異世界で聖女様とか呼ばれる話 (キサラギ職員)
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1.ケモショタほど重要なものはない

ハヤレハヤレ……


主人公ちゃん

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ライアン君

【挿絵表示】



 眠気をこらえながら俺は、自分に顔を埋めながら寝ている獣人の男の子を撫でていた。寝ただろうか。寝ただろう。健やかな寝息が聞こえるから。

 

 俺は日課にしている日記を書いていた。木製作りの室内。質素な調度品が並んでいてカンテラの光が揺らめいている。日記に書いているのはなぜこの場所にいて獣人の男の子をあやしているかだ。

 

 ……この日記を君が読んでいるということは、俺は既に死んでいるからだろう。

 

 なーんて書いてみたかったなんて。

 

 

「ん……」

 

「………」

 

 

 現状を説明しておくと、目が覚めたら何故かファンタジックな世界に来ていた。来ていたのか元々世界のあり方は魔法が飛び交い妖精が悪戯をする世界だったのかは正直よくわからない。科学技術の発展した地球という場所で生まれた記憶がある以上前者だったと思いたい。後者だと不安で仕方がない。

 

 で、どこぞの森で目を覚ましたら既にこの世界だったらしい。最初は運転中居眠りしてガードレールを破って森に落ちたのかとばかり思った。森の中だけにファンタジックな世界とは思っていなかった。携帯電話を探してみたが見つからないどころか魔法使い的なローブを着ていておかしいぞと思った。

 

 次におかしいと思ったのは手乗りインコサイズの人が飛んでたあたりだ。なるほど頭まで打ったかと俺は大急ぎであたりをうろつき始めた。

 

 数時間後。方向がまったくわからず、うろ覚えの知識で空を見上げてみる。見知った星座が一つもない。これは完全に遭難してるわと、大木に寄りかかった。

 

 ……鳥がうるさいな。こう、森というのは静かというイメージのはずがやけに鳥が鳴いておられる。

 

 お腹まで空いてきた。腹を押さえているといい匂いが漂ってきた。

 

 お肉の香りだ……!

 

 俺がふらふらと草木を掻き分けて歩いて行くと焚き火があった。焚き火……? 焚き火って違法では……まあいい。俺は焚き火調理というワイルドな肉串に手を伸ばそうとした。

 

「誰……?」

 

 犬耳つけた褐色ショタがナイフ片手にやけに古風なテントからでてきた。くたびれた様子で、上半身は包帯で巻かれていて右足は折れているのか木の枝で固定してある。

 

 俺はまさかのコスプレ?に言葉を失った。

 でコソ泥を弁解しようと喋ろうとして声が出ないことに気がついた。カヒューッと息が漏れるだけで音にならない。

 褐色ショタは俺を見るなり震え始めた。俺の胸元を指差している。

 

「……?」

 

 なんかついてるのかな?

 目線を下ろした俺はそこでやっと違和感に気づいた。足元が見えない。なんか障害物がある。

 

「……」

 

 嫌な予感しかしない。俺はショタがいるのも構わず服を脱いでみた。暑くて前を開けていたから脱ぐのは楽だった。布をマントみたいに纏ってるだけだったしね。

 たわわだ。たわわがおられる。下もついてないし。やけに疲れるなと思ったがまさか筋肉がごっそりなくなっていたとはなあ。

 

「……!!??」

「ふ、ふ、服を着て! お姉さん服!」

 

 俺が声にならないシャウトをあげる横で目を手で隠したショタもシャウトした。

 

 

 で。俺はひとまずショタの下着の替えを貰って身につけてマントというか布をマントみたいに纏い直していた。

 

 森で目が覚めた時の違和感がはっきりした。体が女の子になっているらしい。たわわおっぱい金髪の美少女と言ったところか。なんか刺青的なアレがついてる気がする。あとで確認せねば。

 で会ったのがしかも犬耳褐色ショタである(重要事項)。ついてんのかついてないのかイマイチわからん幼い中性的な容姿。

 

 かわいいな。ティーンエイジャーくらいに見える。褐色肌。ふさふさの犬耳と尻尾。青い瞳。髪の毛を腰まで伸ばして結っているせいか、狼のような野生的な雰囲気を放っていた。

 

 上半身は血のにじんだ包帯。たぶん服は持ってるけど怪我のせいで着られないのだろう。足は折れてるわ傷だらけだわ獣のと取っ組み合いでもやっていたのかといいたくなる。

 

 しかし、獣耳の生えたショタだと? 状況が状況だけになんて都合のいい夢なんだといいたくなってくる。そろそろ覚めろ。

 

 

「……」

 

 

 とりあえず服を着なおした俺だったが、相変わらず喉とついでに表情筋が仕事をしてくれない。しゃべれないし、笑えないし、端から見ると無表情の女が喋らずに焚き火に当たってるだけの図である。

 

「お姉さんはどっからきたの?」

 

「……」

 

 喋れないんですという意思を伝えるため喉を押さえて首を振ってみると、あぁと納得してくれた。そしておもむろに木の枝を渡そうとしてくる。

 

「じゃあ筆談で……」

「……」

 

 なんとなくだが日本語を書いても通じない気がする。今俺が聞いているのは英語っぽいけど違う言語だが、まるで最初から習得していたように理解できている。が、文字を書こうとしても日本語しか出てこない。まず間違いなく相手には通じないだろう。俺は首を振った。

 

「……」

 

 俺は無言で自分が来た方角を指差してみた。

 

「えっ……そっちは……いや、うん……わかった」

 

 なぜか驚かれたが、そんなにヤバイものがある方角だったのだろうか。聞くに聞けないのでとりあえず頷いておく。

 

「ッ……う、ぅ」

 

 ショタッ子がうめき声を上げて屈みこんだ。そのままぶっ倒れかけたので抱きとめる。

 

「……」

 

 そのままゆっくりと地面に横たえる。頭が痛くないように腿に頭を乗せながらだ。額に手をあててみるとびっくりするくらい熱かった。

 

「はぁっ……はぁ……」

 

 ショタの意識がない。息が荒い。ショタ呼ばわりもあんまりなのでこの子と呼んでおく。

 俺は取り合えず傷口の様子を見てみることにした。包帯の結び目を解いてみると、ギザギザに皮膚が引き裂かれていて、化膿していた。次に足を見る。添え木を固定している布の隙間から見ると、赤く腫れていた。化膿と高熱。知識が素人の俺でもわかる。なんらかの感染症にやられているらしい。

 

「……」

 

 男の子を抱えて藁の上に布をおいた簡素なベッドの上に横たえてやる。

 それから緊急事態ということでショタの荷物を漁ってみた。干し肉。ナイフ。水筒。火打ち石。カンテラ。地図らしきもの。以上だ!

 薬がない。薬がないよ! こうポーション的な何かを期待した俺が馬鹿だったのか?

 ナイフを熱して傷口をって火傷までさせてどうするんだ!

 俺は途方にくれて男の子の傍に屈んで額の汗を拭ってやりつつ様子を見ていた。

 ほっとけば死ぬだろうが、この森の中あてもなく助けを求めに行けば遭難待ったなし。薬もないし、薬草もわからないし、妙な力もない。と俺が祈るような気持ちで傷口に手をかざした瞬間、淡い緑色の光が手に宿った。

 

「……?」

 

 見間違いかと思ったが違った。手が光っている。驚くことに傷口が逆再生でもするように治っていく。

 ついに俺は超能力を手に入れたというのか……ま、まあいい。治せるならなんだっていいさ。

 治すのにかかった時間はものの数分だった。骨折も同じように治してみた。

 

「……」

 

 少しだけ疲れたかもしれない。ちょっとだけ一息ついていると、男の子が目を覚ました。

 俺はその時ちょうど男の服を剥いであっちこっち拭きながら確認していた。妙に女の子っぽいなとか思ってたけど、ちゃんとついてたとか思いつつ。

 ほぼ全裸の男の子は声にならない悲鳴をあげながらベッドから転げ落ちた。

 

「いだっ!? いだだ……痛くない? 治ってる……」

 

 骨折していた足から行ったもんだから激痛が走ると思っていたらしく、びくびくしながら自分の体を確認している。いや俺もビックリだよ傷跡もねえんだもん。

 俺はお湯をついだマグカップを差し出した。男の子はカップを受け取るより前に枕元に畳んであった服を取ってベッドの影に隠れて着てから受け取った。

 

「やっぱり……そうに違いない……森の奥から出てきたし……呪文も使わずに癒しの力を……」

「??」

 

 なにがやっぱりなのかわからん。だって魔術とかある世界なんでしょここ。無詠唱的な呪文とかあるでしょ。

 何はともあれ治ってよかった。そろそろ俺も現実を認めなくてはならないようだ。これは夢じゃないってことを。

 男の子は俺の顔をじっと見つめて言った。

 

「も、もしよければ僕の村に来て……村に来て頂けませんか? 僕のお母さんを治して欲しくて……お金もないし、お返しもできないけど……」

 

 急に敬語になる男の子に俺はうんと頷いた。

 



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2.聖女様

続いた


 男の子は自分のことをライアンと名乗った。

 

 一方で俺は自分の名前すら名乗れなかった。喋れないし書けないし手話なんて高等技能はできない。どんなにがんばってもうめき声すら出ないあたり声帯がおかしいのかもしれん。早急に意思伝達の手段を考えなくては。

 

 じゃないと、どこぞの牢獄から逃げてきた罪人だーといういらぬ誤解を受けてしまう。

 

 俺は男の子が運転というか操っている馬に乗っていた。馬というのはあれだな、意外と揺れるものでしがみ付く場所がないので男の子につかまっているわけだが。

 

 

「……」

 

 お尻が痛い。鐙の上で揺れるのと、長時間座ってるせいで血の巡りが悪くなってくる両方の痛みを感じる。もじもじと動いてマッサージは試みてるわけだが。

 

「ひっ」

 

「ふぃ」

 

 何か男の子が妙な声で鳴くからやりにくい。

 

「??」

 

 横から顔を覗き込んでみると真っ赤になっている。よくわからん。

 

 挙動不審な男の子ことライアン君にお陰で体感にして数時間後には村についていた。

 

 村は俺の想像しているものとは違った。外周を先を尖らせた丸太と茨を巻きつけた柵で守っていて、火を焚いた後が複数残されていた。得体の知れない四本足の何かの死体が腐るままに放置されているのも。

 

 おかしいな。のどかな農村かと思ったら世紀末感が漂ってるわけだが。

 

「近頃、モンスターどもの襲撃が多くて……僕たちも精一杯身を守ろうとはしているんですけど、どうしても……森から出てきていることはわかっていたんです。だから調べに入ったら襲われてしまって、お姉さんに助けてもらったんです」

 

 なるほど。モンスターの襲撃とはずいぶんありきたりな話だが俺のいた地球だって熊に襲撃されたり狼に家畜をやられたりという話はあるわけで。

 

 そんなモンスターが沸く森に一人で調べに入る段階でライアンは無謀かよほど人手がいないのどっちかになる。あるいは両方か。若者が無謀なのはいつの時代だって同じだ。

 

「あの、聖女様は」

「……」

 

 俺たちは馬を下りて道を歩いていた。ことあるごとに聖女様呼びしてくるライアン君に俺はどうしたものかと天を仰ぐ。

 実際聖女様になってましたという展開は大いにありうる。奇跡の力を有した乙女! 的なやつだ。

 

「ここが僕の家です。開けますね」

 

 何を言いかけたのかはわからないが、俺が上を向いていたのをなんと解釈したのか、ライアン君は質問を中断して自宅を指差しながら懐から鍵を取り出した。

 木造の家だった。ログハウスを思わせる構造をしていた。手作り感満載の不ぞろいなレンガを重ねて粘土を刷り込んで穴を埋めたキノコに似た形をした煙突やら、庭で暢気に虫を啄ばんでいる鶏やら、薪用の小屋やらが併設されていて、生活感に溢れている。実にいい。こういうのは好きだった。

 家に入ってベッドに横たわるげっそりとやつれたライアンの母親を見るまでは。ライアンと同じ黒い髪の毛をセミロングにした儚げな雰囲気の女性が布団をかぶってぐったりしている。

 

「お兄ちゃんどこで油売ってたの? お母さんがこんな時期に……」

「あ、聖女様紹介します妹のミミです」

 

 疲れた顔をして出てきたのはエプロンを身に着けた同じく黒い髪の毛を伸ばした犬耳の獣人だった。身長が低く、目測になるが150cmもない。この体が目測オーバー170cmはあるので、目線を大きく下にする必要があった。

 

「聖女様ってお兄ちゃんが昔読んでた絵本に出てくる御伽噺じゃない。はじめまして。聖女様?」

「………」

 

 妹のミミはあからさまに信用していない胡散臭そうな目を向けてきた。正しいぞ、君の判断は正しい。

 ライアンが俺との間に割って入った。

 

「ちょっと待てよミミったら! 森で大怪我してるところをこの人に助けて貰ったんだからさ!」

「へーじゃこの人魔術師ってこと? こんな田舎に魔術師が来る訳ないじゃない。私を一杯食わそうたってそうはいかないんだから。証拠はあるの? この魔術師さんが魔術師だっていう」

 

 見るからに疲れ切ってるミミが兄のライアンに食って掛かった。

 村の生活といったってやることは沢山あるはずだ。掃除洗濯家事薪割り家畜の世話に母親の看病まで一人でいままでやっていたのだから疲れるのも当たり前だろう。

 困り果てた顔のライアンが俺のほうを見た。

 

「せ、聖女様、そのお疲れとは思いますが、僕たちのお母さんを治して頂けませんか……数ヶ月前から体調を崩していて……」

 

 よし、任せろ。力の使い方を試す意味でもこれはいいチャンス。

 俺はこくんと頷くと母親の傍に跪いた。意識朦朧としているらしく起きる気配がない。手をとって握って、目を閉じて念じてみる。瞼越しにもわかるくらいはっきりとしたエメラルドグリーンの光が手元に宿った。

 

「嘘……ちょっ、ちょっと、治療費なんてうちにはないわよ……」

「そんな人じゃないったら!」

 

 なにか後ろで口論が始まってるが、俺は気にすることなく力を行使することにした。

 一分かからなかったと思う。俺が目を開けると、やつれてはいるものの二人の母親が目を覚ましていた。

 

「ここは……?」

「お母さん!」

「うそ……!?」

 

 駆け寄って抱きつこうとするライアンと、呆然と俺を見つめてくるミミ。

 俺は状況が読めず呆然としている母親に対し肩を竦めた。

 

 

 で。俺は布っぽい服っぽい何かと男物の下着では格好がつかまいと、二人の母親の服をもらってきていた。

 

「………」

 

 わからん。なぜだかわからないが服がきつい。俺は居心地悪くて体を捻ったりしていた。

 

「丈は調整する必要がありそうですね……」

 

 母親さんは俺の服を見ながら顎に指を置いていた。

 女物の服の着方は母親ことリアンに一通り教わった。リアンは俺よりも背が低く痩せているので、俺が彼女の服を着たところできついのは当然だったらしい。

 

「調整しきれるかしら……冬用の服を……」

 

 なぜかぶつぶつ呟いて俺を見てくるリアン。まあ、着られるならなんでもいいよ。

 

「ほら言ったじゃないか絶対聖女様だって! 呪文も使ってないのに癒しの力を使ってるんだよ!?」

「で、でも! 森の奥から出てきたなんて怪しいにも程があるじゃない! あのモンスター共を召喚か何かして私たちに親切にして信頼を得ようとしてるかもしれないじゃない!」

「医者も魔術師もいないこの村なんだからそんなめんどくさいことしなくてもみんなを治してまわればいいじゃないか!」

 

 きょうだいはリビングで机を挟んで口論の真っ最中だった。

 ………妹さん、俺がマッチポンプをしてると言いたいらしい。誤解を解きたいが言葉が話せないのがつらい。

 俺がこほんと咳払いをすると、二人そろってぎょっとして振り返った。

 

「……」

 

 気まずいな。

 俺は机まで歩いていくと腰掛けたのだった。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました……この恩をなんとすればいいか……ほらあんたも頭を下げなさい!」

「お母さん痛いって!」

 

 リアンは、ぺこぺこと頭を下げつつ、頭を下げるどころか腕を組んでそっぽを向こうとするミミの頭を掴んで強制的に下げさせていた。

 一方俺は空腹を訴えることに成功し(串肉一本じゃ足らんでしょ)ミミお手製の野菜シチューと黒パンを飽きるまで食った後で、レモン味のするお茶を嗜んでいた。

 

「ほら言ったじゃないか。お前も見ただろ」

「ぐぅぅぅ~~! 悔しいけど癒しの力を持ってることは認めるわ。けど聖女だとかなんとかって眉唾物の話は信じるわけにはいかないわ」

 

 それみたことかとライアンが言うと、ミミは悔しそうに歯をぎりぎり言わせた。

 いい判断だ。どことなく頼りなさ漂う兄と比べて妹は芯が通った性格をしている。

 聖女。胡散臭すぎて俺も信じてない。ライアンが昔読んでいたという絵本に載ってるらしいが……民間伝承の類だろうか?

 

「聖女様かどうかはともかく、ライアンの傷を治して、私も癒してくださったのは事実。えっと、ライアン。このお方の名前は?」

「それが……喋れないみたいなんだ」

「筆談は?」

「もできないみたい」

 

 できるよ。日本語オンリーで。この世界の文字を勉強せねばならんな。

 

「それは困ったわね………もしかして記憶がない、とかじゃないかしら……」

「……!」

 

 その設定はいいな。俺はリアンの言葉にうんうんと激しく頷いた。

 

「それは……大変ですわね……」

 

 あらあらと頬に手を当てて顔をしかめるリアン。まあ、記憶あるんだけどそういうことにしておいたほうが説明が早そうだし。

 

「ライアン。その絵本の聖女様の名前ってどんな名前なの?」

「アルスティア様!」

「なんであんた名前覚えてるの……?」

 

 若干引き気味のミミ。兄をあんた呼ばわりといい態度といいまるでこっちが姉のようだ。

 リアンが俺に対しておずおずといった様子で提案してきた。

 

「アルスティア……様、とお呼びしてもよろしいですか?」

 

 俺はまたしても、うん、と頷いた。

 



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3.覗きシチュは水浴びに限る

おねショタっていいよねという


「ありがてぇありがてぇ! あんたはまるで女神様みたいなお方だ……!」

 

 ふう。俺は何人目になるかもわからないけが人の治療をしていた。やることは単純で手から出るチェレンコフ的な光を当てて祈るだけである。

 どうやら村人たちの話を総合すると魔術は呪文や触媒を使わないといけないらしく、俺のように素手で呪文なししかもどんな傷だろうが病だろうが治せるのは埒外の能力らしい。

 ただし欠点もある。能力を使えば使うほど疲労がたまっていくのだ。ゲームでいうところのMPを使ってるらしいが、そのMPはスタミナゲージと共通らしい。

 

「……」

 

 村にある診療所という名前の小屋には、大勢の怪我人がいた。度々起こるモンスターの襲撃で死人まで出ていたらしい。診療所の主である医者は襲撃で死亡してしまい、ジリ貧の状況にあったらしかった。

 そこでほとんど御伽噺のような力を持った俺の登場なのだから喜ばれるのも無理はない。

 俺は最後の怪我人を見送ると、血を拭いた布やら埃やらネズミの巣まみれの診療所を見た。荒れ放題だった。医者が使っていたらしい器具は整備不良で錆びまくり。掃除も行き届いていないようだった。

 

「……」

 

 よし。掃除をしよう。

 俺は腕まくりをすると壁に立てかけてあった箒を取った。

 

 

 

 

 

 ネズミを箒の逆側で叩いて殺した経験は君たちにあるかな? 俺はあるぜ。なんであいつら逃げないんだろう。

 とりあえず数時間かけて診療所は綺麗にした。不衛生なものは村の焼却炉に突っ込んで燃やしておいた。今後診療所を使うことがないと思いたいが例のモンスターの襲撃があるからなあ……。

 そのモンスターだが、死体を直接確認した。犬を二周り大きくした四本足の奴だ。曰く人間は訓練された犬と素手でやりあうと死ぬというが、それ以上のサイズのモンスターの場合いったい何人いればいいのやら。

 

「……」

 埃まみれの診療所を掃除したせいか、服が汚れてしまった。洗濯しないといかんな。あと体も綺麗にしたい。

 確認したところこの村にお湯に漬かるという習慣はないようで、各々体を川で綺麗にするか井戸で洗うからしい。もったいないと思うが、薪の準備って大変だから仕方がない。

 換えの服をリアンに貰おう。あとタオル。

 俺はとことこと家まで歩いて向かった。

 

 

 川は村から徒歩5分の立地である。日当たり良好のいい物件だ。

 俺は快く着替えを貸してくれたリアンに感謝しつつあたりを窺ってみた。人気がない。あるのは鳥の鳴き声くらいなもの。服を脱いで手ごろな枝に引っ掛けておく。膝下の深度しかない清らかな川の上流に歩いていく。丁度よい小さい滝があって、滝つぼに行けばシャワーを浴びているのと同じことができた。

 あぁぁぁぁぁぁ冷たくて気持ちいぃぃぃ!

 なんだか怒涛の一日だった。正確にはライアンを治療して一晩経ったので二日だが。

 俺は水を浴びながら壁面に頭をつけていた。それから長い髪の毛を指ですいて綺麗にしていく。一通り髪の毛を綺麗にしたら、お次は体である。

 

「……」

 

 おお、いい弾力だな……改めて自分の体を見つめてみる。

 陽光を反射する見事なブロンドヘア。曇りのない真っ白な肌。鎖骨から始まる重力に逆らう二つの大きい塊。

 年齢は……二十歳はいってるだろう。成熟した腰周りからしてそう感じる。

 

「………………」

 

 急に恥ずかしくなってきた。よく考えたら俺女になってんだよな……。

 …………ついてないな。俺は再確認をしていた。なにをだって? ナニだよ。

 うん、ついてない。なんでこんなことに……。

 俺は水浴びを切り上げて着替えの元に直行した。体を拭いていると視線を感じたので振り返ると、そこには川辺と草むらの境界線あたりで銅像よろしく硬直しているライアン君がいましたとさ。

 

「……」

「……」

 

 脱兎のごとく逃げ出すライアン君。

 ありゃー……見られたかな……ま、まぁ減るもんじゃないし!

 俺は手早く服を身に着けると、家に帰った。

 その夜。妙によそよそしいライアン君と、まだ俺のことを信用してくれてないらしいミミと、俺のことを新しくできた子供か何かのように野菜シチューを盛りまくってくれるリアンと机を囲んでいた。

 

「まあ、それじゃあ診療所の怪我人を?」

「ええ。癪だけど」

「ミミ」

「………ごめんなさい」

 

 どうやら俺が診療所の怪我人を治したことはミミに知られていたらしい。というより多分村中に知られてるはず。あくまでもお前は認めんと悔しそうな目でこっちを見てくるミミちゃん。反抗期というやつかね。

 

「………」

 

 一方ライアン君は俺を見る、俺が見ると目をそらすをずっと繰り返していた。やりにくいからやめてほしい。

 

「すると、アルスティア様は一日診療所で治療をしていたということですか?」

「……」

 

 うん。俺は感極まった表情を浮かべているリアンに頷いてみせる。

 ほかに何かできる気がしないしね。癒しの力を最大限活用して医者? 治療専門の医者をやってのんびりと過ごすのもよさそうと思ったのだ。

 

「やっぱりあなたは素晴らしいお方ですね!」

 

 ガッと手を握られる。あ、あの、俺はですね。

 感極まったらしいリアンに俺はどうするべきかと考えていた。

 金属を打ち付ける激しい音が響いていたのだ。ふくれっつらをしているミミも、ぼーっと俺の方を見ているようで見てない上の空のライアンも、俺の手を握っているリアンも、一斉に反応した。

 まず、動きの早かったのはリアンだった。俺の手を離すと窓際に走っていきカーテンをかけて扉に鍵をかけて、家の二階への階段を駆け上がっていく。

 ミミは暖炉に走っていくと、一心不乱で火を消し始めた。

 最後にライアンは一目散に二階に駆け上がっていくと、小ぶりな直剣と盾を持ってきた。

 約一名、状況の飲み込めない俺はキョロキョロしていた。

 

「???」

「聖女様、モンスターの襲撃です! ぼ、ぼくは外に出て応戦しますので、お母さんと妹をよろしくお願いします!」

 

 俺は首を振ると、ライアンの肩を掴んだ。

 俺も連れて行けと言わんばかりにサムズアップしてみた。

 サムズアップってこっちの住民に理解でき……構うもんか。なぞのパワーで獣を蹂躙してやんよ! くらいのゆるい気持ちでいた俺は、現実を思い知らされることになる。いい意味でも、悪い意味でも。

 



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4.巨大イノシシ

ポジティブでちょっと天然の入ってる系の主人公(傍から見るとクールビューティ)


 俺は、ライアン君を先に行かせて聖女っぽい武器を探していた。

 いやちょっと待て聖女っぽいロールプレイをしてどうするんだこの村でのんびりスローライフをしてやろうかと思ってたのに。なんて思ってる場合じゃないのは、四本足の犬もどきがイバラのかかった柵を破壊して突き進んでくるあたりで理解した。柵の先の丸太のバリケードを越えて中に入られたら面倒なことになる。

 

「………」

 

 丸太。ハンマー。収穫用の鎌。どれが聖女っぽいかな?

 なんてやってる場合か! とりあえず俺は丸太を掴んでみた。

 

「………!?」

 

 ひょいと箸でも掴むような軽さで持ち上がった。丸太が。

 ……みんな丸太は持ったな! じゃねーよ! 丸太をその辺に放り投げてそれっぽいものを探して見たが農具くらいしかない。農具でやれというか、農具で!

 ……うーん。丸太を掴んだとき、感覚になるがMPを持っていかれた気がする。無意識に腕力を増幅してるのかもしれん。

 収穫用の鎌か。これじゃアレやで死神みたいだからやめとくか。トライデントもとい四叉フォークを手にとってみる丁度いい重さ。洗練された武器とは言いがたいが、とりあえずこれにしとくか。

 俺はモンスターが襲撃してきているらしい方角に向けて走った。

 

「近づけるな!」

「どんどん投げろ!」

 

 村人たちが弓を射掛けたり石を投げつけたりしてバリケードを突破されまいとしていた。

 二周りはでかい犬―――というよりこれはライオンサイズのモンスターは、矢を避けまくり石をかわして機会をうかがっているようだった。

 なんだ? 妙な動きだ。

 

「聖女様おさがりください!」

「前に出てこないで!」

 

 村人たちが口々に下がるように言うけど、もしかすると活躍できる俺が前に出ないとダメだ。なんとなく、そんな予感がした。

 弓を手にあてずっぽうな矢を射ちまくっているライアンの元へと走る。

 

「アルスティア様! あれを見てくださいっ!」

「………?? ……!」

 

 森の奥から轟音が上がったかと思えば、木々を押しつぶしながらトラック並みのサイズのいのししが出現した。目は血走り、口からは涎が垂れている。今にもバリケードをぶち破らんほどに全身を怒らせて蹄で土を穿り返している。

 なのあるぬしよーなにゆえあらぶるのかー………。

 ……えっ、えぇぇぇぇぇ!? こんなの聞いてねぇよ……。

 

「あ、アルスティア様………」

 

 ライアンが唖然として弓を下ろして俺を見上げてくる。絶望している顔だが、目はきらめいている。

 ………なんかほかの村人も俺を見てくるんだが?

 あぁわかったよ! やればいいんだろやれば!

