カールの道化師 (並立裏子)
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1話

 あらすじを読んでから、お読みください。


「悲しいなぁ……」

 

 もう何度目かになるこの口癖を私は言わずにいられない。

 

 ダイの大冒険。

 

 子供の頃何度も読み返したあの傑作漫画の世界に転生したというのに、何故こんなことを呟かなければならないのか。

 

 ドラゴンクエスト漫画の金字塔、ダイの大冒険は主人公ダイとそのパーティ(通称アバンの使途)達が活躍し地上消滅を企む大魔王バーンから世界を救うという愛と友情と努力の王道少年漫画だ。

 

 黄金時代の週刊少年ジャンプを支えていた一角であり、当時から今に至るまで読者の心を熱くさせる確かな名作である。

 

 かくゆう私も幼い頃よりダイの大冒険を愛読しており、物語の展開や重要キャラクター、はてはちょい役くらいの脇役の名前すら覚えているほどのフリークだ。

 

 そんな私がこのダイ大(略称)の世界に転生したのである。それはもう主人公を一目みたいし、大好きなキャラクター達と少しでも御近づきになりたいと全力で行動していただろう。しかもまだ原作開始の10年前に飛ばされたのなら、来るべき災厄(本編)に備えてなんとか力を蓄えようとしていたと思う。

 

 しかし結果として、私はそのようなことは一切しなかった。いや、出来なかったのだ。

 

 

 嗚呼、せめて。せめて──。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ねぇ、道化師さん。今日は何を見してくれるのぉ?」

 

「あれやって、前見してくれたやつ!」

 

「道化師さーん!」

 

 

 ギルドメイン大陸にある3大国の一角、勇者アバンの故郷であり世界最強と名高い騎士団を有する通称『騎士の国』カール王国。その首都である城下町にて。

 

 質実剛健を旨とする国民性からは考えられない、ガヤガヤという人混みと騒がしさが聞かれるようになってからもう五年ほどになる。

 

 騒ぎの中心にいるのは、その原因を作り出している文字通りの張本人。

 

 赤と青の特徴的な服装を身に纏い、真っ先に側に寄ってきた小さな観客へ光の球を操ったり、奇術を見せて喜ばせては被っていた山高帽子をひっくり返し遅ればせながら子を追ってきた大きな観客から賽銭を集めている一人の男。

 

「いつ見ても見事なもんだねぇ」

 

「あんたが来ると子供らが騒がしくて叶わないよ」

 

「今度は何時まで居るんだい?」

 

 親しみの込められた歓声を一身に浴びながら、ペコペコとお辞儀をし、軽い身のこなしでまた観衆に囲まれた騒ぎの丁度真ん中あたり、男にとっての舞台(ステージ)の中央に戻る。

 

 そうしてからはまた子犬のように群がってくる町の子供達を何とか宥めつつ、大人たちの野次にも答えつつ、ちゃちな手品(光の球)を披露してはおー!と周りの歓声を呼び起こしながら、男は今となっては仕方のないことと分かっているがついつい考えてしまうのだ。

 

 

 

(ああ、せめてこんな道化師(すがた)じゃなかったら)

 

 

 男の名はドルマゲス。

 

 

 騎士の国カール王国に住む一人の道化師である。

 

 

 




 暇な時に適当に更新してくのでよろしくお願いします。


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