ゼロの合奏曲 (アザリア556)
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ルイズ⇔エミル




トリステインの魔法学院。

 

その女子寮の一室で、一組の男女が一夜を共にしていた。

 

一人はその部屋の元々の住人である桃色髪の女子生徒。

 

もう一人は、同年代くらいに見える少年。

 

しかし、生徒ではない。

 

使い魔召喚の儀(サモン・サーヴァント)によって召喚された、どこの誰ともわからない少年。

 

自分のベッドに少年を寝かせ、その隣に座った少女は、心配そうな顔で小さく(つぶや)いた。

 

 

「いい加減……起きなさいよ。私の、使い魔でしょ……」

 

「うーん」

 

「っ!起きたの!?」

 

少年の声を聞き、その顔色を伺おうとのぞき込んだ少女は、

 

「……えへへ♪」

 

「へっ!?ちょ、ちょっと!何するの!?」

 

寝ぼけた少年に引っ張られ、少年の上にいた少女はグルンと反転し、組伏せられる形に……。

 

「……マルタ~♪」

 

「マ、マル…?だ、誰よ!ちょっと!ん~!?」

 

二人の唇が重なった。

 

 

数時間前。

 

「先生!」

 

「いい加減にしてくれよ!」

 

「さっきからボンボンボンボン!爆発してばかりじゃないか」

 

「そろそろ夕方だぜ?」

 

「お茶をしに行きましょう」

 

「もう退学にしてくれよ先生!」

 

「やめちまえ!」

 

「「「ゼロのルイズ!」」」

 

「うーむ、ミス・ヴァリエール。召喚はまた後日に……」

 

「も、もう一度だけ!先生!もう一度だけ召喚をさせてください!」

 

「はぁ……もう一度だけですぞ」

 

「勇気は夢を叶える魔法……よし。我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。………ペンタゴン……使い魔を召喚せよ!………助けて」

 

バァァン!

 

「結局失敗かよ!」

 

「待って……なにかいる」

 

「タバサ?」

 

「やった……やったわ。出来た、召喚成功よ!」

 

「はしゃいでるところ悪いけど、ルイズ、使い魔ってアレ?」

 

「……倒れてる」

 

「マントがないぞ?平民か?」

 

「いや、あの爆発で破れたんじゃないか?」

 

「確かになにか布が落ちてるな」

 

「しかしあんな格好、王都にいる平民でももう少しマシな服着てるだろ」

 

「やはり平民か……そうじゃなきゃ、没落貴族の子供だぜ」

 

「さすがゼロのルイズだ」

 

「「「ハハハ……」」」

 

「ううう……先生、召喚をやり直させてください!」

 

「そ、それはできません。ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚は神聖な儀式……それにやっと出来た召喚ですぞ。この少年が目を覚ましてから……」

 

 

「……キス、しちゃった。キスしちゃった。平民……平民よね?でも、使い魔だし。これは契約。契約、そうよ契約よ!……できたんだ。初めての魔法。私の、私の魔法……えへへ」

 

バン!バン!

 

気持ちが高ぶった少女は、枕を壁に叩きつけた。

 

ガチャッ!

 

「ちょっと、ヴァリエール!うるさいわよ!」

 

隣の部屋から顔を出した赤髪の女子生徒は、まるまって震えている同級生を発見した。

 

「えへへ……」

 

「……何があったか知らないけど、いっちゃってるわね。その顔で外に出たらどんな男からも引かれるわよ、ヴァリエール」

 

「何よ、ツェルプストーはお呼びじゃないのよ!」

「あ、その子の手にルーンがあるわね。ふーん、したんだ。お堅いトリステインのヴァリエールが?」

 

「契約よ!」

 

「契約でも男でしょ?うーん、随分かわいい子ね」

 

ツン。

 

頬に触れるキュルケ。

 

「私の使い魔に触らないで!ツェルプストー!」

 

「何よ?いいでしょ?この子を運んだの、私よ?」

 

言い合いを始める二人。

 

だが、

 

「う、うわぁぁぁー!!」

 

少年がうなされ、飛び起きた。

 

 

 

「そうか、契約できたかね。ミス・ヴァリエール」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「失礼します。オールド・オスマン」

 

「おお、ミスター・コルベール」

 

「写してくれましたか?ルーンは……これですか。ふむ……」

 

「後にせんか。君は気になりだすと周りが見えなくなるのう。ともかくじゃ、ミス・ヴァリエールの進級を正式に認めよう。おめでとう、ミス・ヴァリエール」

 

「あ、ありがとう……ございますっ」

 

「泣かんでも良いじゃろう……よかったのう」

 

「だって……もし、進級できなかったら、退学になってしまったら、母様やエレ姉様に……怒られるし、これ以上失望させたくなかった……」

 

「そうかそうか……」

 

「ミス・ヴァリエール……」

 

「ミスター・コルベール。 お主の涙なんぞ見ても、誰も得をせんぞい」

 

「な、なんですか、オールド・オスマン。私は、私の生徒である彼女が……」

 

「あー、やめんか。そんなんじゃから、その歳で独りもんなんじゃ。時間があればあんな狭い小屋に閉じ(こも)って。本当に毎日、風呂に入っておるのか?正直臭うぞい」

 

「な、オールド・オスマン!あなたという人は。女子生徒の前でそんなことを言わなくても良いでしょう!?」

 

エスカレートするおじさんと老人の言い合いは、罵り合いに発展し、少女はたまらず、

 

「あの、オスマン学院長、コルベール先生」

 

止めに入るが、女子生徒一人にどうにかなるものでもなく……。

 

「うるさいわい。わしの見つけてくる秘書に、毎度毎度、鼻の下伸ばしておるくせに……」

 

「そ、それはあなたが彼女達を困らせるからでしょう!皆さん私に相談に来るのですから!」

 

「そうかのう?この前、王都に食事に誘っておったようじゃが?」

 

「な、なぜ知って……それですか!他人のプライベートを覗くなど、恥を知れ!……とあなたでなければ言って決闘を仕掛けているところですよ」

 

「恥ずかしいのは見ているこっちじゃ……初々しい恋模様をそれ相応の歳をとったもんが、それもこんなコッパゲがなど気色悪い。見せられるこっちの身にならんか」

 

「何ですか!そんなもの他人の自由でしょう!だいたい、あなたが彼女のお尻を触るから辞めてしまったんですよ!」

 

「せっかく上手くいっておったのに……か。それこそ気に入らんわ。わしを差し置いて……」

 

「し、失礼します!」

 

バタン!

 

聞くに耐えない話に、少女は学院長室を飛び出した。

 

 

飛び起きた少年の叫び声を聞いた女子生徒達は早朝に目が覚め、声の主を探し出し、

 

結果、少年は多数の女子生徒に囲まれることになってしまった。

 

「あっ、あの子」

 

「ルイズが呼び出した……」

 

「かわいいかも」

 

「平民でしょ?」

 

「私の弟と取り替えたい」

 

「顔は整ってるかな、クラスの男子より……」

 

女子の雑談会が始まってしまうが……

 

「私の使い魔から離れなさい!」

 

使い魔である少年の主の登場で、場が静まる。

 

「勝手に歩き回らないで!私の使い魔の自覚あるの!?」

 

「ご、ゴメン。ル、ルイズ……だったよね」

 

「あら、ヴァリエール、遅いお目覚めね」

 

「ツェルプストーは黙ってて!それで……」

 

少年を真正面から見つめて、赤面し言葉を言い淀む主。

 

彼女を差し置いて口を開いたのは、少年を昨日部屋に運んだ青髪の小さな少女だった。

 

 

「名前」

 

「えっと……エミル。エミル・キャスタニエ」

 

「姓氏があるってことは貴族なの?」

 

「そのボロからして、没落貴族かあ……」

 

「あなた、玉の輿狙い?」

 

外野が反応を示すが、それを無視し、

 

「どこから来たの?」

 

少女が学院で唯一の友人だと認める赤髪の少女が続く。

 

「えっと……テセアラ、いや、パルマコスタ?ルインかな?」

 

「どこ?」

 

「聞いたことある?」

 

「知らない場所ね」

 

「……行くわよっ!」

 

「えっ?うわわっ!?」

 

現在の状態……女子生徒に囲まれる少年の図に気付いた主は、我慢ならないようで、少年の手を掴んでそこ……女子寮の外にある広間を走り去った。

 

「タバサ、気になることでもあった?」

 

「……魔力量が多すぎる。人間じゃない」

 

「エルフ……の耳じゃなかったし、亜人ってこと?」

 

「……精霊、かもしれない」

 

「嘘でしょ!?」

 

「嘘じゃない。水の魔力の塊を連れた青年を見たことがある」

 

「なによそれ?……青年?かっこよかった?」

 

