異形種商人ギルドも転移します (かのんベール)
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異世界転生

無駄な描写が多くあります。それは今後も続きます……


23:50

 

現実での日付が変わる10分前。それは私が何年もの間情熱を注ぎ込んだVRゲーム「ユグドラシル」が終わる10分前であることも意味していた。

 

このゲームはとにかく自由度が異常に高かった。種族、職業、アイテム、魔法、スキルetcそれぞれが何千種類と用意されており、それらは何年間もの間アップデートの度に際限なくその数を増やしてきた。

 

運営がそこまで至れり尽くせりだったのは、儲かるからに他ならない。確かに一昔前までは一世を風靡した大人気ゲームソフトであった。しかし次々にリリースされる新ソフトにユーザーの数は徐々に奪われていった。

 

ログイン者数が激減したあとは毎月の使用料による収入は運営にとっては雀の涙ほどしかなく、9割方は課金という名のお布施によって成り立っていた。

 

どんなゲームにもヘビーユーザーというのはいるもので、特にこのゲームは課金すればくすほど強くなるというクソゲー仕様でもあることから、何年もプレイしているプレイヤーの課金額は相当なものである。

 

斯く言う私も相当な額を課金しており、運営の全収入の半分近くは私の課金が占めている。そこまで異常とも言える課金をしていたのは、このゲームのサービスが終了しないようにするにはお布施以外に方法がないからだった。幸いリアルでの私には家族はおらず、さらには代々続く同族経営中小企業の専務であったこともあり、この貧富の格差が極限まで拡大した社会において、ある程度の地位を確立していたので、通常ではありえない額を課金することが可能だったのだ。

 

そもそもが商人であるため純粋な戦闘力はあまり高くはないが、課金アイテムでガチガチに固めた私はまぁまぁ敵知らずだったと思う。後半は運営もネタ切れだったのだろうが、割かしぶっ飛び性能のアイテムを次々にガチャにしていたが、それすらもネタ切れとなり結果として今日という日を迎えてしまったのだ。

 

来るべくして来た日であることは間違いなかった。覚悟していたこととはいえ、今まで積み上げてきたものが崩れ去るのは中々に堪えるものがある。それは自分がギルドマスターであることも相まってより喪失感を俺に抱かせた。

 

ギルド:BI財閥

 

およそファンタジーに溢れた世界には似つかわしくない……というかギルドの意味を完全に履き間違えているギルドが俺の立ち上げた、そしてユグドラシルでトップ争いを繰り広げてきたギルドの名前だ。商人系のギルドではあるが、その実レアアイテムの確保のために、相当な実力を兼ね備えた攻略部隊も保有しており、資金力だけでなく戦闘力も高いギルドとして有名だった。有名どころとしてはアインズ・ウール・ゴウンという非公式ラスボスダンジョンギルドもあったが、これは異形種のみで構成された廃人ギルドであり畑違いであったので争いになることはなかった。

 

しかし切っても切れない関係であることには違いなく、ギルドとしてでは無くプレイヤーBIとしての関係は非常に強かった。

 

ギルド紋STAR☆

 

これはギルドとして設立されているものの、正式なシステム上のギルドではないため、ギルドに与えられる特別な恩恵は何一つ享受できない、いわゆる同好会のようなものである。名前からお察しの通り異形種ギルドだ。目的はアインズ・ウール・ゴウンと同じく、虐げられている異形種救済だ。だが一方が神格化されているギルドなのに対し、こちらの加入条件は異形種であること以外には何も無い。勿論学生の無課金プレイヤーも多く加入していたし、初心者も沢山いた。人間種でありながら、馬の骨をマスクに被り、死神ローブを装備して禍々しい風貌でギルドマスターを務める。まさにBIすなわちバイ(二面性)という名に恥じないロールプレイであったと自負している。

 

故にアインズ・ウール・ゴウンとは敵対まではいかずとも、同じ異形種ギルドとして勢を争っていたともいえる。じゃあ敵対じゃないかとも思えるが、紋STAR☆出身のベルリバーさんが至高の41人入りしていることを考えると、むしろ傘下だとか支部だとかのような立ち位置だった気もする。残念ながらベルリバーさんは現実世界で既に他界しており、今日の終焉パーティーで再び再会することは叶わなかった。

 

その終焉パーティーも明日への影響を考えて、ということで30分前には完全に撤収が終了した。

 

が、それは勿論建前に過ぎない。本当にやりたかったのは今目の前に広がる光景を作り出すためだけにあった。

 

今、BI財閥本社の社長室から見下ろす光景は壮観としかいえない素晴らしいものであった。1000体もの人型モンスターがその身をスーツに纏い、整列しているのだ。何年もの間ひた隠しにしてきたBI財閥の裏の顔。BIに隠された本来の意味。それが一目見れば理解できるであろうこの光景は何年もの間ロールプレイに没頭してきた俺にこれ以上ない高揚感をもたらした。

 

その光景を一頻り眺めてから、余韻に浸りつつも最後のロールプレイに戻る。壮観たる光景に後ろ髪を引かれつつも、窓へと背を向けて、社長室へと視線を戻す。整列しているのは秘書としての役割を与えられたNPC達だ。

 

「君たちには何年間もお世話になったな」

 

来る日も来る日も返事が返って来ないNPCに向かってロールプレイをしてきた痛々しい過去が走馬灯のように頭を過ぎ去っていく

 

「この世界が終焉を迎える今日まで、この世界をひっくり返す様な秘密を隠し通すことが出来たのは間違いなく君たちのお陰だ」

 

男の秘書をSPに見立てて、要人警護されながら車に乗ってみたり

 

「無茶をして迷惑をかけたことも数えきれない」

 

ほふく前進でスカートを穿いている秘書の周りをグルグル回ってみたり

 

「配慮のない言葉で傷付けてしまったこともあった」

 

雨の日に傘をさすという動作のできないNPCに対して「俺は傘さすけど君はささないの?笑」とか言って煽ってみたり

 

「それでも失望せずに、ここまで添い遂げてくれた君たちに最上級の感謝をここに示したい」

 

彼らは受け取ることはできないが、一人一人の足元に感謝状と盾を置いていく

 

あと5秒か……

再び窓の外に視線を落とす

 

楽しかったんだ……本当に。仲間と笑いあったり、秘密を隠す小さな罪悪感だったりが……。

 

「今まで本当にありがとう……」

 

 

 

 

00:00:00

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

00:00:01

 

00:00:02

 

 

 

 

 

………………あれ?最後の最後にバグかよ……。本当に最後の最後までクソゲーだったな。それすらも今となっては愛着が湧くのは末期かもしれないが。

 

 

「謝辞!秘書代表、レニ・タングステン」

 

「は……?」

 

「成績優秀社員として栄えある表彰を受けました一同を代表いたしまして、一言謝辞を述べさせていただきます」

 

なんかNPCが突然喋り始めたんだが……。一体なにが起きているんだ!ヤバい、人智を超えた事態に頭が真っ白に……

 

 

余りに突然な出来ごとに俺は気絶という、考えうる中で最も情けない反応で異世界転生を果たした




1話を読了頂き誠にありがとうございます。

既に筆者の考えるラストまで書き終えてしまいましたので、矛盾点等の指摘がございましても修正できない可能性がある点をご了承ください


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動き始める財閥

なんだか長い夢を見ていた気がする……。ずっと望んでいたことが現実に起きたような、それでいて現実だと認めたくないようなそんな……

 

「起きるか。夢は夢。現実は現実だ。思い出せない夢よりも現実の仕事の方が何倍も大切だからな!」

 

自分に言い聞かせながら、仕方なしにベッドから起き上がる

 

「お気づきになられたのですね!直ぐに担当のものを呼んで参りますので、少々お待ちください!」

 

夢だけど、夢じゃなかった……。

 

そもそもナースコール押せばそれで良くない?

 

暫くすると廊下を走る足音がいくつも聞こえ、白衣を纏ったNPCを先頭に看護師や部下達が10人程病室へと入ってきた

 

NPC医師の診断によると軽い貧血だそうで、働きすぎが原因だという

 

「暫くは会社のことは我々に任せてゆっくりと休養なさって下さい!」

 

「いや……そうは言ってもな。この非常事態だし」

 

「既に周辺の探索には隠密に長けたモンスターを向かわせました」

 

「会社の警備体制も紋STARの皆さんとの協力体制により強固なものとなっております」

 

私がいなくても社会は回っていくという、この不甲斐ない現実よ……

 

そもそもNPCが意思を持って喋り、命令なしに的確な行動を取っていることが私には最大の緊急事態なんだけど、そこに関してはノータッチなのか……

 

「分かった。今日一日はベッドの上から指示を出させて貰うよ。先ずは偵察部隊から入ってきている最新の情報を教えて欲しい」

 

「はい。先ず我々の紋STARの拠点は消滅し、配下及びこのBI財閥本部それに付随する工場、倉庫、社宅、附属病院、総合運動場が未開の地に転移したものと見られます」

 

「転移?」

 

「今まで周辺に存在していた平原とは全く異なる生態系の平原へと転移したと見られます」

 

「周辺のモンスター及び文明を持つ種族は?」

 

「現在報告されているモンスターはLv32以下しかおらず周辺に脅威となるモンスターは発見されていません。また低レベルな文明を持つゴブリンが発見されています。しかし彼らの所持している物資は他の高度な文明を持つ種族から強奪したものが多数発見されているため、我々と同等の文明を持つ種族が存在している可能性は極めて高いと思われます」

 

これは現地人がいるかもしれないな……

 

「極力現地のモンスター及び人間との接触は避け、間違えても戦闘に発展しないように通達。但し自衛の場合はこの限りではない」

 

「了解しました」

 

「緊急事態につき、空白の役員の臨時人事移動を行う」

 

「副社長にレニ。彼女には私の不在、及び連絡がつかなくなった場合の全権を委任する。人事部長はガリウス。新しく我社に入社する紋STARの部下達を頼む。最後に統合幕僚長には紋STARからジルコ。陸海空軍を編成し、それぞれから精鋭を揃え、特殊部隊、隠密部隊、警備隊、警護隊を編成してもらいたい。残りの経理、財務、総務、物流だとかは追って通達する」

 

「了解しました!」

 

 

 

 

 

かつての現実とは全く異なった、今の現実の世界。空も空気も綺麗で、病院食も栄養補給剤とは比べ物にならない美味しさ。愛するNPC達。嘗ての劣悪な環境で唯一楽しみのVRのためだけに生きていたあの世界とは比べるべくもなく、今の現実の方が素晴らしかった。これでこの世界に敵がいなければ、友好な関係を結べれば言うことの無い素晴らしい世界を手に入れることが出来るだろう。元の世界に戻りたいかと言われれば戻りたい。元の世界にも友人は少なからずいる。だがどちらの世界を取るかと言われれば現状はこちらの世界のが遥かに魅力的だ。つまり……

 

「リ・エスティーゼ王国との友好的な関係を気づくことが目下第一の目標となりそうだな……」

 

「最初はカルサナス都市国家連合の系譜を引くBI財閥として商人ギルドに登録。王国内での地盤を固めつつ、この世界の常識に始まる情報を集め、王家やその他貴族との距離を縮めるのが良いかと」

 

「先立つものはやはり常識になるな。私はこれから王国で自ら情報を集めようと思う。幸いこの世界で確認されている人間、モンスター、アイテム。全て低レベルのものばかりだ、危険は少ないだろう」

 

「ですが得られるものも少ないかと。ここは部下に一任していただければと」

 

「それは尤もな意見だろう。だが社長なんて役職はひな壇に据えられたお飾りみたいなものだ。それに取引先とのお食事や接待を受けるのが仕事だからね、やっぱりギルドとかに顔出さないと部下が優秀だから暇で暇で」

 

「分かりました。それでは軍部の方で警護隊を派遣させて頂きます」

 

「では後ほど同行させる秘書を三人ほど人事の方で協議させて頂きます」

 

「現地の金貨、荷馬車、商品を調達しておきます」

 

「では準備が出来たら知らせてくれ。出発の日時を決める。直接会いたい場合は宝物庫に来てくれ、以上解散」

 

会議室を出て地下の宝物庫へと向かう。普段はテレポートを使っていたが、今回はエレベーターを利用してみる。どうやらそれまでは機能など存在していなかった飾りが実用的な機能を持って稼働しだしたらしい。備え付けられた家電も動くし、単なるオブジェクトであった車まで動くのだから意味不明だ。

 

銀行もかくやという、重厚な金庫室の扉を何重ものセキュリティを解除してようやく開くと、中には端から端までビッシリと扉が並んでおりその一つ一つにロックが掛かっているという厳重っぷりだ。手元のタブレットで片っ端からアイテムを確認しなくてはならない。ゲームでは意味のなかった説明文が、今この現実では非常に大きな意味を持って実装されているのだ。今までとは価値が大きく異なるアイテムが多く収納されているだろう。

 

ようやく20分の1が終わったかというところで、メッセージが届く。副社長に就任したレニからだ。

 

『出発の準備が整いましたのでご確認の程よろしくお願い致します』

 

今度はテレポーテーションを使って直ぐに正面玄関へと転移する。

 

「お疲れ様でございます。お待ちしておりました」

 

 

「ご苦労。随分と早かったな」

 

「社長がワクワクとしていた様でしたので、全力で準備させて頂きました」

 

どうやら感情が表に出過ぎていたらしい。

 

「こちらが今回利用する荷馬車になります」

 

「1台で精々が軽トラの最大積載量ってところか」

 

「はい。20台用意いたしましたので内何台かを周辺の村に派遣し、知名度の獲得を図るのがよろしいかと」

 

「では人事に言って商人スキルを持った部下を何人か選抜させておこう。それから王国内での拠点に丁度いい空き家を探しておいてくれ」

 

さて、BI財閥の名をこの世界でも轟かせようじゃないか!

