黒い炊飯器と無個性の少年 (名無しの炊飯器)
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設定資料集(仮)
『印』一覧
現在の内容は『印』の効果についてのみです。
レプリカ及び出久が現在使用可能な印
転移時から所持
・
トリオンの働きを強化させる効果を持つ。個性の強化も可能。多重印で効果上昇。
・
物体を弾き飛ばす効果を持つ。自分はもちろんそれ以外の対象も飛ばすことが可能。多重印で飛距離上昇。
・
防御用のバリアを展開する効果を持つ。多重印で効果範囲が拡大し、
・
トリオンを射出する効果を持つ。他の印と併用することが主な使用方法。多重印で威力、範囲、速度の上昇。
・
トリオンを錘に変換して対象の自由を奪う効果を持つ。
・
トリオンの微弱な波動を感知することで周囲の地形や生物の距離・位置・形状などを把握する。 多重印では範囲及び正確性が上昇。
・
トリオンから生成した鎖で対象を拘束する。複数の鎖同士を文字通り
・
近界側の次元に物を格納出来る印。主にレプリカが使用する。玉狛ラービットや劣化ラッド等はこの印から外に放出されている。多重印では排出口が拡大。
個性由来の印
・
出久の母、緑谷引子から入手。個性本来の能力がそのまま印の出力に関わってくるので多重印での使用が前提。
・
出久の幼馴染、爆豪勝己から入手。単品使用では勝己本人と似たような使い方が出来る(スタングレネードなどの応用型は不可)。
取得場所不明の印
・
ボーダーのオプショントリガーを使用出来る。
・『撃』印
固有名称なし。『攻・狙・射』の印を展開して何れかを選択。その後『撃』印と表示されるのでここでトリガー名を発すれば一時的にボーダートリガーを使用可能。
一度使用すれば24時間は最初に選択したものに固定される。
・
ボーダーのトリガーを複製出来る。他にも複製出来るものがあるかもしれないが、まだレプリカも出久も試したことはない。
〜解析中〜
・麗日お茶子の『
・オールマイトの『ONE FOR ALL』
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本編
邂逅
「なにこれ?」
ぼく、みどりやいずく。
かっちゃんとかほかのひとたちには『デク』ってよばれてるんだ。
『出久』っていうぼくのなまえが『デク』ってよめるんだって。
さいしょはいやだったけど、もうなれた。
かっちゃんはあたまがいいし、『こせい』もつよいからぼくのあこがれなんだ。
──ぼく?ぼくは『むこせー』なんだ。なんにもできない、ざこなんだって。
そんなむこせいなぼくがなにをしているかというと……
ちょっとちかくのもりにいってみたんだ。きになって。
そしたらおうちにある『すいはんき』?がくろくなったみたいなものをみつけたんだ。
でもこわれてるみたい。たたいても、たたいてもぜんぜんうごいてくれないんだ。
『────』
私……
私は……?
そうだ、私はレプリカ。多目的型トリオン兵のレプリカだ。
修や仲間たちを助けるために、私はアフトクラトルの遠征艇に強制帰還命令を出したのだ。
その後のことはよく覚えていない。確かミラに遠征艇の外へ棄てられたような気がするが……その前後が朧げだ。
記憶を消されてしまったのだろうか?いや、ユーマ、オサム、玉狛支部……なるほど、大概のことは思い出せるようだ。
私が遠征艇に乗ってからこの場に来るまでの記憶だけが定かではないのか……。
────まずは情報確認が先決だろう。
まず体……あるな。切断されたはずの体がある。
次にトリオン……正常。MAX値よりは少々低めか。
最後に場所……森、か。
その時何か走ってくる音が聞こえた。初めて見た私が言うのもなんだがこんな辺鄙なところにわざわざ人が来るものがいるとは考えにくい。
私を追ってきたのだろうか。ならとりあえず迎撃の準備を……
「なにこれ?」
────ただの少年?
緑髪でユーマとは違うベクトルのくせっ毛の少年が来た。私が動かないと思ったのか、遠慮もせずにベシベシと叩く。
私自身痛覚は存在しないが……そうもずっと叩かれるとこちらにも思うところがある。
だがこの少年には私の姿を────いや、今更だろう。既にこの体を見られているのだし、少しくらい喋ったとしても驚くことはないはずだ。恐らくは。
『少年、叩くのをやめてくれないか?』
「うわぁぁぁあ!?ハッ!?」
驚かしてしまったようだ。私のようなものは近界の者達には珍しくないと思ったのだが、どうもそのようなことは無いらしい。
いや、彼が子供だからか?いや、今の情報一つで片付けられることではないだろう。
『すまない、驚かしてしまったようだ。私の名前はレプリカ。ユー……いや、自律型トリオン兵だ』
「れぷりか?とりおん?」
そうか、全く分からないのか。でもその目の輝きはよく見た事があるものだ。
何かに興味を抱いた者特有の目をしている。
『そうだ、私の名前はレプリカだ。君に聞きたいことがあるのだが構わないか?』
「う、うん!!ぼくもれぷりかにききたいことがたくさんあるんだ!」
『そうか、ならば情報交換といこうか』
これは無個性の少年が自立型万能相棒との出会いを機に、ヒーローへの道を駆け上がっていく物語である。
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個性『レプリカ』
なるほど。
どうやら私はとんでもない世界に来てしまったようだ。
トリガーを使わずとも能力の行使できるとは……。いや、この世界では『個性』と言うんだったか?
技術体系はオサム達の玄界と一部を除いてあまり変わらないのがとても不思議に思えてならないが、それがこの世界にとって即した発展だったのだろうと推測する。
私としては無個性のイズクの方が普通に見える。いや、他の人を見たことがないからこんなことを言えるのだが。
「無個性だと虐められてしまうのか。なら、私が君の個性となることもやぶさかではない」
「こせいに……なる?」
「何、簡単な話だ。右手を此方に向けてもらえるか?」
出久は不思議そうに私に右手を向けた。
彼も何言ってるんだ、と思っているだろうが私も私で不可解なことが幾つかある。
身体の中に一つ、『ブラックトリガー』が格納されていたのだ。そしてそれをイズクに与えることにした。
誰かが助けを求めていれば、ユーマやオサム、ボーダーの面々はたとえ無理だと思っても、その手を伸ばすだろう。
手がとどくのなら尚のことだ。
ならば、その意思は私が引き継ごう。次にユーマ達と会った時にその身に恥じぬ私でありたいから。
もしユーマやオサム、ボーダーの面々に出会ったらレプリカらしいな、と言ってもらえるだろうか。
イズクに与えたトリガーは薄手の動かしやすいガントレットグローブのような形だ。しかもサイズ調整機能付きなので、子供の出久の手のサイズにもしっかり対応している。
トリガー本品の機能としてはユーマが使っているユーゴが作成したブラックトリガーと大差ないものだ。『印』を能力と搭載していて、私を纏うこともできる。
能力をコピーする点も同じ。この世界においての能力、『個性』をコピーできるかどうかはまだ分からないが。
そして二点ほどユーマのブラックトリガーとは相違点が存在する。
まず一点、この中にイズクの身体を封印する機能がないこと。これはユーゴの例が中々に特殊だったために特筆すべき点ではないだろう。
二点目が重要だ。なぜか自分の見知らぬ『印』が追加されているのだ。
ユーゴのものとは異なるトリガーだから当たり前といえば当たり前なのだが、能力をコピーするトリガーなどユーゴが作ったもの以外には私の記録には存在しない。
私としてはアフトクラトルに中身を弄られた説が濃厚だと思っているが、そんなことなら自我を抜きとるはずだろう。反抗的な自我など在るだけ無意味なものだ。
だが私はこうして自律行動が出来ている……。どうしてだろうか。
────いや、考えるのはよそう。
追加された『印』は三つだ。
まず『攻・狙・銃』。三つの言葉が一つの印の中に入っているものだ。どれか一つを選択すると『撃』の文字が表示されてそこからなぜかボーダー製のトリガーを生成できる。
『攻』は攻撃手用のブレード型トリガー、現在使用可能なのはスコーピオンのみ。
『狙』は狙撃手用の銃型トリガー、現在使用可能なのはライトニングのみ。
『銃』は銃手・射手用の弾型トリガー、現在使用可能なのはアステロイドのみ。
記録には他のトリガーもあるはずなのだが、なぜか生成できない。何か条件があるのだろうか?