 内心これは死ぬわという絶望感でひしめていたが、表情筋が仕事をしてくれないので、決意に満ち溢れた表情になっていたと思う。相手が殺す気満々なので逃げても無駄だろうなと思う。話し合いが通じる感じじゃないから撃退しないと。

 ぶっつけの本番だが―――やってみよう。

 俺はおもむろに跳んだ。バリケードを飛び越して怪物どものいる最前線に降り立つ。

 おいおいおいできちゃったぞ! まあ念じるだけで人を治療できる人間(?)の体だからできたのかもしれない。

 武器は農具だけ。村人の援護もあてにならない。敵はでかいイノシシとでかい犬が数頭。

 

『■■■■■■■■■!!!!』

 

 犬は様子見を決め込み始めた。うかつに飛び込んで矢を当てられたら痛いもんな。

 一方イノシシは突撃を決めやがる。躊躇とかはしてくれない。何かしないと俺は跳ね飛ばされて地面をバウンドする羽目になる。

 かといって避ければバリケードがお釈迦になってしまい村人は間違いなく蹂躙される――。

 見ておけ、これが魔術ってやつだ! まずは弱い奴でびびらせらぁ!

 俺が右手を伸ばして念じると、腕に複数の円環が発生した。円環は数秒間で手の正面へと収束すると、電流を纏った球体と化した。次の瞬間、球体は崩壊し、緑色のビームが飛んでイノシシの顔面から尻にかけてを貫通した。

 

「!?」

 

 ちょ………ちょっと威力が!?

 哀れイノシシは頭からもんどり打って転倒。俺の正面からずれた位置の丸太にぶつかって止まった。

 あせって手を振り回したせいで犬の一頭が消し炭と化した。俺の手の軌道上にあるもの全てが粉々に砕かれていた。あわてて空に向けたものだから、森はもちろん山肌までが順を追って竜巻にでもあったかのように抉り取られていった。余波を受けて空の雲が激しく動揺していた。

 遅れて到来する衝撃波。俺は出番のなかったフォークを地面にぶっさすと空母甲板勤務よろしく耐ブラスト姿勢もどきを取った。

 俺は、濛々と立ち込める煙の中、燻る篝火と月光を照明に、立ち上がった。服についた汚れを払って髪の毛を整える。

 

「……」

 

 ふーっ! 終わった! 俺はフォークを引き抜いて、残りの一頭に目を向けた。魔力?らしき力を宿した腕をちらつかせてみると、キャンキャン鳴きながら逃亡していく。

 鼻についた汚れを親指で払ってみせる。おととい来やがれってんだ!

 俺が振り返って見ると、救世主か何かでも見るような目でこちらを見つめてくる村人一同がいた。

 えーっと、何かかっこいいポーズとかしたほうがよくって?

 俺は取り合えずフォークを握っていた右腕を高く掲げてやった。

 

『うぉおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

 やんややんやの大騒ぎ。喜び、跳ね回り、抱き付き合う村人の中から一名飛び出してくる人物がいた。

 

「アルスティア様~~~!」

 

 ライアン君だった。めっちゃ涙をボロボロ溢しながら走ってくる。ただでさえ薄暗いのに足場まで俺のビーム砲撃のせいでボロボロというのに注意もせず走ってくるものだから、案の定こけた。

 俺はくすりとも笑ってくれない表情筋に鞭打ちつつ、ライアン君に手を伸ばして立たせた。

 それで……………。

 

「アルスティア様!?」

 

 ふらっときた。貧血にも似た症状だった。あっという間に暗くなっていく視界の中央に心配そうなライアン君の顔があったのを最後に、意識が消えてなくなった。



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5.ピースv ピースv

ハヤレ!


 ふと気がつくと、そこは宴会場でした。

 疲労がたまりすぎていた俺が倒れてしばらくして目を覚ますと、心配そうな顔をしたライアン君がいた。

 

『よかったです……てっきり……その………あ、みんなは宴会してるみたいですけど、アルスティア様は休まれますよね?』

 

 俺がイノシシをブッつぶしたあたりで村長が思いついたらしいんだが、肝心の俺が倒れたのでお開きになりかけるところだったらしい。外傷もなく、単に疲れただけだろうと判断して宴会が開かれたらしい。

 俺の答えはこうさ。

 

 行くわ。

 

 

 お前は宴会で飲んだ酒の杯数を覚えているのか?

 

「………」

 

 おぼえてないでーす! ぶいv ぶいv とかやってる今日この頃。

 ぶいv ぶいvだぞ ぶいvv 楽しすぎてダブルピースとかしちゃうわ。村人ちゃんたち何の意味かよくわかってないけど俺もわかんないからセーフ。

 主にわたくしちゃんが大活躍したおかげで村に攻撃をしかけてきていたモンスターは退治することができたので、じゃあせっかくだから宴会でもやろうかという話になったわけだが。村長が大事にしてたワインをご開帳! みんな飲めや歌えやの大騒ぎ! 俺もこの体がどのくらい飲めるかなんて忘れて調子に乗って飲みまくり、ふと気がつくと宴に参加していたみんながダウンしてたということだ。おかしいなあ、飲み勝負を吹っかけられたから勝負してたはずなのに記憶がないぞー?

 酒は言語だね! 宴会中俺がなんもしゃべらないのに意図が伝わる場面があったが、のんべぇ同士は言葉なんていらないってことを証明してやった!

 

「うぅぅ……聖女様ぁ……気持ち悪いです……」

「?」

 

 死屍累々。うめき声だらけの宴会場で唯一生きてるのがライアン君だけってみんなだらしねーなぁ!

 声は出ないけどしゃっくりは出るみたいだ。ひっく、としゃっくりしつつ、俺はフラフラのライアン君を前に、最後のワインを飲み干した。

 かー! 生き返るねぇ!

 

「聖女様なんで大丈夫なんですか………あんなに飲んでるのに……」

 

 さあ、体のつくりが違うんでしょ。

 しかし大人たちが全滅してるなら俺がライアン君をなんとかせんといかんなあ。酒の片付けは明日でいいや。誰かやっといてくれるでしょ、きっと。

 俺は口を押さえるライアン君を家まで送ろうと思って、手を差し出した。

 

「て、手を……?」

「??」

 

 んーおんぶがいいの? しょうがない子だなー。

 俺はしゃがんで背中を差し出してみた。乗ってこない。首をぶんぶん振って手を伸ばしてくる。素直じゃないぞ。

 鼻歌も出ないのでふーふー息を吐きながら歩く。気分がいいな! つないだ手をブンブンしながら家まで帰る。

 

「あっ……笑った……」

 

 いわれたので振り返ると、驚愕に目を見開くライアン君がいた。笑った? 誰が?

 俺が思わず振り返ると、誰もいなかった。消去法で俺しかおらんな。顔を触ってみると確かに笑っていた。笑えるのか、この体は。うーん、酒を飲まないと笑えないってどうよ?

 こうして俺は飲みすぎてフラフラのライアン君を連れて彼の家まで帰った。

 もうリアンは寝ているらしい。それか宴会場でぶっ倒れてるかだ。ついでにミミもいない。未成年にしか見えないライアンが飲み始めたあたりで、酒の年齢制限なんてものはないことはわかっていたが、こりゃミミも宴会場か? 記憶があいまいだ。いたような気がする。

 

「うぅ……気持ち悪い」

 

 口を押さえるライアン君。吐かそうかな。その方がいいこともある。と思って桶もって行ったら首を振られた。根性ある子だね。

 俺はライアン君を、彼の自室にまで連れて行くことにした。なぜか抵抗されたが、ドア開けてもエロ本があったりはしなかった。童話関係の本。神話の本。表紙だけで判断すると、そんな内容の本が棚にぎっしり並んでいた。やはりというか昔話やら神話やらに興味があるのだろう。

 

「ありがとうございます……」

 

 ライアン君をベッドに寝かせる。顔は真っ赤。犬耳はさすがに赤くなかった。

 おっ、こんなとこに水を入れる容器が! 水差し? ってやつか。机の上のカップに水を注いで渡してみると、目を閉じたまま飲み始めた。

 

「はぁ……だいぶ楽になりました…………ふああ」

 

 眠いのか大あくびをするライアン君。

 俺はベッドに腰掛けて笑おうとした。ぴくぴくと動く口元。動けってんだよ!

 

「………」

 

 ライアン君がぼーっとした目で俺を見上げてくる。黒い髪の毛が大きくシーツの上で広がっていて、シャツの隙間から見える素肌は艶々と血色良く、中性的な顔立ちのせいもあるが、女の子が寝ているようにも思える。

 寝るのが一番の回復方法だ。若いから明日には元気になるはずだ、二日酔いとかいうデーモンがいなければ。

 俺は虚ろな瞳の彼の額を撫でた。

 えーっと、欧米じゃおやすみのキスするんだっけ? どこにするんだ……? 額かな?

 俺がキスをすると、まるですとんと落ちるように綺麗な寝息が上がり始めた。おお、可愛い寝顔だ。無防備過ぎる目元についた涙を指で拭ってやる。

 

「………」

 

 眠い。飲みすぎたのかあくびが止まらない。

 部屋に……戻………。

 ……………すやあ。

 

 

 

 

「アルスティア様、起きてください……」

 

 うるさいぞ。あと五分寝かせろ。

 

「お、おきて………どーしよ………夢でも見てるのかな僕は………アルスティア様。おきてください……触っていいのかな……罰とかあたらないかな……」

 

 困り果てた声が聞こえてくる。んだようるせぇなぁ……。

 なんかこの枕硬いな。なんだ? まァいいや寝とこう。

 俺は枕?にしがみついたまま顔をぐりぐりと押し付けた。

 

「っうあ……!? ほ、ほんとうにまずいです……! おきて……お願いします……ぅぅ……やわらかい……い、いいにおい……」

 

 様子がおかしいな。目を開けてみると服が目の前にあった。服ゥ?

 俺はようやく頭が正常に機能を果たしていくのを感じた。目を擦りながら上半身を起こしてみると、なるほどライアン君が困っている理由がわかった。

 ライアン抱き枕を抱きしめて寝ていたらしい。いやー寝心地よくてさ……。

 

「あの」

 

 顔面を真っ赤に染め上げたライアン君の顔がすぐ傍にあった。

 おお、悪いな。さっと上半身を起こす。

 気分悪そうにしていたライアン君は、だいぶ顔色が良くなっていた。今何時くらいだ? 時計がないからわからんが、月の角度からしてド深夜なのは間違いない。

 寝なおすか。一応、リアンに使ってない寝室を使っていいと言われているので、そこにいけばいい。多分だがリアンの旦那さんつまりライアンとミミの父親の寝室というか書斎だったんだろうなと思う。亡くなってるんじゃないかな?

 俺が腰をあげると、ライアン君は目元を潤ませながら切なそうな顔をして見上げてきた。

 ……仕方ないなあ。

 俺は期待のまなざしを向けてくるライアン君の横に椅子を持ってくると、首を傾げてやった。子守唄は出来ないけど、寝るまでは付き合ってやるさ。

 

 

 

 翌日。俺は、村人たちが集まる場へとライアン君を引き連れて向かっていた。




おまけ



ジ「僕の二次創作小説がエタった!」

スッ

ペ「ハァーィジョージィ………TSFは好き?」
ジ「なにそれ」
ペ「Oh...とっても素敵なシチュなのに……読んでみようぜ」
ジ「そういってニッチ過ぎて人を選ぶんだろ。騙されんぞ」
ペ「確かに数多あるジャンルの中じゃニッチだが、名作が生まれてるんだぞ。入れ替わりもののあの名作くらいは一度聞いたことがあるだろぅ」
ジ「ふーん」
ペ「どうよ?」
ジ「面白そう! 擬人化ソシャゲに課金するわ」
ペ「Go!?(原文) ほら………これ……」
ジ「僕のお気に入り数!」
ペ「TSFやればお気に入り数増えるから……見てないでこっちきて」
ジ「一般ウケする?」
ペ「Oh...Yes...TSF...TSものはいいぞ……深いぞ……」
ジ「……」
ペ「お前もこっちにきて作者になるんだよ!」

 ジョージは死んだ。TS沼の深さにはまってしまったのだ。
 今彼は皮ものに嵌っている。


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6.旅立ち

ランキングを見る→ヒエッ

さくっと終わらせたい計画なので初投稿です。


 朝。

 笑う練習をしてみたはいいものの、こりゃあまったくだめだと匙を投げた。酒を飲むと笑えるのは確認したわけだが、コミュニケーションをとるのに毎度飲んでたら体を壊してしまいそうだからできない。相変わらずしゃべることも出来ないし、文字も読めない。幸い手で物事を伝えたり首を振ったりうなずいたりはできるので、あるレベルでは話を通すことが出来る。

 で、ライアン君に言われたので村人の会議?に参加することになったのだ。何を話すんだろ。

 

「………」

 

 ちなみにミミはリアンの体力を戻したり家事をしたりと忙しいとかいってこなかったけど、ありゃあ表情からして二日酔いだと思う。キミも飲んでたのね。

 村は一晩明けて静けさを取り戻していた。腐りかけていたモンスターの死体を燃やしたり、防壁を強化する村人もいるし、農作業に励む村人ももちろんいた。

 そうなんだよなぁ。あのでかいイノシシを殺したところで無限沸きされたら耐えられないわけで。俺もMP無限ならいいが、昨日の感じだと大技使うとダウンしちまう。現実的なのは国から兵士を派遣してもらって大本を絶つか、攻めてきてもいいように兵士を置くか、どっちもか、ってところだ。

 俺は、歩調を合わせようとしてがんばるライアン君に気がついた。スマンスマン。この体無駄にノッポなので普通に歩くとちいさい君が置いていかれるんだったわ。

 俺が歩調を彼に合わせると、ぺこりと頭をさげてきた。

 

「ありがとうございます………村長さん、みんな、何を話すんでしょうね……」

 

 知らんが、なんとなく想像はつく。

 そして俺たちは壁で囲まれた村長の家までやってきたのだった。

 円卓――というほどのかっこいい代物じゃない。より合わせの机を部屋の中央に固めて椅子を置いただけの会議室に、村の大人たちが集まっていた。

 

「おお! 我らが聖女様!!」

「聖女様!」

「あぁ、きてくださった!」

「なんとお美しい……」

 

 入るや否や歓声を浴びる俺。とても恥ずかしい。俺のために用意されていたらしい椅子に腰掛けようとすると、ライアン君が椅子を引いてくれた。お嬢様かなにかになった気分だ。

 この椅子というものも曲者だ。気を抜くと股開きで座りかけるので、注意して女性らしく腰掛けないといかん。

 

「さっそくだが本題に入ろう」

 

 村長さんが言った。白髪白髭のナイスミドルさんだ。喫茶店のマスターとかやらせたら似合うと思う。

 

「やつらの襲撃から早くも半年がたったが……一向に治まる気配がない。最初は狼。今はあの巨大なイノシシ……やがてドラゴンがやってきてもおかしくはない」

「ドラゴンがこんな場所に来るはずが……」

 

 異論を挟む男に、村長が睨みを利かせる。

 観察していて思ったが、みんな獣の耳が生えている。服で見えないが尻尾も生えてるはずだ。ここは獣人の村らしい。

 

「来ないと言い切れるのかね? 最初は犬、次に狼、さらにイノシシと徐々に強くなっている。やがて翼を持つ怪物がでないと言い切れるかね?」

 

 ドラゴンか。俺の火力なら落とせる気がするが、この世界のドラゴンがどんな強さなのかにもよる。天災クラスですとか、国を丸ごと焼かれました、とか、そのレベルだとわからん。

 言いよどんだ男はがっくりと肩を落としてしまった。

 

「村を移すにしても、その間に襲撃を受けてはかなわん。かと言って街に行くには、やつらが沸く道を通らねばならんが、一番の道はやはり国に助けを求めることだろう」

「我々のような種族に手を貸してくれるわけがない!!」

 

 そういうもんか。獣人は被差別種族なのか……。

 怒声が上がるのを村長が手を叩いて沈めた。

 

「我々が行ったところで相手にされない可能性は高い。だが、ここに一人助けを求めて耳を貸してくれる可能性のある方がいる」

 

 ほーん。獣人以外もいるのね。

 …………。

 どこにいるんだろうな? ここにいる?

 

「聖女、アルスティア様。どうか我々を助けてください」

 

 ………?

 ………………??

 アルスティアって御伽噺の登場人物だよね、ライアン君の絵本の……。

 ……あっ、俺か! てへへぼーっとしてたわ。

 俺は周囲の人たちの視線に気がつかなくて、その獣人以外の人を探してキョロキョロしていた。意味を理解して村長の方を見ると深々と頭を下げられた。

 確かに獣人じゃ国に話を聞いてもらえないなら人間?の見た目をした俺がいけばいい。道中危険でも、俺の戦闘力なら大丈夫だろうということか。

 

「………」

 

 うん、いいよ。俺はコクコクと頷いていた。

 

 

 

 

「アルスティア様! 僕も同行しますっ!」

 

 元気の良い掛け声を聞いた。

 俺は、街へ向かうためにあれこれと装備を整えている真っ最中だった。何せ持ち物がリアンからもらった服しかないので、街に行くためには準備が必要だったのだ。俺自身馬が乗れないので、馬を操れるものが最低でもいる。

 が、どうやら村長も村人も俺が馬に乗れること前提で話しているので、困り果てていた真っ最中だったのだ。

 この世界の馬は元の世界の自転車並みの技能らしい。練習しておかないと。

 

「………」

 

 で、俺が貸してもらった自室を家捜ししている最中にライアン君がやってきたのだった。

 

「アルスティア様の強さならモンスターに負けたりはしないでしょうけど………その、家来とか、お付き人としてなら……僕にだってできます」

「………」

「だめ……ですか?」

 

 ライアン君は、若干目を潤ませて胸元に手を置いていた。容姿が女性にも見えるだけあって、中々様になっていた。

 どうしよう。俺は、ライアン君のお父さんのものらしきカンテラを弄りつつ考えていた。

 ライアン君はついてくる気満々だった。連れて行っていいもんだろうか? この家の長男坊を勝手に連れて行って、家は大丈夫だろうか。

 

「言うと思ったわ」

 

 俺がカンテラから目を離すと、いつの間にか扉を半開きにして覗き込んできているミミがいた。腕を組んだまま入室してくると、ライアンの隣にやってきた。ジロジロと俺のことを睨んでくる。

 容姿が良く似た二人が並んでいる。オドオドした態度のライアン君と、堂々たるミミ。どっちが兄で妹かわからん。

 

「止めても行くつもりだったんでしょ」

「そんなことは……」

「荷物、まとめてるの見たわよ。どこにいくつもりだったの?」

「それは……そうだけど……」

「はぁー……ほんっっっとうに昔からうじうじしてる癖に行動だけは一人前なんだから……ねぇ、アルスティア」

 

 呼び捨てされた。なんでしょうかね。

 

「この馬鹿連れていってもいいけど死なせたら絶対に許さないんだから。生きて連れて帰って」

 

 ミミが腕を組んだまま、顔を背け気味に言い放つ。

 これは……ツンデレというやつかな?

 俺はこくんと頷いた。この体の性能ならちょっとやそっとじゃやられないだろうという自信もあったからな。

 

「……行っていいの?」

「縛って止めてもいいのよ?」

「行くよ!!」

 

 あきらめ顔のミミ。興奮冷めやらぬ様子のライアン君。

 アクセル担当のライアンとブレーキ担当のミミというわけか。それなら俺は風を掻き分けるカウルの役割を果たしてやらないといけないな。

 それはともかく、まずはこのカンテラの使い方を知らなくては……。

 俺は中々火のついてくれないカンテラとの苦闘を始めたのだった。




おまけ










TSジャンル用語

・皮もの
 美少女の皮(皮は作品や人によって解釈が違う。人間を洋服みたいに着るといったものから、外見だけ変えちゃうようなものまで。皮が癒着してとれなくなったりしろ)を着てTSするジャンル。なぜかえっちなことができる。その穴はどこから発生した??
 非常に罪深いTSものジャンルの一つで、絶滅危惧種。見つけたら保護して差し上げろ。

・入れ替わり
 君の名はなんかもこの辺に入る。
 美少女と中身が入れ替わってしまった! が大体の導入。頭をぶつけると入れ替わったりする。ぶつけなおしても元に戻らないことがほとんど。

・憑依
 転生とこれといまいち差がよくわからなくなってきた今日この頃。
 どちらかといえば現代よりファンタジー世界のほうが良く見る。

・精神的ホモ
 性転換して男から女になっても精神は男なら男と付き合ったらホモじゃね? という意味。ホモは無理だわ! という人向けにタグを設置しておくのもあり。
 ホモの何が悪いのか私には理解に苦しむね(ペチペチ

・派閥 精神がコロっと入れ替わり先の性別になりきったほうがいい派と、徐々に精神が入れ替わり先の性別になっていくのがいい派の対立は根深い。体が入れ替わっても精神はもとのままを維持派もいる。過程をねっとりと描いてあげたりするのが好きな人もいる。R指定漫画は尺の都合で過程が消えているので前者がほとんど。

・先天的TS
 最初から性別が逆だったら? というもの。ブラックラグーンとかARIAとかでもやったりする定番のネタ。容姿端麗なショタキャラなどは入れ替わっても見た目があまりかわらなかったりする。

・後天的TS
 逆。薬だったり魔術だったり目が覚めたりしたらなってたりする系。奇病扱いだったりする。

・幼馴染
 TSジャンルで言うと『美少女なのに行動が男で無自覚に自分のかわいらしさを無防備にさらけ出す』あたりにキュンと来る人が多いジャンル。


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7.不良に絡まれるイベントはド定番

男の娘もすきです(半ギレ)


 ………パカポコパカポコ。

 蹄が地面を叩く音。馬というのは俺の予想よりも大分遅い乗り物だったけど、人間が全力疾走するときと、長距離走するときは走り方変えるのと同じことだ。馬だって長距離走る時はスピードを落として効率的な動きに切り替えるものだ。

 アクセル踏んでればいい車と違うのは手綱で指示を与えてあげないといけないことだろうな、とライアン君が馬を操るのを見ていた思った。逆に車は自分の判断と操作がすべてに帰結する。

 早いところ覚えないとな、馬の操り方をな。手綱はどう握ってるんだ?

 

「ア、アルスティア様……くすぐったいです……」

「?」

 

 馬二人乗り。身を乗り出して操作を見ようとしたところ、ライアン君が救いを求める目で振り返ってくる。

 息かな? 息だろうなあ。獣人の耳は人間のそれよりも敏感だろうから。

 ごめんねの意味をこめて頭を撫でて身を引く。

 

 

 俺たちは、近くの街へと向かっていた。

 早朝。準備を整えて馬に乗って出発した俺たちは森の中を進んでいた。森といっても獣道ならぬ人道があるので、それに従えば迷うことのない道だ。舗装なんてされているわけがなくて、石が転がってるのは当たり前、動物の死体やら車輪が外れて放棄された荷車が当然の如く道を塞いでいた。

 見ていてわかったが、ライアン君の馬の操り方は巧みだった。馬が障害物を乗り越えるよりも前に、どちらにかわすのかを指示しているようだった。多分、俺が揺れないようにしてくれてるんだろう。知識ゼロの俺でもわかる。淀みがない。自力で覚えたとしたら相当な勉強家だ。

 馬を教えてほしい。言葉で伝えたいけど、伝えられない。イラストとかどうかな? いい案かもしれないが絵心がね………。ものは試してみるか。馬と犬と猫の区別もつかない絵で伝わるかはわからないけどね!

 ―――音がした。奇妙な音だ。俺たちの後方から聞こえてきたのだ。

 俺が振り返ると、ライアン君も振り返った。

 

「どうかしましたか?」

 

 聞こえてないのか。なるほど、聴力もいいのか。しかし、この音は……。

 木々を掻き分けて出現したのは半透明な物体だった。小屋並みの面積を占有する巨体。体の中には、どうみても人間の骸骨らしきものがぷかぷかと浮いていた。

 

「……」

「……」

 

 ………エンカウントしたぁぁぁぁ!!

 

「すっ、スライムだぁぁぁぁぁ!」

 

 馬が嘶くと同時に、風景が一気に前に進みだした。スライムが丸い球体を解いて無数の触手を伸ばして襲い掛かってくる。

 これは……どうみても雑魚って扱いじゃないぞ! うおおやばいやばい!

 俺は自分目掛けて飛んでくる触手の殴打をライアン君にしがみついてかわした。

 

「あわわわわ!?」

 

 ライアン君が大声を上げて馬を走らせているも、肝心の馬は二人乗りな上に荷物まで載せていて動きが遅かった。こうなりゃ応戦するしかない。例の魔術ビームで効果があるかはわからないけど!

 俺は振り返り様に魔術を放とうとして腕を触手ですっぽりと覆われた。

 

「!?」

 

 痛くはない。熱くもない。ただ右腕の服が数秒と持たず溶けた。

 

「……!」

 

 離せ馬鹿野郎! 俺が渾身の力を込めて腕を振るうと、触手が弾けとんだ。お陰で右袖が丸ごと飛んでいったが。腕だけでよかった! おっぱい丸出しとか聖女様ムーブには適さねぇ!

 俺じゃなくてライアン君だったら服も肉も溶けていたのでは……? しゃあやってやるわ!

 俺は改めて腕を伸ばして可能な限り弱く、威力を絞って、スライムを焼き払えるイメージを練り上げた。

 次の瞬間腕に電流が走ると、熱を帯びた青白い火炎が噴出した。

 獣が吼えるような音を上げて火炎があっという間にスライムを体内に抱えていた骨諸共吹き飛ばす。火はスライム後方の木まで包み込んで、地面を穿り返して岩を空高く舞い上げさせていった。

 

「!!」

 

 だけですめばよかったのに森の木々も炭に変えながら突き進んでいって、俺たちが来た道が炎上し始めたのだった。

 俺は魔術を止めると、手で銃の形を作って人差し指を吹いてみた。

 火災発生。これ放火ってやつじゃね? 俺が手を伸ばした射線上、森の奥まで火の道が出来てやがる。燃やしすぎたわ、えへへ。

 

「これ………アルスティア様、どうしましょう」

 

 ライアン君が不安そうな目で燃える道を指差してきた。

 それな。ほっとくと大変なことになりそうだしなぁ。この世界でも放火は間違いなく重罪だろうし、捕まりたくねぇなあ。

 俺はよっこいしょと、馬から下りると火炎の道目掛けて冷たいものが吹き出るイメージを作りつつ、息を吐いてみた。

 凍える吐息が発生した。地面に、木々に、纏わりついていた火があっという間に消えていって、代わりに液体窒素につけたような氷の道に様変わりしていた。燃える道が銀世界の道になった。半そでで過ごせる気温なのに雪の道とは……軽く吹いただけでこれか……この火力、我ながら恐ろしい。

 ………よし、今度誰もいないところで丁度いい威力に調整する練習をするか!

 

「すごいですね……! やっぱり聖女様はすごいです! こんなことが出来るなんて、御伽噺の魔術師みたいです!」

 

 すごいけど、調整できないだけとは口が裂けても言えんな。いや口聞けないんだけど。

 俺はキラキラした目で見つめてくるライアンの後ろに乗るべく、鐙の取っ手に掴まったのだった。

 

 

 

 

 街についた。ちなみに俺は長袖を半そでにしていた。だって右だけ半そでっておかしいからな。リアンから貰った服をこんなにしてしまうとは、あとで買いなおして返さないと。

 

「………」

 

 石の壁で囲った立派な街だった。レンガ造りの頑丈そうな民家が並んでいる。木造建築メインの最初の村とは大違いだった。

 で、街の名前らしきプレートが正面門の上にかかってるわけだが、読めなかった。

 そういや最初の村も看板が読めなくて名前すらわからなかった。あの村この街じゃ都合も悪いし、素直に聞いてみよう。身振り手振りで。

 俺はライアン君が馬を馬屋に預けて来るのを待ちながら、門の前にあった柵に腰掛けて通行人を見ていた。

 

「……」

 

 ジロジロ見られるんだけど、なんでだろうなぁ。あんま見ないでほしい。恥ずかしいだろ。

 

 ………遅い。

 

「………………」

 

 ………あっ、チョウチョ!

