世界を救わない物語 (west4610)
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これは、世界を救わない男の物語

2015年、カルデアスと呼ばれる疑似地球観測装置はおよそ一切の未来を映さず……2016年から先の人類の未来は消失した。

同時に、本来は存在しない筈の特異点と呼ばれる事象が過去の人類史に発生。

この緊急事態に人理継続保障機関フィニス・カルデアはレイシフトと呼ばれる方法にて未来の修正を行うことを決定した。

だが━━工作員の手により47名居たマスター候補は全員が瀕死の重症を負い、カルデア所長であるオルガマリーも死亡するという最悪の事態を迎えることとなる。

 

そんな状況の中、一人の青年が居た。

藤丸立香。

マスター候補の予備の予備としてこのカルデアに招かれた彼は自らの善性によるものか…はたまた一人の人間として当然のことなのか。

眼前で傷ついていた少女を救い、今カルデアに居るスタッフの要請を受け本来の職務を果たそうとしていた。

 

これは、そんな彼と彼女と……人理を救い、別の世界に名を刻んだ男による━━━━━━世界を救わない物語。

 

「先輩、召喚サークルの設営完了しました!」 

 

 大型の盾を持った少女が、小走りで青年へと駆け寄った。

 

「お疲れ様、ありがとうマシュ」

 

「いえ、今は緊急時ですし必要なことをやっただけで…」

 

「その通り、今は緊急事態なんだから無駄話なんてしてないでさっさと戦力になるサーヴァントを召喚するわよ」

 

 マシュと呼ばれた少女と青年の会話に、二人よりも少し大人びた女性が辛辣な口調でそう諭した。

 

「召喚……本当にさっき言った方法で英雄が呼べるんですか?」

 

「そう、人理を守る英雄……英霊。本当は触媒が必要なんだけど」

 

「人類の未来が消失するような緊急事態、そして特異点という特殊な揺らぎを触媒の代わりに利用するんですね? オルガマリー所長」

 

「えぇ、マシュ一人と新米マスターのあなただけではこの先を生き残れない。 今は少しでも戦力が必要なの、さぁやりなさい藤丸立香」

 

 青年は頷くと、右手を眼前に伸ばす。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公 祖には我が大師シュバインオーグ 降り立つ風には壁を 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 燃え盛る街の中、瓦礫に覆われた場所で青年は紡ぐ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

「(頼む、お願いだ……! どんな人物でも構わない、彼女たちを守る力になってほしい…!)」

 

 魔力が魔方陣へと集まって行く。

 魔方陣の周囲を無数の円が周り、中央へと集い、点は線に、線は束ねられ、人の形へと変わって行く。

 

「これは……セイバー!?」

 

 オルガマリーが驚きの声をあげた。

 

 意識を集中している藤丸には分からなかったが、傍目からは形作られ行く者が剣を握っていることが見てとれた。

 

「上出来だわ……セイバーは最優のクラス、どんな人物でも戦力にはなる……!」

 

 光は更に集い、ついにそのサーヴァントは姿を表した。

 茶色の髪に、銀色の鎧と緑色の外套を纏う長身の男

 藤丸はゆっくりと右手を下げると、少しの間呆然としていた。

 自らが行った行為で、本当に英雄を呼び出したことに驚いていたのだ。

 燃え盛る街は、少しの間静寂に包まれた。

 

「おい」

 

「は、はい!?」

 

「何処だ、ここ?」

 

「あ、えっと……」

 

 藤丸は困惑した表情でオルガマリーへ視線を向けた。

 

「藤丸、あなたが召喚したのよ。 その男はあなたの使い魔になる、毅然となさい」

 

 使い魔という言葉に藤丸は抵抗を覚えた。

 だがオルガマリーが言うように彼は自分が呼び出したのだ、ならば彼の質問に答えるのは自分しかいないだろう。

 彼はそう考え、男の前に一歩足を踏み出した。

 

「此処は日本の冬木市と言う都市です、あなたが生きていた時とは大きくかけ離れた時代です」

 

「ふーん……」

 

 男は興味があるのか無いのか、周囲をキョロキョロと見回している。

 

「僕たちは今、人類の未来を守るためにここに居ます。 でも、僕だけの力では足りないんです。 だからあなたの━━」

 

「やだ」

 

 藤丸が言い切る前に、男は否定の言葉を口にした。

 

「ガーハッハッハッハ! お前が困っているなんて俺様はしらーん!」

 

 男は豪快に笑うと、藤丸の後ろに居る二人の女性へ視線を向けた。

 

「だがその後ろの子はどちらもグッドだ! グフフフフ……」

 

 男は涎を垂らしながら笑みを浮かべる

 

「ひっ……ヒィッ!」

 

「先輩、オルガマリー所長! 下がってください!」

 

 男のニヤニヤ笑いにオルガマリーは嫌悪を、マシュは危機感を覚え盾を構える。

 

「未来の女の子いただきー!」

 

 だが、そんな二人の反応はまるで気にしていないのか男は剣を構えると藤丸を突き飛ばしマシュへと突撃した。

 マシュは身の丈を超える盾を構え、男が振るうであろう剣の一撃に身構えた。

 しかし彼女が想定した一撃は振るわれることは無かった。

 

「ガハハハ! 甘いあまーい!」

 

「えっ……!?」

 

 衝撃が盾に奔った。

 体が浮き上がる感覚が衝撃に続いた。

 ゆっくりと体が浮き上がっていく中、マシュは視界に男が持っていた剣が浮かんでいるのを見た。

 その奥には、何かを投擲したであろう姿の男。

 

「そんな、セイバーが剣を投げるなんて……!」

 

「俺様はそんな剣なぞ無くても世界一強いのだ! とぉーう!!」

 

 男は剣を投げ放った姿勢から両足に力を籠めると、オルガマリーへ向けて飛び込んだ。

 

「ヒッ……嫌!」

 

「グフ、グフフ……オルガマリーちゃんとか言ってたな? 中々良い顔をしている、グッドだ!」

 

「さ、サーヴァントの癖に……! 使い魔風情がこの私に──」

 

「知らん知らーん! 俺様は俺様のやりたいようにやるのだ! さぁそれでは早速……」

 

 男は無事、オルガマリーを押し倒すと彼女の顔をゆっくりと確認する。

 そして、下半身に自らの手を動かしたところで……。

 

「令呪を以て命ずる!! セイバー、動きを止めてオルガマリー所長から離れるんだ!」

 

 男の動きが止まった。

 

「ん? あれ? お、おかしい……いきなり体が動かなくなって……ど、どうして体が離れていく!?」

 

 所長へ乱暴を働こうとする男を、藤丸は令呪を以て諫めた。

 本来であればセイバークラスの様に、対魔力を持つサーヴァントには有効とは言えない手だったが何故かこの男には通用した。

 かくして……最優クラスのサーヴァントとの初邂逅は、とんでもない形で幕を開けるのだった。

 

 

 

 



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俺様の名前は────

https://www.youtube.com/watch?v=HmZE5dUGm7c
RanceX OST 06 -カッコいい雑談


 

「──────。」

 

「……モニター越しでも感じる、この緊張感。 所長の機嫌は相変わらずかい藤丸君?」

 

「斜めどころかむしろ断崖絶壁です」

 

 立夏の視線の先、空中に浮かぶモニターに一人の男性が映っていた。

 ロマ二・アーキマン。

 瑪瑙(めのう)色の髪に何処となく三枚目な雰囲気が漂うこの白衣を着た男性は、モニターの中で少し困った顔をしていた。

 

「仕方ないよねぇ、呼び出したサーヴァントにいきなり襲われて貞操の危機を迎えたってんなら……」

 

「サーヴァントって皆あんな感じなんですか?」

 

 立夏の視線の先には、地面にうずくまっているサーヴァントが居た。

 その少し先に、怒りの形相をしながらガンドを掛け続けるオルガマリーと何時でも彼女を守れるようにマシュが盾を構えていた。

 

「いやぁどうだろう……でもレオナルドも変人だし、英雄って言うのは皆何処かおかしいのかもね」

 

「今後付き合っていけるか不安になってきた」

 

「ははは、大丈夫」

 

 ロマニは立夏の言葉に笑って返した。 

 

「君が戻ってきたら今凍結保存されてるマスター候補達を一人ずつ治療する。 後は彼らが治ったら彼らに任せればいいさ」

 

「…………でも、今は僕が何とかしなきゃ」

 

「そうだね、辛い仕事を君に押し付ける事になってしまったが今は三人で無事にカルデアまで生還してほしい」

 

 ロマニは急に神妙な顔になると頷いた。

 もし彼が今その場に居たのなら、きっと立夏の肩に手を載せていた事だろう。

 

「僕、あの人と話してきます」

 

「え、本気?」

 

「はい、僕が呼び出した人だから……僕はきちんとあの人と話をしたいと思います」

 

 立夏は、そう言うとロマニの次の言葉を待たずに走り出した。

 

「…………大丈夫かなぁ」

 

─────────────────────────────────────

 

「ぎ、ぎもぢわるい…………!!」

 

「この! この!! 使い魔風情が私を襲うなんて……!」

 

「オルガマリー所長……そろそろこの辺りで止めておいた方が──」

 

「駄目よ、こういう奴は一度徹底的に──」

 

「ぎゃー! これ以上はやめろー!」

 

 地面に這いつくばる男に対して、更に魔術を掛けようとするオルガマリー。

 そして、それを止めようとするマシュ。

 かれこれ最初の邂逅から三十分以上が経過していたが、その間ずっとガンドを掛け続けられて男もそろそろ限界の様だった。

 

「あのー……ちょっといいです?」

 

 そんな三名の間に、立夏が割って入った。

 

「先輩」

 

「何? 今は何処かのマスターのサーヴァントを躾けている途中なんだけれど」

 

「ぎゃー!」

 

 オルガマリーはそう言うと、男へ向けていた右手へ更に強く魔力を送った。

 

「そろそろ許してあげるべきかなと……」

 

「許す!? このサーヴァントを!?」

 

「私も先輩に同意見です、オルガマリー所長。 我々の任務はあくまでもこの特異点の調査であってサーヴァントの懲罰ではない筈です」

 

「………………はぁ」

 

 立夏にマシュが助け船を出す。

 毅然とした表情で言う彼女に、オルガマリーは少し黙った後魔術を解いた。

 

「あくまでも罰を与え終わっただけです、もう一度このサーヴァントが何かする様ならその時は藤丸、あなたがこのサーヴァントを令呪で自害させなさい」

 

「それは────」

 

「出来ないとは言わせないわ、令呪はサーヴァントに対する絶対命令権、これがあるからこそ私たちは強大な力を持つサーヴァントを従えることが出来るのよ」

 

「…………なら、もう何かさせなければいいんですね?」

 

「え? え、えぇ……その通りよ」

 

 自らの指示に頷くと思っていたオルガマリーは、立夏のその態度に少し驚いた。

 そして自らの返事を聞くと、立夏は恐れることもなく未だに地面で倒れている男へ近寄った。

 

「すみません」

 

「………………」

 

「すみませーん」

 

「……………………………」

 

「もしもーし!」

 

「がー! 聞こえとるわー!」

 

 最初は少し離れて。

 だが返事が無いので更に近づいて。

 更に返事が無いので今度は耳元で大きく立夏は声を上げると、男はいきなり剣を握ったまま飛び起きた。

 

「全く……この俺様に何か気持ち悪くなる呪文を掛けるとか何なんだ、カラーの呪いか?」

 

「カラー?」

 

「む、何だ知らんのか? そういや何か未来とか何とか言ってたな……もしかしてカラー絶滅した?」

 

「聞いたこと無い」

 

「ふーん……じゃあきっと絶滅したんだな、ガハハハハ、パステル涙目」

 

 カラーという聞き覚えはあるが違う意味合いを示す単語について話していると、突然男は大きく口を開けて笑い出した。

 口の中に少しだけ尖った牙の様な歯が見える。

 

「で、俺様に何の用事だガキ。 俺様は世界中の女の子を抱くのに忙しいのだ、こんな燃えてる街に俺様は用事は無いのだ」

 

「えーと、それなんですけど……」

 

 ひとしきり笑った後、男は立夏へ視線を向けた。

 表情は能天気そのものだが、何となくこの男の機嫌を損ねれば自分はすぐに切り殺されるだろうという予感が立夏にはあった。

 

「さっきもお願いしましたけど、僕たちを助けてほしいんです」

 

「やだ」

 

 男は即答した。

 

「そんな無意味に疲れる事はしたくない、大体男を助けるなんて無駄だ。 後ろの女の子達なら助けてやってもいいぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「あ?」

 

 至極当然の提案だとでも言うように、男は立夏の後ろに居るマシュとオルガマリーを示す。

 すると立夏は自らが守護の範囲に入っていないにも関わらず、諸手を挙げて喜んだ。

 

「お願いします! 彼女たちを、助けてあげてください」

 

「むぅ……」

 

 男は立夏の喜びように少し不安を覚え、彼から背を向けると剣を顔に近づけしゃがみ込む。

 そのままひそひそと誰かと話すような声が聞こえたが立夏には詳しい内容は聞こえなかった。

 そして少しして立ち上がると……。

 

「うむ、よかろう! この俺様にドーンと任せるのだ!」

 

 男は英雄っぽいポーズを取って、胸を張った。

 

「良かった……」

 

「但し! 俺様はお前は守らんからな」

 

「構いません、彼女達を守ってくれるのなら」

 

「変な奴だなお前」

 

 男の感想に立夏は苦笑いをすると、彼は右手を差し出した。

 

「僕、藤丸立夏と言います。 セイバー、あなたの名前は?」

 

「ふん」

 

 差し出された右手を男は跳ね除ける。

 

「誰が男と握手なんぞするか!」

 

「あたた……」

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

 

 跳ね除けられた右手を左手で軽く摩っていると、二人の話し合いを離れたところから見ていたマシュが駆け寄ってきた。

 その顔は心配そうである。

 

「ありがとうマシュ、今名前を聞くついでに握手を求めたんだけど……」

 

「今手当しますね、先輩」

 

「俺様は男とは仲良くはせんのだ、だが……ほほ~ぅ?」

 

 マシュが近寄ってきた途端、男の顔がにやけ始めた。

 舐めるように上から下、下から上へ視線を動かす。

 

「…………? 何でしょう、セイバーさん」

 

「ちょっと目の保……いや、何でもないぞ」

 

「いやらしい視線で眺めてたのが丸わかりね、ほんと低俗なセイバーね」

 

 そして、少し遅れてオルガマリーが合流した。

 セイバーからはやはり離れた距離を保ちながら、軽蔑した表情を彼へ向ける。

 

「ん~、何の事かな? 俺様は今後守るか弱い女性をちゃんと頭に入れておこうと思って見ていただけだ」

 

「あ、それじゃあ交渉は上手くいったんですね先輩」

 

「うん、セイバーにはこの特異点に居る間君たちを守ってもらえる様にお願いしたんだ」

 

「本当に役に立つのかしらね……そうだ藤丸、マスターであるあなたならこのサーヴァントのステータスや真名が見える筈よ。 試してみなさい」

 

 オルガマリーの言葉に、以前軽くレクチャーされた事を思い出し立夏は何とかそれを試してみることにした。

 両目に力を入れ、男をじっと見つめる。

 するとぼんやりと文字の様な物が立夏には見え始めた。

 

「真名……ラ……ンス……」

 

「ランス……? 所長、もしかして──」

 

「嘘……もしかしてこの男、円卓最強の騎士、ランスロット!?」

 

 

 うすぼんやりと見える名前の様な物を読み解いていると、マシュとオルガマリーはほぼ同時に声を上げた。

 ランスロット。

 円卓の騎士の一人で最高の騎士と謳われた英雄である。

 

「えーと……そんなに凄い人なの?」

 

「知らないんですか先輩?」

 

「全く、何を勉強してきたのかしら。 だから素人は嫌なのよ……良い? ランスロットと言えばアーサー王伝説に終止符を打った不義の騎士にして、最強の騎士なのよ」

 

「へー……それがこの人なんですか?」

 

 二人の説明を聞いて、立夏は改めて眼前に立つ男へ視線を向けた。

 茶色がかった髪の色、両方の鍔が蝙蝠の翼の様に広がり一対の目が付いた黒い剣を持つ男。

 その男は今、後ろで驚きの視線を向けられることに不思議そうな顔をしていた。

 

「ん? 何だ、俺様未来でもそんなに有名なのか?」

 

「有名も何も……ランスロットを知らない人は殆ど居ないと言っても過言ではないと思います」

 

「ガハハハハハ! 成程! 俺様は大英雄だからな、それも当然だな!」

 

「こんな低俗そうな男が円卓最強の騎士……いえ、不義の騎士だからこそ私は襲われた……? そう考えれば確かに辻褄があうような……それに戦力としては申し分ない……」 

 

 何となく納得できない様子のオルガマリーだったが、アーサー王からギネヴィアを寝取ったランスロットだからこそ女性に目が無いという理論を脳内で構築し先ほどの行為の辻褄を合わせていく。

 そして一頻り考えを巡らせると頷き、男を見た。

 

「分かりました、あなたの先ほどの行為は不問としますランスロット」

 

「む?」

 

「円卓最強の騎士としての腕の見せ所です、名に恥じぬ活躍を期待します」

 

「おう、俺様に任せておけ! ガハハハハハハハハ!」

 

 ランスロットと呼ばれた男の高笑いは、この後暫く続いた。

 その高笑いに掻き消されては居たが、彼が持つ剣がぼそりと呟いた。

 

「あーあ、本当はランスなんだけどなぁ……後でばれても儂しーらね」

 

 ランス。

 此処とは違う別の世界から来た大英雄は……名前が似通っていたというそれだけの理由でランスロットとして地球に降り立つことになるのだった。

 

 

 

 

 




手早く投稿すると言ったな……あれは嘘だ
ウワアアアアアアアアア!

