艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い (マロンex)
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プロローグ

「〇〇君はもう少し人の気持ちを考えようね」

 

「人の気持ちを知らないで、、不愉快なんだよお前」

 

「あなたはもう少し相手の立場に立って考える努力をした方がいいよ」

 

小学生の頃から私は周りの人間に口々に似たような言葉を投げられた。

私はどうやら人の気持ちを察するのが下手な人間らしい。

 

 

そして23歳になった今、提督という肩書きがついたがその性格?は一向に改善はしていなかった。

現に今、、

 

(うーんわからない、、)

 

鎮守府内の病院、その病室のベットで気持ちよさそうに眠っている艦娘をよそにえらく神妙な顔をして考え事をしている提督が一人そこにはいた。頭を抱え、立ち上がり病室をぐるぐると回ると、また椅子に座り再び頭を抱えた。

そしてこの世の終わりのような絶望を含んだ深いため息をついた

 

 

5年ほど前、S鎮守府にこの提督が着任した。

 

『常に最前線で戦い、いつ死んでもおかしくないような環境に身をおく艦娘たちが少しでも幸せに過ごせる場所を作りたい』

 

そんな提督の心遣いもあり、S鎮守府は瞬く間に雰囲気を変えていった。

 

まず労働環境。

ローテーション制の無理のない出撃、遠征はもちろん、意見箱を用意し匿名での希望を出せることを可能としたことにより、常に彼女らの意見を取り入れ柔軟に対応ができる風通しの良さを実現した。

また休むことも労働の一部として、全鎮守府で初となる自由に行動ができる日、所謂、休日というものが週に二回導入された。

次に施設。

彼女らに休日を休日として活かせるよう、提督は様々な施設を建造し、外部の者を雇った。初めは居酒屋や露天風呂など元から鎮守府にある施設の延長線上のものが多かったが、周りの艦娘の要望を聞いていくうちに、マッサージルームやトレーニングルーム、図書館、バーなどありとあらゆる施設が建造された。

 

艦娘の能力は精神衛生が大きく作用されると言われている。

文句のつけようのない環境に艦娘たちは常に士気が最高の状態、加えて優秀な指揮能力を持つ提督によって艦娘の能力を飛躍的に上昇した。その甲斐あって着任してわずか2年足らずで2つの鎮守府が協力しても突破できなかった未開拓の海域をわずか五人の艦娘で突破することに成功。

その後も1隻の轟沈も出さずに劇的な勝利を積み重ね、初めは1桁ほどだった艦娘も功績とともに次第に増えていった。

 

 

当然、周りの鎮守府でも話題になり、艦娘たちの間では「日本で一番着任したい鎮守府」と称され、異動希望者があとを絶たなかった。

そのため周りの鎮守府もこぞって設備や労働環境を充実させ艦娘を囲もうとする異常事態が発生し、それを見かねた大本営が鎮守府全体の労働環境の水準を押し上げるほどの影響を及ぼした。

 

しかしそんな楽園のような鎮守府でありながら、先週、最大戦力の艦娘の一人がストレスからくるめまいを起こし倒れ、病院に担ぎ込まれた。

医者の診断によると、精神的に疲弊をしており落ち着くまではしばらく戦線に復帰は無理らしい。

 

おそらく普通の提督でも疑問符を浮かべてしまうこの事態に、よもやこの提督が理解できるはずもなく、神妙な顔をしたまま、再び深いため息をこぼした。

 

 

ーここから提督視点となります

 

「着任して今日まで、こんなことが起こらぬよう努力をしてきたつもりだったのだが、、」

 

私が考え込んでいると、ドアの開く音がした。

 

「提督?まだいらしてたんですか?そろそろ寝ないとあしたの執務に響きますよ」

 

「おお、もうそんな時間か、すまない考え事をしていてつい、、」

 

「提督はもっと自分を大切になさってください。あなただけの体ではないんですよ?ほら、帰りますよ」

 

明石に腕を引っ張られ、モヤモヤとした気持ちで病室を後にする。病室の時計は深夜の2時を指していた。

 

(日をまたぐ前くらいにきたと記憶してたが、、えらく考え込んでいたようだな、、)

 

考えこむと時間を忘れてしまう、また私の悪い癖が出たようだ。

 

そんな私の表情を見て何かを悟ったのか、引いていた腕をほどき正面に立つ明石

真剣そうに、だが少し悲しそうな表情をしながら私にこう言った。

 

「これだけはいっておきます。今回時雨が倒れた原因は確実にあなたです。ですがそれと同時にあなたのせいではないんです。これだけは時雨が目覚める前に伝えます。あとは自分で答えを見つけてください。」

 

(おいおい、それは私が一番苦手としていることだぞ、、。勘弁してくれ、、)

 

冒頭でもいったように、私は大のつくほど人の気持ちに対して疎い。それを隠すように人一倍努力をし、知識や経験を蓄えたがこの問題だけは全く進展しない。私の悩みの種だ。

 

明石は今にも泣き出しそうな表情をしている私を見て、大きくため息をついたあと、にっこりと笑って、こう言った。

 

「まあ、昔からの付き合いですからね、提督に対して相当な無理難題を言っているのはわかっていますよ。ですので今回は私の方からお助けアイテムをご紹介します。これです!」

 

「これは、、メガネか?特に変なところは見当たらないが、、」

 

「ふっふっふー。ただのメガネじゃないんですよ。名付けて『願望メガネ』です!詳しい説明は面倒なんで省きますが、まあ簡単に言っちゃうと人の願望を覗けるメガネってとこですかね。そのメガネをかけて見た相手の頭の上ににいま一番やりたいこと、やってほしいことが文字として表示されるんですよ。例えば、、」

 

おもむろにメガネをかける明石。

 

「提督はいま、もっと艦娘と話したい、、ですか。意外ですね。」

「なっ!?何故それを、、。」

 

正直驚いた。明石が言ったこの願望は確かに私の本心であり、また着任してから誰にも言ったことのない内容だった。

 

人の気持ちに鈍感な私は人一倍コミュニケーションを避けてきた。なにかの拍子で彼女たちの心を傷つけまいか、溝を作ってしまわないか。長年の苦い経験から無意識に艦娘と距離を置き、積極的に関わろうとしなかった。そしてその現状を最善だとも考えていた。

だが心の奥底で、叶わぬとたかをくくっていたが確かにあった、話したい、と言う願望。それを見事に当てて見せたのだ、信じざるを得ない

 

 

「どうでしょう。少しはこのメガネのすごさわかっていただけましたか?」

 

「うむ、、しかし、、どうやってこんなものを、、?」

 

「ちょうど時雨さんが倒れた後くらいに、妖精さん達が突然作り始めたんですよね。普段は自主的に動くことなんてほとんどないのに、、。それで今日になってその様子を見に行ったら完成してたようで、渡されたんですよね。」

 

「渡された?頼んでいたのか?」

 

「いやいや、全く記憶にないです。妖精さんの開口一番に『やくにたつときがくるから。もっとくです。』って説明書と一緒に渡されただけなので仕組みもわからないんですよね、、」

 

「ふむ、、まあ少し解せないところはあるが正直助かるな。ちょうど時雨が倒れてから私も他の艦娘についてもっと知る必要があると感じていたからな。神のお告げかもしれない。明日からでも少しずつ頑張っていこうと思う。明石、ありがとうな。本当に感謝している。」

 

「気に入ってもらえて何よりです。はい、これメガネです。提督のことなのでないとは思いますがくれぐれも悪用は厳禁ですからね。後それから、、」

 

そう言いかけた明石だったが私の嬉しそうな顔を見て言葉を引っ込めたようだった。

 

(何か言いたげだったようだが、、まあ詮索しないのが無難だろう)

 

おやすみとお互いに別れの挨拶をした後、ふと明石がどんな願望を持っているのか気になり、悪いとは思うが背中越しに確認した。

 

(ううむ、、早くも故障だろうか、、それとも見間違いか?)

 

明石の頭の上には一言『愛されたい』と書かれていた

 

(ううむ、、早くも故障だろうか、、それとも見間違いか?日々の様子を見ても明石がそんなことを望んでいるようには思えなかったのだが、、)

 

私は深く考えずその場を後にした。

 

 

 

 




小説というものを初めて書きましたが、やはり思ったようにいきませんね。地の文と会話の構成とか、情景描写だとか、、。
ずっと読者側だったのですが、作者になって改めて読みやすい文章を書くって難しいって思いましたね。

でも熱意だけはあるのでこれからも書き続けます。
何か小説を書くコツのようなものがあれば教えていただけるとありがたいです。


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曙の願い
決意


今回から本格的に物語を書いていきます。基本は提督視点と艦娘視点を交互に書いていこうと思います。





『秘書艦ローテーション制度』

この制度が我が鎮守府で普及し始めたのは3年前のことである

 

ー3年前 

我が鎮守府では艦娘の幸せが第一をモットーにしていたため、当時一般的であった秘書艦という制度は廃止し、全て私一人で業務を行っていた。しかし戦績に比例して増え続ける艦娘の出撃管理や遠征管理や、それに伴う事務作業等により日に日に業務量は増えていき、ついには勤務時間内では手に負えない量にまで業務が増えていた。しかしそれでもなおこの業務形態を貫き、連日にも及ぶ徹夜で処理をし増えた業務をカバーしていた。だがそんなもの長く持つはずもなく、ある日私は疲労でぶっ倒れてしまった。

 

日本一の人気を誇る鎮守府の提督が疲労で倒れた、という事実を重く受け止めた大本営は直々に秘書艦制度の復活を命じ、つけない場合は処罰の対象とするとの異例の手紙が送られてきた。仕方なく希望制という形で秘書艦をつけることにした。

 

(まあ、わざわざ私の手伝いをしたい物好きはそういないだろう。大本営の命令の手前、形骸的にでも制度としてあることを報告しないといけないしな。一応このような形にして今後も私ができるように考えなくては、、)

 

しかしそんな私の考えとは裏腹にこの通達を出した僅か30分後には執務室に秘書艦を希望する艦娘達の大群が押し寄せ、収拾がつかなくなる事態となった。

 

見かねた私が全艦娘の提督代理育成と事務能力の向上を口実に現在のローテーション制を発案した。艦娘の皆がこの意見に合意したためこの制度が取られるようになった。

 

秘書艦ローテーション制度は実に単純明快。提督が一ヶ月ごとにカレンダーの日付の下に艦娘の名前を書く。

そこの日付の下に名前が書いてある艦娘がその日の秘書艦となる。

月初めに執務室の前にそのカレンダーを張り出され、それを見て艦娘達が秘書艦を把握するというシステムだ。

 

このような経緯があり、我が鎮守府では独自の秘書艦制度が普及した。

 

ー執務室

カレンダーの本日の日付には「曙」の文字。彼女が本日の秘書艦だ。

 

「・・・なさいよ!。起きなさいってば!」

 

時刻は8時少し前、執務開始のギリギリに起こしにきた曙に足で踏まれ、ようやく私は目を覚ました。

 

「んあ?もう朝か、、くそ、、全然寝られなかったな、、」

 

気だるい体を無理やり起こし執務室の横についている洗面所で顔を見ると、私の目の下には大きなクマができていた。

結局明石と別れた後、私はまた時雨について考え込んでしまい、気がついたら明け方になっていた。

 

(7時前には寝たとは思うのだが、、記憶がないな)

 

まだ意識も定まってない私が顔を洗っていると、彼女は隣にたち、タオルを渡してくれた。

 

曙「ったく、、またなんか考え込んでたわけ?ひどい顔よ。、、どうせ先週の時雨の件でもうじうじ悩んでたんでしょ。シャキッとしなさいよ。朝食はあんたがグースカ寝ている間に持ってきたわよ。食べてから執務にしなさいよね」

 

タオルで顔を拭き、視線を机に移すと綺麗に海苔が巻かれたおむすび2つに、崩れかけの卵焼きと少し焦げた焼き鮭、そして具なしの味噌汁が湯気を立てていた。

 

「曙、これはお前が作ってくれたか?だとしたら悪かった。私が寝坊したせいでお前の手を煩わせてしまったな」

 

曙「、、、そうよ。朝の少ない時間をあんたなんかに割いたの。反省なさい」

 

そう言い終えた彼女の顔は次第に曇り、終いには黙ってその場に立ち尽くして考え事を始めてしまった。

 

(精一杯の謝罪をしたつもりだったのだがな、、。よくわからないが気まずい、、。空気を変えなくては)

 

「、、しかしよく私が悩んでいる内容がわかったな、流石としか言いようがない」

 

取ってつけたような褒め言葉であったが、再び彼女はいつもの調子で話し出した。

 

曙「ふん、何年ここにいると思ってるわけ?嫌でもあんたの行動なんてわかるようになるわよ。それより早く食べなさいよ、時間が押してるのよ」

 

彼女は横目で私を少し見つめると、すぐに目を逸らし、俯きながら私が朝やろうと思っていた書類の整理を始めた。

完璧な先回りである。どうやら私が執務前にやる行動を熟知しているようだ。

 

「うーむ、、曙にだけは隠し事できんな。あっこの卵焼きうまい、、俺の好みだ」

 

私は朝食を食べながら彼女を見つめ、小さく呟いた。

 

綾波型8番艦 曙。私が着任してまだ間もない頃から支えてもらっている超古参の艦娘だ。

2年前の未開拓海域の奪還作戦時も編成されていた五人のうちの一人でもあるため、周りの駆逐艦からは『伝説の5艦』として日々尊敬と憧れの対象となっていた。

 

そんな彼女だが気のせいか、年を重ねるごとに次第に元気が無くなっているように見受けられた。また2年前に比べ口数も減り、言葉に覇気がなくなったようにも感じる。よく行動を共にしている潮や漣にも聞いてみたが思い当たる節がないというし、当然私がわかるはずもない。なので現状はひとまず様子をみることにしていたのだが、、。

 

「ごちそうさま。とても美味しかった。後片付けは私がやるから先に書類に目を通しといてくれ」

 

「、、、わかったわ。早く帰ってきてよね、書類は山積みなんだから」

 

「もちろんだ、すぐに戻る」

 

そう言って私は執務室を出て、食堂に向かった。食堂で間宮に意味ありげに感想を聞かれた。

曙に申し訳なさを感じたが、美味しかった。とありのままを伝え、なぜか猛烈に怒られた、わからん、あとで謝るようにって言われたがなにを謝ればいいのか...。

 

食堂からの帰り道、先ほどのことを考え込んでいるとふとあの言葉が浮かんだ

 

ー今回時雨が倒れた原因はあなたです。

 

(そうか、、そうだよな。わからないなら聞くしかない。

今日から少しずつ頑張るって決めたじゃないか。)

 

食堂から戻り、執務室の扉の前で深く深呼吸をした。

 

(大丈夫、お前ならきっとやれる、、大丈夫、、)

 

ずっと避けてきた艦娘とのコミュニケーション。

今までの私なら無理であったがいまはこの不思議なメガネがある。

 

扉を開けると、曙は書類に目を通していた。ゆっくりと歩みを進め彼女の座る机の正面に立ち、勇気を振り絞ってこう言った。

 

「執務を始める前に少し話がある」

 

私は艦娘 曙と真正面から向き合うことを決めた。

 

 




結構短めにしたつもりが意外とプロローグと大差ない分量になっちゃいました。

秘書艦制度の説明をどこに入れるか迷った挙句、冒頭に入れるという暴挙に出ましたか見にくくないでしょうか?
こんな感じで進めていくので何かありましたら感想にお願いします。


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決意その前に(艦娘視点)

これは1話で曙が秘書艦として執務室に訪れる少し前から当日までのお話です。お話前後しちゃうので話数をどうしようか悩み、章で分ける事にしました。艦娘の視点も物語に入るため()内にどちらの視点か書かせていただきます。



※読みにくかったり、何か改善点ありましたら気軽にコメントお願いします。


ー曙が秘書艦の日から遡ること二週間前

 

その日は秘書艦カレンダーの公表日であった

 

月初めに発表される恒例の秘書艦発表の日である。朝8時にあいつが秘書艦予定カレンダーを執務室の前の廊下に張り出し、青葉が写真をとり艦娘専用のコミュニケーションサイトにアップする。艦娘たちは直接張り出された紙を見に行く、ネットでサイトを見るかの2パターンで、それを確認することができるようなっている。

正直、直接見に行くなんて行為は恥ずかしくて到底できないのでこのシステムにはとても助かっている。

 

100人はいる艦娘がローテーションで指名されるこの制度は、単純に4ヶ月に1回ほどペースでしか秘書艦は回ってこない。大抵の艦娘なら選ばれたら嬉しい、くらいの感覚レベルの日だろう。だが私のように普段からあいつに対してきつい言動をとってしまう艦娘にとっては素直に好意を伝えられるかもしれない唯一の日となる。だから一部の艦娘たちにとっては第一志望校の合格発表日よりも重要なイベントとなっている。

 

私が最後に秘書官に選ばれたのが丁度5ヶ月前。いつもなら先月には確実に選ばれていたのだが、先月のカレンダーに私の名前はなかった。ネットでカレンダーを何度も確認し、それでも信じられずバレないように一人で直接見にいきもしたが、やはり私の名前はなかった。

 

(前回秘書艦の時に、きつい当たりしちゃったからかな.....それとも出撃の時に作戦をなじったから...?)

 

考えれば考えるほど思い当たる節が多すぎて嫌になる。

発表されてから目に見えて落ち込んでいた私を同じ部屋の潮と漣は何かあったのではと心配してくれた。

 

「ふ、ふん。なんでもないわよ、本当になんでもないってば...」

 

と強がりはしたが、目に見えて動揺していたためで余計に心配された挙句、我慢できず泣いてしまった。

結局、二人にだけは真実を話したのだった。

 

(今回こそは私の名前がありますように...)

 

私は部屋で、潮と漣とともに、部屋のベッドで携帯の画面が更新されるのを神に祈る気持ちで待っていた。時刻は8時丁度。何度もサイトを読み込み直し、握るスマホにはじんわりと手汗がついた。再度読み込み直すとサイトからピコンと通知音がなり、今月のカレンダーがアップされた。

 

11月

2吹雪 3金剛 4加賀 5時雨 6曙 7明石...

 

「いしょっしゃああああ!!!秘書艦きたー!!」

 

大きくガッツポーズをし、念のため何度も画面を確認しては、本当に選ばれたことを噛み締め、喜びに浸った。

 

潮「曙ちゃん、よかったね!」

 

漣「だから私言ったじゃないですか!ご主人がボノたんを見捨てるはずがないって!」

 

曙「ボノたん言うな!でも...そうねありがと。今回こそは頑張って挽回するわ」

 

先月の秘書艦発表の日、子供のようにわんわん泣いてしまった私を、普段は私に対して軽口を叩く漣が胸を貸し、背中をさすってくれた。潮も泣き止んだ私にホットミルクやら好きなお菓子を持ってきては普段あまり話さない口で必死に動かし、私とお話ししてくれた。そんな二人の優しさに触れ、その日からはこの二人にだけは少し素直に感情を出せるようになった。

現に今回も、秘書艦に選ばれるのか不安だから発表を一緒に見て欲しい、と私から二人にお願いして、いまに至っている。少し前の私なら卒倒してしまうレベルの偉業である。

 

潮「でもよかった。曙ちゃん先月から元気なかったから久しぶりにそんな顔見られて私も嬉しいよ」

 

漣「そうですなあ、あの日以来、落ち着きはしましたが、やはり普段のような覇気を感じられませんでしたからな。私もとりあえず一安心ですぞ。」

 

曙「私も割り切ったつもりだったんだけどね。心配させちゃって悪かったわね」

 

漣「それにしても、、あの時の泣き顔はぜひ青葉殿に写真を撮ってもらいたかったですぞ。伝説の5艦、誰からも尊敬される強気な駆逐艦のボノたんが、あんなに弱々しくなるなんて...。ギャップ萌えで漣が男だったら完全に落ちてましたよあれ。」

 

曙「あ、あんた!あいつにこのこと言ってないでしょうね!」

 

漣「さて、どうですかなあ。漣は水素よりも軽い口で有名ですし...っていはい!いはいよほノたん!」

 

曙「マジで言ってたらこれじゃすまないわよ!どうなのよ!」

 

私は漣のほっぺを両手で引っ張って尋問した。必死に抵抗する漣だが練度の差が物を言い、全く逃げることができない。

 

潮「もう、喧嘩はやめなよ二人とも、でも提督にも実は聞かれたんだよね。曙が元気ないから何か知ってるかって」

 

曙「え!?嘘でしょ!?あいつに!?」

 

引っ張っていた両手を離し、潮に詰め寄る。

 

潮「本当だよ。でも大丈夫。私も漣もわかりませんって言ってあの日のことは何も言ってないし、提督も原因は全くわかってないようだったしね」

 

曙「...まあ、少し複雑だけどよかったわ。と言うかありがと隠してくれて。」

 

正直口を聞くことはおろか、顔を合わせることすら少なくなっていた私をしっかり見ていてくれたことには驚いたし嬉しかった。おそらく艦娘の管理と言う業務の一環だろうがその事実だけでも今の私には十分だった

 

漣「乙女の秘密を守るのは当然の義務ですよ。でもさすがご主人様ですぞ、今回の件もここ1ヶ月のボノたんの戦績を見て違和感に気がつくとは...私達以外で気がついている艦娘すら少数だったというのに。そもそも出撃や遠征でのミスやらなんやらを月単位で見直して100人以上の艦娘の健康を管理する、なんて常人じゃ考えられませんな」

 

潮「そうだね、まるでデータを元に艦娘の精神状態を見てるんじゃないかってレベルで私たちのことよく考えてくれるよね。この前初めて秘書艦やったけど、正直もう2、3人はつけていい業務量こなしてるよ、あれは...」

 

曙「あいつのモットーは私たちの幸せらしいしね。私だって昔そんなことして負担増やすなら、直接話すのがが絶対早いって言ったけど『男の私に色々と言いにくいこともあるだろうしな。それにデータは嘘をつかん、これが私なりのスタイルなんだ』って突っぱねられたわ。あいつはあのやり方が自然なんでしょ」

 

漣「なんだかんだご主人様のことを心配してたんですな。さすがツンデレジェンドですぞ」

 

曙「し、心配なんてしてないわよ、ただあいつがまた倒れたら鎮守府のみんなが悲しんじゃうと思っただけで...。てかその呼び方やめなさいよ、はっ倒すわよ」

 

潮「まあでも、選ばれたからには頑張って提督に嫌いじゃないこと、アピールしないとね」

 

漣「そうですぞボノたん!あくまでこれはスタートライン、合法的にご主人様を独占できる日なんて機会滅多にないですぞ!」

 

曙「が、頑張るったってなにをどうすればいいのかわかんないし、、」

 

潮「簡単だよ。提督の業務を全力でサポートして、楽させてあげればいいんだよ。提督の行動パターンとか事務処理能力は他の艦娘よりも歴が長い曙ちゃんの方が上だしね」

 

漣「あとは私たちに接するように..まではいかないにしろ少しでもそっけない態度を取らないようにするべきですな。それだけでも印象は全然変わると思いますぞ」

 

曙「なるほど、そうね...。潮、漣、本当にありがとう、私今回こそは成功させるわ」

 

それから二週間、秘書艦の日まで、私はあいつの業務内容や行動パターンを紙にまとめ念入りに覚えた。潮と漣はどうやったら自然に接することができるのか、鳳翔さんや金剛さんにそれとなく聞いてリストしてくれたり、あいつの好みの食べ物や趣味を聞き出したりしてくれた。

 

そしていよいよ秘書艦の日、当日。

 

(服装よし、髪型よし、逃げるな私。リストも持ったし、業務内容や行動パターンも叩き込んだ....やれることは全てやったんだあとは私の気持ち次第...)

 

鏡を見ながら念入りに確認をして、大きく深呼吸をした。

 

曙「よし、じゃあ行ってくるわ」

 

潮「頑張って曙ちゃん。曙ちゃんなら大丈夫だよ」

 

漣「ご主人様のハートをキャッチしてくるんですぞ、ボノたん」

 

曙「ボノたん言うな、てかそんなんじゃないし...。でもありがと、行ってくるわ」

 

部屋の扉を開き、曙は一人、2人に見送られながら戦場に向かうかのような足取りで執務室に向かったのだった。




この前の話の曙視点で書いて行こうと計画していましたが、思った以上に前置きが長くなってしまったので前置き(秘書艦に選ばれてから当日まで)と本編(1話の内容)に分けました。(執筆のスピードの問題もあるのですが、、)

だいたい1話って何文字くらいが読みやすいのかなあと日々他の作品も読ませてもらい3000文字前後にしようかと落ち着きましたので、今後はそれを基準に長くなったらまた話を分けようかなと思います。

次回の話も連続して曙視点のお話となります。
1話の内容をなぞる形ですので良かったらご覧ください。



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決意(艦娘視点)

曙視点の1話のお話です。提督が色々と考え事をしている中、曙は曙でこんなこと考えて行動してましたって感じのお話です。



※読みにくかったり何か改善点ありましたら気軽にお願いします。






(まず書類の整理、それから午前中までに資材の確認と作戦の見直しをして午後からは...)

 

私は二週間みっちりと頭に叩き込んだ業務内容を頭の中で復唱しながら執務室に向かっていた。時刻はまだ7時ちょっと過ぎ。執務開始が8時だから少し早く来てしまった気もするがほかの秘書艦をやった子からの情報だとあいつは7時前には起きているとの事だったのでまあ大丈夫だろう。

 

ーコンコン

 

執務室と書かれた扉を軽く叩き、扉を開いた。

 

「ひ、秘書艦の曙よ、今日はよろしく頼むわ!」

 

しかし、その呼びかけに返事はない。中をみるとスヤスヤと寝息を立てて眠っているあいつの姿が見えた。

 

(やっぱり嫌われてるのかな..。いつもなら起きてるって聞いたのに..)

 

最近やたらネガティブ思考に陥る傾向がある。なんとなく心に不安が引っかかっているような不思議な感覚。そのモヤモヤが私をそのような思考に至らしめている感じがする。

 

しかしそれは杞憂であることにはすぐに気がついた。目の下にはひどいクマ、寝てる場所も布団ではなくソファだし、何より電気が点けっ放しであった。大方考え事をして寝落ちしてしまったというところだろう。

 

(先週の時雨の一件からろくに寝てないのかしら。昨日はやっと落ち着いたから見にいったって聞いたけど...)

 

先週の水曜日くらいであっただろうか、我が鎮守府の最大戦力の一人、駆逐艦 時雨が倒れてしまった。遠征の結果報告をしている最中に起きた突然の出来事であったという。原因は今の所不明だが、軽いめまいによるもので、特に命に別状はないらしい。

その時、秘書艦をやっていた榛名の話によると、あいつは倒れた瞬間、読んでいた書類を放り投げ、急いで彼女を抱きかかえるとそのまま鬼のような勢いで医務室に連れて行った。とっさの行動にあっけにとられていた榛名も後から急いで医務室に向かうと、ベットに横になった時雨と、医者に必死に無事かどうか確認するあいつの姿があったという。

 

榛名「提督の狼狽した姿なんて初めて見ましたが、本当に感激してしまいました...。私たちのこと、道具ではなく、人間として大切に思ってくれてるんだなって....」

 

あいつはあまり艦娘と積極的にコミュニケーションを取らないことで有名だ。というか避けてる感じがするレベルだ。

だが不思議と彼に対して不信感を持つものが少ないのはこういった行動の積み重ねがあるからだろう。

 

(にしてもどうするかな..。まだ執務前だし起こすのもかわいそうだし...。そうだわ!これよ!)

 

素直の極意その1『女たるもの料理で語れ』

 

潮と漣のリストに入っていた言葉を思い出し、早速行動に移すことにした。

 

ー間宮食堂

 

間宮「あら、朝早くから珍しい。ごめんなさい、まだ仕込み中なのよね」

 

大きな厨房の奥からすっと顔を出したのはこの食堂の料理長兼オーナーの間宮さん。

 

ここ間宮食堂は鎮守府内の艦娘のほとんどが利用する場所で、間宮さんと伊良湖さん、それに各地方からきたコック見習いをあいつが雇い、常に30人以上で料理を提供している。ここでは以前あった食券制を廃止し、席の机についているタッチパネルでの注文制をとっており、料理が出来上がるとセルフで取りに行くシステムを採用している。席さえ確保できれば、待ち時間や売り切れ、売筋の料理、栄養価などの情報がタッチパネルから確認でき、大変好評である。

 

また出されるものは味はすべて一級品、既存の料理に加え、和風洋風中華、庶民的な料理や最新のスイーツ、期間限定で旬の料理を使った料理など多種多様なメニューがあり、その数は実に100種類以上。

こうなったのもあいつが『栄養が偏らなければ、可能な範囲でメニューの追加を随時行う』

と宣言し、艦娘たちの希望を聞き入れ、間宮さんたちと相談しながら追加していった結果で、現在もメニューは増え続けている。

 

「違うの、今日は..その..て、提督に朝ごはんを作ろうと思って。でも時間ないから手短にできるのを教えて欲しいの...」

 

間宮「あらあら、こんな可愛い子の手作り朝食が食べられるなんて、提督ったら羨ましいわあ」

 

「ち、違う、そんなんじゃ!朝食抜いて執務に支障をきたしたら私が困るって思っただけで...」

 

間宮「はいはい、曙ちゃんは本当優しいわねえ」

 

「だからそんなんじゃ...」

 

間宮「とりあえずこっちにいらしゃい。時間もないことだしシンプルでオーソドックスなメニューにしましょう」

 

間宮さんに呼ばれ、厨房の中へ。中にはいり手を洗っている間に用意されていたものは卵、味噌、シャケ、海苔とご飯だった。

 

間宮「作るのは卵焼きと、お味噌汁、おにぎりと焼きジャケってとこかしらね。」

 

曙「わかったわ。間宮さん、じゃあまずは卵焼きから....」

 

間宮さんに教わりながら、おぼつかないながらも執務前ギリギリには一通り完成させることができた。

 

「あとはこれを持っていくだけね。うーんでもこれ全体的に不恰好....」

 

間宮「大丈夫よ、曙ちゃんが一生懸命作ったことに意味があるんだから。提督もきっと喜ぶわ」

 

「ありがとう、間宮さん、じゃあこれ少し借りるわ」

 

間宮「はーい。後で感想聞かせてねー」

 

間宮さんに見送られ、両手でお盆にのせた朝食を運びつつ、軽く会釈をして食堂を出た。

 

執務室に入ると、まだあいつは寝ていた。私は机の上にお盆を置いて、叩き起こした。

 

「起きなさいよ!起きなさいってば!」

 

足で寝ている提督を小突く。

 

提督「んあ?もう朝か....くそ...全然寝られなかったな....」

 

そう言うとあいつは、ゆっくりと起き上がり、よろよろと洗面所に向かった。

 

素直の極意その2『好きの気持ち、言葉が無理なら行動で示せ』

 

(きたっ!嫌っていないことと気がきくところを同時にアピールできるチャンスだわ!)

 

自然にあいつの横をとり、用意されていたタオルを渡した。よし、朝食持ってきたこと伝えるきっかけもできた。

 

曙「ったく、、またなんか考え込んでたわけ?ひどい顔よ。....どうせ先週の時雨の件でもうじうじ悩んでたんでしょ。シャキッとしなさいよ。朝食はあんたがグースカ寝ている間に持ってきたわよ。食べてから執務にしなさいよね」

 

そう言うとあいつは執務室の机を見た。最初は少し嬉しそうな顔をしたものの、すぐに困った顔になり、私の方を見た。

 

提督「曙、これはお前が作ってくれたか?だとしたら悪かった。私が寝坊したせいでお前の手を煩わせてしまったな」

 

「、、、そうよ。朝の少ない時間をあんたなんかに割いたの。反省なさい」

 

(そこは嘘でもありがとうとか嬉しい、って言ってほしかったな..。謝罪されるくらい距離置かれて、警戒されてるってこと?....。朝から張り切って、舞い上がって、なんかバカみたい...)

 

どんどんと自分でも訳のわからない負のループに陥っていると、あいつは気まずそうに椅子に座り朝食を食べ始めた。そして等々に重たい口を開いた。

 

提督「...しかしよく私が悩んでいる内容がわかったな、流石としか言いようがない」

 

(そ、そうよ、たとえ距離が置かれていようと、嫌われていようとあいつを昔から支えてきたのは事実よ、自信を持ちなさい私!)

 

「ふん、何年ここにいると思ってるわけ?嫌でもあんたの行動なんてわかるようになるわよ。それより早く食べなさいよ、時間が押してるのよ」

 

提督「うーむ、、曙にだけは隠し事できんな。あっこの卵焼きうまい、、俺の好みだ」

 

(情報通りあいつは甘めの卵焼きが好きなようね。練習をした甲斐があったわ。漣と潮には後でお礼を言っとかないとね)

 

小さなその声を聞き逃さなかった私は、食事をする提督から見えないように小さくガッツポーズをした。間宮さんには砂糖の量を間違えた、と嘘をついてしまったが、あいつ好みにできてよかったとホッと胸をなでおろした。

 

提督「ごちそうさま。とても美味しかった。後片付けは私がやるから先に書類に目を通しといてくれ」

 

出された朝食をきれいに平らげると食器を重ね立ち上がった。美味しかったんだ。何だろうすごい嬉しい。

 

「...わかったわ。早く帰ってきてよね、書類は山積みなんだから」

 

嬉しさの反動で、少し本音が出てしまい慌ててとってつけたような言い訳をしてしまった。今どんな顔をしてるんだろうか、恥ずかしい。

 

提督「もちろんだ、すぐに戻る」

 

そう言うとあいつはお盆を持って、静かに執務室を後にした。私は一人黙々と書類を整理し、考え事をしていた。

 

(やっぱり違う、これは私の勘違い。あいつは私のこと嫌ったりなんかしてないわ。不安なら聞けばいい。私としたことが何をうじうじしてたのかしら)

 

扉を開く音、あいつが帰ってきた。すると何を思ったのか、ゆっくりと歩みを進め私の正面にきた。

 

提督「執務を始める前に少し話がある」

 

その呼びかけに横目であいつを見る。普段の困り顔ではない、真剣な顔がまっすぐに私を見ていた。

私は不安で震える手を必死で抑え、書類を置き、彼を見る。

 

(今度こそ素直になるんだから)

 

私は提督と正面から向き合うことを決めた。

 




はい、と言うことでやっと1話が終わりましたね。難しいのはもちろんなんですが、どうも物語に入れたい要素が多すぎて間延びしちゃう感があるんですよね。そう考えると、読みやすい物語ってそう言うところがうまく凝縮されている気がしますね。

次回は提督視点。ついに正面から向き合おうと決めた提督、果たして彼女と何を話すのでしょうか。


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すれ違い 前編(提督視点)

1話のお話の続きになります。読み返して思ったのですが、やはり少し間延びしてる感があるのでここからはは試験的ではありますが、早い展開で進めようと思います。



曙「は、話って何?執務時間なんだからくだらないことは後にしてよね」

 

「話というのはその...なんだ、最近どうだ?」

 

(なんだそれ、何も考えてなかったとはいえお前は久々に娘に会うお父さんか)

 

面と向かって話すとは決めたが、内容もろくに決めずに話し出したため、自分でもよくわからない質問をしてしまった。

そんな私の様子を見て、ため息をつきながら彼女は口を開いた。

 

曙「どうって...。別に何も変わりないわよ。遠征、出撃共に安定してるし、艦娘の被害も最小限。新海域もそう遠くはないと思うわ。本当、提督の指揮さまさまね」

 

「いや、すまん。そういう話ではなくてな...」

 

曙「あー!もうじれったい!何が言いたいわけ?」

 

(まずいな、かなりイラつかせてしまっている。これはもういきなり本題に行くしかないな)

 

「うむ..話というのはな、曙。その、勘違いだったら申し訳ないが最近元気がないというか、何か悩んでいるように思えてしまってな。もし私に話して解決できることがあれば力になりたいと考えているんだが、何かあるか?」

 

 

そういうと彼女は少しの間だけ、困ったような顔をし、何かを考えているようだった。

しかし何か思いついたのか少し嬉しそうにこう切り出した。

 

曙「...。そ、そうね。特には思いつかないけど..強いていうなら最近だれかとゆっくり話す機会が少ないわね。私こう見えておしゃべりなんだからそういう時間は大切にして欲しいわね!」

 

「ふーむ...それは出撃や遠征が多くてなかなか人と話す機会がなくていや、ということか?そういえば最近緊急出撃や欠員補充の遠征に曙を使う機会が多かったな、それは私の管理不足だ、すまんな」

 

(確かに最近、よく曙を頼ってしまっていたな、最古参で信頼をおいていたとはいえ少し甘え過ぎていたのかもしれない。親しき仲にも礼儀あり、少しこの体制も見直す必要があるな..)