 

「……………………」

 

 遅いな………なんかあったのかもしれない。様子を見に行こう。

 俺は馬屋のある方角に行くことにした。二人そろってじゃないと門の向こう側にはいけない。何か質問されたときにしゃべれない俺ではダメだからだ。

 馬屋の方角へっと。ちなみに厩ではなく馬屋であってる。馬を貸し出したり預かったりする商売をしているところだからだ。

 ところが到着しても、ライアン君はいなかった。

 

「?」

 

 人の声が聞こえた。

 俺は馬屋の建物の裏にある倉庫へと行ってみる事にした。

 

「いいじゃねぇかよぉちょっとくらい付き合ってくれてもよぉ」

「上物だぜこいつぁ」

「おっと通せんぼだ」

 

 目を潤ませたライアン君が男三人に壁際に追い込まれていた。いかついハゲ頭の体と壁に挟まれて身動きは取れない様子だった。壁ドンってやつだ。

 もしかしてそっち系の趣味なのかな? だってライアンは男だぜ?

 

「なあお嬢ちゃんよぉ」

 

 勘違いされたのか。確かに見た目は男とも女ともとれる幼く可憐な容姿をしてるから、おのぼりさん丸出しでうろついてたらこうもなるか。

 

「あっ、アルスティア様ぁ……助けてください……」

 

 俺のことを見つけたライアン君が、助けを求めてこちらへ涙を浮かべた顔を向けてきた。

 しゃーない。魔術ポンポン使って疲労がたまっているがこのかませくらいならなんとでもできる。

 俺は首をコキリと鳴らした。




おまけ











ライド:「なんか静かですね~(TS沼住民数)。創作界隈にはTSものが少ないしハーメルンとはえらい違いだ」
オルガ:「ああ。TS沼住民はみんなこっちに回してんのかもな」
ライド:「まっそんなのもう関係ないですけどね!」
オルガ:「上機嫌だな」
ライド:「そりゃそうですよ! みんな供給されて喜ぶし、タカキも頑張ってたし!(労基違反) 俺も頑張らないと!」
オルガ:「ああ。(そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺たちが立ち止まらないかぎり道は続く)」

キキーッ
パパパパパパッ

チャド:「ぐわっ!(霊圧消失)」
ライド:「団長? 何やってんだよ? 団長!」
オルガ:「ぐっ! うおぉ~~ッ!」

パンパンパン!

オルガ:「はぁはぁはぁ……。なんだよ、結構ランキング上位来るじゃねぇか。ふっ……」
ライド:「だ……団長……。あっ…あぁ………」
オルガ:「なんて声出してやがる……Ride on!」
ライド:「だって……だって……」
オルガ:「俺は鉄華団団長オルガ・イツカだぞ!! こんくれぇなんてこたぁねぇ!(瀕死)」
ライド:「そんな……俺なんかのために……」
オルガ:「団員を守んのは俺の仕事だ。」
ライド:「でも!」
オルガ:「いいから行くぞ。皆が待ってんだ。それに……」

(ミカ、やっと分かったんだ。俺たちには完結させるべき作品なんていらねぇ! ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く)

――――エタったら許さない。

オルガ:「ああ分かってる。」

オルガ:「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……(呪文)」

例の音楽♪

ミカ:「オルガ?」


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8.おかあさんでもおねえちゃんでもないです

「化け物か……」

「……」

 

 ふう。雑魚め。

 俺はライアン君に絡んでいた三人組の二人を一撃で投げ飛ばして最後の一人の襟を掴んで持ち上げながら壁に押し付けていた。

 この体の性能からして大男でも子供のように捻ることができるのは、最初の村の超ジャンプでなんとなくわかっていたから簡単だった。掴まれたら掴み返して投げる。蹴られたら蹴りをかわして蹴り返す。それだけでよかった。

 

「……」

 

 二度と絡むな。っていいたいけど無理なのが辛い。話せないってが地味に効いてくるよな……。

 

「華奢な見た目の癖に熊みてぇな力を出しやがる……ッ……わ、悪かったから離してくれ! ほんの出来心で……」

 

 ふーん。じゃ罰を与えてやろう。

 俺は襟首掴んだまま何もない平地へと歩いてきた。馬屋の裏手。倉庫のさらに裏。何もおいてないところだ。暴れる男を一息に突き飛ばす。面白いくらいに転がっていって、止まった。ぴくりとも動かない。まあ生きてるだろう。

 

「死んじゃったりはしてませんよね……?」

「……」

 

 後ろからついてきたライアン君が俺にしがみ付きながら言った。俺はうんうんと頷くと、ライアン君の手を握った。心配で見てられん。一緒に行動しないとな。

 

「あ、あ……なんでもないです」

 

 門のほうまでいこうぜ。視線を落とすとしどろもどろのライアン君がいた。なるほど。至近距離からまじまじと見てみると、女の子にも見える。黒い艶やかな髪の毛を後ろで結わいた褐色肌の年頃の娘、といったところか。

 ということで、俺はライアン君と手を繋いで門までやってきた。守衛の兵士がつめている。全員を止めて確認しているというわけではなく、大荷物を持っている商人や、武器を帯びた兵士、あとは適当に気分で止めて確認しているようだった。

 ライアン君が盾と剣を持っている。止められるだろうな。

 

「そこのお前、止まれ。そう、獣人のお前だ。そっちの女もだ」

 

 ほらね? 俺はライアンに目配せをした。

 あと女じゃなくて中身は野郎です。

 

「………」

「あ、あの、僕たちはエド村からやってきた者です。村の防衛に関して領主様にお伝えしたいことがありまして……」

 

 あからさまに胡散臭い目を向けてくる兵士のおっさん。ていうかエド村って言うのね、あの村。

 ライアン君が俺を見た。

 

「こちらの方が村長です」

「……。………!?」

 

 えっ? いつの間に村長に格上げしてたの俺?

 俺が疑問符を頭の上に浮かべたのをライアン君がなんと思ったのか、眉間に皺を寄せて頷いてきた。

 なるほど。使者じゃ胡散臭いから俺を村長と言うことにして進行するわけか。いいだろう。

 

「村長はつい最近就いたばかりでして………あ、あと、言葉が喋れないのです。病気で!」

「……」

 

 ほう、いいぞ続けろ。

 

「ならばなぜお前は村長の言葉がわかるのだ?」

 

 そうら突っ込んできたぞ。

 

「喋ることが出来ない人の言葉を聞き取る古いまじないが僕たちの村には伝わってまして、村長が何を喋っているのかがわかるんです。ぼ、僕は小さいころから訓練されてますので、村長のお付きとして一緒についてきました!」

 

 一息に捲くし立てるライアン君。嘘がへたっぴだね。挙動不審にも程がある。

 兵士がライアン君を見て、俺を見て、それからもう一度ライアン君を見て、手元の地図を暫く見ていた。ドキドキするな。多分俺たちの目的なんてどうでもよくて、地図にエド村があるかどうかを調べるほうが大切なんだろう。

 

「入っていいが問題を起こすんじゃないぞ」

「ありがとうございます! あ、そうだ……どこに行けば領主様に……」

「領主様は忙しい。お前たちみたいなのには会わない。だがもし村の守りについて話をしたいならば街の衛兵詰め所に行くといい。忠告しておくがこの街はのほほんとしてるがお前さんたちみたいなべっぴんはちょっかいをかけられるぞ」

 

 俺たちは会釈して門を通った。

 

「べっぴん……? まさか僕、また女の子と思われているんでしょうか……アルスティア様、そんなに僕女の子に見えますか?」

 

 ライアン君に聞かれた俺はウンウンと頷いてみせたのだった。

 

「………それなら上脱いでおこうかな……」

 

 ライアン君が俯いてぶつぶつなにやら呟きなさる。

 ……違う意味でウケると思うけど面白そうだから言わないでおこう。いや言えないんだった。

 

 

 

 

「疲れましたね……」

 

 そうだね。俺たち二人は噴水のある広場で一休みしていた。

 噴水の石組みに腰掛けてあたりを見ながらのんびりしていたわけだ。

 何しろここまでくるのにモンスターに襲われたりゴロツキに絡まれたりで全身クタクタである。村からは交渉が長引くことを想定してそれなりに滞在できるお金を貰っている。もし野宿でも、ライアン君のサバイバル技術なら野営くらいはできるだろう。とはいっても、余り長引かせるわけにも行かない。村がいつ襲撃を受けるかもわからないのだ。

 とはいえ、疲れているのも事実。偉い人に話をつけてそれから宿を確保し、までやれる気がしない。

 休んでからでも遅くはないかもしれない。

 

「アルスティアさま、どうしましょう。衛兵詰め所を探さないといけませんよね。もし疲れているなら先にお宿を探しましょうか」

 

 君はどうしたい? と聞きたいが伝わらない悲しみ。休んでからでも問題なかろう。

 俺が頷くとライアン君も頷いた。

 

 

 

 

 銀の天秤なる名前のお宿についた。宿というより飲み屋に宿がついてる作りで、一階は飲み食いできる場所になっていて、二階が宿になっていた。

 人間もいればエルフもいる。獣人もいる。リザードマンもいる。足の複数生えた蜘蛛のような人?もいる。多種多様すぎて、金髪長身の俺が目立たないのではないかと思ったくらいだ。

 獣人は差別されているらしい。するとほかの種族も差別されて当然のはずだが……あるいは、一応国民としては認めているが扱いとして不利があったり、移動に制限がかかったり、ということなのかもしれない。事実獣人の村はまともに兵士を送ってもらえない云々村民が話していたわけで。

 しかし人が多いな、この酒場。単純に人数が多いのもあるが、視線を遮る要因も多い。やけに大きい人とか。足が多い人とか。飛んでる人とか。

 ライアン君がきょろきょろしていた。

 

「こんなに人がたくさんいるなんて……カウンターはどこでしょう?」

 

 人が多すぎてカウンターが見えないらしい。蜘蛛の下半身のお姉さんのスカートのせいもある。ライアン君の背丈だと前が見えないだろうな。俺には見えたが。

 俺はライアン君の手を引いてカウンターらしき台へ行った。

 

「っしゃーい」

 

 やる気のなさそうな返事がした。口に爪楊枝を咥えたエルフのお姉さんが出迎えてくれた。バンダナを巻いてエプロンつけて、机に肘ついて暇そうにしていた。金色の髪の毛を肩で切りそろえて両側に編みこみの小さいお下げか。目が死んでいなければ美人なんだが、と思わせた。

 

「……泊まり? 呑み?」

「え?」

「だから泊まるの? 呑みなの? 世間話してるほど暇じゃねーんだよ」

 

 おお口が悪い口が悪い。ライアン君がびびってしまっていた。俺はどうしたものかと考えた。何せ喋れないからな。

 

「でそっちのヒトはお母さんかなにか?」

「ち、違います!」

「お母さんでも姉さんでも飼い主でも春売りでもなんでもいいけど泊まるの呑みなのどっちなのどっちもなの前払いね値引きツケなし誤魔化したり血が出る喧嘩やったら川に沈めるぞ」

「ひぃっ」

「はー……おのぼりさんの相手は疲れるなあ。オラ記帳して金払え。何泊? 決めてないならそう書け」

 

 やる気がなさそうなくせに早口で捲くし立ててくる。肘をついたまま微動だにせず。その早口分のやる気をスマイルに使ってほしい。

 ライアン君がおどおどしながら旅台帳に記入する間、酒場を観察してみた。

 ビール(エールか?)を飲み交わす旅人たち。何やら銀細工らしきものを机に並べて商談する男。酔った男女がふらりと扉から出て行ったかと思えば、疲れ切った顔の一団が入ってくる。

 おあぁぁぁぁぁぁぁっ! ファンタジーな世界って感じがする! こう、イノシシが突っ込んでくるようなダークじゃなくてライトな感じの!

 

「部屋は一つね。ンだよその顔。二部屋分払えるの?」

「それは……」

「今込み合ってるから高いよ。いくらもってる? ……あーこれしかないの? 決まりな。これ鍵。出入り自由。部屋の備品は使ってもらって構わないけど汚したり壊したら弁償な。あとうるさくするな。特に夜」

 

俺が興奮しながら酒場を見ていた間に話が終わったらしい。ライアン君が鍵を握り締めながら戻ってきた。どうしたん? ん?

 

「アルスティアさまぁ……おんなじ部屋に泊まるみたいです……」

 

 ふーん……。そっかぁ……。

 え? ま、まあ同じ部屋でもいいっしょ。それくらい想定内です。

 俺は鍵を受け取ると階段を上がって部屋に直行した。扉を開けて理解した。ベッドの数が合わないことを。そりゃそうだ。部屋にドンとベッドが一つ。これは………男女が泊まることを想定した部屋! しかも男女関係にある男女を想定している……!

 俺はため息を吐いた。あの店番に問い詰めるべきか、問い詰めないでおくか、それが問題だ。




おまけ









『男の娘』絶許案件
・骨格が女性そのもの
・へその位置が女
・途中で女体化し始める
・男の娘に見せかけて実は女でした幸村野郎案件
 ほならね? 凛々しいたまえ口調とかのクール系キャラがふとした拍子に実は女であることがわかってしまったりして、『すまないが黙っていてくれないか』から始まるロマンスのほうがずっとキュンキュン心臓に来るってもんでしょ? 私はそう思いますけどね ISのシャルとかいまだと実は男の娘のままで進行したほうがウケがいいと思うしそういう二次創作を求めているので読みたいしみんなも書いてほしい


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9.詳しく描写するには余白が少なすぎる夜イベ

 夜。俺とライアン君は一緒のベッドに寝ていた。

 幸いベッドは大きかったので二人でくっつく必要もなかったが、布団が一つしかないので一緒に入っていたわけだ。

 

「………」

 

 眠れない。いやだって隣にあれよ誰か寝てるってどうよ!? 眠れないでしょ!

 親兄弟ならまだしも知り合って日の浅い男の子が寝てるんやぞ!

 

「………ちょ、ちょっと、僕お手洗いに行ってきますね!! すぐに戻ってきますから!」

 

 妙に元気良く布団を払ってライアン君がベッドから飛び出した。ちなみに彼、寝るときはナイトキャップをかぶる派だった。そういうところが可愛らしいと思います。

 俺は彼が出て行ったので、広い布団を満喫することができた。

 天井を見つめてぼーっと眠気を待つ。

 しかし、こなかった。

 そしてライアン君も戻ってこない。そんなにトイレが遠い場所にあるのか?

 

「………」

 

 ウーン眠れない。夜酒でも引っ掛けようかなあ。というか飲み屋やってるのだろうか。

 俺はいつまでたっても戻ってこないライアン君を探す意味でも、部屋の外に行ってみることにした。案の定というか廊下には誰もいないし、酒屋は酔いつぶれた旅人が数人突っ伏してあるいは床で寝ているだけだった。

 

「………」

 

 ライアン君がおらん。一階へと降りてきたがいなかった。辺りが暗すぎてよく見えない。俺は酒屋(飲み場というべきか?)の机に放置されていたカンテラを拝借した。

 トイレは一階奥にある。俺は素足をぺたぺたさせながら歩いていった。床がさぶい。靴くらい履いてくればよかった。

 で、女子トイレを覗いてみる。誰もいない。男子トイレをって、ちょっとまて今の俺の体は女性なわけで……まぁ、いっか。覗いてみる。こういう飲み屋のトイレってなんというかオブラートに包みまくると手入れが行き届かないんだなぁと言う絵があった。ライアン君はやっぱりいない。

 俺が諦めて二階に戻る。暗がりにカンテラをかざしてみると――いた。何やら違う旅人の部屋の扉前にぴったりと張り付いておられる。

 何をしてるんだろう。カンテラの覆いを閉じて暗闇を確保して背後に忍び寄ってみた。

 

「―――声、でちゃう……」

「出せよ、もっと聞かせて」

「ッん~~~~……」

 

 oh...これは……。

 扉の奥から聞こえてきたのはくぐもった嬌声でした。旅は開放的になるって言うしな! やりたくなるよな!!

 

「………」

 

 ドキマギしながら屈んで音を聞いているライアン君。耳がピクンピクン跳ねまくってるわ尻尾は左右に揺れてるわ! このマセガキめ。可愛い顔して興味はあるのな。

 俺は思わず揺れている尻尾を握ってしまった。

 

「ひぎゅぅぅっ!? むぐっ!?」

 

 大声を上げそうになるライアン君。やめろ! 咄嗟に口を塞いで声を封じ込めて、そのまま俺たちの部屋まで連行する。

 扉を閉めてベッドに投げ転がす。

 

「ごめんなさい……」

 

 ライアン君が目に涙をためて謝罪の言葉をかけてくる。い、いや、悪いことじゃないんだよ。キミが大声を出すからいけないのだよ。

 

「なんだか体が熱くてむずむずして……」

 

 ……ん?

 

「お、おかしいですよね、こんな………アルスティア様を見てると胸がどきどきして……」

 

 あー。なるほど。

 

「どうしたらいいんでしょう……?」

 

 無知シチュかぁ……………まったくの無知じゃないんだろうが、もしかするともしかするのかもしれないね。

 上目遣いで胸を押さえてそんなことを言うライアン君。年齢いくつか知らんがそういうのに目覚めてそうで目覚めてなくてというか知識がないのかもしれんな。こういうのは父親から教わったり同級生から教えてもらったりするものだが、村の子供が少ないあたり友達を作ろうにもいなかったのか? 父親もいないし。

 ど、どうしまひょ? いやでもワイ言葉喋れへんし……ここは穏便にいきまっしゃろ……。

 脳内の思考がおかしくなりかけたので頭を振ると、ライアン君の横に座る――前に、部屋のドアに鍵をかける。戸締りは大切。聖書にも書いてある。

 寝かしつけてしまおうか……うーん……。

 しゃーない。人生の先輩としての教育をしてやろう。他意はない。

 俺は無言でライアン君の頭を撫でると、胸元のボタンを一つはずした。

 

 

 

 

 

 

 市民諸君、朝である。

 朝食を食う。これがうまいのだ。焼きたてのパンに目玉焼きにベーコン。コーンスープ(と思うがコーンにしては硬いと思う)。

 

「あの姉ちゃん美人だなァ……」

「でもよあの量食うって胃袋どうなってんだ」

「声かけてこいよ」

 

 何か俺の噂をほかの旅人たちがしているが、気にしないぜ。エド村のメシもうまかったが、ここのメシもうまいな。あの態度の悪いエルフの姉ちゃんが作ってるのだろうか。まさかな。あの嫁ぎ遅れてそうなやつに限って料理がうまいはずがない。

 

「何か悪口を言われた気がした……てめーなにやってやがる食器割りやがってよォ! ぶっとばされてーかよ!」

 

 バンダナを頭に巻いたエプロンのエルフ姉さんが俺の横を通った。どこかで食器が割れる音がすると袖を捲って走っていった。エプロンに料理汚れをくっつけていたあたり料理も作っているのだろう。はー、人は見かけによらぬものだな。

 あの姉さん何者なんだろうね。店員さんにしてはやけに態度がでかいし、もしかして経営者かもしれん。

 

「おはようございます……」

 

 疲れた様子のライアン君が目を擦りながら階段を下りてきた。疲れすぎてないか?

 この構図……階段の下に食堂……談話室………サスペンスが起きそうな気配がするな! 起きないけど!

 

「あっ……」

 

 ライアン君ったら髪の毛ボッサボサのまま寝巻き姿で降りてきたものだから、俺は口元がにやけるかと思ったくらいだった。にやけてほしいのににやけなかったが。

 俺を見るなり顔を背けるライアン君。足元に地雷でも埋まってるのではという慎重さで俺が朝食を広げている机にやってきて、恐る恐る椅子に座る。

 何もとって食ったりしないよ。君も食べたまえ。

 俺がライアン君の分の朝食を指差すと、おずおずと食べ始めた。

 

「……」

「あ、あの」

「?」

「なんでもないです……昨日は……あの……」

 

 ひじょうにやりにくい。

 目線落としてチラチラ見てくるわ目を合わせようとすると俯くわで。

 

「きょ、今日は衛兵の詰め所に行くんですよね!」

 

 急に話題を変えるライアン君。赤らんだ顔を上げて俺の方を見てくる。

 その通りだと俺はコクンと頷いた。一日休んで体力は回復したし、詰め所に行って村の守りを強化してもらえないかを頼むのだ。それにて一件落着。二人で帰って村の復興でもやればいい。

 でもその前に食わないとダメだぞ。俺はチマチマと食事を開始するライアン君をよそに、食後の茶を嗜みつつあたりを見ていたのだった。












おまけ

「メス墜ち(落ち)」
 男の娘がガンガン責められて自分はメスなんだオスじゃないんだって快楽墜ちする意味や、TSした元男キャラが女として可愛がられたり男にドキッとして女になるのもわるくないかなって思ったりする意味があるらしい。TSして女になったらレズに攻められてメス墜ちというのも大変興味深いし、最近そんな感じの作品(オリジナル)がハーメルンで連載開始したのでみんなも読めばいいと思う。

「無自覚イケメンムーブ」
TSしたキャラが元男特有の無自覚な男気溢れる行為をすること。俺男だからと女性キャラを守るために悪いやつらに立ち向かったりしろ
 ところでアズレンのクリーブランド兄貴姉貴TSした元男説というのはどうでしょう? 「女の子なんだぞ……っ」っていうのを「今は女の子なんだから女の子として扱ってほしい」という元男のTS娘のセリフとして変換すると非常に萌える


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10.伊達男

(銃を構えながら)アルトじゃねぇか……。


 衛兵詰め所。

 衛兵ってなにかと思っていたがようは警察である。でかい国にいくつもの小さい国が入っていて、その小さい国の王が領主。という認識でいいのかな?

 俺とライアン君は、朝食を食べてから宿を出た。で、衛兵詰め所とやらに来たのだ。領主の城にあるのかて思いきや普通に街中にあった。

 衛兵に話を通して任務完了!

 のはずだった。

 

「ダメだ帰れ帰れ!」

「で、でも!」

「俺たちはそこまで暇じゃないんだ出て行け!」

「そんな! 話を聞いて……うわっ!?」

 

 相手にされずドアから外に押し出されるライアン君――を、俺が地面に叩きつけられる前に抱きとめた。

 彼は必死に説明してくれたのだ。村がモンスターに襲われていること。死者が出ていること。村長は獣人ではなく、人間(つまり俺だ)になったこと。だから守ってほしいこと。衛兵をまとめている衛兵隊長とやらが出てきて話を聞くだけ聞いて裏に引っ込んでいくと、下っ端連中が出てきて俺らを建物から追い出したのだ。

 抵抗しようと思えばできた。この体の怪力を使えば建物諸共全員生き埋めにだってできただろうが、そんなことをすればお尋ねものになってしまう。

 ひどい話だ。村がなくなってしまうかもというのに、こいつらは手助けすらしようとしてくれない。獣人への差別が――というよりも、辺境の村などどうでもよいと思っているに違いない。

 

「お願いします! 僕の大切な故郷がなくなってしまうかもしれないんです!!」

 

 俺の腕から抜け出して必死に衛兵の男にすがり付こうとするライアン君。俺も頭を下げてみたが、男はしっしと手を振るだけで相手にもしてくれない。

 

「まあそこのねーちゃんが服脱いで踊るってんなら考えてもいいがな!」

「おっいいねぇ!」

 

 ゲスな笑いをしつつ指差してこられると、こう、頭にきちまうぜ! やんのか? あぁん?

 俺が男たちを無表情で睨みつけていると、先頭の男が怯えたような表情を浮かべた。ケッ! チキンめ!

 揉め事をしたらいけないと分かっていても、つい拳を構えたくなる。落ち着け。

 

「~~~!!」

 

 ライアン君が声にならない怒りの吐息を吐く。なんだ、男らしい顔もできるんじゃないか。でもだめだ。手を出せば俺たちは公権力に逆らったお尋ねものだ。

 俺は震えるライアン君を抱えるようにすると、衛兵詰め所を後にした。

 

 

 

 

「アルスティア様……どうすればいいんでしょう……? もっとおっきいお城に行って頼めば村を守ってくれるでしょうか……?」

 

 途方に暮れるとはこのことだ。

 俺たち二人は昨日休憩をとっていた広場へやってきていた。二人そろって噴水に腰掛けて、ぼーっと周囲を見回しながら時間を潰す。潰してる場合じゃないのは十分承知してるさ。

 ライアン君の提案に、俺は首を振った。あの様子じゃまず門前払いを食らうことは間違いない。領主としての方針なのか組織が腐敗しているのかはわからないが……辺境の村なんでどうでもいい、ということなんだろうなあ。

 金の力で買収。金がない。帰ってもエド村にそんな役人を買収できる大金があるとは思えん。

 騙して派遣させる。どうやって? ライアン君がそこまで話術に長けているとは思えん。

 俺が無双する。だからできるけどMP切れしたらどうするんだって話だろ!

 村を移転する。現実的かもしれんな。問題はどうやって移転するのって話だな。俺がでかい台車か何かを引っ張るとか? それか俺がモンスター見張ってる間に村人総出で? で、別の土地代はどう工面する?

 最大の問題がどうやってライアン君にそれを伝えるかだ。

 

「どうすればいいんでしょう?」

「……」

 

 よし、ジェスチャーだ! 村! 村……? 村をジェスチャーで……?? よ、よーし! やってやるぜ!

 俺がワタワタと手を動かしていると、ライアン君は熱心にこっちを見てきた。村を、移そう!

 

「……ごめんなさい……わからないです……」

「……」

 

 わからなかったらしい。悲しそうに首を振るライアン君。ごめんね……お姉さんの技術じゃ伝わらなかったよ……。お姉さんじゃねーやお兄さんだ。

 俺がじゃあ紙にでも書くか、あ紙もペンもねーや地面にってここ石畳じゃん、などと時間を浪費していると、サッと影が差した。

 

「失礼ながらお嬢さん方。もしかして衛兵がらみで何か問題がおありかな?」

 

 俺たちが視線を上げてみると、軽量甲冑を着込んだ旅人らしい姿が覗き込んできていた。金色の髪の毛を短く切りそろえた青い瞳の美形の男だった。ふ、ふーん。前世の俺のほうがかっこいいもんね。

 しっかし、なんて胡散臭い声なんだ。いい声なんだけど途中で裏切りそうな声をしている。

 その男はライアン君を女の子と思ったらしい。ライアン君がもそもそと違いますと呟いたが小さすぎて男には届かなかったみたいだった。

 

「そうですけど……」

「あの衛兵たちは金がかかることはしたがらない。領主からのお達しでね、君たちのような地方出身者の声で動くことはないだろう。申し遅れたがアルト=アルムというものだ。以後お見知りおきを」

 

 俺は握手をするつもりで腰を上げて、手を出した。手をとったアルト――伊達男は俺の手をとると身をかがめて口づけをする。

 

「!?」

 

 驚いた俺は手を引いてのけぞった。

 

「ああ、失敬。私の故郷では女性に対してこう挨拶をするもので。お気に障ったようなら謝罪します」

 

 バカかよてめーはよ! 何笑ってんの!!

