わたしがウロボロスだ (杜甫kuresu)
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前日譚
まずは仮想世界の女帝から


最高に「流行り物」に乗っかってみた。悪役令嬢モノの亜種にあたる。
「恋は渾沌の隸也」を聞きながらサササーット書いた。


 突然だが、俺はウロボロスに転生した!

 嫌だ。最高に嫌だ、ナイスバディで可愛い声が出る以外に何一つメリットが無いよ。せっかく性転換がついでに終わってしまったハッピー展開までは完璧なのに、何がダメって俺が鉄血ってことだよね。

 

 ああ、現実逃避でウロボロスという美少女について解説させてくれ。俺は今相当キテしまっている、理由は後で分かるさ。

 俺が言うウロボロスは「ドールズフロントライン」のウロボロス。

 お団子ヘアとツインテの組み合わせという詳細不明な髪型をしている彼女だが、姿形は威圧感の有る部類だ。鉄血特有の人間離れした白い肌、怜悧な瞳、余裕ぶった口端、何故かへそ出しセーラー服。ミニスカで絶対領域持ちな辺り、鉄血工造に変態が居たのは言うまでもない。

 

 さてさて、ウロボロスと言うか羽衣狐を思い出す風貌の彼女だが――――――まあ、所謂「噛ませ犬」と言っても良いかもしれない。

 日本版だと確か9月あたりに始まった404小隊の株を爆上げするイベント、「CUBE作戦」。此処で登場した彼女は面白い。鉄血の上からは期待されており(実際はなかったみたいだが)、電脳空間で三千世界の鴉をも殺す大殺戮の中を生き残ったという肩書まではカッコいい。何なら渋めの主人公だ。

 

 だが結果は散々。色々崖っぷちな45姉達にボッコボコにされて屈辱の内にさようならするのがウロボロスだ。ちなみに独断で動いて代理人に見捨てられたも追加な、悲惨すぎる。

 しかも45姉のラストの台詞――――「私達は皆の汚点だから」、アレがカッコ良すぎて負けゼリフすら印象に残らない徹底っぷり。俺は苛められるってことだなひっでえの。

 

 

 

 

 

 

 

 で、現在電脳空間。まあ、要するに俺はこれから大体数千ぐらいのAIをぶっ壊さなくちゃならないのだった。

 

「…………あーあ、運が無い」

 

 自分の胸でも揉まないとやってられん――――えげつない虚無感を感じたからすぐ辞める。すっごい気持ち悪かった。

 景色なんて黒い背景に緑の線だけ。辛うじて建物らしきものの線画は有るものの、簡素すぎて風情とかはない。廃墟マニアだったら廃墟じゃないやんけと怒鳴り散らす映像だろう。

 

――なんて言ってると、擬似的な風景らしきものは出てきた。

 青空、超青空だ。多分現実世界よりも綺麗な快晴の中に突然放り出される。

 

「――――っと、持ち物確認はチュートリアルの基本だな」

 

 つっても、こんなへそ出しセーラーにモノなんて…………。

 有った。スモーキンググレネード、スタングレネード、催涙ガス――――――投げ物ばっかじゃねえか。俺にプロ野球選手ばりのピッチングでも期待してんのか代理人さんよお。というか内股にまでホルダーとか有るってウロボロスちゃんはどうしてそんなえっちなファッションに拘ってたんだ、ちょっと好きになれるくらい見た目頑張ってるやんけ。

 

 とにかく出来るだけ体中をまさぐっていると、目の前に突然インターフェースらしき映像が投影される。そっか、電脳空間だからこんな感じなのか。

――何かよく分からん文字列にしか見えないが、俺はそれが「初期装備を選べ」と指示を書いていることが分かる。アレか、電気信号的なものか?

 

「…………色々有るな」

 

 変態ライフルWA2000、何かを間違えた大型拳銃デザートイーグル、お前はジャンルが違うぞパント銃、中世じゃねえかアパッチ・リボルバー、素人が作った熟練を超えたシロモノAK-47、むしろこれ以外何を使うのよM16、伝説のUZI、ドイツの安定感最強ライフルKar98k。

 

 本当に色々有る。鉄血の割に古臭い銃(だって今2062年だぜ? もっと凄い銃有るだろ)が多いのは気になるが、俺がゲームで触れたことの有るレベルの界隈ではメジャーな銃は大体あった。

 

「えー、どれが良いかって? 俺銃なら皆好きなんだけどなあ…………」

 

 どうだろう、銃って何を考慮して選ぶべきなんだ。

 

――真面目に考えてみる。

 ええっと、今回の戦闘はつまり他のAIとの生存競争。他のやつも銃自体は持ってるんだろ?

 だから死体漁りでメジャーどころというか、鉄板は結構簡単に拾えるはず。AK-47とかアホほど落ちてる、多分WA2000とかもだな。コスト考えなけりゃアレは最強クラスの自動小銃だ。

 そんでもって軽いと嬉しいな。ウロボロスの身体がどんだけ怪力か分かんないし、軽いほうが足は速い。

 

――――――分かんねえな。どれ選んでも俺が頑張ればどうとでもなる。所詮は初期武器というか。

 最初に表に出るほどアホじゃないから、まあ遭遇戦に強い銃にするか――――――あっ。

 

「Vectorだ、アレなら建物でばったりとかには最強じゃねえか」

 

 決まりだ、急いで画面をスライドして選択する。時間制限とかはないのか、焦った~。

 Vectorを選択するとふわっと目の前にポップする、まるでVRMMOだなこりゃ。

 

――軽い。試しに撃ってみると反動は腕力でほぼ抑えきれる。

 

「力は有るのか、イイじゃんこの体」

 

 これなら近接も出来るように銃剣付きの突撃銃でも良かったやもしれんな、もう後の祭りだが。

 意味はないのだろうがラジオ体操とかをしながら、身体を慣らして静かに開戦の合図を待つ。ちょっと絵面はアホっぽいが、こういう小さな事をキッチリできない奴は数千分の一にはなれまい、恐らくウロボロスもストレッチぐらいはしていた。

 

 しかし見れば見るほど細い。腕も、足も、お腹周りも皆が羨むくびれ持ち。全く、この恵まれたビジュアルからの負けボスムーブよな…………。顔も結構可愛かっただろ。

 

 伸びをするといよいよお腹が見えてこれ恥ずかしいじゃねえかと一人で憤慨――――していると、またインターフェースが出てくる。

 

「ええい、次は何だ…………トラップだぁ?」

 

 もう俺よく知らねえよそんなもん。銃だってゲーム知識が半々だったのに、L4D2にトラップなんかねえんだよコラ。Borderlandsにもトラップなんぞねえよ。俺のゲーム知識は狭いんだ。

 一応スクロールして色々見ては見たが、全然分からん。カッコいいの選んどけ、分からんなら直感で良いのだ直感で。

 

 結構数が選べたので、俺の直感チョイスはかなりカオスなものになった。地雷、地雷、地雷、紐付き手榴弾、鳴子、ワイヤートラップ、etc…………まあ、色々? 後で確認しよう、俺は実銃だって(いやこれ電脳だけど)さっき持ったばかりの元大学生だ、多くのことを考える暇などあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――こうして彼。いや、彼女の『破壊』は始まった。

 

 まず始まって数分でビル内で一体を破壊した。遭遇戦に強い選び方をしたのが正解だった、相手は支給品のHGで対応しあっさりと蜂の巣になった。

 次にテリトリーに近寄るものを巧妙に始末した。時に鳴子で待ち伏せし、時に地雷で相手を誘導し、そもそも入った時点で手榴弾で殺した事もあった。

 次にテリトリーを理解した外敵の狙撃に狙撃で反撃した。拾い物のKar98kを愛用した彼女は、ボルトアクションライフルの利点たるその精度と射程範囲で猛威を振るう。

 

 来るもの全てを千切り、打ち抜き、爆破し、壊した。一つ壊す毎に彼女は学んだ、それはそこらのAIなど比較にならない速度だ。元より才があったと言わざるを得まい。

 壊すことに躊躇はなく、容赦はなく、そして手段に残虐さはつきもの。あくまで大学生などと嘯いたその真意は靄にかかるほどに彼女は「壊すこと」にどんどんと傾倒し特化する。

 段々と彼女を襲うものは居なくなった。貴重品だけを剥がれた死体が転がるそのビルはそれだけで異様さを放ち、そして彼女に挑むには考えうる最高の準備が必要というのがAI達の共通認識となった。

 

 殺し合いを彼女は眺めた。参加する意味など無い、自分は生き残ればそれで良いのだから。とうとう狙うものすら居なくなった彼女は、更に他物の生存競争を傍観することでその在り様を識り、学び、そして己がモノとした。

 

 

 

 

 

 そうしてその空間の時間で言うと、一体何日経ったのだろう。彼女は確かに其処に活きていた。

 彼女の傍らには数え切れない死体が有った。彼女は服すら傷つけていなければ、まるで洗礼を受けた兵士としての顔など持ち合わせなかった。唯不敵に笑うさまを代理人は、ほんの少しだけ恐れてしまったほど。

 

 彼女は何の苦労をしたわけでもなく、息をするように戦闘に身を投じ、自然と敵を自滅させていき、単純に「存在そのものを戦争」に置き換えることでその蠱毒(孤独)を生き延びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――これは、ある蛇の物語。

 分不相応であることに身を投じ、生き続けた規格外の蛇が不変の物語を転がしてしまう。そんな単純な、神の一手の物語。

 さあ、知恵の実を喰ませる地獄の始まりだ。蛇は彼女達を唆す。




勢いだけ。下手したら最後まで書き終えない。10話は絶対越えない構えでスッキリ終わらせる予定、他の更新にガッツリ響かせないように頑張る。
ウロボロスとして悪役令嬢ムーブを決めるのが目的。書いてて面白そうだと思ってる、一人で面白そうとか思っててとほくれすカワイソー。

【ウロボロス】
中身は大学生の青年。前々からTS願望は有ったがそういう問題ではない。
長いものに巻かれる主義で事なかれ主義、天運に身を任せる適当さを持つ。やられ役をに意気込むのも自然である。
状況を受け入れ、前に進むという点は英雄の資質すら有ったり。元々おかしなやつだったということ。
ただちょっとアホの子っぽいことはする。


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キャラ付けをミスった

鉄血のミス
・ウロボロス「わたしもあの銃で戦ったこと有るぞ。あーそーゆーことね、完全に理解した(分かってない)」
・上司が妙に冷たくて拗らせた。
・重要なスキル「精神性」について測っていない。

優秀な鉄血ならではの失敗。ウロボロスは可愛がってくれる上司の下でなら輝く筈。
キューブ作戦のログが見れないので口調とかはこっそり修正するかもしれない。


「おはようございます、今日も綺麗ですね。結婚してください」

「冗談も程々にするように。もう一度電脳空間に放り込まれたくはありませんよね?」

 

 代理人はいつも冷たい。せっかく百合展開を申し出ているのにすっごいアッサリとあしらって来る。

 何でも俺は秘密兵器的なサムシングらしく、例のCUBE作戦まで出番はなさそうなのだ。そりゃあ本部は暇だからナンパだってしたくなる。

 

 朝に挨拶する毎にスカートの下のサイドアームとついでにパンツ見せてくださいと土下座しているのだが、さっぱり見せてくれる気配がない。曰く「結果を見せれば」だとか、アメとムチが上手いお方で。ところで要するにパンツは見せてくれるんですか?

 何時も通り下っ端の指示に司令塔へ向かう代理人。暇なのでいつも付いていっている、個人的にはああいう雑魚キャラの丁寧な戦い方こそ汲むべき教訓が有る。弱いようで彼女達は基本に忠実な真っ当な兵士だからな。

 

 後ろをついていくと溜息をつかれる。

 

「またですか。飽きないものです」

「だって暇ですよ此処、チェス皆下手ですし。それに、部下の扱い方を弁えるのは上位者として当然ではないですか?」

「…………好きにしなさい」

 

 口ではああ言うが、ついていったら色々教えてはくれるので所謂クーデレの類らしい。本物のウロボロスとは非常に相性が悪そうだとは思う。

 本部はいつも静かなのが特徴で、俺達が歩いていると足音がよく響いてそれはまあ敵の本拠地という顔を見せてくれる。ちょっと薄暗いのは苦手だけど。

 

 代理人は自分からさっぱり喋らないので、俺が話題を振る必要がある。

 

「あ、そう言えば最近髪染めようと思ってるんですよ。ハンターに「その方がイケてる」って言われたから」

 

 髪の色は白か黒なのが上級AI的な嗜みのようだが、俺は特段髪色に興味がない。

 代理人がちらりと俺の髪を見る。ちゃんとお団子ツインテですぞ、よく考えたらお団子って代理人とお揃いだよね。密かに憧れてたのではないか?

 

「染料ならありますよ」

「染料? 色気がないどころか人体理解に乏しい発言ですよそれ」

「人形ですからね、大体私はあまり髪に興味がありません」

 

 そうだな、彼女達は風呂もあんまり入らない。臭わないのだから仕方ない、機械は便利なものだ。

 とはいえ俺が「お風呂シーンのない美女なんて価値がない」という完全な偏見で訴え続けたら用意はしてもらえた。スケアクロウとはバス友である。

 アイツめっちゃ身だしなみに詳しいぞ、やはり有能か…………。

 

 代理人の髪型を勝手にポニテにしてみた。

 

「印象違いますよ、こっちも綺麗だ」

「…………さて。あなたが面倒を見ているS12地区の部隊、本日中に小規模戦をする予定ですが」

 

 あんまり怒らないんだ、意外。

 司令塔についた。答えようか。

 

「面倒を見ましょう。わたしが居なくなるまでは、彼女達の命の責任を負うべきかと」

「…………甘いのか残虐なのか、私にはあなたを測りかねます」

 

 あんまりろくな奴ではないでしょう。

 本部の司令塔は超広範囲まで通信が届くスグレモノだ。同時にチャンネルを多く受け持つ程の汎用性こそ無いが、こうやって俺でも近場の侵略勢に指示を出せる。

 

 代理人がヘッドセットを渡してくる、妙なところだけステレオタイプなのが鉄血らしい。

 

「とはいえ、あのキャラ疲れるんですよね。まあ威厳たっぷりだから構いませんけど」

「意図して切り替えていたんですね」

 

 そりゃそうよ。

――暫く待っているとプツリ、と繋がりきった合図の音。背筋を伸ばし、表情から切り替える。しっかりこの作業をしないとキャラが保たない。

 

「――――――久しぶりだな、捨て駒の諸君。相変わらずの箱入り娘、ウロボロスだ。今回もこんなAIに指示を戴く気分はどうだ? 正直に言ってみよ」

 

 何やらあっちは騒がしい、喧騒の内容としては「ウロボロスさんだ」とか「これで勝つる」とか「我らがアホの子」とか。誰がアホの子だ、お前の端子引きちぎるぞ。

 

 あんまり五月蝿いのでわざとらしい咳払い。いい加減彼女達も俺の機嫌取りには慣れてきたのか、すぐに静かになった。

 

「よろしい。ではおぬし達への僅かな期待の証として聞いてやろう、いつもの三箇条を復唱せよ」

 

 ざわざわ―っとする。お前ら頼むから仕事中は真面目にしろ。

 鉄血達の喧騒が段々と小さくなり、呼吸を合わせる誰かの合図。

 

『死ぬな!』

「よし。次」

『死にそうになったら逃げろ!』

「声が足りぬぞ」

『そんで隠れろ!』

「最後、スイッチを切り替えろ!」

『運が良ければ不意をついてぶっ壊せ!』

 

 最後は全員で息を合わせて!

 

「『以上、ウロボロスのなんちゃって四箇条!』」

「よし、作戦準備! 獅子は兎を狩るにも全力である! おぬしらが優秀であるというならば、その実力をあの間抜け面共に叩き込んでやるが良い!」

 

 

 

 

 

『リーダー、人形を捕縛しました!』

「銃は弱者を嬲る為でなく、強者の権威を知らしめる為に弾丸を吐くもの。利用できぬなら苦しまぬように壊せ」

 

 

『挟撃、逃げ道がありません!』

「愚か者。無いのではなく「まだ見つかっていない」だけだ。手を尽くせ、修羅となれ、全てを利用しろ。可能性のない戦場など無い、状況を詳らかにせよ」

 

 

『味方の半数が重傷です! 作戦進行状況は芳しくありません』

「知ったことか。おぬしらが死んでは兵が減るだろう、劣勢ならば素直に引かぬか」

 

 

『万策尽きました』

「投げやりに報告するでないわ馬鹿者。おぬしらの手はもげたのか? 足は木っ端微塵か? 銃は折れ曲がったか? グレネードはどうした、事細かに報告せよ。手は尽くしてやる、犬死してパーツを無駄にするでないぞ。おぬしらはわたし程でなくともそれなりに高値なのだからな」

 

 

 

 

 

「…………作戦成功。やはり危なっかしいか、あやつらももう少し慎重になれば良いのだがな」

「ウロボロス、口調が抜けてないようですが」

「――――――ああ、熱が入りすぎたようですね」

 

 もう慣れたとは言え、不自然な喋り方だからな。ずっとやっていると抜けなくなってしまう。

 思わずデスクチェアにへたり込む。今回は途中で正規軍が少しだけ顔を見せたから焦った、俺だけでも強がらないと部下まで落ち込むからなあ。

 

 代理人が知らぬ間に珈琲を淹れてくれていた。本場のメイドの珈琲とは豪華な。

 

「ありがとうございます」

「どうせ指示も出来ませんから。それにしても、相変わらずあなたの指揮は面白い――――兵の士気が違うようですが」

 

 何でだろうね。本当に此処で引きこもって一方的に指示してるだけなんだが。

 珈琲を思わず一気飲みする、喉が渇いていたのだ。確かに酸味と苦味の整った芳醇な味わいが舌、喉と温かみを分けてくれる。

 

「美味しい。やっぱりメイドしません?」

「家事で人間が殺せるなら喜んで」

「まあ良いや」

 

 すぐに飲み干してしまった。勿体無いことをしたのかもしれない。

 代理人は仕事以外にさっぱり興味を示さない。どれだけ喋っても趣味嗜好どころか個人の人格の特徴性も意外とはっきりしない。あんまり無機質に過ぎるので時々心配だ。

 

 死ぬ前に遺恨は絶ちたいものだ、ついでに聞いてしまおうか。

 

「それで、あんな蠱毒にかけて生まれたわたしの性能。ご感想は?」

「想定以上です。決して計画性の有った試みとも言えませんが、あなたの存在は確かに有用性を証明したことでしょう」

「じゃあわたしが無能だったらどうでした?」

 

 つまり、本当の彼女だったら。

 俺は有能らしい。認めるのは日本人の感性として非常に図々しいものだが、少なくともウロボロス当人より俺は成功している。

 

 もしも、もっと喋りにくくて。扱いにくくて。それなら代理人はどうしたのだろう、何故最後に見捨てたのだろう。それだけは気がかりだった。

 

「それでも数千を生き延びたそのカタチに意味はあるでしょう、そうそう切り捨てるわけでもありません――――――程度が過ぎれば別ですが」

「そう、ですか…………」

 

 多分すれ違いだったんだろうな。

 向いてなかったんだ、アイツ。ちょっと歯車が噛み合わなかっただけ。

 

――何となく感傷的な気分になったので、誤魔化すために席を立つ。

 

「何処に行くのですか」

「ちょっとブラック・ジャックでもします。疲れましたから」

 

 代理人は背を向けて出ていく俺を特段追いかけようとはしなかった。

 ただ、扉を出る時にボソリと

 

「あまり遊び過ぎないように」

 

 と、姉なのか母親なのかも分からない釘を刺してきただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「かーっ! お前顔に出ないから分からねえんだよ!」

「そうかそうか、ではレイズかフォールドか速く答えよ」

 

 処刑人が目を紅く光らせては俺の顔を見て唸る。もうこの下りを繰り返して3回目だ、飽きてきたぞ。

 

 娯楽を知らない鉄血にカードゲームを持ち込んだのも俺だ。最初は暇そうに空き缶を撃っていたハンターを誘うところから始め、処刑人を巻き込み、スケアクロウを巻き込み――――としている内に一大行事となっている。

 

 俺はほぼ負けたことがない。以前は違ったはずだが、この体だとポーカーフェイスが非常に板についていてさっぱり読み違いを起こさない。俗に言う赤子の手を捻るようにって状態。

 

「もう降りておけ、処刑人。また食い物にされて酒瓶ごと持っていかれるのがオチだ」

「うるせえよ! そういうお前だって、秘蔵の拳銃コレクションを3つぐらい持ってかれただろうが!」

「はようせい、全く」

 

 大体は酒の量で賭ける。俺達はmlで分かるからな、手軽なチップになる。

 あんまり負けても抜けられない哀れな負け組には無事私物を持ち出してもらう。大体変換レートをボッタクリにしておくのだが、余程俺を負かしたいのか挑戦者は後を絶たない。

 

 いい加減あの乱雑なコレクション返そうか、邪魔なんだよな…………。

 なんてゴミ片付けの算段をつけている内に、処刑人が酒を叩きつける。

 

「レイズだ! お前が何回もそうやってレイズだけで逃げ切ったのは確認済みだ! 3度目の正直ってな!」

 

 

 

「ほう、良い啖呵だ――――――――21、ブラック・ジャックだな。ほれ、酒を寄越せ」

「マジかよ!?」

「だから言っただろう…………」

 

 処刑人が俺のカードを見てクレーマーじみた様相で乗りかかってくる。ハンターは止めてくれなかったが処刑人をバカを見る目というか、哀れみ混じり、なんとも複雑な表情で呆れている。

 

「イカサマしてんじゃねえだろうな」

「バカを言うな、わたしがイカサマをしようと思えば毎回21だ――――――二度あることは三度ある、それだけのこと。良いからその酒を寄越さんか」

「クソ、持ってけ」

 

 捨て鉢気味に寄越された酒を受け取る。

 処刑人は「覚えてろよ」なんて如何にもな捨て台詞を吐きながら席を立つ、もう少し残るらしいハンターに尋ねる。

 

「あやつは仕事か?」

「そうだな、最近はちょいと忙しい…………ウロボロス。お前の出番も近い内に来るだろうさ」

「そうか、それは楽しみだ――――――――404小隊」

 

 俺を殺す彼女達。俺が殺されたい彼女達。話を進める彼女達。

――どうだろう、なし崩し的に俺は死ぬことを目的に走っているが、それは俺個人としてどういう了見なんだ。

 

 確かに俺はやられる役配置だ。多少事情が変われど其処が変わってくれるほど世界は都合よく回っていないだろう。

 満足できるのだろうか。彼女達はちゃんと勝ってくれるだろうか。目の前の彼女は、ちゃんと無事なんだろうか。

 俺はどうするのが正解なんだ? 人間を殺すべきなのか、鉄血を殺すべきなのか。

 

「何だ、まじまじとコッチを見て。AIでもイカれたか?」

「………………いや、つまらぬ事だよ。どう転ぼうと、わたしはウロボロスだ」

 

 どちらにせよ俺は悪役だ。俺が何をしようかなんて考えるより、まあ彼女達に任せたほうがなるようになるに違いない。

 ああ、きっとそうだろう。

 

「変なやつめ」

「ああ、わたしは変なやつだろうさ。これから待ち受けるものが無性に楽しみで仕方ない、ははっ」

 

 どれだけ俺の予想を超えてくれるだろうか。最初で最後の舞台は綺麗に演目を終えてくれるだろうか。彼女達は俺にどんな鮮烈な最期を与えられるのだろう。

 

――そうだな。俺の目的は別に悪役として死にたいんじゃなかった。

 単純に輝いて死にたいだけだ。どうせ散るなら華々しくというのは人類共通の命題だ、それは恐らく以前の俺の人生では望めなかった贅沢だから。

 

「――――――ハンター、嵐が来るぞ。仲間の手を離さぬようにな」

「急に気持ち悪い、言われなくてもそうするさ」

 

 それは良いことだ。くつくつと自然に笑いが溢れた。

 上手く殺して見せてくれよ、404小隊。




Los! Los! Los!がテーマソング。悪のカリスマを目指すウロボロスをよろしく。
代理人ナンパしたり意外と大物。面倒見がよくギャンブル好き、頭は回る。姉御じゃん。

代理人は口で褒めないだけで期待してたと思うし、ウロボロスは代理人が目標だったと思う。噛み合わないから最後ウロボロス切れたけど。
当小説はウロボロスx代理人を推しております。

ウロボロスは喋りと甘え方が上手ければいい後輩キャラなのだが…………。


もう原作ルートからガタガタに逸れてる事実を彼女は全く気づいていないのであった。


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他殺願望

すみません…………前回、かなり大きなミスを犯しました。
代理人xウロボロス派でした…………。
代理人の弱い顔は捨てがたいんですが吠えまくるパピー枠が夜もキャンキャン鳴くのが…………辞める。ゴメン。

百合がめちゃくちゃ好き、この小説では出てこないから安心して。
今回は「アンハッピーリフレイン」聞いてた。


 よく夢を見る。人形は夢を見ないと聞いたことが有るが、俺みたいな例外がどうなのかなんて分かるわけもないから相談もしないが、内容はいつも似たり寄ったりだ。

 中では俺はやっぱりウロボロスの姿で、何に触れることも喋ることも出来ない。唯無数の見慣れた顔が並ぶ空間に俺はいつも取り残されている。そこは街だったり、白い背景だったり、森だったり、ソイツらは動いていたり、動いてなかったりする。

 

 俺は何も出来ないままウロウロと触ろうとしたり、喋りかけて失敗する。その顔は大学生だった頃の親とか、知り合いだったりもするし、鉄血の知り合いだったりもする。

 次にまた俺が出てくる。ウロボロスの姿をしたソイツはいつも目元がはっきり見えなくて、酷く快楽に歪んだ釣り上がる口元が特徴的。見るたびに何故か手を伸ばしたくなるのが不思議だ。

 

 ソイツは一人ずつ拳銃で脳天を撃ち抜いていく。死ぬやつは全員何処か幸せそうで、俺はいつも血飛沫に恍惚として血の牡丹に衝動を覚える。

 死んで、死んで、死んで、死んで、死んで。俺一人になるとソイツは笑う。

 

【さあ。おぬしの番だ】

 

 撃たれる瞬間、いつも俺は目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらS12地区の部隊が帰ってきたようですよ」

 

 代理人が何の躊躇もなく部屋に入ってきた。目が覚める。

 流石にこれはどうなのかと焦りながらジェスチャーで何とか伝えてみようとするが、代理人は僅かに眉を顰めて変なものを見るような目付きになる。

 

「何ですか、髪型は元に戻しましたが」

「いや、そうではなくですよ。あのですね、年頃のAIなんですからノックぐらいお願いしますよ!」

 

 俺は気にしないけどデストロイヤーとか発狂すると思うんだけど。

 今までにない切羽詰った顔になっている自覚に驚きながら代理人の様子を見るが、意味がわからないと言わんばかりに首を傾げる。

 

「取り敢えず迎えに行ってください、あなた方にお話がありますので」

「は、はあ…………了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

「…………おぬしら、声だけでは分からなんだが派手にやられたのだな」

 

 帰ってきた部隊は中々の有様だった。

 腕がもげて端子が崩れ落ちているのなんか普通だし、足がぶっ飛んだのを無理やりよく分からない布で止めている奴も居る。銃は折れ曲がるなんてもんじゃなく、完璧に一部が吹き飛んでいるものすら有る。

 

 目が潰れてる奴も居た、口が裂けてる奴が居た。

――現実はこんなものだろう? お前は何を期待していたんだ?

 知らない誰かが頭の中でせせら笑う。

 

「まあ、マシなもんですよ」

「誰も頭飛んでないしマシだよね~」

「この前指が全部バキバキになった瞬間は流石に痛かったけど、腕ごととかなら!」

 

 いつもお喋りなバイザーの欠けたVespidがニコリとすると、他の奴らも騒ぎ出す。彼女の右腕はちぎれて端子が丸見えだ。

 

 俺は言葉が出なかった。痛ましかったとか、可哀想に感じたとか、哀れみなんて下らないと自分を責めたからなんてものじゃない。

――――逆なんだ。違うんだ、()()()()()()()()()()。それが自分でも虚しくて、何か壊れてしまったような気がして苦しかった。

 笑ったまま潤む瞳を手で塞ぐ。息苦しい、俺はもう何かがぶっ飛んだらしい。

 

「…………ウロボロスさん、どうかしましたか?」

 

 一人が俺に問うた。

 

「何も有るものか。何も無いのだよ、馬鹿げたことだがな」

 

 言った所で俺の言葉の意味なんか分からなかっただろう。もうそれは此処であまり普通の事だった、中途半端に人間を気取った俺の落ち度。

 涙を手で連れ去って何時も通り表情を引き締める。びっくりさせてしまっては悪いからな。

 

 だが情は有った、それに少しだけ安心して、歪な何処かが悲鳴を上げている。

 

「おぬしら、その状態では銃の整備は出来まい。このウロボロスが手を貸してやろう、泣いて喜ぶ事だな」

「やったー! 何なら靴舐めますよあたし!」

「汚いから要らん」

 

 彼女達が笑ってくれなかったら、俺は今の一瞬で壊れたかもしれない。

 ちょっとだけ感謝した。

 

 

 

 

 

「それで、話とは何ですか」

 

 仲間の銃をちゃんと組み直してやる健気な新人気鋭のムーブを決めている頃、何故か手伝ってくれた代理人にふと尋ねる。

 

「この部隊を現時刻を以てあなたの物とします。明日の作戦に参加してみなさい」

「は? ワンモアリピート?」

 

 何を言ってるんだ代理人。貴方がそんな冗談がお上手な人だとは思わなかった、お硬い人とか思っててゴメンナサイ。

 いやマジだわこの人。顔が真顔だもん、この流れで「はい冗談でした~☆」とか絶対言ってくれるわけがないな、馬鹿じゃないのこの人。

 

 思わず固まる俺に何体か下っ端が笑う、睨んだらいそいそと銃の手入れに戻った。

 

「あなたの耳は節穴なのですか。ですから、この部隊はあなたの私物です。好きに扱い、好きに消耗させ、好きに鍛えていいと言ったのです」

「成る程分かりません…………どういう風の吹き回しですか? とうとうわたしは使い潰されるということですか」

 

 代理人の顔からは何も読み取れない。いつもながら全く無表情で、瞳に籠もる小さな感情を追うので俺にはやっとなんだ。

 

「…………あなたは早く経験を積んだ方が良い、私がそう具申しただけです」

「ああ、それだけですか。それなら良いんですよ、それなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて――――――後は袋の鼠、だな」

 

 彼女の吐息が白く宙を舞う。周りを歩く四足歩行の戦車系統「Manticore」の駆動音だけが大きく響き、彼女の側を共に歩く鉄血兵の足音は掻き消されていく。

 ウロボロスの白く細い足が雪に沈む毎に、後ろの軍勢もまた一歩と遅れて歩く。その姿は部隊というより最早一個の軍。百鬼夜行に似た畏れを帯びるほどの寒気を覚えさせる。

 

 雪景色の中、彼女達は廃墟に近い自陣地の中を歩くのは作戦のためだ。代理人の提示したものはこうである。

 

『この基地のコンソールにはAR小隊が欲しがるデータが保存されています。餌にして袋叩きにしてしまいましょう』

 

 彼女はすぐに思い当たった。これは前世の記憶を辿ればゲーム上「第零戦役」と呼称された、言うならば本編の前日譚。

 ウロボロスなど影も形もなかった筈という記憶には勿論焦りを覚えたが、今更決まったことをどうしようもない。ダメ押しとばかりに上から押し付けられたManticore等という試作兵器まで携えた文字通りの怪物じみた戦力の貸付。断ろうにも断れないのは仕方ないだろう。

 

 正直な所、彼女は内心考えあぐねていた。恐らく――――――この戦力なら、AR小隊は潰せるという確信があったからだろう。

 基地の中央部をManticore、及び狙撃兵Jaegerの射程に捉えた辺りで彼女が静かに手を挙げる。「待て」の合図だ、鉄血兵達の足音が同時に止まると静寂がしんと辺りを突き刺す。

 

「指示を仰ぐ、先走って撃つなよ」

「まさか。私達はウロボロスさんの命に従うだけですので」

 

 護衛兵の一人がニヤリと返す。

 

「馬鹿者、わたしの上官の言うことも聞かぬか」

「少なくとも私が付いていくならあなたが一番マシです」

 

――マシ、か。よく言った。

 彼女はその裏表のない褒め言葉に感心しつつ、通信をオンにする。

 

「ポイントBに到着。指示を」

『…………構いません、撃ちなさい。同時に少数精鋭を内部に派遣してください、逃げた鼠はきちんと駆除しなければ』

「あなたは?」

『別働隊に足止めを食っています、ですが――――貴方なら問題ないでしょう』

「ふふっ、了解――――――――おぬし達に朗報だ。が、待てよ」

 

 静かに取り出した端末を弄ると、それに向かって酷く不敵な笑みを作ってみせる。

 

「御機嫌よう、AR小隊の諸君。わたしはウロボロス、鉄血の上級AIだ」

 

 AR小隊の居る司令室のモニターに繋いでいるのだ。後ろで部下の何体かが笑いを堪える、「運が無いな」と。

 

「ああ~、話など聞いてやらぬ。簡潔に言ってやるからよおく聞くのだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からおぬしらを壊し、そのデータを頂戴する。精々足掻くのだぞ? 下等人形諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウロボロスが首だけで振り返ると、自信に満ちた瞳と共に口角を吊り上げる。

 待機していた彼女達はその表情だけで意図を理解する。とうとう、時間が来たのだと。

 

「さあ、『撃て』。中に残った鉄血など知ったことではない、これは代理人からの命令であり、わたしからの絶対命令である――――――抵抗したら殺せ。抵抗しなくても殺せ。狼藉者ごと全部纏めて撃ち殺せ。生かすな」

【了解しました】

 

 号令と共に砲撃のファンファーレが響き渡る、それはさながら黙示録のラッパ吹き。

 一斉に始まった斉射は建物の隙間という隙間を埋め尽くし、表層から見える通路、部屋、機関を全て破壊する。

 

 不協和音のラッパに応えるようにある一室が爆発する。それに勢いづくのかどんどんと各地で爆発が起き、それは斉射から解体工事の様相すら見せ始める。

 ウロボロスは回る火の手を眺める。そこから匂う死の残滓に、確かに彼女は僅かな高揚を見せた。

 しかしすぐに萎れて消えてしまう。足りない、それでは彼女は満足しない。弧を描く口元を直しもせずに後ろへ声を張る。

 

「今よりわたしが残りの掃除に掛かるが、だからと手を止めるな。引き続き破壊行動に勤しみ、中から出てきた鼠は全て袋叩きにせよ!」

「いや、ですがそれではウロボロスさんも――――」

 

 何か言おうとした護衛の一人の口元に、ウロボロスが静かにするよう人差し指を当てる。

 

「相変わらず愚か者だな、おぬしらは。この程度の豆鉄砲で死ねるようなら、わたしは此処に立っておらぬよ――――――存分に撃て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焼けた通路を歩く。燃料でも有ったのか火の手はかなり広がっていたが、彼女はその様子を気にも留めず荘厳に闊歩する。

 不思議なことに彼女が選ぶ道に火は回りきらない。まるで火が彼女を恐れているようだ。

 

「しかし、オレが代理人の代役とはな…………あの人は名折れしてるぞ」

 

 くだらないこと、と自分からのその話題を斬って捨てた。

――確かに彼女は高揚していた。電子神経の中枢から末端までもが、過剰なくらいに今か今かと体内を暴れているのが分かる。

 

 彼女にとって主人公というのは、それだけで殺戮の代名詞だ。大義名分で悪を誅する姿を前世の自分でも評価をしていたのが彼女には不思議だが、「殺戮者」という正体も側面として存在する。

 殺戮の代名詞。死の代名詞。悪は倒れる証明定理。即ち、(わたし)をも殺せるもの。

 

 階段を一つずつカツ、カツと登っていく。朱く染まりきった中で、黒い衣装に白を讃える素肌の彼女はよく映える。どれだけその姿が生命らしくないかをよく魅せる。

 

「思えば清々しいほどこのやり方に慣れたからな…………オレは倒すべき敵になれているぞ、なあ?」

 

 誰も居ない階段を、彼女の歪な笑い混じりの声が走り回る。

 彼女は実のところ、ウロボロスを名乗ってから殺人に躊躇がなかった。命令に「殺せ」と含んだ回数は十や二十ではないし、今だって気に入らなければAR小隊を全滅させようという淀んだ感情が蠢いている。

 

 当人が認めるほど彼女は悪だった。だからこそ、正義とやらに問いたかった。そのチャンスが欲しかった。

 

 いや、彼女が死を求めるのは自分が「ウロボロス」であるからでも「悪」だからでも無いのかもしれない。

 この衝動が息づいたのはある電脳空間での時。殺し合うさまを他人事のように眺めて、少し経った頃なのが真実。

 

【死に様って思ったよりも綺麗だな】

 

 そんな可笑しな感情にあの日から取り憑かれているのだ。何十何百と死を眺めている内に気付いた、気づくべきでなかった最期の願望にもう蕩けてしまっている。

 

――ああ、もう到着か。

 彼女の廻り続ける思考の果てに、奴らは姿を現した。




「趣味で書いてる小説の息抜きに小説を書いている」らしい。メチャクチャだよ。
突然ですが、この小説は適当です。ウロボロスの処遇すら決まっていません。最期の台詞は決まってる、超ぴったりのやつ。

ウロボロスと代理人が好き。代理人が「お前を爆推しといた」って言ったのに「何だそれだけですか」って。こういう感じ。

本編は10話以内で終わらせますが、端話とかIFは書くかもしれない。
今回は書こうとした内容が面白くなさそうなので飛ばして第零戦役にしました。ウロボロスは仲間の前だと気を抜いていますが、こういう性格。すき。
全部中途半端しか書けないのが悩みですが、シリアスで文ごと切り替えれるのは独自の強みかもしれない。

次面崩壊のBGMが似合うボスになった。ウロボロスちゃんは負けムーブヒロインだから仕方ないよなー!(スティンガバースト)


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『わたしを殺してみせろ』

「当たる構成だな」と思いつつ書いていたが(一話後書き参照)、いざこうなると身の振り方に迷う。
短編日刊4位だった、すげー。総合日刊以外は興味ないから気づかんかった、そう言えば短編でしたね。


「……ゲホッ…………ゲホゲホ!」

 

 M4は声を出そうと頭を上げるが、あまりに酷い惨状に思わず咳き込んでしまう。

 データをコピーしている最中、突然鉄血が襲ってきたまでは対応が出来た。現在もAR15とSOPⅡが捨てられた部隊を連れて足止めしているだろう、それは問題なかったのだ。

 

 突如始まった別働隊の攻撃。量も質も本隊に相違ないそれには防衛が保たなかった。

 

「M16姉さ…………ゲホッ――――どこ……?」

 

 小さく響く彼女の声に反応は返ってこない。無音が続くほどにM4の焦りは加速していく。

 思わず手で周りにM16が居ないかを探すが、手に当たったのは無機質な自分の銃のフォアグリップ。僅かな期待はあっさりと打ち砕かれたことに思わず息を呑んだが、甘えてばかりではどうしようもない。

 

 せめて敵が来た時にすぐに撃てるように。そう思って彼女がしっかりとフォアグリップから手元に引き寄せたその時だ。

 

「ははは、こんな時に姉の心配とな。おぬしは面白いな――――M4A1?」

 

 遅かった。聞き覚えのない笑い混じりの声。

 M4は思わず声の方向に銃を向けるが、それよりも早く銃が奪われる。声の主はしゃがみ込むなり耳元でせせら笑う。

 

「甘い甘い、おぬしではわたしには勝てんよ――――――今のままならな」

 

 首元に手が回される。細く、また怖気立つほどに冷たいそれがM4の首を強く、確かに殺意を持って締め上げる。

 辛うじて息が出来たがそれは敢えてやっているのが分かる、ソイツは彼女の苦しむさまを観察しようとしていた。少なくとも彼女にはそう感じる。

 

 ふわりと身体が浮き上がる、首元に掛かる負荷に思わず呻いた。

 

「――――――っく!」

「さあ、眼を開けよ」

 

 M4は言われるままに眼を開ける。

 

――その女は、いや少女が正しいのか。恐らく少女なのだろう、しかしその瞳の奥にはあまりに多くの死骸が積み上がっていて、とても実際の風貌は測れない。

 恐ろしく白い肌は鉄血共通のものにしても、その紅く残光を灯す瞳がM4には恐ろしかった。釣り上がる口端、向けられた浮遊する機銃の数々。やはりコイツはM4の様を観察し、期待し、悦んでいる。

 

 そのセーラー服のような格好は素肌ばかりを見せつけていて、余程「自分」という概念に自信があるのが見て取れる。

 

「…………わたしは生き物をこんな持ち上げ方をしたことがなくてな、息は出来ているかな? いや死んだならもうどうでも良いが」

「――――――わけ、の、わからない…………ことを!」

 

 首に伸びた手を両手で掴み、引き剥がそうと藻掻く。暫く女はそれを傍観していたが、突然笑みが失せたと思うと一際強く首を締め付ける。

――頭が。

 

 明らかな過負荷に思考が曇る。それを女も察したのか、抵抗が薄くなるとすぐさま力を緩めた。やはり敢えて生かしているのだ、それがM4には無性に恨めしい。

 弄ぶだなんて。無様な姿を見て楽しいのか、と。

 

 その意を汲んだのか、おどけたように嗤う。

 

「おおっと失礼、わたしの名前はウロボロス。尚、抵抗すればおぬしのこの銃で喉元から脳天まで撃ち抜く、下手に喋らぬことだな」

「ウロ…………ボロス――――?」

 

――鉄血ごときが、完璧を表す蛇を騙るのか。

 復唱するとウロボロスは、まるで聞き分けの良い子供にでも向けるような朗らかな笑顔を見せる。

 

「よく言えたな。覚えておくことだ――――――ああ、M16A1も動くでないぞ?」

 

 ゆっくりと、ウロボロスは瓦礫に首を向けると嘲笑う。

 手に持ったM4A1をM4の喉元に突きつけると、まるで号令でもかけられたように浮いていた機銃が一斉にその瓦礫に向けられた。

 

――――暫くすると、両手を上げたM16がゆっくりと瓦礫の陰から現れる。

 

「ねえ、さ――――ん」

「悪いM4、どうやらお見通しらしい」

 

 M16の舌打ちにウロボロスはまあまあ、と宥める。

 

「安心するが良い。わたしは幾つかM4に質問がしたいだけだよ、内容によっては殺す」

「だから悪い返答ならば殺す、並の返答ならば殺すという事――――――とはいえ、良い返答でも殺すのだがな?」

 

 M16の上げられた拳が強く握りしめられた。

 

 ウロボロスはそんなものは意にも介さず、M4の方に視線を戻す。途端に蛇に睨まれた蛙のごとく、M4にはその視線に対する反撃の姿勢を思い出せなくなってしまった。

 何をすれば良いのかも分からず僅かな呆然を含んだ瞳に、ウロボロスは真っ直ぐと質問を投げかけた。何故か彼女は銃を捨てる。

 

「では先ず1つ。今の本音を正直に述べよ」

「今すぐ、お前を――――――殺してやりたいわ」

「では次に2つ。わたしはおぬしにどう映る」

「鉄血のクズ、よ。見分けなんか…………つけるものか」

「では末に3つ。おぬしが情報を渡せば、姉妹共々助けてやると言えばどうする?」

 

 

 

 

 

「誰が渡すものか。私は此処に来るまでの仲間の信頼も、尽力も裏切らない。姉さんだって、そんな事をされてまで生き残りたいとは答えない」

「――――――ふむ」

 

 ウロボロスの眼が怜悧なものにピタリと切り替わる。顎に手を当て小首を傾げるのが何だかこの状況では気の抜けた馬鹿馬鹿しい動作にすら思える。

 

 M4の有りもしない心臓が酷く跳ねている錯覚。気に入られたいのではない、その動作の一瞬にでも隙が無いかと待ち望んでいるのだ。

 だが有る訳がない。代わりにウロボロスの眼が、口元が冷たくM4を貫く。

 

「おぬしは悪い回答どころか、最悪の回答をしたぞ――――――――殺す価値すら無いわ、雑兵め。恥を知るが良い」

 

 途端にM4の首から手を離し、服の首元を掴むと手の力だけでM16へと放り投げた。M16は突然の動作に対応しきれずM4を抱きかかえながら瓦礫の中に倒れ込む。

 

 砂煙の中で驚いた表情で此方を見るM16を、ウロボロスは殆ど無表情に近い様子で静かに見つめる。まるで理解も出来ない前衛的な名画を見ているような冷たい瞳にM16の思考が少し止まってしまった。

 

「情報など送る前に消せば意味がない。一度渡してしまい、油断したわたしを撃てばよかろうが――――――――矜持に拘り、それすら思い及ばぬ知能。もしくは賭ける度胸もないおぬしは兵などではない。ただの夢想家だ、殺す意義を感じぬ」

「が、その分不相応な誇りを評価してやろう。わたしの気が変わらぬ内に失せよ」

 

 M16には言っている意味が分からなかった。

――何を言ってるんだ、この女。

 

 その表情に大意を察したのか、ウロボロスはわざとらしく肩を竦めて呆れを表現してみせる。表情は本当に二人の行動に呆れているものなのが明白だ。

 

「はよう失せぬか。せっかくわたしが見逃してやろうと言っておる、好機を捨てるは兵の恥だろう?」

「わ、私達を生かして帰すってのか? お前…………」

「そう言っているのだよ、あくまでわたしは――だが。外の部下共はおぬしらが何とかせよ…………はぁ、興が冷めた。次に会えるならば――――――――そうだな、M4。よく聞け」

 

 

 

「わたしが「お前になら殺されていい」、そう思える答えを用意しろ。今のでは主人公気取りの愚か者よ、そんな馬鹿に殺されてやるつもりはない、わたしを殺してみせろということだ」

「そういう兵士になり、わたしの前にもう一度立てたなら――――――おぬしに敬意を払おうではないか」

 

 そう言うと、ウロボロスは酷く脱力した様子でM16から背を向けて階段へ歩く。機銃はしっかりとM16に向けられており、本当に隙だらけなのかいつでも殺せるのかが判断しかねる。

 

 消える直前、ウロボロスは

 

「せっかく殺せるチャンスを与えてやったというのに――――――まあ、主人公など大見得を切ってナンボなのか? わたしには分からんが…………」

 

 と愚痴でもごちるようにぶつぶつと喋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、スケアクロウ。聞こえているかな?」

 

 全く、ショーティーを付けていることをこれほど感謝したこともない。アレにわたしは殺される筋合いはないし、触れたくもないな。理想論と綺麗事は嫌いなのだ。

 

 そして同時に羨ましい。死の間際ですらあんな啖呵を切れる高潔さが。主人公になどなれようもない自分が影になって、アイツラは美しく見えてしまう。わたしは甘いと言うより身勝手だ――――――――そういうものは遺すべきだと考えてしまうし、実行してしまうのだ。

 ストーリーを壊すのも趣味ではないからな。予定通り、404小隊に殺されてやるとしよう。

 

『聞こえていますよ。まさか通信を繋いだということは――――――』

「ああ。しくじった、代理人に端子を幾つか引き千切られるやもしれん」

 

 スケアクロウは溜息をつくと、わたしの言葉に文句を重ねる。

 

『むしろそれで済むと思える信頼関係が羨ましいですわ――――――――まあ、しくじったことにしておきましょう。貴方がしくじるなんて、あの方は信じないと思いますが?』

「まあそう言うな。ハンターとの交渉材料として拳銃コレクションをくれてやろう。それで勘弁して、今はあやつらを追ってくれぬか?」

 

 言われなくても仕事はします。そんな無愛想な返事が来ると通信は切れた。

 

――さて、代理人に殺されるのは不本意だが。わたしはどういう処遇になるのやらな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お前は何もお咎め無しと?」

「ああ。わたしが困惑したな」

 

 はい、ブラックジャック。お前弱いよ、処刑人。

 またギャアギャアと喚き出した処刑人のクレームをシャットダウン。もうあまりにも哀れなので顔にある程度出してやってるのだが、日頃の行いというか深読みされて逆に勝ってしまう。これがオオカミ少年ってやつか。

 

 戦闘の時は突っ切る馬鹿って事はないのに。アレか、気を抜くと直球馬鹿になるのか。

 ハンターもブラックジャック。互角か、表情を変えずに俺に尋ねる。

 

「最初に何て言ったか覚えてるか?」

「確か、『次はありませんよ』だったな。あ、処刑人はわたしとハンターに平等に酒を注げよ――――――敗者は相応の惨めさを味合わんとなぁ?」

「勝ったからって調子づきやがって、ったくよぉ! 笑って言うことじゃねえぞお前――――」

 

 俺がお前に負けたこと無いじゃねえか、常に調子乗ってるってか。え?

