揺らされるママママインド (えたります)
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1話

一発ネタ
ズァークさん救済ルート()
マスタールール3で9期までのカードプール


 広義的に言えば、現代日本において死後に新たな生を授かることを転生というらしい。輪廻転生だとか永劫回帰だとか堅苦しい言葉を持ち出しても「あっ、私って転生したんだ」くらいの感覚しかない某であったのだった。(完)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、言うのは置いといて。要は前世というか記憶があれば多分転生を名乗れるはず。

 きっとネット小説かブログだかで執筆するときに、私の作品には転生のタグが付いてることだろう。

 

 前世の私は男だったらしい。運動は得意でゲームや漫画も好きな現代っ子。勉強も苦手な科目は八割くらいで他は九割の典型的な普通の人生。天才ではなく人並みに努力できて、人並み以上に負けず嫌いで入れ込めば情熱を注ぎ込む、視野狭窄に陥りやすいタイプの大学生だった。

 無論、部活動のみならずサークルにも顔を出していたし、その上アルバイトも欠かせない。大学生活は良い意味で充実していたと思う。

 

 さて、前世を整理するとこれくらいか。結論から言うと、私には起承転結の『起』たる、転生の起因となるべき前世の記憶がなかったのだ。だから前世の私がこうだったなんて、今の私には至極()()()()()()

 びこーず、前世の記憶は、今の私にとって他人の記録にしか思えないからだ。考えてみてほしい、感性が完全に女子である私が男性の嗜好を理解できるだろうか? 知ることは出来ても、それを今の私がトレースするのは生理的に無理がある。

 

 しかし最も厄介なのが、負けず嫌いな性格が転じたのか、前世の私とやらはサブカルチャーにもそこそこ精通していたらしく、とあるカードゲームに余りに既視感を感じてしまったことだ。

 前述の通り、私が記憶を掘り起こしても前世の死因は見つからない。そう、掘り起こしたのだから、前世の最後に何をしていたのか鮮明に思い出してしまったのだ。

 

 遊戯王オフィシャルカードゲーム━━━私は遊戯王かOCGと呼んでいたが、前世で就寝する前に、高校卒業まで友人と熱中していたカード玩具の整理をしていたらしい。

 前世通りなら、断捨離とか掃除程度のことかと片付けられただろう。しかし転生先が同じ世界だと誰が決めた? などと言わんばかりの摩訶不思議ワールドへ飛ばされれば事情は変わってくる。

 

 まずは職業。今世の花形職業の一つに『プロ決闘者(デュエリスト)』と言うものがある。『デュエリスト』ではなく『決闘者(デュエリスト)』だ。まずこの時点で前世の私なら突っ込んでいただろうが、この世界の私からすれば当然だからまだカルチャーショックは浅い。

 

 次にその決闘者が何をするかと言えば、そう━━━遊戯王OCGと全く同じデュエルモンスターズなるゲームである。これがeスポーツですか?()

 

 まだ、これに関しては許容範囲だ。そも前世において賭博師やプロゲーマーやら、ぶっちゃけスポーツなんかもそうだが生産性のない文化が職業として成り立っているのだからまだ分かる。人間という生き物にとって、人間性のサクセスストーリーに娯楽やスポーツは、育むための一つの手段として非常に効果的なのだから。特に日本人は象徴や偶像を好む。

 

 じゃあ何が問題なのか。それは『遊戯王』というアニメの世界があまりにファンタジーだったことを思い出したからだ。

 

『遊戯王DM』『遊戯王GX』『遊戯王5D’s』『遊戯王ZEXAL』……普通にカードゲームの販促としてアニメがあるならいい。しかしこれらは闇のゲームだったり破滅の光だったり、ダークシグナーだったりバリアンだったり、カードがある種の神秘的道具として描かれ、登場人物もまた超常ぷぁわ〜を持っているのである。

 

 心の中では、アニメそのものの世界に転生することはあまりに可能性が低いだろう(キリッ)……と高を括っていた。事実、童実町もデュエルアカデミアも、サテライトもハートシティも()()()()には存在しなかった。他の次元とやらは怖くて覗いていないが。

 どっかのキャラが言ってた覚えがあるが、この世界は十二次元で出来ているらしいけれど、私の転生先は四つの次元しかなかった。一つは私の生まれたこのスタンダード次元、他はシンクロ次元と融合次元、そしてエクシーズ次元と言うらしいが、この時点で冷や汗をかいた私を誰が責められるだろうか。いや、いない。(反語)

 精神的に僥倖なのは私のいるこのスタンダード次元に童実野町はなく、舞網市なる市街で生まれたことか。決闘盤とかリアルソリッドビジョンでリアルダイレクトアタックとか、私に至っては超常ぷぁわ〜でリアルダイレクトアタックできるが、それら全てに瞼を縫い付けるような勢いで目を閉じればまだ許容範囲である。()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……お分りいただけただろうか?

 

 そう、私はいつのまにかファンタジー世界に迷い込んでしまったのだ。

 それも次元を見通す鷹の目と超常ぷぁわ〜を携えて。

 

 特異な力はあくまで主要人物が持つはずのもの。一般市民だと思っていた私には無縁だと……思っていたんだけどなあ。

 

『ふん、スタンダード次元のチャンピオンと聞いたが……あれならお前の父親の方がマシだな』

(……貴方にしては父の評価は高いですね。というか情報なしにペンデュラムを成功させた()がおかしいと思うんですけど)

『有象無象よりか塵芥の方が意識に引っかかるだけのこと。我等にとって障害となるのは自我を持った我等の欠片くらいであろう?』

(さりげなく私を混ぜないでくださいよ)

 

 どうやら私は主要人物の一人である可能性が大きいらしく、物心ついてからすぐ脳裏に聞こえた声へと『もう一人の私!?』なんて冗談をかましたら、銀髪緑メッシュのイケメンがアストラルみたいに私だけ見えるように現れたのだ。

 

(そもそも貴方が()()()()()()()()()こんな大会に出る羽目になったんじゃありませんか)

()()だ、と何度も言ったであろう。()はあれ、お前も存外に使いこなしているではないか』

 

 私の超常ぷぁわ〜の原因たる彼。その彼曰く、覇王に敗北は許されないとのこと。私は世紀末覇者にも聖王のキマシタワー要因にもなった覚えはないのだが。

 超常ぷぁわ〜で彼が私TUEEEのカードを創造した時は、他人だと思っていた前世の羞恥心に苛まれたが、彼によると創造したカードは今は使えず、新たに加わったカードは私が本来所持していたものを呼び起こしたらしい。確かに前世では使っていたが……この世界のエンターテイメントを重視する決闘では私のデッキは些か華が無いのでは? と思ってしまう程度に、ガチガチなデッキなのである。

 

(……と、そろそろ出番のようですね)

 

 と、楽屋で物思いに耽っていたところ、漸く出番だと声がかかった。

 先程までのチャンピオンと弟の対戦はあくまでエキシビションマッチ。けれど余韻の残る会場の熱は、ペンデュラムという新たな境地を目の当たりにした観客のものだ。

 

 その熱狂を前座に、私によるチャンピオン『ストロング石島』への王座奪還戦が執り行われるのだ。

 

『無様な姿を見せるな。圧倒的に、苛烈に、お前のエンタメで蹂躙するがいい』

(そうですね……私の()()()()ですか)

 

 これだ、事あるごとに彼はエンターテイメントを口にする。

 正直性格は嗜虐的で傲慢、それに頭も回るから唯我独尊でタチが悪い。けれど時折モンスターを見つめる瞳の静謐さと、エンターテイメントと口にする時の突き刺すような視線は、どこか言葉に削ぐわない実直さがある。