投稿はどうしたの?

放してやった


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グッバイカオス

https://www.youtube.com/watch?v=YCjrMpUAEbY
ランスⅨ Go for a walk


「ランスアタターーーーック!!」

 

 凄まじい衝撃波と共に、武器を持ったスケルトン達が薙ぎ払われていく。

 

「ガハハハハハ、雑魚では俺様の相手にはならんわー!」

 

「……最初にあの男を見た時はどうなるかと思ったけど、流石は最強の騎士ランスロット、スペックでは圧勝ね」

 

 オルガマリーは生唾を飲み込みながら、ランスの活躍を眺めていた。

 ランスがランスロットと勘違いをされてから暫く、彼らはこの冬木の街を探索していた。

 だが何処からか沸いてくる敵性生物が立ちはだかり、その度に彼らは戦闘を強いられている。

 

「……ふぅ。 戦闘終了です、マスター。 今回も何とかなって、安心です」

 

 立夏を守っていたマシュが盾を下ろし、額の汗を拭う。

 

「ありがとう、マシュ」

 

「……はい。 お役に立てて幸いです」

 

 素直なお礼を言われた為か、マシュは少し頬を染めながら照れ臭そうに返した。

 

「むむ……マシュちゃんと良い雰囲気になりおってあのガキめ……」

 

「心の友ー、流石にそれは心狭すぎじゃない?」

 

「うっさいエロ剣!」

 

 そんな初々しい二人を遠巻きに見てランスはカオスを二度地面に叩きつけると、不機嫌そうに立夏へ近づいていく。

 

「あ、ランスロットも戦闘お疲──」

 

 近づいてきたランスに、立夏は軽く手を上げると──。

 ポカッ、と軽い音が響いた。

 

「いたたた……」

 

「せ、先輩!?」

 

「ガキンチョが俺様の名前を呼び捨てにするなんぞ百万年早い、様を付けろ様を」

 

 ランスに突然頭部を殴打され、立夏は頭を抑える。

 マシュが立夏とランスの間に割って入り、立夏を心配する。

 そんな立夏を見てオルガマリーはため息を一つ吐くと、彼へ忠告した。

 

「はぁ……今のは藤丸、あなたが悪いわ。 サーヴァントは使い魔と言っても人格は過去の英雄と同じ、強力な英霊はそれだけ人格にも難があるのよ」

 

「成程……すみません、ランスロット様」

 

「うむ、次は無いぞガキンチョ。 では俺様は戦って疲れたので冷たいお茶を入れるのだ」

 

 頭を下げる立夏に気を良くしたのか、先ほどの怒りは何処かへ消えランスは地面に腰を下ろすと立夏へ右腕を突き出しお茶を要求した。

 

「えっ、すみません、ランスロットさん……今はそういった物資は」

 

「なんだとー! ぐむむ……では仕方ない、オルガマリーちゃんのおっぱいを堪能──」

 

「ガンド」

 

「おぇぇえええええ!!」

 

「(懲りないなー心の友)」

 

─────────────────────────────────────

 

「全く懲りない使い魔ね、逸話通りの男という事なのかしら……」

 

「ははは……」

 

 地面に倒れているランスを軽蔑的な表情で一瞥すると、オルガマリーは両腕を組みながらマシュへ向き直った。

 

「ところでマシュ。 あなた、もしかして宝具が使えないの?」

 

「……そのようです。 私は私に融合してくれた英霊が誰なのかもわかりませんし、その英霊が持つ切り札も発揮できません」

 

「宝具?」

 

 真面目な顔で話し合う二人の会話に、立夏は首を傾げる。

 

「先輩、説明が後になってしまって申し訳ありません。 サーヴァントには宝具という英雄たちそれぞれの伝承、偉業に因んだ格好良かったり微妙だったりする特殊技能が備わっています」

 

 ですが……とマシュは言葉を濁し、顔を俯ける。

 

「私はその宝具を上手く扱えません。 ですので、私の事は欠陥サーヴァント、あるいは成長性と可能性に満ちた出来る後輩、とご期待ください」

 

「なるほど……じゃあマシュの今後に期待だね」

 

「えぇ、あなたがマスターとして成長すればおのずとマシュと融合した英霊が何なのかやパラメーター、スキル、情報が解析できるはずよ」

 

 うんうんと首を縦に振り、頷く立夏がふと奥で倒れているランスへと目を向けた。

 

「それじゃあさっきランスロットの情報が見えなかったけど今なら……?」

 

「そうね、練習してみるのもいいかもしれません。 ランスロットの宝具と言えば十中八九あれでしょうが」

 

「そうですね、武器として有名なやはりあれかと思います」

 

 オルガマリーとマシュは倒れるランスが握っている剣へと視線を向けた。

 その視線に気づいたカオスが目を真上へと向ける。

 

「え? 儂?」

 

「「え?」」

 

 突然聞こえた声に、二人は顔を見合わせる。

 

「マシュ、あなた今何か言った?」

 

「いえ……声はあの剣から聞こえてきたと思いますが──」

 

「あっ、やべ、儂喋っちゃだめなんだった」

 

 思わず喋ってしまったカオスが、やってしまったという顔をする。

 

「す…………凄いわ! あのランスロットが持つ絶対に折れない剣、アロンダイトが実はインテリジェンスソードだったなんて!」

 

「逸話では単に刃毀れしにくい剣というだけの筈でしたが……伝説はやはり伝説、ということなのでしょうか」

 

「え、え? アロン……? あ、あーーー! そうそう、儂儂! 儂アロンダイト! 伝説の剣!」

 

 一瞬とぼけた表情をしたカオスだったが、直ぐに何かと勘違いされていることに気づくと即座に自らの素性を偽り始める。

 話す剣、という伝説の中でも滅多に表れない存在に魔術師としてオルガマリーは強く興味を惹かれたのか、いつの間にか倒れるランスの横に近寄るとカオスをまじまじと観察し始めた。

 

「本当に喋ってる……凄いわ、このアロンダイトを学会に提出すればそれだけで時計塔での地位が更に盤石になる!」

 

「おほほー、どう? 儂凄い? 凄い?」

 

「えぇ、凄いわ! あなたの価値は間違いなく素晴らしいものよ!」

 

「ノンノン、ところが儂様の価値のほんの一端。 儂の絶技を食らった女の子はまず間違いなく昇天、どんな不感症の子も満足させますよ?」

 

「満足……?」

 

 オルガマリーが、疑問を浮かべる。

 

「あ、通じない? 意味わからない? おう、じゃあ、いいや」

 

「??」

 

「お嬢ちゃんランス……もとい心の友に貞操狙われてたな?」

 

「そ、そうだけど……」

 

「儂ともやろ──」

 

 最後の言葉を言い切る前に、いつの間にかランスが自らを見下ろしていることにカオスは気づいた。

 

「……………………」

 

「あ、心の友」

 

「とーーーーうっ!」

 

 <ぴゅーーーん> 

 

「あーれー」

 

 哀れにも、カオスはランスに投げられ冬木の星になった。

 

「い、いけませーーーーーーん!!!」

 

 放り投げられたアロンダイト(カオス)を見て、マシュは全速力でその方向へ走り……。

 戻ってきたときには、息も絶え絶えの状態だった。

 

「じ、自分の武器を投げ捨てるなんて……ランスロットさん、正気ですか!?」

 

「そうそう、人間が魔人に対抗できる唯一のめっちゃ大事な武器ですよ儂?」

 

「ふん、そんな事知るか」

 

「……魔人?」

 

 そんなカオスとランスの会話の中で、魔人という単語が引っかかったマシュが思わず呟くとランスとカオスは一瞬目を合わせる。

 

「あー……あれじゃよ、伝説に載ってないんだけど儂らそういうやばいのと戦ってたの」

 

「うむ、俺様がこのエロ剣を使って迫りくる敵をバッタバッタと切り捨ててだな」

 

「もしかしてピクト人の事かしら……」

 

「あー何かそんな感じだった気がするな! うむ! というかこんな話はどうでもいいわ!」

 

 嘘を勢いで誤魔化すと、ランスはカオスをマシュの手から奪い去る。

 

「もう休憩も良いだろう、そろそろまた調査に行くぞお前等」

 

「……そうですね、この港湾区の辺りは調べ終わりましたし別の地区へ行ってみましょう所長」

 

「使い魔に仕切られているのが癪だけどその通りね、行きましょう」

 

 三人の間でそう話が纏まる中、ずっとランスを見続けていた立夏が首を傾げた。

 

「マ、イ、グロ、リ……………………?」

 

「せんぱーい! 行きましょう!」

 

「あ、うん! 今行くよマシュ!」

 

 途中まで解読できた宝具の名前は、そこで中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サーヴァント プロフィール

【クラス】セイバー
【真名】???
【筋力】C
【耐久】C
【敏捷】C
【魔力】D
【幸運】B


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メディウサ

https://www.youtube.com/watch?v=4obD-vvcCmM
【Fate Grand order】 OST 1-21 暗雲を払え


 

「何処まで行っても焼け野原……住人の痕跡もないし、一体何があったのかしら……」

 

 燃え盛る冬木の街の中で、ランス一行は教会近くまで歩を進めていた。

 ランスは所々で見る元の世界には無かった物品を調べ遊んでいたが、その中でオルガマリーは独り言を呟きながら歩いていた。

 

「ガハハ、びろーんびろーん」

 

「そもそもカルデア巣を灰色にする異変って何なのよ……未来が見えなくなるって事人類がは消えるということ……」

 

 そんなオルガマリーを立夏は大丈夫だろうか、と心配そうに見ていたがその心配は直ぐに消えた。

 立夏の前に青いウィンドウが浮かび上がると、一人の男性が見えた。

 

「おや、所長の独り言が始まったね。 そうなると彼女は長いよ」

 

「あ、ドクター」

 

「立夏君、この辺りは安全そうだし少し休んだらどうだい?」

 

 ウィンドウに映ったロマニは笑みを作ると、立夏へそう提案した。

 

「小規模とは言え戦闘続きで君も疲れただろうし、休める時には休んだ方が良い」

 

「私もドクターに賛成です。 先輩、レーション食べますか?」

 

 一瞬躊躇した立夏に、マシュがロマニに同調する。

 マシュも服の一部に汚れ等が付いており、立夏はそれを見て休息を取ることを決める。

 

「……そうだね、ありがとう。 マシュは疲れてない?」

 

「体、疲れ……もしかして、サーヴァントになって問題は無いのか、という質問ですか?」

 

 レーションを受け取ると、立夏は近場の瓦礫に腰を下ろし彼女へ労りの言葉を掛けた。

 するとマシュは意外そうな顔をし、照れ臭そうに少し小声で答える。

 

「……それは、なんとか。 戦うのが怖いぐらいで、体は万全です」

 

「というか、自分がマスターでいいの?」

 

 立夏はマシュの答えに、英霊と融合したとはいえ彼女は先ほどまで普通の女の子だったのだと改めて認識し、罰の悪そうな顔をした。

 

「勿論です 私に不満はありません、先輩はこの春NO.1のベストマスターではないかと」

 

 だがマシュはそんな立夏を励ますように、当然ですと言う言葉を返した。

 その言葉に立夏も笑みを返し──続いて頭部に鈍い痛みと軽快な音が鳴った。

 

「いーや、俺様は不満だ」

 

 立夏の後ろで、玩具のマジックハンドを伸ばしたランスが立っていた。

 その顔は不服そうである。

 

「ら、ランスロット……様」

 

「さっきから街を探索してるけど何にも無いではないか、可愛い女の子も出てこないし俺様飽きた」

 

「飽きたって言われても……」

 

「うむ、だから俺様は帰る」

 

 ランスはマジックハンドで何度も立夏の頭を叩きながら燃える街並みを指差す。

 そして玩具を投げ捨てると、立夏へ背を向け歩き出す。

 

「え?」

 

「ま、待ってくださいランスロットさん! 今あなたに行かれたら……!」

 

 ランスの発言に驚愕し、固まるロマニと立夏の代わりにマシュが言葉を紡いだ。

 

「知らん、オルガマリーちゃんもマシュちゃんも別にやらしてくれんしなー、そもそも良く考えたら俺様が守ってやる理由もないし」

 

「やらせて…………? それは一体──」

 

「すまんなーお嬢ちゃん、目の前でカップルにいちゃつかれるとすぐ不機嫌になるんだ心の友。 運が悪かったと思って諦めてくれ」

 

 ランスの発言に怪訝な顔をするマシュだったが、その間にも距離はどんどん離れていく。

 去り際、アロンダイト(カオス)がマシュへフォローを飛ばしたが……静寂がその場を包んだ。

 考え事に没頭するオルガマリー以外の誰もが、呆然としていた。

 

「待って!」

 

 そんな折、ロマニが叫んだ。

 

「人間の生体反応だ、それも近くにある!」

 

 ランスの足が止まった。

 

「……其処には可愛い女の子も居るのか?」

 

「いや、流石に性別まではちょっと……」

 

「じゃあ知らん、帰る」

 

「あー待った! 居る! 居るよ! 絶世の美女も居る!」

 

 ニヤりと口角を上げると、ランスは急反転しロマニの映るウィンドウの前まで来る。

 

「ガハハ! 未来の美女が俺様の助けを待っている! そして助けた後は……グフフ……」

 

「えー……」

 

 先ほどまで漂っていた雰囲気は何処へやら、ランスは既にまだ見ぬ美女を助ける気満々でありロマニへ場所を聞き出していく。

 そんなランスの代わり様に立夏は呆気に取られる。

 

「円卓崩壊の切欠、何となく分かった気がします……」

 

 マシュもまた、ランスへ呆れ始めるのだった。

 

「よーし、美女を助けに行くぞ! 俺様に続けー!」

 

「「お、おー……」」

 

 一足先に走り出したランスへ、マシュと立夏の二人は右手を弱々しく上げながら付いていく。

 

「……やっぱり駄目ね、これ以上考えても──ってあれ? ちょ、ちょっとあなた達何処行くの!? 私を置いていくのは止めなさいよ、ちょっと!?」

 

 その後、一人残されたオルガマリーが走っていく三人へ追いつくのにはかなりの時間がかかった。

 

─────────────────────────────────────

 

「ガハハ、エロイパンティー履いてる! グーーッド!」

 

「…………」

 

 冬木市街、教会近くの開けた場所でランスが無抵抗の女性のスカートの中を覗き込みながら笑っていた。

 その光景を見る立夏、マシュ、オルガマリーの瞳は冷たい。

 現代文明に生きる人間なら恐らく誰しもがそう思う光景だろう。

 特に……それが石像と化した女性ならばだ。

 

「オルガマリー所長……これは一体なんでしょうか」

 

「わ、私が分かる訳ないでしょう!? いきなり何処かへ走り出したかと思ったらこんな如何にも危険そうな場所へ来るなんて……!」

 

 マシュの問いかけに、慌てた様子でオルガマリーが返した。

 彼女からは余裕が見えず、今にも此処を離れたいと言う気持ちが顔に表れていた。

 だが戦力として肝心要のランスは、石像へのセクハラと此処に居るであろう美女を探すのに頭が一杯で離れられずに居た。

 

「びーじょー、びーじょー、まだ見ぬびーじょー、俺様のハイパー兵器がまーってるぞー」

 

「なぁなぁ心の友、儂この光景見た事あるんだが」

 

「む、何だエロ剣、俺様は今この辺りで恐怖に怯えながら俺様の到着を待っている美女を探すのに忙しいのだ」

 

