不死殺し (ユルト)
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八度の妄執と九度目の転機

 灰の積もり積もった、廃墟の都市。その中を一人の騎士姿の男が立ち竦む。

 

 いや、正確には道が分からない訳でないのだから立ち竦んでいる訳ではない。ただ、彼の目の前に選択肢があり、それをどうするのかを悩んでいるのだ。

 

 最初の火の炉、そう呼ばれている。既に本来の主たる、グウィン王はおらず、後は篝火を灯すか否か。それを彼の不死人が選択するのみ。

 

 

 

 「これで最後となるのだろうか…。私としては終わって欲しいものだが…」

 

 結局、私は篝火に火を灯す事に決めた。

 

 「最初は真実を知らず、フラムトの言葉とただ使命を達成しようと火を継いだ。二度目は真実をしり、絶望したまま火を継ぐことを拒否した。それ以降はどうだったか…」

 

 何度も繰り返し、殺され、殺す。そんな世界に嫌気が差さなかったわけではない。だが、歩みは止まらず、気が付けばここまで来てしまう。

 

 二度目は贖罪だった。自身の太陽を探しているというあのバケツ頭の太陽の騎士、自分の何気ない一言で病み村へ向かい亡者となった呪術師。

 

 如何にか、彼らを救う事は出来ないのかそんな気持ちから二度目は始まった。

 

 だが、それが四度、五度となるとどうだ。もはや、何の為に繰り返し火を継ぐのすらあやふやになり始める。

 

 確かに自分にはまだ理性がある、だが何度も繰り返し殺し、殺される自分とそこらにいる亡者と一体何が違うというのだ。

 

 やれることは全てやった。これ以上は最高の結果(クリティカル)へも最悪の結果(ファンブル)へも転がりはしない。

 

 自分は祈る者(PC)だが祈る対象すら殺したのだ。火を継ぎ神の時代が続こうとも、火を継がず闇と人の時代が始まろうとも。

 

 最早、私は祈ることが出来ぬ者(NPC)。今でも太陽信仰を続けてはいるが、太陽の騎士を続けたのは信仰心などではない。

 

 彼のバケツ頭の太陽の騎士がこのどうしようもない世界で眩しく見えた。この救いのない世界で、彼は私に道を示してくれた人の一人だったからだ。

 

 私は太陽神ではなく、自身の太陽を探し続ける彼の姿に神を見て、祈りを捧げていたのかもしれない。

 

 「だが、もうこれで最後なのだろう?何故だろうな…神などもう信じないと決めたのにな」

 

 八度目の世界。繰り返すほど、強くなる敵たち。そんな中、私は感じていた『これ以上自分に出来ることは無い』と。ある意味、これは『お告げ』だなと神を信じぬ己(NPC)を皮肉る。

 

 「では、最後の火継ぎといこうか」

 

 私は螺旋状の剣が刺さった篝へ手を翳す。すると、火は翳していた手へ燃え移り、私を薪のように燃やしながら火の勢いを強めていく。手の次は腕、腕の次は胴、最後は全身を火が包み込む。

 

 こうして、私の最期の旅路は終わりを迎えるはずだった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 神々はダイスを振る。死ぬも生きるも賽子の目次第。しかし、何度も同じようなシナリオでは少し刺激が欲しくなる。

 

 ▶サプリメントが追加されました。

 

 そう、これはきっと神々の導き(気まぐれ)。別に飽きたわけではないが、新たな要素というものは楽しみなものだ。

 

 さあ、今宵の邂逅は不死人を幸福へと導く6の目(クリティカル)か、それとも地獄への誘いとなる1の目(ファンブル)か。

 

 それも結局、賽の目次第。

 

 この世界で彼はどのような立ち振る舞い(ロールプレイ)をするのか神々も興味深々で見守るのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 ギルドの受付、そこで二人の女性冒険者と受付嬢が話し合っていた。二人の冒険者は装備からすると恐らく戦士と神官といったところか。

 

 二人の首には鋼鉄のプレート、駆け出しではないがまだまだ油断は出来ない。クエストに慣れ始め、油断するこの頃も死亡率が高い時期だろう。

 

 何事も気のゆるみ始めた時期が一番危険だ。

 

 「新たに発見された謎の建造物の探索ですか…」

 

 「私たちには少し荷が重い気がしますね…もう少し上のランクの方たちが受けるべきではありませんか?」

 

 この二人にはその油断などなく、自身の力量(ステータス)を理解している。

 

 「それなのですが、最近、噂になっている未知の遺跡の調査。高ランクの冒険者さん達はそちらに付きっきりでして…」

 

 「あぁ……未知の遺跡が発見されたり、モンスターが湧き出ているんでしたね…」

 

 「ここ周辺は大丈夫だと思っていたのですが…」

 

 「高ランク冒険者が留守の間に未知の遺跡が発見されたと?」

 

 「はい……」

 

 そう、ここ数ヶ月前に未知の遺跡が発見された。ただ遺跡が発見されただけなら、大儲けだがそこまで話は美味しくない。

 

 勿論、そこにはモンスターもいる訳で中々遺跡調査も進んではいないようだ。

 

 「だったら、尚更私たちみたいな低ランクの冒険者では無理ですよ…」

 

 「それなのですが…その建造物の周辺にはモンスターがいないらしく。周辺の村の子供たちが探索したそうなんですよ…」

 

 「なんて危険な事を…」

 

 受付嬢の言葉に神官は呆れ顔で返事する。

 

 夢見がちな子供でもない限り、未知の領域の危険性など理解出来るはずだ。例え、小さなゴブリンの巣だろうとも、相手に有利な地形というのは命に繋がる問題となる。

 

 恐らく、好奇心に負けて行ったのだろうが無事でよかったと剣士は安堵する。

 

 「それで村の人達からは本当に安全なのか確認して欲しいと依頼(クエスト)がありまして…」

 

 「う~ん……どうしようか?」

 

 「受けてもいいと思うけど、偵察ってお世辞にも私たち向きじゃないよね。野伏(レンジャー)とかがいる一党(パーティ)の方が向いてる」

 

 受付で悩む三人。二人としては村人達の不安を取り除いてあげたいけど、自分達の一党(パーティ)には向いてない。

 

 受付嬢としても、提案はしてみたもののあやふやな情報で未来有望な冒険者を危険地帯に送りたくはない。

 

 そんな、沈黙を破ったのは背後から声を掛けてきた別の一党だった。

 

 「では、私たちと一緒にというのはどうですか?」

 

 二人が背後に振り向くと女2人、男2人の一党がいた。構成は盾持ち、魔法、格闘家、戦士だろう。彼らの首には二人の一つしたの等級である黒曜のプレートを掲げている。

 

 「六人なら周囲の安全を確認しながら偵察くらいなら出来ると思います」

 

 「まあ、結局偵察向きな奴はいないが4人や2人だけで行くよりは6人で行った方がましだろうからな」

 

 「目が増えれば……それだけ危険も減る……」

 

 「ああ、閉所でもない限りは人数は多いに越したことは無いな!」

 

 確かに別々に受けるよりも一時的にでも一党を組んで、向かった方が安全で確実だろう。

 

 「えぇっと…それでは6人で偵察依頼を受けるという事でよろしいでしょうか?」

 

 「そうね…私はそれでいいわ」

 

 「うん、私もいいよ」

 

 二人も受付嬢の言葉に同意し、依頼が承諾される。さあ、冒険の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 「………………………一体、何日たった……」

 

 そう呟く。それも仕方ないだろう。彼此、この北の不死院の牢獄に閉じ込められて一週間は過ぎ去ろうとしている。

 

 最初、目が覚めた時は『ああ、またここに戻ってきたのか』と絶望した。結局、このループからは抜けられないのかと。

 

 しかし、二つばかりおかしなことがあった。一つは自身の手に握っているのが愛武器であるムラクモ(上質武器)ではなく、最初の火の炉に刺さっていた螺旋状の剣だった。

 

 それはまだいい。二度目の世界からこのお気に入りの鎧である上級騎士鎧を着たまま、ここに放り込まれていたのだから。その類だろうと一人納得する。

 

 問題はいつまで経っても、あの騎士が来ないのだ。

 

 私が火を継ぐ事となった、あの地獄のような世界を生き抜く目的となった人物。彼がいつになっても来ない。いつもなら、彼が放り込んだ死体にある鍵でこの牢を出るのにだ。

 

 「っち!ダメか…」

 

 カンッ小気味いい音を立てて剣は鉄格子に弾かれる。いつだってそうだ、そういうもの(仕様)だった。

 

 「だいぶ前に人間の声がしたから、何者かはいるはずだ…。その声もここ数日は聞いてないが…」

 

 一週間の絶食、只の人間ならば衰弱していくだろうが不死人とは便利なものだ空腹感を感じない。火継ぎの旅でも飲み食いを空腹を満たすためという理由から行ったことは無い。

 

 口にするのはいつもエストや状態異常を解除する草類、必要がない(システム上出来ない)のだからしない。

 

 「クソっ!残る手段は壁を登るくらいだな」

 

 そう言って、壁に手を掛け始めると上から声がする。そこそこの人数なのだろうか?男と女の声と複数の足音。だが、助けだとは限らない。ダークレイスやパッチの同類(騙して悪いが)の可能性もある。

 

 だが、声を掛けない事には始まらない。このチャンスを逃したら、こんなところで一生を過ごすことになるのかもしれないのだから。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 不死人は賽を振る。判定は成功だ。冒険者達は彼の声を聞き取り、彼の元へ向かうだろう。

 

 

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 「ねぇ…今、人の声聞こえなかった?」

 

 そう、女格闘家が言うと他の五人もそれに同意する。確かに男性と思われる声が耳に届いた。つまり、この建造物内に人がいるのだ。

 

 「まさか、村の人?」

 

 「いや、さっき立ち寄った村では誰もいなくなってないらしい。もしかしたら、別の村や通りかかりの人間がいるかもしれないが…」

 

 「ここで話してても仕方ないから、とにかく場所へ向かいましょ。困ってるのかもしれないし!」

 

 六人は声の元へ駆けていく、さあさあ冒険(サンプルシナリオ)の始まりだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 徐々に近づく足音。はてさて、来るのは敵か味方か…。そんな私の思考を遮ったのは、悪意のない(善意100%)というあの世界では珍しい言葉だった。

 

 「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」

 

 聖職者だろうか?白いローブを来た少女が私へ問いかけくる。少し、あのソルロンドの聖女を彷彿とさせる。

 

 「ああ…怪我などはない。だが、ここから出るには鍵が必要なんだ。周囲に鍵を持っている死体はないか?すまないが鍵を渡して欲しい」

 

 「鍵ですか?…………ありました!これですか?」

 

 「ああ、それをこちらへ投げてくれないか?」

 

 白いローブの少女は言葉に従って、私へ鍵を投げ渡す。少しは疑わないのだろうか?牢屋に入っている不死人など通常なら放置だろうなと助けて貰った身でありながら失礼なことを考える。

 

 「あの~」

 

 「ん?」

 

 「貴方はギルドで依頼を受けた冒険者ですか?プレートを掲げてないみたいですけど…」

 

 「ギルド?冒険者?一体何だそれは?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 話が噛み合わない。そもそも、この男女たちは北の不死院などという何の価値もない場所へ来たのだろう。ここへ好んで来るような者は変人だろう。

 

 ………一瞬脳裏に裸、素手でデーモン相手にボクシングをする不死人の映像が流れたが気のせいだ。

 

 「えーっと…つまり、旅人さんですか?」

 

 「旅人…そうとも言えなくはないな」

 

 私の生きる目的はずっと火継ぎの旅だったのだから。旅人のようなものだろう。

 

 「私たちも降りた方がいいでしょうか?」

 

 「いや、ここの構造は把握している。合流したいというのなら先に広場がある、そこで合流しよう」

 

 「わかりました!そちらもお気を付けくださいね」

 

 「ああ、感謝する」

 

 その言葉を境に足音は遠のく、広場を探しに行ったのだろう。それにしても不思議な少女だった。彼女が今までの騎士の代わりなのだろう。

 

 「さて、久々の変化だ。未知とは恐ろしいものだ。だが、新たな出会いというのもいいものだな」

 

 私はこの変化に少し期待を膨らませながら、慣れた通路を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

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 「なあ、さっきの鎧の人おかしくないか?」

 

 「ええ、そうね。怪しい」

 

 「そうでしょうか?いい人そうではありましたが?」

 

 男戦士と女魔法使いがそういう。それに女神官が反応する。

 

 「だってよ、この建造物は発見されたばかりなのに『ここの構造は把握している』っておかしいだろ?」

 

 「それに装備も旅人は言えないでしょ、完全に騎士だったわ。彼を解放したのは早計だったかもしれないわね」

 

 「うぅ…そうかもしれませんが…」

 

 「まぁまぁ、相手は一人だし。もし敵対関係になっても6対1だ。数が圧倒的に不利な状況で、襲ってはこないでしょ。」

 

 「私たちにできるのは…最低限の警戒をすること…」

 

 「そうそう、むしろ本当に構造を把握してるなら人助けついでに偵察も出来て一石二鳥よ!」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 6人は和気あいあいと歩いている。だが、気を抜いていてはいけない。神の賽とは時として理不尽に振られるものだ。

 

 特に崩れそうな足場で不注意な状態何ていうのは、これはこれは賽を振りたくなるというもの。

 

 今回のダイスの目はどうなった?と神々は覗き込む。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 先頭を歩く、4人一党とそのすぐ後ろを歩く2人。不意に二人のすぐ下の足場がグラリと揺れる。

 

 「しまった!」 「え!?」

 

 女戦士は気付くが時すでに遅し、女神官の方は不意の事故に対応出来ない。こうして、二人は崩れた足場の下へ落ちたのだった。




後半へ続く

豆知識:不死人は数を揃えて、棒で叩き続ければ死ぬ


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不幸(クリティカル)幸運(ファンブル)の結果

好奇心は猫をも殺す。弁えることだな。


 「いたたた…最悪…」

 

 「ふぇ…」

 

 そこそこの高さから落ちた二人だったが、怪我(ダメージ)は無い様だ。ガチガチに鎧で固めていたら危なかったかもしれないが、二人共そこまでの重量がある装備はしていない。

 

 「おーい!二人共!大丈夫か!?」

 

 「うん…結構な高さから落ちたみたいだけど私は無事!」

 

 「私も特に問題はないです!」

 

 「そうか、それは良かった。こっちも別ルートを探すわ」

 

 「わかった!こっちも合流出来るように出口を探してみる」

 

 「じゃあ、気を付けろよ!」

 

 四人一党は二人の安否を気にしつつも、先へ進んでいった。女戦士は四人を見送り、周囲を見渡すが出口らしき扉などはない。

 

 いや、出口らしき場所はあったのが既に瓦礫の山に埋もれていて通れそうにもない状態だった。

 

 「ああ言ったものの出口は見当たらないしどうしよう…」

 

 「取り合えず、壁を調べてみましょうか?崩れやすい場所があるかもしれませんし」

 

 「そうね、よし!」

 

 二人は壁を調べながら、部屋を探索するのだった。

 

 

______________________________________

 

 

 

 一方、不死人の方も問題に直面していた。それは

 

 「微妙に構造が違う…前まではデーモンの前に放り出されたのにな。今回は別の場所に向かえということか」

 

 そう、八度繰り返した世界の不死院とここは似てはいるが『別の場所』(使い回しの改造)だった。

 

 「それにしてもここには相変わらず亡者くらいしかいないな。まあ、不死人を閉じ込める施設なのだから当たり前だが。だとするとあのデーモンは一体何なんだ?」

 

 考えながらコツコツと通路を歩いていくと見覚えのある階段へと着いた。いつもなら鉄球が転がり、自身を押しつぶそうとしてくる場所に似ている。

 

 階段を登り始めると予想通り、上で待機していた亡者が鉄球を押している。ゴロゴロと転がって来る鉄球を慣れた動作で回避する。

 

 上にいる亡者は降りてこないので、後回しでいいだろう。

 

 「………彼の騎士は今回いないのだから行く意味はないのだろうが。確認せずに進み、不意打ち(バックスタブ)を喰らうのも嫌だからな」

 

 そう言い訳をしながらも、何処か自分の中にはあの騎士がいることを望んでいるようにも思える。

 

 「うわぁ!?何事!?」

 

 「急に鉄球が壁を突き破って来ました!」

 

 ……どうやら、今回の邂逅者は彼女達か。生きているのなら万々歳だ。あって直ぐの人間とはいえ、死に際に会うのはもう懲り懲りだからな。

 

 鉄球が破壊した壁の穴から杖に白いローブの聖職者らしき少女とロングソードに鎧姿の少女が出てきた。

 

 「すまない、まさか君たちがいるとは思いもしなかった。怪我はないか?」

 

 「あれ…先程の旅人さんですよね?大丈夫ですよ、怪我はありませんから」

 

 「落ちたのは最悪だけど、早めに会えたのは幸運(クリティカル)ね」

 

 「ん?ああ、上から落ちたからあの部屋に居たのか。それは災難だったな」

 

 「はい…もう少し足元に注意しておけば回避出来ていたかもしれないと思うと…油断大敵ですね」

 

 「まあ、僥倖よ僥倖。こうして、目的の相手と出会えたのだもの。それでね、旅人さん?」

 

 「ん?なんだ?」

 

 女戦士は敵意ではないが、少し警戒した様子で私を見詰める。

 

 「貴方、ここの構造を把握しているって言ってましたけど本当ですか?」

 

 「ああ、その話か…君たちこそ知らないのか?この場所は北の不死院と呼ばれている。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

 「北の不死院?……いえ、ありません。そもそも、ここは最近発見された場所なんですよ?」

 

 「何?北の不死院を知らない?それに最近発見された?」

 

 おかしい、北の不死院が最近発見された?意味が分からない…ここは昔から不死人を収容する場所として有名だ。

 

 ここを知らない奴などいない。もしいたとしたら、そいつは『私たち不死人』を知らないと同じだろう。

 

 「あの?どうされましたか?」

 

 女神官が不安げに私の様子を伺う。彼女は戦士とは違い、私に警戒心よりも心配をしているようだ。

 

 「いや、すまない。予想外の返答に驚いていた。本当にこの不死院を知らないのだな?」

 

 「はい。私たちはギルドからここの調査を任されてきました」

 

 「そのギルドというのは?」

 

 「え?…冒険者を派遣する場所ですよ?知らないのですか?」

 

 「ああ、知らないな」

 

 「一体、どんな場所を旅していたんですか貴方…」

 

 女神官の方は不思議そうな、女戦士は少し呆れた様子でこちらを見ている。

 

 彼女達は文字通りなら冒険をしている者なのだろう。彼女たちもここへ『調査』をしに来たという。

 

 冒険者か…。カタリナの騎士を名乗っていた奇妙な鎧(玉ねぎ頭)の男と似たような感じか。

 

 行く先々で出会うものだから自然と手を貸してしまうのが、会う度厄介な目に合っていた印象だ。

 

 彼の考えが理解できない訳ではない。私にも使わない武器を集めるという悪癖(収集癖)がある。

 

 カラミットの尻尾から生成される竜武器(ドラゴンウェポン)を取るために一体何度白霊を巻き込みながら死んだことか。

 

 普通に考えれば、力量の合っていない(ステータス不足の)武器を何度も死にながら取りに行くのは狂気の沙汰だろう。

 

 「どんな旅か…基本的には護衛(白霊)だな。依頼人(ホスト)が目的地まで辿り着くまでの護衛とその後の戦闘などを引き受けることで報酬を貰っていた」

 

 「なるほど、ただ旅をしていたのではなく。護衛をしながら旅をしていたのですね。その格好も護衛をするためですか」

 

 「ああ、護衛をしていると大抵は(闇霊)の襲撃にあうからな。それに道中、どんな化け物と出会うかも分からない」

 

 「ふーん、旅慣れはしている訳ね。でも、ギルドを知らないってどんな辺境を歩き回ってたの?」

 

 やはり、この話の噛み合わない感じ。彼女達と私たちの常識(設定)に齟齬があるようだ。

 

 これはあまり深く事情を話すのも面倒だ。出来るだけ、不死人がよく使う言葉は控える事としよう。

 

 「沼地や森、下水道から廃墟の街など色々な場所だった」

 

 「何その人の寄り付かなそうな場所は…」

 

 「実際、何か目的がある奴以外は寄り付こうとも思わないだろうな」

 

 白霊として護衛していた不死人達も何かしらの目的を持って、あの世界を歩き回っている。

 

 それを襲撃する闇霊もそうだ。人間性を奪うため、強いやつと戦うため、勝利という功績が欲しい者など様々だった。

 

 「それでですね…訊きたいことがあるのですが。ここの構造を知っているっていうのは何故ですか?」

 

 「ああ、それか」

 

 自分は繰り返す世界を認識しているなどと初対面の少女たちに言えば狂人としか思われないだろう。

 

 「過去に似た…というよりも同じ構造の建物を探索したことがあった。実際、ここまでの道のりは『ほぼ』同じだった」

 

 「じゃあ、何であんな場所に閉じ込められてたの?」

 

 「……私も足を滑らせて下に落ちた。出ようにも扉が頑丈で出られないものだから、誰かが通るのを待っていた」

 

 「……怪しいけど、まあ一応納得しておくわ」

 

 「あはは……すみません。彼女、疑い深くて」

 

 「いや、正しい判断だ。少女二人と武装した男一人なら男の方が有利だろう。私が善人であるとは限らない」

 

 私がそう言うと女神官は目を丸くし、女戦士はプッと小さく笑った。

 

 「何かおかしなことを言ったか?」

 

 「いいえ、ただ怪しい貴方だけどこんな忠告をするなんて悪い人ではないのかなと思っただけよ」

 

 「そうか。だが、本当の悪人というのは裏切る直前までその本性を隠すものだ。初対面であまり人を信じるものではない」

 

 少女二人は私の言葉に顔を見合わせながら笑った。

 

 「やはり、貴方はいい人ですよ」

 

 いい人か…私は少なくとも善人ではないと自負しているのだが。

 

 「それよりも他の者達はどうした?もう少し、居たはずだろう?」

 

 「ああ…落ちたのは私たち二人だけで。他の四人は先に探索を進めています」

 

 「……大丈夫なのか?ここには恐らくデーモンが居るが?」

 

 「え…」

 

 その言葉を聞いて、二人の顔は青くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________

 

 

 「それにしても、二人共不幸(ファンブル)だよな」

 

 「そうね、まさか急に足場が崩れるなんて。もう少し、私たちが注意していれば」

 

 「仕方ない…今は先を目指す…」

 

 「ああ、ここまで一本道だ。モンスターもいないし、楽な依頼だな」

 

 「もう、油断しないの!何が起こるのか分からないんだから」

 

 「わかってるよ…」

 

 二人一党とはぐれてから数分。四人はずっと道なりに通路を歩いている。

 

 途中、鉄格子越しに不死人の言っていた広場も見つけ、目的地までもう少しというところだ。

 

 「それにしてもここってどういう目的で建てられたんだ?」

 

 「罪人の収容所じゃないかしら?それらしい檻は遠目だけど何度か見たもの」

 

 「でもよ、こんなそこそこな規模の収容所を誰も知らなかったってのはおかしいよな?」

 

 「…国が隠していたのかも…」

 

 「ここで罪人を使って、いろいろとしてたとか?」

 

 「はーい!やめやめ!こんな話は止めましょう!」

 

 「じゃあ、あの鎧姿の人って何者なんだろうね?」

 

 「結構、いい装備だったよな」

 

 「それこそ、国に仕える騎士かもしれませんよ」

 

 「…国から派遣された騎士……その正体は…過去の実験の記録をもみ消そうとする派閥の刺客だった」

 

 「ちょっとぉ!!何でそっちの方に話を持ってくの!」

 

 「あはは…」

 

 そんな話をしていると到頭目的の広場に辿り着く。

 

 広場の中心には剣の立てられた篝火。火は消えているようだ。

 

 その他にあるものと言えば、その篝火の前にある大きな扉だろう。大きな扉ではあるが四人も居れば開けるのには問題はない。

 

 「あらら、鎧の人も二人もまだ着いてないみたいね」

 

 「ああ、そうだな。どうする?」

 

 「どうするって待つだけでしょ?」

 

 「いやいや、扉の先だよ。先にあっちも探索してみないか?」

 

 「おっ!それいいな!」

 

 男冒険者二人はどうやら先へ探索へ進みたいようだが、女冒険者二人はその逆だ。

 

 「駄目よ、合流地点はここなのだから。ここから離れるのは駄目」

 

 「……ここにいないと後の三人が合流できない」

 

 「ああぁ…じゃあ、あの扉の先の部屋だけっていうのはどうだ?扉を開けておけば、後続組からも見えるし大丈夫だろ?」

 

 「……それ以上は探索しない?」

 

 「ああ、流石に単独で行動するほど馬鹿じゃねぇよ。あくまでも先に何があるのかの確認だけだ」

 

 「う~ん…それなら」

 

 その言葉に二人も折れてしまい。探索を承諾する。

 

 「じゃあ、扉開けるの手伝ってくれよ」

 

 「わかったわ」

 

 「ああ、この扉。引いて開けるのか」

 

 「ん…しょ」

 

 特に歪みもなかったのか四人で扉を引くとそこそこ重いものの抵抗なく開く。

 

 四人が部屋に入るとそこは大部屋だが何もない部屋だった。入ってきた扉の逆側には同じような大きな扉がある。

 

 「おいおい、何もないじゃん…」

 

 「残念だけど、こんなものよ」

 

 「まあ、収容所に宝物庫なんてある訳がないわな」

 

 四人はそう言いながらも探索を始める。だが、目につくものは特にない。強いていうならば、まだ形を保っているツボくらいだろう。

 

 本当にそれくらいしか何もないただ『広い』部屋だった。

 

 「ん?こっちの扉は開かないのか?」

 

 「そのようだな、どっちにしろ探索はここで終了だったようだな」

 

 「じゃあ、戻りましょうか」

 

 「ん…」

 

 四人が戻ろうと振り返ると、ギギギギッと入ってきた扉が閉まり始める。

 

 「はぁ!?何で扉が!?」

 

 「そんな事言ってる場合じゃない!閉じ込められる!」

 

 一番早く反応した女格闘家が扉へ向かうが、扉が完全に閉まる方が先だった。

 

 その後から来た三人と共に扉を押すが扉は入ってきた時と違い、『まるで反対側から何者かに押されているように開かない』

 

 「くっそ!!」

 

 「しまったな。罠だったか…」

 

 「すまない、三人とも俺が提案したばっかりに…」

 

 「俺は同意したから同じだ」

 

 「今、文句言ってもしかたないわよ」

 

 「…とりあえず…出口を探る」

 

 「ああ、そうだな。何処か、崩れやすい壁とか…」 

 

 突如、ズドンッという音と強い衝撃が背中に伝わる。一体何だ?と四人が振り返ると…

 

 「おいおい、嘘だろ…」

 

 「で、悪魔(デーモン)?…」

 

 そこには醜悪な顔にでっぷりとしたお腹。背中にはその巨体には見合わない小さな翼が生え、手には巨大な槌をもった化け物(デーモン)がいた。




長くなったので区切り。次で終了予定


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NPC(祈らぬ者)

 走る、走る、走る。

 

 三人は走っていた。先に行っているであろう、四人一党へ追いつくために。

 

 「上級騎士さん!広場の先にデーモンがいるというのは本当なんですね!?」

 

 「俺の予想が正しければ。あそこには不死院のデーモンと呼ばれる、化け物がいる」

 

 「デーモンって…私たちみたいな駆け出し冒険者じゃ、下級を相手するのも精一杯よ!」

 

 「そうなのか、いや私もデーモンの相手は得意ではないが」

 

 「…過去に相手をしたことが?何か対策はありますか?」

 

 「ああ、あるにはある。デーモンに対して有効なのは黒騎士の武器だな」

 

 「黒騎士の武器?」

 

 「デーモンと対峙していた黒騎士と呼ばれる者たちがデーモンを狩るために使っていた武器の事だ。私も一応所持している」

 

 「……私たちにお手伝い出来ることはありますか?」

 

 女神官が真剣な声色で問いかけてくる。

 

 「不死院のデーモンが私の予想通りのタイプなら。主な攻撃は手に持っている大槌などの近接攻撃だ。奴の攻撃を知らない奴が下手に近づけば、大槌でぺしゃんこだ」

 

 「その話聞いて、前衛の私が何もできなくなったんだけど…」

 

 女戦士に顔を引き攣らせる。馬鹿でもない限り、初めて相手する格上に突っ込む奴はいない。

 

 少なくとも、『この一度死んでしまえば命が失われる世界』では。

 

 もっとも不死人であれば、別の話だが。

 

 「後で投擲武器を渡す。外すのはいいが、私に当てる(ファンブル)のはよしてくれよ?」

 

 「ちょっ!そこまで、下手くそじゃないわよ!」

 

 「神官」

 

 「はい、何でしょう」

 

 「君は何ができる?」

 

 「静寂(サイレンス)聖壁(プロテクション)小癒(ヒール)を使えます。使用回数は一日五回です」

 

 「…すまない、奇跡にそこまで明るくなくてな。どのような奇跡か教えてくれ」

 

 一日五回…少ないなと私は思った。私の知っている奇跡にも回数制限はあったが、それ以上の扱いの難しさだ。

 

 「説明しますね、静寂(サイレンス)は特定の範囲の相手に声を出させなくする奇跡です」

 

 「魔術師たちには効果的だな。呪文を唱えさせなければいいのだから」

 

 「聖壁(プロテクション)は見えない壁を作り出す奇跡です。敵を分断したり、撤退する時によく使います」

 

 「なるほど、使い道はいろいろとありそうだ」

 

 「最後に小癒(ヒール)は回復奇跡です。毒などは無理ですが、出血などの回復ができます」

 

 「それは他者にも行使できるのか?」

 

 「はい、私は後衛ですので前衛の方の回復役です」

 

 「なるほど、作戦はだいたい決まった。広場で作戦を確認しよう」

 

 「わかったわ」 「はい」

 

 その後も走り続けると広場に到着した。だが、そこは不死人ですら見たことのない光景だった。

 

 「こんな場所に亡者の群れだと?…それにあの亡者共、扉を塞いでいるのか?」

 

 「ここに来るまでにもちょくちょく見かけた奴よね?あれって生ける屍(アンデッド)?」

 

 「まあ、似たようなものだ。そこまでの相手ではないが、この数で囲まれて叩かれるのは勘弁だろ?」

 

 「ええ、そりゃ好き好んでボコボコにされに行くようなマゾじゃないわ」

 

 「…こんな場所で時間を掛けてはいられないな。少しここで待っていてくれ」

 

 「策はあるんですか?」

 

 「ああ、集団を相手するための私なりの常套手段だ」

 

 そういうと不死人は懐から『誘い頭蓋』を取り出す

 

 「えぇっと…人の頭蓋骨ですか?」

 

 「亡者どもはソウル…つまり魂あるものを襲う習性がある。これはソウルの匂いが染みついたもので投げて砕け散れば、そこへ亡者どもが集まる」

 

 「悪趣味な見た目の割には優秀な道具ね」

 

 「万能でないからよく存在を忘れる道具だがな」

 

 「で、集めた後はどうするの?無視して突っ切る?」

 

 「いや、これの効果はそれほど長く持たない。所詮は一時的な囮だ」

 

 「では、あれほどの数をどうやって…」

 

 「呪術を使う」

 

 「呪術…ですか?」

 

 女神官は目を丸くしてコテンと首を傾げた。恐らく、呪術を知らないのだろう。

 

 「私には魔法の才能は無かったが、これは才能の有無とは無縁だからな」

 

 「結局、そのじゅ、呪術?で何をするのよ?」

 

 「ここで見ていればいい。巻き添えは食らいたくないだろう?」

 

 私は亡者共が反応しないギリギリまで近づき、『誘い頭蓋』を奴らの中心へ投げ込む。

 

 亡者共を誘導できるのは大体5秒。だが、それだけの時間でも十分だ。

 

 頭蓋が囮となっている内に亡者の近くへ走る。出来るだけ『巻き込める』ようにと。

 

 右手の呪術の火が燃え始める。発動するのは…

 

 『混沌の嵐』

 

 不死人を中心に周囲にいくつもの火柱が上がる。亡者たちはその炎に焼かれ、瞬く間に燃え尽きた。

 

 だが、中には運良く炎に飲み込まれなかった亡者もいる。前から、よくあることだ。

 

 素早く回避行動を取ろうとする闇霊などには効果的なのだがと、考えつつも次の行動へ移る。

 

 残る亡者は三人。この程度ならば、対応できる。だが、人数不利なのは変わらない。油断しない事だ。

 

 誘い頭蓋の効果が切れたのか自身目掛けて生き残りの亡者が走り出す。

 

 『なぎ払う炎』

 

 炎の鞭が亡者共を包み込む。実は炎を制御するという点においては、かなりの難度の高いこの呪術。

 

 正直にいうと扱いが難しく、使い所がない。だが、こう真正面から近づいてくる相手には有効だ。

 

 「これで終わりだ、もう大丈夫だ」

 

 「さ、さっきのが呪術ですか…すごいですね!」

 

 「呪術なんていうからさ、呪い殺すのかと思ってたら予想以上の迫力だったよ…」

 

 「まあ、呪術は基本的に炎を操るための業だ。中には猛毒の霧や酸の霧を発生させるものもあるが」

 

 「へぇ…使い勝手は良さそうね」

 

 「……扱いにさえ気を付ければ、魔法の才能がない奴でも使えるからな」

 

 そう『扱い方を気を付けていなければ』、私の事を『馬鹿弟子』と呼んでいた混沌の娘の家族達のように異形と化していくのだろう。

 

 だが、後悔などしていない。これは私があの世界で生き抜くために必要だったものだ。

 

 数々の困難を乗り越えられた要因の一つだ。この呪術の火は私の半身も同然、手放す気などさらさらない。

 

 「お二人共先を急ぎましょう!」

 

 「ああ」 「ええ!」

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 

 扉を開けるとそこは凄惨な光景が広がっていた。

 

 地面には恐らく盾ごと大槌で潰されたのであろう。『盾持ちの冒険者だった』であろう肉塊が。

 

 壁には叩きつけられたのだろうか、女格闘家が身動き一つせず倒れている。人としての形は保っているが生きてはいないだろう。

 

 残り二人だが私の予想を『裏切り』。まだデーモン相手に戦っていた。

 

 正直、彼ら全員が既に死亡していると思っていたので予想外だ。

 

 だが、状況は芳しくない。男戦士の盾を持つ腕は既に折れているのか、だらりと垂れ下がっている。

 

