ジョジョと人形使いと英雄学校 (黒三葉サンダー)
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プロローグ

……気が付いたら頭に内容が出来ていた。
そして俺の右手が勝手に文字を打ち始めたんだ!!

まぁ、そんな些細な事はこの際気にしないでゆっくりしていって下さいな?


とある県のとある町にて、その男はジャケットのポケットに両手を突っ込んで歩いていた。

 

その男の名前は新城 丈作。

義理と人情を重んじる男だが、嫌な事はハッキリNOと言える日本人である。

しかしこの男、言いたいこともハッキリと言ってしまう上に口調も荒い為他人からは誤解をうけやすいのだ。

そんな彼にはある秘密が隠されている。

 

丈作が向かうのは人気の無い森の中。木々の合間を縫って歩いていくとその場所はあった。

やけに開けたその場所には変に木々が無く、近くにある太い木には何かで殴った痕が残っている。

丈作はその木の前に立つとおもむろにその拳を強く握る。

 

「すぅ……はぁ……オラァ!」

 

すると丈作は強く握ったその拳を太い木に叩きつけた!

殴られた木からメキメキと音が鳴るが、丈作はそんなことはお構いなく殴り続ける。

 

「オラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

叩き込むこと7回、一撃が重い丈作の拳を7回受けた太い木はバキバキと音を立ててへし折れた。

この男、生身の拳で太い木を殴り倒したのだ!

 

「……はっ。だいぶいい感じになってきたか?」

 

丈作は拳を見るが、固い木を殴ったその拳は少し赤くなっているだけで別段問題はないようだ。

 

「性懲りもなくまたやってるのね」

 

次の木に向かおうとする丈作に一人の少女が声をかけた。青いワンピースのようなノースリーブにロングスカート姿の少女の名前はアリス・マーガトロイト。

丈作の友人であり、ご近所さんであり、学友である。

そして彼女にもある秘密が隠されている。

 

「あ?アリスか。何をやろうと俺の勝手だろ」

 

「そんなのだから友達が少ないのよ、あなた」

 

「うるせぇ、お前も人の事言えたもんじゃねぇだろ」

 

「あら、私は丈作よりも多いわよ」

 

そう、丈作には友人が少ない。

と言うよりもアリス以外に友人がいない。

それに比べアリスは友人が多いとは言えないものの、少なくとも丈作ほど酷くは無いのである。

 

「ちっ。んで、何のようだ」

 

丈作は余裕の笑みを浮かべているアリスに舌打ちをすると、自分に不利なこの話題を急遽変えるべく話を反らす。

アリスはその丈作の様子にクスクスと笑うと、丈作の前にズイッとカゴをつき出した。

 

「あ?」

 

「あなたまだご飯食べてないでしょ?徐庶さんが慌ててたわよ」

 

「あー……わり。すっかり忘れてた」

 

「忘れてたじゃないわよ。ご飯はしっかり食べなさいって言ってるのに。ほら、早く受け取ってよ」

 

「へいへい……」

 

丈作は気の無い返事を返しながらアリスからカゴを受け取り、その場にドカッと座り込んだ。

 

「こら!地面に直接座らない!今シート敷くから早く立ちなさい」

 

「あぁもうメンドクセェなぁ!お前は俺の母親か!」

 

丈作はアリスの言葉に噛みつきながらも言われた通り素直に立ちあがり、ズボンのホコリを手で払う。

何だかんだ言いながらもアリスの言葉に従う丈作であった!

 

その後手際よくシートを敷き終わると、今度こそ丈作はその上に靴を脱いで座り込んだ。

靴を脱がすに座り込めばアリスにまた何か言われかねないと思った丈作の行動は正しかった。

 

アリスもまた靴を脱いでシートの上にちょこんと座り込むと、丈作に話題を切り出した。

 

「それで、調子はどうかしら?転生者さん」

 

「はっ、まぁそこそこだな。お前の方こそどうなんだよ、転生者さんよぉ」

 

アリスの質問に丈作はカゴからサンドイッチを取り出しながら言葉を返す。

 

そう!

何を隠そう丈作とアリスの二人は転生者なのであるッ!

