物語の片隅で (カササギパルフェ)
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設定集1

あらすじに書いた通りです。無理だという方はお戻りください。


・ランドワーカー・ハロルド

 

「好きに生きりゃいい。お前の人生だ」

 

身長:198㎝ 髪型:黒色の長髪。腰まであり、一つくくり。 瞳:黒色 年齢:?

 

武器:木刀 誕生日:10月10日 趣味:甘味巡り、ギャンブル、読書

 

服装:シャツにズボンにベルト。赤い宝石の付いたフード付きマント。

 

好きな食べ物:パフェ、甘い物全般、酒

嫌いな食べ物:エビチリ

 

異名:『神殺し』『世界最低の大犯罪者』

 

懸賞金:『ONLY ALIVE』『LEAVE DESIRE(望むままに)』

 

能力:ヒトヒトの実〝幻獣種〟モデル:ぬらりひょん

 

◯概要

 

・常に気だるげな雰囲気をまとう男。見た目は20代後半だが少なくとも50年は生きている。

 

・50年前に護衛の兵士共々天竜人一家を殺害した〝神殺し〟。〝世界最低の大犯罪者〟として恐れられている。

 

・甘い物を取らないとイライラする。そして暇さえあればキセルを吹かすヘビースモーカー。

 

・ギャンブル好き。勝率は9割負け。

 

・放任主義だが面倒見はいい。

 

・『覇王色の覇気』の使い手。

 

・木刀で何でも斬る。その腕前は『鷹の目』さんが斬りかかりに行くくらい。

 

 

 

 

 

 

・リミゼ

 

「ぼくはヘタレな一般人ですよ?」

 

身長:170㎝ 髪型:黒色の短髪。右目が隠れる。 瞳:黒色 年齢:18歳

 

武器:ナイフ 誕生日:6月24日 趣味:手配書眺め、金品整理

 

服装:袖のないロングパーカー。黒縁眼鏡。

 

好きな食べ物:グラタン、お茶

嫌いな食べ物:ナマコ

 

異名:『無心殺鬼』

 

能力:なし

 

◯概要

 

・穏やかで礼儀正しい少年。その一方で切れやすく、怒ると口が悪くなる。

 

・お金に非常にがめつい。宝の目利きにも優れ、金勘定が早い。札さばきは銀行員並みに早い。

 

・殺気0で敵を仕留めるため『無心殺鬼』の名がついた。物騒だからあまり気に入っていない。

 

・得意な覇気は『見聞色』

 

 

 

 

 

・シエル

 

「自分勝手な〝正義〟なんて、〝悪〟と変わらないわ」

 

身長:154㎝ 髪型:白髪の短髪 瞳:赤色 年齢:14歳

 

武器:仕込み銃の番傘 誕生日:4月11日 趣味:食べ歩き、ブラッシング

 

服装:ウサギ耳の付いたパーカー。ショーズボンに黒タイツ。

 

好きな食べ物:飴、白米

嫌いな食べ物:苦い物全般

 

異名:『夜兎』

 

能力:なし

 

◯概要

 

・無表情気味だが小柄で可愛らしい少女。中身は『毒持つ肉食獣』。2年後に期待。

 

・毒舌家で大食い。非常に燃費が悪い。

 

・『武装色の覇気』が生まれつき強く、気を付けていないと勝手に発動する。

 

・異名の由来は戦場でぴょんぴょん跳ねる姿と、黒パーカーのウサギ耳フードから。

 

・ハロルド曰く「とある一族の末裔」。詳細は知らない。

 

 

 

 

 

 

・クラムチャウダー

 

全長:40㎝ 瞳:黄色 趣味:宝石集め、逆さまにぶら下がること、イタズラ

 

好きな食べ物:卵、ニンジン、血   嫌いな食べ物:肉

 

◯概要

 

・シエルに懐く『ラビットバット』。雌。

 

・デフォルメされた二頭身のウサギにコウモリの羽が生えている。

 

・昼でも活動できる。

 

・飛行能力は高く、ハロルドを持って飛行できる。それを利用して船を引っ張ることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メモ書きのようなものです。ちょくちょく内容が変わると思います。


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序章 神を殺した男

これから3話はオリキャラ紹介回です。


 

 この世界には〝天竜人〟と呼ばれる世界貴族が存在している。

 世界を創造した王たちの末裔である彼らは〝神〟とされ、傷一つ付けようものなら海軍から〝大将〟が軍艦を引き連れて報復にやって来る。

 そのため一般人はもちろん、自由を謳う海賊ですら天竜人の前には跪き、何をされようと―子供を殺されようと、仲間を奪われようと―逆らうことはできない。

 それが常識。絶対的な正義で、法律である。

 

 ―――それを守らないものは何時の時代にも存在するもので。

 

 特に古い記録は50年前。

 とある天竜人の一家が、護衛の兵士共々皆殺しにされる事態が起こったのだ。

 海軍が駆け付けた時には下手人は居らず、事件を目撃しているはずの人々からは何の情報も得られなかった。

 曰く、『消しゴムで消されたかのように、記憶に残っていない』。

 ならば映像電伝虫と思ったが、何故か犯人の姿は映っていなかった。

 気味の悪い爪跡を残して消えた犯人を海軍は天竜人の圧力を受けつつ、プライドを懸け、ついに匿名の情報のもと手配書の作成に成功した。

 写真は火皿に蝶の模型が付いたデザインのキセルと、それを持つ手のみ。

 通り名は〝神殺し〟。

 天竜人の要望で『ONLY ALIVE(生け捕りのみ)』とされ、懸賞金は『LEAVE DESIRE(望むままに)』である。

 

 名は、ランドワーカー・ハロルド。

 

 誰もが恐れる、『世界最低の大犯罪者』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん騒がしいな…何事だ?」

「ああ。何でもあの〝神殺し〟がこの島にいるらしいぜ?」

 

 とある島のとある酒場。

 窓から海兵の姿を見た客の疑問に、店主は答えた。

 

「神殺しってアレか。…あの、アレ」

「何だ知らねぇのか?天竜人を殺したクレイジー野郎だよ。…正直、胸のすく話だけどな」

 

 最後の方は囁くように言って、店主は悪戯っぽく笑う。

 客は片眼を閉じ、持っているグラスをゆっくり揺らした。カラン、と中に入っている氷がぶつかり合って音が鳴る。

 

「天竜人は嫌いか?」

「好きな奴なんていねぇだろ」

「じゃあ神殺しは?」

「そりゃあ英雄さ。新聞読んで、ガキながらザマァみろって大喜びしたぜ」

 

 豪快に笑う店主。―――その鼻先に、苦い匂いの煙がかかる。

 タバコでも吸い始めたかと思い、客の手元を見て―――激しい既視感に襲われた。

 雁首は黒字に金模様。火皿には羽を休めているかのような蝶の模型が付いており、持ち手は銀色で細長く、吸い口は白地に金模様。

 一目見て上物と分かるキセルだ。目が離せない。

 

「へェ…。ずいぶん、その、イイモン持ってんな」

「まぁな。ワノ国の名工が作ったモンさ。買えば1千万ベリーは軽くするな」

「1千万…そりゃスゲェ…」

 

 思っていたよりもはるかに高価な代物だ。しかし、値段の衝撃よりも脳裏にちらつく既視感の方が強かった。

 どこかで見たことある。―――そうだ、コレは。

 五十年前にばら撒かれた、天竜人一家殺害という世界を震撼させた号外。

 海軍が全力を尽くし、ようやっと公表された〝神殺し〟の唯一の手掛かり。

 今だ新聞に挟まれる手配書に載っているものと全く同じもの―――――。

 

「で、出たァああああ!!」

「おい、何の声だ!」

 

 思わず出た声は想像以上に大きかったのか、外にいた海兵達が店に入ってきた。

 

「か、〝神殺し〟だ。神殺しがいるんだよォ!」

「何!?どこだ!」

「ホラ、ここ―――」

 店主が指差す目の前のカウンター席。

 

 しかしそこにあるのは空になったボトルと水滴が滴るグラスだけで、人の姿はなかった。

 

「誰もいないじゃないか!」

「いや、逃げたんだ!裏に回れ、店周辺を固めろ!」

 

 上司と思わしき海兵が周りの部下に指示を出し、散らせると店主に近づく。

 

「オイ、本当に〝神殺し〟がいたんだな?」

「間違いねぇよ!手配書に載ってたものと同じモン持ってたぜ!」

「そうか。顔は?身長は?どんな奴だった?」

 

 店主は見たままの特徴を挙げようとした。――――が、できなかった。

 

 思い出せない。

 目の前に座って、言葉を交わしていたというのに。

 まるで消しゴムで消されたかのように、何も思い出せないのだ。

 

 どんな顔だったか。どんな声だったか。どんな姿だったか。男だったか女だったか、それすらも。

 

