その煌めきに陰りなく (ジャガルナ)
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英雄王VSヘリオス

中二ぢからを上げるために大人ギルです。ご理解


見上げるほどの巨躯を以てイリヤ達を睥睨する英雄王。その目に込められるのは侮蔑と嘲笑であり、さながら玩具で遊ぶ子供だ。そしてそれは真実その通りであり、たとえ聖杯の嬰児たるイリヤスフィールとクロエの力を以てしてもその戦力差は絶望的。慢心が許されるだけの力があり、そして圧倒的な戦力差があるのだ。

 

 

もはやこれまでかと、イリヤスフィールの膝がくず折れようとした刹那、

 

 

 

「いいや、まだだ-----すべては明日の光を掴むため。今こそ俺は創世の火を掲げよう!」

 

 

 

轟く業火の大喝破が諦観と怖れを吹き飛ばす。頬を撫でる灼熱の風に導かれ、振り返ったそこに光の亡者(えいゆう)が顕れた。

 

 

故にこれにて悲劇は終幕。涙も慟哭(さけび)も無明へ墜ちた。これより先は英雄譚。あとは天へと飛翔を遂げ、約束された勝利と光を掴むのみ。

 

 

 

「天昇せよ、我が守護星-----鋼の恒星を掲げるがため。」

 

 

謳い上げられるは聖句(ランゲージ)。それはまさしく旧世界からの別離を望む声に他ならない。こんな不出来な現実(せかい)はいらぬとばかりにすべてを振り切り飛翔する。曇天に覆われた太陽に手を伸ばし、掴み、粉砕する。瞬間、あふれ出るのは爆熱だ。太陽が内包する膨大などとは生温いエネルギーを総身に浴びてもなお、天駆翔(ハイぺリオン)は止まらない、止まれない。

 

 

決めたからこそ果てなく往くのだと、金剛石のように揺るぎ無い決意を以て溶け落ちていく五臓六腑を実感しながらしかし、意識までは離さない。

 

 

そうして灼熱と烈光に包まれた救世主がひび割れ、砕け、新生する。不出来な地球法則をものみな微塵に砕け散らせて、不死鳥のごとく燃え落ちた灰から飛翔した。

 

 

 

「いくぞ、英雄王-----死人の裁定はもはや不要だ。我らの未来は我らだけのもの。貴様という補助輪は必要ない。故に-----ここで倒れろ勝つのは俺だ!」

 

 

「ハ、おもしろい。天(オレ)へと逆らう蝋翼風情がよく吠えた。で、あれば是非もなかろう。我自身が貴様に裁定を言い渡す-----即ち、死だ。せいぜい美麗に燃え尽きていくがいい。」

 

 

 

次瞬、ニ刀を以て吶喊する救世主。そしてやはりというべきか、先手を取ったのもヘリオスだった。

 

 

ギルガメッシュは自他共に認める王であり、そして王とはいつなん時も慢心してこそ王なのだ。慢心とは即ち言い換えれば余裕であり、その精神の在り方は臣下へと多大な安心をもたらす。不遜であるのはよくても、余人に滑稽に映ってはそれはただの愚王の背伸びに過ぎないが、この英雄王に限って言えばそうあることが自然なのだと理解させられる覇気がある。

 

 

つまるところ、今この瞬間においてすら、英雄王はかの救世主を敵ではなく裁定すべき只人としてしか見ていない。先手くらいはくれてやると、その程度なんの痛手にもなりはしないと、絶対の自信を以て救世主を迎え撃つが、しかし-----

 

 

 

「森羅断ち切れ、神威抜刀。之を以て剣の極み-----天魔覆滅、秘剣・迦具土神ィィイ!!!」

 

 

 

その余裕を粉砕したのは救世主の神速抜刀術。空間を鞘と見立てて音を越える速さで繰り出された全力全開の魔人の剣技は、英雄王の知覚領域を容易く振り切りその巨躯を十字に切り裂いた。次いで訪れるのは太陽の灼熱。イカロスを焼き落とした爆熱は、原初の英雄王であろうとその身を赫怒の炎で焼き尽くす。

 

 

 

「ぐぅっ・・・!?」

 

 

 