「でもなー、前にこんな感じの雰囲気で石にされなかった?」

 

「むっ…………」

 

 一瞬、ランスの記憶に引っかかるものがあった。

 ランスの居た世界で魔法大国と呼ばれたゼス、その場所で起きた事件。

 今彼らが居る場所はそれを思い起こさせていた。

 

「む、何かの気配……」

 

「美女か!? 何処だ!?」

 

 カオスの視線が動いた。

 その先に全身をフードで覆った女性と思わしき人間が噴水の上に立っていた。 

 フードの中で紅い瞳が煌めき、フードの外に紫色の長髪が見える。

 

「おぉ! 君、俺様が来たからにはもう──」

 

 ランスが台詞を言い切る前に、女性はふわりと飛び上がると彼の少し前に着地した。

 そしてゆっくりとランスへと近づいていく。

 

「お、おぉ……? 何だそんなに俺様に会いたかったのか? うむ、では今すぐ……」

 

「えぇ、今すぐ始めましょう!」

 

 ランスが鎧へ手を掛けようとした瞬間、ランスの前髪が散った。

 

「な、なにぃーーっ!?」

 

 驚きの絶叫が冬木の街へ響く中ランスとフードの女性を遠巻きに見ていた三人へ、ロマニからの緊急連絡が奔った。

 

「すぐに其処から逃げるんだ、三人とも! まだ反応が残っている! しかもこれは────」

 

 三人の中で、一番最初にあの女性が何者なのかを理解したのはオルガマリーだった。

 

「な────まさか、あれって!?」

 

「そこにいるのはサーヴァントだ! 戦うな立夏君、マシュ! 君たちにサーヴァント戦はまだ早い……! ランスロットを下がらせるんだ!!」

 

「そんなこと言っても、逃げられないわよ! 立夏、ランスロットを戦わせなさい! マシュも同じサーヴァントでしょう、ランスロットの援護!」

 

「はい、最善を尽くします…………!」

 

 そんな一瞬のやり取りの間に、ランスは女性の持つ槍の攻撃に追い詰められていた。

 

「ぐおお! な、なんなんじゃお前はー!」

 

「言動には気を付けなさい? 戦う(やる)と口にしたら……もう行為は始まっているのですから!」

 

「俺様がやりたいのはセックスの方じゃー!」

 

 鎌が先端に付いた槍の切り払いを大仰な跳躍で避けながら、ランスはカオスを振るう。

 だが女性は身を即座に引くと、槍を回転させランスの胴体へ向け振るった。

 

「ちぃっ!」

 

 槍の石突き部分が迫る中、ランスは空中で体勢を変えると足の裏でそれを受け止め、その衝撃で大きく距離を取った。

 

「心の友、こいつ強いぞ!」

 

 一度、地面で転がると直ぐにランスは立ち上がりカオスを構える。

 

「ガハハ、俺様はまけーん! それに見ろ、あの子の顔!」

 

 ランスは笑い、女性の顔を指差した。

 今のやり取りでフードが捲れ、顔が露出したのだ。

 

「お、結構なかわいこちゃん」

 

 整った相貌、赤い瞳に紫色の長髪……それは紛れもなく美人と評されるに相応しいものだった。

 

「うむ、終わったらお仕置きセーックス!」

 

 下卑た笑みを浮かべるランスの元に、マシュと立夏が駆け寄る。

 

「マシュ・キリエライト、これより援護します!」

 

「ランスロット、大丈夫!?」

 

 立夏の頭に、ランスの拳が落ちた。

 

「様を付けろと言ってるだろーが! それに俺様は無敵だ、誰にも負けん」

 

「ふふ……」

 

「む、笑った」

 

 そんな立夏とのやり取りに、女は笑った。

 

「獲物を増やしていただいてありがとう、初々しい子に歴戦の強者……あなた達がこれから上げる悲鳴を思うとつい笑みが零れます」

 

「むぅ、変な子……だが顔が良いので許す!」

 

 ランスは一瞬困惑した表情をするが、直ぐに表情を戻すとカオスを前へ突き出した。

 

「行くぞお前等、俺様に付いてこい!」

 

 そして、ランスはサーヴァントへ向けて走り出した。

 この後……ランスは悲鳴を上げて石となった。

 

「ぎゃーー! またかーーー!」

 

「あ、さっきから感じてた変な気配って魔人メディウサのか。 久しぶりすぎて儂忘れてた」

 

「この、役立たずの駄剣がーーーー!」

 

 ランスの叫び声が、冬木の街に響き渡った。

 

 




【クラススキル】冒険B:自身が到達したことのない未知の場所、あるいは土地勘の無い場所における地の利を得られる。
戦闘開始時、先制判定で有利になり、被ダメージ時には自身へのダメージを1d3点軽減し、攻撃時には+1d3点ダメージが増える
また、一か所に長時間留まっておくことが出来ない、Bであれば最大でも一か月も居たらすぐに何処かに消えてしまう。
安定ではなく、変化を求める性格がスキルとなったもの。
尚、サーヴァント自身がその場所に楽しみを見出している場合はその限りではない。


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疑念

https://www.youtube.com/watch?v=cHEFVhLAdK8
Rance5D - 10.All Your Power


 

 燃え盛る冬木の街で、爆音が響き渡る。

 一度、二度と炎の音と剣戟を防ぐ音が教会前の広場に響き渡る。

 

「くっ、キャスター……! 何故漂流者の肩を持つのです!?」

 

「あん? てめぇらよりマシだからに決まってんだろ!」

 

 肩で息をするサーヴァントは、フードを被ったキャスターへと声を絞り出しながら問いかけた。

 

「じゃあなご同輩!」

 

 そして、その問いかけにはルーンの魔術を以て返答とされた。

 左手を眼前に動かすと、サーヴァントの足元から炎が噴出する。

 

「うぁ、グァァァァァァ!」

 

 サーヴァントは避ける間もなく炎に包まれ、炎が消失した時にはそのサーヴァントの姿もまた消えてなくなっていた。

 

「いっちょあーがりっとぉ」

 

 一仕事を終えた後の様に伸びをするキャスターに、マシュは近寄ると頭を下げた。

 

「ありがとうございます、危ない所を助けていただいて」

 

「おう、お疲れさん。 あんたの援護のおかげだ、気にすんな」

 

 キャスターは頭を下げるマシュへ近寄ると、肩へ手をまわすと軽く手を動かし揉み始める。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 不思議そうな顔をしているマシュと役得を噛みしめているキャスターの間に立夏が割って入る。

 

「ハハハ、嬢ちゃん中々良い体してるな! 役得役得」 

 

「あの男が石像じゃなかったらあのサーヴァント、切り殺されてるわね……」

 

 笑うキャスターを見ながら、オルガマリーは遠くで石になっているランスを見た。

 少しため息を吐くオルガマリーに、ロマニからの通信が入る。

 

「とりあえず事情を聞こう。 どうやら彼はまともな英霊の様だ」

 

「おっ、話の早い奴が居るじゃねえか。 なんだオタク? そいつは魔術による連絡手段か?」

 

「はじめましてキャスターのサーヴァント。 御身が何処の英霊かは存じませんが我々は尊敬と畏怖をもって──」

 

「ああ、そういう前口上は結構だ。 聞き飽きた。 てっとり早くお互いの事情について話そうや軟弱男、そういうの得意だろ?」

 

「うっ……そ、そうですか、では早速」

 

 軟弱、と言われたことにショックを受けながらもカルデア一行とキャスターはお互いの情報を交換し合う事になった。

 異常事態によってレイシフトを行った事、現状を回復するための調査を行っていること。

 そしてキャスターからは自身がこの街で起こっていた聖杯戦争のサーヴァントであること、また敵が何者で自身を含めて何かを探しているという事を。

 

「成程、残ったサーヴァントはセイバーと貴方だけ……では貴方がセイバーを倒せば」

 

「おう、この街の聖杯戦争は終わるだろうよ。 この状況が元に戻るかどうかまではわからねえがな」

 

「なんだ。 私たちを助けてくれたけど、結局は自分の為だったのね」

 

 オルガマリーは呆れるような顔をすると、キャスターへ辛辣な言葉を放った。

 

「貴方はセイバーを倒したい。 けれど一人では勝ち目がないから私たちに目を付けた……違って?」

 

「その通りだ。 だが悪い話じゃあねえだろ? 何しろサーヴァントを二人も連れてるんだしな」

 

「二人……あっ」

 

 二人、という言葉に立夏は声を上げた。

 先ほどから会話に参加していない、自らが呼び出したセイバーの事を思い出したのだ。

 

「ランスロットの事、忘れてた……」

 

「そういやあの兄ちゃん、石になってたな。 元に戻すか?」

 

「で、出来るんですか? それなら是非!」

 

「私としては気が進まないですが今は貴重な戦力です、キャスター、やってちょうだい」

 

「あいよ、キャスタークラスでの現界ってんで参ってたがこういう風に役に立つんならそれも良いわな」

 

 キャスターは右手を上げ、ランスの元へ飛ぶと解呪のルーンを使用する。

 すると石像と化していたランスが徐々に生身へ戻っていき……。

 

「…………ぶはっ! くそ、俺様としたことが二回も石化するなんて……って誰だ貴様! 敵か! 死ねーーーーーーっ!」

 

「おわっ、何だこいつ!? おいマスター、ちょっとこいつ止めてくれ!」

 

 元に戻った瞬間、ランスは暴れ始めた。

 その後彼を宥めるのに貴重な令呪を一画失う事になった。

 

─────────────────────────────────────

 

「全く、血の気が多いのは結構だがキャスタークラスでセイバーの相手はつれぇわ」

 

「す、すみませんキャスターさん! ランスロットさんはその、少し問題が多い人で……」

 

「少しかぁ? 男と見るやいきなり切りかかってきたぞ?」

 

「ほんっとうにすみません!」

 

 マシュがキャスターへ頭を下げるとキャスターはカラカラと愉快そうに笑った。

 そんな二人のやりとりをランスは遠くから憤慨しながら見ていた。

 

「えぇーい! 可愛い女の子が増えるならともかく、男なんざいらん!」

 

「でもランスロット様、今は少しでも人手が必要で……」

 

「俺様が居れば十分だ」

 

「その割にはさっきのサーヴァントには負けてたじゃない」

 

「うぐっ……さ、さっきは油断しただけだ! 俺様は最強無敵の大英雄だぞ!」

 

 オルガマリーに痛い所を突かれ、ランスは少し狼狽する。

 

「でも実は心の友、石になるの二回目なんじゃよねー」

 

「え、そうなの?」

 

「そうそう、前はメディウサって奴に油断してたらやられたの」

 

「人の過去を掘り返すな駄剣!」

 

 ランスはカオスを乱暴に地面に叩きつける。

 

「あいたーーーーーーっ!」

 

「まぁまぁ……ランスロット様落ち着いて」

 

 すっかりランスの名前に様を付けるのに馴染んだ立夏がランスを宥める中、オルガマリーは顎に手を当て何事か思索し始めた。

 

「(……ランスロットの逸話に、石にされるようなものがあったかしら? それにメディウサ……メデューサの事? あれと相対した英雄……?)」

 

「ふん、気に入らんがまぁいい。 おいガキンチョ、それで当面の目標は決まったのか?」

 

「あ、うん。 とりあえずあのキャスターにセイバーを倒して貰えればそれで何とかなる、と思う」

 

「ふーん……まぁ俺様は可愛い子が居ればそれでいいが……ってそうだ、そういえばさっき俺様を石にした子はどうした!?」

 

 ランスは突然、先ほど相対していた英霊について思い出すと辺りを見回し始める。

 そんなランスに立夏は申し訳なさそうに口を開いた。

 

「それが、その──」

 

「なぁにぃーーーーーーーっ!? あんな美人の子が消えてなくなっただとぉーーーー!?」

 

 説明を聞いたランスは、拳骨を立夏の頭の上に落とす。

 

「いた、痛いですランスロット様!」

 

「この役立たずが! 女の子の代わりに不要な男を増やしやがって!」

 

 そして舌打ちをすると立夏から離れ、マシュと話していたキャスターの方へと大股で歩いていく。

 

「おい、貴様!」

 

「あん? 何だぁセイバー、そんな血相変えて」

 

「俺様は今イライラしているのだ、よって貴様をボコる」

 

「はぁ!?」

 

「ガハハ、勿論殺しはしない程度で許してやる。 さっきみたいに体を縛られるのはごめんだからな」

 

 ランスはそう言うと、カオスの刀身を肩に乗せ笑った。

 大声でキャスターをボコる宣言をしたランスに、立夏が追いつくと二人の間へ直ぐに割って入った。

 

「ら、ランスロット様! だからキャスターは味方で……」

 

「いや、いいぜ。 但しお嬢ちゃんとのコンビでやらせてもらうがな」

 

「え!?」

 

「今お嬢ちゃんと話しててな、宝具の使い方ってのを一つレクチャーしてやろうかと思ってたところだ」

 

 そうして、キャスターも杖を幾度か回転させると槍の様に構えた。

 その姿は堂に入っており、ランサーとしての彼の姿を見る者に想起させた。

 

「さぁ構えな兄ちゃん、あんたの実力ってのも見てみたかったからな」

 

「止めた方が──」

 

「いえ、その必要は無いわ藤丸。 やらせてあげなさい」

 

 狼狽する立夏へ、オルガマリーは戦闘の許可を与えるよう助言した。

 その瞳は値踏みするようにランスへと注がれている。

 

「マシュがこの戦いを経て少しでも成長するなら、私たちにとって益があることだわ。 もちろんマスターである貴方にもね」

 

「所長……」

 

「(それに、キャスターが宝具を使うつもりならあの男も宝具を展開するはず……それであの使い魔が本当にランスロットなのかどうかも判明するわ)」

 

 オルガマリーはじっとランスを見つめる。

 そんな視線を受け、何か勘違いをしたランスはいやらしい笑みを浮かべたままカオスを構えた。

 

「さて兄ちゃん、俺も本気で殺しに行くぜ」

 

「ふん、貴様の本気なんぞ俺様がかる~く蹴散らしてくれるわ!」

 

「そうかい。 さぁお嬢ちゃん、しっかり見ておけよ! 宝具ってのは要するに心の持ちよう、在り方だ! 気合を入れて大声出す様な気持ちでいけ!」

 

「わーかーりーまーしーたーーーー!」

 

 マシュもまた、自らの武装である大盾を構えキャスターの前に立った。

 オルガマリーと立夏が三人から距離を取ったのを確認すると、キャスターは跳んだ。

 

「さぁ行くぜ!」

 

「マシュ・キリエライト、吶喊します!」

 

「ガハハハハ! 事故に見せかけて殺してくれるわキャスター!」

 

 こうして、この冬木の街で三度の剣戟が鳴り響いた。

 

 

 




【スキル1:才能限界∞】
世界のバグであることの証左。
このスキルを持つサーヴァントは戦闘を繰り返すことにより己のステータスの値に+補正を与えていくことが可能。
またその限界は存在せず、理論上全てのステータスをA++相当まで持っていくことが出来る。
但しそれには相当数の戦闘を積まねばならず、通常の聖杯戦争ではこのスキルが十全に機能することはまず無いだろう。


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規格外

https://www.youtube.com/watch?v=wZDqLs_i_tc
アリスサウント゛アルハ゛ムVol 25 ランス9 ヘルマン革命 33 絶体絶命


 

 冬木。

 何かが決定的に捻じれ、歪んだこの都市の郊外にある森にカツンカツンと言う骨が地面を叩く音が無数に響いた。

 それはスケルトン達の足音であり、その先にはフードを被ったキャスターと盾のサーヴァントが走っていた。

 彼らの更に前方には立夏とオルガマリーの姿もある

 

「ガハハハハ! 行け雑魚ども、あのキャスターを殺せー!」

 

「GURUAAAAAAAAAA!!!」

 

 スケルトン達に担がれながら、ランスはカオスで目の前を走っているキャスターを指し示した。

 ランスの采配に応えるようにスケルトン達は発声器官が存在しない喉で賢明に声を上げる。

 

「ハハッ、面白い事するじゃねえかセイバー!」

 

「面白くないわよ! あいつ本当に何なの!? ど、どうして敵と徒党組んでる訳!?」

 

「それが……いきなり訓練中に遭遇した敵を説得したみたいで……」

 

「なんなのよそれはーー!」

 

 オルガマリーが必死に走りながら、スケルトンを扇動するランスを糾弾する。

 

「ら、ランスロット様ー! やめてーーー!」

 

「ガハハハ、この程度を切り抜けられないようでは今後は生き延びられーーん! 気合で切り抜けるのだー!」

 