 ハンターはいい加減俺に勝ち始めた。スケアクロウはいつもいい具合でフォールドして勝負に出ない、俺がバストしたと見ると攻めて来るタイプ。ディーラーは不利だ、いい加減イカサマもさせてもらおうか。

 

 こういう時のために幾つかは学んでるんだ、代理人に相談したらピンポイントな本拾ってきてたのは笑ったけど。

 悔しそうに顔を真赤にして酒を注ぐ処刑人、いやあ格別格別。

 

「ほれほれ、急がんか」

「ウロボロスは敗者に全く容赦を知らんな…………」

「数千も負け組を見た後だとな、勝っているぐらいでないと万物には価値がないと思えるものよ」

 

 そんなもんか、と納得したハンター。

 

「そう言えば貴方の兵装、代理人様のアームの銃でしたわね」

「おお、お目が高いぞスケアクロウ」

 

 急に喋ったと思えば兵装の話なのは仕事人気質過ぎて不安になるが、それは正解だ。

 スケアクロウは賭け事の時はあのマスクを外す。曰く「アンフェアは好みません」とのこと、戦闘で手段を選ばないだけで誇り高い一派のようだ。是非部下にしたい性格ナンバーワンだぞ、俺的には。

 

 少し俺の反応にスケアクロウは得意げに口を緩ませる。顔に出てないつもりらしいからぶっちゃけ可愛いよな。

 

「あの戦闘は前日にいきなり駆り出されると聞かされたのだがな? 「兵装がないんですが」と言ってみたら、事前に改造していたものを寄越してくれたのだ。あの人には色々な意味で頭が上がらんよ」

「…………アレまさか生えてくるのか? 尻尾みたいに」

「一杯あるのだそうだ。要事の際はスペアを別に置いて取っ替え引っ替えもするらしいぞ?」

 

 全員が固まる。

 

「あのなっがいフリルスカートをたくし上げて何かサブアームをイジってる代理人…………怖いぞ、私は」

 

 おいハンター、具体的に想像できる言い方を辞めろ。

 あの人背が高くてな? あのクールな無表情のまま、スカートたくし上げてサブアーム弄ってるんだろ…………? 気持ち悪い。

 

「わたしだって怖い」

「オレだって喋りかけようとは思わん」

「仕事なら特に」

 

 スケアクロウ、お前は畏れを知るべきだ。




今回から当作品のウロボロスは姉貴呼びしていく。
姉貴は一話の途中あたりでぶっ壊れました、殺し合いを眺めてる時ね。仲間には世話焼きで遊び人な所もあるけど、まあ今回でお分かりの通り根本的にヒール気質。

感情移入は止めた方が良いですよ、俺は「悪」と認定してますし扱い方もそれ相応のものです。彼女はあまり正しくない。
代理人が甘い判定出した理由ですが、ウロボロスは異名がないので上級扱いではなくスケアクロウと同じで「スペアはない」。CUBE作戦でもそんな感じだし。戦場に出した時点で信頼は有ったという。

次回はどうしようか、処刑人を出して欲しそうな人が居たから一応出してみる。他にも鉄血で欲しいキャラ言ってみても良いぞ、頑張ってはみるさ。
おや、ウロボロスの一人称の様子が――――――?
ってかウロボロスの喋り方違うな。婆口調だったっけ、おぬしだけだったかな? 覚えてる人教えて、何かCUBE作戦のテキスト読めないし。


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完全無欠でぽんこつで【前編】

上司の信頼、忠実で強力な部下、確固たる思想。
足りなかったものを全部持ってる。ウロボロスは姉貴を見て何を思うのやら。

此処まで来るとポッキリ折れて席を譲ってしまいそうだなあ、かわいそう。興奮する。慰めてあげなきゃ。
今回は悪役系コメディ。えげつないネタも有るよ! 後ウロボロスがかなりバカぽんこつだよ!

そして長い。BD特典のOVAみたいなもん。
50位か。10位以内は遠いぜ全く、中々いい感じなのだがね。


「よし、パーティーをするぞ」

「あの。もしかしてそれ私に言ってます?」

 

 お前以外に誰に言うんだ、スケアクロウ。我が最高のバス友。

 目線で察しろよと気持ちは込めてみたが、ダメなものはダメらしい。あの部下共ならちゃちゃっとハイと言ってくれるのだが、まあこれはこれで必要な距離感だ。むしろ好ましい。

 

「おぬしだとも、スケアクロウ。我が最愛のバス友よ」

「言い方がちょっと気持ち悪いですわね…………」

「なっ、ともかく手伝え! 良いか、この紙に時刻と場所は書いておいたから、おぬしは一覧の鉄血を呼ぶのだ! 良いな!」

 

 スケアクロウがお前バカじゃないの、みたいな顔で此方を見てくる。辞めろ、俺が惨めな気分になるだろうが!

 ジト目でマスク越しにかなりの不満を見せつけてくるスケアクロウに俺はもうひと押し、というかお前に手伝わってもらわんと俺も一人で達成出来る気はしないんだ。

 

「頼む! 新しいリンスならくれてやろう、この通りだ!」

「水臭いですね、私と貴方の仲でしょう?」

 

 素晴らしい掌返しだ、もう俺は手伝ってくれれば何でも良い。

 

 

 

 

 

 

 

「パーティー、か?」

「ああ。鉄血内は喧騒が足りん、偶には騒ごうではないか」

 

 アルケミスト、コイツは特に遊びがない。

 実は喋る機会もあまりないのだが、俺はパーティーなら僅かな縁でも手繰り寄せる派だ。大体鉄血は大した頭数も居ないんだから、全員呼ぶぐらいの勢いで良いのだ。

 

 アルケミストの左眼が困惑したように細められる。

 

「誘いは有り難いが、あたしは今から拷問が有ってな…………」

「人形の手足をもいで悲鳴と命乞いを聞くアレの何処が拷問だ、おぬしは唯の変態サドだ」

「変態サドとは何だウロボロス! あたしはあの絶叫の奏でる狂想曲の甘美さを理解したまでのこと、決して変態などではない!」

 

 うわ引くわ。敵は一思いに嬲らずブッ殺すのが礼儀で快楽だろ、やっぱ変態性癖じゃねえか引くわ。

 いやまあ確かに悲鳴聞いてると優越感は有る、がそれでレイプじみた所業はしねえよ。

 まあこの前「際どい服着てる癖にそこまで胸ねえじゃねえか!」と宣いやがったトンプソンはゆっくりと蜂の巣にしたが、アレは別口だ。部下が引いてたがどうせ記憶をロストして復活しやがるぞ。

 

 こんな奴ばっかだから生きづらい(正直おぬしも大概な性癖を暴露しておるぞ)。今誰か俺に喋りかけてこなかったか?

 

「訳が分からぬしおぬしやっぱり変態だぞ…………」

 

 考えてみたがやっぱり本気で何言ってるのか分からないんですけど気は確かか?

――――ええっと、訳すと「私はあの絶叫の響き渡る美しさが気に入ってるだけで、変態ではない」ぐらいか。分かる自分が嫌だ、一ミリたりとも理解はしたくない。

 

 だがもうこんな狂った環境だ、俺も嗜好の歪曲ぐらいどうこう言わないさ。理解は出来ないけど、もう仕方ない。そうすることでしか生きれないならそうすればいいさ。俺も所詮人形殺しだ。

 

「…………そうさな、ギャンブル大会を開けば処刑人の本気の絶叫は聞けるやもしれんぞ? 組んであやつらを陥れてみぬか? ついでに代理人もアヒンアヒン言わせてやろうではないか」

 

 突然アルケミストが怪訝な顔をしたかと思うと、顎に手を当ててニタァと笑ってみせる。な、何だお前。気持ち悪いな。

 

「最高の提案だ、乗った。しかしお前、あの代理人をアヒンアヒン言わせようとは挑戦者だ…………かつ背徳者、更に言えば変態?」

「そ、そういう意味ではないからな!? この阿呆! 馬鹿、端子を千切られたいのか!」

「どういう意味だと思ったのやらなぁ?」

「――――――っ!? う、五月蝿い!」

 

 

 

 

 

 

 

「は? 嫌よ」

「おぬし、随分つれないのだなあ…………そんな事だから友達も出来んのだぞ、デストロイヤー」

「何の話よ!」

 

 いやだってお前友達ゼロ人じゃん。オフ会ゼロ人より致命傷負っちゃってるじゃん。

 プリプリとして怒っているちびっ子、デストロイヤー。俺的にはちょっと扱いにくい妹みたいで実は嫌いじゃない。意外と道とかしっかり教えてくれるし親切でかつ丁寧な仕事をする方なんだけど、如何せんこの言動で他のやつからの評判はアレ。ちょっとかわいそうなやつだ。

 

 俺は平気だ、大学生の時もこんな扱いにくい従兄妹ぐらい居た。

 

「あんたに友達が云々なんて言われたか無いわよ、セーラー○ーン女!」

「あ!? 言ってはならぬことを言ったなデストロイヤー、わたしは友達いっぱい居るし!」

 

 少なくともお前じゃ勝負にならんぐらいいっぱい居るわ!

 大体この髪型を馬鹿にするとは何事だ、俺だけでなく貴様はウロボロス御本人も敵に回したからな分かってんのかコラ(全くだ、やってしまえ)

 

「後ね、あんた鏡の前で自分見てニヤニヤするの辞めなさいよ! アレ本気でキモいんですけど!?」

「なぁっ!? わたしは可愛いだろう!?」

「自分で言うの…………!?」

 

 そんなドン引きしなくても良いだろ。

 実際以前のコメントに困るフツメン顔に比べりゃ圧倒的に良い。化粧がないのが惜しいくらいだ、【まあしなくともわたしは可愛いのだがな!】

 

――わたし? わたしって言わなかったか俺、今の誰だよ。何か今日は思考に変なものが混ざってる気がする…………。

 まあ良いや。

 

「ともかく、おぬしもちゃんと来るのだぞ! いつもみたいに漫画読んでたりしてみろ、わたしが直々に部屋から引っ張り出してやるからな!」

「要らないお世話よ、べーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは子供ですか」

「いや、その、返す言葉もない…………」

 

 代理人に窘められた、真顔で言われると確かに大人気なかったな俺…………。

 しかし、やっぱりあの時明らかに俺じゃないやつが頭で喚いてたよな。何だろうアレは。

 

「それで、返答のほどは」

「構いませんよ。どのみち作戦外の時間など、大抵は整備しかしませんから」

 

 なんと仕事人間な台詞だろう。それに哀愁も虚しさも苦痛も見いだせない貴方が俺は本当に心配だ。

 

「そんな寂しいことを言わないでください、夜ならわたしが貴方を温めて見せま「成る程、このサブアームは調整したところなのですが――――――的になって頂けると?」申し訳ありません代理人様わたしは貴方に絶対服従ですご不満でしたら靴舐めましょうか?」

「不潔なので結構です」

 

 この流れ前も見た。

 いや、この人には本当に勝てない。この世に足音を鳴らした頃から世話になったし、今も何かとサポートはしっかりしてもらってるからな。

 

 夜に温めるは冗談にしても、秀吉よろしくヒールを懐で温めてもバチは当たらないと――――――それは本当だ。

 代理人は顔じゃ分からないから、しっかり会話をしなくてはならない。逆に言えば、ちゃんと喋ればちゃんと返ってくるとも言う。

 

「今のは冗談でも、まあ困ったことが有れば何なりと。ウロボロス、この権威と謀略の全てを駆使してみせましょう」

「何を今更、分かっていますよ」

 

 ひえ、この人俺をしっかり扱き使うつもりだ。潜在的なSでは、いや仕事だからなのか? 分からねえ。

――だが気になることは有る。この際聞いておこうか。

 

「というか断らないんですね、嫌がるかと」

 

 何気なく聞いてみただけなのだが、代理人がピタリと固まってしまう。

 珍しい、彼女が固まるのは考え事と困惑している時だけだ。今の俺の質問は動揺に値したのは間違いないということで、俺の中ではちょっぴり優越感の有っていい案件だ。

 

 あんまり俺に表情を見せてくれない人だからな。ある意味それが唆ると言えば然りだが。

 

「…………理由なんてありません、部下の生活に触れるのも役目ですもの」

「本当? 何か固まっていましたよ」

「本当ですわ、私が嘘をついたことがありましたか?」

「ありません、では信じましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう、私に射撃で勝てればいいぞ」

「じゃあオレと肉弾戦な」

「ナチュラルにわたしと決闘しようとするでないわ阿呆コンビ!」

 

 大体わたしが勝つからな、これでも高スペックだぞ!

――だから今のは誰だ。わたしじゃなくて「俺」だっての。

 

 とはいえこのコンビ、いつも俺にギャンブルで負けてるからって此処ぞとばかりに渋るつもりだ。どうせ参加するくせに面倒な連中め。

 言ってやるのは簡単だがまあ、実はこういうノリが嫌いではないのも事実。二人してニヤついている辺り、つまりこれはじゃれ合いのたぐいなんだろう。

 

 良いだろう、受けてやる。

 

「――――――それはパーティーの前戯としようではないか」

「「??????」」

「なあ? おぬし達が言ったのだ、そうだろう? わたしは「本気」で良いのだろう、なあおい? おぬし達が、申し込んだ決闘なのだろう?」

 

 じゃあボッコボコにしても良いんだろ? 別にちょっとばかし腕がもげても文句はないんだろ?

 AR小隊は生かしてしまったからな、俺達(わたし達)は正直な所持て余しているんだ。これは良いお誘いだったよ、そうだとも。だってどれだけやっても、『(わたし)は悪くない』。

 

「あ、ヤバイぞハンター。コイツオレ達を殺す手前までやるつもりだ」

「お、そうだな。悪いウロボロス、やっぱり普通に参加するな私達! 意地の悪いことを言ったのは謝る!」

「遅いわたわけ! 精々酒を飲める程度には体が動くよう、天に祈りでも捧げておれ――――――――ッ!」

 

 二人の顔が青ざめるが遅いんだよ。もうやらなくちゃ気が済まん。

 どうせスペアは山ほどある。なあに、ちょっと骨が軋む痛みを味わってもらうだけさ。コイツラはそんなの正規軍辺りで言葉通り死ぬほど受けてきた仕打ちだろう、死にはせんさ。

 

 慌てふためく二人に思わず恍惚。愉しいなあ、良いぞ。

 

「悪かった! この剣貸してやるから、な!?」

「私の拳銃もくれてやる! 待って、止まれ!」

 

 うるせえ。もう引きずってでも連行だオラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『という訳で、前座のハンター&処刑人コンビの蹂躙も終えた。改めて挨拶しよう、ウロボロス――――――今回はこの宴にお集まりいただき恐悦至極』

 

 死体が後ろに転がっている、ああースッキリした。

 マイクまで有るのでよく会場に響く、盛り上がりは俺のマイク越しの声より数段上だったが。コイツラやるとなったら色々持ってくるんだよな、マイク持ってきたのちなみに夢想家だから。アイツ楽しそうだなあ、元々そういうタイプとは言え。

 

 飯もそれっぽいのが数多くチョイスされた、曰くスケアクロウセンスらしい――――――七面鳥、チキンナゲット、ポテト、ローストビーフ、ジュース諸々。これはクリスマスだぞスケアクロウ。

 

『これについてだが、実は理由はなくてな。わたしが馬鹿騒ぎしたかっただけなのだが…………簡易措置として『ウロボロス初実戦で大ゴケおめでとうの会』としようではないか』

「褒められたことではありませんよー!」

 

 いつもの無表情で声を張ってくる代理人。意外とノリノリなんですね貴方。

 周りも見たことのない代理人の浮かれ方にざわついた後ケラケラ笑い出す。響いたのは俺の部下共の阿呆な応援団ライクな掛け声。

 

「良いぞウロボロスさん、イチャつけー! 代理人xウロボロスサイコー!」

『バッ、バカおぬしら殺されるぞ!? あーいや申し訳ありません、わたしの部下は揃いも揃って悪ノリだけは得意でして…………』

「――――まあ今日は良いでしょう。『今日は』、ですが」

 

 ほら怒ってる。アイツラも流石に次はない可能性が有ると悟ったのか、一気にざわついた後シーンと固まってしまう。

 お、俺が礼でも言わないと不味いな。

 

『寛大な措置、感謝致します…………利用価値は有るので壊さないでくださればと』

「冗談ですよ」

 

 空気が凍った。だよね誰も今のが冗談だとは思えなかったよね、でもあの人のイントネーション的に多分アレマジで冗談言ったらしいんだよ。俺は今日から信じられなくなってしまうかもしれない。

 

 ヤベえ、またアイスブレーキング入れなくちゃな。

 

『ええい、やっぱりこの人の冗談は分からぬ! まあ良い、ではわたしが出し物と行こうではないか! まずはトランプでマジックをしてやろう、わたしの早業に惚れてしまっても知らんぞぉ!?』

 

 よしよし、何とか持ち直したぞ。勢いでマイクをぶん投げたり決めポーズとかして誤魔化しきれたぞ、身体張るのは戦場で慣れてるからな(わたしの体でされると屈辱的だな全く)

 

『ほれほれ、舞台に立ちたい目立ちたがりは居らんのか! グリフィンの鉄クズ共に『鉄血はシャイガールばかりかい?』なんて笑われてしまうぞ!』




ウロボロスすき、幸せな世界線提供したい。憑依か転生か迷うと思うんですけど、敢えてボカしてます。本体が残ってたらそれはそれで良い。
途中から一人称がおかしかったですが「誰の言葉」かはご想像にお任せします。

「TSって可愛い展開も有ったよな(うろ覚え)」であんまり見せないぽんこつな所も多めにしてる。ナンパ癖有ったり、短気だったり。本編だとカリスマと悪役にポイント振らせてるから本格的に巫山戯ないしね。

この小説って最初からラストシーンが一個だけ決まってるんですけど、何か途中で泣くかもしれん。展開的に泣けるわけでもないし上手い構成してないだろうけど俺が泣くかも。


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完全無欠でぽんこつで【後編】

カンペが有るな…………ほう? お気に入り二百人だそうだ、おめでとう。
阿呆が二百も居るとは、ハーメルンも末期か…………期待される死に方でも目指せば良いか? あまり主人公らしい返しは出来そうにない、うむ。

ともあれ後半戦、蛇の奸計を刮目せよ――――――おお、今のダークヒーローっぽいな! 良い感じじゃないか、なあ!?


まあ今回わたしの出番有る――――これは有ると言えるのか?
息抜きというより今回は自己満ではなかろうか。わたしは責任取らん。


「…………ひっく。肝を冷やしたぞ」

「飲みすぎです、AIとは言え酔い潰れますよ」

 

 飲まなければやってられない日もあります、はあ。代理人は強いからそれが分からないのですよ。

 銘柄も知らぬ液体を泡ごと飲み干す。ジョッキを叩きつけるのに僅かな快感、揺れる視界の端にはデストロイヤーが居る。

 

 ああ、口元に飯がついておる。

 

「デストロイヤー、口についておるぞ」

「え? あっ――――」

「しかたないやつよのぉ…………」

 

 勿体無いな、取って食ってしまおう。ああ、視界がぐらつく。酒に呑まれたか、わたしもつくづく愚か者よな。

 意識も視界もモヤだらけの中、デストロイヤーがバツの悪そうにわたしを見ているのだけが分かる。どうした、わたしの顔に何かついているのか?

 

「どうした、何かついておるかな?」

「え、いや――――――」

「ははは、おぬしの瞳は黄金に眩い。もっと見惚れておって構わんぞ~…………」

 

 おお、頭を撫でようとしたのだが随分乱雑にしてしまったな。まあ酔っているからな、大目に見てもらおう。

――慣れてないのか耳をほんのり赤くして大人しくなる。新しい家に来た猫とはこの事か、いやあ眼福眼福。

 

 アルケミストが悪酔いしながらわたしの肩にグランと手を引っ掛けながら頬を突き合わせる。近いのもそうだが、こやつは酒臭い。相当飲んだな?

 

「良い余興だったぞ…………それで、本命は如何に堕とすんだい。ウロボロス、もっと嬌声を聴かせておくれよ…………」

「待て待て、時も近いさ。あの人も飲めば流石に勝ち目があr――――――」

 

 待て。この人、全然酔っていない?

 顔色一つ変えずにゴクゴク飲んでいる。代理人は酒まで強いと来たか、どこまで隙の無い上司なのやらなあ。

 

――が、だからと逃げるは鉄血の恥よ。今しかない、勝負に出ようじゃあないか。

 

『ではぁ、これよりテーブルゲーム女王決定戦を始めるぞぉ! 酒は酔えども溺れるなよ、しっかと目を開けて我らが女王を見出そうではないか皆の衆ぅ!』

 

 ボルテージはマックス、さて…………。

 

 

 

 

 

 

 

「結局わたしと、おえ…………貴方の一騎打ちなのですか、代理人」

「そんな調子で勝負になればいいけれど。まあやってみましょうか、ウロボロス」

 

 またわたしは勝ってしまったか。全く、強者も楽じゃないものよ…………。

 さてさて、壇上に置かれた一組のテーブルと椅子。周りには敗退者含めた鉄血の野次馬の衆、要するに決勝戦。

 

 内容はシンプル、チェスだ。ただのチェス、一手に付き3分。早回しだ。

 

『おっとおっと、いつもの百合百合コンビで対決かい!? こりゃあオレ様もちっとは興味を持たざるを得ないなあ!』

『ハハハハ、もっとやれやれー! そのまま乳繰り合ってろー!』

 

 ハンターと処刑人は頭がおかしくなってしまったらしい、実況を任せるのではなかったな。後でコロス。

 

「しかし、私に頭脳戦を挑もうとは思い上がりましたわね。格の差というものを教育して差し上げます」

「ほざいていればいいでしょう、今日のわたしは数段バカですので――――――!」

『『ダメじゃねえか』』

 

 やかましい! 今日のわたしは凄いんだ! 多分!

 手早く部下が整えたチェスボードを眺める。わたしが黒、彼女が白。嗚呼、その色の選択は大正解だ。

 

 代理人の顔を見つめてみるが、彼女はやはり顔に出ない。どう打つかなんて想像がつかないどころか、何故か自然とどう手を打っても捻り潰されるネガティブな想像ばかりが頭を塗り潰してくる。

 それはイメージなのか、それともそう思わせる風格が漂っているのか。

 

『まっ、泣いても笑っても決勝戦だ! オレの手足は言葉通りバッキバキだからぶっちゃけウロボロスに負けて欲しいけど、お互いがんばれよ!』

『頑張れ頑張れ―! もっと殺し合えー!』

 

 一人おかしくはないか。ハンターは酔うと語彙力と品が失われるようだな。

 さて。トスをしようか、ポーンを持つ。

 

「では左」

「貴方の色と同じ白、先手は貴方です。代理人殿」

 

 では、と代理人がわたしの左手のポーンを取ろうと身を乗り出して――――――――倒れた。

 比喩ではなく、そのまま机に倒れ伏してしまう。突っ伏した代理人は眼をポヤポヤと開けたり閉めたり大変忙しそうであるが、起き上がれる様子がない。

 

 思わず変な声が出る。

 

「え?」

『は?』

 

 全員ハモってしまう。それはそうなるだろう、わたしもビックリだ。

 取り敢えず揺すってみるが、代理人の眼は完全に動けないことを示す蕩けたものでとても試合続行とは言えない。

 

――――観客席に居た夢想家がケタケタ笑った。

 

「いやあ、傑作傑作! 代理人が酒を飲むなんて何事かと思ったけど、あたしが来たのは大正解だね。うんうん、皆いい顔をしてるよ」

「何を言っている夢想家、わたしに分かるように喋れ。苛つく」

 

 こんな時までトリックスター気取りは気に食わない、ちゃちゃっと本件を喋れと。

 夢想家はイライラとさせてくる長い長い嘲笑の後、ゆっくりと代理人を指差す。

 

「代理人はね、酒に尋常じゃ無く弱いよ。多分一口、いや一滴目で酔ってる」

「ウロボロス? キミの誘いだから、強がって此処までやってみせたってことだよ! やっぱり傑作だよね、ハハハハ、ハハッ、ヒーッ! もう笑っても笑っても笑い足りないぞコレは! あの代理人がねえ!」

 

 本気か? 予想外過ぎる、大体代理人に限ってそんな事は――――――――いや。

 確かにこれはどうしようもないくらい酔ってるな。強がってたとしか言いようがない、顔に出ないのも有って分かりにくいだけか。

 

『あー、まあ夢想家を信じるか。じゃあ不戦勝でウロボロスの勝ちな! あーつまんねえの、頂上決戦がこの幕切れとは。三国志でももうちょい面白いってんだ』

『ほんと面白くねー! ハンターは怒っているぞ!』

『へいへい、ハンターはちょっと静かにな。お前ら、ゲームは片付けっぞー!』

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…………ちょっとばかし乱暴にお運びしますので、足をもつれさせないよう」

「きを、つけます…………」

 

 本当に酔っているらしく、体重移動がフラフラとしている。わたしが変に手を離すと頭から床にぶつけてしまいそうだ。

 あやつらは全く巫山戯ている。誰か運ぶのを手伝えと言ったのにニヤニヤとしてばかり、手を貸す気配が無い。鉄血に慈悲など要らない事は重々承知だが、無理難題を押し付けるのは鉄クズ以下ではあるまいか。

 

 代理人は背が高い。わたしに肩を預けても、それはそれで少し歩きにくいだろう。

 

「大丈夫ですか」

「だいじょーぶ、れす」

「駄目ですね、外の風にでも当たった方がよろしいかと」

「そー…………です…………か」

 

 ああ、駄目だ。この人はもうわたしの言うことをマトモに聞いていない、アイツ()だったら聞いているだろうに…………。

――わたしでは出来ないことをしてみせたなら、それは素直に譲りどころというものだ。一つ二つではなく、全て駄目だったなら仕方あるまいよ。

 仕方、ない。

 

「死人に口無し、同様に――――――敗者に口など要らぬからな」

 

 そういうものだ(それは違うはずだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………寒い」

 

 寒くなかった。言葉にすれば寒いかと思ったが、わたしにはどうしても寒く思えなかった。

――夜空は嫌いだ。見るほどに、自分は星を飾る為の空だと思い知らされるから。

 

 アレは何を思ってか、時折夜中に管制塔の頂上に座り込む。温かくもない甘ったるい珈琲を飲みながら、いつも一人で涙を零している。

 理由など知ったことか。一等星が何を嘆くことが有るのか、わたしには到底分からぬのだ。分かれないし、分かってやれないし、分かってやりたくもない。アレは、恵まれているだろうに。

 

 今日は一層寒いからか、三等星まで見えているらしい。綺麗なのは分かった、涙は出ない。

 

「あなたは、へやにもどりなさい。動力が不調をきたしては困ります、から」

「酔い潰れがほざくものよな。落ち着くまで待っていると言っているのです、甘えて良いと言うのに」

 

 貴方を放置していては、転げ落ちてしまわないか不安になる。

 

――少しばかり頭を貸してやった。生き残るためだ、例え意識の端に追いやられようとも死にたくないのは当然のこと。だからわたしはアレに「戦うための頭脳」をもまるまるくれてやった。

 アレは正しく使い、数千の屍の上に立ち、彼女に信頼され、仲間に信用され、部下に陶酔された。それはわたしに出来ないことだろうとすぐに分かった、アレはわたしと思考が違いすぎる。

 

 劣等感がないと言えば嘘。だが受け入れるべきであるという言葉も真。複雑でわたしも自分が嫌になる。

 

「星を、みているのですか」

「そうです。貴方は星には何を感じますか」

「分かりません、今日初めて――――――見てみようと思いましたから」

 

 それは、ウロボロス(あの男)だから? 酷い嫉妬で反吐が出た、聞くことはないだろう。

 代理人の目に星々が映り込む。彼女はそれに対して感傷を持たず、感想を持てず、愛着はないから綺麗に写し取られている。それは彼女の瞳に、もう一つの夜空が有るのではというくらい。

 

 美しい煌めきは、わたしに無いものだった。また無いもので、いや。無いものばかり見つけるのが得意なのがもううんざりだ。

 

「貴方はコレを見て、よく泣いていましたね。何故ですか?」

「酔いは覚めたようですね。帰りましょうか」

「質問の答は」

 

 代理人が立ち上がるわたしの手を取った。答えようもないというのに。

――どう答えたものか。わたしはアレが憎たらしいが、同様に好ましく思う。邪魔などしてやるつもりもないし、要らぬ世話もしたくはないのだ。

 

 もうわたしは死んだようなもの。あの時、少しでも「私こそが戦うべきなのだ」と考えられなかったあの始まりの日。あの時点で、わたしは居なくて良いし居ないようなものだ。

 酔いが覚めればまた何時も通りだろう。気が利き、力を持ち、言葉が他者を動かせるあのウロボロスは戻ってくる。

 

「明日答えましょう。それまでに名答を期待しております」

「そうですか、まあそれも良いでしょう」

 

 どうやららしい回答になったか。代理人は諦めて立ち上がる。

 まだ歩くのは辛かろうと手を差し出したが、一向に手が取られる気配はない。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、今日は何だか萎れているようだと」

「実際そうですよ。貴方とチェスが出来なかったのは残念ですので」

 

 まだ歩かない。何だ、面倒な人形だ。質問には答えてやったというのに。

 代理人の眼は苦手だ。何故かわたしの全部を見透しているような、ありもしない幻想に囚われる。真っ直ぐな瞳というのはそういうものを度々見せるようだが、わたしは嫌いだ。

 

 暫く待っていたが、もう諦めて手を引こうとした時。何時も通りの淡々とした表情だった。

 

「あの作戦の失敗は気に病むことではありません、私は貴方に倒しきれるとまでは期待しませんでしたから。後始末を損ねた私にも落ち度はあります」

「次の好機を、逃さないように。生まれた時から完璧など機械ですら有り得ません、貴方は次に成功すればそれで良いのです」

 

 冷たいふりをしているが、気だけはよく利く人形め。

 

「早く行きましょう、貴方まで不調になる――――――」

「…………? 何故涙を流すのですか?」

「分かりません。早く行きましょう、本当にAIまで駄目になってしまいますよ」

 

 ああ全く。わたしの事じゃないな、ああその筈だ。

――愛おしい程、アレは。おぬしは、わたしが欲しいモノを全部見せてくれるのだな。羨ましい。

 

 羨ましいよ、もう。だから見ているものを壊したくない。

 悔しいなあ。悔しいが、もう憎くて憎くて堪らんのだが………………わたしにこの理想は壊せない。見たかったものが見れて、何か満足してしまっているのだ。根本的な負け犬だ。

 

「…………もし。役に立たない部下が居たのなら」

「長い目で見てやってください。何か有る筈なのです、容易に捨ててやらないでください」

「我儘ですが『()()()』から、それだけお願いします。もう貴方にそれ以上を願いませんから」

 

 我儘だ。我儘だが――――――

 

「私は価値の有るもの以外に興味は有りませんが――――――そうですね。ウロボロス、貴方は私の持っていないものを持っている側です」

「頭の片隅には留めておくとしましょう」

 

 これぐらい、構わんだろう?

 なあ?




短くも彼女は多くを重ねました。さあ、「答え合わせ」と行きましょう。
多くは語らず。代わってダークソウル風に解説を更新。

【ウロボロス】New!
元大学生。死を観過ぎた故に希死念慮にかられている。
義理堅く、慈悲深く、容赦無き実力者。ただし体の性か驕り不利になろうとする。強者故の怠慢だ。酒を飲んだ場合も少しらしくない言動が目立つ。
面倒見は良いが真似であり真性ではない。されど行われれば性格で、善行である。
天命に身を任せるが抗わない訳ではない。「英雄の条件」を満たさなければ仇敵を殺すだろう。
強者の権利とは死に様を選ぶこと。彼女にとって絶対の法則はそれだけだ。生きながらに死に親しむ姿はOuroborosに相応しい。
しかしそれらは本当に「彼」だけの性格なのか。それは計り知れない。


遅まきながら感想評価ありがとうございます。息抜きでももらえるのは贅沢事です、嬉しい。
スローガンは「乞食は一生の恥、未完も一生の恥」なんですが、今回は乞食しません。適当に気が向いたら評価したり感想入れてください。
俺が息抜きしてるのに読者に気を張らせてどうするんだよっていう。

次回から暴れる。しんみり終わり、世界を滅ぼしかねない大蛇が戻ってくるぞ。


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筋書きを決めるのは

「おいハンター。わたしは昨日おかしくなかったか?」

 起き抜け。二日酔いじみた奇妙な感覚は何のために有るんだ、なんて鉄血工造を責めながら頭を抱えてハンターに問う。
 昨日の記憶がない。確かハンターと処刑者をボコボコにして、マジックをしてからだな…………それから、変な夢しか記憶にない。

 俺が傍からウロボロスを眺めている変な夢だ。
 ハンターは呆れたように溜息をつくと肩を竦める。

「お前はいつもおかしいよ。寝ぼけてないで代理人の所でも行ってこい、私は忙しい」
「うーむ…………アレは夢か…………?」

 アレは何だったんだろう。まあ、分からなくても困りはしないんだが。
 まあいつも通り、(わたし)は上手くやっていたんだろう…………ん?

「わたし?」


「いいえ~、私は何にでも♪ 牛乳を注ぐ女~♪」

 

 今日も今日とて代理人の髪を弄る。最近当人もちょっと楽しみにしているフシが有るので俺も鼻が高い、まあ以前はこんな器用じゃなかったんだが不思議なものだ。

 ウロボロスの身体はひたすらスペックが高くて助かるよ。

 

 代理人が振り向く。

 

「その曲は何ですか――――――まさか貴方、牛乳がないと生きていけない食嗜好なのですか」

「真顔で言わんとって下さい、そんな訳無いでしょう」

「冗談です」

 

 だから貴方の冗談は俺ですら見分けがつかない。

 

「貴方は髪質が細くて柔らかい、しっかり手入れすればもっと色々出来るんですが――――――スケアクロウから拝借したいですね」

「彼女は作戦中です」

「ほう、スケアクロウは現在作戦中ですか」

 

 代理人がコクリと頷く、それ自体はいつものことだ。アイツはとても優秀だ、仕事が増えるのも当然。

――問題は後から出てきた、内容の方。気づかなかった、()()()M()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり第一戦役に入った。まだAR小隊がチート指揮官に出会う前――――――そして、スケアクロウが死ぬエピソード。

 

「ふむ、困ったものだ――――――よしっと、今日はハーフアップ。ご感想は?」

「少し髪が邪魔ですね」

「そうですか、直しませんけどね☆」

 

 デコピンされた――――――痛ッテェ!? ヤベえ頭弾けたかと思った!?