 

 

 

 

「次の方どうぞー」

 

「はい」

 

「商人の方ですね。後ろの4台もこちらの商店の荷馬車でお間違いないでしょうか?」

 

「間違いありません」

 

「では通行証のご提示をお願いします」

 

「申し訳ありません。カルサナス都市国家連合から初めてこちらに来たので通行証を持っていないのですが」

 

すると門兵は少し驚いた様子を見せたが直ぐに長旅を労わる言葉をかけながら仮通行証を発行してくれた。パスポートも存在しないこの世界は高飛びし放題な気がしなくもないが。

 

そのあとは既に話を通しておいた不動産会社へと向かい、新しい拠点へと荷物を運び込んだ




2話ご覧頂きありがとうございます


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初の商談

5000文字弱あります


一段落着いたところで街にでて食事をとることにした。まぁもう夕方なので昼食とも夕食ともなんとも言えない時間ではあるが……。今まで生きてきた世界とは何もかもが違う新鮮な街をあちこち見て回る。マジックアイテムを使って確認するのと、自分の目で確認するのとではやはり全く違うし、新たな発見もある。

 

高級料理店での食事もいいが、最初はいわゆる下町の食堂に行くことにした。先ずはこの世界での庶民の感覚を身につけることが先だ。飲食店の経営に手を伸ばすにしても、最初はファミレスやファストフード店がいいだろうし、将来の商売敵と顧客の下見も兼ねていることは言うまでもない。

 

食堂に近づくと拠点とした屋敷周辺とは雰囲気がだいぶ変わり、服装も冒険者が目立つようになってきた。

 

「ほげぇぇぇぇぇえええ!」

 

なんか今とてつもない女性の悲鳴というか……なんというか……

 

あの安そうな酒場兼宿屋からか。

 

「ちょっと野次馬するか」

 

入口から中を覗くと立派な鎧を纏った……最低ランクであるカッパーのプレートの冒険者が女性に詰め寄られていた。なんだこのカオスな状況は……。

 

「あんたのせいで私のポーションが割れちゃったじゃない!弁償しなさいよ!」

 

見ると男が投げ飛ばされた衝撃で机が粉々に……。あれ人間が出来る技なの?冒険者怖ひ

 

女性の言うところによると、倹約に倹約を重ねてようやく買うことが出来た一品らしい。うわぁ……凄く高そう。あの騎士風の冒険者も災難だな。金は持ってそうだし彼にとってはそうでもないのかもしれないが……

 

「金貨1枚と銀貨10枚よ?」

 

安っ!?いかん……やはりこの世界の感覚は随分と違うらしい。やはり商人として感覚の擦り合わせは急務だな

 

「あんたさぁ……ご立派な鎧着てるぐらいなんだから中のポーションぐらい持ってるんでしょう?現物でも構わないからさ」

 

あ……コイツが割られたポーションは多分下のポーションなんだろうなぁ

 

「持ってはいるが……」

 

やっぱりな。だがここですんなり出すほど常識なしではないようだ

 

「はっ!待て待て、分かった」

 

かと思うとすんなりと手の平を返したようにポーションを差し出した……。なに考えてるんだ?怪訝に思っていると警護の部下が耳打ちしてくれた

 

「あの騎士の連れと思しき女性が背後から切りかかろうとしていますね。しかもアレは威嚇ではありません。確実に殺る気でしたね」

 

この世界の冒険者という存在は血気盛んを通り越して狂人の集まりのようだ……。この場はさっさと退散することにしよう。巻き込まれるのはゴメンだ

 

しかし、中のポーションは見慣れた赤いポーションだが下のポーションは青なのか。むしろ私からすれば青のポーションなんぞ見たことないし逆にレアだな……。ポーションのランクとその精製方法、効能、値段が気になるところだな。明日にでもこの街で一番の腕利きを調べて尋ねるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「この街で一番の薬師はリージー・バレアレという方の様です」

 

「アポは取れたのか?」

 

「はい。ですが薬草回収のため、孫のンフィーレア・バレアレが数日空けるようです」

 

「孫は薬師として有名なのか?」

 

「薬師としてはまだ見習いのようですが、この街で一番有名なタレント持ちのようです。なんでも、どんなマジックアイテムでも使用可能なのだそうです」

 

タレント……。たしか生まれ持っての特殊能力、才能とかいうものだったな。一番の薬師の孫が一番のタレント持ちか。この世界でも富の集まるところにはとことん集まるらしいな。資本主義はどの成熟度でも格差は産むが、この世界は文明が成熟していないにも関わらずなかなかにシビアで生きずらい世の中のようだ。

 

「到着いたしました」

 

「ご苦労」

 

扉を開けてもらって荷馬車から降りると、リージー・バレアレと思しき人物が直接出迎えてくれた。

 

「お主がカルサナス都市国家連合から来たという商人じゃな?」

 

 

「はい。本日はカルサナスと王国とのポーションの違いに関して知識の交換に参りました。と言っても私にはポーションの詳しい知識はありませんので、あるのは現物のみとなってしまいますが」

 

「構わんとも。さぁ中に入ってくれ」

 

アレは未知との遭遇が楽しみで仕方ない研究者の目だな……多分

 

「それでお主の持つポーションというのは?」

 

「こちらです」

 

「おぉ!これは!」

 

どうやら珍しい品のようだ。ユグドラシルではごく通常のものなんだがな……

 

「いやはやこう立て続けに龍の血に出会うとは……」

 

「これはそんなに珍しいものなのですか?」

 

「わしも薬師を続けて長いが赤いポーションを見たのは昨日が初めてじゃよ」

 

「昨日?」

 

「うむ。昨日冒険者が赤いポーションを持って鑑定を依頼しに来たのじゃよ。ほれ、これがそのポーションじゃよ」

 

「装飾も全く同じ、恐らく私と同郷の冒険者でしょう」

 

「カッパーに似合わぬ上等な鎧を身にまとった冒険者から譲り受けたと言っておったの」

 

十中八九昨日のフルプレートの冒険者だな……。こんな偶然が……いや、あの光景を見て今ここにいるのだから王国一と名高い薬師の元に珍しいポーションが集まるのは遅かれ早かれ必然か

 

「カルサナスでも出処は不明でしたが手に入れるのは金を積めばそこまで苦労はしなかったのですが……」

 

「そなたの里ではポーションの制作方法を確立した者がおるのじゃろう。しかし赤いポーションはポーションの完成系じゃ。各方面から命を狙われるのを恐れて身を隠しておるのじゃろう」

 

「では青いポーションは未完成の状態だと」

 

「如何にも。我々薬師の永遠の目標がこの赤いポーションだからの」

 

永遠って言っちゃったよ、いつまで経っても完成しないじゃん

 

「では未だかつて見たことの無いポーションの完成系が何故赤いとご存知なのでしょうか?」

 

「彼の有名なぷれいやーと呼ばれる者達が所持していたポーションが正しくこの赤いポーションだったそうじゃよ」

 

そうなるとあのフルプレートの冒険者はぷれいやー。つまり俺と同じユグドラシルプレイヤーの可能性が高いな……。

 

「そのプレイヤーという者達に関して詳しいお話をお伺いしたいのですが。なにぶんカルサナスではその手の類の情報は噂程度しか聞かなかったものですので……」

 

 

リージー氏の話によるとおよそ100年周期でプレイヤーと呼ばれる強大な力を持った集団が異世界からやってくるらしい。これは間違いなく俺と同じユグドラシルプレイヤーのようだ。この世界に存在する魔法を初めとしたものは彼らの影響を色濃く受けている。その最たる象徴がスレイン法国で、この国はプレイヤーによって建国された国家のようだ。プレイヤーの影響は良い方向に向かうこともあれば八大欲のように互いに争って混乱をもたらすこともあるという。

 

となれば、この世界にプレイヤーが今現在存在している可能性は非常に高い。それも複数人、あるいは俺のようにギルド丸々転移している可能性もある。互いに協力関係を築ければこれ以上のことはない。しかし、今のBI財閥のNPCはその大半が元紋STARの異型種によって構成されている。となれば、PKの対象とされてきた異型種に他のプレイヤーが難色を示す可能性は少なくない。プレイヤーと言っても中身は俺と同じ日本の小市民だ。その辺の最低限の理解は期待したいが……。最悪の事態、それこそ他のプレイヤー全員と敵対する可能性も捨てきれない。ここは相手の情報を少しでも多く手に入れることが先決だ。そのためにはこちらの存在を隠さねばなるまい……。

 

『メッセージ:レニ、聞こえるか?』

 

『はい、なにか御用でしょうか?』

 

『我々以外にも多数のプレイヤーがこの世界に転移している可能性が出てきた。詳しいことは追って連絡するが、先ずはこちらの存在に気づかれないようにしつつ、他のプレイヤーの情報を集めたい』

 

『かしこまりました。こちらで人員を確保し、部隊を編成いたします』

 

『その際は魔法等の使用は極力控え、人海戦術のみを用いるように。また現在偵察を行っている高位のモンスターは一時撤収、今後使用するのは周辺のモンスターと同等のレベルのもののみとする。得られる情報は圧倒的に少なくなるだろうが、今は隠密を最重要課題として行動してくれ』

 

『了解しました』

 

『それから昨日連絡した、カッパーの冒険者がプレイヤーである可能性が高い。至急動向を掴んでくれ』

 

「それではリージーさん。ここからはBI財閥…………改めスター商会代表としてあなたと商談をさせて頂きたい」

 

「いいだろう。幾らが望みだ」

 

「私が望むのはそんな一時的な利益の交渉ではない」

 

「どういうことじゃ?」

 

「私はこのポーションを幾つも所持している」

 

追加で10個ほどのポーションが入ったケースを部下に開かせる

 

「これは前金だとでも思ってもらって構いません。あなたが研究のために必要な分だけご用意しましょう」

 

「な、なんと……」

 

「その代わり現在確立しているポーションの精製方法を我々の会社で独占させて頂きたい」

 

「なんじゃと?」

 

「具体的にはポーションの大量生産を手伝って頂きたいのです」

 

つまりは製薬会社として王国のポーションのシェア率を完全に掌握したいという事だ。世界の製薬会社のTOP10は毎年ある程度の変移はあるもののその大半をファイザーやメルクといったアメリカ企業が占めており、日本はかろうじて武田薬品工業がランクインを果たしたぐらいでその差は圧倒的だ。この世界ではそうした特許による薬品の独占はまだ行われていない。ならば今のうちに万能薬とも言えるポーションのシェアを獲得しておこうというのは当たり前の流れだ

 

「今のポーションが冒険者にとって高値となっている原因はなんだ?」

 

「それは材料となる薬草がこの辺ではトブの大森林でしか採取出来ず、その道中も危険を伴う。何よりも森には賢王と呼ばれる魔獣が住み着いておる」

 

「研究の費用のために暴利を掛けている訳ではないのだな?」

 

「当たり前じゃ!わしとてそこまで研究に倫理を奪われてはおらん」

 

「ならば我々は研究のサポートを全力で行おう。最終的には現在のポーションの大量生産を我社が行い、リージーさんには研究に没頭して頂く。報酬は今の収入と同じ金額を固定給。これでいかがですか?」

 

「それは願ったり叶ったりじゃが……そこまでの資金源がお主にはあるのか?」

 

「詮索は不要とだけお伝えしておこう。しかし大量生産をサポートして頂く以上、いずれ我々の本部に来て頂くことになるでしょうから、その時に全て解決するでしょう」

 

「本部?昨日購入したという屋敷ではなくかの?」

 

「そういうことですね。内緒ですよ?」

 

「分かった分かった。詮索は不要なのじゃろ?」

 

「物分りがよくて助かります。それではこちらが契約書になります。今後の報酬などに関しても書かれていますのでしっかりと目を通してからサインの方をお願いします」

 

「ふむ……」

 

そう言うとリージー氏はメガネを取り出して読み始めた

 

「この国ではメガネがあるのですね」

 

「あぁ、高価ではあるがわしでも手が出せるレベルの品物じゃよ」

 

よし、商人がメガネしていてもおかしくは無さそうだな。明日から付けよう。別に視力に問題がある訳では無いが、現実でメガネをかけていたから今の何も顔に付けていない状況は少し違和感があるからな……。

 

「早速で申し訳ないのですがポーションの精製方法をご享受願いたいのですが……」

 

あとはトブの大森林の生態系調査と飼育施設の建築だな。BI財閥改めスター商会の最初の事業は製薬になりそうだな




8:30投稿が目標だったのですがバイトの都合上こんな時間に……
次回からは投稿予約なるものを使ってみたいと思います


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モモン対BI(アンデット)

ナンデ予約投稿されてないんですかねぇ……

明日もリベンジします


何日もリージー氏の店を訪ね、細かいレシピを制作していく。そうしてようやく下のポーションを完璧に配合するレシピが完成した。なんでも、基本的なレシピはあるものの実際の調合は長年の経験で行っていたらしいから驚きだ。何グラムを何リットルで何分茹でるのかと聞いた時にはリージー氏も返す言葉がないようで、そもそもの薬師が何なのかを一から説明されてしまった。一言でまとめるならば大雑把が故に慎重さが求められる仕事であった。

 

「まさか数日で下とはいえポーションを精製出来るようになってしまうとは……」

 

だから大雑把だと言うのだ。しっかりとしたレシピを作れば猿でも作るだけなら簡単なはずなのに……。

 

「いえ、リージーさんの教え方が上手いからですよ」

 

「ンフィーレアは数ヶ月かかったがのう」

 

「彼にはタレントという素晴らしい才能が別にありますからね。それを生かして大成して欲しいものですね」

 

「そう言えば今日の夜に予定ならば帰ってくるはずじゃよ。良かったら会ってみてはくれんかの?」

 

「それは私としても嬉しい申し出です。街で一番有名なタレント持ちの方ですからね。一度お話をしてみたいと思っていたところなんです」

 

「そうか、それは良かった!ではお主がポーション作成を成功させた祝いに夕飯でも食べに行くとするかの」

 

「リージーさんのお陰ですからね、日頃の感謝を込めて奢らせて貰いますよ。私の行きつけのレストランがあるんです。きっとお気に召すと思いますよ?」

 

 

 

 

 

本当に元の世界とは比べ物にならないほど美味しい食事をリージー氏ととってから、すっかり暗くなった街を帰る。

 

「何やら冒険者組合の方が騒がしいですね」

 

「もしかしたらンフィーレアが帰ってきたのかもしれん。お主は先に店に帰っておってくれ」

 

リージー氏から差し出された鍵を受け取って店へと帰る。

 

「なんかまた騒がしいな」

 

「中を見て参ります」

 

「頼む」

 

何やら店の中に誰か居るようだ。ンフィーレアさんかな?

