溺れぬレアンドロス (白鳥桔梗)
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『溺れぬレアンドロス』設定集
本作はアズールレーンにおける設定を拾って描かれます。もしかしたら拾いきれてない設定や敢えて無視する設定があるかもしれません。そのため、基本的には本作の設定は本作以外で必ずしも通用するとは限りません。
この作品は、リアンダーでも指揮官の視点ではなく、三人称視点で描かれます。2人以外の誰かが書いたという設定です。
主な設定
指揮官
20代~30代前半程度の年齢を想定。階級的な問題は無視。重桜出身のアズールレーン所属。真面目でクールだが、熱血なところもある。リアンダー曰く「子どもっぽいけど頼りになる」。恋愛に関しては奥手で純情でロマンチスト。身体能力は軍人として鍛えてはいるため、一般人よりは高いが、KANSENに勝てるほどではない。
リアンダー
基本的に作中で描かれる設定と同じ。天然で真面目で優しい。立ち居振る舞いは上品で優雅なお嬢様。作中での設定の延長として、しっかり芯のある女性だが、少し自分に自信がないという点もある。実力としては母港でトップクラスではないが、上位には入る程度。サポートが得意。特技は料理で趣味は散歩。恋愛についてはよくわかっていないが、胸を軽々しく触るものではないという程度はわかっている。
赤城
ご存知のヤンデレ。リアンダーがメインヒロインでも、彼女がヤンデレであることは変わらないため恋のライバルとして抜擢。しかしリアンダーは天然ゆえに気づいていない。指揮官やリアンダーが絡まなければ実力派で知的な女性。
アキリーズ
リアンダーの妹。エイジャックスと共にリアンダーと指揮官の恋を応援。指揮官を童貞煽りしてくる。リアンダーは天然で、エイジャックスはS発言をするため、姉妹の中ではツッコミに回ることが多い。
エイジャックス
リアンダーの妹。アキリーズと共にリアンダーと指揮官の恋を応援。しかしたまに指揮官を誘惑する。リアンダーが変な知識を仕入れてきたら大体彼女のせい。
セントルイス
WWⅡにおけるリアンダーの戦友。リアンダーにお姉さんとしての振る舞いを教えることがある。
ホノルル
WWⅡにおけるリアンダーの戦友。人づきあいが苦手で、リアンダーに気にかけられている。
クイーン・エリザベス
ロイヤルの女王様(?)。少なくともKANSENの間ではそういう扱いの様子。ワガママなだけに見えるが、意外と他のロイヤルの子を見ていたり仕事熱心だったりする。
ウォースパイト
いつもエリザベスに振り回されている大変な人。
明石
ご存知、ショップの猫。金の匂いを嗅ぎつけるのが上手。
母港
リアンダーの台詞から「四季のあるところ」ということで、とりあえず重桜(日本)を想定。ちなみに彼女の長くいたニュージーランドも祖国であるイギリスも四季はある方だが……。
上層部
指揮官の上官にあたる人々が構成している。指揮官に難題を出して困らせる。もっともなことを言うこともあるが、旧時代的な考えを持っており、指揮官によく反発されている。本作における悪役にあたり、指揮官とリアンダーの恋の壁。
この設定集は今後も追記される可能性があります。
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第1話「リアンダーと散歩」
指揮官には最近気になるKANSENがいる。それはリアンダーだ。現在秘書も務めている。気になっている理由は、彼女が美しいからだけではない。真面目に秘書としての仕事をこなし、熱心に訓練に励み、実際に個人としても上位、それに艦隊戦においては、非常に優秀な成績を収めている。これがやはり上司としてはいい意味で気になることだ。
「リアンダー、今日もよく励んでいるね。」
「ありがとうございます。私には、守りたいものがありますので……少しでも私が強くなれば守れるのならば、そうしたいのです。」
(守りたいもの……か。深くはまだ聞かないでおこう。やりすぎない程度にそれで頑張ってもらえるなら、私としては嬉しい限りだ。それなのに……どうして彼女につい目がいってしまうのだろうか。)
ある夜、指揮官は母港内の見回りをしていた。そこにはちょうどリアンダーもいた。
「散歩しようと思いましたけど、どなたもいなくて……指揮官様?ご一緒にいかがでしょうか?」
(リアンダーからの誘い!どうしてこうも胸が高鳴るのだろうか。いやいや、女性と2人で出歩くなんてまだ……。でも、うん、そうだ……やはり上司としてしっかり相手を見るのは大事だ。ここは付き合うしかないな、うん。)
「分かった、行こうか。」
指揮官はやましい想いを隠し切れないことを自覚しながらも、どうにか理屈をつけて欲望に従った。リアンダーは指揮官が考えている間、不思議そうな顔で眺めていた。
指揮官はリアンダーと一緒に、リアンダーのいつもの散歩コースを歩いている。するとリアンダーは海の見えるところで立ち止まった。
「ちょっとだけお話しませんか?」
リアンダーは指揮官のいない方向……海に向かってそう言ってから振り返った。指揮官はなんとなくシリアスな話らしいのを確認して頷いた。
「ありがとうございます。私、実は妹がいるのですが……まだ合流できていませんよね。そこで、よろしければ、妹たちを探すのを手伝って欲しいのです。いえ……やっぱりこんなワガママ言ってはいけませんよね、忘れてください。」
リアンダーはそう言いながら指揮官と目を合わせたかと思うと、今度は視線を落とした。
「そんなことか……いや、バカにしている訳じゃないぞ。そんなのワガママなんかじゃないさ。そもそももっと難しいこと私にさせる子もいるぞ。」
リアンダーは顔を上げた。指揮官はそれを見て少しドキッとして、顔を一瞬逸らしたが、顔を戻してリアンダーの目を見た。
「君たちは戦うために生まれた……勝手な話だよ。苦しい事させるために作られたなんてさ……。だから……!私はせめて楽しいこともさせてあげたいんだ!」
指揮官はつい声が大きくなった。普段クールに振る舞っているが、実は結構熱血なところがあるのだ。リアンダーは黙って指揮官の目を見つめた。
「すまない、熱くなってしまった。」
「いいえ……ありがとうございます!」
リアンダーは少し涙ぐみながら今までで一番の感謝の気持ちを込めてそう言った。
「それと指揮官様……よろしければ、うん、また一緒に散歩に来ませんか?」
リアンダーはちょっとだけ迷いながらもそう言った。
「ああ。」
「ありがとうございます。」
(天使の笑顔だ……)
指揮官は自分の中の天使の前で完全に堕ちてしまった。そして少し頭がフリーズした。
「あれ?指揮官様~?大丈夫ですか?指揮官様??」
その後、どうにか指揮官は目を覚まして2人で散歩から戻ったのであった。
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第2話「改造とヤンデレ」
リアンダーが改造可能になり、指揮官は早速リアンダーを改造した。早急な戦力の増強は誰にとっても喜ばしいことのはずだからである。
すると、新装備に身を包んだリアンダーが出てきた。
(天使度上がってるなこれは……っていかんいかん、今は仕事中だ。しゃきっとしなくては)
指揮官はその姿に見惚れているようだ。
「御機嫌よう。指揮官様。今後ともご指導のほどをお願いいたします。……うん?あらら……私、リアンダーですよ?」
「あ、ああ、お疲れ様。強くなれたな。」
「ええ、これで皆をもっと守れますわ。ありがとうございます、指揮官様。」
リアンダーは力強く答えた。
(優しくておっとりしているが、どこか凛々しくて上品で気高い……これが彼女の魅力だ。)
指揮官は最近リアンダーのことが頭から離れずに、どうしてもこういったことばかり考えてしまっている。
「それより指揮官様、早く仕事に戻りましょう。」
リアンダーはそう言って指揮官を執務室まで急かした。
改造後ももちろんリアンダーはテキパキと仕事をこなしている。一方指揮官の方は、仕事中であるにもかかわらずドキドキしている。
「こんこん」とノックが聞こえた。
「指揮官様、赤城ですわ。重桜艦隊の演習の報告に来ました。」
赤城はいわゆるヤンデレである。指揮官はないがしろにする気もないし、特に嫌いな訳ではないが、なんとなく苦手意識を持っていた。
「あ、ああ、入ってくれ。」
そう返事されると赤城は丁寧に会釈して入室し、指揮官に資料を渡した。
「わざわざありがとう。あとで私かリアンダーが行った時でもよかったのに。」
「いえいえ、赤城は直接指揮官様に報告したかったのです。」
渡された資料をチェックするに、指揮官から見て特筆すべき点はない。
「そ、そうか。お疲れ様。もう戻っていいぞ。」
「……はい。」
赤城はリアンダーを一瞥してから、丁寧に執務室を出て行った。
(虫も殺せないような顔をしていて、とても私の邪魔をしなさそうですが……この胸騒ぎはなんでしょうか。)
赤城は部屋から出てリアンダーについてそう考えていた。
「あれが重桜のエースの1人……赤城さんですか。見ているだけで実力の高さを感じましたわ。」
一方リアンダーは特に何も考えていなかった。
「そうだな、だが気になるのはそれより……。」
リアンダーは不思議そうな顔で指揮官を見た。
「いや、何でもない。ただ、少しだけ丁寧すぎるなって思うだけさ。」
(リアンダーに「ヤンデレ」とか言ってもわからんだろうからなぁ。)
「上官に敬意を払うのはおかしいことではないのではなくて?」
「そう言えば君も大概丁寧に接してくれるタイプだったね。他の子に慣れ過ぎてるのかな……。」
指揮官は天井を見て、他のKANSENを思い出して、とても上官への態度とは思えないな、と思い、少し笑った。
「どうかなさいましたか?」
リアンダーは指揮官が突然笑い出したため、再び不思議そうな顔をしている。
「いや、やっぱり他の子たちの私への接し方は流石に雑過ぎないか?」
「指揮官様は優しいですから、きっと皆甘えてしまうのですわ……ですよね?」
リアンダーも少し自信がなくてなってきたようだ。
「まあいい。それより仕事に戻ろうか。この書類でいいんだよね、」
指揮官は咳払いしてから、そう言ってリアンダーが積み上げて置いた書類に目を通し始める。
「私、お茶を淹れてまいります。」
指揮官はその後「これが本場の味か」とリアンダーの紅茶の味に感動した。
アズールレーンで恋愛というテーマですと、多分誰がヒロインになっても赤城を筆頭にヤンデレ気質な子の存在と女性が多いという事実は無視できないかと思いました。もちろんあくまでリアンダーがメインヒロインですので、この先赤城やその他の子が好きな方は不快になってしまうかもしれません。申し訳ありません。
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第3話「リアンダーと赤城」
指揮官とリアンダーは演習の視察に赴いていた。基本的にどこも普段通りだった。
「次は重桜の方々の演習ですね。大戦時の彼女たちの戦いの気迫はとても恐ろしい物でした。」
リアンダーは過去の記憶を思い起こしながらそう語った。彼女はあの神通とも戦っているため、その恐ろしさはよく知っている。
演習海域では赤城が中心となって訓練をしている。それはひとえに指揮官の役に立ちたいためである。
重桜の演習はいつも以上に激しく行われていた。ともすれば怪我人が出てもおかしくない状況だ。既に疲労困憊で動くのもやっとなKANSENも少なくない中演習は続いていた。
(赤城はあれでいて公私は分けている。このような無茶なやり方をするとは……何かあったのだろうか。)
「指揮官様、私、ちょっと行って参りますわ。」
リアンダーは指揮官が様子を観察している間にそう言いながら赤城の方に向かっていった。
「赤城さん、熱心なのはとても素晴らしいことですが……そろそろ怪我人が出てしまってもおかしくないぐらいでしてよ?」
リアンダーは物怖じせず、真っすぐに赤城を見つめながら言った。
(ちっ小娘が……。しかし指揮官様も見ていますし、ここは言うことを聞いておくべきですわね。)
「ごめんなさいリアンダー。私としたことが、つい力が入りすぎていましたわ。」
「いえ、わかっていただけて何よりですわ。」
リアンダーは今度は柔らかい笑顔を赤城に向けた。
(まさかあの姉様に意見するものがいようとはな……。)