 

「痛い! そんなに強くデコピンしなくてもいいじゃないですかぁ!? ああ痛!?」

「………………その顔を見ているともっと強くやってみたくなりますね。何故でしょう」

「潜在的嗜虐趣味!? 辞めてくださいよ!」

 

 真顔で首を傾げられても俺のデコの半端じゃない激痛は収まらないから。

 思わず擦って頭の所在を確認する、代理人は何事もなかったように歩きだすのでこれはかなり酷い。怒らせるようなことしたかな俺――――――したかもしれんな、うん。

 

 急いでついていく。

 

「ああ、そう言えばアレは完成してます?」

「していますよ…………まさか「スケアクロウに加勢する」等とは」

「勿論言いますが、駄目でしょうか?」

 

 代理人が珍しく渋った表情を見せる。

 まあ戦績が成功率0%では上の説得も面倒だし、俺は所詮新人。カタログスペックが高くても「本来は捨て駒」、その程度なのだ。

 

 我儘なんて早々聞いてもらえる訳

 

「………………はあ、後に響く事は承知しているのね?」

「え? 行けちゃう感じですか?」

「何とかすると言っています、恩は着せますからそのつもりで」

 

 それは全然構わない、というか元からそのつもりだ。

 

「え、ちょっと恩が返しきれなさすぎて責任とって嫁に貰うぐらいしかイッタ!?」

「馬鹿なことを言わないでくださります?」

「ごめんなさい」

 

 デコピン痛すぎる、グリフィン製だったら即死だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿呆共、何時も通り最終確認をせよ。マガジン、スタングレネード、ワイヤートラップ、通信の調子は良いか、ダミーリンクは不調はないか」

「問題などありません、当然ですよウロボロス様」

「それもそうであったな。わたしの部下がそんな間抜けな訳がない」

 

 流し目で後ろの隊を一瞥すると、彼女の瞳から小さく赤黒い冥雷が疾走る。今日の彼女は何時にもまして寡黙で、かつ怜悧な表情ばかり見せている。

 普段から整った行進をする部下達も何時も以上に柔らかい足元に堅い足音を踏み鳴らす。広がる平原に敵影はなく、戦闘のウロボロスを筆頭に明らかにそこらの基地の鉄血とは違う威圧感が空気を蝕む。

 

 以前居たManticoreと言った大型兵器は参列していない、今回は彼女の個人的な我儘に相当する行軍であるからだろう。

 

 しかしあの日の軍勢が百鬼夜行であるのなら、今日の彼女達はさながらワイルドハント。一人一人が今は亡き神々に匹敵するとは言えずとも、少なからず人など歯牙にかけぬ死霊の匂いを撒き散らしている。背丈も武器も整えられた様はまさしく狩りの前触れ、もしくは厄災の前兆。

 

「それにかまけるなよ、今回は勝算ありきの消化試合などではない」

 

 普段なら念押しなどしないだろう、今日この日だからこそ彼女はそれを改めて忠告した。かの上官の忠告には金こそ有れど鍍金はない、素直にその忠告は隊列の最後列まで行き届いた。

 

――流石に主人公だ。俺達がどうにか出来るのかは不安材料だからな。

 前回の奇襲は代理人に取って代わる形だからこそ疑問は無かったが、今回は本筋とかけ離れたイレギュラーとしての増援だ。

 

 敵はグリフィンそのものではなく、主人公であるという「肩書」に有った。彼女は自分がどういう存在であるか理解しているし、その肩書がどれだけ自分達のような性分に対して特効薬じみた力を持つかも知っている。

 

 ウロボロスは突然に振り向かないままGuardの一体を指差す。

 

「ではおぬし。今回懸念するべき前回との違いを列挙せよ」

「はっ。では僭越ながら」

 

 彼女は一旦息を整えると、少し張った声で返事をする。恐らく部隊の後ろまで響き渡らせるためだろう。

 

「一に互いの軍の規模。ニに我々が後手であること。三に今回の鉄クズ共は「我々の殲滅」に重点を置いていることです」

「よろしい」

 

 ウロボロスが流し見ると、小さく笑う。

 

「つまりだな、わたし達は気合で何とかすると言っても差し支えはない。眼の前で仲間を惨殺しろ、落ちている死体を盾にしろ、要らぬ言葉で惑わし撃つが良い。手段は選ぶな、全てを用いて殺せ――――――――」

 

 続けて確認を取ろうとしたその時、ウロボロスの眼が僅かに煌めく。

 目を見開いたかと思うと、首を少しばかり横に逸らす。

 

――――――それは鈍色の流星だ。確かにウロボロスの脳天目掛けて正確に、真っ直ぐに、かつ鋭利に飛来する。

 

「避けろ」

「勿論ですとも」

 

 間髪入れずに重い地面を食いちぎる音。それは銃弾だった、少なくともこの平原地帯からのものではない。

 ウロボロスは遠方の森、或る一点を睨みながら振り向かずに続ける。

 

「今のは7.92x57mmモーゼル弾に見えたが、合っておるか?」

「せ、正解です。流石ウロボロスさんだ」

 

 世辞は良い、と呆れたような溜息を見せた後にまた遠くを睨む。

 部下達は見習ってそちらの方に目を凝らしてみたが、何も見えるわけがない。森林地帯が広がるのは距離721m、スコープと鉄血人形の視力を持ってしても本来は見えないだろう。あくまでウロボロスがハイエンドモデルである証左だ。

 

 しかしその距離から致命傷を与える銃などスナイパーライフルでも中々に無い。グリフィンの銃は旧式のものばかりだ。

 

「…………ほう?」

 

 ウロボロスが弾んだ声と共に手を僅かに上げた。「出せ」の合図である。

 後ろの兵は慌てること無く、整然と肩にかけていた大きなホルダーを地に立て、ロックを外して開ける。

 

「では開演だ――――『Stinger』、起動」

 

 まるで詩でも詠むような静かな号令とともに、ホルダー内の兵装達が次々に浮き上がる。後ろの浮遊パーツは同じようだが、銃口は機銃、ミサイル、突撃銃――――――多種多様な物があり、それは個性を持った軍隊である。

 

 不揃いながら彼女の後ろに馳せ参じる、それと同時期にウロボロスが振り向いて声を張り上げる。

 

「わたしは狙撃の主を追う。無事、スケアクロウの座標まで辿り着くように」

 

 突然の指揮放棄だったが、兵はたじろくことはなかった。

 まるで怖気づいた様子もなく隊列の中から一体の鉄血兵がウロボロスのもとにまで歩き、彼女に語りかける。

 

「貴方は聞かないでしょうし、私達もそれは止めません。ですがこれも鉄血としての務めですので――――――ウロボロス様、敵人形はたかだか一体でございましょう? 貴方が隊列を離れるほうが不利益かと私は」

()()()()()()()()()()()

 

 振り向く彼女の瞳に一同はもう止まらないことを悟る。具申した鉄血兵は隊列の前に立つと、号令をかけて進軍を取り持つ。ウロボロスが就く前の隊長だ、彼女の指揮能力は低くはなかったし今も衰えては居ない。ウロボロスは正直な所、それ程心配していないのだ。

 

 隊から離れていく彼女の瞳は紅い尾を引き、口元は今までになく釣り上がっている。

――嗚呼、良いぞ。良い弾だった、後少しで死ねたのだが。

 ウロボロスは無線を繋ぐ。そのチャンネルにはすぐに繋がった。

 

「良い狙撃だ、おぬしにならわたしは殺されても良いのやもしれん」

『…………お褒めに預かり光栄ですわ』

 

 声を聞いてウロボロスの口元がさらに釣り上がる。高揚、高揚、高揚。

――お前か。いや、彼女じゃないな。お前は違うやつだ、俺には分かる。

 

 だって、同類だから。

 ウロボロスはカタカタと一しきり笑うと、静かに問いかけた。

 

「名を名乗るが良い、どの道その名に意味はなさそうだが」

 

 通信の相手は少し固まった後、クスリと笑う。

 

『――――ああ、やっぱり。貴方、ちょっと装備が変だなとは思ったんです。()()()()()()()()()()()()()()()()、そうですね?』

「どうだかなあ? さあ、名乗れ。わたしが殺してやる」

 

 ふふっ、と取ってつけたような柔らかな笑い方をすると息を吸って女は応える。

 

『では――――御機嫌よう、ウロボロスさん。グリフィンS09地区所属、銃名『Mauser Karabiner 98 kurz』。我が従僕の要請により貴方を断罪します』

「はっ、下手くそめ。もう良い、素で喋れよ偽物――――――幾らそこら辺の馬鹿を騙せても俺は騙せんぞ。俺はKarちゃんが大好きだったもんでな、テメーみたいなイントネーションじゃあ満足できねえ」

 

 せせら笑うウロボロスの姿が彼女にはどう映ったのだろうか。ゆっくりとしたその歩みが数十を超えた頃、全く雰囲気の違う声が帰ってきた。

 

『良いね君、僕は好きだな。好ましい狂人っぷりだ、何よりも――――――――ねえ?』

「ああ? そうだな――――――そういうことなら(わたし)もお前は好きだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【マトモに本気でぶつかれる、数少ない敵だろうから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、まだ終わっておらぬのか?」

「ああウロボロスさん、良い所に! 早く指揮を代わって下さい。この馬鹿共、貴方が居ないと気合足りてないんです!」

 

 とはいえ俺も結構満身創痍なんだがな、アイツは良い。何時か殺してやる、殺されたいんじゃなくてアイツは殺したい。

 ビットは増量した11体の内8体がミンチにされた。全く、殺し損ねたのは鉄血として大損害だ。まあ両手をもいでやったから今回はもう出しゃばるまい。まさか足で槓桿を起こして撃ってくるとは思わなかったがな、あんな破れかぶれは満身創痍でなければ誤魔化しにもなっていなかった。

 

 あんなものは戦闘じゃない、唯の殺し合いだ。ああいうやり合いが出来るのはあの人形だけだろう――――――ああ、思い出すだけで堪らん。理屈も戦術も背景もない唯の傷害罪の重ね合い、これはこれで経験して良かったものの一つだよ、全く。

 

 というかつい衝動的に作戦を投げてやりあってしまったが、アレは正解だった。俺達がこの中でぶつかったら関係ないやつが巻き込まれて何体か沈んでたなこりゃ。

 

「ウロボロスさん! 激闘思い出してイキ顔キメてないで、ほら!?」

「だ、誰もイキ顔などキメておらんわ――――――――さて、此処からは切り替えるぞ。おぬしも切り替えろ」

 

 一声張ると、確かに部隊内の空気が変わる。普段から仕事をして欲しいものだな全く、これだからお前らは阿呆なんだ。

 Jeagerの持った一際長いライフル。一丁をひったくって構えてみる、スコープは勿論たいして変わらないが、重心配置だけで既に調整が細かく入っているのは明白だ。

 

「これが最新型か。彼女に早くわたし専用のものも配備して欲しいものだ」

「――――ウロボロスさん、貴方が無理を言って私達に配備してくださったんでしょう? 代理人様を困らせないであげて下さい」

 

 はて、何のことだかな? 俺は「うちの部隊は装備が古すぎます。もう少し新しくてもバチは当たらんでしょう」と言っただけだからな、本当に何のことやら。

 大体装備も整えず活躍せよ、なんてのはブラック企業だけで十分だ。俺達鉄血は奴らより上なんだろう? じゃあ装備だって上じゃないと駄目だし、当然その装備で勝たなくてはならないものだ。

 

 義務は権利を伴わなければ成り立たないよ。

 

「…………成る程、スケアクロウは大分押されておるな。前衛部隊はどうした」

「大分粘ってくれました。ですから、後はウロボロスさん。貴方一人が増えれば勝負は決しますよ」

 

 良い所を譲ってくれるじゃないか。出来た部下を持って俺は幸せか、いや阿呆だからそうでもない。

 スケアクロウが直接交戦している――――――何だアイツは。多分、Vectorか? スコープに収める、ちょこまかと動き回って非常に狙いにくい。

 

「…………………………shot」

 

 鋭い銃声。鉄血でなければ身体にダメージすら入りそうな反動だったが、それだけの口径なのもあってか一撃でSMGの人形は沈んだ。ヘッドショット、何時の時代も気持ちが良いものだ。

 

「そう言えばウロボロスさんって、電脳空間時代もKar98kを使ってたんでしたっけ」

「過去の事だよ――――――では、戦争を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の結果を簡潔に報告しよう。

 多数の犠牲を出しながらスケアクロウは生還した、またウロボロスはその後意識混迷。どうやらKar98kとの単独戦闘の際の負傷が祟った可能性が高いと有るが、スケアクロウの報告によると彼女は戦闘中は何とも無いようだったとの報告もあり実際は不明。

 鉄血、ダミー計310損失。本体の損失なし。ウロボロスの部隊、スケアクロウの小隊としては痛手となった。

 

 グリフィン。

 Vectorがロスト。しかしS09地区の人形は練度が高いわけではなく人形の生体部品以外の損傷は特になし、スケアクロウを諦めた上級代行官ヘリアントスの決断は正解であるとされる。

 最高練度であるハイエンドNo.■■■■のKar98kは両腕を破損。仮称「ウロボロス」と長く交戦したという報告をしており、本部はウロボロスを最重要モデルと認定。第一種接触禁止措置を図ることを決定。

 Kar98kは疑似パーツで両腕を代替し善戦したが、後方援護込みのウロボロスには敗走。撤退戦の殿止まりとなったが、しかしウロボロスそのものとは拮抗する可能性が有ると指揮官は報告している。

 

 この戦闘に於いて互いの陣営は、痛み分けとも笑えない結果となったが――――――同時に。

 お互いの「最悪のシナリオ」は避ける形となったという運びである。




こっからはカッコよさ極振りを予定。とうとう変態人形が出てきたのでHELLSING、そして今回から長い。
とほくれすでは恒例の「やたらつよいもーぜるからびーなあはとうんとのいんつぃひくるつ」、次の主人公。あまり出ない予定。
「黒い蛇の化物」に対して「白い人形の英雄」。「十を以て一を制する」と「一を極めて十をも殺す」。対照的なキャラとして「別作品で主役張る予定」です。

次回から俺が喋るとネタバレしそうだし空気壊れるので前書きと後書きは姉貴にぶん投げます。

「初耳だが」

初めて言いました(スティバス)
返信も姉貴がいい? どっちでも良いんだけど、姉貴がやった方が後半戦感有るよねってだけ。
スリーサイズだって答えさせてみせるぞ(ステ

【Stinger】New!
ウロボロスの兵装システム全般を指す。
本来は専用デバイスを操作するが、本人の要望によりシステムを単純化。接続数を増加させており、多様な兵装を浮遊させる。
代理人の機銃しかり、数と種類を揃えたビットは量質共に高いことから高い対応力、戦闘力を発揮する。
故に彼女は闘争の体現だ。相手取るならば「兵士」とも「隊長」とも考えてはならない。
――――――あくまで「完璧な兵隊」を抹殺する心構えであるべきだ。
そう、彼女は存在それ自体で戦争となれるのだから。

【Kar98k】
どうやら転生者のようだ。
Kar98kの有効射程は人体の中央を想定するならば600m。721mで脳天を狙うなら、とうに「運命」が味方をしているという次元に他ならない。
ウロボロスが「群」ならば「個」の極地に居る存在――――らしい。


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我らは踊る影法師

何だあのモコモコドイツライフル! 後方支援込みのわたしが倒せんだと――――――最高だ。だけどアレはわたしの勝ちだからな、異論は認めん。

ああ、バカライフルの評価か?
「見た目100点、性格10点、戦闘力95点、戦闘スタイル150点、ライバル力200点で平均111点」だ。喋り方が特に嫌い、身体は好きだが中身が嫌いだ。

ああ、阿呆が三百人突破らしいぞ。速いじゃないか、おめでとう――――――何で他人事か?
いやいや。わたしは何もしておらんからな、ロケットを飛ばした時に発案者が「私こそがロケットの生みの親! 神!」とか言い出したら引くだろう? そういう事だよ。


「そうか、処刑人がな。まああやつらならスペアも有る、一度のミスで捨てられるほどの無能でもなかろうに」

「そうですね。ウロボロス様の仰る通りでしょう」

 

 スケアクロウの敬語は気持ちが悪い。助けて無理やりスカウトしてからというもの、ずっとこの調子なのだ。

 どうやら彼女の中で上司として扱われることになったらしい。俺は気の良い知り合いとしてお前を誘ったんだがな、恩を売る気もないし。

 

 話は戻るが今のは処刑人がしくじったという話。アレからはスルスルと話が進んでいく、もう第二戦役という訳だ。M4A1は予定調和でグリフィンに合流したそうだ、噂ではあのバカライフルも居たらしい。

 

「それよりもKar98kが居ったのが惜しい。あやつとは何度殺し合っても飽きが来んだろうに、縁がない」

 

 アレから俺はS09地区とは別方面に走らされていた。

 代理人が言った「後に響く」という事柄の内の()()()。要するに下積みとも言うし、ごみ処理でも有る。

 

 勿論代理人なりに善戦はしてくれたのだろう、俺は彼女に何ら文句は言わないし今後も言うことはない。もう十分してもらったからな、責任ぐらい自分で取る。

 

「ウロボロス様、ご自重ください。部下がまた怯えています」

「ん? ああ――――あの人形の事は考えてはならんな、全く」

 

 表情が緩む。

 

 現在は奪われた拠点の奪取に向かっている。以前に比べれば圧倒的小規模の戦闘であり、俺含めて全体が少しばかり気を抜いてしまうのも仕方ない。

 仕事となれば切り替えはできる連中だからとやかく言うまい、道中いきなりスナイプされて死んだりするなら手前の自己責任よ。

 

 それより。

 

「なぁスケアクロウ、以前のように喋ってくれぬか? わたしはおぬしに敬語を使われると流石に気恥ずかしい」

「あくまで上官ですので」

 

 ある意味融通が利かんというかな。酒入れたらそうでもなさ気なのだが。

 処刑人の次はハンターもS09地区に向かったから、本部に戻っても負けてくれるギャンブル相手が居なくて寂しいよ全く。

 

 アイツラ何時拾えば良いんだろうな。まあCUBE作戦が予定通り始まるなら、俺にナビゲートは入ってくるだろう。意外と世界の構造は親切らしいからな。

 

「それにしてもおぬしらも随分強くなったものだ。わたしはもう要らんだろう」

 

 S12地区で泣き喚いていたあの部隊は何処へ行ったのやらな。全員少なくとも人形の十体は道連れにできる実力を付けてしまった。

 俺は何もしていない。ただ単に自主的に色々していたのだというが、俺は指揮能力は低い。道楽でもらった部隊だから宝の持ち腐れなのだ。

 

 後ろの方でVespidが何やら叫ぶ。

 

「ウロボロスさん以外の所で働いたら暴れられないじゃないですかー!」

「ああ! そうだな、確かにわたしは暴れさせることに関してはプロだぞ! スケアクロウはついてこれんようだが」

「貴方様は少しばかり乱暴かと…………ついていこうとすれば、自然と部隊も強力になりましょう」

 

 そうかいな。俺は自分がやりたいようにぶっ壊してるだけだからな、あんまり後ろのことまで考えちゃいない。頭数で計算には勿論入れるし面倒は見てるが、戦闘の時ばかりは本当に放任している。

 

 あの元隊長が実に優秀でな、ある意味引き取って正解だ。俺が何処ぞの部隊を取っても指揮がガタガタかもしれないからな。

 

「後ウロボロスさん士気上げるの巧いですしね」

「テンションアゲアゲ↑↑↑↑☆、という事だな? 分かるぞ、いや分からんが」

「いやそこまで若々しいキャラだと思ったことないです、すみません。というか逆に爺臭い例えですねそれ」

「何ぃ!? わたしは老けて見えると!?」

 

 違う違うとでも言わんばかりに首を振る隊長。お前上官に向かって非常に失礼だが自覚は有るのかよぉ!?

 

「若干ジジ臭いの気にしてるのに…………でも口調はなあ、こればっかりは直してはいかんだろうが…………」

 

 だってウロボロスの数少ないアイデンティティだしさ(おぬしちゃっかり失礼ではないか?)…………。

 それにもう慣れちまったから直そうにも直らないしさあ。というか俺だってさ、一応御本人リスペクトしてるからこれ以上ズレ込みたくないし(もう手遅れだと思うのだがオイ聞かぬか)…………。

 

「隊長がウロボロスさん泣かせた―!」

「ええ、私!? ち、違いますよ。単に老獪だとか年季とかそういう意味でですね…………」

「やっぱり老けておるのではないか~…………」

「辞めておきなさい。ウロボロス様はこうなるともう何を言ってもネガティブですから」

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ハンターよ! 敗れてしまうとは情けない!」

「全くです。たかだかグリフィンのゴミ屑、何を苦戦しているのでしょうか…………」

 

 代理人がガチの舌打ちをする。辞めてよ、八つ当たりでデコピンとかされたら俺の頭が今度こそ弾ける。

 またKar98kが居たらしい、というか帰ってきたやつにアイツから伝言が託されていた。

 

 内容がまたアレなもので

 

『色々探してみたけどやはり君が一番だった、何時か攫いに行くよ。一妻多夫制だって何とかなる世の中だ、仲良くやっていこう』

 

 だそうだ。

 は? というかまず性別女だったの、ひょっとしてだけど。尚更性格嫌いだわ、いよいよ身体しか興味無い。

 そして絶対適当に言ってるなアイツ、あの時もそうだったが言葉が薄っぺらいことこの上ない。

 

 大体素で僕とか言っちゃう女ヤダし。というか人形のしかも女同士で婚約って、どこのニッチジャンルの二次創作だっての。

――じゃなくて、機嫌の悪い代理人を宥める。この人地味に怖いからな。

 

「い、いやですが次は侵入者なのでしょう? あれは先の直球馬鹿とは一味違います、安易に撃破とは行かんでしょう」

「当たり前です。また猪突猛進で貴重なスペアを消費されては、いよいよ私は再教育し無くてはならないもの…………っ!」

「そ、そうですね! そりゃそうだハハハハハ!?」

 

 誰か助けて!? 本気でキレてるんだけど!?

 流石に明日は我が身とビクビク待機していると、代理人が何かをハッと思い出したように俺の方を見る。何だ、デコピンはヤダよ俺。

 

 じわりと頬を伝った嫌な汗。これは予感が当たる感じがする。

 

「…………直球馬鹿であろうと、豪速球となれば」

「まさか!? 待ってください、嫌ですよわたしは!」

「プレイボールッ!」

「はい!?」

 

 最近代理人がおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳だ、まあ付き合ってくれ。侵入者よ」

「ストレスとウロボロスのせいで代理人まで狂ってしまいましたか…………」

 

 おい何で俺のせいなんだよ。十割十分でストレスだろ。

 侵入者は薄っぺらい笑みで挨拶をする、この掴めない感じは俺とはどうしても合わない。嫌いではないんだが、代理人とは全く別のベクトルで無機質なのがどうにもな。

 

 嫌いじゃないんだ、本当に。バス友その2だし。スケアクロウはリンス馬鹿だがコイツはボディシャンキチである、肌への拘りは鉄血一。俺も見習っている。

 

「まあ変わった組み合わせもよかろう。どうせ今回は「暇つぶし」で良いのだろう?」

「はい。何か案はありますか? 一応わたくしは用意していますが」

「そりゃおぬし、AR小隊とUNOでもすればよかろう」

 

 頭がオカシイのか、という顔で見られる。

 

 俺の部下を見ろよなお前、「ああ、また変な事言ってるしガチっぽい」と諦めと覚悟を秘めた悲壮な表情をしているじゃないか。

 あやつらの寛容さ、諦めの良さに比べてお前は何だ。絶対イヤだ、みたいな顔しやがって。

 

「おぬしなあ、アチラには今回Kar98kが居るのだ。迂闊に出ればわたし達が巻き込み事故で徒に壊しまくるだけだ、時間を稼ぐだけならドンパチよりパーティーゲームの方が適任だろう」

「それっぽい理屈を仰っしゃりますけど、恐らく此処に居る誰一人として納得できていませんからね?」

「問題ない、こやつらはもう慣れておる」

 

 可哀想に、と態度を隠す様子もなく憐れみの視線を俺の部隊に向ける。何だ文句あっか、俺は「何時でも抜けていいし、そもそも一々メンバーなど覚えていない」とはっきり明言してるんだからな。むしろただの物好きしか居ねえ。

 

 まるで俺が引っ張り回してるみたいな。

 

「テーブルと椅子も持ってきておるし、コーヒー豆も菓子も持ってきているのだぞ。むしろどうして遊ばぬ」

「もう貴方とは二度と任務を共にしたくありません…………」

 

 正直でよろしい、お前への好感度が大きく上がったぞ。次回はお前に合わせてやる、正直者は優遇されてなるべきなのだよ。

――最も、次回とやらが有ればの話だがな。

 

 公開チャンネルに繋ぐ。侵入者は文句こそ言うが邪魔をしない、諦めが早いんだな。

 

「あー、テステス。聞こえているか、愛すべき鉄クズの諸君――――――そうだ。ウロボロスだ」

 

 すぐさま繋がった通信の一つから、聞き覚えのある息を呑む声。

 

『――――――ッ!? ウロボロス、どうして此処に居る!』

「おおー元気だなM4。実はおぬしの事が好きだからな、押しかけ女房でもしてやろうかと」

『下らない冗談はやめろ、今殺しに行くから場所を言え』

 

 おうおう、血の気が多いねお前は。良い、それぐらいで良いのだ主人公など。強がるな、綺麗ぶるな、我々は尽くが唯の破壊者なのだからな。

 

 M4の声は怒り、焦り、驚き、混ざりきらない多くの感情を勢いで綴じ込めたような複雑な音色。周りの部下も俺の取り逃した獲物と有ってか少し息巻いている、お前らも中々血の気が多いんだよな。

 

「先に言っておくがKar98kは喋るな、話が長くなるのでな」

『綺麗な前フリから華麗に参上、貴方の妻のKarちゃんですよ!』

「それで。本題と行こうか」

 

 無視無視、コイツに構ってたら会話が始まらん。

 ブーブーとKarからブーイングが飛んできているがこっちがブーイング飛ばしたいぐらいだ。お前さえ居なけりゃ今回はあらゆる意味で穏便なんだから。

 

 俺が侵入者に付き添う形になったのはKar98kの対抗策としてだ。お前居なけりゃ原作に変に介入せずに済んだんだっての。

 

「まあ、難しいことは言わん。偶には菓子でも食いながらお話でもしようじゃないか」

『それはどういう比喩? 全力で殺し合うってこと?』

「言葉のままさ。しっかり偵察しようが何人連れててこようが構わんから来い、少なくともわたしは武器など構えておらぬことを約束してやろう。眉間に銃を突きつけられながら話してやっても良いぞ、グリフィンの人形は貧弱だからな」

 

 はい、終わり。通信を切る。

 侵入者が異教徒でも見るような軽蔑混じりの視線を向けてくる。怖い怖い。

 

「裏切るつもりですか」

「まさか? おぬしはわたしの兵も連れて余所で暴れておけ、一人で十分だ――――――別に素手でもM4ぐらいなら殺せるからな」

 

 あの程度なら頭を握り潰すのも簡単なこと。まあ余程の事がなければ今回は殺す気なんて無いのだが。

 

――侵入者は俺の後ろの部隊に視線を寄せながら問う。丁度椅子とか設置しているな、もう慣れてるしなコイツラ。

 

「一応聞きますがお気は確かですか?」

「違えに違え尽くしているとも。見ての通り、部下が手慣れるくらいにわたしは狂っておる」

 

 何時も通り「しょうがないなあ」と言わんばかりの呆れ笑いをしながらセッティングする俺の部隊を見て、侵入者は呆気にとられっ放しのまま部隊を統率し始めた。




「神絵師のライブドローイングで眠っていたペンタブを起こそうとしたが、作業速すぎて『おえっ』って声出ました。
P.S. ここから話がしんどいので更新は遅いし長い。クライマックスだから仕方ないね。」
ところであやつがCUBE作戦のログを見直しておったが阿呆過ぎないか…………若すぎる。代理人「殿」も教育してくだされ、ゴミって。
ハンターと処刑人アッサリ死んだな、しっかり改造してやらんとな()。

さて。後書きなぞ経験がない、好きに喋ろうか。
まずは28位まで日刊に入れたのだとか。素晴らしいな、わたしは暴れているだけだが。おぬしらの熱意的なサムシングだろう?

狙うは1位などともほざかん。わたしより魅力のある主人公なぞゴマンと居るだろう、構わん。好きな物を愛し、溺れ、死ね。それで良い。


ああ、とうとう「10話に納めるんじゃ後半が1万文字の連続なので無理」とほざき出しおった。まあ読みやすいほうが良いだろうし、サクサクっと終わるのもアレだな? わたしは構わん、文句はあやつに言え。

わたしへの質問等々は随時募集しておこう。感想返信は多分…………ノリノリだな。多分わたしだ、過重労働で訴えてやろうか…………。
そう言えばわたしのイメージ曲は「Frontline」だったりウロボロスのBGMだったり迷ったそうだが、「わたし達」に限るなら「阿吽のビーツ」らしい。
――――うん? 歌詞の意味が分からなくないかこの曲…………?
まあわたしは自分のテーマなどどうでも良いがな。日によって違うわそんなもの。


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革命前夜

気づけばこんな所まで来たのか。おぬしらにはたかだか4万弱の文字の羅列なのだろうが、わたしとしては少し感慨深いものも有るよ。

――――こういう話はいかんな。終わりが見えてきたからかもしれん、すまんすまん。
しっかしわたしのスペックも随分と盛られたものよなぁ? どうだこれは、ギルガメッシュか何かと設定間違えておらぬか?


ああ、四百人突破だ。速いな、それだけ長く時が過ぎたのか、それともそれだけ我らが速いのか。時に惑わされると時折そんなどうでも良いことを考えるよ。


「おお、来たか。座れよ、何――――地雷など置いていないさ」

 

 ウロボロスの手招きに一同は顔を顰める。確かに其処には白い丸テーブル、それを囲うように席を取られたものを含めた4つの椅子が置いてある。

 

 周りに敵影が無いのは確認済みだ。AR小隊が現在彼女の前に立っているが、別働隊としてKar98kが遠距離からの狙撃を常に構えている。KarとAR小隊は狙撃者と観測者、指揮者と実働部隊の関係にある。

 これは時間稼ぎだ。大蛇に楔を打ち込み、僅かでも他方の戦闘に響かせないための防衛戦。

 

 森林のギャップ地点なのも有って視界は開けているが、AR15の確認ではトラップらしきものは周りにも、ウロボロス自身にも見当たらない。

 

「…………本当に菓子まで用意して。どういうつもりかしら、ウロボロスさん?」

「どういうもそういうもこういうことだ。何だ、片腕でも折っておけば付き合ってくれるかな?」

 

 すぐに自分の右手首をぐにゃぐにゃに曲げて折ってしまうウロボロスに、陰りない狂気が映る。

 

「嘘でしょ…………あんた、正気?」

「正気だとも。というかこう言っては後出しで悪いが、わたしは素手でもおぬし達を全員ぶち殺してミンチには出来る」

 

 すぐさま銃を構える一同に待った待った、と言わんばかりにウロボロスが軽い動作で手を上げる。

 ぶらりと垂れる右手を目を凝らして確認するなり、彼女は一人でに笑いだした。

 

「待て待て、あのバカライフルがわたしを常に狙っておるのは「視えておる」。安心しろ、おぬし達は確かにわたしと対等なのだよ」

「…………もう対等じゃないと思うけど、良いわ」

 

 M4が睨みながら向かい合う席に座る。AR15とSOPⅡはその行動に少しだけ目を剥いていたが、M4がしつこく目配せするのに観念してウロボロスの斜めを二つとも埋める。

 

「で、目的は?」

「まあ侵入者が暴れておるから時間稼ぎと考えたと思うが、実はおぬしらの手助けだ」

「嘘よ」

「正しい猜疑心よ。ならばこうやって証明するか――――――」

 

 ウロボロスが立ち上がったと思うと、瞬きの終わらない内にM4が机下で構えていたM4A1を自分の額に押し付けてみせる。

 

 AR小隊が構えるどころか、Karですらその動きは目で追えなかった。ウロボロスの目が黒炎に揺らめく。

 

「そら、もう一度同じ問いでもしてみせろ。流石にわたしも脳天を撃たれれば死ぬ――――――」

 

 ケラケラと言ってのけたが、それは嘘だとは到底思えない。実際この世界での銃の有効射程はヘッドショットが可能な距離、と定義が変化する程度には鉄血にだって頭部狙撃は効く。

 だがそれをすれば一体どれだけの軍が此方に送られてくるか。ウロボロスは恐らく鉄血でもかなり高い戦闘力を持つ人形である、グリフィン内ではそれで結論づいている。想像に付さないのは言うまでも無く。

 

 呆気にとられたM4の表情を拒否を見たのか、ウロボロスは眉をひそめる。

 

「ううむ、まだ駄目か? 欲しがりさんめ、では左手首もこうポッキリとだな――――」

「分かった! 信用するわ、すれば良いんでしょ!? 気持ち悪いから辞めろ!」

「よし」

 

 思わず銃を振り回して手を振りほどくと、彼女はカタカタと機嫌が良さそうに笑う。

 その容貌は恐ろしい。切れ長の瞳が美しかろうと、その造形が整っていようと、中身が明らかにバケモノだから、妖しくて恐ろしい。

 

 その「撃たれることへの懸念」の欠落は、M4を侮っているとも思える。だが一度面と向かって言葉をかわしたM4には、否応なく経験則の事実が叩きつけられた。

――此処で死んでも良い。そうだとでも?

 

「実力はあると聞くけど、あんた程狂ってたら鉄血も扱いかねるでしょうね」

「AR15もつれないことを言うなあ、わたしは正常じゃないか。雑兵だから遊んでやってるだけだと言うのに」

 

――敵で遊ぶ時点で狂ってるのよ。本当に頭がイカれてるのね。

 AR15はその言葉を発する意味を見いだせないまま飲み込んでしまう。

 

 迂闊に言葉を出せなかった。ウロボロスに敵意はなかったが、無意識に殺意は見え透く。アレは本当に殺そうと思えば一瞬で自分達を殺せる側に居る、そんな理不尽がAR15を抑えつけたのだ。

 SOPⅡが不敵にも食って掛かる。

 

「大体お前、私達に時間稼ぎされてるの分かってるのか?」

「はあ? どうでも良いわ、わたしが行かずともあやつらは生きて帰る。それが事実ならおぬし達は唯の阿呆よ、わたしが認めた連中を舐めるんじゃない。殺すぞ」

 

 部下の侮辱と受け取ったのか、ウロボロスはSOPⅡを睨めつける。さしもの彼女もウロボロスの凄みには言葉を詰まらせてしまう。

――お前ら程度に殺されてくれる部下なら、もう俺の元から居なくなっている筈だ。

 

 子犬のように弱々しく睨みつけるだけになったSOPⅡを歯牙にも掛けず、ウロボロスはポケットからトランプを取り出す。

 銃を構えられている事など何のその、機嫌の良さげにカードを何束かに分けてテーブルに捨てたかと思うと、落ちていく途中でドンドンと入れ替えてしまう。

 

 気づけばそれがシャッフルの代わりだったのか、整ったトランプの山札が机の中央に静かに置かれる。

 

「左手だけでシャッフルするのは意外と難しいな」

「…………余裕綽々って感じだけど」

 

 AR15の言う通りである。

 ウロボロスはニヤリとするとカードを横に並べるなりすぐさま4つに分ける。恐らく枚数は綺麗に揃っている、M4には直感的に分かってしまった。

 

「そうさな。おぬしらの疑心暗鬼に則ってダウトでもするか、わたしはトランプが好きでな、遊ぶ片手間で話でもしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、ダウト。AR15、バレバレだぞおぬし」

「あんた、無理やりやらせといて本当に何なのよ…………当たりよ当たり。私が取れば良いんでしょ」

 

 ウロボロスがマトモに喋りだしたのは、二回目のAR15の番。ダウトを宣言した後だった。

 観念したようにAR15が置かれたカードの山を取る。意外というか、「不自然なほど」彼女達はウロボロスに馴染んでしまったようだった。

 

 それはある意味魔性なのだ。確かにウロボロスという存在は強大であり、目を離せないものであるが同時に――――警戒する必要がないほど明けっ広げな態度をとるのも事実だから。

 ウロボロスは常にカードを伏せて置いていて、見ることもなく重ねてしまう。それは傍から見れば自暴自棄だと言うのに、彼女の表情は何時も怪しく誰もダウトなどとは言わない。いや、言ってみせたAR15が見事カードをプレゼントされたからかもしれない。

 

 彼女はM4がカードを置こうとする直前に問うた。

 

「そうそう。M4よ、あの日の答えは考えてきたかな? つまらなければこの場で縊り殺す予定だが」

「そんな事してみなさい。M4の首に手が伸びる前に、あんたの眉間に穴が空くわよ」

 

 怖い怖い、と突きつけられた銃を見て不敵に笑う。AR15は何故かこれでは殺せない確信を得てしまった。

 ピタリと手を止めたM4。顔は髪で隠れてはっきりとは見えなかったが、ウロボロスにはその琥珀の瞳が燃えているように見えた。

 

 気づけば交差していた視線を正面から受け止める。M4はそれを確認するような素振りを見せた後、強い口調で言い切る。

 

「変わってないわよ。例えそれが助かる道筋であろうと私はしないわ、何なら眼の前で情報を叩き割ってやっても良い――――――――何か文句でも有る?」

「………………そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その答えと同時に葉を切る音。森林の四方八方からStingerの端末がM4に一直線に突きつけられる。

 AR15とSOPⅡはほぼ同時に射撃し、彼女の胴体に幾つか穴を開ける。無視して地を蹴って椅子を跳ねさせたウロボロスの目と鼻の先を弾丸が通り過ぎると地に墜ちていった。

 

 彼女は身体から紅い血液に似た液体を流すがその笑みは消えない。ピタリと、M4の柔肌には端末達の銃口達のリップサービス。

――へぇ、表情は変えないのか。

 

「――――――悪かった、そう気を揉むでないよ雑兵共。『Stinger』、行動終了」

 

 彼女の号令に端末達が軽快な金属音と共に地を跳ねる。

 同時に大笑いしたかと思うと、傲岸不遜に腕を組むなり瞳から赤黒い火花を散らす。

 

「合格だ、良いぞ! おぬしは青く、理想論者、かつ愚か者と救いようがないが――――――それを呑ませるだけの覚悟をわたしに見せた」

「武器など構えておらぬと嘯いた非礼を詫びよう、覚悟有る者に取る態度ではなかった。ちっとばかしは傷を負わぬと上官殿にやいのやいのと叱られるものでな、詫び代わりにもう数発ほど風穴を開けても構わんよ」

 

 ウロボロスは悪びれている様子もなく頭だけ下げる。銃こそ構えたままではあったのだが、誰も鉛玉を吐き散らすことはなかった。

 この場はまるで彼女こそが人質であるかのような様相で時を刻んでいたが、実の所決定権は人質その人にこそ有った。Kar以外の誰もが、彼女の異様な空気に飲まれてトリガーを引けなくなってしまっている。

 

 手負いなのに。数の差のある相手なのに。武器はつい先程電源を落としたというのに。理屈を超えるものが其処には漂っていた。

 AR15が恐怖を吐き出し、睨みながら悪態づく。

 

「あんた、本気で死ぬのが怖くないらしいわね――――――ッ!」

「ああそうさ、わたしは死ぬのはまるで怖くないとも。むしろそれが望みだからな!」

「このイカレ人形!」

「最高の褒め言葉だ」

 

 AR15の殺意など飄々と受け流してしまうと、ウロボロスはM4に手招きをしてみせる。

 通信機からKarの凍りつくような声。

 

『ウロボロスさん、あまり調子に乗らないでいただけますか? 愛している人はもっとドラマチックに殺したいんです』

「本当に愛しているなら弾の方から『劇的に』急カーブでもしてくれるだろうさ」

 

 Karは黙ってしまう。

 じっ、と真意を読み解こうと瞳を真剣に見つめるM4に対して彼女は場違いな朗らかな笑顔を見せる。

 

「取って食う訳がなかろう――――――――その気ならもう鏖殺しておろうに」

「…………虫酸が走る。でも、確かにそれは事実ね」

 

 赤く尾を引く瞳はM4の中に「流星」という陳腐な形容を落としていった。

――分かってる。コイツは敵、信用出来るわけがない。理屈は一つたりともコイツの安全なんて、証明できてない。

 

 しかしM4は周りで突きつけられた銃を下ろさせる。

 

「ちょっとM4! バカなのあんた!?」

「元からバカだから――――それにコイツ。ウロボロスはクズだけど、畜生じゃない」

 

――それは大変高い評価じゃないか、ははっ。

 彼女の美徳として一つ、「認めた相手には正面から向き合う」というものが有る。以前のM4然り、Kar98k然り共通した事項だろう。

 それだけならば唯の行動でしかないが、彼女には「それが正しく誠実である」と思わせる何かが有った。人によって千差万別の形で言い表されるものだ――――魅力、魔性、人柄、風格。そういう類の物。

 

 引き攣った顔のAR15を無視して、M4が耳を貸すとウロボロスも身体を乗り出す。蚊帳の外の二人の身体がこわばった。

 ウロボロスは笑顔のまま、まずM4の頭を撫でる。

 

「――――――ッ!?」

「よく頑張ったな。変化があるのは良い、おぬしの場合は殊更にな――――――――その心意気、戦場で捨ててしまうなよ?」

「お前に褒められても嬉しくなんてないわ!」

 

 手を払われるとウロボロスは少しだけ寂しそうな顔をした。何故かM4は自分を咎めてしまって少し混乱する。

 

「そうか…………まあ、次に会うならば「唯の人形」として死合おう。おぬしはまだ上がれる者だ…………」

 

――まあ、次が有ればの話だ。

 僅かにウロボロスは名残惜しい顔をしたが、それに気づいたものは誰も居ない。

 

「では今のは冗談としておくか。本当に有益なものをくれてやる、そうだな――――――このまま言ってしまうか」

「じゃあ今のは何だったのよ! サイアクの気分だわ!」

「え? いや、褒めただけだぞ? 天邪鬼か、おぬし」

 

 何とも言えない気色悪さに背筋を凍らせるM4に、ウロボロスはキョトンとした顔で答えた。

――アレか、女子は撫でられるのが好きってやつは迷信ってアレかな?

 其処では全く無いのだが、彼女はとっくにタガが外れたせいか理由がわからないままだった。

 

 では、と空気を入れ替えて改めて喋りだす。

 

「今回の我々の動き全体ならこれは時間稼ぎだ。近々何か起きると思っておけ、精々足掻くのだぞ? 死なれてはつまらん」

「――――――それは事実と捉えていいのね」

「この眼が嘘をついた眼だと思うなら好きにせよ。わたしはこれで正直者だ」

 

 全く嘘など言っていない。彼女は以前の記憶、現在の進行を鑑みて漫然たる事実を述べただけだ。

 急いで指揮官だろうか、連絡を取ろうとするM4の肩をちょちょいとウロボロスが突く。

 

「何よ、あんたの情報のせいでコッチは翻弄されようってところよ! いい気味!?」

「違う違う、一つ忠告だ――――――――仲間は大事にしろ。ウロボロスとの約束だ」

 

 不敵に笑うウロボロスにM4はもう構わなかった。

 つまらなそうに表情を曇らせたかと思うと、すぐに立ち上がって彼女は踵を返す。突きつけられた銃など目もくれない、眼中にないとはこの事だ。

 

『貴方は――――――何がしたいのかしら、シナリオ通りがお好み?』

「スケアクロウを助けたじゃないか。シナリオ通りなどつまらん、生まれる前からレールは壊して唾棄するのがわたしの性分だよ」

 

 ならば何故。という言葉は出ずとも答えた。

 

「M4は気に入った。それだけだよ、わたしは鉄血もグリフィンもさして興味が無いのだ」

「好き嫌いで人を殺し、人形を壊し、手助けをしておるのさ。わたしはおぬしよりよっぽど屑だろうさ――――――おかしいだろう?」

『…………いいえ? そういう貴方だから欲しい。生きてください、死んだら許しませんよ…………貴方を殺して良いのは僕だけです』

 

――知るかよ。気色悪い。

 ウロボロスは通信を切ってしまうと、背中に突きつけられた銃口を引っ張るとAR15を目と鼻の先まで抱き寄せる。

 

「わたしは帰る。荷物は勝手にこちらに飛んでくるが壊してくれるなよ? アレは高いのだ、壊せば鉛玉と一緒に請求書を送りつけてやる」

「………………私がこの程度で怖気づくとでも?」

 

 青空のように碧い瞳。しばらくじっと観察していたが、揺らがないのを見るなり満足気にニタリと口を吊り上げる。

 

「良い威勢だ。挫けるなよ、おぬしはおぬしで嫌いではないのだからな」

「余計なお世話よ、さっさと死ね。鉄血のクズ」

 

 つれないなあ、と軽口を叩くとウロボロスは森の奥へと消えていった。

 忠告通りに遅れてついてきたStingerを誰も破壊しなかったのは、恐らくミスではなく、ウロボロスの異様の残り香が成したもう一つの業なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、ではS6地区でジャミング装置の防衛。それだけですか」

「そうです。単純かつ重要な命令です」

 

 来たか、まあ逃しちゃくれねえよな。俺が踏み台転生者なのかは置いておくとしても、あの作戦は必要なものだ。

――S6地区の臨時指揮室を占領、そこで指示を随時受けながらジャミング装置を防衛。人員としてハンターと処刑人の再起動、改造措置の許可。

 

 CUBE作戦だ。俺が死ぬ予定、俺が死ねる予定の作戦だ。ああもう、愉しみで堪らないじゃないか。

 俺の高揚など露知らず、代理人は目をじっと見つめてくる。

 

「前回はしっかりと役目に従事してくださったようですけど、今回は貴方にとっては少々億劫な作戦かもしれないわ。暴れないでちょうだいね?」

「このウロボロス、鉄血と神の言うことは蹴るにしても貴方の言葉には従います。心に留めておきましょう」

 

 例え世界を敵に回そうとも、貴方への恩だけ忘れないつもりだ。この言葉だけは(わたし)としての正しい本音。

 調子のいいことを、怪訝な視線で返す代理人だがこれは嘘ではないのだ。

 

 最初は偶々かと思ったし、有用だからかとも疑ったし、裏が有るのかとも勘ぐった。

 しかしどれも違った。

 

「貴方は尋常じゃないくらい不器用ですし、実際「自分が吐き出す言葉通りの人形だ」なんて思っているのでしょうが――――――わたしは貴方を温かい人形だと信じています」

 

 この人はこれで俺に懸命になってくれた。それは他の人形にでも出来ただろう、俺を思う人形など他にも居ただろう。だが、彼女より重く、強く、長く、そして何より意味のなかったあの時から、俺の価値を探してくれた人形は居ない。

 

 鉄血は本来そんなものを求める場所ではない。あくまで人形としての自尊心の為に戦う者ばかりであり、言うならば戦うこそが自らに価値をつける行為になる場所だ。

 だからこそ、その恩情に俺は返すべきものが有る。例えこれが人間としてのエゴに過ぎずとも、(わたし)の自己満足だとしてもだ。やるべきことというのは、時に世俗の道理など通り越した価値を持つのだから。

 

「まさか。役に立たなければ捨てますよ、当たり前です」

「だとしてもです。どうぞ――――――わたしという刃が刃毀れするまで、存分に振るってください」

 

 結局俺は失敗ばかりだったからな。後は言うこともあまり聞かなかった、誤魔化しているとは言えその結果は好ましいものではなかったはずだ。

 それでも此処に立たせてくれているのだから、俺は今回ばかりは――――――彼女の為にも戦わなければならない。

 

――――「お前は悪」だ?

 知るかよ、正しいだけの生き物が何処にいる。

 

――――「お前は死ぬべきもの」だ?

 関係ないね、俺の生き死を決めて良いのは俺だけだ。

 

――――「お前は所詮偽物」だ?

 言ってくれるじゃないか、(わたし)にそんな口を利くものは鏖殺する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、誰も知らない戦争を始めよう。

 敵は世界だ、何せ運命に勝たなければ俺は死ぬらしいからな。味方は居ない、全てが俺の敵となり得るだろう。

 だからこそ滾る。今までにない、最悪の敵だ。

 

「わたしは貴方に勝利だけを献上する、唯の蛇ですので」




「一番相手に適任な筈の殺し愛枠Karを煙たがる死にたがりウロボロスってもう実質捏造CPだと思うんだけどどう思います」
碌な事を喋らぬな、おぬし。大体転生者同士とか地雷も地雷過ぎて笑うわ。

さて、そろそろわたしも退場が近づいてきたか。いやあ、何せ「真面目なときぐらいこの長い能書きは省くものだ」なんて御大層なことを仰る創造主なものでな。暫し別れという寸法なのだ。

どうだったかな? わたしは思う儘に暴れて、壊して、見ていただけだが。響くものでも有ったか? 別に無かったか? 「所詮テンプレチートの亜種」なんて意見もあるやもな、そう言いながら此処まで読みに来ておるなら物好きなやつだが。わたしはそう言う素直ではない者も嫌いではない。
あまり褒められたことはしてこなんだからな、見るものが見れば不快であり不必要悪なのだろう。預かり知ることでもなければ興味もないが。


では幕引きのお時間だ。
啼いても嗤ってもこれが最大の戦場で、最期の見せ場。
覚えていることなど当てにならぬ、わたしはとうに「ウロボロス」として間違えすぎたからな。運命は言葉通り、神のみぞ知るという訳だ。

この物語は「起承転結」ではなく「奇翔纏決」で成り立っておる。意味は各自で考えるように、それこそが物を読む悦楽の本質だ。
考えよ。安易に己を殺すな、わたしはそう在る一つの完成形として生きているつもりだ。鎖だらけだろうとこの通り、自由は手に掴めるのだよ。

良い死に様でも期待しておれ。次回より終章だ。
相手は運命。日に日にインフレしすぎてまるでDBだな、呵々。
――――まあおぬしも覚えておけ。世界は何時であろうと、行ってきたことを必ず我らに返すものだ。わたしには相応の罰が下るだろう…………楽しみで仕方ない。おぬしもそうだろう?