「……イケメン。メガネ男子」

 

「ふーん。会ってみたいわねその男……タバサのタイプ……はイーヴァルディの勇者だから、凄腕の剣士よね?ちょっと違うわね」

 

「リヒター」

 

「え?」

 

「青年の名前」

 

「知り合いなの!?紹介してくれない?」

 

「どこにいるかわからない。神出鬼没」

 

「はぁ……それじゃ無理ね」

 

「……契約したその精霊とできてる」

 

「えっ!?あなたがそんなこと言うなんて……その男のこと好きなの?好きなのね!?」

 

「……違う」

 

「嘘言いなさい。親友と同じ人を取り合う、かぁ。ちょっと気が引けるけど、それでこそツェルプストーよね。ねえ、タバサ……あれ?いない。どこいったのかしら?」

 

 

学院の食堂。

 

いつものごとく、男子が数人集まり駄弁っていた。

 

「今度は誰と付き合うんだ?」

 

「何股だよギーシュ!」

 

「そうだ、うらやまけしからん!」

 

「一人くらい紹介してくれよ」

 

そこに、使い魔の少年が通りかかる。

 

「あの、落としましたよ?」

 

「ん?君は……?いや、これは僕のじゃない」

 

「そ、そうですか?こちらのハンカチも?」

 

「それ、モンモランシーの香水、そっちはこの前の遠乗りでペアで買った一年生とのお揃いだって自慢したやつだろ?」

 

「ギーイィシュゥゥ!!」

 

「ヒィィ、モンモランシー?今の話は、その……」

 

「ギーシュ様……。やはりミス・モンモランシーと……」

 

「ケティ!?ち、違うんだ!僕は……」

 

「この浮気者がぁ!」「ミス・モンモランシーとお幸せにっ!」

 

バシャッ!バシャッ!

 

ワインがぶっかけられる。

 

「二人がいるこの場で話すとか、ギーシュ、君はバカだろ」

 

「プッ」

 

「わ、笑ったな平民!だいたい、君が拾ったせいだぞ!責任をとってもらう」

 

「はぁ」

 

「責任ってギーシュお前」

 

「さすが軍人のグラモン。衆道もたしなむか(笑)」

 

「ち、違!君たち!何を考えているんだ!」

 

金髪の少年が叫ぶが、彼をバカと評したメガネをかけた少年が使い魔の少年に話しかける。

 

「君、ルイズの使い魔君だよね。名前は?」

 

「エミル・キャスタニエです」

 

「姓氏?貴族かい?」

 

「あー、そういえば誰かが没落貧乏貴族だって……借金のかたに買われたんだろ?」

 

「それで、ヴァリエールの使い魔、奴隷君か」

 

「背も低い、肩幅も……小さくてちょっとかわいいからね、君」

 

「おい、お前もギーシュと同じ男色仲間か!」

 

「お互い、尻には気を付けないとな」

 

「「君たち!」」

 

「「ハハハ……」」

 

貴族の少年達は勝手に行ってしまい、少年が残された。

 

「そういえば、なにも食べてない……お腹空いたなぁ……」

 




その後、

貴族だと思われた少年は賄いを食べられなかったが、貴族の少年少女と話すようになり、決闘も起こらず、平和に暮らした……。

「なんてことじゃ、物語が続かないよ!」

「なに叫んでいるの、エミル?」

「私と同じ声……?あ、あなた誰よ!?私の使い魔に近づかないで!」

「あなたには関係ない。ねえエミル♪好きって言って♪」

「マルタ!?今は不味いよ!」

「エミル~♪寂しかった~♪」

☆★

二人の抱擁。

それを離れたところで見ている女子生徒達は……。

「うわっ、躊躇なく腕を回して……大胆ね」

「あの子誰?」

「彼女じゃない?」

「彼女ありではファーストキスでもなければヒストリーもありえない」

「あ、ヴァリエールが震えているわね」

「キレた」

★☆

「こ、この……!犬!発情犬!やっぱりやり直す!こんなの私の使い魔じゃないわ!」

「錬金!!」

ドオォォン!

「こんな、ば、爆発オチはひどいよおぉ!」

「エミル!生まれ変わっても!結婚しようね!夫婦でいようね!」

「マルタ!こんな時まで……」

「錬金!錬金!れ・ん・き・ん・っ!!」

ドオォォン!ドオォォン!ドオォォン!!



終わった!


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ルイズ⇔エミル

1巻後編。


奇跡の石。

 

そう呼ばれるものが存在する。

 

装備すればメイジのランクを飛躍的に上げるとされ、平凡なドットから優秀なトライアングルへ、簡単になれるという。

 

魔力を司るもうひとつの月からもたらされたとも言われているが、ただの石だとする学者もいた。

 

そしてそれがこの学院にあるという……。

 

「それがあれば、私も魔法が使えるようになれる……?」

 

本日の授業でも失敗に終わったルイズは、この公然の秘密、学院七不思議に、淡い期待をかけようとしていた。

 

「なに?ルイズ、何の話?」

 

「な、何でもないわ!明日は虚無の曜日よ。王都に買い物に行きましょう」

 

「虚無の曜日?休日かあ。でも王都って、結構遠いんだよね?何か欲しいものがあるの?」

 

「あなたのものよ。まずその服を何とかしなさい!貴族の証のマントもボロボロだし……」

 

「いや、これは外で寝るためのものだよ。旅をしている時は野宿もするし、いいよ。ルイズが買いたいもの、買えなくなると悪いし……」

 

「そんなのダメ!私の使い魔がそんな惨めな姿をしてたら、私が粗末に扱っているって思われちゃうでしょ!?」

 

「惨めって……」

 

「そんなの着てるのは貧乏人くらいよ。下手したら囚人だわ!惨め以外の何でもない。贅沢はダメだけど、必要なものは与えるわよ。で!も!あなたの言うとおり、今月のお小遣い削って買ってあげるんだから、感謝しなさいよね!」

 

「あ、ありがとう……」

 

「ふ、ふんっ……わかればいいのよ。もう馬を借りる予約しちゃったし……」

 

 

王都トリスタニアに着いた二人。

 

 

「ちょっと!渡した財布、すられないように注意しなさいよ!」

 

「そんなに言うならルイズが自分で持ってよ……」

 

「貴族は従者に荷物を持たせるの!さっきからビクビクして!情けないこと言わない!男でしょ!」

 

「……前にも言われたなあ、マルタに」

 

「マルタって、前の主人?」

 

「そういう風に言えなくもないかな?」

 

「うう……その人、魔法使えるんでしょ?」

 

「うーん、傷の回復はお世話になったよ」

 

「回復?治療よね?治療ってことは水ね……やっぱりその人が忘れられない?」

 

「……ううん」

 

「嘘!聞いたのよ!寝言で名前を口にするくらい、好きなくせに。私のこと、恨んでるでしょ!」

 

「る、ルイズを恨んでなんて……」

 

「嘘ばっかり!私を(あわ)れんでいるんでしょ!?ゼロだから!魔法が使えないから!」

 

「ダメだよ、自分を」

 

「っ……!

 

エミルはルイズの肩を掴み、自分の方を向かせ、二人の目が合った。

 

その時……。

 

「あら、こんな人の行き交う場所で、見せつけるなんて、お熱いのね?ヴァリエール?あなたの言うトリステインの淑女が持ってるという貞淑はどこへやったのかしら?この暑さで頭がやられたの?」

 

「ツェルプストー!何でいるの!?」

 

「居ちゃいけない?私の友人のタバサの使い魔に乗せてきてもらったのよ?」

 

「そんなこと聞いてない!ついてこないで!」

 

「うわぁぁ!!」

 

ルイズに腕を掴まれたエミルは、知らない街をゆっくり眺めることもできず、走らされるはめになった。

 

 

「狭い。ここどこ!?」

 

「あれはピエモンの秘薬屋ね」

 

キュルケ達を()こうと走った二人は、気付くと路地裏にいた。

 

「剣のマークがあるね。武器屋?」

 

「そうね」

 

「どんなものがあるか見てみたい」

 

「ええっ?剣なんて平民がつかうものよ!?」

 

「いや、僕、魔法使えないし……剣なら使えるとおもうけど」

 

「それじゃ平民じゃない。まさか……私の嫌いな、お金で爵位を買えるゲルマニア人じゃないわよね!?」

 

「はぁ、はぁ。見つけたわよルイズ!」

 

「何よキュルケ!ゲルマニアンが!他人の使い魔にまで手を出す気なの!?熱がどうとかって、あなたの方でしょ!」

 

「まあ私のふたつ名は微熱、微熱のキュルケだけど。私たちが用があるのはこの子じゃないわ。青年よ」

 

「そう。人を探している。名前は……」

 

