ジャックとマスターの話 (海沈生物)
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ジャック・ザ・リッパー

魔の霧立ち込めるロンドンの人理定礎修復が終了した後、ダヴィンチちゃんから貰った聖晶石を使い、新しい英霊を召喚することになった。

 

「それでは先輩。不肖ながら私マシュ・キリエライト、召喚の儀を取り行わせて頂きます!」

 

「うん、頼んだよ。マシュ」

 

彼女はニコリと微笑むと、彼女の盾を再度訪れたロンドンの霊脈に置いた。

途端に彼女の盾が白く光り輝き始める。

それと同時にピィピィと音が鳴り、ロマンから通信が入る。

 

「すまない、立香ちゃん。まずい事態になった」

 

「またワイバーン…って、ロンドンにワイバーンはいませんよね。ホムンクルスですか?」

 

「…いや、アサシンのシャドウサーヴァントだ。それも一人や二人じゃない。ざっと百人はいそう…って、わぁ!」

 

ロマニが誰かに吹っ飛ばされる音がする。どうやら犯人はダヴィンチちゃんみたいだ。

 

「急いでレイシフトをしてあげたいのだが、急いでもあと数十分はかかるんだ。それまでは今召喚中のサーヴァントでどうにか凌いでくれておきたまえ!」

 

ピィピィと音が鳴り、通信が切れてしまった。さて、どうしたものか。

 

「先輩、新しいサーヴァントが召喚されま…きゃっ!」

 

マシュが尻餅をつき、盾の上を指した。

そこにはつい何日か前にロンドンで敵として現れたアサシン、ジャック・ザ・リッパーの姿があった。

盾から降りて、私の方へと駆け寄ってくる。

 

「あなたが私のますたー?」

 

こくりと頷くと、えへへと笑顔を浮かべた。その可愛さに思わず、顔をだらしなくしてしまう。

 

「よろしくね、おかあさん」

 

「……はっ。よろしくね、ジャック」

 

横では妬ましそうな顔でマシュが私を睨みつけていた。…見てないふりをしておこう。

コホンとマシュがわざとらしく、大きな咳払いをした。

 

「マスター、新たなサーヴァントと親交を深めるのもいいですが、今は戦闘に集中しましょう」

 

いつの間にか盾を持ち上げていたマシュはツンツンしていた。

あとで一緒にお茶でもして、機嫌を取っておこう。

とにかくマシュの言う通りだ。戦闘に集中しよう。

 

「ねぇ、ジャック」

 

「なに?おかあさん」

 

「召喚して早々悪いんだけど、今沢山の敵に囲まれているんだ。だから…」

 

「おかあさんの敵を皆殺してくればいいんだね!わかった!」

 

そう言うと、目を輝かせながらロンドンの霧の中へと姿を消してしまった。

しかし数十秒後、刃物と刃物がぶつかり合う音と共に、そこかしこから悲鳴が聞こえてきた。

その声はなんだかジャックの声に似ているような気がした。

マシュは戸惑いつつも、私を守ろうと盾を構えて警戒していた。

しかし、それは杞憂に終わった。

数分後、ふわぁと小さく欠伸をしながらジャックが帰って来た。

 

「ただいま、おかあさん」

 

「おかえり、ジャック」

 

「おかあさんの敵、皆殺してきたよ。褒めて!褒めて!」

 

抱きしめて、よしよしと頭を撫でてあげるととてもジャックは喜んでくれた。ピィピィと通信音が鳴る。

 

「立香ちゃん、無事かい…ってあれ?あの大量のアサシンシャドウサーヴァントたちが消滅している!?」

 

ロマニが驚きすぎてポカンと口を開けている。

ジャックをまだ撫でている私を睨みつけながら、マシュが状況を簡単に説明した。

 

「ふむふむ…なるほどね。俄かには信じられないが、あのアサシン達が消えているのは事実だしね。とにかく、帰還の準備は出来たから、そちらの準備が出来たら言ってくれ」

 

「了解です、ドクター」

 

マシュが未だジャックを抱きしめている私をむすぅとした目で見てくる。

 

「先輩、帰還の準備が出来たそうです。早く帰りましょう、早急に。そして先輩の部屋でお茶しましょう、お茶」

 

「う、うん。分かった」

 

「私たちもおかあさんたちとお茶する!」

 

「ダメです。ジャックさんはフォウくんと遊んでいてください」

 

「そんなぁ…」

 

ジャックは顔を俯かせた。マシュは勝ち誇ったような顔をしている。

気まずそうにロマニがこちらを見ている。

 

「あ…それじゃあ、帰還させるよ?」

 

「はい、お願いします。ドクター」

 

身体の感覚が一時的に無くなり、意識が暗闇へと落ちていった。

 




二次創作は楽で楽しいなぁ。


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素敵なお茶会(1)

朝起きると、ドアの隙間に白い紙が挟まっていた。

何だろうかと思い抜いてみると、その紙にはこう書かれていた。

 

『素敵なマスターさんへ 今日のお昼、みんなでアフタヌーンティーをするの。良かったらおいでなさって!』

 

アフタヌーンティー…アフタヌーンティか。楽しそうだし行ってみたいが、あまり礼儀作法について知らないし、どうしようか迷う。

そうやって紙とにらめっこしていると、部屋の扉を叩く音がした。

 

「はーい。勝手に入っていいよー」

 

プシュゥと音が鳴り、ドアが開く。そこには白いワンピースを着たジャックがいた。

うん、素直に可愛い。

 

「見て、おかあさん!ナーサリーが作ってくれたの!」

 

「おぉ!すごい似合ってるよ、ジャック」

 

「えへへ」

 

サラッとジャックの頭を撫でると、とても気持ちよさそうな顔をした。

喜んでもらえて何よりだ。

 

「それはそうとジャック、何か私に用事でもあるの?」

 

「えっとね…おかあさんにお茶会に来てほしいの!」

 

うーむ。ジャックに言われたら、行かないわけにはいかない。

しょうがない、覚悟を決めよう。不作法なことをしたら殺されるわけじゃないんだし。

 

「もちろんいいよ」

 

「わーい!やったー!おやつの時間にするみたいだから、おかあさん、遅れないで来てね!」

 

「うん、分かった」

 

ふんふんと手を振って、ジャックは立ち去って行った。

 

「さて…マシュに朝の挨拶でもしに行こうかな」

 

グッと背を伸ばして、食堂に向かうことにした。

 

 

「あっ。おはようございます、先輩」

 

「おはよう、マシュ」

 

食堂に着くと、マシュはちょうどエミヤ特製の和食セットを食べていた。

味噌汁のいい香りが私の鼻腔をとてもくすぐる。私も和食セット頼もうかな。

 

「そう言えば、()()()()あの招待状届きましたか?」

 

「招待状…ってあれ、もしかして今カルデアにいる全メンバーに配っているの?」

 

「はい、どうやらそうみたいです。厳密には女性限定みたいですが」

 

アストルフォとかデオンはどうなのだろうか。

一応、女性扱い…なのかな。

 

「マシュは行くの?」

 

「はい、行くには行くのですが…」

 

マシュは目を伏せて、暗い顔をした。

 

「何か用事でもあるの?」

 

「はい、ドクターから身体の定期メンテナンスの通達が来てまして…ですが、途中参加で行きますから!絶対行きますから!」

 

瞳孔をぱっちり開き、私に迫ってきた。近い、近い。

 

「…はっ。すいません、先輩。つい興奮してしまって…」

 

「大丈夫、大丈夫。気にしてないよ」

 

「それならよかったです、はい」

 

マシュは肩を落としつつ、また和食セットを食べ始めた。

さて、私も何か朝ごはんに食べようかな。

ウキウキ気分でエミヤのいるカウンターへ向かった。




二次創作やっぱ書いてて楽しい。


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素敵なお茶会(2)

「エミヤ、おはよう」

 

「……」

 

朝ご飯を注文するためにエミヤを尋ねたが、何かを考え込んでいるらしく、挨拶を普通にスルーされた。カルデアの食糧事情の改善法でも考えているのだろうか。

 

「おーい!エミヤー!」

 

さっきより少し声を張って言うと、ピクッと身体を震わせて、こちらの存在に気づいてくれた。

 

「…あぁすまない、マスター。少しぼんやりしていた。それで、用件は…朝ごはんか?」

 

「うん、和食セットの材料ってまだある?」

 

エミヤは目を伏せて、ぴったし90°頭を下げてきた。

 

「すまない、マスター。実は和食セットの一部材料を切らしているんだ。昼からのアフタヌーンティー用にお菓子を大量生産していたら、つい……だから、今日のところは洋食セットにしておいてくれないだろうか」

 

材料がないなら仕方ない。駄々こねるのもエミヤが可哀想だし。

 

「分かった、洋食セットをお願いするね」

 

「ありがとう、マスター」

 

エミヤは早速、料理に取り掛かり始めた。

作業しているのを眺めるのもアレなので、隅の方で苺ジュースを飲んでいるロマンに挨拶をしにいくことにした。

 

ふっさふさの髪をしたロマンはいつも通り、何かを憂いているような顔をしていた。

しかも、特異点を修正していく度にどんどん憂いが増して行っているような気がする。

私たちの前では憂いを誤魔化しているが、たまに休憩の為に一人でいるのを見かけると、いつもの二倍は憂いているように見えた。

まぁ、私にはいつも通りロマンと関わってあげることぐらいしか、してあげられることはないのだが。

 

「おはよう、ロマン」

 

ちょうど苺ジュースを飲もうとしていたロマンはその手を止め、こちらのほうを向いた。

 

「あぁ…おはよう、立香ちゃん…」

 

「…大丈夫?すごく眠そうだけど」

 

「あぁ…第四特異点攻略後から働き詰めでね…ダヴィンチちゃんにも”さすがに寝たほうがいい”ときつくお叱りを受けてしまったよ」

 

ヘラヘラ笑いながら言っているが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

「サーヴァントじゃないんだし、ちゃんと休まないと駄目だよ?」

 

「あぁ…これを飲んで一仕事終えたら、二時間だけ寝かせてもらうよ」

 

二時間…二時間って。本人が大丈夫って言うならば、あまり口出しはしないけども。

もう少し話したかったが、厨房からエミヤが洋食セットが出来たと呼んできた。

 

「…ご飯出来たみたいだよ。ほらほら、取りに行ってきな」

 

「うん、それじゃあねロマン」

 

軽く会釈して、厨房へとご飯を取りに向かった。




ジャック成分一切ない回ですまない…


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素敵なお茶会(3)

エミヤから渡された洋食セットのハンバーグを食べながら、ロマンのことについて咀嚼していると、目の前でガタンと金属のプレートが置かれる音がした。

ハッとして前を見ると、そこにはジャックがいた。

どうやら朝ご飯にお子様プレートを頼んだらしい。

ケチャップライスの中央に旗が刺さっているのが可愛い。

 

「おかあさん、どうしたの?」

 

ジャックは小首をかしげながら、とても不安そうな顔をしていた。

…ロマンのことを心配するあまり、私までもがロマンのように憂いを帯びた顔になってしまっていたようだ。

フッと軽く呼吸をして、顔に笑顔を浮かべた。

 

「何でもないよ、ジャック。今日のアフタヌーンティーについて考えてただけだよ」

 

「そうなの?だったらいいや。それじゃあ…いっただっきまーす!」

 

ジャックは合掌して、スプーンでケチャップライスをガツガツ食べ始めた。

あぁ、子供がご飯を食べる姿は癒されるなぁ。思わず、表情筋が緩む。

 

「はむはむ…ごくん。ところでおかあさん、さっき青い騎士のお姉ちゃんにこんなお手紙もらったんだ!見て見て!」

 

「手紙?」

 

青い騎士のお姉さん…アルトリアだろうか。でも、あまり文字を読めないジャックに手紙を送るなんて、なんだか違和感を感じる。そのことを知らなかった…というわけはなさそうだし。百聞は一見に如かず、とりあえず手渡された手紙を読んでみた。

 

 

【ニゲロ リョウリ キケン マスター】

 

 

「ねぇねぇ、おかあさん。なんて書いてあるの?」

 

ジャックが服の裾を掴みながら尋ねてきたが、驚きと戸惑いで言葉が出なかった。

アルトリアのことだ、意味もなくこんな怪文書のような文面を書くことはないだろう。

この文面が本当のことならば、料理に毒でも入っているのだろうか。

それとも、この文面には何か他の意味でもあるのだろうか。

うむむ、この情報だけでは判断しきれない。

 

「ねぇジャック、アルトリア…青い騎士のお姉ちゃんがどこにいるか分かる?」

 

「えっとね…手紙を渡しに来てくれた後、おかあさんの部屋に入っていくのを見たよ!」

 

私の部屋…いったい何の用だろうか。朝ごはんを食べ終わったら見に行ってみるか。

 

「ありがとう、ジャック」

 

「うん!おかあさんの役に立てて、私たちも嬉しいよ!」

 

