ、航空力学というものに喧嘩を売っている状態の戦闘機だ。

 

 性能は第二次世界大戦並みとは言え、航空戦の概念すらないこの世界の軍人がどうなったかは言うまでも無かった。

 

 そうして陸海空でボコられ続けて2年と3ヶ月後の東歴1941年12月8日。

 

 希望は現れた。

 

 1人の巫女が若い娘を伴って深海凄艦を駆逐し始めたのだ。

 

 艦娘。

 

 それは史実第二次世界大戦時に活躍した艦船の魂を持つ少女達。

 

 そして、現時点で深海凄艦に対抗できる唯一の存在である。

 

 勿論、この世界の人間も最初から彼女達を信用した訳ではない。

 

 当たり前だろう。

 

 得たいの知れない者を無造作に歓迎したら、それこそ頭が可笑しい。

 

 それに大日本帝国などという国は聞いた事も無かった。

 

 と言うより、帝国の名を持つ国がこの世界に居なかった。

 

 それはそうだろう。

 

 帝国主義が無いのに帝国という国号を着けていたら、それこそ可笑しな事になる。

 

 ちなみにこの世界での日本に該当する国は旭日王国だった。

 

 もっとも、この国名は転移メンバーが聞いたら『大層な名前だ』と皮肉げに言っただろうが。

 

 話を戻すと、いきなりの歓迎はしなかったこの世界の人間達ではあったが、現状で深海凄艦に対抗する術が無い以上、彼女達を頼るしかない事は分かりきっているので、歓迎するしか無かった。

 

 そして、共闘関係を築いていた。

 

 それから3年と8ヶ月後の東歴1945年8月15日。

 

 とある世界と繋がる事で、この世界は動き出す。



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プロローグ 出現

西暦1945年 8月15日

 

 1945年の8月15日。

 

 史実の日本にとっては敗戦日。

 

 そして、世界にとっては第二次世界大戦の終戦日だ。

 

 だが、この世界にとっては何の感慨も抱かない普通の日だ。

 

 当たり前だろう。

 

 既に太平洋戦争は5年前の1940年12月29日に終わり、それどころか第二次世界大戦自体も既に終わっていたのだから。

 

 第二次世界大戦を終わらせた各国は経済の建て直しを計り、今現在は平和の真っ只中にあった。

 

 だが、その平穏は今日をもって破られる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦1945年 8月15日 午前8時 大日本帝国 横須賀 第3艦隊 旗艦『瑞鶴』 艦橋

 

 今年の始めに中将に昇格した有栖川夕季は第3艦隊司令長官として空母『瑞鶴』に乗艦していた。

 

 

「ふぅ。平和だなぁ」

 

 

 元の世界で敗戦日であった事を知っている夕季は、この日がこんな平和な日になるとは思っていなかった。

 

 それは転移メンバーなら誰でも抱いた思いだが、現実は現実。

 

 今はただ、この平和な日を満喫するのみである。

 

 

「・・・そういえば、小笠原沖に謎の構造物が見付かったって報告が有ったけど、あれはなんだろうな」

 

 

 数時間前、夕季は小笠原沖でとある漁船が謎の構造物を発見したという報告を受けていた。

 

 夕季はそれを異世界へのゲートではないかと疑っていたが、現状、その構造物の調査は海上警備隊の仕事なので、何か非常事態が起きない限り、夕季の出番はない。

 

 

「願わくば、魔法とかファンタジー、それも此方が蹂躙できる世界でありますように」

 

 

 夕季は他の艦橋職員に見られないように、小声でそう言いながら祈った。

 

 艦橋職員に見られたら、変人扱いされるのは間違いないからだ。

 

 だが、夕季の祈りを嘲笑うかのように、数時間後、非常事態が起き、夕季の第3艦隊は出撃する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 9時 小笠原沖 構造物近海

 

 小笠原には海上警備隊の基地がある。

 

 基本的に領海警備が仕事の海上警備隊は、各地に基地を持っているからだ。

 

 そして、今朝、付近の航行していた漁船から通報を受けた海上警備隊の巡視船『みずほ』は、その構造物の付近に到着した訳だったが、それを見た巡視船の乗員は皆、首を傾げていた。

 

 

「なんだこりゃ?」

 

 

 巡視船の乗員の1人はそう呟いたが、無理の無い話である。

 

 昨日まで何も無かった海上に横数キロ、縦数千メートルの門のような構造物が出来ていたら、不審を抱くなという方が無理な話だった。

 

 

「・・・海に出て長いが、こんな建物は見たことが無いな」

 