その時、周りの人々が騒ぎだし、一斉に家屋に身を潜めた。

 

「ディザイアンだ!悪魔が現れた!隠れろぉ!」

 

「狩られる!平民狩りが!」

 

「え?ディザイアンってあれだよね?何でここに!?」

 

「平民狩り。その名の通り、ディザイアンと呼ばれる者達が、何人かで平民を拐っている」

 

「みんな、特にルイズは危ないんじゃ……」

 

「大丈夫よ。魔法が使える貴族は狙われないわ」

 

「でも、僕……」

 

「この国の貴族でトップのヴァリエール家の娘のわ・た・し・の使い魔、従者を狙うなんてありえないわ」

 

「ある程度の相手なら倒せる」

 

「まあ、男の子としてはちょっと気に入らないかもしれないけど、私たちが守ってあげる。ついでにルイズも……って、えっ!ちょっと!どこにいく気なの!」

 

「や、やっぱり、放ってはおけないよ!」

 

「待ちなさい!エミル……!」

 

 

「魔神剣!」

 

「がはっ!ガ、ガキっ!」

 

「なんだと!?貴様!仲間を!」

 

「そ、その人たちを放せ!」

 

数人のディザイアンのしたっぱを一人で蹴散らすエミル。

 

「ヒュ~♪やるわね、あの子」

 

「す、凄い!どんどん倒してる!エミル!」

 

「イーヴァルディ……」

 

その姿に、止めるために追いかけていたはずの三人は見とれてしまっていた。

 

「ルイズ、ルイズ!」

 

「……はっ!エミル?」

 

「うん、僕。片づいたよ」

 

「坊主、見てたぞ!」

 

「やるもんだねえ」

 

「礼だ、持ってけ!」

 

「うちの商品、見ていくか?」

 

「あ、あの……」

 

「遠慮するな、今回は金は取らねえよ!」

 

「久しぶりにスカッとするもん見たからな」

 

「そ、それじゃ……」

 

「エミル!待ちなさい!」

 

「まあ……結果的に、これで良かったんじゃない?」

 

「………イーヴァルディ」

 

「タバサ……?いつまでそうしてるの?かえってきなさい。さーて、私たちも便乗しちゃおうかしら?」

 

 

魔法学院に帰ったエミルは、学院の食堂裏にある厨房で料理長とメイドたちに囲まれていた。

 

「王都で平民狩りだなんて……」

 

「それもそうだが、それよりなにより、それを助ける貴族様がいるたあな……。それにお前にそんな気概があるとは思っちゃいなかった。見直したぜ、おい!名前は!?」

 

「エミル。エミル・キャスタニエです」

 

「そうか!エミル、今日からお前は我らの剣だ!手抜きじゃねえ、俺の自慢の料理を出してやるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「平民に感謝する貴族様ってのは、聞いたことねえな。この国出身じゃねえんだったか?」

 

「お優しいお貴族様なんですね。エミル様!わ、私も精一杯、心を込めてお世話します!」

 

「あーっ!シエスタ!抜け駆けした!」

 

「早い者勝ちですっ」

 

「ミスター・キャスタニエ。私が!」

 

「エミル様!私を選んでください!」

 

「あ、あの!どうしてそんなこと言うの?僕は君たちに何かしてもらう様なこと、何もしてないのに……」

 

「謙虚なやつだな!それだけ俺たちにとって、お前かしたことは大きいことなんだよ!」

 

「それに……かっこいい男の人に助けられるなんて、女の子はみんな憧れちゃいますから!」

 

「そうです!それが見ることもないお姫様が、とかならともかく、隣にいる子がそんなことになったら、みんなうらやましがるに決まってます!」

 

「そ、そうなの」

 

「ですから、お洗濯も、お給仕もします。なんでも言ってくださいね」

 

こうしてトリスタニアの平民の間に知られる存在となった……。

ちなみにこの時のこと、女の子に囲まれてたことがルイズの耳に入り、散々文句を言われたあげく、使い魔の自覚があるのか問われ、従者として1からやりなおし……。

 

 

そんなことで済んでいたなら、大団円でよかったのだが……。

 

「結局、買いたいものは何も買えなかったわ。どうするのよ!?」

 

「どうするって言われても……どうして入店を断られたの?」

 

「あなたのしたことよ!ディザイアンの報復を(おそ)れた貴族たちは、関わらないように私たちを避けたの」

 

「そんな……」

 

 

その翌日。

 

ルイズの予想は的中し、ディザイアンは学院にまで来ていた。

 

それも、

 

「ここに、我らが同胞を傷つけ、殺したものがいるだろう。その者を出せ!その者を引き渡せば我々はこれ以上手を出さない。だが……」

 

人質をとって……。

 

 

学院長室。

 

「平民など放っておけばよいものを!まったく面倒なことをしてくれた!」

 

「これはあの使い魔の責任です!学院は巻き込まれただけだと彼らに……」

 

「悪魔に言葉など通用するか!これで余計な犠牲が出る。あの愚か者のせいで!」

 

「オールド・オスマン!使い魔を引き渡しましょう!」

 

「それしかないな。ヴァリエール家も、あの使い魔一人のために、ディザイアンと争うような、愚かな選択はすまい」

 

「待ってください。そんなことをすれば、ミス・ヴァリエールが傷つきます!」

 

集められた教員は口々に言いたいことを言っていたが……。

 

「ミスター・コルベール。皆も、静かにせんか。とにかくじゃ、生徒に被害が出てからでは遅い。そうなれば学院の存続にかかわる」

 

 

学院始まって初めてであろう異例の事態に、学院長の決断が迫られていた。

 

『実行犯は僕だ!その人を放せ!』

 

「あれは……ミス・ロングビル」

 

「オールド・オスマン、彼女は……」

 

「……わしの秘書だった者じゃ」

 

「つまり、もう既に学院の関係者ではない、ということですな?」

 

「しかし、ミスター・ギトー」

 

「ん……?」

 

『あ、あんた……』

 

『大丈夫ですか?』

 

「なんと!あの者達を、一人で倒しおった」

 

「あ、あの動きはまさしくガンダ」

 

「ミスター・コルベール!」

 

「す、すみません!」

 

「あの少年をわしの部屋に連れてきてくれるかね」

 

「はっ」

 

「彼には一度詳しく話を聞かねばならんな」

 

 

「ディザイアン……彼らの組織の実態はわしにもわからん。なぜ人を拐うのか?スラムの者も多いと聞く、身代金目当てではもちろんないじゃろう。ただ、目的のひとつはわかっておる、コレじゃ」

 

「これは……」

 

「奇跡の石!?」

 

「え、エクスフィア!」

 

「そうか、君も、あの世界の者なのじゃな?」

 

「これは、奇跡の石……ではない。いや、そう呼ぶ者もおるが、実態は悪魔の種子……人を魅了し、蝕む、魔の石じゃ」

 

「「えっ!?」」

 

「これは奇跡の石じゃ……」

 

「この悪魔の種子はの、わしも最近、思い出すくらい昔のことじゃったが、街道に突然見たこともない怪物が現れ、わしに襲いかかってきおった」

 

「なんとか倒したが……不思議なことに怪物は涙を流しておった」

 

「その怪物は……」

 

「いや、怪物は倒れると人間になった……戻ったのじゃ」

 

「まさか……!」

 

「悪魔の種子……それは、奇跡の石と我らが呼ぶものと全く同じものだったのじゃが……人の命から出来ておる。たたられそうじゃろう?じゃからな……絶対に手を出してはいかんぞ!!」

 

「……」

 

「此度の礼として、シュバリエの叙勲を申し込んでおく。今夜はダンスパーティじゃ。お主も参加してみてくれると嬉しいが……」

 

★★

 

「ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢、おなーりー」

 

「そして、一夜にしてシュバリエ!勇敢なるかな、その使い魔!エミル・キャスタニエ!皆さん、拍手を!」

 

パチパチパチパチ!

 

 

「こんな時まで、前の主人と比べてるの……?」

 

「ち、違うよ!確かにその人だけの騎士になるって、僕が守るって言ったよ。でも!君に召喚されたから。ルイズ。君の、君だけの騎士になるって誓うから!今」

 

「約束よ!契約ね。誓いの証。ほら!」

 

「契約?証?」

 

「キスよ!察しなさ…んっ♪」

 

「これでいい?」

 

「……あなたを、私の騎士に正式に認めるわ。踊りましょう。もっと、こっちへ。二人っきりで。私、コモンマジックが使えるようになったの!私の手、放さないでね。いくわよ!フライ!!」

 

 

 

つづく………?

