Monster Hunter Delusion【更新停止】 (ヤトラ)
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part1:「刀蟹の生態」

 お待たせしていた方、大変長らくお待たせしました!pixivで見たよ!という方はそちらでもお楽しみください(謎)

 これはにじファン時代、とある感想のアイディアを元に作成した小説です。いわばもしもシリーズモノです。浮かんだら止まらなくなってしまって(笑)

―もしもガミザミがユクモに流れ着いたら?

 モンスターが自分で新たな道を見出し、進化していく「変異種」。その始まりはアラムシャザザミであり、この遠くから流れてきたガミザミだったのです。
 では、楽しんでいただければ幸いです。


 ポッケ地域の火山付近に嵐が襲った。

 その嵐はとても強く、小型モンスターならいとも簡単に吹き飛ばしてしまうほどだ。イーオスが空を無様に舞い、ガミザミがごろごろと地を転がっていく。

 不幸なことに、あるガミザミがゴロゴロと転がっていき、海へと向かっていった。

 

 

 そしてガミザミは海を越え、荒波に流され、ユクモ地域にやってきた。

 旧大陸から広大な海の先にある新大陸へ何故渡れたのか。それは解かってはいない。偶然と奇跡の重なりだろうか。

 これだけ不幸な目に合ってなお生きている上に、新たに辿り着いた地が火山なのだから驚きだ。

 ともあれ、生き残ったからには生き抜かねばならない。ガミザミは新たな地だと気づいておきながら、以前と変わらず、しかしより用心してその地を進むのであった。

 

 

 まず水分の確保。

 いくら元の生息地が火山とはいえ、ある程度の水が無ければ生き残ることができない。

 しかし、火山の麓にある海辺があったので解消できた。近縁種であるザザミが海水・淡水どちらにも適応できる為、ガミザミも問題なく活動可能だ。

 

 次に食料の確保。

 ガミザミは雑食性なので、これもある程度なら問題は無い。

 むしろ厳しい環境なだけあって貴重な昆虫や鉱石が多く、ズワロポスという草食種が狩りやすい。

 地方が違うので以前の暮らしに比べて食生活に差が出るだろうが、適応性の高さ故に問題は無いだろう。

 

 最後に己の天敵の確認。

 これは困難を極めた。何せ大陸が違うのだから、地理も生態系も解らなかった。

 ふと陰から見ただけでも、まったく知らないモンスターばかりが蔓延っているのが解る。

 さらに、ここは以前暮らしていた地よりも熱い。噴火口に近い上、洞窟の中に溶岩が流れているため、熱を外へ逃がしにくい構造となっている。

 

 それらを踏まえると、やはり危険性が高いことには違い無い。

 ガミザミの高い防御本能が自然に働き、岩場に隠れるなどして慎重に観察を開始する。

 全ては、この新たな地で生き残る為だ。野生の本能が注意深く慎重になるのも、仕方のない事だろう。

 

 

 

 物陰に隠れながらこの地域を観察して解ったことがある。それは、ここに住まう殆どのモンスターが頑丈な甲殻を持つことだ。

 グラビモスやバサルモスという近しいモンスターも居るが、彼らとは大きな違いがある。

 

―突進力を誇る草食種リノプロス。

 

―強靭な足腰と転がり攻撃が得意な獣竜種ウラガンキン。

 

―泳ぐように地中や溶岩を移動し、冷えると硬くなる殻を持つ海竜種アグナコトル。

 

 いずれも頑丈な甲殻を持ち、かつ中々のスピードを誇るモンスターばかりだ。ガミザミも硬い甲殻類とはいえ、彼らと比べたら柔らかい分類に入ってしまう。

 また、ガミザミがこの地で生き残るには、その装甲を貫けるだけの刃と、その機動性を出し抜く為の何かが必要だ。

 それらを、この火山で生き延びつつどう手に入れていくのか。それが問題だ。

 

 

 時に、生き物は天敵から身を守る為、その天敵に対抗できるよう進化する種もある。

 今まさにガミザミは、己が生き残る為の力を手に入れるべく、急激な進化への道を切り開いたのだった。

 こうして、ガミザミが火山に棲みついてから長き月日が流れていく。

 自然界に生き残り、火山における食物連鎖の上を目指すべく、ガミザミは変異を遂げる。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 今、一匹のアグナコトルがリノプロスの肉に食らい付いていた。

 自身よりも小さなそれを、本来なら抉る為の嘴を使わず、ただ噛み付いて肉を毟り取っていた。

 周囲には誰も居ない。ウラガンキンは居ない上に、餌の違い故に襲い掛かってくることはない。今ここにいる食物連鎖の頂点は、このアグナコトルということになるだろう。

 

 

 

―だがしかし、自然界は時が流れるに連れて、新たな捕食者を生み出していく。

 

 

 

 どろり、とアグナコトルの身体に何かが垂れてきた。

 上から流れるようにして落ちてくるそれは、アグナコトルの身体を包み込んでいく。

 アグナコトル自身、この液体が何であるかわからず、周囲を見渡すしかなかった。

 しかしこの液体、ぬるぬるとしていて、這いずって移動しようにも滑ってしまいまともに動けなくなる。

 

―ガチン、と甲高い音を立てた直後、アグナコトルは炎上した。

 

 アグナコトルに降りかかった液体……油に火が引火したのだ。

 冷えて硬くなったマグマがたちどころに紅くなり、熱を帯びて硬度を弱めていく。

 もちろん溶岩の中を平気で泳ぐアグナコトルにとって、身体に火が付いたぐらいどうってことはない。多少怯みはしたものの、身体が燃えていようが、構わずに周囲を見渡す。

 

 

 

―熱を帯びて柔らかくなったところを、()は見逃さない。

 

 

 

 突如としてそれ(・・)がアグナコトルの天井から降り立ち、二振りの得物が突き刺さる。

 背中を貫通し、胸や腹部といった急所を貫かれたアグナコトルは驚愕したように叫ぶ。

 だがそれ(・・)は抵抗の隙ですら与えまいと、四足で押さえ込み、貫いた得物を動かす。

 

 するとどうだ、まるでチーズのようにアグナコトルの身体が輪切りになってしまったではないか。

 身体を三等分にされたアグナコトルは、抵抗するも虚しく、カタカタと嘴を鳴らした後に絶命した。

 

 

 

 アグナコトルを貫き切り裂いた、二振りの得物を振り回すそれ(・・)の正体は―――蟹であった。

 ぱっと見れば、それはショウグンギザミと呼ばれる甲殻種のモンスターなのだが……よく見て欲しい。

 

 その身体は冷えて固まった溶岩を纏っており、時節、彼の甲殻である黒い殻を除かせている。

 ウロコトルやアグナコトルを主食として育った結果だ。彼の背負うヤドも、彼らの甲殻を剥がし、溶岩で固めた物だ。

 

 そして最大の特徴は、鎌蟹の由来たる、長く鋭い鎌のような鋏なのだが……長い。

 通常のショウグンギザミよりも長く、鋭く、そして真っ直ぐと伸びて光沢を放っていた。

 希少な鉱石を食らってきた事によって得られたこの金属の刃は、もはや鎌というよりは刀。アグナコトルが容易く輪切りにされてしまう理由も頷ける。

 

 

 二振りの刀で敵を斬り殺す、二刀流の侍。問答無用で斬りかかるユクモの辻斬り。だからこそ、この甲殻種は辻斬りの名を得た。

 

 

―ツジギリギザミ。別名「刀蟹(かたながに)」。

 

 

 ツジギリギザミは獲物の返り血を舐め取るかのように、口で己の鋏を綺麗に磨く。

 砥石の成分が含まれた口で刃のような鋏を磨く様は、まるで刀を研いでいるかのよう。

 手入れが終われば鋏を紅蓮石で熱し、鋼鉄の四肢でそれを何度も踏み付け、刃を鍛える。

 そして口から油―ズワロポスを食らってきた事によって蓄えられた物―を吐いて急激に冷やし、また口で鋏を研ぐ。熱した刀を鍛え、冷やし、研ぐ。刀鍛冶が刀を鍛えるのと同様の工程だ。

 

 こうしてツジギリギザミの刀は、より硬く、より切れ味を増していく。次なる得物、そして己に立ちはだかる敵を斬殺する為に。

 カシャン、カシャンと二本の刀を交差させて音を鳴らし、ツジギリギザミは両手を広げる。

 彼は新たな獲物を見つけた。だからこそ威嚇の姿勢を示した。

 それがモンスターなのか、ハンターなのかは解らない。だが辻斬りの前には意味を為さない。

 喰える・喰えない・強い・弱い……そんなことは、ツジギリギザミには無意味だ。

 

 

 

―敵は斬り殺す。それがツジギリギザミの……遠い大陸からやってきたガミザミの選んだ進化なのだから。

 

 

 

 

 

 

 これも一つの進化。ありえるかもしれない、モンスターの突然変異。

 暢気な鋼鉄の蟹が誕生すれば、容赦なく敵を切り捨てる凶悪な蟹が誕生していたのかもしれない。

 蟹だけではない。鳥竜も、飛竜も、牙獣も、もしかしたら古龍種や草食種ですら、急激な進化を遂げるかもしれない。

 

 覚えていて欲しい。モンスターは常に進化する。過去も、現在も、そしてこれからも変わらず。

 我々が見知っているモンスターでも、少しすれば新たな力を得ているかもしれない。少なくとも、それが我らにとって未知の脅威になることには違い無い。

 

 

 

―どんなに進化していても、我々を害するとなれば、それは敵でしかないのだから。

 

 

 

―完―




 ○本日の防具と素材一覧

 ●ツジギリシリーズのスキル一覧 (剣士)
 ・業物
 ・斬れ味ゲージ+1
 ・砥石高速化
 ・防御DOWN【大】
 ・悪霊の加護

 ●ツジギリシリーズのスキル一覧 (ガンナー)
 ・貫通弾追加
 ・貫通弾強化
 ・装填速度UP
 ・防御DOWN【大】
 ・悪霊の加護
 
 ●主に剥ぎ取れる素材一覧
 ・刀蟹の爪刀
  まるで刀のように鋭いツジギリギザミの爪。加工せずとも武器として使用可能だとか。
 ・刀蟹の甲殻
  ツジギリギザミの黒い甲殻。溶岩を塗り固められるように細かい棘が大量に生えている。

 そんなわけで、ショウグンギザミの突然変異種です。アラムシャザザミに比べて攻撃性に特化し、また攻撃的な性格です。
 変異種シリーズは他にも多く存在しており、今後も続きます。お楽しみに。

 では失礼いたしました。


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part2:「海戈竜の生態」

 テーマは「火山でも氷山でもない地域で活躍するアグナコトル」です。
 何気にこのアグナコトル、アラムシャザザミに噛み付いて水辺に適応した奴なんです(笑)



 人生とは解らないものである。それは人間もモンスターも同じだ。

 自分の人生を大きく変える出来事が突然やってくるのも、それは致し方ないことだ。

 それはモンスターが、何らかの理由で突然変異を遂げ、亜種という道筋を辿る事も同意である。

 

~ある研究者のレポートより抜粋~

 

 

 

 さて、まずは炎戈竜アグナコトルについて解説しよう。

 アグナコトルとはウロコトルの成体で、火山に生息する海竜種として知られている。

 どうして海の竜が火山に居るかって?長年海竜種を研究している私でも、そこまでは解らんよ。

 マグマの中を泳ぐだけではなく、その碇のような口を使い、身体を捻る事によって地面を掘り進むことができる。

 また、口から熱光線を放つ、冷えると固まるマグマの鎧を纏っているなど、中々手ごわい相手だ。

 

 そんなアグナコトルだが、絶対零度の凍土に適した亜種も存在している。

 一体どういった経緯で凍土に適したかはまったく解らないが、この亜種もまた手ごわい。

 硬い氷を貫くほどの硬度を誇る嘴の他、口から高圧縮の冷水を吐く、氷の鎧を纏うなど、攻撃手段は似ているがまったく違っている。

 共通点は姿と、火属性攻撃を与えると外殻が溶けて攻撃が通りやすくなるという性質かな。

 

 

 これで二種のアグナコトルについて、簡単にだが説明させてもらった。

 では、ここからが本題。今度はアグナコトル変異種について語らせてもらおう。

 

 

 アグナコトル変異種とは、最近になって姿を現し、学者達を騒がせているモンスターだ。

 その名の通り、アグナコトルから派生した変異種で、海のような美しい群青色の甲殻を纏っているのが特徴。

 

 

 このアグナコトル変異種は、なんらかの理由で水中での活動を可能にした海竜種なんだ。

 当初は海で発見されたらしいから、別名が「海戈竜(かいがりゅう)」とされている。

 ユクモ地域の海竜種は潜口竜も含めて陸上活動が多いけど、これは海竜種らしい海竜種だね。

 

 とはいえ、この変異種(以後、海戈竜(かいがりゅう))はまたまた変わっていてね。目撃例のほとんどは陸上なんだ。

 遥か先にあるというモガの村やロックラックでもちらほらと見かけているが、水中で目撃されているのはここだけだ。

 どうやら海底火山を根城にしているらしいけど、見えはすれど行けはしないから、詳しくは解らないけどね。

 ではどうして主に陸上で姿を現しているのか?

 

 

 

―なんと彼は、地中深くにある地下水脈を辿って各地に出没しているんだよ。

 

 

 

 知っていると思うけど、ユクモ村は温泉が有名な観光地だよね。私は地学には詳しくないが、温泉というのは地下の水が溶岩の熱で温められてできる物だという。

 ユクモ村の地域では水脈が沢山あるから、海戈竜(かいがりゅう)は地中を掘り進み、その水脈を伝って移動しているそうなんだ。

 というのも、大抵は地中から間欠泉と一緒に出てくる事が多いから、そこから推測した結果なんだけどね。

 

 そのため、海戈竜(かいがりゅう)は水が多い地方にならどこにだって出現する。

 主に発見されているのは孤島と水没林。それと渓流にも姿を現した記録もあるらしい。

 また水脈を伝って移動するからか稀に人々の前に突然現れることもあるが、今のところすぐに地中へ潜るだけで目立った被害は無い。

 まったく、はた迷惑なモンスターだよね。先代が付けたという「神出鬼没の無法者」の異名も納得だよ。

 

 

 しかしこの変異種、原種や亜種以上に手ごわいよ?