 女魔術師も息を切らしながらデーモンの攻撃を避けている。

 

 「二人共、私がデーモンの注意を引き付ける(ヘイトを稼ぐ)。その間に二人を回収して一旦戻っていろ!」

 

 「わ、わかったわ!私たちが戻るまでに死ぬんじゃないわよ!」

 

 「お二人を安全な所に移動させたら、直ぐに戻ってきます!」

 

 「ああ」

 

 二人の言葉に短く答えると、不死院のデーモンへ向かって走り出す。

 

 両手で握る武器は『黒騎士の剣』。一応、背中には『紋章の盾』を準備しておく。

 

 「さあ、肩慣らしだ」

 

 デーモンに向かって、『黒い火炎壺』を投げる。デーモンは鬱陶しそうに私の方へ視線を向けた。

 

 デーモンは逃げていく四人ではなく、私に標的を絞ったようだ。私、目掛けて横薙ぎに攻撃をしてくる。

 

 それを前方へ転がる事で回避し、奴の懐へ潜り込み、起き上がりと同時にデーモンへ一撃を叩き込む。

 

 「フッ!!」

 

 慣れた光景だ。デーモンの攻撃は重く、盾で受け止め続けるようなものではない。

 

 だが、奴の攻撃は大振りで大雑把、そして小回りが利かないのが弱点だ。

 

 一度、張り付いてしまえば、後は背後にいることを常に意識して立ち回る。

 

 その後もデーモンの尻を追いかけながら、隙をみて斬りつけて攻撃していると。

 

 デーモンは急に飛び上がる。いつもの行動だ、こうして張り付いていると私を認識するために一時的に空を飛ぶ。

 

 次の行動も分かっている。私を見つけたら、押しつぶそうとその巨体を自由落下させるのだ。

 

 巨体が地面に衝突した衝撃で少し揺れるが、予測して事前に後方へ回避していれば問題はない。

 

 懐へ潜り込むための隙を距離を取って伺うと、大槌が届く距離ではないのに横薙ぎに振るう。

 

 警戒しておいて正解だったなと即座に『紋章の盾』を構える。

 

 すると、前方から強い衝撃が盾越しに伝わってくる。ちゃんとガードしたというのに腕が痺れる(ダメージを受ける)

 

 あれは衝撃波(物理攻撃)のようにも見えるが、れっきとした魔法攻撃だ。

 

 奴の持つ大槌に警戒して、物理に強い(物理カット率の高い)盾を付けているとこの攻撃が痛い。

 

 だからこそ、私はこの魔法攻撃も防御できる(魔法カット率が高い)『紋章の盾』を選んだのだった。

 

 「これで中距離から様子を伺うのは悪手だと分かったな。ならば…」

 

 「すみません!戻りました!」

 

 「私たちはどうすればいいの?!」

 

 どうやら、二人が戻ったようだ。このままいけば一人でも倒すことは出来そうだが…まあいい。

 

 「あのデーモンは魔法攻撃も使用することを確認した。女神官、あと何度奇跡を行使できる?」

 

 「先程、お二人に小癒(ヒール)を掛けたのであと三回です!」

 

 「女戦士、火炎壺はしっかりと持っているな?」

 

 「ええ、ちゃんとあるわ」

 

 「なら、二人には時間稼ぎを頼みたい。数分でいい、その時間を用意出来るというのなら早めにデーモンを始末する方法はある」

 

 「わかりました」 「わかったわ」

 

 「出来るだけ奥の扉付近にアイツを誘導しながら戦ってくれ。近寄る必要はない、中距離は魔法攻撃が飛んでくるから注意しろ。女戦士、お前が遠距離から火炎瓶を投げて注意を引きつつ(ヘイトを稼ぎつつ)、緊急時には女神官が聖壁(プロテクション)で防御する。これが作戦だ、いいな」

 

 「ええ」 「はい」

 

 「では、頼んだぞ。だが、決して無理はするな。全て、命あっての物種だ」

 

 私は二人に忠告し、目的地に向かい走る。

 

 

 

 

____________________________________

 

 

 

 

 

 私は走り去っていく騎士を一瞬見るが、直ぐに視線をデーモンへ戻す。

 

 「ははは、本当に悪い冗談みたいね。簡単な探索任務の筈がデーモン退治に発展するなんて…」

 

 「少なくとも鋼鉄等級の冒険者の仕事ではありませんよね」

 

 女神官はクスリと笑ってみせる。彼女だって怖いはずなのに、私を不安にさせない為だろうか。

 

 「でも、ここで弱音を吐くだけじゃあ生き残れない!防御は任せたわよ!」

 

 「任されました!」

 

 彼の忠告通り、遠距離から火炎壺を投擲しながらジリジリと後退する。今はこれで大丈夫だけど、彼は反対側の扉へ誘導して欲しいと言っていた。

 

 つまり、あのデーモンを通り過ぎて反対へ向かわなければいけない。女神官の使える奇跡はあと三回。

 

 通り過ぎる時に安全を考えて、聖壁(プロテクション)を一度使った方がいいのかもしれない

 

 「そろそろ、反対側へ向かいましょうか?」

 

 「そうね、じゃあお願い!」

 

 「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》。聖壁(プロテクション)!!」

 

 デーモンの横へ不可視の壁が生成された。私たちが通り過ぎようとしたとき、デーモンが大槌を振り下ろそうとしたが壁に阻まれた。

 

 「よし!上手くいった!」

 

 「ですが、これで本当に後ろには逃げ道はありませんね。彼を信じるしかありません」

 

 「最初は疑ってた男の人に命を預ける展開って。それ、どんな英雄譚の一端よ」

 

 今日は激動の一日だ。冒険者になってから、一番の難題にぶち当たっている。

 

 「聖壁(プロテクション)、もう一度唱えますね」

 

 女神官が私たちとデーモンの間へ聖壁(プロテクション)を張る。

 

 だが、引き付けるために私たちとデーモンの間の距離は近距離と中距離の間程度しかない。

 

 今、この不可視の壁がなくなったら、私たち二人はあの大槌でひき肉になるだろう。

 

 そう考えてしまうと足がすくみそうになるが、グっと恐怖を抑え込み。火炎壺を投擲し続けた。

 

 すると、デーモンは大槌を両手に持ち地面へ垂直に叩きつける。

 

 その瞬間、今までの魔法攻撃とは比べ物にならない程の音と共に聖壁(プロテクション)の外側が破壊された。

 

 「きゃっ!?」

 

 「大丈夫!?」

 

 「す、直ぐに聖壁(プロテクション)を張りなおします!」

 

 恐らく、先程の魔法攻撃で壁に綻びが出来てしまったのだろう。だったら、あと何度の攻撃に耐えられるのか…

 

 デーモンの方はこれが有効だと感じだのか、同じ魔法攻撃を放とうとする。だが、女神官の方が壁を張りなおし、間一髪生き延びる。

 

 しかし、それも長くは続かない。攻撃が繰り返されれば、神官の聖壁(プロテクション)は破壊されて私たちは魔法攻撃によって消し飛ぶだろう。

 

 もう、私たちには祈るしか出来ることはない。一刻も早く彼が来てくれるということに賭けるしかない。

 

 「お願い!早く来て!」

 

 私がそう叫ぶと

 

 「すまなかった、少々時間が掛かってしまってな」

 

 その言葉に私たちが声をする方へ眼を向けると、そこにはデーモンの頭へ先程の剣よりも大きな黒い剣を突き刺している彼の姿があった。

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 「お願い!早く来て!」

 

 女戦士の叫び声が聞こえる。ここに来るのに時間がかかり過ぎたか、本当ならばもう少し早く着くはずだったが亡者共の数が多かったため梃子摺った。

 

 だが、全ての条件は揃った。あとは…

 

 

 

 落下致命で殺す(クリティカルを出す)だけだ。

 

 落下しながらデーモンの頭目掛けて『黒騎士の大剣』を突き立てる。

 

 大剣はデーモンの頭に深々と突き刺さる。

 

 「すまなかった、少々時間が掛かってしまってな」

 

 怯えながら祈る二人を安心させるために声をかける。

 

 「あ、あ、あ…」

 

 恐怖で声がうまく出ないのだろうか?

 

 彼女たちの方向へデーモンが倒れ込まないように、後ろ側へ蹴って倒れさせる。

 

 「大丈夫か?二人共」

 

 「私は腰が抜けちゃいました…えへへ…」

 

 「私もよ…今は立てない」

 

 「そうか、だがここでは気も休まらないだろう」

 

 私は女神官を背負い、女戦士は抱っこして運ぶ。

 

 「あはは…ご迷惑を…」

 

 「これ、恥ずかしいんだけど?」

 

 「文句が言えるのなら上々だ。お前たちの腰が回復し次第、ギルドとやらへ帰還するとしよう」

 

 背中から申し訳なさそうに謝る女神官、腕の中で顔を赤くしながらギァギャと喚く女戦士。

 

 私はそんな二人の様子も見ながら、こんな旅もありなのかもしれないと。

 

 この世界で初めて『微笑んだ』。

 

 ああ、私は祈らぬ者(NPC)だがこの出会いに祝福を。

 

 彼女たちの旅路に太陽の導きがあらんことを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の冒険(セッション)に神々は大満足です。  

 

 特に女戦士の叫びと共に不死人がデーモンに致命の一撃(クリティカル)を出して、デーモンを倒すところなどは彼ら好みだったようだ。

 

 黒曜等級の四人一党の内。二人死んでしまったのは悲しいが、彼らの等級を考えればデーモン相手に二人生き残っただけでも大戦果だ。

 

 まさか、急遽用意したお助けNPC(不死人)があそこまでのキャラが立つとは、始める前の神々は予想していなかった。

 

 その後、今回の冒険を一通り話し終えると、今回も面白かったと神々が去っていく。

 

 しかし、最後に残った神がこういう

 

 『さて、次はどんなシナリオでやろうか』

 

 神々の遊戯は終わらない。まだまだ、ダイスは振られ続ける。

 

 だが、それは神の視点でのこと。

 

 工夫、智恵、準備で神々にダイスを振らせないこともできるのだ。

 

 そう、後にゴブリンスレイヤーと呼ばれる少年が現れるまでもう少し。

 

 今日も何処かで世界は回り続ける。













完結です、続きを書くかは皆さんの反応次第。
この短時間で誤字報告、感想等してくださった皆様ありがとうございました。

貴公らに炎の導きがあらんことを…


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されど、世界は回り続けた

人間性を捧げよ


 ガタゴト、ガタゴトと馬車が揺れる。舗装されていない山道なのだから仕方ないが、お世辞にも乗り心地はいいものではない。

 

 そんな馬車に乗っているのは五人。女魔術師、男戦士、女神官、女戦士。そして、(不死人)だ。

 

 精神的にも肉体的にも疲労している、二人を如何にか依頼人のいる村まで運び。

 

 如何にか頼み込み、彼らの馬車で冒険者ギルドとやらまで送って貰うことにした。

 

 私以外の四人は安心からか馬車に乗ると直ぐに眠ってしまった。私はそんな四人を尻目に自分の中にある考えを纏めていた。

 

 北の不死院を出て、村から馬車を出してもらい、いくつもの小規模の町を見た。その光景を見て、確信を得た。

 

 『ここはロードランではない』

 

 あの荒廃した世界には無かった、平穏と活気が町にはあった。これこそが人々の正しい営みなのだと感じた。

 

 薄々とは感じていた。彼女たち二人との会話がうまく噛み合わなかったり、常識に齟齬があったりなど。

 

 ここがロードランでないとなるといろいろな問題がある。

 

 まず、『アイテムの補充』だ。自身の持つ様々なアイテムは商人からの買い取りだった。

 

 恐らく、ここにはそのようなアイテムを売っている商人はいないだろう。

 

 買い溜めはしてあるため、早々に尽きることはないだろうがそれも時間の問題だ。

 

 この世界で代用品を見つけるか、どうにかロードランのアイテムを探し出すか。

 

 彼女たちが言うには『遺跡とデーモン』が最近発見されているそうだ。

 

 ならば、北の不死院のようにロードラン由来の遺跡かもしれない。

 

 アイテムの為に好き好んで死地へ赴きたくはないが、メリットがデメリットよりも大きいのなら行くのもいいかもしれない。

 

 次に『自分が死んだらどうなるかわからない』ということ。

 

 幸か不幸か、不死院で死ぬことはなかった。試しになどと死んでみるつもりも毛頭ない。

 

 死ぬときは死ぬ。いつもの事だ、それはこの比較的平穏な世界でも既に実感した。

 

 今回も未来あるであろう、少年と少女がデーモンによって殺されたのだ。どの世界でも死と生は隣りあわせ。いつ死ぬかなどわからない。

 

 アイテムを惜しんで死ぬなぞ馬鹿らしい。どれだけの負債を抱え込もうと、生きているのならそいつの勝利だ。

 

 「すまない、主人。質問してもいいか」

 

 「何ですかな、騎士様」

 

 私は馬の手綱の引いている男へ話しかける。情報が欲しい、情報とは生命線だ。

 

 今の私はこの土地の常識や知識が全くない。

 

 これでは最下層に毒、呪いの耐性が低い防具を着て、苔玉、解呪石を持たずに探索するようなもの。

 

 初めての最下層は本当に地獄だった。呪いを受け、体力の少ない私に襲い掛かる巨大鼠共。

 

 まともな防具も持っておらず、貴重なエストも鼠共の毒でなくなる。

 

 今までは不死故に繰り返すことで、何とか勝利を収めていた私だが。

 

 あの時、ようやくアイテム、情報、前準備の大切さを学んだ。

 

 あのバジリスク(クソカエル)が呪いのブレスを吐くことも、聞いてはいたのだ。それに備えなかった私が悪い。

 

 「私が前までいた場所では冒険者という者達はいなかった。彼らはどのようにして生活している?」

 

 「へぇー…冒険者がいない場所とは珍しいですな。ああ、質問は冒険者がどのように生計をたてているのかですな?」

 

 「ああ」

 

 「基本的には冒険者ギルドで張り出されている依頼(クエスト)を受けて、その報奨金で生活しているそうです」

 

 「その金は誰が出している?」

 

 「基本的には依頼主ですな。村の傍にゴブリンが現れたりした場合は、村の人間がギルドへ依頼する依頼料から冒険者へ報酬金も回るシステムです」

 

 「なるほどな…」

 

 報奨金…やはり、ソウルを通貨として使用しているようではなさそうだ。街に着いたら、使い道のない道具を質に出して金を得るか?

 

 「他には下水の巨大鼠や巨大蟲の駆除も下級冒険者の仕事です」

 

 「それは町の人間が金を払うのか?」

 

 「まあ、税の一部から出ているでしょうな。ただ、誰も好き好んで報酬の少ないゴブリン退治や、汚物塗れになる下水での駆除なんぞやりたがりはしません」

 

 「まあ、そうだろうな。もう一ついいか?」

 

 「なんですかな?」

 

 「冒険者というものは他の土地の人間でもなれるのもなのか?」

 

 「ええ、なれますぞ。大体、冒険者というのは家の三男坊のような家に居ても継ぐものがない者がなるものですから」

 

 なるほど、そうだとしたら私も冒険者になって報奨金を得るのも一つの手だな。

 

 「高ランクの冒険者は国の守護者などと呼ばれていますが、大半の冒険者は悪人とは言わないものの荒くれ者が多いですから」

 

 「ありがとう。これはお礼だ」

 

私はそういい、男へ『銀の硬貨』を手渡した。

 

 「いいのですか?銀貨など…」

 

 「ああ、売り払うなり好きにしてくれ。旅の途中で見つけたものだ、骨董品として高く売れるかもしれん」

 

 「ありがとうございます…。ああ、騎士様。そろそろ、ギルドのある街に着きます」

 

 「すまない、助かった」

 

 「いえいえ、こちらこそ村をお救い頂き、感謝しております」

 

 私は街に着いたことを知らせ、四人を起こした。

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 ギルドの正面入り口の扉が開く。私が目を向けると入って来るのは二人の少女と騎士姿の男性でした。

 

 二人の少女は先日、未知の建造物の探索・調査に六人一党として赴いたお二人でした。

 

 あれ?残りの四人の冒険者さんたちは何処でしょうか?まさか…

 

 「お疲れ様です。お二人共、探索の方はどうでしたか?」

 

 私の質問にお二人は真剣な表情で言いました。

 

 「今回の探索で、黒曜等級一党の内。二人が死亡しました。残りの二人は精神的に衰弱しているので宿で休ませています」

 

 「原因はあの建造物を根城にしていたデーモンです」

 

 お二人の報告にギルド内が静まり返ります。それもそうです、新人二人が探索任務で死亡したと言われたら、次に出てくるのはデーモン出現。

 

 これは大変な事になりました。静まり返っていた、ギルド内もザワザワと話す声が聞こえ始めます。

 

 「で、デーモンですか!?そのデーモンは…」

 

 「私たち、三人で倒した」

 

 そこへ先程まで黙っていた鎧姿の騎士らしき男性が割り込んできた。倒した?まさか、鋼鉄等級の二人とこの人で?

 

 そもそも、新人二人の死亡とデーモン出現で忘れていたが、もっと初めに訊くことあった。それは…

 

 「えぇ…と、貴方は誰なのか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 「私か…私は辺鄙な土地を護衛しながら旅をしていた。元騎士だ」

 

 「ええ、お二人との関係は?」

 

 「彼らの調査していた建造物は私の故郷にある建造物に似ていたのでな。探索していたら、崩落にあって困っている所を彼女たちに助けて貰ったのだよ」

 

 「彼がいなければデーモンも討伐できなかったです…」

 

 「そうね、私たち六人全員が挽き肉になっていたでしょうね」

 

 お二人はデーモンによって死んだという二人の新人冒険者の最期を思い出したのでしょう。

 

 青い顔をして、口元を塞いでいます。

 

 「死体は遺跡に放置してある。どの程度の難度のデーモンだったかはそちらの判断に任せる。だが、私の見立てとしては少なくとも彼らの実力では討伐は困難だったろう」

 

 「えっと…貴方が討伐してくれたんですよね?」

 

 「この二人が協力し、頑張ってくれたおかげだ。それに私は冒険者ではないからな」

 

 そう言って、彼は首元を指差す。そこには冒険者の証であるプレートはなかった。つまり、彼は冒険者でもないのに悪魔殺し(デーモンスレイ)を行ったのだという。

 

 私は呆けて、何も言えなくなった。

 

 「すまないがこの一件のゴタゴタが収まったら、冒険者登録をしたいのだがいいだろうか?」

 

 「え?あっはい…」

 

 彼は言い終えると後ろの方へ歩いていき、椅子に座った。他の冒険者の方々も彼を興味深そうに、そして『疑わし気』な目で観察していた。

 

 

 

_____________________________________

 

 

 

 「………………」

 

 椅子に座って、待ち続けること数分間。二人はまだ受付嬢に報告を行っている。

 

 周囲の冒険者たちの視線が気になる。私を興味深そうに見ているのはまだいい、しかし敵意の混じったものは駄目だ。

 

 あの世界で生きてきた私は敵意に敏感になったのだろう、どうも体が反応しそうになった。

 

 危うく彼らに向けて、『毒投げナイフ』を投擲するところだった。

 

 だが、彼らの疑わし気な視線の理由もよく分かる。恐らく、実績不明の男が急に『デーモンを殺した』などと言えば疑わしいものだ。

 

 だが、本当にやめて欲しい。人の目に晒されるといことに私は慣れていない。

 

 「あの…大丈夫ですか?」

 

 女神官が私の横に腰掛ける。

 

 「…個人的にはデーモンと戦っているよりも、この状況の方がきついものがある」

 

 「あはは……」

 

 その言葉に女神官は苦笑する。デーモンを相手に戦っていた男がこんな事を言い出せばそうなるだろう。

 

 「そろそろ、報告も終わるので冒険者登録が出来ますよ?」

 

 「それでは、行くとしようか」

 

 私は冒険者たちの視線から逃げるように席を立った。そんな、私を女神官は微笑ましそうにしながら私の後ろを付いてくる。

 

 受付に向かうと、受付嬢が待ってましたと言わんばかりに笑顔(営業スマイル)で声を掛けてくる。

 

 「冒険者登録ですよね?」

 

 「ああ、すまない。何分、冒険者とは関わりのない生活だった。基礎的な情報も教えて欲しい」

 

 「はい、冒険者というのはですね…」

 

 受付嬢の話を聞いたところ冒険者というものは十段階の階級に分けられており、今回会った彼らは下から二番と三番目の階級。つまりは駆け出し(ルーキー)も同然だった。

 

 それではデーモン退治も苦労するだろう。私は初めの頃はデーモンどころかそこらの亡者共に囲まれて何度殺された事か。

 

 それを考えればデーモンと出会い生き残った彼らは優秀な部類だろう。死んだ二人も無為に突っ込んで死んだのではない。

 

 あの剣を振るしか能のない(脳筋プレイ)頃の私とは彼らでは全く違うだろう。

 

 ただ、私は『不死人』で死んでも次があり、彼らは『人間』で次はない。それだけの違いだった。

 

 「ですが、事実上の最上位は銀等級の冒険者さん達ですね」

 

 「それ以上は国お抱えの冒険者や本当に伝説に出てくるような勇者だとは来る途中の馬車の中で聞いたな」

 

 「はい、ですのでギルドで依頼を受けてそれを生業としているのは銀等級の冒険者さん達です。銀等級まで至った方たちはその活躍の多くが吟遊詩人に歌われているので中には金や白金よりも人気の方もいます」

 

 「そうか、そういう詩を聞いて憧れから冒険者になる者もいるのか」

 

 「そうですね、特に年若い冒険者の方の大半はそのような感じです」

 

 『竜に挑むは、騎士の誉れよな……』

 

 ふと、『鷹の目』の二つ名を持つ巨人の弓兵の言葉を思い出した。彼も後の世界では伝説に謳われた、薪の王の四騎士の一人。

 

 彼を目指しているものもいたのだろう。私としては『深淵歩き』の詩の方が好みではあるのだが。

 

 ああ…彼の『深淵歩き』にも何度殺された事か。大剣を扱い、片手を封じられているというのにあの強さというのは全盛期だったらと思うと今でも寒気がする。

 

 更にはそこへ相棒の『灰色の大狼』も加わるとなると最早勝ち目など存在はしないだろう。

 

 「それでですね?…申し訳ないのですが…貴方も白磁等級から始まる事になるのですが…」

 

 受付嬢が私の様子を伺いながら、背丈の関係上目遣いでこちらに言う。

 

 「ん?それがどうかしたのか?規則ではそうなのであろう?問題はない」

 

 私の言葉に受付嬢は安堵の溜め息を吐く。

 

 「いえ、過去に冒険者登録をしに来た方の中には過去の武勇を語って『だから、自分は青玉等級からにしろ』とかいう方もいるので」

 

 「なるほど、だが私は白磁等級からで異論はない。私はここでの正式な功績など何一つないのだからな」

 

 「ありがとうございます。貴方のように物分かりの良い方だと、こちらも嬉しいのですが…そういう方ばかりではありませんので」

 

 私が等級に文句を言うかもしれないと彼女は怯えていたのだろうが、私としては周囲の冒険者から厄介事が増えそうなのでむしろやめて欲しいと思っている。

 

 「では、登録を始めますね。こちらが冒険記録用紙(アドベンチャーシート)です、読み書きはできますか?」

 

 「いや、すまない。こちらの文字はまだ覚えていない」

 

 「では、代筆となりますと少し料金がかかりますがよろしいですか?」

 

 む?それは少し困った。まだ、換金していないので今の私は無一文だ。

 

 「騎士さん、大丈夫ですよ。それくらいなら今回のお礼に私たちが出しますから」

 

 「そうか、それはすまないな」

 

 「それでは、口頭でお答えください」

 

 質問に答えていく。産まれや年齢など、少々困ったが無事誤魔化せた。いや、正確には冒険者の生い立ちにそこまで踏み入らないのだろう。

 

 「はい、ではこれが冒険者の証となります。これらは身元照合にも用いますので無くさないようにお願いします」

 

 受付嬢から渡されたのは白磁のプレート。駆け出し(ルーキー)の証だ。私はそれを首に掛ける。

 

 「ああ、了解した」

 

 「それで何か簡単な依頼でも受けていきますか?」

 

 「いや、今日はこの街の探索と換金を行うから。依頼を受けるのは明日としよう」

 

 「そうですか。では、説明は以上となります。貴方の今後のご活躍をお祈りいたします」

 

 「感謝する」

 

 受付嬢へ一瞥すると私は換金をするため、ギルドを出ていくのだった。

 

 

___________________________________

 

 

 

 「はぁ……緊張したぁ…」

 

 (受付嬢)はギルドを出ていく彼を見て、大きな溜め息を付く。

 

 「大丈夫ですか?先輩?」

 

 私の事を心配して声を掛けてきたのは最近、都での研修を終えた後輩ちゃんだった。

 

 「大丈夫よ。ただ、あんな感じの冒険者さんに関わる事は中々ないから緊張しただけよ」

 

 「少々、怖い人でしたね。でも、物腰は穏やかで優しそうな人でした」

 

 「そうね、人は見掛けというか…彼の顔、見てなかったわ」

 

 「あはは…全身鎧でしたからね…」

 

 「あんな人は稀よ?普通の駆け出しさんは全身鎧なんて買うお金ないもの」

 

 「やっぱり、元々何処かに仕えていた騎士だったのでしょうか」

 

 「かもね。でも、彼が今後問題を起こさない限りは過去の詮索はご法度よ?」

 

 「そうですね…」

 

 後輩ちゃんはあの騎士さんについて考えているのか前からきている青年に気付いていない。

 

 「すまない」

 

 「ひゃ!ひゃい!?えと…あの…ど、どういったご用件でしょう!!」

 

 「登録を頼む」

 

 「冒険者登録ですね!えっと…あわわわ!!」

 

 後輩ちゃんの前に置いてあった、山となっている大量のゴブリン討伐の依頼が崩れる。

 

 その一枚が青年の前に落ち、彼がそれを拾う。

 

 「ゴブリンか」

 

 「ええ、それはゴブリン退治の依頼ですけど…」

 

 「なら、このゴブリン退治の依頼を頼む」

 

 「えと、ゴブリンは一党を組まないと駆け出しさんには少々危険で…」

 

 「問題ない」

 

 「え、えと…」

 

 後輩ちゃんが助けを求めるようにウルウルとした目でこちらを見る。今日は本当に妙な冒険者さんが多いようです。

 

 「まずは冒険者登録よ」

 

 「あ、はい!」

 

 この青年はどうだろうか?危なっかしい感じだが、ゴブリンを雑魚だからと侮っている様子ではなかった。

 

 さて、彼は一体どのような冒険者になるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、後に『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれる冒険者が誕生した。

 

 そして、もう一人『デーモンスレイヤー』や『オールラウンダー』と呼ばれる冒険者も。

 

 今日、何処かで悲劇が起ころうと。世界は回り続けるのだ。













感想、評価等ありがとうございます。
皆さんの声援があったのでまだ続けようと思います。

感想、評価…嬉しい嬉しい…
よければ、感想だけでもお暇でしたらお願いします。


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…ああ、…駄目だ…

…俺の、俺の太陽が、沈む…

…暗い、…まっくらだ…


 私はギルドを出て、まず質屋へ行くこととした。

 

 冒険者として活動していくとしても、無一文では話にならない。体内に蓄積された大量のソウルもこの世界では何の意味も持たないのだから。

 

 聞くところによると、白磁等級冒険者の一日の報酬が約金貨一枚。

 

 そこへ解毒剤(アンチドーテ)治癒の水薬(ヒーリング・ポーション)を買うとなると、一日の稼ぎはなく。借金しながら冒険者をしていると言ってもいい。

 

 「君たちは白磁等級の頃はどのようにして日々を過ごしていた?」

 

 私が問いかけてたのはギルドからずっと後ろに付いてきている。女神官と女戦士の一党だ。

 

 今日はもう休むつもりらしく、残りの自由時間を私に付いてきて潰すそうだ。

 

 「私たちですか?そうですね…」

 

 「解毒剤や治癒の水薬はケチって死んだ新人の話は聞いたから切れたら毎回しっかりと買ってたら、稼ぎはなかったわ」

 

 「冒険者は体が資本といいますし、残りの稼ぎの大半は宿代と食事代に消えていましたね」

 

 「黒曜等級になって少し余裕が出来てきて、鋼鉄等級になってようやくまともな防具を揃える事ができるようになったのよ」

 

 「防具、武器は既に手持ちの物がある。あとは食事代、宿代か…」

 

 正直言って、稼ぎを削ってまで食事をしたり、宿を取る必要性を不死人である私は感じなかった。

 

 空腹を感じないのは不死院で一週間ほど閉じ込められていた時に理解した。寝床も雨風凌げれば、何処でもいい。

 

 最下層で何日も汚物共と戯れながら。最後は『貪食のドラゴン』(ゲロドラゴン)と戦ったのだから、最悪下水でも寝泊まりできるだろう。

 

 …まあ、そんな事をしたら周りから白い目で見られる程度ではすまないだろう。

 

 「質屋はあっちの方がいいわよ?あそこの質屋は表は豪勢にしてるけど、店主がケチで白磁等級の冒険者では買いたたかれるわよ」

 

 「高ランク冒険者相手には色付けたりして、贔屓にして貰っているそうですけどね…」

 

 なるほど、この街の悪徳商人(パッチ)か。精々、崖から蹴落とされないように注意しておくとしよう。

 

 彼女達に手を引かれ辿り着いたのは、外観はお世辞にもいいとは言えない古びた店だった。

 

 店に入ると、仄かに甘い匂いがする。香だろうか?

 

 「いらっしゃい、今日は何のようだい?お嬢ちゃん達と鎧姿のお客様」

 

 店の奥には魔術師のように深々とローブを被った、声色からして恐らく老婆が座っている。

 

 「今日、用があるのは私たちじゃないわ。この人、この国の通貨を持っていないから質に出してお金が欲しいらしいのよ」

 

 「だから、この町で物を売るならお婆様の店がいいと薦めさせて貰いました」

 

 「そうかい…そうかい…。で、どのような物をお持ちで?」

 

 「今回はそれ程急ぎの用ではないのでな」

 

 老婆の前の机へ、『銅の硬貨』、『銀の硬貨』、『金の硬貨』、『太陽のメダル』を一枚ずつ置く。

 

 二人は机に並べられたそれを興味深そうに見つめる。

 

 「手に取ってみてもよろしいかね?」

 

 「ああ、構わない」

 

 老婆は硬貨を一つ一つ丁寧に観察していく。特に見ている時間が長かったのは『太陽のメダル』だった。

 

 「そうさねぇ……。ざっと、金貨50枚ってところかね?」

 

 「ご、50枚!!」

 

 「す、すごいですよ!騎士さん!」

 

 二人は私よりも興奮したようで、高額な値段を付けられたそれらをジッと見つめている。

 

 私も内心、ここまでの値段が付くとは思ってもおらず驚いていた。

 

 「どういう内訳になっている?」

 

 「この銅の硬貨は金貨2枚、銀の硬貨は3枚、金の硬貨は5枚。この奇妙なメダルが40枚だよ」

 

 まさか、『太陽のメダル』が一番の高値とは…。私にはもう要らないものだ。

 

 「何故、それがそこまでの値段なんだ?」

 

 「ああ…この硬貨が微弱とは言え、尽きぬ魔力を放っているからさ。防具や武器ならまだしも硬貨にこんなことする奴はそうそういないだろうね。珍しさで言えば、この中で一番だよ」

 

 「なるほど、それは太陽のメダルというのだが。私の信仰している宗派で、他人の助けになると与えられるものだ」

 

 「ほうほう…」

 

 老婆が私の話を興味深そうに聞き入る。少女、二人も興味があるようだ。

 

 「そこへ描かれているのは太陽のシンボル。シンボルの主は『太陽の光の長子』でな。神から追われた今ではほぼ全ての書物からも記録はないが。太陽を信仰する戦士たちを見守っていると言われている」

 

 「他の硬貨に彫られているものにもエピソードはあるかい?詳しく言ってくれるなら少々色を付けるがどうだい?」

 

 「まあ、そこまで時間は掛からないからいいだろう。まず、銅の硬貨に描かれているのは…」

 

 その後、三つの硬貨についても話していった。

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

 「いいのでしょうか?私たちがこんなにも頂いてしまって…」

 

 「ああ、あの店主と出会えたのは君たちのおかげだ。私、一人ならこんな枚数の金貨は得られなかった」

 

 「そうよ♪貰えるものは貰っておかないと!」

 

 女戦士は『何を買おうかな~』と上機嫌だ。逆に真面目な女神官は本当に貰ってしまっても良いのかと悩んでいる。

 

 店主は最終的に50枚+10枚という破格の値段を付けて、買い取ってくれた。その内の10枚を彼女たちに渡した。

 

 ずっしりと重くなった金貨の袋を腰に下げ、私は次の目的地である武具屋へ向かう。

 

 「次は武具を見に行くんでしたっけ?」

 

 「ああ」

 

 「貴方、そんな立派な鎧と剣を持っているのに行く必要なんてないでしょ?」

 

 「いや、武具という物は色々な事がわかる。特に量産品に傾向が出やすい。その街で消耗しやすく使い潰す、必要なものが一番多いのだからな」

 

 「ほえ~、そんな考え方する人初めて見た」

 

 「例えば、スケルトンの襲撃が多い街があったとする。その街の武具屋に量産品の剣など大量に置いてあっても無駄だろう?」

 

 「まあ、スケルトン相手ならメイスみたいな打撃武器が欲しいわね」

 

 「そういうことだ」

 

 まあ、理由はあるものの。実際には私の悪癖(収集癖)で未知の武具が無いか、見に行きたいだけなのだが。

 

 使わない武器、防具も蒐集品として欲しい。この癖だけは直らない。

 

 「ここがそうだな」

 

 「そうね、私もここで武器や防具を買っているわ。おやじさん、頑固で無愛想だけどいい人よ?」

 

 「私たちが白磁の頃はよくアドバイスを貰いましたから」

 

 「ふむ、無愛想な鍛冶師か…」

 

 鍛冶師と言われて思い出すのは、よくお世話になった三人の鍛冶屋。

 

 荒廃する前のアノール・ロンドから騎士たちの武具を鍛えていた巨人の鍛冶屋。

 

 骸骨の姿となってもなお、地下墓地で金槌を振るう鍛冶屋。

 

 そして、一番世話になったのは地下不死教区に居た。アストラの鍛冶屋だろう。

 

 今、自身の身に付けている、この上級騎士装備や愛武器の数々は彼に打って貰っている。

 

 本当に彼とは長い付き合いだった。普段は無愛想な彼だが。いつも去り際には

 

 『・・・死ぬんじゃねえぜ あんたの亡者なんて、見たくもねえ・・・』

 

 ……ああ、あの荒廃した世界では珍しい善人であり、私の友人でもあった。

 

 彼にはかなりの無茶な要求をいくつもして困らせてしまっていただろう。

 

 だが、彼は文句は言いつつも嫌な顔一つせず。要求通りの武具を拵えてくれた。本当に感謝してもし足りない。

 

 「どうしたの?考え事?」

 

 「昔の事を少しな。鍛冶屋の友人がいたのさ」

 

 「もしかして、その武具は」

 

 「ああ、彼が打ったものでね。私のお気に入りだよ」

 

 「なるほど…いい、ご友人なんですね!」

 

 「ああ…いい友人『だった』よ」

 

 私は武具屋の扉を開ける。すると、そこには新人冒険者らしき二人と頑固そうなおやじさんがいた。

 

 「武器はどうする?」

 

 「剣…片手剣を使う」

 

 「盾持ちなら当然だな」

 

 鍛冶屋から渡された、剣を腰に掛ける新人。やはり、剣の重さに慣れていないのだろう。身体の重心が少し傾いている。

 

 白磁等級の新人だと考えれば上々だろう。だが、買う前に剣の振り心地や長さを確認してないのはいただけない。

 

 「次は革鎧と丸盾だな、そこに置いてあるものがお前さんにはおススメだ」

 

 その言葉を聞いて、ツカツカと歩いていき。革鎧に丸盾を装備する。彼は軽戦士だろうか?

