仮面ライダー龍騎 15RIDERS (ロンギヌス)
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第1話

元々は『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』に投稿していましたが、諸事情であちらとは別々の作品として分けました。

こちらはTVSP版を題材とした『13RIDERS』のストーリーを舞台に、仮面ライダーディケイドが初出となる『仮面ライダーアビス』、そしてとある読者の方が考案して下さったオリジナルライダー『仮面ライダーエクシス』を投入したストーリーになっています。

あらすじにも書いてある通り、上述の作品と内容が一部リンクしている為、先に上述の作品を読んでおかないとわからない部分が多々あります。ご了承下さいませ。



合わせ鏡が無限の世界を形作るように……

 

 

 

 

現実における運命も1つではない……

 

 

 

 

同じなのは欲望だけ……

 

 

 

 

全ての人間が欲望を背負い……その為に、戦っている……

 

 

 

 

その欲望が背負い切れないほど大きくなった時……人は、ライダーとなる……

 

 

 

 

ライダーの戦いが……始まるのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド。

 

それは鏡の中に存在する虚像の世界。

 

生物がおらず、風も吹かず、環境音以外に何も聞こえて来ない。

 

そんな不気味な世界で……ある戦いが繰り広げられていた。

 

『―――グルァッ!!』

 

「くっ!?」

 

看板の文字など、全てが左右に反転した商店街エリア。その中をガゼル型の怪物―――ギガゼールが跳躍し、何者かに向かって襲い掛かっていた。そんなギガゼールの突進を屈んでかわしたのは、頭部にドラゴンの紋章が象られた赤い仮面の戦士―――“仮面ライダー龍騎”だ。

 

「このモンスター、またアイツの……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『グルゥ!?』

 

ドラゴンの頭部を模した左腕の召喚機―――“龍召機甲(りゅうしょうきこう)ドラグバイザー”にカードを装填した龍騎は、どこからか飛来した柳葉刀のような武器―――“ドラグセイバー”を右手でキャッチ。再び跳びかかって来たギガゼールの突進を屈んでかわし、その腹部をドラグセイバーで斬りつけてギガゼールを地面に落下させる。地面に落ちたギガゼールはすぐに立ち上がり、龍騎を睨みつけながらジリジリと間合いを保つ。

 

『グルルルル……!!』

 

「いや、お前1体だけじゃない……他にもまだたくさんいるはずだ……!!」

 

「正解、よくわかったなぁ!!」

 

『『『『『グルアァッ!!』』』』』

 

「!?」

 

そんな台詞と共に、店舗の物陰などから複数のガゼル型の怪物達が一斉に姿を現し、驚いている龍騎の周囲を取り囲み始めた。龍騎が声の聞こえて来た方向に振り返ると、その先からギガゼールと同じガゼル型の怪物―――メガゼールとネガゼールの2体を押し退けるように別の戦士が姿を現した。

 

「またお前か、インペラー……!!」

 

「よぉ、また会ったな。今回は1人だけ(・・・・・・・)か? まぁ良い……行けぇ!!」

 

『『グガァ!!』』

 

襲って来たガゼルの戦士―――仮面ライダーインペラーの指示に従い、今度はオメガゼールとマガゼールの2体が龍騎に攻撃を仕掛ける。それを前転でかわした龍騎は次々と襲い掛かって来るギガゼール達をドラグセイバーで斬り伏せながら、この場を切り抜けようと店の屋根まで跳躍しようとした。

 

「逃がすかゴラァ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

しかし、そうは問屋が卸さない。同じように跳躍したインペラーが横から飛び蹴りを繰り出し、宙に跳んでいた龍騎の腹部を蹴りつけて地面に叩き落とす。地面に落ちた龍騎は仰向けに倒れたままドラグセイバーを構え、上から落ちて来たインペラーが振り下ろして来たガゼルスタッブを受け止める。

 

「やめろ!? 俺は、お前達(・・・)と戦うつもりはない……!!」

 

「はん、馬鹿が。テメェにはなくても、こっちにはあるんだよ……オラァ!!」

 

「ぐは!?」

 

インペラーは龍騎を蹴り転がし、ガゼルスタッブの先端を龍騎の首元に突きつける。

 

「高見沢さんからの命令でなぁ。テメェはこの戦いに邪魔なんだとよぉ、榊原……わかったらとっとと死んで貰おうかぁ!!」

 

「ッ……でやぁ!!」

 

「な、うぉっと!?」

 

龍騎の蹴りがインペラーの腹部に当たり、インペラーが後ずさった隙に立ち上がった龍騎がドラグセイバーでインペラーの胸部装甲を斬りつける。インペラーも負けじとガゼルスタッブを突き立てて龍騎に襲い掛かるが、龍騎はドラグセイバーの刀身でガゼルスタッブを受け流し、受け流された先に立っていたメガゼールを攻撃させる。

 

『グガゥ!?』

 

「!? テメェ……!!」

 

「悪く思うな……この世界に、ライダーは存在してはいけないんだ……!!」

 

「あぁ?」

 

ドラグセイバーの剣先を向けながら、龍騎は言い放つ。集団で囲まれているにも関わらず、堂々と構えている龍騎の姿に気圧されたのか、インペラーの足が少しだけ後ろに下がる。

 

「俺は成し遂げる……このミラーワールドは、俺がこの手で閉じてみせる!!」

 

「チッ……何をゴチャゴチャ言ってやがる!!」

 

インペラーの振るうガゼルスタッブを足蹴にした龍騎が跳躍し、宙返りしてから地面に着地する。そして龍騎はドラグセイバーを放り捨てた後、ドラグバイザーの装填口を開いて1枚のカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォォォォォン!!』

 

「!? 何……どわぁ!?」

 

『ガッ……グルァ!?』

 

『ギャウ!?』

 

『グガァァァァァッ!?』

 

咆哮と共に上空から飛来したのは、赤いドラゴン型の怪物―――“無双龍(むそうりゅう)ドラグレッダー”だ。ドラグレッダーが口から放射する複数の火炎弾が、地上のネガゼールやオメガゼール達を次々と爆殺し、インペラーも足元に飛んで来た火炎弾の爆発で転倒してしまう。

 

≪FINAL VENT≫

 

「はっ!!」

 

『グオォォォォォォォン!!』

 

その隙に、ファイナルベントのカードを装填した龍騎は大きく跳躍し、ドラグレッダーもそれに続くように上空へと舞い上がる。ドラグレッダーが周囲を回転する中、空中で体を大きく捻らせた龍騎は右足でキックの構えを取り、地上でまだ生き残っていた最後の1体であるギガゼールに狙いを定める。

 

『グオォンッ!!!』

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

『グルァァァァァァッ!?』

 

そしてドラグレッダーの噴き出す炎と共に、龍騎の必殺技―――“ドラゴンライダーキック”が加速。圧倒的なスピードで繰り出されたその一撃は、逃げようとしたギガゼールの背中を貫き爆散させてみせた。その光景を目の前で見せつけられ、インペラーは自分の従えていたギガゼール達を全滅させられた事に動揺を隠せない。

 

「ば、馬鹿な、俺のモンスター達が……!?」

 

「……どうする。まだ続けるか?」

 

「ッ……舐めてんじゃねぇぞぉ!!」

 

戦いを続けるかどうか問いかけて来る龍騎。そんな彼の態度が、自分を見下しているようにも見えたのか。インペラーは仮面の下で歯軋りし、苛立ちに身を任せてガゼルスタッブを振り下ろした。

 

≪GUARD VENT≫

 

「だぁ!!」

 

「何……ごはぁっ!?」

 

ドラグレッダーの腹部を模した盾―――“ドラグシールド”がガゼルスタッブを防ぎ、カウンターで突き出されたドラグセイバーの一撃がインペラーを薙ぎ払う。地面を転がされたインペラーはガゼルスタッブを手放し、こちらを見下ろしている龍騎を睨みつける。

 

「ク、クソッタレがぁ……!!」

 

「諦めろ。お前じゃ俺には勝てない」

 

そう言って、龍騎はインペラーに背を向け、その場から立ち去ろうとする。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、俺の事も倒してみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

「!? ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

そんな龍騎の背中に、1発の水流弾が襲い掛かった。吹き飛ばされた龍騎は地面に倒れた後、水流弾が飛んで来た後方へと振り返る。

 

「お前は……アビス……ッ!!」

 

「油断したな、榊原」

 

地面から立ち上がろうとしているインペラーの横に、アビスクローを構えた鮫の戦士―――仮面ライダーアビスが姿を現した。アビスはアビスクローを龍騎に向けた状態で面倒臭そうに言い放つ。

 

「1人か? なら都合が良い。悪いが、さっさと沈んで貰うぞ……ふん!!」

 

「ぐ……うわあぁっ!?」

 

アビスクローから再び水流弾が放たれ、龍騎はドラグシールドでそれを防ごうとする。しかし最初に受けた水流弾のダメージが響いたのか、足の踏ん張りが利かなかった龍騎は水流弾の衝撃に耐え切れず、更に吹き飛ばされて建物の壁に叩きつけられてしまった。

 

「ぐ、ぅあ……ッ!!」

 

「おい、何をしてる湯村。さっさと立て」

 

「二宮……わかってるよ、くそ」

 

アビスに言われてインペラーが立ち上がる一方、龍騎はフラフラながらも壁伝いに歩き、何とかしてこの場を撤退しようとする。しかしそれを見逃す2人ではなく、アビスは迷わず次のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『『シャァァァァァッ!!』』

 

「ぐあぁ!?」

 

アビスラッシャー、アビスハンマーの2体が真上から飛び降りるように出現し、逃げようとする龍騎の前に立ち塞がる。2体の鉤爪で攻撃された龍騎が怯んだところに、アビスとインペラーも迫り来る。

 

「仕留めるぞ」

 

「へっへぇ、おうよ!!」

 

「ぐっ……うあぁ!?」

 

アビスバイザーで殴られ、インペラーの膝蹴りを受け、更にはアビスラッシャーとアビスハンマーに突進され、反撃の間もなく連続で攻撃され続ける龍騎。蓄積されたダメージでフラついている龍騎の姿を見て、アビスはそんな彼にトドメを刺すべくファイナルベントのカードを引き抜いた。

 

「安心しろ。一撃で沈めてやる」

 

「ぜぇ……はぁ……俺はまだ、死ぬ訳には……ッ!!」

 

「……往生際の悪い」

 

未だ足掻き続ける龍騎にアビスは呆れたように溜め息をつき、ファイナルベントのカードをアビスバイザーに装填しようとする。万事休すかと思われたその時……

 

『『ギシャアッ!!』』

 

「何……どわぁっ!?」

 

「!? チィ……ッ!!」

 

跳躍しながら現れたアシナガグモ型の怪物―――ソロスパイダーが鋭利な鉤爪を振り下ろし、アビスとインペラーに向かって襲い掛かって来た。突然の野生モンスター襲撃という事態に襲われ、インペラーはすぐに対応できず攻撃を受け、アビスはすかさずアビスバイザーを突き出して攻撃を防御する。

 

「くっそ……おい、何だよコイツ!?」

 

「野良の奴か、タイミングの悪い……!!」

 

『ギシャシャシャシャシャ!!』

 

ソロスパイダーは素早い動きで鉤爪を振り回し、アビスとインペラーを翻弄していく。その間に、命拾いした龍騎はフラフラながらも立ち上がってから大きく跳躍し、建物の屋根を伝ってどこかへ逃げ去っていく。

 

(早く……“コアミラー”を見つけなければ……!!)

 

「!? おい、アイツ逃げる気だぞ!!」

 

「面倒な……湯村、この場は任せる!!」

 

「は? ちょ、おい、二宮!?」

 

龍騎を逃がすまいとアビスも跳躍し、建物から建物へ跳躍しながら逃げた龍騎を追いかけていく。取り残されたインペラーは1人でソロスパイダーを相手取る羽目になってしまった。

 

「あの野郎、俺に押しつけやがったな……クソがぁ!!」

 

『ギシャッ!?』

 

ソロスパイダーの鉤爪を両腕で掴み取り、強烈なハイキックでソロスパイダーを蹴り飛ばすインペラー。彼は溜まりに溜まった苛立ちを発散するべく、ファイナルベントのカードを左足のガゼルバイザーに装填する。

 

「うざってぇ、とっとと潰してやるよ……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『『『『グルァァァァァァァァッ!!』』』』』

 

『!? ギ、シャ、ガァ……ッ!?』

 

電子音と同時に現れたガゼル軍団が、一斉にソロスパイダーに突撃し攻撃し始める。絶えず襲って来るガゼル軍団の攻撃で身動きが取れないソロスパイダー目掛けて、一番最後に突撃したインペラーが左足でローリングソバットを放つ。

 

「どらぁっ!!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァッ!?』

 

インペラーの必殺技―――ドライブディバイダーが決まり、蹴り飛ばされたソロスパイダーが宙に吹き飛ぶ。そのまま空中で大きな爆発が起こり、ソロスパイダーを跡形もなく消滅させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……はぁ、はぁ……」

 

場所は変わり、とある橋の下の通路。アビスとインペラーの襲撃から逃れる事ができた龍騎は、今にも倒れそうな体を気力で動かしながら、現実世界に戻るべく鏡を探していた。

 

(傷を負い過ぎた……戻ったらしばらく、身を潜めた方が良さそうか……)

 

人々を襲うモンスター。殺し合いを行う仮面ライダー。鏡という虚像の世界が生み出してしまったそれらは、決してこの世界に存在していてはならない。

 

ライダーの戦いを終わらせる為にも。

 

モンスターの巣食うミラーワールドを閉じる為にも。

 

自分はまだ、こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 

この時の彼はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その道中で、ある青年と出会うまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「……!」

 

龍騎が見つけた鏡から、突如飛び出して来た1人の青年。何故こんな所に人間がいるのか。原因を探った龍騎は、青年のすぐ近くに立っている元凶の存在に気付いた。

 

「痛てぇ~……って、何だ、ここ……?」

 

『キシャアァ~……!!』

 

「うぉ!? な、何だコイツ……!?」

 

ジグモ型の怪物―――ミスパイダーが唸り声を上げながら青年に迫ろうとしている。生身の青年がこのミラーワールドに飛び込んで来た原因が、このミスパイダーが糸を吐いて引き摺り込んだからである事を龍騎は理解した。

 

「ッ……!!」

 

龍騎は迷った。今のボロボロな状態で戦えば、自身の生存する確率は更に低まる事だろう。それを避けたいのであれば、目の前で襲われようとしている青年を見捨てる以外の選択肢はない。そこまで考えたところで……龍騎は足を1歩踏み出し、そこから勢い良く駆け出した。

 

「でやぁ!!」

 

『シャアッ!?』

 

「へ……?」

 

襲われかけている人間を見捨てる事は、龍騎にはできなかった。彼は抱き着くように突進してミスパイダーを青年から引き離し、青年は何が何だかわからないといった様子で龍騎の後ろ姿を見つめる。

 

「お、お前……人間かよ?」

 

「……ん」

 

青年の問いかけに龍騎は頷く反応だけ見せ、すぐにミスパイダーの方へと振り返り攻撃を仕掛ける。連続でミスパイダーのボディを殴り、怯んだミスパイダーの顔面に蹴りを炸裂させる。そんな龍騎とミスパイダーの戦いに、青年は困惑の表情を隠せずにいた。

 

「な、何がどうなってんだ……ッ!?」

 

その時、突然どこからか放射された光に青年は手で目元を覆う。青年が見た先では、光と共に出現した大きな鏡の柱が存在していた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

鏡の柱には、何枚もの動物の絵が貼りつけられていた。鏡の柱が発光すると共に、その内の1枚の絵が鏡の柱へと吸収されていき、絵の消えた紙が地面に落ちていく。

 

『シャアァァァァァ……!!』

 

「!? 何……!!」

 

そして鏡の柱から、ジョロウグモ型の怪物―――レスパイダーが実体化して地面に降り立つ。レスパイダーはすぐさま駆け出し、ミスパイダーと戦っていた龍騎に襲い掛かって来た。

 

『シャアッ!!』

 

『キシャシャシャ!!』

 

「ぐっ……!?」

 

ミスパイダーとレスパイダーは前後から攻撃を仕掛け、龍騎にダメージを与えていく。龍騎は仮面の下で苦悶の表情を浮かべながらも、レスパイダーに羽交い絞めにされた状態からミスパイダーを蹴り倒し、レスパイダーを力ずくで引き剥がしてから1枚のカードをドラグバイザーに装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ッ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

『グルルルルル……!!』

 

ドラグレッダーの頭部を模した武器―――“ドラグクロー”が飛来し、龍騎の右手に収まる。彼がドラグクローを構えて姿勢を低くすると、そこへ飛来したドラグレッダーが龍騎の周囲を回り……

 

「……はいぃっ!!!」

 

『グォォォォォォォンッ!!!』

 

『ギシャアァァァァァァァァァッ!?』

 

龍騎がドラグクローを突き出し、それを合図にドラグレッダーが火炎弾―――“ドラグクローファイヤー”を発射。その強力な一撃がミスパイダーに直撃して大爆発を引き起こし、レスパイダーがその衝撃で吹き飛ぶ中、ドラグレッダーがそのエネルギー体を摂取して飛び去って行く。

 

(ッ……そろそろ……限界、か……)

 

龍騎は全身から力が抜け落ち、その場に仰向けになって倒れ込んだ。アビスやインペラー、そして野生モンスターとの戦いでダメージと疲労を蓄積してきたせいで、とうとう限界が来てしまったのだ。

 

「お、おい、しっかりしろよ!! おい!?」

 

青年は慌てて駆け寄り、倒れたまま動かない龍騎を抱き起こして何度も呼びかける……が、青年は気付いた。龍騎を抱き起こしている自身の手が、シュワシュワと小さな音を立てながら粒子となり始めていた事に。

 

「な、何だ……?」

 

「ぐ、ぅ……ッ……」

 

その時、青年に抱き起こされている龍騎の変身が解除され、男性の姿に戻った。先程まで龍騎に変身していた男性―――“榊原耕一(さかきばらこういち)”は荒い呼吸を何とか整えながら、粒子化している自身の手を見て動揺している青年へと告げる。

 

「はぁ、はぁ……ミラーワールドに、引き込まれたら……戻る事はできない……ライダーに、ならない限り……ッ」

 

「ッ……ライダー……?」

 

(……ん? あれは……)

 

そこへ追い付いて来たアビスは、榊原と青年の姿を見てすぐさま物陰に身を隠す。アビスが隠れて様子を窺っている事など知る由もない青年は、榊原から龍騎のカードデッキを手渡される。

 

(せめて、彼だけでも……!!)

 

この時点で、榊原は悟っていた。ボロボロとなった自分が、生きてミラーワールドから出る事はできないと。だから彼は決めたのだ。この青年を生かす為に……自身のカードデッキを、彼に託す事を。

 

「お前が……代わり、に……ッ」

 

「!? 俺が……?」

 

『シャアァァァァ……!!』

 

突然カードデッキを手渡され、戸惑う事しかできない青年。そこへ体勢を立て直したレスパイダーが迫り、青年は渡されたカードデッキを手にその場から立ち上がる。すると何もない空間からベルトが出現し、それが青年の腰に装着される。

 

「デッキを、入れろ……ッ……!!」

 

「お、おぉ……」

 

榊原に言われた通りに、青年はカードデッキをベルトに装填。するといくつもの鏡像が青年の全身に重なり、彼を龍騎の姿へと変身させた。彼は自分で仮面に触れたり、ドラグバイザーに目をやったりと、自分が龍騎に変身しているという現実を認識させられる。

 

「ライダーになって……戦うんだ……!!」

 

お前が生き残る為に。そう言い切りたい榊原だったが、傷の痛みが原因でそこまで口に出す事はできなかった。しかし彼の想いは確かに伝わったのか、龍騎は榊原がやっていたようにカードデッキから1枚のカードを引き、それを装填口の開いたドラグバイザーに差し込んで装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「!? うぉっと……」

 

飛来したドラグセイバーを、龍騎は慌てて両手でキャッチする。自身が召喚したドラグセイバーを見て凄いと感じる龍騎だったが、今は驚いている場合ではない。何故なら2人に向かって、レスパイダーが接近しようとしているからだ。

 

『シャァァァァ……!!』

 

「ッ……だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『!? ギ、シャア、ァ……ッ!?』

 

何だかよくわからないけど、やるしかない。そう考えた龍騎はヤケクソな感じの雄叫びと共に走り出し、ドラグセイバーの刀身をレスパイダーのボディに思いきり叩きつけた。既に先程のドラグクローファイヤーの衝撃でダメージを受けていた事から、ドラグセイバーの一撃がトドメとなったレスパイダーはその場で爆発し、龍騎の目の前から綺麗に消滅した。

 

(……か、勝った?)

