姉ちゃんで変な耐性ついちゃった (粗茶Returnees)
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タイトルを略して「へんたい」(本編)
姉ちゃんで妙な耐性ついちゃった


グダグダです。ほんとに冗談抜きで酷いぐらいにグダグダです。
そして短いです。


 自分のベッドに最近やっと出会えた超安眠兵器ことマイ枕、暖かくなって久しいこの時期にあった、熱くも寒くもならないベストな布団。完璧に整えられたこの条件で俺こと白金(れん)は毎日を快適に寝ている。

 部活で疲れて帰って、風呂でサッパリしてご飯を食べてからここに来たら最後、俺は抗うことのできない睡眠欲(暴力)に負けて意識を飛ばすのだ。そして疲れが酷い時(日曜の部活がキツイときとか)となると、朝起きることができないのだ。だがこれは不可抗力だ!!自分にとって完璧に条件が整えられた寝床(兵器)には誰しも勝てないはず!そう!好みの異性に言い寄られたら断れないように!!

 ……そんな経験ないけどな!!…なんだよ!Dちゃんの何が悪いってんだ!こちとらまだ高校1年生だぞ!むしろ経験があるやつなんて碌でもないやつだ!きっとそうに違いない!てかそうであれ!爆ぜろ!!

 

 

「蓮くん起きて…」

 

 

 なんか聞こえる気がする…。いやきっと勘違いだ。俺はまだこの夢の世界にいたい。まだ寝てたい。寝させてください。体がだるいんです。疲労がまだ残ってるんです。一回の睡眠だけで疲労が取れると思わないでください。

 

 

「蓮くん…起きてくれないの?」

 

 

 んん?この声は気のせいじゃない?というか聞き覚えが…いや生まれてから毎日聞いてるような…。

 

 

「起きてほしいな…」

 

 

 あ、姉ちゃんの声だわ。また起こしてもらっちまった。姉ちゃんに甘えるのはやめようって中2の時に決めたんだけどな。ほら、思春期が始まったから。それはともかく、仕方ないな。これ以上は手間をかけさせるわけにもいかない。起きるとしよう。

 

 

「おはよ…ねぇちゃ………ん?」

 

「おはよう蓮くん。……?どうしたの?」

 

「…だ………」

 

「だ?…あ、抱っこ?ごめんね。お姉ちゃん、もう蓮くん持ち上げれないよ」

 

「違うわい!そうじゃなくてだな!起こしてもらっといて言うのはあれだけど!前々から言ってることだけど!今回も言わせてもらいます!この起こし方(・・・・・・)はやめてってば!」

 

「…?…どこかおかしいの?」

 

「全部だわ!姉ちゃんも寝間着なわけだけど!その……ぅ、薄いんだよ!刺激強いの!わかってよ!俺も年頃の男の子なの!」

 

「男の娘…そうだよね。ごめんね?」

 

「わかってくれるなら、まぁ…」

 

 

 …ん?今ニュアンスおかしくなかった?聞き間違いであってほしいんだけど、姉ちゃんの様子を見ると、どうやら聞き間違いじゃなかったみたい。「やっぱり…本当は女の子だったんだ」なんて言ってるし!

 

 

「男の娘じゃなくて男の子!レッキとした男子!」

 

「え?」

 

「なんで意外そうな顔してんの!?ちっちゃい頃は一緒に風呂入ってたじゃん!」

 

「女の子と入ったこと覚えてるなんて…、蓮くん、エッチだね」

 

「あんたは身内でしょうがぁ!ノーカンだよそんなの!」

 

「……うぅ…お姉ちゃん…魅力ない?」

 

「むしろ魅力しかありませんけど!?絶対に他の人にそんなこと言っちゃ駄目だからね!?喧嘩売ってるとしか思われないから!」

 

「ところで目が覚めた?」

 

「おかげさまでね!けど疲れたよ!寝たいわ!」

 

「ご飯食べないと駄目だよ?学校もサボっちゃ駄目。先に下りてるから着替えて来てね」

 

「はいはい。……姉ちゃんも来るなら着替えてから来てよね」

 

 

 俺の姉は白金燐子。1つ上の高校2年生で、花咲川女子高校に通ってる。ピアノが上手いんだけど、ゲーム好きで内気な性格してる。でもゲームで出会ったあこと仲良くなって、今じゃRoseliaのキーボードと衣装作りを担当してる。俺の服も作ってくれたりする。なぜかフリフリがついてたりするから、実は嫌がらせかなって悩んだこともあった。

 それで、なんで起こされた時に騒いでたかと言うと、姉ちゃんは俺が知ってる女子の中でスタイルが1番いい。綺麗で長い黒髪ストレートに、間違いなく学校一であろうお餅をお持ちで、でも腰回りもキュってしてて、太ももとかもヤバイ。とにかく、もう語彙力が無くなってくるぐらい姉ちゃんはスタイルがヤバイわけ。

 そんな姉ちゃんが薄い寝間着で、夜這いでも仕掛けてきてるのかと疑うように四つん這いで俺の上にいたわけで…。俺まだ思春期なのよ?見てるこっちが恥ずかしくなるし、シチュエーションがおかしいのよ。まぁ姉ちゃんだからっておかげで劣情を抱くこともないんだけどね。けど、その影響のせいかな。他の女の子が可愛いと思えない。いや、可愛い人は可愛いんだよ?

 なんて言ったらいいか…そう!惹かれないんだよ!シスコンじゃないのに!可愛い子と話してたらテンション上がる普通の男子高校生なのに!なぜか恋心は抱かないんだよ!

 

 

「とりあえず着替えて下りるか」

 

 

 ご飯を食べて、途中まで姉ちゃんと一緒に登校した。教室に着くと先に同じ部活…というかペアを組んでる赤木烈(あかぎれつ)が来てた。まぁいつものことだけど。鞄を置いて、窓からグランドを眺めながら雑談するのが日課だ。ちなみに、赤木と白金でコンビだから、紅白なんて呼び名がある。漢字変わってるのにね。なんでだろうね。

 

 

「おっす蓮!」

 

「よぉ烈」

 

「なんだ?今日はお疲れだな」

 

「朝から姉ちゃんがな…」

 

「羨ましい!燐子さんにまた起こされたんだろ!?灰になれ!それか燐子さんとデートさしてください!付き合わせてください!」

 

「黙れ死ね!姉ちゃんは誰にもやらねぇ!俺が認めれるような人じゃなきゃやらねぇ!」

 

「このシスコンが!!」

 

「いや、シスコンじゃないんだよ。姉ちゃん相手にそんな気持ちにならねぇし」

 

「ここで素に戻るなよ…」

 

 

 いやー、俺恋愛したいのになぁ。姉ちゃんが凄すぎるから他の子を全然好きになれないし、でも俺姉ちゃんのことは好きでも恋愛対象じゃねぇし。…俺、将来独り身になるのか?

 

 

 

 

 




続きませんので!!
最後で察したでしょう!力尽きてることに!!


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耐性2

とりあえず2話目やってみました。
1話目のグダグダっぷりを期待された方には、期待はずれな内容かと。


 うちの部活は弱小だ。1回戦に勝ったら優勝したかのごとく喜ぶほどの弱小さだ。その後は全員おかしくなる。顧問すら馬鹿になる。どうなるかと言うと、部費を使って焼肉に行くほどだ。ちなみにそんなことがあったのは俺達が入部する前らしい。というかまず連敗記録があるから、どれだけ前のことなのだろう。そんなことを気にするのは、暇でやることない時でいい。ひとまず今は次の大会こと総体に向けて練習するしかない。焼肉のために!!

 

 

「なんだ蓮やる気満々だなー!」

 

「焼肉のためにな!」

 

「…なんの話だよ」

 

「烈知らないのか?試合に勝てば焼肉らしいぞ?」

 

「おっしゃ勝つぞオラー!」

 

 

 なんて単純なやつなんだ!俺も焼肉でやる気出してるから似たようなもんなんだが…、俺達だけが勝っても意味ないんだよなぁ。みんなやる気はあるんだが、足りないというか、もうあと一押しあれば全体の雰囲気がさらに良くなると言うか。

 ちなみに、部活はテニス部で、焼肉に行けるようになるには団体戦で勝つ必要がある。個人戦なら俺も烈も勝てるんだけどなぁ!団体戦だと俺達がダブルスに出るから、他のとこで2回勝ってくれないと駄目なんだわぁ!

 

 

「そんなわけで他の部員のやる気だしてくんね?奥沢」

 

「やだ」

 

「なんで!?焼肉がかかってんだよ!?」

 

「それあたし関係ないし」

 

「奥沢も来ていいからぁ!」

 

「やだよ。男ばっかのとこに行くのなんて」

 

「ミッシェルなら恥ずかしくないだろ!」

 

「食べさせる気ないよね!」

 

「なぜバレた!」

 

 

 だって奥沢は違う学校だしさ。俺達の部費で奥沢の焼肉代払うなんてやだよ。ただでさえ部費が少ないのに!

 俺達の学校は共学なんだけど、うちの部活ことテニス部は余りにも雑魚過ぎてテニスコートを使える時間が少ない。…女子に取られてるんだよ。あいつら怖いんだよなぁ。実力はそこまでのくせに!3回戦でいつも負けるくせに!

 とりあえず、場所が欲しいということで、一番近い花咲川女子高校に頼んで、1面だけ借りるようにしてる。さすがにお邪魔する立場だから週に2回しか来ないけど。週末なら自分たちのとこで半日使えるし、平日も水曜は使えるから。ちなみにここに来るのは月曜と金曜。

 

 

「そういや白金って、うちの高校の白金燐子先輩の弟?」

 

「ん?あぁそうだけど。なんで今さら?というか姉ちゃんと知り合いだったのか」

 

「なんとなく。燐子先輩とはバンド繋がりで」

 

「ふーん?……んん?バンド!?誰が!?」

 

「あたしが。燐子先輩もバンドやってるし、それぐらいは知ってるよね?」

 

「ま、まぁそこは知ってるが、え?奥沢がバンド?ハハハ、冗談は休み休みに言え」

 

「……」

 

 

 なんだその目は!お前みたいな美少女に見つめられたって俺はときめかないんだからな!………ときめけないんだがな!いや、奥沢はかわいいよ?うちの学校来てミスコン出れば優勝するよ?だが残念!俺の中では姉ちゃんが最優秀賞なのだ!

 そういえばこの学校女子力高くない?ここに練習場所の提供をお願いしに来たときに、髪のきれいな、でもいかにも堅物優等生ですよって雰囲気が出てる人にあったんだけど、あの人もレベル高いよね。姉ちゃんのバンドにそっくりな人もいたけど。よく覚えてないや。烈なんてその人と少し話したあとに、下僕になりたい。なんて言ってたんだけど。あの堅物の人ってそういう類の人で、烈もそっち系なんだなってわかって衝撃的だったわ。

 現実逃避をしていても奥沢がジーッとこっちを見てくるのは変わらなかった。仕方ない。信じきれないが、半分は信じてやろう。

 

 

「オーケーオーケー。とりあえずは信じるとしよう。バンド名とやってる楽器を教えてくれ」

 

「バンド名は"ハロー、ハッピーワールド"で、あたしがやってるのはDJ」

 

「そうか。とうとう警察の手伝いというバイトまでできたのか」

 

「いきなりなんの話してんの?」

 

「DJってあれだろ?ワールドカップとかハロウィンの時とかに渋谷あたりで、拡声器使って注意喚起してるような人だろ?」

 

「それDJポリス!!バンドの話ししててなんでいきなりそっちにいくの!?」

 

「ハロハピのDJはミッシェルだろうが!」

 

「そのミッシェルがあたしなんだけど!?」

 

「嘘つけ!奥沢がやってるミッシェルは、商店街とかで風船配ってるミッシェルだろ!」

 

「それもやってるけど、ハロハピのもあたしなの!」

 

「なん…だと……!」

 

 

 いやいやそんな馬鹿な話があるわけないじゃないか!だってこの奥沢だよ!?ステージとかそういう目立つものとは無縁でいたそうに過ごす奴だよ!?

 

 

「あのミッシェルの中が奥沢だなんて!俺の夢を壊さないでくれぇ!」

 

「着ぐるみの中に人がいるって知ってる時点で夢も何もないでしょ…」

 

「まじかぁ…えー……いやそんな……ねぇ?」

 

「現実を受け入れなよ」

 

「そこは審議が必要だから」

 

「わけわかんない」

 

「それよりさ」

 

「なに?」

 

「さっきからテニスコートを彷徨ってる人、誰?ラリーしてる中ウロウロしてるのって、見てるこっちが怖いんだけど」

 

「そんな人………花音さん何してんの!?」

 

 

 知り合いかよ!!ってかあの人何者なの!?ラリーしてる中困った顔しながら歩いてるってどゆこと?しかもコートの外に出たらいいだけのはずなのに行ったり来たり…とりあえずコートの外に出てよ!!

 

 

「花音さん…方向音痴ってそこまで酷いことになるっけ?というか、なんであんたらのとこラリー続けてるの?花音さんを避けてラリーできてるのが意味分かんないんだけど、弱小チームだよね?」

 

「これぐらいできて当然だろ!負ける理由も"真面目にやったら飽きてくるから"だからな!」

 

「馬鹿だよ!正真正銘の馬鹿だよ!」

 

「今回は焼肉がかかってるから本気でやるんじゃね?」

 

「頭痛い…」

 

「頭痛薬いるか?」

 

「いらない」

 

 

 なんだよ人の好意を無下にするなよ。まぁいいや。とりあえずあの花音さんとやらをコートの外に連れ出すとしよう。

 ラケットを持って俺もコートの中に入り、涙目になってる花音さんの手を引っ張る。手を握った瞬間ラリーしてる人たちの殺意が俺に向けられた。ボールが飛んでくるから、先に当たる方をラケットで打って、後から来る方にぶつける。ビリヤードみたいなもんかなー。やったことないから違うかもだけど。

 

 

「あ、ありがとう。助けてくれて。えっと、燐子ちゃんの弟くんだよね?」

 

「え、あぁはいそうです。白金蓮です。えと、花音さんでしたっけ?」

 

「うん。そうだけど、どうかした?」

 

「いえ、可愛いなっでぇ!?」

 

「ふぇぇ!?」

 

 

 花音さんが可愛いから正直にそう言った瞬間、後頭部にボールをぶつけられた。このコントロールと威力だと、犯人は奥沢だな!!……嫌な犯人の当て方だな。

 そんなことより、俺は後頭部にボールをぶつけられるなんて思ってなかったから、前方に軽く倒れ込みそうになる。俺の前には花音さんがいて、お互いの足がもつれた結果、俺が押し倒した。みたいな構図になってしまった。だが、声を大にして言いたい。これも奥沢のせいだと!!……ところで、何か柔らかいものが…。

 

 

「ふ、ふぇぇ…」

 

「…なに花音さんの胸に顔埋めてんのこの変態」

 

「お前のせいだからな!!あ、花音さん大丈夫ですか?すぐにどきますので」

 

「うぅ、…あ、ありがと……、辱められた」

 

「最後にトンデモナイこと言うのやめてもらっていいですかね!?」

 

「あんたら男子からしたら役得でしょ。…通報ものだけど」

 

「花音さんの胸はとても柔らかかったです。だが姉ちゃんの方がデカイ」

 

「死ね」

 

「待てまてまてまて奥沢!ちょいちょいちょい!顔面踏もうとすんのやめてくれ!」

 

「腕どけてよ。踏めないじゃん」

 

「踏むなよ!」

 

 

 なんなんだこの人たちは!花音さんを助けに行ったら奥沢にボールをぶつけられ、そのせいで花音さんを押し倒しちゃうし、ちょーっと役得なことは確かにあったけど!原因の奥沢が顔面踏もうとしてくんのマジで理不尽!花音さん!あなたもあなたで「辱められた」なんてこと言わないでもらえます!?女子たちの視線が絶対零度なことになってるんですけど!!あと「頑張って美咲ちゃん!」じゃないでしょ!

 

 

「潰れろー!」

 

「ふ・ざ・け・る・な!!それと奥沢!この状態は非常によくない!」

 

「態勢がキツイって?なら潰せるのも時間の問題だね」

 

「違う!わけでもないけどそれとは別!!お前が気にしないならいいけど!」

 

「は?」

 

「奥沢って案外見せびらかしたがり?この態勢だと太ももどころか内ももとかパンツ「死ね!」げはっ!」

 

 

 踏むのをやめたと思ったときには顎を蹴り飛ばされていた、だと…?なんて身体能力をしているんだ…。あ、でもそれならハロハピのミッシェルもやってるっての納得だわ。いやー、奥沢を侮っていた。

 ところで花音さん、奥沢に「やりすぎだよ!」って言ってるけど、さっきまで奥沢に声援送ってましたよね。膝枕してくれてるから言わないけど。…そしてやはり姉ちゃんのほうがデカ「えい」

 

 

「目がぁぁぁー!!」

 

「滅びの呪文は唱えてないんだけど…」

 

 

 そんなことは今重要じゃないんだ!!あっても困るけど!!なんだよ!目潰しって危ないんだからな!?失明したらどうしてくれるんだよ!しかもやったのって花音さんだよね!?あんた意外と恐ろしいなぁ!!

 

 

「あ、燐子ちゃんが蓮くんとこの部長さん?に口説かれてる」

 

「タマ取られる覚悟できてんだろうなぁ部長ー!!」

 

「やっぱシスコンじゃん…」

 

 

 シスコンじゃありません!それより姉ちゃんたちどこ!?まだ目が回復してないんだけど!!あ、でも姉ちゃんの声と匂いで場所わかるわ!「気持ち悪い」奥沢ー!なんてこといいやがる!人の心読んでくるやつの方が気持ち悪いぞ!

 

 

「燐子さん。初めてあなたを見たときから好きでした。付き合ってください!」

 

(クソが!阻止できなかった!姉ちゃんって言い寄られたら弱いんだよ!)

 

「あの…お気持ちは…嬉しいですけど……ごめんなさい!」

 

(姉ちゃんが断れた!?)

 

「ガハッ!……り、理由をお聞かせいただいても?」

 

「その……男の人だと……蓮くんが…一番カッコイイので」

 

『『あんたもブラコンかよ!!!』』

 

 

 全然周りが見えないが、俺を含め二人のやり取りを聞いていた人たちが全員ズッコケたのはわかった。



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助けて常識人

今回、一番燐子がぶっ壊れた話となっております。
ご注意ください。


※燐子好きの方はまじでブラウザバック推奨します。


 風呂でゆっくりできるのっていいよな。足伸ばせたりしたら最高だ。うちは大きめの風呂だから足を伸ばせるし、肩まで浸かることもできる。部活で疲れた後に入ると気持ちよすぎてたまに寝落ちする。目が覚めたらゆらゆらした水面が見える。あれよく死なないよな。本能的なやつで目覚めるのかな。

 

 

「にしても奥沢のやつわけわかんねぇな」

 

「蹴られたこと?」

 

「いや、そっちじゃなくてハロハピのミッシェルだったってこと」

 

「弦巻さんとは前々から友達だったみたいだよ」

 

「なるほど、それでか〜。…まぁいいコンビかもな」

 

「うん。ところで松原さんに膝枕してもらってたよね?どうだった?それとどうせ胸を見てたでしょ」

 

「あの人の足ムチムチしてて気持ちよかった〜。あと胸は姉ちゃんの方がデカかったな〜」

 

「フフッ、ソッカ〜」

 

 

 うん。姉ちゃんの方がデカかった。制服越しとはいえ間近で拝んできたわけだし、姉ちゃんの制服姿は毎日見てるから分かる。……ん?ところで俺は風呂場でいったい誰と話してるんだろうか。まずあのことを知ってるのは、あの場にいた人たちだけのはずだし、ここは家なわけだし…。

 慌てて瞑っていた目を開けて声がした方を見ると、そこには姉ちゃん(ヴィーナス)がいた。って違う!ヴィーナスなんて言ってる場合じゃない!