 

 「なあ、アンタも今日冒険者登録した新人か?」

 

 その様子を見ていたもう一人の新人であろう男が声を掛ける。

 

 「ああ、そうだ」

 

 「なあ、だったら。一緒に一党を組んで冒険しないか!?」

 

 「冒険?ゴブリンか?」

 

 「いやいや、ゴブリンなんて小物じゃなくてよ!ドラゴンとか未知の遺跡を探索とか…」

 

 未知の遺跡という言葉に後ろの二人がビクリと肩を震わす。やはり、いい思い出ではないだろう。

 

 「ゴブリンだ」

 

 「は?」

 

 「俺はこれからゴブリンを狩りにいく

 

 ゴブリンを狩りにいくと宣言する新人の言葉には何か強い意志を感じる。

 

 「この革鎧と丸盾も買った。残りの金貨はいくつだ」

 

 「残り三金貨だ」

 

 「それで水薬(ポーション)は買えるか?」

 

 「はぁ…次から水薬はギルドの受付で買ってくれ」

 

 そう言いつつも鍛冶師は棚から二つの水薬を取り出す。

 

 「解毒剤(アンチドーテ)治癒の水薬(ヒール・ポーション)だ。これでいいか?」

 

 「ああ」

 

 残り三枚だった金貨も後一枚を残すのみとなった。

 

 「他に必要で、金貨一枚で買えるものは?」

 

 「………ん…予備の短剣と冒険者セット…それに兜だな。待ってろ、安いがいいのがある。顔を売るつもりがないなら、兜くらいは覚えてもらえ」

 

 それを聞いていたもう一人の新人は兜と聞いて、ゲッとした顔をするとウンザリした様子で店を出て行った。

 

 恐らく、顔を売りたいが為に兜は被らないつもりなのだろう。だが、それは強者に許される余裕だ。

 

 戦いを何も知らない新人ならば、兜を被るのが生き残る確率を上げる良い方法だろう。

 

 あとは自分の身の丈に合わない依頼は受けない事だ。

 

 賢明な新人は兜を被り、準備できたのだろう。店を出て行こうとする。

 

 「少しいいか?」

 

 私は彼に声を掛けた。新人は声に応じて、こちらへ振り返える。

 

 「なんだ?」

 

 「貴公、ゴブリン退治に行くと言っていたな」

 

 「ああ、ゴブリンを狩りに行く」

 

 「ゴブリンは大抵は洞窟などの狭い場所を根城にしていると聞いた。ロングソードを買っていたが、それではその剣の長所が生かせないのではないか?」

 

 「………」

 

 新人は私の言葉を聞き、ジッと自身のロングソードを見詰め。数秒後、こちらを向き直した。

 

 「閉所で戦うならばどのような武器がいい?」

 

 「ロングソードではなく、せめてショートソードにすべきだな」

 

 私はポーチ(ソウル)からただのショートソード(無強化のショートソード)を取り出す。

 

 鍛冶屋のおやじさんはその光景にギョッしたが、後ろの二人はこの一日でもう慣れたようだ。

 

 一応、このポーチは魔法のポーチで色々な物が入るようになっているとギルドでは誤魔化しておいた。

 

 「金貨はもう…」

 

 「いらん、いらん。ただ、もしゴブリン退治でロングソードよりもショートソードの方が有用だったら。そのロングソードを渡してくれ、それで交換だ」

 

 「わかった」

 

 「後、言うべきことは…」

 

 新人の姿を隅々までよく見る。指摘したいことはいくつか出てきた。

 

 「一つは兜だ」

 

 「これが?」

 

 新人は兜を脱ぎ、訝し気に兜を見る。

 

 「ああ、ゴブリンは巨大鼠や巨大蟲と違って人型の化け物だろう?」

 

 「そうだ」

 

 「そういう輩は手癖が悪い。戦闘中に掴まれて、バランスを崩すような要因は消した方がいい」

 

 「なるほど。すまない、この角を切ってくれ」

 

 「……あいよ、少し待っていな」

 

 おやじさんは何か言いたげに俺を睨むが、直ぐに作業に掛かる。

 

 「二つ目は小道具入れ(ポーチ)だ。そんな薄く安定性のないものでは戦闘中の事故で破損したり、中身が漏れたりする」

 

 「どうすればいい?」

 

 「小道具入れも買えないのなら、せめて瓶を布で厚く巻いておけ。それだけでも安定はする」

 

 「わかった」

 

 「これも餞別として受け取れ」

 

 私は『緑花草』、『血赤の苔玉』、『毒紫の花苔玉』を渡す。

 

 「これはなんだ?」

 

 「この草は『緑花草』といって代謝を上げたりするものだ。ギルドで売ってるスタミナポーションに近いものだ」

 

 「…」

 

 新人はその説明を聞き逃すまいとしている。このように生きることに必死な姿勢は好感が持てる。

 

 「こっちは『血赤の苔玉』、止血の効果がある。ゴブリン共を駆逐したとして、帰りに血を流しすぎて死ぬなんて言うのは笑い話にならん」

 

 「ああ…」

 

 「最後に『毒紫の花苔玉』、解毒剤と同じ。ただ、即効性がある。数分後には死に至る猛毒であろうとこれなら解毒できる。ゴブリン共は自身の糞尿を混ぜ合わせた毒を使うそうだ」

 

 「助かる」

 

 彼は遠慮なくそれらを受け取った。いいぞ、使えるものは全て使え。

 

 最後にはプライドを捨ててもいい、生き残り勝ち残った奴こそが全てだ。

 

 私たちの会話が終わるのを待っていてくれたのか、鍛冶屋のおやじさんが角を切った兜を持ってきてくれた。

 

 「ほら、兜も準備出来たぞ」

 

 「感謝する。では、行ってくる…」

 

 「ああ、貴公の旅路に太陽の導きがあらんことを…」

 

 私に一瞥すると彼は出て行った。これから、彼の冒険が始まるのだ。

 

 「お前さん、随分とあの新人に肩入れするじゃないか。知り合いなのか?」

 

 「いいや、彼を見ていると昔の自分を思い出してね。ただ、彼の目が死にに逝く者(不死人)のような目をしていたのが一番気掛かりだった」

 

 「で、結局アンタはここへ何をしに来た?」

 

 「……………冷やかし?」

 

 「帰れ」

 

____________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者登録をした。

 

 依頼も受けた。

 

 装備品も揃えた。

 

 小道具も準備出来た。

 

 さあ、後は……

 

 

 

 

 ゴブリン退治だ

 

 

 

 

 

 一人の青年は一つの出会いでより早い成長を遂げるだろう。

 

 だが、その成長は英雄譚に載るような冒険や、御伽噺の勇者のような活躍をする為ではない

 

 そう、全てはゴブリンを殺すため。彼は小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

不死人:ステータス

 

素性:戦士

 

SL:120

体力:40

記憶力:14

持久力:37

筋力:40

技量:40

耐久:11

理力:9

信仰:9

 

右手1:ムラクモ+15

右手2:呪術の火+5

 

左手1:草紋の盾+15

左手2:雷のアヴェリン+5

 

兜:上級騎士+10

鎧:上級騎士+10

手甲:上級騎士+10

足甲:上級騎士+10

 

指輪1:ハベルの指輪

指輪2:緑花の指輪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




( ゚Д゚)

評価数:56 お気に入り:932

( Д ) ゚  ゚

日刊:4位

(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..

ソラ―ルさん、見つけたよ…私の太陽を…


五話も書いて、戦闘が一回のゴブスレ二次があるらしい

次はたぶん冒険する(予定)


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彼も物語(シナリオ)も動き出す

 …行くのか

 もう、お前に教えることはないな

 そろそろお別れだ、短い間だったが、楽しかったよ

 …馬鹿者が早く行かんか

 …私では、もうなにもしてやれんぞ…


 あの後、鍛冶屋のおやじさんにグチグチ言われつつも、ロードランでは見たことのない武器を買った。

 

 連節棍というらしい、面白い動きをするのだが些か短くはないだろうか?

 

 女神官がこれの類は神官も扱うというので実演して貰ったが、武器の軌道が読みづらく対人戦に向いているかもしれない。

 

 やはり、私が扱っても趣味の領域にしか収まらないだろう。

 

 「騎士さんは明日もギルドに来るんですか?」

 

 「明日、依頼(クエスト)を受けようと思っている」

 

 「何々?デーモンの次はドラゴンでも討伐しに行くの?」

 

 女戦士はニヨニヨと笑みを浮かべながら問うてくる。

 

 竜狩りか…この武具を限界まで鍛える(+15にする)為のダークレイス狩りの途中にいる飛竜を狩りはしたな。

 

 竜との闘いはこの世界でも誉れであり、浪漫でもあるそうだ。

 

 多くの冒険者たちは自身が冒険譚に謳われるような英雄に成るべく竜へ挑み、その大半は帰らぬ者となる。

 

 「デーモンを狩った事すら信じられていない現状で、竜狩りを成したとなどと言えば大法螺吹きだと思われるだろうな」

 

 「まあ、本当に見てない人からすると信じられることではないのかもしれませんね…」

 

 「無駄よ、無駄。ギルドの証明があっても、プライドだけは高い冒険者連中はその事実を認めないわよ。偶々、運が良かっただけだとか。どうせ、下級も下級のデーモンなんだろとかね」

 

 「信じぬ者に無理やり信じさせる必要などあるまい。今後は似たようなケースも恐らく増えていくだろう。愚か者は真実を目の当たりにしてようやく認識する」

 

 「その時には既に手遅れってことですね。せめてもの救いは死ぬ間際に学べたことですかね?死後に役に立つかもしれませんし」

 

 穏やかで優しい性格の女神官のブラックジョークに女戦士の顔が引き攣る。私も彼女がそんなことを言うとは思わず目を見開いた。

 

 「ふふふ…。これでも私、結構怒ってたんですよ?命の恩人の陰口を聞いていて、良い気分ではなかったですから」

 

 「私は気にしていないから大丈夫だ。ああいうのは慣れている」

 

 不死人など忌み嫌われ、排他される。北の不死院などはその象徴だろう。

 

 「それじゃあ、私たちも宿に戻るわ」

 

 「騎士さん、お疲れ様です!また、明日お会いしましょう」

 

 「ああ、二人共。明日、ギルドで見かけたら気兼ねなく話しかけてくれて構わない」

 

 二人が手を振りながら遠ざかっていく、私は彼女達が見えなくなるまで小さく手を振って見送った。

 

 「さて、向かうか」

 

 向かう場所は宿ではない。この街の郊外だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 街の外、本来ならば夜。獣や怪物たちの時間に街を出るなど、褒められたものではないが試したいことが多くある現状。

 

 街中で『ソウルの業』を大っぴらに扱うことなど出来ない。それ故に人目の付かない場所へ行く必要がある。私は頭蓋ランタンを片手に持って、森の中へ向かった。

 

 「ふむ、此処ならば問題は無いな」

 

 頭蓋ランタンが明かり無き道を照らしていく。後々、気付いたが夜の森で頭蓋骨のランタンを片手に彷徨うというのは邪教の類だと勘違いされてしまうだろう。

 

 いつもの癖で取り出したが、こういうところもこの世界基準に改めていかなければ…

 

 「まず、自身の体だが…」

 

 手甲を外すと、そこには干乾びた死体のような手がある。やはり、鎧を脱がなくて正解だった。

 

 顔も恐らくは亡者化しているため、人に見せられる状態ではない。

 

 この状態を治すには篝火が必要なのだが……

 

 「しまったな…北の不死院で篝火がどうなっているのか確認するべきだったか」

 

 北の不死院では二人の腰が直り次第、村へ向かった為。詳しく篝火には触れなかった。

 

 「せめて、手を翳すくらいはするべきだったか…」

 

 あの篝火がロードランの頃と同じく作用するとは限らない。篝火は不死人の癒しの一つだった。

 

 「そういえば……」

 

 ソウルから取り出したのは、最初の火の炉に刺さっていた螺旋状の剣。

 

 今までは、篝火を移動させるなど考えたこともなかった(システム上不可能だった)がこれなら出来るかもしれないと試し半分で行ってみる。

 

 「そもそも、篝火はどうやって作られたのかも知らなかったな」

 

 長年、そういうものだと認識して使っていたが、改めてそれが何なのかと問われれば分からないとしか言えなかった。

 

 火防女が篝火の火を保っているのは、聞き、目の当たりしたので知っている。

 

 「燃料は…『人間性』か?後は『火防女の魂』も必要なのか?分からん…」

 

 後は周囲に骨が散らばっていたな、『誘い頭蓋』でも置いてみるか…

 

 数分後、そこに出来上がったのは…

 

 「邪教の祭壇にしか見えんな…」

 

 そこには『篝火に剣が刺さっており、轟轟と燃えるその周囲には頭蓋骨が並んでいる』という言い逃れも出来ない状況だった。

 

 「……火は付いたのだから、問題なかろう…」

 

 精神的に疲れた我が身を癒すために『篝火で休息する』ことにした。

 

 「ふむ、やはり奇妙な感覚だな」

 

 私の所持している道具の中には篝火の前でないと効果を発揮しないものがいくつかある。

 

 『修理箱』、『武器の鍛冶箱』、『防具の鍛冶箱』、『底なしの木箱』だ。

 

 修理箱、鍛冶箱は火が無い場所では無理だとは理解できる。だが、何故この『底なしの木箱』は篝火の前でないと開かないのか…

 

 「はあ…、旅の途中で出し入れが出来ればと思ったのは一度や二度ではないからな」

 

 ソウルへの収納も無限ではなく、数十個と入れていると限界(カンスト)が来る。それ以上は所持できない。

 

 「ああ…よかった。入れてあった、道具(アイテム)等は無くなってなさそうだ」

 

 いくら収集癖の酷い私と言えども、常にそれらを持ち歩いている訳ではない。

 

 使わない装備一式はこの木箱の中へ収納してある。

 

 あとは消耗品の類も買い込み、いつ手持ちがなくなってもいいようにと収納してある。

 

 まさか供給源が断たれるとは思いもしなかったが、これで当分は安心だ。

 

 「次はエストの回復だな」

 

 エストを飲み干し、もう一度休息する。すると、徐々にエスト瓶の中身は満たされていき、満タンとなった。

 

 「駄目なら、治癒の水薬(ヒール・ポーション)をと思っていたが。これで薬代は浮きそうだ」

 

 そもそも、不死人の体に治癒の水薬は正しく作用するのだろうか?

 

 聞けば、彷徨う死体(アンデッド)には治癒の水薬が攻撃として有効らしい

 

 つまり、似たような私には治癒の水薬(ヒール・ポーション)ではなく、痛打の水薬(ダメージ・ポーション)の可能性が?

 

 ……後日買って、一人で試してみよう…。冒険中に仲間の治癒の水薬が死因など笑えん。

 

 「最後は亡者化の解除だな」

 

 私は片膝を付き、篝火へ手を翳す。ソウルの中の人間性を消費して、亡者から生身に戻る。

 

 「ふう……ロードランではそこまで気にしなかったのだがな」

 

 生身の状態を維持する理由はそこそこあるが、常にとなると死ぬことの多い不死人には維持するのは面倒だったりする。

 

 私は気分の問題で亡者であり続けるのが嫌であったので、出来るだけで生身の状態を維持していた。

 

 亡者の状態では生きている感覚が薄れていくような気がして怖かったのだ。

 

 「さて、明日は冒険者としての初めての活動だ。少し楽しみだな、新たな出会いというものはいい」

 

 私は篝火の火に暖まりながら静かに目を閉じた。今宵はよく眠れそうな気がする。月よ、私の不安を照らし消し去っておくれ…

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの病み村の奥底。混沌の魔女との闘いの後、私は彼女と出会った。

 

 「ほう、不死者が私の姿が見えるのか?おもしろい…」

 

 「貴方は?」

 

 「私はイザリスのクラーナ、人の身で私の姿を見る者は久しぶりだ。…才もある」

 

 「才か…、あまり実感したことはないがね…」

 

 「お前も私の呪術が目当てなのか?」

 

 「……私は力が欲しい。もし、貴女が私に力を授けてくれるのなら…」

 

 「……いいだろう、私の弟子としてやる。ただ、私の呪術はそれ相応の糧が必要だ」

 

 「分かっている、何もせずに手に入れられるとは思っていない」

 

 「そうか、そうだな先達としての忠告だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『炎を畏れろ。その畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、全てを失う』

 

 そう言う彼女の顔は伺えなかったが、その言葉に悲しみと懺悔を私は感じた。

 

 ああ、我が師よ。私は……

 

 

 

 

 

 

 貴女を救うことが出来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 目を覚ますと周囲は仄かに明るくなっていた。思いの外、熟睡できたみたいだ。何か、懐かしい夢を見ていた気がする。

 

 「依頼の張り出しまで時間はあるが…早めに行っても文句はあるまい」

 

 私は篝火を消すと螺旋状の剣をソウルへ仕舞い、ギルドへ向かった。

 

 「毎度消していたら、『火防女の魂』が尽きてしまうな。やはり、定住してそこへ篝火を灯すべきだ」

 

 問題は山積みだが、一つ一つ解消していくとしよう。

 

 ギルドの扉を開けると既に幾人かの冒険者が依頼の張り出しを待っていた。昨日程ではないものの、気になるのか多くの視線は私に向かっている。

 

 そんな興味と嫉妬の入り混じった視線を気にも留めず、女戦士と女神官が私へ声を掛ける。

 

 「おはようございます。騎士さん」

 

 「おっはよ!」

 

 「ああ、おはよう。二人共、よく眠れたか?」

 

 「まあまあね、冒険者の死を目の当たりするのは初めてだったから」

 

 「私は…教会の方で幾人か看取っていますので死自体には慣れていたのですが…」

 

 「思い出さなくていい…。死者を弔う気持ちは大切だが、自身がそれに引っ張られていては意味がない」

 

 彼女達はこれからも生きていく限りは多くの死を見ていくことになるのだから。

 

 その後、三人で雑談をして時間を潰していると。

 

 「はーい!冒険者の皆さん!依頼の張り出しを始めますよー!」

 

 ギルド内は一斉に活気づき、依頼板(クエスト・ボード)の前には冒険者の山が出来る。

 

 我先にと金払いのいい依頼や宝物狙いの遺跡調査が取られていく。小さな小競り合いも起きている。

 

 「いつもこんな感じなのか?」

 

 「はい、私たちはいつも余ったものをこなしていますよ」

 

 「鋼鉄等級だとそこそこの内容も残っているから。下の等級には難しい、上の等級は見向きもしないね」

 

 「なるほど」

 

 私は人気のない下水の巨大鼠狩りやゴブリンの討伐があれば、それを受けたいのだが…

 

 彼女たちに依頼板にある内容を教えて貰う。ゴブリン討伐や下水の巨大鼠狩りは見向きもされていないのか残っているそうだ。

 

 この分では急がなくても結果には変わりないだろう。

 

 私は騒ぎが収まるまで少し待つことにした。

 

 

_______________________________________

 

 

 

 大半の冒険者は依頼を受けて、騒ぎも収まった。

 

 女戦士と女神官の二人は鋼鉄級の依頼を受けて出て行った。誘ってくれたのだが、今回は個人で依頼を達成するつもりなので丁重に断った。

 

 メモを見ながら、依頼板を翻訳していく。

 

 女神官に訊いた単語の翻訳を元に作った簡単な化物の名前や単語のメモだ。

 

 依頼板に残った、依頼内容は

 

 『下水の巨大鼠駆除:5匹』 成功報酬:金貨2枚

 

 『下水の巨大蟲駆除:5匹』 成功報酬:金貨2枚

 

 『辺境の村のゴブリン退治』 成功報酬:金貨2枚

 

 人気のない依頼が残っている。

 

 「なるほど、確かに人気は出ないだろうな」

 

 経費と報酬が割に合わない。どれも解毒剤(アンチ・ドーテ)一本で金貨一枚は消えるだろう。

 

 その残り金貨一枚からどれだけ削減できるか、後は命を天秤に載せるだけだ。

 

 隅の方にもう一つ白磁等級が受けれる依頼が張ってある。内容は…

 

 「あの~…お困りでしょうか?」

 

 依頼板を眺めている私に声を掛けたのは、昨日私の冒険者登録をした受付嬢の隣にいた女性だった。

 

 行動の一つ一つが固く、受付としての仕事に慣れていないのだろう。新人受付嬢は不安そうな目で私を見詰めている。

 

 「いや、困ってはいないのだがね。別に下水の怪物どもの駆除でもゴブリン退治でも文句はない。ただ、この依頼が気になってね」

 

 「えーっと…これですね?依頼内容は…」

 

 『下水における巨大蟲、巨大鼠減少の調査』 成功報酬:報告内容次第

 

 「調査依頼ですね…。これじゃあ、新人さんは受けたがりませんよね」

 

 「ん?まあ、そうなのだが。気になっているのは下水の化物共が減っているということだ」

 

 「いい事じゃないんですか?」

 

 「その減少に理由があって、問題がないのなら喜ばしい事だな」

 

 「つまり、良くない事の予兆かもしれないと?」

 

 「さあ、分からん。その為の調査だろう?下水に何か潜んでいるのなら、新人では荷が重いだろう」

 

 私は依頼を引っぺがすと彼女へ渡す。

 

 「このクエストを受けるがいいか?」

 

 数秒、呆けた顔だった新人受付嬢だが次にはキリっとした表情になる。

 

 「わかりました、お気を付けて。下水へ続く道はギルド内の地図に記してありますのでご確認ください」

 

 さあ、初めての冒険者稼業だ。油断せずに行くとしよう。

 

 「まず、松明だな」

 

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 下水の少し奥へ進んだ区画の一つ。二人の人間の足音が響く。ビチャ、ビチャと水気を含んだ音だ。

 

 「はっ!はっ!はっ!」

 

 「クソっ!」

 

 彼らは走っている。地図は仲間と一緒に『溶けて』なくなったが、女魔術師の頭の中に地図を描いて(マッピングして)ある。

 

 出口まではそこまでの距離ではない。あと、数回曲がれば辿り着く。

 

 「次、左!」

 

 「本当に合ってるのか!」

 

 イライラしているのか、男戦士の言葉遣いが荒い。だが、それも仕方ない事だ。

 

 簡単な依頼だと思っていたのに、既に味方一人が見るも無残に『溶かされて』死んだ。

 

 新人が目の当たりにする死としては中々の部類だ。

 

 「次も左!」

 

 「ああ!光が!」

 

 出口の光だろうか、角の先から光が見える。二人の顔には歓喜の表情が浮かぶ。

 

 ああ、ようやくこの地獄から脱出できるという思いだろう。男戦士はその安堵からか『走る速度を緩めてしまった』。

 

 そして、上から落下する物体に気付かなかった。

 

 「ガアァァ!!!」

 

 「ひっ…」

 

 男戦士の上へ粘着質の物体が覆いかぶさる。その物体は徐々に薄く広がり、道を塞いだ。

 

 しかし、薄く広がってもなお、男戦士はその物体の強力な粘着性から脱出できない。

 

 「あ、あ、ああアァァァ!!!」

 

 『消化』が始まる。男戦士の鉄の鎧はみるみる内に溶かされていく。元々、露出して肌が見えていた部分は焼け爛れたようになる。

 

 「がっ!」

 

 「あ、あ、あ…」

 

 半透明な物体からは男戦士の苦し気な表情が見える。だが、その顔も徐々に溶けて、皮膚の下が見え始めた。

 

 魔術師はその光景に恐怖し、後退りながらその場を去っていく。

 

 後に残るは徐々に溶かされていく男戦士のみ。最後に残ったのは彼のボロボロとなった骨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、依頼(クエスト)とは一つだけ見ていればいいものではない。

 

 近しい場所で何かしら起こっているなら、因果関係を考えなければ。

 

 最近、ゴブリンの姿を見ないのなら大規模襲撃を

 

 戦争で大量の死者が出たのなら、アンデッドの大量出没を

 

 なら、下水の巨大鼠や巨大蟲が減っている場合は?

 

 簡単だ、彼らよりも上の捕食者(スライム)が現れただけの事

 

 

 これは運のない新人一党が崩壊する、この世界では一般的なお話(シナリオ)











新人一党、生き残りダイスロール:1d3→1

誰が生き残る?1:男戦士 2:女魔術師 3:男野伏
1d3→2

死ぬ順番:1:戦士、2:野伏
1d2→2

ダイスの女神さまは女の子贔屓

索敵要因が真っ先に死んだら、そらそうよ
皆も準備はしっかりとしようね!

依頼が依頼内容のままなんて信じては駄目だよ?

騙して、悪いが仕事なんでな…

誤字報告してくれる皆さん
本当にありがとうございます…


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下水の統治者(頂点)

 ほう、またやってきたぞ…

 英雄気取りの大馬鹿が、随分と多いと見える…

 さあ、ぶっ殺しちまおうぜ あんた達


 異臭のする水路を松明片手に歩く。足元には淀んだ水が流れ、一歩歩くごとに不快な感触が足に伝わる。

 

 入口の方ではここまでの酷いものではなかったが、奥へ進んでいく度に徐々に腐臭が酷くなっていく。

 

 恐らく、新人たちは入口の方で巨大蟲、巨大鼠を狩る。それ故、比較的に人の出入りする入口に近い場所は『まだ』綺麗なのだろう。

 

 「やはり、下水というのは最下層を思い出して嫌になるな…」

 

 思い出すのは毒を持つネズミ、上から落ちてくるうごめく腐肉(スライム)、呪いのブレスを吐くトカゲ(バジリスク)

 

 そして、最後に当時のお気に入りの武具を酸のブレス(吐瀉物)で駄目にした『貪食のドラゴン』。

 

 その後、病み村へ向かい何も準備せずに向かった結果。

 

 猛毒の吹き矢(蓑虫亡者)に苦しみながら何とか篝火に辿り着いた。だが、私に待っていたのは何度もの落下死だった。

 

 二度目の世界以降では、あのルートは出来るだけ通っていない。

 

 どれだけ、技術を磨こうと不運な事故(ファンブル)はいずれ起こる。その確率を減らすには運に頼る回数を減らすしかない。

 

 「あと、落下死は嫌いだ」

 

 あの地面へ叩きつけられるまでの浮遊感と最期の瞬間に聞こえる『ぐちゃり』という音は何度聞いても慣れやしなかった。

 

 「しかし、本当に数が少ないのだな」

 

 入口からここまで駆除した化物は巨大鼠5匹に巨大蟲4匹だった。

 

 蟲共は飛び掛かって来るが、鼠共は何かに警戒するようにして逃げていく。

 

 「何か良からぬ事が起こっているのは確実か……ん?」

 

 歩いていると、足に何かがぶつかった感触があった。恐らく、金属の類だと思う。

 

 汚水の中へ手を突っ込んで拾い上げる。それは剣だった。正確には『酸でボロボロ』のロングソードだ。

 

 「ッ!?」

 

 嫌な予感がして、後ろへ緊急回避(バックステップ)する。

 

 避けた瞬間、ドボンと音と水しぶきを立てて何かが上から落ちてくる。

 

 「腐食粘液(スライム)か…」

 

 落下物を見ると、汚水の一部が透けて地面が見える。

 

 こちらのスライムはロードランにいたような肉の塊ではなく、このような、半透明の粘液生物のことをいうらしい。

 

 「どの世界でも厄介な事この上ない。その上、体を構成する粘液は鉄をも溶かす酸性だと?悪夢だな…」

 

 打撃、魔法に対して耐性(ダメージ軽減)があり、火を弱点とする。これはロードランもこちらの世界も同じだ。

 

 「こういうとき、呪術というのは便利だ」

 

 今朝、付け替えた『火炎噴流』で焼き払う。

 

 水のような見た目だが、燃える際には生物特有のあの嫌な匂いがした。

 

 「……これが原因かもしれんな…。ただ、問題なのは…」

 

 受付嬢の話によるとこの調査依頼は4日ほど前から放置されていたらしい。

 

 つまり、このスライム共が『どれだけ増殖している』か。それを警戒しなければいけない。

 

 「………敵の根城。それも有利な環境で戦うのは慣れているが…。些か、量が多いんじゃないか?…」

 

 ボトッ、ボトッ、ボトッと汚水へスライムが落下する音が聞こえる。壁からは染み出すようにスライムが這い出てくる。

 

 「仲間を殺されたから報復か?……考えるほどの頭があるとは思えないし、考えたくはないな」

 

 行く手を阻むスライムを呪術で燃やしながら進んでいく。

 

 奥へ行けば行くほど数が多くなる。

 

 

 

 

 

 『まるで奥に大事な何かがあるように』

 

 「嫌な予感ほど当たり易いものだ」

 

 そう愚痴を溢しながらも、先へ進んでいく。

 

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 「はぁ…はぁ…はぁ…。あ、あれ?」

 

 女魔術師は男戦士が溶かされた後も逃げ延びていた。

 

 まるで行き先が分かっているように先回りしていたり、視界外から落下するスライムから命からがら逃げまわった。

 

 スライムの動きは鈍重、気を付けるべきは不意の奇襲や既に潜んでいるもの。

 

 女魔術師は後ろは見ず、とにかく頭上、足元、正面を確認して走り続けた。

 

 すると、スライム達は『お前の相手なんぞしてられん』とばかりに数を減らしていった。

 

 結果、彼女を追いかけてきているのはゆっくりゆっくりと這いずる一体のスライムだけになっていた。

 

 「えい…」

 

 彼女が松明を押し付けると炎が燃え移り、暫くすると動かなくなった。

 

 「他のスライムは?」

 

 彼女も流石にここで死にたくない為、周囲を見渡してスライムが潜んでいないか確認する。

 

 「本当にいない?…」

 

 天井、足元、壁など潜んでいそうな場所をくまなく探すがいる気配はない。

 

 「どうしよう…道、覚えてない…」

 

 そう、彼女は逃げるのに必死で地図作り(マッピング)を行っていない。いくら迷宮ではなく街の下水と言えども、その通路は複雑に入り乱れている。

 

 トボトボとスライムを警戒しながら歩いていると、ゴォォ!ゴォォ!という音が聞こえる。

 

 「?……なんだろう…」

 

 恐る恐る、角から音の方向を覗き込んでみると。

 

 「チッ!?本当に…邪魔だ!!」

 

 そこには騎士姿の男(不死人)が大量のスライムに襲われながらも、右手から炎を出して撃退している様子だった。

 

 「あの人…昨日ギルドに居た…。右手のあれ?魔術かな?」

 

 少女は自身の知識にある炎系の魔術から似たものを探してみる。だが、あそこまで長い間炎を噴出する魔術を彼女は知らなかった。

 

 「はぁ…次はあっちか?」

 

 そうしている内に彼はスライムがいる方へと進んでいる。

 

 「あ…待って…」

 

 か細い声だが、彼には届いたようでこちらへ振り返ってくれた。

 

 

 

________________________________________

 

 

 大量のスライムを蹴散らしながら奥へ進む。

 

 ここに来るまでに一度、スライムの津波とでも呼べばいいのか…そんなものに飲み込まれそうになった。

 

 咄嗟に『ハベルの盾』をソウルから取り出し、両手で構えることで耐えることが出来た。

 

 しかし、全てのスライムを防げているわけではない。

 

 この上級騎士の鎧はそこいらの生半可な鎧とは違うが、それでも酸で少し傷がつく。

 

 「チッ!本当に…邪魔だ!」

 

 周囲に散らばったスライム共をイラつきながらも呪術で処理していく。

 

 強くはないが、数が多い。私はこのタイプの化物が一番嫌いだ。

 

 「はぁ…次はあっちか?」

 

 逃げるように奥へ引っ込んでいくスライム共を追いかけて歩き出すと後ろからか細い人間の声が聞こえた。

 

 「ん?」

 

 振り向くとボロボロの魔術師であろう少女がいる。

 

 「どうして、こんな場所にいる」

 

 「…一党で下水の駆除依頼を受けたら。スライムに仲間が殺されちゃった…」

 

 「それでこんな場所まで逃げてきたと…大分奥まで誘い込まれたな」

 

 「……」

 

 「出口は分かるか?」

 

 女魔術師は首を左右に振る。まあ、逃げながら道順を覚えるのは難しい。

 

 「すまないが私も地図を書いている訳ではない。脳内に出口までの経路はあるが、これからこの奥へ行かなければいけない」

 

 「…力になれるか分からないけど…私も行っていいですか?」

 

 女魔術師はジッと真剣な目で私を見詰めた。自殺志願者の目ではない、少なくとも邪魔にはならないだろう。

 

 「何が使えて、あと何度行使できる?」

 

 「魔法障壁(マジック・シールド)氷矢(アイス・ボルト)…。あと1回…」

 

 「ん…そうか…」

 

 魔法の通りにくいスライムを相手取るにはきついが、先走りしなければいい。しても、彼女が死ぬだけだ。

 

 流石に死にに行くやつを助けるほどお人好しではない。

 

 「そのボロボロの服では危ないな、これを貸す」

 

 「わふ…」

 

 バサッ、彼女へ向かって『魔術師の黒コート』を投げ渡す。

 

 「いいの?そこそこ上質…」

 

 「むしろ邪魔だから貰ってくれて構わん」

 

 「わかった…」

 

 女魔術師は先に『魔術師の黒コート』を着た後に、元々の服を脱ぐ。

 

 流石にその様子を凝視するわけにはいかないので背を向けて、前方のスライムを警戒する。

 

 「着替え終わった」

 

 「なら行くぞ」

 

 「うん…」

 

 同行者が増えても問題ではない。むしろ、警戒する目が増えたことは嬉しい。魔術を行使するだけが魔術師の仕事ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________

 

 スライム駆除を行いながら進むと、途中から全く姿をみなくなった。

 

 「もう全部、駆除できたのでしょうか?」

 

 「……いいや、あれだな。無駄に兵を減らしたくないとかそんな所だろう」

 

 個別に嗾けるのが駄目だったのだから、これ以上の戦力分散は無駄だと理解したのか…あるいは『学習したのか』。

 

 どちらにしろ気味が悪い。スライムの上位種でもいるのだろうか?