 

目の前にいたはずのレスパイダーの姿が見当たらない事から、自分が倒したのだと認識する龍騎。危機が去った事で少し安堵する彼だったが、振り返った先で倒れている榊原の体が粒子化を始めている事に気付き、すぐに彼の傍まで駆け寄る。

 

「お、おい……おい!?」

 

「ッ……お前、は……」

 

自身の顔を覗き込んでいる龍騎を見て、榊原は彼を生き永らえさせる事ができた事に安堵し……同時に後悔の気持ちも大きかった。彼を死なせない為とはいえ、彼にカードデッキを渡して彼を龍騎にしてしまった。仮面ライダーという名の重い十字架を、この青年に背負わせてしまったのだ。

 

「お前は……ライダーの戦いに、巻き込まれるな……ッ!!」

 

「え……?」

 

服のポケットから取り出した1枚の紙を手渡しながら、榊原はそう助言した。この青年が、あんな醜い戦いに関わらないように。せめて青年が、無事に生き延びる事ができるように。彼はそう願いながらも瞼を閉じていき……龍騎の腕の中で、完全な粒子となって消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……妙な事になっちまったな」

 

物陰に身を潜め、一部始終を見届けていたアビス。彼が面倒臭そうに舌打ちすると、そこへソロスパイダーを倒したインペラーが追いついて来た。

 

「おい二宮、こんな所で何してんだ。あれ龍騎だろ? 仕留めねぇのかよ」

 

「湯村か……少しばかり面倒な事になった。一旦戻るぞ」

 

「は? おいおい、何言ってやがんだ。さっさと奴を死留めて―――」

 

「もうタイムオーバーだ」

 

アビスが見せた右手も、少しずつ粒子化を始めていた。それを見たインペラーも、自身の両手が粒子となり始めている事に気付き、不完全燃焼な様子で溜め息をつく。

 

「くそ、一体何だってんだよ……!」

 

「……」

 

インペラーが不満そうに戻っていく中、アビスは後ろを振り返る。その先では、自分の入って来た鏡を通じて現実世界へと帰還していく龍騎の姿があった。

 

(カードデッキの継承か……榊原め、面倒な事をしてくれたな)

 

榊原を始末するという目的はある意味で達成されたが、仮面ライダーの数が減った訳ではない。このややこしい状況を築き上げた榊原の行動を忌々しく感じたアビスは、とある建物の窓ガラスを介して現実世界に戻ってから変身を解除。左目に白い眼帯を着けたスーツ姿の青年―――二宮鋭介の姿に戻った。

 

「おい二宮、どういう事か説明しろよ。何で龍騎を倒さなかった?」

 

同じく窓ガラスを介して戻って来たインペラーも変身を解除し、スーツの着崩れた青年―――湯村敏幸が二宮を睨みつけながら問い詰める。高圧的な態度を隠さない湯村の言動にも怯む事なく、二宮は携帯電話を取り出しながら説明する。

 

「榊原耕一は確かに死んだ。その時点で、俺達の当初の目的は果たされた事になる」

 

「あ? 何言ってんだお前、さっき思いっきり龍騎がいただろうがよ」

 

「信じられないかもしれんが……さっきの龍騎は別人だ。榊原の奴、自分が死ぬ直前で龍騎のカードデッキを他の人間に渡してやがったんだ」

 

「……はぁ!? おいおい、どういう事だよそりゃ!! ていうかそんな事できんのかよ!?」

 

「俺に聞かれても困る。実際に目の前で起こった事だからな……さて、高見沢さんになんて説明するべきか」

 

携帯電話に番号を入れ、ある人物に連絡を取る二宮。耳に当てた携帯電話から数秒間ほど発信音が聞こえてきた後、電話が繋がった事で二宮は通話を開始した。

 

「二宮です。龍騎の件で、早急にお伝えしたい事が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊原耕一は死んだ。

 

 

 

 

死ぬ直前で、彼は1人の青年に龍騎の力を受け継がせた。

 

 

 

 

龍騎の力を受け継いだ青年―――城戸真司(きどしんじ)は、この時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

仮面ライダーとして戦う事が、一体何を意味しているのかという事を。

 

 

 

 

そんな彼を次に待ち構えていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのカードデッキをこっちに渡せ」

 

 

 

 

 

 

「な……だ、誰だよアンタ? 何者だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過酷な宿命を背負った青年―――秋山蓮(あきやまれん)との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから、1つの物語は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




という訳で、初代龍騎こと榊原耕一が初登場、そしてアッサリ退場です。
短い出番で終わった彼ですが、今回は早速ほんの小さな謎をぶっ込んでみました。その謎の解明はまだ先の話。

一方、『リリカル龍騎StrikerS』第1部以来の出番となった湯村敏幸。どのループでも、彼の粗暴な性格は相変わらずの様子。
そんな彼と二宮が付き従っている人物も、次回辺りで登場予定……と言っても、既に名前が出ているのでバレバレですが。

あ、先に言っておきます。
浅倉の脱獄シーンは(作者が個人的に好きなシーンなので)カットせず普通に書きます←

それではまた次回。


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第2話

続けて2話目の更新です。

先に言っておきますと、序盤で真司と蓮が出会った時のシーンは原典と全く同じ展開になる為、今回は容赦なくカットしました。
いくらかシーンを削らないと、尺が足りなくなるもんで←

さて、今回はある男の回想シーンからスタートします。

それではどうぞ。



『ぐっ……はぁ、はぁ……!!』

 

ミラーワールド、とある工場内部。蟹の特徴を持った戦士が1人、呼吸が乱れている状態で木箱やドラム缶を強引に押し退けながら逃走を図ろうとしていた。

 

その戦士の名は仮面ライダーシザース。

 

警視庁に刑事として勤めている彼―――須藤雅史(すどうまさし)は、シザースのカードデッキを手にして以来、ある男を捕まえる為に仮面ライダーとなり、このミラーワールドで活動を続けていた。しかし現在、彼は満身創痍の状態で工場内部を逃げ続けており、その後方から別の戦士が追いかける。

 

『何だ、逃げるのか? それとも、鬼ごっこが好きなのかぁ……?』

 

黄金の突撃剣―――ベノサーベルを左手に持ったコブラの戦士―――仮面ライダー王蛇がそう言い放ち、ゆらりと首を回しながら歩いて追いかけて来る。シザースは傷付いた右腕を押さえ、片足を引き摺りながらも必死に逃げ続ける。

 

『まだだ……私はまだ、死ぬ訳には……ッ!!』

 

『どうしたぁ? 俺はまだ楽しみたいんだが……』

 

この王蛇の変身者―――浅倉威こそ、須藤が捕まえようとしている殺人犯だった。王蛇となった彼を捕まえるには自分もライダーになるしかない。そう考えた彼はシザースとなって戦いを挑んだが……浅倉の戦闘力は、刑事である須藤ですら苦戦するほどだった。しかしシザースの心はまだ折れていなかった。浅倉を捕まえる為……己が持つ強い正義感を支えに、彼はこの場で死ぬ訳にはいかなかった。

 

『くっ……!!』

 

『おい、逃げるなよ……俺と戦えよォ……!!』

 

建物の鏡を通じ、現実世界に逃走するシザース。せっかくの獲物を逃がして溜まるものかと、王蛇は不機嫌そうな様子で後を追いかけ、同じように鏡を通じて現実世界に帰還。彼は飛び込んだ先の通路で、変身を解いてどこかに逃げようとしている須藤の姿を発見する。

 

『あぁ、そこにいたかァ……♪』

 

『ッ……浅倉……!!』

 

変身を解き、後ろから追いかけて来る浅倉。走れば容易に追いつけるが、敢えて浅倉は一定の距離を保ちながら須藤を追いかけており、それが余計に恐怖を駆り立てる。須藤は悔しげな表情を浮かべながらも逃げ続けるが、とうとう袋小路に追い込まれてしまい、すぐに引き返そうとした彼の前に浅倉が立ち塞がる。

 

『鬼ごっこは終わりかぁ……なら戦え……!!』

 

『……かかりましたね』

 

『あ……?』

 

……が、その時だった。須藤が小さく笑みを浮かべた直後、浅倉の後方からドタトタと走って来る足音がいくつも聞こえて来た。その複数の足音の正体に浅倉が気付いた頃にはもう遅く、駆けつけた機動隊が銃を構えながら浅倉の周囲を取り囲んでいく。

 

『浅倉威、もう逃げられないぞ!!』

 

『大人しく投降しろ!!』

 

『……お前』

 

『はぁ、はぁ……私は刑事ですよ。何の意味もなく、ここへ逃げ込んだと思いましたか……?』

 

全ては、ある弁護士(・・・)のアイデアを聞いた須藤による作戦だった。予め呼んでおいた警官隊を密かに待機させた後、自分はライダーとして戦うフリをして浅倉を誘導し、袋小路まで追いかけて来たところを取り押さえる為に動いていたのだ。須藤が笑っている意味に気付き、浅倉の表情から笑みが消えていく。

 

『両手を上げろ、浅倉!!』

 

『終わりです、浅倉威』

 

『……チッ』

 

周囲には鏡になりそうな物が存在しない。それも須藤の計算の内なのだろう。結果、浅倉は何もできないまま機動隊によって取り押さえられ、逃げられないよう厳重に拘束。その際にカードデッキも没収され、浅倉は関東拘置所に拘置される事となるのだった。

 

刑事と殺人犯による戦い……結果は見事、須藤が勝利を収めてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その戦いから数日後……

 

 

 

 

 

(……イライラする)

 

関東拘置所にて、浅倉はとある牢獄に閉じ込められていた。椅子に座らされたまま拘束衣を着せられ、その上から鎖で繋げられた黒い帯を巻きつけられ、口元には黒いマスクを装着させられている。碌に体を動かせず、同じ体勢のまま時間だけが流れていくこの退屈過ぎる状況こそ、浅倉にとっては何よりもキツく、何よりもイライラさせられる時間だった。

 

イライラが収まらない。

 

そのせいで頭がおかしくなりそうだ。

 

これも全部あの刑事のせいだ。

 

どうやって潰してやろうか。

 

あぁ、早く戦いたい。

 

戦いたい。

 

殴りたい。

 

蹴りたい。

 

倒したい。

 

壊したい。

 

殺したい。

 

潰したい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦いたい。

 

戦って戦って戦って戦って何もかも捻り潰してしまいたい。

 

ライダーという最高の快楽を知ってしまった浅倉の思考回路は既に、戦い以外に何も存在してはいなかった。戦いたいから戦う。その為なら誰だろうと潰す。まさに人の皮を被った怪物(モンスター)のようだった。

 

(……ん)

 

そんな時だ。遠くから聞こえて来る音を、目を閉じていた浅倉の耳はしっかり聞き取った。ガチャリと、通路の扉が開かれる音。カツンカツンと、看守が通路を歩いている靴の音。浅倉が疑問に思ったのは、その靴の音が1人分ではなかった点だ。

 

(誰だ……?)

 

ここに勤めている看守達も、浅倉の事は危険な猛獣のように不気味がっている。その為、浅倉の様子を見に来る看守は大抵は1人である。それなのに何故、2人分の足音が聞こえて来るのか。疑問に思う浅倉の耳は、その足音が自分のいる牢屋に近付いて来ているのを聞き取る。そして足音の正体である2人の人物が、浅倉のいる牢屋の前まで辿り着いた。

 

「面会時間は5分です」

 

1人は、浅倉にとっても聞き覚えのある看守の声だ。しかし、その看守の告げた言葉が謎だった。一体、誰が何の用で自分に会いに来たというのか。その疑問を解決しようと目を開いた浅倉の視界に映り込んだのは……拘束されている浅倉を見て、少しだけ委縮している様子の青年―――城戸真司の姿だった。

 

「あ、えっと……」

 

「……誰だお前?」

 

本当に見覚えのない顔だった。自分がこれまで起こしてきた事件の被害者か、それとも事件の被害者に関係する人物か。どっちにしろ、暴力を振るった相手の顔などいちいち覚えていない浅倉からすれば、目の前の青年の素性など果てしなくどうでも良い事だ。ならば何故、この青年は自分に会いに来たのか……そう考えていた時、真司が慌てて取り出した物を見て、浅倉はようやく青年の正体を理解した。

 

真司が取り出した物……龍騎のカードデッキを見た事で。

 

「ライダーか……?」

 

浅倉の威圧感に気圧されながらも、真司は小さく頷いて肯定する。その反応に対し、浅倉はマスクの下でほんの僅かに笑みを浮かべた。

 

「覚悟はできてるのか……? ライダーになった奴は皆俺の獲物だ……!!」

 

「え……!?」

 

拘束されているとわかっていながらも、浅倉が無理やり動こうとした事でガシャンと鎖の音が鳴り響く。その音に真司が一瞬だけ怯んでも、浅倉は構わず言い放つ。

 

「俺はなぁ、いつも腹が減ってるんだよ……!! お前を倒せば、少しは満足できるかもしれない……!!」

 

「な……何考えてるんだよ、アンタ……!?」

 

「よせよせ」

 

そんな時だった。浅倉の言葉を聞いて困惑している真司の横に、スーツを着た高身長の男が並び立った。突然現れたその男の素顔を見た浅倉は、先程まで僅かに良くなっていた機嫌が一気に悪くなっていく。

 

「コイツとまともに話そうとしたって無駄だからな」

 

「北岡ァ……ッ!!」

 

その男―――“北岡秀一(きたおかしゅういち)”は、かつて浅倉を弁護した事があるスーパー弁護士だった。しかし北岡の実力を以てしても、浅倉を完全な無罪にする事はできず(それでも懲役10年に留める事はできたが)、自分を無罪にできなかった彼を浅倉は逆恨みするようになった。彼が王蛇になった理由も、同じライダーである北岡を倒す為でもある。そんな浅倉の心情など知った事ではない北岡は、手に持っていたビジネスバッグを床に置く際、真司が持っているカードデッキに気付いた。

 

「ふぅん、アンタもライダーなんだ。もしかして浅倉威を倒しに来たとか?」

 

「え、いや、俺は……」

 

「フッ……でもな、コイツはもう終わってるよ」

 

こんな牢獄に入れられている時点で、もはや浅倉が生き残れる道はない。あとは日にちが経過すれば、いずれ契約破棄となって勝手に契約モンスターに喰われる事だろう。北岡は余裕そうな表情で牢獄の檻に手をかけながら言い放つ。

 

「しかしお前もドジったな。せっかく脱獄したのにまた逮捕されちゃってさ」

 

ニヤニヤ笑っている北岡に対し、目付きだけでも苛立っている事がわかる浅倉。そこで北岡は懐からある物を取り出す。

 

「あぁ、それからこれ。お前の所持品から失敬しておいたよ。他の誰かに使われないようにな」

 

北岡が取り出した物、それは王蛇のカードデッキだ。王蛇のカードデッキを檻に打ちつけながら、北岡はこれで更に浅倉が苛立つだろうなと思い、その内心は非常に楽しそうだった。

 

しかし、そこでカードデッキを取り出してしまったのがいけなかった。

 

「……ハァァァ」

 

カードデッキから目線をズラした浅倉は、ある方向を見た瞬間にその目付きが変わった。それは苛立ちによる物ではなく、何か良からぬ事を思いついた不気味な笑い。その事を不審に思った北岡は、浅倉の見ている方向を見てすぐに気付いた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

真司が右手に持っていたヘルメット。そこにコブラのような姿をした紫色の怪物―――ベノスネーカーの顔が映り込んでいたのだ。

 

「!? 危ない!!」

 

「へ……?」

 

『シャアァァァァァァッ!!』

 

「くっ……うわ!?」

 

北岡が慌てて真司のヘルメットを叩き落とすが、もう遅かった。床に落ちたヘルメットからベノスネーカーが素早く飛び出し、浅倉の動きを封じている拘束具を壊し始めた。更にはベノスネーカーが振るった尻尾で北岡が薙ぎ倒され、彼の手から落ちた王蛇のカードデッキを真司が急いで拾い上げようとするが……真司よりも先に、別の手が王蛇のカードデッキを拾い上げた。

 

「はぁぁぁぁ……!!」

 

顔を上げた真司の目に入ったのは、拘束衣を乱暴に脱ぎ捨てる浅倉の姿だった。彼は檻の間から手を伸ばして真司の胸倉を掴み、彼の首元を檻に押さえつけたまま絞めつけ始める。

 

「ぐぅ!?」

 

「クハハハハ!! ドジなのはお前達の方だったな……!!」

 

思わぬ脱獄のチャンスが巡って来た以上、それを見逃す浅倉ではない。彼は王蛇のカードデッキを口に咥えた後、真司が背負っているカバンに付いていた水入りのペットボトルを奪い取り、キャップの外れたそれを床に落としてから力強く踏みつける。それにより床が水浸しとなり、浅倉は真司を離してから咥えていたカードデッキを水浸しとなった床に向かって突き出し、出現したベルトを装着する。

 

「ハァァァァァァ……変身ッ!!」

 

変身ポーズを取り、カードデッキを装填した浅倉は王蛇に変身。立ち上がった真司と北岡が「しまった」といった表情を浮かべている中、首を回した王蛇は牢屋の扉の方へと振り向き、左足で思いきり蹴り破った。

 

「ハァ!!」

 

破壊される扉。

 

鳴り響く警報。

 

大急ぎで駆け回る看守達。

 

出動するパトカーのサイレン。

 

王蛇に変身した浅倉が再び脱獄した事で、街では彼のニュースで大騒ぎとなってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さっきのニュース見ましたか? 高見沢さん」

 

『あぁ、俺も見たよ。面倒な事になっちまったもんだ』

 

その日の夜。街中に響き渡るパトカーのサイレンを聞きながら、二宮はとあるラーメン屋の屋台で1人味噌ラーメンを味わっていた。麺を一通り食べ終えた彼は、残りスープのみとなったお椀を覗き込みながら、携帯電話である男と連絡を取り合っている。

 

『奴が牢屋に閉じ込められて安心できると思っていたが、そう上手くはいかないようだな』

 

「どうしますか? 奴を放置すれば、私達にとっても脅威ですが」

 

『奴の事だ。自分を逮捕に追い込んだ須藤刑事を恨んでるだろうなぁ……取り敢えず、奴の事は須藤刑事に頼むとしよう』

 

「良いんですか? それだけで」

 

『問題ないさ。犯罪者のお相手は、お巡りさんに全部任せてしまえば良い(・・・・・・・・・・・)

 

「……わかりました」

 

全部任せてしまえば良い。それはつまり、いざという時は浅倉を引き寄せる為の囮役を須藤に押しつけてしまえば良いという事だ。知らないところで都合の良い囮役を任されてしまった須藤を哀れに思いつつ、二宮はお椀のスープを一口だけ飲んで口元を拭う。

 

『ところでだ二宮。例の男について、何かわかった事はあるか?』

 

「……新たな龍騎ですか」

 

榊原からカードデッキを引き継ぎ、新たな龍騎となった城戸真司。彼を離れた位置から監視していた二宮は、真司が榊原から授けられた紙切れを見ながら、関東拘置所まで向かって行った事を思い出す。

 

「あれから、奴は浅倉のいた関東拘置所まで向かいました……その後です。浅倉が拘置所から脱獄したのは」

 

『その男が、浅倉を脱獄させたとでもいうのか?』

 

「詳しい事情はまだわかっていません。何にせよ、奴が取っている行動は、どこか榊原と似ています。まるでカードデッキだけでなく、榊原の意志まで引き継いでいるかのようにも……」

 

『チッ……面倒だな』

 

二宮の報告を聞いて、通話先の男が厄介そうに小さく舌打ちする。

 

『奴が俺達に接触して来る可能性は?』

 

「0%……とは言えないでしょう。どうしますか?」

 

『……奴の方から接触して来た場合、その時に考えるとしよう。二宮、もしかしたら先にお前が接触する可能性もある。その時は上手くやってくれるな?』

 

「元々そのつもりです」

 

『よし……今後の予定は、奴の動き次第で変わる。何かあればすぐに連絡しろ』

 

「わかりました……では」

 

電話を切り、携帯電話を閉じてポケットに収めた二宮は、ラーメンのスープが残っているお椀に目を向ける。少しずつ冷めていき、自身の顔が映り込んでいるスープを見ながら、彼はこれから起こりうる出来事を想像して溜め息をつきたくなった。

 

(めんどくせぇ……あの時、確実に仕留めるべきだったな)

 

榊原を取り逃がした結果、彼は城戸真司に龍騎のカードデッキを引き継がせ、更に城戸真司が向かった先の拘置所で捕まっていた浅倉威が脱獄した。こんな偶然があり得るのだろうか。これは何かの運命なのだろうか。そんな事を思いつつ、二宮はすぐにその考えを自分で否定する。

 

(自分で思っといてアレだが、何が運命だよ下らない……)

 

お椀のスープを少しずつ喉に流し込んでいき、空になったお椀を置いて完食した二宮。割り箸を置き、満足した様子でコップの水を飲んだ彼は、城戸真司が昼間に遭遇していた1人の青年の姿を思い浮かべる。

 

(あの男……調べておく必要はありそうだ)

 

二宮が監視していた時、その青年は真司と何やら口論になっていた。カードデッキを奪おうとしていた辺り、あの男も自分達と同じライダーかもしれない。ならば早い内に素性を知っておいて損はないだろう。

 

(それに……何故奴は拘置所に向かった? 何故浅倉の居場所がわかったんだ?)

 

その男と別れた後、真司は何故か浅倉のいる拘置所までまっすぐ向かって行った。何故、彼は他のライダーの居場所がわかったのか。念には念を入れて、それも調べておかなければならない。そしてもう1つ、彼が一番気になっていたのは……

 

「そういえば……あれ以来、()はどこで何をしてるんだか」

 

ある日を境に姿を見なくなった、とある仮面ライダーの行方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とあるマンション……

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『―――キシャアッ!!』

 

「ひっ!? いやぁ!!」

 

仕事帰りだった1人の女性が、エントランスホールのガラスから飛び出して来たレスパイダーの襲撃を受け、ガラスを通じてミラーワールドに引き摺り込まれそうになっていた。

 

そんな時……

 

『グオォンッ!!』

 

『キシャ!?』

 

両腕に鋭利な爪を生やした青と白銀の怪物が1体、別のガラスから勢い良く飛び出し、レスパイダーに向かって襲い掛かって来た。突然の襲撃を受けたレスパイダーは抵抗できないままミラーワールドに引き戻され、左右の反転したエントランスホール内で白銀の怪物と正面から対峙する。

 

「よくやった、デストワイルダー」

 

『!? ギシャ!?』

 

その直後。レスパイダーの背後から飛来したのは、虎の意匠を持った斧型の召喚機。回転しながら飛んで来たそれの斬撃を受けたレスパイダーが倒れ、斧型の召喚機は飛んで来た方向へと帰り、その先に立っていた戦士が右手でキャッチする。

 

『キシシシシシ……ッ!!』

 

「モンスター……お前は僕が倒す」

 

 

 

 

青と白銀の装甲。

 

 

 

 

虎の意匠を持った仮面。

 

 

 

 

虎の爪を彷彿とさせる両肩。

 

 

 

 

虎の顔を象ったカードデッキのエンブレム。

 

 

 

 

レスパイダーが睨みつけて来る中、虎の意匠を持った青と白銀の戦士―――“仮面ライダータイガ”は右手に持った斧型の召喚機―――“白召斧(びゃくしょうふ)デストバイザー”の柄を上方向にスライドし、開いた虎の口の部分に1枚のカードを装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ガルルルル!!』

 

『キシャッ!?』

 

電子音が鳴り響いた直後。レスパイダーの背後から飛びかかった青と白銀の虎のような怪物―――“デストワイルダー”が両腕の爪を振るい、レスパイダーの背中を斬りつけた。そこから連続でレスパイダーを爪で攻撃し、フラフラになっているレスパイダーをデストワイルダーが両手で掴んで投げ飛ばす。投げ飛ばした先では、デストワイルダーと同じ形状の爪―――“デストクロー”を両腕に構えたタイガが待ち伏せ……

 

「はぁぁぁぁぁぁ……でやぁ!!!」

 

『ギッ……シャアァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

パンチを繰り出すかのように右腕のデストクローを思いきり突き出し、飛んで来たレスパイダーの胴体に勢い良く爪を突き刺した。長く鋭い爪による一撃―――“クリスタルブレイク”でその身を貫かれたレスパイダーが爆散した後、爆炎の中から浮かび上がるエネルギー体をデストワイルダーが摂取し、そのままどこかに姿を消す。

 

「……やった」

 

まだ僅かに燃えている床を眺めながら、デストクローを取り外したタイガは右手を力強く握り締める。

 

「やったぞ……僕はまた、人を守る事ができた……!」

 

モンスターに襲われていた女性を助ける事ができた。その達成感を深く味わいながら、タイガはクルリと背を向けてその場から立ち去って行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




TVSP版の浅倉ですが、TV本編で北岡がやったのと同じ方法で須藤の罠に嵌められてしまっていました。
正直、シザースと王蛇が互角に戦っているシーンが全くイメージできなかったので、敢えて今回はこの形で描写させて貰いました。どうせ後で逆襲されるのが目に見えている為、ここはあまり深く考えなくても別に良いやって←
そしてさりげなく二宮達も、須藤の事を囮役として見捨てる気満々というね。やっぱり蟹刑事は蟹刑事だった←

一方、何やらミラーワールドで活動中の仮面ライダータイガ。
その口調や必殺技は我々の知っている東條悟とは何か違うようですが……まぁ、ここまで読んできた時点で読者の皆様もお分かりな事でしょう。何せ、既に湯村インペラーという前例が存在していますから……ねぇ(ニヤリ

まぁ、その謎の解明もまた次回以降という事で。


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第3話

次回の仮面ライダージオウ、檀黎斗王だけでなくまさかの映司に比奈ちゃんまで!
出てくれると信じてたよ映司!
比奈ちゃんも久しぶり!