次に『設』。これはボーダーのオプショントリガーを生成できる。現在使用可能なのはグラスホッパーとスパイダーの2つ。
最後に『複』。ボーダー製のトリガーを複製できる。形はボーダーで支給されるようなグリップのような形になる。トリガー以外のものが複製出来るかは分からないが、今挙げた印の中では一番生成コストが高い。
「わー!!これすごい!」
ブラックトリガーの着け心地は出久のお気に召したようだ。
私が解析した限りでは人体に害があるようなトリガーではないことが分かっている。
そういえばブラックトリガーがしっかり適合しているな。特に拒否反応もないようだしこのままでも大丈夫だろう。そのうちこのトリガーを製作した人物も探さなければいけないだろう。
「ねぇ、レプリカ!これってなにができるの?」
『そうだな、ここで全て教えても構わないが何かに書き記した方がイズクにとってプラスになるのではないか?』
「!そうだね、いえにかえってからにするよ!レプリカはどうする?」
『私?そうだな、私としてはここで待ち続けても構わないが……』
「ぼくのところにきてよ!ほら、レプリカはぼくの『こせい』なんでしょ!」
──あぁ、そうだったな。
『分かった。親御さんにはしっかり説明するんだぞ?』
「はーい!!」
私はイズクの家で厄介になることになった。
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個性診断
「おかーさんただいま〜!!」
現在時刻は午後4時34分28秒、29秒、30秒……。この世界の地球の自転や現在位置等を計測して導き出した結果だ。
ボーダーのあった玄界ではイズクくらいの子どもは凡そこの時間に帰ることが推奨されている。
ふむ、イズクは良い子だな。
「おかえり、出久。あら、それはなにかしら?変なもの拾ってきちゃだめよ」
「レプリカ!!」
イズク、多分それだけでは分からないだろう。
……いや、私も言葉足らずだったか。この年齢の子どもに「自律型トリオン兵」と言っても伝わるわけがない。
せいぜい見た目が炊飯器みたいとか私の名前くらいしか覚えることはできないだろう。
「レプリカ……?」
イズクの口から状況を説明してもらおうかと思っていたが、それではダメだな。断片的な説明でイズクの母親を困惑させるわけにもいかない。
また驚かれるかもしれないが、致し方ない。
『こんにちは、私はレプリカだ』
「ひょえぇえぇえっっ!?」
中々良い驚きっぷり……いや、失礼か。これ以上考えるのはやめておこう。
『驚かせてすまない。私はイズクの『個性』としてつい先程生まれた』
「出久に『個性』が!?診断してもらった時には出久に『個性』なんて……」
正体不明の黒い何かよりも、私自身がイズクの個性であることにした方が都合がいい。
イズクによれば『個性』という名を冠しているだけあってその種類は多種多様。
私のようなものが一つ混じっていたとして何ら問題はないだろう。
「そーだよ!!これがぼくのこせい!」
「出久、よかったね……!!」
満面の笑みで喜ぶイズクと彼に抱き着いて滂沱の涙を流す母。
無個性というものはこの世界においてそれほどまでにひどい扱いを受けるのだろう。イズクの母の涙がそれを物語っている。
────私は彼を、彼の家族を救えたのだろうか。
ユーマならなんと言うだろうな。
「ねーレプリカー」
『どうしたイズク』
今私はイズクの私室にいる。その部屋はとある有名人でいっぱいだ。
髪の一部がVの字にピンッと立ち、体は筋骨隆々を体現したかの如きマッスル。どこかのコミックか何かから飛び出てきたような風貌だ。
最初に部屋に入った時私は開口一番
『イズク、この絵はなんだ?』と聞いたら
「えじゃないよ、しゃしんだよ」と言われた。
こんな彫りが深い人……人?が現実に存在するのだろうか。
そしてこの体……身体能力増強系のトリガーを使ったとしてもここまでにはならないだろう。
さて、回想はここまでだ。イズクの話を聞くとしよう。
「レプリカはどうやってここにきたの?ずっとあそこにいたわけじゃないでしょ?」
『話せば長くなるが────いや、これはいつか教えることにしよう』
「いまじゃだめ?」
『ダメなわけではないが、君が聞くにはまだ早いと私は判断した。いつかは話そう、これは約束する』
「……わかった。じゃあレプリカは何が出来るか教えて!」
『了解した』
イズクと私の個性談義は朝まで続いた。
結果、イズクの母に二人一緒に怒られてしまったよ。ユーマの生活に合わせていたためか、同じように不眠不休で行動出来ると考えてしまっていた自分を恥じる。
今日の幼稚園はイズクが疲れて行くことが出来なくなってしまった。
その代わりに午前中にしっかり休養をとって、午後からイズクの個性診断をしに出かけることになった。
「これが……君の『個性』?」
「うん、レプリカっていうんだ!!」
やはり私のような形態の『個性』は珍しいらしい。いや、私は『個性』ではないのだが。
現段階で私のことを本当にイズクの『個性』か否か、見分けることが出来る可能性は皆無のようだ。
「喋ると言っていたけど……」
『そうだ。私は喋ることが可能だ。初めまして、私はレプリカと言う』
おお、と個性診断の先生は感嘆の声をもらす。
私も同じ立場だとしたらそう感じるだろう。
トリガーも初心者が使用するのと熟練者が使用するのとでは精度に雲泥の差がある。
それは『個性』も同じだ。診断の先生が話してくれたことだが、持ち主とは独立して思考や判断ができる『個性』は総じて持ち主と似た思考回路をしているそうだ。
持ち主の成長と共にその思考回路も育っていくという。
「こんな年端もいかない子どもに似つかわしくない言葉遣いをするね」
『私もそう思う。私は周囲の情報を蓄積、解析することも可能だからそのおかげだろう』
「レプリカすごーい!!」
『お褒めに預かり光栄だ、イズク』
君の個性なのに保護者みたいだな、と言って診断の先生は個性届けに私が話した事と概ね一致する内容を書いてくれた。
『個性︰レプリカ』
異形自律型個性。周囲の情報を蓄積・解析が可能。
持ち主を纏っての身体強化、その他『印』と呼ばれる能力の行使が可能。
『印』の効果は「強化」、「射撃」、「シールド生成」等多岐にわたる。
その全貌は計り知れないが、今挙げたものだけでもとても万能性の高い個性。
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『印』
『イズク、まずは鍛えよう』
「なんで?」
『トリオン体に換装されると身体能力は確かに上昇する。だが元が低いならどうなると思う?』
「さほど上昇しない?というか上手く扱えないのかな」
『そういうことだ』
私はレプリカ。イズクの『個性』として日々を過ごしている。
もう彼は中学一年生になった。
イズクが幼稚園児の時、私のことをかっちゃん、もといカツキ達に説明すると、それはそれは驚かれたものだ。
他の人に黒炊飯器と呼ばれるのも、もう慣れた。
『トリオン体はとても疲れにくい、というか疲れない。そして大半の攻撃を受けても特に支障はない。だが、ずっとその姿のままでいると慢心してしまう』
『換装前に悪路を走破出来るようになれば、トリオン体ではそれ以上の速さで走り抜けられるようになる。慣れっぱなしではいけないということだな』
「今の僕の身体とトリオン体では組成も構成も違うトリオン体の動きは現実の身体に身体能力を上乗せしたような感じだから初めて操作したラジコンみたいに何も出来ないわけじゃないむしろ現実の身体よりも凄い高起動で動けるわけで───」
イズクの悪い……いや、良い癖か?自分の思考を外に垂れ流していることに気づかないのだ。それを諌めるのも私の仕事となっている。
『イズク、心の声がもれ出ているぞ?』
「────ん?あっごめん、レプリカ」
『せめて人前でそれを止められればあんなに奇異の目で見られることもないだろうに……』
現在私達は初めてイズクと邂逅した家の近くの森に来ている。
生身の身体を鍛えることに加えて、トリオン体での出来ることを確認するためだ。
生身での訓練は今日のノルマをこなしたので今からはトリオン体での訓練となる。
「トリガー、
イズクがユーマとさほど変わらないトリオン体に身を包み、私が液体状に体を変えてイズクの片腕に纏わり付く。これで換装は完了だ。
「
イズクが近くの木に向かって印を展開させる。
青い正六角形の中に『錨』の文字が出現。それにくっつくように『射』の文字が書かれた赤丸を中心に三重に円が先に発動したものよりも大きく展開される。
印の中心から光弾が飛び出し木に突き刺さる。光弾がぶつかった所にはまるで鉄杭のようなものがニョキりと顔を出す。
これは
玄界で使用した時はトリオン以外の物体には効力がなかったのだが、この世界ではそれ以外のものにも効果を与えることが出来る。
イズクに与えた黒トリガーのおかげなのか、それとも私の機能にアップデートを施された所為なのかは分からない。
たまにイズクの黒トリガーを調べてみるのだが、内部調査を拒絶する機構が存在しているために難航している。一体誰がこんなものを創造したのだろう。
今後その辺りも解き明かせればいいのだが……。
「レプリカ、どうだった?」
『とりあえずは印に驚いて周りに
「分かった!」
私は
これはボーダー本部の近くに住み着いていたラッドを捕獲して解析した産物だ。
通常のラッドよりも素早さだけが極端に強化されており、攻撃性能は皆無。防御力は
これを五体程放ってイズクに射撃の訓練をさせるのだ。
イズクの学習能力はそこまで高いものではない。が、他の人もびっくりするほど努力家だ。
最初こそ『射』を周りに撒き散らすようなことをしでかしたが、今ではそんなことはない。
それどころか日々自身の考察をし精度を向上し続けている。私も嬉しい限りだ。
少し話は逸れるがここで私の能力の話をしよう。
現在私とイズクが使用可能な『印』はこれらだ。
・
・
・
・
・
・
・
・
ここまでが私が元々持っていたものだ。次にこの世界で新たに入手した『印』だ。
・
・
の二つだ。
『爆』印はイズクの幼馴染のカツキの個性を解析したものだ。イズクがよく彼によって頭をさらにチリチリにさせられていたために、対抗手段として解析させてもらった。
『引』印はイズクの母親のインコさんから頂いたものだ。私をインコさんの個性で少し引っ張ってもらい、その時に発生した現象を解析。印の生成に至った。
今のところはこの二つしか解析が出来ていない。イズクもしくは私自身に直接効果が発揮されないと解析が不可能だからだ。
そして、何故トリガーではないものを解析して印に出来たかというと────
個性はトリオン由来のものだったのだ。
トリオン器官の存在を分かっていることを前提で話を進めよう。
この世界の人々には『個性因子』と呼ばれるものが存在する。これは通常の人体に+して付加されているもの全般を示すものだ。
これを働かせるためにトリオンを使用していることが私の解析で判明した。
あちらとの違いは完全に生身の状態で能力が使える、ということだろうか。
生身で能力を使う為にも、頑丈に身体が発達した形跡も見られる。
中々に興味深い。
イズクは雄英高校ヒーロー科を希望している。彼はオールマイトのようなヒーローになりたいと言っていた。
そこでなら優秀な個性を解析する機会も増えるだろう。
そして彼が目指す強く、優しいヒーローへの足がかりも掴める。
そのための協力を私は惜しまない。
何故?それは私がイズクの個性なのだからな。元の世界……玄界のことは既にイズクに話してある。
ユーマ達が此方に来た場合は私はイズクの元を離れることが決まっている。
いつになるかは分からないが……。
「あぁ……」
トリオン体での活動は現実の肉体に物理的疲労感は与えないが精神的な疲れは拭えない。
イズクが黄昏ているのもそのせいだ。
『イズク、いい調子だ。このままいけば雄英高校の試験も大丈夫だろう』
「ありがと、レプリカ。でも僕、ずっとレプリカに頼りっきりでいいのかな?」
イズクはこちらを向き深刻そうな顔をする。彼は今でも無個性というのは変わりない。個性のフリをする私にずっと頼ってもいいのか、ということだ。
『それを決めるのは私ではない イズク自身だ』
「えっ……?あぁ、そうだよね。ごめん、レプリカ」
『一応言っておこう。イズクが私なしでもその黒トリガーを使えるように訓練してもいい。が、現状私はイズクの元を離れる気はない。今のところは、安心してくれていい』
それを聞くとイズクは安堵の表情を浮かべた。
そしてそのまま地面に大の字になって寝てしまった。
『────疲れていたのだろうな』
私はイズクを
次回はオールマイトとで出会う日まで飛びます。
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ヒーローとして
とりあえず書き上げました。ゆっくりしていってね!
「レプリカ、そろそろかな」
「ああ、そろそろだな。準備をしておくといい」
私はイズクと一緒に下校ルートからは少し離れたちょっとしたトンネルのような場所にいる。
油断なくマンホールを見つめるイズク……今まで頑張ってきた分凛々しい顔つきになっているな。
「Mサイズの隠れミノォ!!」
バァン!とマンホールが宙を舞い、中からヘドロがドバッと出てくる。
汚水逆流ならばまだ良かった。
御生憎なことにこのドロドロっとしたものはヴィランである。
このヘドロが最近このあたりを騒がしている奴ということは既に私達は把握済みだ。
そして、こちらを狙うようにわざとおびき寄せたのだ。
「トリガー、
イズクは落ち着いた様子でトリガーを起動して戦闘体に換装しようとする──
が、そこに一陣の風が吹く。金髪ガチムチマッチョが私たちの眼前に一瞬映った。
換装するのも忘れてそのガチムチマッチョをイズクが見ている。一体どうしたのだというのだ?