 

 

 

 




あとがき




召喚される前、出会い系に登録しようとしていたどこかの少年のように、犬呼ばわりされたり、乗馬用の鞭で叩かれる……。

ことはなかった。
いや、後者はおかしいでしょ




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2巻前編

アニメの設定も混じっています。


ハルケギニアに召喚されたエミルが、ここでの生活に慣れ始めた頃……。

 

「使い魔品評会?そ、それに出るの?僕が?」

 

「そうよ。何?忘れてないでしょうね!私の使い魔だってこと!」

 

自分が品評会の事をすっかり忘れていたことは棚にあげ、エミルの事を責めるルイズ。

 

「いや……あの時、騎士って言ってたから」

 

「そ、そうよ!その通りよ!あなたは私の騎士」

 

「そ、そうだね……。それで、品評会ってことは、クラスのみんなが召喚したあの、動物とか、モンスターみたいなのと、並ぶの?」

 

「そうね……エミル!あなた、剣以外に特技は?何か珍しいものを見せられないかしら?」

 

「そんなこと言われても……。前は、モンスターを従えて戦ったりもしたけど……」

 

召喚した日にあまり自己紹介もできず、エミルの事を、単なる平民だと思っていたルイズは、

 

「えっ!?そ、そんなことできるの!?」

 

「今、出来るかは、わからないよ?こっちに来てからは、試してないから……。でも、無理かな。テネブラエがいないし……」

 

「テネ、ブラエ?何?」

 

「テネブラエはセンチュリオンだよ。センチュリオンって言うのは……こっちで言ったら何かな?精霊と同じ神殿にいたりもして、モンスターを従える力があるんだけど、精霊じゃないし……」

 

よく分からない説明をそれ以上聞いていられなかったルイズは、それを(さえぎ)り、別の質問する。

 

「待って!エミルはそれと一緒にいたの?」

 

「う、うん」

 

「そ、それってエミルの使い魔?」

 

「そ、そういう言い方が一番近いかな?」

 

「それでそれで?」

 

エミルの肯定に、自分の予想が当たって先を催促するルイズ。

 

「えっ?」

 

「使い魔が従えてたものよ。どんなのがいたの?」

 

「えーと、テネブラエは闇だから、インプ?それともウルフかな?」

 

「インプ?それはよく分からないけど、ウルフって狼よね?他には?」

 

「他だと、鳥とか、虫、魚……」

 

「それは動物でしょ?もっと凄そうな、幻獣はいないの?」

 

「うーん、ラミアとか?足が蛇で頭は人。キノコや花とかの妖精。あと、スケルトンやゴーレム。そういえば、この前、王都に行った時に会った二人が連れてた火のトカゲとか、ドラゴン。全く同じ種族じゃないけど、たしか似たのが居たような……ああ、なんて言うんだっけ?首が複数の竜。あれは………」

 

「す、凄い!凄い凄い!」

 

「でも、ここじゃ無理かな」

 

「な、何で?何でよ!」

 

多くの幻獣を従えるエミルとその主である自分の姿。

 

それを否定され、反射的にエミルに詰め寄るも、

 

「だって、みんなの使い魔を従えたりしたら、マズイよね」

 

「そ、それは……じゃあどうするのよ!」

 

「人間の僕を出そうって言うのが、間違ってると思うんだけど……棄権は?出ないとダメなの?成績に関係あるとか……」

 

「成績には……直接関係はないけど」

 

「なら……」

 

「でも、出ないなんて嫌!私の騎士だって言うなら、何とかしなさい!」

 

「何とかって、使い魔についてよく知らない僕に言われても……。誰かに相談してみるとか……」

 

「他の生徒も出るのよ!?それなのにそれを話すとか、こっちの状況がバレちゃうじゃない!」

 

「無茶ばかり言って……最初から思ってたけど、本当にルイズはわがままなお嬢様だね」

 

次々と要求して自分を振り回すルイズに、少し本音をこぼすエミル。

 

「わがままで悪かったわね!どうしても出なきゃいけないの。あなたは私の初めて成功した魔法なんだからっ!それを誰の目にも、あなたが私の使い魔だとわかってもらう、絶好の機会なんだから!これを逃す手はないわ」

 

ルイズは、いつの間にか扉が開いていた事にも気づかず、まくし立てていた。

 

「あなた達、まだ部屋にいたの?」

 

「話は聞いた。あの剣舞を見せればいい」

 

召喚初日からの付き合いの二人が部屋の主と従者に声をかける。

 

「せ、積極的ねタバサ。やっぱりあたしの恋のライバル?」

 

「イーヴァルディ」

 

「それって勇者よね?」

 

「ドラゴンを倒して、最後は王女と結婚する」

 

「あれって、そんな話だった?」

 

「他にもある。でも、あの話が一番」

 

「まあ、王道ではあるわよね。何?ルイズ?」

 

ルイズは自分を無視して話し合う二人にキレ、

 

「あんた達……邪魔っ!」

 

扉の前に立つ二人を払いのけ部屋を出る。

 

「ち、ちょっと!何わざとぶつかってきてるのよ!タバサが転ぶところだったでしょ!?」

 

「大丈夫?」

 

見て見ぬふりのできないエミル。

 

「大丈夫。ケガはない」

 

「行くわよ、エミル!」

 

自分を(ないがし)ろにされたと思ったルイズは、更に不機嫌になり、

 

「うわっ!引っ張らないで!僕が転んじゃうから!」

 

「キュルケだけじゃなくてタバサまで、エミルを狙ってるなんて……。やっぱりゲルマニアンも、その友達になる女もダメね。なってないわ。慎みが無さすぎ!」

 

ここぞとばかりに不満をぶちまけるルイズは、エミルを引きずったまま品評会の会場となった、エミルが召喚されたあの広場に向かった。

 

 

 

 

品評会は終わり、夜。

 

ちなみに結果はドラゴンに乗って登場し、優雅に旋回飛行してみせたタバサが最優秀賞となった。

サラマンダーやフクロウで演技を見せたキュルケやマリコルヌも会場で拍手を受け、まずまずの結果だった。

 

そしてルイズだが、久しぶりに会う姫様に見つめられ緊張してしまい、自己紹介でかんだり、あまり貴族にウケのよくない演舞は素人には剣、棒切れの素振りとしか映らず、散々だった。

 

特別に姫様がご覧になられる今回の品評会に、並々ならぬ気合いで挑んだルイズはこの結果にかなりへこんだ。

 

 

フードで顔を隠した人物が、ディテクトマジックを使い、こそこそと不審者よろしく寮の一室に入りこむ。

 

「姫殿下!?」

 

「ルイズ。ああ、ルイズ・フランソワーズ」

 

使い魔の自覚が出るようにという名目で反省会を始めたルイズ。

 

しかし、どぎまぎして顔を紅くしているエミルをからかい始め、寝るために自分の着替えを手伝わせ、洗濯物を渡すルイズの姿があった。

 

見られようと気にもとめずに姫様の応対をすれば、言い訳なりごまかすなり、やりようがあったかもしれないが、完全にエミルの事を意識しています、という反応をしてしまっていた。

 

「こ、これはですね!あの、その、」

 

「あら?もしかしてお邪魔してしまったかしら」

 

「そ、そんな!ち、ちがいますっ!」

 

「ふふっ、冗談よ。すぐ顔を紅くして。そこまで否定なさるのですね?でしたら、そちらの彼がどのようなお方か、浅慮な私にもわかるように、紹介してくださいますか」

 

「そ、その、彼はエミル」

 

「エミル・キャスタニエと申します」

 

ひざまずき、(うやうや)しく頭を下げる。

 

「私の、つ、使い魔です」

 

「騎士ではなく?」

 

「き、聞いていらしたのですか姫様!?」

 

「いいえ」

 

「では、どうして……」

 

「聞いていたなんて、まるで聞き耳をたてるメイドのようではないですか。そのつもりはないけれど、聞こえてしまったのです」

 

「ひ、姫様っ!そんな言い分は通りませんっ!」

 

「では、違うのですか。同じベッドで一夜を過ごしたと……」

 

「お下品ですっ!姫様!」

 

「王宮の女官やメイド達の話を聞いてばかりだったせいか、すっかり私も耳年増に……汚れてしまいました」

 

「ご冗談を」

 

「これが冗談ではないのよ、残念ながら……。私、もう少ししたらゲルマニアに嫁ぐの」

 

ゲルマニア、という言葉に顔を真っ赤にしたルイズの怒りと悲しみは、姫様を不審者と思い追いかけてきて、主に見つかり、部屋に引きずり込まれた男子生徒に向けられてしばらく経つまで収まる気配もなかった。

 

 

★★

 

アンリエッタ姫から与えられた極秘任務により、内戦中のアルビオンへと向かう者達。

 

姫様から任務を受けたルイズとエミル、ギーシュ。

 

護衛を頼まれたというルイズの婚約者のワルド子爵。

 