完全なる予想外、想定外の現実。オート防御の太盾もろとも紙のように切り裂かれながら、しかし英雄王の口に浮かぶのは笑みだった。そしてそれは先までの嘲笑混じりの笑みでなく、正しく敵へと向ける憤怒の籠る笑み。

 

 

「く・・・はははは!いいぞ、実にいい!興が乗った!-----貴様は敵だ。故に全霊で消し潰そう。否やは言わせん。その首永劫我が袂で愛で続けてやろう!」

 

 

ルビーのような紅眼を戦意で爛々と輝かせながら、数百の門を開く。そこから覗くのは古今東西あらゆる英雄が振るった武器の原典だ。原罪、マルミアドワ―ズ、ジュワユース、ゲイボルク、etc、etc----誰がどう見ても一人に向ける数ではない。事実、これほどまでの絨毯爆撃をしのぐのは、いかな大英雄とて不可能だろう。故に-----

 

 

 

「この程度か。」

 

 

 

救世主は平然と、減速することすらせず爆撃の渦中へと突撃する。光の亡者(えいゆう)に諦めも妥協もありはしない。不可能?有り得ない?-----だからどうした知った事かとばかりに眼前に迫りくる武器群を絶技でもって切り開く。

 

 

両手に持った刀を振るい襲い来る武器を弾き飛ばす。そうして弾き飛ばした武器はまるでビリヤードがごとく玉突き事故を起こし、ついぞ救世主に傷を負わせることもできないまま無為に中空へと溶け消えた。

 

 

 

「ははは!おもしろい大道芸よ、そら、次はどう防ぐ?」

 

 

 

次瞬叩きつけられるのはまさしく鉄の山と見紛うほどの巨大な剣だ。線ではなく面攻撃。横から殴りつけるように空間を押し潰しながら迫るイガリマはすでに目前。横にも上にも逃げられそうにないヘリオスが取った行動は、やはりというべきか-----

 

 

 

「無駄だァッ!」

 

 

 

轟く気合いの大喝破とともに繰り出されるのは単純な突きだがしかし、内包するエネルギーはやはり莫大なものだった。破裂点とでもいうべき一点を神速で突かれたイガリマは、そこを起点にしてへし折れる。しかしそれで救世主のスピードは衰えるかといわれれば、むしろ加速して英雄王へと吶喊していく。

 

 

前へ前へと振り返ることなく-----光の英雄は世界の半分だけを見据え続け、墜ち続けるのが本懐であり、また厭ましい業なのだ。そして救世主たるヘリオスもまた、例外ではない。

 

 

 

「オォオォォ------!」

 

 

咆哮(こえ)に義憤を滲ませながら、光の救世主は原初の英雄王へと牙を剥く。その熱量はまさしく生きた太陽だ。直接相対していないイリヤ達ですら焦げるような存在感を感じているのだから、その敵意をすべて向けられている英雄王がどれだけの熱量に晒されているかなど、もはや考えるまでもないだろう。

 

 

その背に炎の翼すら幻視するほどの雄々しさと神々しさを以て放たれた絶滅の刺突。それは狙い過たず英雄王の霊核を貫こうとして-----

 

 

 

「ハ、なんだそれは。」

 

 

 

嘲笑と共に、完全に受け止められた。受け止めたのはぱっと見ただけでも数百は下らない盾。一枚、十枚では足りないのなら、さらに数を増やせばいい。単純ではあるが、それはなにより効果的な防御方法でもあったのだ。

 

 

残り数枚まで粉砕された盾はしかし、当初の目的である主を守るという役目を終え溶け消える。それを確認するや否やさらなる覚醒を以てヘリオスは最高速度で刃を煌めかせるが、しかし遅い。英雄王はそれすら勘定に入れて不壊と名高き名剣デュランダルでその一刀を受け止めた。

 

 

均衡は一瞬、だがそのヘリオスの片手が塞がった瞬間をギルガメッシュは見逃さず、囲い込むように門を展開する。戦場に置いて停滞とは即ち死であり、それは救世主であろうと抗えない理だ。

 

 

次瞬放たれる武器群。それに対してヘリオスの取った行動は-----攻撃続行。戦闘機の爆撃がごとく降り注ぐ破壊の雨を意にも介さず、英雄王へと今度はニ刀で以て襲いかかる。