だが、そんな私もその姿を見て直ぐに正体に思い至った。
「もう大丈夫だ少年!!」
「私がっ、来た!!」
それは出久が憧れるヒーローであるNo.1ヒーロー、オールマイトであった。
「TEXAS SMASH!!」
なるほど、拳で風圧を繰り出してヘドロを吹っ飛ばすことで行動を封じる……。
私の既存知識ではまだ推し量れないことがこの世界にはあるようだな。
オールマイトの活躍は動画投稿サイトにも多数アップロードされていたので、暇を見つけては時々見ているのだが本物の迫力はそれ以上だな。
それよりも私たちの眼前で風圧を繰り出したせいで私もイズクもドロまみれなのだが──イズクは気にしていないようだな。
余程憧れのヒーローに出会えたのが嬉しいとみえる。
一応これも解析しておこう。私はドロの破片を少しだけ自分の体内に格納した。
「すまなかった少年!ヴィラン塗れにしてしまったな!と……君は?」
『私はレプリカ。彼の個性だ』
「ほう!自立型個性か!これは珍しいな」
「お、オールマイ──ゴボッ……」
「あっ、忘れてた!すまない少年!今そのヴィランを剥がすからな!」
オールマイトは慌ててイズクのドロを腰に付けていた装置で吸引し始めた。
なるほど、確かに流体相手ならばこの手の装備は有効打だな。
「ふう……ありがとうございます!オールマイト!」
「いや、私は君と君の個性をヴィラン塗れにしてしまったから──」
感謝などされるとむず痒い、と彼は言った。
「いえ!そんなことはないんです!出会えただけでも奇跡のようなもので……」
イズクは恋する少女のような瞳でオールマイトを見つめる。イズク、その辺にしておくといい。オールマイトが困っている。
「えっ?あ、あぁあすいませんすいません!!」
「いや謝るのはこちらの方だ、すまない少年……その代わりと言ってはなんだが、私が出来る範囲で何かさせてもらえないか?」
「ほ、ほんとですか!?」
とりあえずイズクは肌身離さず持ち歩いている色紙にオールマイトのサインをもらった。
もう1つくらいなら頼まれてもいいぞ、という彼の言葉にイズクは少し考えてからこう口にした。
「友達に無個性の子がいるんです。それで、無個性でもヒーローになれますか?」
その言葉にオールマイトはうむむ、と唸った。それもそうだろう。
この社会は今や世界人口の八割が個性を持つ社会だ。
それを行使することがヒーローをヒーローたらしめていると言える。
それがなくてもなれますか?というのは中々に答えずらい問題だ。
誰が見ても彼に憧れていると分かる少年に、本人ではないにしろ現実を突きつけるというのは──
「なれない、というわけではない。だがなれるとも言いきれないな」
「例えば個性がないとしてだ、君はこのヴィランに勝てると思うかな?」
ヴィランを回収し終わった装置のボトルをコツンと叩く。イズクはそれに首を横に振った。
「だろう?ヒーローとはこういうものと日常的にやり合わなくっちゃあいけない。世の中、機転だけではどうにもならないこともある」
「ヒーローというのは職だけじゃない。警察だってヴィラン受取係と揶揄されていることもあるが彼らにだって救った命はある」
ふう、と一呼吸おいてオールマイトは言った。
──その人たちにとっては警察だって職業ヒーローに負けないくらい、立派なヒーローに見えたはずだぜ。
「夢を見ることを否定はしない。だが、それ相応に現実を見なくてはな。でも君は無個性ではない、自信を持ちたまえよ!」
さらばだ少年!と言ってオールマイトは飛び立ってしまった。
『イズク……』
「いや、分かってた。分かってたんだ。でも、キッついな……」
イズクはこぼれる涙をゴシゴシと擦って顔を叩いた。
「レプリカ、まだ終わってないんでしょ?」
『よく分かったな。サイドエフェクトにでも目覚めたのか?』
何それ、とイズクが首を傾げるが私は後で教えよう、と返した。
さってと、少年を諭していたら中々に時間を食ってしまったな。
私も無個性だったし、少し熱く語りすぎてしまったか。
それじゃあコイツを警察に届けに……あれ?
バッと飛んできた進路を振り返ると黒い煙が上がっている。
まさか──!!
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イズクとして
「こっちだイズク」
私はイズクを人目につかない場所と安全に周りを見渡せる場所……近場のビルの屋上を提案した。
イズクはこれに了解してトリオン体に換装。
比較的人のいない路地を走り、ビルの真下に到着すると「設」印で作成したグラスホッパーを使って1番上までひとっ飛び。
あっという間に事件の全貌を見渡せる場所まで来れたわけだ。
たくさんの野次馬がおり、中々に混沌とした状態である。現在そこにいるヒーローはシンリンカムイにMt.レディ、デステゴロ、バックドラフト……。
だかしかし、相手は爆発系の個性。迂闊に手を出せないでいるのか──
「か、かっちゃん!?かっちゃんじゃないか!?」
『む、確かに彼と外見と個性は99.9%一致するが──』
「そういうことじゃないよ!助けないと!!」
イズクはそう言っている。
が、ヒーロー免許を持たないものが個性を使用するということは、それ即ち自警団という扱いを受けてしまう。
『それでもイズクは行くのか?』
「行くよ。第一今の状況を見ている限りだとシンリンカムイは爆炎系個性には弱いしMt.レディは2車線以上じゃないと周りに被害が及んでしまうしバックドラフトは被害が広がらないように消火活動で精一杯だし他のヒーローは相手が子どもだから迂闊に手を出せずにいるわけでこの状況を打開するには新たな戦力が必要なんじゃないかなと思うしそれに──」
『ストップ、ストップだ、イズク。考察もいいが行動に移さなければ目も当てられない惨状が広がるぞ?』
「えっ……?ぁあぁぁあああ!!!」
カツキはドロヴィランから逃げ出そうと必死だが、あれでは周りに被害が及ぶだけだろう。
だからといって無抵抗ならそれはそれでまた別の嫌な事態が迫ってくるわけだが。
『まあ、最後に決めるのはイズク自身だ。結局どうするんだ?』
「行くよレプリカ。力を貸して」
『了解した』
「でもトリオン体に換装したからと言っても多分バレちゃうよね?」
『そうだな。だから私にいい考えがある』
「ほんと!?」
なんてこった!Holy shitだ!
私のせいでヴィランを逃してしまったじゃないか!
今の私は力の使いすぎでマッスルフォームになれずにいる……クソっ!
……おや?あそこにいるのはさっきの少年と少年の個性?だが服装が違うような……?
結論から言うと私がイズクの頭にまとわりついたのだ。イズクの頭が私の頭に置き換わった感じだな。
置き換わったと言ってもイズクの頭部をどこかに切り離した訳では無いからな。
この状態ならばイズクだとバレることはないだろう。恐らくは。
「
ビルから身投げするように真っ逆さまに飛び降りた。それに気づいた野次馬たちがなんだあれは!自殺か!と叫ぶ。
これもイズクの作戦のうちだ。
気づかれるかどうかは賭けになるが、落ちている途中に気づかれようともその後で気づかれようともヴィランの注意を引くことが出来るからだ。
落ちている途中で気づいてくれたのは僥倖だったな。
騒ぎに気づいてゆっくりとヴィランがこちらを向く。
──そこだ
私は『設』印を空中に配置してグラスホッパー生成。イズクの真下と敵に向かってジグザグに配置した。
ジグザグとはいえ身体を投げ出した人がいきなり高速移動を始めれば狼狽えるないし身構えることはするだろう。
確かこの技は『
アレは回避用だったが今回は回避兼接近用というところだろう。
三次元的に配置された光の通路の意味を理解するものは少ない。それは私たちにとってはありがたいことだな。
イズクが1つ目のグラスホッパーを踏み、加速が始まる。
訓練でも『
その割には上手くいっている。もしかして似たようなことをノートに書き記していたのだろうか?
ボンボンボンボンとジンが持っていたどこかのバトル漫画のように音を出しながらジグザグに飛んでいく。
さすがにドロのヴィランも投身していたやつがいきなり立体機動をし出すとは到底思わないだろう。
何とか迎撃を試みようとカツキの個性を使おうとするが、予想以上に反攻しているようだ。
ヴィランは中々に上手く爆破を使えない。
「
イズクはその隙を衝いてグラスホッパーと『強』印を併用して一気に肉薄。カツキに触れて次の印を使う。
「
カツキの身体に直接『鎖』印を付加。彼の身体から伸びた鎖を引っ張り一気にドロヴィランから引き離す。
「なっ!?テメェ!」
慌てふためくドロヴィランをよそにイズクはゆっくりとした動作で構えを取る。
「
純粋な身体能力を強化し、唸りを上げて拳を天に向かって突き上げた。
「SIETE SMASH!!」
その拳は空に立ち込めた暗雲を振り払い、新たなるヒーローの誕生を祝福するようでもあった。
SIETE SMASH ︰名前の通りそのまま。SIETEはスペイン語で「七」という意味だったのと語感がSEVENよりはいいかなぁと思って……。
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ヒーローとは
「ヴィジランテ……いや、ヴィランか?」
「どちらにしても捕まえなきゃな」
ヒーローの誰かがそう言った。確か『自警団』という意味だったか。
この世界ではヒーローが存在しているためにそんな非合法な集まりは必要ない。
よって犯罪となっているわけだ。
(さてイズク、どうする?)
(どうするって逃げるに決まってるでしょ!?)
「先制必縛━━━━」
『まずいな……』
シンリンカムイがこちらに腕を向けている。瞬間的に腕から樹木を伸ばして相手を拘束する必殺技だ。
捕まってから逃れることは容易だが、それにはシンリンカムイの樹木を破壊しなければならない。
捕まらなければ大丈夫、という訳では無いがこれ以上私達は余罪を増やしたくなかった。
「ウルシ鎖牢!!」 「
迫り来る樹木に対してイズクは焦らずに印を展開。
瞬く間に樹木は錘だらけになってしまいシンリンカムイは行動不能となった。
「ぐあっ!!クソ、痛くないけど重いぞコレ!」
「シンリンカムイ!!」
他のヒーローが錘を壊そうと頑張っているがアレはそう簡単には壊れない。
まあ確かにシンリンカムイを直ぐに復帰させれば私たちを捕まえることも容易だろうが……。
「━━ッ!!