 

曙「なんでそこで謝んのよ...。でもその代わり.....ね、その埋め合わせというか..そういうのも必要じゃないかなって。ここの鎮守府、設備はもちろんだけど、近くに娯楽もたくさんあるしね。実は私、遊園地とか動物園行ったことないし少し興味あるのよね」

 

そう言うと、彼女は私の方をチラチラとみては何か物欲しげに訴えかけている。なぜか少し頬も赤い気もする。

 

「なるほど...。正直に言ってくれてありがとうな、曙。よくわかった。では埋め合わせをするとしよう」

 

曙「え?本当に!?じゃ、じゃあ...近いうちに私とゆ...」

 

「早速だが曙には本日より2日間、休日を与えよう。もちろん緊急出撃や遠征はなし!完全なる休暇だ。その間に曙がやっていた業務は私が責任を持って請け負おう」

 

曙「きょ、今日?...でもそれって今日の秘書艦もなしってこと...?それじゃあ...」

 

「安心してくれ、本日の業務は私一人でも十分に回せる量だしな。朝起こしてもらったり、朝食を作ってもらったりと迷惑をかけた件の精算もしたかったし今日の秘書艦はなしとするよ」

 

 

曙「で、でも私一人でお休みもらったって話す相手すら...」

 

「もちろんそこも考慮しよう。この紙に一緒に休暇をとりたい子の候補を3人まで書いてくれ。私の手腕と他のものの予定にもよるができる限りその子も一緒に休めるように休暇を手配しよう。」

 

私は得意げに机から休暇申請希望の紙を取り出し、曙に渡した。受け取った彼女はまだ不安そうな顔をしている、私はさらに続けた。

 

「安心しろ、そんな顔してるってことは、自分が抜けた穴が影響しちゃうんじゃないかって思ってるんだろう、大丈夫だ。最近は教育にも力を入れていてな、曙の手を借りずとも実は回せるようにやっとなったんだ。...まあ本当にここ一週間ほどのことなのだが..。ともあれ君はなんの気兼ねもなく休めるってことだよ。本当に今までありがとう。感謝している。これはほんの少しではあるが私からの礼だ。」

 

(ふっ、少し臭いセリフだったかな。まあいい。しかしあれだな、話して見るものだ。こんなにあっさりことが進むなんて。このメガネも必要なかったな。あ、でも正直秘書官がいなくなるのは業務量的に厳しいな..あとで他のものにお願いするとしよう)

 

優しい笑みを浮かべ、彼女の肩に手をおく。彼女は心なしか震えているようだ、そんなに嬉しかったのか?

 

曙「.....わかったわ。あんたがそれを望むなら...私はそれを受け入れるわ」

 

「う、うむ。ではこの紙に名前を書いて今日中に私のところに持ってきてくれ。急ぎで申し訳ないができるだけ早めに頼むぞ!ゆっくり休んでこいな」

 

彼女は何故かトボトボと重たい足取りで扉に向かって歩き出した。何回か私の方を見ては「本当にいいの?」と言った目で私を見てきた。無理もないか、今までこんな待遇したことないもんな。遠慮してしまうのも無理はないか。

 

だがしばらく私が無言で眺め続けていると、観念したのか手をぎゅっと握り、ガッツポーズ?をして部屋を出て言った。

まったく昔から素直じゃないやつだ。

 

(うーむしかし思い立ったら吉日というが、流石に急すぎたかもしれんな。そういえば訓練生時代の旧友ががここら辺に来ていると風の便りで聞いたな....。どれ、なんだか会話もスムーズになった気がするし、久々に連絡を取って施設のことでも聞いて見るか)

 

私はこのとき曙のとんでもない地雷を踏み抜いていたのだが、そんなこと知る由もなかった。

 




はい、ということで今回のお話は少し短めですね。提督の人の気持ちがわからないという部分をどう表現しようか悩みましたが、こんな形で前面に出すことにしました。

執筆の都合上、できるだけ頻度高めに描きたいので今回はいつもよりかなり短めにしてみました。どうでしょうか。

気軽に感想いただけるとありがたいです。



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すれ違い 後編

新キャラ紹介

女提督:提督の幼馴染。提督の過去を知っている人物であり、話すことのできる数少ない友人の1人。

大鳳:女提督の護衛。鎮守府から出る際は必ずついてくる。女提督の鎮守府の初期艦。

時系列的には提督が曙に休暇を言い渡してからとその後くらいです。今回は視点があっちこっちに行く回なので、どっち視点かは物語内で明示します。


ー女提督視点

 

突然の電話、相手は提督だった。私は不自然に早く取らないように、少し置いてから、ゆっくりと携帯を耳元に寄せた。

 

「はーい、もしもし、あんたから連絡なんて珍しいわね。どうしたの?」

 

『いやな、近くにきていると風の便りで聞いてな、聞きたいこともあるから連絡とっただけなんだが』

 

「あーなるほどね。そうよね、あんたがなんの用事もなく連絡よこすわけないものね。で、聞きたいことって何よ」

 

『相変わらずなんかトゲのある言い方だな.....。聞きたいことってのはその辺、施設というか、遊ぶところたくさんあるだろ?なんか女性目線で見て楽しそうなところとかを教えて欲しいんだよ』

 

「女性目線で...?あんた、か、彼女できたとかじゃないでしょうね!!誰よ!まさかついに艦娘に手を出したの!?」

 

思わず大声を出してしまった。訓練生時代から浮いた話の一つもない、と言うか私以外の女は寄り付こうともしないような悲しき男から突然女を匂わせる発言が飛び出したのだ。驚くなと言う方が難しい。

 

『違う違う、実はな自分の艦娘の1人に休みを取らせてな、その子が休暇を楽しく過ごせるように一応こちらからもリサーチしておきたいと思っていてな....』

 

「あー、そうゆうこと、そういやあんたの鎮守府、休日制度あったものね。でもなんでこの子にだけそんなにするのよ。休暇なんてあんたの鎮守府ならだれかは必ずとってるでしょ」

 

『まあ、そうだな。まずはこうなった経緯から話すべきかな...」

 

そこからあいつはその曙って子に悩みがあるか聞いたこと、そこから休日を与えた一連の流れを嬉しそうに語っていた。外野から聞いてる私ですら悲しくなってくる見当違いの優しさ、ダメだこいつ、昔から何も変わってない。

 

「..........。あんたそれまじで言ってんの?....その子どんな反応してたのよ」

 

「どんなって...喜んでたさ。まあ真面目なやつだからはじめは秘書艦はいいのかとか、1人で行ってもしょうがないとか言ってたけどな。最後の方なんか嬉しすぎてガッツp...」

 

「もういい分かった、そして決めた。ここの近くの遊園地のチケットが2枚、今ちょうど私が持ってるわ。これ今から送るから明日にでもその子誘ってあんたが行きなさい」

 

「は、はあ!?なんだよ突然!せっかくのあいつの休日を台無しにしたいのか?さっきも言ったように休暇は他の子も同時に取れるようにしてあるんだ、そっちを優先するだろ?」

 

「それで他の子優先するって言うならいいわよ、チケットは捨てちゃってちょうだい。でも予言してあげる。その子必ず休暇申請は空欄で出してくるわ、もしかしたら休暇なんていらないって言い出すかもね。」

 

『そんなわけないだろ、なんなんだよさっきから』

 

「なんでもよ、そこまで言うなら私の予言当たったらあなたからちゃんと誘いなさいよね。あ、証拠として遊園地行った後の写真も忘れずに送りなさい。あんたの事だから変に言い訳作っていかないかもだしね。じゃあせいぜい頑張りなさいあほ提督」

『あ、待て話はまだ』ーピッ

 

あいつが話している途中で私はしびれを切らして切ってしまった。

 

「ったくあいつは...どうやったらああいう思考回路になるか逆に知りたいわよ!」

 

少しむくれている私を、まあまあと落ち着かせる大鳳。それに甘え、ひとしきり私が愚痴を言いまくるのを黙って聞いていた彼女だったが、しばらくすると少し曇った顔で私に問いかけてきた。

 

「よかったのですか?あのチケットはあなたが誘う予定で買ったのでは?とても楽しみにしていたように見られたので...

 

「いいのよ、あんなチケットいつでも手に入るわ。それに私が思いつきで使うよりよっぽど有意義な使い道で後悔なんてないわよ」

 

「そう..ですか...。あなたがあの提督を本当の意味で好いているのはわかります。でも...」

 

 

「でも、何よ大鳳。いいのよ、私の願いはあいつが、あいつの周りも含めて幸せになる事よ。でも今の話だと、曙ちゃんて子は今確実に悲しんでるわ。あいつの周りの幸せのため、その延長線上の行動の最善がこれだったってだけよ」

 

「幸せ....ですか。私にはあの鎮守府は提督含めとても幸せそうに見えますが...」

 

「本当の幸せなんてさ、大鳳。そんな側から分かるような単純なものじゃないよ。人にはそれぞれ幸せの形があって、その瞬間を手に入れるためにに多くを経験してる。それは富や名声からほんの些細なことまで、違いはあっても優劣はない、その人にとってどうかで決まるんじゃないかな。例えば、ほらっ」

 

私は大鳳の手を強く引っ張り、彼女を胸に抱き寄せぎゅっと包み込んだ。唖然としていた彼女だったがだんだんと力を緩めていき、そっと私に身を委ねた。

 

「そう..ですね...。何と無く言いたいことがわかりました。私今、多分あなたが思っている以上に幸せです。」

 

そういってぎゅっと私の服を握る大鳳の手はしばらく私を離しそうになかった。

 

「頑張りなさい、優しいけどアホな提督さん。私の初恋相手なんだからこんな事で逃げたりしたら承知しないわよ」

 

私は彼のいるであろうと奥に見える鎮守府を眺め、小さく呟いたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー曙視点 執務室近く廊下

 

手に持った休暇申請希望書を持ちながら、私は1人、とぼとぼと歩きながら考え事をしていた。

 

『ー迷惑をかけた清算もしたいし』

『ー曙の手を借りずとも実は回せるように』

 

(やっぱり、私嫌われてるんだろうな....あんな距離の置かれ方したら嫌でも分かるわよ)

 

どうしてこうなってしまったんだろう。

他の子のように素直に気持ちを出せたら変わっていたのだろうか。

少しでも本音をありのまま話せてたら誤解も生まれなかったのだろうか。

 

また始まったネガティブな思考の負の連鎖はとどまることを知らないのだった。

 

(でもこれでいいのよ、私が望んでいるのは、私の幸せじゃない、あいつの幸せよ。それがどんな形になろうと受け入れるって決めたじゃない)

 

あの休暇の話を出され嬉しそうなあいつの笑顔を見たとき、私は決意した。いつまでもしがみつかないと、どんな関係であれあいつを思った行動をしようと

 

「....わかったわ。あんたがそれを望むなら...私はそれを受け入れるわ」

 

今にも泣きそうだった、だけど私は必死にこらえた。だってあいつはどんなに私のことが嫌いだって、どんなに距離を置いていたって私が悲しめば、どんなに私が憎くったって一緒に悲しんでくれる、私が泣けばきっと嘘でも優しく接してくれる。そんな奴だって知っていた。

だからこそ、あいつには一番あいつが自然な距離で接することができるいまの状況を受け入れよう、そう思って出た言葉だった。

 

(廊下でずっと悩んでたけど....やっと気持ちの整理ができたわ。私はこの現状を受け入れる。それが最善。漣と潮でも誘ってゆっくり羽を伸ばそうかしら...ってあれ?)

 

自室に戻ろうとした時、ふと榛名が執務室に向かうのが見え、私は反射的に彼女の後を追ってしまった。

彼女は執務室に入ると、提督の横で書類の整理を始めた。

 

「・・まないな榛名。もしかしたら明日・・・」

「いえ!・・・お役に立てて・・・どこい・・」

 

ドア越しに覗くように見ていたので、会話はよく聞こえないが、一つだけはっきりとわかることはある。

 

(これって....。秘書艦の業務...よね。私がいなくなってすぐ榛名に頼むなんてね...。実際に見ちゃうとキツイわね....)

 

覗いているのに気がついたのか、あいつがこちらを見た。逃げようとしたが私はいまの状況のショックで動揺してしまい、思わず尻餅をついて転んでしまった。

 

「あ、曙か?大丈夫か、そんな変な体勢で転んで、捻挫とかしてないか?」

 

すぐに近くに寄ってきたあいつは膝をおり、心配そうにこちらを眺めてきた。

 

(やめてよ...優しくしないでよ...私きめたのに...どうして...)

 

今までの思いが、不安が、悲しみが、ショックが、一気に濁流のように流れ出し、それは涙という形であいつの前に溢れ出た。必死に嗚咽をこらえ、私は

 

「...休みなんてっ...要らない....がらっ...謝る..がらぁ...」

 

突然泣き出した私に、狼狽していた提督だったが、私の落とした申請書を慌てて拾い上げその内容を見て小さく呟いた。

 

「申請書は...空欄...。曙のこの言葉...あいつの....予言通り...ならば」

 

そういうとしばらく膝を折った状態で、私を見守っていた。ようやく話せる程度に落ち着いてくると、おもむろに机に向かって歩き出した。

 

「曙、私と明日、遊園地にいかないか?」

 

机の引き出しから鎮守府の近くにある遊園地のチケットを2枚取り出し、怪訝そうにこちらを見ていた。

 

 

 

気持ちの整理どころか、思考すら止まり、少女はただ、そのチケットを眺めているのだった。

 




はい、ということで、やっと話が進展してきましたね。今までは単一の視点で書いていたのですが、どうも内容が重なっちゃって自分で読んでいてもなかなか進まないなーと感じていましたので、今回は思い切って視点を混ぜた物語にして見ました。(シナリオ上の変化はないです)

何か感想、読みやすかった、読みにくかった等ありましたら気軽にください。励みになります。


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曙の願い 前編

前回のお誘いからそのまま続きです。今回も視点を統一しないで、(誰視点)の表記をなくしました。
曙視点→提督視点と移りますので区切りがわかりづらかったらごめんなさい。


「曙、私と明日、遊園地にいかないか?」

 

唐突に提督が取り出した2枚のチケット、それは私が以前行きたいと言っていた遊園地のチケットだった。やっと落ち着いて考えごとができるようになった私はその行動で再び混乱してしまった。

 

(あいつが...私に...?どうして?ダメだ思考がまとまらない...)

 

「それ、女子に超絶人気でめったに取れないっていうネズミーランドのチケット..よね。他に使う相手が山ほどいるんじゃないの?それこそあなたご指名のそこの榛名さんとか...」

 

「も、もちろん、榛名と行きたいのであれば、私でなくてもいいんだ。気を使って申請書を書かなかったというならこのチケットを使って行きたい子を誘うといい。これは貰い物だが期限が切れそうなんでな、曙が使ってくれなくては逆に困るんだ」

 

「....なんか勘違いしてるし....。というかなんで最初に私を誘うのよ。こんな紙まで渡して遠ざけて、その上別の秘書艦用意するほど嫌いな艦娘と行くことになるのよ?」

 

「?いやいや、意味がわからん、第一私は曙を嫌いになんかなってない。....まあだが、確かに秘書艦など必要ないと豪語したはいいが回らなくて榛名に頼ったのは...その、お前の古参としてのプライドを傷つけてしまったかも知れんな、すまなかった。」

 

「ふん、やっぱり秘書艦いるんじゃないの。変なとこで格好つけてるんじゃないわよ全く、変なとこで男らしくならなくてもいいわよバカ。無理しすぎ」

 

「いやあ..その件に関しては面目次第もない。だがな、曙、何度もいうが俺はお前に対してそう思ったことはないぞ?一緒に行くことだってむしろ嬉しいくらいだ。」

 

「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。まあいつも通りだしね、気にしてないわ」

 

普段の寡黙さからは考えられないほど饒舌に喋り出すあいつ。途中までは混乱していたが、精一杯の優しい言葉に私は確信した。

 

そうか、これもきっとあいつなりのフォローなんだ。榛名が居る手前、露骨にそんな態度とったらきっとこの鎮守府全体の士気が下がる。そりゃそうだ、古参である私を私的な感情で距離置いて居るなんて事バレたら、鎮守府のみんなは動揺してしまう。

 

(たとえ嫌いな相手でもこの鎮守府のためには建前でも...か。本当不器用なんだか器用なんだか。だったら)

 

「いいわよ、行きましょう。秘書艦の日に思いつきで休みとか言われたから困ってたとこだしね。ちょうどいいわ。」

 

「本当か!じゃ、じゃあ、明日鎮守府の門に10時集合にしよう...もちろん明日までに気が変わったらその子を連れてくるといい。その後に処理も気にするな。私が対応しよう」

 

(必死に代役立てるように誘導して....どうやら本当に来るとは思ってなかったみたいね。ふん残念ながらそんなことする気ないわ。最後くらい思いっきりわがままして困らせてやるんだから)

 

「わかったわ。ご丁寧にどうも。じゃあ明日楽しみにしてるわね、ふふっ。.....あ、榛名さんごめんね。私のせいで急に秘書艦なんてやる羽目になっちゃって。恨むなら無駄に見栄はったこいつを恨んでね。今日は秘書艦業務、私もやるわ」

 

「え?。それは..全然気にしてないですけど...いいんですか?....あーそういうことですか」

 

私も秘書艦をやるという提案に最初は困惑をしていた榛名だったが、少し考えたあと、何かを悟ったのか優しそうに微笑んだ。

 

「あー、そういう...。ええ!そうですね♪じゃあ早めにかたずけましょう。明日に備えたいでしょうし!」

 

「いやいや曙、だから榛名もいるしもう大丈夫だって」

 

「ゴタゴタうっさいわね!信用できないわよもう!やるっつてんだから素直に従いなさいよ!」

 

「まあまあ、提督。本人が乗り気なら無理に止める必要もないかと思いますよ。それに私も『伝説の5艦』の曙さんから色々と教わりたいですしね。」

 

「あ、曙がいいなら....。まあいいんだがな、休みたくなったらすぐに休んでくれよ」

 

押すに押して半ば強引に秘書艦業務を2人でやる流れを作り、私は榛名と共に書類を制し始めた。結局秘書艦2人という過去に例を見ない体制で普段よりも2時間以上も早くその日の業務の全てが終わったのであった。

 

少し早めの帰宅。

部屋に戻ると潮と漣に今日のはどうだったかと聞かれたが、逆に色々とありすぎて疲れてしまいなんて伝えればいのかわからなかったので

 

「うまくいったわよ。2人とも本当にありがとう。明日はあいつととデートに行くことのなったから早めに寝るわね、じゃあおやすみ」

 

とだけ言ってやることを終えると早々にベットに入ってしまった。呆然としていた2人だが顔を見合わせ驚いた声がこちらの部屋にまで響いてきた。

 

(ごめん、2人とも明日が終わったら正直に全部話すから)

 

チクチクと胸に残るモヤモヤはあるが、ようやくこの問題と決別できそうだと、久々にぐっすりと眠る私であった。

 

 

ー業務が終わった後、提督と榛名は曙が戻ったあと、急遽秘書艦をやったということで書かなくてはいけない書類を書きながら話していた。

 

「榛名、今日はありがとう。急に呼び出しておいて、こんなものまで書かせてすまんな」

 

「いえ、榛名は大丈夫です!お役になてて何よりですよ。....それにしても、提督は本当に曙ちゃんに好かれてますね。今日の様子を見ていたら羨ましい通り越して、少し嫉妬しちゃいましたよ2人に」

 

「いやいや!今日の様子見てどうしてそうなるんだ。それにあいつ、付き合いは長いが普段から素っ気ないし、俺に絡む時だけやたら口も荒っぽくなるしな。嫌われてはいても好かれているとはならないだろ」

 

「え?そうなんですか?てっきり提督もいつものノリというか、その...言葉は悪いですけど夫婦漫才的なものかと思ってましたよ、お互いに許しあってるからこそ見たいな」

 

「提督と艦娘いう立場だから指示には従えど、色々と不満があるからこその態度なんじゃないかと私は思っている。今回だって何か悩みがないかと聞いたら、『誰かと話す時間が欲しい』というから休日を与えたというのに...反抗したいだけなのかもな」

 

「あー、なるほど...そう思っちゃうんですね....。曙ちゃんも苦労してますね...。ていうかさっきから曙ちゃんのことばかりですけど提督自身は曙ちゃんのことどう思っているんですか?」

 

「苦労...?...私は...そうだな、曙は1人の艦娘として頼りにしている。昔から色々と助けてもらっているし感謝はしてもしきれない。掛け替えのない存在だ。....彼女、口こそ悪いかもしれんが本当に真面目で、仲間思いで世話好きで、そして何より優しい子だ。だが、だからこそ気を使って色々と抱え込えこむ傾向があるようだ。今回の一件もきっと色々と考えた末に感情が爆発してしまったんだろう...」

 

気がついたら私は榛名の前で長々と話してしまっていた。榛名は私が夢中で話す様子を真剣に時折笑みを浮かべながら聞いていた。

 

「ふふっ、曙ちゃんも提督も優秀なのに不器用ですね。そんなに思ってあげているならその言葉、明日会う曙ちゃんにも伝えてあげてくださいね。たとえ提督の見立て通り嫌っていたとしても少しは見直すかもですよ?」

 

「うむ...。そうだな。感謝は伝えたいと思っていたしな、頑張ってみるよ。....おっと勤務時間外なのに話し込んでしまってすまんな。あとは私が書いておくからもう戻っていいぞ。今日は本当にありがとう」

 

「はい、では明日、楽しんできてくださいね」

 

「まあ、あいつが楽しめるように努力するよ」

 

そう言って榛名を見送った私は引き出しから明石からもらったメガネを取り出した。

 

「明日はこれを使わないで平和に終わることを願うばかりだ....。」

 

残念ながら提督の願いは叶わず、次の日のデートではメガネが大活躍することになるのだった。

 

 

 

次回 曙編完結 

 




はい、少し期間が空いてしまいましたが、曙編のラストが見える部分まで進めることができました。一応、後日談やら番外編やらをやることも考えてます。
来週から私情で忙しいのでもしかしたらまた期間空いてしまうかもしれませんが、ご了承ください。

何か感想ありましたら気軽にお願いします、ここまで見ていただきありがとうございました。


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曙の願い 後編

遊園地に行く約束をした二人。微妙な距離感を保ってしまっている二人に対して打開策となるのか。

※今回から願望メガネの機能が追加されますので、その機能で見える願いは『』で括りたいと思います。また物語の都合上必要な時以外は願望は表示しないつもりですが、一応メガネをかけている間は逐一願いを確認できる仕組みとしておきます。


「遅い!女を待たせるなんて最低ね!」

 

時刻は丁度9時30分。少し早めに着こうと集合時間の40分前位に正門前に向かったのだがそこには既に曙がいた。普段とは違い私服での登場ではあったが、素人目ながらやけに気合が入っている様に見える。買い替えたばかりであろう服に髪はキラキラと光沢を放ちながらもしっかりとまとまっている。極め付きは耳元につけた大きな貝殻のピアス。結婚式に行きますと言われても違和感のないレベルの格好に私は少したじろいでしまった。

 

「すまんすまん、まさか30分前にきて既にいるとは...。というか今日は遊園地に行くんだよな?その格好は...」

 

「こ、これはあんまり休みがないもんだから服を買いに行く時間もなくて....。あったもんで用意したらこうなったのよ!文句あるわけ!?」

 

「いや、ないない。半分私のせいみたいなものだしな。今後は随時増やして行くつもりだからその時にでも買ってくれ」

 

「ふん、増やせる予定あるのかしら。この前だって業務にヒイヒイ言ってたの隠して秘書艦は要らないなんて豪語してたくせに」

 

「あ、あれは思いつきで急にやってしまったからな、今度は大丈夫だ。任せとけ」

 

「そう、わかったわ。期待せずに待っているわね。....でさっきから気になってたんだけどあんたメガネなんてかけてたっけ?」

 

「これは、その...そう!伊達眼鏡だ!久々に外に出るからな、少しおしゃれをしようと思ってな」

 

嘘である。私がかけているこのメガネは明石から貰った願望メガネそのもの。私だって昨日までは使うつもりはなかったのだが、内情を知っている明石に報告がてら曙の件を伝えたら絶対に使って欲しい、というかなんで使わないの?みたいな口調で詰め寄られたので、仕方なくつけて行くことを了承してしまった。明石からは補足で

 

『このメガネの機能で新しくわかったことがありまして、メガネの横に小さな出っ張りがあるんですけど、これ実は動かせるみたいで動かすと、願望の大小を調節できるみたいです。私たちが実演した際はメモリが最大で使用したので深層的な願いだったんですけど、ここを調節すれば例えばいまやりたい軽いお願いや、はたまた今日食べたい食べ物といったものまで見ることができるようですね。明日のデートにはきっと役にたつと思いますよ』

 

とも言っていた。

 

(まあ、私の性格上、曙を今日一日満足させるにはこれは必須だろうしな。途中からつけるのも今思えば違和感あるし、丁度いいか)

 

「へえ、意外ね。あんたが急におしゃれなんて。.....まあいいわ、行きましょ」

 

「そうだな、せっかくの休日だ、早速向かうとしよう」

 

曙の言葉が妙に引っかかったが、曙の頭に浮かんだ願望には特に違和感はないし、気にすることもないだろう。私たちはその後電車に乗り込み、1時間程度で目的地の遊園地へとついた。チケットを渡し園内に入るとまるで外国にきたような景色と建物が眼前に広がっていた。

 

「ここが...伝説の夢の国ってやつか。初めて来たが圧巻だな。まるで日本じゃないみたいだ」

 

「当然よ、ここは数ある遊園地の中でも風景や建物には特に力を入れているので有名よ。園内を歩いただけで世界旅行にきたような気分になれるからアトラクションや人混みが苦手でもそれ目当てにくる客もたくさんいるくらいなんだから。入口近くのここはアジアゾーンだから、こんなので驚いてたら身がもたないわよ!」

 

「へえ、全然知らなかった、随分詳しいんだな。曙実はこういう類のもん好きなんだろ」

 

「こ、こんなの普通に生活してたら常識よ!あんたがこういうことに疎いだけでしょ!別に昨日から楽しみになんかしてないしね!」

『早く入りたい!早く入りたい!』

 

(なるほど、確かにこれは役に立ちそうだな)

「そ、そうか、私ももう少しこう言ったことも勉強しないとな。とりあえず早速どこか行くか、時間も勿体無いしな」

 

「そうねえ、あんた絶叫は好き?朝から行くとなるとそういうとこは早めに並んどいた方が効率がいいんだけど」

 

「うーん、実は正直にいうとあまり得意ではないな。酔ってしまうんでな」

 

「そう...。じゃあまあいいわ。私も別に乗りたいってわけじゃなかったしね。他のアトラクションにしましょうか」

『一緒に乗りたかったな』

 

「...と言うのは建前だ!実はこの手の乗り物には昔から憧れがあってな!曙!一緒に乗ってくれるか!この年になると一人じゃ恥ずかしいしな!」

(危ない、メガネがなかったら曙の思いに気がつけなかった。てかなんだこのテンション)

 

「え?あ、うんじゃあ乗りましょうか。あんたがそこまで言うなら断るのも気分悪いしね♪」

 

まあこう言った具合で、乗りたいアトラクションや休憩したいタイミング、食べたいレストランに食べたい食事まで、願望レベルを一番下に調節したおかげでその日の曙は終始ご満悦だった。普段は鈍感男が、突然英国男児顔負けの紳士になったもんだから曙に本気で不審がられる事は多々あったものの、この日のために勉強してきた、と言って切り返してなんとか事なきを得た。それどころかそれを言った瞬間、今まで見た中で一番かもしれないほど笑顔を一瞬見せてくれた。...まあすぐにいつもの調子に戻ってなぜかキザ男、とビンタされたが。

 

(しかし...人の心が読めるだけでここまで人を気遣えるようになるなんてな。...逆にこれまで私は一体どんな対応の積み重ねをしてきたのか、怖くて考えたくもない)

 

そして夕方になった現在、メガネの『甘いものが食べたい』と言う情報を見て、自然な流れで休憩を取ることにした。

ソフトクリームを食べて、楽しそうに風景を眺めている曙を見て、普段どれだけ不快な思いをさせていたのか、と日頃の行いを鑑み、罪悪感に満ちた表情をしていると曙が口を開いた。

 

「何辛気臭い顔してんのよ、安心しなさい、もうすぐ帰るわよ。私に嫌々連れ回されて疲れてるのはわかってるわ。」

『もっといたい、ここにいたい』

 

「いやそんな、嫌々なんて、鎮守府ナンバーワン提督を舐めるなよ?まだまだいけるぞ!」

 

「いいわよ、そんな。朝からそんな調子で無理してるのがばればれだし、それにやけに気を使ってくれるのがが逆にむず痒くてね。私は満足よ、わがままに付き合ってくれてありがとうね」

 

「いやいや、私は知ってるぞ、曙はまだまだ楽しみたい。そうだろ?それに私は無理などしていない!」

(真面目な性格が仇となってるな、なんとか本当の気持ちを優先して欲しいものなんだが)

 

「....はぁ、今日はやけに強引にくるのね。ご名答よ、私だって知識はあるけどここにくるのは初めてだしね、まだまだ乗りたいものがあるのは本当よ。でもいいの、私だって子供じゃない。あんたがへとへとで付き合ってるのを見ても無頓着にはいられないわ」

 

「そ、そうか、私が不甲斐なくてすまんな。じゃあ、すまないが私からのお願いだ、観覧車、と言うものに乗って見たくてな。最後に付き合ってくれないか?」

 

「いいわよ、そんなの。私の乗りたいものの中にも入ってたしね、ちょうどいい折り合いね。行きましょ」

 

そう言って曙はそのあと、何も言わずただただ、周りの建物や景色をじっと眺めながら観覧車のある場所まで向かっていた。願望メガネにも特に反応はなく、おそらくこれがいまの曙の願いの実行中なのだろう。時々出る『記憶に残したい』と言う単語を見てだいたいそれを察した私も、曙の隣を無言で歩いてついて行った。観覧車乗り場の待ち時間も、観覧車に乗り込んでも、彼女はしばらく無言であったので、気まずくなって私から話し始めてしまった。

 

「...それにしても、今日は久々に曙とこんなにゆっくり話せたな」

 

「...そうね」

 

「しかし、今こうしてここにいることがまるで嘘みたいだな。今でこそこんな鎮守府だが、昔はひどかったもんな。設備はないし、金もない、艦娘だって両手で数えるくらいしかいなかった上に嫌がらせのように敵は多かったしな。あの頃は苦労をかけた」

 

「....別に、艦娘なんだから当然よ」

 

「いやいや、こんな上司に付き合って無理な出撃をさせていたのは事実だしな。....それで思い出したが昔一度だけ日々の労いとして曙を海に連れて行ったことがあったな。その日は午前に急遽、軍の会議入るわ、そこで次の日出撃になるわで結局2時間くらいしかいられなかったのを思い出したよ。『2時間しかいられないで、きた意味あったわけ?』って曙の言葉、いまになって思えば当然だな!ははは...」

 

「やっぱり嫌...」

 

私がそんな思い出話に一人盛り上がっている最中、消え入るような声に気がつき顔をあげると曙の頬には一筋の涙が伝っていた。

 

「あ、曙....?どうした、気分でも悪く.....」

 

そういった私は途中で言葉を無くし、思わず一瞬フリーズしてしまった。なぜなら彼女の頭には『嫌われたくない』とただただ強く書かれていたからだ。願望の調節レベルを最小にしてこの願い、ということはいまこの瞬間の思いということになる。

 

「...やっぱり嫌!私はあんた無しじゃ生きていけない!それがどんなにあんたを苦しめるか、どんなにあんたを傷つけてしまうか、分かってても私は!あんたを思えるほど....大人にはなれない!」

 

「私だってそうだ!なんだこの前から!私が嫌っているだの、距離を置いているだの!そんな行動したつもりはないぞ!?」

 

「建前はもういいっつってんのよ!じゃあなんで急に出撃回数を減らしたの?なんで私を避けて会議の日程を組んだの?なんで秘書艦業務をやらせないようにするの?....なんで昔みたいに私を叱らなくなったの....」

 

正直唐突な行動に驚いてしまったが、願いを知っている分、彼女の気持ちが理解できた。だからこそその発言に誰に対してではなく苛立ちを覚えてしまい激昂してしまった。それに対して曙もまくし立てるように叫びながら私を睨んでいたが、次第に声は小さくなり、最後は下にうつむきまた泣いてしまった。

狭い観覧車の中、彼女の嗚咽の声だけが響く間、私は彼女の発言に動揺を隠せなかった。いま言われた行動は確かに本当に私の指示でやったことだ。彼女が元気がないと感じ出撃を減らしたり、心労していることを考慮し会議や秘書艦業務を敢えて避けさせていた。だがこの一連の行動は全て彼女にとっては、いやもしかしたら普通の感性を持つ人間にとっては堪え難い行為だったのかもしれない、そう思ったからだ。だが、その一瞬の動揺もつかのま、私はある告白をすることを決めた

 

「曙!どうしても聞いて欲しいことがある。実は今日一日、私はお前に隠していたことがある。聞いてくれるか」

 

「.....隠していたこと?何よ」

 

「私のかけているこのメガネ、本当はただのメガネではなく、相手の願うことがわかる機能のついたメガネでな。それで今日一日は曙のやりたいことが手に取るようになったわけだ」

 

「.....なるほどね、それで今日一日の気持ち悪いほどの気の利き方にも納得がいったわ。普段のあんたを見ている分、違和感しかなかったしね。...で、そんな最低な道具を使って私の心を覗いてたってのが聞いて欲しいことのわけ?」

 

本来だったらこんな突拍子も無いこと言われてもにわかには信じられないが、一昔前まで毎日のように明石が変な道具を作っては周りを実験台にしていた影響で、昔からいる艦娘は割とすんなりと納得してしまうのだった。

 

「このメガネで...私を見て欲しい。どんなに口で言ったって納得してもらえないならこの方法しかない。それで私の心を見ることができるからな。嘘偽りのない真実を伝えられる」

 

「....わかったわ。じゃあその眼鏡貸しなさい」

 

そういって彼女にメガネを手渡す。覚悟がいるのか、何度か深呼吸をし、私を見つめた後、ゆっくりとメガネをかけて私を見た。すると彼女はまたさっきのように涙を流しながら、今まで出会ってから最高の笑顔を私に向けた。それを察した私は曙の頭を撫でながら話しだした。

 

「では、現実を突きつけられ弱っている曙くんに私から攻撃するとしよう。曙、これが私の気持ちだ。私は君を嫌ってなどいない、むしろ好きだ。それ以上に感謝もしている。昔からダメダメだった私を精一杯支えてくれたことは今でも忘れない。...私は知っている、曙が出撃した仲間を誰よりも心配している仲間思いなことを、自分のことを差し置いてでも周りを気遣おうとしている優しさを、そしてそんな性格上、抱え込んでしまうこともな。だから私は決めたんだ。曙が支えてくれる以上に私も支えよう、とな。....まあその行動で曙を傷つけてしまっては元も子もないがな...はは」

 

「はぁ、全く完敗ね。これだけ完全に論破?されたら私も何も言えないわ。....私の方こそごめんなさい。あなたの厚意に気が付かないばかりか勝手に勘違いしちゃって。あなたがそこまで私を見ていてくれたこと、正直嬉しくてまた泣いちゃいそうだったわ。だからここで私からも言わせて貰うわね」

 

私の撫でている手をすっと握ると、彼女は私を見つめ力強くこういった。

 

「私もあなたのことが好き。いえ、大好きよ。私だってこれからもずっとあなたを支えていくつもりなんだから」

 

「お、おう...。なんかそこまでどストレートに告白されると気恥ずかしいな。セリフもなんだかプロポーズみたいだし...

