verlieren (亜梨亜)
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序章




━━其れは、とある国で語られる英雄の物語。

嘗て、悪魔の国と呼ばれた王国にたった一人で抗い続け、やがて多くの人々を先導し革命を起こそうとした英雄。然れどその力は悪魔に及ばず志半ばで倒れてしまう、という悲劇の英雄の物語。

彼が抗い続けた先にあったモノとは━━


 人はこの世に生を授かったその瞬間、死に直面するその時まで、世界に抗い続ける。

 

 彼の名はヴァッシュ。やがて歴史に名を残すこととなるその男は、死に直面するその時まで……否、死して尚、世界に抗い続けた。

 彼の生きた時代、その圧倒的な国力を以て世界の中心に君臨したセントニア王国。四代目国王ガイウス・セントニアは膨れ上がった野心を鎮める為、更なる領土の拡大を目論み、幾度も他国へ戦争を仕掛けていた。

 

 度重なる戦争は多くの人の命を奪い、人と人の繋がりを焼き、幸福を踏み潰し、憎悪を肥えさせる。親を失った少年、愛情が欠乏した少女、心を黒く塗りたくられた青年達……多くの人々の恨みの矛先はセントニアへと向けられた。

 

 そんな傷だらけの人々を先導し、セントニアの軍隊を無差別に攻撃し始める者がいた。彼こそが「世界(セントニア)」に抗い続けた男、ヴァッシュである。

 出身不詳、年齢も不詳。ただ揺るがない事実はセントニアへの恨みの炎が誰よりも強い、という事のみである。たとえ戦力差がどれ程あろうとも、たった一人であろうとも、セントニアの軍隊へ勇猛果敢に立ち向かい、多くの兵士を屠り帰ってくる姿は、心に傷を背負った者達の先導者となるには充分過ぎた。

 

 やがて「不死の兵隊」と呼ばれたヴァッシュ率いる心的外傷者達の集まり。半ば自暴自棄のように暴れ回り、死すら恐れず(抗い続ける為)に戦う彼等の姿にセントニア兵士は震えたと言う。

 だが、たとえ彼等が不死の兵隊と呼ばれていようと、彼等が人である限り、人は例外無く何れ死に至る。それは抗うことすら赦されない、世界から外れた真理である。

 

 驚くことに、不死の兵隊を率いた勇猛果敢な羅刹ヴァッシュは、とある小さな戦場で、ただの一兵卒の槍に心臓を貫かれて絶命した。不死であったはずの兵隊の頂点が、死に至った瞬間は驚く程に呆気の無いものであった。

 

 彼は世界に敗北した。

 

 勝者が歴史(未来)を創り、敗北者は物語(drama)を造る。ヴァッシュという名は「敗北者」として歴史の中の一つの頁として刻まれ、セントニア王国という巨大な歴史の中の小さな物語の一つとして語られることと━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敗北者のまま、終わるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァッシュの瞳が暗闇の底のような黒に染まろうとしていたその時、薄れゆく意識の中でやけに鮮明な声を聞いた。

 戦場には似つかわしくない、幼い少女の声色。

 

 視界が、開けた。

 

 何も無い、白い世界。兵士の鉄の色も、紅い血の色も、蒼い空の色も、黒い煙の色も、緑の草木の色も、何も無い。在るのは、「透明」の少女。今まで自分が居た世界では無い。

 

「敗北者のまま、終わるの?」

 

 その声はひどく透き通っており、真っ白なこの世界に反響していた。敗北者、という言葉がヴァッシュの貫かれた心臓を抉る。

 

 蘇る記憶は、憎悪と絶望の記憶。虐げられ、命を狙われ、弱者と嗤われ、醜くも生き延び、痛む身体と心を抑えながら這ってでも抗い続けた記憶。

 

 世界に生を受けたのにも関わらず、死んだほうがマシだ、と言いたくなる程の苦痛。それでも抗い続けた記憶。

 抗い続けなければ、「敗北者」として葬られるのだから。

 

「抗っても、敗北者だったね」

 

 五月蝿い。黙れ。

 頭を掻き毟りたくなる。目の前で兄が……。どうして母親が……?一人で逃げなくてはならない……。セントニア王国は悪魔の国だ……。死の合間に見る走馬灯。蘇る、「敗北者」としての物語。透明な少女は彼の精神を河の向こうへ連れて行く天使だろうか?

 

「ねえ、哀れな復讐者」

 

 黙れ。

 

「抗い続けたのに、どうして」

 

 五月蝿い。

 

「どうして、敗北者に成り下がったの?」

 

「黙れっ!!」

 

 心臓が焼けるように痛い。頭の中が割れそうだ。四肢は枷を付けられたかのように重く、ただ、心だけが鮮明に拒絶を覚えている。

 

「俺は敗けていない……敗北者なんかじゃ……ない……敗けてなんか」

 

 真っ白な世界に、少女の笑い声が反響する。くすくす。くすくす。くすくす。

 

「敗北者」

 

 やめろ。

 

 くすくす。くすくす。

 

 

「ねぇ、敗北者のままでいいの?」

 

 

 くすくす。

 

 いい訳ないだろ。

 俺は敗けてなんかいない。敗けたくない。まだ死にたくない。

 

 両手足が軽くなっていく。この真っ白な世界には、「地」も「空」も無かったが、自分の足で立ち、歩くことは出来た。

 

 少女の声が反響する。

 

「哀れな敗北者。まだ敗けていないと言うのなら……」

 

 透明だった少女に、色が生まれた。空のように蒼く、雲のように白い少女。その周りには、五つのオブジェのようなモノが浮遊していた。

 

「まだ敗けていないと言うのなら、この世界で敗北者達の「drama」を追いかけるといいわ。さあ━━」

 

 五つのオブジェが、蒼く輝く。

 其れは、巨大な槍の形をしたdrama。

 其れは、一輪の薔薇の形をしたdrama。

 其れは、小鳥の形をしたdrama。

 其れは、翼の生えた少女の形をしたdrama。

 其れは、割れた王冠の形をしたdrama。

 

 ヴァッシュと同じ、敗北者として生を終えた者達の記憶。

 

 

「さあ━━私と共に、世界に抗いましょう」

 

 

 少女の声は、この真っ白な世界を埋め尽くすように反響する。

 

斯くして、敗北者の物語は世界の理から外れ、新たな時間を歩み出す。

 

 

 ━━此れは、敗北者達の物語(drama)である。



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drama 悪魔の心臓


 ━━巨大な槍の形をした水晶。極東の島国に語られる物語。

 其れは、御伽話かもしれない。だが、歴史の中の一つの物語として語られている以上、彼もまたとある世界、とある時代の敗北者であり、確かに存在していたのだろう。

 ━━少し、貴方に似ているかもしれないね。


 ━━戦が続く時代は嫌いではない、と言えば。また、「異端者」だと弾かれてしまうだろうか。

 だが、それでも彼の生きやすい時代は、確かに戦が続く世界であるのだろう。

 

 極東の島国、ヤマト。古の時代に封印された魔獣の復活により島は魔物に蹂躙され、ヤマトの国に生きる人々は逃走と闘争を余儀なくされた。

 

 人ならざる力を持つ魔物は圧倒的な強者であり、弱者となった人はただ殺されるばかり……では無かった。魔物ならざる力、知恵と団結という名の力の下に、人々は苦しいながらも抗い続けた。

 

 唯一人。人でありながら人ならざる力を持ち、知恵という武器も、団結という武器も持たず、一人で魔物を屠る男がいた。一本の槍を黒い両腕で掴み、異形の魔物を突き刺し殺す男、ユキムラ。魔物と人の間に生まれた忌み子として虐げられ続けた彼だったが、戦が続くこの瞬間に於いては、彼は忌み子では無く英雄であった。

 

 物心ついた頃には、既に父も母もいなかった。ただあったのは周りと違う真っ黒な両腕と、周りから感じる恐怖と拒絶の視線。

 

 ああ、きっと俺は嫌われている。

 

 何に嫌われている?

 

 そんなこと、幼いユキムラに知る由も無く。

 殴られようが、罵られようが、只そこにいる。惨めな世界と同化しようとした。

 

 彼が世界と同化しようとした時、やがて世界の方がユキムラと同化しようとしたのかもしれない。島を襲った悲劇。古の魔獣、九尾の復活。そして島中に産み落とされた、魔物達。

 

 ヤマトの国は悲劇に抗い始めた。人が死に、魔物の血で大地は汚れ、弔いの煙が空を覆った。ユキムラを殴った男は魔物に食われ、罵った女は顔のみが何処へと消えた。

 黒い両腕は人ならざる力を持つらしく、ユキムラは少年にしてヤマトの国の中で最も強かった。壮年の兵士が束になっても赤子のように弄ばれ、気付いた頃には地に伏している、という程に。その力の所為で虐げられ続けていたが、その力のお陰で彼は英雄と祭り上げられることとなった。

 

 戦が続く時代は嫌いでは無かった。

 人に求められる事が、今まで自分を虐げ続けていた者が急に媚び諂う姿が、無心で槍を振るい、魔物を屠る事が好きだった。恐らく、この心は人ならざるモノなのだろう。謂わば異常、異端者。それでも良かった。

 

 この世界は、俺を嫌っていない。

 

 なら、今までの「アレ」は何だったのだ?

