今日から俺は…… (ローファイト)
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第一話

衝動的に書いたものですので、悪しからず。


艱難辛苦を乗り越え、2年時編入試験に無事合格し、今日から俺は千葉でも有数の進学校 私立総武高校に通い、真っ当な青春を謳歌するのだ。

 

 

そんな希望にあふれる明るい学校生活を想像していたのだが……

世の中は世知辛い。

2年の新学期に晴れて総武高校に転校を果たしたまではいいのだが、生来の人見知り(ボッチ)体質とひねくれた性格な上に、一年間のアドバンテージが無いのはでかすぎる。

結局クラスになじめず4月中旬でボッチ決定に。

 

 

しかも、何故か生徒指導の先生に目をつけられ、奉仕部なる部活に強制入部させられるはめになった。

その部活には、学内一の美少女で学年成績は常にトップだが、口を開けば毒舌を吐かずに入られない、部長の2年J組雪ノ下雪乃。

部員は同じクラスの、人当たりはいいが気弱なリア充ちょいビッチ、2年F組由比ヶ浜結衣。

転入生でボッチな俺との3人だけの部活だ。

部活内容は、生徒からの悩みや頼みごとのサポートをする部活だそうだ。

まあ、そんなよくわからん部活だが、意外と居心地は悪くはない。

依頼が頻繁にあるわけではないため、普段は部室で本を読んでまったりと過ごす事が出来る。

雪ノ下は毎度俺に対し毒舌を吐き、由比ヶ浜はトラブルを引っ提げてくるが……十分現代の高校生の範疇だ。全く問題ない。

 

なんだかんだと初夏が過ぎ、今は7月中旬に差し掛かろうとしていた。一学期の期末テストが終わり、後は夏休みを待つばかりだ。

 

奉仕部の部室では……

雪ノ下は窓際の椅子に綺麗な姿勢で座り、静かに本を読む。

由比ヶ浜はそのちょい横の椅子に座り、目の前の長テーブルに腕を預け、スマホをいじる。

俺はそこからかなり離れ、廊下側の椅子に座り、ラノベを読んでいた。

依頼が無いため、いつものポジションで座り、皆思い思いに時間を過ごしている。

 

「ヒッキー、期末テストどうだった?」

お団子頭の少し脱色しピンクっぽい髪色の由比ヶ浜は、スマホをいじりながら何気なしに聞いてきた。

 

「ああ、俺は総合学年19位だったな。数学が足を引っ張るからな」

俺は伊達眼鏡をかけなおし、由比ヶ浜に返答する。

 

「ええーっ?……ヒッキーってもしかして頭いいの?」

由比ヶ浜は大げさに驚いた後、小声で聞いてくる。

どうやら、俺が勉強できることが意外だったようだ。

 

「なんだ。俺が勉強できるのがおかしいか?」

 

「じゃ、じゃあ、ゆきのんは?」

由比ヶ浜は焦るような表情で雪ノ下に聞く。

 

「まあ、雪ノ下は総合1位だろ?」

俺が雪ノ下の代わりに答えた。

掲示板に張られた期末テスト上位者順位表の一番上に、雪ノ下の名前が載ってたのは誰もが知ってる事だ。

 

「そうね。……でも、国語と古典は、あなたに負けてるのが気にくわないわ」

雪ノ下は読んでいた本を静かに閉じて、俺に軽く視線を向ける。それほど気にくわないわけではないようだが、この毒舌の女王様は、そう言わないと気がすまないようだ。

 

「別にいいだろ。たまたまだ。たまたま」

 

「ううっ……二人とも頭いいんだ」

 

「そう言う由比ヶ浜さんはどうかしら?」

 

「え?あたし?あはははっ、別に普通かな?」

由比ヶ浜は何故か慌てる。挙動不審だ。

 

「……まさか赤点ではないでしょうね?」

雪ノ下はいぶかし気に由比ヶ浜を見据える。

 

「ゆきのん!馬鹿にし過ぎだし!」

なぜか語気を強く反論する由比ヶ浜。

 

「じゃあ、由比ヶ浜、国語は何点だ?」

まあ、聞くだけ野暮ではあるが、あいつから振ってきた話題だ、聞く位はいいだろう。

 

「……赤点ぎりぎりだったかな?」

由比ヶ浜の声が小さくなっていく。

 

「……お前、授業聞いてるのか?普通に授業聞いてノート取れば、80点は取れる内容だぞ」

 

「うーー、だってさ、勉強つまんないし」

 

「お前な、勉強がつまらないって、何のために学校来てるんだ?」

 

「それについては、あなたに遺憾ながら 同意するわ」

 

「雪ノ下、なぜそこに遺憾を足す?」

雪ノ下さんや、いちいちディスらないと気が済まないんでしょうか?

 

「ゆきのんイカンって何?」

 

「……残念な様を表す言葉よ。この場合は比企谷君と同じ意見で残念だと言う意味ね」

雪ノ下は呆れた表情をしながらも丁寧に由比ヶ浜に教える。

雪ノ下さん?わざわざそこを強調して言わなくてもいいのでは?わざとだな。

 

「そ、そう言ってくれればいいし!」

由比ヶ浜は拗ねたように言う。

 

由比ヶ浜、この期末テストで出たばかりだぞ。その学力で良くこの学校に入れたな……いや、この一年とちょっと、勉強せずに遊んでばかりいたな……もったいない。

 

真面に授業を受けれること自体、贅沢な事なのだ。

世界では学校に行くことができない子供たちが五万といる。

そしてこの日本でもだ。

総武高校はいい学校だ。

進学校とあって、カリキュラムや授業の内容は充実。教師の質もいい。何が不満なんだ?由比ヶ浜は!

大声を出したり、喧嘩したりとヤンキー達の授業妨害は無い。他校からのヤンキー襲撃は無い。

不良教師による不当なシゴキも無い。

他校への襲撃に駆り出されることも無ければ、喧嘩の仲裁に入る必要もない。セクハラ教師も存在しない。

なんてすばらしい学校なんだ!!

授業がつまらんとか罰当たりにもほどがある。

 

 

そう、俺は去年までは、そんな学校に通っていたのだ。あの不良の吹き溜まりと呼ばれる私立軟葉高校で……遺憾ながら一年間を過ごしていたのだ。

なんでそうなったって?

 

中学3年の2月下旬。

俺は元々総武高校を受験するつもりでいた。

千葉でも有数な進学校ではあったが、俺の学力もその程度はあったし、十分合格できると……

しかし、入試当日、不幸にも俺は交通事故に会ってしまった。

小さな犬が引かれそうになったのを助けたのだが、代わりに俺が車と衝突し、そのまま入院に……もちろん受験は出来ず、しばらく病院での入院生活を余儀なくされたのだ。

運良く、定員割れした高校の2次募集があって、何とかそれまでに退院し受験し合格した。

高校浪人だけはせずに済んだのだが、そこが不良の巣窟、私立軟葉高校だった。

 

他にも定員割れの学校はあったんだが、昨年新設された私立紅羽高校。軟葉高校よりもレベルが低い上に男子校だ。

流石に男子校は、行く気にもならない。

 

入学式の日

不良と言っても、過去の事だろうと、高を括っていたのだが……改造制服にリーゼントやら、ソリコミやらの不良共が居るは居るはで、昭和の時代にタイムスリップしたのかと一瞬思ってしまった。

生徒の約三分の一が不良のようだ。

 

そんで、俺は入学式の日に、いきなり上級生の不良に絡まれ、ガンつけたとかなんとかで、校舎の裏側に連れていかれる始末。……どうやら俺の生まれつきの目が気にくわなかったようだ。俺の目はもともとこんな感じなんだが………

とりあえず、全財産の昼飯代1000円で許してもらった。

ケンカとかできないし、殴られるのは嫌だ。財布の中身が1000円だけで助かったと思うしかない。

 

俺は、理不尽な因縁をつけられるのを避けるため、この腐った目とか、死んだ魚の目とか呼ばれる目を隠す必要性に迫られる。小町のアドバイスもあり、伊達眼鏡を着用することにした。

伊達眼鏡は小町が選んでくれたものだ。これで俺の腐れ目がかなり軽減するらしい。

 

そして、俺は不良共に絡まれないよう、気配を消し、風景に溶け込み、空気になる努力をする。

それ以降、俺は不良に絡まれる事なく。学校生活を過ごすが、クラスの連中で俺に話しかける奴もいなかった。俺はそれでもいいと思った。

総武高校に2年時転入することを決意していたからだ。学校は出席日数を稼ぐことと、勉強するだけの場所と決め、それ以上の事を求めないようにする。

この学校の授業レベルは高くない。授業だけでは、とても総武高校に転入するだけの学力を得ることはできない。普通に授業を受けてるだけではダメなのだ。

それだけではない。不良共が授業の妨害はするわ、教師をいびったり、一般生徒をいじめたりと、やりたい放題で、まともに授業が進まない。

俺は学校での授業を半ばあきらめ、家でネットの通信塾を利用しながら、独学で勉強に励む毎日であった。

こんな理不尽な学校から、俺は早くおさらばしたい一心で勉学に打ち込む。

必ず、来年度には総武高校へ転入を果たすために。

 

 

そんな日常に転機が訪れる。

5月の中間テストが終わり、6月の初旬に、俺のクラスに転校生が二人入ってきたのだ。

見るからに危なそうな不良の二人は、金髪パーマの三橋貴志とトゲトゲ頭の伊藤真司だ。

この時は、俺には関係ないと思っていた。俺はこいつらと関わるつもりもないし、クラスの空気となった俺に話しかけてこないだろうと……

 

この二人、転校初日で1年生の不良共全員はっ倒し、1年のボスとなった。

そんで、2週間ぐらいで、上級生ともやり合って、軟葉高校のトップに立ったのだ。

 

まあ、軟葉高校は不良学校の中でも、学力は一番高く、それに即して、ケンカは弱いと聞いている。

今迄、他校との本格抗争も逃げ腰で、軟高(軟葉高校)といえば、千葉の不良共にとっては最弱と言われてるらしい。この二人も軟高でトップを取ったからと言って、井の中の蛙ということだと……この時は思った。

 

しかし、この二人がトップを取ったことで、意外な恩恵を得ることができた。

三橋と伊藤は不良と言っても、一般の生徒には決して手を出さない。

三橋はたまに悪ふざけはするが、強請やケンカなどは吹っかけない。

伊藤は一般の生徒が不良に絡まれると、助けてくれる正義マンだ。

上級生の不良も、三橋と伊藤を恐れて、このクラスにはちょっかいを出さない。

三橋は授業を出ても、寝てるか早弁してるだけで、別に授業の妨害はしない。

伊藤も授業を出ても、騒いだりしない、一応勉強もしてるようだ。

他の不良も、伊藤が居るおかげで授業中は騒がない。

校内の安全と、授業の進行は、奴らのおかげで確保されたと言ってもいいだろう。

俺としては三橋、伊藤様様だ。

 

これで俺はよりいっそう勉学に励む事ができる。

 

 

しかし、そんな学校生活も長く続かなかった。

 

二学期の初めの頃だ。

俺は学校帰り、2年ぶりに新刊が発売された、お気に入りのラノベを買った後、家路への帰り道に、いきなり他校の不良共3人に囲まれ、殴られる。

久々の新刊とあって、浮かれ、気配を消し忘れていたのだ。

しかも、絡んできたのは、あの開久高校の連中だ。

なんでも、軟高狩りだとか……

 

いままで、軟高は他校の紅高(紅羽高校)と、いざこざを起こしていた事は知っていた。

確かに、三橋と伊藤が紅高(紅羽高校)の連中とケンカしたり、つるんだりしていたが、一般生徒には被害を被るレベルではなかった。

 

しかし、とうとう千葉随一の不良高校開久高校が出張ってきたのだ。

開久高校……全国でも有数な不良高校。全校生徒全員不良で、札付きの悪の巣窟。既に学校の秩序は崩壊し、卒業生の3割がヤクザになると言われる伝説の不良高校だ。

 

 

俺は開久の不良共に、殴り倒され、罵倒され、かばんは取られ、中身をばら撒かれる。

教科書等は踏みつけられ、しまいには俺の着てる制服を脱がそうとする。

 

俺はあまりの理不尽さに怒りを覚えるが、ここはグッと我慢だ。奴らが気が済めば、あっさり帰してくれるだろう。反抗するとさらに殴られ、ひどい目に合うのは目に見えてる。

しかし、やつらは、俺の伊達眼鏡を奪い踏みつけ、伊達眼鏡のフレームは真っ二つに……

 

俺は内心怒りの頂点に達する。小町が俺を心配して一緒に選んでくれた伊達眼鏡を理不尽な理由で壊したのだ。

だが、ここは冷静にだ。奴らに何を言っても無駄だ。俺はまだ冷静でいられる。

ここは低頭平身に許しを請うのだ。相手が悪かろうがだ。そうすれば奴らも引いてくれるかもしれない。

 

俺はゆっくりと立ち上がり、奴らを見据え、頭を下げる準備をする。

 

「な、なんだお前……」

「くっ、その目、ガンくれやがって!調子に乗んじゃねーぞ!」

「……なんて目をしてやがんだ。人を殺したことがある目だ!」

開久の不良共は何故か後ずさる。

 

「……?」

なにその反応は?どいう事、俺何もやってないよな。

……まさか、この目か、この目がまた知らず知らずのうちに悪さを……、もしかしたら俺の腐った目がガンつけてると思われたのか?眼鏡の無い素の俺の目は、かなりやばいようだ。しかも、この状況下だ。腐り具合も相当なものなのだろう。

 

「はったりだ!こんなひょろっちい奴に、なにビビってんだよ!」

「ビビってるわけねーだろ、よう、お前!なめんなよ!」

「開久なめんなコラ!」

開久の不良共は俺に凄んできた。

 

ちょ、待ってくれ。そんなつもりじゃ…確かにキレそうになったが、腕力じゃあんたらに勝てないし、ケンカもしたことないんだぞ。

俺は焦り、そんな事を頭を巡らせながら挙動不審になる。

 

「おい、こいつ、ヤクやってんじゃねーのか」

「目の動きが尋常じゃねーぞ」

「汗が異様に吹き出てるぞ。顔の色も土色に」

開久の不良共は恐れおののきまた一歩下がる。

いや、それ焦ってキョドってるだけだから、汗が出てるのは緊張と焦りだし、顔の色とかも変わっちゃうわけで……別にヤク中とかじゃないから……

 

と…とりあえず、謝って、お引き取りを……

 

俺は謝るために頭を素早く下げるが、焦りのあまり足元がふらついて、開久の不良共の真ん中の奴の顔面に頭突きをする形になってしまった。

 

「ぐあっ!」

何故か、クリーンヒットして、もんどりうって倒れる真ん中の不良。

えーーー!?ちょ、ちょっと待った。そんなつもりじゃ……

 

「おい!大丈夫か!」

「おいーー!!お前よくもダチを!」

怒りの形相で俺に凄む残りの二人。

 

ここは笑顔で対応だ。万国共通の博愛主義の象徴これで許してもらおう。

「いや……わざとじゃ」

 

「こいつ、やべーぞ。ニヤついてやがる」

「こんな恐ろし気な顔……見た事ない……こいつはやべーー…絶対ヤバいって」

俺の顔を見て恐れおののく、開久の二人。

 

「かん…ちがちがいい」

緊張と焦りで呂律が回らない。勘違いだって言いたいんだが……

 

「……やべーー、こいつ血がいいとか言ってるぞ」

「……くっ、まじやべー、一旦引くぞ……覚えてろよな!」

開久の不良共は倒れた奴を起こし、引っ張って去って行った。

 

 

「………」

あれ?これって助かったのか?なんか、とんでもない勘違いしてたような……

 

まあいいか、これで助かったんなら……しかし、この壊された伊達眼鏡は直せるのだろうか?小町に折角選んでもらったのにな……

俺は散らばった教科書を鞄に入れ、壊れた伊達眼鏡を眼鏡屋に持って行き、修理を頼む。

一応修理できるらしいが、丁度部品の在庫が無いとのことで、部品が届き、修理をするのに1週間かかるらしい。

修理に時間はかかるが、とりあえず直ると聞いてホッとする。

 

 

 

翌日学校に登校するが……何故か視線が痛い。

伊達眼鏡がないせいか、その場の空気と化するステルス効果が表れないようだ。

 

クラスにいつものように入り、席に着くが……やはり、クラスの連中の視線が俺に向いているようだ。

なぜ?

 

そこで、伊藤と三橋が教室に入ってくる。

 

「おおお!?なんだ彼奴、目がめっちゃ怖!ゾンビがいるぞ!伊藤、あんな奴クラスに居たか?」

三橋は一瞬後ろに飛びのき、伊藤に尋ねる。

なに、俺の目ってそんな事になってるの?ええ?眼鏡有る無しでそんなに違うのか?

 

「いや、知らないな………佐川知ってるか」

伊藤もこっちをじっと見据えながら、既に席に座ってるお調子者の不良、佐川に聞く。

 

「伊藤さん。あいつですよ。昨日開久の奴を1人で3人ぶっ倒したのは!」

ちょ、お前何言っちゃってんの?何それ、そんな事はしてないって、あれはたまたま偶然あいつらが勘違いして逃げただけで!

 

「まじでか」

伊藤は佐川に聞き返す。

 

「伊藤くん。私、見たわ!彼、眼鏡を壊されて相当怒って、相手の不良を睨んで、頭突き一発で一人倒したのを!」

何故か、近くの女子が伊藤に答える。

おいぃぃぃ!そこの名も知らん女子!見てたんなら助けを呼べよな!しかもそれ、偶然の産物だから!