 先も言ったが、彼は地中を掘り進み、出現する時は間欠泉と共に現れることもある。

 海戈竜(かいがりゅう)が出てくる!と思って近づいたら、それがただの間欠泉で吹き飛ばされたハンターも多い。

 しかもあちこちで水柱が立つから、迂闊に近づくと危ない目に合うよ。

 

 続いて、海戈竜(かいがりゅう)身体的な特徴も忘れずに伝えておこう。

 彼らは海底や地下水脈を移動できる為、圧力に強く硬い甲殻を持っている他、爪や嘴が著しく硬い。

 ヒレは本来の水棲らしい柔らかさを持つが、甲殻はまるで鮫の歯のような鱗がびっしり生えている。

 さらに碇口は原種や亜種とは比べ物にならないぐらいに硬い。掘削に適した身体といえるね。

 しかも地中深く掘り進むだけあって、スタミナが半端無いよ。スタミナ切れを狙うなら根気強くないと。

 

 おっと、原種や亜種と同じと思って火属性の武器を使うのは大きな間違いだ。彼らは体温を保つ為、海底火山のマグマや紅蓮石をお腹に溜め込んでいる。

 そのため火属性攻撃を受けると、体温が上昇してスタミナが回復してしまうんだ。原種や亜種と同じと思っていたら大間違いさ。

 逆に氷属性攻撃を受けると体温が下がって疲れやすくなるから、武器は氷属性をオススメするよ。

 それと、普段は圧縮した水を吐き出すんだけど、時にこのマグマや紅蓮石の熱を光線状にして吐き出すこともある。

 圧縮水と熱線を見極めるポイントは、口をカチカチ鳴らす回数だ。2回が水で3回が熱線。覚えておくといいよ。

 

 

 間欠泉による罠、幅広い行動範囲、硬く鋭い甲殻、高いタフネス、水と火を操る。

 このように、アグナコトルとしては高い戦闘能力を誇っているから、戦う場合は充分に気をつけて。

 

 

 

 最後に記しておくけど、この海戈竜(かいがりゅう)、実は害ばかり及ぼすだけではない。

 かつて砂漠の村に海戈竜(かいがりゅう)が現れたけど、オアシスを残して去っていった記録がある。

 水に飢えていた民を救ってくれた水の神様として、砂漠の都市となった今でも、人々から崇められているほどだ。

 また、ある村にも海戈竜(かいがりゅう)が現れた記録があり、その村は温泉で有名な観光地として栄えた。

 変異種が掘って出たという温泉は「アグナ温泉」と呼ばれているよ。いやぁ、いい湯だったなぁ。

 

 このように、モンスターはただ害を為すだけの存在ではないということを伝えたい。

 私たちは彼らから身を守っているだけにすぎないんだ。それを―――(ここより先、字が霞んでしまって読めない)

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「な、なんだい今の地震は!?」

 

「た、大変だ先生!村に青いアグナコトルが出たーっ!」

 

「な、なんだってー!?」

 

 

―――――――――――――

 

 

 忙しくなってきたので、執筆はここまでにするとしよう。

 これだけははっきりしているから言うが、海戈竜(かいがりゅう)は、いつどこに出てくるのかさっぱり解らない。

 もし長い地震が続いたら、ひょっとして海戈竜(かいがりゅう)が近づいてきているのかもしれない。

 だからこそ、「神出鬼没な無法者」の異名が与えられたんだろう。

 

 

 

―みんなも間欠泉には気をつけろ!

 

 

 

―とある海竜種研究家著作の書物より―

 

 

 

―完―

 




 海に入ったウロコトルは普通に亜種化させようと思って、つい浮かんだネタです(笑)
 時代はMHP3rdになります。なので今後は本編に登場しません。あしからず(苦笑)

 このように、当作品ではオリジナルの亜種モンスターがたまに出てきます。
 しばらくは溜まっていた物を投稿するだけですので、くれぐれも、過度な期待にはご注意してください。
 何はともあれ、「こんなモンスターいいなぁ」と思ってくれたら幸いです。ではでは。

 ○本日の防具と素材一覧

 ●マリンブルーシリーズのスキル一覧 (剣士)
 ・水属性攻撃強化+1
 ・ランナー
 ・回避距離UP
 ・火属性攻撃弱化

 ●マリンブルーシリーズのスキル一覧 (ガンナー)
 ・連発数+1
 ・貫通弾・貫通矢追加
 ・水属性攻撃強化+1
 ・火属性攻撃弱化

 ●主に剥ぎ取れる素材
 ・海戈竜の棘鱗
  鮫の歯のような鋭い鱗。美しい群青色をしており、装飾品としての価値もある。
 ・海戈竜の碇口
  地中深くにまで掘削できるほどの硬度を持つ嘴。原種のよりも太くて鋭いのが解る。
 ・熱水の堅胸殻
  高圧に耐える頑丈な外殻。マグマを蓄える器官としてだけでなく、貯水機能をも併せ持つ。 


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part3:「空怪鳥の生態」

 MH4のクック先生がマジ可愛いです。疲れてる所とか、疲れ状態の時にクチバシが刺さっちゃう所とか、お食事中とか(笑)


 モンスターは強さばかりが全てではない。これはモンスター自身が証明している。

 ゲリョスのように死に真似をして難を逃れようとしたり、クルペッコのように他のモンスターを呼び出して攻撃させたりと様々だ。

 両者とも攻撃的な能力もあるが、基本的には狡賢く、生き残るための手段が豊富である。

 

 

 つまり、中には逃げるために進化した変わったモンスターも居る、ということだ。

 

 

 とあるユクモ地域の渓流にて。

 レックス装備のゴツい男は、山々から見える真っ赤な夕日を眺めていた。

 

「嗚呼、クック先生に会いたい……」

 

「何をいきなり」

 

 そんな憂鬱そうな男を呼び止めるのは、レウスSシリーズで揃えた、同じくゴツい男。

 彼らの背後では、今さっき仕留めたばかりなのであろう、クルペッコが倒れていた。

 しかもその近くにはリオレウス。恐らくクルペッコが呼び寄せたモンスターなのだろうが、よく倒せたものだ。

 

「だってよ、知名度を上げる為にユクモにきてみりゃ、クック先生が居ねぇで、変わりにこんなへんてこな鳥が居るんだぞ?いい加減、懐かしくもなるだろ」

 

「そりゃそうだけどよ……」

 

 元気がなさそうだからと呼び止めてみれば、これだ。

 レウス装備の男はやれやれと首を振るが、レックス装備の男はそのままた佇んでしまった。

 

「あなたの気持ちはよく解るわ。けど油断しないで」

 

 倒れているリオレウスから声がするから振り向けば、火竜の背で胡坐を書いているナルガ装備の女が居た。

 彼女が飛び降りて二人の下へ駆けつければ、周囲を見渡した後、弓を背中に背負ってから大事なことを告げる。

 

「どうやら、このエリアに別のモンスターが乱入してきたみたいなの」

 

「げ。マジか?」

 

「本気と書いてマジ」

 

「じゃ、ちゃっちゃと倒すとしますか」

 

 ナルガ装備の女からそう告げられると、レウス装備の男は地面に突き刺していたランスを引き抜く。

 ナルガ装備の女がレックス装備の男を励ますと、二人もレウス装備の男に続いて大剣を引き抜き、歩き出す。

 

 彼らは旧大陸からやってきた派遣のハンターで、装備を見ればわかるだろうがベテラン揃い。

 ここへ来たのはハンターとしての圏域を広げる為であり、今では新大陸のハンターギルドに所属している。

 それなりに名を馳せているチームで、ユクモ大陸の中心であるユクモ村の護衛が彼らの任務だ。

 信頼度も中々のもの。ただ、変わっていることといえば……。

 

「クック先生の鳴き声が聞きたい……」

 

「クック先生のパニック走りが見たいわ……」

 

「くそぅ、なんでクック先生がユクモに居ないんだよ……」

 

「私だって気持ちは同じよ。今度、旧大陸の密林に行きましょ?クック先生に会いに」

 

「マジか!?ヤフーッ!」

 

(やっぱ変わっているよなぁ……)

 

―そう。彼らは(一名を除いて)異常なまでのイャンクックマニアなのだ。

 

 旧大陸のハンターにとっての登竜門的存在のモンスター、イャンクック。

 彼らが初心者だった頃だけでなく、ベテランとなった今でもお世話になっているという怪鳥。

 あまりにもお世話になり続けた為か、イャンクックをこよなく愛するようになったという。

 レウス男もイャンクックが好きだが、二人はそれ以上。怪鳥を先生と呼び慕うほどである。

 彼らが所属しているギルドの面々からは「怪鳥を語るならギルド1のバカップル」と呼ばれている始末。

 別に恋愛関係にはないと言い張る二人だが、レウス装備の男からすれば立派なバカップルでしかない。

 

 

 

―そんな彼らにとって、最大級の奇跡が降臨した。

 

 

 

―下あごが発達した巨大な嘴。愛嬌のある眼。大きなエリマキ。多少の違いはあれども、その姿はまさしく。

 

(((い、イャンクック!!?)))

 

―そう、我らが先生、イャンクックがユクモに降臨なさったのである。

 

 祠がある古い木の前で立ち止まっているのは、多少の違いはあれど、間違いなくイャンクック。

 こちらの気配に気づいているのか、忙しなく周囲を見渡しながら、餌であるオルタロスを食べている。

 幸いな事に遠くの物陰から隠れているから、気づいていないのだろう。

 

 では、多少の違いがあるというイャンクックの特徴について説明しよう。

 まず、体の色は黄緑。原種はピンク、亜種は青緑色だったが、このイャンクックは明るい黄緑色をしていた。

 どことなくカエルを思わせるような色だが、姿は確かに鳥であると認識できるような形状をしている。

 翼がデカい。通常のよりも1.5倍ほどあるではないか。ついでに尻尾も長い。

 

 そんな特徴溢れるイャンクックの姿を見たナルガ女はあることを思い出す。

 

(黄緑色の、翼が大きなイャンクック……まさか)

 

(なんだ?なんか知っているのか?)

 

(イャンクック愛好会の定期購読で見たことがあるわ)

 

(おい、なんだその会は)

 

(旧大陸で、長距離飛行を可能にしたイャンクックの変異種を発見したっていう情報があったんだけど……)

 

(それがあのイャンクックってのか?ていうか、だからなんだその会は)

 

「もう待ちきれないぜーっ!」

 

 ナルガ女とレウス男がコソコソと話していたのをいい事に、レックス男が突進。

 止めようとする二人を無視して、大剣を背負って黄緑のイャンクックへ向けて走り出す。

 だが黄緑のイャンクックは、近づいてくるハンターの姿を見ると、ある行動を取り始める。

 

 

―ギャーギャーギャーギャー!

 

 

 なんと、ハンターの姿を見ただけでパニックになってしまったではないか。慌しくその場でバタつき、口から電撃のようなものを漏らしている。

 イャンクックの唐突な驚きようにビックリした為、口から漏れている物に気づいていない。

 

(お、おい、いくら不意を突かれたといっても……)

 

(ああクック先生かわいいよクック先生!)

 

(ダメだこいつ、早くなんとかしないと……)

 

 そんなイャンクックの行動を見て怪訝に思っていたレウス男だが、涎を垂らすナルガ女を見て諦めた。

 ハンターとしては優秀なのに、どうしてこんなところで駄目になるんだろうか。

 

「うひょー!久々の先生パニック乙です!」

 

―お前もか。

 

 変なことを叫ぶレックス男に呆れたのか、もはや言葉に出さず頭で突っ込むレウス男。

 だがレックス男は自重しない。パニックになっていることを良い事に大剣を振るおうと構える。

 しかしそれよりも早く黄緑のイャンクックが動いた。ハンターへ向けて、口を広げて何かを吐き出す。最初は火炎かと思ったのだが……。

 

―バチチっ!

 

「あばばっ!?」

 

「で、電撃……だと!?しかも麻痺した!?」

 

 レックス男を一撃で麻痺と電属性やられにしてしまうほどの強力な電撃玉。

 一見するとサンダーボールを吐き出したようにも見えるが、確かにイャンクックが電撃を放った。

 このままではレックス男がやられる、そう思ったナルガ女が弓を構えて狙いを定めた―――次の瞬間。

 

―バサァッ!

 

 

―逃げた。それも大空へ向けて。

 

 

 大空に舞う黄緑のイャンクックを見上げながら、レウス男は呆然としていた。ナルガ女も弓を構えたまま、呆然と空に浮かぶ黄緑を見上げている。

 あそこまで上がっては弓矢が当たらないとわかっているからだ。

 

「そういえばあの黄緑色のイャンクック、クックラブによると、逃げる事に特化しているんだって」

 

「そうか……」

 

「相手の姿を見て強敵かを判断できる賢い知能、大空を舞えるだけの筋力を持つ翼、主食であるランゴスタから得た麻痺毒、そして蓄電器官持ち……」

 

「そうか……」

 

「大空を舞う彼の別名が……『空怪鳥(くうかいちょう)』。大空を行く先生……」

 

「そうか……で」

 

「で……って?」

 

 

 

 

「クックラブってなんだ」

 

 

 

 

―そして朝。とっくに制限時間を越えていたにも関わらず、彼らはそこに居た。

 

 

「み、見つからない……」

 

 ナルガ女がとても悔しそうに膝をついて涙を零す。隣で倒れているレックス男も同じく。

 レウス男は既にベースキャンプで諦めた。彼はそこまでクック先生ラブではないから。

 

 

 そう、イャンクック変異種は異常なまでに臆病なのだ。

 音に敏感に反応し、敵を認識すれば空へ逃げるか、麻痺毒を吐き出すか、パニック走りで逃げる。

 おまけに特異固体の亜種のごとく地面に電撃液を埋め込んで簡易シビレ罠を作るもんだから、余計に面倒くさい。

 旧大陸で見かけたはずの彼が新大陸へやってきたのも、全ては強敵が少ない地域へ逃げる為の進化とも言える。

 

 

 

―こうして、クックをこよなく愛する二人の、ユクモでの奇跡は終わった。

 

 

 

 ちなみにイャンクック変異種は、とっくに別の大陸へと移動中。

 静かな生活を求めて、彼は今日も大空を舞うのだった。

 

 

―完―

 




 イャンクック愛好会とは?

