ガンダムビルドダイバーズ ミーティア (ウーパールーパー)
しおりを挟む

スタートダッシュ

少年少女がガンプラ作る話。
次からは短くなります。



「なんだ、コイツは……」

 龍襄(りゅうじょう)学園大学付属高校ガンプラバトル部。その部室。

 部員であるナガツキ・タクミが扉を開けて目にしたのは、窓側の日の当たる長椅子の上で女子生徒が猫の様に丸くなって寝ている様子だった。

「鍵はかけていたハズなんだが……」

 ガンプラバトル部と言いつつも、現在部員はタクミ一人のみ。部室のドアを開けたときに誰かが居るというのは本来ならあり得なかった。

 すわ、泥棒かと思いながら恐る恐る扉を開けたタクミは胸を撫で下ろす。この少女が泥棒と言うことはないだろう。

「と、なると……」

 この部屋の鍵を持っている人間は基本二人、タクミ本人と顧問の教師のみ。

「あり得るとしたら先生くらいか……」

 最早、形だけの顧問となっているが、入部希望とかなんとか言えば部屋の鍵を開けてくれるだろう。

「しかし、簡単に鍵を開けるのもこんな場所で眠りこけるのも無用心だと言えば無用心だな……」

 すぅすぅと規則正しい寝息をたてている少女の顔を見下ろし、そう呟く。

 だが確かに夏も過ぎ、柔らかい日の差し込む窓際の長椅子は小春日和の午後に昼寝するにはピッタリのシチュエーションと言えよう。タクミも授業中には船を漕ぎかけた。

 タクミは作業ブースの前の椅子に腰掛け、肩にかけていた鞄を作業台の上に置いた。部員がタクミだけだった為、長椅子はほとんど荷物置きになっている。もとより占領されたところで大した問題ではなかった。

 とは言え、この少女は何者なのか。制服はこの学校のモノだ。部外者では無いのは明らかだろう。

 身長はさほど高くなく、小柄に見える。制服を着ていなければ中学生、下手をすれば小学生扱いをされるかもしれない。一年生だろうか。

 髪型はフワッとしたショートカット。丸まって寝ているところからも小動物的な印象を受ける。スカートとソックスの間から覗く健康的な太腿は細く、しかしスレンダーというよりかは柔らかそうに見える。

「ん、ん……」

 少女が、そのぷにっとした柔らかそうな唇から寝息漏らす。

「ば、倍返しだぁーッ!」

 叫びと共に、ガバリと少女は上半身を起こす。

「あ」

 そして、どうしたものかと眺めていたタクミと目が合った。

「お、おはようございます……」

 寝言を聞かれたからか、少女の声は言葉尻になるにつれて小さくなっていった。

「えっと、入部希望者かな?」

「あ、はい、そんなところです!」

(そんなところ……か)

 入部希望者ではなく、タクミは少々残念ではあったが、活動停止状態のガンプラ部という事実を彼女に知らせて落胆されるよりはマシかとよい方向に考える事にした。

「ガンプラバトルネクサスなんとかをやりたいんですが!」

(おしい、そこまでいけば後はオンラインだけなのに……)

 ガンプラ・バトル・ネクサスオンライン、通称GBN。

 仮想空間『ディメンション』にて、プレイヤー(ダイバー)が自らガンプラに乗り込み、バトルしたり仮想空間での一時を過ごしたりするオンラインゲーム。ガンプラ人気、さらには最新のVR人気に相まって爆発的に広まったという背景を持っている。

 しかし、ザクとヅダのように。勝者が居れば敗者が存在する。それは必ずしも片方が劣っていた訳ではない。GBNが人気を(はく)していく中、GPデュエルというゲームが下火になっていった。

 このガンプラ部の惨状もその影響が大きい。タクミもGBNは一応プレイはしてみたし、GPデュエルが下火になったのはGBNのせいだと思っている訳ではなかった。だが、多少思うところはあった。

「ガンプラに関してならガンプラ部だし多少はなんとかなるけど、GBNに関してはそれほど詳しくはないけど?」

「ガンプラに関してはガンプラ部に行けって言われました」

 少女が答える。

「まぁ……、妥当か」

 餅は餅屋。

 惰性(だせい)で狭いながらも部室まで使わせて貰っているのだ。多少は役に立たねば。

 GBNに思うところはあるとは言え、ガンプラ好きには変わりない。とりあえず、知りうる限りは教えてやるかとタクミは結論付けた。

「俺はナガツキ・タクミ、二年。よろしく」

「あ、申し遅れました。キクヅキ・アカリ、一年生です! よろしくお願いいたしますッ!」

 寝起きなのにテンションの高い奴だ。タクミの目の前の後輩を見て抱いた感想。

「いきなりだけど、ガンプラって作った事ある?」

「いえ……」

(なるほど、そこからか。いや、むしろそっちの方が本分か)

「ちょうどいい、ガンプラの作り方なら基本的なところまでなら教えられるし、GBNを始めてしまえばチュートリアルあるしな」

「よろしくお願いしますであります!」

「とりあえずは、ガンプラを買いに行かないとな」

「はいであります!」

 キクヅキは返事を返したかと思うと、鞄を背負いいつでも出立出来る様に準備をする。

「いつでも行けます!」

 気が早いなとタクミは思ったが、善は急げ。思い立ったが吉日、兵は拙速を尊ぶ。幸い、タクミもこの後は大した予定は無い。

「なら、行くしかないな。ちょっと電車に乗ったりするけど大丈夫?」

「はい、定期券もあるので大丈夫です!」

 タクミとキクヅキは自らの荷物を持つと部室の扉に鍵をかけ学校を後にする。目指すはガンプラショップ。学校からならば小一時間もあれば到着する距離にある。

「キクヅキはどんなガンプラ造りたい?」

 電車に揺られながらタクミが言う。

「うーん……」

「はじめてだし、思い付かなくても仕方ないよ」

「なんかこう、ズバッといってドッカーンって戦えるヤツが良いであります!」

(コイツ、だいぶアバウトだな……)

 キクヅキが初めてだというのも考慮し、タクミは頭の中でプランを練る。

(ビルドストライク、組み立て易く出来もいい。ストライカーパックを利用したビルドブースターとの合体はワンキットのみで楽しめる。武装もビームサーベル、ビームガン、ビームライフル、強化ビームライフル、ビルドブースターの大型ビームキャノン、遠近両方に対応可能。デザイン、設定も初心者に優しい……)

 そこまで考えてタクミは首を捻る。キクヅキのガンダム作品への知識はさほど深くない。

(初代ガンダムも価格的には素晴らしいし、パーツ数もさほど多くなく、組みやすい。何より誰が見てもわかるガンダムという機体、それは最早記号)

 初めてなので価格は出来るだけ抑え、かつ一つのキットのなかにプレイバリューも欲しい。

 けれど、制作にかかる工程数が増える事に加え、あれもこれも揃えてと言うのは始めたばかりの初心者には辛いかもしれない。

(逆にいきなり手応えのあるモノも良いかも。ムーンガンダムとかどうだろうか。確かに作り上げた時の達成感は凄い、でも価格がネック……)

 結局、結論は出ないまま列車は目的の駅に到着する。

「着きましたよ、ナガツキ殿?」

 キクヅキの声でタクミは思考から現実に引き戻される。ガンダムの事を考えすぎてしまうのは悪い癖だ。

「あ、うん」

 駅から徒歩十分程度。キクヅキとタクミの向かうガンプラ専門店には販売コーナーに加え、くつろぐためのカフェスペース、買ってすぐ作れる簡易な作業スペース、勿論GBNの筐体も置かれている。この店を選んだのも、そのためだ。

 GBN、加えてガンプラ初心者のキクヅキがガンプラを組み上げGBNに登録するにはこの店は丁度良い。

「一応ガンプラ買うだけなら、それこそネットで問題ないんだけどね。ここならGBNの登録も、ガンプラ作るのも出来るし」

 場合によってはネット通販の方が金額が抑えられているモノもある。

 だが、店頭で実際にガンプラの箱を手にとって選ぶ事もそれはそれで(おもむき)がある。

 ガンプラブームが拡がるにつれて店舗側もネット通販と差別化の為に、店頭でイベントを行ったり、カフェやGBN筐体を併設する様になってきた。

「GBNには家庭用の端末もあるんだけど、いきなり買うにはハードルが高いから」

 GBNの登録料と筐体使用料を考えても家庭用機を手に入れるよりはよほど安い。高校生にとっては重要な事項だ。

(お金、足りるかな……)

 料金の話が出てキクヅキは自らの財布の中身を気にかける。自らGBNをやりたいと言い出した手前、それなりに持ってきたつもりではある。

「着いたよ、ここがガンプラショップ。まぁ、必要なモノはだいたいここで揃うよ。GBNの筐体もあるし」

「凄いですね!」

 キクヅキはてとてとと、自動ドアをくぐり店内へと入っていく。

「ガンプラの壁だ……」

 それがキクヅキのショップに対する第一印象。

 縦四段の棚にガンプラが平積みされた什器(じゅうき)が間仕切りの様に立っている。通路毎にアニメ作品別、グレード別、旧キット、モデリングサポートグッズ等々。初めて訪れたキクヅキには圧巻の光景だった。

「ナガツキ殿ナガツキ殿! 小生でも作れるガンプラってありますか?」

「んー、作れないガンプラってのは無いけど、作りやすいガンプラはある」

「なるほど。ガンプラは“作るモノ”であって作れる作れないでは無いということですね!」

「ん? まぁ、いいや」

 ナガツキはキクヅキにあって然程(さほど)だか、こういう場合は流しても構わないということを学習した。

「とりあえず、先にGBNの登録かな」

「了解ッス!」

 ガンプラコーナーを抜け、店の奥まで行くと先程のガンプラコーナーの二倍程度の広さでGBNの筐体や受付カウンター等々の設備が整えられていた。

 ガンプラ制作コーナーも隣接しており、ショップで買ったガンプラを制作コーナーで組み立て、GBNにログインするという流れが構築されている。

 キクヅキも早速受付カウンターでゲーム内容の解説や注意事項の説明を受けGBNの登録を完了させる。登録が完了したらアバターの作成等のログイン前の準備。諸々含めるとそれなりの時間を要する作業だ。その間タクミはカフェコーナーで時間を潰していた。

(初心者に作りやすいという要素だけ考えていたが、PGだって作って作れないモノでもない。説明書通りに組み上げるのなら、難しい技術はいらないし)

 オススメのガンプラは何ですか? その質問はガンダムのアニメどこから見たら良いですか? と同じくらいガノタを悩ませる。勿論、個人の趣味嗜好で回答は千差万別だ。だからこそ、自身と質問者との間に齟齬(そご)が生じる可能性もあり、回答に悩んでしまう。

(最近組んだHGCEストライクフリーダムも基本的な構造は分かりやすかったしな)

 やはり、最初はフィーリングで良いので好きなキットを選んでもらおう。作りやすいキットと作りたいキットが一致しない可能性もある。そうなった場合優先すべきは後者だ。手間のかかるキットならばタクミが手伝うことも出来る。

 結果的には思考は一巡してそこに行き着いた。

「ナガツキ殿ナガツキ殿ー」

 タクミの飲み干したアイスコーヒーの氷が溶けてきた頃、登録を済ませたキクヅキがやって来た。

「お疲れ様」

「大変ですよぉ、登録料とか何やらで小生の懐事情がピンチです」

「あー、初回は少しかかるからな」

 しかし、まさかそうなるとはタクミも考えてはいなかった。

「どうしましょう……」

「因みに、予算はいくらくらい残ってる?」

 キクヅキがパステルカラーの女の子らしい可愛らしい財布を取り出し中身を探る。

「えっと、千円と小銭がいくらか……くらいです」

「まぁ、それだけあればガンプラ一箱くらいなら大丈夫だろう。道具はニッパーなら制作コーナーにあるし、ガンプラは安いと悪い訳じゃないし。むしろ、安いということはパーツ数が少ないということで組み立て易いから好都合かもしれない」

「おぉ、なるほど! 災い転じて、塞翁が馬でありますな!」

 しょんぼりしていたキクヅキは一転、パッと明るくガンプラコーナーへと駆け出して行く。

 HGシリーズの標準的なガンプラならば高くても二千円代。なんなら自分が貯めていたポイントで値引き出来ると、タクミはキクヅキの後に続いた。

 キクヅキは棚の前でガンプラの箱を手に取っては側面の機体解説や組み上がりの写真を注視して棚に戻すを繰り返していた。

 タクミは声をかけようかとも思ったが自身で選んで微妙な思いをするのもまた一興と思い止まった。

「ナガツキ殿、オススメ等ありますか?」

「好きなの選んだらいいと思う。組み立ての難易度とはいえ多少の差だし、難易度というより手間に近い。まぁ、最近のキットなら組み上げるだけで見栄は良いからそういう事で選んでもいい」

「最近のキット、なるほど……」

(これは良く分かってない反応だな)