 

 けれど、だからこそ口にしない。

 あの子達四竜が()いていることも、星占の魔術師が語らない理由も。

 

「まあ、いいです。特等席で御覧なさい━━━ズァーク、私のエンタメを」

 

 その時、彼が酷薄そうに笑んだ胸中が穏やかだったことも、一心同体共犯者である私は決して口にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、世界は二度も震撼した。

 

 一度目は前チャンピオンの息子である榊遊矢が起こした奇跡、ペンデュラム召喚。

 詳細は謎、手札と破壊されたはずのモンスターを無尽蔵に特殊召喚する異質な召喚法だった。シンクロともエクシーズとも、融合とも異なる新たな境地として見出した者も数名いた。

 

 とはいえストロング石島もチャンピオンだ。敗北したこそすれ、それまで圧倒していたし、次の公式試合における対戦相手『榊遊季』がその姉であることから、ペンデュラム召喚の大量展開を対策していると豪語した上で、全力を出して封殺するかのごとく先攻で《バーバリアン・キング》をアドバンス召喚し、伏せカードには《バーバリアン・レイジ》と本戦でのみ使用するつもりだった《聖なるバリア━ミラーフォース》と《リビングデッドの呼び声》。そして手札には護身のための《バーバリアンの奇術》がある。

 位置取りも完璧だ。すぐ近くにアクションマジック《回避》もある。エキシビションマッチという建前と高々学生の子供にという慢心は、純粋な実力で勝ち上がった目の前の小娘━━━榊遊季には持ち合わせていない。ストロング石島にとって、それほどまでに()という名は因縁であった。

 

「先程は気が動転してしまったが、ペンデュラムが手札と破壊されたモンスターを呼び寄せることだけは把握している。そしてこの地形は、ランダムで決まったとはいえ俺の最も得意なステージ。そして《バーバリアン・キング》と伏せカードは3枚。この状況でお前は弟ほど足搔けるかな? ターンエンドだ」

 

 誰もが、挑戦者は勝てないと今度こそ思っていた。

 仮定だが、弟と同じくペンデュラム召喚が出来ても、ストロング石島が先の試合の敗因である以上、対策しないわけがない。そして盤面にはストロング石島のエースたる《バーバリアン・キング》が以前のような慢心を欠片も見せずに仁王立ちしている。その姿はアクションマジックを取ろうとする動きを冷静に伺っているようにも見える。

 

 そんな絶望的な状況に相対するは、ペンデュラム召喚の先駆者『榊遊矢』の姉。榊遊勝の長姉でありながらそのライバル塾『LDS』に身を置き、その界隈では無敗の伝説を誇る二つ名『奇術師』を冠した少女━━━榊遊季だ。

 母の面影のある玲瓏な瞳と片口までに伸ばした金髪。燕尾服はマジシャンというより、男装した中性的な執事であった。

 

 相手の場には攻撃力3000で2回攻撃を可能とする最上級モンスターに加え、伏せカードは3枚。そして一定の経験を積んでいれば、ストロング石島がアクションマジックを把握していることも理解できる。

 並大抵の者なら(恐ろしい本人の外見も相まって)投了を選んでも仕方がない勢力図だった。しかし、

 

「━━━ドロー」

「ほう。気骨は十分だ」

 

 鈴のような細い声色は、薄ら寒いくらい不思議なことに会場の観衆に届いた。

 

 その光景を、前の試合で対戦していた榊遊矢は冷や汗を滲ませて見守っている。

 幼馴染の柊柚子とその父親の柊修造、親友の権現坂昇、そして母である榊洋子も一様に著しくない状況に口角はなかなか上がらない。

 

「姉さん……」

「だ、大丈夫よ遊矢! 遊季さんはあのLDSで負けたことがないっていうし、特待生だって」

「……しかし、それはジュニアユースでの話だ。本物のプロ決闘者の世界で、姉君の実力がどこまで通用するかは誰にもわからんだろう」

 

 柚子のフォローは気休めにはなったが、権現坂の言う通り榊遊勝という偉大な父がいたからこそ、プロの壁がどれだけ高いのかを遊矢は知っていた。

 遊季の実力を無碍にしているわけではない。柚子も権現坂も、そして遊矢自身も遊季に勝てたことは()()()()()。この3人とLDSでは無敗であるが、それでもギリギリまで追い詰めたことはあった。だからもし、自分達に切迫する程度の実力なら、慢心を捨て去った現チャンピオンに届くかというと……。

 

「ふふ、貴方達が不安になってどうするのよ。見なさい。遊季は、あの子は勝つつもりよ」

「母さん、でも」

「それに、気になることもある。アンタが使ったペンデュラム召喚はあの人も……いえ、ともかく。遊季が使えないはずがないんだから」

「! それって」

「遊矢、ただ見てなさい。誰よりも、私やあの人も、遊季の本気を()()見てなかった……それが見られるんだから」

 

 そう言われ、遊矢はどこか得心がいった。

 姉は……遊季はデュエルで満足した顔を一度でも見たことがあっただろうか。いや、ない。

 遊季はデュエルの最中に渋面を作っては消してを繰り返していたのを、嫌という程に遊矢達は覚えている。

 

 遊矢は今回、カードがペンデュラムとなったことで勝機を得た。だが、姉が逆ならどうだろうか。

 姉は頑なに渋面の理由を答えなかった。それがもし、初めからペンデュラムだったものが、その性質を失って不便を強いられていたとしたら。

 

 そして今、榊遊矢によってペンデュラムが紐解かれたのだとしたら━━━。

 

「石島さん……申し訳ありません」

「なんだ? 勝てないと悟ってサレンダーするのか? まあ、潔いだけ榊遊勝よりはマシだがな」

「いえ、ここから幕引き、私の奇術は消し去ること。跡形もなく……あなたのライフごと」

 

 ストロング石島は、榊遊矢は、柊柚子は、権現坂昇は、榊洋子は、柊修造は聴いた。

 先の試合の報告を受け、召喚反応を見守る()()()もまた、聴いた。

 

 天に掲げられた右手。その指先がパチン! と鳴らされた瞬間、凄絶な微笑みから溢れた言葉を。

 

 ━━━Acta est fabula. 芝居(お遊び)は終わりだ。

 

 そして、天空にペンデュラムの軌跡が現れる。

 

「私は手札から永続魔法《星霜のペンデュラムグラフ》を発動します」手札6→5

 

 リアルソリッドビジョンによるものだろう。

 そう信じているのに、人々は天空のペンデュラムが綴る奇跡に神秘を感じている。

 

「そしてこの二枚━━━スケール8の《竜穴の魔術師》とスケール5の《慧眼の魔術師》をペンデュラムスケールにセッティング」手札5→3

 

 その口上に、観衆は熱狂へと包まれ、ストロング石島は「来たか!」と歯をむき出しにし好戦的に嗤った。

 

 光の柱に包まれ、天空のペンデュラムの傍に浮かぶのは、長杖を持つ繁栄を司る魔術師と、錘のついた杖を持つ理知的な目をした魔術師。

 

「ペンデュラム召喚……の前に、雑多な劇場を綺麗にしましょう。《竜穴の魔術師》のペンデュラム効果を発動します」

「ペンデュラム効果だと? ……なるほど、データ通り永続魔法の起動効果と同じ処理か」

「ええ。竜穴の魔術師のペンデュラム効果により、手札のPモンスターを捨て、私は右の伏せカードを破壊します」手札3→2

 

竜穴の魔術師

ペンデュラム・通常モンスター

星7/水属性/魔法使い族/攻 900/守2700

【Pスケール:青8/赤8】

 

 《竜穴の魔術師》が長杖を伏せカードに向けると、その先から鋭い風の刃が放たれ、伏せカードをズタズタに切り裂いた。

 

「くっ、俺の《ミラーフォース》が」

「……《慧眼の魔術師》のP(ペンデュラム)効果も発動。もう片方に魔術師Pカードがセットされている場合、自身を破壊して《慧眼の魔術師》以外の魔術師Pモンスターを自分のPゾーンに置きます。私はデッキの《紫毒の魔術師》を選択」

「ほぼデメリット無しのデッキ圧縮に、リクルートか……!」

(ごめんなさい許してください手札誘発ないテーマデッキなんで!)