 クック先生をこよなく愛する人々が集うサークル。
 定期購読本「クックラブ(クックLOVEとクッ倶楽部を掛けた洒落)」で最新のクック情報をお届け!
 イャンクックへの愛を大勢の前で叫べる方なら誰でも入会可!会費は月100zから。
 今なら入会特典として「クック先生ぬいぐるみ(1/10スケール)」を無料でプレゼント!
 さらに、抽選で当サークルオリジナルの頭装備「クックフェイス(自動マーキングスキル追加)」が当たる!
 お問い合わせはMr.Sまでご連絡を!(やっていません)

 そんなわけで、見た目はクック先生でも、性質はゲリョスに近い感じです。
 賢く、逃げ足に特化したモンスターも居たら面白いだろうなぁと思いまして。
 強いうんぬんより、面倒くささが際立つモンスターです。麻痺、すぐ移動、シビレ罠と三重苦。
 怒り状態になっても危ない時は逃げるのが特徴です。また、怒りやすい(パニックになりやすい)です。

 ○本日の防具と素材一覧

 ●スカイバードシリーズのスキル一覧(共通)
 ・風圧【小】無効
 ・探知
 ・高速設置
 ・心配性

 ●主に剥ぎ取れる素材
 ・空怪鳥の耳
  綺麗な黄緑色をした空怪鳥の耳。耐電性に優れており、雷対策に最適。
 ・シャープなクチバシ
  通常のイャンクックと比べて少しスリムなのが特徴。電気を通しにくい材質で出来ている。


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part4:「混怪竜の生態」

 今回の変異種テーマは「あらゆる毒を操るギギネブラ」です。イメージはモルボル(笑)


 ある日の凍土の昼下がり。

 

―ぐー。

 

 一匹のギギネブラが腹を空かせていた。

 というのも、先日イビルジョーが現れ、主な獲物であったポポやガウシカを根こそぎ食らってしまったのが原因だ。

 この間ハンターが討伐したからいいものの、最近は満足に獲物を得られていない。

 

―生きていくのに食べるのは必要不可欠。肉食種が獲物を食べられないのは死活問題に繋がる。

 

 だからこそギギネブラは、空腹のあまり、思い切ってドスバギィを食べてみることにした。

 毒で弱らせて殺し、凍土の気温で凍らせてから口に含んで食す。食べれらないことはないようだ。

 しかしドスバギィの体内には昏睡袋があるので、当然食べてしまったら眠ってしまう。仰向けになってグーグー寝込むギギネブラ。生きる為とはいえ、少しマヌケっぽい。

 

 しかしそこをバギィが叩き起こすことで目覚め、それを捕食。

 体内の睡眠袋のおかげで、またギギネブラは眠る。そしてまた起こされる。

 今度はブナバブラだ。バギィ達だけでは腹が満たされないのか、首を伸ばしてそれを食べる。

 今度は麻痺した。ピクピクと震えるが、時期に起き上がり、またバギィを食べる。

 

 

 

 いくら生き抜く為とはいえ、慣れぬ餌を食らい付いて痛い目に合う姿は、やはりマヌケだ。

 だが、モンスターの中には、食性が変わるで姿や性質を変えるモンスターも多い。

 その中でも、ダイミョウザザミの変異種であるアラムシャザザミは異常な進化を遂げることに成功。

 毒キノコを食べて酷い目にあった回数だけ耐性が付き、ついにはあらゆる毒を吐く毒蟹へと進化したのだ。執念にも近い食い意地が為せる技ともいえよう。

 

 

 

 

 イビルジョーがもたらした、一時的な食物連鎖の崩壊。その崩壊に合わせ、ギギネブラは新たな進化への道を歩んでいくのだった。

 

 

 

 

 それからしばらくして、ユクモ村を中心にハンターが新大陸を闊歩するようになった頃。

 1人の女ハンターがギギネブラを狩り終えた所だった。

 

「はぁ……はぁ……ふふ、ふふふふふ……」

 

 仰向けになって倒れたギギネブラを眺めて、ネブラU装備の女―キュラは妖しく笑っていた。

 金色のショートヘアーに青い目をした、どちらかといえば背丈の高いお姉さん系のスタイル。

 只でさえ色っぽい格好だというのに、ギィギに噛まれた痕やネブラの唾液まみれでより色っぽい。

 

「これで通算49匹目……」

 

 そんな酷い目に合っているにも関わらず、彼女の表情には達成感に近い物があった。

 ギギネブラを嫌っておきながら、何故ギギネブラを狩っているのだろうか。

 それは、彼女がいにしえの龍骨狙いの採取クエスト(上位)にばかり通っているからである。

 しかしこれが中々手に入らず、しかもギギネブラに好かれているのではないかってぐらいに真っ先に襲われる事が多い。

 ギギネブラ嫌いの彼女がネブラUシリーズを装備してクエストに挑むのも、ギギネブラへの怨み辛みがあるからかもしれない。

 さて、これでゆっくりと龍骨を捜すことができる……と思って歩き出した瞬間。

 

―べちょ

 

 上から何かどろどろしたのが降ってきた。それだけならまだよかったが、それが溶解液となれば話は別。

 

「あづづづっ!」

 

 防具の一部を軽く溶かす程のそれは、ブナハブラの防御ダウン液そのもの。

 それを雪で流してから、まさかと思い、武器である片手剣――を構えて天井裏を見上げる。

 

 

 

―案の定、洞窟の天井に張っていたのは、ギギネブラだった。

 

 

 

「おのれぇぇぇぇぇ!まだ邪魔をするかぁぁぁぁ!!」

 

―そのキレっぷりは、普段のお淑やかさをふっとばすほどだったという。

 

 怨敵が居るというだけでキュラは光速で打ち上げタル爆弾を設置。それを放つ。

 ギギネブラらしい影はそれを察知したか天井から跳び、それを回避。天井が爆発で抉られた。

 興奮の余り息が荒くなりつつも、キュラは飛び降りたギギネブラを見つめる。

 

 

―原種とも亜種とも違う、バギィに近い体色をしたギギネブラだった。

 

 

 とはいえ、その不気味な姿は間違いなくギギネブラ。

 もしかしたら最近話題の変異種なのかもしれない。だがそんなことは無意味だ。

 

「ギギ殺し50匹目の糧となれぇぇぇ!」

 

 そう、ギギネブラ嫌いの彼女にとっては。

 片手剣を振りかざして切りかかろうとした途端、ギギネブラは身体からあるガスを発射する。

 これが毒だったとしても、既に護石と装飾品で毒耐性は出来ているから問題は……。

 

 

―あった。

 

 

「くっさ!」

 

 そう、それは毒ではない。悪臭だ。

 しかも、ラングやガンキン亜種の悪臭とは比べ物にならないぐらいに臭い。

 どれだけかというと、体がふらふらして痺れてくるような……。

 

(ちが、これ、麻痺……っ!?)

 

 キュラは驚愕した。体が痺れて動けないではないか。

 倒れている間も、頭の中で混乱していた。原種でも亜種でもこんな悪臭はなかったはずだ。

 数多くのギギネブラを狩ってきたからこそ解る経験と知識。それをいとも簡単に切り捨てた。

 そんなことを考えている間にも、ギギネブラは大きく口を広げ……。

 

 

―ずるんっ。

 

 

 

 その後、キュラはなんとかギギネブラの口から脱出することに成功。

 体を悪臭まみれにしながらも、またしても逆上し、戦いを挑むキュラであった。

 

 

 

 その後しばらくして。

 青……だった色が怒って緑色になったギギネブラと、アイテムを使い果たし疲労しているキュラが睨み合う。

 もはや採取クエストだったことを忘れていたキュラは、冷静になってこの緑のギギネブラとの戦闘を思い返す。

 

 戦い方自体はギギネブラと同じだ。首を伸ばしたり、上から攻撃したり、ガスを放ったり。

 ただ、そのガスというのが、一体何を食べてそうなったのかは知らないが、あまりにも種類が多い。

 毒を始めとして、睡眠ガス、麻痺ガス、悪臭、口から防御を下げる酸を吐くどころか、恐ろしいことにギィギの卵巣をも吐き出した。

 しかも食いしん坊らしく、毒を吐けば吐くほど腹をすかせてしまい、バギィやブナハブラを手当たり次第に貪る始末。

 

 やることなすこと全てがおぞましい。今までのギギネブラがかわいいと思えてしまうほどに。

 これではまるでバギィとブナハブラを足したような相手ではないか。

 

 

 あらゆる毒を撒き散らす、最低にして最悪のギギネブラの変異種。

 それが――オレンジ色の眼光を放つギギネブラ変異種。名付けるなら「混怪竜(こんかいりゅう)」。

 

 

―そして、とうとう我慢の限界を超えた。

 

 

「こんな奴、相手にしていられないわ!もう帰る!」

 

 べとべとのどろどろのぐちゃぐちゃのギィギまみれで泣き叫ぶキュラ。

 回復薬や食料の類ですら無くした今、便りの綱であるモドリ玉を使い、その場を脱出。

 腹を空かせたのか、天井裏からキュラを食らう気満々だったギギネブラ変異種から逃げ出したのである。

 

 

 

―ギギネブラ変異種は仕方なく、その辺を飛んでいるブナハブラを食すのだった。

 

 

 

―その後、キュラの体に付いた悪臭は洗っても中々落ちない為、一週間は洗う為に家に引きこもったという。

 

 

 

―完―




 これもやりすぎ。ですがアラムシャという事例もありますし、いいよね?(コラ)
 別名モルボルモドキ。必殺技は毒・麻痺・睡眠・防御ダウン・悪臭を混ぜた「臭い毒」。この毒を受けたら一週間は洗っても匂いが落ちません。女の大敵ですね。

 ○本日の防具と素材一覧

 ●ネブラMシリーズのスキル一覧 (共通)
 ・調合成功率+45%
 ・早食い+2
 ・広域化+1
 ・スタミナ回復遅延

 ●主に剥ぎ取れる素材
 ・はかりしれない皮
  混怪竜の背中の皮。食性により変化した皮は計り知れないほどの不気味な触感を持つ。
 ・化物のクチ
  鋭い歯がビッシリと生えた混怪竜のクチ。見続けると喰われてしまいそうな程に恐ろしい。
 ・混沌袋
  あらゆる毒素が入り混じった危険な物体。一滴でも零すと大変なことになる。

 こんな悪夢のようなギギネブラ、本気で出ないで欲しいと願っています(謎)


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part5:「氷晶蠍の生態」

 今回のテーマは「ユクモ地方のアクラ・ヴァシム」です。
 アラムシャザザミ、ツジギリギザミに続く、当作品におけるユクモ三大甲殻種の一匹です。
 しかし彼の方が到着は先です。大昔から移り渡っていた、という設定です。



―アクラ・ヴァシム。

 

 大繁栄と大衰退を繰り返すことで、永き時を生き抜いてきた甲殻種モンスター。彼らは大発生と同時に地を渡り、子孫をより多く、そしてより広い地へと送り込む。

 それを繰り返したことにより、アクラ・ジェビアという亜種が現れるようにもなった。

 

 そしてその魔の手は、かつて旧大陸から新大陸へと渡ってきたほど。

 大発生によって数を増した彼らは、少数ながらも新大陸へたどり着き、繁栄していった。

 いかにして旧大陸から新大陸へ渡ったかは解らないが、彼らは確かに新大陸で繁栄していたのだ。

 

 

―そう、恐暴竜イビルジョーが姿を現すまでは。

 

 

 彼らは生命活動維持のため、大量の獲物を捕食していかなければならない種族。

 己が生き残る為、他の種族を食らい続け、絶滅へと追い込むほどの執念と貪欲さを併せ持つ怪物。

 その悪魔の食欲は、大繁栄期のアクラ一族を根絶やしにするには充分すぎた。

 さらにアクラの体液には豊富な栄養が含まれているため、イビルジョーはこれを欲するが為に多くを食らってきた。

 

 新大陸に殴りこみ、増殖し繁栄してきたはずのアクラ一族。

 一時は大陸中に蔓延ってきたはずが、たった一匹の獣竜種によって絶滅させられるとは想像できただろうか。

 しかし、有り得る事なのだ。少なくとも、遠い未来に多くの学者達が、イビルジョーによって滅ぼされた種が数多く存在していると知ったのだから。

 

 

―種が種によって絶やされる。それが弱肉強食の世界ではありえる光景なのだ。

 

 

 

 

 だが、奇跡的なことに、アクラに生き残りが居た。

 しかし繁栄して生き延びようにも、生き残りのアクラはたった一匹しかいない。繁栄したくても出来ないのでは仕方が無い上に、彼が居るのは極寒の地―凍土。

 やはりこのまま滅んでいくしかないのだろうか。

 

―しかし、彼(?)には関係が無い。

 

 たった一匹になろうとも、生き延びた以上は生き抜く。

 彼らは大繁栄と大衰退を繰り返して生き延びた種だ。衰退期の生き方も遺伝子的に知っている。

 それが長引くだけと考えれば、その為の進化への道は容易い。

 さらに彼らは夜の砂原や沼地の洞窟など、寒い環境に適した種でもある。凍土の寒気なんてへっちゃらだ。餌も無いわけではないし、ここで生き残れる可能性は高い。

 

 まずは寒気のみに適応した体に作り変える為、体液の栄養素と温度を変えなければならない。

 以前、ギィギを卵巣ごと食したことで自身の体液の効能が上がったので、それを活用するとしよう。

 それと我らを絶滅させるような強大な力を持った存在への対処。轟竜という近しいモンスターもいる。

 ただ甲殻を硬くするだけでは足りない。もっと別の、力以外の何かが必要だ。

 

 

―まぁ、まずは餌だ。ポポという狩り易い餌もいるし、それを食べてから考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

―それから何十年、もしかしたら何百年も月日が経った頃―

 

 

 今、一匹のポポが足を凍らせて動けなくなってしまい、もがいていた。

 原因は、凍土のあちこちに散らばっている氷の塊。これを踏んづけて凍ってしまったのだ。

 空気中の水分を一瞬にして凍らせるほどの氷の結晶。これが咲き乱れるのは「奴」がいる証拠。

 