 

 

これに眉をしかめたのは英雄王だ。彼は生来の王であり、間違っても戦士ではない。超一級の武具を持っていようが、彼は持っているだけなのだ。担い手ではなく、ましてや戦士ですらない彼は、今明確に窮地に立たされている。戦士としてはヘラクレスにも引けを取らぬ救世主と、同じ土俵で戦うことを強いられているのだから。

 

 

 

しかしだからといって、勝負がヘリオスに傾いているというわけではない。それも当然だ。今こうしてヘリオスが攻撃を続けている最中にも、英雄王の宝物庫から湧き出る武具は彼の体を削っている。防御になどはなから回す気がないヘリオスの体に傷が加速度的に増えていくのも自明の理であり、損傷具合で計算するならば救世主の方が先に倒れるのが自然な結末だ。故に、否だからこそというべきか-----

 

 

 

「-----まだ、だァッ!!!」

 

 

 

超新星爆発の如き灼熱の衝撃。次いで起こるのは総身に刻み込まれた傷の粉砕治癒だ。傷口が木端微塵に砕け散るという余りにも意味不明な光景を前にして、ついに英雄王は一瞬ではあるがその身を驚愕で強張らせた。そうなれば、そら、あとはもう-----

 

 

 

「ぬぐっ・・!?ぐぬぅっ・・・・!!!」

 

 

まず右腕、次に右足。右半身のバランスを取るニ肢を吹き飛ばされ、その均衡は完全に、明確にヘリオスへと傾いた。

 

 

因果律崩壊能力。体内で極限の収束を行い、光速すら突破した果てに引き起こすのは現実の破壊に他ならない。地球が敷いた法則を、知った事かとものみな微塵に粉砕し、自身の傷をなかったことにする不条理。しかしてその最たる要因は、やはりというべきか気合いと根性だった。

 

 

余人が聞けばもはや呆れ果てるほかないだろう。一体誰が気合と根性で自身の傷を破壊するなどと考え付くのか。誰であれ、そんなことが出来るはずがないと声高々に叫ぶだろうが、それこそ救世主にとっては愚問だ。出来ないのなら出来るまでやる。ただそれだけだと、まるでそうすることが当たり前かのような気概を持ってヘリオスは不可能を理不尽に粉砕するのだ。

 

 

 

「終わりだ英雄王----天に向かって墜ちていけ。」

 

 

言うと同時大地を踏みしめ吶喊する。その構えは無造作に見えるがしかし、その実なにより合理的だ。空間を鞘に見立てた居合抜刀。名を”秘剣・カグツチ”。初手に繰り出したそれは、さらなる覚醒を得て至大至高の一撃となり英雄王へと牙を剥いた。

 

 

 

「確かに終わりだな----貴様の敗北で、だ救世主。」

 

 

 

しかし、けれど-----やはり英雄王もただでは終わらない。瞬間ヘリオスは刀もろとも凍りつくように停止した、否させられた。その原因はヘリオスの周りから飛び出した何本もの鎖、太陽の威光を反射して燦然と輝く鎖は、確かに救世主の前進を止めていた。

 

 

 

「天の鎖-----我が唯一の朋友よ。こやつに絡めとられたものは神性が高ければ高いほどに逃れられぬ。仮初とはいえ今の貴様は太陽神にも勝るとも劣らぬ神性を有しているがゆえに、もはや逃れられると思うな。」

 

 

 

言いながら、英雄王は自身の体に天の鎖を巻き付け体の支えとする。半神半人の彼もその特性からは逃れられぬはずだが、なんのからくりがあるのか、英雄王は平然と宝物庫から一振りの剣を取りだした。

 

 

それは剣と言うには余りに奇妙な形状をしていた。円柱のような形をした、およそ斬ることが出来なさそうなそれ。刀身と呼ぶべき個所に幾何学模様が刻まれ異様な圧を放つ剣は、一目見ただけでも特別だということを理解させられる覇気があった。

 

 

 

「乖離剣エア、この世で我だけがもつ正真正銘我だけに振るうことが許される至高の一振りだ。喜びに咽べよ救世主。貴様はこれを抜くに足る男だ。」

 

