狩人、あるいはケモノハンター (溶けない氷)
しおりを挟む

1話

 

貴方は狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。

良い狩人だ。

長く明けぬヤーナムの獣狩りの夜が貴方の全てだ。

貴方は人を狩った、獣を狩った、上位者を狩った。

動くものことごとく狩り尽くした。

神秘者を狩った、医療者を狩った、穢らわしい獣も、気色悪いナメクジも狩った。

墓守を狩り、旧主の番犬を狩り、女王を狩った。

だが貴方は未だに悪夢に囚われ、そして目覚めぬ。

最後には月の魔物を狩った、だがそれだけだ。

獣狩りの夜は続き、獣が絶えることは無い。

そして貴方はやがて決心するだろう、無限にある貴方が手を伸ばしうる世界には未だ狩られぬ獣がいると。

聖杯は始まりに過ぎぬ、さぁ蒼ざめた血を求めよ。

狩りを全うするのだ。

貴方は別の悪夢にやってきた。

未だ偽りの太陽は赤々と大地を照らし、しかして獣の跳梁は止むことがない。

狩人よ、さぁ獣狩りの夜を始めよう。

 

貴方は冒険者ギルドにやってきた、この冒険者ギルドという所は民からの要望を受けた狩人もどきが様々な依頼をこなすように斡旋してくれるという場所だ。

あなたがいた頃のヤーナムにはこのような場所は無かった。

かつてはあったのかもしれないが、まともな人間が最早絶えたあの街でこのような行政システムが機能するはずもない。

だが嘗ては効率的な獣狩りをサポートする工房や教会機能の一部として似たようなものがあったやもしれぬ。

狩人もどきと言ったのは別に他意があっての事ではない。

単に冒険者という狩人のような者たちの中にはあまりにも幼かったり、準備が明らかに整っていないものが散見されるからだ。

彼らの大半は白磁という冒険者の最下級で駆け出し狩人といった所であろうか。

もっとも、あなたもヤーナムで目覚めた直後は素手と普段着で戦っていたのだから彼ら以下であった。

「文字の読み書きはできますか?」

身なりの整った受付嬢が貴方に聞いてくる。

貴方はこの世界の文字が読めない、ゆえに代筆を頼んだ。

啓蒙が高くともできないことはあるものだ。

硬貨はヤーナムで転がっていた金貨、どの道獣狩りの夜に商いをするものなどいる筈もない。

故に道標以上のことはなかった。

未だ夜は明けぬとはいえ、貯め込んでおいた甲斐はあったという事だ。

「金貨?珍しい種類ですね、外国の?…まぁ純金で重量があれば相応の値段で使えますけど

でも手数料はかかりますが、使い勝手を考えれば両替をおすすめしますよ」

貴方は両替を勧められた、登録料と代筆料に為替手数料を引いたお釣りを銀貨と銅貨で受け取る。金など狩人にとってはどうでもいい、遍く遺志を手に入れるのだ。

今から貴方は白磁級冒険者の『狩人』だ。

獣はどこだ、獣狩りの夜を始めよう。

ヤーナムならば、どこもかしこも獣ばかりだお前もどうせそうなる。

なのでこのような苦労はしないのだが、ここでは勝手が違うらしい。

貴方は受付嬢から依頼の方法について聞いた。

「そこの掲示板にありますよ、でも今の時期じゃ白磁級にはゴブリン退治かどぶさらい、下水道のネズミ駆除くらいしか無いので…」

下水道とは恐ろしい所だ。

下水道とはどこもかしこも死体で溢れかえり、その亡骸を啄む膨れ上がった太った烏、子牛ほどのネズミ、蠢く獣になりそこないの死体、そして思い出すだけでも悍ましい人喰い豚。

そんな恐ろしい所を駆け出しに勧めるとは,恐ろしい町だ。

「最初の方はネズミ退治をおすすめしてますよ。

暗所で生物を殺すことにまずは慣れないといけないので」

だが貴方は問題ないと伝えた、下水道の巨大ネズミ退治は慣れていると伝えた。

とはいえルールはルールだ、貴方が今の所受けることが出来る依頼はゴブリン退治か、下水道のネズミ退治とどぶさらいくらいだ。

面倒だ、適当に歩いていれば通りすがりに魔神とやらが出てこないものか。

そうやって貴方はゴブリン退治の依頼を受けることにした。

村外れの街道に小規模なゴブリンの群れが出没し家畜の鶏が盗まれるという事件があったらしい。「この依頼を受けるんですか?でもお一人じゃ…」

受付嬢が言葉を濁らせる、確かに実績も何もない新人の初仕事では不安になるかもしれない。

だが貴方は狩人だ、必ずや獣を皆殺しにすると約束した。

「いえ、そういう事を言ってるんじゃなくてですね!

いいですか、ゴブリンというのは確かにモンスターの中では最弱とも言われていますが

群れを成して連中が得意な閉所で襲ってこられたらとても厄介なんですよ。

現に新人冒険者がこの前二人死亡する案件まで発生しているんですよ!」

貴方は受付嬢から説明を受けた。

「女性の身としては説明するのは不愉快なんですが…

四人パーティーで2名死亡、さらに一名は女性だったのが災いして…その…」

ゴブリンとやらは獣のくせに獣欲のままに女性を慰みものにするのだと説明してくれた。

「今は引退して故郷に帰られたそうですけど…とにかく!例えゴブリンであっても甘く見ないでください!ましてや白磁級なら尚更ですよ」

わかった、甘くは見ない。

貴方はゴブリンを見かけても決して油断せずに狩ると約束した。

貴方は例の依頼のあった村までやって来た。

どことなくヘムウィックを思い出させるが、幸いにして高笑いをあげるクソババァが火炎瓶や刃物で貴方を出迎えることはない。

依頼によればまずは被害確認のためにも村長の家へ行けということだったが…

貴方は村の中に入っていった。

実に長閑な村だ、落とし穴も吊り丸太も櫓から撃ってくる村人もいない。

不気味なことこの上ない。

しかし何かがあったらしく、村から血相を変えた村人らしき初老の人物がこちらを視認するとかけてくる。

「ああ!あんた冒険者かねぇ!?助けてくれぇ、悪さするゴブリンどもが今度はうちの山羊を攫っちまった!冒険者がいないことに気づいたのか、味をしめて最近は毎晩のようにやってくるだぁ!怪我人まで出たし、このままじゃオラ達冬を越せなくなっちまう!」

どうやら状況は思ったよりも悪化したらしい。

貴方は村長に話を聞いた。

最初は村の穀物や干し肉といった守りの弱い保存食が狙われたが

次は鶏、羊と段々と犯行が大胆になっていったらしい。

昨晩は見回りしていた村の若者二人が5匹以上のゴブリンに怪我を負わされたようだ。

若者らが大声で叫ぶと武器になりそうな農具を持った村の衆が駆けつけたが

その時には既に若者らは大怪我を負わされていた。

貴方はその若者たちが殺したというゴブリンの死体を見せてもらった。

身長は120から130、手足は細く緑色の体表。

ヤーナムの獣と化した人間よりもなお醜悪な面構え。

話には聞いていた通りだが獣の病より酷いものがあるとは思ってもいなかった。

いや、女を拐い積極的に繁殖しようというのだからこれは正に流行病以外の何ものでもない。

「ああ、もう暗いから奴らがまたやってくるだ!

頼む!この村を守って欲しいだよ!ゴブリンどもは女を慰みものにするんだぁ!」

…ああ、あの夜から何一つ変わってはいない。

何一つ変えられはしなかったのだ。

貴方は村人らに守りやすい場所に財産、女子どもを集めて避難しておけと命令した。

下手に動き回られて死んでもらっては困る。

獣どもよ、覚悟するがいい。

夜の帳が降りる時、狩人もまた戻って来たぞ。

貴方は使者たちにメッセージを残した。

特に意味はなくとも、ただそれだけで狩人はこの悪夢に心折れぬ覚悟がある。

『獣狩りの夜が始まる』

すると他次元の狩人に貴方のメッセージが届いたらしく評価される。

ただそれだけで貴方は一人ではないと確信し、そして足元に誰かが書き残したメッセージが多数浮かび上がる。

『数に注意しろ そして 小鬼を許しはしない』

『この先小さい敵に注意しろ そして 炎が有効だ』

『素早い攻撃が有効だ だから チェーンガンをバックから出しなよ』

『大きな敵 そして パリィが有効だ』

大凡の敵の行動を読んだ貴方は迎撃の準備をする。

そういえば貴方の狩はあくまでも攻めであり、このように守りの経験は無かった。

貴方はゴブリンが現れる方向に息を潜めて待ち受ける事にした。

 

暫く息を潜め、物陰で待つと夜の帳が降りると共に嫌な匂いが風に混じる。

ヤーナムではよく嗅いだ匂い、饐えた汗の匂い、腐った魚のような匂い、獣の匂い。

血の匂い。

「gua?」「Gugagagaga!」

獣どもが何やら騒いでいる、どうせ大した意味などない。

5,6,7と続いて更にぞろぞろと10,二十とやってくる。

どうやらいつの間にかあちこちのゴブリンが集合し、徒党を組んで村を襲う事に決めたらしい。

「guaa?」

どうやらゴブリンどもは貴方が仕掛けものに気付いた。

ゴブリンの死体と血酒を貴方は仕掛けておいた。

死体は血酒を片手に持ったようになっており、ゴブリンどももなぜ?とは思ったようだがその瓶が酒だということはすぐに気づいたらしい。

「guhee」

1匹のゴブリンがにたりと醜い顔を歪めて瓶に手をかける。

この1匹は酒を盗もうとしたが間抜けにも農夫にでもやられてここで息絶えたとでも思ったのか。

モンスターのくせに酒癖の悪さは一丁前である。

だがゴブリンが酒瓶を手から取るとそれにつられてゴブリンに仕掛けてあった罠も発動する。

『仕掛け爆弾』そして『火炎瓶』

酒瓶にくくりつけてあった紐がトリガーとなって死体に仕掛けてあった爆弾が炸裂、殺傷力を高めるためにくくりつけておいた火炎瓶と共に四方八方に鉄とガラスと燃え盛ったタールをばら撒く。

「guaaa!」「gugeee」

『この先、罠が有効だ だから 死体を思い出せ』

貴方は名も知らぬ他次元の狩人に評価で感謝を捧げ、罠で混乱したゴブリン達の背後に青い秘薬を飲んで回り込むと殺意と共にチェーン・・ではなくてガトリング砲の弾幕を浴びせる。

毎分200発の弾丸の嵐が密集していたゴブリン達に襲い掛かる。

「Gugyaaaa」「Gihiaga!」

命中すれば肉を裂き、骨を砕きどこに当たっても致命的な一撃になる。

醜い悲鳴とともに弾丸の前に次々と倒れていくゴブリン達。

必死に足を引きずり逃げようとするも、貴方が見逃すはずはなくすぐに追いついては弾丸の節約も兼ねて爆発金槌で叩き潰される。

焦げた肉と血が飛び散り、なんともいえぬ香りが漂う。

炎の匂い、それこそが獣と病を浄化する唯一の方法だ。

獣を燃やせば…心も少しは暖かくなる…

貴方は存分に狩り、殺したが、ここにいるゴブリンが全てではないことも知っている。

この近くには恐らくはあのゴブリンの集団がねぐらとする場所があるのだろう。

皆殺しにしなければならない。

冒険者ギルドはゴブリン5,6匹の討伐で良いと言っていたが

そんな生半可な狩りなど狩人に期待する方がおかしい。

「獣は皆殺しだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

やだ、感想欄の啓蒙高すぎ?
埋めて焼き殺す、これ一番
洞窟に潜るとか正気じゃないわ(COD:BOでベトコンの穴倉にもぐった感想
立哨は実際重要



 

貴方は略奪隊を全滅させると其の足で獣臭い連中の臭いを辿り洞窟の前までやってきた。

獣臭く、生臭くて堪らない。

故に炎で清めなければならない。

洞窟の前には見張りのゴブリンがいる、貴方は構う事なく見張りのゴブリンに襲い掛かる。

「Go!?」「Guga!?」

古い狩人の遺骨の力を借りて貴方は物陰から俊足で見張りのゴブリンに到達し、警戒の声を上げる暇も与えずに殺した。

見張りのゴブリンどもは簡単で無防備な村への略奪隊に選ばれず

食物も女も後回しにされる退屈な見張り役という事に腹を立て、やる気も起きず集中力散漫だった。

そのつけが回ってきたのだろうか、いやいずれにしろ熟練した狩人の獣の如き疾さの前では無意味だったかもしれないが、少なくともねぐらの中の仲間に警告することはできたかもしれない。

貴方はゴブリンの洞穴に注目した。

洞穴は縦2m、横幅4m程度のそこそこに大きい入り口だ。

しかし戦闘をするには狭すぎるかもしれない。

故に貴方は出入り口を塞いで火で消毒するという行動に出た。

貴方は燃えそうな木々入り口に積むと、入り口を爆発金槌で崩し始めた。

確実に内部を酸欠にするためである。

そうやって殺したゴブリンと薪を積むと崩れた洞穴のわずかな隙間から火炎放射器のノズルを突っ込む。

油壺の中のタールや油を振り掛けると大量の枯れ木が内部でパチパチと勢いよく燃え始め、ゴブリンの死体の油すら燃える炎となって密閉空間の中で燃え始める。

やがて煙が上がるのをまって貴方は洞窟の出入り口を完全に閉じた。

貴方は周りを見渡し洞窟の別の出入り口や通気口がないかを確認し始める。

!煙が少し上がっている事を見るとどうやら通風孔があるようだ。

貴方は入り口から20mほど離れた場所にある丘の上に上がり、煙を確認する。

貴方が煙の上がっている場所を確認するとそこには小さな穴があった。

非常に小さく、中ではゴブリンどもが大騒ぎしながら必死に新鮮な空気を吸おうと穴に詰めかけているところを見ることができた。

もしもゴブリンに一致団結や協力という概念があれば全員で薄いところを掘って脱出できたかもしれないが、そんな時間を貴方は与えないだろう。

野獣よけに出入り口を限定したのかもしれないがそれが仇となった。

 

貴方とゴブリンの目があった、憎悪の視線を向けてくるが知ったことではないので棒で突く。

「Guee!」

引っ込んだ穴に向けて又しても火炎放射器のノズルを突っ込み、点火する。

「「「Gieeeeeee!!」」」

小さな穴から全身にタール、硫黄、油、生石灰などの特性混合燃料を被り全身に火がついたゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。

汚い合唱団だ。

中からはゴシュ!だとかグシャァ!という音が聞こえるが、おそらくは火を殺した仲間の血で消そうとしたのだろう。

もっとも生石灰が混ざっているために水をかけると温度が上がりますます燃え上がる特性燃料。

故に逆効果なのだが。

どんどんとかガリガリだとか土を必死な思いでゴブリンどもが蹴ったり殴ったり引っ掻いたりする音が中から聞こえてくるが

貴方はそんな事には御構い無しに炎を浴びせかけ続けた。

焼け死ぬのが先か亜硫酸ガスで窒息死するのが先か。

ゴブリンの洞窟はガス室となった。

貴方は炎に魅せられ、浄化の熱狂も冷めずに触媒の水銀弾が尽きるまで炎を吐き続けた。

水銀弾が尽きても洞窟の中で蠢く炎が大地と貴方の心を温めるだろう。

まこと火と炎と灰は人の友である。

あの哀れな灰の狩人は獣を焼く匂いに耐えられなかったのだろう、その優しさ故に。

貴方は背後でゴブリンどもがギャァギャァと騒ぐ叫び声も他所に星を見た。

宇宙は空にある!

唐突に降りてきた超次元的思索!高次元の啓蒙!空に開いた瞳!

そして貴方は感じる、誰か…いや何かが貴方を見ている!

『上位者ども!貴様ら、見ているな!』

脳に瞳を持つとはまさにこの事である。

貴方はこの箱庭の観察者達を観測した。

彼らが貴方を観測したと同様に貴方も彼らを観測できる。

汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き返しているのだから。

貴方は交信のポーズを取り、彼らに強い遺志を込めて覗き返す。

そんなに人の悲劇を覗き込むのは面白いか?と

だが貴方がすべきは手の届かない神々とやらに文句をつけることではない、今のところは。

貴方は夜に浮かぶ月を眺めた、赤い月と緑の月。

2つの月は不気味な光を放ち、貴方の脳を震わせる。

貴方は今までの旅路を振り返り、獣への憎しみも強く狩を全うするだろう。

リボン、そしてオルゴール。

全ての貴方が救えなかった人々の為に貴方は獣を狩り続けるだろう。

夜空にメルゴーの子守唄のメロディーが響く、響き渡る。

貴方を獣狩りの使命感がきっと突き動かすだろう。

ゴブリンの断末魔の苦悶が貴方の苦しさを和らげるだろう。

皆貴方が狩り尽くした、何千何万何億と繰り返してきたように。

「悪夢は巡り、そして終わらないものだろう!」

嘗て狂った学徒は言った、彼は狂っているが故に正しかった。

貴方の狩に称賛はない、栄誉もない、ただただ暗く血塗られた道だ。

獣を狩る狩人達は嘗て英雄とされてきた、全ては遥か昔の事だが。

せいぜい足掻くがいい、狩人に暗い血の祝福があらん事を…

貴方はゴブリンどもの苦悶の声が聞こえなくなるまで待っていた…

気づけば夜が明けていた、貴方が撒き散らす狂気と殺意を感じ取ったのか周辺には動く生き物はいない。

…貴方は念の為に洞窟の中の炎が消えたのを確認すると入り口を崩して中に入る事にした。

中は一酸化炭素と亜硫酸ガスが充満しているが短時間なら息を止めていても問題はない…

中には大量のゴブリンと大柄なゴブリン、それに人間の死体があった。

男二人に女一人。

女性は小鬼どもに凌辱され、男は殺されて肉が食われていた。

気にすることはない、貴方が火で炙る前に彼らはもう死んでいたのだから。

…別に珍しくもない、ヤーナムで死体などいったいどれほど貴方は見たというのか。

繰り返す悪夢で貴方自身も数知れないほど死体となり、死体から剥ぎ取り死体を作ったというのか。

だというのに、貴方は不愉快だった。

どうやら貴方の血はまだ凍てついてはいなかったらしい。

貴方は冒険者らしい彼らの所持品の白磁の標識を取り、遺体を外に持ち出し袋に入れた。

洞窟は爆発金槌で入り口を完全に埋め、後でゴブリンが利用できないようにしておいた。

貴方がゴブリン退治から戻ってくると村長に貴方は袋を渡し、埋葬してやるようにと頼んだ。

死者に感謝と敬意のあらんことを。

…貴方が冒険者ギルドに戻ってくると驚いたような顔をした受付嬢に報告した。

彼女は驚いたのだろう

「ちょっ!?待ってください、ではホブゴブリンにゴブリン30匹以上を討伐したっていうんですか?」

別に大したことではないだろう、罠をかけて20。

あとは焼き殺した、そしてこれが…と貴方は死亡していた冒険者の認識票を渡した。

「これは…わかりました、確かにあの近辺で行方不明になっていた冒険者のですね…

すみません、新人の貴方なのにいきなりこんな情報違いの案件の依頼を出すなんて…」

ゴブリン…あれらは実に弱かった、1対1ならヤーナムの烏にも負けるだろう。

だが群れる、飛び道具を使う、罠を仕掛けるといった行動で脅威度は跳ね上がる。

他でもない、狩人がまさにそういった戦い方で巨大な獣を狩ってきたのだから。

「あ、ゴブリンスレイヤーさん!」

貴方は受付嬢に依頼の達成を報告していると入ってきた鎧姿の男と聖職者らしい少女もゴブリンの集団の討伐を報告してきた。

「終わった、通りすがりに例のゴブリンに襲われた村の件を見てきた。

ゴブリンは全滅、巣穴は完全に焼き払われ潰されていた。

誰がやった?」

「ああ、、ついさっきこの人が報告を終えたところです。

そうですか、ゴブリンスレイヤーさんが確認してくれたならこちらとしても確認の二度手間が省けて助かります」

鎧の男は興味深そうな視線で貴方を見ている。

貴方も鎧の男に興味がある。

「ゴブリンどもは矢で撃ち殺されたように見えたが鏃は無かった。

巣にしてもああまで中まで燃やすのは難しいはず

どうやった?」

貴方は銃火器と火炎放射器について説明した。

銃とは言ってみれば火の秘薬で金属の筒に入れた鏃を打ち出す道具であり。

火炎放射器は燃える油をポンプの要領で遠くまで噴き出す道具のだと。

「そうか…便利な道具があるものだな」

貴方はゴブリンスレイヤーという男の目に何かを感じ取った。

それは使命感に駆られた連盟長のそれであり、ただ狩りの中でならば心折れぬ聖剣に似たものであった。

貴方は彼に良ければと火炎瓶と油壺を手渡した、ゴブリンどもは良く燃えた。

かの血族狩りが貴方に良くしてくれたように助け合うのも狩人の勤めなのだから。

あんたも獣が焼けるのを見るのは好きだろう?わかるんだよ。

なに、同業者への心ばかりの餞別だよ。

「すまない」

彼は愛想がなかったが、貴方も人のことは言えまい。

お互いに、この世界を清潔にいたしましょう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

貴方の冒険者ギルドへの狩りの報告から数日…

貴方は東へ西へ手近なモンスターを片っ端から狩った。

狩人の灯りは今のところはこの町一つにしかない、気づけば貴方は狩人の隠れ家からこの町で目覚めた。

夢で目覚め、冒険者ギルドという悪夢で目覚め冒険という名の悪夢に向かいそして安らかなる夢を見る。

それの繰り返しだ、なんとも皮肉が効いている。

実に満足な狩りだ、場違いにも貴方の狩りに何を思ったのか時々は村人が贈り物と称して農作物や時には村娘を貴方に嫁がせようとしてくる。

ゴブリンスレイヤーは薄汚い格好だと周りの冒険者から嘲られるらしい。

雑魚狙いのセコイ奴、銀級のくせに初心者の獲物狙い。

初心者なんだろ、新人が中古の有り合わせ装備を買ってきたのかよ。

もっぱら死体から武器装備道具素材まで剥ぎ取って間に合わせた貴方よりは大分まともだと思うのだが?

そして貴方の行動は彼よりも目立つことはないだろう。

「あのですねぇ…狩人さん!いい加減にしてください!いつもいつもいつもいつもいつも

!一体いつになったら血塗れの格好のままギルドにこないでっていう私のお願いを聞いてくれるんですかぁぁぁぁぁ!」

受付嬢は少し怒っていた、正直にいうとブチギレである。

貴方は受付嬢にちゃんと伝えた。

大丈夫だ問題ない。狩衣装とは血に塗れることを想定した作りである。

故に血は払っただけで9割がたは落ちる。

「その残り1割を落としてこようっていう発想がないんですか!?」

ない、そんなことより『獣狩り』だ。

「うわ…あれが例の頭おかしい狩人かよ…」

「いつも血塗れだって?」

「この間なんか、トロルの内臓引っこ抜いてたって…」

「道端を血塗れ内臓まみれで歩いてたって…やだ…」

ふむ…実に微笑ましい反応だな。

ヤーナムでは皆が皆貴方を、

『呪われた獣め!くたばってしまえ!』(普通だとか

『余所者が!失せやがれ!』(普通とか

『死ね!』(普通

とか罵声を浴びせながら全身全霊で殺しに来たのでこういう暖かい声援は照れてしまうな。

貴方はいつの間にか黒曜級から更に鋼鉄級に昇格したが…どうでもいい

1日にたった5、60程度の獣狩りで満足できるはずもない。

故に貴方はもっと存分に狩り、殺さねばならない。

「聞いてるんですか!?これ以上そんな血腥い格好でうろつくようなら掃除料金を報酬から引かせてもらいますからね!」

ふむ…成る程…要するに掃除代金を払ってもらいたいだけなのか…

それならそうと早く言ってくれればよかったのに。

貴方はそれなら問題解決だなと受付嬢に伝えた。

「あああああああああああぁぁ!」

頭を掻き毟りながら見目麗しい受付嬢は突っ伏した。

大丈夫かね?鎮静剤(人血)いる?

貴方が依頼成功について伝えると、貴方を中心に人垣は割れていく。

貴方はギルドの椅子に座り、しばし考え事をした。

このまま手当たり次第に獣狩りを続けるべきか?と

時季が巡れば獣も変わる、貴方はより強く恐ろしい獣を狩るべきかもしれない。

人々の脅威となる生物はゴブリンだけではない、だが野生のモンスター(ここでは獣の事をこう呼ぶ)の中で直接的かつ統計学的に言えば最も損害が大きいのはゴブリンだ。

なぜあのような弱い獣で大きな損害が出るかと言えばまず数の多さ、ついで危機感の無さによる対応のまずさ、そして他の獣と違い人を積極的に襲う習性。

国家が求めるべきは一人の勇者か1万の民兵か…

広く薄く守る事を求めれば民兵だが、武装した民兵がどういう行動に出るかはアメリカ独立戦争を見ればわかる。

民とは無力であるべき。由らしむべし知らしむべからず。

要するに政治というわけだ、くだらない。

狩人に人の世の論理は通用しない、狩人は狩るからこそ狩人だ。

それ以上でもそれ以下でもない、やはり片っ端から狩るべきだ。

助言者の言葉には素直に従うがいい。

今は何も分からないだろうが、難しく考えることはない。

貴方は、ただ獣を狩ればよい。それが、結局は貴方の目的にかなうのだから。

貴方は再びオルゴールの音を聴く。

メルゴーの子守唄は貴方に獣への憎しみを駆り立てる。

ギルドにオルゴール特有の物悲しい子守唄が広がり、冒険者たちもそのどこか優しく悲しい音色に耳を傾ける。

オルゴールに刻まれたあの少女の母親の名前、そしてその無残な最期と神父の悲し身を思うたびに貴方の獣への憎しみがまた強くなる。

『哀れな家族 だから 獣を許しはしない』

貴方が音色と共に物思いに耽っているとあの男と少女がやってきた。

「あ、狩人さん。こんにちは…えっと…不思議だけどいい曲ですね」

聖職者の少女はオルゴールに興味津々だ。

貴方は好きなだけ聞いていればいいと少女に伝えた。

…なぜだろうか、あの少女の面影が被る。

もしかしたらあの教区長もこの少女のような人だったのかもしれない。

オルゴールのシリンダーが回りピンが音を奏でる様子を少女は見つめながら聞き入っている。

すると男、ゴブリンスレイヤー は貴方の席の前に座って貴方とアイテムの交換を始める。

「約束の物だ…まぁ…大分苦労した…」

ゴブリンスレイヤー は貴方に瓶に入ったアイテム『女聖職者の小水』を渡した。

…ゴブリンどもは女性…特に若い少女の小水の匂いに釣られる習性があるので…その…

知らない人から見れば完全に変態二人である。

貴方はこちらを見ずにオルゴールに集中している女聖職者に申し訳なかった。

…女聖職者は気づいたのか顔を真っ赤にしてオルゴールに集中するふりをしている。

…貴方はゴブリンスレイヤー に彼が求めるアイテムを渡した。

携帯ランタン、火炎瓶、油壺、そして発火ヤスリに獣狩りの松明の為の調整された松脂。

貴方はなぜ火炎放射器や銃を必要としないのか聞いたことがある。

 

「銃は…あの武器はあまりにも大きな音を出しすぎる。

連中に警戒され一度に出て来られれば数で押し負けるし弾数にも発射速度にも制限がある。

確かに便利だがゴブリン狩りには決して最適な武器では無い。

火炎放射器にしても同様、もし俺が殺られて奪われればゴブリンどもの手に渡り人々の脅威になりかねない。

だから使えばなくなる消耗品でいい。

火炎瓶は確実に着火して広範囲に飛び散り、重度の火傷を負わせられるのだから幅広く使える。

油壺にしても長時間確実に燃える上に消火しにくいから巣を簡単に焼き払える、いい道具だ」

 

貴方は感心した、狩人といえば基本的に自分勝手な狂人の群れである。

そしてゴブリンスレイヤー がこんなに饒舌に喋るのは初めてでは?と感心した。

 

「いいのか?言ってはなんだがかなり高価な品なのだろう?」

 

なるほど、あのアイテムが単なる少女の小水とでは釣り合わないのではと考えているのか。

実際に、この世界では油の値段は結構高いらしい。

だが貴方は彼に気にする必要はないと伝えた。

ゴブリンスレイヤー の持つゴブリンに関する情報や知識もまた狩人にとっては貴重な武器であるし、同業者へのサービスという意味もある。

 

「そうか」

 

この瓶の中身は想像以上に価値があるし(いろんな意味で)火炎瓶にしてもそこまで高価なものではない。

 

これほどまでに他人…人々の事を考える狩人など滅多にいないのではないか?

やはり貴方の目に狂いはなかった、例え英雄の称号を得られずとも彼には狩の中で心折れぬ強さがある。

「邪魔をしたな、俺は報告したら他の消耗品の買い付けに行く」

すると女聖職者もはっと立ち上がり彼に声をかけた。

「あ、あの!私も行きますから」

「いやいい。買う物は決まっている、ゴブリンの依頼は今の所はまだ無いようだから休んでいるといい」

女聖職者はシュンとして座り込む、どうやら思ったよりも疲れているようだ。

ゴブリンスレイヤーは依頼成功を受付嬢に伝えると明らかに営業外スマイルで受け入れられ彼は見送られて出て行った。

なぜ私と彼とではこうも受付嬢の反応が違うのだろうか。

「あ…えっと…」

貴方は女聖職者とテーブルを挟んで二人きりになった。

通常ならばここから話が弾むのだろうが何もない。

女聖職者は気まずそうにしているだけだ。

「えっと、いい天気ですね」

そうか。この反応である

(地母神様!お助けを!)

女聖職者の悲痛な助けを受け取った肝心の地母神様は自分のお気に入りの可愛い信徒が邪神の幼子の目の前という状況に半狂乱である。

悪い男に引っかかりそうな娘を心配する母親の気分であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

今回は女神官ちゃん視点


女神官は戸惑っていた、どんな会話をすればいいのかと。

(こういう時、ゴブリンスレイヤー さんなら…)

女神官は彼と狩人が何気なくする会話を思い出した。

 

『ではゴブリンとは、学習するのか』

『そうだ、連中は悪辣で悪賢い。力も弱く、頭も子供並だが裏を返せば数を揃えれば成人以上の力が出るし子供並の罠を仕掛けることもできる。

そうやって経験を積んだゴブリンは渡りになり、他のゴブリン巣の用心棒やリーダーにもなる。ゴブリンどもの銀級冒険者といったところだ』

『成る程。渡りか、まるで薬物耐性菌だな…獣にはそういう所はなかったな…

連中は人間を遥かに凌ぐ速さと力を兼ね備えているが…いやだからこそ不要だったのか。

人間と同じだな、弱いから工夫する。弱いから適応し、進化する。

弱いからこそ、群れ武器を使い罠に嵌め強者を狩る』

『ゴブリンは人間ではない』

『ああ、そうだな。狩人の真似をしていても汚物は汚物だ。

臭い汚物は潰して焼くに限る、あんたもそう思うだろう?』

 

ゴブリンスレイヤーと狩人の会話は常に殺伐としている。世間話…

(違いますから!絶対に違いますから、これ世間話じゃありませんから!)

 

他にも思い出そうとする。

『その格好、大型のモンスターと夜間に対峙するのが目的か』

『ほう、そうだ。ここの連中は普段着に近い軽装といえばゴブリンやネズミといった雑魚狩り、ルーキーの装備だと軽視しているようだがな。

まぁ、いいところでせいぜい斥候や魔術師といったところか』

 

『布地の裏に急所守りの金属板。関節には細かく編んだチェインメイルが縫いこんである。

金属を布や革で挟んで音と匂いを消し、黒一色で闇に溶け込みやすくしている。

ある程度の防御力を確保しつつ機動力を重視した鎧。

…制作には相応の費用がかかるはずだ。

同じ値段なら簡易なプレートアーマーの方が防御力でも見栄えでも勝る…

プレートアーマーや盾が意味を持たない怪力のモンスターとの接近戦を重視した作りだと俺は思う』

 

『正解だよ、シャーロック。獣に鎧や盾はほとんど意味がないからな。

この銃が言ってみれば狩人の盾だ、銃声と衝撃で相手が怯んで動きを止めたところを確実に殺す』

 

『いい戦法だと思う。特に大型のホブと相対した時には有効そうだ。

だがゴブリンどもで警戒すべきは集団からの投石などの飛び道具と毒を塗った武器だ。

頭部への衝撃を抑えるためにゴブリン狩りには金属ヘルメットを使った方がいい。

それに銃の特性を考えれば飛び道具対策にはある程度の盾を装備するのも考えるべきだ』

 

『ああ、ヤハグルの連中はそういう物理防御を重視したのを使っていたな

ふむ、投石か…俺もよく多用したが確かに集団で投げ続ければある程度は怯むし有効な戦法になるな。

盾なんぞ拾った粗末な木の盾しかないが、確かに投石を防いで接近戦に持ち込むには有効だな…』

 

効率的なゴブリン狩り防具の選び方を勧めるゴブリンスレイヤーとそのアドバイスを受ける狩人の会話がまた浮かぶ…

自分ならどんなアドバイスを…駄目だ!何も思いつかない!

(だ…駄目!頑張って私!地母神様の神官がここでくじけちゃ駄目よ!自分が出来る事を話すのよ!)

 

「きょ、今日はいい天気ですね!」

「…そうか」

…会話は0.3秒でぶった切られた。

「あ、そういえば私新しい奇跡が使えるようになりましたよ!」

「ふむ?」

(や、やっと話が繋がった!)

「奇跡…か、そういえばここいらでは『神秘』の事をそう呼ぶのだったな…』

 

「神秘…はわかりませんけど私が使えるのは『小治癒』に加えて『聖壁』ですよ。

ほら、狩人さんも一人じゃなくてパーティーを組んだらいいと思いますよ」

 

「…『聖壁』はわからんが、『小治癒』に似た神秘なら私も使える」

ガタッ!

「う…嘘!?あっ、いえすみません…」

女神官は驚いたように身をテーブルの上に乗り出す。

狩人は『聖歌の鐘』をコトリとテーブルの上に置いた。

「失われた聖歌隊の秘儀『聖歌の鐘』次元に響く狩人の鐘の音を模倣し、しかし結局は再現できなかった。

音色は次元を跨がないが

すべての協力者に生きる力と、治癒の効果を及ぼす

鐘の音を響かせる者の近くにいる協力者全ての傷と毒などをある程度は癒す力がある。

 

「…す、凄い。これって凄い力ですよ!範囲回復に加えて毒の癒しなんて大神官級ですよ!

私なんて…」

 

女神官は自らの未熟さ故にゴブリンの毒程度で死なせてしまったあの女魔術師の事を思い出した。もしもあの時いてくれたのが自分でなく狩人だったのならば、あの三人はあんな目に遭わずに済んだのではないかと…

毒は女神官にとっての第一のトラウマであった。

 

「何か気にしているようだが…過ぎた力には代償がある、この鐘の音とて実戦ではさして役に立つとは言い切れん。

発動には大量の触媒を必要とする上に効果範囲も広くは無い。

回復自体もそこまで劇的なものでは無いし、毒も病もあくまで毒消しや薬で癒せるものに限る。

少女よ、自らの出来ないことを望んでも埒はあかない。

自らの出来る事をやれ、出来ないことは出来ないと認めることから良い狩人への道は拓ける」

狩人は白い丸薬をいくつかテーブルの上に差し出した。

 

 

「毒消しだ、味は毒消しポーション以下で最悪だが大抵の遅効毒・猛毒を癒せる。

今度毒消しが必要になったら使うといい」

 

「こ!こんな高価な物いただけませんよ!」

毒消しポーションは質や時期(原料の需給バランス)によって値段もまちまちだが金貨にして1から2枚が相場である。

一日ドブさらいして金貨1枚になるかどうかだから駆け出し冒険者にはなかなか手を出す事を躊躇われる金額だ。

もっとも銭を惜しんで命を惜しまずでは話にならない。

 

「なに…獣狩りの夜に足を踏み入れた者への先輩からの餞別だ。

狩人というのは存外面倒見の良い職業なのさ。

私としてもあれが必要だからね、君に死んでもらっては困る…」

女神官は例のアレの事を思い出して顔を真っ赤に染めた。

 

「そ!その事は人前では言わないでください!いいですね!絶対ですよ!」

人をからかうような狩人を女神官はぷぅと頰を膨らませて睨みつける。

狩人は含み笑いをしながらテーブルの上で紅茶を啜っていた。

女神官もギルドのテーブルの上で狩人の注文した紅茶を飲みながら相変わらず不思議な音を奏でるオルゴールの音色に癒されながらゴブリンスレイヤーが買い物を終えるまで待っている。

 

「これ…不思議ですね。オルゴールっていうんですか?

とても優しいのに、でもどこか物悲しい音色…」

 

女神官がそう伝えると、マスクの下で狩人は何かを思ったように目を細める。

 

「昔…愚かな狩人がいた…何も分からず何も知らず、ただ自分の事しか考えない。

ただ突き進んでただ狩を続け、その結果は酷いものだった。

誰も救えず、誰からも感謝されず。

世界とは悲劇だと最初から決まりきっていたのに無駄に足掻いて全て無駄にした。

何度繰り返しても結果は最初から決まりきっているのにな。

そういう残骸みたいな奴でも出来る事はある。

獣を憎み、狩りを全うする。

…この音色はそういう奴を責めて狩りに赴かせるために作られた曲なのかもな…」

 

女神官はそれまで狩人を他の冒険者たちが言っていたように頭がおかしいのでは?と思っていた。だがこうやって接してみるとなんだかとても悲しい人のように思えた。

まるで彼女の隣にいる男のように…

しばらくするとゴブリンスレイヤー が買い物と受付に新たに張り出されたゴブリン退治の依頼を受けて戻ってきた。

 

「すぐ出発する、ゴブリンだ」

 

女神官もその声にはい!と元気よく答える。

彼らはまた休息もそこそこにゴブリン討伐に出かけるのだろう。

狩人はオルゴールの音色と共に再び獣への憎しみを強くする。

なんでもいい、獣はどこだ?人に仇なす獣を狩る。

獣狩りの夜を始めよう。

『貴方も狩りを始める時だ』

狩人はパタンとオルゴールの蓋を閉じると、彼らに祝福の言葉を投げかけた。

『貴公のゆく道に暗い血の加護があらん事を…』

ちなみに大半の冒険者からは呪いの言葉だと思われていたらしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

貴方は獣を狩り続けた

獣はいずれも獣だが、この世界の獣はまだ人型が多いらしい。

素晴らしいじゃないか、存分に狩り殺せる

貴方が脳裏に刻むのは『爪痕』、『血の喜び』、『継承』、そして『狩り』!

内臓攻撃とはリゲインと回復を兼ねた言ってみれば最大の防御でもある。

人型なればパリィは容易い、パリィが容易いということはどんな強敵も恐れるには足りないということだ。

 

墓地に行った

黒曜級冒険者チームが挑んだが、邪悪な魔術師の前に敗北したらしい

スケルトンが出てきた、貴方は血を得られぬことに怒り片っ端から叩き潰した

ゾンビが出てきた、貴方は片っ端から焼き殺した

自称:邪悪な魔術師とやらが出てきた、こんな安物の血肉を持たないやつを俺に使いやがって!

狩人の理不尽な怒りの前に魔術師は生きながらこんがり焼けたミンチになるまで叩き潰され苦痛の中で死んだ。

 

古代遺跡に行った、幽霊が出てきた

貴方は幽霊どもを片っ端から内臓を引っこ抜いて殺してやった。

なぜ幽霊のハラワタをひっこぬけるのか?

それはきっと悪夢だからだ。

幽霊…ゴーストというのは一般的には冒険者にとっての強敵だと言われている。

通常の武器は効かず、聖別されているか銀の武器、あるいは神官の祝福のみが有効とされているからだ。

だが貴方の幽霊退治は人型相手をしているのなら問題はない。

攻撃してきたところに水銀の弾丸を叩き込んで内臓を引っこ抜く。

隕鉄の狩武器、そして悪夢の世界で鍛えられた右手は幽霊にもちゃんと効果があるのだ。

ゴーストどもも、まさか自分たちが血を流せるとは思わなかったのか慌てふためいていた。

ゴーストを操っていた死霊術師もこれには唖然。

最初の方こそ『フハハハハ!愚かな冒険者めが!そんな武器など効くわk(BANG!)』

と中庭のバルコニーで踏ん反り返っていた。

なぜか撃ってくださいと言わんばかりに顔を出したので銃撃したら銃弾を脳に食らっただけで死んでしまった。

だらしない、復活しないように邪悪な死霊術師はミンチになるまで叩いて潰して焼いた。

 

古い砦に行った、トロル・ウォリアーに率いられたトロルの群れがねぐらにしていた。

あのアイテムは効果があるのか?

いや今こそ彼女の力を信じるときだ。

貴方はねぐらから少し離れたところにあるあちこちに例の女神官の体液を撒き散らした。

…ほのかなアンモニア臭がする。

すると出てくる出てくる醜い獣がワラワラと害虫のように。

大好物の人間の雌の匂いにつられたのか、あちこちに匂いが分散しているためにそれぞれ好き勝手に分散し探索を始める。

トロルというのは身長2m半から3mほどの聖杯によくいるクソ3デブ腐ったキャベツ汁色verのような獣だった。

はっきり言って聖杯3デブマラソンを極めた狩人ならあくびし寝転びローリングしながらでも皆殺しにできる。

とはいえああいう巨体の敵を複数一度に相手にするのは失敗作たちの厄介さを考えれば避けるべきである。

一体一体は雑魚でも数さえ揃えば強敵となる。

狩人の狩はいかに相手を分散させるかにかかっているのだから、そのための少女の小水である。

貴方は鼻歌交じりに交信しながら杖を掲げたり埃を払ったりしながらトロルの内臓を片っ端から森の肥やしにしてやった。

外に出てきたトロルどもを片っ端から森の肥やしにしていると、更に砦の奥から咆哮が聞こえた。これはいわゆるいつも通りお約束の連戦とか再起動というやつだな、と貴方はその高い啓蒙が脳を震わせる感触を味わった。

『ウオォオ!ヨクモ兄弟!誰ダ!誰ヤッタ!?出テコイ!』

…あれは馬鹿なんだろうか?馬鹿なんだろうな。

相手の場所がわからないくせに自分の居場所を誇示しようと手に持った大剣を振り回しながら辺りを睨みつける。

貴方は血まみれだが、森の中自体既に血塗れなので何の問題もない。

むしろ逆にカモフラージュになるかもしれない。

念には念を入れて貴方は青い秘薬を飲み存在を薄れさせる。

貴方は卑怯で臆病で無慈悲で血に酔っている、だからこそ良い狩人だ。

大物の背後に気づかれずに回った狩人がやることは一つ、すなわちハメ殺しである。

金槌をそっと振り上げ貴方は全力でトロル・ウォリアーのアキレス腱をぶっ叩く。

『グワァぁぁぁぁぁ!』

醜い唸り声を上げながら膝をつく獣が程よく目の前に背中を晒したので貴方は内臓攻撃を繰り出してやった。

トロル・ウォリアーは内臓を引っこ抜き、本人の目の前で心臓を抜き出して踏み潰してやった。

しかし驚いたことにまだ動く、トロルとは生命力が強い種族だとは聞いていたがトロル・ウォリアーほどの上位者は生命力もかなり上なのだ。

というわけでもう一回内臓攻撃である、狩人に一度でも後ろを取られるとはめ殺されて死ぬのだ(断言

貴方は更に金槌で残ったアキレス腱を焼き砕き、内臓攻撃で今度は肺を破壊する。

トロルどもは頑丈だったが、内臓を引っこ抜いてやっただけでピィピィ喚いて死んだ。

姿形こそ大柄だが、動きは単調では棍棒を振り下ろすだけ、すなわち積極的に狙えるカモである。これに比べるとトロル・ウォリアーは頑丈だった、実力的には正面からまともに戦えば大鉈持ちの解体人くらいには苦戦しただろう。

速さと力、そして武器を持った人型の怖さは貴方もよく知るところだ。

なので奇襲して反撃されないように殺した。

だがこの程度の獣などヤーナムでは何十万回も飽きるほど殺してやった。

気色悪いクソ蛆虫だ…だから潰してやった。

心臓を潰し、肺を破壊し完全に動かないようにミンチになるまで叩いて潰して焼いてやった。

 

貴方は依頼にある獣もそうでないものも汚物を片っ端から燃やして周り

汚れた建物は跡形もなく粉砕してやった。

なに一つ変わらないいつもの貴方だ。

何者も、貴方を捕らえ止めることは出来ないのだ。

 

だがそれでもギルドに依頼が絶えることはない。

貴方がギルドに帰ってくると、ギルドの受付には噎せ返るような血臭が立ち込める。

「…アラ狩人サン、オカエリナサイ」

受付嬢はトロル退治を1日で行って帰って終えた貴方を蕩けた獣のような瞳で迎えてくれる。

 

「ちょっと!あんた何よその格好!?血腥いったらありゃしないわよ!近づかないで!

だからぁオルグボルグよ、ここにいると聞いたのよ」

受付では奇妙な三人組がオルグボルグだとかカミキリ丸だとかを出せと騒いでいるところに貴方は戻ってきた。

なぜ具体的な人名を出さないのか…?そもそも誰か名前で呼ばれていただろうか?

貴方がギャイギャイ騒ぐ鉄床の後ろで報告をしたく待っていると…

 

「拙僧も人族の言葉に詳しいわけではないが小鬼殺しという意味だ」

蜥蜴のような種族の男が二人を抑えて理知的に受付嬢と話している。

「ああ!ゴブリン!」

 

貴方が入ってから暫くして、ゴブリンスレイヤー が戻ってきた。

「終わった」

「お帰りなさい!ゴブリンスレイヤー さん!」

…なぜ貴方と彼とではここまで態度に差が出るのだろうか?

きっと啓蒙がまだ低いに違いない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

ほう、お前、新顔だな?
それに見たところ優秀な…冒険者だ
ああ、俺は狩人。
連盟の長だ
連盟とは、世界に轟く汚物すべてを根絶やしにするための協約さ
お前も冒険者なら、気持ちは同じだろう?
穢れたゴブリン、気色悪いアンデッド、頭のイカれたデーモン
みんなうんざりじゃあないか
だからこそ、殺しつくす。
連盟の冒険者が、お前に協力するだろう
どうだ?お前も、我ら連盟の仲間にならないか?


…暫くして、ゴブリンスレイヤーと例の三人は2階の応接室に上がっていった。

…彼らがゴブリンスレイヤーに用があるのなら貴方には関係はない。

貴方は討伐依頼成功の報告をするとテーブルに座り、再び紅茶を嗜みながらあのオルゴールを開いた。

どこまでも冷たく優しい曲だが、この曲が流れている間は頭がおかしい狩人がいるという他の冒険者への警告になっている。

「はぁ…」

女神官は貴方の隣でため息をつきながら紅茶を淹れ休んでいる。

ゴブリンスレイヤーが毎日どの程度のゴブリンの巣を焼いているかは知らないが

疲れているのは目に見えてわかる。

貴方は隠れ家で人形に癒してもらえば良い、だが彼女には癒しはない。

夢を見ないということが人にとってどれだけ辛い事か。

だが貴方には何もできはしまい、ただ血に塗れた貴方の手では何一つ癒せはしないのだ。

「ねえ君…俺達と一緒に行かないか…」

「いえ、折角ですけど…」

貴方の向かい側の席では女神官が白磁の少年剣士にパーティーに誘われていた。

…彼女が誰とどんな依頼を受けようと貴方にとっては関係の無い話だ。

…尤も、あまりにも無謀な冒険に出ようというのなら貴方も警告くらいはするが…

貴方はそれからずっとオルゴールを聴きながら紅茶を嗜んでいた。

…そういえばあの少年剣士のパーティーは彼以外女性だったな…

 

 

女神官と少年剣士がゴブリンスレイヤーの件で口論になりそうになると、流石の貴方もこれにやんわりと忠告しようかとしたところ

別のパーティーの魔女が彼らを止め、女神官の少女を連れて行った。

…そういえばやたら若くて露出が多かったな、貴方はヤーナムの魔女を思い浮かべた…

ランランランラーン♪ラーンララー♪

うっ!危ない!あまりの悍ましさに危うく発狂しかけてしまった!

貴方は急いで鎮静剤を飲んだ。

周りに濃厚な血の匂いがまた広がる…

…ふぅ、ヤーナムとこの地方を比べるのはなるべく止めよう。

それにしても少し離れただけだというのにあれを思い出すだけで発狂しかけるとは…

どうやら貴方の発狂耐性は下がってしまったらしい、これも啓蒙のせいか。

「やだ、何飲んでるのあの人…」

「また血なまぐさいアイツかよ、受付嬢さん泣いてたぞ。

ギルドの周りが血腥いって苦情来てるって…」

「あのゴブリンスレイヤーと仲良いって…そりゃ変人同士だからだろ。

ある意味納得だな」

「いつもあの音楽の箱鳴らしてるって何で?…でも音楽のセンスだけはいいのよね」

貴方は狩道具の準備をし、次の狩に備える。

 

 

すると唐突に例の妖艶な魔女に話しかけられた。

「こんにちはぁ ちょっと いいかしら?」

貴方は構わないと告げた。

「ねぇ、あなたも 一人なんでしょ?どうしてパーティー組まないの?」

あなたは苦笑して告げた、今までに一人だけで狩に行ったことはあるがどうしても勝てない相手を狩る時には助けを求めることも多かった。

「へぇ意外ねぇ?貴方ってほら、どんな依頼でも受けてあっという間に片付けちゃうでしょ?

だからぁ 貴方が苦戦する場面なんて想像できなくってぇ」

過大評価のしすぎもいいところだ、確かに今では狡猾さと力を備えたが新米の頃は恐らくはゴブリンにすら苦戦しただろう。

実際に貴方は犬や烏相手でも苦戦しっぱなしだったと正直に伝えた。

特に犬の恐ろしさは身にしみている、今でもゴブリンが犬に近い狼を使役するという話を聞くと緊張すると強調した。

「ふふっ、おかしな人ねぇ。大抵の冒険者さんは自分が雑魚に苦戦したぁ

なんて言いたがらないのにぃ…」

そんなわけはない、それに雑魚というが人を殺せる凶器には違いない。

どんな名人、達人も所詮は人。

鋼鉄の刃で刺されれば傷つき、炎を浴びれば火傷するのは誰でも同じ。

雑魚がナイフならデーモンは名剣だろう、だが遭遇する確率と頻度、自らの力量を考えれば雑魚への対策が延命策となる。

常に退路を確保し少しでも危なそうと思ったら脇目も振らず逃げる、冒険者は冒険してはいけない。

あんたはそう思わないのかい?

「初心忘れるべからずって奴?

えらいえらい、白磁級の新人さん達もあなたを見習ってほしいものねぇ…」

魔女はどこか遠い目をして彼方を見つめる。

どうもこのような女性と話すのは初めてで苦手だ、年上の女性といえば鴉羽狩人くらいなものだろうか。

「ねぇ、あの女神官ちゃんをちょっとだけでいいから見てあげてほしいの。

…昔の私を思い出しちゃってね。

ま、老婆心ってやつかしら。

貴方だってあの子の事気に入ってるんでしょ?

おねぇさん知ってるのよ」

クスッと笑って魔女は以外と人懐っこい笑顔を向けてくる。

貴方は同業者に助言と手助けをすることは大いに賛成だし奨励されるべきだと思うと伝えた。

それどころか憎むべき獣を効率的に狩るためにも積極的にこの冒険者ギルドに協力したいと思っている。

狩道具の改良や体系的な訓練、知識・経験の共有など冒険者ギルドには改良すべき点が山ほどある。

新人冒険者が死亡するような事は事前の準備さえあれば9割は防げたというのに…

これでは人材の浪費に他ならない…

貴方が現場を憂いていることを伝えた。

するとキョトンとして魔女はこう言った。

「ふっくっ。あらごめんなさい、いえね。てっきり貴方って自分の事さえ良ければっていうタイプだと…誤解してたみたいねぇ」

気にするなと貴方は言った、それにあながち間違ってはいないのだ。

自分の為に獣を殺す、それに間違いはない。

穢れたゴブリン、気色悪いスライム、頭のイカれたデーモン、みんなうんざりだ。

だからこそ、殺しつくす。

貴方は今や冒険者ギルドの狩人だ、冒険者に喜んで協力するだろう。

貴方は強い覚悟で獣への憎しみを強めた目をする。

凄まじい殺気を孕んだ目に魔女も背筋が凍るような恐怖を一瞬覚えるが、貴方に感謝していると伝えてきた。

「ふふっ、冒険者の事をこんなに真剣に思ってくれる冒険者か…

なるほどね、彼とはまた違うけど…でも確かに似てるわ。

今なら彼が貴方のことを気に入ってるのも分かる気がする。

あら、それに私もよ。

ねぇお姉さんからのアドバイス…やっぱり週に一度はお風呂に入って洗濯したほうがいいわよ。

そのままじゃ初見さんに誤解されちゃうしぃ

それじゃ貴方のしたい『狩り』にも支障が出ちゃうでしょ?ね?」

魔女はやんわりと貴方に助言してくれた。

今のままではくさすぎて普通の冒険者の仲間にはなれないと…

…貴方は考えを改め、次の依頼を終えたら必ず風呂と洗濯場に行くと約束した。

「それでよし、お姉さんとの約束よ?

いい男なんだから、損しちゃうわよ?」

魔女は貴方との会話を切り上げ、彼女の仲間に合流した。

 

 

 

…なぜだろう?このギルドで一番普通の会話をしたような気がする…

一番非常識な格好なのに…人は見た目によらないということだ。

…貴方と魔女が会話を終えると例の女神官はまた椅子でお茶をしている…貴方はそうだと思いついて彼女に話をしに言った。

「な、なんでしょう?」

貴方はゴブリンスレイヤーがどのようにゴブリンを狩って駆逐しているか彼女の視点から聞きたかった。

「え?ゴブリンスレイヤーさんですか?あ、聞いてくださいよ。

あの人ったら聖壁でゴブリンを閉じ込めて…」

…なるほど、彼女からの話によると彼は彼女の能力を有効に利用しているようだ。

だがと、貴方は彼女に逆に問いかける。

それでは彼女自身は直接ゴブリンを殺していないのかとも

「っ!そ、それは…」

どうやら彼女はまだ直接自分の手では殺せていないようだ…

貴方は自分の銃を取り出すと彼女に言った。

もしも彼が傷ついたら誰が彼を守ってやれるのか?と

「え?ゴブリンスレイヤー さんが…ですか?」

彼もいつかは傷つくかもしれない、そんな時には女神官が彼を安全な場所に避難させる必要が出るだろう。

そんな時に神秘…いや奇跡を使い果たしていたらどうするのか?

「そ…それは…」

では何もできないからと彼を置いて逃げるのか?

「そんなことしません!」

いや違う、その状況では彼を置いて逃げるのが最善の選択だ。

彼が傷つき、女神官が誰も守れないのなら彼一人の死亡で済ませる逃亡という選択肢を取るべきだ。

「そんな事言わないでください!絶対にそんな事にはなりません!

パーティーを組んだ人は私が守ります!」

ならば、と貴方は銃を彼女に渡した。

獣狩りの短銃を、かつて貴方が渡されたように…

これが選択肢の一つだとも女神官に伝えた。

これは守る力だと伝えた。

「守る…力…」

女神官も『銃』という武器の事は聞いている。

火の秘薬の力で鉄の筒から鏃を打ち出す武器だ。

「でも…地母神様の教えでは…」

それでいい、だが女神官は冒険者だ。

冒険者である以上は相棒を守る為に全力を尽くすべきではないのか?

それとも地母神は自分の教えの為に誰かが傷つくことを望むのか?

「そんなはずありません!地母神様が誰かを傷つける事なんて許すはずはありません!」

そうだ、銃は地母神の守る力でもあると考えるのだと貴方は彼女にアドバイスした。

火の秘薬が大地から産出する以上、その力を正しく使い誰かを守る事を望んでいるはずだと

「地母神様の力…これも…わかりました…狩人さん、私に銃の使い方を教えてください!」

女神官は銃を手に入れた!

連盟は女神官を迎えて僥倖だった…

 




信じて送り出した可愛い信者が邪神に言いくるめられて呆然とする地母神様の図


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

ランキング1位?びっくり
みんな内臓攻撃で血塗れになるの好きなんやね(激違
ハロウィーンセールの内に知ってる人も知らない人も持ってなかったらBloodborne買おう
メンシスの悪夢で僕と交信!
見捨てられた娘と星を見上げよう!
素晴らしい評価 そして 小鬼を許しはしない

PS4『Bloodborne The Old Hunters Edition』
10月31日まで


BANG!