 

「バッ、バカじゃないの!?そういう意味じゃないわよ!あくまで提督として支えていくってだけ!ほんと昔から空気読めないっていうか、人の気持ち察せないというか....。というかずっと思ってたんだけど、機械に頼らないとこんなこともわからないわけ?クソ提督ね!艦娘一人でも危ない目にあったらタダじゃおかないからね」

 

「な!クソ提督だと!?人が下手にでていればいい気になりやがって!このツンデレネガティブ女!」

 

「はあ!?あんたなんか「あのぉ、お客さま方?他の方にご迷惑ですので痴話喧嘩は降りてからやっていただけると...」

 

気がつくと観覧車はすでに一周して降り、扉が開いた状態で係員がいた。私たちは周りに笑われながらそそくさと遊園地を後にするのであった。帰りの電車では行きの電車では考えられないほど曙は気持ちをオープンにしていた。手を繋がされ、肩に頭を置いて、嬉しそうに寝息を立てていた。鎮守府に着くと、パッと手を離し、そこし前に行くと彼女はこういった。

 

「これからも、よろしくね。クソ提督♪」

 

「ああ、これからもこの鎮守府を頼むぞ、曙」

 

 

こうして伝説の五艦、曙の『嫌われたくない』という願いは、叶い、二人のこじれた関係も無事元どおりになることとなった。この後やけに仲良くなった二人にたくさんの噂が流れたり、鎮守府を揺るがす珍事が起きたりしたが、それはまた別の話で。

 

 

 

ー病室

 

「うーむ...これはかなり厄介な症状ですな、どうしたものか」

 

ある病室の一角で、一人の艦娘の様子を見ながら診断書を書く鎮守府専属の医者は頭を抱えていた。前代未聞の症状に対処のしようがないのだ。

 

「なあに、心配すんなよじいさん、気楽に行こうぜ。考えたってしょうがないことだって世の中にはあるもんさ」

 

彼女の名前は、駆逐艦 時雨。普段からは信じられない荒々しい口調で医者にこう言った。

つい先週に倒れ、ある問題を抱えてしまった少女。提督が知らないうちにまた一人、大きな願いを抱えた艦娘が現れたのだった。

 

 

 




お久しぶりです。そして更新大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。私情は落ち着いたの、また普段くらいのペースで書こうと思います。ひとまずこれにて曙編は終了です。後日談や、別視点も書くつもりですが、他の子の話の箸休めに入れようかなと現段階では考えています。(やらないことはないです)
シリアスと日常回の比率って難しいですね。

なので次回からは一旦切り替えて時雨編になります。よかったら気軽に見に来てください。




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時雨の願い
もう一人の自分


時雨編 開始。

不思議なメガネでようやく曙と仲直りを果たした提督は、前回の秘書艦業務の穴埋めとして時雨の担当だった日に代役を彼女と潮、さざなみの3人にお願いすることに。束の間の艦娘とのコミュニケーションを楽しむ提督。そこに現れたのは先週に倒れてしまった時雨だったのだが、何やら様子がおかしい




君は僕、だけど僕は君じゃない。じゃあよろしく頼むよ。『僕の願い』のためにね。

 

 

--執務室

「なあ、曙。マジでどいてくれよ。お前の頭で書類の文字すら見えないんだけど....。まぁ片手も塞がってるけど」

 

「ふん、だから今日の仕事は私達に任せなさいって、何回言わせればいいわけ?ばかなの?」

 

「いや、そういう訳にはいかんのだよ、私しか出来ない大切な業務とかもあるし」

 

「じゃあ私の頭を撫でる業務を分けてあげるわ?伝説の5艦の頭触れるなんて世界広しといえどあなた一人よ。最重要任務託すんだから誇りに思いなさい」

 

「はあ....。なんというか、オープンになってから一段と態度が太くなられましたな、曙さん」

 

「女の子に!!太いっていうな!!こんのクソ提督!もう朝ごはん作ってやんないから!」

 

「ぐえっ!」

 

現在、本来秘書艦の担当であった時雨が倒れたこともあり、その穴埋めとして曙、潮、漣に秘書艦業務を手分けしてやってもらっている。実の所、ここ数日、青葉の取材やら、周りの艦娘の質問ぜめやらでほとんど執務室にいられず死ぬほど業務が溜まっていたのでありがたい、と思っていたのだが.....。

 

「て、提督は太い女の子が好きなんですか...?たくさん食べなきゃですね...書類終わりました。私もあ、頭を撫でてもらっても.....いいですか?」

 

「ボノたんならまだしも、潮の場合は栄養が全部胸に行くから、その作戦は無理ですぞ!...こっちも終わったのでご主人からのご褒美キボンヌ!」

 

「漣!あんた喧嘩売ってんの!?」書類グシャ

 

「あー!!もう!全然作業にならんじゃないかああ!!お前らいい加減にしろ!!」

 

とまあこんな感じでやたら引っ付いてくるわ、色々とスキンシップを要求してくるわで私は朝からほとんど業務に関われないのであった。

 

遊園地に行ったあの日、私と曙はまあ、メガネのおかげもあり、仲直り?を果たした。その後の彼女は元気を取り戻し、戦力も現役並みに復活した、そして何よりよく喋るようになった、きっとあの日、私の本当の気持ちを見て嫌われる恐怖がなくなり、自分らしく話しても大丈夫とわかったからであろう。素直にこれは嬉しい限りだ。

このような曙の変化に対して、姉妹艦である潮や漣には死ぬほど感謝された。そして、曙が何を話したか知らないが、それ以来信じられないほどこの二人の好感度も上がったようだ。

ちなみに曙以外は元々休暇の日のはずなのだが、何故か朝イチから執務室の前でスタン張っていた。曙の情報によれば、昨日の夜からテント張って待ってたらしい。なに?徹夜組?お前らの部屋ここから徒歩5分じゃん。

 

「ご主人、たまにはこういうコミュニケーションも大事ですぞ。我々の幸福にもつながる大事な仕事だと思われ」

 

「私もそう思います!今すごい楽しいですし!」

 

「あんたは私が支えるって言ったでしょ。こいつらのいう通り、たまにはこういうことも大事よ。無理する癖は治らないでしょうしねえ」

 

「.....あーそういえば、聞いてなかったな。私あの時どんなこと願って....バタンッ「失礼するぜ!白露型 2番艦 時雨!ただいま復活したよ!」

 

執務室を勢いよく開け、有事休暇申請書を持った時雨。その後ろからそろっと出てきた白髪の人物はこの鎮守府専属の医師だった。

 

「あ、これはどうも。提督様。いつもお世話になっております。時雨さんの意識が戻られましたのでご報告にきました。」

 

「あーどうも。というかその時雨はどこだ?ここには時雨のコスプレした艦娘しかいなんだが」

 

「なんだあ?全員アホみたいに口開けてこっち見てよぉ。正真正銘目の前にいるのが時雨様だろうが」

 

「いや...えっとぉ......だから誰だお前!?天龍みたいな喋り方して!いやだが見た目は時雨だしなぁ....」

 

「なんか...。口調もそうだけど雰囲気も変わった気がするわね...。まるで別人みたい」

 

「せ、先週倒れた時に頭でも打ってネジでも飛んじゃったのかな.....」

 

「潮、それ何気にひどいですぞ」

 

荒々しい口調をしたこの人物、時雨は曙と同じく伝説の5艦の一人だ。駆逐艦とは思えない高火力と圧倒的な俊敏さは鎮守府トップレベルの実力。曙が例の一件で落ち込んでいた時期はおそらく駆逐艦中で全てにおいてナンバーワンの艦娘だったに違いない。

しかし彼女の強さはそれだけではない。彼女はこのような絶大な実力を持ちながら温和で争いを好まない性格をしており、また常に冷静沈着。その落ち着きと慈母のような優しさは多くの艦娘から曙とはまた違った信頼と尊敬の念をを得ている。彼女なら話してもいい、と他の艦娘の相談役になることも納得である。

そんな彼女が今現在、目の前で全く違う態度で私たちに接してきているのだ。驚くなというほうが無理がある。

 

「はっ散々な言われようだな、別にどーでもいいけどよ。俺はそんなヤワじゃねえよ。頭は打ってねえし、体だってピンピンしてらあ。そんなに気になるんなら、後ろの医者に聞いて見な」

 

「......体は全く問題ありません。異常はどこも見つかりませんでしたし、潮さんの言ったような頭を打っての記憶の欠落や喪失も今の所見られません。彼女には」

 

「ほらな、医者のお墨付きだ、まあイメチェン程度だと思って軽く流してくれ。ってんなこと話しにきたわけじゃねえんだったわ。ほれ、この紙。これ書けば遠征予定だったとしても休めるんだよな、確か。なんか調子でなくてよ、.....あーでも確か今日秘書艦だったか?」

 

ー有事休暇制度

 

略して有休だが、現代の日本で使われる有給とは少し異なる制度で、遠征予定の艦娘個人からの希望があると、おりる特別休暇のことである。簡単に言ってしまえば無条件で休みが取れる制度だ。以前、提督が『休みと言っても私から支給された休みでは急な用事や趣味に時間を避けきれない可能性がある』とのことで制定されたもので、比較的艦娘が増え、ローテーションに余裕ができた頃から、年に一度15日の有休を艦娘全員に付与するようになった。もちろん使わなかった分は翌年に繰り越されるため、業務が比較的忙しい艦娘達などは1年間ためて、2年目の有休支給後に1ヶ月のバカンスを取るケースもよく見られる。ただあまり使わない艦娘も一部いたため、以降3年でその年の有休は消滅してしまうルールを追加し、戦闘好きの艦娘のため演習や出撃に参加することのできる権利も加え、利用の促進を図った。それが功を奏したのか今現材、有休の消化率は全体で80%超えである。

 

またこの制度、単に休みが取れるだけでなく、日頃の頑張りに対しての労いの意味を込めて、鎮守府内の施設に限り、1日につき一つだけ特典をつけて利用することができる。特典の例を挙げると

 

銭湯 マッサージ30分無料サービス

スポーツジム ドリンク飲み放題

本屋 5冊まで全て20%off などなど

 

 

 

先ほど時雨が持っていた有事休暇申請書に判が押されている状態のものを手渡せばこの恩恵を受けることができる。仲間ととって楽しむもよし、一人でとって趣味に浸るのもよし、艦娘が各々自由に楽しんでいる様子は見ていて微笑ましい限りである。

 

「あ、ああ.....もちろんだ。秘書艦も代役を立てたところだ気にしないでくれ。しっかりとリフレッシュして英気を養ってくれ。(時雨は俺から言わないと有休なんて取らないような子だったはずだが....)」

 

「うっしゃ。じゃあとりあえずバッセンでもいって特典使っちゃうかな、じゃあな。あんがと!」バタンッ!

 

再び勢いよく執務室の扉が閉まると、時雨が近くにいないことを確認し、医者がゆっくりと話し始めた。

 

「なんだったんだ本当に、ドッキリか何かか?いやしかし演技には見えなかったし...」

 

「はい、演技ではありません。....その....申し上げにくいんですが、おそらく時雨さんは解離性同一性障害だと思われます。」

 

「解離性....なんだって?」

 

「解離性同一性障害、まあ簡単にいっちゃえば多重人格ってやつね」

 

「ええ...その通り。曙さんはお詳しいんですね。....解離性同一性障害はいわゆる精神病の一つでして過去のトラウマや限界を超える苦痛、精神的ダメージから逃れるため、自分の中にもう一つの人格を形成してしまう病気です。時雨さんの場合もおそらく何らかの原因があり、あのような全く違う人格を作り出したと考えています。ただ..これに対しての対処が思いつかないのが現状です」

 

「その...でもそれって艦娘にはよくあるって聞きました。日々戦いを強要されている私たちにとっては死の恐怖だとかトラウマは日常茶飯事だから、その中で精神疾患になっちゃう子も多いって....」

 

「あー鬱だとか、パニック障害とかですな、ここの鎮守府の新人用学校で嫌という程学びましたぞ。ただ多いからそれに対しての対策もかなり完成されてるとも聞きました。ここの規模の鎮守府の設備で治せないことはないと思われ」

 

「....なるほど、皆さんよくご存知なんですね、流石教育レベルもも高い鎮守府です。そこまでよく知っていらしゃっているなら隠さずにお話ししましょう。確かに艦娘のこのような精神障害は珍しくありません。そして当然、それに対して多くの研究者の元パターン化され対策がマニュアルにされているので、大体のケースでは治療の期間の違いはあれどが完治する子が多いようです」

 

「ふむ...。なるほど、大本営もそういうことはしっかりとしているのだな、悔しいがありがたい限りだ」

 

「はい、おっしゃる通り。我々も頭が上がりません。....ただ、時雨さんの場合、長年の精神障害原因パターンのどれにも引っかからない特異なケースでして」

 

「特異なケース?仲間が傷ついちゃっただとか、敵からみんなを守れなかったとかそういった理由とかじゃないの?」

 

「私も一番初めにその要因が浮かびました。なので少し心苦しくはありますが原因究明のため、疑似的に自信が大破してしまう映像や仲間が沈んでしまう映像を了承の上で見させました。補足としてお伝えしますが、今現在の彼女を時雨2、だとすると私がその映像を見せるといった人物は時雨。つまり本人です」

 

「なるほどね、まだ彼女の中には元の人格も存在してるってことね。で、病室にいるときはまだいつもの時雨だったと」

 

「理解が早くて助かります。映像を見せ、本人が少しでも人格の揺らぎや表情の変化、発汗や震えなどがあればほぼ間違いなく要因はそれと断定して治療に進むのですが、彼女の場合そのような反応は一切なかったのです。また不可解な点が2点ほど挙げられます」

 

「不可解な点?」

 

「はい、1点目は彼女は映像を見ることを了承した際、だれかに話しかけているそぶりを見せていました。おそらくではありますが彼女はもう一つの人格と完全に会話ができていると考えられます。映像を見終わってしばらくすると、『俺に話させろ』と突然言ったかと思うと彼女の人格は入れ替わりました。一般的なケースでは人格は分離しており、入れ替わった際の記憶は欠落しているものなのですが、その後の彼女は映像についての文句やダメ出しをしていたので、記憶も共有されているのが確認できました。」

 

「つまり、他人格でありながらしっかりと私たちの姿も、自分自身の中の他人格の声も聞けているってことね、確かに聞いたことないわそんな話」

 

「そして2点目。これは簡潔です、要因がわからないという点です。本来この病気は辛い、苦しいと言ったネガティブな感情から逃げるツールとして発症し、人格を生成するのですが、彼女に関してはその兆候は一切ないです。むしろお互いの人格同士で話し合い、何か、こう、野望のようなものを後押ししている感じですかね。そういった様子を多々見ます」

 

「うーん、つまり要約すると彼女は何かから逃れる、というよりは作るべくしてそういった新しい人格を生成したってこと?」

 

「まあ、そういうことになるのでしょう。申し訳ないです、このような曖昧な回答で。何度もいうようにこのようなケースは初めてでして、対策方法から考えなくてはいけない段階なのです」

 

「でも心配ね、もしかしたら何かの拍子で別人格、時雨2が暴走して元人格を乗っ取る可能性だって十分あるわ。早めに対策しないと取り返しがつかなくなるかも」

 

「対策ですかあ。でも我々素人じゃ状況悪化させかねませんぞ」

 

「でも...曙ちゃんのいう通り、早めに手を打たないと時雨ちゃんが....」

 

 

「そこでですね、私に少し考えがありまして。あなた方に是非協力してもらいたいのです」

 

そう言って医者は自身のバッグから書類を取り出した。時雨対策用、と書かれたその書類にはある作戦が書かれていた。

 

=続く=




はい、ということで時雨編始まりました。ペースをあげて行こうと思い短めの文章で終わらせようと考えていたら、過去最大の分量になっておりました。笑

前の話のあとがきでも書きましたが日常と、シリアスの比重をどうしようと考えていたのですが、何も全てシリアスにする必要ないじゃんということで、いい感じにシリアスの中に日常の一コマ入れていこうと思います。(あれよく考えたらそれって割と普通じゃ)

あ、ちなみに最初の方の曙が朝ごはん作ってたくだりあったと思うんですが、これは前の話で間宮さんと作ったものとは別の朝食です。番外編の候補として考えています。その際はよかったらご覧ください。

結構今回書き方変えて見たので、感想等ありましたら気軽にお願いします。
あとこんな日常の一コマをみたい、とか、この子を出して欲しい、みたいなのありましたらどしどし意見ください。できるだけ反映させて物語組んでいきます。


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暗雲と光

時雨の変化の原因を探るべく、医者に手渡された書類を読み込む一同。そこに書かれていた内容とは?

時雨••••温和で優しいみんなの相談役。伝説の5艦の一人。今は時雨2に隠れてしまっている。

時雨2•••時雨が作り出した第2の人格。荒い口調で好戦的、姐御肌。基本的に現在はこの時雨が表立って行動している。

鳳翔••••居酒屋鳳翔の店主。細かいところまで気が利き、察しもいい。提督には店を増築してもらい感謝をしている。

※『』はメガネで見える艦娘の願いです

今回は基本提督視点です。


「いい機会だからいっておくよ。僕はね、提督のことが大っ嫌いなんだ」

 

呆然とする私の横で、なんの淀みもなく時雨はいった。居酒屋、騒がしいはずの夕どきの店内なのに周りの喧騒が嫌に小さく聞こえる。今にも泣き出してしまいそうな曙をはただただ時雨を睨んでいるのだった。今まで保ってきた3人の関係性が大きく崩れた瞬間であった。

 

 

 

 

ー遡ること6時間ほど前 

 

「はあ?時雨を怒らせる?」

 

考えがあると言われ医者から手渡された時雨対策用と書かれた書類。そこには確かに3パターンに分けられた寸劇のようなものが記されていた。

 

「はい、その通りです。あなた方にはこれから、3パターンのロールプレイで時雨さんの気分を害してもらいたいんです」

 

「いやあの....イマイチ意図がわかりません。時雨の病気の原因究明とどんな関係が?」

 

「これは失礼、そうですね。まずは1から説明します」

 

そういうと医者は私たちに渡した資料に沿って今回の作戦の意図と内容を話し始めた。

 

「まず、説明しないといけないのは一般的な多重人格の対処方法についてです。多重人格の要因究明としては先ほど私が時雨さんに戦争のビデオを見せた例を出しましたように、人格を作り上げてしまった要因の特定が始めのステップです。しかしどうにも彼女は我々の想像の範囲外のことが要因のようでしてこの方法では時間ばかりがかかってしまうと判断しました」

 

「そうね。私たちじゃ正直、あいつの願いなんて皆目見当もつかないだろうし、その方法はナンセンスね」

 

「そこで私は考えました。わからないなら直接本人に言わせてしまえばいい、とね。そこで先ほどの寸劇です。喜怒哀楽の中で、怒りというものは最もコントロールが難しい感情といわれています。カッとなって気がついたら、怒りで我を忘れてなどの言葉にもあるように理性の壁を超え、本音を聞き出す方法としては怒らせるのが一番なんですよ」

 

「....なるほど、理屈は理解した。つまり時雨を我を忘れるほど怒らせて心の内に秘めている本音を吐き出させようって感じか。私たちはそのための演者というわけだ」

 

「はい、その通りです。もちろんこれはあくまで作戦の一つですのであなた方の意思は尊重するつもりです。関係性が悪くなる可能性は十分にありますからね....どうしますか?」

 

 

「やるわ。それで時雨を元の戻せるんなら....憎まれ役なんていくらでも買ってやるわ」

 

「無論、私も協力しよう」

 

「私たちもやります!時雨さんには本当にお世話になってますから!」

 

相手を故意に怒らせる行為は決して気の進む話ではない。ましてや相手が時雨だ。正直普通なら悩んでもおかしくない場面であったが、時雨を救いたいというみんなに意思は強く、即答するのであった。

 

「満場一致で同意ということで。作戦は本日午後から実行します。あ、それからこの作戦の要は、提督様、あなたです」

 

「私?」

 

「はい、時雨さんの病気の原因は少なからずあなたが絡んでいると私は踏んでいます。つまり作戦が成功し、時雨さんの行動をうまく誘導できるかどうかは、あなたの演技力にかかっています。ぜひそこのところ意識して臨んでください」

 

「わ、わかりました。頑張りますね...」

 

(この作戦を成功させるにはやはり....またこいつの出番というわけか。やれやれ...最近はどうも人の感情を読むことを強いられる場面が多くて困るな...)

 

私は机の引き出しから例のメガネを取り出し、小さくため息をついた。

 

ー午後

 

「.....で?話ってなんだよ。こちとらせっかくの休日に呼びだされてんだ。茶ぐらいおごってくれるんだよな?...ってかなんだよそのふざけたメガネはお前普段そんなんかけてねえだろ」

 

ージョナフル

鎮守府内のファミレスの一つ。一般的なメニューに加え、艦娘が提案した料理が月一で提供されることを売りにしている。食堂も完備してはいるが、創作料理目当てで、ここで食事をとるグループも割といるかなり人気の店だ。

 

私は話があると連絡を入れ、時雨をここに呼び出した。店内はお昼近いこともあり多くの艦娘で賑わっていた。時雨と提督に見えないように他の3人も裏で席を陣取りいよいよ作戦が開始された。

 

作戦1 クソ提督が即放置!?私にもっと構いなさい作戦

時雨を呼び出し、話をしようとすると、漣が登場。時雨がいるのにもかかわらずベタベタとひっつき話を妨害。二人の絡みを見せ続けられる挙句、放置された時雨が怒り心頭になるというシナリオ....。...え?この作戦名は何かって?知らんわ医者に聞け

 

「話っていうのは、その...なんだ。最近どうだ?」

(あれ、このくだり凄いデジャブだぞ)

 

「はあ?....別になんともねえよ」

 

「あーいや、その、なんだ。雰囲気変わったなあって思いまして...」

 

(あー、無理。雰囲気悪すぎてお腹痛い。漣ー早くきてくれえ)

 

事前に渡されたトランシーバーから声を聞き取り状況を確認する一行は裏で出るタイミングを伺っていた

 

「....なんかぎこちないですね。久しぶりに会う娘とお父さんみたい」

 

「あいつ話すの下手すぎでしょ!これじゃあ作戦実行する前に時雨帰っちゃうじゃない!」

 

 

「これは早めに進めたほうがいいですね。少し強引ではありますが、突っ込んじゃいましょう」

 

「了解ですぞ!」

 

 

「だーから!イメチェンって言っただろ!女の秘密を詮索する男は嫌われるぜ?...で、なんだよ話って。世間話しにきたんじゃねーよな」

 

「あー...話というのはだな「ご主人様ー!!!」

 

大声をあげて、凄いスピードで私の隣の席にきた漣は、私の腕に抱きつき、嬉しそうに話しかけていきた。

 

「こ主人!こんなとこで何してるんですぞ?私もご一緒しますぞ!」

 

「さ、漣、奇遇だな」

 

「本当に!ところで何してるんですかな?」

 

「あ、ああ、実は時雨と少し話しがあってな、それで....」

 

「だったら我も参加しますぞ!ここのお店のパフェでも食べながらゆっくり語らい合いましょうぞ」

 

「ほう、私は甘いものにはうるさいぞ?ここのパフェはうまいのか?」

 

「今は間宮さんが考案した期間限定スペシャル桃デラックスがオススメですぞ!きっとご満足いただけるかと!」

 

「それはいい情報だ。頼んでみるか」

 

「やったー!じゃあ我が奢ってあげますぞ!」

 

「え!本当か、気前いいな」

 

「いやいや、私と提督の仲じゃないですかあ、えへへ」

 

「........おい」

 

 

先ほどまで時雨と話をしていたのにもかかわらず、突然入ってきた漣の話に食いつき、挙句注文をしようとしている。時雨はしばらく私たちの様子を観察してから私と漣をじっと睨んできた。

当然だ。呼び出しておいてこの仕打ち、どんな寛大な艦娘だって怒る状況にこの時雨が怒らないはず.....

 

「おい!いい加減にしやがれ!」

 

(よし!作戦通り!後はボルテージを上げさせ.....)

 

「わざわざ半分なんてケチくせえだろ!俺が払ってやるから二人で一つずつ食べな」

 

「うるさい!私は甘いものには目が....ってえ?」

 

「え、でも...」

 

「いいってことよ、楽しみにしてたんだろ。ってか提督、おめえシャキッとしろや。艦娘の前にこいつだって女の子なんだぜ。本来はお前が奢ってやる場面だろうが」

 

「す、すまん。そういうところに気が利かず....。というか怒ってないのか?自分で言うのもなんだがわざわざ呼び出しておいて放置しちゃってた気がするんだが」

 

「ふん、俺はそんな小せえ女じゃねえよ。確かに最初はなんだこいつってちょっとイラっとしたけどよ、漣の様子見てたらそんな気持ちどっか行っちまった」

 

「あ、ありがとうございます.....」

 

作戦ではこの後も、漣が頼むことで自然とパフェの個数を一つにしてお互いに食べさせ合うという予定だったのだが、時雨があまりに意外な反応をするもんだから私も漣も黙々と1個ずつのパフェを食べることになり結局作戦は見事に失敗した。時雨はその様子を少しだけ眺めると、すっと立ち上がりレジに向かった

 

「あ、おい、待て話はまだ!」

 

「俺はこれでも忙しいんだよ。金は払っておいてやるからよ。話はそんな重要なことじゃねんだろ?だったらそいつに構ってやれよ、漣のそんな顔久々に見たぜ。じゃあなごゆっくり」

 

そう言って颯爽と店を後にする時雨をおうぜんと眺めながらパフェを完食し、罪悪感に身を包みながらトボトボと3人の元に戻る私と漣であった。

 

「私はなんてことを.....」

 

「ボノたんと潮の下着入れ替えるイタズラした時以上の罪悪感ですぞ.....」

 

「どさくさに紛れて罪の告白してるんじゃないわよ。ってかあれあんたの仕業だったのね、殴っていいかしら」

 

「....うーむどうやら寂しいとか嫉妬心と言った感情が要因ではなさそうですね。むしろ他の艦娘に対しては以前の時雨さんのままですし......ますますわかりませんね」

 

「つ、次の作戦....やるんですか?あの様子見ると次の作戦だいぶ危険な気が....」

 

「もちろんやります。提督様には申し訳ないのですが時間がありません。どんどん行きましょう」

 

「お、おー...頑張るぞお」

 

作戦2 本当にクソ提督!?セクハラまがいのアプローチに幻滅アンド激昂!?作戦

作戦はシンプルオブシンプル、私が潮に対してセクハラをしている場面を時雨に目撃させる。今まで付いて行ってた提督のそんな姿を見て時雨は幻滅。そして怒りのままに自分に罵声を浴びさせようというシナリオ。

....気がついた。この寸劇、私にとってトラウマになるわ。ダレカタスケテ

 

「時雨さんは現在、鎮守府内にある室内温水プールで泳いでいるそうです。休憩のタイミングでいい感じに視界に入るようにセクハラお願いします」

 

「わかりました....潮、すまんなこんなことになって、作戦とはいえ嫌だったら途中でやめてもいいからな」

 

「いえ、その、全然大丈夫です....!気にしないでください」

『早くきて!私にセクハラして!』

 

(あー、私は今日死ぬのだろうか、というかなんで潮さんノリノリなの、心の声に若干引いてるんですが)

 

「では作戦開始」

 

ー温水プール

喫茶店のすぐ近くにある我が鎮守府の艦娘専用施設だ。流れるプール、ウォータースライダーはもちろん、100mプールや飛び込み用も完備しており、鍛錬に、遊びに、気晴らしに多くの艦娘が訪れる憩いの場の一つ。

時雨はその一角、100mプールで黙々と泳いでいたが、区切りがついたのかプールサイドに上がって一息ついていた。

 

「よっこいしょっと...。1kmはちょっと泳ぎ過ぎだったかなあ、流石の俺も疲れたぜ、さってそろそろ寮に戻りますか...ってあれは提督と潮か?こんなとこで泳ぎもせずに何やってんだ....」

 

「うー、うーんいいねえ潮ちゃんその体。駆逐艦とは思えないよ」

 

「そ、そんなことないです....普通です」

 

「普通かあ?じゃあちょっとくらいなあ触っても問題ないよな」

 

「いや...その....ダメですよ提督....」

 

「なんだよお、いいじゃんか少しくらい!なあ!」

 

「や、やめてください!嫌がってます!私!嫌がってます!」

 

「そんなに嫌なら提督命令で無理やり触っちゃおうかなあ、ぐへへ」

 

(いや嫌がるって台本に書いてあるけど口に出しちゃダメでしょ!)

 

(す、すみません! こういう演技、いざしろってなるとセリフ浮かばなくて)

 

(こいつ脳内に直接)

 

「おい!何やってんだ。ってか漣はどうした」

 

「し、時雨!?なんでここにー(棒)」

 

「あ!時雨さん!よかった...。助けてください、提督にセクハラされてて....」

 

「な、お前!卑怯だぞ!時雨を盾にするんなんて!」

 

「へえ....。提督がセクハラねえ...」

 

「いや!これはその!違うんだ、聞いてくれ時雨!」

 

黒いオーラが一面に沸き立ち、ドスの効かせた時雨の声が私の耳に届く。演技することも忘れただただ手を前にやり弁明をしようとしていた。時雨はそんな私に顔をうつむかせて一歩、また一歩とにじり寄ってくる。

 

(あーこれ死んだわ。ごめんなさい母さん、私はあなたよりも先に旅立つようです)

 

そう覚悟し強く目を瞑った私の右手にほのかに柔らかい感触がした。というか今ムニって....

目を開けると真っ赤に赤面した潮と私の右手が時雨の胸を鷲掴みにする光景が広がった。

 

「ったく、みっともねえ姿見せてんじゃねえよ、てめえを信頼してる艦娘に見られたらどうすんだよ。....私でいいならいくらでもこういうことしてもいいから、ほかのやつには手を出すな、わかったな」

『潮を守りたい、提督も守りたい』

 

「は、はい、いえ!二度とこんなこといたしませんです....」

 

少し顔を赤らめてはいるものの、時雨のクズに対する大人な対応に思わずおかしな敬語で完全に屈服してしまった。潮は潮でこの状況を読み込めず、頭から湯気を出しながら目を回してフラフラしている。時雨は倒れかけた潮をすっと支えると私にこう言ってきた。

 

「ふん、わかればいいんだよ。潮のこと医務室に運んでやれ、気ぃ失っちまったみたいだ」

 

「え、でもいいのか、さっきまでセクハラしてた相手だぞ」

 

「別に普段の様子見てりゃ、そんなことするやつには見えねえしな。早く運べ。」

 

「は、はい!すぐに運びます!」

 

またもや作戦は失敗した。医務室で演技かと思ったら本当に気を失っていた潮を眺めながら3人は大きくため息をついた。

 

「あいつ...全然中身は変わってないわね。口調や態度は違うだろうけど、根本の性格は時雨と連動しているのかしら、ますます複雑な気がしてきたわ」

 

「うーむ、となると人格が連動している?それとも影響を及ぼして主人格の性格になりつつあるのでしょうか?ともかくこれだけやって全く要因がつかめないのは困りましたね」

 

「次の作戦....かなり過激ですぞ。本当はここまでである程度は解決する算段でしたし、本当にやる意味あるんですかな?」

 

「漣、ここまできてやらないって選択肢はないわ。あんな優しい姿見せられたら余計にね。大丈夫、次で必ず時雨を引き摺り出してあげるわ」

 

「ではすみませんが、提督様、曙さん。よろしくお願いします。周りを巻き込まないようにできるだけ人のいない場所でできるよう我々も善処します」

 

「うむ....。ではいこう、最後の作戦開始だ」

 

作戦3 このクソ提督!罵詈雑言を時雨の前で浴びさせる作戦!

