やはり俺とキセキの世代は間違っていた。 (右海)
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そして俺はキセキと再会する。

投稿するか迷った。

11月29日:修正(設定変更に伴う登場人物の呼称の変更)


「人の気持ちもっと考えてよ」

彼女の心底辛そうな表情を忘れられない。

 

俺たちの関係は酷く曖昧で、だからいつか訪れる別れだった。それが『今』だったというだけのことだ。だから…気にすることなんてない、はずなんだ。由比ヶ浜結衣の叫びも雪ノ下雪乃の怒りも涙も、俺には関係ないと。

 

ーーーー

ーーーー

 

両親の仕事の関係で引っ越すことになったのが修学旅行直後の二学期半ば。最愛の千葉を離れ、晴れて俺も都民としての生活を………って、いや全然離れてないじゃねぇか。なんだそれ、近すぎかよ…。これくらいなら千葉から通えよ…というのは無理だな。まぁあれだ、近すぎて毎週千葉に帰るまである。

 

……いやないわ。労力的に。ふつーに家で寝る。

 

新居はなかなかに広い家だった。どうやら、転勤というのも栄転に近いらしく、昇進を兼ねて東京の本社に勤めることになるというのが実態のようだ。いやまじでか。やるじゃん親父。よく働くいい奥さん見つけたよあんた。

 

自室の荷物を広げ終わり、リビングでゆっくりしようとしている俺に、小町が「邪魔だからどっか出ててね」というのは仕方ないことかもしれない。でもね小町ちゃん、お兄ちゃんも傷つかないわけじゃないのよ?ほんと。

 

仕方なく近所を散歩していると、そこそこ大きな体育館らしきものを見つけた。どうやら何かの大会をやっているようだ。

 

八幡「ウィンターカップ…バスケか」

 

正直に言えばいい思い出はない。それでも足が向いたのは、聞きなじみのある名前を耳にしたからか。

 

体育館の中は熱気に溢れていた。歓声とブザーの音が響き、丁度試合が終わったことがわかる。対戦していたのは秀徳高校と誠凛高校。スコアは104ー104。同点か、どうすんだこれ。延長とかすんのか。

 

考えながら選手のいるコートを見ると、知った顔が2つ。オレンジのユニフォームに身を包みメガネを光らせる仏頂面の男と、形容しがたいほどに目立たない薄青色の髪の男。

 

「緑間…と黒子か」

 

途端、心の縁に未練が顔を覗かせるのを気づかないようにして会場をあとにした。

 

 

ーーーー

ーーーー

 

転校先を聞いた時の俺の感情は実にフラットだった。別に黒子と一緒だなー、とかバスケ勧誘されんのかなーとか、友達100人できるかなーとか考えてない。なんだよ最後の。小学生かよ。思うところが無いわけではなかったが、部活動というものに疲れてしまっている、というのが素直なところだった。

 

職員室で挨拶を済ませ、制服等々の説明を受けた後に校内を案内される。平日なので生徒も普通にいるわけで、総武の制服の俺は少し、というかかなり目立っていた。やっぱり私服で来るべきだった、と思っても既におそい。もはや出来ることはすこしでも生徒の記憶に残らないように振る舞うことだけだ。そうと決まればすることは1つ。ステルスモード!

 

放課後だったこともあり、少しながら部活動の様子も見ることが出来た。件のバスケ部も、だ。案内してくれた教師はわずかながら部活動の紹介もしてくれたが、バスケ部に関してはほぼ知らないといった様子だった。

 

体育館の入口から少し練習を覗き、学校案内は終わる。職員室で再度挨拶をし、帰路につくところで肩を掴まれる。

 

???「比企谷先輩、なにしてるんですか」

 

おいおい、肩なんか掴むなよ。人違いだぜ。俺は比企谷で間違いないけどな、人に呼び止められるような人種じゃあないんだよ。わかったら手を離してくれ、な?