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CUBE作戦
蛇は唆す


地獄で輝くのは英雄ではない。
地獄を飲み干す怪物なのだよ。


「愚か者の諸君に問おう。闘争は好きかな?」

 

 蛇は問う。腕を組んだその華奢な姿に死など似合うわけがない。しかし夜の帳に食われた彼女達の眼には、その姿が何よりも破壊という言葉の体現者に相応しく映る。

 

 鈍い鋼のような蛇の瞳が妖しく光った。それは魅了を帯びているが、同時に自由を与えている。奴は相手の何一つとして拘束しない、自由を与えた上でその全てを掌握する真性の魔性。

 此処に居る兵達の殆どに、その恐ろしさはもう理解できない。それは彼女達が求めているものと置き換わってしまっているからだ。

 

「わたしは好きだ。闘争が好きで、破壊に親しみ、蹂躙を嗜み、敗北を愛し、窮地を欲する者だとも」

「鉄クズ共がわたしの手にも触れられずに倒れるのは好きだ。わざわざ銃を手に持ち、その高潔さを犯し尽くしながら殺すのは実の所嫌いではない。ポリシーには反するのだがな、だからといってわたしの快楽に関わらんとは誰も言うておらぬ。あくまで圧殺する事に勝らないだけよ」

「同様に誇りを愛する。わたしに屈さぬ者は例外なく敬意を払おう、強さを振りかざすのではなく欲の為に振るう強者こそ蹂躙してみせよう、わたしは悦楽以上におぬし達の「捨てきれぬ人間性」を最も愛し、尊んで居るのだ。覚えておけよ愚か者共」

 

 下卑ている筈ながら何処か親しみの有る笑顔。吊り上がる口元に部下達は「やはり貴方こそが」とAIに電撃を走らせる。

 矛盾した蛇の理論では有るのだが、それは突き抜けて最早「それが『アレ』という存在なのだ」と納得させる個性、性格と解釈される。元より付いてきた馬鹿者共にはその些末な食い違いは意味がない。

 

 蛇が肩を竦めてみせる。

 

「とはいえ負けることが嫌ではない。肌が切れれば生を実感するだろう、流れた疑似燃料を見て血は流れていると嘯けるだろう、四肢がもげればわたしは完璧ではないのだなどと驕り悦ぶだろう」

「Mauser Karabiner 98 kurz。アレは良かったな、奴のようにわたしを生きていると思わせる力に関しては性愛すら持つやもしれん」

 

 が、待て。蛇は手でその論に待ったをかける。

 

「例えば殺され方でも沢山有るだろう?」

「そうさな、スナイパーで頭を吹き飛ばされるのは心地いい! しかしブレードで細切れにされるのは興を感じる! だがな、サブマシンガンの粗すぎる弾道を受け続けても藻掻き苦しむのはさぞ無様ではあるまいか! ああ待て待て、ウイルスでAIの端から端まで快楽で犯し尽くされるなどという屈辱も無しではない、何処まで辱めてくれるのか見ものよな! 呵々ッ!」

「ちなみに今のは死には至らずともわたしに縁有る痴態よ、どれもこれも物足らんかったが――――――――だからといって無意味ではなかったぞ? 流石に頭部を端であれ撃ち飛ばされれば焦ったものだ、ブレードの超振動の音を耳にするのは冷や汗が流れるさ、サブマシンガンの弾道は外れてくれと祈る時もある、ウイルスはもう最悪だったな! あと数十分あの耐久テストを受けておったらわたしは今頃快楽の奴隷か何かだったよ――――――いや、今も快楽の奴隷であるのは変わりないかな?」

 

 ケタケタと上手いことを言ったように一人でに笑っていたが、待機する兵達の眼差しに蛇は思わず畏まる。

 

「…………しかしこれらには一つだけわたしは条件を設ける。強者だ、形など問わぬ。わたしを陵辱するに足る圧倒的な破壊を持ち、制御し、振り翳し、そしてわたしを愉しませた者! これにのみ、わたしはあらゆる行為を被る権利を享受してやるのだ。弱者などにされて堪るか、そんな世間知らずはわたしがこの膂力を持って身の程を教えてやるとも」

「おぬし達も気づいておるかな?

 そう、わたしは身勝手だ

 自己中心的だ

 横暴だ

 利己的だ

 残虐だ

 偏執者だ

 傲慢だ

 恐らくわたしは鉄血という枠組みに於いて史上に今後超えるものの居ない、あまりにも鉄血という存在を軽視した人形だ。根本的におぬし達の事もどうでも良いのかな? わたしにだってもう分からぬ」

 

 わざとらしく考え込むような顎に手を当てる仕草。

 目を瞑っていたのも束の間の事で、蛇は直ぐに片目を開いて彼女達を一望する。

 

「故に約束してやろう。わたしはわたしの為に動く」

「わたしが興味を持つ者の味方だ」

「わたしが嫌いな者の最大公約数的天敵だ」

「わたしは、わたしの為に戦うのだ。おぬし達はわたしを何ら疑う必要はない、いや許さぬ。何故ならわたしは私利私欲だけで動いておるのだぞ? それすら信用できぬのは愚か者ではない、唯の鉄クズだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしはな、愚か者共。おぬし達が望む場所へと連れてきてやったのだぞ?」

「だから問おうじゃないか。おぬしらは何を望む? さあ答えよ、声を合わせてさあ早く! 答えなど一つだろう!?」

 

 彼女達は声を上げた。それは夜など食い潰す戦乱の声、敵など素知らぬ満開の声。

 

「戦争!」

「闘争!」

「殺戮!」

「蹂躙!」

「虐殺!」

「鏖殺!」

「破壊!」

「滅却!」

「ははははっ、良いぞ! そうだ、おぬし達には一体一体に違う答えがある、たった一つのおぬし自身の答えだ! 正解だ、声を揃えて同じことなど言ってみろ、おぬしらを殺してしまうところだったわ!」

 

 機嫌良さげに高笑う蛇に、彼女達まで表情が朗らかになっていく。それは戦火の前の兵士ではなく、戦場の前の勇士ではなく、掃除を前にした強者ではない。

 

「叶えよう、叶えてやろう、叶えてみせようとも! さあ、その銃で奴らを撃て! 辱めろ、辛酸を嘗めさせろ、絶望を叩き込め、勝利の味に酔え、ただひたすらに願え!」

「Ripperはあやつらの玉の肌を犯し尽くせ! Vespidはその整えられた肢体を撃ち崩せ! Jeagerはその麗しき面貌を粉砕しろ! Guardはその培われた矜持を陵辱しろ! Dragoonはお綺麗な戦術とやらを封殺してやれ!」

「堪らんだろうな、そう堪らん筈だとも! 好きに殺せ! 今夜はわたしが許してやろう、興奮を抑えきれずに屍体に弾を吐いても良い! 狂って連れ帰り拷問するも良かろう! 恍惚として服を裂き辱め、涙を流して震える声に快感を覚えながら殺しても構わん! 精神が崩壊するまで犯し尽くしてから殺すのも許そう! ありとあらゆる存在否定で絶望させながら殺すのも一興! 勿論ただ淡々と殺すことも結構だ!」

「わたしは全て許す! 自由はわたしが与える愚か者共への、愚か者の為だけの最大の特権である! では始めよう――――――我らは「作戦」の大義名分に於いて、奴らを性玩具の如く快楽の道具にしてやろうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ戦争だぞ、愛すべき愚か者共! 準備せよ!」




では、戦争だ。
――――ん? 結局わたしは一体どんな人形なんだ、だと?

知るか、わたしは「ウロボロス」だ。
其れ以上に語れるものなどない、語れてはならぬのだ。我々道化共は語れないものでなくてはならない。
善性も悪性も矛盾も全てわたしさ、それだけの事よ。


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月下美人

暴力に満ちた怪物のようであり、
夜に咲く美しき花のようである。


 今日は不思議な夢を見た。見ることが不思議なはずなのに、それに輪をかけて変わっていた。

 普段なら俺が殺されるまでの夢というのは以前も言っただろうが、今回はそういうのじゃない。

 

――――俺の記憶だ。それは他愛無いものの場合も有れば、忘れられない情景や、楽しかったもの。誰にも言わなかったが思う所の有ったもの、だから…………「未練」にでもなりそうな。

 代理人と初めて言葉を交わした時の記憶。S12地区に目をつけて初めてのアイツラとの会話の時の。ハンターたちとギャンブルを始めることになった時の。M4と初めて出会った時の。パーティーをした時の。Karと出会った時の。M4があの顔を俺に見せてくれた時の。

 

 他にも沢山だ。それは一日よりも長い時間、俺は自分のドキュメンタリー映画でも見るような状態だった。輝かしく、薄汚れて、俺が大事にしようと決めたモノを全て再確認した。

 見れば見るほど俺はこの身が少しずつ惜しくは思った。だって、この人生は俺には勿体なすぎるくらいに鮮やかだったから。

 

 元々何の特筆も出来ない人生だった。今回は、まあそんな事はとても言えない身のあるものだったと俺は思っていると改めて突き付けられた感じがする。

 

『本当に死ぬ以外に道は無いのか?』

 

 誰かは俺に問いかけた。聞き慣れた声だったが、誰なのかはっきり思い出せない。

 ソイツは此方を慈しむような、憎むような複雑な表情で俺をじっと見つめている。答えを待っているのだろう、俺は少し考えた。

 

 確かに道は有るだろう。別に逃げたって、あの人は俺に事情が有ったのだ――――――都合よく考えてくれるかもしれない。

 生きることは出来る。逃げれば。

 

「でも、逃げるのは駄目だ」

 

 その生には価値がない。俺はかつて「勝者であるくらいでないと万物に価値はない」と御大層に何処かで説いてみせたのだが、アレは少し意味が違う。

 乗り越えるべきものも乗り越えられなかった、それでのうのうと其処に在るだけのものには意味がない。

 

――それに。俺は未練は有っても心残りはない。したいことは有るが、しなければならないことはもう無くなったのだ。

 

『死ぬ必要など何処にもない。死んだ所で、何も変わらないとしても?』

「そうだ。俺が死ぬ場所は、此処って決めてたから」

 

 怖くないか? と言われるとそれは分からない。俺は自分から命を投げ捨てるマネは散々してきたが、逃れられない死に直面したことがない。

 逃げ場のない絶望でどうするかなんて分かる訳もないだろう。

 

『…………まったく。他所様の身体でよくそんな啖呵を切るよ、おぬしは』

「悪いな。■■■■■、俺と一緒に死んでくれないか」

 

 酷い口説き文句だったが、ソイツは諦めたように笑った。

 

『許そう。元よりわたしは寄り添うのみと決めている』

「有難う、最後まで俺に付き合ってもらえて助かる」

『愚か者め、愛の告白に答えんか』

 

 それはしかねるな。

 

「俺、二次元キャラには興味ない」

『嘘が下手だなあ、おぬしは………………元より邪魔などしないさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――おい、起きろよウロボロス!」

「…………ああ、寝ておったわ」

 

 座ったまま寝てしまうとは。ちょっと情けない。また夢を見ていた気がするが、内容がはっきり思い出せない。

 改造は終わったらしい。だいぶ血走った目をしたハンターと処刑人がウロチョロと本部を動き回る。確かにそのキレ、速度は以前よりも高い。

 

 二人は顔を見合わせるとニコニコとしている。

 

「速いな、これならAR15も殺れる」

「ブレードは何だかんだ重いと思ってたが、この体なら軽いぞ――――――この戦争、俺達の勝利だ!」

 

 それは死亡フラグだと思う。

 しかし実際問題として能力はかなり上がっている、今なら二人がかりで来られると俺も負けてしまうのではなかろうか。

 

 走りながらノンストップで乱射されるハンターのハンドガンは全て同じ地点に命中する。弾を新しい弾で押しのけて壁にめり込んでいく様は神業と言って相違無さそうだ。

 

「しかしリミッターと言うやつはこんな極端に私達を制限しているのか。ウロボロスにもまだ有るのかよ、リミッター」

 

 ハンターが興味半分の表情で尋ねてくる。

 

「有るには有る。だがわたしがこのStingerシステムを使う理由は、そのリミッターだよ」

「へえ、面白い話してるみたいじゃねえか。俺も混ぜろ」

 

 周りの石ころを上に放り投げて綺麗に等分する処刑人。お前はもう石川五エ門と勝負できるな、凄いぞ。

 

 二人の期待混じりの顔に押し負けた。観念して話すとしよう。

 

「あまり言うなと代理人殿に――――」

「殿ぉ? お前、何時からそんな畏まるようになったんだ。気色悪ぃ」

「あの方に忠誠を誓う事にしたのでな、あまりからかうとおぬしらでも承知せんぞ」

 

 割と冗談抜きで言ったからか、何か察したようにあっさりと下がった。それで良い、賢いことは良いことだ。

 

――俺の設計はそもそも上級AIどころか、並の鉄血と同じでもない。

 

「わたしはリミッターが機能していない、だから加減が利かぬ。初めて身体を使って代理人殿の前でテストした時に分かったことだ」

「へえ。つまりどういう事だよ」

 

 処刑人が分かっているのか分かっていないか怪しい顔つきで食いつく。

 

「本気で動くと中の疑似燃料が蒸発してしまうのだよ、だからStingerシステムで出来るだけ動かない戦法を選んでいる」

「お前何気にヤバい持病持ちだったんだな…………」

 

 逆に言えばそれだけの身体運動を処理できる回路も与えられた。これがStingerシステムでアレだけガチャガチャ数を動かせる理由だ。

 

 別にチート持ちでも何でも無く、「自壊しないギリギリ」で動く方法を覚えたから戦えているだけ。正直なところ、あのバカライフルとやってる時は自滅しかけた。だからこそアイツとはギリギリまでやりたかったんだが両腕がちぎれてはな、此方も相当やられたのも有るし。

 

 ハンターがゾッとした顔をするなり、何か気づくべきではないことにでも気づいたような顔で質問を重ねる。

 

「って事はアレじゃないのかお前…………戦闘狂なのって要するに」

「恐らく正解だ。殴ったり蹴ったりする方が趣味だからなのも有るやもしれん」

「唯の消化不良じゃねえか」

 

 まあそうとも言えなくはないな。

 正直な所、遠距離武器はつまらん。効率的に標的を無力化する事において強力だが、俺達(わたし達)みたいに「殺す過程に意味がある」ならば唯の興を削ぐツールに過ぎない。

 

 まあ後はあの人に「効率も品性も最低値でしてよ。お辞めなさい」と言われたのも有る、返す言葉もなかったよ。俺もそう思う。

 アレは何だったかな、そうだ、俺の試運転の初日だ。捕まえてきた戦術人形をサンドバックにしたんだったか、あんまりグッチャグチャにしてしまったからそう言われた、今思い出すとあの時の俺は相当おかしかったとは思う。

 

 電脳空間に居た頃に慈悲なんて何かを為すためには一ミリたりとも役に立たないし、中途半端も度を越すと敗者に失礼だと思うようになったから、俺にとってはそういう持論有りきだった。

 言われてみればやり過ぎだ。

 

「俺のブレード貸してやるぞ?」

「馬鹿を言うな、おぬしにはStingerシステムは処理しきれんよ。これで頭の出来が違う」

「チッ、ムカつく物言いだがマジだから始末に負えねえぜ」

 

 単に製造時期とかの問題だがな、鉄血は出来が良いからこそ改良も難しいし。初期ロットは初期の性能のままで戦わざるを得ないのだ。

 

 今のはお前が下だとかそういう問題でもない。俺は処理できるAIとして作られたから処理できるだけの話。

 

「おぬしはそのブレードをアホみたいにブンブン振っている方が似合うだろうよ」

「テメェ! 俺のこと馬鹿にしてんだろ!?」

「いや? 好ましく思うし、それなりに敬意を払って喋っているが?」

 

 俺って超適当だからさ、まず興味がなかったり目につかない奴は全部「雑兵」って呼んでるくらいだし。名前覚えた時点で実はだいぶリスペクトしてる方だぞ。

――ああ、俺がおかしいっていうのはもう気にするな。そういう性格だ。

 

 処刑人は目を白黒させる。

 

「お、おう。そうか」

「照れてるぞコイツ、攻めろウロボロス」

「馬鹿なことを言ってる暇があったら体を慣らしておけ…………わたしは部下共を見てくる」

 

 重い腰を上げる。座りっぱなしは体に悪い、燃料循環が滞るからな。

 部屋を後にする時、ふとハンターが呼び止めてくる。

 

「何だ?」

「お前、今日は変だ。何か有ったか?」

「初めて指揮を執る仕事だからな、気を張っておるのだろうよ」

 

 最後になるかもしれないしな。

 

「珍しい、お前もそういうの有ったんだな」

「おぬしらも初心は忘れんことだ――――――ああ、そうだ。言い忘れておった」

 

 踵を返す、ちょっとばかり長い話なのだ。

 俺がマトモに畏まるのが余程珍しかったのか、二人の表情は困惑の色が強い。まさか「今日死ぬかもしれん」と言っても信用されないしな、言っても仕方ないし。

 

「わたしがヘマをしたなら、其処は人形の安全を優先しろ。わたしは放っておけ、計画崩れしたなら精々暴れてやるさ」

「…………しおらしいもんだな。お前がそう言うならそうしてやる、人形優先だな?」

「――――――ああ。必ず、そうせよ」

 

 答えは聞かずに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ウロボロス様。珍しいですね」

「何だ? 来ては困るのか?」

 

 相変わらず捻くれている、とスケアクロウの溜息。

 部下はまばらに集まっては銃の手入れをしたり、所持品の確認をしている。座って静かにそんな事を集団でやっていると少なからず威圧感は有るらしい。

 

 むしろ俺に話しかけてきたスケアクロウが不思議だ。

 

「ああ、ビットは精巧なパーツですから私も少し触りにくいのです。ですから別所で整備を頼んでいるので手持ち無沙汰――――――こういう事でしょう?」

「流石だ。いざとなればおぬしに指揮を任せた方が良い出目が得られそうだな」

 

 俺より余程察しが良い。実際何度か助けられたからな、間違いはあるまい。

――前も言った気はするが、俺は大見得を切るのには自信があるが身の伴った指揮は出来ない。個人芸こそ他よりちょっと出来るが、根本的に戦局を動かす側ではないのだ。

 

「勿体無いお言葉です。貴方様は既に十分な指揮者でしょうに」

「世辞は良い。わたしよりおぬしの方が指揮能力は有る」

 

 世辞ではありませんよ、と瞳が鋭く輝く。

 

 スケアクロウは俺の思いもよらない事を言うし、それが間違っていることは殆ど無い。だからそれも事実では有るのだろうが、現時点の俺は指揮に立つ側には程遠い。

 

「ともかく、わたしが指示を出せぬ時は任せるぞ。おぬしとあの隊長が居ればまあ死にはしまい」

「お任せを。貴方のような突拍子もない指揮は出来かねますが…………」

「やりたいようにやれ。過程など死んだ時にでも後悔すれば良い」

 

 見ての通り形など問わない性分だ。俺が欲しいのは「安全」という結果、それ以外のことなどとやかく言わんよ。昔読んだ仕事の本でも「瑣末事より最終目標に目を向けて常に動け」と書いてあった。

 

 スケアクロウは俺に怪訝さを隠しもせずに続けて問う。

 

「らしくないですね」

「ではらしいことでもしようかな――――――――おい、愚か者諸君! おぬし達の銃のメンテナンスを手伝ってやろう、希望する者から此方へ来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、啖呵は切ったがどうしたものかな…………」

 

 歩きながらウロボロスは考える。偵察を指揮官が自ら行うのもおかしな話なのだが、彼女程となれば異論を唱えるものもない。思案に眼を曇らせながら闊歩する。

 

 先程のそれは大演説では有ったが、そんなものは無かったように穏やかな様子で森の中を歩く。Stingerのモードを切り替え、現在は周辺電波を完全に掌握できているからだ。 これは戦術人形の五感に影響を与えるほどの高度なものだが、しかし端末の機能停止が響きすぎる故に彼女は使い渋る。要は無用の長物だ。

 

 逆に言えば現在、彼女はこの周辺に有る「電波」に関わるものを全て把握している。例えばそれは盗聴任務に要する盗聴機もそうだろう。

 

「シナリオ通りにやってやろうか」

 

 ウロボロスは迷うこと無く一本の木の裏側に歩いて回る。一回り小さい緑のキャップに隠れた小さな体躯を見るなり、少しだけ嗤った。

 

 その顔をしゃがみ込んでまざまざと確認する、言うまでもなくG11。盗聴任務についていた404小隊の一体目。

 彼女が放つジャック電波の影響で五感が上手く働いていないのだろう、少しばかり顔を撫でたが起きる様子はない。

 

「…………ふむ」

 

 暫く観察していたがその様子に何か得る所があったらしい。おもむろにG11が設置している盗聴機に向かって歩いていったかと思うと、彼女は陽気に挨拶をしてみせる。

 

「こんばんは。S06地区へよく来たな、グリフィンの鉄クズ共。夜も更けておるが今は寒い時期だ、防寒はしっかり出来ているかな? どちらでも良いことだが」

「――――――ところで今回の夜襲はお楽しみいただけているかな? 答えは結構。夜は永いぞ、そう焦らずに楽しめよ道化共」

「まあ今日が最後の夜にならねばよいがな、呵々っ!」

 

 ウロボロスは少しだけ吐息を漏らすと考え込む。此処から既に「CUBE作戦」に響いてしまわないか、少しだけ心配したのだろう。

 

 彼女は何ら予め決まった既定路線を逆らう気がない。求めるのはそんなつまらない予定調和の蹂躙ではなく、後一歩までその首に手を伸ばす予想外の殺戮。

 とはいえそんな細かい内容まで覚えている訳もなく、結局は思いつくままに彼女は雄弁に語る。

 

「わたしの名前は――――まあ会えたならば教えてやろう。楽しもうじゃないか、名前から分からない相手を相手取り、勝利する。きっとそれは心地良いことだろうさ」

「では近い内に、弾丸で語り合おう」

 

 さて、こんなものか。

 彼女は満足したように辺りに設置した音声作動式爆弾とワイヤートラップを確認すると、別部隊からの通信を受け取る。

 

「何だ? 今ようやく盛り上がりそうだったのだが」

『クズです。一部隊、ダミーはそこそこ居るようですが如何しますか』

「特徴と数を言わんか」

『数は…………不明。我々のレーダー基地の索敵範囲のギリギリに、何体か居るのは認められます』

『見た目は青い髪のシュノーケルをしたチビ、ブロンドの小洒落た昭和の女優みたいなカッコの女と他数種』

 

 ははっ、なるほどな。感心したように嗤う。

――OTs-14、通称Groza(雷雨)。彼女はウロボロスを止められる人形と記憶されている。

 

 実際に一度交戦しながら生存し、最後にはウロボロスと同等に渡り合ってみせた404小隊に隠れた正しい英雄。ウロボロスとしては彼女は直々に殺したい。

 どうせ生き残るだろうがそれに彼女は興味が無い。問題はソイツがどれだけ自分を追い詰めてくれるか。それが分かれば十分なのである。

 

 高笑いをすると口を吊り上げ答えた。

 

「わたしもソイツを殺しに行く、部隊を整え泳がせろ――――――多少作戦概要に突っ込んでも構わん。待て」

『了解しました。今よりクズ共の移動経歴、及び予測進路をウロボロスさんの位置情報に照らしながらナビゲートします』

「良いだろう。死体が転がっておれば報告せよ、奴らなぞ拾い物で十分だ」

 

 さあ。やっと殺せるぞ。

 ウロボロスは零れる殺気も隠そうとしないまま疾走りだした。




ゲッカビジン(月下美人、学名: Epiphyllum oxypetalum、英名: Dutchmans pipe cactus、A Queen of the Night)とはメキシコの熱帯雨林地帯を原産地とするサボテン科クジャクサボテン属の常緑多肉植物である。(Wikipediaより抜粋)
花言葉は「艶やかな美人」。


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驟雨

その女が来たのなら、君は2つの道を選べると考えておくことだ。
一つ。諦めてあっさりと殺される。
二つ。抵抗して虚しくも殺される。

其れは雷雨だ。止めたいのならば、君は雲を切り払う暴風とならねばならない。


「頭数が多いわね」

 

 盲撃ちを終えたグローザがぽつりと呟くと、マガジンをリリースして新しく装填する。冷えたコンクリートからマガジンの乾いた落下音が響く。

 今は止まる車もない地下駐車場。グリフィンの偵察部隊である彼女達が立ち往生するのは突然の奇襲のせいだ。

 

 現在はリーダーであるグローザ――――――そしてFALが常に先手を取れる階段の扉付近で防衛をしている。とはいえ数が数、時間の問題なのも事実だった。

 一〇〇式が爪を少しばかり噛む。

 

「自分達から袋小路に入っちゃいましたね…………」

「そうですね――――――そうだ、諦めて投降してしまいましょう!」

 

 Kar98kの明るいつもりの冗談は全く冗談になってない。

 彼女は我々のよく知る彼女とは別人だ。今回の場合、高い戦績への評価から抜擢された純粋なエリート人形に過ぎない。

 

 グローザがまた一体のVespidを撃ち落とす。ダミーらしき反応に嘆息しながらKarのお巫山戯に待ったをかける。

 

「コアすら保証されてないわよ、何ならウイルスで陵辱でもされるのかしらね」

「もしかしたら交渉次第で二体の命ぐらいでお目溢し、なんて有りえませんか?」

 

 有り得るわけがない、一同が口に出さずにKarの冗談にならない発言に顔を顰めた。

――冗談を言っても仕方ないでしょうに。

 

 グローザはその空気に依らない朗らかさだけは感心しつつ、現実的な模索に取り掛かる。

 

「では整理しましょう。ダミーの数は?」

「一〇〇式は二体です」

「あたいは無し」

「私は三体、まあ一緒に防衛してるからわかる筈だけどね」

「ええっと…………四体ですね! 無事ということです」

 

 ちなみにグローザも四体全員が無事である。

 憂慮すべきはダミーがないというSPP-1――――――よりポイントを絞ればHGのロストだろう。本部からの指示も受けづらく、視界確保も難しいとなれば生存確率は格段に落ちる。

 生命線だ、彼女は戦闘そのものが強い人形ではない。護衛をする形で立ち回るのは基本形にしても、もっと防衛に偏った戦法で切り抜け無くてはならない。

 

 しかし前衛を張るはずの一〇〇式は正直な所消耗しているらしい、下手に彼女に頼りきりでは陣形が瓦解しかねない。

――そうね、的が必要だわ。

 

「分かった。各員、まだ乱射できるくらいにはマガジンは残ってるのよね?」

「そうみたいですね、そちらは先程私が確認しておきましたのよ?」

「ありがとう、愛してるとでも言えば満足かしら?」

 

 Karがニコリと返す、仕事はしっかりしてくれる。またさっきのように冗談にならないようなことを言わないのをグローザは願うばかりだ。

 ダミーに制圧を任せてグローザは四体のメインフレームに向き直る。

 

「じゃあ私のダミーが一〇〇式と一緒に前衛を張るわ。万が一の場合何体か捨て駒にするから、取り敢えず総力戦でこの包囲網を突破しましょう」

「成る程、悪くない妥協案よ。やっぱりセンスは有るのね、グローザ」

 

 FALの言うセンスについてグローザにはさっぱり理解が出来なかったが、取り敢えず納得はいったようだ。

 ダミーの銃声がピタリと止んだ。グローザは少しだけ違和感を覚えたがまずは話を終わらせに掛かる。

 

 戸惑ったのはむしろ一〇〇式だった。

 

「グローザさんはARの戦術人形です、幾ら何でも一〇〇式達と同じ配置になれば差が出ちゃいます」

「良いのよ、それでもSPP-1をロストするよりは幾分かマシ。邪魔だったら盾にでもして」

「…………そうですか。グローザさんがそう言うなら、やってみます」

 

 ありがとう、とグローザは僅かに口端を上げて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう? おぬし達が、なあ…………」

 

 階段から凄まじい勢いで何かが駆け下りてくる。今まで見てきたどの鉄血よりも速い足音、咄嗟に一同は銃を構えて確信する。

――コイツが、今回の指揮官格だ。

 グローザは扉を投げるように閉める。全員が同時にダミーを引かせてSPP-1を守る形を取りつつも扉から距離を取り、扇形で一斉掃射の可能な陣形を整えた。

 

 ガタゴトと階段で済ませきれない重い足音が扉の前でピタリと止んだ。全員が同時に息を呑む、その不気味さが広さばかりの冷えた地下に轟いていく。

 

「私が合図をしたら、ダミーと一緒に時間を稼ぐ。貴方達は一旦下がるのよ――――――!」

 

 グローザの刹那に放たれた指示にSPP-1が何か言おうとしたが遅すぎる。

 

「こんばんわ鉄クズの諸君、さあ誰から死にたい――――――ッ!」

 

 弾む声とともに扉が蹴破られた。同時に向けられた無数の銃口が其れに向かって弾丸を吐き散らす。

 凄まじい射撃音。それに古い建物のせいか壁が崩れて舞い上がる砂煙。標的の様子は何一つ判断できなくなってしまった。

 

 まるで音のしない扉からかちゃり。何かを構える音にグローザは思惑に気づいて叫ぶ。

 

「走って! アイツ、この砂煙の中からゲリラ戦法を仕掛ける気だわ――――――!」

 

 

 

 

 

 

 

「よく気づいたな、偉いぞぉ? グローザ?」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

「――ッ!?」

 

 声がしたのは最初は目前、途中から後ろになった。

――何、この速度!?

 少なくとも余裕を持って40mは取った距離を、僅か二言で詰められた。

 

 グローザは直感じみた感覚に全て投げ捨て、低姿勢になりながら砂煙の中をジグザグに突っ込んでいく。勿論近づいてきた「何か」から逃げる方向性は変えずに、ではあるが。

 同時に凄まじい射撃音。同部隊のものも混じっていて分かりにくかったがこれはRipperの銃、さらに言えば二丁分程度。しかしこんな高性能な鉄血がRipper等という量産機な訳がない。

 

「ははっ! 何だ、死に急ぎが居るではないか――――――お望み通りに蜂の巣にしてやる!」

 

 狂ったような少女の嗤い声が凄まじい勢いで移動する。

 グローザは方向がSPP-1の居る方向であると気づくや否や、声に向かって銃を向けて固まってしまう。

 

――これが狙いだったのね!

 フレンドリーファイアをチラつかせてグローザを封じる。否、『封殺する』。今の少女の言葉は言葉通りの意味ではなく、無力化するという意味での『殺す』だった。

 焦ったグローザがさっきとは真逆に走って砂煙を抜けようとする。その最中も射撃音は段々と激しさを増していくばかりだ。

 

「遅い、遅い遅い遅い遅い! 何だその照準は、高性能が売りのIOP社の鉄クズ共がこの程度かぁ!?」

 

 ダミーを撃ち潰す音が聞こえ始める。本体なら断末魔も聞こえてくるはずだ、そう言い聞かせてグローザは疾走る。

 銃弾の突撃音が狂想曲を唄う最中、少女の声が響き渡る。その声は戦闘の最中に罵倒を並べるものでありながら、強く、流麗に耳に叩きつけられてくる。

 

「命中率。回避率。知能。ハッキング速度。銃のストッピングパワー。発射レート。取り回し。何もかもが我々の下だ、話になっておらぬぞ!?」

「五月蝿いわねアンタ! その下品な服装と口を改めてから出直しなさい、ナンセンスどころか不愉快よ!」

 

 FALの半狂乱な声にグローザは内心貴方は人のことを言えない、とは思ったがそんな場合ではなかった。

――抜けれた!

 

 同時に片膝を地面に擦り付けながら射撃体勢に入って標的を探す。見つけたのは一瞬間を置いた後だったが、見つけた頃にはまた消えた。

 確かに見えたのは白くガラス細工のような華奢な四肢。何かの間違いにすら思える丈の短くまた薄着の黒いセーラー服、そして黒くはためくような二対の髪束、服と同じく射千玉の艶のある黒髪は残像のように尾を引いていたのが確認できる。

 片手には予想通りにRipperの銃が有ったが、もう片方の銃はFALのもの。近くにボロボロのダミーが有った辺り、どうやら一体やられてしまったようだ。

 

 すぐに探し直すと、其れは少し部隊から距離を取った場所で不敵に笑っている。グローザは強がるように笑って問いかけた。

 

「あら、随分可愛らしい子ね。言葉遣いさえ改めれば、きっとコッチでも人気者になれるわ」

 

 少女は更に笑みを深くする。

 

「当然の事よ、呵々ッ! だが生憎だが、部下も居れば敬愛する上司も居るものでな。それは出来ぬ相談というものよ」

 

 その第一印象にはそぐわない人間臭い返しに、少しだけグローザは頬を緩ませた。

 

「残念ね、それなら――――――――」

「ああ、そういうことだ――――――」

 

 

 

 

 

 

 

貴方達(おぬし達)には死んでもらうしかない』

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、走って! アイツは私が食い止めるわ――――――早くッ!」

「さあさあ逃げろよ雑兵共! 今喰ろうても不味くて敵わん、まずは前菜からだ!」

 

 訳の分からない事を叫びながら少女は凄まじい速度でグローザに詰め寄る、迷うこと無くメインフレームの方向へ一直線だ。

――じゃあ、こうする。

 

 目と鼻の先に居た少女に優しく微笑む。

 

「四方八方から撃たれる方がお好みかしら?」

「言ってくれるよな、答えは「おぬしを撃ち殺す」方が好きだッ!」

 

 少女を取り囲むように構えていたダミー達が同時に斉射する。

 横薙ぎに振り回されたFALをサマーソルトの前動作で避けると、素早く身体を後ろまで持ち込んでメインフレームも射撃を開始する。

 

「悪くない。名を名乗ろうか」

「要らない、意味もないし覚えないもの――――――――さあ! チャンスよ、走って!」

 

 部隊が少しばかり此方に視線を引きずりながら止み始めた砂煙の中に消えていく。

 グローザが横目でちらりと確認していたが、目視しなければ其れの死は確信できない。それは何の理屈も伴っていないが、同時に事実だった。

 

 どうやって今の射撃を避けきったのか、ダミーの一体を引きずった少女が彼方向こうで笑っている。

 

「わたしの名前はウロボロス、今回の作戦の指揮を任されておる」

「どうりで強い訳ね、貴方がウロボロスだとは思わなかったわ。もっと実用的な見た目をしていると思ったのだけど」

 

 ウロボロスはダミーの銃を引っ剥がすと脳天にFALの弾頭を捩じ込む、すぐさまダミーの抵抗は収まってしまった。

 二つの指で持っていたOTs-14を上に放ると、Ripperの銃を投げ捨ててキャッチした。地面と鉄屑のぶつかる音が駐車場を木霊する。

 

「惚れても構わんぞ? ハニートラップという点では実用的だと証明できるのではないのかな?」

「それならもう証明できてるわ。顔だけなら私の好みだもの」

「ははははっ――――――――では、地獄でゆっくり口説くとしようじゃないか!」

 

 ダミーを横に蹴り飛ばすとウロボロスが駆ける。柱が砕ける音にグローザは少しばかり慄いたが、それでもその眼は標的から離れない。

 

 四体が僅かな間を置いてマガジンの量を超えた一斉射撃を開始する、さっきの会話はあくまでダミー達がリロードを済ませる時間稼ぎだったらしい。

 ウロボロスが気付かない筈はないと一瞬でも時間を稼ぐだけのつもりだったのだが、何故か彼女は見過ごした。グローザに理由は分からない、しかし今までの機転の利きようを思えば不自然なのは確か。

 

 ウロボロスは避けるの自体驚く他ないが、おかげで其れ以外の動作をする余裕はないように見える。距離はウロボロスの方から取っている、この合間に一度くらいボロが出て命中するはずだ。

 

「ダミーを捨てたのは下策ね。盾にすればよかったのよ」

「――――――要らぬよ」

 

 ウロボロスが消えた。文字通り、今一瞬まで居た場所から跡形もなく消える。

――速すぎる、幾ら鉄血でも自壊するレベルよ。

 

 そんな杞憂などお構いなしに、ウロボロスの声が彼女の聴覚を刺激する。

 

「あんなお荷物を持って速度が落ちる方がかなわんわ」

「…………後ろッ!?」

「――――――せいか~い。グリフィンドールズに10点だ」

 

 後ろを振り向くとどうやら空中を通り過ぎてきていたらしい、真っ逆さまに落ちながら銃を一直線に構えて嗤うウロボロス。

 怖気だつ美貌に気圧されながらも、辛うじて動いた片手でダミーを引っ張る。さながらチェスのキャスリングのようにクルクルとグローザとダミーの位置が切り替わる。

 

 こうすれば撃たれるのはダミーだ。

 

「おお! 面白い戦法さな――――――だが、両手持ちだ」

 

 OTs-14がグローザに向けられる。それは恐らく嫌がらせのつもりだろう、わざわざ反対側から手を交差して構えられる。

――さあ、どうする!

 

 ウロボロスの愉快そうで、そして期待の詰まった視線がグローザを喰い殺す。

 だがそれで止まれるならば、彼女はエリート人形などと呼ばれなかったのだ。入れ替わった勢いを活かしながら素早く回り込むように走る。

 

「そうだ、踊れ! もっとだ、わたしを殺してみせろ!」

「結構よ、貴方を殺すよりもすることが有るから――――――」

 

 つれないなあ、と愉快で堪らないような大笑いと共に乱射が始まる。

 すぐさまダミーは脳天を撃たれて疑似血液が噴き出すが、ウロボロスの自由落下と同時に射線が下がって更に液体で塗れる。

 

 それでもグローザを正確に追っていたOTs-14だったが、とうとう命中はしなかった。

 ウロボロスは弾を吐き尽くしたFALを捨てて、空いた手で宙返りをしながらグローザを睨む。

 

「まだまだぁッ! 蛇は丸呑みせねば気が収まらんのだよッ!」

「物好きは結構だけど、後ろに気をつけなさい」

 

 彼女が息を呑んで振り向くが、遅い。

 未だに動いていなかったダミーの一体が銃をまた撃ち込む。ウロボロスは死体を中心に地面とほぼ平行に回転すると空いた手でOTs-14を拾い上げて構える。

 

 その手には確かに紅い液体が流れる。服の袖ごと穴が空いている以上、彼女は確かに『負傷』したのだ。

 ウロボロスの口元が裂けんばかりに吊り上がる。

 

「良いぞ! わたしがマトモに撃たれたのはおぬしが初めてだ!」

「敵がお馬鹿さんばかりだったのね、じゃあこっちもどうぞ。ウロボロスさん」

 

 メインフレームの方から飛んできた銃弾にウロボロスは見たこともない関節を度外視した動きで避けていく。

 肩を外し、腹部のフレームも軽く外しているように見える。滅茶苦茶な動きだが、確かに避けきることには成功した。

 

――貴方、もう唯のバケモノね。

 少しばかり憐れむような視線を送るグローザだが、ウロボロスはそんなものお構いなしに身体のパーツを再調整する。

 

「今のは思いつきだったが、案外出来るものだな」

「鉄血でも貴方ほどおかしな人は初めて見たわ、おめでとう。私のAIは貴方に関する記憶は最優先で保存するそうよ」

「それは良い、ならば更にわたしをおぬしに刻みつけてやろう――――――」

 

 ウロボロスが構える、グローザも残り一体となったダミーに指示を送りながら構える。

――――――――が、突然目を見開くとウロボロスはピタリと止まってしまった。気にせずにグローザが射撃を開始すると、それをただ避けるばかりになる。

 

「どうかしたのかしら? 私の部隊、まさかやられてしまったの?」

「…………違う。すまぬが、おぬしとは今は此処までらしい」

 

 ウロボロスはグローザが弾切れを起こしてリロードを始めたのと同時に、階段の方へと走っていく。すかさず装填し終えてから射撃はしたが破れかぶれの其れでは彼女は捉えきれない。

 

 敢えての事だろうが、ウロボロスが蛇行をするのでグローザの弾がまた切れる。もう残弾も少ない。

――不味いわ、このままだと死ぬわね。

 しかしグローザの予感は外れた。扉の前まで走ったウロボロスは、ちらりと一瞥してくるだけで腕はだらりと下ろしたまま。構える気配がない。

 

「…………次はちゃんと殺してやる、許せよ。わたしも少しばかり悔しいのだからな」

「――――――――よく分からないけど、精々足掻きなさい。私達は勝つわ、必ず」

 

 グローザの真っ直ぐとした視線にウロボロスは溢れるように嗤う。

 

「好きにしろ。わたしは愉しい、それで十分なのだよ」

 

 グローザがリロードを終えて構えた頃には、ウロボロスは扉の向こうへ消えていた。

 

「――――やっぱり、このやり方はお見通しだったんじゃない」

 

 本当に二体だけお目溢しをもらった偶然に苦笑しつつ、グローザも後を追った。




『雷雨如きでは蛇を殺し切るには至らなかったか。次に期待しておるぞ…………』


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簒奪者

大変待たせたな、もうじき全て終わる。


「…………少し無理が祟ったか」

 

 頭がクラクラとする。体中が上手く動かせない、もたれ掛かる壁が冷たすぎる。俺は何時から南極大陸に来た、まるで氷山に寄りかかっているようで痛みすら在る。

――無理しすぎたな。自愛するべきだよ、おぬしは。

 

 さっきから知らない女も話しかけてくるし、散々だ全く。

 瓦礫に倒れ込みながら通信を起動する、すぐにヤツラに戦況を報告せねば不味い。

 

「――――――あー、定期報告。逃した、大半のダミーは叩き潰したがメインフレームは健在。手負いこそ最も危惧すべき弱者、努々侮らぬことだ。わたしも少し遊びすぎた…………ケホッ!」

『ちょっ、ウロボロスさん!? 大丈夫ですか!?』

 

 そうだな、そう言えば部下には欠陥について一切言ってなかった。

 とはいえ今は取り繕う余裕もない。機動力を最大にするのは数秒が限度らしい、疑似血液が煮え滾る寸前なのが分かる。四肢という四肢を弾け飛ばす勢いで暴れているらしい。

 

――おぬしの敵は己だ。熱に浮かされるな、元より戦場で死にやすい気質だろう。

 煩い女だ。分かってる、そんな事は俺だって分かってるんだ。

 

「問題ない、これは想定されている事態だよ。それより――――――わたし達を案内しろ」

『へ、案内? というか達って、他にも誰か』

「どうでも良い、速くしろ。今は動けない、この間に策を練る――――――404小隊、あーいや間違えた。そうだな…………18分32秒前辺りのわたしの位置辺りに人形が居る、ソイツが誰かと合流してないかを確認してくれ」

 

 あまりに慌てるオペレーターを一喝する。待て、()()()はこんな荒っぽい性格だったか? いやそうだったな。だが仲間に対してもこうだったか?

 そもそもわたし? わたしとは何だ。おかしい、演算処理が追いついてないのか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 随分と荒れているらしい。今までも戦闘中は大概な思考の暴走をしていた気はするが、こやつらしくもない。

 仕方ない、交代だ。

 

「…………さて。情報は手に入れられたかな?」

『あれ? 何か雰囲気が違うような――――――』

「瑣末事だ、それより命令を果たしたまえ。わたしは正常だ」

 

 まごつくオペレーターを更に一喝。酷かもしれないが、情報もなしに此処で倒れ込んでいるわけにも行かないものでね。

 しかし、いやに交代がスムーズだった。いつもは中々付け入る隙が無くて苦労するものだが。

 

 後無性に何かを壊したい。こんな性格だっただろうか、わたしは。

 クールダウンしてきた身体を良いことに拾ったOTs-14で其処らの瓦礫を撃つ。それが脅しとでも勘違いしたのか、怯えた調子の声が聴覚器官を撫でる。

 

『は、はい! オペレートは可能です、如何致しますか!?』

「……そう硬くなるな。わたしは何時も通りだよ、そうさな――――ナビゲートを頼む」

『了解しました!』

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………あやつはすぐ無茶をする、これぐらいで動けば良いのだ」

 

 あんまり速くするとすぐに燃料が燃える。加減を教えてやれれば楽なのだが。

 この体の特徴は簡単に言うと熱しやすく冷めやすい、それだけの話だ。確かに熱くなりすぎてオーバーヒートは起こすだろうが、適切な熱量を保てば他よりも初動、継続機動力共に高い。

 欠陥などというのは大嘘だ、これはむしろ利点、予期せぬ利益だ。この体は他より自分の思うように動く。

 

 凍える夜風に笑いが零れる、体を動かすのは久方ぶりのことだ。

 

「しかし遊んでばかりではアレに合わせる顔が無い。ナビゲートはどうした?」

『クズがウロボロスさんの仰ったF3方角に向かっている形跡が見られました。予測進路をアップロードしますよ』

「よろしい。ではおぬしの個人的見解も追記しろ」

 

 何を言ってるんだ、と言わんばかりに生唾を呑み込む声と共に固まる。

 それ程不自然なことは言ってないつもりだが、仕事に差し支えては困る。適当に取り繕っておく。

 

「おぬしはわたしの部下だろう? ならば信用に値する、忌憚なく言葉を差し挟め」

 

 あいつの選んだ、あいつが残した部下が馬鹿な訳がない。適当に扱っているつもりでちゃんと「自分について来られるように」ぐらいは体裁を整えてある部下しか居ないのを、わたしが一番知っている。

 

 自覚がないが、あいつはどちらかと言えば自己犠牲精神のほうが強い。自分のせいで部下にロストされるのは嫌で嫌で敵わない性分らしい。

 固まっていたオペレーターがまた喋りだす。

 

『は――――――はい、了解』

「良い返事だ、期待している。以上」

 

 以前のわたしが聞けば恐らく目を剥くような一言が漏れ出た。アチラも大変驚いているようだが、喋りこむのは趣味ではないので通信を切った。

 

「――――ははっ、随分絆されたものだ」

 

 あいつ、最初は嫌いだったのになあ。

 わたしがしたいことは全然しないし、方針は全然真逆だったし、意味不明なことはするし、メンタルは複雑怪奇で狂ってるし、自分のことは全然分かってないし、すぐナンパするし、他の人形の髪を触って喜ぶ所とか気持ち悪い。

 

 相性として最悪だが、相方としては――――――正直、これ以上にないくらい。最適だ。

 下手な言い訳に口が三日月に歪む。

 

「…………ふふっ。仕方ないやつだなあ」

 

 このまま死なれるのは、わたしは嫌だしな。ああ、これは本音だ。風が吹けば消えるような数少ない本音。

 とはいえ404小隊から逃げるのだけはあり得ない、もうどうしようもない戦闘狂。死にたがり。

 

「わたしに出来る範囲で手伝ってやろう、大バカ者め」

 

 何でこんなやつが好きなのか、自分でもさっぱりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盗聴任務の最中に眠っちゃってたから…………まずは録音内容をチェックしないと」

 

 G11がカチャカチャと盗聴器を弄り始めるのを見ると、416は少しだけ溜息をつく。

 元々G11は服だってマトモに着崩していないことが少ない人形で、自堕落さにおいては最早416では何も言う気の起きないレベルだった。

 

 今回に関しては寝ていたどうのこうのを言っても、もう仕方なさそうだ。

 

「1分だけ待ってあげるわ。早くしないとバラバラにして連れて帰るわよ」

 

 G11は小さくヒエッ、と416の物騒な言動に慄きながらも録音の再生に入る。

 最初は雑音も入っていたが途中から奇妙な女の声が混じってくる。

 

『こんばんは。S06地区によく来たな、グリフィンの鉄クズ共』

「――――ちょっとこれ、どういう事!?」

 

 416が目の色を変えてG11の胸ぐらを掴むと、凄まじい剣幕で問い詰める。G11も額に冷や汗を流しながら首を振る。

 

「し…………しらないよ。ずっと気をつけてたつもりだもん」

『夜も更けておるが今は寒い時期だ、防寒はしっかり出来ているかな? どちらでも良いことだが』

 

 まるで客人にでも向けるような妙な口上を宣う女の声に、416の電子回路がびりびりと計算に入る。

――幾らG11だってこれを見逃す間抜けじゃないわ。じゃあこの声は何時、何処で入ったのよ。

 

 問いと返答はNOでループしてとうとう模索を諦めた。原理不明、この声の主は全く分からない原理でこの盗聴器に気づき、声を吹き込んでいる。

 

『――――ところで今回の夜襲はお楽しみいただけているかな? 答えは結構。夜は永いぞ、そう焦らずに楽しめよ道化共』

「イライラする喋り方ね、コイツが今回の鉄血のリーダー?」

「わからない」

「あんたになんて聞いて無いわよ」

「ひっどい…………」

 

 にべもなく返す416に、G11は慣れているとはいえ少しだけ肩を落とす。

 煽る調子がどうにも416には気に食わないらしいが、大事な情報源だ。ぐっと堪えて耳を澄ます。

 

『まあ今日が最後の夜にならねばよいがな、呵々っ!』

『わたしの名前は――――まあ会えたならば教えてやろう。楽しもうじゃないか、名前から分からない相手を相手取り、勝利する。きっとそれは心地良いことだろうさ』

 

 言動の論理も支離滅裂。とても416達はこの声の主を尋常なAIだとは判断できない。

 録音が終盤に差し掛かる。

 

『では近い内に弾丸で「語り合いに来たぞ、404小隊」

「――――ッ!?」

 

 気づけばすぐ側で女が木に寄りかかっていた。咄嗟に構えた416の銃弾がその青白い肌を()()()()()()()()()()

 G11もその様子を見ていた、確かに銃弾は女の体中に撃ち込まれたはずだ。それは角度を変えようと変わらないだろう、だが『通り過ぎた』。

 

 目をむいた416達が女から逆に向かって走り出す。

 

「これは便利だな、おぬし達を殺す程度なら造作もない」

 

 何か一人でブツブツと呟いた女が凄まじい勢いで走り出す。脚部に取り付けられたガードの長く鋭い踵が地面を蹴り砕く度に、じりじりと距離が詰められていく。

 G11に怒鳴り散らすように416が尋ねる。

 

「何よアレ! あいつ、銃弾が通り過ぎたわよ!?」

「知らないよ! というか武器、アレOTs-14だ。人形の武器だよ多分!」

 

――そんなの全然聞いてないわよ、あいつは幽霊か何かなのかしらね!?