冒険者ギルドの裏手、簡易な訓練所兼の集会所で銃声が響く。

獣狩りの短銃から飛び出るのは発射薬を減らしたただの鉛の弾丸。

水銀の獣狩りの弾とは比べ物にならないほどの低威力だがどこでも簡単に作れるし音も控えめだ。

ゴブリンの体内に入れば弾丸はちゃんと変形

筋肉、骨、内臓を巻き込んで体内でバラバラになった鉛が玉突きのように内部を飛び跳ね確実に死に至らしめる。

華奢な女神官にはちょうどいいだろう。

女神官は既に数十発の拳銃弾ゴブリンの絵が描かれた板に撃ち

再装填するという動作をひたすら繰り返している。

穢らわしい汚物の絵をロープで突然横から正面に向け咄嗟に撃たせる訓練をずっと続けさせる。

想定される接近戦で正確かつ素早く考えずに撃たせる訓練をずっと続けさせているがかなりの疲れが溜まっているようだ。

「はぁはぁ…すみません疲れてしまって…」

そうは言うがゴブリン退治を終えて疲れが溜まっていても30発撃って25発も当たっている。

もっとも1m先の止まったゴブリンの絵相手なら当然かもしれないが。

むしろほとんど突きつけた状態で外していることもある方が問題あるかもしれない。

貴方は練習はこんなものだろうと考えた、結局は生きた獲物を撃ち殺す以上の練習はないのだ。

むしろゴブリンを見たら反射的に撃てるように『仕込む』事が出来れば上等だろう。

何も考えず条件反射で殺す。

剣よりは間合いが長く、弓よりは技術を要しない点が銃の良い点だ。

貴方はまずは拳銃の扱いを女神官に仕込んだ。

咄嗟にゴブリンが出てきても2匹くらいなら殺せるだろう。

本来なら右手に接近戦用の武器持って欲しいところだが

それは地母神の神官として奇跡を行使するのに必要だからとせめて投げナイフを持たせた。

薪割り、食材の切り分け、簡単な工作と刃物は鈍った時のために替えも必要な冒険者生活の基本道具でもある。 

貴方からすれば素手よりは幾分かましと言ったところだが多分奇跡とやらがあるので大丈夫だろう。

貴方は女神官に水銀弾ならぬ鉛玉を渡しいざとなったら躊躇わず使え、練習の成果はあると伝えた。

貴方が銃を指導し、休憩にしようと冒険者ギルドの受付に戻ってくると

丁度ゴブリンスレイヤー と受付嬢が話をしているところだった。

「残りはあいつに渡しておいてくれ」

「あれ?お一人ですか?彼女は」

ゴブリンスレイヤー が降りてくるのを見た女神官はトテトテと彼の元にかけていく。

「ゴブリンスレイヤー さんああの依頼ですよね」

「ああ、ゴブリン退治だ」

「ならすぐに準備を」

「いや、俺一人で行く」

貴方はそんな彼らを入り口から見ているだけだ。

 

「そんな、せめて決める前に相談とか」

「しているだろ」

「あ、これ相談なんですね…」

「そのつもりだ」

彼らは放っておいても大丈夫だろう。

貴方は出口に向かって足を進めてきたゴブリンスレイヤー と目があった。

補充は?

「いや、必要ない」

だが彼にはなくとも貴方にはあると伝えた。

女神官がカアッと顔を赤くする。

「ちょ!ここではやめてください!やめてください言わないでください死んでしまいます!」

困ったと貴方は女神官に伝えるとワァワァとはしゃいでいる女神官は手を合わせていい考えが浮かんだ様に言った。

「そうだ!この際狩人さんにも同行してもらいましょう!

補充の話は街を離れて誰も聞こえないところでした方がいいですよ!

絶対そうですよだからそうしましょう。決まりですね!」

貴方は依頼を受けたことになってしまった。

汚物か?「ゴブリンだ」

そうか…汚物か…なら獣狩りの時間だな

「ちょっと何なのよ、さっきから外でパンパンパンパン煩いったらありゃしないわよ。

紙風船でも割るのが只人の習慣なわけ?しかもなんか焦げ臭いし」

「ふん、これだから世間知らずの金床は。こりゃ火の秘薬の匂いじゃな」

二階からは例の三人組がぎゃいのギャイの騒ぎながら降りてきた。

貴方は初見ながら彼らにゴブリン狩りに同行することになった狩人だと紹介した。

「フゥン?狩人?あんたもオルクボルグと行くの?

なんか弱そうねぇ…まぁいいけど足手纏いになんないでよね」

ムカつく金床だ。

周囲からは美人だとか上のエルフだとかもてはやされているが、

人形やその原型となった時計塔の守り手に比べれば顔の出来は月とスッポンである。

特に胸部のあたりはもはや冒涜的とすら言える、啓蒙は下がるが狂気ゲージが上がる。

絶望せざるを得ない。

「…おい、今凄く失礼なこと考えたでしょ…」

なぜか暗い目で睨まれた。

「やめんか…ったくこれだから森人は…

わしゃ鉱人導師じゃ、狩人と言ったかの?今回はワシらが依頼人の下働き兼見届け人と言ったところじゃ。

ほう見た所珍しい…武器かのそれは?」

小さい老人が貴方に話しかけてきた。

彼は貴方の持つ銃に特に注目している。

貴方は簡単に説明した。

「ほう、ドワーフの変わりもんがそういえば似た様なものを作ったことがあるのう。

じゃが遠ければなかなか当たらんし、

火の秘薬は高いしで結局皆クロスボウの方が使い勝手が良いと言っておったが…」

轟音と片手で使えることから、離れていても使える能動的な盾として考えている。

狩人の銃の使い方とは結局そういうものだ。

「なるほどの、そう言う考え方もあるか。まぁ他人様の装備に文句をつける気は無いわい」

 

さらに一人、こちらは爬虫類の様な顔をした人間だ。

「ふむ、やはり蜥蜴人は珍しいか。

拙僧は蜥蜴僧侶、何卒よろしく頼みますぞ狩人殿」

何と言うことか、こちら蜥蜴人の方が常識人だったとは。

やはり人は見かけによらない、だがやっぱりパッチお前はダメだ。

そしてミコラーシュは見た目通りの変態だ。

 

…ゴブリン狩りならばここは装備は汎用性が高いノコギリ鉈と散弾銃と砦を焼くための火炎放射器決めよう。

貴方は狩道具を変更した。

ゴブリン狩りは昼に行われるが暗い砦の中ゆえ、獣狩りの夜と言って差し支えないだろう。

貴方方が急造パーティーが街を出てしばらくは平原を旅している。

なだらかではあるが、金床よりは緩急のある平原だ。

 旅は何事も無く不気味なまでに順調に進み夜になったので貴方方は平原にキャンプを張って休止することにした。

貴方とて人である、休止せねば体力が持たない。

街から走ってきてそのままの勢いでダンジョンに突撃し皆殺しにしてから

狩人の夢で目覚めまた街で悪夢を見るなどと言う効率重視の狩がいつもできるわけではない。

そういえば血塗れの獣狩りの夜ではない夜を過ごすのは珍しいことかもしれない。

メンバーたちは炎を囲んで夕食を楽しんでいる。 

「ねぇ、みんなどうして冒険者になったの?」

「そりゃうまいもん食うために決まっとるだろ」

「焼けましたぞ」

「耳長はどうだ?」

「私は外の世界に憧れて「こりゃうまい!」聞きなさいよ!」

…皆それぞれ目標があって狩…では無くて冒険者になったらしい。

当たり前の話だが。

「拙僧は異端を殺し、位階を高め竜となるため」

脳が震える、だが彼の願いはメンシスの愚か者達のそれと違ってもっと内省的で肉体的な物に聞こえる。

「…ゴブリンを」

「あんたのは何と無くわかるからいいわ」

彼はいつも通りだった。

「ねぇ、あんたは?狩人」

…なぜ?

青ざめた血を求め、狩を全うするためだと貴方は答えた。

「はぁ?何よそれ。オルクボルグ以上に意味不明ね」

もういいからお前黙ってろよ。

 

「これは私もお返しをしないといけないわね

エルフの保存食、本当は人にあげちゃいけないんだけどね」

「となるとワシも対抗せねばならんのぉ

ふふん、ドワーフの穴蔵で作られた秘蔵の火酒よ!」

 

彼らはそれぞれ食べ物を出し合って夜空の食卓を盛り上げようとしている。

「んー!食べてばっかじゃ無くて貴方達もなんか出しなさいよー」

 

 貴方とゴブリンスレイヤー は酔っ払った耳長に絡まれた。

女神官によると無表情に見えるが彼は考え込んでいるらしい。

「これでいいか」

そういって彼が出したのはチーズだった。

「ホラァ狩人もなんか出す!」

そう言われたので貴方は食料を出すことにした。

貴方が差し出したのはソーセージだ。

そういえばヤーナムでは夜中ずっと走り回り武器を振り回し銃を撃っていたが空腹を覚えることはなかった。

「何よこれ?」

「何じゃ耳なが、お前ソーセージも知らんのか?

これだから野菜ばっかのウサギもどきは…」

ソーセージ、動物の腸に肉と香辛料を詰めた料理だと貴方は説明した。

「えーまたお肉?」

「いいから食ってみぃ、食わず嫌いはいかんぞ?」

皆はチーズにソーセージと共に食事を楽しんでいる。

女神官も出された焼きソーセージに口をつける。

「では、いただきますね。

ハフハフあつっ!」

コリコリと絶妙な歯ごたえと腸膜の感触を楽しみながら長いものにしゃぶりつく女神官。

それを天井で見ていた大地母神は激怒した、うちの子にそんな卑猥な食事をさせるとは何事かと。

一同は和やかな雰囲気を出す、ヤーナムではあり得なかった光景だ。

貴方はまたオルゴールを出し、子守唄を演奏する。

「ん?それ何?」

「ワシも見たことない道具じゃの、何じゃ狩人」

貴方がオルゴールの蓋を開くとメロディーが流れる。

「ほう、音の鳴る機械か。なるほどのう、只人もなかなか変わった事を考えるもんじゃ」

「拙僧も只人の街にいったことはあるが、そのような道具は見たことがない」

どうやら彼らもオルゴールという道具を見たことはないらしい。

金属加工に優れているというドワーフなら作るのも簡単かもしれないと聞いてみた。

「うーんどうじゃろうなぁ?ワシらドワーフの細工といえばまず武器に防具

それで身を飾る装飾品に建物だからのう。

音を出して楽しむなんてのはエルフか只人の領分だと思っとるからなぁ」

どうもドワーフが作る楽器といえばせいぜい喇叭くらいでこういうちまちまとした音楽は流行らないらしい。

「でも…不思議な曲よね。ねぇ狩人、これってどこで買ったのよ?

なんか随分高そうな箱だけど。へへ、私も同じの欲しくなっちゃった」

残念ながらこれは貰い物であって買ったわけではない

ここから遠い場所で貰った思い出の品だと説明した。

獣を憎み、狩を全うする。

この音楽を聴く度に貴方はまた使命感に駆られ獣狩りへと赴くだろう。

…一同は狩人の過去に何があったかはわからないが、何か強い決意を感じ取っていた。

妖精弓手はゴブリンスレイヤー の巻物に興味津々な模様だが

中の呪文が何かは誰にも知らせないようだ。

巻物…言ってみれば使い捨ての神秘道具であり性格はヤスリなどに近いか。

それからしばらくして貴方はゴブリンがどこからやってくるかについて疑問を振られた。

蜥蜴僧侶は地下の王国からやってくるといい

女僧侶は誰かが何かを失敗すると1匹増えるという。

 

「俺は…月から来たと聞いた」

「月?あの空に浮かぶ二つの?」

「そうだ、緑の月からゴブリンはくる」

「それじゃぁ、流れ星は小鬼な訳なの?」

「知らん、だが月には木も水も草もない。

岩だけの寂しい世界だ、奴らはそうでないものが欲しく羨ましく妬ましくてやってくる。

だから誰かを妬むとゴブリンのようになる」

 

…月か

だが月を支配し顕現させていたのは月の魔物だ。

「ねぇ、狩人はどう思うの?

ゴブリンはどこからくるかって」

 

貴方はゴブリンは単なる生物に過ぎないと答えた。

別にどこからも来ない、他社以外の既存の雌とまぐわって繁殖する。

言ってみれば生物というよりは疫病に近いと答えた。

「狩人殿はそういう風に考えるのか、小鬼どもは疫病だと」

貴方は蜥蜴僧侶にそうだと答えた。

疫病とは目に見えない程の小さな生物、体内に侵入した細菌や寄生虫によって引き起こされると答えた。

女神官も頷きながら聞いている。

要するにゴブリンとはカビや寄生虫と同じだ、ただ少しでかいだけ。

だから組織を編成し包囲し、駆除し、根絶する。

「何とも壮大じゃのぉ、それにしてもゴブリンの根絶」

するとゴブリンスレイヤー が唐突に話に入ってきた。

「狩人…ゴブリンは…ゴブリンは本当に根絶できると思うか?」

貴方は十分に可能だと答えた、だがそれには個人が片っ端から殺すだけではダメで

包囲し駆除するための組織が必要だと答えた。

例えば連盟のような…

「連盟…そうか…」

貴方がそう答えると彼は俯いてまた何かを考えているようだ。

いや眠ってしまったのか。

「寝ちゃったみたいですよ。」

「火酒が効いたようだの」

彼も夢を見るのだろうか?

彼が見るのは悪夢か、それとも小鬼が根絶されたあるべき未来なのだろうか。

貴方は彼が眠ったのを見届けると、自分が最初に見張りに立つ。

 

『なあ、同士。きっと「小鬼」を、世界の淀みを根絶しよう

全ての同士、血塗れの連盟の狩人たちのために 』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

貴方とゴブリン狩りのメンバーは汚物が蔓延るかつての人間の砦跡近くにまでやってきた。

?脳が震える感覚がする。

貴方は見られている事を感じ取った。

啓蒙が高ければ秘儀を破らずともアメンドーズならば見える。

だがこの感覚は?貴方は空の一角をじっと眺める。

空は既に地平線の向こうに登りつつある太陽の光を受けて白んでいる。

そう貴方を見ているのは<真実 >と<幻想>の神様二人、骰子振って駒を動かし

今日も今日とて冒険者の大冒険を楽しみます。

何だか珍しいイレギュラーは予想外でしたが、これはこれで楽しめます。

気づけば<真実 >と<幻想>の神様二人の周りにはワイワイガヤガヤと様々な神様が集まります。

特に地母神様のお気に入りキャラはが女神官ちゃんです。

自分を信仰してくれる一途で純粋な信徒ですから当然で

今ではすっかり彼女の母親気分で心配しています。

アニメ第一話で洞窟に入った女神官がゴブリンに辱められそうになった時は

転げ回って半狂乱になった程度には彼女の事を心配しています。

そんな可愛いうちの子が和マンチ上等なゴブリンスレイヤー について行って

自分が与えた奇跡をあんなことやこんな風に使っているのです。

詳しくはネタバレになるのですが聖壁を

ゴブリンガス室のドアがわりにするなんて許されない筈です、訴訟も辞さない。

ぶっちゃけ落ち込みました、膝を抱えて自分の部屋に引きこもる程度には落ち込んで

友人の<死>や<時>が元気だしなよ、とか、ジュース飲む?

とか励ましに来てようやくアマテラス状態を脱しました。

そんな彼らのもっぱらの関心事はイレギュラーの<狩人>です。

ぶっちゃけあいつ別のルールで動いてね?と<真実>が首を傾げます。

<幻想>もこれには困惑、とはいえスーパーイレギュラーの頂点である

勇者という実例が既にある以上はあの<狩人>にもそこまでぎゃあぎゃあ言えません。

勇者はまずかった、面白半分ネクターに酔ったテンションで

別のゲームのルールでキャラを作ったらスーパーバランスブレイカーが出来上がってしまいました。

具体的に言うとTRPG版のド●クエとか、これそういうゲームじゃないから!

とは言え面白そうなので見ていると狩人も狩人でやりたい放題です。

ぶっちゃけていうと80年代風TRPG世界なのに一人だけ2015年発売のPS4のARPGしています。

狩人は狩人なので<真実>が面白がって乱発するシナリオをソロで片っ端から粉砕していきます。

それだけならいいのですが、何と<真実>が狩人のゲームを見ていると

突然振り返った狩人の目が存在しないはずの<真実>の目とあいました。

『そこの貴様!見ているな!』どうやら啓蒙99だと神様が見えるようです。

統合失調症か何かかな?

お前は吸血鬼のスタ●ド使いかなんかか、と<真実>もおもわず突っ込みます。

ですが、そんなアホな事している暇は実はありません。

そう言うなり狩人はなんと次の瞬間に<真実>に斬りかかってきました!

四方世界に存在しないはずの<真実>に斬りかかるなんてできるわけがありません!

例えて言うなら本の中の登場人物が読み手に斬りかかってくるようなものです。

でもよく考えたら読み手と本の中とかが繋がるってよくある<幻想>ですよね。

ネバーエン●ィングストーリーとかジュ●ンジとか。

そういう世界の住人ならファンタジーでメルヘンなのですが、

不幸にも狩人は血塗れ冒涜的狂気と絶望のRPGブラッドボーン世界の住人なので行動も全て暴力的です。

具体的に言うと真実の血を余さず奪って自分が<真実>の地位につこうとする程度には暴力的です。

『死ねぇぇぇぇぇ!』

血走った目でど直球の殺意も露わに狩人は血に染まった禍々しい武器で襲いかかってきます。

<真実>もこれにはびっくり、分かりやすく言うと『13日の金曜日』にリアルに入り込んだ観客の気分です。

ちなみに映画の中ではジェイソン君はチェーンソーは一度も使ってないのに

なぜかなんとなくチェーンソーのイメージがありますよね。

<真実>は『神殺され』で地位を奪われるわけにはいかないので

大慌てでゲームシナリオを閉じて暴力的なノコギリ鉈をかわします。

危ういところで、鉈はゲームテーブルを引っ掻いて消えましたが

この時に<真実>に掠ったノコギリ鉈に<真実>の血がつきそれを狩人は奪いました。

恐ろしい事です、ほんの僅かとはいえこの世界では全知全能の神である

<真実>を傷つけあまつさえにはその権能のほんの一部とはいえそれを奪うとは。

<真実>も<幻想>もこれには腰を抜かしました

いくら退屈を紛らわすために刺激が欲しいとはいえリアルに『バイ●ハザード』の洋館彷徨きたい?そういう事です。

あの世界も犬が怖い、やっぱ犬は人類の友であり天敵なんだね。

それ以来神々は狩人にはあまり干渉しないようにしています。

ゲームしてたら登場キャラにリアルで殺されそうになったでござる。

そんな目には誰も遭いたくありません、当然ですね。

それ以来、狩人のダイスを振ろうと言う神々はいなくなり彼はNPCになりましたとさ。

めでたしめでたし。

…では済まないのが地母神様です。

何しろ彼女のお気に入りキャラの神官と臨時とはいえパーティーを組んでいるのがあの

『殺神未遂犯』の狩人なのですから。

さらには可愛い娘に色々と吹き込んで神官なのに銃で武装させたりとやりたい放題です。

ゴブスレさんが防具を装備させるくらいならまだ許容範囲ですがこれは許されません。

更に言えばダイスの目なんぞ無視して狩人は女神官ちゃんを好き放題します。

青くなったり赤くなったりで大変で、遂には地母神様は卒倒してしまいました。

可愛い娘がムショ帰りの男と付き合いだしてあまつさえには

『お母さん!私この人と結婚します!』

と言いだした娘を持った母親の心境です。

いやそこまでいってないだろと<時>がなだめますが、オイオイと泣き出す地母神様は止まりません。

今も神々は『和マンチダイスクラッシャー』ことゴブスレさんと

『殺神未遂犯』の狩人が前々から用意されたシナリオをどうクリアするか興味津々です。

さぁ、彼らはオーガが指揮するゴブリンがアジトにしている古い砦の前までやってきました。

面白半分、怖さ半分で様々な神々がどんどん見にやってきます。

ギロリ…

そんな神々の視線を狩人が見つめ返します…

神々はまだ知るはずもありません、狩人の目がよく肥えた豚を見る狼の目だなんて…

「ねぇ狩人、何ぼさっと空なんか見てるのよ。

あんたのその遠見眼鏡でちゃんと確認してよね!」

と妖精弓手は神々を見つめ返す狩人をせっついて任務に集中させます。

今は払暁です、砦の正面には2匹の小鬼と狼が見張りについています。

彼らはこれからどんな作戦でこのシナリオをクリアするのでしょうか?

『獣狩りの夜を始めよう』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

不評だったので視点を3者目線に固定しゴブリン潰しまで追加
ゲームブック風のSSって結構難しいね…


砦の前、ゴブリンと狼の死体を前にメンバー一同は妖精弓手の見事な腕前に感心する。

「すごいです」

「魔法の類ですかな?」

貴方も素直に彼女の卓越した技術を賞賛する。

「十分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないものよ」

彼女は自らの精道射撃の成果に胸を張る

「それをワシの前で言うかね?」

「1、2…」

?貴方は初めてだがゴブリンスレイヤーは唐突にゴブリンの死体にナイフを突き立てた。

「ちょっと何してるのよ?」

「奴らは匂いに敏感だ、特に女子供エルフの匂いには」

つまりそう言う事である。。

「い!嫌よ!ちょっ!こいつ止めてよ!」

女神官はどこか諦めたような顔で金床にも諦めるように勧める。

「ヤダー!!いやいやいやいや!いやー!絶対に嫌!」

ジタバタと暴れる金床にゴブリンスレイヤーも呆れ顔のようだ。

貴方はやむを得ないといった風でいつもの手段を取ることにした。

「か、狩人?あんたまさか…」

貴方はゴブリンの死体を持ち上げ右手で腸を断ち血を噴出させた。

グシャァ!勢いよく血が妖精弓手にまで届き彼女は上から下まで血塗れになる。

 

「ギ!ギニャヤァァァァァ!」

 

貴方は早く獣狩りに行きたいのでこんな金床の相手をする暇はない。

臭い消しは十分かとゴブリンスレイヤーに確認する。

「ああ」

「あんたぁぁぁぁlちっとも良くないわよ!これじゃおとなしく血をこすりつけてたほうがマシじゃない!」

貴方は無視して先に行く、そもそも狩に汚れたくない格好で来るのが悪い。

彼女は少なくとも貴方のように血除けのマントをつけるべきだった。

獣の中には毒性の血を持ちそれを武器にするものもいる、覚えておくべきだとも貴方は忠告する。「なるほど」

「オルクボルグも納得してんじゃないわよ!覚えてなさいよ狩人!絶対いつか泣かしてやるんだから!」

ゴブリンスレイヤーはまさか素手でやるとは思ってもいなかったと貴方に道すがら話した。

女神官ちゃんは遠い目で思いました、自分はまだマシだったんだなと。

 

ゴブリンスレイヤーは剣をカンカンと棒がわりに叩いて罠の警戒をしている。

貴方にも、いまだ使者たちは見えない。

だがいつの間にか使者たちが消えていたり、飽きたり、あるいはまだ誰も他の次元で探索していない可能性も考慮する。

貴方はゴブリンスレイヤーにどんなトラップが今までゴブリンどもの巣で散見されたかを聞いたことがある。

 

『基本的に渡りのゴブリンシャーマンやホブゴブリンがいなければ奴らはそういう物を作らん。

横の連携が取れていないからな、他のゴブリンが作ったものに引っかかる。

だが上からの命令で作るときはある程度は周知されるし、鳴子や落とし穴くらいは作る』

彼はなぜかゴブリンを語る時だけ早口になる。

貴方は獣がどういう戦術をとるか簡単に彼に語った時もある。

例えば狭い一本橋の上に陣取って味方ごと油が染み付いた火の球を転がして殺そうとする。

煙の中に潜んで油断したところに襲いかかる。

上から飛び道具で撃ってくる、曲がり角の死角から襲いかかる、ドアを破って奇襲してくるなど。

 

『確かにそういう手を使うゴブリンもいる、だがゴブリンはあんたの言う獣のように辛抱強くないからな。基本的に攻撃されたと気づいてから罠や配置につく…

だからこちらの有利なポジションから襲いかかり巣ごと破壊したり燻し出したり、水攻めし、罠や待ち伏せの可能な場所に踏み込まない事が重要だ』

貴方は彼の作戦に感心した。

ヤーナムの下層街を街ごと焼き払う方針も似たようなもの。

彼が毎回その手段を取らないのは、やはり彼も誘拐された人達の救出を優先する心優しい人間だ。人質がいる場合には燻り出す戦法を取るので貴方は燻り出す際の注意点を聞いた。

 

蜥蜴僧侶は砦の壁画を見ながら疑問に思う

「拙僧が思うに、これは神殿だろうか?」

 

女神官は自らの知識にある古の歴史を元に答える

「この辺りは神代の頃に戦争があったそうですから。

その時の砦か何か、人の手によるもの…のようですが」

「兵士は去り代わりに小鬼が住まうか残酷なものだ」

鉱人導師はそういえばと後ろを見て言います。

「残酷といやぁ…」

 

「ウエー気持ち悪いよー!」

「あの…洗えば落ちますから…少しは」

女神官はフォローするがこれでは、まさに焼け石に水である。

「狩人ぉ、覚えてなさい!それと、これお気に入りなんだから戻ったらクリーニング代出しなさいよ!」

貴方は妖精弓手に恨まれてしまった。

汚れた衣服を浄化してくれる神殿のサービスがあるが、結構な値段がするので利用する冒険者は少ないらしい。

貴方たちは更に地下に潜っていった。

「地下離れとるんじゃが、なんか気持ち悪いのうここは」

「螺旋状になってるわね」

「塔のような作りなんでしょうか?」

聖杯の繋げる遺跡にしても

「待って!」

「どうした」

「鳴子か」

「多分 真新しいから気づいたけど」

「ゴブリンどもめ、小癪な真似をしおる」

トラップ、古代遺跡でトラップというのは定番である。

実際のところトラップというのは、こまめにメンテナンスしてやらないと壊れてすぐに使い物にならなくなるものらしい。

壊れてすぐに使い物にならなくなるものらしい。

木材ならカビやシロアリ、金属なら錆、石なら荷重による亀裂などによる破損が多いと貴方は冒険者ギルドで聞いたことがある。

「妙だな」

「どうしました?」

「トーテムが見当たらん」

「つまりえっと、ゴブリンシャーマンがいないって事です」

女神官が貴方達のために通訳する。

ゴブリンシャーマンがいないということは、遠距離攻撃が限定されるため落ち着いて対処しやすい。

貴方の狂気が高まる聖杯でも赤蜘蛛招びクソ鐘BBAに殺意が湧く、二体相手では殺意は4倍である。

「あら、スペルキャスターがいないなら楽じゃないの!」

…気楽な金床だと貴方は考えた。

それにしてもと貴方は不思議に思う。

人間は学院で学んで魔術を覚えるがゴブリンはどうなのか?

ゴブリンどもに学校などあろうはずがないが、その辺りは?

人間の魔術師の腹から生まれたからゴブリンシャーマンになるのか?

エルフの女騎士から生まれたからホブになるなどというような法則があるのか?

貴方はだんだんと誰かの影響でゴブリンに興味が湧いて来た。

 

「こちらから行くぞ」

「ゴブリンたちは左側にいるんじゃないの?」

「ああ、だが手遅れになる…?」

…貴方は彼の前に立ち先頭に立った。

貴方はゴブリンスレイヤーにもしも発見されたら先制して散弾銃をぶっ放す。

救助を第一目標にするからその場合は巣穴の殲滅は状況を見てゴブリンスレイヤーが判断しろと伝えた。

狭い通路で散弾銃がトレンチガンと呼ばれ絶大な効果を発揮するのは第一次世界大戦で実証済みだ。

裸のゴブリン相手ならどこを撃っても致命傷になるので先頭に立ちパーティーの盾になることにした。

「わかった」

貴方たちが分岐路を右に進んでから暫くすると貴方にとっては懐かしい腐敗臭がしてくる。

「うっ!なんじゃこの匂いは!」

「ウプッ!」

蜥蜴僧侶は涙目になり匂いを堪えている。

「何よこの匂いは」

妖精弓手もこの匂いには耐えかねているようだ。

「鼻で呼吸しろ、じきに慣れる」

ゴブリンスレイヤーがアドバイスする。

貴方はドアをノコギリ鉈で叩き開けた。

「何よここ!」

「ゴブリンどもの汚物だめだ」

貴方にとってはゴブリンこそ汚物だ。

汚物の汚物だめなればこそ、光の下で暮らす貴方のパーティーメンバーには不快極まりない。

すると汚物だめの中には森人の少女が鎖に繋がれ、陵辱の跡も痛々しい姿を晒しているのを貴方は目にする。

貴方は下水道の人喰い豚と少女を幻視した!獣性が高まる!

妖精弓手はショックを受け、朝食に食べたソーセージまで吐き出している。

ちなみに妖精弓手は「お肉を食べるなんて野蛮ー」と言っていたが、最も食べたのも妖精弓手である。

貴方は床で手記を掲げる使者に注目した。

『待ち伏せに注意しろ そして 毒』

 

少女はまだ息があり、何かをつぶやいている

「殺して… 殺し…」

「!まだ息が!」

慌てて駆け寄り治療の奇跡を唱えようとする女神官をゴブリンスレイヤーが松明で押しとどめる。貴方はそっとゴブリンスレイヤーに待ち伏せの存在を耳打ちした。

ゴブリンスレイヤーは剣を持ち、警戒しながら少女に近づいていく。

「こいつを殺して!」

「わかっている」

突然物陰からゴブリンがナイフを持ってゴブリンスレイヤーに襲いかかってきた!

ヒュン!

だがゴブリンスレイヤーの放った剣の一撃がゴブリンナイフより早く喉に突き刺さり汚物だまりへと沈める。

もしも彼が気づいていなかったら少女に近づいていた無防備な上に防御力の弱い女神官に毒ナイフが突き刺さっていたかもしれない。

しかし相変わらずゴブリンの動きはノロすぎると貴方は思った。

奇襲とは相手の正面からしてはいけないのだがその辺りまで注意は回らなかったらしい。

貴方が奇襲するなら選べるなら上からに限る、重力を利用できるし上はどんな生物にとっても死角となるのだから。

ゴブリンスレイヤーが森人少女を哀れんで殺すのではないか?

と心配した弓手と神官にこう言うのを貴方はマスクの下で苦笑いしながら聞いた。

「何を勘違いしているのだか知らないが、俺はゴブリンを殺しに来ただけだ」

貴方とゴブリンスレイヤー以外は汚物だめから出て蜥蜴僧侶の創造した龍牙兵に森人少女を近くの里まで送らせた。

外では妖精弓手が同胞の惨状に心痛め泣きじゃくっている。

『哀れなことだ』

使者たちのメッセージが今の貴方の心情を物語っている。

貴方とゴブリンスレイヤーはまだゴブリンが潜んでいるかもしれないので、松明で照らしながらこのダンジョンの情報を捜索する。

松明で照らしながらこのダンジョンの情報を捜索する。

ゴブリンスレイヤーと貴方は携帯ランタンを腰から下げて警戒しながら捜索する。

「地図があるかもしれん」

貴方は先に砦の捜索に当たったスカウトないしレンジャーが残した地図を探せと指示された。

ゴブリンはまだいると彼は言った。

鳴子を配置させるほど用心する奴が無精なゴブリンを1匹で置いて信用するわけはないと。

貴方は感覚を集中させ何か怪しい物はないかと警戒する。

!!貴方は蝿の音でわかりにくかったが汚物だめの中の息遣いを感知した。

貴方はゴブリンスレイヤー に目線で合図すると先端を尖らせた松明を汚物の中に突っ込む。

「グエェえぇ!」

汚濁の中からゴブリンの断末魔の叫びが聞こえるがすぐに聞こえなくなった。

「4、耳がいいな」

貴方は隠れている相手を察知するのは慣れている、

ヤーナムや聖杯ダンジョンでは嫌という程殺られた手だから。

「地図だ」

そしてゴブリンスレイヤーはゴブリンの汚物だめの中から地図を見つけたようだ。

地図は精巧で細かく書いており、階段・罠の配置まで描かれている。

…死んだ冒険者の中には腕の良い斥候がいたらしい、哀れなことだ。

…貴方達が出てくると妖精弓手はまだ泣きじゃくっており、女神官が慰めている。

ゴブリンスレイヤーはあの汚物だめから回収したポシェットを妖精弓手に持たせた。

「お前が持て」

貴方は彼の優しさを感じ取った、彼の優しさが通じればいいのだが。

彼は貴方とは違う、人間だ。

貴方達は更に砦の奥へと進む。

弓手の矢が小鬼を貫き、しくじればゴブリンスレイヤーが落下致命攻撃で確実に殺す。

貴方も瞳孔から秘儀:夜空の瞳でゴブリンを撃ち抜く。

音もなく飛び出た隕石はゴブリンを一撃で粉々にしていく。

それにしても…これまで貴方が狩ってきた獣はどれも闘争心と敵意の塊とでも言えるような連中だった。

貴方を見れば大小関わらず全力で殺しにかかってくる連中だったがゴブリンはちょっとした傷を負っても逃げ出す。

つまり罠のトリガーとして最適だと言うことだ。

世の多くの冒険者はそれをゴブリンは臆病だからだと嘲笑う。

貴方はその通りだと考えるし、だからこそ厄介なのだとも考える

ただのゴブリンがホブやシャーマン、あるいはチャンピオンになるまで進化できる。

…貴方は連中にとってのデーモンにならねばならないと確信する。

確実にレベルアップの機会を潰さなければ次に潰されるのは誰かの大切な人かもしれない。

…貴方達一行は松明を置いてしばしの休憩をとっている。

 

「呪文はいくつ残っている?」

ゴブリンスレイヤーが各々の残弾をチェックする。

女神官が二回、蜥蜴僧侶が三回ただし竜牙兵は触媒の都合上一回、鉱人導師は四回か五回と報告している。

「狩人は?」

貴方は彼にまだ残弾は20発あると伝えた、

「秘儀…あの石を飛ばす魔法か。ならゴブリン相手には十分だな」

 

「ふうん、わしも長いこと冒険者やっとるが無詠唱であの威力。

いやはや、まさか狩人が魔法も使えるとは思わなんだぞ」

貴方は鉱人にそれでも銃の方が使い勝手は遥かに良いと答えた。

むしろ戦闘中に詠唱するほどの集中力を貴方は持てないかもしれないとも。

「そんなもんかのぉ、お主ほどの実力の持ち主がまだ鋼鉄級とは。

世の中わからんもんだわい」

 

貴方は同時に女神官にもいつでも撃てるか?と質問する。

「あ、はい。弾は込めて安全装置はかけてますから。

けど…」

貴方は初めての実戦での射撃で当たるとは期待していない、

だが外れても発砲音で相手が怯み味方には緊急事態を知らせる警鐘になると伝えた。

威嚇と警報、むしろ味方に危険を知らせる為に撃つことが重要だと教えた。

「そっか、警鐘と威嚇…はい!」

相手を無理に殺すことはないと言うことで少しは女神官の気持ちも楽にはなったようだ。

目に見えて妖精弓手は消耗している。

やはりあれは女性として同胞として精神的にきつかったらしい。

そんな彼女にゴブリンスレイヤーは優しい言葉を投げかける。

「…誤魔化す必要はない、行けるなら来い、無理なら戻れ。それだけだ」

「バカ言わないで、私はレンジャーよ。私が戻ったら罠の探索やスカウトができないでしょ」

「やれるものでやれることをやるだけだ」

「あーもう!戻れるわけないでしょ、エルフがあんなことされて!

近くには私の故郷だって!」

「そうか。なら行くぞ」

彼は優しいが不器用なのが玉に瑕だ。

皆は決意も新たにゴブリン狩りに再び出発する。

貴方も獣への憎しみを新たに妖精弓手に話しかける。

凍った憎しみを持ち続けろ、ゴブリンどもを許しはしない。

「言われなくてもやってやるわよ。

狩人、あんたの力量はわかったわ。

奴らを皆殺しにしましょう」

 

貴方達、ゴブリン狩りパーティーは通路を抜け、頭上からは光が差し込む吹き抜けの大広間にやってきた。

貴方達が今いる場所は吹き抜けの大広間の壁に設けられた上層と下層とを繋ぐ螺旋状の通路だ。

手摺り越しには下の大広間で大勢のゴブリン達が惰眠を貪っているのがわかる。

貴方は幾つかの疑問の下に汚物を観察した。

罠や警戒の様子はあるか?

ゴブリンスレイヤーが警戒した上位種のシャーマンやホブ、あるいは他の強力な獣の姿は確認できるか?

貴方はゴブリンスレイヤー に指示され遠眼鏡で細かく観察する。

「ちょと狩人、あたしにもそのよく見えるやつ貸しなさいよ」

妖精弓手が貴方に遠眼鏡をねだっている。

…血塗れにした後ろめたさもあるので貴方は貸すことにした。

「おー見える見える」

大きく見えたところでゴブリンしかいないのだから見る価値などあるのだろうか?

「ん?オルクボルグ、肉眼じゃ見えにくかったけどあの奥。

ほら、あの穴の角見てよ」

妖精弓手が何かに気づいたようだ。

ゴブリンスレイヤーに遠眼鏡を渡すと彼も妖精弓手の指示する方向を見る、

同時に貴方は足元に再び使者達が手記を貴方に差し出しているのに気づいた。

『巨大な獣に注意しろ そして 炎が有効だ』

『足が有効だ そして 内臓攻撃の時間だ』

どうやらここには想定したよりも大型の獣がいるようだ。

「通路の角、かなり高いところに最近できた傷。

恐らくは金属が当たった跡だな」

貴方達ゴブリン狩りパーティーは大型モンスターの存在の可能性を考慮するが、まずは眼下のゴブリンの一掃を優先すると言うことで意見が一致した。

「まずはゴブリンだ、大物が出て来た時は考えがある」

ゴブリンスレイヤーは巻物を指差した、どうやらそれが彼の切り札のようだ。

鉱人導師と女神官がゴブリンスレイヤーの作戦に従い、ドランクとサイレンスの術を行使する。

ドランクとサイレンスの術を行使する。

二つの術の合わせ技で大広間のゴブリンは全て眠りこけ、それを1匹ずつ残りの4人で処理していくと言う作戦だ。

二人の術は危なげもなく成功した。

ゴブリンスレイヤー、妖精弓手、蜥蜴僧侶、狩人の4人が慌てることもなく上の階から広間に降りていく。

 

貴方は特にゴブリンスレイヤーから奥の通路に注意してくれと依頼された。

「大型モンスターが出現したら初動は任せる。

俺はゴブリンだ」

彼は全くブレない男だ。

貴方は特に警戒すべき通路に近いゴブリンを処理する事を任された。

ゴブリンを処理しつつ大型の獣に対処するために…

万が一を考えて警戒しつつも武器を温存する方策をとることにした。

貴方はそこらへんにある岩を拾い上げた。

 

岩:

どこにでも転がっている瓦礫など

石よりも大きく、ぶつけることができる

それ以上のことはない

 

グシャァ!

岩をゴブリンの頭に叩きつけると確実に死んだ。

獣以下の害虫を潰すのにわざわざ武器を使う必要など無い。

貴方は別段何の感慨もなく虫を潰していった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

ブラッドボーンを知らない人は
この主人公を気狂いじゃね?と思われるかもしれません
しかし実際に敵も味方も多かれ少なかれ気狂いなんだ
神々「ヤベェ、あの世界狂人しかいねぇ」
オーガ「魔法の詠唱もさせて貰えないなんてひどい!あぁんまりだー!」
狩人「お前魔神王の将だっていうけど、将軍に与えられた部下がゴブリンだけってどうよ。
実は使えねーからどうでもいい閑職に飛ばされただけなんじゃねーの?」

将軍を自称するが
部下はただのゴブリンだけ
やってることは村娘の誘拐
あのオーガには世界征服が目標なのにやるのは幼稚園児誘拐というショッカー並みのセコさを感じた


ゴシャ!

貴方は10kg程の岩の塊をゴブリンの頭の上2.5m程の高さから軽く投げ落とすとどうなるか知りたくなった。

実験結果は岩の強度にもよるが森の中の古代の砦(現ゴブリンの巣)で採取できる岩を使用。

この場合に岩は一撃でゴブリンの頭蓋骨を陥没させ、脳に喰い込み即死させることが判明した。

また胸部に落下した場合でも心臓や胃といった重要な臓器を破壊しやはり死亡が確認された。

この実験の結果、ゴブリンの肉体は烏より脆弱だと判明した。

 

貴方は岩でゴブリンどもを潰し続けた。

かつての貴方のようにカラスなどの敵にうっかり近づいたら、思わぬ反撃を喰らって死亡ということもある。

一方で通路の先から流れてくる生臭い匂いにも注意を払った。

横目で見れば他の三人もそれぞれゴブリンを駆除している。

貴方の見たところまず言うまでもなくゴブリンスレイヤーが最も適しており

次いで蜥蜴僧侶、最後に妖精弓手だ。

 

ゴブリンスレイヤーも自分の剣でなくゴブリンの持つナイフや槍で駆除していたが

貴方のやり方を見てそこらへんの岩を投げ落としてゴブリンを潰すこともするようになった。

どの方法が最善かは意見が分かれるが、ゴブリンになるべく近づきたくなく、なおかつ力があるのなら

やはりそこらへんの岩を投げおとすのが一番だと貴方は考える。

 

実際、蜥蜴僧侶も貴方のやり方で処理し始めた。

誰でもなるべくなら自分の武器と手を小鬼の血で汚すのは避けたいものだ。

…一方で貴方の目には昏い目でゴブリンをザクザクと自分のナイフで刺し殺す妖精弓手の姿があった。

 

血糊で手がナイフから滑るようになってからは貴方のように細腕ながら岩を持ち上げてゴブリンの上に投げ落とす。

ゴシャ!

水が弾ける音と共にゴブリンの頭蓋骨が陥没し顔が南高梅のように潰れる。

確かに力は使う、だが弓を使う関係上妖精弓手も見た目以上に腕っ節は強いので問題ない。

岩を投げ落とすのはゴブリンの不愉快な返り血をナイフ程に浴びなくて済む。

臭いゴブリンに近づかなくても済むし、肉を刃物で抉る不愉快な感覚を覚えなくていい。

…妖精弓手は岩でゴブリンの頭を潰すゴブリンスマッシャーになった!

(あいつの方が慣れてるってことね、悔しいけど)

妖精弓手も淡々として狩人のように岩で潰すようになった。

 

…貴方達4人の分業で広間のゴブリンどもはあっという間に片付いた。

ほとんどが頭部が南高梅のようになったゴブリン達の血で広間は埋め尽くされている。

 

さて、貴方が聖杯ダンジョンで最も苦戦した強敵といえば何だろうか?

ネズミ?ローリングデブ?狂人?犬?

やはり犬だろう、それも赤目犬ほど恐ろしいやつはなかなかいない。

 

貴方は恐れた、もしやこの先にいるのは大量の犬を引き連れた獣ではないかと。

それに今は6人パーティーを組んでいる、つまり最悪12匹は出てくるのではないかと恐れた。

そうなったら絶対に勝てないので貴方はいつでも全力で逃げ出す準備をしている。

ゴブリンスレイヤーにも最悪撤退の件を伝えている。

 

撤退をゴブリンスレイヤーが決定したならば貴方が殿に立って敵を食い止めると。

英雄気取りではない、それが最も成功確率が高く損害が少なくなる方法だと。

…それに彼には言っていないが、例え死んでも最悪『目覚める』だけに過ぎない。

だが彼はただ「そうか、わかった」と言っただけだ。

貴方達は広間の虫を潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し

潰し尽くして取り敢えず広間のは潰し尽くしたと確信した。

ゴブリンの殲滅をハンドサインで伝えると、上階からは鉱人と女神官が降りてきた。

貴方達は合流すると、ゴブリンスレイヤーが剣で獣くさい通路を指す。

この先に上位種がいる可能性が高い、貴方達は警戒を強める。

 

!突然ドスンドスンと言う大きな足音とともに通路から何かが近づいてくる!

貴方は咄嗟に青い秘薬を飲み通路から死角に入った。

通路から姿を現したのは巨人だ!オーガだ!

体長5m以上の巨体はかつての悪夢の世界でよく見た教会の青白い巨人にも匹敵する!

貴方は死を覚悟した、だが少なくとも貴方の今の仲間達を生かして帰す事を

優先しようと考える。

…姿を現したオーガはなぜか攻撃を仕掛けてくるでもなく余裕たっぷりにお喋りを始める。

 

「小鬼どもがやけに静かだと思えば…雑兵の役にも立たんか。

貴様ら!ここを(グチャァ!)うぎゃぁぁぁぁっぁ!」

 

貴方は爆発金槌を起動し、巨人のアキレス腱に全力で叩き下ろした!

オーガの巨体からすればせいぜいが釘打ちサイズだろうが火薬庫の技術を使い

爆発力を加算されたそれは人体の急所であるアキレス腱を完全に破壊するには十分な威力を持っている。

巨体のオーガとはいえ、筋骨内臓などの構造は人間と違わない、

傷が回復する肉体なら傷口を焼けばいいのはヘラクレスのヒドラ退治以来の伝統。

 

偶然にも貴方にとってオーガは強くとも相性が良い得意な獲物である。

貴方は懐かしい感触を脳に感じる、倒れ込んだ奴は起き上がる前に殴り殺せ。

膝をつき無防備なオーガの背中を貴方の爆発金槌が抉り取る、狙いは人体の絶対的な急所である内臓。四方世界の戦士は普通なら内臓を攻撃するのだろうが、貴方は内臓を抜き取る。

 

グチャァという音と共に筋肉と骨の壁を突き抜けた金槌は回転しながら燃焼。

体内で爆発し、衝撃で大腸と小腸、更に脾臓が傷口から外に血液と共に飛び出す。

 

「グゥ!ゴハァ!?き、貴様不意打ちとはひきょ!(ゴシャァ!)」

 

さらに貴方はこれでもまだ足りないとばかりにもう一撃を巨人のもう片方のアキレス腱に加え完全に歩けなくする。

ズドン!という轟音とともにオーガは頭からゴブリンスレイヤーの前に倒れこむ。

貴方はこの機会を逃すまいと今度はオーガの背中に乗り、再び全力で爆発金槌を今度は心臓のすぐ上に振り下ろす。

肉と骨を貫いた金槌は再び肉体の中で爆発し骨を身体中に散弾のごとく撒き散らす。

圧力に負けてオーガの体内の血や内臓が再び傷口からポンプのごとく吹き出してきた。

ひくひくと蠢くオーガを貴方は慎重に、確実に殺すべく3度目の攻撃を加えようとする。

 

「お…俺は魔神王さ(ゴシャァ!)」

 

貴方は今度はオーガの後頭部に金槌を振り下ろした、

 

「や、やm(ゴシャァ!」

 

貴方はリボンの少女とあの森人少女を思い出した。

 

「た、たすk(ゴシャァ!)」

 

不快な音を立てている汚物に貴方は導きの爆発金槌を振るい続ける。

脳を潰し潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し。

殴るたびにオーガの四肢がぴくぴくと痙攣して気持ち悪い。

貴方は穢らわしいオーガの頭蓋骨の全て内側粘膜さらけ出したピンク色の肉塊に変えるまで叩き続けた。

更に貴方は回復できないように油壺をブチまけ傷口からは火炎放射器のノズルを突っ込んで体内から焼く。

 

『ご覧あれ!私は殺りました、殺りましたぞ!

この穢れたオーガめを、潰して潰して潰して焼いて!

こんがり焼けた肉塊に変えてやりましたぞ!

どうだ、人喰い鬼めが!

如何にお前が強靭だとて

脳まで焼き潰されては、もう復活できまい!

全て内側、粘膜さらけ出したその姿こそが

穢らわしい貴様には丁度よいわ!

ヒャハ、ヒャハッ

私は殺ったんだああああああああ!!!

ヒャハハハハハハァーッ 』

燃え盛るオーガだった肉塊の上で貴方は快哉の叫びをあげた。

 

「「「「「…………」」」」」

目の前でオーガのミンチハンバーグ製造過程を見ていた5人は唖然。

「「「「「「「…………」」」」」」

天上の神々もまさかのボス敵の会話シーンをスキップしてからの

『秩序』にあるまじき背後からの不意討ちはめ殺し残虐行為展開に唖然。

しばらくして獣性が収まった貴方はまだ燃えるオーガだった物から降りると

メンバーの方に歩いていく。

 

「… 残ったゴブリンがいないかどうか調べる。

お前はどうする?疲れたなら休んでいていい…」

 

全身を返り血で真っ赤に染めた貴方の身を心配してゴブリン狩りに誘うゴブリンスレイヤー 。

貴方は問題ないと答え、残りのゴブリン掃討に協力すると答えた。

 

「…そうか、無理はするな」

 

彼はなぜかとても優しかった。

きっとゴブリンをたくさん殺せて気分が良いのだろう。

貴方もそうだ、獣が焼けると心も暖まる。

「「「「…」」」」

貴方はゴブリンスレイヤー に唐突に思ったことを言った。

『オーガより、ゴブリンの方が手強かった』と

 

「…ぷっ、そうか」

珍しく彼が兜の下で笑った。

冗談だと思われたかもしれないが貴方にとって人型はゴブリンだろうとトロルだろうと内臓攻撃の一撃で殺せることには変わらない。

それなら数頼みのゴブリンの方が厄介だ。

更に言うなら狼の大群の方がもっと厄介だ、あれは死ぬ。

貴方達が砦の外に出ると手紙を受け取った森人達が馬車を貴方達の迎えによこしてくれていた。

 

「だーかーらー!血を落としなさいよ血を!

あーもう!洗って払ったから大丈夫じゃないでしょ!

ほら!残った血で馬車が汚れる!迷惑でしょ!

もうあんた脱ぎなさいよ!それ街でついでにクリーニングに出すから!」

 

陰鬱な砦を出て外に出ると元気いっぱいになった妖精弓手は貴方を脱がせようとしている。

全身隈無く血に染まった貴方の狩衣装で馬車に乗ったら馬車が血に塗れるて迷惑だと。

別に必要ない、貴方はこのまま歩いて冒険者ギルドに戻ると言ったが…

 

「あのねぇ!自分一人わがまま言うもんじゃないの!

私達は今はパーティー組んでるんだから!

オルクボルグもなんか言いなさいよ!」

 

しつこく乗るように言われてしまう。

 

「そうだな」

 

彼はいつもこんな感じだ。

 

「お前さんの負けじゃわい、狩人。

リーダーの指示には従うもんじゃぞ」

 

鉱人にまで嗜められた。

 

「ふむ、確かにまだ正式にパーティーが解散したわけではなし。

ギルドの規則では馬車を汚すのは『冒険者の品位を貶める行為』だとも取られかねませんし

リーダーの許可なく単独行動は冒険者ギルドの規定にも違反していますぞ狩人殿」

 

蜥蜴僧侶には正論とギルドの規則を盾に説得された。

…止むを得ず従わざるを得ない。

貴方は血塗れの狩人の服を脱ぎ、迎えの森人にシャツとズボンを借りた。

馬車の中で貴方達6人は疲れからか眠ってしまう。

馬車の中で妖精弓手がゴブリンスレイヤーを労わる女神官と話していると

貴方にも話しかけてきた。

 

「狩人、私やっぱあんた大嫌いだわ。

だって冒険は楽しい物だもの未知を体験したり新たなものを発見する喜び。

達成感や高揚感、それが私の冒険。

こんなの冒険じゃない。

いつか必ず、あんたにもオルクボルグにも冒険させてやるわ」

 

…貴方が赴くのは狩りだが、まぁ冒険とて妖精弓手が楽しいならそれで良いではないか

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

今回はある妖精弓手の視点


ある妖精弓手の視点

 

私はあいつが大嫌いだ。

初印象は最悪も最悪、血の匂いをプンプンさせて汚いなりで女の子の隣に立つなんてありえない。

いつも黒ずくめだし、使う武器はどれも野蛮で凶悪だし、無口だし、陰気だし、血腥いし。

旅の間も…食べ物は肉料理ばっかだし、冒険者になった理由は血がーとかわけわかんないし。

おまけにいつもボーッとしてるし。

ドワーフより嫌いになれる奴がいるなんて正直思ってもいなかったわよ!

そのくせ冒険でモンスター退治となると嬉々として血に塗れに行くし。

特に最悪なのがあいつとの最初の冒険でされた事、あいつ私を血塗れにしたのよ!

それもよりによってゴブリンの血で!あームカつく!

…まぁそれを除けば実際のところ、私の故郷を狙ってたゴブリンどもとオーガをやっつけてくれた事には感謝してるけどね。

…まぁあのオーガをグチャグチャのミンチにしたり、『やったんだー』とか叫んでたりは

ぶっちゃけキモい、引く。

おまけに真っ赤なトマト状態でも御構い無しにエルフの馬車に乗ろうとしたりとか何考えてんのよ!?

…まぁあいつも大物を殺すことにかけて手練れみたいだし、

悪魔の軍勢と戦うにもあいつの助けは必要。

だからあいつのいう狩りにも付き合ってやるけどね。

あいつには絶対に冒険させてやるわ、そんで絶対泣かす!!

 

そんな事を女神官とギルドのテーブルの上でくっちゃべっていると、あいつがやってきた。

今は普通の服を着ている、なんでもあいつが最初に着てた『異邦の服』だとか。

「なんだ、普通の服も着れるじゃない。

あんたそうしてると冒険者には見えないわよね」

あいつの狩衣装はあんまりにも汚いから神殿のクリーニングに出した。

もちろん私の服のついでで。(代金はあいつ持ちだけど)

結構凝った作りの服らしく実は私の服より時間も金もかかるらしい、狩人のくせに生意気ね!

狩人は脱いだら色も白いし、只人の戦士にしてはひょろひょろしてるし正直強そうには見えない。

眼鏡をかけてローブを着たら多分魔術師のひよっこといっても通じる。

オーガを倒した功績で今はもう銅級にまで昇進してるけど。

狩人はそんな私に御構い無しに女神官に近寄ると銃の練習を始めるぞと言ってきた。

「ちょっ!狩人!待ちなさいよ!」

狩人は受付嬢に裏の練習場を借りるぞと言って金を払う。

「はいどうぞ、やっぱり清潔にしてた方がいいですよ。

今度出入りする時は血塗れでない普通の常識的で理知的な格好で来てくださいね。

さもないと練習場もなぜか予約されてたり、討伐依頼の承認も余計に時間がかかるかもしれませんよ?

あっそれと妖精弓手さん、その節はお世話になりました」

おおっと…受付嬢の笑顔が暗くて怖いぞ。

その節というのは当然洗わせる事だ、っていうかこいつ血塗れ肉片がついた武器も持ち込んでたし。

…まぁ今は口うるさく注意して脅して宥めて最低でもオルクボルグ並みには清潔になったからいいけど。

「いいの、いいの。

そもそもこいつが悪いし、この馬鹿には私の分のも払ってもらったしね!」

狩人は不服そうな顔をするけどあたし達は気にせず会話する。

「はい、練習場を1時間貸切ですね。

今日も女神官さんの射撃練習ですか?」

ところが意外な事に狩人は今回は二人だと答えた。

ガチャ、というギルドの扉が開く音でオルクボルグが入ってきた。

「待ったか?」

「あ、ゴブリンスレイヤー さん!」

思ったんだけど、受付嬢ってオルクボルグには凄くいい笑顔するよね。

恋する乙女ってやつ?

「いつもの帽子はないのか?」

でもこいつゴブリンの事と狩人と話すときは早口になるわよね。狩人は苦笑して、今クリーニング中だって答えた。

「そうか、考えたが、帽子の中に金属板を仕込み防御力と視界と音を確保するという考え…

悪くない、だがやはり俺は慣れたこのフルフェイスヘルメットでいい」

オルクボルグは狩人に視界と音を確保するために頭部装備の改良について話し合ってたらしい。

狩人はオルクボルグに箱に入れた何か長いものを渡した。

杖?随分不恰好な杖。

「何よオルクボルグ、魔法でも習うつもり?」

「いや、銃だ。狩人に頼んだ」

銃、火の秘薬で鉛礫を飛ばす只人の武器。

弓と違って煩いし重いし命中率も悪い、それに形からしてカッコ悪い。

「何よ狩人、あんた鍛冶もするの?こりゃドワーフも顔負けね」

狩人によると正確には狩人の故郷の銃を元にこの町の鍛冶屋に打ってもらったらしい。

 

『ゴブリンスレイヤーはゴブリン狩りの散弾銃を手に入れた!』

狩人はオルクボルグに何だか説明してる、

『距離減衰が激しいから…』『弾丸の拡散が…』とか

「遠くから当てたいなら弓矢を使えばいいじゃない。

それなのにわざわざ高い火の秘薬を使って近くの相手にしか効果ないんじゃ意味ないわよ」

「咄嗟の事態では弓は構える時間がかかる」

こいつ…徹底的にゴブリン狩りしかしないつもりね…

…そういやこいつ銅級なりたてのくせにかなり金払いいいわよね。

珍しい銃に火の秘薬もガンガン使ってるし、装備も右手のアレを除けば綺麗な彫金が施されてるし。

あの陰気な狩装備だって凝ってるし、案外どっかの金持ちのボンボンだったりするわけ?

オルクボルグと女神官がギルドの裏で銃の練習をするっていうから私も見に来たけど

「えい!この!」

5m先の的にも当てるのが一杯一杯の女神官に、撃った後はショートソードで斬りかかる練習をしているオルクボルグ。

狩人に聞いてみると、それでほぼ正しい使い方だとか。

「何よ、それじゃ飛び道具の意味がほぼ無いじゃない」

そういうと狩人は銃は飛び道具でもあるけど能動的な盾だとかどうとか言い始める。

何よそれ、わけわかんない。

盾が欲しいなら盾を持てばいいじゃない。

盾の代わりに飛び道具とか矛盾してるでしょ。

やっぱ私にはこいつの考えてることなんかわからない。

最初に見た時から変わらない。

…暫く練習するとギルドの依頼を私たちで見に行った。

オルクボルグは相変わらず、

「ゴブリンだ」

「はい!すぐ支度しますね」

女神官はあいも変わらず嬉々としてゴブリン退治に同行するらしい。

「銃は指差すように撃つ、銃は指差すように撃つ、銃は指差すように撃つ、」

…射撃のコツをぶつぶつと呟いてちょっと怖い。

『獣狩りだ…』

このバカは相変わらずバカの一つ覚えみたいに獣獣言ってるし。

『…お前のエルフの村に近いが…来るか?』

「はぁ当たり前でしょ、あんたみたいななりたて銅級冒険者に大事な私の村のみんなの安全を任せっぱなしにする程無謀じゃないの」

あ!こいつ笑いやがった!

ムゥ!絶対に泣かせてやるんだから覚悟しときなさいよ!

「獣か」

『ゴブリン狩りは尊い業、貴公に暗い血の加護あれ』

それとやめなさいよ、その変な祝福!