ジャックはご飯をまたがつがつと食べ始めた。私も負けじとがつがつ食べたが、急いで食べ過ぎてのどに詰まった。急いで水を飲み込み、なんとか食道を通した。

ふぅ、死ぬかと思った。一息ついて、今度はゆっくりとご飯を食べ始めた。




お腹すいた


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素敵なお茶会(4)

さて、ここまでは普通だった。

安穏で代わり映えの日常であった。

でも、部屋に帰った時に事は起こった。

 

プシュと音が鳴り私の部屋のドアが開くと、何故か部屋の電気が消えていた。

故障しているのかなと思いつつ、アルトリアがいないか見渡していると、ベッドの下からガタンと音が聞こえてきた。

この下にいるのかなと思って覗いてみると、ベッドの下には見覚えのない赤いノートが落ちていた。

アルトリアが落としていったのだろうか。はたまた、他の誰かが落としていったのだろうか。

どちらにせよ、拾っておいた方がいいのは確実だ。ベッドの下に手を伸ばし、ノートを取ろうとした。

 

…その瞬間だった。

 

「…………よ」

 

背後から聞き覚えのある誰かの声が聞こえてきたと思ったら、首元にチクリと針のようなものが刺された。

途端に身体に力が入らなくなって、頭から勢いよく床に倒れこんでしまった。

 

「…っ!」

 

頭を強く打ち付ける。なんだか意識も朦朧としてきた。

首だけはなんとか動いたので必死に犯人の姿を視認しようとしたが、部屋のどこにもその姿はなかった。

ただ、徐々に意識が薄れていく中で、どこからか楽しげな声が聞こえてきたような気がした。

 

 

「ん……」

 

目を覚ますと、そこはお茶会の会場だった。

既にお茶会は始まっており、ナーサリーを中心とした子供組、アタランテを中心とした子供を見守るお母さん組、そしてなぜか酒を飲んでいる大人組に別れて各々が楽しんでいた。

私はどうやら、その三つのグループの内の子供組の中にいた。

目を覚ました姿を見ると早々にナーサリーとジャックが駆け寄ってきた。

 

「あら、マスター。目を覚ましたのね」

 

「えっと…私、ずっとここで寝てたの?」

 

「うん!おかあさん、眠そうな目でその椅子に座ってからずっと眠っていたよ!」

 

眠そうな目…うーむ。事の顛末が見えてこない。

というか、情報量が多すぎて処理が間に合ってない。

…まぁ、いいか。とりあえず今はお茶会を楽しもう。考えるのは後だ。

テーブルに置かれた一口サイズの卵とハムのサンドイッチを小皿に取り、一口ではむっと食べる。うん、ふわふわな半熟卵とハムがよくマッチしていて美味しい。

 

しかし…否が応でもあの部屋で襲われたことが気になってしまう。

それに気付いたのか、ジャックが心配そうに訊ねてきた。

 

「おかあさん、大丈夫?」

 

私の左手をギュッと握りながら上目遣いで言ってきたので、可愛い過ぎて心がしんどくなった。

 

「大丈夫だよ、ジャック。心配してくれてありがとう」

 

空いた右手でクシャクシャと髪を撫でてあげると、えへへ、えへへと可愛い声を漏らした。

しばらく撫でた後に解放してやると、ナーサリーと一緒に茨木童子近くのマカロンがあるお皿へと一目散に向かって行った。

その姿を優しく見つめながら、私は頭の中で状況整理を始めることにした。




今回急ぎで書いたせいで雑だ…


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素敵なお茶会(5)

さて、状況を少し整理してみよう。

まず私は食堂で朝ご飯を食べていて、偶然にもジャックと一緒にご飯を食べることになった。

まぁ、ここまではいいだろう。

そして問題はここからだ。

 

「アルトリアからジャックが手紙を貰ってきた」

 

ここが第一の疑問点だ。あの手紙に「ニゲロ リョウリ キケン マスター」と書かれていたことから察するに、手紙を私に渡そうとしていたのは確実だ。

だったらなぜ、ジャックに「これをマスターに届けてくれ」と頼まなかったのだろうか。

 

次に第二の疑問点だ。

手紙をもらった後、朝ご飯を食べ終えた私はアルトリアがいないか確かめに行くために、私の部屋に戻った。

しかし、部屋の中には明らか不可解な点があった。

 

「部屋の電気が消えていた」

 

これが第二の疑問点だ。カルデア電気事情についてはあまり知らないが、私の部屋だけ停電することなんて常識的に考えて有り得ない。もし計画停電をするならば、ロマンに会った時に、彼が通達してくれていただろう。

 

最後に第三の疑問だ。言わなくてもわかると思うが、例のノート。

 

「ベッドの下に赤いノートがあった」

 

これが第三の疑問だ。イベントが無いときは、私の部屋はさっぱりと片付いているので、適当な場所から見渡せば、いつもとの相違点なんて一目瞭然である。

私の記憶の限りだと、少なくとも朝ご飯を食べに行く直前まではベッドの下にあんなノートはなかった。

ならば食堂に行っている時間帯に、置かれたか置き忘れられたと見て間違いないだろう。

 

「マカロン~マカロン~」

 

「こ、小童に渡すようなマカロンなんぞない!い、去ね!」

 

マカロンが山のように積まれたお皿を持ったイバラギンを、ジャック達が追いかけている姿が見える。微笑ましくて、つい頬が緩まった。

 

「…ん?お菓子…逃げる………あっ!」

 

思わず大きな声を出したので、一同の目線が一斉に私に集まる。

地味にナーサリーとジャックがこの隙にマカロンを一つずつ奪っていた。

茨木ちゃんはなお気付いていない模様。

 

「ご、ごめん。つい心の声が漏れちゃった…あはは…」

 

適当に誤魔化すと、「人騒がせなやつだ」とか「まぁまぁ、それが立香ちゃんらしいじゃないか」などと私を話のネタにして、なんとか目線を離してくれた。ふぅ、よかった。

でも、ついでに今のやらかしで確認出来たことがある。

 

”現状、このお茶会の中にアルトリアの姿がない”。

 

うん、これで私を襲撃した犯人は分かった。あと、推測の域だが動機も。

ただ、疑問点には出さなかったが、何点か不可解な謎が残っているが…それは本人に聞いてみれば分かることだろう。

 

「ナーサリー、ちょっとトイ…お花摘みに行ってくるね」

 

「はむはむ…分かったわ、行ってらっしゃいマスター」

 

食堂のドアを開けて、私はカルデア館内の捜索を始めた。




次回かそのまた次回辺りで素敵なお茶会は完結です。
その次は閑話を一話挟んで、次の話に行く予定です。

そういえば、今日からイベントですね。


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素敵なお茶会(6)

「あっ!いた」

 

カルデア館内を捜索し始めてから数分、管制室の中に探していた人物がいた。

金髪に王冠を被った騎士…アルトリアだ。

 

「こんにちは、マスター。私に何か用ですか?」

 

「うん、今日の午前中に私を襲ったことについて詳しく聞かせて欲しいのだけど、いいかな?」

 

「…はい」

 

直感で私が事情を大まかに把握していることを察して観念したらしく、彼女は事の顛末を話し始めた。

 

 

昨日の夜、エミヤに少し用事があり食堂へ行くと、彼はおらず、調理場に赤いノートとお菓子が置いてありました。

少し席を外しているのだろうと思い、退屈潰しに赤いノートを読むことにしました。

…これが事の口火を切るきっかけになりました。

 

赤いノートの中には挿絵と共に、とても分かりやすくお菓子の調理法が書かれており、一見して私にも出来るのではないか、と考えました。

その中でもホットケーキは簡単そうで、そんなに時間もいらなそうだと思ったので、調理場を漁ってマスターの為に作ることにしました。

これでマスターからの好感度も上がり、もっと出撃させてもらえると思って作ったのですが…なぜか何度作っても、ゲル状のスライムのようになってしまったのです。

そんなことをしている間にエミヤが帰ってきました。

調理場は荒れ果て、砂糖や塩の袋も空っぽ。

このままだとエミヤにもマスターにも叱られてしまうと思いました。

そこで私は調理場の棚の中に隠れて、なんとかエミヤをやり過ごそうとしました。

結果として…もちろんですが、彼にバレました。

小一時間説教をされ、説教が終わると、片づけはやっておくからもう寝ろと言われ、部屋に帰らされました。

その日…まぁ昨日なのですが、言う通りに寝ました。

 

そして今日。

朝、ご飯を食べに食堂へ向かうと、エミヤがマスターに何か話している姿が見えました。

途端に私は壮大な勘違いをして、彼が昨日のことをマスターに告げ口したのでないか、と思い込みました。

これは好感度が下がった、と思った私はどうにか好感度を上げれないかと考え、ある策を思いつきました。

昨日、無理矢理エミヤに帰らされた時に持って帰ってきてしまった赤いノートがちょうどあったので、マスターと一緒にクッキーでも作り、今日の午後からあるアフタヌーンティーに持ち寄ろうと考えました。

 

そこで近くにいた字があまり読めないジャックに、マスターに読んでもらうであろうことを見越して怪文書めいた手紙を渡し、あえてマスターの部屋に入っていく所を見せて、怪しんだマスターがマスターの部屋に入ってきてくれるように誘導したのです。

正直、手紙に一緒に料理を作りたいと書けば良かったという話ですが、あの時の私はもし普通に誘ったとしても、昨日のことを知って失望したマスターは誘いに乗ってくれないのではないか、と思っていたのです。

まぁ、だからと言って、怪文書というチョイスはどうなのかという話ですが。

 

そして上手くマスターを誘導して、マスターが部屋に入ってきた瞬間、なぜか部屋の電気が消えました。

焦った私は赤いノートをベッドの下に落としました。

もしそれを持ってマスターがエミヤの元に渡してしまえば、またエミヤに叱られ、マスターからは失望を超えていないものとして扱われるかもしれない、という思いに駆られました。

そこから、赤いノートを取ろうとしているマスターを一旦気絶させて赤いノートを回収しようとしました。したの…ですが。ドアからエウリュアレの矢が飛んできて、マスターの頭に刺さりました。

突然のことで私は戸惑いました。

ドアのほうを向くと、開いたドアの陰からエウリュアレが満足げに意識を失いかけているマスターを見ていました。

 

「さぁ、マスター。足が疲れたからおんぶしていってちょうだいな」

 

そこからは…察してください。私の口からはとても…




あと一話続きます。

(怪文書の下りは…うん、なんかこう…うん。次こういう話書くときは、気をつけます…はい。あと、エウリュアレの魅了、意識ない人にはかからないのではとか色々と書いた後に気付きました。手遅れなので、これも次から気をつけるようにします…はい)


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素敵なお茶会(7)

アルトリアの言った事の八割は大方推測通りだった。

しかし、エウリュアレの矢で気絶させられたもとい魅了にかけられていたのは予想外だった。

全く痕跡なかったし、てっきりアルトリアが勢いで殴ってしまったと完全に思い込んでいた。

…まぁ、なんにせよ。誰も私を暗殺しようと目論んでいたわけじゃなくてよかった。

 

「さて、アルトリア」

 

暗い顔で床を見ていたアルトリアが顔を上げた。

 

「…は、はい。なんでしょうか、マスター。未遂だったとはいえ、マスターに実質的な反逆行為を働こうとしたのは事実です。令呪による自害でも、なんでも受けい…」

 

「一緒にアフタヌーンティーに参加しない?」

 

「えっ」

 

アルトリアは目を見開いて驚いた顔をした。

 

「いや、せっかくアフタヌーンティー楽しみにしてたみたいだしさ。参加しないのももったいないでしょ?」

 

「ですが、マスター…」

 

「私を襲ったことは気にしてないよ。だからさ、一緒にアフタヌーンティーに参加しよ?」

 

アルトリアは少し悩む動作をしたが、すぐに二つ返事で了承してくれた。

良かった、これでアルトリアの心の中にあるであろう私に対する罪悪感も解消できそうだ。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「はい、マスター」

 

少し言葉を交えながら、小走りで食堂へと歩を進めた。

 

 

食堂へ帰ってくると、すぐさまジャックが私に抱きついてきた。服の中に顔を埋めているの可愛い。

 

「おかあさん、どこ行ってたの?」

 

「ちょっとお花摘みに行ってたんだ」

 

「お花摘み?いいなぁ」

 

ジャックの頭を優しく撫でてあげると、満足したのかナーサリーたちのもとへと帰っていった。

少し寂しい。後ろを振り向くと、そんな私たちの姿をアルトリアが優し気な目で見つめていた。

 

「…いいものですね、子供というのは」

 

「…うん、そうだね」

 

…多分、彼女はジャックと彼女の()()の姿を重ね合わせているのだろう。

円卓を崩壊させた元凶とはいえ、息子は息子。何かしら思うことがあるのだろう。

もしかすると、別の何かを考えているかもしれないが。

ジャック達の方を見ると、料理を補充しに来たらしいエミヤが子供達に囲まれている姿が見えた。

エミヤは困り顔をしていたが、なんだかんだ嬉しそうだった。羨ましい、そこ代わって。

 