そんな次回のジオウを楽しみに待ちつつ、今回は『15RIDERS』の3話目を更新。

それではどうぞ。



高見沢(たかみざわ)グループ。

 

それは日本における大企業の1つ。

 

その現総帥である男―――“高見沢逸郎(たかみざわいつろう)”は先代総帥の父から会社を引き継ぎ、己の手腕とカリスマ性を駆使する事で、元は小さな企業だった高見沢グループを現在の大企業にまで躍進させた。

 

そしてこの日もまた、そんな彼の忙しい1日が始まる。

 

「それじゃ、行って来ます」

 

「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」

 

たくさんの使用人に見送られながら、リムジンに乗って会社へ向かおうとする高見沢。彼は部下から受け取った新聞紙を広げて読みながら、リムジンが会社に到着するのを待ち続ける。ここまでは、彼にとって普段と何も変わらない日常だった。

 

しかし、この日はいつもと少し状況が違っていた。

 

「後方に追尾車両、不審な原付二輪車」

 

「?」

 

何かに気付いた部下の言葉を聞いて、新聞を読んでいた高見沢も後ろに振り向く。振り向いた先では、原付二輪車に乗った青年が、何かを訴えている様子で手を振りながらこちらに呼びかけていた。

 

「ちょっと、おーい!! 待てよ……って、へ? ちょ、何だ……!?」

 

後ろにもう1台のリムジンが回り、前後をリムジンに挟まれた原付二輪車の青年―――城戸真司。彼は前後を挟まれた事に慌てながらも、何とかリムジンに止まって貰うべく、ズボンのポケットからカードデッキを取り出して前方のリムジンに見せつける。

 

「お、おい!! これだよこれ!! 見ろ見ろ!!」

 

「! ……すみません、ちょっと止めて下さい」

 

真司が見せつけて来たカードデッキ。それを見た高見沢は表情が変わり、一度リムジンを止めて貰うよう運転手にお願いする。

 

その後、真司は高見沢の部下に捕まり、高見沢グループ本社まで強制連行させられる事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、待っ……何、離せよ!? 離せ、離せぇー!!」

 

高見沢グループ本社、会議室。高見沢の部下達に無理やり連行された真司は必死に抵抗するも、部下達の力が強いのかとても振りほどく事ができず、会議室の椅子に座らされる。その向かいの席に座った高見沢は、部下達が会議室から出て行くのを確認した後、リモコンを操作して会議室のカーテンを閉じ、机に設置されているマイクを通して真司に呼びかける。

 

「さ、ここなら安心です。何を話しても、外に漏れる事はありません」

 

「いや、あのですね……ッ!?」

 

真司は落ち着かない様子で椅子から立ち上がろうとした……が、その途端に会議室のドアを開けて部下達が鋭い目付きで睨みを利かせる。流石の真司もすぐに察した。これは余計な事はしない方が良いと。

 

「あ、あはははは……」

 

真司がゆっくり後ずさって椅子に座ると、部下達は再びドアを閉める。高見沢はフッと小さく笑ってから、改めて真司との対談を開始する。

 

「城戸真司さんですね。それで、この私に頼みたい事とは?」

 

「あ、はい! あのですね……!」

 

何にせよ、これで話をする時間は作れた。わざわざ2人だけの状況を作り上げてくれた高見沢に感謝しつつ、真司は彼に一通り明かす事にした。

 

自分が龍騎となった経緯。

 

死んだ榊原のやろうとしていた事。

 

自分が榊原の意思を引き継いで、ライダー同士の戦いを終わらせようと思っている事。

 

その為にミラーワールドを閉じようと考えている事。

 

既に何人かのライダーには呼びかけているが、誰からも聞き入れて貰えていない事。

 

必死なのもあって、説明が所々おかしな事になっている真司ではあったが、高見沢はそれを馬鹿にする事なく、真司が話を終えるまで笑顔で真剣に聞いてくれていた。

 

「なるほど……ではあなたは、この私と手を組みたいという訳ですね?」

 

「は、はい! 一緒に戦いましょう! もう終わりにしたいんすよ! 悪夢のようなミラーワールドも、ライダーの戦いも!」

 

真司は必死に訴えかけた。真司から見て、にこやかな笑顔で真剣に話を聞いてくれている高見沢は、かなり好印象な人物だった。これほど真面目に聞いてくれている人なんだ。真剣に頼み込めば、もしかしたら自分のやろうとしている事に手を貸してくれるかもしれない。真司はそんな期待を抱いていた。

 

それに対し、高見沢が返した反応は……真司が期待していた物とは違っていた。

 

「……ま、気取って話す必要もねぇわな」

 

「え……?」

 

突然変わった高見沢の口調。それに真司が困惑の表情を露わにする中、小さく笑った高見沢は机のマイクに近付きながら……先程まで穏やかだったその目付きを、威圧的な鋭い物へと変化させる。

 

 

 

 

「―――おうコラ餓鬼」

 

 

 

 

「ッ!?」

 

たった一言。高見沢がマイクを通して言い放ったその暴言に、真司は一瞬で気圧された。

 

「この世はなぁ、所詮力のある奴が勝つんだ……力を求めて何が悪い!!」

 

「なっ……で、でもアンタ……高見沢グループって、こんな大きな会社持ってんじゃんか!?」

 

「ふん。こんなもんはなぁ、屁みてぇなもんだ。大体なぁ……ライダーの戦いは終わんねぇんだよ!!」

 

「!?」

 

ライダーの戦いは終わらない?

 

一体どういう事なんだ?

 

訳がわからないといった様子の真司に、椅子から立ち上がった高見沢は机に設置されている物とは別のマイクを手に持ち、真司の座っている席へと迫りながら語り始める。

 

「今の社会はなぁ……ライダー同士の戦いと同じなんだよ!!」

 

「生きるって事は、他人を蹴落とす事なんだ!!」

 

「良いかぁ!?」

 

乱暴に放り捨てられたマイクのノイズが鳴り響く中、真司が座っている椅子にドカッと右足をかけながら、高見沢は鋭い目付きで言い放った。ライダーの戦いがどういう物なのか。それに参加しているという事が、一体何を意味しているのか。それを真司にもハッキリ理解させる為に。

 

 

 

 

「人間は皆ライダーなんだよ……!!」

 

 

 

 

人は皆、何かしらの欲望を持っている。

 

人は生きる為に、何かしらの犠牲を出している。

 

誰かが幸せになれば、別の誰かが不幸になる。

 

高見沢は知っていた。綺麗も汚いも関係ない、人間がどれだけ欲深い生き物なのかを。高見沢グループの総帥として長く勤めてきた彼の有無を言わせない発言を前に、真司は何も言えず只々圧倒されるばかりだった。

 

「そ、それは……そうかもしれないけど……ッ!」

 

それでも、真司はまだ納得がいっていなかった。自分の願いの為に他人を犠牲にするなんて、そんなのはあんまり過ぎるじゃないか。頭では理解しても、彼の心はそれを認めようとはしていなかった。

 

「でも、だからってこのままじゃ―――」

 

「うるせぇなぁ!!!」

 

真司の椅子を乱暴に蹴りつけ、言い返そうとする彼の意見を一蹴する高見沢。この時点で、高見沢は既に真司に見切りをつけていた。こいつも所詮、あの榊原と同じ落ちこぼれ(・・・・・)なのだと。

 

「もう良い、消えろ!!」

 

高見沢がそう言うと同時に、会議室のドアが開いて部下達が入って来た。彼等はすぐに真司を取り押さえ、会議室の外まで強制連行しようとする。

 

「な、おい、何だよ、離せよ!! まだ話があるんだよ……ちょ、離せよ、おい!! まだ話が―――」

 

結局、真司は会議室から追い出されてしまった。会議室に1人残った高見沢はフンと鼻で笑う。

 

「ゴミが……おい、もう入って来て良いぞ」

 

部下達に本社から追い出されているであろう真司の姿を嘲笑した後、高見沢は指を鳴らして合図を出す。すると真司が追い出されたのとは別のドアから、スーツを着た湯村が入り込んで来た。実は湯村も、隠れて真司と高見沢の会話を聞いていたのだ。

 

「聞いたか? あのケツの青い餓鬼の戯言を」

 

「えぇ、聞きましたよ……聞けば聞くほど、虫唾が走る馬鹿っすねぇ」

 

「全くだな。所詮、奴も榊原と同じって事だ……だが」

 

榊原が独自に見つけた、ミラーワールドを閉じる為の方法……それを真司は知っている。その事実だけは、高見沢も決して無視する訳にはいかなかった。せっかくライダーになったのに、あんな餓鬼の為に願いを叶える手段を失ってたまるものか。

 

「湯村、いつでも芝浦に繋げられるよう準備しとけ。俺はまず二宮に話を通しておく」

 

「ういっす、わかりやした」

 

万が一の可能性も考慮し、高見沢は先手を打っておく事にした。指示を受けた湯村が会議室を出て行った後、高見沢は自身の携帯電話を取り出して二宮に繋げる。

 

「何が終わりにしたいだ……何も知らない馬鹿な餓鬼が」

 

 

 

 

 

 

 

 

(チッ……高見沢の奴、毎回偉そうに命令しやがって)

 

一方で、会議室を出た湯村もまた、高見沢に聞かれない程度に小さく舌打ちしていた。上司だからといって、毎回偉そうな態度でこちらを駒扱いしてくる高見沢に、少なからず不満を抱いている様子だ。

 

(けどまぁ、今はまだ良いさ。大人しく従っといてやるよ……ちょっとでも隙を見せれば、俺がこの手でアンタを捻り潰してやる)

 

彼等もまた、決して一枚岩ではない。

 

敵同士である以上、彼等はお互いを利用し合っているだけ。

 

ライダーとライダーの間に、絆や友情など築き上げられる訳がないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――つまり、次は俺達に接触して来る可能性があると」

 

それから数十分後。とある学校のグラウンドで野球部の生徒達が練習をしている中、フェンスの近くの木々に隠れていた二宮は高見沢から連絡を受けていた。

 

『そうだ。お前は何も知らないフリをして、上手く奴から情報を抜き取れ。情報はあるのとないのでは全く違うからな』

 

「わかりました。では……」

 

高見沢からの電話が切れ、携帯電話を収めた二宮はめんどくさそうに溜め息をつく。何故ここまで嫌そうな表情をしているのかと言うと……この時、彼は既に他の役割も担っていたからだ。

 

(全く、奴等の監視もしなきゃなんないってのに……)

 

二宮は溜め息をつきながらも木の陰に隠れ、ある人物達の監視を再開する。彼が木の陰から覗き見ている先に立っているのは、先日真司と出会って口論になっていた青年―――秋山蓮と、その青年と向き合いながら会話をしている白いシャツの青年―――手塚海之の2人だった。

 

「ミラーワールドを消す?」

 

「あぁ。変な奴が現れてな、その為に仲間を集めようとしている……まぁ、大丈夫だとは思うが。万一の事も考えてな」

 

2人の会話に出て来たのは、蓮が昨日出会った城戸真司の存在だった。ある願いを叶える為に戦っている蓮からすれば、真司の存在は邪魔でしかない。そこで彼は、自分と同じ目的でライダーになった手塚と手を組み、真司の目的を阻止しようと考えたのだ。

 

「ミラーワールドを守る為に、俺と手を組みたいという訳か……断る」

 

「……!」

 

しかし、手塚の口から返って来た答えはNOだった。

 

「確かに俺とお前は同じ理由からライダーになった。恵里を助ける為に……恵里に“新しい命”を与える為に」

 

小川恵里(おがわえり)。蓮が愛する恋人にして、手塚もかつて愛していた女。モンスターに襲われ、昏睡状態に陥っている彼女の命を救う為に、2人は仮面ライダーとなった。しかし、今の手塚には迷いがあった。

 

「でも、今の俺にはわからないんだ。確かに昔、俺は恵里を愛した。今お前が彼女を愛しているように……だが、だからといって他人を犠牲にしても良いのかどうか」

 

「じゃあどうする! 恵里を見殺しにしろとでも言うのか……!」

 

「それは……」

 

恵里を助ける為に、他の誰かを犠牲にする事が果たして正しい事なのか。誰かを犠牲にしない為に、恵里を見殺しにするのが本当に最善の道なのか。手塚にはわからなかった。ハッキリしない様子の彼に蓮も少し苛立った様子で彼を睨んだ時だった。何かが地面に落ちる音がしたのは。

 

「「!」」

 

「あ……えっと」

 

(! アイツ……)

 

音の正体は、蓮が停めていたバイクに隠れて聞いていた真司が落としてしまったヘルメットだった。真司の存在に気付いた蓮が鋭い視線を彼に向け、近くで同じく隠れて聞いていた二宮も木の陰に身を隠す。

 

「お前……!」

 

「ごめん。聞く気はなかったんだけど……でもアンタ、自分の為にライダーになった訳じゃなかったんだな」

 

「貴様には関係ない。消えろ」

 

蓮が自分の為に戦っている訳ではないと知り、少しだけ安堵する真司だったが、蓮からすれば彼のそんな気持ちは知った事ではない。冷たい返事を返された真司が黙り込む中、木の陰に潜んでいた二宮は小さく溜め息をつく。

 

(なるほど。あの2人は恋人を救う為に戦っていたと……わざわざご苦労な事だな)

 

他人なんぞの為に、何故そこまでして命を懸けられるのか。二宮には理解できなかった。その時……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

(……!)

 

突如聞こえて来た金切り音。それはモンスターが近くにいる事を知らせる警告だった。蓮と手塚がすぐにその場から駆け出し、真司も慌てて2人の後を追いかける中、その後方から二宮も密かに尾行し始める。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

女性の悲鳴が聞こえて来る。走っていた3人は更に走るスピードを速め、向かった先で飼い犬を連れている女性がミスパイダーの糸に捕まっているのを目撃した。

 

「ふっ!!」

 

『キシャア!?』

 

「大丈夫ですか!? 早く逃げて!!」

 

即座に蓮がタックルを仕掛け、ミスパイダーを近くの噴水からミラーワールドに押し返す。その間に真司が女性の傍に駆け寄り、彼女の首元に巻きついていた糸を取ってから彼女を逃がした後、3人は噴水に並んでカードデッキを噴水に向かって突き出す。

 

「「変身!」」

 

「え、あ、えっと……変身ッ!」

 

2人が取る変身ポーズを見て、真司もそれに続くように慌てて変身ポーズを取り、カードデッキをベルトに装填。蓮は蝙蝠の戦士―――仮面ライダーナイトに、手塚はエイの戦士―――仮面ライダーライアに、そして真司はドラゴンの戦士―――仮面ライダー龍騎に変身し、ナイトとライアが噴水からミラーワールドに突入する。

 

「「はっ!」」

 

「お、おい待てよ!?」

 

その後ろから龍騎も慌てて追いかけ、ミラーワールドに突入していく。その様子を隠れて見ていた二宮は、敢えて自らは変身せず、携帯電話を取り出して高見沢に連絡を入れる。

 

「二宮です。今、城戸真司と手塚海之が一緒に動いています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか、わかった」

 

その報告はすぐに、高見沢の耳に伝わった。高見沢は電話を切った後、スーツの上着ポケットから取り出した黄緑色のカードデッキを左手に構える。

 

(よりによって手塚海之と接触するとは……厄介な事になる前に、潰しておくか)

 

手塚は榊原同様、ライダー同士で戦い合う事に消極的なライダーの1人だ。そんな奴が真司の説得を受けて協力し合うような事になれば、自分達にとっても対処が面倒になる。そうなる前に潰さなければならない。

 

「面倒な奴等だな、全く……!」

 

高見沢は会議室の窓ガラスにカードデッキを向け、出現させたベルトを腰に装着。そのまま彼は右腕を大きく振りながら、右手で指をパチンと鳴らす。

 

「変身」

 

そのままカードデッキをベルトに装填し、両腕を広げた状態の高見沢に複数の鏡像が重なっていく。鏡像は彼の姿を変化させ、黄緑色のボディにカメレオンの特徴を持った戦士―――“仮面ライダーベルデ”への変身を完了させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『キシャアッ!!』』

 

「うぉわっと!?」

 

ミラーワールド内の大きな広場。ミスパイダーを追いかけて突入したナイト・ライア・龍騎の3人だったが、そんな彼等を待ち構えていたのか、ミスパイダーだけでなくレスパイダーも出現し、3人に飛びかかって来た。突然の攻撃に驚いた龍騎は地面に転倒するが、ナイトとライアは左右に跳んで2体の攻撃を回避する。

 

「コ、コイツ等、前に倒したはずなのに……!?」

 

「野生の動物と同じだ!! モンスターも1種類につき1体だけという訳ではない……はっ!!」

 

ライアは龍騎にわかりやすく説明しながら、エビルバイザーでミスパイダーの爪を受け止め、ナイトは左腰の鞘から引き抜いた長剣型の召喚機―――“翼召剣(よくしょうけん)ダークバイザー”でレスパイダーと応戦する。立ち上がった龍騎もすぐさまミスパイダーの方に殴りかかり、3人は2体のモンスターを相手に少しずつ圧倒していく。

 

しかし……そこに1人の乱入者が現れた。

 

「フンッ!!」

 

「!? ぐっ……!!」

 

2体のモンスターの攻撃をかわし、ライアが少し距離を離した時だった。真後ろから現れたベルデがライアの首を掴み、そこから彼の頭を掴んで大きく跳躍。龍騎とナイトから引き離してしまう。

 

「!? 何……くっ!!」

 

突然ライアが連れ去られた事に驚くナイトだったが、そこにミスパイダーが殴りかかって来る。ナイトは止むを得ずミスパイダーの方に意識を集中し、ダークバイザーを振るい応戦していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……貴様……ッ!!」

 

一方、距離を大きく離されたライアは、ベルデに首を掴まれたまま後退させられていた。ベルデは呆れているかのような口調でライアに言い放つ。

 

「モンスター狩りも良いがよ……ライダーの敵はライダーだって事を忘れんな!!」

 

「ぐぁ!?」

 

ライアを掌底で突き飛ばしたベルデは、右手でカードデッキから1枚のカードを引き抜き、左足に装着されている召喚機―――“舌召糸(ぜっしょういと)バイオバイザー”のカードキャッチャーを左手で引き伸ばす。そのカードキャッチャーの先端部分にカードを差し込んだ後、ベルデが左手を離すと共にカードキャッチャーが一瞬で収納され、カードがバイオバイザー本体に装填される。

 

≪CLEAR VENT≫

 

「!? 何……!!」

 

電子音と共にベルデの姿が透明化し、そこへ殴りかかったライアのパンチは空振りに終わった。ベルデを見失ったライアが周囲を見渡すも、そこへベルデが装備したヨーヨー型の武器―――“バイオワインダー”の一撃が飛び、ライアの胸部に命中する。

 

「せりゃ!!」

 

「ぐっ!?」

 

攻撃を受けたライアが振り返るも、それより前に転がって移動したベルデがライアの背後に回り込む。そのままバイオワインダーを放ち、二発目はライアの背中に炸裂させる。

 

「はぁ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

ベルデの居場所がわからず、一方的に攻撃され続けるライア。彼はとにかくベルデの居場所を把握できないかと周囲を探り続けるが……それは無駄な行動だった。既に物陰に移動していたベルデは透明化を解除し、次の戦法に移行していたからだ。

 

「クククククククク……」

 

ベルデは不敵な笑みを浮かべながら、離れた場所でモンスター達と戦っているナイトと龍騎を見据える。彼が目を付けたのはナイトの方だった。

 

≪COPY VENT≫

 

カードの装填されたバイオバイザーから電子音が鳴り、大型の槍―――“ウイングランサー”でレスパイダーを攻撃していたナイトの姿がコピーされる。その鏡像がベルデに向かっていき、ベルデがナイトと同じような構えを取った瞬間……

 

「フッ!」

 

鏡像と姿の重なったベルデがナイトの姿に変化し、その手にはウイングランサーも握られていた。ベルデのコピーベントはライアと違い、武器だけでなく姿までそっくりそのままコピーできてしまうのだ。彼はナイトの姿をしたままウイングランサーを持って移動し、エビルバイザーにカードを装填しようとしていたライアの前にその姿を見せる。

 

「! 蓮……」

 

「手塚……!」

 

モンスターを倒して来たのか。一瞬そう思い込んでしまうライアだったが、そんな彼の考えを他所にナイト(ベルデ)はウイングランサーを構えたまま、ライアに向かって走り出し……

 

「―――うらぁっ!!」

 

「がっ……!?」

 

ウイングランサーの一撃が、ライアの腹部を貫通した。思わぬ一撃を喰らったライアは仮面の下で僅かに赤い血を噴き出し、ナイト(ベルデ)はウイングランサーを引き抜いてからライアを蹴り倒す。左手に構えていたエビルバイザーを地面に落とし、刺された腹部を右手で押さえるライアを見下ろしながら、ナイトへの擬態を解除したベルデはファイナルベントのカードを引き抜き、それをバイオバイザーのカードキャッチャーに差し込んで装填させた。

 

≪FINAL VENT≫

 

『シュルルルルル……!!』

 

「……ハッ!!」

 

ファイナルベントの電子音を合図に、ベルデと契約しているカメレオン型の怪物―――“バイオグリーザ”が透明化を解除して高台に姿を現し、その口から舌を長く伸ばし始める。ライアがフラフラながらも立ち上がる中、ベルデが右足で地面を軽く踏んでから後ろを向いて宙返りすると、空中で角度を変えたバイオグリーザの舌がベルデの両足に巻きついた。

 

「ハァ!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

そのまま振り子のように迫って来たベルデがライアをパイルドライバーの要領で捕縛し、バイオグリーザの舌が離れて2人が空中に高く放り投げられる。そして……

 

「ハァァァァァァァッ!!!」

 

「があぁっ!?」

 

空中で回転する事でライアの頭を下に向けさせたベルデがそのまま急降下し、ライアの頭部を地面に勢い良く叩きつける。これこそがベルデの必殺技―――“デスバニッシュ”である。一度まともに決まってしまえば最後……それを受けたライダーが助かる道はない。

 

「く……あ、ぁ……ッ……」

 

「フン……ハハハハハハハハハハ!!」

 

ベルデが離れた後も、ライアは数秒だけ逆さの状態のまま制止した後、ゆっくり地面に倒れていく。ライアを仕留めたベルデは高笑いしながらその場を去って行き……そこにモンスターを倒し終えたナイトと龍騎が駆けつける。

 

「!? 手塚ッ!!」

 

「ッ……はぁ……はぁ……」

 

急いで駆けつけて来るナイトに、倒れているライアは力を振り絞って左手を伸ばす……が、その左手をナイトが掴み取る事はなく、彼の左手は地面に落ちてしまった。

 

「手塚……!!」

 

「……れ、ん……ッ……」

 

ナイトはダークバイザーを放り捨て、動けないライアを抱き起こして呼びかける。しかしデスバニッシュを受けたライアは既に虫の息であり、蓮の名前を小さく呟いた後……その体からダランと力が抜け落ち、その後は二度とライアが言葉を発する事はなかった。

 

「!? 手塚ァッ!!!」

 

ナイトが叫ぶも、ライアの返事は返って来ない。ナイトは動かなくなったライアを抱きかかえたまま言葉を失い、それを後ろで見ていた龍騎も、ライダーの死を二度も目の当たりにした事で声をかける事もできない。

 

この日、1人の仮面ライダーがその命を落とす事となってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、待てよ!」

 

その数分後。ミラーワールドから帰還し、変身を解除した蓮は無言のまま広場の階段を駆け上がっていく。そんな蓮に後ろから追いついた真司が呼び止めようとするが、途中で立ち止まった蓮は真司の方へと振り返る。