ほんと!こいつ大嫌い!




妖精「嫌い嫌い!大嫌い!」
狩人「…」


鉱人「仲ええのう、あいつら」
蜥蜴「仲良きことは素晴らしきかな」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

ブラッドボーンTRPG
設定とか
今は…
時代によって初期アイテムやキャラクターの服装などが変わります
時代が進むほど便利なアイテムが登場しますが、逆に銃規制の強化により持ち込める銃火器は弱くなります
武器で押し進むか、知恵ですり抜けるか

1:19世紀終盤だ(ランタン、銃剣、ライフルなど)
2:20世紀中盤だ(懐中電灯、ナイフ、拳銃など)
3:21世紀初頭だ(スマートフォン、セキュリティバトン、催涙スプレーなど)

キャラクタークリエイト


例1 従軍経験 (救済)
貴方は兵士だった
敵の攻撃によって貴方の身体は麻痺し失明した
国中の医者にかかったが治療法は無かった
貴方はヤーナムに血の医療を求めてやってきた…

例2 プロフェッショナル(知識欲)
貴方は考古学者だ
ある大学で失われた人類以前の文明についての文献を目にした。
貴方は古代都市の失われた文明、その隠された知識があると言われる都市について耳にした。
貴方はそれを求めてヤーナムにやって来た…

例3 暴力的過去 (無知)
貴方はあるギャングに属していた
貴方はボスの座を巡っての抗争で敗れた
貴方は命を狙われている、殺し屋はどこまでも追ってくるだろう
貴方は身を隠そうと余所者嫌いで知られるヤーナムに逃げ込んだ…

貴方の運命はどうなることだろう
ヤーナムにありふれた尸を晒すか
獣へと成り果てるか
狩りに酔い狂気へと堕ちるか
貴方は果たして夜明けを迎える事ができるだろうか?

作者の好きな武器 
銀狼ブラッドボーン、ハンス・ヴァーピット氏(70歳)に影響されて
呪重特化スタマイがシンプルに効くので強い。
爆発攻撃から再点火突き攻撃のコンボで重打としては隙が少なめも強み
爆発加害半径が広いのでゴブリン一掃にも良さそう。
ところで血晶石のこの呼び方ってスタバの注文みたいですよね
爆発金槌
ガトリング砲


貴方方はゴブリン禍に悩まされるエルフの里にやってきた。

よそ者を歓迎しない森人の彼らがあなた方を歓迎(完全にではなさそうだが)するなど滅多にないことらしい。

オーガを倒したこととこの里出身の妖精弓手の存在があって初めて可能になった事件である。

「どーよ、ちょっと見直した?

だから言ったでしょ、年上には敬意を払いなさいって」

鉱人もあきれ顔だ

「やれやれ、自分の里だと思って得意になりおってこの森人は…」

 

…貴方が殺したオーガの占領していた砦の近くに存在する村にやって来た貴方達は現在の詳しい状況をこの村の村長から聞くことにした。

エルフの里は巨木の中ほどに作られたツリーハウス状で大きいものは只人の屋敷ほどもある。

ゴブリン程度は簡単に上から撃退できるだろうが、樹上ということで火攻めには弱そうだ。

あの悪辣な連中なら炎を使うだろう。

 

貴方達は彼らの里でも大きな屋敷にやってきた。

若々しい森人が貴方達を迎える、彼が村長らしい。

「君達が砦を一掃した後に我々の探索隊があの砦でオーガへの命令書を見つけた。

あのオーガは混沌の軍勢、それも魔神王直属の将軍のオーガの上級種オーガ・メイジだったのだ。混沌の軍勢の言葉で書かれていたが翻訳するとこうだ」

…貴方は命令書云々よりもオーガが命令書を読める知性の持ち主だということに驚いた…

…一応将軍にして魔術師なのだから読めても不思議ではあるまい。

そういえば殴り殺している間に何かそんな事を言ってたような気がする…あれが名のある者の名乗りという奴だったのだろうか?

「ね!あいつ将軍だったんだって、そんなら報酬もっともらえたらよかったのにね」

「これ妖精弓手よ、いくら自分の村だからといって寛ぎすぎだろう!

…まぁ良い、とにかく諸君らが救助してくれた例の森人の娘も今は療養しておる。

諸君らには先の件で感謝しているが…

どうやら連中はこの周辺の里で生産されている薬草を狙っているらしいのだ」

貴方達ゴブリン狩りパーティー一行は訝しんだ、秘薬?

 

「エルフの秘薬の素、重症人もすぐに全快させる最高級のポーションの原料。

戦争でこれがどれだけ重要か、これだけいえばわかるでしょ?」

妖精弓手がどれだけ素晴らしい薬草か説明をする。

 

成る程、回復薬が足りなければ数で劣る秩序側の軍勢はやがて戦えなくなってしまう。

混沌側のゴブリンのように使い捨てできる兵隊はいないのだから。

 

貴方もヤーナムで新人だった頃は輸血袋がすぐに足らなくなり絶望したものだ。

 

「先のオーガは里そのものを破壊して材料そのものを枯渇させようとしたようだ。

それが成功していればどうなったか考えたくもないがね。

この件は諸君らのお陰で失敗したようだが、連中はまだ諦めてはいない。

今度は里の周辺で嫌がらせのように少数のゴブリンが散発的に攻めてくるようになったのだ」

 

ゴブリンの群れが薬草採取の森人達に襲いかかって来た

薬草を輸送している馬車に襲いかかって来た

夜に里周辺の薬草畑に汚物をぶっ掛けようと嫌がらせをして来た…

 

「正面から勝てないなら小手先の嫌がらせをさせようという混沌の連中らしい陰険な考えだ。

…恥ずかしい話だが会議と魔神王との戦いで里の熟練戦士は出払っている上に

例の少女の件もあって皆積極的に採取に行けなくなってしまっている…

このままでは連中の思惑通り薬草は枯渇してしまうだろう…」

確かに村をチラと見た限りでは男性が極端に少なく残っているのは女性の方が圧倒的に多い。

薬草採取も自然女性の仕事になる。

その女性がゴブリンごときにあんな目に遭わされたのだ、誰が自分の娘をそんな危険に合わせられるだろうか?

 

「現時点での被害状況は?数は?巣の位置は?新しいホブやシャーマンの存在は確認できているのか?

一番近い襲われた場所は?」

ゴブリンスレイヤーは村長に最近の状況を確認している。

 

…貴方達は被害が周辺で散発していることを確認した。

ゴブリンスレイヤーは幾つかの上位種に率いられたグループが分散してバラバラに行動していると推理した。

「奴らの横の組織力は高度な作戦をとれるほどではない。

幾つかのシャーマンかホブに率いられたグループが好き勝手に行動しているのだろう。

なら話は早い、対応は単純だ。

「合流されない内に巣穴を一つ一つ見つけて片っ端からしらみつぶしにする」

いつもの彼のやり方だ。

「この村にさしあたっての拠点を置かせてもらう。

どこか使っていい倉庫か物置でも貸してもらえれば助かる」

 

村長は貴方達に村はずれの木の下、普段は薬草や果物などを乾燥して保存しておく

今は使っていない倉庫を貸せると伝えた。

「妖精弓手、貴方も一度自分の家族に会ってやればいいだろう。

父親と姉は今は会議に出て行ってしまっているが母親は貴方が来ると聞いて楽しみにしているのだよ。

全く貴方を心配しているのも当然でしょう。

何しろ冒険者など好き好んで危険を追い求めるなど…」

どうやら年長者によるお小言はどこの世界も似たようなものらしい。

「あー!そうそう、ゴブリン退治の作戦会議ね!会議会議!

じゃね!機会があったらー」

妖精弓手は逃げ出した。

「人質がいないならこれを使う」

貸してもらった小屋の中で貴方達はゴブリン狩りの作戦と道具を確認した。

事前にやり方を周知してまだ以心伝心とはいかない連携を完全にするのだ。

ゴブリンスレイヤーが出したのは特製の火炎瓶だ。

 

「穴を塞ぎ奴らを蒸し焼きにする、出ようとする奴がいたら殺す」

だが人質がいる場合はどうするのか、貴方には人質救出はできそうにない。

片っ端から粉砕してしまうだろう、役に立たない狩人だ。

 

「大規模な洞窟や拠点にはこれを使う。『巻物』だ、効果はある」

貴方は村長に連れ去られた人質などがいないがどうか聞いた。

いれば難易度と危険性、そしてギルドからの評価も桁違いに跳ね上がる。

具体的にいうと人質を盾にしたゴブリンを貴方なら人質ごと真っ二つにしてしまいかねない。

貴方も生きたゴブリンを突き刺して投げたり盾にしたり血のシャワーで火を消したりすることが多いので

お互い様と言えなくもないが、尊き世の女性と穢らわしいゴブリンとでは価値がそもそも桁違いだ。

逆を言えば人質さえいなければゴブリン狩りはそこまで難しいものではないのも事実である。

皮膚は柔らかく、肉は薄く、骨は細い、散弾が掠っただけでも重傷になりうる。

巣ごと消毒しまえばそれで終了。

やはりゴブリン根絶には数が必要だ。

貴方は狩人呼びの鐘を鳴らそうかとも悩んだ、しかし恐るべきは不吉な鐘だ。

敵対する狩人に貴方や貴方の仲間が勝てる保証は無い。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話


女神官の自衛装備
毎分200発の地母神の慈悲
これには地母神様もにっこり
女神官「ゴブリンのみなさーん!このガトちゃんが皆さんにご挨拶したいって言ってますよー!」(ババババ



貴方達は6人の人数で動き回ることは時間がかかりすぎるのでは?という懸念があった。

戦力を集中すれば確実に潰せるが、時間がかかりその結果他の巣に合流されては意味がない。

かと言って分散すれば危険性と撃ち漏らしのリスクがある。

狩人なら分散し特に考えもなく人質もついでとばかりに皆殺しにするだろう、だがゴブリンスレイヤーは人質がいる場合は救助を優先する人間だ。

彼は貴方と違ってまともだ、故に万が一にも人質がいた場合を考え個別に巣を殲滅する。

「炙り出す時に、一旦別れる。」

それゆえチームを二つに分け、一方が巣穴の正面を担当しもう一方が側道から逃げようとするゴブリンを追跡し殲滅する事になった。

正面チームと側面チームを3:3に分ける場合にゴブリンスレイヤーからの指示は…

正面からの突破を阻む役目を担当するゴブリンスレイヤー 、女神官、鉱人導師のチーム。

側面、背後を担当する狩人、妖精弓手、蜥蜴神官の追跡チームだ。

 

貴方はゴブリンを逃さず狩り取らねばならない、逃げれば他の巣穴は警戒しまた散るか逆に集結して襲ってくるかもしれない。

貴方達は朝日が昇る前に出発し夕暮れ時までにどれだけ潰せるかが重要だ。

「狩人、チームで動くんだから私が指揮するわ。Bチームの指揮は私!蜥蜴僧侶も文句ないわね!

連中を皆殺しにするのよ!」

「拙僧は特に問題はない、狩人殿は?」

所詮貴方は狩人、目につくものを片っ端から殺し尽くすのみ。

妖精弓手は、リーダーという地位に與味があるらしい。

どうせ児戲とて、まあ喜ぶのならいいではないか。

「やれやれ、狩人よ。

その自信過剰なエルフが暴走せんようにな。

ま、落ち着いたお前さんがたがついてるんなら大丈夫じゃろ」

確かに貴方一人ではこの妖精は止められそうにない、大人な対応ができる蜥蜴僧侶の助けが必要だ。

…それにこの妖精森人がいるなら例の手段が2倍に増えるではないか…

「え?なに?頼みたい事があるって?ふふん、早速リーダーとしての実力を…

は?はぁぁぁぁぁぁぁ!?ばばばばば、バカじゃないの!?そんな事できるわけないでしょ!

バカ!変態!」

何を変だと言うのだろうか…貴方はこのエルフに朝一番の小水を瓶に詰めておいて欲しいと頼んだだけだ。

いつも機会があったら女神官にも頼んでいる。

「わー!わー!わー!か、狩人さん!何で言っちゃうんですか!?

言わないでくださいって言ったでしょ!」

だがチームである以上、いずれは皆知り使わないなければならないゴブリン狩りの手段だ。

それにこれはゴブリンスレイヤーがゴブリン狩りの時に使う常套手段ではないか。

そう言うとなぜかゴブリンスレイヤー は顔を背けた。

「…まあ」

「何がまあよ!嫌!絶対嫌!無理に決まってるでしょ!」

大丈夫だ、エルフの小水ならきっと沢山ゴブリンやトロルが釣れる。

「そういうことじゃないわよ!ホントデリカシー0ね!

あんたって本当にサイテーの変態だわ!ちょっとは見直そうとした私が馬鹿だったわよ!」

このエルフは馬鹿なのか。それに変態とはよく言われる、だが真の変態とはこんなものではない。

とにかく話はまとまった、もうそろそろ日が暮れる。

貴方達は3交代で夜のゴブリン襲撃への見張りにも協力しなければならない。

現在はこの里に残った少数の兵士や民兵が交代で見張りをしているがちょろっと嫌がらせをしてすぐに撤退するゴブリンは少数の兵士では守るべき地域全てをカバーできないらしい。

大抵は里の周辺の畑を荒らす程度だが、規模が大きくなれば襲撃も考えられる。

ここに後20人ほど精鋭戦士がいれば警備も楽なのだが、連合軍に参加して不在なので仕方ない。

「やれる事をやれる者がやるだけだ、二人づつ3交代で見回りをする」

ゴブリンスレイヤーと女神官、狩人と妖精弓手、蜥蜴僧侶と鉱人導師の組み合わせだ。

こう見ると前衛職がいない構成がこのパーティーの欠点だと痛感する。

貴方とゴブリンスレイヤーが前衛もこなせないではないがやはり両者ともに軽戦士だ。

貴方達は日が暮れる前に里が沸かしてくれた浴場で身ぎれいにする事を勧められた。

要するに里にいるには皆旅路で汚れて汚らしいから清めろという事だ。

まずは女性陣が入り、4人の男は後で入る。

「やった!ほら女神官も行こ!もう汗でベトベトだったんだから。

早く早く」

「わわ、ちょっと待ってください」

ちなみに貴方達4人の男は半分以下の時間で2倍の人数ということになる。

まぁ女性が身綺麗にしたいのは不思議ではあるまい…どうせこの後ゴブ汁まみれになる。

貴方達は女性陣が身を清めている間にこの間に武器・装備・道具・戦術などを点検する。

「ゴブリンは臆病で悪辣で狡猾だ、馬鹿ではあるが間抜けではない。

だから連中は集団を作り群れて数で襲いたがるが、同時に自分が群れの長になりたがる。

それが無理ならある程度高い地位に…

どうしようもないクズだ。

だから連中は巣がある程度大きくなると一部が群れを離れて新しい巣を作る。

新しい巣でならクズも族長気分でいられるからな」

貴方はなぜゴブリンが大規模な組織を作れないのか少しわかった気がする。

貴方達4人は男の間柄ということで気楽に会話を進める。

やはりなぜパーティーが同性同士で組むことが多いのかがわかった。

「そういや狩人はこの前銅になったんだって?

ちょいとした話題だったぜ、西の辺境最速の昇進だってな。

いやはやカミキリ丸といい、どうして西にも有望なのがいるもんだ」

鉱人導師は酒をちびちびやりながら貴方に話しかけてきた。

「拙僧からも祝福の言葉を、それにしても狩人殿は何故にそこまで

獣狩りにこだわるのですかな?いや、あくまでも狩人殿の都合でしょうが

よければ拙僧らに話してはいただけませんかな?」

蜥蜴僧侶も気になるようだ。

彼らのそもそもの考えからすると、都の悪魔討伐の件と何か関係があるのだろうか?

「御察しの通り、拙僧らの元々の目的は小鬼殺し殿の協力を得ること。

ですが小鬼殺し殿があくまでも小鬼殺しに集中したいのであれば無理矢理にというわけには参りません。

そこで今度は将来有望な狩人殿に協力を仰げればという我等の身勝手な望みというわけです」

「ま、そういうことじゃ。狩人、お前さん程の実力者が今まで冒険者じゃなかったってのは正直驚きじゃ。

だが都には魔神王の連中が攻め込んできとる、

もう都市がいくつも陥とされてるってのに政治的ご都合とやらで秩序側の陣営の足並みはバラバラ。ここの3人も親類縁者が少なからず戦に行っとるが、いつ棺桶で帰ってきてもおかしくない。

あの金床だってそうだ。

こんな時代、ちょっとでも頼りになりそうな奴には縋りたいってのが人情ってもんじゃろ?」

…貴方はヤーナムの獣狩りを話す気にはなれない。

誰が信じられるだろうか?貴方の狂気と絶望に満ちた永遠に続く獣狩りの夜の事を。

貴方はいずれ必要になったら話すとはぐらかした。

今は人に仇なす穢らわしい連中、すなわち獣を片っ端から狩ることが貴方の使命だとも伝えた。

「そうかい。ま、確かにお前さんのような連中が

こういうところで草の根探してでも厄介な連中を狩ってくれとるおかげで

兵隊もみんな安心して前線に行けるってのもあるわな」

「確かに、故郷がゴブリンに襲われなくなるのではという不安があっては前線の兵士達の士気にも関わりますからな。

妖精弓手にしても肉親が前線に行っているからこそ小鬼殺し殿にきつく当たったのです」

もっとも貴方達はその妖精弓手の故郷を守るために来ている。

魔神王との決戦ほど華々しくはないだろうが、これも冒険ではないだろうか?

貴方にとっては獣狩りに他ならないが。

貴方達は日が沈んでからの警戒経路について話し合った。

警戒は基本的にこの里のエルフ達が請け負ってくれているが、少し離れた畑などの警戒は貴方達の受け持ちとなるらしい。

「まずは畑を荒らしにきたゴブリンを殲滅し、巣の大まかな場所を特定する

特定したら巣ごと根絶する。

そのパターンを繰り返してゴブリンの出現が確認できなくなったら探索の輪を広げて撃ち漏らしがないか確認する」

彼の作戦は慎重で堅実にゴブリンの根絶を目指している。

『獣狩りの夜が始まる』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

狩人は思った、カレル文字が人のあり方を定義するなら
人ならざる物を人たらしめるカレル文字もあるのではないかと


貴方達は日が落ちると共に準備していた通りに指示された畑の見回りに出る事になった。

畑のそばには農機具や収穫物などを置く小屋がある、貴方達の見回りの拠点だ。

「まず俺と女神官が出る、3交代で休憩を取りながら見回る。

出現したら警笛を鳴らして知らせる」

そう言うとゴブリンスレイヤー が女神官に指示する。

「常に明かりを持ち、離れるな。

ゴブリンが出たら迷わず撃て。

危なくなったら走って逃げろ。」

「は、はい!頑張ります!」

彼はとても親切な人間だ。

 

二人は小屋を出発した。

貴方と妖精弓手のチームは彼らが戻ってくるまで休憩している。

「…狩人、覗かないでよ」

休憩場所は畑のすぐ側にある番人小屋だ。

妖精弓手は中でマントにくるまって眠っている。

特にこの季節はまだ夜風に吹かれても暖かいので貴方男3人は外で焚き火を囲んでいる。

見ればあちこちに小さな明かりが仄かに見える、里のエルフ達が見張りで火を焚いているのだ。

貴方はやはり男女が同じパーティーにいることは無理があると思った。

具体的に言うと男女の痴情の縺れでパーティーが解散したと言う話をよく聞く。

現に狭い小屋はエルフ娘一人で占領している。

「ま、そりゃ誰もが一度は思うことじゃわい。

だが実際、同性で前衛後衛のバランスが取れたパーティーを組むなんて

贅沢なことは中々出来るもんじゃないわ。

特に今はどこも人手不足じゃしな」

「ふむ、只人や森人はそう思われるか。

拙僧ら蜥蜴人種は雌雄の区別なく隊を組み武器を取るのが当然といった文化習慣故

そう言う考えは出てこなかった。

いや実に興味深い…

拙僧も母上と父上が出会い拙者を授かったのは戦場だったと聞いている故…

戦場で戦士の間に授かった子は将来強き戦士となるという験担ぎのようなものがありますからな」

当然の事ながら只人にこのような習慣はない…と思う。

とはいえ異人種の習慣風俗を貴方は少しだけ聞いて知識が深まった。

貴方達はとりとめのない会話をしている。

「そういやそのハンマー、興味深いのう。

ワシらドワーフもよくハンマーを使うがそんな代物は目にしたことがないわい。

さしずめオーガ殺しの火槌といったところかの」

貴方はこれは火薬庫の大業物、獣を叩き潰し焼き殺す導きの爆発金槌。

力任せに振るわれることこそ匠の業の本懐という考え方の産物。

「ははは、なんじゃい可笑しな只人の職人もいたもんだのぉ。

なんだかうちの穴蔵の鍛冶連中とも気が合いそうだわい」

火薬庫の連中はドワーフの職人とも気が合いそうなのか…

確かに豪快な見た目と破壊力、それでいて汎用性の高さとを併せ持つ優秀な武器を作っていた。

貴方達が寛ぎながら待っていると

ピィーピィーという音とパンパンという2発の銃声が聞こえた。

貴方達は武器を取るとパッとかけていく。

バァンと扉を叩き開けて最初に飛び出していったのは妖精弓手だ。

「聞こえた!まっすぐあっち!東の畑道の方!」

貴方方も彼女の指示の下走っていく。

彼女が良い耳と足をした一流の斥候なのは疑いない。

近接して戦うにあたっては貴方が優れるが、遠くから先手を取るのは彼女だろう。

又してもパンパンという音が断続てきに響いてくる。

 

貴方達が銃声と笛の音の方向に駆けていくとそこにはゴブリンスレイヤーと女神官

そして倒れた数体のゴブリンの姿があった。

「ゴブリンだ、1匹は逃した。追って巣を潰す」

ゴブリンスレイヤーは逃げたゴブリンに道案内をさせる気だ。

ゴブリンスレイヤーはそう言うとさっさとゴブリンの後を追い始めた。

後には銃を持って呆然とする女神官が残された。

…彼女の前にはホブゴブリンが倒れている、頭を撃たれたようだ。

…ホブゴブリンは死んでいる、2mという大きさだが脳を破壊されては耐えられない。

貴方達は逃げたゴブリンの後を追うゴブリンスレイヤーも心配だったが…

妖精弓手は未だ呆然としている女神官を気遣っているようだ。

「だ、大丈夫!?怪我とかない?もうオルクボルグももうちょっと気遣ってあげてもいいでしょ!」

「わ、私は大丈夫ですから…ただゴブリンが出てきたことに驚いて…

これ…もう死んでますよね…私、ただちょっといつも通り引き金を引いただけなのに…」

どうやら自分が殺してしまったこの汚物を案じているのだろうか…

「いえそういうわけじゃなくて、私…初めての冒険でこいつらに仲間を…

凄く強くて大きそうだったのに…う、うふふ」

わかる、彼女は狩の快感に酔っているのだ。

貴方も今まで苦戦させられてきた強敵がパリィになれたら回復薬兼アイテム袋にしか見えなくなる『血の歓び』だ。

だが貴方は彼女に警告する。

そう、かねて血を恐れるべきだ。

「あ、はい。そうですね!もっと練習しないと…」

もっと練習して良い狩人になるがいい。

狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。

貴方はそうだ、彼女もやがてそうなるだろう。

貴方達はゴブリンスレイヤーの後を追っていく。

どうやら彼は岩場の方に入っていったらしい、ランタンの灯りを追って貴方方も彼の後を追う…

しばらくして貴方達が彼に合流するとそこには岩場の隙間のゴブリンの住処を発見した彼の姿があった。

「ゴブリンだ、すぐに燻し出す」

そう言って彼はあたりから枯れ木や草、落ち葉などを集めて巣の中に放り込んでいく」

未だ夜は明けていないが、ゴブリンが逃げ出すよりはマシだ。

数匹のゴブリンが巣の中に倒れている、どうやら散弾銃が役に立ったようだ。

脱出しようとするゴブリンの封じ込めていた彼はいつもの手段をとるようだ。

貴方達Bチームは側面と後方を経過しつつ側道や逃げ道がないか探すのが役目だ。

貴方達Bチームはあたりを見渡したが今の所逃げ道はなさそうだ。

ゴブリンスレイヤーが可燃物に更に油や硫黄などをかけて火炎瓶を投げ込むと凄まじい勢いで燃え始める。

「炙り出すつもりだったが、少し崩せるか?酸欠させてもいい」

貴方は了承すると爆発金槌の威力を最大にし巣穴の入り口に叩きつける。

爆発音と共に出入り口がほぼ崩れ封鎖を完了させた。

中からはゴブリンどもが大騒ぎする音が聞こえてくるが貴方方は意に介せず辺りを探索する。

…しばらくするとゴブリンどもは静かになった、中からは硫黄が燃えた匂いがする。

「この洞窟は完全に崩す、手を貸してもらえるか?」

貴方は了承すると更にガンガンと金槌で叩き、洞窟の入り口を完全に埋める。

…このような場合はゴブリンの巣穴を調査するのでは?

「必要ない、それにまだ仕事がある」

彼はゴブリンを殺すのに興味があるのであって、ゴブリンから剥ぐことは興味がないらしい。

そも、どうせろくな物は持っていないだろうが。

貴方方はエルフの里に戻ると今度はゴブリンスレイヤーと女神官が休憩する番だった。

今度は貴方と妖精弓手が見回りする番だ。

「気をつけろ、連中はまだ来る

ゴブリンどもがこんなに勤勉に襲いに来るからには上位者がまだいるはずだ」

 

「任せなさいよオルクボルグ!私の里を襲うゴブリンなんてみんなやっつけてやるんだから!」

貴方は彼に決して油断せず、汚物を狩ると約束した。

それまではよく休み、またよく殺せるように体力を温存しろとも伝えた。

スタミナ管理は重要だ。

「そうか、わかった」

彼はいつもの通りだが、なぜだか少しだけ安らいでいるような顔をしている気がする。

「あ、それじゃ。私も…アフ…地母神様、私もやれました」

女神官は安心したのか眠たそうだ。

きっと天井の女神も信徒が立派な狩人の第一歩を踏み出せて喜んでいることだろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

今更だけどヤーナムの影って指輪物語の幽鬼そのものだね
長い黒フード被ってりゃ誰でも同じだけど



 

「はー、それにしても銀級冒険者にまでなってやってることが実家の畑の番とは…」

貴方は妖精弓手の嘆きを無視した、どうせ大したことは言ってない。

それにしても何か邪悪な力を感じる…気がする。

それがゴブリンどもを勢いづかせ、我々に敵意を向けているのだろう。

貴方が狩るべきは獣だ、獣とは人に仇なす汚物…魔神王も獣に過ぎない。

だがさしあたっては畑を荒らす害獣か。

さっきから妖精弓手が冒険がしたいしたいと煩い。

だが客観的に考えると魔神王と戦うのは戦争であって冒険ではない気がする…

戦争を冒険と期待した者は数多いが大抵は期待外れに終わる。

冒険とは未だに発見されていない土地や事象の探索や探求であって戦うこととは違う気がする。

その辺り冒険と戦闘を混同しているのではないだろうか。

メンバー的にはホビットがいれば冥王の軍団と戦って世界を救ったり邪悪なドラゴンを倒す行きて帰りし物語的な何かが始まりそうだ。

残念ながらこの妖精弓手の望む物語は始まりそうにない。

パーティーメンバーに馳夫もいなければ王が帰還する事もない。

一番英雄譚に近いのはやはりゴブリンスレイヤーだろう。

重要な外貨獲得手段でもある畑の守りは重要だと、村長に説教された今の彼女の役目は畑番だ。

貴方は彼女に黙って見回れと命令した。

「イーだ!やっぱあんたってサイテー!退屈してる女の子の扱い方一つ知らないの?」

貴方は嘆息し獣の感覚に集中した。

男と女が二人、月の下で共に散策している。

一人は月の香りする只人の男、一人は顔麗しい森の金床。

そう書いてやればこのロクデナシ二人にもロマンスが芽生えるのだろうか、いや無い。

連中、特にゴブリンの匂いは強烈で饐えた汗や腐った肉に汚物のような悪意ある不快な匂いが酷く遠くからでも漂ってくる。

特に狼に乗っているゴブリンとかひどい匂いだ、冒涜の匂いがする。

貴方はヤーナムで長く狩りを続け獣の匂いに敏感になった。

…畑は広大で今の里の人数では全てを監視することはできない上に里の主だった戦士は旅立って今残っているのは新米だけだ。

エルフは長い寿命を誇るがそれゆえに消耗できないというのも弱点だ。

やはりせめて後50人は戦士がいればそもそもゴブリンはおろかオーガの侵入を許すことも無かったと妖精弓手に愚痴る。

「あのね、森人の精鋭戦士が50人って。

そりゃそんだけいれば一大戦力よ、でもそんなに充実するまで何百年かかると思ってんの?」

気が長いことだと貴方は嘆息した、それならもっと冒険者でも雇えば良いかといえば

森人は自分達の里に他人を大勢入れるのは嫌だと言う。

時代は変わりつつある、四方世界を賭けた戦いはこれから始まることになる。

…かもしれない。

勇者は魔神王と戦い

賢者は未知の古代文明とかを発掘し

ゴブリンスレイヤーはゴブリンを殺し

金床は自分の里の畑の番をする。

それで良いではないか。

「良くないわよ!」

注文の多い金床だ、人生欲張るとロクなことにはならないと言うのに。

 

…貴方たちが暫く周りを巡回していると貴方と金床は身を屈める。

「聞こえた?いるわね」

貴方はそれに臭う、ひどく獣臭いと答え武器を構える。

貴方の前方にはガサゴソと薬草を荒らそうとしているゴブリンどもの音が聞こえてきた。

10匹前後だろう。

カボチャやジャガイモならともかく、食えもしない畑を荒らすゴブリンとは。

一体誰の命令を受けているのだろうか。

「私が前の3匹をやるわ、狩人は私を守りながら残りの相手をするのよ。」

…貴方の負担だけやたら大きくないだろうか?

従僕を騎士と呼び習わせば、せめて名誉があるものだろうか。

妖精弓手を豊満と呼べば…そこには絶望しか無かった。

「余計なこと考えてないで、行くわよ!」

妖精弓手が矢を放つと中空で弧を描いた矢は一撃で2匹のゴブリンの頭を射抜き更に一撃は別の頭を砕いた。

貴方は心中では見事な腕前を讃え、更に追撃にと散弾を集中していたゴブリンどものど真ん中に撃ち込み、パニックに陥ったところに爆発金槌を叩き込んだ。

一瞬の後に輪の中心のゴブリンは無残な肉塊となって四散し、周りの連中も爆発の衝撃で粉微塵になって吹き飛ぶ。

貴方はやはり汚物は消毒するのが一番だと言う確信の元に焼き払った。

すると岩陰の中から一際大きい唸り声が聞こえてきた。

「気をつけて!残りのゴブリンの一団よ!ホブもいる!」

無論わかっている、大方面倒なくせに実入りの無い仕事を下っ端に押し付けて自分は監視して楽しようと言う考えだったのだろう。

連中は大体そう考える生き物だ。

だが妖精弓手を見るなり突然張り切って連中は滾ったのか突撃を開始する。

連中の頭の中ではまだ数で勝る自信と貴方という男の戦士への不安、だが妖精弓手の肉体を楽しみたいという獣慾が鬩ぎ合い突撃するという選択肢をとった。

貴方は彼らと妖精弓手の合間に立ち連中の彼女への突撃を遮る。

再び散弾銃を放つと前のゴブリン連中のむき出しの部分に命中し足を鈍らせる。

痛みを感じれば動きが鈍るのは人も獣もゴブリンも変わらないという事だ。

「よっしゃ!良くやったわよ狩人!」

妖精弓手の腕からすれば足の鈍ったゴブリンなど良い的以外の何物でもない。

次々と貴方を掠める矢は狙い違わず貴方の前に立ち塞がるゴブリンどもに突き刺さっていく。

貴方は更に散弾銃を撃ち音と火花、そして痛みで敵のヘイトを稼いでいく。

敵から憎まれるのはいつものことだ。

ゴブリンの悪意や殺意など聖杯の連中に比べればまだマシだ。

再び炉に火を入れた貴方は性懲りも無く向かってきたホブの頭に叩きつけると、上半身が爆発四散し周辺に飛び散った。

派手な炎と音を放つ貴方はゴブリンの憎まれ役だ。

あっという間にあちこちで悪さをしていたゴブリンが貴方を憎み殺しに集まってくるだろう。

だが同時に銃声は貴方の味方を呼びあつめる笛でもある。

ゴブリンスレイヤーたちは直ぐに貴方達を助けにやってくるだろう。

岩陰から直ぐに新手のホブゴブリンが姿を表すのが目に止まった。

汚物の臭いもプンプンさせて不快な醜さだ。

「ちょっと狩人!私にも残しておきなさいよね!」

妖精弓手は次々とゴブリンを狩っていく、手数の早さと多さに関しては貴方以上だ。

獣は潰して焼くに限る、だが射殺すのも悪くはないだろう。

まぁ殺せるならどうでもいいではないか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

…特に足が遅く、小さく脅威度の低い個体を散弾をかすらせて血を流させながら逃した。

獣ならば文字通り死ぬまで襲いかかってくるのだろうが、ゴブリンは自分が痛いのは嫌らしい。

貴方は8匹、妖精弓手は6匹倒した。

貴方の勝ちだ、どうでも良いことだ。

重要なのは獣が死ぬ事だ、誰がどれを殺したかなどどうでもいい。

「むぅう、けど次は私が勝つからね。覚悟しときなさいよ」

その通りだ、まだ狩は長く続くだろう。

たかが100や200狩った程度では何ほどの事もない。

貴方は殺害数で劣ったことでも気にしている、妖精弓手に優しく甘い言葉を投げかけてやった。

すなわちありがとうという感謝の言葉と狩人の一例で応えた。

妖精弓手には感謝している、彼女抜きにはこの狩に手こずっただろう。

「な、何よ急にかしこまっちゃって。

ま、まぁわかればいいのよ。わかれば」

事実、囲まれて叩かれれば死ぬが二人いれば囲まれる危険性は格段に減る。

やはり狩に赴くに数を揃えるのは重要だ。

貴方方がゴブリンを確実に殲滅してからしばらくするとまずは彼が駆けつけてきた。

「ゴブリンか」

 

 

そこらに転がっている汚物を見て開口一番ゴブリンスレイヤーは貴方方の心配よりも逃げたゴブリンの事を心配した。

追いかけて、巣を見つけ、確実に全滅させる。

彼の狩は単純明快でブレない。

「血か、目印だな。すぐに追う」

貴方は逸る彼を押しとどめた、すなわちゴブリンが罠を張る可能性もある。

破壊工作の失敗を悟ったゴブリンは、警戒をしている可能性もある。

どの道一人では大規模な巣を破壊するには人手が足りない。

ここは堪えて後の人員を待つべきだ。

「ちょっと狩人!そんなグズグズしてたらゴブリン逃げちゃうわよ!」

心配はいらない、あの足ではそんなに早くは逃げられない…

それよりむしろ巣にたどり着く前に失血死するかもしれない。

故に焦る必要はないと貴方は彼らに説明した。

「そうだな…わかった」

彼からの厚い信頼を感じる。

貴方とゴブリンスレイヤーとの絆が深まった気がする。

ほんのしばらくののちに残りの仲間達が貴方達に合流した。

ゴブリンスレイヤーはゴブリンの残した装備を調べている。

装備といっても粗末な棍棒や刃こぼれした短刀など価値はなさそうだ。

「はぁはぁはぁ…ご…ゴブリンスレイヤー さん早すぎですよ!

あ、狩人さんも妖精弓手さんもお怪我はありませんか!?」

彼はあの距離を駆け続けて軽く息切れする程度だったは残りの3人はそうも行かなかったようだ。

「全く…かみきり丸ときたら…弾ける音が聞こえたと思ったらすぐすっ飛んんでったわい」

「全く、拙僧らもいささか足が鈍りましたかな?

いやはや小鬼殺し殿の健脚には敵いませんなぁ」

どうやら彼は脚も鍛えたらしい、なるほど攻めるにも逃げるにも機動力は重要だろう。

貴方も重量のある装備をしたらスタミナ消費が激しくなる気がする。

特に大砲と聖槌とか見た目にも重そうな装備は。

我ながらあんなものを持ったまま、よく飛んだり跳ねたりできるものだと貴方は自分自身に感心した。

貴方方は心配してくれた女神官に異常はないと伝えた。

まだ奇跡は取っておくべきだ、何が起こるかは常に不確定なのだから。

周辺には矢が突き刺さったゴブリンと爆散したゴブリンだったものが散らばっている。

ゴブリンどもの臆病さは屋外では密集隊形という結果で現れる。

お互いが真っ先に逃げ出さないように監視しあい、他を矢面に立たせようという考えだ。

もっとも貴方の導きの爆発金槌の前ではカス以下の盾役もまとめて吹っ飛んだが。

盾は良い、だが過信するなかれだ。

もっとも過信するものは人にもゴブリンにも後を絶たないものだ。

それが過信と自己過大評価の塊の小鬼なら尚更だし、過信した者が生き延びることは無い。

貴方達は6人揃って息を落ち着かせた後に逃げたゴブリンの追跡を開始した。

貴方はゴブリンが自らの身を呈して見当違いの方向や罠の誘う可能性はあるかと尋ねた。

「ゴブリンどもは身勝手で自分本位な生き物だ。

だが予め計画してあったなら人間を罠のある場所まで誘導するくらいの事はする」

女神官はその言葉を聞いて錫杖をぎゅっと握った。

どうやら彼女には心当たりがあるようだ。

貴方もそういう経験があると伝えた、罠を仕掛けやすそうだなと思った地形や敵の配置とは間違いなく罠がある知らせだと。

つまりはそういう事だ。

「そうか」

貴方達が追跡しているゴブリンは血を流しており、点々と腐臭を放ちながら川ぞいに続いている。

それにしてもこのようにエルフの里の近くまで拠点を…

それもゴブリンごときが略奪でも襲撃でもなく嫌がらせ攻撃といった戦略的な考えを元に拠点を築くとは貴方は聞いたことがない。

ゴブリンスレイヤー なら経験したことはあるのだろうか?

「ゴブリンロードやチャンピオンといった上位種がいるなら可能だ。

だがここまで離れた連中を統率するほどの連携は無い。

恐らくは魔神王の将軍の指示なんだろう」

魔神王、貴方も聞いたことがある巨大で恐ろしい獣らしい。

貴方はゴブリンスレイヤーにいつか魔神王を狩るつもりだと応えた。

…それが人に仇なすならゴブリンも魔神王も同様の獣だと。

その間にゴブリンを狩るのはゴブリンスレイヤーとその仲間しかいない。

貴方は彼に何かを託すべきかという思いが頭をよぎった。

獣を狩り尽くすという使命感、それこそが連盟員であるという事なのだから。

「そうか」

これには貴方方の他のメンバーも呆れ顔だ。

「あーあ、また始まったわ。狩人の大言壮語!

魔神王までゴブリン扱いとはね…」

「はは、まぁそれくらい言わんとな!」

「ふむ、だが狩人殿ならなぜかできそうな気がしますな。

魔神王を狩る、いや並大抵の冒険者では例え法螺でもそこまで吹けませんなぁ」

 

いつもの事だ、貴方が戦ってきた敵はいずれもが強大な力を持っていた。

悪夢を見て勝つ、それだけがここでもあそこでも地下でも貴方が取るべき道だ。

獣狩りが終わる時が来るまで狩り続ける、だが終わりなど本当にあるのだろうか?

貴方達が血を辿って捜索していると、そこにはゴブリンの死体があった。

散弾が動脈を貫通し、失血死したらしい。

「向こうだ」

どうやらゴブリンの巣があると思わしき方向に逃げていたらしく貴方達は警戒しつつ前進する。

貴方達はすぐに前方にゴブリンの巣を発見した、外には見張りもいない。

「いつものやり方で行く」

ゴブリンスレイヤー は前と同じ方法で巣を潰すと言い、貴方達も同様に散開しようとする。

すると巣の中から凄まじい咆哮が聞こえた!

ドスンドスンという音とともに巣の中から何かがでてくる!

「Guoaaaaa!」

!ホブゴブリンの群れが襲いかかってきた!

だが貴方達は慌てない、すぐにゴブリンスレイヤーと貴方そして女神官が次々と銃弾を発射する。

パンパンと乾いた音が響くとまず先頭のホブゴブリンがひっくり返った。

女神官の銃弾が頭蓋に命中し、脳髄を後方のゴブリンどもに浴びせかける。

貴方達二人も散弾を途切れる事なく発射し、連中を巣穴の中に押し戻す。

今回は数を生かせない通路に篭ったゴブリンの負けだ。

「この!くそゴブリンども!」

妖精弓手も射撃戦に参加し次々と矢を貴方方に襲いかかろうとするゴブリンどもに浴びせかける。

「前はいい、後ろのゴブリンを警戒してくれ」

「よしわかった!」

「任されよ!」

…!見れば闇夜の中で貴方方の後ろからゴブリンが攻めかけようとしていた!

敵の奇襲攻撃だ!だが肝心の巣穴の正面兵力が潰されている状況では後方のゴブリン達の目論見は失敗した。

「投げたら穴に聖壁だ、狩人と妖精弓手は後方のゴブリン!」

「は、はい!」

夢中になって装填発射を繰り返していた女神官は装備していた油壺を投げ込んだ。

ゴブリンスレイヤー も油壺と火炎瓶を投げ込み巣の中を火の海にする。

「聖壁!」

女神官はこの巣穴に蓋をした、これで正面からの攻撃は火と聖壁で防げるだろう。

中のホブゴブリンも破ろうとするが、火で炙られ亜硫酸ガスが充満していては力を出せないようだ。

ゴブリンスレイヤー に指示を受けて貴方と妖精弓手は後方から奇襲してきたゴブリンの迎撃に当たった。

「狩人!右を殺るわ!あんたは左!」

右にはゴブリンが6匹、左には8匹が残っている。

蜥蜴僧侶は竜牙兵を一体召喚し左の援護に向かわせてくれているようだ。

貴方は散弾を発射し、音と衝撃でゴブリンどもをまとめて怯ませる。

「Guge!」「Gugayaaa!」

足を止めたのが運のツキとばかりに貴方は炉に火を入れた爆発金槌を集団の中心に振り下ろす。

大爆発と共に地面が弾け、ゴブリンどもを一気に吹き飛ばす。

「やるわね!ほらこれで10匹目!」

妖精弓手は本日10匹目のゴブリンを倒した。

貴方は何匹倒したのだろうか?まぁどうでもいいことではないか。

鉱人導師も蜥蜴僧侶も向かってきたゴブリンを手早く倒している…

なるほど、彼らもまた銀級冒険者なのだ。

…ゴブリンスレイヤーは聖壁が有効な間に洞窟の入り口を完全に封鎖しろと貴方に注文したので貴方は洞窟入り口を崩してゴブリンどもを生き埋めにした。

毒ガスに苦しみながら貴方に憎しみの目を向けるゴブリンと目があった。

貴方は暗く澱んだ目を見た、実に穢らわしい獣の目だ。

蕩けた目をした獣よりもずっと喜んで殺せる。

夜が明けることまでに貴方方は一夜に二つのゴブリンの巣を潰した。

いずれもがホブゴブリンの存在が多数確認できたが…

「頭脳労働負担のシャーマンがいない、まだ本命の巣穴は他にある」

ゴブリンスレイヤー によればあれらは単なる一時的な巣穴。

いわば前線基地のような物に過ぎなかったらしい。

「少し休んだら、探索する」

だが本命が見つかるだろうか?

「前線を二つ潰した、いくら連中が馬鹿でも仕事をサボっていないかどうかくらい確認の目を夜になったら寄越す。

そいつをつけて本命を叩く」

彼はゴブリンを憎んでいる、良い事だ。

だが同時に不安にもなる、憎しみだけで動き守るべき物がなくなればそこには狂気しか残らないだろう。

貴方達はゴブリン穴を潰し、畑を荒らすゴブリンどもの一部を討伐した。

お陰で他の場所を襲ってきたゴブリンを始末できたとは昨夜に警戒の番をしていた里の戦士だ。

昨夜はかなりの数のゴブリンがあちこちに嫌がらせの攻撃をしてきたが、一箇所としての最大の戦果は貴方達が挙げた。

昨晩だけで50以上のゴブリンを始末できたようだ。

「ふあーあ…それにしても一晩中ゴブリンの相手なんてサイテーね」

だが流石に皆疲れて眠そうだ。

ゴブリンスレイヤーはというと貴方達には休んでくれと指示したが、自分は捜索に出ると言った。

「俺は捜索に行く、皆は休め」

だが貴方は同行しようと提案した。

「…わかった」

もともと貴方は夢を見る、夢の中で眠ることなどあるのだろうか?

「待ってください!私も行きます」

疲れた体で女神官が立ち上がるが彼は押しとどめる。

「体調管理も重要だ」

貴方は女神官に伝えた、本当に貴方達はまだ疲れておらず昼間は敵も眠りこけている。

単に偵察で済ますだけだと。

 

「わかりました、でも絶対に無理して戦おうとしないでくださいね!」

勿論だ、無理して戦うなど…




無理しては戦わない(単独で全滅させないとは言ってない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

貴方とゴブリンスレイヤーは朝日が昇ると共に出発し、他のエルフの里に襲撃してきたゴブリンの痕跡を辿った。

貴方方は里の戦士達が射殺したゴブリンどもの死骸があった場所までやってきた。

見ればそこかしこに血の跡がある。

恐らくは射殺されたゴブリンのものだろう。

足跡は反撃に慌てふためいた連中のものなのだろう。

彼らによればゴブリンスレイヤーと同様の手段で里周辺の巣穴を数多く潰したらしい。

「これだけの規模の襲撃で囚われた女がいないのは珍しい」

彼によればゴブリンどもは繁殖のために人間やエルフの女を孕み袋として巣穴においておく。

それが無いのはつまりはどれも分巣でしかなく、それを潰さなければいくらでも湧いてくるということだ。

エルフの里の戦士達は優秀な斥候でもあるが、数の少なさから里を長くは離れられない。

本巣から分巣への兵力補給は恐らくは夜間に行われているのだろう。

故に貴方方二人が昼間のうちにできるだけ本拠地の割り出しを済ませておこうという考えだ。

 

「大丈夫だ」

貴方は彼を気遣うが問題はないようだ、それにしても彼はなぜこれほどまでにゴブリン狩りに執念を燃やすのか。

…大方の想像はつく、聞かないでおこう。

貴方方は無言のうちに昨晩のゴブリンの襲撃経路と襲撃地点を纏めた地図を作成した。

襲撃してくる方向はバラバラだが、ゴブリンスレイヤー には何か考えがあるようだ。

 

「北東から調べる」

彼によれば分巣は北東の方向に集中していることが多かった、故に北東の巣を調べれば何か痕跡がわかるかもしれないということだ。

貴方方はまずは北東の巣を調べに移動した。

…それにしても話さない二人だ。

貴方方は二人揃って北東の巣を調べにやってきた、どの巣も既にエルフの戦士達によって焼き払われ全滅している。

巣には周辺で殺されたゴブリンの死骸が投げ込まれ、焼き払われ埋められている。

墓穴というよりは生ゴミ捨て場と言ったところだろう。

貴方方は捜索したが最初の巣の周辺では何も目ぼしいものを見つけられなかった。

「他の巣を調べる」

だが彼はまだ続ける気のようだ。

貴方は気になった、そういえばゴブリンスレイヤーはあの赤毛の娘と婚約しているのかと。

「幼馴染みだ。なぜ?」

傍目からすれば夫婦のようにも見えたが?まぁいい。

貴方はゴブリンスレイヤー にある古狩人の話をした。

獣を憎み、妻を愛し、娘を慈しんだ強い神父だった。

だが守るものを失った彼は狂気へと囚われ遂には慈しむものを守れなくなってしまった。

貴方は彼に神父のようにはなるなと警告した。

ゴブリンを憎むのは良い、復讐も殺意も尊いものだ。

だが守るべきもの、帰るべき場所を失ってしまえば人は弱くなる。

そうなってからでは遅いと貴方は彼に警告した。

「…そうか…そうだな…だがゴブリンは村を滅ぼす」

わかっている、一人の力などたかが知れている…

古き時代、助言者は民の中に獣狩りの狩人を募ったという…

狩人達が真に英雄だった時代の話だ。

「助言者…か。俺にできるだろうか?」

無論、彼とて最初から英雄ではなかったし強くもなかった。

 

貴方方は他の巣の跡までやってきた…

貴方は獣臭い匂いを感じ取った!

咄嗟にゴブリンスレイヤーに身を隠すようハンドサインを送る。

貴方方が見ていると森の向こうからゴブリンが姿を現した。

貴方方は姿を隠しながら様子を伺う。

「Gua!?Gugagga!」

…ゴブリンは焼けた巣穴を見ながら狼狽えたようにあたりをうろうろしているが暫くして諦めたように元来た道を引き返し始めた。

「後をつける」

貴方とゴブリンスレイヤーは偵察ゴブリンの後をつけ始めた。

…貴方方が暫く奴の後をつけると森を抜け、崖の方へとやってきた。

この辺りに奴らの巣があるというのだろうか…ゴブリンはあたりをキョロキョロと見渡すと崖道を伝って小さな滝の裏に入っていった。

「滝の裏に入り口か…あそこが奴らの本拠地というわけだな」

前の砦の時にはあからさまに見張りを置いて感づかれたのを警戒し、今度はカモフラージュの容易な滝の裏の洞窟に本拠地を構えたというわけだ。

貴方方はさてどう攻め込んだものかと思案した。

最大の難点は人質の有無だが…

「…一度戻る」

貴方方は一度戻り、装備と休息をとって態勢を整えてから本格的に拠点を襲撃することにした。

…!

いやどうやら時間は無いようだ。

貴方方の目には何かが引きずり出されていくのが目に映った。

女性が外に引きずり出されている!

全身に青痣を作り痛々しい姿の女性が外に引きずり出されてきた。

ゴブリンどもは弱々しく抵抗する女性の髪を掴み引きずり回している。

ゴブリンどもは何かを嘲るようにしながら喚き、石で彼女の後頭部を殴りつけると彼女を滝壺に突き落とした!

「あぁぁぁ!」

彼女は悲鳴を上げながら落ちていき…そして浮かんでこなかった。

うっすらと赤い血が川に混じったがそれもすぐに消え、ゴブリンどもはその様子をケタケタ笑いながら見ていた。

既に追跡に時間を取り、日は傾きつつある、

もうすぐゴブリンの時間帯だ。

だがそれは同時にもうすぐ夕暮れ、襲撃の機会ということだ。

「すまん、手遅れになる…俺は行く」

 

…やはりケダモノ狩りか。すぐに出発するんだな?貴方は同行するだろう。

「いいのか?」

貴方は獣狩りは慣れている、地下は慣れすぎていると答え同行することにした。

「すまん…狼煙を上げる」

貴方方は人質の女性が手遅れにならないうちにゴブリンを殲滅しながら巣に突入する事に決定した。

ゴブリンスレイヤーは何かの脂をそこらの枯れ木にかけて燃やし始めた。

…里には見張りが絶えない、必ず誰か気づくだろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

ある小鬼退治の聖女の格言
『45口径こそ万民のための奇跡』
『夫に小銃を、妻に散弾銃を、子供達には拳銃を』
『右手に聖書を、左手に銃を』
『地母神の愛を人に、銃弾はゴブリンに』
『45口径、これこそ地母神の小さな慈悲』
『信仰は銃口より生まれる』
これには地母神様もにっこり
オメーさては全米ライフル協会の回し者だな?


貴方とゴブリンスレイヤーは銃を構えながら並列になって隠された入り口の方に警戒しながら近づいた。

「水がある、匂いは誤魔化せる」

滝の裏に入口がある、ここに関しては流れる水のおかげでゴブリンの嗅覚もだいぶ誤魔化せるだろう。

ゴブリンどもは表立っては歩哨を立たせていないようだが滝の入り口には誰かがいると考えて行動すべきだろう。

貴方達は考えて…

貴方達はまずは手鏡で死角にゴブリンがいないかどうかそっと確認する事にした。

…いた!2匹のゴブリンが入り口で警戒に当たっている…

鏡には気づいていないようだが流石に攻撃しようとすれば気づくだろう。

とはいえ夕暮れという事でゴブリンどもは眠そうだ。

恐らくは一晩中警戒を押し付けられて疲れているのだろう。

時間は無い、夜になれば中のゴブリンどもも起き始めるだろう。

貴方方は事前の打ち合わせ通り、人質を救出したらすぐに脱出するという計画のもとに行動する事にした。

…貴方とゴブリンスレイヤーは音もなく物陰のゴブリンのすぐそばまで忍び寄った。

警戒されて大声を張り上げられたら人質の命が危なくなる。

貴方方は目配せをしてナイフでゴブリンに襲い掛かった。

貴方の振るったナイフがゴブリンの喉を裂くと一瞬でゴブリンは倒れた。

ゴブリンスレイヤーも手馴れた腕前でゴブリンを一瞬で仕留めたようだ。

貴方方は素早く音もなくゴブリンを始末した、多少の物音は滝の音で掻き消してくれるだろう。

死体は見られると困るので滝に突き落とした。

貴方方は武器を構えると洞窟の中に侵入していった。

お互いに前後をカバーし、奇襲を警戒している。

ゴブリンスレイヤーの銃に込められた鉛の散弾は皮鎧すら来ていないゴブリン相手なら十分すぎる威力だ。

貴方方が暫く洞窟を警戒しながら進んでいくと道が二つに分かれていた。

ゴブリンスレイヤーは床を見ると左を示した。

…何か大きなものが引きずられた後だ、恐らくはあの悪戯に殺された女性のものだろう。

真新しい血痕が匂い立つ、引きずられながら嬲られたのだろう…

…貴方は同時に右側からの道に時限爆発瓶と油壺、火炎瓶を紐で仕掛けた。

不注意に紐に引っかかればドカンといく罠だ。

ゴブリンスレイヤーは奇妙な種を蒔いている。

乾かしたハマビシの種だ、素足で踏むと痛そうだ。

鉄で作ったマキビシの方が効果は高いが、重いのであまり使えないらしい。

目線でゴブリンスレイヤーに終わったと伝え貴方達は速やかに女性達が捕まっていると思われる方向に進んだ。

進むにつれて匂いが酷くなっていく、ゴブリンどもはゴミをわざわざ外に捨てに行かないらしい。エルフの少女もそうだが、ゴミ捨て場で盛るとはどういう神経をしているのだろうか?

貴方達は目配せをすると警戒しながら進んでいく…

!前方にひどい臭いのするゴブリンどもが蠢いている…

「いやぁ…」「もうやめてぇ…」

裸の女性に覆いかぶさって彼女達を犯しているゴブリンどもだ。

貴方達にはまだ気づいていない、6匹いる…

ハンドサインで貴方は右側の3匹を、ゴブリンスレイヤーは左の3匹をやるつもりらしい。

目配せと同時に貴方達は足音を殺しながら近づきゴブリンどもに奇襲をかけた!

貴方が軽く振った爆発金槌は爆発こそしなかったものの一撃でゴブリン2匹を片付け更に返す一撃でもう1匹を仕留めた。

ゴブリンスレイヤーは右手のショートソードとナイフを女性を犯す事に夢中になっているゴブリンを刺し殺し、更に手を離すとそのまま籠手で1匹を殴り殺した!

武器を抜く暇すら惜しんで確実に殺す職人技である。

「うぅ…」「あぁ…」

女性達は4人いた、皆呆然としている…

「歩けるか?」

ゴブリンスレイヤーは呆然としている女性達を縛っていた縄を切って声を掛ける。

それぞれに体力回復のポーションまで飲ませてやったようだ。

その間貴方は残ったゴブリンがいないか、または通路から増援が来ないか銃を向け警戒している。「ポーションを飲ませた。二人は冒険者でなんとか歩ける、残りは無理だ。」

貴方達は女性4人を抱えて脱出する事にした。

「ありがとう…あいつら、突然馬車を襲ってきて…」

貴方が抱えた少女は商人の娘だ、馬車が襲われて家族が殺され少女は慰み者としてゴブリンに慰み者になっていたらしい。

やつれ果ててはいるがようやく10台半ばといったところだろう。

…貴方は今は心を殺し救出に専念する事にした。

…貴方達が進んでいくと前方からギャイギャイと喧しく騒ぐゴブリンどもの声が聞こえてくる。

どうやら残りがお目覚めのようで、朝立ちを鎮めようと女性達の方に来るつもりだったらしい。

だがゴブリンスレイヤーが蒔いておいたハマビシを踏んづけて先頭がイラついているらしい。

それを押しのけてゴブリンどもが進むと今度は貴方の仕掛けておいた仕掛け爆弾に引っかかり爆風と炎で洞窟内に大音響が響き渡る。

「急ぐぞ、見つかった」

貴方方はそれぞれ女性を先導し走り出す、炎は燃え盛るがそんなに長くは持たないだろう。

…貴方方は分かれ道の場所まで戻ってきた。

ゴブリン達が道を塞ぐ炎を消そうと躍起になっている。

「ゴブリンシャーマン!」

炎の向こうにはゴブリンシャーマンの姿が見えた!