「それじゃあ、私たちも料理を食べに行こうか」

 

「はい、マスター」

 

子供たちとエミヤの姿を横目に、アタランテたちのいる席へと歩いて行った。

…ところで、何か忘れている気がするのだが気のせいだろうか。

 

「…あっ」




これで素敵なお茶会は終わりです。
次回は閑話になります。
内容は今日中に考えておきます。


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パンケーキを食べた話

※28日に間違って予約してましたァァ!すいません…


ある日の昼下がりの頃だ。私は自分の部屋でジャックを膝に乗せて、美味しそうなパンケーキの出て来る絵本を読み聞かせしていた。

すると、ちょうどパンケーキのページを読み聞かせしていた時にアルトリアが入室してきた。

 

「失礼します、マスター」

 

「何か用?」

 

「はい、実は前回のアフタヌーンティーに諸事情で参加できなかったギャラハッド…ではなくマシュから、マスターにこんなお誘いが来ているのですが…いかがでしょうか?」

 

アルトリアはそう言って、懐から一枚の紙を取り出した。

招待状と書かれた紙には、堂々たる文字でこう書かれていた。

 

【今日の午後三時頃からキャットさん協力のもちふわパンケーキ試食会を行います。もし都合が合いましたら、ぜひ食堂へいらしてください】

 

パンケーキ試食会…試食会かぁ。行きたいのは山々だが、今日は一日ジャックと遊ぶことを約束しているしなぁ。

 

「あかあさん、あかあさん」

 

「…ん?どうしたの、ジャック?」

 

「私たち、この絵本みたいなパンケーキが食べたいな」

 

うーむ。ジャックがパンケーキを食べたがってるなら、仕方ない。

アルトリアに二つ返事で参加すると表明すると、彼女は急いで部屋から退室した。

マシュに伝えにいったのであろう。

絵本の続きを読み聞かせたりしながら、午後三時まで時間を潰すことにした。

 

 

午後三時頃になったので食堂に来てみると、かなりの数の人が食堂に集まっていた。

サーヴァント以外にもチラホラ休憩中らしいカルデア職員の姿も見えた。

 

「ジャック、はぐれないように手を繋いでおこうね」

 

「うん、わかった!」

 

軽くジャックの小さな手を握った。

彼らの体温がじんわりと私の手に伝わってくる。

はぁ、幸せだ。とても幸せだ。

 

「ねぇねぇ、おかあさん!見て!」

 

ジャックが空いた手で指した方には、巨大なパンケーキが二つ乗った台車を運ぶえエプロン姿のマシュとキャットの姿が見えた。それにしてもすごい大きい。

さて、食堂の真ん中の辺りに二人は台車を止めた。

 

「皆様、お待たせしました。料理上手な良妻キャットさんと協力して、不肖私マシュ・キリエライトが作りましたパンケーキ。まだまだ素人な私の料理ですが、愛情を込めて作りましたので、ぜひ味わってご賞味ください」

 

マシュがお辞儀をすると、キャスターのクーフーリンが「可愛いぞー」などと冷やかした。

マシュは顔を赤く染め、すぐにパンケーキの近くを離れて、私たちのいる方へ向かってきた。

 

「せんぱーい、一緒にパンケーキ食べませんか?」

 

「いいよ」

 

とりあえずジャックの為に、巨大パンケーキのほんの一部をナイフとフォークで切り落としてあげた。

 

「はい、ジャック。あーん」

 

ジャックは小さく口を開けた。

フォークに刺したパンケーキを口の中に入れてあげる。

 

「はむっ…はむはむ…ごくん。…美味しい!おかあさん、このパンケーキとっても美味しいよ!」

 

「本当?それはよかったね!」

 

優しく頭を撫でると、ジャックはとても喜んでくれた…ジャックは喜んでくれたのだが。

マシュが羨ましそうな目でこちらを見てきていた。もう、仕方ないなぁ。

 

「…マシュ、口開けて」

 

「はい!先輩!」

 

マシュは軽く口を開けた。そこに新たにナイフとフォークで切り落とした巨大パンケーキのほんの一部を口の中に入れてあげた。

 

「はむっ…はむはむ…ごくん。……自画自賛するのは少し照れくさいですが、とても美味しいです、このパンケーキ」

 

「そう…よかったね、マシュ」

 

「はい!それもこれもキャットさんのおかげです。後でお礼を言いに行ってきますね」

 

「うん、それがいいよ」

 

パンケーキはいつの間にか三分の一サイズになっていた。

試食会の終わりはもう近そうだ。




少しでもジャックの魅力伝わるように頑張ってみましたが、やっぱり筆力足りない…日曜日は投稿おやすみです。


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本を巡って(1)

ー謝罪ー
素敵なお茶会(2)で”第五特異点攻略後”と書いていましたが、”第四特異点攻略後”でした。
ほんと申し訳ないです。なお、修正済みです。



第五特異点攻略後、マシュが倒れた。

同時にロマンからマシュの寿命が長くないこと、また彼女にはそのことについて黙っておいてほしいと言われた。

その後、ロマンに疲れたからだろうからマイルームで睡眠をとっておいてくれ、と言われたのだが…なんだか眠れなかった。

そこで、カルデア館内を少し歩くことにした。

 

 

帰ってきたのが夜ということもあり、館内施設や通路にはほとんどサーヴァントがいなかった。

マシュの容態のことも重なって、各々部屋の中で大人しくしているのだろう。

夜間の電力消費を抑える為に薄暗くされた館内は不安な私の心を酷く煽った。

 

「…はぁ。こんな時にジャックがいてくれたらな」

 

一応英霊なのでジャックも睡眠はいらないのだが、エミヤが「寝る子は育つ」と言って、いつも彼女たちを部屋で寝かしつけているせいで、夜間は彼女らと会って癒されることができない。寝顔だけなら見に行けることには見に行けるのだが、起こしたら悪いしなんとなく遠慮している。

 

なんだかんだ悩み歩いているうちに、未だ明るい光が漏れている部屋に着いた。

誰の部屋かはドアの前に「ただいま休憩中。立ち入り禁止」と紙が張ってあったので、すぐ分かった。

耳を澄ましてみると、中から微かにおじさん二人の声が聞こえてきた。

 

「……ですな!」

 

「…………か?」

 

「…………ですよ?」

 

楽しそうな声。部屋に籠っていた作家組には、マシュが倒れたことについての情報が届いていないのだろう。

…私もこのぐらい明るく振る舞わないと、ジャックにまた心配かけてしまうな。

パンパンと頬を叩いて、気合を入れた。

 

「…よしっ!」

 

そう叫んだと同時に、プシュゥとドアが開く音が鳴った。

 

「うるさいぞ、こんな夜な…あぁ、マスターか。なんだ、私達に執筆依頼か?高くつくぞ?」

 

不機嫌そうな顔のアンデルセンが目にクマをつけてこちらを見てきた。

執筆依頼…か。ちょうどいいや、QPもそれなりに貯蓄があったはずだし。勇気づけられるような喜劇でも書いてもらおう。

 

「うん。QPは払うから、短編でいいから喜劇書いてくれない?」

 

「喜劇?あぁ、残念だが今し方、あの文豪は爆睡してしまったんだ。ついさっきまで起きていたのだがな。つまり喜劇を書くのは無理だ、すまんな」

 

「アンデルセンは喜劇書けないの?」

 

「あぁ、書けないことはないが…あの文豪には数段劣るぞ?」

 

「別に気にしないよ」

 

「分かった。本来ならこのまま寝てしまいたいのだが…日頃から執筆のネタになってくれているマスターの頼みなら仕方ない。遅筆故にそれなりに時間が掛かるが、望むなら書いてやろう。とりあえず中に入れ」

 

「うん、分かった」

 

本で溢れた作家たちの作業場へと入らせてもらうことになった。




CCCプレイしたことないので、アンデルセンの設定とかキャラ食い違い置きそうで怖い。
因みにUBWとApocrypha(まだ途中)のアニメ版しか見てないにわかです。



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本を巡って(2)

二人の執筆部屋ははっきり言うと、かなり散らかっていた。

参考資料らしい本や用途不明の機材が山のように積まれており、足の踏み場がほとんどなかった。

恐る恐るそういったものを踏まないように少しずつ私が進んでいく一方で、アンデルセンは気にせず足で踏みつけて進んでいった。図太いというか、勝手気ままというか。

 

奥のほうまで来ると、ついぞ姿が見えなかったシェイクスピアが安楽椅子に座って爆睡している姿が見えた。

アンデルセンはその近くの本の山の上に乗ると懐からタブレットを出し、ヒョヒョイと慣れた手つきで操作をして、彼の周りにSF映画にでも出てきそうな見た目の青色のデスクトップを出現させた。

 

「…うむ。よくよく考えてみたが、やはり面倒だ。QPを貰えるから引き受けてやったが、そもそも今は休憩時間だ。仕事はしたくない。そこでマスター、一つ提案があるのだがいいか?」

 

「提案?うん、とりあえず聞かせて」

 

「先日、匿名のサーヴァントからの執筆依頼を果たしてやったお礼に、QPと共にこの薬品が送られてきた」

 

そう言ってアンデルセンは自分の座る本の山の中をガサゴソ漁り、青色の薬品が入った試験管を取り出した。

 

「これはその匿名のサーヴァント曰く、”これをお好みの本のページに一滴振りかけると、そのページから周囲五メートル圏内の人間がそのページの世界に侵入できる”という…まぁ、一種の幻覚作用がある薬らしい。これを貸してやるから、シェイクスピアの…”夏の夜の夢”とか”ヴェニスの商人”にでも振りかけてみたらどうだ?」

 

うーん。本音を言えば、アンデルセンに執筆をしてもらいたかったが、先程から彼の目は半分閉じかけている。

…仕方ない、これはこれで楽しそうだし妥協しよう。

 

「分かった。面白そうだしいいよ」

 

「おぉ、助かるぞマスター。それじゃあこの薬を渡しておいてやるから、気が済むまでそれを使って喜劇を見ていてくれ。ただし、絶対に悲劇には振りかけるなよ。絶対だぞ」

 

「うん、分かった」

 

それだけ言うと、アンデルセンは本の山の上で寝息を立てて眠り始めた。

可愛いとか言ったら殺されそうだから言わないが、可愛い。

 

「さて…シェイクスピアの本はどこに…あった!」

 

シェイクスピアの本棚らしい所に、普通に”シェイクスピア全集”と書かれた本があった。

新品らしかったので薬品を垂らすのに抵抗があったが、試験管の裏に”なお、垂らしたページは濡れないように特殊な調合をしております”と書かれていたのを発見して、抵抗はなくなった。

 

「ヴェニスの商人…ヴェニスの商人…あった!」

 

薬品の入った試験管のコルクの蓋を取ろうとした。が、中々抜けなかった。

 

「うーん…うーん…あっ!」

 

コルクの取れた試験管は綺麗にグルグル回転しながら、アンデルセンの方へと飛んで行った。

 

「危ない!」

 

そう言って、アンデルセンが不機嫌そうな顔で起きた時にはもう遅かった。

薬品は私と彼を巻き込んで発動した。

そのまま、私の意識はレイシフトでもしたかのような感覚に襲われて微睡んだ。




いつも思っているのですが、この程度の文章量で二時間かかっている私遅筆過ぎる。


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本を巡って(3)

「おい、マスター。さっさと起きろ」

 

「ん……」

 

もの気だるい身体をなんとか起こして目を開けると、そこは海底だった。

海面を仰ぐと魚達が群れをなして泳いでいるのが見え、前方には遠くの方に王宮らしき建物があるのが見えた。

 

「起きたか、マスター。全く…なんてことをしてくれたんだ」

 

アンデルセンは不機嫌そうに着ている白衣の乱れを直しながら、私を睨みつけてきた。

 

「ごめん、まさかあんな綺麗に薬品が飛んでいくとは思ってなくて…」

 

「…ふむ、まぁいい。そんなことより、早く帰るぞ」

 

「帰れるの?」

 

「もちろんだ。俺を誰と心得る?()()()()()()()だぞ?」

 

その瞬間、アンデルセンの後ろに何かが通る姿が見えた。魚の尾ひれのようなものが見えたような気がするが、もしかしてこの世界は……

 

アンデルセンは不機嫌そうな顔で、フンっと息を漏らした。

 

「ここは、俺の書いた――人魚姫の世界だ」

 

 

アンデルセンの代表作である人魚姫は、王子に恋をした人魚姫が色々あって海の泡となって消えてしまう悲劇だ、

子供の頃に読んで、悲しくて泣いてしまった記憶がある。

 

……悲劇と言えば、薬品を使う前にアンデルセンが悲劇には薬品を使うなと言っていたが、何か悪いことでもあるのだろうか。アンデルセンを追って歩いている間、何も話さないのは退屈だし、少し聞いてみようか。