 ビンタかましたろうかな? ドキドキさせやがる。まあいいさ。

 ゴホンとライアン君が咳払いをしながら間に入る。腕を組み、胸を精一杯張って壁になってくれる。おお、男の子男の子してるな。

 

「失礼ですが! せい……アルスティア村長は言葉が話せませんので代わりに僕が! ライアン=ティールズが話しますから!」

 

 聖女様といいかけてやめた。えらいぞ。初対面の他人に聖女様ですと説明してもわからんからな。

 そういやファミリーネーム聞いてなかったけどティールズっていうのか。覚えておこう。

 

「随分と可愛い騎士ちゃんだね」

「ちゃんじゃありません君です!」

「……これは失礼を。それで君たちはなにをしたいのかな。もし衛兵の手助けが必要なら、金を握らせるのが一番だ。もし金がないなら稼がなくてはならない。あてはあるのかね?」

「ないですけど………あなたの手助けはいらないです!」

 

 ん? 何で怒ってるんだろうライアン君。せっかく声をかけてきてくれたんだから助けてもらったほうがよくないか。

 俺は妙に食って掛かるライアン君の肩に手を置くと、引き寄せて口を塞ぎがてら腕で包み込む。

 

「元気が良くて結構。稼ぐならば日雇いの護衛任務がお勧めかな。と言ってもあなたのような麗しい女性には似合わない血と泥塗れの仕事になるが………」

 

 あ、そういうの得意です。

 俺が何か言いたそうにしていると、伊達男は軽く一礼をした。

 

「ほかに人を待たせているので失礼するよ。また機会があったら是非お茶でも」

 

 伊達男がにこやかな笑みとともに去っていく。よくもまあ、あんな歯の浮くようなセリフをスラスラと出せるもんだ。

 金で買収ね。いくら渡せばいいのか分からんが仕事をするしかないというのか。

 

「アルスティア様、仕事を探す前に手紙を村に送りましょう。もう少しかかるって、みんなに教えてあげないと」

 

 俺はこくんと頷くと、ライアン君が歩き始めたのについていくことにした。郵便局みたいな施設でもあるんだろうな。俺にはさっぱりわからんが。元の世界の郵便局マークがあるとは思えんし。

 早いところ連絡して、それから行動開始だ。手をこまねいていたらモンスター襲撃しに来るかもわからんし。

 仕事ってどこで探すんだろうね。まずはそこからだな。俺は話を聞けそうな人がいないか辺りを探すところからはじめたのだった。




おまけ

Q.ライアン君の見た目はどんな感じ?
A.話題のカスタムキャストで作ってみた
https://twitter.com/DSnohito/status/1062380037326823424

みんなも男の娘っぽいのを作って(はーと)
作れ(豹変)


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11.ギルド(酒場)

 ここがあの女の……じゃなくてギルド? というやつか。

 衛兵の説得に見事失敗した俺たちは手紙を出してから仕事を求めてギルド? へとやってきていた。冒険者ギルド――という名前ではなくて、普通に酒場と呼ばれていた。元は地主で酒場を経営している男が始めた情報交換の場がいつの間にか仕事斡旋事業へと発展して、傭兵の仲介やら雑務募集やら貴重品取引やらの場になったらしい。

 ちなみにエド村に手紙を出すのにオオトリなるものを使うらしい。オオトリ。ワイバーンではないらしいが……早くとも数時間で届くらしいので飛べることは確かだと思う。

 古めかしい木造作りの建物に入ると、まず猛烈に煙いことに気がつく。煙草を吹かした男たちが机を囲んで談笑している。大人の女と、獣人の子供の二人組み。目立つかと思いきや蜘蛛足やら馬の下半身やらやけに身長の低い人やらが大勢いるせいでまったく目立たなかった

 と思ったのだが、入るなりジロジロと見られる。そこの男、露骨におっぱいを見るなよ。へへへじゃないぞ殺すぞ。

 殺意をばら撒いてる場合じゃない。

 

「仕事を探しましょう……ここかなぁ」

 

 ライアン君が入るなり建物中央にある巨大な柱のような場所を指差した。柱の周りに掲示板と、無数の紙切れが貼ってある。武器を持った男女がそれを指差している。

 フーン。俺は紙を一枚手にとってみた。報酬が高いといいなあ。簡単で時間のかからないやつ。

 

「………」

 

 読めませんでした。仕方がないのでライアン君に渡す。

 

「えーっと………お屋敷で…………ひ、ひとばんじゅう……お酒を飲みながら楽しみましょう………見た目麗しい男か女年齢不問! ……なにを、とは書いてないですけど、これって」

 

 せやな。

 顔を赤くしてこっちを見てくるライアン君。なあに? やってみたいの? 一人でできるの?

 ライアン君は俺が首を傾げると紙を慌てて戻した。別の紙をとって俯きながら読み始める。耳がピクンピクンしていてつい触りたくなるが我慢した。

 

「これは! これは……ダメです! こっちのも……う、うーん報酬が……」

 

 何枚も紙を剥がしては読む、剥がしては読む、顔を赤くしたり首を捻ったり、俺を見たり、周囲を見たりするライアン君。そのつど首を傾げて内容を教えてくれるようにしているけど、教えてくれる時と教えてくれないときがあった。

 ああでもないこうでもないした挙句一枚の紙を取った。文字は読めないがわかった。独特な味のあるドラゴンの絵が描いてあった。

 

「これなんてどうでしょう。ドラゴン狩ですって」

「……」

 

 いや、あの、それはちょっと……倒せるか不明というか、リスクがでかすぎるのでは? 貼り付けた相手も依頼がこんな場所で見つかるとは思ってないのだろう、紙が古くてボロボロで、今にもちぎれてしまいそうだった。

 俺が首を振ると、頭の上からはらりと一枚の紙が落ちてきた。床に落ちる前にキャッチして広げてみる。やっぱりわからないのでライアン君に渡してみた。

 

「救済院の……病人と怪我人の治療。より高位の治療魔術が使用できるものを募集しています。救済院院長アイル=アルム………まさかですけど、あのヒトの親族でしょうか」

 

 あのヒト。ライアン君が不機嫌そうに読み上げる。妬いてるのかい?

 アルムといえば、あの金髪青目の伊達男のファミリーネームだろう。このあたりに住んでいるとするとその可能性は大いにあるし、知り合いと言うことにすれば話がするりと通るかもしれない。

 俺はその紙を受け取ると、頷いたのだった。

 

 

 

 救済院とやらは街の外れの小高い丘の上にあった。ホーリーシンボルらしい丸を掲げた石造りの頑丈そうな建物があって、あたりには花畑が広がっている。墓石こそないが、なんとなく墓場と教会の組み合わせを思わせた。

 その正面玄関らしき石段に白い服をまとった金色の髪の毛を両側で編んだ女の子が腰掛けていた。金髪率高いな。なんのこっちゃ。

 

「どちらさま?」

「酒場の依頼をみてきました。僕はライアン。こちらの方がエド村村長のアルスティア様です!」

 

 女の子が気だるそうに聞いてきた。疲れきった顔をしていたけど、もともとの顔がこの世に疲れたような死んだ目をしている。

 

「まさか本当に来るとは……」

「え?」

「こちらの話です。治療魔術の使える魔術師を募集していましたが、あなた方はその類で?」

 

 類てお前。まあ、詐欺師か何かと思われてるんだろうな

 俺が何か言いたそうにしているのを悟ったのか、ライアン君が胸を張る。

 

「そうです。どんな病気、怪我でも任せてください。報酬は期待してもいいんですよね?」

「エド村……? 聞いたことがない村ですね。まあ、構いませんよ。治せるなら」

 

 女の子が立ち上がった。見れば見るほど元の世界の修道服に似ている。傍らに杖を抱えているけど、魔術用なんだろうか。

 

「私の名前はアイル=アルム。特に覚えてもらう必要はないです」

 

 ……冷たいなあ。まあ、ビジネスライクでいいと思うぜ。

 俺たち二人はトコトコと中に入っていく修道女もとい院長についていった。院長といってるけど年齢はライアン君とどっこいどっこいである。

 中に入った。正面に丸のホーリーシンボルとステンドグラス。長いすの代わりにベッドが並んでいて、まるで元の世界の教会そのものだった。

 アイルの言ってる意味がわかった。お年寄り。意識がない寝たきり。両手足を失った女性。全身得体の知れない病に冒され苦しむ人……。救済院の意味が分かった。救済されない人の最期を看取る場所なのではないか?

 

「治せれば報酬はお支払いしますし、できないならば帰っていただきます」

「………」

 

 そっか。じゃ、俺の実力を見せ付けてやろう。俺は半そでの服をさらに捲って、おもむろに一番近いところで寝ている人の子の治療にかかった。腰布と胸元の布以外はほぼ全裸で寝ていていた。全身の色がおかしい。青を通り越して白に近い。呼吸も瀕死のそれだった。

 

「金のなさのため身売りされてとある金持ちに拾われた子ですね。毒見役をさせられていたそうですが、毒にあたったそうで。内臓が壊れてしまい普通のポーションや魔術では一切受け付けず、手の施しようがなく……数ヶ月間意識も戻らないままです。何をしているのですか?」

「?」

「首に手をあててなにをすると?」

「……」

 

 アイルが横に立って解説してくれる。俺はおもむろに脈をはかっていた。うむ、わからん。

 

「……」

 

 ライアン君が固唾を飲んでみている。

 俺はいつものように横に膝立ちになって、両手に意識を集中した。暖かい光が手に宿って、その男の子へとかかっていく。十秒もかからなかった。健康的な肌を取り戻した男の子がうめき声を上げて目を開いたのだから。

 

「ここは……」

「信じられません。あなたは一体何者なのですか?」

 

 目を大きく見開いて俺を覗き込むアイルに、ライアン君がまるで我がことのように声を張り上げた。

 

「聖女様ですっ!」

 

 

 

 

 

 それから俺は一日かけて救済院の患者を治して回った。全員は無理だったが、治せるだけは治した。

 

「ここにいるのは“手遅れ”の患者です。奥の別棟には手遅れではない普通の患者もいます。ここの間の患者が終わり次第そちらもお願いできますか?」

「聖女様、どうしますか?」

 

 無理っす。俺が首を振ると、ライアン君が頷き返してくれた。

 

「今日は休ませてください。また明日、治しますので」

「その聖女様というのは文字通りの意味なのですか?」

 

 俺はクタクタになっていた。何人治したのかわからないが、二十人以上はやったと思う。まさか腕のなくなってる人にかけたら腕が生えてきたのは驚いたが、実力試しにはよかったと思う。

 

「えーっと、そうです」

「失われた肢体を元通りにし、不治の病を祓うことができるとは……………その、エド村? の聖女ということですか?」

「え? あ、そ、そうです」

 

 御伽噺に登場する聖女様と同じようなワザが使えるから聖女と呼んでますとはいえないライアン君。アイルの冷たい瞳に見つめられてしどろもどろになっていた。

 

「…………ふむ。なるほど。それでは今日は部屋を用意したので、アルスティア様といいましたね、泊まってください。そちらの御付きの女の子も一緒に。では失礼」

 

 アイルがにこりともせず、部屋の鍵と場所を書いた紙切れをライアン君に押し付けて歩いていってしまう。

 

「女の子じゃありません!」

「……」

 

 ライアン君が肩を怒らせる。顔を真っ赤にしてプルプル震えているが、そういうところが女の子っぽいなと思う。まあ、元気出せよ。俺はその肩を撫でると、部屋に向かったのだった。




おまけ




Q.聖女様のビジュアルくれ
A.こんなイメージ
 ブロンド青目たわわ高身長 魔術とか使用すると全身に刺青的なアレが出る。
 聖女様と呼ばれるのに女魔王みたいなキャラデザにも見えたりする系
 170オーバー。髪の毛ブワァと広がってて欲しい。

https://twitter.com/DSnohito/status/1063073687543308289


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12.耳かき(無音)

耳を攻めろ


「……」

 

 子供ってのは元気だなと俺は思いながら、すーすーと寝息を立てる子供たちを見ていた。

 あの後、一日がかりで救済院の患者を治して回った。腕が折れてようが盲目だろうが十年前に負った傷だろうが健やかな状態に持っていける俺の治療魔術は、あまり言いふらさないほうがいいかもしれないとアイルに言われた。

 まあ、元の世界ですら魔女狩りとかやってた時代があるわけである。こっちでも似たような話があってもおかしくないし、あんまりにも能力が強すぎると治世者にとって都合が悪くなるかも……そんときゃ媚売ってやろう。外見が美女だからな、ころっといってくれると思う。

 で、治した後が大変だった。感謝感激雨あられ。子供が抱きついてくるわ、俺を神様みたいにあがめ始める人もいるわ、かと思えばこうしちゃいられないと走って出て行く人とか、ただでさえ死んだ目をしていたアイルの目がますます死んでいく有様。一日かけて、出て行く人と、残る人を選別して、というところで日が暮れたのでまた明日である。大人のほとんどが出て行った。健康なら仕事を探せるからだ。問題は、捨てられた子供たちだ。彼ら彼女らはもはや親元には帰れなかったから残留することになった。

 

『報酬については…………村に衛兵を寄越したいのでしょう? 役人には顔が利きますから、それでよろしいかと』

 

 肝心の村の守りは、どうにか手配がつきそうだった。

 と、死んだを通り越してミイラ化しそうな勢いのアイルが俺の方を見向きもせずに言ってきたのだ。なぜ役人に顔が利くのかはしらないが、出資元不明のこの救済院が実は金持ちの市民向け施設だったりするなら説明が付く。するとアイルと、アルトの家は金持ちなんだろうか。

 

「ままーおしっこー」

 

 寝ぼけ眼の女の子がベッドからふらりと起き上がると、俺の服を掴んできた。ままじゃないよ、ぱぱだよ。ほーらこっちこっち。

 手を繋いでトイレまで連れて行ってあげる。用を足す間、うろうろしてみようかと思う。なぜって、教会の裏から妙な物音がするからだ。

 

「ままー?」

「……」

「まま、ねるー」

 

 女の子がトイレから出てきた。よかった、抱えてやらないと出来ない子とかじゃなくて。俺は物音の正体を確かめるよりも前に、女の子をベッドに送らねば。

 

「ままー」

「?」

「まま、わたしのままになってくれる?」

 

 それは難しいかなぁ……言葉が出てこないので返事も出来ない。首を軽く振って布団をかけておでこにキスしてみた。すとん、と女の子は眠りに付いた。

 で、俺は“手遅れ”の患者が寝る――寝ていた、部屋を見回した。子供しか残っていない。大人は出て行ったからな。みんな寝たみたいだし、俺も寝よう。

 広間から出て自室に割り当てられている部屋に向かっていくと、木刀?をかついだ上半身裸のライアン君とばったり出くわした。水浴びをしていたにしては装備が物騒だ。

 

「あ……その………ちょっと……訓練を……」

 

 ふむ。俺が首をかしげていると、ライアン君は自分の体を隠すように胸元に腕を持ってきた。そして木刀に結んであったシャツを慌てて着る。

 

「アルスティア様はとても強くて、僕みたいな弱い人の助けなんていらないと思いますけど、それでも、いつか隣に並んでも恥じないようになりたくて……」

 

 なんてええ子なんや……。

 俺は思わず抱きつきそうになったが、ぐっとこらえて手を差し伸べるだけにした。

 掴んだ手が豆だらけだった。ふむ。あんまり詰めて訓練しちゃいけないよ。俺は手を引き寄せて赤くなった手の皮を撫でてやった。治療魔術もかけておこう。手をさらに引いて両手で包み込んで、光を直接当てる。ものの数秒で手は完治した。

 

「今日は疲れましたね………でも、これで村は大丈夫……ですよね?」

 

 俺は彼の手を取って寝室に向かうことにした。手を繋いで歩いていると、横から質問をしてきた。

 うんうん頷きつつ中に入る。ちなみにベッドは二つあるので同じ布団の中に入らなくてもよい。寝巻きは持ってないので普通の服のままで寝る。明日にでも服を貸してもらおう。

 俺がさっそく布団に入ろうとすると、なにやらライアン君が自分の耳をもそもそと弄っていた。人間と同じ位置にある耳なので、よくあるイヌミミネコミミのような頭の上にちょんと乗っかっているような感じじゃない。

 ライアン君がベッドに腰掛けたまま、後ろ結いしている髪の毛を解きつつ言った。髪を解くとますます女の子である。

 

「なんだか耳が痒くて……」

 

 そっか。じゃ、俺がやってあげよう。いややってみたかったんだよね、獣人の耳の中を見てみたくて。犬の耳って人間とは違うから面白いのだ。

 そこでかばんから耳かき棒を取り出した。村から出てくるときに女性の身支度を整える道具セットのようなものをライアン君のお母さんから貰った中に入っていたのだ。

 膝をというか腿をポンポン叩いてこっちに来るように催促をする。

 

「えっ……でも」

 

 ポンポン!

 

「自分でできますから……」

 

 ポンポン!!

 

「うぅ……」

 

 こないの? きてほしいなー。

 俺がまた腿を叩くと、おずおずとした様子でライアン君が来てベッドに座る。そのまま横に倒れればいいのに、胸元に手を置いて、上目遣いで俺をチラチラ見てくるだけで倒れてこない。

 どーんとこいや! 俺は我慢できず肩に手を置いて腿に頭を倒したのだった。

 

「耳は弱いのでやさしくお願いします……」

 

 潤んだ瞳でそう言われるといぢめたくなるぞ! しないけどな!

 ほう、どれどれ! 俺は耳の中を覗き込んだ。確かに犬の耳の中と似ている。人間のそれとは違うらしい。そっと棒を差し込んで掃除を開始。

 

「ひっ」

 

 驚かないで。こわくないよ。

 ゆーっくりゆーっくり棒を入れてゴミを掻き出す。動かないように必死でこらえているのか体がぴくぴく震えまくっていて大変可愛らしい。どれ匂いはどうかな!? ってやってしまうのは犬が好きなせいなのだ、決しておかしいことじゃないぞ!! インコ飼ってる人とかインコを口に入れるからな! 嘘じゃないぞ!

 俺が興奮していたのもあるだろうが、ライアン君の耳にもろに息をかけてしまった。

 

「ひぅ」

 

 涙目を通り越して泣いているような潤みっぷりの青い瞳がこっちを向く。ごめんね。

 ごみをとってーとってーっと。耳かき棒のゴミをふーっとして飛ばしてーって、あっごめん。また思い切り耳に息を吹きかけてしまった。

 

「………」

 

 虫の息のライアン君。俺の方を見てはいるけど、なにかぼーっとしてピントが微妙に合ってない。弄りすぎたかもしれない。

 

「あ、あるすてぃあさま……も、もうこれくらいで……」

 

 ん? 反対側あるよね? という意味を込めて自分の頭の反対側の耳を触ってみせる。

 

「はい………わかりました……」

 

 ライアン君が妙に従順になってくれる。褐色肌のせいでわかりにくいけどほっぺが真っ赤だった。

 ごろんと反対側を向けてもらう。うむ……くすぐったいな。息が下腹部にかかってくる感じがする。

 なるほど、なるほど。俺はうんうん頷きつつ耳の中を見て回った。ケモノそのものだ。匂いも。そういや尻尾も付いてたよな。ちらりと見てみる。獣人特有の穴あき服からふさふさとした尻尾が覗いていて、ぶんぶん左右に揺れていた。嬉しいらしい。

 ゴミ取り完了。俺は棒を抜くと、目を閉じかかっているライアン君のおでこにかかっていた髪の毛を指で梳いた。

 

「おわりですか……?」

「……」

 

 俺はこくりと頷くと、ライアン君を起こしてやった。

 

「すっきりしました……ありがとうございます」

 

 じゃあ寝ようか。俺は棒を鞄に戻すと、さっそく布団を捲り始めた。

 

「寝られるかな………」

 

 ぶつぶつぶつ。独り言を呟いているライアン君を尻目に、布団にもぐりこむ。

 

「おやすみなさい、また明日も……」

 

 うむ。おやすみ。俺はライアン君がいそいそとカンテラを消しに行ったのを見ながら目を閉じた。












おまけ

『耳かきもの』
某サイトで一大ブームを巻き起こして他サイトにも波及しつつあるジャンル。かわいい女の子に耳かきされようねーっていう流れ。耳元でいい感じのヴォイスが聞こえていることに興奮を覚えたりしろ。

『催眠音声』
↑の大本と思われるジャンル。催眠術をかけて(本当にかかるかは知らない)エッッッな展開を楽しもうねというジャンル。鼻声ばっかじゃねぇかお前んちィ! こりない子だねぇ!
 悲しいかな聖女様は今のところしゃべることが出来ないので吐息オンリーです。

『インコ』
口に入れろ! 匂いをかぐんだ! という意味を理解している人はインコ風味アイスもご賞味しろ。


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13.聖女様っぽい服

次回はいちゃいちゃさせたい


 翌日、アイルに白い修道着を貰った。神官服かな。しかし、デザインが若干アイルとは違う。白に金の刺繍をあしらった上等な代物で、ブーツからなにからそのへんには落ちてないだろう高そうなものだった。着心地は最高だ。ライアン君のお母さんの服はきつくてな。その、上半身が。いや下半身もちょっと。

 俺は鏡を前にしていた。後ろにはアイルがいる。

 

「やはりちょうどよいようですね。なぜこんなによいものをくれたのかという顔をしている」

「…………」

 

 あれ? 俺なんも言ってないのになんでわかるん? 俺は慌てて鏡を見てみたが無表情だった。

 

「わかるんですか?」

「わかりませんよ。これくらいの推測は誰でもできます。昨日は目立つなといいましたね、提案になりますが目立つほうがよいのでは?」

 

 ふむ? 俺は隣にいるライアン君を見てみた。よくわかってない顔をしていた。俺もわかってないよ。

 

「理由としてはいくつかありますが、村を守りたいなら衛兵を置くだけでは不十分です。モンスター相手にはただの農民上がりの衛兵では大して役に立たない。あなたがその力を示せば、あなたの出身地である村を守りたい権力者も出てくるでしょう」

 

 服をもらう前にこれまでの経緯は全て説明してあったおかげかアドバイスをしてくれた。

 なるほど……理に適っている。あのでかいイノシシ以上のが来たら衛兵で守りきれないだろうしな。

 

「それに、私が提案しなくても……」

 

 そこでライアン君が耳をピクピクさせた。

 

「誰か来ます。たくさんの足音がします」

 

 流石は獣人の子だ。耳がいい。何かが来るらしい。

 俺は正面玄関へとライアン君とアイルを引き連れて向かって行った。

 

「どうか私の子もお助けください!」

「俺のカカアを治してやってくれ!」

「お願いします! どうか私の父を救ってください!」

「あなたのお力をお貸しください!」

 

 人、人、人。人の群れが救済院前玄関に押しかけていた。貧乏人だろうなという印象を受ける。服がぼろい布服とボロサンダルばっかだからだな! ……まあ、俺の今の手持ちもほぼゼロだから似たようなモンだな!

 俺たちが扉を開けるや否や、どっと人が押し寄せてきた。

 

「あらまあまあ」

 

 なんて白々しいことを言いながらアイルが下がっていく。ここですっとぼけるなり、さっさと奥に引っ込むなりすればよかったんだと思う。目立ちたくないし。今のところは。

 

「聖女様……どうしましょう……?」

 

 ライアン君が俺の服の裾を掴んで上目遣いで見てくる。この瞳には勝てねぇよ……。

 おーしやったろうじゃないかよ!

 俺が大衆を宥めるために前に出た。すると海を割るように人がさっとどいた。一斉に俺の足元にすがる様にして座り込む。

 ……えっ、なにこれ。なにこのくすぐったい展開はよ。いいぜ、腹くくって聖女ムーブだ!

 で、俺が神々しい光でも放ってみようとか思った矢先に、人ごみ掻き分けてあの伊達男が現れた。アルト=アルム氏だな。現れただけでライアン君がむっとした表情を浮かべる。ステイ、ステイ、抑えろ抑えろ。ゴーというまで待て。

 

「諸君、落ち着きたまえ。ああ、アルスティア様。ここはおまかせを」

 

 胡散臭いウィンク一つ、くれました。うむ……チェンジで。

 

「諸君も知っての通りこのお方はこの救済院の患者全員を救うために注力したのだ。現在は疲れきっておられる。申し訳ないがこの場は任せてもらいたい。よろしいですね?」

「……」

 

 アルトが振り返ってきた。

 ……あっ、俺に言ってるのか。なんだかよくわからんがここはアルトに任せておいたほうがよさそうだ。わざわざ割って入ってきたということは何か考えがあるんだろう。

 俺が頷くと、アルトは両手を広げてみせた。

 

「このお方の治療が必要な人は明日以降ここに来るように!」

 

 

 

 

 

「兄です」

「妹です」

 

 正午。俺たちは救済院の一室で自己紹介を受けていた。金髪率高いな。ライアン君以外俺も含め全員金髪である。

 なるほど兄と妹なのだと言われたら、確かに似ている。片や優男。片や世間に疲れた世捨て人のような少女だが、顔だけはよく似ている。

 

「話はお兄様から本家のほうに通してありますので衛兵は今頃到着していることでしょう。ですが、さらに守りを固めたい、いっそ村ごと市内に引越しして全員に市民権を得たいというならば、仕事をしてはどうか。というのがお兄様の意見ですが」

「不満げだね、アイルよ」

「魂胆が見え見えですからね。お屋敷で囲っている女の子たちの一人に加えたいだけでは?」

 

 ほー、そんなことしてるんだ。金持ちは違うなあ。でも残念中身は男です。

 俺は特にそれについてあれこれ言うつもりはなかった。金持ちが金を払って女の子を囲むならいいではないか。監禁してるわけじゃあるまいし。

 でも、俺をその中に入れようなんざ無理だな。優男君。君はいい人かもしれないがドキドキはしないのだ。

 アルトは妹の疲れた目で見すくめられるとひらりと肩をすかした。

 

「さあ、そんなことをする人間に見えるのかい」

「白々しい」

「さてアルスティア様。結局はあなた方次第ですよ。この話は内密にしてもらいたいのですがね、さるお方の奥方が大病を患ってしまいましてね。このお方を治せばあなた方も要求も通るのではないかと思いますが」

 

 さるお方。言い方を濁してはいるがお高い身分の人だろう。この二人よりさらに上となると貴族とかかもしれんね。

 なんだかだんだん話が大きくなってきてしまったなあ。村に恩を返したいだけだったのに。

 俺は困っていた。やってもいいけど、やらなくてもいい。ライアン君がどう出るかだな。ライアン君、君の判断に任せるよ。俺は横に座っているライアン君の顔をちらりと見てみた。

 

「……どうしましょう」

「………」

 

 ここまで世話してくれたからね、君の判断が何でも俺はやるよ。頷くと肯定に取られそうなので、じっと見つめるだけにする。

 ライアン君が腕を組んでうーんと暫く悩んでいたが、ややあって顔を上げた。

 

「……やります。でも、やったからには……」

「もちろんだとも。村の守りか――市民権を得られるようにして移住までできるように話はつけさせていただく。えー、君の名前は」

「ライアンです!」

「そう、ライアン君。君は彼女の従者なんだろう? その格好は頂けないな」

 

 俺の名前は覚えてる癖にライアン君は覚えてないらしい。この好色男め。

 アルトがライアン君を指差したので、俺も見てみる。皮の鎧に普通のズボン。武器は持ってないが、いわゆるファンタジー世界の冒険者らしい冒険者の格好をしている。確かに鎧が古ぼけていたりズボンが穴を縫ったあとがあったりみすぼらしいのは確かだ。

 

「従者か御付き人を名乗って高い身分の方に会うならば格好をなんとかせねばならない。街に買い物にいこう」

「えっ」

 

 いいと思うぞ。

 俺はなぜか絶望的な顔を浮かべるライアン君の肩を擦ってやった。

 

「決まりですね」

 

 アイルが言うと早速腰を上げた。顔がげっそりしている。時々チラチラと扉に目をやっては、首を小さく振っていた。その疲れた顔のまま俺の方を見てくる。

 

「アルスティア……様。これはまったく関係の無いお願いになりますが……子供の相手をしていただけますか。もう、私だけでは抑えきれませんので」

 

 いやわかるよ。だってこの部屋の扉の向こう側がすでに子供の声でいっぱいだからな。

 俺はライアン君、アイル、それからアルトを伴って部屋の外に出て行くことにしたのだった。




おまけ







「ショタは大きいほうがいいのか小さいほうがいいのか」
 争え……永久に争え……
 永久に相成れないため、永久に戦い続ける定めである。

「逆転」
おねショタ特にエロ要素があるやつでショタが受けの癖に一転攻勢してオラオラ攻め始めたりするやつ。それがいいという人と、なんてことだオデッセウスだってお許しにならない!(オデッセイ並みの感想)という人がいる。個人的には逆転なしと謳っておきながらやらかさない限りはいいと思う。お前どう?