出発から騒がしい人たちの聞き慣れた声に顔を出したキュルケとタバサ。

 

そんないつものメンバー+αは、空船の港があるアルビオンへの玄関口であるラ・ロシェールにたどり着く。

 

 

「国からの依頼だ。船を出してもらいたい」

 

「こんな状況のアルビオンに行こうなど、正気かい。それに、燃料の風石が足らないかもしれん」

 

「僕は風のスクウェアだ。足りない分は補える見込みがある」

 

「帰りの保証はできませんぜ」

 

「それは気にする必要はない。その時に考えればよいのだ。臨機応変こそ、軍人に必要なこと」

 

「それじゃ俺が困っちまうよ!」

 

何とか船の手配を一人で済ませたワルド。

 

しかし、ぎりぎりまで待つという事で、仕方なく一泊。

 

部屋割りでひと悶着あったが、エミルが遠慮して、ワルドの決めた通り、

 

ルイズ・ワルド

 

エミル・ギーシュ

 

キュルケ・タバサ

 

となったが、

 

時間をもて余すと、ワルドは突然、ルイズとエミルを広場に来るように言う。

 

単純な話、決闘だという。

 

ルールを知らないエミルに、仲間意識の芽生えたギーシュが簡単に説明してくれる。

 

お互い、杖と剣を手放せば敗けだという。

 

「多数の悪魔共をたった一人で蹴散らしたという君の力、見せてもらおう。構えたまえ」

 

元々のおどおどとした、優しい性格に加え、対人戦。

 

しかも敵でもない、ルイズの婚約者だという男に、躊躇してしまうエミル。

 

「その程度かい?噂に尾ひれでもついたか、それとも宣伝目的というところか。まあ奴らと言えど下っぱは数だけだということだな。単なるファイアーボールも、10を越えれば煩わしくなってくるものだ。僕には、魔法を打ち込む目印になるというだけだがね。いずれにせよ、君にルイズは任せられないな」

 

ルイズは任せられない。

 

その言葉に、何かのスイッチが入る。

 

「待て!待ちやがれ!」

 

「何か?もういいだろう、足手まといになられても困る。それに、今の君を痛め付ける真似をして、久しぶりに会った婚約者を悲しませ嫌われるのは本意ではないのだ。失礼」

 

「待てって言ってんだよ!髭野郎!」

 

「ゴハッ!」

 

「か、勝った?」

 

「さっすがダーリン!あそこまで言われたら、やり返さないと男じゃないわ!」

 

「水を注して悪いけど、ワルド子爵は?不味くないかい?」

 

「姿が見えないわ」

 

「そんなに飛んでいったのかしら?」

 

「それはない。アレ」

 

タバサが指し示す先には……

 

「思ったよりもやるな、君を見くびっていたか。なかなかの速さだった。僕に全力においずかる程とは……ぐっ!?」

 

胸に突き刺さり、倒れるワルド。

 

「一撃とは……なんという鋭さだ……しかし」

 

ニヤリと笑うと、その姿はかすみのように消え、

 

 

「「それまでだ」」

 

複数体のワルドの杖が、エミルの肩に当たっていた。

 

「スクウェアスペル!」

 

「ユビキタスだ!」

 

「………僕の勝ちだな」

 

分身を消すと、エミルを一瞥し立ち去るワルド。

 

「クソが!待てって言ってんだろうがぁぁ」

 

「や、やめて!もうやめて!エミル!そんなのエミルじゃない!いつものエミルに戻って!」

 

どうにか止めようとすがりつくルイズ。

 

「放せっ!」

 

「きゃあ」

 

予想以上に突き飛ばされ、怯みそうになるルイズ。

 

「退け!」

 

「ううん、退かない!あなたはそんな人じゃないわ!あの時のあなたに戻って!私の騎士になると言ってくれたあなたに……」

 

どうにかしようと立ち上がり、ワルドとエミルの間に入ろうとする。

 

そんなルイズを自分の背に隠すワルド。

 

 

「や、やめるんだ」

 

少し怖がりながらも、ギーシュが声をかけ、

 

「そうね……ダーリン、今のは流石に私も引いたわ」

 

「ルイズに当たるのはダメ」

 

タバサがエミルの手を引いて、離そうとする。

 

しかし、エミルは三人の制止も耳を貸さず、ものすごい形相で睨み付ける。

 

そこでワルドが口を開く。

 

「聞いた通りか。野蛮な魔物の王ラタトスク」

 

「っ!?」

 

ワルドの突然のカミングアウトに、これまで目にしてこなかったからこそよく考えてこなかった使い魔の力。

 

「人でないものに女性の扱いを求める方が間違いだったな。以後、彼女の前に姿を見せることは僕が許さない」

 

自分の言葉が届かない、自分を見ようともしないエミル。そんな彼の姿を目で追うルイズを、支えながら部屋に戻るワルド。

 

キュルケ、タバサ、ギーシュも、エミルをちらりと見て、足早に戻っていく。

 

「クソ、クソぉぉ!!」

 

「使い魔君」

 

「……エミル」

 

「ダーリン」

 

広場には、一人の叫び声が響いていた。




ラタエミル、キレすぎ。

そして、ワルドの一人称。
調べたら我輩ではなかった。

イメージで……髭とか。

☆考えた結果、修正しました。


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2巻後編


リヒター、アリス&デクス登場。
ガリア花壇騎士、タバサの同僚です。


「何、あんた!エミルの何なの!?」

「あなたには教えてあげな~い」



アルビオンへの玄関口である港町ラ・ロシェール。

 

そこに、この世界に来る前からの長い付き合いである4人の姿があった。

 

「ようやく来たか……エミル」

 

「リヒター様」

 

顔、特に耳を隠すためにフルフェイスの兜を被っているリヒターと、その顔が見えないのに、彼に見とれているセンチュリオンのアクア。

 

「その格好だと誰だかわからないわね。しかも何かダサ~い。それはそうと、あの子、どこかマルタちゃんに似てて嫌~い」

 

「アリスちゃん!俺はあの少年、結構好きだったぜ。俺の数少ないライバルになれそうだった。まあでも、アリスちゃん程じゃないけどな!」

 

ハーフエルフであることを隠そうともしないアリスと、相変わらずアリスちゃん命のデクス。

 

「うるさ~い!あいつの事はいいのよ、バカデクス!」

 

「ご、ごめんよ、アリスちゃん!」

 

「もう!黙ってなさい!それじゃあ、アリスちゃんはお先に失礼するわ~」

 

「俺はもちろんアリスちゃんについていくぜ!」

 

アリスの乗るモンスターが、デクスをつかんでふわりと浮き上がる。

 

「船か……乗り込むか、いや」

 

決闘で負けて暴れ、宿で気絶するように眠るエミルを、一晩中見張って、見守り続けるリヒター。

 

そんな彼を、まぶしそうに見つめる、アクアの姿は、日の沈む風景と合わさり、とても幻想的で、絵になっていた。

 

翌朝。

 

「な、何!?」

 

ルイズ達が泊まっていた宿は、大勢の武装した平民に取り囲まれていた。

 

「ルイズ、こっちだ」

 

「ワルド!」

 

「強盗団か?傭兵か?」

 

「貴族派に雇われているのかも……」

 

「ルイズ、静かに。ん?彼はこんな中で寝ているのか?」

 

脱出を考えていたワルドは、いるべき人数が足らない事に、焦りを見せる。

 

「そうみたいね」

 

「ツェルプストー!エミルの部屋に入ったの!?」

 

キュルケの役得、という表情に、昨晩、何があったか想像し、ルイズの不安で沈んだ顔に、怒りの感情が浮かんだ。

 

「ルイズ!あなたが婚約者といちゃついてるから!私とタバサが!代わりに!看病してあげたんじゃない」

 

単語を切って、あえてゆっくり、それこそ沸騰しているルイズの頭にもわかるように、嫌みたらしく言うキュルケ。

 

「まあまあ、君たち。ここはこの僕と使い魔君の美しい顔に免じて!」

 

見ていられないと、ギーシュが仲裁に入ろうとするが、

 

「あなたは彼ほど美しくない」

 

タバサに一蹴された。

憧れの勇者だと思っているエミルが、ギーシュと同等であるはずがない、と言わんばかりに……。

 

「まあ、あの女装が似合うほどじゃあないわね」

 

「メイド」

 

キュルケとタバサの言うこれにはそれなりの理由とてん末がある。

 

王都で貴族の店から入店を断られ、買えなかったエミルの服。

 

他人に借りはつくりたくないルイズも、最初のうちは、考えないようにして我慢していたものの、何日も着の身着のままは流石に汚いと、どうにか手にいれるようにと、エミルに命令を下した。

 