 

 そんなこと、ユキムラにはどうだって良かった。

 畏れられようが、恐れられようが、ただ自分の為に戦い続けた。

 

 魔物達は黒い腕の人修羅を恐れ、人間達は黒い腕の忌み子を畏れる。果たしてユキムラは人間なのだろうか?それとも魔物なのだろうか?はたまた悪魔か、神の使いか……。

 

 

「なんだっていいじゃない。貴方は貴方だもの」

 

 

 唯一、ユキムラを恐れず、畏れない人間がいた。魔獣復活の悲劇の際に片腕を失った少女。彼女はユキムラを「ただの人間」としか見ていなかった。

 彼女は戦が続く時代を嫌っていた。

 

「いつか、こんな戦いが終わればいいのにね」

 

「そしたら、俺はまたこの世界からいなくなる」

 

「私がいるよ」

 

 彼女は、ただ微笑んでいた。鈴を転がしたような優しい声で、微かに笑っていた。

 

 ああ、きっと俺は、彼女といられるなら、世界を好きになれる。

 

 戦が続く時代は嫌いでは無かった。自分が存在していていいんだ、と思えたから。血を浴びれば、生きていると実感出来たから。この世界、この時代なら、俺は敗北者では無く勝者だ。そう信じられたから。

 けれど、この少女となら、戦が終わった時代でも、敗北者にならずに、世界に生き続けていいと思い始めた。

 

 ユキムラは、戦う為に戦うことをやめた。戦いを終える為に戦い始めた。

 どれ程の人間に畏れられようが、どれ程の魔物に恐れられようが、「あいつは人ではない」と言われようが、「悪魔だ」と囁かれようが。ただ、戦を終わらせる為に血を浴び続けた。

 

 ユキムラが初めて戦場で負傷したのは、少女と出会って暫くした後のことだった。彼の負傷は人間達にとって、絶望的な情報であっただろう。彼が勝利を挙げられない魔物がいるのであれば、もう人間に勝ちの目は無いのではないだろうか?そう思えたからだ。

 しかし、人間達はユキムラの負傷を聞いた時、皆胸を撫で下ろした。彼も赤い血が流れていた、これで暫く人修羅が暴れることは無いだろう、いっその事死んでしまえば良かった……口々にそう言った。

 

 そんな囁きに異を唱える者がいた。片腕を失った、ユキムラを「異」と見ない少女である。

 

「貴様も人修羅か」

 

「よく見れば片腕が無いではないか」

 

「片腕を捧げて人修羅と契約したのではないか」

 

「貴様は人間か、それとも魔物か」

 

 人間達は少女を口々に罵倒した。同じ人間を、畜生に叩き落とそう勢いで罵倒した。

 それでも少女は異を唱えることをやめなかった。歯を食いしばり、涙を堪え、必死に異を唱え続けた。

 

 大丈夫。貴方は、世界に嫌われていない。

 

 負傷し、戦場から少し離れている彼に、そう伝えたい。

 

 

「ユキムラは、世界に嫌われてなんかいない!!」

 

 

 少女は、人間達に、世界に抗おうとした。

 

 明くる日、少女が世界に抗い始めたその場所には、誰のものとも解らない死骸が転がっていた。

 

 

 戦場を離れ、療養していたユキムラは心に穴が空いたようだった。

 早く戦いを終わらせる為に、また俺が戦わないといけない。彼女の望む、戦いの無い世界を見る為に。

 

 彼女はいつ、ここに来てくれるのだろう?

 

 そればかりを考えていた。

 いつまで経っても彼の元を訪れる客人は現れない。彼の元を訪れる客人は、少女一人だけなのだが。その少女は、ユキムラの知らぬ所で、人間に抗って殺された。客人が、訪れる筈が無いのだ。唯一人、傷を癒すことしか出来ない。

 今の彼を訪ねる客がいるとするなら、其れは……

 

「ユキムラ、戦線復帰だ」

 

 ━━其れは、戦いを迫る声以外に無いだろう。

 傷も癒えていない彼であっても、人間にとっての彼の戦術的価値は非常に高かった。それでも、負傷した「人間」を戦線に投入する程、非人道的な真似をする程戦況が悪い訳でも無かった。

 

 少女は既に殺されてしまった。「人間」が「人間」を殺してしまった。一度狂った歯車は、一度廻った歯車は、止まることを知らない。

 

 少女が死んだことを知らないユキムラは、戦線復帰という言葉に喜びすら感じられた。此処で一人、いつ癒えるか解らない怪我が癒えるのを待つより、戦いを終わらせる為に血を浴びた方が幾分かマシだろう。黒い両腕が疼き、一刻も早く槍を握りたくて仕方が無かった。

 

 

 戦線の状況は良くなかった。誰が見ようと、人間が押されているのは明白だった。

 ユキムラは走った。黒い両腕がただ示すままに、槍を振り回して暴れ回った。魔物の心臓を貫き、首を跳ね飛ばし、頭蓋を叩き割り続けた。傷は痛むが、関係無かった。これは戦いを終わらせる為なのだ。彼女の望む世界を一刻も早く。早く。早く。

 

 

 ━━脇腹に、鋭い痛みが突き抜けた。

 

 

「かはっ……!?」

 

 何が起こったのか、解らなかった。

 背後から、刃が突き立てられている。

 

 そんな筈は無いだろう。何故なら、俺の背後は味方しかいないはずだ。

 

 

 ああ、きっと俺は世界から嫌われている。

 

「ユキムラ……!とある少女からの伝言だ……「ごめんなさい、さよなら」だとよ」

 

 

 ああ、そうか。

 

 初めから味方なんていなかったんだ。

 

 人間も。魔物も。世界も。全てが俺の敵だった。

 全てがこの黒い両腕の敵だった。

 

 怒りは自然と生まれなかった。絶望や憎悪も不思議と沸き立って来なかった。

 ただ、そこにあったのは虚無。

 

「お前は人じゃねえ、黒い両腕を持った悪魔だ!」

 

 うるせえ。

 黙れ。

 

 

「悪魔ってのはお前達の事だよ!!」

 

 

 ユキムラは吼えた。

 

 黒い両腕が赴く儘に、ただ只管に槍を振るった。人の心臓を貫き、悪魔の首を跳ね飛ばし、外道の頭蓋を叩き割り続けた。身体がどんどん重くなっていくことを感じた。

 

 視界がどんどん暗くなっていく。

 息が荒くなっていく。

 

 ああ、きっと俺は世界から嫌われている。

 

 嫌われているなら、同化する必要は無い。ただ死に絶える最期の瞬間まで、足掻き続けてやる。

 どうせ一人なんだ。

 

 この両腕が悪魔の両腕だろうと。知ったことではない。

 お前ら人間のその心臓が、悪魔の心臓なのだろう?共に死のうではないか。

 

 

 

 

「━━━私がいるよ」

 

 

 

 

 耳元で、鈴を転がしたような優しい声が聴こえた気がした。

 

 

 ああ、きっと俺は世界から嫌われている。

 

 お前も、きっとそうだったんだろう?

 

 もし、次生まれ変わることが出来たら。

 

 

 ━━今度は、二人で世界に愛されますように。

 

 

 

 悪魔のお願い、神は聞き入れてくれるかしら。

 

 聞いてくれるさ。俺達は悪魔じゃない。

 

 俺達が、「人間」なんだよ。





 ……若し、私が神様だったなら。彼の願いを聞き入れていたでしょうね。

 けれど、神様は贔屓は出来ないから。彼のような敗北者全ての願いは、きっと聞き入れられない。


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drama 散った薔薇の花弁



 ━━たった一輪の薔薇の水晶。とある国の小さな街の物語。

 其れは、純粋で無垢な少女の物語。叶うはずのない恋に胸を踊らせ、棘があることにも気付かずに薔薇を握って踊り続けた、哀れで愛おしい敗北者の物語。

 ……くだらない、と嗤うことが出来るのは、貴方がそれを体験したことがないからよ。


 ━━人を愛するのはこんなにも簡単なのに、結ばれるのはどうしてこんなにも難しいのでしょうか。

 

 とある酒場の看板娘、ローズの恋文とも取れる手記に書かれた一言である。

 

 私は満たされています。

 父の手伝いとして酒場を手伝う日々に。騒がしいけれど、優しくも温かいお客様達の喧騒に。特別な味付けや高級な材料は使用していないけど、とても美味しい母の料理に。無骨であまり笑わないけれど、とても広い心を持っている父に。

「早く良い男を見つけろ」なんて言われたりもしますし、「そろそろ結婚して女の幸せを」なんて言われたりもします。けれど、私は今、とても満たされているのです。これ以上の幸せを願うなんて、強欲だと思いませんか?