 

 巡視船の船長はそう言った。

 

 彼は元々は海軍の乗員であったが、第二次世界大戦後の軍縮の煽りを受けて、海上警備隊に移籍したという過去があった。

 

 

「兎に角、本部に連絡しましょう」

 

 

「ああ、そうだな。早速──」

 

 

 船長がそう言い掛けた時、響いてきた声にその言葉は遮られた。

 

 

「電探に感有り!距離5キロ!!・・・こ、これはあの構造物からです!!」

 

 

「見張り員より艦橋!!構造物から、何かが出てきます!!」

 

 

 

 それは電探員と見張り員からの叫びであった。

 

 その言葉に船長は『なんだと!!』と怒鳴り声を挙げながら双眼鏡を取り出して門の方を見た。

 

 すると、驚いた。

 

 

「あ、あれは・・・」

 

 

 船長が見たのは、門の中から真っ黒な塗装をされた1000トンから2000トンくらいの駆逐艦が次々と飛び出してくる光景であった。

 

 更にその後方には巡洋艦やそれより大きな艦艇・・・戦艦らしき姿も見える。

 

 慌てて応戦しようと命令する船長だったが、敵の攻撃の方が1歩早かった。

 

 

「敵より発砲炎!!」

 

 

「取り舵一杯!!」

 

 

 見張り員からの報告を受けた船長は取り舵を指示した。

 

 大きさ700トンの船体は左に傾いた。

 

 そして、敵の砲弾がみずほの近くに着水し、みずほは小舟のように揺れる。

 

 それでもなんとか態勢を建て直し、搭載していた機銃を撃ちながら逃げ続けたみずほであったが、元が巡視船の為か足が遅く、逃げられなかった。

 

 

「敵弾、来──」

 

 

 見張り員の報告はそこで遮られた。

 

 相手の駆逐艦の放った12、7センチ砲弾が直撃し、みずほの船体は瞬く間に海に没してしまったからである。

 

 そして、みずほを沈めた艦隊はそれを見届けると進路を北へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 太平洋 午前12時 第3艦隊 旗艦『瑞鶴』 戦闘指揮所(CIC)

 

 第3艦隊は緊急出港を行っていた。

 

 哨戒機から国籍不明の艦隊が日本本土に向かっているという通報を受けたからである。

 

 

「敵の詳細は?」

 

 

 夕季は参謀に敵の詳細を尋ねる。

 

 すると、情報参謀が説明する。

 

 

「はい。4万トンクラスの戦艦が3隻、1万トンクラスの巡洋艦が2隻、駆逐艦らしきものが10隻との事です」

 

 

「空母は居ないのか?」

 

 

「確認されていません。そもそも、空母が居ればここまで詳細な報告は出来ないでしょう」

 

 

 情報参謀の言うことももっともだった。

 

 仮に空母が居れば、哨戒機は追い払われていた事は間違いなく、ここまで詳細な情報の入手は不可能だろう。

 

 もっとも、対空砲火の中でそんな報告が出来る哨戒機の人間も凄いと言えば凄かったが。

 

 

「まあいい、敵まで150海里(約270キロ)まで接近したところで攻撃隊発進だ。何か異論は有るか?」

 

 

「「「有りません」」」

 

 

 参謀達はそう言って夕季の意見に賛同する。

 

 既に哨戒機に攻撃を加えている以上、攻撃権は存在している。

 

 そうなれば先手必勝。

 

 本土がやられる前にやるしか無かった。

 

 こうして、小笠原沖海戦の幕は上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 2時30分 ???

 

 艦の大きさから何処からどう見ても2000人以上の乗員が居そうなこの艦艇の中には乗員は全く居ない。

 

 

「・・・」

 

 

 否、居た。

 

 艦橋に佇み、青白い肌をした女性が1人。

 

 その殺気立つ雰囲気さえ無ければ、抜群のプロポーションを持つ美女であった。

 

 彼女は口を開く。

 

 

「コノクウキハナニカガチガウ」

 

 

 彼女はあの構造物を潜った時から、今まで自分が居た場所とは空気が違う事を感じ取っていた。

 

 更に──

 

 

「ウットウシイワネ。アノヒコウキ」

 

 

 彼女が視線を向けた先には小笠原の哨戒基地から飛び立った哨戒機『東海』が元気に空を飛び回っていた。

 

 こちらは対空放火を展開しているが、東海は一定の高度を保ったまま偵察を続けていた。

 

 彼女にとって、それは鬱陶しい事だったのだ。

 