しかも、他の連中も頷いてるし、なにこれ、噂になってんの?昨日の事…まじやばくね?

 

「ほう、伊藤、お前以外に開久にケンカ売った奴いたぞ。お仲間が増えてよかったな」

三橋は意地悪そうな顔で伊藤の肩をポンと叩く。

 

「三橋!元はと言えばお前が、開久の連中をのしたんだろ!」

「ちゃんと伊藤って奴らに名乗っておいたから、俺じゃない」

「ふざけるな!お前って奴は!」

伊藤と三橋は俺の前で口論を始めてしまった。

めちゃ迫力あるし怖いから、他所でやっていただけませんか?

 

「で、誰なんだこいつ、ああ!?俺にガンたれてるのか?ゾンビ目!開久のザコを3人倒したぐらいで、いい気になるなよ!?」

三橋は俺に近づいてきて、いきなり、因縁つけてきた。

あの、めちゃ怖いんでやめていただけませんかね。

 

「三橋やめろって、お前は……たしか、ん?誰だっけ」

伊藤も俺に近づき、三橋を止めてくれたのはいいが、名前は憶えられていなかったようだ。

 

「ひ、比企谷八幡だ」

まあ、空気な俺はクラスメイト全員に名前も覚えて貰えてないしな。聞かれたからには、ここは一応名乗っておかないとか……

 

「ヒキ?ヒキガエル、ハチマン?……そんな名前の奴、クラスに居たっけか?」

三橋、ヒキガエルってなんだ?俺の小学校の時のあだ名を何故知ってるんだ?

 

「ああ!!こいつあれですよ三橋さん。中間テストと期末テスト総合学年トップの奴ですよ」

佐川がまた、三橋に余計なことを報告する。

確かになトップだが、この学校で学力トップ取っても自慢にもならないぞ。

 

「ああん!?トップだと!?この三橋様を差し置いてトップを名乗るなど、怪しからん奴だ!」

三橋はまた俺に凄んできた。

まじ、怖いんでやめてください。金髪パーマに三白眼ってどんなに怖いか、しかも身長めちゃ高いし。

 

「三橋、馬鹿なお前には無理だろ?」

「何言ってやがる。お前よりましだ!」

「何だとコラ!」

「ああ!やんのかコラ!」

なぜか、またしてもケンカしだす伊藤と三橋。

 

「ん?んんんん?……あーーーーこいつ!オタメガネだ!オタク伊藤弐号!!」

三橋はガンつけながら、まじまじと俺の顔を見てくる。

なに、三橋、お前の中で俺はオタメガネってあだ名なのか?いや、初めてつけられたあだ名だぞ。

過去につけられたあだ名の中では一番ましなんじゃ……

 

「誰がオタクだ三橋!」

伊藤は三橋に言い返す。

そういえば、伊藤も三橋にネクラオタクとか言われてたな。

 

「ゾンビ目が、眼鏡をつけると……おお!オタメガネに戻った!!ぎゃはははははっ!見ろよ伊藤。すげーー、変身するぞこいつ!」

クラスの奴から眼鏡を取って、俺に眼鏡をつけ、爆笑する三橋。

なんなんだこいつは。

 

「ぷふっ!み、三橋、そ、そいつに失礼だろ!」

伊藤、お前も笑ってるからな。

 

「ぎゃはははははっ!」

三橋は爆笑して転げまわってる。

 

「ヒキ……ヒキ?……八幡と言ったか、お前、本当に開久の奴らを一人で倒したのか?」

伊藤は真剣な面持ちになり、俺に聞いてくる。

それにしてもなんだ、不良共には俺の苗字は呼びにくいのか?

 

「……偶然だ。あいつらが勘違いして逃げただけだ」

 

「ほう、お前漢(男)だな。普通はこの馬鹿(三橋)みたいに自慢するもんだ」

いや、まじで勘違いなんだって、何感心してるんだ伊藤。

 

「ああ!?誰が馬鹿だって?」

「お前の事だ三橋」

「やんのか?」

また、言い争いを始めたぞ。こいつら。

 

言い争いもそこそこに、三橋が俺にこんなことを言ってきた。

「まあ、オタメガネくんよ。大変だぞお前。ザコと言えども、あの開久の連中3人ものしたんだろ?付け狙われること間違いないな。まあ、頑張りたまえ」

……なにそれ、俺、開久の不良につけ狙われる?それって、人生終わってないか?

 

「おい、元はと言えばお前のせいだろ!」

「俺じゃないし、やったのは伊藤だし!」

「俺の名前を勝手に名乗ったおまえじゃねーか!」

こいつらは俺の目の前でまたしても言い争いを始める。

 

 

まじでどうすればいいんだ?不良につけ狙われるなんて……人生最大のピンチなのでは……

 

俺は冷静に考えをまとめる。

自分の身は自分で守るしかない。

しかし、どうやって……

そこで、思いついたのは、徹底的な情報収集だ。

敵を知り己を知らば百戦危うからず。

開久の連中の情報と、奴らの行動パターンを知り。

それによって俺は奴らの追跡から逃げ切る。

 

案の定、開久の先日絡んできた連中が、仲間を引き連れて俺をつけ狙ってきた。

俺は事前の計画の元、奴らの行動パターンを把握し、徹底的に避け、1週間逃げ切る事が出来た。

その後は、奴らからつけ狙われなくなる。奴らは俺を探す間に三橋のテリトリー(遊び場)に不用心に入り込んだらしく、不意打ちクラッシュを食らったようだ。

俺はこうなるだろう事を織り込み済みで、逃げ回っていた。

軟葉高校の学区に他校の不良がうろついてりゃ、三橋なり、伊藤なりと鉢合わせし、こうなるだろうと。

やはり、情報戦と言うのは大事だ。戦わずして勝つ、まさしくそれだ。

 

そんな日常を過ごしてる内に何故か伊藤と仲良くなり、三橋とも……軟高の不良共から普通に話しかけられることに……そして、紅高の今井とも打ち解ける。

 

何時しか、金髪の悪魔 三橋貴志、軟高の漢 伊藤真司、軟高の恐眼 八幡と……

知らない内に、軟高の不良共のナンバー3となっていたんですが………

いや、ケンカは未だしたことないし、ただ単に逃げてただけなんですが……まあ、はったりをかましながら逃げてたりしてたし、三橋や伊藤から、他校との交渉やらを無理やりやらされて、しぶしぶ、不良共と話し合いしたり………、軟高に出張ってきた他校の不良共の対処を、先生たちに任されたりとか……その時もはったりやブラフを使いつつ、伊藤あたりを連れ出して、何とかしのいだのだが……。どうやら、この腐った目とか死んだ魚の目とか言われてきた俺の目は、不良の世界では、かなり有効らしいのだ。はったりが最大限に効果を発揮するようだ。

いつも、いつも、怯え震えながら、話し合いするもんだから、挙動不審な俺の目はよけいに恐怖に映るらしい。

そんな事もあり、名前だけが独り歩きしてる感じで、そんなポジションを得ることに……

実力が全く伴ってないんですが……

もう、マジで勘弁してほしい。未だに不良共と話すと緊張するし、怖いし……後怖い。

 

そんで、3学期に入り……さらに俺を追い詰める。

何故か俺は全国でも不良校として名を轟かせる千葉ナンバーワン不良高、開久高校襲撃に参加することに……

開久に乗り込んだ俺たちは、当時の開久の番長末永を倒し、難攻不落の開久を落としたのだ。

開久に乗り込んだメンバーの軟高の三橋、伊藤、八幡、紅高の今井、小山、中野と不良共に伝説の6人とか呼ばれ、恐れられたり、敬われたりすることに………

 

いや、俺は何にも知らずに三橋に無理やり連れ出され、開久高校の裏門から、いきなり体育館にたむろする開久の不良共のど真ん中に、放り込まれただけなんだが!自己防衛のために、この目を使って、いつものはったりをかまし、時間稼ぎをして、タイミングを見計らって「あっ、あそこに三橋と伊藤だ!」とか言って、あいつらがよそ見してる内に、こそこそ逃げ隠れしてただけなんですが!身の安全を守るために、仕方なく、嘘の情報を流して開久の奴らを誘導したり、三橋達が有利になるようには仕向けたけどな……それは致し方なくだ。こんな恐怖体験二度とごめんだ!!

不良100人に囲まれるってどういう状況よ!しかもあの開久高校でだぞ!!毎度の事とは言え、在りえないんだが!!三橋の奴「お前だったら何とかなるだろ?ウケケケケケッ」とか言って、俺を囮にして、体育館のど真ん中に!!

……よく、俺生きて出てこれたもんだ。マジで……

 

それで、またしても、伝説の6人の一人として八幡の名前だけが独り歩きしだしたのだった。

 

その後は酷いものだ。

 

「八幡さんお疲れ様っす」

「八幡さん。今日もその眼力、素晴らしいっす」

家に伊達眼鏡を忘れて登校すると、不良共は何故か俺の前に整列し、大声で挨拶される始末。

あのー、不良とはいえ、先輩や同級生に、さん付けされるって何?

なぜか、昼飯食おうとしたら、勝手にパンを買ってきてくれたりするんだが……

いつの間にか、クラスの一般生徒には恐れられるわ……先生までにも………

俺の日常生活はどこに行った!!

 

さらに街のヤンキーや不良共には、巷で俺の事を『軟高の恐眼』の八幡やら、『神出鬼没恐眼』の八幡とか、『千葉一の眼力』八幡とか、『軟高の知将』八幡とか呼び、畏怖と恐怖の対象になってるらしいんだが!なにその明らかに恐ろしげな枕詞は!しかも、ほぼ目の事じゃねーか!

俺はただの一般ピープルよ。明らかに強そうで恐ろし気な感じなんだが!!

 

幸いにも、不良共からは比企谷の苗字を覚えられてないため、八幡の名前だけが知れ渡ってる。

しかもやつら、八幡が苗字だと勘違いしてるしな。この時ばかりは、この名前をくれた両親に感謝する。

それと、なぜか伊達眼鏡さえしとけば、絶対にバレることが無い。

………俺の目ってどうなってるんだ?

 

………

 

勘違いが勘違いを呼び起こし、なぜか俺が不良共の上に立つ事に!なぜ俺が矢面に立たなければならないんだ!!しかも、俺は三橋に巻き込まれて致し方なくだ!!……俺が出来ることって、睨んで、はったりかまして、逃げ隠れするだけだし!ケンカだって一回もしたことない!なんでこうなった!?

 

もう一回言う。何でこうなった!!

 

怖いのも痛いのも嫌なんだ。

もう嫌だ!こんな生活嫌なんだ!……不良に追いかけまわされるのも、懐かれるのも!

俺はごく普通の高校生活を送りたいだけなんだ!

静かに勉強させてくれ!

 

そして、3月中旬。

俺は入学当初の計画通り、こんなとんでもない生活を脱するため、総武高校の編入試験を受け、合格し、総武高校の生徒としての今の俺がある。

その際、不良連中には黙って転校したが、伊藤と良くんと赤坂にだけには、学校を転校することを伝えていた。

三橋には内密にだ。バレると何仕出かすか、わからないしな。

この3人に言っておけば、もし三橋が暴走しても、抑えてくれるだろう。

 

 

あの頃に比べれば、今の生活は天国の様だ。

授業もまともに受けられるし、まったりとした時間も過ごせる。

伊達眼鏡さえしとけば、不良共から、伝説の6人の八幡とバレることはない。

総武高校の連中は、あの不良共の抗争などには興味があるわけがない。俺の事はバレないのだ。

 

 

あの一年間の七難八苦の経験に比べれば、雪ノ下の毒舌もかわいいものだ。由比ヶ浜が持ってくるトラブルもまったく問題がない。

 

そう、俺はやっと得た安息の地と平和な生活を心から感謝し、今と言う時を過ごしているのだ。

 

 




後編は一週間後位かな?

原作よりちょっと勉強ができる八幡です。
勉学が普通にできる素晴らしさが、身に染みてわかったからこその、成績です。


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第二話

投稿遅くなり、すみません。
一気に書き上げようと気張ったんですが、あっちの方がいいかな、こっちの方がいいかなとか思ってたら、いろいろ悩み過ぎて……とりあえず出来上がったところまで投稿します。
だから、後編は①~③までとなる予定。


総武高校2年F組。

4時限目の授業だが、社会科の先生が身内の不幸とかで、早退したらしい。

急な事で代理の先生を立てることができず、自習となったのだ。

夏休み前とあり、クラスの連中は大人しく自習するわけもなく、思い思いに友人知人と話に花を咲かせていた。

 

因みに俺は、真面目に自習をする。

俺は周りがどんなに騒ごうが、物が飛んでこようが、ケンカが始まろうが、大人しく自分の机で集中して勉学に励むことが出来る。

この程度の喧騒では、俺の集中力が削がれることはない。かえって心地よくもある。

 

 

しかし、俺は不意に有る会話が耳に入ってしまった。

 

「隼人くん。忠高に練習試合申し込まれてるって、やべーんじゃない?」

 

「何がだ戸部」

 

「忠高(忠実高校)よ。忠高。札付きがの悪が居るって噂の高校よ。やめといたほうがいいんじゃない?」

 

学年一の人気者、イケメンで勉学も優秀で、サッカー部のキャプテンの葉山隼人と、その友人で部活仲間のお調子者の戸部翔の会話だ。

どうやら、葉山率いる総武高校サッカー部は忠実高校との練習試合を申し込まれたらしい。

 

忠高か、確かに千葉でも有数な不良高校だが、あいつら、ケンカは弱いし、今はかなり影が薄い。

三橋、伊藤がいない時代は不良強度が軟高よりも上だったらしいが……今じゃな。

ただ、不良の多さは軟高に引けを取らない。

伊藤曰く、一般生徒もターゲットにするダサい奴らだと。俺の情報網でも、一般生徒へのカツアゲや強請は奴らの得意とすることらしい。陰湿な奴も多いと聞く。さらに、闇金連中とも繋がりがあると噂されてるしな。俺からすると、その辺が厄介だと感じる。

ここは戸部の言う通り断った方がいいと思うぞ。

 

「戸部、ビビり過ぎだし」

そこにクラスの女番長三浦優美子が話に入って来る。

髪を金髪っぽく染め、見た目も派手で、クラスの中では発言権も影響力も大きく、誰も逆らえないが 、本当の番長ではない。便宜上女番長とは俺の中では名付けているが、本当の意味での番長ではない。

女の番長、いわゆるスケバンとは、伊藤の彼女、早川京子の事を指す。

まあ、今はスケバンやめて、かなりお淑やかになってるが、たまに切れると、スケバン丸出しになる。

昔の早川京子は煙草をやり、長スカートに鞄の中身は教科書ではなく、鉄板を入れ、男女構わずケンカをしていたのだ。

それに比べれば、三浦優美子はなんちゃって女番長である。

 

「優美子、千葉って意外とヤンキーが多いべ。その中でも、開久、軟高、紅高、忠高はやべーんだって」

戸部は眉を顰めながら、身震いし三浦に話す。

 

「はぁ?そんなん知らないし。ヤンキーって、そんなん戸部みたいなやつが集まってるだけじゃない?」

三浦、戸部みたいなやつはヤンキーとは言わん。ウェイウェイ系?

 

 

「戸部、仮にも相手は千葉ベスト4常連の強豪校だ。そんな選手たちが、素行が悪いはずがない。問題を起こせば試合を出してもらえないどころか、廃部すらあり得る。折角の強豪チームとの練習試合が出来る機会は滅多にないし受けようと思ってる。

戸部は、実際に相手の選手なりに会ったわけじゃないだろ?噂だけで判断するのはよくはない。

今日の放課後に忠高のキャプテンがわざわざうち(総武高校)に、正式な申し出と打ち合わせを行うために来てくれるんだ。こちらも誠意を持った対応をしなくちゃいけない」

葉山、確かに言っていることは正論だ。しかし、それは違うぞ。奴らは姑息で狡猾なんだ。不正なんてものは、裏で、脅しや買収でもなんでもやって、もみ消すに決まってるだろ。

葉山の言論は説得力があるが、今回ばかりは戸部が言ってる事が正しい。

 

「隼人君……わかったよ」

戸部は葉山にそう言われ、項垂れながら了承する。

 

「隼人ー♡」

真剣なまなざしで戸部にそう言う葉山を見て、三浦はデレていた。

イケメン力半端ないな。

 

「とべっちって、その、ヤンキーに詳しいの?」

そんな中、三浦たちと同じグループの由比ヶ浜が戸部にこんなことを聞く。

 

「そんなに詳しくないっていうか、同中の友達がそんなん好きで噂程度は知ってるべ。ひと昔はさ、ヤンキーばっかりの開久が一番だったんだけど、今年の1月に、そこに襲撃した連中がいたんだべ」

戸部の知ってるのか知らんのか、よくわからん言動に俺はビクッと体を強張らせる。

……もしや、その話というのは。

 

「それ、知ってる知ってる」

その戸部の話にグループ仲間の海老名姫菜が話に入って来る。

 

「軟高の金髪の悪魔、三橋とその相棒伊藤、軟高ナンバー3の恐眼の八幡、紅高の大番長今井とその一の子分小山、それと中野って奴、たった6人で開久不良共600人の中に入って番長を倒したって噂になってるべ」

俺は心の中で慌てる。

やっぱりか……その話は俺の部分だけは嘘で出来てるから、因みに恐眼の八幡って奴は俺であって俺じゃないし、噂が勝手に膨張して独り歩きした名前なんだ!

 

「ヒッキーと同じ名前……」

ち、違うんだ由比ヶ浜!!