横で様子を見ていた加賀は内心驚いていた。
(私も怖がって赤城を避けているようではダメだな。言うべきところはしっかりと彼女のように言わなくてはいけない。それにしても、ああいうところも素敵だ。)
指揮官はリアンダーが赤城に抗議する様子を見て自戒しつつ、リアンダーの凛々しさに惚れ直していた。
リアンダーは海域を離れて指揮官のところに戻った。
「ありがとうリアンダー。君のおかげだ。」
指揮官は皆のため、そして自分のためとなってくれたリアンダーに感謝した。
「うん、私たちが怪我をしてしまっては意味がありませんから……。」
リアンダーは当然のことだといった顔だ。
「それより指揮官様、そろそろ次の視察に……。」
「そうだな。」
リアンダーに促された指揮官は仕事に戻るのだった。
「リアンダー……あなたの名前は忘れませんわ。」
赤城が危険な演習を行ったのはリアンダーへの反感からだった。しかも本人に咎められたことは自分への情けさ、悔しさなどの感情を多く伴うことだった。
何度も言いますが、赤城を貶めるつもりはありません。キャラストーリーから、感情が揺れて演習に力が入ることを参考に書いてみました。
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第4話「リアンダーとお寛ぎ」
指揮官の仕事は意外と忙しい。しかも、業務としてはそこまで大変でないときも、部下のケアや視察などをしているため、勝手に忙しくなっている。今日は単純に仕事量が多い方だ。
「ふぅ……。」
指揮官は一仕事終わったところで、息を付いた。
「指揮官様、お疲れですか?」
秘書であるリアンダーは指揮官の側にいて、優しい声でそう尋ねた。
「まあそれは、多少はな……。」
指揮官は特に偽る必要もないと思って正直に答えた。それから背伸びをして、再び書類と向き合った。しかし、疲れからかいまいち捗らない。
「指揮官様、少しお休みしませんか?」
リアンダーはそれを見兼ねて尋ねた。
「まあそれぐらいは時間はあるが……。」
指揮官は生真面目なため、あまり余分な休みは取りたがらない。かといって過剰に体を酷使する訳でもないが、頑張りすぎる癖がある。
「私、お茶を淹れてまいります。」
指揮官は「そうか」と見送った。
リアンダーはお茶を淹れて、作りすぎたスコーンのことも思い出し、それらを持って執務室に帰ってきた。指揮官は仕事中である。
「どうぞ、指揮官様。」
リアンダーは紅茶とスコーンを差し出した。
「カップが1つしかないようだが?」
ティーポットとカップが1つ、それからスコーンの乗った皿が1つ。リアンダーは指揮官の分だけ持ってきた。
「ええと……だからつまりだね……い、一緒に飲んだらいいんじゃないかな……と……。」
指揮官は赤面していることを自覚して、顔をリアンダーから背けながらどういう意味か説明した。
「指揮官様は優しいのですね。指揮官様がおっしゃるのなら、そういたしますわ。」
リアンダーはそう言ってもう1つのカップを取りに戻った。
それからカップを取って帰ってきたリアンダーは、自分のカップにも紅茶を注いだ。ちなみに指揮官は、その間紅茶にもスコーンにも口をつけないでいた。
「いただきます。」
指揮官はリアンダーが帰ってきたのを確認すると、重桜流の挨拶をしてスコーンを食べて、ちょっとだけ紅茶を飲んだ。指揮官は熱いものが苦手だった。
「あの、指揮官様……いかがでしょうか?」
リアンダーは少し不安そうに紅茶とスコーンの味を尋ねた。
「あつっ……。」
「あらら、指揮官様は子どもっぽいんですから……ちゃんと気を付けてくださいね。」
「あ、ああ。でも美味しい。もしかして、手作りなのか?」
指揮官は少し躊躇いながら手づくりなのか尋ねることにした。
「はい、その通りです。」
「そ、そうだったのか。料理も上手なんだね。」
(つ、つまりリアンダーの手作り料理を今私は食べているということか。好きな人の手作りを……あぁぁぁしあわせぇぇ。)
指揮官はクールを装っていたが、内心悶えていた。
「ふふ……やっぱり誰かに食べて頂いて、美味しいと言った頂けるととても嬉しいですね。」
リアンダーは笑顔でそう言った。指揮官は思わずその天使のような笑顔に見惚れてしまった。
「ええと……、どうかしましたか、指揮官様?」
「い、いやなんでもない。うん、なんでもない。」
「変な指揮官様……でも、何かあったらちゃんと言ってくださいね。私、がんばりますので。」
リアンダーが指揮官の心配をしてそう言ったことに、指揮官は再び悶えた。また、その前の「変な指揮官様」で少しぞくぞくした。
それから指揮官は紅茶を飲み終えてスコーンも食べ終えた。
「ご馳走様、美味しかったよ。」
いたってクールに指揮官は感想を言った。それからあくびをして書類に向き合った。
「指揮官様、よろしければ、リアンダーの太ももでお寛ぎになりませんか?」
リアンダーは完全にただの善意からそれを申し出た。
(太ももで?それってつまり膝枕か?いやいや、まだそんな関係じゃないし。ていうか、それって色々不味くないか?私が強要しているみたいでは?だからと言って断るのも……ええい!)
指揮官は勿論悶えて、それからどうすればいいのか悩みまくった。
「ええと……そ、それじゃ少しだけ……。」
「はい!」
結局欲望と断ることでの申し訳なさが勝ち、指揮官はそれを頼んだ。そしてリアンダーは笑顔で答えた。
リアンダーは執務室のソファーに腰かけ、太ももをぽんぽんと叩いて指揮官を呼んだ。
(恥ずかしい……ていうかこれはどういけばいいのだ?勢いよくか?わからん……。)
指揮官は迷いを捨てきれない中、少しずつ近寄って、控えめにリアンダーの太ももに頭を乗せた。向きはもちろん、片耳を下に、顔はリアンダーの体ではない方向である。
「指揮官様、もっとちゃんと頭を乗せてくださいませ。」
リアンダーはそう言って、指揮官の頭を微調整した。指揮官の側頭部とリアンダーの絹のように白くなめらかな太ももがしっかりと触れあう。
「うんうん……。」
リアンダーは1人で頷いて、指揮官の頭をそっと撫でた。
(ああああああああ、太もも柔らかいいいいいいい。それに頭も撫でてもらえて……最高だ。でもやっぱりこんなことしていいんだろうか?それにドキドキが止まらない……。)
指揮官はさっきまでの恥ずかしさや迷いを忘れて一旦は楽しんだが、冷静になったらまた悩み始めた。さらに好きな人の膝枕と言うことで、段々ドキドキが一番大きくなってきた。
「あ、頭を撫でるなんて失礼だったでしょうか……?」
「いや、問題ない。」
指揮官は話しかけられて動揺しながら答えた。
「良かったですわ。それでは、少しだけでもお寛ぎくださいね。」
確かに指揮官は居心地の良さも感じているが、ドキドキしてしまっているため、一向に休めなかった。
それから10分ほど経過して、やっと指揮官は落ち着いて休めるようになったのだった。
「ところで、これは他の人にもやったことはあるのかい?」
指揮官はなんとなく気になって聞いてみた。
「殿方では指揮官様が初めてですが、他の方にもこうした経験はありますね。」
リアンダーは特に何でもないように答えた。
「そうか、そうか……。」
(男では私が初めてか……ふふ……。)
指揮官は密かに喜んだ。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもない!そうだ、そろそろ終わりにしよう。」
指揮官は話を逸らすついでに、このままでは体が蕩けてしまいそうなため、そろそろやめることにした。
「はぁ……指揮官様がそうおっしゃるなら。少しでもお寛ぎいただけましたか?」
「ああ、もちろん。」
「良かったですわ……。」
リアンダーは少しだけ残念そうな顔をした。
「それと……も、もしよかったら、またしてほしいかな……なんて。」
指揮官は赤面した顔を逸らして頭をかきながらそう言った。
「はい!」
リアンダーは太陽のような笑顔で返事した。
ただイチャイチャしただけでした
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第5話「明石とお金の匂い」
指揮官はリアンダーの太ももで「お寛ぎ」した後に、1人で購買部に出向いた。明石がいつも通り商売をしていた。怪しい機材が並んでいる。
「指揮官かにゃ?そういえば指揮官、最近リアンダーと仲がいいようだにゃ。」
指揮官はドキッとしたが、ひとまずポーカーフェイスを装って話を聞いた。
「リアンダーと外に出るのを見たこともあるにゃ。」
明石の指摘は正しい。そしてそれは一回や二回ではない。何度か既に夜のお散歩をしている。
「そ、それは彼女の心のケアのためでだな……決してやましいことはないし、彼女以外でも必要ならそうする訳であってだな……。」
実際指揮官は嘘はついていない。
「確かに指揮官は優しいからその通りかもにゃ。あ、そっちのは非売品にゃ。」
指揮官が珍しいものを触っていると明石はそう言った。
「でも指揮官はリアンダーのことが好きだにゃ。」
明石は目を輝かせ始めた。
「何故そう思うんだ?」
いたって冷静に指揮官は問い返した。
「指揮官は真面目で怖い顔をしているけどにゃ、結構顔に出てるからわかるにゃ。それにいつもリアンダーをちらちらと見てるにゃ。」
「な……か、仮にそうだとしたら、何かあるのかい?」
「まあ落ち着くにゃ。指揮官はKANSENとの結婚システムの話にはもう目を通したかにゃ?」
(そういえばそんな話が最近上層部からメールで送られてきていたな。)
明石はそれから指揮官に背を向けて、倉庫に向かっていき、戻ってきた。
「そこでだにゃ……これを見るにゃ。」
明石はそう言って艶がなく高級感のある黒くて小さい箱を机に出した。
「これはもしかして……。」
「そうにゃ、これは結婚指輪にゃ!」
明石は指揮官に指輪が見えるように蓋を開けた。
「いやいやいや……まだリアンダーとはそんな関係では……。」
「まだ……にゃ?」
指揮官は口を滑らせた。これではまるで、いつかそういう関係になるかのようだ言い方である。
「ああそうだ、私はリアンダーが好きだ!」
指揮官はついに認め、声を荒らげた。
「でもまだ付き合ってすらいないし……いや、そもそも上司が部下と付き合うのは大丈夫なのか?仕事は割りきってもやっぱり……。」
指揮官はそう言って今度は考え込み始めた。
「でも上層部からそういう話が出ているんだから、別にいいんじゃないかにゃ?それに指揮官もリアンダーも真面目だから安心にゃ。そして何より明石のお金になるにゃ。」
(最後以外どうでもいいにゃ。)
「最後のが本音だろ。」
「にゃっ!?」
明石はその指摘に驚いたふりをしたが、すぐに元の顔に戻った。
「それで指輪はどうするにゃ?」
(リアンダーと結婚かぁ……。毎日おはようとかおやすみのキスをしたり、「あーん」させあったり、膝枕もまたしてもらえて……それにベッドでも……あああ、いいなぁ……。)
「あ、なんだっけ。」
指揮官は妄想の世界に入ってあまり話を聞いていなかった。
「凄いだらしない顔をしていたにゃ……。指輪のことにゃ。買うのか買わないのか。」
「いやまだ付き合ってもいないし流石に買わないよ。」
「それじゃ指揮官がリアンダーとくっつくのを明石は祈ってるにゃ。」
指揮官は苦笑いをして元々の買い物の用事を済ませることにした。
リアンダーは偶然廊下で赤城と出くわしていた。2人とも比較的大人であるため、以前のリアンダーの言葉を元に喧嘩をしたりはしない。
「リアンダー、指揮官様の様子はいかがですか?」
「いつも通り熱心に仕事なさっていますわ。」
「指揮官様が倒れたりしないようにしっかり見ていてくださいね。そうでなければ……うふふ……。」
赤城は質問の返答のあとに、少しだけ含みを持たせて忠告した。
「はい、ご忠告ありがとうございます!」
リアンダーは笑顔で返事した。
(こ、この子なんだか調子が狂いますわね……純粋すぎますわ……。)
リアンダーは赤城すら困惑させ、2人は別れたのだった。
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第6話「リアンダーの妹たち」
ある日、指揮官はついにアキリーズとエイジャックスと合流することができた。指揮官は彼女たちを執務室に呼んで挨拶をしていた。リアンダーは今は訓練中である。