 

???「人違いじゃないんで、答えて貰えますか」

 

ですよねぇ…。俺を呼び止める時に肩掴むのは君たちしか居ないもんねぇ…。そもそも提案したのも俺だもんなぁ…。

 

八幡「黒子、か。なんだ?俺は今から帰って寝るとこなんだが。邪魔するなら容赦しねぇぞ」

 

そうとも。容赦なく土下座して懇願するね。帰らせてくださいってな。

 

黒子「先輩の土下座は別に見たくないのでいりません。どうして、うちの学校にいるんですか?」

 

八幡「……転校してきたんだよ。親の仕事の都合でな」

 

土下座するとこまで見抜くんじゃねぇよ。ちょっと恥ずかしいだろうが。久しぶりに話す黒子は少し明るくなっている、気がした。

 

黒子「この時期に転校ですか。千葉の高校でしたよね。千葉大好きの先輩が戻ってくるとは思ってなかったです」

 

八幡「ハッ…残ってもよかったんだけどな。小町も引越しだったしな。小町がいないんじゃ、俺の死は確定的だからな。」

 

小町は天使だからな。天使の恩寵なしには生きられないだろ。これは仕方なくなのだ。

 

黒子「相変わらずのシスコンっぷりですね。……このあと少し時間ありますか…?」

 

八幡「ない、寝る」

 

黒子「そんなこと言わず…コーヒー奢りますから」

 

八幡「…わかった。どこに行くんだ?」

 

黒子「近くにコートがあるんです。そこに行きます」

 

そういって歩き出す黒子の後につく。コーヒーを餌にされたら仕方ない。もちろんMAXなやつだ。付き合い長いからわかってるだろうしな。ほんの少しテンションが上がった俺の後ろから、黒子を呼ぶ声がする。

 

???「おい黒子。何1人で先に行ってんだよ」

 

振り向いた先にいたのは、大男だった。あ、死んだわ俺。熊相手にするのは想像したことも無いなぁ。

 

黒子「先に行っといてくれ、って言ったのは火神君ですよ。それに、1人じゃないです」

 

少し不服そうに黒子が言い、こっちを指さす。火神と呼ばれた背の高い男は俺を見下ろしながら口を開く。

 

火神「黒子の知り合いか?随分ぱっとしねぇな。バスケやんのか?」

 

なんだこいつ初対面で喧嘩売ってんのか…。まぁ悪気はないタイプだろうがな。だからこそタチが悪いとも言えるな。嫌いではないが好ましくはないかもしれん。というかそもそも、こいつが行くなら俺が行く必要無くないか。

 

ーーーー

ーーーー

 

流れのままにコートにたどり着くと、火神はシュート練習をはじめてしまった。ベンチに腰掛けた俺に黒子がMAXコーヒーを持ってくる。

 

黒子「比企谷先輩は…バスケ辞めたんですよね」

 

八幡「…黄瀬辺りから聞いたか」

 

コーヒーを受け取るも、質問があまりに真っ直ぐだったために開けるタイミングを逃してしまう。

 

黒子「正直、先輩は辞めると思ってました。やる気とか根性とかそういうの関係なしに。僕と同じで赤司君の…いえ、キセキの世代の『変質』に失望してしまうと」

 

八幡「『変質』ねぇ…。まぁ、よく持った方だと思うわ俺も。根底がぼっちだからな、そもそもチームプレイとか向いてねぇんだわ。だから、その、気にするなよ」

 

言って、プルタブに指をかける。小気味よい音を立てた缶を口元に運びコーヒーを流し込んだ。

 

八幡「……WC、緑間と引き分けたらしいな」

 

黒子「はい、やっぱり強かったです」

 

八幡「相変わらず高弾道のロングレンジか」

 

黒子「まぁそれが特長ですから」

 

八幡「緑間相手に引き分けならまぁ上等だろ。赤司、青峰は無理でも、黄瀬くらいならいい勝負出来んじゃねーの」

 

黒子「だと、いいんですけど。とにかく目の前の1戦です。次落としたら話になりませんし」

 

八幡「次…霧崎第一だったか、心配いらんだろ」

 

それを聞いて黒子の表情が少し曇る。なにか思うところがあるのか。誠凛は新しい高校だし、選手層の薄さとか気にしてるのかもな。

 

火神「黒子ー、あったまってきたわ。やろーぜ。」

 

おう、いいタイミングだ、火神。不安は体動かして振り払うに限る。俺はしないことだけどな。

 

黒子「先輩も、どうですか?僕じゃ彼の練習相手には不足なんですよ」

 

火神「おう、やろーぜ!ひき…ひき…ヒキタ二先輩!」

 