俺はめちゃくちゃ焦る。首筋に冷や汗が流れるのを感じる。

 

「ヒキタニくんが?ないわーー」

言い方ムカツクが、その通りだ戸部!

 

「ああ、俺も聞いた事がある。開久襲撃した伝説の6人の噂。結衣、八幡って苗字らしいからヒキタニくんじゃないよ」

葉山ナイスフォロー!流石はイケメンだ。

葉山の言う通りだ。それは俺であって俺じゃないぞ由比ヶ浜。

でも苗字間違ってるぞ。俺はヒキタニではなく比企谷だ。

 

「軟高の恐眼の八幡と言えば、開久の不良を1人で100人倒したって噂だべ、ヒキタニくんは流石にないわーー」

おいぃぃぃ!!戸部―――!何処からそんな噂がでたーー!!そんなん無理に決まってるだろ!!一人だって倒せやしない!!確かに三橋にあの時、開久の不良共100人の中に囮として放り込まれ囲まれた。だがな、時間稼ぎして、口先八兆でそこから逃げただけだからな!誰一人倒してないからな!!しかも、誰だーーそんな噂流した奴!!きっと佐川の奴だな!!

 

「戸部、1人で100人って普通に無理っしょ」

三浦は呆れはてたように戸部を一瞥する。

その通りだ。物理的に無理だろう……あれ?でも三橋と伊藤だったら出来るかも……

 

「腐腐腐腐ッ!ヒキタニ君とツッパリの鍛えられた肉体が組んずほずれ!キマシタワー――コレ!!」

その横で興奮して鼻血をだしながら叫ぶ海老名姫菜。

もしやと思うが、それ俺と不良共100人との、その、ボーイズラブ的な乱交を想像してないよね。

………勘弁してください!!

 

 

 

そうか、忠高の奴らが来るのか、まあ、今の俺には関係ないがな。

もし、練習試合受けて、うち(総武高校)の学校のグラウンドでやるにしても、夏休みだ。

奴らに会うことは無いだろう。

しかも、忠高で俺の事を知ってる奴は少ないはずだ。

実際に軟高と忠高やりあった際、交渉には駆り出されたが、会ったのは数人だけだしな。

連中も、まさか恐眼の八幡がこの学校に在学してるなどとは思わんだろうし、伊達眼鏡さえかけてればバレることは無いだろう。

 

確かに、忠高はスポーツ系の部活動も盛んな学校だったな。

俺の調べによると、サッカー部は千葉ベスト4の常連、野球もベスト8、ボクシングは全国レベルらしい。

スポーツ系の奴らは比較的おとなしい奴が多いとは聞いているが、まあ、不良共に比べての話だから、総武高校の連中からすればヤンキーに見えるかもしれん。

 

最近、軟高の様子を良くんに聞いたが、三橋と伊藤の奴、相変わらずあっちゃこっちゃでケンカしてるらしい。そんで、軟高への襲撃は今期になってからまだ無いらしい。

まあ、三橋、伊藤の武勇伝は千葉全域に広がってるからな。わざわざ攻めてくる猛者は居ないだろう。

俺?ないない。俺のは全部、噂だけだから、全部ニセ情報だから。

 

最近情報収集もさぼり気味だからな、また、この機に再開しないとか。

開久も忠高も同じ千葉だしな。それ以外にも厄介な連中がいるらしいし。いつ何時、不良共の抗争に巻き込まれておかしくない。

やはり、殺伐とした日常から抜け、俺も気が緩んでいたのかもしれない。

 

俺は教科書に視線を落としながら、思考を巡らせていたのだが……

 

「八幡~、八幡ってば」

 

「おっ、すまん戸塚、ぼーっとしてた」

眼前に美少女の顔が、いや男の娘が頬を膨らませていた。

 

「もう、八幡って集中するとそう言うところあるよね」

 

「すまんすまん」

 

「さっきの、葉山君たちが話してたの、聞こえてた?」

 

「いいや」

聞いていたが、ここは聞かなかったことにする方が良いだろう。

 

「そうなんだ。忠実高校が葉山君たちのサッカー部に練習試合申し込むらしいんだ。僕もテニスの試合で忠実高校と当たったことがあるんだけど、選手の子はまだ普通だったけど、その、応援に来てる人たちが不良みたいで、僕もその試合で色々言われちゃって、怖かったんだよね」

戸塚は眉をひそめながら言う。

何!戸塚に文句をいう奴だと!そいつは誰だ!!許さん!!よし、後でそいつら調べて、紅高の今井をけしかけよう!!今井だったら、あいつらがお前の事をロバとか馬とか言ってたぞと知らせたら、その日に絞めに行くだろう!!

 

「まあ、あれだ。そいう輩には関わらないのがベストだ。何言われても、獣の叫び声程度に思っておけば大丈夫だ」

 

「そうだよね。今度そんな事が有っても、そうするよ。八幡っていつも冷静だよね。頼りになるな~」

戸塚は屈託のない笑顔を俺に向ける。

うん、この笑顔守りたい。

 

「そうか、普通だと思うが」

まあ、多少は慣れたよ。でも奴らに凄まれると未だに緊張するし、焦るし怖いしな。まじで。

だが、俺の数々の経験で、表面だけ冷静に見せる技術を習得してる。さらには、脅しや凄む技術だけは自分でも一級品だ。俺の目は通常でも、ヤンキー共から恐れられるが、さらにこの目を生かし、怖さ200%に見せる事ができるのだ。まあ、怖くてキョどってるだけなんだけど。

 

この学校の連中があまり認識が無いのは仕方がない事だ。

この辺はまだ、不良共は少ないからな。

東京から千葉市の湾岸まではな……

山間部から南東は全国有数のヤンキー生息地。

ヤンキー共を落花生の如く多量生産し、東京都心から離れれば、離れるほど、ヤンキー密度が増加し、全国でも有数の猛者共が集う修羅の国。

それが千葉。

全国でも有数のヤンキーの生息地なのだ。

 

 

放課後、俺はいつも通りに奉仕部の部室へと向かう。

 

 

 



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第三話

感想ありがとうございます。

結構急展開です。
後は予定通り後半③で終了です。


明日、一学期の終業式を控え、明後日から、皆が待ち望んだ夏季長期休暇が始まる。ようするに夏休みだ。

高二の夏休みとは世間一般では、思いっきり遊べる最後の夏という認識だ。リア充共は好きなあの子や友達とひと夏の思い出作るために、あれやこれやと今から計画を立て、思いを馳せていることだろう。

友達や恋人が居ないお前はどうかって?

何を言ってる。ボッチであるからこそ、この夏休みという真っ白なキャンパスを自由に泳ぐことができるのだ。そう、エアコンが効いた家の中で、ジュースと菓子を買いだめ、好きなゲームやアニメやラノベを誰に気兼ねなしに楽しむのだ!

……寂しくないかって?

放っておけ!

まあ、それだけではない。やはり勉学も必要だ。受験に備え俺は塾に夏期講習を受けに行く事を決めている。しかもスカラシップ制度を利用し、夏期講習代はタダとなった。親からは夏期講習代をせ占めているため。夏期講習代は全て俺の懐に。前から欲しかったゲームを買っても十分おつりがくるのだ。

 

 

俺は今日、奉仕部を休んで、千葉駅のサイゼで人と待ち合わせをしてる。

一応雪ノ下には事前に休むことは伝えている。

家の用事と誤魔化してな。

 

「あっ、はっちゃん久しぶり!」

「よっ、八幡久々」

サイゼの窓際の席から、小柄な可愛らしい少女と、これまた小柄な幼い顔つきの少年が俺を見つけ、手を上げていた。傍から見たら仲がいい姉弟に見えなくもない。

 

「久しぶりだな、赤坂と良くん」

そう、軟葉高校時代に世話になった赤坂理子と田中良だ。

軟葉高校時代の俺の事情をよく知る人物だ。

この二人は、唯一の心の拠り所だったと言っていい。

赤坂理子、この可愛らしい少女はこんななりだが、合気道の赤坂流道場の跡取り娘だ。

そんじょ、そこらの不良など、数人がかりでも相手にならないだろう。軟高の裏番とまで噂されるぐらいだ。軟高では学業も優秀で、良識も持ってる。しかし、なぜだかあの三橋に惚れてるのだ。

田中良は一見中学生位に見える童顔だが、相当根性は座ってる。不良共に真っ向から絡まれても物怖じしない。三橋、伊藤にもため口で堂々と文句を言う事が出来る存在だ。ケンカは決して強くは無いが、俺よりは十分出来る。赤坂流道場に通っていて、赤坂の弟分のような感じで、よく二人は一緒に居る。

 

「はっちゃんはさ、やっぱりそのメガネに、総武高校の制服がよく似合ってるよ」

 

「そうか?」

 

「そうだ。お前はさ、その方がいい。軟高の元ナンバー3とはとても見えないな」

 

「それはやめてくれ。あれは俺で有って、俺じゃなかったんだ。未だに不良を見ると怖くて震える」

 

「はっちゃんらしい」

「お前らしいな」

 

今日はこの二人と夏休みについて打ち合わせをする日だった。

打ち合わせと言っても、遊びに行くとかじゃないぞ。

赤坂と良くんは大学進学志望だ。あの軟高から大学に行く人間はほんの一握りだ。

しかも、そこそこレベルの高い大学を狙ってる。

2人なら、ちゃんと勉強すれば大丈夫だと思うが、軟高の授業レベルが低いのがネックだ。

それでだ。2人から是非にとお願いをされ、夏休みの何日間は二人に総武高の授業と塾の夏期講習の内容について勉強会をすることになった。

まあ、教えることで俺も深く身につくしな。それに、この二人には相当世話になった。

恩返しのつもりでもある。

 

ある程度の日程を決め、打ち合わせを終え、雑談に入った。

 

「そういえば、はっちゃん。今度、総武高校にうちの高校のサッカー部が練習試合に行くらしいの知ってる?」

 

「はぁ?軟高が?いや……忠高が試合を申し込んできてるのは知ってたが……」

 

「佐川が助っ人で出るらしいぞ」

 

「……まさか、三橋は?」

 

「ううん、三ちゃんはサッカーとか興味ないし」

俺はその赤坂の言葉にホッとする。

あいつが総武高校に来ると、多分ろくなことをしないだろう。

まあ、サッカー部の試合に軟高の連中が来たところで、夏休み中の試合だ。

俺は顔を合わすことは無いだろう。

 

「という事は、忠高とは別口なのか?」

 

「いや、忠高と軟高と紅高、総武高で親善練習試合だそうだ。俺も一応、生徒会として当日同行する」

 

「はぁ!?なんだそれ!!まじか!?」

おいーーー!!葉山の奴、何やってるんだ!!忠高だけでなく、軟高と紅高とも練習試合って、あいつ馬鹿じゃないのか!!千葉の不良校ベスト4、三校と練習試合など、正気の沙汰じゃないぞ!!

 

「総武高校のグランドはサッカー2面あるからな。ハーフ試合を一日で6試合、十分行える」

 

「……紅高の今井が来るとかないだろうな」

 

「今井君?サッカーの試合出るらしいよ。私のところに来て、見に来てくださいって誘われたけど、断る前に、三ちゃんに追い払われてた」

赤坂は思い出したかのように苦笑していた。

 

「はぁ!?なんだそれ!!」

あいつ!絶対あれだ!!女子目当てだ!!総武高校の女子のレベルは高い事で有名だからな!紅高は男子校だし、あいつは黙ってればモテそうな雰囲気はあるが、馬鹿だから全くモテないんだよな。そのくせ、赤坂にしょっちゅう、ちょっかい出しては、三橋に追い払われてるし、しかも、女の子にモテたい願望が丸出しなんだよ!!

あの馬ズラめ!!

 

「八幡が驚くのも無理はない。はぁ、これがよく通ったと、俺も思う」

 

「誰がこんなのを企画したんだよ」

忠高に紅高に軟高だぞ!!絶対荒れるに決まってるだろそれ!!よく総武高校の教師陣もOK出したな!!頭の中お花畑じゃないのか!?馬鹿だろう!!

 

「忠高の生徒会らしい。親善試合だとかなんとか。忠高は今立場が非常に弱いからな。軟高と紅高と手を結んでる風に見せつけるのが目的じゃないか?」

なるほどな。開久を三橋らが落としたあの後、今迄、開久に虐げられてきた千葉県下や、近隣県の不良共やヤンキーが、一斉に開久を包囲し、今までのうっ憤を晴らしに来たことは結構有名だ。開久はそのおかげで、しばらく回復できないぐらいのダメージを受けたのだ。

そして、忠高もそのあおりを受けたらしいのだ。あいつら手広く悪事を働いてきた連中だ。

自分らより弱い他の学校や近隣県の不良校の連中をターゲットにして、アクドイ強請を行って来たのだ。しかし、全国でも最強の一角である開久が、瓦解したことで、忠高にも、開久同様に今迄のうっ憤を晴らすように、不良共が忠高を狙いだしたらしい。

俺の情報網ではある噂を耳にしたことがある。忠高は開久と裏取引をしていたらしいのだ。自分たちの学校を狙わないようにと……だから、あいつらは、小さないざこざは起きても、本格的な開久の抗争の対象にならなかった。開久のターゲットにならずに千葉県下で堂々と悪事を働けた。下手をすると開久に、金を渡していたかもしれない。

 

「忠高か。あいつらなら、やりかねないな。裏で手を引いてるだろきっと」

良くんも、なかなかいいところに目をつけてるな。多分そんなもんだろう。開久が頼りにならない今、県下と近隣の不良高に軟高と紅高と手を結んだと見せつけるためだろう。

忠高には頭が切れる奴がいるのは間違いない。表だたずに、裏から不良共を操るような奴だ。

そういえば、俺が昔、忠高と軟高がやりやった際、終戦交渉をしに行った時だ、明らかに雰囲気が違う奴が向こうに1人いたな。しかも、かなり権力を持ってそうだった。

 

「そうだな。だからこその総武高校での試合だろう。その三校のどこかでやるなんて事はあり得ないからな」

 

「そういう事だろうな。きっと」

俺は良くんの考えに同意する。

忠高は今、一番立場が弱いのは間違いない。開久への殴り込みにも、もちろん参加してない。参加したのは軟高三橋、伊藤、八幡(俺)と紅高の今井、小山、中野だからな、一応谷川もいたが、名は知れ渡ってない。

今や、県下では軟高と紅高がトップを争っていると見られてる。

だから、今回のこれは、奴らにとって起死回生のチャンスだったのだろう。

今回のサッカー部親善試合は、軟高と紅高との見せかけ同盟を演出するためだ。忠高の連中はこういう搦め手が得意中の得意だ。

総武高校サッカー部はダシに使われ、巻き込まれたと言うわけだ。

最初は忠高と総武高の二校での練習試合を申し込み、それが了承されると、忠高は折角だからと、四校での親善練習試合をすることを提案したのだろう。そして、総武高校から軟高と紅高に声を掛ける。

たぶん。そんな感じだろうな。

総武高校の連中は不良共については疎いからな。多分教師陣もそうなのだろう。

まんまと嵌められたと言うわけだ。

 

「良くん……頑張ってくれ、精々奴らが問題行動を起こさないように見てやってくれ」

まあ、今回は無難に終わるかもしれないな。

忠高としては、開久に、軟高と紅高と同盟を結んでる様に見せかけたいため、自らは手を上げたくないだろう。しかし、末端は知らん。忠高の連中は性根の腐った、腐れ外道が多い。女とみれば手を出さずにはいられないだろう。まあ、早川京子の学校に手出しした際は、逆に奴らボコボコにされてたけどな。主に伊藤に。

軟高も、三橋伊藤が居なくちゃ、話にならないし大丈夫だろう。あいつらから手を上げないだろう。佐川は見掛けだおしだし。

問題は今井か……赤坂が来てくれるのなら、大人しくしてるのだろうが。まあ、馬鹿やって自爆するだけで、実質大きな事にはならないだろう。

試合は夏休み中で、グランド二面使うという事は、その日はサッカー部がグランドをすべて専有するという事だ。他のほとんどの体育会系の部活は休みだろう。ということは文科系や水泳部以外の生徒は学校に来ないだろう。

文科系の部活のほとんどが、奉仕部と同じく別棟で活動してるし、部活動中に女子が他校の連中と接することはほぼないだろう。

不良共が女子生徒に手を出す機会はほぼない。引率の先生もいるだろうし、生徒会も関わっているようだしな。今井め、当てが外れたな。

接するとすれば、サッカー部のマネージャーぐらいか、そこは葉山が何とかするだろう。

最悪、休ませろ。

……まあ、俺には関係ないか。

俺は当日、学校には居ないし。葉山、精々そのイケメンスマイルで切り抜けてくれ。

 

「はぁ、気が重い」

良くんは盛大にため息を吐く。

まあ、軟高の連中は良くんのいう事だったら素直に聞くだろう。

相手が手を出さない限りは、と条件は付くが。

 

 

 

一学期最後の登校日、終業式で長ったらしい校長の話を聞き、クラスでホームルームを終えた後、いつも通り奉仕部に向かう。

一学期最後の部活動だ。といっても、依頼がなきゃ、ただの読書タイムなのだがな。

 

しかし……

 

「はぁ!?なんだって?」

 

「明後日のサッカー部四校合同試合の手伝いをすることになったと言ったのだけど、眼だけでなく、耳も悪くなったのかしら?」

雪ノ下はツンとしながらそんな事を言ったのだ。

 

「いや、聞いてないぞ、そんな事」

 

「あなた、昨日いなかったじゃない」

雪ノ下はプイっと顔をそらす。

 

「ヒッキー、昨日ヒッキー部活休んでたでしょ。生徒会の城廻先輩が来て、手伝ってほしいって、急に決まったらしくて、メンバーが足りないんだって」

由比ヶ浜が俺と雪ノ下を交互に見ながら、オロオロと説明する。

どういうことだ?親善試合とはいえ、たかがサッカー部の対外練習試合だろ?