 

 

「なんで姉ちゃんがここにいんの!?」

 

「…?私もこの家の住人だよ?」

 

「それは理解してるよ!そうじゃなくて!なんで姉ちゃんも今風呂に入ってきてるのかを聞いてるの!」

 

「お風呂入りたかったから」

 

「さも当然みたいに言わないでくれる!?俺が入ってるの知ってたでしょ!?」

 

「うん」

 

「ならなんで入ってきてんの!?」

 

「だって蓮くんと入りたかったから」

 

「●☆※△▼ー!!」

 

「…なんのゲーム用語?」

 

 

 ゲーム用語じゃないやい!クソっ、一瞬俺のキャパを超えてきたぞ…。なに、どゆこと?俺ら高校生なわけだよ?なんで未だに一緒に風呂入らないといけないの?姉ちゃん相手に興奮するわけじゃないけどさ、意識はしちゃうの!目線はそういうとこに言っちゃうの!って、こらこらこらこら、話は終わってないぞ。

 

 

「姉ちゃんどうやって入ってきたの?鍵閉めてたはずなんだけど」

 

「鍵穴を回しただけだよ。あれ小銭で開けれるから」

 

「セキュリティひっく!!なにそれ!初耳なんだけど!?」

 

「蓮くん、気づいてなかったんだね。あ、だからいつも私の部屋に入れないんだね」

 

「まるで入りたがってるみたいに言うのやめてくれない!?って、もしかしていつも姉ちゃんが俺の部屋に入れてるのって…」

 

「うん。このやり方」

 

「鍵変えてー!めちゃくちゃ鍵変えてぇよ!プライベートもクソもねぇよ!」

 

 

 いくらどの部屋も防音設備があるからって、鍵簡単に開けられるんじゃ意味ねぇじゃん。友達と馬鹿やってる時に姉ちゃんが入ってくるとか、そんなパターンもありえるってことだろぉ。嫌だわー。そんなん嫌すぎるわー。…あ、でも姉ちゃんが友達呼んでキャッキャウフフやってたらそれは覗きたい。ぜひとも!

 

 

「なんで姉ちゃんヴィーナスのポーズとってんの?」

 

「え?さっき蓮くんが私のことヴィーナスって呼んでたから」

 

「声に出してないんですけどぉ!?なんなの!?今俺の心を読むの流行ってんの!?やり方が書いてあるやつでも出版されてんの!?」

 

「そんなのないよ?あ、奥沢さんには私が教えたよ。『アイツわけわかんないんですよね』って言ってたから、それなら〜って」

 

「姉ちゃんのせいかよ!!いやそもそもなんで俺の考え読めるわけ!?」

 

「蓮くん分かりやすいもん」

 

「そんな馬鹿な…。クラス一のポーカーフェイスと言われている俺が…」

 

「ところで、そろそろ身体洗いたいんだけど」

 

 

 俺が地味にショックを受けているのに、そんなこと関係ないと言わんばかりに姉ちゃんは話を進めた。いや、進んではないけどね。右から斜め左に変わった感じだよ。

 

 

「だ・か・ら!俺が風呂出てからにしてよ!」

 

「でもお姉ちゃんもう服脱いだよ?…あ、蓮くんは女の子にこういう格好させるの好きなんだね」

 

「違うわい!俺に変なレッテル貼るのやめてくれよ!勝手に俺の性癖決めつけないでくれよ!」

 

「さっきから大変そうだね?大丈夫?〇〇揉む?」

 

「姉ちゃんのキャラがおかしくなってるの自覚してくれね!?いいよ!俺が風呂出るから!」

  

「え、私蓮くんと一緒に入りたかったのに…」

 

「年を考えてくれないかなぁ!しかも思春期なんだからね!」

 

「何歳になっても姉弟は姉弟だよ!」

 

「そこだけ強く反論するのね!姉弟じゃないなんて言ってないんだけどなぁ!」

 

「もういいもん、お姉ちゃん身体洗うから。…あ、蓮くんが洗ってくれる?」

 

「洗わねぇからな!?」

 

 

 姉ちゃんが本当に身体を洗い始めた。俺は即刻風呂場から逃げ出したよ。いつもなら浴場である程度身体を拭くんだけど、今回は無理だ。姉ちゃんが身体洗い始めたから。あの調子の姉ちゃんがいるとこで身体拭いててもお湯かけられて台無しになるからな。

 

 

「くそー。風呂でリラックスするはずだったのになぁ〜」

(たしかRoseliaの氷川さんって常識人だよな。姉ちゃんをどうにかしてもらお)

 

『蓮くん今から入り直す?お姉ちゃんは大歓迎だよ?』

 

「入りません!」

 

 

 身体洗うために、巻いてたタオルを取ってたわけだけど…。思春期な俺の視線がそっちに行っちゃったのも仕方ないことだ。不可抗力なのだ!…とりあえず、

 

 

 

 

──やっぱり姉ちゃんはヴィーナスだった(氷川さんに助けを求めなきゃ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?何かおかしかったような。

 

 

 




風呂場で何してんだか…



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あれおかしいな…

前回までみたいなぶっとんだ内容にはできてません。アレを期待されていた皆さん。ごめんなさい。

8割無くていい文章


「ハナジョ!ハナジョ!ハナジョ!」

 

「お前頭おかしいんじゃないの?」

 

「なんでそんなテンションなんだよ蓮!ハナジョと合宿場所が一緒なんだぜ!?テンション上げていこうぜ!」

 

「テニス部の、な。だから氷川さんはいねぇぞ」

 

「クソかよ!帰る!!」

 

「清々しい変わり方だな」

 

「俺はあの人の蔑んだ目を見たいんだ!罵ってもらえたら尚最高!!」

 

「まさかペアがこんな変態だったとはな…」

 

 

 おかしいな。烈とは中学からの相棒なんだけど、中学の時はこんなんじゃなかったぞ。……いや、氷川さんみたいなタイプの人に出会ったことがなかったし、露呈してなかっただけなのかもしれない。

 残念な相棒は放っておくとして、まさか合宿場所が一緒とはな〜。合宿の意味ないじゃん。ないってのは言いすぎだけど、集中的に練習できなくなるわけ……でもないか。うちの部活って先輩たちも含めて、女子がいる方がやる気出すし。いいカッコ見せようとして意図的にスーパープレイするし。大会でやってほしいけど…。もしかしたら花女の人達がいたら優勝狙えるな〜。

 

 

「何間抜けな顔してんの?いつものことだけど」

 

「なんでわざわざ棘のある言い方するかな〜」

 

「事実でしょ?」

 

「…うん、まぁ。奥沢が可愛いのと同じくらいには」

 

「は…はぁ!?何言ってんのアンタ馬鹿じゃないの!?」

 

「え、学年3位なんだけど?」

 

「…やっぱり馬鹿だわ」

 

「なんで!?」

 

 

 奥沢に捕まってる間に、うちの先輩たちが何やら騒ぎ始めた。あの騒ぎ方となると…、新しく可愛い子を見つけたってとこかな。…うーん、合宿所で新しく(・・・)見つけたってとこがおかしいよな。あと、何やら黒服の人達がいるんだけどどうしたんだか…。あれボディーガードって人達だよね。どこぞの令嬢かな。

 

 

「はぁー、ほんとに来たんだ…」

 

「ん?奥沢の知り合い?」

 

「知り合いというか…まぁ。ハロハピを知ってるならアンタも知ってるよ」

 

「俺も?ってことはハロハピの人だよな…」

 

「美咲ー!ここにいたのね!」

 

「あーもう。なんで来ちゃうかなぁ、こころ」

 

「…え、ボーカルの弦巻さん?」

 

 

 先輩たちのアホみたいな包囲網を軽々と抜けた弦巻さんが、奥沢さんに抱きついた。なにやら俺の目の前で百合ゆりしぃ展開が広がってるんだが…。

 ハロハピボーカルの弦巻こころさん。えげつない身体能力の持ち主で、ナイスバディな女の子。いつも笑顔で活発な性格で、それでいて羞恥心をどこへやらって子。胸元見えてたって気にしないし、スカート履いてても気にせずに動くから見ててドキドキする、らしい。まぁ可愛い子なんだけどさ、やっぱ姉ちゃんには勝てねぇよ。

 そう思って眺めてたら、弦巻さんが急にこっちを見た。綺麗な瞳で真っ直ぐ見つめられても残念ときめきません。って違うな。この子はそういう目で見てるんじゃなくて、俺がどういう人間か見ようとしてるっぽい。

 

 

「あなたが燐子の弟の蓮ね!」

 

「え、うん。そうだけどなんで知ってるの?」

 

「だって美咲がよk「ちょっとこころ!何言おうとしてんの!」」

 

「ちょいちょい奥沢。弦巻さんが息できなくなるぞ」

 

「大丈夫!口は抑えてるけど鼻は抑えてないから!」

 

「…えぇー」

 

 

 まぁ呼吸ができるなら苦しくないだろうけどさ。弦巻さんは目をパチクリさせてるんだよね。ところで弦巻さんは動揺することがあるのだろうか。さっきのを見ただけでも、二人が相当仲良しなのはわかる。その仲の良い友達が急にこんな行動取ってるのに、全然驚いてないんだよね。…あ、もしかしたら奥沢って普段からこういう感「そんなわけないでしょ!」あ、はい。

 

 

「心読むのやめてくれない?」

 

「あんたが失礼なこと考えるからでしょ!」

 

「美咲はやっぱり彼と仲が良いのね!」

 

「こころは何を見てそんなこと言ってんの!?そんなわけないじゃん!」

 

「そうかしら?美咲は今、とーってもイイ顔をしてるじゃない!」

 

「病院行けば?」

 

「あたしはどこもおかしくないわよ?それより蓮」

 

「何?弦巻さん」

 

「あたしのことはこころで良いわ!」

 

「あ、うん」

 

「あたし、あなたとならここでとーってもハッピーなことができると思うの!」

 

「ハッピーなこと?何それ面白そう!どんなことするの?」

 

「何をするかはこれから決めるわ!」

 

「あはは!誘っといて決めてないんだね!でも、決めるのも楽しいからね!」

 

「ええ!」

 

 

 こころって面白い人だなー。こんなに目をキラキラさせて話しかけてるのに、どう行動するかは何も決めてない。というか、こころって抽象的なことしか決めないよね、たぶん。

 

 

「…あんたら仲良さそうだね」

 

「ええそうよ!今仲良くなれたの!美咲のおかげだわ!」

 

「紹介するつもりもなかったんだけどね…。それより白金の方も練習あるでしょ。こころに構ってる暇なんてないんじゃないの?」

 

「あ、忘れてた!」

 

「なんで忘れてんのよ…」

 

「あら?蓮も練習があるのかしら?」

 

「まぁな。だから休憩の時とか、今日の練習終わってからならこころに付き合えるかな」

 

「そう。だったらあたしも練習に参加するわ!」

 

「え?」

 

「蓮と一緒なら面白そうだもの!」

 

「うーん。どうなんだろ…まぁ部長に聞いたらなんとかなるかな」

 

「決まりね!」

 

 

 ヒャッホー!こころと練習じゃーい!あの変態な相棒とばっか練習すんのも飽きてきたし、たまには違う子とも練習しないとなぁ!しかもあのこころだ!羞恥心皆無の!練習着…は黒服の人が用意してるなぁ!早いなぁ!そしてミニスカート!ナイスだわ!俺は後衛だし、これならこころのパン「死ね!」あぁー!!スネはいかんよ!スネは!

 

 

「何してるの?美咲」

 

「こいつがこころの下着見ようなんて企んでるから、制裁加えといただけ」

 

「あら、蓮はあたしの下着が見たいのね!構わないわよ!」

 

「は?」

 

「まじで!?」

 

「こころ正気!?あんたまさか貞操観念までおかしなことなってないわよね!?」

 

「奥沢落ち着け。こころは正気だろうから」

 

「あんたは黙って死んでなさい!」

 

「だって下着を見せたって何も困ることないじゃない!それで蓮が笑顔になるならあたしは構わないわよ!」

 

 

 なんだこの子は!天使なのか!?エロスが使わせた天使なのか!?いや、天使とエロスに繋がりはないはずだけど。そっかそっかー、正直ここまでぶっとんでるとは思ってなかったけど、同意の上なら問題ないよな!

 

 

「…じゃあもういっそあんたら付き合ったら?それならそういうのしてもおかしくないわけだし」

(ま、シスコンな白金とこころならくっつくわけないよね)

 

「そうなの?それなら付き合おうかしら!ね?蓮!」

 

「ん。そうするか!」

 

「………は?…はぁぁ!?」

 

『お姉ちゃんはそんな簡単に付き合うの許さないからね!』

 

「燐子先輩なんで状況理解してんの!?」




最後のやり取りをやりたかっただけです。
中・高時代のバカ話を使っていいならまだ書けますが、わりとネタ切れ寸前です。


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耐性とは…

 こころとのドタバタ以外は普通の合宿だった。食べに行く焼肉が高級な場所だと決まったことで、みんなの殺る気が青天井。練習相手を仮想敵に見立てて顔やら溝内やら膝やら狙ってた。それをダイレクトに拾ってやり返すという狂気のラリーが始まって、花女の人たちがドン引き。こころは目を輝かせてた。

 

 

「美咲!私もアレやりたいわ!」

 

「あんたはこっちで普通のテニスしようねー。アレは参加するもんじゃないから」

 

 

 そんなやり取りをしてたらしいんだが、俺もそれを気にしてる余裕なんてなかった。俺の練習はもっと地獄絵図になってたから。どこから聞きつけたのか知らないけど、こころと付き合うって情報が回って、1対2で狂気のラリーをしないといけなかったから。しかもボールが二つ。一人は部長でもう一人が烈だった。

 

 

「キサマハ奥沢トイウアイテガイナガラァァァー!」

 

「名前呼ぶ時だけ正気に戻るんですね!!」

 

「部長に付き合うの面白ぇからくたばれ!そして燐子さんをよこせ!」

 

「まずは烈から潰してやらぁ!!」

 

 

 この変態どもめ!部長はいつも通りの嫉妬だからいいんだよ。同士だと思っていた副部長に裏切られたと知った時の反応の方がヤバかったし。凄かったぜー。ハリウッドさながらの動きをするリアル鬼ごっこが始まったから。壁走って2階に上がるとか、窓に申し訳程度についてる雨避けの上を走るとか、体育館の屋根の上を走るとか、窓突き破って逃げるとか。それでいて副部長が、逃げる時に巻き込みそうになった女子を気にかけるから、部長の言語能力無くなったし。アレが野生に返るってやつだよな。

 そんなことより烈は処刑だ!情状酌量の余地などない!姉ちゃんを狙うやつなんぞくたばりやがれ!!…いや、姉ちゃんが幸せになるならいいんだけどな。俺が認められるような男じゃないと許さないから。姉ちゃんに言い寄る輩がいたら、そいつの悪い所全部見つけ出して周囲に拡散するから。しかもそいつが知られたくないような相手には、より酷く解釈されるように情報ばら撒くから。

 

─そもそも!

 

 

「烈!テメェは氷川さんの奴隷になってりゃいいんだろうがよぉ!」

 

「アアァン!?…それもそうだな!燐子さん繋がりで俺をいい感じに氷川さんに紹介してくれや!」

 

「初対面がアレだと手遅れだわ!」

 

「馬鹿野郎!あの酷さだからこそ奴隷になれるんだろうが!」

 

「あーね!」

 

「アカギィ、オマエモソチラガワカァァ!」

 

「部長それは誤解だ!俺はまだアプローチかける側!あんたと同じ位置だぜ!」

 

「シィィネェェエエ工!」

 

 

 そうして始まった自陣内での殺戮ラリー。関係なくなった俺はコートから離脱。ウズウズしてたこころと平和なラリー…はできませんでした。あの子運動能力高すぎるよ。初心者がツイストサーブ打つんじゃないよ。

 その後もおかしなとこは特になかったな。狂気のラリーを続けてる馬鹿たちを放置して一人で大浴場を満喫してたらこころが入ってきたくらいだな。顧問と二人で飯食っても悲しいから、花女に混ざらせてもらったよ。

 で、二日目なんだけど、この日には帰るからね。練習も午前中だけ。なんだけど、なんかこころと奥沢の様子がおかしいような気がする。だから、帰る前に話しかけてみることにした。

 

 

「こころ」

 

「あ、蓮!合宿はもう終わりなのね!」

 

「まぁね。花女もでしょ?」

 

「そうみたいなの!あたしもみんなといっしょに帰るわ!」

 

「その方が楽しいからでしょ」

 

「もちろんよ!」

 

 

 こころの方が近かったからこころに話しかけてみたけど、昨日と同じ笑顔じゃない(・・・・)ね。こころがこうなるのって、今いるメンバーから考えてみても奥沢以外いないし、奥沢もなんかいつもと違うように見えるから、合ってるだろうね。

 

 

「奥沢と何かあった?」

 

「…!すごいわね!なんでわかったの?」

 

「まずこころが昨日と違う笑顔だったから」

 

「ぇ…」

 

「んで、奥沢もなんかいつもと違う感じがしたから。…他にも理由はあるけど、とりあえずそんなとこ。それで、何があった?」

 

「美咲がね…笑ってくれないの」

 

「奥沢が?」

 

「そう。美咲と一緒にこの合宿を過ごせたら、とーってもハッピーになれるって、美咲もハッピーになってくれるって思ってたの。昨日も途中まではそうだったのだけど…、いつの間にか笑ってくれなくなっちゃったわ」

 

「なるほどね〜。んー、ま、俺達の目的(・・)果たしたら解決だろ」

 

「そうかしら?」

 

「ああ。そもそもさ、こころがハッピーじゃないと奥沢もハッピーになれないぞ?」

 

「!それもそうね!美咲ー!」

 

 

 昨日と同じ、見る者も笑顔にさせるような眩しい笑顔をしたこころが奥沢に特攻しに行った。奥沢が何やら文句を言ってるみたいだが、こころが問答無用で奥沢を連行。俺も烈を腹パンしてから連行。役者じゃないけど、数合わせにはちょうどいいからな。

 二人を連行した場所はテニスコート。テニス部の合宿で来てるんだから、ちゃっかり活用しないとな。

 

 

「はぁー、で?これは何なわけ?」

 

「ん?奥沢が元気ないみたいだから、テニスやろうかって話」

 

「…余計なお世話」

 

「不貞腐れてても面白くないぞ?」

 

誰のせいだと思ってるのよ

 

「美咲!あたしダブルスっていうのをやってみたいの!勝負しましょ!」

 

「なんで?」

 

「笑顔になれる気がするもの!あたしは蓮に組んでもらうから!」

 

「…好きにしなよ」

 

 

 今更に機嫌悪くなったような…。ま、細かいことは置いとくとしよう。烈は変態で馬鹿なんだけど、こういう時はちゃんと察してくれるんだよなぁ。だからアイコンタクトで「貸一つな」って言ってくるだけだった。ところで男とのアイコンタクトとかって需要ないよな。やっぱやるなら女子だろ。

 俺と烈の力は拮抗してるから、勝負を決めるのは奥沢とこころの動きになる。奥沢は経験者だけど、こころは天性の身体能力がある。ラリーを続けているうちにどんどん上手くなっていく。

 

 

「美咲!テニスって楽しいのね!」

 

「今あたしは楽しいなんて思ってないけど、ね!」

 

「あら、ナイスよ蓮!…なんで楽しくないのかしら。美咲はテニスが嫌いなの?」

 

「嫌いじゃないよ。むしろ好きだし。今だから楽しめないの」

 

「なんで?」

 

「…あんたに言っても分からないよ」

 

「そうかしら?言ってもらわないとそれすらも分からないと思うのだけど」

 

「分からないって分かってるからいいの。こころには絶対にわかんないよ!」

 

 

 あ、点取られた。まぁ勝負はまだまだこれからだからなんとでも巻き返せるし、それ以上に大切なことがうまいこと進んでる。烈のサーブをこころがレシーブしてそのまま上がる。俺は入れ替わるように後衛につく。俺は後衛の方が得意だしな。

 

 

「絶対に美咲には話してもらうわ!そのためにもこの勝負勝たせてもらうわ!」

 

 

 異常と言えるぐらいの横飛びをしてこころがボレーを決めた。烈は後衛だからもちろん拾えず、前衛にいた奥沢は完全に出し抜かれる形になった。

 

 

「…テニスで負けるわけにはいかないね」

 

「美咲?」

 

「勝つのはあたしだから」

 