「最近のだと、HG○○ってなっているやつかHGUCでも番号が大きい程最新だ」

 そのやり取りから何度か買おうとして止めるといった動作を行い、一箱のガンプラを手に取る。

「これにするであります!」

 キクヅキの手にしている白い箱をタクミは覗き込む。

 パッケージに描かれた、モビルスーツと比較しても巨大なメイス、細身のシルエット、作中での搭乗者の顔。

「バルバトスか、ちょうどいいんじゃないか」

 HGIBOガンダムバルバトス第四形態。アニメ作品、機動戦士のガンダム鉄血オルフェンズに登場するモビルスーツである。HGIBOシリーズ最初のキットであり、主人公の機体ということで新規層が手に取りやすい様にか価格も押さえられている。もっとも価格が押さえられているのはHGIBO全体に言える事だが。

 バルバトス他、HGIBOのシリーズでは多くの機体に内部フレームを採用している。MGの様に魅せる為のモノではないが、作中宜しく可動と組み立て易さ、価格にその効果が発揮されている。鉄血のオルフェンズのモビルスーツは作中の設定もあり、大質量武器が装備されることも多い。バルバトスもパッケージにかかれているメイス、加えて太刀が付属している。

 更に、バルバトスは発掘された第一形態から装甲や武装を追加されていく。このHGIBOガンダムバルバトス第四形態は第一形態用の左腕が付属するためそれが再現可能であり、他のキットのパーツを利用すれば第一から第四までの形態を再現可能になる。

「アニメも少し見てて、バルバトスかっこよかったし! まぁ詳しくは知らないのでありますが……」

「別にいいんじゃないか? カッコいいから作る。十分だと思う」

「では小生はガンダムバルバトスでいきます!」

 そう言うとキクヅキはバルバトスの箱を持ったままレジまで駆け出す。

(あんまりは走ると転けるぞ)

 レジで会計を済ませ、ついでにこの店のポイントカードの説明を受けたキクヅキ。少々時間を取られたが、彼女を連れてタクミはガンプラ制作コーナーへと向かう。店頭で購入したキットはその場で制作することが出来る。休日には初心者の為の体験会が行われ、小学生等を対象にスタッフがレクチャーをしてくれる。

 今日はその日でもなければ、キクヅキは小学生でもないためスタッフによるレクチャーは受けられない。

 だが、ハサミとニッパーは制作コーナーに揃っている。スタッフ程上手くはないだろうがタクミの説明もある。

「とりあえず適当に座って」

「はいであります!」

 タクミに言われてキクヅキは手近な椅子に座る。タクミもその正面に腰掛ける。

 制作コーナーは長机にパイプ椅子といった簡単な感じで、机にはチェーンで繋がれたハサミとニッパーが備え付けられていた。イベント時など人が多い時は貸し出しもあるが、今は備え付けのモノで事足りる程の人数しか制作コーナーに居ない。

「じゃあまずは箱を開ける」

「はい!」

 手渡されたハサミでキクヅキは蓋を止めているビニールを切る。

(なんか、テープカットみたい)

 そんな感想を抱きつつキクヅキが箱を開けると小分けにされた袋が二つ、そして説明書が入っていた。

「とりあえず、ビニール袋をあけて中身が全部揃ってるか確認。不良品は滅多に無いから適当にでいいよ」

「うん、見た感じ大丈夫みたいです」

 説明書で確認したところ、HGIBOガンダムバルバトスには白いランナーが一枚、黒っぽいランナーが二枚、黄色と青色と赤色の小さなランナーがそれぞれ一枚ずつ。加えてポリエチレンのランナー。シールも問題なく揃っている。

「じゃあ、説明書の一番から作っていく。使うパーツは大まかに分けたランナーのアルファベットとそのランナーの中で更に細かく分けた番号とでパーツを探す」

「了解であります!」

 キクヅキは説明書とにらめっこをしながらパーツを探していく。バルバトスはHGのガンプラの中でもパーツ数が少ない方で難易度もさほど高くない、説明書に記載されたパーツ二つを見つけるのも容易だ。

「ありました!」

「そしたらまず、パーツとランナーが繋がっている場所“ゲート”をパーツ側に少し残す感じで切って」

「キレイに切らなくてもいいのですか?」

「ニッパーで一発でキレイに切るのは難しい。だから一回大まかに切って、後から整えてやる」

 タクミはニッパーでランナーからパーツを切り落として見せる。

「だいたい一ミリくらいを目安に残すようにする。太いパーツは一気にいくよりジワジワ力をかけた方が跡になりにくいから」

「了解であります!」

 キクヅキもそれを真似する。

「この柔らかいやつも?」

「あー、ポリキャップか。それはあまり表に出ないし、材質も違うから一度で根元を切るだけで」

「なるほどなるほど」

「余計に切らない様に気を付けて」

 キクヅキは指定されているパーツを切り終わると説明書を見ながら組み上げ始める。

「余談だから聞き流しててもいいんだけど、パーツ同士を繋げるための穴と軸があるじゃん、これの軸側の先を少し斜めに切っておくと後でパーツ同士を外しやすいよ。塗装前の仮組とか、あとはパーツを間違えて組み合わせた時の対策とか」

「はまらなくなったり……」

「まぁ、少しだけなら問題ないよ」

「あ、確かに問題ないです」

 制作コーナーにパチンパチンと小気味良いニッパーの音が響く。

 キクヅキの飲み込みが早いのか、バルバトスが初心者にも組み立てやすいキットなのか、タクミの手助けは最初のみで済んでいた。

 幾つかのパーツを組み上げ腕、脚、と人の形に近づく度に感嘆の声をあげるキクヅキがタクミには微笑ましく見えた。

「ちょっとトイレ行ってくる」

「了解でありますー」

 キクヅキを残し、タクミは席を立つ。

(さっきから、アイスコーヒー飲み過ぎたかもしれない……)

 GBNを始めたら席を立つのは難しい。今のうちにとガンプラコーナーを横目に見ながら廊下を歩く。

(キクヅキのガンプラはバルバトスで良いとして、やはりオプションセットもあった方が無難か)

 バルバトスはそのままでは太刀とメイスしか付属していない。バルバトスはそれで十分カッコいいのだが、ガンプラバトルでは中・遠距離に対応出来る武装も欲しくなるのは仕方ない。

(でも、いまからオプションセット組み上げるのもちょっと大変だしな……)

 左右二つのパーツを張り合わせるだけの武器も存在する。いわゆるモナカと言われるキット。確かに初心者のキクヅキには色々組み換えて遊べる楽しさを味わって貰いたくはあるものの、オプションセットは意外に値が張る。HGIBOは武装をオプションセットとして別売りにしているので価格もランナー数も抑えられている。

(また、今度で……いいか)

 必要とあれば部室のマウンテンサイクル、もといジャンクパーツを探せばバルバトスに使える武装もあるだろう。

(滑空砲か、マシンガンか、あんまりバルバトスにビームって似合わないんだよなぁ)

 思考の中でバルバトスの装備を換装する。

 そんな事を考えながら歩いてると、タクミに不意に誰かがぶつかる。

「あ、すみません」

 慌てて振り向けば、小学生くらいの女の子がガンプラの箱を抱えていた。

(ギラ・ドーガ……)

 女の子はだいたいキクヅキと同じような身長か、少し小さい感じで、整った顔立ちに店内の照明を反射して艶やめくロングヘアの黒髪。制服を着ているから私立の小学校か中学校か。

 親か兄弟に連れられて? どちらにせよタクミは微笑ましく思う。

「ご、めんなさいッ! 私が前を見ずに歩いていたせいで……」

「いや、こちらこそ」

 タクミもよそ見をしていたので、こうも謝られると申し訳なくなる。

「じ、GBN、です……か?」

 タクミのポケットから顔を覗かせていたダイバーギアを見つけて女の子が言う。

「まぁ、一応」

「わ、私もGBNやってるんです。もしディメンションで、偶然ガンプラバトルする事になったらよろしくお願いします」

「ああ、その時はよろしく」

「はいッ! では」

 女の子は一礼をして駆けていく。

「まぁ、仮にディメンションで会ってもダイバーネームわからないからよろしくも何も無いけどな」

 GBNではダイバーは自由に外見をカスタマイズしたアバターを使用することになる。ダイバーを見てもタクミと判断するのは難しいだろうし、逆の立場でもそうだ。

 タクミは自分がトイレに向かう途中だった事を思いだし脚を急かせた。

「あ、タクミ殿。もう、出来てますよ」

 大して時間をかけたつもりは無かったがタクミが机に戻った頃にはキクヅキはバルバトスの制作を終えた様で、借りてきたのか小さなハケとチリトリで片付けをしていた。

「言い忘れてたけどパーツをランナーから切り出したりするときは箱をの中でやると、破片が飛び散らなくて片付けの時に楽だよ」

「なるほど、次はやってみます!」

「じゃあ、GBN筐体でログインしようか」

「初陣でありますな!」

 GBN筐体はそこそこの稼働率だったが、平日ということもあり特に待ちもなく利用出来る様だった。

「タクミ殿はどの様なガンプラで行くのでありますか?」

「俺はとりあえず、コイツかな」

 タクミは鞄の中から百円均一ショップで売っている様なタッパーを取り出す。

「タッパーですか?」

「ガンプラを持ち運ぶ時は腕、脚、胴体、とパーツを大まかにわけてビニールの袋に入れると傷つきにくいから」

 そう言いながらタクミはパーツの入ったチャック付きのビニール袋をキクヅキの眼前に出してみせる。

「タッパーにビニール袋も百円均一で売っているし、わりと有用なモノが売っているんだ」

「そうなんですね。小生はこういうのはプラモデル屋さんで売っているとばかり」

「まぁ、そういう店もあるけどね」

 タクミは袋から取り出したパーツ同士を繋げモビルスーツの形を組み上げていく。

「ザク……、ですか?」

「ザクハーフキャノン。ザクにガトリングを付けたモビルスーツだよ」

「へー、ザクにも色々いるんですね」

「ザクⅡJ型にMS06K、ザクキャノンのランドセルを背負わせた機体で180mmキャノンかガトリングを装備してる。まぁ、本編の外伝の「ガンダムTheOrigin」の外伝でMSD(モビルスーツディスカバリー)の機体だからあまり知られてないかな。プラモデル的にはオリジンザクの胴体にキャノンの付いたランドセルを背負わせただけのバリエーションキットなんだけど、キャノンが付いていてそれまでの色を変えただけの様なカラバリキットよりもシルエットの差別化がされていて、更にこのキットのバリエーションとして頭や肩等が変更された、ザクキャノンテストタイプのキットも発売されたんだけど脚部の形状が微妙にザクキャノンに対して変更されていて惜しいんだ」

 タクミのハーフキャノンは機体のカラーリング等が変更されている。ただし、塗り替え等ではなく、同じランナーを流用している他のザクⅡのキットのモノを成形色のまま使用していた。その様はパッチワークの様であり、形はハーフキャノンのそのままでありながら乱雑な印象を受ける。

 武装はランドセルのガトリングに加えてMS用対艦ライフルと中・遠距離からの攻撃に特化している。機体本体はザクⅡと大して差がない事に加え、標準装備のヒートホークも腰部の装甲に装備しているので近接戦闘も苦手ではない。

 かねてから用意していたという事ではないが、とりあえず作ってみたハーフキャノンのランドセルとジャンクと化していたオリジンザクⅡ、ありあわせと言ってしまえばそれまでだがオリジンザクⅡのキット本来の出来の良さもありGBNでの使用にも問題ないだろう。

「タクミ殿はそのハーフキャノンでログインでありますか?」

「ああ、試運転兼ねてな」

 それはハーフキャノンの試運転に加えてタクミ自身がGBNへ慣れるための試運転も含まれていた。キクヅキにレクチャーするにしても、タクミ自身がバトルの勘を取り戻す必要がある。

 二人はそれぞれのガンプラを手に、GBNの筐体の置かれたコーナーへ脚を向ける。

 先ほどキクヅキのダイバーとしての登録を済ませた受付カウンターで簡単な手続きだけして筐体に向かう。筐体の中の椅子に座るとキクヅキは鞄の中からダイバーギア、及びバルバトスを取り出しGBN筐体にセットする。

「だいたい行けそうだな」

 様子を見ていたタクミが言う。

「わたし、ゲームの説明書とか読まないタチですから」

 確かに、それっぽい。出会って然程時間は経っていないが、タクミはキクヅキの事をそう認識していた。

 タクミはスタッフに代わり軽く説明しようかと考えていたが、この様子ならばその必要は無さそうだ。

「なら、次はディメンションで会おう」

「了解であります」

 




 ガンプラ買いに行って作って。バトルせずに一話が終わってしまいました。でも、ガンプラ買いに行くのって凄い楽しいと思うんですよ。次はどのガンプラを作ろうか、どんな改造機体にしてやろうかと。

 感想・批評等ございましたら、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファイター

初めてのガンプラ、初めてのGBN、キクヅキが初めての戦闘に挑む。仮想空間に鉄の華が咲く。

ちょっと前に鉄血のガンプラの再販があって、一人鉄血祭りでした。HGIBOマンロディ、おすすめです。


「凄い、これがGBN!」

 小柄なダイバーがログインロビーでぴょんぴょんと跳ねている。

 手を開いてみたり閉じてみたり、伸びをしてみたり。一通り体を動かしてみて、キクヅキ・アカリは自分がディメンションにやって来たことを改めて実感して嬉しくなった。

(それにしても色んな人がいるなー)