何か魔法を使ってこられると回避できない女性がいる以上まずい。

ゴブリンスレイヤーが叫ぶと同時に貴方達二人は散弾銃をぶっ放した。

「ぐゲェ!」

何匹かのゴブリンとシャーマンに命中し、もんどり打ってのたうつ。

「走れ!」

貴方達は息の上がる女性達に構わず囃し立てる。

貴方達ならともかく女性達では戦闘で死ぬかもしれない。

…貴方はゴブリンスレイヤーに女性達を先導して貴方自身が殿になって後退すると伝えた。

「外に出たら、巣を潰す。それまで持ちこたえてくれ」

どのような手段かはわからないが、貴方は了承した。

ゴブリンスレイヤーは貴方から女性を受け取ると二人を担いで走っていく。

その間にも炎を避けて突破してきたゴブリン達が女を取られたという怒りに任せて突撃してくる。愚かな獣だ、貴方は散弾銃を発射すると散弾がゴブリンのあちこちに突き刺さりその足を鈍らせる。

炉に火を入れた貴方は金槌を思いっきり振り下ろし速度の鈍ったゴブリンに振り下ろす。

爆発音と共にゴブリンが数匹弾け飛び、更にその残骸が砲弾の破片のように後続のゴブリンにも突き刺さる。

「Gueeeee!」「Gugagaaa!」

破裂したゴブリンの骨や歯がまるで銃弾のように突き刺さって多くのゴブリンが痛みに悶え苦しむ。

こいつらは…弱い。

ヤーナムの獣の足元にも及ばない。

連中は狂気に支配されていても、それを補って余りある闘争本能があった。

こいつらにあるのは愚かな過信だけだ、実に容易い獲物だ。

餌をちらつかせ自分たちが優位だと思わせれば狩場に簡単に出てくる。

獣ほど速くもない、鋭くなく、強くもなく、頑健でも好戦的でもない。

…そして本物の狩人ほど狡猾でもない。

数と不意打ちが得意なだけの狩人気取りの愚か者に過ぎないのだ

ならば過剰に恐れることなどない。

…闇の中から貴方めがけて魔法の矢『ファイヤーアロー』が飛んできた!

貴方はそれを手近なゴブリンの死体を突き刺すとゴブリンの盾で防いだ!

威力でも速さでもヤーナムではこの程度の神秘は通じない。

…どうやら闇に紛れてゴブリンシャーマンが魔法を打ってきたようだ。

貴方はお返しにとまた散弾銃を適当にぶっ放した。

暗闇の奥からまた打たれたゴブリンの悲鳴が聞こえる。

貴方は後退しながら時に散弾銃を撃ち、時に爆発金槌を振って岩の散弾を発射した。

洞窟の中はゴブリンの天下だと?

残念ながら岩で出来た洞窟というのは貴方に無限の銃弾を与えたようなものだ。

貴方は手近な出っ張りの岩を爆発金槌で叩いて追いすがるゴブリンどもにお見舞いし続けてやった。

単なる岩とはいえ200kmを超える速度で飛来すればゴブリンの頭蓋を熟れたトマトみたいに破壊する程度は簡単。

人が投げた野球のボールですら人は死ぬのだ。

「出た!」

出口からはゴブリンスレイヤーが脱出したことを知らせてきたので貴方も走って脱出した。

貴方が脱出すると更に中からは無数のゴブリンがまだ追いかけてくる。

「離れていろ」

そういうとゴブリンスレイヤーは巻物を取り出し、入り口に向かって掲げた。

…瞬時に大量の水が凄まじい勢いで噴出し、向かってきたホブ・シャーマン・更にはチャンピオンといったゴブリンどもがバラバラになりながら押し流されていく。

「転移の巻物だ、海底と繋いである、前の砦の時に使い損なったからな…」

彼の柔軟さには舌を巻くしかない。

貴方達はゴブリンどもの本拠地を叩き潰し、4人の女性を救出した。

「…だが一人救えなかった」

彼は優しい人間だ、まだ気にしている。

貴方は彼の決断が4人の女性を救ったのだと言い、それは誰にでもできるものではないと言った。

どんな英雄でも、一人の手は長くはならないのだ。

「…そうか」

彼は黙り込んでいる、きっと何か思うところがあるのだろう。




ゴブ「でかいハンマーとか狭い洞窟でばかゴブねー」
狩人「オラオラオラオラオラー!無限脳筋散弾銃!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

狩人「ゴブスレ結婚するってよ(俺の助言のせいで」
ヒロイン一同『ファッ?』
牛飼娘『大勝利!』

作者さんも言ってたけど
やっぱナイフの刃すら研がないゴブリンに銃の管理は無理っぽいね。
たとえ奪ったり盗んでも練習する弾なさそうだし

Bloodborne TRPG

貴方が一瞬目にした月魔物ちゃんの容姿は
1:ゲーム通りだ
2:人間の女性だ

1を考えた人に1D100のSAN値チェックかつ啓蒙+1
2を考えた人は啓蒙+10かつその姿を叫び、月の魔物への祈りを捧げる

このTRPGはミコラーシュ叫びが前提となっております
うあああああああああああああ!
恥ずかしがって叫ばないとSAN値がどんどん減っていくTRPGとかどうだろう


…貴方方は森人の里を襲うゴブリン軍団を殲滅した。

女性達を保護してから暫くすると里の方向から貴方の仲間達と戦士達が駆けつけてきた。

彼は狼煙をゴブリンの巣を見つけたら焚いて応援を待つ予定だったようだ。

狼煙はゴブリンに発見される恐れもあり、基本的に緊急事態以外は使わないということだった。

貴方方は4人の女性のうち傷が深い者には女神官の奇跡『小治癒』をかけてもらった。

彼女達は女神官に感謝しているが、心の傷までは治せない。

あの後、たった二人でゴブリンの大規模な拠点に突入し更に殲滅したことを咎められた。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!だからあれほどまでに単独で突入しないでって言ったでしょう!」

 

貴方はゴブリンスレイヤーに怒る女神官を宥めた。

いや、一度は戻ろうとしたのだがもし戻って時間がかかったら更に女性達が死んでしまっていたかもしれないのだ。

 

「わかってます…今回はそうしなきゃならなかったって…

でも本当に貴方が死んでしまったら元も子もないんですから…」

うっすらと涙目になる女神官。

本当に彼女がゴブリンスレイヤーをとても気遣っているのが伺える。

…貴方は?

 

「あっ、えっと…狩人さんもちゃんと心配しましたよ」

 

…ああ、うん。

 

「ちょっとーオルクボルグも狩人もあんだけ言っといて自分たちで突っ走るってどういう気よ…

まぁ今回は仕方ないけど…

で、ちゃんとゴブリンどもは皆殺しにしたんでしょうね?」

 

妖精弓手も例の一件以来ゴブリンには一切の情け容赦のないゴブリンハンターと化したらしい。

彼女は弓に優れ、無慈悲で、血に酔っている。

良い妖精だ。

ゴブリンスレイヤーの奇策は成功した。

かなり大型の滝裏洞窟だったが今は完全に水没し洗い流されたと説明した。

とはいえゴブリンスレイヤーは念の為に抜け道などが無いかどうか調べるつもりらしい。

 

「巣を丸ごと洗い流すとは、カミキリ丸はやることが大胆じゃのう!」

 

「いやはや、小鬼殺しの技がかくも豪快だったとは。

拙僧も見習いたいものですな」

 

鉱人導師と蜥蜴僧侶は転移の巻物で海水を発射するというのはゴブリンスレイヤーの機転に感心している。

貴方達は里のエルフ達に頼んで捕虜となっていた只人4人の世話を見てくれないかと頼み込んだ。

里の者はこれ以上見知らぬ只人を里に入れることを渋っているが…

 

「ねぇ、これは私達の仕事でもあるのよ。

今は銀級冒険者の妖精弓手、冒険者の正当な要請を受け入れるのが依頼のスジってもんでしょ。

それとも上の森人は傷ついた女性の面倒を見ることも嫌って言うくらい狭量だって言われたいの?」

 

妖精弓手が彼らを説得し、治療と療養のために里の術師を回すように手配させた。

貴方方も完全には…というわけでは無いが森人の里、妖精弓手の実家で歓待されることになった。

貴方達は流石に人様の家に上り込むわけにはいかない、妖精弓手は実家だから別に構わないと言ったが。

 

「いいのいいの!とうとう忌々しいゴブリンどもを殲滅できたんだから、お祝いよ!

ほら、オルクボルグも兜脱いで!脱いで!

まさか雇い主の前で顔を隠したままにはいかないわよね」

 

「雇い主?」

 

「そうよ、今回の里から冒険者ギルドへの依頼料は森人女王からのよ。

つまりウチのお母さんってこと」

 

「ええ!妖精弓手さんのお母さんって女王様だったんですか?」

 

「なんじゃい、ああそうか。お前さんがたには説明しとらんかったか。

まぁこのお転婆ぶりで王族というのはかなり無理があったからのう」

 

「そういえば拙僧らも気にしたことはありませんでしたな」

 

貴方の仲間達も彼女の素性には様々なリアクションを返すが、そんな姫君がなぜ冒険者をやっているのだろうか。

 

「そりゃ言ったでしょ冒険のためって、お屋敷で傅かれて生活するなんて私には耐えられないし」

 

…面倒くさい妖精だ、貴方は無邪気な感想に苦笑した。

 

貴方達は妖精弓手の実家でもある王宮で歓待を受けた。

王宮といっても只人の王や陰気なばかりのカインハーストの城とは全く異なる巨大なツリーハウスであり館と形容する方が正しいのだろうか。

貴方方は館で手厚く歓待を受けた。

妖精弓手の母上は素晴らしかった、太陽の光の王女と張り合えるくらい素晴らしかった。

一方で貴方は妖精弓手の持ち物を見た…啓蒙が1下がった!

 

(狩人…後で覚えときなさいよ…)

 

上座に座っている妖精弓手から何か殺意を感じる!

だが彼女もいつもの狩の装備ではなく肌を露出させた森人女性の正装を纏っている。

非常に美しいのだろう、元は良いのだから黙ってさえいればいいのに。

貴方方は娘が日頃から世話になっているという女王からの感謝の言葉を受けた。

正直に言えばまだ幼い彼女が冒険者となることに両親姉に支えてくれた使用人に里長まで大反対だったらしい。

貴方達は手厚い食事会を終えて早めに休むことにした。

ゴブリン掃討、確認、更に戻った時点で既に夜遅くといった点で貴方方は疲労している。

・貴方とゴブリンスレイヤーは館の使用人にコップ2杯の暖かなエルクの乳をもらった。

エルフの家畜らしい、優しい味のミルクだ。

啓蒙が上がった!

…機動力を増す為に馬を買うのはどうだろうか、それと犬も。

貴方とゴブリンスレイヤーは他の仲間達がそれぞれ部屋で休む中、広間で少し夜更かししていた。

貴方とゴブリンスレイヤーは狩の成果について話している。

 

「…結婚しようと思う」

 

!?!?!?

貴方は突然ゴブリンスレイヤーに結婚について相談された。

訳がわからない、啓蒙が深まった。

ああ、ゴース…あるいはゴスム…

 

「今すぐという訳じゃない…だがあれから考えた…

俺の戦う理由に家族を加えるのも悪くないと…」

 

相手は例の牧場の幼馴染かと問うと

 

「ああ」

 

なるほど、つまり何もおかしくは無い。

つまり神父と同じである、だが彼は聞けば20歳だ。

銀級冒険者でもあるのだから結婚し、もう子供がいてもおかしくは無い。

むしろ今の状況がおかしかった。

格好もやってることもおかしい、だがあまりにも長い異常事態だった。

 

「…俺の将来のことまで分かる訳じゃない…

だが言われて考えた…これは俺とゴブリンどもとの戦争だ…

簡単には終わらないだろう…

だが俺が倒れても俺の子孫達が遺志を継いでくれる、そう考えてる…」

 

なるほど彼の長期的計画はゴブリンスレイヤーからゴブリンスレイヤーズ一族へと変化するものであった。

ゴブリンスレイから離れるわけにはいかないのが辛いところだろう。

子育てはゴブリン退治よりも厳しい道かとも思えるが彼には頑張ってほしい。

こればかりは連盟の同志達も無力だろう。

 

「身勝手だと思うか?」

 

貴方は思うと答えた、だが自分が始めた事業を子供に成し遂げて欲しいと感じるのは誰でも同じではないだろうか?

どのような選択をしたとしてもそれは彼の選択だ、誰の物でもないしケチのつけようが無い。

 

「そうか」

 

…そういえばよく物語で怪物を退治する何々一族とかいう表現がよくある。

特に人型で長命な吸血鬼相手だと『数百年に渡る一族の因縁のー』

とかいう口上が出たり

相手の吸血鬼も吸血鬼で『お前は奴に似ているな、やはり子孫かー』

とかいう設定があるが、そんな奇特な一族に嫁ぐ女性がよくいるものだと貴方は感心したことがある。

宿命の一族とかよく断絶せずに続くな、とか思ったりする。

 

「…金が必要だ」

 

なるほど、至極もっともな話である。

彼女は今は叔父の家にいるらしい…要するに結納金とか新居の金とかそういう感じのものである。

…確かにゴブリン狩りでは金は貯まらないだろう。

しかも彼は確実な狩りの為に装備や資材を消費せざるを得ないことが多い。

「そうだな、だがそれでもこの復讐をやめる気は無い。

彼女のためにも、俺のためにも、人々の為にも、そして姉さんの為にも…

やめるわけにはいかないんだ…」

 

「復讐」なんかをして、失った姉が戻るわけではないと知った風な事を言う者もいるだろう。

許すことが大切なんだという者もいる。

だが、自分の肉親をゴミみたいに犯され殺され、

その事を無理矢理忘れて生活するなんて人生は

彼はまっぴらごめんだろう。

彼にはその覚悟がある!!

「復讐」とは、自分の運命への決着をつけるためにあるッ!

そして今彼は復讐への想いを更に強く高貴な物へと昇華させた!

なんと素晴らしい人間だろうか。

人は強くなれる、自分のために戦うやつは弱い。

自分の為だからいつでも投げ出せる、いつでも止められる。

他人の為に、誰かの為に命をかけられるやつは強い。

彼は更に狡猾で強くなれるだろう。

 




ゴブスレ「俺、このゴブリンの大規模レイドを生き抜いたら結婚するんだ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

月の魔物ちゃん「お母さんに早く孫の顔を見せて欲しいわぁ」

妖精弓手「いい?毒攻めも火攻めも水攻めも爆薬も生き埋めも圧殺もなし!
私が血に塗れるのも臭くなるのも無し!
それから私が気持ち悪くなくて、むしろ気持ちよく笑顔になれること!
それからそれから…」

狩人「滅茶苦茶言うなこいつ…そうだ!
上の条件を全部満たしながら冒険に貢献できる策があるけどヤル?」

妖精弓手「本当?やるやる!」

狩人は策をヤリまくった。

100年後
受付嬢4世(少しエルフ耳、仕込み杖+短銃)
「あ、ゴブリンスレイヤーさん!」
ゴブスレ4世(少しエルフ耳)
「ゴブリン狩だ」(ノコギリ鉈+散弾銃)
女神官4世(やっぱり少しエルフ耳)
「あっ!すぐ支度しますね!」(レイテルパラッシュ+エヴェリン)
妖精弓手二世(まだエルフ耳)
「ほら、今年生まれた双子の写真よ。こっちは去年生まれた妹達で、こっちが一昨年ので…
父さんも母さんも飽きもせず100年間毎年よくやるわよねぇ」(シモンの弓剣+貫通銃)
勇者ちゃん4世(少しエルフ耳)
「任せといてよ!オーガなんてちゃっちゃとやっつけちゃうから!」
(ルドウイークの聖剣+ルドウイークの長銃)
剣の乙女4世(そこそこエルフ耳)
「ゴブリンスレイヤーさん…」(月光の聖剣+ロスマリヌス)
めっちゃ仲良し夫婦やないけ
そして確かに条件は全て満たしている。
こうして月の魔物の血族は西部で大繁殖した。
めでたしめでたし


貴方方ゴブリン狩り一行は朝日が昇ると共に再び街に戻ることにした。

ゴブリンスレイヤーはその足で幼馴染の牧場に行くことになったらしい。

貴方は彼に硬貨の詰まった袋を渡した。

「すまん、必ず返す」

貴方はご祝儀なので返す必要はないと伝えた。

それにどうせ殆ど牧場の守りの備えに使うのだろう、貴方にしても美味しいチーズの供給源がなくなるのは困る。

「狩人さんって現世でのお金に頓着しないんですね、良いことですよ」

女神官が貴方を褒め称えてくる、こういう時は遠回しに教会に寄付を求められているのだ。

最近貴方の新弟子は黒くなってはいないだろうか?

白い神官服が眩しいが、中身はだんだん赤黒く染まっている気がする。

兎にも角にも貴方は彼にヤーナムの硬貨を渡した。

雑多な硬貨だがとりあえずの結納金くらいにはなるだろう。

ちなみに結納金はやはりそのまま牧場の防衛強化に消える模様。

それにしても金である。

貴方は金を特に必要としないが、世間では物を言うのは金である。

金、それもポンドでもドルでもなく金銀銅のコインである。

なぜコインなのだろう、紙幣では駄目なのだろうかと思ったが

戦時中のこのご時世で紙幣乱発なんかしたら

インフレで魔神王が攻めて来る前に国家崩壊の危機になる気がする。

…そもそもなぜヤーナムには常駐して市民を守る保安官的な狩人が少なかったのだろうか。

皆狩りによっているからである。

冒険者は冒険に酔い、狩人は血の酔う。

具体的にいうと冒険者は金がないと動かないし、農村に金は無い。

つまりはそういうことである。

結論、もっと狩人が必要だ。

その為には…

…そういえば狩人たちはどこからあれだけの武器装備を調達する資金源を得ていたんだろうか…

輸血袋…常習性…

貴方は医療教会のマフィアめいた暗黒面に触れた。

もっともマフィアの方が人道的な気がする…

…貴方方は街に帰ってきた。

パーティーメンバーはそれぞれの用事を済ます為に街のあちこちに出かけるようだ。

ゴブリンスレイヤーは牧場の防備のための装備や物資の調達に。

女神官は神殿に顔を出しに。

妖精弓手は買い物に。

鉱人導師は酒場に。

蜥蜴僧侶は食べ歩き。

貴方はどうしようか…

『ただ獣を狩ればいい、結局はそれが目的に敵う…』

貴方は助言者の助言を思い出した。

貴方は獣狩りだ、獣を狩る。

それ以外を考える必要はない。

そもそも彼らとはたまたま依頼で二回パーティーを組んだだけだ。

というわけで貴方はギルドにやってきた、ソロだろうがマルチだろうが構わない。

貴方は勢いよく扉を開けて獣狩りを始める気分でギルドにやってきた。

「ひっ!か、狩人さん。いい天気ですね…(震え声」

獣はどこだ、獣狩りの夜を始めよう。

「えっ?でも先のゴブリン退治が終わったばかりじゃ…

あ、いえそうですね。何でもないです。

でも今の所狩人さんが気に入りそうな案件はありませんよ」

何ということだろう、獣がいないとは…

そういえば受付嬢はゴブリンスレイヤーが結婚を決意したことは聞いているのだろうか?

披露宴には彼女も招待される予定なのだろう。

「えっ…」

目が光を失った、ヤーナムではありふれた症状だ。

貴方にグイと詰め寄ってくる、鉛の秘薬の時間だ。

今なら絶望的な悪夢の中でのみ物質化するという秘薬がこの受付嬢から採取できそうだ。

「結婚…ゴブリンスレイヤーさんが…今そう言いましたよね」

無明の瞳で貴方を攻める、貴方はあらましを説明した。

「ああ、牛飼い娘さんと…そうかぁ…そうですよね…10年一緒ならそりゃそうですよね。

うふ…うふふふふふ」

何ということだろう狂気の症状だ、医療者にはよくあることだが…

「…もうこうなったら二号でも三号でも…最悪赤ちゃんさえ貰えれば…」

ぶつぶつと何かを呟いている、女性の狂気は恐ろしい!

何とも罪作りな男よ、ゴブリンスレイヤー 。

…ふぅ…危うく受付嬢の狂気に飲み込まれるところだった!

貴方は落ち着いて何か獣狩りの案件が出るまでロビーで落ち着くことにした。

鎮静剤はもううんざりだ、薄気味悪い医療者の真似事で狂気を落ち着かせるのはやめよう。

貴方はミルクを頼んだ。

美味い!これは貴方の好物の牛飼娘の牧場のミルクだ!

貴方の狂気ゲージが下がった!

…学徒がみんな薄気味悪いナメクジになったのはきっと鎮静剤ばっか飲んでたからだろう。

「うふ…うふふふふふふ」

受付嬢は唐突に脳に瞳でも得たかのように笑っている。

「あのーすいません」

貴方は唐突に新人冒険者から話かけられた。

「ほら!あんたの件なんだからあんたが話すのよ!」

「なっ、お前手伝ってくれるって…」

「嫌よ!だって怖いんだもん」

貴方は剣士の少年から相談を受けた。

聞けば、彼は剣を地下下水道で無くし困っているのだという。

地下…死体溜まり…ネズミの大群…赤目犬…赤蜘蛛…ノミ!!

何と悍ましく恐ろしい場所に行ったのだろうかこの少年は。

貴方はよく生きて戻ってこられたなと少年に労いの言葉をかけた。

「えっありがとうございます。

でもドブさらいなんて白磁の仕事ですよ…ハハ」

そんなことはないだろう、あんな恐ろしい場所は滅多にないのだろ貴方は力説した。

溢れかえる死体、死に損ないの亡者、夥しい汚れた獣、カラスにネズミに豚!

「…いや絶対違う下水の事話してません?」

違うのか、そうか…

「ちょっと!本題に入りなさいよ!」

「あ、うん。それで話というのはもし余ってる武器があったら貸してもらえないかなとか思いまして」

?なぜ貴方にだろう?今まで誰か他に頼んだのではないか?

「頼んだんですけど…力に見合ってないとか、そもそも予備がないとか…

俺たち二人で結構頑張ってるんですけどなかなか成果が上がらなくって…

それで受付嬢さんに聞いたら、ゴブリンスレイヤーさんか狩人さんがそういうのは得意じゃないかって…」

貴方は西部辺境最速の昇進スピードの冒険者という事になっている。

なるほど、では貴方から新人戦士にアドバイスすべきだろう。

貴方は…そもそも攻撃を受けなければ良いとアドバイスした。

具体的には…

1:射程の長い武器を使う

2:常に先制して攻撃する

3:囲まれないよう常に幕末戦法

4:相手の動きを覚えて見切る

5:防具などを買って行動不能になる攻撃は防ぐ

 

「それが…お金なくって…」

お金がないので武器も防具も買えないらしい…

それならと貴方は予備のノコギリ鉈を差し出し、使えるかどうか練習場で試させた。

…駄目だ!とても使い物にならない。

「すみません、重すぎるし。動きも複雑すぎて俺にはとても使えません…」

変形を自在に繰り返し、常に相手の虚を突く仕掛け武器だが彼には技量が足りなかったようだ。

実に困った。

…貴方は何かを思いつきそこらへんにあった生木の枝を拾い上げた。

乾かして薪にするものだ。

貴方は彼にそれを渡し、自分で武器を作ってはどうかと提案した。

「え?棍棒…ですか?」

殴打武器は不得意が少なく使い勝手は良い。

貴方は更に彼に力を貸してやることにした。

…貴方は鍛冶屋で使い物にならないクズ釘と革紐、ボロ布を手に入れた。

彼にこれで武器を作るように指示したのだ。

「え…まだ何か?ただの棍棒ですよね」

いいや、それは強化クラブだ。

だがその完成予想図はどこからどう見ても釘バットだった。

貴方は釘を打ったら頭を切り落とし石で尖らして殺傷力を増すように指示した。

殺傷力は上がったが、弄った分耐久性は下がる。

聖女が予備を持つと良いだろう。

更に貴方はスタッフ・スリングを作るように指示した。

棒の先に革を紐で付けた武器だ。

「カッコ悪い…」

相方の新人聖女は不満なようだが、古代では軍隊の正式装備だったこともある。

投石紐に比べて両手が使えて重い石をぶつけられるので下水道のような狭い場所ではそこそこ有効な武器になるだろう。

紐に比べて習熟が容易なのも急ぐ彼らにはちょうど良いと思って勧めたのだが…

「おい!あ、すみません。

でも狩人さんって思ったよりもいい人ですよね…

あ!別に悪い人とか思ってたわけじゃなくって…」

 

新人剣士が貴方への聖女の態度を詫る。

だが気にしないでいいのだ、狩人が恐れられるのは別に珍しいことではないと貴方は伝えた。

むしろそれが当然だった気がする。

貴方は彼に白い丸薬を手渡した。

「毒消し?いいんですか…何から何まですみません…」

新人への先輩からの餞別だ。




強化クラブ
地味にダークソウルシリーズ皆勤
地味に強武器


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

貴方は前途有望な狩人の卵二人が悍ましく冒涜的な下水道へと出発する様を見送ってやった。

彼らはまぁまぁの訓練を受けた、もっぱら釘b…強化クラブとスタッフスリングだが。

 

『まずスリングでも素手でも何かを投げつけて怯ませるか弱らせてから近づいて殺せ』

『できるだけ近づかずに殺せ、人間の長所は物を投げられることだ』

『火は積極的に使え、動物は基本的に火を恐れる。

松明は太くて長い棒を使えば強力な棍棒にもなるし、先を尖らせれば杭になる。(古狩人並』

『空間の広さを常に把握して武器の遠心力が活かせる場所で殺せ。

出来ないなら逃げろ』

『紐やロープはどんな時も使いようだ

足元に張れば相手を転ばせるし、降りたり登るときにも役立つ。

必ず持っておけ』

『状態回復の薬やポーションは必ず持っておけ』

(そういえば何故ポーションとかは飲み薬なのだろう…しかも割れやすいガラス瓶

 

『自分はゴブリン並に非力だと考えろ。

だが非力な人間でも人は殺せる。人がオーガやトロルを殺せるように』

『対等に戦うなど考えるな、一方的に殺せ』

『道具を惜しむな、命を惜しんで殺せ』

『卑怯という言葉は忘れ、冷静に殺せ』

『敵を憎め、獣を憎め、憎んで冷酷に殺せ』

 

狩人の考えは徹底追尾いかに効率よく獲物を殺せるかだ。

このあたりがゴブリンをいかに効率よく殺せるかのみ考えてきたゴブリンスレイヤーと似ている。彼らにみっちりと殺しの業を指示し続けた。

最後に貴方は彼らに火炎瓶を10個与えた。

投げてよし、スリングで打ち出しても良しの大量破壊兵器だ。

…瓶は大きさがあるので投石紐で投げるのは無理だったので投石棒を採用したのもこれが理由である。

古代から城攻めの投石機は火薬や油が詰まった爆弾を発射していたし、別に目新しいことはない。

「はい…殺します、喜んで…ありがとうございます狩人さん」

「ええ、殺しましょう。ほら行きましょう剣士。

…いっぱいいっぱい殺しましょう」

 

剣士も聖女も『あぉ楽しみだなぁ、いひひひひ』『ええ楽しみねぇ、うふふふふ』

など楽しそうな声をしながら武器を持って歩いていく。

 

二人の有望な若者は昏い目をして嬉々として殺しに行った、良い兆候だ。

聖女と剣士はそれぞれ釘b…強化クラブを持ち、血に染めることだろう。

良い冒険者とは狩に優れ、無慈悲で、血に酔っているべきだ。

彼らは良い冒険者になるだろう。

少なくとも貴方はそうだし、ゴブリンスレイヤーも優しい所があるがゴブリンに対してはそうだ。貴方は又しても良い助言者の役割を果たしてしまった、きっと教育者としての才能があるのだ。

 

彼らの冒険に昏い血の加護があらんことを…

 

…貴方は彼らへの教練を終えて練習場のそばの石垣に腰を下ろし、しばし考え事をしていた。

貴方の向こう側では粗末なフードとマントに身を包んだ人物がいる…

フードを深く被り誰にも見られたくないようだ…

控えめに言っても不審な人物である、しかし貴方も今の格好を見れば人の事はそんなに偉そうな事は言えない。

チラと目があった、黒い瞳に黒い髪をした少女だ。

伏目がちで何かに怯えているように見える。

貴方は持ち前の親切心と好奇心を発揮して彼女に話しかけた。

 

「あ…す、すみません。あの…みんなの練習を見てたんです…」

おどおどとした調子が憐憫を誘う、冒険者志望の子供だろうか?

 

「…いえ、いいんです。もう冒険者なんて…」

グゥと少女から音がした。

貴方は彼女に買ってきたサンドウィッチを差し出した。

 

「そんな、いただけませんよ!」

貴方は自分自身は飢えていないから心配するなと伝えた。

 

「う…すみません、実は一昨日から何も食べてなくて」

彼女は食事にむしゃぶりついた、とても良い食べっぷりだ。

 

「あ、すみません。私は『武闘家』です…

あ、でも冒険者はやってないんですけど…

冒険者をやってたんですけど、引退して…

今は街に何か仕事を見つけにきたんです…」

何か良い仕事は見つかったかた訪ねた。

 

「いえ、やっぱり冒険者として受けないとなかなか無いですね…」

 

聞けば日雇い労働も冒険者組合経由で募集しているというが

彼女にはどうしてもギルドに顔を出したくない理由があるらしい。

 

「狩人さんは…不思議な人ですね、何だかお父さんみたいです」

 

貴方はもうお父さんと呼ばれる歳だろうか?

いやまだ余裕がある、せめてお兄さんと呼んでほしいのではないだろうか?

ボソボソと弱気な声で話す少女だ。

 

「あ、…いいえ。はは、おかしいですよね。

何で冒険者がギルドに行くのが嫌かって…」

 

旅姿は薄汚れ、汗と垢と埃が混じった臭気を漂わせている。

お世辞にも年頃の少女がしていい格好ではない。

ちゃんと宿か下宿の世話になっているのだろうか

 

「いえ、宿なら…すみません、とってません。

ずっと野宿してます…」

 

嘘がつけない少女だ…そして貴方は思い出した。

女神官やゴブリンスレイヤーとの話だ、貴方がこの町のギルドに来る前の話だというが…

もしかして女神官と一緒に冒険に出た少女ではないだろうか?

 

「っ!…そ、それは…」

 

貴方は彼女に何をする気にしても今の状態はあまりにも見兼ねる。

まずは休息を取った方が良いと勧めた。

それが嫌なら貴方からお金を借りてでも宿を取るべきだ、さもないと浮浪罪でしょっ引かれかねない。

嫌なら警史を呼んで面倒を見てもらうしかない、そういう決まりだ。

 

「う…わかりました、お邪魔します」

貴方は少女を連れてやってきた。

城壁の外で貴方が借りている家だ、そこそこの広さのある家だったが場所が墓地のすぐ近くということで安かった。

どこか狩人の隠れ家に似た、とても安らぐ家だ。

 

「…私の仲間だった魔術師がここに眠ってるんです」

 

どうやら彼女の冒険仲間の一人がここで眠っているらしい…

貴方は彼女に風呂に入って汚れを落とし、食事を摂るように指示した。

その間、貴方は工房仕事に精を出すだろう。

それにしても無防備な少女だ、年頃の娘ともあろうものが男の家に上がりこむなど…

 

「いいんです…評判は聞きました、モンスターを殺すことしか興味がないって。

それに狩人さんは知ってるんですよね、私がゴブリンどもに…

村のみんなも腫れ物に触るように接してましたから…

もう娼館に身売りでもしようかと思ってたところなんです…

でもゴブリンの中古なんて誰も触るのも嫌ですよね…」

 

不憫な少女だ、まだ幼いというのに…

とにかく身綺麗にして栄養を取らなければいけない、全てはそれからだ。

貴方は数々の犠牲者を悼みその苦しみを考えて胸の内で獣への憎しみを再び激しく燃やす。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

その頃のゴブスレさん達「…(どうすればいいんだ…)」(黙々と牧場の防備を固める)
牛飼いちゃん「ねぇ、大事な話って何?」

女神官「地母神様、どうか私達をお護りください…」

妖精弓手「あ、あれもこれも!それとこれもね!」(買い物中

鉱人導師「おーこりゃここの酒もいいのが揃っとるわい」

蜥蜴僧侶「甘露!」

そのころ
ゴブロード「もっとキリキリ働くゴブ!(牧場レイドイベ準備」
モブゴブ「ひー!労働待遇の改善を求めるゴブ!(協調性なし」





…身綺麗にし、食事と休養を取ったことで彼女はある程度落ち着いたようだ。

色艶も悪く、異臭を放っていた体は若さ相応の瑞々しさと甘い香りを放っている。

実際問題として彼女はどうするのか、どうしたいのかを貴方は聞いた。

「それは…」

…すぐに冒険者に復帰というのは無理な話だろう。

恐怖が支配する心のまま出かけても『死ぬ』だけだ。

「う…」

それ以前に彼女には仲間との連携、いやそもそも仲間がいないではないか。

しかし方法はある、狡猾さと用心深さこそ人類の有史以来最大の武器と言われている。

貴方は彼女にまずは工房で武器と防具を揃えることを提案した。

ここは土地代が非常に安い、それは壁から出ればいくら街に近くとも常にモンスターの襲撃に備えなければならないリスクがあるためだ。

人は壁を作り、エルフは木の上に、ドワーフは地底に住む。

それは外敵から身を守るそれぞれの種族の知恵とでもいうべきものだろう。

故に壁の外に住むということは常に戦いに備えるということでもある。

と言ってもまだ城壁に近く人の往来もそこそこある墓場近くではそこまで強大な獣が出没することはあるまい。

彼女が下宿人としてここに居たいというのなら別に構わないが、最低限の自衛はしてもらうつもりだ。

「わ、私武術なら使えます!」

駄目だ、武術は良いがそれは人から身を守る術であって獣を殺す術ではない。

「!そ、それは…」

武術は良い、だが彼女は武術を誤解している。

武術とはどれだけ鍛え上げたとしてもそもそも殺しが目的の技では無いのだ。

思うに武術は素手で犯罪者を生かして捕らえる事や自衛がそもそもの目的なのだろう。

それは尊い技ではあっても、狩ではない。

貴方がそう言うと彼女は泣き出してしまった。

「うっ、ううううう」

俯いて涙を流している、それにしても年頃の少女に向かない貴方だ。

…とにかく最低限防具だけでも見繕う事にした、何をするにしても今の彼女の服はシャツにズボンだけと言う姿だ。

女物として通じる服装といえば時計塔の狩人の衣装、人形、聖歌隊、娼婦のドレスくらいか…

元の衣装は擦り切れ、汚れていたので洗って繕わなければ駄目だろう。

貴方は家の寝室の衣装箱を開けたがどれもサイズが合いそうにない…

さて困った、そういえばヤーナムの狩人衣装は基本的に成人サイズである。

どう見ても15の少女に合うサイズではないだろう。

…街の裁縫屋に頼んでサイズを調整してもらうか。

使者たちだ!寝室の水盆で使者たちが貴方を手招きしている。

貴方が彼らに語りかけると彼らは一斉にブンブンと横に首を振り、ポーズを各々取り始める。

あるものはボクシングの真似をしたり、カラテの真似をしたり、また服を出して手招きする…

武闘家を連れて来いと言うのだろうか?大丈夫だろうか?

だが魔法や奇跡のある世界なら使者達も普通に妖精扱いなのだろう。

こう言うと妖精弓手は怒るかもしれないが。

貴方は食堂で泣き臥せっている少女に寝室に来るよう言った。

「は、はい!」

少女は身綺麗にし休憩し食事をとり涙を流し頭の回転が途端に回ってくる。

(し!?寝室!?まさかお礼は身体でしろってこと!?)

武闘家の脳内では自分が男にベッドで組み敷かれ、あんなことやこんなことをされる図が浮かんだ。

(でももうすぐ銀級に昇級って噂になってたし…)

狩人は非常に勤勉だ、24時間365日人里にモンスターが出ればどんな凶暴な獣でも嬉々として皆殺しに行くので昇級も恐ろしく早い。

そして獣狩り以外に興味がなく、金も使わないので案外評判が悪い。

金の流れを滞らせると受付嬢に文句を言われたので家を買った。

家持ち、小金持ち、実力者、若い、仕事熱心、独身…ここまで書くとなかなかの優良物件だが

そんな些細な事をぶち壊すのが狩人である。

(こんな私でも…赤ちゃんさえ出来れば、こっちのもんよね…)

そして男と女の戦いは妊娠という圧倒的に有利な武器を持った女の勝利に終わるのが常である。

信用を第一とし、街の冒険者ギルドに顔を出さなければならない冒険者となれば

責任を取らないというのは冒険者としての信用にも関わるのでなおさらである。

冒険者の墓場は1にゴブリン穴で2が出来ちゃった婚なのではないだろうか?

 

男女の関係は起こらず、貴方は武闘家に水盆の使者達から防具を受け取るように指示した。

「え?使者って…ヒィ!?な、何ですこれ!?」

確かに見た目は異様かもしれない、しかし可愛らしいではないか。

使者達はヤーナムの狩衣装を武闘家に差し出し受け取るようにフリフリと掲げる。

彼らにはなかなか重そうでプルプルしているのもいる。

「あ、本当だ。よく見たら結構可愛いかも。うん、キモかわいい」

武闘家はヤーナムの狩衣装を受け取り、装備した。

するとぴったりだった、使者達はどうやって採寸したのだろうか?

「わぁ、これ凄く軽い。動きやすい!」

貴方は使者達に遺志を請求された、なかなかしっかりしている。

「あ、でもお礼なんて私…やっぱり身体で払いますか?

大丈夫ですよ、神殿の検査でも病気にもかかってませんし

ちゃんと健康な赤ちゃんを産めるって診断されましたから…」

…もっとこの子は自分を大事にした方がいいだろう。

だが装備を身につけ自信が戻ったのか出会った当初よりは明るくなった気がする。

まだ明るいうちに貴方は武器の練習をしようと外に出た。

スタッフ・スリング、要するに長めのラクロスラケットである。

一流のラクロスの選手は150g程のボールを時速150km程で撃ち出せるという。

だが彼女が撃ち出すのはボールでなく火炎瓶だ。

貴方は彼女にそこらへんで拾った石を拾わせ、スタッフスリングで投射するように命じた。

実戦では火炎瓶を撃つが、今消耗するわけにはいかない。

「ちょっと待ってください!私は!」

だが今の彼女ではゴブリンに近付くことすらできないだろう。

では弓矢は使えるかと聞いた。

「う…」

では仕方ない、貴方は彼女に更に鎖分銅を渡し、どうしても接近戦が避けられないならこれを使えと指示した。

「鎖分銅ですか?話には聞いたことはありますけど…」

フレイルよりは射程が長い、殺傷力は劣るが足に絡ませて逃げる時間が稼げる。

後でロープと石でボーラを作り、動きの早い敵に使って足を止めるよう指示した。

まぁおいおい遠距離武器の銃や弓矢も練習すればいいだろうが、今の彼女がとるべき点は二つだ。

『相手の射程外から攻撃』

『とにかく逃げる時間を稼ぐ』

『近づかれたら逃げる』

単純な戦術だが効果はある。

貴方は彼女に女神官と同じ単発中折れ45口径拳銃を手渡した、獣に対抗するのには不足だが

裸のホブゴブリン程度なら倒せるだろう。

もっとも初心者が命中させるには相手が止まっていてくれないと駄目なのでボーラや鎖分銅はそのためだ。

「ホブ…」

大きなゴブリン。足が掴まれて、壁に、捕まって、引き裂かれた。

押し当てられた、汚いのに貫かれて!

「う、ぐうううう」

彼女はまた泣き出してしまった。

これは手間取りそうだ。




今の目標:
武闘家 敵に近づかない
火炎瓶、石、銃で攻撃する
「武術全否定ですか!?」
「じゃから鎖分銅があるじゃろ。
まずは遠距離攻撃で弱らせ、スタン効果やドンムブ効果のある武器で止めてから殴って経験値を稼ぐのだ」
武闘家ちゃん戦術
遠距離:石や火炎瓶を投げる
中距離:ボーラで足を止める
近距離:止まった敵を棒で叩き殺して逃げる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

受付嬢さんの印象
ゴブスレさん>ゴブリンを倒してくれる、ストイックでかっこいい。
すきすき大好き、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる

狩人さん>村人が脅かされてるなら何でもタダ同然でも殺してくれる、感謝はしてるけど怖い

女神官>小動物、癒し、可愛い(地母神様「わかるよ、少女は愛でる者だ」

槍使い>チャラ男、自害せよランサー


「はぁはぁはぁ…」

彼女はどうやら才能があるらしい。

まずはとにかく体を動かし、悪夢を払うことから始めよう。

人間の長所は物を投げつける事だと誰かから昔聞いたことがある…ような気がする。

遥か太古から人間は自分よりも早く強く大きい獣をありとあらゆる武器を投げつける事によって狩ってきた。

彼女は今や火炎瓶と同じ程の大きさと重さの石を100m程度先まで飛ばせるようになった。

元々柔軟な身体の持ち主だったのだろう。

正しい戦術と明確な指示、適切な装備さえあればゴブリン程度に遅れをとることは無かったろう。

リーダーだった少年剣士を悪く言うのは嫌な気分だが彼は女性の身を冒険者として預かる事にあまりにも無頓着だった。

そして戦場で無能な指揮官でいることは大罪に他ならない、言い訳はできない。

冒険は遊びではない、戦争だ。

貴方は今日のところは日もくれるし、ここまでにしようと言った。

彼女に休憩し、明日からの訓練に備えよと伝えた。

明日には貴方はまた別の狩りに出かけるだろう、その間彼女が訓練しつつこの家を守るのだ。

「家を…はい!『私達の家』を守ればいいんですね!」

何か含んだものの言い方をされたような気がする。

(そうよね、良い妻の務めは家を守る事だって近所のおばちゃんも言ってたしね!)

どうやら武闘家ちゃんはすっかり貴方の妻気分のようだ。

とにかく今日は汗を流し、よく食べて眠るように伝えた。

貴方も工房仕事に戻る事にしよう、狩道具はいくらあっても足りることはない。

獣が絶えないように…

街のビジネスに投資してもいいかもしれない、余ったギルドの銀行口座を投資に回すのも手だ。

 

…!貴方の脳裏に突如として深宇宙からの啓蒙が流入する!

『街では不動産、薬局、鍛冶屋、農業、畜産業、運輸業、飲食店、娯楽産業、道路や水道などに投資する事によって収入が発生します。

またクエストが発生したり街で手に入るアイテムやサービスの種類が増えたり値段が安くなります。新しいサービスやアイテム、アイテムの効果上昇や値段の低下といった恩恵は誰でも受けられます』

…そういうゲームだっけこれ?でもオープンワールド系ではありがちだったような…

『勿論貴方のビジネスを妨害する者もいます、誰がボスか思い知らせましょう』

なるほど、つまりはそういう事だ。

古今東西最後に物を言うのは暴力である。

国王といえども法と権威という棍棒を持った国で一番の乱暴者にすぎない。

ならば貴方が問題をノコギリと銃弾で解決したとしてなんの不具合があろうか。

何事も暴力で解決するのが一番だ、それはヤーナムも王国も変わらない。

 

貴方はしばし工房で物思いに耽る。

王国の金貨にして10万枚、それが貴方の冒険者ギルド銀行の預金残高だ。

それにしても殺しに殺しまくっていつの間にか貯まったものだ。

ちなみに受付嬢は上役から『あいつに金を使わせろ!』とせっつかれて泣いていたらしい。

そりゃこんだけ金が一箇所に滞っていたら問題になるろう。

つまりは上位者による街への救済措置である。

だが個人としては多いが、街を完全に掌握するにはまだ少ないかもしれない。

てくてくと誰かが貴方の家の方に歩いてきた。

荷物を沢山抱えた妖精弓手だ。

「はーん、ここが狩人の家ね。結構いい家に住んでんじゃない、狩人の癖に生意気ね」

妖精弓手はズカズカと玄関先の貴方の家の呼び鈴を鳴らして貴方を呼び出した。

「なんだいるじゃない、アンタがここに家を持ってるって聞いたから遊びに来てやったわよ。

暇だし」

実は買い物や食べ歩きで金がなくなったので溜め込んでいるらしい狩人に集りに来たのだが。

……客を招く気は無いが、まぁいいだろう。

「あー結構歩いたから汗かいた、ねぇ喉乾いたからお茶出してよ」

茶でも飲みに来たのかこいつは。

貴方は仕方なく食堂で彼女に紅茶を出してやる。

すると武闘家がお風呂から上がって食堂にシャツとパンツ姿で入ってきた。

そして始まる…狂気だ…

「す、すみません。奥さんがいるとは知らずに…

違うんです!誘惑とか泥棒猫とかそんなんじゃなくて…」

なぜそういう方向に話が行くのか…

 

「は?奥さん?…誰の…

はぁぁ!?ば、ばっかじゃないの!?誰が奥さんよ!?」

誰がこんな奴好きになるっていうのよ!?そんなのいるわけないし!

陰気だし、理屈っぽいし、ヒョロイし、いつも返り血で血腥いし!」

 

「な!何言ってるんですか!

奥さんでも無いならこの人の事悪く言わないでください!

物静かで、理知的で、すらっとしてて

いつも人々の為に命がけでモンスターを退治してくれてる立派な方なんですよ!」

 

どうやら貴方のことについては立ち位置によって見方が変わってくるらしい。

「狩人さんも言ってやって下さい!貴方は立派な人なんですよ!

良い冒険者、良い狩人、良い先生だって!

エルフだからって上から目線で偉そうに言わないでください!

私が強くて可愛い狩人さんの赤ちゃん沢山産んで良い家庭を築くんですから

邪魔しないでください!」

その言葉で妖精弓手も凍りつく。

「はぁぁぁぁぁぁ!?ちょっ!狩人!まだこんな小さい子になんて事吹き込んでんのよ!!

馬鹿!変態!血塗れ狩人!」

これはえらい事になった、どうしたら良いのだろうか?

貴方は考えた末に二人にもう遅いから眠った方が良いと言った。

きっと二人とも疲れて夜遅いテンションのせいで戯言を繰り返すだけなのだ。

「狩人さん、じゃぁ一緒に…」

「こら狩人!アンタねぇ!ちょっと説明しなさいよ!この状況を!」

 

もう眠れ、貴方はそう言って工房に戻る事にした。

貴方は夢を見る、だが眠りはしない。




すまんな、武闘家ちゃんの話はどれも暗くなりそうだからコメディ風にしてしまったわ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

狩人さんはナム帰還兵めいた悲しき存在
ステイツに戻ってもベイビーキラーと罵られ
パーキングガードにすらなれず
恩人のリベンジのためにナム仕込みのベトコンスレイヤー・カラテ的なサムシングをしていたら
半世紀にわたって君臨するアメリカ最大のザイバツヤクザのゴッドファーザー的サムシングになるしかなかった的ソロー


新狩人の隠れ家にて

貴方は一緒に寝て欲しいという武闘家を寝かしつけると工房に戻った。

「暗いのが怖いんです…せめて寝るまで抱いててください…」

怯える少女を抱いて眠るまであやしつけてあげた。

胸や股を擦り付けてしがみついてくるのは何故だろう、やはり人間縋るものが必要なのだろうか。

彼女は今は服は脱いで薄いシャツとパンツだけだ、ほぼ裸の少女と同衾というのはどう見ても夫婦の営み真っ最中にしか見えない。

貴方に性欲はあるのだろうか?(ダイスを振る

『こんな夜だっていうのにお元気なことね…・』by娼婦

どうやらあるらしい、とはいえ出会った初日の少女と肉体関係を持つほど貴方は節操がない人間ではないと説得した。

「わかりました…そうですね、ちゃんと危険日にしないと駄目ですよね。

私頑張りますから…スゥ…」

疲れていたらしく寝付きは早かった。

身の危険を感じる、このままではいつの間にか15歳の少女を孕まして父親になっているかもしれない。

とはいえ、冒険者ギルドからすれば性格に少々難はあれど

優秀な冒険者である貴方の子供なら高確率で優秀な冒険者になるので歓迎だろう。

西部辺境ギルドの街の近くの家を格安で紹介したのも貴方を街の城壁の補強作兼西部に籍を固定していてもらいたいという考えの現れだ。

考えてみれば当たり前の話だが、

冒険者として大成するのはやはり農村の土地を継げない口余りの次男三男娘でなく

それなりの装備と訓練を積める騎士や貴族の次男三男か娘

あるいは親が高名な冒険者(という名のモンスター専門の傭兵)の方が圧倒的に多いからだ。

 

農家出身でゴブリンを追い払った程度の経験で冒険者になった白磁は

依頼の失敗率も1年以内の死亡率も高いのでギルドとしても困る。(例・第一話の剣士

 

夜遅くまで夜更かしする妖精弓手は貴方の工房で話している。

 

「成る程ねぇ、事情は分かったわ…

まぁ私もあんなとこ見ちゃったし、気持ちは分かるけどね…」

椅子に座り暖かいミルクを飲みながら貴方の工房仕事を見学している妖精弓手がいる。

興味深げにあちこちを見ている。

…自分の里の近くで里の少女や女性の冒険者達があんな目にあったのだから

武闘家の少女の境遇に同情を覚えているらしい。

「この女たらし、アンタもオルクボルグも大概よね。

あいつはゴブリンゴブリン、アンタは獣獣言ってるくせにやたら女の子に懐かれるんだから」

そう言うと立ち上がり、またも工房のあちこちをうろちょろする。

 

「弓?変わった弓ね…へぇあんたも弓を使うんだ」

妖精弓手は壁に飾られたシモンの弓剣に興味を示している。

狩道具は全てが神秘を宿した隕鉄を含んでいるという。

変形前は曲剣として、変形後は大弓として戦える一風変わった武器だ。

弓で獣にいどむなどと多くの古狩人は嘲ったと言われる、だがあの古狩人の実力は本物だった。

「ちょっと試させてよ、いいでしょ?

…かた!何よこの弓!?滅茶苦茶固くて重いじゃない!誰よこんなの作ったやつ!

アンタねぇ…言っちゃなんだけどこんな弓まともに使えるやついるの?」

 

そうか…弓が得意な森人の基準からしても固いのか…

やはり、あのやつしの狩人は一流だったんだな…

いやそもそも鋼鉄のごとき獣の剛毛や革を撃ち抜ける弓という時点でおかしい。

医療教会も彼の為にわざわざ特注の武器を作るほど優れた狩人だったのだろう。

矢にしても森人の使う弓と弓剣ではそもそも使われる状況が違うのもあるのだろうが

弓剣の矢は短剣かと思うほど太く重い。

繊細な森人の長弓とは全く違う。

「そりゃ使いこなせればとんでもなく強いけど使えないんじゃ意味ないでしょ」

 

工房で貴方は弓剣の弦を引き、変形させたりした。

使いこなせば接近戦も射撃もできる優秀な武器だと思うのだが。

「な、なかなかやるじゃない。んむぅ…でも肝心なのは急所を射抜く精度でしょ!」

何を張り合っているのだろうか、この子は…

だが確かにこの妖精のように長距離狙撃、さらには軌道変更などという器用な真似は貴方にはできない。

本家射手のあの『やつしの狩人』ならできたかもしれないが、貴方にはまだ無理だ。

「うん?もっと弓に興味が湧いた?いいわよ、教えてあげよっか?

私の事は先生と呼ぶ事、いい?」(ドヤァ

 

もう帰って寝たらどうだろうか?

「へ…だ、駄目よ!あの傷心の女の子とあんたを二人っきりなんて絶対駄目!」

 

それならあの娘と今晩だけでも一緒にいてあげてはくれないだろうか。

 

「うーん、まぁそこまで言われたら仕方ないわねぇ

…正直あの子と里の子の事が重なっちゃってね…

あの子もやっぱりゴブリンごときに傷物にされたって事で凄く落ち込んでるんだって…

里の大人達もどうしたらいいかわかんなくて困ってたって…」

 

森人は寿命が長い、だがそれは心の傷が癒えるのが遅いという事だ。

いつまでもあのトラウマが残り続ける、残酷な事だ。

 

「正直さ、あの子を見て私も怖くなっちゃたんだ…

森人でもゴブリンに捕まったらあんな目に遭わされるって…

あのオーガ見たとき私、あんな目に合うなら…捕まるくらいなら死のうって…

そう思っちゃったくらい怖かったんだ」

 

女性の冒険者は誰でも死の恐怖以外にあれの恐怖を抱えている。

それがわかるならあの子に少しだけ付き合ってはくれないだろうか?

 

「わかった、でも勘違いしないでよ!

あんたの為じゃなくてあの子の為だからね!

あの子があんたに頼らず自立するまでのちょっとの間だけだからね!」

 

彼女はそう言って工房から出て行き、武闘家の部屋まで歩いて行った。

彼女はああ見えて優しい女性だ。

…貴方は工房仕事を続ける。

 

朝になった、貴方は工房仕事で一晩を過ごし新たなる狩りの準備を整えた。

大量の武器弾薬を用意すればいかなる獣も恐れるには足りないのだ…

 

「あっ狩人さん、お早うございます!

はい、お台所借りて朝ご飯作ったんですけど…」

「うーん美味しい!武闘家ちゃんってお料理上手なのね!

これ凄い優しい味がするよ」

「えへへ、妖精弓手さんにも褒めてもらえるくらいなんてそんな〜

これからもっと料理の練習して狩人さんにもっと美味しいご飯作ってあげますからね!

さ、お代わりもありますからね」

 

朝目覚めた二人はとても仲良くなっていた。

良い事だ。

 

 




ちょっとの間(上の森人にとって)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

数百年後
豊穣と繁栄の妖精女神像
西の都の守り手の一人、妖精女神の像
彼女はやがて人々の守り手である狩人の妻の一人となり、母となった
そして多くの尊い子をなしたという
西部の高名な冒険者は多くが彼女と狩人の血を引くために耳が長く
狩りに長けているのだと言われている。
像の胸は超夢盛りのパッド入りだとかいう不埒な噂が絶えないが
ライバル神殿の根も葉もない冒涜的デマなので信じないように。


朝食をとった貴方方、狩人・妖精弓手・武闘家の3人は冒険者ギルドに行く事になった。

「すみません…まだ怖くて」

「じゃ、私は先にギルドに顔だしてくるからね!

武闘家ちゃんは慣れるまでゆっくり来ればいいから!」

 

武闘家はマスクで顔を隠している。ヤーナムの狩衣装はこのような時は便利だ。

もっともそのせいでゴブリンスレイヤー並みに不審人物に見えるが。

逆を言えばゴブリンスレイヤー程度で済んでいる。

貴方が全身返り血で毎日のように狩りとギルドを往復していた時に貴方に向けられる嫌悪の目はこの程度では無かった。

馬を借りにいけば主人は引付けを起こし、買い物をしようとすれば店に入らず軒先で交換。

貴方を見た老婆は悪魔が来たと大騒ぎだった。

狩場とギルドを往復するだけの日々だというのに悪名が町中に轟いていた。

というわけで貴方は街の外に家を買い、必要ならメッセンジャーを送る事もできるようになった。

おかげで街に入らなくても依頼を受けられるし、遠征先で依頼を受ける事もできる。

わざわざ報告をしに行く必要も無く依頼から依頼へと駆ける事もできるようになった。

1日に30件ほどのペースで殺しまくっていればあっという間に獣を駆除できた。

ゴブリンスレイヤーも驚きの効率的殺戮業務である。

…貴方はそろそろ専用に馬を買ってもいいかもしれない。それと猟犬も。

戦争の影響でどちらも高価だが、今の預金なら余裕で買う事もできるだろう。

聖杯ダンジョンや狩人の悪夢で犬を飼っている連中は狡いと常々思っていた。

羨ましいとか妬ましいとかも思った。

群衆に犬、あれはきつい。何度も死んだ。

旧主の番人に赤目犬のコンボ、あれは各個撃破しないと死んだ。

古狩人に番犬、あれも死んだ。

狩人と犬のコンビは恐ろしい事この上ないのだ。

貴方には犬が必要だ。それも訓練された軍用犬ならなお良い。

貴方は武闘家のためにまずは食料の買い出しに来た。どうせ残った依頼書を片っ端から引っ掴んで片っ端からモンスターを殺しに行くだけなのでギルドにはゆっくり行っても構わないのだ。

貴方と武闘家は市場で買い物をして、必要な消耗品のポーションや薬なども買い込んだ。

犬は売っていないか…

? そう思いながら歩いていたが何やら騒がしい…

「おい聞いたか?ゴブリンロードが攻めてくるってよ…まずは牧場、それから街だって」

「でも所詮ゴブリンだろ?たかがゴブリン、冒険者が何とかするだろ」

「いや、それが聞いた話じゃロードの脅威度は白金級だと」

「嘘だろ!?白金?冗談に決まってるよな!?なんでゴブリンごときがドラゴン以上の脅威なんだよ!」

「嘘じゃねえよ、街のお偉いさん方が緊急に会合を開いてたんだ。

もう目先の効くやつは荷物を畳んで逃げ出してるやつもいるってよ」

「街の中なら籠もればいいさ、だが外は?壁の外に農場や牧場を持ってるやつはどうすりゃいいんだ?」

「だからもう外に財産持ってる奴は土地も建物も叩き売りよ、タダみたいなもんだがそれでもパァになるよりゃましだろってさ」

「買うやつなんているのか?」

「いたらとっくに売れてる、売れないからみんな困ってるのさ」

貴方はとんでもないことを聞いてしまった。

「ご…ゴブリン…う…うげ…」

武闘家はゴブリンの大軍が攻めてくると聞いて顔を青くし、道の排水路で吐いている。

又してもフラッシュバックだ。ひどいトラウマ体験だったのだろう、無理もない。

それにしてもひどい混乱だ。貴方は武闘家についてこれるかと尋ね、家に戻るかと聞いた。

「い、行けます!大丈夫ですから!」

貴方は、では付いて来いと言い放った。どちらにせよゴブリンが来ると聞いただけでこの様子では、今はギルドに行くのは無理だろう…

貴方は公証館にやってきた。多くの人で混み合っている。

「だから大急ぎで売りたいんだよ!」

「困ります、ここには買い手なんていませんよ!

あ、狩人さん!貴方も売りにですか?