 

 

その目に終わりの光景を幻視しながら、英雄王はエアを掲げる。瞬間吹き荒れるのはまさしく嵐だ。天を裂き、地を砕く世界開闢の逸話を持つ乖離剣は、正しくその本懐を果たさんと唸りを上げてその力を高めていく。

 

 

世界の終わりと始まりを予感させる一撃を前にして、ヘリオスは動けない。足がすくんだわけではない。恐怖(そんなもの)など、勝利のためならいくらでもねじ伏せて見せるという気概があるから。彼が動けないのはひとえに性質故にだ。古来より太陽は神として信仰されてきたという事実、そして今のヘリオスはまさしく天に坐すアマテラスとなんら変わりない神性を持つ事実。その二つの事実が明確にヘリオスの足を引っ張っている。皮肉なことに、己が烈奏こそが彼の敗因と成り得てしまうのだ。

 

 

だからこそ、次の瞬間ヘリオスがそうすることは自然であり当然と言えた。

 

 

「-----だからどうした?ならばこうするまでのこと。」

 

 

そう、この力が邪魔ならば、こんな力はいらないとばかりに烈奏を解除する。それは本来あり得ない暴挙、自殺行為に他ならない。もはや救世主ならざる身へと墜ちたヘリオスは、当然のことながら体は一般人の耐久よりも少し高いほどでしかない。対して、今も吹き荒れる開闢の嵐は余波だけで人を引き裂いて余りあるものだ。彼が先ほどまで縛られていただけで済んだのは、まさしくその魔人がごとき耐久の恩恵に他ならない。故にこそ、その恩恵を捨て去った彼に起こるのは、当然---

 

 

 

「ぐおっ・・・!」

 

 

 

裂傷、裂傷、裂傷裂傷裂傷裂傷-----あっという間に切り刻まれていく五体。削ぎ落とされていく肉片を胆力で掻き集め弾け飛ばないように気合いで耐える。一歩進むたびに指が飛び、肉が削げ、脹脛が削られる。有り得ないほどの痛みの嵐、その渦中にいるはずだというのに、その足取りは尚も揺るぎ無い。一歩一歩が世界を支えるゾウの如き重量でもって刻まれていく。大地を踏みしめている、というよりもはや星を踏みつけていると形容した方が正しいほどの威圧感。それはまるで()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

---かつて共にあった蝋翼(イカロス)はすでになく、この身の所有権は完全に煌翼(ハイぺリオン)たるヘリオスへと移った。それは揺るぎ無い事実であり、これから先も変わらない。そもそも只人でしかなく、どちらにも傾けない中途半端な蝋の翼では振り切った大馬鹿者(えいゆう)に勝てる道理などありはしないのだから。

 

 

---だが、しかし。そのどっちつかずの中途半端な精神にこそ、ヘリオスは人間を見出した。誰もが自分のように振り切れるわけではなく、脇道に逸れ、迷い、立ち止まることがむしろ当たり前なのだと。ただ前に突き進むことしかできないヘリオスには、それが何より尊く、素晴らしいモノに見えたこともまた事実だ。故に、だからこそ---

 

 

 

「俺一人で決めるのは、もうここいらで終わりにしよう。今一時だけ、切り捨てることしかできないこんな塵屑にそれでも願ってくれるなら---どうか力を貸してくれ、我が半身。()()()()()()。」

 

 

---仕方ないな、全くお前は。ああ、でも、うん。なんていうかさ、我ながら単純な男だけれど。()()()()()()()()()()と思う俺がいるんだ。

 

 

「「ならば往こう。始まりの火は今ここに。」」

 

 

 

瞬間、爆発する蒼の奔流。その有様は先ほどと真逆だ。すべてを燃やし尽くす太陽の救世主としてのヘリオスと、すべてを呑みこむ海洋の英雄としてのヘリオス。元より光の英雄はその素質も併せ持っているものなのだ。彼らは万人を頭ごなしに否定しない。悪人であれなんであれ、その意見に一定の理解を示す度量を持ち合わせている。ただ最後には轢き潰していくだけであって、その信条や意見を無視するわけではないのだ。

 

 