 まあ、だからと言って進撃を止める程では無かったが。

 

 

「フフ。ヤツラノアワテルサマガタノシミダワ」

 

 

 だが、彼女の楽しみは永遠に果たされる事は無かった。

 

 何故なら、この30分後、瑞鶴から発進した航空機や急遽本土から小笠原に展開した日本空軍の航空隊によって空対艦ミサイルの嵐という無慈悲の攻撃が加えられ、彼女、いや、“彼女達”は海の藻屑と化すのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦1945年 8月16日 大日本帝国 帝都

 

 小笠原沖海戦の詳細を聞いた転移メンバーは直ちに会合を開いた。

 

 ちなみに夕季は件の敵に関係があると思われるゲートの監視任務に就いていた為、この場には居ない。

 

 

「この生存者が居ないというのはどういう事ですかね?」

 

 

 青木がそれを疑問に思った。

 

 通常、大型の軍艦が混じっている状態で撃沈された場合、核でも使わない限り、生存者無しという事態は有り得ないのだ。

 

 

「さあ、分からん。もしかしたら、無人兵器かもな」

 

 

 春川が1つの意見を言った。

 

 

「無人兵器、ですか?戦艦クラスの」

 

 

 岡辺はそれを懐疑的に思っていた。

 

 もし戦艦クラスの無人兵器を運用できる科学レベルだとしたら、とっくの昔に第3艦隊は全滅して東京は蹂躙されていただろうからだ。

 

 だが、実際はそんな事はなく、敵艦隊は第3艦隊の前にあっさりと破れ去った。

 

 

「まったく分かりませんね。何か漂流物みたいなのは入手してないんですか?」

 

 

 青木が尋ねる。

 

 漂流物が有れば、何処の所属か分かるかもしれなかったからだ。

 

 だが、そんな考えは脆くも崩れ去った。

 

 

「残念ながら漂流物も無いらしい。何一つ見つからなかったと」

 

 

 敵艦隊の正体解明の為、漂流物を拾うなどの行動を起こした第3艦隊だったが、残念ながら敵艦隊の漂流物は見つからなかった。

 

 辛うじて、敵艦隊に撃沈されたと思われる巡視船みずほの残骸を拾ったのみである。

 

 

「そんな馬鹿な!幽霊じゃあるまいし」

 

 

 青木がそれを否定するように言ったが、何も分からない状態では空しいだけだった。

 

 こうして不穏な雰囲気のまま会合が終わった。

 

 だが、転移メンバーは知らない。

 

 この現象が世界中で起こる事を。

 

 そして、1945年9月2日。

 

 この日に新たな勢力と接触する事になることを。



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第1話 駆逐艦と潜水艦

東歴1945年 9月2日

 

 小笠原沖の洋上に、空母が2隻、戦艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦1隻という歪な編成の艦隊が進んでいた。

 

 彼女達は第5遊撃部隊。

 

 文字通り、遊撃任務を遂行する為に編成された艦隊である。

 

 

「あ~あ。暇だなぁ」

 

 

 その中の空母の1つの艦橋では、緑かがった黒髪のツインテールをした少女がそうぼやいていた。

 

 彼女の名は瑞鶴。

 

 史実世界の空母瑞鶴の生まれ変わりであり、旭日王国海軍に所属する艦娘の1人でもある。

 

 艦娘は1人1人が艦艇だった頃の記憶を持っている。

 

 この瑞鶴もその1人であり、真珠湾攻撃からエンガノ岬で散るまでの記憶が残されていた。

 

 

「五航戦はこれが暇に思えるのかしら。羨ましい事ね」

 

 

 それを貶す存在が1人。

 

 正規空母『加賀』。

 

 大日本帝国で活躍した艦の1つである。

 

 しかし、厳密に言えば加賀は正規空母ではない。

 

 日本海軍の空母の艦種は正規空母、改造空母、商船改造空母と別けられている。

 

 そして、加賀は知っての通り元が戦艦の為、改造空母の艦種に入る。

 

 にも関わらず、正規空母の艦種に入っているのは、戦後アメリカが加賀を正規空母の艦種に割り振り、それが広まったからにすぎない。

 

 アメリカでは改装空母でも一定の大きさになると、正規空母の分類に入れられるからだ。

 

 ちなみに瑞鶴は日米共に正規空母の艦種に入る。

 

 日本海軍の空母は一から造られれば、皆正規空母になるからだ。

 

 それは鳳翔や龍驤などの、どう見ても軽空母な大きさの艦艇でも例外ではない(と言うか、そもそも日本海軍の艦種には軽空母と護衛空母という艦種は存在しない)。

 