「チームだから俺もカウントしてくれね?」

 

「赤木くんは変態だから駄目」

 

「扱いヒデェ!だがこれも悪くない!」

 

「あたし…初めて変態さんを見たわ」

 

「いや、鏡見たらいつでも見れるでしょ」

 

「鏡?鏡にはあたししか映らないわよ?変態さんはいないわ」

 

「…そうだね」

 

 

 この勝負は最初からタイブレークでやってる。簡単に言ったら7点先取した方の勝ちだ。そしてサーブが俺の順番になる。本気でサーブを打つも烈は当然のように返してくる。全員がテニスに集中し、途中から点数をカウントすることを忘れた。こころの頭上を越す小ロブを俺が飛び込みながらスマッシュを決めたとこで一息つくことになった。

 

 

「まさか後衛があんな飛び込んで来るとはね」

 

「わりとやるぜ?決めれるって確信がある時だけだが…、あえて言わせてもらおう!白金スペ「それ以上はダメ」えー!…それより奥沢」

 

「なに?」

 

「楽しそうな顔してるな」

 

「これは…まぁ、うん。楽しいからね」

 

「よかったよかった。やっぱ奥沢は笑ってる時が可愛いよ」

 

「なっ…!」

 

 

 動揺する奥沢にこころが抱きついてまたもや百合ゆりした展開になる。鬱陶しそうにこころを離そうとするも、その顔はどこか楽しんでるようだった。

 

 

「美咲が笑顔になってくれてよかったわ!蓮に付き合ってもらったおかげね!」

 

「…なにそれ」

 

「あたしテニス分からないもの!美咲がよく言ってた蓮に会ってみて、蓮なら美咲とハッピーなことするために協力してもらえるって思ったの!」

 

「…ちょっと待って、どういうことか分かんないんだけど」

 

「だから、蓮に合宿の間(・・・・)付き合ってもらったら美咲をもっと笑顔にできるって思ったのよ!」

 

「…は?合宿の間?」

 

「そうよ!」

 

「付き合うって、彼氏彼女のやつじゃなかったの?」

 

「もちろんよ!」

 

 

 なんだ、俺とこころがカップルになったと思ってたのか。勘違いも甚だしいぞ。確かにこころは天使だし、可愛いし、一緒にいて凄い楽しいし、天使だけども、それでも俺がそういう関係になるわけないだろ。

 奥沢は勘違いしてたことに動揺してるのか、頬を引きつらせて乾いた笑い声を出していた。時間もギリギリになったところで、奥沢を花女のバスへと連行…しようと思ったんだけどな。うちの高校も花女も先に帰っちゃってた。こころのとこの黒服の人たちに送ってもらうことになった。最初に烈と別れて、次に俺と奥沢が降りた。奥沢の家の前に降ろされたんだが、俺は残り徒歩ですか。そうですか。

 

 

「こころの目的にはいつから分かってたの?」

 

「最初から。そんな感じがしたから」

 

「あっそ。聞くんじゃなかった…」

 

「今度は俺の質問に答えてもらおっかな」

 

「……なに?」

 

「俺に秘密にしてること(・・・・・・・・)あるだろ」

 

「っ!な、ないから!」

 

「いや、あるってのは分かってるから。それを言ってくれ」

 

 

 奥沢の目をじっと見つめようとするも、奥沢はずっと目を泳がせて全然合わせようとしてくれない。少し頬が赤くなったと思ったら、やっと目を合わせてくれた。

 

 

「あ、あたしはあんたのことが…」

 

「あ、わかった。嫌いなんだな」

 

「違う!好きなの!!…ぁ」

 

「え?」

 

「いや、あの……。…好きなの、白金のことが」

 

「落ち着け落ち着け、ここはクールに行こうぜミッシェル」

 

「白金が落ち着きなよ」

 

「冗談は言っていいのと悪いことがあ、んん!?」

 

「んっ…ちゅっ、…こ、これで分かったでしょ。本気なんだから」

 

(唇柔らけぇぇー!!)

 

 

 いやいやいやいや、待てまて落ち着け白金蓮。状況を整理しよう。まずなぜか奥沢に告白された(唇柔らかい)。それを冗談だろって返したらキスされた(唇柔らかい)

 

クソッ(最高だ)邪念が消えない(クセになる)

 

 落ち着くんだ俺ぇー!!賢者タイムに突入すればいいんだ。

 

 そうだ。ここはスーパー賢者タイムに突入しよう(今度はしっかり確かめよう)

 

 

「奥沢」

 

「な、なんんっ!?…ちょっ…んっ、…そとっ…あっ」

 

「…間違いない」

 

「はぁはぁ、なに…が?」

 

「唇だけなら姉ちゃんに勝ってる!」

 

「……は?」

 

「奥沢…いや美咲」

 

「みさっ!?」

 

「病みつきにされた。付き合おう(責任を取れ)

 

「え?え?」

 

 

 混乱してる美咲をそのままお持ち帰り。奥沢家にだけど。車がないってことはご家族は出かけてるようだ。

 条件はクリアされた!白金蓮!これよりミッション(お食事会)を開始する!

 

 結論から言おう。最高だった(超美味しかった)。乱れてるとことかマジやばかった。

 

 

 姉ちゃんに勝ってるのは唇だけなのにな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮くん」

 

「何?姉ちゃん」

 

「奥沢さんとヤッてきたみたいだね」

 

「どうやって把握してんの!?それと姉ちゃんそんな言葉使わないで!!」

 

「蓮くんの童貞はお姉ちゃんが貰おうって決めてたのに!」

 

「エゲツないことカミングアウトしないでよ!俺は初めての相手が姉ちゃんとか嫌だよ!?姉ちゃんのことは好きだけども!」

 

「お姉ちゃんは蓮くんじゃないと嫌だから。蓮くんと結婚したいってわけじゃないけど、蓮くん以外の人に処女あげたくないの。ともかく、これで条件は揃ったね。蓮くんの初めては奥沢さんが貰ってくれたもんね♪」

 

「そういう問題じゃないからね!?絶対にヤんないから…って!どこからそんな力出てくんの!?」

 

 

 はい。家に帰ったら姉ちゃんに襲われました。もうね、姉ちゃんはヴィーナスからフレイヤに変わったよ。あ、でも相手が俺だけならフレイヤでもないか。ところで近親相姦する女神って誰だっけ?

 

 




これで終わりです。この作品はもうこれ以上書きません。
ネタは無くはないけども短編だからこれで終わり。
他のに集中したいですし。

そうそう、票が入ると悪い方向で作者が荒れるらしいです


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蛇足とはこのことだ(番外編)
黒歴史なんて


 久々に頭を空っぽにすると楽しいですよね、


 皆さまおはようございます。大変お久しぶりですね。私は元気にやっていましたよ。えぇ、部活動に励みまくってたら彼女にマウント取られてミッシェルパンチを叩き込まれるのも慣れてきました。最近では避けるタイミングをリズミカルにすることで「わちゃ・もちゃ・ぺったん行進曲」ができるようになりました。美咲と付き合う以上ハロハピの曲も知らないといけないですからね。それはともかく、彼女もそれが分かってしまうために、時折それで笑いながら殴ってきます。マウント取って笑顔で殴ってくる彼女って怖いよね。一般的にはだけど。 

 

 俺は怖くないけどな!

 

 

 だって彼女(美咲)は可愛いから!!

 

 

 そんな俺だが、未だに怖いものがいくつかある。例えばガチギレした時の美咲。目が完全にハイライト失うんだもん。片言になるしさ。他には心霊スポット。心霊スポットはわりといける方だけど、心霊スポットの中でも"洞窟"とか"トンネル"とかは無理だね。先輩は公衆電話で家に電話しようと思ったらお金を入れてすぐに向こう側から電話がかかってきたらしいよ。電話に出たら『迎えに行くね』って知らない人の声がしたんだってさ。それだけ言われて電話を切られたんだとか。しかもお金は返ってこない(支払われてる)。聞いてるだけでも怖すぎるのに、それをやられた先輩は──

 

 

「俺を捕まえれるものなら捕まえてみろ! むしろ美少女ならウェルカム! さぁ来い!」

 

 

 とか叫んで腕を広げてスタンバイしたんだってさ。そしたら何も来なかったって。一緒にいた人は霊が見えてたらしいんだけど、幽霊は近寄ってたらしいんだけど、先輩が叫んだ瞬間にドン引きして成仏したんだとか。先輩は神主にでもなればいい。お祓い頑張れ。

 他にも怖いのがあるんだけど、ここ最近急激に怖くなってきた存在がある。怖くなるものって増えるんだね。人生何があるか分からないよ。

 

 

「蓮くんどうしたの? 体震えてるよ? 怖い夢でも見たの?」

 

「怖いのは目の前にいる姉ちゃんだわ!!」

 

 

 そう。姉が怖いです。

 

 

「え……。私蓮くんに何かしちゃった? シちゃったのはだいぶ前のことだと思うけど」

 

「速攻で下ネタにいかないで!! 頼むから昔の姉ちゃんに戻ってくれ!」

 

「え!? 蓮くんは処女厨だったの!? ごめんね蓮くん。お姉ちゃんも蓮くんのために頑張りたいけど、処女膜って気軽に治せるものじゃないの」

 

「違うわい! その思考をしなかった頃に戻って欲しいんじゃい!! それと怖いのは部屋に忍び込めてることなんだよ! 鍵全部改造したんだぞ!? 窓も内側しか開けられないし半分も開かないようにわざわざ変えたんだからな!?」

 

 

 おかしい。空き巣対策と同じように窓を改造し、小銭一つで開けられるというセキュリティがガバガバなドアも改造したというのに! 暗証番号と鍵とカードの三段階だぞ!? 鍵とカードは俺しか持ってないのになんで姉ちゃんが入ってきてベッドににいるだよ!

 

 

「お姉ちゃんもあの鍵は突破できないよ? ゲームだったら攻略できるけど、リアルの方は駄目だった。窓からも入れないし」

 

「窓から入れたら入ろうとしてるあたり怖いからな! 運動が苦手なくせになんで二階の窓から入り込もうと考えてたの!?」

 

「愛だよ♡」

 

「重いわ!」

 

「重たいのはお姉ちゃんのおっ「それ以上は言わせねぇぞ!!」……ケチ」

 

 

 ケチじゃねぇわ! いったいいつだ。いったいいつから姉ちゃんはこんなふうになってしまったんだ! 少なくとも俺がネトゲに手を出した頃はこんなんじゃなかった。姉ちゃんと協力プレイして健全にワイワイしてただけのはずなのに。

 

 

「蓮くんってゲームと同じシチュエーションとか好きだよね?」

 

「いきなり何!? いや、まぁ好きだけどさ。たまにテニス部でゲームの再現して校舎を歩き回って遊んでるけど。校長の部屋がボス部屋ね」

 

「よかった〜。お姉ちゃんもそれを再現してるんだよ?」

 

「全裸になって俺の腹の上に乗ってるこの状況が!?」

 

 

 待てまて! いったい全体どういうことなんだよ。「つまりはそういうことさ」……なるほど、分からん。薫さん。今は脳内再生されないでくれ。姉ちゃんと友達になってくれたのは嬉しいけど、この状況で脳内に出てこないでくれ! 

 

 ──儚い……

 

 脳内でエコーかけるな! てかなんで俺の脳内ツッコミの方が叫びが小さいんだ!!

 

 クソっ! 落ち着くんだ俺。ステイクールだ。ステイクールすればどうにかなるってハッキリしないハーレム系主人公も言ってた。BLに目覚めて相手に英語を教え込んでたらしこんでたあの人も言ってた。ステイクールは万能なんだ!

 現状がゲームの再生だと姉ちゃんは言った。つまり、俺が知ってるゲームのどれかにこの状況があったということだ。しかし、姉ちゃんと一緒にするゲームでこんなのはない。なんせ中学生のあこもパーティーメンバーなんだから。

 

 【現状】 "朝" "ベッド" "腹の上" "忍び込み" "全裸"

 

 なるほどなるほど。つまりどういうことだってばよ!! 

 こんなゲームは無かったはずだ! 全年齢でこんなゲームは! ……全年齢? エロゲならこんなのあってもおかしくはない?

 

 

「鍵付きの引き出しに入ってるゲームの中にこんなのあったよね?」

 

「ガッッッデム!! 姉ちゃん俺のエロゲ勝手にやらないでよ!」

 

 

 そういうことかよ畜生め!! たしかにエロゲにこんなシチュエーションあったわ! まさかそれを姉ちゃんがやってるなんて思わなかったぞ! しかもなんで鍵開けられるのさ。もう意味分かんないよ。とりあえず俺のエロゲに手を出したことで姉ちゃんは歪んでしまったらしい。つまり俺が撒いた種だった!? いや、それでこうなったのは姉ちゃんだし、俺のせいじゃない。半分は。

 

 

「机のやつは構造が簡単だったね。針金でいけたよ?」

 

「ピッキングだと……!」

 

 

 もうこの人泥棒でもしてたらいいんじゃないかな。ピッキングなんて遊びでできることじゃないのにさ。

 

 

「朝から疲れる……。姉ちゃん、起こしてくれてありがとう。ちゃんとご飯食べるからどいて?」

 

「え? ご飯にはまだ早いよ?」

 

「はい?」

 

 

 近くにある目覚まし時計に目を向ける。時計の針が指す時間は5時40分。たしかに早い。早すぎる。それなら姉ちゃんはなんでわざわざこんな時間に忍び込んできたと言うんだ。あ、いや分かった。そして俺はそんなの許容しない。二度寝するさ。

 

 

「なんで寝るの? お姉ちゃんを食べて? ゴムもあるし」

 

「頭おかしいだろ! 近親相姦なんぞするかアホ!」

 

「むっ。それなら蓮くんの中学時代(黒歴史)をネットで拡散するよ?」

 

「エゲツないことを企むな! シャレにならないやつしか身に覚えがないわ! けど姉ちゃん! あんた今が間違いなく黒歴史だからな!?」

 

「蓮くん。お姉ちゃんは黒歴史なんて作らないよ? どんな私だろうと私だもん。後で思い返して恥ずかしくなっても、その時の私をお姉ちゃんは否定しない。つまり

 

 ──黒歴史なんて大したことない!

 

「ムダにカッケェな畜生め!!」

 

 

 なんで言葉がイケメンなんだよ。行動は最低なのにさ! てか、落ち着いて考えたら俺は二度寝をするべきじゃないな。寝てる間に姉ちゃんにヤられるであろうことを考えたら、俺は起きといて時間が来るまでひたすら姉ちゃんから逃げるしかないんだ。

 それと最大の疑問を解決させとかないといけない。だって、ドアも窓も姉ちゃんは「突破(・・)でき(・・)ない(・・)」って言ったんだ。それなのに姉ちゃんは部屋にいる。

 

 

「隠し扉を用意したの。作るのに時間かかっちゃったけど、完成できてよかった〜」

 

「どこに作った!! 全然それっぽいの見当たらないんだけどな!!」

 

「分かられたら隠し扉の意味ないもん」

 

 

 こういうとこだけ無駄にまともな思考するのやめてくれ! ゲームでも姉ちゃんが作った仕掛けを見破れたことないんだからさ! クソッ! 次は壁の改造をしたらいいのか!? 費用がどれだけかかると思ってるんだ……。

 

 俺はこの朝の出来事(姉ちゃん襲来)をなんとかやり過ごすことができた。やり過ごしたら本当に黒歴史を匿名とはいえバラ撒かれた。しかも二番目に酷いやつだけを。これ、今後もやられるやつやーん……。



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デンジャラス

 そういえばアンケートの期間を決めてませんでしたね。13日水曜日23時59分に締め切ります。日付が変わった時点で一番多かったやつをやります。
 今のとこ美咲と燐子の接戦って感じですね

 今回は思いついたやつをやります。


 

 カップルになったらやりたいことって考えたことある? あたしは特に考えたことないかな。いつの間にか好きになってた馬鹿がいて、勢いに任せて押したら付き合えちゃった。軽く言ってるけど、付き合えてることは本当に嬉しい。でも、何が変わったのかは分からない。だって特段変化がないんだから。

 強いて言うなら、話す時間が増えたこと。一緒に出かけることがほんのたまにできたこと。ライブに来てくれるようになったこと。それぐらいかな。カップルなのか、超仲が良い友達なのか。最近分からなくなってきた。でも、そう思う度に馬鹿()は言ってくる。

 

 ──美咲が彼女でよかった

 

 なんてことを眩しい笑顔で言ってくる。あたしが悩んでることに気づくことはないのにさ。無意識のうちに感じ取って、自然な流れでサラッと言ってく。計算してたらヤラシイ奴って別れるんだけど、計算してない上に本心だって伝わってくるから、その度に心が締め付けられて、惹かれて、あたしも蓮を好きになれてよかったって思える。

 

 馬鹿なとこがほんとに傷なんだけどね!

 

 

「燐子ちゃんの弟くんみ〜っけ! うんうん。やっぱりるんっ! てきた!!」

 

「何この人!? 三十六計逃げるに如かず!」

 

「あ、追いかけっ子? 待てまて〜!」

 

「怖い怖い怖い怖い!! 初対面の人に追い掛け回されるってこんなに怖いのな! ラケットを振り回すな!」

 

 

 今だって日菜さんに追いかけられてテニスコートの中走り回ってるし。しかもラリー中のとこに飛び込んではボールを打ち返してる。無駄にテニスのスペック高すぎ。日菜さんも日菜さんで、どこから拾ったのか、誰かのラケットを持ちながら追いかけて蓮と同じようにしてるし。

 

 

「逃げないでよ〜。ちょーっとお姉さんとお話しようよ〜。痛くしないからさ☆」

 

「信憑性皆無なんですけど!? 痛くしないって痛いやつですやん! 歯医者の得意文句ですやん!」

 

「そうなの? あたし虫歯になったことないから知らなーい!」

 

 

 普通なら止めにいくんだろうね。「あたしの彼氏に何してるんですか」って。きっとそれがらしい(・・・)ことなんだろうね。でも、あたし達はそれとはズレてる。現状も現状だから、余計にみんなもあたしにそういうことを振ってこない。

 あの馬鹿ってのもあるし、うちにコートを借りて練習してる男テニの人たち相手なら誰も助けようとしない。だって馬鹿だから。それに、追いかけてるのはあの日菜さんだ。最近こっちの高校でも知られるようになった天才。パスパレのギター担当で、独特の感性を持つ人。面白い人ではあるけど巻き込まれたくない人。

 その二人であることと、あたしが面倒事を避ける人間だからってことで走り回ってるのを眺めてる。

 

 

「美咲ちゃん。そろそろ止めないと練習の邪魔なんじゃ……」

 

「気にしないでください花音さん。今の時間を休憩時間にしてるので」

 

「そっか。ならよかった」

 

 

 花音さんも抜けてるとこあるよね。何も良くないでしょうに。いつまで続くのか分からない追いかけっ子だし、捕まった後に蓮が何されるかも分からないんだから。

 

 

「あ、外出ちゃったね」

 

「他の人の迷惑にならなかったらいいですよ。生徒会長とか厳しいですし」

 

「見世物みたいに盛り上がってるね」

 

「みんなミーハーですね」

 

「あ、弓道場に逃げ込んだ」

 

「えっ……」

 

 

 弓道場はやばい。何がやばいって、蓮みたいな馬鹿と紗夜さんみたいな真面目な人じゃ相性が絶望的に合わないこと。それにそれを追いかけて日菜さんまで弓道場に入っちゃった。関係がまだ良くなりきってないあの姉妹がそんなとこで鉢合わせちゃったら……。

 

 

「紗夜ちゃんの胃が大変そうだね」

 

「軽すぎません!? ところで今さらなんですけどなんで花音さんがここに!?」

 

「迷子になっちゃって、美咲ちゃんに助けてもらおうかなって」

 

「通ってる学校の中で迷子!? 下駄箱から正門まで一直線なのに!?」

 

 

 あたし以外にまともな人いないかな……。とりあえず馬鹿(彼氏)を回収しに行きますか。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 どうしよう。超困った。具体的には、今から俺はどう動くのが正解なのか分からないという状況だ。八方塞がりってやつかな。まずは冷静に今を再確認だ。

 目の前には腕を組んで眉を釣り上げてる美少女風紀委員こと氷川紗夜さん。姉ちゃんと同い年で同じバンド。そういえば俺は前にこの人に助けをこいたいとか考えてたんだ。あとで相談しよっと。

 んで、俺と一緒に横並びに正座してるのが、俺を追いかけて弓道場まで来た氷川日菜さん。アイドルでグループの名前は"Pastel*Palettes"。頭がぶっ飛んでる人だとはもう把握した。そしてこちらも美少女。

 

 

「白金くん。あなたちゃんと反省してますか?」

 

「紗夜さんの方が胸が小さいと考えていたことには反省しています」

 

「言い残すことはそれだけですね?」

 

「待って氷川さん! 弓道で殺人は駄目だよ!」

 

「離してください! 私はあの男を許すわけにはいかないのです! たとえバンドメンバーの身内であっても!」

 

 

 見る者を魅了するほど、綺麗で鮮やかで滑らかな動きをして紗夜さんが弓を構えていた。弓道なんて退屈だなとしか思ってなくて疎遠だったけど、全く無駄のない動きで構えた紗夜さんには純粋に魅了された。心から綺麗だと思った。

 今は部活の人に羽交い締めにされて止められてるけど。あの目は本当に俺を射殺さんと決意してる目立った。ちなみに今俺はそれを横になって見てる。

 

 

「釈明とか聞かなくていいよね?」

 

喉に添えてる手を退かしてほしいです(このアングル最高かよ下乳やばいっす)

 

「えい」

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!(お肌すべすべですね)

 

 

 なんだなんだ。今まで出会いがなかっただけなんじゃないのか。姉ちゃん周りの人たち美少女率高すぎるだろ。惹かれるわけではないにしても、男心を擽られるというか、仲良くなりたいって思っちゃう人たちばっかじゃん。今思えばポピパとハロハピも同様か。薫さんはカッコイイ。

 

 

なんだこのカオスな状況!?(羨ましいぞ蓮その場所変われ)

 

「烈!? 部活もどれや!」

 

「黙れ弟貴族! 紗夜さんに睨まれてる上に日菜さんには馬乗りされて首締められてるとか最高なシチュの真っ只中のくせに!」

 

「マジで病院行け!」

 

 

 こいつ……日に日に烈の変態度合いが酷くなってやがる! こんなやつとコンビ組んでるとか悲しくなってくるわ! そして何よりも残念なのが、こいつとのコンビが一番相性良いという現実と、日本一になれるという現実があることなんだよな! 