おいやめろ。その間違い方だけは。呼ばれすぎでトラウマになったらどーすんだ。そもそもバスケは辞めたんだよ…。黒子に視線を送ると俺にも聞こえるかどうかと言った声で一言告げる。

 

黒子「…先輩にも見て欲しいんです。火神君の素質を」

 

八幡「……わかったよ。コーヒーの礼もあるしな」

 

黒子がそこまで言う火神くんとやらが、どれほどのものなのか気になった。……仮にどんな才能だろうが、キセキには届かない。あれは1つの完成系だ。

 

 

 




気づいたら投稿してた。


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しかし俺は火神大我に期待する


少し短いかも。
戸部とか葉山とか出るの?
っていうコメント頂いてますが

多分次回か次々回あたりに出ます。

11月29日:修正(設定変更に伴う登場人物の呼称の変更等)


キセキの世代はバスケにおける才能、一つ一つの技能の完成系だ。しかもそれぞれがまだ成長過程にある。黒子に言わせれば赤司や緑間、青峰のそれは『変質』に思えるようだが違う。それは才能のある人間なりの苦悩、とでも言うべきものだ。

 

火神「おい、ほんとにいいのか?2on1なんてよ」

 

黒子「一応先輩ですよ、火神君」

 

八幡「あ?どっちも構わねぇよ。それにお前ら仲間なんだからチームメイトと連携の確認とかいるだろ」

 

火神の才能、素質を正しく見るなら、キセキと渡り合える玉なのかどうかを確かめるなら…。黒子とチームプレイが出来ることが大前提だろうしな。

 

火神「でもよ、これじゃいくらなんでも一方的……」

 

黒子「…その心配はいりません、火神君」

 

八幡「まぁ、やるならさっさとやるぞ。早く帰りたいしな。ボールはそっちからでいい」

 

少し物足りなさそうな火神を遮り、ゲームを始める。黒子の言葉に怪訝な顔をしながらも、左右に体を振り幾度かのフェイクを交えて突破をかける火神。これは黒子見てねぇな…。がっかりだ。1人でやるつもりなら……俺を抜いたあと、左に切り替えてダンク、だな。

 

火神「なっ…!?」

 

甘いんだよ…。動きは読みやすい、フェイクも滅茶苦茶に上手いわけじゃない、速さだって青峰のそれには及ばねぇ。これくらいなら俺でも止められる。

 

火神「…なにした。今、何が起きた…?」

 

黒子「…先輩、バスケ続けてたんですか?」

 

火神の手を離れ、転がっていくボールを拾った黒子が問う。火神は呆然としているな、ほんとにこいつ黒子が認めるほどのやつなのか?

 

八幡「人とやるのは最後の全中前の練習以来だよ。軽いトレーニングは続けてたけどな。思ったより身体が動いてくれて助かったわ」

 

黒子「それにしても…。さっきのは赤司君ですか…?」

 

八幡「…少し違う。赤司のあれは予知に近いが、俺にはそんなことできん。単純な予想と誘導だな………。さて、俺の番だな」

 

火神「…っ!ぜってー止める…」

 

止められて火がついたか。冷静さに欠けるな。熱意は買うがマイナス点だ。…確かに持ってる才能は十分だろうさ。原石としてなら一級品だよ火神大我。でもなぁ…キセキと張り合うなら足りないんだよ。黒子と一緒にバスケをするつもりなら知っておけ。

 

八幡「火神。緑間は強かったか?」

 

火神「あ?強かったよ、それがなんだ」

 

八幡「……お前はもっと受けとめるべきだよ『勝てなかった』っていう事実をな」

 

火神「…?どういうことだよ…?」

 

黒子「ッ!?火神君!前です!!」

 

2、3歩バックステップをした後にシュートモーションに入る。黒子に言われて火神が慌てて前に出るが、遅い。既に手を離れたボールは、高い弾道を描きながらゴールに吸い込まれた。

 

火神「…今のは…緑間と同じ…」

 

八幡「違う。あんな変態シュートは緑間以外には撃てない。今のはただ高弾道なだけのロングシュートだ」

 

火神「そんなわけあるか!俺があいつのシュート何本止めたと思ってやがる!今更見違間えるかよ!」

 