 

「そうやって慢心しているとその内とんでもない事になるわ」

 

 

「なによ。慢心していなくても負けるときは負けるわよ?そんな事を言っている暇があったら、勝つ方法でも考えたら?」

 

 

「頭にきました」

 

 

 加賀と瑞鶴はよく喧嘩をする。

 

 双方とも歴戦の空母というプライドが有るからだ。

 

 加賀は日中戦争からミッドウェーで沈むまで、日本海軍の主力空母として活躍していた。

 

 対して、瑞鶴も初の実戦こそ真珠湾攻撃であったが、ミッドウェー海戦での一航戦と二航戦の壊滅後も姉妹艦の翔鶴と共に太平洋各地を駆けずり回って米軍を苦しめ、最後はエンガノ岬で敵艦隊を引き付けるという任務を達成して散った。

 

 もっとも、エンガノ岬での彼女の最期は最終的に栗田艦隊が反転した事でまったくの無駄になってしまったが。

 

 そして、彼女達の経験したものはそれぞれ違う。

 

 加賀はミッドウェーで慢心、不運、戦訓不足によって失われたのに対して、瑞鶴はエンガノ岬で圧倒的な物量で叩き潰されている。

 

 つまり、加賀から見た瑞鶴は『経験不足な上に慢心する事の恐ろしさを知らない未熟者』。

 

 対して、瑞鶴から見た加賀は『自分より格上の存在を知らず、圧倒的な物量の差で叩き潰される経験をした事がない傲慢な人物』となる。

 

 これでは仲良くしろという方が無理だろう。

 

 

「瑞鶴さんと加賀さん。落ち着いてください。お願いですから」

 

 

 その2人の喧嘩を止めようとするのは、第5遊撃部隊の旗艦『吹雪』。

 

 駆逐艦でありながら、この第5遊撃部隊の旗艦である彼女はこの曲者揃いの第5遊撃部隊の取りまとめに苦労していた。

 

マイペースな雷巡『北上』。

 

その北上に熱い視線を向けるガチレズの雷巡『大井』

 

似非外国人っぽい戦艦『金剛』

 

いつも喧嘩をする正規空母2人。

 

 少し聞いただけで纏めるのに嫌気が刺しそうだった。

 

 それでも投げ出さないのは、彼女が努力家であるからだろう。

 

 

「喧嘩は止めようネ。2人とも、ブッキーが泣きそうになっていマース」

 

 

 そう言うのは似非外国人っぽい戦艦の金剛。

 

 太平洋戦争で一番活躍した戦艦と呼ばれている金剛型のネームシップであり、現在、存在している艦娘の中で最古参の艦娘であった。

 

 もっとも、そのテンションの高さから、気づいている者はあまり居なかったが。

 

 ちなみにブッキーというのは、彼女が吹雪につけた渾名である。

 

 

「ふん!」

 

 

「・・・」

 

 

 不満そうにしながら、2人は喧嘩を止めた。

 

 流石に艦種の違う艦娘に八つ当たりは出来なかったらしい。

 

 そのまま険悪な雰囲気が流れたが、それは数分後に終わる事になる。

 

 何故なら、加賀が出した偵察機が敵の大部隊を発見したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 小笠原沖 

 

 一方、その頃、第3艦隊の一部は構造物を潜り、この東歴と呼ばれる世界に入り込んでいた。

 

 だが、此方の地形が西暦世界とそっくりそのまま同じだという保証は何処にも無いので慎重に動いていた。

 

 

「電探に感無し。今日も静かですな」

 

 

「そうだな」

 

 

 駆逐艦『白雪』の航海長は艦長にそう話し掛けた。

 

 この白雪は吹雪型駆逐艦の二番艦であり、高性能のレーダーが積まれている。

 

 もっとも、最近就役したという陽炎型駆逐艦のものよりは旧式であったが。

 

 

「電星からの報告は?」

 

 

「まだ何も」

 

 

 

 調べているのは海上からだけでは無かった。

 

 瑞鶴から発進した電星が空からも探索していたのだ。

 

 

「この海域は異常無しかな?」

 

 

 しかし、艦長がそう言った直後、ソナー員から報告が入る。

 

 

「艦長。ソナーに感有り。距離8000。方位南方」

 

 

「なに?」

 

 

 それを聞いた艦長は少し迷った。

 

 水中音波探信儀(ソナー)に感が有るという事は潜水艦しか有り得ないのだが、敵味方が咄嗟には分からなかった。

 