「―――ああ、やはりか」

 

 店主の困惑した様子に海兵は残念そうに顔をしかめると、口を開く。

 

「アレはそういう存在だ。どういう訳か奴は誰の記憶にも、映像にも残らねぇ。どんな目でも捉えることができねぇ。あのキセル以外、奴と認識できるものはない」

 

 海兵は吐き捨てるように言うと、店から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、この酒もらっていくぜ」

 

 

 海兵達が出て行ってすぐ、客―――ランドワーカー・ハロルドはカウンター下にある棚から1番高い酒を取り出した。

「アンタにとっておれは英雄だからな。感謝のしるしとしてもらっておく。いやー悪いね」

 フゥーと煙を吐き出しながら、ハロルドは何食わぬ顔で店を出た。

 そこで店主はあることに気が付いた。

 

 

 

「…あ、無銭飲食だぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、潤ったなァオイ」

 

 左手に酒瓶、右手にキセルを持ったハロルドは嬉しそうに大きな呟きを零す。

 

「しっかしお前らもしつこいねぇ。もう50年は経ってんのによぉ」

 

 すれ違う海兵達に対し、ハロルドは煙と共に溜め息を吐き出す。

 少し特徴を出せばすぐにやってくる。

 何年経っても変わらない対応だ。正直もう飽きた。

 

「あーあ。やっぱり情報なんざ送るんじゃなかったな。いやでも、金欲しかったしなァ…」

 

 手配書の名前と写真。

 あれは金を使い果たしたハロルドが、情報提供料金目当てに海軍に自ら送ったものだった。ちなみに情報1つにつき1億ベリー。ハロルドは2つ提供したからと勝手に金庫に入り、2億ベリーかっぱらっていた。ハロルドがいなくなった後の換金所は突然大金が消え、阿鼻叫喚になっていたという。

 

 

 何度目かの煙を吐いたところで―――右腕を掴まれて路地裏に引っ張り込まれた。

 

 

「あ?…何だ、お前らか」

 

 そこには、二人の人物がいた。

 

 一人は右目が隠れた黒髪の少年で、眼鏡越しにハロルドを見つめる目はとても厳しい。

 

 もう一人はウサギ耳の付いたフードを被った白髪の少女である。こちらも少年同様ハロルドにジトっとした目を向けている。

 少女の肩にはコウモリの羽をもつ、2頭身にデフォルメされたウサギのような生物が乗っており、動物らしかぬ冷たい視線を送っている。

 

「何だ、じゃないですよ。これじゃ出発できません」

「ハルちゃんずるい。一人だけ海軍と遊んで」

「シエルちゃん、そっち?そこなの?」

 

 はぁ、と少年は溜息を吐く。

 

「海軍からかったりしたらお尋ね者だよ。そうなれば賞金稼ぎ稼業も終わりだよ。収入源丸々なくなるよ」

「大丈夫。リミゼなら私たちを養えるって信じてるから」

「何で僕だけ働いてるの。絶対嫌だからね」

 

 リミゼの返答にシエルは小さく舌打ちした。リミゼ達にとっては慣れた反応であるため、スルーされているが。

 

「ハルちゃん、私ドライフルーツパフェ食べたいからおごって。それで今回の事はチャラにするから」

「あ、いいね。じゃあぼくは海獣ステーキで」

「キキキッキキキ!」

「はっ倒すぞクソガキ共」

「「いいからおごれ」」

 

 二人はハロルドの腕を掴むと表通りに引っ張り出した。

 その様子、その後の騒がしさを、島民も海兵も気にすることはない。

 

 誰の目も気にせず騒ぐ彼らは、今この島の中で一番〝自由〟を謳歌していた。

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドワーカー・ハロルドは捕まらない。

 どれ程必死に探しても、彼はするりと通り抜けていく。

 もし、あなたの隣でキセルを吹かす者がいたら。

 それは、彼かもしれない。

 




終わり方雑だなぁ……。


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序章 NO,2 〝無心殺鬼〟

「すいません。これもお願いします」

「はいよ。それにしてもすごい量だねぇ。大丈夫かい?」

 

 食料が大量に詰まった4つの袋を見て、店員は購入者の少年にそう尋ねた。

 店員の問いに、少年は笑顔で答える。

 

「大丈夫です。鍛えてますから」

「あら。頼りになるねぇ」

 

 袋を受け取った少年は「ありがとうございました」と言って頭を下げると、店から去っていった。

 

 

 

「まだ若いのにあんなに礼儀正しいなんて…。お前も見習いな」

「うるせーババア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドラインに存在する島、ノドカーナ島。

 その名の通り平和でのほほんとした島であり、島民たちもまた穏やかな気質である。

 

 まぁそんなこと、通りすがりの海賊にとってはどうでもいいことなのだが。

 

 平穏な島に鳴り響く一発の銃声。おそらくこれは、平和な時間の終わりを告げる音。

 音に反応した島民たちが向いた先。そこには大勢の屈強な男たちがいた。

 その中心にいる二メートル近い、大きな大きな唇をした大男が、ニヤリとした笑みを浮かべて言った。

 

「奪ってこい。野郎ども」

 

 船長の命令に後ろに控えていた部下たちが、声を上げて島民たちに襲いかかる。

 

「キャアアアアア!」

「おいやめろ、これだけは!」

「痛デェ…痛テェよォ…」

 

 海賊たちは奪う。食料や金になりそうなものから―――――命まで。

 中には、命よりも大切な宝物も、彼らは平気で奪っていった。

 悲鳴と血、略奪を楽しむ笑い声が飛び交う。

 そんな中、海賊が来たことを知らせようと命からがら逃げだした島民の一人が、まだ襲撃を受けていない街から一人の少年がやって来ることに気がついた。

 

「あ…きみ、逃げなさい!海賊がすぐ近くまできているぞ!」

 

 両手いっぱいに食料の入った買い物袋を提げた少年は、その言葉に目を丸くする。

 

「あー…やっぱり。あの、ちなみに聞きますけど、船長の顔って見ました?」

 

 突然の質問に「はぁ?」と間の抜けた声を上げる。呆気に取られる島民の前に、少年は袋を地面に置き懐から紙束を取り出した。

 

「今はこれだけしか持ってなくて…。この中にいますかね?」

「え、ああ。…ってこんなことしている場合じゃないだろう!」

 

 差し出された手配書を読み込もうとして、我に返った島民は少年に対しツッコんだ。この状況で手配書を見せるなどどんな神経をしているのか。

 

「うーん誰かな…。この『修羅帯び』とかだったらいいのに」

「何を言っているんだ!早く逃げるぞ!」

「誰から逃げるって?」

 

 見れば、島を襲っていた者達を引き連れて、大きな唇を揺らしながら近づいてくる男がいた。その光景を見て、島民の顔が引きつる。少年は手に持つ手配書をめくっていた。

 

「うーん。残念」

 

 手配書をしまい、海賊たちに向かって歩き出す少年。

 その声には落胆の色がにじみ出ていた。

 

「『大口』は4千5百万ベリー。惜しいんですよ、せめてもうひと声は欲しいです」

「はぁ?何の話だ」

 

「だって―――うちの子の食費はその程度じゃまかなえないんです」

 

 ドスン!と重い一撃が入った音が響く。

 静かに道を歩いていた少年はそのまま―――一切の殺気なく『大口』の腹に拳を叩きこんでいた。

 

「お、お頭ァ!?」

 

 白目をむいてばったり倒れる自分たちのトップに、部下たちが悲鳴を上げる。

 あんな、見るからにひ弱そうな子供に一撃でやられたことに、驚きを隠せなかった。

 

「大人しくしてくださいね」

「は―――――げぼふッ!」

 

 慌てふためく部下の一人を、いつの間にか取り出していたナイフの柄尻で昏倒させる。

 まるで日常の延長線上にいるかのような、流れるような動作であった。

 得体のしれないものを見るかのような視線を受けながら、少年はにっこり笑った。

 

「ぼく―――賞金のかかっていない人に時間を使うの、嫌いなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員、かな」

 

 島民たちの協力を得ながら、縛り上げた海賊たちを船に乗せるという作業を終えて、うんと伸びをする。

 

 ―――その様子を、物陰から見る一つの影があった。

 

 船番たちも少年にやられてしまったが、一人だけ魔の手から抜け出した者がいた。

 息をひそめ、無防備にさらされた背中に銃口を向ける。

 引き金に指をかけ、後は引くだけ―――――。

 

「遅いです」

 

 振り向くと同時に何かが投げられる。

 投擲用のナイフは―――――一部の狂いなく銃口に突き刺さった。

 驚くあまり一瞬、少年から目を離してしまう。

 そして―――――暗転。

 

 

「よし、今度こそ全員」

 