申し訳ありませんが、買う人なんていませんよ!」

 

街の壁の外の財産を保有している人たちが押し寄せてパニックになっている。

公証人がいた。貴方が家の証明書を買った時にいた人物だ。

街の不動産屋も一緒だ…

貴方は売りでは無く買いに来たと行った。

 

脳内に突如として啓蒙が浮かぶ…

『四方世界では常に何らかのイベントが起きています。

今回のゴブリンロード襲撃イベントのように大規模なものでは

このように値段の変動をもたらすものもあります。

例を挙げると一部の投資がハイリスクハイリターンになります』

 

「買いですって?お言葉ですが狩人さん、やめておいた方がよろしいのでは?

みんな売りにだしてますよ!」

 

不動産屋が貴方に心配の声をかけるが、貴方は買うと決めたからには買うつもりだ。

「…そこまで言うなら…ですけど、後でゴブリンに駄目にされたからって反故にはできませんよ。よろしいんですね?」

無論だ、貴方はゴブリンは1匹残らず殺す気だ。

故に損害など発生しようがないし、家を荒らされるつもりなどない。

貴方は壁の外の売りに出されていた物件・ビジネスを総計金貨1万枚で購入した。

不動産、旅人向けの旅籠、農村、畜産業、運輸業などだ。

平常時のわずか1/5の値段だ…ゴブリンだけに…

 

『ビジネスを購入すると月々の収入が発生します。また追加投資によって収入を増やすことができます。

しかし注意点としてモンスター襲来などによって荒らされたりした場合は収入が途絶えたり、減少します。

回復には資金が必要です。

冒険者を雇ったり、常日頃から警備兵を雇って予防しましょう。

あるいは貴方自身が赴いて解決することで営業は再開します』

 

『現在は活動を停止しています。

再開時の最大収入は月に金貨2000枚です』

これはモ●ポリーではないだろうか?

 

「狩人さん、本当に本当にいいんですか?

私も長いこと不動産業やってますけど欲をかいた人間は大損こきますよ」

これは欲ではない。これほど確実な投資はないだろう。

それにしてもゴブリンロード襲来の知らせを持ってきたのは誰なのだろうか…

ゴブリン…あっ、心当たりは一つしかない。




神々「あいつ遂にモノ●リーやってるぞ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話

すまんな、思いついたらパパッと書き上げるから駄文なんや


…貴方は冒険者ギルドの方に行くことに決めた。

最も安全な金庫に登記簿を収めるため、そして…

「ギルド…すみません、私…私…う…ううう」

どうやら無理のようだ、貴方は武闘家に食料荷物を持って家に帰っているように指示した。

「でもゴブリンが…」

心配はいらない、ゴブリンどもが明日の朝日を拝むことは絶対に無い。

それより貴方の為に食事を用意する方が大事だ。

今から出発し、獣を殺し尽くして朝までには帰る。

獣どもは彼女に指一本触れる事は無い。

そう言うと彼女は顔を輝かせて

「は!はい!すっごく美味しい朝食作って待ってますから!」

そう言うと楽しそうに駆けて行った。

実際のところ、ゴブリンと聞いただけであれでは戦場に立っても役に立たないだろう。

 

貴方は冒険者ギルドにやってくると受付嬢を呼び出した。

「狩人さん!ちょうどいいところに!

お願いします!ゴブリンスレイヤーさんの依頼を受けてあげてください!」

ゴブリンスレイヤーは街外れの彼の幼馴染の牧場に来襲するであろうゴブリンの撃退に人を募った。

珍しいことだ、だが彼が自らの持てる物を全て差し出しても依頼に応じた人間は僅かしかおらず勝算は非常に低いのだと。

「私もギルドの上役を説得しようとしてるんですけど…」

まぁそうだろう、だが彼らの認識は滅多なことでは変わらない

『ゴブリンの群れが白金相当?冗談はよせ』

『たかがゴブリンだ』

『所詮はゴブリンだ』

人は痛い目に遭わなければ何も学習はしないのだ、歴史から学ぶとか言った人間もいるがあれは嘘だろう。

人は結局自分の体験からしか学べはしないのだ、15の少女から50過ぎの老人まで変わりはしない。

尤も今回は『たかがゴブリン』を改めなけねばならない時には手遅れだが…

そう依頼の内容はもうわかっている、貴方は依頼をしに来たのだ。

貴方は銀行口座を確認し次の依頼を出した。

「え?そんな!わ、わかりました!ありがとうございます!やっぱり貴方って凄くいい人だったんですね!」

パタパタと駆けた受付嬢は広場の冒険者全員に叫んだ。

「皆さん!依頼ですよ!ゴブリン一匹につき、金貨2枚の懸賞金を出します!チャンスです!冒険者さん!

依頼主は街の不動産事業者さんです!」

 

「金貨2枚!?ゴブリン1匹で?」

「おいおいおいおい、どこのお大臣だよ。景気いいなぁ!」

「マジかよ!?やらなきゃ馬鹿みたいだろ!」

 

重戦士のパーティーが立ったと思ったら

次の瞬間にはギルド中の冒険者パーティーの全員が立ち上がり歓声をあげている。

 

貴方は今回のゴブリンの脅威度を判定した。

訓練され武装した兵隊で構成され組織的に動く軍隊100人。

裸同然の野菜泥棒がバラバラに100人。

かかった育成コストは桁違い。

脅威度はそもそも比べ物にならない、比べる方がおかしい。

それが人なら誰でもわかるが、『ゴブリン』というフィルターがかかると両方同じに見えるらしい。

…そもそも冷静に考えれば白金級の脅威度の敵が

金貨二百枚程度で打倒できるなら安いものだとは誰も思わないのだろうか…

やはりゴブリンというフィルターは人の思考を酷く劣化させる

これをゴブリンスレイヤーは嘆いていたのか。

ちなみに貴方がゴブリンを殲滅することによって不動産から得られるのは今月だけで金貨二千枚である。

運用経費を引いても月の収入の1/5でしかなく、いかに冒険者がこの街の支配者に薄給で飼われているかわかるではないか。

貴方はこの街を真に狩…冒険者の為の街にしたいのだ。

装備や物資が高価だからという理由で命を落とす若者。

訓練の杜撰さゆえに命を落とす若者。

成果が上がらないために貧しい境遇に甘んじなければならない若き冒険者。

酷い悪循環だ。

憐れじゃあないか。

俺たち、狩人たちが

あんまりにも、憐れじゃあないか。

ああ、哀れだとも『やつしの狩人』よ。

だからこそ皆に知らせよう、この街は今から狩人達の為の街になるのだと。

弱く貧しい狩人達こそが未来になるのだと知らしめよう。

 

前祝いだと大騒ぎする冒険者達から貴方は離れて紅茶を飲んでいる。

するとゴブリンスレイヤーが貴方のテーブルの前にやってきて座った。

「すまない、依頼を出してくれたと聞いた」

どうやら受付嬢は彼に真実を話したらしい。

別に礼を言われる筋合いは無い、不動産業に進出したのは事実だしゴブリンを放っておいて資産に被害が出れば大損をするのは貴方だ。

貴方は金を出し、冒険者は依頼を受ける。

いつもと何も変わらない、そんな事より獣狩りだ。

やはり獣狩りだ、すぐに出発するのだろう?

貴方も当然同行する。

「…そうか」

貴方はゴブリンスレイヤーに策はあるかと尋ねた。

「ああ、これだけ人手があるなら十分だ」

…貴方はゴブリンスレイヤーに視界が広く取れる高い物見台、あるいは建物の屋根などがあるかどうか尋ねた。

射界が広く取れる塔なら最高だが、高ければ高いほど良い。

「…銃か。あるんだな、もっと射程に優れたのが」

察しがいい、貴方はガトリング砲を用意するだろう。

貴方はゴブリンスレイヤーにガトリング砲について説明した。

拳銃や散弾銃とは桁違いの射程と凄まじい連射力を持つ超大型の銃器。

だがそれゆえに桁違いに重い上に弾丸の消費が激しく長時間は動かせない。

切り札的運用が求められる、だが今こそ導きのチェーンガンをバッグから出す時だ。

「そうか…それなら大分余裕ができそうだ」

彼には策があり、冒険者は協力し、貴方は獣狩りの夜を始める。

どこに失敗する要素があると言うのだろうか?

 




実際問題として冒険者の収入安すぎね?

例:カリフォルニアゴールドラッシュ
実際に儲けたのは金掘りではなく金掘りに道具を売りつけた商人…
あ、うーん

ゴブスレさん「ありがとう」
狩人「べ、別にあんたのためにしたわけじゃ無いんだからね!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話

小鬼防ぎの女英雄の像
黒い髪に黒い瞳を持った女性の像
西の都の護り手の一人
彼女は狩人の妻の一人となり
多くの尊い子を成したという
彼女の子逹は多くの村々でまた子を成した
彼らは気高い母と同じく終生弱き者たちの護り手だったという

当時、絶え間ない小鬼禍に悩まされる村々に自衛の為の技術や方法
武器などを伝授して廻ったとされる女英雄
自分ができることをする勇気こそが家族を守る最高の武器だと言い残している



「わかった、屋上に櫓を設置する」

彼は先行し、他の冒険者と共に罠や牧場の厩舎の上に簡易的な物見櫓を作ってくれるらしい。

貴方の周辺では準備に忙しい冒険者逹が気合いを入れて武器装備、道具の確保に忙しくなっている。

「ポーションだ!ありったけくれ!」

「矢よ!あるだけ頂戴!そう、クロスボウのも!」

「毒消しだ!相手はゴブリンだからな、毒矢にも注意しろよ」

特に弓矢の準備が忙しい、ゴブリンを遠くから減らせば安全だし報酬も同じ。

新米の弓手でも熟練剣士と同じ程度の報酬が得られる機会と張り切っている。

「へへっ、5匹も倒せば金貨十枚だぜ!?

そんだけありゃ防具も新品に新調できるな。」

「何言ってんのよ、あんたの武器なんて強化クラブで十分!

私の杖と防具の方が先でしょ!

それに火炎瓶だって私達には結構高いんだから油断しないでよ!」

向こうには貴方が教えを授けた新米剣士と新米聖女がいる。

「あ、狩人さん!

この前はありがとうございます!」

…見れば血が染み付いた強化クラブを持っている…それによく見ればギルドのあちこちの新米も強化クラブを持っている…

「へへ、あの後強化クラブとスリングスタッフの使い勝手の良さを教えてやったら

みんな使うようになったんですよ。

俺たちみたいな貧乏な雑魚殺しにはぴったりの道具だって…」

少年剣士は今も取り戻した安っぽい剣を腰に下げているが、メイン武器は強化クラブに変更したらしい。

大きめの強化クラブだ、両手で持つのでさしずめラージ強化クラブと言ったところだろう。

どうやら少年は撲殺を繰り返したことで筋力が上がったらしい。

典型的な脳筋育成ビルドだ。

この前は長さを活かして石を投げてから

ホブゴブリンの手足を少しづつ抉り、最後は崩れたところをパーティー全員で離れたところから石で滅多打ちにして殺したらしい。

この棍棒で5代目だと誇らしげに話してくれた。

「はい!私達大切なことを忘れてました…

冒険で重要なのは見栄えでも冒険でなくて敵を効率的に殺すことだって!

殺せることに関しては名剣も棍棒も変わらないって思い知ったんです!」

新米聖女もすっかりスリングスタッフの名手となり、奇跡よりも多くの敵を石で撲殺したと目を輝かせながら話してくれた。

殆どの冒険で奇跡を温存しすぎて結局使わないこともあると照れている。

確かに一日一回の奇跡は強力だが、今回のように数で攻めてくる相手に使い勝手は良くなさそうだ。

今では同期や後輩の新人にも初心者獣狩りとして貴方の戦術を教えちょっとした先生がわりになっているという。

奇跡や魔術、名剣頼みでは無い。

頭を使った石と棍棒の戦術、そうだそこから少しづつ進歩していけばいい。

良いことだ。

 

各々冒険者逹はギルドの鍛冶屋や街の店に散らばって準備に忙しい。

ゴブリンを倒せば倒すほど大黒字になる今回の出来事は彼らにとっても嬉しい誤算だろう。

襲われる牧場や捕まった女性逹は堪ったものでは無いだろうが。

 

貴方は一度家に戻った。

敷地の外で馬車を降り、正面から入っていく。

家は雨戸が閉められちゃんと鍵がかかっているようだ。

敷地内には警戒時のためトラバサミ、杭つき落とし穴、振り子丸太などの罠が仕掛けられており侵入者を容赦無く抹殺してくれるだろう。

ちゃんとデストラップを警告する看板があるので間抜けにも踏み入る奴が死んでも責任は取れない。

一見無害そうに見えるが正面の道以外を通ると死ぬ。

武闘家が貴方を出迎える、狩装束は脱ぎ私服にエプロンだ。

どこから持ってきたのか棒の先に草刈り鉈を付けた武器を持っている、グレイブとか薙刀とか呼ばれているものだ。

重い刃を遠心力で振り回すので普通に殺傷力が高い。

「あ、これですか。お父さんが言ってたのを思い出したんです。

家を守る女性はグレイブを使うんだって。

ヤマトナデシコなんですって、東の方の風習でお父さんの故郷の女性はみんなそうなんですって」

 

そうなのか、だが随分明るくなったでは無いか…

貴方は彼女が望むなら街の中に避難していて良いのだと言った。

街の外とはいえある程度は罠で守られているが、やはり中の方が心理的に安心できるのでは無いだろうか?

「…ここ、もう私の家なんです。

絶対にもう居場所を無くしたくないんです…」

 

確かに身寄りもない少女が見知らぬ街で暮らしたりしたらたちまち食い物にされるだろう。

街中とて疫病や飢え、そして何よりも他の人間という危険がある。

世界とは悲劇なのだろうか。

「ぁ…狩人さんはこれからゴブリンどもをやっつけに行くんですよね…」

そうだ、その為に物資を取りに来た。

「狩人さんは信じてます…でもお父さんもあいつも…

死ぬって凄く普通に起こるんですよね…」

…確かに日常茶飯事で起きることだ。

「あの…少しだけ時間ありますか?

今日、多分危険日なんだと思います…

だから、もしもの時のために私の中に狩人さんのを残していってください…

また一人ぼっちになるのは嫌なんです」

…(ダイスを振る 1D6 4以下で荷物を持っていく 5,6で種を蒔く)

 

5:貴方の種を武闘家の畑に蒔く

貴方は女武闘家と寝室に向かった。

 

「ら、乱暴にしてもいいですよ…

あの嫌なのを忘れたいんです」

 

貴方は愛し愛された。

…屋敷の住人が一人増えた!

貴方は手早く荷物を馬車に積み込み屋敷を後にすることにした。

「狩人さん、必ず帰ってきてくださいね…」

武闘家は貴方が去っていく様子をずっと見送っていた。

見送ると武器を持ち、家に鍵をかけて銃眼から銃を突き出しいつでも発射できるようにしている。狩人の隠れ家とはちょっとした要塞なのだ。

 




なんやいつの間にか武闘家ちゃんが王道ヒロインになっとるやん
しかも出会って数日で子供まで授かる手際の良さ
でも大地主の奥さん確定だからゴブリン被害者としては異例の玉の輿では?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

もしも狩人様が女だったら?
マリア様の生き写しの美女
そして女だったら女神官ちゃんや金床、牛飼い娘、受付嬢に剣の乙女に加え武闘家ちゃんや魔術師ちゃん、砦で死んだパーティー4人全員と姉妹妻だった…

「(怪力でゴブスレさんを掴み)
惚れさせたお前が悪い!
だから男らしく責任とって私ら12人に加えて助け出した女性全員を孕ませろ!
皆の子供は私の子供だ!
責任を取って助言者として、
立派な狩人に育ててやる!!」

男らしすぎぃ!

女狩人「お前は彼の子を産め、私が鍛えてやる。
お前の子は光になるだろう、お前の中の闇を祓う光だ…」

剣の乙女「お慕いしております、お姉さま…」

これにはゴブスレさんも困惑
そしてゴブスレさんは二重の意味で英雄になった。
小鬼殺しとして、そして女殺しの種馬として。



貴方はガトリング砲を櫓の上に設置して、鉛弾をありったけ用意した。

牧場の木の板を利用した簡易の大楯の裏ではあの剣士と聖女、そして多くの新米冒険者達が各々の得物を用意して待ち構えている。

弓矢、火炎瓶、石、棍棒に剣や槍。

戦術は単純で、とにかく数の優位を活かして攻めるゴブリンを遠距離で数を減らし、包囲される危険性を可能な限り減らす。

守り、削り、反撃する。

言ってみればたったそれだけの戦術にすぎない。

貴方は防備に資金を惜しまなかった。

 

大楯、木の板を重ね合わせた据え置きの盾。

隠れながら弓矢を打てるように穴が空いている。

大きく重く、人が持ち歩けるようなものでは無い。

杭と支柱で地面に固定し、むしろ即席の壁と言える。

だが単純であるがゆえに、防御力はゴブリンシャーマンの魔法攻撃も容易に防ぐほど高い。

チャンピオンの直接攻撃でようやく破壊できるほどだ。

盾は良い、これほどまでに分厚く重ければ十分信用できる程に。

 

大量の火炎瓶、今まで作って用意してきた特製の燃料入り。

ナフサ・タール・松脂・硫黄・オリーブ油や生石灰のギリシャの火。

ドロドロで、皮膚にでも付けば落ちず燃え続け焼け爛れる凶悪な兵器。

敵を焼き、そして夜に明かりを点ける。

それは炎のダメージ以上の価値がある時もあるだろう。

どこでも直ぐに火をつけて投げられる優れものだ。

油の調合具合で煙幕も発生する、敵の視界を塞いでやろう。

 

鉛や焼き物の弾丸、川辺で拾ってきた石、あるいは牧場近くの岩場で取れるゴツゴツした石。

投石紐には滑らかで程よい大きさの石が良く、鉛で出来た弾丸なら最適だ。

とはいえ、鉛は高価なので素焼きの弾丸で妥協することも多い。

投石紐に尖った石は向かない。布や皮に引っかかることもあるからだ。

スタッフスリングを使おう。両手が使えれば重い石をぶつけられる。

ダビデがゴリアテを倒したように、女でもホブゴブリンの頭蓋は砕けるのだ。

 

ゴブリンライダーを近寄らせない杭、先端を尖らせて焼き固めた。

 

そして接近戦での最後に物を言うのは棍棒。

釘を打った2mの棒で遠心力を利用し力一杯殴れ、それで終わりだ。

…準備は整えた、短い時間でできるだけのことはした。

 

「奴らは盾を使う」

貴方はそれはそうだろうと思った。数の優位を生かすにはゴブリンは弓矢が下手だ。

接近戦の前に遠距離攻撃で数を減らされては一方的になる。

だが一般ゴブリンの膂力で弓矢や投石、火炎瓶に魔法や奇跡を防ぐだけの厚さの盾が持てるとは思えない。

「…だから奴らは人間やエルフの女を盾にする」

…貴方は問題ないと言った。ガトリング砲の銃弾は人体など容易に貫通する。

むしろ人体という重量に比して防弾効果は皆無に等しい重りを乗せた上に、密集隊形になるのなら好都合だ。

鈍くて脆い絶好の射的の的だ。ガトリング砲の一連射でゴブリン軍団の半分は仕留められるだろう。

「…本気か?」

ゴブリンスレイヤーは貴方を非難の目で睨みつけた。

…この戦争で冒険者軍が敗れればゴブリンスレイヤーの幼馴染は死ぬより酷い目に合うだろう。

冒険者を失った村々に街、そして貴方の家も武闘家もその子供も破滅するだろう。

貴方は彼女と彼女のお腹の中の貴方の子を危険に晒す気は無い。

盾になった女性には悪いが、運が無かったと諦めてもらうときっぱり言い放った。

貴方はゴブリンスレイヤーの制止にも関わらず独断で発砲し、

人質の女性の死と引き換えに勝利を得る。

『この件にゴブリンスレイヤーは一切責任が無い。

非難されるべきは狩人のみである』

「お前…」

全ての責任を自らが負う気かと。

意図的な人質への攻撃。やむを得ないとはいえ、

最悪冒険者ギルドからの除名処分にすらなりかねない。

ゴブリンスレイヤーは勘違いしている。

これは獣狩りで、貴方は狩人。そして冒険者ギルドを利用したのは貴方だ。

責任も何も全てひっくるめて最初からこれは貴方の狩りだ。

獣狩りとはそもそもそういうものだ。敵味方を死なせて獣を狩る。

だからこそ人々は獣狩りを称えつつ恐れ忌み嫌い、

かの旧市街の灰狼狩人はそれに耐えられなかった。

優しく愚かな人間であったがゆえに。

恐ろしいか、悍ましいか?止めたくなったか?

だが狩人となった以上もはや引き返すことなどできはしない。

悔やむくらいなら、なぜ血を拝領せずにどこぞの路地裏ででも朽ち無かったのか?

天に手を届かせる為に更に敵味方の死体を積み上げるしかない。

止めればそれで全ての犠牲は無駄になる。

それが狩人というものなのだ。

 

「…すまん…だがチャンスをくれ」

 

…ゴブリンスレイヤーの戦術を聞いた貴方は、今度は彼を非難がましく見る。

それは確実に成功するのかと。

相手にカウンターマジックユーザー、あるいはスペル無効化モンスターなどがいた場合は?

魔法詠唱者を前に出す間に敵の遠距離攻撃がマジックキャスターを狙うだろう。

駆けていく戦士達にしても、敵の砲火や他のゴブリンの妨害に遭うだろう。

魔法の射程はガトリング砲や弓矢の最大射程よりずっと短い。

勝利のチャンスは敵味方の距離と共に小さくなる。

「それは…」

わかっている、確実な策など無い。

そもそもゴブリンロードの襲来などという珍事は彼にとっても初めてなのだろう…

…貴方は考えた、愚かではある…

 

『…だが、それこそが人の道なのかもな』

 

…貴方は考え、彼の賭けに乗ることにした。

だが彼に言い含める。万が一策が破れた場合は直ちに知らせろと、後の責任は全て貴方が負うと。

そうと決まれば防御の用意だ。貴方はガトリング砲を設置し、新米達に火炎瓶を配り、決して地面に刺した大楯の前に出るなと指示した。

パーティーごとに固まって、乱戦に持ち込まれるな、守りを第一に考えろ。

ゴブリンはどんなに小さくとも2人以上で囲んで叩け。

接近戦に持ち込まれるな、深追いするな。

ちょっとでも疲れたと思ったら後方に備蓄してある回復ポーションを取りに行け。

貴方が買ってきた消耗品は火炎瓶でもポーションでもタダで使わせてやる、物資を惜しむな。

まずは敵の攻撃を喰らわないことを第一に考えて動け、そのための大盾だ。

ゴブリンに一片の慈悲もかけるな!慈悲を持たぬ敵だ!

「「「はい!」」」

新米達は元気よく貴方に返事をする。

彼らの内どれだけが生きて帰れるだろうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

約1年後…剣の乙女はゴブスレさんに会いたくて西の街にやって来た。
女神官ちゃんから武闘家が彼女と同じ目に遭い、それでも立ち直れた事を聞いて会いたくなってみたのだ。
パーティーの一行は貴方の家で宴会を開いている。

武闘家「私も助けられた後も、私ももう男の人とは出来ないんだって。
どうあってもずっとずっと不幸なんだって
もう死んじゃいたいって何度も思いました。
でも自分でも幸せになれるんだって…この子のお陰です。
私、この子の為なら何だって出来ます。
どんな目に遭っても生きていけます」

剣の乙女「貴方って凄く強いのね。
ね、抱いていい?
何、この可愛いすぎる生き物。
私も欲しい…」

「全然夜泣きもしないし、すごく手間がかからないいい娘なんですよー
あの人の知り合いだっていう乳母さんが凄く良くしてくれてるんです。
ゴブスレさんの息子さんとも凄く仲良しみたいだし」

乳母
黒い服を着た謎の女性
狩人の知り合いらしい
外見は妙齢の婦人
子守がとてもうまい
二刀流の使い手で分身殺法を使う冒険者らしい

数日後…受付嬢さんと剣の乙女さんがやたら仲良しでゴブスレさんを見る目が怖いんだけど

狩人が味方したやろ?
防御は充実したやろ?
そんならゴブリンも強化せんとなぁ(『真実』ゲス顔スマイル)

今回はほぼゴブロード視点
下衆の極みを残虐に殺すのって最高にスカッとするから好き




既に日は暮れ、二つの月が平原を照らす。

夜はゴブリンどもの時間だ、だからこそ獣狩りの時間でもある。

冒険者の軍団は壁、大盾、柵といった遮蔽物に身を隠し連中を待ち受ける。

「来たぞー!ゴブリンの大群だー!数え切れねぇ!」

屋根に登っている物見が平原の向こう側の森から現れたゴブリンどもを発見した。

冒険者逹は壁に開けた穴や大楯の銃眼からゴブリンどもが先頭に押し立てている『盾』を見て驚愕した。

「そんな…」

無残に痛みつけられ凌辱された女性逹、彼女逹がゴブリン逹が担ぐ大楯の前面に縛られ盾にされていた。

ゴブリンスレイヤーは心の中で凄まじい憎悪をゴブリンに燃やす…

「ゴブリンは皆殺しだ」

当然の結論を出す・

 

ゴブリン軍の主力ゴブリンソルジャー

粗末な槍や鎧で武装したゴブリン

錆びたナイフや棍棒より獲物が両手もちになった分リーチが長くなった。

また粗末とはいえ鎧を着込んだ為、掠った一撃で殺すのは難しくなっている。

体躯も栄養状態が良い為大きく、筋力も飢えている並みのゴブリンよりは強い。

ある程度は集団戦の訓練を受けている

集団戦なら同数の白磁とも互角、黒曜冒険者にとっても手強い敵となるだろう。

ゴブリンロードは勝利を確信していた。

増やしに増やした小鬼の手勢は並みのゴブリンでは無い。

武器は揃えた、人間の村や冒険者から奪った鉄の武器を使う。

並みの馬鹿なゴブリンならナイフや棍棒だが、自分の手下には槍(木の枝の先にナイフを括り付けただけだが)を持たせた。

防具も付けさせた、竹でできた粗末な鎧だが弱い一撃なら持つ。

それは冒険者にとっては厄介な問題だ、今までならどこにどんな攻撃を当てても一撃で殺せた。

今回は掠っただけでは殺せなくなったという事だ。

チャンプやホブにシャーマンといった『流れ』の上位種も長い時間をかけて

できるだけかき集めた。

盾を作った、人間やエルフの雌を括り付けた盾だ。

冒険者はこいつらを掲げると矢も魔法も撃てなくなる。

ゴブリンライダーを揃えた、大食らいの狼を養うのは苦労した。

冒険者を餌にして人間の肉の味を覚えさせ

ゴブリンを乗せるまで大きく、かつ言うことを聞くまで調教するのは何年もかかった。

ロードとその他大勢のゴブリンを分かつ最大の特徴、それは辛抱する事。

短命なゴブリンには辛抱という概念は無い。

集めたゴブリンの中にはロードに従わない個体もいた。

理由は様々だ。

分け前が少ない、訓練が退屈、自分がロードに成り代わってやる。

どれも小鬼らしい身勝手な理由だ。

ロードは逆らうものは殺し、辛抱し、着実に勢力を増やした。

自前では到底兵力が足りない、多くのゴブリンの巣を併合した。

その過程では逆らうゴブリンを殺すことも多かった。

10のゴブリンを集める為に1のゴブリンを間引く必要があるなら遠慮はしなかった。

短命なゴブリンにとってそれは一生涯をかけた大仕事だった。

そして前日、ロードは食料の備蓄の殆どを放出してゴブリンどもの英気を養った。

不退転の決意を持たせる為に。

戦って死ぬか、飢えて死ぬか。

追い込まなければゴブリンは逃げる。

辛抱したその甲斐はあった。

冒険者どもには強いものもいる、だが数を頼んだ軍隊になった我らに敵うはずはない!

男は餌に、女は孕み袋にして減ったゴブリンを補充すればいい。

女冒険者は生命力が強いから大勢産むだろう。

あるいは大きな餌をチラつかせればもっと遠くの南や北のゴブリンが集まるかもしれない。

そして西の街を制圧し、女はゴブリンの孕み袋として更に増えた暁には東のもっと大きな人間の街を次々と落し最終的には東の大きな都を落とす!

人間やエルフの男は殺し、女は孕み袋にする。

そう、自分こそが世界を制覇するゴブリンの王!ゴブリン魔神王となる!

そういう妄想を抱く程度にはこのゴブリンロードは知能が高かった。

遠目だが、あの場所の女は牛との混血なのだろうか?

とても乳がでかかった、自分の子を沢山産ませて美味いミルクを出させる。

そう想像すると股座がいきり立つ、獣欲はゴブリンにとって最も大切な欲望だ。

配下のゴブリンどもにもここ暫くは女を犯させていない。

不満があっても、はちきれるほどの獣慾を溜め込ませれば女欲しさに死に物狂いで戦うから。

まずは手始めにあの人間の牧場を取る為にロードは軍団を出撃させた。

 

…!?

あんな壁は前には無かった、冒険者どもめ!

ロードは牧場が簡易的ではあるが要塞化されているのを見て内心動揺した。

数では勝る、武器防具もそこそこ整えた。

だがロードが最初に考えていたのは平原で数を頼みに冒険者の群を押しつぶすことで砦を落とすことでは無い。

退くか?いや、既に食料は底をついている、雌も痛めつけたから放っておいたら死ぬだろう。

そうすれば肝心の盾も使えなくなる。

それにここまで来て逃げれば手下はどう思う?ゴブリンは身勝手な生き物だ。

飯が無くなれば四散して勝手に行動するだろう、もう軍団は作れなくなるろう。

ロードは焦った、だが落ち着いてニヤリと笑う。

なに、冒険者が苦し紛れに単に戸板を並べただけでは無いか。

こっちにも盾はある、チャンプやホブもいるからあんな戸板など簡単に崩せる。

少し手強くなったから兵隊が減るかもしれないが口減らしに丁度いい。

むしろ手下に喝を入れ自信を持たせる意味からしてあの砦を落とすのも悪く無い。

調子に乗ったゴブリンは想像以上に大胆になる。

ロードは計画は少々狂ったが、自分は大丈夫だと考えた。

ロードは計画通りに女を盾にくくりつけたゴブリンを前進させた。

雌は事前に食事を減らして水だけ飲ませ、なるべく軽くした。

十分産ませたし、楽しんだからもう壊してもいい。

どうせすぐに新しい雌が手に入る。

あの赤毛のデカ乳雌は自分のものになる。




ロー「お前の嫁レイプしてやるゴブ」
ゴブスレ「絶殺」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

戦闘の前に貴方とゴブリンスレイヤーは女神官に女性冒険者達を集めて説明をしてもらった。

「えっとですね、女性冒険者が用途足す時はここをおトイレにしてくださいということです」

壁の外側になる予定の場所で風上、布で隠されている。

「ご、ゴブリンは女性の匂いに敏感だから…その…」

 

ゴブリンスレイヤーは恐れていることを貴方に説明した。

「ゴブリンどもが別の村に行けば被害が拡大する。

だからどうしても今夜、奴らにこの砦を攻めてもらう」

だがそこまで上手くいくだろうか?ゴブリンがそもそも目標を変えれば防御が無駄になる。

移動がもっと可能なように装甲を施した馬車にすべきだったろうか?

いや、それでは生産が間に合わなかった。

ウォーワゴンとは思ったよりも構造が複雑だ。

「そのために風上で女性の小水の匂いを撒く、奴らは必ず女欲しさに突っ込んでくる」

…貴方はそれを女神官を介して女性冒険者に説明してもらった。

彼女は顔を真っ赤にして全員に説明してくれた。

衛生と安全確保の為に牧場では男女別で一箇所で用を足してくれと。

…後で銃弾を送っておこう。

 

貴方は櫓の上でガトリング砲を構える、そういえばヤーナムでは時々大砲が飛んできたが

なぜただの農民や職人のはずのヤーナム民はあそこまで重武装していたのだろうか…

やっぱヤーナムはヤベー場所だったんだな。

 

「そんな…ひどい…」

櫓の上には女神官がはしごを使って登ってきている。

遠くでゴブリンどもの盾になっている女性に女神官はショックを受けている。

ガトリング砲の弾丸の装填を手持ち以上に効率的に行うには射手の他に装填手が必要だと言うと

 

「わ!私がやります!銃について少しでも詳しい人がいいんですよね!だ、大丈夫ですから」

と自ら志願してくれた。

貴方は弾丸をガトリング砲のクリップに装填した。

用意できた弾はわずか500発にすぎず、確実な殺傷距離は200m程だろう。

切り札的運用が求められる。

 

「500発…凄く多そうですけど。

そうですね…銃弾ってかなり高いですもんね」

 

真鍮薬莢は高価なので拾って再利用したい、もっと量産できればよかったのだが。

女神官にしても弾は二十発しかない、だからこそ一発一殺が求められる。

200m、既に確実に殺せる範囲内だ。

どうする気だゴブリンスレイヤー、やるのかやらないのか。

150m

いや焦ってはダメだ、魔法は意外と射程が短い。

100m

既に至近距離だ、ここまで阿呆みたいにのこのこ歩いてきたら蜂の巣だったろう。

50m

既に確実な距離だ、目と鼻の咲きといっていい。

ゴブリンどもからも嘲るように矢が飛んできては大楯に突き刺さる。

だが燃えにくいように生木から作られた盾は火矢でも燃え上がらないので無意味だ。

 

ゴブリンスレイヤーはゴブリンが『盾』を使うことを知っていた。

彼は誰よりも小鬼を殺してきた男だ。

 

「ここね《睡雲》」

「ああ、頃合いじゃい《酩酊》」

 

壁の内側の魔術師、神官、導師からゴブリンどもの肉盾に向かって非殺傷の魔法が飛ぶ。

呪文使い達から魔法が飛んで行き、「盾」を持っているゴブリン達がバタバタ倒れていった。

先頭を行く盾持ちたちが倒れ込んで動揺するゴブリンたちに向かって突如として開いた城門から飛び出した冒険者たちが躍り掛かる。

特に足の速いものたちが身につけたナイフで女性達の戒めの縄を切り、あるいは板ごと抱えて壁の内側へと交代する。

貴方は女神官に笛を吹かせた。

『投擲、火炎瓶』の合図だ。

飛び出た冒険者達は速さを重視しているために軽装であるし

女性達は裸同然である。

故にゴブリンが彼らを狙う前に援護しなければならない。

貴方は彼らの勇気に賞賛を送り、ハンドルを回した。

一定の間隔で刻まれる発砲音とともに銃弾が吐き出され、彼ら勇敢なる疾い者たちを狙うゴブリンの遠距離攻撃者達が打ち倒される。

まず第一にゴブリンシャーマン、後方でゴブリンの盾持ちの後ろに隠れていた。

なるほど、考えることは似ているはずだ。

奴は冒険者に狙いを定めている。

貴方はシャーマンを今や盾でないただの板ごと撃ち抜いて殺した。

板ごと10匹ほどいたシャーマンを撃ち殺した。

周りのゴブリンも巻き添えで死んだらしい。

そしてゴブリンアーチャー、獣のくせに一丁前に弓矢を使う。

いやヤーナム民の中にはライフル射手もいたのでそんなものか。

見れば新米冒険者達は彼らなりに奮闘している。

投石や弓矢を壁の内側から撃ち、撤退を支援している。

 

「喰らいやがれ!この畜生ども!」

「死ね!クソゴブリンはみんな死ね!」

 

あの仲良し新米二人組だ、剣士も聖女も今や得意分野となったスタッフスリングで火炎瓶を次々と投げつけている。

 

「gobbasd!?][Gugyaaaaa]

 

言葉ならぬ悲鳴を上げながら火炎瓶の中身を被ったゴブリンが一瞬で火だるまになって転げ回る。

転げ回っても一度ついた粘つく油は消えず、むしろゴブリン同士が接触することによって他のゴブリンの鎧にも燃え移る。

木と竹と蔓でできた鎧は軽く簡単に作れ物理攻撃にはそこそこ耐性があるが、生石灰を含んだギリシャ火には逆効果だ。

これではたまらないとまだ燃えていないゴブリンは、燃えて暴れるゴブリンを槍で突き殺し大人しくさせる。

そんな同胞愛に満ちた連中を妖精射手は壁の銃眼から弓矢で射殺す。

「クソゴブリンども、オルクボルグも狩人も!

こんなの冒険じゃないわ、ただのゴブリン相手の戦争よ!」

 

だったら殺せばいいだろうに。

 

「殺してやるわよ、ゴブリンどもは皆殺しよ」

 

妖精弓手は整った顔をしながらも冷静な殺意と暗黒の瞳で、矢を同時に3本放った。

一本はシャーマンに、一本はホブに、もう一本はアーチャー。

同時に3匹のゴブリンを殺す腕前は超一流としか言いようがない。

 

「全く、カミキリ丸も狩人も…あいつらとおるとやたらゴブリン退治と縁があるわい」

「ですがこれも徳行ですぞ、竜への道も一歩から」

 

導師も得意の投石紐で冒険者達をサポートする。

ヒュンヒュンという風切り音と共に鉛のつぶてが飛んでいけば、それはホブの頭蓋すら砕く。

向こうからこっちに飛んでくる矢や石玉、魔法は壁に隠れてやり過ごす。

蜥蜴僧侶は新人の治療の奇跡が可能な達と共に救出された女性達の介抱を拠点の内側、特に安全な建物の中心部で行う。

 

「『快癒』…危ないところでしたな、かなり衰弱しております。

体力回復のポーションを!」

 

冒険者達が命がけで救出した彼女達を死なせるわけにはいかない、

冒険者側の士気に関わる。

冒険者達はあるものは矢で、石で、火炎瓶で、魔法で、奇跡でゴブリンがわの攻勢を凌いでいた。

ロードは即席の砦の防御力を甘く見ていたことに動揺したが、すぐに指示を出す。

ゴブリンライダー、連中の脚力なら砦の柵をジャンプして超えられるだろう。

外からダメなら内側から崩してやるのだ。

 

「剣士!壁に取り付かれたわ!ホブよ、壁を壊す気!」

 

射撃を掻い潜ったホブゴブリンが棍棒で即席の壁を壊そうとしている。

小さいゴブリンはわざと開けておいた柵から入ろうとしては熟練の近接戦士に殺されている。

 

「このやろう!」

 

新米剣士は思いっきりフレイルを壁の向こう側から振りかぶった。

槍でも剣でもできない壁越しの攻撃。

相手に自分の体を見せずに攻撃する、安心して攻撃に集中すればこのような白磁の冒険者でもホブを簡単に倒せる。

フレイルの先には強化クラブの要領で棘が多数あり、突き刺さる。

頭蓋骨を簡単に砕かれたホブは壁の外に倒れ、死ぬ。

新米冒険者に一方的に殺される、厭らしい獣には似合いの死に様だ。

 

「やった!狩人さんが言った通りだ、壁越しに殴るならフレイルは使える!」

「いいわよ、剣士!後でいいことしてあげる!」

 

この二人も新人から中堅に成長するのは直ぐだろう。

今回の戦争に用意した棍棒はフレイルでもある。

棒の先に鎖で強化クラブをつけて作った簡易的なフレイルだが条件が揃えば強い。

 

「ゴブリンライダー!気をつけろ、柵を越えようとしてくるぞ!」

 

だが砦だからと言ってどこも高いわけではない、低いところなら狼の脚力なら跳躍して超えられる。

そこから火を放ち、壁を崩せば勝てる。

あるゴブリンライダーは砦の一部の柵は低く、簡単に超えられると踏んだ。

自分こそ軍団の花形だと周りに自慢していた。

ゴブリンソルジャーもホブも見下していた。

自分こそ軍団の花形、シャーマンやチャンプにも匹敵する重要な戦力だと。

事実、大食らいの狼にかかった肉の量を超えるほどの大ぐらいはチャンプくらいのものだろう。

いや、ゆくゆくは自分こそがこの軍団の長となる。

人間やエルフの雌どもを好きに嬲って遊ぶ身分になる。

冒険者の間抜けぶりを嘲笑いながら長年の付き合いの狼に跳躍するよう指示しあっさりと飛び越える。

 

「ギャン!」

 

だが着地した瞬間狼は突然悲鳴をあげて動かなくなりゴブリンライダーは地面に投げ出される。

何が起こった?身を打った時の衝撃で朦朧としながらも自分の相棒を見ると、血を流し死んでいる。

くそくそくそ!汚い冒険者ども!俺の狼をこんな木杭の罠なんかで殺しやがった!

俺はこんなところでやられる奴じゃない!直ぐに新しいゴブリンロードになってやるんだ!

 

「いたわ!ゴブリンよ!」

「大きいわよ!落ち着いて、囲んで叩くのよ!」

 

ゴブリンライダーは冒険者から奪った剣を手にして相対した雌の冒険者に退治する。

なんて弱そうな雌だ、こんな奴は押し倒して犯してやろう。

舌舐めずりして剣を構える、相手はただの棒しかもっていない。

明らかに新人だろう、村の雌と何が違うというのか。

すると突然ゴブリンライダーは後頭部に激痛を覚えて倒れこむ。

目がチカチカし、立っていられずに顔面から倒れた。

 

「やった!」

「まだよ、完全に動かなくなるまで叩いて!頭を叩くのよ!」

 

ゴブリンライダーは激痛の中、自分の頭に硬い棒がぶち当たる感覚を覚えた。

何度も何度も何度も。

こんな筈はない、こんな弱そうな雌どもに自分が殺される筈がない。

こうして孕み袋ハーレム願望のゴブリンライダーとその相棒の狼は死んだ。

何一つ成し遂げられず、全く無意味に新米冒険者の女圃人に殺された。

同じような光景はどこでも見られた。

隠された杭に突っ込んで身動きが取れなくなったゴブリンライダーを新人が囲んで棒で叩いて殺す。

あまりにも単純な戦法だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話

相手が多い時

アウトレンジする
相手が数を活かせない地形を利用
突出した奴は囲んで叩く
炎を使う
高い所に陣取る
壁で守る

人は長物を持った敵二人に囲まれると防戦一方になる、3人では瞬殺される
つまりは逆に言えばこの状況を作れば勝てる。
太古より人はこの法則を知っていたから城や砦を作った。
要するに囲んで棒で叩ける地形を利用するか作ったということやね(雑な結論

なんかこのゴブロードって
なろう的異世界転生者みたいになってもうた


ゴブリンロードの誤算

ゴブリン駆除の専門家ゴブリンスレイヤーの存在

万物の虐殺者:狩人の存在

 

失敗。

ゴブリンに木や竹で鎧をつけさせた。

燃えやすい上に殴打武器には効果が薄い。

むしろ軽いとはいえ機動力が落ち、粗末な作りゆえにゴブリンの強みの動きを殺した。

 

ゴブリンライダーを揃えた。

機動力の活かせない砦相手ではゴブリンソルジャーと変わらない。

この場合は1匹のライダーより5匹のソルジャーの方が効果的だ。

ゴブリンソルジャーだけで挑むべきだった。

 

肉の盾を揃えた。

重い盾を過信し、女を奪い返された。

盾の後ろの攻撃の要のシャーマンを強力な射撃武器で一掃された。

最初から早さを頼んで分散して突撃すべきだった。

とはいえこれらの事は実戦を経験して初めてわかる事。

 

こんな筈は無い。

ゴブリンロードは目の前で自分が生涯をかけて築き上げた軍団がたやすく崩される様を目の当たりにした。

今まで多くの村を襲い、人間の雄を殺し雌を孕み袋にしてコツコツ築き上げてきた。

ある殺した人間の雄冒険者はとても強かったが、間抜けの極みだった。

たかが1匹の雌風情に拘って自分に殺されたのだ。

同族のゴブリン穴を襲い、併合してきた。

多くの間抜けな冒険者どもを罠にかけてきた。

冒険者の雄を多く殺し、多くの雌冒険者を犯してきた。

そうだ!毒を使う事を考えて刃物に使えば冒険者を殺せると気づいたのは自分だ!

これまで多くの経験を積み、罠を考え出してきた。

殺した人間の雌の死骸を罠に利用することを考えた。

正面にトーテムを置き、側道から奇襲する罠を考えた。

警報の鳴子を考え、落とし穴を考えた。

狼を飼って手下にする事を考えた!

それ以外にも多くのゴブリンの罠や手段を考えたんだ!

自分はこの世界に生まれた天才だと自負してきた。

自分こそゴブリン、いや世界を統べる王になるべく生まれたと!

あんなちっぽけな村とも呼べない場所などあっという間に制圧できる筈だった!

人間の街を攻めるための前座…余興に過ぎなかった。

今頃はもうあの赤毛の雌を楽しんでいる筈だったんだ!

あの牧場から漂う濃厚な雌の匂い!

多くの雌冒険者がいる!

手下のゴブリンどもも股間を熱くして雌冒険者を楽しむ筈だった!

役立たずどもが!

たかが戸板の盾すら抜く事が出来ないのか!

無能な部下にゴブリンロードはイライラする。

天才の自分の命令さえ聞いていればいいというのに。

阿呆なゴブリンに武器と装備を整えさせた。

アーチャーを揃えた、シャーマンを揃えた、ホブを揃えた、ライダーを揃えた、チャンピオンを揃えた。

チャンピオン!そうだチャンプだ!

ゴブリンロードは息を荒くしながらもひとまず落ち着いた。

なに、まだまだ戦力は残っている。

冒険者も防戦で疲れている筈だ、チャンピオンを先頭にして第二波を送れば勝てるだろう。

そうだ、軍団の切り札であるチャンプの力ならあんな戸板など紙切れ同然。

チャンプは街の攻略まで温存させておくつもりだったが、まあいいだろう。

チャンプが壁を崩し、そこからゴブリンどもを突入させれば勝ったも同然だ。

失った頭数は雌冒険者を捕まえて孕ませればすぐ元どおりになるだろう。

むしろ残った精強な自分やチャンピオンの種と強い雌冒険者の胎からなら、あんな役立たずのウスノロどもでなくもっと良い兵隊が生まれるだろう。

そうだ、役立たずどもを整理できたと考えればそんなに悪くない。

ゴブリンロードは今度は第二波を送り出した。

総攻撃だ。

建物の屋根の上から再び轟音が響いてきた!

あれだ!あの音が響くたびにゴブリンどもが倒れていく!

忌々しい冒険者の魔法使いめ!

赤い火がゴブリンに当たる度に貫かれたゴブリンが騒ぎ、のたうちまわる。

ゴブリンロードはゴブリン達を散開させた。

ああいう強力な魔法使い相手に密集して戦うのは得策ではない。

こうなればチャンピオンを先頭に立て遮二無二突撃して屋根の上の魔法使いを嬲り殺すのだ。

ロードは過去の経験から魔法使いというのは接近すれば問題ないと考えている。

あるいは射手で集中力を途切らせ、矢避けに専念させればいい。

ロードはアーチャーに命じて屋根の上の魔法使いを狙わせた。

ロードには聞こえなかったが良く通る澄んだ声で櫓を守る祈りが唱えられた。

『聖壁』

あれは!?

くそくそくそ!魔法使いの側に神官だと?

白い服をした神官が魔法使いに『聖壁』を張り、櫓の木の壁も含めて分厚い守りを構成した。

ゴブリンのシャーマンやアーチャーの攻撃は届かなくなり、炎の魔法使いの連続攻撃が逆にゴブリン側の遠距離攻撃手段を削っていく。

ならばとロードはシールダーを突撃させた。

チャンピオン・シールダー、あるいはホブ・シールダー。

そこらへんの木を切り丸太を雑多な手段でまとめただけの盾とも呼べない代物を持った上級ゴブリン。

とはいえ攻撃を防ぐことは間違いなく、分厚いので並みの矢や魔法ならそこそこ防げる。

櫓の魔法使いの火の魔法が再び襲ってくる!

あれだけ撃ってまだマインドダウンしないとは恐ろしい奴だ!

ロードは強力な魔術師を恐れる、なぜなら連中はシャーマンよりもずっと遠くからゴブリンを殺せるからだ。

もしも生かして逃げられたら後日の街攻めで必ずまた現れる!

ここで殺さねば!

シールダーの盾が凄まじい音を立てて削られる。

放たれた魔法が盾の薄い部分を貫通しチャンピオンの1匹に突き刺さる。痛みで呻くチャンプだが、止まることはなく砦に肉薄していく。

するととうとう櫓の魔法使いからの魔法が止まる。

チャンプの1匹は満身創痍でフラフラしたところを弓矢で射殺されてしまった。

だが良くやった!

今や他のゴブリン兵士は壁に取り付きつつある。

あちこちから火の魔法が飛んできては多くのゴブリンが焼け死ぬが圧倒的な数の前ではその程度の損害は許容範囲だ。

チャンプの一匹がついに砦の壁に取り付こうとした時、それは放たれた。油壺、そして火炎瓶の集中投擲。

ロードは知るまい、チャンピオンの一体を倒したのがこの前冒険者になったばかりの新米達だということを。

だが他のホブやチャンプはまだいる。

ホブは壁の内側からのフレイルの一撃で殴り殺されるものもいた。

だがついにチャンピオンの一体が盾を振り回し壁を破壊した。

それを好機と見た他のゴブリン達も突破口めがけて一斉に突っ込んでいく。

ロードはほくそ笑んだ、損害は思ったよりも多かったがこれで勝ったと。




数で囲んで火炎瓶を投げつける
これでニュービーでもチャンプを倒せるのだ
実際ヤーナムめいてサツバツとしている


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話

準備光景


「ん…は、はぁ…はっはっはっ…

聖女ぉ、俺もう限界。

もう駄目ぇ」

「ん、もうバテたの?ほら頑張りなさいよぉ。剣士、おっ男でしょぉ、はぁはぁ

女の私がまだ余裕あるのに情けなく無いの?ゼェゼェ」

 

草原で新人剣士と新人聖女の男女二人が喘いでいる。

周りを見渡せば新人達は人目も憚らずに同じような状況だ。

 

二人とも顔は赤く、全身汗まみれで肌に下着が張り付いている。

二人の共同作業のたびに打ち付けられた木材はギシギシと軋み、呻き音をたてている。

その度に息は荒く、脈も早く打つ。

 

 

 

 

 

 

「お、重い〜!こんなに重いなんて〜」

「ぶつくさ言ってないで引きなさいよ!私も手伝ってあげてるんだからね!」

狩人は新人達の給金の安さを哀れに思い一人金貨2枚という高値で街から牧場までへの物資の輸送という仕事を発注した。

いつもの相場の10倍以上にまで輸送費が膨れ上がったが、戦時なので仕方ない。

馬も馬車も足りない、なら冒険者に荷車を押させればいいだろ!

「俺の方が重いんだから変わってくれよー」

「嫌よ、か弱い女の子が押してあげてるのよ。

感謝しなさい。あーもう、こんなの冒険者じゃないわ!

ただのポーターじゃない!」

だったら押せばいいだろ!

とはいえ命がけで汚く臭い下水道を這いずり回って一日金貨一枚になるかならないかの新人にとって命を落とすリスクが低い荷物運びのポーターや荷馬護衛は人気の仕事でもある。

ちなみに殆どの中堅冒険者より馬借の方が遥かに高給取りだ。

いくら資本に高価な馬が必要とはいえ、冒険者の地位の低さが伺える。

なので堅実な貯金した元冒険者が金を借りて馬借などの事業を始めることもある。

というか貯金するほど堅実な人間は比較的低リスクな割に収入が安定するので大抵はそうする。

遅かれ早かれ冒険者で食って行くのは茨の道であると新人は思い知ることになる。

 

町中の建材、釘、大工道具を買い漁って牧場にありったけの資材をありったけの輸送手段で送る。

牧場の建物と建物の間に壁を作る。

建物の外壁を木材で補強する。

狭い場所はわざと低めの柵を作って敵を誘い込む迎撃地点にする。

「すまない…」

ゴブリンスレイヤーは資材を出してくれた貴方に感謝する。

だがこの防御策は半分は彼の成果でもある。

彼は日頃から柵を作り、点検していた。

お陰で壁を設置する労力は柵に立てかけて杭や支えで補強すれば良い程度。

工事期間も最小限で済んだ。

彼がゴブリンの偵察隊を早めに発見し、報告した。

お陰で防御を整える時間が出来た。

彼とその幼馴染が牧場の経営者を説得してくれた、

お陰ですんなりと建物を補強したり、壁を作ることが出来た。

もしも彼がいなかったら防御はとっくに諦めて無理矢理にでも牧場の人も物も家畜も疎開させ、建物は焼き払っていたろう。

そう、彼がちょっと遠くのゴブリン巣の退治に出かけたとか怪我をして街の病院で治療しているとか。

十分ありうるし、些細な事で可能性はある。

いやそもそも冒険者ギルドも牧場が落ちるまで気づいていなかったかもしれない。

本当に危ない話だ…これからは見回りを増強すべきだろう。

いや、それは領主の責務では?

「…これはどうする?」

周囲では大工やギルドの鍛冶屋の親方の指導の元、新人冒険者に中堅、ベテランまで加わって防御構造物の構築を行っている。

人によってはゴブリン首の報奨金より荷車と大工仕事の方が稼げそうだ。本当に、狩りの依頼とは単にモンスターの首に報奨金をかけてそれで終わりでは済まされない。

工事にも輸送にも人手と金がかかるものだ。

報奨金をかけてそれで終わり、領主様とやらは何を考えているのか。

 

そんな中、ゴブリンスレイヤーは資材を運んできた大八車を見て何か考えがあるようだ。

まさか大八車は武器になるまい、可燃物を積んでゴブリン巣に突っ込ませるとか?

「いや、それは考えたが走行が安定しなかった。

それに荷車を無駄にすることになる」

したのか…思いついたことがあるとは?。

「大八車の前に釘を打った盾をつけようと思う」

つまり移動が容易な置き盾を作るつもりなのか。

釘は例のように頭を切り落として削って棘にする、体当たりで突き刺したりよじ登るのを防ぐためだ。

「この大楯の壁なら確かにゴブリンの腕力では破壊は難しい…

だがホブやチャンプが棍棒を使えば破壊される恐れもある」

ちなみに壁の上面には頭を切り落とした釘を斜めに打って登りにくいようにしている。

登ろうと足や手をかければ釘が肉に食い込む仕掛けだ。

しかしこれ以上単純に強度を上げようとすれば石か煉瓦で作るしかない。そんな時間はない。

「『砦』の内部に移動大楯を待機させておく。

壁が破られても応急処置にはなるだろう」

壁が破られたら、大八車の前につけたトゲ付き盾の後ろから棒でゴブリンを叩いて迎撃する。

ゴブリンが脅威なのは近づかれるからだ、だから盾で距離を稼ぐ。

特に打撃部が振り下ろされるフレイルは有効だ、体躯に優れているとは言えない女圃人が振り下ろしても頭に当たればホブゴブリンは死ぬ。

だから壁の後ろに台座を設置し、ひたすら壁に取り付こうとするホブゴブリンを叩き殺させる計画を立てた。

高いところから長物で叩く。

ゴブリンにリーチを活かさせず回避や防御が難しい長物で叩く。

フレイル特有の隙の大きさを盾や壁といった障害物でカバーする。

障害物を置き、相手に近寄らせず、相手よりリーチの長い武器で攻撃する。

そして冒険者の連携の指揮を熟練冒険者に取らせる。

全ての策はゴブリンスレイヤーのお陰だった。

金が無いから今まで実行できなかったに過ぎない。

彼は今まで牧場がもしも襲われたらという前提のもとで想像し、準備し、最善を尽くし作戦を練っていた。

貴方は彼の構想に物資を提供したに過ぎない。

「間に合うと思うか?」

…昼夜兼行でギリギリまで工事を粘らせる、工事範囲をギリギリまで絞り込めば襲撃までには間に合うだろう。

 

周りを見ればゴブリンスレイヤーのパーティー一党も工事に駆り出されている。

皆に水を配る女神官、壁にノコギリで銃眼を開ける妖精弓手。

龍牙兵を召喚して壁を設置する蜥蜴僧侶など各々活躍している。

特に鉱人導師が壁の固定で最も活躍していた。

さすがは鉱人であった。

貴方もノコギリ鉈で木材を荒っぽく切る作業に戻る時だ。

やはり狩人の工房はこのような事態を想定して日常の道具から狩道具を仕立て上げたのだろう。

日頃から使い慣れた道具を武器にし、武器を道具にする。

誠に合理的発想である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話

いつもはゴブが数を頼みに新米をリンチしてるので
今回は新米冒険者が棒でリンチ
そういう事もあっていいんじゃない?


貴方のガトリング砲が迫り来るゴブリンチャンピオン・シールダーの大楯を砕き弾丸が脳髄を貫いた。

だがシールダーはその役目を果たした。

倒れたシールダーの後ろから続々と別のホブやチャンピオン、ソルジャーが押し寄せてくる。

矢と魔法が乱れとび、女神官の聖壁にガンガンとぶつかるが女神官はいまだにこの奇跡を保っている。

ゴブリン焼きの蓋に使うよりはかなり本来の使い方に近いのでこれには地母神様も満足。

もはや弾は残り少ない、これからは白兵戦になるだろう。

すると今までの使い方を覚えた女神官が驚愕の一言。

「私が殺ります!」

信じて送り出した可愛い娘同様の信者が大量破壊兵器に魅入られた。

地母神様は卒倒した。

「今まで溜めたお金で私も弾をコツコツ作ってたんです。

ほら!」

なんと、彼女にはまだ百発ほどの弾を保有していた。

45口径ロングコルト弾のレシピを確かに渡したが、ここまで持っているとは…

ならば容赦はしない、貴方はガトリング砲のハンドルを彼女に手渡し破られた壁の応援に向かうと告げた。

まだ残ったチャンピオンがいる。

それにしても銀級とも互角というチャンピオンがあんなにもいるというのにゴブリンが雑魚など誰が言い出したのか。

どう見てもオーガ並の大きさがあるのだが?