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14.ちゅうちゅう

これいる?

いる(鋼の意志)

サブタイトルいる? 数字だけでいい?


 救済院には楽器があった。オルガンらしいのだが、俺の知ってるオルガンとは何か違う。パイプ? がついているのだ。鍵盤もでかくて重い。弦を叩くピアノ式ではなく、もしかして笛と同じような構造なのではないか。というかオルガンってそういうものだったか。そうか。

 で、演奏しようとしたのだが、演奏できなかった。ピアノなら多少の心得があるが、こいつは無理だ。まずどのキーがどの音なのかも見当がつかなかったし、楽譜も読めなかった。演奏してみようと座ったはいいものの、座っただけになってしまった。

 

「弾けると頷いたから連れてきましたが」

 

 相変わらずの疲れた顔でアイルが言ってくる。ごめんね弾けそうな感じ出して。

 こうなりゃあれよ、根性で遊ぶ。子供の世話は慣れてる。この体のお姉さんがどうかは知らないが前世? はクソガキ相手に鳴らしたものなのだ。

 

「……」

「弾けないと?」

「……」

「はあ、早くなにかしないと子供たちが……」

 

 俺は椅子から腰を上げて振り返った。わくわくした顔をした男の子がいたずらっぽい顔でボールのようなものを投げてくる。急にボールが来たので思わず蹴り上げてキャッチしてしまった。

 

「うわぁー! すっごーい!」

「どうやったの?」

 

 サッカーだよ。たしなむ程度にはやってたのさ。こっちの世界にはないのかな。そんなことはないはず。ボールっぽいものを蹴って遊ぶゲームは世界中どこにでもあるはずだから、探せば似たようなのがあるはずだ。

 しかし、こりゃなんだ? プニプニしている皮のようなものの中に綿か何かを突っ込んでいるらしい。ビニル製のボールと比べたら弾力もなく、形も歪。蹴ってもまっすぐ転がらないだろうな。

 俺はそのボールを手に、子供たちを呼び集めようと手招きをした。

 あとで聞いたがこのボール。牛だかヤギだかの膀胱だったらしい。神妙な手つきで触って本当に申し訳なかったと思う。

 よしお前らサッカーするぞ!

 

 

 俺は子供五人を相手にしていた。前方には二本の木。あれを突破すればいいのだ。

 

「えーい!」

 

 声を上げて向かってきた一人を右に行くと見せかけた左ステップでかわして前進した。

 続く二人がかりのブロックをボウコウじゃなくてボールを蹴って頭上を抜かして突破。

 キーパーは二人。

 ここは猛烈なキック――と見せかけてやんわりキックでゴォォォォルッッゥ!!!!

 

「!!」

 

 やったぜ! 俺が両手をあげてテンションもあげていると(無表情で)、上等な装備に身を包んだライアン君と、同じ鎧姿のアルトが戻ってきていた。

 俺は、丁度救済院裏手中庭で遊んでいる真っ最中だった。サッカーを教えるのは苦労した。特にルールに関しては口がつかえないので、地面に絵を描いたりして伝えてみた。固有名詞も伝えられないので、聖女様のボール蹴りとかいう名前がついていても不思議じゃないね。

 で、ライアン君だが、お中古の革鎧から、新品の革鎧になっていた。丸い中くらいの大きさの盾と、ロングソード。ガタの来ていた弓は新品同然で、これなら流石に女の子には見えまいと言いたいのだが、軽さを重視したのか腿が丸出しだったり体に張り付く薄い生地のシャツだったり、というか兜被ってないので女の子な顔丸出しだったり、女戦士的な匂いがする。くっ殺せとかは言わなそう。

 

「身分の高い方々に会うためにはこのくらいの格好でなければお付き人とか護衛を名乗れないので、奮発させてもらった」

「ありがとうございます、アルトさん。アルスティア様どうでしょうカッコイイですか!?」

 

 アルトがフッと目を閉じて笑いつつ、ライアン君の肩を押す。

 ライアン君がどうだと言わんばかりに駆け寄ってきた。尻尾をブンブン振りまくりつつ。あーかわいい。棒とか投げて取ってこさせたい。

 

「……」

 

 俺がウンウン頷くと、ライアン君はパァッと輝くような笑みを浮かべた。なんて分かりやすいんだ。というか羨ましいぞ。こっちは表情酒飲まないと変わらないんだぞ。

 

「なにをしていたんですか?」

 

 子供たちが俺そっちのけでボウコウもといボールを蹴っ飛ばして遊んでいるのを見て、サッカーだよと言おうとして言えないので、蹴る仕草をしてから自分の胸を叩いて見せる。

 

「へー……あの木の間に入れたら勝ち? なんでしょうか」

 

 うむ。勝ちというか一点な。俺は、横に立ってその様子を観察しているアルトをちらりと見た。腕を組み、顎を擦りながらウィンクしてくる。様になるじゃないか伊達男め。

 

「私も混ざりたいところだが別件があるのでね。また後日馬車で迎えに来ることにする。おっと、市民との約束もあるか。三日後に迎えに来ることにしよう。その旨をさるお方に伝えておくから準備だけは忘れないようにお願いしたい」

 

 むむ。何か口調が若干砕けてないか。ライアン君とだってタメじゃないんだぞ。まーいいよ、わかった。俺はウンと頷いた。

 颯爽と去っていくアルトをライアン君が複雑そうな顔で見ていた。嫉妬とか、感謝とか、そういう感情がない交ぜになっているのかもね。男二人街を歩いて色々話して人間性とかもわかったのかもしれない。

 さて、ところで。俺はせっかくなので、ライアン君の肩に手を置いて、子供たちを指差してみた。

 ライアン君が動揺して自分の顔を指差しながら振り返る。

 

「えっ、ぼっ、僕もやるんですか?」

 

 あたぼーよ! ………その前に脱いだほうが良さそうね。俺は服を脱ぐような仕草をして、鎧を脱ぐように指示したのだった。

 

 

 

 

 

「はー………疲れました……」

 

 夕方。ご飯を食べた後のこと。

 子供たちは遊ぶだけ遊んで引っ込んでいってしまった。今頃アイルが死んだような目で子供たちを寝かしつけようとしていることだろう。眠れるかは謎だが。

 結局、時計がないからわからないが二時間は遊び続けてしまった。俺たちは自室ではなくて、救済院裏手の水浴び場に来ていた。

 

「……」

 

 ナチュラルに二人で来ちゃったけどまずいよな、これは。

 

「……」

 

 いやライアン君も黙ってるんじゃないよ。俺の方を上目遣いで見るのはナシだ。

 

「……」

 

 なんかいいにおいがするな……なんだろうな。

 なんだろう、頭がふわふわしてきたかもしれない。なんだ、これは。たまらなくいいにおいがする。汗の香り。

 

「あ、あの? アルスティア様? どうしたんですか?」

 

 どうもしてないよ。歩いているだけ。お前がそこにいるからぶつかるんだよ。

 ライアンを押して壁際に連れて行く。自分が自分じゃないみたいな感じがして、気持ちが悪いのに気持ちがイイ。なんでわたしこんなことしてるんだろう?

 

「……っんむぅぅっ!?」

 

 あったかくて、小さい。おくちってこんな味がするんだ。髪の毛を撫でながらちゅうちゅうと吸ってみる。

 お、体に刻印が浮かび上がってる? 魔術、使ってるのかな、わたしは。

 ライアンがかわいいから、そのまま、抱きしめたまま地面に押し倒す。ちゅうちゅう。おいしいなぁ、おくち。ちゅうちゅう。ぐったりしてきた。息はしてるみたい。ちゅうちゅうちゅう。

 

「~~っ、うぅぅっ……ひあっ」

 

 ちゅうちゅう。ぷはっ。くちもいいけど、首もちゅうしてみよう。ちゅうちゅう。くびもおいしい。おとこのこの汗のあじがする。ちゅうちゅう。

 くびわとか、はめてみたら面白いと思う。ううん、面白いからじゃなくて、だって、ライアンは……。

 

 

 

「………!?!?!?」

 

 

 

 ………ハッ!!?? 

 

 おれは、しょうきにもどった!

 

 え? なにをやっていたのかわからない。目の前にはぐったりとして、というか恍惚として俺に抱かれているライアン君がいた。

 子供を押し倒してディープキスをかましました………うわぁぁぁぁ衛兵(ガード)! 衛兵(ガード)! おまわりさーん! 逮捕してください! あ、やっぱナシ! 逮捕だけは勘弁してください! すいません許してください! なんでもするから!

 

「………あるすてぃあさま……」

「……」

 

 何が起こったのかはわからない。魔が刺したとしか思えない。

 俺はぐったりしているライアン君を大急ぎで起こすと、ペコペコ頭を下げながら口を拭いてやったり髪の毛を整えてやるのだった。










おまけ
TS後の展開

・「すぐに順応して性別に適応する」
 サクッと一人称から服から仕草まで変わってしまう系。めんどくさくなくていいのでエロ漫画だとよくあるけど長期作品だと余り好まれない。過程を楽しみたい紳士にとっては認めがたい展開。

・「最後まで持ちこたえる」
 TSしても俺男だし! 私女だし! を貫く展開。余り見ないと言うか、最後の最後で認めちゃったりドキっとして自分の性別の差を認識させられたりするのがほとんど。お湯を被ったら性別が変わりますなキャラとかだと持ちこたえると思うけど、ずっとTSしたまんまですだと持ちこたえるの難しいと思う。

・「過程をはさみつつ徐々に染まっていく」
 一番ファンが多い展開だが、精神的BLは認められない派や、いつまでちんたらやってんだよと憤るせっかちな人が入り混じり、まさに混沌としている。女になるや否や泣き虫になるの舐めてんのかよテメーポッと出の不良から守ってもらってキュンとか化石かよ! という人もいる(要出典)最初のほうは短パンジーパンだけど恋愛(無自覚だとなおよい)し始めたら急に化粧を勉強し始めたり、スポブラから普通のブラになったりして欲しいと思う。

Q.どれが一番いいの?
A.みんなちがって、みんないい


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15.マダム

Q.市民、更新が遅れたようですね
A.アパラチア再生しながらアトランティスで待ち続けてプロヴィデンス相手にして荒野を馬でかけてウサギ狩作戦中にうたわれたりして……(オーバーヒート)
 サブタイはスコシマッテテネ


 そして数日後。救済院に長蛇の列を作る市民の治療をやり続けた。千切っては投げ千切っては投げの治療になったね。楽なことはどんな傷や病だろうが治せるので、診断すらいらないことくらいか。

 馬車に揺られること数時間。いや数時間というか半日くらい乗ってた気がする。馬車って思ったより速度が出ない乗り物なのな。ママチャリの巡航速度より遅いかもしれん。乗り心地はよかったよ。鞍に乗って何時間も何時間もより、すわり心地のいいソファと、日差しを遮ってくれる屋根の付いた馬車のほうがはるかにいい。御者に任せれば何もしなくても目的地に着くしね。

 馬車は、御者とアルトが担当してくれた。中は俺とライアン君である。

 何せ半日は乗っているので、眠くて仕方が無い。俺はもちろんのことライアン君も暇そうにしていた。ライアン君が御者をやろうとするとアルトに『御者に任せればいい』と言われていた。そんなに馬の操り方が下手にみえるかなぁとしょげてたけど、断言しよう。君の技術は俺の数万倍は上だし、今馬車を操ってるオッサンの百倍は上手だ。

 

「これが……はい。これが、馬、という単語です。そうです、こっちが馬車」

 

 そしてあんまりにも暇なので読み書きを教えてもらっていた。羊皮紙に羽ペンで書いてくれる文字を見つつ、手持ちの羊皮紙に書き写していく。まずは単語から理解していかないとな。なぜかは知らないが言葉は通じるので、分からないものを教えてもらうのは容易かった。これで会話が出来ればいいんだがなぁ。

 まあ、でも、そこそこ長い時間一緒にいるせいか、頷きやジェスチャーだけでも意志の疎通がとれるようになってきた。ライアン君限定で。

 しかし、こうしてライアン君が隣に腰掛けていると、数日前のことを思い出す。衝動的に口を吸いまくった挙句首にキスマークまでつけるという変態行為に及んだわけだが、どういうわけだが今はそういうピンクな気分にならない。

 俺はな。

 

「………」

 

 時折俺の方をライアン君が見つめてくるのだが、顔は赤いわもじもじしてるわで非常にやりにくい。いっそ教えない方がよかったかも……でもいずれは知っておくものだしなあ。ライアンパパよ、なぜそういう本を一冊くらいは残しておいてくれなかったのだ。

 おどおどした態度といい、命令には忠実に従ってくれるであろう性格といい、こう、いじめてやりたくなる。

 

「……」

 

 腿を擦ってみる。びくんと震える体が面白い。

 意地悪するつもりで抱き寄せてみる。たわわに顔を包んで背中を撫でると、尻尾が痛いくらいに震える。

 

 はー………………ほうらこっちをごらん。ん? かわいい子。首輪でも嵌めて飼っ

 

 

 いかんいかん! ストップだ!

 俺は暴走しかけた思考をクールダウンするために、黒いふさふさした髪の毛の生える頭をぎゅっと抱きしめた。うーん、クールダウン、クールダウン。ステイステイ。

 たまにだが自分の思考が自分のものではない何かになってる気がする。自分の欲求不満が見せる幻覚か何かだろうか。前世の俺はここまで暴走しなかったので、この体特有の病かもしれん。ショタコン? とか? ……とにかく制御しないと。

 

「くるしいです……」

 

 oh.ソーリー。締めすぎたね。俺はおっぱいで溺れかけているライアン君を解放した。

 

「そろそろ着くから準備をするように」

 

 アルトが御者席から声をかけてきたので、俺とライアン君はそろって荷物をまとめ始めたのだった。

 

 

 

 

「あら、あなた不思議な香りがしますわ……」

 

 で、俺たちはあの街(聞いた話じゃセトというらしい。中央という意味があるそうだが、その割りに首都にもなっている街からは離れているとか)から、さるお方の屋敷までやってきた。入り口には護衛が詰めていた。セトの衛兵とは比べ物にならない優美な鎧を着けていた。スイス衛兵を思い出した。あの、バチカンにいるやつだ。

 そこからが長かった。門をくぐって馬車がパカパカ進んでいくわけだが、いつになったら付くのか分からない。

 やっと屋敷に着くなり偉そうな格好をしたオッサンにこういわれたのだ。どうか奥様のことは内密に、と。

 豪華な部屋に通されると、物憂げな表情で窓から外を見ている女性がいた。つやつやのホワイトアッシュのウェーブのかかったドレス姿の女性が窓から外を見ていた。その横にはネグリジェを着込んだ女の子がいる。

 ……いや、違う。男の子だ。女装をした見た目麗しい子が、奥様とやらの横でデカイ団扇を持って仰いでいる。しかも三人も。なんで男かとわかったって、ライアン君という性別不明な見本があるお陰さ。

 

「うふふ、そっちの子もとても“いいにおい”がするわ。ぼうや、こっちにこない?」

 

 奥様とやらが蠱惑的な笑みを浮かべてライアン君を呼ぶ。

 む? 妙な力を感じる。俺はなんともないんだけど、生ぬるい甘ったるい感覚がする。人間の力じゃないなこりゃ。このヒト、魔女とか、魔族とか、そういう感じの血が入ってるのかもしれない。

 

「……あ」

 

 ライアン君を見てみると、ぼーっと風邪でもこじらせたような真っ赤な顔になっていた。目も虚ろでおかしい。俺が咄嗟に肩に手を置いてみるとはっと瞬きをした。

 

「ごめんなさいねぇ……つい、おいしそうで……」

 

 そこで俺はその奥様とやらの目に光が無いことを理解した。こっちを見てはいるのだが、ピントが合っていないのだ。

 

「さて、本題に入りましょうか。聖女様? 喋ることができないのだったかしら。頷くか首を振るか……そっちのカワイイ子が翻訳するのかはお任せするわ」

 

 俺の方を見ている――ようで見ていない。子供から火のついたキセルを受け取ると、ぷかぷかとふかし始める。

 

「名乗り忘れていたわ。わたくし、マダム・マリサ。本当は長い名前があるのだけれど……“みんなは”マダムと呼ぶわ。ご覧の通り目が見えないの。そう、子供のころに病気を患ってしまってね。でもあなたが噂通りなら……できるのではなくって?」

 

 みんなね。恍惚とした表情で佇むお供の男の子たちのことかね。

 できるし、断る理由も無い。ただそうね。あんたと俺はともかく、何かねっとりと熱い視線を送ってくる女装の男の子たちとライアン君を一緒の部屋にいさせると悪いことがおきそうだから、一緒にいることは前提だ。

 ということを伝えたいんだが口が聞けないので、俺はライアン君の肩に手を置きつつ頷いた。

 

「嬉しいわ……それにしても、あなたほどの力を持つ……その強大なオーラを持つ人が聖女ねぇ………むしろ……」

 

 マダムが俺の方を見てそんなことを言ってくるけど、いまさらアレよ聖女様ロールプレイから無法者への切り替えはつらいものがあるでしょ。

 俺はライアン君を伴ったままマダムの近くに歩いていった。近くで見ると、とても美しい人だ。真っ白い肌といい、艶々とした唇といい、シルバー? 灰色? の髪の毛といい。まあ、俺には勝てないんだけどな!

 

「ぁぅぅ……」

 

 なぜか御付きの男の子達がライアン君を見てくる。この部屋の男密度高いよな。俺も中男だからな。

 俺は目を閉じたままのマダムの手を取ると、どうしたものかと観察してみた。とりあえずいつものように屈んで両手を重ねて祈りをささげるようなポーズで治療魔術を作動させてみる。

 

「あぁ……ありがとう。本当に治るなんて信じられないわ。けれど、あなたほどの……いえ、やめておきましょう」

 

 暫くしてマダムが目を擦った。そして俺をピントの合った瞳で見てきた。視力が回復しているらしい。喜びを隠せないのか俺の手を握ってきた。

 

「あなたの力は本物みたいね。いいわ、ご希望通りあなた達の村の問題については対処させていただきます。ところでそっちの男の子。ライアン君って言ったわね……お姉さんのお部屋にこない?」

 

 ……やらせはせんぞ!! 俺はライアン君を引き寄せて腕で顔を覆って首を振った。この子は俺のものだ。いや俺のものというか! あんたに任せると女装させるでしょ!

 

「と、ともかく! 約束は約束ですからね!」

 

 ライアン君が大声を張り上げたのだった。













おまけ

「おねショタ」
 言わずと知れた強大なジャンル。少数精鋭であるため、その組織規模の全体像を把握しているものはいないという。モスマンみたいなもんだな!(fallout76)
 近所のお姉さんから教師などからショタが可愛がられるという内容がほとんどで、お姉さん役はたわわであることが多い。やはりたわわは最高やな! ショタが赤ちゃんプレイだのやられて目をハートマークにされたまま授乳(自己規制)するのも最高だと思うし青い性の欲求に突き動かされ腰をヘ(規制)もいいしやっぱり童(規制)(規制)(規制)


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16.村への帰還

 パカポコパカポコ。

 俺は帰りの馬車に揺られていた。村を守るか、それも無理なら市民権を得て移住。そのために街で仕事をして、それからあのマダムという女性の目を治したのだ。あのマダム、嘘をつくような性格はしていないし、約束通りにやってくれると思う。

 帰るところというと、ライアン君の故郷エド村のことである。舗装などされていない悪路。二人きりで帰るなら馬車はかえって邪魔なので、行くときと同じような馬である。

 違うのはライアン君は立派な軽装鎧と盾と剣。俺は白い聖女様チックな服の上からフード付きコートを羽織っていること。あとは――えーっと、簡単な数字くらいなら理解できるようになった俺! とかかな!

 いやーやっぱり頭が切れるやつってのはつらいねー? ちょろっと教えてもらっただけでもうわかってるからな。え? 数字以外の単語はどうしたってそんなのは気にするな。

 

「……」

 

 うーん難しいな。ライアン君に教えてもらって馬を操ってはいるんだがなかなか言うことを聞いてくれない。車みたいにアクセル踏めば進む機械と違って動物だからうまく伝えないといけないが、うまくやってるつもりでも全然ダメなのだ。おかしいなあライアン君は言うこと聞いてくれるのに馬が聞かないのってどうなんよ。

 その点ライアン君はうまく操っている。来るときも同じようにライアン君が前で俺が後ろ。手綱を持って操ろうと躍起になっていた。

 ……来るときは意識してなかったけど、おもいきりおっぱいあたるんだよな、この位置。やめとこかな。でも後ろは後ろで色々まずい気がする。まあ鎧があるから~とか無駄なことを考えていると、村が見えてきた。

 

「ず、ずいぶん立派な防壁ができてますね!」

「……」

 

 村は様変わりしていた。丸太を削って作ったトゲっぽい罠が外周の囲いにびっしりすえつけられていて、バリスタ?っぽい武器が四方にあった。武器を携えた男たちもうろついていて、農村というよりも野営地のような雰囲気になっていた。

 だけど予想に反してモンスターの死体やら兵士の死体やらがゴロゴロしているというわけではなかった。むしろ設備は壊れてないし、護衛の兵士たちは暇そうに辺りをうろついていた。

 俺たちが村を空けてから一ヶ月は経っている。連絡は取っていたし、無事なこともわかっていた。例のオオワシだかオオトリだかの手紙便があったからな。けど予想より被害が無くて驚いた。

 ライアン君が兵士の守る入り口から中に馬を進めていく。村は、平和そのものだった。

 

「おお! お帰りになられた!」

「あぁ、なんとお美しい……」

 

 いいよ、もっと褒めて。俺は王族貴族よろしく馬上から手を振った。無表情で。こういう時に笑えればいいと思うよ。割と真剣に。

 で、家に帰る途中でばったり出くわしたのだ。ライアン君のたれ目とは相反する吊り目。ツンツン妹のミミがそこにいた。しかし、驚いた。槍っぽい武器を片手に歩いていたからだ。

 

「あっ……」

「た、ただいま……」

 

 俺に対しては常に丁寧な物腰なライアン君が唯一例外にするのが身内である。母親と妹にはタメで喋る。というのに妙に歯切れが悪い挨拶をするあたり、帰ってきて気まずいんだと思う。なんとなくわかるんだけど、いいことして帰ってきたんだから堂々とすればいいと思うよ。

 

「……遅い! 今までどこほっつき歩いてたのよ! 知らない間に男の人が大勢来て壁作り始めるわ森調べに入るわ街に移住することをどうのうこうのとか言われるわ説明したりするのにどれだけ苦労したか!」

「なっ! せっかく苦労してやったのにそんな言い方は無いだろ!」

 

 そうだそうだ、もっと言ってやれ。俺はライアン君が勢いよく馬から下りてミミに詰め寄るのを見つつ、一人馬から下りた。

 

「移住なんてみんなしたくないっていうし……今のところモンスターの襲撃が止んでるから移住しなくてもいいんじゃないかって話も出て意見割れてるし! ふん。でも、お兄ちゃんにしては結構やったんじゃないの?」

 

 腕を組んでそっぽを向きつつ言ってくれる。これが……これがツンデレというやつか。

 

「褒めてるの?」

 

 兄よ、付き合いが長いんだからわかってやれよ。きょとんとしない。お兄ちゃんにしては呼ばわりされてるぞ。

 

「褒めてないわよ。調子に乗らないように注意してるの。で、アルスティア! ちょっと話があるんだけど! まず村長の家に行って報告してみんなに話をして夕飯の薪を運んでくること! いいわね!」

 

 ミミはがーっと捲くし立てるだけ捲くし立てて小走りで行ってしまった。呼び捨てされたが気にしないぜ。

 RPGの基本はお使いである。◇村を守る為にマダムの助けを得る が完了したので報告しにいかないといけないのだ。とりあえず、俺の第一目標は完了したことになる。聖女様だなんだ別に大活躍したいわけじゃないし、後はのんびり村で暮らすのもいいだろう。

 

「なんだよミミのやつ………」

「……」

 

 俺はライアン君の肩に手を置くと、手綱を引いても言うことを聞かない馬をどうにかしてもらおうとしたのだった。

 

 

 

 

 結論から言うと移住すると言う話は先送りになった。

 

『不思議なことですがあれから聖女様が出発された後、一匹たりとも姿を見せなんだ。森奥深くにマリサ様の私兵らが調査しにいったところ、痕跡さえなかったとか。原因がわからん以上なんとも言えないですがここは先祖代々の土地。移住は出来ればしたくないというのが我々の意見でして』

 

 村長曰くということらしい。フーム。おかしいなライアン君が調査に入ったら襲われたのに私兵は痕跡も見つけられないのか。森にモンスターが出る原因があったのは確かだけど、それがどうしていなくなったのか? わからないが、調べてみる必要はありそうだな。

 で、夕飯のために薪を用意しろと言われて俺が斧を持つとすかさずライアン君が出てきて止められた。

 

「力仕事なら任せてください!!」

 

 妙に張り切りながらそう言われたので、俺は暇になってしまった。

 ぱこーんぱこーん。一度斧を振り下ろして刃を食い込ませてから、持ち上げて薪ごと叩きつけて割る。の作業をひたすら繰り返しているライアン君。村共同で使ってる薪置き場の丁度いい切り株に腰掛けてそれを見守る俺。聖女様パワーなら薪と言わず木を素手で粉に出来る気がするけど、ここはやっぱオトコノコに任せるべきだな。俺もオトコだけど。

 

「はぁーっ、はぁ、はぁ……」

 

 案の定疲れて息が上がるライアン君。だって君筋肉ないもんなぁ。女の子みたいな細身だもん。

 俺は仕方が無いなあと腰を上げると、斧を手に取った。




Q.遅かったじゃないか……
A.寄宿学校で妖精さんやってた&R版を書こうか悩んでた


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17.尻尾は口ほどに語る

「つまりね、アルスティアという名前じゃないにしろ似てる逸話を持つヒトがあっちこっちにいるらしいの。この村の森にいたという聖女アルスティアは癒しの力は持っていたけど、山を丸ごと吹き飛ばすような魔術は使えなかったみたい。けど、違う地方の聖女様は奴隷を率いて戦ったとか凄い魔術を使ったとか……」

「つまり何が言いたいんだよ」

 

 若干苛立ちながらライアン君が返す。

 俺とライアン君とミミは、ライアン君の部屋にいた。椅子の数が足りないのでミミが椅子に。ライアン君は床。そして俺はベッドである。二人並んで座ろうとしたら首をブンブン千切れるほど振って拒否されたのだ。

 

「つまりね、アルスティアっていう伝説のヒトとよく似てるかもしれないけど、違うヒトだと思う」

 

 ミミはそう締めくくると、今しがた腿に置いていた本をぱたんと畳んだ。

 どうやらミミは俺たちが留守にしていた間で俺について調べていたらしい。ライアンパパの書斎、そういう本多いからなあ。ライアン君は歴史云々より聖女やら神々やらが好きで調べていたみたいだけど、他の地方のはあんまり調べてなかったのかもしれない。

 

「あんたもそう思ってたんじゃないの」

「………」

 

 だんまりを決め込むライアン君。まあ、伝説通りの人間なら魔術で攻撃とかできないらしいし、多分違うんだろうなあ。中身が俺だから聖女様ムーブは継続するけどな。

 

「……」

「……はー、別にだからどうしようっていうんじゃないわ。やるべきことはやってくれたんだから感謝はしてるし、別に聖女だろうが魔女だろうが構わないわ」

 

 俺がじーっとミミを見ていると、照れくさそうにしかし不機嫌そうに返してくれた。素直じゃない奴だなあ。

 顔とか見ないでも感情はわかるんだけどね。やたら左右に振れてる尻尾とか。ピクピク震えてる耳とか。

 