「リアンダー級軽巡洋艦二番艦、アーキーリーズ、だよ☆指揮官、一緒にニュージーランドに行っておやつ買ってこない?」
「指揮官、私はリアンダー級軽巡3号艦、エイジャックス。これでもけっこう有名なんです……。指揮官、私のクローゼットを見たらきっと驚くわよ。見てみます?ふふ……。」
「え、仕事があるから突然ニュージーランドとか言われても……。クローゼット?まあプライベートには干渉しないが……。って、それはいいんだ。とりあえずよろしく。」
(リアンダーを見ていて、妹たちも彼女に似てお淑やかなのかなと思ったが、随分元気だな。)
指揮官は笑顔を浮かべていたが、内心リアンダーの妹たちが思った以上に元気で驚いた。しかし、彼が本当に驚くのはここからである。
指揮官は2人にここでの生活に早く慣れるように書類等を渡そうと手を伸ばした。
「これに色々書いてあるから目を通してくれ。」
「あら、ありがとうございます。」
先にエイジャックスに向かって渡そうとしたところ、手が偶然触れてしまった。指揮官は急いで手を引いた。
「す、すまない……。」
指揮官は少し赤面して帽子を深くかぶった。
「あらあら、指揮官は随分純情ですのね~。」
エイジャックスはくすくす笑った。
気を取り直してアキリーズにも書類を渡すそうとする。今度は不意でも手が触れないように慎重に手を伸ばす。
「これに任務とか書いてあるのー?アキリーズ頑張っちゃうぞ☆」
今度は無事に渡し終えた。
(エイジャックスは何だか妙に色っぽいし、アキリーズは元気がとてもいいが、悪い子ではなさそうだな。)
指揮官は少し安堵した。
それからアキリーズとエイジャックスは執務室から出ようとする。
「ああ、そうだ。リアンダーが君たちのことを凄く心配していたようだ。良かったら彼女のところにも顔を出してやってくれ。」
アキリーズとエイジャックスは2人とも分かったと言って部屋を出た。
その日の夜、指揮官はリアンダーと夜の散歩に出かけた。この日は山の近くの湖である。
「アキリーズとエイジャックスとは話をしたか?」
指揮官は足を止めてから一番にこの質問をした。かなり気になっていたのだ。
「いえそれが……2人ともまだ慣れないようですし忙しいようですので。」
リアンダーは少し寂しそうに言った。
「まあそれもそうか、これからはいつでも話す機会があるんだ。焦らなくてもいいだろう。」
「うん……そうですね。指揮官様、妹たちと合流させてくださってありがとうございます。」
「私は別に何もしてないさ。」
2人と合流しやすい海域の調査などはしていたが、指揮官が特別何かできたわけではないのは事実である。
「それでも……今はお礼を言いたい気分ですの。こうやってお散歩して、お話してくださるだけでも私としては楽しいことですし……。」
「そ、それというのは……私といて楽しいってこと……で合ってるか……な……。」
指揮官は言葉を迷いながら、そして語尾を悩みながら質問した。
「はい、その通りですわ。」
リアンダーは微笑みながら言った。すると指揮官は、一緒にいて楽しいと言ってくれたことでの嬉しさと、リアンダーの笑顔の美しさからしばらくフリーズした。
「指揮官様~?またですか?もう~本当に大丈夫なんでしょうか……。」
リアンダーがそんなことを知る由もなく、指揮官が病気か何かかと心配するのだった。
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第7話「指揮官とリアンダー姉妹」
アキリーズとエイジャックスが来て数日経ったところで、指揮官は彼女たちの様子を見ることにした。ちなみにそれは2人にだけではなく、新しく合流したKANSEN全員に行っていることである。
指揮官は2人を探して窓から外を見ると、丁度噴水の当たりに2人が揃っていたのを見つけた。
外に出て指揮官は2人に近づく。
「調子はどうか。」
アキリーズとエイジャックスは声をかけてきた指揮官の方を向いた。
「アキリーズちゃんは元気だよー☆」
アキリーズは元気に挨拶した。
「私も元気ですわよ、こ・ぶ・たちゃん。」
エイジャックスも偉そうに挨拶した。
(「子豚ちゃん」ってなんだそれ、どんな呼び方だよ!)
指揮官は困惑した。
「なるほど、エイジャックスは指揮官のことが気に入ったんだね!」
「まあ、そんなところですわね。」
アキリーズはエイジャックスの通訳であるかのように話す。
「まあ呼び方はいいとして、母港での生活はどうだ?訓練は大丈夫か?人間関係は大丈夫か?設備に問題はないか?」
「エイジャックスが気に入るのもわかるなー。指揮官はドーテーっぽいのに結構マメなんだね。」
「どー……てー……それは関係ないような……。」
指揮官は赤面しながら呟いた。
「こぶたちゃんはちゃんと皆のことを気にかけているのだと聞いたのですわ。」
(ああ、確かにこうやって様子を観察するのはこの2人にだけではないからな。そういうことか。まあ褒められていると捉えるか。)
指揮官の顔は真顔に戻った。
「それで答えなんだけど……指揮官、ちょっと耳を貸して。」
アキリーズに促されて指揮官は耳を差し出した。
「実はエイジャックスはあんまり友達できないみたい。」
(まああのキャラ保ってたら人は寄ってこないかもしれんな。)
エイジャックスは突然耳打ちを始めたのを見ていても、自分は関係ないと思っていた。
「それで君の方は何かないのかい?」
「うーん、私はあんまりないかな~。じゃがいもも食べれるし~。」
「じゃがいもが好きなのか……。」
「え~じゃがいもが好きとか…私のイメージに合わない!?」
(自覚有ったんだな。)
アキリーズと指揮官は何気ない会話を交わした。
「ちょっとこぶちゃん、ご主人様をいつまで放っておくのかしら?」
エイジャックスは少し怒ったように言った。指揮官も確かに放っておき過ぎたと反省した。そしてアキリーズの元からエイジャックスの方へ向かった。
「すまない。君は何か悩みはないか?それとアキリーズは。」
(一応本人にも聞こう。それとアキリーズについてもだ。もしかしたら悩みがあっても自分では言いにくいかもしれない。)
「いえ、別に私はありませんわ。アキリーズも私から見たら特に困ってなさそうでしたわ。」
エイジャックスはいたって普通に答えた。
「そうか、わかった。ありがとう。それじゃ2人とも、何かあったら言ってくれ。あ、待った。リアンダーとはもう話をしたか?」
指揮官は戻ろうと振り向いてときに思い出した。
「えぇ話をしましたわ。ちょっと驚きましたわ。」
「確かにびっくりしたね。」
アキリーズはエイジャックスの声に頷きながら同調する。
「何があったんだ?」
「いえ、そんなに大したことではありませんわ。ただ、リアンダーの勢いに驚いただけです。」
「なんとなく察しがついた。リアンダーの世話焼きが発動したんだな。それに会えなかった分の勢いが乗ったのか。」
エイジャックスとアキリーズの様子から、指揮官は当たりであると確信したようだ。
「あ、でも別に嫌だった訳じゃないよ!」
アキリーズはフォローを入れた。
(そうか、それじゃ問題なさそうだな。)
「わかった。ありがとう。」
そう言って指揮官は今度こそ建物内に戻っていった。
「よく気にかけてくれ、いい指揮官だね☆」
「そうですわね。」
アキリーズとエイジャックスは指揮官についての感想を交換した。
指揮官が執務室に戻ると、既にリアンダーがいた。
「訓練は終わったかい?」
「はい。」
指揮官は椅子に座ってリアンダーに話しかけた。
「アキリーズとエイジャックスとはもう話をしてみたか?」
「ええ一応……。」
(でももう少し仲良くなりたいですわ……。)
リアンダーは暗いトーンで返事をすると、指揮官は息をついた。
「やっぱり姉妹たちは仲良くしたいものなんだな……。いや、君に限ったことじゃないなこれは。」
指揮官は他の姉妹、特に妹を気に掛ける姉の姿を思い浮かべながらそう言った。
「やっぱり隔たりを感じてしまいまして……。」
「私もさっき2人と話してみたが、そんなことなさそうだったけどな。」
「そうでしょうか?」
リアンダーは少し心配症なところがある。指揮官もそれは知っていた。
「そんな気になるなら……そうだな、新しく母港に来た子も他にもいるし……丁度いい。」
リアンダーは指揮官の方を向いて首を傾げた。
「ふふふ、ついてくるか?」
リアンダーは頷いた。そして2人は扉に向かった。
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第8話「クイーン・エリザベス」
「ここだ。」
そこはクイーンエリザベスのいる部屋だった。しかしリアンダーはまだ状況が飲み込めていない。指揮官はノックをした。
「いいわよ、入室を許可するわ。」
指揮官とリアンダーは部屋に入った。そこにはふんぞり返るクイーンエリザベスと、側近のウォースパイトがいた。
「それで、用はなにかしら?」
「ああ、実は新しく母港に来た子も増えてきたから、パーティでも開かないかと思って相談に来たんだ。慣れているだろう?」
リアンダーはその言葉で、指揮官が何を考えているか理解した。
「あなたの頼みなら聞いてあげないこともないわ。」
エリザベスは少し赤面しながら言った。
「ありがとう。」
「ありがとうございます、陛下。」
「下僕たちを暮らしやすくさせるのも女王の仕事よ。」
(口は良くないが、いい女王様だ。)
指揮官は感心した。
「それじゃ準備するものはこちらでまとめておくわ。」
「ありがとう。それに元気そうでよかった。それじゃ……。」
「ちょ、ちょっと、もう少しぐらいゆっくりしていきなさいよ。」
指揮官がエリザベスに背を向けると、また彼女は赤くなりながら言った。
「いや、まだ仕事が……。」
「指揮官様、まだ余裕はありますわ。陛下、私がお茶を淹れてきます。皆さんはここでお待ちください。」
そう言ってリアンダーは1人部屋から出ていった。
リアンダーはすぐに紅茶を淹れて部屋に戻り、指揮官、エリザベス、ウォースパイトの3人に紅茶のカップとクッキーを差し出した。
「2人とも、陛下がすまないわね。」
エリザベスの顔がまた少し赤くなった。今度は怒りだ。しかしどうやら、いつものことらしくそれほど気にはしていないようだ。
まずはエリザベスがゆっくりと紅茶を口に含んだ。
「ベルファストには及ばないけど、中々の紅茶ね。褒めてあげるわ、リアンダー。」
「ふふ、ありがとうございます。もっと精進しますわ。」
リアンダーは笑顔でお礼を言った。
(陛下は誰に対しても素直じゃないわね。)
(リアンダーは誰に対しても丁寧で最高だ。)
2人のやり取りから指揮官とウォースパイトは2人の性格をそれぞれ再認識した。
「このクッキーもいただくわね。」
ウォースパイトはクッキーを半分ほどかじった。
「こっちも美味しいわ、リアンダー。」
「ありがとうございます。」
ちなみに指揮官はリアンダーが褒められたのが自分のことのように嬉しいため、笑顔になっている。
4人はお茶会を終えて、指揮官とリアンダーは一先ず執務室に戻った。
「まったく、もう少しゆっくりしていってもいいじゃない。」
(やれやれ……。)
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第9話「リアンダーと買い出し」
指揮官は今日の執務が少ないことを嬉しく思いながら仕事をしていた。
「指揮官様、こちらは陛下からです。」
そう言ってリアンダーが差し出した紙には、食料、装飾品や小物、食器など、クイーン・エリザベスがまとめたパーティに必要な品が書いてあった。これを買い出しに行けということである。
「流石に慣れてるな。それじゃ今日は仕事が少ないし、早速買い出しに行くか。」
「これは1人では少し大変ですね。私もお供させていただきますわ。」
リアンダーも紙に目を通して、指揮官を手伝うべきであると思って申し出た。
「ところで指揮官様、これは指揮官様が自分で買い出しに行かなければならないものなのですか?」
「別に私でなくてもいいけど、皆には訓練に励んで貰いたいし、余計な仕事を押し付けたくないし、ほいほい外出許可を出すわけにはいかないよ。」
「そういうことですのね。」
そしてすぐに指揮官とリアンダーは町へ買い出しに行った。
最初に装飾品や小物の入手のための店に向かっていく中、指揮官は重大なことに気づいた。
(リアンダーと2人きり……成り行きとはいえ、これはデートではないか!?)