 敵である可能性が圧倒的に高いだろうが、もし万が一味方だった場合、えらい事になる。

 

 ちなみに水中音波探信儀の事をソナーと呼んでいるのは、夕季がソナーと呼んでいたのが語呂が良いという事で広まった為である。

 

 

「航海長、この辺りに味方の潜水艦は?」

 

 

「居ないでしょう。そもそも我々が居るのは、あの門を越えてすぐの所です。あの門の水深は50メートル。その深度では我が軍の潜水艦でも門を越えたところですぐにこの艦のソナーに探知されますよ。と言うより、向こうに居る本隊から通報が有るはずです」

 

 

 現在、門を越えているのはこの『白雪』と僚艦『深雪』、そして、電星数機のみ(流石に大型艦を得体の知れない場所に放り込む訳にはいかなかった)。 

 

 門の向こうに居る本隊からは潜水艦がそちらに向かうという通報は無く、仮に本隊をどうにか潜り抜けられたとしても、水深50メートルしか無い(何故かは知らない)この門の構造では、静粛性に優れる日本海軍の潜水艦でも白雪や深雪のソナーによって探知される。

 

 よって、味方である確率はほぼ0だった。

 

 つまり──

 

 

「これは敵か」

 

 

 そう結論付けた艦長はマイクを取り命令を下す。

 

 

「全艦、対潜戦闘用意!深雪にも伝えろ!!」

 

 

 艦内放送でそれを聞いた乗員の間に緊張が走る。

 

 だが、その直後──

 

 

「!?艦長、深雪が既に敵潜の方角に向かって進んでいきます!!」

 

 

「なんだと!!」

 

 

 深雪の方を見ると、敵潜に向かって突き進んでいくのが見えた。

 

 

「流石、立石といったところか・・・」

 

 

 そう、それは『対潜の鬼』と呼ばれている立石良則中佐が座乗する駆逐艦『深雪』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同海域

 

 

「あれはなんなのね?」 

 

 

 伊19ことイクは、この海域の哨戒を行っていたが、不自然な構造物やその辺りを航行する軽巡洋艦(艦種上では駆逐艦だが、吹雪型駆逐艦は基準排水量が3800トンも有るので、軽巡洋艦と間違えていた)2隻を発見した。

 

 この10キロ近い距離で吹雪型駆逐艦の大きさを計ったのは見事なものだが、艦娘は史実日本海軍よろしく目に頼る事が多いので、通常の人間より視力は強化されている。

 

 だからこそ、こんな事が出来たのである。

 

 最初はイクはそれを深海凄艦の艦艇だと判断してすぐに偵察、あわよくば魚雷を発射して撃沈しようと考えていたが、その艦艇に翻る旭日旗を見て動揺した。

 

 だが、どうするべきか迷っている間に向こうが気付いた。

 

 

「ま、不味いのね。すぐに逃げるのね」

 

 

 それは潜水艦としては当然の行動ではあったのだが、イクはそれ以外の恐怖も感じていた。

 

 伊19は史実では僅か一斉射6本の魚雷で空母ワスプ、駆逐艦オブライエンを撃沈、戦艦ノースカロライナを小破させるという戦果を挙げている。

 

 言わば、太平洋戦争での武勲艦の1つなのだ。

 

 その艦艇としての経験則に基づく勘がこう言っていた。

 

 『あれはヤバい』、と。

 

 特に先頭を突っ走る駆逐艦になんとなくだが恐怖を感じていたイクはすぐに逃走した。

 

 そして、その先頭を突っ走る駆逐艦こそ、立石艦長が座乗する駆逐艦『深雪』であった。



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第2話 接触

東暦1945年 9月2日 第5遊撃部隊

 

 

「これは・・・救難信号ですかね?」

 

 

 吹雪はそう思った。

 

 加賀の発見した敵艦隊を片付けた第5遊撃部隊は暫くこの海域の探索を行っていたが、その時、味方のものと思われる救難信号を享受したのだ。

 

 

「ブッキー。救援に行きましょう。困った時はお互い様デース」

 

 

 金剛が救援に艦隊旗艦である吹雪に救援に行くように促す。

 

 

「・・・そうですね。困った時はお互い様ですよね」

 

 

 吹雪も金剛の言葉に頷いた。

 

 そして、艦隊旗艦として各艦への命令を行った。

 

 

「全艦、救援信号が発せられた海域に向かって急行!!」

 

 

 かくして、第5遊撃部隊は味方の救援に向かう事となった。

 

 だが、彼女らは知らなかった。

 