 

慧眼の魔術師

ペンデュラム・効果モンスター

星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1500

【Pスケール:青5/赤5】

 

紫毒の魔術師

ペンデュラム・効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1200/守2100

【Pスケール:青1/赤1】

 

 遊季の心の叫び()など露知らず、《慧眼の魔術師》が閃光を放ったかと思えば、そこには毒々しい赤い鞭を持つ魔術師が嗜虐的な笑みを浮かべて宙に佇んでいた。

 

「そして《慧眼の魔術師》が破壊されたことにより、《星霜のペンデュラムグラフ》の効果を発動。私はデッキから《白翼の魔術師》を手札に加えます」手札2→3

「その永続魔法は破壊トリガーによるサーチか。しかしチマチマデッキを回すだけで勝てると思っているのか!」

「……更に《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚。召喚時効果によりデッキから二枚目の《竜穴の魔術師》を手札に加えます」手札3→2→3

 

 ここに来て現れたのはつぎはぎのシルクハットを被る道化師然とした《EM》モンスター。

 そのモンスターに洋子と遊矢は苦虫を潰したような顔をしたが、遊季は見ぬふりを続ける。

 

EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー

ペンデュラム・効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

【Pスケール:青8/赤8】

 

「この瞬間、速攻魔法《揺れる眼差し》を発動。フィールド全てのPゾーンのカードを破壊します」

「なんだと? いや、これはあくまで代償に過ぎないのか!」

「はい。《揺れる眼差し》はこの時破壊した枚数だけ効果を発揮します。この場合は私の二枚、よってあなたに500のダメージを与え、私はデッキからPモンスターを一枚手札に加えることができるようになります。私が加えるのは━━━《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》」

「あのモンスターか! しかし、お前自身もペンデュラムの対策をしていたとはな。さすがこの舞台に足を踏み入れただけはある」

(いや、単純に万能サーチで《黒牙》ならリクルートにも化けるからなのですが……)

 

 感心したかのようなストロング石島だったが、OCGの悲劇を知っている遊季にはパワーカードの一つにしか過ぎない。

 尤も、ここで講釈を垂れる気などさらさらないのだが。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン

ペンデュラム・効果モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

【Pスケール:青4/赤4】

 

 《揺れる眼差し》のソリッドビジョンから現れた《ヒュプノシスター》が、額の瞳から怪しい波動を放つと、それに当てられた《竜穴の魔術師》と《紫毒の魔術師》は苦しそうに呻いて破壊される。そしてデッキから《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を抜き取って遊季に渡すと、ヒュプノシスターは満足そうに決闘盤の墓地へと吸い込まれていった。

 

 遊季 手札3→2→3

 ストロング石島 LP4000→3500

 

「更に《揺れる眼差し》で破壊された《紫毒の魔術師》の効果。表側の貴方のモンスター……《バーバリアン・キング》を破壊します」

「なっ!?」

 

 破壊された《紫毒の魔術師》のポリゴン片は悪足掻きと言わんばかりに《バーバリアン・キング》へ突き刺さる。

 所詮肉しか切れない程度の破片。されどその棘に潜むは竜をも殺す猛毒である。断末魔のような悲鳴をあげて《バーバリアン・キング》は力なく地面へと倒れていった。

 

「こうも容易く俺の《バーバリアン・キング》が……!?」

「……そして、このターンにサーチした二枚、二枚目の《竜穴の魔術師》と《白翼の魔術師》でPスケールをセッティング。」手札3→1

 

 再び現れる2人の魔術師。竜穴の魔術師と、華奢で透き通った羽根のような装飾をした女の魔術師が、天空の軌跡の傍に静かに佇んでいた。

 

白翼の魔術師

ペンデュラム・チューナー・効果モンスター

星4/風属性/魔法使い族/攻1600/守1400

【Pスケール:青1/赤1】

 

「ペンデュラム、召喚かぁ!」

「……所詮この程度か、()()()()の路傍の石に過ぎない……ですね」

「覇道だと……?」

「知る必要はありません。そして知ることもないでしょう━━━スケールは1と8、レベル2から7まで同時に特殊召喚可能。ペンデュラム召喚! 顕現せよ! 我が覇道の(しもべ)たちよ!」

 

 この瞬間をどれだけ待ち望んだか。

 榊遊季の片割れは、弟を介して既に振り子を動かした。しかし自分は、私は、今ようやくこの世界に生まれ落ちて歓喜した! 喝采を! 時空を司る星辰の魔術師よ、私は今ここに居る! この渇望は、覇道を求めるこの飢餓は、植えつけられたものであったとしても、この『私』自身であることに相違ない!

 

 2つの光芒に狭間で揺れる振り子から、五条の光の帯が遊季のフィールドへ舞い降りる。

 慧眼、竜穴、紫毒、道化師。そして非対称の色を持つ鮮やかな虹彩のドラゴン。

 

 慧眼の魔術師 星4

 竜穴の魔術師 星7

 紫毒の魔術師 星4

 EMドクロバット・ジョーカー 星4

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 星7

 

 遊季 手札1→0

 

 ストロング石島の手札は残り1枚。伏せカードは2枚。

 

 ストロング石島が先の遊矢()との試合でペンデュラムは打点が低いということを知り、そこを弱点として突いてくるだろうから、モンスターのいない今の状況で《バーバリアン・レイジ》と《バーバリアンの奇術》があったとしてもさほど脅威ではない。

 

「ここで、私は《慧眼の魔術師》と《紫毒の魔術師》を素材にエクシーズ! 《星刻の魔術師》を特殊召喚!」

「ペンデュラムだけでなく、エクシーズ召喚だと!?」

「焦らないでください。エクシーズ()()で終わらせるつもりはありませんよ。《星刻の魔術師》の効果を発動。X(エクシーズ)素材の《紫毒の魔術師》を墓地へ送り、デッキ、墓地、及びエクストラに表側表示で存在するPモンスターの中から闇属性の魔法使い族モンスターを手札に加えます。私はデッキから《相克の魔術師》を手札に」手札0→1

 

星刻の魔術師

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/魔法使い族/攻2400/守1200

レベル4「魔術師」Pモンスター×2

 

 星と刻を司る魔術師は、時計の針を模した杖を空中高くに浮かべると、杖は刻を遡るかの様に反時計回りに回転する。

 1秒、2秒……刻々と過ぎていく時間を人々は固唾を呑んで見守っていた。未知なるペンデュラム召喚からエクシーズに繋げ、更なる領域をも既に掌中に収めて居るのだとしたら。エクシーズ、シンクロ、融合……それら特異な召喚法に新たな奇跡を発見するダウジングとなるだろう。

 

 緩やかに、されど確実に《星刻の魔術師》の杖が回転を止めたのも束の間。遊季のデッキから会場を埋め尽くす閃光が放たれ、収束すると見せつける様にして《相克の魔術師》が手札に加わった。