 416が混乱する頭を振り払いながらふと横を向くと、不敵な笑みが夜闇に浮かび上がる。

 

「遅い」

「G11、取り敢えずあんた逃げなさい――――ッ!」

 

 G11を張り飛ばすと、416に向かって刺々しい黒鋼の蹴りが飛び込んでくる。

 咄嗟にしゃがみ込むと横のダミーが凄まじい音を立ててすっ飛ばされていく。既に反応が薄くなっていたが、木にぶつかって大きな衝撃音が聞こえてくると反応は完全に消失。

 

 たったの一撃で再起不能ということらしい、416が釣り上がった笑い。

 

「銃弾は無力化、一撃でアウトとかアウェーで済まないわねコレ!」

「そうだな。だが今のわたしが油断するとは思わないことだ」

 

 軸足を跳ねさせるとくるりと身を翻して次の一撃を装填している。

 

「416!」

「うっさい、走って! 時間ぐらいは稼いでやるって言ってるのよ――――!」

 

 またG11に怒鳴り散らす416を見ると、女は薄笑いを浮かべる。

 

「我が身を盾に、か。あいつが見ればさぞ喜ぶ絵面だが――――――わたしはどうでも良い」

 

 徐にOTs-14を構えるとトリガーを引く――――刹那に飛んできた銃弾に女は近場の木を掴んで陰に消える。撃ちそびれたらしい。

 G11だ。416は内心安堵しながらも表面上はG11を叱りつける。

 

「行きなさいって言ったわよ、私!」

「どっち道こんなヤツ、416じゃあボロ雑巾みたいにやられてすぐにあたしもやられるって!?」

「…………悔しいけど事実よ」

 

――冷静だな。今は「わたし」で良かったかもしれない、あいつでは既にオーバーヒートさせかねない。

 目下の主人格への注文に溜息を付きつつ、416達に問いかける。

 

「名乗りが遅れたな。第十三大隊監督役試作上級AIモデル、ウロボロス――――――任によりおぬし達を殺しに来た」

「ウロボロスって、あのウロボロス?」

 

 416が爪を噛みながら問い返すと、すっとぼけたような返事。

 

「どのウロボロスか存じ上げないが――――――少なくとも。鉄血のAIと限るならば、わたしがウロボロスだ」

 

 ゆらりとした動作でウロボロスが陰から躍り出る。

 すぐさまG11が銃口を向けるがやはり命中しない。ヘッドショットなど狙わずに胴体を撃っているというのにまるで一発もだ、流石に奇妙過ぎる。

 

 不規則なテンポで詰めてくる。同時に入った通信に416は叫ぶ。

 

「遅い! ヤバイわよこれ!?」

『え、ど――たの?』

 

 ()()()()()

 

「は? ウロボロスよウロボロス、この前Kar98kをボコボコにしたっていうあいつが居たのよ!」

 

 それだけで察したのか、45は機械じみた声で指示を始める。

 

『交戦するだけ消耗――――スモ――――グレネード――て。逃げるしか――』

「何言ってんのかさっぱり、スモーク!」

「よし来た! 投げたよ!」

 

 G11がすぐさま投げると、森が夜闇から今度は煙にまみれていく。

 416が滅茶苦茶に走りながら小さな声で通信を続行する。

 

「投げた、それで何処に行けばいいのよ」

『崖下!――は出来――――早く!』

「あんた私を殺す気なの!?」

『――しても今――ないから、急いで――――――』

 

 刹那に()()()()()()()()()4()1()6()()()()()()

――え、長すぎる。

 

 ウロボロスとの距離は妙に空いている、おかしい。416はゆっくりと手の感触から来る恐怖を切り捨てて演算に入る。

――銃弾の透過。通信途絶。伸びる腕…………いや違う。()()()()()()()

 違和感が途端にカチリと繋がった。苦々しい笑顔で416が引っ張られていく。

 

「つれないなあ、もう少しどうだ?」

「…………成る程。強力な電磁」

 

 息のかかる距離まで近づけられたウロボロスの顔が、一瞬だけ固まる。

――そりゃあ勝てる訳無いわよ。

 

 手を出してこないのを良いことに、416は通信をオンにしたまま種明かしを続ける。

 しかし雑音が酷すぎる、伝わっているかは不明。届いていることを祈りながら冷や汗を流す。

 

「あんた、体中から電磁波出てるんでしょ。だから生体パーツを「使っている」だけの私達じゃ、五感に異常が起きる」

 

 だから距離を見誤るし、当たったように見えてしまうし、手が伸びているように見えてしまう。

 強すぎる電磁に気づかぬ間に電気を用いた情報伝達に異常が発生しているのだ、通信が荒れるのもそれが原因。

 

 単純にウロボロスは、あらゆる電子に関わるものが異常を来すほどの電磁を放っている。それでさっきから奇妙な現象が起きている「ように見えていた」。

 実際は起きていない。416達にはそう見えていただけ。

 

「私をバラバラにした所で遅いわ、ヒントは残した。45なら勘付く――――――」

「――――呵々ッ! よろしい、合格だHK416!」

 

 突如大笑いをすると、ウロボロスが416の腹に膝を打ち込みながら投げる。銃弾が当たらない訳ではないとバレてしまっては、銃を持った相手を懐に入れるのは危険過ぎる。

 先程までの肉薄する戦法とは()()()()()()。不自然なくらいに。

 

――記憶が混濁してるな。だが戦える、取り敢えずお前らの相手からだ。

 空白の時間に動揺はしたが、それで手の緩むような教育を代理人から受けていない。

 G11に416が飛び込んでいくと、そのまま二人で転がる。ダミーが射撃をするのを難なく避けて肉薄し始める。

 

「さあ、殺し合おうじゃないか――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう。私はお断りよ」

 

 ニヤリと笑った416に、ウロボロスが嫌な予感を覚える。

――つまり電磁波の問題ってことは。ダミーは落とせてなかったんでしょ。

 

 疑似皮膚が剥がれたズタボロの416のダミーが、辛うじて動く左手でウロボロスに銃弾を捻じ込む。

 危険と見て下がったは良いが、皮膚を幾らか掠めてしまう。疑似血液が零れるなり口元が三日月に歪む。

 

「やってくれるなあ、416!」

「後あんた、ちょっと煩いしウザいわ」

 

 無表情に投げられたフラッシュバンに思わず目を瞑る。

――止まれば逃すぞコレは!

 

 半ば乱暴に地を蹴り肉を薙ぎ倒す、しかし掴んでいたのはどれもダミーだ。光が消える頃には416達は居ない。

 暫く辺りを見回して反応を確認したが、とっくに逃げられたらしい。ウロボロスは小さく舌打ちをすると、通信を繋ぎ始める。

 

「チッ――――『Stinger』、行動終了! 定期連絡、聞こえているか!」

『え、何ですかウロボロスさん! 急に『Stinger』を起動されたら困りますよ!』

 

 ウロボロスは珍しく怒鳴り散らすようにオペレーターに言葉の羅列を叩きつける。

 

「どうでも良い! それよりハンターに繋げ、面倒な連中が向かっている――――――!」




【ウロボロス】
消え損なった絞り滓。それでも為すべき事は有ると答えに至ったらしい。
メンタルバイタリティが不安定なようだ、人格のスイッチが頻繁に起こっている。

【Stinger】
ウロボロスの兵装システム全般。及び電波妨害のシステム。
電波妨害の形態だと強力な電磁を帯びており、通信機器は半径数百メートルで不調を来す。また人形は五感の機能に「ズレ」が生まれ、位置を誤認してしまう。
人間と同じく「外界からの情報を自身の「常識」に当てはめて処理する」性質上、銃弾が身体を通り過ぎたように見えたり、距離が急に詰められたように感じることが有る。至近距離になるほど顕著。ある程度の距離を取れば「ズレ」は緩和可能。


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渾沌

 俺は没個性だった。この一言で語れる程度のつまらない人生を送ったと思う、それがとても俺は嫌いだった。

 とはいえ誰もが知っての通り人は望んで没個性にはならないし、生まれたときから没個性じゃない。適応してるだけだし、俺も例に漏れない。

 

 普通に生まれて。

 普通に食事を摂って。

 普通に幼稚園に行って。

 普通に小学校に行って。

 普通に中学校に行って。

 普通に高校に受かって。

 普通に大学生になって。

 だから普通に自殺した。

 

 理由はない。「漠然とした人生に嫌気が差した」だとか「お先真っ暗だったから」とは言えるが、それは正義面した大人たちが「理由になってない」とか「君にはまだ先が有った」なんて無責任に宣うんだから理由には出来ない。

 一つ言えるのは自殺に後悔は今もないし、ましてや頭から真っ逆さまにコンクリートに向かう感覚は最高だったってことだな。俺はあの日、つまらない人生にオサラバしたことに反省はしない。

 

 俺は多分だが、もっと色々出来た。もっと頭の良い高校に、もっと良い大学に行けたし、知り合いの質ももっとよく出来たかもしれない(人間に優劣なんて馬鹿馬鹿しいが、実際優劣は有るからな)。人格者のフリも出来たかもな。

 でも興味なかった。俺は能力が低い無能ではなかったが、今あるものに上手く嵌め込まれる能力ばかり高い空虚な人間だった。俺は薄っぺらくて、だから何も望めなかった。多分、金を持ったりいい仕事についた所で何も感じなかっただろう。「その境遇に見合った」生き方に勝手に慣れていくだけだ。

 

 知り合いも、学歴も、思い出も、恋愛も、遊びも何もかもがハリボテで空っぽだ。惰性でやってることしか無いから、俺は人生で得たものにも、今後得られるだろうものにも全く執着が持てなかった。

 

 

 

 

 

 でもあの日、青白くて綺麗な肌を見た。そういう盤面がひっくり返ったあの日から少しだけ違った。

 やり直せるなら全力ってやつをやってみるべきだと思った。全力で生きて、無様に死ぬ外のヤツラが「とても美しい」とホンキで思ったし、俺はそういう死に方を求めるようになった。

 

 生きることに興味を持てなかったんだ、仕方ないだろ。目的意識を持たない事の苦痛だけをよく知っている俺は、目標が有るだけで羽が生えたように自由だった。今までは鎖だらけだったみたいに。

 そして今だ。俺は望んできた死が迫っている。それは理屈でもそうだが、身体が分かっている。避けがたい確率で俺は死ぬのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 それは俺の望みだったはずだ。そう今も言っている。

 意味のある死になるだろう。きっと泣いてくれるやつも居るし、憤るやつも居るし、怒り猛るやつも居るだろう。惜しんでくれるやつも、寂しがるやつも、決意を新たにするやつも居る。俺の死はちゃんと波紋になって、世界に残っていくのだろう。

 

 理想形だ。良い死時じゃないか。

 なのに――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その理由は、おぬしが見つけることだ」

 

 面倒くさい男だ。そんな事、考えなくても結論は出ているじゃないか。バカバカしい、本当に大バカ者だ。

 走ってはみているが身体が妙に重い、時々ふらつくのも気になる。視界もボヤける、恐らく「わたし」が急に動き出した弊害だろう。バックグラウンドの演算処理がもたつき気味なのが分かる。

 

 更に時間も無ければ長距離射程に向いた端末もない、仕方なく5つほど適当に見繕った端末を引き連れて走っている始末だ。応援に向かっても無事では済まない。

 

「フルスロットルのバカの発想は肌に合わないな、全く…………ッ!」

 

 ハンターの反応に残り1.8km、この速度なら間に合うかもしれない。端末は潰れるが仕方ない、替えは幸い置いてあるとのことだ。

 しかし、先程の報告ではもうぶつかっているらしい。面倒なことに「404小隊だけではない数」との報告だ、普通に見ればグローザ。最悪全く別の部隊。

 

 元々ハンターを救援しきれる可能性は低かったというのに、いよいよ切羽詰まってきている。片割れは随分と荒れているし――――――どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

『待たせたな、ハンター』

「おま――――――何で来た!」

 

 ビル街から走り抜けてきたウロボロスを見るなり、ハンターはぎょっとした顔で通信越しに叫ぶ。

 まさか言うことを素直に聞くとは思っていなかったとはいえ流石に予想外。

 

 突然の出来事に固まっていると、飛んできた弾丸に焦り調子でサマーソルト。ハンターはそのままその方向に銃を構えたがすぐに発煙弾で誤魔化されてしまう。

 

「指揮官は黙って見物してろって言っただろ!」

『はあ? まあ、指揮官はそうするべきだな。指揮官は』

 

 訳の分からないことを、と反射的に怒鳴り散らそうとすると通信に別の鉄血が横入りする。

 

『…………ウロボロスさんの無茶振りっていつものことなんで』

「お前、第十三大隊の隊長? おい待てまさか!?」

 

――まあ、そのまさかという事になるのだがな。

 何故か隊長は照れたような笑い声を通信越しに漏らすと、突然声を張り上げる。

 

『ええー、という訳で! ウロボロスは指揮の不可能な状態になった為、現時刻を持って本作戦の総指揮をこの私が務めさせていただきます!』

『だからわたしは増援に向かっていい。これで良いか?』

「滅茶苦茶だなお前!?」

 

 低空姿勢で直ぐ側まで走ってきたウロボロスの頭を思いきり拳銃で殴る。僅かに鈍色の瞳が潤むと、弱々しい表情で頭を抑えながら口を尖らせる。

 

「痛ぁっ! せっかく助けに来てやったのに酷いではないかぁ!」

「お前みたいなバカ、一発殴るぐらいしねえと気が済むかっての!?」

「うぅ、其処まで言うこと有るか…………?」

 

――ってかお前、そんな女っぽい仕草するやつだったか?

 何処と無くナヨっちいというイメージを抱いてしまったのに思わず顔を顰める。普段のウロボロスは専ら「鉄血で一番男前」という通り方をしていて、こんな普通の反応をするのはとても珍しいことだった。

 

 妙なギャップに動揺している内に、周りを飛び回っていた端末が逃げていくビークルを追いかけ回す。404小隊は其れを使ってゲリラ戦法をひたすら繰り返しているのだ。

 

「…………さっき報告してきた時も急にキャラ変わってたな、そう言えば」

「どうでも良いだろ。それより――――ほら、逃げる準備をしろ」

 

 ほらほら、と指差すウロボロスにハンターが怒鳴る。

 

「馬鹿野郎、此処捨てたらキツイのはお前だ!」

「五月蝿い、すぐに下がれ。下がらないならこの場で端末で蜂の巣にするからな」

 

――なんて強引な言い草だ、今のは演技かよ。

 有無を言わせない輝く瞳。ハンターが口答えしようとしても固まってしまう、普段とは違う怜悧な煌めきがコアまで一直線に貫いてきた。

 

 かと思えば少しだけウロボロスがフラツイたかと思うと、頭を振って今度は睨むような視線を向ける。

 

「早く行け。わたしも長くは保たない…………()()()()()()()()()()()

「……今日のお前は変だ、無理せず下がれよ」

 

 言われなくてもそうさせてもらう、と釣り上がったいつもの笑みで威勢の良い返事。ハンターは正直彼女の身を案じてはいたのだが、牽制は必要だろうとビークルに銃を構えると

 

「行けって言っただろ。アンタ、ホント物分かり悪くて困る――――此処でまた倒れたらあの人にぶっ潰されるぞ、帰りな」

 

 と妙な口調でウロボロスが溜息をつく。

――そうか。そっちがお前の元の喋り方か。

 

 妙な得心の行った表情でハンターが銃を下ろすと、ビークルから真逆に走り抜けていく。

 ウロボロスは見届けるまでもなく端末を大きく展開させると威嚇射撃を開始した。

 

「さて、『わたし達』は何処まで戦えるのか――――――――おぬし達で試そうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、ハンターがどっか行った! またウロボロスが迎え撃ってくる!」

「何ですって!? あの変態人形、また混戦がお望みってわけ!?」

 

 走り込んできたウロボロスに45がビークルを急旋回して逃げる。しかし速度は互角、流石の9も露骨に舌打ちしながらフラッシュバンを投げつける。

 

「誤魔化して逃げよう! 蹴りで人形を壊してくる奴なんか相手にしてたら一溜まりもないしね!」

「分かってるよ、G11と416は万が一に備えて銃は構えておいてね」

 

 45と9で勝手に話が進むのに二人はもう何も答えなかった。静かにダミー達が銃だけをしっかりと持って車の物陰に隠れる。

 

 鋭い閃光と爆音――――――だが、明らかに弱い。

 9が振り向くと何食わぬ顔で走ってくるウロボロス、恐らく彼女は拾い上げて遥か彼方に投げ捨てたと見るべきだ。

 

「やり口が滅茶苦茶だ!」

「そういう奴よ、ほら追いつかれる!」

 

 赤黒い電流が走ったかと思うと、ウロボロスの速度が明らかに急上昇する。まるで走る稲妻の様相で駆け抜けてくるモノクロの少女に416が振り向いて叫ぶ。

 

「無理! もう当たりに行った方がマシよアレ!」

「そっか。じゃあそうしようかな」

 

 45のあっさりとした返答と同時にビークルが急回転する。ハンドルを振り切ったままアクセルを踏み切っているらしい、目が回るの程度は人形なら耐えられる。

 

 ウロボロスの端末が回転する視界をチラつく。容赦なく始まる斉射に思わず車内にしゃがみ込んでしまう。

 

「45、あんた頭おかしくなっちゃったの!?」

「大丈夫、自信あるから」

「は!? 何の自信よ――――――」

 

 応える前に車のフロントに何かが大きくぶつかった音がした。

 そのまま引き摺られていく何かの大きさが416達は見るまでもなく理解できる、エゲツないやり方だ。

 

――でも、これもしかして。

 416が嫌な予感をして45に叫ぶ。

 

「待って、これもしかしなくても」

「――――――まあそうだ、随分なご挨拶だな。我が宿敵諸君」

 

 引き摺られた何かの居る右側から声がする。

 

「わたしはな」

 

 ソレは段々と足音を帯びる。

 

「殺すのも殺されるのも嫌いではない」

 

 最初はゆっくり、もつれながら。

 

「ただし」

 

 どんどん、どんどん足音が早くなる。

 

「まだ、足りていない」

 

 テンポが追いつく。

 次に――――何かが飛び上がる音と共に、車体が僅かに揺れる。

 

「では斉射、生き延びてみせるのだぞ?」

 

 そして、不敵に女が嗤った。

 今度こそ目標を捕捉した全力斉射。機銃、突撃銃、機関短銃。判別できるだけでコレに相当するらしき端末達の一斉演奏。

 

 416達が近場のダミーを必死に盾にする。撃ち抜かれて生体パーツの抉れる音、骨格に当たって弾かれる軽快な音、まるで雑巾でも絞ったように液体が溢れる音。

――血が溢れる音?

 

 斉射が止む。416が銃と一緒にダミーから僅かに顔を見せると、左腕が捻れてズタズタになったウロボロスの姿。見た目以上にダメージは負っているのか、息は荒い。

 416達のフルバーストに掠り傷を負いながらウロボロスが左腕を見ると、少し恨みがましいようなイジケた顔で運転席の方を見る。

 

「左腕がボロボロではないか…………わたしだって痛いんだぞ」

「それはごめんね~――――――お詫びにもう一本もボロボロにしてあげるよ」

 

 45が飄々と返すと、また輸送車が急回転を始める。端に立っていたウロボロスがまず真っ先に振り落とされそうになる。

 

 しかし左腕がしがみつく。腕の到るところから端子がひり出している筈の白い腕が縁に掴まっている。偶然ではない、その指の第二関節は確かに縁を握っているのだから。

 

「ほ~う、体が宙に浮く速度か。何なら416達も振り落とされるな、イカレ人形め。呵々ッ!」

 

 装甲の外側で嗤いながら独りで喋る。45は返事をしない、図星だったのか敵と会話をする気がないのか。

 急に息を呑む声を上げると、ウロボロスは今度こそ一人芝居を始める。

 

「…………何? 別働隊?」

「はあ、成る程な。それを分かっていないと思ってハンターに向かって今突っ切ってきたわけか」

「まあ引っかかればわたしの負けだな、呵々ッ――――――いや、お前の何処が悪い。わたしの責任だよ」

「――――そうだな、助けに行こう。彼女達とは後でも殺し合えるしな」

 

 まるで誰かが居るように喋るウロボロスは、416達は単純に「恐ろしかった」。

 血迷ったなどと笑わせない「対話の空気」が確かに貼り付けられていた。まるで本当に、此処にはもう一人人形が立っているかのようだ。

 

 独り言が終わると、突然左腕が離れて行く。

 

「ちょっと――――」

「お預けだ。腕もぼろぼろだしなあ――――――覚えておけよ? UMP45」

 

 恨み言と言うより、何処か楽しみそうな弾んだ口調で言い捨てると足音が走るビークルから離れて行く。

 416とG11はすぐさま構えるが、9が手で制した通り無駄だった。

 

「…………駄目ね、アイツ逃げてったわよ。足が速すぎる」

 

 416が冷たく呟くと、次には声が風に攫われていた。ビークルは最初から追跡など無縁の方向に舵を切っている。

 G11が大事を取ってスモーキンググレネードを投げると、煙の中で無骨なタイヤが地面を抉り走る。45が顎に手を当てて思案に入るのを見ると、ずっと静観していた9が助手席に外側から飛び乗る。

 

「45姉、アレは正面突破は無理。ジャミング装置の前に始末しようよ」

「まさか車で轢いてもピンピンしてるなんて思わなかったな~、ゲリラ戦法の破り方が滅茶苦茶過ぎ。相当面倒な仕事みたい…………」

 

 通りざまにビークルに飛び乗った45のダミーが振り向くと、中には血塗れのダミーが数体転がっている。一応と幾つか近くの周辺警戒に当たらせていて正解だった、無駄死には一応防げている。

 

 どれも大体が蜂の巣にされている。ウロボロスが使っていた端末の内一つに妙に高性能な機銃が有ったから、多分ソレの餌食にされたのだろう。

 

 G11が少し上の空になると、両肩を抱いてブルリとして泣きべそをかく。

 

「アイツがビークルを掴んできた時、あたし一瞬ビークルごと放り投げられるかと思った」

「まあ、あんな狂気じみた執念でしがみつかれたらね。あんたにしては珍しくよく堪えたわ」

 

 とても遠回しに416が慰めてやるが、G11はまるで気づいている様子はない。

――でも。ちゃんとダメージは入ってるみたい。

 

 至近距離で416を叩き込まれたウロボロスは、勿論此方ほど露骨にダメージを受けた様子はないが――――確かに負傷したような様子は有った。疑似血液も流れていたし、特に捻じ切れる寸前だった左腕は少し動かしにくそうにしていた。

 416がとぼけたような顔で45達に話しかける。

 

「どうやら電磁波はあのファンネルとは併用できないみたいだし、不死身の化物って訳でも無さそうよ? 活路が見えてきたじゃない」

 

 洒落にならない洒落のつもりで笑ってみせたのだが、45が窓から顔を見せるとニヤニヤとしている。416はすぐに素面に戻った。

 

「だね~、撃てば死ぬって分かっただけ大きな進歩だよ。よく分かってるじゃない、416」

「笑えないジョークよ」

「知ってる♪」

「やっぱあんた嫌い」

 

 45は真意の見えない作り笑いをしたまま操縦に戻る。

 それを確認するなり少しはしゃぎだした9が、固まっているG11とそれを何とかしようと悪戦苦闘する416の間に割って入る。

 

「ねえねえ! 陽動は上手く行ったけど、アッチでウロボロス倒してくれないかな!」

 

 あまりの希望的観測に416が鼻で笑う。

 

「無理よ、彼女達が幾らエリート人形とは言え――――――化物は殺せないわよ」




別に他作品に出ても構わんぞ。報告も要らん、パワーバランスを壊したかったら呼べ。コメディは…………分からん。出来るか?


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賽は投げられた

「お、ウロボロスが負傷ってお前、随分と面白いジョーク用意してんじゃねえか」

 

 処刑人がケタケタ笑って答えるが、側に来ていたGuardは何も返事をしない。処刑人は冗談を疑って睨む。

――アイツが負傷するなんて考えられねえ。悪い冗談だろ。

 

 しかも内容は左腕が使用不能になるまで負傷したとのこと。夜風は変わらず寒かったが、その薄ら寒い冗談で凍えるような冷気を増していく。

 処刑人がチラリとジャミング装置の方を見る。()()()()()を決行する必要性が出てきたかもしれない。

 怯えながらも真実だと瞳だけで返すGuardの肩を叩いて笑う。

 

「…………そうか、悪かったよ。アイツの部隊の言うことだ、信じがたいが真実なんだな? それで、オレにアイツから指示は出てるか?」

「いえ。ウロボロスさんは指揮権を放棄し、代わりに第十三大隊隊長が指揮を執っています」

「アイツ馬鹿か!? いや、アイツがやるよりはマシなのか。クッソォ、どう見てもアホなのに一周回って正解なのが腹立つぜ!」

 

 覚えている限り、処刑人の見たウロボロスの指揮は「頭が悪い」。擬音とかが出てくる始末なので信用に足らないのは確かだった。

 

 彼女はミクロの戦闘に関してはこの場の誰よりも飛び抜けていたが、同時にマクロに関してはこの場の誰よりも疎い。本人もそれは分かっていて、「所詮個人芸大会の優勝者だしなあ」と笑いながら指揮をしない理由を語っていたのを処刑人もよく覚えている。

 

「で、それだけか。哨戒所が落ちて、ハンターは撤退。道中で――――何だっけ、エリート人形に襲われただっけ?」

「相当数の数を減らしたようですが、ハンターさんはあまり動けるようなバイタルではないです。ウロボロスさんの説得で現在は下がっています」

 

――ほーん、ウロボロスってそういうの言うんだな。

 素直に処刑人は驚いた。ウロボロスというのは普段からあまり戦闘狂な言動をするものだから、指揮下にあるものにも似たような事を強要するタイプだと考えていたらしい。

 

 察したGuardが反論する。

 

「それは違いますよ。あの人は失敗した事を怒りませんし、弱いままである事も責めません。形は何であれ、何か一つにさえ死力を尽くさないような奴が許せないだけです」

「そうだな、まあお前らがオレに口出しする辺りアイツは相当だ」

 

――そう言えば、まあそういう奴かもしれない。

 ウロボロスは随分と変わったやつで、鉄血の中でも部下への入れ込みは中々の珍しい鉄血だった。

 

 彼女は前に出れない時期が長かったから部隊だけが前に出ていた訳だが、その時から一人が腕がもげている程度で大層心配しているような変わり者だ。

 鉄血は頭をやられてもバックアップは有るから基本気にしないのだが(まあ万が一消去されても、どうせ似たような性格の鉄血がまた出てくるというのも有る)、ウロボロスは「部隊員」に関して妙に気遣いの多いことで有名なくらいである。

 

 友人、戦友の類にも妙に心配症らしいとは以前から噂が立っていた。スケアクロウを半ば独断に近い状態で助けに行ったり、イントゥルーダーをAR小隊から引き離したりと傍から見ればかなり挙動不審が目立っていて、特に夢想家辺りは興味深そうにそれについて話していた。

 

 まるで、人間みたいだ。とか何とか。

――まあ仕事が出来ているようで安心したな、アイツ白星ばっかって聞いてたし。

 

 下らぬ杞憂をブレードの一振りで切り払うと、刃先を点検しながら尋ねる。

 

「で――――――オレは何を刻めば良いんだ?」

「いえ。()()()()()()()()()()

「――――――は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ――――ッ! 痛っ…………」

「すみません。パージは痛覚に直に触るので」

 

 思わず歯を食いしばってしまう。言葉通り左腕が粘土でも切ったみたいに離れていく感触、トンデモナイ激痛が頭を赤色に染め上げる。

――しっかりしろ、まだやりたい事が有るのだろう?

 分かってるのだがこれはキツイ。歯がギチギチと音を立てる。

 

「大丈夫ですか? 無理ならやはり残した方が――――」

「構わない。もう取ってしまってくれ――――ッ!」

 

 出来るだけ何時も通り笑おうとしたが、多分相当不格好になった。

 この左腕のせいで機関部にまで疑似血液が紛れたりと、正直残していてはかなり弊害が残る。ただでさえ熱しやすい身体だ、煮えたぎった液体を機関部近くに置くと流石に不味い。

 

――ほら、息を整えろ。いーち、にー、さーん。

 それで整えば苦労しねえっての…………ッ!

――それは、悪かったな。わたしは励まし方が分からなくて。

 怒っちゃいない。そうしょげるなよ…………。

 

 永遠とも取れる時間が漸く終わる。

 

「パージ、完了。左腕が空っぽな感想は?」

「激痛が残ってる――――――ゴホッ! ガハッ!」

 

 せり上げてくるような嘔吐じみた感触に思わず右腕で口を抑えつける。

――激痛に反応して疑似血液を吐いたか。まあ要らない所の血を抜いたぐらいに思え。

 

 こんな痛い血抜きが有って堪るかという話だが、それは事実のようだ。技師の方も大した反応は示さない。

 コイツはどうやら職業柄、想定内のことでは痛ましかろうが何だろうが反応を見せないようにしているらしい。自分がたじろぐと整備される側が焦ると知っているからだろう。

 下唇を噛んでるのくらいは俺だって見えてる、良いプライドだ。好ましい。

 

――コイツになら多少弄くり回されても構わない、か?

 そういう事だ。

 

「うーむ、喉まで軽く灼ける熱さだ。それで、応急処置は出来ると言っていたな?」

「ああ――――失礼、少し取り乱しました」

「構わない」

「有難うございます」

 

 自業自得だ、同情することもないというのに。

――妙なところだけは優しいのだな、わたしは嫌いではないが。

 別に俺は基本的に自業自得だからな、誰かに同情される必要はないと本気で思ってるだけだ。

――素直じゃないやつ。まあ、人のことは言えないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな事言ってんじゃねえよ、アイツ!」

 

 ゆらりゆらりと弾丸を躱しながら処刑人はさっき貰ったばかりの巫山戯た命令を反芻する。

 それは簡潔だ。「ジャミング装置は放棄せよ」、これは隊長ではなくて監督役(ウロボロス)助言(命令)だそうだ。あまりに巫山戯ている。

 

 別にジャミング装置自体を捨てることに頭ごなしに反論はしないが、しかし作戦はまだ続行可能。安易に捨てるべきでもないのは確か。

――どうせ被害が増すだけとか思ってんだろうな! 急に弱気になりやがって!

 

 404小隊は報告通りビークルに乗ってゲリラ戦法を仕掛けてくる。緑色のG11とやらはどうやら戦意喪失状態らしいが、隙を突こうにもぽんぽこと投げられる発煙弾で二の足を踏んでいる状況だ。

 

「正々堂々掛かってこいよ、404小隊――――――――怖気づいてるんじゃねえ!」

「怖気づいてるわけじゃないわよ、アンタごときに」

 

 416が苛立ち混じりに吐き捨てる。実際問題、ウロボロスを見た後だと処刑人のブレード捌き程度では怖気づかない。

 9の牽制用の弾幕が煙を走り抜けて行くが、処刑人は全てブレードと体捌きで避けきってしまう。エリート化というだけ有って性能向上は本物だ、小さく舌打ち。

 

()()()()()()()()、今回こそやってみようよ」

「でも片割れこんな感じだけど、アッチの息切れまで保つかしら」

「ごみをだすひがきたのですか、ごしゅじんさま…………」

 

 メソメソと泣きべそをかきながら訳の分からないことを言ってキョロキョロするG11。416がコツンと軽く頭を叩いた。

 頭を擦ってG11がしゃがみ込むと、処刑人の弾丸が頭上を通り過ぎていく。416は見越していたらしい。

 

――どうしようか。

 45が運転を継続しながら考え込む。弾薬切れが遠くないのはこちらも同じ、我慢勝負は賭け事になってしまいそうだ。

 弾薬を取ってから来る手も有ったが、()()()も有って敢えて速攻を掛ける運びになっていた。

 

「うん、でも適当に撃ち合ってるよりマシ。やってみようよ」

「途中でウロボロスが来たら?」

 

 416が引きつった笑いで問いかけると、45がニコッとまるでプレゼントでも渡すような朗らかな笑顔で返す。

 

「来ないことを信じよう♪」

「アンタ嫌い!」

「指揮する側なんて嫌われてなんぼのものだしね」

「都合のいいこと言って!」

 

 そう言って彼女達の二度目の徹底抗戦が開始する。

 処刑人もすぐに気づいたが、ビークルの全力疾走に追いつく脚力はない。苦し紛れの拳銃もリーチが足りていないと来ては、もう彼女達の思う壺である。

 

 404小隊が弾を抑えているのがウロボロスのせいだという事実に、処刑人は癪ながら感謝して応戦する。

 

 銃弾。

 

 銃弾。

 

 銃弾。

 

 銃弾が、途切れてきた。

 

 処刑人の弾はあっという間に限界が近づく。動ける時間ももう長くはない、負傷も致命傷はなくとも多少は嵩んで来ている。このままでは本当に耐久負けするだろう、控えめに言って思う壺だった。

 

「畜生が、マジで『アレ』使う羽目になるかもしれねえぞ――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあー、また出撃だ。代理人殿は碌な戦場に出してくださらない」

「来たわよ、最悪のパターン」

 

 416の諦め混じりのような報告に、45がまた無茶な運転で全力疾走を再開する。

 体中からゴキゴキと尋常ではない音を鳴らす姿はやはり化物のソレ。416がすぐさま威嚇射撃に移ろうとするが、その僅かに見えるシルエットに目を細める。

 

「待って、アイツ腕治ってる――――それに」

「なんだろうね、あの円盤みたいなの」

 

 9の声と同時にチェイスが再開される。

 端末達が奇怪な動作音を上げながら威嚇射撃に対抗し始める。先程より数は多く、特に右肩に張り付くように浮遊する円盤型の端末は初めて見るものだ。

 

 先程繋いだ鉄血のデータベースにも全く報告がない。

 ウロボロスが耳に右手を当てて会話する。通信だろうか。

 

「という訳で処刑人、おぬしは下がれ。言っただろう、撤退だ――――――ああ五月蝿い五月蝿い、事情など聞いてやらないからとっとと尻尾を巻いて逃げろ」

「チッ、何言ってるか聞こえない。アイツ堂々と通信したりして、喧嘩売ってるのかしら!?」

 

 416が舌打ちしながらG11を叩くと、G11がムクリと起きる。

 

「ごめん、寝てた」

「寝てないけど早く働きなさい! またあの変態人形が来てる!」

「オッケー、任せて――――!」

 

 G11とそのダミーが同時に銃を構えた時、リアサイトに映ったウロボロスの左腕が妙な動きをした。

――何か、伸びてる?

 

「ねえ」

「何よ! 今忙しい!」

「ウロボロスって軟体動物だっけ」

「何言って――――!」

 

 答えは振動で為された。

 突然ウロボロスの左腕がこちらに飛び込んできたかと思うと、ビークルの背面に思い切り突き刺さる。よく見ると太いワイヤーのようなもので繋がれているが、突き刺さっていた手のようなものは長いブレードだ。というより、手の影も形もない形状をしている。

 

 416は嫌な予感に任せてそのブレードを撃ち始めた。

 

「早くコレ取って、予感が合ってるなら――――」

 

 声の前に、ブレードが金切り声を上げる。

 ビークルにしがみつくように刃が音を立てて下がっていく最中、ワイヤーが凄まじい擦れる音と共に引っ張られていく――――――いや、ウロボロスを引っ張っている。

 

 G11と9が慌てて流れるように飛んでくる本体を撃つ。

 

「冗談だよねコレって!?」

「うわ、やっぱりそんなに効いてないよ! もうぶつかる!」

「分かった、振り切るね」

 

 そう45が答えると、森の中に突っ込んでいく。ドリフトで楕円の軌跡を描く進路図がワイヤーを木に巻きつける。

――()()()()()()

 絡みついたワイヤーごと木に捕まったウロボロスが焦り調子で喚く。

 

「待て待て、それは良くないだろう――――――」

「そりゃあアンタとマトモにやり合うわけ無いでしょ――――」

「いや、そうではなくてだな」

 

 突然。

 ぶちぶち、と音がする。416達は音について最初は理解を拒否した、推定数十センチはある木に巻きつけた筈だ。まさか自分達の想定が現実になるわけがない、あの空気に毒されすぎだ。

 

 普通に考えて、木が折れる訳がない。あんな細い腕で、あんな華奢な体躯で。

 

「自然破壊はこのご時世、グリフィン的には奨励できないだろう?」

 

 だがそれが現実。

 恐ろしいことにウロボロスは木を幹の中央から千切ってしまうと、放り捨ててまたワイヤーを巻き始める。

 

――マトモな理屈は通用しないってわけね。

 416も慣れてしまっている、45は構わず木々を踏み倒しながら前進。

 

「――――――ハロー。殺しに来たぞ」

 

 飛び込んできた悪魔がニヤリと一瞥すると、416は自分の血の気が引いていくのが手に取るように分かる。

――アンタ、それが厄介なのよ。

 

 理解して尚残る本質的恐怖。タネは分かっている、理屈も自明の理、隙は有る。

 ()()()()()()()、其れがウロボロスの特異性だ。本来化物とは正体不明であるからこそ化物だが、彼女の場合は明るみに出て尚変わらない。

 

 つまり其の恐怖には打ち克つ他の術は無い。真の化物である者に対して、知識などと言ったハリボテは無駄である。

 彼女への恐怖というのは、つまり己が手で撃ち殺す他無いものだ。

 

「素振りをさせてもらう――――Stinger、起動!」

 

 号令に奏者が小さくいななく。円盤の前面部分が展開されていく――――見えたのは小型ミサイル。思わず416が運転席に叫ぶ。

 

「もう一回振り切って――――――私達ごとでいいから、早く!」

「仕方ないなあ」

 

 歪な蛇行が始まる。九〇度以上のカーブを突然始めるビークルの姿はまるで飲酒運転の其れ。

 ブレードを引き抜いたばかりで縁につかまっていたウロボロスが振り落とされる、一瞬だけG11がシメたという表情でウロボロスの頭部に照準を合わせた。

 

「甘い甘い。パイルバンカー、オープン――――――放て」

 

 ニヤリと笑うとStingerと呼ばれた円盤端末から巨大なドリルが416のすぐ真横まで捩じ込まれていく。回避しようにも勢い、形状ともにとても弾丸で止められたものではない。

 

 殆ど輸送車を食い破る形で食らいつくと、またワイヤーが啼き声を響かせる。どうやらあの端末は手に持って移動する使い方もあるらしかった。

――何個移動手段持ってきてんのよ!

 同時に放たれたミサイルを木々にぶつけて誤魔化しながら森の中を走る。

 

「仮にもわたしが認めた兵装だ、この程度で押し負けるものかよ――――――」

 

 何か長ったらしい口上を謳うウロボロスを他所に、9が二人を交互に見やると頷く。

 

「416、G11。私が本体に威嚇射撃するから端末撃って」

「言われなくても!」

 

 短い指示。9の掛け声とともに一斉射が始まる。

 まるで戦闘に関心を向けていない本体を差し置いて、端末はしっかりと彼女達を付け狙う。

 

 416達の射撃に気味が悪いほど正確に弾を当てて相殺する動きは、最早一介の自立操作とするにはあまりにナイーブな調整だろう。

 ウロボロスが少しだけつまらなそうな顔をした。

 

「戦闘中の長口上くらい聞いていけよ、せっかちな人形共め…………いや? そうだ、その通りだ。わたしが変わっているのだろうな」

「誰と喋ってんのよ! 気色悪い!」

 

 一人で頷いていた首がまたビークルに戻ると、とうとうウロボロスの身体が衝突する。

 9の斉射が的確にウロボロスの頭部を捉えるが、身体ごと紙のようにひらひらと避けられてまるで命中しない。四肢にばかり弾痕が残っていく。

 

 ウロボロスがすっとぼけたように首を傾げる。

 

「まー、わたしを狙うのも結構だが――――誘導ミサイルを忘れていないかな?」

 

 声と同時に鳴りを潜めていたミサイルが一直線に群れを成す。とても捌き切れない。

 

「ウッソ、自分ごと撃つ気!?」

「悪いが自分を勘定に入れて殺し合いをしたことはなくてなぁ!」

 

――そんな意味分からない理屈を宣ったのはアンタが初めてよ!