―――にも関わらず、そんな動けず終いのポポに狙いを定めたモンスターが居た。

 

 轟竜ティガレックス。丁度お腹を減らしていたのか喜びの咆哮を轟かせるのだった。

 高いところから飛び降りた後、忙しなく四肢を動かしてポポへ向けて走り出す。

 

 

 

―しかし、それこそが「奴」の狙いだった。

 

 

 

 今、ティガレックスが通り過ぎた所である結晶が動いた。

 そしてポポへ食らい付こうと牙を向けた瞬間、彼の背後で異変が起きる。

 

 先ほどの結晶が地面から伸びていき、その結晶から圧縮された液体が噴出される。

 レーザーのように伸びていったそれはティガレックスの足に命中。空気中の水分と足についた雪が凍り付き、ティガレックスの脚を氷漬けにして動けなくする。

 ティガレックスが氷によって動けなくなったところで、その結晶の主が姿を現す。

 

 その姿はまさしく、大昔からユクモ地域に生息していた生き残り――アクラ・ヴァシムであった。

 ただ、やはりというか、永きに渡り生き残ってきた彼は、独特の進化により姿を変えていた。

 

 まず、体中が氷に包まれ、美しい水晶色に染まっていた。

 アグナコトル亜種のような中途半端なものではなく、甲殻全てを氷の鎧で覆われていた。

 これは先ほどティガレックスに吹きかけた液体……常温でも空気中の水分を凍らせるほどの特殊な液体『凍結晶液』により、体に付着させているからである。

 その氷は鋏にまで行き届いており、通常の鋏よりも大きく鋭い形状を帯びていた。

 

 

―仮にこのアクラ・ヴァシムらしき変異種を「氷晶蠍(ひょうしょうかつ)」と呼ぼう。

 

 

 そんな氷晶蠍の狙いは、ポポを狙ってやってきた大型モンスター・・・つまり、このティガレックスですら餌でしかないらしく、一気に接近して鋏を広げる。

 だがティガレックスも、脚を封じられているからといって抵抗しないわけではない。

 的確に喉を狙ってきた氷の鋏によって狩られることを阻止しようと、その鋏に噛み付く。

 ティガレックスの顎の力は強大で、呆気なくビシビシと氷の鋏にヒビが入る。

 

 

―しかしこの氷晶蠍、過去の経験と新たな進化によりその対策は済んでいた。

 

 

 轟竜に噛み付かれた鋏。それを氷晶蠍は切り捨てた。

 無論、ただ鋏を体から切り離すのではない。切り捨てたのは氷の鎧だけだ。

 まるで脱皮のように簡単に剥がれたことにより、ティガレックスから氷の殻ごと引き離すことに成功。

 それを可能にしたのは、その甲殻に宿る、アクラ特有の豊富な栄養が含まれた高温《・・》の体液。

 極寒を生き抜く為に変化したその体液を熱が通りにくいはずの甲殻から滲ませることで、氷の鎧を内側から溶かし、抜けやすくする。

 それによりこの氷晶蠍は、氷の鎧を脱ぎ捨てるという、力だけではどうしようもならない荒業を手に入れたのだ。

 

 だが氷晶蠍は容赦しなく徹底させる。

 氷の鎧を口に銜えたことでそれが凍り抜けなくなった轟竜。その凍って外れなくなった口に、先ほどの凍結晶液を吹きかけ、ティガレックスの呼吸を封じる。

 呼吸が出来なくなってもがくティガレックス。そこへ氷晶蠍はさらなる追撃を掛けるべく接近する。

 彼の喉を鋏で絞めつけたのだ。両の鋏が容赦なく絞めつけ、じわじわと肉を刃が食い込んでいく。

 

 

―しかし、ティガレックスは1分も経たない内に酸欠によって息絶える。

 

 

 これにより、氷晶蠍は二匹目の獲物を手に入れたことになり、ご満悦となる。

 そのために、まずは未だにもがいているポポに止めを刺してやらなければならない。

 力いっぱいあがいているポポの前で、氷晶蠍は凍結晶液を鋏に吹きかけ、氷の刃を形成していく。

 

 

―目の前の獲物に、安らかな死を与える為に。

 

 

 

 氷の爆弾となる、己の尾と同じような結晶を周囲にばら撒き、それを囮にして襲い掛かる狡賢さ。

 高温の体液を循環させ、その熱を甲殻で逃がさないことにより、極寒に適応させたタフネスな身体。

 あらゆるものを凍結させる液体で獲物を仕留め、自身の甲殻を覆う鎧として活用する器用さ。

 その氷の鎧を脱ぎ捨てることで敵から逃げて隠れ潜む、生き残ることへの執着心。

 そして何よりも恐ろしいのは、獲物の最期を見届けるまで容赦なく攻撃する残酷さだろう。

 

 

 まさに生き残る為に戦う者。苦難に立ち向かい、たった一匹で生き残ってきた修羅の者。

 

 

―故にその名は……「アクラ・アシュラ」。新大陸に潜む修羅の甲殻種。

 

 

 彼はずっと大衰退期の身体を維持してきたことで生き延びてきた。

 いつしか新大陸に仲間が来ることを信じて、彼は長い時を生き抜いていく。

 

 

―子孫を残す為に。それがアクラ・アシュラの生き抜く意味。

 

 

 そのためにも、アクラ・アシュラは仕留めた獲物を食していく。

 誰からも邪魔されないよう、氷結晶を周囲にばら撒いておいて。

 

 

 

―氷の結晶には手を出すな。

 

 

 

 それが、後のユクモ地域の雪山における警告である。

 

 

 

―完―

 




 蠍めっちゃかっこいいやん(笑)けど名前の由来がめっちゃ解らなかってん(涙)
 そんなわけで3匹目の由来は阿修羅です。名前そのまんまです。ユクモは古き日本っぽかったのでそれっぽく名づけてみました。

 鬼武者、辻斬り、阿修羅。これがユクモの三大甲殻種です。
 書いていて楽しかったです(笑)では最期に一覧をどうぞ。

 ●阿修羅【羅刹】シリーズのスキル一覧 (剣士)
 ・氷耐性【大】
 ・寒さ無効
 ・業物
 ・火耐性弱化

 ●阿修羅【刹那】シリーズのスキル一覧 (ガンナー)
 ・氷耐性【大】
 ・寒さ無効
 ・ブレ抑制+2
 ・火耐性弱化

 ●主に剥ぎ取れる素材一覧
 ・氷晶蠍の甲殻
  氷とグラシスメタルの下に眠っている甲殻。熱を通しにくく、保温性に優れている。
 ・凍結晶液
  常温でも水分を凍らせる事の出来る特殊な液体。取り扱いには厳重な注意が必要。
 ・氷晶蠍の体液
  非常に高い温度を保っている、栄養価が非常に高いとされる特殊な液体。猛毒。

 武器を作ったら氷属性値がめちゃくちゃ高いこと間違いなし。
 防具にしたら、湯たんぽのような構造になる暖かな、けどかっこいい鎧になると信じたい。そんな素材だらけです。


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Extra1:「禁忌龍」

 モンスターハンターデルシオン、略してモンデルの真の始まりはここからでした。
 pixivで本編と変異種編を更新していた中、当時溢れ出るモンハンへの妄想が止まらなくなり、ついに始まりました。
 それがオリジナルモンスターの創作という、かなり危ない創作です。

 この作品はフィクションであり、実在のゲームとはまったく関係がありません。作者の妄想です。
 ですがピクシブでは皆様の評価も得られ、ピクシブで読者様が応募したオリジナルモンスターも登場しました。現在は作者の意欲沈下のため、低迷していますが(汗)
 
 今回のモンハン妄想はかつて変異種の応募の際に出てきた読者リクエスト「イコール・ドラゴン・ウェポン」です。
 最初はイコール・ドラゴン・ウェポンのモンスターが見てみたい、という感想(だったかな?)をもとに、具現化してみたいと思って生まれたモンスターです。

 ではエクストラ第一弾のモンハン妄想、楽しんでくれれば幸いです。

11/4:後書きにおける説明追加(モンハン妄想について)


―それは、あってはならない術。

 

―それは、生物であり生物でない、造られた命。

 

―それは、忌むべき禁断の術。

 

―故に触れてはならない。目覚めさせてはならない。

 

 

~とある古文書より抜粋

 

 

 

 凍土のエリア9。

 普段このエリアは閉ざされているが、凍土に生息する獣竜種が弱まると切り開かれる。

 その先には新たな採掘場所がある為、あえて倒すのを留めておくハンターも多い。

 

 さて、そんなエリア9だが、実は未だに探索隊の手が届いていなかったりする。

 どういうわけか、ハンター達が狩り終えて帰宅する頃には再び道が塞がれるのである。

 地形上で考えると雪崩が起こっても不思議ではないが、どうも納得が出来ない、とは探検隊の談だ。

 

 そんなことを悶々と考えていた探索隊に、あるチャンスが訪れた。

 

 ある日、探索の為にハンターに氷砕竜ボルボロス亜種の討伐を依頼した。

 その後ハンターから討伐完了の連絡を確認し、探索隊は凍土へと向かった。

 当初は別エリアを調べる予定だったのだが、運が良いと評判の上官が隊長だったからか、エリア9への道が開いていたのだ。

 

 ここぞとばかりに、探検隊は急遽予定を変更し、エリア9へと足を運ぶ。

 巣へと辿り着いた探検隊計10名は周辺の調査を開始、骨や鉱石を確認する。

 

 だが、この幸運は長続きしなかった。

 運が良いと評判の隊長が岩壁に手を触れた途端、壁が崩れ、奈落の底へ落ちたのである。

 慌てた部下が穴に向けて隊長を呼ぶが、声が遠くへ響いていくだけで、一向に返事がこない。

 とにかくロープを出そうとする中、今ロープを下ろしますとまた穴に伝える。

 

 しかし隊長には届かなかった。物理的には届いているし、気絶しているわけでもない。奇跡的に体は無事である。

 ではどうしたのかといえば、隊長が松明を持って周囲を照らした途端、隊長の意識が吹っ飛んだからである。

 

 炎によって薄暗く照らされたそこは、とても広い空間だった。

 少なくとも自然にできたものではないと解かるほどに綺麗にくり貫かれているが、氷と岩が崩れて荒れ果てている。

 まるで人が掘りぬいた所を、地震か何かで崩れて埋まってしまったかのような……。

 松明を右へ左へと振って照らされた内部を観察するが、ふとある物が目にとまった。

 

 中央に置かれている、巨大な氷の塊。ただそれだけだというのに、何故か体中に悪寒が走って止まらない。

 恐る恐る松明をその氷に掲げると、氷の中に何かが埋まっているのがわかった。

 

 

 それは、氷漬けにされていた黄金のモンスターだった。

 しかしそのモンスターとは、リオレイア希少種である金火竜ではない。それどころか、この氷漬けのモンスターが生命ではないと本能的に告げていた。

 体を金属質の甲殻で覆われたそれは、伝承の絵画で見た鋼龍に酷似している。

 

 生命のようで生命でない……隊長はこの意味に覚えがあった。

 まさかこれこそが、あのイコール・ドラゴン・ウェポンというものではないのか?

 噂でしか聞いた事がないが、それは古代技術で造られた生体兵器だという。

 もしこの金色のモンスターがそれに当てはまるとすれば、これほど保存状態が良い物は無いはず。

 

 そうとなれば、これは歴史的……いや、世紀の大発見だ。

 隊長は今日ほど自分の強運を自覚した事はなかった。これだけの発見を成し遂げたのだから。

 急いで隊員達と共に帰還して報告しなければと、隊長は部下が下ろしてくれたのであろうロープへと向かう。

 

 

 

 だが隊長は知らなかった。これは幸運ではなく、不運だったことを。いや、強すぎる幸運が余計な不運を巻き込んだのかもしれない。

 この場所、この地下、そしてこの黄金のモンスターを見た時点で、彼の運命は決まってしまったのだ。

 

 

 

 隊長がロープを手に取った直後、大きな揺れが襲った。地震のような断続的なものではなく、とても大きな衝撃が襲い掛かった。

 危険だと判断した隊長はロープを手放して後方へ下がると、直後に落石で視界を埋め尽くす。

 たちどころに出口は塞がり、帰るべき唯一の道を失うどころか、この後最大の不運が襲い掛かる。

 

 

―バキン

 

 

 モンスターを閉じ込めていた氷が砕け、金色の巨体が地面に伏す。

 

 

 そして―――目覚めた。

 

 

 キリキリと金属と金属が絡み合うような音が小刻みに鳴り、その四肢が動き出す。

 伏せていた体を起こして四つん這いになれば、その長い首を持ち上げて天を向ける。

 紅い眼が開かけば妖しく光り、背中に生えている一対の細い何かが展開する。

 

 その細い棒が三角形を描くように開かれると同時に、金色の身体に電撃が走る。

 雷光虫も無いのにジンオウガを上回る電力を見せつけ、全身の至る箇所を稲妻が舞う。

 そして驚くべきことに、開かれた棒に薄い膜のようなものが展開し、翼となった。

 

 

――――――!!!