しかし、手に入ったのは、ゴミ捨て場の(コルベールが捨てた)焼け焦げ、油臭くなって破れた古着くらいだった。

 

それを見かねてか、ただ悪ふざけの冗談か、学院長のオスマンが、なぜか持っていた学院指定のメイドのお仕着せを渡してきた。

 

それを見たシエスタとその同僚のメイドが、着たところを見たいと言い出し、

 

更に、戦場と化していた学院の食堂から、何もせずにうつむいて立ちすくむその姿が見えたのか、忙しすぎてエミルだと気づかなかった料理長のマルトーに、手伝うように怒鳴られてしまい……。

 

反論しようにも、忙しい中自分の手が空いていることは事実なので、断りきれず、結局手伝うことに。

 

「メイドのお仕着せを?使い魔君が?プッ、ハハハ……想像したら笑えてきたよ」

 

ギーシュのところにも行った気がしたが、気づいていなかったらしい。

 

同じテーブルにいたギーシュの連れは、気づいたかもしれないが……。

 

「冗談はそのくらいにして作戦を決めよう。時間が惜しい。二手に分かれよう。僕とルイズだけでも、任務を達成できなくはないが……」

 

「そんな!ダメよ、ワルド!エミルも連れていって!っ、使い魔、なんだから!」

 

使い魔、と言ったところで少し言葉を詰まらせた。

 

ルイズは本当は、【騎士】と堂々と言いたかった。

 

「彼を早急に起こしてくれ。3人で行くこととする。しかし、とにかくまずは……」

 

「ぐああぁっ!」

 

「こいつらを蹴散らさなくてはならないか」

 

飛んでくる攻撃を、杖を使い、最低限の動きで弾くワルド。

 

相手はわずかに隊を乱し、矢を射る間隔に狂いが生じる。

 

「行くぞ!」

 

その隙に、ルイズの手を引き、駆け出すワルド。

 

しかし、エミルはその後も部屋から出てこず、姿を見せなかった。

 

 

「矢がひっきりなしに飛んでくるのは、本当に邪魔ね。ドットのギーシュじゃ足手まといだし……」

 

その後も戦いは膠着、じり貧だった。

 

「し、失礼だな、君たち!僕は軍人の家系のグラモンだ!時間稼ぎくらいできるよ!」

 

「ドットはドットでしょ!」

 

「手が足らない」

 

ワーワー言い合うも手は止めない。

 

そこに、

 

「伏せてなっ!」

 

「「「ギャアァァ!」」」

 

ドオォォン!!

 

「何が起きたんだ?」

 

盾にしていたテーブルが砕けていた。

 

「ゴーレム」

 

「それもトライアングルクラスね。誰?」

 

「ほら、シャキッとしなっ!あの時の、剣で圧倒してたあんたの姿は、私が見た幻だったのかい?」

 

豪快に部屋の扉を破壊し、その手にぐったりしたエミルを抱える女。

 

「確かミス・ロングビルだったかしら?ダーリン、大丈夫?」

 

「それが素?」

 

「ああ?そうだよ、悪かったね!」

 

「なんでいるのよ?」

 

「素人の動きではなかった」

 

目をつけていた男が他の女の、それも腕の中にいるのを見た二人は、咎めるような視線と声色で、詰め寄った。

 

「私の故郷がアルビオンだからさ」

 

気づくと、いつの間にか、店の周りを取り囲んでいた者達は、いなくなっていた。

 

 

空賊に扮していた皇太子ウェールズの船と合流したルイズは、ニューカッスルの城に招かれた。

 

しかし、ウェールズは、亡命の進言を断り、誉れある死だと言って、玉砕するという。

 

城中を覆い尽くさんばかりの、異様な熱気に、怖くなったルイズは、最後の晩餐に酔う人達であふれるこの場を逃げ出した。

 

「エミル……どこなの。どこに行ったの。私の騎士でしょ……」

 

弱音を吐いたルイズの前に、幼い頃の憧れだったワルドが、改めてプロポーズし、式をあげようと言う。

 

「待って……何もこんな状況で……」

 

「王子には、神官役をお願いしてある。最後に、落日の王国の王子に、祝ってもらうのも、思い出としては悪くない」

 

「……」

 

「嫌なのかい?僕と結婚することが。僕が嫌いになったのかい?」

 

「そうじゃないわ、でも……」

 

「お願いをしてしまったんだ。とにかく、今、式をあげるかあげないかは置いておいて、王子を待たせないように、そこまで行こう」

 

「……わかったわ」

 

 

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

「それはいいんだが……では、式を始める」

 

神官役のセリフに、ルイズはうつむき、沈黙を続ける。

 

前を向き、ウェールズの顔を見るだけで、涙が出そうだった。

 

この後、この人が死んでしまう。姫様の想い人が。姫様が悲しまれる……。

 

確かにその事もあった。

 

だが、ルイズの中にずっとあった、この事が根幹だった。

 

自分だけの騎士になると言ってくれた使い魔、エミル。

 

自分を認めてくれた。

 

自分のことを自分自身、認められる。許せる。

 

こんな自分でもいいと思えるようになったのは、彼がいるから。

 

そのエミルがこの場にいない。

 

決してワルドと結婚すること自体が嫌なわけじゃない……と思う。

 

彼が祝福してくれたら、そのまま受け入れただろう。

 

「ルイズ!」

 

そんな中、聞こえてきた彼の声に、思わず振り向き、姿をとらえた時、ルイズは自分を抑えきれなくなった。

 

「エミル……!エミル!エミル!」

 

突然の事にポカンとしていた王子も、流石に察し、

 

「子爵、残念だが君の負けの様だ……せっかくだから、このまま、二人の祝福をしようと思うが、流石に振られたばかりの君に恋敵の祝福に出てもらうのはしのびない。席をはずすことを勧めるが……」

 

「そんなに彼がいいのか、ルイズ……」

 

放心状態から回復したワルド。

 

「子爵?彼らの為の式を始めたいのだが?」

 

「だが、それでは僕が困るんだよ」

 

問いかけを無視し、

 

「ガッ…」

 

風の魔法でそのウェールズを壁まで吹き飛ばす。

 

だがそこに更に招かれざる客がやって来た。

 

「振られたな~、おっさん」

 

「ちょ~っと面白ーい、と思って見てたけど~、それ以上やるなら黙ってないわ」

 

恋愛に現を抜かし二人の世界に入っていたルイズには、ワルドの事はどこかに追いやられていたのだが……。

 

「えっ!?アリス!?」

 

「知ってるの、エミル?」

 

「ちょっと……ね」

 

「今の間は何!」

 

また別の女、それも自分と出会う前からの。

 

そんな嫉妬心で思わず女を見つめる。

 

古い女の顔、そのパーツ一つ一つを、見定めるようにしていたが、妙な部分を見つける。

 

耳だ。耳が長い。

 

「な………え、エルフ!?」

 

あまりの事に驚き、恋愛脳から離れ、それまで入ってこなかったワルドの声が聞こえ始める。

 

モンスターを連れた二人組。アリスとデクスだ。

 

「おっさん、そこまでにしといた方がいいぜ?」

 

「なぜだ!?お前たちはディザイアンと敵対する為に力を集めているのでは……!!?」

 

思い通りとは程遠い展開に苛立ち、いや、怒りを顕にするワルド。

 

「ルイズ!」

 

「これは貸しよ!」

 

「やはりディザイアンだったのか!?その耳はハーフエルフ……グハッ」

 

巨大なモンスターで押し潰されるワルド。

 

「アリスちゃんを、あんな奴らと一緒にしないでくれる?」

 

「おっさん、その言葉を口にしたら、俺も本気で相手するぜ!?」

 

「お前は……人間か?悪魔の味方をする人間がいるとは……」

 

「俺はどんなことがあっても、アリスちゃんの永遠の味方だ!」

 

「もう、本当にバカなんだから。私までバカだと思われるじゃないの」

 

「まだだ。まだこれがある。奇跡の石が!この力で、僕は更に強くなる!お前たち悪魔よりも!」

 

「ヒッ」

 

「ルイズ!」

 

ワルドの狂った声に怯えるルイズに寄り添うエミル。

 

「おおお……力がどこまでも湧いてくる!素晴らしい!」

 

ワルドの嬉々とした声が響くが、その姿は醜く膨れ上がり、緑色の巨大な怪物と化す。

 

「もういいかしら……聞いてられないわ」

 

アリスはあざけり、

 

「くだらないわね……ほらほらほら!単なるエクスフィアの力にのまれてるなんて。なにより、キモい。あの子においでとか言っちゃって!それで更には婚約者?……このロリコン!」

 

モンスターでメッタ討ちの連打を喰らわせる。

 

「そうだ、ロリコン!アリスちゃんの言う通り!」

 

「私の言うことを繰り返さないで、バカデクス!それじゃあね、バイバイ」

 

トドメ。

 

「がはっ……なぜだ!?なぜ僕が倒れている?」

 

怪物から戻ったワルドは、

 

「助けて、くれ、ルイ、ズ……」

 

最期にそう残し、息絶えた。

 

(ワルド……)

 

彼の伸ばされた手が、自分の頭を撫でてくれた手が落ちるのを、ルイズはただただ見つめていた。

 

 

これまでの旅で、ワルドは、ルイズの事を自分の婚約者だ、昔から好きだったと言っていたが、それは嘘だった。

 

 

『虚無である娘を渡せば、仲間にしてやる。』

 

そう言ったではないか、と詰め寄っていたワルド。

 

奇跡の石をくれるという話に飛び付き、更に立身出世にまい進し、婚約者のはずの私を売ろうとしていた。

 

(力が欲しいだけじゃない。あなたは私が好きでもなんでもないわ!)