「あ゛〜もうっ!!逃げないで!!」
先程まで小さくなっていたのか、Mt.レディが突如目の前に現れてこちらに掴みかかってきた。
間一髪で避けられたが、握りつぶされれば一溜りもないぞ、イズク。
「分かってる。でも、一つだけヒーローたちに言いたいことがあるんだ。レプリカ、僕が今から言う言葉を復唱してくれないかな?」
『イズクがそう決めたのなら、私はそれに従おう』
イズクは三階建ての一軒家の上に降りたってヒーロー達を眺めた。
『ヒーロー、あなた達は……』
スウッと1拍置いてイズクは言った。
『本当に彼を助けようとしていましたか?』
ヒーロー達は少し焦ったようだった。見透かされたのがそこまで悪手だったとは思えないが。
「『設』印 カメレオン 」
周囲の風景と同化するトリガーを使用して私たちはさっさとその場から逃げ果せた。
イズクだって状況は分かっている。
だけどそれでも我慢ならなかったのだろう。ヒーローたちがカツキを後回しにしていたことを。
事件の翌日、カツキはニュースなどに取り上げられ、プロからもスカウトが上がるほどの個性として一躍有名になった。
しかしその一方でもう一つのニュースが波紋を広げている。
ヒーローが他のヒーローに頼ってしまう、というニュースだ。
事件のあらましを見れば仕方ないといえばそうかもしれないが、人を助けるはずのヒーローが他人頼りになってしまうというのはマスコミの恰好の的となってしまった。
『ヒーローの質の低下』、今回の事件でそれがしっかりと世に現れたといえるだろう。
そしてカツキを助けた謎の戦士、ヴィジランテだったり謎のヒーローだったりと言われるが、他に類を見ない特殊な個性ということで話題になっている。
最後に残した言葉もヒーローの質の低下を示唆していると推測されているようだ。
空中移動やパワー強化、鎖の生成……ネットではどんな個性なのだろうかと熱い議論や大喜利が交わされていた。
ヒーロー達の間では彼の者をスカウトするかお縄にかけるかと意見が分かれているようだ。
そしてヘドロヴィラン事件から2日後、私たちはカツキに体育館裏に呼び出されていた。
「おい、デク」
「な、何、かっちゃん?」
「あんなクソカスはお前がいなくても俺だけでどうにかなった」
「━━━━!?」
『分かっていたのか?』
その問いにカツキは当たり前だろ、と返した。
「完全にレプリカの顔のまんまだっただろ」
「確かに……」
「助けなんていらなかった、それだけだ。お前が助けなくてもどうにかなったんだからな!!」
そう言うとカツキは踵を返して走っていってしまった。
「僕、余計なことしちゃったのかな」
『そんなことはないはずだ。カツキなりのケジメの付け方だったんだろう』
自分と同じくらいだと思っていた人間に助けられるというのは存外心に響くものだ。
カツキがそれを飲み込んでに「ありがとう」の一言で済ませられる人間ではないことを私は知っている。
だからこうした。
お前が来なくても大丈夫と言った。本当に大丈夫だったかは定かではないが、それを言うこと自体にケジメとしての意味があるのだろう。
イズクもカツキの性格は知っているはずだが……まあ、少々鈍感なのかもしれない。
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入試本番
あれから色々あったがやっとこさ入試の日まで漕ぎ着けた。
「おいデク!」
「あ、かっちゃん!」
遠くからカツキが声をかけてきた。ふむ、バイタル良好。彼はあまり緊張していないようだな。
「俺が落ちねぇように、お前も落ちねぇ。気張れや」
「!?」 『!?』
まさかカツキの口から人を気遣う言葉が出てくるとは思わなかったぞ……
それだけだ、とカツキは言うと真っ直ぐ試験会場に走って行った。
「あれほんとにかっちゃんだよね」
『ああ、純度100%カツキだ』
「今日は俺のライブへようこそォ!エヴィバディ〜セイヘイ!」
今、イズクと私は筆記試験が終わり、別な会場に移動している。そこではプロヒーローのプレゼント・マイクがノリノリで実技試験の概要を説明していた。
私としては彼がこの説明の場を持つのは不適切なような気がするが……。
「こいつぁシヴィ―――!!!受験生のリスナー諸君!実技試験の概要をざっくりとプレゼンするぜ!!」
「まあ入試要項通りなんだけどな!さすがに予習してきてないリスナーはいないと思うが、この後は『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!」
概要は簡潔にまとめれば「ロボットを行動不能にしろ!」ということだ。
ロボットの攻略難易度によって自分に入る得点が変わるようだが……一つ説明していないのがいるな。
プリントの画像からして確実にイルガーよりもでかいロボットのようだが……。
「質問よろしいでしょうか?」
「OK、どうぞ!」
私たちの少し前の席にいるメガネの少年が手をビシッと上げる。
ふむ、どことなくオサムっぽいような……?
「プリントには四種類の敵が記載されています。ですが現在説明してもらったものは3種類しかありません!
誤記載であれば日本最高峰の恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!」
プリントの写真の欄をビシッと叩きながら彼は言う。
「OK、OK。受験番号7111くん。ナイスなお便りサンキュー!四種目の敵は0P!
そいつはドッスンとかパワークッキーを食う前のパックマンのゴーストみたいな奴だ!つまるところはお邪魔虫!
各会場に一体だけ、所狭しと大暴れする『ギミック』だ!俺個人としては戦わずに逃げることをお勧めするぞ!」
「ありがとうございました!失礼いたしました!」
「じゃあ俺からは以上だ!!それじゃあシメにリスナーへ我が校の『校訓』をプレゼントしよう!」
「かの英雄ナポレオンは言った!『人よ願え! お前たちに不可能は無い!』と!!」
「更に向こうへ!『Pius Ultra!!』それではリスナー諸君よ、よい受難を!!」
なんというか、自由な校風だな。
そんな雰囲気が次世代のヒーローを生み出す原動力なのかもしれないが。
「さて、行くよ。レプリカ」
『了解した』
イズクもプレゼント・マイクの声で頭が冷めたのかカツキ同様バイタル良好。
……プレゼント・マイク、まさか狙っていたのか?
実技試験会場にはイズクの少し前にいたメガネの人がいた。
なるほど、脚に車のマフラーみたいなものが着いているな。
これが彼の個性だろう。さしずめ『エンジン』といったところか。
「トリガー、
イズクは自身の身をトリオン体に換装。
地面に手を触れて、いつでも印を使用出来る姿勢をとる。
「はい、スタート」
なんとも気の抜けた声だったがイズクはそれを逃しはしない。
「
ゲートに突入しようとする受験生達を飛び越えて一気に1番前へ躍り出る。
「
一人で1番前へ躍り出るということはそれ即ち格好の的になるということ。
試験用ロボット達は我先にとイズクに向かって突撃し始めた。
「標的捕捉!!ブッコロス!」
「
群がる敵に黒色の弾丸がぶち当たる。
行動不能にすればいいのなら、わざわざ
イズクの眼前には錘が生えた大量のロボットが行動不能になって転がった。
『次だ、イズク』
「了解!
受験生が戦うためには『個性』を使う必要がある。
その『個性』から発せられるトリオン反応を追って私たちはロボットを殲滅していけばいいわけだ。
────そしてヒーローとしての本業も忘れない。
「
ロボットに押され負けそうな人の後ろから黒色のトリオン弾を飛ばす。
「ヒーローは助け合いだからね!」
「あ、ありがとう!」
包囲されている受験生の周りのロボットを行動不能にしたり、既に怪我をしている受験生を入口まで搬送したりとイズクは中々に精力的に活動していた。
が、ここでお出ましか……!!
「に、逃げろぉぉぉ!!!」
「あんなの勝てっこないだろオイ!!」
試験開始から数分後……ビルの谷間から無機質な緑色の巨人が姿を現す。こいつに自爆特攻などされたら溜まったものでは無いな。この街全体が吹き飛ぶ風景がありありと想像出来る。
他の受験生達は我先にと逃げ出していくが、イズクはビルの上から0Pロボットを眺めて呟いた。
「レプリカ、僕はヒーローとして大切なことは守るために戦うことだと思ってる」
「あのヴィランを放っておけばこの街は他のヴィランが全部いなくなったとしても壊滅的な被害を受ける」
『答えは決まっているのか?』
私の問いへのアンサーはイズクの表情がしっかりと物語っていた。
「うん、もう優柔不断な僕じゃないぞ!」
『その意気だ』
「僕は僕の意思で、ヴィランを倒す」
「
距離はおおよそ100mほど。
あくまでも目的はヴィランの無力化だ。
「
敵と相対するまで残り40m。後は
『イズク、ここだ!』
「ちょっと待ってレプリカ!
なるほど、要救助者の有無を確認するのか。いい心がけだ。
「反応あり!下かっ!」
言うが早いかイズクはビルから飛び降り、『設』印でスパイダーを使いながら慎重に下っていく。
「大丈夫ですか?」
「う、ぐぅっ!……誰?」
バイタルチェック開始……終了。損傷は脚のみ。それ以外は良好か。
『イズク、脚部の軽い傷を確認。ゆっくり瓦礫を撤去することを推奨する』
「了解!