 

 お客様から冗談半分に言い寄られたりもします。父の酒場に来るお客様は皆、とても温かく、良い人ばかりです。けれど、私は今、とても満たされているから。この生活に、とても満たされているから。

 

 

 ……彼のことを想うだけで、とても満たされているから。それで良いのです。

 

 

 叶わぬ恋だと、解っているのです。然れど、叶わないから仕方が無いと、諦められる恋でも無いのです。

 いいえ、もう諦めているのです。諦めているけれど、それでも想わざるを得ないのです。

 

 きっと、彼は私のこと等、気にも留めていない。私のことを知らない。何故なら、彼はこの地の領主のご子息で、私はその地に住まうただの町娘なのですから。酒場に来るお客様達が汚い、とは言いません。父の酒場が汚い、とも言いません。しかし、こんな酒場に、領主様のご子息様がいらっしゃる筈もありません。身の程は、弁えているのです。

 

 だから、想うだけで良いのです。それだけで、私は今、満たされているのです。

 

 

 ━━たった一つだけ、余分に貰った愛情。それが欠けても元通りの筈なのに、心は渇き、十の愛情を求めるようになるのです。

 

 

 それは、とてもとても偶然の出来事だったのかもしれません。領主様と、彼が街の視察に繰り出してきた時のことでした。嗚呼、なんという奇跡だったのでしょう。彼が、私のことを見てくれたのです。そして、私の姿を見た途端に、領主様に声を掛け、視察と称して父の酒場に足を踏み入れたのです。

 この酒場に、領主様とそのご子息様のような、貴族の方々を満足させるようなものが用意出来るようには見えなかったと思います。実際、満足出来たのかどうか、それは解りませんでした。しかし、彼は、私にこう聞いてくれました。

 

「宜しければ、名前をお聞かせ願いたい」

 

 この日私は、母に天上の感謝を伝えたくなりました。産んでくれて、この瞬間まで育ててくれて、本当にありがとうと。

 この日私は、母を地獄の底まで恨みたくなりました。ローズでは無く、もっと美しい名前があったのでは?彼はこのローズという名前にどんな思いを抱いたのだろう?もっと、もっと素敵な名前が良かった!

 

 それでも、彼は少しはにかみながら、私の名前を呼んでくれました。その時の、嗚呼その時の胸の高鳴りはどう表現すればよろしいのでしょうか?今まで、ただ一方的に存在を知り、一方的に想っていた彼に、名前を呼ばれたのです。これ以上の喜びがあるのでしょうか?

 

 その日から、私は仕事により精を出すようになりました。また、いつ彼が視察に来てもいいように。彼に怠けた姿など、見せたくはありませんもの。お客様達に口説かれることも多くなりましたが、断り続けました。また、名前を呼んでもらう時に、私の側に男の人が居たらどう思われてしまうか!

 

 彼は、時々酒場にお客様として現れるようになりました。私は彼のことを見ると心臓が高鳴り、仕事に精を出したくとも失敗をしてしまうこともしばしば有り、それでも、それでも彼はにこやかに笑っていました。

 酒場に来て、酒も飲まず、特別な味付けや高級な材料を使用していない、一般的な料理を口にして、私に目配せをして帰っていく彼。「酒場に来て酒を飲まないなんてどうかしてる」と他のお客様は笑いますが、そんな所も誠実に見え、素敵なのです。そう言うとまたお客様達は笑いました。

 

 彼が一人で酒場に現れるようになってから、私は毎日が怖くなりました。今日は来てくれるのだろうか?前に来た時はいつだっただろうか?明日こそは会えるのだろうか?

 

「きっと忙しいんだよ」

 

 母にそう言われました。領主様のご子息なのです、勉強しなくてはならないことも沢山あるでしょう。夜、蝋燭の灯りに照らされて物憂げにペンを走らせる彼の姿を想像するだけで、心は紅く染まっていきました。

 けれど。私は、この瞳で、彼を見たいのです。

 

 また、名前を呼んで欲しい。

 目配せをして欲しい。

 

 出来ることならば、ゆっくりとお話がしたい(私を愛して欲しい)

 

 

 私はいつしか、満たされなくなりました。

 

 

 

 ━━彼が「僕と共に死んでくれ」と言うならば、喜んで剣を私の胸に突き立てましょう。でも、彼は「僕と共に生きてくれ」と私に言ってくれたのです。

 

 

 彼が……デューイが、酒場に来るようになってしばらくが経ちました。

 一度だけ。デューイに、「何故この酒場に来るのですか?」と聞いたことがあります。その時の、彼の少し照れた顔と、その後の言葉は、私はきっと一生忘れることは無いでしょう。

 

「……ローズ。君に、会いに来ているのです」

 

 死んでもいい、とさえ思えました。いいえ、もう死んでいたのかもしれません。その言葉だけで、その表情だけで、私はきっと一生分の幸せを手に入れることが出来た。もう、一生分の幸せを手に入れることが出来たのです、死んだっていいでしょう?もう、死んだのと同じでしょう?

 

 然れど、死ぬ訳にはいかないのです。死んでしまえば、もうデューイに会うことが出来なくなってしまうのですから。私が死んでしまえば、デューイが悲しんでしまうのですから。

 いつしか、私とデューイは酒場だけではなく、夜更けの河辺でも逢うようになりました。いつしか私の一方的な重い(恋心)ではなく、彼も私を想ってくれるようになりました。酒場で料理を出す時に、隠れて一緒に手紙も渡しました。次に会いに来てくれる時には、その返事の手紙を忍ばせてくれました。会えない時間も、彼の文字を見れば脳が紅く溶かされていくようでした。早く、返事を書かなくては。嗚呼、でも私の文字は彼に比べて幾分か汚いのです。デューイは貴族として教育を受けているのですから字が綺麗なのは当然ですが、私は精々町娘なのですから、大したお勉強も出来ませんでしたもの。

 

 けれど、デューイには私の最も綺麗な文字を見て欲しい。返事を書く時間を取る為に、眠る時間を削ったりもしました。

 

 それ程時間を掛けた返事の手紙は、中々渡せませんでした。デューイが、中々来てくれなかったのです。

 

 何か風邪でも引いたのでしょうか?いいえ、そのような噂は聞いたことがありません。ではやはり忙しいのでしょうか?

 まさか、私は嫌われてしまったのだろうか?ふと、そんな想像が脳裏を過ぎりました。視界が真っ白になるような感覚を覚えました。嫌だ、嫌われたくない。会いたい。逢いたい。話したい。離したくない。私の思い(高揚)は、重い(恋心)は、想い(愛情)は?

 

 きっと、忙しいのでしょう。いつしか、母に言われた言葉で自分を安心させようとしていました。それよりも、仕事をしなければ。

 

 

 そんな時でした。とある噂を酒場で聞いたのは。

 

 

「おい、聞いたか!領主様の跡継ぎのデューイ殿、とうとう結婚が決まったらしい!」

 

「ああ、知ってる!お相手もかなり位の高い貴族の人らしいじゃねえか!」

 

 

 目の前が、真っ白になる。

 それどころではありませんでした。世界から、色が消えました。真っ黒な麦酒(ビール)、真っ黒な魚、真っ黒な皿、真っ黒な声。真っ黒な父、真っ黒な母……。

 

 当然のことなのかもしれません。

 政略結婚、という言葉位、学の浅い私でも知っている言葉です。

 精々町娘でしかない私が、貴族であり、領主様のご子息であるデューイと結ばれるなんて、有り得はしなかったのです。

 

 この日ほど、母親を憎んだ日はありません。世界を憎んだ日は在りません。何故私を町娘に産んでしまったのか。このような思いをするならば、何故今日まで私を生かしたのか。何故私は産まれてしまったのか。

 

 産まれてきたその時点で、名も知らぬ貴族の女性に、世界に、町娘の私は敗北していたのです。

 

 その日の夜、私は眠る事も出来ずに、只管に泣きました。嗚咽を漏らしながら家を抜け出し、デューイと密かに逢っていた河辺に向かいました。

 

 其処には、色がありました。

 

 

 其処には、デューイがいました。

 

 

 涙が止まりませんでした。やっと逢えた。どうして結婚のことを黙っていたの?何故愛に来てくれなかったの?ねえ、どうして?会えて嬉しい。私、寂しかったの。

 

 デューイは、私にこう言いました。

 

 

「僕は君を愛している。……僕と共に、逃げてはくれないだろうか?」

 

 

 心臓が止まるかと思いました。

 彼は、政略結婚に、貴族という名の世界に抗おうとしていたのです。私との、愛の為に。

 

 私は嗚咽を漏らしながら頷きました。デューイはあの笑顔で微笑んでくれました。

 

「明日、また此処で待っている。荷物を持って、またこの時刻に。来てくれるね?」

 

 頷きました。

 世界に色が戻りました。

 

 胸が踊って仕方がありませんでした。そうと決まれば直ぐに家に戻りました。もし、私とデューイが会っていることが知られたら、この駆け落ち(結婚)は成功しないかもしれない。

 

 家に戻るまでの道が、短く感じられました。

 夜は、とても長く感じられました。

 

 胸の中は、紅で満たされていました。

 

 

 

 

 

 ━━薔薇の花弁は散り際が最も美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気の毒だよな、デューイ様の結婚が決まって沈んでた時に、更に刺されて死んだなんてよ。犯人の手掛かりも無いとはなぁ」

 

「……噂なんだが、デューイ様の結婚相手が嫉妬してローズちゃんを殺すように仕向けたらしいぜ」

 

「ホントかよ?……いや、有り得るな。あの二人、仲睦まじかったもんな」

 

 

 

 ━━人を愛するのはこんなにも簡単なのに、結ばれるのはどうしてこんなにも難しいのでしょうか。

 

 ━━ただ、彼を愛したかった。結ばれたかっただけなのに。産まれたその時から、結ばれることは出来なかったのでしょうか。敗北者には、望んだ恋は実らないのでしょうか。

 

 ━━もし、生まれ変わることが出来たら。身分の違いや嫉妬(世界)に囚われずに、彼を唯愛し、結ばれますように……。





 ━━最期に、何かを願って死んでいく敗北者って、沢山いるのね。満たされて死ぬことが出来れば、それはきっと「勝者」だから、かしら?