いくら意識しても意識するだけである。指揮官は真面目な上に度胸もなく、別に何かしようとは考えなかった。
「あ、指揮官様、このお店なら買えそうですね。」
リアンダーが指揮官の心情などは知る由もなく、店を指さしながら言った。
「そうだな。」
指揮官も先ほどまで考えていたことは忘れ、買い物に意識を向けなおして店に入った。
指揮官は入店後、どういったものがパーティに合うか尋ねた。
「そうですね……これなんていかがでしょうか?」
リアンダーはロイヤル風の装飾を指さした。指揮官はそれを確認後、すぐに購入を決断した。
「リアンダーはセンスがいいな。」
指揮官は精一杯の気持ちでリアンダーを褒めた。
「ありがとうございます。」
少し照れながら礼を言った。
その後も食料や足りない食器などを探していくらかの店に出入りし、一通り購入し終えると、丁度お昼時になっていた。
「指揮官様、お疲れではありませんか?」
自分が疲れているから言うのではなく、心からリアンダーは指揮官の体を労わった。
「これぐらいは大丈夫だ。ああ、でも……その、母港に帰ると遅くなってしまうし、食事でもどうだろうか!?」
(ああ、言ってしまった。これは大丈夫なんだろうか、やはり急ぎ過ぎただろうか……。)
食い気味になりながらだが、指揮官の精一杯の誘いだった。内心は不安だらけだった。
「あらら、もうそんな時間でしたのね。そうですね、それではどこか行きましょうか。」
リアンダーは特に意識することもなく誘いに乗った。指揮官はとても安堵した。
(ここまでいいだろう。次の問題はどこで食事をするかだ。ここを間違えてはいけない。)
そう言って指揮官は母港に戻りながら、周囲を見回し丁度良さそうな店を探した。
指揮官は色々考えぬいて、イタリアンの店に入店した。
「はい、メニュー。」
指揮官はメニューを向かいに座っているリアンダーが見やすいように向けた。
「指揮官様、これでは指揮官様が見にくいですわ。」
そう言ってリアンダーはメニューを指揮官が見やすいように向けた。
(ここで張り合っても仕方ないな、なるべく待たせないように……どれにしようか。とりあえず基本のミートソースのスパゲッティにしよう、そうしよう。)
指揮官は何を頼むか決めて、再びリアンダーが見やすいようにメニューを向けた。
「それでは、私も指揮官様と同じものにいたします。」
指揮官は少しドキッとしたが、他意はないと考え直し、店員に注文をした。
料理が届いた。指揮官はスパゲティを巻いて口に運んだ。リアンダーも指揮官が食べ始めるのを見てから食べ始めた。
「美味しいですね、指揮官様。」
リアンダーは柔らかく微笑んだ。
(まるで天使だ、食事の味なんて気にならない程の可愛らしさだ。しかも食べ方もとても美しい。)
指揮官は度々ちらちらとリアンダーの食べる様子を見ながら食事を終えた。
「あら、指揮官様、お口にソースがついてますわよ。」
そう言ってリアンダーは指揮官の口をちり紙で拭った。
「はい、とれました。」
「あ、あり……とう。」
指揮官はフリーズした。
その後指揮官はなんとか意識を取り戻し、店を出て、今度こそ母港に帰った。
「お疲れ様でした。」
「ああ、でもまだこの荷物をあるべき場所に届けないとな。」
指揮官とリアンダーは買ってきたものを適当な場所に置いて、仕事に戻るのだった。
(今日は成り行きとはいえ、リアンダーと一緒に出掛けられて楽しかったな。何か失敗がなかったのならいいが……。)
(買い出しでしたのに、楽しんでしまいましたわ。指揮官様と一緒だったからでしょうか?)
指揮官は不安がったが、リアンダーは楽しんでいた。その想いを指揮官が知ることは、まだない。
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第10話「リアンダーとパーティー」
指揮官の予定通り、クイーン・エリザベス主催のパーティは行われた。母港全体を巻き込む、非常に規模の大きいものだ。メイド隊などは大忙しである。
(さて、私はどうしようか。あまり騒がしいのは得意じゃないが……。一応、様子ぐらいは見ておくか。言い出しっぺだしな。)
指揮官も視察の意味で覗いてみることにした。
指揮官の目には正しく西洋のパーティーであるように見えた。皆豪華な料理を立食している。ロイヤル出身のKANSENなどは着飾り、踊っているものなどもいる。
「あら、遅かったじゃない。あなたも楽しみなさいよね。」
クイーン・エリザベスは指揮官をいち早く見つけて声をかけた。指揮官も頷いて、見て回ることにした。クイーン・エリザベスは自分の近くからあっさり離れたことに不満を持った。
指揮官は食事を取りながら、ぐるぐると会場を回っていた。
「あ、指揮官様~。」
リアンダーの声が指揮官の耳に入った。アキリーズとエイジャックスと一緒にいる。
(どうやら妹たちと仲良くなれたようだな。)
指揮官は安心しつつ、声の主の方へ近づいた。クロスの敷いてある料理の乗る机の近くで、美しいドレスで着飾っているリアンダー姉妹3人がいた。
(美しすぎる、まるでお姫様だ。)
「指揮官様、今日のパーティー……ありがとうございます。おかげで妹たちと仲良くなれましたわ~。」
リアンダーはほわほわとした雰囲気で指揮官にお礼を言う。
「君だけでなくて、私も丁度いいと思ったからだよ。」
リアンダーは本当に幸せそうにニコニコしている。指揮官もやった甲斐を感じた。
指揮官はリアンダーと話をしている途中に、エイジャックスがオクラホマに呼ばれるところを見た。その後、仲良さそうに話をしている。
「アキリーズ、彼女は人間関係の問題なんて本当に抱えているのか。」
指揮官はリアンダーとの会話をいったん中断し、アキリーズに近づいて話しかけた。
「あはは……アキリーズちゃん、間違っちゃったかな?」
ふざけてみせたアキリーズに指揮官は呆れた。
「まあでも問題がないなら、いいことだ。」
「そうだよね☆でも……ありがとね☆」
開き直るアキリーズに指揮官は再び呆れたが、悪い気はしなかった。
「そーれーよーりー、リアンダーとの話が途中だったでしょ?早く戻った戻った。」
(見たところ、2人は仲良しみたいだね。優しいお姉ちゃんなリアンダーにはリア充になってもらいたいな。)
指揮官はアキリーズに促されて、リアンダーの近くに戻った。しかし、指揮官は何を話せばいいかわからなかった。
「指揮官様、何のお話でしたの?」
「ちょっとエイジャックスのことでな……。」
「エイジャックスですか。時々よくわからない言葉を使いますけど、本当は凄く優しい子ですのよ。」
リアンダーは幸せそうに妹を自慢した。
「ところで指揮官様……、私と踊っていただけませんか?」
リアンダーは少しだけ顔を赤らめて、指揮官をダンスに誘った。もちろん指揮官はとても喜んだ。
「しかし私はダンスはよくわからないのだが……。」
指揮官は教養としてダンスを調べたこともあったが、特にしっかりと練習をしたわけではない。
「大丈夫ですわ。私がリードいたします。失敗しても笑ったりなんていたしませんわ。」
そう言ってリアンダーは指揮官に手を差し伸べた。指揮官は軽くその手を取った。
(今ダンスとはいえ、リアンダーの手を握っている……幸せだ。)
指揮官の体温は急上昇したが、どうにか平静を保った。
指揮官とリアンダーがダンスを始めると、エイジャックスがアキリーズのところに戻ってきた。
「あらあら、2人は仲良しですのね。」
エイジャックスは指揮官とリアンダーが踊る様子を見てエイジャックスはからかうような口調で呟いた。
「そうだね。2人はどういう関係なのかな?」
「リアンダーはそういうのには疎いですけど、指揮官の方はリアンダーに気があるように見えますわ。」
エイジャックスは指揮官を観察しながらそう言った。彼女の洞察力は本物である。
「指揮官はリアンダーと釣り合うでしょうか。」
「今のところ大丈夫そうだけどね☆」
「そうですわね。」
アキリーズとエイジャックスは指揮官とリアンダーの様子を見守っていた。
指揮官は会場の広場で、リアンダーに教わりつつステップを踏んでいる。そろそろ足並みも揃ってきている。
「そうそう、流石指揮官様です。」
「リアンダーの教え方がいいのさ。」
既に2人を見ているのは、アキリーズとエイジャックスだけではなかった。しかし2人はダンスに夢中で気づいてはいない。
(今まで必死で気にならなかったが、やはり距離が近い……。それに常に手を握っていられる……。)
指揮官は当然リアンダーと踊れることを喜び、リアンダーもまた楽しんでいた。
一通り教わり、踊り終わった。
「指揮官様、ありがとうございました。とても楽しかったです。」
リアンダーはにっこり微笑んだ。
「私こそダンスがこんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。」
「気に入っていただけて何よりですわ。」
2人がまだ手を握ったまま話をしていると、同じように指揮官と踊ろうとする者が出てきて、指揮官はしばらくそちらに付き合うことになった。
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第11話「リアンダーと告白」
先日のパーティーが終わり、母港は何事もなかったかのように戦いと訓練と執務の日常へと戻った。
「指揮官様、昨日はよく眠れましたか?」
指揮官が執務室の椅子に座り、仕事に取り掛かる前に、横に立っていたリアンダーが尋ねた。
「あ、ああ……。」
「お疲れなら、無理をなさらないでくださいね?」
リアンダーは返事の曖昧な指揮官を心配して顔を覗き込むようにして言った。指揮官は顔が近づいたことで赤面した。
「わかってる。大丈夫だ。」
指揮官は気合を入れなおして、心配させないようにそう言った。よく眠れたかというと、実際はしばらく寝る前はリアンダーと踊れたことが幸せでふわふわした気分だったため、寝つきが悪かった。
「指揮官様、今日はアキリーズとエイジャックスと一緒にお茶会をすることになりましたの。」
「それは良かった。仲良くなれたようで何よりだ。」
リアンダーは仲良くなれたことを、指揮官はリアンダーが妹たちと仲良くなれたことと彼女の笑顔を見られたことを嬉しく思った。
「あ、すみません。そんなことよりもお仕事ですよね。」
そう言ってリアンダーも椅子に座り机に向かって、指揮官の執務を手伝い始めた。今日も今まで通りの日常が始まる。
好きな人というのは、視界に入るとつい見てしまうものである。堅物な指揮官も例外ではない。
(あ、あれはリアンダーか。どこに行くのだろう。そう言えばお茶会と言っていたか。)
昼の休憩時間に廊下でリアンダーをちらっと見かけた指揮官は、自然と目で彼女を追い、偶然進行方向が同じだったため、もう少し追いかけると、妹たちと仲睦まじくお茶会をするリアンダーを見た。
(本当に仲良くできているのだな。良かった……。さて私も休憩をして、また仕事に戻ろう。)
指揮官はそう考えて声をかけずに執務室に戻るのだった。
それから、指揮官はリアンダーと少し距離が離れたように感じた。理由はリアンダーが妹たちという一緒にいる相手を見つけた分、指揮官と一緒にいる時間が減ったからなのは指揮官自身もよくわかっていた。
(寂しいな……今でも声はかけてくれるが、やっぱりそれでも寂しい。とはいっても、何も悪いことが起こったわけではない、どうにもできないことだ。1つだけあるとすれば……「告白」だろうか。成功するか?いや、そもそも手を出していいものなのか?)