 その移動の光景を見ている者が居る事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 

 

 

「ちっ。さっさと撃沈すれば良かったものを!!」

 

 

 駆逐艦『深雪』艦長、立石良則中佐は悪態をついていた。

 

 時は少し遡り、彼が敵と思われる潜水艦に向かって突撃していた時、第3艦隊の旗艦『瑞鶴』から生け捕りを行うように命令された。

 

 流石に艦隊旗艦の命令に逆らう訳にはいかなかったので、仕方なく生け捕りを行った。

 

 そして、敵潜水艦を上手く浮上させ、あと一歩で生け捕りに出来るといった時に敵潜水艦から救難信号らしき電波が発せられた。

 

 だからこそ、さっさと撃沈すれば良かったと立石中佐は悪態をついていたのである。

 

 もっとも、これについては命令を出した夕季にも言い分はある。

 

 今の第3艦隊の役目は調査であり、そして、現時点では敵の手懸かりを何も掴めていない以上、手懸かりになるであろう敵潜水艦の鹵獲は必要不可欠だと考えていたのだ。

 

 

「これで敵艦隊はここに群がってくるぞ。そうなる前にあの潜水艦を撃沈し──」

 

 

「艦長!敵潜水艦の乗員が甲板に出てきて白旗を振っています!!」

 

 

「なに!?」

 

 

 まるで立石の思考を読んだかのように、敵潜水艦から乗員が出てきて白旗が掲げられた。

 

 その乗員は人間と言うにはやけに小柄であったが、乗員である事に間違いはない。

 

 そして、白旗を掲げている以上、撃つわけにはいかなくなった。

 

 撃てば帝国の名誉に傷が着くからだ。

 

 

「くそっ!!」

 

 

 嵌められた。

 

 立石はそう思った。

 

 おそらく、敵潜水艦は浮上せざるを得なくなった事を悟り、この手段を使ったのだろう。

 

 『救難信号を発した直後に降伏する』というなんとも姑息な手を。

 

 

「・・・全艦。警戒シフトのまま待機しろ」

 

 

 頭が冷えて冷静になった立石はそう命じた。

 

 敵がすぐ来るであろう事は予想される為、もはや曳航の用意をしている暇は無かった。

 

 となると、次に来るであろう敵襲に備えるしか手はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇伊19 艦橋

 

 

「ふぅ。助かったのね」

 

 

 イクは冷や汗を掻いていた。

 

 敵艦から放たれた謎の攻撃(ヘッジホッグのこと)により、本体である伊19の外殻が破壊され、浮上せざるを得なくなってしまったからだ。

 

 なので、急遽苦肉の策としてこの方法を行った。

 

 だが、これは正直言って賭けの要素が大きかった。

 

 向こうが問答無用に攻撃してくれば終わりだからだ。

 

 しかし、彼女は賭けに勝った。

 

 

「確かここら辺に居る艦隊は第5遊撃部隊だったのね。後はお任せするのね」

 

 

 外殻が破壊されている以上、修理しない限り、もう潜航は不可能だ。

 

 彼女に出来るのは、じっとして救助を待つか装着されている14センチ単装砲を撃つ事のみだった。

 

 だが、14センチ単装砲で撃って抵抗しても自分はあっという間に沈められるだろう。

 

 だからこそ、彼女は大人しくじっと待つ事にした。

 

 そして、彼女は疲れたからか、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇小笠原沖 第3艦隊 旗艦『瑞鶴』

 

 一方、西暦世界に残っていた瑞鶴は電星から敵部隊の接近の報告を受けていた。

 

 

「空母2隻、戦艦1隻、軽巡2隻、駆逐艦1隻・・・本当にこれで間違いないのか?」

 

 

 夕季は部下に対して確認する。

 

 あまりに歪な編成であるからだ。

 

 

「電星の報告を信じるならそうです」

 

 

「ふむ・・・」

 

 

 夕季は考え込んだ。

 

 

(何処かで見たことが有るような・・・)

 

 

 夕季はこの編成を何処かで見たことが有るような気がしたが、思い出せない。

 

 だが、今はそんな事を考えている時間は無かった。

 

 

「攻撃隊を何時でも発艦出来るように準備しておけ。向こうが接触する瞬間を待つ」

 

 

「・・・攻撃しないのですか?」

 

 

「相手がどういう勢力なのかも問題だ。もし前来た奴と違う勢力であれば、外交上の問題になる」

 

 

「はぁ。分かりました。そう伝えます」

 

 

 夕季はそう言って出ていく参謀を見ながらこう呟く。

 