 

「またお客さんかしら~?」

 

「逃げて下さい!」

 

中から間延びした声と緊迫した声が聞こえてくる。何やら様子がおかしいようだ

 

「冒険者と見られる者達が4名と近接職の女性が交戦中のようです。それから裏手にマジックキャスターが一名控えているようです」

 

「どっちが劣勢?」

 

「冒険者が圧倒的に不利です。相手の二人はこの世界においてはかなり上位の実力者かと」

 

これはこの世界の暗部との関わりを持つチャンスかもしれないな……

 

「閃光で視界を奪い、その間に冒険者をドッペルゲンガーとすり替えた後に即座に撤退」

 

「了解」

 

直後に店から眩い光が漏れだし、何人もの呻く声が聞こえてくる。光が収まる頃には馬車は屋敷に向かって出発していた。

 

 

 

 

「ふざけた真似しやがって!この!この!」

 

魔法を使って店の様子を監視しているが、この女は狂人とかの域を超えてる気がする。なにせ、倒した敵をなかなか殺さずに痛ぶり続けているのだ……。

 

「その辺にしておけ。目撃者もおるのだ、それに目的のンフィーレアは既に確保した。これ以上ここにいるメリットがない」

 

「んもぅ、分かったわよ。じゃあとっととコイツらゾンビにしちゃってよ」

 

何やら魔法が行使されたようなので死んだふりをしているドッペルゲンガーをゾンビへと変異させる

 

すると入れ違いでリージー氏が店へと帰ってきた。しかも昨日のカッパーの冒険者まで引き連れてのお出ましだ。なんでこうなった…………。今からじゃドッペルゲンガーの回収は不可能。図らずして対立することになってしまった……。なんかジャンガリアンハムスター連れてるし。もうカオスとかそう言うレベルじゃないでしょコレ

 

しかもドッペルゲンガーも一撃で倒されてしまった……。なんだよあの力技。間違いなくプレイヤー確定だな。

 

「ンフィーレアは……」

 

「ここにはいない」

 

「ンフィーレア~!!」

 

「守ってやれ」

 

うーん。リージー氏を守るということは道徳心はありそうだが……。やっぱり人間種限定に対しての優しさかな?

 

「ん!?これはドッペルゲンガー……!誰だこちらを覗いているのは!」

 

ヤッベ……。やっぱりバレたか……。

 

「私の依頼を妨げるとはそれ相応の覚悟が出来ているのだろうな?」

 

不味い!

 

直後監視の魔法はキャンセルされ、こちらへ情報は一切入って来なくなってしまった……。

 

『メッセージ:ジルコ、聞こえるか?』

 

『はい。何用でございましょうか?』

 

『先の二人組は今どこにいる』

 

『墓地に居るようです。ンフィーレアと見られる少年は女性の言っていた通りマジックアイテムを装着され、アンデットの大軍を操っている様です』

 

『恐らくプレイヤーと思われる冒険者が先程保護した冒険者を追ってくるだろう。そこで保護した冒険者は意識を刈り取った上で墓地の安全な場所に放置して置いてくれ。万一に備えて警護も付けてやれ』

 

『了解しました』

 

「私は今から本部に戻る。アンデットの大軍の一匹に憑依して遠隔操作を行う」

 

これならば監視系の魔法と違って感ずかれることもないだろう

 

「転移門!」

 

何日かぶりの社長室へと戻る

 

「お帰りお待ちしておりました」

 

レニが出迎えてくれた。やはり帰って来たって感じがする。

 

「私はこれよりアンデットへの憑依を行う。その間の無防備となった私の警備を頼む」

 

「お任せ下さい」

 

 

 

 

 

 

精神支配系の魔法を使い、アンデットの一体に憑依することに成功した。周囲には俺と同じようなアンデットがひしめいており、中には上位のアンデットも多く混ざっている。恐らくは第7位階魔法〈死者の軍勢〉だろう。

 

そうしてアンデットとしての動きを真似ていると、前方にいた巨大なアンデットが剣の投擲により一撃で沈められた。なんだそれ……反則でしょ。心まですっかりアンデットの俺からするとあんな子供だましの攻撃すら恐ろしく感じられる……。冒険者怖ひ……

 

次々に投げ飛ばされていくアンデット達。空を見上げるとジャンガリアンハムスターをおんぶして浮遊する女性。やはりカオスだった

 

暫くするとナーベと呼ばれる女性はハムスターを木の上に放置して戦闘に参加してきた。あのモモン様とか呼ばれる冒険者も相当なものだが、まさか従者まで強いとは。一アンデットの身では最早対抗する手段すらない。そろそろ倒されるのが私の番となった所で、起死回生の一手に打ってでる

 

なるべく目立たないように、自然な流れで地面に横たわる。そう、死んだふりだ。アンデットに知能はないため、まさか死んだフリをしているなどと思う者はいないはず……

 

「ナーベよ。足元のアンデット、死んだフリをしているぞ?」

 

「……!?」

 

「どうやら雑魚共の中に大物が潜んでいたようだな……」

 

まさか見つかるとは……。俺は事件の行く末を見届けることなく精神支配を解くと、意識を社長室にある本体へと戻した。

 

まぁ彼らがプレイヤーであり、モモンとナーベとしてこの世界で冒険者をしていることは分かった。それとモモンが本当は騎士ではなくなにか別の職業であることも分かった。恐らくは力をセーブしているのだろう。彼らも身を隠しているのは我々と同じか……




サブタイ詐欺というか、その、まだ戦うのは早い希ガス

評価及び感想誠にありがとうございます!あと一評価で評価バーの色が!つきます!


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八本指に入りたい!

この文章が読まれているということは今回は予約投稿が成功したということだな!


「いやー、ンフィーレアさんが無事で本当に良かった。私も中から戦闘をする音が聞こえましたので衛兵を呼びに行っておりましたので……モモンという冒険者がいてくれたのは幸運でしたな」

 

「なんでも、アンデットの大軍から孫を救い出して下さったらしくての、彼らには感謝してもしきれんわい」

 

「昨晩は事件が立て続けに起きましたからね……」

 

「アイアンクラスの冒険者が5人、ヴァンパイアに殺されたそうです」

 

「今日にでもミスリル冒険者の方が討伐隊を編成するようですから心配はいらないでしょう」

 

まぁこう立て続けに事件が起きると勘ぐるなという方が無理な注文なんだが……。直接調べるのは危険だ。やはり冒険者組合と仲良くすることで情報を仕入れるしか無さそうだな。

 

「私は冒険者組合との商談に向かいますので、ポーション精製に関しては私の部下をご利用下さい」

 

 

 

 

 

 

馬車の中で報告を聞く

 

「本日、冒険者組合でヴァンパイア討伐隊の編成が行われました。向かったのはミスリル冒険者チームクラルグラと漆黒のモモンの2チームのようです」

 

ヴァンパイア討伐にしては少ないな……。

 

「それで、冒険者組合組合長のアインザック氏とのアポは取れたのか?」

 

「はい。リージー氏の名前を出したところ話は聞こうということでした」

 

まだポーションの大量生産には着手していないが、目処はたった。話だけでも通すことは可能だろう

 

「到着いたしました」

 

「ご苦労。私が直接受け付けに話しをしよう」

 

組合に入ると様々なランクの冒険者が寛いでいた。その中で警護を何人も連れた我々は少々注目を集めざるを得ないが仕方がない

 

「本日アインザック組長と面会を約束しておりますリージー製薬のホースと申します」

 

「お話は伺っております。組合長は二階におりますのでご案内させて頂きます」

 

 

 

 

 

「失礼します。リージー製薬の方がお見えになりました」

 

「入ってくれ」

 

受付が開けてくれた扉を通り、中へとお邪魔する

 

「本日はお忙しい中お時間割いていただき誠にありがとうございます」

 

「本当に忙しくてね……あぁ座って下さい」

 

本当に疲れ切った顔をしているな……

 

「本日はポーションの販売に関してのお話だとか」

 

「えぇ。現在我が社ではポーションの大量生産に着手しておりまして、それに伴うポーションの大量販売を組合に委託したいと思いまして、ご商談の機会を設けて頂きました」

 

「大量生産?」

 

「現在は下のポーションのみではありますが、その精製方法が既に確立しており素人であっても失敗することなくポーションを精製出来るようになりました」

 

「そんなことが……」

 

「今までは金貨1枚を超える高級品でしたが将来的には宿に1泊するような感覚でポーションを手に入れられるようになるでしょう」

 

「そうなれば冒険者の生存率も大幅に上昇するだろうが……そんなことが可能なのかね?」

 

「はい。少なくとも近いうちに今の半額の値段で卸せるようになるでしょう」

 

「それが本当なのであれば組合としても全面的に協力させて頂きたいが……その販売権を組合に渡す理由はなんだ?勿論無償という訳ではなかろう?」

 

「えぇ勿論。我社と致しましては冒険者組合で販売することで市場を独占出来ることは勿論ではありますが、組合から得られる情報を無償で譲って頂きたいのです」

 

「情報?」

 

「例えば今日のヴァンパイア討伐。何故二組しか選抜されなかったのでしょうか?」

 

「それは……」

 

「言って良いものか悩んでいますね?恐らくそうした情報は今後も沢山入ってくるでしょう。商人にとって情報以上に価値のあるものはありません。今どの冒険者が注目なのか、将来成長の見込みがある冒険者はどのチームなのか。そうした情報から私達は富を得ることが出来るのです」

 

「分かりました。我々の持つ情報を、開示しましょう。但し極秘任務などの情報をお伝えすることは出来ません。そこは組合の信頼に関わることですのでお譲りすることは出来ません」

 

「分かりました、それで構いません。それで宜しければ今朝の会議の内容をお聞かせ願いたいのですが」

 

「分かりました」

 

内容をまとめるとこうだ。

漆黒のモモンによるとそのヴァンパイアは「ホニョぺニョ子」とかいうふざけた名前で、相当に強いらしく彼と因縁のある敵らしい。報酬は最低でもオリハルコン。同行しても構わないが確実に死ぬと……。

 

真っ黒くろすけのマッチポンプじゃない?怪しい……滅茶苦茶怪しい……。もしかりにマッチポンプだとすればヴァンパイアは彼の配下もしくは仲間の可能性が高い。単に隷属させられていて、これから慈悲もなくランクアップの糧にされるかもしれないが……。もし前者であれば異型種に理解のあるプレイヤーかもしれない。

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、彼らは異型種を仲間としている可能性が高いということが分かった。共に討伐に向かったクラルグラは死亡。ヴァンパイアとの壮絶な戦いの跡は見られるものの、死体はなし。もし仮に隷属した奴隷なのであれば見せしめとしての死体がないのは些か疑問が残る。一番しっくりくるのはクラルグラを殺し、ヴァンパイアとの戦闘を偽装した後、仲間のヴァンパイアと共にギルドに帰還という流れだ。どちらにせよ異型種を仲間としている可能性が非常に高まった。しかしそれと同時に人間種を簡単に殺害したことから倫理観の危うい人物である可能性も少なくはない。将来的に接触を図るにしても、今はまだ慎重に動かざるを得ないだろう。

 

 

 

 

ポーションの大量生産はある程度軌道に乗った。お陰で組合からの信頼も厚く、最近ではかなり踏み込んだ内容の情報も流してくれるようになった。その中でも特に気になったのが八本指と呼ばれる犯罪組織だ。人身売買や娼館の経営、黒粉と呼ばれる麻薬の売買を行っている王国のガンだそうだ。たが我が社にとっては据え膳とも言うべき美味しい餌である。特に人身売買は労働力確保の上で非常に役立ちそうであった。しかしそれも過去形でしかない。つい先日決まった「奴隷売買禁止法」によって人身売買は表面上は禁止となったからだ。これまで慈善活動ばかり行ってきたラナー王女初ともいえる功績だそうだ。証券法も会社法も独禁法もないこの世界ならばやりたい放題だと思ったのだが……。こうして少しずつ正当な手段が絞られていくのか……!俺からすれば税金で贅沢な暮らしをする貴様らこそガンだ!