なぜ、人手が居るんだ?しかもなぜ奉仕部にお鉢が回って来る?

何かがおかしい。

 

「何で受けた?」

 

「仕方がなかったのよ」

 

「おい、あれだぞ。あの軟葉高校と忠実高校、紅羽高校だぞ!不良共の巣窟のような連中の相手をしないといけないんだぞ!」

俺は語気をつい強めてしまった。

いや、それよりもヤバいな。

雪ノ下と由比ヶ浜は正直、最上級にレベルが高い美少女だ。あいつらがちょっかいかけないはずがない。特に忠高の連中は何してくるかわかったもんじゃない。

 

「あなた、その三校の名前を聞いて怖気づいたのかしら?これは学校も了承した、ただのスポーツの親善試合よ。何を恐れるのかしら?それに不良と言っても所詮、学生がチンピラの真似事をしてるだけの事でしょ」

ああ、確かに俺は不良共が怖い。あいつらに囲まれ、怖気付いて、なんどもチビリそうになった。

しかし、そうじゃない。

 

「いいから、やめておけ。何かあってからでは手遅れだ。他の男連中がいるラクビー部とか、そういう体育会系の奴らにやらせればいい」

本来、体育系の部活の奴らに手伝ってもらうのが筋だろ。なぜ奉仕部なんだ?いや、城廻先輩が俺らを頼りにしているからか?

雪ノ下はかなり認識が薄い。もしかしたら城廻先輩もその程度の認識しかないのかもしれない。

いや、この学校の教師も生徒もみんなそうなのかもしれない。

 

「嫌なら、あなたは来なくていいわ」

 

「そういう事を言ってるんじゃない!」

 

「ゆきのん、ヒッキーも……ケンカはよくないよ」

由比ヶ浜はオロオロと俺たちを止めようとする。

 

「もう、決まったことよ」

 

「……雪ノ下、やめる気は無いんだな。俺は先生にやめさせるように直訴する……」

 

「ヒッキー、そんな怖い顔しないで、らしくないよ」

由比ヶ浜は目に涙をためていた。

すまん由比ヶ浜。ここは譲れない。

 

俺は部室を飛び出し、職員室に行こうとしたが、廊下に平塚先生が立っていた。

平塚先生の表情は硬い。どうやら俺たちの会話を聞いていた様だ。

 

「比企谷……ちょっと来てくれ」

 

俺は頷いて見せ、平塚先生の後について行く。

屋上に出た平塚先生は俺にいきなり頭を下げた。

「すまん。比企谷。私の力不足だ」

 

「私は反対したのだが、上がこの四校合同練習試合を決め、どうにもならなかった」

ちっ、忠高のやつらだな、上からも抑えて来たか。あの金持ちのボンボン野郎か?それとも議員の息子か?それとも闇金連中か?何か手札を使ったな!

 

「先生、せめて、女子生徒は当日参加させないでください」

 

「上がな、せっかくのイベントだと、華やかな方が良いと、女子に案内係をと」

どうやら、奉仕部が巻き込まれたのは城廻先輩の一存ではなかったようだ。……教頭か、それとも理事長クラスか?

 

「平塚先生、俺が軟葉高校出身だと知ってるでしょ……そんな甘い連中じゃないんだ!」

 

「………」

 

「骨の一本や二本折ろうとどうってことないような連中なんです!女子にだって手を上げる。最悪取り返しのつかない事になる!」

俺は憤りを覚える。しかし俺は何にこんなに苛立ち、怒ってるのか?

先日は、関係ないと思っていた。総武高校で奴らに来ようが、まったくの無関係だと……

……そうか、俺はあんな世界に雪ノ下と由比ヶ浜を巻き込みたくなかったのか。

 

「君が言うんだ。真実なのだろう……私はどうしたらいいのか……」

よく見ると平塚先生も若干やつれてる様に見える。上の連中……いや、教頭か理事長クラスとやめさせるようにと散々やりやったのだろう。

 

「……わかりました。雪ノ下や由比ヶ浜は俺が何とかします。但し、上の判断という物がどれだけ馬鹿らしかったのかも証明しますよ」

それに、何かがおかしい。かなり強引な手札を使ってきたようだ忠高の連中は、裏に何かがある。

良くんが言っていた軟高と紅高との見せかけ同盟を演出するためにだけにしては、大掛かり過ぎる。

 

「比企谷……君は……いったい」

 

俺には地位も力も無い。運動神経も普通だ。足が特別速いわけでもない。ケンカだってまともにできない。

不良連中が目の前にいると、未だに恐ろしくて震える。メンタルもチキンだ。

俺にあるのは、あの1年間の経験と、この腐った目と、張ったりだけだ。

だがしかし……

俺の頭の中がチリチリと冴え渡って来る。半年前のように………

 

俺がやることは、不良連中から、由比ヶ浜と雪ノ下を守る事。

こんなイベントを了承した学校の教職員連中の鼻を明かしてやること。

そして、この学校を巻き込み、俺の平和の安息と生活圏を脅かした忠高の生徒会やらを、二度とそんな気を起こさせないようにすることだ。

 

ピエロはピエロらしく踊り続け……

勘違いは勘違いのまま、偽物の俺を最大に利用し、完結させてやる。

 

思考をフル回転させ計画を思い描く。

 

 

さあ、やるか……

 

無意識に口元がニヤリと歪んでいた。




というわけで、後半③は、八幡らしい手札をと考えております。
今日俺の雰囲気も取り入れたいので、ちょいギャグというかそう言うのも入ってるかもしれません。


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第四話

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

またしても、すみません。
後半③じゃ終わらなかったです。
このままだと、⑤位、行きそうな勢いです。



夏休みに入った次の日。

総武高校では軟葉高校、忠実高校、紅羽高校とのサッカー部四校親善練習試合が開催された。

 

俺は、校門のグラウンド側に建てられた受付案内所と大きく書かれた簡易テントに顔を出す。

 

「あっ!ヒッキー!来てくれたんだ!」

 

「てっきり逃げ出して、来ないものだと思っていたわ」

俺は雪ノ下が不機嫌なものだと思っていたが、言葉とは裏腹に、ホッとしたような顔をしていた。

まあ、3か月間ほぼ、毎日顔を合わせていた俺や由比ヶ浜じゃないとわからないぐらいの変化だがな。

 

「先日は悪かったな。だがな、俺の意見はかわらない。今からでも、お前らだけでも帰ってほしいぐらいだ」

俺は軽く頭を下げたが、言うべきことは言った。

 

「え?それって、ヒッキーは私達の事を心配してくれてるの!」

由比ヶ浜は終始笑顔だ。

 

「そうだな」

 

「…そう」

雪ノ下はプイっと俺から顔をそらす。

 

昨日、夏休み初日、今日のサッカー部四校親善練習試合の打ち合わせが生徒会で行われ、奉仕部もそれに参加したのだった。

雪ノ下と言い合いをした後、由比ヶ浜がメールでその事を知らせてくれたのだが、俺は用事があると返信して、参加していない。

俺は昨日、今日のために、やっておかなければならない事があったからだ。

由比ヶ浜は、その打ち合わせが終わった後だろうか、昼過ぎ位に、当日の奉仕部の役割分担についてメールで送ってくれた。それと来てほしいと……

 

奉仕部の役割は、朝一番にこの受付テントで他校の選手や来客の受付をし、簡単な説明と注意事項及び案内のチラシを渡す役割だ。

要するに総武高校の看板娘だ。教職員の連中が指名したらしい。

確かに適材な場所ではある。俺以外はな。

由比ヶ浜は明るくて愛想がいいため、看板娘にもってこいだろう。

雪ノ下は、その毒舌を抑え、澄ましていれば、クール系の美少女そのものだ。

きっと受けも良いだろう。

 

そんなこんなで、予定の時間が差し迫ってきた。

 

最初に来たのは、忠実高校の連中だ。

選手とその応援の奴らだろう。

応援の奴らは、あれだ不良連中だ。何人か俺も見たことがある。

この伊達眼鏡をかけてる限りは、俺が恐眼の八幡だとはバレないだろうが……

 

キャプテンらしい奴が最初に受付テントに来て、署名をする。

そして、雪ノ下がそのキャプテンに、簡単に着替えに使用する場所やトイレや進入禁止区域などを説明し、チラシを渡す。

後続の選手たちや応援の連中にも由比ヶ浜と雪ノ下は一人一人に手渡ししていく。

俺はそのチラシの準備やらの裏方作業だ。

 

キャプテンもそうだが、選手の連中は意外と普通の連中だ。

雪ノ下と由比ヶ浜に声を掛けられ、顔を赤らめていた。

その後に続く、応援の不良連中はいやらし笑みを浮かべ、由比ヶ浜と雪ノ下を舐めまわすように見ていた。

 

「うわ、マビーな。流石レベル高いべ」

「ふっ、一発お相手しもらうか?」

「お前じゃ無理無理。ぎゃっはっはーーー」

「後で付き合ってもらおうぜ!」

 

ムカツク連中だ。

 

そして、連中の最初の一人がチラシを配る由比ヶ浜の手を掴んだのだ。

「後でさ、俺と遊ばない?」

 

「あの、その」

由比ヶ浜はかなり困った顔をする。

 

だがそいつは、

「………あわわ、し、失礼しました!!」

 

慌てて、チラシも受け取らず逃げて行った。

その後の後続の連中も同じような反応で、次々と逃げていく。

 

「あれ?あたし、なにかしたのかな?」

由比ヶ浜はそんな奴の後姿を見て疑問顔をする。

 

「きっと、あなたの陰険な顔を見て、驚いたのね」

雪ノ下はクスっと笑い、そんな事を俺に言ってくる。

雪ノ下。間違いでもないが、正解でもない。

 

そう俺は、連中が由比ヶ浜と雪ノ下に手を触れようとする瞬間に、由比ヶ浜と雪ノ下の後ろにスッと立ち、伊達眼鏡をはずし、一人一人奴らを凄み、睨んだのだ。

 

「ふぅ」

俺はホッと肩を撫でおろす。

久々だったからな、足もまだ震えてる。

俺の眼力はどうやら半年前と変わらず、不良共に高い効果を発揮するようだ。

奴らは俺の眼力に恐れを無し、逃げ出したのだ。

 

ふん、根性の無い忠高の不良連中程度であれば、これで十分だ。

 

そういえば、忠高の生徒会連中は来てないようだ。

彼奴とあのボンボンが居なかったな。

 

 

 

その後に、青いブレザー姿の一団が現れる。

紅高だ。

 

しかし、奴らは何時もの着崩した格好ではなく、全員きちっとネクタイを締め、ぴっちりブレザーを着こなしていた。

さらに、全員髪型はきっちり七三分けで決まっている。

しかも、なぜだか全員黒縁眼鏡をしているのだ。

今時七三分けは無いだろう。ひと昔前のサラリーマンみたいだ!

軍隊のように一糸乱れず行進し整列をしたまま、受付の前に連中はピタっと止まる。

「全員止まれ!!」

 

 

「ぷふっ!」

俺は思わずその光景を見て、笑いを堪えることができず、吹き出してしまった。

 

その中から、ひと際ガタイが大きい奴が俺達の元に行進してきた。

そして、そいつだけ眼鏡が他の連中と違い、ぐるぐる眼鏡なのだ!

 

「ぶはっ!!くっ!!」

俺は笑いを我慢するのに精いっぱいだ。

今井ーーー!!行進って手と足が一緒に出てるぞ!!ぷふっ!!その恰好に合いすぎ!!

 

 

 

そう……これは俺の策略。

先日俺は部活を休んで数々の謀略を巡らせていた。

その一環がこれだ。

 

先日、今井に俺は電話をかけ、こう言ってやったのだ。

「今井、総武高校でモテる基準ってなんだかわかるか?」

 

「何を言うかと思えば!それは男らしさだ!!」

 

「ばっかだなお前、今のこの時代は、真面目がブームなんだよ。しかも勉強が出来ないとモテないんだぜ。馬鹿なお前だと絶対無理だぞ」

 

「なんだと!腐れ目!!」

 

「まあ、聞け今井、俺に秘策がある」

 

俺は秘策と称して、今日のこの格好を皆にさせるように言ったのだ。

そして、モテるステータスとして、自衛官がいかにモテるという事をとうとうと説明し、一糸乱れずに行動させる上のものこそが、一番モテると。そして、そのキャプテンはぐるぐる眼鏡を必ずしてると言ってやったのだ。

 

「腐れ目!いや、八!!お前は心の友だ!!」

電話越しに感謝の言葉を言ってくる今井。

 

 

 

それで今日のこの格好なのだ。

「紅羽高校!!サッカー部キャプテン!!二年!!今井勝俊17歳!!以下サッカー部及び生徒会23名引き連れ、ただいま参上しました!!彼女はいません!!」

今井は受付の由比ヶ浜と雪ノ下の前でテーブル越しに、直立不動に立ち、目線を上にし大声でそう宣言した。

 

雪ノ下はいぶかし気に、由比ヶ浜はめちゃくちゃ引いていた。

 

俺は、奴の視界に入らない様にし、由比ヶ浜の耳元に小声で囁く。

「由比ヶ浜、笑顔だ。折角来た客だ。相手を褒めてやれ」

 

由比ヶ浜は小さく頷く。

 

「あの、そのメガネ、なんか、良い感じですね。今日は頑張ってね」

由比ヶ浜はぎこちない笑顔ながら、そう言って今井の馬鹿を褒める。

メガネが良い感じって何だよ由比ヶ浜!褒めるとこってそこしかないのか?

ぐるぐる眼鏡が良い感じって、ぷふっ!

 

「うおーー!!感動だ!!こんな可愛いお嬢さんに褒められるなんて!!今井勝俊、生涯わすれません!!彼奴の言っていたことは本当だった!!ありがとうーーーー!!八ーーーー!!」

こいつ、本物の馬鹿だ。

今井は天に向かって叫び、感動していた。なんか涙流してるし。

ぷふっ!とりあえずだ。写メ取っておくか!

いかん。腹が痛い。笑いがこらえきれないぞ!

 

しかし、紅高に対しての工作は第一段階は成功だな。俺は伊達や酔狂で今井にこんな格好をさせてるわけではない。これも作戦の一環なのだ。

谷川の奴も機能してるみたいだ。

今井の子分の谷川には別の事を言い含めているのだ。

 

そして、紅高の連中は去って行った。

 

「おかしな人たちね」

雪ノ下はいぶかし気にその後姿を見送った。

 

「でも、なんか聞いてたのと違うね。最初の忠実高校は怖かったけど、今の紅羽高校の人たちは、真面目そうだったね。キャプテンの人は声が大きくて、変な人だったけど」

由比ヶ浜はそんな感想を漏らしていた。

 

ぷふっ!や、やばいなこれ、自分で仕掛けておいて、これは、ぷふっ!

期待を裏切らない男、今井!流石だ!ぷふっ!

 

 

 

そして、ダラダラと歩いてくる一団が現れる。

私立軟葉高校の連中だ。

 

俺は隠れないと、俺の眼鏡姿も知ってる奴は知ってるからな。

特に三橋にはまだ、バレるわけにはいかない。

 

そう、今日のサッカーの練習試合。三橋も来るのだ。もちろん伊藤もだ。

俺がそう言う風に仕向けたのだ。

 

良くんを先頭に、サッカー部の連中、その後ろに、ほんわか花畑が頭のツンツンに浮かび上がってる伊藤と早川京子のバカップル。その後ろに佐川と眠たげで不機嫌そうな三橋と赤坂。

計画通りだ。

 

俺は荷物の後ろに隠れ、奴らが通り過ぎるのを待つ。

どうやら、良くんがテキパキと受付を澄ましてくれたようだ。

直ぐに、奴らはここを立ち去る。

 

俺は荷物の影から体を起こす。

どうやら、軟高の連中にはバレなかったようだ。

 

「ヒッキー、あれって、不良で有名な人たちじゃない?金髪パーマとそのトゲトゲの人がいたよ」

 

「いや、そんな不良がこんなところに来ないだろう。そっくりさんじゃないか?」

俺はそう言ってごまかす。あいつら見た目派手だからな、直ぐにバレる。

 

 

「これで、昨日までに連絡を受けた選手と生徒会、応援団は全員来てるわね。後は各学校から応援の生徒が来るのを待ちましょう」

雪ノ下はそう言って、名簿の整理をし出した。

 

「ちょっとまて、忠実高校の生徒会はどうした?」

 

「彼らは、午後から来るらしいわ。昨日連絡があったそうよ」

 

「……そうか」

なるほど、そう来たか。

だが、計画の範囲内だ。

計画の第一段階はこれでOKだ。

 

俺は受付テントを出て、グラウンドの方を眺めニヤリと一人ほくそ笑んでいたが……

「痛っ!」

 

俺の頭に痛みが走る。

足元には松ぼっくりが転がってる。

なぜ松ぼっくりがここに?

 

「痛たたたっ!」

さらに痛みが走り、松ぼっくりが地面に次々と落ちる。

こ、これは!?まさか!?

 

俺は痛みの方向に体を向けると……

 

ここから遠く離れた校舎の物陰に。

 

 

金髪の悪魔が凶悪な笑みを湛え、こちらを見据えて立っていたのだ!!

その手には多量の松ぼっくりを携えている。

 

や、やばい。ば、バレてた!!