 

尤も、丈作とアリスは自分が転生者である事は把握しているものの生前の記憶は残ってはいないのだ。

 

「そうね、まだ違和感は拭えないけどそこそこと言ったところかしら」

 

「はん、じゃあお互いにまだまだってことだな」

 

丈作は鼻で笑うと持っていたサンドイッチに齧り付いた。するとすぐに丈作の動きが止まり、アリスにジト目を送る。

アリスはアリスでそんな丈作の様子を見てしてやったりとした顔で返すばかりだ。

そして丈作の時は動き出した。

 

「おい、これお前作ったやつだろ。お袋の味とちげぇ」

 

「そんなすぐに分かっちゃう?」

 

「ったりめぇだろ。お袋のやつの方がうめぇし」

 

「ちょっと、それは聞捨てならないんだけど───」

 

「ほらよ」

 

丈作の言葉に食って掛かろうとしたアリスの眼前に丈作が拳を突き出すと、札をアリスの前でひらつかせた。

突然の事に一瞬キョトンとするアリスだが、すぐに我に帰った。

 

「なに?」

 

「材料代だ」

 

「……はぁ。だからいらないって言ってるのに」

 

「うっせぇ。貰えるもんは大人しく貰っとけ」

 

「はいはい。それじゃあ遠慮無く」

 

こういう時の丈作は頑固になることをアリスは知っているため、目の前のお札を受け取り財布の中へとしまい込んだ。

 

受けた恩は必ず返す。

 

それが丈作が大切にしている事の一つである。

アリスは丈作のそんな律儀なところを友人として好ましいと思っている。

 

因みにこの二人は只の友人同士である。今後どうなるかは二人とも知るよしもない。

 

「そういえば、丈作は結局雄英高校に行くの?」

 

「んあ?あぁ、まぁな。お前はどうすんだよ。天才様は志望校なんて選びたい放題だろ」

 

丈作はあまり成績が良い訳では無いが、別段悪いわけでもないのだ。つまり勉強すれば何とかなる。

しかしアリスはいわゆる天才に近しい分類におり、丈作の言う通り志望校はほぼ選びたい放題である。

 

「そうね……せっかくだし、丈作と同じ雄英高校にしようかしら」

 

アリスはニコニコしながら丈作に言葉を返す。

普通の男なら勘違いしそうな場面だが、こと丈作に至っては胡散臭そうな目でアリスを睨んでいた。

 

「……お前俺が受かる確率を減らす気か」

 

「あら?私一人にすら勝てる自信がないのかしら?」

 

「あ?上等じゃねぇか。お前を蹴落としてでも受かってやる!」

 

クスクスと馬鹿にするようにアリスは笑うと、丈作はものの見事にアリスの挑発に乗ってしまうのだった。

 

こうしてこの日、丈作はアリスを蹴落としてでも雄英高校に受かる事を誓った。

 

 

→To be continued!




……まさか俺の近くにキラークイーンのジョジョ立ちを完璧にこなす奴がいるとは思わなかった(戦慄)

世界は狭いなぁ(・・;)


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第一話 新城 丈作という男

ブチャラティ……あなたって人は……(震え)


新城 丈作はわりと自由人である。

無論学業は疎かにはしておらず、サボりも殆ど無い。

しかし彼の事を知っている人物に彼が真面目な人間かと問えば、皆口を揃えてこういうだろう。

 

「それはない」と。

 

実際丈作は自身の通っている中学の不良達をまとめて叩きのめしていたり、ついうっかり授業中に居眠りしてしまう事等が挙げられる。

しかも彼はその人相の悪さと中学生とは思えぬガタイの良さ、そして不良の一件で教師陣から目をつけられている。

尤も、本人からしてみれば全くもってどうでも良い事だと思っているのだが。

 

そんな彼の趣味は物作りや筋トレといったものである。意外と思えるかも知れないが、丈作は手先が器用なのだ。

ただ、彼の場合は他者とは違う部分があったのだった。

 

この日、丈作は母親である徐庶から渡された買い物のメモを持ってスーパーへと向かっていた。

丈作の家は丈作と徐庶の二人暮らしであるため、母親の負担を少しでも減らすために丈作は自ら買い出しの役を買って出ているのだ。

 

「うわぁぁぁぁん!」

 

「あ?」

 

丈作がメモの内容を見ながら歩いていると、一人の子供が泣きながら道端を歩いているのを丈作は見つけてしまった。大人達もそんな子供の様子を見ているが、誰も声を掛けようとはしていない。

 

彼は無言で泣いている子供の元へと歩いていく。

因みに今の彼の服装は黒いジャケットにジーパン、そして黒いサングラスを着けている。彼のガタイも相まってそっち方面の人にしか見えない。

 

「ち、ちょっと君!あの子供に何をする気だい!?」

 

「んだよ、別にガキを殴ろうなんざ思ってねぇよ。何も出来ねぇなら大人しく引っ込んでろや」

 

近くにいた大人が丈作をひき止めようと勇気を出して声を掛けるが、自分よりも大きな体を持ち余計な威圧感を出している丈作に一睨みされて動けなくなった。

それを見ていた人達は止めることを止めた。一部の人は警察に電話なんかしているレベルだ。

 