 

しかしそうなると落ち目となるのは奴隷商だ。近いうちに八本指は空席が出来るだろう。その後釜に入れるかどうかだな……。

 

「相当な犯罪を重ねている娼館の情報が入りました」

 

「よくやった。では私はそちらに向かうこととする。最悪の場合戦闘になる可能性もある。警戒を怠らないようにしてくれ」

 

「了解しました」

 

 

 

裏路地を進むと鉄で出来た扉を発見した。どうやら今回の目的地は警戒設備が十分に備わっているようだ。ますます怪しいな

 

扉を一定のリズムで叩くと中から従業員が出でくる

 

「あんたが新しい客か。相当羽振りがいいらしいじゃねぇか」

 

「まぁ、金はあるからな」

 

「それは羨ましいことで。悪いんだが今はお得意さんが先客でな。部屋が空いてないんだ」

 

「では中で待たせて貰いましょう」

 

「そんだったら俺らと賭博でもしねぇか?」

 

「それはいいですね!花札なんていかがですか?」

 

「花札ぁ?」

 

「えぇ、花札です……」

 

私は今、人の悪い笑みを隠せていないだろうな……




評価バーの色が早くも着きました!
これからも皆様のご支援よろしくお願いいたします!


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セバスが来てしまった……

「くそー!またアンタの一人勝ちかよ!」

 

「しっかりと相手の手札を覚えておかないといつまで経っても勝てませんよ?」

 

「そうは言ってもなぁ……」

 

「賭博は頭と手癖の勝負なんですから」

 

「それもそうか……」

 

 

 

バキッ!

 

 

 

「おい!今なんか音しなかったか?」

 

「客のあんたは奥に避難してろ、敵かもしれねぇ」

 

「頼みました」

 

「任せとけよ!」

 

 

 

 

「扉が錆びておりましたので少々強引に開けさせて頂きました」

 

ん?そんなに錆びてなかったけどな。まさか無理やり鉄の扉をこじ開けたんじゃ……

 

「化け物がぁ!」

 

「囲め囲め!」

 

暫く怒号と戦闘音が鳴り響いていたがそれも長くは続かず辺りに静けさが取り戻される。つまるところ侵入者が勝ったということだろう。面倒なことになったな……。取り敢えず奥に逃げるしか無さそうだ

 

一番奥まで逃げ込むと何やら戦闘音が2箇所から聞こえてくる。片方は多対一、もう一方は一対一のようだ。勿論やりやすそうな一対一の方へと突入する

 

部屋へと入ると金髪の青年が、見るからに人相の悪いフードの男を蹴り飛ばしたところで力尽きたようであった。一段落した所で良かった……

 

「コイツの仲間か!」

 

「どっちの仲間かはよく分からんが、この娼館の客だから多分そっちの味方だと思いますよ?」

 

「あら?あなた羽振りのいい新客じゃな〜い?」

 

なんだこのオカマ……

 

「えぇ、その認識で間違いないですね」

 

「外にコイツの仲間がいるはずだが?」

 

「あぁ。さっき見張りの従業員が全員やられたようですね。ですが残る敵は二人。私の護衛と合わせてこちらは10人と護衛対象の……」

 

「コッコドールよ」

 

「圧倒的にこちらが有利のようだ」

 

「それならこの坊やも連れて帰れるんじゃないかしら?」

 

「コイツらが強ければ、ですがね」

 

「ご心配なく。私の部下は優秀ですよ?嫌味ではなく、あなたよりも」

 

「言ってくれるじゃねぇか。じゃあこのガキを連れてさっさと逃げるか」

 

「おっと!それは勘弁してくれるかな?」

 

「お前の仲間か?」

 

「いや、恐らくガキの仲間だろう」

 

「クライムくん大丈夫か?傷を癒すアイテムを持っているか?」

 

「あり……ます……」

 

「そうか……ここからは俺が相手だ仇は取らせて貰うぞ」

 

「名前を聞いても?」

 

「ブレイン・アングラウスだ」

 

「なに……お前があの!」

 

「嘘!?本人なのぉ!?」

 

「今日出会った者の大半が俺を知っているというのは昔の俺なら嬉しく感じたのかもしれないが、今では何となく微妙だな」

 

誰だよ……。まぁ確かに今まで出会った人類の中では一番強いが、有名なのか?強いやつといえばガゼフ・ストロノーフや青の薔薇とかしか名前は聞かないがな……。

 

「な、なぁアングラウス。た、戦うのは止めにしないか?お前も俺たちと同じだ。力を!望んでいるんだろぅ?そういう男の目だ。ならば俺達の仲間にならないか?力を持つものにとって八本指は最高の組織だ。強力なマジックアイテムだって手に入る!高価な武器や防具もだ!」

 

よし!やはりコイツらは八本指か……。ならばここでこのアングラウスを倒し、仲間入りを果たすしかないな……

 

「つまらないな……。その程度の集まりか?」

 

「なに……!?」

 

「警告してやる。俺達の強さなど大したことは無い。そして、一つ知ったことがある。誰かのための強さは一人だけの強さを凌ぐ。少しだけなのかもしれない、それでも分かったんだ俺は……」

 

うーん、確かに君はさほど強くない。しかしそれをなぜ知っているのかが不思議だ。一体どこで敗北を知ったのか、俺にはそっちのが気になるけどね

 

「残念だよ、アングラウス。あのストロノーフと互角だった剣士をここで殺さなくてはならないなんてな!」

 

勝てないと思うよ?君一人じゃ

 

「お前に……自分のためだけに剣を振るうお前に殺れるかな?」

 

「あぁ殺せる!容易く殺せる!お前を殺し、その転がっているガキを殺す!」

 

ガキは殺すなよ。コッコドールさんが欲しがってるだろ。切り札になるんだとよ

 

「気を付けて下さい。サイモンは幻術を使います。目に見えるものが真実とは限りません」

 

「成程な、確かに厄介な相手だが……問題ない。一撃だ」

 

「なに!?」

 

「一撃で終わらせると言ったんだ」

 

「なら!殺って見せろ!」

 

幻術によってその数を増やしたサキュロントが一斉に攻撃を仕掛ける

 

しかし次の瞬間。アングラウスが剣を振るった直後

 

「グハァ……」

 

誰もいなかったはずの彼の背後からサイモンが現れ、そして崩れ落ちた

 

「俺の領域は不可視の存在も発見出来る。クライムくんを先に殺して守れなかっただろと言うとつもりだったのかもしれないが……相手が悪かったな。なぁ、一撃だろ?」

 

「お見事です!」

 

「それで?残りの君たちはどうする?」

 

「いや、中々に勉強になる戦いだったよ。対人戦の卑怯さだとか、生でみる武技だとか」

 

「随分と余裕そうだな」

 

「いや?今しがた気配を消して部屋へと入ったきた老人も只者では無さそうだし、余裕とまではいかないさ」

 

「なに!?」

 

「気付いておりましたか」

 

「セバス様!」

 

「彼が君たちの主人のようだね。やはり強いのかな?」

 

まぁ今回の警護担当二人掛りで勝てる位の強さか……

 

「私はただの老いぼれ故、そこまで強くはありませんが……あなたがたに遅れは取らないでしょうな」

 

「そうですか……ではその少年は諦めて我々は撤退させて頂くことにしましょうかね。コッコドールさん、構いませんね?」

 

「えぇ……仕方ないわ……」

 

「では道案内お願いします」

 

「逃がすとでも?」

 

「申し訳ありませんが、あなたがたのお相手は我々護衛の者が引受けさせて頂きますので」

 

「じゃあ後は頼んだよ。時間稼いだら離脱してくれ」

 

「了解しました」

 

後ろで始まった戦闘音をバックミュージックに俺はコッコドールの本拠地へと案内してもらった

 

 

 

「さて、あなたが八本指が一人、コッコドールさんで間違いありませんね?」

 

「えぇそうよ」

 

「今回倒された護衛が六腕の一人であるのは本当ですか?」

 

「彼も相当な実力者なのだけど、相手がアングラウスじゃ仕方ないわね……。それを相手にして無事に帰ってきたあなた達の護衛の方がよっぽど凄いけど」

 

そう言って後ろに控える俺の部下に視線を向ける

 

「我々の方が六腕よりも余程良い腕を持ってると思いますけどねぇ?」

 

「そ、そうみたいね……」

 

「良かったら我々を今度から護衛に付けてはいかがですか?強さはあなたが一番よくご存知でしょうし」

 

「でも報酬は余り期待されても困るわよ?」

 

「奴隷売買禁止法ですか……」

 

「あの忌々しいメスのせいでこっちは商売上がったりよ!」

 

確かに今まで合法だった仕事が突然禁止になったのだ。倫理観はともあれ、理不尽であることに変わりはないな。

 

「それと、もし良ければ彼の後釜に私の部下を六腕に加えて貰えるよう交渉して頂けたら嬉しいんですけどね」

 

「そうねぇ、口利きはしてあげるけどお眼鏡に叶うかどうかはあなた達の実力次第だし、私には保証出来ないわよ?」

 

「では明日にでもゼロとやらの屋敷を訪ねて見ますか。アポ宜しくお願いします」

 

「分かったわ」




本日もお読み頂きましてありがとうございます。

昨日平均評価一時が6を切ってしまい、ちょっと焦りました。今後とも皆さんの感想、評価、誤字訂正お待ちしております!


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暴かれる真相

おほ^~

次話が2000文字弱と大変短いので、2時間後に投稿します!


「サキュロントより強いんだってな、お前さんの部下は」

 

「はい。王国でも指折りの実力者だと思いますよ」

 

「それが本当なら六腕の一人に迎えようじゃねぇか」

 

「ありがとうございます」

 

「だが今日はこっちも忙しくてな、実力を計るのはまた日を改めてってことで構わねえか?」

 

「分かりました。それで今日はどんな要件があるのですか?差し支えなければお教え願えませんか?」

 

「あぁ、今日の夜は件のサキュロントを倒した元凶たるセバスとかいう老人をこの屋敷で痛ぶり殺すってイベントがあるもんでよぉ」

 

「それは面白そうですね」

 

「お前さんも観ていくかい?きっと素晴らしいショーになるだろうよ」

 

「えぇ、喜んで観覧させて頂きます」

 

そう言うと、スキンヘッドのおっさんと固い握手を交わした。

 

今日は王城で何やら兵力が集められているらしく、なにか大きな動きがあるようだが、そちらは部下に任せて今夜は八本指主催のパーティーに参加している。パーティーと言っても余り品のいい雰囲気ではないが、ここ上から眺める特等席には中々のVIPが集まって居るようだ。

 

暫く貴族の方たちと軽い商談をしていると、昨日交戦したセバスという執事がやってきた

 

「五人……では無いのですか?」

 

まぁゼロが居ないからな

 

「おじいさん中々強いんだって?まさかサキュロントを倒したのはあなたじゃないわよねぇ?」

 

「幾ら落ち目とはいえ、奴隷売買の長コッコドールの前で六腕が負けるなんて恥にも程かある」

 

「まぁ奴はブレイン・アングラウスにやられたと言っていたが……」

 

「どちらにせよ最初の問題事を撒いたじいさん、お前から殺す。あちらを見よ」

 

「あそこには各所から来たお偉いさんが集まっている。俺達がじいさんを痛ぶり殺す所を見るためにな!」

 

「ゼロとやらもあちらにいるのですか?」

 

「ま、そうだわな」

 

嘘つけよ、居ないだろ

 

するとセバスが無言でこちらを指さしてきた。不味いな……恐らく伏兵への合図だろう。むしろ下のギャラリーに移動した方が安全そうだ

 

「なんだいそりゃ?喧嘩でも売ってたのかい?」

 

「気にしないでください。それで彼女、ツアレはどこに居るのですか?」

 

「死んだと言ったら?」

 

「あなた方はそんなに優しいのですか?」

 

「ふははは!正解だ、俺達はそんなに優しくない。あの女はコッコドールへの贈り物の一つ。大切に確保している」

 

「折角ですから全員でかかって来なさい。そうすれば10秒くらいは持ちますよ?」

 

「言うじゃないか、この人間」

 

「本当の強者と会ったことがないんじゃないかしら」

 

「まぁいい。相手をしてやろう千殺マルムヴィスト」

 

「踊る三日月刀シミター、エドストレーム」

 

「空間斬、ペシュリアン」

 

「そして不死王、デイバーノック」

 

「不死王……ですか?愚物には過度な二つ名ですねぇ!」

 

何故不死王にだけそんなに不快感を……

 

「不死王などという二つ名を名乗って良いのは、この世の世界にたったお一人。お前ごとき下等アンデットが烏滸がましい」

 

気づけば六腕は瞬殺されていた。それにしても、その言い分だとセバスの主人は不死王を名乗るアンデットということになってしまうんだが……。

 

「ソリュシャン、ゼロは居ましたか?」

 

「ここには居ないようですね」

 

「あと10秒追加ですねぇ……」

 

不死王にソリュシャンか……。ユグドラシル時代だったかな?何処かで聞いた気がするが……。

 

「撤退だ。観客皆殺しの隙に逃げるぞ」

 

「了解しました」

 

『メッセージ:レニです。至急お耳に入れたいことが』

 

『なんだ?』

 

『先程お伝えした王城の冒険者達ですが、計7ヶ所八本指指と見られる拠点の攻撃を開始しました』

 

なんだと!?ではここも既に敵が来ているのか……

 

『今のまま監視を続けて、八本指の被害を推測してまとめてくれ。それから漆黒の英雄モモンがいる地域は直ぐに撤退するよう通達してくれ』

 

『了解しました』

 

「グレーターテレポーテーション!」

 

「お帰りなさいませ」

 

「私の留守の間ご苦労だったな」

 

「とんでもございません」

 

「早速で済まないがお茶を頼む」

 

「かしこまりました」

 

さて、まずはパソコンでソリュシャンの名前が記録されているか検索してみるか。

 

このパソコンはコントロールパネルを開くことが出来るという設定で使っていたから、ギルド拠点転移後もこうしてコントロールパネルをここで確認することが出来るのだ

 

「ソリュシャン・イプシロン……おっ発見。えーっと、アインズ・ウール・ゴウンの戦闘メイドプレアデスが一人…………え?」

 

…………え?