 

 

「……赤木さん。道場への入場は認めていません。即刻出て行ってください」

 

「その視線が最高です!」

 

「マジキモいからなお前!」

 

「何こいつ。お姉ちゃんになんて目してるの?」

 

「ぐえっ!」

 

 

 日菜さん日菜さん! 烈に殺意湧くのは仕方ないことだとは思いますが、俺の首を締める力を強めないでください! 本格的に苦しいんです!

 

 

「おふぅ! 日菜さんのそのクズを見るような目もパないっす!」 

 

「お姉ちゃん。こいつ、殺っていい?」

 

「そんな男のせいであなたの経歴に泥が塗られるのはゴメンだわ。やめておきなさい」

 

「お姉ちゃん♡」

 

 

 百合かよ! 姉妹百合かよ! 何だよさっきまでの超ツンケンしてたあの時間! メッチャクチャ仲いいじゃないですか! それと日菜さん。人の体の上でくねくね動かないでください。思春期の男にはいろいろとダメージがですね。

 

 

「しまいゆり……だと……!? がはっ!」

 

「リアルに血を吐く奴初めて見たわ!」

 

「最高カプ!」

 

「喜びの方で!? さっきまでの言動からじゃわっかんねーわ!」

 

「お姉ちゃんとのこと邪魔されたくないし、そこのゴミには千聖ちゃん紹介するね。ドSで腹黒いとこもあるし、需要と供給が一致するでしょ!」

 

「あの女王様をっすか! 一生ついていきます!」

 

「ついてきたら埋めるね☆」

 

 

 スキップして出て行く日菜さんを変態()が追いかける。たぶん千聖さんとこに行くんだろうね。どうなるか分かんないけども、とりあえず千聖さんには合掌しとこ。……弓道部の皆さん。既にお経を唱えてるのはどうかと思いますよ。

 

 

「あ、そうだ。紗夜さん」

 

「まだいたんですか?」

 

「いましたよ! 実は紗夜さんに相談したいことがありまして」

 

「……真面目な話のようですね。私で良ければ」

 

 

 俺が体を起こして正座して紗夜さんに話しかけると、紗夜さんも察してくれたようで向き合うように座ってくれた。今の足の運びも弓道の一環なんだっけか。名前は忘れたけど。

 

 

紗夜さんだからこそ相談するんですけど(弓道着って少し崩れただけでもエロいですね)

 

「すみません。矢をお借りしてもよろしいですか?」

 

「ごめんなさい! 口が滑っただけなんです! 姉ちゃんのことで相談があるんです! 同じバンドで同じ学校の紗夜さんだから頼むんです!」

 

「次はありませんよ?」

 

「はい。頼みたいことはですね──」

 

「蓮くんみ〜っけ♡」

 

「この姉を制御してくださいーー!!」

 

 

 俺は後ろを振り向くことなく立ち上がってすぐに走り出す。靴を履いてないけど気にしてられない。大事なのは瞬発力だ。スタートをしくじってられない。声は俺の後ろつまり出入り口から聞こえ、俺は弓道場にある的の方に走った。途中で壁をよじ登って外に出る。

 

 

「……白金さんって運動できなかったんじゃ……。壁登って弟さんを追いかけてましたけど……」

 

「あ、紗夜さん。蓮がここ来たと思うんですけど」

 

「奥沢さんも苦労しますね……」

 

「ありがとうございます……? いない……はぁ、待ち伏せして回収しますか」

 

 

 




 この作品の更新は完全に気まぐれです。ペースなんて言葉はこの作品には当てはまりません。


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ハイチュウ事件

 低クオリティな内容になってしまった。もっと頭を空っぽにできたらよかったんですけどね。


 

 好きなお菓子といえば何を思い浮かべるだろうか。小学生の時は駄菓子が好きな人多かった気がする。遠足の時とか1000円以内で駄菓子を大量購入とかしたよね。スタンプみたいなお菓子とか流行ったね。ベロが違う色になるやつ。青とか緑とか。酸っぱいやつも流行った。風船ガムなんて定番。

 女子だったらマカロンだのケーキだの。高学年あたりからオシャンティーなやつを好きになる。バレンタインでチョコレートを自作とかする子がいたね。女子力高いや。姉ちゃんも作れるらしいけど。この前はゲームのキャラを型どったチョコレート作ってた。パティシエにでもなればいい。

 年齢が上がるにつれて好みも大人っぽくなる。ならない人はならない。俺は甘党だ。甘いの大好き。だけども虫歯にはならない。徹底的に対策を取っている。……嘘です。ちっちゃい頃は姉ちゃんと母さんに体を拘束されて強制歯磨きさせられてました。今思えばあれは天国だ。今やられたらいろいろとマズイけどね。主に母さんからの侮蔑の視線がやばい。だけど姉ちゃんを止めてくれない。むしろバックアップしてる。

 それはともかくとして、俺が今でも愛してやまないお菓子がある。スイーツなんて無駄に横文字使って表す洒落たものじゃない。小学生の時から大好きな駄菓子。

 

 ──ハイチュウ(至高の一品)である

 

 あの独特の柔らかさ。数種類に分かれるあの味。噛む前から風味があり、噛んだら風味が口の中で広がる最高のひと品。それがハイチュウである。イチゴ味とグレープ味が好きだね。

 

 

「そのハイチュウを食べたのは誰だ!!」

 

「うるさいわね〜。私は食べてないわよ。子供用駄菓子なんて」

 

「貴様はそれでも人間か!? ハイチュウに謝れ! ハイチュウ様に謝り倒せ!!」

 

「意味分かんないわよ……。少なくとも食べたのは私じゃないから、あんたはリビング(ここ)から……出ていけーー!!」

 

「ぎゃあぁ!!」

 

 

 おのれ母上! 息子をタックルでリビングから追い出すとは! これは父さんに言いつけてやろう。楽しそうで何よりとしか言わない父さんに。……あれ? 言っても意味なくね!? 父さんって母さんの尻に敷かれてたな!

 ナンテコッタイ。家庭内ヒエラルキーの頂点は母さんだったというのかい。第二位が姉ちゃん? でも姉ちゃんってわりと母さんに強気だよな……。

 

 

「姉ちゃんなら母さんに勝てる?」

 

「蓮くんどうしたの?」

 

「あ、姉ちゃん。ちょうどよかった。今母さんとハイチュウ事件の最中なんだけど、話にならないから姉ちゃんの方から……何食ってんの?」

 

「ん? 蓮くんのハイチュウだよ?」

 

「……What!? Why!?」

 

「疑問詞を二つ縦並べに使われても……」

 

 

 バカで悪かったな!! 英語なんてさっぱりなんだよ! それと混乱してるってことを理解してほしいね! 俺は日本人なんだからさ! 落ち着いてたら日本語で喋ってるよ!

 それより姉ちゃん。さっきからハイチュウの食べ方がすんごいエロいんだけど。ハイチュウってそんな艶かしく食べるお菓子じゃなかったと思うんだよね。ほんとにどうかしてるとしか言いようがないよ。

 

 

「蓮くんのハイチュウ……んっ、美味しい、ね?」

 

「普通のハイチュウだよね!? ハイチュウを隠語みたいに使うのやめてくれないかな!! 俺が一番好きな駄菓子だと知っててやるのは流石に姉ちゃん相手でもたちが悪いって言わざるを得ないよ!」

 

「蓮くんも欲しいの? 仕方ないね」

 

「も・と・も・と・俺のだから!!」

 

 

 なんで勝手に食べるんだよ! 俺はちゃんとハイチュウに名前を書いておいたんだぞ? それを勝手に食べるっていったいどういう了見なんだよ……。そんなことするなら、俺だって姉ちゃんが隠しているであろう何かを見つけ出すぞ!

 

 

「お姉ちゃんが隠してるの気になる? 机の引き出しの中にある仕掛けを解いたら、その中に電「馬鹿じゃないの!?」マッサージ器があるよ?」

 

「俺が割って入った意味!!」

 

「あこちゃんとネットサーフィンして、一緒に買おって話になったの。今度使い方教えることになってるよ」

 

「あんたホンットに親友をどうする気だよ!!」

 

 

 もうやだ……この姉どうにかしたい……。紗夜さんマジで助けて……。それか友希那さん助けて。接点ないけど、どうにかしてくれそうなのあの二人ぐらいだし……。リサさんは分かんない。ダークホースかもしれない。

 だから姉ちゃん。ハイチュウをそんなエロティックな食べ方しないで。「口の中真っ白だよ」じゃねぇんだよ! どこのAVだ!

 

 

「俺のハイチュウを返せ!!」

 

「乱暴は……だめぇ……」

 

「ハイチュウを取り返したいだけなんだけどな! わざとエロく言わないで!」

 

 

 わざと艶かしくされたらホントによろしくない。ある程度慣れてる俺でもそうなのだから、そのへんの野郎はイチコロだよ。恐ろしいよ姉ちゃん。そしていきなり三日月みたいに口を歪めて、ニコニコし始めた姉ちゃんは本当に怖い。お化け屋敷以上に怖い。テレビでやる怖い話とかホラー映画よりも怖い!

 

 

「ハイチュウが好きな蓮くんに」

 

「ひっ! どこからそんな力出てるの!? 姉ちゃん離して!」

 

 

 俺が抵抗すると、姉ちゃんは俺の両手首をそれぞれ強く握りしめた。あまりの痛さに顔を歪め、体を動かせなくなる。その間に俺は姉ちゃんに口づけされて、口移しでハイチュウを強引に食べさせられる。

 

 

『はぁ〜い。君の好きなお姉ちゃんのおかげでオトナになったハイチュウだよ♡ 私を味わってね!』

 

 ──吐き気しかしねぇ!!

 

 

 なんだよ今のは! ハイチュウの擬人化だとでも言うのか! だったら出直してきてほしいね! 魅力なんて欠片もなかった。あれが成長したハイチュウだと言うのなら、俺は成長していないハイチュウの方が好みだ。

 

 

『ロ・リ・コ・ン!』

 

 ──うるせぇな! ハイチュウ相手にロリコンもクソもあるか!!

 

「蓮くん、美味しかった?」

 

「味なんてわかんねぇわ!」

 

「それってつまり味が分からなくなるほどお姉ちゃんの口移しが良かったってことだよね?」

 

「脳内ハッピーが過ぎませんかねぇ!! 頼むから病院行ってきてください! 受診料払いますから!!」

 

「蓮くん以外の人に体を調べられるのはちょっと……」

 

「診察の話しかしてないよな!? 違う意味が込められてるようにしか思えないんだけど!?」

 

 

 決めたよ。俺、次のRoseliaの練習が休みの日。姉ちゃんを病院に連れて行くんだ……。紗夜さんにサポートしてもらお。連絡先交換できてるし。助けてくれるって言ってたし……。

 

 

「産婦人科にはまだ早いよ?」

 

「まだも何もねぇよ! 可能性なんてゼロだわ! 行くのは精神科と脳内科!」

 

 

 美咲にも助けてもらおうかな……。あんまり姉ちゃんと絡ませたくないけど……。



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美咲と秘密の部屋

 短いけど前後編にします


 

 困った事になった。あたしは大いに困っている。でも目の前のバカ()は全然そんなことなさそう。絶対この状況を楽しんでる。そのメンタルの強さというか、馬鹿さ加減を少しわけてほしい。

 軽い現実逃避をしながら今の状況を確認する。

 

 ・密閉された謎の部屋

 ・開閉の自由は外側だけ(中からは開けられない)

 ・軽い飲食物が入ってる冷蔵庫

 ・天井近くに張り付けられたモニター

 ・キングサイズのベッド

 ・あたしの好きな笑顔をして吐息がかかるほど近くにいる蓮

 

 

 ど・う・し・て・こ・う・な・っ・た!!

 

 

〜〜〜〜〜

 

 あたしと蓮は頻度の少ないデートをしていた。蓮が熱血バカでテニスを優先する人間だし、あたしもそれを受け入れていた。あたしだってハロハピの活動と部活とあってなかなか予定を作れないからね。そこはお互い様ってことで気にしてない。

 でも、付き合ってるわけだし、あたしは心から蓮が好きだからデートだってしたくなる。いろんな顔を見せてくれるし、その中でもあたしといる時にしか見せてくれない笑顔もある。

 あたしだけ(・・)が知ってる彼氏()の顔。特別なんだって思えて心がキュンって締め付けられる。恋するまではそんなのガラじゃない、なんて思っていたけど、自分の心って分からないものだね。

 

 

「美咲! 次はあっこ行こうぜ!」

 

「あっこって……は!? あんたバカじゃないの!? あれは男が行くところじゃないでしょ!」

 

「え!? 姉ちゃんとは行くぜ!?」

 

「あんたらのそれを基準にしないでよ! てか男のあんたがああいうお店(ランジェリー店)に行こうとするの犯罪臭しかないからね!?」

 

「えぇ……美咲のを選ぼうかと思ったのに……」

 

「なっ……! 余計なお世話だから!」

 

 

 ──選んでもらったら蓮の好みが分かる

 なんてことを一瞬でも考えてしまった自分を心の中で責めまくる。あたしはいつからこんなに脳内お花畑になってしまったんだろうか。まさか影響を受けてるってこと? 気づいた今すぐにでも軌道修正しなきゃ。

 本気で残念がる蓮の腕を両腕で掴んで他の店に行こうと催促する。あたし達の共通点といえばやっぱりテニス。つい先日グリップの損耗がって話をしていたし、せっかくだから一緒に見に行くのもいいかもしれない。何かお揃いのも欲しいし。……グリップは手に馴染むものじゃないとやってられないけど。

 

 

「スポーツ用品店行こうよ。グリップがって言ってたでしょ?」

 

「そうだった! ありがとう美咲、忘れてたわ!」

 

「そこ忘れちゃ駄目でしょ!」

 

 

 テニスバカのくせにそこを忘れちゃうってどうなのさ……。蓮はラケットを3本所持してるから、1本使えなくても問題ないだろうけども。たしか新しいグリップが必要になってたのは、一番愛用してたやつのはずじゃ……。

 予想以上の馬鹿さ加減に呆れてると、腕がグイグイ引かれてることに気づいた。犯人は勿論目を輝かせてる蓮。一秒でも早く見に行きたいらしい。蓮なら腕を引っ張ってあたしを強制連行もできただろうに。

 

 

「ん? そんなことしたら美咲がしんどいだろ? 俺は美咲を傷つけたくないの!」

 

「ん"っ! ……あ、ありがと……」

 

「? どういたしまして?」

 

 

 ズルい。本当にそのギャップがズルい。

 顔を逸らして赤くなってるのを隠す。蓮はこういう時気にしない性格だから、あたしがこうしてても手を引いて前へと歩く。歩幅は合わせてくれてる。付き合い始めた時はバラバラだったけど、すぐに蓮の方が合わせてくれた。

 

 

「えーっと俺が使ってるやつは……どこだ!?」

 

「目の前にあるでしょ……はい」

 

「お、ありがと! それにしてもなんで美咲は俺が使ってるグリップ知ってるんだ? 話したことなかったと思うんだが」

 

「へ!? いや、それは……そ、そう! たまたま知ってるやつだったからさ! 先輩が使ってるのと一緒だったし、これだろうなーって。それだけだから!」

 

「先輩……あー、あの人か。たしかに一緒だったな。なるほどなるほど。美咲っていろんな人の細かいとこまで見てるんだな〜」

 

「ま、まぁね。そんなわけないじゃんバカ

 

 

 そんな大勢の細かいところまで見てるわけがない。そこを説明するのも気恥ずかしいからしないけど、この鈍感はなかなかのレベルだね。そもそも本当に蓮があたしを好きなのかは怪しいんだけど。

 だって蓮の中で一番の女性は一切変わることなく燐子先輩のままなんだから。

 

 あたしは気づくべきだった。

 このお店に、あたし達しかいない(他のお客さんがいない)ことに。

 

 

「あれ? なんか転がってき……何このガス!?」

 

「吸引性昏倒ガスだと!?」

 

「なんでわか……る……の……」

 

 

 ツッコミを言い切る前にあたしの意識が途切れた。最後に見えたのは、よろけながらも倒れるあたしを支えようと手を伸ばす蓮の姿。

 

 

 

「んっ……う…………は?」

 

 

 目が覚めて視界いっぱいに飛び込んできたのは、あたしの彼氏の寝顔。少し顔を近づけるだけで唇を奪えちゃうような距離。

 同い年とは思えないようなあどけない寝顔。純粋さを微塵も捨ててないからなのかな。不覚にも可愛いと思ってしまう。1回だけ蓮が家に泊まりきたけど、その時は先に蓮が起きてたから、あたしは蓮の寝顔を見るのが初めて。

 

 

『美咲の寝顔可愛かったぞ。あと握りグセあるのな。今もほら、手を離してくれないし』

 

 

 その時に言われたことをふと思い出す。たしか顔を真っ赤にして枕を叩きつけたんだっけ。思い出してる今でも羞恥心がある。

 そしてそれを助長させたのは自分自身。視線を動かしたら、今も蓮の手をあたしの方が握ってるのが見えた。

 急いで離そうとして離せなかった。目の前で寝てる蓮があまりにも気持ちよさそうに寝てるから。あたしももう一度寝ようかな、なんて思っちゃう。

 

 

「もう少しだけ……ってダメダメ!! ここあたしの部屋でもないし蓮の部屋でもないじゃん!! ここどこ!?」

 

 

 蓮を叩き起こしたところで部屋に第三者の声が響いてきた。肉声じゃない。姿もどこにもない。スピーカー越しに聞こえてくる声。それに聞き覚えがあったし、突然ついた部屋のモニターに映ってる顔で確信した。

 

 

『おはよう! 美咲、蓮!』

 

「おはよう、じゃないでしょ! 何を考えてこんなことしたの! こころ(・・・)!」

 

「相変わらずぶっとんでる〜!」

 

「蓮は楽しまない!」

 

『ふふっ、美咲を笑顔にしたいだけよ? そのためにここを用意したの!』

 

「何言って……」

 

『脱出方法は一つだけ! 二人の愛が本物だと証明することよ!』

 

「……は?」

 

 

 

 




 感想やらなんやらテキトウにもらえたら喜んだりします


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脱出ゲーム

前回の続きです


 

 

 ちょっと待ってちょっと待って!