 回りには同じダイバーだろう、様々な格好の人達がいた。鬼の様な角、獣の耳、獣の顔を持つ者。最早全身が動物、機械の者。作中に存在するキャラクターと同じ容姿の者。

 電脳仮想空間であるディメンションではダイバーの姿は現実(リアル)から離れダイバールックと呼ばれるモノになる。キクヅキの姿も先程までの高校の制服ではなく、セーラー服の様な意匠のあるワンピースの様な服装になっており、ふわふわとした犬の様な耳と尻尾がはえている。

「えっと、ナガツキさんは……」

 キクヅキは辺りを見回す。タクミからはログインしたらロビーで待っている様に言われたが、ログインロビーまで辿り着くのに時間がかかるのだろうか。

 どちらにしろタクミのダイバールックスもダイバーネームも知らないため、キクヅキの方から探しだしてコンタクトを取るのは難しい。

 どうしようかとキクヅキが悩んでいると、アラームの様な音がなる。

「わ、何々!?」

 ナガツキの犬耳と尻尾がピンと跳ねる。キクヅキは慌てるが回りのダイバー達にその様子はない。

「あ、なるほど。コレがダイレクトメール……」

 キクヅキの指が空を切り、眼前にコンソールウィンドウが現れる。メールの欄には運営からの案内メールが数件とダイバーからのダイレクトメール。

「コレがナガツキさんかな」

 ログインしたばかりのキクヅキを知る人間は少ない。ましてやダイレクトメールを送ろうとする等それなりの動機があるか、もしくはリアルの知り合いか。

 恐らく後者だろう。丁寧にダイレクトメールにも「キクヅキさんですか? ナガツキです」と書かれている。

「そうですよー」

 キーパッドを展開しメールの返信を送る。

 それから更に数分後。

 退屈しのぎに自分の尻尾を弄っていたキクヅキの前にダイバーが一人現れる。中肉中背、特徴的なアクセサリも無いプレーンな感じだ。あるとすれば、初期装備の真っ青な連邦軍の制服が似合っていない。

「ナガツキ……殿?」

「ああ、だけどここでタクで」

「あーなるほど!」

 よく見るとダイレクトメールの差出人のダイバーネームは“タク”になっている。

「小生はキクヅキであります!」

 尻尾が揺れる。

「知ってる」

 キクヅキのダイバーネームはそのままキクヅキになっている。ここに来るまでの道中、カッコいいダイバーネームが思い付かなかったのだから仕方ない。

「そのままだな」

「変えた方がいいですか?」

「いや、別に気にしてないならそのままでいいんじゃないか? それくらいなら問題も起きないだろうし」

 一応、ダイバーネームの変更は推奨されている訳ではないが可能である。アカウントの情報変更に料金がかかるため誰も特に必要なければやらないことではあるが。

「初心者は取り敢えずビギナー向けミッションが定石だけど、どうする?」

「じゃあ、それでお願いします!」

 GBNではプレイヤーのレベルにあわせて様々なミッションが用意されている。

 キクヅキの様なビギナー向けのミッションも充実しており、それらは報酬にゲームを始めたばかりの時期に必要なモノが用意されている場合が多い。よくある初心者救済策である。

「ミッション受けるには基本的にミッションカウンターに行く」

 ロビーにあるミッションカウンターは流石に人で賑わっていた。タクミはミッション一覧を漁り、二人だけでクリア出来る様なミッションを探す。

 タクミのランクもさほど高い訳ではない。大人数での攻略を前提としたミッションは避けたいところだ。

「ごく初級ミッションだけど、慣れるにはこれくらいがいいかもしれない」

 タクミがキクヅキにミッション内容の詳細が書かれたウィンドウを見せる。

『宙空間戦闘:初級』と書かれたミッション。該当エリアに移動し、宇宙空間で現れる敵モビルスーツを撃破する連戦ミッションだ。想定プレイ人数は一人から二人。

「う、宇宙ですか」

「操縦に関して難しいところは無いからそこまで気負わなくてもいいよ。それに俺とキクヅキしか参加しないミッションだから最初は動かす練習しても他のダイバーに迷惑かけないから」

「り、了解であります!」

「それじゃあ、次は格納庫だな」

「格納庫、でありますか?」

「オルフェンズにも出てきただろ? モビルスーツの整備とかする場所」

「あーなるほど!」

 キクヅキは該当のシーンを思い出したのかポンと手を打つ。

「GBNはオンラインゲームだから移動も一瞬だ」

「え?」

 キクヅキが首を傾げる間にタクミはウィンドウを操作する。

 次の瞬間。キクヅキは周りの景色が歪んだかと思うと、いつの間にか辺りは武骨なクレーンやコンテナ、モビルスーツハンガーの備え付けられた格納庫に変わっていた。

「さ、流石GBN!」

「ログイン時にスキャンした機体がここにあるから、ミッションやイベントで外のエリアに行く前にここで装備のチェックとかしておいた方がいいよ」

 ミッションには特定の条件を必要とするモノがあったり、戦術の変更をした場合等、事前の確認は必須事項である。

「バルバトスだよな」

「はい!」

 自らが作り上げたガンプラに、ほぼ無い胸を踊らせながらキクヅキはバルバトスのもとへ向かう。

「わぁー! ガンプラもこんなに大きくなるんですね!」

 前述の様に準備は重要だが、それとは別に、ただ単に自らが作ったガンプラを実寸大スケールで観賞することも出来る。好きな人はこの場所で様々な角度からフォトを捕るだけでも時間が過ぎていく程である。

「バルバトス第一形態か……渋いな」

 HGIBOガンダムバルバトスはそれ単体で発掘されたままの第一形態と装甲等を再現した第四形態を再現出来る。

「バルバトスって変形するんですか?」

「変形はしないけど、キットは第一形態と第四形態のコンパチ……どっちか選んで組み立てられる様になっていただろ?」

「え?」

 とはいえ、作中でもそうである様に第一形態の強化された姿が第四形態である。特にこだわりがなければ第四形態を組み立てるのがベター。パッケージも第四形態である。

「これで完成かなって思いまして……」

「んーまぁガンプラバトルにおいて素組の状態決定的な差は無いと言っても……まぁ、装甲は後から付け足せば」

「えっと、まだ完成してなかったってことですよね……?」

「まぁ、そうなるな」

「ランナーはもう使わないと思って捨ててしまいました……であります」

 キクヅキがうつむき加減でおずおずとタクミを見上げながら言う。

 パーツを間違えたり、切り取り忘れたり、そのままランナーを捨てた経験がタクミにないわけではない。ましてや初めてのガンプラ製作なのだ。

「仕方ないさ、取り敢えずバルバトス第一形態という形では完成している訳だし」

 タクミの口から出た言葉はキクヅキに向けられたものであり、過去の自分自身に向けた言葉。

 ガンプラを作っていると、ミキシング等々でパーツを取られて別形態で飾るしかないキットもある。そう考えれば第一形態のみという状況も大した問題では無いとタクミは思えてきた。

「今回は第一形態ってことで、また作ればいいよ」

「は、はい!」

 若干シュンとしていたキクヅキの表情がパァっと明るくなる。

 何はともあれ、格納庫でガンプラの準備を整えたら次の行動は決まってくる。

 出撃である。

「今回のミッションは宇宙から出撃だな」

「宇宙に行くのに時間かかりますか?」

「いや、これはオンラインだから」

 起動エレベーターに乗り込むことも可能ではあるし、ミッションによってはその必要もある。が、今回はわざわざ手間を取る必要はない。

 宇宙空間に出撃すると設定すれば即座に起動エレベーターの登頂部から出撃可能。

 キクヅキはバルバトスのコックピットでタクミから少々のチュートリアルを受け機体を発進カタパルトまで持っていく。

「うぉぉぉー、本当にガンダムに乗れるんですね!」

 バルバトス、カタパルトに立つ。

「キクヅキ、行きまーす!」

 

 

 

「どうだ、やれそうか?」

 宇宙空間に放り出されたキクヅキのバルバトスは機体を二転三転させながら漂っている。

「あ、なんか、動けそうです」

「キクヅキは初めてだから慣れるまでゆっくりでいいよ」

「いえ、大丈夫です!」

 ガンプラバトルであるGBNでは3D格闘ゲームの様に姿勢制御に関しても自動でサポートしてくれている。

「じゃあ、動くぞ」

「り、了解であります!」

 ハーフキャノンのバーニアに光が灯る。

 今回のミッションではある程度の地点まで移動すれば敵が出現する。現れる敵を倒し、最終的には目標のポイントまで辿り着くことがこのミッションのクリア条件である。

「思っていたより上手いな……」

 ハーフキャノンに追従するバルバトスを見てタクミは呟いた。

 ゲームなのだから、実際にロボットを動かすほど難しくては意味はない。GBNでモビルスーツを操縦するのは自転車に乗るよりも簡単だ。

 しかしながらやはり、慣れや得手不得手はある。キクヅキのバルバトスを見る限り、筋はよい方だろう。

  「ありがとうございます!」

「連戦ミッションだけど、初心者用ミッションだからさほど難しくはないから。取り敢えず突っ込んで武器で攻撃。援護はする」

「了解であります!」

 バルバトスが加速する。

 敵の姿はまだ見えない。

 タクミのハーフキャノンもバルバトスを追従する。バルバトスの方が速力があるのかジリジリと二機の差が開いていく。

「タク殿、速度落とした方がいいでありますか?」

「いや、そろそろ会敵のはずだからこのままでいい」

「了解!」

 バルバトスのコックピットに鳴り響くアラーム。レーダー上の敵は二機。

「いけ、キクヅキ」

「はい! キクヅキ、バルバトス。吶喊!」

 バルバトスが推進剤の光の尾を引き加速する。

 レーダー上でめキクヅキと敵の距離がグッと縮まるのがわかる。

「二機、丸い、緑色で一つ目、銃を装備!」

 敵機がモニターに映るまで距離を詰めたキクヅキが敵の特徴を羅列する。

「了解、マンロディだ。装甲が硬い気を付けて」

 このミッションに登場する敵機はある程度固定されている。各作品に登場する量産型モビルスーツ。

 ザクⅡ、リーオー、ジン。様々いるが、丸いとなれば恐らくマンロディ。

 タクミの判断は概ね正しかった。

 キクヅキの眼前の敵機はマシンガンに鉈にハンマーが付いた様な武器を装備する機体。緑色と言われてタクミはマンロディと判断したが、正確にはランドマンロディ。マンロディが宇宙に特化したモビルスーツだとすれば、ランドマンロディはその地上対応型。

 マンロディは丸っこい胴体に短い手足とつぶれたあんパンみたいな頭部。一見愛らしい外見だが、その中身は凶悪。鉄血のオルフェンズ作中で禁忌とされる阿頼耶識システムを搭載し、ヒューマンデブリ達が乗る。負の側面の様な機体だ。

 ガンプラとしてはシンプルに組めて低価格。特徴的な外観と買い手に優しいキットだ。

 敵機であるランドマンロディは脚部が変更されている。作中ではオルガ・イツカ率いる鉄華団がオレンジ色とクリーム色で塗った機体を使用する。セカンドシーズンの序盤に登場しその後は終盤まで続投する。

 ガンプラとしてもマンロディにオプションセットのレッグブースターを組み合わせることで再現が可能であり、オプションセットのレッグブースターはマンロディの成形色にあわせて緑色をしている。この敵機もマンロディにレッグブースターを組み合わせたモノだろう。

 武装はマンロディの基本であるサブマシンガンにハンマーチョッパー。鉄血の機体の格闘武器は何かしら遊びと言うか特徴をつけられているモノが多い。

「たぁぁぁーッ!」

 急接近するバルバトスに反応したランドマンロディの弾幕を抜け、キクヅキは唯一の武器である背中に装備した太刀を右手に構えランドマンロディの胴体目掛け水平に振り抜く。

 ガン。と金属音が鳴り殴り付けられた敵機はコロンと転がる様に機体を回しながら弾き飛ばされる。

(この武器、あんまり強くない!)