 

 一つ、一つ、通路を確認していき奥へ進む。すると、ある場所から異様に床が『綺麗』になっている。

 

 まるで今日誰かが掃除していったかのように。

 

 「…スライムが這いずると床は酸でツルツルになります…」

 

 「ということは、ここらがスライム共の本拠地か」

 

 まるでその言葉が合図だったかのようにスライム共が自分達を囲むように這い出てくる。

 

 出るわ、出るわ大量の腐食粘液(スライム)

 

 誘い込むような戦い方といい、少なくとも知恵のない化物の動き方ではない。

 

 「あれ?…」

 

 「どうした?」

 

 「あそこのスライム…種類が違う…。あれって…魔石粘液(スライム・コア)?」

 

 女魔術師の指差す先にはいるのは赤く光る石を体内に持つ魔石粘液(スライム・コア)

 

 ここに大量にいる腐食粘液(スライム)とは違い、魔石粘液(スライム・コア)は人工的な魔法生物らしい。

 

 つまり、『誰かがここへアレを解き放った』のだろう。最初から、この騒動は自然発生ではなく、仕組まれたもののだったようだ。

 

 「そんな事は後で考えれば良いさ」

 

 投げナイフを魔石粘液(スライム・コア)へ投げつけると、腐食粘液(スライム)が盾となる。

 

 「アレがこいつらの頭脳だろうな」

 

 「どうするの?魔石粘液(スライム・コア)自体は強くないし、弱点も分かり易い。けど、護衛の腐食粘液(スライム)が厄介」

 

 「私が突っ込んで倒すのが手っ取り早いがな」

 

 「……流石にそれは…」

 

 私の発言に女魔術師は引いている。投擲武器は届かない…加えて突っ込んでの撃破も駄目となると…

 

 「よし、一旦逃げるぞ!」

 

 「え?…」

 

 脇に女魔術師を抱え、一目散に逃げる。少なくとも、この状況で戦いたくはない。

 

 私は腐食粘液(スライム)共の酸の波に耐えられても、彼女には無理だろう。面倒だが、逃げるしかない。

 

 「何か方法はあるか?」

 

 「魔法耐性のある腐食粘液(スライム)の護衛がなかったら、魔石粘液(スライム・コア)は雑魚。あれは知性はあるけど、何も耐性を持ってない」

 

 「つまり、魔術を当てれば一撃か」

 

 「うん」

 

 「さて、どうするべきか……」

 

 「とにかく、護衛になってる腐食粘液(スライム)をどうにかしないと…」

 

 その時、投げナイフを投げた時のスライムの動きを思い出した。

 

 魔石粘液(スライム・コア)を守る為だろう、護衛共は壁になる為に集まる。それを利用すればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

 その後作戦の打ち合わせをしていると、分裂した大量スライム共が這いずって来る。

 

 恐らく、一気に燃やされるのを警戒してだろう。

 

 その巨体は通路を塞ぐ程の大きさだった。後方には頭脳たる魔石粘液(スライム・コア)

 

 正直、アレが一緒に来てくれなければ一旦帰っていたが、来たのならば問題ない。

 

 あちらも戦闘態勢なのか、護衛であろう大量のスライムを残して分裂したスライムが私たちへ迫って来る。

 

 私は後退しながら投げナイフを投擲する。

 

 予想通り、スライムの壁に受け止められる。

 

 次に取り出すは『雷のアヴェリン』。

 

 連射される『ヘヴィーボルト』の威力によって、護衛のスライムが弾け飛ぶ。

 

 その様子を感知してか、護衛のスライムは合体した。

 

 二度目のアヴェリンによる攻撃、『ヘヴィーボルト』も受け止められる程の盾となったスライム達。

 

 ならば、これはどうだ?

 

 次に取り出したるは『ゴーの大弓』。

 

 おおよそ、人の使うような弓ではない。

 

 それもそのはず。愛用していたのは彼の王に仕えし四騎士が一人、『鷹の目のゴ―』。

 

 竜狩りの矢をこんな奴らに使うのは少し気が引けるが、使えるものは使う主義だ。

 

 重い弦を引き、竜狩りの矢を構える。

 

 放たれた矢はスライムの厚い壁を貫くが、威力が減衰した為魔石粘液スライム・コアには直撃しなかった。

 

 スライム共はもっと強固な盾に成るべく、合体を始めるがもう遅い。

 

 『サジタ(矢)・アルゲオ(凍る)・ラディウス(射出)!』

 

 ずっと、私の後ろで狙いを定めていた女魔術師の『氷矢(アイス・ボルト)』が魔石粘液(スライム・コア)の弱点である魔石(コア)を射抜く。

 

 魔石粘液(スライム・コア)が倒されると統制を失ったスライムの動きが目に見えて悪くなる。

 

 統制を失ったスライムは逃げようと鈍重な体を動かすが…

 

 「これで終わりだ…」

 

 私は『混沌の大火球』を投げつけた。直撃したスライム共は一瞬にして蒸発する。

 

 散らばった残りカスも、これまでの鬱憤を晴らすように『混沌の大火球』で盛大に燃やす。

 

 「ふぅー…すっきりした…」

 

 少なくともお気に入りの鎧を酸で傷つけられた恨みは晴らした。

 

 「………」

 

 そんな私を女魔術師は何とも言えない表情で見ていた。

 

 「帰るぞ」

 

 「ええ」

 

 少々面倒な事実が発覚したが、それを処理するのはギルド側の問題だ。

 

 私は事実をそのまま伝えるのみ。結果として冒険者一人を救出したのだから上々だろう。

 

 「なあ、すまないが聞いていいか?」

 

 「?」

 

 「スライムの討伐などどう説明すればいい?」

 

 「……さあ?」

 

 私はこの後、せめて駆除した巨大鼠の耳を切り取っておけばよかったと後悔した。

 

 少なくとも調査依頼で直ぐに金が出ることはないだろう…。どうせ、『後日、事実確認後に報酬をお渡しします』だ。

 

 被害者である彼女もいるのだから、疑われはしないと思う。

 

 それにしても、街の下水道に人工の魔物とは…。一体、どのような目的なのだろう。

 

 誰の差し金か。祈らぬ者(NPC)の仕業だろうか。

 

 こうして、私の冒険者としての初めての依頼は終わった。















皆さん、お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。

いつも誤字・脱字修正してくださる方々もありがとうございます。

投稿者名から察しているかもしれませんが
私は割とユルトっぽさを感じるロートレク好きですよ
ただ、かぼたんを傷つけるのは許さないので落します


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傍から見たら、混沌の勢力

 「すまないが、この娘を君たちの一党に入れてはくれないか?」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「へ?」

 

 「どうしたのよ?受付嬢さんにその子の世話任されていたでしょ?」

 

 私たちがギルドの食堂で朝食を摂っていると話しかけてきたのは、騎士さんと数週間前の『スライム大増殖騒ぎ』で一党が壊滅したという女魔術師さんでした。

 

 「私に対して名指しの依頼がギルドへ送られてきた」

 

 「え、凄いじゃないですか!」

 

 「普通の冒険者ならば名が売れたのだと喜ばしい事だが……私の場合はそうもいかん」

 

 「そうでしょうか?ここ最近は着実に依頼をこなしていますよね?」

 

 「そうそう、人気のない下水駆除ばっかりやってさ……命の恩人が『下水の救世主』とか言われている私の身にもなってよ…」

 

 女戦士の苦言に私はあはは…とお茶を濁しました。彼はあの事件以来、下水の駆除依頼を受け続けていた。

 

 彼が言うには『まだ気になること』があるらしい。だけども、流石にそればっかりはどうなのかと受付嬢さんに彼女…女魔術師さんの世話を任されているみたいです。

 

 「それはすまないな。昔から気になる事や不安な事ははとことん追求する性質でな」

 

 「はいはい、わかったわ。で、その名指しの依頼ってなんなの?」

 

 「デーモンが確認された」

 

 その言葉と共にざわざわとしていたギルドが彼の言葉の続きを聞こうと静まり返る。

 

 「デーモンを倒したという実績を持つ貴方に白羽の矢が立ったというわけ?」

 

 「ああ、こんな白磁等級の冒険者に中々の無茶をいう」

 

 「はぁ……。そんなこと、どの口が言うんだか…」

 

 何度か依頼を共にした私たちは、彼の実力が自分達の遥か上であることは知っているので彼の言葉に苦笑する。

 

 「だが、実際には私の実力が疑わしいというものあるだろう。今回の依頼はその実力を測る意味合いもあるのかもしれん」

 

 「はぁ…看破(センス・ライ)を使ってまで嘘か確かめたっていうのに…」

 

 「今回は他の場所のギルドから派遣された冒険者が同行するそうだ」

 

 「監視兼審査役というところでしょうか?今回で疑いが晴れるといいですね…」

 

 「私としては一年くらいはゆっくりといきたいのだが…。そうもいかないようだ」

 

 彼はやれやれというようなポーズを取り、首を横に振る。面倒だと彼は思っているのでしょう。

 

 「とにかく、彼女をデーモンの元へ連れて行くわけには行かない。その間、彼女の世話を頼む」

 

 「そういうことなら、断る理由もないわよ。私に出来ることはないけど、貴方が無事に帰ってくることを祈っていてあげる」

 

 「私も貴方の無事を信じて待ってます」

 

 「ん…気を付けてね」

 

 「ああ、依頼を承諾してくる」

 

 彼はそういうと受付に手続きをしにいきました。最近は簡単な手続きは自分でできるようになったそうです。

 

 書きの方はまだまだですが、冒険者がよく使う単語の読みに関してはかなり覚えたそうです。

 

 「それにしても…デーモンね」

 

 「あはは…もう出会いたくありません…宗教的にも相容れない存在ですし…」

 

 私たちは少しの間、彼の後ろ姿を眺めていた。

 

_________________________________________

 

 デーモン狩りの依頼を承諾するため、受付へ向かうとそこには初日に武具屋でアドバイスをした新人がいた。

 

 「ゴブリンの依頼はあるか?」

 

 「はい、本日は二件ですね」

 

 「……距離の近い方を頼む」

 

 「はい、こちらですね……。あっ、騎士さん!少々お待ちくださいね」

 

 「ああ、急いでミスしないようにな」

 

 「もぉ~!最近は慣れてきましたから!」

 

 「…」

 

 新人は私の存在に気付くとこちらを向き一瞥する。私はそれに手を小さく振った。

 

 奇妙な付き合いはあの日以来続いている。時々、私に意見を求めに彼が来るようになった。

 

 だが、その内容が『ゴブリンを如何に効率的に処理するか』というものだった。

 

 どうやら彼はあの日以来、ずっとゴブリン退治の依頼を受けているそうだ。しかも『ソロ』で退治に向かっていると聞いた。

 

 それを聞いた私は天を仰いだ。数回は私も同行して、彼に少し指導しつつ彼に一党を組むように勧めた。

 

 『ゴブリンを好んで一緒に退治しにいく一党がない。だから、一党は組めない』

 

 一党を組みたくないわけではないが、冒険者で毎日毎日彼のゴブリン退治に付き合ってくれる人間はいなかった。

 

 正直、私も毎日は勘弁して欲しいと思う。

 

 「すまない、まだ交換(トレード)予定の武器を購入するまでの稼ぎがない。もう少し待っていてくれるか?」

 

 「ああ、ロングソードの話か。大丈夫だ、金欠が常の新人冒険者に金を強請るつもりはない。今は自分に必要な物を買え。恩を返すつもりならまずは無事に帰ってこい」

 

 「ああ、わかった…」

 

 新人は手に持っていた数枚の金貨で解毒剤(アンチ・ドーテ)治癒の水薬(ヒール・ポーション)滋養の水薬(スタミナ・ポーション)といういつものセットを購入する。

 

 小道具入れ(ポーチ)も新しく頑丈で安定性のあるものになっていて、中は衝撃を和らげる為に布で覆ってある。

 

 「あとこれは使わなかったのだが…」

 

 彼が取り出したのは瓶に入れられた『毒紫の花苔玉』だった。

 

 「毒を使ってこなかったのか?」

 

 「解毒剤(アンチ・ドーテ)で問題はなかった」

 

 …つまりは毒は食らったということなのだが…

 

 「そうか…だが使わなかったからといって返す必要はない。緊急時用に持っておけ」

 

 「…わかった」

 

 その言葉を聞くと瓶を小道具入れ(ポーチ)へ入れ直した。

 

 「では、ゴブリン退治の依頼を受注しました。気を付けてくださいね?」

 

 「…善処する」

 

 彼は結局今日も一人でゴブリン退治へ向かう様だ。彼がした決断なら無理に止める権利は私にはない。

 

 冒険者とはそんなものだ。いくら新人にお節介を焼こうとも、明日には死んでいる。

 

 誰もが死と隣り合わせであり、それを理解しないものから死んでいく。

 

 「騎士さん、ここの受付空きましたよ?」

 

 「ああ、そちらへ行こう」

 

 「えーっと、名指しの『悪魔狩り(デーモンスレイ)』の依頼ですね」

 

 「ああ、他のギルドから一党仲間(パーティメンバー)が来ると聞いたのだが…」

 

 「はい、予定ではもう着いているはずなんですが…」

 

 バンッ!!とギルドの扉が大きな音を立てて開かれた。そこには見慣れない『種族』の二人の冒険者がいた。

 

 「闇人(ダークエルフ)殿はもう少し落ち着いて行動するべきです」

 

 「いや、ごめんなさい。遅れて急いでたら、勢いが付いちゃって…」

 

 そんな会話をしながらギルドへ入ってきたのは…

 

 毛深い体に鋭い爪、服装はこの近辺では見ないであろう民族衣装のようなもの。恐らく、狼人(ウェアウルフ)だろう。

 

 そんな彼に苦言を呈されているのは、すらりとした体に長い耳。それだけならば、唯のエルフだが。しかしその肌は黒く、彼女が闇人(ダークエルフ)だということが分かる。

 

 そのような、一見すると混沌の勢力(NPC)のような組み合わせだが、彼らの首には冒険者の証であるプレートがあった。

 

 更にはそのプレートが銅であるところを見るに、自分とは比べ物にならないほど高位の冒険者なのだろう。

 

 「まさかとは思うが彼らか?」

 

 「……そのようですね…」

 

 「そうか、とりあえず挨拶をしてくる」

 

 内心、何故こんなことになったと思いつつも彼らの元へ向かう。

 

 「すまない。今回の悪魔狩り(デーモンスレイ)の協力者だろうか?」

 

 その言葉に闇人(ダークエルフ)の女の表情が明るくなる。

 

 「よかったぁ…遅れたせいで怒って先に行っちゃったかと…」

 

 「前の同行者はそうでしたな」

 

 「ほら、只人(ヒューム)ってせっかちなのかなって?」

 

 「個人の問題でしょう」

 

 「ああ…つまり合っているのか?」

 

 「ええ、そうよ。私と彼が今回の冒険の同行者よ」

 

 「吾輩は狼人(ウェアウルフ)戦司祭(ウォー・プリースト)。以後、よろしく」

 

 「私は見ての通り闇人(ダークエルフ)盗賊(シーフ)よ!罠とか偵察はまかされよ!」

 

 「…私は只人(ヒューム)の騎士だ。過去に各地を回りながら護衛任務をこなしていた。冒険者としては大分後輩にあたるので、迷惑を掛けるかもしれんがよろしく頼む」

 

 「えーっと…これで一党は全員よね?」

 

 「ええ、指令書には彼の依頼に二人で同行せよと書かれているので、もう追加の仲間はおりませぬ」

 

 「よし!じゃあ、行きましょう!」

 

 闇人(ダークエルフ)の盗賊は我先にと馬車へ向かっていく。

 

 「……せっかちなのは彼女の方では?」

 

 「うむ、それは否定できぬな」

 

 このやり取りで彼とは何となく仲良くなれそうな気がした。

 

_____________________________________

 

 

 

 

 

 

 揺れる馬車、その中では三人が今回の任務について話し合っている。

 

 闇人(ダークエルフ)が床に地図を広げ、三人でそれを囲むようにして見ている。

 

 「現在位置が大体ここで今回発見された遺跡がここ」

 

 「沼地の中央か」

 

 「小規模だけど、近くに只人(ヒューム)の村もあるからね」

 

 「ギルドとしては早い内に安全を確保したいのでしょう」

 

 「しかし、二人はよくこの依頼を受けたな。私は大法螺吹きの大口叩き(ビックマウス)かもしれないのだぞ?」

 

 「うーん…別に私は気にしない。第一印象はいい人っぽい!」

 

 「吾輩はギルドの報告を信じてはいます故。後は貴殿の働きを見るのみです」

 

 「狼人(ウェアウルフ)の言葉は理解できるが、闇人(ダークエルフ)は勘だな」

 

 「大丈夫、大丈夫。これでも人を見る目はあるつもりだからさ!」

 

 「闇人(ダークエルフ)殿の何とも言えない行動によって、何度か窮地を救って貰った身としては否定はできませぬ」

 

 「まあいいさ、二人とも白磁等級の私が同行者であることには不満はないのだな?」

 

 「ええ!そんなことは元々気にしてないわ」

 

 「勿論ですとも、冒険者。胸に掲げるそれだけが全てではありませぬ」

 

 「そうか…よろしく頼む、二人共」

 

 奇妙な一党となったが、何とかやっていけそうだ。私はこの冒険に少し胸が躍った。

 

 その後、馬車に揺られながら色々と確認をしていると御者から声が掛かる。

 

 「冒険者の方々、もう直ぐ例の場所へ到着します。そこ以上は危険なので馬車ではなく歩きになります」

 

 「そういえば、頭目(リーダー)は誰がする?」

 

 「私、盗賊だし!」

 

 「ふむ、吾輩がしてもいいかもしれませんが…騎士殿、ここは貴殿が頭目をやってみては?」

 

 「本当にいいのか?白磁等級の冒険者だぞ?」

 

 「私は気にしなーい!私は君がいいと思うよ?」

 

 「吾輩も同意ですな。先程の作戦会議から騎士殿は色々な案を提案してくださる。頭目は多くの事態に対応できる人物がいいでしょう」

 

 「…はぁ…分かった。行くぞ、二人共」

 

 「おぉー!」

 

 「了解」

 

 馬車を下りて、数十分ほど歩いていくと目的の場所周辺なのか沼地に着いた。

 

 病み村のような毒の沼地でないことに安心する。私が良くても同行者二人は耐えられないだろう。

 

 「足を取られるから気を付けろ」

 

 「うぇー…感触が…気持ち悪い…」

 

 「むぅ…蜥蜴人(リザードマン)ならば楽々進めたのかもしれませんな」

 

 二人共、沼地は歩き慣れていないのか、倒れはしないものの不安定だった。

 

 「仕方ないな…二人共手を出すんだ」

 

 「何々?」

 

 「む?これは指輪ですかな?」

 

 二人に渡したのは『錆びた鉄輪』だ。これを装備すれば、沼地でも足を取られなくなるという優れものである。

 

 ただ着ける機会が少なく、私は病み村を踏破した後に不死院にて回収した。

 

 「それを嵌めれば、だいぶマシになる」

 

 「おぉ!すごい!マジックアイテム?」

 

 「この様な加護の指輪があるとは…騎士殿は素晴らしいものをお持ちで…」

 

 「昔旅の途中で拾ったものだ。これで沼地の中で戦闘になっても足を取られることはないだろう」

 

 「じゃあ、私が先頭で狼人(ウェアウルフ)が二番目、殿は騎士ね!」

 

 「了解した」

 

 「警戒してくれ、特に吹き矢のような音の小さいタイプの遠距離武器もだ」

 

 「ふふふ、ここは私の野伏能力(レンジャースキル)の見せ所だね」

 

 「期待している」

 

 「任せてよ!」

 

 闇人(ダークエルフ)は自信満々に無い胸を大きく張った。

 

 「何か失礼な事考えなかった?」

 

 「気のせいだろう」

 

 私たちは闇人(ダークエルフ)を先頭に沼地の奥へと進んでいくのだった。

 

 不死人、闇人、狼人。傍から見たら、混沌の勢力。

 

 不思議な三人の旅が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

▼『真実』の神の前準備

 

 近日、『幻想』の神々と賽子遊び(セッション)をするつもりの『真実』神はその為の下地(シナリオ)を作っています。

 

 舞台はギルドの存在する街。黒幕は混沌の神々から宣託(ハンドアウト)を授かった祈らぬ者(NPC)

 

 しかし、あまり難易度が高くても仕方ない。難易度自体は冒険者がどれだけ早く、陰謀に気付くかにするとしよう。

 

 

 

 

 数日後、神々の賽子遊び(セッション)が始まった。『幻想』の神は今回こそは冒険者を無事に返すと意気込んでいます。

 

 さてさてそう上手くいくかな?と『真実』の神は嘲笑う。

 

 今回の主役(PC)は黒曜等級の冒険者。果たして、彼らは黒幕の野望を打ち破る事が出来るのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来ませんでした…

 

 机の上には顔から突っ伏した『幻想』の神と一ゾロ(ファンブル)の賽子。

 

 しかも、相手の奇襲に気付くべき野伏が真っ先に脱落しました。

 

 さあさあ、追撃だと『真実』の神も賽子を振る。

 

 『あっ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は『真実』の神が机へ突っ伏しています。その傍にはやはり一ゾロ(ファンブル)の賽子。

 

 哀れ、混沌の神々から宣託(ハンドアウト)を受けし黒幕は、己の術の暴走によって爆発四散!

 

 …はしなかったものの、制御を失った魔石粘液(スライム・コア)の反乱によって自身もその身を溶かされていった。

 

 どうする?どうしようか?と秩序、混沌の陣営の神々が協議します。

 

 このままでは面白くない、生き残っている女魔術師だけでは魔物討伐(シナリオクリア)はほぼ不可能。

 

 『あっ、彼に任せてみれば?』

 

 神々の内の誰かがそう言います。彼とは不死人(お助けNPC)の事、確かに彼ならこの崩壊気味の物語を修正へ導いてくれるはず!

 

 そう期待して、神々は不死人が依頼板(クエスト・ボード)から異変が起こっていることに気付くよう祈るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女魔術師の氷矢(アイス・ボルト)の命中判定です。

 

 秩序・混沌両陣営に緊張が走ります。エイッと『幻想』の神が賽子を振るう。

 

 結果は………命中です!女魔術師の氷矢(アイス・ボルト)は的確に魔石粘液(スライム・コア)の弱点を射抜き、この下水の支配者を打ち倒したのでした。

 

 秩序の陣営からは歓喜、混沌の陣営からは悔しそうながらも楽しかったという声が上がります。

 

 こうして、神々の賽子遊び(セッション)は終了した。

 

 

 その後、四方世界には神々の悪運(ファンブル)によって消え去った黒幕を警戒する、不死人の姿があった。










感想、誤字訂正ありがとうございます。



仕事終わりからずっと書くというね。
ただ楽しいからいいですよ、皆さんの感想等が生き甲斐です。

ゴブスレ9巻とTRPG楽しみ


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デーモン/ゴブリン死すべし、慈悲はない

 ズブリ、ズブリ、と一歩歩けばその足が沼へ沈んでいく。しかし、そんな状況でも足を取られないのは『錆びた鉄輪』のおかげだ。

 

 「これ本当に便利よね。それにそのポーチもいっぱい物を入れられるんでしょ?他にも色々なマジックアイテムを持ってるの?」

 

 「ああ、旅の途中でかなりの数を収集した(拾った)。その多くが私の旅の助けとなったものだ」

 

 「ほう……それはすごい。マジックアイテムは高値で売れます故、時々市場にも出回りますが、その性能はピンキリですからな」

 

 「そうそう、巻物(スクロール)なんてその代表例よね。昔の人は何を考えて、貴重な巻物に点火(ティンダー)なんて封じ込めるのか……。もっとこう……大規模の呪文とかさ!」

 

 ここ数週間で色々な道具を買い漁ったが、確かにマジックアイテムの類は値段が高い割には性能が不揃い(ピンキリ)だ。

 

 少しばかりの魔力が付与されている剣でさえ、通常の数倍は値がする。

 

 「特に指輪系のマジックアイテムは貴重だ。売る気はないが、今回のように協力者に貸し出しはする」

 

 「その内、持ち逃げとかされそうだけど……大丈夫?」

 

 「あまりいい話ではありませんが騎士殿は白磁等級。騎士殿のマジックアイテムの噂を聞いて、事故死に見せかけて奪う輩がでるやもしれませぬな」

 

 「その手の輩には慣れているつもりだ。だが、無駄な争いを避けるためにも、ギルド以外には私がマジックアイテムを多く所持していることは内緒にしておいてくれ」

 

 「元々、言いふらすつもりはないよ!」

 

 闇人(ダークエルフ)は心外だとばかりに頬を膨らませる。

 

 「闇人(ダークエルフ)殿はおしゃべりですからな。言いふらすつもりはなくとも喋る可能性がありますでしょう?」

 

 「うぅ……」

 

 事実なのか、狼人(ウェアウルフ)に指摘されて闇人(ダークエルフ)の長い耳がへこたれる。

 

 「二人共、お喋りは終わりだ」

 

 歩き続けていると、大木の傍に鎧の上から袈裟斬りにされ血を流した死体と、ナイフで木を切り付けて作った文字があった。

 

 「前任者が死に際に残したメッセージでしょう…」

 

 「何が書いてある?」

 

 「『この先、デーモン。複数、注意』ですな」

 

 「え゛っ、複数って…」

 

 「ここは魔界ですかな?」

 

 「流石の私も大量のデーモンを相手には出来んぞ? 過去に複数のデーモンを相手に大立ち回りした経験はあるが、今できるかと言われれば無理という以前に御免こうむる」

 

 「取り合えず、相手が確認できる場所へ移動してから考えよっか」

 

 「中級デーモン程度ならば吾輩も経験がありますので、お役に立てるやもしれませぬ」

 

 「そうか、期待している」

 

 歩き続けると、少し開けた場所へ出た。そこには——

 

 ビシャッ! ビシャッ! と、地面に横たわる『まだ』人の形を保っている肉塊へと大鉈が何度も振り下ろされている異様な光景が広がっていた。

 

 大鉈を振るうのは、ロードランでもよく見た『山羊頭のデーモン』だった。デーモンの中でも人型に近く、両手に持つ大鉈による攻撃が特徴である。

 

 「あいつらか……。まあ、複数と書かれていた時点で『牛頭のデーモン』か『山羊頭のデーモン』のどちらかだろうとは思っていたが」

 

 「騎士殿はあれらを知っているのですな?」

 

 「ああ。奴らは私の故郷にいた『山羊頭のデーモン』——正確には『山羊頭のレッサーデーモン』だな。数が多いがそれほどの脅威でもない。まあ、仮にこの指輪が無い状態の沼地であれば、複数を同時に相手取るのは私でも遠慮したいが」

 

 遠くから眺めている間も、『山羊頭のデーモン』は地面へと大鉈を振り下ろし続けていた。

 

 他の冒険者の死体もあったのか、その周囲には幾つかの原型を留めていない肉塊がある。

 

 あの大鉈を何度も何度も叩きつけられる内に細切れになったのだろう。

 

 「ねぇ……あのデーモンは何をしてるの? 死体にあんなことして……ああいう種族?」

 

 「いや、そんな習性はないはずだが?」

 

 「彼奴等の習性に関しては後にしておきましょう。さて、どうしますかな?」

 

 「ああ、俺が三体同時に相手をするから、二人は後の二体を頼む」

 

 「私、回避し続ける自信はあっても、倒す程の力はないから早めに助けてね?」

 

 「吾輩は騎士殿のように上手くやれるとは限りませんが、狼が山羊に負けたとなれば笑いものでしょうな」

 

 などと冗句を言い、狼人(ウェアウルフ)は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 「では、行動開始だ」

 

 ソウルから『黒騎士の大剣』を取り出すと、先陣をきる。

 

 私たちの接近に気付き、先程まで死体を細切れにしていたデーモン達がこちらに振り向く。

 

 「はぁ!」

 

 私は先頭の一体へ大剣の突き(片手強攻撃)を放つ。その攻撃は喉へ突き刺さっ(クリティカルし)た。

 

 喉へ強烈な一撃を喰らったデーモンは、苦しそうに後退る。私は追撃として『大火球』を顔面へ投擲した。

 

 『グルゥゥゥ……』

 

 先頭の一体は膝を付き、前へ倒れ伏す。他のデーモンは仲間が殺された事に怒りを覚えたのか、四匹とも私の方へと走り出すが――

 

 「おっと、全員は行かせませんぞ」

 

 「アンタの相手は私よ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)はその超人的な身体能力で飛び掛かり、鋭い爪をデーモンへ突き立てている。

 

 闇人(ダークエルフ)の方は、投げナイフでもう一体の気を惹き付けるようにして逃げ回る。

 

 結果、私の元へ来たのは二体のデーモンだ。この程度ならば問題はない。さっさと片づけるとしよう。

 

 「(主人)のいない貴様らなど相手ではない」

 

 一体のデーモンが大鉈を振るう。私が後方へ避けると、もう一体が跳躍して上から叩きつけるように斬撃を繰り出すが、慌てず横に回避する。

 

 「相変わらず、隙が大きいな!」

 

 跳躍して大鉈を叩きつけたその一体の両腕へと大剣を振り下ろすと、その一撃でデーモンの両腕は切断された。

 

 『ガァァ!!!』

 

 「さっさと死ぬといい」

 

 怯んだ隙に加えたとどめの一撃で、デーモンの首が宙を舞う。やはり、デーモンといえど下位(レッサー)ゆえに大したことはない。

 

 「さあ、残りはお前一匹だ」

 

 『グルゥゥゥ!!』

 

 知恵のある生物なら恐怖で逃げるかもしれんが、奴らにはそんなものなどないだろう。

 

 「攻撃の予備動作で何をするか分かり易い……」

 

 横薙ぎの大振りが二回来る。盾でそれを受け流し、攻撃の隙に斬りつけた。

 

 「仲間の救援に行かせて貰うぞ」

 

 デーモンが攻撃に怯んだ隙に盾を背負い、大剣を両手で持つ。

 

 大剣を下から上へ勢いよく振りぬく(両手強攻撃を加える)と、デーモンの頭部が左右に割れる。

 

 「ふぅ……」

 

 一息吐いて仲間の方を見ると、狼人(ウェアウルフ)はデーモンを圧倒しているようで、デーモンの片腕があらぬ方向へ捻じ曲がっている。

 

 「ハハハハ! デーモンと言えど所詮は山羊! 我が神、同胞の血肉となるがいい!」

 

 デーモンも片手で応戦するが、狼人(ウェアウルフ)に懐へと潜り込まれ、喉元へ喰らい付かれる。

 

 急所を押さえられたデーモンはジタバタと抵抗するが、次第に抵抗する力も弱まっていき、呆気なく絶命した。

 

 「(まさ)しく狼が山羊を狩るが如く」

 

 「ちょっと!二人共、終わったなら助けて!」

 

 闇人(ダークエルフ)の方はといえば、デーモンの大振りで分かり易い攻撃が身軽な彼女に当たるはずもなく、見事な身のこなしで難なく回避している。

 

 「助けなくても余裕そうだがな」

 

 「しかし、闇人(ダークエルフ)殿の武器では決め手に欠けるでしょうからな」

 

 私たちは闇人(ダークエルフ)の加勢へ向かう。その後は特に問題も起こらず、三人で一匹を袋叩きにするのだった。

 

 デーモンと聞いて事前の準備をしっかりとして来たが、頼もしい仲間が居ることも相まって、二度目のデーモンとの邂逅はあっさりと幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

▼ゴブリンスレイヤーになる者、勇者となる少女、デーモンを殺す者

 

 「……」

 

 彼は、ある村でのゴブリン退治——正確にはゴブリン共から村を防衛する依頼を受けていた。

 

 本当ならば、白磁等級の冒険者が一人で受けるような依頼ではない。

 

 だが、粗方の他の冒険者達は、鉱山に現れた岩喰怪虫(ロックイーター)の討伐に向かってしまった。

 

 そもそも、ここ数日彼を誘おうとするものすらいない。それもそのはずで、その原因たる彼の装備は対ゴブリン用の装備として更に完成へ近づいていた。

 

 盾はゴブリンに対して大きさはいらない為、中盾から小盾に替えた。その縁は金属の環で覆ったものとなっている。

 

 (騎士)から貰ったショートソードは、血に濡れて切れ味は悪くなっても刃毀れする事がほぼなく、今でも愛用している。

 

 ただ、その他の剣は武具屋で買った数打ちを磨り上げ、ショートともロングとも言い難い長さの剣となっている。

 

 真新しい革鎧は泥と血反吐に汚れ、すっかり薄汚く変貌した。

 

 こんな彼を冒険へ誘う者はいない。それでも以前と変わらず声を掛けてくるのは、初日に助言をくれた騎士姿の彼と槍使いの新人くらいのものだ。

 

 「ねーねー、『貴方も』冒険者さん?」

 

 そんな彼に声を掛けたのは活発そうな少女だった。冒険者が物珍しいのか、ジロジロと彼の装備を見る。

 

 「ああ、そうだ。ここがゴブリンが出るという村か」

 

 「そーだよ! じゃあ、案内するね!」

 

 少女に連れられて辿り着いたのは村にある寺院だった。

 

 「もう、外には出るなと言ったでしょう!」

 

 「だって…」

 

 寺院へ到着した途端、少女は院長にお叱りの言葉を受けた。それも当たり前のことで、ゴブリンが現れた村で子供一人で出歩くなど『攫ってください』といっているようなものである。

 

 子供を心配する大人ならば普通の対応だろう。

 

 「院長の言う通りだぞ、少女よ。あまり院長を困らせてはいけない」

 