 

「あれがライダーの戦いだ。今の内だぞ、尻尾を巻いて逃げ出すならな」

 

「ッ……お前とアイツ、友達だったんじゃなかったのか?」

 

真司にそう問われても、蓮は何も答えない。友人が目の前で死んだというのに、あまりに冷た過ぎる。真司はそんな蓮の態度が気に入らなかった。

 

「何だよその態度……お前平気なのかよ、友達が死んだんだぞ!?」

 

「何を勘違いしてる」

 

すぐ近くにある噴水の水で右手を濡らしながら、蓮は真司に向けてそう言い返す。

 

「ライダーになった時から、俺と奴は敵同士になった……敵が1人減った。それだけの話だ」

 

「ッ……お前、やっぱり最低だよ……止めてやるよこんな戦い!!」

 

前言撤回だ。少しでも良い奴だと思った俺が馬鹿だった。どこかに立ち去る蓮の後ろ姿を睨みながら、真司は怒りの表情でそう言い放つ。それを聞いても、立ち去って行く蓮がそれに反応を返す事はなかった。

 

「絶対……俺が止めてみせるからな……!!」

 

八つ当たり気味に噴水の水を手で払いながら、真司はそう固く決意する。もうこれ以上、誰も犠牲者を出さない為にも。そんな思いを抱いた真司が、右手拳を強く握り締めた時だった。

 

「随分荒れてるな」

 

そこに、声をかけて来る人物がいた。

 

「! 誰だよ、アンタ……?」

 

「なに、少し会話が聞こえてきたもんでね」

 

真司に話しかけて来た人物―――二宮はスーツのポケットからアビスのカードデッキを取り出す。それを見た真司は目を見開いた。

 

「ア、アンタもライダーなのか……!?」

 

「二宮鋭介だ……少し、俺と話でもしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある広い交差点……

 

 

 

 

 

 

『昨日午後1時頃、関東拘置所から脱獄した浅倉威容疑者、25歳。その行方は現在もわかっておらず―――』

 

とある駅前の建物に設置されている大型ビジョン。そこに映っているニュース番組では、先日拘置所から脱獄した浅倉に関するニュースが取り上げられていた。駅前を通りかかる人達も大型ビジョンの方に意識が向いており、中には凶悪な囚人が脱獄した事に不安を抱いている人もいる。

 

「……ッ」

 

そんな中、険しい表情でそのニュースを見ながら、拳を強く握り締めている人物がいた。赤いシャツの上に茶色の上着を着込み、青いジーンズを履いているその女性は、大型ビジョンの画面に映っている浅倉の顔写真を強く睨みつけていた。

 

「浅倉……お前だけは、アタシの手で……ッ!」

 

その女性はそう呟いてから、その場を足早に立ち去ろうとした……が、先程まで大型ビジョンの方を見上げていたせいか、前方から歩いて来た人物とぶつかってしまい、相手が持っていた紙袋からいくつもの果物が飛び出てしまう。

 

「痛っ……あ、ご、ごめん! 大丈夫?」

 

「い、いえ、こちらこそすみません!」

 

ぶつかった相手は、黒とオレンジのキャップ帽を被った少年だった。少年が持っていた紙袋から落ちた果物を女性は慌てて拾い上げていき、手で汚れを払ってから少年に1つずつ渡していく。

 

「ごめんなさい。アタシが前をよく見てなかったせいで」

 

「い、いえ。僕の方こそ、急いでて前をよく見てなかったので……」

 

「? 何か急ぎの用事?」

 

「はい……っといけない、急がなきゃ」

 

「あ、ちょ……ねぇ! その荷物、1人で本当に大丈夫?」

 

よく見ると、少年は果物が入った紙袋以外にも大きなバッグも持ち運んでおり、かなり重たそうだった。少年は何とか1人でそれらを持ち運ぼうとしているようだが、流石にちょっとキツそうである。そこで女性は少年の隣に並び立ち、彼が持っていたバッグの方をひょいっと強引に取り上げる。

 

「あ……!」

 

「そんな1人で無理しちゃ駄目だって。ぶつかっちゃったお詫びにさ、アタシがちょっと手伝ってやるよ」

 

「え? いや、でも……」

 

「ほら、良いから良いから。急いでるんでしょ? この方が早く着くよ」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

最初は遠慮がちだった少年も、最終的には女性の言う通りに従う事にした。女性はにこやかに笑いながら、少年と共にその場から歩き始める。

 

「ん、そういえばさ。これからどこに向かうつもりだったの?」

 

「……病院に向かおうと思ってるんです。そこに待たせている人がいるから」

 

「! もしかして、そのお見舞いの為に……?」

 

「はい。約束の時間までに向かわないと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹が、病室で僕の事を待ってるから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その女性の名は、霧島美穂(きりしまみほ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少年の名は、鈴木健吾(すずきけんご)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーは皆、互いに惹かれ合う運命(さだめ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




高見沢が告げた「人間は皆ライダーなんだよ」という台詞、良いですよね。龍騎という物語の本質を言い表している名台詞だと思います。
そんな高見沢の核心を突くような言葉に強い影響を受けた人間が、高見沢グループには数多く存在しています。あの二宮もその人物の1人です。

そんな高見沢の襲撃を受け、命を落としてしまった手塚。『リリカル龍騎StrikerS』の方では主人公として大活躍だった手塚が、こっちではこうもあっさり命を落としてしまうとは……すまない手塚、今回は題材からしてお前を活躍させるのは無理だった……!←

一方、お互いにライダーだと知らないまま接触していた美穂と健吾の2人。お互いに正体を知った時、2人はどのような反応を示すのか?
あ、ちなみに今回のファムは原典と同じく詐欺師として活動している為、本名ではなく偽名の『霧島美穂』という名前で動いています。流石の榊原さんも、彼女の本名までは突き止められなかった模様。

次回もまた、他のライダー達がぞくぞく出る予定だよ!


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第4話

お待たせしました、『15RIDERS』4話目の更新です。

しばらくは『リリカル龍騎StrikerS』よりも、こっちの更新が優先される事になると思いますので、ご了承下さいませ。

それではどうぞ。

追記:非ログインユーザーの方でも感想を送れるよう、感想受付設定を変更しました。



「OREジャーナルの記者、城戸真司……ねぇ」

 

初めて二宮と正面から対面する事となった真司はあの後、彼に連れられてとあるレストランにやって来ていた。注文したハンバーグステーキを食べ終えた二宮は、食後のコーヒーを飲んで一息つき、同じくハンバーグステーキを食べ終えた真司も恐る恐る二宮に問いかける。

 

「その榊原という男の意志を継いで、ライダー同士の戦いを終わらせようとしているって訳か……わざわざご苦労な事だな」

 

「ア、アンタも、自分の願いの為にライダーになったのか……?」

 

「願い……興味ないな。俺はそんな事の為にライダーになったんじゃない。そもそも俺はライダーになんかなるつもりは毛頭なかった」

 

「え? じゃあ、何でライダーに……」

 

「無理やりライダーにされたのさ。戦わなければモンスターに喰われて死ぬ……だから俺はライダーになった」

 

「へ、へぇ……」

 

二宮の言葉に相槌を打ちながら、真司は向かいの席に座っている二宮の事をジッと観察する。

 

白い眼帯を着けている二宮は、右目から覗く鋭い目付きが少し怖そうではある。しかし真司が事情を話す中、彼はそれを馬鹿にするような発言も一切していない。それにわざわざレストランにまで連れて来てくれて、おまけに真司の分まで二宮が奢ってくれるとまで来た。それにより、真司は二宮に対して「ちょっと怖そうだけど意外と良い人なんじゃないか?」と思い始めていた。

 

(この人なら、もしかして……)

 

他のライダーと違い、二宮は自分の意志でライダーになろうとした訳じゃない。その事を知った真司は、僅かにだが二宮に対して一つの希望を見出しかけていた。

 

もしかしたら、彼なら協力してくれるんじゃないかと。

 

そんな彼の想いは……すぐに崩れ去る事になる。

 

「アンタは、ライダー同士の戦いはやりたくないんだよな?」

 

「あぁ」

 

「それじゃあ、アンタも俺と一緒に戦いを止めて―――」

 

「それ以上に、俺は死にたくないとも思っている」

 

真司の言葉を遮り、二宮は真司を鋭い目付きで見据える。その目付きを真司は知っていた。

 

何故ならそれは、あの高見沢が見せていた目付きと全く同じだったから。

 

「お前の言う、そのコアミラーとやらを破壊すれば、ミラーワールドが閉じてライダーの戦いも終わる……だがそれは常に場所を移動していると言ったな。それを見つけるまでの間に、他のライダーに妨害されたらどうするつもりだ」

 

「そ、それは……そうなる前にコアミラーを見つければ―――」

 

「考えが甘いな」

 

二宮はテーブルに置いてある1枚の紙切れを手に取る。それは真司が榊原から受け取った、仮面ライダーの居場所が書かれたリストだった。

 

「お前が最低だと言っていたあの男も、他のライダーも、自分の願いの為にライダーとして戦っている。奴等は願いを叶える為なら、それを邪魔しようとする人間を排除しようとするだろう」

 

「な……そ、そんな事あり得るのかよ?」

 

「あり得るさ。人間ってのはそういう生き物だ」

 

飲んでいたコーヒーカップを置き、二宮は眺めていたリストを真司の手元に放りながら言い放つ。

 

「自分が得をする為なら、自分が生き延びる為なら、他人を犠牲にしてでも生き延びようとする……人間は自分を一番可愛がる生き物なんだよ」

 

「ッ……アンタもそうだって言うのか……!」

 

「あぁそうさ。俺は自分が生き延びる為なら、誰だろうと犠牲にしてやる」

 

「そんな事、許されると思ってんのかよ!!」

 

真司がテーブルに拳を叩きつける。その音が大きく響いたのか、他の席の客達や通りかかったウェイターが思わずビクッと驚き、それに気付いた真司は慌てて頭を下げて謝罪してから二宮を睨みつける。

 

「結局、アンタも他のライダーと同じって事かよ……何でだ、何でそんな事ができるんだよ……!!」

 

「死にたくないからだ」

 

真司に睨まれながらも、二宮が真顔で言ってのけた一言。その一言が、真司の心に深く突き刺さった。

 

「死にたくないと思うのは、人間なら誰だって思う事だろう? それともお前は、お前のやる事に付き合って俺に死にかける思いをしてくれってのか?」

 

「!? 違う、そんなつもりは―――」

 

「お前にそんなつもりはなくても、お前はそう言ってしまってるんだよ」

 

二宮は真司の髪の毛を掴み、自身の顔の近くまで引き寄せる。無理やり引き寄せられた真司は、目の前に映る二宮の鋭い目に言葉を失いかけた。

 

「お前のやろうとしている事は、全てのライダーを敵に回す事と同じだ。そんな事になれば、お前のやる事に付き合っている奴まで、お前と一緒に殺されかける羽目になる……お前はそれをわかった上で言ってんのか?」

 

「ッ……それは……!」

 

全てのライダーを敵に回してしまえば、自分達が生き残れる確率が格段に下がってしまう。他のライダーに狙われる前にコアミラーを破壊しようにも、コアミラーはいつどこに現れるかわからない。成功するという確信ができない計画に、二宮は賛同するつもりは毛頭なかった。

 

「俺はそんなの御免だな。そんな事をして他のライダーに殺されかけるくらいなら、初めからお前の協力を蹴った方が遥かにマシってもんだ」

 

二宮は真司の髪の毛を離した後、取り出した財布から1万円札を引き抜き、それを真司の前に置いて席から立ち上がる。

 

「他のライダーに頼んだところで、どうせ結果は同じだろう。諦めて他のライダーみたいに、自分の為に戦った方が身の為だと思うがな」

 

そう言って、二宮は席を離れて会計を済ませにレジまで向かう。途中で振り返った彼が見たのは、二宮の言葉を強く受け止めた事で、テーブルに顔を伏せたまま動けずにいる真司の姿だった。

 

(馬鹿な奴だ……俺が何の為にあんな長話をしたのか、何も気付いちゃいない)

 

言ってしまうと、先程まで二宮が話していた内容は大して重要ではない。わざわざそんな事をしてまで、彼が真司との対話時間を引き伸ばした理由は別にあった。

 

「助かるよ。他のライダーの情報を教えてくれて」

 

それは真司が持っていた、他のライダー達の居場所が書かれたリスト。二宮が真司と長話をしていたのは、そのリストに書かれている情報を全て暗記する為の時間稼ぎだったのだ。

 

(おかげで、欲しかった情報も簡単に手に入った。霧島美穂、仮面ライダーファム……鈴木健吾、仮面ライダーエクシス……そして)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(椎名修治、仮面ライダータイガの居場所もな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、席に1人残された真司は悩んでいた。

 

『死にたくないと思うのは、人間なら誰だって思う事だろう? それともお前は、お前のやる事に付き合って俺に死にかける思いをしてくれってのか?』

 

「ッ……俺は……そんなつもりじゃ……!」

 

そんなつもりで言ったんじゃない。そうは思っていても、二宮から言われた言葉が真司の頭から離れない。それくらい、二宮の言葉には真司の意志が揺らぎかけるほどの重さがあった。

 

(願いの為じゃなくて、ただ死にたくないから戦ってるライダーもいたんだ……それなのに俺は……)

 

「俺の方が、間違ってるのか……?」

 

しかし、やはり誰かを犠牲にするこの戦いをどうしても容認できない。どれだけ悩んでも、その事実だけは真司の頭から消える事はない。

 

「……いや、まだだ……!」

 

自身の頬をパンパン叩き、気合いを入れ直す真司。彼はまだ、可能性を捨て切る事はできなかった。

 

(諦めちゃ駄目だ……きっとまだ、この状況を何とかする為の切っ掛けはあるはず……!)

 

自分のやる事に付き合わせて、そのライダーを死なせてしまうかもしれない。

 

そんな不安と、それでも戦いを止めたいという目的に板挟みになりつつも、真司は次に出会ったライダーにも協力を持ちかけてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、次に出会ったライダーはもっと最悪だった。

 

 

 

 

 

 

「城戸真司……あぁ、アンタか」

 

某ゲームセンター。大型筐体で格闘ゲームを遊ぶ青年―――“芝浦淳(しばうらじゅん)”と対面した真司は、その周囲にいる彼の取り巻きから白い目を向けられながらも、画面を見ながらも素早い手つきでコントローラーを操作する芝浦に協力を持ちかけるのだが……

 

「聞いてるよ、高見沢さんから。ケツの青い餓鬼がライダーになったって」

 

「が、餓鬼って……お前の方が年下だろ!」

 

「そういうレベルでカッカすんなよ、ウザいからさぁ~」

 

この芝浦という青年、高見沢や二宮よりもっと酷い態度だった。自分より年上の真司をガキ呼ばわりし、注意されても謝るどころか更に煽って来る。あまりに生意気過ぎる芝浦の言動に、真司はいよいよ頭が痛くなってきた。

 

「ライダーの戦いなんて、所詮ゲームなんだからさぁ。楽しくやろうよ」

 

「ゲームって……お前本気で言ってんのか!?」

 

「そう。そして最後には俺が勝つ……っと」

 

筐体の画面では、芝浦の操作していたキャラが相手側のキャラにトドメを刺し、見事勝利を収めていた。芝浦の取り巻き達の歓声が上がる中、反対側の席で芝浦と対戦していた男性は悔しそうに立ち去っていく。

 

「どう、やる? 俺に勝ったら、言う事聞いてやっても良いけど」

 

「え……お、おう」

 

突然の提案に困惑を隠せない真司だったが、芝浦が提案してきたのは彼がやっている格闘ゲームであり、別にライダーに変身してでの戦いではない。それなら良いかと真司が提案に乗ろうとした時、100円玉を出そうとした芝浦の財布から数枚の小銭がチャリンチャリンと落ちる。

 

「拾ってよ。気が利かないなぁ」

 

「ッ……たく、どっちが餓鬼だよ」

 

周りの取り巻き達からも「そうだそうだ」という声が聞こえて来る。自分の足元に落ちたんだから、それくらい自分で拾えば良いだろと思う真司だったが、それでも律儀に落ちている小銭を拾おうとする……が。

 

「痛って!?」

 

そんな真司を後ろから芝浦が蹴りつけ、床に倒れた真司を取り巻き達がクスクスと嘲笑う。ゲームで対戦しないかと提案したのも、最初からこうして真司を馬鹿にする為だった。

 

「人が良いんだ。アンタ向いてないよ、ライダーには」

 

そう言って、芝浦は取り巻き達を連れてその場から立ち去って行く。真司は蹴られた尻を押さえながらも、立ち去る芝浦達を見て苛立ちを隠せなかった。

 

「ライダーって……何であんなのばっかなんだよ……!!」

 

浅倉には脱獄され、北岡にも一蹴され、高見沢からは餓鬼呼ばわりされ、二宮からも冷たく突き放され、挙句の果てには年下の芝浦からも「ケツの青い餓鬼」と馬鹿にされる始末。ライダーはこんな奴ばっかりなのかと、真司はこれまで出会って来たライダー達の態度を振り返りながら、そんな愚痴を小さく零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほぉ? 他のライダーの情報を掴んだと」

 

「はい」

 

一方。高見沢グループ社内の会議室では、高見沢と二宮が会合していた。椅子に座ったまま机に頬を突いている高見沢に対し、二宮は椅子に座る事なく立った状態で報告している。

 

「私達がまだ知らないライダーの情報……城戸真司が持っていたリストに、確かに書かれていました」

 

「そいつは上出来だ……で、その内容は?」

 

「まだ出会った事のないライダーが2名……そして、あの椎名修治に関しての情報です」

 

「ほぉ、奴か……場所はわかっているのか」

 

「問題ありません。情報は全て、ここに入っていますから」

 

「!」

 

自身の頭を指で突っつきながら、二宮は表情1つ変えずに淡々と言い放つ。そんな彼の眼を見て、高見沢は容易に察する事ができた。

 

情報が知りたいのなら、まだ自分を殺すな。

 

二宮は目だけで高見沢にそう伝えたのだ。

 

「……ふん、なるほどな」

 

反逆と思われてもおかしくない二宮の言葉に、高見沢も敢えて深くは問わなかった。彼は知っているからだ。既に自分が他のライダー達と組んでいる以上、それをわかっている二宮が裏切るような真似はしないと。

 

「良いだろう。そいつ等の件はお前に任せてやる……やってくれるよな?」

 

「……元々そのつもりです」

 

立ち上がった高見沢は二宮の隣に並び立ち、彼の右肩に手を置く。その置かれた手が僅かに力を込めて肩を握って来るのも、裏切りは許さないという高見沢の無言のメッセージ。それが伝わってもなお、二宮は全く表情を変えようとはせず、それに高見沢も満足そうな様子で彼の肩をポンポン叩いてから手を離す。

 

「それはそうと城戸真司……あの餓鬼、厄介な事やろうとしてやがる」

 

「ある意味、手塚よりもよほど厄介な奴です。放っておけば、いずれ本当に……」

 

「まぁ、早めに潰した方が良いわな……二宮、お前ちょっと芝浦を呼んで来い。俺は他の連中に連絡を取る」

 

「わかりました」

 

二宮が一礼してから退室した後、高見沢は机に設置されている受話器を取り、ある人物に連絡を取り始める。

 

「……あぁ俺だ。お前さんに少し、頼みたい依頼があってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――つまり、この私の手も借りたいと?」

 

北岡法律事務所。ガラスの先の月夜を背にしながら椅子に座っている男―――北岡秀一は、受話器を通じて高見沢と連絡を取り合っていた。

 

『もちろんタダでとは言わん。報酬ならうちからたんまり出してやる』

 

「それはそれは……えぇ、わかりました。この私もぜひ協力させて頂きます」

 

高見沢から伝えられた命令にも近い依頼を、北岡は爽やかな口調で受諾。しかし電話が切れて受話器からツーツーという音が鳴ってからは、爽やかな表情もすぐに面倒臭そうな表情に切り替わる。

 

「あ~あ全く。うちは便利屋じゃないんだけどなぁ……」

 

「仕事ですか? 先生」

 

そんな彼の下に、秘書兼ボディガードを務めている男性―――“由良吾郎(ゆらごろう)”が、この日の夕食であるスパゲティをお盆に乗せて運んで来る。吾郎と視線が合わさった瞬間、嫌そうな表情をしていた北岡もすぐに笑顔に戻る。

 

「お得意先からの依頼でね。ほら、前に話したでしょ? 城戸真司っていう奴の事」

 

「……ライダーの戦い、ですか」

 

「そうなのよ。奴さん、そいつを潰す為に俺と手を組みたいんだと……嫌になっちゃうよねぇ。俺の事も手下か何かみたいな扱いしてくれちゃってさ」

 

「やれやれ」といった表情で首を振り、北岡は椅子から立ち上がってソファの方に移動。ソファに座り込んだ北岡の前に、吾郎お手製のスパゲティが置かれる。

 

「お、今日も美味そうだ」

 

「……大丈夫なんですか? 脱獄した浅倉の件だって、まだ……」

 

「心配ないって。俺はそう簡単にやられはしないよ……あぁそうだ。吾郎ちゃん、明日は午前中ちょっと出かけて来るからさ。帰って来るまでに、また美味い昼飯作っといてよ」

 

「……わかりました」

 

了承する吾郎を見て北岡はにこやかに笑い、早速スパゲティを食べようとフォークを手に取ろうとする……しかし。

 

「コホ……ゲホ、ゴホンッ」

 

「! 先生……!」

 

フォークを手に取ろうとした直後、北岡が咳き込み出した。それを見た吾郎は血相を変えて駆け寄るが、その前に北岡が手で制する。

 

「ッ……大丈夫だよ吾郎ちゃん。ちょっと咳が出ただけだからさ」

 

「先生、ですが……」

 

「安心してよ吾郎ちゃん。まだ時間はある……俺は死なないよ、絶対」

 

心配そうな表情を浮かべる吾郎だが、北岡からそう言われた以上は何も言えなかった。北岡は咳き込んだ際に口元を覆った左掌を吾郎ちゃんに見えないように隠す。

 

(まぁでも……ちょっとだけ、急いだ方が良さそうかな……?)