 なに!? こころはいったい何言ってるの!?

 

 『本当の愛を証明』って……、いや、でもさすがにそれはモニターで見られてるときには、てかなんでさっきから蓮はサンバリズム刻んでるの!

 

 

「ちょっ、あんたなんでそんなに盛り上がってるの!?」

 

「ん? だってこれって脱出ゲームだろ? ゲームは楽しまないとな!」

 

「今すぐ病院行ってきなさいよ!!」

 

「閉じ込められてるから無理!」

 

「そうだったぁぁ!!」

 

 

 ああくそっ! 頭が混乱してるせいで思考をまとめられない! 

 

 

『私はいくらでも待てるから、心の準備ができたら証明してちょうだい』

 

「あんたA(アダルト)V(ビデオ)感覚で眺める気でしょ!?」

 

『AVは心がぴょんぴょんするわよね!!』

 

 

 まさかこころがここまで頭ハッピーサンだったなんて……。いや、たしかにこころの思考を読めたことなんてないんだけどさ。いっつも振り回されてるけどね。蓮相手なら対応できるんだけど。

 その蓮が今度はバク宙しだしてるし。なんなのあいつ。なんであんなにテンション高いの!? もしかしなくても頭が今お猿さんになってるんじゃないの!

 

 

「美咲!」

 

「はい! ってなによ急に改まって。対処法でも思いついたの?」

 

「対処法も何も脱出方法は一つだけだろ? 俺はいつでもいいから美咲を待ってるだけなんだが……」

 

「は……はぁっ!? あんたホントに脳内おかしくなってんじゃないの!? こころがモニター越しに見てるんだよ!?」

 

「え、どこに問題が(・・・・・・)?」

 

「なっ……!」

 

 

 こ、こいつ……、まさかここまでバカだったなんて思ってなかったわ。でも、冷静になってみたら当然なことよね。こいつはいつだって頭の中で燐子先輩が一番なんだから。あたしは彼女でも一番じゃない。

 ベッドのスプリングを利用してトランポリンみたく飛び跳ねだした蓮の足を手で引っ掛ける。体勢を崩した蓮がベッドにキス。あたしはそれを冷めた目で眺めてる。

 

 

「どったの美咲? 心の準備はできた?」

 

「……できたよ。……好きにしたらいいじゃん」

 

「んー? なんの話?」

 

「だから! あんたがあたしを好きにしたらいいじゃんってこと! それで"証明"ってやつができるんなら、さっさと済ませて出よ!」

 

 

 恥も何もない。だってもうどうでもよくなってきたんだから。バカさ加減にもう冷めてきてる。辟易してる。ベッドに体を仰向けに投げ出す。モニター越しに見えるこころがストローを加えてるのが腹立つ。ポカーンとしてる蓮にはもう何も感情を抱かない。

 

 

「ほら、あんたが好きなようにするだけだよ」 

 

「んー? もしかして美咲。勘違い(・・・)してない?」

 

「勘違いって何よ勘違いって。こころが言ったことってつまりそう(・・)いう(・・)こと(・・)でしょ?」

 

「違う。それは間違っているぞ」

 

「は? なんで皇族風?」

 

「そこはノリ。んで、あのな美咲。あのこころ(・・・・・)だぞ? R-18展開を知ってるわけないじゃん」

 

 

 ………………たしかに!!

 

 え、なに。あたしだけ勘違いしてたってこと? こころは初めからそうさせるつもりはなくて、しかも蓮はそれにすぐに気づいてたってこと!? 

 あたし一人が勝手に勘違いして脳内で暴走してあたってたってこと!? うわ何これ超恥ずかしいやつじゃん……。

 

 顔を手で庇ってるあたしの首と背に蓮が手を回してきて、そっと起き上がらされる。手を退けさせられて、真っ赤になってるあたしの顔を見られる。顔を逸らしてもお構いなしにニコニコしてくる。

 

 

「さてさて問題です。こころが言ってる証明の仕方とはなんでしょう?」

 

「……わかんないよ」 

 

「ほんとに? わりと簡単なことなんだけど」

 

「わかんないよ。こころの考えてることなんていつもわかんないんだから」

 

「ふむ。仕方ないね。ヒントは呼び方(・・・)

 

 

 呼び方? 呼び方なんて、あたしはいつも蓮のことを……ぁ、そういうことか。あたしは心の中では蓮って呼んでるけど、口では蓮って呼んでないんだから。蓮はあたしのことを付き合い始めてからずっと蓮って呼んでくれてるのに。

 

 

「ね、美咲。俺は別に呼ばれ方を気にしてないけどさ。今回のこれはそうしないと出られないわけだし、これを機に名前で呼ぶようにしてくれないかな。

 ──名前を呼んで」

 

「あんたが言ったら台無しになるやつ」 

 

「ひっでぇ!」

 

「あはは、冗談だよ。半分はね。……でも、うん。そうだね。……そろそろそうしないとね」 

 

 

 恥ずかしくなって逸らしてた視線を戻す。目の前にはこの状況を楽しんでニヤニヤしてるバカの顔。

 視線を戻してみて気づいた。あたし達今距離が近すぎるじゃん。めっちゃくちゃ近いんだけど。お互いの吐息がかかるし。

 いざ呼ぼうと思うと胸がキュッて締め付けられる。心臓がドキドキしちゃって頭に響く。

 

 

れ、れん……

 

「うん」

 

『美咲ー! 何言ってるか聞こえないわー!』

 

「は、はぁ!? あ、あんたに聞こえてなくてもいいでしょ!」

 

『これだと判定出せないわ〜。こころちゃん辛いっすわ〜』

 

「あんたホントにこころ!? 中身おっさんじゃないわよね!?」

 

『そんな怪盗さんみたいなことできないわよ、Girl』

 

「うざい! ただただうざい!」 

 

 

 あたしがこころに噛み付いてると、目の前にいる蓮が目に涙を浮かべながら笑いまくってる。本当は蓮とこころがグルなんじゃないかって思うぐらい、今回の件に関して蓮は余裕だよね!

 

 

「美咲。愛してるよ。姉ちゃんよりも」

 

「ありがとう! あたしも蓮のこと誰よりも好きだよ! って、へぁ!?」

 

『ちゃんと名前で呼べたのね! さ! ここからはキスよ! Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss Kiss!!』

 

「ムードも何もないじゃない!!」

 

「美咲。俺だけを見ろ」

 

「っ!」

 

 

 頬に手を添えられて顔を逸らせなくなる。真っ直ぐとあたしの瞳を覗き込んでくる蓮に心が囚われる。あたしは自然と瞳を閉じて唇を近づけていく。

 

 あたしの唇に蓮の唇が重ねられる。

 

 蓮の気持ちがドンドンあたしの()に注ぎ込まれる──

 

 

 

 

 

「蓮くん! お姉ちゃんはこんな展開認めないからね!!」

 

 

 ──なんてことにはならなかった。

 あたしと蓮がキスする寸前に唯一の出入り口の扉が破壊されて。土煙の中からメリケンサックを装備した燐子先輩が飛び出してくる。

 

 

「姉ちゃん!?」

 

「さっきお姉ちゃんより美咲ちゃんの方が好きって聞こえたんだけど!!」

 

「なんで聞こえてるんだよ!」

 

「蓮くんのパンツに盗聴器仕掛けてるからね!!」

 

「どこに仕掛けてんだよ!! ってかそれか! それで俺の部屋の暗証番号が分かってるのか!」

 

「全部で31個仕掛けてるからね! 和暦に合わせたよ!」

 

「無駄に芸が細かいなぁおい!!」

 

 

 え、何この展開。何もついていけないんだけど。なんかすんごい変な会話が飛び交ってるような。あと警察を呼ぶような内容もあった気が……。

 

 

『燐子の厄介さ(強さ)は想定以上ね』

 

「強さって何!? あの人相手に使うワードじゃなくない!? たしかに蓮絡みだとおかしいけどさ!」

 

『あーあー、しっちゃかめっちゃかだよ〜』

 

「だからあんたホントにこころ!?」




 
 さらば平成


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それ以外の解釈がないって時あるよね

 だらけました


 

 皆様夏休みをいかがお過ごしでしょうか。僕は特に変化なく炎天下の中テニスをしています。と、見せかけて水風船を投げ合って遊んでいます。熱中症とかなったら洒落にならないので。それにテニス自体は早朝の涼しい時間にやって、熱くなってから水風船大会なんですよ。楽しく体力作りですね。

 それはさておき、久々のオフの日に家で寛いでいたんだが、それがいつもの如く妨害されました。そこまでは予想通りだった。リビングに呼び出されるまでは。予想外だったのは、姉ちゃんが纏う雰囲気がやたらと重たいこと。こんなに重たいのは、昔にピアノのコンクールで失敗した時以来だろうか。

 

 なんにしても、黙っているままでは時間を無駄に浪費するだけ。強く迫るわけにもいかないから、軽く言葉を投げかけるとしよう。

 

 

「姉ちゃんどうしたの? NFOのデータでも吹っ飛んだの?」

 

「ううん。……そんな、小事とは比べ物にならないことをね……しちゃってたの」

 

「えーっと、じゃあ俺の部屋に監視カメラ仕掛けてたことを話す気になったのか?」

 

「そんなプリント一枚無駄に使っちゃったくらいなことでもなくてね?」

 

「俺のプライバシーはプリント一枚程度か!?」

 

 

 なんかトンデモナイことを言われたけど、それは今だけは置いといていい。後で詰め寄るけども、今は流すしかない。俺のことよりも姉ちゃんのことだ。少しは顔色が良くなったけど、相変わらず重たい感じ。姉ちゃんの言葉を待つとしよう。

 

 

「あのね……実は、お姉ちゃん

 

 

 

 ──留年してたの」

 

 

「うん?」

 

 

 ふむふむ、ほうほう。留年とな。留年というと、同じ学年を二度するという留年だよね。他国に学びに行くのが留学で、姉ちゃんが今言ったのは留年と。

 さて、俺はなんて声をかけたらいいのだろうか。怒ればいいのか、それとも慰めの言葉でもかけたらいいのだろうか。……たぶんそれは違う。どっちも違うんだ。見てわかる通り、姉ちゃんはめちゃくちゃ反省してる。そんな人にわざわざ怒る理由なんてない。だって何が駄目だったのか分かってるんだから。そして、同情して慰めるとか、傷口に塩を塗るようなもの。追い打ちに過ぎない。

 

 だから、俺は自然と浮かんできた言葉をそのままに言ってやればいいんだ。格好なんてつけずに、俺なりの言葉を。

 

 そう、たった一言。四文字だけを。

 

 

 

 

「知ってた!」

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 なんで知ってるのと言わんばかりに、姉ちゃんがキョトンとしてる。どうやら演技ではなく、本当に理由が分からないらしい。

 

 

「えっと……実は25人(・・)留年してたってことは……」

 

「それも知ってるわい! ポピパ、アフロ、パスパレ、Roselia、ハロハピの25人でしょ? 気づかないわけがないわ!」

 

「ど、どうやって気づいたの?」

 

「どうもこうもないわ! だって季節が2周してるのに全員学年変わってなかったんだぞ!? 留年以外の理由が思いつかねぇわ!」

 

 

 花女と羽丘が、実は四年制なんじゃないかと窺ったこともあったけど、それにしても学年の数字が変わらないのはおかしい。調べてみてもやっぱり三年制。それなのに変わらない学年の数字。これはもう確定でしょ。

 

 

「で? なんで留年なんてしたわけ? 姉ちゃんって別に勉強苦手とかじゃないでしょ?」

 

「そうなんだけど……バンド活動と衣装研究とゲームに夢中になってたら二年経ってたんだ」

 

「言い訳にならねぇよ!?」

 

「ちなみに、みんなの言い分も聞いてきたから、それはVを見てね」

 

「楽しんでんじゃねぇか!!」

 

「再生するね」

 

 

 さっきまでの重たい雰囲気はどこへやら。姉ちゃんはウキウキしながらリモコンを操作して映像を再生させた。ちゃっかりバンド毎にチャプターできてるし、編集とかも楽しんでたな?

 

 

私達には音楽だけがあればいいのよ。勉学なんて小事だわ

 

「誰!? 顔全体にモザイクかかってるわ声が加工されてるわで分かんないんですけど!?」

 

「友希那さんだよ? ほら」

 

 

 姉ちゃんが指を差すと同時に画面にテロップが出てくる。そこにはたしかに湊友希那の文字が。

 

 

「テロップないと分かんないわ! なんでこの人こんな事になってるの!?」

 

「Roseliaの絆を深めるためにクイズ大会をしたら、私達のライブの様子とポピパさんのライブの様子を写した写真を間違えたの。それで罰ゲームが必要だって話になって、加工することにしたの」

 

「初めからこれ作る気だったでしょ!?」

 

 

 姉ちゃんにツッコミを入れている間に、友希那さんからリサさんに代わった。友希那さんとは違って、モザイクがかかってないからひと目で分かったよ。相変わらずギャルっぽい乙女だよね。

 

 

『いや〜、友希那が一人なのって心配じゃん? だから一緒にいられるようにしたらいいかなーって』

 

「過保護通り越してますけど!? そこまでいくと怖いわ!」

 

『日菜との関係を改善させようとしていたら、二年かかっていました。体感的には一年だったのですけど』

 

「ここでポンコツ発揮する!? ポンコツすぎるぞ風紀委員!」

 

『中学3年生を2回できるのって新鮮だよね! 修学旅行も2回行けちゃったもん!』

 

「そんな馬鹿な話があるか!!」

 

 

 中学の修学旅行なんぞ一回しかいけねぇよ! 義務教育だぞ!? 浪人生になるのが当たり前だろ!? エスカレーター方式でも、普通は留年したら同じ系列の高校には行けないはずだろ!

 てか、あこはちゃんと2年経過してること自覚してたんじゃん……。

 

 

「あこちゃん可愛いよね〜」

 

「そうっすね」

 

 

 うっとりしてる姉ちゃんを適当に流す。Roseliaの次はポピパみたいで、戸山さんが……。

 

 

「なんで目の部分だけモザイクかけてんだよ!!」

 

「ドラマ性出るよね!」

 

「理由なしかよ!」

 

『高校生活ってキラキラドキドキしてるな〜って思ってたら、同じ学年2回してました〜! どうりで見たことある問題だな〜とか思ったんですよね! 解けませんでしたけど!!』

 

「バカなだけじゃねぇか! なんでドヤ顔してんだよ!」

 

 

 戸山さんへのツッコミしんどい。市ヶ谷さんっていつも大変な思いしてるんだなー。……そういえば美咲も市ヶ谷さんに親近感抱いてるとか言ってたな。バカの相手は疲れるとかなんとか。俺の顔を呆れた様子で見ながらだったけど。

 その件の市ヶ谷さんが映る。場所は普通の教室でもない。生徒会に入ったとか言ってたし、生徒会室なのかな。…………留年した人が生徒会に。姉ちゃんも生徒会長だし、花女は大丈夫なのだろうか。

 

 

『や、やるからには完璧にしたいっていうか。中途半端な習熟度で学年を上げたくなかったというか……』

 

『市ヶ谷さん、本音をお願いします』

 

『か、香澄と違う学年とか、考えられなかったんです……!』

 

『ふぉぉぉ! ごちそうさまですー!』

 

「ツッコミどころが多すぎる!!」

 

 

 建前が完全に欧米方式だし! 本音はただの惚気だし! それを聞き出した姉ちゃんは限界オタクみたいにテンション上がりまくってるし! こんな生徒会でいいのかよマジで!

 

 

『チョココロネになってたら、ですね。手も足も動かせなくて……それでテストを受けられなかったんです』

 

「チョココロネになるって何!? あなたしょっちゅうライブに出てましたよね!? やまぶきベーカリーに毎日通ってるの知ってるからね!?」

 

『みんなと離れ離れになるのが嫌だったので……。もう、仲のいい友達とは離れないって、そう心に決めてますから』

 

「重い!! ただひたすらに重たいですよ山吹さん! ギャグの中にシリアス入れられるとは思ってませんでした!」

 

『ポピパは5人揃ってポピパだから』

 

「うさ耳外して言いやがれ! 内容は山吹さんと変わらないのに! うさ耳つけてるせいでシュールギャグだわ!」

 

 

 くそっ! 姉ちゃんめ、緩急つけてきやがる! テンションの上がり下がりがひたすらにしんどいぞ。

 

 

『……それってつまり、あたしの事を下に見てるってことですか?」

 

「実際留年してたら下だよ美竹さん!」

 

『カロリーをひーちゃんに送ってたら学力まで消えました〜。これが等価交換の原則なんですね〜』

 

「デメリットしかない錬金術ならやめちまえ!」

 

『ダイエットとスイーツで戦争していたら、いつの間にか2年が……』

 

「運動しやがれ巨乳め!」

 

 

 立て続けにツッコミさせられてる意味がわからない。いや、そもそもツッコミをする必要もないんだけど、内容が内容のせいでツッコミをさせられる。ここまで仕込んでるなら全員共犯か! 留年してまでこんなことするとも思えないけど!

 

 

『えっとー、つぐり過ぎてたら進級を忘れちゃいました。てへ』

 

「羽沢さんはかわいいなぁ〜〜! 癒やされるわ〜! けど進級忘れるって何?」

 

『ソイヤソイヤ! ソイヤ? ソイヤソイヤソイヤ!!』

 

「日本語を喋りやがれ!! あとこれこそテロップいるだろ!? なんでつけないんだよ!」

 

「誰も翻訳できなかったから」

 

「アフロは普段どうやって意思疎通してるんですかねー!」

 

 

 ソイヤ姉さん爆誕とはまさにこの事! てか完全に油断させられてたわ! 羽沢さんでワンクッション置いてからのソイヤとか、計算高いなほんとに。

 

 

『勉強についていけなかったんです……はい……』

 

「……丸山さん……本当に馬鹿なだけなんだ……」

 

 

 ツッコミもできねぇよ! ツッコミ殺しをしてこないでくれ!

 

 

『まさか教師陣が手を切ってくるとは……。完全にぬかったわね』

 

「どこに根回ししてるんだよ! それでいいのか芸能人!」

 

『おねーちゃんと一緒に卒業できないとかるんっ♪ てしないでしょ? だから留年したの。教師陣ってホントちょろいよね〜。弱み握ったら簡単だったよ!』

 

「活用法がおかしい! 白鷺さんはそれを失敗して留年してるのに! 日菜さんあなた、成功して留年させるって何!?」

 

「ほら、日菜さんが解けない問題って地図記号だけだから」

 

「おのれ天才め!」

 

 

 天才というかもはや天災。羽丘の教師陣が可愛そう。それはそうと、たしかこの人生徒会長になったよね。それも根回しですかね。

 

 

『機材を弄っていたら、テスト期間が過ぎてたんですよね〜。日菜さんも教えてくれませんでしたし。フヘへ』

 

「フヘへ、じゃないでしょ! 機材弄っていたらってなんだよ! 職人かな!?」

 

『実は……1年生の科目で分からないものがありまして、お恥ずかしながらそれをできるようになってからでないと、学年を上げるべきではないと判断しました。押忍!』

 

「欧米方式を導入しちゃったよ! イヴちゃんだけ本格的に欧米方式やっちゃってるよ! けどここ日本だからね!? 日本の方針に従ってよ!」

 

 

 ハーフであることがここに来て仇となるとか。いや、まぁ、欧米じゃその選択が当たり前らしいし、恥じることじゃないみたいなんだけど。

 

 

『同じ学年を2回できるのよ? それって凄いハッピーなことだと思うの!』

 

「ハッピーなのはお前の頭だこころ!」

 

『答案用紙が私の儚さに酔いしれてしまったようでね。私の手を遠ざけたのさ。あ~、実に儚い!』

 

「解けなかっただけでしょ!?」

 

『うちのコロッケは世界一美味しいよ! 食べに来てね〜!』

 

「ただの宣伝じゃねぇか! 言い訳はしないんだな! 潔いなぁ!」

 

 

 ハロハピの三馬鹿は、正真正銘の馬鹿だった。これはもう紛れもない事実。覆しようがない。

 

 

『え、えっと……迷子になってたら……テストが……』

 

「自分が行く学校ぐらい辿りついてくださいよ!」

 

『あと……蓮くん、あとで覚えててね?』

 

「怖い!!」

 

 

 何する気? え、花音さんあなた俺にいったい何する気なんですかね? 映像終わった時には真後ろにいる、とかいうホラーはやめてほしいんですけど! 