 最後の一人を縛り上げ、船の縁に腰掛ける。

 ぼんやりと海の向こうを見ていれば、カモメを掲げた船が1隻やってくるのが見えた。

 待ちに待った船の登場に、少年―――リミゼは笑顔を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドラインを駆け抜ける1つの噂。

 殺意を感じさせず、そして人を傷つけることに何の躊躇を見せない人物がいるという。

 

 ついた名前が〝無心殺鬼〟。

 

 高額な賞金首も簡単に捕まえるほどの実力者。

 その通り名を聞く者は、さぞ心無き機械のような人物なのだろうと夢想する。

 実際は―――――。

 

「あ、これもお願いします」

 

 礼儀正しい、穏やかな少年だったりする。

 

 

 今は、まだ。



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序章 NO,3 〝夜兎〟

 とある島の高台で、1人の少女と1匹の動物がくつろいでいた。

 

「気持ちいい?クラムチャウダー」

 

 少女の問いかけにウサギの体にコウモリの羽を持つ―――〝ラビットバット〟のクラムチャウダーは「キキッ」と嬉しそうな声をあげる。

 本日は快晴。暖かな日差しと少女のブラッシングを受けてクラムチャウダーの胸中は幸せで満ちていた。

 ―――それをぶち壊す無粋な者が現れなければ。

 

「お嬢ちゃん。こんなところで何しているんだい」

 

 声をかけてきたのは見るからに怪しい男。振り向いた少女の可愛らしい顔立ちと、珍しい動物を見てその顔を歪ませた。

 

「お嬢ちゃん。おじさんと一緒に来ないかい。いい所に連れて行ってあげるよ」

「嫌。お前臭いもん」

 

 無表情、冷淡な声でそう言われた男の胸にグサッと何かが刺さる。眉をひくひくさせながらも、少女に話しかける。

 

「そんなこと言わずにさ、一緒に行こうよ。―――おじさん達と一緒に」

 

 男の後ろからぞろぞろやって来たのは、見るからに悪人とわかる連中だった。背も体格も、少女とは比べものにならないくらい大きい。

 一端の口をきいていたが、流石に怯えて何もできないだろう。と、男―――人さらいのボスは高をくくっていた。 しかし、少女は。

 

「嫌だって言ってるでしょ。頭悪いのかクズが」

 

 先ほどと変わらない無表情に淡々とした口調。しかも舌打ち付き。空に浮く黒いウサギ(?)が「キーキキキキッ!」と笑っている。

 

「調子乗ってんじゃねェこのクソガキァ―――!」

 

 ついに切れた人さらい集団は、各々の武器を持ち少女に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「だめよ、クラムチャウダー。お腹壊す」

 

 血を吸うべく首筋に噛みつこうとしたところで、少女―――シエルに制止されたクラムチャウダーは了解の鳴き声をあげると、シエルの肩に乗っかる。

 

「まったく。ゴミのような時間をすごしたわね」

 

 差した番傘を肩にかけ、シエルは高台を後にした。

 

 

 高台にやって来た島民が死屍累々の現場を見て悲鳴を上げるまで、あと数分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 売店で買った飴を舐めながら、シエルは鼻歌を交えながら街を散策していた。傘をくるくる回しながら歩いていれば、肩に乗っていたクラムチャウダーが「キキッ」と声をあげる。

 

「どうかしたの?」

 

 肩から飛び立ったクラムチャウダーは少し進んでは振り向き、また進んでは振り向く。その行動に首を傾げるが、少しして真意を察した。

 クラムチャウダーの耳は非常にいい。人間では聞こえない音を拾い、それをシエルに伝えようとしている。

 とりあえず行ってみようと、シエルはクラムチャウダーの後を追った。

 

 

『もうすぐ始まりますよ~!我こそはという人はどうぞ参加を!もうすぐ締め切りで~す!』

 

 司会と思わしき女性がマイクとピザを手にアナウンスするのは、どうやらピザの大食い競争の参加者を集うための様だ。

 

「ピザ、大食い競争…。つまりは食べ放題?」

 

 ぽつりと零れる呟きにクラムチャウダーはコクコクと頷く。

 シエルは無表情ながらも目を輝かせると、司会の女性に向けて若干興奮気味に手をあげ声を張った。

 

「参加します!」

 

 

 

 

「食費も浮いて、稼げるなんて。やっぱり大食い大会はいいわね」

 

 ありがとう、と告げればクラムチャウダーは笑い声をあげる。

 ぶっちぎりの一位を獲得したシエルは、賞金として100万ベリーを受け取った。

 思わぬ収入に気分が上がる。

 何としてでもあのクズから守らねば。という決意をした時だった。

 

 周囲を屈強な男たちで囲まれる。

 

 状況を察し、「またか」と内心で溜息を吐いた。

 どうにも一人でいると絡まれやすい。小柄な少女ということで人さらいに狙われたり、クラムチャウダーを目当てに襲ってくることもある。

 

「ねぇお嬢ちゃ―――――ゲブッ!」

 

 言い終える前に腹に拳を叩きこむ。目的が何かは知らないが、敵なのは確実なのだから容赦も躊躇もいらない。全力で叩き潰す。

 

「てめ、おとな―――――ブッ!」

 

 何事かを言おうとした奴の顔面を踏んで、近くの民家の屋根まで跳躍する。

 シエルは男たちをゴミを見るような目で見降ろすと、冷たく言い放った。

 

「いい加減にしろよロリコン共。今日で2回目だろーが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドラインで活動する賞金稼ぎ、〝夜兎〟。

 見た目は小柄で可憐な少女だが、その中身は野獣と言っても過言ではない。行動を共にしている〝無心殺鬼〟には「毒持つ肉食獣」と称されている。

 外見に惑わされてはならない。

 侮ってしまえば最後、ウサギの強烈な身体能力に叩きのめされてしまうから。

 

  

 




これでキャラの紹介話は終わりです。次回からは原作キャラと関わります。


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小話いろいろ詰め合わせセット
白ひげと妖精


時系列はエースが白ひげを「オヤジ」と呼ぶようになった頃です。


 グランドラインを航海している時に稀に起こる、1つの不思議な現象。

 船に積んだ食料、金品、日用品が少しずつ姿を消していき、最後には何も残らない。そんな現象が海賊、海軍、一般人の船問わず確認された。

 人々はこれをイタズラな船の妖精〝ブルーマン・オブ・ザ・グランド〟の仕業とし、天候と同列に気を付ければならないものとして恐れてた。

 

 ―――――その正体とは、はたして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドライン後半の海〝新世界〟。

 めちゃくちゃな海域にもかかわらず、今日は穏やかな風と波だった。

 時刻は昼。朝に食べたものを消化し、空腹になる時間帯。

 最強と名高い〝白ひげ海賊団〟の船員もまた、空になった腹を満たすべく昼食をとっていた。

 コックはひたすら料理を作り、他のクルーはひたすら食べる。

 

「なぁ、ここにあった肉知らねぇ?」 

 

 談笑を楽しむ声で賑わう中、あがった1つの疑問。これがきっかけだった。

 声をあげたのは最近白ひげの〝息子〟になったエースである。―――――その言葉に、ピタッと全員動きを止めた。

 

「…聞くよいみんな。誰か食ったか?」

 

 マルコの言葉に全員が首を横に振る。やはりか、と思わず顔をしかめた。

 

「誰か貯蔵庫の物がなくなってないか確認してこい!おれはオヤジに言ってくるよい」

 

 尋常ではない空気にエースは目を白黒させる。何がどうなっているかわからなかった。

 

「みんな!急にどうしたんだよ!?」

「エース。お前〝ブルーマン・オブ・ザ・グランド〟って知ってっか?」

 

 戸惑うエースにサッチがにやにや笑いながら聞いてきた。

 

「ブルーマンって確か、イタズラ好きな船の妖精だろ?それがどうかしたのか?」

 

 その存在なら、エースがまだスペード海賊団の船長だった時に聞いたことがあった。

 あらゆるものを取っていってしまうイタズラな船の妖精。同じ船の妖精である〝クラバウターマン〟と違い船乗りに嫌われている存在だ。ここ数年は出没したという話は聞かないが。

 エースの「会ってみたい」という発言に仲間からツッコミを貰ったのは良い思い出である。

 

「まさか、いるのか!ブルーマン!」

「多分な。もしかしたらもう逃げてるか―――いや、そんなことないな」

 

 サッチは近くにあった何も乗っていない皿を持ち上げる。その皿の上にはさっきまで確かに料理が乗っていたはずなのに、いつの間にかなくなっていた。

 

「いい機会だ。お前も知っとけ。―――ブルーマンは妖精じゃなくて妖怪だってことをな」

 

 

 

 

 