インコさんから入手したものがここで役に立ったか。
実は人の個性から入手した印はその人の個性の強さに依存する。
インコさんの個性はあまり強力なものではないために四重も重ねがけしなければいけないのだ。
丁寧に瓦礫を退かした後、イズクは彼女を抱えてにその場から離れる。
0Pヴィランから30mほど離れたところで彼女を下ろし、踵を返して0Pに向かおうとしたが────
「待って!君はアレと戦う気なの!?無茶だよ!」
確かにはたから見たら無茶だ。今の年代の子ども達でこのロボットに太刀打ちできるような個性を持った者は片手で数える程しかいないだろう。
……私に指はないが。
「君が無茶と思っても、僕はやるよ。僕がそうするべきと思っているから!レプリカ、ちびレプリカを出しておいて」
イズクは彼女も返答も聞かずに駆け出した。私はちびレプリカを生成して彼女の近くに待機させる。
『君が彼を心配して言ってくれたのは分かる。だが、彼はわざわざ無謀なことに挑むような人間ではない』
「あ、あなたは?」
「私か?私はレプリカ。彼の個性だ」
「
黒の猛威が鉄巨人に襲いかかる。着弾箇所から次々に錘を生成していくが……
『全く止まる気配がないな』
「ほんとだね。さすが雄英」
プランB、があるわけではないがイズクは冷静だった。もとよりイルガーよりも巨大なロボットにはあまり効くことはないと私は踏んでいた。イズクも同様だ。
「これならどうだ!」
イズクは『攻・狙・銃』の印を展開して『銃』を選択。
『撃』の文字が表示され、ボーダー製トリガーの「メテオラ」の文字がその場に表示される。
「メテオラぁ!!」
両手にイズクの身長の半分程度の大きさの球体型エネルギー弾が現れる。
私から小さい私を出すように、球体から小サイズの球体を射出。小球体はイズクの操作で流れるように巨大ロボットに向かっていく。
狙いは勿論━━━━
「駆動部!」
イズクはロボットの中でも関節部分に狙いを定めた。本来ならば指揮系統の回路を叩くべきだが、ご丁寧にロボのヘッドの部分にあるとは考えにくい。
ならば、と行動を制限するために駆動部を選んだのだ。
「あれがアイツの『個性』か!?」
「万能過ぎない!?強化に射撃にジャンプって……」
他の受験者たちの声が聞こえてくる。確かに通常の個性と比べれば私は少々多目的かもしれないな。
「終〜〜了〜ぅ!!」
試験時間の最後までメテオラを受け続けた0Pヴィランは終了の合図と共に黒煙を登らせその機能を停止した。
イズクはトリオン体から通常の体へ換装し、コンクリートの上に突っ伏してしまった。
計測してみればイズクのトリオン残量は既に2割を切っている。これは精神的疲労も多大なものだろう。
意識は……あるな。だが脳疲労が尋常じゃないため状況把握どころではないだろう。
イズクが倒れたことを心配したのか先程助けた少女がこちらに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫!?」
『大丈夫だ、まあエネルギー切れのようなものだと思って欲しい』
私はちびレプリカを回収。その後イズクをどう運ぼうかと考えていると「ペッツをお食べ〜」と声が聞こえてくる。
そちらを向けば白衣を着た小柄なお婆さんがこちらにゆっくりと向かってきた。
「君は怪我を……してないね。どうしたんだい?ストレスかい?」
『彼は個性を使う度にトリオン……エネルギーを消費するのだ。現在のエネルギー残量は既に2割を切っている』
「おや、君は……」
『申し遅れた、私は彼……イズクの個性。名をレプリカと言う』
「レプリカ……なるほど、言い得て妙だねぇ。彼はそのままでも大丈夫なのかい?エネルギーの消費とか言ってたけど、栄養素ってわけではないんだろう?」
『そうだ。だからリカバリーガールの治癒力の活性化ではどうすることも出来ないだろう』
「物知りだねぇ。私の個性じゃどうにもならないかもしれないけど、一応検査はさせてもらうよ。そこの子も来なさい、脚の手当くらいならチャチャッとしてあげるよ」
『了解した』 「は、はいっ!」
私たちは救護ロボットにイズクを預けてリカバリーガールと共に保健室へ向かった。
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選択
ここは雄英高校の大会議室。
プロジェクターには奮闘する受験生の様子が細かに映し出されている。
手元の資料を見ながら教師陣達は熱く新入生達の様子を語る。
「救助ポイントで20点で1位とは……いやはや中々の成績ですな。『個性』も後半戦からが本領発揮という感じでしたね」
「腕からニトロみたいなのを出すのよね彼。汗と同じ原理で出てくるようだし、それなら後半のタフネスも納得ね」
「それを言うならコイツも凄いぜ!救助ポイントもそれなりに獲得している上に、0Pヴィランを倒しちゃったんだぜ!?」
「しかも周りに被害を及ぼさないように的確に駆動部ばかりを狙っていますし……ヒーローとしても十二分に素質ありかと」
「確か彼の『個性』は〜っと……『レプリカ』?複製ってことかしら」
「いや、説明欄も見とけよ。ほら」
プレゼント・マイクがミッドナイトに追加資料を手渡す。
個性︰『レプリカ』
異形自律型個性。周囲の情報を蓄積・解析が可能。
所有者を纏っての身体強化、その他『印』と呼ばれる能力の行使が可能。
『印』の効果は「強化」、「射撃」、「シールド生成」等多岐にわたる。
個性由来の攻撃や影響を本人もしくはレプリカが受けた場合には個性による現象を解析して新たな『印』を作ることが出来る。
「規格外ね……」
「ヴィランじゃなくてほんとによかったぜ……」
「このままでも彼は十分に強い。でも、その力を生かすも殺すも我々次第だ。みんな、しまっていこうね」
ネズミの姿をした雄英高校校長──根津校長は席を立ち、ゆっくりと会議室の外へ出ていった。
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ。こんなことも出来ないんじゃあ私ゃただの隠居老人になってるからねぇ」
緑谷出久、麗日お茶子の両名は保健室でリカバリーガールによる治療を受けていた。
といっても彼女の『個性』を利用したものではなく、栄養剤や湿布、消毒等の基本的なものだが。
『私も忠告していなかったのは悪かったな。すまない、イズク』
「いいよいいよ。夢中になっていたのは僕もだしね。これからは自分のトリオン残量も気にしていかないと……」
本来ならばトリオンは残量を気にするもの、というよりかは出力に直結するものだ。
トリオン器官の優劣はトリガーの力に繋がる。これがボーダーでの常識だ。
出久のトリオン量は遊真と千佳の中間より少し遊真寄りなのだが、なぜだか異常にトリオン消費が早い。
その代わりなのかトリオンの回復速度は修と比較しても非常に早いのだ。
しかし、今回の実技試験のように短時間で膨大なトリオンを使い続けたりしてしまうと、消費量が回復量を上回ってトリオン体を維持出来なくなってしまう。
ちなみに今回ぶっちぎりでトリオンを持っていったのはメテオラを乱射し続けた時である。
それと共に試験の心労も押し寄せてこの結果というわけだ。
つまるところ、彼は電費が悪いがすぐ充電が終わるEVのようなものである。
「出久くん、そのトリオンって何?」
保健室で意識が回復した後、出久とレプリカはお茶子に頭を下げられた。
助けてくれてありがとう、そう彼女は言った。
ヒーローの卵として当然のことだよ、そう答えられればよかっただろうが、出久のコミュ力はまだその段階までには達していなかった。
そんなわけでまずは慣れろ!というわけで自己紹介をして、今に至る。
「ええと、トリオンっていうのはね。簡単に言えば生体エネルギーのことなんだ。これは僕の『個性』やレプリカの動力源なんだよね。
トリオンは、人間が心臓の横に持っている『トリオン器官』っていう見えない内臓で生成されて、栄養補給と適度な休息によって回復するんだ」
『付け加えるならばトリオンは君たちの『個性』の運用にも関わっている。個性はトリオンによって稼働しているものなのだからな』
ここまで説明したところで出久とレプリカは顔を見合せた。
──しまった
出久は以前よりかはマシンガントーク気味にならずに説明出来たが、如何せん内容が濃すぎた。
そしてトリオンについてはレプリカが調べた限り、まだこの世界では認知されていない情報である。
お茶子は顎に手を当ててからポン!と手を叩いた。
「つまり……出久くんとレプリカが動くためのガソリン?」
「そう!」 『そうだ』
物事を簡潔にまとめる能力としては彼女の方が上手のようだ。
彼女も深く考えることはやめたようなので、それはそれで2人にも僥倖であった。
オチャコとの話にイズクもやっと慣れてきた頃、リカバリーガールがオチャコの方はもう大丈夫だから帰りなと声をかけてきた。
「う〜ん、名残惜しいなぁ。せっかく話せるようになってきたのに」
「ご、ごめん……」
「いいっていいって!でも出久くんとはまた会えるような気がするから!」
イズクは一瞬キョトンとした後、梅干しを食べた後のように顔をすぼめた。
「うわぁ……」 『イズク、顔を戻すんだ』
イズクは「ごめん、ちょっとキュンとしちゃって」と弁解していたが、もう意味がないような気がする。
「じゃ、またね!」 「うん、またね、麗日さん」
「別れの挨拶は終わったかい?それじゃ、ちょっとこっち来なさい」
リカバリーガールがキャスターからぴょこんと降りて保健室のドアを開けた。どうやらまだ何かあるようだ。
「別にまだ検査するわけじゃないよ。あんたにどうしても会いたいって人がいてね」
「誰ですか?」 『誰だろうか?』
「ま、それは来てみてからのお楽しみさね」
彼女は不敵に笑った後、しっかりした足取りでどこかへ向かっていった。
さて、私たちも追いかけるとしよう。
「失礼しまー……」
イズクが面談室のドアを開くと、画風が違う人がいた。
「わーたーしーが〜」
「来たっ!!」
「お、おぉぉおぉおぉお……!?」
青天の霹靂、今のイズクの状況を表すにはまさにその言葉が相応しいだろう。
正直なところ、私も少し驚いた。
近々雄英高校の教師になるとネットで噂されていたオールマイトが、今私たちの目の前にいる!!
「オールマイト!!!」
「会うのは2度目だったかな、緑谷少年!!そして、レプリカ君も!とりあえずそこにかけたまえ」
『そうだな、オールマイト。して、私たちに用事があるそうなんだが』
……む?オールマイトの体から白い蒸気のようなものが出ているな。これは一体……?