 「あっ! 騎士様!」

 

 「さあ、部屋へ戻るんだ。後でまたお話しよう」

 

 「はーい!」

 

 寺院の奥から現れたのは彼もよくお世話になっている人物だった。

 

 「貴公がこの村に来ているという事は、やはりゴブリンがここへ来るのだな」

 

 「アンタは何で此処に?」

 

 「デーモンの討伐が予想外に簡単で早めに帰って来たのだが、その途中『ゴブリンの襲撃に遭った村』を見た」

 

 「………どれ位の日にちが経ってたか分かるか?」

 

 「死体の腐敗具合からして1週間は経っていたな」

 

 「襲撃はまだかもしれないが…」

 

 「次の襲撃は此処だろう。小規模だが偵察が来ていた」

 

 「数はどれくらいだと思う?」

 

 「軽く見積もっても30以上だ」

 

 「そうか…」

 

 彼の言葉を聞いて黙る。予想よりも事態は深刻だった。

 

 「巣を失った渡り程度だと予測していたが…」

 

 「正確には渡り『だった』だな」

 

 「ここで止めなければ爆発的に増えていくだろうな」

 

 「既に村を襲う時点で一定の数は揃っている。後は増えるだけだ」

 

 そんな二人の不穏な会話を院長は不安げに見詰めている。30を超えるゴブリンの群れ……そんなものに白磁の冒険者二人で対応できるのかと不安なのだ。

 

 「何か私どもにお手伝いできることはありますでしょうか?」

 

 「……金は払う。しばらく……三日程は世話になると思う」

 

 「わかりました……。何かお手伝いできることがございましたらおっしゃって下さい」

 

 院長は宿泊代を受け取ると、部屋を用意しに行くのか奥へ戻っていった。

 

 「まず、村周辺の確認をする」

 

 「私も手伝おう」

 

 「……恐らく、ギルドからは報奨金はそれほど出ないぞ?」

 

 「いいさ、自分が関わらなかったせいで村が滅ぶ方が寝覚めが悪い。この村に滞在していたのもゴブリンを迎撃するためだ」

 

 「そうか……すまない……」

 

 「私も一人でこの村を守るのは困難だった。渡りに船というやつだよ」

 

 その後、彼と村の周辺を見て回った。

 

 ゴブリンが来る前に収穫をして貰い、その傍らで水路の水かさを上げる。その他にも新たに柵を設置するなど、ゴブリンにバレないよう広場ではお祭りを行いつつ、村人たちにも交代で設置を手伝ってもらった。

 

 襲撃はその3日後の夜だった。

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 赤い月が昇り、それに続くように緑の月も昇る。空には暗雲が立ち込め始めた。

 

 甲高い雷鳴と共に青白い光が夜空を切り裂き、ポツポツと降り始めた雨粒が大地へ吸われていく。

 

 「今夜は雨が降りそうだな」

 

 「ああ、恐らく奴らはそれに乗じてこの村の襲撃に来るだろう」

 

 人間にとっては最悪(ファンブル)のタイミングでも、ゴブリンにとっては最高(クリティカル)のタイミングだ。

 

 さあ、最終局面(クライマックスフェイズ)だ。











デーモンはダイスを振ったら山羊君になりました。
本当はデーモンで丸々一本行く予定でしたが、山羊君が弱いのが悪い。

デーモン遺跡上の5体の山羊君たちを予習の為に狩っていたんですが
何故か数が多くてもさほど苦戦しませんでした。

「あっ!これ強く書くのは無理だわ」とそうそうに諦める
狼人(ウェアウルフ)さんと闇人(ダークエルフ)さんは
またいつか出番が来るでしょう、きっと、たぶん、メイビー


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襲撃の夜(クライマックスフェイズ)、物語の一区切り

 二人の冒険者と多数のゴブリン。普通に考えれば、村を守る冒険者が不利だ。

 

 更に冒険者はゴブリンと聞くと雑魚だからと侮る。だが、この場にゴブリンを侮る者はいない。

 

 この三日間は監視しているだろうゴブリンの目を掻い潜り、村周辺に柵を立て罠を仕掛けた。四方から囲まれるように来られては村の人間を守り切れない。

 

 その為、ゴブリン共の来る方向を制限する。わざと柵の一部を壊れやすくし、入って来るように誘導した。

 

 奴らは自分達が罠を仕掛けることはあるのに、罠を仕掛けられるとは考えもしない。

 

 さあ、準備は整った。後は獲物が掛かるのを待つだけだ。

 

 夜の暗さに慣れた目が遠方から来るゴブリンの群れを捕捉する。数は約40、一番後ろにはゴブリン・シャーマンらしき姿も見える。

 

 ゴブリン達は村へ着くと群れを半分に分けて、もう半分は裏手へ回った。

 

 「来たみたいだ」

 

 「ああ、反対側からもだ」

 

 「…あちらは任せた」

 

 「任された。貴公、死ぬなよ?」

 

 「……善処する」

 

 新人は松明に火を着けるとゴブリンの元へ走り出し、柵を壊して村へ入り込むゴブリンへ斬りかかる。柵は上手く機能しているようで早々には突破されないだろう。

 

 「私も行くか…」

_______________________________________

 

 彼に村の反対方向を任せ、村へ侵入するゴブリンに集中する。柵によって侵入する道は狭く、一気に村へ侵入する事を防いでいる。

 

 「一」

 

 先頭を歩いているゴブリンの頭へ棍棒を振り下ろす。グシャッという音と共に脳漿が弾け飛ぶ。

 

 二体目が自分へ剣を振り下ろす。それを盾で受け止め、剣が革盾に食い込んでいる隙にゴブリンの死体から剣を奪い取り斬りつける。

 

 「二」

 

 ゴブリン共の後ろで弓を引くゴブリン共を発見した。放置するのは厄介だ。彼から貰った『黒い火炎壺』を投擲。

 

 綺麗な軌道を描いたそれは弓ゴブリン達の中心に落ち、砕け散った壺からは大量の油が飛び出した。

 

 その油に火が着くとたちまち燃え広がり、周囲のゴブリンもまとめて燃える。

 

 この雨の中でも炎の勢いが衰えない。そんな炎で焼かれるのは生き地獄だろう。

 

 「七」

 

 ゴブリンは仲間が減ったから不利とは考えていない。むしろ、自身の分け前が目の前の只人のおかけで増えたとすら考えているだろう。

 

 所詮は自分の事しか脳にない畜生だ。奴等には慈悲など必要はない。

 

 例え、善良なゴブリンが居たとしてもこの場にいるのは一体残らず『醜悪な化け物』なのだから。

 

 「十一…」

 

 流石のゴブリンも自分達が不利だと気づき始めたのか、数体は逃げ始める。

 

 「無駄だ」

 

 逃げるゴブリンは足元の何かに引っ掛かり躓く。それはスリッパのように編み込まれた草だった。

 

 これは入るときには引っ掛からないが、村から出ようとして『逃げると引っ掛かる罠』。

 

 「ゴブリンは皆殺しだ」

 

 最初から逃がすつもりはない。一体残らず殺し尽くす。この村に設置された罠は迎撃するためだけでなく、村に来たゴブリンを『逃がさない』ためでもある。

 

 連携の取れないゴブリンを一体ずつ処理していく、気付けば残り一体となっていた。

 

 「二十一…これで最後か」

 

 怪我はないが、ここ数日気を張っていたからか疲労が酷い。少しふらつくが体勢を立て直して歩く。

 

 もう、彼の方も終わっているだろう。

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 ゴブリン・シャーマンが率いる群れ20匹が、村を襲っている群れとは別に行動している。

 

 物見のゴブリンからの報告では、冒険者らしき人間は『ひとり』。別々の方向から攻めいれば、冒険者は一方に気をとられて背後をとれるだろう。

 

 ゴブリン・シャーマンはそう考えていた。所詮は人間一人が守る村、今回も女と食料を大量に奪えると既に勝った気でいるようだ。

 

 僕のゴブリン達へ命令を出すとゴブリンたちは我先にと村へ駆け出す。

 

 反対側の柵とは違い、『ギリギリ乗り越えられそうな柵』を越えようと数体のゴブリンが登る。すると…

 

 『ガァ!』

 

 そのゴブリンの頭部へ矢が刺さる。何故?柵の先には何もない。

 

 『人間の姿が見えない』のに矢が飛んでくる。どうして?どうして?と考えている内に次々とゴブリンの頭部へ矢が突き刺さる。

 

 後続のゴブリンは死んだゴブリンを盾にしながら、乗り越えようとする。しかし、不可視の襲撃者は角度を変えてゴブリンたちを射ぬいていく。

 

 そんなゴブリンたちの様子に痺れを切らしたゴブリン・シャーマンが魔法で柵を破壊する。

 

 残りのゴブリンたちはその破壊された場所から続々と侵入。

 

 矢が何匹かに刺さるが死んだ奴を盾にして、結果シャーマンを含めた9匹が村へ侵入した。

 

 やった!やってやったぞ!と喜ぶゴブリンたち。しかし、彼らが最期に見たのは仲間の首元で輝く金色だった。

 

 

 

 

 

 ゴブリン・シャーマンは恐怖した。やっとの思いで柵を突破したと思ったら、暗闇の中で何かが金色に光ると共にゴブリンたちが首から血を噴き出して死んでいく。

 

 何が起きているのか理解できない。どのような方法で殺されているのかもわからない。

 

 恐怖したゴブリン・シャーマンは逃げ出す。今ならまだ逃げることができるかもしれない。

 

 他のゴブリンを置き去りにして逃げ出したが、暗闇からあるものが飛んでくる。

 

 『グァ!』

 

 ナイフだ、ナイフが肩へ突き刺さる。だが、最弱の魔物ゴブリンといえどその上位種のシャーマン。

 

 その程度の攻撃では致命傷にはならない。シャーマンは気にせず走り出そうとする。

 

 だが、足に力が入らず倒れ伏す。前へ進もうとするが上手く力が入らない。

 

 シャーマンの肩に刺さっているのは『毒投げナイフ』だ。毒で力が入らず地面で無様にもがいていると、残りのゴブリンの断末魔が聞こえた。

 

 襲撃者の位置はわからないが残りのゴブリンの断末魔が近づいてくることから、確かに自分にも死が迫っているのだと感じた。

 

 その恐怖の存在から逃げようと必死に地面を這いずる。生き残れれば次がある。今までもそうだった、次こそは上手くやる。

 

 そんなシャーマンの前に絶望が立ち塞がった。半透明の全身鎧の人間だ。

 

 『お前のような化け物に次はない』

 

 シャーマンが最期に目にしたのは黄金の残像が己に振り下ろされる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 「これで終わりか」

 

 ゴブリン・シャーマンの死亡と周囲の安全を確認してから指輪を付け替える。

 

 先程まで付けていたのは『静かに眠る竜印の指輪』と『霧の指輪』。

 

 『霧の指輪』に関しては、ここ数日は村の中でも屋外では付けていた。

 

 かなり近くまで近づかないと存在に気づきも出来なくするこの指輪は、暗殺や偵察に向いている。ゴブリン共は私がこの村に居ることも知らなかっただろう。

 

 その指輪と併用してよく使うのが『静かに眠る竜印の指輪』。指輪をつけているものの出す音を消すという効果を持つ。

 

 武器は『黄金の残光』。高い出血効果と振り回しやすい武器であることからロードランでも猛威を振るっていた。

 

 ゴブリン程度ならば一度でも斬りつければ、そこから止めどなく血が溢れだして死に至る。

 

 「しかし、ゴブリン・シャーマンか…」

 

 足元で転げている死体を見る。最弱にして低俗な生物。しかし、そんな魔物ですら魔法を使える。才がないと言われた私としては複雑な気持ちだった。

 

 「余裕ができたら、魔術について学んでみるか?…」

 

 神に祈る必要(信仰)のある奇跡は学ぶつもりはないが、数年かければ『ソウルの矢』くらいは撃てるようになるかもしれない。

 

 「手札は多いに越したことはないからな」

 

 魔術を学んでみようという決心をしていると、前方から新人が歩いてくる。怪我をして血を流している様子はない。無事だったのだろう。

 

 「大丈夫だったか?」

 

 「問題ない」

 

 「そうか、これから寺院へ依頼達成の報告をしに行く。一緒に来るか?それとも先に帰るか?」

 

 「帰る?」

 

 新人は帰るという言葉に反応し、少しばかり思案するとこちらを向き直す。

 

 「ああ…帰る。待ってる…人がいる」

 

 「そうか。なら帰って安心させてやれ。私はもう少しここに滞在する」

 

 「わかった」

 

 新人は少しふらつく足取りで帰っていく。雨なのだから止んでから行けばいいと思うが『待っている人』というのが大切なんだろう。

 

 「『大切な人』か……ん?」

 

 足元に短剣が落ちている。それは鷲の頭を模した柄頭の短刀だった。

 

 ゴブリンが使っていたのだろうか?気になった私はそれをソウルへ仕舞い込み、報告をするため寺院へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 ドンドンドン、ドンドンドンと寺院の扉を叩く音で目が覚めた。

 

 「ん、ん?」

 

 その音に一人の少女が目覚める。他の子供達は眠っているか、ゴブリンが来たという恐怖で毛布を深く被っている。

 

 院長は音に気付いていないのか眠っている。少女は扉の前へ行き、尋ねた。

 

 「誰ですか?」

 

 「私だ、ゴブリン共はいなくなった」

 

 その声は数日前から滞在している騎士様の声だった。時間のある昼間などには英雄譚を聞かせてくれる彼の声はよく覚えている。

 

 「いま、開ける!」

 

 内側の施錠を外し、中へ入れる。騎士様は外の雨で濡れていた。

 

 「お疲れさま。もう一人の冒険者さんは?」

 

 タオルを渡すと騎士様は兜を脱ぎタオルで拭く。その顔は明かりのない夜でははっきりとは見えなかった。

 

 「すまないな、これ以上濡れていては風邪を引いてしまう。彼は先に帰ってしまった。どうやら待ち人がいるらしい」

 

 「そっか…それならしかたないね」

 

 本当はもう一人の冒険者さんともお話したかった。彼は滞在している間はずっと忙しそうにしていたから、それほど話す機会はなかった。

 

 「騎士様はどうするの?」

 

 「あと一日くらいはここにいるよ」

 

 「お話もしてくれる?」

 

 「ああ、そういえばどこまで話した?」

 

 「えっとね…『竜狩りの騎士と処刑人』の二人を倒したところ!」

 

 「そうか…じゃあ明日はその続きから話そう。だが今はまだ夜だ。もう眠りなさい」

 

 「はーい」

 

 少女は、明日聞かされる話はどんな冒険譚なんだろうと楽しみにしながら眠りについた。

 

 この出会いは偶然かもしれない。だが、この出会いは彼女に影響を与えた。

 

 彼女の中の英雄『名も無き不死人』の冒険は後に『勇者』と呼ばれる彼女の胸のなかにしっかりと刻み込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

▼ある侍祭の奇跡

 

 「ごめんなさい、薬草を持ってきてくれる?」

 

 「はっ!はい!」

 

 先輩にお願いされて薬草を取りに行くのははまだ10歳にも満たない少女だった。

 

 今日、鉱山の岩喰怪虫を討伐した冒険者達が帰り、その多くが負傷していたためにこの教会へ運び込まれた。

 

 その冒険者たちを治療するのに教会は大忙しだった。

 

 「薬草もってきました!」

 

 「ありがとう、ここは大丈夫だから他を手伝って」

 

 「わかりました!」

 

 他の場所へ移動していると不意に声をかけられる。

 

 「オーイ!嬢ちゃん!」

 

 「えっ!あっ!わ、私ですか?」

 

 声を掛けてきたのは槍を持った冒険者。革鎧の冒険者に肩を貸すようにして立っている。

 

 「ああ、こいつを寝転がす所を教えてくれ」

 

 「はい!こちらです!」

 

 礼拝堂の椅子へ先導していく。槍を持った冒険者はその椅子へ革鎧の冒険者を寝かした。

 

 「この方も鉱山で?」

 

 「いんや?ゴブリンだろ。怪我とかじゃなくて過労だろうな。特に怪我をしてる様子もないし、毒を食らってるわけでもなかった。最近、働きすぎなんだよコイツは」

 

 槍を持った冒険者は呆れ顔でそう言うと少女に後は任せたと教会を出ていった。

 

 先輩に革鎧の冒険者をどうすればいいのかと訊くと

 

 「うーん、重傷でもないなら後回しだね。ごめんだけど、この包帯を洗ってきてくれる」

 

 「わかりました…」

 

 その後、任された包帯洗いをしているがどうにもあの冒険者の事が頭から離れない。

 

 「何かしてあげられないでしょうか?」

 

 そんな彼女の脳内にある言葉が思い浮かぶ。

 

 『守り、癒し、救え』

 

 地母神の教え、その根幹だった。すると、少女は自然にある文言を唱える。

 

 「──いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者の傷に、 御手 をお触れください。」

 

 それは奇跡を為す言葉。少女は今日初めて奇跡を起こした。

 

 「っ!?っは!…い、今のは…」

 

 包帯を洗っていた洗濯桶へ汗が滴り落ちる。奇跡を行使する初めての感覚に驚いたのだろう。

 

 少女は桶へ手を突く、石鹸と水に血の混じった匂いがツンと鼻に刺さる。

 

 少女の奇跡は確かに彼に届いた。直接喋ったわけではないがこれがゴブリンスレイヤーと後に女神官と呼ばれる少女の初めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

▼彼の名は…

 

 村からギルドへ戻ると見慣れた人物たちがギルドの一角を占領してる。

 

 女戦士、女神官、女魔術師、闇人に狼人の五人だった。こちらに気が付くと手を振ってこちらだと誘導する。

 

 「お疲れー!」

 

 「騎士殿、報告ご苦労である」

 

 「いいや、二人もデーモンの件は世話になった」

 

 「聞いたよ、帰りにゴブリン退治してきたんだって?」

 

 「それも今、噂のゴブリンスレイヤーと」

 

 「ゴブリンスレイヤー?」

 

 誰だそれはと聞き返すと

 

 「ほら、貴方が初日に武具屋で助言してた彼よ」

 

 「彼、白磁から黒曜になるみたい」

 

 「その時についた彼の呼び名が小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)だよ」

 

 「ゴブリン退治の依頼しか受けてないからね」

 

 「成る程な、確かに彼だと分かりやすい名だ」

 

 「貴方もだよ!」

 

 「何がだ?」

 

 「昇級ですぞ、今回の報告で貴殿の実力が確かなものだと証明されましたからな」

 

 「取り敢えずは白磁から黒曜ね。ほら、受付に行ってきなよ」

 

 「わかった、少し待っていてくれ」

 

 私は新たな等級のプレートを受け取りに行く。彼らは私が去った後も話に華を咲かせていた。

 

 「彼、気づいてるのかな?」

 

 「気づいてないでしょ」

 

 「割りと鈍感なところありますからね」

 

 「ゴブリンスレイヤーよりも先に有名になってたのにね♪」

 

 「然かり、ですがそう呼ばれるのも納得ですな」

 

 後に聞いた話だが私にも呼び名が付いていたそうだ。

 

 『悪魔を殺す者(デーモンスレイヤー)

 

 この呼び名のせいで厄介な依頼が次々と舞い込むことになるのだが、それはまた別の話。




『ある野伏の短刀』

ある村で家族と共に暮らしていた野伏の男の短刀。
彼の死後も大切に保管されていたこの短刀は、
ある事件を期に彼の子供たちの持ち物でなくなった。

対となる翼の模様のある鞘は遠く、辛い思い出の中…









イヤー・ワン編、一応完結!
次からは本編を進めます。
ただ、時々過去編を挟むかもしれません。
ゆっくりと更新を頑張るので応援よろしくお願いします。


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蝶の羽ばたき(バタフライ・エフェクト)

…貴方も、不死なのでしょう?

ならば、馴れ合いは不要です
お互い、己の使命を果たしましょう

…さもなくば、我々はただの呪われ人です


▼王都の会議室にて…

 

 王都の会議室、早朝より始まったそれは正午を迎えようとしているが終わる気配はない。

 

 それもそのはず、この会議は今までの貴族同士の腹の探り合いや蹴落とし合いの類ではないのだから。

 

 『魔神王の復活』

 

 今から約10年前に混沌の軍勢を率いて現れた災厄。その『魔神王』が復活した影響で悪魔(デーモン)などの活動が活発になった。

 

 そのような理由で早朝から大臣、赤毛の枢機卿、褐色肌の宮廷魔術師、近衛騎士団長、名門貴族、学者、商人ギルドの長などが集まり御前会議が開かれた。会議室の中には金等級の冒険者も居り、その多くは王国の冒険者ギルド以外の機関にも属していたりする。

 

 そんな中、一人だけ銀等級の認識票を掲げている冒険者が居た。全身鎧に紋章の彫られた盾、漆黒の剣には悪魔(デーモン)を殺す力が秘められている。

 

 「魔神王の復活は最悪の事態だが…各地で暴れまわる悪魔の対処は彼に任せてある」

 

 「それにしても何故貴方は金等級への昇級を拒むのですか?悪魔殺し(デーモンスレイヤー)殿」

 

 その言葉を皮切りに先程のからチラチラと伺うような視線が、ジッと凝視するものに変わる。その視線の先には件の彼だ。

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 「(面倒だな…これならば会議に出席するのではなかった…)」

 

 国王と大臣の言葉によって自身に注目の視線が向けられているが面倒だというのが私の思いだった。銀等級の認識票を掲げられているからだろう。

 

 金等級の冒険者の中には国王や大臣に信頼を置かれている私を快く思っていないものもいる。先程から感じる冒険者からの視線が鬱陶しい。

 

 「簡単な話です…金等級になってしまえば、一つの場所に縛られる。私はそれを望まないからです」

 

 「貴殿はあの『遺跡群』の調査を主としているのだったな…」

 

 「各地のギルドで発見報告が上がるとそれを調査するため移動しますから、何処かに留まることはありません」

 

 「ですが、貴方は辺境のギルドに家と『神殿』をお持ちですよね?」

 

 赤毛の枢機卿が微笑みながら私に話を振る。その微笑みの奥に何が隠されているかなど考えたくはないものだ。

 

 「あそこは『孤児院』ですよ…決して『神殿』などという仰々しいものではありません」

 

 「ですが、そこでは貴方の信仰している『太陽神』を信仰されているのでしょう?」

 

 「訂正するならば、『太陽神の長子』です。彼らに信仰の強制はしていません」

 

 この世界に来てから五年の月日が流れようとしている。

 

 私は未だに基本的な拠点は辺境のギルドに置いている。その理由の一つが件の『孤児院』。

 

 最初は怪物たちによって村が滅ぼされ、行き場を失った女子供を匿う場所として開いた場所だった。

 

 私の趣味の武器や道具を購入する以外で使い道のない悪魔討伐によって得た多額の報酬金をつぎ込んだもの。

 

 現在はその居住者たちが『太陽信仰』を始めたことから、『太陽の神殿』と呼ばれるようになった。

 

 所謂、新興宗教の類であるが同じく辺境に神殿を置き、収穫祭などの行事で手伝いも行う『地母神』やよく悪魔討伐の依頼が舞い込む『至高神』の勢力からは快く迎え入れられていた。

 

 私としては何故こうなったのかと頭を抱える事態だったが辺境の民には迎え入れられ、最近は人数が増えてきたため増築するという話も上がっている。

 

 「邪教の類ではないのだから私としては何も言う事はない。すまないが宗教の派閥争いは今度にしてくれ」

 

 そんな宗教が絡んだ厄介な話題は国王の一言で収まった。枢機卿は苦手なタイプの人間のため、心底助かった。

 

 「本題に入ろう…勇者候補が見つかった」

 

 「やはり、彼女は勇者の器でしたか?」

 

 「ああ、貴殿の言う通り。彼女は規格外の冒険者だ」

 

 「国王、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)殿…他の方々が現状を把握できていませんぞ」

 

 「おお、そうだったな。経緯を話すなら件の勇者候補は悪魔殺し(デーモンスレイヤー)殿の推薦だった」

 

 その発言にまた私へ注目の視線が集まる。

 

 「彼女は辺境の民である村の孤児院の少女。昔にゴブリンの襲撃からその村を守ったのが切欠で私は彼女が冒険者になると言い始めた頃に少し稽古を付けていただけです」

 

 「彼女は白磁の頃から既に才能の片鱗を見せているようですな。魔法は一日に六度行使しても問題なく。初めてのゴブリン退治の際に聖剣を抜き、『魔神将』の一人を撃破しております」

 

 「やはり、勇者というのは規格外なものだな…。何故、彼女が有名になっていないかという話だが。冒険者ギルドや王国の機関で彼女の存在を隠しているからだ」

 

 「何故、そのようなことを?」

 

 「不用意に祭り上げ、混沌の勢力に存在を悟られるのは愚策だ。此度の闘いは隠密に徹し、早々に『魔神王』との決着を付けるつもりだ」

 

 「既に彼女は二人の仲間と共に王都を旅だった」

 

 「ですが、王。それでは民衆は不安がるのではないでしょうか?勇者の存在というのは民衆に大きな安心感を与えます」

 

 そう勇者が現れるというのは魔神王との闘いが激化する時代において希望の光。その存在を隠し続けるというのは民衆の不安を煽ることにもなり得る。

 

 「それは問題ではない、今回は悪魔殺し(デーモンスレイヤー)がいる。民衆にとって悪魔を屠る彼の活躍は勇者にも匹敵する」

 

 「つまり、勇者殿が魔神王を討伐するまでは悪魔殺し(デーモンスレイヤー)殿が王都へ居座るのですか?」

 

 「それでは意味がないだろう、王都だけが無事では何の意味もない。恐らく混沌の勢力も悪魔殺し(デーモンスレイヤー)を警戒している。故に表では悪魔殺し(デーモンスレイヤー)が動き、裏では勇者一党が各地を回り混沌の勢力の拠点を攻める」

 

 「では、どのように?」

 

 「先程、森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)の王から会談の手紙が届いた。どうも、既に各国にも悪魔の被害が及んでいるようだ。悪魔殺し(デーモンスレイヤー)には今後も悪魔討伐の依頼に協力」

 

 コンコンと会議室の扉が叩かれた。一体誰だと皆がそちらを向くと私の世話係のメイドだった。

 

 「皆様、すみません。悪魔殺し(デーモンスレイヤー)様の馬車がご到着しましたので…」

 

 「時間のようですね。私は抜けさせて貰いますがいいですか?国王」

 

 「ああ、すまない。今後、依頼は手紙を送る。それまでは悪魔殺し(デーモンスレイヤー)は待機、辺境のギルドに戻って貰って構わん。指名の依頼に関しては最優先で頼む」

 

 「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 私は会議室を出る。すると後ろから声が掛かる。

 

 「やっと終わったみたいだね!」

 

 それはこの世界に来てからの付き合いである闇人(ダークエルフ)盗賊(シーフ)。彼女とはあの依頼以降ずっと一党(パーティ)を組んでいる。

 

 狼人(ウェアウルフ)戦司祭(ウォー・プリースト)の彼は現在。自分の集落に帰省している。手紙は度々送られてくるので元気にしているようだ。

 

 「読書で退屈しのぎをしていたんだけど、まさか馬車が来るまで待たされるとはね」

 

 「すまない。私も時間が来て会議を抜け出しただけだから会議自体は続いている」

 

 「うへぇー…私はそういう長い会議は勘弁だなァ…。君の作戦会議は要点を纏めて分かり易くて好きだよ?」

 

 「そうか、話の続きは馬車に乗ってからにしようか」

 

 「おっけー!」

 

 こうして私と彼女は久方ぶりに王都を離れ、古巣である辺境のギルドに向かった。

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

▼少女神官の旅立ち

 

 手には錫杖、身に纏うは聖なる衣と見るからに聖職者という服装。今日、一人の少女が冒険者としてこの教会から巣立とうとしている。

 

 「旅立ちの日が来ましたね」

 

 「はい、私に何ができるかはわかりません。ですが、司祭様のような立派な冒険者になれるように頑張ります!」

 

 「貴女は冒険者に成らずともその才能と勤勉さであれば、立派な聖職者にはなれると思いますが…。それは本人が決めることですね、私は貴女が決めたことを尊重します」

 

 「司祭様も冒険者としての活動は少なくなっていますが、お仲間と冒険者してらしたんですよね?」

 

 「相方が現在は都の方へ長期の依頼へ向かってから、それほど多くの依頼は受けてませんからね…」

 

 司祭が眺めるのは首に掲げられている銀のプレート。彼女が社会へ多くの貢献をし、在野最上位の冒険者であることを示す証だ。

 

 「冒険者とは過酷ですよ?私も彼女も『彼』に助けられてなければ、こうして生きてもいられませんでしたから…」

 

 「彼とは『悪魔殺しの騎士』様の事ですよね?時々、教会にも来てくださってました」

 

 「ええ、彼には大分お世話になりました。今は王都に居ますが近々帰って来るそうです。ギルドで見かけたらアドバイスを乞うのも手でしょう」

 

 「私みたいな新人に答えてくれるでしょうか?」

 

 「新人だからこそ真摯に答えてくれますよ?あの人は世話焼きですからね♪」

 

 司祭は昔を思い出しているのか穏やかな笑みを浮かべている。

 

 「それではいってきます!」

 

 「いってらっしゃい。貴女の旅路に地母神様と太陽の導きが在らんことを…」

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 地母神の神殿から数分歩けば、辺境のギルドに着く。女神官も何度か足を運んだことはある為迷わずに辿り着いた。

 

 「私…本当に冒険者になるんですね…」

 

 今までのように配達で来るのではなく、冒険者の一人として訪れたギルド。その扉はいつもよりも重く感じられた。

 

 ギルド内では朝であるのだが、冒険者たちで賑わっている。その光景に女神官は呆気にとられた。

 

 そんなギルドの一角で槍を持った男と大剣を背負った男が談義している。

 

 「そういえば聞いたか?」

 

 「ん?なんだ?」

 

 「万機使い(オール・ラウンダー)の旦那。また王都の悪魔狩りで大活躍したそうだぞ」

 

 「そういえば、数日前から旦那の事を謡う吟遊詩人が新しいのを謡ってたな…それか」

 

 「だが、王都周辺では魔神王復活の噂も広がっている。それに旦那が活躍してるってことはそれほどまでに悪魔が多いってことだ」

 

 「中級くらいならどうとでもなるが、上級とバッタリと出くわしてポックリ逝くなんて洒落にならねえ」

 

 「だな」

 

 「準備は…出来たわ…お話…もう…いいかしら?…」

 

 「ん?相方さんがお待ちだぞ」

 

 「おうよ、これから冒険(デート)なもんでね!じゃあな!」

 

 そんな何気ないギルドの一幕。だが、そんな光景すら女神官には目新しく映った。

 

 「あのー…大丈夫ですか?」

 

 そんな呆然としていた彼女に背後から声が掛かった。振り向くとギルドの制服を着た女性だった。 

 

 「すみません、冒険者登録を行いたいのですが…」

 

 「あっ、新人さんですね!ようこそ、冒険者ギルドへ」

 

 受付嬢が見惚れるような微笑み(営業スマイル)で対応する。しかし、それは表面だけの冷たいものではなく、新人に圧迫感を与えないようにという彼女なりの配慮である。

 

 多くの新人冒険者が彼女の微笑みに胸を射抜かれたのは想像に難くない。

 

 「文字の読み書きはできますか」

 

 「はい、神殿で習いましたから…多少なら」

 

 「では、こちらの冒険記録用シート(アドベンチャー・シート)に記入をお願いします。わからない箇所は訊いてください」

 

 手渡されたのは名前、性別、年齢、職業、髪、目、体格、技能…etc.。項目は多いが内容は実に簡潔なもの。

 

 女神官が冒険者になるのにこれだけでいいのかと思わず疑ってしまうほどだった。

 

 「技量点、冒険履歴に関しては空白でお願いしますね。そこは私たちギルド職員が査定しますので」

 

 「わ、わかりました」

 

 緊張でペンを持つ手が僅かに震える。しかし、その震えを抑え込みしっかりとした字で書き綴った。

 

 出来上がった書類を受付嬢が受け取ると記入漏れがないかを確認した後、白磁の小板に銀の尖筆で文字を刻みつける。

 

 「これで登録は終了、こちらが白磁の認識票になります。それでは改めてまして…ようこそ冒険者ギルドへ」

 

 その後は進級やその他諸々についても話を聞く、話は冒険者にとって重要な依頼についての話に変わる。

 

 「私としては下水の巨大鼠(ジャイアント・ラット)の討伐がおススメですが…」

 

 「?…冒険者は怪物と戦ったりするんじゃ?」

 

 「巨大鼠(ジャイアント・ラット)の討伐も立派な怪物退治で社会貢献です。他に白磁の新人さんに出来るお仕事はゴブリン退治ですが…こちらはあまりおススメではありませんね」

 

 「そうですか…どうしましょう…」

 

 今日の所は宿を確保して一旦依頼をじっくりと眺めてみようなどと女神官が考えていると。

 

 「なあ、俺たちと一緒に冒険に来てくれないか?」

 

 「え?」

 

 その言葉で振り向くと居たのは傷一つない胸当てに剣を腰に下げた男の子、髪を束ねて道着を纏った活発そうな娘、杖を手に冷たい視線を向ける眼鏡の娘。

 

 彼らの話を纏めるとこれからゴブリン退治へ向かうのだが、この一党(パーティ)には聖職者が居らず同じ新人の聖職者を探していたらしい。

 

 「わかりました、私でよろしければ」

 

 これも何かの縁だと女神官はその誘いを受けることにした。一人で受けるのは心細い彼女にとっては渡りに船である。

 

 「えーっと…本当にゴブリン退治の依頼で宜しいですか?」

 

 「村娘たちも浚われてるそうだし、急がなきゃいけないだろ?それにするよ!」

 

 「まぁ、待て。お前たち、準備は万全か?」

 

 受付嬢から依頼を受注したら即刻ゴブリンの元へ向かいそうな4人へ声が掛かる。

 

 首には銀の認識票、幾つもの傷のついた鎧に腰の剣。如何にも冒険者というような風貌の男だった。

 

 「あっ!戦士さん、新人の付き添いありがとうございます!次の依頼ですか?」

 

 「水の都に行くことになった、少しの間は帰ってこない」

 

 「出来れば、彼らの依頼に付いていって欲しかったのですが…」

 

 「残念ながら無理だな、ゴブリン案件なら『アイツ』がいるだろ?」

 

 「『ゴブリンスレイヤー』さんは昨日の依頼からまだ帰って来ていません…」

 