 

「ここで、墓地のモンスター効果を発動します」

「墓地で発動する起動効果のモンスター…? はっ!? 最初のP効果を使った時のコストか!」

「ご名答。効果を発動するモンスターは《貴竜の魔術師》! フィールドに存在する《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のレベルを3つ下げ、自身を特殊召喚します。そしてこのカードはチューナーモンスター……つまり」

「シンクロ召喚というわけか……!」

 

貴竜の魔術師

ペンデュラム・チューナー・効果モンスター

星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400

【Pスケール:青5/赤5】

 

 決闘をするくらいには離れている距離でも、歯軋りが聞こえそうな形相でストロング石島が呟いた。

 

 遊季は冷笑を湛えつつ、掌を天に向けてそっと息を吹きかける。すると有るはずもない種火が踊る様に舞い上がり、モンスターゾーンへとたどり着くや否や、炎の竜巻を巻き起こした。その竜巻から年端もいかない童顔の少女魔術師が重厚なローブを纏って現れる。

 ついで呼応するかのように《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が雄叫びをあげた。

 

「私はレベル4となった《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とレベル3の《貴竜の魔術師》を素材に、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》をシンクロ召喚!」

 

 小さな魔術師の炎の力と、オッドアイズの可能性が生み出した流星のドラゴンは、真紅の逆鱗を震わせてストロング石島を威圧する。

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン

シンクロ・効果モンスター

星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 

 これで上級モンスターは遊季の場に2体。ダイレクトアタックでストロング石島の3500のライフを削るには十分だ。

 

(だが俺には《リビングデッドの呼び声》がある。もう一枚の伏せカードと合わせ、更に下級モンスターをドローフェイズに引けば逆転勝利も━━━)

「『━━━勝機はある』とでも思っているか分かりませんが、奇術師は宣言を撤回しませんよ」

「何だと?」

「私の奇術は消し去ること。このターンにあなたのライフを、です。《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の効果発動、特殊召喚成功時にPゾーンのカードを自分の場に特殊召喚します。来てください《竜穴の魔術師》。そして二枚の《竜穴の魔術師》で更にエクシーズ。ランク7《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》をエクシーズ召喚!」

 

 流星とは対照的な、刻をも凍らせる絶対零度の竜。

 怜悧な青で統一された氷の様な鱗は、身も凍るほどに美しい光沢を放っている。

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/水属性/ドラゴン族/攻2800/守2500

レベル7モンスター×2

 

 いまだ遠い舞台上を臨み、遊矢は無意識に「俺の知らないオッドアイズ……」と溢す。

 事実、この二竜は榊遊矢が至った()()()()()()可能性の一筋だ。それを『ズァーク』の一欠片であり、それ自身でもある榊遊季が手にしたのは、何ら歪な因果もなく至極当然のこと。

 しかし、逆もまた然り、だ。いずれ至る可能性を排斥し、新たな道へ進むのであれば、榊遊矢が手放し榊遊季が手にして()()()ものもあるのだから。

 

 例えば、そう━━━この矛盾を司る魔術師もまた、彼女に潜む覇竜の力の一端だ。

 

「舞台は整いました。私はここで《相克の魔術師》をペンデュラムゾーンにセットします」

 

相克の魔術師

ペンデュラム・効果モンスター

星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守 500

【Pスケール:青3/赤3】

 

「今更だと? む……魔法としての効果か」

「流石ですチャンピオン。そして《相克の魔術師》のP効果は、場のエクシーズモンスター1体を選択し、そのランクと同じ数値のレベルのモンスターとしてX召喚の素材にできるというもの。私が選択するのは……《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》」

「エクシーズモンスターを素材に、エクシーズモンスターを召喚するだと? それは……」

 

 ───わざわざ盤面を一極化させるのか?

 

 それは不自然だ。そも総攻撃をすれば減らせるであろうライフを前に、慎重を期すとは建設的では無い。

 集約したとて、その一撃が防がれれば相手に反撃の芽を与えてしまう。現チャンピオンのストロング石島だけでなく、この試合を俯瞰する者もまたある種の違和感を感じており……同時に、動悸を促されるような焦燥感に見舞われていた。

 

「私は《相克の魔術師》の効果を受けたランク7の《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》とレベル7の《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》でオーバーレイ」

 

 この少女がそこまで愚かだろうか。かの榊遊勝の娘であり、先駆者である弟よりも先の領域を見せつけ、チャンピオンを窮地に立たせているこの少女が。

 

 なれば必然と、この試合を理解する者は到達する。次に出てくるモンスターこそが、ペンデュラムの極地の一端であると!

 

「二色の眼の竜よ、深き闇より蘇り、怒りの炎で地上の全てを焼き払え! ───エクシーズ召喚!」

 

 深雪のように繊細に、豪炎のように燦然と。

 見ている者たちは、矮躯の後背に覇王の姿を幻視する。

 

「いでよ、ランク7! 災い呼ぶ烈火の竜、《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》! 」

 

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン

エクシーズ・ペンデュラム・効果モンスター

ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

【Pスケール:青1/赤1】

 

 それは、天空に刻まれた神秘の軌跡を犯す者。

 

 絶対無比なる次元の王。その力の一端を司り、『覇』を冠する烈竜はペンデュラムの天蓋をガラスのように破り出た。

 その先には無窮まで続く次元の狭間。舞網市の某所において、計測不可能とされる強大な召喚反応がこの地に齎された事に、現場からは阿鼻叫喚の声が上がっている。

 

「これが……お前の切り札、なのか」

「……効果発動。エクシーズ素材を取り除き相手フィールド上のカードを全て破壊する」

「バカな! そんな常識はずれな───!?」

「さらに破壊したカード一枚につき、ターン終了時まで攻撃力が200アップします。そしてこのカードは二回攻撃が可能です。つまり……」

 

 烈竜の光を湛えた翼が、より燦然と巨大になっていく。

 もはや破り出てきた次元の裂け目すら覆い隠すほどになった翼は、舞網市すら飲み込まんとするほどに膨張した。

 

 だが彼女は言ったではないか。これすらもまだ、ペンデュラムの一端でしかないと。

 

 口々に群衆は言う。『奇術師』と持て囃していた衆愚は、皆同様に遊季へと畏怖と恐怖を込めてこう祀った。

 

 『覇王』であると。

 

「チェックメイト、です」

 

 瞬間、世界が光の瀑布に包まれた───。

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 超二度手間な試合だった件について。

 

 仕方ないんですよ、ズァークちゃんのけんぞくぅ! なドラゴンたちは軒並み使ってはいけないとズァークに言われたし。なんで創造者が「我が調整中だ」なんて抜かしてるんですかねぇ? あっ、前世におけるカードの創造者に既視感ががが(デジャヴ)

 

 それにVivid竜くんは張り切りすぎて次元の彼方から来ないでくでさい。え? 初陣だから気合い入りすぎだって? 誤魔化すの面倒くさいんですよね。はあ……ショボンとしちゃった烈竜くんさんかわゆ……。サイドデッキのワイトもそう思うらしい。

 

 でもでも、私の故意でここまで演出過多にしたわけじゃないのです。

 私のテンションが途中でヒャッハーになってたのは、我が無断居候のズァークが勝手に共鳴してしまったからなんですよ。

 体は一つ心は二つ! 流石に記憶までは分からないですが、感情が綯い交ぜになってしまう事は多々あり、特に私が水銀リスペクトで「芝居は終わりだ(≖‿ゝ○)」とかやってると、殆どの確率でズァークは共鳴してしまう。エンタメに未練タラタラなんですがそれはとか言うと乗っ取ってくるからワロエナイしドラゲナイ。