「あんた絶対楽しんでるでしょー!」

 

 だが、ランスは高笑いをしながら自らを担ぎ上げるスケルトンの頭部を前足で押し、更に追撃の速度を上げさせるのみである。

 

「うーむ……ミラクルの奴、こんな感じで動いてたのか……少し楽しいかも」

 

 ランスは更に左足でスケルトンの頭を押すと、周囲のスケルトン達が一斉に弓矢を構えた。

 

「おっ、左の骨は弓を構えるのか。 じゃあこっちは──」

 

 右手で真横のスケルトンの頭を叩くと、スケルトン達は矢を番え立夏達へ放たれる。

 放たれた内、数本をキャスターとマシュが叩き落し、残りは樹木に遮られる。

 

「くっ……先輩、ランスロットさんは本気です! 迎撃しましょう!」

 

「って言っても……!」

 

 四人はスケルトンに追われる内、完全に森の中へと迷い込んでおり此処が何処なのかも分からない状態だった。

 足場は悪く、50メートルは離れた後方にはランスと彼が指揮するスケルトン達。

 状況は芳しくなかった。

 

「迎撃案は賛成だお嬢ちゃん、マスター、もう少し踏ん張りな! そうすりゃ開けた場所に出る」

 

 そんな中、キャスターが口を開いた。

 

「分かった! オルガマリー所長、行けますか?」

 

「い、行くしかないんでしょう!?」

 

 木の根や泥に足を取られながらも、オルガマリーは懸命に走りながら答えると四人は更に速度を上げた。

 後方から飛んでくるスケルトン達の攻撃を二度ほど掻い潜ると、木々が途切れる場所が見えた。

 立夏達は木々を通り抜け、岩肌で覆われた洞窟の前へと躍り出た。

 

「こ、此処は……?」

 

「マスター、呆けてる場合じゃねえぞ! 魔力を回せ!」

 

「う、うん! 頼む、キャスター!」

 

 天然に出来た洞窟にしてはかなり大きく、日本では滅多に見られないものに一瞬立夏が好奇心を走らせる。

 だがキャスターは直ぐに立夏を現実へと引き戻す。

 立夏は直ぐに右手を伸ばすと、か細いパスで魔力をキャスターとマシュへ送る。

 

「マシュもお願い!」

 

「はい、所長と先輩は隠れていてください!」

 

 広場へ出ると、マシュはキャスターと立夏達の前で大きな盾を構える。

 その後ろにはキャスターがルーン文字を浮かべ、迎撃の準備を整えていた。

 

「ガハハハハ、そろそろ追いかけっこも終わりだー!」

 

 先ほど立夏達が出てきた場所から、ランスの声が響く。

 それと同時、数本の矢が森から飛び出してくる。

 

「やぁぁっ!」

 

 矢は無造作に放たれ、マシュはキャスターと立夏達へ当たりそうなものだけを叩き落す。

 

「お願いします、キャスターさん!」

 

「アンサズ!」

 

 矢を防ぐと、マシュは即座にキャスターと位置を入れ替える。

 キャスターは木々の奥に隠れ、次の矢を番えようとしていたスケルトン達へ向けてルーンの炎を連続で放つ。

 それらは吸い込まれるように森の中へ飛んでいくと、着弾し一帯は炎に包まれた。

 

「っ……や、やりました! やりましたよキャスターさん!」

 

 ルーン魔術の威力に思わず盾に身を隠したマシュが、顔を出し着弾点付近を視認する。

 着弾点付近は一気に燃え、スケルトン達は一気に全滅していた。

 だが…… 着弾点にはランスは居なかった。

 

「いや、セイバーが居ねぇ。 何処に──」

 

「ウオオオオオオ!」

 

 ランスを探していたキャスターの右から、剣を持った黒い影が一体ずつ現れる。

 

「そこか!」

 

 キャスターは影にすかさず反応し、残していたルーン魔術を行使すると魔術は標的へと直撃し、それは炎に包まれた。

 

「ラ────」

 

 今目の前で燃えている存在に対する違和感にキャスターは即座に気づいた。

 持っている武器や骨格が違う事に

 そして何よりマシュ、オルガマリー、立夏やそこ等に無作為にある岩場は目の前で燃える炎で照らされているのに対し……自らだけは影で覆われていたのだ。

 

「キャスターさん!」

 

「ーーーーンスアタタターーーーーーーック!!!」

 

 キャスターを覆っている影の正体は、ランスだった。

 彼は空中でカオスを構えながらゆっくりと落下し、それをキャスターへと振り下ろしながら地面へ落下していく。

 

「キャスターさん!」

 

 だがそのままキャスターへカオスが叩きつけられることは無かった。

 マシュが其処へ割って入ると、盾でカオスを防ぐ。

 

「うぐ……! やぁぁぁっ!!」

 

 気合の籠ったランスの一撃は重く、マシュの両足が足元の岩盤に少しめり込むが彼女はランスを半ば無理やり盾で弾き飛ばす。

 

「ガハハハ、甘いわー!」

 

 しかし、無理な体勢で押し返したマシュにランスは着地すると即座に駆け寄り盾に大振りな一撃を見舞い盾ごと彼女を地面へ打ち倒す。

 

「あぁっ……!」

 

「次は────」

 

 ランスはマシュが倒れていく最中も、キャスターへと突進を続けていた。

 ゆっくりと倒れていくマシュの横をすり抜け、標的の顔が見えた瞬間。

 ランスの眼前にはルーン文字が無数に浮かび上がっていた。

 

「あんたが燃える番だ!」 

 

 ルーン文字はキャスターの正面に横並びになっており、彼が手をかざすと一斉に炎と化しランスへ向けて放たれた。

 

「やばいぞ心の友! 避けろ!」

 

 咄嗟にカオスが叫ぶ。

 だが、ランスは口角を吊り上げ自らの牙のような歯を見せながら炎の中へ突っ込んだ。

 瞬間、炎が彼を包んだ。

 

「死ねぇーーーーーーーっ!!」

 

 しかしランスは止まらなかった。

 炎に包まれながら前進を続け、カオスでキャスターを大きく袈裟切りにした。

 

「おいおい、ケルトの戦士……みてぇな戦い方しやがるな。 イギリスの騎士……」

 

 キャスターは切られた後、数瞬を置いて膝から崩れ落ちながらそう呟くとゆっくりと前のめりに倒れる。

 

「ガハハハハハ! 俺様のしょーり! って熱いわー! ガキンチョ、水、水ーー!」

 

 ランスは燃えながら高らかに笑い、地面を転げまわる。

 一方の立夏とオルガマリーはキャスターが倒れた事に絶句し、動けずに居た。

 

「マシュ! キャスター!」

 

 最初に動いたのは立夏だった。

 彼は倒れるマシュへ手を貸すと彼女を抱き起す。

 

「心の友心配されないのウケるー」

 

「あぢぢぢぢ! 誰でもいいからさっさと消さんかー!」

 

「あいよ、それじゃあご要望にお応えしますかね」

 

 相変わらず地面を転げまわっていたランスを包んでいた炎は、突如として消えた。

 

「あちちち……っておっ、消えた?」

 

「消火のルーンって奴だな、そんでこの勝負……」

 

 地面に倒れ、肩から息を吐くランスの頭部に硬い杖が押し付けられる。

 

「俺の勝ちだな、セイバー」

 

「げぇっ!? な、何で生きてやがる貴様!」

 

「森の賢者を舐めんじゃねぇ、近寄られた時の対処法位考えてあるんだよ」

 

 キャスターは地面を杖で一度小突くと、先ほど切られたキャスターの死体が樹木へと変わる。

 

「というかそもそもさっき令呪で俺を殺すなって命令与えられてたんだから少しは疑えよ」

 

「むぐぐ……お、おのれーー! 」

 

「ははは、ランサークラスの時と違ってこっちは小細工が豊富でな。 恨むなよセイバー」

 

 キャスターはそう言って笑い、ランスの頭部から杖を退かした。

 そして立夏に手当をされているマシュへと近寄っていく。

 

「(しかし土壇場で敵と手を組んだ上に奇襲戦法、おまけにキャスタークラスへの対処方法や正念場での肝の太さ……こいつは確かに英雄の器だ)」

 

 その最中、キャスターの脳裏には先ほどのランスとの闘いの評価が行われていた。

 勝負は水物であり、今回はキャスターの手がばれていなかったからこその勝利である。

 これがもし全てのネタが割れていたら……そう思うと、キャスターはつくづく今回の自分がこのクラスで呼ばれた事を苦々しく思うのだった。

 

 

 

 




【プロフィール1】
身長/体重:173cm・65kg
出典:???
地域:???
属性:混沌・悪   性別:男

治世の暴漢、乱世の奸雄
世界を救う事と世界を破滅させる事がどちらも可能な劇薬の様な人物。
英雄とは色を好むものである。


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バレた!!

https://www.youtube.com/watch?v=ZzW600ON-tY
ランス10《Splash!》


 

 此処は冬木。

 決定的な何かが掛け違い、特異点と化した土地。

 模擬戦──ランスにとってはキャスター殺害の為のだが──が終わり、立夏達一行は洞窟の前に集っていた。

 

「…………」

 

「うーむ、心の友普通に完敗だったな」

 

「うるせー! あんな卑怯な手を使われなきゃ俺様が勝っていたわ!」

 

「心の友搦め手に弱いからなー、もっと鈴女ちゃんに教えてもらってればよかったのにー」

 

 立夏の隣に居たランスは、そんな会話をしながらカオスとしていた。

 

「鈴女?」

 

「何だ興味があるのかガキンチョ」

 

「だってランスロット様はイギリスの英雄なのに、日本人の名前が出たから……」

 

 その発言に、ランスの表情が固まった。

 ここまでランスロットと誤解されたままで来た彼だが、現在オルガマリーに正体を危ぶまれている状況にあった。

 そんな状況で迂闊な事を言って誤解が解けるのは、ランスとしては非常に面倒な事態である。

 

「あー……うむ、大人の関係だからガキンチョにはまだ早い、だから教えてやらん」

 

 ランスは直ぐに立夏の頭に拳骨を落とすと、一歩前に出た。

 

「それより、本当にこの中で合ってるのか?」

 

「何だ兄ちゃん、今更怖気づいたのか?」

 

「違うわ! いい加減面倒になってきたからぱぱっとそのセイバーとかいう奴を倒して終わらせたいだけだ俺様は」

 

「だったらこの奥で間違いない、セイバーはこの奥に間違いなく居る」

 

「どうしてこの奥に居るのが分かるのキャスター?」

 

 二人の会話に、オルガマリーが疑問を投げかけた。

 

「奴さんは俺の捜索は泥に飲まれた……あぁつまり、自分で倒したサーヴァントに探させて自分はこの中である物を守ってるのさ」

 

「ある物、ですか? それは一体──」

 

 オルガマリーの次はマシュが疑問を投げかける番だった。

 その疑問にキャスターは洞窟の入り口の方へ体を向けるとこう答えた。

 

「この土地の心臓さ」

 

「心臓? 所謂龍脈やそれに類する物という事、キャスター?」

 

「ま、其処に関しては行けばわかるさ」

 

「勿体付けるわね……」

 

 キャスターはオルガマリーの質問に勿体ぶる様に答える。

 

「しかし天然の洞窟の様に見えますが、これも元から冬木の街にあったものなのですか?」

 

「これは半分天然、半分人口よ。 魔術師が長い年月を掛けて拡げた地下工房ね」

 

「こんな場所に拠点を作る奴なんざどうせ陰気臭い奴に決まってる、この中に居るセイバーもどうせ雑魚に決まってる」

 

「さて、それはどうかな」

 

 ランスは洞窟の中を見ると大きく口を開け笑い飛ばした。

 その時、遠くから風切り音と声が聞こえた。

 

「! エイワズ!」

 

 空中で、何かが燃えた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「心の友、崖の上崖の上!」

 

 キャスターの叫び声と突然の燃焼音にランスは驚き、カオスが声を上げた。

 其処には……。

 

「アーチャーのサーヴァント!?」

 

 黒い洋弓と、螺旋を描く様な鏃の矢を構える浅黒い肌の男が崖の上に立っていた。

 

「おう、信奉者の登場だ。 相変わらず聖剣使いを守ってんのか、テメェは」

 

「信奉者になった覚えは無いがね、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

「ようは門番じゃねえか。 何からセイバーを守っているかは知らねえが、ここらで決着つけようや」

 

「……ふん。 悪いがそこまで──暇では、ない!」

 

 アーチャーは、再び崖の上から矢を放った。

 

「エイワ────」

 

 立夏へ向け放たれた矢をキャスターは迎撃しようとし、少しの間言葉を失った。

 

「ダアアアアアアアアアア!」

 

 真っすぐ飛んできた矢を、ランスがカオスで叩ききったのだ。

 

「さっきからよくわからん会話ばかりしおって! 俺様を放置するとは何事だ!」

 

「……何だねキャスター、このセイバーは?」

 

「さぁてね、敵のお前さんに教えてやる必要は無いだろ」

 

「ガハハハ、そのとーり! そしてお前はこれからこのフード男によって殺されるのだ。 うむ、よし、行けフード男」

 

 一瞬、キャスターとアーチャーの間に微妙な空気が漂った。

 何となく腐れ縁っぽさを醸し出す彼らに疎外感を感じたランスは、無理やり割って入ると突然無茶苦茶な事を言い始める。

 

「は? ちょっとセイバー、貴方何を言って──」

 

「いや、セイバーの言う事俺は乗ったぜ。 どっちにしろこいつは倒しておかなきゃならねえし、セイバーは相性的に不利っぽそうだしな」

 

「むっ、別に俺様はあんな奴余裕だ。 だが脇役のお前に出番を譲ってやると言っているのだ、感謝しろ」

 

「へいへい、それじゃあマスター達はセイバー退治任せたぜ」

 

 ランスの提案に、オルガマリーは意味が分からないという顔をした。

 だがキャスターはすぐさま彼の提案に乗ると、杖を頭上で回転させ、構えた。

 

「先輩、どうしますか? キャスターさんの援護を──?」

 

「いや……ここはキャスターの言う通り、中に行こう!」

 

「提案したのは俺様だぞ俺様!」

 

「どうでもいいから、さっさと奥へ向かって走る!」

 

 立夏、マシュ、オルガマリー、少し遅れてランスが洞窟の入り口を駆けていく。

 アーチャーはそれを追おうと崖の上から飛び降りるが、キャスターがその道を阻んだ。

 

「キャスター……一人で私と戦うと?」

 

「おうよ、遠距離で撃ち合っても埒が明かねぇ。 ここからはいつもの喧嘩と洒落こもうぜ!」

 

「ふん、キャスタークラスでか? いつもより、頭が良くなったんじゃないのかね?」

 

「ハッ! 頭の出来と趣味趣向は──別ってことさね!!」

 

 立夏達が立ち去った後、二人の英霊は地上で激突した。

 

─────────────────────────────────────

 

 一方、地上でキャスターとアーチャーが戦闘を開始してから少し後。

 立夏達は洞窟の中を懸命に駆け、ついに終点へと到達した。

 

「ハッ───ハッ───」

 

 立夏は息を切らし、先を行くランス、マシュに大きく遅れながら洞窟を抜けた。

 オルガマリーもその後に続く。

 

「なんだ──これ……?」

 

「これは……聖杯? それにしては大きすぎる……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

「うーむ、良く分からんけど凄いのかこれ」

 

「心の友こういうのからっきしだからなー、っと……敵に気づかれたみたいだぞ?」

 

 洞窟を抜けた先に見えたのは、小さなエアーズロックの様な整然と切り立った崖とその奥から立ち上る光の柱。

 そして──。

 

「──────。」

 

「……なんて魔力放出……あれが、セイバーなのですか?」

 

「おぉ、女の子──って何だガキンチョではないか……これでは手を出せないではないかー!」

 

「いやランスロット様、手を出すとか出さないとか言う問題じゃないと思いますよ……」

 

 崖の先端に、黒い鎧を纏った金髪のセイバーが立っていた。

 ランスは持ち前の嗅覚で女性と嗅ぎ付けたが、次の瞬間にはやる気をすっかり無くしていた。

 そんなランスの叫びと、諫めようと偽りの名を呼んだ立夏の言葉が彼女の耳に入った。

 

「───────ほう、ランスロット?」

 

「ん?」

 

「心の友、ヤバ────」

 

 黒いセイバーが腰を落とし剣を腰溜めの状態で構えた。

 瞬間、物凄い勢いで魔力が放射され、それは射出された。

 爆発。

 そうとしか思えない音が響いた。

 