 

ここからあいつの場所まで30メートルはあるぞ!それなのに、正確に俺の頭に松ぼっくりを!?しかもなぜ松ぼっくり!?

 

その金髪の悪魔の隣で、赤坂が、手を合わせて申し訳なさそうに無言で謝っていた。

先日、伊藤と赤坂にはここに三橋を連れてくるようにお願いしたのだ。

但し、俺がここに居る事を言わないようにと……

どうやら、バレたようだ。

しかも、あの滅茶苦茶悪い笑顔は、すべてがバレてる!!

きっと俺がここに転校している事もだ!!

直接、俺を殴りに来ないところを見ると、俺の計画もある程度知っての上だ。

赤坂か伊藤がしゃべってしまったのだろう。

それでも怒りの収まらない奴はこうして俺に攻撃をして来る。

 

その金髪の悪魔はどす黒い悪い笑みを零し、さらに松ぼっくりを投げつけてくる。

 

痛たたたたたっ!

 

 

し、仕方がない、対三橋専用奥義を出すしか……

 

 

 

俺は腕振り上げ、オーバーに手旗信号を三橋に送る!

 

 

【後・で・ラーメン・三杯・おごって・やる】

 

 

しかし、奴は悪魔の笑みのまま、正確無比なコントロールで松ぼっくりを投げつけてくる。

 

ダメか!

 

ならば、これでどうだ!!

 

俺はさらに思いっきり体を動かし、腕を大きく振る!

 

【チャーハン・付けて・やる】

 

すると奴は、悪魔の笑みから、ほんわかした天使の微笑みへと顔の表情を変化させたのだ。

ふーっ、どうやら、わかってくれたようだ。

 

 

「あなた、仕事をサボって何をしてるのかしら?」

「ヒッキー、それ何?」

由比ヶ浜と雪ノ下は俺の手旗信号を送ってる様子を後ろから見られていたようだ。

 

「……新しいエクササイズだ。この頃運動不足だからな」

 

 

三橋にバレるアクシデントはあったが、とりあえずは、計画の第一段階は終了だ。

 




すみません。

続きがありますので……


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第五話

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では、続きをどうぞ。
オリジナルの敵役も登場です。


計画は第2段階に移行だ。

 

忠高の生徒会いや、忠実高校生徒会長高見沢憲明、かなり慎重じゃないか。

自分は午後から来るとか。……しかも前日に連絡とはな。緊急を装ってだ。最初から午後から来るつもりだったんだろ?高見沢。

今回のサッカー部四校親善練習試合はお互いの生徒会どうしの交流も兼ねてるらしいが、提案した自分が遅れて来るとはな。何処の重役出勤だ?

 

お前の計画にとって三橋、伊藤、あと今井は邪魔なのだろう?

彼奴らは、普通だったら、絶対、サッカー部のこんなイベントなんてものには来ない。

だが、万が一という事も想定したのだろう。

三橋、伊藤、今井、どうやら中野にも、ご丁寧にニセの果たし状を今日付けで送りつけていやがった。

このイベントに来ないようにな。

お前の計画が彼奴らが居る事で狂う可能性があるからだ。

 

果たし状は足が付かないように、名義は適当な学校の不良共の名前にしてはいた。

このタイミングで同時にその連中に果たし状なんてものが来るとは、おかしいだろ?

しかもこの日にちの昼前に。普通は夕方とか夜に設定するもんだ。少なくとも普通は午前中に設定なんてものはしない。

このイベントにあいつらが来ないようにと、忠高、いや高見沢。お前がこれを指示したのだろ?

それがアダとなったな。忠高はこのイベントを利用し何かを画策してると……三橋や伊藤、今井などの猛者が来ると計画が狂うようなものをだ。それが逆にお前らが何かの荒事を計画してることを証明してくれた。

 

しかし、残念だったな。

三橋は赤坂を通じて、伊藤に直接、それはニセ物の果たし状だとは伝えてある。

今井は馬鹿だから…谷川に伝えてある。

中野にはあまり面識がないため、一応、谷川には伝えたが……ニセの果たし合いには行っていないだろう。

 

そして今日、このイベントには三橋、伊藤を、偽装させた今井を来させたぞ。

忠高生徒会、高見沢、お前の計画を潰すためにな。

 

これで、高見沢の耳に、三橋、伊藤がサッカー部四校親善練習試合に参加してる事は伝わってるだろ。それと恐眼の八幡が現れたかもしれないという噂もな。驚いてくれたか高見沢?

流石に恐眼の八幡は想定していなかっただろ?

巷の噂では恐眼の八幡は関西に転校してる事になってるからな。

どうでる?計画を中止するか?どうせ三橋達が居た場合でも多少計画狂っても遂行できるように準備してるのだろう?お前はそれを見極めるために、午前の開始には来なかった。そうなんだろ?それとも自分が画策した騒動に巻き込まれないようにするためか?

 

忠高が、良くんが予想した通り、対外的に千葉のヤンキー共に中高が軟高と紅校と同盟を結んでる風に見せかけるだけだったら、俺は見逃しただろう。

しかしな、お前が計画したことは、俺にとって許せるものじゃないんだよ。高見沢。

俺の平穏な日々をぶち壊し、折角得た居場所を壊そうなんてする奴を俺は許すわけには行かない。俺はこの場所を守る為だったら、何だってやってやる。何だってな。

 

 

さあ、そろそろイベントが開始する頃か、三橋、伊藤その場は頼んだ。

 

 

 

俺は受付テントから、双眼鏡でサッカーの試合が行われるグランドの様子を見る。

第一試合は、Aコートでは軟葉高校と総武高校の試合だ。

 

げっ、三橋の奴、試合に出る気満々だぞ。何やってるんだ!?

しかも10番、エース番号って、お前、サッカー部の連中から無理やり分捕ったな。

良くんも怒ってるが、おかまい無しだ。

赤坂、何ちょっと顔を赤らめて応援してるんだ。止めてやれ!

 

ん?三橋の奴、いきなり葉山と肩組んで絡みだしたぞ。

あれは……

声が聞こえなくてもわかる。お前のその小学生のガキ大将のような悪びれない笑みは。

『どっちの金髪の方が派手なのか?』だろ?

それと『どっちがイケメンか?』だろ?

 

葉山の奴は困ったような顔で苦笑してるが、総武高校の女子マネージャーと、葉山の応援に来た女子から大ブーイングだ。

 

『ぐっ!ぜってー俺の金髪の方が派手だ!!』って総武高校の女子にアピールしてるな。三橋の奴。

 

さらに総武高校女子にブーイングの嵐だ。

 

『カーーー!!』

おいおい、女子に威嚇するなよな。

どうせ、ヤンキー帰れとか、葉山の方がカッコいいとか言われて、イラっとしたんだろうな。

 

それでも、総武高校女子のブーイングは止まらない。

三橋は、なんだかんだと女子には弱いからな。これ以上は何もしないだろう。

 

おお?三橋の奴、急に大人しくなったな……いや、違う。あのそこ意地悪い顔はアレだ……葉山に何かするつもりだな。女子に受けたブーイングの怒りを葉山に!ご愁傷様だ葉山!三橋の奴は誰にも気づかれない内に犯行に及ぶだろう。もう、こうなった三橋を止められる奴はいない。

 

伊藤はと……あいつも、一応軟葉高のユニフォーム来てるな。だが、ちゃんとベンチで控えて、周囲を監視してるようだ。流石は伊藤だ。

しかしなんだ。となりの早川京子は伊藤のユニフォーム姿にデレてるな……くっ、う、うらやましくなんかないぞ。

早川京子もかなりの美人だ。それこそタイプが似てる雪ノ下に匹敵するぐらいな。まあ、2人の共通点は、黙って、澄ましていればと条件は付くが。

というか、他校の早川が軟高のベンチになんでサラッと溶け込んでるんだ?

 

 

となりのBコートの紅羽高校と忠実高校はと……。

予定通りだな。今井は試合に出ずに、ベンチに座ってる。

俺はちゃんと今井に電話で伝えておいたからな。

モテるキャプテンとはどういう奴かという事を。

 

試合に出ずに、大人しく試合する選手を見守る奴だと。

そして、最後の試合後半に大御所のように出て行くのがベストだと。

スラムダンクの翔陽高校の藤真を見習えと!

藤真はだから滅茶苦茶モテるんだと!

 

そう俺が伝えると、奴は「そ、その通りだ!流石だ八!」なんて言ってたしな。

 

いくらひと昔前のサラリーマン風に擬態させたからといって、今井が試合に出れば、相手にバレるだろう。だから、奴は忠高との試合には、絶対出したくなかった。

まだ、今井だとバレるわけには行かない。

その為の、七三分にキャプテンでぐるぐる眼鏡だ。

 

谷川の奴も、ちゃんと機能してるようだな。ベンチでちゃんと周囲を警戒してる。

谷川は今井の子分をしてるが、馬鹿じゃない。

リスクも計算できるし、警戒心も高く、危機察知能力も高い。

しかし奴は、今井を親友として、その舎弟として誇りに思ってる。

リスクなんてものを吹っ飛ばして馬鹿な今井について行くことが出来る男なんだ。

ケンカも小学生にも負けるぐらい弱いのに、今井について行って開久に殴り込みに行くほどだ。

だから、あいつは憎めないし、三橋、伊藤にしろ奴を軽く見ない。もちろん俺もだ。

 

忠高の連中はと……

応援団連中とさらに一般生徒の応援の連中まで増えたな。いや、あれは不良連中が、真面目風を装ってるだけだ。何人か顔を見たことがある。

しかし、まだ全員いるようだ。まだ動かないか。

 

 

 

「あなた。仕事する気はあるのかしら?」

「ヒッキーってサッカー好きだったの?」

雪ノ下は呆れながら、由比ヶ浜は苦笑しながら、双眼鏡でグランドの様子を見る俺の後ろから声を掛けてきた。

 

「いや、ちょっとな」

 

「……別にいいわ。午後の試合までは来客は少ないでしょうし、ここは私たちだけでも十分よ」

「うん、あたし達は大丈夫だから、ヒッキーは試合を見に行って来たら?」

そういうわけには行かない。忠高の連中が仕掛けてくるかもしれない。予想では午後からだが、もしと言う事もある、警戒は必要だ。

 

「いやいい、お前らが心配だからな」

俺は双眼鏡で様子を見ながら、何気なくそんな事を2人に言ってしまっていた。

 

「そ、そう」

「ヒッキー…」

 

それ以降しばらく、二人は何故か俺に声を掛けてこなかった。

まあ、その方が都合がいいからいいか。

 

 

 

 

Aコートの軟葉高校と総武高校は……0-2だ

案の定、総武高校が既に2点入れてるな。

しかし、三橋が大人しい。

彼奴はスポーツも万能だ。本気を出した三橋はサッカー部の連中よりもうまいはずだ。

 

ん?軟高側のフリーキックか。

直接ゴールを狙える位置にあるな。

 

……三橋、わざと転んで反則貰いに行っただろ。審判も三橋の演技に騙されたな。

 

フリーキックは三橋が蹴るようだな。

なんだ、その前に佐川に何か耳打ちをしてるぞ。

佐川が「えー、マジっすか三橋さん!?」ていう顔で滅茶苦茶焦っるぞ。

なにか、良からぬことを企んでる臭いがする。

 

三橋のフリーキック前方には総武高校の二枚壁、葉山と戸部だ。

その後ろに軟高の佐川と……

 

三橋のフリーキック。

ボールは上方向に蹴り上げ……途中で止まった!?ボールは三橋の足の上に?

 

釣られて、ディフェンス側の二枚壁の葉山と戸部は真上にジャンプ!

 

 

葉山と戸部の後ろの佐川も、ポジション取りのために前に走るが、なぜか転ぶ。その手は葉山のズボンに!?

 

 

ジャンプ中の葉山のズボンが佐川の手に引っかかりズルリと脱げる!?

 

これか!!三橋が企んでいたことは!?葉山をさらし者に!?

 

 

アレ?……パンツも脱げてませんか?

なんか、フランクフルトがフルンフルンと……

 

 

三橋はそこ意地悪い笑みで前方に蹴り上げるのを止めていた足とボールを、今振り切って……

ボールは葉山のジャンボフランクフルトに正確無比に直撃!?

 

葉山はジャンプの着地と同時に泡を吹いてそのまま仰向けに倒れる。

 

 

静寂と共に場の空気が止まる。

 

 

 

……おい、三橋、いくらでなんでもやりすぎじゃねーか?

 

ボールを蹴った三橋も……なぜか微妙な顔をしていた。

まさか、パンツまで脱げるとは思ってなかったのか?

 

 

そして、Aコートは女子の黄色い悲鳴が響き渡る!

コート場の両陣営の選手たちや控えの選手達は全員自分の股間を手で抑え、青ざめていた。

そりゃそうだ。あの痛みは男子にしかわからない。

 

試合は一時中断に。

戸部は自らの上着を脱いで葉山の下半身にかけてやる。うん、戸部はいい奴だ。

そして、タンカーに運ばれていく葉山。意識は無い様だ。

葉山。同情はするが、やはりこの四校での練習試合なんて事に了承なぞするから、そういう事に。哀れ葉山!その報いだと思ってくれ!

 

 

もちろん葉山のズボンとパンツを脱がしてしまった佐川は一発退場。

三橋は反則ではないため退場とはならなかったが、良くんに引っ張られ、強制交代に。

さらに総武高校女子達にブーイングの嵐に巻き込まれる。

 

ベンチに戻った三橋は赤坂と伊藤に必死に言い訳をするが、白い目で見られる。

 

三橋、お前よかったな。

悪名がこの総武高校にもとどろくぞ。

金髪の悪魔は、もはや女子の敵だ!

 

 

 

 

俺は、葉山に同情の念を持ちながら、双眼鏡をBコートに向ける。

紅羽高校と忠実高校は0-2で紅高が負けてる。

そりゃそうだろうな。忠実高校は千葉ベスト4常連で、紅高は2、3回戦レべルだからな。

今井の奴は、ベンチに座ってるが、出たくてうずうずしてるぞ。あいつ三橋に負けず劣らず負けず嫌いだからな。しかも、近くに赤坂がいるしな。何らかのアピールもしたいだろう。

今の所、何とか谷川が抑えてくれてる状態だ。

 

忠高はと、応援団と一般生徒に偽装した不良が4人ほど動いたか……

俺は伊藤と谷川に警戒するようにメールする。

伊藤と軟高の何人かと谷川と紅高の何人かが動き出す。

 

 

やつらの計画の内の一つは……

総武高校が用意したウォーターサーバーに細工をする事。

今は夏真っ盛りだ。熱中症対策として、ウォーターサーバーを総武高校が各高校の分も準備し、応援席等にも置いてある。

俺の予想では、奴らはそれに多量の下剤か何かを混ぜるつもりだろう。

選手ベンチに置いてるウォーターサーバーにな。そして、それを飲んだ軟高と紅高の選手たちはのたうち回って倒れる。

一応、忠高のウォーターサーバーにも混ぜておいて、それを使用せずに、自分たちは自前のもので給水するつもりだろう。言い訳のためにもな。

軟高と紅高は総武高校の仕業だと言い寄るだろう。

そりゃそうだ。ウォーターサーバーを用意したのは総武高校だからな。

そして、最悪は軟高と紅高不良共が総武高校を敵とみなし、事あるごとにちょっかいを出す事になる。

 

なぜ、忠高の奴らがそんな事をするかって?