作戦2よりもさらにシンプル。曙が時雨の見える前で私に対してありったけの罵詈雑言を浴びせる。それを見た時雨が曙に対して怒りをあらわにする、というシナリオ。ここで重要なのが配役。普段からおとなしい艦娘や私を明らかに慕っている艦娘ではこの作戦が破綻する。そこで普段からツンケンとした態度を取っている曙にお願いすることで、状況を自然とすることを可能とした。

 

「はい、では作戦開始します。時間的に終業後の夕食どきです。提督からお昼にできなかった話も込みで今晩のみたいとさそってあります。場所は居酒屋鳳翔の2階の個室、できるだけ端の席を取りましたので思う存分罵詈雑言言ってください。おそらく賑わっている店内であればそこまで目立つこともないでしょう。提督様はその...頑張ってください」

 

「「了解(した)」」

 

ー居酒屋鳳翔

1階2階と昔ながらの佇まいをした居酒屋。鳳翔が店主をしており、色々な地方のお酒を用意している上、メニューもリーズナブル。宴会場やカウンター席、テーブル席に個室席と、多くの用途に対応しており、料理は絶品。お酒好きはもちろん、普段からあまり飲まない艦娘も鳳翔には足を運ぶ子も多い。

 

「あら、いらっしゃい。懐かしい組み合わせですね」

 

「鳳翔さん、なんだかお久しぶりな気がしますね、すみませんが今日はよろしくお願いします」

 

「ええ、事情はわかりませんが、提督の頼みです。周りの席はできるだけ開けておきますので思う存分討論してください」

 

鳳翔さんにはあらかじめ店でもしかしたら喧嘩が起きてしまうかもしれないこと、それだけ重要で危ない話をするかもしれないことを事前に話してある。...まあ私がただ悪口言われまくるだけなんだけど。全面的に協力してくれるとのことで助かった。

 

「ご協力痛み入ります。このお礼はいつか必ず。本当にありがとうございます」

 

「あらお礼だなんて、楽しみにしてますね♪」

 

「ほら!さっさと行くわよ!クソ提督!お腹空いてるんだから!」

 

「あ、ああ。では鳳翔さん、また」

 

曙に腕を引かれ、指定された個室に行くとすでに時雨は日本酒を片手に座っていた。

 

「おっせえな、あんまり待たされるもんだから先にいただいちまったぜ」

 

「ああー、すまんな、今日はよろしく頼む」

 

「.....よろしく」

 

「しっかし懐かしいメンツだな。最後に曙と提督と飲んだのはまだこの居酒屋が1階しかない頃じゃないか?あの時はほんと曙の態度悪かったよなあ、あー今もそれは変わんねえか」

 

「うっさいわね!それはこいつが悪いんでしょ!溜めてた鬱憤吐き出すために今日は思いっきり飲んでやるんだから!」

 

2人は初期の頃からいるメンバーで私は提督だ。話のネタは尽きることがない。この雰囲気も、お酒に酔ってしまうのもある種作戦内だ。酔った勢いとあれば悪口も自然と言えるし、居酒屋ならある程度大声出してもただの飲んだくれと思われて不審がられもしない。ある程度全員がお酒が回ってきたと判断し、曙は作戦を実行した。

 

「おい!クソ提督!私あんたに前から言いたいことあったのよ!」

 

「ど、どうした曙、急に...」

 

 

「急にもクソもないわ!日頃からあんたの指揮見てるとイライラすんのよ。作戦も消極的だし、指揮もいっつもどっちつかず!これでうまくいってるのが嘘みたいって今も思ってるわ!」

 

(うむ、自然だな。演技とは思えない、演技だよね?)

 

「なんだなんだ?愚痴ぶちまけコーナーか?いいねえ」

 

「いや、これはお前らのことを思ってだな....」

 

「思ってるならなんで積極的にコミュニケーションしないわけ?そんなの一部の艦娘からは嫌われてるって勘違いされてもしかたないわよ?その子の気持ち考えて行動したことあるわけ?」

 

(曙さん....普通にこの前の件の愚痴じゃないですか...ごめんよそんなに気にしてたんだ)

 

「おうおう、確かに提督は艦娘とのコミュニケーションが足りねえな。今日1日だけでもよくわかったぜ」

 

「時雨まで....」

 

「それにあんた、いっつも書類業務に追われてて、まともにご飯食べてない時期もあったじゃない。秘書艦制度だってイヤイヤつけて....そんなに自分の能力を高く見てるのかしら?」

 

「ははっ...痛いとこ突かれたな」

 

「.....へっ、まぁ確かにそういうとこあるよね、提督は」

 

曙は話に夢中で気がついていないが、ピクリと反応した時雨の口調はいつものものに戻りかけていた。

 

「この前だって、秘書艦業務なんていらない、終わる量だから休めって言われて休んだら、一人でヒイヒイ言いながら業務やってたのよ。見栄はるんじゃないわよって感じ」

 

「.......」

 

「まああれは確かに、私の技量不足だったな、迷惑かけた。....って時雨どうしたさっきから俯いて」

 

「ふん、私訂正する気は無いわよ」

 

時雨の顔を見ると酔っていたはずの赤い頬は元に戻っており、コップを握る手は震えていた。そして何かを覚悟するかのような大きなため息をつくと静かに話し始めた。

 

「本当に昔から....嫌になっちゃうよ。モットーだかなんだか知らないけど一人で理想を抱いて、抱え込んで.....。どんなに辛くなったって変わらないのが余計に腹が立つ。望むことをやって、嫌なことを自分で肩代わりする。そんな愛情押し付けだって、なんで気づかないのかな...正直迷惑だよ。ただのエゴだよそんなの」

 

(主人格の時雨が出ている...これは....!)

 

「し、時雨!言い過ぎよ!確かにこいつは不器用なやり方かもしれないけど、私たちのことを考えての行動なのは本当よ!私たちはそれを支えてあげるのが役目でしょ!私たちが提督を信じてあげないでどうするの?」

 

「曙も言ってただろ?作戦が消極的だとか、コミュニケーションが足りないだとか。ぼくらのような古参の艦娘にそう思われてる提督を支えてあげよう?笑わせないでよ」

 

「それは....その言葉の綾で....信頼しあってるからこその軽口で...」

少し涙目になる曙、だが間髪を容れずに時雨はそんな彼女をまくしたてる

 

「曙は大きな勘違いをしてるようだから伝えておくよ。僕はこの提督を一度だって信頼したことはないし、信じようって思ったこともない。あるのは提督と艦娘の関係それだけだ。いい機会だからいっておくよ。僕はね、提督のことが大っ嫌いなんだ、こうしてこの場にいることにも虫唾が走るレベルでね。今後はこういう会にも呼ばないでもらえると嬉しいな」

『〜〜〜〜』

 

「そん...な.....。時雨なら.....こいつのことわかってるって思ったのに...」

 

「じゃあそういうことだから僕はここら辺で失礼するよ。本当に苦痛な時間をありがとう、奪われてしまった分、せいぜい残りの休日を楽しむとするよ」

『〜〜〜〜〜』

 

(時雨....お前....)

そういってぴしゃりと襖を閉じ去っていった時雨。それを見て泣き出してしまった曙と最悪の雰囲気、最悪の状況だが提督はある確証が得られた。

 

「ごめんなざい....でいどく....私のせいで...こんなことにいぃぃ....」

 

「大丈夫、気にしていない、むしろ感謝している。曙が本音を引き出してくれたおかげで今回の件、解決できそうだ」

 

そういって曙の頭を撫でながら私は次の策を考えていた

 

(時雨、お前のその願い、木っ端みじんに打ち砕いてやる)

 

メガネから見えた本当の願いを見た提督は今回のトラブルの原因、そして時雨の行動の意図を理解し最終作戦に移行するのであった。




長い、ですね。話数を重ねるごとに文字数増えてる気がします。文字数的には問題ないでしょうか?
前編後編に分けるつもりだったんですけど書いているうちに完成してしまいました。笑

今回の話で一番悩んだのは時雨の怒り方です。
物静かな時雨が怒る姿がどうも想像できなくてシナリオがなかなか思いつきませんでしたがどうにか自分なりに納得できる着地点に落ち着きました。

時雨編もラストスパートです。良かったら最後まで見ていってください。

読みにくい、わかりにくい等ありましたら気軽に感想お願いします。


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交差する思い

今回は前半が提督視点のお話、後半が時雨視点のお話となります。

話の時系列は提督視点は、時雨の居酒屋での騒動の後、時雨視点は過去編からいまに至るまで、の構想になっています。



「みんな、話がある」

 

居酒屋での一夜をあけ、4人は提督に呼ばれ、執務室に集まっていた。

誰一人言葉を発さず、重苦しい雰囲気が一面に漂っていた。この状況を作ってしまった医者は申し訳なさそうにうつむいている。

 

「まず時雨の人格形成の要因、おそらく推測がついた。そしてそれに対しての最終作戦も考えてきた」

 

「要因が?.... 提督様本当ですか? 昨日の一件で確かに時雨さんはあなたを嫌っている事実はわかりましたが....それと要因がいまいち繋がりません。第一嫌っているという事実は時雨さんによれば前々からではありませんか」

 

医者が口火を切って話し出す。

 

「確かに時雨殿がご主人を昔から嫌っているとしたら、今回の件とは無関係ですな。今回突然人格形成されたにしてはタイムラグが大きすぎますぞ」

 

「正直今でも信じられない....。昔からそんな素振り見せたことなんて一度もなかったもの。あの笑顔が偽りだったなんて思いたくないわ....きっと何かの間違いで....」

 

「時雨の行動は偽りだ、このメガネで本音を見た以上。これは揺るがない」

 

「そんな....じゃあ本当に時雨は....」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた曙。それに対して慌てて訂正を入れる。

 

「ん?.....あー!すまんすまん、そうじゃない。今まで行動ではなく、嫌っている素振りそのものが演技ってことだ」

 

「提督様。どういうことですかな?詳しく聞かせて欲しいです」

 

「まず、今までの他人格の願いも他の検証で覗いていたが、どれも目まぐるしく変化するもので大した願いはなかった。『漣を喜ばせたい』だとか『潮を守りたい』とかな。だがあの居酒屋の席で、時雨の主人格が出た瞬間、願いは『提督に嫌われたい』の一点のみに固定された。しばらく時雨を観察していたがこの願いは全く変化しなかったんだ、違和感あると思わないか?」

 

「確かに..本当に提督が嫌いなら、あの場の願いは『帰りたい』とかの方が自然よね。もうすでに嫌いだったらそれ以上相手に関心を持つとは思えないわ」

 

「自発的に嫌われに行ってるってことですか?」

 

「そう、つまり本当に私が嫌いなのではなく、私に時雨を嫌いになって欲しいのではないかと。理由はわからないが私への態度の急変したのに対して、私以外への人当たりがさほど変わっていないことも、この願いがあるとすれば合点が行く」

 

「なるほど....だから私たちには今まで通り優しかったんですね」

 

「付け加えると『提督に嫌われたい』という願いを実現可能時以外は他人格の時雨2さんが出て、普段通りに振る舞っている....推測ではありますが時雨さんの主人格は『嫌われる行為』に全力を注いでいると思われます」

 

「でもどうして? 要因はわかったけど理由が全くわからないわ」

 

「そうですなあ、そこまでして嫌われても時雨殿にメリットがあるとは思えませぬ」

 

「そう。結局我々は時雨の変化の要因はわかったが、本音にはたどり着いていない。つまりこの行動の真意を究明することが目標となってくる」

 

「やっと見えてきたわ。そこであんたのいってた最終作戦ね」

 

「そうだ。これから私は時雨に対して過保護と思われるぐらい常にそばに付き、優しくする。どんなに嫌がっても貫き通す。具体的な方法の一つとして、手始めに秘書艦業務を今週から1週間全て時雨にやってもらう。この鎮守府初の提督命令で強制的にな」

 

「ちょ、ちょっと! それが作戦な訳!? なんでそんな事する必要あんのよ! 羨ま...じゃなかった、それで時雨の真意がわかるとは思えないわ!」

 

「待て待て、話は最後まで...」

 

「ダメ!ダメよそんなの!認められないわ!ダメったらダメ!!」

 

「曙ちゃん....」

 

「ボノたん....」

 

「ツンデレジェンド曙さん....」

 

「何よそのかわいそうなものを見るような目!てか医者ぁ!なんでそのあだ名知ってんのよ!はっ倒すわよ!」

 

「まあ、聞いてくれ。作戦目的はシンプルに『嫌われること』を諦めてもらう、これだけだ。時雨の『嫌われたい』という想いは恐らく手段。真の目的のための行動の答えの一つだ。ならばこちらの対策は単純明快、その手段が無駄である事を本人に思い知らせればいいんだ。そうすれば自然と手段を変えてくる、その際にこちらから歩み寄ればいいだろう」

 

「つまりゴチャゴチャと理由は並べましたが内容としてはご主人が嫌いな相手だからこそ燃えるど変態ドM野郎になるってことであってますかな?」

 

「提督が...変態...」

 

「ほんと最低ね、時雨が悩んでるっつーのに、ふふっ」

 

「えー...結構これでも真面目に考えた答えなんだけどなあ.......」

 

 

重苦しかった雰囲気は若干明るくなった。解決に期待がもてるようになったのはのはもちろんだが、やはり時雨は自分たちの思う時雨のままだった、そんな言いようのない安堵感が彼女達の緊迫した心を弛緩させたのだろう。医者と提督も含め全員が冗談を言えるほど顔の表情は緩んでいた。

 

(しかしなぜだ、時雨.....)

打開策は見出したものの提督は全くと言っていいほど時雨の真意は理解できないでいた。だがこの提督の嫌われることが手段である、という考察は概ね正しかったのであった。

 

 

 

この問題の発端、時雨の変化の要因は半年前のある事件だった

 

ー3年前(時雨視点)

 

「提督が倒れた!?」

 

「はい...先ほど執務をしている最中に突然....。医者の診断によると過労らしいです」

 

「そんな...提督は大丈夫なの!?ねえ!」

 

「どうどう....。落ち着いて時雨ちゃん。今は落ち着いたわ。医務室で寝てるみたいだけど命に別状はないって」

 

「....そう...なんだ。よかった....取り乱してごめん、明石」

 

「その気持ちは痛いほどわかるからいいわよ。それより提督の様子を見に行ってあげなさい」

 

今の提督が新しく着任してから3年目の秋。たった7人しかいなかった鎮守府を救った英雄は過労で倒れてしまった。

提督が無理をし始めたのはたった5人での新海域突破以降、ここで戦うことを志願する艦娘は大量に現れたのがきっかけだった。

 

『私の管理さえ滞りなければ確実に艦娘一人一人の負担が少なくなる』

 

そういって提督はその志願を全て承諾し鎮守府は瞬く間に賑やかになっていった。確かに彼の言った通り出撃や遠征は日毎の交代制で行えるようになり、艦娘の休息の時間の増加につながった。また鳳翔や間宮、伊良湖といった艦娘をサポートする艦娘も受け入れたため休息の質も大きく向上した。提督は変わりゆく鎮守府の様子を自分の子供の成長のように喜び、毎日嬉しそうに業務に励んでいた。

 

しかし僕らは知らなかった。その笑顔の裏で、提督の負担が増え続けていたのを。新しい艦娘の受け入れ態勢を取って以降、設備の改築、修理、新しい子の戦闘データの分析など提督業務は多忙を極め、ほとんど寝ていない状態が続いていたらしい。だが、元々艦娘とはほとんど接せず、執務室でほとんどを過ごしていたため周りの艦娘はもちろん、古参である自分たちですら提督の異変に気づくことができなかった。その結果、ある日その疲労は限界に達し今回の事件が起きてしまった。

 

急いで医務室に行くとベッドには提督、そして隣の椅子から提督のベッドに突っ伏して寝ている曙がいた。僕を見るや否や顔をゴシゴシと拭き、体勢を立て直した。目は赤くなり、まぶたは腫れ上がっていた。どうやら相当な時間泣いていたらしい。

 

「曙、こんなところで寝ると風邪ひくよ」

 

「....はえ!?わ、私寝てた!?」

 

僕の呼びかけにビクッとして跳ね起きる。顔を上げた曙の目は赤くなり、まぶたは腫れ上がっていた。どうやら相当な時間泣いていたらしい。しばらく恥ずかしそうに身だしなみを整えたり、顔を制服で拭いたりした後、静かに話し始めた。

 

「......医者からはもう大丈夫だって、意識はまだ戻ってないけどじきに目を覚ますだろうって......全く、ほんと馬鹿なんだから、こいつ。こんなに心配させて....」

 

「そっか、それを聞いて安心したよ、曙が言うなら間違いないね。見守っててくれてありがとう」

 

「べ、別にこれは...。ま、まあこいつが来てからは多少この鎮守府もよくなったし、モットーかなんだか知らないけど私たちのために動いてくれるみたいだしね。使えるやつがいなくなったら困ると思っただけよ!」

 

「不思議な提督さんだよね。建前じゃなく本当に僕たちを幸せにしようとしてるって今回の件でよくわかったしね」

 

「でも、それがわかったのもこいつが倒れてからようやくよ。どうしてもっと私たちを頼ってくれなかったのかしら、それだけが不満よ。あーあ、そんなに私たち提督様から見ると頼りないのかしらねえ?.....って時雨?どうしたのよ」

 

「.....僕らが...頼りない...」

 

さりげなく言った曙の言葉が僕の頭の中でこだまする。頼らないんじゃない、頼れないんだとしたら。無理をしているのではなく無理せざるを得ないとしたら...?

心配してくれている曙の手を強く握って僕はいった。

 

「曙、僕ら強くなろう、もっともっと強くなるから、提督が頼れるように」

 

「....そうね。私たちはこんなもんじゃないって見せつけてあげましょ」

 

 

それから僕らは強くなるために必死に出撃した。有休だってほとんど使わず、出られる日は全部出撃か遠征に当て、ひたすら毎日をがむしゃらに過ごした。少しでも早く提督を楽にするために、頼ってもらえるようになるために。

そうした日々を過ごして約2年。遂に僕は適性検査の結果、大本営が認める最高練度に到達したとの通達が来た。総合的な実力は曙の方が上だが、最近出撃が減っている分、自分の方が見た目上、若干早く到達した。

 

「提督!遂にやったよ!レベル99だよ!ほら見てよ!」

 

誰もが認める強さの最高ランクの数値に到達したのだ。文句なしこの鎮守府、いやこの国の最高戦力と言っていい。長年この日のために血の滲むような努力をして来たんだ。

 

「ああ、おめでとう、時雨。初めてあった時よりずいぶん頼りになる存在になった」

 

だめだ、笑みが抑えられない。嬉しそうな提督とこれから頼ってもらえるそんな未来を考えるだけで喜びでいっぱいになった。だがそんなときは一瞬で提督の口から出た言葉は僕を絶望に落とし込んだ

 

「ありがとう!これで提督も少しは....」

 

「さーて!これからもっと忙しくなるぞ!準備準備っと!」

 

「....忙しく....なる....?...どうしてさ」

 

「さっき大本営から追加で通達が来てな、国の最高戦力のいる鎮守府としてより一層の設備投資をするよう、資金が下りたんだ。これからこれで色々とやっていくつもりだ。.....お前のおかげでこの鎮守府をもっとよくできる、改めて感謝したい。....あ、もちろん言葉だけとは言わんよ。この資金はいわばお前の努力の結晶。何か望みがあれば全力で応えよう」

 

「そ...そんな....望みなんて...。僕は提督が楽になればそれで....」

 

「ははっ、さすが時雨、謙虚だな。まあ考えておいてくれ。今後はより一層お前のサポートに回る。雑務は私がやるつもりだから、時雨は出撃と遠征に集中してくれ、これからもよろしくな」

 

そのとき、自分の中で何かが壊れた。

 

意識が切れた僕、目を開けると真っ暗な空間が広がりそこに一人の艦娘が立っていた。

 

「ここは....?」

 

『よう、目が覚めたかい。....てまあ覚めてはいないんだけどな。ここはお前の思考の中、お前は今意識を失ってるんだよ』

 

「そうか、あの後、僕は倒れて....。きみは....誰だ?僕とそっくりの姿をしているけど」

 

『そっくりも何も俺はお前が作り出したお前自身だよ。お前に本当の願いに反応してできた、な』

 

「本当の....願い?」

 

『そうさ、お前は提督から頼られたいんだろ?その強い思いに反応して俺は生まれたんだよ」

 

「頼られたい....ね。ふふっおかしいや、おかしいよそんなの。だって僕の願いはついさっき儚く散ったんだよ。もう諦めたんだ、だから君が生まれる理由なんて元からないよ」

 

『へっ、情けねえな。お前、提督に対する思いはその程度だったのか?やっすい魂だな。最高戦力様が聞いてあきれるぜ』

 

「何言われたってもう何も感じないよ、もう、怒る気力すらないしね」

 

『そんなダメダメなお前に一つ、いいこと教えてやろうか?提督がお前に頼って、楽せざるを得ない状況を作る方法があるぜ』

 

「楽せざるを得ない....? そんな方法あるのかい?」

 

『簡単さ、嫌われりゃいいんだ』

 

「嫌われる....? そんなの提督の心労を増やすだけじゃないか」

 

『ちげえな、根本的に考え方を変えろ。嫌われるのはあくまで手段だ。例えばよ時雨、お前を嫌いな奴がいたとする。当然時雨本人もそうよくは思ってない奴だ。そいつは有能で、時雨の命令には背かず、戦果は取ってくるがこっちに全く興味がない。そんなやつがいたとして、お前だったらどうするよ』

 

「その子、僕のことが嫌いなんだろ。だったら勝手にやりたいようにやらせるね。命令だって必要最低限に.....嫌いな人間に興味なんてわかないしね....」

 

『そうだ、その通り。嫌いな相手のために動き、気にかけるバカはそういねえ。当の本人が望まないなら尚更な。だがお前は有能だ、この鎮守府で一番と言っていいほどにな。なら業務上頼らざるを得ない』

 

「....! そうか....どうでもいい相手だが仕事だけはしてくれる。なら選択肢は一つ.....。僕をこき使う、きっとそれが望みだって思って...。なるほどね。.....君は僕の願いに反応して生まれたって言ったよね。だったらもちろん、この計画、協力してくれるんだよね」

 

『へっ、ようやくその気になったか。....当然だ。お前の願いは俺の願い。叶うまでは嫌って言ってもとまんねぇからな』

 

「じゃあ....よろしく頼むよ、えっと」

 

『しぐれでいいぜ。これからはおもてに立つからな。.....お前は嫌われることに全力を注げ、案外気力を使うからな嫌うことってのは。俺はお前がその事態になる時だけ切り替わってやる。いいな』

 

「確かに、それなら提督に対してのアプローチを考える余裕もできる。なるほど頭も切れるじゃないか....」

 

「じゃ、合意も得られたところで、これから作戦開始ってとこだな、提督に嫌われてみせろよ時雨」『もちろんさ、よろしく頼むよ、しぐれ』

 

 

嫌われることを諦めて、頼ってもらうために奮闘する提督と、頼られてもらうために嫌われようとする艦娘。二人の奇妙な攻防戦が幕をあけるのだった。

 




時雨編も終盤です。正直考えていた構想がうまくいかず、展開を悩みながら書いていました。
期間を構えた分、今後の展開はだいぶ固まったので、次回からはまたペース上がると思います(多分)

今回の文章は時系列の変化を取り入れたいと思い、慣れないながらも挑戦してみました。わかりにくい部分があるかもしれません。ご了承ください。

何か感想、読みにくい、ここが違う等ありましたら気軽に感想ください。


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対立

時雨と提督、交錯する思いの中、1日目の秘書艦業務が始まる。

※今回のお話の補足
提督は願望メガネをつけていますが時雨の願いは固定されており、また提督も調節機能を忘れているため、基本相手の気持ちは察せません

新キャラ紹介

赤城:温和で真面目。常に作戦や次の出撃のシュミレーションをし、絶対に勝つべくして勝つことをポリシーにしている。この鎮守府内で1番の戦力と噂される実力者。

龍田:提督の過去を知る数少ない艦娘の一人。それゆえか異常とも呼べるほど提督を溺愛している。性格は飄々としていて周りには流されにくい。艦娘をいじるのが好き

夕立:言われたことは信じて疑わない超純粋な心の持ち主で交友関係も広い。一方で提督と同様、悪意はないのだが少し的外れな行動をしてしまうことがあり、時雨はそれを気にかけている。


ー9:00 執務室

 

「へえ、あれから数日しか経ってないのにね。新手の嫌がらせかな?」

 

「そんなつもりはないぞ、時雨。あくまでお前の病み上がりの体調を管理できるようにするのが目的だ。他意はない」

 

「僕はむしろここにいるだけで気分悪いんだよね、わかるかな」

 

「それは大変だ。隣の部屋に秘書艦用のベットもある。使いたい時はいつでも使ってくれ」

 

「.....チッ、最悪だね今日は。今日と比べれば他のどんな日だって最高に見えると思うよ、ありが..とっ」ガンッ

 

「はっは、なんだそれ、時雨はポジティブだなあ。足痛くない?」

 

あの居酒屋での『提督嫌い宣言』から数日後、私は時雨を呼び出し、これから1週間秘書艦業務をやってもらうことを告げた。露骨に嫌がり、舌打ちをし、机をわざと足で蹴った時雨は大きなため息をついて私の方を睨みつけていた。

 

『う、うわあ...。女って怖いですな。演技ってわかっててもこの場には居たくないですぞ』

 

『...というか提督様のメンタルの強さには驚かされますね。全く動じてないように見えます』

 

『動じてないっていうより鈍いのよ、多方面で。時雨の言葉を皮肉だって理解してるかどうかも怪しいわ』

 

『じゃ、じゃあ...ある意味適役中の適役ってことですね...。奇跡です』

 

執務室に仕掛けられた隠しカメラとマイクで二人の様子を見届ける医者と艦娘3人。私はいらないと言ったが、念のため本気で提督に敵意を向けて来た際にすぐに援護できるようにと取った対策らしい。あちらの声も私の小型イヤホンから聞き取れるので、動きの指示もできるしまあ、いいだろう。

 

(なんかよくわかんないけど、医者以外にすごいばかにされてる気がするぞー??)

 

「さ、さて、早速仕事やっちゃうかー!じゃあ時雨はここら辺の簡単な書類を午前中までに...」

 

「は?なにそれ、僕をばかにしてるのかい? こんなの1時間もあれば全部終わるよ。本当に指揮能力がないね、君と二人きりの時は無能提督って呼ぼうか?」

 

「そ、そうか。時雨は優秀だな、じゃあ終わり次第休憩していいぞ。無能提督かあ、曙にクソ提督って言われ慣れてるから正直違和感がないのが怖いな」

 

「...ふん、張り合いがないね。僕はもう作業に入らせてもらうよ...できるだけ早くこの空間から解放されたいしね....」

 

曙、というワードに若干声のトーンを下げ、顔を曇らせた時雨。宣言通り、1時間と経たず私が指示した書類を全て片づけてしまった。そして何故か私の書類の方に目をやり、やり残しているものに手をつけ始めた。

 

「おい、いいって。これ終わったら休んでいいって言ったろ?」

 

「嫌だね。さっきも言ったろ、この空間から早く抜け出したいんだ。...それに随分僕を安く見てるようだからここではっきり実力を見せておかないと、腹立たしいんだよ」

 

「いやいや、十分時雨の実力はわかっている。単純に病み上がりのお前が心配なんだよ。そんなに量もないしな、ほら書類返せって」

 

「....くっ、う、うるさいなあ!やるって言ったら黙って渡せばいいだろ!」

 

私が返してもらおうとつかんだ書類を、反対から時雨が引っ張った。勢いが良かったのか書類を持ったまま机の横に尻餅をついてしまった。

 

「ちょ!大丈夫か時雨!無理するなって」

 

「ってて....。誰のせいだと思って...って提督...?血が!血が出てるよ!僕のせいで...」

 

「ん?あ、本当だ。紙が擦れたときに切れちゃったかな。問題ないしお前のせいじゃない、気にするな。それよりお前の方が心配で....」

 

運悪く提督の手の平を通った時に切れてしまったのか血が滲んで来た。みるみる顔を青くして動揺する時雨だったが私の言葉を聞くと冷静になり、怒ってるような、悲しんでるような複雑な表情をした。

 

「....もういいよ、なんかもうやる気なくなっちゃった。ちょっと休憩してくる。....その手、消毒くらいしなよ、それくらいは無能な君でもできるだろ?」

 

そう言った時雨はスッと立ち上がりと早足で執務室から出て行き、思い切り扉を閉め何処かに行ってしまった。

結局時雨はその後お昼を過ぎても戻ってくることはなかった。

 

『時雨殿、戻ってきませんな...』

 

「これも嫌われるための行為の一環なのかなあ、こちらとしては来てもらわないと作戦も何もないのだが...」

 

『提督、時間も時間ですし、私たちも一旦お昼にしませんか? 改めて作戦を見直す必要もありそうですし...』

 

「まあ、そうだな。とりあえず休憩にするか」

 

『あー、すみません、私はもう病院に戻らないといけないので、お昼は遠慮しておきます。作戦成功、祈ってます』

 

「わかりました。本当にありがとうございました。携帯で随時報告しますね」

 

『はい、よろしくお願いします』

 

「....さて、お前らも付き合ってくれてありがとう。お礼に今日はお昼おごるぞ」

 

『『やったー!』』

 

「あー、曙? さっきから声が聞こえないぞ? 具合悪いか?」

 

『.....あ、ごめん、大丈夫よ、心配してくれてありがと。....ちょっと時雨のこと考えてて』

 

『キマシタワー!ボノたんまさかの両刀ですかな!? ご主人、聞きました!?』

 

「ん?ちょ、ちょっと待て、漣の声が大きくて音が...」

 

『りょ、両刀ってなによ!?私は提督一筋よ!バカ!!』

 

『曙ちゃん...。マイク繋がってるから...』

 

『あー!!!!!!今のなし!クソ提督!今の嘘だから!!!』

 

「音割れしてて全然聞こえん...」

 

なにやらわからないが騒がしそうにしている3人。本当に仲がいいようで微笑ましい。自然と笑みをこぼしながら無線を切り、3人のいる部屋に向かう。

その途中、私は時雨のことを考えていた。

 

(早く何か解決の糸口を見つけたいんだが...。今のところ収穫はないな...。午後からもっとこっちからグイグイ行く必要があるかもな)

 

 

 

ー間宮食堂

 

「ちょ、ちょっと島風!またファストフード食べてる!たまには他のも食べないと体壊すわよ!?」

 

「だって早いんだもーん!早くて安くてうまいんだよ!チキチー最高!コーラも最高!」

 

「なんで太らないのかしらこいつ....」

 

 

 

「ーそれでねー、吹雪ちゃんたら遠征で艤装忘れてきたんだよお、ドジよねえ」

 

「ちょっと!言わないでよお...気にしてるんだから...」

 

「それはドジのレベルなのか....?」

 

 

「ダメだ...お昼は力が出ないよ...早く夜戦....エナジーを貯めなきゃ....」カシュ

 

「川内姉さん!食事をモンスターで済ませようとしないでください!」

 

「わかったよー、じゃあこれで...」プシュ

 

「レッドブルもダメです!!」

 

 

3人を連れて久々に食堂に来た。お昼時ということもありほぼ満席状態だった。好きな食事について口論するもの、会話に花を咲かせながら楽しく食事をするもの、食堂で全く食事をしないものと十人十色の過ごし方をする艦娘たちが散らばっている。先ほどの曙たちの絡みでも思ったが、やはり艦娘が自然に過ごしている姿を見るのは微笑ましい。

 

(ウンウン、みんな幸せそうだ。私まで嬉しくなってくるな。だが食事の栄養面で少し問題があるようだな....しかし好きなものを食べるからこそだしな...)

 

「龍田殿!赤城殿!こんにちはです!」

 

「こ、こんにちは!」

 

「....ふん、早く行きましょ赤城さんはともかく、龍田に絡むとろくなことないわ」

 

「あらあら、相変わらずイケズねえ、曙ちゃんは」

 

「あなたの日頃の行いのせいでは?」

 

「だって、曙ちゃんからかうと反応面白いんだものぉ。......ってあらぁ? 提督じゃないですかぁ」

 

「あらほんとですね、これは珍しい。どうしたんですか」

 

 

食堂の様子を観察し、考え込んでいた私に声をかけてきたのは鎮守府の主力の二人、赤城と龍田だった。

入口近くに座っていた二人のテーブルには所狭しと次の作戦用の地図や関連の資料が広げられていた。どうやら次の作戦の見直しをしているようだった。

 

(時雨の件は....真面目な二人だ。余計な心配をかける可能性もあるし黙っておくか)

 

「まあ...なんだ、色々とあって、今までの私ではダメだと感じてな。これからはもっと艦娘とコミュニケーションを取ろうと決めたんだよ。今日はその第一歩として曙たちと食事をと思って食堂に来て見たんだ」

 

「なるほどねえ、私としては嬉しいけどぉ、無理はしないでくださいねえ」

 

「そうですよ。お気持ちはわかりますが、あまり自分を追い詰めないでくださいね。提督は今のままでも十分素敵だと思いますよ」

 

「ああ、ありがとう、無理せず頑張るさ。...ところでそこに広げられているのは明日の作戦関係か? どれ、見直しが必要なら私も...」

 

私が地図に目をやり二人の輪に入ろうとしたとき、後ろの曙から服の袖部分を強く引っ張られた。

 

「クソ提督...私もうお腹すいたわ。おごってくれるんでしょ、早く行きましょうよ!」

 

「ふふっ提督、可愛いお連れ様が待ってますよ。作戦は私たち二人で十分ですから、提督は艦娘とのコミュニケーションという業務に専念してみては?」

 

「あらあら〜、私たちはお邪魔だったかしらぁ? ジェラシーなんて可愛いわねえ」

 

「あーもう! だからこいつらに絡むのは嫌だったのよ!もう行くわよ!」

 

足早に去ろうとする曙に袖を引っ張られ、赤城と龍田の元を去った4人はなんとか席を確保した。テーブルでの注文を終え、曙と私は先に料理を取りに行くのだった。

 

「あんた...またカレーな訳? どんだけ好きなのよ」

 

「カレーはいいぞ。料理としてももちろんだが、まずこのバランスが素晴らしいんだ。ルーという下地に入る具材が織りなすハーモニー、だが決してお互いに喧嘩はしない。これは私のモットーにも通じるものがあるんだ」

 

「モットーに?」

 

「いいか、ルーは言うならばこの鎮守府。そしてこのカレーの具材たちはそれぞれ個性を持った艦娘だ。例えばこのジャガイモは...」

 

「あ、あれって時雨じゃない? 声かける?」

 

「お前から振ったんだから最後まで聞けよ!....無論だ。作戦は進行中だ、接触できる機会は全てこちらからするぞ」

 

曙が指差した方を見ると、姉妹艦の夕立と話している時雨の姿が見えた。カレーのお盆を持ちながら私はゆっくりと二人に近づいたのだった。

 

 

「ーってな訳よ。今度連れてってやるぜ、めっちゃうまいぞ」

 

「楽しみっぽい!」

 

「あー、おほん。時雨、夕立、少し邪魔していいか?」

 

「あー提督っぽい!珍しいね、どうしたっぽい?」

 

「何、日頃あまり接せられてなかったのを反省してな、ちょっと話そうと思ったんだ」

 

「....ごめん夕立、僕もう行くよ。お昼は別の子と取って欲しいかな」

 

私がきたのを確認した時雨は、すっと立ち上がり私をにらみながらその場から去ろうとした。先ほどの様子から察するに主人格に入れ替わっているようだった。

 

「し、しぐれ...? どうしたっぽい? イメチェンやめたっぽい?」

 

(イメチェンで通してたのか...ってか通ったのか...)