 

「どうかなされましたか?」

 

「いや、なんでもない……」

 

「緊急の会議を開きたい。以前よりまとめて貰っていたこの世界の強者に関する情報を処理したい」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

「これより緊急会議を始める。こんな時間に呼び出してしまい申し訳ない」

 

「今回の議題はこの世界の強者に関してとお伺いしておりますが」

 

「そうだ。報告に上がっている王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ、これと同等の戦いを行ったブレイン・アングラウス。冒険者青の薔薇。そしてスレイン法国の人間。幾つかの報告があるが、王国内のガゼフとアングラウスに関してはさほど脅威では無いことが分かっている。しかし、本日それとは比べ物にならない強さを誇る者と遭遇した。セバスという人物だ」

 

「一体何者なのですか?」

 

「彼の部下にソリュシャン・イプシロンが確認されている。彼女はアインズ・ウール・ゴウンの戦闘メイドプレアデスである。つまりセバスはナザリック地下大墳墓執事セバス・チャンであると見られる」

 

「なんと……」

 

「さらにプレイヤーである可能性があった漆黒の英雄であるが、その従者ナーベはこちらも同じく戦闘メイドプレアデスであるナーベラル・ガンマであると推測される」

 

「そのことで一つ報告したいことがございます。王国戦士長が符牒して回っているマジックキャスターの名前がアインズ・ウール・ゴウンという名を語っていることがつい先程の連絡で判明いたしました」

 

「確定だな……」

 

「確かアインズ・ウール・ゴウンは紋STAR出身のベルリバー様が在籍していたかと」

 

「ならば友好な関係を築くことも可能なのでは?」

 

「そうなんだがな……」

 

「今、配下の者からメッセージが届きましたのでご報告させて頂きます。青の薔薇の一部が8ヶ所目の攻撃へと向かった所、先に到着していたメイド服の虫使いと交戦になり、冒険者が不利となった所へ、応援が到着。形勢は逆転となりましたが、メイドの仲間が合流再び形勢が逆転した所に漆黒の英雄モモンが登場したとのことです」

 

なんだそのどんでん返しに次ぐどんでん返しの展開!見たい!すごく見たい!

 

「恐らく虫使いのメイドはプレアデスの

エントマ・ヴァシリッサ・ゼータと見て間違いないだろう。応援によって形勢逆転ということは恐らく階層守護者の誰かが駆けつけたのだろう……」

 

しかし尽くカルマ値マイナスの極悪集団なんだよなぁ……。NPC達が感情を持って動き始めたということは彼らのギルドはおよそ人間に好意的ではない事が想像にかたくない。あとは指導者が日本の小市民的感覚に基づいて行動しているかに懸かっているが果たして……




アインズ・ウール・ゴウンにようやくたどり着きました。


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目をつけられた財閥

アインズ様視点に軽い気持ちで挑戦したのは非常に不味かった


先日のデミウルゴスとの戦いで私、漆黒の英雄モモンの名声は不動のものとなった。同時に大量の人間の捕獲にも成功した。全てはデミウルゴスの思惑通りということだ。

 

「しかし懸念事項は多い」

 

「申し訳ありませんアインズ様。八本指の仲間を数名取り逃してしまいました」

 

「一人でも十分な失態だというのによもや複数名も取り逃がすとはどういう了見なんだい、セバス?」

 

「お言葉ですがデミウルゴス。娼館で強者が八本指にいることはお伝えしたはずです。私とソリュシャンだけでは力不足だと思いますが?」

 

「つまり作戦の人員配分を行った私の責任だと?」

 

「もうよい。過ぎたことをいがみ合っても仕方がない。もしかしたらその者達がプレイヤーであった可能性は高い。そうでなくとも強者がこの王国内にいると分かっただけでも、今後のナザリックの行動を決める重要な要素になるだろう」

 

しかし、セバスをもってしても抑えられないということはかなりの強者だ。それに複数人となると今後の戦闘にも慎重にならなくちゃいけないな……

 

「それと今回のアインズ様の計画を不敬にも利用した人間共のことですが……」

 

アルベドのいう人間とは、スター商会のことだろう。最近創立されたリージー製薬会社が力を伸ばしていたが、その親会社がスター商会だという。私が王国で冒険者として活躍し始めたのとほぼ同時期にカルサナス都市国家連合からやってきた商人で、先の戦いで崩壊した街の復興に多くの人員を投入し瞬く間に街を復旧させた人物だ。今回の戦いで冒険者モモン以外にも第二王子のように名声を高めた者もいる。しかしこれはデミウルゴスの想定内であったらしく、ラナー王女と協力して王国を支配する準備が整いつつあるようだ。しかし、スター商会はポット出である上に完全なイレギュラーである。最近では王国や貴族の兵団にポーションをはじめとした大口の契約を結び、更には次の帝国との戦争における兵站を一手に担うことになったと言う。ラナー王女も相当の切れ者であると聞くが、彼も中々の手腕だろう

 

「やはり殺した方がよろしいかと」

 

「まぁ待て、彼の手腕は中々のものだ。人間とはひ弱であるが故に、我々の想像以上に強かで傲慢な生き物でもある。彼には近い将来我々が王国を支配した時に活躍してもらうかもしれない。今は手出し無用だ。引き続き監視を続けて欲しい」

 

「アインズ様がそう仰るのであれば……」

 

「それで?スター商会及び傘下のリージー製薬に関して変わった点や新たな動向は掴めたか?」

 

「はい、アインズ様。スター商会が用意した人員でありますが、あれだけの人数が今まで屋敷で生活していたということがそもそも不信かと。彼らがエランテルに運び込んだ物資は合計での馬車20台であり、荷馬車の中身全てが従業員でなければ説明がつきません」

 

「この地で従業員を増やした可能性はないのか?」

 

「ポーションの大量生産に伴い、失業した薬師を中心に新たに従業員を雇い入れているようですが、大規模な人員雇用を行ったという話は聞きませんでした」

 

「確かに不信だな……従業員の身元はどうなっている?」

 

「復興した家に住んでいる者が大半のようです。戸籍や名前も以前から存在するもので身元に不審な点は見当たりませんでした」

 

ならば前々からスカウトして集めていた従業員ということか?それも少し引っかかるが……

 

「次にリージー製薬ですが、最近はンフィーレアへの勧誘を行っているようです」

 

「なに……?」

 

「本人は断っているようですが、一定の期間を空けて定期的に直属の部下がカルネ村に勧誘に訪れているようです」

 

ンフィーレアの才能は確かなものだ。本来であれば祖母のバレアレも囲い込みたいが、先に商会と契約を結んでしまったからと断られてしまった。その上ンフィーレアまで持っていかれるのは不味いな。それに彼には道具を幾つも貸し与えている。やはりナザリックで軟禁状態で研究をさせるべきか?

 

「我々を裏切る可能性はあるのか?」

 

「ルプスレギナの見立てによれば、その線は薄いかと。彼の忠誠心は薄れていないようです」

 

「ならばこのまま様子を見ることこする。だが勧誘が余りにも執拗いようならば対策はしよう」

 

一先ずは様子みかな。トブの大森林にはアウラに任せている施設の建設が行われているし、そちらに手を拡げられると困るが……。




こんな怪しげな組織がアレばアインズ様であれば慎重に行動すると思いますが、そこは申し訳ないです。原作と同じルートを辿って頂こうと思います


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初めての戦い

もう3期に入ってしまった……

主人公ってここまで一度も戦ってなかったことに気がついてしまった


リージー氏によればこの時期にしか採取が出来ない貴重な薬草がトブの大森林に生息しているらしい。その調達を頼まれたので、折角だからリージー氏を連れて私自らがカルネ村を訪れることにした。あの村はンフィーレア氏の勧誘の都合上、部下がよく訪れているので情報は豊富に入ってくるが、ゴブリンと共存しているというこの世界の常識では考えられない形態を取っているらしい。さらに訪れる度に村は堅牢に成長しているという。エンリ・エモットというなんの変哲もない村娘がゴブリンを使役しているとのことだが……どう考えても怪しいよな

 

「見えました!間もなくカルネ村に到着致します!」

 

馬車から身を乗り出すと、村とは思えない大門と、物見矢倉、そして警備をしている……ゴブリンが見えた

 

門に近づくとゴブリンが止まるよう指示してきた

 

「失礼ですがどちら様ですかい?」

 

凄く人間味のあるゴブリンが部下に話しかけてきた……

 

「王都から来ました、スター商会の者です」

 

「おや?今回は随分と人数が多いですね?ンフィーレア勧誘に本腰を入れて来たってことですかい?申し訳ありませんがンフィーレアの兄貴はこの村を離れる訳にはいかねぇんですよ。いい加減諦めてくれませんかね?」

 

何やら御者と揉めているようだな……

 

「本腰を入れたというのは間違っていませんが間違えてもいますよ?」

 

「誰ですかい?あんた」

 

「スター商会会長のホースです、宜しく」

 

「あっしはゴブリンリーダーやらせてもらってますジュゲムっていいます。それで間違ってるとか間違ってないとかってのはどういう意味なんです?」

 

「今回の我々のカルネ村訪問には二つ目的があります。一つは薬草採取、もう一つはあなたの言う通りンフィーレアくんの勧誘です。しかし、今回断られたら私は引くつもりでいます」

 

なにせこの村は異常だ。何よりもトブの大森林の奥にかなり強いモンスターの気配がある。恐らくは階層守護者かそれに匹敵する力を持つ配下と考えて間違いないだろう。今の我々の脅威では無いが、遭遇しないのが一番であることは間違いないだろう。となればこの村の異変はアインズ・ウール・ゴウンによるものである可能性が高い。正直今日一晩泊まるだけでもこちらの素性が相手に知れる可能性もある。アイテムを使用して私を含む部下全員のレベルを偽装しているとはいえ、相手もマジックアイテムや偽装看破のスキルを使ってくれば一発で正体がバレてしまうだろう。ンフィーレア氏が彼らに籠絡されている可能性も高い。そんな彼を無理やり勧誘するのは自殺行為にも等しいだろう。ここは自ら確認し、少しでも怪しいと感じたら速やかに手を引くべきだろう

 

ジュゲムさんにンフィーレア氏の元へと案内してもらう

 

「着きましたぜ。ここがンフィーレアの兄貴が研究してる家です。ンフィーレアさん!お客さんですよ!」

 

「はーい」

 

暫くして扉が開く

 

「どちら様ですか?」

 

「ンフィーレア!」

 

「おばあちゃん!?」

 

久しぶりの再会の儀式を眺めてから、頃合を見計らって本題を振る

 

「考え得る最高の条件を揃えているつもりです、今よりも遥かに研究は捗ることでしょう」

 

「彼の用意する環境は完璧じゃ、わしが保証しよう。わしもそろそろ新しいポーションが完成しそうなんじゃよ!」

 

「本当!?おめでとうおばあちゃん!……でも僕も新しいポーションが完成しそうだし、何より今の環境も僕は好きなんだ」

 

「エンリのことなら心配いらんぞ?彼女は悲しいことに身寄りがおらんからの。一緒に越してはどうじゃろうか?商会が彼女も面倒を見てくれるそうじゃよ?」

 

「ダメだよ。エンリはゴブリン達をまとめる大事な役を担っているんだ。これは彼女にしか出来ないことなんだ」

 

「なんと!かのゴブリン達は彼女が操っておったのか!?」

 

報告にあった通りだな

 

「ではゴブリン共々連れて行けば問題ないな」

 

「そんな……!」

 

「村のことは私が新たに召喚するゴブリン達に面倒を見てもらうことにしてはどうかな?」

 

「そんなことが出来るんですか!?」

 

「一応な。ここだけの話、彼らよりも役に立つだろう。知恵も戦闘力も高く、何よりも忠誠は村人全員に向けられるだろう。今のゴブリン達はエンリ・エモットという主人が何よりも重要なようだけどな」

 

「それは……」

 