 

 それに初手がね、もうこれをしろとデッキが叫んでたんですよ。などと意味不明な供述を……だって汎用エクストラなんて一体も持ってないんだもん!(幼児退行)

 プトレノヴァインフィニティ? アザトルーラー? 私が持ってるEMはピエロさんだけだし、エクストラは魔術師オッドアイズ系でパンパンですよ。ラスターPとイグニスターPは何処へ……。竜呼相打てないじゃないですか。

 

 まあそんなこんなで魅せプしか出来ないわけで。無論、前世の記憶を全く別人だと思ってる私にとって、魅せプの方が好きだと言うのもあった。

 

 そういえば今回はアクションデュエルなのに、なぜストロングZEROさん(違う)はアクションマジックを取りに行かなかったのでしょう。

 

 ……私が逆の立場なら死の危険を感じますね、うん。

 

「それにしても覇王ですか。何か作為的な意図を感じますね」

『運命的、の間違いではないか。我の力の残滓を降臨させたのだ、奴らが我等の覇道の前に戦慄くのは当然のこと』

「いや私を混ぜないでくださいよ」

『全く、お前は自覚がないのか。エンタメとは圧倒的な力を持ってして───』

 

 あーあーこうのると話が長いのです。

 

 ともかく、父親が私との勝負をバックれて(主観)しまったので、とりあえず帰ってきた時に逃がさない算段はつけられた。何を隠そう、私がチャンピオンを目指すきっかけは、うちのヤンママを置いて私との勝負をトンズラした榊某である。

 

 全く、二人の子供を持つ母親を置いていくとは全くのクズだな。救いようがない。それに比べてエンターテイィ↑メントで粉砕! 玉砕! して大喝采! を浴びている私ときたら、いやー親孝行ものですね。会場の惨劇に目を瞑れば……。

 

(うん、あとで零児くんに頼んでおきましょう。どうせ後でペンデュラムについて師事されるでしょうし……親が親なら子も子ですね)

 

 何だかんだ私もクズですね、はい。

 

 まあ? 私の目標は取り敢えず達成しましたし? あとはシンクロ次元とかエクシーズ次元だとか言う特大フラグを回収しなければいいだけだ。

 

「さて、私は寝ます。もうインタビューでクタクタなので」

『故に我が眷属を使うにはまだ───ふむ、確かに理にかなっている。あの赤馬レイの残滓からも離れられない以上、英気を養い早急に次の次元へ行くとしよう(フラグ)』

「ちょおま」

 

 ともかく、私達の戦いはこれからだ!

 

 なお、自分たちから厄介ごとを持ち込む模様()。




○榊遊季 オリ主
 前世の誰かの記憶を持ってるだけの別人。人格も魂も何もかも別人。でも記憶のせいで残念な頭になってしまった。
 ペンデュラム関連の汎用以外は全部テーマカード。Ωとかゴキブリ騎士とかクェーサーぶっ殺すライトニングさんとかもいない。
 榊家の長女。精神的居候とかいうパワーワードの持ち主。
 唯一の救いは母親似で金髪の美少女(確信)。流石に髪がトマトなら泣いてた……美少女なら変わらんか。

 以上。


○ズァークさん
 何故か気づいたらいた。カード作りに勤しんでる。

 以上。


○榊遊矢 原作主人公
 姉がアレなんで原作以上に多分ちゃんとしてる。覇王成分は微かにあるけど原作に比べたら塵レベルしかない。殆ど姉が請け負った。哀れ。
 魔術師よりもエムエム寄り。真のエンタメを目指すサクセスストーリーが始まる。あれ、原作より強く(ry
 髪の毛はトマトカラー。

○榊洋子 母親
 遊矢と遊季の母親。一番不憫な人。

○零児くん
 靴下履かない人。胃痛持ち。原作でも今作でも割と不憫な人。

○その他
 その他。


続く?


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2話

9期カードプールだけと言ったな
あれは(9期以前のテーマの新規なら使えるかもだから)嘘だ


 漫然とデュエルに勝利する様があまりに異質だった。

 息子の零児は天才である。13歳にしてジュニアユースを制覇し、翌年にはユース選手権を制覇したことでプロデュエリストの資格を持っている。

 敗北とて両の手に収まるほどしか喫しず、社長の立場がなければストロング石島を差し置いてチャンピオンに最も近い決闘者の一人でもあった。

 

 赤馬日美香にとって彼こそが至上だ。三年前、夫は荒唐無稽な研究に没頭した挙句失踪。

 気まぐれで拾った義理の息子は、有能であれど物としての価値しかない。日美香に残ったのは天才的な頭脳を持ち、誰も寄せ付けない決闘の腕を携え、唯一血の繋がっている親族である零児だけだった。夫の失踪で自棄になった日美香が息子に依存したのは必定だったのだろう。

 

 だがそれでも───やはり満たされない。

 息子は日美香の期待通りに育ってくれた。いつか訪れる次元戦争においても、聡明な零児ならば勝算があるはずだと信じている。

 けれど、あの零児の不敗記録を崩落させ、両手に収まる程度の敗北を刻んだ少女───榊遊季の存在は看過できなかった。

 

「零児さん、彼女は……」

「今暫く、静観を」

 

 遊季の調べは、彼女がLDSに所属してから既に終わっている。

 父は当時の現役チャンピオンである榊遊勝。彼の失踪した途端に遊勝塾からLDSに飛び入りを果たし、一ヶ月もしないうちに塾内における戦果ポイントDP(デュエルポイント)を貯め、エリート組であるLDSの更に最上位層の『制服組』に上り詰めた。

 何より、遊勝塾時代にかの赤馬零児に敗北を与えた決闘者として有名だった手前、彼女にこぞって集るLDS生徒が多かったのも原因だろう。

 

 無論、合理的な観点で言えば、零児と同等の決闘者である榊遊季を囲えた事に不満はない。

 零児とて遊季にだけ敗北を喫しているが、榊遊季もまた公式試合で敗北を喫したことはないものの、零児とのプライベートでのデュエルにおいて何度か敗北を重ねている。殊更に零児が遊季に劣っているのではないのも理解している。

 だが感情と合理性が両立することも難しかった。公式戦での威光というのも世間体では見過ごすには惜しい。日美香の中で零児こそが至高であるという感情を払拭することは、殆どを失ってきた彼女にはあまりに残酷だ。

 かといって話題性も実力も、消極的とは言え人格も申し分のない榊遊季を放り出すのかと問われれば、日美香自身に悩みさえさせずに零児が止めてしまう。彼が望まないことを日美香が強いることはない。

 

 なればこそ、軽いちょっかい程度で済まそうと魔が差してしまった。

 あらゆる決闘者の特性を模倣する特技を持つ、義理の息子である零羅を差し向けようかと考えたこともある。人形のように無機質であるが、並みの決闘者を圧倒する実力を持ち、紛争地帯で育った経験から鋭い観察眼を持つ零羅なら、榊遊季に泥を塗ることができるのではないかと実行しようとし───零羅自身の尋常ではない様子から遂行には至らなかった。

 

「……かつて、貴方が零羅を榊遊季と戦わせようとしたことを覚えていますか?」

 

「え、ええ。覚えています……魔が差したとは言え、あの零羅があそこまで怯えるとは思ってもいませんでしたが」

 

 テレビ中継で行われているストロング石島と榊遊季の王座奪還戦から視線を外さず、零児は母に問うた。

 