「おい坊主、何を泣いてやがる」

 

「ひっ……」

 

子供は自分よりも何倍も大きい丈作に声を掛けられてビクッと震える。心なしか丈作が声を掛けたせいか余計に泣きそうになっている気がする。

丈作はそんな子供の様子を見て、頭をボリボリとかきながら出来るだけ子供と同じ視線になるようにしゃがみこむ。

 

「男がいちいちビビってんじゃねぇよ。ほら、なんで泣いてんだ?」

 

「……これ……壊されちゃった……」

 

出来るだけ子供を怖がらせないように口調を柔らかくして聞いてみると、少しだけ怯えながらもおずおずと手に持っていた物を見せてきた。

子供が持っていたのはオモチャの剣だった。しかしその剣は根元からまるで折られたようにポッキリと真っ二つになっていたのだ。

 

「これは坊主のか?壊されたって、いじめか?」

 

「……うん……」

 

「はん、いつの世もくだらねぇ事する奴は消えねぇもんだな。おい坊主、てめーの大事なもんをぶっ壊されて悔しくねぇか?」

 

どうやらオモチャの剣は苛めっ子によって壊されたようだった。丈作は壊れたオモチャの剣を見て再び泣きそうになっている子供に問いかけた。

 

「……く……悔しいよ……でも……僕は弱いから……無個性だから……」

 

子供はぼろぼろと涙を溢して悔しそうにオモチャを握りしめる。

丈作はそんな子供の様子を見て一つ溜息を溢すと、右手を子供に向かって伸ばす。

子供は何をされるか分からずにキュッと目をつむり、大人達は丈作を止めようと声を掛けようとする。

 

「だから泣くんじゃねぇよ。男ってのはそう簡単に涙を見せちゃいけねぇんだ」

 

その伸ばされた手が子供の頭を撫でる。

子供はおそるおそる目を開け、大人達は少し唖然としていた。

 

「いいか?無個性だからって弱い理由にはなんねぇ。てめーの弱さは鍛えてねぇからだ。個性がある奴は確かにつえぇ奴もいるだろうさ。だけどよ、坊主。てめーがそいつに勝てねぇ通りなんざ何処にもねぇんだよ」

 

丈作は「説教臭くなっちまったな」と苦笑する。

それに反して子供は黙って丈作の言葉に耳を傾けていた。そして大人達の中に紛れて話を聞いているとある少年もまた黙って話を聞いていた。

 

「その剣、俺が直してやるよ」

 

「ほんと!?オジさん直せるの!?」

 

「オジさんは余計だ」

 

「あいたっ!」

 

丈作の言葉に子供は目を輝かせるが、オジさん呼びが気に触った丈作からチョップされた。少し力が込められていたせいか普通の痛みが子供の脳天を襲った。

 

「ただし条件がある。それを約束出来るなら直してやる」

 

「条件……?」

 

「はっ、無償で直してやる程俺は優しくないんでな。どうする?怖いなら止めとくか?泣き虫坊主」

 

「うー……わかった!約束する!」

 

端からみるとヤバイ場面だ。何も知らない人達からすればどのような無理難題を約束させられるか分かったものではない。それはその様子を大人達と混じって見ていた少年も同じだった。

 

「よし、んじゃ坊主。もう滅多な事で泣くんじゃねぇぞ。男ってのは泣けば泣くほど弱くなる生き物なんだよ。俺としてもまた泣かれてたらウザってぇからな」

 

「うん!約束する!僕もう泣かない!強い男になる!」

 

「……はっ!精々血反吐吐いて頑張んだな!ほら、そいつこっちによこせ」

 

丈作は子供の思わぬ言葉に一瞬キョトンとするが、すぐに口角を上げて鼻で笑った。心なしか丈作のその顔には喜色が浮かんでいるようだった。

丈作は子供からオモチャを引ったくると、ジャケットを脱いでオモチャに被せる。

その姿はまるでマジックを披露するマジシャンのようだ。その証拠に子供はキラキラした目で丈作の手元を見ている。

 

「なぁ坊主。せっかくだからもっとかっけぇ剣にしたくねぇか?」

 

「え!?出来るの!?」

 

「出来るか出来ねぇかは坊主のアイディア次第だな」

 

「じゃあね!じゃあね!」

 

丈作の言葉に子供はニコニコしながらどんな見た目かを楽しそうに挙げていく。丈作は子供のアイディアに相槌を打ちながらも手を動かしている様子はない。

最早子供だけではなく、その様子を見ていた人達が皆こぞって成り行きを見守っていた。

一体どうなるのか、本当にオモチャは直っているのか、まさか丈作の言う通りオモチャの形が変わっているのか。

 