 「そうなのか…話は戻るがお前たち、準備はしたのか?」

 

 戦士の品定めするような視線に4人はたじろぐ。そんな中、新人剣士が一歩前に出て発言する。

 

 「だって、ゴブリンでしょ?俺、村に来た奴を追い払ったことがあるよ」

 

 「馬鹿野郎、この依頼は巣穴への突入が前提条件だ。ゴブリン共の巣穴で戦うことの意味を知ってるのか?」

 

 「どういうことですか?」

 

 「まず、洞窟内での隊列の組み方は?誰が先頭で誰が殿を担当する?次には解毒剤(アンチドーテ)は買ったか?巣穴で生活するゴブリンは毒を塗った剣や弓を使用することもあるぞ?他には…」

 

 戦士の口から次々と紡がれる言葉に4人は真っ青になっていく。自分たちがどれだけ無謀な事をしようとしていたのか理解したのだろう。

 

 「まあ、俺が知ってるゴブリンについての情報はこんなもんだが…お前たちはこれらの情報をいくつ知っていた?金が足りなくて準備ができないならまだしも、作戦会議や役割分担すらしてないみたいだな」

 

 「はい…」

 

 「すみません…」

 

 「まあ、新人によくある勘違いだな。楽な依頼なんてない、冒険者は常に死と隣り合わせだ。さっきまで隣を歩いている奴が明日死ぬなんていうのはよくある話だ」

 

 そう話す戦士の目は真剣でその言葉が真実だと理解できる。

 

 「まあ、なんだ。死にたくないならせめて一党(パーティ)内での役割や隊列くらいはしっかりと決めとくことだ」

 

 「はい!」

 

 「じゃあな、俺はこれから荷造りしなきゃなんねぇ」

 

 「戦士さんもお疲れ様です」

 

 戦士は後ろ手で手を振ってギルドを出て行った。四人はその後ろ姿に礼をする、彼の姿が見えなくなると四人は話し合う。

 

 結果、解毒剤(アンチドーテ)は全員で出し合って2本購入し、洞窟内の隊列を決めてからゴブリン退治へ向かうのだった。

 












皆さん、お久しぶりです…
海外出張で年越しをし、その後はハイラルの地でボコブリンスレイヤーになってました。
厄災リンクさんの何でも使え精神はゴブスレさんに似通るところがあると思います。
アニメも終わりましたが、2期を信じてぼちぼちと書き続けようと思います。

ゴブスレ9巻の特典であるゴブスレ事典はいい資料ですね。
魔法が体力点消費だとか各職業のステータス等いろいろ載ってて面白いです。

ダークソウルの方は2、3をぼちぼちやっているのですが
久々過ぎて覚束無い&リマスターに比べてヌルヌル動くので難しいです

今後、2・3要素が出るかは気分次第ですが
出来るだけ面白く書けるようにしたいです
3のゲール爺大好き、かっこいい、闘争本能をくすぐられる


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偶然か必然か

それでは、ご無事で…

さようなら…

火の導きを…



なぜ、私は彼女を引き留めなかったのか…
公爵の書庫で『アレ』を見たとき
後悔の念で押し潰されそうだった


 コツコツと洞窟内に四人分の足音が響く。ここでは太陽の光は奥までは届かない、その為松明が必要となる。

 

 この洞窟に突入する前に隊列を考えた結果、先頭は剣士、二番手は女魔術師、三番手は女神官、殿は女武闘家という順になった。

 

 松明は魔術師が持つことで剣士の先を見えやすく、尚且つ手がふさがらないようにとギルドで教えて貰ったことを実践している。

 

 「うげ…酷い匂いだな…」

 

 「……そうね」

 

 先頭を歩く剣士の言葉に女魔術師が短く同意する。確かに小鬼の生活する匂いというのは酷いものだ。

 

 主に食料となった生物たちの血や繁殖の為に連れ去られた女たちと交わった際の性の匂い。それら狭い洞窟内で混じり合う匂いというのは早々慣れるものではない。

 

 「あー…なんだっけ?入口にあれ…トーテムがあるといるんだったよな?」

 

 「ゴブリンシャーマンね…あの人が言うには罠を使う可能性があるそうよ」

 

 「慎重に進むのがいいでしょうね…私たちに罠に詳しい人がいませんから」

 

 「後ろは私に任せて、数匹なら倒せなくても耐えることは出来ると思うわ」

 

 更に歩みを進めて行くと入口にあったものと同じトーテムが立ててある。

 

 「またトーテムだ…」

 

 「これどういう意味なのかしらね…」

 

 先頭の二人がトーテム近くの通路を通ろうとするとき女神官が気付く。

 

 「お二人共!待ってください!」

 

 「ん?どうした?」

 

 彼女の呼びかけに二人が歩みを止め、戻って来る。

 

 「こちらに横穴があります。恐らく、先程のトーテムは注意を逸らすためのようです」

 

 「私も後ろばっかに気を付けてたから気付いてなかった…ありがとう!」

 

 「まじか…これって奇襲するための横穴だよな」

 

 「これに気付かなかったら挟み撃ちに合うわね…」

 

 「どうしましょうか?」

 

 四人が分かれ道で話し合っていると女武闘家の耳がある音を捉えた。

 

 「ちょっと待って…足音が近づいてくる!」

 

 「まずい!あいつら、俺らの存在に気付いていたんだ!」

 

 「隊列を変更するわよ!剣士と武闘家は前、私と神官は後衛!」

 

 「はい」

 

 そうして隊列を組み直した後に両方の道からゴブリンたちが這い出てくる。見えるだけでも7体、まだまだ奥から現れるのかと思うと油断は出来ない。

 

 「グルゥゥゥ…」

 

 「喰らえ!」

 

 「はぁ!」

 

 前衛の二人がゴブリンを相手する。相手は正面から来ている為、そこまで苦戦はしていない様子。

 

 剣士はしっかりと握り剣を振り、その一撃でゴブリンは絶命する。女武闘家も腰の入った一撃や素早い蹴りで対応していく。

 

 だが、それでもゴブリン全てを相手するには足りない

 

 「数が多い!奥からどんどん出てくる!」

 

 「クソ!剣が血で…」

 

 剣士の剣が血で濡れて切れ味が落ち、武闘家も避けてはいるもののゴブリンの反撃が返ってくるようになる。

 

 そうしている内に徐々に押され始め、奥からはまだまだゴブリン共が押し寄せる。

 

 「私も加勢するわ!サジタ()・・・・・・インフラマラエ(点火)・・・・・ラディウス(射出)!」

 

 女魔術師の放った火矢(ファイヤー・ボルト)が発動する。3体のゴブリンを巻き込み、燃え上がる。

 

 「よし!…」

 

 「サンキュー!」

 

 「助かったわ!」

 

 「皆さん!前から更に増援が来ました!」

 

 少し舞い上がっている三人とは対照的に女神官は冷静に現状を見ている。彼女が使えるのは聖光(ホーリーライト)小癒(ヒール)の奇跡、戦いに参加するのは困難なためだ。

 

 「あ、あれは!」

 

 奥から数十体のゴブリンを率いて二体の風貌の異なるゴブリンが現れた。大きな体躯のゴブリン、田舎者(ホブ)と呼ばれるゴブリンが現れた。

 

 「どうする!」

 

 「大物(ホブ)は私が!サジタ()インフラマラエ(点火)…ラディ…」

 

 「女魔術師さん!」

 

 「矢!何処から!?」

 

 暗闇から到来した矢は魔術師の腹部と杖を持つ方の肩へ刺さる。詠唱が破棄され、動揺した4人の隙を突くようにゴブリンたちが襲い掛かる。

 

 「女神官ちゃんは奥に逃げて女魔術師ちゃんを治療して!」

 

 「このままじゃ、全滅だ!二人は先に逃げてくれ!後で追いつくから!」

 

 「わ、わかりました…」

 

 先程まで順調だったのに一瞬で瓦解する。そんなことはよくある事だ、上位の等級ならばそれらにも対処できる。それを新人へ求めるのは酷という物。だが、それこそが冒険者に必要な技能の一つでもある。

 

 そう、彼らのように冷静な判断と確かな知識を得ようとも必ず成功するとは限らない。それが冒険者の日常なのだ。

 

 前衛二人をすり抜けて3匹のゴブリンが追ってくる。

 

 「女神官……私を置いて逃げないさい…貴女……戦えないでしょう…早く逃げてギルドへ…」

 

 「出来ません!そんなこと!」

 

 「クレスクント(成長)インフラマラエ(点火)!」

 

 短く発動しやすい魔術で女魔術師は迫りくるゴブリンの一体を焼き尽くす。

 

 「全滅なんて…駄目!せめてこの情報をギルドに…あぁぁ!!」

 

 女神官を逃がそうとする女魔術師へもう一匹のゴブリンのナイフが背中に刺さった。

 

 「あ、あ……」

 

 そんな苦悶の表情を浮かべる女魔術師とナイフを刺しながらケタケタと笑うゴブリンの様子に女神官の腰が抜ける。不意に下半身が生暖かくなるのを感じた。

 

 その匂いに反応した片方のゴブリンが女魔術師を離れ、厭らしく顔を歪めながら彼女へ近づいてくる。

 

 「い、いや!来ないで!来ないで!」

 

 ゴブリンに捕まればどうなるかなど冒険者になる者なら理解できている。カチカチと歯が鳴り、震えが治まらない。

 

 これから行われる行為に恐怖し、女神官はギュッと目を瞑った。

 

 しかし、幾ら待ってもゴブリンが近づいてくる様子がない。そうすると背後から声が聞こえる。

 

 「二つ……ギリギリだが…間に合ったか」

 

 その声を聞いて目を開くと、ゴブリンは頭へ短剣が深く刺さり、絶命していた。女魔術師を嬲っていたゴブリンも同様だ。

 

 女神官が振り返るとそこには全身鎧の男性冒険者が佇んでいた。

 

 「あ、貴方は…」

 

 「ギルドからお前たちの様子を見てきて欲しいと頼まれた…俺は小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)だ」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

「あっ……」

 

 呆然としていた女神官も意識を取り戻し、助けてくれた冒険者を見る。

 

 彼の胸には銀の認識票、更に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の名前と来れば西の辺境に住むものなら知っている者も多い。

 

 「あ、貴方が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん…なんですか?」

 

 「そうだ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は短く返答すると倒れている女魔術師に近づく。

 

 「ナイフで刺されたな…更には矢が二発」

 

 「そ、そうでした!小癒(ヒール)を!」

 

 「待て、まずは矢を抜くのが先だ。…歯を食い縛っていろ」

 

 「っ!!」

 

 女魔術師は悲鳴を上げないように服を噛みながら耐える。しかし、鏃の返しが肉を抉る激痛は成り立ての冒険者に厳しく、声にならない悲鳴を上げてしまう。

 

 「次に毒だが…」

 

 「そ、それなら解毒薬(アンチ・ドーテ)があります!」

 

 「いや、毒の回りが早い…解毒薬(アンチ・ドーテ)ではもう間に合わないだろう…」

 

 「そ、そんな………」

 

 女神官は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の一言で頭が真っ白となった。

 

 自分を庇ってくれた彼女が死ぬ。用意した薬も無為に終わった。

 

 そんなことを考えていると目尻に涙が溜まる。自分の無力さを痛感した。

 

 「お前たちは運がいい…まだ、『手はある』」

 

 「えっ……」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は雑嚢を探ると瓶を取り出した。毒々しい色の液体が入っている。

 

 「これをそいつに飲ませろ」

 

 「あの…これはいったい…」

 

 「解毒薬(アンチ・ドーテ)よりも効能の高い水薬(ポーション)だ。値段は比較にならんがいざというときに役に立つ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 その水薬(ポーション)を飲ませると女魔術師の顔色はみるみる良くなり、朦朧としていた意識もはっきりとし始めた。

 

 更にそこへ小癒(ヒール)をかけたことで傷も矢やナイフの傷も回復した。

 

 「あ、ありがとう…」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「ああ、それよりもだ。まだ、二人いるのだろう?」

 

 その言葉でハッとする。剣士と女武闘家の二人が戻ってきていない。つまり…

 

 「二人は私たちを逃がすために…」

 

 「…まだ生きてるかもしれん、急ぐぞ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が先頭を歩き、女神官は女魔術師に肩を貸しながら後を付いていく。

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「糞…」

 

 どのくらい経っただろうか。女神官と女魔術師の二人を逃がしてからも二人で奮闘した。

 

 女武闘家は大物(ホブ)相手に善戦した。剣士も斬れにくくなった剣で必死に戦った。

 

 しかし、結果はこの様。女武闘家は田舎者(ホブ)相手に善戦するもその巨体からくる攻撃に負け、先ほど連れ去られてしまった。

 

 剣士も十匹程は倒したがとうとう押し負け、片腕にはナイフが突き立てられ今は片手で剣を持っている。

 

 残りのゴブリンたちは息も絶え絶えな剣士を見て嘲笑う。

 

 「ここまで…か…」

 

 ジリジリと近寄るゴブリンたちに風前の灯の剣士だったが…

 

 「聖光(ホーリーライト)!」

 

 唐突に強烈な閃光が暗闇を照らす。暗闇に慣れていた視界は一気に白色に染まった。

 

 「グキャ!?」

 

 「ギョエ!」

 

 目も開けられぬ状況でゴブリンどもの悲鳴が上がる。光が収まり、徐々に目が元に戻る。

 

 先程までいたゴブリンたちは全て死んでいた。すぐ側には…

 

 「七つ…お前が三人目だな…もう一人は何処だ…」

 

 「あ、あんたは?…」

 

 急に現れた謎の人物に面食らっていると女神官から声をかけられる。

 

 「剣士さん、ご無事でしたか!?」

 

 「あ、あ…でも武闘家が…」

 

 「女が連れ去られたか…急いだ方がいい…お前は彼女と一緒にいろ、二人なら対処できるだろう」

 

 「ま、待ってください小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!」

 

 女神官と小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は二人を置いて、先へ進んでいった。

 

 「なあ、あの人って…」

 

 「ええ、ギルドで聞いた小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)よ。私たちを助けにきてくれたんだって…」

 

 「そう…か…」

 

 安堵からか剣士は剣を地面へ突き立て杖が代わりにする。

 

 片腕の動かない剣士がこれ以上戦うのは無理だ。魔法の使えない魔術師と共に残り一人の無事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 その後の話だが。結果から言えば全員無事とは言いがたいものの生き残ることが出来た。

 

 女武闘家も犯される寸前で助け出され、奥にいた大物(ホブ)とゴブリン・シャーマンは小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が討伐。

 

 連れ去られた村娘たちも救出され、依頼達成となった。

 

 しかし…

 

 「えっと……つまり?」

 

 「まあ、俺は片腕が使えなくなっちゃったからな。復帰するかは分からない…一応片腕だけで剣を振る訓練はしてるよ」

 

 「私はこいつが復帰するまでの間は稽古をつけ直してもらいに行くよ」

 

 「私もどれだけ視野が狭かったか理解したわ。この町でも魔術の研究をしてる場所があるそうだから私もそこで一から学び直すつもりよ」

 

 三者三様の理由で一時的に冒険者家業から離れるとのことだった。

 

 「ごめんなさい…私たちから誘ってあんなことに巻き込んだのに…」

 

 「いえいえ、選んだのは私で責任は皆さんにありません」

 

 「すまないけど、俺たちの一党(パーティ)はこれで解散ってことになる」

 

 「急なことだけど貴女は行く宛はある?」

 

 「えーっとそれなら…あっ…」

 

 女神官の視線の先には全身鎧の男の姿がある。

 

 「私、彼に付いていこうと思います」

 

 「えーっと…まじで?」

 

 「うん…助けてもらったし、いい人なのはわかるんだけど…」

 

 「貴女…大丈夫?」

 

 「はい!大丈夫です!小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんから色々なことを学べると思いますし、取り敢えず一党(パーティ)を組んでくれるか訊いてきます!」

 

 女神官はそういうと小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の元へ駆け出していった。三人はその様子を少し微笑ましそうに眺めるのだった。

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!」

 

 「………ゴブリンか?」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「んー!やっと着いたー!」

 

 「まずはギルドへの顔見せ、次に孤児院、最後に自宅だ」

 

 「はいはい!わかってますよー」

 

 「そういえば、アイツに会うのも久しぶりか」

 

 「そうだねー」

 

 「どれだけ成長してるか…楽しみだよ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

 

 物語は五年の月日の後に再び動き出す。

 

 二人の殺すもの(スレイヤー)の物語が進む先など神々ですら予想も付かない。

 

 そんな混沌とした物語が開演しようとしている。











思い付いたら筆止まらない!

誤字脱字凄そうなのでまた後日修正します
誰が助かるとかはダイスで決めました



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篝火を守る者

…すみません

…私は汚れ、声を出すべきではありません

…ですから、もう…

…話しかけるのは

…やめてください。お願いします


 冒険者の朝は早いかどうかは個人によるが、多くの冒険者は朝の依頼(クエスト)の張り出しのため朝からギルドへ出向く。

 

 受付嬢が依頼板(クエスト・ボード)へ張り出すと我先にと冒険者が群がる。

 

 そんな冒険者たちをよそに二人の冒険者が後方で会話している。

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と女神官の一党(パーティ)だ。

 

 先日の一件から小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)のゴブリン退治に付いていき、ゴブリンを殺すための知識や対策法をこの時間に確認するのは習慣となった。

 

 ゴブリン退治の依頼は不人気であり、下水の依頼(クエスト)よりも受ける冒険者は少ない。

 

 「ゴブリンスレイヤーさん…それでもこの前のあれはやりすぎだと思います…火の秘薬で洞窟ごとなんて…」

 

 「ゴブリンどもを放置するよりはいい」

 

 「それでも…近隣の方への配慮を…」

 

 「ゴブリンに村を襲われることの方が問題だ」

 

 このようなやり取りも日常と化している。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の作戦に女神官が苦言を呈し、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はゴブリンの被害よりはマシだと返す。

 

 「今日は依頼(クエスト)に出る前に寄る場所がある」

 

 「えっーと…何処ですか?」

 

 「以前、女魔術師を助ける際に使用した水薬(ポーション)の原料を買いに行く」

 

 「あれですね…私も町の店を探してみたのですが、売ってなかったのは手作りだったからなんですね」

 

 「ああ…原料が高価な上に作成に時間がかかる。店では採算が取れないから売ってはないだろう」

 

 「あのー…ちなみにいくらなんですか?…」

 

 「水薬(ポーション)一つ作るのに金貨20枚の薬草が必要だ」

 

 「き、金貨にじゅっ!?」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)から伝えられた真実に気を失いそうになる。

 

 新人冒険者が金貨20枚を稼ぐには一体どれ程の日数が必要なのか。毎日、切り詰めて生活して漸く鎖帷子を買えた女神官にはまだまだ遠い世界だった。

 

 「地母神の神官であるのなら知ってるかもしれないが、あれの薬草を売ってるのは『太陽の神殿』だ」

 

 「あっ…『悪魔殺しの騎士』様が経営してる孤児院の呼び名ですよね」

 

 「ああ、あそこは孤児院だが奥にある祭祀場では旅に役立つものも販売している」

 

 「私たちの神殿でも水薬(ポーション)を作成したりしていますから、そのような感じでしょうか?」

 

 「…多くの者が勘違いしているが彼らの崇める『太陽』とは大地を照らす恵みの光ではない」

 

 「えっ…違うんですか?私、地母神の神殿との関係からそういう神様だと思っていました…」

 

 「後から入ってきた者はそのように信仰しているとも聞いた。あそこの責任者もそれらを訂正するつもりはないそうだ」

 

 「では、一体何の神様なんですか?」

 

 「あれは『戦神』だ」

 

 「戦いの神様だったんですね…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)から伝えられた真実に驚きはするものの同時に納得する。

 

 あの吟遊詩人がよく唄う悪魔殺し(デーモンスレイヤー)の信仰している宗教が戦神というのはピッタリだった。

 

 「待っていろ、依頼(クエスト)を取ってくる。その後、『太陽の神殿』へ向かう」

 

 「はい」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)依頼板(クエスト・ボード)に残っているゴブリン退治の依頼(クエスト)を取ると受付へ向かった。

 

 女神官は初めて訪れる他宗教の神殿というものに興味を抱いていた。

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 二人はギルドから程なくして孤児院に辿り着く。門の前からでも子供たちが外で遊んでいるのだろうか、彼らの楽しげな声が聞こえる。

 

 「ん?小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)殿、本日はどの様なご用件で?」

 

 近づいてくる二人に気づいた守衛らしき全身鎧の男が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)へ声を掛ける。その言葉から彼がよくここへ訪れていることも判った。

 

 「『花苔玉』の在庫がなくなった。それの買い出しに来た」

 

 「前回からそれほど期間が空いていませんね…」

 

 「新人がゴブリンの毒に冒されて、治療の為使用した」

 

 「なるほど…で、そちらのお嬢さんは?見たところ地母神の神官のようですが…」

 

 男の鎧姿に威圧されながらも女神官は返答する。

 

 「は、はい!ゴブリンスレイヤーさんの一党(パーティ)に入りました!」

 

 「おお…小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)殿が一党(パーティ)とは…今後も続けていく予定で?」

 

 「…自分の意思で付いてくるのなら俺からは何も言わん」

 

 「そうですか…おっと!長話になってしまいましたな。どうぞ、お入りください」

 

 守衛の男によって門が開かれる。そこにあったのは地母神の神殿と比べてしまえば確かに小さいが、各所に凝った意匠がある独特な美しい神殿だった。

 

 庭では子供たちが楽しそうに遊んでいる。二人に気付いた子供は手を降っている。

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は片手をそれに応えるかのように上げ、神殿へ向かう。

 

 女神官も子供たちへ小さく手を振り、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の後を追った。

 

 神殿内はその大半が居住区に当てられているようで、ズラリと番号の割り振られた部屋が並んでいる。

 

 更には大食堂があり、大人数で食事がとれるようになっていた。

 

 「薬草を売っているのは奥の祭祀場にいる神官だ」

 

 「そういえば、この神殿を仕切っている方は誰なのでしょう?『悪魔殺しの騎士』様なのですか?」

 

 「孤児院としての管理者は確かに悪魔殺し(デーモンスレイヤー)だが、祭祀場は『火防女』と呼ばれている者が取り仕切っている」

 

 「『火防女』ですか?」

 

 聞きなれない単語に女神官は首を傾げる。

 

 「神殿の神官長のような存在だと思えばいい」

 

 「なるほど…」

 

 女神官の脳内では鎖帷子を購入した際に小言を言う地母神の神官長の顔が浮かび上がる。

 

 「表向きには悪魔殺し(デーモンスレイヤー)が留守の間子供たちの世話をする孤児院の院長だ。薬草等の販売もそもそも悪魔殺し(デーモンスレイヤー)の許可がない者には売られない」

 

 「あくまでも主のいない間の代理人なんですね」

 

 「ここの先だ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が両開きの扉を押すと、ギィという軋むような音を立てながら開かれる。

 

 扉の先にあったのは壁を大きなガラス張りにすることで太陽の光を取り込む構造になっている広間だった。

 

 奥には階段があり、その先には御神体である『名もなき神』の壊れた石像がある。

 

 残っているのは台座、足、胴体の一部に神の持つ槍くらいのものでこの部屋にはお世辞にも似つかわしくない。それこそ、路上で雨ざらしにされていそうなものだ。

 

 「あ、あの…神様の石像が壊れているのですがいいんでしょうか?」

 

 「それは」

 

 女神官の問いに小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が答えようもしたとき、扉から一人の女性が入ってきた。

 

 「すみません、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん。お待たせいたしました…」

 

 女神官が振り向くと目に入ったのはこれまた神殿には似つかわしくない黒い神官服の森人(エルフ)だった。

 

 半森人(ハーフエルフ)よりも長い耳は彼女が森人(エルフ)であることを証明している。

 

 目は布で覆われているため恐らく盲目なのだろうと察することができる。しかし、その足取りは確かなものでしっかりとした足取りで二人の元へ歩いてくる。

 

 「貴女は初めてのお客様ですね?初めまして、ここの院長を勤めさせていただいています。『火防女見習い』の森人(エルフ)です」

 

 「は、初めまして、いつも皆さんにはお手伝いしてもらって感謝しています。地母神の女神官です!」

 

 「はい、先程守衛から大体の話は伺いました。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんが一党(パーティ)を組むなんて珍しいですね。貴女も苦労すると思いますが無理せず頑張ってくださいね?」

 

 「私ではまだまだ付いていくだけで必死ですが頑張ります…」

 

 「すまないが品を確認したい」

 

 二人の会話に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が割って入る。彼としては話の前に準備をしておきたいようだ。

 

 「既に用意はしてありますよ。販売所の神官に声をかけて貰えれば」

 

 「わかった、少し待っていろ」

 

 「えっ?あ、はい…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が部屋を出ていき、広間には女神官と森人(エルフ)の二人だけとなる。

 

 「「…………………………」」

 

 「えーっと………その……あの……」

 

 「何か質問でもありますか?」

 

 空気に耐えられず、女神官はなにか話題はないかと考える。ふと視界の端に太陽の祭壇が写った。

 

 「…何故、あの石像は壊れたままなのですか?」

 

 「太陽の長子の石像ですね。あれは大昔に破壊されたものらしく、完璧な形で発掘されたものは未だに見つかってないんです。適当に修復するわけにもいかないので、今はあの形となっています」

 

 「なるほど…でも、なんでそんな罰当たりなことをされているんでしょう」

 

 「それを話すには多くのことを語る必要がありますが、端的に言うと『太陽の長子』は神々の『裏切り者』だからですね」

 

 「神々の裏切り者…ですか?」

 

 『裏切り者』という穏やかではない単語に女神官が反応するが、森人(エルフ)は話を続ける。

 

 「かつて、神々と竜が争っていた時代。太陽の長子である彼の神は父のいる神々ではなく、友のいる竜の側へ付いたとも言われています」

 

 「それで裏切り者と呼ばれているのですね…友の為に親を裏切った…悲しい話ですね」

 

 「その話が広まると人々は各地にあった『太陽の祭壇』を破壊したそうです。ですから、この石像が完璧な形で発掘されるのは絶望的かもしれませんね」

 

 「…………」

 

 女神官がことの顛末を聞き思いに耽ていると、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が戻ってきた。

 

 「道具の購入は終わった。依頼へ行くぞ」

 

 「は、はい!あの…お話ありがとうございます。また、お話を聞いてもいいですか?」

 

 「ええ、いいですよ。我々は友の訪問を快く迎えます。いつでもいらっしゃってくださいね」

 

 女神官は森人(エルフ)へ深くお辞儀をすると部屋を出ていく。

 

 「彼女、神に愛されていますね。どうか、彼女の旅路に太陽の加護がありますように…」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と女神官が訪れてからかなり時間が経ち、日も暮れ始めた頃。悪魔殺し(デーモンスレイヤー)闇人(ダークエルフ)の二人が帰還した。

 

 「やーっと!着いたー!」

 

 「ギルドへの報告で遅くなった」

 

 「主殿に闇人(ダークエルフ)殿。長期の依頼、お疲れさまでした」

 

 「ああ、あの子は祭祀場か?」

 

 「はっ!火防女様は祭祀場でお待ちです」

 

 「わかった」

 

 門を潜る。夕刻ということもあり、子供たちは既に孤児院のなかへ戻っている。大食堂の方では子供たちの楽しそうな話し声が聞こえた。

 

 「取り敢えず、彼女にも会いに行こう」

 

 「あの子、あんな感じだけど寂しがり屋だからね♪」

 

 祭祀場の扉を開けると夕暮れの茜色が部屋を染め上げ、幻想的な美しさを作り上げていた。

 

 「!おかえりなさい、主様。ご帰還を首を長くしてお待ちしておりました」

 

 扉から入ってきた人物が悪魔殺し(デーモンスレイヤー)だと分かると火防女は喜ばしそうに彼らを迎えた。

 

 女神官と話していた時の淑女然とした感じではなく、父親の帰りを待っていた子供のような反応。

 

 言葉の節々から喜の感情が読み取れ、彼女に尻尾が付いているのなら千切れんばかりに振っていることだろう。

 

 「ああ」

 

 「あれー…私は?」

 

 「御姉様もですよ?」

 

 「むぅ……」

 

 「それでだ、私が留守の間はどうだった?変なやつには絡まれなかったか?」

 

 「はい、特には」

 

 彼も彼で娘を心配する父親のような感じだ。

 

 「そういえば、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんが今日ここを訪れました」

 

 「相変わらずか?」

 

 「はい、今日も今日とてゴブリン退治です」

 

 「変わらないなー彼」

 

 「今日は疲れた。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に会うのは明日以降だな」

 

 「今日はこれで解散?」

 

 「ああ、そうだな。自宅へ戻る」

 

 「私もご一緒しますね♪」

 

 三人並んで、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)の自宅へ向う。その様子は仲の良い姉妹と父親が仲良く家へ向かっているかのような光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

・太陽の火防女

 

火防女を名乗る森人(エルフ)の女。

 

太陽の神殿での研究で火防女という役職が見つけ出されてから不死人の助けになろうと火防女を名乗り始めた。

 

しかし、火防女となる資格は持っていようとその身はまだまだ火防女には相応しくない。

 

彼女の主である不死人は彼女に火防女にはなって欲しくはない。

火防女とは人間性の揺りかご、それは苦痛を伴うという。

 

盲目だが森人(エルフ)特有の機敏な感覚により目が見えているかのように生活できている

 

そのお陰で必要はないのだが不死人から貰った杖をいついかなるときも後生大事そうに抱いている。

 

まだまだ未熟であるがこの世界でソウルを感じとることが出来る稀有な存在。










皆さん、誤字脱字報告修正ありがとうございます。
スマホだとチェックが難しいですね…
今回も皆さんにお世話になると思います…

お気に入り登録、評価、感想をしてくれる方もありがとうございます
皆様の声援が私のやる気に繋がっております

はい、また止まらなかった…
そして、またゴブスレさんと会えてない…
次こそは…

明日(今日)の、仕事が終われば連休なので
連日投稿も夢じゃない!



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殺す者達(スレイヤーズ)

ようこそ、不死の勇者よ

我は、世界の蛇、闇撫でのカアス

貴公ら人を導き、真実を伝えるものだ

不死の勇者よ、真実を知りたくはないか?