 ……此れを見ても、貴方は彼女をくだらない、と嗤うかしら?唯、彼女に取って、その愛情こそが全てだった。それだけよ。世界に抗おうとしたのだもの、素晴らしいと思わない?
 貴方と同じなのよ。貴方と同じ、敗北者。


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drama 真実の詩

 ━━鳥の形をした水晶。とある国を旅する女性の物語。

 其れは、たった一人で世界に抗い続けた詩人の物語。歴史の闇に葬られた、あまりにも勇敢だった詩人の一生、或いは戦記。

 ━━彼女にとって抗い続けたかった世界は、貴方と同じかもしれない。


 ━━空は蒼く、流れる雲は白く。然れど、大地は紅く、剣を握った同胞の心は黒く染まりゆく。

 

 国中を歩き回り、その目で見たものをありのままに詩に乗せ、鳥の囀りのように往く先々で人々に歌って聴かせる流浪の女流詩人、セレナ。

 彼女の詩は常に真っ直ぐで、どんなに悲惨な真実を見たとしても、それをありのままに歌った。人々は彼女の詩を聴いて世界の姿を知り、時には喜び、時には嘆き、時には怒り、時には泣いた。

 

 空腹の少女、生きる為と青年を騙し

 満たされぬ青年、満たされる為と少女を騙す

 陰気な兵士、事の顛末も知らずに

 傷付いた少女は鎖で繋がれた

 地下の腐き牢獄は愛情を失う代わりに

 皮肉にも腹は満たされてしまう

 少女にとって牢獄は自らを生かす糧となり

 蒼空は無情にも少女の鳥籠となった

 

 時に、セレナは恨まれる身となることもあった。世界を見たままに歌う彼女は、人々に見せる世界を捻じ曲げる人々にとっては、邪魔でしかなかったのだ。

 世界は、美しいだけではない。それでも、真実を見て、確かな世界を見なければ、本当の美しさは見えないだろう。

 

 叶わぬ恋を求めた貴族の少年

 約束が隣にあると知りながら

 棘に覆われた薔薇を求め地に堕ちる

 叶わぬ恋を求めた薔薇の少女

 世界を敵に回すと知りながら

 柵で囲まれた花畑を目指し血に堕ちる

 断ち切られた約束は代償を求め

 道連れに二人の生命を喰らい尽くした

 

 彼女の詩は往く先々で人々の心を揺らし、人々が口ずさんでいた。しかし、彼女の旅路に着いていこうとする者は誰一人現れなかった。それは偏に、彼女の旅が過酷であることを誰もが詩から感じ取っていたからであろう。

 特定の貴族や(圧力)から逃れ、争いの渦中を潜り抜け、まるで作為的に造られた世界に抗い続けるかのように旅を続ける彼女の姿はあまりにも凛々しく、他の何者にも真似は出来なかったのだ。

 

 地下深くに眠る蜘蛛

 交わされる取引、買わされる奴隷

 網は広く、宮殿から砂漠まで

 外套を被せれば狗の躾人

 

 無論、彼女の詩全てがそのように世界に抗うものではない。ただ路傍に咲く花の美しさを讃えた詩、大雨の後に雲間から顔を覗かせた太陽の暖かさを感じた詩、偶然見掛けた、小さな子どもの告白、そして額への口付けの甘さ……。全て、ありのままに。唯、見たままに。

 

 兵隊の行進、鳴らされる足音

 祈る聖女、その腕の中には赤子

 願わくば未来ある赤子に平穏を

 名も無き兵士よ、生きて帰れ

 誰も殺さずに、生きて帰れ

 願わくば未来ある赤子に平穏を

 名も無き赤子よ、笑って生きよ

 剣を握らず、笑って生きよ

 

 造られた世界にとって、恐らくセレナの存在は邪魔でしかないのだろう。然れど、本当の世界を見るには、造られた世界に抗い続ける者は必要なのだ。

 

 ━━私が、そうなれたらいい。最期の刻まで、私が抗い続ければ。戦も、争いも、差別も。何れは無くなる筈だ。

 

 蜘蛛の網にかかる前に。かかる迄に。少しでも多く、世界の真実を。例えそれを皆が信じずとも良い。唯、その詩を「知っている」、そんな話を「聞いたことがある」。それだけでも、世界は真実の姿を見せる筈。

 奴隷はいつしか解放され始めた。其れが、セレナの詩に影響されてなのかは解らない。しかし、解放された奴隷は不死の兵隊と名乗り、戦場にて世界に抗うべく戦い始めた。

 

 ━━願わくば、抗う為の血がこれ以上流れないことを。

 

 そう願っても、争いが続く世界は終わらない。しかし、塗り固められた世界の継ぎ接ぎは剥がれつつある。間違いは無い。

 

 大空を舞う雄々しき鳥

 射抜かれしは狩人の強弓

 美しき空を舞う姿は二度と見られない

 然れど射抜かねばならない

 美しき少年を殺したくないのであれば

 

 誰かが犠牲にならなくてはならない。「敗北者(drama)」が居なければ勝者(未来)は生まれない。歴史に葬られし者が居なければ、未来を創造する者は生まれない。

 新たな未来、真実の世界を見る為、この強固な世界を。争いに塗れた歴史を、葬り去らねばならない。時代の敗北者では無く、時代そのものを終わらせなくては。

 

 生まれながらにして皇帝

 生まれながらにして皇帝の奴隷

 生まれながらにして唯の奴隷

 唯の奴隷は皇帝に噛みつき

 皇帝は自らの奴隷を処刑した

 唯の奴隷は留まることを知らず

 皇帝を処刑する迄死にはしない

 

 例え国中に蜘蛛の糸が散りばめられていたとしても、国の外へ出るわけにはいかない。

 この国こそが、今のこの世界そのものなのだから。

 セレナにとって、この国に何か思い入れがあった、という訳では無い。唯、この国に抗い続けること。其れが、この世界に抗い続けることと同義だっただけだ。

 

 水平線の向こう、海猫の声を聴き

 私の詩を遥か彼方へ伝えておくれ

 いつか出逢おう、海の向こうの友よ

 顔も名前も知らぬ、愛しき友よ

 

 何も見えない。聞こえない。

 或る意味では懐かしい。手枷も、足枷も。この暗闇の牢獄も。或る意味では新鮮だ。罪人として、牢獄に囚われるのは初めての経験なのだ。

 この狭い牢獄の中でふと思い出した詩は、あまりにも広大だった海の詩である。海の向こうには、真実の世界が広がっていたのだろうか。

 牢番の兵士は真っ黒な暗闇の中でも、しっかりとセレナのことを監視していることが解った。

 

 暗闇の鳥籠に囚われた歌鳥

 羽撃くことは叶わないのだから

 私は詩を歌うことしか出来ない

 最期まで歌い続けよう

 声が消える迄は敗北者ではない

 

「……貴女の声は素晴らしい」

 

 牢番の兵士は、そう呟いた。

 

「何故、貴女は国に抗うような詩を歌ったのですか」

 

 ━━何故って?

 

 ━━私は、唯世界が見たかったの。ありのままを唯伝えようとしていたら、今迄見ていた世界が真実ではないことに気が付いただけ。

 

 詩以外の、彼女の心が聴けた者は、恐らくこの牢番の兵士だけなのだろう。

 

 ━━私は、その真実の世界がどれ程無慈悲だったとしても。その真実が知りたかっただけ。その真実が見えたら、私も、少しは救われるのかなー、なんて、思ったりしてね。

 

 然れど私は世界を愛する

 間違いだらけだったとしても。

 然れど間違いの無い物も在る

 例えば、其れは生きる人々

 恋の詩を聴き頬を染めた少女。

 争いの詩を聴き涙した少年。

 冒険の詩を聴き飛び跳ねた子ども達。

 自由の詩を聴き力強く頷いた青年達。

 約束の詩を聴き懐かしんだ老人達。

 真実の詩を聴き戦った者達。

 死者の詩を聴き祈った聖人達。

 彼等は、彼女等は

 間違いなく真実の心を持っていた

 或いは、私が歌わずとも

 詩が無くとも、真実は現れたかもしれない

 然れど私は詩を歌ったでしょう

 其れこそが私の生きた意味なのだから

 

 願わくば、真実の世界が美しき世界であれ

 願わくば━━

 

 

 セレナは国への反逆罪として、公開処刑が行われることが決定した。

 彼女が斬首台に上げられるその日、空は驚く程に蒼かった。まるで、鳥が飛び立つ際に、水平線の向こう迄見通せるのでは無いか、という程に。

 

「……何か言い残すことはあるか。セントニア(世界)に抗い続けた、哀れな詩人よ」

 

 ━━言い残すこと?勿論沢山あるわ。まだ、歌いたい詩が沢山。それはもう沢山あるのよ?