 

 

 鼓膜が破れるどころか体が吹き飛ぶほどの大咆哮。

 金きり声を上回るほどの不協和音は、鼓膜を引き裂かんばかりに甲高く、雑音が入り混じっていた。 

 だがそれよりも大音量を上げ、男の意識を吹き飛ばしたのは、轟く落雷。

 

 

 

 幻獣キリンに勝るほどの電撃が、辺り一面を消し炭に変えた。

 

 

 

 この後、隊長と黄金のモンスターがどうなったのかは解からない。

 解かるのは、先ほどの地震の正体は、恐暴竜イビルジョーが原因だということ。

 エリア9に突如として出没した彼は、隊員を喰らい、穴を体当たりで塞いだのだ。穴を塞ぐどころか雪崩と落石によって自分ごと埋められてしまう始末。

 その巨体からすれば怪我を負う程度で治まるので、イビルジョーからすれば無問題だが。

 

 

 暴食の塊でしかないイビルジョーが何故このような奇妙な行動に出たのか。

 それは簡単だ。恐れていたのである―――地下で目覚めた黄金のモンスターに。

 恐れていたのはイビルジョーだけではない。凍土中の小型モンスターは怯えて洞窟に隠れ、大型モンスターですら下手に動かず身構える程。

 イビルジョーが向かうことが出来たのは、彼が凍土で一番強いモンスターだという証なのかもしれない。

 

 

 実際に姿を見せたわけでもないのに、咆哮だけで生物が、そしてあの恐暴竜ですら恐れる。

 恐るあまり自らを犠牲にしてまで出入り口を塞ぎ、発見を無かったことにさせる。

 それほどまでに自然界から恐れられているのだ、あの黄金のモンスターは。

 

 

 

 目覚めた後、死んだのか、あるいは生き延びているのかは定かではない。

 そもそも、あれは生きているのか、本当にイコール・ドラゴン・ウェポンなのか。

 解からないことは多々あるが、確かなのは、造られ、封印され、目覚めたということ。

 

 

 

 将来その存在が明かされるかは知らないが、名だけは伝えておこう。それは明かされることのない禁忌の名。

 

 

 

禁忌龍―――オルガ・ノゾイオン。

 

 

 

 その名を知られることは、今は無い。

 

 

 

 人が見えない所にも、モンスターは生息する。むしろ人間が知らないだけで、世界には未知の領域が沢山ある。

 今回のような隠しエリア……「地下遺跡」は、そんな未知の世界の一部に過ぎない。

 より広く、より豊かで、より多くのモンスターが住み、そして未だ人が見つけられていない生息地。

 

 

 

 我々が知りえることのない、未知のモンスターハンターがそこにはある。

 

 

 

 ハンターよ、高みを抱け。未だ知られていない世界を歩む為に。

 

 

 

―完―




 名称:オルガ・ノゾイオン(ギリシャ語で道具の生き物)
 別名:禁忌龍
 種族:不明(イコール・ドラゴン・ウェポン)
 出没地:不明
 特徴:金の甲殻・骨格はミラ系・エナジーウィング・機械じみた身体
 全身を金色の金属で覆われた謎のモンスター。生物であって生物でない気配を漂わせる。
 凍土の地下深く氷漬けになって眠っていたが、昨今の地震により氷が割れ、目覚めた。
 単体でありながら異常な程の電力を蓄えており、特異的かつ多彩な電撃技を多く繰り出す。

 強大な力を持っていたという生体兵器「イコール・ドラゴン・ウェポン」。もしゲームに出るとしたらきっと無理ゲーなんでしょうね。怖い怖い。

 にじファン時に貰ったアンケート「イコール・ドラゴン・ウェポン」です。
 細かいアンケート内容を忘れてしまったのでどうしようかと悩んだのですが、「ならいっそ機械竜でも作ってみようかな?」という発案の元に造られました。
 ご期待にあわなければすみませんでした(汗)

 ですが古代技術と強大な力ってカッコイイ雰囲気がありますよね。中二爆発な設定ですが、それでも憧れる人は少なくないはずです。
 そんな私が作ったのが、金の機械龍です。禁忌龍と名づけたのもそれが理由(笑)
 クアルセプスやジンオウガのような、外部に頼ることない電力を発生させる能力があります。
 機械あるいは造られた物ならではの特徴を出したいと思った結果生まれたものです。


 さて、モンスターハンターデルシオン、またの名を妄想モンハン、いかがでしたか?

 この作品を読んで「こんなモンスターいたらなぁ」という妄想を広げ、あわよくば作者の活動報告に妄想をぶつけてみてください。
 掲載するかどうかは全く未定、さらには低迷している為おきっぱなしにするかもしれませんので、ぶつけるだけでも満足!という方のみお願いします。
 できれば感想ではなく活動報告に入れてくれるようお願いします。

 ただし、作者は以下のような設定を苦手としています。
 ・中二的設定
  作者にもオルガ・ノゾイゾンという設定があるとはいえ、ポンポン凶悪な設定を造らないでください。伝承だけなら可。
 ・明らかに度の過ぎた力
  神越え・無限・宇宙越えなど、生物としてはありえない能力。ミラ系統や刻竜ですら限度はあります。あくまで自然界に生息するモンスターとして設定してください。
 ・最強や世界一など
  モンスターハンターにとって最強は無い。それぞれの個性を生かして生きていくのがモンスターハンターの自然界です。全てを差し置いて最強を名乗らないでください。
 ・その他、やりすぎだと思う設定は基本的に無視します。
  何事もやり過ぎないことが肝心だと私は思います。妄想だからいいじゃないと思うでしょうが、なんでもかんでも最強クラスを作っては自然界に争う意味がありません。

 作者にとってモンスターハンターの最大の魅力は「魔法や超能力を持たないこと」です。
 ミラ系統といった伝承系というのは伝承だからこそ与えられた力です。ぽんぽんとそういったモンスターが生まれてはつまらないと私は思います。
 私にとって優秀と思えるモンスターは「強いモンスター」ではなく「独特の経緯と特徴を持ったモンスター」ですので。
 どうかご理解とご協力の方をよろしくお願い致します。

 では今後も「ヤオザミ成長記」を含め「モンスターハンターデルシオン」もよろしくお願いします。


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part6:「銀獅子の生態」

 今回のテーマは「銀色のラージャン」です。別名「松岡ラージャン」とかなんとか(笑)
 pixivでのブックマークがドンドンと増えてます。最新話目当ての方とかでしょうか?(苦笑)

 11/6:文章修正及び段落追加


―銀獅子ラージャン変異種の目撃情報まとめ―

 

 

―目撃例その1

 

 

 ポッケ村のとある初心者ハンターが雪山にて銀色のラージャンを発見。これが初の目撃例である。

 そのハンターはラージャンもドドブランゴも知らなかったので、最初はドドブランゴだと思っていたらしい。

 幸いにもこちらを発見しても襲う気はなく、むしろハンターを無視してどこかへ行ってしまったとのこと。

 この目撃情報をギルドに報告。容姿の説明やハンターのイラストからみて、ラージャンだと判明。

 しかし、身体の色は白銀だったというので「そんなラージャンいるか」とギルドは存在を認めなかった。

 

 

 

―目撃例その2

 

 

 銀色のラージャンを目撃したハンターが力を付けた頃、再び銀色のラージャンに目撃。

 手持ちの書物と照らし合わせた結果、やはりラージャンだと確定。当初の通り、体毛は銀色だったという。

 ハンターが無謀にも戦いを挑むが、ラージャンは相手にするどころか、攻撃しようにも突き飛ばされて終わらせた。

 ハンターが破れかぶれの突進を繰り出すが、ラージャンはハンターを両手で掴み、投げ飛ばして終わった。

 

 ハンターは気絶していたらしく、それを気球の古龍観測隊が発見。保護した際、彼らも銀色のラージャンを目撃した。

 そこで本部へ連絡を取り、ギルドはラージャンの討伐を依頼する。

 

 

 

―目撃例その3

 

 

 別のハンターが偶然にも銀色のラージャンを発見。気づかれていないようなので後を追い、観測。

 銀色のラージャンは、氷の壁に拳をぶつける、坂道で雪玉を転がして巨大雪玉を作る、ポポを持ち上げてスクワットをするなど奇怪な行動をしたという。

 その姿はまるで修行しているかのようにも見えたと、銀色のラージャンを観測したハンターは告げる。

 

 

 

―目撃例その4

 

 

 とある男性が、雪見草を取っていた時にドスファンゴに襲われた所を銀色のラージャンに助けられたと村長に報告。

 男性によると、自分を助けたというよりは、ドスファンゴの突進を受け止めて鍛えているようにも見えたとも告げていた。

 

 

 

―目撃例その5

 

 

 つい先日までドドブランゴの群れを目撃していたが、本日そのドドブランゴの死体を発見。

 至る箇所に火傷のような痕があることや、壁や地面に拳の跡が残っている所を見て、銀色のラージャンの仕業だと断定。

 

 近辺に銀色のラージャンが作ったと思われる巨大な雪だるま(顔無し)があり、これを祀ろうかと考えているという。

 

 

 

 

 その後も、雪山付近に住む村人やハンター達の間で目撃例が多発している。

 いずれも鍛えているような行動を取っていた所から、一部では「鍛錬する武人」と呼ばれている。

 

 

 

 

 

―目撃例その12

 

 

 ラージャン討伐の依頼を受注した4人のベテランハンターがポッケ村に到着。捜索に当たる。

 しかしハンター達は道中にティガレックスに遭遇してしまい、戦闘に入ろうとした直後、銀色のラージャンが乱入。

 銀色のラージャンはハンター達ではなくティガレックスに襲い掛かり、両者が激しく争い始めた。

 動きはラージャンと酷似していたが、ハンター達が割り込む隙がないほどに激しい戦いだったらしい。

 また、しばらく戦闘を続けていると銀色のラージャンが赤く変色し、雪や氷を溶かす程の高温を発したという。

 拳をぶつけるだけでティガレックスは皮膚に火傷を負い、口から高温のブレスを吐き出して焼き殺したとの報告も受けている。

 殺したティガレックスを持ち抱えて立ち去る所へ1人のハンターが突撃するも、赤く発熱したままのラージャンに近づいただけで燃えてしまったらしい。

 ハンター達は無事に助かったものの、全治一ヶ月の火傷を負い、クエスト失敗の報告を次げた。

 

 

 

―目撃例その13

 

 クエスト失敗の報告と銀色のラージャンの観測結果を受けたギルド本部はG級ハンターを出撃させることを決定。

 また、この赤く発熱するラージャンを変異種と確定し、別名を「銀獅子(ぎんしし)」と命名する。

 

 後日、G級ハンターが雪山に入って捜索していると、銀色のラージャンこと銀獅子を発見。

 この時、銀獅子は、ハンターのG級装備を見るなり、感極まったかのように雄たけびをあげたという。

 その後、意気揚々と銀獅子は戦闘を挑み始める。G級ハンターはこれに応戦。激戦だったという。

 また、このラージャンはどうやら戦闘を続けるなどして体を動かし続けると、体温が異常に上昇して赤く発熱することが判明。

 この状態で一撃を受けると炎属性やられになる上に、下手に赤くなった銀獅子近づくとマグマに足を踏み入れたような火傷ダメージを負ったという。

 また口からブレスのように息を噴出すだけで高熱のブレスとなり、これに当たるとダメージを受けるだけでなく火属性やられになる。

 しばらくすると雪山の気温によって冷やされ元に戻るが、興奮状態に陥るとまた発熱し動きが早くなるらしい。

 

 激戦の末、G級ハンターは深手を負って気を失おうとしていた所で、銀獅子が逃亡。

 G級ハンター曰く「戦いそのものを好んでいるような奴だった」とのことで、危機感が薄かったという。

 これをギルド本部に報告した所、銀獅子の存在と能力を知り、さらなる研究が必要だと発表。

 今後は銀獅子の目撃情報や観測結果を多く集める活動が増えると予想される。

 

 

 

 

 

 

 

―目撃情報そのXX

 

 雪山へ入ってしまった子供がポッケ村に帰宅。擦り傷程度の傷を負っていた。

 

 

 

 その子供は「おっきな銀色の人影が鋼龍をぶん殴っていたよ!」と言っていたという。

 

 

 

 報告を受けたギルドは銀獅子の撃退を依頼。報告を待つ。

 

 

 

 

 

―完―




詳しい情報が無いため、素材の剝ぎ取り・装備品情報提供不可(滅)

そんなわけで、白銀のラージャンこと銀獅子です。どうだったでしょうか?
これもほとんどがwikiとユーチューブで調べた情報です。すみません(汗)

 きっと大型モンスターは幼少の頃から強くなる為にいろんなことをしているんだなぁと思っています。
 ラージャンの場合、この変異種のように鍛えたりしていないかなーと思い、書いてみました。
強者を見れば興奮して争いを仕掛けるタイプのモンスターです。
 モンスターらしくない奴だなぁ……オニムシャだってそうだわな(笑)

 体が発熱するのは、人間が運動したら体温が上がる、みたいな仕組みです。
 え?そんなの納得できない?松岡修造がラージャンになったと思ってください(滅


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part7:「宝鎚竜の生態」

 今回のテーマは「ダイヤモンドを食べてダイヤモンド化したウラガンキン」です。
 ダイヤモンドって世界一硬い物だと思ってたのに、打撃に弱いという事実を読者様から聞きました!
 聞いた時、驚き桃の木山椒の木な気分でしたよ。浅知恵でした(苦笑)

 11/6:文章修正及び段落追加


 グルメ――それはさらなる味を追及する者達の俗称である。

 

 単なる食いしん坊のことでもあり、珍味を求める者でもあり、偏食家のこともである。ようするに、普通の味では満足できない連中のことを指す。

 誰にだって、美味しい物や癖になる物を食してしまえば、舌が肥えてしまうというもの。より美味しい物を食べたいという者は少なからず増えていくものなのだ。

 

 そしてそれは、モンスターにだって同じ事だ。より美味しい生肉や植物を食べれば、できればそれを食べたくなる。

 より丸々と太った家畜のポポを狙う大型モンスターが増えたのも、この為だと思われる。

 

 では、鉱石を食らうモンスターはどうなのだろうか?

 ご存知だろうが、グラビモスやウラガンキンといった、鉱石を食らうモンスターが存在している。

 それらは食した鉱石を、体内のバクテリアで分解し、栄養としているのだ。

 

 特にウラガンキンは、繁殖期に近づくと見た目が綺麗な鉱石を食すという。

 ただ彩るだけではなく、実は宝石類といった鉱石は味が良いらしく、美味しいから食べているという説もある。

 特に金剛石(ダイヤモンド)は、ウラガンキンにとって大好物で、これが食べたいが為に互いに争うほど。

 

 

 

―このお話は、偶然にも金剛石の鉱脈を見つけたが故に変異種となった、あるグルメなウラガンキンのお話である。

 

 

 

―カツーン、カツーン

 

 今日も今日とてツルハシ振るって、お守りを探しますよっと。

 

「はぁ……こっちも駄目だったわ。アイボー、そっちは?」

 

「光るお守りは出たけど……期待は出来ないなぁ」

 

「じゃ、次行くか」

 

「そだな」

 

 相方であるカタアイと一緒にツルハシを担ぎながら、周囲を警戒しつつ次のエリアに移動する。

 俺らはいわゆる炭鉱夫。火山に篭り、優れたお守りを探し続けるハンターだ。

 装備はもちろん、2人してレザーSシリーズ(暑さ無効持ち)。ツルハシは全種持ちが基本さ。

 にしても、この調子だと今日も外れかなー……ん?