 巫山戯た宣言と共にビークルが爆発で浮き上がる。

 

 跳ね上がったビークルに飛び乗るとニヤリと口端が吊り上がった、とても感情有る生き物が見せていい表情ではない。純然たる殺意。

 

「この面倒な追いかけっこは終わりとしよう――――」

 

 瞬間。

 森林地帯のギャップにビークルが躍り出た瞬間に、僅かに顔を出した45が勝ち誇ったように小さく笑う。

 

「そうね。貴方の負けよ、ウロボロス」

 

 何処からともなく一斉に銃を構える音がした。




さて、漸く本編兵装が登場したな。
…………話す内容もない。そろそろ此処も締めよう。

それでは其内、生きていたらまた会おう。


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一等星の最終通告

「バイバイ」

 

 一斉にビークルを乗り捨てた45達に、ウロボロスが追従しようとするが遅い。

――しまった、誘導されていたのは此方だったな。

 

 向けられた銃口は正確にウロボロスを狙う。数は目視で20は有る、言われてみれば404小隊のビークルに乗り込んだダミーは少なかった気がする。恐らくはぐれていたエリート部隊も総出での斉射だろう、一体に向ける銃口の数としてはあまりに多すぎる。

 

 斉射。文字通り身体中にありとあらゆる口径の銃弾が突き刺さっていく。

 

「これは、キツイな…………ッ!」

「化物は何時だってヒトの知恵に負けるのよ。覚えておいてね――――――」

 

 おまけとばかりに投げられたフラッシュバン。爆音でウロボロスは感覚器官が混乱しきってしまった。

 尋常ではない弾数を喰らいながらも全く倒れ伏さないその姿は化物そのものだろうが、それでも足はふらついている。

 

 大抵が通らない。だが幾つか命中した弾が確実に白い肌を抉り取ると、身体中が擬似血液で紅く染まる。

 苦渋の決断と言った様子で端末を盾にする、時折爆発する端末の爆煙に姿が見えなくなっていった。呻くように呟く。

 

「チッ…………Stinger、迎撃開始――――ッ!」

 

 掛け声に合わせて誘導ミサイルが真上に飛び上がると、円状に散らばった人形達にまばらに襲いかかる。射撃は鳴り止んだ。

 

 意識がふらつくのを歯を折る勢いで食いしばると、そのまま端末の操作に移る。

 機銃が、突撃銃が、機関短銃が、狙撃銃が、辺りにばら撒くように銃弾を吐き散らす。

 

「まだ死なないって…………本当に化物ね」

「悪いが化物なのでな、巣穴に帰らせてもらうぞ――――――けほっ! ごほっ!」

 

 機関部に混じった疑似血液を無理やり吐き出すと、もつれた足で元来た場所へと走っていく。

 勿論銃弾は追いかけてくるが、投げ捨てるように盾にされる端末のせいで上手く当たらない。

 

 ましてや速度で勝てるはずもなく、身体中から擬似血液を流したウロボロスが闇へと消えていった。

 

「幾ら弾を打てば良いのかしら、彼女相当よ?」

 

 仕方なく出てきたグローザが45を見て肩を竦める。

 続々と出てくる人形達の表情は多種多様だが、大抵「恐怖」の混じった顔をしている。アレがハンターや処刑人ならどう足掻いても死んでいるはずなのだ。

 

 生きているだけで彼女達には絶望感すら有る。

 

「まさか生き残るとは思いませんでしたね。せっかく打ち合わせもしっかりしたというのに…………」

 

 カラビーナの苦笑いに、45が底の見えない笑顔を返す。

 

「大丈夫だよ。後はジャミング装置を潰せばついでに始末できるしね――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベえなコレ……だいぶ痛い」

 

 何とか臨時指揮室までは逃げ延びたが、損傷は相当激しい。口の中もあの不味い疑似血液の味で一杯一杯だ。今食ったら何でも吐けるぞ。

――ふむ。油断しすぎだ、端末もいつもの機銃とStinger以外全滅だぞ。

 

 知ってる。これは…………あの人にどう報告しようかなあ。

 俺の様子を見た――――あれ隊長か? 見た目じゃ分かんねえや、ソイツが駆け寄ってくる。

 

「ウロボロスさん!? 何ですかその傷、ジャミング装置は大爆発するし!?」

「あー…………まあ、色々とな。それよりジャミング装置がないなら反応検知は出来るだろう、動向はどうだ?」

 

 そんな事よりだのわーわーと喚き出すので

 

「命令だ、説明しろ」

 

 とだけ答える。鉄血は自分より上位のAIの命令には逆らえないからな。

 俺の様子を何度も見ながらコンソールをいじると、画面には敵対反応らしき赤い点が明滅している。軌跡を見るには殆ど此方に一直線だな、苦々しい表情で此方に向く。

 

「き、来てます…………数も減ってません」

「それは困ったなあ。まあ取り敢えず、これでジャミング装置の防衛は失敗だ。まずは指示を飛ばしてだな――――――」

『…………指示を飛ばして、どうする気かしら』

 

 うわっ、一番来られたくないタイミングで来られちゃったよ。まだ壁に倒れ込んだままだし。

 取り敢えず身体中の血がおかしな巡り方をするのをひしひしと感じつつ、立ち上がって背筋を伸ばす。

 

――代理人殿の前だと本当に忠犬だな、主様は。

 五月蝿い。というか誰が主様だ、畏まりやがって。

 

「…………えーっと、作戦失敗です。もう駄目そうだったので独断でジャミング装置は爆破しときました、まあ404小隊は仕留めたでしょう」

 

 余裕で大嘘だったが隊長には人差し指を当てて黙らせる。面倒なことになるだろ?

 どの道此処まで来たらそんなものは誤差だ。爆弾は処刑人が知らない間に設置してたんだが、逃げ際にスイッチは強奪しておいた。お前が爆破したら代理人に殺されるぞ?

 

 いつも冷えている代理人の目つきが、更に俺の眼を冷ややかに観察する。表情がないのが堪らなく怖いね、これは。

 

『たかだかゴミ人形を4体仕留めただけ?』

「そうです」

『そのザマはどうしました』

「やられました。待ち伏せで数十体から蜂の巣ですよ、お恥ずかしい」

 

 笑って誤魔化そうとするが、反応が薄すぎて取り繕えない。

――その負傷を誤魔化しているだけで中々だ。と、わたしは思うがな。

 

 要らないこと言うなよ。あー思い出して吐血しそうだ、ってかする。

 

「けほっ、こほっ! 失礼、ちょっと機関部に尋常じゃない疑似血液が入り込んでいまして」

『喋れますか』

「代理人殿がお相手と来れば余裕、当たり前でしょう」

 

 正直喉に血が絡まってるけど。

 咳き込むのが酷くなってくる、ちょっと量が多いからなあ。まあ仕方ないだろ。

 

 何時も通りの顔で彼女が溜息をつく。何だか出来の悪い弟に呆れるような、そういう感じの諦め混じりの感じの浅いやつ。

 一頻り目を瞑った後に、何時も通りの怜悧な視線が突き刺さる。

 

『――――――なら早く帰ってきなさい。今回は小言では済ませられないから、そのつもりで』

「………………ッ!? 帰ってこいと?」

 

 何を言っているんだ、と言わんばかりに目が細められる。

 

『そう言っていますが』

「この役立たずに?」

『はい』

「何で?」

『何でと言われても、スクラップにするにしても端材はリサイクルできるでしょう』

「ああ、成る程。そういう事ね」

 

 とうとう代理人が壊れたかと思った。ビックリしたぜ、スクラップはまあ回収した方が良いよな。

――随分とレベルの高い鈍感だな。

 え、何か言った?

――いいや、何も。

 

 ほっと息を吐いて余韻に浸っていると、ふと代理人が

 

『真っ直ぐ帰ってきなさい、寄り道をする余裕なんて無くてよ』

 

 と取ってつけたように呟く。

 帰る場所ねえ、俺にそんな物が有るとは驚きだ。流石に今回は見捨てられるとばかり思っていたんだが、生きてると往々にして予想外が一般通過してくるから困る。

 

――主様よ。帰る場所、有るんだぞ?

 分かったよ、分かってる。

 

「じゃあ真っ直ぐ帰ります」

『…………そう。ところで随分服がボロボロになりましたね』

 

 あー、そう言えばな。アイツラ無茶な射撃してくるから。

 苦笑いしていると、切り際に

 

『どうせそんな事だろうと思ってスペアは用意しています。みずぼらしい格好で鉄血を彷徨かないでちょうだいね』

 

 と言い捨てると通信が切れた。

――みずぼらしい格好、だとさ。ははっ。

 いやあ酷い言われようですな? 部下がこんなに一生懸命頑張ったってのに、みずぼらしいですってよウロボロスさん。

 

 さて。息を整えてコンソールに向かう。

 

「隊長、部隊は無事か?」

「え、ええ。指示通りに」

「そうか、じゃあ各方に通信を繋げ。全域だ」

 

 言われるままに隊長が通信を繋ぐ。コンソールの入力作業が速い、初めて触ってるはずなんだがな。コイツは妙に筋がいい、俺はこういうの苦手だけど。

 

 プツリ、と繋がる音。息を大きく吐いた。

 

「――――――さて、今宵は随分暴れたな。第十三大隊諸君、及びおまけのハイエンド馬鹿コンビ。楽しめたかな?」

「残念ながら今回の作戦は失敗だ。どっかの馬鹿の爆薬は無いよりマシだったが、ちなみに一体も落とせなかった。爆発音は痛快だったな! 呵々ッ!」

 

――やるんだな。

 当たり前だろ、最初からその予定だったし。

――バカ。

 悪いな、バカに付き合ってもらうよ。

――分かった。

 

「――――――――本作戦の最高指揮権を移譲されたわたし、ウロボロスの権限を以て命令する!」

「全軍撤退! 棄却はわたしより上位のAIの指示のみとする、急いで支度せよ! 宴は終わりである!」

 

 ああー、ついでに感想でも言っておくか?

――そうだな。言っておけ言っておけ、どうせしまい込んでも大したことのない感想だ。

 

 だよな。

 別口で指示を出し始めた隊長を他所に通信を続ける。

 

「ええー、まずハイエンド馬鹿コンビ! おぬしら酷い噛ませだったぞ、次は代理人殿に潰されないようにしっかりとエリート改造の力を発揮できるよう精進しろ!」

「…………ウロボロスさん」

 

 無視無視。

 

「ハンター! おぬしは冷静だ、何時であれ冷静に狩りの出来るモデルだ。しかし鋭い爪も確かに持っている、好きなようにやれ。それが一番最善だ」

「ウロボロスさん」

「処刑人はなー、おぬしはちょっと先行が過ぎるぞ? もっと周りに頼れ、肉薄するような馬鹿は周りに頼るしかないことを忘れるなよ。それこそハンターとか、ほら仲良いだろ?」

「ウロボロスさん」

「スケアクロウ、隊長が駄目だったら頼むぞ。こやつ、意外とテンパったらオタオタしているからな。ちゃんと支えてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええー、第十三大隊諸君。今までこの阿呆な上司によく付き合いきったな、偉いぞ! 誇れ、愚か者の諸兄は愚か者ではあるが、同時に如何なる戦場でも通用する兵士となっただろう!」

()()()()()()()()()()()()()()()()、暴れられなくても文句は言わないようにな!」

「――――ウロボロスさんって!」

 

 もー、何だ。せっかくいい感じの名台詞っぽいこと言ってるのによ、名前微妙に中二臭くてダサいからあんまりこのタイミングで呼ばないで欲しいんだけど。

――相手をしてやれよ、な?

 

 仕方ないな。

 ぐずぐず鼻をすする隊長の方を見る、ひどい顔してんなーおい。

 

「何でですか」

「何で? いや、だってあやつら追ってくるぞ? 負傷兵は少ないがダミーも数は少なかろう、大事を取ってというやつだよ」

「真っ直ぐ帰るって、言いましたよね?」

 

 ああー、あれね。

 

「部隊は真っ直ぐ帰るだろう?」

「貴方も帰るんですよ、何言ってるんですか!? 戦闘狂も大概にしてください!」

 

 そう言われてもなあ。

――今回、別にそういうのじゃないしなあ?

 

 そうそう。まあ今ので引き下がれるような理由でもないと言うか、うん。

 

「多分な、このまま一緒に帰ったら結構な数がやられる」

「私達は量産型だから問題ないでしょう! でも貴方は――――!」

「あーあー聞こえん聞こえん! ほれ、さっさと帰らんか!」

 

 面倒くさくなったので近場の窓から放り投げた。

――うわー、酷いやつだなおぬし。マジで酷いやつだコレは。

 

 酷いやつなのは今更すぎて反応に困る。徹頭徹尾俺は悪役だったんですが。ついでに言うとどっちみちアイツは俺に逆らえないから時間の無駄だよ。

 

 アイツラ思ったより強かったからなあ、アレはヤバいわ。誰かが囮でもしないと絶対地獄を見るね。

 特にグローザとかいうやつ、あそこらへんがヤバそう。

――全部危険に見えるのだが?

 まあそうだけど。

 

「おっと、バランス崩れる」

 

 流石にちょっと負傷がキツイな。身体がふらついてならねえ。

――何処へ行く気だ?

 

 ちょっと距離取ってだな…………うーん、星見に行くか。ほら、悪役が急に回顧したりってありがちだろ?

 こみ上げてくる血を無理やり飲み込み直して足を踏み出す。俺はやりたい事は絶対にやるんだよ、何せ其処を失敗した人生だったからな…………。

 

 

 

 

 

 

 

「…………そういや、アイツラ来ないな」

 

 夜風が急速に冷えた血液に響く。さっきはかなり無茶したからな、正直沸騰間際まで来てた気がする。

――普通、手負いが突っ込んできたら罠を疑う。

 成る程な、実に合理的。合理的ってのは戦場の常らしいが、俺とは逆位置に有る概念だってのがイマイチ分かってないらしい。

 

 アテもなく歩いていた。空を見上げると、寒い地域だからかいつも五等星までくっきりと見える。本当は視力があるからもっと見えるんだろうが、何となくそういうやり方は好きになれない。

 いや嘘だな。俺は空を見上げる時は、「人間のフリ」をしていたいんだろう。

――何とナイーブな、という話だ。

 然り。

 

「人間ってのはそんなもんだ」

 

 言葉通り人間辞めてから語るのも変な話だがな。俺達は元々無いものは棚上げして、無くなったものに縋り付こうとする傾向はあるんだよ。

 俺は人間らしい人間だったんだろう、だから今になって人間らしさに縋り付く。まったくもって馬鹿らしい話だが、馬鹿らしい事が人間様の長所だったりするから侮れない。

 

――随分お喋りだな。死ぬのか?

 

「死ぬだろ、多分」

 

 ふらふらとした足取りは、気づけば大通りに出ていた。右を向くと何かの会場にでもよく使われたんだろうな、ガラス張りのドームが見えてくる。

――あそこに向かうか?

 うん。

 

「星は綺麗だろ、オレは好きだ」

 

 真っ直ぐと歩くと、もう言っている間にドーム前につく。

――嫌いではない。

 

「オレは一等星が好きでなあ、知り合いに言ったら「お前はニワカだ、ニワカ」って言われたことが有る」

 

 着いた。

――何だ、けったいな友人を持ったものだな。

 

「いやいや、オレも咄嗟に「お前アホだなー」って返したからさ。まあ軽口叩く関係ってだけだ」

 

 中をゆっくりと歩く。割れた窓から吹く風は、今は何故かとても涼しく感じる。

――いや。良い関係だったらしい、わたしではパッと察しがつかない程度には良い関係性だろう。

 

「それは分かんないけど。思えばオレの返しは酷かったなー、「いつも見えてるからって誰も好きじゃなくなったらさ、マイナーCPが公式CPより圧倒的に人気出るとかいう原作レイプじゃん」って返した。今思い返しても馬鹿すぎる、アイツちょっと引いてたし」

 

 中央まで歩いて、窓ごしの空を見た。所々の割れた窓硝子が、まるで微細な粒子のように煌めくさまは摩訶不思議な美しさを帯びている。

 諦めると世界は急に美しくなる。この感覚はもう二度目だ、多分俺が薄汚くなる分だけ世界が綺麗に見えていくんだろう。

 

――内容はともかく、ある意味腹を割っているとも言うのではないか?

 

「ま、そうだな。でも――――――アイツの言うことも正しかったのかもしれないなって思うよ」

 

 段々、力を入れるのが辛くなってきた。そこらの壁にもたれかかる。

――正しい? 主様に正しい間違っているの勘定が有ったのか、驚きだぞ。

 

「…………いや、オレはビルから飛び降りた時。自分が空虚だと思ったのは今でも忘れてない」

「それは一見事実だ。あの時のオレにとって事実だから、今どう思おうとあの日あの時には事実だったんだろう」

 

 だけどさ。ちょっと、眩しいものばっかり追い過ぎてた気もしてきてると言うか。

――というと?

 いやさ、アイツが言ったこと。一理あるんだ。

 

 アイツとはよくゲームをした。俺は何時も主人公とかが好きな方だったけど、アイツはどっちかって言うと皆好きってタイプ。だから俺よりも、アイツは一つ一つのゲームの面白いところを沢山語れた。

 それはとても幸福なことだ。100円を与えられて俺は「何だ100円か」って言うのに、アイツは「100円が有ったらこれが買える! あれも買えるぞ、迷うな!」って衒いなく言えたんだろう。

 

 俺はそれが出来ないタイプだった。今は…………まあちょっと違う。

 

「主役じゃなくてもさ、カッコよくなくてもさ。意味って有るんだよ」

 

 やられる敵なんて見向きもしなかったんだが、今は違う。

 俺はアイツラがどんな世界で、どれだけ否定されて、どれだけ悪者扱いされても嫌いとは言えない。良い所はちゃんと言ってやれるし、むしろ正義で撲殺してくる連中にその闇雲さを説いたって良い。

 

 皆違って皆良いなんて綺麗事だと思ってたが、アリかもしれないなって。

――ふん。死にかけて急に素直になるとは、誠に面倒な男だ。

 悪いな。もう面倒くさいなら聞き流してくれ、俺も何でこんな事言うのやらって感じだから。

――聞いてやる。聞いてやるともさ、惚れた弱みだ。

 

「だからな――――――オレは、もうどうしようもなく最後まで身勝手だし。暴力的だし。悪者だとは思うんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち並ぶ銃口に、まるでこれから鏖にしてやるぞ。そう言わんばかりにニッカリと笑ってやった。

 

「だからこそ、悪者と呼ばれるだろうアイツラに。一助になれるような我儘を最後にしたくなった」

 

――了解。善処しよう。

 ああ、善処しろ。

 銃弾が、スローモーションで俺の瞳で鈍く輝き続けていた。



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匣の中の悪魔

 ヤバいな、体中から擬似血液が止まらねえ。これは死ぬわ、流石に俺でも分かる。

 

『そうだな。長くは保たん、計算するのは……まあ億劫だな』

 

 そうだよな。自分の死ぬ時間なんてカウントしたくねえし。

 

 身体から生命が抜ける錯覚。この出血量はかなり致命傷だ、早めに何とかしてもらわないと絶対に死ぬ。俺は上級AIに過ぎないからなあ、バックアップもないし。

 

『…………死ぬが、まだなんだろう?』

 

 まあ、そうだよ。死ぬから静かにしてましょうって柄じゃねえんだ、俺って。

 死ぬにしたって最後まで何か、こうやり通したいことってのは有る。

 

『立てるか? わたしが端末は何とかしてやる、持ち直せ』

 

 分かってます、分かってますよウロボロス殿。全く、知らない間に俺がこき使われてやんの。何でだ? 最初は俺が周りを振り回してたはずなのにな。

 

 危険な場所でも部下を連れてったし、阿呆の行列でストーリーはしっちゃかめっちゃかにしてやったし、今だって無茶な命令をしちまった。幾ら何でも酷いのは俺だって知ってるさ。

 

『――――主様はまだ暴れてなど居ないよ。周りを気にしていた』

 

 そうか?

 

『そうだ。もう今は、そんな事はしなくていいが』

 

 そうなの?

 

『ああ、思う存分に暴れていい。生命の際限など蹴り飛ばし、周りの都合など笑い飛ばし、今やりたいように出来る。おぬしは漸く、初めての自由を手にしたのだぞ?』

 

 そうだったのか。

 

『せっかくの大舞台だ、派手に好き勝手にやればいいじゃないか――――別に、わたしで良ければ一緒に死んでやる。独りでもない』

 

 まあ、実質一人だけどな。

 

『いいや、二人だ。昔も、今も、最後まで』

 

 おいおい。照れるぞ、告白されてる気分だ。

 

『はっ、誰がこんな阿呆と』

 

 言ってくれるねえ、酷いやつだ。

 でもそうだよな。俺ってやつはこの期に及んで、何かお綺麗事に殉じようなんて誠意を見せちまった気がするな。

 

 違うだろ。俺達は、そういうものじゃない。俺達に与えられた生命の意味は、俺達が生きている意味は、俺達がこの思考を止められない理由は、そんなクソみたいなお綺麗事は関係ねえ。

――身勝手に、滅茶苦茶に、理不尽に、踊るぞ。

 

 りょーかい。じゃあ。まず、端末を起動しよう。最後までやってやろうじゃないか。

 

【俺達が何と呼ばれてきたか、奴らに思い出させてやろうじゃあないか】

【地獄を引き連れ夜の帳を蹴散らそう。覚めぬ悪夢は食い潰せる。終わらぬ惨劇は飲み干せばいい。消えない銃声を嘲ってやれ】

【そう。全てを呑み尽くす故に、輪廻する無尽の強欲故に。わたし達の名前は――――――こう名付けられたのだから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に死んだと思いたいけど…………」

 

 グローザの呟きに一〇〇式が笑うと、それは起きた。

 

 時が凍りつく。砂煙から鈍い煌めきが映ったかと思えば、這いずり回るように飛び出してきた巨大なブレードが突き刺さる。

 

「えっ――――――」

 

 一〇〇式は思わず目を白黒させて自分の身体を見た。

 大きな、大きなブレードが腹を貫いている。伸びたワイヤーは砂煙の奥へと続き、段々と痛みがはっきりと現れてくる。熱くなる身体にAI機能が異常をきたしだした。

 

 口から血が垂れ流される。状況がはっきりと分からないまま苦痛だけが増していく、周りの空気も凍りついたような状態で誰も微動だにしない。

 一〇〇式が不思議そうな、胡乱な目つきで横のグローザを見る。

 

「けほっ…………グローザさ、ん。これ、刺さって――――」

「一〇〇式!」

 

 声は届かない。急速に住処に戻っていくブレードをグローザ達が必死で撃ち続けたが、抵抗虚しく一〇〇式の身体が砂煙に呑み込まれていく。

 

 頭の張り裂けそうな激痛を伴って引き摺られた一〇〇式が、躍起になって跳ね回るブレードを引き抜こうとするが抜けない。後ろの返しが生体パーツを抉って更に口から血を吐き出す。

――何で。

 問いは現れた悦楽の滲んだ女の嗤いで返答される。

 

「すまねえなあ、もう手加減は出来そうになくてさ」

「てか、げん…………?」

 

 意味が分からないと、首を振る一〇〇式だがその眼に敵意は消えていない。素直に彼はその最期を称賛する。

――殺すには忍びない、とでも?

 

「いいや、一周回って失礼だ」

 

 後悔などなし。虚ろな瞳に雷が疾走る。

 

 ゆっくりとした目つきで、少女が左手に持っている機関短銃を見る。まるで獲物を見つけたように剥き出しの左カメラがギョロギョロとそれを舐め回すように観察していくと、ゆっくりと彼の右手が伸びていく。

 

「悪い。これ、貰うぜ」

 

 ぶちり。肘から下を乱暴に引きちぎった。生体パーツをスキンから食い千切り、段々と奥まで抉り、最後に骨格をへし折る。

 声にならない激痛に歯がガチガチと音を立てる。一〇〇式が絶叫するが――――其の眼はそれでも、彼を睨む。

 

「ああああああああ――――――ッ!」

「マジで加減出来なくて…………ごめん」

 

 彼は本当に申し訳なさそうに嗤った。優しいのか、狂っているのかも分からない柔らかな表情だ。

 外では恐怖に呑まれて慄くばかりの一同に、45が奮い立たせるように手を挙げて叫んでいた。

 

「撃って! ウロボロスは――――――死んでないわ!」

 

 中から聞こえる断末魔と同時並行に響いた指示に、空気がどす黒く濁る。

 錯乱と命令遵守の法則にエラーを吐き出しながらFALを筆頭に砂煙への乱射が開始される。

 

――あーあー、味方ごと撃っているな。主様が無茶なやり方で脅かすから。

 ウロボロスが愉快そうに嗤うと、彼も釣られて更に口端を吊り上げる。

 何時だってそうだった。彼は地獄に笑って咲き乱れる彼岸花、その姿は畏れ多く、なのに何故か親しげに、そして誰よりも残虐で。

 

「――――――――はははっ! 人形に恐怖なんて感情を与えた人間様のミスだなあ!」

 

 彼は飛んでくる弾丸を全て一〇〇式を盾にして受け止めていく。

 最初は彼の手を振り解こうと抵抗していた力が段々と弱くなり、弾丸に体を震わせて呻いていた声が段々と小さくなり。ゆっくり、ゆっくりと小さな身体が壁にもたれ込む彼にのしかかってきた。

 死んだのだろう。彼は興味を示さない、生き様にだけは賞賛を送った。

 

 弾幕冷めやらぬ内、彼は腕ごと奪い取った機関短銃を乱射する。おおよそ弾丸の発射方向だ、幾つか悲鳴が響いた。

――流石、わたしが認めた主だ。

 

「命中、位置覚えたか」

 

――当たり前だろう、わたしを誰だと思っている?

 彼はまた大笑いをしてみせると、ゆっくりと軋む体を起こしながら答える。体中が電流を纏うと、それは電磁となって小さな砂塵を帯び始める。

 

「じゃあ――――――」

 

 彼が寄りかかってきていた肉塊からブレードを引き抜いて、真っ直ぐ蹴っ飛ばした。

 誰かがぶつかる衝突音と共に砂煙から躍り出る。軽くしゃがみ込んで飛び出しただけだと言うのに、砂煙はあっという間に彼らを避けていく。まるで畏れているようだ。

 

 調節機能の壊れたワイヤーがズルリと伸びるとブレードがのたうち回る、まるでそれは尻尾のようにしなって遅れながら彼の首筋を通り過ぎた。

 

「行くかぁっ!」

「目標捕捉! 嘘でしょ、あんだけ弾を馬鹿みたいに使ったのに死なないって!?」

 

 416の叫びにゆらりと振り向いたウロボロスが電流を血走らせた紅く、真っ赤な瞳でせせら笑う。ギョロギョロと辺りを見回す剥き出しのカメラが紅い尾を引いてまるで流星のごとし。

 

「オレが死にたくなるまでオレは死なねえんだよ――――――ッ!」

 

 ガタガタと嗤ってワイヤーごとブレードを振り回す、ぶつかった9のダミーに引っ掛けると瞬く間に飛んで消えていった。

 後ろからグローザが射撃しようとすると、機銃端末が彼女を追い回す。誘導ミサイルまで飛んできている状態ではとても加勢できない。

 

 四方八方から浴びる銃弾を避けようともしない。スキンを食い破ろうと彼はもうそれに何も思わない、何せ()()()()()()()()()()()()()

 

「端末と本体が全く別の目的で動いてる!?」

「ご名答、しかし遅い」

 

 予測不可能、そんな想定が出来るAIは此処には居なかった。

 

「テメエも偽物か」

 

 ぶつかった勢いに倒れ込んでいくダミーに飛びかかって足をつけると、半狂乱に鳩尾から右肩までブレードで切り裂く。

 吹き出た疑似血液に塗れたのも気にせず、体を大きく捻るとダミーを足場にして上に飛び上がる。

 

 天井に足がつくと途端に窓硝子が全て割れた。腕パーツを失ってウロボロスの動きに自由運動を起こすブレードがしなると、ぐるりとうねり倒す動きに一同が息を呑んだ。さながら蛇、唯暴れるだけの金属パーツには残虐さが宿っている。

 円盤端末からパイルバンカーを打ち出すと、捕まえた416にニヤリと一笑。

 

「次、お前」

 

――では同時斉射だ。息はソチラが合わせろ。

 何かの断末魔のような摩擦音を上げながらブレードを手首まで巻き戻すと、彼の瞳が一際紅く尾を引いていく。

 

「了解――――――耐えろよ? 雑兵共」

 

 そう呟くと、ブレードが明後日のカラビーナに突き刺さる。同時並行でミサイル、機銃の連続投射、今までに比べても残弾を考慮しない言葉通りのバースト射撃。

 共鳴、彼らは味わうように呟いた。

 

【スティンガー、バースト…………ッ!】

 

 カラビーナをすぐさま引っ張り上げて、416に向かって飛び込む。単調な動きだが同時に放たれた誘導ミサイルと機銃のせいで邪魔が出来ない。

 引き上げられていく416にカラビーナを叩きつけると、至近距離で一〇〇式を撃ち込みながら地面と衝突。凄まじい量の液体が吹き上がるのと同時に、身体の潰れていく嫌な音。衝撃でダミーの内部構造が壊滅したらしい。二体分纏めてグチャグチャだ。

 

 すぐにブレードが砂煙を払うと、ギロリと赤いアイパーツが蠢く。忙しなく標的を一体一体確認する動きはまるで化物の其れ。

 

「コレも違う」

「皆ダミーを近場に配置! ダミーを身代わりに出来ないと一瞬で終わる――――!」

 

 45の指示をウロボロスは一言たりとも聞く気はない。

 ダミーから腕ごと416を奪い取って持ち替えると、肉薄してきた9に構える。

 

「何だ、死にたがりかよお前」

 

 UMP9が構えられた瞬間に消える。

 気づけば後ろを走る姿に目を剥く、反応を見て彼が呆れたように唾を吐いた。

 

「じゃあ殺してやる、ダミーだろ?」

 

 そのまま引きずっていたブレードで9を絡め取ると、左肩をしならせてモーニングスターのように振り回しだした。

 言葉通りの質量兵器に一同が必死でかいくぐろうとするが、おかげで銃を構える暇がない。誘導ミサイルに時折衝突するダミーすら居る始末だ。

 

 飽きたように突然ダミーを投げ捨てると、ダミーが遠方で射撃していたカラビーナと衝突しながら軋みを上げる。

 

「あーあ、これ性に合わねえ。次試すか」

 

 そう言って今度は一目散に45の元へ走っていく。幾ら弾丸を放っても消えるような速度で避けてしまう、お話にならない。

 

 すかさず45がダミーを投げつけると、すぐに背中からブレードが突き出て血飛沫の牡丹が咲き乱れる。

 ダミーが持ち上げられると、歪に嗤った彼の顔。

 

「ははっ、良いねえ! でもこれはいい武器だ!」

 

 そのまま左腕ごと身体を急回転してダミーを本体に投げつける。凄まじい勢いで投げつけられたダミーに45が歯を食いしばりながら壁に激突すると、僅かに壁が砕けて小さく血を吐く。

 

「滅茶苦茶だね――――」

「そうかい!? 寄ってたかられちゃあ加減も出来ないさ!」

 

 急激にハイテンションに宣うと突然射撃音と共に彼が前のめりによろける。

 背中に斜めの弾痕が残る、零れる血を無視しながら首を鳴らすとウロボロスが振り向いた。

 

「G11、君はオレの愛用の端末で歓迎しよう」

「は? アイツ何言って――――」

 

 すぐ横に佇んでいた機銃端末にサマーソルト。

 凄まじい量の弾幕にウロボロスが何かを叱りつける。それはG11に飛んできた誘導ミサイルの音で掻き消されてよく聞こえない。

 

 ダミーに刺さったままだったブレードがぐねぐねと暴れ回りながら回収されていく。それを演出するように45の方から血飛沫が噴き上がった。

 

「阿呆、それでは弾切れする。そんな腑抜けは後でも殺せるさ――――――それより構えろ」

 

――ああ、そうか。まあわたし達ならそうした方が良いかもしれない。

 すぐに横に馳せ参じた機銃端末が、また誘導ミサイルと共に乱射を開始。放たれたパイルバンカーはカラビーナのメインフレームに命中、ウロボロスが愉快そうに嗤う。

 

「つーかまーえ――――――たぁっ!」

「けほっ!」

 

 引き合う勢いで思い切りブレードを刺す。コアを一突きだ、他のダミーも行動不能。ガタリと膝から崩れ落ちていく。

 血を吐き散らすカラビーナが、死に体でニヤリとウロボロスに笑う。

 

「命乞いなんて、してあげませんよ………………」

「そうかい。良い顔をする、オレの好みだぞ」

 

 そのままブレードを上に引き上げると血飛沫がウロボロスを覆い尽くす。

 くるりと回りながら首を刈り取ると、生首を持って引っ被るように擬似血液をごくりごくりと飲み干し始める。遠慮も倫理も有りはしない、彼に有るのは「生命を燃やし、燃え盛る生命をぶつける事」だけだ。

――手段など言ってられない。補給しておけ。

 

「言われなくてもそうするよ」

 

 狂ったように肩ごと上下させて嗤う。

 416が理解への拒絶反応を押さえ込みながら歯をぎりぎりと鳴らして睨みつける。

 

「この悪魔…………ッ!」

【悪魔ぁ? うーん、違うなぁ】

 

 パイルバンカーが地面とぶつかって跳ねながら416の横を通り過ぎるが、彼の顔は一際歪に愉悦を形どる。

 壁に刺さったパイルバンカーに引っ張られて肉薄し始めた。

 

 弾丸じみた勢いで416に向かうが、怪我の功名というべきか。横のダミーと位置をくるりと入れ替えてその場を凌ぐ。

 それが分かっていないのだろうか、衝突したダミーに言葉が続いていく。

 

【オレ達はウロボロス――――――悪魔なんて良いもんじゃねえよ】

 

 ブレードを胸に差し込むと、そのまま蹴ってその場に背を曲げて着地する。

 刹那に伸び切ったブレードが真っ直ぐと手首まで疾走る。気色の悪い作動音を上げながらダミーを手元まで引き寄せると、ブレードを抜き取ってメインフレームへ放り投げた。

 

「45、お前が先だったよ。悪い悪い」

「本当だよ、浮気者」

 

――あやつ、動じないか。厄介だぞ。

 ウロボロスの思案する声に構わず、彼がStingerを掴んで半狂乱に飛びかかる。

 

「殺せば良いんだろ。もう一発だ、用意しろ」

 

――はいはい。全く、AI使いの荒い主様だなあ。

 Stingerの作動部位が全て展開されると、グローザを追い回していた機銃が彼の直ぐ側に集合する。

 

 ブレードを45に放り投げながら全力斉射。誘導ミサイルの群れが敵軍に襲いかかり、二頭の鉄の蛇が獲物を追い回す。

 

「これで終わりだぞ――――――お前だけでも死んでもらおうじゃないか」

「…………………」

 

 迫る蛇に、彼女は汗一つ流さない。ブレードが45の直ぐ側まで迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかお前…………」

 

 避けられた。否、45は避けなかったから、当たらなかった。

 彼の避けるだろうという想定は完全に外れた。45の首筋を掠めたブレードが奥の壁に突き刺さる。

 

「おしまい。私はアンタを恐れない」

 

 脳天目掛けてUMP45が乱射される。

 彼の身体が勢いよく45に飛び込み、バランスを崩し、地面に擦り付けられながら通り過ぎていく。45はまるでそれを当然のように眺めると、そのまま脳天から狙いを外さずに射撃を続けた。

 

「…………成る程。そりゃあ完敗、だな」

 

 全てが命中したわけではなかったが、幾つかが命中。同時に機銃とパイルバンカーの動きが止まってガタリと地に落ちた。

 無感動に呟く声で、狂騒の終わりが告げられていく。

 

「――――――ウロボロス、撃破完了」

 

 それに反抗する者は、もう出ては来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、これもしかして三途の川手前ってやつ?」

「まあそうなるな」

 

 うわっ、何か美少女居る。

 真っ暗な空間。言葉通り真っ暗、多分これもう死んでるな、何か自殺した時も既視感有るような無いような。

 

――いやー、にしてもだな。

 不躾に彼女を見回すなりつい唸ってしまう。

 

「いやーウロボロス可愛いなー!」

「なっ!? 何だ急に、死ぬのかもう死んでいるが更に死にたいか!?」

 

 あらあら、顔真っ赤にしちゃって。

 俺はこの顔つきであんなヤベーこと言った挙げ句、カラビーナの生首から血とか飲んじゃってたのか…………うわ急に罪悪感。でもハイになるとああいうことしちゃう性だから仕方ないよなあ。

 

 ってか俺自殺前の服装じゃん、うわー何か一周回って感慨深いような嫌なような。超ラフじゃん、ウロボロスの際どい衣装に比べて超ラフじゃん。

――はい、息抜き終わり。

 

「…………で、俺死ぬのかコレ?」

「さあな。感覚器官は完全にトンでいる、コアは生きているから辛うじてこうやって脳内会議は出来るくらいと見ておけ」

「派手にやられたなー、まあヘッドショット喰らいまくった気もするし仕方ないか」

 

 仕方ないか、ではないわ馬鹿。と頭を思いっきり叩かれる。痛い、こんな感覚を再現しなくてもいいですよね辞めて下さい。

 

――しばらく無言。じーっと俺を見るウロボロスの顔は複雑だ、怒ってるような、哀れんでるような、でもちょっと満ち足りた感じもする。当たり前だけど、顔を見ただけじゃ何も分からない訳で。

 取り敢えず頭を下げておく。

 

「…………何だ、急に」

「悪かった。お前の生命を無駄遣いしたよ、死んでも償いきれねえ」

 

 身勝手に生きたにしても、コイツにぐらいは俺は頭を下げる道理が有るはずだ。

 せっかく貰った生命は思いっきり無駄遣いだ。正直、今となっちゃ生き恥を晒してでも最後は逃げるべきだった気もする。

 

「頭など下げなくていい、わたしが自分の意志で許した事だ」

「それでもだ。お前に甘えすぎた」

「もう良いって」

 

 無理やり顎を持って顔を上げられる。怜悧な瞳が俺の奥底まで見透かすように睨みつけてくる。

 

「わたしはおぬしに何もかも明け渡してなど居ない。わたしは「粗末にされていい」と認めなくては粗末に扱う事など許さん」

「………………そうか。まあ、そう言うなら」

 

 これはこれで思い上がりってか。いやはや、天狗は良くない。

 

 

 

 

 

「あのー、手を離して」

「いや。今聞いてやる――――――本当に死にたいか?」

 

 は? 何だ急に。

 思わず顔を顰めてしまう。

 

「俺はこの短編小説一冊にも満たないちっぽけな人生でずっと宣ったぞ、死にたいって」

「そうだな」

「其の為に戦ってきた、推しの首だってもいだ」

「そうだな」

「最後なんか大暴れだ、動画で300万再生出来る神作画じゃないだろうか」

「そうだな――――それで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いざ死ぬとなったおぬしはどう思った。今、どうしたい」

 

 それは。

 いや、それは卑怯なことを言うものだ。あの時も同じ結論だったのを、お前は知ってるだろうに。俺が最後に、空中で何を思ってへしゃげたか。

 

――でも。だからこそ、聞いてくれたんだな。

 

「有難うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――死に、たく…………は、ないな」

「まだ動くって…………凄まじい執念」

 

 立ち上がることも出来ない化物は、未だに足掻いていた。

 血反吐を吐きながら、地べたを這いつくばって、惨めさなど受け止めた。誰よりも弱者を嫌った彼は、この場の誰よりも弱者たるその無様さに甘んじた。

 

――だって。

 

「死にたく、ないしな…………」

 

 つかつかと歩いてきた45が服の襟元を持ち上げると、顔を突き合わせる。抵抗はない、そんな力はもうないのだろう。

 其の右眼は胡乱。左のカメラは既に動いてすら居ない。生気は薄くて、指一本動かすのが絶大な苦痛を伴っているのが見れば分かる。アレだけの動きをしたのだ、内部機関もずたずたなのは想像に難くない。

 

 恐らく世界でもそう知る者は居ないだろう、そんな苦痛を受け止めながら尚。眼には僅かな光が有った。バチリバチリと電流が45の白い肌を撫でるように伝播する、力は緩まない。

 45にも理由は分からなかったが、だからこそ殊更に真剣な眼でソイツに問う。

 

「聞いてあげる。どうして、死にたくないって思ったのかしら?」

「…………面白いことを、聞くな。ははは――――」

 

 白い手のひらが蜂の巣になる。45は何故か苛立ったような表情をしている。

 

「はっきり答えるべきよ。これだけ殺して、何が足りないの? アンタは答える義務がある」

「――――――理由。理由なあ、取って付けていいか?」

「構わないわ。今、此処で私を納得させて」

 

 

 

 

 

「最初から、死にたくなかったからだ」

「部下に恵まれ…………上司に恵まれ………………友人に恵まれ…………宿敵にすら、こう問いかけられる――――――」

「オレの生は、ハリボテの命は――――――こんなに、綺麗に飾ってもらった」

「勿体無いだろ?…………だから、わたしは。オレは、死にたくなんて無い――――――物足りないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーっとゲロったか、戦闘狂のとんちき」

「――――45! 避けて!」

 

 突然弾丸の雨あられが45達に降り注ぐ。

 グローザの掛け声で辛うじて避けた45達が、素早く指示を出して物陰に逃げ込む。銃弾の数は尋常ではない。数体の鉄血ということはないだろう。

 

――何でだ?

 放り捨てられた彼には、その影が明ける朝日に照らされて全て見えていた。

 

「ったく、長えんだよ。そんなのなあ、オレ達全員知ってるよ」

「全く理解に苦しむぞ。其の程度の当然の欲求、何で口に出さないんだ? 私には真面目にわからないな」

「――――まあ、ウロボロスさんですから。気難しい人なんで」

 

 帰還命令を出した全員が集合していた。

 ハンター、処刑人、第十三大隊。誰一人欠けていない、彼が確かに最上級命令で下がらせた兵全てが出揃っている。

 

 虚ろな瞳が驚嘆に揺れると、スケアクロウが眼だけでニヤリとした。

 

「何で、居るんだ…………」

「わたくしが代理人様に真っ先に報告させてもらいました。「死にぞこないが居る」、と」

「どうりで話に出てこなかったわけだ……ご苦労さん」

「忠誠を誓った身ですので、お構いなく」

 

 驚愕は有ったが、違和感はなかった。スケアクロウには完全に自由行動をさせていたから、まあそういうこともありえただろう。

 大事を取って「本作戦とは切り離した権限」を与えたのが失敗だった。立場上は同格なのだ、てっきり全軍が下がればあっさりと見限ってくれると思っていたのだが――――――まさか軍そのものを動かすとは予想していなかった。

 

『ウロボロス。一つ見誤ったようね』

 

 響く声は懐かしい。凛として、冷えていて、でも少しだけ暖かい。聞くだけで何故か涙が出てきた。

――ああ。いっつも卑怯な人だ、大事な時は何時もアンタが絡んでんだよ。

 

 いよいよ返すものが思いつかなくて困る、と彼は辛うじて笑ってみせる。

 

「なるほど…………確かに、代理人殿の指示なら。無力化出来るわけですね」

『そういう事です。全く、役立たずどころか問題児よ――――――――――さあ、今度こそ帰りなさい。朝帰りとは感心しませんね』

「すみません…………一つだけ」

『何かしら? 一つ答える毎に指をへし折りますが』

「何で――――――――オレを助けるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方が言ったのでしょう――――役に立たない部下が居ても、長い目で見てやれと』

 

 言ったっけなあ、それ。

 まあ良いや。



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後日談
『わたし達』が


『ガンスミスと』

『M1895の』

【銃器紹介!】

 

 おおー、始まった始まった。侵入者に無理言って自動接続までしてもらえるように改良したオンボロラジオだが、音質の粗さが一周回って懐古趣味をくすぐられるねえ、これは。

――わたし達が時代遅れの銃の知識など必要か?

 

 分かってないな―お前は。こういうのは趣味で聞いてるに決まってんだろ。

 

 何時も通り息の合った男女の前置きが終わると、いそいそと今回のゲストが喋り始める。特に理由はないのだが、俺は男の方の声が非常に気に入っている。

 暫く黙って銃の用語がカタカタと並べ立てられていくのを聞いていると、扉がノックされる。俺の自室さあ、訪問客最近マジで多い。

 

「はいどうぞ」

「ウロボロス、さん」

 

 ぎこちない口調で入ってきたのは新入りのJeagerらしい、第十三大隊に所属しているのだとか。

 別に敬称をつけられるほど高尚な存在だった覚えもないので、適当に座るように指示する。第十三大隊では未だに俺は「名誉監督」らしい。

 

――何だか野球みたいだな。

 俺もそう言った気がする。

 

「別に「さん」は要らない、好きに呼んでくれ」

「いえ。あの、メットに怒られますので」

 

 隊長の名前だったっけ、メット。俺一人も覚えないままあの部隊手放したからよく分からないけど。

――おぬし、わたしでもちょっとアレに思うぐらい適当だよな。

 

 それは有るね。

 喧しいラジオを切る。確かログは残してもらってるから、侵入者に言えば後でも聞けるはずだ。今日は何だっけ――――――何か、さるばとろとろが何とかかんとか。

――それ、何か聞き覚えが有るような。

 ええ? 有るっけ。俺ない…………いや? 何か引っかかるな。うーん? さるばとろとろねえ…………。

 

 まあ後にしよう。要件を尋ねる。

 

「それで何だ。見ての通り忙しいのだが」

「ああ、手紙です」

 

 手紙ぃ? 俺に手紙って、そりゃまた古風な奴も居たものだ。そう言えばこの前匿名のラブレターとか届いた気もするが、アレは誰だったんだろうな?

 

――おい、主様の大嫌いなあやつの手紙じゃないのか。

 え。あ、思い出したくなかったのに思い出してしまった。おい巫山戯んなお前。

――いや、その。何だ、悪かったな。

 冗談だ。

 

「まあ有難う。中身は――――別に開封済みでも構わないが、取り敢えず現物をくれるか?」

「あ、は、はい。どうぞ」

 

 普通の手紙だ。

――だがこの紙質。やっぱりあやつだな。

 え~。やだなー…………まあ、でも読んでやらないのは可哀想だしなあ。

――おぬし、変な所が甘い。

 

 仕方なく破って中身を読む。

 

 

 

 

 

 拝啓、Ouroboros様。

 

 僕です。今に限らずこの地域はとても寒いと思いますが、そろそろ上着くらいは着ていらっしゃることでしょうか。というか着て下さい、僕も人のことは言えませんが貴方を見ているとこのコートを掛けてあげそうです、そのままあらぬ所を触られては困るでしょう?