「な…………なにぃーーー!」

 

「いってぇぇぇえーーーーー! お、折れる! 儂折れるーーー!」

 

 黒いセイバーは自らの剣から魔力を放出すると、ロケットの様な勢いでランス目掛けて直進しながら剣を振るった。

 カオスの助言で、何とか一撃を防ぐことが出来たランスは鍔迫り合いの状態で何とか硬直を保っていた。

 だがランスの足は岩盤を踏み砕き、先ほど振るわれた一撃が異常な重さを持っていることは明白だった。

 

「今、ランスロットと呼ばれていたのは貴様だな?」

 

「そ、それがどうした! 俺様は……えーっと──」

 

「心の友、円卓最強の騎士、円卓最強の騎士!」

 

「あぁそうそう、俺様は円卓最強の騎士ランスロット様だ!」

 

「────嘘だな」

 

 ランスの叫びに、セイバーはほんの少しのイラつきと共に剣から魔力を放出しランスの顔に浴びせた。

 

「どわーっ!」

 

 それを寸での所躱すと、両者は互いに10メートル程の距離を取った。

 

「ら、ランスロットさん、大丈夫ですか!?」

 

 髪が少しだけ焦げたランスをカバーする様にマシュは彼の前に立ち、盾を構える。

 

「ほう。 面白いサーヴァントが居るな」

 

 黒いセイバーは駆け付けたマシュを興味深そうに見ると、次に氷の様に冷たい目線をランスへ投げかけた。

 

「我が臣下を詐称するサーヴァントに、盾のサーヴァントか」

 

「さ、詐称? ちょっと、あんたやっぱり……!」

 

「あー心の友、もしかしてこればれちゃった系? あれ、でも何で偽物ってわかったんじゃろ」

 

「え!? ら、ランスロットさんはランスロットさんじゃないんですか!?」

 

「アホーーー! ギリギリばれてなかったっぽいのに何ばらしてんじゃこのボケ剣がーー!」

 

 セイバーが語った詐称、という言葉に一同は愕然とした。

 更にはカオスが口を滑らせ、ランスに盛大に地面に叩きつけられる。

 

「イデーーーッ! た、たんまたんま! ちょっとたんま! それより今あいつ、我が臣下って言った!」

 

「確かにそうね……と、言うことはあのセイバー、もしかして────!」

 

「えーっと……状況が急で良く分からないんだけど、ランスロットの上司ってことは……?」

 

「星の聖剣を持つセイバー……アーサー・ペンドラゴン──!?」

 

 カオスの発言にオルガマリーはランスを追求しようとするのを止め、セイバーへ振り返った。

 状況が呑み込めていない立夏は、おろおろとしながらも疑問を発し、オルガマリーがそれに答えた。

 

「成程、キャスターからは私の真名は聞いていないということか」

 

 冷酷な表情を保ったまま、セイバーは口を開き。

 

「だが────関係は無い。 侵略者、そして盾のサーヴァントよ」

 

 再び剣を構えた。

 

「構えるがいい、お前達の覚悟の程を、この剣確かめてやろう!」

 

「来ます────マスター!」

 

「よ、よく分からないけどセイバーを倒せば終わりだ! 一緒に戦おう、マシュ、セイバー!」

 

「えぇい、行くぞーーー!」

 

 ランスは大口を上げ、叫び声を上げるとカオスを構えたまま突進を開始した。

 こうして地上でキャスターとアーチャーが激闘を繰り広げている最中、地下でももう一つの激闘が始まった。

 

 

 

 

 




サーヴァント プロフィール変化

【クラス】セイバー → セイバー?
【真名】???
【筋力】C → C+
【耐久】C → C+
【敏捷】C → C+
【魔力】D
【幸運】B


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火花散らす高揚

https://www.youtube.com/watch?v=tIyNAF5rgYk
Fate/Stay Night Realta Nua OST - Mighty Wind


 大空洞の中で、剣戟の音が鳴り響く。

 一度鳴ったかと思えば、その剣は幾重にも軌跡を残しながら男の剣へ刃を立てた。

 

「ぐっ、むっ! どおぉりゃあああああ!」

 

 男が一度振るえば、その返しに三度の閃光が奔る。

 ランスはその攻撃を最低限の動きと最小限の被弾で避けていた。

 攻防が始まった初期は、傷つくのは彼の鎧や外套だけであったが……三度目の激突となった今では致命傷を避けるだけで精一杯だった。

 否、詰められる手順を遅くしているという表現が正しいのかもしれない。

 個々の筋力の差もあるが、明暗を分けたのは技量の差である。

 

「援護します、セイバーさん!」

 

 距離を放そうと、無理やりに放ったランスアタックだったが……セイバーは距離を放すその寸前までの間に四度の致命の一撃を放つ。

 セイバーより放たれた剣閃は真っすぐにランスの霊核へと迫ったが、マシュはランスを横合いから盾で突き飛ばし無理やり回避させる。

 

「ナイスだマシュちゃん!」

 

 地面を二度程転がったランスは、マシュへ礼を言いながらカオスを構えた。

 彼の視線の先には星の聖剣を構えるセイバーが不動の姿勢で立っていた。

 

「うーむ、一撃一撃がケイブリス並みだなありゃ。 その癖技量は謙信ちゃん並みとかチートなのでは?」

 

「黙れ駄剣、俺様が負けるか!」

 

 カオスが冷ややかな目線をランスへ向けた。

 ランスは膨大な汗を掻きながら、内心でカオスの言う事に同意していた。

 一撃の重さ、手数、そして何よりまるで未来を予知しているかのような防御や攻め。

 ランス達は二人でセイバーを攻め立てているが、数の優位など物ともしない今まで出会ってきた誰とも違う未知の強さが其処に存在していた。

 

「マシュ、セイバー……!」

 

 そんな攻防を見ていた立夏は、生きた心地がしなかった。

 彼には彼らの戦いの全てが見えていたわけではないが、ランスが一度打ち込む度に使う魔力。

 打ち込まれる度に防御の為に消費される魔力が彼らの攻防の凄まじさを体感させた。

 一度彼らが触れ合う度に、立夏の寿命が一年分縮むような、そんな戦いだった。

 

「その程度か、侵略者、盾のサーヴァント」

 

 セイバーが聖剣を地面に突き立て、柄に両の掌を置いた。

 

「くっ……強い……やっぱり、私では──」

 

「えぇい折れるんじゃない! 俺様が一緒に戦っていて負けるわけがないのだ!」

 

 セイバーとランス、マシュ達の距離はおよそ10メートル程。

 この距離が一足飛びで来られない事をランスは一度目の激突で確認していた。

 故に、セイバーが剣を振るい襲い掛かってくるまでにはそれを認識し、備えるのが可能である。

 だが……戦闘の、特にサーヴァント戦の経験が少ないマシュは眼前で相対するセイバーに気圧されていた。

 

「……圧倒的ね、あのセイバー」

 

 オルガマリーが、ぽつりと漏らした。

 

「流石は星の聖剣使いという所ね」

 

「感心してる場合じゃないですよ、何とかしないと二人が……!」

 

「えぇ、負けるでしょうね」

 

「だったら!」

 

 冷静に戦況を分析するオルガマリーに、立夏は手立てを求める。

 

「……無理ね、現状の要素ではこの戦況をひっくり返すのは」

 

「そんな──」

 

「相手は聖剣使いの中で最も有名なアルトリア・ペンドラゴン、対してこちらは名も知れないサーヴァントと宝具の使えないデミ・サーヴァントの二人」

 

 暴風が、オルガマリーと立夏を襲った。

 四度目の激突。

 

「おまけに令呪も残り一画──逆転の可能性があるとすればあの男の宝具……でも、どんな効果かも分からないものに命運は託せないわ」

 

 魔力のぶつかりの余波で、石が無数に二人を守る結界へ飛来する。

 

「令呪はあの男の体力回復のために温存して──」

 

「温存? 生温い考えだな、魔術師」

 

 再び、風が舞った。

 同時にサーヴァント二人もまた吹き飛ばされる。

 

「ぐえっ!」

 

「きゃっ!」

 

 地面に叩きつけられるマシュとランス。

 

「一撃の元に絶命すれば、温存等という事もできまい。 その侵略者は我が宝具で葬り去る、宝具を使う暇も与えん」

 

 立夏達の前に吹き飛ばされた二人のサーヴァント。

 その奥に立つセイバーから、膨大な魔力が発せられた。

 

「不味い……! マシュ、立ちなさい! 盾を構えて!」

 

「は、はい────!」

 

 よろよろと力無く、マシュはよろめきながら立ち上がると後ろに立つマスターとランスを庇う様に盾を構えた。

 

「マシュ!」

 

「先輩は……私が守ります!」

 

 傷ついた体を盾で必死に支えながら、マシュは気丈に振舞った。

 それは強がりだったのかもしれない、折れるなというランスの言葉を必死にやっただけなのかもしれない。

 だが、彼女は立ってみせた。

 

「『卑王鉄槌』、極光は反転する。 光を呑め……!」

 

 相対するセイバーの声と共に、聖剣に魔力が奔る。

 黒い魔力を纏った聖剣は、その刀身の大きさが平常時を大きく超えた。

 

「うぐぐ……」

 

 地面に倒れていたランスも、カオスを杖の代わりにゆっくりと立ち上がりセイバーを見た。

 

「消えるが良い、侵略者(フォーリナー)

 

 聖剣の刀身は更に巨大になり、冷や汗が伝う。

 

約束された勝利の剣!!(エクスカリバー・モルガン)

 

 聖剣が放たれる。

 下から上へ振り上げられた聖剣は、その刀身に纏っていた魔力の全てを直線的にマシュへ向けて振りぬかれる。

 

「ぐっ…………ウウウゥゥゥゥゥ!!」

 

 強烈な衝撃が起こった。

 立夏の視界は明滅し、体は揺らぐ。

 だがそれでも彼が生きていたのは単に彼女のお陰だった。

 マシュは地面で、体で支える盾で一身に聖剣の魔力放出を受ける。

 魔力は決壊したダムから流れる水の様に盾へ降り注ぎ、盾はそれを弾き、弾かれる魔力は周囲を破壊する。

 

「マシュ!」

 

「負け──ません! 私は、先輩のサーヴァントです……!」

 

 マシュは吼えた。

 だが、彼女の足が魔力に押され地面にめり込み始める。

 

「やばいぞ心の友! お嬢ちゃんじゃあれは受けきれん! “あれ”を使わんと、お嬢ちゃんも儂等も死ぬぞ!?」

 

「えぇい、五月蠅い! あんな“奴”に俺様が頼ってたまるか!」

 

「あれ? セイバー、あれって何!?」

 

 眼前に迫る魔力の放出に、オルガマリーは怯みながらもカオスの言葉を逃さなかった。

 

「あー、所謂宝具って奴? 切り札的なものなんだけどー……心の友は使いたがらないのよねー」

 

 切り札、という言葉に立夏は即座に反応した。

 高純度の魔力を受け、盾は徐々に上へ持ち上がりつつあった。

 

「宝具……! セイバーお願いだ、マシュを助けて欲しい!」

 

「いやじゃー!」

 

 生きる為に。

 マシュを守るために。

 立夏に選択の余地は無かった。

 

「だったら──最後の令呪を以て命ずる! 全力で宝具を使用してくれ!!」

 

「藤丸! やめなさい、そいつはさっきまで自分の名前すら偽っていた使い魔なのよ!? その剣が嘘を言ってる可能性だって──」

 

「それでも、それでも何とかなる可能性があるなら、僕はこの人に賭けます!!」

 

「藤丸!!」

 

「だって、だってこの人は──僕の呼びかけに答えてくれた人だから!! だから信じます!!」

 

 彼は即座に三画目の令呪を使った。

 右手の甲にあった最後の紋様が消える。

 

「おっほー! キタキタキター!」

 

「ちっ、どうなっても俺様は知らんからな!!」

 

 身に迸る魔力に、カオスが叫んだ。

 

鬼畜王!!(マイ・グロリアス)

 

 ランスの叫びと同時に、突然聖剣の魔力放出が強まった。

 盾を支えていたマシュは、盾と共に浮き上がり……。

 立夏達は黒い魔力の波に包まれた。

 

 

 




【宝具:鬼畜王(マイ・グロリアス)】

ランク:D
種別:対■(■■)宝具
レンジ:1
最大捕捉:???人

【効果】宝具とは世界において活躍した英雄の逸話や武具が昇華されたものである。
    だが今回■■■■■■■■■■たランスにはそのような物は存在しない。
    しかし彼にも宝具は存在している。
    それこそがこの宝具、この力、これこそが唯一であり絶対。


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戦死者一名

https://www.youtube.com/watch?v=R5ahN8LZ9eA
ランス10 Combat Area


「本日、朝、大阪府の難波にて、謎の集団が現れてから半日が経ちました。 この危険な集団は────」

 

「どうしよう健太郎君…………私たち、国家反逆罪になって────」

 

 夢を見ていた。

 自分の──藤丸立夏のものではない夢を。

 2015年ではない日本で、セイバーと見知らぬ誰か達が話している。

 

「どうだスチールホラーの恐ろしさ────」」

 

 スチールホラー?

 

「ミサイルだーー!」

 

「全員、余の後ろに──」

 

 黒髪の女性が杖を翳すと、飛んできたミサイルを不可視のバリアが遮った。

 …………興味深い。

 

「────何?」 

 

 僕は今、何と言った?

 

「────登録を」

 

 登録?

 頭の中に、自分の物ではない声が響く。

 いや、これは声なのだろうか。

 声というよりは、意思の様な物なのだろうか。

 そんなものが頭に響く。

 

「──────登録を────」

 

 その声を境に、意識が遠ざかっていく。

 何もない空間から、セイバーを眺めていた光。

 その光から僕は離れていく。

 

「──────座への登録を──────」

 

 そして、僕は目覚めた。

 

─────────────────────────────────────

 

 

約束された勝利の剣!!(エクスカリバー・モルガン)

 

 刀身に纏われた魔力が放たれる。

 目に見える形で迫る『死』を、私は自らの盾で防ぐ。

 

「ぐっ…………ウウウゥゥゥゥゥ!!」

 

 しかし力が及ばない。

 盾が浮かび上がっていく。

 押し寄せる魔力の奔流が、盾ごと私を持ち上げこの世から何処か別の場所へ吹き飛ばしてしまいそうになる。

 

「おっほー! キタキタキター!」

 

 声が、聞こえた。

 これはアロンダイトさんの声だ。

 いや、彼は違うのだったろうか。

 どちらにせよ、もうそれについて思案する力もない。

 

「(もう────耐えられない、先輩、すみません…………!)」

 

 まず最初に盾が浮かび上がった。

 次に手が。

 そうして、体が浮かび上が─────

 

「バリアーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 ─────らなかった。

 盾を持ち上げていた魔力の波は遮られ、勢いよく元の位置へ落下した。

 それと同時に、私も大地に膝を突く。

 

「え──────?」

 

 視線の先に、誰かが立っていた。

 押し迫る死そのものとも言える魔力を、青い髪をした人物が全て防いでいたのだ。

 

「キャスター、さん…………!?」

 

 私は最初、そう思った。

 先ほど大空洞に入る前に、アーチャーと戦闘に入ったキャスターさんが助けに来てくれたのだと。

 だがそれは違った。

 この人物はキャスターさんと似ているが、明確に違う部分が二つあった。

 一つは髪がポニーテールであること、そしてもう一つは…………その身に蓄えられている魔力量が膨大であることだ。

 

「いいえ、違います! ぺちゃぱい千鶴子様の1の子分、アニスですよ! お間違いなく!!」

 

「アニス……さん…………?」

 

「よくわからないけどチャンスよマシュ! 体勢を立て直して!」

 

 呆気に取られていた私に、所長が指示を送る。

 全身に力を込め、もう一度大地を踏みしめる。

 大丈夫…………大丈夫!