 

「もう少し、外交について教育した方が良いかなぁ」

 

 

 夕季は先程の気の無い返事を見て、もう少し軍に外交的配慮を心掛けさせるように教育する必要が有るのでは無いかと考えた。

 

 またぞろ史実日本軍のような暴走をされては堪らないからだ。

 

 だが、今は目の前の事に集中する。

 

 そして、この数時間後、遂に旭日王国海軍第5遊撃部隊と大日本帝国海軍第3艦隊が接触する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 第5遊撃部隊

 

 

「ねぇ。もう殴り込みをかけない?」

 

 

 第5遊撃部隊の雷巡の1人、大井はそう言って吹雪に向かって攻撃を促した。

 

 

「駄目です」

 

 

 だが、吹雪は首を縦に降らなかった。

 

 第5遊撃部隊はどうにか白雪と深雪両艦に接触した。

 

 しかし、現在は双方ともに睨み合いを続けている状態だった。

 

 それもその筈で、吹雪達にとっては白雪と深雪と名乗る艦艇はどう見ても吹雪達の知る白雪と深雪よりも大きい(史実吹雪型は1680トン)為、深海凄艦の偽装艦ではないかと思っていた。

 

 まあ、まさか平行世界の大日本帝国の艦艇だとは思いもしていないのだから当然と言えば当然だった。

 

 当たり前だが、白雪と深雪の乗員も史実世界の事など知らない為、その辺りの事は説明などしていなかった。

 

 一方、疑念に思っていたのは白雪と深雪の乗員も同じであった。

 

 彼らにとって吹雪型とは、今自分達が乗っている艦クラスの大きさであり、向こうの吹雪と名乗っている艦はどう見てもそれより断然小さかった。

 

 そして、加えて言えば、吹雪は第3艦隊所属の艦の1つとして現在は門の向こうに居る。

 

 なので、白雪と深雪の乗員にとっては向こうの方が此方を騙そうとしているのではないか?と考えていた。

 

 そういう訳で、双方は睨み合いを続けていたのである。

 

 先程大井が先制攻撃を具申したのは、相手は小型軽巡が2隻という編成の為、自分達の戦力であれば瞬殺出来ると考えたからである。

 

 そして、もうお分かりだと思うが、もしそうなった場合、勝ったのは白雪と深雪だった可能性が高い。

 

 吹雪型は1隻につき、99式艦対艦誘導噴進弾を16基搭載している。

 

 99式艦対艦誘導噴進弾の炸薬量は1トン。

 

 これが2隻合わせて32基なので、40センチクラスの砲弾が第5遊撃部隊の頭上に32基降り注ぐのとほぼ変わらない。

 

 かつての北太平洋海戦では、この99式艦対艦誘導噴進弾によって戦艦が葬られている。

 

 第5遊撃部隊唯一の戦艦である金剛はなんとか耐えられるだろうが、他の5隻に至っては言うまでもない。

 

 そして、白雪と深雪に積まれているのは瞬発性に優れたガスタービン機関。

 

 仮に金剛がこの攻撃を潜り抜けられたとしても、機動性の違いから史実第三次ソロモン沖海戦の比叡の如く砲弾や機銃弾を撃ちまくられた挙げ句にボロボロになるのが落ちだろう。

 

 唯一、勝てる可能性が有るとすれば艦載機の空襲だが、日本海軍の艦載機はどんなに熟練していても、空母から全機発艦するには30分は掛かるのだ。

 

 そして、当たり前だが、彼女達にガスタービン機関搭載艦と戦った経験など無い。

 

 史実では蒸気ボイラーやディーゼルが主流であったからだ。

 

 そして、蒸気ボイラーやディーゼルはガスタービンと比べると、機動性が高くない。

 

 だが、史実ではその艦にすら苦戦したのだ。

 

 機動性の高いガスタービン機関搭載艦を相手にすればどうなるかは言うまでも無かった。

 

 更に対空砲火の火力も高い。

 

 変換世界の吹雪型は史実の秋月型駆逐艦の対空火力を上回っている。

 

 更に最近では吹雪型にも電探連動射撃、それも対空バージョンが取り付けられていた。 

 

 これは軍縮の関係で大量の駆逐艦を処理せざるを得なくなった為、その駆逐艦不足の穴を埋める為に質を向上させようと、電探連動射撃を取り付けたからだ。

 

 ちなみにこの白雪と深雪にもそれは搭載されている。

 

 必然的に大型の駆逐艦から優先されるので、当然と言えば当然だったが。

 