 というかおへそを見ていると控えめに言って発情するのでいい加減にして下さい、精神的NLでも肉体的GLだと界隈で怒られてしまいます。僕も限界が近い。

 

 さて、最期に会ってから随分経ちますが、まず生きておられるでしょうか? このお手紙、ちゃんと読んでもらえていますか? 後返信ください、寂しいです。そろそろメンヘラが出てきてしまいそうです、好き。

 通りすがった404小隊から「瀕死には追い込んだけど、後はわからない」というお話を聞きました。あの人達大雑把すぎて思わず殺しかけました、正直真面目に心配してるのでお返事くださいね。お返事ください。ください。お願いだからかまって。

 

 アレから色々有りましたが、君は顔を出していませんね。僕の予想では第六戦役でひょっこり現れる展開が美味しいと思うので、多分そういう感じなのだと思います。君、そういうの結構好きそうですしね。

 イメチェンとかしてますよね? 僕もうウロボロス推しだからどんな服装でもバク褒めしちゃいますよ。何ならディスコの服装でも抱きついてそのままドールズフロントラインも吝かではない。

 

 話が逸れました。

 ともかく無事を祈ります。後結婚して下さい。敬具。

 

 

 

 

 

「は~、おキレイな字でゴミみたいな言葉を綴る女だな全く――――――言われんでもその内構ってやる」

 

 ま、とはいえ本気とは行かないわけだが。

 腕は千切れっぱなしだからマネキンみたいな雑なやつだし、左眼も大変グロテスクなので今は眼帯をしている。ぶっちゃけ縛りプレイ、端末もハイエンドなやつ以外は全滅したしな。

 

 後、どうやら二重人格になった挙げ句随分とシステムに負担をかけたせいでそもそもStingerが暫く使えないとも言っていた。でも仕事有るんですよ、代理人厳しい。

――厳しかったらもうスクラップだよ。

 

 まあ、そうか。

 一人でうなずいていると、新人が恐る恐ると言った表情で俺にお伺いを立ててくる。

 

「どうした、質問なら受け付けるが」

「ああー、いや。ウロボロスさんってツインテールだって聞いてたんですが……………」

 

 あ、そうだな。今日から髪型変えたし。

――確かにポニーテールの方がキャラでは有るがな。

 だろ?

 

「イメチェンだイメチェン。ほら、眼帯とツインテって相性が悪いだろう?」

「はあ。まあ同意はしますけど」

「代理人殿が新調してくれた服もだな、前よりは少しばかり垢抜けたからな…………」

 

 ハンガーに立て掛けたモッズコートを見る。フード付きのごついやつだ。

 何でも特別製のやつらしくて、彼女なりに「俺に似合うもの」として作ったやつだと聞いた。そりゃあ着ざるを得ない、ファッションは好かれたい相手に好かれるために仕立てるものだからな。

 

――本当に忠犬だな。

 もう其れでいいや。どうせ熱くなって脱ぐとは言え、まあ大事にしたいとは思ってる。

 

「ともかく、渡すものは渡しましたし失礼します」

「おいおい、待たんか。お駄賃だ」

 

 逃げるように出ていくJeagerに、処刑人から奪った酒コレクションの一角を放り投げる。

 目を白黒させる。まあ貴重なものだとは聞いている。

 

「こ、これがお駄賃ですか!? とんでもない酒じゃないかコレ…………?」

「まあな。おぬし、確かニュービーだろ――――馬鹿な先輩から祝いの品だ、処刑人を脅す時に使え」

「え、ええ…………!?」

 

――ろくでもない教育を後輩に施すんじゃない。

 はあ? いや、ちょっとぐらい上司にやり返し出来る職場じゃないとなあ。むしろガッチガチの方がクソッタレ。

 

 しばらくラベルをグルグルとさせて見ていたが、俺がさっぱり返しても受け取らない姿勢だから諦めたのだろう。妙に深い礼をして扉を開ける。

 

「ああ、それともうすぐミーティングが始まります。だから今度こそ概要くらいは聞きに来るように――――――代理人、かなり目が据わってましたよ」

「え、マジか。分かった、すぐ支度する」

 

 いつも寝てるから覚えてないんだけどなあ、指揮も昔から隊長に放り投げてたから別に覚えて無くてよかったと言うか。まあエリートとかは覚えておけば士気下げたい時に役に立つけど、どうせ全部薙ぎ倒す感じになるし。

 

――屁理屈は良いから支度しないか。全く、肝心な所以外は本当に駄目だな。

 自殺するような軟弱者ですしねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、面白いやつは――――――居らぬではないか! つまんねー!」

 

 少女が一憂に沈む。荒野の中でやれやれと肩を竦める姿は何処か親しみ深いものが有るが、それ以前に手に持ったダミーの頭の威圧感に目を奪われる。

 ネゲヴが舌打ちをすると、すぐさま発煙筒を投げて距離を取る。先程の凄まじい健脚を見れば彼女達の移動距離など意味があるのかは不明だったが、ともかく逃げる他ない。

 

――おいおい主様、煙に巻かれているぞ?

 

「誰が上手いこと言えと。とはいえそうだな、今回は無理をするなと代理人殿には念押しされている…………」

 

 少女はコートの袖から手を出すと、顎に当てて考え込む。ネゲヴ達に比べて明らかに緊張感に欠ける仕草は若そうな雰囲気を見せるが、伸びた背筋は軍人どうこう以前に何か毅然とした態度を感じる。

 

 唸るような駆動音とともにコートの左袖にブレードが帰っていく。

 

「うむ、ではこれを試し振りして帰るか。本題はこちらではないしな」

 

 桃色の後ろ頭に思いを馳せつつ、少女が浮き上がるように跳ぶ。

――この距離を詰めてくるっての!?

 

 思い切り発煙筒の範囲外に飛び出した彼女がネゲヴ小隊を一望すると、鈍色の瞳を赤く光らせてニヤリと笑う。

 

「いきなり逃走とはつれないなあ、少し遊ぼうじゃないか――――――」

 

 浮き上がっていた身体をネゲヴ達に真っ直ぐと向けると、空中を思い切り蹴る。恐ろしいことにその動きは確かに成立しているらしく、直ぐ側に流星のように落ちてくる。

 

 巻き上がる砂煙に思わず咳き込む一同のすぐ首筋に、生き物のように不規則にしなるブレードが通り過ぎていく。

 

「ダミーはどーれだ…………コレかね」

「ダボール、避けて!」

 

 ダボールがネゲヴの鋭い命令に思わず身を屈めると、横のダミーがしゅるしゅるとワイヤーに巻き付かれて少女の方に引きずり込まれていく。

 

 暫くの無音の後、僅かに晴れた煙の中で笑う彼女のシルエットが映り出す。

 

「大丈夫だ、殺しはしない――――――まあ手足がもげても知らんが? 生きてるなら復讐でも何でも出来るのだし、大目に見ておくれよ」

 

 生体パーツのちぎれるような嫌な音と共に5.56mm NATO弾が吐き散らされる。何故そんなものを少女が放てたのかは――――取り敢えず考えないことにして疾走る。

 

――随分兵装が違うけど、この反応。まさか…………。

 有る限りの消耗品で誤魔化しながら、ネゲヴの思考回路が急速に回転する。嫌な予感がどんどん進み、じっとりと額には冷や汗が浮かび始めた。

 

 奇妙な言動。

 近接戦への積極性。

 ハイエンドモデルでも一際高い運動性能。

 

 嫌な予感が確定された。舌打ち。

 

「まさか「アイツ」も居ない時に出会うはめになるとはね――――――!」

「居ないのか、それは有り難い」

 

 すぐ横まで走ってきていた死人面にネゲヴが息を呑んだ。

 同時にオープン回線に声が入る。

 

『あらあら、報告から違和感はありましたが――――――本当に貴方でしたか』

 

 突然入った通信に少女は目を剥いてバックステップを踏む。明らかに動揺した様子だ。

――よく分かんないけど、取り敢えず走るしかないわねコレ!

 

 状況が掴めないことには一抹の不安を覚えつつも、隙を見てネゲヴ小隊は「彼女の戦闘領域」から脱出する。

 息を呑みながら通信に少女が答えた。

 

「…………おい。お前来るのか」

『そういう事になりますね。お元気なようで何より、結婚式は早く挙げられそうで嬉しいわ』

「――――――うむ、本気を出すしか無さそうだ」

 

――色んな意味でな。

 少女は複雑な表情をすると、手に持ったダボールを見て舌打ちして放り投げる。どうやら力不足と見たようだ。

 

 暫く様々な悪感情に呑まれて凄まじい剣幕で固まっていた少女だったが、突然何かが奪い取られるような音と共に聞こえてきた喚き声に態度を一変させる。

 

『おい! お前がウロボロスか、早く答えろ! 返答によってはお前の眉間を蜂の巣にしなければならんからな…………ッ!』

「あー、成る程。M16も一緒か、元気そうで何よりだ」

『質問に答えろ!』

 

 怖い怖い、と誰も居ないのに手を振っておどけてみせる。M16は通信越しにあからさまな舌打ちをすると、そのまままた別の声が入る。

 

 Kar98kの穏やかな声が響いた。

 

『…………おかえり、割と本気で心配してたんだよ?』

「ははっ! 気色悪い声をだすなよKar98k、殺したくなってしまうじゃないか?」

 

 珍しく彼女がニヤリと笑って返してみせると、大仰な長口上を何時も通り名乗りだす。

 

「わたしは代理人直属の元第十三大隊監督役、今は唯の一般兵だ。だいぶ降格されてな」

「では質問に答えるがM16、おぬしの予想は大当たりだ。ジャックポット、おめでとう――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしがウロボロスだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、『わたし達』と殺し合おう」

 

 今回は大混戦らしいぞ? 楽しみだな。

――わたしは片割れに酷使される未来に震えているよ。

 

 そう言うなって、慣れれば楽しくなるさ。

 義務感ではやるな。殺したいやつだけ殺せ、戦場なんてそんぐらいで行かないとやってられないからな。

 

――ついて行けないな。わたし、何でこんなのを選んでしまったんだろう…………。




何か生き残ったぞ、ははははっ。
いやあ何でだろわからないなあ。でも何というか、これで正解だという確信はあるぞ。

では、次は何処で会うかな? 戦場? 他作品? おまけ?
知ったことではないが、わたし達はいつだってこう宣おう。

「わたし達がウロボロスだ」


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おまけ
後書き及び設定


【ウロボロスからのお願い】
ああー、来ちゃったか。来たらもうしょうがないな、取り敢えずバックしろ。





















…………しないか。まあしないよな、9.5割はバックしないと思う。じゃあ忠告だ。
本項は「書いてる人がやりたいだけ」の温床そのものであり、本編の空気感は著しく損なう、というか尊重の「そ」の字もない。受けとか攻めとか掛け算してたり普通にドン引き出来るので、本編の余韻に浸っているなら一応数時間は読まないことをオススメする。

一応立ち位置としては「BD全巻購入特典の設定資料集」ぐらいの立ち位置だ。読まなくても特に問題もないし、むしろ読まないほうが「良い最終回だったなー!」で終わる。それでも良いとわたしは思うぞ。

まあ此処まで読んだらもう聞かんだろうな。では「後書き及び設定資料」、始めるとしようじゃないか。



【作者からチョロっと一言】
頑張ってたら姉貴の髪型とかちょっとした設定画が置いてある。頑張ってなかったらゆるし亭ゆるして。
頑張ったけど俺は自分の主人公を穢したような悪い気分がします。上手く苦笑いして下しあ。


【姉貴の他作品出張について】

ご本人の意志を尊重、とか抜かすからわたしが答えよう。

構わん、面白い世界にはどんどん呼べ。強いやつが居るのもいい、あ、僕口調のKarとか出るなら勘弁しろ。いやしてください。

 

わたしを扱う点でらしくするポイントは有る、箇条書きで以下の通り。

・ぶっちゃけかなり強いらしい。それなりの陣営を用意しないと鏖になるかもな。

・戦場でもノリが軽いからな、シリアスだと面白お姉ちゃんになる。相手に警戒心を与えないという妙な設定があるから、急に変なことを口走らせるのには用立てると良い。

・コメディは無理ではない。というか面白いことには首を突っ込みたい、突っ込ませろ。

・実はだな…………可愛い子を見かけるとついナンパするくせが(多数の機銃掃射で束の間の沈黙)何でもないぞ忘れろ。ナンパ? 気の所為だ気の所為。代理人殿と相方に殺されかねないからあんまりさせないでくれよ…………。

・勝率0%だからそこ徹底するように。ああでも「必要なもの」を取り逃したことはないぞ。

・当て馬で男女を連れてくるな。わたしはそういうのは苦手だ…………。

 

別に守らなくても良い。何しても何せわたしだしな。ダイジョーブダイジョーブ。おぬしがやりたいようにやっていけ、うん。

 

 

 

《裏設定集》

【ウロボロス】

受け気質。

鉄血所属だからグリフィンに敵対しているだけ、「味方を害する」のも敵になるポイント。自分は常に勘定にない、今は「死んだら困るらしいから」生きてる感じ。

仲間大好きなのであんまり傷つけられるとキレる。実際ストーリー中は全ての鉄血を救援して成功させている。

M4を生かしたのは「生きるに相応しい」と判断したのも有るが、変にストーリーを逸らしたくなかった。先が読めないのは心配らしい。

物事の歪さは修正されると信じているタイプで、CUBE作戦で自分が生き残ると代償があると考えていた。実際は彼がこっちに来た時点で√全然違うので問題なし。

「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜いた」のKar担当指揮官とか、「そして一〇〇式は銃剣を構えた」の五月蝿いお兄さんと同じ人。

押せ押せに弱いタイプで、代理人にいきなりキスとかされたらあっさり堕ちる。Kar98kももっとマトモな攻略に打って出れば多分行けた。女性にはモテやすい、性格と雰囲気がイケメンよりになった所為。鉄血内の秘密投票では「抱かれても一向に構わん上級AI選手権」ぶっちぎりの一位。

本質的に善良なので、数十秒喋ると相手の毒気や警戒心を抜いてしまう。AR15達がつい普通にダウトをしたのはこの設定から。

余計な殺生は好まないが、「こっちに被害が出る」から殺す。再起不能にすれば十分とは思ってる、ただし加虐趣味も有るので偶に表面化する。

二重人格状態になってからは若干混ざってるので、本人特有の毒気のない気の抜けた笑い方をしたりする。総じて軟化、ついでにちょっと冷静さにポイントを振られた。

強くなる予定もなければ大物感を帯びる予定もなかったが何故かこうなった。気づいたら二重人格だった、俺も分からない。

いやに近接戦が多いのはウロボロスの描写イメージが「化物」だから。

二重人格設定は実はテコ入れ。『ウロボロス』が好評だった上にこのまま行くと余裕で404小隊が皆殺しだったので。

「呵々ッ」という笑い方は「ボス用のキャラ付け」なので、本編以降は普通に笑う。

ぶっちゃけ姉貴が勝手に動いてたので後は分かりません、感想で本人に聞いて下さい。

色々書いたんだけどそもそもこんな長くなる予定なかったし悪役ムーブさせたのにこんな人気なのかも分かりません。もう大体よく分からん、勝手にこうなった。俺の制御下にない。

これさっき思いついたんですけど(賽は投げられた執筆時)、指揮を執りたがらなかったのは「ウロボロスが独断指揮で失敗したから」だと思う。無意識に設定ができてるからはっきりしないけど。

気づいた人は気づいたでしょうけどある転生者と知り合いです。

 

設定並べてみると「ライブのボーカルめっちゃ向いてるな、声的にも」とか閃いたので深夜ライブをゲリラ開催するバンド結成してたことにします。盛り上げるの滅茶苦茶うまそう、ピンク色の「ウロボロスさんコッチ見て♥」ってやつ振られてる。

バンド名は「トゥーリブ」とかじゃないのかね、To liveと2liveみたいな。演奏担当の相方はスケアクロウでいいでしょ(適当)。

この通りいきなり経歴が発生して俺が困惑する始末なので喋ったらポンポン設定が増えていく。

 

最終話時の状態

・体中銃痕まみれ、疑似血液もダラダラ

・流れる血液が時々湯気を上げている

・左側のアイを負傷、内部パーツがむき出しでギョロギョロしてる

・左腕は内部が破損、ワイヤーは出し引き出来るが基本垂れ流し

・体中に電流が走り、速度は直前までの1.3倍程度

・セーブしていた動きを開放しているので腕力、思考スピード共に限界値

・独りで常に誰かと会話している

 

…………悪役すぎるし俺だってこんなんと戦ってたら戦意的な面で勝てない。

 

 

 

【代理人】

どっちでも行ける。攻めが淡々としてて割とクル。

実は二重人格なの薄々気づいてる。「まあ、本人が言わないなら」みたいなノリで、気を遣ってるつもりも特に無い。

仕事で適当やってるのも完全に把握済み、何故放って置くのかはお察しください。

姉貴への肩入れは重い。サイドアーム千切って渡したのなんて姉貴だけだし、勝率0%なんて普通は切り捨てる。理性的な判断ではどうとも言えない私情がかなり混じっている。

ウロボロスが最期まで頼った端末は代理人の機銃の改良版。改修しまくったが元が高性能なので頑丈だった。

イメージ的に「最後まで味方についてくれる人形」。エルダーブレインと方針ズレて真顔で考え込んで欲しい。

実は全然ウロボロスに懲罰を与える気はなかったが、ウロボロス本人が「わたしはしっかり降格しとかないと、監督責任試されますよ」って言われて仕方なくやった。別に怒ってない、出会い頭に往復ビンタして頭撫でたけど。

 

 

 

【処刑人&ハンター他ハイエンドな皆様】

キャラによるだろんなもん。

賑やかしに入れてたら意外といい味出した連合軍。スケアクロウをヘッドハントしたのは予想外。

上記の通り女性にモテるので概ね好印象。ギャンブルをしていた常連からはウロボロス当人が思うより大切にされてる、アレで後輩気質。

最初は姉貴が自力で助かる予定だったのに、何故か「ハンター達が助けに来るんじゃね?」とか思い始めて代理人のアレが伏線になって――――――要するに唐突に閃いた。一番予想外。

 

 

 

【第十三大隊】

愚か者共。姉貴の部下。掛け算の適用外。

仲間になる予定はなかったが気づけば部下だった。どちらかと言えば「人間らしい部隊」で、鉄血の「強者らしく叩き潰せ」という発想とは合わないせいで弱かっただけ。姉貴の下で「自由にしろ」と一任されてから本調子が出た。

ウロボロスは「強者」が好きだが「弱者」を憎む性格ではなく、「弱いなりに歯を食いしばる」なんてのはむしろ大好物。口で言う割には上司に好かれていたし、上司も部下に慕われていた良い上下関係。

「蛇は唆す」の後はノルだけノッてみたけど素面になって「私達が姉貴世話しないとな…………今日はテンション高いし」とか会議してた。

実はこっそり任務をこなして成果を全部ウロボロス宛にしている。終盤の失敗続きに比べて高い権限や、代理人の独断のお咎め無しはそのため。端末の追加兵装もこの報酬。

ちなみに渾名みたいなのは全員有るが、姉貴は誰一人覚えてない。そもそも顔の見分けもついてない。まあ大事にはしてるのだが、そこは粗末に扱われている。よく喋る隊長すら顔を間違える始末。ちなみに隊長はJeager。

 

第二話の時のアレは本人は「指示出してるだけ」とか言っているがだいぶ面倒を見ているので、かなり恩義を感じている。弱小時代から見放されなかったのも大きいので、基本服従の一択。

現在は首になって一般兵のウロボロスより上。でもやっぱり言うことは無条件で聞くしサポートしてくれる。

あの日の一度以外、昔も今後も命令には背かない――――「ウロボロス」が命ずる間は。

 

 

 

【スケアクロウ】

忘れてた、ごめんね。多分受け。

 

 

 

【Kar98k】

相手がして欲しい方。どっちも行ける。

実は指揮官も好きなので、どっちに肩入れするか迷いどころだった。

この世界に生まれたのは二度目で、一度目は「ウロボロスが電脳世界で最期に相手をしたAI」。だから出会った時に凄まじい高揚感とか運命とかを感じている。

設計がそもそも「ウロボロスを殺せる正義」だからべらぼうに強い、割と主人公のご都合主義レベル。初めてのエンカウントの時にLink1でウロボロス撃退してるしな。

締めに何故か外せないと感じたキャラでも有る。運命的な好敵手が404小隊なら、ウロボロス個人の好敵手がこのキャラ。

ひたすらウロボロスの対比として描いたので、特徴をあげつらうと真面目にライバル。

・「個にして群」のウロボロスに対して孤高を極めた性能

・狂ったようで常識的な面も多いウロボロスに対して常識的なようで狂人

・正義を隠れ蓑に暴れる側と、強欲を掲げて奔放を騙る側

次回作とか書くなら協力してみて欲しい。多分好き勝手やって偶に情報共有すると「お、ナイス。いい情報だ」とか言い合ってる。

 

 

 

【グローザ率いるエリート部隊】

SPP-1は出番なかった、諸事情。

メンツは超適当に「俺の好きなキャラ」です、FAL一〇〇式カラビーナぁ!

グローザ殺すのは原作的にちょっと嫌だったからカラビーナと一〇〇式に死んでもらった、良い死に方したよね。あんまり出番なかったのに。

正直ウロボロスの当て馬になったの悪いと思ってる。

 

 

 

【ストーリー】

プロットは一つも守られていない。そもそもウロボロス死ぬ予定だった気もする。だって姉貴がプロット無視するんだもん。

まず前日譚あんなにやる予定なかった。何故かM4の首絞めてた。スケアクロウ死ぬ予定だったのになぜか助けた。Kar98kとかいう何かやべーやつとガチバトルしてた。二重人格になった。グローザとも戦う予定なかった。何か一〇〇式とカラビーナ殺してた。気づいたらめっちゃ強くなってた。大体姉貴になる予定もなかった。お前は優秀な主人公だ、組み立てたものは全部ぶっ壊してくれたけどな!

星見の下りとか未だによく分からない。知らない間に【ウロボロス】が居た。何で空を見て泣くことが有るのかは分からない、でも何となく分かる。多分ナンカちゃんと理由はある、言葉に出来ないだけ。

BBA口調は実はミスで、二重人格の下りの統合でちゃっかり修正。

最期は多分殺す予定だった、でも皆があんまり殺してほしく無さそうだし俺も殺したくなくなった。

自殺者設定は元々なかったが、やんわりと「前世が半端者で未練が有る」としていた。

「死にたくない」はずっと言わせたかったセリフ。すっごい書きたかったセリフだし、早く言わせたかったけど最後の最後までおくびも出さなかった。せっかちな自分が拘り抜いた唯一のセリフだと思う、いつもは我慢できなくて展開が早くなるけどこれだけはどーしてもしっかりとした場面で書きたかった。

最終話付近の暴走モードはガンダムバルバトスルプスレクスを意識しています。だからワイヤー持ってる、皆意外と分かってたね。

何でビークルのチェイスで斉射しかしないのか分かりにくいですが、オーバーヒート寸前です。頭の中は「暑い暑い暑い暑い」みたいな状態。

最終話がやたら生々しい描写がありますが、俺があくまでウロボロスを「唯の化物」と思って書いてるせいです。

 

 

 

【参考曲】

「他殺願望」及び「筋書きを決めるのは」の行軍…ヴァイオレット・エヴァーガーデンのサントラの「Torment」

ウロボロスちゃんが出てくる所大体、その他星関連…同タイトルのサントラより「Rust」

「筋書きを決めるのは」の冒頭…「何にでも牛乳を注ぐ女」

「蛇は唆す」…少佐の演説のアレ

「驟雨」…フリー音楽「ラーの天秤」

「簒奪者」の404小隊戦…「孤島の簒奪者たち」

「賽は投げられた」…Blackout(CUBE作戦E-4BGM)

「匣の中の悪魔」…オルフェンズの例のBGM

 

ウロボロス…「Los! Los! Los!」「GOOD and EVIL」イメージはLeague of LegendのOmega squad teemo Login theme。

『ウロボロス』…「God knows...」

代理人…凛として咲く花の如く

Kar98k…ゴーストルール(其の内書くって事だよ)

 

 

 

【インタビューした場合の反応】

ウロボロス「は、何? おぬしが神様? よーし殺してやる、前に出ろ(カメラ粉砕)」

代理人「(無言でサイドアームを見せる)」

第十三大隊「え~、メンドイですね…………え、手柄くれるって? じゃあやりますもう存分に質問をどうぞ」

Kar98k「言われなくても語りますとも!(以下数千文字で収まらない自分語り)」

 

 

 

【姉貴の兵装】

あんまり考えてなかったけどやんわり考えてたの。名前は思いつき、カッコいいの。

Vector…電脳時代の愛銃。途中からは根城にしたビルの到る床に銃を刺しまくって撃ち捨てしていたので中盤まで。

Kar98k…狙撃用にはよく使った。人形も好き。

WA2000…カッコいいなーと思って使っていたが、ボルトアクションライフルの魅力に負けて出番が減っていった。

 

Stingerシステム

電磁波を出すのと端末システム。電磁波はあまりに強くて数百メートルの電波障害、及び人形の五感障害を引き起こす。

元々は本家の其れと同じだったが、「こんな複雑じゃなくていいから数をくれ」と言ったらこうなった。姉貴は単騎突撃馬鹿のくせに「数は力」をよく分かっているタイプ。だからお前は馬鹿だと俺は常々言ってるんだ。

 

機銃『掃討屋代理』

最もよく使っていた機銃端末。代理人が千切ったサイドアーム。幾度の改修でマガジンや強度が元々高かったのに更に強化、殆ど不動の愛用機に変化した。

ウロボロスはこれを取り分け大事に扱っていて、掃除の時もこの端末だけは時間が数倍掛けられている。最後までウロボロスの為に戦い抜いた端末でもある。

 

突撃銃『ヤブサメ』

一般的なVespidのもののレートアップ型。中距離想定なのでウロボロスの距離感によく馴染む、大体構えて迎撃する時はコイツが活躍してる。

 

機関短銃『トツカ』

Ripperのやつ。短い長さのおかげで速く動く、また反動もだいぶマシ。よって遠くまで飛ばして遠距離から至近距離射撃をするのがテーマの頭の悪い端末。割と強い。

 

狙撃銃『ムラクモ』

Jeagerのやつ――――――じゃない。アレのゲテモノレベルの超巨大口径版。出番は少ない。

対物ライフルの一種なので威力がバカ高い。ただしデカイし長いし遅いので使い所は考えるべき。『トツカ』で誤魔化すのが近距離ではベターか。

 

第二汎用迎撃端末『Stinger』

原作にも有った円盤端末。ウロボロスのコスト度外視な注文のせいで色々カッツカツで使われた、要するにジオング。

ミサイル、特殊導線で遠隔操作できるとかいう謎のパイルバンカー、自動迎撃機銃、詰め込めすぎの一品。「やるならとことんやってくれ」という適当な発想で生まれた超兵器。取っ手がついているのでパイルバンカーと組み合わせてフックショット代わりにもなる。

本編では未完成、仕方なく『ウロボロス』に丸投げして作動させた。Stingerシステムでは二基持つともう装備は不可能。

一度も登場しなかった「スティンガーバースト」を発動できる。本作では単純な全兵装のバースト射撃と解釈。

 

没:非常用マニピュレータ「Barbatos」

ウロボロスの左腕として辛うじて機能した謎物体。長さが96cm、太さ最大60cmというそこそこ狂気じみたサイズ。アホみたいに鋭いクローは「掴む」だけしか出来ないがグロい握力を持つ。

非常用のくせに関節が5つも有り、関節ごとに伸ばせる狂気的な意欲作。その異常さから本来、装着直後はAIのメモリをえげつなく食われてお話にならないので自動アシストで動かすが、『ウロボロス』を完全移植して動かしたりした。狂気の沙汰、ちなみに息ピッタリな相方のおかげで「女らしくないのは残念だが、ずっとこれの方が戦闘は楽」とのこと。無事破損。

誰もウロボロスが負傷する想定がなかったらしい、実際したことは今までほぼ無かった。

名前の由来は勿論鉄血のオルフェンズ。

――みたいな事を書きたかったが、登場シーンが見た目が怖すぎて404小隊が怯える辺りでギャグ化したのでお蔵入り。だって怖いんだもん、ガンダムバルバトスルプスレクスの腕がメチャデカイみたいなイメージで考えてくれ、俺だって怖い。怖すぎて404小隊が理解を諦める絵面しか出てこなくてギャグが挟まれたので没なんだ。何時か書きたいね、Barbatos。

 

採用:非常用マニュピレータ「Barbatos」

関節機能とか細かいの抜きにして「接続ってその場じゃ無理だけどなんか付けたいよね!」というノリで生えてきた謎パーツ。

手首から先の細かい動作がざっくり接続じゃ無理なので諦めて大型ブレード。パイルバンカーのように射出でき、ワイヤーで絡め取って巻き戻すと自分も引っ張られる。手首まではマネキンみたいな感じで雑な作り。

処刑人用のパーツだったのだが「まさかウロボロスが」というのが周囲の反応。処刑人は元々負傷が多いタイプにしか見えないので(偏見)用意されていた、何故か姉貴が装備して本領発揮。

ガンダムバルバトスルプスレクスを意識したの通り、姉貴の動きでしなることで絶望感を与えるための装飾品でも有る。巨大過ぎる尖端と自在にうねる姿は「尻尾」を連想させる。途中からは姉貴が瀕死だったのでワイヤーが垂れ流し、頭が回ってないだけ。鞭みたいに振り回すので問題なし。

戦闘スタイルも有って、「戦闘時間が長引くほど動きに目を取られる」事からマッチングしている。しかしStingerのパイルバンカーでも飛べるので複数戦では相手の予測を大きくかき乱す、ソロモン72柱の名に相応しい、戦場を狂わせる兵装。

 

 

 

体質

熱しやすく冷めやすい、とは良い言い方で要するに変温動物みたいな性質。普通に考えれば分かるが、熱を持つまでにはかなりのエネルギーが必要で戦闘が途切れたりすると一々体力を持っていかれるのは面倒。でも薄着じゃないと熱がこもるのもヤバいという面倒臭さ。

擬似血液が沸騰するので喉が渇く、ついでに身体中が痛い。ウロボロスの言ったオーバーヒートは「疑似血液が沸騰して弾ける」ぐらいの意味合いで、「四肢が裂ける事も厭わない」とすれば更に速くなる。

後どうでも良いが誑し。

 

 

 

ちなみに戦闘力の順位ですが

「匣の中の悪魔」のウロボロス≠代理人>>越えられない壁>>「筋書きを決めるのは」のウロボロス>>Stingerナシのウロボロス>>ハイエンド一同>>越えられない壁>>その他雑兵

ぐらい。最終回のアレは――――代理人よりちょいぐらいは強いと思う、ああいうのは「戦場に存在するだけ」で問題になる。士気が明らかに下がる動き方で殺してくるから戦闘能力云々もあるがプレッシャーが強い、俺あんなん来たら作戦投げる。

代理人は指揮能力とか冷静さで差をつけてくるので実質五分か。実際にやりあったらウロボロス負けるし、「代理人殿に傷をつけるぐらいなら死ぬわ」って言って自分で首掻っ切る。

そう言えば平行世界にこんな動くチートと戦って「ご指導願いたい!」とまで言わしめた人間っぽい動物が居るんですよ…………もうすぐ投稿されるんじゃないかな。

 

 

 

【作品テーマ】

分からないのでむしろ感想とかで語って下さい、どれも否定しませんから。

 

 

 

【イメチェン後の姉貴の設定画】

皆姉貴大好きすぎるからお写真を取らせてもらってですね、髪型の解説とかしちゃいます

(まあ要はイラストですがもうすっっっっっっっっっっっっっっっっごい疲れた。絵が描けないから文章に逃げたのにどうしてこうなった。)

 

【挿絵表示】

 

「という訳でだな、まあ、うん。使うなら使え、以上――――何かデフォルメ効いてるな。それどころじゃないけど」

あ、後左の髪は全部ポニテに寄せてます、セーラー服のタイもネクタイになったとかも有る。唯でさえ視界悪そうだし。

ヘタスギル。。。。。。コロシテ。。。。。。コロシテ。。。。。。もしくはファンアートとかすげえ絵師さんからもらえると俺超テンション上がっちゃうと思うんだけどな~~~~~~!!!!!!(唐突に流暢) 復活できちゃうかもな~~~~!!!!!!!!

そのためだけに体張ったみたいな所ある。本当は人に見せたくないよ自分の絵なんてさー。

 

 

 

【後書き】

という訳で完結。姉貴こわいなーって思ってる、何だあの化物。今後一生書けないレベルで凶悪。

 

イントロダクションですが、まず人生に満足してます? 私は全く、自分は大嫌いだし今の人生はだいぶ酷いと思う。何か気力に欠けてるし、肝心な所で出力できてねえよなあとも思う。

ウロボロスはそういう所が私とそっくりです。似てないのはそれが「過去」だって所かな。

 

だから彼女の設計思想は恐らく「私の上位互換」です。何か何となくなあなあで生きて、何かもやもやっとした理由でゲームセットしたけど、でも何だかんだ次は成功してる。これは上位互換でしょう。

 

特徴的なのは私が書いたにしては「大義」が有りません。真っ当な価値観は捨てたし、最後まで自分勝手に動いていた。勝手に原作再現しようとして、勝手に強くなって、勝手に人形がついてきて、勝手に死に損なった。私は殆ど手出ししてません。

結構な人がカッコいいと言ってくれましたが、実のところ私もそう思います。好き勝手やるし、支離滅裂だけど言われてみれば何か一貫性は有るんですよ。有ることだけは分かる、どういう芯を持ってるのかはもう誰も知らないですけど。私もわからないし。

矛盾した言動も多くしてた割に私も「へえ」と感心してました。尽く私の理想形でしょう。

 

多分ですがウロボロスはちゃんと死ぬ予定でした。私は世界の都合をいじって生かした気がします、何だかんだ理由をつけて。あんまり後悔してないですね、こっちの方が面白くない?

 

――っていうか、彼女について語ろうとするとさっきから言葉が出てきません。分かんないんですよ、私は彼女についてよく分からない。

自分の理想系? TS憑依の勢いで出来た? 前々から書きたかったラスボス系? ウロボロスの成功√?

うーん、何かしっくり来ないんです。ですから私がこの作品、というかウロボロスに向ける言葉はたった一つで十分です。この後書きは忘れて下さい、あんまり意味のない感情の波の羅列みたいなものです。

 

”私は彼女と、及び彼女が築いてきたものは大好きです。”それは良いものも悪いものも関係ないです。よく見たらもうどう見ても悪いやつで頭も悪いんですけど、私は彼女が好きです。

身勝手で、その癖強くて、女に弱くて、有能なくせに適当で、勝てるくせに勝とうとしなくて、周りの心配なんかどこ吹く風で、変な所が馬鹿で、才能は磨かなくて、カッコよくなろうとしなくて、意地汚く生きようとして、信念は手軽に曲げて、女は巻き添えにして、自分が死ぬ事に頓着がなくて…………。

 

まあ色々有るんですけどコレ、全部私が嫌いな人間の特徴です。

でも好きです。終わり。この作品は、珍しく私に愛された作品です。おめでとう。

数々の敗北を経たそうですが、最後に神様に勝利して見事生存ルート。快挙です、彼女は間違いなく「勝利する強者」でしょう。

 

 

 

感想は引き続き彼女に投げておくので、まあ良ければ話しかけてあげてください。何だかんだ独りは苦手な人です。

此処、元々姉貴に任せるつもりだったんですけどね、何か分量嵩んだから姉貴帰っていいよ。お疲れ様。

――そう言えば最初は「絶対殺した方が面白い」って思ってた気がするんだけど、どうだったっけなあ。まあ姉貴も分かんないだろうしまあいっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一言】

いや別に一言じゃないがな。アイツ何が帰っていいよだ、逆にムカつくんだけど。わたしが勝手にやるからな。

はいおはこんばんにちわ、わたしだ。片割れはお休み、出力コストが嵩むからな…………何メタいだ? 本編から徹底しているが?

 

という訳で死に損なった。何でだ…………? もう死ぬな―と思ったから一〇〇式とか普通に痛めつけて殺しちゃったんだがなあ…………死ぬ前ならセーフだと思ったんだ。まさか生きるとは。まさか生きるとは!(大事なことなので(ry

 

さて、聞くがコレ面白かったか?

え、だってTS憑依者が支離滅裂な言動しながらナメプして死にかける話だったと思うんだが。しかもオリジナル兵装結構出てくるし、オリジナル要素がキツイから「いつものとほくれすクオリティ」じゃないか? わたしコレ読みたくない。

 

悪かった悪かった、此処を読むような阿呆に言うことではなかったな。面白かったなら良かったじゃないか、まあ後三日ぐらいは覚えておいてくれ。

二次創作だしな、三日も覚えてたら上出来だ。ほら、どっかのクソ鼠のヤンヤン日記とかならともかくこの程度じゃあなあ?

 

――しっかりやれ、結局わたしが出てきた訳だが。

ア、スンマセン。もうオフだから気が抜けてました、Stingerコッチ向けないで?

 

 

 

えー、コホン! 鬼嫁に「誰が鬼だ」怒られたので真面目にやるぞ! 嫁も否定していけ?

 

さてさて、面白かったかな? いや今回のは「多分面白かったんだな」という質問だ、というか此処まで読んでおいて本編読んでないやつ絶対居るだろ。今すぐ本編も読め、そして低評価を入れてわたしのプライベート大公開クソザコ小説をネットの奥深くに沈めてくれ。

ぶっちゃけわたしもつらい。とてもつらい。

 

基本的に好き放題やっただけなのだが、何かカッコいいだの可愛いだの言われたい放題だ。何だおぬしら、男に向かって可愛いとかどうかしてるぞ。そういうのは代理人殿に言うこと、良いか? ああでもヤンデレにはしないで、それはわたしも代理人殿も辞めて。お願いします。一人やばい奴が居たな、アイツはヤバイ。ウロボロス、お前も逃げろ。オレも逃げっから。

 

――結局巫山戯てしまうな。まあこれで行こう、もう一週回ってこれで良い。

どう一周回ったのかさっぱり分からん。

まあともかくこれはオシマイだ。わたしは残念ながら満足できる死に方は出来なかった、多分今後も中々見つからん。困ったなあ、しかも代理人殿に「次無茶なことしたら泣き落とし仕掛けますから」って直球で言われたし。あの人どうしたんだ…………オレそんな事されたら落ちちゃう。もう落ちてるけど。

 

部下もストライキ起こすとか言ってるしなあ、死ぬに死ねないのだ…………。どうする? 夢想家に相談するか、こういう変な事をするのが大好きだからな。あの変態人形。

 

というか終盤引かなかったか? みんな大好き一〇〇式もぶち殺したしなあ、いやだって真面目に加減ができなかったのだ。いつもならコアぐらい残してやるところだが。

――――話が終わらんなあ、何か締めっぽい事を言って終わらせるぞ。お喋りは感想でしよう。

 

 

 

諸君、生きるのは億劫かな? わたしは億劫だ、つまらないし、上手くいかないし、しかも特に旨みもない。控えめに言ってマゾゲーだ。

だが死ぬのは嫌だな? わたしはそうでもないが、大抵嫌な筈だ。

 

ならば生きろ。身勝手でも良い、迷って良い、失敗しても良い、死ぬより良い。

わたしは一度身を投げたことに後悔はしないが、だからこそ「後悔しないような人間」は見たくない。わたしみたいなバグはわたしだけで十分だ。

大体なー、この小説をサラーッと読んでみると良い。もうドン引きするぐらいわたしは周りを振り回した。それでも生きてるし、生きることを許されているぞ? そんなものだ、それはどんな世界でも一緒だ。おぬしが嫌いなやつ、優先席も譲らないくせにのうのうと生きていないか? そういう事だ。

 

自由に走れ。息切れしたら誰かに寄りかかれ。頼れ。また息を整えて走れ、わたしのように歩いて嫌気が差すのは最悪だ。生きてるほうがマシだ。

そして漸く死ねる時、「わたし以上にわたしを演じるのが上手いやつは居なかった」そう言い切れるように生きろ。わたしは其処を見誤った、小奇麗に生きるよりはわたしらしく生きるべきだった。

今は出来てるぞ、そこそこ幸せだ。戦場に出るだけで怒られるのは困るが。

 

ではこんな一万文字を読んでしまった愚か者のおぬしに敬礼を。これだけこんなつまらない頁に時間を無駄遣いできたのだ、有意義なことにはもっと時間を掛けていくのだぞ?

後、忘れてるが一応わたしスーサイドだし、おぬしのほうが立派に生きているぞ。本当だとも。胸を張って行け、生きるのは社会への最大の貢献なのだから。

以上。名もなき部下の諸君、各々の人生に光を灯せ。健闘を祈る。



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第十三大隊監督役、最後の日①

今回から超適当。飽きたら辞めますし、導入クソ雑。
書いてなかった部分の話。


「起きなさい、ウロボロス」

「え、はい!? 何でしょうか代理人殿!?」

 

 だから私室に普通に入ってこないでくれませんかねこの人!? 鍵かけてない俺も悪いんだけどさぁ!