 

―ズシン、ズシン

 

「やべ、現場監督(ウラガンキン)が来たかっ!?」

 

 カタアイが叫ぶ。この足音と地面が揺れる感じは、間違いなく現場監督こと、ウラガンキンだろうな。

 火山採取ツアーでよく見かけるから、炭鉱夫は皆して現場監督って呼んでいる。

 

「急いで逃げ……間に合うか?」

 

 この足音と揺れ具合からして、すぐそこまで近づいている……ていうか見えて……。

 

 

―ウラガンキンって、あんなダイヤモンドみたいに輝いていたっけか?

 

 

「な、なぁアイボー、ウラガンキンってあんなゴージャスだったか?」

 

「奇遇だなカタアイ、俺もそう思っていたところだ」

 

 ほんと、俺らって気が合うよな。気が合うっていう理由でコンビ始めたぐらいだし。

 まぁともかく、俺が見ている物は幻ではないってことが証明されたわけだ。

 

 こっちへやってくるウラガンキンは、黄色でも青でもない、綺麗な硝子のような色をしていた。

 ていうか、背中のアレってダイヤモンドだよな?しかも腹部はルビーにサファイヤと、宝石ばっかじゃないか。

 顎もダイヤモンドがいくつも付いていて、スパイクハンマーみたいになっているし。

 

「これは、まさか……!」

 

「ん?知っているのか?カタアイ?」

 

 とりあえず咆哮してきたウラガンキンから逃げる俺ら……って。

 

 

―と、跳んだーっ!?

 

 

「「どえーっ!?」」

 

 な、なんであんなでっかくて重い奴がジャンプできるんだよ!?

 イビルジョーみたく前方へ飛んで、顎を地面に打ち付けてきやがった!しかも俺らを狙って!

 緊急ダイブで避けられたからいいが、あんなのを受けたらペシャンコになっちまう!

 

 よし、体勢を立て直してダッシュだ、ぎゃー!今度は転がってきたー!

 と、とにかくエリア移動だ!こんなアグレッシブな奴とはおさらばだ!

 

 

――――

 

 

 な、なんとか命からがら、あのダイヤ監督(仮名)から逃げ出すことができた……。

 俺らが今いる地点は、エリア9。ここまでくれば奴もおって来られまい。

 

「ぜぇ、ぜぇ、な、なんだったんだ今の……」

 

「ありゃ宝鎚竜(ほうついりゅう)って奴だぜ」

 

 走り回ったおかげで疲れた俺らは、岩に腰掛けながら深呼吸を繰り返す。ていうか宝鎚竜ってなんだ?

 

「炭鉱夫ハンターの間で噂になっているウラガンキンの変異種だよ。滅多に見られないモンスターらしいが、まさかここで会うとはなぁ……」

 

 良く知っているなぁカタアイ。俺よりも長く炭鉱夫しているだけのことはあるな。気になるので、そのまま腰掛けて話を聞くことにしてみた。

 

「で、その宝鎚竜なんだが、見ての通りダイヤモンドで出来たウラガンキンだ。

 奴は相当なグルメで、特殊な金剛石と宝石を主に食らったからああなったらしい。そんな奴から取れる素材は、皆高く売れるって話だ」

 

「まるで歩く宝石箱だな……」

 

「それだけじゃない。過去に一度だけ、他の宝鎚竜を仕留めたっていう奴がいてな?そいつが『金剛の宝玉』ってのを剝ぎ取ったんだ。それはあの『金のたまご』以上の値打ちが付いて、売り払ったハンターは億万長者になったらしいぜ」

 

「ま、まじかよ……ごくり……」

 

「そんなわけで一攫千金を狙うハンター達が挙って宝鎚竜を探し回ったが……滅多に見つからないもんで、お守り以上に出会える確率が低い超レアモンスターだって言われている」

 

「なるほど、それじゃあ俺も知らないわけだよな……」

 

 そんな超レアモンスターが俺らの前に出てくるなんて……こりゃお守りが見つからないわけだ。

 運を使い切った感が沸いてくるほどの、高ぶる感覚……ハンターとしても血が騒ぐな……。

 防具はレザーSシリーズで頼りないが、武器だけは一流だ。俺がハンマーで、カタアイが大剣……。

 

「いくか?」

 

「もち」

 

 さすが俺の相方だ。話が解る。ハンターとして、そして炭鉱夫として、ここは見逃すわけにはいかないよな!

 

 

―――

 

 

 アイボーと一緒に気合入れて出てきたのはいいが……このウラガンキン、めちゃくちゃアグレッシブな奴だな!

 

 見た目は硬そうだが意外と身軽で、細かいステップでこちらの攻撃を避けてきやがる。

 小回りが利くだけじゃねぇ。さっきのジャンプハンマーといい、跳躍力も侮れない。

 なんていうか、こいつは脚力が半端なく優れているようだな。跳ぶのも無理ねぇわ。

 

―ズドーンッ!

 

「「どわっふ!?」」

 

 危なっ! 今、メチャクチャ高く跳んだよな!?あんなのイビルジョーでも跳ばねっての!

 ダイヤモンドだらけの背中を向けて全身ごと叩き付けとか、ありゃ死ねる!……いや、防具がレザーSシリーズな時点で、どんな攻撃でもヤバいか。

 しかも相手はウラガンキン。一撃が重いし、ダイヤモンドがめちゃくちゃ硬い。

 けどな、ダイヤモンドってのは、意外と叩き付けには弱いんだよ!

 

「どりゃ!」

 

―ガヅンッ!

 

 よっしゃ!ちょっとずつだが、顎についていたダイヤモンドが崩れてきた!

 ハンマー攻撃をモロに受けたウラガンキンも、スタミナ切れで動きが鈍くなってきたし……行けるかっ!?

 

「駄目だっ!」

 

「ちょ、なんでだよアイボー!?」

 

 確かに大剣だと相性が最悪だが、この調子ならいけるって!

 例え長い時間を掛け……ん?時間?

 

 

―残り時間、2分。

 

 

「採取ツアーは50分まで!」

 

「マジかーっ!!」

 

 

 時間切れ間近じゃねーか!なんでこんな時に出てくるんだよチキショー!

 次ぎ会う時は討伐クエストで会ってやるんだからな!覚えとけー!

 

 

 

 こうして俺らは、仕方なく火山を後にして、ユクモ村のギルドに向かった。

 一応あの宝鎚竜の事を報告したんだが、様子を見に駆けつけた頃には既に居なくなっちまったらしい。

 

「くっそー、一攫千金とレア素材ゲットのチャンスが……いつか絶対に狩る!」

 

 もう居ないって報告を受けた俺らは、もちろんカっとなっちまった。受付嬢を驚かせちまったな……カっとなって机を叩くなよ、俺……。

 仕方ないので温泉に入ってリラックスすることに。やっぱ温泉サイコー。

 

「ああ。俺達もこのままくすぶっている訳にはいかないな。というわけで……カタアイ!」

 

「おうよアイボー!」

 

 さすがは俺の親友だ!ここから先に何をするのかもう丸解りだな!

 採酒飲んで!レザーSシリーズを着て!ツルハシ持って!お祈りして!

 

 

「「行くか採取ツアーに!」」

 

 

 待っていろよお求めのお守りちゃん!必ず掘り当ててやるからな!

 掘り当てた暁には、あの宝石監督を倒してやんよ!楽しみだぜ!

 

 

 

―今日も、炭鉱夫ハンターの熱い戦いが始まる!

 

 

 

―完―




 炭鉱夫よ、永遠になれ。寝不足には注意。
 アイボー&カタアイ。名前の由来は……多分わかるだろうからパス(コラ)

 ウラガンキン変異種です。めちゃくちゃ硬いですが、ハンマー攻撃に弱いという謎仕様。
 素材はもちろんダイヤモンド素材。高値で売れるのでお金稼ぎにはピッタリです!
 ただし、全身叩き付け、火山石デカい、ステップで避けまくるなど、難易度は激高なのでご注意を(笑)

 これはほぼ読者様のアイディアに自分なりの考えを付け足した作品です。
 リクエスト及びアイディアをありがとうございました!おかげでこんなに強くなりました(笑)
 それでは最後にデータの発表をして終えたいと思います。ではでは。

 ●ガンキンDシリーズのスキル一覧(共通)
 ・防御UP【大】
 ・飛距離強化
 ・回避距離UP
 ・攻撃DOWN【小】
 ・挑発

 ●主に剝ぎ取れる素材一覧
 ・宝鎚竜の顎
  金剛石がスパイクように突き出ている宝鎚竜の顎。非常に頑丈なので加工が困難。
 ・金剛の宝玉
  宝鎚竜の中心に眠る宝玉。純度の高い金剛石が一点に凝縮した大変貴重なもの。



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part8:「赤幻獣の生態」

 今回のテーマは読者様リクエスト「火山に住まうキリン」です。自然災害という古龍種イメージを解りやすくしてみました。

2014/11/20:後書きの誤字修正


―とある寒い地方の村にて。

 

 

「おばあちゃん、今夜もお話聞かせてー」

 

「てー」

 

 やれやれ、困った孫達だねぇ。もう遅いし、今夜は特に冷えるというのに……。

 5歳の姉と4歳の弟がベットの上でばたつく中、この老婆のお話が聞きたいとダダを捏ねておる。

 ワタシとしちゃ嬉しい事だが、今夜は特に冷えるから……あでで、冷えた腰が痛む……。歳は取りたくないねぇ。ハンターは引退するし、息子夫婦にハンターの仕事を押し付けちゃったし。 

 出張で居ない息子夫婦の為にも、ワタシがしっかりと孫の世話をしてあげないとね。

 

「はいはい。そんなにワタシのお話が聞きたいのかい?」

 

「うん!うち、ハンターだった頃のおばあちゃんの話大好きやー」

 

「やー」

 

 まったく、すっかり嫁さんの口調が移ってしまったねぇ……できればお淑やかな女の子に育って欲しいが、元気でないよりはマシかね。

 さて、暖炉の火をくべて……っと。何を話すとするかな……。

 

「そうさねぇ……じゃあ、新大陸に伝わる守り神の話でも」

 

「それ聞いたでー?今じゃ島の鬼になったダイミョウザザミの話やろ?」

 

「やろー?」

 

「おやま、そうだったかの?では海を泳いだ島の話でも」

 

「それも聞いたー。泳ぐ島は、実はジエン・モーランの変異種やったんやろ?」

 

「やろー?」

 

「あれまぁ……そうさねぇ……仕方ない。とっておきのお話をしてやろうかの」

 

「とっておき?」

 

「ワタシとおじいさんが今まで一度しか会うことができなかった、幻の古龍のお話だよ」

 

「こりゅー!」

 

「ほんまに古龍が好きなんやなぁ」

 

「大好きー!」

 

「ほっほっほ。残念じゃが、これから話す古龍は小さいんじゃよ」

 

「けど聞かせてー」

 

「はいはい。そうさなぁ、あれは、ワタシとおじいさんが、お前たちのお父ちゃんとお母ちゃんぐらいに若かった頃……」

 

さてさて、今日はいつまで起きていられるかのぉ?

 

 

 

 

 当時G級ハンターだったワタシらは、火山に近くある小さな村に立ち寄った。

 そこの村には随分とお世話になったことがあってね。村の皆とは交流を深めていたのさ。

 しかし、そこの火山でキリンらしき影を見たって、古龍観測隊から通達があったらしいんだよ。

 

 お前さんらも知っておるだろうが、幻獣キリンは神出鬼没な古龍種さ。雪山で見かけることが多いんだけど、奴らは火山にも出てきた記録があったからねぇ。

 村長さんからのお願いもあって、ワタシらはすぐにクエストを受けて、村へ駆けつけたよ。

 

 けどね、その日は小さな地震が多かったし、火山が活性化していて、とても危険だったんだよ。

 街一つ滅ぼすという古龍種が近づいていることもあって、村人達は不安でいっぱいだった。

 村長さんを始めとした村人達はワタシらの為に残るといったけど、ワタシらは皆に逃げるように言った。

 古龍種を倒せても噴火したんじゃ、村はお終いだ。だから危なくない内に逃げておくれ……とね。

 ワタシらの説得もあって村人は……ん?ああ、大丈夫じゃよ。最後には皆助かるからの。

 

 その後、キリンの姿を見たという火山へと向かったんじゃが……様子が変じゃった。モンスターが一匹も居なかったんじゃ。

 この間まで沢山いたはずのイーオスどころか、虫一匹ですら見つかることはなかった。

 ワタシは噴火を恐れて避難した、おじいさんは古龍が居るからだと意見が分かれたんじゃが……今でも原因は解ってはおらん。

 

 そしてワタシらは、ついにキリンを見つけたんじゃ。

 ワタシらが知るキリンは、雷を纏った白い姿なんじゃが……そのキリンだけは違っていた。

 炎の鬣をなびかせ、紅蓮に染まった身体が飛び交う姿は、まるで炎の化身のようじゃった。

 炎龍と呼ばれる古龍種も見たことがあるが、あんな猛々しくも美しいモンスターは初めて見たよ。

 

 

 ワタシらは今もその赤いキリンを「赤幻獣(せきげんじゅう)」と呼んでおる。

 

 

 赤幻獣の姿を見たのは高い岩場の上じゃった。赤幻獣はまるでワタシらを観察しているように見えたよ。

 そして赤幻獣が後ろ足で立って咆哮をあげた途端、地面が揺れ、火山が噴火したんじゃ。

 ワタシらは火山の噴火を見て驚いた。まさかあの噴火は赤幻獣がやったのではないかとね。

 しかし赤幻獣が降り立ったことで、ワタシらは動いた。せめて赤幻獣を追い払う為にね。

 

 同じキリンの姿をしているとはいえ、赤幻獣は別格じゃった。動きそのものはキリンと似ておるが、戦い方がまるで比べ物にならなかったんじゃ。

 知っておるかもしれんが、キリンは雷を纏い、雷を落として戦う古龍種じゃ。じゃが赤幻獣は違う。炎龍と同じく龍炎を纏い、炎と大地を操って戦っておったんじゃ。

 