 

「ちょ、ちょうどいい。お昼がまだなら一緒に食べないか?」

 

「....うんって言うと思ったの? 午前中の執務は仕事と割り切るけど、プライベートまで邪魔されるのは流石に困るんだよね」

 

「まぁまぁそんなさみしいこと言うなよ。...そうだ、今日は曙たちに飯おごるつもりなんだが、時雨たちにも奢ってやろう、これでどうだ」

 

「やったっぽーい!なんでもいいっぽい?提督!」

 

「ああ、いいぞ好きにしろ」

 

「なんでも...か。わかったよ。...じゃあさ、その提督が持ってるカレー、それちょうだいよ」

 

さっきまでの否定的な態度からは一変、時雨は急にご飯に対して乗り気になった。だがその言葉とは裏腹に何か思いつめたような、または覚悟したような表情をしていた。

 

「え?あ、ああ、これか。あーそういえば、時雨は俺と一緒で昔からカレー大好きだもんな。ほれ、さっきとって来たばっかの出来立て間宮カレーだ。私の今日はカレーの気分でなあ気があうじゃな...」

 

「....提督..間宮さん...ごめん...」

 

トレイを受け取ったその瞬間だった、時雨は私のカレーのトレイを食堂の地面に叩きつけた。飛び散る皿やカレー、そして大きな音は先ほどまでの食堂の空気を変え、一瞬の静寂が襲った。

 

「し、時雨? 手が滑っちゃたか? すまん渡し方が...」

 

「そんなわけないだろ? わざとに決まってるじゃないか...ふふっ...ははっ! でも...これは気持ちがいいな!想像以上だよ!今日は最悪な日だったけどこれで少しは気も晴れたよ」

 

「時雨!!!あんた何してるかわかってんの!?」

 

落ちた皿の破片をしゃがんで拾っていると突然すごい剣幕の曙が時雨の胸ぐらにつかみかかった。

 

「...何って、見てわからないのかい? 提督が好きにしろっていうから、言われた通り好きにしたんじゃないか...何かおかしいかい」

 

「人の気持ち考えなさいよ!!何企んでるか知らないけど、やっていいことといけないことの区別くらいつかないわけっつってんのよ!」

 

「何も企んでなんかいないさ。ただ僕はこの男のカレーをこうしたかった、ただそれだけだよ」

 

「提督に謝りなさい、今日は時雨の日頃の行いに免じてそれで許してあげる」

 

「君は提督のなんなんだい?むしろこっちが謝って欲しいくらいだよ。..それに提督は優しいんだろ、こんな些細なこと笑って許してくれると思うな」

 

「...優しいわ、本当、バカみたいに優しいわ。私たちのことを思って行動して倒れちゃうような人よ。でもね、そんな人だからこそ人一倍私たちの些細なことに気を配っちゃうの、小さな変化の原因を知るために無理しちゃうの。だから私は決めた、どんなに敵を作ろうと私だけはこいつを信じようってね」

 

「....ぼ、僕は...」「もういい...てめえじゃ力不足だ。ここからは俺がやるよ」

 

(じ、人格が変わった? なぜだ、私がらみの時は変わらないはずでは...)

 

「さっきから聞いてりゃ提督提督って...こいつのどこにそんなに惹かれるんだか...優しい面を被ってるかもしてないけどなあ、この男は『あの事件の犯人』かもしれないんだろ?」

 

「......しなさい」

 

「あ?どうした、よく聞こえないぜ」

 

「...訂正しなさい。それは提督じゃないって結論が確かに出たこと、もうそんな可能性はないわ」

 

「結論だと?証拠もないらしいじゃねえか。お前だって反論はできないだろ。それってぼかすんじゃねえよ、艦娘殺しの...」

 

「訂正しろっつてんのよ!!!」

 

ガシャンと音を立て、曙に艤装が展開される。先ほどの怒りとはまた違い、明確で本気の敵意を時雨に向けているように感じた。時雨はそんな曙に全く怯まず、一つ小さなため息をついた後静かに口を開いた。

 

「....へえ...面白えじゃねえか。曙! お前がそいつを盲信して盾になるっていうなら、いいぜ。受けて立つよ。鎮守府最高戦力をなめんなよ」

 

「おい! やめろ二人とも!」

 

時雨も艤装を展開し、お互いの砲塔が体に向けられている状態。先ほどの音で集まった周りの艦娘もただならぬ雰囲気を察し、止めに入ろうとするが、伝説の5艦同士ということもあり誰一人その場から動けずにいる。緊迫した空気の中曙が静かに話し始めた。

 

「最後通告よ。10秒以内にさっき言ったこと、全て訂正しなさい。誤解を与えた艦娘にも伝わるように大きな声でね。そうしなかったら私躊躇なくあなたを撃つわ」

 

「嫌だね、事実は事実だ。結論の出ていねえ以上、俺は絶対に訂正しないぜ。撃てるもんなら撃ってみろや」

 

「残念よ、時雨。せめて苦しまないように沈めてあげる!!」

 

ガチャリと音を立て激しい轟音とともに曙、時雨の砲塔から砲弾が発射されたのが見え、二人の姿は煙に包まれるのであった。

 

<続く>

 

 

 

 




ペースを上げるとはなんだったのか、って感じですけど、とりあえずかけるところまで書きました。
今回書いてて思ったのは大きな施設を書く際は新キャラ(物語に出てこなかった艦娘)を置く書く必要があるのですがそれがまあ、楽しいってことです。シリアス展開多めの文章ですが、単発で終わるような日常回も書きたいなあって感じましたね(書く予定ではありますが)



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決着その後

激突する時雨と曙の戦いの行方は...?



『』内は今回、主人格に出ていない時雨のセリフになります


※赤城と龍田についての補足
伝説の五艦の中でも屈指の実力を誇る二人は周りの艦娘にとってヒーロー的存在。戦闘能力もさることながら、その高い実力を鼻にかけず、常に強さを求める姿勢を目標としているものは多い。一部では赤城ファンクラブ、龍田ファンクラブが結成されており、その人気ぶりが伺える。




「残念よ、時雨。せめて苦しまないように沈めてあげる!!」

 

曙の砲塔から光が出た瞬間に反射的に自分も引き金を引いた。

 

(まずい!この距離で外せば大破は防げねぇ!)

 

だがそんな思いを抱いた次の瞬間、砲塔を何者かに蹴り上げられ、体勢を崩された。発射された砲弾は、勢いよく放たれた矢によって天井を突き破り、食堂の外に飛ばされた。

 

「そこまでです!!何事ですかこれは!!」「曙ちゃん、提督の前でおいたはダメよぉ?」

 

ようやく事態を飲み込み目の前に広がったのは艤装も展開せず弓矢と薙刀で対処した赤城と龍田の姿だった。表情は普段通りで変わらないが、圧倒的なプレッシャーから有無を言わさぬ絶対的な実力がにじみ出ていた。自分の砲塔に目をやると相当強い衝撃が加えられたのか、ひしゃげて使い物にならなくなっていた。

 

「おいおい...出た砲弾に打ち込んで軌道変えるなんて...バケモンかよ...」

 

「そんな...私の艤装が...」

 

反対サイドの曙を見ると砲弾は真っ二つになっており、艤装もバラバラになって足元に無造作に転がっていた。しばらくの静寂が食堂全体を包み、一人の艦娘が驚嘆を漏らした。

 

ーすごい.....

 

「「「「「うおおおおお!すげえええええ!」」」」」」

 

「「「「これが伝説の5艦の実力かあああああ!」」」」」

 

「「「「赤城(龍田)さんかっこいいい!!」」」

 

その小さな驚嘆は多くの艦娘に伝播し、食堂全体の歓声へと変わった。目をキラキラと輝かせるものや夢中で写真をとるもの、うっとりと二人を眺めるものなど多数いたが、誰一人被害を受けた様子はなかった。

 

「けほっ...けほっ...。くそっどうなったんだ全く...」

 

「て、提督!お怪我はありませんか!?」

「大丈夫よ赤城、この人案外タフなんだから」

 

 

「ああ、龍田、赤城か。様子を見るに、この騒ぎを止めてくれたのだな、すまなかった。私なら大丈夫だこの通りピンピンしている。それよりもしかしたらこの騒ぎで周りの艦娘の誰かが怪我をしているかもしれん、至急巡回してくれ。念のため食堂で被害があった付近全域を頼む」

 

「わかったわぁ、切っちゃった砲弾、爆発しないうちに処理もしないいけないし、その仕事は私がやるわぁ。とりあえずそこの伸びてる夕立ちゃんを保健所...じゃなかった保健室に連れて行くわねえ」

 

特に大きな爆発はなかったものの、砲弾が出た時の衝撃をもろに食らった夕立は目を回して倒れていた。それを軽々と持ち上げた龍田は他の艦娘に怪我はないか呼びかけつつ、目で追えないようなスピードで保健室へと向かっていった。

艦娘は人間よりも丈夫で身体能力もかなり高く作られている。深海棲艦と戦うため、ある程度人間離れした動きをしてもなんら疑問は浮かばない。だが、この二人はそのような能力を持つ同じ艦娘から見ても異常な存在だった。

 

(赤城といい、龍田といいこの鎮守府の上位層はどうなってやがんだ...人間離れ...いや艦娘離れしすぎてる。今も震えが止まんねえ)

 

俺は得体も知れない畏怖と驚愕で動けないでいたが、曙もそれは同じようでぺたんと壊れた艤装の近くに座り呆然と穴の空いた食堂を見ていた。

 

ー保健室

 

食堂に残った赤城の無言の圧力で連れてこられた俺と曙は正座させられ部屋の隅でうなだれていた。少しでも逃げようとすると龍田の遠慮ない薙刀での牽制が飛んでくるためそれもとうに諦めた。

 

「改めてすまんな、二人とも。迷惑をかけた。龍田、夕立の方は無事か?」

 

「ええ、命に別状はないし、怪我もしてないわ。軽い気絶みたいよぉ。あ、それから周りの艦娘も特に目立った被害はなかったわ。」

 

「そうか、とりあえず一安心だな、ありがとう。では赤城、改めて今回の騒動の被害報告を頼む」

 

「はい、ではご報告させていただきます。物的被害に関しては曙、時雨の艤装と砲弾2発が大破、食堂の床と天井の一部が破損しました。しかし人的被害に関しては龍田が説明したように現状ではゼロです」

 

「うむ、了解した。一先ず一件落着かな。では今回の損害を至急大本営に報告する必要がある。事件の発端である私が抜けるのは心苦しいが、後のことは頼む」

 

「「了解です(よぉ)」」

 

提督はその場から出て行き、バタンと扉が閉められると赤城が龍田に監視されている俺たちの方に歩いてきた。

 

「さて...説明してもらいましょうか、どうしたらこんなことになるんですか全く」

 

「へっ、説明はいいけどよ、まず言わせてもらうぜ、俺は悪くn....。「今回の件は全て僕が悪いです。提督からいただいた物を粗末に破棄した挙句、ひどい悪口を言ってしまいました。曙が艤装を展開してしまったのもこれが発端です。曙は提督を守ろうと秘書艦の義務を果たした、それだけで非はありません。ですので今回の責任は自分に全て取らせてください。...本当に申し訳ありませんでした」『おい!何言ってんだよお前!』

 

「時雨...あんた..」

 

主人格である時雨は懇切丁寧に事情を説明したのち、頭を床に押し付け深く謝罪と反省を示した。その様子を見ていた曙は状況が掴めずただ時雨の方を睨んでいた。

 

「あらまあ...あの時雨ちゃんがそんなことを...」

 

「...にわかには信じられません。曙、本当なのですか?あなたをそこまで怒らせることなんてそんなに...」

 

「僕は『例の事件』を掘り返して提督を罵倒しました...僕は彼を犯人呼ばわりしてしまいました!!」

 

それまでは要因を探るように優しい声色で接していた二人だったが

その単語が飛んだ瞬間、目の色が変わった。

 

「なるほど...。それは確かに時雨さんに非があるかもしれませんね...合点がいきました」

 

「曙ちゃんが怒ったのも納得ねえ..私だったらこんなんじゃ済まなかったかも...まあでも今回は時雨ちゃんの日頃の行いに免じて許してあげるわあ」

 

「時雨、曙、今回の騒動、大方把握はできました。それを踏まえた上で伝えなくてはいけないことがあります。まず艤装は決して....」

 

結局その日は赤城さんの2時間に及ぶお説教を受けた後、喧嘩両成敗として曙と食堂の修理と間宮食堂での配給業務、に携わり1日が終わった。その間、僕と時雨は一言も会話を交わすことはなかった。

部屋に戻ると、夕立はまだ保健室にいるようで、自分一人だけの状態だった。それを確認すると他人格のしぐれがここぞとばかりに文句を言って来た。

 

『おい!てめえ、なんであの時勝手に入れ替わったんだよ!でしゃばんなよ!』

 

「全く...文句を言いたいのはこっちだよ、いいかい。疲れているから手短に話すよ。今回の一件で君に言いたいことが2つある。1つ、『例の事件』について触れるな。あれはそんな簡単に口に出していいことじゃないんだよ。今後一切あの話はしない、いいね」

 

『はあ?俺が共有した記憶では...』

 

「いいね?」

 

『ちっ...。わかったよ』

 

「2つ、僕の許可なしに勝手に行動しないで。君の行動は過激すぎるし短絡的だ。何か行動を起こす際は僕に相談、いいね」

 

『へっ、それについては俺も言いたいことがあるぜ。俺が勝手に出て来たのはお前があまりに中途半端だからだよ。何を迷ってるのか知らねえけどあんなんじゃ作戦が進まねえよ』

 

「それについては反省している。確かに僕は覚悟が足りなかったかもしれないそれは素直に直すつもりだよ。でもね僕が言いたいのはそこじゃない」

 

『じゃあどこだよ、俺の行動は強引かもしれねえけど、あくまでお前の願いの後押しをしてるつもりだぜ?』

 

「その『後押し』が問題だったんだよ。この鎮守府で一番厄介な二人に目をつけられたんだからね。もう後の祭りかもしれないけど今後は二人への接触は全て僕がする。特に龍田は一番慎重にいかなきゃいけない相手だったのに...」

 

『確かにあの二人の実力は別格だ。敵にまわしたくはねえよ。...だがよ、今回の作戦にそこまで影響出るもんなのか?』

 

「それに関しては明日以降、嫌という程わかると思うよ...」

 

『....そりゃ楽しみだ』

 

時雨のこの言葉、正直ピンとこなかった俺だったが、次の日から俺は思い知った。二人の本当の恐ろしさを。

 

<続く>

 

 




というわけで、今回はここまでです。いかがだったでしょうか?

結構提督視点が続いていたので書いていてなかなか新鮮でした。
今回は3,000字前後を意識して書いてみました。今後投稿頻度をあげていきたいと考えたときにこれくらいがいいかなあと自分なりに物語を切ってみました。
もっと長くていい、これでいい、もしくはもっと短いほうがいい等ありましたら、気軽にお願いします。参考にさせていただきます


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2つの障壁

騒動から一夜明けた朝、時雨は提督の命令に従い、秘書艦業務をしようと執務室に訪れる。
だがそこで最初に声をかけられたのは提督ではなく龍田であった。

『』内は前話と同じく時雨の表に出ていない方の考えやセリフです。
視点は今回も時雨がメインですが後半に少し他視点も入ります。




騒動から一夜明けた朝。俺は秘書艦業務のために執務室の前に来ていた。正直、提督に嫌いと言ってしまった手前、こちらから接するのは不自然だと感じていた。だが、運がいいのか悪いのかあっちの方から接触する機会を振られたのはこちらにはとても都合が良かった。

 

(昨日でだいぶ嫌われた気がすっからな...。もうひと押しを今日の秘書艦業務で...まあ若干気まずい感もあるけどな)

 

「何やってるのかしらぁ?」

 

その声が聞こえたと思った瞬間、掴もうとしていた執務室のドアノブがスパッと切れ足元に転がった。それに遅れて風を切る音とともに目に前に薙刀が現れ、思わず俺は尻餅をついてしまった。

 

「っ....! っぶねえな!何考えてんだ!」

 

「それはこっちのセリフよ、時雨ちゃん? 昨日の今日でどうして提督のそばに行けるなんて思えたのかしら」

 

「なっ...龍田...」

 

そこに立っていたのは先日の夜、噂していた張本人の龍田であった。その姿を見るや否や、主人格の時雨が瞬く間に表に立ち話し始めた。

 

「.....えっと、ごめん、龍田さん、僕今日は提督に呼ばれているんだ。僕の意思できた訳じゃないよ」

 

「あらぁ、そうだったの。私ったら早とちりしちゃったわあ、ごめんなさいねぇ」

 

「いやいや、気にしてないよ。実は昨日から一週間、提督の命令で秘書艦業務を頼まれ...」

 

「じゃあ、今日からもう来なくていいわよ、というか来ないでねえ。提督の命令なら心配しないで、その間は赤城に秘書艦を頼むし、提督にはあなたは体調不良とでも伝えとくわぁ、これでいいでしょ?」

 

緩んだ口元とは裏腹に、目は氷のように冷え切った龍田から突然の秘書艦解雇宣言をされてしまった。優しい口調ではあるがその言葉の端々にはナイフのような鋭さが垣間見える。

 

「なっ...。なんで急に、別に僕は提督に危害を加える気なんてさらさら...」

 

「時雨ちゃん、あなたは昨日提督に敵意を向けた挙句、彼の近くで艤装を展開したの。危害を加えようと思ってなかったとしても加わる可能性はあった、これは事実よ。そんなあなたの言葉が信用できると思うかしら?」

 

「確かに...そうかもしれない。でも僕だって流石に昨日はやり過ぎったって反省してるんだ。謝りたいことだってあるよ...」

 

「もちろん、このまま一生このままな訳じゃないわ。あなたが信用に足る人物で、提督に対して害がないと私たちが判断できれば、それ以降はこれまで通り接してもらって構わないわ。だからその判断が下るまでは、提督からは離れてねってだけよぉ?」

 

「わかったよ、...で、でもさ秘書艦業務は仕方ないにしても、話すことすらできないってのは...」ドンッ

 

「あなた、さっきから何か思い違いをしてないかしら。これはお願いじゃなくて命令。昔のよしみで多少譲歩してこの程度の罰にしてあげてるだけで、あなたが変な気を起こすならより重い罰にしても構わないのよ?」

 

執務室の前に刺さった薙刀に自然と身が震える。たとえ古くからの仲間であろうと提督に仇なすものは容赦しない。そんな躊躇のない薙刀での無言のメッセージは本能的に僕を震えさせたのだった。

 

「は、はい。わかりました」

 

「ふふっ。分かればいいのよ。しばらくはおとなしくしててねえ」

 

結局提督の姿はおろか、声すら聞くまでもなくとんぼ返りで自室に戻ってきてしまった。

 

『なるほどな...。こりゃあ厄介だ。あの様子じゃ提督側も赤城が俺に近づけないようにさせてるのは明白だな。これじゃ作戦もクソもねえ...』

 

「はあ...。わかってはいたけどやっぱりこういう事態になったか。龍田はね、根はとてもいい人なんだ。気遣いはできるし誰にでも面倒見がいい。ただ提督のことになるとなんというか...かなり攻撃的になっちゃうんだ」

 

『んなもん見りゃわかるぜ、怖えなありゃ。俺が下手に挑発したらマジでぶった切ってきそうな勢いだぜ』

 

「そこまではしないとは思うけど...。障壁になったのは間違いないね。ただまだチャンスはある」

 

『チャンス?』

 

「龍田の遠征中を狙えばいいんだよ。あの人のことだから代わりを用意してはいるだろうけど、本人に比べたら提督に接近する難易度はかなり下がるはずだ」

 

『そうか! その手があったか! あいつが不在ってなりゃ最大の障壁は突破したも同然ってわけだ。遠征に絞ったのは不規則な帰りの出撃より時間も読みやすいからか?』

 

「そう。こちらの猶予も把握したいしね。この日なら執務室に入るのは厳しくてもお昼くらいになら接触可能なはずだ」

 

『うっし。決まりだな、じゃあ確か次の龍田の遠征が明後日だったかな。その日に作戦決行だぜ』

 

「ああ、絶対に成功させよう」

 

ー翌々日 食堂前

 

「おいおい...聞いてないぜそりゃ...」

 

龍田が早朝から遠征で不在の今日、俺は昼時を狙って再び提督に接近を試みようとしたのだが...

 

「前方! 異常なし! 提督殿、赤城さん、どうぞご使用ください! 瑞鳳!事前偵察の報告頼みます!」

 

「個室周りおよび食堂周りも不審物も見当たりませんでした! 心配ありません!」

 

「了解、報告ありがとう。赤城さん、食べてる間は私たちがドアの前で見張りに就きます。あなたは気にせず提督とお食事なさってください」

 

龍田が何を吹き込んだのかはわからないが、提督の周りにはこれでもかというほど警備の厳戒態勢が敷かれていた。食堂の個室で死角がない場所を選び、その入り口には見張りであろう、飛龍と蒼龍が立っている。見回りに飛鷹とその艦載機が鎮守府の周りで常に監視しており、食堂の入り口には翔鶴、瑞鶴が入るものすべてをを入念にチェックしている。

 

「あ、あの蒼龍? そこまでしなくてもいいのよ?提督なら私がいるだけで十分...」

 

「ダメです! 提督とあなたの身に何かあったらどうするんですか! それに、龍田から帰ってくるまでは提督にどんな艦娘も近づけるなと伝言を受けています。理由はわかりませんが緊急事態だと考えての行動です。本日はFC一同総動員して赤城さんを見守...じゃなかった守らせていただきます!」

 

「龍田...またあの子、説明ほとんどしないで...わかりました。えっと...瑞鶴さん?お願いしますね。」

 

「はっ! この命に代えても使命を果たします! all hail AKAGI!」

 

「「「all hail AKAGI!」」」

 

統率のとれた号令とともに、頭に赤城命と書かれたハチマキを巻いた警備隊一同は自分の持ち場につき、警備を再開した。

 

「赤城、加賀と何を話してたんだ? それにこの警備はなんなんだ、朝から思考が追いつかんぞ 」

 

「すみません提督、どうやら昨日の騒ぎを過敏に反応した艦娘の自主的な行動みたいです...あとで私から言っておくので気にしないでください...」

 

「え、ああ、まあ、赤城がそういうなら...気にしないでおこう...」

 

その様子を傍で見ていた時雨は若干、いやかなり引いていた。

 

「おい!聞いてねえぞ! なんなんだよあいつら! 頭のハチマキも相まって完全にやべー集団じゃねーか!」

『あー...あれは赤城ファンクラブの皆さんだね...きっと龍田さんが警備をお願いしたんだ』

 

「ファ、ファンクラブ? 赤城ってそんな人気あるのか?」

『人気なんてもんじゃないよ。憧れ通り越して神格化されてるからね赤城さん。あの隊の結束力はすごいよ...ある種龍田と同じレベルで脅威だよ...』

 

「こりゃ...ダメだな...」

『だね...これじゃあ龍田いる日の方がまだ可能性ある気がするよ...まあないけど...』

 

ただでさえ接触が厳しいのに、それに加えて統率のとれた軍隊のような艦娘がいたるところに配置されたとなっては、作戦決行を断念せざるを得なかった。

 

事件から丸7日、龍田と赤城(の周り)によって会うことが許されない状況となり、俺の作戦は完全に封印されてしまった。時雨とも話し合った結果、とりあえず打開策が見つかるまではおとなしくしているのが賢明だと判断し、龍田の言いつけを守ることにした。

そんな俺の様子を見た龍田は提督から大量の遠征をもらってきてはこれは罰だと言って俺に行かせるようになった。暇を持て余すことになった俺に気を使ってくれたのだろうか、それとも嫌がらせ?

しかし、そんなことを考えながらも、やることもない俺ははおとなしく朝から晩まで遠征に参加するのだった。

 

8日目の朝、いつものように龍田から遠征の依頼がきた。その日は風も強く、雨が降っており朝から憂鬱な気分となった。

 

「はぁあ....。結局今日も打開策は思いつかず...かあ」

 

「あー、時雨ちゃん、ちょっといいかしら」

 

「な、なんだい? 龍田さん! 僕何か悪いことしちゃったかな?」

 

「もー、そんなに怖がらないでよお、私だって傷つくのよ? あなたに伝えることが2つあるわあ。1つは今日の遠征は初心者の駆逐艦を中心に連れて行くとのことだから、その指導、手助けをお願いするわあ」

 

「なるほど、わかったよ。最近入った子の育成が目的かな?先輩として教えられるところは教えるよ」

 

「うん、いい返事よ。もう一つは報告よ。最近のあなたの様子を見てて昨日、赤城さんと話し合ったの。それでそろそろ時雨ちゃんの罰も終わりじゃないかなって判断になったわ」

 

「え? ということは...提督にあっていいんだね!」

 

「ええ、そういうことよ。...ただし、会うのは今日の遠征が終わったらねえ、帰ってきたら私に一声かけて頂戴。そこでまた話をするわあ。...それにしても随分嬉しそうねえ」

 

「あっ...そ、そうだね、別に提督は嫌いさ。でもちゃんと言いたいことを言えなくてモヤモヤしてたんだ、全く嫌になっちゃうよ、もう」

 

「ふーん、ふふっ、そういうことにしといてあげるわ。じゃあよろしく頼むわね」

 

遠征に送り出された僕は雨なんて吹き飛ばせるくらいの勢いで急いで飛び出し、ほかの艦娘を先導し目的地へ向かうのだった。

 

 

 

朝、時雨を見送った後、龍田が自室に戻ると、龍田が時雨から誕生日にもらった湯飲みにヒビが入っていた。

「あらあ、湯飲みが急に.....」

 

 

ー執務室 昼 

 

朝よりもさらに雨は激しくなっていた。

 

「うーむ、雨がひどいが遠征組は大丈夫だろうか。確か今日はその中に時雨もいたよな、赤城?」

 

「はい、いますね。今日は比較的安全なエリアでの遠征でしたので、提督の指示通り時雨には旗艦をやってもらい、経験の浅い艦娘の指導に回らせました。彼女とても嬉しそうだったと龍田が言っていました」

 

「うむ、ありがとう。あの騒動以降、なぜか全く顔を合わせられず心配だったからな。元気そうで何よりだ」

 

「あ、それで時雨の件なのですが、今日の遠征が終わった後にでも会ってくれませんか。そろそろ彼女も心の整理がついて話したいこともあるんじゃないかと...」

 

「おお、それはもちろんだ。私からも色々と伝えたいこともあるしな」

 

「あんまり怒らないであげてくださいね、時雨もきっと何か考えがあって....」

 

バンッ

 

「....っはあ、はあっ....失礼します!大淀です!」

 

「落ち着きなさい、大淀。どうしたのですか、何かトラブルですか」

 

息を切らせて執務室に飛び込んできたのは普段から遠征、出撃の管理をしている大淀だった。相当焦っているようで報告の紙はくしゃくしゃになっており、上がった息でまともに話せない状態だった。赤城に諭され、ようやく息が落ち着くと、大声で叫んだ。

 

「たっ、大変ですっ! 先ほど部隊の一人から報告があり、時雨旗艦の遠征部隊が壊滅したとの情報が!!」

 

パリンッ

龍田の自室の湯飲みは二つに割れ、地面に転がるのだった

 

<続く>

 

 

 




次回 時雨編完結です。

今週中には投稿予定です。よかったらご覧ください。
次回から話を進めるべきか、日常回挟むべきか悩み中。

感想、ご指摘等気軽にください。励みになります


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壊滅の真相

大淀から伝えられた部隊壊滅の知らせ。降りしきる雨の中、時雨たちの部隊は遠征で何が起こったのか?

『』内は時雨の表に出ていない方の人格のセリフです。


ー遠征開始直後

 

「ひい、ふう、みい、....うっしこれで全員だな。今日はよろしく頼むぜ」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

「いい返事だ。じゃあ出発すっか」

 

雨が強く降り続ける中、俺の遠征部隊は目的地へと出発した。部隊編成は俺を合わせて4隻。新しく入った睦月型の睦月、弥生、皐月、そして旗艦の自分で構成されており、自分以外は遠征は初とのことだった。

 

「き、旗艦が時雨さんなんですね....。足を引っ張らないでしょうか...心配です....」

 

「えっと、目的地に着いたら、種類ごとに詰めて、出発前には量を確認して....それからそれから...」

 

「み、みんな緊張しすぎだよ。今回は簡単な航路だし、距離もそこまで遠くない。学校で教わった通りやれば問題ないさ」ガシッ

 

「そうだな、皐月。だが、とりあえずお前が一番落ち着け。さっきから俺が抑えてねえと変な方向に進んでんぞ」

 

新人の弥生を先頭に向かわせ、俺はあえて一番後ろでそれを見守る形で進んでいた。目的としては地図を見ながらゴールまで到達できるようにするのと、逐一全員の様子を確認できるようにするためなのだが...。初めてということもあり、3人とも緊張と不安でガチガチであった。

 

「へへっ...懐かしいな、俺も緊張したもんだぜ、初めての遠征は」

 

「し、時雨さんも私たちのような時代があったんですか...? 信じられません....」

 

「あー、あったよ、俺なんかは心配性でよ、遠征前から怖くて眠れなくてな。そのまま一睡もせずに向かったんだぜ。そのせいなのかミスしまくってよお、周りにゃ迷惑かけまくったのを今でも覚えてるぜ」

 

「い、一睡もせずに!? そんなんじゃまともに...」

 

「ああ、そりゃもうフラフラで向かってよ、途中で転んで小破するわ、積んだ荷物おいて行くわでそりゃもう散々だったぜ。当時の旗艦だった龍田にも『こんなできの悪い子は初めてよお』なんて笑われたっけな。ははっ」

 

「....でも、やっぱり信じられません。今の時雨さんはこんなに強くてかっこいいのに...」

 

「旗艦の龍田にな、そのあとこうも言われたんだ。『不安は持っておけ、緊張はしておけ。その全てを払拭できるまでは心に刻み込んでおけ』ってな。そこで気づかされたんだ。俺は周りに迷惑をかけないかそればっかりが不安で、実際にはどうしたら改善できるなんて考えは浮かばなかったんだって。きっと龍田は俺のそういうとこを見抜いてたんだと思うぜ」

 

「不安を...刻み込むですか...」

 

「ああ、誰しも最初は不安なのは当たり前だ。大事なのはその不安と向き合えることができているかどうかだ。一歩ずつでいい、それを潰して行くだけだ。それがわかってからは俺は毎回の遠征、出撃が少しずつ楽しくなった。もっと強くなれる場なんだってことを理解できたからだ。そしたら自然と周りを守れるくらい強くもなれた、それだけだ」

 

「....今日のこの気持ちを大切にして、次回はもっと強くなるようにする、ということですね。確かにそう考えると頑張ろうって思えてきました」

 

「そういう積み重ねなんだよ結局、お前らだって絶対に強くなれる。だからまずはこの遠征、成功させるためにはどうするか考えな」

 

「「「はい!」」」

 

そんな小話をしている間に、無事に目的地に到達した。しかし資材調達している間も雨はさらに激しさを増し、所々では雷がなっていた。予想外の天候の悪化に当時の予定を切り上げ、早々に撤退することを決めた。

 

「雨、すごいですね。嵐になるかもしれません...」

 

「こりゃ、早く帰らねえとまずいな。資材は持てるだけでいい、帰るぞ!」

 

「「「了解です」」」

 

その時だった。一瞬近くで光ったかと思うと、大きな爆発音とともに砲弾が睦月をめがけて飛んできた。

 

「避けろ! 睦月!」

 

その言葉とともに、反射的に俺は睦月をかばい被弾した。幸い当たりどころが良く、艤装の一部が壊れる小破で済んだ。が、周りの状況は最悪だった。天候が悪くよく見えないが、少なくとも10隻はいるであろう、おびただしい数の敵。それは激しい雨の音に隠れ、いつの間にか自分たちを囲む形で接近していた深海棲艦だった。

 

「時雨さん!! ごめんなさい!私がぼーっとしてたばっかりに...」

 

「嘘...。どうしてここに深海棲艦が...」

 

「俺のことは気にすんな! それよりよく聞け!全員資材を全部捨てて、艤装を展開して目を塞げ!今からこの緊急用の閃光弾をあいつらにぶつけて、砲撃する!俺が合図したら、お前ら3人は俺が開けた穴から脱出して鎮守府に戻れ!いいな!」

 

「そんな! 3人って...時雨さんはどうするんですか!」

 

「俺はあいつらを引きつける! その間に逃げろっつてんだよ!」

 

「おいてなんかいけないです!時雨さんが被弾したのは...私のせいなのに...」

 

「そうですよ!いくら時雨さんでもこの敵の数で一人で挑もうなんて無謀です!私たちも戦います!」

 

「勘違いすんな! お前らにも鎮守府への報告っていう大事な役目があるんだよ!この状況を伝えられるんはお前らだけけなんだから。それを全うしろ!」

 

「でも....でも....わたしぃ....」ポンッ

 

俺に庇われた自責の念からか、睦月の頭を優しく叩いた。涙目になりながらもこちらを見た睦月に俺は諭すように話し始めた。

 

「バーカ、安心しろ。このくらいの敵の数、時雨さんにとっちゃ屁でもねえよ、全員ぶっ潰して土産話聞かせてやるよ。だからたのむ....今は俺の指示に従ってくれ」

 

「わかり...ました。....必ず使命を果たしてきます! 時雨さんもどうかご無事で...」

 

「絶対に帰ってきてくださいね!!」

 

「おうよ! 帰りは豪華な出迎えに期待してるぜ! じゃあ...行くぞ!作戦開始!」

 

俺は閃光弾のピンを抜き、敵に向かって一直線に投げた。一瞬の眩い光に包まれた敵艦隊は動きを止めた。その一瞬の隙の間にできる限りの砲撃をし、爆発は深い煙の壁を作った。敵部隊に致命的な損害は与えられなかったものの、包囲網に穴を作るには十分だった。

 

「いまだ! 早くいけ!」

 

一瞬できた穴に滑り込むように3人は全速力で離脱。それを捉えようとする深海棲艦だったが、時雨の猛攻により動きが鈍ったおかげで、無事脱出に成功。煙が晴れる頃には3人の姿は遥か遠くにあった。

 

「うっし..とりあえず、第一関門突破ってとこだな。後はこいつらだな」

 

接近してきた敵の数は20....いや30はいるだろうか。統率のとれた部隊のリーダー格らしき深海棲艦が先頭を切ってこちらに話しかけてきた。

 

「...ワレワレモナメラレタモノダ。ナカマヲカバッテノコッタノガ、テオイノクチクカンイッセキノミトハ」

 

「へっ、実力差考えりゃ、この傷だってハンデになってちょうどいいくらいだぜ、こいよ、まとめて相手してやんよ」

 

「ソノヨユウ、イツマデモツカナ!クラエ!!イッセイシャゲキ!!」

 

「上等だあ!歯ぁ食いしばれよ!」

 

無数の砲撃が雨に混じってこちらにめがけて飛んできて、瞬く間に時雨の周りは硝煙に包まれたのだった。

 

それから俺は長いこと戦い続けた。四方八方からくる砲撃の雨を避けつつ、無我夢中で応戦し、一体、また一体と撃破していった。途中避けきれず何度も被弾したが、相手が全員いなくなるまでは決してその砲塔を下すことはなかった。

 

 

「バ、バ...カナ....タッタヒトリノクチクカンゴトキニ....」

 

「ハア...ハア...これで終いだ、あばよ。久々に楽しかったぜ」

 

「バカナアアアアア!!!」パアン!