 

 

『……こころに巻き込まれた』

 

「美咲ー! お前は本当にただの被害者だなぁ! テストも問題なく解いてたもんなー!」

 

「そんなわけで、私達は留年していたの」

 

「俺もうツッコむ気力ないわ……。はぁ、姉ちゃんと学年同じになっちゃったとか……。父さんたち卒業式の時大変だな」

 

「そうだね〜。……あ、学年が同じなら双子キャラでいけるね!」 

 

「これ以上属性を増やそうとするな!」

 

 

 

 



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敵の敵は味方とは限らない

 

 白金燐子が所属するRoseliaというバンドは、「頂点」を目標とし日々ハードな練習をこなしている。練習に集中できていなければ注意されるのは当然のこと、場合によっては帰らされることもある。とはいえ、共に過ごしてきた日々が重なるごとにその絆は強まり、今では練習中に誰かが欠けるということはない。

 そうなってきたのだが、この日、燐子は明らかに集中力が欠けていた。安易なミスが度々目立ち、なおかつ本人がその事に気づけないほどに。

 

「白金さん、何かあったのですか?」 

 

 これでは練習にならない、という話になり、早めの休憩を挟む。最も仲のいいあこは、燐子の珍しい姿にかえって話を聞きに行けず、それを見かねた紗夜が代わりに話を聞いてみた。

 

「昨日……蓮くんと一夜を過ごせなかったんです」

「皆さん練習に戻りますよ。この時間すら無駄です」

 

 華麗なターンをして燐子から離れた紗夜がギターに手をかけ、休憩していた他のメンバーも無言で定位置へと戻っていく。唯一あこだけ首を傾げていたが、純粋なあこに余計な知識を吹き込まないのがRoseliaの暗黙のルールである。

 

「ま、待ってください! これは深刻な問題なんです!」

「何が深刻な問題だと言うのですか! 先日何かあったほうが深刻な問題ですよ!」

「そこなんです!」

「……えっとー、燐子落ち着いて順に説明してくれる?」

 

 みんなのお姉ちゃんことリサが間に入る。これならいっそ話を聞いてからのほうが練習時間を確保できるだろう、という判断だ。なんていう建前を用意しているが、本音は別にある。リサの性格が問題を放置できないのだ。世話焼きだから。

 リサが間に入ったことで紗夜も口を閉じ、燐子に視線で話を促す。

 

 

「私の誕生日回が無かったんです!!」

 

「はいみんな練習始めるよ〜。大した問題でもないね〜」

「なんでですか今井さん……!」

「いや。だってアタシら燐子の誕生日会したじゃん?」

 

 そう、Roseliaメンバーで誕生日会は行っているのである。燐子が大好きなゲームNFOのコラボグッズをあこが買い、リサ、紗夜、友希那の三人で誕生日ケーキを作ったのだ。ちなみに友希那はケーキの上にイチゴと蝋燭を刺しただけである。「イチゴの先端を下にすれば刺さるかしら」とか思ってしまったのが末路だ。

 

「それはもちろん……覚えています。……ありがとうございました。すっごく……嬉しかったです」

「どういたしまして〜。で、なんで練習に戻れないわけ?」

「もしかして、ご家族でお祝いされなかったのですか?」

「えっ! そうなのりんりん!?」

 

 あまり考えたくないことを紗夜が口にし、あこが飛び跳ねるほど強く反応する。燐子の下へと走りより、悲しげな瞳で燐子を見つめる。もし本当にそうなのであれば、これは練習どころの話ではない。Roselia会議を開き、白金家へと乗り込まないといけない。

 

「ううん。家でも誕生日祝いをしてもらったよ、あこちゃん」

「練習始めましょー!」

「あこちゃんまで!? うぅ……ひどいよ……」

「燐子の言いたいことがよくわかんなくてさ〜。何が問題なの?」

「誕生日回がなかったことです」

「いや、誕生日会はあったでしょ? アタシらでして、家族でもしたんでしょ?」

「ですから、誕生日会ではなく。誕生日回(・・・・)です」

「「「・・・・」」」

 

 リサ、紗夜、あこは無言で天井を見上げた。

 

(((どうでもいい)))

 

 三人が思考を完全に止めた。それを見て燐子は一人長考に入る。どうすればこの汚名を晴らせるか考えるために。

 その状態が5分ほど続き、一番最初に復帰したのはリサである。

 

「ところで友希那」

「何かしらリサ」

「なんで人のスカートの中を覗いてんの?」

「え、駄目なの?」

「なんでいいと思ってるの!?」

 

 お前は何を言っているんだと顔にはっきり表した友希那に、リサが説教を始める。その声であこと紗夜も復帰し、二人の様子を見て、何も異常はないと判断して二人で練習を始める。

 燐子は未だに長考中。

 友希那は未だに観察中。

 

「だから覗かないの!」

「暇だったのよ」

「そうかもしれないけどさ!」

「ここなら猫がいると思って」

「アタシそんな下着履かないよ!?」

 

 友希那は雷に打たれた。両手を床に付き、混乱した頭のまま記憶を呼び起こしていく。

 

「だって……リサは猫の下着……持ってたのに……」

「それ小3までの話! って、何言わせるの!」

「リサが勝手に言ったんじゃない。それより、それ残ってないの?」

「残ってるわけないでしょ!?」

 

 顔を真っ赤に染め、声量がどんどん大きくなるリサ。さすがに練習の邪魔だと思って注意をしようとした紗夜を、あこが声をかけて止める。

 

「なんですか宇田川さん。あなたも猫の下着の話に加わるとでも言うのですか。ちなみに私は犬のやつなら持ったました」

「いや全部どうでもいいんですけど……。そうじゃなくて、りんりんが消えました」

「は? 白金さんが消えるなんて…………いませんね」

 

 リサと友希那も燐子がいなくなっていることに気づき、四人は顔を見合わせる。先程の流れから考えられる結論は一つであり、全員がそれにたどり着く。四人は静かに合掌した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「ギャァァァアア!! なになに!? なんで姉ちゃんそんな怒ってんの!? てか今日はRoseliaの練習でしょ!?」

「抜け出してきちゃった。てへっ!」

「てへっ、じゃないよ! 湊さんと紗夜さんに怒られても知らないからね!! それと追いかけて来ないで! 部活に戻らせてぇぇ!!」

 

 突如としてテニスコートに襲来した姉ちゃん。その姿を見てうちの部員たちは大興奮してたけど、俺だけはそれを見た瞬間テニスコートから逃げた。本能で理解してる。今日の姉ちゃんはヤバイって。

 

「蓮くん……なんで昨日は私の誕生日だったのに、誕生日回がなかったの?」

「知らないよ! それ俺じゃどうしようもないやつ! それにそれを言うなら美咲だってなかったんだからね!?」

「この怒りはどこにぶつけたらいいの? 校長? 総理大臣? 裁判長? まりなさん?」

「それも知らないってば!!」

 

 さらっとまりなさんが入ってたんですけど! あの人完全に無関係じゃん。他の人もだけど、一番接近しやすいのはまりなさんだよね! まりなさん超逃げて!!

 

「昨日蓮くん部屋に入れてくれなかったよね?」

「いつも入れてないでしょ!」

「誕生日だし、誕生の儀式をするのもいいなって思ったのに」

「そんなのやらなくていいわ! そういうの警戒して部屋に入れないように仕掛けてるんだし!」

「けど今日までならセーフだね!」

「意味わかんねぇよぉ!」

 

 花咲川の校舎内を逃げ回る。いい加減地図も頭に入っていて、逃げ道を間違えることなんてない。姉ちゃんを振り切るためなら、多少無茶なルートでも駆け抜ける。

 それが今回仇となった。

 低木を飛び越えたら、ちょうどそこを通りかかっていた若宮さんに激突。咄嗟のことだったけど、なんとか若宮さんが頭を打たないように手を回すことに成功。

 

「ごめん若宮さん! 怪我ない!?」

 

 声をかけていると、肩にぽんと手を置かれた。振り向けばそこにいるのは当然姉ちゃんで、すんごい楽しそうな笑顔をしてる。

 

「校内で女の子を押し倒すなんて、蓮くんも大胆だね」

「押し倒してな……! ……あれ?」

 

 若宮さんへと向き直る。若宮さんは完全に倒れてる状態。俺の体はその上。わりと顔も近い。クリクリした瞳が可愛いですね。

 じゃなくて!

 これは完全に押し倒してますね! 早くどかなくては!

 

「だ、男性が……」

「ごめん! すぐにどくから!」

「ハグハグー!」

「なんでー!?」

 

 首に手を回されて思いっきり引っ張られる。抗おうとしてもその抵抗は虚しく、完全に若宮さんに抱きつく形に。どこにそんな力があるというんだ!! ところでお体が柔らかいですね。マシュマロみたいです。

 じゃなくて!

 

「姉ちゃん助けて!」

「助けたら今日は一緒に夜を過ごしてくれる?」

「なんて汚い手を!!」

「それが駄目なら──」

「白金さん。久しぶりね」

「っ! わ、鰐部先輩……。どうして……学校に……?」

 

 わーおメガネ美人。というか、あの人が声をかけただけで、姉ちゃんの暴走が止まった。なんか姉ちゃん、萎縮してね? もしかして、あの人には強く出られないとかそんな感じなのかな。

 

「恩師に近況報告よ。海外に行ってるゆりのことも兼ねてね。それより白金さん、久しぶりにお話しましょう?」

「い、いいですね……。私も……相談したいことが……」

 

 姉ちゃんを連れて校舎の中へと消えていくメガネ美人こと鰐部さん。校舎に入る直前にこっちにサムズアップしてた。姉ちゃんを引き剥がしてくれたのか。

 やったね。俺、姉ちゃんを抑えられる運命の人に出会っちゃったよ。

 

「運命の人って何?」

「っ!?」

 

 肩に手を置かれた。声でも分かる。これは美咲さんです。

 

「それに、若宮さんと熱ーぃハグしてるけど、どういうつもり?」

「あ! 美咲さんもいかがですか!」

「遠慮しとく。若宮さんも部活に戻りなよ」

「はっ、そうでした! 斬捨御免!」

「いてっ! どっから竹刀が!?」

「またつまらぬものを、斬ってしまった」

 

 ちくしょう様になりやがる! 魅入っちゃったから文句の一つも言えねぇ!

 

「はぁ。事故なんだろうけど、ああいうのやめてよね」

「……嫉妬?」

「ふんっ!」

「ぐふっ! ……反省してます。それと、俺は美咲以外好きにならないよ」

 

 その後は普通に部活に戻れた。家に帰ったら部屋に鰐部さんから、自撮り写真付きの励ましの手紙が置かれてた。

 

 あの……背景が明らかに俺の部屋なんですけど……。俺の部屋に入るためのパスワード、俺以外知らないはずなんですけど……。



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敗北した作者の遺作(言葉通り)
聖夜に沈め!


 Twitterの方で、「いいねの数だけ歌詞の一部を書いて当てられたらその人の願いを聞く」ってやつがありましてね。それで書けって言われたので今回だけ書きました。例外中の例外です。
 もうあんなんやらね。また書けって言われるから。


「蓮くん次あのお店行こうか」

 

「ほい」

 

「クリスマスのイルミネーションとか飾りつけしてて、どこも綺麗だね」

 

「姉ちゃんほどじゃないんだけどな」

 

「お姉ちゃんは光ってないよ?」

 

「そりゃそうでしょうね! むしろ光ってたら人じゃねぇわ!」

 

「あ、けどベッドの上だと蓮くんが下だから光って見えるのかな」

 

「公衆の面前で何てこと言ってんの!? 頼むからそういう話はやめてくれないかな!!」

 

 

 白金姉弟はただいまショッピングモールに来ております。姉ちゃんはRoseliaのメンバーとクリスマスを過ごすらしいんだけど、今井さんって彼氏いるんじゃなかったっけ。強制連行? あの人ってそんなことされる人だったっけ。あー、湊さんと氷川さんとの三人がかりね。そりゃあ逃げ場ないか。いや、大人しく付いていくというパターンも考えられるか。……にしてもよくカズの奴が容認したな。どういうやり取りがあったのやら。

 

 それはいいとして、夜はRoseliaメンバーでクリスマスパーティするらしい。それで、姉ちゃんはあこと湊さんと飾り付け担当らしいんだけど、どういうのを用意するかは姉ちゃんに一任されてるんだとか。まぁ衣装担当でいっつも神々しい衣装を作ってるから、その人選は正しいな。で、俺は荷物持ちってわけだ。

 

 

「蓮くんとのデートも兼ねてるんだよ?」

 

「心を読まないでってば! それと姉弟で出かけるのはデートと言いません!」

 

「男女で出かけたらデートだよ? 人類普遍の法則だよ?」

 

「こんなとこでそんな法則出てくんの!?」

 

「蓮くんは今日奥沢さんとデートだったよね」

 

「スルーですか!? ……まぁそうなんだけど、それがどうしたの?」

 

「蓮くんリードできるの?」

 

「……」

 

 

 痛いところを突かれた!!

 

 そうだとも! リードなんてできませんよ!! 付き合い始めてからなんだかんだでデートなんてしてないからな! 

 

 部活が大変だったんだよ。1回戦に勝って焼き肉に行ったんだけど、その時に全国取れば最高級の焼き肉店に行けるって話になったんだよ。そりゃあ全員食いついたさ。元々ポテンシャルの高いメンバーだから、本気で練習に取り組んで、試合が終わるまで集中力を切らさなかった。さすがに全国壁は甘くなくて準優勝に終わったんだけどな。

 まさか先生達も準優勝するとは思ってなかったらしく、ランクがだいぶ下がったけども焼き肉を奢ってくれた。そして全国が終わったら新人戦だ。新人戦で優勝すれば最高級焼き肉店。今度こそ取るしかない。

 

 燃えに燃えた部員のテンションがオーバーヒート。試合を勝ち進むごとに殺人ショット。ボールが敵の急所にクリティカルヒット。敵は悶絶してフィールドからアウト。そんな優勝の仕方でしたけどなにか?

 

 まぁそれは置いとくして、そんなテンションでいたし、俺達が異常な勝ち進み方をしたから学校のテニスコートも使える時間が増えた。美咲と顔を合わせる機会が必然的に減ったわけで、今の今までデートできてない。勉強しないと点取れないから、テスト前もテスト中も会う余裕がなかった。

 

 

「初デートがクリスマスデートなのに、リードできないのはどうかと思うよ」

 

「仰るとおりですね」

 

「だからお姉ちゃんで練習したらいいよ。時間には余裕があるし」

 

「姉ちゃん……」

 

「昼からでもホテルは使えるからね」

 

「台無しだよコンチクショー!! 姉ちゃんへの尊敬の念を返せ!!」

 

 

 練習ってデートの練習じゃないのかよ! しかもヤる練習ってなんだよ! 美咲で童貞卒業したわ! 練習なんていらねぇわ!!

 

 

「夜は長いんだよ? 体力の配分間違えたら保たないよ?」

 

「当日の昼からその練習してたらどのみち保たないよ!」

 

「けど、奥沢さんからのお姉ちゃんっていう連チャンをした日は頑張ってたよね。お姉ちゃんあんなにガッツかれるとは思ってなかった」

 

「逆!! ガッツいてたのは姉ちゃんで俺は姉ちゃんに食われてたわ! って、何てこと言わせんの!?」

 

「あ〜! りんりんとれんれん見つけたー! あこも手伝おって思ったんだけど、手伝ってもいい?」

 

「うん。……もちろんいいよ。……ありがとう……あこちゃん。蓮くん今日は三人かな

 

「買い物手伝ってもらっていいのか? いやー助かるわー! あこの感性があるとカッコイイのに仕上がるからなー!」

 

 

 姉ちゃん! あんた最後にボソっとなんてこと言ってんの!? まさかまだ中学生で、しかも自分の親友まで巻き込もうとしてなかった!? 親友のあの純粋なキラキラした目を見てよ! どう考えてもあの目をしてる子はそういうことに疎いでしょ! 

 

 なんとしても阻止しないといけない! このピュアっピュアな少女を裏切らないためにも! 姉ちゃんのことを笑顔で大親友って言う少女を絶望させないためにも!

 

 

「そういえばさっきホテルがどうのって聞こえたんだけど、なんの話?」

 

「それはね……若い人が、お昼からでも「昼からでもホテルにチェックインできるから荷物置けたりするよなーって話。修学旅行で昼から使えたのがなんでだろうって思ってさ」……そういうことだよ。アリガトウレンクン」

 

「どういたしまして」

 

「あーそういうことかー! 言われてみると、たしかにその方が便利だもんね!」

 

「そうだろー」

 

蓮くん、あこちゃんにも情操教育は必要なんだよ?

 

それはあこのお姉ちゃんの巴さんがやってくれるでしょ! あと姉ちゃんのは情操教育じゃなくて実践だからアウトだわ!

 

「あこちゃん……実践と座学……どっちの方が好き?」

 

「え? それはもちろん実践だよ! 実際にやる方が面白いもん!」

 

「だって……蓮くん」

 

「噛み合ってるようで噛み合ってないんだよなぁ!……ぶへっ!」

 

「あ、ミッシェル」

 

 

 なんでこんなとこにミッシェルがいるんだよ!? 「りんりん!ハロハピがいるよ!」 そういうことか。たしかにハロハピはゲリラライブするからな。どこにいてもおかしくはないか。それよりミッシェルどいてくんねぇかな。首だけ動かしてパンチ避けんのキツイんだわ。

 

 

「アンタ。見ない間に節操なしになったみたいだね」

 

「なってねぇからな!?」

 

「あたしがどんな思いしてたのかも知らずに、のうのうと!」

 

「悪いと思ってるし埋め合わせは今日するだろ!? 今日だけじゃくてこれからも! 冬だから大会も全然ねぇしよ!」

 

 

 キグルミのくせに動き俊敏過ぎだろ! 

 

 ちょまま ちょままま ちょっと待ってちょっと! キグルミパンチ容赦ないの! あ、首疲れてきた……もう無理だ。イタ、イタタタダダダ! キグルミパンチめっちゃ重たいなぁ!? それと北沢さん! 「おもしろそーはぐみもやるー!」 じゃありません!

 

 ハロハピの外面良心こと花音さんが慌ててミッシェルを止めてくれた。なんで外面良心かって? この人なんだかんだで誘惑してくるからだよ。この前なんて迷子になってるとこ助けようとしたらなんでかラブホの中にいたからな。この人の迷子って感染するらしい。しかも思考力も落ちるみたいだ。

 

 これが噂のマツバラビリンスか! 

 

 音葉のやつもこうなるの? 付き合い方見直そうか、それかカズに丸投げするかだな。

 とりあえずその時は速攻で逃げたけど。

 

 

 で、カオスな時間が終わって美咲とのデート……になったんだけど。

 

 

「蓮……電話ぐらいしてくれてもよかったじゃん。こっちからのも出ないし」

 

「それは悪かったと思ってるよ。本当に……」

 

「テニス馬鹿だし、そっちの部のモチベーションが上がってたのは横で見てたから分かってた。だけど時間は作ってほしかった」

 

「うん。……これから作ろうぜ。あのテンションの耐性はついたから、また大会続きの時が来ても、今度は時間作るからさ」

 

「約束。破らないでよ?」

 

「もちろん」

 

 

 絶賛ラブホデート中!