 

「ねぇ、アンデルセン」

 

目の前で気だるそうに歩いているアンデルセンが歩きながら、「なんだ、マスター?」と言った。

 

「悲劇には薬品をかけるなって言っていたけど、どうして?」

 

はぁとアンデルセンは深くため息をついた。

 

「常識的に考えて見ろ。あの薬品はこの通り、あの薬品をかけたページの世界に放り込まれるという効果の代物だ。喜劇に使うならいいが、人がバシバシ殺されてしまうような悲劇のページにでも使って入ってみろ。一応、ページの世界に侵入するという形態を取るのだから、俺たちまでもが殺されかねないぞ。いくら幻覚とはいえ、名目上は死ぬんだ。精神にかなりの傷が残ることはほぼ間違いない」

 

なるほど、アンデルセン賢い。というか、私が不注意だっただけか。

 

「…ふむ。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。休憩時間が一秒でも惜しい。早く行くぞ」

 

アンデルセンはプロ競歩選手のような速さでぴゅーんと先へと急いでいった。

 

「あっ、ちょっ!」

 

置いて行かれないように、彼を走って追いかけようとした。

 

……しかし、なぜか足が動かなかった。

 

海藻にでも絡まったのかと足元を見てみると、そこには真っ白な二つの手が私の足をキツく握っている姿が見えた。




レイドQP美味しかった。


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本を巡って(4)

私の足を握る白い二つの手はとても冷たかった。ただ、不思議とその手は私を安らがせた。

マシュのことで不安定になっていた私の心を、柔らかな慈愛で包み込んでくれているような。そんな感じがする。

 

……なんだか身体の力がだんだん入らなくなってきた。立っていられないほどの脱力感が私を包み込む。

意識もだんだん……曖昧……に……

 

「……何を快楽に身を委ねている、マスター」

 

光の光線弾が二発、私の足元の二つの手に命中した。二つの手がそろそろと私の足から離れる。

すると、二つの手から年老いた悪い魔女が痛みにのたうち苦しんでいる時のような、おぞましい叫び声が聞こえてきた、

 

「マタ…ワタシヲコロスノカ…サクシャヨ!」

 

アンデルセンに言っているらしいその声は、とても憎悪に満ちていた。

その言葉に彼は少し顔をしかめた。

 

「あぁ、もちろんだ。俺は既に過去の人間だ。”成長する英霊(リリィ)”とは違い、もう俺の在り方は固定されてしまった。だからこそ、何があろうとも俺はお前を殺す。何度書き直すチャンスが来ようとも、俺はお前を殺す」

 

彼は光線弾をまた撃ち、今度は二つの手をしっかり仕留めた。

手はサラサラと海底の砂の中へと消えていった。

 

「さて…マスター。突然だが、今お前が悩んでいる問題の答えを教えてやる。一度しか言わないから聞き逃すなよ?」

 

あれ、アンデルセンはマシュが倒れたこと知らなかったはずでは。うーむ、観察眼で見抜いたのだろうか。

 

「…”お前の思うがままに接してやれ”。今まで通りにしろなどとは言わん。それが彼女にとっての、一番いい”先輩”になりうるはずだ」

 

思うがまま……思うがまま……か。

 

「……うん、分かった。クヨクヨ悩んでいても、解決しないしね」

 

「あぁ、その勢いだマスター。お前は魔術師としては最低だが、少なくともサーヴァントの扱いに関しては一流だ。作家の俺が言うのだから間違いない。だから悩んでも燻ぶるな。前に進みながら悩め」

 

アンデルセンはそう言うと、一瞬微笑んだ。しかし、すぐにいつも顔に戻った。

 

「……はぁ。こんな性に合わない説教はやめだ。本来、俺なんかよりもシェイクスピアの方がこういうのは向いているんだ。さぁ、さっさと帰るぞ、マスター」

 

アンデルセンはさっさと帰ると口上では言いながらも、先程よりも遅めに歩いてくれた。

その善意を嬉しく思いつつ、類い稀な善意を無駄にしないように、私は彼において行かれないようなペースで歩き始めた。




最近寒くなってきたので、もうそろそろ毛布が欲しい。


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本を巡って(5)

サックサックと砂を踏み分けながら歩いていく。何も話さず、無言でゆっくりと歩いていく。

然して、一つ疑問が湧いてきた。

 

「ねぇ、アンデルセン」

 

「なんだ、マスター?」

 

「そういえば、どこに向かって歩いているの?王宮のあった方とは別の方向を歩いているけども」

 

「最初に言っただろ、出口だ」

 

いや、出口というのは分かっているのだけれど。

わざと言っているのか、わざと私を困惑させるために言っているのか。

 

アンデルセンは私なんかに目も暮れず、ただただ前へと歩を進めている。

本当にどこに向かっているのだろうか。気になる。

 

然して、それもすぐに杞憂に終わった。

れから数分後、彼は他の場所との大きな違いが感じられない場所で足を止めた。

 

「さぁ、着いたぞ。マスター」

 

「ねぇ、アンデルセン。本当にここに出口があるの?」

 

「あぁ、もちろんだ。そろそろ”頃合い”だからな」

 

「頃合い?」

 

そう尋ねた途端、海面から何かが落ちてくる音がした。

何事かと海面を見上げたが、そこには何も誰もいなかった。

ただ何かがいたらしい痕跡として、微かに泡が立っているのが見えた。

そして、その泡はまるで生きているかのように、私達のいる方へと近づいてきた。

アンデルセンはそれを強く睨みつけている。

 

「さて、マスター。あの泡に触れろ」

 

「触れる?危険なものではないの?」

 

「あぁ、あれは”人魚姫だったもの”だからな。あんまり躊躇していると、彼女の家族に俺たちの存在を勘づかれる可能性がある。早くその泡に触れろ」

 

「う、うん」

 

気が付くと、もう手を伸ばしたら届く範囲に泡が来ていたので、私は彼の指示通りに泡に触れた。

すると、私の身体が白く光り始めた。良くわからないが、これで本のページから脱出できるのだろう。

しかし、同時に泡も割れてしまった。

 

「アンデルセン、まずいよ泡が……」

 

「あぁ、()()()()()。この世界に俺が入ってきてしまった時点で、俺がこの世界から出られないことは直感的に気づいていた。それがどんな理屈や根拠なのかは分からないがな。妙に強く感じていた」

 

「直感的って何?どういうこと?」

 

「さぁ、それはさすがに作家の俺でも分からない。無辜の悪魔が関連しているのかもしれないし、神仏が関連しているのかもしれない……あぁ、そうだマスター。言い忘れていたが俺は」

 

身体が白い光にどんどん包み込まれていく。

待って、まだ彼の言葉は続いてる、せめてその言葉だけでも…と思ったが、白い光は待ってくれなかった。

私は入ってきた時と同じように、レイシフトでもしたかのような感覚に襲われ、意識を失った。




多分あと一話で「本を巡って」は終わりです。
ここまで書いて気付きましたが、今回の話全くジャック出てない。
次の話はジャック主体にする予定なので、タイトル軽く詐欺してるけど許して。


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本を巡って(6)

「……」

 

意識を取り戻すと、私はアンデルセンの寝ていた本の山の上にいた。

山の上からはシェイクスピアは未だ悠々と眠りこけている姿は見えたが、アンデルセンの姿はどこにも見当たらなかった。

本当にあのページの世界に取り残されてしまったままになっているのだろうか。

 

「……」

 

絶句していても仕方ない。彼に「思うがままに生きろ」と言われたのだ。

ならば、私は”思うがまま”に生きるだけだ。

 

「……よしっ!」

 

本の山の上を見ると、ちょうど最後のページが開かれた”人魚姫”の小説があった。

取り上げて中身をサラッと読んでみると、人魚姫が沈んで泡になってしまってバッドエンドで終わりのはずが、その先に一列空けて、こんな言葉が書かれていた。

 

【コノホンヲモヤセ】

 

現状、この本の最後のページの中にはアンデルセンがいるはずだ。

もし、この本を燃やしてしまったら、アンデルセンは死んで……死ぬ?

 

「あっ」

 

アンデルセンは最初、薬品のことを「一種の幻覚作用がある薬らしい」と言っていた。

でも、現状この部屋の中にはアンデルセンの姿は一切ない。

あんなに寝たがっていたので、自分の意志でわざわざほかの部屋に行った可能性も低いだろう。

ならば、答えは一つだ。やるべきことを理解した私は食堂へ向かった。

 

食堂はとても静かで、誰もいなかった。エミヤぐらいならいると思ったが、用事で席でも外しているのか分からないがいなかった。まぁ、いてもいなくても大して問題ないが。

一応まだ夜なので音をあまり立てないように注意して歩きつつ、キッチンの中へと侵入した。

 

キッチンの内部設備についてド忘れしていた。そういえば、ここのコンロはオール電化だった。

どうしようか、これだとこの本を燃やすことができない。

マッチとかもさすがにないだろう。必要性があまりないし。

ライターも同様か。うーむ本当にどうすれば。

 

そんな感じで悩んでいると、食堂のドアが開く音がした。

誰だろうかと思いドアの方を見て見ると、そこにはイバラギンとジャックとナーサリーがいた。

 

「あれ、ジャックたち。どうしたの?眠れないの?」

 

私の姿に気づいた二人は泣きながら私に抱きついてきた。

イバラギンはふぅと疲れたようなため息を漏らした。

 

「良く分らぬが、小童どもの部屋に”珍妙な声を漏らす背の低い男”が現れたらしい。余りの怖さに盗みぐ…少しお菓子が落ちていないか探していた吾の後を無言で付いてきてな。後ろにいられてはつまみぐ…お菓子捜索が出来なくて困る。それで、どうにかする為にマスターを探していたのだ」

 

背の低い男……うん、なるほど。これで確証が持てた。ついでに、本を燃やす方法も思いついた。

 

「ねぇイバラギン。お菓子あげるから、少し頼みを聞いてくれない?」




今回で「本を巡って」完結と思いましたが、思ったより書くことあったのであと一話続きます。すいません。


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本を巡って(7)

「……あっつ!おい、マスター。俺は熱いのが苦手なんだ。散々いつも言っているだろう?」

 

「ごめん、ごめん。氷持ってこようか?」

 

「いい。少し置いて冷ましておく」

 

「そう……」

 

暫し、無言が続く。目の前のアンデルセンは、ぼんやりお茶を眺めている。

そしてお茶から揺蕩う白煙が見えなくなったころ、彼はまた口を開いた。

 

「さてマスター。まずは助けてくれたこと、感謝する。そして同時に、よくも俺の休憩時間を潰してあんなことに巻き込んでくれたこと、怨嗟する。それはさておき、燃やした”人魚姫”の本はどこに?」

 

私は首を振った。

 

「実は燃やす手段が思いつかなかったから、イバラギンの宝具で燃やしてもらったんだけど…」

 

アンデルセンは呆れ交じりのため息を漏らした。

 

「あぁ、それ以上は言わなくていい。展開はもう読めた。それじゃあ、なぜさっきから俺の後ろでマッチ売りの少女の絵本を子供サーヴァントが読んでいるか、教えてくれ」

 

「えっと…幻覚作用がある薬品だったから”ページの中の世界にいる”と錯覚している間、”現実世界でも歩いていた”のはこっちに戻ってきて、青髪……アンデルセンが子供たちの部屋でうろついているって知って分か…」

 

アンデルセンはそこまで聞いて、私の顔間近まで手を突き出してきた。因みにだが、イバラギンは食べ物を渡したらご満悦で部屋に帰った。

 

「あぁ…マスター。すまない、もう大丈夫だ。自分がやったことは十二分に分かった」

 

アンデルセンは少し冷めてぬるくなったお茶を一気飲みし、立ち上がった。

 

「それじゃあ、俺は仕事の続きをしてくる。その絵本は俺の部屋から取ってきたのだと思うが…もうプレゼントしておいてくれ。あと、お前は子供サーヴァントを部屋に送ったら寝ろ。あの娘が復帰したときにマスターが寝不足だと気付いたら、無駄に心労をかけることになるぞ」

 

そう言い残すと、アンデルセンは食堂から出ていった。

 

後ろを振り向くと、”マッチ売りの少女”を読み終わったらしく、ジャックとナーサリーが感想を語り合っているのが見えた。

このまま暫く二人が語り合っている姿を見ていたいが、今はもう深夜のはずだ。

子供サーヴァントが起きているのをエミヤにでも見られたら、ジャックたち共々小一時間叱られてしまう。

 

「それじゃあ、ジャック、ナーサリー、部屋に帰ろうか」

 

「青髪の人、いなくなったの?」

 

「うん、大丈夫。いなくなったよ」

 

「うん、それなら帰ろー」

 

二人は絵本を閉じると、私の手を掴んだ。

 