 

最後の深海棲艦を撃破し、俺は近くに岩場に寄りかかった。

夢中で気が付いていなかったが、戦闘が終わる頃には、体はボロボロで艤装は半壊、片腕の感覚は全くない状態であった。激しい雨に体温を奪われ、体力は激しい消耗をしていたせいで意識は朦朧としていた。

 

「ってて...。無様だな。...すまねえ時雨。てめえの体こんなにしちまって...」

 

『ふふっ、いいんだよ。むしろありがとう。本気であの子達を守ろうとしてくれて、素直に嬉しかった。君は本当の強さを持っていたんだね。それがよくわかったよ...色々とひどいこと言ってごめんね、僕君のこと全然わかってなかった』

 

「鎮守府の仲間を守るのは当たり前だ。....それに謝らなきゃいけねえのは俺の方だ。ここ数日の記憶の共有の中で、お前がどれだけ提督や周りの艦娘をよく思っているか、大事にしているかがわかった」

 

『まあ、この鎮守府には思い入れもあるしね、僕って心配性だから余計に周りを気にしちゃうんだ』

 

「...なのに俺は...そんなお前に『嫌われればいい』なんてひどい提案しちまった。その行為がお前にとってどれだけ酷なのか、辛いのかなんて考えもせずに、問題の解決に比べれば些事なものだとタカをくくっちまった」

 

『提案したも何も君は僕だろ? それにその提案に乗ったのも、嫌われることを解決の糸口と判断したのも僕自身だよ。謝るようなことじゃない。君の言う通りそれ以外なんて些事なことだよ』

 

「ふっやっぱすげえよ....お前は俺に、本当の強さを持ってるって言ってたが、そんなことねえ。お前は強い、俺なんかよりよっぽどな...」

 

『ふふっ、それは自画自賛ととっていいのかな?』

 

「へへっ...そうかもな。お前は俺で、俺はお前だからな。さすがは俺だぜ........うっ...クソっ...こりゃまずいな...」

 

混濁する意識の中、お互いに笑い合い冗談を投げかけあう二人(一人)だったが、次第に、意識は薄くなって、走馬灯のように今までの記憶が蘇った。

 

『提督....ごめん....』

 

歪む視界の中で時雨の言葉とともに流れる涙は、雨にかき消されるのであった。

 

ー同時刻 鎮守府 

 

龍田は湯飲みの不吉な予兆に不安になり、港付近で時雨の部隊の帰りを待っていた。しかし遠征の帰りの時間になっても彼女たちは帰って来ず、不安はより大きなものとなっていった。

 

「おかしいわね...。初心者がいるとはいえあの時雨ちゃんがここまで大幅に遅れるなんて....あら...あれは?」

 

予定時間より30分が過ぎたあたりだろうか、時雨部隊らしき艦娘が息を切らして帰ってきた。だがその部隊の中に時雨の姿はなかった。よほど焦っているのか何度も転びそうになりながら鎮守府に行こうとする3人を呼び止めた。

 

「あなたたち、どうしたのよ?そんなに慌てて。時雨ちゃんの部隊の子よね?」

 

「た...龍田さん!大変なんです 、時雨さんが....時雨さんが私たちを庇って....深海棲艦に一人で...って龍田さん!?どこへ....」

 

 

皐月がそういかけた次の瞬間、艤装を展開した龍田が鎮守府を飛び出したのだった。

 




前話のあとがきにも追記しましたが、物語が長くなってしまいそうなので、今回は完結しません。申し訳ないです。

戦闘シーンって難しいですね。他の方の作品参考に少しずずうまくなりたいと思います。

追記 本日夜から明日にかけて最新話投稿予定


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時雨の願い

一命をとりとめた時雨。ついに提督と会えることに。 時雨の本当の願いは叶うのか


(温かい...大きな何かに包まれているような....)

 

意識を失ってから、体のかすかな振動と浮遊感で再び目を覚ました。朧げな視界に一人の人物を捉えた。だが体が言うことを聞かず、薄眼を開けて確認する程度しかできない。かなり焦っている様子の彼女は頻りにごめんなさい、ごめんなさいとブツブツと言っている。

 

(誰だろう....僕を運んでいる....? でも...ダメだ...力が入らない...)

 

時雨は再び深い眠りについたのだった。

 

「ここは....見覚えのある天井だ....」

 

「目が覚めた? 全く、3日もねむりこけるなんて、いいご身分ね」

 

以前、他人格が生まれた際に運ばれたときと同じ、鎮守府の医務室だった。横には座ってリンゴを剥いている曙が優しそうな目で僕を見つめていた。

 

「医務室....僕は深海棲艦と戦って...はっ! 皐月たちは!? くっ....」

 

「こら、無茶しないの。 いくら艦娘といっても今回はかなり重症だったんだから、しばらくは安静にしてなさい。...それに安心して。皐月たちなら無事よ、私たちにあんたのこと、事細かく報告してもらったわ」

 

「...そうか...よかった、みんな無事帰投できたんだね...。僕をここまで運んでくれたのは曙かい? なんて言ったらいいのか....」

 

「運んだのは私じゃないわ。 龍田よ。 それにあんたが無事だったのも半分はあいつのおかげなんだから、お礼はあいつに言いなさい」

 

「た、龍田さんが!?」

 

「そうよ、本当はあいつから口止めされてるんだけどね、まあ悪いことでもないしね。全部伝えとくわ」

 

その後、曙から僕が意識を失った後のことを説明してもらった。龍田が提督の命令を無視して、単独で僕を助けに行ったこと。帰ってきて自分の血を迷わず輸血させたこと。そして僕が目を覚ますまでの3日間、医者よりも長く自分の元につき、ほぼ徹夜で僕の看病をしてくれたこと。その報告のすべてが僕の胸に突き刺さった。

 

「あんなに焦った龍田を見たのは初めてだったわ。医者にもう大丈夫って言われてからもご飯だってろくに取ろうとしないであんたの手を握り続けてたわ。こっちが心配しちゃったわよ」

 

「龍田さんは!? 今どこに!?」

 

「落ち着きなさい、あんたらしくもない。 龍田は遠征に出ちゃったわ、ちょうどさっき皐月たちを連れてね。『あとはよろしく〜』って私にりんご押し付けて出てったわ。あいつも照れることあるのね」

 

「.........」

 

「...とりあえず、あんたのお目覚め、提督に報告してくるから、おとなしくしてなさい。あいつから伝えたいこともあるらしいしね」

 

そういって出て行った曙をぼーっと見つめながら、僕は考え事をしていた。

 

(伝えたいことか...提督の戦績...僕のせいで傷つけちゃったしな...。龍田の命令無視の件もあるだろうし......嫌われる通り越して恨み節言われる勢いだねこれは...ははっ...でもいいんだこれで...計画通りさ....)

 

そんなことを考えているとドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。その足音は医務室の前で止まり、荒々しくドアを開いた。

 

「しっ、時雨! 無事か!?」

 

「...無事だよ、何? 解体めいれ....」

 

言葉をいい終わる前に、提督が強く僕を抱きしめた。提督の匂いが僕を包み込む。突然の出来事で声も出ず、混乱している僕だったが、その真意はすぐにわかった。

 

「よかった....本当によかった....無事だったんだな....」

 

「どう....して...」

 

体温を、吐息を、鼓動を、生きている証を探すように提督は僕を抱きしめ続けていた。この男は本当の意味で自分の無事を噛み締めている。それが嫌という程伝わってきた。だがハッと我に帰り、再び、態勢を立て直し僕を見つめた。

 

「はっ! 病み上がりなのに、こんなことを! すまん!痛くなかったか?」

 

「どうして....」

 

「どうした? 痛むか? どれ、ちょっと見てやろう、これでも応急手当てくらいなら....」

 

「どうして! 僕を嫌ってくれないんだよ!」

 

我慢をしていたがダメだった。次々と溢れる想いは止まらず、ついにそれは言葉になった。

 

「わからないんだよ! 提督の行動はわからないことが多すぎる!どうして嫌いと言った艦娘を秘書艦にするんだい? どうして嫌がらせをし続けた挙句君を犯人呼ばわりした僕を怒らないんだい?....どうして僕の無事をそこまで喜べるんだよ....わかんない!わかんない!もう分かんないよ!!」

 

「嫌われようとしているなら諦めろ。お前がどんなに悪いことをしたって、それで私がどんなに苦しんだって、私はお前を好きでい続ける」

 

「どうして....」

 

「理由は簡単だ。時雨がこの世界に一人しかいないからだ」

 

「ふん、そんなの綺麗事だよ。僕らは所詮兵器。代わりなんていくらでもいるさ」

 

「いや、いない。例え兵器として何人も時雨がいたとしても、『私の時雨』はお前だけだ。......それにな時雨、私は艦娘を兵器とは思っていない。人間だろうが艦娘だろうがこの鎮守府で共に戦ってくれる仲間、ただそれだけなんだ。全員が大切で、愛おしい、かけがいのない存在、その一人がお前だ」

 

「かけがいのない...存在...」

 

「そうだ。だからこそお前がどんなことに悪さをしようと、それに対して面と向き合って考える。幸せになって欲しいと本当に思えるからな」

 

(知っていた。そんなこと前から知っているさ。提督が本当に僕らを大切に思っていることなんか....でもだからこそ...)

 

「でも僕は...僕は...それでも...」

 

「...嫌われなきゃいけない...か?」

 

「え....? どうして...」

 

「実はな、時雨。 私は人の願いを見ることのできるメガネを持っている。これで見ていたからお前が嫌われたがっているのは知っていたんだ」

 

「はあ? 突然何を言い出すのさ、そんな魔法みたいな....」

 

「私も最初は信じられなかった。嘘だと思うなら試して見るといい、これをかけて鏡を見てみろ」

 

そう言って提督はポケットから一見なんの変哲もないメガネを取り出して僕にかけた。するとどうだろう、鏡に映った自分の頭に確かにはっきりと文字が浮かび上がってきた。『嫌われたい』とただそれだけが書かれていた。

 

「へ、へえ。やっぱり最低野郎だね、こんな道具使って、黙って人の心を覗くなんて。嫌いになるのは当然だって改めて思ったよ....」

 

「そうだな、その通りだ。私はこんなものを使わないと時雨の思いに気がつくことすらできないクソ提督だよ。 だから時雨、せめて教えてくれ。 私のどこが嫌いなんだ? 何が不満だ?」

 

「何がって....」

 

思いも見なかった質問に一瞬たじろぐ。嫌いじゃないんだから理由なんてあるわけない。言葉に詰まった僕に提督が詰め寄る。

 

「私ははお前が...お前がまるで何かを我慢しているように感じて仕方がないんだ...もうそんな姿見たくない...」

 

「僕は嫌い......僕を思ってくれるそんな提督が.....嫌い...」

 

喉から力を振り絞ったような、弱々しい声が涙とともに病室に静かに流れた。

 

「嫌い...無理してるのに気を使って、いつもヘラヘラしてる提督が嫌い....夜遅くまで執務してるくせに遠征から帰ってきた僕らを必ず出迎える提督が嫌い...自分のことなんて二の次で、倒れたって次の日には執務しようとするその姿勢が嫌い...何もかもが嫌い...嫌い! 大っ嫌い!!」

 

もう作戦のことのなんか頭になかった。いままで燻っていた思いを、願いを、不満を、夢中で叫んだ。今までの偽りの言葉ではない、本当の意味での自分の不満を提督にぶつけた。

 

「どうして僕を頼ってくれないのさ! どうして支えさせてくれないの!? どうして一人で頑張ろうとするのさ....僕だって...僕だってもう提督のそんな姿...見たくないんだよ....」

 

止まってくれない涙はシーツを濡らした。それを見ていた提督は何故か嬉しそうに笑って優しく僕の頭を撫で始めた。

 

「ありがとう、本当のことを言ってくれて。そしてすまなかった。 優しいお前をここまで悲しませてしまって。私は本当に人の気持ちがわからない男だな...」

 

「提督...」

 

「艦娘を支えよう、そればかりを思ってしまうばかりに私は、私を思ってくれる人のことを考えられていなかった。一方的な幸せなんてこの世に存在しないなんて簡単なことに気がつかなかった....。なあ、時雨。私からのお願いだ。こんな人の気持ちすらわからないような提督を、どうか支えてくれないか? お前がいないと私はまた大事なものを見失ってしまう気がする」

 

「ふふっ。 本当にね。 じゃあ約束してよ。これからはもっと僕らを頼って、無理をしない。僕の願いはね『提督も幸せになれる鎮守府』を作ることさ、これからはそれを目標にしてね。 指切りげんまんだよ」

 

「ああ、約束だ。もうお前の願いをむげにはしない」

 

提督と指切りをした。長かった提督と僕の不思議な攻防戦はようやく幕を閉じた。

だがそれと同時に僕にはいままでとは別の感情が生まれた。熱を帯びた目は確かに自然と提督をとらえてしまっていた。

 

(もう少しこの時間が続けばいいのに....)

 

(おうおう、お熱いねえ。その願い、手伝ってやるよ!)

 

突然心の声がしたかと思うと、僕の体は勝手に動き出し、ベットから落ちそうになった。 それを見て提督は慌てて僕を抱きしめる形で支えた。 さっきとは比べ物にならないくらいに心臓は高鳴っていたのを感じた。

 

「お、おい、大丈夫か時雨! やはり病み上がりで気分が...」

 

「....そうだね。気分が優れないからもう少しだけこうさせていてよ。全く、最後までやり方が乱暴なんだから...ふふっ」

 

窓から流れる風は心地よく、外を見ると空は清々しく晴れ渡っていたのが見えた。

 

「ちょ!終わり!ストップ!ストーップ!憲兵!憲兵を呼びなさい!」

 

「ちょ! 曙さん、今日は見守るって約束じゃ」

 

「ダメ!教育上よろしくないわ! 提督も時雨も早く離れなさいよ!」

 

「て、提督と時雨さんてそういう関係なんですか...?」

 

「これが....伝説たる所以...」

 

「ふーむ、提督殿、これは通報してもいいのですかな」

 

「ちょ!お前ら!これは誤解だ! 時雨はいま気分が悪くてだな...」

 

 

突然扉が開き、慌てて病室に駆け込んできた曙の後ろには、恥ずかしそうに目を塞ぐ皐月他2人。そして医師が立っていた。静かに流れていた病室の空気は一気にてんやわんやの状態になった。僕は決して提督からは離れず、その心地よい空間に身を委ねていた。

 

(頑張れよ、時雨)

 

最後に心に届いたその短い言葉には、いままで聞いた中で一番の優しさを感じたのだった。

 




投稿だいぶ空いてしまい申し訳ないです。
時雨編。これにて完結です。最後の締め方をどうするか悩んでいたのですが、ようやく納得のいく形にまとめることができました。

次回以降はまた別の艦娘のお話を予定してます。よかったらご覧ください。

ご意見、感想あったら気軽にください。


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番外編
朝の喧騒


時雨の事件から一夜明けた朝。
一食の朝食を巡って二人の艦娘がぶつかり合う。


「はあ?あんたほんとわかってないわね! クソ提督は甘い卵焼きが好きなの! 大根おろしなんてもってのほかよ!」

 

「はあ、何事も好きなものだけ作ればいいってもんじゃないよ、新しい味にはそれだけ提督にとって新しい好きが生まれるってどうしてわからないのかな?」

 

「ま、まあ、まあ...どっちも食うから安心し...」

 

「(クソ)提督は黙ってて!!」

 

「はい....」

 

事の発端は前日

 

時雨の事件の夜、落ち着きを取り戻し以前のようになってくれた(?)時雨は私にお詫びとして秘書艦をやらせて欲しいと懇願してきた。もう無理はしない、といった手前、この手の提案を拒否なんてできないため、これを承諾した。そして嬉しそうにしている時雨を横目に執務室に戻ろうとすると袖を引っ張られた。

 

「じゃ、じゃあ、明日は朝食を作ってもいいかな? こう見えても料理には自信があるんだ」

 

「ん? ああ。無理はするなよ。すまないが私はもう寝るぞ....」

 

「本当に!? やった!!じゃあ明日!楽しみにしててね!」

 

急いで準備しなくちゃ、と張り切る時雨が小走りで自室に向かうのを眺めつつ。私は執務室に向かった。

 

「朝食かあ...ふぁあ、だめだ...今日はもう寝よう」

 

色々と緊張の糸が切れてぼーっとしていた私は特に深く考えずに執務室に向かい、寝る準備をしていると、ノックをする音がした。

 

「あー、すまん、今日はちょっともう...」

 

「大丈夫! は、入らないからよく聞きなさい! 明日、料理の練習を兼ねてまたあんたに朝ごはん作りたいんだけど、いいかしら?」

 

「ああ、曙か。料理というとこの前の続きか、いいぞ。無理はするなよ」

 

「ふん。美味しすぎて腰を抜かさないように気をつけることね!じゃあまた明日!お、おやすみ!」

 

布団を敷き終え、静まりきった執務室の天井を見上げ、私はウトウトしながら感慨に浸っていた。

 

(時雨も...曙も...随分心を開いてくれるようになった...。二人して私の朝食を....全く私は幸せ者だな...)

 

私はここで意識が途切れた。

 

「ってこれ、まずくないか!?」

 

朝、いつも通りの時間に布団から飛び起きた私は事の重大さを理解した。

 

「時雨が朝食作って...曙も作るってそれ、朝食がブッキングしてるじゃん!え?何この状況!? とにかく急いで...」

 

コンコン ガチャ

 

「クソ提督ー...起きてる? 朝ごはんいまから作るから執務の30分前にはできると思うんだけど、何か要望とかあるー?」

 

「あー、曙か! すまん!そ、そうだな、卵焼きが食べたいかな! それとすまんがすごく腹が減っているから執務1時間前とかに前倒ししてくれないか?」

 

(こうなってしまっては仕方がない。曙の朝食を執務の1時間前に用意してもらいすぐに完食。少し用事があるふりをして曙を執務室に留守番させ、食堂に向かう。まだ作っているであろう時雨の朝食が出来次第、別の場所で食べる。 よし完璧だ)

 

「え? ええ、まあいいわ。あんたから要求なんて珍しいわね...じゃあ急いで作ってくるわ!」

 

食堂に向かい走っていった曙に冷や汗をかいたが、そうも言ってられない。急いで身支度を済ませ、時雨の様子を見に食堂に向かった。

 

(とにかく早く見つけ鉢合わせするのを防がなくては....)

 

食堂に着くと先に見つけたのは曙とそのお供、間宮さんだった。

 

「ちょ、ちょっと! いくらお腹空いてるからって息切らして見にくることないでしょ!?」

 

「あらあら提督さんたら、そんなに焦らなくても朝食は逃げませんよ?」

 

「あ、ああ、二人とも作っている最中にすまんな! 時雨を見なかったか? 今日秘書艦なんだ」

 

「時雨?見てないわよ。大体まだ執務1時間以上前なんだから寝てるんじゃないの? 逆に私と間宮さん以外で今日はまだ艦娘には会ってないわ」

 

「了解だ!ありがとう! では引き続き頑張ってくれ! 楽しみにしている! 済まないが少し用事があるので私はここで!」

 

「え? ええ!?なんなのよ!?」

 

息が整った後、間髪を容れずに私はまた食堂を飛び出した。

 

(やや困惑気味ではあったが自然とまだ『食堂』にはきていない事を聞き出せた。となるとやはり...あっちか)

 

この鎮守府には食堂以外に朝食を作れそうな機材が揃っている場所がいくつも存在する。曙のように料理を教わるため間宮さんが必要な場合は食堂で行うが、男一人の朝食を時雨一人で作る場合、だいたい場所に検討はつく。私は急いでその場所に向かった。

 

ーー第四自炊室兼イートインコーナー

 

艦娘の中には料理が好きな子や、曙のように練習したいという子、また休みの日に集まってみんなで料理をしたいという子が一定数いる。その様な子たちの為にこの鎮守府には自炊室なるものが存在する。

ここではお湯、ガス、水はもちろん、オーブン、電子レンジ、冷蔵庫、まな板、包丁などなど料理に必要な道具は全て一式揃えられており、希望の道具の不足や破損があった場合はおいてあるモニターパッドで自由に注文できる様になっている。もちろん自炊というだけあって自室から近くないといけない。その為各艦娘の自室から必ず1分以内で到達できる場所に設置されるよう、鎮守府に自炊室は複数存在する。

もちろん部屋にも一般的なキッチンは存在するが、思いつきで料理をしたくなったものや、料理を極めたいものはわざわざここで料理をするのも珍しくない。

 

(料理が得意と言っていたし、日頃からよくここを使っていると聞いていたからな、おそらくここに...あたりだ)

 

自炊室を開けると丁度、味噌汁の味見をしている時雨の姿が飛び込んできた。エプロンに三角巾をしたその姿は実に家庭的な姿で、普段戦う姿ばかり見ていたので新たな一面を見たような気分だった。

 

「提督!? どうしてここに!?」

 

「はあ...はあ....。お、おはよう!時雨。 いや何、どんな朝食を作ってくれるか楽しみでな....」

 

「そうなんだ...そんな息を切らして走るほど楽しみに...えへへ。 ちょっと待ってね。急いで作って提督の部屋まで持っていくから!」

 

しばらくの間、鼻歌を歌いながらチラチラとこちらを見つつ、楽しそうに料理を進める時雨を見つめていた。出来れば彼女を確認できた時点で急いで曙の元に戻りたいところではあるが、様子を見にきたと言ってしまった手前すぐにこの場を離れるのも不自然なのでとりあえず話題を切り出すタイミングを探していた。

 

15分ほど経って一段落したのか、時雨は私に近づいてきた。

 

「あー、そうそう、提督は何か朝に食べたいものとかある? 今なら追加で作れるからさ」

 

「うーん、そうだな、卵焼きが食べたいな」

(話題を...話題を自然に持って行くんだ...)

 

「卵焼きね...ふふっ提督って意外と子供っぽいんだね。」

 

「それとな、時雨、朝食の件なんだが」

 

「ん? なになに?」

 

「時雨の朝食ここで食べてもいいか? 実はこの後少し用があってな、また戻るができればこちらの方が近いからこちらで食べたいのだ。時間はそうだな、執務開始の30分前くらいになるかな」

 

「う、うん。それは別に構わないけど....。どうしてさっきから目を合わせてくれないの?」

 

(やばい、二人の想いを守るためとはいえ...罪悪感で胸が痛い...)

「いや何、メニューを先に見てしまうのもあれだなと思ってな。おっと、すまないが用事の時間だ。引き続き頑張ってください!」

 

「......用事...ねえ...」

 

逃げるように自炊室を飛び出し曙のいる食堂に再び向かった。一瞬時雨の目から光が消えたような気がしたがおそらく気のせいだろう。

 

(まずいな...もうすぐ執務1時間前だぞ。 間に合ってくれ!)

 

バタン!

食堂のドアを開くともう盛り付けと配膳を行なっている間宮と曙の姿が見えた。

 

「あークソ提督。あんたの要望通り、1時間前までに完成するように巻いて作ったから、執務室行ってなさい。運んどいてあげるから」

 

「いやいや、様子を見にきたついでだ。私が運ぼう」

 

「そう? ありがとう。じゃあ自分の分は自分で頼むわ。行きましょ」

 

ふと視線が気になり、その先を見てみると、頰に手を当て微笑みながらこちらを見ている間宮さんがいた。普段から笑顔を絶やさない間宮さんだが、この時はなんだが一段と嬉しそうに見えた。

 

「あ、間宮さん。手伝っていただきありがとうございました」

 

「いえいえ。うふふ...それにしても...」

 

「何よ、どっかに食材でもついてる?」

 

「いえ、先ほど提督が来られてから曙ちゃん、『わざわざ見に来てくれた』ってとっても嬉しそうだったのを思い出して...。手伝った甲斐があったなあって..ふふっ」

 

「ちょ!ちょっと! なんでそれ今言うのよ! あれは別に深い意味はないわよ!!こんな朝早くから暇ねって嘲笑ってたのよ!ばか!」

 

「そ、そうだったのか」

 

「提督さん、曙ちゃん。今日のために一生懸命練習して、何回も作ってたんですよ。しっかり味わってあげてくださいね」

 

「は、はい。もちろんですとも...はははっ....」

(うーん、いい笑顔。 胸が...胸が苦しいよ...)

 

朝食を曙とともに執務室に持っていくと机の上にできたての朝食を置いた。

 

(よし、ここまでは作戦通り、後はここで曙の朝食を食べ、自炊室で時雨の朝食を食べれば完璧だ...)

 

「よし、じゃあ、いただこうかな曙が作ってくれた自信作とやらを...。ではいただき....」コンコン

 

一瞬で吹き出る嫌な汗、ドア越しに光るシルエットは間違いなく時雨だった。

 

「提督ー! あれ?もう電気ついてる...。 用事が終わったならできたから、もうこっちきてほしいいんだけどー」

 

「時雨? 秘書艦とはいえ随分早いわね...いいわ私が応対するわ。」

 

「あーいや! 私が対応する! ちょっと待っててくれ! そこで! 動かずに! 時雨もドアを開けないでくれ!」

 

「え? ええ...」「うん....どうしたの提督今日なんか変だよ?」

 

全速力でドアを開け、一瞬で閉めて時雨に曙の姿が見えないようにする。幸い、曙の方は時雨を秘書艦か何かの用事だと思っているようだったので時雨を説得してこの場を収めることにした。

 

「し、時雨! すまんな、用事は執務室でやることでな、もうすぐ終わるから自炊室で待っててくれないかな」

 

「そうなんだ...でもなんだかいい匂いがするのは気のせいかな?」

 

「いやいや!多分食堂が近いし、朝の仕込みの匂いが今日はこちらまできているんじゃないか?」

 

「食堂ねえ...。あ、後、誰かと話してる感じだったけど中に誰かいるの?」

 

「え? いないない! 最近独り言が多くてな....。それだろう! すまん余計な心配をかけて!」

 

「ふーん....。独り言ねえ...まあいいや、じゃあ... ガチャ「ちょっとクソ提督!」

 

「「朝食(朝ごはん)が冷めちゃうから早くきてよ」」

 

「え?」

 

「は?」

 

「終わった....」

 

最悪のタイミングでドアが開き曙と時雨が鉢合わせ。全ての計画が無に帰した瞬間であった。

 

そして現在

 

「はあ?あんたほんとわかってないわね! クソ提督は甘い卵焼きが好きなの! 大根おろしなんてもってのほかよ!」

 

「はあ、何事も好きなものだけ作ればいいってもんじゃないよ、新しい味にはそれだけ提督にとって新しい好きが生まれるってどうしてわからないのかな?」

 

気持ちの良い快晴の朝。執務室の角に響き渡る二人の声。そして正座する私。

目の前に置かれているのは綺麗にメニューが被っている二食分の朝食。ご飯に味噌汁、漬物と卵焼きが並べられ美味しそうに机で食べられるのを待っている。

 

「もういいわ! とにかく最初は私だからね!」

 

「はあ!? 今日の秘書艦は僕なんだから僕が最初だろ!?」

 

「ま、まあ、まあ...どっちも食うから安心し...」

 

「(クソ)提督は黙ってて!!」

 

「はい....」

 

しばらく睨み合いになっていた時雨と曙だったが、しばらくして曙が一息置いて話し出した。

 

「埒があかないわ、もうこうなったら対決よ! こいつに先に朝食を食わせられる資格がある艦娘は誰か! 白黒つけようじゃないの!」

 

「いいね、その勝負。 乗った!! この際はっきりとさせておきたいしね!」

 

執務開始時刻はとっくに過ぎている。だが事件原因張本人である私は、今や指揮能力を失ったただの一般市民のごとく、事の行く末を不安そうに見つめていた。

 

次回 提督朝食王決定戦 開催!!




年末年始やらインフルエンザやらでだいぶ期間が空いてしまいました。
今回は珍しくオールギャグ回となっています。お楽しみいただけると幸いです。
昔からこの手の修羅場は書いて見たかったんですよね笑

次回はこのお話の続きです。(ギャグ回のつもりです)時雨、曙以外も参戦するかも?

ご意見、ご感想気軽にください。返信は必ずいたします。



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朝食王決定戦 前半

時雨と曙の料理勝負! 




「さあ! 始まりました! 第一回!鎮守府朝食王は誰だ! 決定戦! 司会を務めさせていただきますは私青葉ですーー!! よろしくお願いしますーー!!」

 

食堂を埋め尽くす艦娘たちとそれと対峙して楽しそうに司会をする青葉。 唐突に始まった料理対決? は広報部の宣伝効果もあり、みるみるうちに観客を集め、本日非番の子のほとんどがここに集結した。

 

「今回対決しますはこの二人! 鎮守府最強の駆逐艦二人組! 曙さんと時雨さんでーす! お二方、意気込みのほどをどうぞ!」

 

「絶対に勝つわ。あいつ(時雨)とは白黒はっきりつけないとと思ってたからね!」

 

「ほう、提督は絶対に渡さないと?」

 

「べっ、別に提督は関係ないわよ! 料理の腕前の話よ! ばか!」

 

<ガンバレーぼのたーん!

<ファンサービス流石っす!! 「うっさいわね!!」

 

「対する時雨さん! どうでしょう?」

 

「悪いけど負ける気がしないよ。料理は人一倍努力してきたんだ。戦闘ならともかく、その腕に関しては曙には譲れないね」

 

「なるほど、かなりの鍛錬を積まれているようですね!気迫があります!」

 

<かっこいいっぽい!

<昔みたいにヘマしないでねえ

 

「はい!ありがとうございます! では続いてルール説明に移ります! モニターをご覧ください!」パチンっ

 

青葉が合図すると食堂の後ろの壁が変形し、巨大な画面となった。元々は大きな作戦用に改造した特注の品なのだが...。まあ活用してくれるなら特に使い方を咎めるつもりもない。

 

「ルールは至ってシンプルです! 朝食に合う料理3品目をこちらでご用意しましたので、お二方はそのお題に沿って自由に料理を作ってもらいます。完成した料理をこちらの審査員3名に味見していただき、美味しかった方にこちらのボタンで投票していただきます! 1品目ごとに3人中、相手より多くの票を手に入れた方に1ポイント! 合計で2ポイントを取った方の勝ち! となります!」

 

「なるほど...それで私たち3人が審査員ってわけか」

 

「ご名答! 本日はよろしくお願いします!」

 

厨房で意気込む曙、時雨の目の前におかれたテーブルの前に座らされたのは、私以外に2名。間宮と鳳翔だった。お店や食堂の料理を日々行っているのだ、この鎮守府でこれ以上ない審査員だろう。

 

「お二人とも、わざわざすみません...。あくまで余興なんで用事があったら抜けちゃって大丈夫ですよ?」

 

「い、いえ! これも大事な経験だと思うので!(提督の味の好みがわかるなんて大チャンスじゃないの!)」

 

「私達の仕事はもう別の子に頼んでいるから大丈夫です!!(頼み込んで代わってもらったこの場を譲るわけにはいかないわ!)」

 

「そ、そうですか....」(なんだろう...圧がすごいな、怒ってるのかな)

 

「ご協力感謝します! それでは早速! お題は! こちらです!」

 

お題:1品目 味噌汁 2品目 卵焼き 3品目 自由料理 

 

「制限時間は15分! 3品同時に完成できなければその時点で失格です!では! よーい...スタートです!!!」

カーン!

 

どこからともなく鳴らされたゴングとともに二人は一斉に作り始めた。

見た感じでは、あの言葉通り時雨はかなり慣れているようだ。長年培ってきたであろう包丁さばきや手際の良さは素人目から見ても料理が得意なんだとわかる。

 

一方で曙の方も負けていない。技術は多少時雨には負けるものの、無駄なく、効率よく、全ての料理に着手している。

時間がないときに作る料理、朝食にとっては理想的な動きだ。

 

二人とも系統は違うがこの朝食にかける熱意と気合は十二分に感じられた。

 

「すごい...本当に二人とも料理がすきなんだな...」 ボソッ

 

無意識に出てしまった言葉に、なぜか間宮と鳳翔は目を丸くした。

 

「え? 本気で言ってるんですか? 提督....」

 

「時雨ちゃんの言ってた話は本当だったんですね...かわいそう...」

 

「えっ....」

 

それっきり何も言わずうつむく二人。 まずいなこれは。昔も似たようなことを....

 

「は、はーい!なぜか気まずい空気が審査員席で流れてますが、ここで調理タイム終了でーす!! お二方は審査員に料理の提供をお願いします! 一品目はこちら! 朝食のど定番!『お味噌汁』です!」

 

「まずは私からよ!」

 

「はーい! 先攻は曙さん! これは...しじみの味噌汁でしょうか? 審査員の方々! 実食お願いします!」

 

「これは...いいですね。具材メインのしじみは丁寧に砂抜きもされていますし、副材の玉ねぎも相性抜群ですね。」

 

「ん...?少し山椒がきいているようだな? ピリッとしてていけるなこれ...」 

 

「しじみには二日酔いを緩和する作用もありますからね。 お忙しい中上司との飲み会が多い提督にはぴったりの一品かもしれませんね」

 

先攻

曙の味噌汁:しじみと玉ねぎの味噌汁

材料:しじみ、玉ねぎ、唐辛子、山椒、合わせ味噌

作り方......

 

審査員の実食を終えると先ほどのモニターに作られた味噌汁の写真とともに、具材や作り方が事細かに記載され発表される。観客にもどんな料理が運ばれたかわかるようにと、運営側の配慮のようだ。普段料理をするものはもちろん、来ているもののほとんどが食い入るようにメニューを眺め、中には必死にメモをするもののちらほらといた。

 

(随分料理好きな艦娘が増えたな...曙や時雨の影響か?)

 

 

「これは! 審査員全員から、いきなりかなり高い評価だぁ! 時雨さんも続けるかぁ!?」

 

「ふん...。当然ね!」

 

「くっ...。そこまで提督ダイレクトな商品を持ってくるなんて...。でもこれはあくまで料理の味! 僕はこれで勝負だよ!」

 

「これは...? み、味噌汁なんでしょうか。赤い汁をしていますね!」

 

「名付けて!ミネストローネ風味噌汁だよ! 長年培ってきた僕の味噌汁の集大成!トマトと味噌の合わせ技だよ!」

 

「と、トマトって...。そんなの味噌と合うわけ...」

 

「い...いえ!これ合います! すごい美味しいです!!スッキリしていてとても飲みやすいのに濃厚!」

 

「ごぼうや大根といった普通のミネストローネには入らない具材も入っているのに...全く喧嘩をしないのは味噌のおかげでしょうか。素晴らしいアイデアです。参考にさせていただきます!」

 

「おーっと! 見た目のギャップは裏腹に料理人お二人から大絶賛されていますね!! これは勝負決まったか!?」

 

「......うむ。野菜たくさんで健康にも良さそうだな....」

 

「あれ? 提督....? まだ一口も食べてないようだけど....」

 

「あ、いやその....これはだな....」

 

「おーっと審査員である提督! なぜか時雨さんの料理に全く手をつけない!」

 

「あっ...もしかして提督さんのトマトが苦手ってお噂は本当だったんですか?」

 

「いやあ....その...はい....すまん、時雨.....」

 

「え....ええええええ!? 」

 

「おーっと! 全く料理の腕とは関係のないところで時雨選手思わぬ失点だあ!」

 

「そ、そんな....」

 

うなだれて膝をつき、がっかりする時雨とそれを慰める曙。申し訳ないとしか言いようがない。

 

「「提督はトマトが苦手...っと」」

 

「間宮さん達は何をメモしてるんですか....」

 

後攻

時雨の味噌汁:ミネストローネ風味噌汁

具材:赤味噌、にんじん、トマトの水煮、ごぼう、コンソメ、オリーブオイル....

作り方

 

 

「さあ! 料理も出揃いました! お三方! ボタンをどうぞ!」

 

鳳翔:時雨

間宮:時雨

提督:曙

 

「はーい!ということで提督以外の票を得たので、1回戦は時雨さんの勝利です!!」

 

「う、うん。とりあえずは1ポイントは1ポイントだね...やったあ....」(なんだろう...すごい複雑だよ....)