 

 処刑の寸前まで、彼女は笑っていた。

 まるで、敗北者になることを恐れていないかのように。

 

 ━━願わくば。真実の世界が生まれた時。私も生まれ変わって、その世界を見たい。そして、またその世界を旅して詩を作るの。

 

 斬首台の刃が煌めく。陽の光に照らされ、人々の目に焼き付いた。

 

 人はやがて死ぬ、誰であろうと。

 然し人は生き続ける。人々の想いの中で。

 海鳥に託した詩よ、人々に託した詩よ。

 どうか、忘れないで欲しい。

 私という、敗北者が歴史に存在したことを。

 どうか、忘れないで欲しい。

 真実の詩を。偽りの世界を。

 

 どうか、忘れないで欲しい。

 唯の奴隷だった、名も無き女のことを。

 世界に抗い続けた、詩人にして奴隷だった女(セレナ)のことを。

 

 

 ━━願わくば……





 ……貴方でしょう?戦場にて世界に抗い始めたのは。
 ━━不思議な縁ね。まさか、敗北者のdramaを追う途中で、自分自身に出逢うことが出来るなんて。

 ……結局、貴方も今は敗北者。この詩人の想った真実の世界は、いつ見られるのかしら?願いは当分、叶いそうに無いわね。


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drama 天使にさよなら

 ━━翼の生えた天使の形をした水晶。とある国の、小さな世界の物語。

 其れは、神とさえ呼ばれた画家の物語。世界を飛び越える程の想像力と、それを産み出す創造力を持ち合わせた彼は、世界と関わりと持とうとしなかった。

 ……持とうとしなかった理由も察せられるわよね。私も、きっと同じことをしていたと思うわ。貴方はどう?


 ━━創ることは出来ても、羽撃くことは出来ない。奪われても、取り返せない。

 

 名画「アトリエ」作者……バロン

 

 作品名の通り、彼が実際に絵を描く際に使用しているアトリエをテーマに描かれたものである。机の上に置かれた筆やカップは非常に写実的に描かれているが、それとは真逆にキャンバスの周りは夢の中のように幻想的だ。色鮮やかな多数の腕がキャンバスに指で自らの色を塗りたくり、その色彩は何も無い空間にすら色を与えている。

 ━━絵を描いている時は、無限の想像力で無から有を創造する。アトリエはその儀式を行う為の小さな世界なのだ。無口で人見知りの彼が、この絵を世に送り出した時にそう呟いた、とされている。

 

 名画「黒腕の戦士」作者……バロン

 

 海の向こう、極東の島国で語られる御伽話をテーマに描かれた作品。名前の通り、真っ黒な腕の男が槍を振るい、異形の獣を突き刺している姿が描かれている。

 注目すべきはその躍動感もさながら、戦士であるはずの男が涙を流していることだろう。バロンが何故、この男に涙を流させているのか。それは無口で人見知りな彼が語るはずも無く、多数の噂が独り歩きしているのみである。

 

 名画「白い花」作者……バロン

 

 戦場に咲く、一輪の花をテーマに描かれた作品。しかし、作品名とは違い、描かれている花は真紅に染まっている。そして隣には生気のない人間の腕が横たわり、周りには一本の剣と、花と同じ色の血が飛び散っている。

 恐らく、この花は名前の通り「白い花」だったのだろう。戦場に降る血の雨に打たれ、真紅に染まってしまったのだ。この絵が争いを嘆いているのか、反戦を掲げているのか。多くの者がそう考えているのだろうが、一部の者は、「この真紅の花も美しい」と、ある種の死や争いといったものへの美意識を感じるらしい。作者であるバロンは、何処まで考えてこの作品を創りあげたのだろうか。

 

 名画「私の隣人」作者……バロン

 

 真っ黒な背景に、仮面を被った紳士が描かれた作品。仮面に表情は無く、ただただ真っ白である。背景の黒と対照的に明るい為、余計にその白が白く見える。無口で人見知りと言われる彼の交友関係は不透明を極め、本当にこの絵が彼の隣人をテーマに描かれているかは不明。

 彼の作品の中でも特に様々な考察、議論が起こされているのがこの作品である。仮面を着けている、そして背景が真っ黒であることからバロンは隣人を良く思ってはいない、という意思の表れだという意見、真っ黒な中に白い仮面を被っているのだから、彼にとって隣人とは光のような存在であるという意見、はたまた隣人というのは「心の中のもう一人の自分」であり、自らの心の中を描いたのだという意見……。真実は作者であるバロン以外に知り得ることは無い。否、彼自身も知り得ないのかもしれない。

 

 名画「精霊の森」作者……バロン

 

 鬱蒼とした森に、蒼い小さな光が幾つか漂っている。そして、木々の間に隠れ、「こちら側」を静かに睨む、エルフの様な種族達。名前の通り、精霊が住まう森を描いた作品であろう。

 この絵に描かれているエルフ達は、一見すると人間のように見えているが、よく見ると何処か恐怖感を煽る、まるで「人間とは全く違う種族」に見えてくる。実際、エルフや精霊といった種族が存在するかどうかは不明であるが、まるで絵の中に生きており、何らかの理由で絵の向こう側、つまりこちら側にいる私達人間を恨み、睨んでいるように感じられるのだ。彼等が何故こちら側を睨んでいるのか、エルフや精霊達は生きているのか、本当に存在しているのか。

 

 名画「詩人」作者……バロン

 

 斬首台の上で、風を一身に受けながら歌っている女性が描かれた作品。この女性のモチーフは、セントニア王国に抗い続けた旅の詩人、セレナであると言われている。彼女とバロンに交流があったかどうかは不明であるが、彼女の出自も不明である為、真偽を確かめることは不可能であろう。何故なら、彼女は既に死んでいるのだから。

 この作品もセレナの詩同様、セントニア王国に抗い続ける、という意思を感じられると言われている。セレナは斬首台に掛けられて死亡しており、その理由は「詩による世界への冒涜」とされている。そんな彼女を斬首台の上で、風を受けながら清々しく歌っている姿を描いたのであれば、彼女と同じ思想を持っている、と言われても文句は言えないだろう。バロンはこの絵について、「あくまでも自分の世界を描いているだけである」と述べているらしい。

 

 名画「神の光」作者……バロン

 

 幾多の兵士が路傍の石の様に転がり、その中心に真っ黒な光が輝いている作品。「神」の光である筈なのに、その輝きはあまりにも冒涜的で悍ましいものであった為、多くの宗教家や神父からの罵声が浴びせられた作品である。

 バロンという画家は、その本名は疎か出自、性別、年齢、現在の住所からどのような顔をした人物なのか、全てが謎に包まれている人物である。この絵が世に送り出された時には多くの宗教家が彼を探そうと躍起になったがついに見つかることは無く、この絵だけが紅蓮の炎の元に葬られることとなった。その際に天へと昇っていったどす黒い煙は、まるで作品の中に描かれた真っ黒な光のようにも見えたという。既に失われた絵画、という意味では、この作品は彼の作品の中でも非常に勿体無い作品であろう。

 

 名画「行き先」作者……バロン

 

 剣を提げた一人の旅人が、道を唯歩いている作品。道の先は、真っ黒な闇に覆われている。空は蒼く描かれているが、奥に進むにつれ暗くなっている。夜よりも、遥かに深い闇に。

 この絵に描かれている剣は、セントニア王国の兵士が訓練兵として野外訓練を行う際に支給される剣らしい。この情報により、バロンという画家は兵役があったのではないか、という推察もされたが、真実はこの作品の道の先と同じ、闇の中である。唯、彼がセントニア王国の国民であろうことは間違いは無いのだろう。

 訓練兵の訓練用の剣を態々描いたことには何の意味があるのだろうか。戦続きのこのセントニア王国は、いつか争いに敗北し、暗闇の中を彷徨うことになる、と伝えたいのではないか?という推察も行われた。後日、その説を持ち上げた学者は行方知れずとなった(歴史の闇に葬られた)

 

 作品名「約束」作者名……トード

 

 少年と騎士が向かい合っている姿を描いた作品。若くも実力の高い画家、トードによって創られた作品である。

 彼の作品は非常に写実的でありながらも少し幻想的な雰囲気を漂わせており、謎に包まれた天才画家のバロンと作風が酷似していた。然し、バロンの影響力はそれ程に強く、似たような作品は湯水のように世に送り出されていた為、それ自体は大したことでは無かった。唯、トードの作品は、それ等の既製品の様な作品群と比べると、頭一つ抜けて才能が感じられたのだ。

 然れど、バロンという画家の壁は非常に高かった。既製品達に比べればトードの実力は非常に高かったが、それをも超えるバロンの想像力と創造力。彼は神に等しかったのかもしれない。確かに其処に存在する筈なのに、その存在はあまりにも不確定である。

 

 名画「天使」作者……トード

 

 純白の(穢れなき)白い翼。漆黒の(争い続ける)黒い翼。そして穢れなき表情で大空を舞い、争いの絶えぬ大地を見下ろした天使が描かれた作品。トードの稀代の傑作と呼ばれ、その絵はバロンを遥かに越えたと言われる作品である。

 大地は血と剣と死体で塗れており、それでも尚戦い続ける人々が描かれており、空はただひたすらに蒼く、天使の表情も穏やかである。まるで空は純白、大地は漆黒と言わんばかりに翼だけが異質であり、天使の表情はまるで「全てを受け入れる」と笑っているように思えてくる。美しい世界と穢れた世界、その全てを受け入れると。全てを受け入れた結果、この世界に何が生み出されるのであろうか……。

 

「遺言」執筆者……バロン

 

「天使」がトードの手によって世界に送り出された数日後、セントニア王国の小さな街の小さな家にて自殺者が発見された。首を吊って死んだ彼の傍らには一枚の遺言書が置かれていた。

 

 ━━私は、天使に見放され、殺された。私に抗う力は無い。

 