「──こんなの!どう?」

 

「へぇ、ガキの発想力ってのはすげぇもんだな。……因みに、もうこの中で出来上がってんだぜ?」

 

「「「え!?」」」

 

丈作がゆっくりとジャケットを持ち上げると、その手に握られていたのは直ったオモチャの剣だった。

しかも姿形はすっかり以前と変わっており、子供のアイディアがそのまま採用された見た目になっていた。

 

「わー!!わー!!すごい!オジさんすごい!あいたっ!」

 

「だからオジさんは余計だっつーの。ほらよ」

 

「ありがとう!!」

 

丈作はオモチャの剣を子供へと手渡すとジャケットを着なおした。子供はその剣を嬉しそうに握りしめていた。

 

「あ、そういや時間───げっ!」

 

丈作はふと時間が気になり腕時計を確認すると、すっかり時間を取られていたらしくセールの時間が迫っていた。

 

「あぁくそ!まだ間に合うか!?あばよ坊主!」

 

丈作は子供に適当に声を掛けてその場を走り去っていった。大人達はポカーンとした顔で、子供は笑顔で手を振りながら走り去っていく丈作を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

───その後、丈作がスーパーにたどり着いた頃には既にセールは終了していた。

彼はセールに間に合わなかったのだ。

 

「……はぁ。仕方ねぇか」

 

「あら、遅かったじゃない」

 

露骨に溜息を吐きながらセール品以外を買い揃えようとしたとき、後ろから聞き慣れた声が聞こえ丈作は歩き出そうとした足を止めて振りかえる。

そこにいたのは買い物カゴを持ったアリスだった。

 

「ちっ、アリスか……」

 

「ちょっと。今の舌打ちは何よ」

 

「別になんでもねぇよ」

 

「へー、てっきりセールに間に合わなくて必要な物が手に入らなかったから落ち込んでると思ってたんだけど?」

 

「お前俺にケンカ売ってんだろ?買うぞこら!」

 

「別に良いわよ?女子供を殴れない人が私を殴れるならね?」

 

「……ちっ。さっさとあっち行けや」

 

丈作は犬を追い払うかのようにシッシッと手で払うが、アリスはニヤリと笑い返す。そしてそれを丈作へとちらつかせる。

その手に持っているのはセールの戦利品であった。

 

「これ、余分に取っちゃったのよね。あんまり多く持ってても仕方ないし、出遅れた丈作にでもあげようかと思ってたんだけどなぁ」

 

「ぐっ……」

 

「どうしよっかなー、他の人にお裾分けしよっかなー?」

 

「……何が望みだ……」

 

結局丈作はプライドよりも母親の笑顔を取るのだった。

それに対してアリスはニコニコとしているだけだった。

 

後日、丈作はアリスと一緒に出掛ける事を約束されてしまった。

 

 

 

→To be continued!




感想心よりお待ちしておりますm(_ _)m


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第二話 個性?悪霊?……否!その名はスタンドッ!

今回は丈作のスタンドが登場します!
人によってはチートに見えるかも知れないし、案外ショボくね?って思う人もいるかも?

まぁ人によってはクレイジー・ダイヤモンドに見えるよねって────あれ?なんか話違うよな……。


個性。

 

それは現在のヒーロー社会において必須となる程の特殊能力である。

彼等ヒーローは己の個性を理解し、鍛え、助けを求める人々の為に奔走する。人々にとってその姿は正しくヒーローなのだ。

 

しかしその反面、その強大な力に酔いしれて犯罪に走ってしまう輩も多いのだ。

無論初めから悪意を持って犯罪に走る輩だって沢山いる。殺害、強盗、器物破損、窃盗、公務営業妨害、挙げていけばキリがない。

 

そんな犯罪者達を捕まえるのも彼等ヒーローの大切な役目なのだ。

そう、全くもってヒーローという仕事は死ぬほど忙しいのである。

 

例えばそう!今待ち合わせ場所で丈作がボーッと家電屋のテレビを眺めているその画面にいる人物!

まるでアメコミのヒーローのようなコスチュームで身を包み、高笑いしながら倒壊していたビルを救助者を担いで乗り越えてくる筋肉質の男!

 

『HAHAHA!もう大丈夫!私が来たっ!』

 

このヒーロー社会において知らない者はいないと言える程の存在であり、平和の象徴と言われているNo.1ヒーロー!

オールマイトであるッ!

 

丈作が密かに社畜戦士と呼んでいるこの人物はヒーローを目指す人々にとって目標であり、憧れなのだ!