「でも、おかあさん。まだ、ちょっとだけ怖いの。だから…今日だけでいいから、一緒に寝たいな?」

 

一緒に寝るスペースあるか怪しいが…最悪私が床で寝ればいいか。

 

「うん、いいよ」

 

「やったー!」

 

二人は楽しそうに、彼らの部屋へと私を引っ張っていった。

二人が一緒なら、きっと今日はよく眠れるだろう。




これで「本を巡って」終わりです。次は閑話。
全く関係ないですが、エレシュキガル用に三十連分ガチャ溜まりました。
今年こそエレちゃん出したい。


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幻のマカロンを求めて 前編

「吾、幻のマカロンが食べたい!」

 

ある昼下がりのことだ。

復帰したマシュと退屈していたジャックと一緒に私の部屋でお茶をしていると、突然イバラギンが部屋に入ってきて、そんなことを言い放った。

ほのぼのしていた私たち三人は突然のことに頭の処理が追い付かず、固まった。

 

「おーい。マスター、聞いているのか?魔酒?おーい」

 

「……はっ!すいません、茨木さん。突然のことについ固まってしまいました。それで…茨木さん、幻のマカロンとは?」

 

イバラギンはふっふっふと不敵な笑みを漏らした。

 

「よくぞ聞いてくれた魔酒!実は昨日、酒呑から”あんたが緑の人って呼んでる人が幻のマカロンを手に入れた、って話を聞いたんやけど、茨木、ちょっと強奪してきて、ほんまに存在するのか真偽を確認してきてもらえへんやろうか?真偽を知りたいだけやさかい、別に食べてしもてもええよ”と頼まれてな。吾一人で行ってもいいのだが、それだと酒呑に嘘をついていると疑われるかもしれぬ。ので、マスター。証人も兼ねて幻のマカロン探しを手伝ってくれぬか?」

 

うーん。今お茶をしている途中だし、本音を言えば断りたい。しかし、イバラギンの気持ちを無下にもしたくない。

どうしようか。とりあえず、マシュに目配せしてみたが、彼女も同じように迷っているようだった。

すると、リンゴジュースを飲んでいたジャックが私の服の袖を引っ張ってきて、耳を貸してと言ってきた。

 

「おかあさん、私達も”まぼろしのまかろん”っていうの気になるな」

 

うーん。ジャックが気になるって言うなら、仕方ない。マシュに目配せして、お茶を中断する許可を取った。

 

「三人一緒に行かせてもらえるならいいよ」

 

「むぅ…そんなに手はいらないのだが…まぁ、よい。大して大人数ではあるまいし」

 

「ありがとう、イバラギン」

 

「ふふふ、気にするようなことではない。それでは早速行くぞ!マスター、魔酒、ジャックよ!」

 

「解体の始まりだね!」

 

いや、ロビンを解体しちゃ駄目だよジャック。

 

カルデア内部を捜索していると、ロビンは彼の部屋で惰眠を貪っていた。

 

「さて、マスター。向こうに緑の人が寝ているが、今回の目的はあくまで”幻のマカロンの強奪”だ。今後マカロンをもらえなくなると、色々とまずい。そこで絶対にバレないようにおんみつプレイ?というやつで頑張るぞ。ということでジャック、少し耳を貸せ」

 

「……?分かった」

 

茨木はジャックの耳にゴニョゴニョと何やら言い始めた。

 

「………………よっし分かったか?ジャックよ」

 

「うん、そのぐらいなら私達に任せて!」

 

こうしてイバラギン主導の幻のマカロン強奪作戦が始まった。




一話完結しようと思いましたが、思ったより長くなりそうなので前後編に分けることにしました。すいません(?)


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幻のマカロンを求めて 後編

「それでは行くぞ、ジャック」

 

「うん!任せて」

 

ジャックはそう言うと、腰から一対のナイフを取り出した。

いつも戦闘の時に使っているモノだ。

うーむ…ロビンを解体したりしないよね。少し不安だ。

マシュもすぐ横で心配そうな顔をしている。

まぁ、”隠密行動”すると言っていたし、大丈夫でしょ。

 

…そう慢心していた時だった。

 

ロビンの部屋の中に白い霧が蔓延し始めた。そして同時に、ジャックが口を開いてしまった。

 

「子よりは地獄、私達は炎、雨、力、殺戮をここに。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 

あっと思った時には時すでに遅し。ジャックの宝具はロビンに向かって放たれた。

 

「ちょっ、イバラギン…”隠密行動”するんじゃなかったの?」

 

尋ねたが、そもそもイバラギンの姿がそこになかった。

 

「…ってあれ?」

 

ジャックが宝具を放った先には、確かにベッドが乱れているのは見えたが、なんとロビンの姿もなかった。

えっと、何がどうなっているのだろうか。

とりあえず、ナイフをしまって私に駆け寄ってきたジャックに一人と一鬼の行方について尋ねてみた。

すると、意外な答えが返ってきた。

 

「えっとね…そこ」

 

そう言ってジャックはベッドを指した。うーむ、ベッドには誰もいなくないか。

いや、確かロビンはあのマント(顔のない王)を持っていたか。

 

「え、でもあのマントの中にイバラギンも入れるのかな」

 

「うん!あのマントの中で眠らせてもらったことあるもん」

 

知らなかった、新事実。…それにしても、イバラギン、マントから出てこないなぁ。

中で気絶させられたのだろうか。

 

「マスター、マントを開けてみましょうか?」

 

「うん、お願い」

 

マシュは手探りでベッドの上を触ってみた。

固唾を飲んで見守る。

ジャックは無邪気に私の足に抱きついている。

 

「…あっ。ありました。それでは開けてみますね…」

 

バサッとマシュがマントを取ると、そこには眠ったイバラギンとため息をついているロビンの姿があった。

 

「お、マスター。全く…せっかく気持ちよく昼寝していたのに、突然こいつが襲ってくるからビックリしたわ」

 

ふわぁとロビンは欠伸をした。

 

「幻のマカロン?だっけ?それを探しに来たんだろ?それなら多分これだ…受け取れよ、ほい」

 

そう言ってロビンは懐から取り出した金のマカロンを投げてきた。

 

「それは純金製だから食べられないぞ。それはただの俺が暇つぶしに作った作品だ。まぁ、別段残しておきたいとは思わないし、それはプレゼントとして受け取ってくれ。ついでにこいつも受け取ってくれたら助かる。少し気絶してもらってな。そのうち目を覚ますだろうから…まぁ大丈夫だ」

 

純金…一体どこから仕入れたのだろうか。ともかくお礼を言い、三人でイバラギンを私の部屋に運んだ。

 

 

「ん…ここは…ってマスター!緑の人はいずこへ?」

 

「えっとね…イバラギンのアタックで気絶して、この幻のマカロンを落としたよ」

 

幻のマカロンをイバラギンに渡すと、なんと大喜びですぐに食べてしまった。

 

「うーむ。まずまずだな。マカロンにしては硬いし…ってどうした?マスター」

 

私はマシュと顔を見合わせた。まぁ、真相は…言わぬが花、だろう。




これで閑話終わりです。
次回内容は大体考えていますが、うーん。
因みに今年中に終わるかもしれないです。
気が向いたら長々と続くけど。


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フォウ・フォウ・フォウ(1)

第六特異点攻略後。最後の特異点修正に不安と期待を抱いていた頃、こんな騒動があった。

 

 

朝、快眠で目を覚ますと、私の顔の上に何かが乗っていた。

目を凝らして見てみると、それはフォウだった。

普段はマシュと一緒にいるイメージだが、今日は彼女の身体のメンテ日だったか。

なるほど、それで私のもとに来たのか。

 

「フォウ、温いね」

 

カルデアは空調設備が整っているので、基本的には日本のように暑い寒いと感じることは少ない。

ただ、それはそれとしてフォウは温い。とても癒される。

 

「フォウ!フォウ!フォウ!」

 

おや、フォウが突然鳴き出した。ご飯でも欲しいのだろうか。それともトイレ…いやお風呂か。うーむ。

そうこう考えているうちに、フォウは私の顔から離れて、急いで部屋から去っていった。

むぅ、フォウくんモフモフしたかったな。

 

「さて、朝ごはんを食べに行こ…ん?」

 

早速ドアから出ようとしたが、なぜか部屋の自動ドアが開かなかった。

故障だろうか。それとも、誰かの悪戯か。

そう思っていると、ピィピィと音が鳴り、ロマンから通信が来た。

 

「やぁ、立香ちゃん。まずはおはよう。そして突然だが、残念なお知らせがある」

 

「残念なお知らせ?」

 

「落ち着いてくれよ…実はつい数分前に子供サーヴァントの部屋以外の自動ドアがロックされた」

 

「えっ」

 

なぜに子供サーヴァント部屋だけ自動ドアが使えるのか気になるが、とにかくそれは緊急事態ではないだろうか。

もしかして、ソロモンからの差し金なのだろうか。

 

「そしていいお知らせだが、これはただの設備不備だ。どうやらとある部分に使われている部品の”金”が、何者かの手によって盗られたために設備不備が起こったらしい」

 

「金…?」

 

「……?どうしたんだい、立香ちゃん。何か金を盗った犯人に覚えでも?」

 

そういえば最近どこかで純金の何かを見たような気がするが、気のせいだろう。うん。きっとそのはずだ。

 

「……そんなことより、設備不備はいつぐらいになおりそうなんですか?」

 

「…自動ドアが開かないから…その…管制室から出られないせいで、修理したい箇所にいけないんだ」

 

「ど、どうするんですか?」

 

「実はなんとか微かにドアを開けて、フォウに部品と地図と修理方法を書いた紙を持たせて子供サーヴァントに届けさせにいったのだが…獣だしなぁ」

 

うーむ。さっきフォウくんが私の部屋に来て、普通にドアから出ていく姿が見えたような気がするが。

そう考えていると、プシュゥと私の部屋のドアが開く音がした。

 

「あっ、おかあさんだ!」

 

外からフォウと共に子供サーヴァント二人が入ってきた。

ロマンも驚きと戸惑いでポカンとして黙り込んでいる。

 

「えっ…ジャック、どうやってここのドアを開けたの?」

 

「フォウ、フォウ、フォウだよ!おかあさん!」

 

うん、ジャックが可愛いということしか分からない。

…それで、”フォウ、フォウ、フォウ”とは一体何なのだろうか。




フォウくん出してないと思ったので出してみました。
アビーガチャある分引きましたが、敗北拳のキャスター二人でした。
嬉しいけど悲しい(ポロン)


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フォウ・フォウ・フォウ(2)

「ジャック、”フォウ、フォウ、フォウ”って何なの?」

 

ジャックとナーサリーにそう尋ねてみると、二人は目を輝かせながらそのことについて話してくれた。

 

「えっとね…フォウがそうやって鳴くと、ドアがパカーンって開くんだ!」

 

なるほど、だからフォウが朝起きた時に私の部屋にいたのか。謎が解けた。

出る時も叫んでいたのも、それが理由だったのか。

でも、ロマンが言っていたことから察するに、”フォウがいなくても子供サーヴァント部屋のドアは開いていた”のだ。何か理由があるのだろうか。

まぁ、今はとにかくカルデアの自動ドア復旧が優先だ。

 

「そうなんだ。教えてくれて、ありがとうジャック。…で、ロマン」

 

未だにロマンはポカンとしており、全く私の声が聞こえていなかったみたいだ。

 

「ローマーンー!」

 

「…………はっ。ごめん、ちょっと思考回路が停止していたよ。…それで、何かあったの立香ちゃん?」

 

「えっと…フォウに部品とかを持たせたんだよね?」

 

「あぁ、紐でグルグル巻きにして持たせたから、落としたことはないと思うんだけど…」

 

もちろんだが、フォウは何も持っていない。

持っていたならば、私の部屋に来た時点で気付いていただろう。

 

「ジャックたちがフォウに会った時も何も持ってなかったの?」

 

「うん!フォウを見つけたからモフモフしようと思ったんだけど、何も持ってなかったよ!」

 

ふーむ。謎が一つ解けたと思ったら、また新たな謎が湧いて出てきた。

でも、”何も持っていなかった”ならば、一体どこに消えたのだろうか。

 

「あっ」

 

色々な推測を考えていると、ロマンが突然気の抜けたような声を出した。

 

「数分だけ通信切るから、その場で待っていてくれないか?ちょっと確かめたいことがあるから」

 

「うん、分かった」

 

ピィピィと音が鳴り、ロマンのホログラムは消えた。

 

さて、待っている間何をしようか。ジャックたちを見ると、二人は私の部屋のベッドの上でピョンピョン跳ねて遊んでいた。

フォウはおよそいつものフォウの声とは思えないような声を出して、同じように跳ねていた。あの中に混ざりたいが、さすがに私が入ると手狭なこと必至だろう。仕方なく、デスク前の椅子に座る。

 

「わーい!」

 

「楽しいわ!」

 

「フォウゥゥウゥゥ!?」

 