 たったこれだけの文章。そして紙の端には「バロン」という文字が刻まれていた。

 家の地下には大量のキャンバスや絵の具、様々な画材が並んでいる部屋が発見された。その描きかけのキャンバスや恐らく世界に送り出すことを断念した絵を見るに、この自殺者は間違いなくバロンである、と断定された。

 

 彼の残した、「天使に見放された」という一言。間違いなくそれはトードの作品「天使」だろう。彼はトードという、自らを越える存在に絶望し、敗北したのだ。……世界は、神を引き摺りおろした。地の底に。

 然し、バロンの作品は未来永劫評価され続けることとなるだろう。宗教家達によって破壊された、「神の光」と……彼の没後、何者かによって破壊された「私の隣人(トード)」以外は。




 ━━抗っても敗北者に成り果ててしまった者と、抗うことを放棄した敗北者。どちらも同じ敗北者。

 ……然れど、彼も抗おうとしていたのでしょうね。このdramaはただ一辺からしか、彼の世界を覗くことが出来ないから、見えないだけで。

 ━━何故そう思うのかって?そうね……そうでもしないと、dramaにはならないのよ。きっと。

 ……彼は少し、気の毒かもね。


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drama spare


 ━━歪な王冠の形をした水晶。とある国の、王子の物語。

 其れは、あまりに短いdrama。嗚呼、でも貴方にとっては無限のdramaなのかもしれないわね。私には退屈過ぎて、切り取ってしまったわ。ごめんなさい。


 ━━僕は恵まれていた。世界(セントニア)の王の遺伝子を継いだ、産まれながらにして勝者となる権利を持ったのだから。

 

 ━━僕は恵まれていなかった。僕より先に、世界の王の遺伝子を継いだ、産まれながらに勝者となる義務を持っていた兄がいたから。

 

 産まれながらにして皇帝。

 産まれながらにして皇帝の奴隷。

 

 きっと僕は、あの兄に勝つことは出来ないだろう。父上の瞳と、父上のオーラと、父上の全てが、あの兄には詰まっている。

 僕は恵まれていた。然れど、彼の方がもっと恵まれていただけだ。

 圧倒的な王の前には、全てが奴隷。圧倒的な勝者である筈の僕でさえも、更なる勝者の前では、奴隷でしかない。

 

 産まれながらにして、勝者。

 産まれながらにして、敗北者。

 

 最終的に勝者となる者は一人しかいないのかもしれない。

 それでも、僕は少しでも勝者となりたかった。

 

 産まれながらにして、敗北者。

 

 ━━それは、彼のような者のことを言うのだろう。

 

 セントニア国第七王子、ヴァッシュ・セントニア。彼が誕生したその次の日、彼の母であった側室は「王によって」暗殺された。

 彼女は、セントニア王国にとって、黒王一族にとって、邪魔でしか無かった、と聞かされた。

 ヴァッシュも兄弟皆から嫌われていた。理由があった訳では無い。唯、あの女の子どもだから。薄汚れた血が混じった王家だから。使用人達も避けているから。そういった理由で彼を虐げていた。

 

 しかし、ヴァッシュは抗い続けた。例えどれ程年齢が違う相手だろうと、どれ程体格が違う相手だろうと噛みつき続けた。その度に全身に傷を刻まれ、敗北者としての刻印(レッテル)を貼られるというのに。たとえ刃で傷を刻まれようと、焼印で敗北の証を刻まれようと、鞭で弱者の佇まいを刻み込まれようと、彼は歯向かい続けた。

 

「ヴァッシュを殺せ」

 

 そう、僕に命令したのは兄だった。逆らえなかった。逆らう必要も無かった。殺してしまえばいい。そう思っていた。

 僕の持つ兵士達を使い、僕も剣を持ち、アイツを殺そうとした。けれど、アイツは「僕がアイツを殺そうとしていること」に気付き、同じように剣を持って抗おうとした。

 

 ヴァッシュは産まれながらにして敗北者であった。たった一人で抗おうとしても、多数の兵士と僕を相手に抗い切れる筈もなく。「殺す」ことを目的に虐げに来た相手も初めてだっただろう。当然の様にアイツは逃げ惑った。

 

 それでも、ヴァッシュは死ななかった。あろうことか僕は、彼を追っているうちに彼を見失ってしまった。

 やってしまった、と思った。兄に殺される、と思った。けれど、ひとつのことに気がついた。

 

 アイツは、一人なんだ。生きていけないじゃないか。なら、殺したも同然だ。

 僕は兄に「ヴァッシュを殺した」と報告した。兄もそれを疑いもしなかった。

 

 恐らく、最大の誤算はこの時だったのだろう。

 

 数年後、ヴァッシュは生きた姿で発見された。

 アイツは、世界に抗い続けることを諦めていなかったんだ。あろうことか、セントニア王国そのものに牙を剥く、御伽話のような「不死の兵隊」と名乗り、僕の、セントニアの前に現れた。

 兄は僕に酷く苛立った。地方領主の身勝手な自殺による妹の縁談の破談、未だ尚世界に抗い続ける無謀な女詩人、そして同じく世界に抗っていると思われる謎の創作者……これ以上面倒を増やしてくれるな、と。

 

 きっと、兄が死ねば次男である僕が次の王だ。

 ヴァッシュよ、コイツを殺しておくれ。

 

 

 

 ━━僕は、斬首台に上げられた。





 ━━驚いた、って顔をしているわね。私も驚いているわ。まさか、貴方がそうだなんてね。

 ……これで貴方が追い掛けるdramaはお終い。何か得たものはあったかしら?少なくとも、「貴方」にはあったでしょう?

 ━━さあ、敗北者よ。時計の針を━━


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終章

「新たな敗北者……ヴァッシュ・セントニア。貴方は、このdramaを廻って何が見えた?」

 

 ヴァッシュが巡り廻った五つ物語(drama)。彼等もまた、何処かの世界の何処かの国の、何れかの時代の敗北者であった。或いは、彼もよく知る敗北者。

 

 俺は違う。

 あんな敗北者達と一緒にするな。

 

「でも、貴方も死んだ」

 

 違う。あれは……

 

 あれは━━。

 

 

 

「あれは、身内に殺されたんだ……とでも言いたいの?」

 

 

 

 ━━あの時、俺の心臓を貫いた槍。それは名も無き一兵卒。但し、セントニア王国の兵士では無く、「不死の兵隊」の兵士であったのだ。

 名前は知らない。何故、俺を貫いたのかも知らない。だが、それが無ければ、俺は、俺は━━。

 

「同じじゃない、貴方が追い掛けてきた物語に生きた彼等と」

 

 蘇るのは槍の物語(最初のdrama)。奇しくも、ヴァッシュを貫いた武器、「槍」の物語。

 槍を握って戦い続けた黒腕の悪魔は、味方であったはずの人間(悪魔)の手によって、世界(不条理)の手によってその命を絶たれた。味方であったはずの。

 同じではないか?

 

 違う。

 俺は違う。

 

 

「違わないわ」

 

 

 違う。

 

 

「産まれた時から周りに虐げられ、」

 

 

 五月蝿い。

 

 

「誰かを愛することも出来ず、」

 

 

 黙れ。

 

 

「かと言って孤独に戦うことも出来ずに、」

 

 

 やめてくれ。

 

 

「それでも誰も信用出来ないから隣人も作れない、」

 

 

 もう嫌だ。

 

 

「抗うつもりで、逃げているだけの!」

 

 

 嫌なんだ。

 

 

「敗北者でしょう?」

 

 

 敗北者に成り下がるのは……もう嫌なんだ。

 

 産まれながらにして勝者。

 産まれながらにして敗北者。

 

 俺を殺そうとした兄貴は……エイマウズは、それを知っていた。自分が、敗北者側にいることも。

 俺も知っていた。然れど、抗い続けた。

 

「……私は、その方が好きよ」

 

 抗っても、敗北者。

 (ユキムラ)も、世界(悪魔)に抗い続けた。薔薇(ローズ)も、世界(身分)に抗い続けた。(セレナ)も、天使(バロン)も、世界(セントニア)に抗い続けた。

 俺も、きっと。きっと抗い続けていたんだと思う。

 それでも、敗北者。

 

 ならば、抗わない方が良かったのだろうか?どれ程抗ったとしても、敗北者というレッテルからは、運命からは逃れられない。ならば、抗わない方が良かったのではないか?

 

 そうだ、そうすれば、「俺はまだ敗北者じゃない」なんて言わずに済む。そうだ、兄貴(エイマウズ)のように。受け入れるしかない。受け入れ、歴史の闇に埋もれ、どれ程惨めでも、小さな物語を生み出し、このまま死んでしまえばいい。

 

 

 

 ━━本当に、敗北者のままでいいの?