 バルバトスの装備する得物、太刀とは呼ばれているが触れれば斬れる日本刀の切れ味程ではない。特にキクヅキの様な乱雑な扱いではどちらかと言えば鉄の棒に近い。わざと弾かれることで衝撃を逃がした敵機には大きなダメージは見られない。

 更にガンプラバトルの洗礼とばかりに、もう一機のランドマンロディが脚を止めたバルバトスの背後でハンマーチョッパーを振り上げる。

「このッ」

 バルバトスは上半身を捻り、ハンマーチョッパーのチョッパー部分の峰を左腕のガントレットで受け止め払う。

 ランドマンロディは右腕に掴んだサブマシンガンによる至近距離からの銃撃を狙う。

 が、しかし、それより早くバルバトスの左手がランドマンロディの肩装甲を掴む。そのまま手前に引き寄せる反動で敵機の背後に出る。

 マンロディは装甲の厚いモビルスーツだ。だがしかし、やはり四肢が稼働する以上その装甲にも隙間が出来る。

 狙いは装甲の隙間。頭部の稼働のために生じた首と頭部の間の“柔らかい部分”。

「これならッ」

 逆手に持ち変えた太刀の鋒をその一点に突き立てる。

 凶刃は吸い込まれる様に敵機に刺さり、キクヅキが柄を振ることで厚い装甲の中身をぐちゃぐちゃに切り裂く。

「やったッ!」

 コックピットの中でキクヅキは小さくガッツポーズをとる。

「伏せろキクヅキ!」

 耳に飛び込んできた通信にキクヅキは反射的にバルバトスに身を縮ませる。

 刹那、背後で金属がぶつかる鈍い音が一つ、二つ。

 装甲を大きく陥没させたランドマンロディが宙を漂っていた。

「あ、ありがとうございます!」

「支援機だからな」

 どうやらこのフェイズの敵はランドマンロディ二機のみ。敵の増援が来ないことを確認し、キクヅキとタクミは目標のポイントに向けてブースターを吹かす。

「連戦ミッションとはいえ初心者向けのミッションだから敵も次くらいでボスの可能性がある」

「はい! 油断せずにいきます!」

「さっきはランドマンロディだった。となると、ボスも鉄血のモビルスーツの可能性が高い……」

 タクミはボスの考察を始める。

「もしかしてバルバトスでありますか?」

「バルバトスならルプスか、ヒューマンデブリつながりでフルシティってのもあるかもな」

「なるほど!」

「でも、ランドマンロディが緑色だったってことを考えると……」

 タクミの言葉を遮る様にコックピット内にアラームが鳴る。

 それは答え合わせの時間であり、敵が現れたという合図。

「……ガンダムグシオン」

 デブリの影から表れた深緑の巨体をハーフキャノンのカメラがとらえる。

「近い、待ち伏せ……。そうか、ランドマンロディから情報を」

 そういう設定。メタ的にはランドマンロディを撃破するまで出現しない点。近距離に特化したグシオンがソレなりに力を発揮できるレンジにダイバーを連れてくる為の手段。

「キクヅキ!」

「了解であります!」

 バルバトスが吶喊。先程の戦いの際に敵ロディから奪った武装、両の腕に携えたハンマーチョッパーをグシオンに向けて振り上げる。

「あいつ、いつの間に」

 ガン! と鈍い音が響く。流石に装甲の堅いマンロディの親玉だけあり、ハンマーチョッパーの攻撃を受けても機体への影響は薄い。

 逆に反撃とばかりに振るわれたグシオンハンマーがキクヅキのバルバトスを捉える。

「ッつ……!」

 キクヅキは反射的に防御姿勢をとりながら、スラスターをふかせ衝撃を逃がそうとするものの、その威力は一撃でバルバトスの左腕を機能不全に陥らせた。

「キクヅキ、一旦離れよう」

「は、はい」

 ハーフキャノンがガトリングと対艦ライフルで弾幕を形成する中、バルバトスはグシオンとの距離をとる。

 しかし、グシオンの厚い装甲がハーフキャノンのガトリングをはね除け追い縋る。

「なんて堅さだよ!」

 装甲の強化とそれに伴う機動性の低下を補う為のスラスター。着膨れしたという印象のグシオンはその巨体に見会わず豪快に機動力を発揮する。キクヅキ、タクミとの距離は付かず離れずといった具合。このままではランドマンロディとの戦闘があった分、キクヅキ達の方が早く息が切れる。

「タク殿、何か弱点無いんですか?」

「マンロディと同じだ。装甲の隙間、関節とかセンサー類とか」

 オルフェンズ作中でもグシオンはバルバトスからの装甲の隙間を狙った太刀による攻撃で撃破されている。

 だが、今バルバトスが装備している武器はハンマーチョッパーのみ。太刀はキクヅキが捨て置いて来てしまった。

「な、何か槍とか無いでありますか?」

「ヒートホークしかねぇ」

「えっと、えっと……じゃあ……その」

 ハーフキャノンの白兵戦用武装はヒートホークのみ、ハンマーチョッパーよりも更にリーチは短い。

 戦場を見渡しても状況を打開出来るものはない。

(長くて鋭い……)

「タク殿、そのライフルを小生に貸して欲しいであります!」

「いいけど、当てられるか?」

「大丈夫です!」

 モニター越しのキクヅキの表情にタクミも賭けることにする。

「なら、頼む」

「はい!」

 バルバトスがスラスターを駆使してハーフキャノンに近づく。機体同士の軌道が重なる一瞬、キクヅキとタクミは互いの得物を放出する。

 対艦ライフルとハンマーチョッパー。それぞれに武器を持ち替え、迫るグシオンと相対する。

「脚を止めさせる。長くは無理だ」

 ハーフキャノンが右手にヒートホーク、左手にハンマーチョッパーを構え、ハンマーを振りかぶるグシオンと激突する。ガトリングによる牽制もグシオンの装甲には無意味だが、センサー関係に被弾すれば動きが鈍る。グシオンはメインカメラを庇う必要があるため、全力でハンマーを振ることは出来ない。一番装甲の堅い全面をハーフキャノンに向ける為、多少ではあるが動きに制限が生まれる。

「てやぁぁぁーッ!」

 グシオンの頭上。背中のメインスラスターを目一杯に光らせ、十分な助走をつけたキクヅキのバルバトスが刹那の隙を突きグシオンを襲う。対艦ライフルを脇に抱え、蒼白い尾を引くその様はさながら流星であり、敵を貫く槍の様に見える。

 バルバトスを見上げたグシオンは回避を試みるが、トップスピードに乗ったバルバトスの一矢を避ける事は叶わない。

 ガツン! と今日一番の音が鳴る。

 衝撃でグシオンの頭部が変形する。

「この距離なら装甲も!」

 頭部と襟元の装甲の隙間、キクヅキはその空白に突き立てた対艦ライフルの引き金を引き絞る。二発、三発、吐き出された弾丸が装甲の中を跳ね、その中身を蹂躙する。

「や、やりました! ナガツキさん!」

 キクヅキはグシオンの光を失った双眸を見下ろし歓喜の声をあげる。同時にアナウンスがクエストの終了を宣言した。

 

 

 

 

「どうだった? 始めてのGBNは」

 ログアウト後、ゲームを終えてヘッドギアを外すキクヅキにタクミが話しかける。初ガンプラ、初ログイン、初バトル。キクヅキにとっては初めての事ばかりだった。

 バルバトス作りやすいキットとは言え、アクションフィギュア等に比べれば手間がかかるし、作り方に関しても多少口出しし過ぎたかもしれない。タクミは内心、その事が気がかりだった。

 キクヅキは少し考えた後、ゆっくり口を開く。

「楽しかったです! ガンプラ作るのは大変だったりしたけど、自分で作ったガンプラが動くのは嬉しいですし、バトルも大変だけど、おもしろかったです!」

 キクヅキの屈託の無い笑顔にタクミも自然に口角が上がる。タクミには彼女が本心でそう思っているのだと感じられた。

「そうか……、それは良かった」

「ナガツキさん? なんか嬉しそうですね」

 キクヅキに言われてタクミも自分が笑っている事に気付いて照れ臭そうにする。

「そうか? いや、そうだな。自分が好きなモノを好きだと言って貰えるって嬉しいもんなんだよ。きっと」

「ぁ……、それは良かったであります!」

 ソレを聞いて、GBNキクヅキもニカッと白い歯を見せる。

「明日もまた、やりましょう。たしか、フレンド登録とかあるらしいですし」

「あ、いや、だけども……」

 GBNのさわりの部分を教えるだけで終わるつもりだったタクミだが、キクヅキの期待の眼差しに言葉を詰まらせる。自分はあまりGBNをやる気は無いとは言えない。

「そうですね、明日は流石に急ぎ過ぎであります。わたしもガンプラの知識等を勉強してくるので少々待っていて欲しいであります!」

「まぁ、仕方ない」

 乗り掛かった船である。

 タクミは何となく、何となくだが彼女の事を放っておくことに後ろめたさにも似た感覚を覚えていた。

「あ、そう言えば、これが小生の連絡先であります」

 キクヅキがタクミにスマートフォンの画面を見せる。

「あ、ちょっと待て」

 タクミもキクヅキ促されてスマートフォンを取り出しキクヅキの連絡先を登録する。

 思えばガンプラ仲間とこうやって連絡先を交換することは今まで無かったな、と思いかえしながらタクミはキクヅキの連絡先眺める。

「また、GBNやりましょう!」

「ああ」

 

 

 

 

 初GBNから二、三日後、キクヅキは早速ショップに居た。今日は二年生のタクミは授業が長引くためショップに付き添って来てはいない。だが、大まかにガンプラ製作に必要な道具類は聞き及んでいる。キクヅキの今日の主目的は家でガンプラを作る時の道具を買い揃える事。そしてその道具を試すガンプラを購入する事。

 店内に入ったキクヅキはまずガンプラコーナーに向かう。目の前の料理は好きなモノから食べるタイプのキクヅキだ。

 ガンプラコーナーには先客がいた。

 身長はキクヅキと同じくらい。小柄で長い黒髪が店内の照明を受けて艶めいている。落ち着いた雰囲気の制服らしき格好に凛とした印象を受ける。反面、届かないのか棚の上の方の箱を取るために背伸びをして手を伸ばす姿が可愛らしく見える。

(ちっちゃいなー。中学生くらいかな……、ガンプラ女子だ)

 自分のことは棚に上げ、キクヅキはそう考えていた。

 少女は見たところ一人で来ているのか、そういうところもキクヅキに親近感を抱かせる。

(あ、そうだ。わたしも)

 キクヅキは自分の本来の目的を思いだし、陳列された商品の中から目当てのガンプラを探す作業に戻る。

(あ、あったあった)

 タクミに勧められたガンプラを見つけ棚から箱を一つ手に取る。

(HGダブルオーガンダム。ナガツキさんがオススメだと言っていたガンプラ……)

 キクヅキの戦闘を見たタクミの勧めたガンプラ。

 バルバトスと同じ近接戦闘を主体とするモビルスーツ。バルバトスに比べてビーム兵器を搭載しており、中距離での射撃攻撃もこなすことができる。試してみて射撃戦の方が好みならそういう改造を施すかベースのキットを変更してもいい。

 発売から年月は経っているがコストパフォーマンス、可動域、どちらも最新のキットにも勝るとも劣らない。付属品はGNソードⅡが二振り、ビームサーベルが二本。クリアのサーベル刃が付かないのは残念だが、GBNでは関係無い。

 値段に照らし合わせれば妥当というところ。ガンプラ初心者であるキクヅキにちょうどいいキットだと言える。ついでに最近キクヅキがガンダムOOスペシャリストエディションⅠを見たということも大きい。

(あ、あと、ニッパーとデザインナイフ)

 ダブルオーを買い物かごに入れキクヅキはツールコーナーへ向かう。

 ツールコーナーには様々な工作道具が陳列されており、ニッパー一つとっても種類が豊富に用意されている。スタンダードなニッパーから薄刃ニッパー、片方ニッパー。切れ味の鋭いモノ、刃の強いモノ。クセのあるものから初心者向けのモノまで、キクヅキがガンプラ以上に道具選びで迷ってしまう程に多種多様だ。

(ナガツキさんはそんなに気にしなくていいって言ってたけど……)

 取り敢えず必要なのはニッパーとデザインナイフ、あったらいいのがヤスリと接着剤、ピンセット。いつまでもショップの製作コーナーを使い続ける訳にもいかない。

(うわっ……高!)

 ニッパーが一つで二、三千円。一番値段の張るものは四千円を越える。今まで手にしたガンプラが千円前後であったことから、キクヅキの受けた衝撃は大きい。

 必要な道具とは言え、思っていた以上の支出に財布を握る手に力がこもる。

(あ、わたしはこっちでいいや……)

 何かいいかと、棚を眺めていたキクヅキはツールコーナーの端に初心者向けセットを見つけた。

 ニッパー、鉄ヤスリ、デザインナイフ等が入ったセットで価格は千円~二千円前後。今のキクヅキのお財布事情に合った商品。それぞれのモノは粗悪なモノではくなく、値段相応の商品がセットになることで、いくらか安く手に入る。店側も抱き合わせで買って貰いたい事に加えて、初心者に向け裾野を広げたいのだろう。

(これでわたしもガンプラ女子!)