執務室で手を組みながら、あれこれと考えた結果、指揮官はついにリアンダーに告白することを決意した。
その直後、リアンダーは執務室に入ってきた。
「あらら、指揮官様、もしかしてもう先にお仕事を再開していましたか?」
リアンダーは指揮官が執務室にいるのを見て、既に仕事を再開していて、負担をかけてしまったのではないかと心配した。
「いや、別にそういう訳じゃないよ。」
指揮官は余計な心配をさせないように、即座に否定した。
「ところで……こ、今夜、久しぶりに散歩に行かないか?」
指揮官は震えた声でそう言った。体中から汗が噴き出てくるのを感じた。
「はい、私でよければお付き添いいいたしますわ。」
リアンダーは指揮官が何を考えているかなど知る由もなく、優しく微笑みながら返事をした。
(よし、何とか第1段階は突破した。問題はここからだが……ここまで勇気を出せたのだ。この先もできるはずだ。)
(そう言えば指揮官様との散歩は久しぶりですね。ふふ、色々お話したいこともありますし、楽しみですわ。)
2人の心はすれ違うばかりである。
その夜、指揮官とリアンダーは2人で散歩をする。
母港の海の海岸あたりで指揮官は足を止めた。それに合わせてリアンダーも足を止める。指揮官の心拍数は歩くたびにどんどん上がっていった。
「指揮官様、指揮官様のおかげで姉妹たちと仲が良くなって毎日が楽しいです。」
リアンダーは指揮官が開くように手引きしたパーティーを思い出し、指揮官に感謝しながらそう言った。指揮官はリアンダーが先に話し始めたことで、少しだけ心拍数が落ち着いていった。
「うん……指揮官様はどんなお礼が欲しいですか?」
夜空に浮かぶ星にも負けない、無垢な笑顔でリアンダーは指揮官に尋ねた。
(今このタイミングで告白するのは卑怯だろう。相手の感謝に付け込むことだ。しかし、このチャンスを逃すのも勿体ない。今、やるしかない。)
指揮官は覚悟を決めてリアンダーの方に真っすぐ顔を向き合わせた。
(指揮官様、急に表情が……いったい、どんなお礼を差し上げれば……?)
リアンダーは少しだけ考えたが、今から指揮官が言うことなど全く想定しない。
「リアンダー、ずっと一緒にいてほしい。その……好きです、付き合ってください!」
指揮官は早口になりながら愛の告白をした。
「わかりました。指揮官様には色々とお世話になりましたし、お付き合いいたしましょう。」
「え……?」
指揮官はまさか付き合えるとは思っていなかったため、あまりにもあっさりとした返事に戸惑った。
「い、いいのか?これがお礼だとしたら、あまりにも高価すぎるし……それに、付き合うっていうのは一時的なものという意味ではなくてだな……」
「もう指揮官様、それぐらい私にだってわかりますわよ。」
困惑しつつ、リアンダーが勘違いしているのではないかと思う指揮官に対して、リアンダーは可愛らしく、薄ピンクの頬を少し膨らませた。
その後指揮官とリアンダーは少しぎこちなく、話を再開したのちに、互いの部屋に戻った。
(あまりにもあっさりとしていたが、本当に大丈夫なのだろうか。やっぱり交際というものをよくわかっていないのだろうか。だとすれば、お礼というものに付け込んだだけではなく、騙すようなことをしてしまったような……。しかし付き合うことになったのはいいことだ。)
指揮官は喜び半分、不安半分の複雑な気持ちで眠りについた。
(指揮官様とお付き合いすることになりましたが、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。やはりキスなどでしょうか。指揮官様とならまったく嫌ではありませんが……うん、今度他の方に相談してみましょう。)
リアンダーの方がいくらか前向きだった。
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第12話「リアンダーと日常」
指揮官とリアンダーが付き合うことになった次の日、指揮官は酷く緊張し、リアンダーも思うところはあったが、仕事は変わらず続いている。
「す、少し外の空気を吸ってくる。」
指揮官は付き合い始めたのにも関わらず、息苦しさだけを感じていたため、外へ出てみることにした。
「大丈夫ですか?私も付き添いますわ。」
一方のリアンダーはそんなことを知る由もなく、ただただ好意で付き添うことを提案した。
「あ、ありがとう。お言葉に甘えるよ。」
指揮官もわざわざ好意を無碍にしたくはないし、リアンダーが好きなのは変わらないため、承諾し、リアンダーと指揮官は執務室を出た。
指揮官は他のKANSENたちも休んでいる、噴水近くの庭に出るとすぐに深呼吸をした。
「指揮官様、本当に大丈夫ですか?お体の調子が悪いのならば、お仕事は私に任せて、医務室に行くべきですわ!」
リアンダーは心の底から心配し、首を傾げて、段々と語調を強くしながら言った。
「大丈夫だ。そういうのではない。」
「そういうの……?きゃっ!」
急に強い風が吹いてきた。リアンダーは赤いスカートがめくれないように、きゅっと抑えた。
「驚かせてしまって申し訳ありません。急に強い風が吹いたもので……。」
「いや大丈夫、大丈夫だ。」
(すぐ抑えたせいで見えなかったのは少し残念だが……。)
指揮官は少しだけ顔を赤らめながらそう思った。
「あーっ!」
指揮官とリアンダーが言葉を交わし合っていると、庭に音階の高い叫び声が響き渡った。
「リアンダー。」
「指揮官様。」
リアンダーと指揮官は向かい合ってお互いを呼び合い、2人で声のした方へ向かった。
2人が声の主と判断したのは、睦月だった。しかし睦月に問題はなさそうだ。一緒に陸奥型が何人かいたが、そこで異常があったのは卯月だった。他の子との違いは帽子がないことだ。
「卯月さん、どうかいいたしましたか?もしかして……帽子をなくしてしまわれたのですか?」
リアンダーは涙目の卯月に、あやすよう優しく声をかけた。
「うんとね、おぼうしがかぜでとんでいって、きにひっかかっちゃったんです……。」
如月は卯月の代わりに答えた。リアンダーはそれを聞くと、卯月の方に向かって屈んだ。
「今取ってきて差し上げますからね。」
リアンダーは優しく声をかけて、身長の4倍程度の高さの木の方を向いた。
「いや、リアンダー……私が行こう。」
「指揮官様、体の調子が悪い時は無理をしてはいけませんわよ。それに、指揮官様にもしものことがあったら大変ですわ。私は最悪落ちても、KANSENですから、それほど問題ありませんし。」
リアンダーの意見は全くの正論であるため、指揮官は黙って木へ登るリアンダーを見送った。
(何かしようとして断られるとはなんと格好の悪い……。それより、もし落ちた時にキャッチできるようにちゃんとリアンダーの方を見ていなくては……。うん、あ、これはダメだ。リアンダーの下着が丸見えじゃないか。いいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。)
リアンダーのスカートの長さでは、木に登る姿を見上げれば当然は下着が見える。指揮官は一旦手で目をこすり、平常心を心がけて、もう一度リアンダーの方へ目を配った。顔は真っ赤である。
リアンダーは木を容易く登り、枝に引っかかった帽子を回収し、下を確認した。
「今降りるのでもう少し待っていてくださいね。」
そう言うとリアンダーはすぐに木から降りて、卯月の方へ向かって屈んで帽子を手渡した。
「ありがとう、リアンダーおねえちゃん!」
卯月だけでなく、他の睦月型もリアンダーにお礼を言った。指揮官は睦月型に囲まれているリアンダーを少しだけ離れたところから見つめていた。
(悩んでいたのが馬鹿らしいな。リアンダーはこんなにも品があって、優しい素晴らしい女性だ。もっとちゃんとリアンダーと向き合わなきゃいけないな。そしてこれからでも、好きになってもらえばいい。)
指揮官は決心した。
(それにしても……ダメだ、さっき見た彼女の下着が頭から離れない。思い出すと顔が熱くなる。)
「指揮官様、お顔が赤いですが……本当に大丈夫ですの?」
リアンダーは睦月たちから離れて、指揮官の近くに寄って、首を傾げた。
「ああ、なんでもない。大したことは……」
指揮官が喋っている途中で、リアンダーは「失礼します」といいながら指揮官の額に手を当てた。指揮官はリアンダーが近くにいて、しかも額を柔らかい手の平が触れたことでさらに顔を赤くした。
「すごく熱いですよ?具合が悪い訳でないのならばどうして……。」
(リアンダーが凄く心配している。もうこれは正直に言うしかない。)
「実はさっき木を登っている時に……その……見えてしまって……。」
指揮官はリアンダーから目を逸らしながら言った。
「見えた……?何が……あっ……。」
リアンダーは再びスカートをきゅっと抑えた。
「指揮官様のエッチ……。」
リアンダーの顔も急に赤くなり、その顔をやや下に向けた。
(終わった。もう終わりだな。これは嫌われても仕方ない。やはり誤魔化すべきだった。まずはとりあえず謝ろう、そうしよう。)
「すまないリアンダー。本当に……。」
「いいえ、見えてしまったのは仕方ありませんわ。それにそれだけ私のことを気にかけてくださったということですよね?うん、大丈夫大丈夫……怒っていませんよ。」
指揮官とリアンダーはしっかり見つめ合って話をした。リアンダーは本当に怒ってはおらず、指揮官もそれを感じ取って、安堵した。
「ありがとう……やっぱり君は優しいな……さっきもすぐに帽子を取りに行こうとしていたし、今もこうやって許してくれる。リアンダー、やっぱり私は君のことが好きだ。」
少しだけ間を取ってから指揮官は今の想いを伝えた。
「そんな私なんて……でも、ありがとうございます。」
リアンダーは優しく微笑んだ。
しかしこの話の発端はただのパンチラである。
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第13話「リアンダーと日常Ⅱ」
指揮官とリアンダーがいちゃいちゃしている横から、飴を持った睦月が飛び込んできた。
「おねえちゃん、これお礼!アメさんあげるね!」
睦月は飴を差し出した。
「あらら、ありがとうございます。」
「あ……睦月、じゃましちゃだめだよ~?」
リアンダーが飴を受け取ったのと同時に、水無月が睦月を止めに来た。指揮官とリアンダーから溢れるムードを感じ取ったのだ。
「そ、そういう訳じゃない。」
指揮官は顔を真っ赤にして否定した。
「ほんとに~?しきかん、かおあかいよ?」
水無月はさらに突っ込んだ。そして、他の睦月型の子たちも集まってきた。
「ほら、リアンダー、そろそろ視察に行かなくては……申し訳ないが、遊ぶのはまた後だ。」
指揮官は逃げた。リアンダーも睦月達に手を振って指揮官を追いかけた。
2人は先ほどの木のあるところからだいぶ離れた位置まで来た。
「ふふふ、睦月さんたち、可愛かったですね。まるで指揮官様と子どもができたみたいですわ~。」
「こ、子ども……?」
指揮官は自分とリアンダーの子どものことを想像してしまって再び顔を赤らめた。
指揮官はリアンダーに顔を見せないように、執務室に戻るように歩き始めた。
「あ、指揮官様待ってくださーい。」
リアンダーは急に歩き出した指揮官を早歩きで追いかけた。すると、指揮官は突然彼女の目の前から消えた。それから、彼女自身もまた浮遊感を感じた。