 

 

 

 

 いい訳ないだろ。けれど、仕方が無いんだ。

 

「……敗北者」

 

 うるせえ。

 

 くすくす。くすくす。

 

 笑ってんじゃねえよ。

 

「敗北 者」「 敗 北 者 」「 敗 北 者 」「敗 北者」

    く すくす。 「 敗 北者」くす く す。く すく す。 「敗北者」く すくす。 くすくす。くすくす。くす くす 。 くすくす 。「敗北 者 」「 敗北者」くすく す。

 

 声が、真っ白な世界に反響する。うるせえ。

 

 うるせえ。くすくす。黙れ。「敗北者」

 

 

「黙れっ!!」

 

 

 俺は。俺は違う。

 

 俺はまだ負けていない。敗北者なんかじゃ、無い。

 

 あんな歴史に埋もれてしまった、哀れな敗北者なんかと同じじゃない。

 不死の兵隊だ。俺は死なない。死して尚、抗い続ける。

 

 

 

 

「俺は死なない」

 

「俺は敗北者じゃない」

 

 

 

 

 黒い翼、白い翼。死と生を。

 産まれながらにして奴隷。

 奴隷は死しても皇帝に牙を剥く。

 全身を荊棘で締め付けられようとも、悪魔に心臓を売ってでも。

 たとえ、相手が兄であったとしても、皇帝であったとしても、世界であったとしても。

 

 不死の如く死から蘇り、東に沈む太陽を目指して、抗い続ける。

 

 

「……ええ、そうね」

 

 

 世界に、摂理に抗う。

 

 

 

 透明な少女は、静かに微笑んだ。

 

 

 

「死ぬ迄抗い続けただけでは、ただの敗北者」

 

「死して尚抗い続ける者は居なかった」

 

「何故なら、死を迎えれば、そこで敗北者の時計は止まるのだから」

 

「ならば、死した後、時計の針を戻して」

 

「死して尚、抗い続ける不死の獣を解き放つ」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━さあ。世界に、摂理に、神に。

 

 勝者に、抗い続けましょう━━━━。

 

 

 

 

 

 

 ━━そして、また新たな水晶が世界に産み出される……。







 ━━そして、世界は色を失い、再度あの透明な世界へ敗北者を誘う━━。


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drama 不死の敗北者

 ━━不死の兵隊。其れは、セントニア王国の兵隊を目の敵のように襲い続ける、神出鬼没の集団に付けられた異名だ。

 本当に不死である……という訳では無く、死をも恐れずに、鬼人の如き表情で只管に攻め立て続けるその姿が、「まるで死の概念が無いのではないか」と錯覚させることから、不死の名を欲しいままにしている。

 

 だが━━私から見れば、不死の兵隊の頭に君臨する男、ヴァッシュ・セントニアは、或る意味では本当に「不死」と呼べるだろう。

 

 ━━何故なら、彼は既に一度「死んでいる(敗北している)」のだから。

 

 

 何故、彼が味方の刃によって死ななければならなかったのか、私の知るところではない。例えば、あの御伽話のように、彼に味方等一人も居なかったのかもしれない。或いは、あの産まれながらにして皇帝であった男が、不死の兵隊の中に自らの刃を忍ばせたのかもしれない。

 だが、ヴァッシュ・セントニアという人間の物語は、味方であった筈の名も無き一兵卒に心臓を貫かれて幕を閉じる。此れが運命であり、謂わば脚本(drama)であった。

 

 それを覆したい。抗い続けることが出来れば、敗北者は勝者の首を喰い荒らし、運命という空から垂らされた糸を断ち切ることが出来る。「少女」は、其れを証明したかった。

 数々の敗北者を見てきた。数多の敗北者を自らの透明な世界へ誘った。そして、世界が産まれたその時から形成され続ける水晶、dramaを通して、抗い続けた歴史を紡ぎ続けた。

 

 彼なら、或いは。

 死して尚、抗い続けた彼なら。運命という名の一本道を、敗北者という名の消えない刻印を、粉微塵に砕けるかもしれない。

 

 人間同士の争いも、もう見飽きてしまった。どれ程見ても、未だに少女にとってはまるで非現実的なもので。どちらが優勢なのか、どうすれば勝敗が決まるのか、全く解らなかった。片方を全て殺戮するまで終わらない、というのであれば、ヒトの歴史などとうの昔に終わりを告げていただろうに。

 其れでもまだ、ヒトの歴史が続いているのは、ヒトという種族は「敗北者では無い」、ということなのだろうか。

 

 不死の兵隊が、戦場へ現れた。先陣を切る部隊がセントニアの兵隊に飛び掛り、鉄と鉄が触れ合う音、肉が削げる音、男の怒号、逃げ惑う足音、悲鳴……空は清々しい程に蒼く、小さな鳥が鳴き声をあげて飛んでいく。まるで、其れは天使のように。大地は人の血で染まり、薔薇のように紅く紅くなっていく。

 ヴァッシュ・セントニアの暴れようは少女の目にも見えた。自らの身を護る鎧も最低限に、二本の剣を振り回す彼の姿は、確かに死など微塵も恐れていそうにない。自らが死ぬ前に、自らを殺そうとする輩を皆殺しにすればいい。まるでそう考えているかのような……。

 

 しかし、彼はこの後、味方の槍に貫かれて絶命することとなる。「以前の彼は」、「以前の世界は」、時計の針を巻き戻す前は、そうであったのだから。果たして……

 

 

 

「うあああああっ!!」

 

 身体が軽い。

 剣を振るう腕が嘘のように敵の腹を割く。鎧を剥ぐ。命を獲る。

「以前の俺」は、もういない。敗北者では無いのだ。只管に屠り続ける。軈て訪れるであろう、時計の針が止まった地点まで。

 

 ━━この世界では、勝者が未来を創り、敗北者が物語を創る。

 

 俺は未来を創りたい訳じゃない。唯、敗北者になるのが嫌なだけだ。

 理由は其れだけでいい。

 

 勝者共の勝手な理由で殺された俺の母親も敗北者だった。

 何処にも味方なんて居なかった、誰からも虐められ続けてきたのも俺が敗北者だったからだ。

 兄貴に殺されかけて、一人で野良犬のように野垂れ死に掛けたのも、俺が敗北者だったからだ。

 

 敗北者は、全て奪われる。

 俺は、もう、これ以上。

 

 これ以上、何も奪われたくない。

 

 

 

 

 

 ━━唯、母親の愛情が欲しかった。

 

 

 

 父親と、外で遊んでみたかった。

 

 

 

 兄弟と喧嘩しつつも、共に食事がしたかった。

 

 

 

 名も知らぬ少女を相手に、恋に落ちたかった。

 

 

 

 気の置けぬ友人と、夕日が沈むまで語り合いたかった。

 

 

 

 敗北者は全て奪われる。

 否、俺は初めから何も持っていなかった。

 

 

 

 手に入れるには、勝者となって奪うしかなかった。

 

 手に入れた後、奪われない為に勝者にならなくてはならなかった。

 

 

 

 勝者になっても、きっと母親の愛情は与えられない。

 父親を殺さなければ、勝者にはなれない。

 兄弟をその手にかけなければ、勝者にはなれない。

 血に染ったこの腕で、誰かを愛することなど出来はしないだろう。

 

 

 それでも良かった。

 

 

 唯。もう奪われるのは嫌なんだ。

 

 

 

 敗北者は、命まで奪われる。

 

 其れだけは、赦してはならない。

 

「ヴェェァァァアっ!!!」

 

 背後に感じる殺気。先回りして剣を振り下ろす。味方であるはずの、不死の兵隊の隊章。其れを貫いて、自らの時計を未だ見ぬ世界へ進める。

 俺は此処で死なない。此処で、敗北者にはならない。

 

 世界に、運命に、死にさえ抗い続け、勝者の椅子から全てを引きずり下ろす。

 

 

 

 

 

 運命は、変わったのかもしれない。

 

 抗い続ければ、抗い続けた彼なら、死という逃れられない運命すら、引きずり下ろせたのかもしれない。

 死の運命から逃れるなんて。

 本当に彼は「不死の兵隊」其のものでは無いか?

 透明の少女は思わず笑ってしまった。

 

 ━━不死の獣は死ぬ迄暴れ続けるだろう。

 誰も彼を止めることは叶わない。

 何故なら、彼は死すら殺してしまうのだから━━

 

 

 

 

 初めて何かに抗ったのは何時だっただろうか。

 

 兄に母を馬鹿にされた時だっただろうか?姉に腹を蹴られた時?それを止めなかった使用人達に対してだったかもしれない。

 抗えば、其れより遥かに強い力で抑えられる。そして二度と抗う気が起きぬよう、罰が下される。軈て二度と口答えすら出来ぬよう、その命を奪われる。

 

 奪われるその瞬間も、俺は抗い続けた。結果、奪われることなく逃げることに成功し、その先で野垂れ死に掛けた。その後の人生も楽なものでは無かった。人を騙し、人を殺し、人に裏切られ、人に騙され。

 

 確かに、俺はあの少女の言う通り、産まれながらにして世界に嫌われ。

 これ以上嫌われることが怖くて、誰も愛することが出来ずに。

 かといって孤独も怖くて、自らを畏れ敬う者共を自らの兵隊として群れを作り。

 其れでも今までの虐げられ続けた記憶に縛られ、誰一人信用することも無く。

 

 産まれながらにして、敗北者だったのかもしれない。

 

 だが、だから抗うのだ。

 

 そして、勝利をその手に掴んだその時に、全て手に入れれば良い。

 

 意識が遠のいていく。この感覚は以前にも味わった。あの時、槍で刺された時。

 

 

 

 

 見たことも無い母の顔が、脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 俺は、敗北者では無い。抗い続ける。

 

 

 

 いつしか、俺の周りは屍体がこれでもかという程積み上がっていた。

 俺が、奪い続けてきたもの。

 

 お前達も、産まれながらにして敗北者だ。

 

 意識を手放す。

 

 