「どうだい?これでもまだ問題があるのかな?別にこの地が好きだからとかそういう非合理的な内容で断ってくれても構わない。私も無理に連れていきたいわけではないからね」

 

「……ごめんなさい。僕はこの地に残って恩を返さなくてはならないんです」

 

「誰にだい?」

 

「それは……」

 

彼には閉口令が敷かれているな。恐らくはアインズ・ウール・ゴウンと深い関係があるのだろう。これ以上の詮索は危険だ。私も、そして彼自身も……

 

「分かった。もし気が変わったらいつでも言ってくれ。力になろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「うん。それでもう一つの本題、薬草回収の件だが、確かエンカシでしたっけ?」

 

「あぁ、それならエンリと採取に行く予定がありますよ」

 

「我社はその薬草を栽培したいと考えています」

 

「栽培?」

 

「えぇ。ですから土ごと丸々採取したいんです」

 

「土地ごと……ですか」

 

「えぇ。この森の大体の生体や土壌は研究済みですから、そう苦労せずとも一年中収穫可能になるでしょう」

 

「凄い……」

 

「どうです?我社で雇われる気になりましたか?」

 

「あははは……」

 

「冗談ですよ。では我々は採取に向かう準備をして参りますので、この辺で」

 

 

 

 

 

森に入り実際に生息場所を確認させてもらう。どういった場所に生息しているのかなどを実地調査に近い形でデータ収集していく。そうやって新たな薬草を土ごと掘り起こしている所に、横槍が入った。モンスターが二体こちらに向かって来ている。一匹は相当弱いが、もう一匹はこの場にいるゴブリン達で対処するのがギリギリのレベルのモンスターだ。どうやら狩りの最中らしい。

 

ここで逃げ出すのが最善なのだろうが、それでは折角発見した薬草がダメになってしまうかもしれない。仕方がないがここは迎え撃つことにしよう。

 

「ん?なにかこっちに向かってますね」

 

「あー、いいよいいよ私たちで対処しますので。引き続き薬草採取の作業をお願いします」

 

「見たところお兄さん方は俺達より弱いみたいですが?」

 

「そんなことないと思うがね」

 

「どんな敵が来るか分かりません。とにかく隠れて下さい」

 

「やれやれ……」

 

通常ならば賢明な判断ではあるが、敵のレベルを把握している側からすると単なる作業の一時中断以外のなにものでもない。追い払うだけのつもりだったが……

 

隠れて直ぐに、森の奥から傷だらけのゴブリンの子供が走って逃げてきた。木の影に隠れたつもりのようだが、それでは直ぐに見つかってしまうだろうな。かといってああする以外に選択肢はないだろうが……

 

「どうしよう……」

 

「静かにして下さい」

 

ゴブリンに窘められるエンリさん。やはり普通の人間とは感覚がズレているな。ゴブリンに同情する人間などこの世界では居ないだろう。これもゴブリンと生活した結果なのだろうか。となればこの世界の人間種の抱く異型種への嫌悪感はそんなに高くないかもしれないな……

 

「バーゲスト……」

 

どうやら狩り主が現れたようだ。やはり大したことないモンスターだな。それはこの世界の冒険者の目線で見ても同じだろう

 

「薬草の強烈な臭いのせいで僕達の臭いに気が付かないみたいだ……」

 

「それじゃああのガキが生贄になってくれれば問題は解決ですね。姐さんの身の安全が最優先です」

 

同族の割には意外とドライだな……。まぁ優秀な判断能力を持っているようで安心だ

 

「ンフィー……」

 

「……分かった、助けよう」

 

おっと……バカ発見。格好付けて死んだら元も子もないんだよ?

 

「あのゴブリンが何故ここまで逃げてきたのか確認しないと、将来的に村に危険が及ぶかもしれない」

 

納得のいく理屈を上げたいのかもしれないが、命を賭ける価値のある内容だとは思えないけどね。賭かってる命は君だけじゃない。ゴブリンも道連れだ。つまり護衛対象であるエンリもということになる。彼らが負けることは村のゴブリンの使役者もいなくなるということだ。村の将来は今この瞬間から既に危機に晒されてるんですけど……

 

「危険は避けるべきでしょう。勝てない可能性だってあるんですぜ?」

 

ゴブリンのが冷静とか同じ人間種として悲しくなるよ……

 

「私は戦う力もないのに愚かな考えかもしれないけど……助けられるかもしれない人を見捨てるのは加害者の片棒を担ぐのに似ていると思います。私は弱者をいたぶるアイツらのようにはなりたくない。お願い」

 

「貴様はベシタリアンなのかな?」

 

「え……?」

 

「彼らは別にいたぶって遊んでいる訳では無い。狩りをしているのだよ。純粋に生きるために、糧を得るため殺生をしているんだ。今目の前の状況は家畜と人間そのものだ。君がどちら側かは言うまでもないな?」

 

「違います!」

 

「違わないとも!ゴブリンと共存しているから少しは期待したが、所詮は人間主体の傲慢主義以外の何物でもない。君たちには失望したよ」

 

「不味いですよ!敵がこちらに気づいちまったようです!」

 

「私はこれより本部に帰還する。護衛は不要だ君たちは引き続き薬草採取を任せたよ」

 

「了解しました」

 

「あぁそれと、賢い君たちから彼らに支配者としての立場というものを教えてあげなさい」

 

「了解しました」

 

あの歳で村を護るという大役を任されてしまっているのは気の毒としか言い様がない。あの村に彼女以上の適任者が居なかったのだろうか。そこまで無能の集まりなのか、それとも彼女にはそれだけの才能があるのか。少ししか交流のない私には分からないが、アインズ・ウール・ゴウンには才能を見出すことが出来る人材がいるのか……。羨ましい限りだ。彼女を選ぶ才能も、彼女の才能も。今の人事部も十分頑張ってくれているけどね。それをまとめる私に才がないのでは宝の持ち腐れだからな。ギルド長になれたのだって才能ではなく、ただ運が良かっただけだ。所詮はゲームの中だから、そこまでしてギルド長をやりたいと思う人も居なかっただろうし……。

 

……自分の才能を悲観しても仕方がないか。それに忘れていたが目の前には敵がいるのだ

 

「ホースさん、下がって下さい!」

 

「手出しは無用だ」

 

前に出た私に標的を定めたバーゲストが目にも止まっているかのような鈍さで駆け出す

 

「グレーターテレポーテーション!」

 

突如としてバーゲストは目の前からその姿を消す

 

「グレーターテレポーテーション!」

 

再度転移魔法を使い、次は自分自身を本部へと転移させる。あと数秒もすれば上空からバーゲストが為す術もなく落下してくるだろう。恐らくは即死だと思うが、もし仮に生きていたとしても瀕死のバーゲスト相手に負けるゴブリン達ではないだろう




アインズ様のダークヒーローっぷりが好きな読者も多いはず

逆に言うと僕は正義感とかが嫌いです(創作の中では)

正直エンリの考え方はイラッとしました。好きくない

まぁ現実の僕は学級委員とか生徒会とかやってた正義感の塊みたいなウザイ奴なんですけどね


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ひたひたと迫り来る戦争の足音

今回は誤字確認がまだの状態です。すみません。


新しい薬草を採取してから程なくして、リージー氏が紫色のポーション精製に成功した。日頃からリージー氏にはポーションの割合は記録するように告げてあるので、一度成功すれば何度でも再現することは可能だ。部下の薬師を何人も付けて効率的に研究を進めた成果と言えるだろう。ポーションの研究を開始してからまだ時間は経っていない。この調子で行けば次々と新しいポーションを精製することも可能かもしれない。もしかしたらユグドラシルと同じ、もしくは同等の効果を持つポーションの開発も出来るかもしれない。夢は広がるばかりだ。

 

しかし、これと時期を同じくしてンフィーレア氏も紫色のポーションの開発に成功したという。調合も大体同じ構成だった。満足な部下も研究所もない状況で我社と同じ成果を上げる彼はやはり天才と形容して問題はないだろう。最初はアインズ・ウール・ゴウンの援助があったのではないかとも考えたが、カルネ村に潜伏させたゴブリンの報告を信じるならば彼はいつもあの家から紫色の煙と異臭を漂わせて研究を続けているらしい。そうなるとゴブリンでは役不足だ、人間の部下を冒険者に扮させて村に送り込むべきだろうか……。最悪の場合ンフィーレアの研究成果を盗まなくてはならないかもしれない。流石のポーションの完全系を作り出してしまえば、彼は確実に情報の秘匿を命じられるだろうからな

 

王国におけるポーションのシェア率は今やリージー製薬が9割を占める。残りの1割の駆逐も時間の問題だろう。また品種改良をしたという名目で売りに出したユグドラシル産の馬も随分と高値で売れている。次の帝国との戦いでの兵站も我社が独占して引き受けることとなった。王国や貴族、組合を中心とした軍事関連の独占もあと少しといったところだ。魔法を使ったゴリ押しの大規模農園も問題なく安定した食料を生み出している。第一次産業の掌握も時間が推し進めてくれることだろう。

 

今後は富岡製糸場をモデルとした繊維工業への着手と同時に、水族館や魔獣園などの娯楽施設を運営することで富裕者層との繋がりを築いていく予定だ

 

「会議中に失礼します。至急社長のお耳に入れたいことがございます」

 

「なにがあった?」

 

「先程カルネ村に潜伏中のゴブリンからスクロールを使っての緊急のメッセージが入りました。ンフィーレア・バレアレとエンリ・エモット並びにその妹ネムが今朝方外行きの格好をしており、その後村から姿を消したそうです。恐らくは転移の魔法で移動したのかと」

 

行き先は多分ナザリック地下大墳墓か?しかし人間を招き入れるなんてことが有り得るのか?もしかしたらNPC達もそこまで人間を嫌悪している訳ではないということか?先のヤオダバルトを名乗る悪魔との戦いの混乱に乗じて推計およそ1万人を攫ったという事実は揺ぎないが……。私も部下に食人種がいれば同じ判断を下しただろう。人の命も大切ではあるが、かつての仲間達が残していった配下であり今後の戦力を情や倫理観で手放すの愚策と言わざるを得ないだろうからな

 

「恐らく転移先は件のナザリック地下大墳墓である可能性が高い。彼らは再びカルネ村にゲートを開き戻ってくるはずだ。相手に気付かれるのはこの際構わない。何としても転移門の繋がる先の所在地を突き止めよ!」

 

「了解しました。魔法に長けた部下にふかしの呪文をかけてカルネ村の至る所に配置いたします」

 

 

 

そろそろ日没になるが、今日は帰って来ないのか?

 

『メッセージ:転移門を確認!こちらの存在に気付かれ反撃を受けております!』

 

「グレーターテレポーテーション!」

 

「お帰り、諸君。それで?早急に結果を聞きたい」

 

「はっ!自分が担当していた区域に転移門が現れましたが……」

 

「敵の居場所は掴めずか……」

 

「お役に立てず本当に申し訳ございませんでした!」

 

「恐らく彼らも対処していたのだろう。君たちのミスでは無い」

 

こちらも対策は取っているので我々の仕業であることは掴めていないはずではあるが……

 

「念の為、防衛警戒レベルを厳に引き上げておいてくれ」

 

「了解しました」

 

当初警戒していた反撃もなく、平和な日々が続いていた。王国内ではの話だが。

 

「帝国の腕利きのワーカーが全滅した?」

 

「なんでも遺跡の調査に向かったワーカー及びその荷物番を任されていた冒険者が誰一人帰って来なかったと……」

 

冒険者組合のアインザック組長がいつになく慎重な面持ちで自体を説明してくれる

 

「その調査は誰の依頼か分からないのですか?」

 

「貴族からの依頼という形でしたが、恐らくは帝国の差し金かと……」

 

その遺跡がナザリック地下大墳墓の可能性が濃厚だな……。先日一万人という大規模な収穫があったアインズ・ウール・ゴウンがわざわざ今回の事態を招いたとは考え難い。であればやはり帝国がナザリック地下大墳墓を発見したということか。私たちの本部のように隠匿魔法をかけていないのか?それすらできない程に資金難なのか……。あれを維持するには持続的な魔力供給が必須だからな。廃課金厨である私からすれば永遠とも言える期間維持することができる程度の消費量ではあるが

 

「それともう一つ不可解な点が」

 

「なんです?」

 

「帝国で突如大きな地震が発生したらしく、調べによると帝国の騎士の多くがが行方不明になっているようです。しかも帝国はその事実を隠そうとしていると……」

 

「それは……帝国内でなにか大きな事件が起きている可能性が高いですね」

 

となると、ワーカーの失踪もアインズ・ウール・ゴウンの仕業ということになるのか……。しかし今更メリットが分からないな。王国のみならず帝国の騎士までも誘拐するとは……。今回は食料ではなく兵力を集めているのか?しかしだとすればこれは好機だ。数ヶ月後に迫った帝国との戦争で疲弊仕切った帝国を叩き潰すチャンスかもしれない。今年は宣戦布告すらされないかもしれないが……。どちらにせよ帝国の内情を探った方が良いかもしれないな

 

 

 

その報告は帝国への密偵を選抜している時に入った。

 

「帝国からの宣戦布告がなされるため、兵站を担うスター商会は至急登城されたしとのことです」

 

「分かった、今すぐに向かおう。会議は一時中断、馬車を用意してくれ」

 

「かしこまりました」

 

直ぐに支度を済ませて王城へと向かう。今宣戦布告となると通常通り、戦争は2ヶ月後か

 

「帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王率いるナザリックなる組織を国家として認め、同盟を結んだことをここに宣言する。バハルス帝国皇帝 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス」

 

馬鹿な!?有り得ない!何故今までコソコソと身を隠していた彼らが今になって突然……!