奴らは、総武高校に軟高と紅高をけしかけたいんだよ。

 

しかも、これについて、軟高と紅高とは、忠高と利害一致をみるだろう。

揃って、総武高校を攻撃できるってわけだ。

軟高、紅高とも同盟関係を結べると言う事だ。

 

 

忠実高校生徒会の狙い。いや生徒会長高見沢憲明の狙いは。軟高と紅高との同盟を見せかけるためのアピールじゃない。

真の目的は総武高校を潰すことだ。

奴は高校受験で総武高校を受験するも落ちてる。

そして、不良高校で有名な忠実高校に入学する羽目になったのだ。

そこそこ頭がいい奴ではある。しかも野心家で嫉妬深い。

その頭を活かし、忠高でのし上がり、生徒会長に成り上がる。

裏では、不良共を操り、数々の悪行を重ねながらな。

 

これは奴のくだらん復讐の一環だ。

 

これだけじゃない。奴の狙いはな。それが俺は最も許せない。

 

 

 

伊藤も谷川からも連絡が入る。

犯行現場の証拠を撮る事ができたようだ。

写真もメールで送られてきた。

伊藤の奴、かなり切れてたな。切れるのは後にとっておいてくれ。

 

どうやら、ウォーターサーバーの入れ替える総武高校生徒に一般学生に扮した忠高の不良生徒が話しかけ、注意をそらしてる間に、細工する係の連中が、下剤か何か粉のような物を入れ替えたウォーターサーバーに混ぜたようだ。

 

忠高生徒会の奴らは総武高校との打ち合わせの時に熱中症対策でウォーターサーバーを総武高校に用意してほしいと要求したのだ。普通は自前の物を持ってくるものだが、応援団や応援に来る一般生徒にも必要だからと、もっともらしい言い訳を言ってな。

俺からすればあやしいにも程がある。

人のいい、総武高校の連中はそんな事を夢にも思わないだろうがな。

 

証拠の一つは手に入れた。

俺達は忠高の策にしばらく乗ったふりをする。

伊藤と谷川には総武高校のウォーターサーバーを使用しないようにし、自前の物を出してもらう。

 

 

高見沢。お前の手札はすべて利用させてもらうぞ。

 




オリキャラは高見沢くん
あとボンボンと言っていたのは、まだ出てないですが、原作の福田です。

実は八幡は相当怒ってます。


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第六話

ご無沙汰しております。
何とか続きを書くことが出来ました。

すみません。
この後も後一話あります。



俺は双眼鏡で、忠実高校の連中を注視する。

あいつら、軟葉高校と紅羽高校のウォーターサーバーに下剤か何かを仕込んだのはいいが、一向に効果が表れないことにそろそろ、疑問に感じだす頃だろう。

 

俺は奴らがウォーターサーバーに下剤か何かを仕込む事をを予想し、伊藤と谷川には、下剤が仕込まれた総武高校が交換用意したウォーターサーバーを使用せずに、自前の物を使うように予め言い含めていた。

ついでに、犯行現場写メを取らせてもらったぞ。

もう、証拠は上げさせてもらったぞ。忠実高校。いや忠実高校生徒会長高見沢。

 

 

忠実高校生徒会、いや忠実高校生徒会長高見沢の狙いは、軟高と紅高を嵌め、総武高校といさかいを起こすことだ。ウオーターサーバーに下剤を混ぜたのが総武高校だと、軟高や紅高に思わせ、奴らを煽り、徹底的に総武高校を叩くように仕向ける。

軟高と紅高、そして忠高からターゲットにされた総武高校の生徒達は、不良共の耐性などあるわけもなく、学校に行くこともままならなくなるということだ。

それだけではない。警察沙汰にもなるだろうし、PTAやらの介入やら、下手をするとマスメディアの介入もあるかもしれない。そうなった総武高校は半年とかからずに立ち行かなくなる。

そう、高見沢の真の目的は総武高校を徹底的に潰すことだ。

高校受験で総武高校に落ちた腹いせ、いや本人は復讐のつもりだろうが、ただの八つ当たりだ。

そんなくだらない理由で、ようやく得た俺の平穏な日常を潰そうとする奴を、黙って見過ごすわけにはいかないんでな。

 

 

どうせ、ウオーターサーバーに下剤を紛れ込ませる以外の方法も考えているのだろうが、それもお見通しだ。

お前らの考えそうな事は、俺には手に取るようにわかる。

伊達に一年間、ケンカも全くできないやヘタレな俺が、不良共やお前のような小悪党共から、生き残るために、お前らの行動パターンから何から何まで研究し、逃れてきたわけじゃないぞ。

 

 

ん……動きがあるな。

俺は双眼鏡越しに、忠高の応援団に紛れ込ませた不良共が何人か動き出したのを確認した。

やはりか……

その忠高応援団の恰好下不良共4人が、運動場に併設してある平屋の体育会系部室棟へ辺りを気にしながら向かって行く。

 

はん。どうぜ次は総武高校サッカー部の部室を荒らすつもりだろう?紅高か軟高がやった風な証拠を残してな。

既に手を打ってある。お前らが総武高校サッカー部の部室の扉をこじ開けようとすると電流が流れる仕組みになってるんだよ。

これも、去年に俺が良く使った手だが、未だ破られたことが無い。

『電気トラップ』

車のバッテリーを使った単純な仕掛けだが、それだけ効果が高い。

 

 

ふん。案の定引っかかったか。

電気トラップを仕掛けた総武高校サッカー部部室のドアノブに手を掛けた忠高の不良の一人が、痙攣し感電し出すのが見える。

残りの不良共がドアノブを持ったまま痙攣してる奴を、ドアから引きはがそうと掴むが……全員同じように痙攣しだす。

アホだなお前ら。感電してる奴に触れると、そうなるに決まってるだろうに。

まあ、死なない程度の電流しか流していないから、安心しろ。

だが、しばらくは凄まじい倦怠感で立ち上がる事もできないだろうがな。

しかも、失禁は免れないだろう。

 

後は伊藤達にそいつらの処分をまかせてと……

二度と総武高に近づかせないように、白目向いて失禁してぶっ倒れてる奴らの姿を写真に収めてもらうとするか……

 

 

次はどんな手を打ってくる高見沢?

それ以外の手も想定し、対応済みだがな。

 

証拠もたんまり掴ませてもらったぞ。

忠実高校と高見沢を総武高校手を出せないよう、二度と立ち上がれないぐらいに徹底的に叩いてやる。

 

 

なあ高見沢。

俺はな、これほど怒りを感じたことが無かった。

総武高校を潰す目論見も大概だが、最も許せなかったのが、お前のもう一つの復讐という名の目的だ。

 

その為に、赤坂と早川を呼んでおいたのだが……

 

 

 

 

 

「や、やめて!!」

「あなた達、何を!!」

 

 

なんだ!?

俺は受付テントの裏側から双眼鏡でグラウンドの様子を伺っていたが、突如として由比ヶ浜と雪ノ下の叫び声が!さらに複数の人間の気配がする。

まさか!?

 

 

「がっ!?」

俺は振り向こうとしたが後頭部に強い衝撃が走り、一瞬目の前が真っ暗になり意識が飛ぶ。

次に体全身に衝撃が走り、痛みで無理矢理意識が戻る。

目に写ってる物は……土…地面?俺は倒れたのか?

 

「やめて!!ヒッキーに何をするの!!」

「やめなさい!こんな事をして許されると思っているの!!」

 

「ぐあぁ!」

尚も俺に背中やら頭に衝撃が……そして、横っ腹に強めの一撃で俺は仰向けになる。

 

「ぶははははっ、だらしねーな野郎だ」

「言ってやるなよ!不意打ちで、しかもこの人数じゃあしょうがねーよな!がはははははっ!!」

「まあ、運が悪かったと思っておねんねしな!」

俺は尚も蹴りを入れられる。

 

目の前には、ヤンキーの恰好をした男どもが俺を見下ろしていた。

6……12人いる。

見たことが有る顔もある!忠高の連中だ。

くっ、油断した!

 

この正門は人通りもそこそこあって、この場所で襲撃は無いだろうと高を括っていた!

くそっ!!忠高の連中。見境無しってわけか!!

悉く彼奴らの作戦を妨害したのがアダになったか、作戦失敗と見た高見沢の奴、なりふり構わず強硬手段にでたってことか!!

 

「髪の長いねーちゃんよ~、抵抗するなよな」

「このへっぽこ野郎と、ピンクの髪の子が如何にかなっちゃうぜ?」

どうやら雪ノ下は不良連中に抵抗していたようだが、その言葉で大人しく捕まった。

 

「や……やめろ……そいつらを離せ……」

 

「なんだ?総武高のもやし野郎の癖に、根性だけはあんな!?根性だけだけどな、がはっはーーー!!」

俺はその間も蹴りを入れられていた。

 

「やめてよ!ヒッキー、ヒッキーが!!」

 

「なんだねーちゃん?こんな奴をかばうのか?もしかして、こんないかにも眼鏡掛けたガリ勉野郎がいいのか?」

「そんな奴より、俺の方が何100倍良いぜ!!いい目見させてやるよ!」

「それにしても、このねーちゃん二人とも、超マビーな」

「俺らで頂くか?」

 

「くっ……や…めろ……」

 

「バカ言ってんな。ピンク髪の女は高見沢さん、黒髪の方は福田さんが用が有るんだ。手を出すと殺されっぞ。しかもよーこいつも連れて来いってよ」

「早くズラがるぞ。三橋、伊藤にバレると厄介だ」

俺は重い一撃を腹に受けその場で意識が飛ぶ。

 

 

 

 

 

高見沢のもう一つの目的とは由比ヶ浜だった。

 

俺の情報網だと、奴と由比ヶ浜は同じ中学で同じクラスメイトだったらしい。

当時の由比ヶ浜は地味であまり目立たなかったようだが、今と同じく誰にでも優しく人当たりはよかったらしい。

そんな、由比ヶ浜に優しくされた高見沢は告白したのだが、見事に振られたようだ。

それを、逆恨みしていた。

 

忠高に入学し、生徒会長までのし上がって力を得た今の高見沢は、虎視眈々と由比ヶ浜に復讐の機会を……いや、強引に自分のものにしようと狙っていた。

 

 

 

……ここまで強引に事を運んでくるとは想定外だった。

 

 

 

 

 

胡乱な意識の中、そんな思考を巡らせていたが……

聞きなれた声が耳に入って来る。普段は落ち着いた声色のその声は、俺も聞いたことが無いような怒りを含んだ叫び声だった。

 

 

「この卑怯者!」

 

「なんだと!俺のどこが卑怯者だ!?」

 

「言わないとわからないのかしら?こんなごろつきを集め、私の友人を人質に取っておいて、何を言ってるのかしら!」

 

「別に人質をとったわけじゃない。あのピンク髪の女は、俺は関係ない」

 

「何をぬけぬけと!私に用があるのなら、私だけを連れてくればいいじゃない……関係ない彼をこんな目に遭わせて……こんな事をやらかしてただじゃすまないわ!」

 

「……強引だったかもしれねーが、お前が俺を認めないから悪いんだ。素直に俺の許嫁になれば、こんなマネはしなくて済んだんだ!」

 

「誰が貴方のような、世間もろくに知らない成り上がりの子せがれの許嫁なんて、キッパリ断ったはずよ!」

 

「雪ノ下雪乃!!俺を見ろ!こいつ等を従えて、何でも思い通りに出来るんだぞ!!そこの転がって寝てる男とは格が違うんだ!!」

 

「誰があなたなんかと!!虫唾が走るわ!!」

 

 

……俺は薄目を開けてこの状況を確認する。

俺は後ろ手を縄で縛られ地面に転がされてる。致命傷はなさそうだが体中の彼方此方が痛い。

 

どうやらここは建物の中の様だが、殺風景だな。どこかの古い倉庫か廃工場のようだ。

 

そして、目の前では雪ノ下の後姿が見える。雪ノ下も同じように後ろ手を縄で縛られているが、立って目の前の男と口論を繰り広げている。

雪ノ下と口論をしてる男は……忠高の福田か。

福田の後ろと俺や雪ノ下を遠巻きに囲むように、不良共が…8…10人はいるな。

俺と雪ノ下はどうやら、総武高校の正門に襲撃してきた連中にここに連れてこられたようだ。

福田の奴の目的は雪ノ下か………

 

この状況で雪ノ下は物怖じ一つしていない。

流石だな。

俺だったら、足がガタガタ震えて、まともに立てないまである。

 

 

この福田の実家は成金の金持ちだ。不動産で一山も二山も当て、今では千葉でも有数の資産家だ。

こいつは親の金を湯水のように使い、不良やチンピラを雇って、地元で傍若無人にふるまってるような奴だ。

去年、三橋を金で雇って、伊藤を潰そうとしたが、目論見が外れて、二人にボコボコにされた口だ。

 

千葉で手広く建設業を営んでいる雪ノ下の実家とは、繋がりが有る事は知っていたが、こんな話があったことは知らなかった。許嫁とかなんとか言ってる所をみると、福田家から雪ノ下家へ、雪ノ下を嫁にとアプローチをかけたみたいだが、見事袖にされたようだ。

しかし、福田自身がまだ、雪ノ下を諦めきれずに……こんな方法で強引に迫っているという事か……、全くの逆効果だと思うがな。

まあ、高見沢の口車にまんまと乗せられたのだろう。

 

 

……問題は由比ヶ浜だ。由比ヶ浜がこの場に居ないという事は、高見沢が居る別の場所に連れていかれた可能性が高い。早く手を打たないと手遅れになる。

 

 

福田と不良共10人……不良共は見知った顔が半分か……これなら何とかなる。

開久100人の前に放り込まれた時に比べれば幾分かましだ。

ただ……雪ノ下には俺が恐目の八幡だとバレてしまうリスクはあるが、そうは言ってられない。

 

俺は気絶したふりをしながら、制服の袖に仕込んでいるヤスリで、周りにバレないように手首の縄を切って行く。

何で、そんなものを持っているかって?

昨年の不良との抗争に巻き込まれた経験上、こういうツールは普段から持ち歩いている。

何かと便利だ。俺の制服には、こういうものを複数結構仕込んである。

 

 

しかし、なぜ俺もここに連れていかれたのか?

最初は、俺が元軟葉高校の恐眼の八幡だとバレて、高見沢の所に連れていかれたのではと思っていたのだが違ったようだ。

バレても居ないようだ。という事は、唯の総武高校の一般男子生徒の俺に用事があるという事か?

 

 

「……その男だな。俺は知ってるんだぞ!!お前が!!この男とデートをしてるのを!!」

何言ってるんだ?福田は……俺がいつ雪ノ下とデートなんてしたんだ?

 

「な!?な、何を言ってるのかしら!私が比企谷君とデートなんてするわけないでしょ!!」

 

「その男ヒキガヤって言うのかくそっ!千葉の駅前モールで!!そこの男と仲良く買い物をしていたのを俺は見たんだ!!そんな男のどこが良いんだ!!いかにもガリ勉野郎の!!俺の方が金も権力もある!!俺の女になれ雪乃!!」

……あれだな。由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行った時の事だな。

まあ、他人からすれば、デートに見えない事もないか……実質は全く違うのだがな。

 

「と、取り消しなさい!わ、わ私は比企谷君とデートなんてしてないわ!勘違いも甚だしいわ!!」

おい、取り消すのはそこかよ。俺とのデートと思われるのはよっぽど嫌なのかよ。

 

どうやら、俺は雪ノ下の彼氏か何かに勘違いされて、連れてこられたようだ。

多分福田は、俺を雪ノ下の前で辱めるつもりなのだろう。俺よりも福田の方が優れているという事を見せつけるために。

そんな事をしても、雪ノ下はお前になびくはずもないのにな。

 

 

ふう、まあいい。

福田が雪ノ下をどうこう出来るとは思えない……強引にモノにするような勇気もないだろうし。

それよりもとっとと由比ヶ浜を助けにいかないと……高見沢の奴はガチだ。

 

 

その為にも早くこの場を切り抜けなければならない。

 

覚悟を決めたハズなのに相変わらず俺はチキンだ。

早鐘のように脈打つ鼓動、いい加減に静まりやがれ。

心臓の音もうるさい。

体の震え、止まりやがれ。体中の痛みなんて気にするな!

俺は今から、こいつらを助けないといけないんだ。

落ち着け……俺はチキンでヘタレな比企谷八幡じゃない

俺は今から、軟葉高校元ナンバー3。恐眼の八幡だ!

 

 

 

俺はこのタイミングでゆらりと立ち上がり、福田に声を掛ける。

「よう福田。不意打ちとは随分じゃねーか」

 

「ようやく目が覚めたかチキン野郎……ん?なんだ?お前?お前と、どこかで会った事あったか?」

福田は疑問顔で俺を見る。

 

「比企谷君……あなたはじっとしてて…血が出てるわ。病院に行かないとまずいレベルよ」

雪ノ下も俺の声で振り向き、心配そうな顔を向ける。

お前、そんな顔も出来るんだな。

 

「気にするな雪ノ下」

俺はゆらゆら前へと歩き出す。

正直体中が滅茶苦茶痛い。頭から流れ出た血が片目をふさいでる。足取りも重い。

だが、頭の中は妙にスッキリしていた。

 

俺はここで、切った縄を見せつけるように放り投げ、眼鏡をはずし福田を思いっきり睨みつける。

「忘れたか、この目を」

 

「縄をどうやって……な……なななな!?その目!!その面!!恐眼の八幡……だと!?」

福田は一歩二歩下がり、恐れおののいていた。

それに気が付いた福田の取り巻きの不良共も、驚きの表情を隠せていない。

……いつも思うのだが、眼鏡の脱着程度で別人レベルで変わるものなのか?俺の人相。

まあいい。つかみはOKだ。

こうなれば俺のペースだ。

俺のこの腐ったとか言われてるこの目と口八丁でこの場を切り抜ける!

 

「福田……8カ月ぶりか?軟高と忠高との終戦交渉以来だな。あの時散々三橋と伊藤にボコられて、俺らにちょっかい出さないって、泣いて詫び入れたんじゃなかったのか?」

 

「くっ!くそ!な、なんでお前がここに!!関西に引っ越したんじゃねーーーのか!?しかもその制服!総武高校だろ!!ど、どういう事だ!!」

福田の奴、いい狼狽ぶりだ。相当困惑してるな。

 

俺はゆっくりとした足取りで、雪ノ下の前に割って入り、福田と対峙する。

 

「あなた……」

雪ノ下は俺とのすれ違い様に不思議そうな顔をしてたな。

俺は小声で「あとはまかせろ」とだけ伝える。

 

 

さあ、行くぞ。俺の本領発揮だ。

「ふん。そんな事はどうでもいい。お前、雪ノ下に手を出してタダで済むと思ったのか?こいつの実家とお前んところの家じゃ、格が違うぞ。古くから建設業を営み、地盤を固め、千葉の財政界に大きな力を持ち、さらに千葉の議員のこいつの親父さんと…千葉南端の宅地開発ブームに乗ってヤクザまがいの土地ころがしで、金を得ただけの成金のお前ん家じゃ。振るえる力が格段に違うぜ。

雪ノ下の家が本気だしたら、お前の家なんて一瞬でゴミ塵だ。

そんなんもわからんのか?このボンボン」

 

「……い、家なんて関係ねーー!!」

福田の奴……意外と根性あるじゃねーか。本気で雪ノ下に惚れたか?