 赤幻獣がステップを踏めば地面からマグマが噴出し、咆哮をあげれば火山弾が雨のように降ってくる。

 それだけではない。まるで私たちを狙っているかのように巨大な火山岩が落ちてきたり、地割れが起きたり……。

 まるで怒れる火山そのものを相手にしているような、とても強い古龍種じゃったよ。

 

 ワタシらはなんとか追い詰めることに成功したが……結局、あやつを討伐することには至らなかった。

 火山が本格的に噴火したからじゃよ。さすがに危険と思ったワタシらは、赤幻獣に背を向けて逃げたんじゃ。

 あの時の、立ち止まったキリンのまっすぐな眼を、今でも覚えておる。

 

 

 

―まるで、火の神様に見送られたような感覚もね……。

 

 

 

 

 

「それで、村はどうなったんや?」

 

「火山は噴火したが、溶岩も火山石も村には届かなかったから無事じゃったよ。赤幻獣も居なくなったしね」

 

「よかったー」

 

「じゃ、せきげんじゅーはどうなったの?」

 

「ワタシらはギルドに報告したんだけど、既に居なくなったこともあって、そんなのいないのではと疑われてしまってねぇ……」

 

「それって酷いやんか!おばあちゃんは嘘ついてへんもん!」

 

「心配してくれてありがとうな。けど大丈夫。実はいくつか赤いキリンの姿を目撃しておってな?ギルドもとうとう赤幻獣の存在を認めてくれたんじゃよ」

 

「じゃあ、おばあちゃんが会ったっていうキリンは、もう討伐されちゃったの?」

 

「いんや、また討伐されたという話は聞いておらんし、あちこちで赤幻獣の姿を見たという人がいるそうじゃよ。それにね、赤幻獣が現れるのは、決まって火山の噴火が近づく頃なんじゃ。じゃからギルドはあやつを『災厄を呼ぶ者』、人々は『災厄を告げる者』と呼んでおる」

 

「……もしかして、おじいちゃんがハンターを続けているのって……」

 

「ほっほっほ、そのまさかじゃよ。……さぁさぁ、もう遅いから寝なさい」

 

「はーい」

 

 お姉ちゃんもぐっすり眠っているようじゃし、お前さんも早く寝なさいね。

 それにしても本当に弟は古龍のお話が好きなんじゃなぁ……いつかはハンターになって、自分の目で見るのかねぇ。

 さてさて、ワタシもそろそろ寝るとしますか。

 

 

―今頃おじいさんは、あやつに会っているのかねぇ?

 

 

 

 

 

 長かったのぉ……よもや旧火山の奥地に姿を隠しておったとは。

 歳はとりたくないわい……相方のばあさんは引退してもうたし、暁丸・極は重いし……。

 じゃが、そんな事はどうでもええ。古龍観測隊の言っていることに間違いはなかったわ。

 

 目の前におる、この赤いキリンの姿をもう一度確かめる。

 ふふふ……あの頃にと変わらぬ眼光じゃな……それに、あの時ワシがつけた傷もそのまま残っておる。

 確信した。この紅きキリンは、ワシが長年探してきたキリンの変異種じゃ。

 

「ようやっと会えたの、赤幻獣……」

 

 ワシは太刀―黒刀【終ノ型】を抜刀し、構える。

 赤幻獣はワシを覚えておるのか、ただ息を荒げて立ち止まり続けておる。

 

「いや……ギルドでは『陽炎獣(かげろうじゅう)』という二つ名じゃったの」

 

 原種も「幻獣」や「雷獣」と呼ばれておったが、こいつにまで別名が増えるとはのぉ。

 まぁ、ワシからすればどっちでもええ。ようやっと出会えたんじゃ……心行くまで、戦うとしようではないか……のぉ?赤幻獣よ。

 

 

 

「決着をつけようぞ。赤き幻よ」

 

 

 

―赤幻獣が吼える。

 

 

―溶岩が噴水のように湧き出ていくつもの柱を作る。

 

 

―高熱のガスが渦巻き、竜巻のように溢れ出てくる。

 

 

 

―いざ、参らん。

 

 

 

 

 

―この老人ハンターと赤幻獣の決着がどうなったかは、彼らのみぞ知る。

 

 

 

―完―

 




 モンハン4情報で、キリン亜種の存在を知りました・・・セ、セーフ、かな?(汗)

 古龍って浪漫がありますよね。自然災害そのもののような圧倒的な力が素晴らしい。
 ですが逆に、自然の災害を予知したり利用したりするような事もできるかなぁと考えたのがこのキリン変異種です。
 伝説ではキリンが火山を操っている、地学的には噴火の現象として有り得るので偶然だ、とか意見が分かれているという設定です。
 雪男はいるかいないか、みたいな次元です。古龍とはいえモンスターが自然を操ってたまるか、と。さぁ、皆さんはどっちを信じます?

 では、次はお馴染みの防具シリーズと素材の紹介です。かなり運がよくなります。FはファイアのF!火属性値が凄く高い武器になります。

 ●キリンFシリーズのスキル一覧(共通)
 ・女神の祝福(レア度6以上のアイテムを発見する確率が上がる)
 ・神の気まぐれ
 ・精霊の加護
 ・不運 

 ●主に剝ぎ取れる素材一覧
 ・赤幻獣のたてがみ
  発火性の高い物質で出来ている鬣。1年中燃やしても燃え尽きず、轟々と燃え続けたという。 
 ・赤幻獣の一角
  紅蓮石よりも高い温度を保っている赤幻獣の角。硬度も高く、武器の素材として使うのがほとんど。

 女神の祝福は私のオリジナルスキルです。レアアイテムが発見しやすくなります。
 お守りだろうが太古の塊だろうがザクザク出ること間違いなし。私も欲しい(滅)
 ただし、キリン変異種の出現率そのものが超レアなのでご注意を(爆滅)


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part9:「灼岩竜の生態」

 確か今回からにじファンにはなかった変異種編になるはずです。pixivで先に公開していましたが(苦笑)
 今回のテーマは「火山に適応したボルボロス」です。本編で登場したボルボロスだったりします。



 かつてユクモの砂原地帯には、こんなモンスターが居た。

 

 そのモンスター……土砂竜ボルボロスは、ある程度の平穏な暮らしを送っていた。自身よりも強いモンスターが居たとしても、己の縄張りを守り抜いて生きてきた。

 しかもその中で一番強いモンスターはアラムシャザザミなので、特に痛い目には合っていない。

 むしろ頭突きの練習相手になれたので、己を磨くことができた。(鎧蟹としては迷惑だったが)

 しかし幸せは長くは続かず、不運にも新たな脅威が襲ってきたのだ。

 

 後に「ユクモの魔王」と呼ばれるようになる暴君……ディアブロスである。

 

 彼とアラムシャザザミの喧騒に巻き込まれるのは、いつだってボルボロスだった。

 中でも特に多いのは、アラムシャザザミに負けたディアブロスからの八つ当たり。

 いつだってディアブロスの理不尽な怒りを受けてきた彼は、いつもボロボロだった。

 おかげでタフにはなったし、食性の違い故に問題はないものの、虐げられていることには違いなかった。

 

 

―もう、こんな所出ていってやる!

 

 

 そしてこの逃亡劇である。実際にディアブロスにまた八つ当たりされていたし。

 ボルボロスは走った。自分の亜種がいるという、己の進化の可能性がある凍土へ向けて。

 

 そして、凍土からも逃げ出した。

 理由は簡単。食物連鎖の頂点、暴食の悪魔イビルジョーが居座っていたからだ。ディアブロス以上に恐ろしいモンスターがいると解かった以上、逃げ出すのは当然。

 その後も各地を転々と回ることになった。

 渓流ではドボルベルグに襲われ、水没林ではナルガクルガに襲われ、孤島ではリオ夫婦に襲われた。

 ここまでくると、もう不運と災難の星に生まれてきたような気までしてくる。ディアブロスに鍛えられたおかげで生き延びられたのは、幸運なのか不運なのか……。

 

 最終的に、彼は火山に住み込むことになった。

 砂原よりも厳しい環境でありながら、彼にはここにしか居場所が無かったのである。なぜなら、今の火山は他の地域に比べ、それほどの強者がいなかったからだ。

 

 野生の世界では競争というものがある。

 互いの縄張りや生存権を賭けて争うことが多々あり、その中で両者が息絶えることもあるのだ。

 だが今は、ウラガンキンも、アグナコトルも、リオレウスもいない。いるのはラングロトラとドスフロギィぐらい。なんとかなる相手ばかりだ。

 

 ここまで来てやっと巡ってきた幸運。是非とも物にしたい。

 いつ強敵が来るか解からないという恐怖心もあってか、彼は急激な勢いで適応していった。

 

 

 

―そして彼は、変異種の道を切り開いたのである。

 

 

 

 今、あるモンスターが巨大な岩を粉砕して突き進んでいた。

 その巨岩は巣だったらしく、崩れた岩場からは甲虫オルトロスがぞろぞろと這い出てきた。

 それを狙っていたかのように姿を現したのは、先ほどオルトロスの巣を破壊した者だった。

 

―赤黒い甲殻を纏った土砂竜……ボルボロスの変異種であった。

 

 当然のことだが、ただのボルボロスではない。

 全身が赤くなっているだけでなく、体に纏っている物にも特徴じみたものがあった。

 体に、冷えて固まったものではなく、ドロドロに溶けている溶岩を纏っているのだ。

 

 原種は強い日差しと乾燥を防ぐ為に泥を、亜種は防御力を上げる為に雪を纏う習性がある。

 その習性を捨てることなく、かつ外敵から身を守るために編み出したものだ。

 特殊な分泌液で溶岩の粘度を保つことで、常温でも粘り気のある液状を保ち、体に纏わせている。

 

 この溶岩で鉱石や紅蓮岩をくっつけておけば、防御を上げるだけでなく、体を揺らせば投石という武器にもなる。

 それだけではなく、恐ろしいことに火薬岩ですら纏わせることがあり、これをばら撒いて周囲を爆発させるという荒業も持つ。

 しかもこの液状の溶岩がボルボロスから離れ、体に浴びれば急激に冷やされ固まってしまう。

 それは泥まみれや雪まみれよりも効果が高く、一度固まると中々取れないという利点もある。

 

 そして動けなくなったモンスターに向けて、火山の鉱石で固めた頭殻を向けて突進を繰り出す。

 鉱石が多く含まれている岩石を粉砕するほどの脚力と硬度を得たボルボロスの一撃は絶大だ。

 

 パワーや防御力でこそウラガンキンに負ける。

 しかし、ボルボロス変異種の脚力と鉱石を纏った重量を合わせれば、ウラガンキンにすら打ち勝つことができる。

 ボルボロス変異種の突進はまさに砲丸だ。勢いよく飛んできた鉄の塊を前にして、吹き飛ばない物は無い。

 なによりも彼は、あのディアブロスの虐待を受けたことにより、身体的にも精神的にも強くなった。

 時には用心深く、時には大胆に。諦めの悪さは異常で、どんな時も諦めないガッツがある。

 

 その実力はハンターにだって引けを取らない。

 ユクモ中のハンターが恐れる「ユクモの魔王」の猛攻を凌いだ実力と体力は伊達ではなかった。

 鉱石を纏った重量級の体が、まるで砲弾のように勢いよく迫ってくる姿を見れば、その迫力がわかる。

 その上、冷えて固まった溶岩によって身動きが取れなくなったとしたら……その恐怖と迫力は二割増しになるだろう。

 

 

 砂原で不運の連続だった彼がここまで成長したのは、一種の偶然かもしれない。

 しかし、彼は幸運なモンスターには違い無い。おかげで突然変異を向かえ、火山の生態系の中でもトップに君臨する程の力を得たのだ。

 

 

 彼の新たな二つ名は――『灼岩竜(しゃくがんりゅう)

 溶岩と紅蓮岩を纏って突撃するその姿は、「灼熱の砲弾」の通称に相応しい。

 今日も彼は、自慢のタフさを持って突進を繰り出す!

 

 

 

 

 

 だがしかし―――後に『砕竜』なる凶悪な獣竜種が現れ、彼を脅かすようになるのだった。

 やはりというか、彼は不運の塊のようなモンスターだったに違い無い……。

 

 

 

―完―

 




 モンスターも生きている以上、不運とか幸運とかあるに違いありません。きっと(笑)

 ○本日の防具と素材一覧

 ●ボロスYシリーズのスキル一覧 (剣士)
 ・破壊王
 ・ランナー
 ・なまくら

 ●ボロスYシリーズのスキル一覧 (ガンナー)
 ・破壊王
 ・ランナー
 ・装填速度-2
 
 ●主に剥ぎ取れる素材
 ・灼岩竜の頭殻
  灼岩竜の頭部の殻。細かい鉱石が混ざり合ったものが重なって出来ている。
 ・溶解粘液
  灼岩竜から抽出される酸性の液体。これによって温度に関係なく溶岩を解かす。 


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part10:「白豹竜の生態」

今回のテーマは「白いナルガクルガ」です。舞台は凍土。
この話はイャンガルルガの逸話を元に、モンスターハンターの可能性を広げてみようと思い書いた物です。
今更ですが、リクエストしてくれた方、理想と違っていたらごめんなさい(汗)

12/10:誤字修正「黒狼竜」→「黒狼鳥」


 ―ヘッヘッヘ、良い尻尾をしていますねレイアの奥さん

 

 ―だ、駄目ですわクック先生、主人が帰ってきてしまいます

 

 ―レウスの旦那も罪だねぇ。こんないい奥さんをほったらかしにするなんてさ

 

 ―ああ、そんな……

 

 ―奥さーんっ!

 

 ―あーれー!