 

「先輩が後ろで見守ってくれているのなら、私はまだ戦えます……!」

 

───────────────────────────────────── 

 

 立夏が意識を取り戻した時、まず初めに見えたのは宝具を防ぐ見知らぬ女性──アニスだった。

 次にマシュ、オルガマリーが。

 そして最後に、ランスが。

 だが立夏にはランスの隣に、先ほどまで存在しなかったあるものを発見した。

 

「それが、セイバーの宝具……?」

 

 空中に無数に穴が開いていた。

 その穴の先は、一面の白を映していた。

 

「とーーーー!」

 

 だが質問の答えをランスが返す前に、宝具を防いでいたアニスはそのまま威力のベクトルを変え真横へ跳ね返した。

 凄まじい揺れと轟音が大空洞に響く。

 

「し、信じられない……あのアーサー王の宝具を逸らすなんて! それに目の前の炉心並みの魔力……一体何なの彼女?!」

 

 立夏の隣にウィンドウが浮かび、ロマニはアニスがやった離れ業に驚嘆する。

 

「それにその穴の先から凄い質量の魂が検出されてる! 何だこれ──神霊か、もしくは本当の神様でも居るのか!?」

 

「ガハハハ、これが俺様のスーパーパワーだ! この穴から俺様の手下どもを呼び出せるのだ!」

 

「えぇ……」

 

「ランス様ー! 助けに来ましただー!」

 

「お前はいらん」

 

 ランスの言葉に半信半疑な表情を浮かべるロマニだったが、直ぐにその意見を翻す事になった。

 空中の穴から白くて丸い何かが放出されると、それは変形を始め最後には人間へと変わった。

 だがランスは近寄ってきた男を無造作に蹴り飛ばすのだった。

 

「あれ?」

 

 白い塊が斧を持った兵士へ変わる瞬間、立夏は聖剣の輝きが更に増すのを見た。

 まるで、この世界に侵入してきた異物を排除する役目を誇示するかの様に。

 

「凄い──本当に呼び出せるのか……」

 

「ほう、初撃を防いだか侵略者」

 

 ロマニの驚きの声が響く中、周囲に漂った土煙が晴れた先では聖剣を構えたセイバーが立っていた。

 

「やはり生かしてはおけぬ様だな、その宝具を見れば分かる」

 

 セイバーの語気が強くなる、と同時に剣もまた赤黒い光を増幅させた。

 

「それは星を危機に招くもの──いや、危機そのものと言っても良い」

 

「危機……? 一体、何を言って──」

 

 忌まわしそうにランスを見るセイバーは口を開き、そう吐き捨てた。

 事情が飲み込めない立夏は疑問を口にしたところで、ランスにそれを遮られた。

 

「ふん、俺様だってこんな奴に頼りたくは無い。 恨むんなら呼び出させたそこのガキンチョに言うんだな」

 

 困惑する立夏に、セイバーの顔は更に額の皺を深めた。

 

「愚かしい男だ、自分が何を呼び出し、何を使わせたのか理解していないとは」

 

「え────?」

 

「いや、これ以上は言うまい、そいつがこちらへ出てくる前にお前たちを消し去るだけだ」

 

 そいつ、という単語が穴の向こう側の何かを指し示している事は明白だった。

 だが少なくとも、今はそれを考えているような場合ではないと立夏は己に言い聞かせる。

 

「ガハハハ、俺は死なーん! 逆に返り討ちにして捕まえてからお仕置きしてくれるわ! 行けアニース!」

 

「よーし行きま──ってぴぃっ!? 緑の人です!!」

 

 ランスは豪快に笑うと、セイバーを指差しながらアニスへ指示を飛ばした。

 後方に居るランスから指示を受け、返事の為に振り返ったアニスの顔がランスを見た瞬間強張った。

 過去の記憶を思い出しているのか、数秒の硬直の後彼女は大空洞の天井付近まで魔法で飛び上がった。

 

「緑の人…………痛い痛い痛い怖い怖い怖い!!」

 

 そしてアニスはランス達へ杖を向けた。

 

「ちょ、ちょっと……こっちに向けて魔力が集まってるんだけど……!」

 

「集中している魔力は先ほどの敵セイバーの宝具と同じかそれ以上です!」

 

「ちょっとセイバー、あんたが呼び出したんでしょ! あなたの宝具なんだから何とかしなさいよ!」

 

「こらーアニース! 俺様の言う事を聞けー!」

 

「ひえええっ、緑の人は嫌いです怖いです! ゼ、ゼットーーン! 火炎流石弾絶対零度メタル・ライン雷神雷光白色黒色破壊光線ーー!!」

 

 ランスは怒鳴ってアニスを咎めるが、それは逆効果となり余計にアニスを怯えさせる。

 結果として、アニスは滅多矢鱈に魔法を放ち始める。

 

「ひぃぃぃ! ぽまーどぽまーど!」

 

「先輩、所長、私の後ろに!」

 

「緑の人、成敗ー!」

 

 あらゆる種類の魔法が放たれ、それは大空洞の天井や周囲を崩落させ、ついでにさっき呼び出されたロッキーの命も奪い去った。

 下手に身動きが出来ずランス達は一か所に固まるが、それは敵のセイバーも同じ事だった。

 

「何なのよあいつはー!」

 

「味方殺しって言われてる子だな、うん。 心の友なんであんな生きる災害呼んだの」

 

「俺が知るか!」

 

「見ィつけた……………敵、四つーーーーー!!」

 

「ひっ! く、来るわよ!?」

 

 周囲に魔法を乱射しまくった狂乱状態のアニスは、遂にランスを発見する。

 今の彼女の脳内ではランスは既に敵であり、その周囲に居る人間もまた敵である。

 空中から杖を向けられ、絶対絶命の状況となったその時、一人の声が響いた。

 

「派手に盛り上がってるじゃねえか!」

 

「むむ、杖が何かおかしなことに! 誰ですか!」

 

 突然、アニスが持っていた杖から蔦が生えだし彼女の腕を拘束した。

 

「キャ…………」

 

「キャスターさん!!」

 

「げっ、生きてたのかあいつ……」

 

 大空洞内部から見える地上に上半身裸の格好をしたキャスターが立っていた。

 

「信奉者は片づけた、後はこっちの祭りを盛り上げるだけだと思うんだが……手伝いは必要かいマスター?」

 

「お願いキャスター!」

 

「あいよ!」

 

「アイルランドの光の御子か、あなたが来たという事はアーチャーは敗れた様だな」

 

 ゆっくりと降りてくるキャスターに、セイバーは目線を向けた。

 

「あぁ、奴さんならもう先に逝った。 次はセイバー、てめぇの番だ」

 

「────フ、ではその言葉が真実となるかどうか、我が剣を以て試してやろう」

 

「コラー! 俺様を無視するなー!」

 

「アニスの事もお忘れなく! 緑の人の成敗はお任せを!」

 

 セイバーの前方をランスとマシュが、左側をキャスターが。

 そしてその四人の頭上に拘束を破ったアニスが陣取った形で、全員が武器を構えるとランスは息を大きく吸い込み言葉と共に吐き出した。

 

「突撃ぃぃぃぃーー!!」

 

 決戦が、始まった。

 

 

 




【宝具】 鬼畜王(マイグロリアス)
【ランク・種別】対人(自身)宝具
【効果】宝具とは世界において活躍した英雄の逸話や武具が昇華されたものである。
    だが今回別の世界から徴集されたランスにはそのような物は存在しない。
    しかし彼にも宝具は存在している。
    即ち、自身の逸話や英雄性を世界に広げる宝具である。
    この世界に俺様の逸話が無いのなら作ってしまえば良いという訳である。
    この宝具が発動された場合、現在の状況に適した逸話、あるいは人物や武具が彼と繋がっている■■■■■■から引きずり出され、最適解として世界に召喚される。(逸話や人物を選ぶことはできない)
    事実上こちらの世界を別の世界に塗り替えていく宝具である。
    また、逸話を再現するという性質上彼が辿った途中経過も再現する。
    それは即ち……。


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ガンガン行く

https://www.youtube.com/watch?v=JdhnbxrRKj4
majin-boss


 

「ウウウラララララララララァァァァァ!」

 

 大空洞に赤い閃光が無数に奔る。

 常であればそれは一撃ごとに剣閃の数と同等か、それ以上の数の首を落とすのだろう。

 だが現在相対しているのは常ならざる者である。

 

「伸び縮みする剣か、だが────フッ!」

 

 縦横無尽に駆け巡る剣閃をアルトリアは聖剣を振るうことで掻き消すように目の前の赤い剣士ごと薙ぎ払う。

 

「同じような剣技を見たことがある、手数では私には勝てん」

 

 横薙ぎによる致命傷を避けながら、忠の字が書かれた兜を付けた男が後方へ飛んでいく。

 その最中、男は自らの傷を気にも留めず口角を上げた。

 

「ラーンスアタターーック!」

 

 吹き飛ばされる男の頭部を空中で踏みつけ、ランスが背後から飛び掛かった。

 男を渾身の脚力で蹴り飛ばし、勢い良くカオスを全体重を乗せアルトリアへと叩き付ける。

 

「っ……!」

 

 アルトリアはその攻撃にも難なく対処するが、一撃の重さにたたらを踏んだ。

 そのまま彼女の華奢な体は地面に沈み込むが、聖剣に魔力を籠め再びランスを振り払った。

 

「いてー! なんつー硬さだあの剣!? 儂も硬さには自信あるけどあれはちょっとないわー、心の友も負けてるかも」

 

「下ネタ言ってる場合か、黙ってろエロ剣!」 

 

 聖剣と打ち合う度にカオスが悲鳴を上げる。

 そんなカオスを叱咤するランスの体も悲鳴を上げていた。

 ランスが宝具を使用してからまだ三分程度しか経っていなかったが、既に傷の多さではアルトリアに勝っていた。

 

「痛いの痛いの飛んでけーーーーーーーーーーー! はーーーーーーーーーーーーーっ!」

 

「そしてこいつを呼んだのは誰じゃー! こんな強敵相手にしてる時に味方に禿の男なんざいらんわー!」

 

 そんな傷ついたランスを、左手に少女の人形を嵌めた男が癒していく。

 

「我が心、ALICE様の導きと共にー!」

 

「うるせー!」

 

「セイバーさん!」

 

 そんなやり取りをするランスへ向けて、アルトリアが迫る。

 だがマシュがそれに割って入り、攻撃を防ぐ。

 

「くぅっ……!」

 

「ほう、よく防いだな盾のサーヴァント」

 

「まだ負けません……防ぎきってみせます!」

 

 ぶつかりあう剣と盾。

 そんな二人は突然何かを察知し、互いの飛び退いた。

 直後、二人が居た場所に赤色の光線が地面を焼き焦がしながら奔った。

 

「むむむ、杖から枝を生やすなんて卑怯ですよ! それに何処からか攻撃も飛んできますしズルですズル!」

 

「空飛びながらバリア張る様なお嬢ちゃんに言われたかねぇな! 槍さえあればと思ったが、今回はこっちのクラスで正解らしい!」

 

 そんなやり取りが、アルトリア達の頭上から聞こえてくる。

 地上ではランスが呼び出した軍勢とアルトリア。

 上空ではフードのキャスターと、ランスが呼び出した魔法使いが戦闘を繰り広げる。

 その様子を戦場から少し離れた場所で、立夏は驚きの眼差しを向けながら見ていた。

 

「…………凄い」

 

「いや全くだ、正しくあれこそが伝説や神話に謳われる英雄達の戦いだ」

 

 立夏の隣には、ロマニのホログラムが浮かんでいた。

 彼の表情もまた驚きに満ちている。

 

「しかし藤丸君が呼び出したあのサーヴァント……一体何処の英霊なんだろう」

 

「え?」

 

「彼は自分の事をランスロットと名乗ったが、実際の名前は違うっぽいだろ?」

 

「そういえば……」

 

「それに彼の霊基もおかしい、剣を持っているからセイバーだと思っていたから調べなかったが……実際の彼のクラスは全く違う」

 

 立夏はランスのステータスを調べた時の事を思い出していた。

 あの時、彼はオルガマリーが言ったランスロットと言う名前に同意したが……。

 

「そしてあの宝具……何もかもが規格外だ」

 

 宝具と言われ、立夏は大空洞内部に無数に発生した穴を見た。

 その穴からは白い球体が放出され、人間へと変じていく。

 それらは全て人の形を得るとすぐさま武器を構え、ランスの元へと向かっていく。

 彼らは直ぐにアルトリアによって薙ぎ払われるが、そうされる度にまた別の人物が穴から生じていく。

 

「固有結界を発生させているわけでもない、本当に何処かへの穴を開けてるだけだ。 ……あんな英雄、僕は聞いたことが無い」

 

「あの男が何処の英霊だろうと構いません」

 

「オルガ?」

 

「あの聖剣使いを打倒出来るのなら、今はそれで良いわ」

 

 それまで沈黙を保っていたオルガが口を開いた。

 その言葉に立夏もロマニも頷いた。

 同時に戦局は終局へと向かっていく。 

 

「よく耐える、だがあまりに脆い!」

 

 穴から呼び出された人物がアルトリアへ殺到するが、聖剣を振るい薙ぎ払われる。

 50名超呼び出された筈の軍勢は、既にマシュとランスの二人だけとなっていた。

 

「ちっ、なんつー威力と連射性だ! こっちもそろそろ限界だぞ!」

 

「まだ、戦えます……!」

 

 気丈に振舞うマシュだったが、足の震えをカオスは見逃さなかった。

 

「心の友、あのお嬢ちゃんはもう無理そうだ。 どうする?」

 

「むぐぐぐ……!」

 

 追い込まれたランスは憎らし気に考えを巡らせ……一つの考えを浮かばせた。

 

「あっ」

 

「おっ、何か思いついた?」

 

「うむ、マシュちゃんちょっと借りるぞ」

 

「セ、セイバーさん!?」

 

 と言うと、マシュの盾を強引に奪いランスは自らの前に構えた。

 

「ガハハ! この盾が奴の攻撃で傷つかない事は周知の事実! ならこれで奴の攻撃を防ぎながら前進するのだ!」

 

「えー……」

 

「そ、そんな無茶な! 無理です、セイバーさん!」

 

「えぇい、俺様がやるって言ったらやるのだ! 後俺様はセイバーじゃなくてランス様だ、いいな!」

 

「……下らん、盾を構えただけで我が聖剣の輝きを受けきれるとでも?」

 

 ランスは歯を見せ、ニヤついた。

 

「おう、もちろんだ。 お前の攻撃なんざ俺様はちっとも怖くない、全部防いで叩き切ってやる!」

 

「よくぞ吠えた、侵略者、星の危機を招く男。 我が聖剣で今すぐ塵一つ残さず消し飛ばしてやろう!」

 

 アルトリアが、聖剣を上段に構える。

 竜の心臓から魔力が生まれ、聖剣に集っていく。

 

「ランスさん、貸してください。 私が受けます、その間に……!」

 

「横から避けていくのは無理だ、あの連射性だと横に飛び出した瞬間に狙い撃ちされる」

 

「ですが!」

 

「えぇいしつこいぞ! 俺様はやると言ったらやる男、信用するのだ!」

 

 ランスは自らの後方に居るマシュを庇う様に盾を構えた。

 

「来るぞ心の友! 踏ん張りだ踏ん張り!」

 

「『卑王鉄槌』、極光は反転する。 光を呑め……! 約束された勝利の剣!!(エクスカリバー・モルガン)

 

 本日五度目の宝具が放たれた。

 

「ぐおおおおおっ!!?」

 

 盾を構えていたランスの体が一瞬浮き上がりそうになるのを、必死に彼は堪えた。

 

「おぉぉぉ! 心の友耐えてる! 耐えてるぞ!」

 

「こ、この程度で俺様が…………!」

 

 浮かび上がりそうになる盾を必死に押さえつけながら、ランスは一歩足を前に踏み出した。

 少しずつ前に進んでいく。

 

「ふん、付け焼刃で何処まで耐えられる?」

 

 盾に浴びせかけられる魔力の量が一歩近付く度に増えていく。

 そんなランスの行動に、マシュは彼の元へ駆け寄ると盾を握る手に自らの手を添えた。

 

「私もお手伝いします!」

 

「むほほ…………やわらかい手、この手で俺様のハイパー兵器を……」

 

「心の友! 盾浮いてきてるって!」 

 

 ランスに触れたマシュの手の柔らかさに思わずエロモードになりかけるが、カオスの助言で事無きを得るとランスは再び全身を開始した。

 だが……。

 

「ぐおお……き、きつい……!」

 

 アルトリアまでの距離半ばという所で、ランスはついに膝を突いた。

 

「ランスさん!」

 

「こ、この俺様がこんな所で────」

 

「もう……駄目なのでしょうか……」

 

 距離によって減衰していた威力が、近付く度に減衰しなくなるのは当然の事である。

 盾によって弾かれた魔力もまたランス達の体を傷つける。

 元より無謀な試みであったのだ。

 

「終わりだな、侵略者!」

 

「か────」

 

 限界が近づいていた。

 そんな中で、呻き声とも取れるような微かな声をランスは発し……叫んだ。

 

「かなみーーーーー! 出番だーーーーーーーーー!!」

 

「あーれーーー!?」

 