 

「お前……姉の雪ノ下陽乃に会った事が有るか?」

 

「………」

俺の言葉に福田の表情は真っ青になる。

やっぱりな。あの妹大好きヤンデレの雪ノ下陽乃が、自分の妹(雪ノ下)を嫁にくれと言ってくる奴を放っておくわけがない。何か相当な脅しを掛けられたはずだ。

 

「まあいい。どうせお前、高見沢にそそのかされて、こんな事をしでかしたんだろ?今だったらまだ間に合うぞ。俺達を解放しろ……って。まあ、勝手にここを出て行くがな」

 

「そ、そうはいかない!お前をボコって、雪乃は俺が貰う!!おいお前ら、ビビってんじゃねーー。こいつはもうボロボロだ!立ってるだけでやっとのはずだ。こいつを倒した奴は10万やる!!」

福田の取り巻きの不良10人が、その声でビビり顔からいやらしい笑みへと変わり、俺と雪ノ下を囲みだす。

……まあ、こいつらの残念な頭程度だと、こうなるだろうな。

 

福田を含めると11対1か……

まともにケンカすれば俺は一瞬でやられて、下手をすると雪ノ下に手をだすかもしれない。

 

……まともにケンカすればだがな。

 

殴り合うだけが、戦いじゃない。特に集団戦はな。

心理的に優位に立ち、相手の恐怖を植え付け、戦力を削るだけで集団は瓦解する。

幸いにも福田以外の不良10人のうち、6人は俺のマル秘データで調べが付いてる奴だ。

やる事はひとつ……

 

 

「おいお前ら、確かに俺は不意打ちを食らって、ボロボロだ。今だったらお前ら程度でも俺を倒せるかもな。……だがな。俺をこの場で確実に殺せよ。じゃねーと…………後で何をしでかすかわからねーだろ?」

俺はここで目を大きく見開きニヤついてみせる。

そう、これは俺の最大の威嚇だ。この目を見てビビらなかった雑魚不良は居ない。

 

「ななな、は、はったりだ」

「ああ、あの恐眼の八幡を倒して名を上げるチャンスだ」

「た、倒したら10万なんだ」

不良共は恐怖で顔を引きつらせながらも、精いっぱい虚勢をはる。

効果は抜群だったな……

 

「なんだお前ら、1対10だぞ?ビビったのか?……まあ、自分の身は大切だよな。それだけじゃない。誰にでも大切なものはある……そこのスキンヘッドのお前!!足立竜男!忠実高校2年4組17歳!まだ30代の母親がいるよな。お前一人をここまで育ててくれた大切な母親が……勤務先は確か、○○スーパーの夜間時間帯責任者だったか、いつも帰りは遅いらしいな……お前の家までの夜道は街灯も少ないな。暴漢に襲われなければいいがな」

俺はスキンヘッドの男をビシッと指さし、こう脅した。

 

「はわわわ、な、なぜそれをーーーー!!や、やめてくれーーー!!」

 

「ん?何を慌てている。俺はまだ何もしてないぞ。まだな」

眼を細めニヤリと口を歪ませる。相手はさらに恐怖に落ちいる。

 

「右のロン毛のお前!!お前は服部奏太!!フリーターの18歳。家を勘当同然に追い出されたお前を、4つ上の姉が毎日アパートに来て、飯を作ってくれてるそうだな!ん?そう言えば、小学校の卒業文集に、将来は姉ちゃんと結婚とか書いてあったそうだな。そうかお前はシスコンか……悪い男には気をつけるのだな」

 

「や、やめーーー!!姉ちゃんだけは!!」

ロン毛の不良は狂乱し叫びだす。

 

 

「そこの毬栗頭のは!前田健司!!忠高3年5組……最近年下の彼女ができたとか……ふう、何度も告白してようやくOKしてもらったそうだな……初デートはまだか?そうかそうか……まだの様だな。まあ、何が起きるかわからんのが世の中だ」

 

「ぎゃーーーー!!それはーーー!!」

 

「何をそんなに慌ててる。俺はお前らの、身内の話をしてるだけだ」

俺は思いっきり、取り巻きの連中を睨みつける。

その場に居る全員が恐怖で顔を引きつらせていた。

恐怖は伝染するものだ。

 

 

「お前は、井上幸三!!アルバイトをしまくって最近買ったバイクがある!!そこの多田健司!!二つ下の可愛がってる妹がいる!!」

俺は次々と、不良共のプライベートを暴き、さらに恐怖に追い打ちをかける。

 

 

そして、遂には取り巻きの不良の一人が叫びながらこの場から逃げ出し、それが発端となり次々とこの建物から我先へと逃げだしていく。

集団戦において、心理戦はすさまじい効果を表す。

恐慌状態に陥った兵は、普段の10分の1も力を発揮しない。

さらにだ。2割の戦力を削ると心理的劣勢の元、敵は負けを悟り逃げ出す。

 

まあ、こいつら程度だったらこれで十分だ。

 

 

「残りはお前だけだ福田」

後はポツンと取り残された福田だけだ。

こいつは一人だったら何もできない。

 

「く、くそーーー、雪乃は俺の女だ!!」

福田は近くにあった鉄パイプを手に取り、俺に襲い掛かって来た。

誤算だったな。結構根性あるじゃねーか福田。それともよっぽど雪ノ下が好きなのか?

 

「比企谷君!」

 

雪ノ下の叫び声が聞こえるが、俺はこうやって立ってるだけでやっとだ。

これは避けられない。確実に病院送りだな。痛いのは嫌なんだが……

……後ろ手を縄で縛られてるとはいえ、雪ノ下だったら福田一人から逃げ出すことは容易だろう。

由比ヶ浜の事は気がかりだが……あいつらがきっと何とかしてくれる。

 

 

しかし、福田が振るった鉄パイプは俺には届かなかった。

 

「やっぱりお前は男だな。そのボロボロの状態で女をかばって仁王立ちか」

いや、ただ単に動けなかっただけだ。雪ノ下を庇ったわけじゃない。

 

ツンツン頭の大きな男が福田の後ろに立っていた。福田が振るおうとした鉄パイプを後ろから掴んでだ。

 

「……遅いぞ。伊藤……」

相変わらずカッコいいじゃねーか伊藤。出てくるタイミングもばっちりだ。

安堵したのか、足が震えだし、俺はその場で崩れるように座り込む。

 

「しょうがねえだろ?お前を探すのに結構苦労したんだ」

 

「GPSで俺の位置が分かるようにしてただろ?」

 

「……いや、使い方がわからなくてな」

そう言えばこいつはITオンチだったな。早川にでも聞けよ。

 

「……で、三橋は一緒じゃないのか?」

 

「三橋はこの倉庫から逃げ出した奴らをボコってる。逃げて来た奴ら、相当怖がっていたぞ。どんな脅しを掛けたんだ?」

 

「いや、ただの話し合いだ」

 

「お前って奴は相変わらずだな……」

伊藤は呆れたように言う。

 

 

「弱虫くーーーん、何連れ去られてるんだ。ひ弱くんかお前は?それとも女に間違えられたか?腐った目なのにか?ぷくくくっ」

そこに学ラン姿の金髪パーマの三橋がポケットに両手を突っ込みながら、軽快なステップを踏みながら現れる。

 

「……言ってろ」

 

「ぷっ……ぷくくくくくっ!ぎゃーーーーはっはっはーーーーー!!腹痛てーーーーー!!ははっ、八ーーー!!俺を笑い死にさせるつもりかーーーーーー!!お前の顔!ボコボコに、ぷはははははっ!!伊藤!!見ろよこいつ!!リアルゾンビだぞーーーーーーー!!」

殴られて傷や痣だらけの俺の顔を見た三橋は、転げまわって笑いだす。

こいつは、こういう奴だった。

 

「ぷっ、そういう事を言うなよ三橋。ぷくくっ、この傷は、お、男の勲章だぞ。ぷくっ」

伊藤、お前も笑ってるからな。我慢してるようだが、漏れてるからな。

 

「三ちゃん!はっちゃんに失礼だよ!う……うふふふ」

三橋の後を付いてきて現れた赤坂が、笑い転げまわる三橋に注意しながら、雪ノ下の後ろ手で縛られてる縄を解いてくれていた。

……赤坂、お前も顔がニヤついて、笑いが漏れてるぞ。最近三橋に影響されすぎじゃねーか?

 

何?俺が殴られてボコボコになった顔ってそんなにゾンビな感じなのか?

おい、雪ノ下!お前もか!口を必死に押えてるが、それ笑ってるだろ!

ふう、こんな目にあった直ぐだというのに雪ノ下は度胸があるというかなんて言うか……まあ、悲壮感を漂わすよりもましか……

 

 

はぁ……、相変わらず緊張感のない奴らだ。

しかし、こいつら程、こんな状況で頼れる奴は他に居ない。




今回のネタは某軍曹殿をオマージュですね。


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第七話

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく完結です。
読んでくださった方々ありがとうございます。



殴られて傷や痣だらけの俺の顔を見て、笑い転げる三橋を余所に、重い腰を上げ立ち上がる。

福田には聞かないといけない事がある。

 

「はっちゃんダメだよ。結構怪我酷いよ」

「比企谷君!動かないで、じっとしてなさい」

立ち上がったはいいが、二人にあっさりと捕まり強制的にその場に座らされる。

……赤坂は合気道の道場の娘で、確か雪ノ下も合気道の有段者だっだな。

殴り合いのケンカだったら俺よりもこの二人の方が間違いなく強いだろう。

というか、俺は赤坂が不良共相手に、1対5で制したのを見たことが有る。

俺が軟葉高校ナンバー3なんて呼ばれていたが、ケンカをすれば間違いなく、三橋や伊藤に次ぐ実力を持ってる。しかもあの三橋を多少なりともコントロールできるのだから、校内では裏番と実しやかに囁かれてる存在なのだ。

不良共は全員、赤坂の事を理子さんとさん付けで呼んでるしな。

三橋のいう事を聞かなくても、赤坂のいう事は素直に聞くしな。

 

「はっちゃんが怪我するのはいつ以来かな」

赤坂は持ってきた薬箱から包帯やら消毒液を取り出し、慣れた手つきで俺の頭の傷に消毒をし包帯を巻いて行く。

 

「ごめんなさい。私のせいで」

雪ノ下も俺の顔の傷に消毒を開始。

この状況、冷静に考えれば美少女2人に触れられてる図なのだが……

 

「いや雪ノ下のせいじゃない。っつぅ、いっ痛っ!消毒液濃くないか?」

全然うれしくない状況だ。なにその消毒液、滅茶苦茶痛いんだけど、殴られるよりも絶対こっちの方が痛いぞ!

俺はあまりの痛みにジタバタする。

 

「はっちゃんじっとしてて!包帯巻けないよ」

「何を情けないことを。あなた、さっきの啖呵はどうしたの?」

赤坂に頭と肩を、雪ノ下に顔を掴まれ、身動きが全くできなくなった。

これって、合気道の術かなにか?まったく動けないんだが……

雪ノ下を助ける必要があったのだろうか?

 

「うぐっ、痛っ!……ふ、福田!由比ヶ浜を……ピンク色の髪の女子をどこに連れて行ったか教えろ!」

俺は情けなく治療されながら、頭をたれる福田に聞く。

福田は伊藤に後ろでを掴まれ、地面に膝をつき身動き一つできず、顔色も真っ青だ。

 

「女を攫うとはな…ふざけた野郎だ。てめぇ」

伊藤が福田に物凄い形相で凄む。

いや、伊藤。やり過ぎると福田がしゃべれないぞ。

ああ、ほらビビりまくって、震えてるぞ。

 

「……し、知らね」

この状況でしゃべらないか。意外と根性あるじゃねーか。

俺だったら伊藤に睨まられたら、ポロっとしゃべっちゃうかもしれん。

 

しかし……

雪ノ下は俺から離れ、福田の前に立ち、侮蔑を含んだ氷柱で突き刺すような視線で見下ろしていた。

「由比ヶ浜さんの居場所を吐きなさい。もし、由比ヶ浜さんに何かあったとしたら……あなたを許さないわ!私と雪ノ下の全力を持って、あなたと一族郎党を社会的に抹殺し、二度と世間に顔を出せないようにしてあげるわ」

 

「……お、おい。ちょっとまて」

雪ノ下さんマジで怖いんですが。

何その脅し、俺がこいつらにやった脅しよりも怖いんだけど、いや、こいつの場合本当にやりかねない。

しかも、そんな虫けらを見るような目で見られたら、自殺しちゃうまである。

 

「比企谷君わかっているわ。まだ、生ぬるいと言いたいのね」

ええっ?今ので生ぬるいのかよ。

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

伊藤が青くなって引いてるぞ。

さっきまで笑い転げてた三橋も赤坂の後ろに隠れて震えてるんだが!

 

「そうね。ありとあらゆる手段を用いて、二度と塀の外に出られないようにしてあげるわ。幸い優秀な弁護士団が雪ノ下にはついているもの。日本に二度と踏み入れないようにするのもいいわね。それに一生空気の薄い土地でコーヒー栽培でもしてもらおうかしら?」

おいーーー!!怖い、怖いよ。雪ノ下さん。

 

ほら福田の奴、涙目じゃねーか。もう泣いちゃうぞ!

「その……その」

 

「そのじゃないわ!はっきり言いなさい!」

 

「す、すみませんでした!あなたのお友達は、○○町の福田不動産が経営する改装中のラブホテルに高見沢と居るはずです。だから殺さないで……」

もう半泣きだよ福田。

福田よ。こんな恐ろしい女を嫁にしようとしてたんだぞ!

 

「だそうよ。比企谷君」

雪ノ下は良い笑顔で振り向く。

 

「おい――八!あのねーちゃん滅茶苦茶怖いぞ。京子(早川)と同じで、長い黒髪美人はみんなあんなのか?」

三橋は焦り顔で俺にこんな事を耳元で囁いてくる。

全く持って同意だ。

 

「はっちゃんの彼女さん。しっかりしてるね」

赤坂はこんな事を言ってしまう。

 

「か、勘違いしないで、私は比企谷君とはそんな関係じゃないわ」

 

「え?そうなのはっちゃん?お似合いだと思うんだけどな」

 

「た、ただの部活仲間よ!」

「赤坂、勘違いだ」

雪ノ下と俺は同時に赤坂に言う。

 

「えーーでも、はっちゃんがあんなに一生懸命、助けようとしてたのに?」

 

「そう、違うわ!」

雪ノ下は何故か顔を赤くして、プイっと横を向く。

 

「残念。そう言えば自己紹介はまだだったね。私ははっちゃんの前の学校の友達で赤坂理子」

 

「雪ノ下雪乃です。比企谷君と同じ部活で部長をしているわ。改めて助けに来てくれてありがとうございます」

雪ノ下は自己紹介をし、赤坂に綺麗なお辞儀で礼を述べる。

 

「うん。はっちゃんから聞いたことがあるわ」

 

「比企谷君に友達が居たのは意外だわ。しかも女の子の」

 

「そう?はっちゃん。前の学校では結構人気だったよ。で、あそこにいる金髪のがさんちゃん。トゲトゲが伊藤ちゃん。みんなはっちゃんの友達」

赤坂。それは語弊があるぞ。別に人気とかじゃない。

何故か恐れられていたんだ。噂が噂を呼び。怖眼の八幡の名だけが知れ渡っただけで。

 

 

 

 

 

「さーて、八……俺をダシにして罠に嵌めれると思った勘違い野郎の顔を拝みに行くか」

三橋は福田を柱に括りつけ、マジックで顔に『女に脅されチビリました』と書いてから、ポケットに手を突っ込み俺の方に向かってくる。

三橋はこんな言い方だが、由比ヶ浜を助けるのを手伝ってくれる気満々だ。

 

「ああ」

 

「女を攫う腐れ外道を放っておくわけには行かないしな」

伊藤が座ってる俺に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれる。

 

「そうだな」

俺は伊藤の肩を借り、この倉庫の出入口に向かって歩き出す。

 

 

「比企谷君無茶よ。応急処置はしたけど、酷い怪我よ!……それにあなた」

雪ノ下はそう言って引き留めようとしてくれたが、赤坂に肩を抑えられ止められていた。

 

 

「雪ノ下は赤坂と学校で待っててくれ。由比ヶ浜を迎えに行ってくる」

俺は顔だけ振り返る。

俺は高見沢と決着をつけないといけない。

 

「大丈夫だよ雪ノ下さん。必ずお友達を連れて帰ってくれる。だから待ってよ?さんちゃんと伊藤ちゃんはすごく強いんだから、それにはっちゃんも」

 

「でも、比企谷君は……」

 

「ねーちゃん。彼奴をあんまり侮るなよ。八の奴は普通に殴り合いすれば軟高でも最弱だ。しかし奴はケンカに負けたことがねえ。勿論俺が日本一強い。……だがな、スイッチの入った八は強ーぜ。この俺でも相手をしたくないぐらいにな」

三橋も雪ノ下に何やら話してから、俺と伊藤の下に軽快に走って来て、「痛そう」とか言いながら悪戯っぽい顔で俺の傷口を突っつきだす。

マジで痛いんでやめてくれ。

奴が雪ノ下に何を言っていたか聞こえなかった。

悪口じゃなきゃいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福田が言ってたラブホテルはここか。

外装か何かの工事で、建物全体足場でおおわれていた。

 

道の角からラブホテルの様子を窺う。

 

結構手下を置いてやがるな。外だけでも10人ぐらい居やがる。

総武高校での作戦失敗で、警戒してるようだな。

 

「三橋、八幡正面から行くか?」

 

「伊藤と八は正面突破。俺は裏口から行くべ」

 

「……またそれか。お前ばっか楽しようとしてるんじゃないだろうな三橋?」

伊藤は三橋に食って掛かる。

 

「まあ待て、まずは俺一人で正面から行く。それが高見沢の面を拝む最短な方法だ」

 

「どういう事だ?お前一人って」

 

「けっ、そういう事かよ八。せいぜい頑張んな」

三橋は俺の意図を察したようだ。

 