貴方は女神官に照準を壁に向け、敵が侵入するときに密集する瞬間を狙えと指示した。

「はい!任せてください!」

貴方にはもはや鉛玉は無い、だが貴方にはまだ水銀弾がある。

見れば更にもう一体のチャンプが大きな棍棒を振るって壁を破壊している!

大楯の壁は所詮は杭と柱と柵で固定しただけの簡易な壁なのでチャンプの怪力なら簡単に壊せるのだ。

ミシミシと音を立てて壁が崩れ去った。

「Guooooo!」

勝利の雄叫びをチャンプがあげる。

その足元からは大量のゴブリンどもが待ってましたとばかりに壁の突破口から侵入してきた。

チャンプへのロードの命令は単純。

壁を壊せ、多くの入り口を作れ。

チャンプの温存と巨体を考えれば狭い内部に入るのはソルジャーの方が都合がいい。

だが侵入したソルジャー達の上にまたも櫓の上から火線が降り注いだ!

「焦らず、よく狙い確実に一定の速度でハンドルを回す!」

狩人が戦線の支援に向かい、女神官がクリップに装填された最後の銃弾を吐き出し続ける。

ゴブリン達は驚愕した、あの忌々しい女神官が魔法使いだったのかと。

もはやゴブリンがわの遠距離攻撃手段のアーチャー、シャーマンは砦側の射手や魔法使いに次々と殺され壊滅状態だった。

だからこそ近距離線に持ち込むための突撃だった。

数十体のゴブリンがガトリング砲に撃ち殺されて銃声はようやく止まる。

とうとうの弾切れだ。

ゴブリンソルジャー達は顔を見合わせてどうする?とお互いを牽制する。

もうこんなに殺された、逃げるか?

だがどうやって?それに餌も無い、女も無い。

なに、魔法使いはようやく弾切れだ。

それにやっと砦への道が開けた。

自分たちならやれる、今までのヘマをして死んだ連中とは違う。

そう思い上がったゴブリン達はホブもソルジャーも砦の中に突っ込んでいく。

そして再び『壁』に直面する。

新米冒険者達の押してきた移動盾だ。

「押せ!押せ!奴らを近寄らせるな!」

「間隔を空けるな!押し競饅頭の要領で押し出すんだ!」

突入したゴブリンどもの正面左右に突如として押し出されたのは壁。

ゴブリンスレイヤー急造の移動大楯。

それが壁の中に入り込んだゴブリンの前に立ち塞がり、小鬼どもは動揺する。

だがホブは自信満々だ、所詮は戸板に輪をつけただけだと。

ホブは前に人間の冒険者から奪った大剣を盾に振りかぶって切りつける。

ガリィという音とともに木に食い込むが、盾は切れない。

逆に剣は挟まって抜けなくなった。

どんな怪力だろうと、錆や欠けだらけの大剣で木材は切れないものだ。

「危ないぞ!火炎瓶を投げろ!」

「フレイルよ!盾の陰から殴って!」

剣も研がない不精なホブへのお返しはまず火炎瓶、熱で怯ませる。

次にフレイルの一撃が頭部に命中した。

「みんなやるじゃん!」

そう言いながら盾の隙間から侵入してきたゴブリンどもに矢を浴びせかける妖精弓手に率いられた弓手隊。

経験の浅い新米から中堅、ベテランまで一斉に撃ちまくる。

至近距離から放たれた上にゴブリンどもは壁に囲まれて密集し、身動きが取れない。

次々と射殺されていく、遮二無二なって突撃するゴブリンは盾で阻みフレイルで殴り殺す。

これはまずいと残ったゴブリン達が遂に逃げ始めるが、壁の外側にいたのは冒険者達だった。

「おっと、悪いな。ここまでベテランが新米さん達とスコアがそんな変わらないってのはバツが悪いんでね。

お前さんがたに逃げてもらっちゃ困るんだよ。」

壁から外へ出たベテラン達は外で激闘の末にゴブリンチャンピオンを倒し、その勢いのまま壁の中のゴブリンの後ろに回った。

言うは易く行うは難し、だが熟練冒険者の腕前ならできて当然の技。

絶望…

前後左右を囲まれた大勢のゴブリン達は逃げることもできない。

数で囲んで叩く、ゴブリンが得意としてきた戦術。

今回はそれをされる側になったというだけだ。

ゴブリンは巣に迷い込んだ冒険者を囲むのは得意だが、自分たちが囲まれる側になるとは想像もしない。

故に今囲まれて、打ち殺される。

…矢が石が火炎瓶が降り注ぎ…フレイル、剣、槍が振るわれる。

人間同士の戦争ですら長い棒を持ち、囲んだほうが圧倒的に強い。

それが長い棒を持った冒険者と中途半端な長さのゴブリンとでは言うまでもない。

ゴブリンの感覚からすれば長い訓練を重ねたホブやソルジャーがなりたての新米冒険者に、あるいは熟練冒険者に一方的に嬲りごろされる。

連中とてかなりの経験を積み、それなりの数の冒険者を殺してきた。

いわばこのゴブリン軍団のゴブリンはゴブリンにとっての鋼鉄以上というエリートゴブリン達だった。

ただのソルジャーでも鋼鉄以上、ホブなら青玉、アーチャーは翠玉、シャーマンは紅玉、ライダーは銅。

チャンプに至っては銀といった精鋭ぞろいのはずだった。

今やチャンプはことごとく熟練に殺されるか、新米の火炎瓶で気道を焼かれて窒息死。

シャーマンとアーチャーは撃ち合いに負けてほぼ全滅。

ライダーは杭に引っかかったところを殴り殺された。

だがこの場に残ったホブやソルジャー、あるいは僅かなシャーマンやアーチャーでも通常なら鋼鉄級冒険者のパーティーとも渡り合える。

それが今や一方的に泣き叫び、狼狽え前から押し寄せる新米の大盾とフレイルに後ろからは熟練冒険者に一方的に押しつぶされようとしていた。

「しっかり頭を殴れ!味方に当てるな!味方との距離を保て!」

「盾を密集させろ!隙間を空けるな!」

「倒れた奴はあと二回殴れ!死んだふりしてる奴がいるかもしれないぞ!

慈悲をかけるな!慈悲のない獣だ!」

新米達は実戦で今や中堅になった、実戦は訓練に勝るとはこのことである。

 

「おー新米おっかねー。ははっこうなったら何級でも関係ねーな」

「でも、報奨金は、いっぱい、欲しい、でしょ?」

槍使いとお…いっぱいな魔女も熟練として後方から回り込んでゴブリンどもを確実に減らしていった。

もはやこうなればゴブリンが体制を立て直すことは不可能だ。

僅かに外に包囲の外に残ったために逃げようとするゴブリンを槍使いはその素早い槍で、魔女は炎の魔法で仕留めていく。

足の速い熟練は敗走したゴブリンを追撃しその首を挙げる。

ゴブリンは敗走はできない、なぜならその短足故に平原では簡単に追いつけるからだ。

「ま、楽できた割には結構稼げたし良しとしますか。

あんま欲張って怪我してもつまんねーしな」

貴方はゴブリンを掃討する新人達のサポートに回っていた。

ホブが突破しようと釘が体に突き刺さるのも御構い無しに盾に体当たりを仕掛けたりして新人を崩そうとしたこともある。

貴方はその度に散弾銃を浴びせ、ホブを弱らせ新人に叩かせた。

懸賞金を出す貴方が新人の仕事と経験を奪ってはならないのだ。

しかしながら包囲した時点で既に勝敗は決していた。

全てはゴブリンスレイヤーの作戦通りだった。

それにしても彼は今どこにいるのだろうか?

 

…『そう考えるだろうことはわかっていた。

間抜けな奴め、大軍は囮にこそ使うべきだ』

ゴブリンロードは逃げた、まだ再起はできる。

あの群れはもうダメだが、自分にはまだ手下がいる。

自分と手下にならまだ充分な餌もある。

兵隊を生む雌もいる、次はもっとうまくやれる。

そうだ、今までだって失敗は何回もあったが結局は上手くいった。

生きてさえいればまたチャンスはある。

 

巣へと逃げかえろうとする、そんなゴブリンロードの前に立ち塞がったゴブリンスレイヤー。

ショートソードと彼から買った散弾銃を構えてロードに言い放つ。

『お前の故郷はもう無い』

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話

えぐい拷問シーンが輝かしい戦闘より気合が入るという謎
狩人「こいつ助けるシナリオとか書いたらマジで殺しに行くから」
真実「…」

国王「王の許可なく私兵を募るなんて反乱行為だ」
狩人「何だこいつ、世間じゃ名君とかいってるけど単なる事なかれ主義者じゃないか」

実際問題として、名君であろうと外聞を気にする国王と
獣狩りのためなら外聞も手段も問わない狩人では相入れない気がする。



ゴブリンスレイヤーはゴブリンロードと対峙していた。

ゴブリンの数はどう見ても100を遥かに超えていた。

あれだけのゴブリンを組織化し、武装を施し、指揮する。

生かしておけばこいつは必ずや復讐しに来る!

それだけは絶対に許してはならない!

…戦闘の準備は一日中かけた、指揮は信頼できる冒険者に預けてきた。

本当に危なかった。

防御構築ができなかったら、あるいは間に合わなかったら、負けていたかもしれない。

牧場は焼け落ち、俺はまた故郷を失う。

…信頼できる仲間たちは奮戦しているがそれでも防衛はギリギリだろう。

彼らに余裕がない以上、一人でこれまで通りに巣を潰しこのロードを殺す。

何も変わらない…一人でいるのは随分久しぶりな気がするな…

あの頃と同じ、純粋なゴブリンへの殺意だけを心に留める。

「お前の故郷は、もうない」

『あいつ』から買った散弾銃をゴブリンロードに向ける。

ロードの戦闘力は高い、だが何も問題はない。

『あいつ』が対峙してきた獣に比べれば全く問題は無い、殺し方はよく心得ている。

ロードは雄たけびをあげて、ゴブリンスレイヤーに飛び掛かろうとした!

ゴブリンスレイヤーは何百回と繰り返した練習通りに散弾銃を撃った。

装填された散弾はたった一発。

再装填は目の前にゴブリンがいる以上無理だろう。

一発あれば十分だ。

十分すぎる。

凄まじい発砲音とともに鉛粒が何十と音速で飛んでいく。

ゴブリンロードとゴブリンスレイヤーの距離は僅か3m。

不発に備えた剣の構えは不要になった。

至近距離から発射された鉛玉はロードの全身に食い込んだ。

分厚い胴鎧を着込んだロードだが全身を覆うことは重すぎてできない。

鎧を貫いた鉛玉は脂肪や筋肉に止められ浅いところで止まるが、顔、足、腕といった守られていない部分では脂肪も筋肉も引き裂き、骨にまで鉛玉が食い込み、ロードは苦悶の声を上げながら後方に吹っ飛ぶ。

全身に無数の穴が空き、その傷跡は凄惨極まりない。

「Gugaya!?」

ロードは火器の恐ろしさを知らない、目の前の弱そうな人間の雄が何をしたのか見当がつかない。

魔法!?鎧を着た魔法使いだとでもいうのかと。

反撃だ!殺してやる!そのムカつく面を叩き割ってやる!

…不味い!動けない!?激痛!?殺される!!そうだ、命乞いだ!

少しでも生きるチャンスを…

「タ…」

 

ゴブリンロードが無益な考えを抱いた、次の瞬間に剣の柄が散弾で吹っ飛ばされて無防備になったロードの顎を砕いた。

「お前らゴブリンが何をしようと、ゴブリンはゴブリンだ。

何一つ成し遂げられることなどありはしない…あってたまるか」

顎を粉砕し一撃でゴブリンロードの声を奪った。

激痛!呻き声しか出てこない。

次いでゴブリンスレイヤーはロードの武器を蹴り飛ばし、やはり剣の腹を棍棒のように使い足と腕を折った。

手足をおられ、顎を砕かれても、普通のゴブリンよりは高い生命力と内臓を胴鎧で守られたことが災いして死に逃避することもできず、動くこともできない。

「だがそんな貴様らにもできることはある。

お前らが人々に与えた苦しみの何千分かの1でも味わえ」

…いつの間にか狩人が来ていた。

ゴブリンスレイヤーの銃声を聞きつけたのだろう、相変わらず速い男だ。狩人に同行する何人かの冒険者はゴブリンの巣穴からゴブリンスレイヤーが救出した別の女性を馬に乗せて急いで牧場に戻る手はずになっている。

「…出血は焼く、猿轡を噛ませなるべく長く苦しませる…」

貴方は頷き、連れてきた馬とロードをロープで繋ぐ。

やはり用意のいい男だ、それにゴブリンスレイヤーのやろうとすることをもうわかっている。

だがゴブリンスレイヤーはまだ安心しなかったようなので

手足の腱をナイフで切り、火で焼いた。

万が一も無いように。

貴方達はこいつをまず牧場まで引きずっていく。

地面を引きずられ、苦悶の呻きを挙げるロード。

だが心配はいらない、この程度で死なせはしない。

死なせてなるものか…貴方達の思いは同じだ。

ゴブリンロードを引き摺って牧場に戻った。

ロープで縛られ、手足を切られ、顎を潰されボロ雑巾のように引きずられたロード。

いやただの害虫だ。

「あっ!狩人!それにオルクボルグ…な…何それ」

「ゴブリンロードだ、今から使う」

「使うって?…そんなの早く殺したほうがいいよ!」

「殺す、だが捕虜の女性たちは?」

「あ、えーとね…衰弱してたけど街の冒険者で回復魔法が使えるのがつきっきりで看病してて、今はもう大丈夫よ」

「そうか、立てるか?」

「うん、それくらいなら…まさか…」

「復讐だ、そうしなければ彼女達は立ち直れない」

考えたのは貴方かゴブリンスレイヤーか、いや無意味だ、

貴方がやらなければゴブリンスレイヤーがやったろう。

ゴブリンスレイヤーがやらなければ貴方がやったろう。

だが貴方達二人は同時に同じ方法に考えついた。

 

ロードを引き摺り冒険者達の間を進む、彼らの目には捕虜の女性達を辱め犯し嬲ったゴブリンどもの首魁への憎悪と怒りが渦巻いていた。

「くそゴブリンが…」

「殺してやる…殺してやるぞ…」

「駄目よ、ただ殺すなんて駄目。

地獄の予行演習をさせてやる…」

集まった冒険者の中に哀れみの目などありはしない。

慈悲の無い獣だ、だから慈悲をかけるな。

こんな獣に慈悲をかけることは人を裏切ることだ、あんたもそう思うだろう?

 

貴方達は病院がわりに使われている牧場の建物の前までやってきた。

回復魔法とポーションのおかげである程度は体力を回復させた女性達。

だが肉親を殺され、故郷を焼かれ、尊厳をどん底にまで辱められた女性達の目は光を宿していない。

貴方とゴブリンスレイヤーは彼女達に問いかけた。

復讐したいか?生きたいか?尊厳を少しでも取り戻したいかと。

「ふ…復讐…したい!」

ある女性は涙を流しながら冒険者達に懇願した。

「お願いです!あいつを…あの獣に考えられる最大の苦しみを与えて下さい!」

この場にいる女性は皆そうだ、貴方達は当然了承した。

 

…ゴブリンロードは苦悶の声を砕けた顎で叫び続けた。

「足と腕だけ叩け、胴や頭は駄目だ。

水はたっぷりやって餌は最小限だ。

皮が破れたら火で炙って出血は抑えろ」

ゴブリンロードは地面に四肢を広げたXの体勢で、辱められた女性たちの復讐にあった。

昼も夜も四肢の骨が砕けてタコのようにぐにゃぐにゃになっても棒で叩かれ続けた。

並みのゴブリンよりも強い生命力ゆえになかなか死ななかった。

出た血は焼いて止められたし、餌と水は粥のようにして食道から無理矢理流し込まれた。

生ゴミでできた粥だったが、吐くことも許されなかった。

牧場の伯父さんは戦慄したし不愉快だったので、女性達がある程度落ち着くと今度は西の都に移された。

そこでもひたすら公衆の面前に晒されて叩かれ続けた

昼も夜も晴れの日も雨の日も野ざらしだった。

小さなネズミや虫が生きながらロードの肉を貪った。

焼けた杭と鎖で地面に固定され、剥がせば出血する。

そして冒険者ギルド経由で狩人に雇われた見張りが常についた。

混沌の者が奪おうとすればすぐに殺せるように上には岩が設置された。

ロードは痛みに耐えかねて常に呪いと救いを求め続けた。

だが神々は何のアクションも起こさなかった。

殺意満点の狩人がすぐそこにいたからだ、こればっかりはマジで洒落になってなかった。

神が万が一にもロードを救おうとしたら、その神を9割9分殺して同じ目に遭わせる。

殺神鬼はそういう目をしていた。

ロードの地獄のような苦しみは長く続いた。

地球人の拷問よりもエグかった。

時々回復魔法をかけられた。

だが体内に直接埋め込まれた固定杭が外されるはずもなく、苦痛を倍増させ長引かせるだけだった。

その間もゴブリンに辱めを受け神殿で心のケアを受ける女性達がゴブリンロードをまた叩きに来る…

ゴブリンロードが死んだのはそれから約1月後だった。

痛みでひと月の間一睡もできず、衰弱死した。

顔は原型をとどめていなかったが、多分地獄のような苦痛を味わった顔だと思われる。

この間にもゴブリンスレイヤーは多くのゴブリンを殺し、

狩人は多くの獣を狩ったが、それは別のお話。

悪いゴブリンは現世で考えうる究極の地獄を味わって死にましたとさ。

めでたしめでたし。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話

真実「強化してええんやで」
ゴブロード「なんか強化すべきという啓示キタ!
予定の倍の兵力!装備を充実!更に上位種も限界まで雇い入れる!」
確かにこれで負けたらおかしい
ただ戦国時代の合戦からすればほぼ誤差の範囲内なので…
野盗や山賊としては大きいが、軍隊かと言われると…

イッヌのデーモン
狩人の犬
ゴルゴ13すら『ヒューム卿最後の事件』で軍用イッヌの指揮する狼軍団に追い詰められ危うかった。

ヤン・ジシュカ 農民を王侯貴族騎士スレイヤーに変貌させる、和マンチ量産和マンチ
ゴブスレ ゴブスレ和マンチ
狩人様 獣狩り和マンチ
これは嫌われるはずですわ




ゴブリン退治の夜は漸く終わった。

冒険者側には負傷者こそいたものの命に関わる傷を負った者はおらず

回復魔法の使い手によって傷は癒え傷跡ものこらない程に回復した。

牧場の周囲と中で屍を晒すゴブリンは200兵以上

内臓を、脳髄を晒し、あるいは焼け焦げた死体。

矢玉に撃たれて死んだのはまだ綺麗だがあたり一面に血と臓物が飛び散っている。

牧場の伯父さんの心境やいかに。

吟遊詩人なら高々と冒険者の勝利という栄光を歌い上げるのだろう。

だがゴブリンの死体にを作って何の栄光があろうというのか。

この光景を見ないこの世界の大勢の人間はこういうのだろう、

『たかがゴブリン200匹程度だろ?』と

『東の魔神王との戦争じゃもっと手強いのがわんさかいるぜ』

ゴブリンは弱い、だからこそ確実に学習しつつある…

ゴブリンスレイヤーはもしも平原で激突していたら危ういと感じた…

どれだけ策を弄して奮戦しても結局は数に押し切られてしまったかもしれん。

銀級冒険者はおおよそ1対1なら歴戦のチャンプと互角と言われている。

裏を返せばそこにゴブリンソルジャーがたった1匹加わるだけで戦局はひっくり返るという事だ。

ただただ汚らしい汚物があちこちに転がっているだけだ。

多くの大地系魔法、および新米冒険者がまたも金を貰って穴を掘ることになるだろう。

だが今は皆疲れて駄目だろう。

誰もが疲れて農場のあちこちで休みを取っている。

ゴブリンが流した不快な血の匂いと汚物の凄惨な匂いが牧場に漂っている。

だが連中が死んだからといって殺された人々が救われるわけでも

焼かれた村々が再建されるわけでもない。

ましてや家族や愛する人々を殺され、

汚辱を受けた女性達の尊厳と日常が戻ってくるわけでもないのだ。

-100が-90になったからといって何だというのだろうか。

またも貴方は何一つ救えず、結果は変わらない。

蔓延する病を治療したとしても死者を甦らす事はできない。

予防は治療に勝る、昔の医者は真実を残したものだ。

つまりゴブリンを元から根絶するしかない。

…どう考えてもゴブリン軍団の迎撃、死体の処理、周辺の村や牧場への見回りの冒険者の雇用と貴方のやるべき事は一介の冒険者の領分を既に越してしまっている気がする。

あの『助言者』もなるほど、こういう狩人の苦労を思い知ったのだろう。

誰かが言っていた気がする、命とは天からの授かりものであり何かを残すべきだと。

だから人は持てる力で最善をこなすべきだと。

貴方は自分の後ろを見た、光る物など何も無い。

死体と血がどこまでも積み上がっているだけだ、ヤーナムに行けば何か変わるのでは無いかと思った事もある。

ヤーナムで確かに変わった、全て信じられないほどクソみたいに悪化した。

貴方の愚かさは救いようが無い、獣が蔓延る地獄から小鬼が蔓延る地獄へ這いずり回っただけだ。

血塗れになって獣を殺すだけの狂人だ、貴方のような狩人など獣と何が違うというのか。

…まだ光を探し求めているのだろうか?

だが今は少しだけ暖かい。

世界の魂の総量は一定だと聞いたことがある、

それなら不快なゴブリンより優しい人間で世界を満たすべきではないか。

…今ならわかる。

月の魔物は人の望みを叶えたのだ、ヤーナムとはまさに人間性ゆえに獣狩りの夜へと沈んだのだろう。

冒険者一同は朝日を浴びながら悪臭漂う牧場の休憩場のそこかしこで休憩を取っている。

ゴブリンは死にかけのロードを残して皆殺しにした。

皆殺しだ、生き残った奴が死んだふりをしている可能性と殺害証明のため首を切っておいた。

首を切る前に棒で殴るかそもそも長物の刃で切り落とす。

こんなところで生き残っていたゴブリンに刺されて怪我しました、はあまりにもつまらない。

生き残ったゴブリンなどそもそもいなかったが。

「しかし、金貨二枚ってことで勇んだはいいが。

チャンプもソルジャーも同一金額ってのは考えものだなこりゃ」

確かに同じゴブリンなのだろうか?というほどでかい。

ホブでも並みのホブよりは大きいし鎧をつけている、ソルジャーですら並みのゴブリンよりは大きい。

正確にはホブゴブリン・ソルジャーとでも名付けるべきなのか。

前線に立った熟練の銀級パーティーは特に上位種と交戦したがゆえにもっぱらソルジャー相手の新人と数に関してはほぼ同じ程度を挙げた。

まぁ勝ったのだし報酬も良い、それで良いではないか。

狩人は多くの弾丸を撃ったが、ゴブリンを最終的に殺したのは最後の掃討戦だった。

新人とはいえ掃討戦に加われば恐ろしい、予算の少なさゆえに軽装だが軽装の方が追撃戦では向いていた。

見れば新人戦士と新人聖女の二人も全身を返り血に染めてお互いにもたれかかって眠っている。

休憩所は厩舎の中に拵えられ布を敷いただけの寝床だが、誰も彼もがぐったりしている。

ゴブリンスレイヤーの一党も皆眠っている。

寒々とした空気を和らげるために一緒の毛布に包まっている女神官と妖精弓手もいた。

上の森人も戦争は苦手らしい。

血や焼けた肉の悪臭は酷いものだが、風上になればある程度は和らぐだろう。

貴方は眠ることが出来ず、牧場だった急造砦のあちこちを見て回る。

朝日に照らされるのは返り血で染められた牧場の厩舎や小屋の真っ赤に染まった壁…

きっとゴブリンスレイヤー が後で洗い落とすのだろう。

その他にも建物はどれも焦げたり矢が刺さったり武器が突き刺さったままだったと戦場の傷跡が残っていない建物は無い。

あの叔父さんもきっと感謝して姪を嫁にくれるだろう。

「ここにいたか」

ゴブリンスレイヤーがそこにはいた、早くも脳髄や内臓といった汚物が飛び散りこびり付いた建物の汚れをブラシで洗い流している。

…その格好で掃除するのか…

「いつ奇襲があるかわからん…」

ゴブリンスレイヤーはあれだけの戦闘の後だというのに いつも通りに家事に勤しんでいる。

やはり良い夫になるのでは?

「…改めて礼を言う、ありがとう」

貴方が依頼を出した件だろう。

そればかりでなく資材や物資の費用も工事の労賃も。

結局報奨金と同じくらいかそれ以上に他の経費の方が高くなってしまった。

金貨1000枚くらいは飛んでいった計算になる。

戦争とは本当に金がかかるものだ。

…だが別にゴブリンスレイヤー一人のためにやったわけでは無い。

貴方の新居も財産も壁の外にあるし、ゴブリンの軍団が町の近くで跋扈すれば自分にも被害が及ぶ。

腰の重い領主やギルドの上層部に業を煮やしただけだ。

それにこの牧場は投資案件として優秀だ、警備は非常に優秀な人間が担当しているし、産物のチーズやミルクは将来性がある。

ゴブリンごときにくれてやるのはあまりにも惜しい。

「ふっ、そうか…」

…べ、別にあんたの為にやったわけじゃないんだからね!

?奇妙な啓示を受け取ってしまったようだ。

「…俺はかつて故郷と肉親を奴らに奪われた…」

今日の彼は珍しく饒舌だ、貴方は朝日を眺めながら黙って彼の話を聞いている。

「…俺はまた故郷と大切な人を失うところだった…

あの時は俺には誰も来てくれなかった…

今回はあんたをはじめとして大勢の人が助けてくれた…」

 

…絶望的な敵にしょっちゅう対峙した貴方には味方がいないことの辛さがわかる。

ましてや彼は幼かった、弱かった、大事な肉親を殺された。

その絶望と恐怖は計り知れないものだっったろう。

「だから感謝している。

あんたが良ければ…あんたの友でいさせてくれ。

あいつをもう絶対に離さない、離したくない。

気持ちに素直になれて、救ってもらったからな…」

 

友か…別に構わない…

 

「披露宴の招待状をできたら送る…その時はスピーチを頼む」

…それは冗談なのだろうか?面白いな。




モンスターの死体とか放っておいたら疫病や悪臭、害虫やネズミ、狼とかが湧くよね。
穴掘るのも大変そうだし、焼くにしても燃料集めが大変そう。
それともあの手のモンスターは可燃性でよく燃えるんだろうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話

実際問題としてギルドが払った原作では費用負担どうするんだろう
どう考えても街や周辺の村で徴税するしかないんですけど
それは王が禁止してるようだし…
どこから金が出てきたのか謎
ギルドの財産?有力者のポケットマネー?
だとすると依頼を渋るのも納得…

ちなみに地球人の場合
傭兵隊長
「お前んとこの牧場の近くで人間同士で戦争やったらお金なくなってもうた
仕方ないのでお前んとこの家畜徴収するわ。
おっ!おっぱいのデカイ娘おるやん!犯したろ!」
地球人ど外道すぎて草


日が昇り、牧場での戦いに冒険者軍が勝利したという話は街まで素早く伝わった。

これを見に来ようと、また冒険者に報酬を支払う為。

そして戦場跡の見物や冒険者への報酬を目当てに商売を開こうと

商人など多くの野次馬が牧場の周りに集まってきた。

「皆さーん、報酬の現金はこちらに用意してあります!!」

受付嬢が出張所の仮受付で冒険者への支払いを行なっている。

「へへ、何体倒したよ?俺なんか6匹だぜ!

人足と工事労賃も含めりゃ当分楽できるな」

そこかしこで早速報酬を貰った冒険者がはしゃいでいる。

宵越しの金は持たないとばかりに熟練冒険者は早速酒保商人に朝から酒を注文している。

ちなみにあの酒保商人は貴方が買収した店の者だ。

貴方は牧場周辺で商売ができる者を貴方の支配下の店に限定した。

貴方が払った金はギルドを通し、冒険者の手から店を経て貴方の元にまたそのまま戻ってくる。

実に狡猾なやり方だ。

 

良く通る声で受付嬢が更に追加のクエストを発注している。

「冒険者の皆さーん、牧場周辺のゴブリン死骸や材木の片付けと言ったクエストが発注されてまーす!

今日一日で金貨3枚ですよ!なんと3枚!大盤振る舞いなので是非受注してください!」

ゴブリン1.5体分の値段、疲れた体で安いか高いか。

いつもなら新人が喜び勇んで飛びつくが今日ばかりは動きも鈍い。

 

「ほら!金3枚だって、3枚!戦士!すぐ行くわよ!」

「えー俺もう疲れてんだけど。聖女ー、いっぱい稼いだし今日くらいゆっくりしてもいいじゃん」

「何言ってんのよ!稼げるときに稼ぐ!貧乏新米は贅沢言えないのよ!

それに新しい装備も買いたいんでしょ!

少しは甲斐性あるところ見せなさいよ!」

あの新米戦士と聖女も元気いっぱいになって、受付嬢にクエストの受注を申告する。

こういうときは女の方が強い、良い夫婦になるだろう。

貴方は助言者として彼らに好感を抱いた、やはり後輩を指導すると愛着が湧く者だ。

 

 

貴方は牧場主である叔父にさてと詰め寄った。

大丈夫かね?と

「あんた…ああ、そうか今回の依頼主か…

ギルドから牧場を守ると聞いたときには驚いたが、あんただったんだな」

貴方は今回の防衛に大金を支払った、つまり牧場の所有者である彼は貴方に大きな借りがあるという事だ。

「ちょっと待てよ!俺が誰かに依頼したわけじゃないぞ!」

だが貴方が依頼し資材を発注し人を雇わなければ牧場はゴブリンの巣だったし、彼は命を落とし彼の姪も凌辱の限りを受けていたろう。

金が出せないばかりにそんな目にあった村は珍しくもない、軍団はとてつもない規模だったから間違いなくそうなったろう。

それなのにあんたの牧場は家畜も姪も主人もほぼ無傷と言っていい。

それにゴブリンの死体処理は?あれだって無料でできるわけじゃない。

何ならこの件を街の裁判所に持ち込んで費用の幾らかを請求することもできる。

全額とはいかなくても2割から3割は要求できるだろう。

金貨にしてまぁ500枚程度と言ったところだ。

それだけの現金を用意するには家畜を全部売らなければならないし、土地だって失うだろう。

更にゴブリンの死体の処理費用やゴブリン軍が攻め込んできた土地という因縁も考えれば地価は暴落するだろう。

はっきり言って牧場の全部を売り払っても賄えるかどうかわからない。

「そんな無茶な話が通るか!俺は払わないぞ!」

 

既に正義を司る至高神の神殿に持ち込んだ、費用の一部負担を求める訴えは正当だという言質を取ってあるし書面に認めてもらった。

裁判を起こしても良いが単に牧場を失い彼の借金が膨らむだけになるとは思うのでそんな事はしたくはないが。

「ふざけるな!勝手に人の土地を戦場にして事が終わったら牧場を丸ごと寄越せだと!

そんな虫のいい話があるものか!」

あるんだなこれが、しかも珍しくも何ともない。

悲しいかな戦争とはそういうもんである。

だが貴方としては彼を牧場から追い出すつもりはない。

それどころか給料を払ってもいいくらいだ。

貴方は彼に牧場の所有権を渡し、自分の雇われ人になればいいと言った。

姪も従業員として給料を払う、自分のレストランや宿に物産を卸してくれれば良い。

給料だって悪くないし牧場に投資だってする、経費も負担する。

貴方としても友人の妻と義理の叔父から牧場を取り上げるなど…そんなことはしたくはない。

同意するならサインをしてもらおうかと貴方は契約書を差し出した。

裁判所の判定は既に降ったも同然だ、それでも争うというのなら『然るべき手段』で差し押さえせざるを得ない。

「ぐっ…」

神殿や冒険者ギルドに駆け込んでも無駄だ、合法なのだから。

「くそっ…」

 

『…貴方は牧場の所有権を手に入れた!

金貨1500枚を失った!

傘下のビジネスに供給される物産の質が上がった!

『ビジネスの乗っ取り』チュートリアルは以上です』

 

しかしあの叔父はゴブリン退治の為に家畜や土地はおろか女房子供を奉公人という名の奴隷として売り払うしかない村に比べれば幸運だろう。

そういう所まで考えてほしい者だ。

貴方の前では項垂れて所有権の委譲に同意した彼の姿がある。

人間の身には不幸が起こるものだ、彼にはくじけずにこれからも前を向いて姪を慈しみながら生きてほしい。

貴方は決意した、このようなゴブリン禍に苦しむ人々を救わなければならないと。

そして彼らを『狩人達』の庇護下に置き、彼らから新しい狩人を募るのだ。

その為ならば金という道具を使う事にどんな躊躇いがあろうか。

なに、所詮は銀行口座の数字ではないか。

だがこの数字はときには国家すら破壊してしまうのだから、獣狩りとは難しい。

貴方は牧場を手に入れ、家に帰る事にした。

武闘家は朝食を作って待っているだろう、貴方にもきっと休息が必要だ。




武闘家ちゃん
村を出る>冒険者になる>初めてをゴブに奪われる>レイプ目で神殿>故郷に帰る>いたたまれなくなってまた街に>街で浮浪者>内縁の妻

神々「なんかあいつ金持ちのクラッススみたいな事してるぞ」

クラッスス「えー君んとこの家のご近所火事になっとるで?
うーん、消火してもええけどうちの土地やないしなー
安値で売ってくれたら考えるんやけどなー
いやー人助けしたいんやけどなー(棒」

買った後
「おっ、なぜか土地安う変えたやん!ラッキー(棒
ほんなら狭くて高い高層アパート建てて高い家賃とったろ!
ローマの不動産業儲かりすぎwwww
ローマ軍団をお小遣いで養えないとかみんな貧乏やなぁwww
は?軍団に給料やらなんやら払え?
うちの金が減るの嫌やから、イスラエルの神殿略奪するわ」

地球人クソど外道揃いすぎて草


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話

あの大規模ゴブリン襲撃事件から数日が経った。

 

「…結婚してくれ…大事にする…」

「…うん!」

 

こうしてゴブリンスレイヤーは結婚する事になったらしい。

プロポーズの言葉は非常に短いが、これで了承されたというのだから

二人の仲の良さが伺えるではないか。

牛飼娘の少女時代は終わりを告げ、妻としての人生が始まるだろう…

そして後十ヶ月ほどしたら牧場に跡継ぎが生まれるらしい。

良い事だ。

貴方は彼に貴方と彼の子供達が大きくなったら結婚させようかと提案した。

そうなれば法的にも牧場の後継は牛飼娘の子供ということになる。

正確にいうと彼と貴方の子供が結婚するときに貴方の子供に牧場の所有権を持参金にして持たせればいい。

どちらにせよ彼女の孫の世代には完全に彼女の一族の物になるではないか。

 

珍しく彼は苦笑している。

「気が早いことだ…まぁ、彼女に相談する。

俺としては本人達がよければ構わない…」

 

貴方は今ギルドの受付にいる、なぜか手を繋いだり体の距離が近い男女ペアの新米冒険者の割合が非常に多い。

そして死んだ目をしたような受付嬢の姿がなぜか痛々しい。

きっと十ヶ月後にはベビーブームだろう、という話が街のあちこちから聞こえる。

そして新米冒険者の冒険者脱落率が高くなった。

…皆大量に手に入れた報奨金と貴方からの融資でそれぞれの稼業を持つようになってしまったからだ。

冒険者自体はやめてはいないが、

本業を持ちその合間に時間が空いていたら冒険者稼業をするというパターンが非常に多くなった。

例の新米戦士と新米聖女はあの後結局自分たちの借りている宿で酒の力を借りて夫婦の契りを交わしてしまった。

手を握り合って実に微笑ましい若夫婦ではないか。

貴方はギルド経由で彼らに金を貸してやった。

…彼らは牧場から馬を買い、馬借を始めるらしい。

なるほど、冒険者上がりの稼業としては堅実だ。

全ては今や実質的に妻の聖女の考えだった、思うに夫は妻にあれで一生頭が上がらないだろう。

珍しいことでもないが。

「俺は装備をいいのを買って、冒険者を続けたかったんだけど…」

「何言ってんのよ!あんな死にそうな目にあって!

この子のためにも地に足ついた仕事につく!そう決めたでしょ!」

まったくもって正論である。

「それにしてもお金まで貸してもらって…本当にありがとうございます」

別に構わない、貴方の店で馬をローンで買ってもらったと考えれば悪くはない。

それに二人とも可愛らしい貴方の後輩だし、

次世代の狩人の候補者を作ってくれるというのなら支援したとしても将来的には元が取れる。

ぜひ仲睦まじい夫婦になって6人くらい子供を産んで欲しいものだ。

…これだけ将来的に出産が旺盛になると保育園や幼稚園の需要が出るかもしれない。

そういうことに関しては女神官の方が良さそうだ。

それにしても彼女にも良い人はいないのだろうか?

もう15だしそろそろ結婚・出産しても良い年齢だろうに。

いくら孤児だとはいえあの器量で優秀な奇跡持ちなのだから引く手数多だとは思うのだが?

 

ところで相変わらずゴブリンロードは街中で絶対に動かせない状況で地面に張り付け拷問状態だ。

体内深くに喰い込み埋まった鉛玉はいかなる魔法・奇跡を用いても取り出すことは不可能に近い。

体内に侵入・木っ端微塵になった鉛を取り出すことは可能だが、大規模な切開で出血死は間違いない。

鉛中毒で中毒死するだろう、楽に死なれたのでは困る。

「苦しませろ、それでいい」

ロードにとっては胴鎧が災いとなった、今日も血を吐きながら呪いの声を天に向けている。

 

 

貴方は多くの不動産を買収し、事業を拡張した。

思うに冒険者の冒険があまりにも張りにかけるのは経験・装備の不足が原因だろう。

経験に関してはゴブリンスレイヤーのように先達の知恵と経験を借りるという選択肢があるが、

装備に関してはどうしようもない。

特に消耗品のポーションなどがそうだ。

ギルドでよく募集している薬草採取クエストで採取された薬草を原料にポーションを製造するらしい。

ちなみに薬草採取は黒曜…ゴブリン退治や下水道のどぶさらいより危険らしい。

森には危険なモンスターもいるし、薬草を見分ける知識も必要なのだから当然か。

なら、黒曜級以上が護衛して知識を仕込んだ白磁に採取するという分業体制を取ればいいのでは?

既にそうしている所もあるらしいのでやはり白磁がゴブリン退治くらいしか受けられないというのは間違いでは?

貴方はそう思った。

貴方はポーションの大量生産を行いたいという若い錬金術師がいる事をギルドの受付嬢から聞いた。

「そういう依頼がありましたよ、何でも協力してくれそうな人がいたら紹介してくれって…」

 

『依頼:ポーション製造に関わる相談

もっと多くの冒険者さんにポーションを使ってもらいたいです!

ポーションをもっと多く、安価に作れる方法について興味があって出資して良いって人を探してます!』

 

何故掲示板に張り出していないのだろうか?

いやわかる、これは冒険者が受けられるようなものではない。

出資金は大きすぎて個人でどうにかなるものではないし、

出せるのは商人かギルドだが海のものとも山のものとも知れない出資金を出そうという人間がいる筈もない。

惜しいことだ、もしも本当なら才能がある人間が金とコネの無さゆえに朽ちていく。

別に珍しいことでもあるまい。

貴方は依頼主の素性について受付嬢に尋ねた。

「そうですね、かなり優秀ですよ。

冒険者としても優秀で錬金術でも薬剤の調合で有名です」

別に問題はなさそうだし興味が出た。

貴方は依頼を受け、その錬金術師にギルドの応接室で面会した。

錬金術師は青年だった。

貴方に熱心にポーションについて説明してくれた。

要するに小鍋で作るより大鍋で作った方が手間暇かからず大量に作れるのでずっと安価にできるらしい。

誰でも思いつくと思うが何故そんな単純な事を誰もやらないのだろうか。

一つあたりの単価が安くなったとはいえ10倍作れば利益はずっと大きくなるだろうに。

 

「まぁ誰でも思いつきますよね…でもここだけの話、

つまりそうならないのはそうなると困る人達がいるって事なんですよ。

それに大きくなると温度調整とか品質管理とか…

あと単に失敗した時の損失が大きくなるとかで薬品ギルドからは敬遠されてますね。

それと高価なエーテル液ですけど、

これが大量に仕入れるのが無理だから少量ずつしか作れないってのが最大の理由なんです!

エーテル液さえ潤沢に手に入ればみんなポーションをもっと作れると思うんですよ!」

 

…現状では様々な業者がポーションを製造しているが、品質の保証についてはないも同然。

ギルドに卸している業者のはしっかりしているが、少数の業者が独占しているために高価なのだという。

流石に高級なエリクシール級が高価なのは仕方ないとはいえ

毒消しや基本的な体力回復ポーションまで金貨1枚以上の値段がするのは問題だろうに。

貴方は現状で価格を半額とはいかずとも3割くらいは安くならないかと思った。

 

「そう!一番高くつくのは媒体のエーテル液ですよ。

何しろ都から輸送しないといけないんで高くついて仕方ありません。

うーん、大きな蒸留器さえあればここでも媒体を作れると思うんですけど。

薬草よりエーテル液の費用がポーション製造過程で費用の多くを占めてるからできると思います。

ただ中央がエーテル液の製造を独占してるから大型蒸留器を注文しても断られちゃうんですよ!」

 

なるほど、儲かる産業は独占したい。

別に珍しい話でもないし新しくもない。

…そして新規参入する人間が絶えないのも自然の理である。

それにしても蒸留器か…つまり蒸留酒製造機でもある。

なるほど、酒と金は切っても切れない筈だ。

特に酒税、これほどうまい税金は無い。

ところでこっそり作ると密造酒ならぬ密造エーテル液になるのか?

蒸留酒といえばあの鉱人導師だな…相談してみるか。

 

貴方自身は酒も女も賭博も必要悪として容認するが、麻薬はダメだ。

偉い人も言っている。

『ヤクは汚すぎる商売だ、政治家も役人の友人たちも手を出したと知ったら離れていく』

そう麻薬、駄目、絶対。




国王「蒸留酒は高額課税よー」バリバリ

スコットランド人「だが断る」
狩人「密造酒は我が民族の伝統やろ、やらなあかん(使命感」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話

貴方は200以上のゴブリンを狩ったことでここ数日は満腹だった。

いわゆる箸休めというやつだ。

だがそれではいけない、狩りに出よう。

獣を殺そう、懐かしい汚濁に浸かろう。

獣を狩殺さねば貴方は弱くなる。

…ギルドに入ると、貴方の良く見知った顔が並んでいる。

金貨10万枚程度、国王にとっては大した額ではないだろう。

戦をするのにこの程度では2、3日も持てば良い方だ。

下手をしたら1日と持つまい。

夜になったので、貴方はギルドにやって来た。

 

「良いなー俺も勇者と一緒に冒険したかったなー」

「まだそんなこと言って、あんたじゃどう足掻いても無理だったでしょ。

そんな夢みたいなこと言ってないで明日の荷運びのこと考える!」

 

あの新米戦士はまだそんな事を言っている。

だがわかるよ、夢破れたからこそ夢は甘いものだ。

皆がギルドで情報集め兼宴会をしている。

馬借は荷運びの依頼を受け、錬金術師はポーション作成依頼を受ける。

ちょっとした道具や設備さえあれば依頼の幅も質も大きく広がる。

人と道具は切っても切れない関係だ。

それにしても冒険者とは宴が好きなのだな。

ここでヤーナムなら薪を積んで獣を燃やしている陰気なオブジェが追加されるところだったが。

やはり人間はこうあるべきだ、ヤーナム民とて好き好んで獣に成り果てたわけではあるまいが。

 

「あっ聞いた?勇者が魔神の手下を…」

 

「そんな事はどうでも良い…」

 

「ゴブリン退治だ」

 

…もう無茶はしないのでは無かったのかな?

彼は相変わらずぶっきらぼうだが、物言いは随分と柔らかくなった。

これは要するにできるならついて来てほしいという意思表示だ。

「来るのか来ないのか、好きにしろ」

 

「あんたねぇ…」

 

「…分かってたつもりでしたけど、本当の意味で理解しました。

貴方の行動にいちいち驚いていたら身が持たないということが。

あの良いですか!前にも言いましたけど、選択肢があるようで無いのは相談とは言いません!」

 

どうやらゴブリンスレイヤーがいつも通りゴブリンをスレイしに行くので彼らについて来てほしいらしい。

報酬は金貨一袋だ。

ゴブリン退治の依頼としては破格らしいが、水の街まで遠征しなければならないらしい。

簡単と言われる仕事で破格…騙して悪いが…。

貴方はとても嫌な予感がした、そして悪い事を考えた後には悪い事は間違いなく起きる。

街までは馬車で移動するらしいが…。

貴方は水の街については知らない

 

「ああ、狩人は行ったことないの?水路があるおかげで商品も食材も豊富な街よ!」

 

水路…か。水、水落ち、漁村!うっ、頭が!

恐ろしそうなところだという感想を貴方は抱いた。

妖精弓手は軽い目眩を起こした貴方に胡散臭げな目を向ける。

 

「…何を考えたかは知らないけど、絶対違うわよ…。

 

どーせ私たちが行かないって言ったら、一人で行くんでしょ!」

 

しかし彼の答えは意外なものだった。

 

「…なら他を当たる」

 

「あら意外?てっきり一人で行くーとか言い出すと思ったわ」

「…ああ、それも考えたが成功率と確実性を考えればサポートがいた方が望ましい」

 

要するについて来てほしいという事だ。

素直でない男だ、恥ずかしがり屋なのだろう。

 

「まぁ結婚式を控えてカミキリ丸もかなり柔らかくなったということじゃな」 

「んー良き傾向でありましょうな」

 

皆もかなり乗り気だ。

内心では皆、彼のことが好きなのだ。

わかるよ、彼は良いやつだからな。

 

女神官は彼の身を本当に案じているために彼に強く警告した。

「分かりました…けど良いですか!絶対に無茶はダメですよ!

危なくなったら即撤退!傷は確実に治す!約束ですからね!」

 

「分かった」

彼は意外と素直だ。

 

「それと、ゴブリンは確実に全滅させること!

それと火も水も毒も…まぁちょっとなら使って良いけど大々的には無し!

それと、事が済んだら私たちと冒険に行く事!あ、狩人もよ!」

 

「そうなのか?…考えておく…。

狩人はどうする?無理なら別に良い…」

 

彼は貴方に凄くついて来てほしいと言外に言っている。

貴方は水の都に興味がある、そこでなら獣狩りに役立つ何かを発見できるかもしれないので

ゴブリンスレイヤーの獣狩りに同行すると伝えた。

貴方もなんだかんだ言って彼には甘い、凄く甘い。

貴方は彼が危険を排除するためにはどんな手段でも構わず使うと確信した。

彼は狩りに優れ、無慈悲だ。

だがまだ血には酔っていない、それでも人として使命感と決意が補うだろう。

真に良い狩人だ。

 

「やった!」

 

「意外と二人とも素直ですよね」

 

貴方達6人は水の街へのゴブリン遠征に参加するという話が決まった。

やはり獣狩りか、いつ出発する?貴方も同行する。

 

「朝一番の馬車を予約しておいた、6人だ」

 

既に日は暮れ夜になっている

貴方方は各々が朝食を済ませた後に、貸し切った朝一番の馬車に西の街の馬車駅で集合して出発する計画だ。

…夜に獣狩りに行かないとは…貴方も随分と昼の世界に馴染みつつある。

 

「そんじゃ、帰って寝て体力を回復しますか!

ほら!そうと決まったら狩人も帰る帰る!」

 

貴方方は各々が自分の寝床で休むことになった。

 

「なんじゃい、金床は狩人ととうとう同衾かい。

狩人や、気ぃつけるんじゃぞい。

こいつはガサツだからのぉ、寝床から蹴落とされんようにせんとなぁ!」

 

鉱人導師は貴方方に暖かい言葉をかけてくれる。

彼はおどけているが、貴方方

 

「なっ違うし!こいつの奥さんが私の友達なだけで…下宿してるだけだし!」

 

「なっ!?狩人やい…お前さん既婚者だったのか?」

 

いや、まだ正式に籍は入れていない。

家に一緒に住んでて帰ったら食事を用意していて

夜の営みをして子供もできたらしいが。

 

「…まぁ確かにその歳で独身は無いとは思っとたがのう…」

「ですが意外ですなぁ、拙僧は狩人殿の結婚生活が想像もつきませんで…。

あいや、これは失礼」

 

蜥蜴僧侶は謝るが、気にしないでくれ。

貴方自身とてまだ人としての結婚がどういうものか理解したとはとても言えない。

 

「んむぅそれはそうでしょうな。

誰でも初めては戸惑うもの、ましてや結婚のような人生の大事なら尚更。

力及ばずながら、拙僧は狩人殿の幸運を祈っておりますぞ」

何か違う気がするが合っている気もする。

 

「…そうか、狩人に子供が出来たことは知らなかったのか…」

 

ゴブリンスレイヤーは皆に彼に子供まで出来たことは話されて知っていたと伝えた。

 

「なんじゃい、そんならそうと言ってくれたら良かったのに」

 

「ああ、俺の子供と彼の子供を将来結婚させようという話だったからな」

 

これには全員が驚愕した。

「えぇー!ご、ゴブリンスレイヤーさん!もうそこまで話を!?

幾ら何でも先の事考えすぎでしょ!狩人さんも!」

「そうなのか?」

「そうです!」

 

女神官はまさか生まれてもいない子供の許嫁話が進んでいるとは思わなかった。

「二人とも、結婚式はまだですよね!

でしたら絶対に地母神教会でしましょう!

司祭様にも私からお伝えしますので是非地母神様に信仰心を見せてくださいね!

きっと子宝に恵まれますから!」

 

…言外に寄進を求められた気がする…。

 

「あ、そう言えば狩人さんの奥さんって誰なんです?」

貴方以外では彼女に会った妖精弓手が答えた、貴方の口からは言いにくい。

 

「んー?あそっか、まだ伝えてなかったっけ?

えっとね、こうポニーテールで黒髪黒目のかなり可愛い子よ。

人間の年はあんまわかんないけど、見た目女神官と同じくらいかなー

あんな小さな子と夫婦だなんて実際犯罪よね」

 

「えっ…」

途端、女神官が昏い目をする。

 

「狩人さん、それって…」

…貴方は答えない、それが答えだ。

 

「そんな…私…どんな顔してあの人に会えば良いんですか…。

こんなのって…無理ですよ」

 

場の雰囲気が途端に重く、暗いものになる。

こればかりは本人同士でしか分かり合えない。

だが貴方は女神官にようやくフォローの言葉をかける。

気にするな…とはとても言えない。

過去を忘れろなどと軽く言えもしない。

彼女は強く生きている、それだけは間違いないと女神官に伝えた。

 

「…はい、そうですか。

そうですよね、私は…あの人達の犠牲のおかげでこうして生きてられるんです…。

だから、あの人達の分まで…ありがとうございます狩人さん。

私、少し気が楽になった気がします」

「ゴブリンスレイヤーさん、狩人さん…。

ゴブリン…やっつけましょうね…」

「当然だ、ゴブリンは皆殺しだ」

 

だが彼の皆殺しの意味は少し変わったような気がする。

彼も父親になりつつあるという事だ。

 

貴方と妖精弓手はギルドからの帰り道で言葉を交わした。

 

「…あの子がやられた時にあの女神官ちゃんもいたんだね…。

言わなかったじゃん」

 

いう必要はなかった、それに言ったからどうなるというのだ。

余計な詮索は人をより傷つけるだけだ、そうは思わないのか?

 

「全く…あんたとオルクボルグがやたら馬合うのってやっぱ似た者同士だからだわ。

どっちも変人!」

 

貴方もそれは良く言われる。

さらにいうともっとキツイ罵り言葉も良く飛んできた。

ここでは精々が『血塗れ野郎』程度なので忘れてしまったのだろうか?

それに事実なので反論の必要もない。

ヤーナム…あの悪夢も遠い昔のような出来事の気がする。

まるで覚めない悪夢のようだったが、ヤーナムの全ては貴方に染み付いて消えない。

「…あの子、大事にしなさいよ。

私もなんとか頑張るから」

妖精弓手、彼女は口が悪いように聞こえる。

だが実際のところ、とても優しい心の持ち主だ。




剣の乙女「あら?月の香り?不思議な人…」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話

狩人:神に選ばれし者(ただし邪神)

剣の乙女「あなた、どなた?依頼を受けてくださった冒険者の方、かしら?」(中の人同じ

剣の乙女「あなた、無事だったのね。よかったわ
もちろん、私にできることはいたします
少しでも、あなたの助けになるとよいのだけど
(剣の乙女の輸血液を入手)
では、これで…ご無事を祈っています」


貴方と妖精弓手、そして武闘家の3人は食卓を囲んでいる。

「それでさ、今度水の街に行くことになったのよ!」

妖精弓手はギルドでの付き合いで軽くつまんだ程度だというので武闘家の作った料理をパクパクと食べている。

そんなに食べたら太るのではないだろうか。

「エルフは太らないの!」

貴方は武闘家のを見た、ついでこの妖精のを見た。

なるほど。

「おい、今どこ見て考えた…」

武闘家がクスクスと笑っている。

「でもお二人って兄妹みたいですよね、仲がいいっていうか馬があうっていうか」

「べ、別にこいつとはそんなんじゃないし!っていうかこんな奴が弟とかありえないし!

それより貴方も寝なくていいの?ほら、赤ちゃん大事にしなきゃ。

狩人、あんたも洗い物手伝いなさい!身重の子にあんま家事させないの!

あんたもお金あるんだったら家政婦さんくらい雇いなさいよ」

 

どちらかというと妖精弓手がお姉さん役になっている。

妹を心配する姉と女子力の足りない姉を心配して世話する妹という構図だろうか。

妹が作って姉が食べる。

姉が散らかして妹が片付けて掃除する。

この2000歳児ときたらいまだに手が掛かる子供気分が抜けないらしい。

それでいて姉気取りなのだから、全く。

世間では顔麗しい森の貴人という評判だが、

家ではお姉ちゃん気取りな癖に妹離れが出来ない子供にしか見えない。

しかも下宿人のくせに貴方よりも食べる。

「いいじゃない、お腹空いてるし。女武闘家ちゃんの料理って美味しいし」

 

「あ、大丈夫ですよ。まだ貴方の分はたっぷりありますから。

それに家政婦さんなんて雇ってもらっても、私そんなのに慣れてませんから」

他人の女性が家にいるというのは女武闘家にとってはどうもやりづらいらしい。

ちなみに妖精弓手は面倒を見て構ってあげないと駄目な姉ポジションなので別に構わないらしい。

「でも水の街ですか、私もちょっと行ってみたいなぁ…」

「あ!それなら一緒に行きましょうよ!

あ…ごめん」

「えっと…その…わ、私は別に構わないんですけど…」

 

女神官に会いたくないんだなと貴方はその気持ちを察して、直接行ってやった。

それに出没しているのはゴブリンだ、いくら街の警備隊がいると言っても気持ち悪いだろう。

「ちょっと狩人!ごめんね、私デリカシーなくって!」

全くだ、他人の云々以前に自分のを直せ。

「お前がいうか!」

 

「いいんです!おね…妖精弓手さんが悪いんじゃないんです。

私も怖いんです、私のせいであの人を傷つけちゃうんじゃないかって…」

 

…確かに会いづらい、会いたくない気まずい。

その気持ちはわかる、貴方も経験があると伝えた。

だが女武闘家も女神官も西の街に生活拠点がある…。

小さな街だ、いつまでも顔を合わせずに済むわけにはいかないだろう。

「あんたホントデリカシー無いわね…奥さんを気遣うとかそういう所ないの!?」

それに女神官も女武闘家に会うのを怖がっていた、お互いに恐れていては何も進まない。

…一緒に水の街まで来てくれないだろうか?

「ちょっと、身重な女性に冒険なんて無理でしょ!」

まだそこまで身重ではない、馬車も別に用立てして女同士男同士で3:4だからちょうどいい。

それに水の街を見たいと言っているではないか、昼間だけ人通りの多い表通りに限定して外出。

夜間は早めに見張り員が常駐する警備厳重な上等の宿に泊まれば危険は無い。

…冒険者は無理だろうが冒険の一端を見るくらいはできる。

それが冒険者を辞めざるをえなかった彼女への貴方なりの優しさだ。

「い、行きます!そうですよね、会うのを怖がるなんて変ですし。

それに水の街を見たいっていうのは本当なんですよ!」

「武闘家ちゃん…わかった!旅の間は私が付いててあげるからね!

でも狩人!あんたも全力で私達を守る!

いざとなったら自分の身を犠牲にしてでもよ!わかった?」

 

まぁ死に慣れた貴方にとっては百回二百回死のうが別に大したことでは無いので異論はない。

「よっし!そうと決まったらもう寝よ!

あっ、その前にチャチャっと支度ね!クッションいっぱい持ってかなきゃ…。

狩人はそのまま洗い物すること!」

貴方は食器の洗い物を済ませ更に工房で仕事に就いた。

二人はベッドで一緒に眠っている、中のいい姉妹だ。

姉妹じゃないけど。

 

…翌朝、あなた方7人は二台の馬車に分乗することになった。

一台はあなた方野郎組、もう一台は女性組だ。

…なぜか女性側の方だけ客車だ!街で最も高価な客馬車をチャーターした!