しかも体温が急速に下がり続けているのだが、これは彼の個性の影響だろうか。
そんなことを考えているといっそう蒸気の勢いは強まってオールマイトを覆い尽くしてしまった。
「オールマイト!?」
「大丈夫さ緑谷少年!ゴホっゴッホゴホッ……」
蒸気が晴れるとそこには──
『骸骨?』
「そう思われても仕方ないな。改めて自己紹介をしよう。私はオールマイト。そしてこれが本来私の姿、トゥルーフォームというわけだね」
口から垂れる赤い液体を拭って、彼は語り始めた。
イズクと出会う5年前、とあるヴィランとの戦いで重症を負ってしまったこと。
今の一日の活動時間は3時間が限界ということ。
その限界値は今も下がり続けているということ。
「5年前といったら毒々チェーンソーしか思い出せませんでした……」
「ムッ?よく知ってるね。でも私はあんな奴に負けるタマじゃないさ。世間に知られていないのは私が知らせないでくれと頼んだからね」
『そのヴィランの内容を私たちが聞くことは?』
彼は少し逡巡した後、自分に言い聞かせるように頷いた。
どうやらこの内容を探るのは時期尚早だったようだ。
「……時が来たら話そう。っと、それよりもだ。さっきから急で悪いがコレを見てくれ」
彼はピッと壁に取り付けられたテレビに向かってリモコンのスイッチを押した。
そこに映っているのは雄英高校の実技試験の時のイズクと私、そして──
「これは君たちだね?」
ヘドロ事件の時に撮影されたと思われる、私たちがビルから飛び降りる直前に戦闘体に換装している場面だった。
待てイズク、まだ全てが終わった訳では無い。
確かに私自身撮影されるようなことはないと思っていた。すまない、私の落ち度だ。
だから今すぐその怨嗟の声を止めんるんだ。ほら、オールマイトも引いているぞ。
「最初に言っておこう。確かに君がしたことは立派な犯罪だ」
「う、ぐっ」
「だが、今回はそのことについてはとやかく言うつもりは無い。結果オーライなら規則がどうでもいいわけではないのだが……」
オールマイトは腕を広げて、まるで演説のように言葉を繋ぐ。
「膠着状態の中で命を顧みず飛び出した君は、あの場の中の誰よりもヒーローだった。そんな君の姿に、私は心を動かされた!光るものが見えたんだ!!」
「トップヒーローは学生時代から逸話を残している。彼らの多くはこう結ぶ。『考えるより先に体が動いていた』と!!」
「そして私は決めたのだ。君ならば──否、君だからこそだ!!私の『力』を受け継ぐに値する……とね」
オールマイトはテレビによく映る筋骨隆々の姿に早変わりした。
「私の個性、その名は『ワン・フォー・オール』。超常黎明期から脈々と受け継がれてきた、言わば聖火のようなものなんだ」
『譲渡が出来、尚且つその回数の分宿る力が強まる個性、という認識で相違無いか? 』
その通り、とオールマイトはオーケーサインをする。
「活動限界も近くなってきていることもあって私は君のような後継者を探していたんだ。受け継いでくれるかい?緑谷少年!」
そう聞かれたイズクは首をガチガチと回しながらこちらを向いた。
ふむ。
確かにイズクにとってこれは願ってもないことだ。しかも、憧れのヒーローの『力』。
だがネガティブシンキングでは他の追随を許さないイズクのことだ。
譲渡に伴う責任・重圧やその辺りのことを考え、今こちらに目を向けているのだろう。
どうしようレプリカ!!に類似するようなことを言ってくることは分かっている。ならばここは先手を打たせてもらおうか。
『イズク、それを決めるのは私ではない』
「僕、自身……だよね」
イズク……成長したな。
私のセリフをかっさらって、覚悟を決めたようにイズクはオールマイトをしっかりと見据えた。
「オールマイト、僕は───」
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雄英入学
インフル中もコレを書き進めてはいたのですが、その影響かノリと勢いがひどいことになっていますのでそこは生暖かい目で見守ってくれると助かります。
追記:設定資料集を最初に追加しました。その影響でしおりがズレてしまった皆様、誠に申し訳ございません。
「出久、荷物持った?」
「うん」
「ハンカチは?ティッシュは?」
「あるよ!」
「レプリカちゃんは?」
『ココだ』
僕と言葉を交わす度に涙をこぼすお母さん。以前から泣き上戸ではあったけれど、今回は特にそれが顕著だ。
既に玄関が涙でびちゃびちゃだ。水系の個性を隠していたんじゃないかと見紛うほどの水量は一体どこから供給されてるんだろう。
それはともかく、憧れの雄英高校に入れるということはお母さんにとっても誇らしく思えることで、僕にとっても悲願だったからこんなにも涙を滲ませてくれているのかな。
「出久にレプリカちゃん、超カッコイイよ!!」
涙を拭ってお母さんが満面の微笑みを見せた。そんな母の優しさを背に受けて僕はドアを開けた。
「いってきます!」
「受け取りたい、いえ、受け取らせて下さい!!」
「よく言ってくれた緑谷少年!!」
僕はあの日、オールマイトの『個性』を受け継ぐことを決めた。
責任とか覚悟とか、色々と頭を巡ったけど結局のところ僕の答えはレプリカに聞かれるまでもなく決まっていたことなんだ。
それらを全て背負ってでも、僕はオールマイトのように、最高のヒーローになりたいって。
「身体は見たところ鍛えられているようだけど……何かやっていたのかい?」
『イズクのコレは現実の体とは別の体……いわゆる戦闘体だな。それを作り出しているのだが、現実の体で並大抵のことが出来るようになれば戦闘体ではそれ以上のハイスペック性を獲得出来るということを期待してそれなりには鍛えてある』
オールマイトが僕の体にペタペタと触れながら質問すると、レプリカは僕のトリガーを示しながら答えた。
僕はトリオン体での活動をスムーズに行うために、まずは生身の体を鍛えることに専念していた。
特訓初期の頃はトリオン体でいるよりも生身の体の時の方が多かった気がする。
「これだけ鍛えていれば大丈夫だろう。じゃあ……そうだな」
オールマイトは自分の髪の毛を一本、ブチりと抜くと僕にずいと突き出した。
「食え」
「えっ?」
『個性』の譲渡にはDNAさえとり込めればいい、というわけらしい。
それならポンポン渡してしまえばOFAもねずみ算式に増えていくのではないだろうかと思ったが、そんなこともないようだ。
『私にも一つ貰えないだろうか』
「レプリカ!?」
「おっ、レプリカ君も食べるかい?でも多分何も残ってないよ?」
『私の場合はオールマイトの『個性』の解析をするというわけだから、食べるという表現は当てはまらないかもしれないな』
まあ譲渡したわけだし解析されてもいいか!とオールマイトは吹っ切れたようにレプリカにも同じように髪の毛を一本渡した。
「ただし!!どこにも公表しないようにね!」
『約束しよう』
「そういえばなんでオールマイトは僕にOFAを?まだ受験者の採点とかしてないよね?」
『私の見立てた限りでは、この会場でイズクは一位だが』
「ええ!?そうなの!?」
『最初にちびレプリカを飛ばしておいた。オールマイトが譲渡に踏み切った理由は明らかにイズクは雄英に合格するとわかっているというのも含まれているだろう』
「ちょっと早く来ちゃったね」
『そうだな。カツキの方は何やら騒がしいようだったからな』
現在時刻は7時半。
元々カツキと一緒に行く予定だったが、登校初日というのに親子喧嘩でもしているのか、受話器越しにかなりの怒声が聞こえたので私達は先に行くことにした。ちなみに親子喧嘩は日常茶飯事である。
カツキ父の胃がもたないような気がするので程々にしてあげるのが良いと提案しよう。
UとAが合体したようなロゴの意匠がある巨大な門を通り過ぎると、そこはまるでテーマパークを彷彿とさせる空間だった。
ジンなら「テンション上がるなぁ〜」とでも言うだろうか。いつも通りに揚げせんを食べている姿が容易に想像出来る。
ボーダー本部よりも広大な敷地内を確保しているその最たる理由はやはり学科数だろう。
ヒーロー科を筆頭に普通科、サポート科、経営科と大きく4つに分けられていて、科ごとに専用の施設がある。(ヒーロー科なら模擬演習場、サポート科ならばアイテム作成用の工房など)一日でその全てを目にすることは到底出来ない。
今回は入学初日なので急いで周らなければいけない、なんてことはない。私達の教室周辺の施設を少し見ていく程度に留めておこう。
僕は一階の廊下をペタペタと歩いて色々な教室を眺めていく。特にこの場所は工房のような部屋が多くあり、サポートアイテムが所狭しと並べられている場所もある。
扉が開きっぱなしの部屋が多いのはきっと換気のためなのかな?それとも材料の搬入とか?
「レプリカ、これってどうなってるのかな?」
道端に置かれていたサポートアイテムのような何か(失敗作だろうか?)がたまたま目に付いたので何の気なしに尋ねてみる。
……しかし返事が来ない。
怪訝に思って後ろを振り向くとそこにはレプリカはいなかった。
その代わりに少し離れたところに黒い炊飯器を掲げて走る桃髪の女の子が──
「えっ……ちょ、待ってぇぇぇえ!!」
サポートアイテムを脚部に装着しているのか、思ったよりも足が早い!
頭に見えるゴーグルからしてサポート科だろうけど(ここが工房だらけということも理由に入れるよ)。
まさかレプリカが連れ去られてしまうとは夢にも思わなかった。機械か何かだと思われ──いや、レプリカはトリオン兵じゃないか。もしかしなくても微妙に近しい存在なのかもしれない。
追っていた桃髪が曲がり角に消えた直後、耳を劈くクラッシュ音が聞こえた。
まさかとは思うがあのサポートアイテムは不良品だったり……?カーブが出来ないのは致命的じゃないか!?
一抹の不安を抱えながら自分も角を曲がるとそこには目も当てられない惨状が広がって──
「凄いですねあなた!」
『この程度、お易い御用だ』
──いなかった。
「レプリカ!」
『すまない、イズク。不覚にも連れ去られてしまった』
「いや分かって連れ去られたよね!?」
桃髪の人はレプリカと僕が会話しているにも関わらず、レプリカの背面をみたり耳っぽいところを触ってみたりしている。
最後にマイナスドライバーとペンチを取り出した時はさすがのレプリカもその手から逃げ果せた。
「なっ!ちょっとくらい分解させてもらってもいいじゃないですか!」
『丁重に断ろう。その工具で私は傷つかないとは思うが』
少し怒った様子の彼女をレプリカは軽くあしらい、ふよ〜っと僕の元に戻ったときに初めて桃髪の人は僕を認識した。
ゴーグルのせいで目が見えないが口元はどこか不満げだ。
「……あなたは?」
「え?あ、ぼ、僕は緑谷出久!レプリカの──」
「ホントですかぁぁぁぁぁぁ!?いやー!!すごいですねあなたのベイビーは!!ドッ可愛いどころかもはや見た瞬間卒倒ものですよコレ!!どこに反重力システムを搭載してるのか、人工知能とかさっきの……なんですかアレ!?シールド射出機能なんてどんな手間をかければこのスモォールボディーに収まるのか全く検討がつきませんね!あ!もしかして他にもまだ色んな機能ぶち込んじゃったりしてます!?」
僕は確信した。彼女は自分の好きなもののことになると僕のようになる。マシンガントークになってしまうのだ。
ブツブツと喋る僕とは違いハキハキと言っているところが僕よりは好感が持てるところだろう。
そして僕はまだ「レプリカの」までしか言っていない。脳内補完早過ぎない!?
『私は彼、イズクの個性だ』
「へ、個性?」
レプリカが僕を忠告するときのようにそう彼女を窘める。一瞬顔から感情が消えた後、「イヤイヤイヤ」と彼女が爽やかに笑いながら言った。
「個性なワケないでしょう!!私の目は誤魔化せませんからね!」
確かに彼女のゴーグルは何でも見通せそうだが……。
まさか……個性が『看破』だったりするのか!?