 

そんな思いもあるが、こんな死に方を望んでいたわけじゃない。

 

「子爵……」

 

倒れたワルドの前に力なく立ち尽くすウェールズ。

 

「本当にバイバイしちまったな。ま、そのファッションはまあまあイケてたとは思うぜ、あんた」

 

「え~!?あんなの、カッコつけすぎよ。だから貴族って嫌!」

 

「それは俺も同じ気持ちさ!アリスちゃん!」

 

「もう。本当、調子いいんだから。……じゃあね、マルタちゃん似のだ、れ、か、さん」

 

 

☆☆

 

時間は戻り、ラ・ロシェール。

 

目を覚まさないエミルを風竜に乗せ、ルイズを追いかける三人。

 

「こんなところで遇うとはな。7号だったか?」

 

そんな中、目の前を遮るように空を飛ぶ大蛇が現れ、仮面の男がタバサに話しかけてきた。

 

「今はプライベート。仕事中じゃない」

 

「では、人形よ。同僚のよしみで、力を貸そう」

 

「あなたが来ると、余計に場が混乱する」

 

「あの少年は私が運ぼう」

 

「その必要はない」

 

かたくなに拒むタバサ。

 

「……なにもかも言いなりでは、ただの豚だとは言ったが……」

 

「顔を見せて」

 

「………いいだろう」

 

少し顎から外そうとするが、

 

「ルイズの使い魔君が目を覚ましたよ!」

 

ギーシュのその声に振り返り目を離した瞬間、エミルを引ったくると、男と大蛇は姿を消した。

 

 

「ダーリン!ルイズ!そこにいるの!?」

 

ギーシュのモグラの力で何とか合流を果たしたのだが……。

 

「何?みんな黙りで……あれ?あの人は?ルイズの婚約者がいないじゃない」

 

「そこ。死んでいる」

 

「っ!?」

 

親友のこの一言に、流石のキュルケも黙らざるを得なかった……。

 




*仮面を外し、キュルケと顔をあわせた場合


「リヒター」

「嘘っ!?彼が?あなたの想い人?」

「違う」

「……おい、俺を何歳だと思っている?」

「あはは……エルフって、長生きなのよね?」

「そもそも、俺の好みではない」

「振られたわね、タバサ。まあ、昔の男ってやつか。今はエミル君だったかしら?」

「どういうつもりだ。あいつが何であるか、歴史書に書いてあるはずだが?」

「そんなの、関係ないわ。恋愛はすべてを上回るの。私、ツェルプストーにとってはそれが全てよ?」

「……考えなしか。ふざけた奴め」

「あなたこそ、ダーリンにこだわって……もしかしてだけど、変な想いを持ってない?一応男の子よ?」

「それこそお前には関係無いだろう」



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3巻前編。

テファとマチルダ。

さらにフォシテスと、魔王と呼ばれたミトス。


3巻メインのシエスタは、日本人→ミズホの血筋しかない。

コルベール先生、出番省略。

キュルケ、お節介キャラに……。


トリステインに無事帰還したルイズ達。

 

姫殿下に取りつぐ、取りつがない、の問答が王宮の前で起きたが、アンリエッタ姫のとりなしで事なきを得る。

 

ルイズと、その使い魔のエミルだけが姫様に招かれるまま王宮の中へ。

 

極秘任務の結果を報告、ウェールズに宛てた姫様の恋文を渡すと、『ありがとう、ルイズ・フランソワーズ』と一言だけ返ってきた。

 

心配したルイズだったが、心ここにあらずの様子のアンリエッタはしかし、とても喜んでいた。

 

満面の笑み。

 

よく見ると涙の跡もある。

 

どういう事なのか?

 

アルビオン王党派は玉砕、ウェールズは死んでしまったのでは?

 

そんなルイズの疑問に、

 

貴族派の艦隊が壊滅、王党派勝利という、とんでもない、奇跡のような言葉が返ってきた。

 

満面の笑みで、涙を流すほど。だが、何よりアンリエッタが喜んだのは、ウェールズが自分と結婚し、空位のまま浮いていたトリステイン王国の王位を継ぐということの方だった。

 

そう、勝利したのだ。これは亡命ではない。

 

これからはずっと、命が尽きるその時まで一緒だと、あの時交わした永遠の誓いを、果たしてくれたと、アンリエッタは喜んだ。

 

喜んでしまった。

 

 

アルビオンで、何が起きたのか、知らないまま……。

 

ウェールズが、故郷を捨てて自分を選んだ……などという、乙女な理屈をこね、幻を信じて。

 

 

「失礼するよ」

 

ニューカッスルの城。

 

「サウスゴータ……」

 

「陛下、本当にお久しぶりでございます。私を覚えていていただけていたとは、光栄にございます」

 

慇懃にへりくだった言葉だが、態度は正反対。

 

そうしていると、車輪のついた移動式ベッドが運び込まれる。

 

「それは!ウェールズの亡骸か?」

 

「いいえ」

 

「では……」

 

「ち、父上……」

 

「ウェールズ!?よ、よく、生きておった……」

 

「申し訳……ありません。取り返しのつかない失態を……」

 

首しか動かせないウェールズが、苦しそうに答える。

 

「どういうことだ……?」

 

高貴な服装の男女が入ってくるが、その者達の耳と、一人の娘の顔に、王は何が起きたのか、大体を悟った。

 

「おじさま」

 

「な……!?」

 

「ティファニアです」

 

マチルダが得意気に紹介する。

 

「なんとか命だけは、お助けすることができました」

 

「それは……感謝してもしきれぬ。そなたに、そなたと、我が弟の家の復権を朕の…」

 

王が言葉をかけるが、

 

「残念ながら、あなたには、その力は既にありません。もはや、あなたはこの国の主でも、我々が尊ぶ、陛下でもないのです」

 

王の言葉を遮るという暴挙。

 

「なんと……?」

 

一人の青年が前に出る。

 

「今よりこの地は、我々の楽園となる」

 

ディザイアンの英雄フォシテス。

 

彼の顔にあった傷や、改造された手は、癒され、元通りになっていた。

 

「何者にも虐げられる事のない、ハーフエルフの千年王国はここから始まる。我らが王とその妃に、絶対の忠誠を!」

 

 

フォシテスと、それに付き従うハーフエルフ達(彼らはディザイアンの格好や顔を隠すマスクやゴーグルをつけてはいない)が、一斉に少年にひざまづく。

 

「こ、子供ではないか……」

 

「やっぱり、この姿じゃ、そう思われちゃうのは無理ないよね」

 

金髪の少年が、妃となる少女の横から一歩前に出る。

 

「僕は……ミトス・ユグドラシル」

 

「ミトス………ユグドラシル?それは、始祖ブリミルがこちらに渡るきっかけとなった、魔王の名であるはず……」

 

「魔王か。僕をどんな風に呼ぼうが関係ない。あなたが、このハルケギニアの王家が、僕と同じ、ハーフエルフでを祖とするのにも関わらず、それを隠し、僕らを認めないなら、この国の人間には消えてもらうだけだ」

 

レイ!