「話はこれでおしまい! お母さんの夕飯も久しぶりでしょ? 早く食べにいきましょ」

「……うん!」

 

 ライアン君がうんうんと頷いた。

 リアンの飯はうまいからなあ。久々だから楽しみだ。

 

 

 

 翌日。翌々日。一週間。

 村にモンスターが攻めてくるというわけでもなく、盗賊が押しかけてくるでもなかった。

 なんだったんだろうね、これなら骨を折らなくてもよかったんじゃないかな。備えとして私兵をつけて貰えたし、壁もどこの軍の拠点だよってくらい立派になったから、モンスターはもちろん盗賊やら夜盗やらへの心配がいらなくなったからよしとするか。

 俺の一日は洗濯から始まる。一家の洗濯物を籠に入れて川にもって行き洗う。機械なんてないので素手でやるのだが、魔力を込めた怪力なら簡単に終わるのだ。まるでティッシュを潰して洗っているような感覚だ。でそれを干して朝食をいただいてから出勤である。

 出勤。聖女様聖女様と言われてふんぞり返ってるのも癪なので、前任者が死亡してヒトのいなくなった診療所を仕事場にすることにした。汚れたものを片付けて新しく貰ってきた家具を並べるだけだけどな。何せ道具がいらないので。祈るだけでいいってマジ便利。

 まあといっても村の具合の悪いヒトはほとんど治してしまったのでマダム・マリサの私兵さんたちが主な相手になる。

 

「いだだだだ! 悪かった! 頼む許してくれ!」

 

 俺は治療魔術をかけた相手がおもむろに胸に触ってきたので、その腕を捻り挙げて悶絶させていた。レスラーか何かという大柄の男を細腕の女が捻り挙げるという光景は中々シュールだな。

 俺は男の腕を離すと胸倉掴んで持ち上げた。

 

「すまなかった! 許してくれ!」

「……」

 

 ふーん。まぁいいけど次やったら許さないよ。

 襟首を離して床に放る。治療待ちの男たちが俺を見てごくりと唾を飲んでいた。

 俺は椅子に座りなおすと、次の治療対象者を呼び寄せるべく手招きをした。……無表情で。

 私兵の男たちの多くは腕が無かったり目がなかったりした。何でも普通の傭兵としては食っていけなくなったので、マダムの元に身を寄せたものが大多数だとか。マダムのほうが安定的に稼げるとも言っていた。そりゃ日雇いと定期収入があるほうじゃ後者を選ぶわな。

 治療すればもちろん喜んでくれるんだが、セクハラ上等の連中なのだ。おっぱいタッチはもちろん尻を挨拶ついでに触ろうとするのでその度に締め上げる必要があった。

 

「あぁ……ありがとう。もう一度目が見えるようになるなんてな……」

 

 これで最後の一人か。私兵連中を治療して数日。全員の治療が終わった。光を翳すだけで失われた部位から過去の古傷まで治るからリハビリの必要さえない。だから順番にやっていけば全員完全に回復させることも楽勝だった。

 俺が治療した男は、俺のことをまじまじと見つめてきた。美人だからって見すぎるなよ。

 

「この力……もっと色々なことに役立てればいいんじゃないか? 国が放っておかないぞ。奇跡の癒しの力を持つ乙女とあれば………」

「……」

 

 俺は脚を組むと、顎に指を当てて考えてみた。それも考えたんだよなあ。複雑な工程を経ずに一発で元通りにする癒しの力が広く知られればもっとこの村に楽をさせてあげられそうな気がするけど……そういうチヤホヤされるのは苦手なんだ。小さい村で有名人くらいでいいよ俺は。

 俺が首を振ると、そのおっさんはそうかといって出て行った。

 

「アルスティア様……終わりましたか?」

 

 俺が掃除をしているとライアン君がひょっこり姿を見せた。薄いシャツとズボン。木刀を握っていた。

 強くなりたい。あなたを守りたいから。なんて真剣な顔で言うもんだから、私兵のヒトに稽古を付けに貰いに行っていたらしい。過去形だ。今は俺がつけてやっている。

 

『アルスティア様になんて無礼なことを!』

 

 数々のセクハラを見てしまって以降、私兵のヒトにお願いして稽古をつけるということはしなくなったのだ。とはいえ俺が稽古をつけるにしても、限度がある。戦いとか素人だからな。イノシシとか倒せたの純粋に体の発揮できるスペックが異常なだけだ。

 だから主にライアン君が木刀をブンブン振ったり、弓矢を使うのをじーっと見ていて気がついた点をジェスチャーで伝える程度だ。

 

「また変なことされませんでしたよね!?」

 

 家の裏手へ歩いていく最中、ライアン君が俺の方を上目遣いで見てきた。

 されたけどね。尻とか胸とか。実力行使で教育してやったからもうせんだろ。俺は首を振った。

 

「よかった……僕、あの人たち苦手です。アルスティア様にへんなことするし……酒飲んで暴れるし……」

 

 まあわかるよ。けどいるのといないのとじゃ大違いよ。俺はライアン君の肩をぽんぽんと擦った。

 

「あ、あのっ…………今日の夜……その……」

 

 赤い頬がこちらから視線を逸らす。

 

「またむずむずして……その……」

 

 おー………どうしよう。アレは、一人でしなさいってつもりだったんだけど……。

 ……んー。

 俺は木刀を振る仕草をすると、前方を指差した。やることやったらいいよ。まったく、しょうがない子だなあ。イケナイことはわかるんだけど拒否して傷つくのも見たくないし。つくづく己は甘い人間性なんだなと思う。

 だけど、あぁ……ダメじゃないかな。いいかも。ダメかも。どうしよう。うーん。

 俺は悩みながら歩いた。とてとてと元気良く走って家の裏手側に向かうライアン君の黒いフサフサとした尻尾が左右に千切れんばかりに揺れているのを見ながら。




Q.おまけがないやん!
A.多少はね


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18.俺の好みじゃないから

爛れた関係ッテイイヨネ


 

 肝心の俺(?)の話はこうだ。困っている村人達のもとに森から一人の女が出てきて奇跡の力で治した。おわり。

 続きが無いのだ。なるほどここだけ切り出せば俺がその聖女様そのものに見える。

 一方で山の一角を吹っ飛ばす超火力を発揮したなる記述は確かに無い。というかあったら話も変わってるはず。

 うーん、うーん、おきてくれ、たのむ。

 俺は、本を抱いたまま幸せそうな顔で俺の腿につっぷして眠るライアン君をどうしたものかと困り果てていた。

 読み聞かせをすると大抵の場合木刀を振ったり村中走り回ったりしてクタクタになっているライアン君がダウンするのだ。

 いつもはどかして寝床まで抱えていくのだが、今日はがっつり俺にしがみ付いている。腿に顔を押し付けると言うなんとも贅沢なやり方だ。

 

「……」

 

 息があたるしぐりぐり押し付けてくるからくすぐったいし、ムリにどかすと起きちゃいそうだしで怖い。

 それに抱き付かれると胸の奥がぽーっと熱くなって、どかしたくないという気持ちになってくる。

 

 どかさなくてもいいか。

 寒いだろうし、布団に入れてあげよう。本を指から剥がして退かす。起こさないように慎重に抱えて包み込む。顔と顔が向かい合う位置をとって頭を撫でてみる。

 

「う、うーん」

 

 可愛い声を上げて眉間に皺を寄せるライアン君。耳がピクピクしている。

 ……ふぁぁぁ。眠くなってきた。俺も寝よう。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 意識がすーっと闇に溶けた。ふと気がつくと朝になっていた。

 で、目が覚めると顔を真っ赤にしたライアン君が俺のことを凝視してきていた。

 

「……」

 

 おはよう。

 

「………」

 

 口を金魚のようにパクパクさせるライアン君。どうしたの?

 

「ごごごごごめんなさいどきます! どきます!」

 

 布団からもがいて逃げようとするので捕まえてみた。慌てるなよ、OK?

 

「う、うぅぅぅぅ……」

 

 ? 逃げればいいのになんで逃げないんだろう。俺が腕を離しても布団で口元から下を隠して動こうとしない。乙女みたいな仕草しやがって。服着てるなら別にいいじゃんか。

 俺が疑問符を浮かべてベッドの上を這って進む。といっても一歩二歩四つんばいで進めばそれでライアン君が射程内という距離だった。

 

「いまは、その、うぅぅぅ」

「………?? ………!」

 

 あっ……なるほどね。いやぁこの体になってからなかったから思いつかなかった。

 ライアン君、妙に俺の顔を見ては視線を下げてを繰り返してるけど、なんだろう。おもむろに視線を下げると理由がわかった。胸元の布を引き寄せてじーっと顔を見つめてみる。

 

「ぅぅ……」

 

 ごくりと生唾を飲む音。ほーん、そっち(おっぱい)好きなのか。むしろそっち好きのほうが多いからなあ。

 逆はどうだ? つまり上じゃなくて下だ。試してみるのもオモシロソウ。

 

「……な、なにを……」

 

 布団の中に体を入れて、足を伸ばしていく。ライアン君の口元から足を出して顔を踏む。

 

「むぅぅぅ……っ」

 

 嫌がるかと思ったら、むしろうれしそうに踏まれてくれる。生足で踏まれる気分はどうかな? 楽しくなってきたなあ。グリグリ頬を踏みつけつつ、目元をもう片方の足で踏みにじる。

 両足広げてるから色々丸見えだけど楽しいからやめられない。

 はーかわいい。かわいい。ぐりぐり。

 おれは今どんな顔をしているだろう。頬に手を当ててみると、口元が吊り上っていた。なるほど、こういうとき俺は………。

 

「……」

 

 ぅおおおおおおっ!!!!

 俺は大慌てで足を引っ込めると仰向けでひっくり返って目を潤ませているライアン君に頭を下げた。謝罪しようにもしゃべることが出来ないので両手を合わせてだ。

 やばかった。色々とやばかった。自分でやってるとはいえ稀に理性が吹っ飛ぶ瞬間があるのがやばい。ま、まあ、仕方が無いなあとか言いながら“教育”してるんだから今更だけど足で踏んだりするのは趣味じゃないぞ! ……本当だぞ!

 

「はぁっ……ふぁ………だいじょうぶ、です。聖女様のすることだったらなんだって受け入れますから………」

 

 今にも泣きそうな顔をしてくるライアン君。胸元で両手を重ねて祈るような姿勢で頷いてくる。

 俺は布団から足を引っこ抜いて正座をしてみた。辛抱たまらず抱きかかえる。あーんゴメン! 踏みつけたりするつもりはなかったんだ! 君がいなかったら露頭に迷うか森で素手オンリーの狩人になってるところだった!

 ライアン君を抱きしめて謝罪の意味を伝えようとがんばってみる。ゴメンネくらい言葉で伝えたいけど、何をどうやっても吐息が音にならないからできないんだ。表情は酒を飲んだり、あの理性が無くなる謎の感覚の時には戻るみたいだけど、それだけで意思疎通は難しい。

 

「すぅぅっ……っ、ぷあっ……とろけてしまいそう……」

 

 おっぱいに埋もれていたライアン君が顔をもぞもぞしながら口を外に出そうとする。いかんいかん強すぎたか。緩めると、頬を真っ赤に染めてこっちを見てくる。

 ……妙にもじもじしてるな。あーそういうことか。俺はどうしようか迷った。教育といいつつやってることは甘やかしみたいなもんだし………そも、彼は俺みたいな不確定要素の塊じゃなくて立派な女性とだな……。

 

「……あ」

 

 俺が離れようとすると切なそうな声を上げてくるものだから、俺ははーっとため息をついてしまった。これじゃどっちがねだってるのかわかんないなあ。

 これで最後ねって伝えたいんだけど伝わらないし………その青い瞳で熱心に見つめられると断ることができなくて。

 

「………」

 

 ライアン君を抱いたまま、ゆっくり膝枕を取らせる。これ好きみたいだし……俺の好みじゃないし……俺の好みじゃないんだからな。

 それから………。













Q.ライアン君ってマゾなの?
A.イヌ気質。首輪とか嵌めると喜んでくれると思う。










おまけ

『足』
 舐めたいのか踏まれたいのか触りたいのか○○かれたいのかマゾには非常に需要の高い部位。足フェチもいるぞ。大抵見下されながらアレコレする時に使われるとか使われないとか。生足派もいるしストッキング派もいるしブーツ派もいるしガーター略


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19.サブクエストっていうけどメインはなんだよ

サブクエ突入


「盗賊団……ですか?」

「あぁ、そういうことだ。ようは物取り連中が武器を持った程度の連中が山にこもっているとのことだ。残念ながら国は動いてはくれないよ。確かに危険な連中だが人を殺す一線だけは越えてないせいで」

 

 ほーん。俺は伊達男ことアルトの話を聞いていた。俺の前に腰掛けて柔和な笑みを浮かべるこの優男と、そのうち会うだろうなという気はしていたがこんなに早く会うとは思わなかった。

 今朝のことである。俺が薪割りをしていると、白馬に乗ってやってきたのだ。いつに無く気合が入った髪の毛のセットっぷりに、村の女数人が黄色い声を上げるほどだった。あれは見ものだったね。

 来るなり話を持ちかけてきたのだ。ようは傭兵の真似事だ。しかしこの国ってどうなってるんだろうね? あるいは、この人権のジの字も無い時代と言うか、世相というか、そういう時だから当然の対応なのか。盗賊団くらい検挙してほしい。聖女様の仕事じゃないぜまったく。

 俺は隣に腰掛けているライアン君を見た。悩んでいるらしい。

 ……んー、悩まなくても断っておいたほうがー……。

 

「誰も動いてくれないんですね?」

「そういうことになる。どうかなライアン君。彼女の名声を上げるにはうってつけの仕事だと思わないかね」

 

 いやらしいまでの笑み。イケメンってずるいよな、笑うだけで絵になるからな。

 盗賊相手か。つまり人間(ヒトの形状とは限らない。足の数が多かったりするかも)相手に戦うのか。喧嘩はともかくガチ戦闘はやったことがないからなあ。不安しかないし、ここはやっぱり――と俺がライアン君を見ると、ライアン君は自分で淹れてきたお茶をチビチビ飲みながら視線を返してきた。

 この目だ。この青い目にお願いされると断れない。思えばライアン君が聖女様だって俺のことを断言してから、彼のお願い通りに動いてきた気がする。失望させたくないという気持ちがあるせいかな。

 お願いされたらやるけど、アルトの意図通り動くのも面白くない。

 俺はこっちを見てくるライアン君の頭を撫でて頷いてみせた。

 

「この話……聖女様も承諾しました! ので、受けます。あなたのためじゃないですから!」

 

 アルトに対して腕を組んでプンスカ言い放つライアン君。そうか……これが世に言うツンデレというやつ……じゃないね単純にすねてるだけだね。

 

「素直じゃないねえ君は。だそうですので、行っていただきます。あなたの実力はまさに一騎当千と耳にしておりますので、有象無象の盗賊などあっという間に蹴散らしていただけるかと」

 

 ……あー、漏れてたのね。まぁ村を一通り回れば嫌でも聞かされるからなあ。巨大イノシシ退治で加減間違って山肌ごっそりえぐりましたって。

 

「あの盗賊連中を片付ければあなたの名声はさらに高まることでしょう」

 

 にっこり笑うアルト。うまく利用されてる感が半端じゃない。手を切るべきかなあ。

 

 

 

 

「こんぉばーか!」

「いっだぁぁぁっ!?」

 

 ペチーン! ライアン君の部屋でライアン君がミミに頬をひっぱ叩かれていた。フルスイングってわけじゃないが、それなりに力を込めてビンタしたせいかライアン君がベッドに吹っ飛ばされた。

 おお痛い痛い。こっちおいで? と俺が腿を叩いて呼ぼうとするとミミがギロリと睨みを利かせてきた。

 

「聖女様聖女様ってなんでも頼ってばっかりで! うまく口車に乗せられただけじゃないこのバカ兄貴!」

「そ、それは……で、でも困ってる人がいるなら助けなくちゃ……」

 

 うーん、お人よしだなぁと思ってたけど、お人よし過ぎるなライアン君。詐欺師にでもころっと引っかかってしまいそう。そういうところが可愛いのだが。

 

「あんたもあんたよ! チカラがあるのは認めるけど盗賊退治って話に乗せられてるだけじゃないの!?」

「……」

 

 そうね、そうだと思う。あのアルトとかいう優男こっちを利用してる節があるし、今回もそうだろうと思う。見ず知らずの人は放っておけばいい。ミミの意見は正論だ。

 でも俺は聖女なので、ここは聖女っぽく振舞いたい。

 俺はライアン君を見るとウンウンと頷いた。

 

「アルスティア様も……言って……はないけどいいって言ってるみたいだし……」

「……」

「………はぁぁぁぁぁぁ……あんたもバカだけどこっちの聖女様も大概バカよ! 止めてもいくつもりなんでしょ? ぜっっっっったいに怪我ナシで帰ってくること。いい?」

 

 怒涛の勢いでキレるミミ。なんとなくだけどライアン母ことリアンの口ぶりを思わせる。想像だけどミミは母に似て、ライアン君は父に似たのではないかなと思う。

 

「もちろん! 僕が守る!」

「あんたに期待はしてない」

 

 うん。俺も反射的に頷いてしまった。

 ライアン君が俯いて悲しそうな顔をした。すまんな、身のこなしの軽さは認めるがろくに訓練も受けてない君を戦力に数えるのは難しいのだ。

 

「身長もっと伸びないかなぁ……お父さんも小さかったし………」

 

 そうなのか。まあ、身長はまだ伸びるよ、きっと。

 

「で、場所は?」

「えーっと」

 

 ライアン君はアルトに渡された羊皮紙を取り出した。次の瞬間ひったくられる。

 

「何々………そんなに遠くないのね。馬があれば一日くらいだけど………」

 

 俺も座っていた椅子から腰を上げてミミの横に移動して覗き込んでみる。文は……読めないが、なんとなく見覚えのあるエド村らしいイラストから線が延びていて、街道らしい線の上を行った後で山の中に入ってお城らしい物体についていた。

 

「これ何十年か前の戦争で使われたっていうお城……の廃墟よね………本当に二人だけで大丈夫なの……?」

 

 廃墟を占領するくらい人がいる、ということなのか。少人数で立てこもっているだけなのか。事情については何も聞いてない上に何も書いてないらしい。

 コソコソするより初手で魔術ぶっぱが一番だな。俺は脳内で戦略を練りながら頷いた。

 

 で、当然のことながらその話は村中に伝わっていた。

 出発前夜つまりミミのビンタが炸裂した夜にはリアンも知っていたし、翌日昼出発前には俺らの家前に村中の人が集まっていた。

 

「どこにいかれるのだろう?」

「なんでも、盗賊退治をしにいくとか」

「なんと………人を治すだけばかりか盗賊退治! 伝承に聞く……」

「白い装束がよく似合っている……まさしく……」

 

 おう、おう、もっと褒めてくれ。

 俺は例の白い装束を纏っていた。で、丸腰も心配なのでライアン君パパが使っていたという剣を腰に差そうかと思ったんだが、聖女があからさまに武器もおかしいから結局ナイフだけになった。

 

「ライアン君はどこであの立派な服を手に入れたんだろうね」

「さあ、国から支給でもされたのでは?」

「なるほど国から……だからあの傭兵が来たのか?」

 

 ちょいちょい誤解している人もいるなあ。ここで訂正したいんだけどしゃべれないからスルーするしかない。

 俺は慣れた様子で馬にまたがるライアン君の手に掴まりながら馬の後ろに乗り込んだ。

 

「怪我のないようにね!」

「うん」

「すぐに戻ってくるのよ!」

「うん、お母さんわかったから……」

 

 リアンが持ち物に忘れ物がないかーとか、あれこれライアン君に話しかけている。どこの世界でも母と子というのは変わらんものだ。

 

「聖女様、どうかよろしくお願いします」

「……」

 

 俺はウンウンと深く頷くと、ライアン君の肩に掴まった。

 いざ、盗賊退治へ!




Q.えっちい話がないやん!
A.足で踏まれたりたわわに埋もれる話が読みたいの? 私も読みたい。


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20.すーすーする服装

 まずった。

 俺は腕を縛られて天井に吊るされていた。

 盗賊退治に向かった先で、さあどうしたものかと困った俺たちは、魔術をぶっ放してビビらせて降伏させようとしたのだ。まさか背後から一発貰うとはな……盗賊家業なんてやってるんだから腹が据わってるのは当然か。

 俺は、ズキズキと痛む頭を振りつつあたりを見回してみた。薄暗い石造りの室内。鉄格子。振り返ってみると茶色く変色した謎の布。バケツ。……これは、牢屋というやつではないか?

 俺一人なら拘束ちぎって脱出もできるんだが、肝心なのはライアン君がいないということだ。

 俺がやられたということはライアン君もやられただろう。いくら人は殺さない盗賊といっても、裏で何人かやってたけど表沙汰になってないだけとかありそうだしなあ。

 怪力発揮して脱出……はできそうである。手首に嵌ってる手錠?手輪と、天井につながってる鎖は古びていてさび付いている。怪力があれば引きちぎれるはずだが、ライアン君がどこにいるかわかんないから動けない。

 

「……」

 

 手輪が食い込んで痛い。つま先がギリギリで付いてるくらいの高さに調整されてるせいでうまく踏ん張れないし、正直キツイ。牢屋と言うかここ拷問部屋なのでは? バケツもトイレ用かと思ったけど、どっちかと言うと水ぶっ掛ける用だろうな。

 早いところ逃げないと薄い本みたいにされてしまう。とか思ってると、ゲスな表情を浮かべた男二人組みが牢屋の扉を開けて入ってきた。

 

「ほぉぉいいじゃねぇかたまんねぇ。ひん剥いてひいひい言わせてぇ」

「殺すなって言われたけど殺さなきゃいいんだな?」

「ああ、そういうこった。女一人見張る退屈な仕事なんだイイコトくらいあってもいいだろ」

 

 舌なめずりしながら近寄ってくる二人組み。よかった。意識が吹っ飛んでる間に手を出されてはいないということだろう。服も乱れてなかったし。武器? のメイスは取り上げられていたけどね。

 

「………」

 

 俺が黙っていると男の一人が言った。

 

「この女街でなんとかって金持ちに囲われてたって聞いたが(かしら)は人質にでもするつもりなのかねぇ」

「知らんが死ななければいいって言われたよなぁ? 死なないならいいんだよなぁ」

 

 にやにやと笑いながら二人目が歩み寄ってくる。さっそくベルトを緩めてるあたり俺が抵抗しないと思いこんでいるのか。罵声の一つでも浴びせたいがしゃべることが出来ないから無理だった。

 俺は肩に手をかけようと歩み寄ってくるのを見計らって足を横方向に小突いた。

 

「ぐぇぇっ!?」

「なっ、このアマぁ!」

 

 それだけで男は車に轢かれたようにびたんと地面に叩きつけられる。顔面狙いの拳を鎖を掴んで上半身を起こして回避。腿で頭を挟んで壁に投げた。

 うむ……超人染みた動きができてよかった。この鎖とか部屋が実は魔術封じの装備ですとかだったら痛い目見たのは俺だったろう。

 壁に吹っ飛ばされた男は失神したのか倒れて動かない。俺は、床でうめいている男が起き上がるよりも前に鎖を天井から引き抜いて着地すると、鞭のように床を叩きながら男に歩み寄った。

 

「てめぇ………こんなの聞いてねぇぞ……!」

 

 あ? しゃべると殺すぞ貴様。という気迫を出そうとがんばってみたが顔が変わらない。ので、鎖をビタンビタン叩きつけつつ寄っていき、強打した頭を擦りながら俺の方を見上げてくる男の胸を蹴り踏みつけた。

 

「ぐぉぉぉぉっ………つ、つぶれる……! ぐるじい……ッ、わ、わるかった!」

 

 起き上がろうとしても、起き上がれるようなことはさせない。何せ丸太をバットみたいな感じで振れる怪力を発揮してるからな。

 俺は手を差し出した。扉を指差し、もう一度手を伸ばす。

 

「鍵か! 分かったから! 何もしねぇ降参だ!」

 

 男が震えながら腰の鍵を渡してくる。さっと奪うと頬を平手で一発。

 

「ぐあっ!?」

「…………」

 

 よし! 俺は手錠を外して鎖を取ると表に出た。扉に鍵をかけて、迷ったがポケットに入れておく。鍵の束ということは他の扉も開けられるだろうしな。

 外は壁に大穴の開いた廊下だった。別の牢屋を覗いてみると、ライアン君と大差ない年齢の子が閉じ込められていた。どの部屋を見てみてもぐったりとしていて、俺が見ていることに気がついていないようだった。

 鍵を使えば逃がせるかもしれんな。先に状況を確認しないと。

 俺は聴覚に意識を集中してみた。なにやら表が騒がしい。崩れた壁から伺ってみると、中庭のような場所で焚き火を囲むようにして十数人が酒盛りをしていた。

 時間帯は夕方。一日気を失っていたとかでなければ、侵入俺が閉じ込められてから数時間程度だろう。

 んー。魔術で吹っ飛ばすのが楽そうなんだけど肝心のライアン君がどこにいるのかわからんから却下。

 俺は暫く観察してみることにした。よーく見てみると、城にあったものなのか褪せてはいるが煌びやかな装飾を施された椅子に座って酒を飲んでいる大男がいた。分かりやすすぎるな……あいつがお頭とやらだろう。

 ライアン君、ライアン君っと。

 …………やーまさかな。ないない。…………待て待て! 俺は一瞬思考停止していたが、すぐに再起動した。

 褐色の肌をした子がワンピースタイプの服を着て給仕の真似事をしていた。飲んだくれている盗賊どもに酒を注いだり、料理を運んでいた。黒い髪の毛にフサフサした耳。青い目に涙をいっぱいに溜めた―――ライアン君がいた。女装して。

 というか周りの盗賊たちは気がついてないんじゃないか? ライアン君以外にも数人の子が給仕の真似事をさせられているが、女の子らしい胸の膨らみがある。女の子と勘違いして世話させられてるのか?

 図らずとも女装姿を見てしまった。似合ってるじゃないか。じゃなくて!

 キャラバンとかを襲って誘拐してきた子供をこき使ってるんだろうなあ。容赦はしなくていいだろうが、人質になってるなら話は別だ。

 ライアン君が空っぽの酒瓶を片付け始めた。

 俺はばれないように夕闇に紛れて穴の外に飛び降りると、樽やら馬車やらを障害物に別方向から回り込んだ。

 ライアン君が道中尻を触られ素っ頓狂な声を上げていた。あのヤロー。男だよって教えたらさぞ面白いことになるだろうな。

 

「……アルスティア様どこにいったんだろう………よいしょ……」

 

 ライアン君がぐすぐす泣きながら酒瓶をゴミ置き場に持ってきた。俺はゴミ置き場にあった木箱の裏側に回ると、トントンと木箱を叩いた。

 

「だ、だれがいるの? 脅かさないで…………あ、アルスティむぐぅぅ」

 

 ライアン君が俺のことを見つけた。同時に叫ぼうとしたので、口を塞いで物影に引きずり込む。

 

「ぷはぁ! 心配したんですよ……あの人達、ぅ、ううぅ……ぼく以外の女の子に変な薬飲ませて……あ、違います僕、オトコノコですよ!? 変な薬飲ませて、その……えっと……」

「……」

 

 事情は察するよ。人は殺さないけど、殺し以外は何でもやるタイプか。俺はライアン君を抱きしめると、首にかかっている首輪に手をかけた。首輪は広場の中央の杭と鎖で結ばれていて、逃げられなくなっていた。

 

「僕男なのにこんな服着せてきたんですよ。薬も………あ、あの薬、なんだったんでしょう。飲んでも効果なかったんです」

 

 ライアン君がスカートを指で摘みながら言う。すーすーしてるとか思ってそうだな。大丈夫だよ、慣れてくるから。

 きっとその薬とやらは女専用なんだと思うわ。男には効かんのだろう。

 さて、このまま放っておくとライアン君の後ろが開発されてしまうので行動に移さねば。俺は鍵の束を渡すと、出てきた壁の方向を指差した。

 

「あっちに何かあるんですね?」

 

 うん。俺は頷いて、鍵を使う仕草をした。それから首輪にかかっている鎖を、文字通り腕力で引きちぎる。

 

「危ないと思ったら逃げてくださいね……」

 

 俺を誰だと思ってるのさ! さあ行け行け!