 マルコからの話を聞き、白ひげ海賊団船長―――エドワード・ニューゲートは愛用の薙刀を手に、甲板で仁王立ちしていた。

 背中に息子たちの視線を受けながら大きく息を吸い、叫ぶ。

 

「コソコソしてないで出てこい、アホンダラァ!!」

 

 それはまさしく咆哮だった。

 白ひげの声は大気を震わせ辺り一面に大きく響いていく。グラグラの実の能力を使ったのではないか、と思わせるくらいの迫力だった。

 

 しん、とした中で―――――気だるげな声があがる。

 

「いい歳こいてギャーギャーギャーギャー喧しいな、白ひげ」

 

 いつの間にか、船首に一人の男が立っていた。

 声に違わず気だるげな雰囲気を纏う男は意外と若く、20代後半といったところか。白ひげに睨みつけられてなお酒を煽る姿はどこまでも緊張感がない。

 

「久しぶりだなァ…アホンダラァ!」

 

 男の登場に白ひげは笑みを浮かべると、覇気を纏わせた武器を横薙ぎに払う。

 迫り来る凶刃に―――――男の体は真っ二つに分かれてしまった。

 

「はぁ!?」

 

 思わずエースの口から驚いた声が零れる。

 覇気は実体を捉える力だ。仮に相手がロギアの能力者だとしても、覇気を纏った攻撃は通る。白ひげの一刀は確かに男を2つに分けた。だが、男の体からは血も臓物も出ず、分かれた上半身がいまだに空中に浮遊している。

 考えられることは、白ひげの攻撃を見切りタイミング良く『能力』で躱したということ。

 とにかく男は、世界最強の海賊の一撃を難なく受け流したのだ。

 

「そう驚くな。幻に攻撃したところで意味がないことくらいわかるだろ」

 

 真っ二つになった体が消えたかと思うと、横から気だるげな声があがる。見ると、船の縁に男は腰掛けており、何食わぬ顔で酒を飲んでいた。

 再度振るわれた薙刀が男の体を貫くが、またもや紙を破るかのように体は崩れ、消えていく。

 次に現れた場所は白ひげの真後ろだった。大上段に構えられ振り下ろされた薙刀に、ニヤリと笑った男は腰に差していた木刀で受け止めた。

 

 瞬間。大気が震え、波が荒れる。空を浮遊していた雲が割れた。

 

「うぉおおおおお!?」

 

 見えない力で押されたかのように、傍で見ていた船員たちが吹き飛ぶ。気絶する者も何名かいた。空を飛んでいた鳥が海に落ちる音が遠くから聞こえる。

 

「〝覇王色〟同士のぶつかり合いだよい…」

 

 持って行かれそうになる意識を引き止めながら、マルコは呟く。

 王者同士の戦いに、辺り一面は支配される。

 どのくらいそうしていただろうか。不意に男が口を開く。

 

「…白ひげェおれ達がやり合うにはここじゃ狭すぎる。もうやめとこーぜ」

「グララララ…そうだな。よし、引け」

「いやお前が引け、クソガキ」

「お前が引け、アホンダラァ」

「何ガキみてーなこと言ってんだ。いいから引け」

「誰がお前みてぇな奴の言うこと聞くか。さっさと引きやがれ」

「ふざけんな。大人になれ。おれはお前の言う通りに動くなんざ絶対嫌だ」

「いつまでやっているんだよい!もうやめてくれオヤジィ!」

 

 愛する息子の要望により大人しく覇気を納める白ひげ。それにより男が放っていた覇気も霧散する。

 重苦しい圧が消え、波が穏やかさを取り戻していく。

 

「なぁオヤジ…何者なんだ、その人」

 

 呆然とした口調のエースに白ひげ笑って男のことを話す。

 

「こいつはハロルド。おれの古いダチだ。ハロルド、あいつはエース。おれの新しい息子だ」

「あぁ。そういやそんな話あったな。マジだったのか」

 

 流れるような動作で男―――ハロルドは取り出したキセルに火をつけて吸い始めた。

 火皿に止まる蝶の模型を見た時、エースは既視感に襲われた。

 

 

 記憶は幼少期にまで遡る。

 あれはまだ、ルフィがコルボ山にやってくる前の話だ。

 脇に除けられた手配書の一番上。その手配書は他のものと比べ違うことが2つあった。

 1つは写真。手配書に載る写真は顔写真のはずだ。だが、その手配書に載っている写真はキセルと、キセルを持つ手のみだった。

 もう1つは賞金額。懸賞金はその人物の実力、危険性を表す目安であり、どんな大物にもちゃんとした額が設定されている。しかし、手配書の数字が書いてある部分には『LEAVE DESIRE』の文字が書かれていた。

 どういうことだと近くで新聞を読んでいたダダンに尋ねると、彼女は吐き捨てるように教えてくれた。

 

「そいつは昔天竜人っつー世界貴族を殺したイカレ野郎さ。世界は何よりもそいつの身柄を欲している」

 

 世界貴族だの天竜人だの当時のエースはよくわからなかったが、自分と同じで世界に望まれていない存在だということは何となくわかった。

 改めて手配書を見る。

 火皿に蝶の模型が止まるキセル。

 通り名は〝神殺し〟。

 名前は―――――ランドワーカー・ハロルド。

 

 

 あれから何年も経ったが今でも町で手配書を見かけるし、新聞にも一番上になるように挟まれている。

 その手配書に載っているキセルと、目の前に立つ男の持つキセルがぴったりと重なった。

 そして先ほど白ひげは男を「ハロルド」と呼んだ―――――。

 

「か、神殺しィイイイイイ!?」

 

 思わず叫んだエースに、白ひげは声高らかに笑った。

 

「そうだ。こいつはランドワーカー・ハロルド。知っての通り天竜人を殺害した〝神殺し〟で―――ブルーマン・オブ・ザ・グランドの〝正体〟だ」

「は…はぁああああああ!?」

 

 

 

 




キャラクターの口調って難しい…。


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家族と同居人

 〝ブルーマン・オブ・ザ・グランド〟は100年以上前から続く恐怖の現象だった。気づかぬ間に侵入して、気づかれないままものを盗っていって、いつの間にかいなくなっているため、対策を取ろうにも取れず船に乗る者たちは歯噛みするしかなかった。―――それは、白ひげ海賊団も同じだった。

 

「おい、またなくなってるぞ!」

「ウソだろ!?鍵はちゃんと閉めたぞ!」

 

 ただ他の船と違い、船長の白ひげはこの現象を引き起こせる人物に心当たりがあった。

 随分昔に出会った、ぬらりくらりと捉えどころのないあの男。

 今では世界中に名を知られている、〝世界最低の大犯罪者〟。 

 

「出てこい、ハロルドォオオオオオオオオ!!」

 

 パニックの中、叫ばれた名前。

 突然のことに凍り付く船員たちに―――目を疑う光景が飛び込んできた。

 甲板の中心に黒い霧が発生し、そこから1人の男が現れた。酒瓶を片手に現れた男は年若く、20代後半といったところか。

 空になった酒瓶を海に捨てると、男は気だるそうに口を開く。

 

「人の名前を大きな声で叫ぶんじゃねーよ。クソガキ」

 

 そう言って男―――ランドワーカー・ハロルドはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と久しぶりじゃねぇか。何年ぶりだ?」

「さーなぁ。忘れた」

 

 食堂から甲板に移動して食事を再開させる白ひげ海賊団。

 ハロルドもまた、白ひげの隣で酒と食事を楽しんでいた。その勢いに遠慮はない。

 

「それにしても、お前のところはいつ来ても人で一杯だな」

「当たり前だ。全員おれの愛する息子だぜ?死なせるわけねェだろ。…お前は相変わらず1人か?」

「あー…いや、何かいた」

 

 ハロルドの言葉に白ひげは目を丸くする。それほどまでに予想外な返答だったのだ。この男からそんな答えが返って来るとは。空から槍でも降りかねない。いや、ありえるだろう。何故ならここは〝新世界〟なのだから。

 

「グララララ!ついにオメェも〝家族〟を持つようになったか!」

「家族じゃねーよ。勝手について来てただけだ。まぁ…同居人みたいな?」

「そうかい。…で、その同居人は?」

「あ?知らねーけど」

 

 会話を聞いていた者たちの動きが止まった。それに対しハロルドは気にせず続ける。

 

「起きたらイカダの上で漂流しててなァ。邪魔になったから船を奪って海に流したってところだろうな」

 

 何でもないような顔で言っているが結構ヘビーだ。裏切りと取れる行為ではないのか。

 

「何だァ捨てられたか」

「まぁな。どうでもいいけどよ」

『いいのかよ!?』

 

 ユニゾンしたツッコミを喰らい、ハロルドは目を瞬かせる。

 

「あ?何が?」

「いや、いろいろ!」

「裏切られたも同然じゃねーか!」

 