それだとしたら相当まずい。
心を読むタイプのものだったらOFAの存在なんてすぐにバレてしまうし、そうじゃなくとも雄英高校の入学取消なんてことも……。
「ご、ごごごっごめんなさい!!」
何故か僕は謝ってしまっていた。チラと彼女の顔を見やると「あら」と口に手を当てて驚いていたようだった。
「カマかけたつもりだったのに大当たりでしたか」
「えっ」
「ええええええぇえぇぇぇ!!!?」
「アッハッハッハッハッ!!ビックリしましたよーもう」
今私達は雄英高校のサポートアイテム開発用の工房内にいる。
目の前で笑っているのはハツメ メイという少女だ。サポート科に今年から在籍するそうだ。
メイの口八丁で私がイズクの『個性』由来のものではないと看破されてしまったが、彼女からするとソレはどうでもいい事だという。
そんなことより私の構造が気になるらしいのだが……私自身まだ全てを把握しきれているワケではない。そこはメイにも謝罪し、納得してもらった。
とりあえず「レプリカが君の個性じゃないってバラしちゃうぞ☆」という形だけの脅しを受け取った私達は、懇切丁寧にイズクの黒トリガーの機能や私の機能を教えていた。
「成程成程。『印』ですか。これまた合理的で興味深い機能ですね〜!ちなみにさっき私が『スーパー加速君7号機』で事故りそうになったときに使ったのは?」
『アレは
「ほっほ〜う!入学初日だというのに私はこんなにインスピレーション溢れる体験が出来るだなんて〜もう感激ですぅ!!」
パソコンを打ちながら笑い続けるメイは何かそこはかとなく狂気を感じる。そんな彼女にイズクがおずおずと話しかけた。
「あの、発目さんって僕と同じ1年生なんだよね?」
「ええそうですとも!それが?」
「どうして工房を使えてるのかなって」
「あー、それはですね。直談判したんですよ。入試終わった直後に」
「直後に!?」
メイによれば雄英のサポート科に入ることは自身の中では決定事項だったようで、入試終了直後に工房担当のパワーローダー氏に直接「工房使わせて下さい!!」と頼み込んだそうだ。
さすがに初日は「帰れ」と言われて大人しく帰宅したが、次の日の早朝から毎日雄英に来て直談判を続けたそうな。
結局メイの熱意に雄英教師陣は折れ、彼女の採点を急ピッチで終わらせた。
ちなみにテスト結果は基準値を大幅に上回っていた為に直ぐに許可が降りた。
そしてその日から今日まで、1日たりとも休むことなくサポートアイテムの開発に勤しんでいたという。
「凄いよ発目さん!」
「そうでしょうとも!!」
その後メイと私達は始業五分前になるまで話しを続けた。
「連絡手段とかあったりしませんかね!?じゃないと秘密バラしちゃいますよ☆」 とバラすつもりは毛頭もないだろうが脅しをかけてきたので、イズクに許可をとってからちびレプリカを彼女にプレゼントした。
さっそく分解しようとしていたので釘を刺したのは言うまでもない。
僕らは始業ギリギリに1-Aの教室に転がり込むように入った。
何かにぶつかった気がするが気の所為だと思いたい。なんかドアの前で寝袋がモゾモゾしているのは疲れているからだ。きっとそうだ。
「……オイお前」
「ヒィっ!!すみませんでした!」
人でした。
彼はここで怒鳴っても合理性に欠けるな、と呟き寝袋を脱ぎ捨てて教壇に立った。
僕は急いで空いている座席に着く。
もしかしたら、もしかするのか?
「ハイ、君達が静かになるまでかかった時間は八秒だ。光陰矢の如し、合理性に欠くから以後気をつけろ」
もしかしたよ!初日に担任に思いっきりぶつかっちゃったよ!!
内心汗ダラダラになりながら僕は彼の自己紹介を聞いた。
「ここの担任の相澤消太だ、よろしくね。早速で悪いがお前らそれ着てグラウンド集合だ」
相澤先生が示した先──教室の隅っこのほうにダンボールが山ずみになって置かれていた。
側面にデカデカと「体育着」と書かれている。成程、初日から身体測定をするのかと関心する。
相澤先生はいつの間にか寝袋を持って出ていってしまった。
僕は先生と衝突してしまったこともあってみんなが呆然としている中、せっせと体育着を出し始める。
常識的に考えれば始業式などがあって然るべきだが、ここは雄英高校。
いい意味でも悪い意味でも、既存の知識はぶち壊される運命なのだろう。
僕につられてみんなもせかせかと準備をし始めた。とりあえず僕は一番に行って相澤先生に謝らなくては!!
みんながガヤガヤと騒いでるのを他所に、一人演習場へと走った。
発目少女と初日でエンカウントしたのは当方だけのような気がしないでもない。
もしいらっしゃったら申し訳ございません。あなたがNo.1です!
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個性把握テスト
期待に応えられるよう精一杯頑張ります。
追記︰オマケ講座も制作中です。
追記の追記︰オマケ講座完成しました。台本形式ですがそれでも良ければお楽しみくださいませ。
「個性把握テストォ!?」
「入学式は!?始業式は!?」
「合理性に欠けるので全カットだ」
なんということでしょう。
これからの始まりを認識する入学式も始業式も全部取っ払われてしまったでありませんか。
僕は演習場に誰よりも早く辿り着き、相澤先生にスライディング土下座気味に謝罪。
すると先生は「アレぐらいで怪我するほど、ヤワな鍛え方はしてねぇよ」と言って快く許してくれた。
多分、怒る時間も無駄として省いているんだろう。
遅れてみんなも集まって来たところで相澤先生はざっくりと説明を始める。
身も蓋もない言い方をすれば個性を使った体力測定、といったものだ。
そしてそれを「面白そう!」と言ってしまった人のせいなのか、元々企んでいたのかは分からないが「最下位は除籍だぞ」と淡々と最後に付け加えた。
その後のクラスの声は想像するに難くない。
相澤先生への批判が飛ぶけど当の本人はどこ吹く風、「はよ」と催促さえする始末だ。
第一種目:50m走
「トリガー、起動」
イズクはトリガーを起動させて戦闘体に換装する。
周りからはどよめきが起こるがイズクはそれらを気にせず、悠然とスタート体勢に入る。
ピッ!と後ろから音が聞こえた瞬間、予め起動準備をしていた三重の『弾』印をフットプレート(短距離走でクラウチングスタートの姿勢から蹴り出す時の板)に展開し、ゴールラインを切った。
ピピッ!と音がなりイレイザーヘッドが記録を見せる。結果は「1秒 45」。恐らくクラス最高タイムだ。
隣で走っていたカツキだが拳を握りしめることで爆発の範囲を制限し、出来るだけ後ろに噴射するように調整したようだ。
イズクの記録を抜けないことは折り込み済みだったのか、そこまで怒り散らすことはなかった。
第二種目:握力
「『強』印 六重 !」
メキリ、と音を立ててイズクの握力計の針が一周した。イレイザーヘッド曰く3tまでは耐えられる設計になっているようだ。
私の演算では十重でもオールマイトの100%まで届かない筈だが……。改めてオールマイトの規格外性を認識した。
第三種目:立ち幅跳び
グラスホッパーと『弾』印を併用すれば大気圏に突入出来たりもするのだが、トリオン消費が馬鹿にならないので断念。多分到達した直後にトリオン体が解かれて目も当てられない姿を晒すことになるだろう。
800mほど『弾』印で吹っ飛んでイズクはこの種目を終えた。
第四種目:反復横跳び
『設』印でグラスホッパーを配置し続けることで分身もかくやというスピードで左右に動き続けた。
結果…257回。ミネタ ミノルが唇を噛んでいたのが見えた。彼はこの競技には自信があったのだろう。
自分の頭に生えているボールのようなものをもぎ取り、それを左右に設置して踏みぬくことで反発力を得ているようだ。
一応そのボール(仮称)をちびレプリカで採取しておいた。
第五種目:ボール投げ
「麗日さん、ごめん」
「出久くんどうしたの?」
出番が始まる前にイズクはオチャコに事前に申し開きをしていた。内容を聞いたオチャコは「出久くんの個性だもん!」とGOサインをくれた。
私は恐らくはその様に言われると思っていた。イズクもそれに関しては同様のようだった。
「気持ちの問題」というものらしい。そこもまた、イズクらしさが現れている気がしないでもない。
イズクは円の中に立つと左手に持ったボールに右手をかざし、解析したての印を使用する。
「
フワリとボールが宙に浮き、まるで重力が反転したかのように空へ空へと舞い上がっていく。
イレイザーヘッドは呆れたように計測結果を此方に向けた。
示す数は∞だ。
「2人目の∞か!?すっげぇ!」
「アレは無重力にするというよりかは、斥力の性質を持っているようですね」
そう、ヤオヨロズ モモの言う通りだ。
この印はオチャコの「無重力」とイズクの母、インコさんの「引力」を解析した後、統合したものだ。
オチャコの個性単品でも印を作成することは出来たのだが、これからを見据えて使いやすくした方がいいだろうということで集約した。
引力と無重力を解析することで、反対の性質の斥力を発動出来るようになったのだ。
第六種目︰上体起こし
自分の両足に『錨』印で大量に錘を生成し、『設』印でグラスホッパーを上下に設置。
残像が出そうになるほど反発を繰り返した。
結果は243回。これもトップ記録だ。
第七種目︰前屈
戦闘体の運動性能は現実の体よりも格段に増加するが、これに関してはイズクは特にやれることはなかったようだ。
個性なしのテストよりかは爆発的に伸びたがショウジ メゾウという生徒の『個性』、複製腕には敵わなかった。
どこまでも伸び続ける腕はクラス最高記録を叩き出した。
「それじゃあパパっと結果発表だ」
今回の結果が空中投影された。言わずもがな、イズクは1位である。
2位がヤオヨロズ モモ、3位がトドロキ ショウト と推薦合格二人が並ぶ。
モモは創造の個性で様々なものを作り出してそれを効果的に運用していた。
ボール投げで大砲を使ったのは驚いたが。
ショウトは右側の身体から氷を生み出すようだ。左側にも個性があるようだが、今回のテストでは使いずらいものだったのだろうか、頑なに使おうとはしなかった。
「口頭で説明するのは面倒だからこんな形になってんだ。あ、ちなみに除籍は嘘ね」
「「「「ハーーー!!?」」」」
とイレイザーヘッドは言っているが、私はそれが嘘ではないと知っている。
雄英の過去の入学者がどうなったのかを調べているとイレイザーヘッドの項目で「通算除籍指導数154名」と記載されていた。
命に関わる仕事に従事する立場上、致し方ない部分もあったのだろう。
その後イレイザーヘッドは教室にこれからのカリキュラムやら教材などが置いてあることを伝えた後にサッサと消えてしまった。
とりあえずのところ今日はこれで終わりのようなので私たちも先生に倣ってさっさと帰宅することにした。
トリオン体だけでも身体強化系個性と同じくらいは記録だせるんだよなぁと書き上げた後にふと思いました。
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高校生活
個性把握テストが終わり、次の日。
イズクは早めに学校へ向かっていた。理由はメイからの呼び出しだ。