その点でいえば、彼ら光の奴隷は悪を滅ぼす悪の敵ではあるが、その一方で誰かを受け入れる誰かの味方でもあれる可能性を持っている。ただ、どうしようもなく光に焦がれてしまうという性質故、その可能性を選ばないと言うだけで。

 

 

そして今、ヘリオスは新たな形、新たな星へと新生する。生命の危機に瀕して新たな境地に至るさまは、まさしく主人公のそれだ。太陽から大海へ。すべてを滅ぼす魔星(ごうか)からすべてを呑みこむ恒星(ほむら)へと。

 

 

その反応は劇的だ。今までヘリオスを傷つけるだけだったエアの紅嵐はどこへやら、うって変わって体を包み込むようにヘリオスへと纏わりつく。そればかりか、前へ進むヘリオスの背を押すように、風自身が意志を持っているかのように脈動していった。

 

 

ヘリオスを蝕む滅びの風と、ヘリオスに手を貸さんとする護りの風が衝突する。ただそれだけで空間が軋みを上げ、その力は許容できないとばかりに星が哭き叫ぶがしかし、そのどちらも止まらないし止まれない。顕現するのはただの地獄だ。もはや背後のイリヤスフィール達すらヘリオスの思考には入っていない。

 

 

「乖離剣、世界開闢の一振りか。なるほど確かに凄まじい。それを扱うに足る男は、真実お前だけなのだろう。裁定者であること、別段否定する気はないがな。神という不出来な超越者共から人間を切り離した功績は、もはや誰にとっても大恩だろう。実感はわかんが、だからといって感謝していないわけではない。お前は確かに、人間を裁定するものなのだろうよ。」

 

 

朗々と、前進しながらいっそ穏やかなほど安らかな声で語りだすヘリオス。そこにあるのは間違いなく敬意だ。先人への惜しみない敬意と称賛が、海洋王の言葉には含まれていた。---そう、含まれているだけであって、それがすべてではない。それを裏付けるように、先ほどまであった穏やかな雰囲気は一変し、荒れ狂う大海原が如き激情を英雄王へと叩きつけた。

 

 

 

「だがそれは貴様が生きている時分の話。英霊だのなんだのと、どれだけ言い繕ったとしても、今の貴様は死人でしかない。だというのに傲慢にも今を生きる生者を裁定するだと?-----ふざけるのも大概にしろよ貴様。過去の残骸風情が、なにゆえ今を生きる者らを裁く道理があるという。貴様の法など知った事か。今を生きる者には、今を生きる者の法がある。今の世界に暴君の法などもはや不要であると知れ。」

 

 

 

蒼い瞳を輝かせ、その手に刀を創造する。瞬間、ギルガメッシュに走るのは極大の驚愕だ。さもあらん、ヘリオスが創造した一刀、傍目にはただの刀だが、しかしその刀身に内包するのは過去現在未来、すべての英霊の魂だ。その英霊のアイデンティティたる宝具すら内包した、もはや宇宙が如き混沌の刃。しかしその混沌が外側にあふれ出ることはない。なぜならば、彼らは共通の目的を持ってここにあるのだから。

 

 

 

「感じるか、英雄たちの鼓動を。これらすべて、貴様の行いを許容できないと俺に賛同して座から降霊したものたちだ。ケルトの大英雄も、錬鉄の守護者も、純潔の狩人も---そして、天の鎖も。傲岸不遜にも死人の分際で今ある人類をものみな等しく裁かんとする貴様を止めようと力を貸してくれている。」

 

 

ク―フーリン、カルナ、ラ―マ、源頼光、アーサー王・・・星に刻まれた人理の守護者達。その総軍はもはや宇宙に輝く星々の数と変わりない。なまじ見え過ぎる眼を持っているが故に、英雄王の眼前に広がるのはまさしく絶望的な光景だろう。いかに世界を裂く乖離剣の一撃とて、そのグレードには限度がある。さらにヘリオスの刀にはあらゆる宝具の概念が渦巻いている。その中には無論、守護に重きを置いた守りの宝具もあるのは当然だ。つまるところ古今東西、一騎当千の豪傑夢双達の軍勢を相手取るには、さすがの英雄王でも役不足に過ぎるのだ。