 

その左掌には……ほんの僅かに、赤い血が付着していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この男にもまた、タイムリミットが近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




二宮に冷たく突き放され、芝浦からも舐められて馬鹿にされ、散々な真司君。ちなみにTVSP版だと芝浦のシーンの後、イライラのあまり精神的に壊れた真司がサッカー選手の姿でサッカーをやり始める(※しかもOREジャーナルの社内で)という奇行に走る模様←

一方、この段階で既に(少量とはいえ)吐血するくらい症状が悪化していた北岡さん。
先に言っておきますと、この時間軸では北岡さんは病気の悪化がTV本編に比べて若干早くなっており、その事でちょっとだけ焦っています。
高見沢達と手を組む事を決めたのも、病気を治す手段を消そうとしている真司に邪魔される訳には行かなかったから……なのかもしれません。

次回は真司が蟹刑事と出会う予定。
蟹刑事の運命や如何に(もう察してるって?それは言わない約束だ←)


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第5話

はい、5話目の更新です。

今回は一気に話が進んでいきます。じゃないと尺が足りないもので←

それではどうぞ。



高見沢が北岡に連絡を入れてから翌日……

 

「へぇ。アンタが来たって事は、また呼び出しかな?」

 

「あぁ。高見沢さんからの通達だ」

 

芝浦は真司と出会ったのとは別のゲームセンターで、いつも通りゲームをして楽しんでいた。その後ろではスーツのネクタイを解いた格好の二宮が腕を組んで立っている。

 

「わざわざこんな所まで、お仕事ご苦労さん」

 

「そういうお前も、相変わらずゲームで楽しんでいるようだな」

 

「まぁね。俺、ここらじゃ結構有名だし。俺に挑戦して来る奴が後を絶たないんだよねぇ」

 

「それは大変だな……で、来るんだろう?」

 

「オッケー、これ終わったらね」

 

現在、芝浦は音ゲーをプレイしており、高度なテクニックで点数を順調に稼いでいる。その巧みな手つきは近くを通りかかろうとした野次馬達の視線が集中するほどだったが、ゲームに興味がない二宮からすれば待っているだけでも退屈過ぎる時間だった。

 

「どう? せっかくだし、1回だけ俺と勝負してみない?」

 

「遠慮しておく。これ以上待たせると、高見沢さんに何を言われるかわからんからな」

 

「あっそ。お宅、つまんない奴って言われない?」

 

「つまんなくて結構。素人に一体何を期待してんだ」

 

「弄り甲斐がないねぇ……ほいっと」

 

プレイしていた曲が終わり、芝浦が獲得した得点が新記録として画面に表示される。それを見た野次馬達から賞賛の声が挙がる中、それをスルーした二宮は芝浦を連れてゲームセンターを後にしていく。

 

「それで、今回は何をやる訳?」

 

「どうせお前の所にも来たんだろう? 城戸真司とかいう奴が」

 

「あぁ、あのケツの青い城戸真司ねぇ。そいつがどうかしたの?」

 

「馬鹿は馬鹿だが、放っておけば俺達にとって厄介な存在にもなりうる。早い内に潰しておいた方が良いってのが高見沢さんの考えだ」

 

「ふぅん……ま、俺は別に良いけどさ。アンタもそれに賛成なんだ」

 

「高見沢さんが決めた事だ。俺が意見するような事でもあるまい」

 

「忠実なんだ……じゃあ、もし死ねって命令されたらどうすんの?」

 

歩いていた二宮の足が止まる。そして振り返った二宮の目付きは、鮫のように鋭かった。

 

「……その時は、俺がこの手で奴を沈めるだけだ」

 

「へぇ、そこはハッキリ言っちゃうんだ。高見沢さんに聞かれちゃっても良いのかなぁ~?」

 

「お前こそ、このまま奴の子分に成り下がったままで終わるつもりか?」

 

間髪を入れずに告げられた二宮の言葉。それを聞いた芝浦は表情こそ笑っているままだが、その目は全くと言って良いほど笑っていなかった。

 

「高見沢さんと手を組んでいる……という割には、お前も奴の子分みたいに付き従っているだけだろう。俺と大して違いはあるまい」

 

「……何が言いたい訳?」

 

「さぁな。俺の言葉をどう捉えるか、それはお前の自由だ」

 

立ち止まったまま、二宮と芝浦が互いに睨み合う。気付けば2人は右手でカードデッキを取り出している。一触即発の空気が数秒間ほど続いたのだが……

 

「……いや、やめておこう。これ以上は本当に怒られかねない」

 

「……じゃ、また今度にしよっか」

 

先に二宮の方からカードデッキをしまい、芝浦も口元をニヤつかせる。それと共に、張りつめていた空気が一瞬で元に戻る。

 

「どの道、いずれ俺達も戦い合う事になるのは変わらん。今は俺達が潰し合うよりも……」

 

「先に潰さなきゃいけない奴がいるってね。それはあのケツの青い城戸真司……と、もう1人」

 

 

 

 

 

 

「「高見沢逸郎も」」

 

 

 

 

 

 

二宮も、芝浦も、ただ黙って従い続けているほど素直な人間ではない。

 

潰すべき敵はいずれ潰す。

 

それは自分達を付き従えている人物とて、決して例外ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある喫茶店……

 

 

 

 

 

 

「―――で、刑事さんが俺に何の用なんですかねぇ」

 

そこで真司は、彼に用があるといって電話をして来た刑事の男性―――須藤雅史と対面していた。真司がコップ内のオレンジジュースをストローで掻き混ぜる中、須藤は落ち着いた雰囲気で真司に話を切り出す。

 

「あなたの事は聞いています。ライダーの戦いを止めようとしている、とか」

 

須藤の口から「ライダー」という単語が出た瞬間、真司はすぐに「うへぇ」と嫌そうな表情を見せる。

 

「はぁ……へぇへぇ、わかってますよ。どうせまた俺の事を馬鹿にしに来たんでしょう?」

 

これまで協力を持ちかけようとしたライダー達に断られた挙句、その大半から「ケツの青い餓鬼」とまで馬鹿にされ続けてきた真司は今、若干の人間不信に陥りかけていた。人間を信じられなくなったあまり、子供時代の思考に戻ればまた人間を信じられるようになるのではないかと、自身が勤務しているOREジャーナルの社内で子供みたいにサッカーを遊び始めるという奇行に走るくらいである(そのおかげで、会社の上司や同僚達からも「疲れているのではないか」と心配されてしまったのはここだけの話だ)。

 

どうせこの須藤という男も、高見沢や二宮、芝浦みたいに自分を馬鹿にしようと思っているに違いない。既に真司は半分ヤケクソだった。

 

「どうぞどうぞ、皆でせせら笑えば良いじゃないですか。ケツが青いだの何だの―――」

 

「いや」

 

しかし、次に須藤が返した言葉は意外な物だった。

 

「あなたに力をお貸ししたい。私で良ければ」

 

「良ければって……え!?」

 

なんと、須藤の返事はまさかのYES。真司のやろうとしている事に、力を貸すと言って来たのだ。

 

「本当ですかそれ!?」

 

「えぇ。これでも、刑事の端くれですから」

 

先程まで人間不信に陥りかけていたにも関わらず、須藤の言葉を聞いた途端に表情が一気に明るくなる真司。そんな彼に対し、須藤も決して嘲笑う事なく、にこやかな笑顔で頷いてみせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真司と須藤がいるのとは別の喫茶店―――“花鶏(あとり)”では……

 

(……昼の時間はこれで乗り切ったか)

 

そこに寝泊まりさせて貰っている蓮は、店の業務を手伝っているところだった。客が帰った後、水に濡らした布巾でテーブルを拭いて回っていた彼の脳裏には、真司に言われた言葉が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

『お前平気なのかよ、友達が死んだんだぞ!?』

 

 

 

 

『お前、やっぱり最低だよ……止めてやるよこんな戦い!!』

 

 

 

 

「……」

 

下らない、ただの戯言だ。

 

あんな奴に、俺の気持ちがわかるはずもない。

 

そう自分に言い聞かせようとする蓮だったが……

 

 

 

 

『手塚ァッ!!!』

 

 

 

 

『……れ、ん……ッ……』

 

 

 

 

そう言い聞かせるたびに、彼の脳裏には死んでいった親友の姿が目に浮かぶ。

 

あの時、自分が手に取れなかった親友の力なき手。

 

それが今も、彼の頭から離れない。

 

「ッ……」

 

そんな苛立ちを少しでも紛らわせようと、彼はテーブルを拭く作業を続けて行く。そんな時、店のドアが開く音が鳴り、振り返った蓮は入って来た人物を見て表情が変わった。

 

「よっ」

 

「お前……!」

 

入って来た人物―――北岡秀一がライダーである事は、蓮も知っていた。敵であるはずの彼が何故ここに。そんな疑問に駆られる蓮の横を通り、北岡が近くの椅子に座る。

 

「ダージリンをセカンドフラッシュで。その方が味に品があるからな」

 

「……何を考えている。まさか本気で紅茶を飲みに来た訳ではあるまい」

 

少なくとも何か裏はあるはずだ。でなければ、このような男がわざわざこんな場所に来るはずがない。そんな蓮の予想は的中していた。

 

「ほら、城戸真司って奴の事だよ」

 

「何……?」

 

北岡の口から出て来た真司の名前。それを聞いた途端、蓮の眉が一瞬だけピクリと反応する。

 

「細かい動きしてるみたいだし、俺達も手を組んだ方が良いと思ってねぇ」

 

「まぁ、奴が危険分子という事には間違いない」

 

そこに続けて入って来たのは、あの高見沢逸郎だ。その後ろには芝浦と二宮も連れている。

 

「早いところ潰しておいて損はないわな。どうだ、お前も俺達と組まねぇか?」

 

「ッ……お前の手は借りない!」

 

蓮の脳裏に浮かぶ、ライアを倒したベルデの姿。そのベルデの笑い声と、高見沢の声は一致していた。苛立ちを隠さない蓮は布巾を乱暴に放り捨て、高見沢の胸倉に掴みかかりながら彼を睨みつける。

 

「出ていけ……!」

 

「……ふん」

 

蓮に睨まれても、高見沢は動じるどころか逆に蓮の手を引き剥がし、馬鹿にしたような表情で蓮を睨み返す。

 

「お前もしかして、手塚って奴をやられて頭に来てるって訳か」

 

「……ッ」

 

高見沢の言葉は、蓮にとっては図星だった。それを見抜いた高見沢は更に続けて言い放つ。

 

「へっ……馬鹿だねぇ~。たとえ昔の友人でもなぁ、ライダーになった瞬間から敵同士になるんだよ。お前矛盾してんだ!」

 

高見沢が見抜いた矛盾……それはライダーでありながら、同じライダーになった手塚に情を抱いている事。ライダー同士の戦いに参加している以上、そんな物はただの足枷にしかならない。

 

「ぷはは……!」

 

「……ふん」

 

芝浦も面白そうな表情で笑っており、二宮は笑ってこそいないものの呆れた様子で小さく鼻を鳴らしている。彼等もまた、高見沢と同じように蓮の事を内心では馬鹿にしている様子だった。

 

「お前も同じじゃねぇか? ケツの青い城戸真司とよぉ」

 

「ッ……違う……俺は!!」

 

「俺はどうすんの。ん?」

 

椅子に座って聞いていた北岡が立ち上がり、蓮の横を通り過ぎる。

 

「手を組むの? 組まないの?」

 

始めから、彼等が蓮に聞きたい事はそれだけだ。手を組むのか、それとも組まないのか。蓮の返答次第で、彼等が取る行動も変わって来る。

 

「……俺は」

 

未だ眠り続けている恋人(えり)の姿。

 

その姿が思い浮かんだ瞬間、蓮の答えは決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、例の喫茶店では……

 

 

 

 

 

「いやぁ~俺ねぇ、信じてたんすよ! ライダーの中にもきっとまともな人はいるって!」

 

蓮がそんな状況になっているとは露知らず、真司は上機嫌だった。ようやく、自分がやろうとしている事に協力してくれるライダーが現れたのだから。

 

「で、でも良いんすか本当に? もしかしたら、他のライダーに狙われる可能性も……」

 

「心配いりません。人を襲うモンスターを放って置く訳にはいきませんから。その為なら、私も刑事として命を懸けましょう」

 

「くぅ~!! ありがとうございます、須藤さんに出会えて良かったです!! 俺、感動しました!!」

 

真司は歓喜の表情で須藤の手を握り締める。先程までは人間が信じられなくなったと言っていた割に、どうも調子の良い彼である。

 

「とにかくですね……あ、すいませんお代わり! ミラーワールドのコアミラーを壊したいんですけどね? モンスターに守られていて、1人じゃ難しそうで……あ、何か食べません? 俺奢りますから! あぁすみません、大盛りプリンを2つ……」

 

協力者ができた喜びからか、とにかく落ち着きのない様子で話を続ける真司。そんな彼に須藤が苦笑しながらも話を聞いていたその時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

モンスターの接近を知らせる金切り音。真司と須藤は即座に気付き、2人は急いで立ち上がり喫茶店を飛び出して行く……なお、レシートを忘れている事に気付いた須藤が、慌ててテーブルに取りに戻ったのはここだけの話。

 

「「変身!!」」

 

その後、2人は装着したベルトにカードデッキを装填し、真司は龍騎に、須藤はシザースの姿に変身。飛び込んだ先のミラーワールドでは、工場施設付近に出現したソロスパイダーが2人を睨みつけていた。

 

『シャァァァァ……!!』

 

「やっぱりモンスターか……!!」

 

「よし、一緒に戦おう!!」

 

「須藤さん……はい、行きましょう!!」

 

龍騎とシザースは駆け出し、同時にソロスパイダーに殴りかかる。ソロスパイダーも両腕の鉤爪で応戦し、鉤爪を振り回して2人を翻弄しようとする。

 

「この、大人しくしろっての……!!」

 

『キシシシ……キシャア!!』

 

「ぐっ!?」

 

「うぉわっ!?」

 

当然、ソロスパイダーが大人しくしてくれる訳などない。後ろから龍騎が羽交い絞めにして取り押さえ、その間にシザースが攻撃を仕掛けようとしたが、シザースを蹴りつけたソロスパイダーは力ずくで龍騎を引き剥がす。

 

「ッ……こいつ……!!」

 

ここで龍騎は、1枚の手札を使う事にした。カードデッキから引き抜いたカードを裏返すと……そこには、赤い炎の中で煌く金色の翼が描かれていた。

 

「はっ!」

 

龍騎が正面に突き出した左腕を、赤い炎が包み込む。すると左腕に装備していたドラグバイザーの形状が変化し、ドラゴンの顔を象ったハンドガン型の召喚機―――“ドラグバイザーツバイ”となり、龍騎の周囲を灼熱の炎が激しく燃え上がる。

 

「ぐぁ!?」

 

『キシシシシ……シャ?』

 

シザースを退けたソロスパイダーが赤い炎に気付く中、龍騎はドラグバイザーツバイの開いた口の部分に、赤い背景に金色の翼が描かれたカード―――“サバイブ・烈火”を差し込み、下顎部分を閉じていく。

 

≪SURVIVE≫

 

電子音と共に、龍騎の全身が炎に包まれ、一瞬でその姿が変化する。

 

金色のラインが追加された赤い装甲。

 

仮面の額部分から伸びている触角のような意匠。

 

赤から黒に変化したアンダースーツ。

 

黒から赤に変化したカードデッキ。

 

サバイブ・烈火の力を使った龍騎は、烈火を司る紅蓮の戦士―――“仮面ライダー龍騎サバイブ”への変身が完了。ドラグバイザーツバイを構え、ソロスパイダーと対峙する。

 

「! アレは……」

 

シザースも龍騎サバイブの姿に驚く中、龍騎サバイブはドラグバイザーツバイのグリップを引き、開いた装填口に1枚のカードを装填してグリップを押し込んだ。

 

≪SHOOT VENT≫

 

『グオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

エコーのかかった電子音と共に、上空から飛来したドラグレッダーの姿が一瞬で変化。頭部に仮面を装備し、よりがっしりした体格を持った大型の東洋龍―――“烈火龍(れっかりゅう)ドラグランザー”となり、龍騎サバイブの背後に回り込む。

 

『キシャシャシャ……!!』

 

それを見て「ヤバい」と本能で感じたのか、ソロスパイダーはその場から逃げ去ろうとするが、龍騎サバイブは決して慌てない。彼はドラグバイザーツバイの銃口をソロスパイダーの背中に向け、ドラグランザーも口元に赤い炎を収束させ始める。そして……

 

「はぁっ!!」

 

『グオォンッ!!!』

 

『ギッ……ギシャアァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ドラグバイザーツバイから放たれたレーザーがソロスパイダーの背中を捉え、そこにドラグランザーが放出した強力な火炎弾―――“メテオバレット”が炸裂。強力な攻撃を受けたソロスパイダーが爆散し、出現したエネルギーをドラグランザーが咀嚼してどこかに飛び去って行く。

 

「よっしゃあ!!」

 

龍騎サバイブはガッツポーズを取り、サバイブを解除して通常形態に戻る。そこにシザースも駆け寄り、龍騎の肩を叩いて健闘を称える。

 

「やったな!」

 

「お? いやぁ、へへ……!」

 

その時……

 

 

 

 

 

 

チュドォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

「「うわぁあっ!?」」

 

突如、2人の立っていた足元に1発の砲弾が飛んで来た。爆発の衝撃で吹き飛ばされたシザースが施設の壁に叩きつけられ、龍騎が地面を転がされる。起き上がった龍騎の前に現れたのは……

 

「よぉ、また会ったなぁ餓鬼」

 

「よっと」

 

「ふん……」

 

「ヒュ~♪」

 

「……」

 

ある目的の為に同盟を組んだ、ベルデ率いるライダーチームだった。先程の砲弾はゾルダが構えた大砲―――“ギガランチャー”から放たれたようで、ギガランチャーを放り捨てたゾルダがベルデの横に並び立ち、その後ろからはアビス、ガイ、ナイトの3人も姿を現す。

 

「ッ……何だよ、邪魔しようってのか!?」

 

「はん、それはこっちの台詞だろうが……!!」

 

「そ、邪魔しないでよ。世界一楽しいゲームなんだからさぁ」

 

「そういう事だ。お前に恨みはないが、ここで沈んで貰おうか……!」

 

彼等の目的……それは龍騎を潰す事だった。ミラーワールドを閉じようとしている彼の行動は、どうしても叶えたい願いの為に戦っているゾルダやナイト、力その物を欲しているベルデ、願いではなく生き残る事を目的としているアビスやガイ、その全員にとって迷惑な行為でしかない。5人共、龍騎の存在が邪魔であるという利害が一致していた。

 

「ち、ちょっと待てって……どわ!?」

 

「はぁ!!」

 

「フッ!!」

 

「ぜぁっ!!」

 

龍騎の返事を待たず、彼等は一斉に龍騎に襲い掛かって来た。ガイの振るうメタルホーンをかわし、ゾルダのパンチを受け止める龍騎だったが、そこにアビスの蹴りを受けてしまい、続けてナイトによるダークバイザーの柄部分での殴打、ベルデが繰り出すパンチまで喰らってしまう。

 

「や、やめろ!! 俺は、お前達と戦うつもりはないんだ……ッ!?」

 

その時。ベルデのパンチを喰らった龍騎が後ろを振り向いた直後、龍騎の首元を掴み取るライダーがいた。そのライダーの姿を見て、龍騎は仮面の下で信じられないといった表情を浮かべた。

 

「な、何だよ……何でお前が……!?」

 

「……悪く思わないで下さい」

 

それは先程まで、龍騎に味方していたはずのシザースだった。シザースは左腕のシザースバイザーで龍騎の顔面を殴りつけた後、彼の腹部を容赦なく蹴りつける。

 

「あなたの仲間になるつもりは……初めからなかったんですよ!!」

 

「ぐ……うぉあ!?」

 

龍騎を殴りつけ、再び蹴り飛ばすシザース。地面に倒れた龍騎は起き上がろうとするも、その前に距離を詰めたシザースが龍騎の背後に回り込み、後ろから彼を首絞め始めた。

 

「ッ……お前ぇ……!!」

 

「あなたはライダーの戦いを知らない。癖になるんですよ……そして頂点を極めたいと思うようになる……!!」

 

この須藤という男、その精神は既に歪んでしまっていた。元々は浅倉を逮捕する為にライダーになり、その目的を見事達成した彼だったが、それ以降は自分が持つライダーの力に魅入られていき、いつからかライダー同士の戦いで頂点を極めるという目的にすり替わってしまっていた。結局のところ、彼も他のライダーと同じ碌でもないライダーに過ぎなかったのだ。

 

「やれ!!」

 

「OK♪」

 

「フン……!」

 

「く、離せ……!?」

 

シザースに捕まり、身動きが取れない龍騎。そこにガイとアビスが迫ろうとした……その直後。

 

 

 

 

 

 

ズガアァンッ!!

 

 

 

 

 

 

「「ぐあぁっ!?」」

 

「「「「「……!?」」」」」

 

そこへ突如、空気を読まずに乱入して来る存在がいた。

 

「ハッハァ……!!」

 

王蛇だ。突然真横から現れた王蛇はベノサーベルを振るい、捕まっている龍騎ごと(・・・・・・・・・・)シザースを攻撃して来たのだ。いきなり現れた王蛇を見て、シザースは動揺を隠せない。

 

「あ、浅倉……!?」

 

「何をやっている……?」

 

「ぐはぁ!?」

 

「俺も仲間に入れろぉ……!!」

 

襲い掛かって来た王蛇の狙いはシザースに定まり、慌てふためく彼をベノサーベルで容赦なく薙ぎ倒す。そのまま王蛇がシザースに攻撃を仕掛ける一方、拘束から脱け出せた龍騎は何とか呼吸を整えようとする。

 

「た、助かった……!」

 

「余所見とは余裕だな」

 

「!? おぁっ!?」

 

しかし、気を抜いていられる状況ではない。迫って来たガイのキックを龍騎が素早く回避するも、掴みかかって来たアビスに裏拳で殴られ、続けてナイト、ベルデの順に一方的に殴られていく。更にはゾルダに腹部を殴られただけでなく、殴られた腹部を押さえていたところで背中を殴られ、地面に叩き伏せられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはぁっ!?」

 

その一方で、シザースも窮地に追い込まれていた。ベノサーベルで一突きにされたシザースが地面に倒れている間に、王蛇はベノサーベルを適当に放り捨て、カードデッキからファイナルベントのカードを引き抜いた。

 

「ミラーワールドに、刑事はいらない……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

「ハッ!!」

 

『シャアァァァァァァァッ!!』

 

ベノバイザーにカードが装填され、死刑宣告が鳴り響く。王蛇はその場から跳躍し、現れたベノスネーカーがいる後方へと宙返りしていく。

 

「くっ……私は、まだ……こんな所でぇ……!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

こんな所で死ぬ訳にはいかない。何が何でも勝ち残りたいという執念から、立ち上がったシザースは固い甲羅の形状をした盾―――“シェルディフェンス”を召喚し、シザースバイザーに装備した状態で王蛇に立ち向かい……

 

「オラァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ッ……ぐ、ぅう……!!」

 

毒の激流に乗って突っ込んで来た王蛇のベノクラッシュを、真正面からシェルディフェンスで防ごうとした。最初の数発は何とか防いでみせるシザースだったが……やはり、王蛇相手には無謀な行為だった。

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「ぐ……お、ぁが!? が、ごふ……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

笑いながら繰り出される連続蹴りは、途中でシェルディフェンスを弾き返し、そのままシザースのボディを何度も蹴りつけていく。そしてシザースの装甲にも遂に限界が来てしまい、シザースの方が断末魔と共に呆気なく爆死させられる事となってしまった。

 

「ハァァァァ……」

 

自分を逮捕に追い込んだシザースを葬る事ができ、満足した様子の王蛇。続けて他に戦っているライダー達の方にも向かおうと、彼が後ろに振り返った瞬間……

 

ズドドォン!!