「裏切りじゃねェだろ。別にお前らみたいに親子の杯交わした訳じゃねーし。言ったろ同居人だって。邪魔になったら捨てるさ」

 

 本当にどうでもよさそうだった。

 下手をすれば死んでいたかもしれない仕打ちを受けたというのに、その表情や声音には怒りも悲しみもなかった。

 強いていうなら、諦観だろうか。

 せいぜい「イカダでグランドラインはきついな」くらいである。

 ―――――そう、思っていた。

 

「…何か来るな」

 

 ハロルドの視線の先に、豪快な水飛沫を立てながら近づく何かがあった。

 双眼鏡で確認していた船員が戸惑ったような声をあげる。

 

「船と…ウサギか?」

 

 中くらいの船がすさまじい勢いでやってくるのは、船を引っ張る生物がいたからだった。大きなコウモリようなの羽をはばたかせているが、どこからどう見てもウサギである。

 あと数メートル、というところで船から1つの影が飛び出した。赤色の番傘を携え〝モビー・ディック号〟の縁に降り立った人物に船員たちは警戒し、構えを取る。

 ウサギ耳の付いたフードを被っているうえに俯いているため顔はわからない。

 その俯かせた顔が露わとなった時、船員たちは一瞬動揺した。

 

 フードから覗く真っ白な髪と深紅の瞳。侵入者の正体は、随分と幼く可愛らしい少女だった。

 

 とはいえ、見た目で敵を侮るのは三流の海賊がすること。警戒の目で少女を見据えるのは流石白ひげ海賊団というべきか。

 少女はぐるりと周囲を見渡して、ハロルドに視線を固定すると、持っていた傘の先端を向けた。

 その構えはまるで、銃のようで―――――。

 

 ドガガガガガガガッ!!

 

 機関銃のごとく傘から銃弾が発砲される。

 ハロルドはさっと避けたが、その代償に甲板に穴が開く。それに焦るのは船員たちだ。家である船が傷つけられたのだから。

 

「やめろぉ!!」

 

 今だ発砲する少女を止めるべく5番隊隊長、ビスタは剣を抜いた。

 横薙ぎに振るわれた剣を、少女は大きく跳躍して躱した。太陽を背に再び傘を構えるが、更に後ろに誰かが現れる。

 

「調子乗ってんじゃねェよい!」

 

 青い炎の翼をはためかせて、マルコは鉤爪に変化した脚で蹴りかかった。ただ跳躍しただけの少女では、空中で避ける術はない。何とか身を翻し傘で受け止めるも、そのまま海に向かって簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

「キキキーッ!」

 

 海に落ちる直前で、あの謎の生物が少女をキャッチしてマルコの高さまで上昇する。

 

「へェ。よく躾けられてるよい」

 

 マルコの言葉に少女は笑みを浮かべる。その笑顔は肉食獣を想起させた。

 

「(あの歳で覇気を纏うとは…。末恐ろしいね)」

 

 こんな幼い少女が覇気を使いこなすという事実に、マルコは内心冷や汗をかく。どこの手のものかは知らないが、早めに対処しなくては。と、追撃を加えようとした時だった。

 

「ちょっと何してるのシエルちゃん!」

 

 下にある船から、少年の声が響いた。少女と同様に飛んでやって来たのは、髪で右目が隠れた眼鏡の少年だった。

 

「すみません皆さん!ぼくの連れが、いえ、連れたちがご迷惑をおかけしました!本当に申し訳ありません!」

 

 ペコペコ頭を下げる少年。放っておけば土下座せん勢いだ。というかした。これまた見事な土下座だった。

 

「何してるのシエルちゃん!早く降りて謝って!」

「…そんなデカい声出さなくても聞こえているわよ、ぷっつん眼鏡」

 

 むくれた表情で呟くと、少年の隣に降り立ち「ごめんなさい」と頭を下げる。

 その様子を見て、白ひげはからかうようにハロルドを見た。

 

「何だ。お前の連れのわりには随分素直でしっかり者じゃねェか」

「…まぁな」

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

「いや、もういいよい…」

 

 頭を下げる少年の後ろには「私は人様に迷惑をかけました」と書かれた板を首から下げて正座する少女と、船の縁に逆さまで吊り下げられている男がいる。何故そうなったかというと、少女―――シエルが襲いかかった理由が「何となく」であったこと、ハロルドが「お前そんなに怒って疲れないの?」と言ったことに切れた少年が行動を起こした結果である。曰く、「今後何となくが原因でこんな胃を痛める思いしたくない」「ぼくの怒る理由9割占める人にそんなこと言われたくなかった」とのこと。

 

「もういいってよー。いい加減助けてくれ」

「黙ってください。ロープ切りますよ」

「リミゼ~私足が痺れて爆発しそう…助けて…」

「クラムチャウダー、シエルちゃんの足触診してあげて」

「キキー!」

 

 クラムチャウダーに脚をつつかれて痛いと叫ぶシエル。たとえ懐かれていてもイタズラの手からは逃れられないのだ。その様子を見てリミゼは静かに笑みを浮かべた。

 大人しそうな外見とは裏腹に随分と容赦のない少年だ。ハロルドが漂流していた理由も、貯金すべてをギャンブルで散財したことに怒ったリミゼの手によるものだった(それに関しては少女も参加していたが)。

 

「それにしても、よくここがわかったな」

「はい、コレがありますから」

 

 サッチの質問に、首に下げられているスクエア型のロケットから小さな白い紙を取り出した。紙の正体はビブルカードだ。爪を材料に作られる紙は、その爪の持ち主の居場所と生命力を示す。人探しにはもってこいな紙である。

 それにしても、あの神殺しのビブルカードとは。

 

「海軍が喉から手が出るほど欲しいモンだよな…」

 

 天竜人の殺害という大犯罪を犯しておきながら、長い時間逃げおおせている人物の居場所を確実に教えるものだ。海軍からすれば悪魔の実よりも価値があるものだろう。

 

「はい。だから失くしたと思うとゾッとします」

 

 ビブルカードをしまい直す手つきはどこか優しい。何だかんだ言いつつも大切に思っているのだろう。―――イカダで漂流させたり、海に向かって逆さ吊りさせたりしているが。

 そのことを尋ねれば、笑顔が返ってきた。

 

「死んでほしいとか、いなくなってほしいとか、離れたいとかは思わないんです。ただ―――殺意が湧くだけなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうせだからのんびりしていけという言葉に甘え、ハロルド一行は白ひげ海賊団で一夜を過ごすことになった。リミゼは恐縮しつつも興味深い冒険談を聞き、シエルは次々と料理を消費していく様をドン引きされていた。

 ハロルドは白ひげと共に船長室で酒を飲んでおり、聞こえてくる喧騒に呆れた声で呟く。

 

「あいつら楽しそうだな…」

「あのガキ共、お前そっくりだな」

「あ?どこらへんが?」

「眼鏡のガキの容赦のなさ、白いガキの遠慮のなさ。―――――大物を目の前にしても自分のペースを貫くところなんか、な」

 

 

 ―――――そうだろう、幻野郎。

 

 

「…何だァ気づいてたの」

「あたり前だ。お前さっきから何も口に入れてないだろ」

 

 白ひげが気づいたのはそれだ。どれ程精巧な幻を作ろうとも所詮は幻。飲食するフリはできても本当に料理や飲み物が減るわけではない。あの男が今更遠慮などするわけがないのだから、減らないとすれば違和感を覚えるのは当然の事だった。

 

「で?お前の本体はこのおれを放って何してんだ?」

 

 

「いや…ちょっと釘を刺しにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モビー・ディック号と係留された船――〝ジャック・ファントム号〟に1人の男が足を踏み入れる。鍵のかかっていない不用心な扉を開け、そこにある棚を漁っていく。急いでいるのか、少々手つきが乱暴だった。

 

 

「―――お前の探し物ならここにはねェよ」

 

 

 背後からかけられた気だるげな声にビクリ、と侵入者は体を揺らす。振り向けば、いつの間にかこの船の主が壁にもたれかかっていた。

 

「残念だったな。アレはあいつが持っている分しかない。予備なんてもんはねェのさ」

 

 紫煙混じりの張り詰めた空気が2人の間に漂う。沈黙を破ったのは主の舌打ちだった。

 

 

「まぁ別に構いやしねーよ。お前がおれに何をしようと、お前が何の野心を持っていようと興味はねェ。ただな、おれの連れに何かしようってんなら―――――覚悟しろよ」

 

 

 キセルを咥えながら再びモビー・ディック号に戻る後姿を、侵入者―――ティーチは大量の冷や汗をかきながら見送った。

 

 

 最後の言葉を告げる時、一点集中で向けられた濃密で、爆発的な殺気と覇気。そして―――――胸を木刀で貫かれる幻を見た。

 