 

「元々エ・ランテル近郊はゴウン魔導王の土地でありリ・エスティーゼ王国は本来の所有者に献還しなくてはならない。帝国はゴウン魔導王に協力し王国に侵攻し、領土を奪還する。これは正義の行いであり、不当な支配から解放するものである」

 

いや待て、確かに帝国で揺さぶりをかけていたのは分かる。ワーカーの一件で大義名分を得て帝国に戦争を仕掛ける。それなら話は納得がいく。しかし何故同盟関係になっているのだ。何故、王国が宣戦布告されているんだ。分からない。分からないことが多すぎる……。とにかく帝国にちょっかいを出すのは危険だ

 

「王国の歴史においてアインズ・ウール・ゴウンなる人物がエ・ランテル近郊を支配していた史実はなくこの要求の正当性も当然ない」

 

そうだ!そうだ!あの都市には我社の建物が幾つもあるんだ、奪われてなるものか!

 

「狂人の戯言ということですな」

 

「恐らく帝国は毎年攻め入るネタに困ったのでしょう」

 

「どうでしょう……」

 

戯言は正解だがネタに困って空想のナザリックを作り出したというのは間違いだな

 

「しかしその名前はどこかで聞いたことがありますな。ストロノーフ戦士長殿?」

 

「私を助けてくださったマジックキャスター殿で間違いないでしょう」

 

「発言をお許しください。彼の皇帝の宣言を受け入れるのは困難。故に戦争しかあるますまい」

 

それは……愚策だな。プレイヤー相手では分が悪すぎる。まぁそれを判断するだけの材料を持っているのはこの場では戦士長だけだろうし、無理もないか。

 

その後も戦士長の必死の訴えも虚しく、戦争の火蓋は切って落とされた



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王国対帝国

カッツェ平野で王国と帝国の兵士が睨みあっている。例年ならば既に帝国が攻め込んで来ているはずだというが……。恐らくは今年から参戦したアインズ・ウール・ゴウンによる影響だろう。となれば初撃はド派手に一発かましてくるのだろうか

 

「動きがありました」

 

帝国の門が開き……あれはデスナイトか。随分な数を使役しているようだな。まぁ雑魚が何匹集まったところで余り戦力に変わりはないが、彼ら王国兵にとっては一匹でも相当な脅威になるだろうな

 

『メッセージ:敵の正体が掴めました。恐らくはアンデットの不死王モモンガである可能性が極めて高いかと』

 

まさかギルド長その人とご対面とは……。しかし彼は生粋のマジックキャスター。近接戦に特化した部下を数人送り込めばお釣りが来るだろう。しかし相手の仲間が何人こちらに転移してきているか分からない以上余り敵対は避けたいが、果たして……

 

「な、なんだあれは!」

 

王国兵が魔法詠唱を見てどよめきをあげる。あの術式は恐らく召喚系の超位魔法だ。一体どのモンスターを召喚するつもりなのか……。なんか凄い楽しそうな気配が伝わって来るし、中々に素晴らしいモンスターなのだろう。こっちまでドキドキしてきたな

 

「イア・シュブニグラス」

 

……は?

 

黒い風が左翼の兵士の間を吹き抜けていく。次の瞬間には7万の兵士が崩れ去った

 

あの魔法はその派手さ故にユグドラシル時代も人気の魔法の1つではあったが……。あれを現実で使うとは……

 

直後空中に巨大な黒球が現れ、その重さに耐えきれなかったかのように球は地面に落ちて破裂した。中から溢れ出した黒液は倒れた兵士達を飲み込んでいき……

 

五体の黒い仔山羊が召喚された……。

 

上部には触手が生え、身体には幾つ物口があり、足は羊というなんとも気持ち悪い、黒い肉塊が誕生したのだ

 

モモンガさんも随分と興奮しているようだ。ユグドラシル時代では一度に二匹召喚できたら大成功だったからな……。だからといって現実でそこまで嬉しいかと言われれば犠牲となった7万の命の前にはそういう感情は抱けないな……

 

その後の戦いは戦いと呼ぶには烏滸がましい蹂躙劇であった。24万いた兵士達は今や殆どが死体となってしまった。次に踏み潰されるのは我々兵站部隊のようだ。

 

「だがレベル90やそこらのモンスターに踏み潰される訳にはいかないな……」

 

「了解しました!」

 

そう言うと護衛に着いていた部下が二人一斉に攻撃を仕掛け、黒い仔山羊は呆気なく地面に沈んだ

 

「二人とも助かったよ」

 

「護衛としての任を果たしたまででございます」

 

「うん。では私も兵站部隊とは言えども王国兵士としての忠義を見せねばなるまい」

 

「リバース・タイム!」

 

黒い仔山羊達が次々と崩れていき、その後には生贄となった兵士達が大量に横たわっている

 

「トゥルー・リザレクション!」

 

倒された兵士達が次々と復活していくのは、正直この世の光景とは思えないな……。神が見たとしたら大激怒は免れない行為だ

 

「トュル・オーダーライン!」

 

遠くまで逃げ出した兵士達を含め総勢24万の兵が元通り最初の配置へと戻っていく

 

そして最後に……

 

「コントロール・アムネジア!」

 

記憶消去で彼らのトラウマはきれいさっぱりリセットということだ

 

「我々は一体……」

 

混乱している兵士達の前に出て状況を説明することにしよう

 

「あなた方は負けたのです!」

 

「なんだと……!」

 

「誰だお前は!」

 

「私は今回の兵站を任されておりますスター商会会長のホースです」

 

「貴様一体何をした!?」

 

「だから言っているでしょう。あなた方は負けたのです。そして私がこうして蘇生して差し上げたのですよ」

 

「誰かあの狂人をつまみだせ!」

 

 

王国兵の前にスクリーンをだし、先程までの惨状を投影する

 

「どうだ?思い出したかな?まぁ思い出されても困るんだがな」

 

見ると兵士達の足が小鹿宜しく震えている

 

「覚えていなくとも君たちを殺した者の姿は魂が覚えているだろう!」

 

「分かった!分かったからこの映像を止めてくれ!」

 

要望に応え直ぐにスクリーンは閉じる。私は余りサディスティックな趣味はないしな

 

 

 

「そろそろ良いかな?」

 

絶望のオーラ全開のモモンガがこちらへと尋ねてくる。ここでまた殺されても堪らないし、彼らには最高の防御魔法を付与しておこう。これなら一度死んだくらいでは死なないだろう

 

「なんの御用ですかな?不死王殿?」

 

「下らない言葉遊びをする気はない。貴様は何者だ」

 

「その絶対的強者の態度が貴様の欠点のようだな」

 

「なんだと?」

 

「そう怒るなよ。そんなに短気ではとてもではないがギルド長なんて務まらないぞ?」

 

「私は魔導王であり決してギルドなどというちっぽけな存在の長ではないのだが?」

 

「そうか……。皆で作り上げたギルドをちっぽけ呼ばわりとは……ベルリバーさんが聞いたらなんと思うか……」

 

「何故その名前を……!お前は一体…… 」

 

「そういえば質問に答えていませんでしたね。私はスター商会会長のホースと申します。以後よろしくお願いします」

 

「スター商会……ホース……プレイヤー」

 

おっ?気づくか?

 

「まさかギルド紋STAR☆のギルド長馬ん魔さん……」

 

「バレたら仕方ないよね?」

 

そう言って死神のフードと馬の骨のマスクと大鎌を装備する

 

「まさか人間種が死の獣の振りをしていたというのか……」

 

「そういうことです。おめでとう、あなたが初めて私の秘密にたどり着いたプレイヤーですよ。ついでにもう一つ秘密を暴いてくれませんか?」

 

「もう一つ?」

 

「スター商会がここまで力を蓄えているこの現状。やり口。ユグドラシルで見覚えがあるんじゃないですかね……?」

 

「…………!?いや、まさか……そんなことが…………有り得るのか……?死の獣がBIなどという……」

 

「おめでとう!これで私の秘密を全て暴いた唯一のプレイヤーになれましたね。非公式ラスボスに攻略して頂けるなんて感激の極みです」

 

緑色の淡い光がモモンから立ち上がり、直ぐに収まる。ユグドラシルでは見たことがないエフェクトだ……

 

「世辞はよせ。貴様がわざわざこの事実に誘導したのだろう。なにが目的だ」

 

目的か……。誰かにこの秘密を知って欲しかったのかもしれないな。信頼できる部下に囲まれていたとはいえたった一人で異世界の地で孤独だったんだ、やはり同郷のプレイヤーに哀愁の念を抱くのは自然な流れだろう。

 

例え相手が人間としての情を忘れたアンデットであってもだ。そもそも私の部下のアンデットはカルマ値が極善に設定されているからな。そこら辺の違いが精神に影響を与えているのかもしれない

 

「君たちがギルドの名を冠して行動しているというのに、我々だけ正体を隠して戦うのは卑怯というものでしょうからね」

 

「確かにその通りだ。しかし無闇に相手に正体を晒すのは愚策とも思えるが?」

 

「あなたには言われたくないですね。それに、相手が巨大異型種ギルドと巨大商人ギルドと分かればあなたがたも無意味な争いを仕掛けて来るとは思えませんしね」

 

「平和的かつ友好的な解決を望んでいると?」

 

「そういうことですね。どうですか?我々に服従するというのは?」

 

「冗談はよせ。たかが商人ギルドと中堅異型種ギルドの連合体に我々アインズ・ウール・ゴウンが負けるとでも?確かに君たちプレイヤーによって構成されていた攻略部隊は強かった。しかし……」

 

「かつて貴方に倒された1500人の中に討伐隊も入っていますからね。警戒する程ではないんじゃないですか?」

 

「その通りだ。彼らのドロップしたアイテムは非常に高価だったからよく覚えているよ」

 

そう、あの頃はまだ弱かった。私はユグドラシルが過疎化するにつれて、課金額も増えていき、皮肉にもプレイヤー減少に反比例するかの如く強くなってしまったのだ。課金アイテムによって……

 

「まぁそのプレイヤーという存在がギルド長たる私たちしかここにはいない。恐らく貴方のギルドから転移したのはあなただけのようだ」

 

「それはそちらも同じのようだな。ならば戦力は互角とはいかない。我々の方が上だろう」

 

「それはどうでしょうね?デスナイトや黒の仔山羊を連れ回して喜んでいる小山の大将よりは遥かに強い部下を揃えていますけどね」

 

「グレーターテレポーテーション!」

 

私の牧場で飼育している黒の仔山羊総勢10体を彼の前に転移させる。お互いに警戒しているからこそ、200mは距離を取って会話をしていたからこそできるショーでもある

 

「アインズ様お下がり下さい!」

 

「ここは我々が!」

 

どこからか現れたアルベドとデミウルゴスの指示により、次々と私のペットが倒されていく。階層守護者7人が揃ったようだ

 

「なんと愚かな……」

 

「下等種族が……!」

 

「貴方には死すら生温いでありんす」

 

とてつもない殺気を放つ階層守護者たち。まだこちらの力が分かって居ないようなので……

 

「死の軍勢!」

 

と唱えつつ実は部下のアンデットを大量に転移させる。といってもその数は100に満たない程度ではあるが、その見た目はエランテルの墓地で見たのと同じだ

 

「下級アンデット如きが幾ら束になったところで、所詮はゴミはゴミでありんす」

 

「脳みそが足りない下等種族に力の差を教えて差し上げましょう」

 

真っ先に武人であるコキュートスと、戦闘能力の一番高いシャルティア。そして激おこのアルベドがアンデットを屠らんと突撃してくる。

 

だが彼らの一撃は前列のスケルトン達に容易く防御され、意味を成さずに終わる。それもそのはずだ。彼らは驚いているようだが、これには種も仕掛けもない。単純に彼らの一体一体がレベル100であり、純粋に階層守護者と同等の戦力を持っているというだけの話だ

 

「バカを言うな!レベル100NPCを一体つくるのに幾らかかると思っているんだ!」

 

「20万あれば充分だと思うぞ。つまりこの軍勢は2000万くらいの価値がある」

 

「バカな……」

 

「ワールドアイテムを際限なく増えていくだけだし、余ったお金をちまちまNPCに入れてたらこうなってしまっただけのことさ」

 

「一体幾ら課金したんだ」

 

「平均して年に数千万入れてたからな……10年以上続けてるから……うわ……」

 

「億いってませんか?それ……」

 

「いってるね。知ってたけど目を向けないようにしてたんだよ」

 

「そんな頭のおかしいギルドがあったなんて……」

 

「絶望の中で敗北を知るといい!ナザリック地下大墳墓ならばいざ知らず、このなんの準備もされていない平野では物量こそが、力こそが全てだ!存分に戦いを楽しんでくれ」

 

『メッセージ:私は本部に帰る。彼らもワールドアイテムをここで使用する程愚かでは無いだろうけど、使用してきた場合は君たちに預けたワールドアイテムを躊躇わずに使用してくれ』

 

どの道押し切られて、彼らは撤退するだろう。私も居なくなったあの戦場で律儀に帝国を守る意味があるとは思えないしな




次回、アインズ様視点を挟んでから最終話になります。で1日2話投稿です

ご都合主義によりアインズ様の動きが微妙だと思います。普通のアインズ様ならこう動くんじゃね?とかあったらコメント貰えると嬉しいです。その他の感想もお待ちしています!