ヒーローの卵達はオールマイトのようなヒーローに、オールマイトを越えるヒーローになろうと奮闘するのだ!

 

「ふぁぁ……おっせぇなぁ、あいつ」

 

……しかしテレビ画面を眺めながら欠伸をする丈作にとってオールマイトは然程気になる存在ではないらしい。

しかしそれも仕方ない。この男、ヒーローを目指してはいるものの特に尊敬しているヒーローはいないのである。厳密に言えば尊敬している人物はいるが、その人物はヒーローではなかったという事だけだ。

尤も、丈作にとってその人物はヒーローと言えるかも知れない。

 

「ねぇ……あの人かっこ良くない?」

 

「やっぱり?私けっこう好みかも」

 

「声かけちゃう?」

 

遠巻きに丈作を見ていた女子学生がヒソヒソと話している中、丈作は自分の事が話されていることなど梅雨ほど知らず腕時計で時間を確認しテレビに視線を移す。

 

「ねぇ──」

 

「お待たせ。けっこう待たせちゃったかしら?」

 

女子学生が丈作に声を掛けようとしたその時、丈作に声を掛ける少女がいた。

アリスである。

まるで見計らったかのように女子学生が声を掛けるタイミングで被せてきた辺りに何か作為を感じなくもないが、丈作にはそんなことはどうでもよかった。

 

「おせぇよ。30分くらい待ったぞ」

 

「約束した時間よりも早いわ。それは丈作の自業自得ね」

 

「このアマ……」

 

この男、不機嫌そうにしていても待ち合わせの時間よりも早く待機していたのである。

それは一重にアリスを待たせない為の配慮ではあるのだが、アリスはそれを理解した上で丈作をおちょくっているのだ。

 

「でも嬉しいわ。ありがとう」

 

「……ちっ、さっさと行くぞ」

 

アリスは自分よりも早く待ち合わせ場所で待ってくれていた丈作にお礼を言うと、丈作は舌打ちしながらも歩きだす。アリスはクスクスと笑うと、丈作の後を追った。

因みに、二人のやり取りを見ていた女子学生達はあの二人の間には入れないと悟りすごすごと帰っていった。

 

 

 

 

歩き馴れた商店街を丈作とアリスが並びながら歩く。

二人の身長差は30cm程離れており歩幅も大きく違うのだが、丈作はアリスの歩幅に合わせて歩いている為に並んで歩けている。無論アリスもそれに気付いているが、からかうような事は考えていない。

 

「で、今回は何の荷物持ちだ」

 

「え?一緒に遊びましょって誘いだったのだけど?」

 

「……」

 

「いや、別に熱は無いからね?」

 

普段は荷物持ちをさせてくる筈のアリスの言葉に丈作は信じられないと一瞬唖然となるが、アリスのおでこに手を当てて熱が無いかを確認する。アリスは突然丈作の手がおでこに当てられた事に赤くなりながらも手を振り払う。

 

「じゃあ何で顔赤いんだよ」

 

「べ、別になんでもないわよ!ほら、そんなことより遊び倒しましょ?」

 

「……ったく、具合が悪くなったら我慢せずさっさと言うんだな」

 

「はいはい、その時はすぐに言うわ」

 

すると二人は何事も無かったかのように再び歩きだした。

繰り返し言うが、この二人は付き合っておらず互いを友人同士にしか思っていないのである!

このやり取りを見た男性陣は丈作に嫉妬の視線を浴びせ、女性陣はアリスに羨望の眼差しを送っていた。

尤も、二人ともその視線には気付いていなかったが。

 

 

 

「くそっ!まさか負けるとは!」

 

「ふふん♪こう見えてゲームは出来る方なのよ♪」

 

ゲーセンのレースゲームにて熱いデッドヒートを繰り広げた丈作とアリスだったが、僅か数秒の差でアリスの勝利で終わったのだ。丈作としては自信のあるゲームだっただけにまさかあまりゲーセンに行かないアリスに負けるとは微塵も思っていなかったのである。

この後も格ゲーやらシューティングやらで戦うも、丈作の負け越しで終わってしまうのだった。

丈作に勝ててルンルン気分のアリスとは違い、丈作は負け越して少し不機嫌になるものの自分が弱かっただけだと言い聞かせて不満を飲み込んでいた。

 

「ん、もうこんな時間か。意外と居座っちまったな……おい、飯食いに──って何やってんだお前」

 

「ま、待って。もうちょっとで───あぁ!」

 