 

「うぉ!?」

 

王蛇の胸部装甲に、数発の銃弾が命中する。ゾルダが構えている拳銃型の召喚機―――“機召銃(きしょうじゅう)マグナバイザー”で狙撃したのだ。

 

「ッ……次は、お前かぁ?」

 

「あぁ。俺がお前に相応しい場所に送ってやるよ……監獄で駄目なら、地獄にな!!」

 

「フッ……クハハハハハハハ!!」

 

ゾルダが銃撃し、王蛇が近くの柱を盾にして回避。王蛇が歓喜した笑い声でゾルダに向かって行く中……そこから少し離れた場所では、龍騎も窮地に追い込まれようとしていた。

 

「はぁっ!!」

 

「フン!!」

 

「がっ……ごはぁ!?」

 

ガイのメタルホーンで薙ぎ払われた龍騎を、アビスが右手で受け止めてから右足で蹴り倒す。何度もボコボコにされてしまった龍騎は傷を負い、なかなか立ち上がる事ができない。

 

「面倒だ。そろそろ終わらせようか」

 

「じゃ、さようなら♪」

 

「くっ……!!」

 

倒れて動けない龍騎に、アビスとガイがトドメを刺そうとゆっくり迫り来る。万事休すかと思われた……その時。

 

 

 

 

「待て」

 

 

 

 

「「!」」

 

アビスとガイを、何故かベルデが制止させる。ガイは小さく舌打ちしてから振り返る。

 

「チッ……何?」

 

何故自分達を止めたのか。最初はベルデの意図が理解できないアビスとガイだったが……その理由はすぐに判明した。

 

「お前がやれ」

 

「……!」

 

ベルデが指名したのは、後ろで離れて見ていたナイトだった。ここで指名されるとは思っていなかったのか、ナイトは少しだけ驚いた様子で首を上げる。

 

「お前の手でトドメを刺すんだ。お前もライダーなら、これくらいの事はできるだろう?」

 

「……当然だ」

 

「ふぅん、なるほど。そいつを試そうって訳ね」

 

「面倒な……さっさと沈めろよ」

 

ベルデにそう言われてしまっては、断る理由もない。ベルデの意図を理解したガイとアビスが左右に退き、その間をウイングランサーを構えたナイトが通り、龍騎に迫って行く。

 

「なっ……おい、マジかよ……嘘だろ……!?」

 

「悪く思うな……」

 

まさか、本当に自分を殺す気なのか。地面を転がってでも必死に逃げようとする龍騎だったが、その前にナイトが追いついてしまい、ウイングランサーの先端を龍騎の首元に向ける。そのまま龍騎の首を貫こうと、ウイングランサーが突き立てられ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――る事はなかった。

 

「―――え?」

 

「ッ……く、ぅ……」

 

ウイングランサーの先端は、龍騎の首元ギリギリでピタリと止まっていた。それ以上、ナイトはウイングランサーを動かす事ができない。

 

「……ッ!!」

 

ナイトの脳裏に再び浮かび上がる、死に行くライアの姿。それが思い浮かぶたびに、ナイトは改めて理解させられる事となったのだ。

 

殺せば、人が死ぬという事に。

 

その人殺しを、自分がやろうとしていたという事に。

 

「お前……」

 

殺されると思っていた龍騎も、動かない彼を見て驚いた。そしてそれは、傍で見ていたベルデ達も同じだった。

 

「どうした、何故できない?」

 

アビスが呼びかけるも、ナイトはそれ以上動かない。これにはアビスやガイ、そしてベルデも呆れ果てる事しかできなかった。

 

「あれ、できないの? あららぁ……お宅ひょっとして、見かけ倒しって奴?」

 

「フン、やっぱりな……お前も落ちこぼれだ!!」

 

「ッ……うおぁ!?」

 

「お、おい!!」

 

痺れを切らしたベルデが、未だ動かないでいるナイトを蹴り倒した。龍騎のすぐ横にナイトが倒れ、その2人をベルデが冷徹な態度で見下ろす。

 

「ライダーがライダーの前で弱点を曝け出したらどうなるか、わかってるよなぁ? お前は美味しい獲物って事だ」

 

人を殺せないという弱み。それを知られてしまったライダーは脅威として見なされず、やがて他のライダーに付け込まれる事となる。そんな弱肉強食のルールに従い、ベルデは先にナイトを潰そうと襲い掛かろうとしたが、即座に龍騎がナイトを庇い、ベルデに抱き着くように掴みかかった。

 

「ッ……よせ、やめろ!!」

 

「でやぁっ!!」

 

「うあぁ!?」

 

ベルデの肘が龍騎の背中に打ち込まれ、龍騎が再び地面に倒れ伏す。そこに追撃を仕掛けようと左手を振り上げるベルデだったが……ここで彼は気付いた。

 

「! 時間切れか……」

 

ベルデの右手が、粒子化を始めている。それを見てアビスとガイもまた、自分達の体が粒子化を始めている事に気付いた。

 

「高見沢さん、ここは一旦引きましょう」

 

「……仕方ないな」

 

「ちぇ……つまんねぇの」

 

「「ッ……」」

 

流石に消滅寸前まで戦い続けるほど、彼等も死のリスクを抱えるつもりはない。ベルデ、アビス、ガイの3人は諦めてその場を立ち去って行き、龍騎とナイトは九死に一生を得る事となったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、この戦いに参加しなかった湯村はと言うと……

 

 

 

 

 

「おぉ、やっと着いたぜ……」

 

彼は今、とあるスポーツジムにやって来ていた。今回の戦いに参加できなかった彼は不機嫌そうな表情を浮かべながらジムの中に入って行き、たくさんのトレーニング用の器具が並んでいるトレーニングルームへと到着する。

 

(クッソ、二宮の野郎……俺にこんなつまんねぇ仕事押しつけやがって)

 

何故湯村がここに来ているのかと言うと、二宮からある仕事を頼まれたからだ。最初は仕事を押しつけられる事を嫌がっていた湯村だが、断った場合は後が怖いと二宮に半分脅され、渋々ながらも引き受ける事になったのだ。

 

「んで、ここで間違いないんだっけか? えぇっと……お、アイツか?」

 

1枚の紙切れを頼りに、湯村はトレーニングルームを見て回っていく。その中で、彼は部屋の奥でトレーニングをしている1人の青年を発見し、早速その近くまで近付いて行く。

 

「ふっ……はっ……!!」

 

その青年はシートに座った状態で、チェストプレスマシンを必死に動かしていた。額や首元にはかなりの汗が流れ落ちており、既に長い時間ここでトレーニングをしている事がわかる。この青年こそ、湯村が探していた人物で間違いなかった。

 

「よぉ、そこのお前」

 

「……!」

 

そこに湯村が声をかけた事で、青年は動きを止めて湯村のいる方へと振り向く。青年は首にかけていたタオルで顔の汗を拭き取ってから近くに置いていた眼鏡をかけ、ようやく口を開いた。

 

「……誰だい、君は」

 

「おいおい。まさか、俺の声を忘れたのかよ」

 

「! その声……」

 

「覚えてるはずだぜ。何せこれまで、俺達はテメェと何度か戦った事があるんだからなぁ……そうだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダータイガ……椎名修治(しいなしゅうじ)さんよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




龍騎にトドメを刺せなかったせいで落ちこぼれと見なされ、ベルデ達に命を狙われる事となってしまった。今回は何とか助かった2人ですが、これ以降2人は他のライダー達から狙われ続ける羽目に……冷静に考えるとなかなかの地獄ですよねこの状況。

一方、今回で本格的に登場……したかと思いきや速攻で退場してしまった蟹刑事こと仮面ライダーシザース。最期はやっぱり王蛇に逆襲され、呆気なく葬られてしまいました。
ちなみに彼が王蛇に襲われている間、他のライダーが誰も助けてくれなかったというのが何ともまぁ哀愁の漂う事漂う事……では皆さん、蟹刑事に合掌(チ~ン

そしてラストシーン……湯村インペラーの前例から既に予想はしていたと思いますが、この青年―――椎名修治こそが、この時間軸における仮面ライダータイガです。
彼は一体何者なのか?
今作ではその謎にちょっとだけ触れた後、残りの謎は『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』の第2部ストーリーで明かしていこうと思っております。

え、TVSP版のタイガも東條と同じ声をしてるって?
声が似ている別人という事でそこは何とか←


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第6話

6話目を更新。

今回でまた一気に話が進みます。

それではどうぞ。



「……それで、君なんかが僕に何の用かな」

 

「おうおう、早速失礼な野郎だな……まぁ良いや」

 

仮面ライダータイガの変身者である青年―――“椎名修治(しいなしゅうじ)”と対面した湯村。あの後、スポーツジムを出た2人はそう遠くない場所にあるカフェテラスに移動していた。湯村は変わらず着崩したスーツの恰好をしているのに対し、先程までタンクトップと半ズボンを着用していた椎名は現在、白いシャツの上に青いジャケットを着込んだお洒落な格好している。

 

「高見沢さんが用があんだとよ。理由はテメェもわかってんだろ?」

 

「……つまり、僕を倒しに来たって事で良いのかな」

 

「そう言いてぇところだが、今回はちげぇ」

 

椎名が指で眼鏡を上げ、懐からタイガのカードデッキを取り出そうとする。その前に湯村が手で制する。

 

「今回はテメェを倒しに来たんじゃねぇ……テメェと手を組もうと思ってなぁ」

 

「手を組む……?」

 

「あぁそうだ。コイツはテメェにとっても重要な話だぜ」

 

怪しむ目を向けて来る椎名に対し、湯村は1枚の写真を取り出す。それはいつの間にか撮影されていた真司の顔写真だった。

 

「コイツは城戸真司。あの榊原からデッキを引き継いだ新たな龍騎だ」

 

「! 榊原さん(・・・・)から……?」

 

「おぉそうだ。コイツも奴と同じで、ミラーワールドを閉じようとしてやがる。そうなりゃ、俺達ライダーは願いを叶えられなくなっちまう」

 

湯村から手渡された真司の顔写真。それを椎名は黙ったまま見つめ続ける。

 

「でだ。コイツを潰す為に、俺達で手を組もうって話さ。俺達だけじゃない、テメェにとっても損にはならねぇはずだぜ」

 

「……何故僕なんだい?」

 

「あ?」

 

椎名は写真を見つめたまま、湯村の方には一切視線を向けずに問いかける。

 

「君達からすれば、僕も邪魔者の1人だったはずだ。何故今になってこんな話を……」

 

「はん、何かと思えばそんな事かよ……簡単な話だ。テメェが油断ならねぇ奴だからだよ」

 

「僕が?」

 

「あぁそうさ。だってそうだろう? テメェはあの時、助けるはずだった恩人(・・・・・・・・・・)を自分でぶった斬りやがったんだからなぁ」

 

「……」

 

「……な、何だよ」

 

その一言が告げられた瞬間、椎名の目が湯村をまっすぐ見据えた。それに思わず驚く湯村だったが、椎名はすぐに視線を写真に戻す。

 

「……わかった。僕も協力しよう」

 

「へぇ、随分アッサリ決めたな。俺達は元々敵同士だったんだぜ?」

 

「状況が状況だからね……それに僕も、この男に少し興味がある」

 

「はっはぁ、良いね。あのケツの青い城戸真司よりもいくらかマシな方だな、テメェは」

 

湯村のその言葉が聞こえていないのか、椎名は再び無言になって写真を見つめ続ける。その目付きは冷たく、獣のように鋭かった。

 

(城戸真司、か……)

 

「お前に、あの人(・・・)の代わりは務まるのか……?」

 

「?」

 

写真を持っていた椎名の右手は、写真をグシャグシャに握り潰していく。彼が呟いた言葉の真意を、湯村が察する事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、氷室総合病院……

 

 

 

 

 

「小夜、ゆっくり体を休めるんだぞ。もし具合が悪くなった時は、すぐに先生や看護師さんを呼ぶように」

 

「もぉ、わかってるよお兄ちゃん。本当に心配性だなぁ……」

 

「心配するのは当たり前だろう? 僕はお前のお兄ちゃんなんだから」

 

とある病室。そこには穏やかな笑顔を浮かべている健吾と、ベッドに体を寝かせている彼の妹―――鈴木小夜(すずきさよ)の姿があった。ベッドの横に設置されている小さな棚には、彼が今回の為に持って来た見舞いの品が置かれている。

 

「それじゃ、お兄ちゃんはそろそろ行くよ。また明日も来るからな」

 

「うん。バイバイ、お兄ちゃん」

 

頭を撫でられて満面の笑みを浮かべる小夜に、健吾も満足そうに笑ってから病室を去って行く。病室の扉を閉めた彼を待っていたのは、彼の為に見舞いの品を運ぶ手伝いをした美穂だった。

 

「ふぅん。妹さん、素直で良い子じゃない」

 

「……アンタ、まだいたのか」

 

「いちゃ悪い? せっかく今日も荷物運ぶの手伝ってあげたのに」

 

「……それについては……ありがとう」

 

「ん、どういたしまして。素直に礼を言えるなんて偉いねぇ~♪」

 

「ッ……子供扱いしなくて良いから……!」

 

「おっと。もぉ、こっちは素直じゃないなぁ」

 

頭を撫でて来る美穂の手を払い、照れ臭そうに速足になる健吾。その後ろを美穂が「やれやれ」と首を振りながら続いて歩いていく。

 

「……礼はもう言っただろ。これ以上、アンタが僕に付き纏う必要なんかないはずだ」

 

「まぁそれはそうなんだけど……ちょっと気になった事があってさ。見舞いに来る人はアンタだけなの? 他に家族はいないの?」

 

「僕と小夜の2人だけだよ。入院費用は死んだ祖母が残してくれたお金で何とか払ってる」

 

「祖母がって……親はどうして―――」

 

「あんな奴等なんか僕が知るか」

 

美穂の言葉を遮るように健吾が言い放ち、立ち止まった彼は振り返って美穂を睨みつける。その鋭い目付きに美穂は少しだけ圧倒される。

 

「僕の前で親の話はするな……思い出すだけで虫唾が走る……!!」

 

「ッ……健吾、アンタ……」

 

再び健吾が歩き出し、美穂は慌てて彼の後に続く。彼の睨んで来る目に少しだけ恐怖した美穂だが、何故だか彼女は健吾の事が放って置けない気がしていた。彼が向けて来た目は……どこか既視感があったからだ。

 

まるで、今の自分のような……

 

「……けど、どうするのさ。アンタだってまだ学生だろ? これ以上入院が長引いたら……」

 

「問題ない。小夜を助ける為の手段ならもう見つけてある」

 

「手段? それって……」

 

「アンタには関係ないだろ……!」

 

健吾の言葉に少しだけ怒気が含まれる。それでも美穂は怖気づいたりはしない。

 

「関係ないかもしれないけどさ……見てて不安になって来るんだよ、アンタのその様子じゃ!」

 

「うるさい、アンタに何がわかる……!」

 

「アタシはお姉ちゃんを失った!」

 

その言葉を聞いて、速足だった健吾がピタリと立ち止まる。それに対して美穂の方も、何故自分からこんな事をわざわざ話してしまったのか、自分でもわからなかった。

 

「アタシのお姉ちゃんは、犯罪者に殺されたから……家族を助けたいってアンタの気持ち、ちょっとはわかってるつもりだよ……!」

 

「……アンタも、家族を……」

 

先程までと比べると、健吾の言葉に拒絶の意志はいくらか小さくなっていた。それを感じ取った美穂は健吾の傍まで近付き、彼の両肩に手を置いて抱き寄せる。

 

「どうしてだ……どうして僕に構おうとするんだ……?」

 

「たぶんだけどさ……アタシとアンタは、同じ状況に置かれてるのかもしれない。そう思っただけだよ」

 

美穂は薄々だが勘付いていた。彼と自分は今、叶えたい目的の為に動いている事を。それを叶える為の力を有している事を。

 

「健吾……アンタも、願い(・・)の為に動いてるんじゃないの?」

 

「! まさかアンタ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな。こんな所で2人纏めて出会えるとは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

その時だった。2人が振り返った後ろでは、二宮が缶コーヒーを飲みながら壁に背を付けて立っていた。

 

「アンタは……」

 

「お会いできて光栄だよ。仮面ライダーエクシス、そして仮面ライダーファム」

 

「!? 仮面ライダーファム、だと……!?」

 

「ッ……アンタは……!」

 

健吾が美穂に視線を向ける中、美穂は二宮を睨みつける。そんな彼女の鋭い目付きを向けられても、二宮は涼しい顔をして話を続ける。

 

「見つけるのにだいぶ時間がかかっちまったな。だがまぁ、これでようやく要件を伝えられそうだ」

 

「何を言っている……?」

 

「……ここじゃ何だ、屋上で話そうじゃないか。お前達にとっても重要な話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ミラーワールドを閉じるだと!?」

 

「ッ……!?」

 

氷室総合病院の屋上。そこで二宮から語られた話の内容に、まずは健吾が喰いついた。美穂もまた、二宮が告げた言葉に目を見開かせていた。

 

「城戸真司がミラーワールドが閉じれば、ライダーの戦いはその時点で終わりを迎える。そうなれば、お前達のような叶えたい願いを持っているライダーは全員、願いを叶える事ができなくなるって訳だ」

 

「……それで、アタシ達と手を組みたいって訳?」

 

「そういう事だ。奴を潰せば俺達にとっての障害がいなくなり、ライダーも減って戦いが進行する。まさに一石二鳥な話さ。お前達にとっても、手を組んで損はないだろう?」

 

柵に背中を付けながら、二宮は面倒臭そうな表情で事情を話していく。そんな彼に向けられている2人の目は、明らかに二宮を怪しんでいる目だった。

 

「おいおい、まさか疑っているのか? 俺の話を」

 

「……当たり前だろう。アンタが嘘を言っていないという証拠はない」

 

「俺の言葉が嘘だという証拠もあるまい。それに言っておくが、悩んでいられる時間はないぞ。俺達と組むか組まないか、この場でさっさと答えを出して貰わないとな」

 

二宮に言い返され、健吾と美穂は返答に悩まされる。この男の言葉を信じて良いのか否か。初対面である彼の真意を見抜くのは非常に困難だった。

 

「……それとも、こう言った方が確実か?」

 

返答に悩む2人を見た二宮は溜め息をつき、健吾の耳元で小さく囁く。

 

「良いのか? 鈴木小夜がどうなっても」

 

「ッ!?」

 

二宮がそう囁いた瞬間、健吾の目付きが一瞬で変わり、二宮の胸倉に掴みかかった。

 

「健吾!?」

 

「ほぉ、急にどうした? 血相を変えて」

 

「アンタ……何でアイツの事まで……!!」

 

「なに、お前が病室から出て来るところを見ていただけさ。病室には患者の名前も記されてるんでね」

 

胸倉を掴まれようと、二宮は変わらず真顔で健吾に言い放つ。

 

「それで、お前はどうするんだ? 手を組むのか、組まないのか」

 

「ッ……!!」

 

最悪だ。こんな奴に弱みを握られてしまった。健吾の表情は苛立ちを隠そうともしなかったが、同時に彼から選択を迫られているこの状況に対し、選択の余地がない自分の無力さを痛感させられていた。

 

「……わかった。手を組むよ」

 

「健吾……!」

 

「ほぉ、利口だな」

 

「けど、これだけは言わせて貰う……アイツに手を出すなら、先にアンタから潰すぞ……!!」

 

「……手を出すかどうかは、お前の今後次第だ。救えると良いなぁ、自分の妹を」

 

「……ッ!!」

 

頭に二宮の手が置かれ、健吾はすぐにその手を払い除けて彼を睨み続ける。二宮はそれをスルーし、今度は美穂に問いかける。

 

「お前はどうだ、霧島美穂。話を聞いてみたところ、お前の願いは姉を生き返らせるってところか?」

 

「ッ……アンタに答える義理はないよ」

 

「構わんさ。とっくに死んでる人間なんぞに興味はない」

 

相手の神経を逆撫でするような二宮の態度に、美穂も小さく拳を握り締める。しかし叶えたい目的の為にも、今の彼女には彼に反抗する理由もなかった。

 

「アンタなんかの為じゃない……アタシの願いの為だ」

 

「……決まりだな。なら、城戸真司を始末するまでの間だけでも仲良くしようじゃないか」

 

「誰がアンタなんかと……!」

 

「あぁそうかい……取り敢えず、俺は今から他の連中にも連絡を入れようと思っている。お前達も準備が整い次第、病院の入り口前に来ると良い」

 

今この瞬間、健吾と美穂も高見沢一行と手を結ぶ事となった。先に二宮が屋上から立ち去って行った後、その場に残された健吾と美穂はお互いに顔を見合わせる。

 

「……アンタもライダーだったんだな」

 

「健吾もね……本当に良かったの? あんな奴の言う通りにして」

 

「それはこっちの台詞だよ……僕のやる事は変わらない。小夜の為なら誰だろうと倒す……アンタだろうとな」

 

そう言って、健吾は美穂を置いて屋上から去って行く。その後、屋上には美穂だけが1人残される。

 

「アタシは……」

 

このまま戦い続けれていれば、いずれ健吾とも戦う事になる。そうなった時、自分は彼と戦えるのだろうか。そんな躊躇いを見せる美穂だったが、彼女はすぐに首を振って考えを切り替えていく。

 

(いや、違う……アタシは勝つんだ、勝たなくちゃいけないんだ……お姉ちゃんを助ける為にも……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という事は、他のライダーもこちら側に回ったという事で良いんだな?」

 

深夜0時。高見沢家が所有する豪邸にて、高見沢はバスローブを身に纏った姿のまま、受話器を通じて二宮からの報告を受けていた。

 

『はい。湯村の方も、椎名修治を問題なく引き入れる事に成功したそうです。浅倉については、放って置いても向こうから勝手に来る事でしょう……これで準備は整いました』

 

「なら、実行は明日からだ。奴等の居場所はわかってるんだろう?」

 

『秋山蓮のバイクに発信機を取り付けています。後はモンスターに気配を辿らせれば、勝手に奴等を見つけてくれるはずです』

 

「よし……ご苦労だったな、二宮」

 

電話を切り、高見沢はクククと不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「残念だったなぁ餓鬼共……どこまで逃げたところで、お前等に逃げ道なんざねぇぞ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日……

 

 

 

 

 

 

「「ッ……はぁ、はぁ……」」

 

あの戦いから、真司と蓮は逃げ続けていた。ライダー同士の戦いから逃れる為に、必死に逃げ続けた。とある港町まで逃亡し、潜伏先の無人の工場施設で彼等は休んでいた。彼等が乗っていたバイクは途中で乗り捨て、彼等はここまで自分の足で逃げ続けていた。

 

「はぁ、はぁ……蓮……まだ走れるか……?」

 

「はぁ、はぁ……もう良い……俺に構うな……!」

 

「何言ってんだよ……仲間だろ俺達!」

 

「! 仲間……?」

 

「あぁ、そうだよ。最初は俺といがみ合ってたお前が、今じゃ仲間なんだよ……!」

 

「……ッ」

 

仲間。そんな事を言ってくれる奴なんて、今までの蓮にはいなかった。それを言ってくれたのが、よりによって最初は険悪な仲だったはずの真司だ。彼が本気でそう言ってくれている事は、蓮も薄々理解はしていた……否、理解させられていた。

 

「ライダー同士の戦いなんかやめて、逃げ続けよう! 終わりだよ……全部終わりにするんだ!」

 

「終わり……」

 

その時、蓮の脳裏に浮かんだのは未だ眠り続けている恵里の姿。彼女の存在が、今もなお彼に迷いを抱かせる要因となっていた。彼が戦いから逃れられない最大の理由だった。

 

「無理だ……俺には、どうしても助けなければならない人がいる」

 

「蓮……」

 

「だから俺は、ライダーになって戦う道を選んだ。戦いに勝てなければ俺は……何の為にライダーになった」

 