2人は落とし穴に落ちたのだ。穴の深さは2メートル程度で、指揮官は穴の中で膝を立てて横になる形で、リアンダーは指揮官に覆いかぶさらないように、地面に手をついてギリギリ耐えている形である。
「いたた……リアンダー!大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですわ。それより指揮官様こそ、大丈夫ですか?」
2人は揃ってお互いを心配し、そして互いの無事を確認した。脱出不可能なほど深い穴でもないが、砂に手足を取られるため、簡単には脱出できない。
「ひゃんっ……指揮官様、動いては……いけませんっ。」
指揮官が脱出のために体を動かすと、膝がリアンダーの股に触れる形になってしまった。
「す、すまない……わざとじゃないんだ。」
(しかし、膝とは言えリアンダーの股に……。今はこんなことを考えている場合ではないが、こう近いと体温や匂いまでわかって意識せざるを得ない。さっきのパンチラなんて可愛いものだ。)
「いえ、それはわかっていますわ。それより脱出方法を考えませんと……。」
「そうだな。」
指揮官は1分ほど考えた結果、リアンダーを肩車して先に出てもらうことを提案した。
「肩車ですか?わかりました。」
2人はどうにか態勢を整えて、指揮官は一旦しゃがんでリアンダーを肩に座らせた。
(やばい、この太ももはやばい。)
少し土の付いた、白くて柔らかい太ももが指揮官の首に触れる。
「指揮官様、重いと思いますが、少しだけ耐えていてくださいね。すぐ出ますからね。」
指揮官はどうにか中腰に立ち上がり、穴からリアンダーは半身以上が出たため、なんなく脱出した。そして指揮官に手を差し伸べて、指揮官は土壁に手を取られながら、どうにか脱出した。
2人が穴に落ちて脱出するところを横から見ていた者がいた。指揮官は脱出するときにちらっとその人物の色を見た。ピンクだった。
「助かったリアンダー。」
「いいえ、私も指揮官様がいないと大変でしたわ。」
「それはそうと、今ピンク色の何かを見たのだが……このようないたずらをする人物と考えると、サラトガあたりだろうか。もしそうなら、これはやりすぎだ。流石に注意が必要だな。」
指揮官は辺りを1度見回したが、既に彼女の姿は全く見えない。
「まだ遠くには行っていないと思いますが、流石に逃げたようですね。」
リアンダーは苦笑しながら言った。
指揮官がどうやって探し出すかを考えていたとき、サラトガもう1人のピンク色のKANSEN……彼女の姉であるレキシントンに捕まっていた。
「うわあああああ。」
サラトガの声が響いた。指揮官とリアンダーはその声の元へ向かった。すると実際にレキシントン姉妹がそこにいた。
「サラトガさん、本当にあなたなのですか?」
リアンダーは相手を刺激しないように、ゆっくりとした声で聞いた。
「ごめんね指揮官、サラトガちゃんったらまたいたずらして……。」
指揮官とリアンダーは、姉に捕まっているサラトガが哀れに感じた。
「はぁ……流石にこのいたずらは度が過ぎる。誰かが怪我をしたらどうするんだ?穴は早急に塞いでおくように。」
指揮官は簡潔に言いたいことを言って、リアンダーと一緒に着替えのために屋内へ戻った。
(でもリアンダーと密着できたのは少し嬉しかったな……。)
雑念は捨てきれない指揮官だった。ちなみに、サラトガも面白いものを見れたと満足したのだった。
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第14話「リアンダーとデート」
指揮官とリアンダーは付き合い始めたと言っても、現状では恋人らしいことをはまったくしていない。そこで指揮官はとりあえずデートをしてみようと考えた。
今日も秘書として仕事、KANSENとしての仕事、そして個人的な人助けをしていたリアンダーが執務室に戻ってきた。
「リアンダー、その、次の休みにでも……一緒に出掛けないか?」
指揮官はどうにか言葉をひねり出した。
(これが皆が言っていた「デート」のお誘いなのですね。)
「分かりました。楽しみにしています~。」
流石のリアンダーも、他の姉妹たちやセントルイスなど、他の知り合いのKANSENたちとの話をしていたことなどもあり、デートぐらいは理解していた。
(よし、あとは失望させないように頑張らないとな。)
そしてついにデートの日となった。リアンダーは部屋の鏡で念入りに異常がないかチェックをしている。ちなみに、念のためということで、アキリーズとエイジャックスも近くにいさせてチェックしている。
「リアンダー、そんなに心配しなくて大丈夫ですわ。」
「そうだよ!髪だってあんなに一生懸命整えてたし。」
2人はリアンダーの心配は無用であると指摘する。
「そ、そうですよね……。」
「まあ……リアンダーの気持ちも仕方ないかもしれませんけどね。それにしてもリアンダーが……可愛らしいですわね。」
エイジャックスは天井を仰いで感傷に浸った。
「指揮官はリアンダーにべた惚れだし、ちょっとくらい何かあっても気にしないと思うぞ☆はぁ……リア充め~!」
アキリーズはリアンダーの顔をぷにぷにした。
「あひりーず、やめへふはさい。」
リアンダーが抗議するとアキリーズはすぐにやめた。
「よしっ!それでは行ってきますね。」
リアンダーはなん十分もかけてやっと納得し、部屋の扉を開けるのだった。
一方その頃、指揮官は結局スーツでびしっと決め、母港の門でリアンダーを待っていた。天気は快晴で、心地よい風が吹いている。
しばらくすると、リアンダーは小走りで指揮官の近くへ駆け寄った。ちなみに時間はまだ待ち合わせの20分前である。
「はぁ……お待たせてして申し訳ありません。」
リアンダーは少し深く呼吸をしてから喋った。彼女は頭にはいつもと少し違うリボン、ブーツを履いて、清楚でフェミニンなワンピースに上着を着ている。
(私服リアンダーも可愛いなぁ。)
指揮官は昇天しかかって、リアンダーに心配された。
「いや、凄くその……、か、かわいいから……。」
「可愛いだなんて……えへへ、ありがとうございます!」
リアンダーは少し頬を赤らめ、手を頬に当ててから礼を言った。
2人は、とりあえず市街地に向かって、手と手がギリギリ触れない程度の距離で並んで歩き始めた。
「ええと……今日は付き合ってくれてありがとう。」
「ふふっ……そういう言葉は最後に言うものではありませんこと?でも、私もずっと楽しみでしたわ。」
指揮官は言葉を間違えたと思い、バツが悪そうな顔をしたが、リアンダーの言葉ですぐに笑顔を浮かべた。
「ところで、まずはどこに行こうか?何か案がなければ、映画館でもどうだろうか。」
「映画ですか。それにしましょう。楽しみですわ。」
2人は、指揮官の心拍数が常に高いこと以外は、何事もなく映画館にたどり着いた。どの映画を見るか相談している。
(やはり、デートのときは恋愛映画だろうか?家族愛などとがテーマのものもありかもしれない。さて……。)
「指揮官様、よろしければ、あれにしませんか?」
リアンダーが指したのはファンタジー的な世界観の作品だった。
「確かに丁度いいかもしれない。よしそれにしよう。」
2人は暗い映画館の、真ん中あたりに座った。席は満員に近かった。映画が始まった。よくあるおとぎ話のような内容である。主人公は才覚を持ちながらも生まれに恵まれなかった男性と、いつも努力を怠らない貴族の女性である。この2人が恋をし、家や戦争、魔女などという障害に阻まれながら、ついに一緒になれなかったという悲劇だった。
指揮官はその話で涙を流していた。リアンダーも難しそうな顔をしていた。2人はその状態で外に出て、ロビーの椅子に座った。
「悲しい最後でしたね。仕方なかったんでしょうか……。」
「いいや、そんなことはない。彼らは間違っていなかった。私なら諦めたりしない。」
「そうですよね。やっぱりあれで終わりなんて悲しすぎます。」
「ああ……。結末以外は演出とかも面白かったんだけどね。」
そうして2人はしばらく感想を言い合ってから、映画館を後にした。
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第15話「リアンダーとデートⅡ」
映画館を出て、指揮官とリアンダーはレストランで昼食を取ることにした。指揮官は映画を見てから、ややデートに慣れてきたようだが、太陽の光に美しく照らされるリアンダーのピンクがかったブロンドの髪を見るたびに、動悸が早くなる。
「確か、この辺りに雰囲気のいい店があったはずだ。」
「もしかして、あれのこ……すごく並んでますね。」
リアンダーは口元に手を寄せて驚いた表情で言った。
(そうか、行列のことを考えていなかった。さてどうするか……やはりこういうとき、行列は避けるべきだろう。予約でも取っておくんだった。)
指揮官は、自分も地面もアスファルトになったかのように、その場に固まった。
「指揮官様……あ、私、ハンバーガーが食べてみたいです!」
リアンダーはやや食い気味になり、指揮官に顔を近づけて言った。指揮官は、それに驚いてやっと硬直が解除された。
「それでいいのか?」
「はいっ!」
リアンダーは髪を揺らし、にっこりとほほ笑んで返事をした。
ハンバーガーショップは回転率がいいのか、人はいてもすぐに順番が回ってきた。しかし、座席は満員だった。
「席には座れなさそうだ。」
「仕方ありません。近くに公園がありましたし、そこで食べましょう。」
そう言って、2人はハンバーガーを選び始めた。
結局、2人ともただの「ハンバーガー」を頼むことにした。
「ご一緒にポテトはいかがですか?」
「あ、頂きます~。」
店員のすすめを聞いて、リアンダーが少し戸惑いながら答えた。指揮官は特に何もリアクションをせずにそれを聞いていた。
「それでは今からお作り致しますので、少々お待ちください。」
2人は会計を先に済ませ、近くの椅子に座って完成を待つことにした。
2人は数分経って店員から頼んだものを受け取ってから、外へ出た。そして公園へと向かっている。
「指揮官様、勝手にポテトを頼んでしまって申し訳ありません。」
歩行中に、リアンダーは本当に申し訳なさそうに、少し俯いて言った。
「いや、ああいわれると確かに断りにくいから仕方ない。私だって断れない。それに、食べたい気分だったよ。」
指揮官は首を振った。
「それならいいのですが……。」
「リアンダー、そんなこと気にしなくていい。本当に大したことじゃないから。まあ、君のそういう真面目なところが私は……ぐっ。」
指揮官は横を向いて拙く言葉を繋いでいると、前の看板にぶつかった。
「指揮官様!大丈夫ですか?」
幸い指揮官の体にはこれと言った外傷はない。あまりに正面から綺麗にぶつかったためだ。
「ああ大丈夫だ。問題ない。そろそろ公園だな。ベンチも空いているようだ。」
看板にぶつかるという失態を隠すように、早口で指をさしながら言った。
「それならよかったですわ。ところで、先ほどは何を言おうと?」
(そんなところが好きだって言おうとしたなんて、タイミングを逃した状態では恥ずかしくて言えない……。)
「なんでもない。」
指揮官は赤面して首を振った。リアンダーは不思議そうに首を傾げた。
そうこうして、誰もいないベンチは2人は座ることできた。先に指揮官が端に、リアンダーはすぐ隣に座った。
「うん、こうしてお外で食べるのもいいですよね。」
「ああ。」
(近い近い、わざとやっているのか?)