穏やかな目で二人と一匹を見つめていると、少し未来のことが頭に過った。

もし、ソロモン…もしかすると別に犯人がいるかもしれないが、彼を倒すことが出来た場合、ジャックやナーサリー、アンデルセンやダヴィンチちゃんたちはどうなるのだろうか。

 

「……」

 

ロマンからの通信が来るまでの間、私はぼんやりとそのことについて考え込んだ。




フォウモフモフしたい。


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フォウ・フォウ・フォウ(3)

ピィピィと音が鳴る。

 

「待たせてごめん、立香ちゃん。」

 

「おかえり、ロマン。それで…部品等の所在地の手掛かりでも見つかった?」

 

ロマンはガサゴソと白衣の中を漁り、一枚のクシャクシャになって丸められた紙を出した。

 

「これを見てほしい」

 

そう言って彼は紙を広げて、こちらに見せてきた。しかし、その紙には何も書かれていなかった。

はて。こんな紙を見せて、何を示したいのだろうか。

”ブルーライトを当てたら文字が浮かび上がる”とか、”火で炙ったら文字が浮かび上がってくる”と言ったギミックでもあるのだろうか。

 

「……あっ。ごめんそっち裏側だった」

 

恥ずかしさで顔を赤くしたロマンは、くるりんと紙をひっくり返した。するとそこには、見覚えのあるあの言葉が書かれていた。

 

 

【ニゲロ リョウリ キケン マスター】

 

 

確か、アルトリアが私を襲おうとした事件の時、彼女が書いた怪文書だったか。

あれはたった数か月前の話だというのに、なんだか懐かしい気分がする。

…それはそうと、この怪文書と部品の行方、どう関係があるのだろうか。

 

「えっと…この怪文書、誰が書いたか分からないんだけど…実は”この文字を書いた人物と同一人物が、部品等を持っている”みたいなんだ」

 

「えっ」

 

部品の持ち主はアルトリアだったのか。いやでも、私にしか送られていない怪文書がなぜ管制室にあったのだろうか。気になるが、とりあえず本人に聞いてみたほうが早いだろう。

 

「それで…アル…部品の持ち主がどこにいるか分かる?ロマン」

 

「えっと…そこから右に曲がった角の部屋の中にいるみたいだよ」

 

「了解。ジャック、ナーサリー、フォウ、行くよー!」

 

「はーい!」

 

ベッドで跳ねすぎて半分死にかけて動かないフォウを持ち上げて、ドアの前で鳴いてもらい、部屋から出た。

 

 

「ここから反応があるみたい……ん?この部屋って」

 

反応があった部屋ーーそれは、食堂だった。それも厨房の中に反応があるそうだった。

厨房と言えばエミヤだが、霊基反応は一つだけだという。

つまり、アルトリアが…

ごくりと唾を飲み、フォウくんに鳴いてもらった。

プシュゥと音が鳴り、ドアが開く。

 

「おーい!」

 

…………全く反応がない。厨房の中にでも隠れているのだろうか。とりあえず厨房の中へと向かった。

 

 

厨房の中には誰もいなかった。が、代わりに一枚の紙が落ちていた。

さっきの怪文書然り、良く分らない怪文書だろうか。軽い気持ちで拾って見てみる。

 

…そこにはある意味、予想だにできないようなことが書かれていた。




眠すぎて雑かもです…すいません


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フォウ・フォウ・フォウ(4)

厨房に落ちていた紙には、こう書かれていた。

 

【マスターへ どうやらこの騒動の犯人はマーリンだったみたいです。金の部品の破損に気付いた彼が、マスターがあたふたする姿を見るために行ったそうです。新しい金の部品と地図は取り戻しましたので、あとは私が責任を持って修理してきます。ですから】

 

なるほど、マーリンが犯人だったのか。どうやって突き止めたか気になるが…触れぬが仏だろう。

そんなことよりも、この最後の文が途切れているのが何とも気になる。

大概の本だとこの後にかなり重要なことが書かれているパターンが多い。

そして、その事実を知った時には既に手遅れであるパターンも多い。

こういう時にマシュがいてくれたら、なんかいい感じの打開案を出してくれるのだが…まぁ、いないものは仕方ない。頼りになるか分からないが、ホログラムから一緒に紙を見ているロマンに尋ねてみる。

 

「ロマン、”ですから”の続きなんだと思う?」

 

「……”この部屋から出ないで”…とか?」

 

「うーん。何か違う気がする」

 

「じゃあ、”この部屋から早く出てマスターの部屋で待機しといて”…とか?」

 

「うーん、それも何か違う気がする」

 

ロマンは小さくため息をついた。

 

「じゃあ…”------”とか?」

 

「えっ?」

 

「だから…”------”とか?」

 

あれ。どうしてだろうか、重要な部分にだけ酷くノイズがかかって聞こえない。

機械の不調だろうか。

 

「ねぇ、ロマン。さっき言ったことをそこら辺の紙に文字で書いてくれない?」

 

「あ、あぁ…?良く分らないけど、やってみるよ」

 

ドタバタと音を立てて画面から離れ、数十秒後に画面に戻ってきて、その言葉を書いた紙を見せてくれた。

予想通りと言えば予想通りだが、その言葉の部分は視力が悪い人が見る世界のように、かなり歪んでいて読めなかった。

なるほど、これでようやく真相の概要が見えてきた。

 

「ありがとう、ロマン。ということで…ジャック、霧出せる?」

 

「…?良く分らないけど、任せておかあさん!」

 

ジャックは自信満々で懐から短剣を取り出した。

 

「出すよ、おかあさん!」

 

その宣言の後、ジャックの周囲が白い霧が漂い始めた。

ナーサリーはいつのまにかフォウと共に部屋の外に出ていた。

 

「……それでおかあさん、誰を解体するの?」

 

「ううん、違うよ。この霧は酸だから…しばらく待てば分かるよ」

 

「待つの?うーん…それじゃあ、おかあさん。待っている間、退屈だからちょっとお話して!」

 

「うーん…どんな話でもいい?」

 

「うん!いいよ!」

 

特別面白い話でもないが、少し前にアタランテから聞いたとある神様の話をすることにした。




進展遅いけど、色々事情があるので許して…


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フォウ・フォウ・フォウ(5)

昔々、一柱の”オリオン”という名前の女神様がおりました。

ある日彼女が散歩していると、巷で噂の爽やか系美男子神様である”アルテミス”に出会いました。

その瞬間、彼女は一目惚れをしました。

しかも、偶然にも相手の”アルテミス”も彼女に一目惚れをしました。

つまるところ”両想い”というやつです。

”アルテミス”は早速”オリオン”にプロポーズしました。

もちろんですが、一発OK。

二人は楽しく暮らせ…ませんでした。

 

”オリオン”の愛は常軌を逸していたのです。神様だから常識も何もありませんが、それはそれ。

浮気大好きな”アルテミス”が浮気をしようとすると、すぐに止めに入りました。

ただ、口で注意するだけでは聞く耳を持たないので、死なない程度に矢を打ち込んで止めたりしました。

そんな浮気症な”アルテミス”でしたが、なんだかんだ言っても”オリオン”のことを一番愛していました。

 

しかしある日、事件は起きました。

いつものように”アルテミス”がとある娘に浮気をしていると、断じて”アルテミス”が好きではない”オリオン”の兄が”オリオン”をそそのかし、”アルテミス”を殺させました。

 

”オリオン”は酷く悲しみ、色んな神々に”アルテミス”の蘇生を頼みましたが、彼の浮気性なところが悪い方に幸いしたのもあり、全員から断られました。

 

”オリオン”はそれからというもの、ずっと亡き”アルテミス”のことを一途に思い続けたそうです。

 

 

「……おかあさん、”浮気”って何?」

 

全て聞き終わった後、ジャックはそんな無垢な質問を尋ねてきた。

 

「えっとね…悪いことだよ」

 

「ふーん…そうなんだ」

 

そういえば、ジャックには”おとうさん”という観念がないことを忘れていた。

例え聖杯に与えられた現代までの様々な知識を保有していたとしても、それが彼女彼らの在り方であるそうだ。

因みに、これはロマンからの受け売りだ。

 

「…さて、そろそろかな」

 

”彼”は対魔力を保有していない。ということは、だ。

 

「いや…参った、参った。まさか酸の霧で物理的に倒しに来るとは”思ってなかったよ”」

 

キョロキョロと周りを見渡しながら、私たちのすぐ後ろにマーリンが現れる。

いやほんと、何しに来たんだろうか。とりあえず、ジャックに霧を止めてもらった。

 

「うん、本来はもう少し後で会う予定だったんだけど…少しまずいことが起きてね。時間稼ぎに幻術でこのカルデア館内のドアが開きづらくなるように細工させてもらったよ」

 

「まずいことって?」

 

マーリンは少し苦笑した。

 

「実は……」




クリスマス復刻ですね。
三十連あるので、エレシュキガル引きます(確定未来)
書けば当たるって言うし、エレシュキガル中心話でも書こうかな。


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フォウ・フォウ・フォウ(6)

かなり話が長かったので要約するが、どうやらマーリンが言う”まずいこと”とはフォウのことらしい。

詳しくは話してくれなかったが、フォウが厄介なことになっているので、少し貸してほしいそうなのだ。

 

霧が晴れたのでナーサリーと共に食堂に戻ってきたフォウは、マーリンに触れられることを威嚇して断固反対の姿勢を貫いていたが、マーリンがコソコソと彼の耳に何かを吹き込むと、人の言葉の意味を理解したのか、仕方なさそうな顔をしてマーリンに持ち上げられることを許した。

 

「それじゃあ、まぁ。一分後には幻術を解くと共に返しに来るから、待っていてくれ」

 

そう言うと、ササっと理想郷へと姿を消した。隣を見ると、ジャックとが厨房の棚の中にあったお菓子をハムハムと食べていた。食べているのは…クッキーか。いいな、美味しそう。

ぼんやり眺めていると、ジャックがこっちを向いた。

 

「はむ…おかあさんもクッキー食べる?」

 

そう言って、チョコ味らしいクッキーを差し出してきた。

 

「ありがとう、ジャック、もらうね」

 

手を伸ばして、クッキーを受け取る。

ジャックの温かい手が私の手に触れて、幾つもの急展開で疲弊していた私の心を安らがせた。

 

…そういえば安らぎついでに、”フォウが叫ぶとドアが開く理由”など、結局未解決の謎がたくさん残っていることに気付いた。

もう疲れたし正直なことを言えば、どうでもいいので寝てしまいたいが、それが原因でまた誰かに襲われる羽目になるのは避けたい。とりあえず、あとでアルトリアに色々聞いてみよう。

サクッと一口クッキーを食べると、ほんのりビターなチョコの味がした。

 

 

数分後、やっとマーリンが戻ってきた。

 

「いやーすまないね、立香ちゃん。処置は終わったし、もう大丈夫だ」

 

「良く分らないですが、ありがとうございます」

 

「……ところで、あの可憐で小柄な少女はどこに?」

 

可憐で小柄…ジャックはすぐ横で私の手をギュッと抱きしめているし…ナーサリーのことだろうか。

そう言えば、フォウを連れて入ってきた時っきりその姿を見ていないが。

 

「……あっ」

 

その時、マーリンが驚いたような声を出した。ナーサリーの行方に心当たりでもあるのだろうか。

 

「千里眼で未来を見ていたのを忘れていたよ、すまないね、立香ちゃん」

 

「……それならば、彼女は今どこに?」

 

「えっと確か…立香ちゃんの背後だよ」

 

恐る恐る振り向くと背後には目を赤く光らせ、私を殺そうとしている”ナーサリーライム”の姿があった。




眠いので雑かもしれません、誤字・誤植あったらコメントにでも
報告お願いします。


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フォウ・フォウ・フォウ(7)

「危ない!おかあさん!」

 

ジャックが咄嗟に懐からナイフを取り出して、”ナーサリーライム”の攻撃を防いでくれた。

 

「あ、ありがとうジャック」

 

とりあえず、”ナーサリーライム”から距離を取り、彼女をよく観察してみる。

赤く目を光らせた”ナーサリーライム”は、どこかいつもの彼女とは異なる雰囲気を帯びていた。

まるで、全く別のサーヴァントにでもなったかのような、そんな雰囲気を。

でも、反転…オルタ化した、と言った感じではなかった。

ふとマーリンの姿を見ると、ぼんやり椅子に座って私たちを見ていた。

千里眼で何かしらの未来でも見た故の行動なのだろうか。考えても分からないし、今は放っておこう。

それよりも眼前の”ナーサリーライム”だ。

 

「……ねぇ、おかあさん」

 

ナーサリーと睨みあっているジャックが、ふと声をかけてきた。

 

「どうしたの、ジャック?」

 

「…なんかね、あれから私たちと同じ感じがするの」

 

「同じ感じ…?」

 

「うん、良く分らないんだけどね」

 