丈作が時間を確認しアリスに食事に行こうと声を掛けようとすると、そこではクレーンゲームでヌイグルミを取ろうとしていたアリスの姿があった。

しかし上手くいかなかったのか、クレーンは掴みかけていた黒猫のヌイグルミを落としてしまった。その光景を見てアリスは明らかに落胆する。

丈作の目にはアリスが耳と尻尾を垂れ下げてしょんぼりしているように見えた。

 

「はぁ、お前あんだけ俺の事降しておいてクレーンゲームだけはポンコツなのか」

 

「うー……苦手なものは仕方ないじゃない……。行きましょ、お腹空いちゃったわ」

 

「……ちっ、少し待ってろポンコツ」

 

「ちょっと!ポンコツは酷いんじゃないの!」

 

丈作は噛み付いてくるアリスを適当にあしらうと、100円硬貨を投入しクレーンを動かし始める。

アリスはすぐに黙りこんで、固唾を飲んで丈作のクレーン操作を見守っていた。

 

「……ここか」

 

「あっ……!」

 

ある程度目星をつけていたのか、丈作は一切の迷いなくクレーンを動かすとアームが先程の黒猫のヌイグルミをガッシリと掴む。そのままグワングワンと揺れ落ちそうになるものの、ヌイグルミは最後まで落ちることなく穴まで運ばれていき無事にゲットすることが出来た。

それをハラハラと見守っていたアリスは途中落ちそうになるヌイグルミを見て声を溢していたが、無事に穴に落ちると小さく拳を握りこんで喜んでいた。

 

「ほらよ」

 

「えっ?いいの?」

 

「いらねぇならお袋辺りにぶん投げとく」

 

「……ううん、欲しい」

 

「あっそ」

 

丈作はぶっきらぼうに答えると、ジーッと黒猫のヌイグルミを見ていたアリスの顔にヌイグルミを押し付ける。

アリスは「わぷっ」と声を上げながらもヌイグルミをしっかりと受け取ると、ギュッと胸にヌイグルミを抱きしめた。

 

「……ありがと、丈作」

 

「んなこたぁいいから、さっさと飯食いに行くぞ」

 

「うん!」

 

丈作は少しバツが悪そうに頭を掻きながらズンズンと歩いていき、アリスはヌイグルミを抱きながらもちょこちょこと丈作の後ろをついていくのだった。

 

 

 

昼食を終え、ウィンドウショッピングを楽しんでいたアリスと丈作。アリスは未だに嬉しそうにヌイグルミを抱いており、相当欲しかったのだと分かる。

 

「そんなに嬉しいもんかねぇ。それこそヌイグルミとかならお前作れるじゃねぇか」

 

「分かってないわね丈作。このヌイグルミだから嬉しいのよ」

 

「?」

 

アリスの言葉の意味がよく分からないのか丈作は首を傾げるが、アリスはただ嬉しそうにニコニコしていただけであった。

丈作にとって女心は理解出来るものではなかったのである。

最後に買い物をして帰ろうと二人は馴染みのスーパーに向かっていると、突如商店街の真ん中で大爆発が起きる!

 

「んだ今の爆発は!?」

 

「分からないわ!商店街の中心からよ!」

 

二人は急いで中心に向かうと、そこでは泥のような何かに捕らわれて藻掻いている少年がいた。

その爆発はどうやら捕らわれている少年の個性のようだ。度重なる爆発で周りの店が燃えて壊れてしまっていた。

 

「なにあれ……ヴィランよね……」

 

「ちっ!引き剥がそうと躍起になって個性使っちまってるせいで辺りが焼け野原じゃあねぇか!」

 

ヘドロ・ヴィランの周りには複数のヒーローがいるものの、人質のせいで攻めあぐねているようだ。

 

「えれぇ力!こりゃ大当たりだぜ!」

 

「クソがぁぁっ!!」

 

再び連鎖爆発が起き、戦況は刻一刻とヒーロー側に不利になっていく!

誰も手が出せない中、民衆の中から一人の少年が飛び出してヘドロ・ヴィランの元へと走っていく!

 

「待て!止まりなさい!」

 

「奴に近付くな!死ぬぞ!」

 

ヒーローの制止も聞かず、少年はヘドロ・ヴィランに向かって背負っていたカバンを投げつけると中身のノートがヘドロ・ヴィランの目玉にぶつかり、攻撃を掻い潜った!

その後少年は必死に人質を捕らえているヘドロを両手で引き剥がし始めた。

 

「かっちゃん!!」

 

「デク!!なんでテメェが!!」

 

「足が勝手に!!なんでって……分かんないけど!!」

 

デクと呼ばれた少年は己の恐怖を押し殺して笑う。まるで安心させるように。

 

「君が助けを求める顔してた……!」

 

「っ!!」

 

デクと呼ばれた少年の言葉を聞き、丈作の頭にとある記憶が蘇った!