 商品を入れた買い物カゴをレジに運ぶキクヅキの表情に思わず笑みがこぼれる。




誰が為のガンプラ、誰が為の改造。
答えは近くにあり、尚も遠い。

次回「プロトタイプ」

キクヅキ、GNドライブの輝きを知る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロトタイプ

ダイバーネームがあまり意味をなしてない……。

今回から短くなります。


「タクミ殿、ダブルオーガンダム完成したであります」

 放課後、二人で使うにはちょうどいい広さの部室でキクヅキは鞄からタッパーを一つ取り出した。

 中身は大まかに分割されたガンプラのパーツで、キクヅキは胴体に手足を組み付けて一機の機体を形作る。

 ダブルオーガンダム。

 それはキクヅキにとっては二作目の作品であり、先に作ったバルバトスとは違った毛色の近接格闘用の機体だ。

「上手くできてるじゃないか」

「ありがとうございます!」

 ゲート処理、シール貼り、パッケージに書かれた色を塗らなくても設定に近い仕上がりに近い、丁寧に作られているのがわかる。

 ダブルオーガンダムを勧めたのはタクミだが、正直なところ、数日でキットを購入し制作して持ってくるとは思わなかった。

「タクミ殿ー、これはなんですか?」

 キクヅキは机の上に置かれていた、OPP袋に小分けされたガンプラのパーツをつまみ上げる。

「あぁ、ジャンクパーツな」

廃品(ジャンク)?」

「それ組上がってるだろ?」

「あ、確かに!」

 袋の中のパーツは頭部なら頭部、脚部なら脚部と多少足りないパーツはあるものの部位単位で組上がっていた。

「大体は中古品とか、ショップで完成品のプラモデルの買い取りとかやってる店もあるんだよ」

「へー」

「パーツを組み合わせて改造ガンプラを作るための材料にしたりするんだ。一部のパーツだけが欲しい時とかに便利なんだよ。キットを一箱買うより安いし、買っても丸々使わないし」

「そ、その改造ガンプラってわたしにも作れますか?」

 キクヅキの言葉にタクミは少し考える。

「まぁ、簡単なところからなら」

 そして、そう答えた。

 

 

 

「一番簡単なところなら、まずは武装を別のガンプラに持たせてみる。劇中にもガンダムのビームライフルを持ったジムが登場したりする。自分のバトルスタイルに合わせて武装を交換するだけでも十分に専用機感は出る」

「なるほど!」

 とはいえ、現在キクヅキの持っているガンプラはバルバトスとダブルオーガンダムの二種類のみ。交換くらいなら出来るが、いささか寂しい。

「たしか、部室のジャンクパーツ入れ(マウンテンサイクル)に何かしら使えるパーツあったはず」

 タクミは部室の棚から段ボール箱を持ち上げ、机の上に置く。

 マウンテンサイクルとは(ターンエー)ガンダムに登場した場所で黒歴史以前のモビルスーツなどの遺物が発掘されていた。その事になぞらえて、ジャンクパーツや積みプラがそう呼ばれている。

「わー! パーツいっぱいありますね!」

「これはこの部で部員達が集めてきたジャンクパーツだ。キットの余剰パーツだったら、組み立てた後に壊れてしまったり、パーツを無くして組上がらなかったり。要は不要になったパーツを持ち寄ってきたんだが」

 今はもう部員もタクミ一人。そもそも不要で集まったパーツ、キクヅキが使っても文句をいう様な人間は居ない。

「武器とかは案外そのまま入ってたりするからな」

 タクミは箱の中をあさりビームライフルを一丁取り出す。

 元はHGCEエールストライクのモノだろう。大方作ったがガンプラの置き場を無くしたか、別の武装を新造したために不要になったか。

「おおぉー」

 キクヅキが感嘆の声を上げる。

 SEEDとOOで作品は違うがガンプラならばあり得ない組み合わせではない。

「あと、簡単なところだと背負いものを付け替えるくらいか」

「背負いもの……でありますか?」

「ガンダムの背中の武装とか特徴的なパーツのこと、ガンプラって背中のパーツが胴体とは別パーツになってるだろ? それを別の機体に取り付ける。ガンプラのパーツを付け替えたり組み合わせたり、狭義的にミキシングって呼ばれてる方法なんだけど」

 タクミはガンプラの飾ってある棚からHGACウイングガンダムを手にとる。

「例えばこのウイングガンダムだと」

 背中の特徴的な翼はガンプラでも再現されている。

「背中のウイングとその基部、バックパックが胴体に三ミリ軸二本で接続されている」

 俗に言う共通二軸。AGP(オールガンダムプロジェクト)から導入されたキットの四肢やバックパックの接続規格を同一にすることでカスタマイズという遊びを提案するモノだ。

「タクミ殿。小生のダブルオーにはその二つの穴は無いのですが……」

 キクヅキのダブルオーガンダムはAGP以前のキットであり、そういった規格は適用されていないが、一部胴体の接続などのボールジョイント、三ミリ軸接続などは他のキットとも互換性はあるが。

「ダブルオーはオーライザーと合体するからな」

 タクミがジャンクパーツの中から適当なパーツを取り出してダブルオーの背中に取り付ける。

「背中に三ミリ軸の穴が一つ開いてる」

「おぉー、これで小生のダブルオーにも翼が!」

「なんだ、翼付けるのか?」

「ダメ、ですか?」

「いや、何をどう取り付けるかはキクヅキの自由だ。小改造くらいなら手伝うし」

 不安気だったキクヅキの表情がパァっと明るくなる。コロコロと表情を変える様は見ていて飽きないな、と短い付き合いながらタクミは思った。

 翼という案だが、方向性0の状態でミキシングを進める訳には行かない。そういう意味では有難い。

(翼といえば目下のウイングガンダム。フリーダムという手もあるか……。しかし)

「だったら、こう、なんかズバーって感じのが」

 体全体を使ったジェスチャーを交えながらキクヅキは説明する。

(ズバー、って……。ズバーっていうことは普通の羽根ではないのか? OOの作中でならばGNフェザーの様な感じか。とはいえ)

 タクミはきれいに整頓されたとは言い難いジャンクパーツ入れの中から使えそうなモノを探す。

 語感からGNフェザー、光の翼の様なモノ。ポン付けするにはデスティニーかV2ガンダム。HGCストライクフリーダムも一応光の翼か。

 とはいえ都合よくそういったパーツがジャンクに落ちてるとも限らない。ジャンクパーツが改造で余剰となったモノや破損してしまったモノである以上、光の翼の様な特徴的なパーツが余ることは考えにくく、あったとして完全な状態とは限らない。

「コレは……」

 パーツを物色するタクミの手が止まる。

「白い……なにかであります」

 タクミの横からダンボールを覗き込むキクヅキが感想を口にする。

 タクミが掴んでいたのは白いパーツ。グレーのフレームの様なモノも見える。なにかしら組み上げられたパーツに見えるがキクヅキにはもちろん見当がつかない。

「ユニバースブースターの残骸だな」

「ユニバースブースターでありますか?」

 よく見れば戦闘機の機首の様なパーツがあり、加えて特徴的な濃いピンク色のクリアパーツがついている。

「スタービルドストライクのストライカーとなる支援機なんだが、まぁ、翼のはえるユニットと思ってて大丈夫だよ」

 キクヅキはタクミに手渡されたユニバースブースターを色々な方向から眺めてみる。

 ジャンクパーツとなっていたユニバースブースターには本来ついているはずのスタービームキャノン及びそれを接続するアームが無く、それに加えてディスチャージシステムの一環であるアブゾーブシールドも無い。光の翼の発振機としてなら使えるだろう。

「これを背中に取り付けるんですか?」

 HGCEストライクガンダムのストライカーも三ミリの一軸による接続だ。しかし、ダブルオーガンダムの三ミリ穴はその外観上、奥まった場所に配置されておりそのまま取り付けるのは不可能。

「ジョイントパーツを足してもいいんだが、今回はランナーの切れ端を使う」

 タクミはダンボールから適当なランナーを取り出すと適当な長さにニッパーで切り取る。

「ランナーの中には三ミリの太さの円柱状のモノがあるから、三ミリ穴同士取り敢えずのジョイントに使える事もある」

 実際にダブルオーの背中のジョイントにランナーを差し込み寸法を合わせながらパチパチと切り積めていく。

「こんなモノかな」

「おぉー」

 長さにして三センチほど、あまり格好はつかないがユニバースブースターのジャンクとダブルオーを接続するパーツが出来上がった。

「ダブルオー側の穴は径が少し三ミリより大きいから、このままだとユルくなる。今はこのビニール片を噛ませることで誤魔化すけど、後からジョイントを作り込んだりするなら三ミリ軸に接着剤を塗って軸を太らせるとかすればいい」

「が、がんばります」

「その時はまぁ手伝うよ」

「お願いします」

 元々、白と青を基調としたダブルオーに白いユニバースブースターはさほど違和感はない。バックパックを重ねる事になるが、ダブルオーライザー形態を考えれば比較的スッキリした印象。

「後は色を変えたりだけど」

「取り敢えず、このガンプラを試してみたいであります!」

「まぁ、確かに塗装するにしても準備がいるからな。試作したガンプラを動かしてみてから方向性を決めるのもアリか」

 キクヅキにとってはミキシングという改造に対する試作ガンプラでもある。一度GBNで使用してみるというのも必要かもしれないとタクミは考えた。

「はい、GBNをやりに行きましょう!」

 善は急げと、キクヅキに引っ張られるようなかたちでタクミはショップへと向かった。

 

 

 

「タクミ殿はやっぱりザクですか?」

「まぁ、ザクの改造機ではあるんだが、ハーフキャノンじゃないよ」

 GBNのログインロビーでケモミミの少女と鮮やかな青色の連邦軍の制服を着た青年が談笑する。

 タクミとキクヅキだ。キクヅキのアバターはケモミミと尻尾に丈の短いワンピースと、カスタムされたモノ。対して、

 キクヅキは言わずもがな、タクミもステータス的にも初心者といっても差し支えない二人は所属するフォースもフォースネストも無い為、基本的に出撃時以外はロビーで過ごす事となっていた。

「とりあえずカウンターでミッションを漁るか」

「はい!」

 ミッションカウンターに向かうタクミにキクヅキがトテトテとついていく。

 二人の目的はキクヅキのダブルオーを使い戦う事。GBNで受ける事のできるミッションは単なるお使いの様なモノやアイテムの納品、宝探し的なモノ等々様々である。中でも今回の目的に合うのは連戦ミッションだろう。初日にキクヅキが挑戦したのも連戦だったが、あちらは初心者がまずはゲームになれるための簡単なモノ。今回挑もうとするミッションは難易度が上がっている。

「もう少し、人数が欲しい所だけど……」

 今回のミッションでは参加人数が少なければ少ない程にボーナスが獲得できる。

 だが、二機ではいささか戦力が足りなく感じる。

「あのー、よかったら僕らと一緒に行きませんか?」

 タクミに声をかけてきたのは仮面を着けた男性のアバター。

「タクミ殿、仮面ですよ。怪しいです……」

「いや、仮面はガンダムではよくあるアイテムだし珍しいモノでもないよ」

「そ、そうでありますか……」

 訝しむキクヅキをよそにタクミは話を進める。

 話を聞くと彼らも連戦ミッションに参加したいが戦力に不安があり人数を揃えたいと言う。

「俺たちは初心者なんで強くないですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、僕らも人数がいた方が楽しいしね」

 仮面の男は優しげな声でそう話す。

 まぁ、戦いは数だ。不要なら話し掛けはしないだろう。タクミはそう思った。

「僕はキョウヤよろしく」

「タクですよろしくお願いします」

 タクミ仮面の男の差し出した手を握り返す。

 キョウヤ達に合流したことで、野良パーティではあるが総勢九機の小隊となる。

 今回のミッションは開始地点まではNPCの輸送機で移動、出撃し、電撃作戦という体でステージごとの敵を突破しボスを撃破を目指す。

 初心者には少し難しいかも知れないが、今の部隊規模なら然程苦ではない。

 出撃が輸送機からということで、小隊各機が格納庫に押し込められての移動になっていた。

「タクさんはザクの改造機なんですね」

 コックピットで待機するタクミのモニターに通信が入る。少女ながら凛とした表情をしたロングヘアーのアバターだ。

 彼女の乗機はギラ・ドーガ。改造等は施されていないが丁寧に作られているのが見て取れる。

「あ、私、ミナっていいます。お二人と同じで野良パーティとして参加してます。よろしくお願いします」

「タクです、よろしく。ベースはオリジンザクで、ジムガードカスタムを意識してる」

 タクミの言う様にザクは全身を隠せる程の盾を持ち、肩越しに背中から伸びるアームで保持していた。

「アームの基部はハーフキャノンですよね?」

「ああ、ちょうど接続部の平軸が同じだったから。片腕だとどうしても保持しにくいしな」

「あー、ガードカスタムとかそうですよね」

「盾自体は軽いから補助さえあれば片手で保持できるし」

「タクミ殿、出撃ですよ!」

 キクヅキにさえぎられ、タクミは出撃前だった事を思い出す。

「あ、ああ」

 輸送機は既に目標エリアまで到達していた。

 ハッチが開きモビルスーツが降下していく。

「ザクハードガード、タク出る」

「ギラ・ドーガ、ミナ機。降下します」

「キクヅキ行きます!」

 タク、ミナ、キクヅキの三機も戦場(ミッションエリア)へと降下する。




次回「フレンズ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フレンズ

ダブルオーを製作したキクヅキとタクミはその試運転をするべくGBNをプレイする。途中知り合った仮面の男「キョウヤ」達と連戦ミッションに挑む。


 連戦ミッションは容易に進んだ。何より九機という数の暴力は単純であり強力だった。寄せ集めに近いチームでは細かな連携は不可能に近い。戦闘開始と共に火力で圧しきる。幸い白兵戦に特化し過ぎた機体は居ないので、横一列に並んで引き金を引くだけで火砲の壁が相手を包み込むことになる。