女尊男卑もここまで来たかと貴方は感じる。

「ちょっと!身重な女性にあの固い荷馬車に座れっていうの!?」

 

貴方は男衆3人に謝罪した。

「構わない、水の街までの道中は人通りも多い街道だ。

水の街も夜間に出歩かない者にとっては十分安全らしい。

…それに女一人を家に残す不安はわかる」

 

「ったく狩人丸も…まぁ若い女房には勝てんのが世の真理だからの。

それにあの煩い耳長と別々の馬車になったんだからこれでよしとせにゃならんの」

 

「まぁ拙僧は別に構いませんが?」

彼らもまた貴方を気遣う心優しい冒険者達だ。

 

一方で女性専用車両では…。

「あ…」

「ん…」

(うわーこりゃ思ったより気まずいわ)

俯いて相手の目を見れないかつての仲間二人と銀級冒険者が一人。

いざお互い会ってみると話が弾むどころかずっと車内で気まずい。

それは3人ともに精神的に良くない。

男4人のむさ苦しい荷車の方がまだ快適かもしれない。

「あ、あのね。ずっとお礼言いたかったんだ。

貴方とゴブリンスレイヤーさんのおかげで…えっと…と、とにかくもう気にしないで!」

「あ、ご、ごめんなさい!」

女神官はとにかく謝りっぱなしだ。

(いや違うでしょ!あーもう、狩人ーオルクボルグー誰でもいいから!お願いだからやっぱ馬車変わってよー!)

気にするなと言われても凄まじく気にするのが女神官の性である。

根から非常に善良で心優しく生真面目な少女なのだ。

だがそんな謝り通しの女神官にこのままでは埒が明かないと女武闘家は身を寄せて自分のお腹に女神官の手を当てる。

身を寄せて自分のお腹に女神官の手を当てる。

 

「ほら、ここ。赤ちゃん、私今すごく幸せよ。

だから謝らないで、謝ったらなんか私が幸せなのが間違いだったみたいに言われてるみたいじゃない」

 

「え、えと…ごめ…じゃなくて…」

 

「いいから、と言ってもまだわかんないよね。

でも私今はとっても幸せなんだって事は分かって。

多分貴方よりもずっと、だから貴方は謝るよりもむしろ私を羨ましがるの!

羨んで、自分も私みたいに幸せになるんだって思って!

それがあいつらの為でもあるって、私は少なくともそう思ってるから」

 

「…は、はい。お腹、赤ちゃんいるんですよね」

「そう、あの人の子。まだできたばっかだけどね」

「ふふっ、可愛い女の子がいいですね」

「あっ私も!でもあの人結構おっちょこちょいだから、しっかりした子に育てなきゃね」

「そうなんですか?あの人っていつもむっつりしててゴブリンスレイヤーさんみたいですけど?」

「人前だけよ、あの人って家ではね…」

 

なんだかいつの間にか打ち解けた嘗ての仲間二人を美しい微笑みで見守る上の森人の姿がそこには会った。

(なんだ、全然大丈夫じゃない。

只人の女の子って強いんだなぁ、あの子も…)

彼女の脳裏にはあの凌辱された森人の少女があった。

里ではどうすればいいのかわからない、森人は只人より長い寿命を持つ。

だがそれは優れた点であると同時に弱さにもなる。

彼女はそれについて思いを馳せていた。

 

一方で男4人の馬車では…。

…いつの間にか全員寝ている。




今更だけど剣の乙女様は完全に火守女だよね
中の人的には女医だけど

女武闘家ちゃん、当初の予定。
街に出てきても仕事見つからず、冒険者もできない
裏通りで身体を売る毎日、父親もわからない子供を抱えて娼婦を続けるが20前に死亡。
結核に類似した病気で死の床で運命と神を呪いながらも最後の最後で娘を再開した女神官に託す。
ダイスの目が悪いとこうなるが最後に少しだけ救いがあった。はっきりいって悲惨だね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話

残念ながらガチ中世の軍隊なんて領民からの税金取り立てマシーンやから
今の軍隊とは違うぞ
どっちかというとショバ代をカツアゲして回るヤクザだぞ


貴方がたは日を挟んで移動し遂に水の街に到着した。

街の通りを歩きながら貴方方はこの街では何が美味だとかを話している。

貴方は女武闘家を一人宿へと残した、彼女は冒険者ではもはや無い以上付き添わせるわけにはいかない。

街の通りを抜けて法の大神殿へとやってきた、依頼人はここにいるらしい。

 

「ここが法の神殿!初めて見ました!ゴブリンスレイヤーさん、凄いですね!」「そうか」

神殿を見て女神官ははしゃいでいる、神殿の何が面白いのだろうか?

「で、依頼人はここに?」

 

ゴブリンスレイヤーによると至高神の大司教らしい。

貴方も対面することになるだろう…。

?青い空の上、天井の図面からなぜか視線を感じる、二つの強い視線…。

一つは怒りに満ちており、一つは不安に満ちた…。

そんな視線が貴方に注がれている…気がする。

儀式の秘匿か、脳の震えが止まらない。

貴方の側に神々の息吹を感じる、秩序も混沌も傍観者は気楽なものだ。

だが貴方は彼らの駒ではない、駒ではあっても彼らの玩具にはならない。

彼女は貴方を愛している、人形が貴方を愛するように。

その愛が毒だとしても。

「だ!大司教様って!」

「行くぞ」 

 

?貴方は女神官に何を驚いているのかわからないので聞いた。

「知らないんですか?剣の乙女、西方辺境一帯の法を負って立つ人物。

至高神に愛されし大司教、10年前蘇った魔神王を打ち滅ぼした。

金等級第二位の冒険者。

伝説に導かれし存在でなく、人の内より現れた存在。

それこそが剣の乙女様なんですよ!」

 

…詳しいな、ファンなのだろうか?

だがわかるよ、強い女性に憧れるものだ。

貴方方は神殿の廊下を抜けて祈祷の場へとやってきた。

貴方たちが足を運ぶと、いかにも司祭といった服装の

「あら?まぁどなた?」

 

「ゴブリン退治に来た」

「あの!よろしくお願いします!お会いできて光栄です」

…どこか脳を揺さぶる感覚が貴方を襲う!

「戦士様に可愛らしい神官様…。

そして…あら?月の香り?…ごめんなさい、変な事を言いましたね。

ようこそ冒険者の皆さん、心から歓迎いたしますわ」

 

『…貴方、どなた?獣狩りの方かしら?』

いや違う、彼女ではない。

あの捨てられた死体で溢れ返った診療所という名前の殺人工場の医師でもその偽物でもない。

だというのに貴方は何か脳を揺さぶる不安を感じずにはいられなかった。

「で、ゴブリンはどこだ」

彼は実にまっすぐな男だ、歓迎されて照れを隠している。

貴方は剣の乙女から一ヶ月前からの事件のあらましを聞いた。

…特に貴方は誘拐という一点で不審を感じた。

街にゴブリンが出没し、悪事を働いている。

既に死者、婦女子への暴行といった重大事件に発達している。

貴方方も地下にゴブリンが拠点、巣を作っているとの見当をつける。

誰でも思いつく事なので、この街の冒険者にも地下の掃討作戦を依頼したらしいが…

剣の乙女は「その人たちは?」という女神官の答えに首を横に振って答えた。

 

「そんな時、辺境の勇士ゴブリンスレイヤーの歌を耳にしました。

ああ、それと貴方西方の守り手『モンスター狩りの狩人』の歌も」

 

ゴブリンスレイヤーも貴方も自分たちの活躍が歌になっていたとは知らなかった。

だがゴブリンスレイヤーは5年間の地道なゴブリン掃討任務で身を守る術を持たない村人にとっては最も身近な英雄だ。

そして貴方も色んな意味で伝説になっているらしい。

「あら知らないの?オルクボルグも狩人も歌になってるのよ。

現実を知ると幻滅ものだけどねー」

貴方も彼も武勲を残すことなどどうでもいいと考えている。

「カミキリ丸も狩人も物を知らんの、勲を歌われればお前さんがたにもっと退治の依頼が入るって寸法よ」

 

確かに情報伝達手段が限られているし、識字率もお世辞にも高くない今時では大広場などで歌われる歌は有効な情報頒布手段の一つだろう。

まぁ現実との乖離がやや見られるのはやむをえないとしても。

剣の乙女はどこか弱々しい様子で懇願する

「お願いします、どうか私どもの街を救っては頂けないでしょうか?」

 

「救えるかどうかはわからん、だがゴブリンどもは殺そう」

 

「ゴブリンスレイヤーさん!もうちょっと言い方を!

言い方も大事ですよ、そこは駆除とか殲滅とかもっとですね!」

 

それも大分直接的表現だと思うのだが…。

 

蜥蜴僧侶は殲滅に関する具体的作戦を問いかける。

地下は広いゆえに乗り込んで掃討するしかあるまいという結論になった。

「火と毒と水は手加減するのよ!」

「わかっている」

「あんたもよ、狩人!どっちかというとあんたの方が心配なの!」

…努力はしよう、努力は。

 

「しかし何故衛士だの軍だのに討伐させないのか…。

拙僧はこの街の事情を分かりかねるが、別に管轄外というわけではありますまい」

至極当然な疑問を蜥蜴僧侶が問う、彼はどこまでも常識人だ。

「それは…」

どうやら街の治安維持を司る衛士や軍隊はゴブリンごときに軍隊は動かせない、冒険者でなんとかしろと突っぱねたらしい。

貴方は既に人死にが出ている以上、脅威度は十分だと思うのだが?

それでも軍隊が動かないというのなら何の為に税金を払っているのか?

よく市民は抗議活動を起こさないものだと訝しがった。

「まぁ狩人よ、今は魔神王との戦の真っ最中だからのう。

ゴブリン退治ごときは冒険者の仕事か」

「やれヒュームの政だの金銭だのは面倒なことですなぁ」

それにしても貴方は冒険者を動員するのにも金銭が必要だろうにと思った。

それなら今回の依頼金はどこから出ているというのか。

「狩人様の言う通りですね、今回の依頼は私が個人で出させて頂きました。

本来なら、この街の領主か駐屯軍司令部が出すべきところですが…」

どうやらこの大司教の影響力は実質的に西方辺境の首都とも言えるほどのこの街の領主にも匹敵するらしい。

…貴方は今回の依頼はアタリかもしれないと思った。

彼女が『狩り』に興味があるかどうかはわからない、だが実力はある。

良い狩りを提供し合う仲になればとも思った。

貴方方は大司教から古い地下の地図を手に入れた。

「もし…依頼人として不躾とは思いますが。

貴方は恐ろしくはないのですか?」

貴方は大司教に問いかけられた…。

恐ろしい?恐ろしいに決まっているだろう、だが貴方はかつてあの『鴉の狩人』にかけられた励ましの言葉をそのまま返す。

 

『どうした?まさか狩人が、獣が恐ろしいのかい?』

「っ!わ、私は…」

『ふふっ まあいいさ。恐れなき狩人など、獣と何が変わろうものかね…』

「獣と…私は…そうですね…私は獣じゃない…」

『いくら恐ろしくても、あんたは狩人。

獣を狩るしかないんだよ』

「狩るしかない…恐ろしくても…すいません、変なことを聞いてしまいましたね。

ご無事を祈っております」

 

そんな貴方と剣の乙女とのやりとりに女神官が大慌てで間に入る。

「す、すみません。変な人でしょう?でもこういう人なんです。

ついていけば、すぐになれますよ。

わ、私たち、きっと大丈夫ですから!」

 

貴方方は大司教の場から下水道にそのまま向かう…。

「獣の狩人様…」

どこからか呟くような声が貴方の後を追ってきたような気がする…。




至高神「月の魔物はどこだぁあ!あの狩人を持ち込んだあのクソ邪神はどこにいる!」
GOD釘バットを振り回しながら怒って登場。
幻想「先程、水の街の地下に中ボスを設置してくると言って出て行きました!」

…月の魔物「やはりガンパリィの出来る人型ではもうあの子の強敵にはなりえないわね。
でもやりすぎるとリアルファイトになっちゃうし、ここは定番の聖杯3デブにしましょう」
神々「おもろそうやからもっとやれ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話

狩人様はモテるやろ
人形ちゃんやろ、ヨセフカに偽フカやろ、アイリーンやろ、ガスコインの娘さんにお姉ちゃん
アリアンナにアデーラにエミーリアちゃんにアデラインちゃん、マリア様にエブリエタースに漁村のお姉さん方に鬼灯ちゃんに月の魔物ちゃんに、後いっぱい
なんや今更ヒロインが2、3人増えた程度じゃ絶世の美女揃いのヤーナムには勝てんやんけ!(啓蒙999


そもそもまともな狩人などいるはずもなかった。


貴方方は神殿の裏手にある井戸から地下下水道へと降り立った。

地下にはどこから湧いたのかゴブリンが大量に湧き出ており、貴方方は駆除すべく応戦中だ。

貴方の現在の武器のチョイスは…獣肉断ちだ。

純粋に殺意と敵意を鋼で表現すればこのような形状にもなるだろう。

凄まじく分厚く、重い、鉄塊としか形容のしようがない野蛮な鉈状の武器である。

だが古狩人の武器である以上ただの鉄塊である筈もない。

ジャラジャラと言う音を立てて分厚い刃に仕込まれたこれまた分厚いケーブルによって刃は分離し、振るわれた巨大な鞭がゴブリンを5,6匹纏めて叩き斬る。

振るわれた巨大な鞭がゴブリンを5,6匹纏めて叩き斬る。

纏めれば鉈剣として、展開すれば鞭剣として射程と性格を変化させる。

野蛮な外見に合わぬ理知的で合理的な武器でもある。

力任せに見せて、冷静な技術が求められる。

暴力で包んだ、冷酷な殺意とでも言うべきものだろうか?

無謀なゴブリンが数匹纏めて飛び掛かればなんとかなるとでも思ったか。

貴方は一振りで目の前のゴブリンを全て上下に二分割した。

この程度ならば弾丸を使うまでもない、貴方はゴブリンに何も言わせぬ。

古狩人の如き獣への憎しみを露わにし、獣肉断ちに血と肉をこびり付かせた。

獣肉断ちに血と肉をこびり付かせた。

古狩人の獣への憎しみが宿ったかの如き鉈も血肉を貪って喜んでいる。

古くから血を求める魔剣という表現があるが、この古狩人の武器が求めているのはそんな生易しいものではない。

この古狩人の武器が求めているのはそんな生易しいものではない。

肉を断ち、骨を砕き、内臓を地べたにぶち撒ける、そういう狩りを望んでいるのだ。

または松明という名の棍棒でゴブリンを殴り殺しても良い。

ゴブリンは松明を明かりに過ぎないと舐めてかかってくるから殺しやすい。

古狩人が武器にならないものを手に持つはずもなかろうに。

虫を潰し、潰し、潰し、潰し、潰し、潰し。

全ていなくなったと確信できるまで潰し続ける。

 

「おう!相変わらず豪快な戦いっぷりよの!」

「まるで古の竜の尾のごとき一閃でしたぞ狩人殿」

 

「どうやら片はついたようですな」

「これで終わり!」

 

最後の一匹を弓で射抜いた妖精弓手の言葉通り、感じる範囲内にはゴブリンはもういないようだ。

 

「まさかこれほどの小鬼が街の下におるとはのぉ」

「予想はしていた」

しかしこれほどの数の小鬼が生活し、地上にまで出るとなると街の安全が疑われる。

警備隊の仕事の杜撰さや生命財産の安全と言う観念から経済的損失は無視できない規模になると思うのだが?

事実、街の商人によると事件が起きた頃から被害は商品の値上がりといった形で出始めているらしい。

ゴブリンスレイヤーによればどれだけ被害が拡大しても軍はゴブリン相手には頑なに動かないらしい。

「軍はまず動かん。

貴族にとって華がない、臭い、汚れるから。

色々言うが本音はそんなところだろう」

 

世界とは悲劇である前に喜劇なのか、今狩人の連盟が必要とされている。

妖精弓手は矢をゴブリンから抜いている。

再利用か、だが銃弾はそうはいかないな。

かつて弓で獣に挑むなど、だが矢には再利用できると言う利点もある。

「言っとくけど、マネじゃないわよ。

長期戦になりそうでしょ、オルクボルグと違って小鬼のやつ使いたくないし。

あれ雑なのよ」

「そうか」

 

「しっかし今日だけで5度の襲撃」

「全く、いつまで続くんだか…」

貴方は別に構わない、ゴブリンの致命的な欠点は体格の小ささから来る射程の短さ。

常に間合いを取り、確実に潰せばそのうち終わる。

それにいくらゴブリンが多いとはいえ、その数が100を超えることは、統率力を持ったロードや魔術師に率いられていなければない筈だ。

統率力を持ったロードや魔術師に率いられていなければない筈だ。

 

「安心しろ、ここは石壁だ。壁を抜いての奇襲は無い」

「やなこと思い出させないでください」

女神官の最初の冒険…女武闘家が一生の傷を負ったあの事件の事らしい。

貴方も昔はよく奇襲されたものだ、ヤーナムでは物陰・戸板・棺桶・上は格好の待ち伏せポイントだ。

 

「これだけゴミが多けりゃ、臭い消しは必要あるまい」

「やなこと思い出させないでください」

…貴方が妖精弓手を大胆に染め上げたあれ、いまだに集られるネタにされている。

お陰で街の人間からは少々の誤解があったようだ、男女間の関係の縺れかと。

 

「ん?なんか今ちょっと変な感じが。

水の音?」

「雨ですね」

「でもこんな地下で雨なんてあるの?」

「多分、雨が降っとるのは上だの。排水溝だの運河などからこっちに向かって来とるんじゃろ。

どう思うねカミキリ丸」

「光源が消えればこちらが不利だ」

貴方も松明とランタンを装備している。

戦闘では貴方とゴブリンスレイヤーの近接戦闘に長けた二人がランタンを装備し

敵の注意を惹きつける手はずになっている。

獣狩りの松明は雨が降った程度では消えはしないが、雨に濡れれば皆の体力も落ちるし動きも鈍くなる。

聖光も使用回数が制限されている、奇跡や魔法というのは不便で面倒なものだ。

貴方方は、水漏れの少ない場所を選んで火の周りで暖を取っている。

次の戦いに備えて体力を温存しなければならない。

それにしても雨が降ったら滲み出るとは水の街の地盤強度は確保されているのだろうか?

まず気がついたのはゴブリンスレイヤー 「用心しろ」

妖精弓手もその長い耳に何か感じたらしい。「何か来るわ」

貴方も感じる、何か大きなものが動く音。

そして厭らしい獣の臭い、水が滴っていても生きた腐臭が湧き出てくる。

貴方方は下水道の前に陣取った。

「ゴブリンの船!」

前方にゴブリンを乗せた船が現れた!

下水道の流れに沿ってこちらに進んでくる。

ゴブリンどもはこちらを視認すると弓を射かけて来た。

「いと慈悲深き地母神よ か弱き我らをどうか大地のお力でお護りください

『聖壁』!」

 

女神官が奇跡の聖壁をかけるが

「あまり、長くは持ちません!」

なるほど、ならばやることは決まっている、

「ゴブリンは皆殺しだ」

ゴブリンスレイヤー は散弾銃にスラグ弾を装填し、ゴブリンの頭目らしき敵に向けて撃った。

大口径の銃弾が命中すると、ゴブリン船長の頭が弾け木っ端微塵になって周りのゴブリンに降り注ぐ。

ゴブリンどもも銃声と船長の無残な死に際に怯んでいるようだ。

ゴブリンスレイヤーは遠距離に使うなら剣を投げるより銃を使った方が良い。

「ったく、只人の銃って武器は本当に下品ね!」

貴方、そして妖精弓手もそれぞれ銃、弓矢で応戦する。

…よく燃えそうだ、特に木造船は水漏れ対策にタールを塗ってある。

それこそ薪のように盛大に燃えるだろう。

「術はいくつ残っている?」

「たっぷりと!」

鉱人導師の土魔法でゴブリンスレイヤーは何かをさせるつもりらしい。

「ならトンネルの術だ、穴を掘れ」

「下だ、トンネルを掘って水ごと落とす」

「そんなことしたら氾濫が起きるぞ!」

「火でも水でも毒気でも無いのだがな」

これには異議が妖精弓手から飛んでくる。

「他の手!」

では鉄塊で一つづつ全部つぶすか、本当に狩には向いていないし使えない妖精だ。

火も水も毒も無しか、ならアレを使うか。

貴方はゴブリンスレイヤーが使う目潰しと同時に秘儀を使うと宣言した。

「何かはわからんが、火でも水でも毒でも無いらしい」

「イマイチ信用できないけど、わかったわ!」

 

もうそろそろ聖壁の効果も切れるという時点でゴブリンスレイヤーは目潰しを、投げつけた。

投げつけた。

船上に目潰しの辛子が舞い散り、目に入ったゴブリンは痛みで目を泣き腫らしている。

「うわ…」

妖精弓手もこの仕打ちにはいかにゴブリンとて痛そうという感想を抱いた。

そして貴方は秘儀:呪詛溜まりを投げつけた。

『蹂躙された漁村の住人、その頭蓋骨

おそらくは、頭蓋の内に瞳を探したのだろう

過酷な仕打ちの跡が、無数に存在する

 

だからこそ、この頭蓋は呪詛の溜まりとなった

呪う者、呪う者。彼らと共に哭いておくれ』

 

ゴブリンスレイヤーが目潰しを投げた後に少し遅れて投げ込まれた呪詛は船上で破裂した。

 

『「うあぁぁぁぁぁぁ!」

「血狂いども…冒涜的殺戮者…ギイィ!」

「ギイィ!ギイィ!奴らに母なるゴースの怒りを!」』

 

呪詛の声とともに解放された漁村民の呪いは船上のゴブリンに襲いかかる。

悲鳴とともにゴブリンどもの皮膚は瞬時に腐りただれ、目からは黒く腐った血が流れ出る。

全身の肉も骨も生きたまま腐りただれたゴブリンは腐臭を放つ汚泥となって蕩け落ちた。

「う…うげええぇえぇ!」

余りにも冒涜的な呪詛の光景に妖精弓手は吐き出してしまう。

「…もういいだろう、鉱人導師…」

「お、おう…ストーンブラスト!」

鉱人導師の放ったストーンブラストで船は沈み、ゴブリンどもの悍ましい様も水の底へと消えていく。

呪いと海に底は無く、故に全てを受け入れる。




お望み通り、火でも水でも毒気でも無いぞ金床、笑えよ。

王様は王都の周辺しか権力が及ばないフランスのカペー朝みたいなもんか。
ある意味では冒険者が活躍できそうではある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話

「うええぇ…」

妖精弓手も胃の中のものをあらかた吐き出してスッキリしたようだ。

先を急ごう。

「ったくもう、狩人のやることっていつもロクでも無いんだから!」

「だがゴブリン退治には有効だ。」

「とにかく少し休みましょう…」

女神官は連戦と奇跡の行使により体力の減少著しい。

貴方も休憩の必要性は認める、だが。

「いや直ぐに動くべきだ」

「同感ですな、随分と騒々しくやりましたから。

雨で音が妨げられているとはいえ、他の者が感づいているやもしれません」

ゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶共に今直ぐここを離れるべきだという意見だ。

…一度補給と整備、休息の為に上の街に戻るべきかもしれない。

…水の中に何かいる!

「ゴブリンか?」

貴方方は下水道の中に注目した、流れは雨の影響か水嵩も増し早くなっている。

やはりこのままの戦闘で相手が船を持っているゴブリンの場合、足場を取られて遠距離攻撃されるのは危険だ。

貴方は雨が止むまで探索を一時中断、休憩にあてるべきだとゴブリンスレイヤーに提案すべきだろう。

すると水の中から溺れるゴブリンを一口に飲み込む影が見えた。

アレは…鰐!?誰かペットを下水道に捨てたのだろうか?

「アレはゴブリンでは無いな」

「見ればわかるでしょ!逃げるのよぉ!」

…貴方は別に倒してしまっても構わないのだろう?と言いかけたが

よく考えたらゴブリン退治以外を依頼されたわけでも無い。

それにアレは鱗物であって毛物では無い。

貴方方は走りながら考える。

「まさか沼竜がいるなんて!」

「沼竜、アリゲーター…」

あの手のアルビノ種の鱗は高く売れるのだろうか?

どちらにしろ水の中にいるのではどうしようもない。

「鱗の!ありゃお前の親戚じゃろい、なんとかしろい!」

「生憎と拙僧、出家してこのかた、親戚づきあいもないもので!」

 

皆楽しそうに走っている。

 

さてどうしたものか…

「ドワーフを食べさせて、その隙に逃げましょう!

きっと食あたりを起こすから!」

「ぬかしおる!」

何やら鉱人と妖精が仲良く騒いでいるが、貴方は構わない。

「前から何かくる、またゴブリンの船!それも多分複数!」

「ど、どうしましょう」

「手はある」

狼狽える女神官と、考えがあるらしいゴブリンスレイヤー。

…手はある、貴方は持ちうる最大の秘儀:

『彼方への呼びかけ』を使えばゴブリンの船団といえども一撃で一掃できると進言した。

「ちょっとぉ!またあのグロい系魔法使うのは無しだからね!」

心配いらない、彼方への呼びかけはむしろ美しい程だ。

ついでにこのエルフ娘も啓蒙が開けるかもしれない。

「いや、お前の考えでいく」

 

ゴブリンの船団が進んでいく、目指すは自分たちの縄張りに踏み入った冒険者どもだ!

弓矢に剣、槍を構える。

声からすると雌がいた。

冒険者の雌はゴブリンどもにとっては嬲りがいのある人気の戦利品だ。

明かりを確認し、いざ!

しかし目の前に現れたのは巨大な沼竜だった。

ゴブリンシャーマンがいるとはいえ、お粗末な整備しかしていない船はあっさりと叩き沈められる。

 

…「いと慈悲深き、地母神よ。

闇に迷える私どもに聖なる光をお恵みください」

女神官が奇跡を使い、沼竜の尻尾に光を灯すという器用な技を発揮している。

「成る程〜、沼竜の尻尾にホーリーライトをかけてゴブリンどもをおびき寄せたってわけね」

「毒気も火攻めも水攻めも狩人の技も使えないのではこの程度が関の山だ」

妖精もゴブリンスレイヤーもこれなら文句はないようだ。

それにしても夷を以て夷を制すとは、それも咄嗟に奇跡で間に合わせる。

やはり彼は大した男だ。

ちなみに貴方はまず先制して彼方への呼びかけをぶちかました後に

火炎瓶と呪詛をありったけ投げつけるという単純な作戦しか思いつかなかった。

これで大砲でも持ってきていれば話はもっと単純だったのだろうが…

「にしても明かりであっさり騙されるとはねー」

「奴らは、冒険者は明かりをつけて移動するものと学習している」

「そうなの?」

「いつの頃からは知らん、だが共通の常識となっている

そもそも奴らは略奪民族だ、ものを作るという発想自体を持たん」

ヤーナム民は逆によく物を作る、彼らは非常に高度な技術と文明の持ち主だ。

建築・芸術・武器…いずれも恐ろしく繊細で高度な技術を反映している。

しかしながら結果として出来上がったものはなぜか冒涜的だったり殺意満点な代物ばかりだが。

…ふむ、となると投げて使う発炎筒が有効かもしれない。

貴方はゴブリンスレイヤーにこういうものはどうだろうかと話した。

「悪くない道具だと思う、奴らは夜目がきくがそれは同時に光には弱いということだからな。

あんたの言う発炎筒?俺もよく松明を怪しい場所に投げ込む」

そうか、やはり彼も考えることは同じか。

発炎信号銃は中世に発明されたらしいが、彼の散弾銃に弾として作るのはそんなに難しくはないだろう。

「撃てる松明か、それは便利そうだな」

そのうち試してみよう。

「しかし、奴らはバカだが間抜けじゃぁ無い。

道具の使い方はすぐに学習する。

船の使い方を教えればすぐに学習する」

 

「随分と詳しいのね」

 

「調べて研究した、だから俺は奴らに新たな発想を与えない。

鏖殺する」

それに関しては貴方も同意見だ、もっとも学習しようがしまいが殲滅することには変わりがないが。

「つまり誰かが船について教えたっちゅうことか」

それに船もだ、あの船は明らかにゴブリンがその場しのぎで作ったようなチャチなものでは無かった。

明らかに人間から奪ったか、混沌の軍勢とやらのもっと器用な連中が作ったものだろう。

「でもそれだけならまだ、シャーマンとかが思いついただけかもしれませんし」

女神官も不思議に思い話しかける。

「かもしれん、だが奴らがここで自然に増えたのだとしたら

なぜあの…なんだ?」

 

「えっと、沼竜ですか?」

 

 

「そうだ、なぜゴブリンはあの存在を知らなかった?

知っていれば、船を用いるなど思わなかったはずだ。

奴ら、臆病だからな」

「何が言いたいのかね?小鬼殺し殿」

「地下にはびこるゴブリンどもは、自然に増えたわけじゃあ無い

この一件は何者かが人為的に引き起こしている」

 

 

…水の街、地下深く

「うふふふ、エルフ・ドワーフ・ヒュム・レーア、ああゴブリンも…素晴らしいわ…

陰気なヤーナム民の治験では得られなかった治験、ねぇわかる?

脳に瞳を得る感覚…

ああ、でも…魔神の治験も得難いものかしらね…」

「…」

「ええ、ええ。わかっているわよ、邪悪な魔術師さん。

私の目的と貴方のそれは合致してる?

貴方は上位者の叡智が欲しい、私は治験の経験が欲しい。

(ふふ、何も知らない愚か者めが。

上位者の可愛いお人形さん達、何にも知らないお人形さん達の箱庭。

でも大丈夫、みんな可愛い私の患者になるの。

うふふふふ)」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話

エロ女医を裸にしたいだけ
そのためのサウナ回
でもCV能登麻美子で剣の乙女様並みのエロボディやったら、
お前らホイホイ信じちゃうんやろ
ホイホイ信じて全裸で手術台に寝て、改造されるお前らの図が簡単に浮かぶわ


貴方達は結局のところ、増水した下水道で戦うリスクは大きすぎると判断した。

水が落ち着くまで休息・補充・整備などのために地上に戻った。

ゴブリンに刺されるのも御免だが下水に流されるのも御免だ。

貴方は女武闘家の泊まっている宿にやって来た。

ここは最高級のとはいかなくともそこそこ上等な宿だ。

水の街で石造り、武装した警備員常駐、分厚い扉と雨戸。

大通りに面しているなどの条件を満たしている。

簡素ではあるが防御面では最も充実していると貴方が考えた宿だ。

「あっ、お帰りなさい!」

女武闘家は貴方が帰ってくるとロビーで嬉しそうに駆け寄って来た。

「ほら、見てください!

今日は街の色んなところを見て回ったんですよ…

か、狩人さん。なんか臭いません?」

カビ、血臭、死臭、生ゴミ、饐えた匂い…匂い立つ…下水道の匂いだ。

はっきり言ってかなり不愉快な匂いだ。

一日中下水道にいれば当然こうなる、聖杯に潜るとモット酷い事によくなるので気にもしなかった。

「あ…あ、そうだ!お風呂行きましょお風呂!

折角の素敵なお部屋なのに臭うんじゃ台無しですよ。

私もちょうど女神官ちゃんと一緒に行こうって約束したんですよ!」

 

貴方方は結局この宿に全員の分の部屋を確保した。

『ああ、確かにゴブリンの奇襲が予想される以上この宿は有事には砦になる』

ゴブリンスレイヤーも貴方の緊急事態への対策としてこの宿を取ることに賛成した。宿代をケチって寝首を掻かれるのは御免だ。

 

どうやら昼間に明るい街の通りを観光して回ったことで大分機も晴れたらしい。

ゲロエルフが死んだ目をしながら、下水道をドブネズミのように這いずり回っていたのとは大違いだ。

『エルフから生ゴミの匂いなんかしないし!

香しい花のような香りがするに決まってるでしょ!』

などと例の妖精弓手は指摘にも関わらず妻に手紙を出してくると言って

冒険者ギルドに顔を出す予定のゴブリンスレイヤーについていった。

いや、バッチリ服にも体にも下水道の匂いが染み付いている。

にも関わらず、精霊がああだこうだ言って風呂に行かないあの妖精。

鼻が麻痺しているのだろうか?

そのうちゴミ妖精のあだ名がつけられてしまうのでは?

 

女神官、女武闘家は二人して法の神殿に備え付けられたサウナに湯浴みに行くことになった。

貴方は軽く払うとこの街でなすべきことがあると言って街に繰り出した。

この街で売りに出していて西の街には無い大型物資を手に入れに出かけるのだ。

思い返せば今はもう思い出せないほど昔…いやつい最近だろうか?

貴方は重要な工房道具をかなり暴力的な方法で手に入れた。

すなわち血晶石の工房道具、霞削りの工房道具、秘文字の工房道具である。

イマイチ影が薄い霞削り以外の2つは絶大な力を狩人にもたらす。

すなわち呪われし血晶石は呪いと引き換えに大いなる力を狩人の武器に与え

カレル文字は上位者の力の片鱗とはいえ人ならぬ力を狩人に与える。

人が道具を使いこなすことによって生きる以上、

良い道具を求めるのは当然のこと割では無いだろうか?

人は道具を使いこなし、思考の次元を高め人として人ならぬ上位者と思索を交わすべきではないか?

『ウィレーム先生は正しい、情けない進化は人の堕落だ』

ではウィレーム先生に言う『情けない進化』、

『勇気なき進化』とはそもそも何であろうか?

貴方は何となくではあるがわかって来た。

きっとウィレーム先生は人が個人としてではなく集団として叡智を繋ぐ事に希望を持っていたのだ。

人は人として偉大なる『Great Ones』になれるという『勇気』こそ進化だ。

それは真の意味で遺志を継ぐ事、人の時代を進める事。

だが進化を精神でも思索でもなく、肉体の変態に求めるとは…

医療教会、メンシス学派もただ上位者の姿形のみを真似ようとは…

ウィレーム先生の憂いも尤もである。

貴方は水の街に新たな狩り道具を求める。

蒸留機に、鉄鋼精製に必要な大型の鍛冶道具に精錬機械。

精密加工に必要な金属加工機械などなどなど。

剣の乙女の紹介状があって良かった、さもなければ門前払いだったろう。

 

女神官と女武闘家は蒸し風呂で暖かな湯気の中でのびのびと息を漏らしている。

「はぁ…」

 

「皆さんも来れば良かったのに…」

 

来なかった理由はそれぞれだ。

「私は遠慮しとく。お風呂って火と水と大気の精霊が入り混じってる感じで苦手なのよね〜」

これは妖精弓手だ、下水道に潜ったというのに…

鉱人導師は街に酒と飯、蜥蜴僧侶はチーズを求めて。

ゴブリンスレイヤーは手紙を出しに行くと言い妖精もそれについていった。

狩人は『狩道具を注文してくる』と言って街にそれぞれ繰り出していった。

「本当、何を考えてるかわからない人達です。

そうですよね、出会ってからまだ数ヶ月しか経ってないんですから…」

 

「本当よね、あの人ったら何考えてるのか私にはさっぱり…

でもいつもみんなの事を考えて行動してるってことだけは確かよ」

女武闘家は狩人の事を信じている。

 

「あら…お邪魔させていただいても?」

そんな二人の視界に飛び込んできたのは、まるで熟れた果実のように豊満な、美しい肉体。

それも二人、図らずもこの場には4人の女性が湯浴みを楽しむ事になった。

ようやく女らしい体型に育ちつつある女神官、子供を宿し母へとなりつつある女武闘家。

そして妖艶と言ってもよく、とろけるように甘く女でも魅了されそうな肢体の剣の乙女。

更にもう一人、こちらも剣の乙女に負けず劣らずの豊満さと妖艶さを併せ持った絶世の美女がいた。

「私もご一緒してよろしいかしら?ああ、とても温かですこと。

日頃の疲れが癒されますわ」

「ええ、構いませんわ。私も務めで遅くなってしまいまして…」

「うわぁ…」

女神官は突如として現れた二人の美女の肢体に少女ながら見とれている。「あ、あの…えっと」

「ああ、この傷ね。ちょっと失敗してしまったのね…

後ろから頭をガツンと、10年以上前の事ですけどね…」

女神官は剣の乙女の全身の古傷に気づいてしまった。

彼女は知っている、そして気づいた。

その傷がどのような敵にどのような状況でつけられたものか。

「…」

女武闘家も黙ってしまった、彼女もその身でよく知っているからだ。

いや、思い知らされたと言うべきか…

そんな沈黙を破ったのは謎の妖艶な女性だ。

大人の色香に関しては、剣の乙女にも勝るとも劣らない。

「初めまして…ご高名は常々伺っておりますわ、剣の乙女様。

それに小鬼退治の可愛らしい神官様…

それに…月の香り…

ああ成る程…そちらの貴方は赤子を妊娠なさってるのね…

ごめんなさい、私は女医。この街には最近着いたばかりなのよ。

噂には聞いているわ、西の英雄:小鬼退治の勇者の一党が悍ましい小鬼を退治するために来てくださったって。

本当に、私共も感謝しているのよ」

女医は色々な事を3人に話してくれる。

「あ、お医者さんなんですか。

それで私が妊娠してるって…」

女武闘家はまだ腹が膨らんでいないにも関わらず自分が子供を宿していると

あっさり見抜いた女医の診察眼に驚く。

 

「ええそうなの、産婦人科は専門じゃないけど妊娠の兆候くらいは見分けられるわ。でも羨ましいわ、貴方」

「う、羨ましいですか?」

「ええ、きっとそのお腹の子のお父さんは素敵な方なんでしょうね。

わかるのよ、貴方の顔見ればはっきりとわかるわ」

「え、えへへ?そんなのもわかるものなんですかお医者さんって?」

「ふふふふ、色んな患者さんを見てれば分かる様になるのよ?

それに私って自分で言うのも何だけど結構な名医なのよ。

今でも結構な数の患者さんを見てるから忙しくってね…」

 

「あれ?でもどうして私が神官だって…」

「ふふ、貴方達小鬼退治の英雄譚は貴方が思ってる以上に有名になってるのよ。

素晴らしいわ、西の街で恐ろしい1万もの小鬼の軍団を1000の冒険者を率いて打ち砕いた英雄達。

こうして悪い小鬼王は磔にされ、徹底的に懲らしめられましたとさ…」

この様な話を剣の乙女も聞いてはいる、しかし神殿を経由して入った情報は正確で

小鬼は200程度なのだから幾ら何でも盛りすぎだ。

 

「私もこの目で色々、本当に色んな物を見てきましたわ…

貴方方の想像もつかない様な…

あのお方…ゴブリンスレイヤー …それに獣狩りの狩人とおっしゃいましたか?

頼もしい御仁達ですわね?」

 

「あ…えっと。はい、本当に」

「それはそうですよ!狩人さんは本当に頼もしい人なんですよ!」

 

「探索も順調な様子で

でもきっと、いつか消えてしまうのでしょうね…彼らも」

…剣の乙女のどこか寂しそうな声に二人は声も出ない。

特に命を宿している武闘家は…冒険者を伴侶にすることの残酷さを改めて思い知らされる。

「そう…ですね。人の命はいつかは消えてしまう…

悲しいけれど避けられない運命…

でも、だからこそ私達は自分が信じたものに全力で取り組む…

それが未来を開くと信じなければ何もできなくなってしまう…

そうは思いませんか?剣の乙女様」

女医がその美貌でまるで絵画の中の聖女の様に微笑む。

四肢の美しさと相まって、本当に宗教画の一枚の様だ。

神職の二人も、母になった少女もこの女医になら心を許せそうな気がしてしまう。

「…そうかもしれませんね…

ふふっ、のぼせないうちにおあがりなさいな」

 

すると女医もしばらくしないうちに上がる。

「ふふ、可愛らしい神官様。

それに新米お母さん、赤ちゃんを大切にね。

貴方達も縁があったら私が診察してあげるわ」

…女医は何かを含んだ笑みを残して去って行った。

 

…更衣室で女神官と女武闘家は二人で服を着ながらお互いに

剣の乙女について確信していた。

「…剣の乙女様…知ってたんだね…ゴブリンの事」

「…うん、私…分かる…10年経っても」

剣の乙女は女武闘家と同じ目に遭ったのだろうか…

10年経っても細かい古傷が全身に走り、目には光が映らない。

どれだけ残酷な目に遭ったのだろうか…

「私さ…実を言うとまだ凄く怖いんだ。

ゴブリンが近くにいるって聞いただけでも怖いよ…」

女神官は明るさを取り戻しつつある彼女の本音を黙って聞く。

「でも私にはこの子とあの人がいる、

もしあの人が倒れてもあいつらにこの子には手を出させない。

そんな勇気が湧いてくる…でも剣の乙女様にはいるのかな?

そういう人」

もしも夜、悪夢の中。

秘かに秘する導きが無かったら?

例えとても細く儚く、だが血と獣の香りの中で彼女に縁が無ければ?

 

かの聖剣の英雄ですらこの様な夜には光の糸という導きを必要とした。

彼女は女だ、どんなに強くとも女性であり子供を産み育てる優しい人間になるかもしれなかった存在だ。

醜い雄に汚辱を受けるのはあまりにも惨すぎるだろう。




ところでヨセフカの診療所の地下が死体処理場な件で教会の巨人が沸いてる
やはりヨセフカの時点で医療教会関連のヤベー実験してたとしか…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話

火炎瓶の表記は英語版ではモロトフ・カクテル
故にBloodborneは第二次世界大戦以降の出来事だったと推測される。


翌朝、貴方方ゴブリン狩りの一行は地下下水道の水門前に集まった。

ゴブリンスレイヤーはカナリアを持っている。

「ねぇ、何それ?」

「鳥を知らんのか」

「知ってるわよ!」

「カナリアだ」

「だから知ってるってば!」

相変わらずよく騒ぐ森の妖精だ。

貴方方は気にせず水門から地下水道に侵入した。

「ゴブリンスレイヤーさん、そうじゃなくって

どうしてカナリアを連れているのかってことです」

彼がわざわざ鳥を連れて行くことを不思議がるのが女神官だ。

彼は前に立って松明を掲げ、前衛を買ってでいる。

「カナリアは僅かな毒気も感知して騒ぐ」

「毒気ですか?」

ありえない話ではないと貴方は言った。

ある種の狩人は巨獣を殺すのに速攻毒を使う狩人はいるし、

毒を武器に使う魔獣は悪夢的世界では決して珍しくもない。

それどころか視界に入った途端に即死しかける毒を撒き散らす凶悪な魔獣もいる。

もちろん貴方は片っ端から殺してやった。

「ああ、ここのゴブリンどもは教育を受けている。

遺跡の仕掛けを扱えても不思議はない」

「小鬼殺し殿 どこでそのような知識を?」

カナリアといえば貴方は炭鉱夫か?と尋ねた。

「ああ、世の中 俺の知らぬ事を知っているやつの方が多い…

そこの狩人のようにな」

貴方とて別に多くの事を知っているとは思わない、ただ単に獣の殺し方を身に染みつけただけだ。鉱人導師が今日の作戦についてゴブリンスレイヤー に尋ねる。

「かみきり丸 今日の方針は?」

「上流へ向かう、奴らの船は川上からやってきた」

「ふむ、成る程の」

「ゴブリンとの接触はできる限り避けて進む」

だが認識したものは全滅させてしまっても構わないのだろうと貴方は尋ねた。

片っ端から殺せば問題ない。

 

「狩人は相変わらずだけど、オルクボルグがゴブリンを見逃すなんて珍しいわね」

「別に見逃しているわけではない。

奴らの頭を叩き、潰す。それから先は狩人の本分だ」

確かにあのゴブリンロードのようにゴブリンというのは上ほど手下を見捨てて逃れるものだ。

上位種を逃せばまた脅威が再生産される、それが船を使えるほどの個体ならなおさらだ。

「またシャーマンやオーガなんでしょうか?」

「わからん」

女神官はなぜか不安そうな顔をしている、だが貴方は安心するように声をかけてやった。

なんであろうと…血が流れるなら、殺せるはずだ。

「…あ、はい」

女神官はなぜか上の空で貴方に返した、困ったものだ。

たとえ血が流れていなくても、流して殺してやるのが貴方の流儀だが。

 

貴方方は水路を抜けて扉の前に立った。

「この辺りが地図の末端のようですな」

それにしても地下水道に扉、それも両開きの明らかに建物の一部。

ひょっとしたら地下水道はこの地下墓所の構造を再利用し拡張して作られたのかもしれない。

その上に今の街が建てられた。

女神官が辺りを見渡す、地下水路ではなくてこれではまるでダンジョンだ。

「煤の跡がある」

「明かりが据え付けられていたって事?」

「随分と昔にな。

ゴブリンどもは夜目が利く、明かりは使わん」

 

蜥蜴僧侶が分厚い埃を払うと壁の壁画が現れる。

「戦士か兵士…いや冒険者たちというところですかな」

「この辺りも昔や 随分どんぱちやっとったそうだからのう。

この画風もここ4,500年よりも前のものじゃろうし」

導師がこの辺りについて解説してくれる。

「あ、ここ もしかしてお墓じゃないでしょうか?

かつて、神代の戦争で秩序の勢力として戦った人々の」

だが神の墓ではなさそうだ。

聖体を受領するのか?

 

「それが今となってはゴブリンの巣ね…

猛きものも遂には亡びん、か」

 

「今は関係のないことだ」

ゴブリンスレイヤー にとってダンジョンの構造や歴史など関係ないらしい。

君もただ、ゴブリンを狩ればいい。

 

貴方方は更にダンジョンの奥深くまで入り込んだ、

「入り組んでるわね」

「怪物どもを迷わせ、死せる戦士達が脅かされんようにという計らいじゃなあ。

妄執に囚われ亡者となって徘徊するは、実に酷い最後だからの」

「輪廻からも外れるわけでありますからな。

しかし、既にここは小鬼の手に落ちた。

地図を描くのがなまなかな事ではない、各々方 気を引き締めてかからねば」

貴方も知っている、狩りと血に良い輪廻から外れた古狩人の成れの果てを

貴方の持つ古狩人の武器も彼らを殺し奪ったものだ。

「亡者となった狩人の大先輩の古狩人かのぉ、話には聞いたがあんまり出会いたくない連中だわい」

「狩人殿の使う武器の達人の亡者ですか、確かに恐ろしい相手には違いありませんな」

 

貴方方は第一の部屋の前にやってきた、大きな扉。

鍵はかかっていない、閂をかける閂鎹があることから向こうが外でこちらが中…

あるいは中に何かを閉じ込める部屋なのだろうか?

考えられるのはアンデッドとかした戦士を封印するとかだろうか?

妖精弓手が扉を確認する。

「鍵はかかってないみたい、罠もないみたい…扉にはだけど。

私は専門家じゃないから、失敗しても恨まないでよ」

罠はいろいろあるが多くの場合、スイッチ式だ。

「行くぞ」

貴方とゴブリンスレイヤーは扉を蹴破り、散弾銃を構えて中に先頭で突入した!

貴方方が中に入ると部屋の中央には鎖で吊り下げられた人物がいる。

「あれ、見て!」

「!なんてひどい」

女神官が慌てて駆けつけ、治癒を施そうとするが貴方とゴブリンスレイヤーは止める。

騙して悪いが…あれは間違いなく、罠だ。

ヤーナムでは誰だって思いつく、貴方だって思いつくしさんざやられた手だ。

故に貴方がそこらの石のかけらを軽く飛ばすと髪がずり落ち、とっくに殺された遺体だとわかった。

恐らくはゴブリンに殺され、なぶりものにされて食われた女性冒険者の遺体だったのだろう…

「あ…!」

次の瞬間、貴方方の後ろの扉が閉まりゴブリンどもが嘲笑う声が外から聞こえてくる。

「これはいかぬ、閂をかけられたか!」

貴方はゴブリンスレイヤー にどうするかと聞いた。

外にはゴブリンどもが待ち構えているか…

そういえば昔読んだ小説で主人公達がドワーフの墓で同じような状況に陥った気がする。

「そうか、そいつらはどうしたんだ?」

彼も小説には興味があるのだろうか?

貴方は彼らは門を塞ぎ、入ってきた敵を片っ端からぶち殺してその勢いのまま敵が埋め尽くしデーモンが追ってくるなかを突破したのだ。

「なら、それで行こう」

貴方とゴブリンスレイヤーはカナリアが騒ぎ始めたのに気づきゴブリンが毒気を放った事を悟った。

…毒素としては大したものではない、ヤーナムの遅効毒や速攻毒あるいは狂気そのものほど致死性は無い。

匂いからして腐敗毒のつもりだろうが、即効性は無い。

貴方は全員に毒消しの丸薬を渡し、ゴブリンスレイヤーは炭を水筒の水で湿らせた布で毒気を防ぐつもりのようだ。

狩人の装束は毒気をある程度は防ぐ、烏羽の狩人のように瘴気や毒気を更に防ぐ装備だったなら尚よかったのかもしれぬが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45話

…狩人よ、光の糸を見たことがあるかね?
とても細く儚い。だがそれは、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった
真実それが何ものかなど、決して知りたくはなかったのだ


「これはいかんな、一網打尽にされてしまいますぞ」

「毒気で死ぬとも限らんが、ろくなことにはならんじゃろうな」

「駄目!他に出口は見当たんない!」

僧侶、導師、弓手の3人は毒気を流し込まれた密室からの脱出方法を考えあちこち調べている。。

狩人の密室からの脱出方法は常に一つ、殺して開ける。

だがここには殺すべき相手は存在しない、あるいは扉を叩き壊してもいいだろう。

 

「ど、どうしましょうゴブリンスレイヤーさん!

私は解毒の奇跡を授かっては…」

 

彼は女神官をはじめとする全員に布で包んだ炭を渡した。

活性炭で毒ガスを中和しようと言うのだろうか。

「これ、炭ですか?」

「それと狩人の布だ、毒気を多少は防ぐ。

手持ちの薬草も包んでいれろ、早くしろ死ぬぞ」

 

貴方達は布で口と鼻を覆い、毒気を防ぐことに成功した。

多少息苦しく感じるが、直接毒気を吸い込むよりはマシだろう。

彼は更に道具を取り出した。

「石灰と火山の土だ 

混ぜて穴を塞げ」

「お!コンクリートか!

まさかセメントまで用意するとは、ここまであんなに重いものを用意するとは

「速乾とはいかんがな」

「なーに!風化の術は心得があるわい」

やはり鉱人導師は建築に長けた民族のドワーフらしくセメントの心得があるらしい。

ここは地下だ、探せば水もそこらにあるだろう。

「私が穴を塞いで回る!ドワーフ!術かけて!」

だが貴方はドワーフが術をかける前にやることがあると妖精弓手に伝えた。

「…この際やんなさい!…正直やらせたく無い気もするけど」

 

貴方は装備した毒でも火でも水でも銃火器でもないそれを取り出した。

穢らわしいゴブリン、すなわち汚物の分際でこの神秘に見えるとは幸運だ。

ロスマリヌスのノズルに水銀弾と血を媒介に装填する。

ロスマリヌス

『医療教会の上層、「聖歌隊」が用いる特殊銃器

血の混じった水銀弾を特殊な触媒とし、神秘の霧を放射し続ける

歌声と共にある神秘の霧は、すなわち星の恩寵である

「美しい娘よ、泣いているのだろうか?」』

ゴブリンどもは穴から貴方方に向けて袋に詰めた毒気を注ぎ込んでいるらしい。

であるならば逆もまた可能である。

貴方は穴から外に向けて星の恩寵を注ぎ込んだ。

「Gugyaaaa!」

瞬間、壁の外側から絶叫が聞こえてくる。

…そこには蕩けた銀色の液体に成り果てたゴブリンだったものが広がり

更に毒気の袋を注ぐものがいなくなったことで逆流した毒気により

死体になったゴブリンどもの醜い死体があった。

ゴブリンは醜い、生き様も死体も。

だが汚物とはいえ最後に美しい娘の神秘に見えたゴブリンどもは

正しくなくとも幸運だったろう。

 

「美しい娘よ、泣いているのだろうか?」

 

「…何をしたのかは今は聞かないであげるわ」

平らな娘よ、穿かないのか?

 

「ウェザリング!」

 

導師は速乾の魔法を使い、セメントで毒の漏れ出す穴を塞いでいく。

だがその間も貴方方には別の用意をしなければならない。

「して次はどんな手を打つおつもりですかな?」

「扉の前に石櫃を1つ動かして阻塞にする。

毒気が治れば奴ら、突っ込んでくるぞ」

蜥蜴僧侶、ゴブリンスレイヤー、女神官の3人が石櫃を押して扉を抑える。

 

「こっちも穴を塞ぎおえたわ」

「とはいえ、術は品切れだわい」

「なら武器をとれ」

貴方方は武器を構え、ゴブリンどもが扉を破って突入してくるのを待ち受ける。

外から中に開く構造上、つっかえ棒がわりの石櫃が置かれているのなら扉を破るしかない。

貴方方はそこからゴブリンどもに遠距離武器で迎撃する作戦だ。

貴方も扉の側面に立ち、突入してきた小鬼どもを側面から叩く位置に移動した。

「拙僧も竜牙兵を呼びますかな?」

「わ、私もプロテクションを!」

「頼む」

貴方は女神官の聖壁を案外頼りにしている、獣の膂力の前にも2、3発は耐えられる強固な壁だ。

貴方の女神官への信頼は厚い、だが過信するなかれ。

貴方はゴブリンスレイヤーに毒メスを渡した。

貴方が上の街で手に入れたナイフにヤーナムの毒を塗ったものだ。

獣狩りに毒が用いられることは少ない、獣相手には冗長に過ぎるのだろう。

「助かる」

剣を投げるよりはマシだろう、投げナイフなら既に持っていることだし。

貴方方はそれぞれ武器を構えて敵を待ち構える。

「…表、静かになった」

「毒が逆流して何匹かは死んだろう」

美しい娘の歌声が聞こえないだろうか?

するとドンドンドンと太鼓の音が聞こえてくる。

!するとゴブリンどもが何かで木の扉を叩くと扉に穴が開いた!

ゴブリンどもの膂力でも穴が開くとは、腐っていたのだろうか?

あれなら貴方が叩き斬っても簡単に切り裂けたかもしれない。

次々と顔を出すゴブリンどもに向かって貴方、ゴブリンスレイヤー 、妖精弓手、女神官、鉱人導師はそれぞれの得物で遠距離攻撃を加えていく。

銃弾、矢、石飛礫が雨嵐と扉の裂け目を抜けようとしたゴブリンに襲いかかり次々と死体を生産していく。

「次から次へとキリが無いわね」

矢を三発同時につがえ、別々の標的に命中させながら弓手が愚痴る。

「全く、耳長は相変わらず文句が多いわい!

そら、これで8つ!」

「甘いわね、私は12よ!」

 

次から次へと湧き出てくるゴブリンの大群。

一体どこからこれだけの数が湧き出てきたのやら。

「プロテクションだ、そろそろ支えきれなくなってきた」

「は!はい!」

ゴブリンスレイヤー が指示を出し、女神官が皆を聖壁でガードする。

次の瞬間、部屋の扉も石櫃も跳ね飛ばして巨体が姿を現した!

「ホブ…いやチャンピオンか」

だがどうやらそれだけでは無いようだ、凄まじい腐臭がゴブリンチャンピオンの後ろから漂ってくる!

「Gua!?」

ワラワラと湧いて出てきたゴブリンどもを無視して更に3匹の巨体が貴方方の前に姿を現した。

貴方は久しぶりに世界の悪意を感じ、悪意と狂気に感謝の念を捧げた。

ここは墓、ならば墓守がいてもおかしくはあるまい。

なんの不思議もない。

守り人の長と奴に付き従う2体の残酷な守り人が貴方方とゴブリン双方に無差別に襲いかかってきた!

「んな!?なんなのよあいつら!」

「わしが知るわけないじゃろ!少なくとも味方じゃないわな!」

貴方はあの3体は貴方が受け持つので残りのゴブリン掃討に専念してくれと頼んだ。

慣れた相手だ。

「わかった」

ゴブリンスレイヤーは貴方に3対の相手を託した。

今や部屋にはゴブリンどもと貴方方、そして3体の守り人の乱戦状態となった。

貴方もこのような状況は非常に厄介だ。

ゴブリンどもも後方から更に自分たちにまで襲いかかってくる連中までは予想だにしていなかったようだが女のいる貴方方の方が組み易しと見たのか襲いかかってくる。

ならば貴方のやることは…

貴方は右へ左へとステップしながら守り人の攻撃をゴブリンを盾にしてかわすことにした。

守り人の怪力で振られた武器がそこらへんをうろついているゴブリンどもに命中し、残骸がそこらへんに飛び散る!

普段ならば問題ないが、今はそこらへんにいるゴブリンが攻撃してくる障害物兼守り人への障害となり内臓攻撃が狙いにくい。

「ったく!数が多い!おまけに変なのまで出て来たし!」

「文句言ってもしゃーねーぞ!まだ行けっかの?」

「なん…とか…です!」

 

聖壁で遠距離攻撃をする3人は守られているが、あまり時間はかけられない。

貴方は一気に勝負に出ることにした!

貴方は間合いを取るのではなく一気に踏み込み、最も殺しやすい部分である鉈の守り人に狙いを定めた。

ステップで長と散弾銃を避けあるいはゴブリンを盾にして接近した貴方は振りかぶってくる鉈持ちにここぞというパリィを仕掛けた。

パリィ、銃を使った狩人の基本技術であり相手の体勢を崩す。

そこから更に狩人ならではの技へと繋げる。

内臓攻撃、脳裏に刻んだカレル文字により強化され更に返り血により狩人の生きる意志を回復させる。

貴方は右手を瞬間、獣手へと変化させ相手の中に突っ込み腸を断った!

周囲に内臓と血が噴出し血生臭い匂いが立ち込める!

まずは1匹。

だが次の瞬間、向こう側でゴブリンチャンピオンと戦っていた彼らの悲鳴が貴方の耳に入る。

…貴方は弱くなったのかもしれない、以前なら彼らが死のうと死ぬまいと意にもかけなかったろう。

「いやーっ!」

「プロテクションが!」

「なんたることか!」

「落ち着いて!集中を…キャァ!!」

「耳長娘!この小鬼ばらが!離れんか」

向こうでは彼らの体勢が崩され、全滅の危機に瀕している。

だからどうしたというのだ、死などあまりにも貴方は見慣れているはずだった。

一瞬、時間にすればほんのコンマ数秒だったろう。

だが狩人にとってはあまりにも致命的な瞬間、貴方は彼らに意識を向けてしまった。貴方に攻撃が直撃した!