それは己の能力に目覚めていなかった時、まだひ弱だった彼を救ってくれた男の言葉!

 

『お前さんが助けを求めていた。だから助けてやる』

 

丈作の恩人にして、唯一ヒーローとして尊敬する名も知らぬ男の言葉!

その男の姿とデクと呼ばれた少年の姿が丈作には重なって見えた。

 

だからこそ、この男は動き出すのだッ!

 

「アリス、ここで待ってろ。すぐに終わらせてくる」

 

「っ!……分かったわ、行ってらっしゃい!」

 

ヘドロ・ヴィランが腕を振り上げて少年を吹き飛ばそうと振り下ろす!

 

「っ!!オラァ!!」

 

しかしそれよりも速く丈作は二人の間に滑り込み、その腕に向かって鍛え上げた拳を打ち放つ!

その一撃でヘドロ・ヴィランの振り下ろした腕が弾けとんだのだ!

 

「なんだお前は!?たった一撃で俺の腕をっ!?」

 

「あ、あなたはこの前の……」

 

「俺が誰かなんててめーには知る必要はねぇ。てめーが知る必要があるのはたった一つ。無様に地面に倒れ伏すっつー事だけだ!」

 

「何を言ってやがる!!」

 

ヘドロ・ヴィランは再び腕を横凪ぎに振るうが、何故かその腕は丈作に届く事はなく何もない空間で止まっている。いくら振り抜こうとしても押しきれず、ヘドロ・ヴィランはどんどん混乱していく。

 

「な、なんだ!?なんなんだお前はよぉ!?」

 

「てめーを裁くのは、俺のスタンドだッ!!グレイト・リクリエイターズ!!」

 

丈作が何か名前を呼ぶと、丈作の体から幽霊のような何かが出現する!

その姿は人型であり、全身に絹のような布が巻き付けられている。そして布から見えるその目には強い光が灯っている。

 

「はっ!何をするかと思えば、ただ叫んだだけ──「オラァ!!」ぶげぇ!?」

 

ヘドロ・ヴィランは目に見えぬ何かに殴られ、人質から離れて飛ばされる。その姿に最早ヘドロはなく、ただの男性となったヘドロ・ヴィランが信じられないと言った顔で己の体を見ていた。

 

「俺の体が!?俺のヘドロがぁぁ!?」

 

「てめーの個性を作り替えた。今のてめーは無個性の一般人ってことだ。これでマトモに拳が打ち込めるぜ」

 

そう!丈作のスタンドであるグレイト・リクリエイターズは触れた物の在り方を変えられる能力を持っているのだ!

つまりヘドロ・ヴィランはグレイト・リクリエイターズに殴られた瞬間、ヘドロという個性が無個性へと作り替えられたのであるッ!

 

「こ、個性を作り替える個性だとぉ……馬鹿な!そんな個性があるわけが!」

 

「歯ぁ食いしばれよ!俺の拳は中に響くからよぉ!」

 

「ひっ!ひぃぃぃぃ!!」

 

立ち上がって逃げ出そうとしたヴィランの腕を引っ張り、グレイト・リクリエイターズが拳を握りこむ!

そしてヴィランへと叩き込むッ!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」

 

「うぼぶげぶべぇ!!?」

 

おおよそ10発の拳がヴィランへと叩き込まれ、ヴィランは声を上げながら思いきり吹き飛ばされた!

その威力を相殺出来なかったヴィランはそのまま地面に倒れ伏して気絶したのだった。

 

「はっ、やれやれだな」

 

「か、確保ー!」

 

それを見て呆気に取られていたヒーロー達だったが、すぐに我に返ってヴィランの確保へと向かったのだった。

 

 

 

 

→To be continued!

 

 

 

 

 




強すぎたかも知れぬ……


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第三話 その後

素晴らしき改変者(グレイト・リクリエイターズ)

破壊力:A
スピード:A
射程距離:C
精密動作性:B
持続力:B
成長性:A



丈作がヘドロ・ヴィランを倒した後、丈作は少年と共にヒーローの御叱りを受けていた。

ヒーローでもない彼らがヴィランと戦うのは非常に危険であり、個性の無断使用は法に引っ掛かってしまうのだ。

尤も、この二人は無個性である為に後者の心配は無い。

 

しかし一番問題だったのは丈作である。

 

彼は無個性ではあるものの、確かに個性とは違う何かが、つまりスタンドがある。

だがスタンドは同じスタンド使いにしか見えないのである。だからヘドロ・ヴィランと丈作の戦いを見ていた人達は何が起こっていたのかさっぱり分かってはいない。

彼らが分かっているのは丈作が一撃でヘドロ・ヴィランの腕を殴り飛ばした事と、丈作にはパワー系の個性があるという事だけである。

まぁ丈作は正真正銘無個性なのだが、彼等ヒーローには今は知るよしはない。

 