高見沢は警戒している。

無理にここを正面突破を図ろうとすれば、高見沢はその騒ぎを察知し、逃走を図る可能性がある。

俺達は3人しかいない。いくら三橋と伊藤が強かろうと、この大きな建物すべてをカバーすることはできない。

高見沢は由比ヶ浜を連れて容易に逃げる事が出来るだろう。

ならば、騒ぎを起こさず、警戒されずに高見沢に会う方法は……

 

 

俺は赤坂と雪ノ下に治療してもらった包帯や絆創膏などをすべて剥がし、再び眼鏡を着用し、ふらふらとラブホテルの入口へ向かう。

 

 

案の定、ホテルの表で屯してる高見沢の手下連中が俺に近づいてくる。

 

「ぐっ……軟高の三橋と伊藤にやられた。……総武高校の生徒のふりをして、彼奴らを騙す作戦がバレたんだ。高見沢さんに早く詳しい報告しないと……」

俺は情けない面をしながら、迫真の演技で奴らに訴える。

 

「何!?そりゃ大変だ。高見沢さんは3階の304号室だ。早く行け」

ごつい男がいとも簡単に高見沢の居場所を教えてくれた。

チョロい。

 

「すまねー」

俺はそう言ってホテルに正面玄関から、入ろうとする。

 

「ちょっとまて……お前、なんで携帯で知らせない。何かあればすぐに連絡する段取りだっただろ?」

メガネの男が俺の肩を掴み、訝し気に聞いてきた。

忠高の不良共の中に警戒心の高い奴が紛れていたようだな。

 

「……携帯は壊された。仲間も俺もボコられた。奴らが他に行ってる隙に、逃げて来たんだ」

 

「お前……どこのチームの奴だ?見ない顔だ」

メガネの奴、俺を疑ってるな。

まあ、そうだろう。

だが、この程度の事を切り抜けられないようでは、あの軟高での1年間、不良共から逃げ切れていない。

 

「おい、こいつは本当に殴られてるぞ。結構酷い怪我だ。それなのにここまで来たんだぞ」

ごつい男がメガネの奴を説得してくれる。

 

「……3年の南さんに誘われて、軟高と忠高を潰すって聞いて参加したんだ。でもあの悪魔三橋に南さんもボコられて、動けなくて……俺に言伝を……」

俺は震えながら答える。

必殺、素の八幡を出す術。……ちょっと気を抜くと、目の前の現実にビビッて震えずにはいられない俺の性質を利用したものだ。気を抜き過ぎると、あまりの事にその場で吐いてしまうまである。

 

「ちっ、南の奴。作戦失敗しやがったのか!もう、行け」

メガネの奴は納得したのか、そう言い放って俺を解放する。

ちなみに南とは、俺の電気トラップに引っかかった間抜けだ。

俺の不良マル秘リスト忠高編にも載ってる奴で、忠高でも結構上の方のランクの不良だ。

 

 

俺は304号室の前に立つ。

扉の外に2人待機していたが、三橋と伊藤が襲撃してきたとこそっと伝え、応援に行かせた。

さらに、ここに来る前に管理室から、スペアキーを拝借している。

抜かりはない。

 

扉に耳を当て、部屋の中の様子を窺う。

部屋の中にも手下が居たら厄介だ。

なかなか重厚な扉だ。防音対策も意外とばっちりだな。

金属ノブ付近はまだましの様だ。かすかに中の声が聞こえてくる。

 

『いや!!やめてよ!何でこんな事をするの!?』

 

『僕の事なんかすっかり忘れたくせに!!このビッチめ!!……まあいいや。今から忘れられないようにしてあげるよ』

 

『いやーーー!!来ないで!!ヒッキーーー!!』

 

『ヒッキー!?僕の前で他の男の名前を出すな!!……残念だったね。あの部活のあの男は、潰したよ。……もう、二度と僕らの前には出てこないさ』

 

(バシッ)

 

『いっ、いやーーーー!!』

 

(バシッ)

 

…………

………

 

俺は気が付いたら、持っていたスペアキーで扉を静かに開け、部屋の中に入り後ろ手で鍵を閉めていた。

 

「くそったれ……汚ねえ手を離せ」

目の前では、丸い大きなベッドの上には足と手首を縛られ、上着を脱がされ半裸となった由比ヶ浜が、色白の男に組み敷かれていた。

由比ヶ浜の目には涙が……そして頬は赤い手跡が見て取れた。

 

「この部屋に勝手に入るなと言っておいたんだけど……ん?鍵は閉めてあったよね……それに君ボロボロだね。ん?その制服は……」

色白の男はベッドの上で由比ヶ浜を抑えつけたまま、上半身を上げ、不思議そうにこっちを見ていた。

 

「……ヒ…ヒッキー?」

 

「聞こえないのか?俺は離せと言った。由比ヶ浜から離れろ……」

俺は全身が震えるのを感じる。

恐怖心からじゃない。

今迄感じたことが無いぐらい体が熱い。

これは……怒りだ。

 

「ん?……ヒッキー?……由比ヶ浜さんの部活仲間の男かな?福田君、逃げられたのかな?ふーん。使えない奴だね福田君は、今からいい所だったのに」

色白の男はおどけた顔で、こんな事を言っていた。

その右手はまだ由比ヶ浜の頭を抑えつけていた。

 

「どけと言った!!高見沢ーーーっ!!!!」

由比ヶ浜を組み敷く高見沢に向かって、右手を振り上げて突っ込む。殴るとかじゃない体当たりだ。

俺は既に元々考えていた作戦なんてものはすべて頭からすっ飛んでいた。

目の前で起きてる現象は……由比ヶ浜に行いつつあった行為は許せるべきものではなかった。

こうなっている可能性は十分あった。既に手遅れの可能性だってあった。それでも冷静に事を運ぼうとさっきまでは考えていた。

しかし目の前で、由比ヶ浜は高見沢に手を上げられ、純潔や尊厳も何もかもを奪われようとしていたのだ。

とても冷静ではいられなかった。

 

 

高見沢は俺の体当たりをかわし、ベッドから飛びのく。

「何をするんだい。それに何で僕の名前を知ってるのかな?君風情が?」

 

高見沢は不思議そうな顔をしたままだ。

慌てるでもなく、怒りをさらすでも無くだ。

 

しかし、由比ヶ浜から奴を離すことはできた。

 

「ぐすっ……ひっく…ひっ、ヒッキー……ヒッキー」

手足を縛られたまま啜り泣く由比ヶ浜。

俺は由比ヶ浜の様子をサッと確認する。

……どうやら寸でで間に合ったようだ。だがそれは体の話だ。精神は別だろう。

俺は頭に登り切った血と熱はそのままだったが冷静さを取り戻す。

 

「高見沢……お前は終わりだ。お前のくだらない復讐も終わりだ」

俺はベッドの上で由比ヶ浜を庇うような体勢で、高見沢を見下ろす。

 

「ん?邪魔者が居たようだけど、君かい?……まあ、まだまだ作戦は続いてるんだけどね。でもね。僕の可憐な作戦を崩し、一番低いレートのパターンってのは気に入らないね。君はとことん潰すよ。もう二度と学校に行けないぐらいにね」

高見沢の雰囲気が変わった。

俺を嘲るような視線を送ってきた。

 

「いや、全て終わりだ。お前の敗因は俺の存在を見落としていた事だ」

俺は掛けていた眼鏡を外し放り投げ、目の前の高見沢を最大限に睨みつける。

 

「ん?んんん?……き、君は!?八幡!!軟高の知将八幡か!?何故総武高校に!?」

高見沢は驚きの表情をしていたが、俺に睨まれてビビった様子はない。流石だな。

 

「驚いてくれたか高見沢。そして終わりだと」

 

 

高見沢は頭を垂れ、肩を震わせだす。

 

しかし……

「くくくくくくっ!!はははははははっ!!今日は何ていい日なんだ!!」

高見沢は天井を見上げ目を大きく見開き高らかと宣言するかのように叫ぶ。

 

「……何が可笑しい?」

 

「だって君!誰も倒せなかった千葉一の知将八幡を今日この場で僕の手で倒せるんだから!!そして、由比ヶ浜さんも僕の物になる!!三橋と伊藤が総武高校を出て、僕らを探してる事は最終報告で聞いてるよ。しかもだ。作戦を妨害していたやっかいな君がここに居るという事は、総武高校での最終作戦を阻止できる奴がもう居ないという事だよ!!これで総武高校も潰れる!!これは笑わずにいられないよね!!」

 

「総武高校を潰す最終作戦とはなんだ?」

 

「くふふふふふ!いいよ。気分が良いから教えてあげるよ。君が作戦を阻止してくれたおかげで一番苛烈な方法を取るのさ。忠高の不良と雇ったチンピラを使って、総武高校に総攻撃を行うのさ!男は殴り倒し、校舎は破壊!女は攫い、売りでもさせるさ!くはははははははっ!!忠高も大ダメージは受けるけど、僕には被害が及ばない!!それだけじゃない。これをコントロールすれば僕はもっと力を得ることが出来る!!」

 

「はぁ、お前は本当に終わりだな。俺がそんな事をさせると思ってるのか?」

 

「何がだい?君はここにいて、僕に今からボコられるのに何が出来るって言うんだい?」

 

「……まあ、いいや。お前どうせ終わりだし、ちょっと教えてやるよ。……紅高の番長の今井さ、今日サッカーの試合に出てるんだよな。それ以外にも細工はしておいた」

今井はこういう時のために変装をさせ、じっとさせておいた。

さらに俺は応援に来る方々にもちょっと細工をしていた。

荒くれものが多い地元の青年団、消防団や自警団の方々にも、この日の試合の招待状送ってる。

俺はこう言いながらも一抹の不安を覚えている。今井の奴がちゃんと総武高校にとどまってくれてるかだ。谷川には試合が終わるまで学校の外には出すなとは念を押してるが……あいつはケンカが有る方向に誘引灯に群がる虫の如く突っ走るからな。

 

「い、今井?そんな報告は受けてない!!どういう事だよ!?……まあいいよ。バカな今井一人で何ができる?」

今井、お前どこに行ってもバカ扱いだな。良い奴なんだけど、まじもんのバカだからな。

 

「今井をなめるなよ。あいつはバカだが強いぞ。開久にたった6人で突っ込んだ男の一人だからな。それに紅高や軟高の応援団には手練れをそろえてる」

 

「くっ……、まあ、万が一失敗しても、僕には影響ないし次が有る。総武高校潰しは何時でも再開できる。とりあえず今日は君を潰して、由比ヶ浜さんを手に入れるだけでも良しとしよう」

高見沢の色白で神経質そうな顔が、ようやく歪んできやがった。

 

「ずっと、安全なところでぬくぬくしていやがったお前が、俺をどうこう出来ると思ってるのか?」

俺はさらに目を細め、奴を威圧する。

……実は、高見沢とまともにケンカして、とてもじゃないが勝てる気がしない。

奴はああ見えて空手三段だ。対して俺はケンカなんてやった事ない。多分最弱だ。

どうする俺……地味にピンチだぞ?

落ち着け、俺の目的は由比ヶ浜を助けることが一番だ。それさえ達すれば後は何とでもなる。

俺の意識さえ保っていればいい、時間を稼げ、そうすればあいつ等が必ず来る。

 

「ん、僕に不良特有のメンチだっけ?そんなものは効かないよ」

こいつ、俺の一番の必殺技が効かないだと……俺はこれだけで、生き延びてきたのに。

 

高見沢はベッドの上に乗り空手の構えをする。

 

「ふん。俺とやろってのか?」

正直俺は体をまともに動かすのも厳しい。こうやって威嚇するのがやっとだ。

 

「君、ボロボロじゃない?もう勝ったも同然、イージー過ぎだね。これで知将八幡を倒して、千葉一の知将高見沢って名乗れるね」

高見沢は目を細め口元をニヤリと歪め、攻撃を仕掛けてくる。

目の前に高見沢の拳がスローモーションのように近づいてくる。

 

 

だが、凄まじい轟音と共に、何かが吹っ飛んできた。

 

 

扉だ!!

あの防音処理を施された重たそうなこの部屋の扉が、吹っ飛んで目の前の高見沢を押しつぶす!

「ぐぼべ」

 

その扉がなくなった入り口から、三橋が入って来る。

「なんだ八か、高見沢って野郎どこに行った!?探してもいねーんだけどよ」

 

………

……

 

三橋の奴が扉に鍵がかかっていたから蹴り飛ばしたのだろうが、こいつの脚力はどうなってるんだ?普通扉が吹っ飛ぶか?

 

三橋はそのままつかつかと歩いてきて、高見沢を押しつぶした扉の上に立つ。

「ボコった奴にそれらしい奴は居なかったしな。逃げられたか?八、お前が奴を引き留めるんじゃなかったのか?」

どうやら三橋と伊藤は、このラブホテルに居た高見沢の手下を全員倒したらしい。

ざっと30人以上居たと思うんだが……こいつ等の強さはデタラメだな。

 

「三橋……お前の下だ」

 

「下ってなんだ?うわっ!?いつの間に?」

三橋は慌てて扉から飛びのき、踏んでいた扉を蹴り飛ばす。

その下から、車に轢かれたカエルのような姿で気絶している高見沢を見て少々驚いていた。

 

「……お前が倒した」

 

「ふ…ふは、計算通りだ。ふははははははっ!この天才三橋様に掛かれば忠高程度の頭なんて、こんなもんよ」

……お前、さっき『うわっ!?いつの間に?』って言ってたよな。

 

ふう、まあ高見沢を倒せたのならばなんでもいい。

 

 

「由比ヶ浜、大丈夫か」

上半身下着姿の由比ヶ浜に俺のブレザーを掛け、手足を縛ってる縄を切っていく。

 

「ヒッキー、ヒッキーーーー!!」

由比ヶ浜は泣きながら俺に飛びつくように縋りついた。

 

 

 

 

 

 

 

この後……

三橋と伊藤、俺とで散々高見沢に脅しをかける。

いろんな証拠をこちらが握ってるため、高見沢はもう何もできないだろう。

しかし、闇金やらヤクザとの繋がりや、強請や売春行為の斡旋など数々の犯罪行為に関わっていたこと等が、出るわ出るわで、結局警察に捕まって、少年院送りに……

 

福田の奴は少年院送りにはならなかったが、雪ノ下家からきつい仕置きがあったようだ。

陽乃さんが主導したそうだ。

 

俺達が高見沢と対峙してる際、総武高校のサッカー大会では、高見沢の指示により忠高の連中が暴れ出したのだが、今井や紅高、軟高の応援団、地元の方々の協力により、事なきを得た。

今井は溜まっていたうっ憤を晴らすが如く、少々やり過ぎたようで、補導され、2、3日警察のご厄介に……今井、お前の犠牲のお陰で総武高校は助かった……まあ、奴には今度何か送っておこう。

 

 

 

 

 

俺はというと……案の定入院中だ。

全身彼方此方に打撲、骨折やヒビが6か所で、入院2週間の全治1カ月らしい。

夏休みの半分がこれで奪われた。

 

「比企谷君。リンゴを剥いたわよ」

「ヒッキー、体拭いてあげるね」

何故か雪ノ下と由比ヶ浜は毎日見舞いに来てくれていた。

ただ、今の所2人は俺が元軟高のナンバー3で恐眼の八幡だという事を聞いてくる素振りは無い。

まあ、完全にバレてるだろうが……

 

 

平塚先生も何度か見舞いに来てくれ、お礼を言われた。

「君が何とかしてくれたから、これだけの被害ですんだのだろう」

学校では教職員の会議が毎日開かれ、さらに教育委員会やPTAなどの説明会合などもあったそうだ。

これに懲りて、学校側も危機意識を持ってほしいものだが………

 

 

赤坂や良くんも見舞いに来てくれた。

勉強を教える約束をしていたが、今の俺はこの状態だ。

だが居合わせた雪ノ下が、二人の勉強を見てくれると……まあ、勉強を見てくれるのはありがたいが、いろいろ知られてしまうのが恥ずかしい。ほぼ黒歴史と同じだからな。

 

伊藤と早川、三橋も来てくれるのは良いんだが……

伊藤と早川は病院の中でもデート気分だ。

入院中の男子に見せつけるのはやめてほしい。余所でやってくれ!

 

三橋は……お見舞い品のフルーツやらをたらふく食ってかえるだけ。

しかも、俺のギブスにいたずら書きをいっぱい残してな!

赤坂に注意されても、目にもとまらぬ速さでやってのける。

お前、その能力を他に活かせないのか?例えば……世界平和とか?

 

 

 

 

 

夏休み中旬。

 

「三橋、お前ラーメン何杯食うつもりだ!」

 

「八、俺は傷ついたんだ。俺にだけお前の転校先を教えてくれなかったよな。俺もお前のダチなのに……」

 

「わ、悪かった。すまん……俺が悪かった。食べてくれ」

 

「おっしゃーー!!おやじーーー、から揚げと天津飯に餃子追加ーーー!!二人前づつな!!」

 

「おいーーーー!!」

 

「八幡。諦めろ。三橋の奴、この日のために昨日から飯抜きらしいぞ」

 

「い、伊藤金持ってる?財布の中身がヤバそうなんだ」

 

「大丈夫だ」

 

「はぁ」

俺は退院早々、三橋にラーメンを奢るという約束を果たすために地元の中華屋に来ていた。

こいつ等とはどうやら、今後も付き合っていく運命のようだ。

軟葉高校を転校したからと言って、こいつ等との縁は切れる事は無い。

 

 

……トラブルは避けたいんだがな。

 

美味そうに飯にありつく三橋を見ながら、ため息を吐く。




なんか面白そうなネタが有れば、書いちゃうかもですが、完結です。
ありがとうございました。


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