 俺はライアン君の背中を押すと、焚き火がある方角に歩き始めた。

 

「んだテメェ……てめぇは……牢屋にぶち込んでおいたはずだが」

 

 頭が暗闇から姿を見せた俺のことを発見した。

 俺はにこりとも笑わずに拳ぽきりと鳴らしてみせた。

 さあ、憂さ晴らしといこうじゃないか!




Q.時間かかりすぎてないか?
A.メンタルをやってしまったのとロシアで新天地を探す旅が忙しかった

Q.女装させたいだけでは?
A.お前も女装するんだよ!


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21.拳で語れ

初投稿です


 魔術を使うと下手したら城ごと吹き飛ばしてしまうのはわかってるから、主に拳で制圧する。

 駆け寄ってくる男二人をまとめて蹴っ飛ばす。

 

「うわあああっ!?」

「このアマっぐあっ!?」

 

 二人はまとめて木に激突して動かなくなった。死んだかな。ま、まあ、正当防衛でしょ。

 

「囲め囲め!」

「袋叩きにしてきゃんきゃん泣かせてやる!」

「しゃぶってもらおうかなあ!? ああ!?」

 

 三下が揃いも揃って俺のことを囲ってきた。手には武器。ふうむ、ナイフやらはなくてほとんどが棍棒だとかなあたり、まだ俺のことを捕まえていいことしようという気があるらしい。まあ美人ですし?

 なんて考えてると、急に首に紐がかかってきた。きゅっと背後から締め上げられる。

 

「おとなしくぐあっ!? や、やめ……」

 

 紐を掴んで手繰り寄せる。ぴょーんと男が飛んできたので顔面捕まえて空中に放る。

 俺の異常性に今更ながら気がついたらしく、一斉に飛びかかってきた。

 

「………」

 

 拳を地面に叩きつける! 地面がめくれて岩が隆起して数人まとめて吹き飛ばす! ふぃー! 気持ちいい。超人染みた動きができるって本当に楽しい。格闘ゲームの動きもできるんだろうか?

 俺は、よろめている一人の額を小突いた。それだけで一回転しながら飛んでいく。二人目。腹パンでK.O!

 

「………!」

 

 あ、なんか飛んできた。とっさに空中で掴んでみると、それは矢だった。

 っっっぶね! 矢なんて受けた日には衛兵に就職させられてしまう。とりあえず、そんな悪いことをする人は、腹パンの刑に処する!

 また構えてきたので、空中キャッチ! おお、できるもんだな。一気に駆け寄ってみると、腰を抜かしたのか弓を取り落としてわたわたとしている。

 

「……」

 

 俺はにこっと笑って見せた。腹に一発! 空中で三回転しながら倒れ込む。

 ラストは親分だが、意外にも平然と椅子に座っていた。パチパチと拍手をしながらゆっくりと立ち上がる。おお、貫禄というものを感じてきたぞ。

 

「いい動きだ。とても人間業には見えない……一つ提案なんだが、その辺で伸びてる部下に加わって盗賊をでかくしねぇか? その腕前に免じて利益のはんぶべっ!?」

 

 なにいってんだこいつ。

 俺はおもむろに歩み寄ると顔面をビンタして気絶させた。歯が数本飛んでいったけど、その辺は容赦してくれ。

 

「あ、アルスティアさまぁっ!」

 

 物陰からメイド服の女の子(男だけど)が出てきた。後ろからぞろぞろと子供達が出てくる。中には傷だらけだったり、そもそも服を着ていない子までもいた。

 

「あ、あの、鍵ありがとうございました。奥に大勢閉じ込められていたみたいで……」

「………」

 

 おー、任務を果たしてくれたか、ごくろうごくろう。

 俺はライアン君の頭を撫でると、その後ろについてきている子供たちを見てみた。大きい子は大人、小さい子はライアン君よりもずっと若い。共通しているのは首輪や足環をつけていた痕跡があることか。

 ライアン君は裾の短さを気にしながら言った。

 

「みんな疲れきってます………連れて帰りますよね?」

 

 あたぼうよ、俺をなんだと思ってやがる。

 とはいっても、ひいふうみいのおー………十人か。丁度男女の数が合ってるな。全員疲れてる上に怪我してる。栄養状態もよくなかったんだろうな、痩せてガリガリの子もいる。

 俺は首を振ると、人差し指で盗賊連中が使っていたものを指差して、それから留めてあった馬車を指差した。

 

「………えっと、一晩泊まってから……ですか?」

「………」

 

 やっぱり君は最高だな。そういうことさ。

 

「もしかして聖女様……?」

 

 捕まっていたエルフ耳の女の子がそんなことを言ってきた。あちゃー、有名人ってのもつれぇな。

 

「そうだよ! ぼく聞いてたもん! 助けてくれたし!」

「うわぁぁぁ……」

「きれー」

「ありがとうございます!」

「ねー」

 

 ちっこい女の子がよたよたと歩いてくると、俺のお腹に顔を摺り寄せてきた。上目遣いに聞いてくる。

 

「おかあさんとおとうさんどこにいるのー?」

 

 事情が分からん。すまんな。俺はその子の頭を撫でてやると、まずは伸びてる盗賊連中をなんとかしようと辺りを見回した。

 

 

 

 

 

 じゃがいもーざっくりー。リーキを加えてー。塩ぱっぱと。よし上手にできました!

 

「ふう。やっと服見つけました……」

 

 俺は盗賊連中がせしめてきたであろう荷物の中から大なべを見つけると、早速連中の備蓄食糧を見繕って料理を作っていた。料理といっても野菜と干し肉を塩で煮込んでるだけなので、俺じゃなくても誰でも作れる簡単料理である。

 煮込んでる間に治療をする手はずになっていた。盗賊連中は俺が閉じ込められていた牢にしばってまとめて突っ込んである。ざまあみろ。然るべき裁きを受けさせてやる。縛り首にでもなればいいと思う。

 俺はライアン君を見た。なんだよ着替えたのか。

 

「なんでしょうか……? 服ですか? ……燃やしました! あ、あんな裾の短いひらひらスカートなんて……!」

 

 俺がじーっと見ていると、ライアン君がぷんすか怒り始めた。燃やしちゃったのか、そうか……。

 

「とりあえず、みんなに事情を説明しておきました。治療、しますよね……?」

 

 俺は頷くと、大鍋用のでかいオタマをライアン君に握らせた。

 

「焦げないようにですね! 任してください」

 

 任せたぞーっと。

 俺は焚き火の周囲に集まっているであろう子供たちの元に歩いていった。みんなぐったりとしていた。最年長の男の子は外傷もなく体力的に余力があるのか、他の子供達の間を行ったりきたりして声をかけていた。

 その子は、俺がやってくるとぱっと笑顔を浮かべた。

 

「あっ、なああんたにまだ礼を言ってなかったな。ありがとう。わりい、つい……アルスティアっていったな」

 

 おう、なんとでも呼んでくれ。

 しかし参ったな。喋れないんだから意思疎通も難しいわけで。俺がどうしようかと黙っていると、その子は頭を掻きながら言った。

 

「口が聞けないってのはライアンって子に教えてもらった。頷くか首を振るかで返事してくれればいい。俺らは帰れるんだろ?」

 

 うむ。

 

「よかった。じゃ、メシ食って明日出発ってわけか」

 

 そうさ。

 

「治療をしてくれるっていうけど…………どうするんだ?」

 

 まあ、見ておいてくれ。口の聞けない俺だが、これだけは得意なんだ。

 俺はぐったりと疲れ切っている一人の男の子に近づいた。ふむ……目に包帯か。その子の無事なほうの目がこっちを見た。

 

「目を……殴られて………見えないの……」

 

 はー………あの盗賊連中こっち連れてきて釜茹でにしたろかな……。いかんいかん、そんなことしたら聖女じゃなくて魔王になっちゃう。

 俺は、とりあえず包帯を取ってみた。目が大きく腫れていて、膿塗れだった。殴られた時に内出血でもしたのか。病気を貰ったのかも。意識を集中して治療の光を当ててみると、ものの十秒足らずで目が正常な状態に戻った。

 

「………嘘だろ……」

「見える……凄い! こんな術使えるなんて……!」

 

 俺の背後で年長の子が驚愕している。ふふん、もっと驚け。

 俺は抱きついてくる男の子を抱きとめると、次の子に取り掛かることにした。

 

 その後、全員分の怪我を治療した俺は、料理を振舞った。そして翌日馬車に全員を乗せて帰路についたのだった。



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22.もしかして:メインクエスト

二回目の初投稿です


「素晴らしい。あなたほどの実力であれば難なくこなせると信じていました」

 

 俺とライアン君と、捕まっていた子供たちが帰ってこられたのは、行きにかかった時間と大差ない時間が経ってからだ。いきなり教会がある街に戻るには遠すぎるから、俺らの村(俺のってつけると故郷みたいだ)に一度戻ることになっていた。

 で、戻るといつもの鎧を着込んだアルトが待っていた。

 俺は子供たちを乗せた馬車の中から顔を出した。背中しか見えないが、御者をしているライアン君がアルトを見てふくれっつらをしているのがわかる。まあ、そういきるなよ。

 

「………」

 

 口を聞けないってつらい。

 俺は子供達がすやすやと眠っているのを見た。約一名、年長の子は起きてるがな。子供といっても、ライアン君なんかよりずっと年上だ。旅道中話したけど、自分というものがちゃんとある子だった。

 よっと。馬車から降りて、馬車を親指で示してみる。行儀の悪いしぐさだが意味は伝わるだろう。

 

「もちろんですとも。身元の照会をしなくては……一晩ここに泊めて、翌朝出発ということにしましょう。手配します」

「……」

 

 自然な流れで手を取ろうとしてきたので、逆に手を軽く叩き返す。やらせはせんぞ。この伊達男め。

 

「あの! 僕はどうすればいいですか」

「ああ、君も無事だったんだね。じゃあとりあえず村長の家に運ばせるから降りてもらって構わないよ」

 

 爽やかな笑顔を浮かべてアルトが言う。

 ライアン君が慣れた動きで馬から下りた。うむ、馬の扱いは本当に上手い。俺がやろうとすると、まず馬に乗ろうとして乗れない。やっと乗れたと思いきや馬が言うことを聞かない。車とかならなあ。

 

「アルスティア様、帰りましょう」

 

 ライアン君が俺の横に立って言ってきた。そうね、妹さんのミミと、ライアンママことリアンに会って報告しないとね。

 

「それではこれで。馬は預かります。また何かあればお願いするかもしれません」

 

 アルトがにこやかな表情を崩さず馬にまたがると、馬車を引っ張っていった。

 俺はライアン君と顔を見合わせると、家に戻りかけた。

 

「?」

 

 妙な人物を見かけた。ライアン君と手を繋いで歩いている途中、ローブを纏った物凄く不審な人物が俺のことをじーっと見つめてきていたのだ。村の警護についているマダムの私兵連中にしては格好が妙だし、旅人にしては荷物がないし、村人にしては不審すぎた。

 俺が視線を返すと、そそくさと退散していく。

 

「どうかしましたか?」

 

 うん。あっちのほうにね、へんなのがいた。

 俺がライアン君を見て、それから指差したときには誰もいない。逃げ足の速い奴だ。気に入った。

 

「誰かいた……とかですか?」

「………」

 

 俺がうんうんと頷くと、ライアン君は俺のことをじーっと見上げてきた。

 

「お知り合いとかですか……?」

「………」

 

 かもな。俺は首を振ると、ライアン君の肩を軽く押して家のほうにやった。意図を察してくれたのか、ライアン君は手を解いて歩き始めた。

 

「先に帰ってお母さんと、ミミに会ってきますね。用事が済んだら来てください」

 

 ええ子や……。

 俺はうんうんと頷くと、その怪しい人物がいなくなった辺りまで歩いていったのだった。

 草むら。いない。木の影。いない。傭兵連中が設置した資材置き場。いない。村中をぐるっと回ってみるか。

 

「!?」

 

 その時、急に脳内に電流にも似た感覚が走った。言葉は走らない。大体馬車三台分背後の物陰にソイツがいるッッッッ!!

 気がついていない振りをしながら――――回り込む!

 

「聖女様が何かをしておられる……」

「一体何を?」

「なにかを探している素振りだが……」

 

 ああ! 村人達の声が痛い! だけどくじけない! 男の子だもん!

 回り込んでみると、やっぱりいた。フードを被った怪しい人物が。どうやら気配を無くす魔術だかを使っているらしい。そんな気がするというか、俺が目視できているのに村人があんな怪しい人物に気がつかないなんてありえない。

 その人物は物陰から身を乗り出して俺を探しているようだった。見失ったってことだ。俺が背後にいるなんて予想できないはずだ。

 

「………やっぱりそうだ…………記憶を失っている? ………忌々しい……め…………ここまで時間がかかるとは………魔力は健在ということだが……今度はしくじらずに…………」

 

 ぶつぶつぶつぶつ。何か呟いている。声からして女か。ふーん。

 俺は、その怪しい人物の肩に手を置いた。

 

「? この術の作動に気がつくとは、貴様…………あ」

「…………」

 

 振り返ったその子は、俺を見るなり硬直した。

 

「ぴっ……」

 

 ぴ?

 

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!??」

「!?」

 

 うわぁぁぁぁぁぁっ!?

 俺は大声を上げてその場で尻餅を付いた人物(おんなのこ)を前に、声は出せないが大きく仰け反ってしまった。

 

「あ、あぁっぁぁぁぁぁぁぁぁお許しをぉぉぉっ! そ、そそそそそそそそ」

「………」

 

 わからん。伝わるかは知らないが、その女の子の唇に指を当てて黙るようにジェスチャーしてみた。村人に聞かれたらどうすんんだよテメー! 俺が不審者になっちゃうだろ!

 

「はひ……」

 

 女の子の外見をよく観察してみる。こけた拍子にフードが取れたからよく見える。

 長い耳。エルフ? 褐色の肌。おいライアン君とかぶるだろ。赤い目。白い髪の毛を両肩で三つ編みにした歳にして大人一歩手前というお年頃な可愛らしい女の子だ。身長は俺よりも若干低いくらいか。

 女の子は素っ頓狂な声を上げて身を乗り出してきた。今にも土下座しそうな勢いだった。

 

「記憶が戻っておいでで!?」

「?」

 

 あー、この体の持ち主の? 戻ってないというか、中の人違うんだわ。

 俺が首を傾げると、女の子はまるで王侯貴族相手かくやという態度をサッと改めて、こほんと咳払いをして腕を組んだ。

 

「こちらの話だ。あなたに一つ依頼したいことがある。とある山に……ドラゴンがいる。ふもとにある村に多大な被害を出したとされる怪物で……」

 

 胡散臭さが半端じゃない。急にドラゴンときましたよ。どう思うライアン君ってそうだ、彼は自宅に向かってたんだった。

 

「……ということなのです! ………」

「………」

「ということなのです……なのでござ………なんだが」

 

 女の子………名前は知らんが、とにかく何か説明していたらしい。上の空になってて後半部分聞いてなかった。

 やっぱこの体高貴な身分の人だったんかなぁ。なんでわかったって、この目の前の怪しい女の子の隠しきれない態度でわかる。

 俺のボディ今頃どうしてることやら。高貴な身分の人が向こうの俺の体を使ってるんじゃねーの?

 

「ご存知で……あ、いや、わ、私の名前はマリカ。あなたほどの腕前なら、このドラゴンを無傷で従え、じゃなくて、退けられるはず………です! 詳細はこの紙に書いてあります。報酬もっ、もちろん!」

「………」

 

 マリカちゃんが噛み噛みの長ったらしい説明をしてから羊皮紙を渡してきた。どれどれ。読めねぇ……。

 俺があっけに取られていると、ぺこりと一礼をしてぱたぱたと走って村の出口へと消えていった。

 何はともあれ、ライアン君と合流しないとな。

 俺は羊皮紙をポケットにねじ込むと、歩きなれた道を進み始めたのだった。




怪文章はないよ
さくっと終わらせていきたい(決意表明)


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23.何だっていい! 正体を知るチャンスだ!

はつとうこうです!!


「いやそれは…………」

「ねえ?」

 

 マリカとかいう不審者から貰った紙をライアン君に渡してみた。何をしているのかと好奇心むき出しでやってきたミミも首を振った。

 

「アルスティア様………このマリカって人、何者なんですか?」

「そうよ。どう考えても詐欺師かペテン師か大嘘つきよ、あんたの力を聞きつけて一杯食わしてやろうと考えてるとしか思えないんだけど」

 

 信じやすい性格のライアン君ですら羊皮紙を読んで顔をしかめているくらいである。正直に物申す性格のミミは情け容赦ない言葉を吹っかけてくる。

 俺もそうじゃないかなとは思うんだけどね。本人がペラペラ喋ってくれたお陰でこの体の持ち主の部下だったんじゃないかなとは思う。態度といいなんといい、この体の持ち主、相当な厳しい性格だったのかもしれんな。

 

「………とにかく、こんなよくわからない依頼、受けるなら私にも考えがあるわ」

「………ねえ、ここ……」

「なによ」

 

 ライアン君が羊皮紙の一番下を突き始めた。ミミが羊皮紙をひったくって顔を近寄せながら読み込み始める。

 

「報酬としてあなたの正体についてお教えします……って、聖女だか神様だか知らないけど、そんなところでしょ」

 

 いまだにアンタ呼びしてくる妹さん。そういう正直なところは好ましいと思う。

 まあ、今更あなたの正体がどうとか言われても驚かないけどな。聖女様ロールをライアン君が望むならそうするつもりでいるし。というか、今は俺の体なので、好きにやらせてもらうぜ。

 

「どう……します?」

「………」

 

 珍しくライアン君がノリ気じゃない。この世界のドラゴンがどのくらいの脅威度なのか知らんが、大体分かる。巨大イノシシとかそんなレベルじゃないということくらいは。超人染みた動きが出来るといっても、俺自身が戦闘は素人だ。ほんまもんの怪物相手に立ち回れるかは怪しい。

 でもなあ。正体が分からないままモヤモヤするのも嫌だし。それにほら、ドラゴンをなんとかしましたってなったら、聖女様に箔が付きそうじゃん? 万が一手に負えなかったらスーパー身体能力でけつまくって逃げればいい。

 俺はうんうんと頷いて見せた。ミミは腕組んでうなり始めるわ、ライアン君も眉間に皺を寄せ始めるわ、芳しくない反応だ。

 

「正気?」

「……」

 

 うん。頷いてみると、ミミはライアン君のことをちらっと見てから言った。

 

「どうしてもっていうなら止めないけど………けど、そこまでしなくてもみんなあんたの力のことは知ってるわ」

「僕も……行かないほうがいいかなって思ったけど…………したいんですよね、アルスティア様」

 

 うむ。言葉じゃ通じないか。こりゃ無理だわ、危険だなって思ったら魔術総動員で逃亡するつもりだ。

 俺が再度頷くと二人揃って顔を見合わせてしまった。性格は正反対だけど、こういうところでは息が合うようだ。

 

 

 

 ふう。

 俺は仕事をしていた。いや、ボランティアかな。

 あー゛……これからドラゴンに挑むっていうドラゴンなクエストが始まる前ってのにキリキリと働きすぎじゃねーかなぁ。

 俺の噂を聞きつけた人達が村に集まってくるから、片っ端治しまくってるというわけだ。慣れてきたのか治療にかかる精神力的なものはほとんどないけど、一々グロ画像を見ないといけないのは精神的に来る。心理的にね。

 飲めば治るポーション並みに強力な治療魔術ってチートだよな。RPGとかだと致命傷でも健常の状態に持っていくけど、実際にあったらこうなるといういい例だと思う。

 俺は、不治の病(ゴホゴホ咳してたから肺癌か結核だと思う。こっちの世界に同じ病気があるかは知らない)にかかっていたという女の子を治療し終えたところだった。聖女っぽい服のほうがいいと思って、教会でアイルに見繕って貰った金の刺繍のあるヴェール付きの神官服を着てである。

 

「………」

 

 神官服着てる人がボロい治療所ってのも格好が付かないかもな。

 今のところ一度たりとも泊まりの治療になった人がいない関係上、使われず埃を被っているベッドを見てみる。段々と俺の噂を聞きつけてきた人が増えてきて、そのうち一日じゃ終わらない日も出てくるかもしれない。そうしたら使ってやるさ、ベッド君。

 

「どうかお納めください。家宝です……」

 

 またかー。治療費のつもりなのか、たまーに宝石とか武器とか衣装を持ってくる人がいる。受け取ってもいいけど、聖女的には駄目だ。慈善事業でやってるんじゃないんだよってセリフあるけど、俺の場合は慈善事業なので。

 俺は不治の病を患って訪ねてきた老婆の息子らしき男が差し出してきたネックレスを一度は受け取ったけど、すぐに返して首を振った。大切なものならなおさら受け取れない。

 すると息子さんは涙ぐみながらネックレスをしまった。

 

「噂は本当だった……ありがとうございます。この恩は忘れません」

 

 ん、おけおけ。いいってことよ。

 息子さんが元気になったお母さんを連れて帰っていった。診療所の扉の外を覗いてみたけど誰もいない。

 一息つくかってタイミングでライアン君が入室してきた。ポットと食器を持って。気が利くなあ。

 

「お疲れ様です……これお母さんが作ったお茶です」

「……」

 

 おうサンキューな。

 俺はライアン君がポットからカップにお茶を淹れてくれるのを待ってから、手にとって一口飲んだ。何茶だろう。色は茶色。紅茶っぽい味がするな。

 

「前から聞きたかったんですけど、どうして貢物っていうんでしょうか。ものを受け取らないのかなあって」

 

 ふふふ。そろそろお披露目の時期だ。この世界で文章の練習をしてきたことが無駄ではなかった証を!

 俺は羽ペンを取ると、机の上の羊皮紙に文を書いた。

 

「私 思う ない 必要? いらないってことですか?」

「………」

 

 貰ってもなあ……宝石とか綺麗だし金になるのかもしれんけど、興味が湧いてこない。この村の人たちいい人たちばかりだし、ここでのんびりと暮らせればいいかなと思ってる。

 俺がうなずくと、ライアンくんは得意げな顔をした。

 

「うんうん、そうですよね! 聖女様はやっぱり素敵な方です……」

 

 熱っぽい視線。恋する乙女みたいだ。男だけど。

 

「明日出発するんですよね。ここの兵隊さんたち連れて行ったほうがいいんじゃ……」

 

 正直連れて行っても無駄だろう感はある。ついていってくれるとも思えない。彼らはあくまでマダムの私兵であって、俺の家来じゃないわけで。

 俺が首を振ると、ライアン君は熱っぽい目つきで俺を見つめて拳を固めて見せてきた。

 

「もちろん僕もついていきますから。どこにでも……。もし、聖女様が聖女様じゃなくても、僕にとっては、その……」

 

 ライアン君は、もじもじと体を揺すりながらそんな嬉しいことを言ってくれる。

 嬉しくなってしまったので、思わず抱きしめてしまっていた。っと、あんまりぺたぺた触ると、また我慢できなくなったとか言うもんね。自重自重。

 

 んで。

 

「ふふふふ………記憶を失っているのは予想外だが、アイツにさえ会わさせれば……クッ! 私自身全力を出せるなら、こんなまどろっこしいことはしないのだが!」

「………」

「ひええええええっ!? い、いつからそこに!」

 

 家の裏手で怪しい気配がするから出てみたら、マリカがいたとか。

 やっぱりコイツ、何かたくらんでるな。

 その場では逃がしてやったけどね。




「無知シチュ」
ライアン君もここに該当するかもしれないシチュ。
無知だけど体だけは一人前なヒロインを主人公が洗いっこなどと称してアレコレやる。実は無知じゃなかったんだよ展開に派生したりすることもある。


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24.ドラゴン が あらわれた !

初投稿かな?


「やめなされ………若いもんが無駄に命散らすなんて忍びねぇ……」

 

 という村人の忠告を無視して俺は行く。

 山って地図で見ると意外と面積狭いよな。富士山が直径50kmくらいだった気がする。ロードバイクなら二時間あれば踏破できる。ということは、超人ボディだったら一時間で行けるんじゃないかなって。

 何がいいたいかと言うと、登山ルートをガン無視して直線距離だけで結べるなら、そんなに速いことはないよなということだ。

 

「あわわわわわわわ゛わ゛わ゛死ぬ死ぬ死にますぅぅぅ!!」

 

 岩を蹴ってぴょーん、岩を蹴ってぴょーん!

 これぞ超人式登山方である。直線距離で進めば速くね? 理論を実践できるだけの超人的な身体能力があればこそ。

 ここは標高……知らんが、アルダンテ山の麓から“少し”登ったところだ。そもそも人が登るためには専用の装備がいるような山で、登山道なんていう文明の匂いさえ存在しない険しい領域だ。そのせいもあってドラゴンが山の上にいるのはわかってるけど、どうしようもないらしい。そもそも聞いた話ではドラゴンがその辺ブンブン飛んでるだけで、村に悪さをしたということ事態、噂話でそうなってるだけで実際は何の被害も出していないらしい。

 俺は、背中にしがみ付いているライアン君の可愛らしい悲鳴をよそに、岩から岩に飛び移っていた。ちょっとした出っ張りさえあれば、そこに飛び乗って上に行ける。飛行魔術のようなものは今のところ使えそうな気配がないので、この手に限る。

 俺らの村(こう表現するとちと痒い)を出て数日馬に揺られること暫く。船着場を経由してまた数日。くたくたになった俺達が辿り着いたのは、アルダンテ山の麓の村の、アルダンテだった。山と村の名前が同じだとややこしい。

 話を聞いて、一日休んで、それから登山開始というわけだな。装備とかどうしたのって? 置いてきた。人間相手じゃ十分なメイスでも、でかいトカゲが相手じゃ爪楊枝にしかならんし、身軽なほうがいい。ドラゴンを殺せるようなでっかい刃物とか落ちてないかなー。

 で、ライアン君だが、俺と同じ超人式ジャンプ登山方法でついてきた。なんてことはなくて。

 

『ぼ、ぼくもついていきます……!』

 

 って言うもんだから、おんぶで連れてきてみた。

 

「ああぁぁ! あああああっ!」

 

 背中が超うるせぇ。うるさいのはこの口かっ! って塞ぎたいけど、ライアン君なので許す。

 崖をジャンプ登山中に丁度いい棚みたいになってるところを見つけたので、着地してみた。

 いい塩梅だ。……ここをキャンプ地とする!!!

 

「はぁぁぁ……! はぁっ、はぁっ! じ、じつは、高いところ怖くて………アルスティア様は大丈夫なんですか?」

 

 うむ。高いところは好きだよ。

 俺が頷いて見せると、地べたにうずくまって丸くなっているライアン君がうらやましそうな目でこちらを見てきた。高所恐怖症ってやつか。

 

「うわぁ……落ちたら死んじゃいますね…………あはは…………」

 

 おお、尻尾が曲がって股についてる! 怖いっていう意思表示だね。尻尾見なくてもわかるけど。

 俺は、崖の下を覗き込んで乾いた笑い声を上げているライアン君をよそに屈伸を始めた。大分登ってきたけど、まだまだ余裕がある。山のどこかで野営するつもりだったけど、これなら一日で登りきれるかもね。

 

「頑張ります………」

 

 俺がえっさほいさ体慣らしをし始めたのを見て、ライアン君が小声でそう言ってきた。

 ねんねしていてもいいのよ?