 

 ベッドに寝そべり、俺を見上げている美咲の唇を奪う。空いていた、いや空きすぎた時間を取り返すように、お互いに舌を絡めて求め合う。息が苦しくなったのか叩いて合図してくるも、それを無視する。本気でヤバくなる寸前に離すとお互いの口を繋ぐ橋ができてた。

 眼下には息も絶え絶えになり、体を震わせながら大きく呼吸する美咲。その姿が煽情的で俺はまた美咲を求めた。美咲の意識が曖昧になってる時に服を脱がせ全身を味わう。

 

 姉ちゃんの言うとおり時間は長いからな。俺は恋人と聖夜(性夜)を楽しむとしよう。今までは鼻で笑っていたが、両者ともに家に帰らなくても問題ない数少ない日なのだから。

 

 ちなみに場所は花音さんに連行されたラブホ。しかも同室。だってここぐらいしか知らないし。安いし。

 

 

 

 

 




カズくんは『お姉ちゃんガチ勢の弟ガチ勢のお姉ちゃんの幼馴染ガチ勢のお姉ちゃん』の今井カズくんです。
音葉くんは『マツバラビリンス』の松原音葉くんです。

「ちょっと名前出していい?」って聞いたらOK貰えたので出てもらいました。ご協力ありがとうございます。


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きっかけはこんなもの

 ごめんなさい、ギャグ回ではありません。
 


 

 朝の10時に駅前に集合。それがあたしが馬鹿()と決めたこと。どこに行くのかは決めてないけど、どうせ決めても蓮が相手だと予定通りになるわけがない。気づいたらトラブルに巻き込まれてるというか、首を突っ込んでるというか。それを毎回あたしが追いかけることになるんだけど、どこかこれが楽しいと思えてしまう。きっとあたし達はこういう関係でやっていくのが適してるんだろうなって。

 

 

「グッドモーニングマイハニー!」

 

「もっと発音を練習してよね。それとそんな大声出さないで、恥ずかしいから」

 

「ごめんごめん。それより早いね? まだ10分前だけど」

 

「そういうこともあるよ」

 

 

 朝から元気溌剌な挨拶をしてくる蓮を窘める。本当に同い年の彼氏なのかなってなるけど、これでも同い年の彼氏。眩しい笑顔を弾けさせて、でもこっちの些細なことにもなんだかんだで気を配ってくる彼氏。バカだけど馬鹿じゃない。そんなとこにも愛着が湧くんだけど、これって惚れた弱みなんだろうね。

 

 

「それじゃあさっそく移動しようか」

 

「へ? 行く場所は決めてなくない?」

 

「遊園地行こうぜ! そんな気分なんだよ!」

 

「えぇ……。まぁ、いっか」

 

「ありがとう!」

 

 

 当然のように、そして自然とあたしの手を握って優しく引っ張ってくる。豪快なとこが多いくせに繊細な気遣いをするのセコいよね。ギャップで心がトクンってなるじゃん。

 少し早くなった心音を感じながら軽く手を引っ張り返す。それで蓮は分かってくれて、あたしの隣にいてくれる。言葉で言ってほしいとは言われるけど、言えないことだってある。今回の場合は単純に恥ずかしいから。でも、小さな行動で察してくれるのはホント好き。分かってくれてるんだなって思えるから。

 

 

「ところで遊園地ってどこにあるの?」

 

「がくっ、行きたいって言ったの蓮じゃん……」

 

「ごめんごめん。行きたいけど場所は調べてなくてさ。美咲と合流する寸前に思いついたし」

 

「はぁー。やっぱそういうことだよね。蓮はそういう人だよ」

 

 

 本当に悪いと思っているのかと疑いたくなるような爽やかな笑顔で謝れる。けど、それに不満は抱かない。だって蓮がどういう人なのかは分かってるんだから。蓮は口で軽く言うだけで、心の中で十分すぎるほど反省する。たまに見てられなくなるんだけどね。滅多に試合に負けないけど、負けた時とかヤバイ。なんでそんなにって思うぐらい自分を責める。だから、彼女であり、蓮の側にいられるあたしが支えないといけない。本当は弱い心をしているこの蓮を。きっとそれが隣にいようとする人の役目だから。

 

 

「……美咲、いつもありがとな」

 

「へぇっ!? ど、どうしたのいきなり!? 熱でもあるの!?」

 

「ないない。ないからその柔らかくてヒンヤリしてる手をデコからどけてー」

 

「ぁ……。うん」

 

 

 蓮が平常運転なのを確認して手をどける。触ってみた感じ熱もなかったし、とりあえず熱があるってわけじゃなさそう。それならなんで蓮はいきなりこんなことを言ってきたんだろ。

 

 

「美咲をいつも振り回しちゃってるだろ? それでもいてくれてありがとう」

 

「……馬鹿。好きでそうしてるだけだから」

 

「ははっ、嬉しいね〜」

 

 

 バカのくせにこうやって言ってくる。ほんっとにズルいんだから。でも、それでもそこが魅力の一つ。本当の馬鹿ならあたしはきっと蓮を好きにならなかった。蓮がやってくれたことがきっかけ。あの時のことがあたしにとって大切な出来事。蓮はどう思ってるのかは知らないけどさ。

 

 

『あ、ミッシェルだー!』

 

『へ? あたしはミッシェルじゃないよ? (中の人ではあるけど)』

 

 

 たしかクラスメイトの子の妹さん。ミッシェルが大好きなんだとか。だけどあたしは今はミッシェルじゃない。着ぐるみに身を包んでないから。今のあたしはミッシェルじゃなくて奥沢美咲。

 

 

『何言ってるの奥沢さん。奥沢さんがミッシェルの着ぐるみしてるんでしょ? 

それなら──奥沢さんはミッシェルじゃない(どこにも間違いなんてないでしょ)?』

 

『……ぇ……?』

 

 

  ──だから、一緒にいたクラスメイトの子が言った何気ない一言が深く胸に刺さった。

 

 ──無自覚の暴力。どう対処したらいいっていうの……

 

 いつもなら気にしないで済むのに、何故かは分からないけどこの時はこのたった一言だけでグッサリと深く突き刺された。

 この人は悪気があって言ってるわけじゃない。妹さんの小さな夢を壊させたくなかったんだ。あたしがミッシェルというのも、間違いとは言い切れないとこもあるわけだし。でも、それが分かっていても心に刺さってしまったのも事実。だけど、あたしはこの空気を壊せなくて、乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。そうしてやり過ごすしかなくて、そうしようと実行に移した。

 

 

『ちょい待ち!!』

 

 

 そんな時だった。蓮が乱入してきたのは。この時はそこまでお互いの認識はなくて、お互いテニス部って程度にしか思ってなかった。そんな蓮が間に入ってきた。これにはあたしを含めて三人とも唖然としたね。 

 蓮は、普段のふざけた様子がなくて、むしろどこか怒ってそうな雰囲気であたしとクラスメイトの間に立った。そのせいでさらに混乱する。

 

 だけど

 

 蓮が言った言葉にあたしは頭を殴られた感覚がした。

 

 

『こいつはミッシェルじゃねぇだろ! どっからどう見ても──

 ──奥沢美咲という一人の女の子なんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)!! たとえ奥沢がバイトでミッシェルやってようと、そんなの一切関係ない! 奥沢が何しようと、ここにいる一人の女の子が奥沢美咲だという事実は変わらねぇ! それを周りがとやかく言っていいはずもねぇ!!』

 

 

 こんなこと、関わりの薄い蓮に言われるなんて思ってなかった。それでもすっごい救われた。あたしをあたしとして(奥沢美咲として)見てくれてる人がいるって分かったから。

 単純な話だよね。たったこれだけのことであたしは蓮を好きになったんだから。

 

 

「ん? どうした?」

 

「なんでもないよ」

 

「美咲はすぐそう言うからなー。言ってくれよ?」

 

「本当に何かあったらね。それに蓮だって似たようなもんじゃん」

 

「……知らねー」

 

「バカ」

 

 

 繋いでいた手は指を絡めてる。まだ目的地についてないけど、既に心が満たされてる。抱え込む同士。お互いにお互いを支える関係。歪なのかもしれない。危ないのかもしれない。だけどあたしにはこれが居心地のいい関係なんだ。




 無自覚って怖いですよね…


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遊園地は楽しむところ

 富士急ハイランドの「ええじゃないか」に乗ってみたかった。




 

 いくらテニスバカの俺と言えど、彼女のことは大切にしている。部活を優先してしまう事を理解してもらってはいるが、不満がないわけではないらしい。その発散方法としては、やはりカップルらしくデートということになる。デートらしいデートを、丸一日妨害されることなく遂行できたことがない俺達は、今回こそはと意気込んで遠出することにした。週末を利用しての一泊二日のプチ旅行。それが今回のデートだ。珍しく週末の土日両方が部活の休みで、美咲にも予定を空けてもらった。

 

「集合時間にはまだ早いけど、早めに着くにこしたことはないな!」

 

 駅前で待ち合わせ。カバンの中には着替えと財布。スマホはポケットに、充電器もカバンの中。服装は期待しないでくれると助かる。テニスウェアにしなかったことを褒めてほしいくらいだ。

 ありがとう姉ちゃん。あなたが服を作ってくれるおかげで弟はデート時に相手に恥ずかしい思いをさせないで済みます。

 

「……なんか久々に姉ちゃんに感謝した気がする」

「えっ? なんでこんな早い時間にいんの? バカなの?」

「たしかに俺はバカだが、それはこの時間に来てるお前にも言えることだぞみさ、きぃ!?」

「何その奇声。彼女の名前くらいちゃんと言ってくれない? それとも何? 私の服装がおかしいの?」

 

 冷めた視線がグサグサと刺さってくる。そのくせして小声で「おかしいところないよね?」とか言って落ち着かない様子。なんでこんな可愛い子が彼女なのだろう。約得だからとりあえず聞こえてないフリをしていよう。

 美咲の服装を食い入るように見る。ダラッとした態度とは裏腹に、服装はちゃんと考えられているようだ。気温がだんだん下がってきたとはいえ、未だ最高気温は30度弱。涼し気な服装となっている。種類はわからん。テニスウェアじゃないとしか言えない。美咲のテニスウェア姿は、それはそれで好きなのだが。

 

「よくわからんが似合ってる!」

「褒められた気にならないんだけど?」

「美咲は何着ても可愛いからな。あと俺にファッションの評価を求められてもって話」

「あっそ……。予定より早いけど、切符買って出発するよ」

「イエスマム!」

「誰がマムだか」

 

 テンション低めにしてるけど、口元がニヤけてるのはバレバレだからな? 

 俺たちは切符を買って、ちゃっちゃと移動を始めるのだった。今回の旅行を姉ちゃんに話してない。朝からバンド練習に行ってて、姉ちゃんが家を出てから俺も急いで支度した。バレずに行ける。

 

「そんなわけで来ました! 遊・園・地!!」

「大声出さないでよ恥ずかしいから!」

「美咲! 何乗る!?」

「先にホテルに荷物を預けるよ。入退場自由らしいし、近くにあるホテルが泊まるとこだし」

「しっかり者め〜!」

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

「市ヶ谷さん。準備はいいですか?」

「えっとー、これ、何に使うんですか?」

「私たちには……負けられない戦いがあるんです」

「戦ですね! サムライ魂が震えます!」

「いやいや若宮さんこれ戦とかじゃないからな!?」

 

 サングラスをかける燐子と若宮さん。手に持ってるのはモデルガン。テーマパークにこんな物持ち込んどいてなんで追い出されないんだ。っていうか今日はRoseliaの練習があるってリサさんが言ってたはずなんだけど!

 

「Roseliaの練習は休みになりました。自主的に!」

「サボりじゃないっすか! ほら燐子先輩の携帯に友希那先輩からの電話来てますよ!」

「適当に相手しておいてください。今度ネコカフェの割引券渡しますとか言っておけば黙らせられるので」

「そんなんで許してくれる人じゃないですよね!?」

「あ、もしもし湊さんですか? 今燐子さんの代わりに若宮イヴが出ています。『今度ネコカフェの割引券を譲るから今回は見逃せ貧乳』だそうです!」

「若宮さんそれ余計なもの付け足してる!」

 

 絶対友希那先輩怒るよ! いくら代わりに言ってるとはいえ、これは若宮さんも怒られるやつだよ! 伝言以上のこと言ってるし、怒られてもいいと思うけども。近くで紗夜先輩が聞いてたらあの人がキレそう。リサさん頑張って抑えてください……!

 

『ネコカフェ……? そんなもので私が手を打つとでも?』

「ほらやっぱり駄目じゃないっすか!」

『10枚綴りで渡しなさい』

「枚数の問題!?」

 

 なんでそれで許しちゃうんスカ!? 貧乳って言われたこともそれで流せちゃうんですか!? 

 

「若宮さん、市ヶ谷さん、銃の手入れが終わりました。行きますよ」

「押忍!」

「なんで巻き込まれてんだろ……」

 

 たしか、蔵にいきなり現れて……どうしても協力してほしいことがあるって頼まれて……それがコレだもんな〜。燐子先輩の弟さんと奥沢さんのデートだっけ。それくらい二人きりにしてあげたらいいのに。奥沢さん、抑えきれなかったらごめん……。

 

「燐子さん! お二人はジェットコースターから乗るらしいですよ!」

「あの二人……優先券まで買ってる……」

「これはさすがに追いかけられないっすね。下でゆっくり待ちましょう」

「なるほど! 待ち伏せて狙撃ですね!」

「そういう意味じゃねぇ!」

 

 ウキウキしてる若宮さんにツッコミを入れる。つい香澄を相手にしてるように怒鳴っちゃうけど、本人は全然堪えてないし気にしなくていいよな。っていうか抑えめにできる気がしねぇ。

 

「ってあれ? 燐子先輩は?」

「優先者の入場の方にいますね」

「割り込みは駄目だろ!」

 

 若宮さんを連れて急いで燐子先輩を回収に向かう。あのままなら係の人とモメることになるだろうし、そうなると追い出されかねない。ここは我慢してもらうしか──

 

「お兄さん……お願いします……」

「で、ですがお客様……特別扱いするわけには……」

「私は……お兄さんにだけ、特別なことをしているのに……ですか?」

 

 色仕掛け!? 燐子先輩そういう事しちゃう人だっけ!?

 

「……黙って私達を通してください。……痛い目、見ちゃいますよ?」

「ひっ!」

「脅しかい!」

 

 他のお客さんに見えないようにしてモデルガンを従業員に突きつけるって、燐子先輩何考えてんの!? 生徒会長としての自覚を持ってくださいよ! っていうか生徒会長以前に人として駄目っすよ!

 

「あ、市ヶ谷さん、若宮さん。通してもらえるみたいです」

「燐子先輩……あなた絶対今後出禁になりますよ……」

「? 障害は超えるものですよ?」

「そうですけど使うタイミングが違う!」

 

 従業員にペコペコ謝罪して、先先行く燐子先輩を急いで追いかける。目を離したら何をするか分かったものじゃない。それに、若宮さんも全然ストッパーになってくれない。燐子先輩に買収でもされたんじゃないかってくらい制御できない。

 

「美咲さんを撃てば千聖さんと……蓮さんを撃てば彩さんと……両方達成でお二人と……うふ、うふふふ!」

 

 駄目だこいつ買収されてたわ。内容までは知りたくねぇ。たぶん日本人の感覚とはかけ離れた何かなんだろ。触らぬ神に祟りなしってな。

 ところで、蓮くんも奥沢さんもなんでこっちに気づかないんだろうな。あの二人、今日は障害がないって思って浮かれてるのか。後ろから見てるだけでも、幸せオーラが出てるし。香澄がライブではしゃいでるのと同じ雰囲気が出てる。弦巻さんが知ったら大喜びだろうな。あの人奥沢さんのこといっつも気にかけてるし。……黒服さんがカメラ回してるのは見なかったことにしよう。

 

「燐子先輩、若宮さん、ちゃんと安全装置つけてくださいよ」

「それはもちろんです。死にたくはないので」

「私は背水の陣にします!」

「いいから安全装置つけろ!」

 

 若宮さんの安全装置を私が代わりにつけてあげる。なんか騒がれるけど知らない。何かあってからじゃ遅いんだし、パスパレの人気は高いんだから、傷一つつかないように気をつけてほしい。

 

「お客様、姿勢を正して座ってください」

「有咲さん、安全装置は大切ですよ? 侍の鎧みたいなものですよ?」

「今さっきまで付けようとしなかったのはどちらさんでしたっけ!?」

 

 安全バーが胸の前まで下りて、最後にスタッフさんが確認して回る。右隣に座る若宮さんは、ジェットコースターに目を輝かせてて、これなら座りながら目の前にいる二人を狙い撃ちとか考えないだろう。左隣にいる燐子先輩は……安全バーに胸を抑えつけられるとか聞いたことねぇや。見なかったことにしよう。

 ゆっくりと出発するジェットコースター。しばらく進んだら斜めに上昇していく。頂点に行くまでが長そう。30秒くらい登り続けるんじゃね? え、怖いんですけど。

 

「若宮さんはジェットコースターとか大丈夫なのか? 結構高いとこまで行くみたいだけ、ど……」

「スナイパーは高所から獲物を狙うもの」

「さっきの興奮はそれ!? ってかどっからスナイパーライフル持ち出した! さっきまで持ってなかったろ! はっ、もしや燐子先輩も……!」

「ジェットコースターって、こんなに高いところまで行くんですね……」

「今さら!? 顔真っ青ですよ!?」

 

 ジェットコースターをなんだと思ってたんだこの人。しかもこれってこの遊園地で一番高いとこまで行くジェットコースターだぞ!?

 

「うぅ、気分が悪くなってきました……」

「吐かないでくださいよ!?」

「ふっ……はかない……」

「ふざける余裕はあるんすね……」

「お二人とも! 頂点に来ましたよ! ここはRoseliaさんのアレをやるしかありませんね!」

 

 Roseliaのアレ? 頂点……頂点……? あ、そういう……。え、でもこれRoseliaじゃない人でやっちゃっていいの? また友希那先輩に謝罪しないといけなくなるやつじゃないの?

 

「いいですね! やりましょう!」

 

 燐子先輩に責任を押し付けよう。それがいいや。

 

「頂点に?」

「「狂い咲け(狂い酒)!」」

 

 ……燐子先輩、あなた今ニュアンスがおかしくなかったですか?

 それを確認する余裕はなかった。さすがこの遊園地イチオシの最凶ジェットコースター。安全バーにしがみついてないと怖い。ガチで怖い。そして前の席に座るバカップル二人がうざい!

 

「くっ! 狙いが定まりませんね!」

「この状況で狙い撃とうとする方がおかしい!」

 

 宙返りしてる時に狙うってなんだよ!

 

「もういいです! もういいです! もういいです! もういいです!」

「耐えてください燐子先輩!」

 

 くそっ、喉が保たねぇ!

 

 違った疲れがドッと来たジェットコースターが終わったら、なんだかんだでジェットコースターが怖かったらしい若宮さんが膝から崩れ落ちて、顔が真っ青になった燐子先輩を介抱しないといけなくなった。噂は聞いてたけど、弟さんが絡んだ途端考えなしになるのはやめてください。

 

「燐子さん! あの二人メリーゴーランドの乗るみたいです!」

「本当ですか!? これはシューティングチャンスで……うっ!」

「休んでください!!」

 

 

 

 





 有咲の1人称って何でしたっけね?


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姉の思惑

 最近思うことがありましてね。

 燐子に代弁してもらいますけど。




 

 前回までのあらすじ!

 

 蓮さんと美咲さんがお忍び遊園地デートを決行! それをどうしてか知った燐子さんが私とツッコミ巨乳を連れて尾行! 変装し、装備を整えたところでミッションを進めているのですが、ジェットコースターで燐子さんと私がダウン! 作戦続行が危ぶまれたその時──!

 

「貴方たちは何をしているのですか……」

 

 現れた救世主とはいったい……!