「タクミ殿。連戦ミッションって思ったより簡単ですね」

「まぁ、これだけ人数揃えたらな」

 このミッションの想定人数は五人程度。二倍の戦力で挑めばこうもなる。

 現在、インターミッションエリアで休憩中。各自機体の整備や武装の変更等を行っている。

 タクミとキクヅキは特にやることがないため、戦いにより廃墟と化したという設定の街を眺めていた。

「ダブルオーの調子はどうだ?」

「悪くないです! 武器も使いやすくていい感じであります!」

「なら、よかった」

 タクミも自分で勧めた手前、使いにくいといわれると悲しい。

「あの“トランザム”ってのはよくわからないのですが……」

「あれは必殺技みたいなモノだからな」

 OOを視聴中のキクヅキに対し、赤くなるだの、速くなるだの、ネタバレにならない程度に説明する。

「必殺技!」

 その言葉にキクヅキが目を輝かせながら食い付く。

「作中と同じで一時的に出力を上げることはできる。ただ、今は使わない方がいい」

「そう、なんですか?」

「必殺技は多くのリソースをつぎ込む。決まれば文字通り必殺となるが、隙も生じやすい。特にトランザムは使いどころがむずかしいからな。下手に使うと相手を倒すより先にスタミナが切れかねない」

「り、了解であります」

 残念そうにショボくれるキクヅキを見ながらタクミは罪悪感にかられるが、トランザムの発動タイミングが難しいのも事実だ。タクミにはGPDの経験があるが、戦い慣れをしていないキクヅキにそれを計るのは難しいだろう。

「まぁ、GBNに慣れたら使っていけばいいさ」

「はいッ!」

 そうこうしている内にインターバルも終わる。機体の調整を終えて呼びにきたミナに連れられ、二人はチームのところまで戻った。

 

 

 

 

「敵が強くなってきましたね……」

 ミナが呟く。

 チームはメンバーを幾人かに分け、分隊単位で対応に当たらせている。

「流石に連戦ミッションだな。だが」

 ザクの身の丈程の盾から突き出したマシンガンが上空の敵機を捉え蜂の巣にした。

「流石ですタクミ殿!」

 ミナ、タクミ、キクヅキの分隊は多少進撃が遅いものの確実に前進している。コンビネーションを考慮に入れていないチームなら十分な戦果だろう。

「今のがデスバーディ、その前はデスビースト。Gガンの敵機体ばかりだな」

 タクミが顎に手をあて思案に入る。

「となると、ボス機体はデビルガンダムでしょうか?」

 ミナの言うように、順当にいけばデビルガンダム。次点でデビルガンダム四天王、グランドマスターガンダムか。

「ミッション毎にボスと途中のステージは固定されてるみたいですし、デスアーミーが出てきたらボスは大方デビルガンダムと攻略サイトにも」

「タクミ殿、デビルガンダムって何でありますか?」

「あぁ、悪の親玉見たいな、デカくてクソ強いガンダム」

「成る程、了解であります!」

 だいたいの内容は伝わったのか頷くキクヅキ。

「アバウトですね」

「以心伝心ですから」

 キクヅキはミナに対しモニター越しに、ふんすと鼻息を鳴らす。

「まぁ、百聞は一見にしかず。ボスが出て来たらわかるさ」

 タクミが言う。

 このエリアの敵は掃討したのかバトル終了のアナウンスが各自のコックピットのメインモニターに表示されている。

 予定では次のステージがボスのはずだ。

「第三部隊、損害等は大丈夫ですか?」

 通信画面にキョウヤの仮面を纏った顔が映る。

「特に問題は無い」

 タクミが答える。ザク、ダブルオー、ギラ・ドーガの三機とも目立ったダメージも無い。このまま最終ステージに突入出来る様なコンディションだ。

「了解、じゃあ。全機最終ステージへ突撃せよ!」

 キョウヤの掛け声と共に九機のモビルスーツ全てがブースターに火をつける。流星の様に尾を引きジャンプ、戦闘エリアに入るまでは敵と遭遇する事は無い。隠密性より移動の速度を優先する機動。

「各部隊は別方向からボス機体を攻撃」

 キョウヤから送られてきたデータがサブモニターに展開する。そこには各機の動きが示されていた。

「メルシュトローム作戦ですね」

「だな」

「め、めるしゅとろーむ、でありますか?」

 作戦内容を見てすぐさま理解するミナとタクミ、対してキクヅキは頭の上に疑問符を浮かべる。

「メイルシュトローム、渦巻きって意味だよ。三方向から同時に攻撃する。Zガンダムでエゥーゴがとった作戦だけど、まぁ、今回は三方向から同時攻撃って事で」

「なるほど、了解であります!」

 各機が戦闘エリアに入る。

 ステージは先程までの市街地からなだらかな丘や小川のある地形へと変わっていく。

 三つの集団に対し、敵もそれぞれに対応する。やはり参加人数が多くなると敵側も強化されるようだ。それに伴い報酬も多くなっているので、総合的に見ればバランス自体はあまり変わらない。

 エリアに入って数秒、コックピットに鳴り響くアラーム。

「敵っ!?」

 素早く反応を見せたのはキクヅキのダブルオー。GNソードⅡの牽制が敵の居る方角へと放たれる。

「いきなりお出ましか」

 ザクハードガードがシールドを正面に構え、ギラ・ドーガがその後方で屈む。

 射線は散乱し正確性は無い。キクヅキの牽制と同じく大まかな位置だけしか判明していないのだろう。

「俺が突撃する。キクヅキは後ろに、ミナは援護を頼む」

「わかりました」

「了解であります!」

 ザク・ハードガードが盾を掲げて突撃。ギラ・ドーガがビーム・マシンガンを乱射し、それを援護をする。ペレット状のビームの掃射は敵機の破壊には至らないまでも、反撃する力を削ぐには十分な威力を発揮し得る。

 無数のビームが飛び交う中、勝負はこの数秒で決する。

 敵の姿は見えた。デスアーミーが三機、金棒型ビームライフルを構え丘陵地帯の溝に伏せている。

「てりゃぁぁぁあ!」

 ザクの影からダブルオーが飛び出し、手近な敵をまず一機。GNソードⅡがデスアーミーの胸部装甲を貫く。

 ダブルオーはそのままGNソードⅡをライフルモードに切り替える。

「もひとつ!」

 貫いた敵機を盾に、閃光が走り、至近距離からのビームで二機目のデスアーミーを屠る。

「とりあえず片付いたな」

 タクミがヒートホークを構えたままのザクで言う。

「やりましたね」

 敵機の残骸を確認しながらミナも合流する。

「ああ、なんとかな。けど……」

 見ればザクハードガードが右足に被弾していた。ダメージとしては軽度なモノだが機動力が落ちるのは否めない。

「あとはボス機体だ。俺は後から追い付くから先に行ってくれ」

「し、小生は残ります! まだ一人では不安なので」

 モニター越しにキクヅキがビシッと挙手しているのが見える。

「そうですね。ボス攻略にはやはり戦力が必要……」

 ミナは腕を組考える。合理的に考えるならば他のダイバーと合流した方がよいだろう。

「わかりました。私は先行します。タクさんもキクヅキさんも必ず追い付いて来てくださいね」

 そう言うとミナはギラ・ドーガがブースターを点火した。

 

 

 

「お待たせしました」

 ミナが合流した時には既にチームの先鋒がボス機体と接触。予想通りと言うか、案の定ボスはデビルガンダムだった。

「あれ、あとの二人は?」

 通信の主はキョウヤ。

 出撃前にミナはよく見ていなかったが、彼の機体『エビルハウンド』は見た目は黒いAGE-2。ハイパードッズライフルの見た目も変更され、機体色と合わせ、一見してダークハウンドにも見えるが、四枚の翼の様なバインダー等がノーマルの改造機なのだと推測させる。

「タクさんとキクヅキさんは後から来ます」

「うーん……。わかった、取り敢えず目の前の事から解決していこう」

 エビルハウンドとギラ・ドーガも戦列に参加する。

 確かに二機が戦闘に参加出来ないことで戦力の低下はあった。だが、もとよりオーバーキル気味な参加機体数である。デビルガンダムの放つ無数の触手もそれを超える弾丸の暴風が圧倒する。

 Gガンダム作中で猛威をふるった機体が初心者向けレイドボスとは言え蹂躙されていく様は正に数の暴力と言う他に無い。

「……おかげで楽できたよ」

 デビルガンダムも既に虫の息かという頃。モニター越し、仮面を付けたキョウヤの口角が上がる。

 エビルハウンドが一転。

 ロングライフルの銃口をギラ・ドーガに向けた。

「えっ?」

 咄嗟に身を引いたギラ・ドーガの鼻先を閃光が掠める。

 それと同時にキョウヤがもとから引き連れていた二人が味方機三機を不意打ちで攻撃する。

「なんでッ!?」

 スラスターを吹かし、バックステップでエビルハウンドと距離を空けながらミナが問う。

「簡単な事だよ、人数が増えれば獲られるポイントも増える。しかし、ポイントは参加者で頭割りだ。なら参加者が少なくなればいい」

 エビルハウンドは小型シールドに内蔵されたビームサーベルを抜刀する。

「大人数で参加して攻略寸前で参加者を減らす。当然、大量のポイントも僕らのものになる」

「そんな事を……」

「最高効率を目指すとこうなる」

「素性を隠す為の仮面と名前というわけですか」

 プレイヤーに出回っている仮面ならアバターごとの見かけは誤魔化せる。ダイバーネームも現行最強とうたわれるチャンピオン(クジョウ・キョウヤ)の名前。GBNでは目立つが故にありふれたダイバー。

「貴方はそれでもダイバーなのですかッ」

「ゲーマーさ、どうしようもなく」

 エビルハウンドの斬撃をギラ・ドーガはビームアックスで受け止める。ビーム刃のつばぜり合いに閃光が走る。

「パワーで押されているッ?」

 徐々にではあるが、エビルハウンドがギラ・ドーガを圧倒していく。

「ブレイクデカールって知ってるかい?」

「貴方はどこまでっ」

 エビルハウンドが押しきり、携えたビームアックスごとギラ・ドーガの左腕を切り裂く。

「くッ!」

 ビームライフルから光弾をばらまきギラ・ドーガはエビルハウンドと距離をとる。この場にはキョウヤの仲間しか残っていない。数の優位からくる余裕か、キョウヤはソレを許した。

「さて、そろそろ君にも退場してもらおうか。なに、ポイントは僕らが有効に活用するさ」

 エビルハウンドがロングライフルを構える。

 万事休す。

 ミナが反射的にぎゅっと目を瞑る。

 銃口から走る閃光がギラ・ドーガを貫くかに見えた。

 だが、空気中を伝わる衝撃に機体が震えるだけでダメージは無い。

 外した? この距離で?