貴公ら人と、不死の真実を


▼火防女の朝

 

 心地よい暖かさの光が部屋に射し込んでくる。その光を受けて彼女は少し眠たげにしながらも起床する。

 

 寝ぼけ眼で周囲を確認すると昨夜彼女と共に寝た闇人(ダークエルフ)がまだ寝ていた。

 

 少し揺らしてみたりするが起きる気配はない。いつものことであるため放置し、ベッドを出る。

 

 「んっ……朝ですね……支度をしないと…」

 

 ベッドの側へ立て掛けてあった杖を取り、家の主がいるであろうリビングへ向かう。

 

 「ん?おはよう、今朝は早いのだな」

 

 リビングではこの家の主が暖炉の前に椅子を置き、本を片手に寛いでいる。

 

 服装は外で見る上級騎士の鎧ではなく、町で買った服装をしている。

 

 「もう…その本が気になるのはわかりますけど、睡眠時間を削るのはどうかと思います」

 

 彼は究極的にいえば飲まず、食わず、寝ずでも戦うことは出来る。だか、冷静な思考や判断力を保つには休息は必要だ。

 

 「もう少しで理解出来そうなんだ、魔法というのも使い始めると中々いいものだ。純粋な魔術師たちには遠く及ばないが、戦うための手札が増えるのはいい」

 

 彼が読んでいるのはロードランで買ったはいいが使うことのなかった(理力が足りなかった)魔法の指南書のようなもの。

 

 この地に来て五年、彼は時間があれば魔法を研究した。ロードランであれば、師事できる人物もいるだろうが此処にそのような人物がいるはずもない。

 

 研究は難航しているがそれでもこの五年間は無駄ではなく、着実に実を結んでいる。

 

 「『盾と武器に強力な魔力を付与する魔法』ですか……前にも似たような魔法の本をお読みになっていましたよね?」

 

 「私にとって武器の方はイマイチだが、盾の敵からの攻撃を受けやすくなるというのは素晴らしい」

 

 「はいはい、あまり根を詰めないようにしてくださいね。私は朝食の用意をしますから少ししたら御姉様を起こしてきてくれます?」

 

 「ああ、わかった」

 

 火防女はリビングを離れるとキッチンで朝食の準備を始める。朝食の準備といっても盲目では料理は難しく、彼女がするのは三人分の食器を用意したりすること。

 

 普段の食事は孤児院の大食堂で食べているが三人集まる時は此処で食事を摂っている。

 

 「もぉー…起こしてくれてもいいじゃない…」

 

 「御姉様、私の呼び掛けでは起きないじゃないですか」

 

 「それでもさぁ…寝起きの顔を彼に視られるのは乙女として…」

 

 「そういうことを気にするのなら早起きしてください」

 

 「うぅ……はぁ…善処します」

 

 「それよりも朝食ですよ。久方ぶりの御姉様の料理は楽しみです」

 

 「昨日買い物もしてきたけど、朝に凝ったものは無理だよ?」

 

 「それでも楽しみなのです」

 

 「はいはい、それじゃあ椅子に座って待ってて」

 

 闇人(ダークエルフ)はキッチンに立つと鼻唄を歌いながら料理を始める。そんな彼女の様子に火防女は微笑みながら料理を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

▼五年経てども変わらず

 

 「私の分まで食事を用意する必要はないのを知っているはずなのだろう」

 

 「食べられないわけではないのだから、一緒に食べた方がいいわよ!そっちの方が美味しく感じるもの」

 

 

 確かに誰かと共に食卓を囲むというのは幸せなことだ。自宅で闇人(ダークエルフ)と火防女と共に摂った後、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に会うためにギルドへ向かっている。

 

 「そういえば、王都で吟遊詩人が彼の唄を歌っているの聞かないよね」

 

 「王都では受けが悪いからな、ゴブリン退治よりもドラゴンやデーモン退治の方が好まれる」

 

 王都の人間にはゴブリンの被害というのが農村で暮らす民よりも伝わりにくいため小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の話は好まれない。

 

 農村にとってゴブリンの被害はその村の存続に関わるが、王都でゴブリンが20出たところで衛兵や冒険者が直ぐに片付けるためだ。

 

 そのため、王都出身の新人冒険者は辺境の冒険者よりもゴブリンを侮っている。

 

 「そういえば、聞いた?彼に一党(パーティ)仲間が出来たって話」

 

 「新人神官の女の子だと聞いた」

 

 「神官ねぇ…危なっかしい彼にはぴったりかな?」

 

 「新人というのが怖いがな。ただ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と共にいれば学べることも多い」

 

 「生存能力は高いよねぇ。こう…なんて言うか…死んでやるもんか!って感じ」

 

 「そうだな、その場を凌ぐ技術に長けている」

 

 「死にやすい新人教育にはぴったしなのかな?でも、ゴブリンだけってのはなぁ…」

 

 「それが問題だな、冒険者全員が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)になればいいわけではない」

 

 ゴブリン退治は大切だが。それでもこの世界にはゴブリン程度と捨て置けるほどの危機が沢山ある。

 

 悲しい話だが、致し方ない犠牲として一部の農村は切り捨てられる。そうしなければ、農村が滅びる前に国が滅びる。

 

 王は無能ではない。むしろ、有能な部類だ。ただ、ゴブリン退治に割く余力がないのだ。

 

 明日、国を滅ぼす魔神。今日、農村を滅ぼすゴブリン。どちらを優先すべきなのかなど考えるまでもない。

 

 だが…だからこそ小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)という異端も必要なのだろう。

 

 「いるかなぁ?」

 

 「恐らく、帰ってきているはずだ」

 

 ギルドの扉を開けると冒険者たちの視線が集まる。

 

 新人たちは見慣れない冒険者が入ってきたことに疑問を抱き、ここを拠点としている中堅以上の冒険者は片手を挙げて挨拶してくる。

 

 「おう!旦那に闇人(ダークエルフ)の姐さん。王都から帰ってきたんだな」

 

 「槍使いか久しぶりだ」

 

 「ひっさしぶりー!魔女ちゃんと仲良くしてる?」

 

 「おうよ!昨日まで遺跡で冒険(デート)してきたところだ」

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はどうした?」

 

 「ん?あいつか…たしか昨日、神官の嬢ちゃんと一緒にゴブリン退治に出掛けてたな」

 

 「そうか、ありがとう」

 

 「おう、旦那もまた何かあったら声かけてくれや」

 

 槍使いは魔女を待っていたようで彼女が現れるとそちらへ歩いていった。入れ替わるようにして受付嬢が声を掛けてくる。

 

 「あっ! 悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さん!今日も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんを?」

 

 「ああ、武器や道具の使い心地を聞いたりしたいからな。後は無茶をしていないかどうか…」

 

 「あはは…相変わらず毎日ゴブリン退治ですね。最近は一党(パーティ)を組んだので減るといいんですけど」

 

 「あれでも昔に比べたらマシになっているんだが…」

 

 受付嬢は普段の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)がする行動を思い浮かべ苦笑いする。

 

 その後は辺境の近況を聞いたり、王都での出来事を報告していた。

 

 話し込んでいると後ろでギルドの扉が音を立てて開かれた。そこには私の待ち人が相変わらずな姿でいた。

 

 「少し、待ってろ。知り合いと話してくる」

 

 「あっ…はい。あちらの席で待ってます…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)も私に気づいた様子で近づいてくる。そんな彼の後を付いてきた少女は少し離れた席に座った。

 

 「帰ってきていたのか。何か用か」

 

 「いや、用事は特にはない。道具の使い心地はどうだ?」

 

 「一部の道具はゴブリン退治には過ぎたものだが、概ねは使いやすく重宝している」

 

 「何か次の商品でリクエストはあるか?」

 

 「………投擲道具をスリングの要領で投げることができれば、更に遠くへ投げることが出来る」

 

 「火炎壺か……安定するかはわからんな。考えておく、試作品の実験は貴公にも頼もう」

 

 「わかった」

 

 「ねぇねぇ、あの子を紹介してよ!」

 

 闇人(ダークエルフ)が指を指す。女神官は数秒間は周囲をキョロキョロとし、暫しの間自分が指されているとは気づかなかった。

 

 指されているのが自分だと気付くと此方へ向かってくる。

 

 「あの…何か私に御用でしょうか?」

 

 「貴女が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党(パーティ)を組んでいる子ねぇ…大丈夫?彼に言われて無茶してない?」

 

 「い、いえ!小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんの知識や技術に助けられてばかりで…私なんかまだまだ足を引っ張ってばかりです…」

 

 「いや、助かっている。俺では奇跡は使えんからな。神官が一人でもいると戦略の幅が広がる」

 

 「何が使えるの?」

 

 「聖光(ホーリーライト)小癒(ヒール)。それに今朝授かった聖壁(プロテクション)の奇跡を日に三回行使できます」

 

 「……すごい優秀じゃない!白磁でそれならこれからが楽しみね」

 

 「いえ…まだまだ小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんの指示がないと奇跡の使いどころがわからないので…」

 

 「新人なんて最初はそんなものだ」

 

 「こっちは新人とはいえ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党(パーティ)が出来て一安心だよ」

 

 「本当にゴブリン退治とはいえ今までよく一人でやってこれたな」

 

 「それをデーモン相手に似たようなことする君が言う?」

 

 デーモンの話が出たところで女神官は先程から気になっていたことを口にする。

 

 「あのー、貴方は…悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さん…ですよね?」

 

 「そうだ、その錫杖の聖印からすると君は地母神の神官か」

 

 「はい、私の先輩が悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんと共に旅をしたこともあると何度かお話をお聞きしました」

 

 「彼女は元気にしているかね?」

 

 「現在は相方さんが王都にいるので、冒険者家業はお休みしていますがとても元気です。私も冒険者になる前に何度か助言して頂きました」

 

 「そうか、元気なら何よりだ」

 

 その後もお互いに近況を話し合う。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が言うにはゴブリンの活動がここ数年でも今年は多く、大物(ホブ)やシャーマンなどの上位種の出現も上がっているとのこと。

 

 「今回のゴブリン退治の依頼(クエスト)だが可能なら同行を依頼したい」

 

 「そんなに多いのか?」

 

 「森人(エルフ)の放棄された砦が巣になって、日にちも経過していてる。近隣の村の娘が拐われ、前回の冒険者一党(パーティ)が帰ってきていない」

 

 「相当な数になってそうだな」

 

 「うへぇ…想像したくないなぁ…ゴブリンの大群…」

 

 「早く対処しなければいけませんね、人が生きているなら出来れば救出も…」

 

 「生存は望めないが…もしもの場合のために協力して欲しい」

 

 「私はいいだろう」

 

 「まぁ、彼が行くってなら私も!」

 

 「なら、準備して此処へ戻ってきてくれ。直ぐに出立する」

 

 こうして私の辺境、久しぶりの依頼(クエスト)はゴブリン退治になるのだった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 三日三晩続いた宴が終わりを告げようとしている。元々は壮麗な広間だったであろう場所には只人(ヒューム)圃人(レーア)森人(エルフ)の屍の残骸が散らばっている。

 

 犯された後も玩ばれたのだろう屍はバラバラにされ、死に顔は苦痛に満ちていた。

 

 「…もう手遅れのようだな」

 

 私は一人で砦に潜入していた。指には二つの指輪、『霧の指輪』、『静かに眠る竜印の指輪』を装備して隠密に徹している。

 

 冒険者の屍には鋼鉄級の認識表。彼らが上の等級ならとも考えられるが、この砦には既にかなりの数のゴブリンが繁殖し終わっている。

 

 銀等級でもまともに相手しようとするならば苦戦するだろう。多勢に無勢というのはどれだけ個々の知能や技量が低かろうと脅威である。

 

 私は救出不可能と判断して、三人の元へゴブリンに気取られないよう戻った。

 

 「やはり、既に手遅れのようだ」

 

 「そうか、なら砦に入る必要はないな」

 

 「ん?どうやってあいつらを?ここから火をかけてもゴブリンの大群が大挙して危険だぞ」

 

 「火をかけ、女神官の聖壁(プロテクション)で出入り口を塞ぐ」

 

 その言葉に女神官と闇人(ダークエルフ)の二人は『こいつマジで言ってるのか?!』というような驚きの表情をしている。

 

 特に守りの奇跡をそのように使われると思ってなかった女神官は口をパクパクして、驚きを隠せていない。

 

 私は合理的ではあるといった感じだ。最小の資源(リソース)で最大の利益を得るということの模範解答ではある。なお、女神官の心境は考慮しないものとする。

 

 「わかりました、それでいきましょう…」

 

 あまり納得は出来ていないようだが、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の考えは理解できるため渋々了承した。

 

 「火矢を任せていいか?」

 

 「了解した。貴公は彼女達を頼む」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は女神官と闇人(ダークエルフ)を守るようにして前に立つ。

 

 ゴブリン達にここまでの距離を狙うことは出来ないが、悪運(ファンブル)というのは油断した時に起こるものだ。

 

 ロングボウを取り出し、『静かに眠る竜印の指輪』から『鷹の目の指輪』へ変更する。

 

 

 鏃へ炭松脂を塗ると勢いよく燃え始める。

 

 「普段は竜狩りとアヴェリンばかりだったからな…久しぶりだが!」

 

 ギリギリと弦を引き、離すと火矢は物見にいるゴブリンの頭へ突き刺さる。ゴブリンは燃え上がりながら物見から落下し地面へ激突する。

 

 私は次の弓を準備する。生き残った物見のゴブリンからは私は『霧の指輪』の効果で見えていないはずだ。

 

 ゴブリンを黙々と処理していると火の手が広がり始めた。

 

 「出番だ、聖壁(プロテクション)の奇跡で出入り口を塞げ」

 

 「はい、『いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください』、聖壁(プロテクション)!」

 

 出入り口から逃亡しようとしていたゴブリンたちの前に透明な壁が出現する。

 

 一匹のゴブリンは運良く入り口が閉まる前に逃げ出せた。その他は煙と炎に巻き込まれながら聖壁(プロテクション)の壁を叩くが、ゴブリンがいくら集まろうとも聖壁(プロテクション)が破られることはない。

 

 残りの一匹も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が冷静に投げナイフで処理をした。

 

 「あらら、私の出番は結局来なかったなぁ」

 

 「生き残りがいたら私と共に潜入する予定だったが致し方ないだろう」

 

 闇人(ダークエルフ)は結局自分の出番がなく不満気だ。

 

 砦が轟々と燃える様子を三人で眺める。

 

 「ん?雨か…」

 

 暫くすると雨が降り始めた。消火する手立ては元々あったがその手間が無くなった。

 

 女神官は雨に濡れながらも両手を合わせ祈祷する。砦から上がる煙はまるで被害者たちの魂が天国へ昇っていくようであった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)悪魔殺し(デーモンスレイヤー)

 

 「友が作りし隙を突き、小鬼殺しの鋭き致命の一撃(クリティカルヒット)が小鬼王の首を断つ」

 

 吟遊詩人がリュートの弦を爪弾くと心地よい音を奏でる。

 

 「おお、見るが良い。青く燃えゆるその刃、まことの銀にて鍛えられ、決して主を裏切らない」

 

 老若男女、多くの民が足を止めて吟遊詩人の歌に聞き入る。

 

 「されど、彼こそは小鬼殺し。彷徨を誓いし身。引き留めようとする姫の手は空を掴み、勇者は友と共に振り返ることなく立ち出づる」

 

 民衆の受けは良かったようで、拍手が巻き起こる。観客は吟遊詩人の帽子へ金銭を投げ込む。

 

 本日の稼ぎに満足している吟遊詩人の元へフードを被った一人の人物が近寄る。

 

 「ねぇ、さっきの話って本当なの?」

 

 「ここから西へ二日ほど行った所にある辺境のギルドの冒険者だよ」

 

 「彷徨を誓いし身なのに場所がわかるの?」

 

 「あれは脚色だが、西の辺境にゴブリンを専門に退治している冒険者がいるのは本当だ」

 

 「ふぅーん……まぁいいわ。西の辺境ね」

 

 フードに隠されていた顔が風で露になる。そこには長い耳に緑の髪、現れたのは見目麗しい細身の女だった。

 

 「オルク…ボルグねぇ…」

 

 新たなる出会いの日は近い。









皆さん、感想、お気に入り、評価ありがとうございます。
連休中にもう少し頑張りたい…金床娘可愛いよ…

またリマスターをやってますが相変わらず、楽しいです
純粋な攻略組はもうほとんどいませんがサインを出してくれてる
白の方と病み村から苗床まで連続攻略出来たので興奮しました

あとダークソウルtrpg買いました
リプレイ同額流行れ…流行れ…


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三者三様

 「オルクボルグよ、オ・ル・ク・ボ・ル・グ!いるでしょう!」

 

 「うーん‥どなたでしょうか?」

 

 ギルドの受け付け前。只人(ヒューム)の冒険者ギルドでは珍しい森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)という組み合わせの一党(パーティ)が受付嬢と話している。

 

 「耳長の、ここは只人(ヒューム)の領域じゃ。おぬしらの言葉が通じるわけなかろう」

 

 「あら?それなら、どう呼べばいいのかしら?」

 

 鉱人(ドワーフ)に馬鹿にされたのが気に入らないのだろう森人(エルフ)の娘は不機嫌に小鼻を鳴らす。

 

 「『かみきり丸』だろうに」

 

 「すみません‥そのような名前の方も‥」

 

 「おらんのか?!」

 

 「やっぱり、鉱人(ドワーフ)は駄目ね!頑固で偏屈、自分が正しいと思っているもの」

 

 「なにおうっ!?」

 

 先程の仕返しとばかりに森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)へ言う。

 

 「この森人(エルフ)ときたら、金床に相応しい心の狭さだのう」

 

 「なっ?!」

 

 セクハラ紛いの言葉に顔を赤くして、思わず胸を庇うようにして鉱人(ドワーフ)と距離を取るように退く。

 

 「胸は関係ないじゃない!それに鉱人(ドワーフ)の女子は樽じゃない!」

 

 「あれは豊満と言うんだ!金床より良いわ!」

 

 森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)の仲が悪いのは神代からの伝統である。

 

 しかし、話が拗れ本題から離れすぎている。そんな二人を見かねて、沈黙していた蜥蜴人(リザードマン)が二人の間へ割り込む。

 

 「すまぬが二人とも、喧嘩ならばギルドの外でやってくれぬか?」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 見上げるような体躯に鱗の生えた全身。混沌ではなく秩序に属しているのだろうが、受付嬢は思わず漏れそうになった驚きの声を押し止める。

 

 「いやいや、拙僧の連れが騒ぎを起こしてすまぬ」

 

 「それで結局、誰をお探しなんでしょうか?」

 

 「うむ、拙僧も只人(ヒューム)の言葉に詳しいわけではないが、『オルクボルグ』、『かみきり丸』というのは只人(ヒューム)で言うところの小鬼殺しだな」

 

 「ああ!それなら、誰だかわかりますよ」

 

 「おお、そうであったか!」

 

 蜥蜴人(リザードマン)は目を見開き、口からは舌をチョロチョロと出している。

 

 先程とは違い受付嬢もその獰猛な笑みを向けられても驚きの声を挙げそうになることもない。

 

 「それで彼の人物は何処へ‥」

 

 「二日前にゴブリン退治に出掛けていますから‥もう帰ってはいるかと‥」

 

 「二人とも小鬼殺し殿はここにいる冒険者で間違いないそうだ」

 

 「ほら、私の言った通りじゃない」

 

 「言葉が伝わらなかったくせに何を言う」

 

 「アンタも同じじゃない!」

 

 また喧嘩を始めた鉱人(ドワーフ)森人(エルフ)の二人に、蜥蜴人(リザードマン)の口からはシューと溜め息が漏れた。

 

 「あっ!悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さん!」

 

 「依頼(クエスト)を完了した」

 

 そんな三人の横をすり抜け、一人の人物が受付の元へ来る。

 

 全身鎧で胴の青いサーコートには背に負う盾と同じ紋章があり、その他の部位の意匠も統一されていることから騎士であると彼らは考えた。

 

 「緊急のデーモン討伐の依頼お疲れ様です。大丈夫でした?」

 

 「何の問題もない、山羊が遺跡から抜け出しただけだ」

 

 「いや、それは大騒ぎになりますよ!」

 

 彼の言う山羊というのは勿論牧畜の山羊ではなく、「山羊頭のデーモン」である。

 

 正直、彼が出向くまでもなく銀等級の冒険者なら対処出来ただろう。

 

 「それで?彼らはどういう集まりだ?珍しい組み合わせだな、特に鉱人(ドワーフ)と上の森人(エルフ)とは」

 

 「私たちはオルクボルグに依頼するためにここまできたのよ」

 

 「オルクボルグ‥‥ああ、森人(エルフ)の伝承に出てくるゴブリン殺しの剣か」

 

 騎士が森人(エルフ)の言葉を理解していることに皆が驚く。

 

 「貴方、私たちの言葉がわかるの?」

 

 「知り合いに森人(エルフ)がいるのでな。となると目的は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)だな」

 

 「はい、まだ戻ってきてないみたいで‥」

 

 「いや、来る途中で女神官を見掛けた。準備が終わり次第、ギルドに報告しにくるだろう。噂をすれば‥」

 

 ギルドに二人の人物が入ってきた。一人は華奢な体に神官服、両手で錫杖を握っている娘。

 

 もう一人は薄汚れた革鎧と鉄兜、中途半端な長さの剣を持つみずぼらしい格好の男。

 

 「どうした、ゴブリンか」

 

 「違う、そっちの三人が貴公に用があるそうだ」

 

 「依頼をしにきたそうです」

 

 「そうか、上の応接間は空いているか?」

 

 「はい、どうぞお使いください」

 

 「では、行こう」

 

 「あ、あの‥私はどうすれば‥同席した方が‥」

 

 歩き出した小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に女神官は慌てて問いかけた。

 

 「休んでいろ」

 

 ぶっきらぼうな一言に女神官は小さく頷く。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は振り返ることもなくズカズカと階段を上がっていく。

 

 「ごめんなさいね、ちょっと借りるわね」

 

 森人(エルフ)は会釈して彼女の前を通りすぎていく、鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)もそれに続いていった。

 

 ポツンと女神官が取り残された。

 

 「はぁ‥」

 

 「そう落ち込むことはない。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は言葉足らずなだけだ」

 

 「そうなんでしょうか?ご迷惑をかけていないでしょうか?」

 

 「前も言ったが最初から完璧な奴はいない、勇者だってそうだ。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に言われた通り、今は座って休んでいるといい」

 

 「はい‥」

 

 悪魔殺し(デーモンスレイヤー)と女神官はギルドの端の席に座る。

 

 「一体、どうやればお役に立てるのでしょうか?」

 

 「そうだな、私の昔話を聞かせてあげよう」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんの昔話ですか…興味あります!」

 

 「私がいた国では、自分の旅の途中に多くの人物達と旅をした。今でこそ多くのことを出来る私だが、最初は君よりも弱かったと思う」

 

 「私よりも…ですか?」

 

 女神官は信じられないような目でこちらを見る。たが、私の言ったことは事実だ。

 

 「ああ、恥ずかしい話だが路上にいる魔物の相手すらマトモにできなかった」

 

 「それでどうしたのですか」

 

 「他の人物を頼ったのだよ。自分よりも技量の優れた人物達に関わることでその技術や知識を学んだ」

 

 多くの先人達はいろいろな知識を持っていた。多くの魔物や護衛中の対処は仲間の白霊から、対人などの一対一から一対多の戦い方は闇霊からだ。

 

 「そういうところはどの国でも同じなんですね」

 

 「中にはそんな動き出来ないと思ったものも多い。特に天井の梁の上を、全力疾走で駆け抜けるのはあまり真似したくない」

 

 アノール・ロンドを専門に侵入する闇霊には必須テクニックらしいが、あの全力疾走で迫り来る闇霊たちは今でも恐怖の対象だ。

 

 「そんな私からすれば最初の依頼(クエスト)でゴブリンの巣から『全員生き残る』というのは素晴らしいことだ」

 

 「えへへ…」

 

 「私も、共に旅する者たちも最初はひどかった」

 

 「その旅のこと、少しお聞きしてもいいですか?」

 

 「ああ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が戻ってくるまで時間がある。もう少し私の昔話をするか」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が戻ってくるまでロードランでの旅を彼女に語った。表情をコロコロ変えて驚く彼女の反応は可愛らしいものだった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 談笑していると、途中で他の新人たちが彼女を勧誘しに来たり、話が拗れそうなところを魔女が嗜めたりといろいろあったが、漸く話が終わったのか小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が二階から降りてくる。

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!お話終わったんですね」

 

 「ああ」

 

 「依頼だったのなら私も準備を…」

 

 「いや、俺一人でいく」

 

 女神官はそんな淡々とした言葉に声を上げる。

 

 「そんな……せめて、決める前に私にも相談を…」

 

 「……………?しているだろう」

 

 話の噛み合ってない様子に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は首を傾げ、女神官は目をぱちくりと瞬かせる。

 

 「これ、相談だったんですか?」

 

 「そのつもりだが?」

 

 「はぁ……悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんから聞いていましたけど…言葉が足りないです!」

 

 「そうか…」

 

 「そうですよ、選択肢がないようなものは相談とはいいません」

 

 「うむ…」

 

 「もう…仕方のない人ですね。私も一緒に行きます。放っておけませんから」

 

 女神官の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を見つめる目には確たる意志が宿っている。それは先程までの自信がないものではなかった。

 

 「…好きにしろ」

 

 「はい、好きにします」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)

 

 「なんだ?」

 

 「同行を依頼したいがいいか?」

 

 「今は闇人(ダークエルフ)はいないから俺だけになるが、それでもいいならな」

 

 「それでいい、大規模な巣が発見された。手はいくらあっても足りん」

 

 「了解した、準備をしてくる。場所は何処だ?」

 

 「森人(エルフ)の領土だ」

 

 「道案内は彼らか」

 

 「…………」

 

 「その様子だと、我々で行くつもりだったな?」

 

 「ああ…」

 

 「現地の者がいた方が対処できるだろう」

 

 「そうだな…」

 

 森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)の三人のもとへ行く小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を見送り、私も準備へ向かった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 ギルドを出てから三日が経った。目的地には明日の朝方、突入する。

 

 その為、目的地前で一夜を明かすことになった。六人で燃やした薪を中心にして座っている。

 

 道中も鉱人(ドワーフ)道士と妖精弓手が小競り合いを起こすものの、一党(パーティ)の雰囲気は悪くなく。連携にも問題はなさそうだと私は一安心する。

 

 「それでさ、皆は何で冒険者になったの?」

 

 「なんだ、耳長娘?突然どうした」

 

 「ただ、気になっただけ」

 

 「わしは旨いもんを食うためだ、おまえさんはどうだ」

 

 「私は外の世界に憧れてって感じ」

 

 「俺はゴブリンを殺すためだ」

 

 「アンタは何となく分かってたわ」

 

 「拙僧は異端を殺して位階を高め、竜となるため」

 

 「は、はぁ…えと、宗教はわかります。私も地母神様の教えを守っていますから」

 

 「竜になるためか…懐かしいな」

 

 ロードランで見掛けた彼らを思い出して思わず声が漏れた。蜥蜴僧侶はその話に興味があるようだ。

 

 「おや、騎士殿は拙僧の同胞と旅をしたことが?」

 

 「いいや、私の故郷で同じく竜になろうとする者たちが居たのを思い出した」

 

 「ほほう、その話を聞いても?」

 

 「ああ、私の故郷では『竜体石』というものを使って体を竜に変化させる者たちが信仰する宗教がある」

 

 「なんと!人の身で竜に!」

 

 「へぇーすごいわね」

 

 人が竜になるという話に興味があるようで、蜥蜴僧侶と妖精弓手は食い入るように話を聞く。

 

 「竜といってもあの巨体になるわけではない。人の体に竜の頭、全身には鱗が生え、小さな翼と尾がある。あとは竜のブレスを吐けるようになっていたな」

 

 「それでも人の身で竜になるというのはすごいですよ」

 

 「騎士殿はなれないのですかな?」

 

 「なれないことはないがなるつもりはない」

 

 そうして私が懐から取り出したのは『竜体石』と『竜頭石』。

 

 「これが竜になるための道具なのだが…」

 

 「ほうほう」

 

 「これを使っている間は装備防具を装着することは出来ない」

 

 「鱗が生えるとはいえ、只人(ヒューム)には厳しいわよね」

 

 「最大の問題は死ぬまで変化が解けないことだ」

 

 「えぇ…それは…信徒でもないと使わないわね…」

 

 「でも、元々悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんはその宗教の信徒だったんですよね?」

 

 「別に私は竜になりたい訳ではないからな。竜には成らず、貢ぎ物をして鞍替えした」

 

 「そんな鞍替えをしていいのですか?」

 

 宗教に造詣の深い女神官としてはあまり心地いい話でないのかは少し顔をしかめる。

 

 「あちらでは普通のことだったな。宗教と言ってもこちらのようなまともな感じではない」

 

 「えっと…どのような」

 

 「基本的には戦うための宗教しかないな。闇に唆され戦いの血に酔ったダークレイス、神に仇なす者を狩り、耳を剥ぐ『暗月の剣』、周囲に死を撒き散らす墓王の眷属とか」

 

 「アンタところの宗教はどうなっているのよ」

 

 ロードランの血生臭い宗教事情に皆引き気味だった。実際はダークレイスにも愉快な人物はいたりする。

 

 逆に白教だというのに我欲に塗れ、聖女レアとその供たちを陥れた『アイツ』のようなのもいる。

 

 私も恩恵を受けられていないのに『太陽の戦士』になっている変わり者の部類かもしれない。

 

 「人それぞれだが私のように鞍替えする者は少なくない。ダークレイスから暗月の剣へ鞍替えする奴もいる」

 

 「アンタはどうなの?」

 

 「太陽信仰が一番性に合った。『ある人物』に憧れてというのもある」

 

 「へぇー…やっぱり、外の世界は私が知らないことが沢山ね!」

 

 その後は各自が持ち寄った食べ物を分けあったり、酒を飲んだりし、そろそろお開きかと思われた頃

 

 「そういえば、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんの冒険者になった理由を聞いていませんね」

 

 「あー!そうじゃない!」

 

 「冒険者になった理由といわれてもな…この国で稼ぐ術が冒険者になることだったからだ」

 

 「じゃあ!旅をしていた理由は?」

 

 「……………」

 

 どうしたものかと悩む。勿論、いくら彼らが善良だとはいえ真実を話すわけにもいかない。

 

 「あのー、無理にはお聞きしませんよ?」

 

 「ん…いや、大丈夫だ。私が旅していたのは『古い王たちの地(ロードラン)』と言われていた」

 

 「聞いたことがないの…かなりの遠方か?」

 

 「ああ、ここ数年で同郷を見掛けたことはない」

 

 「じゃあ、何でこっちに来たの?」

 

 「偶然だ、転移(ゲート)巻物(スクロール)を誤って開いてしまってな」

 

 こういう誤魔化しを行うとき、古代の魔具は言い訳に便利だ。

 

 「そりゃ、大変じゃな…帰る気はないのか?」

 

 「彼処での使命は終えた。もう戻っても何もすることはないだろう」

 

 「それでその使命はなに?」

 

 「『火を継ぐ』ことだ」

 

 「火を…継ぐですか?」

 

 「そうだな…選ばれし者が多くの苦難を乗り越え、王に謁見する。それが『火継ぎ』だ」

 

 嘘は言ってない、嘘は。正確には火継ぎは謁見(戦闘)の後が重要だが。

 

 「へぇ!英雄譚みたいなことしてたのね!それで王様に謁見できたの?」

 

 「そうだ。私の火継ぎは終わり、使命を果たした私は何もすることがなかった。故に今回の出来事は私に新たな楽しみを与えてくれた」

 

 「なるほどねぇ……」

 

 「そろそろ、お開きとしよう。明日は明け方に到着しなければならない。早い内に休息を取るとしよう」

 

 「そうだな、見張りはどうする?」

 

 「私、オルクボルグ、騎士の三人でいいんじゃない?術師は休息をしっかりと取らなきゃいけないし」

 

 「そうするか」

 

 「ああ」

 

 「じゃあ、私が最初の見張りね」

 

 「任せた」

 

 見張りを妖精弓手に任せ、横にならず背後の岩に背を預けるようにして眠るふりをする。そうして、私は一晩寝ずに見張りをしているのだった。















感想・評価・お気に入りありがとうございます。
前回も誤字脱字訂正等ありがとうございます!
感想の方も頂けたのなら楽しく読ませて頂きます。

実際、作者が太陽戦士好きになったのは
某動画サイトのゴーレムアクスを使う
ダークレイス上がりの太陽戦士が楽しそうにマルチをしていたからですね

ゲームは楽しくやるのが一番ですから
皆さまにも太陽の加護がありますように!
太陽万歳!Y


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搦手が常套手段

 「あれは巣穴というよりも何かしらの遺跡が利用されたみたいだな」

 

 私は遠眼鏡で目的地を見ている。入り口は地面に半ば埋もれて、白石造りであることから人工の物だと分かる。

 

 「見える奴以外にゴブリンはいる?」

 

 「いや、ゴブリン2体、狼一匹だ」

 

 「了解…」

 

 伏兵がいないことを確認すると妖精弓手は弓を構えて矢を番えた。ギリリと弦が音を立てて引き絞られた。

 

 「本当に手伝わなくて大丈夫なのか?」

 

 「ええ、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)はそこで私の弓の腕を見てなさい…」

 

 風が吹いているため、鉄を使わない彼女の矢は距離が離れると厳しそうだ。

 

 矢を放つとそれは大きく右へ逸れる。その軌道を見た鉱人(ドワーフ)は舌打ちするが彼女は不敵に笑う。

 

 大きく逸れた矢はまるで誘導されるように向きを変え、右端のゴブリンの頸椎を破壊し、そのまま突き抜けその先のゴブリンの眼窩を貫く。

 

 何が起こったか理解できない狼が吠えようとするが大きく口を開いた瞬間、間髪入れず喉奥を矢が射ぬく。

 

 「素晴らしいな、魔法の類いにしかみえない」

 

 「すごいです!」

 

 「ふっふーん!でしょ!充分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないものよ」

 

 「それをわしの前でいうかね…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は死んだゴブリンの前へ立つとナイフを取り出す。

 

 「な、何するの?」

 

 「ゴブリンは臭いに敏感だ、特に『森人(エルフ)』や『女、子供』の臭いにだ」

 

 「ね、ねぇ、オルクボルグ…まさかと思うけどそれを私に…」

 

 「そうだ」

 

 間髪入れない返答と手に持った血に塗れた手拭いが答えだった。

 

 「い、嫌よ!貴女も何か…」

 

 「直ぐ慣れますよ…」

 

 女神官にも問いかけるが彼女は死んだ目をしながら、これから起こることを観念している様子だ。

 

 「い、嫌ァァ!!」

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 入り口から入るとそこは見事な造りの通路が続く壁には年代を思い浮かべさせる絵が描かれている。

 

 「ふむ、見たところ…かなり前の時代の神殿か何かですかな?」

 

 「ここは神代の頃に大きな戦争があったそうなので、ここはその時の砦かもしれませんね」

 

 「兵は去り、代わりに小鬼共が棲まう。残酷なものだ」

 

 「残酷と言えば…大丈夫かの、耳長娘」

 

 「うぇぇ……気持ち悪いよぉ……うぅ…」

 

 皆の目が先頭で罠を警戒しながらも、泣き言を言う妖精弓手に向く。

 

 「うちの闇人(ダークエルフ)は必要ならと適応していたが、これが普通の反応だな」

 

 「私も最初は慣れませんでしたから…」

 

 「こんなのに慣れたくない!」

 

 「慣れろ」

 

 妖精弓手は不満を言いながらも罠を見逃すまいとしっかりと警戒している。

 

 「皆、待って」

 

 「ん?…鳴子か」

 

 「ええ、新しいものだから気付いたけど」

 

 彼女の指差す床は確かに僅かに浮き上がっている。

 

 「懐かしいタイプの罠だ。私の所では矢が飛んでくるのと棘が出るのが主流だった」

 

 「いやな罠ね…殺す気満々」

 

 私たちの会話を余所に小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は考えているようだ。

 

 「妙だな…トーテムは見なかった」

 

 「トーテム?」

 

 「トーテムはないのに罠はある。これは面倒そうだ」

 

 「ねぇねぇ、二人で会話せずに説明して!」

 

 「えっと…ですね?罠があるということは、ゴブリンの上位種がいるはずなんです。でも、ここまでゴブリン・シャーマンの置くトーテムを見ませんでした。それが妙なんです」

 

 「なるほど、上位種以外に知恵の足らんゴブリンに知恵を与えた存在がいるかもしれんと」

 

 「俺の知らない上位種の可能性もある。注意して進むぞ」

 

 更に歩くとそれまで一本道だったのが左右に別れた道に辿り着いた。

 

 「どちらに行くのが正解か」

 

 「ごめんなさい、石の床では私には分からないわ」

 

 「どれどれ…」

 

 鉱人(ドワーフ)道士が身を屈めて床を見る。私はその様子を見て、彼が何を見ているのかに見当が付いた。

 

 「なるほど、床の磨り減り具合を見ているのか」

 

 「ゴブリンが野うさぎのように後ろ歩き(バックトラック)でもせん限りは大丈夫だろう。…磨り減り具合からするに奴等のねぐらは左じゃな」

 

 「先に右に行くぞ」

 

 「聞いておったか?」

 

 「ああ、だが先に行かねば手遅れになる」

 

 「今は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)がリーダーだ。貴公がそうだというなら私は従おう」

 

 通路を右に曲がる。歩いていると徐々に悪臭がキツくなり、扉の前まで来ると鼻を塞がずにはいられない程になる。

 

 「なんなのよ、此処…」

 

 「奴等の汚物溜めだろう」

 

 「おぶっ!」

 

 「意識して鼻で呼吸しろ、直に慣れる!」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は固く閉ざされている扉を蹴破る。

 

 部屋のなかは薄暗く只人(ヒューム)である我々は気付きにくいが、奥に鎖で繋がれた何者かがいるようだ。

 

 松明で照らしてみるとそれは右半身がぐちゃぐちゃにされながらも生き延びている森人(エルフ)だった。

 

 「うっ!うぇ…おぇぇ……えぇぇ……ッ」

 

 妖精弓手は同胞が悪意で弄ばれたその姿に胃の内容物を吐き出してしまう。

 

 私は彼女の背を擦る。冒険者として活動していたとしても同胞のあのような姿は純粋な彼女には厳しいだろう。

 

 「大丈夫か?」

 

 「ご、ごめんなさい…でも、こんなのって…あんまりよ…」

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)…」

 

 「ああ…」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は気付いていたようで、周囲にあった塵山のひとつへ短剣を投げる。

 

 「グギャ!」

 