 瞬間、アルトリアへ向けてアニスが飛んできた。

 宝具を使っていた彼女には、飛んでくるそれを察知できても防ぐことが出来る時間が残されていなかった。

 無防備な状態でアニスの激突を受けたアルトリアはよろめいた。

 

「ぐっ……! 馬鹿な!」

 

「フード男ーーーーーーー!!」

 

「あいよ!!」

 

 ランス達の上空に居たキャスターは、その隣に居る忍者とハイタッチを交わした後に地上へ跳んだ。

 とっておきの呪文を詠唱しながら。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社─── 」

 

 着地した。

 

「よくぞここまで持ち堪えた」

 

「いいからさっさとやれー!」

 

「キャスターさん!?」

 

「倒壊するは────ウィッカー・マン!」

 

 地面から起き上がろうとするアルトリアは、その振動で再び体勢を崩した。

 次に衝撃が彼女を襲った。

 

「何……これは──」

 

「はわわわわ、な、何か閉じ込められてます!?」

 

 アニスと共に巨人の檻の中に閉じ込められたアルトリアの視点が徐々に高くなり、そして再び下がっていく。

 

「オラ、善悪問わず土に還りな───!」

 

 勢い良く地面に叩きつけられ、業火に二人は包まれた。

 その業火は大空洞の天井から見える空を貫く様にに天高く昇り、消えた。

 業火が消えた先で……アルトリアが一人立っていた。

 

「げっ! ま、まだ立ってるぞ!?」

 

「いや待てセイバー、どうやら……俺達の勝ちらしい」

 

「ふっ、結局どう運命が変わろうと私一人では同じ末路を辿るということか」

 

 アルトリアの足元から、黄金色の光が立ち上っていた。

 光が立ち上る度に、彼女の肉体が消滅していく。

 

「どういう意味だそりゃ、てめぇ何を知ってやがる」

 

「何れ貴方も知る、アイルランドの光の御子」

 

「グランドオーダー」

 

「ッ!?」

 

「聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事を」

 

「おい待て、そりゃどういう……!」

 

 グランドオーダーと言う単語にオルガマリーが反応する。

 キャスターがアルトリアに対し、問いを発するが……彼の肉体もまた消滅し始めていた。

 彼は首を一度振ると、立夏へ向き直った。

 

「坊主、お嬢ちゃん、それにセイバー、後は任せた。 次があるんならそん時はランサーとして呼んでくれ」

 

 と、笑みを作りながらアルトリアとキャスターは消滅した。

 

「キャスター……」

 

「キャスター、セイバー、共に消滅しました……」

 

「けっ、格好つけながら死にやがって」

 

 疲労困憊の状態で地面に倒れていたランスは、キャスターの消滅を見届けると再び頭部を地面に横たえ天井へ視線を移した。

 

「兎に角、これで終わりだな」

 

 横たわりながら呟いたランスの言葉に、パチパチと乾いた拍手の音と……。

 

「クスクス……」

 

 という、子供の様な笑い声が微かに聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




【プロフィール2】
魔剣カオス:B
喋る剣、所謂インテリジェンスソードの類。
元々は人間だったが自らの願いを曲解した(正確には理解していた上でだが)神がその願いを叶えた結果、剣にされてしまった。
無敵結界を断ち切れる世界で二本しかない武器。
だがこちら側の世界では無敵結界が存在しない為(発生する可能性はある)、こちらの世界のシステムに合うように性能が変えられている。
即ち、切り付けられた存在の魔力、魔術的防護を今後一切無効とする。
これにより対魔力Aを持つ相手ですら魔力に対して無抵抗と化す。
だがランスもカオスも効果が変わったことを知らない為、今のところ有効活用される未来は無い。
また魔人、魔王に類する存在に対して滅法威力が上がる。
これは名称の問題であり、魔王や魔人を名乗るだけで勝手にカオスの威力が上がる。
ノッブ涙目。


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我が栄光

https://www.youtube.com/watch?v=pd25oo0qsIM&index=5&list=PL-iX6MOIzjDGYRSFgRaiI_dNTXG_ljHLN
Our Glory -ランスVI -ゼス崩壊 OST-


 

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。 ……私たちの勝利、なのでしょうか?」

 

「ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸君! 所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?」

 

「……冠位指定……あのサーヴァントがどうしてその呼称を……?」

 

「……所長、何か気になる事でも?」

 

「え……? そ、そうね。 よくやったわ、藤丸、マシュ。 不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします」

 

 アルトリア、そしてキャスターの消滅を確認した藤丸達は大空洞の中で互いの無事を喜び合う。

 そんな中オルガマリーだけが何か別の事を気にかけていたが、直ぐにそれを振り払うといつもの表情に戻りミッションの終了を告げた。

 

「兎に角、これで終わりだな」

 

 地面に仰向けに倒れているランスが、そうぽつりと呟いた。

 先ほどまで彼の周囲に開いていた穴はすっかり消え去り、今は通常の空間に戻っている。

 

「まずあの水晶体を回収しましょう。 セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因はどうみてもあれのようだし」

 

 オルガマリーはランスを一瞥した後、アルトリアが居た場所に残されたある物体に目を付けていた。

 彼女はマシュへ回収の指示を出す。

 

「はい、至急回収────な!?」

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。 計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

 拍手と共に、男の声が響いた。

 

「48人目のマスター適正者。 全く見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

「レフ教授!?」

 

「レフ────!? レフ教授だって!? 彼が其処に居るのか!?」

 

 マシュの視線の先には、先ほどまで居なかった緑色の服を着た男が立っていた。

 男は飄々として笑みを浮かべながら、話し続ける。

 

「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか」

 

 やれやれ、と言った雰囲気で肩を竦めると──。

 

「すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。 まったく──どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな」」

 

 その閉じていた瞳を開いた。

 

「人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

「───! マスター、下がって……下がってください!」

 

「────おい心の友」

 

「エロトークなら今は付き合わんぞ俺様はー、今は疲れた」

 

「いや儂の声のトーンで分かるでしょ、マジな話よマジな。 あいつから魔人の匂いがする」

 

 魔人、という単語にランスは仰向けの体勢から上体を起こしレフを見つめた。

 

「……ボケたか駄剣」

 

「いやいやマジよマジ、儂が魔人の匂いを嗅ぎ分けられない訳ないでしょ」

 

「さっき街で嗅ぎ分けられなかっただろうが!」

 

「────レフ……! ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!」

 

 そんなランスの目の前を、オルガマリーが走り抜けた。

 なりふり構わず、肉体が許す限りの限界の速度で彼女は駆けた。

 あっという間にオルガマリーとレフの距離は近づいていった。

 

「よかった、あなたが居なくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

 

「いかん……心の友、やばいぞ!」

 

「だーっ! こっちは戦闘の後だっつーのに!」

 

 必死な顔をして、何かに縋る様に、助けを求める顔でオルガマリーはレフの元へと走っていく。

 それに遅れて、ランスも立ち上がった。

 

「やあオルガ。 元気そうでなによりだ。 君も大変だったようだね」

 

「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!」

 

 レフの声を聞き、オルガの顔に初めて笑顔が灯った。

 

「予想外のことばかりで頭がどうにかなりそうだった! でもいいの、あなたが居れば何とかなるわよね?」

 

 レフもまた、笑みを浮かべ駆け寄ってくるオルガマリーの言葉を聞いていた。

 

「だって今までそうだたもの。 今回だって私を助けてくれるんでしょう?」

 

「ああ、もちろんだとも。 本当に予想外の事ばかりで頭にくる」

 

 レフの表情が一変した。

 

「その中で最も予想外なのが君だよオルガ。 爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて」

 

「─────、え? ……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

 

「いや、生きている、というのは違うな。 君はもう死んでいる、肉体はとっくにね」

 

 目を見開き、悪意を見せるレフにオルガマリーの足が止まった。

 

「トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ」

 

「え、え……?」

 

「ほら、君は生前レイシフトの適性がなかっただろう? 肉体があったままでは転移できない」

 

 オルガマリーは、レフがこの先紡ぐ言葉を理解した。

 

「わかるかな、君は死んだことで初めてあれほど切望した適性を手に入れたんだ」

 

「────」

 

「だからカルデアにも戻れない。 だってカルデアに戻った時点で君のその意識は消滅するんだから」

 

「え……え? 消滅って、わたしが……? ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」

 

「そうだとも、だがそれではあまりにも哀れだ。 生涯をカルデアに捧げた君の為に──」

 

「話が長いわーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 ざくーーーーーっ!

 突如、オルガマリーの影からランスが現れレフを両断した。

 

「いやーーーーーーーーーっ!?」

 

「レフ教授ーーーーーーーー!?」

 

「えーーーーーーーーーーっ!?」

 

 頭から真っ二つになったレフの死体が、ゆっくりとランスの前に倒れた。

 

「おおう、快感……こいつやっぱ魔人だったわ。 いや何か半分くらい違う気もするけど、まぁ魔人だったわ」

 

「ガーハッハッハッハッハ! 元彼……もとい悪は滅びた! これでオルガマリーちゃんは俺様のものだー!」

 

 そうして、オルガマリーを抱き寄せるとランスは豪快に笑った。

 

「いや、レフ、レフ!!」

 

「ガハハハハ、そう恥ずかしがるなオルガマリーちゃん。 これからもっと恥ずかしい事を二人でするのだからな! ムフフフ……」

 

 スケベ顔でオルガマリーを更に抱き寄せるが、彼女は目の前に横たわるレフの死体に手を伸ばす。

 

「しかし心の友、割とシリアスな感じだったけど良かったの?」

 

「あんな長い話これ以上続けてたら俺様がどうにかなるわ、俺様の仕事は終わったので後は好きにやるのだ」

 

 だが彼女の抵抗虚しく、ランスはオルガマリーを担ぎ上げると大きな岩の陰を目指して歩き始める。

 

「さぁお楽しみタイムだ! ガハハハー!」

 

「いや、離して……! レフ、レフ!!」

 

「ガハハハ、あいつはもう死んだわ! これからは俺様が奴よりももっともっと良い事をしてやるぞー!」

 

 そんなランスが起こした行動を、マシュ、立夏、ロマニは呆然と見ていた。

 ランスはこれからオルガマリーと行う行為について考えながら、ルンルン気分でスキップしながら移動していく。

 

「ガハハハ、まずは何からしよーっかなー、やっぱりまずはそのお口に俺様のハイパー兵器を……ぐふふふ──ん?」

 

 妄想をしていたランスは、途中である事に気づいた。

 足が地面に触れていないのだ。

 

「ん? んんーーーー!? お、俺様浮いてる!?」

 

 ランスは空中に浮いていた。

 抱えたオルガマリーごと。

 

「な、なんだ!?」

 

「嘘……」

 

 ランスの背後を向いて担がれていたオルガマリーが、信じられないものを見たような声を上げた。

 いや、事実信じられないものだったのだろう。

 

「実に……不愉快だ。 私の体に傷をつけるどころか、それが癒えない等と」

 

 真っ二つになったレフが、真っ二つになったまま起き上がり喋っていた。

 

「嘘、あいつあれで生きてんの!? あんな魔人見た事ないんだけど儂! あっ、でもよく考えたら魔血魂出てないし生きてて当たり前か」

 

「アホかー! 仕留め損なったとかそういう大事なことはもっと先に言えー!」

 

 空中に浮かび上がりながら、ランスはカオスと喧嘩を始める。

 その間にも高度は上がり続け、一定の高度になると停止した。

 

「こらー、下ろせー! 今すぐ下ろせば次は横一文字に切り裂いて殺してやる!」

 

「そんな脅し文句で下ろす奴は居ないと思うなぁ儂」

 

「実に不愉快だ……人間相手に、それも外の世界の存在に切りかかられる等到底耐えられる屈辱ではない」

 

 ランスを見つめるレフのその目は、憎しみに満ちていた。

 

「あ? 外? 何だ、こいつ何言ってんだ?」

 

 そんなレフを理解できないと言う表情で見るランス。

 

「自分が何故ここに居るのかも理解していないというのか? 実に滑稽だな、こんな男にこんな宝具があること自体がやはり不愉快だ」

 

「だーっ! 俺様に分かる様に説明しろー!」

 

「良いだろう、死ぬ間際に少しだけ聞かせてやるとも」

 

 空中で暴れるランスは徐々にレフの方へと近づく様に移動し始めた。

 レフは更に右手で持っていた聖杯を握ると、彼の頭上の空間が歪み真っ赤に染まったカルデアスが現れた。

 

「嘘、カルデアス……!?」

 

「君はこの世界の英雄ではないということだ、何時、どうやって英霊の座に登録されたのかは知らないが」

 

「英霊の座ぁ? そんな椅子俺様は座った事無いぞ」

 

「理由などどうでもいい、外の世界、それも外の神と繋がった宝具を持つ存在は許容できないのだよ」

 

 ランスは徐々に、カルデアスに近づいていく。

 

「うおお、何かよく見えないけど近づいたらやばいものに近づいている気がする!」

 

「あ、当たり前よ! カルデアスはそれ自体が高密度霊子の集合体、次元が異なる領域なのよ!? ブラックホールや太陽みたいなものなの!」

 

「だー! よくわからんがやばいんなら何とかして止めろー!」

 

 むやみやたらに暴れるランスに、オルガマリーは必死にしがみつきながら遠くに見える立夏を見た。

 

「っ! マシュ、所長を──」

 

「邪魔はさせんよ」

 

 半分に別れたレフの左半身が睨みつけると、立夏達の前に岩壁がそそり立った。

 

「このサーヴァントだけは確実に葬り去る、そうでなければ我々が人理焼却を始めた意味が無い」

 

「人理、焼却……? レフ、あなた一体何を──」

 

「ぎゃー! 近づいてくるー! 壊せないのかこれ!」

 

 レフの呟きに、オルガマリーが反応するが直ぐにランスの叫びでそれは掻き消えた。

 二人は太陽の如きカルデアスにゆっくりと近づいていく。

 

「む、無理よ……これはほぼ地球そのもの、同じだけの質量をもつような物凄い何かでもないと──」

 

「物凄い何か?」

 

「その通りだ、ブラックホールや太陽を止められるほどの聖遺物など存在しない。 大人しく──」

 

 ランスは空中で暴れるのを止め、首を捻った。

 

「あるぞ」

 

「え、えぇ……そうだけど、そんなもの──あるの!?」 

 

「ガハハハ、何だあれをぶつければいいのか。 それなら簡単だ!」

 

鬼畜王!!(マイ・グロリアス)

 

 ランスは、再び宝具を用いるとカルデアスの前に無数に穴が開いた。

 

「何を────」

 

「ガハハハ! こんなもの持っててもしょうがないから粗大ゴミにしてくれるわー!」

 

 その穴の中で、一際大きな穴から巨大な赤い球が転がり出るとカルデアスに激突した。

 魔血魂である。

 それも通常の物ではなく、巨大な。

 

「(殺せ────虐殺せよ────凌辱せよ────苦しめよ────絶望せよ────)」

 

「な────」

 

 レフは、否、その場に居たランス以外の全ての人物が呆然としていた。

 

「な、な────」

 

「今だ、隙ありー!!」

 

「巨大魔血魂────!? ってどわー!」

 

「何っ……!!」

 

 呆然とするレフに向け、ランスはカオスを勢いよく投擲した。

 意識が巨大魔血魂に向いていたレフは、聖杯を持つ手をカオスによって両断されるとランス達のコントロールを失い、ランスとオルガマリーは地上へ落下した。

 

「きゃーーーっ!」

 

「いたたたっ……だが作戦成功だ! ガハハハハ!」

 

 岩場に強かに体を打ち付けるが、ランスは直ぐに起き上がると大きく歯を見せて笑い出すと同時に走り出した。

 

「カオーーース!」

 

 カオスを持たない状態で、ランスはレフへ向かって大きく跳躍する。

 ランスアタックの体勢を取りながら、ランスは自らの頭上に開いた穴へ手を入れると先ほどレフへ投擲したカオスを取り出した。

 

「ラーーーンス!」

 

「魔人を殺せ! 儂に魔人の血を吸わせろ!」

 

「アタタターーーーーック!!」

 

「くっ、おのれ! おのれぇぇぇ!」

 

 断末魔の叫びと共に。

 巨大魔血魂とカルデアスの激突が激化し、魔血魂が弾ける音と共に。

 ランスアタックがレフへと叩きつけられた。

 

 

 

 




【プロフィール3】
主人公:B+
世界によって与えられた称号、ルドラサウム世界では三人居る主人公の内の一人。
このスキルを保持する者はあらゆる行動判定に若干のプラス判定を与えられる。
具体的には大成功が出やすくなる。
が、別にファンブルが出ない訳でもないので死ぬときは死ぬ。
所謂主人公補正をお約束するが場面を弁えない場合は利かなかったりする効果が実感しにくいスキル。