小さな私を通してすごく喧しい声で叫ばれたのだ。早朝五時頃に。
普通の人ならば苛立つはずのこの行為にもイズクはどこか思うところがあるらしく、目覚めたら急いで準備を始めた。
早朝五時には学校が空いている……メイはいつから学校にいるのだろうか。もしかしたら泊まりがけでサポートアイテムを作っているのかもしれない。
「どうしたんだろう。何か面白いアイデアでも思いついたのかな?」
「どうだろうな。小さい私を解析していたようだし、何らかのテストという線もありうるかもしれない」
そんな他愛もない話をしながらバスに乗って雄英へ行く。早朝なのもあるのか、バスの中はガラガラだった。
「おはようございます緑谷さん!」
「おはよう、発目さん」
昨日と同じ場所に彼女はいた。クマの深さを見る限り恐らく徹夜コースで頑張っていたのだろう。ドアの奥に見える机には大量のエナジードリンクの空き缶が無造作に転がっている。
学業に支障が出ない範囲で頑張ることを推奨しよう。
「あの後ちびレプリカ先生から色々な情報を聞き出したり、トリガーの設計図を見せてもらったりして完成したのが……こちらですっ!!」
メイが取り出したのはボーダー製のものと遜色ない形をしたトリガーらしきものだ。スキャンした限りではトリオン体に換装する機構はないようだが……。
「と、トリガーを作ったの!?」
「流石の私でもアレは1日2日で構造を理解出来るようなものじゃないですよう!これはスタンガンです!」
メイの説明ではトリオン器官のトリオンを外部に放出するところまでは順調に進んだのだが、それをトリオン体に形作ることがてんで出来なかったらしい。
この体からだだ漏れのトリオンをどうしようか、と考えたところ思いついたのがこれだという。
トリオンを電気に変換する機構を教えたことは小さい私の記録にも残っているが……まさか実用段階にまでこの短時間で達するとは驚きだ。
「私が緑谷さんを呼んだのはこれの被験者を探してたからなんですよね!自分にバチってしても気を失っただけで結果がよく分かんなかったんですよ」
口から低い笑い声を出しながらワキワキとイズクに手伸ばすメイ。イズク、私はこの場からの逃走が今日の授業に影響しない最善手と考えるが──
「レプリカ、逃げるよっ!!」
「了解した」
脱兎の如く工房のドアを蹴飛ばして私達は逃げ出した。
メイは前回の反省点を生かしたのか角を曲がれるサポートアイテムを装着して、滑るような動きでこちらとの距離を詰めてくる。
「トリガー、起動!」
さすがに身の危険を感じ、イズクはトリガーを起動した。この状態でトリオン性の電撃を受けたらどうなるかは分からないが、とりあえず保健室行きになるのは勘弁してもらいたい。
ただでさえ初日遅刻ギリギリだったのに2日連続となればイレイザーヘッドに大目玉を食らうことは間違いなしなのだから。
「にがしませんよぉおおおおお!!!大人しく私の実験に付き合グベッ!!」
メイの声が途中で切れたので私とイズクは恐る恐る振り向いた。
そこにはプロヒーローのパワーローダーがいた。メイの暴走をアイアンクローで止めていたのだ。
ちなみに彼の『個性』の鉤爪はクッション性の何かで包まれているので、メイの顔が目も当てられない状態になることは避けられた。
「明……おれがなんて言ってたか忘れたか……?」
「失敗は成功の母ですよ!パワーローダー先生!あっイタイタイタイイイイイィィイィ!!!!」
鉤爪でアイアンクローされているわけではないからそこまでの痛さはないだろうが……握力が相当強いのだろう。頬肉が変形してしまっている。
「……発目が迷惑かけたな。これはおれの監督者責任だ、すまなかった」
「いえいえいえいえいえ!大丈夫ですよ!その、僕もそういう部分もあったりしますから」
「そう言ってくれるとありがたいな。オラ、発目。片付けしに行くぞ。昨日の夜の爆発を忘れたとは言わせねぇからな」
小さな体に見合わぬ怪力で顔を引っ掴んだままズルズルとメイを引きずっていく。
確かに小さな私の記憶に少し不備が生じていたような……。次からは危険になったら声をかけてあげるとしよう。
メイのことはパワーローダーに任せて、私たちはその場を後にした。
「さて、ここの文法で間違ってんのはどこだ?」
雄英高校は先生までもがプロヒーローだ。皆ヒーロー活動と教育活動を両立することが出来るという確かな手腕の持ち主だ。
しかも今英語の授業をしているプレゼント・マイクは毎週金曜日の『HERO FM』にて深夜1時から早朝5時まで「PresentMICのぷちゃへんざレディオ」という番組をノンストップで放送している。
ノンストップ、ノンストップだ。教師としての仕事を終えた後に5時間もの長時間喋り続けるというのは尊敬に値する。
ちなみに私も後学の為に聴いている。トリオン兵には睡眠の必要ないためコチラもノンストップで聞いているぞ。
まあ授業内容はイズクが初日に渡されたシラバスに記載してあるものと同様のものだ。いつもの雰囲気から感じる破天荒さは見る影もない。
「Hey!シケてんじゃねぇぞリスナー!盛り上がってこうぜー!!」
……たまに"いつも"が出てきてしまうこともあるようだな。
お昼は食堂に行って定食を食べる。
券売機のボタンの数が凄いことになっているが、それは『クックヒーロー』ランチラッシュが顧客のニーズに応えるためだろう。
ここでは学生でもお求めやすいリーズナブルな価格設定の上に和食洋食はもちろん、宗教上の理由やアレルギーなどにも幅広く対応した食事をいただける。そして美味しい。
まさに至れり尽くせり。ボーダーでもここまでの規模ではなかったはずだ。
美味しさと安さを両立させるためには料理への飽くなき探究心とお客様のことを考える心が不可欠だ。
この食堂はひとえに彼の努力の結晶と呼んでも過言ではないだろう。
「わーたーしーがー!!!」
「普通にドアから来た!!!!」
そこまで誇示せずとも分かる。
いや、これは彼なりの始め方だというのは理解しているのだが。
NO.1ヒーローのオールマイトだ。
服装はメディアでよく目にすることがある『
「今日のヒーロー基礎学はお待ちかねの『戦闘訓練』を行うぞ!だけど体育着じゃあそんなハードな訓練には耐えられないよね!というわけで……みんなにはコチラを着てもらおう!!」
ポチッとな、とオールマイトがどこからか取り出したリモコンのスイッチを押した。
すると真空が開放されるような音がして教室の壁がせり出してきたのだ。
どこかのSF映画のような気分もしないではない。
「君たちの要望を反映したコスチューム!!各自着替えが終わったらグラウンド・βに集合だ!!」
HAHAHA!と高らかに笑うとオールマイトはすぐさまドアを開け放って出ていってしまう。
クラスメイト達はおっかなびっくりコスチュームを取り出していた。
よしイズク、私たちも急いで取りに行くとしようか。
出久のコスチュームが思いつかなかったのでこんな中途半端な切り方になってしまったぞ……。オールマイト的要素は入れるとしてどうするか……。
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〜番外編〜ヒロアカ×ワートリを100倍楽しむ講座(仮) ※台本形式
第1講『個性』と『トリオン』
矛盾点が生じてないといいのですが……。
質問などありましたら感想欄に置いていってくださいませ。
これからは一番下にあるものが最新話であることがなくなります。
しおりを使っている皆様にはご不便とご迷惑をおかけすると思いますが、何卒ご容赦くださいませ。
現在の最新話は一つ上の『高校生活』です。
出久「……ん?」
>白い、空間だ……。僕は夢でも見ているのか?
レプリカ「やっと目が覚めたか」
出「レプリカ?えーと、ここはどこ?」
レ「まあ細かいことは気にするな。今から講座を始めるぞ。椅子に座るといい」ヴォン
出「わっ!!なんで『門』印から椅子を……」
レ「座ったな?さて、これから解説するのは『トリオン』と『個性』の関連性についてだ」
>ちびレプリカがキャスター付きホワイトボードを運んでくる……。夢では無さそうだ。
レ「トリオンが個性に結びついている、という話はしたと思うが、今回はもう少しだけしっかりと説明していこう」
レ「まず『個性』とは?」
出「『個性』はこの世界の8割がたの人間とその他生物が持っている「自然界の物理法則を無視する特殊能力」のことだよね」
レ「うむうむ、よく知っているな。では『トリオン』とは?」
出「トリオン器官から生み出される生体エネルギー。そしてトリガーを動かすときの動力源、でいいかな?」
レ「そう、その通りだ。そして、私の解析によればイズクが先程言ってくれた『個性』は『トリオン』を使用して動いているのだ」
出「トリオン体なしでその能力を使ってるってこと?」
レ「そういうことになるな。最初は私も驚嘆した。トリガーに近い出力を生身の身体で行使するというのは危険が伴うものだ。それを補うために、この世界の住人達の身体は頑丈になっていたり『個性』に適応するように出来ているらしい」
出「かっちゃんの手、火傷しないのかなと思ってたけど、元々頑丈に出来てたんだね」
レ「デンキの帯電もそれの最たる例だろうな。だが、ここで疑問が生じるのではないか?」
出「今のところ例に上げた『個性』は発動型のものだけだよね。それじゃ異形型とか変異型とかはどうなるのかな?」
レ「いい質問だ。発動型は発動時にトリオンを消費する。ならば異形型は常時トリオンを消費しているように思うかもしれないが……そんなことはない。
『トリオン』は『個性』に干渉するものだ。発動型や変異型はそのスイッチのON/OFFが可能だが、異形型のスイッチはONしかない。その代わりに他の『個性』と比べてもトリオンの燃費が良いのだ」
レ「さて、キリもいいことだしこの辺りで要点をまとめて今回は終わりにしよう」
>ちびレプリカ達がホワイトボードに文字を書き始めた……。
・『個性』は『トリオン』によって動いている。
・『個性』を使用するにあたってこの世界の住人の身体は頑丈に出来ている(トリオン体には及ばないが)。
・「発動型・変異型」→『個性』発動時にトリオンを消費。
・「異形型」→常時トリオンを消費。しかし上記二型に比べて燃費が良い。
レ「こんなところか」
出「ねぇレプリカ。僕がトリオン体の時に『個性』由来の攻撃を受けたらどうなるの?」
レ「この前見せた映像(ウィザとユーマのバトル映像)みたいにしっかりダメージは受けるぞ。何せ個性はトリオンによって起動しているからな。そこだけ考えるとイズクは他の人よりも脆いのかもしれないな」
出「脆いって……あっ!トリオン体は通常兵器とか、瓦礫とかなら傷つかないけど……」
レ「『個性』ならしっかり傷つくぞ。カツキの爆破をガードもなしに頭に喰らえば一撃でトリオン体は崩壊するだろうな。まあ、当たらなければ良いのだ」
出「む、無茶だよ〜!!」
「ハッ!!」
……あれ、さっきまで僕寝てたのか?
レプリカの講義を受けていた気がするんだけど。
僕はぼんやりとした気分のまま、朝の支度を始めた。
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