 小さい悲鳴が上がるとゴブリンが這い出てくるが、間髪入れずに頭部への投擲で絶命した。

 

 「取り敢えず、そこの森人(エルフ)を救出しよう。何か知っているかもしれない。憔悴しきっているな……治癒の水薬(ヒール・ポーション)より奇跡の方がいいだろう」

 

 「わかりました!小癒(ヒール)を使いますね」

 

 「彼女を送り届ける役目は拙僧が…」

 

 その後は蜥蜴僧侶の竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)に手紙と森人(エルフ)の娘を担がせる。

 

 「これで口を濯ぐといい」

 

 「…ありがとう…ごめんなさい…迷惑かけるわね」

 

 妖精弓手も先程の光景にかなり参っているようだ。弱気な発言が目立つ。

 

 「これはお前に渡しておく」

 

 「それは地図か」

 

 「さっきの森人(エルフ)が持っていた地図だ。奴等のねぐらは反対の道で合っているようだな」

 

 「信じておらんかったのか?」

 

 「いや、信憑性が増して確実となっただけだ」

 

 「その地図…、私が持っておくわ…」

 

 「そうか、無理はするな。駄目そうなら帰れ」

 

 あんまりな言い方に妖精弓手の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を見る目付きがキツくなる。

 

 そんな小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)を女神官と私が咎める。

 

 「「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)(さん)」」

 

 「ああ……無理する必要はない。罠の警戒は俺や悪魔殺し(デーモンスレイヤー)でも代行できる。無理なら強制はせん、着いてこられるか?」

 

 「ふふふ……オルクボルグって勘違いされやすい質?」

 

 「……らしい、言葉が少ない、足らないとはよく言われる」

 

 先程の発言も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の言葉が足らなかったが、気遣いの言葉だと気付いた妖精弓手は微笑む。

 

 「ありがとう、大丈夫よ。ここで引いたら森人(エルフ)の名折れよ。ここは森人(エルフ)の領域なのに森人(エルフ)の冒険者が最初に脱落なんて恥だわ」

 

 「そうか…進むぞ」

 

 「ええ」

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 「この先が回廊ね」

 

 妖精弓手の言葉で一党(パーティ)の足が止まる。どうやら、この先にゴブリン共が大量にいるらしい。

 

 「全員、呪文はいくつ残っている」

 

 「えっと、私は先程小癒(ヒール)を使ったので二回。その後の戦闘を考えなければ三回です」

 

 「拙僧は竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)は触媒が残り少ない…あと一度であろう。その他の呪文を三回と考えていただきたい」

 

 「あと四回は確実じゃの」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)、お前はどうだ?」

 

 「今回は搦め手ばかりでな、決定打になるようなものはないぞ」

 

 「そうか…」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)って魔法も使えたのね」

 

 妖精弓手は意外そうに私に問いかける。そういえば、彼女達の前では使っている様子は見せてなかった。

 

 「私の魔術や呪術は女神官たちとは異なるものだ。私が使えるのは搦め手が大半故に火力には期待するなよ」

 

 「呪術というのは…なんじゃ?」

 

 「……私の故郷に伝わる炎を操る術だ、魔術の才がないものでも学ぶことはできる」

 

 「ほぉ、それはまた凄まじい術ですな」

 

 「『炎を畏れろ。その畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、全てを失う』」

 

 「なんですか、それ?」

 

 自然と口から出たそれに女神官が反応した。

 

 「私が術を学んだ師の教えだ。呪術は力だ、力を制御出来ず溺れる輩はその身を焼かれるだろう」

 

 「簡単には学べるものではないということじゃな」

 

 実際、身を焼かれる程度ならばマシだろう。イザリスの末路を見るに、呪術師の行き着く先は……

 

 「魔術資源(リソース)は確認した。行くぞ」

 

 「ええ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と妖精弓手が先行して回廊へ入っていく。それに続くように他の三人も入っていくのだった。

 

 回廊は地図の通り吹き抜けとなっている。音を立てずに下の階を覗いてみると、そこには50を越えるゴブリンがいた。

 

 遺跡の最奥だというのもあるのだろうが、大半のゴブリンは危機感なく眠りについている。残りもウトウトしているような状態だ。

 

 「かなりの数がいるみたいだけど…」

 

 「問題ないだろう。悪魔殺し(デーモンスレイヤー)、『アレ』は使えるか?」

 

 「前に使ったのだな。ただ今のままだと騒ぎ立てられるぞ」

 

 「鉱人(ドワーフ)道士は酩酊(ドランク)、女神官は沈黙(サイレンス)の呪文が使えるのだったな」

 

 「はい」

 

 「おう、使えるぞ」

 

 「なら、作戦はこうだ」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の伝えた作戦に妖精弓手は苦い表情をする。鉱人(ドワーフ)道士と蜥蜴僧侶も同様だった。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 『呑めや歌えや酒の精(スピリット)。歌って踊って眠りこけ、酒呑む夢を見せとくれ』

 

 酒壺を片手に鉱人(ドワーフ)道士が呪文を唱える。一体のゴブリンがそれに気付き、他の仲間に伝えようと声を出そうとするが出ない。

 

 『いと慈悲深き地母神よ、我らに遍く受け入れられる、静謐をお与えください』

 

 それは女神官の唱えた沈黙(サイレンス)の呪文だ。その結果、ゴブリン達は音も立てず全て深い眠りに就いた。

 

 その様子を確認すると私は『呪術の火』を取り出す。私がここで唱えるのは…

 

 『猛毒の霧』

 

 上階から『猛毒の霧』が降りていき、広い範囲で降り注ぐ。ゴブリン達は眠りながら猛毒に侵され、そのまま永遠の眠りに就くのだった。

 

 「ねぇ…あれ…私たちが降りても大丈夫なの?」

 

 「問題ない、あと数秒で霧が晴れ毒の感染力もなくなる」

 

 「それならいいけど…」

 

 「それにしてもかみきり丸、よくこんな作戦を思い付くものだ」

 

 「俺は大したことが出来ん。それ故に一党(パーティ)をどう動かすかも考える。想像力は武器だ」

 

 「もう下に降りても問題ないだろう」

 

 「これで終わりとは思えん。気を引き締めろ」

 

 回廊を降りていく。壁には神代の戦争や神々の争いが壁画として残されている。

 

 こんな状況でなければ、一つ一つじっくりと眺めてみたいものだった。

 

 最下層に降りると更に奥へ続く道があるのがわかる。この先に今回の騒動の親玉がいるのだろう。

 

 「さてさて、どのような者が現れるか…」

 

 「一体、どんな奴だろうと私たちでッ!」

 

 突如、大きな音と共に地面が揺れる。それは徐々に大きくなり、原因となるものが近づいてくるのが分かる。

 

 「ゴブリンどもがやけに静かだと思えば…やはり雑兵では役に立たんか」

 

 姿を現したのは蜥蜴僧侶よりも一回り姿が大きく、頭には二本の角が生えている人喰い鬼(オーガ)だ。

 

 片手で振るう巨大な戦鎚は強固な楯を持つ冒険者を楯ごと叩き潰し、扱う魔法は数多の術を修めた魔術師を上回る火力にて焼き殺すという。

 

 「オー…ガ…」

 

 その姿を見た妖精弓手、鉱人(ドワーフ)道士、蜥蜴僧侶、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)悪魔殺し(デーモンスレイヤー)は戦闘態勢に入る。対して、女神官は人喰い鬼(オーガ)をしっかりと見詰めているものの恐怖で錫杖がカタカタと音を立てていた。

 

 「なんだ、ゴブリンではないのか」

 

 「ちょっ、オルクボルグ!人喰い鬼(オーガ)を知らないの?!」

 

 「知識としては知っている。だが、興味がない」

 

 「貴様ァ!!」

 

 人喰い鬼(オーガ)の持つ戦鎚が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)へ向けて振るわれた。彼は後方へ跳び、戦鎚を避ける。

 

 「この我を。魔神将より軍を預かるこの我を侮っているのかぁ!!」

 

 戦鎚の振るわれた白石の床が粉々に砕け散る。その光景を見れば人喰い鬼(オーガ)の振るう戦鎚の威力が理解できるだろう。

 

 「貴様や魔神将も興味がない」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)のその言葉に怒気を強める。

 

 「ならば、その身を以て我が威力を知るがよい!『カリブンクルス(火石)』…」

 

 人喰い鬼(オーガ)の掌に火が灯る。私はそれを『知っている』。

 

 「『クレスクント(成長)』…」

 

 「あれって!」

 

 「火球(ファイア・ボール)!!だが…これはちょいとでかすぎるぞい!!」

 

 赤々と燃える炎は大きく成長し、その色はやがて橙、次いで白く、最後には蒼く…

 

 「皆さん!私の後ろへ!」

 

 女神官が聖壁(プロテクション)を張るため、皆を自身の後ろへ下がらせる。

 

 「『いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください』、聖壁(プロテクション)!」

 

 「__________ヤクタ(投射)ァ!!」

 

 燃え猛る火玉は不可視の壁によって宙空で阻まれるが、その勢いが落ちる様子はなく我々を焼き尽くしにかかる。

 

 「貧弱な只人(ヒューム)の奇跡ごときでは止められまい!」

 

 「くぅ…!このままじゃあ…」

 

 女神官の様子からあまり状況は芳しくないようだ。だが、それで『十分』だ。

 

 「よくやった」

 

 「え?…」

 

 「ちょっ!?」

 

 私は聖壁(プロテクション)の前に出る。盾を構え、火球(ファイア・ボール)を受け止めた。豪々と燃える中そのようなことをすれば如何に不死人といえども死は免れない。

 

 『だが、それは先程までと同じ装備ならという話だ』

 

 ジリジリと身を焦がす様な暑さというが実際に身が焦がされているのだろう。それでも私の体は火球(ファイア・ボール)の熱によって蒸発することもなく形を保ち、女神官の聖壁(プロテクション)と共に盾で防ぎきった。

 

 体力が予想以上に削れたが死ぬことはなかったので問題はない。『エスト瓶』をグイッと呷ると私の体は元に戻る。

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さん……なんですか?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 「アンタ、いつの間に着替えたのよ!」

 

 皆が困惑するのも無理はない。今の私は先程までの全身鎧ではなく、その身は黒き鎧で包まれている。

 

 かつて、グウィン王が火継ぎを行う際に彼に付き従った騎士達。その騎士達は再び熾った火に焼かれ、銀色であった鎧は黒く焼け焦げたとも言われている。

 

 その為か『黒騎士装備』は高い耐火性を保有している。呪術や火炎を使う者が多い場合は重宝した。

 

 「小癪なァ!貴様ら、楽に死ねるとは思うなよ!」

 

 「やれるものなら、やってみなさいよ!」

 

 火球(ファイア・ボール)を防がれた人喰い鬼(オーガ)は怒り狂う。そんな奴に妖精弓手は矢を放ちながら啖呵を切った。

 

 「竜牙兵を出せ、手が足りん」

 

 「承知、『禽竜の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ』、竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)!」

 

 蜥蜴僧侶が合掌し、牙をばら撒く。すると牙が沸騰し、骨の兵士が現れる。

 

 「『伶盗龍の鈎たる翼よ。斬り裂き、空飛び、狩りを為せ』」

 

 続けざまに竜牙刀(シャープクロウ)の祈祷。掌の牙が見事な曲刀へ変化する。それを竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)へ渡し、彼自身は腰にある小刀を抜く。

 

 「鉱人(ドワーフ)道士、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)

 

 「なんじゃ?」

 

 「なんだ」

 

 戦っていると小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)から声を掛けられた。戦闘を妖精弓手、竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)、蜥蜴僧侶に任せて離脱する。

 

 「__________________。こういう作戦で行く、可能か?」

 

 「俺は大丈夫だ」

 

 「ワシもだ」

 

 「では、行くぞ!」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)と私は戦線に戻り加勢する。

 

 鉱人(ドワーフ)道士は雑嚢にある粘土を取り出すと投石紐(スリング)を使い、人喰い鬼(オーガ)よりも高く放り投げた。

 

 「ちょっと、鉱人(ドワーフ)!当たってないじゃない!」

 

 「黙っとれ、耳長娘!『仕事だ仕事、土精ども。砂粒一粒、転がり廻せば石となる』、『石弾(ストーンブラスト)ォ!』」

 

 砂粒ではなく粘土を使用した石弾(ストーンブラスト)は巨大な塊となって人喰い鬼(オーガ)へ向かい落ちていく。

 

 「この程度!」

 

 人喰い鬼(オーガ)は戦鎚を振り上げ迎撃した。石弾(ストーンブラスト)の塊は砕け、破片が周囲へ散らばる。

 

 「今だ」

 

 「おうよ!『土精、水精、素敵な褥をこさえてくんろ』」

 

 「何ィ!これは!?」

 

 鉱人(ドワーフ)道士の唱えた呪文は泥罠(スネア)

 

 人喰い鬼(オーガ)の戦鎚によって砕けた床の下の土と鉱人(ドワーフ)道士の石弾(ストーンブラスト)の破片。

 

 本来ならもっと水分を含んだ土がなければまともに効果を発揮しないが人喰い鬼(オーガ)の重さも相まって片足がズブズブと沈んでいく。

 

 そこへ私が『呪術』を発動する。呪術は人喰い鬼(オーガ)に届くと瞬く間に広がる。

 

 「ちょっと!それってさっきの毒!?」

 

 「ふん!ゴブリンどもに効いたからと……我に毒など効かんわァ!?」

 

 片足を沼に取られたまま、私へ向かって力任せに戦鎚を振り下ろす人喰い鬼(オーガ)

 

 戦鎚が地面を粉々に砕く『はずだった』。しかし、目の前で起こっているのは無惨にも半ば折れた戦鎚。

 

 私が発動したのは…

 

 「残念だったな、先程のは毒ではない。酸だ」

 

 「酸だとォ!?」

 

 呪術『酸の噴出』は対象の『武具や装備』を著しく劣化させる呪術だ。そんな呪術をまともに食らい続けた戦鎚を力任せに叩きつければ折れるのも道理だろう。

 

 「くっくっくっ…先程から随分と虚仮にしてくれたな!お前は火球(ファイア・ボール)に耐えられるだろうが他の者はどうだ!もう限界の小娘とお前でもう一度防いでみるか!?『カリブンクルス(火石)』……」

 

 そう言うと火球《ファイア・ボール》の呪文を唱え始める。

 

 「どうする!小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)殿!」

 

 「問題ない、手はある」

 

 蜥蜴僧侶がどうにか呪文を止めようと竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)を突撃させたりするものの人喰い鬼(オーガ)はそれを無視して詠唱を続ける。

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はそんな彼の質問に何でもないかのような冷静さで応答した。

 

 「ふん!見れば、先程から何も出来ていない只人(ヒューム)か、どうした命乞いか?」

 

 「お前こそどうした?俺たちに命乞いでもするのか?」

 

 売り言葉に買い言葉、そんなやり取りに沸点の低い人喰い鬼(オーガ)は吼える。

 

 「火球(ファイア・ボール)から生き残れたら、貴様らはゴブリンどもの食料と孕み袋だ!」

 

 「ごちゃごちゃ言わずに早くしたらどうだ?」

 

 「ならば望み通り貴様は焼き尽くし、消し炭も残さん!!『ヤクタ(投射)』ァ!!」

 

 「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さん!!」

 

 「オルクボルグ!!」

 

 火球(ファイア・ボール)小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)へ向けて放たれる。作戦を知らない女神官たちは悲鳴のような声をあげた。

 

 だが、当の本人は冷静に雑嚢を漁り、目的の物を取り出す。

 

 「馬鹿め」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が雑嚢から取り出したものを前へ突き出した。その瞬間、目を開けていられないほどの閃光と轟音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 閃光と轟音が収まり、辺りに静寂が戻る。彼らが目を開けるとそこには……

 

 「が、ぼぉ……ッ!?どういうことだぁ?!」

 

 海水に浸かり腰から下が胴体と切り離された人喰い鬼(オーガ)の姿だった。

 

 「『転移門(ゲート)』の巻物(スクロール)だ、海底へ繋げた」

 

 「『転移門(ゲート)』の魔法を攻撃に?……」

 

 まさかの回答に妖精弓手は呆ける。正気の冒険者ならそのような使い方はしないだろう。

 

 巻物(スクロール)というのは、基本的に売り払われ冒険者たちの稼ぎに変えられる。

 

 そんな冒険者たちでも手放したがらない巻物(スクロール)が『転移門(ゲート)』の魔法が封じ込められた巻物(スクロール)だ。

 

 これさえあれば戦闘地帯から安全域まで一瞬であり、一党(パーティ)全員が生きて帰還できる確率が高まる。

 

 そんな巻物(スクロール)を攻撃に躊躇なく転用するなど普通の冒険者なら正気を疑うだろう。だが、彼はこの術を手の一つとして常に考えている。

 

 勿論、それは人喰い鬼(オーガ)退治などではなくゴブリン退治に使う。

 

 「がふぅ……ごぼぉ……」

 

 「命乞いでもするのか?」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は下半身が切り離され死にかけの人喰い鬼(オーガ)へ悠々と近づく。

 

 人喰い鬼(オーガ)の口には血が溢れだし、最早まともに喋ることすら出来ない。

 

 そんな人喰い鬼(オーガ)の頭へ一振りの剣を突きつける。

 

 「お前は強いのだろう。だが、ゴブリンの方がよほど手強い」

 

 最期に言おうとしていたのは命乞いか罵りの言葉か。結局、言葉を発することなく人喰い鬼(オーガ)の意識は呆気なく消えた。

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 遺跡の入り口まで戻ってきた私たちを待っていたのは森人(エルフ)の用立てた馬車と二人の森人(エルフ)

 

 「お疲れさまでした!中の様子やゴブリンは……」

 

 「今は皆疲れてるのよ……」

 

 次々と無言で馬車に乗る皆をフォローするため私と妖精弓手が説明する。

 

 「後にギルドへ正式な報告書を提出するが、ゴブリンどもは全滅した。今回の騒動は人喰い鬼(オーガ)が率いるゴブリンどもだ」

 

 「オ、人喰い鬼(オーガ)ァ?!それで人喰い鬼(オーガ)は?」

 

 「既に討伐した。今回の依頼料は後に改めさせてもらう」

 

 「お、お疲れさまでした。それでは我々は遺跡の探索に移ります。街までごゆっくり……」

 

 馬車はガタガタと揺れながら走り、中では各々楽な姿勢をして休んでいる。

 

 「ねぇ、貴女たちっていつもこうなの?」

 

 「ええ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんはいつもこんな感じですよ」

 

 「彼は?」

 

 「悪魔殺し(デーモンスレイヤー)さんですか?あの人も割りと無茶します」

 

 私は寝ているフリで彼女たちの会話に耳を傾ける。

 

 「見てらんないわ。……なんかモヤモヤするの」

 

 彼女は冒険とは楽しいものだと語る。そう言う意味では私や小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)はまともに冒険をしたことがないのかもしれない。

 

 「だから、私が『冒険』させてやるわ」

 

 次第に彼女らも疲れから来る眠気には耐えられず、馬車の中で起きているのは私だけになる。

 

 こうして、私たち六人の初めての依頼(クエスト)は終わったのだった。

 

















オーなんとかさん討伐、最初は牛頭でもいいかなと思ったけど
それだとおーなんとかさん出番なくて可哀想なので…

次回は間章、ドラマCDを聞いてて思いついたネタがあったので
それを実際に卓で回してみようを思います

事故らない限りは大丈夫、大丈夫
私にはダイスの女神様が付いているからね


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信じ仰ぐ者

        太陽のメダル

 太陽を信仰する者達と共に旅をすると得られる硬貨。

 硬貨には彼らの信仰対象である太陽のシンボルが描かれている。

 僅かに魔力を帯びており、握ると仄かに暖かさを感じる。その暖かさは暗闇を進む為の勇気を授ける。



▼勇者と太陽

 

 未だに夢に見る。それはボクがまだ孤児院に居た頃の思い出。

 

 村の敷地から少し離れた草原でボクと師匠が向き合っている。

 

 ボクの手には木刀。師匠は手甲はしているけれど何も持ってはいない。

 

 「やぁー!!」

 

 「……」

 

 「あわわ!?」

 

 勢いよく振るわれた木刀を師匠は手で往なす(パリィする)。体勢が崩れたボクは前のめりに倒れた。

 

 倒れたボクの頭へ軽めの手刀が落ちる。冒険者になると決めた日から稽古をつけて貰っているが毎日こんな感じだった。

 

 「うぅ…師匠強いぃ…一回も当てられないよぉ…」

 

 「剣の振り方はマシになった。だが、素直な太刀筋になり、その分軌道が読みやすくなっている」

 

 「フェイントを入れるの苦手なんだよね…。こう…ズバァッ!って感じで叩き伏せる程の力があればなぁ」

 

 「特大武器こそ技量が必要だ。大振りの攻撃を一対一で当てるには武器の間合いや攻撃後の隙を考える必要がある」

 

 「ほえー…武器選びって難しいなぁ」

 

 「…そうだな。お前にはこれが丁度いいかもしれん」

 

 取り出したのはロングソード。一見して何の特別な感じもしない剣の筈なのだがボクの目はそれから離れなかった。

 

 「これは『アストラの直剣』といってな。強力な祝福が施されているらしい」

 

 師匠は笑いながら『そんな祝福は感じたことはない』と言うがボクにはその剣が『光っている』様に見えた。

 

 「ねぇ、師匠」

 

 「なんだ?」

 

 「ボクが冒険者になるまでに師匠に一発入れられたらさ…」

 

 その剣をボクにくれないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 チュンチュンと小鳥の囀ずっている。先程までの夢の内容はまだはっきりと覚えている。

 

 故郷を出るまでの師匠との特訓。とても厳しかったがボクにとっては幸せな記憶の一つ。

 

 いつもの服装に着替えると立て掛けてある『二つの聖剣』を腰に下げて部屋を出た。

 

 「おっはよー!!

 

 二階から一階の『剣聖』と『賢者』の二人がいる席を目掛けて跳ぶ。

 

 華麗に着地を決めるボクを見て二人は呆れた様子だがよくあることなので流す。

 

 「今日は一層元気ですが何かありました?」

 

 「うん!師匠と居た頃の夢をね」

 

 「貴女の師匠といいますと悪魔殺し(デーモンスレイヤー)殿ですね。どの様な方でした?」

 

 「うーん…割りと普通の人だよ?善人だけど聖人ではないし、様々な武器を使い分けるけど全ての腕前が達人って訳でもない」

 

 「では、何故そのような方から師事を?」

 

 「?そりゃ、師匠は『絶対に負けない』からだよ」

 

 「絶対に負けない…ですか…。それは貴女が相手でもですか?」

 

 「無理だね。『何度勝とうとも最後の一回は負ける』。」

 

 「それは実質勝ちなのでは?」

 

 「負けだよ、負け。ボクの心と師匠の心。折れるのはきっとボクの方が先なんだから」

 

 剣聖はボクの言っていることが理解できないのか首を傾げている。

 

 そんな会話に先程から黙っていた賢者が割り込んできた。

 

 「彼はいくつもの魔術を使うと聞いている。それは本当?」

 

 賢者らしい質問だった。師匠がボクに魔術を見せることは少なかったけど毎回違う術を使っていたことは印象に残っている。

 

 「手紙によると最近は属性付与(エンチャント)を覚えたらしいよ。そもそも、師匠の使う魔術は見たことないものばっかりなんだよね」

 

 「どんな呪文を唱えてたとか覚えてない?」

 

 「うーん…同じように唱えても何も発動しないと思うよ?確か、特別な触媒が必要だって言ってたから」

 

 ボクが教えて欲しいって言ってもまだ早いって教えてくれなかったからなぁ。今なら教えてくれるのだろうか?

 

 「そう…彼の使う術についてはいつか訊いてみたい」

 

 「次に会うのは魔神王を倒してからかな?」

 

 「彼が表だって動いてくれているお陰で我々は動きやすい。今のうちに魔神将を討伐する」

 

 「既に魔神王の守りも手薄になりつつあります。あと数体倒せば、魔神王との対決に持ち込めるかもしれません」

 

 「じゃあ、今日も朝食を食べたら次の目的地へ出発ね!早めにこの戦いを終わらせて師匠に会いに行こう!」

 

 今日も悪魔が出没するという遺跡を目指して旅を続ける。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 

 ボクたちが辿り着いたのは沼地の遺跡。沼地自体が疫病の温床らしく出来るだけ避けるようにして進んでいく。

 

 「ぬちゃぬちゃするぅ…」

 

 「あはは…少し油断していましたね」

 

 「……………」

 

 足元に気を付けていた為に上からの襲撃に気付かず羽虫の毒液を頭から浴びせられた。

 

 毒液は粘着性があり、服に染み込んだ液は素肌に密着するとヌチャヌチャと不愉快な感触を与えてくる。

 

 沼地に来てから口数が少なくなっていた賢者は毒液を浴びせられてから喋らなくなった。

 

 「大きい虫やヒルは他でも似たようなのは見たことあるけれど。火を吹く虫や犬の敵は他では見たことないね」

 

 「近年に発見された遺跡群は未知の存在が多いそうですから」

 

 「……前方。複数の人影がある」

 

 「ん?ボクたちの他にも冒険者が来てたのかな?」

 

 「味方とは限りません。注意して行きましょう」

 

 物陰に隠れながらその集団に近づく。彼らは地下に続く穴の前で話し合いをしていた。

 

 声の大きさは普通なので息を潜めて近づけば聞こえないこともない。

 

 「はぁ…やっと目的地ついたようだお」

 

 「皆さん、沼地の毒を浴びているので念のため解毒薬(アンチ・ドーテ)を」

 

 小太りの術師がヒィヒィ言いながら汗をぬぐっている。対しての癒し手らしき赤い服の女性は他の者のケアに回っている。

 

 「すまない。今回は貴公らには迷惑を掛けてしまった」

 

 「リーダーはもっとわがまま言ったほうがいいよぉ?アタシたちの為にいろいろな依頼(クエスト)は受けるのに自分の受けたい依頼(クエスト)は言わないんだものぉ」

 

 「そうだお。オイラの魔神(デーモン)を倒したいっていう頼みを優先してくれてるんだから、リーダーももっとやりたいことを言うべきだお」

 

 バケツのような奇妙な兜をしている戦士が申し訳なさそうにしている。

 

 すると横に立つフードを被っている女性がケラケラと笑いながら気にする必要はないと言い、それに術師も続く。

 

 フードの隙間からチラチラと見える格好にボクは顔を赤くする。

 

 フードの下は王都の鍛治屋で見かけた下着鎧(ビキニアーマー)のような鎧。

 

 正気なら着ないような装備だが彼女のプロポーションを引き立て扇情的な雰囲気を醸し出している。

 

 恐らく彼女は軽戦士なのだろう。だが、それにしたって肌面積が多くはないだろうか?

 

 そんな彼ら四人の話し合いを陰で聞いておると…

 

 「ねぇ…さっきからさぁ…そこに隠れているお三方は何が目的な訳ぇ?」

 

 独特な話し方をする女軽戦士はボクたちに気付いていたようでしっかりとボクたちの方向を向いてニヤリと微笑んでいる。

 

 しかし、その笑みとは裏腹にフードの下にある片手は腰に据えられている。恐らくボクたちが怪しげな行動をとれば行動に移せるようにしているのだろう。

 

 「ストップ!ボクたちはここへ調査に来たんだ。隠れて話を抜け聞いていたのは謝るけど敵ではないよ!」

 

 「ふむ…では何故こんな遺跡へ赴いたのだ?」

 

 「ボクたちは魔神(デーモン)がここにいるって話を聞いてね。それを確かめに来たんだ」

 

 「君たち三人で魔神をぉ?ギルドの階級は?」

 

 「あぁ…それなんだけど…うーん…いいのかな?」

 

 「仕方ない。それに彼らなら問題ないと思う」

 

 先程から黙っていた賢者が問題ないと言う。それを信じて身分を明かすことにした。

 

 普段は隠している白金の認識票を表に出す。

 

 「貴公…その認識票は…」

 

 「へぇ…アンタが十人目の勇者様なんだァ」

 

 バケツ頭の戦士と女軽戦士は興味深そうにボクたちを見つめる。術師はまだ現実を認識できてないのか口を開けたまま呆けている。

 

 癒し手は少し考えるようにして懐を漁ると三つの瓶を此方へ渡してくる。

 

 「貴女たちも疫病の恐れがあるので、取り敢えず解毒薬(アンチ・ドーテ)をお飲みください」

 

 「癒し手殿は相変わらずだお…」

 

 

 

 

 

 

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 「では我々も自己紹介するとしよう。我々は東の辺境を主な活動場所としていてな。魔神殺し(デーモンスレイヤー)と呼ばれていた」

 

 「デーモンスレイヤー?それって…」

 

 それは私の師匠を指す言葉。彼らもそう呼ばれるということは多くのデーモンを屠って来たのだろう。

 

 「ああ…そうだったな。此方ではデーモンスレイヤーは別の冒険者を指すのだったな。では、我々は魔神狩り(イービルハント)とでも名乗るとするか」

 

 「まず、自己紹介をしましょう。私は癒し手でこの一党(パーティ)回復役(ヒーラー)です。攻撃手段として短筒を携帯しています」

 

 赤い服の女性はやはり回復役(ヒーラー)だった。武器はここらではとても珍しい短筒。強力な武器ではあるが扱いや管理が難しい為に使う者は少ない。

 

 「薬師兼術師。材料があれば、水薬(ポーション)の類いは一通りは作れる。術の回数は五回程度だお」

 

 杖を持つ彼は術師。五回も術を行使するということは相当な使い手。ボクも回数は負けてないが賢者には使い方が雑だと何度も言われている。

 

 「ワタシは見ての通りの軽戦士。速さには自信があるよぉ。対人型に特化しているから普通の怪物相手にはそこまで期待しないでねぇ」

 

 軽戦士の彼女は『対人型』に特化していると言った。彼女の格好も対人での戦闘を想定して有利に戦うためなのだろう。

 

 「俺は信仰戦士とでも言えばいいのか…剣や盾は一通り扱え、奇跡も使える。昔、旅をしていた土地では『太陽を探していた』」

 

 「太陽を探す?空に浮かんでいるのではなくて?」

 

 「過去の旅ではとうとう見つけることは出来なかった。しかし、こうして今も諦めきれず旅を続けているのだよ」

 

 ウワッハハッと彼は豪快に笑う。不思議な人だとは思うがこれまでの言動で悪人では無いことは確かに分かった。

 

 ふと、彼の鎧に描かれているマークへ視線が移る。そのマークを何処かで見たような気がするのだが思い出せずにいる。

 

 「自己紹介も済んだところでこの先に進もうではないか」

 

 マークの事を思い出そうと考え込むが信仰戦士の言葉に考えを中断した。

 

 

 

 

 

 

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 「……流石に『彼女』はいないか」

 

 「彼女って?」

 

 「ここは昔に旅した場所にそっくりでな。その時、ここには『病に伏した妹の為に戦う姉』が居てな。話は通じなかったが今度は対話できないかと思っていたのだ」

 

 「何故、話し合いが通じなかったのですか?」

 

 「……彼女自身が対話する気がなかったのだろう。妹殿は話の通じる御仁だったからな」

 

 「そっか…」

 

 暗い空気を変えようとボクは少し声を張って訊く。

 

 「目的ってその人に会うことなの?」

 

 「いや、この先にある『目覚ましの鐘』と呼ばれるものを鳴らしに来たのだ」

 

 「『目覚ましの鐘』って何処かで聞いたような…」

 

 歩いていくと目的の大きな鐘が現れた。側には鐘を鳴らすためのレバーもある。

 

 「では鳴らすぞ!」

 

 信仰戦士がレバーを勢いよく引くとそれに数拍遅れて大きく揺れ、鐘は中の(ぜつ)と衝突し大きな音を出す。

 

 辺り一面に『ゴーン…ゴーン…』という鐘の音が鳴り響く。それを聞いてボクはこの鐘の音は『何処までも届く』ような気がした。

 

 「ふむ…同胞たちにも届いていればよいのだが…」

 

 「これで終わり?この先の探索は?」

 

 「いや、この先は恐らく溶岩地帯だ。今はまだその時ではない。我々は帰還するが貴公たちはどうする?」

 

 「ボクたちもギルドに戻るよ。ここまで来て魔神(デーモン)も見つからなかったからね。この奥にあるとしても後回しになるかな?」

 

 「うむ、ならば共に帰るとしよう。目は多いほうが不意打ちなどにも対処できるだろう」

 

 「そうだね。短い間だけどよろしく!」

 

 

 

 

 

 

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 「では、貴公たちの旅路に太陽あれ!」

 

 ギルドのある街に辿り着くと信仰戦士たちの一党(パーティ)は既に宿を取っているらしく別れを告げると去っていった。

 

 彼らが見えなくなるまで手を振って見送る。ボクの手には信仰戦士の彼から渡された『太陽の描かれたメダル』が握られている。

 

 彼らとの出会いはこれが最後ではないだろうと勇者としての勘が囁く。

 

 「あっ…思い出した!『不死の英雄』だ!」

 

 「ど、どうしたのですか?」

 

 「『目覚ましの鐘』!あと彼の着てた鎧やこのメダルのマーク!これって『不死の英雄』に出てくる言葉なんだよ!」

 

 「『不死の英雄』とは何ですか?」

 

 「えっ!知らないの!師匠がよく話していたから有名だと思ってたんだけどなぁ…」

 

 「……興味がある。話の内容は覚えている?」

 

 「流石に全部は覚えてないけどね。なになに?賢者も気になるの?」

 

 「ん…少し気になった」

 

 「ほほう!では、このボクが語ってあげようじゃないか!」

 

 「二人ともそれはギルドへの報告が終わり、宿に着いてからにして下さい」

 

 「はーい!」 「…うん」

 

 旅はまだまだ続く。きっと魔神王を倒しても続くのだろう。その旅にはきっと喜びもあれば悲しみもある。

 

 だからボクはただ強くあるのではなく『折れない心』を持ち旅を続けることを決意した。

 

 

 

 

 

 




どうも、皆さんお久しぶりです。

部署移動で引っ越しやらPCがぶっ壊れたりして忙しかったですが私は元気です。

取り敢えず、trpgのセッションも終了したので
録音とログを確認しながら文字に書き起こしていますので
もう少しお待ちください。

Twitterで今回のセッションで使ったキャラシを公開しときます。
他にも最近はまた最初から始めたダクソ3の話題を呟いたり、しなかったりします。
興味のある人は@soul_yurtをフォローしておいてください。
いつか読者さんとオンセとかしてみたいですね(基本的にオフセしかしたことがない)。


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