 

「こんな風にね」

 

「がはっ……」

 

玉座から転げ落ちる王。

 

その玉座は粉々に砕け散っていた。

 

「治療しろ」

 

「はっ」

 

「これで、許されたとは思わないことだ。あなたを生かしておくのは、ただ、その方が都合がいいからさ。でも、生かしておくだけだよ?」

 

「ぐ……貴族派の反乱は、そなた等の手引きか……」

 

「勘違いしないでほしいね。そんな面倒なこと、僕はしない。他国の離反工作だろう」

 

「余が至らなかったのか……」

 

「それ以外にはないよ。それじゃあ、仕上げだね」

 

 

「王家の領地だけじゃない。従わない貴族は出ていくがいい。その船が無事に出られはしないだろうけどね。この島はすべてもらうよ。そこにあるすべてをね」

 

 

 

一方、ルイズは、アンリエッタの本当に幸せそうな顔に、一応の落ち着きを取り戻した。

 

ただ、自分の中の心のしこりを取り除く為、潰されボロボロになったワルドの亡骸を、トリステインの実家に葬ってもらえるように懇願した。

 

結果、今回の褒美として、何とかその通りになった。

 

ワルドの悪事は表にはならず、名誉は護られたのだ。

 

それでも、ルイズの心は晴れなかった……。

 

そんな中、香水のモンモランシーが、

 

「あなた達、授業にも出ないで、いったいどこまで行ってたの?」

 

と尋ね、クラスメイトも同調して聞きたがった。

 

「それはだねー」

 

口の軽いギーシュも、

 

「ギーシュ!姫様に嫌われるわよ」

 

この一言で黙ったが、姫様という言葉が、聴衆に余計に火を点けてしまう。

 

見かねたキュルケが、

 

「そんなに知りたい?ならルイズに訊いたら?婚約者のワルド子爵が目の前でどう亡くなったのか、聞いてみたら?」

 

訊けるものならね。

 

この一言で、騒いでいたすべての生徒が、黙り込んだ。

 

この事で、ルイズの婚約者ワルド子爵の突然の訃報は、学院、特にルイズの同級生に知れ渡り、ルイズが塞ぎこんでいても、見るだけで話しかける者は殆どおらず、いつもは、あおったりからかったり、散々バカにしていた生徒も、触れずにいた。

 

授業でぼーっとしたりしても、大目に見る教師もいた程だった。

 

そんなルイズに気づいてか、心配そうな顔で、何か自分にできることはないか、尋ねてくるエミル。

 

でも、『心配しないで』『大丈夫』としか、言えなかった……。

 

心配なのは、エミルのことだったから……。

 

乱暴な言葉を吐き、暴れた、もう一人のエミル。

 

魔物の王ラタトスク、そう呼ばれていた。

 

でも、怖くて何も聞けず、調べる気も起きなかった。

 

そんな中、ウェールズとアンリエッタの結婚の式典の巫女に選ばれたルイズ。

 

詔を考えなくてはならないが、全く進まない。

 

気分転換に……と手に取った編み物も、上手くいかず、放り出してベッドに倒れこむ。

 

気付くと眠ってしまっていた……。

 

 

その頃、エミルは、一人のメイドから驚きの話を聞いていた。

 

「ディザイアンが……!?」

 

「お静かに」

 

「ごめん……。でも、どうしてそんなこと、君が知っているの?」

 

突然エミルに抱きつき、顔を近づける。

 

「ち、ちょっと」

 

キスしそうな程近付け、頬を胸に押し付けながら囁くシエスタ。

 

「このままで。説明を続けますね」

 

もし見られても、周りにはキスしていたようにしか見えないだろう。

 

彼女が言うには、シエスタは、忍。

 

忍というのは、一般の人々に紛れ、情報を集める諜報員とのこと。

 

それ以上は教えてくれなかったが、ミズホの民の血を引いているという説明は、髪の色や顔立ちで納得だった。

 

その彼女が、ディザイアンは大陸中におり、その中でも名有りの者が先日行ったアルビオンを攻撃したという。

 

「そんな……」

 

「私の村には、レアバードもあります」

 

「そ、それがあれば」

 

「はい、向かうこともできます。動けば……」

 

「それって……」

 

「燃料が足らなくて……。動かすだけでしたら、風石でもいいのですが……」

 

飛び続けるには、大量に積まなくてはならないが、それだけの大きさ、スペースがない。

 

短距離で止まり、その都度積み直すのは、勝手が悪過ぎる。

 

「どうしたら……」

 

「契約してくださいませんか?ラタトスク様は精霊と同等の力をお持ちですよね?」

 

「それで……僕に近づいてきたの?」

 

シエスタはその問いには答えず、

 

「対価は……うふふ、どうでしょう」

 

そのしぐさは流石、くのいちだった。

 

 

ガチャッ、

 

「入るわよ」

 

アンロックを使い、勝手に入るキュルケ。

 

「校則違反よ!」

 

「そんなことより、聞いた?」

 

もったいつけてキュルケが話すことは、

 

「王党派勝利ですって。王子様は助かって、同盟不可侵。結婚と同時にトリステインは吸収されちゃうのかしら?」

 

言い方や雰囲気はともかく、ほとんど姫様から聞いていた話だった。

 

「私は今、その結婚式の詔を考えてるのよ。出ていって!」

 

イライラしているルイズに、

 

「そんなことしてると、ダーリン取られちゃうわよ。私、見たのよ?ダーリンがメイドとキスしてたの」

 

気にした風もなく、爆弾を投下する。

 

「そ、そんなはずないもん」

 

「見たって言ってるじゃない」

 

そんなはずない……。

 

否定の言葉は、続かなかった。

 

「あら?この袋は何かしら?」

 

目についた袋から、押し込められたものを次々と取り出すキュルケ。

 

「服じゃない。サイズからしてダーリンの?」

 

「………」

 

ルイズは、間をおいてから、広げられた服を睨みつけ、吐き捨てるように、

 

「ゴミよ!ゴ・ミ」

 

その反応に察しがついたキュルケは、

 

「そう、そういうこと。これ全部、ダーリンへのプレゼントなのね」

 

一通り全部手に取って確認する。

 

「ゴミって言ってるでしょ!捨てるのよ!元に戻しなさい!」

 

思わず椅子から立ち上がるルイズ。

 

「マフラーに手袋。確実に手作りね。それで対抗して編み物?あなたって本当、わかりやすいわね」

 

「…………ふんっ」

 

そっぽを向くルイズ。

 

言われた通り、意気込んでセーターに挑戦したが、大失敗。

 

見つかると都合が悪いので、その証拠品の塊は、先に処分したのだった。

 

その事を隠し通すことに成功し、少しホッとしたところで、

 

「ねえ、これ、女物よ?スカートとかドレスもあるし……」

 

「………欲しいならあげるわよ」

 

やり返そうとそう言うも、

 

「は?私がヴァリエールのあなたから施しを受けるような真似、するわけないじゃない。大体、貴族の私たちが着られるようなもの……って!?これ!結構なブランド品よ!?誰にもらったの?」

 

知りたくもないことを文字通り掘り起こされ、

 

「知らないわよ!生徒の誰かでしょ!」

 

思わず怒鳴ってしまった。

 

「これなんか、傷とか、絶対に使ってたものよね。自分の使ってた物を持っててってこと?ちょっとどうかと思うわよ」

 

簡単なおまじない……言い方を変えれば呪いの品に、

 

「これ………エンゲージリングのつもりかしら?」

 

そして、指輪。

 

その衝撃で、悲しみが抑えられなくなった。

 

「くすん。キュルケ……」

 

振り返ったルイズは、すすり泣いており、

 

「………わるかったわ。じゃあね」

 

泣かれるのには弱いキュルケは、そこでサッと、手を引いた。

 

「フレイムに、彼を呼びに行かせるわ」

 

急に態度を変えたキュルケに、

 

「いい」

 

当然のように、反抗。

 

「その顔、見せない方がいいわよ」

 

酷い顔よ?拭きなさい。

 

キュルケがハンカチーフを出すが、

 

「大きな……お世話よ」

 

置きっぱなしの洗面器に、顔を突っ込んだ。

 

「ブッ……あ、あなたねえ……」

 

思わずふいてしまったキュルケ。

 

「き、汚いわよ、ツェルプストー」

 

「あなたのさっきの顔よりはマシよ」

 

「ふんっ」

 

すぐに言い合いになるが、

 

「そこに掛けてあるの、勝負下着?あなたもなかなかのを持ってるのね」

 

真っ黒のそれを見上げるキュルケ。

 

「そ、そう?」

 

キュルケと、こんな風に話をして、笑顔になったのは、初めての気がしたルイズ。

 

「ただ、それは止めておきなさい。下手したら、引かれるから。そっちのは?ピンクは男ウケいいわよ」

 

気付いたら、アドバイスしていた。

 

「それと、彼がヘタレなら、押し倒しちゃうのも手よ。幼馴染みでお友達の姫様に、先越されちゃう前にね」

 

「な、何言ってるのよ!?」

 

からかわれ、真っ赤になるルイズ。

 

「冗談よ」

 

バタン!

 

扉を閉めたキュルケは、

 

「何をやってるのかしら、私……」

 

頭を押さえる。溜め息が漏れた。




「口出し、し過ぎ」

「わかってるわよ。余計なこと口走ったのは……」

あとがき

止める役がほかにいないし、書き易かったので……。

後半の女子の会話は妄想です


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