 

 

「いくぞ英雄王。俺達の時代に、お前の裁定はもはや不要だ。死人はおとなしく墓の中で眠っていろ。」

 

 

「抜かせ海洋王(ネプトゥヌス)。貴様のような狂人が、人類代表とでもいうつもりか?貴様の意見は貴様だけのもの。それをあまつさえ全人類の総意などと、ほざくのも大概にするがいい。我とお前、他者の意見を聞き入れていないのはどちらも同じであろうが。」

 

 

爆発する紅の風。荒れ狂う蒼の波濤。そのどちらもが譲らない。星の許容できる域を越えてなお高まりあう力の奔流は、たやすく星のテクスチャを引き裂き押し流す。それによって引き起こるのは反転だ。裏と表。ビックバンにすら引けを取らぬエネルギー同士、空間を捻じ曲げ、この世ならざる地平たる特異点を現出させた。

 

 

もはや語るべきことはなく、今この場所、この瞬間こそ最終決戦なのはどちらの眼にも明らかだ。

 

 

片や己の剣ひとつ、吹き飛ばされた右半身を友に支えられながら。

 

 

片や満身創痍の中、数多の英雄に肩を貸してもらいながら。

 

 

 

「天地乖離す(エヌマ・)-----」

 

 

「全司る(アストロホライゾン・)-----」

 

 

 

紡がれるのは解号の詠唱(ランゲージ)。目の前の敵を粉砕せんと必滅の殺意を漲らせ、声高らかに謳い上げる。それは終わりを告げる第六のラッパ、あるいは始まりを告げる産声か。どちらにせよ、確かなのは放たれたその時が決着ということだけだ。

 

 

 

「開闢の星(エリシュ)ゥゥゥゥーーーーー!!!!!!」

 

 

 

「海洋王(ネプトゥヌス)ゥゥゥゥーーーーー!!!!!!」

 

 

 

かくして賽は投げられる。エアの紅嵐が空間ごと特異点を引き裂き、ヘリオスの刀身から溢れ出る数多の概念宝具が空間を押し流す。しかしその結末はやはりというべきか、あるいは当然と言うべきか。一瞬の均衡すら見せず-----

 

 

 

「-----俺の・・・いや、俺達の勝ちだ。」

 

 

 

数多の英霊の宝具から織り成された蒼の波濤は、破壊の嵐ごと呑みこみ砕き押し潰していく。攻防一体、その極致。守りながら攻める、攻めながら守る。その二つを全く同時に行える今のヘリオス達と、孤高の英雄王。数、質どちらもヘリオスに軍配が上がった以上、この結末は至極必然のものだった。

 

 

そうして最後にどこかすっきりした笑みを浮かべ、原初の英雄王ギルガメッシュは大海原に藻屑となって散っていく。そのさまをヘリオスは眼を背けることなく、最後まで見届けた。送るのは最大の賛辞。彼の英雄王こそ、ヘリオスにとって誇るべき宿敵であり、また聖戦であったが故に。



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ヘリオスVS波洵 序

誰もが一度は考える、ligth屈指の規格外同士の戦い。


波洵は質量からして規格外だけど大丈夫!ヘリオスならいけるさ!きっと総統閣下にも出来たはず!その後継のヘリオスが、出来ないはずなんてないんだ!覚醒を繰り返せば魂の質量なんて無限大に増え続けるからね!







それはあるいは有り得ざる可能性。

 

水銀の治世、永劫回帰という運命の車輪に紛れ込んだ者。小石でも、砂粒でもなく、世界を破壊し、創生する赫怒の救世主(スフィアセイヴァ―)

 

 

いつかどこかで光の英雄の正当なる後継者として光臨し、誇るべき比翼の生きざまを見届け、世界をよりよくせんがため、全人類と対話しようとした英雄(おおばかもの)。そしてその果てに、その比翼との死闘を演じ、最後には自身の無二の半身と再び融合した煌翼(ハイぺリオン)

 

 