八幡「よく似てる、ってことなら否定はしない。だがまぁ、俺程度じゃあ外さないってのは不可能だ」

 

黒子「…緑間君のスリー、青峰君のフリースタイル、赤司君の天帝の目。その発想の原点になったのが比企谷先輩なんです」

 

火神「なっ…」

 

原点…というのは少し違う。元々アイツらに素質があった。出来そうだったことを出来るようにする手伝いをしただけなのだ。

 

黒子「試合には出てませんでしたけど、校内でのキセキの世代の練習相手は先輩でした。6人目だった僕も例外ではありません」

 

火神「ってことは限定的でもキセキのヤツらを再現出来るってことかよ!?」

 

黒子「さっき言った3人なら可能だとは思いますけど…どうかしたんですか?」

 

火神「丁度いいじゃねぇか!再現できるならヒキタニをぶっ倒せるようになりゃアイツらを超えられる!」

 

八幡「いやいやいや…何言ってんの?」

 

火神「だってそうだろ?キセキの練習相手をやってたやつと練習させてもらえんだぜ!」

 

八幡「そうじゃなくて、なんで俺が練習付き合うことになってんの。そんなつもりないぞ」

 

場が凍りつく。火神の驚いた視線を全身に浴びる。よせよ、照れるだろ。視線には慣れてないんだよ…。そういう意味じゃ黒子の影のうすさは昔から羨ましい限りだ。目立たないし。

 

黒子「先輩、バスケ部入らないんですか?」

 

八幡「入るも何も、俺はバスケ辞めたんだよ…部活動も、正直今は考えてない。働きたくないからな」

 

黒子「でも…先輩の力は誠凛にとって必要になると思うんです」

 

八幡「誠凛バスケ部に対して義理なんかねぇよ。転校したばっかりだしな」

 

黒子「……それなら、僕に対してです」

 

八幡「あ?」

 

黒子「僕に対しての義理を果たしてください」

 

八幡「……黒子お前、変わったな。そんなこと言うやつだったか…?」

 

黒子「とある捻デレな先輩を見習いました」

 

八幡「…わかったよ、部活以外のところで練習付き合ってやる」

 

黒子「そういうところですよ、先輩」

 

中学当時の黒子からは想像つかないな。バスケ好きは変わってないし、たまにイラッとするあたりも以前と同じだ。だから、具体的に何が変わったとは言えないが…。

 

火神「ヒキタニ、もう一本だけ付き合ってもらえるか?」

 

八幡「…いいぞ。ほんとにラスト一本な」

 

火神、冷静になったならいいんだが。ポテンシャル自体はかなり高いからな、使い方さえ間違えなけりゃ俺なんか相手にならんだろ。

 

火神「今度はちゃんと本気だ」

 

八幡「…いつでもいいぞ」

 

黒子はコート外で見ている。火神と俺の1on1なわけだ。1度やって警戒されているから誘導もそんなに通じない。アプローチとしてはドライブからのダンクシュートだろうか。だとしたら、プレッシャーをかけて前で守るより少し引き気味で反応するか…。イメージ的には青峰を相手にした時の感覚でいいだろう。何となく雰囲気似てるしな。

 

火神が呼吸を整え、一気に加速する。予想通りだが、つまらないな…。火神の向かう先に体を入れ進路を塞ぐ、はずだったが失敗した。1歩手前でジャンプし、ゴールへと迫っていた。

 

八幡「……は?」

 

火神「ッラァッ!」

 

豪快にゴールを叩く火神と、それを見上げる俺。黒子はと言うと、どこか分かっていたような顔をしていた。

 





比企谷君はかなりスペック高い。
これがHACHIMANか……。


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未練とか後悔とか反省とか。ー奉仕部sideー


奉仕部のことも書いておかないとね…って感じです。

火神との1on1の続きは次回。

11月29日:修正(設定変更に伴う諸々)


あの時、私たちのどちらかでも事情を知っていたなら、あんなふうに彼を糾弾せずに済んだのかもしれない。そうであったなら、彼は今も変わらず放課後この部室で…。何度も考えるけれどこの仮定は成立しない。きっと知っていても、私達は変わらず彼を非難したと思うわ。わかったような顔で「あなたを知っている」なんて言っておきながら、何も理解していなかった。だからこれは私たちの失敗。でもね、比企谷君。人間は失敗を乗り越えて、やり直していける生き物なのよ。