 

「なんか……霧が出てきましたね」

 

 楽しい登山でしたね……じゃなくて。

 上を見てみる。確かにそうだ。山の上から霧が降りてきていて、というか雲がかかっていて全く視界が通らなくなっていた。ついさっきまでは大丈夫だったのにな。山の天気は変わりやすいってこのことか。

 どうするかね。日も暮れてきたわけで。

 

「………」

 

 何、急ぐことはない。武器やら何やらを置いてきた代わりに野営の装備を持ってきているのだ。今日はここでのんびりして、天候の回復を待とう。ドラゴンが山の上にいるなら、待っていれば向こうからこっちを見つけてくれるかもしれないしな。

 俺は荷物を下ろして野営の準備に取り掛かった。

 

「えっ、ここで寝るんですか!?」

 

 高所恐怖症のライアン君が涙目になったけどな! 頑張れ若人よ! 安心しろ添い寝してやる!

 

 

 

 崖の途中で見つけたこじんまりとした平地は、二人で泊まるには十分すぎる広さがあった。

 焚き火を作って、寝転がって布団を被る。以上! テントのような装備はないけど、まあ雨でも降ったらその時だ。

 山の上だけあって中々冷える。焚き火に手をかざしていると、ライアン君が干し肉を入れたチーズスープを持ってきてくれた。干し肉とチーズ。ウム、保存食っていいよね。旅をしてる感じがある。

 

「ちょっと冷えますね……」

 

 自然な流れ(?)でライアン君が俺の横に座ってきた。いただきますって小さい声で言ってから自分の容器からスープをはふはふ言いながら飲み始める。

 俺はスープを啜ると、黒パンを頬張った。かっっっってえ。保存料代わりに若干の塩を使ってるのと水気がないせいでモサモサした煎餅みたいだ。正直マズいんだけどスープに合う。

 

「お口に合いましたか?」

「……」

 

 パン単体だったらノウ! スープはイエス! あー゛……ライアンママお手製のほかほか焼きたてパンが恋しい。

 俺が頷くと、ライアン君は嬉しそうににこにことした。

 

「今日はここで寝て、それから…………? 何か聞こえます」

 

 ライアン君が容器を置いて立ち上がった。辺りをキョロキョロし始める。

 ………羽音? 

 俺はパンを咥えたまま、容器をそっと置いて立ち上がった。クソ! このパン固いよお!!

 右! いない。左か!? いない。日が落ちて月明かりしかないからなんも見えない! 焚き火の光はあってないようなもんだ。逆に焚き火の光を見てしまうと目が眩んでますますみえない。

 

「上から……ドラゴンが!!」

 

 ライアン君の耳はこういう時助かる。

 俺はライアン君が真上を指差したのを見て、咄嗟に上を向いた。一対の翼を持つ巨大な何かが緩やかに上昇していくところだった。長い首を折り曲げて、こちらを睨みつけてきた。そして翼を緩やかに折りたたむと、急降下してきた。

 逃げ……たら負けだぜ! ここは攻めろ! あ、ライアン君……。

 

『人間風情……………いや、まさかな………』

 

 喋ったあああああああ!

 俺がライアン君を庇って両腕をファイティングポーズさせた瞬間、それが落ちてきた。俺の目の前、広かったはずの土地が小さく見える程の巨躯を器用に着地させた。

 衝撃で咥えてた黒パンがどっかに吹っ飛んだ。ついでに尻餅もついた。

 俺が目を開いてみると、牙が見えた。鱗に守られた外皮の中に青い宝石のような美しい瞳が輝いていて、じっとこちらを見てきていた。

 俺が黙っていると、ドラゴンが首を引っ込めて丁度正面からこちらを見つめる位置を取った。

 

『…………あれから何百年ぶりか………魔王よ』



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25.聖女はスキル『声帯使用』を習得した!

そろそろ物語として完結したいです


 キェェェェシャベッタァァァァ!!!

 

『おい、聞こえているのか……』

 

 ドラゴンが喋ってる! すっげぇ! 思わず触ろうと手を伸ばしたら首が引っ込んでいったせいで無理だった。

 

「ア、ア、あぅぅっ……アルスティア様ぁ!? 言葉がわかるんですか!?」

 

 完全に腰が抜けたらしいライアン君が俺の足にしがみ付きながら大声を上げていた。こら、くすぐったいぞ。腿は弱いんだからさ。

 なるほど、どうやらライアン君には伝わっていないらしい。しかし魔王だって? 聖女様ロール中なのに実は正体魔王でしたってしゃれにもならん。

 

『久しいな。しかし、まるで神官のような服を纏っているが、以前のような鎧はやめたのか』

 

 結構気軽な感じで話してくるドラゴンさん。鎧って……ファンタジーでよくあるゲテモノっぽい禍々しい鎧でも着ていたんだろうか。

 俺は話しかけようと頑張ってみた。どうやっても言葉が出てこなくて、口をパクパクするだけだった。

 するとドラゴンが目を近寄せてきて、じっと俺の顔を見つめ始めた。

 

『妙な封印がかかっているな………自分でかけたのか? あぁ、口が聞けぬか。自分自身の力も封印したのか? どれ』

 

 するとドラゴンの目が赤く光った。

 次の瞬間強烈な眩暈に襲われた。一瞬、漆黒の鎧を纏った俺の姿(元の男性じゃなくてこの美人ボディな)が映った。次に燃え盛る城。次に、たくましい男性が襲い掛かってくる場面。色々な場面が早回しで流れていって、平衡感覚がだめになってしまったみたいで、思わず倒れてしまった。

 意識を失っていたらしい。貧血で倒れたときと似たような感じがした。目の前が真っ白になって、じわじわと視界が戻ってくる、そんな感じだ。

 

「……様! ……様! こ、ここここの! このトカゲのカイブツになにかされましたか!?」

 

 次意識を取り戻したとき、ライアン君が俺を抱えて重そうな顔をしながらも、ドラゴンを睨みつけているという状況にあることに気がついた。

 

『ほほう、武器もなく、ろくな術も使えぬ小童が我を睨むか。魔王よ、この獣人は肝が据わっているようだが、奴隷の一人か?』

『奴隷じゃない…………恩人だ』

 

 ……………あっ。

 しゃ……喋れたあああああっ! やった! ついにやった! ま、まあ、ドラゴン語っぽい妙な音が口から出てきたけど、喋れた! ああ、何ヶ月ぶりだろう! 待てよ? ということは普通の発音もできるはず!

 

「ライアン君、大丈夫」

「へ………?」

 

 あーやっぱりびっくりしちゃうよね。ぽかーんって口開けて俺の方見てるし。

 

『封印は破壊してやったぞ』

『ありがとうドラゴンさん。ちなみになんだけど諸事情により中身が違うぞ』

『中身とは』

『俺、魔王じゃない。魔王じゃない人が中に入ってるというか』

『……………』

 

 ドラゴン語で会話し始めた俺を見て、ライアン君は喜びとドラゴンと対峙している恐怖が混ざってなんともいえない表情をしていた。

 意味不明なことを言い始めた俺をなんと思ってるのかは知らないけど、ドラゴンさんは黙ってしまった。

 

『……………………読めたぞ。あやつめ面倒事を押し付けたか……。事情は理解した。それでどうする、平民の娘よ』

『平民と来ましたか。まあ平民だけどさ。えっと、お願いがあるんだけどさ、麓の人達が怖がってるからもうちょい人気のない場所に行って欲しい』

『人間という生き物は心底臆病だと感心する。いいだろう、平民の娘よ。その体に免じてここは引こう』

『女じゃないぞ』

 

 ドラゴンさんはそう言うなり飛び降りた。俺が反射的に追いかけると、空中でくるりと反転してすさまじい速度で山の上を跳び越してどこかに消えた。

 なんだか知らんがとにかくよし!

 

「アルスティア様……もしかして、喋れるように……」

「うん。今まで迷惑かけてごめんね?」

「わぁぁぁ…………」

 

 俺はライアン君に問いかけられたので、なるべく、女の人っぽいしゃべり方を意識しながら返事をしつつ、振り返った。

 胸元まで両手をあげて、目をキラキラ輝かせる女の子もといライアン君がいた。

 

「すっごく素敵な声です……!」

「そう? ありがとう」

 

 って待てよこの女の人っぽい喋り方をしたってことはこれからこの喋り方固定ってこと………いいさ! この俺にできないことはない。

 俺は擦り寄ってくるライアン君を無意識に撫でていた。いかんな。ペットじゃあるまいし、撫で撫でしすぎかも。

 

「ドラゴンと何を話していたんですか?」

「え?」

 

 おっと、さっそくピンチだ。ライアン君はドラゴン語わからないみたいだから、ここは実は俺が魔王の体に入ってましたとかいう点は秘密にしておこう。夢を壊したくないし、彼が望むなら俺は聖女様なのだ。

 

「村人が怖がってるからこの場から去りなさい! ……って言ったら、俺……ゴホンゴホン! 私の力に負けて退散していったんだ……の」

 

 危うい危うい。危険が危ういぞ。つい素の口調が出てしまう。

 一方ライアン君は俺の口調がどうのというよりも、その内容に感銘しているらしく、頬を乙女のように赤らめてじーっと見てくる。

 

「さすが聖女様です……………あ、そ、そうだ、それじゃ帰って村の人達に報告しないと…………またおんぶになっちゃいますけど……」

「あ、それなんだけど」

 

 俺はライアン君に手を翳して言った。

 なんかね、力が漲るんだわ。誰がかけたか知らないけど封印されていた力をドラゴンが破ってくれたみたいで、今なら―――空を飛べる。断言していい。

 

「空、飛んで帰ろ?」

「……」

 

 空。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅっ!?」

 

 飛んで帰ったら、やっぱりライアン君うるさかったです。

 

 

 

 

「ということでドラゴンは戻ってくることはないでしょう」

「おお!」

 

 麓の村に戻ってきた。いやー飛べるって凄いね。なんとかマンばりに飛べたので、戻ってくるのに三十分とかかってないぞ。疲労感もないことはないがレベルだったし、封印が解かれたってのは本当のことらしい。

 ドラゴンがどっかに飛んでいったのは、村でも目撃されていたらしいから説明は簡単だった。

 誰も俺が喋れるようになっていることは追求してこなかった。村人さんのうちの一人が涙を流しながら歩み寄ってきて、手を握ってきた。感極まってるらしい。この人、たしか俺が村に来たとき物影から伺ってきてた人だ。

 

「半信半疑でしたが……まさか、本当に……流石お噂に聞く聖女様でございます………なんでも、戦地で旗を振り軍を率いたとか、川の流れを変えたとか、国王陛下の病を癒されたとか耳にはしておりましたが、まさか竜を退けるとは……! ほ、ほら、お前たち頭が高い!」

「ははあっー!」

「ありがたやありがたや……!」

「なんとお美しい………!」

「ご無礼どうかお許しを!」

 

 あ、あれ? なんか噂話にありがちなことなんだけど、見に覚えがない話が聞こえてきたような。俺は一斉に跪く村人さんたちを見て、冷や汗を止められなかった。どこの聖処女だよ。どこの超戦士だよって話ね。病を癒した云々はあってるけど国王陛下なんて会ってすらおらんわ。

 俺は、聖女様っぽい喋り方を意識しながら咳払いをした。

 

「面を上げてください。私は当然のことをしたまでです」

「どうか! どうか一晩だけでも村に泊まっていっていただいて、そのお力をお貸しくだされ! 私の孫が熱病に苦しんでおりまして……!」

「アルスティア様、どうしましょう」

 

 ライアン君が誇らしげに問いかけてきた。

 

「もちろん、私にお任せください」

 

 なんたって聖女様だからな! いいさ!

 こうして俺たちは山の麓の村に一晩泊まることになったのだ。

 その夜。奇妙な夢を見た。

 

『くくく。我が肉体を使うものよ。はじめましてとでもいっておこうか』

 

 えっらい上から目線の女の声が響いてくるという夢だった。



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26.聖女様って呼んでくれって話!

そろそろ物語り的には〆ていきます


 夢の世界なのに夢ってわかってるって、これが明晰夢というヤツか!

 

『違うぞ。我が貴様の為にわざわざ貴重な時間を割いてやっているだけにすぎん』

 

 ……。

 状況を確認しよう。村人に宿の一室どころかワンフロア丸ごとタダで貸してもらったわけだ。で、ご馳走をたんまりと頂いてお湯浴びを……えー、その、ライアン君とした。だって一緒がいいっていうんだもん! 仕方ないもん! わた……俺のせいじゃないぞ! ごほんっ! で、それでふかふかのベッドに入って就寝というわけだ。

 起きたかと思ったんだよ、最初は。寝室で目が覚めたような気がしたし、何より寝室にいたしで。ところがこれが夢の中なんだろうなというのが分かる出来事があった。扉を開けると暗闇が広がっていて、先に進めない。窓の外も黒一色だった。おまけに変なしゃべり方する声が響いてくる始末で……。

 

『我に言わせれば貴様の声こそ情けない響きだがな。まあ、よい。寛大な我はその程度のことで怒ったりはせぬ』

「えっと、どちら様ですか」

 

 ふふんと得意げな声が響いてきた。

 

『貴様と体を入れ替えたものだよ。そう、かつて魔王と呼ばれていた者こそが我である』

「へぇ」

『驚かんのか』

「今思えばあのドラゴン、何か察してたしなあ。じゃ、あんたがこの体の持ち主なわけ」

『そういうことだ。何か言うことはないのか』

「体を戻せと言っても聞かないんでしょ」

 

 話し方からするに、絶対に体を元通りにする気がなさそうに思える。なんでこの自称魔王のせいってわかったかって、事故で入れ替わったならキレて詰問してくるだろ。この手の性格のやつは。そうじゃないってことは、犯人はこいつだ。

 

『うむ。当たり前ではないか。我も我で貴様の世界の生活に順応してきたところだ。今更戻ることは考えられぬ』

「マジかよ………」

 

 普通のサラリーマンだった俺の体が現在どうなってるのか想像してげんなりする。妙にキレッキレで高圧的な態度の俺が会社で働いてるところとか考えたくもない。

 

『ぬははは! 貴様の口座にあった金を使って起業してやったぞ! 魔王として諸国を統べていた頃と比べれば、この程度造作もない!』

「えぇ………」

『安心しろ。事業は順調である。従業員も増えてきたところだ。ああ、そうそう。貴様の両親は死ぬまで面倒を見てやる』

 

 お父さんお母さん。豹変した息子をどうかよろしく……。

 

「ちなみに魔王さん? なんで入れ替わろうと思ったんですかねぇ」

 

 俺は一番の疑問をぶつけてみることにした。魔王さまが現代社会をエンジョイしてるのはわかった。理由が知りたかったのだ。あんまりふざけた理由だと、腹が立ってくる。せめて納得させて欲しい。あっちの世界の体は二十何年も親しんできたわけで。両親親戚友達も残してきたわけで。

 俺が言うと、魔王様の声が低くなった。

 

『…………そちらの世界で魔王と呼ばれること幾度……蘇る度に勇者なるものがあらわれ、我を封印するのだ。何度も試しても、勇者が現れる。ならばと民衆に寄り添ってみたはいいものの、今度は民衆が我の統治をいらぬと跳ね除ける。どうやら、そちらの世界では我は王にはなれぬ運命らしい。ならば…………違う世界に行けばいいのではないかと思い、古の術を行使したところ偶然貴様と入れ替わったのだ』

「別の世界かぁ………」

 

 魔王にも魔王なりの苦労があるんだなと思った。

 

『うむ。ニホンとか言ったな。王はいないが社長はいるではないか。ビジネスの社会で王として君臨してくれよう』

 

 わからんでもないけど、イメージ崩れるなあ。一瞬脳裏に全盛期魔王様の姿が浮かんだ。漆黒のビキニアーマーを付けてでかい剣を振り回しているという姿だ。見える。この防具なのに腹とか下胸丸出しの衣装で高笑いするブロンド髪魔王様の姿が。

 

「了解。俺もこの体は有効活用させてもらうよ……」

『そうするがよい。我が美貌を存分に………』

 

 

 

「アルスティアさま……ぐ、ぐるじいでず………く、くびが……」

「ふぇ?」

 

 はっとして頭を振る。何かもふもふしたものが胸元にあった。ケモノっぽい独特な体臭。なんだろうこれ。

 

「おおおおおおおっぱいぃぃぃ………おっ、ぱい……」

 

 んー?? なんだこの髪。うりうりー……ってやってる場合か!

 おっぱいに埋もれて窒息しかけていたライアン君を解放して姿勢を確認。なるほど、ライアン君が隣にいて、俺がその横。抱き枕か何かと勘違いして抱きしめていたと。ああ! いかん! いかん! 涎がライアン君の頭に!

 

「……ひゃあごめんね。えと、悪い夢を見ていたみたいで……あれ? ライアン君、隣のベッドで寝てたんじゃあ?」

「えっ………そ、そそそそ、その……これは……」

 

 ふむ………ライアン君と俺は別々のベッドのはず………?

 

「寝ぼけて……」

「そうなんだ。いいよ、一緒に寝ようね……ふわぁぁ……あふ」

 

 寝ぼけるととんでもない行動をするってのはあるあるだからな。夢遊病で親に意味不明な問答をしていた記憶が脳裏をよぎる。曰く明日の朝食の話をしていたそうだが、俺の記憶にそんな会話がなく、不気味に思ったものだ。

 俺はライアン君を抱えるようにすると、布団に潜り込みなおした。はぁぁぁぁケモっぽい匂いするなぁぁぁ………。

 ………うーん、なんだか妙な気配がする。ドラゴンに封印とやらを破られてるせいか、気配の一つ一つを感じ取れるようになってるみたい。マリカの気配がする。というか、この家の裏でコソコソしてるみたい。

 ……ま、いっか。とりあえず眠って、それから、それから………。

 

 

 

 

「ふふふふふ……魔王様が力を取り戻した暁には愚民共など……」

「もしもし」

「ひああああああっ!!??」

 

 翌日。ライアン君がなぜか寝不足だったので、俺だけがいつも通りに起床した。ライアン君は一人でもう一度寝ることになった。急いでるわけじゃないから、もう一日くらいこの村でのんびりしていてもいいかなって思ったのだ。

 で、なぜかここまでついてきたマリカちゃんがこそこそしていたので、例の如く背後から声をかけるとフードを脱ぎ捨てて土下座し始めた。褐色肌と白い髪って映えるなあ、いいなあ。マリカちゃんっていわゆるダークエルフってやつなんかね。

 

「声が……! 魔王様、帰ってこられたのですね! その力をもって、今一度世界を征服しましょう!」

 

 目が輝いておられる。そこまで世界が欲しいのかね。手に入れてもむなしいだけじゃないか?

 

「え? やだ」

「え゛っ………」

 

 アカン、反射的に断ってしまったぞ。両手を握って胸元に置いたポーズのまま固まるマリカちゃん。

 今まで魔王だったのに急に方針転換も怪しすぎるか。中の人が違いますってことは伏せておいたほうがいいかもね。

 俺は腕を組み、上を見て、言葉を搾り出した。

 

「えーっと、うーんと………あっ、そうだ。まずひとまずはアルスティアって名前を善行積んで世界に知らしめる。そんでもって、聖女様だからってガードの甘くなったところを一撃必殺鎧袖一触よ」

「し、しかし! 人間共のためなどに働くなど……! うぅあんまりです魔王様。不肖マリカ! あなた様の砲撃を受け半死半生になっても、こうしてはせ参じたというのに!」

 

 砲撃……? 見に覚えしかないので、聞いてみる。

 

「それもしかしてエド村って言う獣人の村で……?」

 

 マリカちゃんがパンパンと拳で手のひらを打ちつけながら力説する。

 

「ええ! 封印が解けた私が試しに魔獣を召喚して村人共にけしかけて実験をしている最中でした。いつの間にか目覚めておられました魔王様を追いかけようとしたところ! 急に! 砲撃が!」

 

 巨大イノシシとかお前のせいかーい! まさか砲撃ぶっぱが当たってるとは思わなかった。道理でその後魔獣とやらが出没しなくなったわけだ……。

 ここは魔法の舌でなんとか言いくるめてしまおう。そうすれば、ライアン君たちは安全だ。

 俺は腕を組むと、精一杯の威厳ある表情を作ってみた。できた。眉間に皺が寄った! 表情も解禁らしい!

 

「聖女アルスティアが今の私の名……この名を善行で広める! 征服はそれから! ね?」

「うぅ……わ、わかりました……」

「わかればよろしい!」

 

 しゅんとうなだれてしまったマリカちゃん。可愛そうに思えたので、頭を撫で撫でしてみる。さらさらとして気持ちのいい髪の毛だ。悪いけど、聖女様ムーブしないといけないから協力してもらうぞ。

 

「それから魔王様は禁止。聖女様かアルスティア様って呼んで?」

「わ、わかりました。魔王さ……アルスティア様。なんだか人が違ったように優しいような……」

「なんのことかな!?」

 

 マリカちゃんがこそばゆそうに撫でられながら核心に迫ることをいい始めたので、俺は慌てて手を離して歩き始めた。

 

「あっ、どこへ!」

「ライアン君のとこ!」

 

 俺は御付きが増えてしまったな、なんて思いながら足を速めたのだった。



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27.異世界で聖女様とか呼ばれる話

完結!


 ふぃー! こんなもんか。俺は専用のでっかいシャベル(のようなもの)で土木工事の真っ最中だった。何をしているかというと、ブルドーザーの真似事である。魔王様パワーの平和的活用ってやつだ。思ったことはないか? 例えばスーパーパワーを持ったヒーローがその力で土木工事をしたらどうなるかって。答えはこうだ。治水工事だってお手の物だってな!

 エド村近くに川があるんだが、毎年増水で氾濫するらしい。ので、周りに土手を作ってみようと思ったのだ。できたよ。岩を並べて上から土をどん! を片手までやれるくらいには腕力があるからな。これから後数日で完成だ。

 

「うぅ……このような肉体労働を……魔王様はいつ目を覚ましていただけるのでしょう……」

 

 マリカちゃんは岩と岩が離れないように魔術をかけてくれていた。上手いこと言いくるめたお陰か、こうして手伝ってくれるようになったのだ。悪いけど中身が違うので魔王になったりはしないです。

 

「できた?」

「固定化の魔術をかけましたので、余程のことがない限りは岩の位置がずれることはないかと」

「うんうん、上出来だね」

 

 流石に一日中土木工事だと疲れるなあ。ここにクソデカ岩があるじゃろ。これをな、こうじゃ。って感じで掴んで置くだけの作業なんだけど、一日は疲れるわ。

 俺はとりあえず最後の一個と思って、岩を持ち上げた。サイズはそうだな馬車くらいはあると思う。2トンはあるんじゃないかな。軽く感じるけど。で、この岩を土手に置く、と。よし。

 

「村にやってくる人間どもの治療に土木工事に………まるで聖人かなにかのような振る舞いです……」

「まるでというか、まあ、その、聖人になってからのほうがギャップがすごくて人間さんたちがぎゃふんというかもしれない」

 

 という嘘を付く。マリカちゃん頭が固いわりに人を信じやすい性質らしく、疑おうともしないから助かる。

 

「それじゃ帰ろうか、マリカちゃん」

「わかりました………」

 

 どこかがっくりした様子のマリカちゃん。俺は隣に並んで歩き始めた。

 でも俺は知ってるぞ。ライアンママお手製のパンを目を輝かせながらモグモグしているということを。

 

「あっ、アルスティアさま~~! 迎えに来ましたよ~!」

 

 私服姿のライアン君が手を振りながら走ってきた。

 おしおし、みんなで帰って夕飯だね!

 俺は二人を両脇に、中央に立って村に帰り始めた。

 

『人間や獣人どもと一緒に暮らすなんてとんでもない!!』

 

 なんてマリカちゃんは最初大反対だったけど、生活していくうちに慣れてきて文句を言わなくなってきた。ダークエルフ的な種族だったのかは知らんけど、種族とか性別とか姿かたちとかでヒトは変わらないと思う。肝心なのは何をするかだと俺は思ってる。だからマリカちゃんもみんなと仲良くして欲しいなと思ってるんだ。

 

『こ、このパンは……!』

 

 まあライアンママお手製のさくさくふかふかパン食ったらころっと落ちたけどな! 小柄などこにその量入るんだよって数食い始めたのは流石にびびったね。

 ちなみにライアン君は最初マリカちゃんのことを不審そうに距離感置いてた。いきなり現れて御付きですなんて嫌だったんだろうな。俺が諭したらすぐわかってくれたけどね。

 で、村だ。元凶のマリカちゃんが魔獣を召喚しなくなってるので、マダムの私兵の守りはいらなくなってるわけなんだけど、私兵さん達相手に村の人達が商売を始めたんだよね。宿とか、飯とか。俺の噂を聞きつけて人が毎日やってくるのも合わさってか、徐々に人が増えてきた。こじんまりとした村だったのが町になったのは、そんなにかからなかったかな。俺の診療所は教会からやってきたアイルが立て直してくれた。診療所じゃなくて教会になってたけど。

 

『どうせなら我が神の名を広めながら治療をしてください』

「えー」

『……はぁ。まあ、結構。好きにするといいです』

 

 俺の一日はこうだ。朝起きて洗濯とお掃除。診療所で準備。病人とけが人きたら治す。時間余ったら工事とかの雑用。って感じだ。それを毎日毎日やっていたら、ある日村長さんがこんなことを言い始めた。

 『村の名前を変えてみませんか』ってね。なんでも、アルスティアって名前を貰ってアルステッドにするらしい。俺が頷くとみんな喜んでくれた。以後、エド村はアルステッドって呼ばれるようになった。

 で、ある日。俺が毎日毎日病人をチート治療魔術で治してることを聞きつけた国の偉い役人がやってきた。

 

『その力を国の為に使ってみるべきです』

「え? やだ、いきたくない」

 

 ……まあ断ったけどな! 何回も何回も役人が来るのを追い返してたら、なんか俺があくまで立場の弱い市民に献身するために違いないとか言われてて、なんか罪悪感を覚えたね。いや、この村が居心地良くてってだけだったんだけどね。

 他にも、呼んでもいないのにアルトが村をうろうろしてるのを見てしまって、あっこいつの手引きだな感を察してしまったというのもある。甘いよ伊達男。聖女様はそんなことでは釣られないのだ。

 

 そうそう、ライアン君について話そう。

 彼、ことあるごとに聖女様を守るんだって言って憚らなくなってきた。もっと鍛えなくちゃって筋トレ張り切ってやってて、体つきもがっちり―――しないみたいね。そういう血の元に生まれて来たとしかいいようがないみたい。筋肉は付くけど、細マッチョより大きくならないのね。ますます女騎士っぽさ出てきたけど、そこは言わないで上げてる。

 俺の日課の工事(じゃないときも有るよ)が終わると、彼が迎えに来てくれる。

 

「アルスティアさま~~!!」

 

 とびっきりの笑顔と、大声で。

 

「じゃ、いこっか。ライアン君」

「はい!」

 

「………なななななんですか、手は繋ぎませんよ!」

「え~繋ごうよ~」

「……くっ! 今回だけですからね!」

 

 マリカちゃんが恥ずかしがって手を繋いでくれないので、ちょっと意地悪しちゃった。頬真っ赤にしながら手を繋いでくれた。

 俺は、ライアン君とマリカちゃんと手を繋いで、家路についた。

 

「遅い!」

 

 ミミに怒られた。

 

 これが、俺のここ最近の出来事、日課なんだ。

 この体は聖女様どころか、魔王様だったけど、ライアン君がそう呼んでくれるなら、いつまでも聖女様であろうと思ってる。

 異世界で聖女様とか呼ばれてる、そういう話さ。



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