「ッ……そりゃ、気持ちはわかるけど……だけど!」

 

蓮がライダーとして戦わなければならない理由は、真司も既に知っている。だからこそ、彼は悩み続けている蓮を強く励ます事ができなかった。何か他に、戦わずして願いを叶える方法はないのか。そんな事を考えていた……その時。

 

 

 

 

 

 

カランコロンッ

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

2人の近くに落ちて来た空き缶。2人が見上げた先には、階段の手すりから見下ろしてニヤニヤと笑っている芝浦の姿があった。

 

「見~つけた♪」

 

「ッ……おい、蓮行くぞ!!」

 

真司は蓮の腕を引っ張り、逃げる為に施設内へと逃げ込む。しかし、逃げ込んだ施設の中では北岡と遭遇し、更には二宮とも挟み撃ちにされそうになる。

 

「くそ、アイツ等……ッ!!」

 

どうして自分達の居場所がわかったのか。その理由は二宮が蓮のバイクに取り付けていた発信器が原因だった。バイク自体は途中で乗り捨てられたものの、彼等の逃走先である港町は逃げ道が少ない為、後は契約モンスター達に後を追わせるだけで簡単に追いつけてしまうのだ。

 

「~♪」

 

「全く、手間をかけさせやがって……」

 

そして真司と蓮が逃げ込んだ施設内に、芝浦と高見沢も入り込んで来た。真司と蓮が息を潜めて隠れる中、スーツの上着を脱いで肩にかけている高見沢は呆れた様子で呼びかける。

 

「いつまで逃げるつもりだ?」

 

「「ッ……」」

 

「一度ライダーになった者は、ライダーとしての宿命を負う……逃げる事はできない!!」

 

一度ライダーになった以上、最後の1人になるまで戦わなければ戦いは終わらない。どれだけ逃げようとしたところで、結局事態は何も解決しないのだ。それは真司と共に身を潜めている、蓮自身が一番よくわかっている事だった。

 

「……ッ!!」

 

蓮はナイトのカードデッキを取り出し、近くのガラスに向けようとする。それを見た真司は慌てて制止した。

 

「よせ、変身したら奴等の思う壺だろ……!!」

 

「離せ!!」

 

しかし、もはやそう言われて止まれる蓮ではなかった。彼は止めようとする真司を引き剥がし、再度カードデッキをガラスに向ける。

 

「俺は戦う……自分の弱さにも、勝ってみせる」

 

「ッ……蓮!!」

 

「変身!!」

 

ベルトにカードデッキを装填し、蓮はナイトに変身。真司の呼びかけも虚しく、彼はガラスを介してミラーワールドへと突入していく。

 

「「「「変身!!」」」」

 

「……!?」

 

少し離れた場所では、集結して並び立った高見沢、芝浦、二宮、北岡の4人も同じようにカードデッキを突き出し、それぞれベルデ、ガイ、アビス、ゾルダの姿へと変身する。こうなってしまった以上、自分も変身して応戦するしかない。真司は苦悩しながらも、龍騎のカードデッキを目の前のガラスに向かって突き出した。

 

「ッ……変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ミラーワールド内へと突入した龍騎とナイト。

 

どこかの地下駐車場入り口にやって来た2人を待ち構えていたのは、アビスバイザーを構えたアビスによる水のエネルギー弾だった。

 

「はっ!!」

 

「「ぐあ!?」」

 

突入早々に攻撃を受けた2人。そこへ追撃を仕掛けて来たのは、左右から現れたベルデとガイ、そしてアビスの横に並び立つゾルダだった。

 

「でぁっ!!」

 

「はぁ!!」

 

「ふん!!」

 

「「うぉあ!?」」

 

ベルデが龍騎を蹴りつけ、ガイがナイトを殴りつけ、そこにゾルダがマグナバイザーで銃撃を浴びせる。この4人を相手取るだけでも相当厄介な状況だが……そこに凶悪な戦士はやって来た。

 

「ハッハァ!!」

 

「「!?」」

 

2人が左右に避けた瞬間、2人の間に王蛇のベノサーベルが振り下ろされて来た。即座に反撃を仕掛けるナイトだったが、ダークバイザーの斬撃を避けた王蛇は逆にベノサーベルの一撃を炸裂させる。

 

「「とあぁっ!!」」

 

「「な……!?」」

 

そこへ跳躍して来たのは、ベルデ達と手を結んだタイガとインペラーの2人。跳躍して来た彼等は壁を蹴る事で大きく跳ね返り、着地したタイガはナイトを掴んで投げ飛ばし、同じく着地したインペラーは龍騎にハイキックを炸裂させ、片足を上げたポーズを決める。

 

「「はぁ!!」」

 

「!? おぁっ!!」

 

「くっ!?」

 

更に現れたのが、ファムとエクシスの2人だった。エクシスは左腕のマグニバイザーで龍騎の装甲を攻撃し、ファムはブランバイザーを振るいナイトの攻撃を捌いてから、2人は龍騎とナイトに向かって冷たく言い放った。

 

「アンタ達、それでもライダーなの?」

 

「戦う覚悟が足りな過ぎるね……!」

 

「「く……ッ!?」」

 

その時、龍騎とナイトは同時に振り向いた。

 

『フフフフフ……』

 

別方向から感じた強大な殺気。それは地下駐車場から姿を現した、2人の仮面ライダーによる物だった。

 

「……」

 

『フフフフフ……!』

 

龍騎そっくりの姿をした黒いドラゴンの戦士―――仮面ライダーリュウガ。

 

金色のボディを持つ不死鳥の戦士―――仮面ライダーオーディン。

 

この2人のライダーが放つ殺気は、他のライダー達とは格が違っていた。

 

「「ッ……!!」」

 

前後を挟まれてしまった龍騎とナイト。

 

 

 

 

 

 

『フフフ……』

 

「ハァァァァ……」

 

「フッ」

 

「はぁぁぁ……!」

 

「ふぅ……!」

 

前方からはオーディン、リュウガ、ゾルダ、エクシス、ファムの5人が……

 

 

 

 

 

 

「来いよ……!」

 

「ヒュ~♪」

 

「さて……!」

 

「フン……」

 

「へっ……!」

 

「ハァァァァァ……!!」

 

後方からはタイガ、ガイ、ベルデ、アビス、インペラー、王蛇の6人が迫り来る。

 

 

 

 

 

 

2人vs11人。

 

 

 

 

 

 

どこからどう見ても……状況は最悪だった。

 

『フフフ……ハァッ!!』

 

「「!? うあぁっ!!」」

 

オーディンが右手を翳した瞬間、龍騎とナイトの体が大きく吹き飛ばされる。地面を転がされる2人だったが、ここで龍騎がある物に気付く。

 

「!? アレは……!!」

 

それは榊原が生前、必死になって探し求めていた物。この醜い戦いを終わらせる為の重要な鍵……コアミラーに他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




遂にやって来てしまいました、龍騎&ナイトvsその他大勢のライダーリンチ。人数が増えている分、原典よりも状況が悪化しております。
自分が2人の立場なら間違いなく絶望してファントムを生み出していますね(どうでもいい)

今回はタイガ、ファム、エクシスの3人がベルデ一派と手を結んだ経緯が判明。
ファムとエクシスは叶えたい願いの為、龍騎に邪魔される訳にはいかなかったから。この2人はシンプルでわかりやすい方ですね。

問題は残るタイガの方。
彼がベルデ一派に協力しようと思った理由とは?
榊原とはどのような関係なのか?
その辺りは『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』の第2部ストーリーで詳しく描いていこうと思っています。


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第7話

ジオウ第11話を見ました。
アナザー鎧武を倒した直後に紘汰(始まりの男ver)が出てきたり、戒斗がヘルヘイムの森に放り込まれてから5年も経過していたり、何故かソウゴの前にもう1人のソウゴが出て来たり、色々てんやわんやな展開でしたね。
こちらとしては見ていて非常に楽しかったですが。

それはさておき、『15RIERS』第7話を更新しました。

それえはどうぞ。



「あれは……!!」

 

ミラーワールド、地下駐車場。11人のライダーにナイト共々追い込まれた龍騎は、地下駐車場内部に存在しているコアミラーに気付いた。アレこそまさに、榊原が命を懸けてでも破壊しようとしていた代物。このミラーワールドという、悪夢のような世界を生み出した元凶。

 

「アレさえ壊せば……全てが終わる!!」

 

そうすれば、こんな悲劇は全て終わらせられる。もうこれ以上、誰も死ななくて済むんだ。そう思い駆け出そうとする龍騎だったが……

 

「ハッ!!」

 

「ハハハハハ……!!」

 

そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、他のライダー達も一斉に動き出した。真っ先にインペラーが駆け出し、それに続くように王蛇やアビスも動き、龍騎とナイトに攻撃を仕掛けていく。

 

「とぁ!!」

 

「フンッ!!」

 

「ッ……ぐぁっ!?」

 

龍騎の方にはゾルダ、王蛇、アビス、タイガ、インペラーの5人が襲い掛かる。インペラーの蹴りを喰らい、怯んだ龍騎にゾルダがパンチを喰らわせ、そこにタイガが蹴りかかって龍騎を圧倒していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁ!!」

 

「はっ!!」

 

「くっ……!?」

 

一方、ナイトはファム、エクシス、ガイ、リュウガ、オーディンの5人に取り囲まれている状況だった。エクシスのパンチを受けたナイトにファムが続けて回し蹴りを喰らわせ、ナイトは攻撃を受けた勢いを利用して前転し、すぐに立ち上がる。

 

「はぁっ!!」

 

「ぐぉ!?」

 

「フン……!!」

 

しかし立ち上がった直後、ナイトの顔面にガイのハイキックが炸裂。蹴られた痛みにナイトは仮面の下で表情を歪めつつも、間近に立っていたリュウガに対してダークバイザーで斬りつけようとするが、リュウガは振り下ろされて来たダークバイザーを左腕で受け止め、右手で弾き上げてからナイトにキックを喰らわせる。

 

『フフフフフ……』

 

その様子を、離れた位置でオーディンが見据えていた。リュウガに蹴りつけられたナイトがファムに背中を斬りつけられ、ガイが羽交い絞めにしたナイトにエクシスがマグニバイザーで攻撃している間も、オーディン自身は戦いの中に参加しようとはせず、不敵な笑い声を挙げ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン!!」

 

「ッ……だぁ!!」

 

「がっ!?」

 

「フン……ハハハハハ!!」

 

龍騎の方も、ゾルダのパンチをかわしてからタイガの蹴りを防御し、逆に蹴り返していた。そこに王蛇が振り下ろして来たベノサーベルを避け、アビスが振るって来たアビスバイザーを両腕で何とか防御してみせた。この集団相手でもそれなりに戦えている彼だったが……流石の彼でも、多勢に無勢だった。

 

「でぁっ!!」

 

「ぐ……がはっ!?」

 

龍騎がアビスバイザーを両腕で受け止めている間、がら空きとなっている龍騎の横腹にインペラーが蹴りを喰らわせて後退させる。そこへ更に王蛇がベノサーベルの柄部分で殴りつけたりと、着実にダメージを与えていく。そんな戦いの様子を、ベルデは離れた位置で眺めていた。

 

(ふむ……やるなら今か)

 

これだけ多くのライダーに手を組んで貰った以上、自分だけ何もせずにいる訳にはいかない。最低でもトドメを刺す役目ぐらいは自分が引き受けなければ、手を組んだライダー達が今度は自分に矛先を向ける可能性がある。

 

「ふん、まずはお前からだ……!!」

 

そう考えたベルデはバイオバイザーのカードキャッチャーを伸ばし、カードデッキから引き抜いたファイナルベントのカードを差し込んだ。狙いはゾルダ達と戦っている龍騎だ。

 

≪FINAL VENT≫

 

『シュルルルルル……!!』

 

電子音と共に、透明化して隠れていたバイオグリーザが姿を現し、天井に向かって長い舌を伸ばす。伸びた舌が天井のパイプに引っかかって角度を変え、逆立ちしたベルデの両足に巻きついた。

 

「フン……ハァッ!!」

 

ベルデが振り子のように龍騎に迫って行くも、龍騎は蹴りかかって来たタイガや殴りかかって来る王蛇に意識が向いており、ベルデの接近に気付いていない。このまま龍騎がベルデのデスバニッシュに捕まろうとしたその時……

 

「!? アイツ……!!」

 

「クッ!?」

 

リュウガと対峙していたナイトが直前で気付き、リュウガを無理やり押し退けてから龍騎の方へと駆け出した。

 

「退け!!」

 

「うぉっ!?」

 

ナイトが龍騎を突き飛ばした瞬間、迫って来たベルデがナイトを捕縛。バイオグリーザの舌が離れ、ナイトを捕まえたベルデが宙に放り投げられていき……

 

「ハァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ぐ、あぁ……ッ!?」

 

ナイトの頭が地面に叩きつけられ、ベルデのデスバニッシュが決まってしまった。ベルデが手を離し、ナイトが仰向けの状態で地面に倒れていく。

 

「!? 蓮ッ!!!」

 

(!? 庇っただと……?)

 

(アイツ、何で……)

 

まさか、龍騎を庇ってやられたのか。倒れているナイトを見た龍騎が叫ぶ中、その光景を見ていたエクシスとファムも同じように驚いていた。敵同士であるはずなのに、何故自分以外のライダーを庇ったのか。この瞬間、2人の中で動揺が生まれ、2人は困惑の表情を示した。

 

「フッフッフ……!!」

 

一方で、ベルデは倒れたまま動かないナイトを見下ろしながら嘲笑う。必殺技をまともに受けた以上、彼はもう立ち上がれまい。このまま数秒後には、物言わぬ死体と成り果てている事だろう。ベルデはそう思い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

しかし、その予想は大きく裏切られる事となる。

 

 

 

 

 

 

「ッ……く、ぅ……でやぁっ!!!」

 

「ん、うぉっ!?」

 

倒れていたはずのナイトが、ゆっくり起き上がってダークバイザーを振り回して来たのだ。想定外の不意打ちに驚いたベルデが思わず後ろに下がる中、ナイトはフラフラの状態でありながらも逆手に持ったダークバイザーの装填口を開き、素早くファイナルベントのカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

「ッ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「な、何!? くっ……!!」

 

雄叫びを上げたナイトが跳躍し、彼の背中に蝙蝠型の怪物―――“(やみ)(つばさ)ダークウイング”が合体する。そのままドリル状に変化しながら猛スピードで飛んで来るナイトに対し、ベルデは慌てて背を向けて逃げ出そうとしたが……もう遅い。

 

「はあぁっ!!!!!」

 

「ぐぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ズドォォォォォォォォン!!!

 

ナイトの必殺技―――“飛翔斬(ひしょうざん)”がベルデの胴体を貫通。貫かれたベルデはその場に膝を突くと同時に大爆発を引き起こし、呆気なく滅び去る事となってしまった。

 

「ッ……はぁ……はぁ……」

 

爆炎の中、着地したナイトは変身が解除され、蓮の姿に戻る。やはりデスバニッシュによるダメージが響いてきたのか、力尽きた蓮は再び倒れ込んでしまう。

 

「蓮……ごはっ!?」

 

「フン!!」

 

「ハッハァ!!」

 

倒れた蓮の下へ駆け寄ろうとする龍騎だが、それを他のライダー達が妨害する。タイガの攻撃を避けた龍騎をゾルダが蹴りつけ、王蛇がベノサーベルで薙ぎ払って龍騎を石柱に叩きつける。

 

「どらぁ!!」

 

「フン……!!」

 

「ぐ……がはぁ!?」

 

その後も追撃は止まず、石柱に背を付けた龍騎の腹部をインペラーが蹴りつけ、そこにアビスが拳を振り下ろして龍騎を地面に薙ぎ倒した後、倒れた龍騎をゾルダやインペラーが何度も蹴り転がす。更には王蛇が倒れている龍騎を無理やり起こし、乱暴に投げ飛ばしてしまう。

 

「が、かはっ……ッ!!」

 

『フッフッフ……フフフフフフフフ……!!』

 

そこへゆっくり歩み寄って来たのが、これまで戦いを静観していたオーディンだ。彼(?)は倒れて動けない龍騎の傍まで近付いた後、龍騎のベルトに装填されているカードデッキに手をかけ、そのまま引き抜いてしまう。

 

「あっ……!?」

 

引き抜かれた龍騎のカードデッキが、オーディンの右手に収まった。そして……

 

『……フンッ!!』

 

グシャッバキバキバキィッ!!

 

「ッ……く、ぅ!?」

 

力強く握り締めた瞬間、龍騎のカードデッキが粉々に破損。砕け散ったカードデッキの破片がオーディンの右手から落ちていく中、龍騎は変身が解けて真司の姿に戻ってしまった。

 

「終わりだな……」

 

「クハハハハ……!!」

 

「くっ……!!」

 

蓮は重傷を負って力尽き、真司は龍騎の力を失った。今度こそトドメを刺そうと、王蛇達が真司に迫り来ようとしたその時……

 

『シャアッ!!』

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突如、ライダー達の前にソロスパイダーが出現した。ライダー達はコアミラーの近くで戦っていた為、コアミラーは彼等の存在を「自身を破壊しようとしている脅威(・・・・・・・・・・・・・・・)」と見なし、自らを防衛する為にモンスターを生み出したのだ。

 

『キシャシャシャシャアッ!!』

 

「くそ、こんな時に……どぉあ!?」

 

「くっ!?」

 

「ハァッ!!」

 

「ッ……うぉあ!?」

 

「チィ……!!」

 

駆け出したソロスパイダーはインペラーの蹴りを弾き返し、タイガを突き飛ばし、王蛇が連続で振るって来たベノサーベルを屈んで回避する。続けて右手の鉤爪でゾルダの顔面を攻撃し、防御態勢に入ったアビスを力強く蹴りつける。

 

『シャアァァァァァァッ!!』

 

「!? こっちもか……!!」

 

「チッ……んの野郎!!」

 

「く、うぁ!?」

 

「フンッ!!」

 

コアミラーは更にレスパイダーまで生み出したのか、走り出したレスパイダーはエクシスとガイの攻撃を連続で回避した後、前方にいるファムを攻撃し、そこに拳を振るって来たリュウガと応戦。コアミラーによって生み出されたモンスター達が、偶然にも真司の窮地を救う展開となった。

 

「ッ……蓮……!!」

 

ライダー達がモンスターと戦っている間に、立ち上がった真司は急いで蓮の傍まで駆け寄り、倒れたまま動かない蓮を抱き起こす。名前を呼ばれた事で僅かに目を開ける蓮だったが、この時点で既に彼は虫の息だった。

 

「蓮……お前、馬鹿だよ……!! 俺なんかの……俺なんかの為に……ッ!!」

 

自分を庇ったせいで、蓮は本来死ぬはずだった真司の代わりに重傷を負ってしまった。その事が真司は嬉しかったと同時に、こんな自分を蓮が庇ってくれた事に酷く悲しみ、涙ぐんだ。自分のせいで、仲間がこうして死にかける事になってしまっているのだから。

 

「ッ……仲間……なんじゃ、ないのか……?」

 

「! 蓮……」

 

蓮は弱々しい声で、小さく笑いながらそう告げる。そして彼は、その手に持っていたナイトのカードデッキを真司にゆっくり突き出し、彼の手へと託した。

 

「城戸……戦ってくれ……俺の、代わりに……!」

 

「蓮……ッ」

 

「恵里を……頼、む……ッ……」

 

どうしても叶えたかった自分の願い。それをナイトのカードデッキと共に真司に託した蓮は……それからゆっくり目を閉じた後、力を失った彼の首がダランと落ちた。

 

「……蓮……?」

 

真司が名前を呼びかけても、蓮は二度と目を開く事はない。

 

「蓮……ッ……蓮ッ!!!」

 

それでも、真司は泣きながら何度も彼の名前を呼び続けた。最初は衝突し、時には対立し、それでも自身を救い、そして共に戦ってくれた仲間の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

その様子に、モンスター達と戦っていたガイは気付いた。

 

(う~わ、何だアレ。クッさいなぁ……)

 

死に行く蓮に何度も呼びかける真司。その光景はガイにとって、あまりにもお人好しで、仲間想いで……見ていて吐き気がする物だった。

 

「ウザいなぁ……もう良いよ」

 

「ッ……!!」

 

見たくもない物を見せつけられ、不機嫌になったガイはメタルホーンを構えて真司達の方へと近付いて行く。真司はそんなガイを睨みつけるが、変身もしていない彼など自分にとっては何の脅威でもない。ガイは余裕そうな態度で笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

その小さな油断が、命取りになる事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

ガシィッ!!

 

「!? ぐ、ぁ……何だ……ッ!?」

 

「……!?」

 

『キシャアァァァァァァ……!!』

 

突如、ガイの首元に謎の白い糸が巻きつき、ガイの首を絞め始めた。突然呼吸が上手くできなくなり驚いたガイが振り向いた先には、天井に張り付いたまま糸を放出している巨大な青色の蜘蛛―――ディスパイダーの姿があった。

 

「!? な、何あれ……!?」

 

「!? ヌゥ……ッ!!」

 

『シャアッ!?』

 

戦闘中だったファムとリュウガ、レスパイダーも天井を見上げてディスパイダーの存在に気付き、慌ててその場から散開。彼女達がいた場所に降り立ったディスパイダーは更に複数の糸を吐き出し、ガイの手足に巻きつけてから自分の方へと引っ張り始めた。

 

「ぐ、この……離せよ……ッ!!」

 

何とかこの状況から抜け出そうとするガイだったが、ディスパイダーの糸が首元だけでなく手足にも巻き付けられている為、思うように抜け出せないままどんどん引き寄せられていく。そしてディスパイダーの口元まで無理やり引き寄せられた次の瞬間……

 

『シャアァッ!!!』

 

「ぐ……がぁあっ!?」

 

ディスパイダーが鋭い牙でガイに喰らいつき、彼を捕食し始めた。

 

グシャッバキッボキッメキメキメキ!!

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

「ッ……!!」

 

下半身から咥えられたまま、少しずつムシャムシャと咀嚼していくディスパイダー。想像を遥かに絶する痛みにガイが絶叫するも、全身に糸が巻きついているせいでもう脱出は叶わない。結局、ガイはそのままディスパイダーによって跡形もなく喰われていき、真司はその光景から目を逸らす事しかできないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャシャシャ!!』

 

「くそ、この蜘蛛野郎が……!!」

 

「ッ……はぁ!!」

 

『キシャ!?』

 

一方、インペラーやタイガはソロスパイダーとの戦いが続いており、そこにレスパイダーまで加わった事で戦闘が長引いてしまっていた。インペラーは苛立った様子でソロスパイダーの鉤爪を蹴り返しており、タイガはどこからか取り出したデストバイザーでレスパイダーを斬りつける。

 

『シャアァァァァァァ……!!』

 

「ッ……この……!!」

 

「フンッ!!」

 

また、ガイを喰い殺したディスパイダーはその後、次の狙いをファムとリュウガに定めていた。ファムはブランバイザーで、リュウガはドラグセイバーで応戦するも、ディスパイダーが振るう前足のパワーに押し返され、攻撃を受けたファムが薙ぎ倒されてしまう。

 

「!? アンタ……」

 

「フン……ハァァァァァァッ!!」

 

倒れたファムにディスパイダーが近付こうとするも、その前にリュウガが立ち塞がる。まるでファムを守っているかのように立っているリュウガにファムが困惑するも、リュウガは構わずドラグセイバーを構え、ディスパイダーに突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……何だよ、この状況……!!」

 

ベルデがナイトに致命傷を負わせたかと思えば、満身創痍のナイトが決死の思いでベルデを返り討ちにした。自分が龍騎の力を失ったかと思えば、そこに突然モンスター達が現れ、ガイが喰い殺されてしまった。

 

(これが……ライダーの戦いなのか……!!)