 

ーーーー

ーーーー

 

比企谷君が奉仕部を去って、総武高から転校して2週間。私と由比ヶ浜さんは持てる全てをつかって彼を探していた。姉さんも葉山くんさえも利用して…。平塚先生は事情をわかった上で、彼の行先を教えてくれなかった。すなわち、追いかけるべきでないと。

 

比企谷君は修学旅行の後、数日の間に転校してしまった。由比ヶ浜さんですら転校を知ったのは翌日のことだった。その間学校も休み、平塚先生以外にはまともな説明もしていなかったそうだ。

 

雪乃「…由比ヶ浜さん、あなたちゃんと寝ているの?」

 

結衣「ふぇ?…寝てる!寝てるよ?」

 

雪乃「無理しなくていいわ。酷い隈が出来てるわよ」

 

結衣「うー…でも、ヒッキーが…」

 

雪乃「気になるのはわかるわ。でもそれであなたが体調を崩してどうするの…逃ヶ谷君のことは任せてちょうだい。姉さんも探してくれているし」

 

比企谷君の修学旅行での行動の理由を、私達は彼の転校の後に知った。

 

ーーーー以下回想ーーーー

 

平塚「入るぞ雪ノ下」

 

雪乃「先生ノックをしてください…それと、今は少し忙しいのでお相手できません」

 

平塚「比企谷のことかね」

 

雪乃「…はい。私達は彼とこのまま離れるわけにはいきません」

 

平塚「…そうか。だが、今は少し話を聞いてもらうぞ」

 

雪乃「なぜでしょうか?」

 

平塚「大事な話だからだよ、雪ノ下。由比ヶ浜も聞いてくれ。さて、入りたまえ」

 

葉山「…こんにちは雪ノ下さん。結衣も」

 

海老名「…」

 

結衣「葉山くんと姫菜まで…どうしたの?」

 

雪乃「なぜ、彼らをここに?」

 

平塚「それは今から説明するが、その前に。雪ノ下、彼らは修学旅行前に奉仕部に依頼をした。間違いないか?」

 

雪乃「…葉山くんからは確かに依頼を受けました。ですが…」

 

結衣「姫菜は…違いますよ?」

 

雪乃「えぇ、確かに彼女は修学旅行前にうちに来ましたが、ただ『男子同士仲良くしてほしい』としか」

 

平塚「ふむ、聞いていた通りだな。では雪ノ下、この2人が修学旅行中、個人的に比企谷にした依頼を知っているか?」

 

雪乃「はい…?」

 

結衣「個人的な依頼?」

 

平塚「知らないか。これも聞いた通りだな。では、その辺から話すとしよう」

 

ーーーー回想終了ーーーー

 

平塚先生の口から語られたのは比企谷君に課せられた無理難題。一方は『告白を成功させたい』、もう一方は『告白を未然に防いでほしい』。葉山くんがその両方の相談を受け、悩んだ挙句に奉仕部…比企谷君に丸投げする。比企谷君は限られた時間で最大限を導いた…そう言えるだろう。

 

話し終わったあと、海老名さんは泣きながら謝罪した。比企谷君との関係を、奉仕部をぐしゃぐしゃにして申し訳ないと。葉山くんもまた、同じように頭を下げた。

 

平塚先生は、もう比企谷君と私達は元に戻れないと言った。

 

平塚『君達を信頼していたんだよ、彼なりに。自分を知っている、今まで一緒にいた2人だから、言わなくても分かってもらえると。傲慢だったかもしれないが、こんなことで崩れてしまうと思ってなかったんだろう』

 

だから、彼を否定した私達にはもう無理だと。

 

けれど、だとしても。彼は向き合うことが出来た。私たちと向き合えるはずだった。それもせず、何一つ言わずに転校してしまうなんて。それは逃避よ。私たちにとって大切だった関係を一方的に終わらせようなんて。そんなこと許されていいはずがない。

 

チャイムが鳴る。下校時間になり、私も由比ヶ浜さんも荷物をまとめ始める。そこで、私の携帯に電話が入った。相手は………葉山くん?