 開いたミナの量の目に映るのはモビルスーツの背中。見馴れたシルエットではなかったが直ぐに理解できた。

「タクさんッ……!」

「なんとか間に合った……ってところか」

 ザクハードガード。その装備したモビルスーツ大はあるシールドがロングライフルの一射を遮っていた。

「追い付いてしまったか。でもこれでも三対三。ブレイクデカールで強化された僕らの方が優位だッ!」

 キョウヤのもとに仲間が集まる。濃いグレーのクランシェが二機。恐らくこの二機もブレイクデカールで強化されているのだろう。

「キクヅキッ!」

「了解であります、トランザムッ!」

 空から落ちてきた紅い何かが片方のクランシェを貫く。

 それは高濃度圧縮粒子を解放したダブルオーの姿。

 加速によりもはや質量弾と化したダブルオーのGNソードⅡがクランシェの胸部に深々と突き立てられ地面に縫い付けられている。

「クソッ、だからなんだってんだ! こちとらブレイクデカールだ!」

 敵はデカールの影響か威力を増したドッズライフルを乱射しながらビームサーベルを抜き放つ。

「たかがトランザ――」

 全てを言い終える前に投擲されたGNサーベルがクランシェの頭部を貫く。

 たかがメインカメラ。そうは言うものの失った代償は大きい。こと素早く反応が求められる白兵戦においては尚更。

 姿勢を低く、闇雲に放たれるドッズライフルを滑るように回避しながらダブルオーがクランシェに肉薄、二振り目のGNサーベルがクランシェの頭頂部から縦に突き立てられる。

「見事だ」

 味方機を瞬く間に撃墜されたというのにキョウヤにはまだ余裕があるように見えた。

「だが、彼等二人のブレイクデカールは廉価版。いわば劣化コピーと言ったところか。むしろこれで僕はポイントを総取り出来る様になった」

 エビルハウンドはダブルオーと距離を取りロングライフルを放つ。

「ダブルオー以外は手負いだ。つまり君を倒せば僕の勝ちは堅い」

 キクヅキもギリギリのところでビームをかわす。トランザムを使ってでも避けきれない。ブレイクデカールの力は本物ということだろう。

「しかも、ダイバーが素人ではな!」

 ロングライフルの一射をかわしたところを狙う二射目がダブルオーに直撃する。

「やったか……」

 しかし、キクヅキのダブルオーは動きを止めない。

「光の翼だと!?」

 キョウヤの眼前、メインモニターには背中から翼を生やすダブルオーが映る。

「そのバックパック……プラフスキーウイングか!」

 タクミがポン付けしたユニバースブースターがトランザムの圧縮粒子を受け、光の翼にも似たGN粒子の翼を形成していた。

「翼が生えたくらいで」

 光の翼が視覚的に圧倒するが、それは単なる見かけ倒しではない。現にギリギリでかわしていたロングライフルの射線が徐々に引き離されていく。

「ならば!」

 エビルハウンドがロングライフルを捨てた。リアアーマーに装備されたビームサーベルを二基、両の手で束ねるように上段に構える。

 “EXカリバー”クジョウ・キョウヤ(チャンピオン)の必殺技であり、それを模したエビルハウンドの必殺技でもある。束ねられたビームサーベルは本来の出力を超え、長大な光の剣へと変わる。

「必殺技は多くリソースをつぎ込む……」

 キクヅキはタクミの言葉を反芻(はんすう)する。

 つまり、これはチャンスだ。ダブルオーは軌道を曲げ、エビルハウンドとの距離を詰めにかかる。

「墜ちろ!」

 赤く輝く光の束がダブルオー目掛け振りおろされる。

「隙も生じやすい!」

 対峙するキクヅキは避けない。エビルハウンドへの一直線の軌道をそのままに、ダブルオーのGNフィールドを両掌に集中。

 白羽取りの要領で光の剣を払って見せる。

「馬鹿な!」

 その場にいたキクヅキ以外全員がキョウヤと同じ感想を抱く。

「てりゃぁぁぁぁ!」

 必殺技を放ち、一瞬動きの止まったエビルハウンドの首をGN粒子を纏った貫手が襲う。

 キクヅキは自分でガンプラを作ってわかった事があった。

 モビルスーツは、ガンプラは関節が弱点と成り得る。可動する部位である以上、完全に覆うことが難しく、はめ合わせる都合上外れやすい。

 ブレイクデカールで強化されたガンプラと言えど、弱い部分に渾身の一撃を受ければただでは済まない。

 首のパーツが引きちぎれ頭部が宙に舞う。

 予想外のダメージに一瞬怯むキョウヤ、その隙にエビルハウンドの腹部にダブルオーの膝が食い込む。

 ダブルオーの膝蹴りは装甲にこそ深刻なダメージを与えたように見えないが、変形用のフレームが悲鳴を上げる。

「クソッ! 何故だ、あり得ない、こんな結末ッ」

 エビルハウンドのコックピットに鳴り響くアラートにキョウヤが叫ぶ。

 辛うじて撃墜されていないものの戦闘を続行出来る機体状況ではない。

 ログアウト。

 エビルハウンドのシルエットにノイズが走り消滅した。

 

 

 

 キョウヤ達を廃した後はデビルガンダムに止めを刺すだけで連戦ミッションは終了した。

 ポイントはログアウトしていないメンバーでヤマワケする形になり、タクミ、キクヅキ、ミナの三人で山分けする事になる。ミナは遠慮していたが、タクミに「君が貰わなかったからといってどうこうなる問題でもないし、貰っておくと良いよ」と言われ遠慮がちに貰っておく事にした。

「なんか大変でしたね」

 ミナが言う。

 ロビーまで戻ってきた三人はベンチに腰掛けていた。バーチャルリアリティであるGBNでは肉体的な披露は無い。今回の場合は精神的に疲れたといった感じか。

「最初は難易度を下げるためだったんだけどな」

 タクミが苦笑いを見せる。

「でもタクミ殿がダブルオーに付けてくれた羽根大活躍でありました!」

 そういう意味では、意味ダブルオーの試運転という当初の目的は達せられたと言える。

「お二人はリアルで知り合いなんですか?」

「まぁな」

「あ、あの、あんなことの後でアレなんですが、私とフレンドになっていただけないでしょうかッ!?」

 緊張からかスカートの裾をぎゅっと握るミナ。

「フレンド? 友達でありますか?」

「フレンド登録。まぁ、よく一緒に遊ぶ仲間みたいなものだよ」

 この手のゲームに関する知識が少なかったのか、キクヅキは成る程と手を叩く。

「俺で良ければ、よろしく」

「なら、小生もよろしくであります!」

「よ、よろしくお願いいたします!」

 

 

 




 この幾人ものダイバーが存在する戦場(ディメンション)で巡り会う、その可能性は決して高くない。ならば戦友よ、これは最早運命と言っても過言ではない。

次回「めぐりあい」

 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

めぐりあい

ダイバーズ新作来ますね!
ガンプラだと、この勢いでGP羅刹とか出てくれないかなーとか思ってます。


「なんだかGBNの中の友達ってワクワクしますね!」

「そうか?」

 楽しそうなキクヅキに対して、フレンドと言っても会ったら挨拶する知り合いくらいの認識しか持っていないタクミはよく分からないという顔をした。

「ミナちゃんってどんな人なのかな? とか、どのガンプラが好きなのかな? とか気になりませんか?」

「別にそういうのはな」

「それにGBNでのダイバーと本人がまるっきり同じだとは限らない。ダイバールックは好きにカスタマイズできるし、性別を変えたり、人間以外になる事もできる」

「確かに……」

 現実とは違う自分になれる。それがGBNの醍醐味とも言える。ミナも、タクミやキクヅキもダイバールックが現実の姿と同じだという保証は無い。

「リアルの事を詮索しないのもマナーの内だ」

「了解であります!」

 今日も今日とてガンプラショップへとやってきた二人。アルバイトはしているものの、タクミは懐事情は芳しくないのでGBNのプレイが主目的。ガンプラバトルにおいてこういった客層は少なくない。むしろ組み立てたガンプラを持ち寄るのが普通なので必然的にそうなる。

「小生、ちょっとガンプラ見てくるであります!」

 対してキクヅキは意気揚々とガンプラコーナーへ向かおうとする。

「キクヅキ、この前もガンプラ買ってなかったか?」

 キクヅキもタクミと同じ学生の身、ガンプラ以外に財布の中身を使わない訳でもなく、そんな何体もガンプラを買える訳ではないはず。

(ちち)にガンプラを作っているって言ったら、お小遣い貰ったであります!」

 ガンプラは世代を越えて楽しまれている。キクヅキの父も何かしらガンプラに思い入れがあるのだろうか。

 そうでなくても可愛い娘が新しい趣味を始めたとなれば多少甘くなるのも致し方ない。嬉しそうに棚のガンプラを物色するキクヅキにタクミもそう思った。

 ガンプラの価格は同じ1/144スケールといえど安いものはワンコイン、高いものは数千円まで様々だ。

「タクミ殿ータクミ殿ー、どれが良いと思います?」

「難問だな……」

 ズラリと棚に並ぶガンプラの箱。“初心者が最初に作るキットにオススメ出来るガンプラ”というものは議論され尽くしていると言ってもいい。

 しかし、それ以降は好きなガンプラを作るといいとしか言いようがない。キットとしての出来、原作からの愛着、ゲームで活躍した愛機。それぞれ思うところはあるだろう。

「そうだな……、オプションパーツみたいなモノもいいかもしれない」

「オプション、パーツでありますか?」

「要は武器とかバックパックとか、ガンプラに追加して強化するためのキットだな」

「小生のバルバトスとダブルオーを強化するパーツでありますね?」

 目を輝かせプラモコーナーに突撃していくキクヅキ。

「オプションセット6か」

 キクヅキの手に取った箱は通常のHGのキットに比べると半分程度の大きさのモノ。パッケージにもかかれている様に数種類の武器にバルバトスルプス様の握り手、HDモビルワーカーがセットになっている。

「はい、とりあえず強そうな武器を!」

(オプションセット6と言えばブレードとバット……またイロモノを)

「駄目で……ありますか?」

 身長の低いキクヅキが隣に立てば必然的に上目遣いになる。その仔犬のような瞳に抗う術をタクミは持たなかった。

「良いんじゃないか? “ガンプラは自由だ”って言うし」

 むしろ、バットはただ、殴るだけなら他の武器より扱いやすいかもしれない。

「あと、モビルスーツも何か」

「モビルスーツか……」

「おすすめのガンプラありますか?」

「そうだな……これなんかどうかな」

 タクミが棚から手に取った箱にはMS一機分はあるシールドを構える機体の姿が描かれていた。

「ジム……ですか?」

 キクヅキが眺めるパッケージ、その頭部にはガンダムのツインアイも特徴的なモノアイも見受けられない。

「ジム・ガードカスタムはORIGIN名義であるMSD、所謂MSVと同じ様な立ち位置だ。ガードカスタムの名前自体は初期のMSVのスナイパーカスタムの説明書に記載されていた一文だったんだが、後にゲームでデザインが成され、MSDで再設定。ガンプラとして立体化という流れだ。ジム・スナイパーカスタムを元に防御性能を向上させた機体で、“ジム”ではあるがスナイパーカスタムはガンダムに匹敵する性能を持っている。ガードカスタムはさらに防御力を強化し、専用武装のガーディアンシールドは四種の合金を用いた五層構造になっている」

「なるほど。凄いジム何ですね!」

「まぁ、そんなところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうする? 早速仮組していくか?」

 会計を済ませたキクヅキにタクミが聞く。

 嬉しそうに両手で箱を抱えるキクヅキはタクミの問いに顔をパァっと明るくした。

「いいのでありますか?」

「今日は時間あるしな」

 キクヅキとタクミはガンプラ製作コーナーに向かう。

 だが、ガンプラ製作コーナーは予想外に混雑していた。確かに広いスペースではないのだが今日の混み様は珍しい。

 とは言え、座る場所も無い程ではなく。キクヅキがガンプラを仮組みするくらいなら問題無さそうだった。

「おぉー、これがガーディアンシールドでありますね」

 箱を開けたキクヅキがランナーを眺めて言う。

 グリップ部分を含めて四パーツで構成されているガーディアンシールドはパーツとしても大きく、ランナーの中でも目立っている。

「手伝おうか?」

「あ、じゃあ、お願いするであります」

 ガードカスタムは特段パーツ数の多いキットではないが、組み立てスペースで作製している事、オプションセット6が後に控えている事からタクミはゲート跡の処理等の作業を手伝う事を申し出ていた。

「流石凄いジムであります! 肩の根元が前にも上にも動く構造です」

「オリジンジムの共通フォーマットだな、腹部はもっと動くから」

「おぉー、凄い可動であります!」

 胴体を折り曲げたガードカスタムは腹部からほぼ直角まで前に倒れる。

「反面、ちょっと股関節周りが癖があるが総合的にはよく動く」

 タクミが手伝っているとはいえ、キクヅキがガンプラ制作になれてきたのかガードカスタムを組み上げる早さも上手さも初めてガンプラ制作を試みた時に比べて格段に向上している。ガンプラは細かな形状の違いこそあれ、大まかなパーツ構成は似通っている場合が多いことも組み立て易さに貢献しているのかも知れない。

「見てくださいタクミ殿! 膝を曲げると脚の装甲が動いて!」

 連動ギミックにテンションを高めるキクヅキ。その様子を微笑ましく思い、タクミも知らず知らずに口角を上げた。

 一時間も掛からずにMS本体の一通りのパーツを組み終えたガードカスタムが机の上に立つ。

「おぉー! 圧巻であります」

「ガードカスタムは色分け優秀な方だから素組みでも画になるな」

「ビームダガーも小生好みの感じであります」

 キクヅキがガードカスタムの前腕部からビームダガーを取り外し、柄のパーツとビームのエフェクトを付け持たせる。

 ガードカスタムと名乗りつつも二刀を構える姿は攻撃的だ。

「でもシールドはちょっと持たせにくいです」

「そうだな、俺のザクみたいに背中からサブアームを伸ばして懸架させるとかしないと厳しいな」

 設定では多層構造のガーディアンシールドは重量対策か、主に三パーツで構成されている。だがそれでも持ち手が三ミリの丸軸だからかグリップは効かず構えるポーズは取らせにくい。とはいえ流石にビームスプレーガンとビームダガーだけでら寂しい。