 

「ゼハハハハハ…あの神殺しにそんな弱点があったとはな」

 

 恐怖で逸る心臓をおさえ、ティーチは笑みを浮かべた。

 ビブルカードこそ手に入れられなかったが、枷になる存在を知ることができた。

 

 なら今は―――――それでいい。



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ヤブ医者会えず

「『ドラム王国がサクラ王国に改名』…?」

 

 新聞の一面に掲載されている一文を読んで、リミゼは首を傾げた。

 

「どうしたのリミゼ。そんな腑に落ちていないような声出して。…って何私の飴玉勝手に食ってくれてんだよ妖怪男!」

「1個食ったくらいでギャーギャーギャーギャー喚くんじゃねェよコノヤロー」

 

 シエルとハロルドの言い争いをBGMにリミゼは思案する。

 ドラム王国の改名及び王の交代。その部分だけ見れば、暗愚の国王を追い出した国民たちが心機一転の意味を込めて変えたのだろうと想像がつく。

 しかし何故、〝桜〟なのだろうか。

 

「ハルさん、ドラム王国って確か〝冬島〟ですよね?」

 

 年がら年中雪が降る島で桜とはどういうことなのか。リミゼが尋ねるのと、ハロルドの顔面にシエルの拳が入るのは同時だった。しかし相手していたのは幻だったようで、形を保てなくなった体が消えたかと思うと、リミゼの手から新聞がなくなった。

 さっとドラムに関する記事に目を通し、呟く。

 

「――随分時間がかかったな」

 

 その時の表情は、シエルが跳びかかろうとした足を、リミゼが不満を言おうとした口を止めてしまうほどに、衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から22年前の話である。

 ドラム王国の森の中で、ハロルドは死にかけていた。

 不幸の連鎖によるものだった。

 〝一礼〟をしなかったことによりハイキングベアを怒らせ1時間の正座。痺れすぎて感覚のなくなった足で何とか歩いていたら誤ってラパーンの子供を踏んでしまい、親を筆頭とした怒れる群れに襲われたのだ。逃げようとするも雪に足を取られてしまい、その隙に胸と腹を大きく切り裂かれてしまった。

 覇気で気絶させたためそれ以上の追撃は受けなかったものの出血は酷く、しばらく歩いた先で木を背に座り込んだ。

 雪で白く染まる光景をぼんやりとした視界で眺める。

 

 幻想的な空間だ。静寂で、清澄で、自然の神秘さを感じる。

 

 キセルに火をつけて、一気に吸い込む。肺を満たす煙をついぞ「美味い」と思うことのないまま最後の一口を吐き―――――目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 

 

 

 

 沈みかけていた意識が浮上する。

 

 煩わし気に首を動かして向けば、黒ずくめの男がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 

「こりゃヒデェ怪我だ。だが心配するな。おれが手当てしてやる」

 

 座り込んで黒い鞄を漁る男はどうやら医者らしい。げんなりした気持ちが抑えられず、溜息を吐いた。

 

「…いい。放っておいてくれ」

「何言ってやがる!このままじゃ…!!?」

 

 中途半端に途切れた言葉。目を見開く男の視線を辿り、見ているものを察する。

 思い出した、自分の〝立場〟を。思い出して、嘲笑が零れた。

 

「そうだよなァ、治したいよなァ。…一生遊んで暮らせる金が手に入るもんなァ」

 

 自分の手にあるキセルは世界でただ一つのみ。特注で作らせたのもあるが、これと同じデザインの作成は世界政府によって禁じられている。

 何故ならこのキセルだけが、世界最低の大犯罪者・〝神殺し〟の唯一の手掛かりなのだから。

 

 ハロルドは生きたまま捕らわれなくてはならない。死んでしまえば得られる謝礼を失くしてしまう。だからこそ、男は自分の手当てをしようとするのだろう。

 だが男は、首を横に振った。

 

 

「違う!そんなの関係ねェ!俺は医者だ!怪我人を手当てするのは当然のことだ!たとえそれが、犯罪者だとしてもだ!」

 

 

 男の返答に目を丸くする。そして降参といわんばかりに震える両手を上げた。

 

「じゃあ好きにしろ。もう何も言わねェよ」

「ああ、任せろ!」

 

 この後、内側から治りを早くするという薬を飲まされたのだが、身の危険を感じて吐き出した。その材料がトカゲのエキスと知ると無言で男を蹴り飛ばし、その影響で傷口が開いたため倒れたのだった。

 

 

 

 

 

「ヒーッヒッヒッヒッヒッ。あんたハッピーだねェ。あんなヤブ医者に会えて」

「いやどこらへんがハッピー?アンハッピーでしかねェんだけど」

 

 Dr.くれはの言葉にハロルドは軽く睨む。

 体を冷やしてはならないという医者の判断のもと、近くの知り合いの家に運び込まれたのだ。家主であるくれはとしてはたまったものではなく、告げ口された無茶苦茶な治療法も相まってあの男は家の外までぶっ飛ばされた。

 

「しっかしあの〝神殺し〟がこんな若い男だったとはね…。世の中わからないもんだ」

「おれも冬島でババアのへそ出しを見るとは思わなかったブブゥ!」

「誰がババアだい!私ァまだピチピチの110代だよ!」

 

 すさまじい威力の拳を顔面に叩きこまれる。痛む鼻を擦れば、生理的な涙で視界が滲んだ。

 

「なぁ。聞きたいことあんだけど」

「若さの秘訣かい?」

「いや違う。あの男のことだ」

「アイツかい?奴はヒルルク。知っての通りヤブ医者さ」

「心意気と知識が伴っていないってか。性質わりぃな」

 

 治療と称した拷問を受けた気分だとごちれば、「わかっているじゃないか」と返される。

 

「アンタが医学を教えてやれば万事解決じゃねーの?」

「嫌だよ。そんな一銭の価値もないこと、誰がするもんか」

 

 取り付く島もない態度である。そんなに嫌なのか。

 

「ところで、アンタの治療費なんだが―――」

 

 ガチャリ、と扉が開く音がする。嫌な予感のままにベッドに視線を向ければ―――そこに誰もいなかった。

 

「あの野郎…いい度胸だねェ…」

 

 そう呟くくれはの表情はとても恐ろしく、まさに〝魔女〟であった。

 

 

 

 

 

「おーい。生きてるかー」

 

 くれはにぶっ飛ばされた後雪道を転がり落ちたらしく、ヒルルクは家からだいぶ離れた場所で目を回していた。

 近づいて声をかければ、ハロルドに気付いたヒルルクは目に見えて焦った。

 

「な、お前何動いているんだ!傷に障るだろ!」

 

 ヒルルクがハロルドを見つけた時、彼はひどい怪我を負っていた。腹を大きく裂かれ、胸に至ってはあと数センチで心臓に届いていたという。真っ赤に染まった服とは対照的に顔色は非常に青白かった。

 不意にハロルドはコートを脱いで、シャツをまくる。

 

 露わとなる肢体に―――――傷はどこにもなかった。

 

 ヒルルクは信じられない、といわんばかりに目を見開く。そして感極まったように呟いた。

 

「やっぱり…トカゲのエキスには怪我の治りを促進する効果があったんだな!」

「違うわバカ」

 

 間髪入れずに否定する。こんな間違った知識は残してはいけない。

 

「おれは怪我の治りが異常に早いんだよ。だから放っておけっつったんだ」

 

 本心だった。しかしヒルルクの表情は晴れない。何か引っかかっているような表情だ。

 

「いいや。あのまま放っておけばお前は死んでた。間違いなく、絶対だ」

「…根拠は」

「ない。医者の勘だ!」

 

 ―――侮れない。思わず息を飲んだ。

 

 確かにハロルドは怪我の治りが早い。おそらく悪魔の実の恩恵によるものなのだろう。腹に穴が開いても、切り裂かれても、異常な早さで傷は塞がった。

 ただ、失血は別だった。失った血はすぐには復活しないし、その分治癒速度も下がる。今回のラパーンの攻撃はかなりの深手で、一度に大量の血を失くした。もしあのまま放っておけば―――――死んでいたのだ。間違いなく。

 

 思い返せば、らしくない行動ばかりだった。

 

 ハイキングベアの正座に一時間馬鹿正直に従った。―――能力を使えば簡単に逃げられたのに。

 ラパーンから足で逃げようとした。―――痺れて感覚のない脚は歩くことすらままならないとわかっていたのに。そもそも最初から覇気を使っていれば、怪我をしないですんだ。

 

 もしかしたら、自分でも気がつかないうちに。

 

「死にたかったのかもな…」

 

 ぽつりと零れた呟きは、どこまでも無機質だった。

 