 

 ━━きっと、俺は今も抗い続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 ……これが、「貴方のdrama」よ。

 

 歪な獣の形をした水晶。最期まで抗い続けた、とある戦士の物語。

 其れは、不死と謳われた悪魔のような男。死をも恐れぬ、一度は死してまで世界に抗い続けた、名前すら失った王子の戦いの記憶。

 

 ……貴方は、最期まで、本当に最期まで抗い続けたわ。然れど、運命は変わらなかった。

 

 

 

 

 ━━貴方は、あの戦場で死んだの。敗北者として。

 

 

 

 

 

 悔いることは無いわ、誰も運命から逃げることなんて出来ないのだから。泣かなくてもいいの。

 

 どうせ、勝者になっても貴方の欲しいものは手に入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私も━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不死と謳われた、死すら抗おうとした男、ヴァッシュ・セントニアのdrama。

 

 

 彼は、この透明な世界で、最後の最期まで抗い続けた。

 

 

 

 

 

 その最期の記憶━━



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願わくば


 ━━少女の形をした水晶。其れは其の世界の神であり、或いは御伽話の少女である。

 敗北者である以上、少女にも物語は存在する。


 もし、次生まれ変わることが出来たら。

 

 ━━今度は、二人で世界に愛されますように。

 

 

 

 私が神様なら、願いを叶えたでしょう。然れど、私は神では無い。

 

 生まれ変わることも赦されず、敗北者の物語の欠片の集まりとなった私は、透明な世界の、敗北者の物語の管理者……或る意味では神となった。

 どうやら私は死して尚、神となって尚敗北者だったらしい。唯、数多の世界を、数多の時間を見届け、敗北者となり、歴史に葬り去られる前の物語を水晶に閉じ込め、敗北者の物語を紡ぎ続けるのみ。新たな命を吹き込むことも出来ず、死せる者を選ぶことも出来ない。唯、永遠に近い時を眺め続けるのみである。

 

 

 私は、抗い続けた。

 

 彼を、世界に認めさせる為。

 二人で、世界に愛される為。

 彼が、傷つかなくとも良い世界を見る為。

 

 

 ━━ユキムラの為に、抗い続けた。

 

 その結果が、人の皮を被った悪魔達からの私刑による死刑。全身を引き裂かれるような痛みと、笑い声に対する恐怖。怒号で耳を殺される感覚は、死して尚、悠久の時を経ても忘れることは無い。

 

 私は、透明な少女となり、悠久の時を過ごすうちに、幾多もの敗北者を目にした。数えきれない程の物語を追い、星の数程の敗北者の死を見届けてきた。

 そうしていくうちに、心は歪み始めた。御伽話の中で語られる「私」と、今ここにいる透明な少女。その心の内は、既に大きく違ったものになっているだろう。

 

 其れでも。敗北者であったとしても、死して悠久の時を生きる私が、透明な少女が、心を壊すこと無く敗北者達の物語を見届け続けることが出来たその理由。

 

 ━━ユキムラの、生まれ変わった後の姿を。今度こそは、世界に愛される姿を見たいだけ。

 

 例え敗北者として産まれてしまったとしても、抗い続ける姿を。抗い続け、世界を変える姿を。

 そう信じ、抗い続ける敗北者達の物語は自らの近くに置いた。何年も、何年も、唯只管に物語を見届け続けた。

 

 そして、敗北者の神となってから何年が経っただろうか。

 間違いようも無い、かつて愛した黒腕の男、ユキムラの生まれ変わった姿を見つけることが出来た。

 

 セントニア王国と呼ばれるその世界の勝者とも言える国の、国王の子、ヴァッシュとして生を受けた。

 

 世界に愛されるだろう。国王の子なのだから。

 

 そう、信じていた。

 然し、世界は少女に、ユキムラに、敗北者に、ヴァッシュに牙を剥いた。

 ヴァッシュの母親は殺され、ヴァッシュという王子は存在していないことにされ、家族から、使用人達から、世界から迫害を受け始めた。

 

 ━━あぁ、きっと彼はまた世界に嫌われている。

 

 赦せない。

 然し、今の少女には隣で見守ることすら赦されない。

 彼は一人でも抗い続けた。その姿はまるで黒腕で槍を振るう彼のようだった。彼の戦う姿は見たくなかった。同じように、彼の吼える姿もやはり、見るのは辛かった。

 

 彼は「不死の兵隊」として、王子の座を捨て、家族に抗い続けた。その姿は不死と言うべきではなく、「既に死んでいる」、まるでそう表現した方が正しい気がした。ユキムラが虚無の侭に戦っていた時と同じだ。

 彼には、私のような、縋る為の存在が必要なのだ。其れが無ければ、軈て死んでしまう……敗北者として。

 

 やはり、彼は死んだ。敗北者として。

 運命がそうさせたのか、彼はユキムラと同じように、味方の刃で命を絶たれた。胸が張り裂けるかと思った。初めて、ユキムラのdramaを見届けたその時のように。

 

 少女は、初めて神として世界に干渉した。せざるを得なかった。

 

 ヴァッシュは当然ながら、少女のことを知らなかった。其れが当然なのだ。生まれ変わる前の存在等、全て失われるのだから。

 

 今やユキムラという存在は御伽話であり、敗北者のdramaであり、少女にとっての全てなのだ。

 

 其れが解っていたから、そして、ヴァッシュはユキムラの生まれ変わりでもユキムラでは無かったから。ユキムラと同じように接することはしなかった。出来なかった。高慢な、敗北者の神として。

 

「敗北者のままでいいの?」

 

 くすくす。

 

 ━━願わくば。私のことは思い出さなくてもいいの。唯、もう貴方が敗北者になるのは嫌。貴方の望んだ世界を。貴方が、世界に愛されますように。

 

 彼と巡った五つのdrama。最初の二つは、少しだけ少女の我儘も込められていた。

 

 願わくば、私のことを思い出して欲しい。

 願わくば、このように二人で愛し合いたかった。その最期が、悲劇であったとしても。

 

 残りの三つは、ヴァッシュに向けてのメッセージ。抗い続けよ、抗うことをやめては敗北者と成り果てる……。

 

 恐らく、少女が神として、最初で最後の命のやり取り。ヴァッシュの時計の針を巻き戻し、世界を巻き戻した。

 彼は、死して尚「敗北者じゃない」と叫び続けた。死したその時に、願わくば、生まれ変わることが出来たら、と敗北を認めた私やユキムラとは違った。

 

 最期まで抗い続けた彼ならば。死したその先を切り開き、敗北者の刻印を消し飛ばし、そして勝者としての愛を手に入れられるかもしれない。

 

 

 

 愛されたかった?

 

 

 

 私が愛したかった。

 

 

 然れど、それは赦されない。私は敗北者の神なのだから。勝者を愛するのは、敗北者であってはならない。

 

 

 

 ━━願わくば。生きて、ユキムラ。

 

 生きて、ヴァッシュ。

 

 

 

 

 少女が透明な世界から見下ろした、彼の世界は、世界に幕が降ろされる瞬間そのものだった。

 

 

 

 彼は、獣の形をした水晶を遺し、敗北者として死んだ。

 

 

 

 二度目の干渉。

 

 

 

 ━━敗北者は、産まれたその時から永遠に敗北者なのかもしれない。

 

 

 死した後の世界でも良い。二人とも、敗北者でも良い。

 

 

 

 

 わたしは、かれといっしょにいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━願わくば。

 

 

 

 

 

 

 

「……ヒスイ。それが、お前のdramaか」

 

 彼が、私の名前を呼んだ。

 気が付けば、彼が私の手を握っている。

 

 ……ああ、そうか。私は再度世界に干渉し、彼をこの透明な世界へ招き入れた。

 そして、手を握った。

 

 水晶に触れたその時に、dramaは始まる。

 

 ヴァッシュは。ユキムラは。私の悠久のdramaを見届けたのだ。

 だから、ヴァッシュでありながら、彼はユキムラの記憶を。私の、少女の、御伽話でユキムラを庇って殺された、ヒスイの名を、物語を思い出したのだ。

 

 

「……俺は、ユキムラは。死ぬ前に、願わくば。お前と世界に愛されたいと願った」

 

「……私も」

 

 その結果が、私は敗北者の神。貴方は、また世界に嫌われた敗北者だなんて。

 

 

 この透明な世界が、似合っている。

 

 

「……この透明な世界なら、二人だけだよ」

 

「そうだな」

 

 

 もう、水晶も要らない。彼がいれば、私はもう何もいらない。

 

 なにもいらないの。

 

 

 

「俺達二人で、透明に色を与えればいい」

 

 

 

「どうするの?」

 

 

 

 神であるはずの私が知らないのに、貴方は教えてくれるの?

 

 

 

 

「……俺が、初めてここに来た時。お前を見た途端、この世界に色が広がったんだ。きっと、俺とお前の二人なら。この透明な世界も無限に彩られるはずだ」

 

 

 

 

 

 ……嗚呼、神様がもしいるのであれば。

 

 

 

 

 

 ━━願わくば、もう生まれ変わりたくない。

 

 永遠が死より重く、凄惨なものだったとしても、貴方と二人なら最期まで愛し合うことが出来る。

 

 この世界なら、私達を愛してくれるでしょう。

 

 

 

 敗北者でもいいの。抗う必要も無いの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━最期まで、二人で愛し合うことが、できますように……。



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