 ならばとキクヅキはもう一つの箱を手に取る。

 せっかくオプションセット6も買ったのだからと、武装はオプションセットのモノを装備させることにした。

「灰色一色ですね」

 箱からランナーを取り出しキクヅキが呟く。

「まぁ、オプションセットだからな」

 比較的低価格の武器セットであるオプションセットシリーズはほぼ色分けは成されていない。

「まぁ、武器だし多少色が足りなくても見栄えは悪くないさ、なんなら後でマーカーなんかで塗り足せばいいし」

「そうでありますね!」

 気を取り直してキットに向かい合うキクヅキ。

 オプションセットの中身は武装類だけあって、左右のパーツを張り合わせるだけ、所謂“モナカ割”等、少ないパーツ数で構成されているものも多い。

「すみません。隣、いいですか?」

「あ、はい。どうぞ」

 タクミが隣の椅子を引く。声をかけてきたのは見た目は中学生位の少女で、キクヅキと同じ位の大きさに見えた。その事実をキクヅキに話せば不貞腐れるのは想像に難くない。

「あ、ありがとうございます」

 少女は丁寧だが緊張した様子で礼を述べた。

 同じガンプラを趣味とする者だろうとタクミは高校生、少女からすれば声をかけるのは多少勇気がいるだろう。一緒にキクヅキが居る分だけまだ声をかけやすいかもしれない。兄妹にでも見えた可能性もある。

「ミナモー、席あった?」

 髪を二つ結びにした少女がまた一人。隣に座る少女の連れだろうか。

「ありましたよー」

「ラッキーだね、今日は混んでるから」

 二人は椅子に腰掛けるとガンプラの箱を取り出した。

(ジャイアントガトリングか……)

 マスターグレードが装備しても違和感の無い巨大なガトリング砲、威力は絶大だが巨大さ故か取り回しが悪い。

(HGクラスだと扱いにくいが)

 タクミの隣で少女は鞄からガンプラを取り出す。

(ギラ・ドーガか)

 モビルスーツはあるところまでは宇宙世紀の年代が進むにつれて大型化されていく。ギラ・ドーガの登場する『逆襲のシャア』の頃には一年戦争の頃のモノよりかなり大きくなっている。それは1/144スケールであるガンプラにおいても同様。ギラ・ドーガならタクミのザクが持つよりも扱いやすいだろう。

(なんか、最近よくギラ・ドーガを見るな)

 タクミはGBNでフレンドになった少女を思い出す。

「タクミ殿! タクミ殿! 見てください、フル装備ジムガードカスタムであります!」

 目の前に迫らん勢いで言うキクヅキの前にはオプションセットの装備で身を固めたジムガードカスタムが立っていた。

 両腕にはロケット砲、右手にはグレネードランチャーとブレード、ランドセルにバットを装備している。本来のガードカスタムの武装であるビームダガーは腰に取り付けられ左手でガーディアンシールド、腰裏にある三ミリ穴にはビームスプレーガンを懸架している。

「シールドも使うのか」

「取り敢えずであります。無理なら置いときます」

 武装過多感も否めないが、使った武装は放棄していくスタイルと言えばそこはかとなく強襲用モビルスーツに聞こえなくもない。

「ガンプラも完成した事ですし、早速ディメンションに行きましょう!」

「お、おう」

 キクヅキに気圧される形でタクミもランナー等の片付けを行う。

「そうだ、今ログインしてるかメールしてみます」

 タクミは誰が? と言おうと思ったがGBNでキクヅキがメールを送れる相手も限られている。

 キクヅキはダイバーギアを起動する。

「今からログインします! 予定が合えば一緒に遊びませんか? っと」

「GBNにログインしてるとは限らないし、あまり期待してもな」

「その時は今度一緒に遊べる時に遊びます! 取り敢えず送信であります」

 送信のボタンが勢いよく押され、メールが送られる。

 ピロリン。と隣の席からダイバーギアの着信音。

 ギラ・ドーガの少女がギアを操作する。

「あ、返信です。私も今からログインするところです。だそうでありますよ」

「よかったな」

「はいッ!」

 キクヅキは嬉しそうにギアを弄りメールを返す。

 隣の席からまた着信音。

「まさか、なぁ……」

 タクミが呟いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビギニング

今さらですがガンダムNT見ました。作品自体に賛否両論あるとは思いますが、ゾルタンはわりかし好きです。


「お待たせしました」

 小柄なダイバーが小走りで近づいてくる。

「いや、俺たちも今ログインしたばかりだから」

 駆け寄ってきたミナにタクミは待ち合わせの常套句を口にする。

「なら、よかったです」

 彼を見上げるミナの顔に笑みが映る。

 腰までかかるくらいの黒髪のストレート、幼さの残る凛とした表情でキクヅキと同じくらいの身長から見上げられると、タクミは妹が増えた様に感じていた。

「そう言えば、キクヅキさんは?」

「ああ、キクヅキならミッション見てくるってさ」

 ログインしたキクヅキはその足でミッションカウンターへとおもむき、今日プレイするミッションを物色していた。

「あの……、タクさんは今日もザクなんですか?」

「まぁな、新しいガンプラも作ってないし、今の機体の改良案も良いのを思い付かないからな」

「わ、私は好きですよ……タクさんのザク」

 ミナは照れたように俯いて言う。

「そうか、ありがと」

 自分のガンプラを好きだと言われてタクミも悪い気はしなかった。

「タク殿ーッ!」

 タクミが声に振り返るとキクヅキがブンブンと手を振りながら駆け寄ってきていた。

「ミナ殿もお待たせしました。良さそうなミッション見つけてきたであります」

 

 

 

 

『50VS50バトル』読んで字のごとく、五十機のガンプラを一組にまとめ、総勢百機の大規模なバトルを行う。

 参加登録したダイバーはランダムにマッチングされるが、あらかじめチームを組んでおけば同じチームになることも出来る。

 タクミ、キクヅキ、ミナはチームを組んだ状態でバトルに参加申請をした。

 マッチング完了は予想より速く、三人は出撃待機エリアへと転送される。

「このバトルは全滅するか拠点の耐久力が無くなったチームの負けだ」

「なるほどであります!」

「攻めと守りの戦力の配分が重要って事ですね」

 タクミの説明にキクヅキとミナが頷く。

 待機エリアには他の参加者も続々と集まっていく。

「開始まですぐだが、大まかに作戦を決めたい」

 集まったダイバーの中の誰かが提案する。

「フィールドは宇宙か」

「あそこはデブリが多いがマップ中央は障害物が少ない……」

「攻めるなから中央か」

 あらかじめのチームでの参加者も多く、三機程度の小隊がいくらかで全体が構成される格好になっている。

「ウチはザク三機、全て汎用機だ」

 いかにもジオン軍人といった格好の男が言う。

「俺達はスナイパーがいる。敵のトーチカの破壊は任せてくれ」

 こちらはグレーの連邦制服の男。

「ジンクス、アタシは敵に突っ込めれば何でもいいよ」

 身長一メートルほどだろうか、二足歩行する犬のようなダイバーが言う。

「オレ達はドムタイプ三機だ! ジェットストリームアタックをかけるゾ!」

 それぞれ小隊長が自らのチームの動きを説明する。

「血気盛んな者が多い様だ、私達は拠点の防御をするとしよう」

 豪奢な制服に仮面をつけた男性が言った。彼の後ろには同じく仮面をつけたダイバー達が控えている。これでだいたいの動きは決まった。

「なら総指揮は頼む」

「任された、作戦は四、四、二で戦力を割り振り鶴翼の陣を形成、敵を迎え撃つ!」

 仮面のダイバーはジオン・ズム・ダイキンよろしく両手を掲げる。

「かくよくの陣? であります?」

「横に長い陣形を組んで攻めてきた敵を包み込んで倒そうという陣形です」

 頭に疑問符を浮かべるキクヅキにミナが解説する。

「それで、タクさん。私たちの配置は」

「俺達は左翼の端を担う」

 タクミが手元に表示したマップには、Vの字になった陣形の端に丸がついていた。

「それは、難しいのでありますか?」

 キクヅキが不安げな表情を浮かべる。

「やることはいつもと変わらないさ」

「見敵必殺でありますな!」

 

 

 

『チーム各員奮戦を期待する』

 指揮をとる仮面ダイバーからの通信が各機にとぶ。タクミ達はブースターに灯をともし宇宙空間を加速する。

 鶴の両翼が陣形を保ったままにじりより相手チームにプレッシャーをかける。

 翼の端、先陣を切る部隊は機動力よりも防御力を重視した配置となっていた。ガードカスタムと大型シールドを装備したタクミ達のチームがその配置なのもその為だ。

「タクミ殿、今何かチカッと光った様な……」

「光……? 敵機!」

 微かだが、敵のブースターのモノと思われる光がモニターに点滅する。

「こちらLチーム、敵機発見。総数不明!」

『こちら拠点、了解した』

 タクミの報告に短い通信が返ってくる。

「速い。あれは、ジェスタ?」

 ミナがモニターに映る敵のシルエットを見て言う。

「装備が違う。速度も予想以上に速い、多分シェザール隊仕様のA班装備だ」

 大型ブースターが光の尾をひき、敵機体が加速する。

「厄介だな……」

 タクミが呟く。

 機動力でA班装備に追い付ける機体は今のタクミ達の中には存在しない。

「キクヅキがダブルオーなら……。いや、トランザムだとしても」

「タクさん、どうします?」

「機動力が自慢なら、使えなくしてやればいい。後退してデブリ地帯で迎え撃つ」

「そうですね、開けた場所ではこちらが不利ですね」

 ミナはマップを確認しながら言う。

 マップ上、現在タクミ達のいる地点の後方にはデブリの密集した場所が存在している。

 待ち伏せや罠を張るには好都合。そうでなくとも、直線的な加速に優れた大型ブースターの強みを多少削ぐことが可能になる。

「キクヅキ! 俺と敵を警戒しつつ、ミナを守りながら後退するぞ」

「はい! 了解であります!」

 ガードカスタムとハードガードを前方にギラ・ドーガを庇うV字のフォーメーションを組む。

 

 

 

「敵は後退する模様、デブリ地帯に潜り込まれたら面倒だ。どうするリーダー?」

「目が良いのが居るな……。やらせておけ、あそこにはスナイパーを配置してある。差し支えない」

 モニターに表示されたマップを確認しながらリーダーと呼ばれたダイバーは息をついた。

 デブリ地帯には彼らの仲間、同じくシェザール隊仕様、そのB装備(スナイパー仕様)が控えている。

「じゃあ俺達はさしずめ、スナイパーが手負いにした獲物を見つけてトドメをさす猟犬ってこったな」

「そうだ、猟犬らしく任務に忠実に行こう」

 

 

 

 

「タクミ殿ッ!」

 キクヅキが叫ぶ。

 刹那、タクミの眼前で宙を舞うガーディアンシールドが先行を受け止め弾かれる。

「スナイパーッ!? 待ち伏せか!」

 タクミとミナが直ぐ様散開する。

「大丈夫でありますかッ?」

「あぁ、ありがとう。助かった」

「いえいえ、そんなぁー」

 天性の勘とでも言うべきか、キクヅキの戦闘センスにはタクミも驚かされていた。ガンプラバトル以外の分野での経験が活きる場合もある。彼女の場合もそうなのかもしれない。

「脚を止めるな、狙い撃ちされる」

「ハイであります!」

 デブリ地帯は死角が多い。スナイパーが一機とは限らない以上、なるべく一ヶ所にとどまらない方が無難だ。

「タクさん、どうしましょう……?」

「ハードガードのシールドなら一発は耐えられる。その間にスナイパーを見つけだせるか?」

「了解しました。やってみます……いえ、やります」

 ミナにはそう言ったが、それが容易い事ではないとタクミは感じていた。

 デブリに紛れるスナイパーを瞬時に見つけるのは難しい。

「キクヅキ、ミナ、頼む」

 タクミのザクがデブリの薄い場所に躍り出る。

(さぁ、どこから来る……)

 前面には大型シールド、背にはデブリを配置し構えるタクミ。

 挑発に近い行動に敵ダイバーが乗ってくるのか。タクミの思慮を掻き消すかのようにデブリの合間を閃光が縫う。

「やはり、一発が限界か」

 表面の溶解したシールドにタクミが呟く。

 今の一射である程度の場所は掴めたはずだ、敵機が完全にデブリに身を隠す前にその尻尾をとらえなければならない。

「ビームの入斜角、デブリの配置を考慮すれば相手の動きはッ!」

 ミナのギラ・ドーガがデブリをすり抜け、予測地点に迫る。

「ここです!」

 それぞれが必殺の威力を持った砲身を束ねた、まさに破壊装置といった巨大なガトリング砲が暴力の雨を吐き出す。

 デブリすら削りきろうかというその掃射にさらされ、機影が現れる。

 ジェスタシェザール隊仕様B装備。長大なビームランチャーを携えた敵機はその銃口をギラ・ドーガに向ける。

 しかし、光が放たれるより早く、強襲するジムガードカスタムがその銃身を蹴りあげた。光の軸は何もない空間を貫く。そしてほぼ同時にギラドーガのビームアックスがジェスタのコックピットを切り裂いた。

 

 

 

「スナイパーが殺られた」

 仲間の反応がロストした事をジェスタ部隊のリーダーが僚機に告げる。

「クソッ! どうします隊長? スナイパーとやりあったんだ、無傷ではないはず」

「いや、作戦時間だ。深追いはいい」

 リーダーはモニターの数字に目をやる。

「しかし」

 A装備のダイバーは食い下がるもリーダーの考えは変わらない。

「為すべき事を為す。ブースターを一本貸せ、本隊に合流する」

「……了解」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。