 忘れるはずがない。デュエルマシーンだった零羅は発作を起こしたかのように痙攣し、息も絶え絶えに崩れ落ちてしまったのだ。それも、遊季にデュエルをすると伝えるよりも前に、榊遊季を零羅が初めて視認したかつての日。

 

 物として見ていた日美香も驚いた。いかに義理の息子を内心で卑下していても、ブルジョワの感覚でしか生きていなかった尋常なる人間でしかない日美香もまた、一定以上の良心の呵責はあった。それを差し引いても、零羅の実力にこそ物としての価値を見出していたのだから、日美香が瞠目するのは当然といえよう。

 

 零羅が自身より強いものに恐怖するならば、それは零児にも当てはまるはず。そして現に、零児と遊季の実力が拮抗しているのだから、恐怖の所以となるには信憑性がない。

 では、遊季の何を恐れたというのか……いや、日美香は既に理解している、実力だけでなく、榊遊季が並の決闘者を圧倒するその淵源を。それを言うに憚れるからこそ、日美香は今まで自覚するのを避けている節があった。

 

 しかし、息子はどうして嬉々として語るのか。あの化け物をどうして、そんな好奇に満ちた眼差しで視界に入れることができようか。

 

 強かな息子がなによりも愛しく、自らを相対的に塵芥へと零落させられる化け物がなによりも悍ましかった。

 

「零羅とて感情は乏しくとも人の範疇にすぎません。それは私も、貴方もです。ですが、彼女は───遊季は違う。彼女は決闘の先を、勝利の先に得るものを望んでいる」

 

「それは、誰もがそうではなくて?」

 

「ええ、たしかに私や遊季だけでなく、決闘者の誰もが決闘に誇りを持ってはいるものの、それが手段であると理解しています。しかし彼女が特殊……貴方の言を借りれば異質であるのは『決闘での勝利』に誇りを持っていることでしょう」

 

「敗北に意味はないと考えているのですか?」

 

「違います。敗北()()()()()()()と考えているのです。現に彼女が全力を出した姿を()()()()()()()のですから」

 

 全力を出していないのは零児とて同様。しかし()()()()()()()()()など傲慢に過ぎるのでは───と、逡巡した瞬間に、意識が逸れていたテレビから歓声が巻き起こった。

 

 画面に映し出されていたのは、数刻前に弟である榊遊矢が誕生させたペンデュラム召喚を、彼女自身が決めた姿がある。

 心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。まさか、こんな切り札を隠していたのか。だとしたら今までの勝利すら、時の運でなく全力でない状況での勝利であったというのか。

 

 日美香が驚愕し、零児へと困惑の色が浮き出たままの相好で視線をやると、

 

「嗚呼、やはり。それも()()()()()()()とはな……!」

 

 最愛の息子は、見たことがない笑みを貼り付け、ただ一心にその一部始終を目に焼き付けようとして嗤って(微笑んで)いた。

 

 その姿の、なんと愛しいものか。なんと凄惨たるものか。

 

 日美香はその時に初めて自覚した。

 己は誤っていた。いつから? 榊遊季をチャンピオンの舞台に祀り上げた時? LDSへの入塾を許可した時? 榊遊勝や夫が失踪した時? 榊遊勝がチャンピオンになり、その姿に零児が憧憬を抱いた時? 己が、赤馬の名を背負った時だろうか。

 

 ただ一つ言えるのは、自身に唯一残されていたと思い込んでいた希望を一番最初に失っていたというだけである。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

『強カードが決闘者を酔わせるのではなく、その本性を暴くだけなのだ』

 

 ……なんて名言があるらしい。作者は超絶美少女な現舞網チャンピオンのY.S.である。

 確かに私は天才ですから? 汎用エクストラが無くても勝率10割(非公式を除く)ですし? それはもうDPを稼ぎまくりングなわけですよ。

 

 苦節16年、パックをちぎっては丁寧に保管したりちびっ子に譲ったり、別にイキる事もせずカードを大事にする決闘者だったかつての日々。その善業が漸く報われたと言えましょう。

 

 塾生としても個人的にもお世話になってる赤馬えも〜んに頼んでDPと賞金をカードに変換してもらった私の手には、最高級レアカードが4枚も手元にありました。

 

幽鬼(ゆき)うさぎ

チューナー・効果モンスター

星3/光属性/サイキック族/攻 0/守1800

 

浮幽(ふゆ)さくら

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

灰流(はる)うらら

チューナー・効果モンスター

星3/炎属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

屋敷わらし

チューナー・効果モンスター

星3/地属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

 まさかの全部ピンですが、全てが手札で発動できる誘発即時という強カードなのです。

 幽鬼うさぎは効果が発動した表側カードの破壊、灰流うららは主にデッキに関する無効効果で屋敷わらしは墓地に関する無効効果です。これを手札から相手のターンに発動できると言えば環境に取り残された人達でも強さがわかるでしょう。

 もっと簡単に言えば手札から使える罠であり、チューナとしても使えるモンスターでもある。うん、強すぎますね。

 

 そして浮幽さくらちゃん。前述の3人も可愛いし可愛いし強いが、彼女こそが私にとっての本命です。彼女は簡単に言えば、自分と同名のEXデッキのモンスターをお互いに確認し、相手のEXデッキにそれがあれば全て除外するというもの。

 そして私のデッキは言わずもがな、父の影響を受けた《魔術師》でした。そして同様に弟である遊矢も《EM》や《魔術師》や《オッドアイズ》を主流としたデッキです。

 

 要するに、対弟メタです。鬼畜生と言われようが、弟に負けたくないという大人気(おとなげ)ない気持ちから、大人気ないコネを行使して手に入れた珠玉のカード達でした。

 あとやっぱり可愛いし、可愛いし、可愛い。妹も欲しいと思っていたので、私の超常ぷぅわ〜を勝手に使って実体化している彼女達と自室で戯れては癒されています。結構な頻度で三途の川へと誘い込まれていますがね、そこはデュエルマッスルと超常ぷぅわ〜で何とかなります。

 

 ……そう、DPを荒稼ぎして更には賞金まで頂いているのにこの4枚が限界だったのです。賞金の半分は我が家に渡しました。原因はやはり、荒稼ぎしたと豪語してもDPで補えなかったという事実でしょう。

 

 決闘で勝てばDPを貰える。単純だが、実力が拮抗するLDSではやはり荒稼ぎ出来る人物など数人しかいない。その一人に私は含まれていますが、流石に私も他の荒稼ぎ連中も決闘だけに没頭するわけにはいかないのです。

 塾である以上講義があります。理論、戦術、戦略、知識。それらと一般教養を含めて決闘者は一流になっていくのです。素行が悪く実力があっても、やはり彼等が頂点になることはありません。現に私や……この榊遊季(強調)と零児くんのように実力も人格も優れた人間が上に行く世界なのです。つまり私は零児くんと同じステージに立ってるんですよ!(強調)

 その点で言えば、ストロング石島もまた潔く意外にも博識で……何よりもデュエルマッスルに秀でた御方でしたね。

 

 ───デュエルマッスル。アクションデュエルが主流の一つとして確立する以前から、スタンディングにおいても精神と肉体を高める為に必要とされました。

 私達決闘者は決闘に勝利する事こそが至上の目的。そのため、決闘外でも努力を怠らず日々精進しています。

 私とて例外では無く、奇術も決闘も体力と精神が必要です。その二つがあって初めて技術の取得に移れます。

 例の前世の記憶など宛になりません。何故プロデュエリストのドローする姿が美しいのでしょうか? 私を含め、殆どの決闘者は誰しもがドローの練習に臨んだことがあるのです。ドローの練習によって我々はデュエルマッスルを極め、デッキとの絆を築き、運命力を高めなくては無数の決闘者達の中に埋もれてしまうのです。