 悪魔の実を食べ『妖怪人間』となったはハロルドは、〝ぬらりひょん〟固有の能力の他に悠久とも思える寿命を手に入れた。その結果、周りの〝時間〟に取り残されるようになったのだ。

 

 自分より小さかった者が、いつの間にか自分に追いついて、そして置いて逝く。

 

 真っ直ぐに生きたバカ共は悔し気にしながらも、どこか楽しそうに終わりを受け入れていた。

 

 数多くの〝生〟と〝死〟を見届けているうちに、自らもまた生きていては到達しえない『何か』を感じてみたいと、無意識下で思うようになっていたのだろうか。もしかしたら、天竜人の殺害も破滅願望によるものなのか――――…違う。アレはただイライラしてやったことだ。関係ない。

 

 ハロルドの呟きを聞いたヒルルクはニッカリ笑った。

 

「何だお前〝病気〟なのか!」

「仮にも医者名乗ってる奴が意気揚々と病気宣言してんじゃねぇよ。つーか誰が病気だ」

 

 人に絶望を与える言葉を何故こうも嬉しそうに言えるのか。くれはも「ハッピー」と称していたし。どういう意味だ、あれ。

 怪訝そうな表情のハロルドに、ヒルルクは指をさす。その指は、心臓部分をさし示していた。

 

「お前は心の病気だ。この国の奴等と同じだ。だが安心しろ!俺の医学で治してやる!この世に治せない病気はないんだ!」

 

 この男に医術の心得などなく、怪我人にトカゲのエキスを飲ませるようなヤブ医者だ。そんな奴に〝病〟を治せるとは到底思えない。

―――――だが。

 

 ハロルドは知っている。こういうバカみたいな事を言うバカは〝奇跡〟を起こす。

 

 数ヶ月前に自らの死と共に時代を作り上げた知り合いを思い浮かべ、笑みが零れた。

 

「じゃあお医者さま?具体的な治療内容をお聞かせ願います?」

「おういいぞ!それはな―――」

 

 

 

 

 この後2人は包丁を持ったくれはにめちゃくちゃ追いかけられたとか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルさん」「ハルちゃん」

 

 2人の呼びかけにより、意識が現実に戻される。にやにやした表情の2人に、片眉を上げた。

 

「…何だお前ら、気持ち悪ブブッ!!」

 

 言い切る前にシエルから平手打ち(覇気あり)を喰らい、甲板に叩きつけられる。

 

「テメッ何すんだクソガキ!」

「可愛い女の子に『気持ち悪い』何て言うからよ。二度と言うなクズ野郎」

「クラムチャウダー、船引っ張って。ハルさん、ドラム、いえサクラ王国のエターナルポース出してください」

「…え?何であるの知ってんの?ちょ、リミゼくーん?」  

 



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最悪最低の邂逅

 『始まりと終わりの町』・ローグタウン。

 海賊王、ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された町である。

 広場には海賊王を処刑した死刑台が今もなお存在している。

 

「わりぃ。おれ死んだ」

 

 『道化』のバギーの手によりその死刑台に拘束された麦わら帽子をかぶった少年―――モンキー・D・ルフィは、首を切り落とされる瞬間にそう言って笑った。

 

 

 突如、雷鳴が轟く。

 

 

 バギーが振り上げた剣に雷が落ちたのだ。死刑台は崩れ落ち、処刑人も黒焦げになる中で、少年だけはどこにも怪我はなかった。

 

「なははは。やっぱ生きてた。もうけっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一連の流れを見て、ハロルドは目を見開いて固まっていた。

 重なってしまったのだ。22年前にあの死刑台で命を散らしたあの男と。ただあの男とは違い少年は生きている。―――――まるで天が少年を生かすように、絶妙なタイミングで落ちた雷によって。

 

「すごいだろう。興味が湧いたか?」

 

 雨に打たれながら喧騒に満ちる広場を眺めていれば、全身を黒いマントで覆い隠した男が隣に立った。横目で一瞥して、想像通りの人物だったことに溜息が零れる。

 

「〝明鏡止水〟」

 

 呟きと共に指を鳴らす。〝明鏡止水〟を発動した今、ハロルドと男の存在は誰にも認識されなくなった。すなわち、マントに身を包んだ不審な男2人組は通報されることがないということである。とはいえ、今の海兵にそんな暇はないだろうが。

 

「何の用だ。革命軍には入らねーぞ」

「そうか、残念だ」

 

 勧誘の言葉を告げられる前に断れば、肩をすくめられた。もしハロルドが男が率いる軍に入れば士気や戦力が高まるというのに、残念でしょうがない。

 

「あの少年、〝彼〟のようだったな」

「…そうだな」

 

 思い起こされるのはあの男。〝大海賊時代〟の幕開けの言葉を残し、笑顔で散った〝海賊王〟ゴールド・ロジャー。

 重ねずにはいられなかった。あの麦わら帽子が面影をより強くする。

 まさかと思うが、あの少年は―――――。

 

「ロジャーのガキとかじゃねェよな…」

「それはない」

 

 独り言に近い呟きを男は即座に否定した。怪訝そうに片眉を上げるハロルドの態度に気づいたのか、男は理由を口にする。

 

「あいつはおれの息子だ」

「…え?」

 

 男の横顔は真面目そのもので、冗談のつもりで言ったことではないことがよくわかる。だがしかし、どうしても簡単に受け入れることはできなかった。

 

「…息子?お前の?」

「そうだ」

「うっそーん…」

 

 聞き間違いではなかった。思わず顔を覆って天を仰ぐ。全く予想していない返答だった。この男もやっていることはやっているのだと思うと、何故だか無性に虚しくなる。本当に何故だろうか。

 

「マジでか…。まぁ、とりあえずおめでとう?」

「あぁ」

 

 祝福の言葉をあっさり受け取る男に、「あ、やっぱマジなんだ」と内心で溜息を吐く。キセルでも吹かしたい気分だが、この悪天候では火など付くわけがない。その代わりとして棒付きの飴を口に含んだ。

 

「…手助けした方がいんじゃね?この町には〝白猟のスモーカー〟っつーロギアの海兵がいる。覇気の使えないあいつらじゃ捕まっちまうぞ」

「そうだな…。男の船出を邪魔させるわけにはいかん」

 

 離れていくドラゴンの背中にひらりと手を振る。

 再び一人となったハロルドは雨が降る天を見上げると、ぽつりと呟く。

 

 

「面白くなってきたよなァ…」

 

 

 噛み砕いた飴の棒を捨てると、ハロルドは広場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麦わらの一味はドラゴンの介入と、大きな突風のおかげで無事に海軍から逃げることに成功した。

 

 その裏で2人の大犯罪者の邂逅があったのだが―――――。

 

 それを知る者は、誰もいない。

 

 

    

 



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シャボンディ諸島編
シャボンディ・デイズ


ここからはがっつり原作と関わります。


「あーもう。どこ行ったんだよあの人…」

 

 シャボンディ諸島のとあるグローブで、リミゼは恨めし気な声で呟いた。

 丁度、ヤルキマン・マングローブから生み出されたシャボン玉がふわふわと目の前を通り過ぎる。その様は自分とは正反対で、溜息が零れた。リミゼは今、とある理由によりハロルドを捜していた。ビブルカードを辿れば早い話なのだが、いつの間にかただの紙にすり替えられていたので、こうして心当たりのある場所―主に賭場だが―を巡ることしか方法がないのだ。

 鬱々とした気分で歩いていれば、ポケットに入れていた電伝虫が「ぷるぷるぷる」と着信を告げる声を上げる。建物と建物の間に体を滑り込ませ取り出すと、電伝虫はにやにやした笑顔を浮かべた。

 

『キーキキキキキッ!!』

 

 瞬間、大きく響く鳴き声に体が震えた。リミゼは一つ息を吐くと、ひそやかな声を出す。

 

「何、シエルちゃん。イタズラ電話?」

『違う。クラムチャウダーが勝手にしただけ』

 

 シエルが「めっ」と叱っているのがわかる。それにクラムチャウダーが全然応えていないことも。遠くの方で聞こえる声が楽しそうだからだ。

 

『ハルちゃん、見つけたかも』

「ホント!?」

 

 突然の吉報に思わず大きな声を出してしまった。そのせいで『叫ぶなダメガネ』と電伝虫のジト目を喰らい、苦笑いを浮かべる。

 

「ごめん…。それで、どこにいるの?」

『多分なんだけど、』

 

 内容を伝えられるより先に、「待って」と制止する。

 道行く人が、地に頭を伏しているのだ。

 この現象が起こりうる要因は、たった一つ。

 

「天竜人がやって来る…。また後でいい?」

『!?…わかった、いなくなったら電話して』

「うん。じゃあね」

 