指揮官はリアンダーがとても近くにいることの興奮を押し殺しながら答えた。リアンダーが近くに座ったのは、単に場所を無駄にしないようにしているだけである。
2人は紙袋から、より小さい紙袋を取り出した。紙袋からハンバーガーを取り出して、リアンダーは上品に口をつけた。
(こんなにハンバーガーを上品に食べる人間がいたのか。)
指揮官は彼女の食事姿に見惚れた。
「美味しいですよ、指揮官様。」
リアンダーは口にソースもついていない顔で、にっこり微笑んだ。そして、指揮官も慌ててハンバーガーに口をつけ、ポテトの味見をした。
「ああ、美味しい。」
指揮官はリアンダーから目を逸らして、正面の滑り台を見ながら言った。
それから2人はハンバーガーとポテトを食べ終えて、ごみを近くのごみ箱に捨てた。リアンダーは近くの並木道に止まっているクレープ屋が気になっている。指揮官はリアンダーの輝く瞳を見てそれを察した。
「食後には何か甘いものも食べたいな。丁度いいものはないだろうか?」
「で、でしたら、あそこのクレープ屋さんなんていかがでしょうか。」
リアンダーは少し驚きながら答えた。
「ああ、丁度いいところにあるな。買ってこよう。」
2人はクレープ屋に向かって歩き出した。
クレープ屋に着くと、3人ほど人が並んでいた。
「どれにしましょうか……。」
リアンダーは目を輝かせて選んでいる。
「うん、ピーチにしましょう。」
「私はイチゴにしよう。」
そうして考えているうち、順番がやってきて、無事クレープを購入できた。
2人はベンチに戻って、それを食べている。
「甘くておいしいですね~。」
リアンダーは今度は上品というよりは、小動物のような可愛らしい顔でクレープを頬張っている。
(喜んでもらえて良かった。それにしても、リアンダーのイメージカラーとピーチがぴったりだな。)
指揮官はリアンダーが食べる様子を眺めていた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、桃みたいだなと……。」
リアンダーは不思議そうな顔をして、再びクレープを頬張った。指揮官も、リアンダーを少し観察すると自分のクレープから飛び出しそうなイチゴを口に入れた。
「指揮官様、あーん。」
リアンダーは突然自分のクレープを差し出した。自分のクレープの味見をしてみろということである。
「汚なっ!!ふざけんなよ!!」
指揮官がリアンダーのクレープに口をつけるか迷い、周囲を確認していると、大きな声が鳴り響いた。
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第16話「リアンダーとデートⅢ」
指揮官とリアンダーは、鳴り響いた声を異常事態だと思い、手に持っていたクレープをベンチに置いて、声の聞こえてきたベンチの裏側へ向かった。クレープ屋の人たちは少し離れていたため聞こえていない。
2人が木々の間を縫って進むと、木がない空き地のような場所があった。そこには、無精ひげを生やしたみすぼらしい恰好の男が1人と、ぴったりとしたズボンにTシャツを着た、町をよく歩いているような男たち3人がいた。みすぼらしい恰好の男は地面に四つん這いになっていて、それを囲むように3人の男たちがいた。
「汚ねぇ!お前さ、皆の公園を汚すなよ。」
3人のうちの1人が言った。すると、みすぼらしい恰好の男は小さな声で「すみません」と呟くと、額を地面にこすりつけた。
「指揮官様、これは……放っておけません。」
リアンダーは小声で指揮官に向かって呟いた。
「ああ。リアンダー、警察を呼んでくれ。私は一応止めに入ってみる。」
「それなら、私が止めに入った方がいいのではないでしょうか。」
「確かに君は私より強いだろう。しかし君はKANSENだ。人とは違う。君が民間人を傷つけたとなれば、どんな処分があるかわからない。」
指揮官は息を吐いてから、改まって言った。
「わかりました……。それでは警察を呼んできますね。お気をつけて。」
リアンダーは林から抜け出していった。
指揮官は黙って空き地の方へ歩いていき、みすぼらしい恰好の男の前に立った。他の男たちは、この男をいじめるのに集中していたせいか、近寄るまで気づかれなかった。
「君たち、何をしているんだ?彼が君たちに何かをしたのか?いや……何かをしたにせよ、リンチなどは許されることではない。」
指揮官は静かに、しかし力強く言った。
「やだなぁ、公園を汚しているのを見たから、出て行ってもらおうとしたんですよ。」
指揮官は、3人の男たちと話をしている隙にみすぼらしい恰好の男に逃げるように伝えた。すると男はすぐに逃げていった。追いかけようとした男もいたが、指揮官はその男の前に立ちふさがった。
「そうか。それならもう彼は行ったようだから、君たちが動く必要はないんじゃないか?」
「さっきからうるさいな。お前には関係ないだろ!」
指揮官の右にいた男が急に殴りかかってきた。指揮官はそれを避けた。
(やはりこういうタイプの輩か。さて、リアンダーにはKANSENが人を傷つけるのは不味いとは言ったが、私も正当防衛とはいえ軍人だ。下手に反撃をする訳に行かない。)
あとの2人もしかけた。1人は指揮官の背後に回って腋に腕を伸ばして、指揮官を捕まえた。残りの2人は指揮官の顔を好き勝手に殴っている。
(とりあえず作戦は成功だ。しかし、これは反撃をしたいと思ったとしてもできないな。)
殴られる角度を変えて、ダメージを最小限に抑えているが、そんなのものは無意味である。
「折角だから金でもとっておこうぜ。」
指揮官を殴っていた男の1人が、荷物に手を出した。指揮官は余力を使って、自分で財布を取り出して地面に落とした。3人の男たちはその姿が面白かったのか、笑い出した。指揮官は自分を捕縛していた者の力が弱まった隙を狙って抜け出した。そして木の背にするように陣取った。3人の男たちもすぐに向かってきて、体中を殴り始めた。指揮官はひたすらガードをしている。
「まだ持ってないか確認するか。」
そう言って、1人の男は殴るのを止め、先ほどの財布を拾ってから、再び指揮官に近づいた。
足音が2つ聞こえてきた。
「こら、何をしている!」
リアンダーと警察官のものである。2人は木々を縫って、素早く空き地に来た。
「指揮官様!」
リアンダーは指揮官の様子を確認して叫んだ。それと同じぐらいのタイミングで、3人の男たちは逃げ始めた。
「待て!くっ……あなたはその人を連れて、治療を。」
警察官はそう言って、男たち3人を追いかけた。
リアンダーは倒れている指揮官に駆け寄った。
「指揮官様!指揮官様!大丈夫ですか!?」
指揮官はその声で、目を薄く開けた。「ああ」と呟いた。
「立てますか?」
黙って指揮官は立ち上がった。リアンダーは指揮官の腕を自分の肩に回した。
「大丈夫。歩くぐらいなら。」
指揮官は腕をリアンダーから離した。リアンダーはそれを信用したのか、それ以上何も言わずに、2人は再びベンチに戻った。
指揮官は、確かな足取りでベンチに一度座ったかと思うと、思い出したように水飲み場に向かった。血や土の付いた顔や手を洗うためだ。
それからベンチに戻った。
「指揮官様……」
「とりあえず、リアンダー、君はクレープを食べきってくれ。」
リアンダーは少し困惑した表情をしたが、クレープを手早く口に放った。
「まずは近くの病院に行きましょう。そこが治療をしてからですわ。」
2人は近くの病院へ向かうことにした。
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第17話「リアンダーとデートⅣ」
病院までの道のりの間に、指揮官の足取りはよろよろしたものから、しっかりとしたものになった。そのため、指揮官は病院なんて大げさだと言うが、念のためと言ってリアンダーは聞かず、小さな診療所へ着いた。今は待合室で診察を待っているところである。
「指揮官様、お水いりますか?」
「ああ頼む。」
指揮官はリアンダーがウォーターサーバーから持ってきた水を受け取り、飲み干した。指揮官の体は足取りは確かだが、落ち着いたせいか、体に痛みが走るようになっている。
それから15分ほどで指揮官は診察室に呼ばれ、リアンダーと一緒に白い廊下を歩いて行った。
2人が診察室に入室すると、医者は要件を尋ねてから、指揮官の体を触り始めた。
「軽い打撲ですね。処置をするから、服を脱いでください。」
指揮官はリアンダーの方を向いた。リアンダーは不思議そうな顔をした。
「恥ずかしいから、一応出て行ってもらえると有難い。」
指揮官は消え入りそうな声で、横にいるリアンダーに向かっていった。リアンダーははっとした顔をしてから、診察室の扉を開けて外へ行った。
処置が終わって指揮官は待合室でリアンダーと合流した。
「どうでしたか、指揮官様。」
「最初に言われた通り軽い打撲や、あとはかすり傷が体にいくらかあったぐらいだった。」
「あまり大きなケガではないのは良かったです……。」
2人は喋りながら椅子へ座った。リアンダーは浮かない顔をしていた。
(私のせいだなこれは。)
指揮官も自覚はあったが、かける言葉が思いつかなかった。
それから、金を払い薬を貰って診療所から出た。流石にこのままデートは難しいということで、母港に帰ってきた。
「リアンダー、今日はすまない。私のせいでデートも半端だし、こんな情けない姿を見せてしまったし……。」
指揮官は足を止めて、うつむきながら言った。リアンダーはその様子を見て、右手で指揮官の左手を握った。
「指揮官様、お体が痛むかもしれませんが、最後に、灯台に行きませんか?」
リアンダーは少し右手に力を入れて、ゆっくりと指揮官を引っ張って灯台を登った。
「ここもいい眺めですよね。」
「リアンダー!」
リアンダーは指揮官に背を向けて灯台から外を見渡していた。指揮官は声を大きくして彼女を呼んだ。
「指揮官様、私は指揮官様は情けなくなんてなかったと思いますわ。いじめられている方を助けるだけでも立派ですし、私たちに何事もないように、自分で体を張っていたんです。とってもかっこよかったですよ。」
リアンダーは指揮官の方を向いて笑顔で言った。指揮官の顔を夕日のように赤くなった。
「それに、指揮官様の可愛らしいところも見られました。ちょっとハプニングはありました。でも、私は今日のデート、楽しかったです。」
「ああ、私も楽しかった。怪我はしたけど、こんな痛みより、君と一緒にいられて良かった。」
「良かった……指揮官様も楽しんでくださったのですね。」
リアンダーも実は緊張していたため、指揮官の言葉で安堵した。
「指揮官様……また、デートに行きましょうね。」
そして、一切の屈託のない笑顔で言った。太陽よりも輝いていて、どんな怪我だってたちまち直してしまうような笑顔だった。
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第18話「リアンダーVS赤城」
リアンダーとのデートから数日後、指揮官の怪我はほとんど完治していた。
「指揮官様、もうお怪我の方は大丈夫そうですね。」
「ああ。元々それほどでもなかったからな。」
指揮官は椅子に座っている状態から立ち上がり、腕をぐるぐると回してみせた。それから、リアンダーも安心したようで、2人は仕事に取り掛かった。
すると、扉を叩く音が執務室に響いた。
「指揮官様、よろしいでしょうか。」
それから扉の外からリアンダーとはまた声の違う「指揮官様」という言葉が聞こえた。
「赤城か。入ってくれ。」
指揮官がそう言うと、赤城は扉を開けて部屋に入って扉を丁寧に閉めて、指揮官の机に近づいた。
「ご機嫌よう、指揮官様、リアンダー。」
「ご機嫌よう、赤城さん。」
赤城がやや語調を強めるのに対して、リアンダーは普段通りにふわふわとした雰囲気で挨拶を返した。
「実は今回は指揮官様への直接の話ではなく、リアンダーと少し『お話』をしたいと思ってきましたの。」
「リアンダーと?まあ仕事の方は私がやっておくから、リアンダーが良ければ、話をするといい。」
指揮官はやや不吉な雰囲気を感じながらも、赤城の言葉を受け入れた。
「分かりました。それでどのような用事でしょうか?」