 

 そんな決闘には欠かせないデュエルマッスルは、アクションデュエルのリアルソリッドビジョンの第一人者であるLDSで、特に力を入れている事業の一つであります。

 なんと丸々複数の階層を水泳、トレーニングルーム、陸上競技、球技、その他諸々……と、一つにつき一階層を設ける富豪っぷりです。印税羨ましい……。

 

 そんな私は幽霊少女四姉妹をデッキに入れたまま───トレーニングルームで指一本で逆立ちをしていました。

 

「……」

 

『ふむ、さすが我が器に選ばれたことはある。この程度の事は造作もないか』

 

「……」

 

『だがしかし、お前はいつもぼうっとし過ぎだ。勝利に執拗にならなければ、我から言わせれば覇王など遠く及ばん。もっと一点だけを見つめよ』

 

「……」

 

『ほう、瞑想も同時に行うか。より運命力を鍛えるには些か性急だが、効率はいい。なれば我の言う通りに───』

 

 10分経ったので辞めました。

 

 スポドリ! スポドリ! 冷えてるか〜! (氷入れてるので)大丈夫ですね、バッチェ冷えてますよ。

 

「ふう……」

 

 至極、集中しずらかった。

 この居候の厄介さの通り、私はデュエルマッスルの修行に支障をきたしていました。

 

 記憶と比較すると華奢な絶世なる深窓の美少女(自称)が、細腕の人差し指一本で全体重を支えるのはあり得ないらしいのですが、優れた決闘者ほど肉体強度が高いのはこの世界ひいては私にとっては常識です。

 

 とはいえ、どちらかと言えば精神力を費やす瞑想を行なっていたので汗は吹き出ています。

 

 居候の小言を聞き流し、柔軟剤の香りがするタオルで拭っていると、デュエルマッスルで鍛えられた第六感が後背からやってくる気配を察知してくれました。

 

「精が出るな遊季」

 

 ……この声だけで、私はどっと疲れが増した。

 なんで基本的に他人をフルネームや名字で呼ぶ貴方は、私の下の名前を普通に言うのですかねぇ。これでも貴方のファンクラブの方々に、明日刺されるかもって結構不安なんですよ!

 

「ああ、零児くんですか……今日はもうお仕事は終わりましたか?」

 

「ハズレだ。元々今日は非番、我が社は週休2日を徹底している」

 

「……その割に、土曜日に残っている事が多いのでは?」

 

「私だけだな。因みに残業をしているのではない。次の事業の要件定義書を作成していただけだ。仕事を残すようでは他人に週休2日を与える事など出来るはずもない」

 

 なんで彼は未来の仕事で残業してるの?(素朴) というかそれは残業じゃないの? なに? 今のプロジェクト納期間に合うからマルチタスク余裕? コイツに嫁いだ奴勝ち組ですね。

 

 少しドヤ顔でメガネをクイッと上げる彼こそ、赤マフラー社長こと赤馬零児である。LDSの理事長である赤馬日美香の実子にて、代表取締役でもあります。私と同年代にして凄いとか最初思ったけど、最近はこう親しくされて自分の惨めさが浮き彫りになっている。因みに靴下は履いてないのに足は臭くないから凄い。細胞レベルでデュエルマッスルの一人です。

 

 そんな彼はいつもと違い、短パンにコンプレッションウェアという出で立ちでした。つまるところ、零児くんもトレーニングしに来たのでしょう。

 

 

 

 

 

 ……トレーニングの服装に逆重力マフラーが棚引いているのは無視しますか。

 

「しかし見事な倒立だった。この私でもつい見とれてしまうとは……ふむ、筋肉の付き方もバランスよく、体幹を崩さないように維持しているようだ。脊椎に歪みがないということは、普段の姿勢に意識を割いている証拠。改めて敬意を表す」

 

 と、私が関わりたくない理由がこれです。やたらとそれらしい分析をされてじっと見つめられるのです。最初は気恥ずかしさをごまかすのに必死でしたが、こうもねっとりと……迫真とした獣の眼光で見据えられては何かしらの危機を感じます。

 こんなんでもうら若き乙女なので。

 

(それにしてもズァーク、貴方さっさとカード創造の研究に勤しみに行きましたね……)

 

 居候がやけにおとなしいと思ったら、カード創造のための研究に没頭するため私の深層意識のどこかに行ってしまったようです。もう一人の私の真実の扉にたどり着かれたら洗脳されそう。()

 

 しかし目の前には私を逃がさんと凝視するハンターがいる。対する私はか弱き乙女、何とか舌戦に持ち込まなければいけないが、骨が折れる相手であるのも事実です。

 

「……それにしても零児くんは酔狂ですね。このような1生徒に声をかけるなど」

 

「一目置く生徒はいるさ。しかし皆平等に扱う、相応の立場を求めるならば実績を出さなければならない。それらを鑑み、君は十分な立場だと思うが?」

 

「恐縮です……ですが、どうやら社長はデスクワークで酷使した腰を労わるべきかと。のちの業務に支障が出るのでは?」

 

「そこまで柔ではないとも。伊達にリアルソリッドビジョンのシェアを伸ばしてはいないさ」

 

「そうですか……てっきり他の生徒に()()をしていたので、零児くん自らが動くには苦があるのだと」

 

「……言伝、だと? それは何処から───」

 

「さあ、プライベートの守秘は人権尊重の一環かと。契約書にもそんな事は書いてありませんし……私とて、貴方が沢渡シンゴとやらに何を頼もうと、私の知る由もありませんので」

 

 そう、私は覇王の残滓を逆探知して、今現在の弟がどんな目に遭っているのかリアルタイムで把握していた。

 

 そもそもが怪しすぎる。だって零児くんは、普段なら自分から会いに来る時に何かしらの目的が絶対あった。わざわざ世間話のために立ち寄るなんて非合理な行動をする人間ではない。だというのに今回は世間話を装っている。

 恐らく確証がないから疑念を持たれるだけだと思ったのでしょうが、私と居候の超常ぷぅわ〜に弟を巻き込んでの情報戦は部が悪いですね。

 

「あら、確か沢渡シンゴとやらはあまり素行がよろしくないようで……弟のカードを強奪されでもしたら、あまりに不憫なので様子を見に行きましょうか」

 

「カードを強奪とは穏やかな話ではないな」

 

「穏やかなお話がお好みで? 私はヴァイオレンスな物語にこそ冒険があると思いますが。仕事柄、退嬰は倦まれますもの」

 

「さて、君の弟と沢渡シンゴがどうなっているのか。私達では知る由もないのだが」

 

「……では、賭けをしませんか?」

 

 と、私はすぐ側にあった二つのランニングマシンに視線をやる。

 そのランニングマシンは天下のLDSだからか、決闘盤(デュエルディスク)が装着してある。そして私と零児くんは共にスポーツウェアを着ているのだから、やる事は一つでしょう。

 

「賭けとは?」

 

「簡単な事です。私は弟を助けに行きたいけれど、貴方は見逃す気はない。無視するには零児くんのお母様の目が厄介なので……私が勝てば、あくまでペンデュラムの実戦データ()()にしてください。逆に零児くんが勝てば私のP(ペンデュラム)カードを全て渡します」

 

「……些か、短兵急ではないか?」

 

 こっちは遊矢にズァークの片鱗出させて猿ヒグルミの犠牲者を出したくねぇんだよ。(半ギレ)