 

葉山「雪乃ちゃ…雪ノ下さん、比企谷が見つかった」

 

ーーーー

ーーーー

 

私と由比ヶ浜さん、姉さんは葉山くんと待ち合わせ、喫茶店に来ていた。それぞれ飲み物の注文を済ませると早々に比企谷君の話になる。見つかったというのは本当なのかしら。

 

葉山「これを見てもらえるかな」

 

結衣「バスケの試合?」

 

雪乃「葉山くん、比企谷君の話をするのよね?どうしてバスケの動画を見せられるのかしら」

 

葉山「彼が映ってるからだよ…。これは、先週あったバスケのウィンターカップ予選決勝リーグの動画で、対戦してるのは誠凛高校と霧崎第一高校」

 

陽乃「説明はいいから、隼人、どこに比企谷君がいるの?まさか選手なわけないだろうから観客席?だとしたら手掛かりとしては薄すぎるよ」

 

葉山「そのまさかなんです。僕も聞いて、実際に見るまでは半信半疑でしたけど…。少し、飛ばしますね。」

 

葉山くんは試合の流れを軽く解説しながら問題のシーンへと動画を飛ばした。そして、第4Q半ば、彼は白と赤のユニフォームに身を包みコートに現れた。

 

雪乃「……比企谷君…ね」

 

結衣「うん…間違いないね」

 

わかりやすい猫背と寝癖、画面越しの小さな姿でもわかる卑屈に細めた目。その姿は、半年近く見てきた見間違えようのない比企谷君だった。

 

葉山「比企谷は…誠凛高校でバスケをしてるようです」

 

結衣「ヒッキー、バスケ出来たんだ…知らなかった」

 

陽乃「バスケ…そういえば…比企谷君の出身中学って…」

 

雪乃「どうかしたの?姉さん」

 

陽乃「うん、比企谷君のこと調べてて知ったことなんだけどね…彼、帝光中出身みたいなのよ」

 

結衣「ていこうちゅう?」

 

雪乃「帝光中学校。確かバスケ部が強かったんじゃなかったかしら。でも東京の学校だった気がするのだけど」

 

結衣「ヒッキーって千葉ラブじゃなかったっけ?」

 

陽乃「家の事情じゃないの?今回の引越しもそうだって話だし。彼元々賢いわけだから帝光行っててもあんまり違和感ないよね」

 

葉山「…見る限り比企谷はチームにかなり溶け込んでる。同じ中学出身の後輩もいるみたいだし、もしかしたらもう関わらない方が……」

 

葉山くんの言うこともわかる。平塚先生が止めた理由も理解はしている。私達は彼を否定した。否定して、拒絶して…分かり合えなかった。

 

雪乃「…」

 

結衣「…でも…」

 

雪乃「だめよ」

 

結衣「…ゆきのん」

 

雪乃「彼とこんな形で離れ離れになるなんて、納得出来ない」

 

葉山「…」

 

雪乃「…彼に会いに行きましょう」

 

陽乃「…ふーん。でも、どうやって?」

 

雪乃「元々、彼と私達の意見がぶつかったのが原因なのだから、正々堂々ぶつかってみればいいわ」

 

結衣「ぶつかる…?」

 

雪乃「バスケで、よ」

 

彼が彼のやり方を通して、私達と決別するというのなら。彼が次の場所でまた自分を貫くなら。正面からぶつかりましょう。私たちの気持ちで。

 





比企谷君、霧崎第一戦出場決定しました



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しかし彼の部活動はいつも突然始まる

ひと月しっかり休ませてもらいました(自主的に)

お待たせしてしまっていたら申し訳ありません。

設定変更してから修正後初の更新になります。




火神大我という後輩は粗雑で強引、力押しの目立つプレイヤー。それを補助し強みを十全に引き出すのが黒子とのチームプレイであることはよくわかった。そしてそのチームワークは俺の意図しないところでも、存分に発揮された。具体的な実害を言うならば、俺はこの1週間毎日バスケ部の練習に来ていた。

 

八幡「…おかしい。これはおかしいぞ」

 

リコ「どうかしたの?比企谷くん」

 

八幡「…なんで俺ここにいんの…?しかも毎日」

 

リコ「…何言ってんの?入部するんでしょ?」

 

入部…?入部と言ったのか。なんということだ。俺は既にそんなところまで追い詰められていたというのか。

 

ーーーー以下回想ーーーー

 