 

「時雨....敵ながら同情するわ....」

 

「ごめんな...時雨....」

 

「えっと...時雨さん!おめでとうございます! さあ!じゃんじゃん進んじゃいましょう!続いての料理は卵焼きです!」

 

「今度は僕から行かせてもらうよ!!!!」

 

「はい! 非常にテンションの高い時雨さん! 料理をお願いします!」

 

「僕はこれだよ! 名付けて! 春巻き焼きだよ!」

 

先攻 時雨

時雨の卵焼き:春巻き焼き

具材:卵、しいたけ、ナス、チーズ

 

時雨の卵焼きは春巻きと名がつくだけあって台形状に切られた形をしている。中には、普通の卵焼きでは到底入らないような具材がひしめき合っているが、決してごちゃごちゃとはせず、むしろお互いの具材が映えている。周りに彩られたソースも食欲をそそる。

 

「では審査員の皆様! 実食をお願いします!」

 

 

「なるほど...すごいインパクトですね。卵焼きの具材中に春巻きの具材を入れたような感じですか...。あ、美味しい」 

 

「周りにポン酢がかかっているんですがこれもまたいいアクセントですね! 居酒屋で出すとしたら写真付きで出したい料理です」

 

「うん、甘い卵焼きしか知らなかったが、うまいな、味の幅が広がった気がする」

 

 

「いいですねえ、長年の料理愛が光っていると言ったところでしょうか! 対して曙さん!お願いします!」

 

 

「私のはこれよ!!」

 

「おーっと、これは!? 一見普通の卵焼きのようですが...見た目にこだわらず味で勝負といった感じでしょうか! では実食をお願いします!」

 

後攻 曙

曙の卵焼き:青のりの卵焼き

具材:卵、青のり

 

丁寧に作られた卵焼き。いい感じの焦げ目がついており、形もしっかりと崩れずに保っている。甘い卵焼きの為か、周りに装飾は一切せず、あくまで卵焼き本体のみ。青海苔がほのかに香る。

 

「これは...シンプルイズベスト...と言ったところでしょうか。優しいお母さんのような甘みですね」

 

「ふむ...何やら普通の卵焼きとは微妙に違った風味ですね、何か隠し味でも?」

 

「さすがは鳳翔さんね...。ご名答よ。隠し味に納豆のたれを入れているわ」

 

「この味の深みはそれのせいだったんですね...なるほど。 素直に勉強になります」

 

「いいな、それ。朝の時間帯なら余ったのを使えて一石二鳥だしな。実用性があって....ってあれ、残りの私の分は?」

 

「くっ...美味しい...。これが...これが提督好みの甘い卵焼きなのか...」

 

「なんであんたも食ってんのよ!!」

 

 

「はい!実食も終了したところで! 審査員の皆さん! ボタンをお願いします!」

 

鳳翔:曙

間宮:曙

提督:曙

 

「出ましたあ! 曙さんパーフェクトで勝利! 1ポイント獲得です!! おめでとうございます!!」

 

「やった!! これで追いついた!」

 

「さて、審査員の方々。 インパクトでは時雨さんが優勢だったようですがどうして曙さんに?」

 

「はい、確かに見た目は時雨さんには負けますが、朝の忙しい時間帯に作る、ということを考慮すると曙さんかなと感じました。朝食に大切なのは『毎日無理なく作れること』ですから。食堂でもこれは守って作っています」

 

「それに加えて曙さんの隠し味の納豆のたれも良かったですね。余り物を効率よく使えるのは料理をするに当たって持つべきスキルの一つです。経験的にはまだまだかもしれませんが、今後もこの技術は生きてくると思います」

 

「なるほど! 朝食として、そして料理を作るものとして、優っている点があったということのようです!」

 

「くっ...見た目に注力しすぎたか...。これは完敗だよ」

 

「さあ! 現在ポイントは均衡状態! 勝負はついに決勝戦です! 最後の料理はこちら! 自由料理です! 朝食に合う料理を作るというシンプルながら非常に幅が広い料理勝負ですが勝つのはどちらになるのでしょうか!では料理の方をどうぞ!!」

 

 

 

 

次回ついに朝食王が決定!? 後半へ続く 




話が長くなっちゃったので前半後半に分けました。


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朝食王決定戦 後半

朝食王決定戦最終戦! お互いに一歩も引けない戦いの中になぜか榛名が現れ...?


「さて! 泣いても笑っても最後の勝負!最終戦では勝った方には何と! 100ポイント差し上げちゃいまーす!」

 

「今までの勝負は何だったのよ!」

 

「クイズ番組によくあるじゃないですか!どのみちこの勝負で決まるんだしいいじゃないですかぁ。一度やって見たかったんですよお!!」

 

「ま、まあ...どの道次で決まるし特に支障ないからいいけど...」

 

(なんだろう...なぜか嫌な予感がする...)

 

「お二人の了解も取れたということで!! 最終戦いっちゃいましょー! 先攻はどちらが行きますかー?」

 

「私よ! 先手必勝!」バン!

 

「はーい!先攻は曙さんでーす!...曙さんのお料理はー...うーんとこれは....何でしょう、何かの揚げ物でしょうか....?」

 

出された料理は長年料理をやっている僕ですら見たことのないものだった。黄色い衣に包まれた揚げ物?のような見た目をしている。周りには大根と人参らしき和え物もついているところを見ると和食だろうか...?

 

「ピカタですね。イタリアが発祥のお料理で豚肉やスパムに小麦粉と卵をつけて揚げたものです。曙ちゃんよくこんな料理知ってましたね」

 

「おお、流石間宮さん、そんな料理もあるんですね。...しかし本人の手前申し訳ないが、朝から揚げ物ってのは...」

 

「確かに、朝食から油を使ったお料理はなかなかハードルが高い気もしますね...卵もかなりのカロリーですし...」

 

「まっ、とりあえず食べて見なさいよ。この料理には自信があるのよ!」

 

自信満々といった様子の曙。 確かに二人の言う通り朝からこんな高カロリーのものはなかなかヘビーだ。何か工夫されているのは間違いないようだけど、元の料理がわからない以上推測すらできない。

 

「......ふむ。 なるほどな、これはいい。見た目とは裏腹のさっぱりさだ」

 

「お豆腐が生地に練りこんでありますね。ぺろっといけるのに、栄養はしっかりと取れる...。素晴らしいです」

 

「横に添えてあるわさびマヨネーズも絶妙ですね。このお料理とベストマッチです」

 

<めっちゃおいしそー!!

<私も食べたーい!!

 

「おーっと!これは過去の料理の中で最高評価をされているのでは!? 全員が文句なしの評価です! 時雨さん続けるか!?」

 

<めっちゃおいしそー!!

<私も食べたいっぽい〜

 

「ふん! どう?時雨。これが私の切り札よ。おばあちゃんから教わった曙家直伝の料理! 」

 

「流石だね...曙...正直ここまで料理で追い込まれるとは思ってなかった..」

 

「ふん、私もそれなりに勉強してきたからね」

 

「やられたよ、じゃあ僕も遠慮なく切り札を出させてもらうよ!」

 

「な! これって....!」

 

「出ましたぁ!我が鎮守府の朝食で最も人気の料理、フレンチトーストを出してきました! なるほど、これは考えましたねぇ。 では!審査員の方々、実食をお願いします!」

 

(鎮守府内でこの料理を知らないものはいないはず...。鎮守府で食事を摂っていれば誰もが一度は食べたことがあるこの料理で唸らせることができれば勝ったも同然...後は評価をもらえれば!)

 

「.......!!」

 

「これは....」

 

「おっと...? 一口食べるや否や動かなくなりました! 一体どうしたのでしょうか!」

 

出されたフレンチトーストを口にはこんだ瞬間、3人の動きはピタリと止まった。少し間が空いてから、今度はまじまじと料理を眺めつつ、一口、また一口と頬張り始めた。

 

「うまい....こんなにうまい料理は生まれて初めてかもしれない...手が止まらん...」

 

「なんと!審査員提督! 泣いております! どんだけ美味しかったのでしょうか!?」

 

「はい、感無量の一言です。これほどのフレンチトーストを食べたのは初めてだと思います。バケットに染み込んだ卵液のきめこまやかさ、焼き目をつけるくらいしっかりと焼いているのに食感はプリンのよう....。正直私の食堂のものとは比較にならないレベルです....相当な腕前と経験がないとできませんよこれ...」

 

「正直洋風のお料理はあまり詳しくありませんが、素人目から見ても味、見た目ともに高級ホテルで出されてもいいほどだと感じます。特にこの上にかかっている粉砂糖の装飾が...」

 

(あれ...? 周りにそんな装飾なんかしたっけ...? というか確かに自信はあったけどそこまで本格的に作った覚えは..)

 

「何よそれ! あんたどこでこんな技身につけてきたのよ!! 聞いてないわ!こんなのふぁふぇっふぉないじゃないの!! 何これ!めっちゃうまい!!」モグモグ

 

「これ...僕の料理じゃない...」

 

「へ?じゃあこれは...」

 

「では審査員の方々!ボタンを....」バタン!

 

「はあ....はあ....取り込み中にごめんなさい!! 食堂に置いてあったお皿取り違えちゃって...ってもしかして...」

 

全員が時雨のボタンを押そうとしたその瞬間、勢いよく食堂のドアが開かれ、何故か息を切らした榛名が会場に飛び込んできた。どよめく会場をかき分け、審査員席でまじまじと料理をみると深くため息をついた。

 

「あー...食べちゃいましたかー....。申し訳ないです....」

 

「榛名、どういうことだ? これは時雨が作ったんじゃ....」

 

「あー...えっとですね...かくかくしかじかで....」

 

榛名の話をまとめると、大会が開かれる前日、偶然榛名は金剛さん用にフレンチトーストを作っていたのだが、それを食堂に忘れてしまった。翌朝に慌てて取りに行ったのだがタイミング悪く料理大会ををやっていた。 それを邪魔してはいけないと、裏でこっそりとったお皿と料理が、これまた偶然時雨の作ったものと同じで取り間違えてしまった。それに気がついた榛名は急いで食堂に引き返して今に至る...。

 

とまあ、こんな感じらしい。

 

「抜け出してお姉様に持って行こうとした時に付箋が貼っていないことに気がつきまして...本当に申し訳ありません....」

 

「あ、本当だ。お皿の横によくみると付箋が貼ってある...。全然気がつかなかった...」

 

 

「えっとじゃあ何だ。さっき食べたこのフレンチトーストは....榛名が作ったのか。正直驚いたぞ...。あんなに料理がうまかったのか」

 

「い、いえ..この料理が得意というか...昔から朝食にお姉様や他の方に振舞う機会が多かったので、自然と味や見た目にこだわるようになってしまいまして...」

 

 

「なるほど...長年の経験が生み出した料理だったんですね。 これは...決まりですね。私は榛名さんに一票」

 

「同じく私も榛名さんに! 提督さんは?」

 

「え? あ、ああそうだな。この料理に関しては文句のつけようがない」

 

「と、いうことで! 何やら色々と一悶着ありましたが満場一致のパーフェクトということで! 『自由料理』部門 得点は榛名さんに入りまーす!!」

 

「くっ...悔しいけどぐうの音も出ないわ」

 

「まあ...しょうがないね。 こればっかりはこのあと出しても勝てる気が...ってん? この部門の得点って確か...」

 

「はい! ということで最終結果、榛名さん100ポイント! 時雨さん1ポイント! 曙さん1ポイント!という結果になりましたので! 第一回!朝食王は、榛名さんに決まりました!!! おめでとうございまーす!!」

 

「へ? 私? あ、ありがとうございます?」

 

 

「榛名さん!料理そんなにうまかったんだ! 今度教えてください!」

 

「私も! 私も知りたいです!」

 

「コツとかあるんですかー!!?」

 

優勝の言葉とともに唖然としている榛名の頭上でくす玉が開かれ、青葉からは優勝トロフィーを差し出された。困惑しながらも受け取った榛名の元に多くの艦娘が押し寄せ、質問責めにあっていた。

 

「はーい! お後もよろしいようで! 第一回朝食王決定戦はこれにて閉幕でーす! みなさんお付き合いいただきありがとうございましたー!!」

 

結局、嵐のように訪れた二人の料理対決は、お互いに何とも言えない敗北感を味わいながらドローという結果に終わった。まだ質問責めから解放されない榛名以外の曙と僕、そして提督の3人で料理の後片付けをしていた。提督がゴミを捨てに食堂から離れると、皿洗いをしている曙が話し始めた。

 

「にしても...榛名には完敗ね。 まさかあんなダークホースがこの鎮守府にいたなんて」

 

「そうだね...。僕ら二人は井の中の蛙ってことを思い知らされたよ...」

 

「そうね...。まだまだ努力が必要ってことね...はあ...料理って難しいわね...いっつ...」

 

洗剤が傷にしみたのか、絆創膏だらけの手の平を眺め涙目になる曙。目の下にはよく見るとクマができていた。ここ最近色々あって知らなかったけど、提督のため相当練習をして来たのが勝負の中でひしひしと伝わってきた。。

 

「でもさ...僕は榛名以上に君に驚かされたよ」

 

「は?私?」

 

「うん。実はこの勝負が始まる前は経験的にも知識的にも絶対に曙には負けないって、思い込んでた。戦闘ならともかく長年好きでやっている趣味だったから自信があったから余計ね。でも勝負して行く中でやっぱり曙はすごいなってなんども驚かされた。」

 

「そんなことないわ...正直今回の勝負だって私が有利な条件があってやっと成立したしね。審査員(提督)の好みを知っていた時点でアンフェア...それを利用して私は1点もぎ取っただけよ」

 

「提督の好みは僕の研究不足、作戦ミスさ。 僕がすごいって思ったのはそこじゃないよ」

 

「じゃあ...どこよ」

 

「曙はさ、負けず嫌いで強気で、たまにわけわかんないプライド押し付けてくるけどさ....やっぱり努力家なんだって。絶対に勝ちたいって、そんな気合いが伝わってきて僕は思ったんだ、『どんな勝負でも曙には負けちゃうかも』ってね」

 

「ふん。努力家なんじゃなくて負けるのが嫌なだけよ。それに結果だけみれば私の惨敗。 まだまだ修行が必要ね」

 

「僕もさ。知識や経験以上にまずは提督に気に入ってもらえる料理を作れるようにならないとね。まずは提督の研究からかなぁ...」

 

「あのさ.....その...今度料理を教えてくれないかしら。べ、別に私は一人でも全然いいと思ったんだけどね! 同年代の経験者から教わるのが一番って間宮さんにも言われて...。も、もちろんただで、とは言わないわ! 対価に私と潮たちで作った提督の好みのリストを...いや...その一部を提供するわ!」

 

顔を真っ赤にしながら必死に自分にお願いする曙。そこは素直にお願いすればいいのに、なんて思ったけどまあこれもまた曙らしいな。

 

「いいよ。その話のった。せめて僕のライバルに見合うレベルにはなって欲しいしね」

 

「くっ...言ってくれるじゃない。今に見てなさい、教えなきゃよかったって後悔させてあげるんだから!」

 

「おーい! 二人ともー! 一息ついたらちょっとこっち手伝ってくれー!」

 

「「提督の朝食は譲らないよ(わよ)」」

 

事件後、ギクシャクしていた二人の関係は春先の雪解けの如く、静かに融解し始めた。

提督への朝食勝負が再び行われる日もそう遠くはなさそうだ。

 

次回金剛編 




番外編、完結です。前々からシリアスなしのギャグパート書いて見たいなーって思ってましたが、書いてみるとめっちゃ難しい....。 練習あるのみかなって感じです。

次回からは金剛編です。 

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金剛の願い
艦娘ってなんですか?


今回の新キャラ

金剛:伝説の五艦の一人。他の艦娘とは違い、別の鎮守府の主力部隊であったが、諸事情がありこの鎮守府に榛名とともに中途で着任した。圧倒的な経験値と火力を保有しているが、本来の実力は出せていない様子。性格は天真爛漫でハイテンション。どんな艦娘に対しても分け隔てなく接するコミュニケーション能力の持ち主。




「.....しかし、榛名のフレンチトーストはうまかったな。人生で食べ物で泣いたのは初めてだ」

 

特に何を思ったわけでもなく呟いたこの言葉を曙は見逃さなかった。

 

「何? 私たち二人に喧嘩売ってるわけ?」

 

「あーいやいや、そういうわけじゃ...」

 

「だいたいねえ! 元はと言えばあんたが約束かぶらせるからでしょーが! わかってんの!? あんたはほんといっつも!!」

 

「まあまあ、もういいじゃないか」

 

どんどんとヒートアップをしてにじり寄ってくる曙の肩を後ろから掴み、どうどう、といなした。曙には申し訳ないが、その姿はまるで小型犬のリードを引っ張る飼い主のようだと思ってしまった。

 

「提督も反省して、お詫びに昼食になんでも好きなだけ奢ってくれるって約束したじゃないか。今回は初犯だし許してあげようよ」

 

「な、なんでもとは....」

 

「提督?」

 

そう言いかけた私に笑顔を向ける時雨。それに反比例して刺さるのは氷のような冷たい視線。あ、ダメだこれ変なこと言ったら殺されるやつだ。

 

「あ、はい....仰せの通りに」

 

「よろしい」

 

温厚な人間を怒らせるのが一番怖いとはよく言ったものだ。まあ、時雨がそういうなら...と少し不満そうな様子ではあったが、ようやく曙は引き下がった。このイベントを通して随分二人の関係も変わったのを感じた。

 

「....ふん、時雨は甘いわね。まあいいわ、死ぬほど奢らせるから覚悟しなさい、ふふっ」

 

「もう好きにしてくれ...」

 

料理対決終了後、片付けを終えた二人と合流した私は今回の騒動の謝罪として飯を奢ることとなり、食堂に向かっていた。結局勝ち負けがつかずにうやむやになってしまった挙句、榛名の料理をべた褒めしたせいか不機嫌だった二人も、この提案を聞いてからはなぜか終始上機嫌だった。

 

「ふふっ...じゃあ僕も少しわがままを.....ん?なんだあれ...」

 

ふと時雨の足が止まった。視線の先では榛名の部屋の前に駆逐艦の人だかりができていた。よくみるとほとんどが先ほどの料理大会を見ていたギャラリーの艦娘たちであった。各々が嬉しそうに自身の手帳に何かを書き込んでいるようだが...。

 

「じゃ、じゃあ私は来月の水曜日に!よろしくお願いします、師匠! 楽しみにしてます!」

 

「はい、こちらこそ。楽しみにしていますねー...」

 

列の先頭をよく見ると輪の中心に立っていたのは今回の大会の優勝者、榛名。疲労が見えるその笑顔は終始引きつっていた。

 

「榛名さん、お疲れ様。質問攻めにあってたみたいだけど大丈夫?」

 

「あ、皆さんお揃いで...。いやはやなんというか....」

 

そう言って差し出されたスケジュール帳には来月の最後の日までびっしりと『料理講座』の文字。どうやら質問にあっていた全艦娘に対して個別で料理を教えていくことになったようだ。その原因の張本人であると思うとなんだかものすごい罪悪感に苛まれ、自然と声をかけてしまった。

 

「榛名、これからお昼食べるんだが、榛名もどうだ。今日は私がおごるぞ」

 

「提督とお食事!? い、行きたいです!....けど...すみません、今回は遠慮させていただきます」

 

誘った途端、先ほどの様子は嘘みたいな目の輝きを見せたが、何か気がかりがあるのか、即答はできない様子だった。まあ、急な誘いだったししょうがないかな。じゃあまた別の機会に...言いかけた私に、横にいた曙が横槍をいれた

 

「何よ榛名、もしかしてこいつに奢らせること気にしてんの? それなら気にしなくていいわよ、今回の件のお詫びを兼ねてるらしいからね。 好きなもの好きなだけ奢ってもらいましょ?」

 

悩んでいる榛名に嬉しそうに悪魔の囁きをする曙。ここぞとばかりにグイグイくるなこいつ。まあ今回は身から出た錆だししょうがないけど...。

 

「あ、いえそうではなくて....うーんでも...」バンッ!

 

「榛名! おっそいネー!! いつまでキッズ達と戯れてるネー!!」

 

榛名が悩んでいると、扉を勢い良く開かれ、中から金剛が出てきた。

 

「あっ...お姉様、これは...その...」

 

バサッと手に持っているスケジュール帳を落とした榛名はなぜかとても慌てていた。金剛がいるとまずい話でもしてしまっただろうか?

 

「ワオ、二人と提督も一緒だったのネ?グットモーニング!...で、皆サンも榛名に何か用でしたかー?」

 

「あー金剛、もしよかったら...」

 

「提督がお昼奢ってくれるっていうから榛名も誘ってたのよ、金剛、あんたもどう?」

 

先ほどのように、曙がまた横槍を入れた。なぜか異様にテンションが高いせいか他のものへの絡みも積極的になっている気がする。

 

「提督と....食事...デスか...」

 

先ほどまでの笑顔が消え、なぜか険しい表情になる金剛。私にはその真意はわからなかったが、少なくとも想像していた反応とはかけ離れていたので少し驚いてしまった。普段から明るく、ハキハキした性格の金剛だ。この手の誘いには乗るにしろ乗らないにしろ元気な返事が返ってくると思っていた。少し悩んだ様子を見せたが、すぐに誘いの返事は返ってきた。

 

「うーん...ソーリー今回はやめとくネ。今日は午後に用事もあるしネ」

 

「そっかー...残念だな。僕も金剛さん達と食事してみたかった...」

 

「まあ、仕方ない、また別の機会だな。じゃあ、榛名はどうする?」

 

改めて榛名に質問を投げかけた。先ほどの様子から察するに榛名にも何かあるのだろう。先ほどから金剛の事ををチラチラと眺めては心配そうにしている。せっかくの休日が被ったんだ。姉妹で何か用事でもあるのかもしれないしな、無理強いはしたくない。

 

「はい...では私も...「いってきなヨ、榛名。 私の事は気にしなくていいネ」

 

おそらく断ろうとしていた榛名の言葉を遮り、金剛が榛名の背中をグイグイと押し出し、部屋から榛名を突っぱねた。

 

「行きたいんでしょ? 榛名のことならお見通しヨ」

 

「で、でも...いいのですかお姉様? お姉様が行かないなら私も...」

 

お姉様が..と言葉にした瞬間から、だんだんと押す力が弱まり、そしてゆっくりと手を離した金剛。部屋の前に落とした榛名のスケジュール帳を拾い上げ、榛名に手渡した。

 

「いいも悪いもないネ。榛名が行きたいなら行けばいい、それだけネ。...もう私には気を使わなくてもいいんですヨ?」

 

「ご、ごめんなさい!そんなつもりは! 私はただ...」

 

申し訳なさそうに手帳を握りしめる榛名、いまにも泣き出してしまいそうだった。優しい性格の榛名だ。もしかしたら自分の行動が姉を傷つけてしまったと感じてしまったのかもしれない。

 

「......なーんて、冗談! 冗談ネー!もう榛名は相変わらず真面目だネー、私少し心配になっちゃいますヨ!」

 

そんな榛名の心情を読み取ったのか、金剛がまた元の明るい表情になって榛名の肩をバンバンと叩きながら笑った。先ほどのまでの思いつめた表情とは違い、いつもの金剛に戻った気がした。

 

「じゃー提督、榛名をよろしく頼むネ」

 

「了解した、任せておけ」

 

「さ、じゃあいきましょ。食堂こんじゃうわよ!タダメシが私を待ってるわー!」

 

「早めに行かないと席埋まっちゃうかもね!提督、先に二人で席とっとくよ」

 

「あ、ああ、すまない。廊下は走るなよー」

 

よっぽどお腹が空いているのか、時雨と曙は金剛に軽く挨拶すると、そそくさと食堂に向かってしまった。

 

普段の私であればこれに続いて食堂に向かうところだが、いまは違う。

最近、少しずつだが、艦娘と前向きにコミュニケーションが取れるようになってきた。そしてそれと同時に、交流する重要性もわかった。艦娘の不満、不安、悩みは物質的な拡充だけでは叶わない。直接話をし、そして聞くことが何よりの解決策なんだ。そう思っていたからか、私は自然と口が動いていた。

 

「...まあ、なんだ、金剛もまた機会があれば、食事にでも行こう。不満や不安があるならそこで聞きたいしな。艦娘の相談を受けることも立派な提督の役目だしな」

 

「えっと...先ほどから気になっていたんデスが...提督、何かありました?嫌に積極的というかなんといいますか.....。昔だったら自分たちが誘っても避けるレベルだった気が...」

 

怪訝そうな顔でこちらを見つめている金剛。かなり困惑している様子だ。まあ、無理もない。

 

「まあ、あれだ、ここ最近色々とあってな。心境の変化というやつだ。艦娘の幸せのためにはより親密なコミュニケーションが必要だとわかってな」

 

「コミュニケーションが必要...? WHY?」

 

「え?...何故って言われてもな...そりゃ艦娘のことを理解してより良い関係をだな...」

 

「より良い関係ってなんですか...? 私たちは艦娘で、提督は人間ですよ? それ以上の関係ってなんですか?」

 

「えっ? えっと、その...なんだ」

 

唐突に私に詰め寄ってきた金剛に矢継ぎ早しに質問をぶつけられた。思ってもみなかった状況に、思わず私は発言を言い淀んでしまった。困惑して立ちすくむ私にハッとした表情を浮かべた金剛は慌てて距離を取り直した。

 

「...ソーリー。取り乱しマシタ。 今のことは忘れて欲しいネ」

 

明らかにおかしな素ぶりを見せた金剛に聞きたいことは山ほどあったが、何一つとして聞いてはいけないような気がする。そう思った瞬間から、金剛の周りに踏み込んではいけない目に見えない壁のようなものを感じた。

 

「お、おう!別に気にしてないからな。まあ、積もる話は今度ゆっくり話そうな!」

 

「そう...ですね。提督、最後に一つ聞いて良いデスか?」

 

深く息を吸い込んで、呼吸を整えた金剛は、私を見上げるようにゆっくり、だがしっかりと私と目を合わせた。

 

「提督にとって艦娘ってなんですか?」

 

その問いに、私は答えることができなかった。

 




本話から金剛編開始です。

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疑念

『提督にとって艦娘ってなんですか?』

 

先ほどの金剛からの質問がぐるぐるとこだまする。その意図、真意はわからないがそれを話す金剛の顔が頭にこびりついて離れない。私にとって...?いや、提督として...ということだろうか...。どうして急に金剛がそんなことを...?

 

「あの...提督どうされました? さっきからずっと無言ですが...」

 

「ん?あ、ああ、すまない。先ほど金剛に妙な質問をされてな...」

 

「妙な質問?」

 

「ああ、私にとって艦娘は何か、と。真意はわからないが、とっさに答えることができなくてな...。考え込んでしまっていた」

 

「そう...ですか...。お姉様がそんなことを...」

 

その質問を聞いてから、榛名は俯いて、黙り込んでしまった。結局、食堂に着き、曙たちと合流するまでの間、榛名と言葉を交わすことはなかった。榛名も私と同じタイプで、考え込むと周りが見えなくなるタイプなのだろうか。

 

「おーい! 提督! 榛名さん! こっちこっち!」

 

食堂に入ると、先に席をとっていた時雨と曙から声をかけられた。丁度窓の外に鎮守府の正門が見える窓際を陣取っていた。

 

「ごめんねー。やっぱり混んでて、あんまりいい席取れなかったよ...」

 

「そうですか? 私はいい場所だと思いますよ? ここから見る風景は綺麗ですし」

 

「..僕たち的には問題なんだよね...牽制の意味で...はあ...」

 

「ああ...提督との食事....周りの艦娘に見せつけられるいい機会だったのに...なんでこんな地味な席に...」

 

「あー...そういうことですか...ふふっ」

 

「?」

 

私の知らないところで、何か納得した榛名。私には全くわからない。

確かに、広い食堂の奥ということもあり、受け取りカウンターの真反対という微妙な立地だ。だが、入り口の近くには海があり、心地よい風も入ってくる。景色を楽しみつつ、食事をいただけるいい場所だと思うのだが...。二人は(特に曙)は終始不満げに外を眺めては、軽くため息をついていた。

 

「まあまあ、お二人とも。気を取り直してお食事しませんか?」

 

「...それもそうね。うんと食ってやるわ!覚悟しなさい」

 

「僕は普段は食べないような高いやつ食べちゃおうかなあ」

 

「だったらこれ美味しそうですよ。新作のトリュフパスタ、ウニも入ってますよ」

 

「はーい! それ注文しまーす!」

 

「榛名さん、さり気なく私の財布にキラーパス入れるのやめてください」

 

本当に食べきれるのか不安になる量を、スナック感覚でポイポイと注文する曙、ウニ、フォアグラ、キャビアなど、単価の高い高級料理を惜しみもなく注文する時雨。まあ、惜しまないよね私持ちだし。まあ、だが予想の範疇だ。あとは榛名の注文によるか...

 

「私は今日はそんなにお腹が空いてないので」

 

「あ、そうなのか。まあ食える分でいい。好きにたの...え?なにこの注文量」

 

榛名が曙の2倍以上の量を笑顔で注文したのをみて、財布の中身を確認するのをやめた。お腹すいてないでこれなの...?金剛型おそるべし

 

その後、来た料理だけでは足りなかった榛名の尋常じゃない量の追加注文、それを見てなぜか負けじと頼み出す曙、じゃあ僕もと、高級食材料理を堪能する時雨の3連撃によりたった一回の昼食で1ヶ月分の給料レベルの金額を払う羽目になった。

 

「ふー! もう無理! お腹いっぱい。榛名に対抗してたら思ったより頼んじゃったわ。悪いわね提督」

 

「全く悪いと思ってないだろ...お前。ここ最近で一番いい顔してるぞ」

 

「人のお金で食べるご飯の美味しさを知ってしまったよ...。これは癖になりそうだ」

 

「すみません...控えめにしたつもりだったのですが気がついたら料理を注文してました」

 

「正直榛名の新しい一面が見られただけで十分だ。ま、まあその代償があまりに大きかったがな....」

 

「すみません提督ー!」

 

空っぽの財布を開き、苦笑いしている私に、心底申し訳なさそうに謝る榛名。まあ、こいつら3人の笑顔を見れたんだ。やす...くはないがいい買い物でもしたと思おう。

そんなことを考えながらふと、窓の外を眺めると見覚えのある艦娘が正門から外に出て行くのが見えた。

 

「む、あれは...金剛か?」

 

遠くてよくわからないが、金剛が正門を出て、タクシーをよんでいる姿がみえた。その声に反応して時雨と曙を外の様子を覗き出した。

 

「あー確かに! 金剛じゃないのあれ、何しに行くのかしら」

 

「あーそういえば午後は用事あるとか行ってたね、ずいぶんめかしこんでるみたいだけど...何しに外にいくんだろう」

 

「も、もしかして!デート!? あー!よく見たら手に花束持ってるし!間違いないでしょ!」

 

「なんだろう! 気になるね!尾行でもしてみる!?」

 

確かに言われてみれば手に花束を持っているようにも見える。正直金剛の素行はあまり把握していないので心配といえば心配だが...。

 

「ふむ...。まぁ、何か用事でもあるのだろう。無理な詮索はしてやるな」

 

「うわ!提督ノリ悪! つまんない男ね!だから友達少ないんじゃないの?」

 

「余計なお世話じゃ」ガッ

 

「あうっ」

 

「さて、そろそろいくぞ、食堂で長居するのも悪いしな」

 

「...」

 

クソだの、冷血漢だのうるさい曙をいなして、話を切り上げ食堂を後にした。その後午後非番の二人は間宮さんのところに向かうとのことで別れた。

別れ際、「特訓してうまいもん作ってやるから首、いや腹洗って待ってろ!」と捨て台詞を吐かれた。声にこそ出さないが二人ともさらっと榛名に優勝されたのが相当悔しかったのだろう。

その後、榛名も用事もないので部屋に帰るとのことだったので、話がてら部屋まで送ることにした。

 

「提督、今日はありがとうございました、とっても楽しかったです」

 

「ああ、また気軽に誘ってくれ、今度は金剛とも一緒に行きたいな」

 

「そう...ですね」

 

横を歩く榛名の表情が少し曇った。先ほどの謎の外出の件も関係してるのだろうか、それとも別の悩みが...? 杞憂だろうか。

 

「提督は気にならないんですか?...お姉様のこと」

 

「..まあ気にならないと言えば嘘になる。金剛のあんな表情初めて見たしな」

 

「だったらどうして...」

 

「こんな話、榛名の前で話すべきではないかもしれないが、私は金剛に距離を置かれているような気がしてな。情けないが原因もわからないまま金剛に近づくのが怖くなったというのが正直なところだ」

 

「...距離...というと?」

 

「もちろん、嫌われている...とは思ってない。ただ何か感じるんだ、壁というか...隙間のような...」

 

 

そう榛名に伝えると、しばらく無言の時間が続いた。その後「提督になら...」と榛名が話を始めた。

 

「提督、午後から少し、お時間いただけますか?」

 

「ああ、執務はもうほとんど終わってるし問題ないが...。どうした?」

 

「来て欲しいところがあります」

 

そういっておもむろに手を引かれた私はされるがままに榛名についていくのだった。

 




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光と闇

新キャラ紹介

比叡・・・榛名、金剛とともに前の鎮守府に在籍していた艦娘。金剛への依存が強い反面、自他の評価には全くの無関心。現在は戦線を離脱中。

西条提督・・・榛名たちが配属していた鎮守府の提督。素行があまり良くなく、指揮能力も低いのだが何故か高い実績を誇っており、悪い噂が絶えなかった。

新施設

国立横峯総合病院

国立の艦娘専用の病院。厳重な警備と監視が張り巡らされている。基本的に入渠で直らないレベルで傷を負った艦娘や精神的に治療が必要(PTSD等)な艦娘が入院し、戦線に復帰できるように治療を行う施設。厳重な警備と厳しい入館制限があり、病院関係者以外は存在自体を知らないものも多い。




ー国立横峯総合病院

 

榛名に手を引かれ連れられたのは鎮守府から車で20分ほどの艦娘専用の総合病院だった。鎮守府の正門を出ると慣れた手つきでタクシーを呼び、「いつものところで」と運転手にいう榛名。

あっという間にこの病院に連れて行かれ、何が何だかという感じだ。病院について最初に気になったのは、不自然に厳重というか、警戒が激しいように思えるところだ。無数の警官が入り口では巡回?しており、病院のいたるところに監視カメラがついている。

艦娘専用の病院としか聞いてないが、そこまで厳重にする必要性が私にはいまいちピンとこなかったので困惑してしまった。

 

「ここは...初めて来るな。 誰か入院してるのか?」

 

「はい。私の姉妹艦である比叡がここで入院しています」

 

「榛名に姉妹艦がいたのか...。全然知らなかったな」

 

「無理もないですよ、横峯鎮守府在籍の頃ですからね。まぁ立ち話で話すような内容でもないですし...経緯は追って話しますね、ではこちらへ」

 

タクシーと同様、手際よく警備員らしき人に私のことを説明してくれたらしく、厳重な警備の中入館証をもらい、すんなりと入ることができた。一つ引っかかるのは榛名が私が提督だと説明した際、警備員に「B病棟では他の艦娘とは関わるな」と念押しされたことだ。初めて来る場所でなんのことを言っているのかはさっぱりだったが、何やら嫌な胸騒ぎがした。

 

中に入ると案内板があり、その前で榛名から病院についての説明を聞かされた。

 

「この病院は大きく分けてA、Bの病棟の2つのエリアに分かれていて、ここがA病棟です。比叡お姉様はB病棟の201号室で入院されていますので、少し距離がありますがご辛抱ください。あ、あとAからBに移動する際には提督が首から下げられている許可証の提示を求められますのでその際は見せるようにお願いします」

 

「わかった。じゃあすまないが案内を頼むぞ」

(病棟の移動で許可証が必要? さっきから解せないことが多いなこの病院は...)