 

今改めて、真司はライダーの戦いがどれだけ過酷で、残酷な物なのかを認識させられた。こんな酷い戦い、このまま続けさせても良いのか……そう苦悩していられる時間は、今の真司にはなかった。

 

「フンッ!!」

 

「!? ぐっ……ごはぁ!?」

 

真司の腹部に蹴りが入り、怯んだ彼の体が大きく突き飛ばされる。地面を転がされた彼が見た先では、変わらず腕を組んでいるオーディンと、そのオーディンに続くようにゾルダ、王蛇、アビス、エクシスの4人が迫り来ようとしていた。

 

「ッ……お前等……!!」

 

「悪いが、トドメはきっちり刺しておきたいんでね」

 

「……はぁっ!!」

 

「フッ!!」

 

「クハハハハハ……!!」

 

変身の解けたライダーが完全に死ぬその時まで、まだ気を抜く事はできない。アビスがそう言い放つと同時にエクシスとゾルダ、更には王蛇が駆け出し、真司は彼等が振るって来たパンチをしゃがんで回避する。しかし真司が彼等の攻撃を回避した直後にアビスが素早く接近し、真司の胸倉を掴んで高く持ち上げる。

 

「あぐ、ぅ……!!」

 

「高見沢が死んだのはラッキーだった。後はお前を沈めれば、今回の目的は達成される……フンッ!!」

 

「うぉわぁ!?」

 

アビスに大きく投げ飛ばされ、真司は石柱に叩きつけられる。生身の人間に対しても一切容赦をしない彼等の冷酷さを前に、真司の彼等を睨みつける目付きは更に鋭くなる。

 

「ッ……蓮……俺は……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戦ってくれ……俺の、代わりに……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ!!」

 

真司は立ち上がる。決して折れない心を胸に、彼は左手に持っていたそれを―――ナイトのカードデッキを力強く正面に突き出した。

 

「!? それは……!!」

 

アビスが驚く中、無から出現したベルトが真司の腰に装着される。そして真司は拳を握り締め、正面で肘ごと左側に振るうポーズを取った。そのポーズは、蓮がしていた物と同じだった。

 

「―――変身ッ!!!」

 

カードデッキが装填され、真司の全身に鏡像が重なっていく。そして真司は変身を完了したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡き友から受け継いだ漆黒の騎士―――仮面ライダーナイトとして……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




今回でナイト、ベルデ、ガイの3人が死亡。彼等の結末は原典と全く変わりありませんでしたね。
ナイトが龍騎を庇ったシーンを見て、ファムとエクシスは何かを思ったようですが。

高見沢の死に様が思ったより呆気ない……彼は超人的な力を得ようとしていましたが、ライダーに変身している時点で既にその願いは叶っているんですよね。しかし既に高い地位を得ているにも関わらず力を求めていたので、その超人的な力によって呆気なく葬られるというのが彼に対する因果応報な報いなのでしょう。
不意打ちを得意とするベルデが、思わぬ不意打ちで屠られるというのも皮肉な話。

一方、ガイはディスパイダーに喰い殺されるという非常にえげつない死に様。正直、あんな風に生きたままムシャムシャ喰われて死ぬのが一番嫌ですね……これは龍騎に限った話ではないですが。
ちなみに原典ではガイだけ、TV本編でもTVSPでも変身後の状態で死んでいたり。

そして蓮からカードデッキを引き継ぎ、ナイトに変身した真司。彼にも決断の時が迫ろうとしています。
戦いを続けるのか、それとも戦いを止めるのか。
彼が選ぶ道は果たして……?

短い話数で終わりそうな『15RIDERS』……次回、いよいよクライマックスです。


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最終話(戦いを続けるEND)

はい、どうも。

長期間に渡って更新が途絶えてしまっていたこちらのお話、ようやく最終話を更新する事ができました。
遅くなってしまい本当に申し訳ございませんでした(土下座)

お詫びというのも変な話かもしれませんが、今回は『戦いを続けるEND』と『戦いを止めるEND』……その両方を纏めて載せました。

まずは『戦いを続けるEND』をご覧下さいませ。













挿入歌:Revolution










「ッ……お前、秋山のデッキを……!!」

 

「クハハハ……!!」

 

命を落とした蓮のカードデッキを受け継ぎ、仮面ライダーナイトに変身した城戸真司。ライダーの力を失ったはずの相手が再び変身したこの状況下、アビスは厄介そうな口調で舌打ちし、逆に王蛇は楽しそうに笑いながらナイトを見据える中、ナイトはカードデッキから1枚のカードを引き抜く。そのカードの背景には、青い風が吹き荒れる金色の翼が描かれていた。

 

≪SURVIVE≫

 

「はぁっ!!」

 

突き出したダークバイザーが新たな武器―――“ダークバイザーツバイ”に変化し、装填口にサバイブ・疾風のカードが差し込まれる。それによってナイトの全身に3つの鏡像が重なり、彼を新たな姿に進化させた。

 

金色のラインが追加された蝙蝠の翼らしき青い装甲。

 

背中で靡く蝙蝠の翼のような黒いマント。

 

紺色から黒に変化したアンダースーツ。

 

黒から青に変化したカードデッキ。

 

サバイブ・疾風の力を使ったナイトは、疾風を司る蒼翼の戦士―――“仮面ライダーナイトサバイブ”への強化変身が完了。ダークバイザーツバイから引き抜いた長剣―――“ダークブレード”を構え、オーディン達と相対する。

 

「面倒な……沈め!!」

 

「フッ!!」

 

アビスがアビスバイザーからエネルギー弾を、ゾルダがマグナバイザーから弾丸を連射してナイトサバイブを狙い撃つも、ナイトサバイブは左腕に装備した盾―――“ダークシールド”飛んで来るそれらを難なく防ぎ、振り下ろしたダークブレードから風の斬撃を放出した。

 

「おりゃあ!!」

 

「「ぐぅっ!?」」

 

斬撃がアビスとゾルダの足元に命中し、2人が怯んだ隙にナイトサバイブはダークブレードをダークシールドに収納。1つとなったダークバイザーツバイの装填口を開き、ファイナルベントのカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

『キキィィィィィィッ!!』

 

エコーのかかった電子音が鳴り響き、ナイトサバイブの後方から蝙蝠型の怪物―――“(やみ)(つばさ)ダークウイング”が素早く飛来。その姿が一瞬で別の物に変化し、タイヤの収納された巨大な翼を持った強化形態―――“疾風(しっぷう)(つばさ)ダークレイダー”となり、そこから更にボディを変形させてバイクモードとなっていく。

 

「はっ!!」

 

『フフフフフ……ヌゥン!!』

 

「「「「ハァァァァァァァッ!!」」」」

 

ナイトサバイブが跳躍し、それを見たオーディン達や、後から合流したタイガ・インペラー・ファム・リュウガも一斉にナイトサバイブに向かって特攻していく。しかしナイトサバイブはバイクモードとなったダークレイダーに乗り込み、特攻して来るライダー達に向かって猛スピードで突っ込んで行く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ッ……ヌゥ!?』

 

「おあぁっ!?」

 

「「くっ!?」」

 

「きゃあ!?」

 

「「「「うあぁぁぁっ!?」」」」

 

突っ込んで来たダークレイダーはオーディンに掠るように衝突し、そのまま王蛇、アビスとゾルダ、ファム、そしてエクシス、タイガ、インペラー、リュウガの順に次々と撥ね飛ばして行く。ナイトサバイブはそんなライダー達には目も暮れず、そのまま突っ込んで行った先に存在するコアミラーに狙いを定めていた。

 

(あのミラーを壊せば全てが終わる……!!)

 

そうすればライダーの戦いは終わり、これ以上誰かが犠牲になる事はなくなるだろう。しかし……

 

(ッ……でも良いのか……本当にそれで……?)

 

蓮から託された願い。恋人を救いたいと言っていた彼の想い。それが脳裏に想い浮かび、ナイトサバイブは決断が鈍りかける。

 

(どうすれば良いんだ……俺は……ッ!!)

 

戦いの行く末は、自身の手に委ねられた。

 

戦いを続けるべきか。

 

戦いを止めるべきか。

 

ナイトサバイブが選んだ答えは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恵里を……頼、む……ッ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

そして……答えは決まった。

 

『キシャアァァァ……!!』

 

コアミラーを守ろうとしているのか、正面からはディスパイダーが迫り来る。それを見たナイトサバイブは背中のマントを翼に変化させ、ダークレイダーのボディを包み込む事で巨大なドリル状となり、一気に加速する。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァッ!?』

 

ナイトサバイブの必殺技―――“疾風断(しっぷうだん)”を正面から喰らい、ボディを貫かれたディスパイダーが跡形もなく爆散。そのままダークレイダーがコアミラーの目の前まで来たところで……ナイトサバイブはブレーキをかけてコアミラーの前で停車し、ダークレイダーから降り立った。

 

「俺は……」

 

彼の中に、コアミラーを壊そうという意志はなくなっていた。何故そうなったのか。理由はただ1つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は戦う……蓮の代わりに……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間の想いを、願いを託されたのだから。

 

 

 

 

「さぁて」

 

 

 

 

「フン……」

 

 

 

 

「ハハハハハ……!」

 

 

 

 

ナイトサバイブの周囲に、その時点で生き残っているライダー達が次々と集まって来た。

 

 

 

 

誰1人、息絶えて横たわっている蓮の姿には見向きすらしようとしない。

 

 

 

 

ゾルダ。

 

 

 

 

王蛇。

 

 

 

 

アビス。

 

 

 

 

タイガ。

 

 

 

 

インペラー。

 

 

 

 

エクシス。

 

 

 

 

ファム。

 

 

 

 

リュウガ。

 

 

 

 

オーディン。

 

 

 

 

9人のライダーが、ナイトサバイブを一斉に取り囲む。

 

 

 

 

その全員がそれぞれの召喚機を構え、その手にはファイナルベントのカードを所持していた。

 

 

 

 

そんな絶望的な状況下にも関わらず、ナイトサバイブは怯まなかった。

 

 

 

 

「蓮……お前にも、答えはわからなかったんだろう……?」

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

王蛇が、タイガが、インペラーが、エクシスが、オーディンがファイナルベントのカードを装填していく。

 

 

 

 

「お前は答えを見つける為に戦っていたんだ……!」

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

リュウガが、アビスが、ゾルダが、ファムが、ファイナルベントのカードを装填していく。

 

 

 

 

「俺も戦う……お前が探していた答えを、見つける為に……!!」

 

 

 

 

ナイトサバイブはダークブレードの柄に手をかける。

 

 

 

 

彼にはもう、迷いはなかった。

 

 

 

 

戦う覚悟は決まっていた。

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 

 

 

ダークブレードが引き抜かれ、8人のライダー達も一斉に構え出す。

 

 

 

 

そしてナイトサバイブが引き抜いたダークブレードを振り上げ、8人のライダー達に向かって果敢に立ち向かっていく。

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

彼は戦い続ける。

 

 

 

 

その先に何が待っていようとも。

 

 

 

 

仲間への想いを胸に、彼はその剣を振り下ろす。

 

 

 

 

それが、新たな戦いが始まるゴングとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この結末は悲劇なのか……

 

 

 

 

それともこれで良かったのか……

 

 

 

 

物語はまだ序章に過ぎない……

 

 

 

 

答えは、もう1つの龍騎の物語が教えてくれるだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 




以上、『戦いを続けるEND』でした。

ライダー達が一斉に敵として襲い掛かって来る中、蓮の願いを託された真司は遂に戦う覚悟を決めました。そんな彼の行く末や如何に。

ちなみに漫画版だとあの後、なんと真司ナイトがライダー達を全滅させてしまう模様。凄まじい戦闘力ですね……。
(もっとも、その代償もあまりに大きかったようですが)

さて、お次は『戦いを止めるEND』でお会いしましょう。

ではでは。


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最終話(戦いを止めるEND)

はい、お待たせしました。

今度は『戦いを止めるEND』の方を更新してみました。

それではどうぞ。











戦闘挿入歌:Revolution











「ッ……お前、秋山のデッキを……!!」

 

「クハハハ……!!」

 

命を落とした蓮のカードデッキを受け継ぎ、仮面ライダーナイトに変身した城戸真司。ライダーの力を失ったはずの相手が再び変身したこの状況下、アビスは厄介そうな口調で舌打ちし、逆に王蛇は楽しそうに笑いながらナイトを見据える中、ナイトはカードデッキから1枚のカードを引き抜く。そのカードの背景には、青い風が吹き荒れる金色の翼が描かれていた。

 

≪SURVIVE≫

 

「はぁっ!!」

 

突き出したダークバイザーが新たな武器―――“ダークバイザーツバイ”に変化し、装填口にサバイブ・疾風のカードが差し込まれる。それによってナイトの全身に3つの鏡像が重なり、彼を新たな姿に進化させた。

 

金色のラインが追加された蝙蝠の翼らしき青い装甲。

 

背中で靡く蝙蝠の翼のような黒いマント。

 

紺色から黒に変化したアンダースーツ。

 

黒から青に変化したカードデッキ。

 

サバイブ・疾風の力を使ったナイトは、疾風を司る蒼翼の戦士―――“仮面ライダーナイトサバイブ”への強化変身が完了。ダークバイザーツバイから引き抜いた長剣―――“ダークブレード”を構え、オーディン達と相対する。

 

「面倒な……沈め!!」

 

「フッ!!」

 

アビスがアビスバイザーからエネルギー弾を、ゾルダがマグナバイザーから弾丸を連射してナイトサバイブを狙い撃つも、ナイトサバイブは左腕に装備した盾―――“ダークシールド”飛んで来るそれらを難なく防ぎ、振り下ろしたダークブレードから風の斬撃を放出した。

 

「おりゃあ!!」

 

「「ぐぅっ!?」」

 

斬撃がアビスとゾルダの足元に命中し、2人が怯んだ隙にナイトサバイブはダークブレードをダークシールドに収納。1つとなったダークバイザーツバイの装填口を開き、ファイナルベントのカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

『キキィィィィィィッ!!』

 

エコーのかかった電子音が鳴り響き、ナイトサバイブの後方から蝙蝠型の怪物―――“闇やみの翼つばさダークウイング”が素早く飛来。その姿が一瞬で別の物に変化し、タイヤの収納された巨大な翼を持った強化形態―――“疾風しっぷうの翼つばさダークレイダー”となり、そこから更にボディを変形させてバイクモードとなっていく。

 

「はっ!!」

 

『フフフフフ……ヌゥン!!』

 

「「「「ハァァァァァァァッ!!」」」」

 

ナイトサバイブが跳躍し、それを見たオーディン達や、後から合流したタイガ・インペラー・ファム・リュウガも一斉にナイトサバイブに向かって特攻していく。しかしナイトサバイブはバイクモードとなったダークレイダーに乗り込み、特攻して来るライダー達に向かって猛スピードで突っ込んで行く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ッ……ヌゥ!?』

 

「おあぁっ!?」

 

「「くっ!?」」

 

「きゃあ!?」

 

「「「「うあぁぁぁっ!?」」」」

 

突っ込んで来たダークレイダーはオーディンに掠るように衝突し、そのまま王蛇、アビスとゾルダ、ファム、そしてエクシス、タイガ、インペラー、リュウガの順に次々と撥ね飛ばして行く。ナイトサバイブはそんなライダー達には目も暮れず、そのまま突っ込んで行った先に存在するコアミラーに狙いを定めていた。

 

(あのミラーを壊せば全てが終わる……!!)

 

そうすればライダーの戦いは終わり、これ以上誰かが犠牲になる事はなくなるだろう。しかし……

 

(ッ……でも良いのか……本当にそれで……?)

 

蓮から託された願い。恋人を救いたいと言っていた彼の想い。それが脳裏に想い浮かび、ナイトサバイブは決断が鈍りかける。

 

(どうすれば良いんだ……俺は……ッ!!)

 

戦いの行く末は、自身の手に委ねられた。

 

戦いを続けるべきか。

 

戦いを止めるべきか。

 

『キシャアァァァ……!!』

 

コアミラーを守ろうとしているのか、正面からはディスパイダーが迫り来る。それを見たナイトサバイブはダークレイダーを一気に加速させ、自身を止めようとするディスパイダーを正面から打ち貫いた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァッ!?』

 

ボディを貫かれたディスパイダーが跡形もなく爆散し、そのままダークレイダーがコアミラーの目の前まで迫っていく。いよいよ、答えを決める時が来た。

 

「俺は……俺は……ッ!!」

 

ナイトサバイブが選んだ答えは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恵里を……頼、む……ッ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……許せ、蓮!!」

 

―――この戦いを、止める事だった。

 

ナイトサバイブは背中のマントを翼に変化させ、ダークレイダーのボディを包み込む事で巨大なドリル状となり一気に加速。そして……

 

バリィィィィィンッ!!!

 

コアミラーを、跡形もなく粉砕してみせた。

 

ダークレイダーが停車し、降りたナイトサバイブは先程までコアミラーがあった箇所を見据える。そこにはもう、この悪夢の戦いを続けている元凶は存在していなかった。

 

(これで、本当に……)

 

「そこにいたかぁ……!!」

 

「フン……!!」

 

「はぁっ!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「ッ!?」

 

そこに王蛇とゾルダ、ファムとエクシスが迫り来る。コアミラーを破壊したのにまだ戦うというのか。ナイトサバイブが思わず身構えた……その時。

 

「!? おぉ……?」

 

「な、何……!?」

 

王蛇とゾルダが、鏡のように砕け散って消滅する。

 

「はぁ……ッ!? え……!?」

 

「なっ……!?」

 

続いてファム、エクシスも同じように砕け散り、消滅していく。

 

「ッ……これは……!」

 

気付けば、自身の体も少しずつ消滅を始めていた。

 

そのままナイトサバイブの体は砕け散り……ミラーワールドその物が、何もかも砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ」

 

 

 

 

真司が目覚める。

 

 

 

 

彼が目覚めたのは、自分がミラーワールドで戦っていた地下駐車場だった。

 

 

 

 

「……ここ、は……」

 

 

 

 

周りには誰もいない。

 

 

 

 

ライダーも。

 

 

 

 

モンスターも。

 

 

 

 

コアミラーも。

 

 

 

 

ミラーワールドも。

 

 

 

 

何も存在しない。

 

 

 

 

あの奇妙な耳鳴りも聞こえてこない。

 

 

 

 

全てが終わった。

 

 

 

 

(それから……俺の周りは、平凡な世界になった)

 

 

 

 

街の街路を歩く真司。

 

 

 

 

周囲は多くの人で賑わっている。

 

 

 

 

それは当たり前の光景だった。

 

 

 

 

当たり前であるはずの光景だった。

 

 

 

 

何故なら、もうあの戦いは終わったのだから。

 

 

 

 

真司はそう思いたかった。

 

 

 

 

(でも……)

 

 

 

 

それなのに。

 

 

 

 

(どこかおかしい……)

 

 

 

 

彼の中には、拭えない違和感のような物が存在していた。

 

 

 

 

(どこかが―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

 

 

 

聞き覚えのある耳鳴り。

 

 

 

 

二度と聞こえるはずのない耳鳴り。

 

 

 

 

それがまた、真司の耳に響き渡ってきた。

 

 

 

 

(これは……ッ!!)

 

 

 

 

真司が見据えたショーウィンドウ。

 

 

 

 

そこに映っていたのは……

 

 

 

 

『見つけたぞ。城戸真司』

 

 

 

 

二度と見るはずのなかった存在―――仮面ライダーアビスの姿だった。

 

 

 

 

(そんな……!?)

 

 

 

 

『フン……』

 

 

 

 

『ヘッヘッヘ……!」』

 

 

 

 

別のショーウィンドウには、タイガとインペラーの姿が。

 

 

 

 

『フフフ……』

 

 

 

 

また別のショーウィンドウからは、オーディンが腕を組みながらこちらを見据えていた。

 

 

 

 

(な、何でだ……何でアイツ等が……!?)

 

 

 

 

二度と見る事はなくなったはずなのに、一体どうして。

 

 

 

 

そう思っていた真司にも、異変は起こった。

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

 

左手に感じ取った、何かを掴んでいる感触。

 

 

 

 

自分の左手を見た真司は、その正体を知って息を呑んだ。

 

 

 

 

そこにあったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーディンが粉々に砕いたはずの、龍騎のカードデッキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(嘘……だろ……ッ)

 

 

 

あの時、確かに破壊されたはずなのに。

 

 

 

 

ここにあってはならないはずなのに。

 

 

 

 

どうしてまだこれが手元にあるのか。

 

 

 

 

どうしてまだライダーが存在しているのか。

 

 

 

 

俺がこの手で、あの戦いを止めたはずなのに。

 

 

 

 

(何で、これが……!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライダーの戦いは終わらない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間は皆ライダーなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッ……そんな……嘘だ……!!)

 

 

 

 

かつて高見沢から言い放たれた台詞。

 

 

 

 

それが脳裏に浮かび上がって来たその時点で、真司は確信してしまった。

 

 

 

 

ミラーワールドは閉ざされていないのだと。

 

 

 

 

ライダーの戦いは続いているのだと。

 

 

 

 

終わらせたつもりが、何も終わってはいなかったのだと。

 

 

 

 

「ッ……あ、あぁ……」

 

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

 

そんなはずはない。

 

 

 

 

あの時、確かに俺は戦いを止めた。

 

 

 

 

仲間の願いを捨ててでも、俺は戦いを止めたはずなんだ。

 

 

 

 

もし、本当に何も変わっていないんだとしたら……

 

 

 

 

俺は……

 

 

 

 

俺は一体、何の為に……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何の為にアイツの願いを捨ててしまったんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

頭を抱えながら、真司は絶叫した。

 

 

 

 

周りの通行人達が驚き、奇異の目を向けて来る中、真司は絶望の叫び声が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

『フフフフフ……フフフフフフフフフフフフ……!!』

 

 

 

 

オーディンが迫り来る。

 

 

 

 

アビスが。

 

 

 

 

タイガが。

 

 

 

 

インペラーが。

 

 

 

 

何も終わってはいない。

 

 

 

 

もう、どこにも逃げられない。

 

 

 

 

それを悟ってしまった、その瞬間こそが。

 

 

 

 

真司にとって、本当の絶望の始まりだったのである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この結末は悲劇なのか……

 

 

 

 

それともこれで良かったのか……

 

 

 

 

物語はまだ序章に過ぎない……

 

 

 

 

答えは、もう1つの龍騎の物語が教えてくれるだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 




※戦いを止める方がむしろバッドエンドだった模様。

下手したらリアルタイムでこっちが流れていた可能性もあったんですよね……『戦いを続けるEND』の方に投票してくれた人達マジGJ←

さてさて、今回で『15RIDERS』もようやく終了です。
『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』の執筆に集中するあまり、気付けばこちらは長期間更新が途絶え、今日に至るまでずっと放置され続けていたという……同時連載なんて慣れない事をするからこうなるんだよ畜生め(自虐)

とにかく、ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。これからも『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』の展開をお楽しみに。

それでは。


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