同じ感じ…つまり”生まれられなかった子供たちの怨霊”が”ナーサリーライム”の中に混じっているのだろうか。

そんなこと、有り得るのだろうか。というか、根本的になぜ怨霊が憑いているのだろうか。

 

「マーリン、どういう…」

 

「…立香ちゃん。薄々君も感じているだろう?”いくらなんでも、有り得ない展開が多すぎる”という事実に」

 

確かに、朝なのに誰もご飯を食べに来ていない食堂、既に処分されてとっくにないはずであろう脅迫状、そしてこんな緊急事態なのになぜかロマンが緊急時用のアラームを鳴らさなかったことなど、沢山有り得ないことはあった。しかし、それがなんだと言うのだろうか。

 

「つまり…どういうこと?」

 

「……これは君の夢だ。いや、正式に言えば”君の記憶や思いから作られた夢”だ」

 

「えっと…普通の夢ではないの?」

 

「あぁ、君自身の成長の為に私が用意した夢だ」

 

成長の為の夢、と言われてもいまいちピンと来ない。どこに私を成長させる要素があったのだろうか。

マーリンの目を見つめると、はぁとため息をつきながら私の方に近づいてきた。

そして一言、こう言った。

 

「例え彼ら英霊が座に帰ってしまったとしても、その”記憶”は君の中に残るんだ」

 

そう言うと、私の頭をクシャクシャ撫でた。

 

「今までの君たちの旅だって、実質”なかったこと”だ。歴史が修正されれば、全て消えてしまう。でもね、”記憶”は君の中に残るんだ。…既にカルデアの二人の碩才のどちらかが言ったかもしれないがね」

 

「でも、そんなの…残された側はずっと寂しいだけで…」

 

「ずっと…ではないさ。人は移ろいやすいからね、いつかそんな胸焦がれる思いも色あせていくさ。だからね、立香ちゃん…君は…………」

 

マーリンが何か言おうとしたその瞬間、忽然と目の前が真っ白になった。




エレシュキガル爆死しました。
心が萎れました。
課金したいけど、そんなにお金ないので諦め。
病みそう。


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フォウ・フォウ・フォウ(8)

「……ぱい!…先輩!」

 

マシュが私を呼んでいる声がする。いつもより軽く感じる身体を起こし、目を開く。

 

「よかった…先輩、一週間も眠り続けていたんですよ!」

 

私的には半日も経っていない気分で夢の中にいたが、そんなに経っていたのか。

マーリンが夢がどうとか言っていたし、その影響だろうか。

 

「そうなんだ…って、それじゃあ第七特異点行く準備もう出来ているんじゃ」

 

「はい、もちろんです……ってストップです、先輩!まだ立ち上がろうとしないでください!ダヴィンチちゃん達にも先輩が目を覚ましたことを伝えにいかないといけませんし、なにより一週間も眠り続けていましたので、先輩の身体に何か異常が発生していないか検査が必要です!せめて今日一日はベッドで安静にしていてください!」

 

マシュは急いでドアを抜けて、管制室の方へと走っていった。

 

「……」

 

部屋の中には私一人になった。なんだかんだ一人になったのは、数か月ぶりだ。

色んなサーヴァントのみんなに囲まれていたせいで、一人がこんなに静かなことを忘れていた。

もしサーヴァントのみんなが役目を終えて退去したら、きっとこんな寂しい気持ちが長い間続くのだろう。

マーリンは時間が経てばこの気持ちもいずれ薄れていくと言っていたが、薄れていくということはつまり彼らのことを忘却していくということに変わりない。

なんだかそれは正しいのだけれど、一方でもの悲しさを感じてしまう。

 

…離れて寂しく思うのは嫌、でも彼らを忘れて寂しさが消える代わりにもの悲しく思うのも嫌。

 

改めて自分の主張をまとめてみると、自分の主張がどれほど我が儘なものだということが強く認識された。

別段私はそれを嘲笑するわけもないし、悲観することもない。

ただ、私は事実と向き合うだけだ。ただ、それらを否定しながらも向き合うだけだ。

 

…ドアが開く。マシュが息を切らして帰ってきた。

 

「マシュ・キリエライト、ただいま戻りました!」

 

「お帰り、マシュ」

 

マシュは頬を少しだけ薄赤色に染め、ベッドの上に浅くお尻を置いた。

 

「…先輩が倒れている間、色んなサーヴァントの皆さんから先輩のことを聞きました。特にジャックさんは先輩のことをよく知っているらしく、私の知らない先輩の話を教えてくれました」

 

「…うん」

 

「…私、少し…ほんの少しだけ、ジャックさんに嫉妬しちゃいました。同時に、私が先輩に一番近いサーヴァントのはずなのに、全く先輩のことを知れていなくて、自分に失望しちゃいました」

 

「…うん」

 

「だから…先輩!私、決めました。私、マシュ・キリエライトはこれから先輩がソロモンを倒すまで、ずっと先輩の傍にいます!流石に寝るときまではアレですが、おはようからおやすみまでは付き添うようにします!」

 

「…えっ」

 

つまるところそれは、これからストーカーしますと言っていると同義ではないのだろうか。

別段困りはしないが、なんだろうか、少し問題が起きる予感がする。

まぁなんにせよ、今日一日ぐらいはマシュと一緒にいることにしよう。




ということで”フォウ・フォウ・フォウ”の話は終わりです。
次回閑話、薄々気付いている人もいるかもしれませんが、閑話の次のお話でこの作品は終了します。
次回作はオリジナルの作品と考えています。
この作品を書いて学んだ”大まかでもいいからプロットを書いてから話を書こう”をしっかり実践して、執筆していこうと思います。
来年の三月までには執筆完了を目途にしていますので、もし覚えていたならば、暇つぶしがてらに読んでくれたら幸いです。


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Breake time

ソロモンの冠位時間神殿を前にして、ロマンから私とマシュに対して、お茶のお誘いが来た。

 

 

「突然呼びつけて悪かったね、立香君、マシュ」

 

ロマンに指定された部屋に行くと、焼きたてらしいクッキーと紅茶がテーブルに置かれており、椅子の一つにはすやすやと穏やかに眠っているジャックの姿があった。

 

「いえ、私も先輩も気にしていませんのでドクター。それより突然お茶なんて、何の御用なんですか?」

 

彼は少し苦虫を噛んだような顔をして、とりあえずそこの椅子に座ってくれと言ってきた。

指示通りに、私はジャックの隣の椅子に座った。マシュは私の隣に。

すると、ロマンは手を組み、私とマシュの顔を交互に強く見つめてきた。

 

「……実を言うとね、特に重要な用はないんだ。ただ、敵の本拠地を前にして緊張しているであろう君たちに肩を緩めてほしくてね。ただのお茶会さ」

 

ロマンはあの優しげで儚い、にんまりとした笑顔をこぼした。

私たちは拍子抜けして、軽く息を漏らした。

 

「もう、あまりにドクターが真剣な表情をしているので、てっきり何か問題でも起こったのかと思いました」

 

「ごめん、ごめん…調整とかでしっかり伝える時間がなくてね。本当にこの通りだ」

 

ロマンはペコリと頭を下げた。マシュと私は顔を見合わせて、半笑いした。

マシュが気にしていませんよと言ったが、ロマンは本当にすまないと言って、また謝ってきた。さすがにこのままでは会話が進まないので、マシュは話題を変えようとした。

 

「そ、そういえばドクター。どうしてジャックさんがここに?」

 

「えっと…別に彼らは招いてはいなかったんだけど、”おかあさんが来る気がする!”って言い張って、そこの椅子を占領してしまったんだ。それで仕方なく、別の空き部屋から椅子を取ってきて帰ってきたら…こんな感じに」

 

幸運の値も特別良くないはずなのに雰囲気で私が来るの察知するなんて、怖いような嬉しいような複雑な感情だ。マシュは私の横で「私もそのぐらい察知できるように…」とブツブツ言っている。普通に怖いよ、マシュ。

 

「それじゃあまぁ…遠慮せずに好きにクッキーを食べてくれ。僕はほら…疲れてて、お腹空いてないからさ」

 

「…はい!それではお言葉に甘えて、不肖マシュ・キリエライト、先輩より先にいただかせてもらいます!」

 

ハムっと美味しそうにマシュはクッキーを食べると、満面の笑みを浮かべた。

きっと、とても美味しかったのだろう。私も続いてハムっと食べる。

…うん。口の中に優しい甘さが広がって、とても美味しい。

ただ、この味はエミヤなどのカルデア料理人たちの味ではない。

よく試作品をもらって食べているので、なんとなく分かる。

 

「ロマン。もしかしてこれ…」

 

「あぁ、僕の手作りだよ。タマモキャット君にみっちり仕込んでもらったんだ。良く分ったね」

 

「伊達に毎日食堂のご飯を食べているわけじゃないからね」

 

自然と自慢げな顔を零すと、二人は顔を見合わせて、なぜか笑いあった。

むぅ、そんなに私の顔がおかしかったのだろうか。喜んでくれたし、別に構わないけど。

むぅついでに、私は寝ているジャックの顔を見つめることにした。

小さな口で安らかな呼吸をしている。整った顔立ち、細い腕、あぁ、全てが愛おしい。

サラサラなジャックの頭を撫でると、気持ちいいのか「えへへ」と声を漏らした。

つんつん、と頬をつつくと「ん…」と眠たげな声を漏らし、小さな瞼を開けてしまった。

 

「おはよう、ジャック」

 

「…おはよう、おかあさん」

 

後ろからマシュの羨望という名の圧力を感じながら、私はジャックに対し、慈愛に満ちた笑みを漏らした。




ロマンってぐだーずのこと○○君呼びしてたのを、さっき初めて気づきました。
今回から…と言っても、もう数えるほどしか話数はありませんが、ロマンが他の人に対して名前呼びするときは君つけるようにします。



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全てが終わった後にて(1)

私たちには”かるであ”に来る前、どこか遠い場所で”さーばんと”として召喚された記憶がある。

ほとんど記憶には残っていないのだけれど、その時の”ますたー”がとても温かったことだけは覚えている。

そして、”ますたー”が最終的に××されてしまったことも。その時、”ますたー”が私たちに沢山祈ってくれたことも。

 

 

「ん…」

 

終局特異点での戦いが終わり、マシュと一緒に久方ぶりの青い空を見た次の日の朝。

心に何かモヤモヤしたものが詰まっている感じがして、私の気分はあまり優れなかった。

原因は分かっている。確かにマシュはどんな理由か分からないが、助かった。

しかし、”彼”は結局行方知れず…つまり、助からなかった。

 

それは人理を救うためには必要な犠牲であった。

それは彼自身がこの世界から消えてしまうという選択だった。

それは彼自身が考え抜いた答えであった。

 

であるならば、私はそれを受け入れるべきなのだ。

なのに、あの笑顔を思い出すと、胸がキュッと苦しくなるのだ。

いくつもの彼の表情やその姿が幾度も、頭に過る。

 

…苦しい。でも、”大切な誰かを失うことに対する恐怖”についての解決策は、終局特異点に行く前にマーリンの助言を頼りにして、既に自分なりに導き出した。だから”私”はこの悲しみや苦しみを背負って前に進むことができる。

でも、マシュはどうなんだろうか。私以上に長い時間を彼と過ごしていた分、その悲しみや苦しみは計り知れないであろう。それこそ、胸がはち切れそうなほどに。

相談に乗ってあげたいが、彼女はそんな暗い感情は表に露出させないであろう。

うーん、まぁ…彼女はじっくり考えて答えを出すタイプだけども、何か私にできることはないだろうか。

 

「おかあさん、入っていい?」

 

ちょうどそう考え始めた時、ドアの向こうからジャックが私を呼ぶ声がした。

絵本でも読んでほしいのだろうか。「いいよ」と声を返した。

プシュゥと音が鳴って自動ドアが開いた。

すると白いドレス姿のジャックが駆け寄ってきた。

 

「見て見て、おかあさん!似合ってる?」

 

目をキラキラと輝かせながら言う姿は、今の私とは対照的でとても眩しかった。

それにしても、ジャックは何を着ても可愛いなぁ。

 

「うん、とっても似合ってるよ」

 

心を込めて本音を言うと、えへへと照れた表情をした。

抱きしめたいな。流石にせっかくのドレスがクシャクシャになってしまうからしないけど。

 

「えっとね、それでね…はい、これ!」

 

ジャックはそう言うと、一枚の紙を渡してきた。

紙には「人理修復祝賀パーティーのお誘い」と書かれていた。




ということで最終のお話が始まりました。
今週中には終わるかな、多分。


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全てが終わった後にて(2)

招待状をもらった日の夜。

書かれていた時間通りに祝賀会開催場所の食堂に行くと、既に多くのサーヴァントが来ており、エミヤ達によって山のように作られた料理がいくつかあるテーブルの上に所狭しと並んでいた。

 

「あっ、先輩!」

 

突然背後からの声に、ビクッと身体を震わせる。

 