 

榛名の後ろをついていきA病棟を歩いているとちらほらと他の艦娘の姿が目についた。必死に松葉杖をつきながら歩く練習をする軽巡洋艦、弓を引く動作を繰り返しては手の震えを抑える空母、他の鎮守府の提督らしきものにしがみ付き「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくる駆逐艦の姿。

戦いという使命を背負った艦娘を指揮する以上、このような事態も想定するべきだろう、そう頭ではわかっていても実際にその現場を見てしまうと思わず目を背けてしまう。苦渋の表情でその様子を眺める私に榛名が声をかけた。

 

「...提督は艦娘の損傷ステータスはご存知でしょうか。ここの病院にも関係しているのですが」

 

「え? あ、ああ。もちろんだ。小破、中破、大破そして...轟沈だな。ここにいる艦娘たちは皆きっと大破以上の損傷を受けたが轟沈には至らなかった。だがあまりに損傷がひどいため入渠しても直らないのを復帰を目指して治療している...といったところか。 そもそもそうでなきゃ艦娘の病院があること自体に違和感があるしな」

 

「さすがですね。提督の仰る通り、大破と轟沈の間の艦娘がこの病院に入ります。実はこの間には正式ではありませんが損害状態には2つ名前がついています。1つはここA病棟に入る艦娘たち、そのステータスを『瀕死』としています」

 

「A病棟で『瀕死』...か、ということはB病棟はさらに...」

 

そう口にしかけ、前を向くと、重たい鉄の扉が立ちふさがった『B病棟入り口』と書かれた場所にたどり着いた。扉の前には4人の屈強な警備員、いや武装している様子を見ると警備兵が立ちふさがり許可証を要求してきた。慌てて許可証を見せると、表情をピクリとも変えず、比叡が入っている201号室まで連れて行かれた。B病棟は薄暗く、窓もない、またA病棟と病室には何重にも鍵がかけられており、外を出歩く艦娘も見当たらない。

 

(なんだここ...さっきとまるで雰囲気が違う、病棟が分かれていることには意味がありそうだな...)

 

「ここだ。面会が終わったらそこのブザーを押せばまた迎えに行く。では鍵を閉める」

 

淡々と指示され部屋に入れられた直後、ガシャンと、重たそうな扉が閉められ目に飛び込んできたのは、口には酸素マスクらしきものがついている『比叡』の姿だった。眠る比叡のベッドの隣には先ほど金剛が抱えていた花束が置かれており、金剛型の姉妹艦だろうか、4人で写った写真が飾られていた。

 

「彼女が比叡...なのか」

 

「はい、2年と5ヶ月前、轟沈しかけの状態で発見された比叡お姉様です。かろうじて生命活動は維持していますがいわゆる『植物状態』で現在も意識が戻らない状態が続いています」

 

「そう...だったのか。しかしこの様子だとやはりこの状態は『瀕死』ではない...それ以上の...」

 

「はい、御察しの通りです。先ほどの話の続きになりますが、B病棟は通称『亡霊病棟』。状態『亡霊』の艦娘が入渠します。比叡お姉様もこの『亡霊』として登録されこの病院に入院しています」

 

「ぼ、亡霊...?」

 

「『亡霊』...轟沈することはなかったにせよ、戦線復帰は絶望的、もしくは心に一生癒えない傷を負ったような艦娘を指す言葉です。死ぬこともできず、また艦娘としての使命を果たすこともできない。そんな生死の狭間を漂っているものたち...それがここB病棟の住人です」

 

そう話した榛名は長らく使われていない様子の来客用のパイプ椅子を取り出し、寝ている比叡のベッドの傍に用意すると

「長い話になると思うのでお茶を用意してきますね」と奥に消えていった。

 

しかし..窓の無い部屋、外側から閉められる鍵、そしてこの異様なまでの警備...本当に病院なのか? まるで...

 

「...まるで刑務所みたい...ですよね」

 

部屋を観察し、深く考え事をしていると、まるで心を読んでいるかのように

 

「あ、いや...まあ正直そういう印象だな。とても治療するために入る病院とは思えんな」

 

「無理もないですよ、私も最初ここにきた時はそのような感想でした。『亡霊』に登録され入院する艦娘の中には、提督、広義で捉えれば人間に対して嫌悪感を持ったものや、あまりの甚大な損傷ゆえに暴走する可能性のある艦娘も少なくないんですよ。そのため、外の監視や先ほどの警備兵によって厳重に警備されているんです。艦娘は人間よりも優れた身体能力を持つ故、反旗を翻した時の被害は甚大です。ここはそれを抑制する施設でもあるんです」

 

「『亡霊』...か...しかしどうしてこんな状態に...」

 

大抵の戦闘において損傷を受けた際は被害の大きさの有無に問わず一旦撤退するのが定石だ。これは戦場の情報を持ち帰る意味と艦娘たちの万が一に備えての意味を持っており、よっぽど逼迫した状況でなければこれを基本に作戦指示をするようにと教わった。

だからこそ不思議なのだ。運悪く一撃で大破することはあっても、状態が万全の状態から轟沈直前まで陥ることなど、想定上まずありえない。

 

「私も詳しくは知りません...。2年と5ヶ月前...。正確にはその前後1週間の間の戦闘の中で負傷し、この状態になった...とだけお姉様から聞かされました。それ以上はお姉様も話そうとしなくて」

 

「原因は比叡自身の練度が低かったか...もしくは疲労がたまっていて判断能力が鈍っていたとかか?」

 

「いえ、それは考えにくいです。比叡お姉様は金剛姉様に次いで練度は高かったですし、その...言いづらいのですが前の提督とは仲が悪くほとんど出撃させてもらえてなかったようで」

 

「そうか、ならその線もないか。しかし情報が少ないな。その事件後に金剛に変わった動きはなかったか?」

 

「あります。というか...変わりすぎてどこから話していいのか...。一つ確実にかわったと言えるのはそれ以降の前提督への態度...ですかね」

 

榛名の話によれば金剛はその鎮守府の着任した当初は、提督への忠誠心はかなり高かったらしい。どんな命令にも『提督のために』と二つ返事で従い、無理な出撃を組まされても文句ひとつ言わず、むしろ嬉々として出撃していた。だがある日、榛名が長距離遠征に行き、1週間後に帰港すると唐突に、比叡の戦線離脱、同時に金剛が問題を起こし、処分されたと聞かされたというのだ。

 

「榛名の遠征中に何かが起き、態度が急変...か。話を聞く限りにわかには信じられんな」

 

「私も最初は耳を疑いました。盲信...というと言い方が悪いかもしれませんが提督に全面の信頼を寄せていた金剛お姉様が些細なことで問題を起こすとは思えませんでしたし...」

 

「ふむ...となると前提督と比叡がらみで何かあったという線が一番強いな。金剛はともかく前の提督は比叡と仲が悪かったみたいだしな。前の提督の名前とかわかるか? もしかしたら士官学校で知り合ってるかもしれん、そいつと連絡を取れば....」

 

「名前...ですか? ええと確か着任時に一回だけ...確か『西条イツキ』って名のってたような...」

 

「西条イツキ...まさか....。榛名、そいつ右目に眼帯か何かしてなかったか?」

 

「あー!そうです! 大きな黒の眼帯を常につけてました!」

 

「やっぱりか...。金剛の話や比叡の状態でもしやと思ったが...。そいつは私の同僚、いや同僚だったやつだ」

 

「だった? 」

 

「辞めさせられたんだ。私が士官学校在籍中に、全生徒の中で唯一退学処分にされた男だ。それ以降は親の元で働いていると聞いたが...まさか...」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 確か提督になるには士官学校を卒業しないといけないんじゃ...」

 

「あいつの親、本部に配属されてる軍関係者なんだよ。そこのつながりで提督になれたのかもしれん」

 

「そうだったんですね...確かにそう言われるとあまり作戦指揮には参加していませんでしたね」

 

「榛名、できるだけ前の鎮守府での西条について教えてくれ。艦娘の扱いとか、作戦指示の方法とか、とにかくなんでもいい。もしかしたら今回の一件の手がかりになるかもしれん」

 

「わかりました! ええと...そうですね...」

 

眠る比叡の横で、昔の記憶を必死に掘り起こし榛名は私に情報を伝え続けた。どうやら私が思ってた以上に金剛の件、いやこの国の艦娘の扱いは闇が深い。言いようのない不快な悪寒が私の周りを包むのだった。

 



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悪夢の始まり

※今回のお話は序盤から金剛の視点となります。


「早く! 早く手当てを! 血が止まらないぞ!?」

 

「ダメだ...傷が塞がらない。 許容できるダメージを超えている」

 

「おい! 誰か酸素マスク取ってこい! 緊急だ!」

 

周りを取り囲む救助隊や医療関係に努めている艦娘、その中心には自分が最も愛する妹の一人、比叡がいた。絶え絶えの呼吸、止まらない出血。目の前の命には確実に終わりが迫ってきている。だが、人波をかき分け比叡に近づこうとすればするほど、暗闇は広がり、取り巻きは遠のいていく。

 

「...!!」

 

叫ぼうにも声が出ない。手を伸ばそうにも力が入らない。そうしている間にも比叡はどんどんと遠ざかる。

 

「えい...比叡!!!」 ピピピピ ピピピピ ピピピピ...

 

<遠征30分前です。 担当の方は準備をお願いします。繰り返します...

 

ベッドから飛び上がり、必死に伸ばした手は虚しく宙を掴む。

けたたましい目覚ましのアラームが鳴り響く中、眩しい日差しが差し込む部屋で目覚めた私は全身が汗だくだった。

 

部屋の外では朝の遠征アナウンスが流れ、一気に現実に引き戻される。

 

「ハァ...最悪の寝覚め...ってやつネ」

 

どうやら夢だったらしい。いや、悪夢か。右手で顔を抑えながらゆっくりとベッドから洗面所へ。まるで二日酔いしているかのような気持ち悪さと頭痛を忘れさせるように、思い切り顔を洗う。

手をつき、顔から滴る水分を眺めながら、ようやく落ち着きを取り戻す。この悪夢を見たときはいつもこうだ。

 

「榛名はー...またお出掛けですかネ。 今日は一緒にフレンチトースト食べる予定だった気がするのですが...」

 

今週一週間は珍しく二人同時に2日間の休みが取れた。まぁ休みが取れたと言ってもこの鎮守府なら特別2日くらいの休みいくらでも希望を出せば取れる。実際は私自身が前の鎮守府の影響か全くと言っていいほど休みを希望せず、あまりに取らない為提督の方から「艦娘健康ウィーク」と称された休暇強化月間に付き合わされて取らされた休みが偶然榛名の希望休とバッティングしただけだ。

 

慣れない休みに悪夢で目覚める最悪な休日の2日目。

窓の外を眺めると外のグラウンドでは駆逐艦達が楽しそうにラジオ体操に興じていた。ああ、そういえば健康ウィークの要綱にはそんな企画もありましたネ。

ほんと...この鎮守府は...

 

「甘々過ぎておかしくなりそうネ...」

 

この2つ目の鎮守府に配属になって、もう2年は経つのに、私自身はこのぬるま湯のような生活にいまだに慣れない。今でこそ多少は順応できるようにはなったが、着任当初は驚きの連続で開いた口が塞がらなかった。

週に少なくとも2日以上の休み、豪華で選択の権利のある食事、体調不良や怪我に対する異常なまでの気配りとそれに備えた高価な設備。以前いた鎮守府とはまるで違う扱いに、正直困惑する毎日だった。...いや今もそうか。

 

鎮守府に順応できない私とは対照的に、同時期にきた榛名はすっかり今の生活を楽しんでいる。姉として幸せそうな榛名を見られるのは嬉しい限りだが、なんだかこの鎮守府で自分だけが除け者のような寂しさや虚しさばかりを感じる毎日だ。

 

「榛名は前に進んでいるのに...。私の時はあの時から止まったままネ...」

 

初夏のじんわりと暖かい風に髪を揺らされながら、空を見上げると雲ひとつない快晴。

ああ、あの日もこんな日だったな。窓に頬杖をつきながら”最初の鎮守府”の記憶を思い出すのだった。

 

ー3年前 

建造されてから約半年。研修センターと呼ばれる艦娘育成学校に通った後、私は「西鎮守府」に配属となった。当時の現場では珍しく、成績に応じた研修免除が適用され、本来1年かけて行うカリキュラムをその半分で卒業できた。

自分でもわからないくらい、当時は提督という存在が大きな存在で、生きる意味でもあった。

 

「早く提督の役に立ちたい」

 

顔もまだわからない"提督"に突き動かされ、期待とやる気で満ち溢れながらの着任だったのを今でも覚えてる。

 

「俺がこの鎮守府の提督、西条だ。金剛...だっけか、まぁよろしく頼むわ」

 

「はい! よろしくお願いしマース! 絶対にお役に立って見せマース!!」

 

「うんうん、流石はエリート艦娘だけはあるね。 楽しみだわ」

 

夢だった鎮守府での生活。本でしか見たことがなかった憧れの提督。

あぁ、これから私の素晴らしき艦娘人生が始まる。そう疑わなかった。

その後、秘書艦であろうか、やけにオドオドとしている駆逐艦に二人一部屋の相部屋を案内され、その日は終了した。

軋む廊下、壊れかけの照明、窓はなぜか塞がれてるものが多かった。自分が想像していた鎮守府とは少しイメージが違ったが、まぁ寝られる場所さえあればと特に気にしなかった。

 

「こ..ここです。 比叡さんと相部屋ですので...では...」

 

開けられた部屋はがらんとしていて、無機質にベッドが2つ置かれているだけだった。

 

「アー!ちょっと待つネ! 」

 

「ひっ!! ごめんなさい!ごめんなさい! 許してください!」

 

「いやいや、別に怒ってないデスよ。ただ、他の艦娘とすれ違った記憶がないのデスが...。同室の比叡もいないようデスね」

 

「....ここの艦娘は今全員が戦闘に出られてます。いるのは私と提督様、そしてあなただけです。では...」

 

「そう...ですか....。 えっとじゃあ....ってあれ」

 

後ろを振り向くと先程までいた駆逐艦はもういない。

用件のみを伝えると、そそくさとどこかへ消えてしまったようだ。

うーん、初日は同じ鎮守府の艦娘に挨拶したり、ここの雰囲気を聞いたりするものだと思ってましたが...。

 

今思えばこの時の違和感がすでに、この鎮守府の異常さを物語っているものだった気がする。

部屋のボロボロの窓から漏れる冷たい風が髪を揺らす。

なぜが妙な胸騒ぎが私を包むのだった。




だいぶ投稿期間空いてしまいました。
待っていた方いたら申し訳ないです。金剛の過去編の始まりです。


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過ち

徐々に慣れてきた鎮守府での生活。
だが金剛の頑張りは確実に体を蝕んでいた。

※すべて金剛視点となります。


「ヘーイ!提督ぅ! 今日も資材ウンと持ってきたねー!」

 

「うんうん、ご苦労。 マジで助かるわー...じゃ、次はここ頼むわ」

 

「OKネー! じゃあ行ってくるヨー!」

 

鎮守府に着任して3ヶ月が経った。早々に長距離遠征に連れて行かれた時は少し困惑したが、次第に順応もすることができ、メキメキと実力を上げることができた。そんなワタシの頑張りを認めてくれたのか提督は次々とワタシに新しい仕事を与えてくれるようになった。段々と増えていく仕事に、うれしい悲鳴をあげながら、提督の「助かった」を聞くために死に物狂いで仕事をした。

 

 

「さて...今日はここと残り2箇所の遠征、あとは夜の出撃が1回で終わりですネ...ふー...」

 

部屋で次の出撃の場所を確認する。最近どうも疲労が取れない。高速修復材の効きも悪いし...どうしたものか。

ため息交じりにそんな考え事をしていると、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「お姉さま! 今日もお疲れ様です! お怪我はありませんでしたか!?」

 

「ひ、比叡お疲れ様ねー。 大丈夫ヨ。この通り、ピンピンしてるねー」

 

「そう...ですか。で、でも絶対に無理はなさらないでくださいね!いくらスーパー艦娘のお姉様でもお身体は一つしか無いんですからね!大体姉様はいつも頑張りすぎです!この前も....」

 

(あー...また始まりましたネ...)

 

今、説教交じりのアドバイスをしているのはワタシの姉妹艦『比叡』。同室のルームメイトで、姉妹艦の彼女とは、着任してから一番最初に仲良くなった....と言うよりは一方的に彼女の方に好かれてしまった。

きっかけは一緒の出撃で比叡を敵の攻撃からかばったことが発端だった。正直そこまでする必要のある場面でもなく、「提督にいいとこ見せたい」と言う下心丸出しの行動だったのだが、それが彼女にとっては何より嬉しかったらしい。

 

「作戦よりも私をしてくれた...命の恩人です! 一生ついて行きます!」

 

そう言って、この一件以降は何があってもまるでコバンザメのように暇さえあれば私についてきて色々とよくしてくれるようになった。

最初こそ可愛い妹ができたようで嬉しかったが、日が経つにつれ過干渉の母親のようなうっとうしさを感じるようになっていた。

後から来た榛名も姉妹艦ということもあり、私を慕ってくれているが、比叡には「流石にやり過ぎですよ...」といつも苦笑いをしていた。

だが正直そんなうっとうしさなんてかわいく見えるくらい

 

「お疲れのようですね。よかった、ちょうど渡したいものが...」

 

「ん? なんですかこれ...。 はっ!」

 

「手作りのカレーが入ったおにぎりです! 今回こそはうまくいったと思うので!」

 

漂う異様な匂い、何を入れたのか見当もつかない色合い。彼女が差し出したそれは間違いなくカレーではない、いや食べられるかも怪しい何かだった。

 

「うーん...香辛料たくさんいれたんですけど...足りなかったかな」

 

(いやいやいや! 香辛料とかそんな些事な問題ではないですよねこれ!)

 

「あー!ソーリー!! 今回はあまり時間がないのでそれはまた今度で!!」ガチャ

 

「ちょ! お姉様! この前もそれ聞きましたよ! お姉様!?」

 

(他は良いとしてもあれだけは回避しないとですね...)

 

比叡、改めお母さんを振り切って出撃するために集合場所に到着したが、そこには絵に描いたように暗い顔をした艦娘たちがずらりと並んでいた。

 

「はあ...今日もお休みもないんだね」

 

「私なんてもうしばらく部屋にも戻れてないよー...」

 

ここの鎮守府では基本的には休みはない。よくて出撃や遠征で大破や轟沈寸前までいった艦娘が臨時休暇という形でドックに入れられるくらいだ。今思えば異常な環境だったが、当時の私含め多くの艦娘にとってはそれが「普通」であり、ワタシに至っては喜んでこの場を楽しんでいた。

 

「サー!みんな元気出して! 提督にいいとこ見せましょー!」

 

「...相変わらずだねー。金剛さんは」

 

「まあ、ぼやいてもしょうがないか。旗艦よろしくね!」

 

「任せるネー! レッツゴー!」

 

さあ、今日も出撃だ。連日の出撃で尚且つ負傷もしなかったから、すでに3日くらいはほぼ出ずっぱりだが、提督のためだ。少しでも役に立てるように頑張ろう。あー、でもやはり疲れが溜まっているのかな、目が少し霞む。

 

本調子ではないものの、そこまで難しい海域ではなかったので、難なく出撃を成功させた。

また1つ、提督の役に立つことができた。この喜びで疲れも吹っ飛ぶようなものだ。

 

ー提督!! 敵全艦撃破したヨー! 旗艦金剛、只今より鎮守府に戻りマース!

 

ーういー。よくやった、じゃあ早めに戻ってきてね。 もう1つ出撃してもらうからー

 

ー了解でーす!

 

(...と威勢よく返事はしましたが、もう一戦となると結構きついネー...一旦戻ったら補給を....)バタッ

 

「!? 金剛さん!? 誰か!! 金剛さんが!」

 

一瞬で視界が真っ暗になったかと思うと、私はその場に倒れこんだ。

 

「...ざけないでください。 こんなに無理させといてなんですかその態度は! それでも司令なんですか!?」

 

「あー? っセーな、ただの疲労だろ。鍛錬不足だろ」

 

誰かの口論の声で目を覚ます。どうやらここは病室か何かのようだ。

 

(あー...そうか..私...気を失っちゃってそれから...)

 

「こんなことが続くようじゃ...上に報告しますよ?」

 

「あ? んだと生意気だな、艦娘のくせに。お前の愛しの金剛お姉様だって俺には解体する権利だってあんだぞ?」

 

「っ....。サイテーですね...ほんと」

 

ぼーっとしていた意識と視界が、だんだんと戻ってきた。どうやら近くにいるのは提督と比叡のようだった。

 

「て...提督?...それに比叡....どうしたんですか...?」

 

「!! お姉様! ご無事でしたか!! 本当に...本当に良かったです!!」

 

ベッドからスッと起き上がり、声をかけると、今にも泣きそうになっていた比叡が飛びついてきて、前から思いっきり抱きしめられた。

 

「ちょ...比叡、苦しい! 苦しいですよー! もう!」

 

「はっ...すみません! お姉様! 安心してしまってつい!」

 

「別にいいですヨー。それよりこれは...」

 

比叡の話を聞く限り、どうやら私は疲弊が限界を迎え、倒れてしまったらしい。隊の艦娘に医務室に運んでもらったあと、約半日以上はこのベッドで寝ていたようだ。

 

「んだよ...やっぱ大丈夫じゃねーかよ。手間かけさせやがって...戻っていいか?忙しいんだよ」

 

奥の方で携帯片手に見ていた提督が、あくび混じりにこういった。

 

(あれ...想像以上に冷たいですね...。少し悲しいな。でも今回の失態で失ったものも大きいだろうし....)

 

「テイトク...申し訳

「ッザケンな!! 良い加減にしろよ!! てめえ!!」

 

「!? ひ、比叡!?」

 

言葉を発しようとした次の瞬間、激昂した様子の比叡が提督に怒鳴り始める。

 

「....お姉さまの手前、これまでずっと我慢してきましたがもう限界です」

 

「っせーな...。急に大声出すなよ」

 

「なんなんですかその態度、元はと言えば無能なあなたのせいでしょ? お姉様をこんなにして...司令としての自覚はないんですか?」

 

「自覚だぁ...? テメェこそ艦娘としての自覚あんのか? さっきから逆らいまくりやがって」

 

「クソみたいな環境で自分の昇級のことしか考えない上官になんで従わないといけないんですか? 私、マゾヒストじゃないんで」

 

「っち...。てめぇ...」

 

「...めて下さい」

 

「あーすみません。恐怖政治敷いといて大した戦果も残せてない司令なんて例えマゾだったとしても嫌と訂正しますね、このクソ...

 

「ヤメて! 私の提督を侮辱しないでください!!」

 

自分でもわからなかった。気がついたら私は大声で叫んで...そして泣いていた。ただ、心が締め付けられ、これ以上聴いていたくない。そんな本能的な衝動が無意識に行動に変わっていた。

 

「お願いだから...もうやめてください...」

 

「お...お姉様...? よく考えて下さい! こいつは...いえ..司令は」

 

「....出てって下さい。今は比叡とは話したくないネ」

 

「しっ...しかしですね、お姉様....」

 

「出てって下さい!! 」

 

「....申し訳ありませんでした。....失礼します」ガチャ...バタン

 

何か言いたげにしていた比叡だったが、泣いている私を見て少しうつむいた後、静かに部屋を後にしていった。

 

「ふふっ...あっはっは! すげぇ...いや最高だよお前! それでこそ艦娘だよなぁ! いやぁひさびさに気分いいわぁ。金剛..だっけ? お前ますます気に入ったわ!」

 

(私...どうして提督を....)

 

ずっと思い焦がれていた提督という虚像が、この事件をきっかけに少しづつ、崩れていくのを感じた。



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終の始 前編

比叡とのあの一件以降、私は提督に大層気に入られトントン拍子で専属秘書艦まで上り詰めた。

出撃の時は毎回旗艦、遠征等の雑務は全く回されず、その時間を提督の上官との会議や食事会に使われた。

憧れだった提督の右腕として毎日を過ごす日々とは反比例して、比叡とはめっきりと会うことがなくなっていた。

 

(比叡...最近は部屋にも帰ってきませんネ....)

 

相部屋ということもあり、この前の一件について話す機会はあるだろうと軽く考えていたのだが、当の本人がめっきり部屋に戻ってこない。提督に聞いても答えてくれず、周りの艦娘に聞いてもただ、遠征や出撃が大量に入っているらしい、とだけ。

以前は割と暇そうにしていた印象だったのだが...

 

(まぁ...いつか話せますよね。怒ってはないみたいデスし)

 

そう楽観視できるのはあの日以降はいつも部屋に作り置きのカレーと置き手紙があるからだ。

手紙にはいつも手書きで「今日も頑張ってください、私も頑張ります」とだけ書いてある。やけに殴り書きしているところを見るとよほど時間の合間を縫ってくれてるのが想像できる。

もう一踏ん張りという意味がよくわからないが、

(うへえ...何度食べても結構厳しいですね...)

そうは思いつつも、置いてあるカレーは完食した。

 

あの一件以降、私は提督というある種偶像化していた尊敬の念が崩れはじめ、それとは対照的に比叡に惹かれはじめていた。

 

私のことをまるで自分のことのように怒ってくれた姿。正直ひどいことをしてしまった私を許してくれる寛容さ。

相変わらず刺激的な味のカレーだが、そんな思いがある今はとても愛おしく、そして温かかった。

 

「さーて! 今日も元気100倍ネー! しゅつげーき!!」

 

いつしか、比叡のカレーを朝食べてから出撃するのが私の日課になっていった。本物の宝物を見つけたようなワクワクした日々だった。

 

それから1週間ほど経ったある日、なぜかいつもあるカレーや置き手紙が見当たらない。

(あれ? 今日は忙しかったんですかね? まぁ善意でやってもらってるわけですからネ。 文句は言えないデス)

 

まぁ朝からドタバタしていたのだろう。そう軽く考えていた私の予想は最悪の形で裏切られた。

 

お昼手前くらいだろうか、軽い遠征から戻ると何やら鎮守府内が騒がしい。ひょいと様子を除くと何やら人だかりと、医療班?が大慌てでいるのが見えた。

 

「な、なんの騒ぎですか? 誰か怪我でも...」

 

「金剛さん! 大変です! 比叡さん、比叡さんが大怪我を!!」

 

「!?」

 

「早く! 早く手当てを! 血が止まらないぞ!?」

 

「ダメだ...傷が塞がらない。 許容できるダメージを超えている」

 

「おい! 誰か酸素マスク取ってこい! 緊急だ!」

 

周りを取り囲む救助隊や医療関係に努めている艦娘、その中心には自分が最も愛する妹の一人、比叡がいた。絶え絶えの呼吸、止まらない出血。

 

「比叡! どうしたの!? その傷! 比叡!」

 

「ダメです! 近づかないでください!! 今は一刻を争ってます!」

 

「イヤね! ここを通して...「今は一刻を争う状況です!落ち着いてください! 事情は後で話しますから!」

 

「...はい」

 

「金剛さん...ですね。お気持ちは察しますが、比叡さんのことについてはまた詳しくお話ししますので今は抑えてください、では」

 

「わかり...ました」

 

必死に比叡に近づこうとしたが、医療班に制止された。若干パニックになっており、気持ちを抑えられず強行しようとした私は叱咤され、ようやく少し落ち着きを取り戻した。

 

「そうね...今は比叡の治療を...」

 

運ばれる比叡は鎮守府を出たところのすぐに待ち構えた救急車に搬送され、おそらく病院へと運ばれていった。

 

「一体何が...どうなって....比叡...」

 

全く状況の掴めない私はただその場に立ち尽くす。

比叡との最後の会話を思い出しながら、放心状態の私はただ、彼女の無事を祈っていた。

 




今回は少し短め。
これくらいの長さだとボリューム不足ですかね?


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終の始 後編

※『』は比叡の回想のセリフ

金剛過去編、最終話です


比叡が病院に運ばれた日、私は初めて遠征を無断で休んだ。

医師の1人に渡された名刺に書いてある病院の住所に気がついたら走りだしていた。

 

(比叡...比叡! お願い無事でいて....!)

 

無我夢中で鎮守府から飛び出してどれだけ走っただろう。切れ切れの息でたどり着いた病院。急いで受付で尋ねる。

 

「...ひ...比叡って....艦娘が....ここに....運ばれてませんかっ....」

 

汗だくの私が息を切らしながらたずねる私に受付にいた看護師は少し驚きながらも、一息おき、話し始める。

 

「...金剛さん、ですね。 少々お待ちください....先生...金剛さんが...」

 

少しすると白髪でかなり年配の医者らしき人物がわざわざ受付まで駆けつけてきた。看護師から話を聞き、金剛に近づく。

 

「比叡さんのことですよね...。お話ししますので気を強くもって聞いてください」

 

比叡という言葉に顔を曇らせる医師は、少し時間をおいて重たい口を開いた。

 

「現在..意識不明の重体ではありますが、命に別状はありません。止血も終わり容態は安定しています。ただ....」

 

「ただ...?」

 

「彼女が目を覚ますことは...ないかもしれません。こればかりはどうしようも....」

 

--鎮守府

 

『いわゆる植物人間の状態ですね。かろうじて生命活動は確認ができますが...今後はこれを維持しつつ....』

 

『植物人間』 その言葉が頭から離れない。その後のことはよく覚えていない。医者や看護師から励まされたり、医療費がどうとかの話をしていたがそんなことはもうどうでもよかった。

 

もう比叡とは話せないかもしれない。その場にいる愛しい人は決して自分を見ることも話すこともしない。それは存在がある分、ある種死よりも残酷に感じた。

 

自室に戻り、ふさぎこんでいると、けたたましいアラームとともにアナウンスが流れた。

 

<提督よりアナウンスです、本日遠征予定の金剛さん、至急提督室まで....繰り返します提督より...

 

「あ....そうか、遠征...無断で休んだの謝んなきゃ...」

 

トボトボと重たい足取りで提督室に向かう。

 

「失礼します...その...今日は申し訳ございません、遠征の件ですよね」

 

「おっ金剛か。 いーよいーよ。どーせクソみたいな消化遠征だったし。それとは別件よ」

 

無断欠勤、普段だったら激昂しかねないと思っていたのだが、意外にもそれに関してはお咎めなし。拍子抜けの顔をしていると、嬉しそうに提督が耳打ちしてきた。

 

「...で? サボってまで見てきた比叡の様子どうだったよ」

 

「へ? なんでそれを...」

 

「偶然窓の外眺めてたらお前が外走ってく姿目にしてよ。病院にでもいったんじゃねーのかって思ってよ。 まあんなことどうでも良いや、報告たのむぜ」

 

「は、はい! 病院で様子を見てお医者様にお話を聞いてきたのですが...意識が戻らないかもって...」

(ああ、やっぱり提督も心配で...)

 

「あー、まじか」

 

「は、はい! でも! 一命は取り留めたのでもしかしたら今後は...」

 

「んだよ、生きてんのかよ。疲労させ具合が甘かったなぁ、俺としたことがとちったぜ」

 

「...え? それってどういう意味でしょうか...」

 

「あいつ前々からウゼーと思ってたからさ、ちょうど良いし厄介ばらいしようって計画練ってたわけよ」

 

思考がフリーズする。目の前にいる提督の言葉が耳に入ってこない。私がしばらく黙っていると、得意げに提督が話し始めた。

 

「1週間あいつのために特別無休の遠征メニュー組んでやって、ようやく頃合いかと思ってやべえ海域、単体で放り込んだのによ。無駄に丈夫なやつだぜ全く」

 

「うそ...ですヨネ。提督がそんなこと...するわけ...」

 

「あー、まあ俺がやったといえば嘘になるなw。あいつ『私がお姉様の分まで働けると証明させてください』とか抜かすからよ。ちょうど良いなと思ってさっきのプログラムにぶち込んでやったんだよ。これ耐えたら金剛の件考えてやるよってな、我ながら天才的な機転だわ」

 

『頑張ってください、私もお姉様のために頑張りますね』

提督の言葉を聞いた瞬間、カレーに置いてあった置き手紙を思い出す。

 

(まさか...あの手紙の意味って...!)

 

「そんな...じゃあ比叡は私の...私のために...」

 

『お姉様! 今日も海域大変でしたね! お疲れ様です! 明日も頑張りましょう!』

 

「まあ、そうなるなw。あん時の比叡の期待に満ちた表情w。忘れらんねぇw んなもん耐えたって何にもないのになw」

 

「道具...?」

 

『怪我だけはしないでくださいね、あー! 私は大丈夫です! この通り体だけは元気で...ははっ』

 

「あー? 何さっきからブツブツいってんだ? あー何?自分もやられるんじゃないかって心配なの? まっ、そう気にすんな、聞き分けのねえ道具を処分したってだけだ。明日は我が身だ、気をつけろよ、比叡の後釜くん」

パリンッ

 

「Bullshit! お前だけは!! 絶対に許さない!!! 」ガチャっ

 

ズドンという鈍い音とともに提督の横の壁が吹き飛ぶ。気がつくと私は片手の艤装を完全に展開していた。

 

「ちょ...おい...待て冗談だよな...?」

 

「許さない!! 許さない!! お前だけはぁ!!!」 

 

揺れる天井、きしむ床。次々と放たれる砲弾は提督室を完膚なきまでに破壊していく。

 

「おい! 誰か!! 誰か助けてくれ!! 誰かあ!!」

 

バタン!「憲兵だ!! なんだ今の音は!!」

 

「バカ憲兵!おせえんだよ!!早くこいつを止めろ!」

 

「おい! こいつ艤装を...! 至急本部に連絡しろ!」

 

「くっ! もう良い!発砲用意!! 打てぇ!!」

パンッ パアンッ

 

提督の護身のために憲兵が騒ぎを聞き、提督室に駆けつける。

抑えようと発砲する憲兵だったが、艦娘の前では全くの無力同然だった。

 

「手を上げろ!暴れている艦娘が...いると...ってこれは....一体...」

 

その後、連絡をもらい後から駆けつけた本部の憲兵が見たものはガラガラと崩れ落ちる『提督室だったもの』、そして倒れた提督や憲兵の横で血を流しながら艤装を展開し、立ち尽くす私の姿だった。

 

「艦娘って...あなた達にとって...なに...?」

 

最後の意識を振り絞り

憲兵に問いかけた後、私はゆっくりとその場に倒れ、事件は幕を閉じるのであった。




金剛過去編、最終話です。
次回以降は多少の後日談等を挟み、金剛編に戻ります。


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