 

「引き継ぎです、今日の行動は私を常に連れ歩いてもらいます」

「全く脈絡がないですね貴方。ホント…………」

 

 

 

 

 

 

 

「えー、じゃあまずダイナゲートとかと遊んでます」

「………………はい?」

 

 代理人が冷ややかに目を細めると、冗談じゃないんですと手をブンブンと振って必死で弁明する。

 

 鉄血の本部で放し飼い状態のダイナゲートであるが、これは基本的にどの部隊が持っていっても良いことになっている。

 プロウラーも例に漏れないのだが、人型ではない下級AIはそもそも教育なども不可能だし、大抵捨て駒が良い所だ。

 

 何も声も出していないというのに、ウロウロとしていたダイナゲートがウロボロスの足元に集まってくる。代理人はそんな上級AIは見たことがなく、少し新鮮な気分だ。

 

「おーよしよし、おぬしらは今日も可愛いなあ。なぜ鉄血では飼うのが禁止なんですかこやつら」

「捨て駒じゃない」

「代理人殿は分かってないなー。ほら、お手」

 

 一匹が差し出したウロボロスの手のひらに前足を乗せる。足が短いから両足だ、ウロボロスがニコニコとしてボディを撫でてやる。

 

「捨て駒でもAIが動いてるんですから、こうやって生き残った連中ぐらい良くしてやらないと。こやつはわたしが此処に来た頃から居るダイナゲートでしてね、名前はアンポンタンです」

「そのダイナゲートが嫌いということ?」

「ヱ? いや違いますよ、一際気に入っていますが?」

「…………アンパンとでも名前を変えておきなさい」

「何でです?」

「何でもです」

「はあ……」

 

 何処からともなく取り出したキレイな雑巾でウロボロスがダイナゲートのカメラを拭き始める。

 よく見ると汚いものも居るし、逆に妙なくらい綺麗なものも居る。あんまりアイカメラが汚いダイナゲートは代理人達が見えていないのか、ずーっとくるくると回っていたり。

 

 一体を拭き終えると、困ったような顔をしたウロボロスが向こうでクルクルしている一体を捕まえる。暴れるのを抱きついて抑えつけるなりまたアイカメラを拭き始める。

 

「おー逃げるな逃げるな、上官命令だぞー」

 

 上機嫌に手入れをしているウロボロスだが、ぞろぞろとダイナゲートが寄ってたかってきている。個体によっては服に飛びついたり髪を短い前足で引っ張ったりとかなり懐かれているのが分かる。

 

「これはやりにくいな…………はい、待て!」

 

 軽く声を張ると、ダイナゲートがピタリとウロボロスから転げ落ちて固まってしまった。まるで電源切れのようだ。

 

 プロウラーまで寄ってくる始末に代理人が目を細める。

 

「変な部下を持ったものだわ」

「そうですかね? でもちゃんと手入れしておけば簡単な命令は聞けるようになるものです、毎日言い聞かせてると流石に学習するらしくて」

 

 

 

 すぐに一通り磨き終えたウロボロスは、ダイナゲートとプロウラーを集めて何やら始める気のようだ。

 

「良いか? おぬし達は単体だとぶっちゃけ馬鹿だ」

「酷い出だしね……」

「だから自分より上のAIに付いて行くのだぞ、プロウラーとか、まあRipperでも良い」

 

 横に立っていたプロウラーをダンダンと叩くと、カメラだけがウロボロスの方をじぃと見る。

 そのうちダイナゲートの方にカメラが動いていった。何もない所に軽く機銃を撃ったかと思うと、ダイナゲートがビクリとする。

 

「こらこら、先輩がいきなり脅したらビビるだろうに」

「今のはアレですか、プロウラー的には」

「アレです。多分挨拶」

 

 代理人にはさっぱり理解は出来ない。

 どうやらさっき言っていたことが事実なら、ウロボロスはこの内容を何度も何度もダイナゲートに言って聞かせていることになる。

 

 実際彼女はスラスラと教育をしていて、何処か手慣れた様子が有る。

 

「後わたしについてくる阿呆が沢山いるが、ついてくるんじゃない。死ぬぞ」

「それは切実ですね」

「全くですよ、こやつらわたしが飼い主か親みたいなものだと思ってるのか何処行ってもついてきたりしますからね! 駄目だと言っているのに」

 

 よく分からないが、そこまでして手入れしてやる意味はないのでは。とだけ代理人は思ったが、恐らくウロボロス的に外せない理由が有るのだと適当に結論づけて此処は黙っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、言った側から付いて来た」

「ウロボロスさんがまたダイナゲートにくっつかれてる」

 

 仕方なくついてきたアンポンタン――――改めアンパンを抱きかかえるウロボロス。不満なのかアンパンはしばらく短い足でジタバタとしていたが、ウロボロスが軽く揺すると静かになってしまった。

 

 喋りかけていたのはメット――――隊長らしい。と言ってもウロボロスは見分けがイマイチ付いていないらしく、イントネーションとかで辛うじて隊長だけは認識している程度のようだ。基本は自己申告らしい。

 

「で。部隊はどうだ?」

「全員起きてます」

「じゃあ適当に訓練しておけ。終わり」

「やっと監督役らしいことを――――――――――はい? 今ので終わりですか?」

 

 それじゃあ、と言ってすぐに別の方へ歩いていくウロボロス。代理人は表情に出なかったが完璧に呆気に取られている。

 

 代理人が妙な凄みを帯びた顔でメットの肩を手だけで揺らす。身体は微動だにしていなくて非常に怖い。

 

「待ちなさい、ウロボロスはいつもこうなのですか?」

「え、ああ、まあ、そう、です。それ、で、ですね、喋れ、ませ、ん」

「…………取り乱したわ」

「珍しい」

 

 代理人自身、此処まで取り乱すのは予想外だ。

 頭が痛くなったのか、こめかみを擦るメット。代理人も予想以上に強く揺らしてしまったので、正直動揺しているが申し訳ないとは感じていた。

 

「あの人、ぶっちゃけ実務的な面ではオワコンですよ」

「オワ、はい? 今何と」

「ああすみません、ウロボロスさんの喋り方が移りました。要するに、一般的に見て最低の上司です」

 

 最低とまでは言わないが、かなり酷い上司には違いないと代理人には見える。

――どちらかと言うなら。

 

 今回はウロボロスの真意云々よりは、それでも付いてくる部下の真意の方が代理人の興味を引いた。

 

「何故、あんな荒唐無稽なAIについて行けるのですか」

「それは代理人さん譲りだと私は思いますけど…………まあ、何ていうかあの方がラクです」

「楽?」

 

 楽です、とメットは復唱する。

 

「私達って多分ですけど、鉄血の方針とかとあんまり合わないタイプの部隊でして。臆病だし、几帳面だし、別にAIの尊厳も興味ないですぶっちゃけ」

「それを私に言ってのける辺り、貴方はウロボロスの部下よ。誇りなさい」

「照れますね」

「褒めてないわ」

 

 そうなんですか、と頭を掻いていた手が止まる。素っ頓狂に開かれた口元はウロボロスのそれとよく似ている。

 

「あの人は放任主義ですけど、だから私達のやり方に注文も付けません。どちらかと言うなら、ギブアンドテイクですね」

「その心は」

「あの人は勝手に動いてくれる部隊が欲しくて、私達は自分のやり方を十全に活かしてくれる上司が欲しかった。利害の一致です、恩は勿論有りますけどね」

 

 利害の一致。ウロボロスにはどうしても似合わない言葉だ、代理人は彼女をその言葉から一番程遠いもののように常に感じていた。

 

 何よりも感情的で、何よりも直情的で、何よりも自己中心。

 其処には一方的なギブやテイクが横たわっている――――何処かそう考えていた節があった。

 

 首を傾げて尋ね直した。

 

「そういうものでしょうか」

「そういうものですよ。ウロボロスさんが一方的でも尽くすとするなら――――――それは、まあ自分で考えてください」

 

 代理人は歩いていったメットに目も向けず五分程考えていたが、結論は出なかった。




ダイナゲート可愛くない…………なあ、おぬしらも可愛いと思わないか。

あやつらを触っているときは気分がいい。人懐っこいしな、お手とか両手でしか出来ないんだぞ、わたしは短足萌えに目覚める。
懐いてくると従順でいじらしいしなあ…………ダイナゲートとのほほんと別荘で暮らしたい。

あーでも代理人殿がボッチになるな。駄目だ、この案は忘れてくれ。


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三千弾の無駄撃ち

収録予定はないはずだった「Kar98kとウロボロスの戦闘」です。
実のところ本編で一度たりとも書かない予定でしたが、気が変わったので。


「は? あのクソ女との戦闘データが取りたい?」

「はい。ウロボロスさんが最大出力になったの、この前の作戦とあの時しか無いんですよね~」

 

 確かに無いな、だって基本本気出さないし。あんまやりすぎたら身体ぶっ壊れちまうだろ。

――え!? 主様それ気にしてくれてたんだ、もっと頭が悪いのかと。

 

 殺されたいらしいなお前。

 とはいえ実際CUBE作戦では結構粗末に扱ったからな、大体アレは作戦が悪い…………。別に俺だってあれくらい追い詰められないと無茶なことをする気はない。

 

 へらへらと話を聞きたいと宣うのは調整担当の鉄血人形。腕を取っ替えて以来、何だかんだ俺の専属と化している所は否めない。

 

「見るに要事には相当無茶をする方のようですし、どれくらいやってたか話を聞いておかないと困るんですよね。耐えうるくらいの調整は出来ないと私の気も収まらないので」

「本音は」

「ウロボロスさんの最大出力知りたいだけ」

「正直でよろしい、話してやる」

 

――ええ、今ので話すのか。

 正直に言われた方がまだマシだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら避けた避けたぁっ! 当たればハイエンド様だって一発ドボンだよ!?」

「言われんでも分かっとるわイカレ人形!」

 

 見開いた瞳が黒い残光を捉える。蠢きまわる外骨格の喧しい駆動音がボルトアクションを掻き消していく、群れる黒い流星を銃口が追っていた。五つ、まだ捉えきれていない。

 

 ウロボロスの端末は軽く数えても二十は下らなかろう。彼女の動きに合わせて不規則に追従する姿はまるで魚の群れのようだったが、規則的なようでそれぞれが僅かな遅延を持つ動きはとても生々しく気持ちが悪い。

 弾丸が飛び込んでくる、Kar98kが急いで横にスライド、僅かに外骨格を掠る。

 

 彼女の背中どころに留まらない無数の手足として伸びている外骨格は本来汎用性に特化したものだが、故に的として大きい。本来火力による圧倒的殲滅を可能にするが相手が相手だ。

 

「攻めだけは一丁前でも防戦はどうかな?」

「馬鹿言いなさるな、僕は両刀だ」

 

 発砲、発砲、発砲、発砲、発砲。どれもが僅かにピントをずらした逃げ場を塞ぐ射撃、走りながらもウロボロスを的確に狙っていた。

 しかし端末がまるで庇うように射線に割って入ると爆散、悟ったKar98kが舌打ち。

 

 音が切れる前に首筋を弾丸が通り過ぎていった。舞い上がる銀髪に思わず冷や汗。

 

「おいおい油断し過ぎだろうが、もっとちゃんと弾ァ見やがれ…………!」

「やはり最高だ。殺す」

 

 凄まじいコーナリングを道のど真ん中で始めるなり、端末の群れが一斉にKar98kの元へ走り出す。思わず口元が吊り上がってしまう。

 迎撃、回避。プロセスは単純、貼られる弾幕はさながら軍隊。まるでKar98kを黒く塗りつぶそうかと言わんばかりの物量の暴力が彼女を瞬く間に取り囲んでいく。

 

 Kar98kの銃口が全て明後日の方向を向くと同時に硝煙を吐き出した。

 命中、五機の端末が森の中へ落ちていく。

 

 ウロボロスがせり上がってきた、近づく殺気に暴風に巻き込まれた錯覚。

 

「しゃらくせえ、端末の自動操作に頼るなんぞ!」

 

 近場の端末を一つ引き回すなり小脇に抱えて乱射を開始する、Kar98kの動きが焦りに乱れる。

 彼の銃捌きはそもそも理論だっておらず、揺れる身体に巻き込まれてあまりに乱雑。

 

 だからこそ、その支離滅裂は恐ろしい。戦場には本来不要な異物。

 

「君は昔から滅茶苦茶だ…………それでこそ僕を殺した、愛すべき隣人だよ」

 

 言葉切れ、同時に彼女の銃が1つ弾き飛ばされる、垂直に打ち込まれた弾丸からもう使用は叶わないと判断。フリーに切り替える。

 同時射撃、的確に四機撃ち落とす。

 

「邪魔な脚だ、もがせてもらうぞ」

 

 不穏な宣言、同時に眼光が赤く尾を引き始める。直感的にKar98kは外骨格に後退命令、迫る嵐に立ち止まる程の愚行も無い。

 

 自立浮遊しようと暴れまわる端末に引きずられながら、彼の身体が不規則な挙動で這い寄る。

 銃口を暴れるように揺らしながらまた弾を吐き散らす。避けきれず外骨格が僅かに軋む。

 

「おいおい下がる一方か!? 啖呵の割にゃあ弱いんじゃねえのか!」

「お望み通り全部壊してあげる」

 

 下がるのを外骨格に任せてKar98kがゆっくりと端末に構えていく。

 射撃、再装填、射撃。同時斉射に六機脱落、知らずしらずに彼は不協和音のような笑い声を上げていた。

 

 Kar98kの紅蓮の瞳が見開かれる。口元が張り裂けそうなのを必死に抑えている、彼以上に笑い声が脳内を絶えない。

 

「まだ残ってる、やっぱりこれぐらいイカれてなくちゃ相手になんないや!」

「良かったなご同輩、お前の退屈も今日で終わりだ! 地獄で退屈も不安もありゃしねえからな!」

 

 端末の一斉射撃、さながら質量を持った群れの咆哮。高速移動をしているとは言え避けきれない。

 悟ったKar98kが応戦、一つ銃を潰されたが構わず全力斉射。交代しながらとは言いようがあるが完全な総力戦、ウロボロスも迷うこと無く端末に振り回されながら懐に飛び込む。

 

 Kar98kが手に持った銃でウロボロスの脳天に構えるが、飛び込んできた彼の笑顔は不敵。予感に思わず照準を収めて直接殴りつける。

 

「察しが良いなクソ人形、だが痛くも痒くもない。まるで人間の女みてえだな、呵々!」

 

 長台詞を待つようにウロボロスが斜め上に消える、端末が無理矢理持っていってしまったらしい。

 

 銃声の大合唱。気づけば端末も手持ちの銃も使い果たしている、二人が手に持つ武器が最後の生存者だ。

 

「おいおい全部持ってくやつが有るか、高いんだぞコレ」

「お生憎様、僕は廉価でね」

 

 全外骨格を移動に回したKar98kは速い。森の中をキチキチと音を立てながら浮き沈みする彼女の姿にウロボロスが端末を引っ張り回して急旋回、そのまま凄まじい速度で加速する。

 

 ウロボロスの体中から覚えのない血が吹き出すなり更に速度が上昇、流石のKar98kも焦って発砲。

 

「速い、凄まじいな君は! 自壊を厭わぬ加速とは恐れ入った、いやはやバケモノが思いつくことってのは末恐ろしいね! はははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――何笑ってやがる」

 

 見えなかった。Kar98kは初めてその姿に自分の倒れ伏すビジョンを幻視した、恐らく人生で二度とは無かった経験だろう。

 

 端的に結論を並べるならば、”目にも留まらぬ速度でウロボロスは「既に」目と鼻の先を走っていた”。Kar98kはハイエンドモデルとして設計されている、そんな事は本来あり得ない。人間の動体視力など話にならない圧倒的な情報処理力も彼女の長所の一つであるからだ。

 

 外骨格が抑えようと蠢くが、彼女の僅かに歪んだ顔を見るなり彼は一笑に付す。

 

「今、オレが怖いと感じたな?」

「やっと拝めたぞ、テメエの本当の顔」

 

 掴みかかってくる外骨格を平然と片手で引きちぎりながら端末を胸元に突きつける。近づく無機質な死刑宣告、最早端末と彼自身に押し回されていた。

 応戦は間に合うだろうか、端末の方が速い? やってみなくては分からないだろう。

 

 ただKar98kは、蕩けるように顔を綻ばせる。まるで幸せに心が溢れてしまったような、もういっそ恐ろしいくらいの”幸福”の詰まった表情。

 

「ああ、やっぱり愛してる」

「…………よく分からんが死ね」

 

 瞬間、瞳の炎が戻る。

 

「が、駄目だ」

「殺すのであって殺されちゃ。堪らないけど、たまったものじゃない」

 

 銃を端末に突き刺す、ウロボロスですら目を剥いた。

 爆裂、二人が同時に吹っ飛ばされていく。

 

 外骨格の部品がカラカラと遅れて飛び散りながら、血が木、草、葉へと付着する。拙い現代芸術のような有様になった爆心地から遠く、二人が転がっていく音がした。

 音が止んでも誰も動かない。遠くで始まる戦火の大号令が響き渡るくらい、恐ろしい静寂が森の中を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな笑い声が森の中を這う。けたたましく、騒がしく、鬱陶しく、怖ろしい。

 息を切らしたのかまるで肺から空気が漏れるような凄まじい声、聞いたものが全てが正気を疑う声にも満たない騒音。撒き散らす程に森の暗がりが濃く染まる。

 

 鳴り響いて反射して、まるで暴れ回るように声が彼女に届く。焼け爛れたコートに包まれながら閉じられていた鮮血の瞳がゆっくりと開く。

 まだ嗤う。止まず、止まず、そして漸く止まった。

 

 彼の荒い声。

 

「いやあ、正気か? 端末の爆裂など死ぬほど見たはずだ。オレでも割と重傷だぞ、お前が無事に済む保証など粉微塵にもないじゃないか。実によくやる、オレの手持ちもしけた拳銃一丁ぽっちじゃねえか、代理人の忠告も聞いておくもんだな。まだ辛うじて武器は有るだけマシなのかねえ、ははは」

 

 声に目をぎょろりと向けると、ゆっくりと立ち上がる傷だらけのモノクロ。夥しく血を流し、髪留めは爆ぜて失せたのか豊かな射千玉がさらりと溢れ出している。

 構えた拳銃は凄まじい全長だ、弾頭も恐らく人間が扱えるサイズではあるまい。暴力、ただそれをぶつけるだけで生物は負傷できるほどの規格外。漆黒に鈍く光る銃身がしっかと彼女を捉える。

 

 姿勢はまるでなっておらず、銃を持つ手だけがはっきりと彼女を指し示す。半ば意志力というものなのだろう、目は焦点が合っていない。

 

「さあ立てよバケモノ、同類同士仲良くしようじゃないか。馬鹿みたいに弾を無駄撃ちして、空虚な言葉に思索を凝らし、最後に無意味に死んでいこうじゃないか」

 

 彼女も渡されていた拳銃をゆっくりと構える。脳天にしっかと、白銀の重々しく伸びた銃身が息を殺す。奇しくも彼が持つそれと大差ない、”非人道的”な銃だろう。

 

「愛だぁ? 抜かせ、お前のは親近感だ。いやそうであるとオレは断定してやる、お前なんぞに愛されても答えてやらん。敵は敵、塵は塵、芥は芥、屑は屑。今更オレ達が人間らしく振る舞おうなど、それ自体が既に傲慢だ。観客のブーイングで失意の内に死んでいくだけに違いない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿いなあ、好きで何が悪いんだい!?」

 

 発砲。ウロボロスが頭から吹き飛ぶと、そのまま後ろの木に激突する。

 支えにして辛うじて立ち上がりながらも、ゲタゲタ笑いながら明後日の方向に倒れ込んだ顔。まるで首が言うことを聞かなくなっているようにKar98kを見ようともしない。

 そのまま彼女に向かって撃ち返す、適当な照準が彼女の脚元を掠めた。

 

 Kar98kの瞳が僅かに潤むと、銃を構えたままゆっくりと近づいていく。

 

「君はいつもそうだ」

 

 撃つ。右人差し指が飛んだ。

 

「周りの評価を勝手に決めつける」

 

 撃つ。左肘が欠ける。

 撃つ。脇腹に風穴。

 

「違うだろ、君はそうじゃない」

 

 撃つ、撃つ、撃つ。計三発。

 どれもKar98kの胸元周辺を撃ち抜く、Kar98kが疑似血液を口から吐き散らす。

 

 けれど其れに負けないくらいの涙が溢れていく。

 

「馬鹿だ、人のして欲しい事は知ってるくせに、自分がどうなりたいか分かってない…………」

 

 最早乱射するように引き金が忙しなく引かれる。彼も支える力がないのか更に照準は滅茶苦茶で、もうどれが命中しようと彼女は構わなかった。

 

 後数歩、ウロボロスがポツリと零す。

 

「黙れよ、お前が何を知っている」

「知らない。知らないから、君も知らないと駄目だ」

「出会って数十分のやつに何が分かるんだかな、呵々」

 

――違う、二度目だ。

 言葉が出なかった。言ってしまったら終わりのような気がしたのだろう。

 

 彼女がウロボロスという人物に出会ったのは正確には二度目だ。だがそれを証明する手段はなく、一度目というなら彼女は既に一度死んだ。

 あの電脳世界で最後まで孤独だった彼を知っているのは、このKar98kと呼ばれている其れだけ。ある種誰よりも、彼の起源に近い。

 

 手が引き金を引く指に届く。

 

「君はもっと、愛されて大丈夫だよ」

「はははは、訳の分からんことを!」

 

 同時に彼女の左眼が撃ち抜かれた、大きく上体だけが仰け反っていく。

 終わらない。無理矢理に戻した体勢、彼の顔がゆっくりとこちらを嘲笑いながら向いていくのが見えた。

 

「オレはオレだ。干渉するな、バケモノ風情」

「ヤだね、僕は君が好きなんだから」

 

――おいおい、コイツ本気かよ。

 ズレた視界で呆れた。けれど気持ちに反して笑顔が溢れる。

 

 理由は知らない、知る必要もない。

 Kar98kが両手で彼の顔を覗き込むと、風穴の空いた笑顔を見せる。

 

「やっぱり僕、多分君は殺せないや」

「そうか、じゃあ暫く寝てろ――――――――クソ”女”」

 

――やっぱり覚えてるんじゃないか。

 弾丸に倒れ伏す直前、Kar98kが淡く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………死んでなくてよかった。よく帰ってきたな、Kar98k」

「指揮官さん、今はそんな場合じゃないでしょう? アチラのハイエンドに腕をやられてしまったので、替えてもらいたいです」

「…………お前の宿敵さん、ちゃんと答えてくれたか?」

「フラレちゃった」

「――――――――そっか。でもお前笑ってるし、良いんだろうな」

 

 

 

「ハイエンドNo.0319 Kar98kの代用パーツを急げ! 私用には付き合った、働いてもらうぜ!」

「ふふっ、了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――とまあ、こんな感じで彼と殺し合うのは最高に楽しかったなぁ!」

「殺し合うのを楽しむな変態人形。何で俺はこんな人形の指揮に回ることになったんだろうな…………」

 

 そりゃ君が運がないからさ、転生者があろうことかS09地区担当になるなんて不運以外の何だって言うんだい?

 

 それにしてもCUBE作戦が僕の預かり知らぬところであったそうだけど、これは全くもって許されないね。UMP45に話を聞いてもはぐらかされるし、何でも企業秘密なんだってさ。彼との思い出を独り占めとか流石に殺す所だった。

 呆れた顔でラーメンを啜る指揮官が嫌な予感に震えながら尋ねてくる。

 

「それでー、あのー。お前さ、要するに殺せる所で殺さなかったの?」

「…………あっ、バレた?」

「職務怠慢極まりねえ、お前じゃなかったらコア潰されてるぞ。馬鹿」

「でも君はする気無いんでしょ? やっさしー」

 

 バカ言え、非効率だろと顔を逸らされる。

 

 そう言えば彼と最近喋れてないし、そろそろ手紙書こっかなー。




クソ”女”というのがどういう意味合いを持つ呼び名なのかは「わたくしがカラビーナです」の「撃てば撃つほど恋しくなる」を参照ください、特定人物にしか彼は使わない呼び方です。

ウロボロスの内面を何処まで答え合わせすればいいか迷いますね、正直読者が予想しているものとは大分違うみたいなので。
ほ、ほんへは何時か更新したいね…………?


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第七戦役
コースアウト


「こっちを素直に書け」という六ヶ月に及ぶ姉貴からのお小言に敗北したので新章開幕です。思いついてはいたんですが、蛇足はダメかと思ってリメイクに逃げていたのが本音です。

あとがきは今回から私です。設定が過去とズレてても無視、話数増えてきましたからね、リメイクの設定も混じります。
という訳で何時も通りの”やつ”をどうぞ。

※よく見たらツインテのままだったのでポニテ描写に修正。


 カンダタは蜘蛛の糸に縋り、地獄から抜け出そうともがいた。結末は知っての通りであるが、しかし重要な点というのが一つ有る。

 彼は確かに運命に抵抗した。極悪人であろうとも、到底許されぬ道理であろうとも、しかし人は抗う自由がある。カンダタは確かにそれを行使した。それはきっと、何もしないことよりは高尚なのだ。

 その浅ましさを人は笑う。その身勝手さも人は笑う。その結末さえも人は笑う。

 

 だが。彼女は笑わない、何故ならば己がそうであるから。

 運命などもともと彼女の敵で、生きるだけで争うばかりで、まあカンダタの愚行ぐらい。むしろその貪欲さに頷く程に、彼女は運命に嫌われていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉄血の奴らだよ! 完全に包囲されてる!」

『包囲か。包囲ねえ! 藁で囲まれた程度、踏みしだいて崩せばいいじゃないか!』

 

 SOPⅡの振り向きざまの叫びに、まるで空気の読めない銃声とともに扉越しの声が答えた。聞き馴染みはあるが、聞こえる道理はない。彼女は未だ、奥底で幽閉される身であったはずなのだ。

 プリンセス・マリオン。S05地区の中心部を占める留置場。更にその奥底、決して光も見れぬ金属質なちっぽけな一室。其処にいると、それでも慄くM45から報告を受けていた。

 

 しかし現実はそうそう変わらない。乱暴な乱射があちこちに反射する音を響かせると、同時に大仰な金属の衝突音。部屋の壁が僅かに妙な音をたてると同時に、肉が砕け散る凄惨な音が伴奏で弾き鳴らされる。

 

「何故貴様が生きている! 報告ではそちらには到底処理できない量の鉄血が――――――!」

 

 誰とも知れぬ声、ゲタゲタと女が笑い声を轟かせてまた壁がへこむ。

 

『到底処理できぬ量か! そうか、「あの程度で」鉄血はオレを殺せると思っていたのか!? 随分と舐められたものだ、死に際にログに残せ、全く足りておらんとなぁッ!』

 

 銃声が消えると銃が落ちる嫌な音、数度どころではない回数が繰り返されると、とうとう鉄の振り回される音も消えた。

 

 その場のM16が息を呑む、すかさずM4を後ろに隠しながら耳打ちする。

 

「…………最悪時間を稼ぐ、来たら走り抜けて逃げろ」

「でも」

「でもじゃない。緊急事態だ、まさかあのクソッタレが暴れだすとは――――――」

 

 

 

 

 

 M16の言葉は蹴破られた扉の激しい音でかき消された。

 

 

 

 

 

「クソッタレとはご挨拶な」

 

 白い顔に金色の瞳、左眼は焦点が合っていないからこそ右眼のまばゆい輝きが気味悪い。

 黒く艶やかな髪は相変わらずで、長すぎるのが鬱陶しいのか頭の後ろで一つに結わえられて垂れている。細身の白い肌と合わさり姿自体が生物感の薄いモノクロ模様を映し出していた。

 

「だがまあ、確かにクソッタレかもしれんな。取り敢えずわたしが聞きたいのは、おぬしらのそんなご意見ご感想ではなく――――」

 

 左手は歪で肥大化しており、力なくぶらさがったまま。恐らく動かせないのだろう、右手で握りしめるブレードからも左手の不便さは明確だ。

 じろりとあたりを見回しながら、M16とM4を見るなりニヤリと強烈な笑顔を見せつける。

 

「それで? 此処で怯えて大人しく死ぬか、仲間の仇であろうと上手く使って、皆殺しにしても生き残りたいか」

「選べよAR小隊。今回に限り、わたしは方針に従ってやる」

 

 ウロボロス。敵味方両者をして「最悪」と呼ばれた人形の一体。

 

「いい武器だとは思わんかね? まあ少しばかし噛み付くかもしれんが、そこはご愛嬌というものじゃないか」

 

 その笑顔は誰が見ても、やはり邪悪に違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「して、どうする。打開策はまるで無いとお見受けするが」

 

 あーらら、どいつもこいつも俺を睨んじゃってまあ。

 せっかくライバルキャラが助けに来たんだから多少派手にしてやろうという俺の粋な計らいのつもりだったんだが、どうやら警戒させたらしい。いやー何でだろうな。

 

 重ったるいブレードを肩にかけてからM16に聞き直す。

 

「ほらM16姐さん、わたしにも道を教えてくれたまえよ?」

「どういう風の吹き回しか知らないが、言葉を鵜呑みにしろと?」

 

 明らかな臨戦態勢。思ったよりやり過ぎたようですねぇ…………。

 とはいえ左目も訳の分からんポンコツをぶち込まれてまだ機能してないし、左手も「見てて痛々しいから」なんてアホくさい理由でブレード引っこ抜かれてつけられた超低性能。

 

 真面目に殴り合ったら俺が負ける可能性も有るくらいなんだが、俺なんかしたかな?

 

「鵜呑みにしろというか、このままだと死ぬぞ? ならば蜘蛛の糸にも縋るというもの、必然としてわたしの助力は素直に受けて構わないだろう」

「信用ならんな」

「信用なるかとかどうとかではなくてだな、突っ撥ねるならおぬし達はおそらく此処で死ぬだけだ。大人しく使っておけと言っている」

 

 俺は別にAR小隊が勝手に全滅しようがどうでも良い。

 だが今回は少しばかり俺も一人で殴り合うのは心もとない、愚かだが馬鹿じゃないもんでな。勝てない戦では同志が欲しいもんだ。

 

 俺はそろそろストーリーがうろ覚えになってきた。大体、ウロボロスがプリンセス・マリオンに幽閉されるとか意味不明だしな。はっきり言って指揮の才が皆無な俺には指揮者が必要になる。

 M4ないしM16はそういう意味では最適解だ。コイツラはハイエンド、おつむは悪くないだろう。この状況で俺の助力を蹴れるほど馬鹿に徹しきれないだろうし。

 

 SOPⅡが今にも殴り掛かりそうな眼でコチラを見てくる。

 

「何でお前みたいな鉄血のクズが力を貸すっていうのさ。AR-15が居なくなった理由だって半分以上お前じゃないか」

「そんなもの、謀略にかかる方が悪い」

「何だって!?」

「おぬしらなあ? 何だ、蜘蛛の巣にかかった蝶を憐れむタチか? 引っ掛かる方も問題アリ、そうだろう?」

 

 そんな偏った見方をしてもどうしようもない、わたしだって知り合いが何度か殺されかけたが気にしていない。戦争なんてそんなものだ、争いは醜くて殺し合いは無慈悲。そしてそれは参加した個人に責任など負わせるに負わせきれない。

 

「大体どちらからけしかけたにしろ、おぬし達も同じくらいにわたしの同胞を殺した。そんなつまらぬ事を引きずっていてはわたしは今すぐ此処を血塗れにして出ていくしかなかろうに」

「随分身勝手な理屈ね」

 

 M4が俺の首根っこを掴んでくる。あんまりにも感情的、払い除けた。

 

「気安く触るな、首を掻っ切るぞ」

「あんたが前線で何体こちらを潰したかなんてこの際どうでも良い、だけどAR-15があんな手段に打って出た原因なのは事実よ」

「だーかーらー、それに拘って今死ぬ気か?」

 

 さっぱり分からん。復讐は明日でも出来る、感情論ばかりで終わってるな。

 再三言うが俺だって殺された。偶々ハンターと処刑人はサルベージが利いたが、そうでなかったら相応に恨み辛みは持ってしまうかもしれん。

 

 だがそれで、今死ぬようなことはしない。復讐というなら、たかだかハイエンド一人なんてつまらない量で済ませる気がないからだ。

 

「M4、あの日は見逃したが今回はわたしではどうにもならん。覚悟と無謀だけでは何も成せんよ、落ち着け」

「よくもそこまでぬけぬけと言えるわね」

「これでおぬしは一応気に入っている部類だ。犬死はさせたくないのだ、それくらい理解しろ」

 

 俺には一生出来ない生き方だ。ある意味、羨ましいとも言う。

 自由奔放すぎると小言を言われた日も多いが、俺は死ぬ間際に感情の赴くままにはなれない。悲しいぐらいそこらへんは現代っぽいシステマチックさに毒されきった性格らしいのだ。

 

 今、短絡的な結論を出せる者であるからこそ。俺は生かすべきだと考える、少なくとも俺個人は尊びたいものだからだ。

 

「気に食わなければ後ろから撃ち殺せ。残念ながら今回はおぬしのわがままに付き合ってやらん――――――まあ? 動きもしないわたしに弾を撃ち捨てながら罵詈雑言を浴びせて快感を得るような死姦趣味だというなら好きにすればいいが」

 

 恨み言など、相手の反応を見てなんぼのものだと俺は思うがねえ。

 

「そうね、それも良いかもしれないわ」

「おいM4! 落ち着け、今回のコイツに関しては――――――」

「構わんよM16」

 

 そんなに欲しいなら銃くらいくれてやる。

 

「ほら眉間に当ててみろ、あの日と同じだ。脳天を撃たれれば死ぬぞ? こんな呆気ない復讐で満足か――――――おい、しっかり銃口を当てないと」

 

 何で俺がわざわざ照準まで合わせてやらにゃいかんのだ、情けない人形だな。

 構えもマトモにできちゃいないくせに眼だけは一丁前に俺を射殺さんばかりに鋭い。全く、感情ってやつは時々理屈を超えるからな。そういうものは己の益になるよう振り回してほしいものだが。

 

 冷ややかなM4の声。まるで恐ろしく何とも思わないが、腑抜けだしな。

 

「本当に撃つわよ、冗談だとでも?」

「撃てばいい。だがな、AR15は違ったぞ」

 

 AR15を引き合いに出したのが余程癇に障ったのか、急騰したみたいに目を見開いたM4が体中に力を入れる。

 

「お前なんかがAR15を知った風に語るな!」

「いいや違ったね、アレは利用される立場だって飲み込んだ。何故か? おぬし達に背を向けたくはなかったからだ、M4。おぬし達に僅かでも可能性を残すために、道化だって演じきった」

「五月蝿い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒鳴るのは趣味じゃないが、埒が明かんな。

 

「五月蝿いのはテメーだって言ってんだこの箱入り娘!」

 

 ったく、何で悪役がこんな説教垂れなきゃダメなのかさっぱりだ。AR15を本気で見習ってほしいもんだ。

 少し怒鳴ったぐらいで怖気づく辺りが情けない。そこまで一時の感情に身を任せられるなら、俺が睨んだくらい跳ねっ返してみせろってんだ。

 

 馬鹿じゃないんだから。

 

「良いかM4、オレはお前の中で悪役になろうが外道になろうが結構だ。だから誰も言わないことを、酷く個人的な意見を言ってのけてやる」

「いつまで泣き喚くガキの真似事を続ける気だ。お前が泣き叫べばコイツラは助かるか? 違う、お前は見殺しにすることになる」

 

 そしてそれを望まないのは、他ならぬお前だ。

 

「しみったれたお前を支えようとする仲間を粗末にするな。支えを失い困るのはお前だ、失った空洞に後悔するのもお前だ、お前がそれで良いならオレは責めんが、お前が納得しない結末に自分で走っていくんじゃねえ。虫酸が走る! 衝動任せにくだらん小悪党になるな、憎いと言うなら鉄血を地獄に陥れる覚悟を持て!」

「オレ一体殺して満足すると思ってる時点でお前は負けてんだよ、今のお前じゃ雑兵以下のゴミクズだ!」

 

 M16まで肩入れにかかってくる。

 

「貴様、黙って聞いていれば言いたい放題言うじゃないか」

「黙ってろ役立たず。甘やかすだけが姉の役目か? このままではコイツが一番苦しむというのが何故分からんのだ。死んだ事実に向き合えない人形が、生きる現実に向き合える訳が無い」

 

 話にならん。

 

「ともかく、通信はグリフィンのものと同期させておいた。今はお前の駄々に付き合ってやる、時間だって稼いでやる、どうせついでだ」

「くだらん死に方をしたいか、わたし程度を飲み干してでも抗うか。自分から逃げるな。どうせオレを殺したぐらいでお前は収まらん」

 

 それなら数を殺すしか無い。数を殺したいなら、俺は上手く利用したほうが絶対にいい。当たり前だ。

 

「では失礼する――――――撃ちたいなら撃てばいい、オレは今なら誰でも殺せる」

「だが、それで何が解決するのか。考えてから引き金を引くことだな」

 

 あー畜生め、何を偉そうに説教なんぞ。ウジウジしてるやつは嫌いなんだ、普段ならともかく今それをしたら大きなミスに繋がるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺が出ていくまでに銃声が響くこともなかった。走るわけでもなくゆうゆうと歩いて時間はくれてやったが、どころか構え直す音だって聞こえてきやしない。俺は手持ちのブレードだってマトモに構えてやしなかったのにな。

 

 だから辞めろと言ったんだ、この程度で撃てなくなるくらいなら。まあそこまで理解しろとも今は言わないが。

 その判断ができる人形を無駄死にさせるのは、俺には惜しい。




ウロボロスの左手と左目はI.O.P製の粗末な品で代用されています。感情が極端に上下した時のみ、外部接続のセーフティが外れて機能する欠陥品。もともと電子系に強いハイエンドなので。
ブレードは接続し直したいところですが、片割れが起きていない現状では不可能。専門の技師が必要です。
俗に言う「悪役が仲間になったら謎に弱体化してる」というお馴染みのアレ。

ちなみに最新のプロットで彼女が何をしているかと言いますと、「ガルム潰してる」です。そこにたどり着くことなんて有るのやら…………遅筆極まれり。
ちなみに時期が来たらウロボロスの過去についても詳らかにします。ブラックボックスの領域が結構デカイですしねえ。
改めて紹介。


【ウロボロス】
第十三大隊の元監督役。現代理人直属の「たった独りの実動隊」。
騒ぎが起きるとAR小隊の前にあっさりと顔を出した。現状は中立を語り、M4に対しても辛辣ながら助言を努めている。
片手と片目が最低限しか機能しておらず、メイン武装だったブレードも手に持たなければならない始末だが尚強力。今回に限ってはグリフィンの頼みの綱にもなりうる。


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ブリーチング

「何でアイツが生きてんだよ、兵装は全部もがれてるはずだろ! それとも何か、グリフィンの馬鹿共は支配欲が祟ってアレを止めれるとでも思い込んだのか!?」

「落ち着いてください、私もそれは警告しましたよ」

 

 消息不明の報告に親指を噛みしめるドリーマーを仮面を被った人形が嗜める。

 今回の作戦には馬鹿にならない戦力が投入されている。目的は言うまでもなくAR小隊とウロボロス、誰に作戦を問うても過剰供給とは言い切れまい。

 

 実際問題、今回ウロボロスは脱走した。完全に隙を突き、喉元にまで突きつけられた刃はあっさりと飲み込まれてしまったのだ。

 仮面の女が腰元のブレードを一瞥して尋ねる。

 

「…………出ても構いませんが」

「待てよ、今計算を調整してる…………何だあのポンチ人形。普通寝首をかきゃ死ぬだろうがよぉ…………ッ!」

 

 頭を掻きむしりながら歯を剥き出しにするドリーマー。映るホログラムは移動する鉄血のネームド一体が悠々とプリンセス・マリオンを駆け巡り、言葉通りの破竹の勢い。瞳孔の開ききった瞳が追いかけていく。

 

 仮面の人形がため息をつくと、くるくると手に持った拳銃を指で遊ぶとホルダーにしまい込んだ。

 

「考えても仕方がない、アレは戦闘中に進化するようなものですから。念の為出ます、貴方と直接交戦は憂慮されるべき事態になる」

「――――――チッ! 出ろよ、お前はアイツのカウンターな訳だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解――――――試作上級AI、フラクタル。ウロボロス殲滅に向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒号混じりのワイヤーのいななく音。返り血の雫も残らぬ鋼の刃、彼女がどれだけ酷使しているのかを表すように刃はまるで鋸のように波状に欠けている。

 乱暴な投擲が災いしてブレードは壁やら天井やら、ともかく引っ掻き削りながら迫ってくる。部隊が本体を叩こうにも、銃弾と磁力でも持っているようにグネグネと避けるせいかまるで命中しない。

 

 焦点の合わない左目が僅かに電流を走らせた。

 

「おい誰だ! ウロボロスが現在弱体化していると特記事項に書いた上級AIは! ピンピンしているぞ!」

「うるさい、追求は時間の無駄だ! スモーキンググレネード、出すぞ!」

 

 ガヤガヤとざわめく部隊の人混みから、突然グレネードが投げつけられる。

 瞬間、ウロボロスの右目がギラリと蠢く。誰かが血の気の引いた声を上げた。

 

「ひっ――――――」

「良いのか、”それを投げても”?」

 

 問いかける前に煙が上がる。金属の削れる音があちこちを這い回りながら迫ってきていたが、部隊はいざとなるなり息を揃えて走り出した。

 

 大広間に躍り出るなり、入口に向かって銃を構える。数を揃えて扇状、扉の横に一人ずつ銃を構えて盲撃ちが始まる。

 

「撃て! 弾を切らせばアレはすっ飛んでくる!」

 

 声に続いて激しい銃声、巻き起こるマズルフラッシュがまるで小さな花火大会のような様相を展開していく。

 悲鳴が聞こえる、しかしそれはヤツではない。まるで空気が泣き喚くような力強い足音のメトロノームが心拍数を上げていく。

 

 eins

 

 zwei

 

 drei

 

 飛び出る。血塗れだ。

 

「い、生きてやがるぞあのハイエンド…………ッ! 一本道じゃないんですか!?」

「うるさい、撃て! 死ぬぞ!」

 

 手にした銃が反動で暴れるのを必死で抑えつける。

 果たして手が震えていたのか、実際にそうだったのか。まるで銃が”撃つのを怯えるように”彼女から逸れていく。

 

 スモークから現れた片手には見覚えのある死体、蜂の巣になったそれを引きずり回しながら血塗れのブレードが薙ぎ払うように扇状の部隊に迫る。

 

「武装解除されているはずだ!?」

「違う、パージした腕ごと引き回している!」

「喧しいぞ雑兵共が! オレの前でガタガタと喚くんじゃねえッ!」

 

 横薙ぎのブレードが一体の脇腹に、二体、三体。引きずり回していく。

 

 勢いが死ぬ直前でウロボロスが慣性に任せて飛び上がる、浮き上がった死体から銃を奪い取るなり部隊に向かって蹴りつける。

 ぶつかった部隊が恐慌状態に陥るなり構えを辞めてしまう、隊長格が叫ぶ。

 

「銃を取れ、アレに隙を――――――ッ!」

「――――――おい、五月蝿えって言ったよなぁ?」

 

 ウロボロスの左手の短機関銃が泣き叫ぶ。トリガーを握る指は長いクローを持ち、不自然に膨張した姿が異様に過ぎる。まるで悪魔の手だ。

 乱れ打ちされた銃弾がドンドンと突き刺さっていく、狙いを定めようにも天井にぶつかるなり蹴り跳ねて動きが一貫性を持ち合わせていない。

 

 飛び散る弾丸、跳ねる鮮血、滑り落ちる銃。瞬く間に殲滅が終わり、其処には隊長格が一体。

 

「聞こえているか、こちらナンバー8! 全滅だ、やはり奴は弱体化などしていない! 早急に対地戦闘による無力化を――――――」

 

 冷や汗を削り取るように額のすぐ横をブレードが突き刺さる。耳の真後ろから聞こえるバララ、という瓦礫の音に青褪めていく感覚。

 

 ゆっくりと歩いてくる、その瞳は片方がまるで壊れたように焦点を合わせておらず、右目だけが静かに赤い電流を迸らせて彼女の方を見つめていた。

 異様に見えた左手からは銃が力なく落ちていく。それは捨てたと言うより、力が抜けてしまったような形容詞がたい動き。

 

 まるで熱の感じられない白い肌、唇がゆっくりと動き出す。

 

「オレの前に立つと風穴が開く、等とよく言われた」

 

 後八歩。

 

「違う。お前らは馬鹿だ、オレの前に立つのが悪い。オレは何ら命を軽視しない、勝手に軽視した愚か者の首を断ち切る何が悪い」

 

 後三歩。

 

「人形はなあ、生きてるんだ。お前らはまるで替えがきくように思ってるんだろうが、替えなどきく訳がない。この世の何者も壊れれば元に戻らない」

 

 近づくなり、首根っこを掴み上げる。

 

「良いか、来世に持ち越す本質情報をくれてやる。よく聞けよこのカスが」

「オレを倒したいなら、いやこの世界で銃を手に取ろうなんて言うなら生きることを辞めるんじゃねえ。茫然自失に銃を持って、無我夢中に撃ち散らして、知らぬ存ぜぬで息をするな」

「手前の意思で銃を撃て。殺される一瞬まで手前を見失うな。次なんてない世界を理解しろ。まるで使い捨てられるものみたいに命を扱うお前らみたいな馬鹿に、オレが負ける訳ねえだろうが」

 

 

 

 

 

 

 

「オレはな、これから腐るほどお前らを殺すだろうよ。オレは見つけた、今までとは違う生きる意味だ。オレはお前らに何故銃を向けられ、何故あの人がそれを黙認し、そして何故オレが今こんな事をするのか探さなくちゃならない」

「ドラマツルギーに踊らされるウロボロスの人生は終わった。今度はオレの番だ、もうシナリオには従わん。オレは死にたいなんて思っちゃいない、生きるために殺す。そう、それが例えオレが同胞殺しの罪人扱いでもだ」

 

 迸る電流に合わせるように凄まじいスキール音、色の消えていた表情に苛烈な何かが灯る。激昂、憎悪、失望、何かも分からない。恐らく放つ本人がそれに名前を付ける気を持ち合わせていないからだ。

 

「起きろ”ウロボロス”、何時まで寝てやがる。オレは認めんぞ、こんな良いように使われて死ぬなど断じて許さん! 殺す、そうエルダーブレインをだ! 前々から気に食わん子守唄ばかりでウンザリしていたが今回ばかりは後悔させてやる!」

「――――――そうだ、やるんだよ。I.O.Pも、鉄血工造も、ウロボロスも、代理人も、第十三大隊も、何一つ関係ありゃしねえ!」

「”オレ”が生き延びてやるつってんだ! 良いから手を貸せ!」

 

 吠えるような一言と共に嫌な肉の音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――随分無茶な起こし方をするものだ、こっちまで感情の波が押し寄せてきたんだが。

 

「五月蝿え、今更ムシャクシャしてきてんだよ」

 

 左目もまともに動きやがらねえ、無理やりつなげた左手は未だパワー不足、はっきり言ってジリ貧にもほどが有る。

 曰く「代替パーツはプロトコルがこのAIとは別の、面倒なロックを掛けられている」らしく上手く情報も開示できていない、むしろ何でマトモに動いているかのほうが不思議とまで言われた始末だ。

 

 突然通信が入る。今俺はオーガスプロトコル系列を完全遮断している、来るとすればアイツだろう。

 

「…………何だ、機嫌が悪い」

”協力して”

「頼み方が悪いな」

”…………どうせアンタも単騎で抜けれないんでしょ”

 

 チッ、察しのいいガキだ。

 

「正解だ。で、何をすればいい――――――違うな、どれを殺せば効果がある?」

”殺すのは後。まずはそっちに居るはずのAUGに合流して、ただし――――――”

 

 話が早い。

 

 弾丸がいきなり飛んでくる、照準はメチャクチャだが数が多い。通路の壁を蹴って出来るだけ損傷は抑えたが、スキンがドンドン削れてヒリヒリとしてくる。

 舌を噛まない程度に短い返事。

 

「見つけた、処理次第掛け直す」

”ちょ、殺したら――――――”

 

――殺すほど馬鹿ではない。筈。

 殺すわけねえだろ、半殺しならするが。

 

 停電した闇の中、通路の奥で光る黄色い瞳に構えた。



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