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別れ

https://www.youtube.com/watch?v=1tTK0okn_fM
RanceX OST 60 - なみだ雨


 

「ガーッハッハッハッハッハッハ! 俺様のしょーーーーり!」

 

 大空洞の中に、本日何度目かの大笑いが響き渡った。

 ランスアタックを受け、地面ごと粉々になったレフの死体(があったであろう場所)にランスはカオスを掲げながら笑っていた。

 

「うーん、いつもの魔人を切った感覚とは若干違うけどこれはこれで新感覚だった……実はまだ居たりしない?」

 

 掲げられたカオスは、恍惚とした抑揚で周囲の魔人の気配を探る。

 

「コラ」

 

「あいた」

 

「これ以上の厄介ごとを探すんじゃない、そしてそれよりも……グフフ」

 

 カオスを地面に放り投げると、ランスは右手を口元に当てながらいやらしい笑みを浮かべながらオルガマリーを見た。

 オルガマリーは地面にへたり込みながら周囲に当たり散らし、そんな彼女をマシュと立夏が宥めていた。

 

「おっ、何心の友、もしかしてやっちゃう感じ?」

 

「とーぜん、俺様は彼女の命を救った。 つまり彼女は俺様に惚れている、だからヤる!」

 

「惚れてるかどうかはちょっと怪しいかな~……って行っちゃったよ」

 

 ランスはうきうき気分で、スキップをしながら鼻歌交じりにオルガマリーへ近づいていく。

 オルガマリーの気分などつゆ知らず、彼女の前に立つと声をかけた。

 

「さぁオルガマリーちゃん、敵は居なくなったぞ! というわけでセ〇クスだ!」

 

「は?」

 

「………………はい? あの、ランスさん──?」

 

 いきなりの発言に、オルガマリー、マシュ、立夏が固まった。

 

「う…………」

 

「う?」

 

「五月蠅い! この馬鹿、アホ、間抜け、強姦魔、殺人鬼、屑、火付け泥棒!!」

 

 固まっていた三人の中で、一番最初に顔を上げて言葉を発したのはオルガマリーだった。

 彼女はランスに罵声を浴びせながら、大空洞に転がる石を手当たり次第にランスへ投げつける。

 

「おわ、いてっ! な、何をする!」

 

「五月蠅い五月蠅い! 最初に会った時から私の事を襲おうとして、挙句にレフまで殺して私のカルデアスに何かよくわからないのぶつけるし……何なのよあなた!」

 

 オルガマリーの顔は涙で濡れていた。

 両手で交互に石を投げつけながら、只管に嘆き続ける。

 

「お父様が死んでからずっとそうだった、どんなに頑張っても誰も認めてくれない、愛してくれない! 私は──私はまだ誰にも愛されてないのに!」

 

「…………」

 

 気まずそうな表情で、ランスは頬を掻いた。

 

「なのに──私、もう死んでるなんて…………いっそ、あのまま死んで──」

 

 彼女の台詞を遮る様にランスの拳骨が、オルガマリーへ落ちた。

 

「馬鹿者」

 

 ランスはしゃがみ込むと、彼女と目を合わせた。

 

「軽々しく死ねばよかったとかそういうことは言うんじゃない、折角可愛いのに」

 

「でも、私はもう死んで………」

 

「オルガマリーちゃんは此処に居るじゃないか、死んでるなら体にも触れない筈だぞ」

 

「それは、だから今の私は残留思念で……」

 

「でも今は生きてるんだろう? 自分で考えて自分で動けるんなら生きてる以外に何だと言うのだ」

 

 そうして、ランスは右手を彼女の頭に乗せると二度ぽんぽんと軽く叩いた。

 

「ほら、やっぱり触れるし生きてるではないか。 あんな奴の言う事なんて聞かなくてもいいのだ」

 

「聞かなくても……いい?」

 

「うむ、それに誰にも認められてないとか言うが俺様はちゃーんと認めてるぞ、更には愛してもいるぞ!」

 

「本当……?」

 

「ガハハハハ、本当だ本当。 英雄の俺様が嘘を吐く筈無いだろう」

 

 オルガマリーの両目から、再び大粒の涙が零れ落ちた。

 彼女はランスの胸に倒れ込み、泣いた。

 衆目も気にせず、今までの地位やプライドも気にせず。

 積もり積もった何かを溶かすように、大声で。

 彼女が泣くのを、誰も邪魔しなかった。

 

「と、とりあえず!」

 

 三十分後、オルガマリーは急にランスの胸から離れると立ち上がり声を上げた。

 

「ん? おぉ、もう泣かなくていいのかオルガマリーちゃん」

 

「ふん、調子に乗らないで。 ちょっと弱い所を見せたからってあなたの事は信頼も信用も一切してませんから」

 

「ガハハハハ、さっきまで俺様の胸でえんえん泣いてた癖に何を言ってるのか」

 

「オルガマリー所長……その、大丈夫ですか?」

 

 立夏とマシュは、急に立ち上がり健気に振舞うオルガマリーへ心配そうに声をかける。

 

「問題無いわ、とりあえず貴方達はさっき指示した通りあの水晶体を回収してきなさい」

 

「は、はい!」

 

「行きましょう先輩、所長の事はランスさんにお任せした方が良い気がします」

 

「うむ、お邪魔虫はさっさと行け行け、俺様達はこれから仲良くするのだからな……グフフフ」

 

 ランスは立夏を追い払うように手を動かすと、再び口元に手を持っていき笑みを浮かべた。

 

「…………あなた」

 

「ガハハハハ! さぁそれではお楽しみタイムだー!」

 

「残念だけど、それは無理みたいね」

 

「何ぃ? この期に及んで俺様からの誘いを断る──」

 

 オルガマリーは首を横に振って、ランスの足元を指差した。

 

「ん? 何? 足元?」

 

 ランスの足元から、金色の光が立ち上っていた。

 

「ぎゃーーー!! お、俺様の体がーー!」

 

 続いて、大きな振動が大空洞を襲った。

 

「なんだぁ!?」

 

 オルガマリーとランスはあまりの揺れに体勢を維持できず、地面に膝を突く。

 

「大変だ! その洞窟、というより特異点に揺らぎが発生してる! もしかしたら特異点が消えるのかもしれない!」

 

 大空洞の中に、ロマニの声が響き渡った。

 

「なにーーーー!?」

 

 ランス達から離れた場所で、共に身を寄せ合うマシュと立夏が居た。

 立夏は身を縮こませ、マシュが天井から降り注ぐ瓦礫から立夏を守っていた。

 

「不味いわね……ロマニ、直ぐに緊急レイシフト!」

 

「って言われても……ど、どっちからです!? 距離が離れすぎていて全員同時は──」

 

「決まってるでしょう!」

 

 オルガマリーは自らの横に浮かぶウィンドウ上のロマニへ向かって叫んだ。

 

「あのマスター候補、藤丸立夏とマシュからよ!」

 

「で、でも所長はどうするんです!?」

 

「まだ特異点が崩壊すると決まって訳じゃないわ、するとしても時間的猶予がある筈です。 ……余裕が出来たら、探しに来なさい」

 

 そう言うオルガマリーは、穏やかな笑みを浮かべていた。

 先ほどまでの諦めではなく、未来への希望を感じさせる笑顔だった。

 

「お、俺様はどうするんじゃー!」

 

「安心しなさい、恐らく元居た場所に帰るだけよ」

 

「なにぃー!? まだオルガマリーちゃんもマシュちゃんも抱いてないんだぞ! 俺様は絶対かえらーん!」

 

 そういうランスの体は、既に膝まで消えていた。

 ランスは消えゆく体に焦りつつも、鎧を脱ぎ始める。

 

「あなた、本当に性欲に正直ね」

 

「ガハハハ、可愛い女の子が居たらエッチしたくなるのは当然だろう」

 

「軽蔑するわ、心底」

 

 こんな状況でも、己の欲望を優先するランスにオルガマリーは呆れた表情を見せる。

 

「所長、レイシフトの準備完了しました。 これより──」

 

「形式的な説明はいいわ、さっさと藤丸とマシュをカルデアに戻しなさい」

 

「…………分かりました。 所長、月並みですが──幸運を」

 

 ロマニが映ったウィンドウが消え、遠方に見える立夏とマシュが青い光に包まれ消えた。

 

「幸運を、ね」

 

 二人が消えるのを見届けたオルガマリーは、自嘲気味にそう呟いた。

 彼女もまた理解していた。

 恐らく先ほどレフが自らに言った言葉は真実なのだろうと。

 そしてそれはロマニも理解しているのだろう、だからこそそんな気休めを言ったのだ。

 

「だーーー、俺様のハイパー兵器まで消えてるー! えぇい、こうなれば胸の一揉みかキス位は絶対に──」

 

 そんなオルガマリーの気持ちは全く関係ないと言わんばかりに、ランスは焦った表情で下半身が消えたままオルガマリーへ腕を伸ばしながら近づいていく。

 

「ガンド」

 

「ぎゃーーーーー!」

 

 蚊取り線香に当たった蚊が地面に落ちるように、ランスはオルガマリーの魔術で地面にぽとりと落ちた。

 

「最後までブレないわねあなた、英雄ってそういう要素が必要なわけ?」

 

「うぐぐぐ……お、おっぱい……」

 

 後もう少し腕を伸ばせばオルガマリーに触れるという距離で、ランスは地面で蠢いていた。

 

「…………性格は見下げ果てたけど、今回は色々助かったわ。 英霊なんて使い魔と同じだと思っていたけれど──」

 

 しゃがみ込み、オルガマリーはランスの手を取った。

 

「ありがとう、助かっ──!?」

 

 そう言って、オルガマリーは頭を下げようとした所をランスに無理やり力づくで引き寄せられる。

 ランスはそのまま顔をオルガマリーの顔と同じ高さに持っていくと、ほぼ顔面同士の激突の様な口づけを行った。

 

「ガハハハハハハ! オルガマリーちゃんの唇ゲットーーーー!」

 

「────────ッッ! ガンドーーー!!」

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 大空洞の中に、ランスの悲鳴が木霊した。

 この悲鳴は、この特異点が消滅するまで響き続けた。

 ランスの悲鳴に掻き消される、オルガマリーの笑い声と共に。

 

 

 




【プロフィール4】
このサーヴァントは元来地球の歴史に存在しない人物である。
元々は別の世界から現れた際に、英霊の座が世界を救いうる特効薬的存在として登録した物である。
だが宝具の性質上、最早特効薬ではなく劇薬の様なものであり死蔵されている様な状態となっていた。
このサーヴァントが召喚に応じるには召喚者が女性、あるいは女性に関する願いをしている事が必須条件である。
男性が召喚者の場合は生前のランスとの縁が無ければ絶対に呼び出しに応じることは無い。


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世界は救わない物語(完)

https://www.youtube.com/watch?v=yxV_600wffA
RanceX OST 64 - the end


 地球ではない、どこか──。

 ここは人の立ち入れぬ聖域。

 神の領域。

 その入り口の先、長い長い回廊を抜けた先には白い巨大な何かが鎮座していた。

 あまりに途方もなく巨大すぎて、一見しただけでは誰もそれが生物とは思わないだろう。

 

「……………………英霊ランス、消滅を確認しました」

 

 老婆は自らの隣に鎮座する白い生物に対し、臆することなく声を掛ける。

 

「あぁ…………」

 

 白い生物はその巨大な瞳を老婆へ向けると、子供の様にクスクスと笑い声をあげた。

 

「くすくす…………くす……今回も面白かったね、あのぷちぷちは…………」

 

「えぇ、ランスですから」

 

 老婆はくすりと微笑を浮かべると、先ほどまで眼下に映っていた冬木の光景を思い出す。

 ランスと老婆が共に冒険していた頃の様に活躍する彼の光景に、老婆は嬉しさが込み上げるのを感じていた。

 

「若い頃を思い出します」

 

「くす……」

 

 二人は過去を懐かしむように談笑する。

 彼らにとってランスの活躍は心底嬉しい物の様に見えた。

 

「それでは、座からランスの魂を回収しましょう」

 

 二人は一頻り語らい合うと、老婆が神妙な面持ちでそう言った。

 

「死後、こちらの世界から奪い去られた彼の魂を回収し再び輪廻の内に戻す」

 

「…………………」

 

「よろしいですね?」

 

 老婆は強い眼差しで、赤い瞳を見た。

 それは何を考えているのか、老婆の問いかけに長い間答えを返さなかった。

 

「(もっとも、ランスの魂を回収しても行く先は地獄ですが……)」

 

「…………くすくす」

 

 長い沈黙の後、再び笑い声が目の前の生物から帰ってきた。

 

「あのぷちぷちの魂は…………暫くあっち側に貸しておこうよ」

 

「まだ、彼の活躍が見たいのですね? ──創造神ルドラサウム」

 

 白い生物はとても面白い事が思いついた、というような表情で。

 まるで自らの母親に提案する様に、そう言った。

 老婆はその提案をにっこりと笑って、頷いた。

 

「実は、私もまだまだ見ていたいのです。 あの人の活躍を…………」

 

「くす…………くすくす、決まりだね…………」

 

「えぇ、ですが見ているだけではなくこちらからも少しこういった遊びをするのはどうでしょう」

 

「くすくすっ…………はは…………それはいいね…………」

 

「えぇ、存分に楽しみましょう。 こちらの世界もあちらの世界も……あなたが思う以上に楽しいのですから」

 

 飽きることなく二人は次の遊びを相談し、盛り上がる。

 

 

─────────────────────────────────────

 

 かくして、英霊ランスが座から抹消される事態は回避された。

 しかし彼の宝具使用により、世界は確実にあるべきだった歴史からその軌道を外れていくこととなる。

 聖女と聖杯により作られた、男の願いを背負う聖女との闘いの歴史では……。

 

「魔人エリザベートよ! ロックに決めるわ!」

 

 カルデアスとの衝突により砕け散った魔血魂を拾い食いした英霊が。

 また四方を海で囲われた世界では……。

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

「リトル! こちらの世界の英雄を止めるわよ!」

 

 ギリシャの大英雄と、それに匹敵するであろう魔人が。

 現代に程近い時代、アメリカ大陸では……。

 

「うん、それではちょっと殿に行ってくる」

 

「せ、戦姫さん!? 無茶ですよ!」

 

「あー……良い良い、暫く子守りばっかりでこういう死が身近に迫るギリギリの負け戦してなかったからな」

 

「いや、勝つさ。 今は負け戦かもしれないがランス、そして藤丸とならな」

 

「お、俺様をそんな信頼に満ちた瞳で見るな……」

 

 薙刀を持った女性が。

 そして、神代の時代では……。

 

「ティアマト……魔王ククルククルに変生します!」

 

「俺はただ強くなりたかったんだ……。 ちっぽけで、臆病で、最弱のリスが……身の程知らずにも思ったんだ」

 

「おーおー、こりゃぁ……魔王だ! 魔王ククル・ククルだぞ心の友!」

 

「ククルククルになりたいと……ああっ! ああっ!そうだ! 誰よりも!何よりも強く!ただ強く! おれは誰だ!?魔人筆頭ケイブリス!? 」

 

「嬉しそうに言うな駄剣! おいケイブリス、お前逃げるんじゃないぞ!」

 

「違う!!!! 魔物王ケイブリス! この世で最も強く────ククルククルすら越える男の名だぁぁぁぁ!」

 

 魔王と融合し、文字通りの意味での変生を果たしたティアマトと。

 その魔王が最初に産み出した原初の魔人。

 ……こうして、ランスの影響によって確実に全てが変わってゆく。

 これから先の世界がどうなるか、それは神も知らない物語。

 

「ガハハハハ! 世界の結末なぞ知らーん! 俺様は俺様の女を虐める奴を殺すだけじゃー!」

 

 これは、自らの欲望によって戦う男の……世界は救わない物語。

 

 

 




【プロフィール5】

一度地球に現れた際に座によって登録されたランスだが、彼の知識や経験が入った魂を回収することはできなかった。
故にガイアは彼がルドラサウム世界で死ぬのを待ち、死後魂を回収した。
結果としてランスは座に英霊として正式に登録されることとなったが、魂を輪廻に戻すことが出来なくなったクルックーとルドラサウムは切れた。

結果として今回の騒動がランスの面白さを再び異星の神ルドラサウムに示すことに繋がり、彼の魂は暫く座に残ることとなる。
だが宝具によって地球のテクスチャをルドラサウム世界に塗り替えていく彼は、魔神王の怒りを買う事にもなるのだが……。

この大英雄ならば、きっと何とかしてしまうのだろう。


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