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集結に向けて

一体なにが起きているんだ……!

 

黒の仔山羊が倒されたときはプレイヤーが現れたのだろうと様子を見ていたが、現れたのはプレイヤーの中でも最も敵対してはならない存在だった。我々以外にもワールドアイテムを持ったプレイヤーがいることは考慮していた。しかしこれはその想定を遥かに超えている

 

階層守護者達が必死の攻撃を繰り返すも、アンデットの大軍の行進は止まる気配が見られない。魔法攻撃も物理攻撃も完全に防御されている。恐らくは前列は防衛に特化したアンデットなのだろう。今のところ反撃はされていないが……このままではジリ貧だ

 

「タイムストップ!」

 

やはり時間制御魔法の対策はされているか。ならば……

 

「リアリティー・スラ「ヴァーミリオンノヴァ!」

 

炎属性の攻撃魔法か……!

 

「ウォール・オブ・ヘル」

 

「地獄の壁……正しくあなたがたに相応しい防御魔法ですね?たしか貴方はアルベドさんでしたか?」

 

「アインズ様に攻撃を仕掛けるなど、この下等生物がぁ!身の程を知りなさい!」

 

「その言葉そっくりそのままお返ししましょう。我々の社長が兵站を務める王国兵に牙を剥くなど言語道断!その身をもって償いなさい」

 

こちらの情報は完全に把握済みということか……。しかしこの部下のNPCも相当に強い。このレベルの部下が本陣にはまだ何人も控えている。最早この場に勝ち目など一つも残ってはいない。あることにはあるが、今ここでこれ以上戦うことにはなんのメリットもない

 

「撤退だ!今すぐナザリック地下大墳墓へと帰還する!」

 

ナザリック全軍をもって敗退することとなるには……!

 

 

 

 

「申し訳ございませんアインズ様!私の立案した計画でこのような事態を招いてしまいました!この失態は命をもって償わせて頂きます!」

 

「よい、デミウルゴス。お前の考えた計画には私も賛同したのだ。それに今回の結果は決してお前達のせいではない」

 

「しかし栄えあるナザリックの歴史に敗北という形で泥を塗ったのは間違いなく私たちであります。どうか我々を罰して下さいませ」

 

「アルベドよ……確かに我々のギルドは負け知らずであった。だがずっと負けてもいたのだ」

 

「それはどういう……」

 

「我々が負けていなかったのは彼らが攻めてこなかったからに他ならない。彼はこの大墳墓では負けるかもしれないと言っていたが、恐らくは彼らが攻めてくれば勝つことはできないだろう」

 

「そんなことはございません!次こそ必ずや私たちが勝利を治めてご覧にいれましょう!」

 

「無理だ。奴らの戦力は桁外れだ。恐らく彼らが持つワールドアイテムも相当な数だろう。ワールドアイテムは全部で200種ある。下手するとその大半を彼らが所持している可能性すらあるのだ」

 

実際、彼の言う課金金額が本当ならば少なくともナザリックの5倍近い戦力を保持していると見て間違いない。どうやっても勝ち目など残っていないではないか……。攻め込まれたらこのナザリックは終わりだ。何としてでも和解して、同盟関係を結ばなくては

 

昨日までの帝国の立場が、今度はこっちが体験することになるなんて想像もしてなかった……

 

「至高の41人が一人ベルリバーさんは彼らのギルド出身だ」

 

「なんと……!」

 

「であれば、彼らと和解する道も残されている。なんとしてでも同盟関係を結ばなくてはならない。何としてでも奴らを探し出すのだ!」

 

「「御心のままに!」」




次でラストです


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ラスト!

言い訳は後書きでします。つまり言い訳しなくてはならない出来です


ギルド拠点の隠密の魔法を解除すると、直ぐに発見してくれたようで、早速使者が訪問した。使者といっても完全に使い捨てを覚悟したレベルのモンスターであったが

 

後日、人払いの魔法を発動した上で先の戦いがあったカッツェ平野のど真ん中で再び再開することとなった。今回は会談の場を設けたいということで、お互いに戦闘行為は禁止との約束の上での密会となった

 

「本日は我々のお招きに応えて頂いたこと、深く感謝する」

 

「いえいえ、私の方こそナザリック地下大墳墓を警戒して、このような場所に呼び出してしまったこと、謝罪致します」

 

「我々は今敵対関係にあるのですから警戒するのは至極当然のことです。お気になさらないでください」

 

「そう言って頂けると助かります。それで本日のお話というのは?」

 

「私は商人では無いので話術は得意ではありませんので、単刀直入に要件だけ述べさせて頂きます。我々はあなたがたと和解をした上で同盟関係を結ばせてもらいたい」

 

やはりそう出るだろうな。こちらとしても和解には問題はない。問題は……

 

「和解は私たちとしても願ったり叶ったりです。これ以上互いに疲弊するのは賢明とは言えませんからね」

 

「では同盟に関しては?」

 

「それはできかねます」

 

「理由をお聞きしても?」

 

「我々はカルマ値が極善なんですよ。私が望むのは異型種と人間種が共存できる世界なのです。あなたがたの様に一方を見下し、武力で踏みにじる様な行為はおいそれとはできかねます。人を殺すなとは言いません。王都での食糧確保も仕方の無いことなのだと同じギルド長として理解はしているつもりです」

 

「あなたは誤解をしているようだ。我々の目的も同じだ。異型種と人間種の共存する国をつくる。その為に今回だってエ・ランテルを占領しようとしたのです」

 

「その為には必要な犠牲であったと?」

 

「その通りです。支配者ならばそうした取捨選択をしなければならない。私はナザリックの繁栄のために……」

 

「支配者だから残酷でなくてはならないと言うのは正直独裁者と似た思考回路を感じますね」

 

「なんだと?」

 

「なぜあなたがた死の支配としてのロールプレイにそこまで拘るのか理解に苦しみます」

 

「それには止むに止めれぬ事情があるのだ」

 

「それは何十万もの命を楽しんで屠ることが出来るほどの理由なのですか?」

 

「私は楽しんでなどいない!」

 

彼が僅かに動揺したようだが、淡い緑色に発光し落ち着きを取り戻す。精神をコントロールしているのか……

 

「私には人の命に対する思いよりも黒い仔山羊の召喚の成功への喜びのが非常に強く感じ取れましたよ?」

 

「それは……そんなことは決して」

 

「アインズ様は死の支配者であらせられますのでそれは当然のことかと」

 

「彼はデミウルゴスさんでしたね?」

 

「えぇ、私の優秀な部下です」

 

「それがロールプレイの原因ですか?」

 

少しだけ逡巡したように見えた。実際にはアンデッドなので表情はないが、それでも僅かな同様があった気がする

 

「お前達、耳を塞げ」

 

「しかしそれではアインズ様の身を守る任務に支障が!」

 

「これは命令だ!」

 

「申し訳ございません。かしこまりました」

 

「ふぅ……」

 

いきなりどうしたんだ……?

 

「だから私は嫌だったんだ!」

 

!?

 

「そもそも何故俺が世界征服などということをしなければならないんだ!」

 

まさか世界征服を目論んでいたとは……。しかも誰かに命令されているのか?

 

「部下は異様に忠誠心高いし、発言一つ一つを深読みしてくるし!いったい何時俺が世界征服するなんて言ったというんだ!カルネ村助けてあげただけじゃないか!」

 

一通り暴露すると再び淡い光によって精神が沈静化されたようだ

 

「カルマ村を救ったのは打算があってのことではなかったのですか?」

 

「ないな」

 

即答かよ!

 

「ではあなたの世界征服を指示しているのは誰なのですか?」

 

「強いて言うならば部下たちだな……」

 

「は……?」

 

 

彼の独白を一通り聞くと、私は思わずこめかみを押さえた

 

「つまりあなたは部下に失望されるのを恐れる余り、オーバーロードとして支配者に相応しい行動を全力で研究ひ、部下達の勘違いを訂正せず、今に至っていると」

 

「その通りだ」

 

「偉そうに言わないで下さい。本当に情けなくなってきましたよ」

 

「そうは言っても私はあなたと違って元々はただの小市民のサラリーマンだったんですよ。いきなり担ぎ上げられてどうしろと言うんですか!」

 

「私だって同じ小市民ですよ。ただロールプレイが違ったのは幸いでしたが」

 

「現実でも人の上に立つあなたと私ではそもそも根本的な能力の差がありますよ……」

 

私も高々中小企業の専務ってだけなんだけどな

 

「どちらにせよ、あなたがやはり日本人だということは分かりました」

 

「理解して頂けて良かったです。いや、本当に」

 

「では私もその取引に腹を割って参加しなければなりませんね。君たちすまないが暫く耳を塞いでおいてくれないか」

 

「了解しました」

 

「うん。想像以上に私の部下も忠誠心高いかも知れませんから……失望されるのは防がなくてはなりませんからね」

 

「やはり知られたくない事があるんですか?」

 

「勿論。私はサドではないんですよ」

 

「どういうことですか?」

 

「かといってもノーマルでもない」

 

「……マゾなんですか?」

 

「如何にも!」

 

「誇らしげにそんなこと語られましても……。突然なんの話ですか?」

 

「実はこの会談の真の目的はですね……」

 

「真の……」

 

やはり私にも暫くの逡巡はあったが、やはり相手が腹を割った以上私も腹の内を晒さなくては無礼というものだろう……

 

「ナーベラルさんとお近づきになることです!」

 

 

 

相手の反応が中々返って来ない……

 

 

 

「……は?」

 

「いや、私は商人として直接物販を行うこともあるんですがね」

 

「確かに現地に立つことで得られる情報は多いですからね」

 

「冒険者のナーベさんに客引きで声を掛ける機会が何度かありまして……」

 

「あぁ…………」

 

「リアルであんな罵倒を受けたのは初めてでした!なるほど、自分は下等生物なのだなと!ナメクジだったのだと気が付きました!」

 

「ソウナンデスカ」

 

「はい!ですがナーベさんは余りお会いする機会がなかったので、ならば直接ナーベラルさんにお近づきになりたいなと思いまして!」

 

「ナルホド」

 

「アインズさん。いや、アインズ様!いや!お義父さん!ナーベラルさんとお近づきになることをお許しください!」

 

「ハイ」

 

「ありがとうございます!」

 

「はっ!?いや、ダメだダメだダメだ!貴様の様な変態に弐式炎雷んの作ったNPCを預けてたまるものか!」

 

あ、沈静化されたな……

 

「あなたが探している仲間のためにアインズ・ウール・ゴウンの名前を世界に轟かせたいという思いは理解しました。その為に建国が必須であることも。そしてエ・ランテルの住人を害すつもりもなく、英雄モモンを利用して平和的統治を目指していることも。私も商人としてエ・ランテルでは少なくない信頼を得ている。今回アンデットを使役した事でその求心力は多少落ちるでしょうが、市民の安全を保証する対抗勢力として、ナザリックの円滑な統治に貢献できるでしょう」

 

「待って下さい。エ・ランテルを占領するんですか!?」

 

「私が国王に打診しましょう。まぁ間違いなく反対する貴族など残っていないでしょうし、エ・ランテルは差し上げますよ」

 

「それは……ナーベラルが条件ですか?」

 

「会わせて頂けるならば嬉しいですが、別にそうでなくても構いませんよ」

 

「ではなにがあなたの望みですか?」

 

「同郷の友人かな」

 

「同郷の友人ですか……」

 

「あなたのことですよ」

 

「私ですか!?」

 

「私もあなたも本質では孤独なんですよ。私はこうして腹を割って話している今この時が非常に楽しいんです」

 

「それは……私もそうかもしれません」

 

「じゃあ決まりですね」

 

「本当にありがとうございます」

 

「こちらこそ」

 

お互いが固い握手を交わしたところで声がかかる

 

「アインズ様そろそろ耳を開けてもよろしいでしょうか?」

 

「社長、そろそろよろしいでしょうか?」

 

「そういえばそのままでしたね」

 

「また彼らには1から説明し直しですかね」

 

二人で苦笑しながら、お互いに部下への命令を解除した




無理やり完結させたという所が本音であり、自分でもこれはないなと思っています。が故に当初から感想欄で述べている通り、期待されると困ると。低評価になるだろうと。でも折角書いたから載せたかったんです。多分これ以上は自力では直せないから、感想とか貰って次回に生かそうと、思っていました。で、もしかしたら気に入ってくれる人も中にはいるんじゃないかな?とか思ってました。
思いつきで書き始め、大学を休み仮眠を取りながら徹夜で一気に書き上げた駄文に最後までお付き合い頂いたことに多大なる感謝をここに示します。「ありがとうございます」月並みの言葉でしか表せませんことお許しください。現在は「ようこそ実力至上主義の教室へ」を執筆及びプロット修正しております。今回の作品で指摘された点がどれだけ生かせるかがポイントだと思い頑張っております。今のところ納得のいく文であります。全て感想を下さった皆様のおかげです。重ねて感謝申し上げます。ではまたどこかの作品でお逢い出来ることを期待しています。その時は読者かもしれないし、筆者かも知れませんが……


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