 更にこれに近接信管が加わっているので、もはや対空チートと呼ぶべき代物と化していた。

 

 つまり、空襲を掛けても中途半端な攻撃で終わる可能性が高く、逆に返り討ちに遭う可能性すらも有ったのだ。

 

 それを考えると、吹雪の判断は妥当と言える。

 

 

「そんな!!私はさっさと片付けて北上さんと語り合いたのにぃ~~!!」

 

 

「お、大井っち。落ち着いて」

 

 

 天然の北上が引き気味になるほど、大井は暴走しそうになっていた。

 

 まあ、何時もの大井と言えなくも無かったが。

 

 

「あっ。向こうから、発行信号が来てマース!」

 

 

「本当ですね。えーと『ワ・レ・ワ・レ・ノ・レ・ー・ダ・ー・ガ・ナ・ン・ポ・ウ・ヒ・ャ・ク・キ・ロ・ノ・ホ・ウ・コ・ウ・二・ソ・ン・ザ・イ・ス・ル・ナゾ・ノ・カ・ン・タ・イ・ヲ・ト・ラ・エ・タ。コ・レ・ハ・キ・カ・ン・タ・イ・ノ・ユ・ウ・グ・ン・カ?』と言ってますね」

 

 

「レーダー?レーダーって何よ?」

 

 

 瑞鶴が頭に?を浮かべる。

 

 彼女は英語が詳しくない。

 

 何故なら、史実では彼女は竣工直後に真珠湾攻撃を行っており、英米海軍と交流する機会は無かった(厳密に言えば殺し合いという名の交流はしていたが)からだ。

 

 一方、他の5艦はそれなりに英語は出来るし、金剛に至っては話せるが、その金剛にしてもレーダーという単語がどういう意味かは知らなかった。

 

 そして、言うまでも無いだろうが、レーダーとは電探の事である。

 

 ちなみに向こうがレーダーと言ったのは、他国の海軍にレーダーの事を言う時に電探という日本独自の単語では何の事を言っているのか分からない為、対外的にはレーダーと称する事にしていたのだ。

 

 このすれ違いは史実日本と変換日本の国際交流度の違いから生じたものであったが、当然の事ながら両者ともそんな事は知らない。

 

 だが、第5遊撃部隊の中で1人だけレーダーの意味を知っている者が居た。

 

 

「あー。それは電探の事だと思うよー」

 

 

 それは北上だ。

 

 彼女は戦後暫くを生き抜いていた為、日本に駐在していたアメリカ軍からの情報でレーダーの意味を知っていた。

 

 

「電探?あんな小柄な軽巡に?」

 

 

 瑞鶴は信じられなかった。

 

 彼女達にとって電探と言えば貴重な代物であり、艦娘の中でも配備されている艦艇は非常に少なく、この第5遊撃部隊に至っては配備しようという話すら来ていない程である。

 

 ちなみに旭日王国では艦娘の電探を真似たものを造ってはいたが、あまり高性能で無い上に高価なのと、使い方がよく分からないという点から重要視されていなかった。

 

 なので、あんな小型軽巡洋艦に配備されているとは思えなかったのである。

 

 もっとも、これを向こうの日本が聞いたら唖然とするだろう。

 

 何故なら、彼らにとって電探というのは『有って当然』と言うべきものだからだ。

 

 特にアリューシャン列島などの島々では夏は霧が、冬は吹雪がよく発生する地域である。

 

 そんな中で電探が存在しないというのは目を奪われたに等しく、死の危険性は極端に高まる。

 

 故に、電探が無いというのは死活問題なのだ。

 

 ちなみに変換世界の日本はほぼ全艦に電探を搭載していて、性能も艦娘達が持っているものよりも高い。

 

 まあ、史実と違い、変換日本はレーダー先進国なのだから当然と言えば当然だったが、艦娘達が聞いたら卒倒するだろう。

 

 

「そ、そんな事より、これって敵襲じゃないですか!?」

 

 

「そうね。こんなところに味方の艦隊が活動しているなんて情報は来ていないし、深海凄艦の可能性が高いわね」

 

 

 吹雪の意見に加賀が賛成した事で全員に一気に緊張感が漂った。

 

 そして、ある事に気づく。

 

 

「これを教えたって事は向こうは敵じゃないって事じゃない?」

 

 

「そうですネ。では、共闘するしか有りませんネ。ブッキー、向こう側にそのように言ってくだサイ」

 

 

「分かりました」

 

 

 かくして、第5遊撃部隊と第3艦隊の共闘関係は成立した。



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