因みにアリスはスタンドについては丈作から話を聞いており、その能力や丈作が無個性であることも知っているためスタンドについては信じている。

 

「だから俺に個性はないっつーの」

 

「信じられるか!じゃあなんであのヴィランは姿が変わっている!それに君がヘドロ・ヴィランの腕を殴り飛ばしたのを我々は見ていたんだ!無個性であんな事が出来るか!」

 

「無個性は無個性なりに体鍛え上げてんだよ。個性が無いからってヴィランが倒せねぇなんて決めつけんじゃあねぇぜ」

 

「それじゃあ君が言っていたスタンドとはなんだ?それが君の個性じゃないのか!」

 

「ありゃ個性なんかじゃあねぇよ。個性なんかと比べんじゃねぇ。もういいよな?こっちはまだ晩飯の買い物してねぇし、連れも待ってんだ。あばよ」

 

「あ、待ちなさい!」

 

ヒーローが丈作の腕を掴もうとした瞬間、その手が何者かによって弾かれた。しかしヒーローの目には丈作以外何も写っておらず、丈作は何事もなかったかのように歩き去っていった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「なんなんだ……腕が弾かれた……?」

 

「皆!大変だ!ヘドロ・ヴィランの姿が戻っていくぞ!」

 

「なんだと!?すぐに袋に積めてやれ!!」

 

 

 

 

 

 

丈作が現場から離れるとアリスが小走りで駆け寄っていく。丈作がヒーローに説教されている時からずっと民衆に紛れてタイミングを見計らっていたのだ。

 

「おかえり丈作。ケガは?」

 

「ねぇよ。それよりもさっさと食材調達しねぇとな」

 

「ふふ、そうね。でもその前に一回自宅に寄って良いかしら?この子を持ったままだと買い物出来ないし」

 

「あいよ」

 

二人は一度アリスの自宅に寄り、アリスは自室に黒猫のヌイグルミを置くとダイニングからエコバッグを持って丈作と合流する。

 

「お待たせ。行きましょ?」

 

「あぁ」

 

丈作とアリスはスーパーへと向かう道中、ずっと無言で並んで歩いていた。

丈作は少し考え事を、アリスはチラチラと横目で丈作の様子を伺っていたのである。

 

「……さっきから何をチラチラと見てやがる」

 

「言ったの?スタンドのこと」

 

「少しだけな。まぁ連中に分かる筈はねぇから問題ねぇだろ」

 

「そう。丈作が良いなら気にしないわ。それで、能力の方はどうだったの?」

 

「あぁ、やっぱ全然だ。あれなら数分もすれば元に戻るだろうよ」

 

そう、実はグレイト・リクリエイターズで作り替えた個性は一定時間経つと元に戻るのである。

本人曰く、目に見える物を作り替えるのは簡単だが見えないものは作り替えるのが難しいらしい。

 

しかし丈作がそれを理解しているのなら作り替える事が出来る。故にヘドロという個性を理解した丈作がヴィランを殴ることによって、自分が理解している無個性へと作り替える事が出来たのである。ただし制限時間付きではあるが。

因みに、物体を作り替えた際は制限時間は無い。

 

「やっぱりスタンドって大変なのね。その分強力みたいだけど」

 

「否定はしねぇ。なんでこんなもんが俺にあるのかも分からねぇが、使えるもんなら使わせてもらうさ」

 

「人助けの為に?」

 

アリスの問いに丈作は少しアリスを睨み付けるが、アリスは可愛らしく小首を傾げて丈作を見上げているだけである。

丈作はプイッと前を向いてしまう。

 

「……手の届く範囲のな」

 

「?なんて言ったの?」

 

「何でもねぇよ。おら、さっさと歩け」

 

「あ、ちょっと!歩幅違うんだからスピード落としてよ!」

 

唐突に歩くスピードを上げた丈作に、アリスは慌てて小走りで丈作の後ろをついていくのだった。

 

 

 

同時刻。

丈作と同じ無個性の少年がNo.1ヒーローから個性を受け継いでいた事を、その少年が丈作に憧れを抱いた事をまだ誰も知らない。

 

そして丈作の戦いを見ていたヒーロー達が丈作に目をつけたことも、丈作の知るよしはない。

 

 

 

→To be continued!




スタンドが登場した次回の前書きにスタンドのステータス書けば分かりやすいかな?

取り敢えず実践してみた( ;´・ω・`)


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