その彼の可能性、細胞、イフとでも呼ぶべきもの。それが、水銀の回帰を越え、黄昏の輪廻を廻り、かの串刺し公(カズィクル・ベイ)白騎士(アルべド)と同じように、最大最悪の邪神によって木端微塵に砕かれた黄昏の残照とでも呼ぶべきから車輪から、なにもかもが自己愛に狂った世界に生まれ落ち。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()を持っていたが故に、自己愛に狂い、自慰を繰り返す目につく全てに怒りを抱きながらも、それがなぜかを本質的なところで理解はできず。ただただその赫怒の行き先を定められないままに生きてきた彼は、しかし―――ここに覚醒を果たす。

 

 

奇しくも、それは人類すべての大恩人にして黄昏の守護者たる覇道神、天魔・夜刀の死とまったくの同時。ヘリオスは()()()()()()()()()()()()()()()()()、天魔・夜刀という英雄が黄昏に帰って逝った時、その英雄の後継者として目覚めることは、ある意味では道理であったのだろう。

 

 

 

「―――なるほど、これがそうか。」

 

 

その声音に含まれるのは納得。ああそうか、お前だったのだなと、彼はようやく世界の理へと辿り着く。即ち、第六の天、最悪の邪神波洵が敷く滅尽滅相の理―――大欲界天狗道。生きとし生けるもの全て、己こそが唯一絶対でありなによりも素晴らしいという自己愛を極限まで肥大化させた下劣畜生の道理。

 

 

それこそがこの世界の悪性であり、それが故に怒っていたのだと、彼は深く納得を見せ―――爆発した。

 

 

 

「なんだそれは、ふざけるなよ塵屑が。こんな先のない世界を、一体どうして許せると思う。怒りに振り回されて事ここに至るまで気付けなかった塵屑の俺が正義であるなどと寝言を言う気はさらさらないが、それでも今を生きるものとして、先へと繋げることこそが生命としての正しいあり方だろうが!」

 

 

先のない命など認めない、許さない。定められた一生の中でこそ人は光り輝き、そして後継にその生きざまを刻むのだと。1人の人生はなにも1人で完結するものではない。その生きざまを誰かに託し、次へと繋げることこそ生命の本懐なのだと、ヘリオスは高らかに吠え猛る。

 

 

樹形図の行き止まり、先のない閉じた世界。そんなものは生命として生きながらにして終わっているのと同意義だ。故に、そう故にだ―――

 

 

 

「―――故に必ず粉砕しよう。貴様は駄目だ、先がない。貴様のような塵屑は、俺という塵屑を持って魂の一欠片まで灼き尽くそう。ああそうだとも、決して譲らん勝つのは俺だ!」

 

 

 

たとえこの身が燃え尽きようとも、悪に対して怒る気持ちに嘘はなく、貴貧もない。それが人の輝きだと、俺は心底から信じているのだから―――!

 

 

そうして赫怒の猛るままに、その手の中にニ刀を想成し、刹那のうちに世界を断った。他の何にも目などくれず、そのままヘリオスは世界の深層へと潜行していく。深く、深く、向かう先に確かな邪悪を感じながら、その身を変性させてゆく。

 

 

その身を焦がすは赫怒の(ヒカリ)。万象一切灰燼と化す熱量が、ヒトの形を成して唸る。胸の内から湧く言葉は、まさに旧世界への決別の祝言(祈り)で、来る新世界を寿いでいた。

 

 

彼こそは不出来な現実を破壊し、新たな地平を齎す救世主なれば。その根底にあるのはいつだって、誰かのために戦うという心だけ。それが自己愛に狂った果ての行動であると断じられても、恥じることなどなにもない。なぜなら彼は知っている。自分の言う救いを求めない人間がいることを知っているのだ。ここではないどこかで、そんなものなど迷惑だと、突っぱねる輩はきっといるのだろうと、彼は確信しているのだ。

 

 

―――だが。

 

 

だがそれでも、救いを求めぬ誰かがいるのと同じように、救いを求める誰かもいたのだ。ならば何を迷うことがある。この身は何処まで行っても救世主。誰かを救うことこそ本懐であり、笑顔を守ることこそが本望である。故に迷いなどありはせず、彼はどこまでも堕ちていく。その身に燃ゆる赫怒を滾らせて、万象の起点たる神の座へと―――。

 

 




たぶん10話以内には終わるんじゃないかな(希望的観測)


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