 電伝虫をポケットに入れると、リミゼもまた他の人と同様に地に頭を伏せる。

 そうしてやってきた天竜人は例に漏れず横暴で、聞いていて不愉快だった。

 額に青筋が浮かぶ。唇を強く噛みしめる。

 早く通り過ぎろと願っていれば、周囲のざわめきを感じ取りこっそり顔を上げた。

 瞬間、目を疑う光景が飛び込んできた。

 

「(あれは…〝海賊狩りのゾロ〟?)」

 

 今諸島内にいる11人の〝超新星〟がいることに若干の感動を覚えるが、すぐに焦燥の念に塗り潰される。

 

「(何やってんのあの人!?この島を戦場にする気かよ!!)」

 

 天竜人のため開けられた道を堂々と、酒を飲みながら歩くゾロの姿にリミゼのみならずその場にいた全員が呆気に取られる。

 ついに天竜人の前にまで来てしまったゾロはというと。

 

「……?何だよ。道でも聞きてェのか?」

 

「(あ。ダメだ。終わった)」

 

 自分の目が死んだ魚のようになるのがわかる。脳裏に無表情ダブルピースをするハロルドの姿が浮かんだので、殴って消した。

 脳内で不毛な想像をしているうちに状況はさらに悪化していた。

 天竜人がゾロに向かって発砲したのだ。しかし流石というべきか、ゾロはあっさり銃弾を躱した。それのみならず、刀に手をかけて――――。

 

「(これ以上はヤバイ!)」

 

 リミゼが血糊とナイフを手に飛び出そうとするより早く、動く影があった。

 随分と小さいが―――あの顔は間違いなく超新星の1人、〝大食らい〟のジュエリー・ボニーだ。

 

「え~ん。お兄ちゃんどうして死んじゃったの?天竜人様に逆らったの?それなら死んでもしょうがない!え~ん」

 

 頭から赤い液体を流すゾロと、泣きわめく少女の姿に天竜人は不思議そうにしながらも去って行った。

 最悪の事態が回避された事実に、リミゼの肩から力が抜ける。

 

「(〝大食らい〟のおかげで助かった…。さて、連絡…ん?)」

 

 ジュエリー・ボニーと会話していたゾロが、先程天竜人に撃たれた一般人抱えていたのだ。

 病院に連れて行くらしいが―――その足は全くの反対方向に向かっていた。

 

「ゾロさん、そっちじゃないですよ!」

 

 あ、と口を塞いでももう遅い。ゾロはじっとこちらを見ている。仕方ない、と腹をくくった。

 

「病院はあっちです」

「そうか。わかった」

 

 …何故か指をさしている方と違うところに行かれた。おかしいな、すぐそこに見えているのに。

 

 

 

 ゾロの姿が病院内に入っていたのを見届けて、リミゼは溜息を吐いた。

 びっくりした。こんな神がかった方向音痴が存在することに。何で案内している方向と逆方向に行こうとするのかわからない。本気で。

 電伝虫をダイヤルすれば、シエルとすぐに繋がった。

 

『遅かったわね、グズメガネ』

「うん、ちょっと変なことに巻き込まれて」

 

 不満そうな表情の電伝虫に、げんなりした表情を返す。

 

『ふーん。ところでハルちゃんがいる場所だけど…1番グローブ。ヒューマンショップにいる』

 

 ビキリと硬直する。最悪の展開が頭から離れない。

 

「……何で?」

『ギャンブルで大負けしたから代金替わりで身売りしたって。レイちゃんと一緒に』

 

 『じゃあまた後で』と言ってシエルは電伝虫を切った。

 何も言わなくなった電伝虫を数秒見つめたのち、天を仰ぐ。

 何者として売りに出されたのだろうか、あの野郎は。まさかと思うが〝神殺し〟として出品されたのか。

 

 ―――――だとしたら、最悪だ。

 

「何だ?お前も1番グローブに用があるのか?」

「おわぁ!?」

 

 逸る心臓のままに振り向けば、いつの間に戻ってきていたのか背後にゾロが立っていた。

 

「おれもそこに用があんだよ」

「え?あ、はあ…?」

 

 ニヤリと笑うゾロに、嫌な予感がする。 

 

「案内してくれ」

 

「(何か今日、厄日なのかな…)」

 

 妙に悟ってしまい、乾いた笑顔を浮かべるしかできないリミゼなのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、賞金稼ぎか?」

 

 目を離さないことに集中している最中にそう尋ねられ、一瞬言葉に詰まってしまった。

 

「え?あ、はい…一応…」

「そうか」

「…あの、何でわかったんですか?」

 

 リミゼは平均的な身長で、平凡な雰囲気を纏うためかよく舐められる。シエル曰く「もやしメガネ」とのことだ。

 だというのにゾロの口調は確信的だ。一体どのようにしてその発想に至ったのか気になった。

 

「最初はわからなかったけどな。よく見りゃ隙がねェ。俺のことも知っているだろうに全然怯えてねェしな」

 

 意外に観察力あるんだな、とひそかに感心する。…そんな観察力があるのに何故迷子になるのかと疑問に思う。

 

「…あ、でも狩りませんよ?ぼく達〝麦わら〟のこと好きですから」

 

 『エニエス・ロビー』の一件以来、リミゼとシエルは〝麦わらの一味〟のことを気に入っている。特にシエルはファンと言ってもいい程に入れ込んでおり、過去の麦わらの新聞を求めてハロルドと喧嘩したことは余談である。

 

「……そうかよ」

 

 そっぽむくゾロの表情を見ることは、できなかった。

 

 

 

 

 時々あらぬ方向へ向かいそうになるゾロの軌道修正をしながら歩いていれば、ガラの悪い集団に囲まれた。

 

「見ろ!〝海賊狩りのゾロ〟だ!!」

「1億2千万ベリーの男ォ~!!」

「ガキ連れだぞ!チャンスだ!」

 

 数はざっと5、6人ほどだ。リミゼは柄に手をかけるゾロに近づくと、耳元に囁く。

 

「ゾロさん。ぼく連れを待たせているんです。早く終わらせてください」

「あ?お前戦わねェつもりか?」

「ぼくはヘタレなんです。相手したくないです」

 

 本当にヘタレた一般人はこんな時にそんな図々しい事を言わない。そして無視されたと思った賞金稼ぎたちは雄叫びを上げながら襲いかかっていき―――――。

 

 

 

「うーん。やっぱりそんなに持ってないなぁ」

 

 死屍累々の中心で紙幣を銀行員並みの手捌きで数えながら、リミゼはごちる。

 

「だから相手したくなかったのに…。大して儲からないのに時間取られるから」

 

 放ってほしいという願いは叶えられることはなく、何名かはリミゼの手により地に倒れ伏している。とはいえ今回はゾロと一緒だったため、そんなに時間がかかることはなかったが。―――そこで、はたと気づく。

 

「あれ…ゾロさん?」

 

 略奪行為に夢中になっていたために気づかなかった。ゾロがいない。リミゼの胸中に焦りが奔るが―――――。

 

「まぁいいか。いなくなったの向こうの方だし」

 

 思考をあっさり切り替えて、リミゼは歩きだす。

 ヒューマンショップはもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒューマンショップの外にシエルの姿はなかった。辺りを見回したところで、何者かに肩を叩かれる。

 

「キーキキキキキッ!!」

 

 振り向いた先はクラムチャウダーの顔面ドアップだった。何故か逆さまである。

 

「…あぁ。クラムチャウダー、シエルちゃんは?」

 

 呆けたもののそれは一瞬で。

 少しつまらなさそうな表情を浮かべるクラムチャウダーが建物に手を向ける。どうやらすでに中にいるらしい。

 

 

 瞬間―――――轟音が響き、会場が大きく揺れた。

 

 

「な、何事!!?」

「キキッ!?」

 

 突然の事態に急いでオークションが行われている場所に向かう。

 そこでリミゼが見たのは―――――。

 

 

 〝麦わらのルフィ〟が、天竜人を殴り飛ばす様だった。

 

 

 いったい何がどうしてこうなったのだろうか。まさかのことに開いた口が塞がらなかった。

 天竜人を害せば海軍から〝大将〟がくることを知っていてなお殴る船長も船長だが、それを「仕方ない」で済ませる仲間も仲間だ。

 これが〝麦わらの一味〟。噂通りのイカレた海賊団である。

 呆れを通り越して感心すらしていると、誰かに腕を引かれる。そちらへ顔を向ければ、シエルがいた。

 

「見逃さなかった?」

「うん。バッチリ見たよ」

「そう」

 

 無表情に目を輝かせるシエルに対し、リミゼは乾いた笑い声をあげる。

 

「やっぱり今日は、厄日なんだなァ……」

 

 平和で平穏な日などシャボン玉の様だ。

 

 リミゼがそう思うのと、会場外で1つのシャボン玉が弾けるのが同時だったことを知る者は誰もいない。

 



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