「…って、マシュか。突然声をかけられたから驚いたよ」

 

「す、すいません!先輩の姿を見かけたものですから、反射的につい…」

 

マシュは落ち込んで暗い顔をした。

…適当な話題に切り変えようか。

 

「いや、全く気にしてないし大丈夫だよ。それより、マシュも祝賀会に来たの?」

 

「…はい!ダヴィンチちゃんと会話していたら、突然”マシュ、今夜九時から祝賀会を始めよう!私は食材を提供してくれるサーヴァントと話をつけに行ってくるから、マシュは食堂のサーヴァントたちと話をつけにいぅてくれたまえ!”と言い出しまして」

 

…予想の範囲でしかないが、ダヴィンチちゃんもマシュの今の心を見抜いて、少しでもマシュの気が紛せられるようにこの祝賀会を開催することにしたのだろう。

なぜか当の本人がこの会場にいないみたいなので、その真意は分からないが。

 

「そうなんだ。ところでーー」

 

そう言えばマシュに聞きたいことがあったので尋ねようとした瞬間、食堂のライトが消えた。

すると突然、上からマイクを持ったアルトリアとダヴィンチちゃんが落ちてきた。

 

「レディースアンドジェントルメン!やぁ、みんな!知れ渡っているかもしれないが、私は代理所長兼天才科学者のレオナルド・ダ・ヴィンチだ!そしてこっちが…」

 

マイクをダヴィンチちゃんに渡されたアルトリアはこほん、と一息ついた。

 

「みんな知っていると思うが、アルトリア・ペンドラゴンことセイバーだ。よろしく頼む」

 

会場中にわぁぁぁぁと歓声が沸き立った。にしても、みんなテンション高いなぁ。

アルトリアがマイクをダヴィンチちゃんに返すと、彼(彼女)は「今からビンゴ大会をする!」と言い始めた。

一部サーヴァントから面倒だと批判の雨が降り注がれたが、一番初めに当たった人は聖杯を手に入れるチャンスがあると彼(彼女)が言うと、批判の雨は一気に止み、歓声と希望にすり替わった。

 

「……ってあれ?」

 

そんなみんなの姿を穏やかに見ていると、いつの間にかマシュがいなくなっていることに気付いた。どこに行ったのだろうか。

少なくとも食堂の中にはいなかったので、コソコソと祝賀会を抜け出して、彼女を探すことにした。




眠たすぎて、今回あんまりストーリー進んでません。


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全てが終わった後にて(3)

マシュ捜索の手始めに、私は管制室を訪ねた。

選んだ理由は特にない。考えて最初に思い浮かんだ、それだけの話だ。

 

管制室は私の存在証明をする必要がないのと祝賀会があるのが影響して、サーヴァントも人もおらず、異様なほどにシーンと静まり返っていた。

 

「おーい!マシュいるー?」

 

大声で叫んでみたが、広い管制室に反響するのみで物音一つ反応はなかった。管制室にはいないのだろうか。

一応レイシフトをした痕跡があるかだけ見てみたが、もちろんのことながら無かった。

ついでにダヴィンチちゃんの工房にも顔を出してみたが、祝賀会の司会を務めていることもあって、緊急用のホログラムダヴィンチちゃんになっていた。

どうせ今はショップなんて誰も使わないと踏んでいるのだろう、ホログラムの顔に”ただいま休止中”と書かれた紙が貼ってあった。

 

「うーん…やっぱりいないか」

 

ホログラムダヴィンチちゃんに背中を見つめられながら、私は他の部屋へと向かうことにした。

 

 

次に私は自分の部屋を訪ねた。私の部屋も管制室と同じく、シーンと静まり返っていた。

ベッドの下などをキョロキョロと見渡してみる。

 

「ここにもマシュはいない…か」

 

あんまり長時間も祝賀会会場から離れていたら、一部の心優しいサーヴァントたちに無用な心配をかけてしまうかもしれない。でも、マシュの行方も気になる。どちらを取ればいいのか、私はとても葛藤した。

…アンデルセンは”お前の心の思うがままにすればいい”みたいなことを言っていたが、二つの選択肢があって、二つとも選びたいと心が思ったならば、実際どうすればいいのだろうか。

 

「…簡単だ、マスター。そんな時は”あとでどうにかならない方を選べ”」

 

「…えっ」

 

突然背後から聞き覚えのある声が聞こえたと思って振り返ると、そこにはなんとアンデルセンがいた。

彼は少しため息をついて、また口を開いた。

 

「もう一度言うぞ。”あとでどうにかならない方を選べ”。もしも”心優しい無駄な心配をかけたくない”とでも思っているなら気にしなくていい。俺と部屋で寝ている文豪が適当な弁論で、そいつらにお前の事を誤魔化しておいてやる。だから、気にするな」

 

「…分かった、ありがとう!それじゃあ行かせてもらうね」

 

彼に軽く頭を下げてそのまま別の部屋を探しに行こうとすると、後ろから「あの雪花の少女は座を失った者の部屋にいるはずだ」と欠伸交じりに教えてくれた。

「ありがとう!」と返すと、「…あぁ」と珍しく皮肉なしで返事をしてくれた。

 

私は彼の部屋へと足を急がせた。




あとに早くて二話で終わる予定です。


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全てが終わった後にて(4)

息を切らせつつ、彼の部屋へと走る。

何度かレオニダス・キャンプを経験させられた為に多少は体力を持っているが、それでも最大出力で走っているのでかなり呼吸が辛い。肺が潰れてしまいそうで、口呼吸が強いられるために口内がとても渇き、足も棒のようになっており、痛い。

しかし、もし歩いて行ったならば、マシュとすれ違いになってしまう可能性がある。

それだけは避けたい。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……着いた!」

 

彼の部屋の前に着くと、なぜか自動ドアが少し開いており、中からマシュと誰かが話している声が聞こえてきた。

恐る恐るバレないようにドアの隙間から中を覗くと、そこにはマシュとジャックの姿があった。

そう言えば、あの祝賀会会場でジャックが見えなかったことを思い出した。

…それにしても、異色な組み合わせだ。私が仲介している時ならまだしも、マシュとジャックが二人で話しているなんて。引き続きバレないように警戒しつつ、二人の話している内容に耳を澄ました。

 

「…ジャックさんは先輩…えっと、”おかあさん”といて楽しいですか?」

 

「うん!おかあさんはいつも私たちに優しくしてくれるし、大好きだよ!」

 

「そうですか……それじゃあ、ジャックさんは”おかあさん”が誰か他の人と話していて、何か…感じることはありますか?」

 

「うーん……ちょっとだけ寂しいと思う……かな。でも、おかあさんが私たちのおかあさんであることは変わりないから、私たちは気にしないよ!」

 

マシュは目を伏せて、「おかあさんが私たちのおかあさんであることは変わりない…」と小さな声で復唱した。

復唱し終わると、すぅはぁと深く呼吸をして、ジャックに向かって「ありがとうございました、ジャックさん!」とだけお礼を言い、なんとドアの方…つまり、私の隠れている方へと走ってきた。

走ってどこか死角なりに逃げようにも、先程走ってきたことにより、私にそんな体力は微塵も残されていなかった。

 

「……せ、先輩!ど、どうしてこんなところに?食堂で皆さんと一緒に祝賀会を楽しんでいたんじゃ…」

 

突然私と鉢合わせしたマシュは驚きと戸惑いで、顔を真っ赤にしていた。

「あっ!おかあさんだ!」と言って、部屋の中からジャックも出てきた。

 

「えっと…まずはジャック、後で私たちも行くから、先に食堂に行っておいてくれるかな?」

 

「うん、分かった!待ってるからね!」

 

ドタドタ足音を立て、ジャックは食堂の方へと走っていた。

 

「それじゃあ、マシュ。…少しだけ話をしない?」




後で一話で終わる…かな?不安になってきた。


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全てが終わった後にて(5)

私たちは”記録”として覚えている”おかあさん”と今の”おかあさん”、どっちの方がいいかと聞かれたならば、どっちも選ぶことが出来ないと答える。なぜなら、どっちも私たちを愛してくれる”おかあさん”だからだ。

ただ、”記録”の中の”おかあさん”とは違い、今の”おかあさん”は私たちを愛してくれても、それは私たちだけに向けられている愛でないのは分かる。”記録”の中の”おかあさん”は私たちだけに、温かな慈愛をくれた。

それはとても気持ちよくて、落ち着いて、心がとても安らいだ。

まるでそれは、”おかあさん”の中にいるかのような、とても心地よい安らぎだった。

 

 

「ジャック、お待たせ」

 

あれから色々マシュと話し合って、互いに気持ちの整理をした私は急いで祝賀会会場に帰ってきた。

アンデルセンたちのおかげか、他のサーヴァントは変わらず楽しそうにはしゃいでおり、私はほっと胸を撫で下ろした。

 

「あ!おかあさん、おかえりなさい!」

 

そう言ってジャックは私にギュッと抱きついてきた。

そして私の服の中に顔を埋め、クンクンと私の匂いを嗅いだ。

 

「おかあさん、いい匂いがするね…」

 

「そう?柔軟剤とか使ってないんだけどな…」

 

「いい匂い…いい匂いだね…」

 

ジャックはそれから暫く、何度も何度も繰り返し、”いい匂い”と言い続けた。

まるで、”それをしっかり記憶しておきたい”みたいに。

 

「さぁ!祝賀会ももうお開き一分前だ!ということで、人理を救った人類最後…今となっては人類最後ではないが、そんな立香ちゃんに適当な締めの言葉を言ってもらおう!さぁ、立香ちゃん!早くこっちに!」

 

抱きついていたジャックの頭を軽くポンポンと撫でて引き離し、私はダヴィンチちゃんとアルトリアがいる方へと向かった。

 

「…………さて、立香ちゃん。いい感じの締めの言葉、頼むよ」

 

ダヴィンチちゃんはウィンクをして、マイクを私に手渡してきた。

軽く頷いて、それを受け取る。…それで、何を言おうか。全く思いつかない。

 

「それじゃあ行くよ!3…2…1…どうぞ!」

 

…そうだ。咄嗟に思いついた言葉を、私は口にした。

…ふと、お腹の辺りが少し濡れていることに気付いた。

 

 

”記録”の”おかあさん”は私たちに”おかあさんの中にいるような慈愛”をくれた。

でも、今の”おかあさん”だって形は違えども、私たちに”愛”をくれている。

今の”おかあさん”は私たちの”成長”を手助けしてくれている。

私たちは英霊だ、無論リリィなんかではない。

でも、今の”おかあさん”は”ともだち”という存在を私たちに与えてくれた。

ナーサリーやリリィなど、それ以外にも沢山の。

確かに愛の強さでは”記録”の”おかあさん”には負けているかもしれないが、今の”おかあさん”も私に色々なものをくれるから大好きだ。

…でも、もう少しで私たちは”ともだち”とも今の”おかあさん”とも会えなくなり、またあの”座”と呼ばれる寂しい場所に戻らないといけなくなる。

だからつい、私たちはあの”しゅくがかい”の途中、今の”おかあさん”の匂いを精一杯嗅いで、必死に今の”おかあさん”のことも”記録”として残るように頑張った。

でも、そんなことをしていると、なんだか目から涙があふれてきた。

例え”記録”に残ったとしても、それは所詮”記録”であり、”もう終わった事実をただ見られるだけ”であることに、気付いてしまったからだ。

もう、この楽しい時間も何もかも、この虚ろなる身で、肌で、唇で、感じることは出来ないのだ。

私たちはとても悲しい気持ちになった。

 

…でも。”おかあさん”が前に出て、この”かるであ”にいるみんなに向けて言った”一言”が私たちの心を救ってくれた。それは別段すごいことでもなかったし、本当に平凡な”一言”だった。

でもほんの少し、例えこの”かるであ”での思い出が”記録”になったとしても、この”一言”さえ覚えていたならば、いつかまた私たちがどこかで召喚されたときにこの”記録”を思い出しても、少しだけ胸は痛むけれど、辛いと思うことはない、そんな気がした。

…明日は今の”おかあさん”と会える最後の日だ。

私たちはきっと、今の”おかあさん”と笑顔でさよならをするだろう。




ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました!
”なんかジャックの作品書きたい!”という思い付きから勢いで今まで書いてきましたが、ほんと感想やお気に入りなど、かなりモチベーションに繋がっていました。
本当にありがとうございます。
余談ですが、エレシュキガル追加で十三連分貯めて引きましたが、見事に爆死しました。
エレシュキガルに嫌われてるのかな。
あとジャックについてまだまだ書き切れていないことあるので、これとは別に短編としてちょこっと三連休終わった月曜日にでも出そうと思っています。よければご覧ください。
…さて。宴もたけなわですが、ここら辺で後書きを終わろうと思います。
度々しつこいと思いますが、本当にご覧いただきありがとうございました!
次回作はまだまだ先なので、気長にお待ちください。


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