 

「いやここまではやってなかったぞ!? あと誰がツッコミ巨乳だ!」

 

 

 

 燐子さんをベンチで休ませていると、ここにいないはずの人間がもう一人現れた。

 

「まったく……。練習を休んで何をしているのかと思えば……」

 

 紗夜先輩はタオルを取り出して、燐子先輩の汗を拭く。同年代相手でも、しれっとこういうことをするのは、紗夜さんの姉気質ってことなのか。

 

「なぜ紗夜さんまでこちらへ? Roseliaさんは練習があったはずでは?」

「駅に向かう白金さんが見えたので、湊さんに連絡を入れてからこちらに来ました」

 

 あー、だから友希那先輩はあっさり許したんだ。紗夜先輩から先に連絡があったから。燐子先輩、思わぬところで命拾いしてんなー。っていうか、リサさん程じゃなくても、紗夜先輩も甘い方だったりするのか。

 

「そのような格好して人様のデートを妨害するなど──」

 

 よかったー。まともな人があたし以外にも増えた〜。正直交流が少ない相手だと勝手が分からなくて困ってたんだよな。燐子先輩は年上だし。イヴちゃんはアイドルだし。

 

「邪魔をしないでいただけませんか、貧乳!」

「イヴちゃん!?」

「……若宮さん。もう一度言っていただけませんか? すみません、上手く聞き取れなかったもので」

「分かりました。発音が悪かった部分も否めませんので、改めて言わせてもらいます」

 

 言わなくていいよイヴちゃん! 紗夜さんが怒ってることに気づいてくれ!!

 

「邪魔をしないでいただけませんか、この断崖絶壁ペッタンコ貧にゅほがっ!?」

「すみません若宮さん。最後までしっかり言っていただけませんか? 銃口を嬉しそうにしゃぶってないで、一言一句しっかりと。ね?」

 

 言わんこっちゃない! 紗夜先輩を怒らせちゃいけないって燐子先輩が生徒会長就任の挨拶で言ってたじゃん! 校長先生も毎回言ってるじゃん! 集会の間ずっと座禅組んでるから聞き逃すんだよ!

 それよか、紗夜先輩はあの銃どっから取り出したの!? 見たことないから燐子先輩が用意したやつじゃないですよね!?

 

「何を驚いているのですか? 女性たるもの、身を守るための術を身に着けておくべきですよ?」

「まるであたしがおかしいみたいな言い方しないでください! モデルガンを常備してる女性なんて希少種ですよ!」

「希少種と言えば私は金派ですね。日菜は銀派のようです」

「狩りの話は聞いてねぇ!」

「これは何の騒ぎかしら?」

 

 また新しく人が来て、その人の声が聞こえた途端、あたし達全員の動きが止まった。一直線にこっちに来たその人は、パスパレのメンバーで影で女王様呼ばわりされてる先輩。

 

「白鷺さん。あなたがなぜここへ?」

「それはこちらのセリフよ紗夜ちゃん。私は撮影をすっぽかしたイヴちゃんを追いかけてきたのだけど」

「イヴちゃん何してんの!?」

「まさか嬉しそうに紗夜ちゃんの銃をしゃぶってるだなんて……。あなた、私のイヴちゃんに何してるのかしら?」

「躾がなっていなかったようなので、私が飼いならしてあげようかと」

 

 その喧嘩はよそでやってくれー! あたしまで巻き込まれてる! 周りの人の視線からして、あたしも仲間だって思われてる! 間違ってはないけど抜け出してぇー!

 

「あの、氷川さん……白鷺さん……」

「何かしら、白金さん」

「そろそろ……動けるようになりました」

「何の報告してるんですか!?」

「そうですか、では、茶番は終わりですね」

「茶番!?」

「イヴちゃん。あなたは後でお仕置きね?」

「千聖さんは誘い受けだと日菜さんから聞きました!」

「……あの子ったら……」

 

 あたしがおかしいのか!? この状況についていけないあたしがおかしいのか!? もうやだ帰りたい……。紗夜先輩と千聖先輩がいるなら、あたしいなくてもいいじゃん……。

 

「あの、紗夜先輩。帰っていいですか?」

「紗夜? あなた、誰と間違えているの?」

「え? いや、どう見ても紗夜先輩ですよね?」

「私は紗夜ではないわ。34(サーティーフォー)よ」

24(トゥエンティフォー)みたいに言うなよ! しかもあれ作品の名前!」

 

 グラサンかけただけじゃないかよ……。なんでそんなイキイキと別人を名乗れると思ってるんだよ……。紗夜さんが駄目でも、ブレーキ役は用意されてる。

 

「これから私のことは、38(スリーエイト)とお呼びください!」

「感化されないでくれ! ややこしくなるだけだから!」

 

 イヴちゃんには元から期待してない。頼れるのは千聖先輩だけ……!

 

「私のことは♾️(インフィニティ)と呼びなさい」

「無限になりやがった! 千超えて無限名乗ったよこの人!」

「白鷺さん、あなた盛り過ぎでは?」

「私は♾️よ。紗夜ちゃん」

「34です」

「どうでもいいわ!」

 

 もう先輩とか関係ねえ! そんな事気にしてたらツッコミが追いつかねぇ! ツッコミしたいわけじゃないけど。くそっ、自分の性格がここで足を引っ張るなんて……!

 

「皆さん、準備はできましたね。あの二人、どうやら次はコーヒーカップに乗るようなので、私たちも行きますよ」

「コーヒーカップはバレるだろ! 燐子先輩そろそろ頭のネジ締めてください!」

「A3さん、私のことはグランドプラチナ略してGPとお呼びください」

「変な呼び名つけないでくださいよ!」

「分かりました! グランドプラチナ略してGP! 私は♾️と先行しておきますね!」

「38! それたぶん呼び方間違ってるぞ!? ってくそ! あたしまで感化された!」

 

 38……じゃなくて! イヴちゃんと千聖先輩は茂みに隠れてスナイパーライフルを構えてる。迷彩服まで用意してるって馬鹿なんじゃないかな。スタジオにあるやつ取ってきたとか言ってたけど、後で絶対怒られるだろ。まず取ってきちゃ駄目じゃん。他の撮影で使うやつじゃん。

 

「では、私とGPはコーヒーカップに乗りましょうか」

「自殺行為……! はぁ、もういいっす。任せます」

「何を言っているのですか? A3も行きますよ?」

「え……」

 

 嫌な予感しかしない。二人にあたし達のことがバレるとか、そんな事以上に面倒なことになる予感しかしない。

 

「コーヒーカップというのは……! 楽しいものですね!」

「紗夜先輩回し過ぎ!」

「私は強い、私は強い、私は強い、私は強い」

「燐子先輩目を回しながら言っても説得力ないです!」

 

 

「「うっ……酔いました……」」

「でしょうね! っく……大声出したらあたしもしんどい……」

「お三方お疲れ様でした! 二人はお化け屋敷に行くみたいなので、私たち二人が先行して、待ち伏せして狙撃します!」

「うわ、すげぇ妥当な作戦」

「ご武運を」

「セルフィーで遊んじゃだめですよ?」

「それやってたの燐子先輩と紗夜先輩ですよね? あこちゃんが言ってましたよ」

 

 イヴちゃんと千聖先輩がお化け屋敷に走っていく。あの二人はさっきふざけてなかったし、暗闇の中の狙撃ならバレずにできるでしょ。……いかん、あたしまでそっち側の思考になってる。

 またもやベンチに座ってグロッキー状態な燐子先輩と、顔色悪いのに燐子先輩を介抱する紗夜先輩。二人が回復するまでの時間は、奥沢さんたちが出てくるまでの時間と丁度いいんじゃないかな。

 

「楽しかったです!」

「最近のお化けってリアルなのね!」

「目的忘れやがったな!?」

「……あ! ライフルを忘れて来ちゃいました!」

「あら、私もだわ」

「何してるんすか!!」

 

 二人のライフルを持ってきたのは、よりによって蓮くんと奥沢さんだった。さすがに奥沢さんもご立腹の状態で、蓮くんが何とか宥めてる感じ。あたし達は一気にお通夜モードになって、説教を受けることになった。

 

「なんであたしだけ?」

「市ケ谷さんはストッパーでしょ? 燐子先輩には蓮が説教するみたいだし、他の三人は自分で反省できるし。後は私の話し相手が欲しかっただけ」

 

 観覧車という密室状態に連れ込まれ、あたしの向かいに奥沢さんが座る。紗夜先輩たちは三人で観覧車乗ってるとか。あの三人、絶対楽しんでるでしょ。この観覧車カラオケついてるし。

 

「えっとー、説教は?」

「市ケ谷さんにする必要ないじゃん? 何も思わないわけじゃないけど、市ケ谷さんに当たっても仕方ないし。蓮がまた時間作ってくれるって言ったからまぁいいかなって」

「はぁぁ、助かった〜」

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 美咲がいる手前怒ってなかったけど、今回はさすがに姉ちゃん相手でも怒る。どうやって情報を仕入れたのかも気になるけど、練習をサボってまで追いかけてきたことの方が重大。

 

「姉ちゃん反省してる?」

「うん……」

「俺が何に怒ってるか分かってる?」

「奥沢さんとのデートを邪魔したこと」

「正解。……はぁ、分かってるならいいけど、姉ちゃん最近行動がエスカレートしてない?」

 

 からかい程度ならよかった。それはまだスキンシップの一環として流せた。だけど、ここ最近は度が過ぎてる。モラル云々もそうだし、何がしたいのか分からなくなってくる。

 

「……私ね……臆病でしょ?」

「……引っ込み思案だとは思うけど、臆病だとは思ってない」

「ふふっ……蓮くんは優しいね。……いつも蓮くんが引っ張ってくれてた。私がお姉ちゃんなのに……。それがずっと引っかかってて、だから、私らしくなくても、蓮くんが楽しめることをしてみようって思ったの」

「急に変わったから暴走かと疑ったよ」

「初めてのことだから、加減が分からなくて。……それでね、だんだんどうしたらいいか、もっと分からなくなっちゃって、そしたら下品な方向に行っちゃって」

「やばいレベルでね」

「でもね、やっと気づけたんだ。相手を楽しませようと思って、キャラを崩すのはお笑いでもあるけど、でも下ネタに走るのは違うなって。品性を無くせばいいってものじゃないなって」

「まったくだよ。今さらって気はするけど、気づいてくれて安心した」

 

 姉ちゃんの気づきに心底安心する。まるで肩の荷が下りたように気持ちが楽になって、視界も思考も一気にクリアになる。姉ちゃんもどこかスッキリしたみたいで、いつもの美人スマイルを自然に浮かべた。

 

 やっぱり姉ちゃんは世界一美人だわ

 

 

「仲直りのちゅーしよ?」

「しねぇよ!」

 

 

 相変わらず油断はできない

 





 いや〜、「お前が言う?」って我ながら思いましたね!


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シークレットこそ最強

 


 

 やぁやぁ諸君。俺は今大変機嫌がいいよ。そりゃあもう三回回ってバウと言ってもいいくらいに機嫌がいい。今ならあまりもの機嫌の良さに、翼を授けられて空を飛べそうだ。あの飲料最近見ないね。モンスターの方がよく見るよ。翼を刈り取られたんじゃなかろうか。

 さて、そんなことは置いといて、話を進めよう。この前の遊園地デートで美咲の可愛い一面がいっぱい見れた。あとあの子意外と胸あってドキマギしなかった。姉ちゃんに勝てるやつはそうそういないからね。ドンマイ美咲。というか胸の大きさなんてよく知ってる。直に見た。

 それはさておき、最近仲間がドンドンやられている。わざわざ同盟を組んだというのに、奴らはそれ以上の力を駆使して俺達を追い詰めている。逃げ回ること十数年。影でコソコソやってきたというのに、アイツも上手いことやっていたはずだというのに! 奴らはそれすら上回るというのか!

 

 なんて猛る必要性が俺には皆無なんだけどな。今は目の前で沈没してる友人を観察して嘲笑ってやる方が楽しい。ヘマしたのはこいつなんだからな!

 

 

「お前も道連れにしてやろぉかぁ!?」

 

「はっはっは! お前にはそんな芸当できないだろう! どうせお姉ちゃんストップ入るんだろ!! ややこしくなる方向で!」

 

「否定しづらいとこ突いてくるな! それはそれとして姉貴を馬鹿にした蓮は処す!」

 

「あ、ごめん。俺は経験積みなんで。勝組っす」

 

「なんの話だ!?」

 

 

 え、なんの話ってそういう話じゃなかったの? 

 違うのか。そうかぁ。思春期真っ盛りでエロティックボディの姉が身近にいて、その姉繋がりでクールビューティー歌姫ともそれなりの仲らしいのに、そっち方面には頭働かないのかぁ。こいつの頭の中はどうなってんだ。もっとエロに振れ。エロに! 

 

 

「お前のその思考でよく彼女できるな」

 

「何? 負け惜しみ? 童貞君は卒業してからリングに上がってください」

 

「そこでしかマウント取れないやつには何も言われたくねぇなぁ!?」

 

「いや、私スポーツマンなんで。一年生エースなんで」

 

「うぜぇ! こいついちいちうぜぇ!」

 

 

 元気に反応してくれるから楽しいなぁ。叫び過ぎてて店員さんに多大な迷惑がかかってるけど。他に客いないし、注意されることもないんだけどな。あの店員さん初心だ。俺達の会話が聞こえちゃってるんだろうけど、顔を超真っ赤にしてる。ところで、喫茶店で学校の制服着ながらエプロン付けて働くって、店長さんの趣味かな。セクハラじみてるね。辞めたほうがいいよ。

 

 

「いや、つぐみはここの娘さんだから。辞めるも何もないから」

 

「知り合いだったのか! ……はっはーん? なるほどね!」

 

「……待てお前変な納得しただろ今!」

 

「いやー全然? 俺はお前を仲間だと思っただけだぜ?」

 

「その時点でアウトなんだよなぁ!」

 

 

 すっげぇ失礼なこと言われた気がする。

 俺は自分に忠実なだけであって、変態なんかじゃないんだよ。思春期な人なら誰だってエロに誘惑されるじゃん? 性癖とかあるわけじゃん? 俺はそういうのを隠さないやつの方が信用できるね! こいつはちょっとムッツリなだけなんだよ。きっと、めいびー。

 

 

「今すぐその思考を消せ!」

 

「そんなプログラムないっすわ」

 

「お前……AIだったのか……!」

 

 

 もしそうならこやつの握力は世界一だね。AIにアイアンクローしてミシミシ言わせてるんだもん。握りつぶせないものはない、とか言ってテレビ出ちゃうよ。芸能デビューだよ。俺は今体液が出ちゃいそうだよ。果物デビューだよ。

 ところでお兄さんや。人の顔を掴んだまま振り回さないでくださいな。ケーキが食べにくいじゃないか。

 

 

「何呑気にケーキ食ってんだお前はァァ!!」

 

「そんなに叫んでて疲れない?」

 

「誰のせいだと思ってる! ……あぁ、もういいや。馬鹿馬鹿しいし」

 

「そうだよね。店員さーん。いちごケーキおかわり〜。あとカズが店員さんをお持ちがっぇ!?」

 

「油断も隙もねぇな!?」

 

 

 いきなり口にシュークリームを押し込まないでほしい。ビックリし過ぎて喉が詰まっちゃいそうだよ。あと男の指は舐めても美味しく感じられない。美咲の指は舐めたい。顔真っ赤にして百烈拳叩き込んでくるけど。それが可愛い。

 

 

「い、いちごケーキお待たせしました」

 

「ありがとうございます。ところで店員さん。なんで制服のまんま?」

 

「あ、これは「カズの性癖か」そうだったの!?」

 

「ちげーわ! なんつーこと言うんだ蓮! つぐみも信じるな!」

 

 

 カズにメッチャクチャ睨まれる。殺意すら感じる。だが残念。俺の方が身体能力高いから本気出したら俺が勝つ。部活で鍛えてるし、喧嘩強い方だし。

 

 

「降参です手を離してください」

 

「お前の思考がまともになったら離してやるよ」

 

「俺はいつだってまともだぜ? 自分の基準を相手に求めるな?」

 

「いきなり正論言ってくるなよ! 使い方も酷え!」

 

 

 言葉って自由だなぁ。これが言論の自由かー。素晴らしいなぁ。だから詐欺とかなくならないんだろうなぁ。

 

 

「それはそうと。本題入ろうぜ?」

 

「本題とかあったのか……」

 

「そりゃああるよ」

 

 

 カズに解放してもらって、ケーキを一口食べる。柔らかなパウンドと生クリームが素晴らしい。間に入ってるいちごとか最高。いちごと言えばうちの姉ちゃん一度もいちごパンツを履かなかったな。おかげで、俺も耐性がつかなかったよ。小学校でスカートめくり大会が開かれた時に鼻血出してぶっ倒れたね。懐かしい記憶だ。そういえばあの時は茶色の髪がくるふわな一つ上の女の子だった気がする。なんか心当たりが……ないね。一緒にいた銀髪の子とか知らない知らない。あの頃はよく笑ってたとか私の存じ上げるところではありません。

 

 

「本題とやらに入れよ!」

 

「そうだった。悪いないちごブラ」

 

「そんなのはねぇわ!」

 

「貝殻のブラとかマジエロくない? 止めれてる意味分かんないんだけど。あれ手ブラみたいなもんでしょ」

 

「今日のお前酷いぞ!? 大丈夫か!?」

 

「仕方ないだろ!? ここ最近ずっっっと周りに女子がいたんだからよぉ! 俺だって男なんだよ! 男子だけで馬鹿やってたりしたいんだよ! 思考力捨てた不毛な議論とかしたいんだよ! 分かってくれよぉぉ!」

 

「ガチ泣きするレベルかよ……」

 

 

 ガチ泣きだってするわい。こちとら健全な思春期真っ盛りな高校生様だぞ。性欲とか全く別として、馬鹿をやりたいっていう遊びの欲求が溜まりまくったんだよ。最近美咲とラブコメばっかだしさぁ。周りもそれで楽しんでくるしさぁ。美咲が笑ってくれるならそれでいいんだけど、たまには男だけでいたいんだよ。キャバクラ行きたいんだよ。

 

 

「高校生だよな?」

 

 

 真面目なツッコミありがとう。求めてないぞ。

 

 

「……ったく、多少なら付き合ってやるよ」

 

「あ、ゲイじゃないんでいいんです。松原にあたってください」

 

「表出ろお前!」

 

「ところで表に引っ張りだされた気分はどうだい?」

 

「本題ってそれかよぉぉ!!」

 

 

 立ち上がってたカズが椅子に崩れ落ちる。机に思いっきり頭ぶつけてたけど、あれ大丈夫か? トマトケチャップが広がってるぜ?

 だが追い打ちはやめない。

 

 

「いや〜、松原といい今井といい。なんか最近、影を潜めて細々とやってきた年下組が表に引っ張り出されてるじゃん? とうとうカズもやられたみたいだしさ〜。かわいそうに〜、ぷぷっ!」

 

「その顔腹立つな……!」

 

「実際さ? トレンド入りするくらい話題になっちゃったわけで? どういう気持ちなのかなぁって。ねぇ今どういう気持ちぃぃ!?」

 

「いや、まぁ、腹括るしかねぇかなって。姉貴がとやかく言われるのも癪だし」

 

「あらやだイケメン。湊さんあたりが惚れそう」

 

「一人かよ! あと別に惚れられたくねぇわ!」

 

 

 ツンデレだなぁ。需要あるよ。一部の中毒者に。

 

 

「ま! なんにせよ俺は関係ないからなぁ! これからも影で好き勝手やらせてもらうさ!」

 

「燐子さんに好き勝手やられるだけだろ」

 

「ぐはっ! ……洒落にならない……。ど、どうせカズだって……表に出されるだけ出されてその後放置でしょ! 一回使われて終わりだわ!」

 

「おまっ! 触れてはならないことを……! だが蓮にも可能性があらからな! 道連れにしてやるから忘れるなよ!」

 

「いいとも! 仮に表に引っぱりだされたら美咲に結婚を確約するプロポーズでもしてやるよ!」

 

「男に二言は?」

 

「ない!」

 

 

 俺がそういった瞬間にカズのスマホで何やら音がした。まさかとは思ったけど、こいつの素晴らしい笑顔を見たら確信に変わった。

 

 録音された!!

 

 構わないんだけどね。俺が表に出ることはないから。

 

 

 

 




 今回登場したカズくんは、今井カズくんです。効果音氏の作品から拝借しました。ありがとうございます。皆さん、読んでみてください。オススメします。そして感想で更新催促してやってください。

 https://syosetu.org/novel/166829/


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