守り人の長による攻撃が直撃し、貴方は吹き飛ばされた!

凄まじい衝撃で貴方は大量の血を流し、意識を手放しかける。

意識の彼方では女神官が苦悶の悲鳴をあげている、どうやらゴブリンチャンピオンに傷を負わされたらしい。

『ここでまた夢へと戻るのかね狩人よ』

どこか懐かしい、聞いたような声がする。

『私がかつて願ったように、君こそ、教会の名誉ある剣なのだろう?』

いやそんなことは無い、貴方はただの獣狩りだ。

彼のようにはなれない。

『受け取りたまえ、とても細く儚い。

だが、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった…』

 

ああ、ずっと、ずっと側にいてくれたのか

我が師

導きの月光よ

聖剣の狩人を導いたように今一度貴方をほんの少し導いてくれるだろう。

貴方はいつの間にか剣を持っている。

それは秘匿されるべき深宇宙的神秘の産物やもしれぬ。

 

 

『月光の聖剣

かつてルドウイークが見出した神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき

大刃は暗い光波を迸らせる

「聖剣のルドウイーク」を象徴する武器であるが

その大刃を実際に目にした者は少ない

それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ』

 

失せろ獣ども、貴方の側の人々から失せるがいい。

貴方は月光の聖剣と共に再び立ち上がった。

貴方は折れぬ、ただ狩の中でならば、




おお、そうか…それは、よかった…
嘲りと罵倒、それでも私は成し得たのだな
ありがとう。これでゆっくりと眠れる
暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだと


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46話

貴方もまた折れぬ、ただ狩の中でならば。

貴方は古き遺骨により加速の業を使い一挙に旅の仲間たちの元へと接近し

汚れを祓う。

古い狩人の遺骨により加速した貴方をゴブリンどもの動体視力では捉えることはできぬ。

 

狩人とはゆっくり動くように見えても、お互いに至近距離からの銃弾を容易く見てから回避する。

『古い狩人の遺品。その名は知られていない

 

その狩人は、老ゲールマンの弟子であったと言われ

初期狩人の独自の業「加速」の使い手でもあった

 

その遺骨、意志から古い業を引き出すとは

夢に依って遺志を引き継ぐ、狩人に相応しいものだろう』

死者に感謝と敬意を。

 

貴方は月光の大剣を振るい、一直線上のゴブリンどもを纏めて薙ぎ払う。

深宇宙の神秘を纏った光刃はたちまち多くの小鬼を切り裂き、バラバラにする。

部屋は一瞬にして血と汚物と肉塊でいっぱいになる、その中にあって光なき部屋で月光は輝き皆を照らし出す。

「狩人かいの!ようやったわい!」

導師、弓手、僧侶の3人は混乱したゴブリンどもの隙をついて絡まれた状況から脱出した!

だがまだ二体の守り人とゴブリンチャンピオンが残っている。

貴方は群がるゴブリン、そしてチャンプの手から女神官を救うべく切り掛かっていく。

柄にもない我武者羅な闘いぶりであり、たちまち貴方の全身が返り血で赤くなる。ヤーナム以来の実に闘争本能そのままに直感で動く。

剣に月光を纏わせた貴方は更に群がるゴブリンどもを斬り伏せ切り開く。

貴方が戦っていると、

いつの間にか立ち上がったゴブリンスレイヤーは手に持った髪を束ねた縄でチャンプの首を締め付けていた。

このままではチャンプごとゴブリンスレイヤーを真っ二つにしてしまいかねない。

故に貴方は首を絞められて混乱し、手当たり次第に周りのゴブリンを殴り殺すチャンプから離れ、更に小さいゴブリンどもを斬り伏せながら二体の守り人に対応することにした。

少なく見積もっても10以上の敵を相手にしなければならないが、特に問題はない。

聖杯でも羅患者の獣がそれくらい現れるのは特に珍しいことでもない。

貴方は月光の光を祓い、銃を手にすると槌を振るってきた守り人の長に向けてゴブリンどもを斬りはらいながら投げつけ攻撃を誘う。

流石に数の多さはなんともしがたいが、頭のチャンプが暴れ注意が散漫になった今なら守り人を屠るのはそんなに手間のかかる仕事ではない。

貴方は銃弾で体勢を崩し、さらなる内臓攻撃で長を仕留めた。

カレル文字『血の歓び』

貴方は常にそうだ、狩に優れ、無慈悲で、血に酔っている。

二体の守り人を殺された最後の守り人は銃を手に構え貴方に襲いかかってきた。

狙いは明らかに貴方だ。

だが貴方は殺されてやるほど優しくはない、だから殺してやろう。

いつものように、冷酷に、無慈悲に。

貴方は銃弾をステップでかわすと剣をなんの躊躇いもなく最後に残った守り人に突き立てる。

苦悶の声を上げながら最後の守り人は倒れ、苦し紛れの銃弾が周りのゴブリンどもに突き刺さる。あるゴブリンは腹を撃たれ、ある物は頭を撃たれて脳髄を撒き散らす。

そういう凄惨な光景を見て怯んだゴブリンどもは例のチャンプが片目を潰された光景を見て撤退を開始する。

どうやら貴方方は生き延びたようだ。

貴方は更に光刃で逃げるゴブリンどもの背に刃を切り放つ。

獣は殺せる時に殺せ、狩人の鉄則だ。

貴方はその隙に自らの失った血を輸血液で補充し、体力を回復させた。

貴方は細そうに見えて意外とタフだ、瞬時に健康を取り戻した。

「オルクボルグっ!」

妖精弓手が血を流し倒れそうなゴブリンスレイヤーを支える。

「無事か?」

「なんとか、だけどね。そっちの方が無事じゃないでしょ」

「そうだな、あの娘はどうだ?」

「こっち歩ける?」

「ホォら、しゃんとせんか!どっちみちここから帰らねばならんのだからな!

なんじゃい、狩人よ。

お前さんも無事とはいかなんだか!ハハッ、相変わらず血塗れじゃの」

 

貴方方の関心はもっぱら右腕を食いちぎられ重傷だった女神官だ。

「いやはや、なんとかなってようございました」

「どうだ?」

「命に別状はありますまい、もう少し深手ならば拙僧の手には負えなかった」

「そうか」

蜥蜴僧侶の回復魔法でなんとか持ちこたえたらしい。

銀級の僧侶の回復でなんとか、つまりかなりの重傷だったことは明らかだ。

「ご…ごめんなさ…」

傷を癒しても体力まで回復するわけではない、急ぎ地上で本格的な治療が必要だろう。

…彼らも皆ボロボロだ、輸血液を注入すれば内臓をぶちまけても平気なほど異様にタフな貴方を除けば全員が体力を見た目以上に消耗している。

導師も僧侶もあちこちぶん殴られて意外とあざやすり傷が絶えない。

彼女が無事だったことを確認したゴブリンスレイヤーは血を流して倒れ込んでしまう!

貴方は瞬時にどうするかを選択しなければならない。

貴方は彼と自分の持っている回復薬を兜を脱がせると口からありったけ流しこみ彼をおぶった。

やはり見た目以上に傷を負った蜥蜴僧侶に女神官を背負わせると貴方方は導師の先導の元に急ぎ地上を目指す。

「か…狩人…」

彼が弱々しい声で貴方に話しかけようとするが、貴方は黙っていろと伝えた。

貴方は彼の背負ったゴブリン狩りへの使命感までも負うことはできないかもしれない。

彼の弱かった頃の心的外傷は誰にも癒せないし、分かち合えない。

だが貴方でも傷ついた彼をおぶることくらいは出来る。

地上を急ぎ目指す間、誰もが無言でしかし足早に急いだ。

 




ゴブスレさんと狩人さんがいつの間にかフロドとサムとポジション


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47話

貴方方は重傷を負ったゴブリンスレイヤーと女神官を護衛しながら地上への帰途についた。

…貴方は自分のマントをひん剥かれて悲惨な妖精弓手に貸してやった。

「あ、ありがと…血腥い」

いくら金床とはいえ女性なのだからその格好はあまりだろう。

だが相変わらず文句の多い妖精だ。

 

地上へと戻った貴方方は瀕死の重傷を負ったゴブリンスレイヤーにリザレクション:処女同衾の奇跡をかけてもらうことができた。

どうやら回復系の奇跡の中でも最大級の物らしく簡単に出来る代物ではないらしい。

彼は血まみれだが貴方も彼以上に血まみれだ。

敵と自分の血が混じってどちらがどちらかわからない、それで良い。

貴方は狩人だ、相手の血を己が力とするのだから何も問題はない。

「!ご、ゴブリンスレイヤーさん!」

女神官は 神殿で目覚めると自分が剣の乙女の行うリザレクションの奇跡の媒体になると言って聞かなかった。

この場で最も信仰篤さゆえに成功率が高いのが彼女だろう。

 

…剣の乙女と女神官が瀕死の重傷を負った彼と共に同衾し回復するまでの間、

貴方方も休息をとることにした。

 

貴方は月光の大剣を再び手に取ると一人地下迷宮に赴こうとした。

「狩人殿、どうなさる気ですかな?」

しれたこと。獣を狩る、刈り尽くす。

「んな!何言ってんのよ!オルクボルグもあの子もいない状況であんた一人で行くっての!?」

貴方はいつもそうだった、常に一人でヤーナムを狩り尽くす。

今まで6人もぞろぞろと集団でうろつきまわったのがむしろ異常なのだ。

貴方は一人でダンジョンに挑むだろう。

貴方の精神テンションは今!

ヤーナム時代にもどっているッ!

リボンの少女が獣に殺されたあの当時にだッ!

冷酷!残忍!無慈悲!狂気!

血に酔った狩人だ!その貴方が小鬼どもを狩り尽くす!

 

「か…狩人…」

使命感が貴方を駆り立てるだろう、貴方は立ち上がり彼らに別れを告げて神殿から出て行こうとした。

今から戻って追撃すれば弱ったチャンプに動揺した小鬼どもを殺すのはさして難事ではない。

「それを聞いたんじゃぁ、尚更一人で行かせるわけにはいかんのぉ」

貴方を導師が押しとどめる。

「お前さんの過去に何があったのかぁ、知らん。

じゃが都合が悪くなったから、はいさよならじゃ道理が通らんじゃろう。

もうパーティーの依頼として受けた以上、リーダーの指示なしの独断専行はご法度じゃろ?」

 

「そうですな、それにこれは我ら一同が受けた依頼。

もはや狩人殿一人の狩だから、で済ませるわけには参りません。

小鬼どもを殺すのみならず、小鬼どもが湧いた原因の調査と解明、可能なら再発の防止。

それらを狩人殿一人で成し遂げられるという確信がありますかな?」

 

さて、何もかもぶっ殺して回るだけの貴方にそんな器用なことができるだろうか?

誰かが操っているのなら誰かがなんであろうと殺せばいいだけの話だ。

だが自然現象だったりした場合にはどうするのだろうか?

目につくものを片っ端から壊して燃やすだけではこの世界の問題を解決することはできないと貴方は金の力を通じて思い知った。

ならばここはひとまず彼の回復を待って再び反撃の機会を窺うべきだと説得されてしまった。

貴方はゴブリンスレイヤーの装備を見た。

鎧と銃はひしゃげ、剣は失われている。

特に銃身の曲がりはひどいものだ、だがこいつがひしゃげなかったら衝撃をモロに食らっていただろうことが伺える。

もしかしたら即死だったかもしれない。

本当に運の良いゴブリンスレイヤーだ…

そもそも運が本当に良かったらゴブリンスレイヤーになっていない気がするが。

貴方方4人は神殿にゴブリンスレイヤーと女神官を預けて宿に戻り休憩をとることにした。

神殿から帰る貴方方の足取りは重く疲れている。

…水の都の地下水道に入った時は朝だったが、既に日は暮れて夜になっている。

「あ、お帰りなさい!」

女武闘家は疲労し、服も擦り切れたりほつれたりしている貴方方4人の姿を見て驚いていた。

怪我は魔法で治る、だが服はそうはいかないものだ。

「あ、あははは…ちょっと失敗しちゃったかもね・・」

「だ!大丈夫なんですか!?ほら、早く部屋に…」

妖精弓手は武闘家に付き添われて部屋に入っていき服を交換するようだ。

神殿で換えの服を借りたが、好みには合わなかったらしい。

 

…貴方方も無言で寝床につき休息を取る。

重傷なのはゴブリンスレイヤーと女神官だが、陰鬱な雰囲気の地下に潜って快活でいられるなど頭のおかしい狩人くらいなものである。

地底人の結晶石マラソンはやはり頭おかしい。

一方でその頃の地下

そこには多くの寝台、薬品棚、輸血袋に医療道具が置かれ一見すると病院のようだった。

だがそこかしこに散らばった手足や夥しい血、ホルマリン漬けの様々な種族のパーツなどを見れば病院よりは屠殺場と呼ぶべきだろう。

彼女は地下水道に設置したここを『野外診療所』と呼んでいたが…

「ふむ、トゥメル人と同じ施術を施してもやはり完全に同じとは行かないか…

そこいらが四方世界の『静物』と『生物』の違いか…

駒として作られた故に瞳持たぬ。

進化の輪を外された存在…哀れで滑稽で、それだからこそ患者として治療のしがいがあるわねぇ…」

既にこの街やその外で誘拐され行方不明になった多数のヒュームやエルフ、ドワーフにレーアといった種族の多くが彼女の手によって誘拐され患者となっていた。

きっとこの女医はダッハウやアウシュヴィッツで勤務してたんじゃないだろうか?

混沌の勢力、彼女は今は彼らに協力しているのだろう。

だがそんな彼女に魔神王への忠誠心などカケラもない。

現に幾人もの吸血鬼やダークエルフといった混沌の軍勢の指揮官級も治療されている。

結局のところ、彼女は神々の駒を解体して再組み立てして遊ぶ子供のようなものだ。

残酷で冷酷で無邪気、一切の悪意がない邪悪さ。

ヤーナムでは別に珍しくもないが。

「狩人の治験も得難いものだけど…まぁいいわ、練習なら小鬼ちゃんたちで充分だし」

既に数百体のゴブリンが彼女の手によって治療されていた。

例の守り人はどこかの人間の成れの果てだったのかもしれない…

 

「まぁいいわ、ここでの収穫は鏡のシステム解析さえ済めばそれで十分。

治験データも全部ここにある…もうそろそろ潮時みたいだし…

ふふっ、あとは彼らに適当に処分してもらいましょう」

少なく見積もっても数百の治験データを自らの頭脳の内に納めた彼女に持ち運びの不便となる紙のカルテなど不要。

ある種の人は記憶の宮殿と呼ばれる手法により記憶力を極限まで高める事が出来るのだという。

混沌の軍勢との契約においては生贄を攫う見返りに彼らに強力なモンスターの製造法を提供するという目的で一致している。

実にくだらない、どんな強力なモンスターも所詮は上位者の玩具でしかないではないか。

「ああ、瞳を…彼らに瞳を与え給え。

獣の愚かを克服させ給え…」

彼女の治療は続く、ヒューム・エルフ・ドワーフetcetcetc。

全ての獣がその愚かさを克服するまで。

彼女の治療は善意である、地獄への道は善意で舗装されているのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48話

リハビリ・・仕事が忙しくなりそうだ。

我々は医療協会だ
お前達を治療する
抵抗は無意味だ


 

貴方達は宿で休むことにした。

そんな中で貴方は独り寝床を抜け出して一人ロビーで紅茶を嗜んでいる。

貴方と寝床を共にしている女武闘家もよく眠っているようだ。

貴方と関わった女性は必ず悲劇に見舞われていた。

貴方はロビーで紅茶を嗜んでいる.

貴方に世界を救うことはできない、ただ殺すだけだ。

ゴブリンスレイヤーは重傷を負った、助かるかどうかは運次第だろう。

貴方は柄にもなく感傷的になった、きっとあまりにも多くの悲劇を目にしてきたからだろう。

・・・・・ロビーで考え事をしているとそこに灯があった。

?使者たちが貴方を手招いている。

そういえばあの隠れ家の夢に行くべきだろうか?

・・・・・

貴方は考えた末に灯に手をかざし夢の中で目覚める。

まるで現実と夢の境目が無いように、夢の中で夢から目覚めるような感覚と共にあなたは再び狩人の夢の中で目覚めた。

貴方が目覚めるとそこには白い花畑が広がっている。

貴方は大樹の下で最初の狩人が待っていたあの場所で彼らを待っている。

気づいたときには貴方はテーブルに座り、人形が給仕を務めている。

「ああ、狩人様。お客様とは久しぶりです、もうどれだけの時が経ったのでしょうか?」

貴方の隣に立っている人形が誰もいない筈の客席に向かって呟く。

貴方が人形を見上げ、そして客席を見るとそこにはゴブリンスレイヤーがいた。

「・・・・ここは?」

貴方は彼にここは夢だと言った。

「そうか、夢か・・・俺は・・確か・・」

彼は死にかけている、故に貴方の夢に一時的に入り込んだのだろう。

ゆえに狩人でなくて客人。

「ここは俺の夢なのか?」

違うが、そうとも言える。

だが貴方は彼に目覚める必要があると言った。

「目覚め・・・なんとなくわかった」

どうやら貴方方二人は夢の中でも相方を務める運命らしい。

だが彼がここで目覚めたということは何かを成さなければ、ゴブリンスレイヤーは彼の世界で目覚められないということだ。

つまり死ぬ。 

「死ぬのは困るな、分かった。行こう」

貴方たち二人は人形が淹れてくれたお茶を楽しむと席を立った。

「行ってらっしゃいませ、狩人様」

貴方は人形にまたすぐ戻ると伝えて彼と共に目についた墓石へと足を運んだ。

今までに多くの墓石が貴方を悪夢へと導いたが、この墓石は多分貴方にも始めてだ。

誰の墓石なのだろうか・・・・

墓に刻まれた模様は・・・・天秤・・・そして剣・・・

ではこれは彼女の悪夢か‥‥

「よくわからないが・・行けばいいのか?」

貴方の後ろでは彼が不思議そうに墓石を見ている。

何となくだがわかるのだろう。

貴方は彼にここから行くのは悪夢の世界、だが悪夢と言えど彼にとっては現実になるだろう。

「危険なんだな?」

当然、死ねば死ぬ。

だが行かなくば目覚められぬ。

「では行こう、あんたもいるしな」

貴方とゴブリンスレイヤーは墓石に手をかざし使者たちが導くままに悪夢の世界で目覚めることにした。

・・・・・

貴方方二人は暗い・・・どこまでも暗い洞窟の中で目覚めた。

これは悪夢だが、このような悪夢なら慣れたものだ。

足元には戦いの跡なのだろうか、剣や冒険者の死体。

ゴブリンの死体などが転がっている。

「ゴブリンだ」

ここは悪夢の世界だ。

「ああ、だがゴブリンは皆殺しだ」

素晴らしい夢の中でもゴブリン殺しとは。

貴方方二人は武器を構えると悪夢の中のゴブリン退治に出かけることにした。

・・・・

貴方方二人が洞窟に足を踏み入れるとゴブリンがどこから湧いてきたのかわらわらと襲い掛かってきた!

だが貴方方二人は全く問題なくゴブリンどもを切り伏せ、叩き殺し全滅させていく。

「25,26。見える範囲はこれで全てだ」

貴方も多くのゴブリンを倒した。

そこかしこに散らばる死体や折れた剣や砕けた鎧などはこの悪夢の主のイメージなのだろうか?

「・・・・よくあることだ。

初心者パーティーが予想外のゴブリンの巣での奇襲に会い全滅する。

何度となく見かけた光景だ」

彼には見覚えのある後継らしい。

だが貴方方二人が悪夢だからとて容赦するはずがない。

貴方方二人は広い悪夢の中のゴブリン穴を進んだ。

奇襲、待ち伏せ、罠。

その悉くをを突破して最深部へと至る。

「疲れたか?」

ありえない、この程度では遠足にもならない。

「頼もしいな」

貴方方二人はドアを蹴破り最深部のへと突入した。

今までもよく経験したボス部屋である。

「うっ・・・ううう」

そこで待ち受けていたのはゴブリン。

ゴブリンの群れだった、

醜悪な外見、そしてその奥ではゴブリンどもに冒険者の亡骸で作った十字架に磔にされている少女がいた。

若く、瑞々しい身体に刻まれた傷跡は痛ましく目は焼け焦げて見るも無残だ・・・

「「・・・・」」

そんなことはお構いなしに貴方方二人は突入と同時に武器を振るい目の前にいたゴブリンどもを叩き潰す。

もう慣れた殺戮業務だ。

だが少しだけ、また彼の目に強い殺意が宿っている気がする。

貴方も武器を振るう。

獣を狩る、ゴブリンを殺す。

そこに何の違いもありはしないのだから。

 

 




磔にされた少女・・・何者なのだろう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49話

貴方とゴブリンスレイヤーは暗く悪臭漂う悪夢の中でゴブリンの集団と戦闘に入った。

貴方のノコギリ鉈がホブの頭蓋を砕き、更に後ろのシャーマンに襲い掛かって脳髄と内臓を撒き散らす。

ヤーナムにおける一般的な狩りの手順に従えばどうということはない、単なる日常業務だ。

「俺が倒れても気にするな、ゴブリンを殺せ」

ゴブリンスレイヤーはあなたにそう言ったが戦力の低減は絶対に避けるべき事態だ。

それに双方擦り傷も負わずに皆殺しにしても構わないのだろう?

「そうだな」

射程の長い貴方がフォワードを努め手数に勝る彼がバックアップを務める。

殺戮の効率化という点から考えれば現時点ではこれ以上は望めない。

貴方がたはたちまち洞窟内の広間のゴブリンを殺し尽くした。

終わった?いや

グチャグチャという嫌な音とともに周辺に散らばったゴブリンの残骸が一カ所に固まっていく。

「これは?ゴブリンか?」

彼は疑問に思ったらしい。

ここは悪夢の中。

ゴブリンの死体の巨人とでもいうべきか。

恐らくは磔の少女の悪夢を食い物にする夢魔のようなものが作り出した恐怖や苦痛、屈辱のイメージだろう。

貴方は人の醜悪なカリカチュアをゴブリンの中に見た。

考えついたのは狂った気色悪いナメクジだろう。

醜悪な男根は彼女の痛みのイメージか。

「つまりゴブリンだ、なら殺すだけだ」

要はケダモノだ、狩れ。

そう思った瞬間に貴方がたは火炎瓶を投げつけていた。

貴方と彼は瞬時に二手に別れ醜悪な巨人の脚に攻撃を加える。

殺意は言葉で表すものではない、殺してから考えればいい。

貴方がた二人の猛攻に死体の寄せ集めのゴブリンはもがき棍棒を振り回し地団駄をふむ。

だがこの程度の攻撃など聖杯の巨人狩りに慣れ親しみ楽しく殺せる貴方にとってはどうということもない暇つぶしだ。

ゴブリンの利点は小さく数を頼んで奇襲しやすいこと。

その利点を活かさない時点で、今度は巨体で暴れようと貴方たちに掠りもしない。

アキレス腱を貴方が抉るとゴブリンの死体巨人は倒れ込む。

死体ゆえに痛みは感じなくとも脚を切られては立てまい。

すかさずゴブリンスレイヤーが死体の眉間に剣を突き立てる。

貴方は死体であっても、生きていると錯覚している以上は頭部に攻撃を加えれば致命傷になると考えて彼に任せた。

死体が悍ましい叫び声を上げて暴れるが彼は全く意に介せず深々と剣を突き刺す。

二人の男が黙々とゴブリン死体を切り刻み焼き尽くす。

その様は一種熱狂的でもあり、しかし悪夢でありながら生々しい。

死体はさらにあがき、足も時間を巻き戻すように?

いや、まるで腐った脚に更に接ぎ木したように別のゴブリンの死体が張り付いて補う。

「しぶといな」

悪夢故に、死骸が命を得ることもあるだろう  。

あなたはとっさにゴブリンスレイヤーに警告し、飛び退く。

貴方たち目掛けて死体が口から腐臭漂う液体を吐き出してきた。

ゲロ攻撃だ!

ゲロを吐くのはあなたの仲間の妖精だけで十分だというのに!

「胃酸、それに毒か」

死体になってもゴブリンはゴブリン。

どこまでも不浄な汚物だ。

汚物は?

「ああ、そうだな。

汚物は消毒しなければな」

ゴブリンスレイヤーが油壺を投げつけ、貴方も火炎瓶を投げつける。

悍ましい叫び声をあげるゴブリン死体に貴方は発火ヤスリをこすりつけたノコギリ鉈を叩きつける。

足から腹へ、そして崩れれば頭部。

容赦なく焼き殺す、ひき殺す。

やがてグズグズになった死体は腐臭を残して灰となって消えていった。

YOU HUNTED

貴方は悪夢の中のゴブリン死体巨人を狩ったのだ!

狩りは終わった、目覚めの時だ。

「目覚める・・そうか夢だったな」

貴方は彼にこの悪夢は彼女のものだがゴブリンスレイヤーのものでもあったと伝えた。

彼の故郷と家族は・・・

あのゴブリン溜まりは彼の恐怖のイメージでもあった。

「わかっている・・・狩人、俺は忘れるんだな」

夢は忘れるものだ。

だが悪夢の中での殺しの技を忘れることはない。

貴方がその証明だ。

「狩人、俺はゴブリンを殺す。

恐怖があろうとも殺すしかない」

それでいい、恐れが我々を獣の愚かさから守る。

人として奴らを踏み潰す。

そう伝えると彼の姿が薄れる、目覚めつつある。

だがここにはまだ悪夢に捉えられたら人がいる。

貴方は彼女を悪夢からときはなてるのか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50話

貴方はゴブリンに陵辱の限りを尽くされた女性に近づいていく。

冒険者の骸で出来た十字架に貼り付けられ何も覆うものが無い身体は白い肌と無数の傷、そして小鬼の穢らわしい腐臭漂う体液にまみれ無惨そのものだ。

狩人よ、貴公は狩りに優れ無慈悲で血に酔っている。

あなたは彼女の苦しみも恐怖も共に持って行くべきだろう。

彼女の苦痛を貴方のものとし、より無慈悲になるがいい。

所詮は血塗られた狩人、貴方の犠牲と狂気を世界の贄にするがいい。

この世界の上位者は人を苦しめ狂わせ汚辱の中に落とし込むことに愉悦を感じる狂った連中だ。

神々を殺し、狩り尽くす。

貴方の狂気の旅路の贄が捧げられている。

 

「う、ああ。

お願いです、もう許してください」

 

貴方は彼女に触れようとした、かつて教区長の残した頭蓋から啓蒙を得たように。

かねて血を恐れよ。

だがここにいるのは残骸になってなお生きることを望む人だった。

とても弱く脆く、でもとても強く美しいものに貴方には感じられた。

貴方は唐突に何かを思い出す。

 

『どこ行っちゃったのかな、お母さん。

ホントおっちょこちょいだよね。

大切なオルゴール忘れるなんて』

・・・

貴方は骸の十字架からそっと少女の戒めを解いて抱き下ろす。

「ああ、どなた。やっと来てくれたんですね。

私を助けにきてくれる人がいると信じてました」

 

貴方は何故ここまで人を救うことに執心するのだろうか。

きっとヤーナムでの経験が貴方を変えた。

何かに心を痛めることで貴方は血に酔っている狩人よりも上位者の赤子よりももっと真に上位の何かになれると感じているのだ。

 

「私はもう夜に怯えることに疲れました。

貴方のような人が私を救いにきてくれる。

神様にお祈りが通じたのですね。

お願いします、もう私の側を離れないでいてください」

 

貴方は何も答えない。

何かを約束するには貴方はあまりにも多くの間違いを犯している。

 

「何故です?

貴方も私を助けてはくれないのですか?

もう夜に怯えて過ごすことには耐えられないんです。

お願いします、私を助けてください」

貴方の腕の中で少女は泣きじゃくる。

・・・

貴方は出来る限り優しく彼女を抱き上げると悪夢の中心から離れようとする。

だがこの悪夢の世界は貴方の物ではない。

 

彼女の悪夢を狩る事が出来るのは彼女だけだ。

貴方がいつも通りに狩ったとしても彼女の恐怖と悪夢が尽きることはない。

上位者が聞いてあきれる、少女のお願い事一つ叶えられないのだ。

やはり貴方は狩人だ、獣を狩る事が出来ても人を救うことに関しては話にならない。

だが、貴方は出来る限りの優しさと冷静さで彼女に語りかける。

夢の世界でなら・・・

貴方は彼女に鐘を渡した。

《狩人呼びの鐘》

地下の迷宮から発見された。その鐘の音は世界に共鳴する。 最初の狩人はこれを特別な信号として使い別世界の狩り人と共闘したという。

今や夜に戻った狩人は貴方が最後だ。

最後の狩人よ、務めを果たせ。

青ざめた血の探索はまだ始まったばかりだ。

 

「何でしょう、とても温かくてとても優しい・・・

私、こんなに安心できたのは随分久しぶりの気がします」

少女よ、昼に光として生き夜に怯えるのか。

夜に呼べ、夜の帳が降りるときには狩り人達も戻るのだから。

「ああ、呼べば来てくださるのですね」

 

狩りは貴方の務めだ、獣狩りは貴方が負うべき業。

少女は鐘を大切そうに両手でしっかりと抱えている。

「獣狩りの狩人様、お待ちしております」

 

やがて彼女の姿が淡い光に包まれて消えていく。

彼女の目覚めの時だ。

一時の目覚めだが、彼女も忘れてしまうだろう。

だが鐘が何を意味するか、それは昼の彼女も忘れはしないだろう。

夢は現実なのだから。

悪臭と汚辱の世界が薄れつつある、貴方にとっても目覚めの時だ。

 

 

《剣の乙女の鐘》

古ぼけた奇妙な銀の鐘

一見すればガラクタに過ぎない。

だがある乙女は終生この鐘を肌身より手離す事はなかった。

その意味を知るのは彼女の子孫の中でも限られているという。

遺志を継ぐ者達さえ知っていればそれでよい。

そういうことも世間にはある。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話

貴方は宿のロビーで目覚めた。

空は未だ青ざめた夜の暗さだ。

しかし貴方には馴染みのない澄んだ青さだ。

貴方のパーティーのメンバーは未だ眠っているようだ。

起こすのも悪いだろう。

昼を生きるものたちは日の下で行動するのがよい。

獣狩りとしてはあるまじきことに貴方は昼の者と行動している。

貴方は彼らが夢から目覚めるまで紅茶を嗜むことにした。

色は鮮やかに紅く血の色をどこか思い浮かべた。

だが貴方の獣性に落ち着きを与える。

・・・

しばらくたつと上の階からパタパタと4人が降りてきた。

「なんじゃい狩人よ、折角の若夫婦が旅先で寝床をともにしとらんとは。

いかんのう、嫁さんをほったらかしとってはその内すてられちまうぞい」

貴方は昨晩、女武道家とお楽しみでなかった事を鉱人にたしなめられた。

貴方は彼女の嬌声は思ったよりも大きくて迷惑になるだろうから遠慮した。

特に後ろからの突きで獣のように乱れた。

そういうことを伝えると肝心の女武道家は顔を真っ赤にして部屋に閉じこもってしまった。

「うんうん、いや新婚夫婦とはいいものですなぁ。

反応が実に初々しい」

「ちょっと!ったくうちの男連中は本当にデリカシー無いんだから!」

蜥蜴僧侶と妖精弓手はそれぞれ相変わらずの反応をしている。

「ほら!あんたが責任もってエスコートするのよ!」

今日はどうするのだろうか?

ゴブリンスレイヤーは休むとしてもこの4人で遺跡の調査と掃討に当たるつもりだったが。

「なにいっとるんじゃ、狩人よ。

本来ならお主が一番重傷なんじゃぞ。

ここはお主も休んだ方がいいじゃろ」

獣狩りの狩人に休息など・・・夢で隠れ家に滞在すれば一瞬で済むのだが。

そう鉱人が言うとバァンとドアを開けて女武道家が階上からパタパタと出てきた。

「か、狩人さん!重傷って!?わ、わたし急いでポーション!?毒消しならたくさんありますから!」

慌てて飛び出してきた彼女を貴方は諭した。

確かに一撃食らったが輸血でもう完治した。

そもそも内蔵攻撃をすればリゲインと血の歓びで全快する。

ゴブリンの血肉は豚より臭いがポーションがわりだ。

「そ、そうですか。でも絶対に危険な目には遭わないでください。

また誰かを失うなんて・・・」

潤んだ瞳であなたに頼み込んでいる。

無論、そもそも貴方は悪夢こそ見れど死ぬことは無い。

死ぬことを受け入れなかったからこその貴方。

死などという容易い終わりが許されるはずもない。

ところで結局彼女も神殿に行くのだろうか?

「あ、ええと。

その・・・わたし結局ゴブリンスレイヤーさんにお礼もまだ言ってないし・・・

今言えなかったら・・・その・・・」

貴方は彼女の悪夢を考えた。

もし彼が間に合ったら?

彼女は未だに冒険者だったかもしれない。

あるいは犠牲になったのが女神官だったら、立場は逆だったかもしれない。

そうなっていたらここに貴方の赤子を孕んでいたのは女神官だったかもしれない。

誰にとっても過去と向き合うのは難しい。

哀れな家族、悲しいオルゴール。

だから豚を許しはしない。

全く、あなたと彼は似ている。

だから小鬼を許しはしない。

「行きます、お礼を言って・・・区切りをつけなきゃ」

女武道家の覚悟にあなたを含め4人は感心した。

小鬼を赦すな、貴方がたは一層決意も強くゴブリンスレイヤーを見舞いに神殿に向かうのであった。

 




彼は貴方の憧れ
狩りに優れ無慈悲でだが使命をもち血に酔ってはいない
彼はかつて英雄だった狩人たちのようだ

貴方は彼の憧れ
狩りに優れ無慈悲で血に酔っており、技は彼の及ぶところでない
貴方のような英雄が10年前にいてくれたらと彼は思う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

52話

音声入力のは早いが調整が清書が難しい


「あーお腹減った」

「辛抱せい、耳長。かみきり丸が食事するまで儂等も断食の誓いじゃ」

ゴブリンスレイヤーが奇跡により窮地を脱していれば良いのだが。

だが例え彼が倒れても、かれの遺志を継ぐ者はあの牛飼いの女性の中にいる。

辛い遺志だろう、子供が背負うべき遺志だろうか?

もしも貴方がその遺志を断ち切れるなら、悲劇の環を断ち切れるなら。

きっと貴方の呪われた獣狩りの業も少しは報われる。

そう考えれば彼の遺志はあなたが継ぐべきだろう。

貴方は神殿へと辿り着いた 。

寝室の前であの大司教があなた方を待っていた。

心なしか彼女の表情は、いつもと比べて柔らかく明るい。およそヤーナムではあなたが決してみかけなかった表情だ。

「ああ、皆様方。あのお方ならもう大丈夫ですよ」

あなた方5人は、その知らせを聞いて喜んだ。

どうやら奇跡の効果があったらしい。

彼が亡くなっていては、どのような結果になっていようとあなたにとっては負けだった。

彼らもそうだろう。

生き延びる、それが狩り。

夢を見ぬもの、彼らにとっての勝利。

あなたは良い。あなたは呪われている。永久に、呪われている。

それゆえに悪夢を見る。悪夢を見ている。

あなたにとって全てはただ一夜の悪夢に過ぎない。

あなたは目覚めた彼と話をした。彼は反省している。

無謀な行動によって重要なメンバーの一人である彼女を危険にさらし、そして彼ら全員を危険にさらしてしまった。

あなたは指摘した。その中には彼自身も含まれるべきだと。一人でもかければ作戦は成功しない。

彼はそれを基より重々承知すべきだった。

無論あなたが一撃を受けたことも、あなたにとっては反省すべき点だろう。

生きているからこそ反省できる。

生きているからこそ獣を狩ることができる。

どうやら彼と女神官は、今日は休息を1日とるようだ。

他の3人は再び地下水道へと向かう。

あなたも彼らと同行するつもりだった 。

しかしあなたも重傷を負ったということで、今日1日は休みを取るように指示されてしまった。

この程度あなたにとってはかすり傷ですらないというのに。

あなたは輸血の技によって全く回復したと伝えた。しかし、それでもあなたのようなタイプの人間は仕事以外の場での経験も必要だと、ドワーフに押し止められてしまった。

あなたは了承し、彼と女神官、そして女武闘家とも街に出ることを了承した。

あなたにとっては非常に稀な経験だ。

しかし彼ら3人だけでどうにかなるのだろうか?

あなたは彼らの心配をした。

かつてのあなたなら、まずあり得ないことだ 。

あなたは妖精弓手から反論を受けてしまった。

「何言ってるのよ、私たち3人は銀級なのよ。

先輩冒険者が後輩を気遣ってあげているんだから、

遠慮せずに行ってきなさいよ。後輩のくせに、先輩3人の心配なんてホント生意気なんだから」

あなたは窘められてしまった。

なるほど、冒険者としては彼らの方が経験豊富な先輩だ。

彼らの言うことには一理ある。

死に慣れているあなたは経験こそ豊富だが、生きて勝つという経験では彼らには遠く及ばない。

すべては悪夢だった、そう言い切れることのなんと便利で、そして人としてはこれ以上ないほど不完全なことか。

 

彼は優しい男だ。

彼女とその仲間二人を助けられなかったことを、心から悔やみ、後悔している。

心を痛めている。

かつて、あのヤーナムであなたも同じような経験をした。

やはりあなたと彼は似ているのだろう。

似た者同士で気が合うと噂されていた、それは事実だ。

だが彼は狩人ではなく戦士だろう。

もしや、彼のような者がいたら、あの獣狩りの夜。

その様子はもう少し違っただろうか?

だが、仮定は無意味だ。過ぎたことを考えてみても、時間を巻き戻すことはできない。

たとえあなたが上位者であっても。

あなた方が話し合い今後の予定を決めていると、剣の乙女があなたに話があるらしい。

「よろしいでしょうか?獣狩りの方」

あなたは彼女から恩義を受けた。

あなたの仲間を救ってもらった。ゆえにあなたは彼女の話を聞く義務があるだろう。

 

ちなみに女武道家は少し嫉妬した。

彼女にとっては、妊娠した新妻の目の前で父親が他の女と浮気している。

そう見えているらしい。

「なぜでしょう。私の夢の中に、あの方、そしてあなたが出てきたのです。不思議ですね。まだ会って少しだというのに」

彼女の胸から、古ぼけた銀の鐘が下がっている。

「何時からでしょうか。あなたがいつのまにかくださった、この鐘。これをつけていると安心できるんです」

ふふっと彼女は柔らかく微笑んだ。

確かにこの女性には魅力がある。

本人がそれを自覚していないが。

女武道家と同じ小鬼に慰み者にされたことで女性としての自信を喪っているのだろうか。

すると女武道家が突然大声で話しかけてきた。

なぜか、彼女の赤子のことをやたらと強調してくる。

「あっそうだ狩人さん?この後で私達の赤ちゃんの服を見に行きません?

赤ちゃんに必要なものをみておきたいんですよ!」

 

不思議なことだ。女武道家が赤子のことを気にかけている。

ではとあなたは大司教に別れを告げた。

人並みの生活などあなたに許されるはずはない。

しかし一人の女性が望むならそのために尽力するのも、

まあいいではないか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53話

そもそもなぜ月の魔物は 狩人を選んだのか
もしも 狩人が 彼女を殺すことを選んだのだとしたら
それを甘んじて受け入れたのだろうか
私には 彼女の行動は愛に基づいていると思えるのだ
歪んでいて利己的に思えるが
あれは確かに愛だったのだ
愛が無ければどんな力も無意味だ
そう愛してるんだぁぁぁ君達をぉ!
bloodborneのつぎに隻狼をするとリアル啓蒙がたかまる
啓蒙が高まると自分でも文がだんだんわからなくなってくる
これが啓蒙99の破壊力か



あなた方四人は街に繰り出してそれぞれが思い思いの 行動をしている。

彼ゴブリンスレイヤーは、 彼の装備の修理そして物資の調達を 。

女神官は 破損した彼女の鎖帷子の修繕を頼んでいる 。

あなたは何をすべきだろうか?

あなたは 女武道家 と 神官が、 彼とあなたの武器の見繕い

そして鎖帷子の修繕が終わるまで金物屋を見て回っている。

女性2人が金物屋を見て回るというのも奇妙なものだが 、この武器屋では 単なる武器だけではなく 生活のために必要な金物も取り扱っている。

なるほど女性にとって 包丁や鍋は 実に 剣や槍よりもよく似合う。

いつかはあなたも かつて殺して回った人たちの分まで 、彼らができなかったことをすべきだろう 。

あなたは少なくともそう思っている 。

あなたが焼き払った街。

あなたが救えなかった人々 。

彼らよりも多くの人を救うことによって 、

少なくともあなたは自己満足ができる。

だというのに 、もっと良い人間になりたいというのに。

あなたの周りにはやはり死と破壊がついてまわる 。

だがきっとだからなのだろう。

彼女たちには人間らしい生活をして欲しいのだ。

たとえあなたがもはや手遅れだとしても 。

あなたは彼女たちから一歩下がって武器屋を見ている。

品質はそこそこだが 、

いずれにせよあなたの狩り道具に見合うものはない 。

だが ゴブリンスレイヤーにとっては丁度良いようだ 。

彼は相変わらず安物の装備を選んでいる 。

無論あなたも装備は選ぶ 、

より効率的に狩りを行うために。

 

そうあなたはもはや人間ではない。

狩人だ 。

狩人は 獣狩りを続ける、 それだけだ。

たったそれだけで、 人を救った気になっている。

 

それで良い実際にあなたはここでは獣を狩ることによって多くの人を救っている

あなたは女神官と女武道家が仲良く生活に必要な金物を見て回るの を見て 在りし日のヤーナムを想像してみた

そこにはあの 親父の妻 娘 家族の生活があったのだろう その生活を 獣の手から遠ざけておく

狩人の役目だ

たとえ汚泥に沈み血にまみれ呪われた道だとしても

そんな生活があると考える

それだけであなたの心は暖かくなるだろう

きっと狩人ならば分かってくれるだろう

あんたもそうなんだろう

だがさしあたっては地下下水道の獣狩りだ

この町を脅かす獣

すでに 罪なき人の血が流れた

あなたはそれを決して許しはしない

素晴らしいじゃないか

存分に狩り殺したまえよ

たとえ 英雄ではなくても 英雄の真似事は出来る

それで十分だろう

あなた達は 水の都の店の品々を見て楽しんだ

正確に言うと女性2人が楽しみあなたたち2人は黙ってついていくだけだ

華やかな女性2人に 全身鎧の 小汚い男

全身黒ずくめの 不審な男

女性2人の可愛らしさと美しさが目立つだけに

あなたたち2人もやはり悪目立ちしている

そういえば と彼は急に切り出した

「夢の中でお前にあったような気がする」

あなたは彼にそれは夢にすぎない そう伝えた

だが考えてみても欲しい

今この瞬間我々がこうしているのが誰かの夢ではないと果たして言い切れるだろうか

あなたは続けた

夢と現実それは全く違うようでいて実のところは等しい存在なのかもしれない

我々は毎夜寝るたびに夢を見る

だがそれがここの現実ではないとしても別の世界の現実ではないと果たして誰が言い切れるだろうか

彼はそれは実に面白い発想だなと言った

無論あなたは悪夢を見る

ヤーナムの悪夢を見ただがそれが現実のものだという証拠はどこにもないのだ

無論現実のものではないという証拠もないが

考えてみても欲しい

今この瞬間にもあなたはこの世界を生きている

だがこれが上位者によって作られた夢

架空の現実だというそのようなことは考えられないだろうか

だがそんなことはあなたにとってはもはやどうでもいいことだ

これが夢ならばあなたは夢を現実のものとする

上位者はあなたからすれば夢の世界に生きている

ならば夢と現実の境目を曖昧にする技は今やあなたの手の中にある

青ざめた血のごとき 空に赤い月が昇るとき

夢と現実 人と獣の境目は曖昧になる

青ざめた血を求めよ 上位者狩りの時間だ

空に青ざめた月を登らせよ

赤い月でも緑の月でもない

あなたの求める青ざめた月よ

宇宙は宇宙は空にある

あなたは娘たちを見捨てることはない

だから空を見上げよう

それから先はあなたたちが 特筆すべきことはないだろう あなた達は屋台のアイスクリーム

その甘い舌触りに舌鼓を打った

血に酔う狩人とて

氷菓子を楽しむくらいは良いではないだろうか

少なくとも女武道家は楽しんだようだ

だがそれにしても気になるのは 四人でゾロゾロ連れ立って歩いていることか

彼女達はそれを楽しんでいたろうか?

「 気にしないでください私はもう十分楽しめましたから」

彼女はまさしく幸運だそして優しい

あなたは彼女とも色々と話をしてみた どうやら彼女は 学校に行きたいらしい 女神官と違って 田舎で 父親から手ほどきを受けても字が読めないことを気にしている

なるほど町に暮らすなれば何をするにしても 字が読めるということは大事な能力になるだろ かつてはあなたも ここの字が読めなかった だが勉強し努力すれば意外となんとかなるものだ

あなたは優しく彼女の頬に手を回した

あなたの求める再生と 新しい命は きっと無駄にはならないだろう

命は受け継がれ 青ざめた血はいつかあなたたちのものになる

完全な青ざめた血を求めよ

彼女には無理だろう

彼女の子供達でも無理かもしれない

だがずっと先のではきっと 実現するだろう

ウィレーム先生はかつてこう言った

情けない進化は人の堕落だと

あなたは同意する

人は人としてその学識哲学知識技術

そのようなものによって自らを高めるべきだ

神に似た人々

だが外見を似せるそこに何の意味があろうか

 

ハムレットは皮肉を込めてこう言った

「人間、なんという傑作だろう。

理性の気高さ、その無限の能力、

形と動きの適切さ、天使のような身のこなし、神のごとき理解力。

この世の美の真髄、動物の鑑」

だがあなたは確信している

彼の言葉はいつかきっと皮肉ではなくなる

上位者はそれを恐れる 只人

それはこの世界での人の呼び方だがあなたはそれに悪意を感じている

ただの人

特別なところが何もないだと

いや彼らは1人1人が皆特別なのだ

彼らは人間だあなたと違うところなど何もない

やはり彼らは人間なのだ

優しくて愚かで 時に醜く 時に美しい

あなたは人間を愛するべきだろう

そしてあなたは人間を愛するようになった

どんな力も愛がなければ無意味である

 

 

 




ちなみにランサーはダブルデートを見せつけられて爆発した
情けない進化は人の堕落だと言われて最初は分からなかった だがアメンドーズやロマンを見て 少しずつわかってきた あれらは確かに人よりは 何かの点で優れていたのかもしれない 上位者と呼ぶにふさわしい力を持っていたのかもしれない だが行動はどうだろうか アメンドーズの行動はまるで癇癪を起こした赤ん坊 そんなのが本当に上位者などと言えるだろうか 考えてみてほしいホモサピエンスは 何をもって霊長類などと言えるのだろうか もしも社会に依存しないホモサピエンスがいたとしたら 一体どれほどのことができるのだろうか 一切の技術も科学的知識を持たずに 飛行機や潜水艦宇宙船 そんなものを持たないホモサピエンスが果たして上位者に後することなどできるだろうか おそらくは10万年前の 我々の先祖と同じく 地球上で取るに足らない生物として 終わっていたろう 上位者として必要なのは 知識技術哲学それらを支える社会 それら全てをひっくるめてきっと上位者と言えるのだ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54話

女神官「やりました!新しい装備ですよ。
これで混沌の勢力を、効率的に駆除できますね!」
(小さな)女神官はAKM(小さな大量破壊兵器)を装備した!
ゴブスレ「なにこの幼女怖い」

種族
ホモサピエンス
特技
同族の大量虐殺
大量破壊兵器の製造
自分に都合の悪い動植物層の一掃
環境の大改造

弱点:魔法も奇跡も無い
利点:同族以外には遠慮なく(NBC)大量破壊兵器を使用

一同「なにこの種族怖い」



あなたは偵察から戻った3人と合流し6人で行動することにした。

しかし、6人が地下水道を進んでいくと・・・

そこで目にした光景は偵察から戻った3人が知らせてきたものとは違ったものだった。

「こいつはどうなっとるんじゃ 」

導師が驚愕のあまり目を見開いて言う。

地下道には ゴブリン の残骸 がまるでヘンゼルとグレーテルのパンくずのように続いている 。

ゴブリンスレイヤーは散らばったゴブリンの残骸や死体を見て調べている。

妖精弓手はあまりの凄惨な光景に口を押さえ吐き気を抑えている 。

蜥蜴僧侶の方は相変わらず平然としている。

この中では彼が一番常識的なのだろうか それとも神経が図太いのか修羅場慣れしているのか。

死体は 皆 叩き潰され焼き尽くされている。

凄まじい力だ 。

こちらはなぎ潰されている、4匹まとめてだ。

死体の並び方 が 円状になっている。

こちらの方は斬り殺されている 。

とても鋭くだが恐ろしく重い刃だ 。

少なくても3種類の武器で殺されている。

ゴブリンスレイヤー殺害者は3人、3種類の武器を使っていると推理した。

彼の推理はとても冴えている、そしてやはりあなたはこの惨状に見覚えありだ。

魔法の類は見られない、全て物理攻撃で殺し尽くされている。

「このやり方ってまるで 」

女神官はちらりとあなたを見た。

「狩人 、お前の使っていた武器と特徴が一致している」

 

なるほどあなたの武器と特徴は一致している。

しかしひとつだけ違う点がある。

彼らの方が攻撃そのものについてははるかに精密で強力だ。

あなたは彼らの武器を拾って使っている。

だがまだ使いこなせてはいない 。

「これだけの数のゴブリンを一方的に殺し尽くすとは。

それもここまで徹底的に 、なるほど 狩人殿と互角というのも頷ける話ですな」

蜥蜴僧侶 は彼らのやり口に感心している。

 

「しかし狩人、そいつらの訳は分からんか。

なぜ小鬼どもをも殺し尽くしてくれたのか 」

全く理由は分からない。

話は通じない、彼らと話は通じない 。あなた が第一村人発見とばかりに出会った狩人の最初の第一声は死ねだった そして散弾銃が飛んできた 驚くことはない狩人というのはそもそもそういうものなのだ 血に酔った狩人ならばなおさらではないか あなたはあまり話し合いに期待は出来ないと仲間に伝えた いつからだったろうか彼らのことを仲間だと思えるようになったのは。

女神官は床や壁、天井にへばりついた肉塊やシミになっているゴブリンの群れを見て立ちすくんでいるようだった。

「 私、お役に立てているんでしょうか。

この前なんか 、私のせいで ゴブリンスレイヤーさんも狩人さん も大怪我をしてますし・・

皆さんにご迷惑をかけっぱなしじゃないでしょうか」

「 大丈夫だから 。

オルクボルグ もこのばかも無事だったんだし。

それにいつも奇跡のおかげで助かってきてるんだから」

金床も気を使ってくれているようだ 。

なんとまあ成長したではないか。

そしてあなたも同意する。

総和は個々の集合に勝る。

あなたとでかつて一人で狩りに赴くよりも3人で徒党を組んだ方がずっと安定して狩れたではないか。

正しnoobな白や青は除く。

それに彼女とで銃で狙うなら一切の容赦なく小鬼を撃ち殺してきている。

やはり彼女は狩りに優れている。

だが未だに無慈悲ではない、

血にも酔っていない。

それがほんの心残りだろうが 。

あなたは彼女に自信を持てと伝えた 。

彼女は未だに血母神に頼っている。

だがそれではいけないのだ 、いざという時には怯えてしまっているのだ。

ゴブリンスレイヤーがやられたのは誰だってヤバイと思う。

あなただってそう思う 。

しかし本当の狩人なら腕がもげようが腸をぶちまけようが、

最後の一瞬まで攻撃を絶対に止めはしない 。

彼女はもう冒険者ごっこをしている子供じゃない。

ぶっ殺すと心の中で思ったのなら既に行動を終えている。

そういう人種なのだ 。

あなたもかつては獣をぶっ殺すと思った。

今はもう思わない 。

思う前に殺してしまっているからだ 。

もっと自信を持っていい。

彼女は未だに黒曜だ。

だが彼女を除く5人は銀。

新人が混じって輝いていられる、それはとてもすごいことなのだ 。

「私は皆さんのお役に立ちたいだけですから」

彼女は微笑んで少し自信を取り戻したようだ。

なんと彼女はあなたの目には眩しく輝いて見えるものか。

彼女の行く道には確かに暗い血と 、あの月の導きがあるのだろう 。

彼女は弱く脆くそれでいて人としての強さを兼ね備える。

人としての可能性 。

強く気高い進化の一端を見せてくれている。

1代では成し遂げない 人の進化も、彼女の腹から生まれ出でた子供達ならばきっと成し遂げてくれるだろう 。

 

そう思えば彼女を導くことになんと喜びを感じられることだろうか 。

あなたは呪われた血を彼女に捧げよう。

きっと真に偉大な赤子を彼女が抱けるように。

 




数十年後
女神官ちゃん改め女教皇
「はっきり言っておこう。
教権は大地であり、王権は大樹である。
どんな大樹も大地に根ざさずして
どうして立っていられようか」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55話

魂喰いに呪われた不死、焼け残りの灰、汚物狩りに痩せ狼に褪せ人風情が・・・不遜であろう
やっと復活し始めました


あなた方は地下水道の先に進むことに決めた。

進めば進むほど地下水道の先からは血の錆臭さ、内臓の生臭さが強くなってくる。

床も壁も延々と血と内臓で塗装され、汚物があたり一面にぶちまけられている。

なんという懐かしい感覚だろうか、貴方は悪夢の中の悪夢、狩人の悪夢の中。

あの懐かしく、神聖で悍しくも冒涜された醜い祝福された聖剣のルドウィークへと続く道を思い出した。

心が弾む、あの鉄火と血と狂乱の日々が蘇る。

すり潰す、叩き潰す、引き裂く、膾切りにする、焼き殺す、撃ち殺す、etcetc

生きている、貴方は漸く生き返った。

遂に悪夢へと立ち戻った。

悪夢こそ現実、正気とは狂気の1種類に過ぎず主観の問題に過ぎなかったのだ。

「うっぷぅ!?もう無理、また吐きそう」

凄まじい血と内臓の生臭さに駄目ルフはもう既にギブアップしそうだ。

またゲロフにランクダウンするのか?

…またぶち撒けるか

「今絶対また、おぞましいこと考えたでしょ。禁止よ禁止」

暗く濁った目で駄目ルフが釘を差してくる。駄目ルフは既に瞳が蕩けて獣となりつつあるような気がするが人間性はまだ失われていない・・ようだ。

「だが狩人よ、こいつは凄まじいな。

ドワーフの伝承にもある凶戦士でもここまでは流石にやらんぞ…」

狩人の悪夢ではよくある現象だが…だが確かに血舐めノミがいない以上はまだ流した血は大した量では無いのだろう。

あるいは、ああ…あのノミどもを呼び寄せようとしたのか。

それでゴブリンどもをここまですり潰したのか?

 

「ウゲー!ちょっとやめてよ!そういう害虫の話嫌いなんだから!夢に出てきちゃうじゃない!

ハエもゴキブリもノミもダニも無し!」

虫喰らいの妖精がなにやら喚いている。虫は虫、どれも同じだろうに。

…なぜだろうか、暗い血とハエ…どこかで聞いたような話の気がする…

絵?顔料?絵画世界…暗いの魂の色をした顔料…

火の時代の終わり、伝承によれば輪の都は最果てにあるという・・・

どこかの吹き溜まりの先の先、その底に神々の隠した真実という名の糞を暴くがいいさ・・・

いーひっひっひ

貴方は啓蒙が再び高まった。

啓蒙が高まったことによりより恐ろしく悍しく美しい世界の本質へと再び近づくことになる。

「あれ?皆さん…これ…聞こえますか?」

突然女神官は立ち止まってゴブリンどもの死んだフリがいないかどうか確かめるために振るっていた杖…いや既にそれは杭だった。

そこはかなりの広さがある下水道の合流場所だった。

四方に向けて通路があり貴方たちが広く動き回っても十分に余裕がある。

 

『地母神教会の杭』

地母神教会の伝統ある「仕掛け武器」の1つ

聖典にある、小型の杭と僧侶の杖を狩り武器に仕立てたもの

変形前はショートソードとして

また変形後は短柄のウォーピックとして機能する

出自に似合わぬ、極めて実戦的な武器である

 

彼女がピックの剣先を向けると、その暗い洞窟の如き下水道の先からはカツカツと硬い足音が向かってくる。

カツカツビチャビチャぐちゃぐちゃと

何を踏んでいるのか分かる、実に聞き慣れた音が響いてくる。

3つの通路から等しく響いてくる!

貴方たちは凄まじい殺気を感じて武器を構えた。

「…ゴブリンでは無いな」

ゴブリンスレイヤーは相変わらずだ。

 

だが味方でもない。

 

闇の中から現れたのは三人の古狩人だ!

早い!彼らは血走り蕩けた目を貴方たちに向けて襲い掛かってきた!

1人は爆発金槌、1人は獣肉断ち、そして1人は獣狩の曲刀を構えて加速しながら常人には目にも止まらぬ速さで襲い掛かってきた!

「Dieeeeeeee!」「More Blooooood!」

などと心温まる懐かしい挨拶を交わすと貴方はヤーナムでありふれた礼儀作法の銃弾とノコギリにより返礼を行うことにした。

パーティーメンバーも流石は銀級冒険者であり、すぐさま武器を抜いて応戦することになった。




ごぶすれの主人公は女神官ちゃんってそれ一番言われてるから
成長伸びしろでは間違いなくNo.1


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。