「勝負ですわ。リアンダー。」
リアンダーは相変わらず柔らかな語調を崩さずに尋ねると、赤城はリアンダーを指さし、言い放った。
意外な言葉のため、指揮官とリアンダーは数秒間何も反応を示さなかった。
「演習か?それなら、リアンダーだけに言うよりは、私から他の子に言った方が早いと思うが。」
指揮官が最初に沈黙を破った。
「いいえ、これは私闘です。先日の怪我、そしてニュースを見ました。」
赤城が示しているのは、先日のリアンダーと指揮官のデートの時に、指揮官が怪我をし、それに関係するニュースが報道されたことである。
「指揮官様に怪我をさせてしまうようでは、秘書艦として認める訳にはいきませんわ。勝負です、リアンダー。」
「いや、あれについてはあくまで私の判断であって、リアンダーに責任はない。」
指揮官がリアンダーの返答の前に説明をしようとすると、赤城は指揮官に向かって妖しく微笑んだ。
「しかし……」
「分かりました。」
「リアンダー!」
指揮官は怯まずあくまで自分の責任と言い張ろうするが、赤城が喋る前にリアンダーが勝負を受け入れた。指揮官はそれに対して、驚きから声を荒らげた。
「大丈夫ですわ、指揮官様。赤城さんが、何か危害を加えるはずはありませんもの。」
リアンダーは女神のような笑みで指揮官に向かって言った。
「勝負は3つ。演習、執務、料理ですわ。」
「演習と執務は分かりますが、お料理……ですか?」
リアンダーは酷く困惑した。
「ええ、指揮官様のために必要なことですわ。」
リアンダーの困惑は変わらなかった。
「よくわかりませんが、勝負は受けますわ。」
「それでこそ。それでは私は退出します。日程などは決めておくので、また後で連絡しますわ。」
そうして赤城は指揮官に一礼して背を向け、退出した。指揮官は茫然としてそれを眺めるだけだった。
ややあって、指揮官は心配そうにリアンダーに視線を投げた。
「大丈夫ですよ、指揮官様。赤城さんはとても聡明な方です。意図はわかりませんが、危険なことではないでしょうし。」
リアンダーは繰り返し指揮官に心配ないと言い続けた。ヤンデレ気質については勘づいていないことから、指揮官とリアンダーには認識の相違がある。指揮官は一抹の不安を抱えながら過ごすことになった。
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第19話「リアンダーVS赤城Ⅱ」
赤城の宣戦布告から1週間後、ルール発表もあり、リアンダーと赤城の勝負が始まることになった。今は演習場で艤装を装着している。観客のKANSENたちも何十といる。
「それでは、これよりリアンダーと赤城の演習を始める。空母と前衛艦との戦い方の参考になるはずだ。よく見ておくように。」
審判を務める加賀が戦闘開始の合図を出した。「空母と前衛艦との戦い方」という体裁であった。
近距離での戦闘開始ではリアンダーが有利すぎるため、互いになんとか相手を視認できる程度の距離を取ってから始まっている。赤城はまず艦載機を発進させた。遠距離では空母が圧倒的に有利である。リアンダーはまずは距離を詰めることに専念した。
「指揮官、あれは大丈夫なの?」
隣にアキリーズが近づいてきて指揮官に尋ねた。
「KANSENでなければ、圧倒的にリアンダーは不利だろう。しかし、君たちKANSENと人間が乗る船は戦い方も何もかも違う。」
指揮官は腐っても指揮官として今まで戦ってきた。冷静に分析をした。
「でもリアンダーに対して、赤城の表情……読めませんわね。」
戦術家であるエイジャックスは赤城に対して何かを察したようだ。
「それにしても、2人ともリアンダーが心配なんだな。」
「だって相手はあの赤城だよ。」
どうやらKANSEN同士の間でも赤城の人格は知れているようだ。
「一番気になってるのは指揮官なのではなくて?」
「ああ、私も胸騒ぎがな……。」
普段のエイジャックスなら、ここで一発指揮官をいじり倒すところだが、今日はそれはせずに、すぐに演習場で戦う2人の方へ視線を戻した。
赤城の艦載機の攻撃で、リアンダーは思うように近づくことができていない。しかし、少しずつだが、爆撃の雨をかいくぐりながら、何とか近づいている。
(流石赤城さん……正確な航空攻撃ですね。それだけでなく、巧みに動かして迎撃しにくくさせています。)
(各国代表クラスではないと侮っていましたが、中々隙のない……っ!)
リアンダーはまだ冷静だが、赤城は段々と苛立ちを感じてきた。艦載機に頼る空母の性質と、1対1という性質上、艦載機を失うことは大きな打撃となるため、赤城は迂闊に攻めることができない。
そうしていくうちに、互いの距離は縮まり、リアンダーの主砲の射程圏内に入った。しかし、既にリアンダーの艤装には所々に焼けた跡がある。
「ふふふ……攻撃が当たるようになったのは、あなただけではありませんわ。」
赤城はにやりと笑って、航空攻撃を再開した。リアンダーにとって一番怖いのは爆撃ではなく、攻撃機による雷撃である。ここまでは躱せていたが、距離が近づいていくにつれて、赤城の視界に入り、その正確さは増していた。
(これは厳しいですね。ここは一気に距離をつめて魚雷で……っ!。)
リアンダーは自らの進行方向に煙幕を張った。艦載機の攻撃も正確さが失われる。
煙幕の中からリアンダーが抜け出すと、すぐ近くに赤城がいた。
「こう近づけば、四方からの攻撃は無理なはずです!」
リアンダーは普段の表情からは考えられないような、鋭い表情で言い放った。そして魚雷管から攻撃を放った。
赤城に命中してリアンダーが勝利……リアンダーだけでなく、この演習を見ている者たち全てが思ったことだった。しかし、KANSENの艤装が壊れた程度ではない、大きな爆発と水しぶきが2人を包んだ。
爆発と水しぶきが終わり、よく見えるようになると、そこにはぼろぼろの赤城とリアンダーがいた。両者とも艤装はほぼ破壊され、戦闘不能状態である。
「赤城さん、この戦い方は危険すぎます!」
「この戦い方が赤城の『覚悟』ですわ。それに、ちゃんと怪我はないようにしたでしょう?」
「それでも危険ですわ!」
どうにか水上に浮かんでいる2人が言い争いを始める。
演習を見ていた者たちからもざわざわと言葉が聞こえてくる。
「勝負あり!この勝負は引き分けだ!」
加賀は2人の様子を見届けてからそう叫んだ。そして、言い争っている2人の方へ駆け寄っていった。
「奇策ですわね。それに、あの土壇場で狙った部位は艤装だけ……流石の練度です。」
エイジャックスは感心したような、しかし怒りを込めたような口調で言った。
「指揮官、リアンダー大丈夫かな?」
アキリーズはまず心配だという様子だ。
加賀がリアンダーと赤城を連れて戻ってきた。リアンダーは暗い顔で、対して赤城は満足げな顔だった。
「ふふふ……指揮官様、赤城の『覚悟』を見てくださいましたか?」
「ああ、よく見ていた。確かに君の『覚悟』は素晴らしい。だが、演習程度でそれはやるな。そんな戦い方を普段から認める訳にはいかない。」
「わかりました……申し訳ありません。」
赤城は素直にしおらしく謝った。
(でも、指揮官様の為ならば、赤城はこの命すら惜しくありませんわ。)
「さて2人とも、まずは怪我がないかチェックして、休んでくれ。続きはそれからだ。」
リアンダーと赤城は頷くと、母港の建物へと入っていった。アキリーズとエイジャックスがリアンダーについていこうとしていたが、指揮官はそれを止めた。赤城の反感を買わないようにするためだ。
「指揮官、すまない。姉様が。」
加賀は申し訳なさそうに言った。
「ああ、彼女の気持ちはわかっているつもりだ。しかし……彼女の抑えるには君が必要なようだ。こちらこそすまない。」
指揮官は加賀に頭を下げた。
「指揮官がそう簡単に頭を下げるべきではない。姉様のことはわかっている、任せてくれ。」
(私も彼女としっかり向き合わなくてはいけないな。)
そして、最後に指揮官は玉砕のような戦い方はしてはいけないと、集まっていた母港の皆に言ってから、解散した。
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第20話「リアンダーVS赤城Ⅲ」
リアンダーと赤城の壮絶な演習から数時間後、2人はどちらがより事務処理能力が高いかということで、指揮官の仕事を使って競うために、指揮官の執務室に集まった。
今回の戦いでは、その内容上、観客はおらず、そもそも誰も興味を示さなかった。
リアンダーと赤城の目の前に、指揮官は書類を分配した。
(よく考えたら結局私がチェックするから、手間は増えてるんだよな……まあ赤城の気を静めるためならやむを得ないか。)
指揮官はそんなことを考えながら、開始の合図をした。時間は1時間である。リアンダーと赤城は書類を手に取り、目を通し始めた。
少しすると、リアンダーが手を挙げて指揮官を呼んだ。
「指揮官様、この案件はどうしましょうか?」
「これは一度、私が自分で調べにいかないとだめだな。横に置いておいてくれ。」
指揮官がそう指示をすると、リアンダーはその書類を邪魔にならないところにどかした。
(ふふふ……愚かですわね、リアンダー。私は指揮官様の考えを完璧に把握していますわ~。)
赤城は心の中で勝ち誇った。事実、その書類の点検のポイントは指揮官の普段している通りだった。
「赤城も何か悩む点があったら言ってくれ。別に減点はしないから。」
「ええ、赤城にお任せください。」
赤城は指揮官の言葉に肯定とも否定とも判断しにくい返答をした。
開始から50分経った。2人とも熱心に取り組み、もう仕事はなかった。指揮官は、その様子を確認して、2人に許可を取ってから試合の終了を宣言した。
「私が中身はチェックしておく。2人は訓練に戻ってくれ。疲れたなら休んでいてもいい。」
「赤城はこのくらいで疲れたりなんてしませんわ~。」
「でもやっぱり、指揮官様のお仕事は大変ですね。いつもお疲れ様です。」
赤城はその通り、勝ち誇った様子で執務室を後にした。リアンダーはやや疲れた様子で部屋から出た。
そして指揮官は2人の成果である書類を点検した。2人ともよく仕事に取り組んでいて、大きなミスはなかった。赤城はやはり、指揮官の判断と同一のことが書いてある。一方リアンダーは、そういう類のものは指揮官に尋ねてから判断をしていた。指揮官はこの勝負をどちらの勝ちとも言えなかった。
(私の考えに近いものを、確認もとらずに遂行した赤城の手腕は素晴らしい。しかしだからといってリアンダーがダメな訳ではない。むしろ、都度私と相談しようとする姿勢は評価されるべきだ。言うなれば、私の代理を任せるならば赤城で、秘書艦としてはリアンダーといったところか。さて、どちらの勝ちとすべきか。)
1時間後、指揮官は改めて、赤城とリアンダーを執務室に呼び戻した。2人とも穏やかに、ゆっくりと部屋に入った。
「さて、この勝負だが、秘書艦としてはリアンダーの勝利だと思う。しかし、単純に執務の能力としては赤城の方が優れている。ゆえに、私としては引き分けとしたい。」
赤城もリアンダーも驚いた。
「しかし、執務能力で赤城さんが勝っているのならば、赤城さんの勝ちではなくて?」
リアンダーはそう言った。赤城はひとまず、その言葉を静観した。
「確かにそうとも言えるが、私の秘書艦としては、私と共に歩むことが要求される。君の私と相談して決めいこうという姿勢はとても大事だ。特に前例のないことなどではな。」
リアンダーは納得したようで、しかし引き分けというのは、やや手心が加えられているのではないかと疑った。
「さっきも言った通り、赤城も優れている。仕事のスピードはリアンダーよりも上だ。私の代理を任せるなら君が適任だろう。」
赤城はやや納得がいかないという表情だった。
「リアンダー、こうなったら料理で決着をつけましょう。」
赤城は少し考えてから、リアンダーの方へ向き直って言った。リアンダーもそれに頷いた。
「それなら、今日はもうだいぶ時間が過ぎたから、明日にしよう。いいか?」
これにはリアンダーも赤城も異論はなかった。
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