 

「貴方達から仕掛けて何を今更。それに急がなければいけない理由もあるので……」

 

「君の言う沢渡シンゴに関しては認識していないが、榊遊矢もまた君の薫陶を受けている以上、心配は無用だと思うのだが……まあ、この機会は願っても無い。いいだろう───ランニングデュエルといこうか」

 

 メガネを相変わらずクイッと上げる零児くん。短パンにスポーツウェアの赤マフラー姿で悠然とランニングデュエルマシーンへと登る姿は、ぶっちゃけ変態に見えなくもありません。私からデュエルを誘っておいて何ですが。

 

 しかし妙に違和感がある。わざわざ沢渡シンゴとやらに遊矢と戦わせる意図と、私がPカードを渡すと伝えた時の無欲さ。零児くんの経営者たる(さが)からして、建前は装っていてもペンデュラムのデータは欲しいはずだ。

 ましてや私のPカードは、零児くんが何故か憧れているクソ親父と同じ魔術師カテゴリー。同日に広まったとはいえ、ペンデュラムの始祖である遊矢とも同じ。そんなカードを前にして零児くんは関心はあっても欲を見せなかった。

 

 そこから推測できるのは───このデュエルすら、零児くんにとっては思惑の内なのかもしれない。その真意を推し量るのなら、彼は、既にペンデュラムを修めている筈だ。

 

「さて、今回もまた非公式だが……君の全力をこのデュエルで見させてもらおう───」

 

「……デュエ」

 

「───デュエル! 私のターン! 私は()()()P()()()()()()()()()()《DD魔導賢者ケプラー》を召喚し、デッキから永続魔法『地獄門の契約書』を……」

 

「ちょおま」

 

 先攻宣言したもの勝ちはともかく! いや根に持ちますけどとにかく! 何でケプラーがPモンスターになってるんですか!?

 あれ、私や遊矢以外にもペンデュラムに書き換わったんですかねぇ……。

 

「ちょおま?」

 

「あっ、いえ……以前のケプラーは効果モンスターでは?」

 

「ああ、その事か。なに、君にペンデュラムの可能性を魅せられて燻っているほど私は枯れてはいない。ペンデュラム用に私が調()()()()

 

「は? いえ、どうやってその……」

 

「決まっているだろう。LDSは国からカードの開発を許されている。世間にも知られている筈だが」

 

「嗚呼、そうでしたね……」

 

 此処で前世の記憶による痛恨のミスが発覚したようです。

 調整能力に関して俺TUEEEの独自テーマは絶対に許さないと、私は固く誓いました。(ブーメラン)

 

 もう許さねぇからなぁ?

 

「さあ、気を取り直していくとしよう。ランニングマシーンよ、加速しろ、誰よりも早く! 私は《DD魔導賢者ケプラー》の効果によりデッキから《地獄門の契約書》を」

 

「あっ、手札の《灰流うらら》の効果で無効にし……」

 

 (勝ったな)確信。

 

「では手札にあった地獄門を普通に発動しよう(冷静)」

 

 ……あ^〜ランニングマシーンで足元がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜(逃避)

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 高鳴る鼓動は恋にも似ていた。焦がれ、届かぬ恋情は募っていくばかりだ、

 

 榊遊季。勝利のみを見据える彼女の、鮮烈な決闘に私は憧憬を焼かれた。決闘者として彼女の圧倒的な力に焦がれてしまった。

 それは私がかつて憧れた榊遊勝とは全く性質が異なっている。圧倒的な運命力と、朧げな道筋を截然としたヴィアドロローサへと変質させる奇術は、彼女を『覇王』と讃えることに何ら不足していない。

 

 エンタメを大衆が望もうと、圧倒的な力というものに人々を惹きつける求心力があるのも事実だ。

 誰にも全力を見せない事を不誠実だと言う者もいる。そんな者達でも、己が榊遊季の全力を引き出せない事への悔恨からそのような言葉が出るのだから、やりきれない思いを口にするのは彼女に惹きつけられている証左だろう。

 

 力は孤独にさせる。

 かつての私もまた、母の期待に応え、父の荒唐無稽な行動を止めるため我武者羅に力を振るっていた頃があった。

 客観的にも、実績としても私は決闘者として一流だという自負があるし、そのための努力による裏打ちもある。けれども、榊遊季がいかに天才といえど、私は彼女との初めてのデュエルで惨敗した。その原因は、憧憬に焦がれている今だから理解している。

 

 彼女は力でエンタメを振るうこそすれ、決闘を楽しんでいる。勝利しか見ていなくとも、その勝利こそが人々を熱狂させると真に理解していた。

 目的ではなく手段を得る為の道程で盲目になっていた昔の私が勝てなかったのは道理だ。

 

 その後、私は初心に返り見事リベンジを果たした。

 しかし今でも思う。彼女の全力を引き出せずリベンジを果たしたとて、それは決闘者としての本懐を遂げていないのだと。

 

 今日のデュエルもそうだった。様子見の手札誘発をやり過ごし、場には三体の上級DDDモンスターを並べ、魔法罠を阻害し、契約書の制約を帳消しにし、次の自分スタンバイフェイズには相手と自分の魔法罠を消しとばす盤面にしていたはずなのに。

 

DDD剋竜王ベオウルフ

 

DDD神託王ダルク

 

DDD呪血王サイフリート

 

 その全てを、たった一枚のカードで崩された。

 

「『超融合』か……それにあの紫毒龍の召喚反応は早急に手を打たねばならないな」

 

 あらゆる障害を許さない絶対の力。そして敵のモンスターを蝕み己の力に変える毒龍。

 

『これだけは、あまり使いたくなかったのですがね』

 

 その時の彼女の憂いを帯びた表情の真意はわからない。

 

 ともかく、零児はその二つのカードを()()()()()()。以前の彼女の決闘データを遡っても存在せず、無数のモンスターの中でも図抜けた融合召喚反応を放った毒龍には、どこか既視感も感じた。

 

「融合……か。そしてあの毒龍の召喚反応……なぜ波長が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と似ている? 偶然か、いやしかし───」

 

 次元戦争まで時間は迫っている。だが不確定要素を孕んだままランサーズを発足するなど、聡明な零児が強行を採るはずもなく。

 かつての憧憬は、毒のように漠然とした焦燥となって零児を苛んでいた。

 

 それでも、

 

(ふっ……逆説的に考えれば、彼女の全力の一端に触れたとでも言うべきか。なればこそ、()()全力で臨むべき時も近いか)

 

 未来の存亡を背負っていたとしても、一人の決闘者としての求道精神は確かな昂揚を感じていた。




○榊遊季 オリ主
 汎用以外のテーマ(現地調達は除く)のオリ主だゾ。
 でもあんまりデュエルの決定打になるような使い方はしないようにします。
 本人はARC-Vを知らないのでペンデュラムはズァークの力=カードがオカルトで書き換わると思っていた。
 最近はランニングデュエルとサイクリングデュエルにハマっている。

○赤マフラー社長
 (靴下)履いてない人。デュエルスタイルに好意を評しているだけで異性のそれじゃない。
 まだまだ力を温存中。ぶっちゃけオリ主とも遊矢とも背負ってるものが違うから黒咲さんと並んで最強枠の一人(予定)。
 二次創作だと頼めばカードを用意してくれるドラえもん枠で扱われる人。

○榊遊矢
 沢渡シンゴ? とりあえず猿ヒグルミで(ry
 最近は姉に勝ちたいのでランク4に注目しているらしい。()

不審者勢がアップを始めました


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