教師「以上でHRを終了する。比企谷、少し来てくれ」

 

チャイムと同時にHRが終わり、担任になった女性教師に呼ばれる。どこか平塚先生を思わせる少し気の強そうな先生で、事前にクラスの説明もしてくれるようないい教師だ。

 

八幡「なんかありましたっけ…?」

 

教師「あぁ、どうだ初日終わってみて。何とかやれそうかね」

 

八幡「普通じゃないっすか。クラスの雰囲気も悪くはなさそうですし。どっちみち俺は空気みたいなもんなんで」

 

教師「ふふっ、平塚先生から聞いたとおりだな。君は面白いよ」

 

八幡「平塚先生と知り合いなんですか?」

 

教師「大学が同じだったんだ。あまり関わりはなかったが、君のことで総武校に連絡したら彼女に繋がったのさ」

 

八幡「はぁ、まぁ別にいいんですけど…。用はそれだけですか?なら、帰ります」

 

教師「まぁ待て比企谷。ほら、お客さんだぞ」

 

そう言って先生の指さす先には黒子と火神が立っていて、先生は一言「頼まれてな、すまない」と言って教室を去っていった。

 

ーーーー回想終了ーーーー

 

その後火神に捕まえられ体育館へ強制連行された後、バスケ部一同にやや過剰な歓迎を受けた。それ以降毎日欠かすことなく火神と黒子は俺を強制連行しつづけている。

 

リコ「比企谷くん、見てるだけで退屈しないの?」

 

八幡「退屈云々はどうでもいいが、早く帰りたい」

 

リコ「あんたのそういうとこ、この1週間で慣れてきたわ…」

 

八幡「そりゃよかった。慣れついでに帰らせてくんない?」

 

リコ「今日はダメね」

 

八幡「それ毎日言ってるぞ…」

 

こんな感じで結局放課後をしっかりバスケ部で過ごしている。黒子や火神、誠凛メンバーの練習は質も量もかなりのレベルで、見ていて退屈はしないのだがどうにも物足らない。チームとしての完成度はそこそこ。黒子が上手く機能すれば、かなりのチームに対して優位を取れるだろう。しかし…黒子に頼りすぎなきらいがある。

 

八幡「なぁ」

 

リコ「なに?気になることあった?」

 

八幡「黒子がいなくなったらどうする」

 

リコ「え?」

 

なにその意外な顔。まさか考えてなかったわけじゃないだろ。今までだって黒子を1試合フルで出せてたわけじゃないんだし、これからは連戦もある。怪我やらを考えると黒子なしの試合だって増えるかもしれないぞ。

 

リコ「…わかってるつもりよ。黒子くんに頼りすぎてること。私もみんなも」

 

八幡「…対策考えてねぇのか」

 

リコ「考えてはいるのよ。でも彼なしの誠凛じゃキセキの世代と渡り合えない。黒子くんを交えた状態が今のうちの最大戦力だもの」

 

八幡「わかってねぇな…」

 

リコ「え…?」

 

わかってねぇ。大事なことを忘れてる。このチームは黒子テツヤを利用できてはいるが、運用できていない。

 

黒子「どういうことですか、比企谷先輩」

 

話を聞いていたらしい黒子が問いかける。急に目の前に出るのやめてね、心臓に悪いから。こいつお化けの才能あるわ。

 

八幡「…黒子、お前のプレイヤーとしての技能は良くても下の上だ。そんなお前を赤司がチームに加えたのは何故かわかってるか?」

 

黒子「ミスディレクションとハイディングによる徹底したパス回し…ですか?」

 

八幡「もちろんそれは大前提だ。はっきり言ってそれがなかったら必要ない。…いいか、プレースタイルのせいで起こりにくいだけで、対戦相手との1on1になったらお前の勝率はほぼゼロ。そんな黒子でも採用できるだけのゆとりがあったんだよ」

 

黒子「…キセキの世代の個人技能の高さ、ですね」

 

八幡「そういうことだ。お前の技能不足を補って余りある戦力。黒子無しでも負けることがないチーム。それが帝光中バスケ部だった。だからこそ、幻の6人目としてお前が加えられたんだ。だが、誠凛はそうじゃない」

 

リコ「…今の私たちじゃ力不足ってことね」

 

八幡「そういうこと」

 

相田リコ…雪ノ下ほどじゃないができる女の子だ。少なくともバスケにおいてその観察眼は桃井に匹敵するだろう。残念ながらこれから戦うのはその桃井がいる世代だけどな。

 

いそいそと帰り支度を進める俺。ちょっとキツめの忠告もしちゃったし居づらいことこの上ない。こういう時はさっさと撤退するに限るのだ。八幡兵法その1『戦術的撤退』ということだ。

 

日向「どこ行くんだダァホ」

 

八幡「…何故バレた。気配は消していたはず…」

 

日向「うちにはその道のプロがいるからな…黒子に比べりゃ比企谷なんか目立って仕方ねぇよ」

 

おのれ黒子…俺のステルスを完全に無効化してしまうとは。

 

日向「あんだけ言っといて帰るとかなしだろ、せめて少しくらい遊んで帰れや」

 

八幡「…怒ってる」

 

日向「怒ってねぇよ」

 

リコ「怒ってるわね」

 

日向「怒ってねぇって」

 

黒子「怒ってます」

 

日向「だァかァらァ…怒ってねぇっての!まともに俺達とやってもみねぇで戦力不足だのなんだの気に食わねって言ってんだ」

 

一同「「怒ってんじゃん」」

 

日向「なんっで息ピッタリなんだよ!比企谷まで!」

 

八幡「…はぁ…1回だけな」

 

リコ「ほんと!?やってくれるのね?」ニヤリ

 

日向「言ったな!?」ニヤリ

 

黒子「じゃあ何か賭けないとデスネ」(棒)

 

八幡「は?」

 

リコ「そうねー…じゃあ比企谷くん負けたらバスケ部入ってもらうことにしましょう」ニヤニヤ

 

八幡「…おい」

 

日向「いい考えじゃないかーリコー」

 

ーーーー

ーーーー

 

黒子「と、いうことで比企谷先輩、バスケ部入部おめでとうございます」

 

八幡「ぜェ…ぜェ…。3on1は聞いてねぇ…ぞ」

 

黒子「言ってませんでしたし」

 

スタート時は1on1の体裁を保っていた…。ものの数秒で水戸部と小金井が入ってきたが、それでもなんとか食らいついた俺を誰か労ってくれ。理不尽とはこれこのことなり…。

 

日向「……にしても比企谷、ほんとにバスケやめてたのかよ…全然動けるじゃねえか」

 

八幡「やめてたよ。ほんの少し自主トレしてただけだ」

 

事実バスケからは距離を置いていた。情報もシャットアウトしていたし、虹村にも連絡をしていなかった。桃井からは定期的にメールが来ていたがそれも彼女が卒業してからは途絶えた。

 

自主トレも朝晩の走り込みや、筋トレ程度の話。コートでボールに触れるのはこの前の黒子&火神の時が正真正銘、引退以来初だ。

 

木吉「で、どうだ比企谷。誠凛は」

 

八幡「なんだよその質問、漠然としすぎだろ」

 

木吉「そうか…?」

 

日向「木吉はこういうやつだよ…」

 

八幡「…まぁ次の試合勝つのは、難しいだろうな」

 

リコ「……理由、聞かせてもらえるかしら」

 

八幡「…選手が薄すぎる。スタメン5人と控えの戦力差が開きすぎてるんだよ。次の対戦校…霧崎第一だろ」

 

日向「…ンなもん!俺ら5人でなんとでも…!」

 

八幡「ならねぇよ。花宮いるんだぞ、どう考えても削りにくんだろ。選手のメンタルもフィジカルも」

 

言われて、日向を含め誰もが押し黙る。思い当たるところがあるのか。どちらにしても花宮相手にまともな戦力が5人というのは問題外だ。水戸部、小金井はそれなりに機能する。昨年の経験もあってのことだろう。しかしあくまでそれなりだ。おそらく怪我をしている木吉や、どうにも落ち着きのない日向のサポートにはなれないだろう。

 

黒子「ですが、その問題なら解決しました」

 

一同「「え?」」

 

黒子「比企谷先輩が入るじゃないですか」

 

八幡「…あー」

 

リコ「そうだったわね、なんか盛り上がっちゃって忘れてたわ…」

 

 

 

 

 

 

 



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