 

 

 

「……ていう事があってイャンガルルガが生まれたっていう説」

 

「ねーよ」

 

 ほんとにねーよ、という気分のレウス装備の男の突っ込みはとても冷めた物であった。

 なんだよ面白みねーな、とレックス装備の男は不貞腐れ、それに同意するかのようにナルガ装備の女は頷いた。

 こんな凍土のど真ん中、しかもクエスト中でそんな事が言えるのだから、二人の神経の図太さは半端無い。

 

 彼らはご存知、イャンクックを愛するユクモ地域のベテランハンター3人組であった。イャンクック変異種を逃した彼らだが、それ以降は大した変化は無い。

 現在もこうして、近隣を暴れまわっているというベリオロス「らしきモンスター」の討伐へ向かっている。

 

 「らしき」という単語が、今回のクエストのキモだ。

 目撃した人物曰く……「ベリオロスのようでベリオロスでななかった」とのこと。

 その目撃した人物というのもまた困惑させた原因で、彼はとある村の専属ハンターだったのだ。

 それも多くの飛竜を倒してきた熟練者だったのだが、そんな彼が体中に傷を負って帰ってきた。

 しかも彼が言うには、そのモンスターの動きはとても早く、目で捉えることが難しいという。

 

 極小の目撃情報とはいえ、名の知れたハンターを重傷に追い込んだモンスターを野放しにするほど甘くは無い。

 最近になって変異種の発見が続出していることもあり、ユクモ地域で主力となっている彼らを向かわせた、ということだ。

 そんな重要な任務を与えられるということは、彼らの腕前を信頼している証拠なのだが……。

 

「……で、そんな歪んだ家庭だからこそ、イャンガルルガはグレて暴れん坊になったってわけだ」

 

「ああ、かわいそうなイャンガルルガ……」

 

―なんだこの盛り上がりよう。

 

 後で邪魔になるであろうバギィ達を掃討している最中でも、レックス男とナルガ女の談笑は終わらない。

 しかもイャンガルルガ誕生の嘘話を中心にして、だ。それでいてキチンと作業しているのだからイラッっとくる。

 

 だが考えてみれば、イャンガルルガの誕生の説としては正しいかもしれない。

 飛竜にも匹敵する力を持ち、長い尾には毒を持ち、火を吹き、それでいて好戦的。まさしく火竜種の血筋を思わせるほどの攻撃的なスタイルを黒狼竜は持っているのだ。

 噂では本当に火竜と怪鳥のハーフではないかと言われているのだから、そこから冗談めいた話に持ち込んでいるのだろう。

 

―それにしたって、クエスト中にそんな話をするのもどうかと思うが。

 

 真面目かつ常識が備わったレウス男としては悩み所だが、今は仕方ない。

 大方バギィ達を倒した所で、周囲を見渡してお求めのモンスターを探すことにする。

 

 

 

 そして、3人揃ってその姿を目撃することができた。

 氷の崖の頂上から、こちらを見下すかのように睨み付けるモンスターが居たのだ。

 

 それは、遠くから見ても解かるほどに、ベリオロスのようでベリオロスではなかった。強いて言えば、どことなく別のモンスターの面影が重なる姿をしていた。

 橙色の鋸のような刃翼、棘は生えていても鞭のようにしなる尻尾、鋭い眼光……。

 

―そうだ。迅竜ナルガクルガだ。

 

 ナルガクルガを白くしたか、またはベリオロスが刃の翼を持ったかのような姿。

 奇しくもそれは、黒狼鳥のような、しかしそれ以上に恐ろしい組合せで作られたモンスター。

 黒狼鳥が怪鳥と火竜の混合種と考えるなら、こちらは迅竜と氷牙竜の混合種。

 

 

 仮に別名をつけるなら、黒き狼の竜とは対となる白き姿からして―――「白豹竜(はくひょうりゅう)」と言った所か。

 

 

 先ほどまで馬鹿な話をしていたとは思えぬほどに空気に張りを与えるレックス男とナルガ女。

 レウス男もそれに続き、高くから見下ろしているモンスター……白豹竜に対して構えを見せる。

 レックス男は大剣、ナルガ女は弓、レウス男はランス。堅実に、時に大胆に攻めるのが彼らの戦法だ。

 白豹竜はそれに応じるかのように咆哮を上げる――遠く高い位置に居るというのに、鼓膜と体をビリビリと震わせた。

 

 白豹竜は大きく跳び、滑空しながら猛スピードでこちらに跳びかかってくる。

 あんなスピードで襲われたらたまらないと、三人は助走をつけて一気に三方へと跳ぶ。

 四肢が雪にめり込むが、落下速度と重力を無視するかのように、しかし雪による滑りを生かして距離を取りつつ、態勢を立て直す。

 

 無駄の無い動きだが、僅かに隙はあった。しかしそこへ飛び込むようなことはしない。

 新たな脅威である白豹竜の動きを観察すべく、剣士2人が並び、その後方にガンナーが立つ。

 

 その警戒は正しかったようで、白豹竜は滑りの勢いが衰えたと同時に跳びかかってきたのだ。

 大剣とランスのガードで応じるが、その跳びかかりの勢いは強く、持ちこたえるのに精一杯だった。

 だがぶつかって動きを止めたのには違い無い。ナルガ女の弓矢が白豹竜を捕らえ、穿つ。

 

 しかしベリオロスの血筋を思わせる甲殻がそれを阻み、それどころか弾いてしまった。

 ただの矢では効能が無いとわかったが、今は距離を取ることを優先すべく、ナルガ女は走った。

 白豹竜の右前足がレックス男の大剣を、そしてナルガクルガ似の顔に琥珀色の鋭牙を生やした口がレウス男の盾に噛み付く。

 ジリジリと男2人が白豹竜の力に押されていき……白豹竜が後方へ飛んで距離を取った。

 

(俺が前に立つ。奴の側面から攻めてくれ)

 

 レウス男が指とアイコンタクトで指示を送り、レックス男が頷いた。

 言葉は足らずともハンターの長年の経験がそれを補い、二人は即座に行動に移した。

 

 盾を構えながら迫るレウス男を前に白豹竜は噛み付きで応戦。それを防ぐ。

 その僅かな隙を狙ったレックス男が白豹竜の右側面へと周りこみ、剣を振るう。

 

―レックス男は、もらったと思っていた。

 

 ガギン、と派手な金属音が響く。

 そこには、白豹竜の横っ腹を狙って振り下ろされた大剣を防ぐ、鋸のような刃翼があった。

 弾かれた剣の行く先に翻弄されるレックス男は、ギロリとこちらを睨み付ける白豹竜の眼を見た。

 完全にこちらの動きを読まれていたのだ。だから届かないはずの刃翼がそこにあった。

 

 レウス男を盾ごと吹き飛ばすと、白豹竜は四肢―特に右前足―に力を込め、長く棘まみれな尾を振り上げる。

 逃げ切れないとレックス男は悟ったか、即座に大剣を盾にして構える。だが白豹竜はお構いなしに、右前足を軸にして、右へ向けて体を大きく揺らす。

 結果、遠心力としなる尾によって、棘まみれの長い尾がレックス男に襲いかかる。

 

 ガード系スキルを持っていないレックス男は、盾で防げなかった箇所に激痛を伴った。

 体を打たれた痛み、棘が体に食い込む痛み……それらを体に、文字通り叩き付けたのだ。

 

「このぉぉぉぉ!」

 

 イャンクックを語り合う親友が吹き飛ぶ様を見て、ナルガ女は激怒した。

 爆裂型の弓が曲射を描いて白豹竜へと落ちていくが、白豹竜はそれですらお見通しであったかのように跳ぶ。

 短い距離だったこともあるのか、白豹竜は滑りもせずに着地。鋭い爪を突き立てたのだろうか?

 

 ナルガ女は傍目でレックス男がレウス男に助けられたのを確認し、安堵する。

 しかし白豹竜は容赦しない。今度は助走を加えて跳びかかってきたのだ。ナルガ女は即座に武器をしまい、走って逃げることでこれを回避する。

 

―だが。

 

 鋸のような刃を地面に押し当てることで摩擦が生じ、白豹竜は緩やかなカーブを描く。

 しかし白豹竜はその勢いに乗じたまま、なんと四肢を構え跳びかかる態勢に入っていた。

 

 その様子を見ていたハンター達は、固まっていてはまずいと思ったか、走り回って避けようと試みる。

 そして白豹竜が一気に跳びかかるのだが……速い。少なくとも雪上での動きとは思えないほどに。

 その速さと勢いを殺すことなく、しかし雪の滑りを計算に入れた無駄の無い動きでハンター達を追い詰める。

 

 この白豹竜にとって、雪上における動きの障害など無意味だった。

 ベリオロスは棘の生えた翼と尾で無駄の無い動きをしているのだが、その比ではない。氷地の上でありながら、ナルガクルガ特有の機敏な動きを失わせていない。

 それこそがベリオロスとの決定的な違いだった。跳躍や尾での攻撃を加え、より攻撃的になった。

 イャンガルルガのような好戦的な印象は受けず、優雅で華麗な戦い方を見せる飛竜種。

 

―ここにいるハンター達は、窮地に立たされていながらも、白豹竜の美しさをかみ締めていた。

 

 

 

 やがて戦いは激戦を繰り返し、日が地平線に傾き始めた頃。ハンター達は堅実な立ち回りを見せるものの、息が上がっていた。

 長時間も戦えば本来は足が震えていてもおかしくはないが、経験豊富な彼らはまだ持ちこたえている。

 

 白豹竜はといえば、口から涎を垂らし、息を荒げていた。

 ベテランハンターを相手に少ない損傷で済ましているとはいえ、長時間も戦えばそうもなる。

 逆に考えれば、アレだけ派手な動きをしておりながら、今になってやっとスタミナ切れになった、ということ。

 このモンスターがいかに長生きし、歴戦を貫いてきたのかが解かる。

 

―そして、根負けしたかのように白豹竜が空へ昇って行った。

 

「逃がすものか!」

 

「深追いするな。もう時間も無い」

 

 弓を構え狙い撃とうとしたナルガ女をレックス男が止める。

 本来なら飛行した所を狙って落としたかったのだが、アイテムが底を尽きた以上、深追いは禁物。

 なによりもスタミナを切らすことはできても重傷を与えることができなかったのが痛かった。

 それだけの強敵だと解かっただけでも収穫としておくべく、名残惜しそうに空を見上げる3人。

 

 

 

―大空を滑空する白豹竜の姿が、そこにはあった。

 

 

 

「ナルガ×ベリオって誰得だよって話だよな」

 

「案外いけるんじゃない?」

 

「……お前ら」

 

 さっきまでのシリアスな空気はなんだったんだろうか……。

 レウス男は即座に平常運転に戻る二人を見て、呆れながらそう思った。突っ込んだりしないのは、狩猟の疲れからだ。

 

 

 この後、三人の報告と情報提供によりギルドは難色を示した。

 ナルガクルガとベリオロスを足して二で割ったようなモンスターが居るだなんて信じられなかった。

 しかし彼らは(おふざけが多くても)名の知れたハンターだ。嘘を言っているようにも思えない。

 さらにレックス男が描いた(妙に上手い)スケッチにより詳しい詳細が解かるようになり、さらに頭を悩ませる結果となった。

 結果、この謎のモンスターを「ナルガオロス」と名づけ、世界中のハンターに注意を呼びかけることになった。

 

 

 

―完―




 レウス装備の男、レックス装備の男、ナルガ装備の女。何気に当作品常連予定の上位ハンター三人組です。
 彼らは(pixivでも)未だに名前や容姿が決まっていません。イイ加減決めるべき?

 そんなこんなで、ベリオロスとナルガクルガを合体したようなモンスターでした。
 特徴は雪上でも素早い動きを維持できることです。目撃例が少ない激レアモンスター、という設定です。
 なので装備やスキルは全然考えていません(←怠け者)


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Extra2:「地下世界」

 この話を作ったのは、MH4情報をまだ詳しく知らなかった頃です。そしてMH4に登場した「地底洞窟」・・・セ、セーフ!(汗)
 この時は自分の妄想をぶつけるということで、自分が想像した種族なども書いていました。いやぁ、あの頃はやんちゃしました(苦笑)
 来週にはピクシブで応募して執筆した、読者様のモンハン妄想を載せたエキストラを投稿する予定です。
 楽しんでもらえれば幸いです。


 近年になって世界中の学者達の注目が、とある島に留まっていた。

 オニムシャザザミが住処とし牛耳っていた楽園の島、【楽土】である。

 

 豊かな自然と、オニムシャザザミが独占していたが故の穏やかな生態系を持つ小さな孤島。

 その島には太古より、一匹の絶対強者のみが島の恵みを牛耳るという伝統が続いていた。

 オニムシャザザミが背負っている頭蓋骨……太古の頃の覇竜がその始まりではないかと考えられている。

 現時点ではオニムシャザザミに打ち勝った、二名のハンターが島の所有権を握っている。

 

 そんな楽土は、豊富な恵みだけでなく、考古学的遺産や新発見も数多く発見されている。

 まるで海竜種に守られているかのように海に眠っている海底都市がその内の一つなのだが……。

 ここ最近とある物が発見され、人類はまだ見ぬ世界の断片を見ることとなった―――謎の鉱物が発見されたのである。

 

 それは竜頭の上顎のようにも巨大な鋏のようにも見える、非常に大きくて硬質な黒い鉱石。

 その硬度や形状は、風化や流水といった自然の力では再現不可能とされており、多くの謎を呼んでいる。

 ある学者は見た通り竜の甲殻や蟹の鋏だと説き、ある学者は古代技術によって造られた物ではないかと説いた。

 だが、前者は硬すぎるし重いから生物には無理だと告げ、後者は何に使うんだと反論した。

 

 

 しかし、人々は大事な所を見落としている。元々楽土の地上は狭く、オニムシャザザミ専用のフィールドと小さな山、それを囲むようにして森が並ぶだけ。

 草食種や小型の肉食種が生息しているとはいえ、何故大型のモンスターがさほど存在していないのか。

 

 強者一匹が地上を独占していたという太古からの歴史の裏にある事実―――地上の支配者を恐れたモンスター達は、楽土の地下深くにまで逃げ出し、適応したのである。

 それこそが、地上という浅い世界で生きてきた者には想定もつかない、【楽土】のもう一つの世界。

 

 

 それが【地下世界】である。

 

 

 地下世界とは、元々は地中掘削能力に特化した巨大モンスターが掘って出来た穴だとされている。

 そのモンスターは大昔に滅んでしまったが、そこは新たなフィールドとして地下に存在するようになった。

 

 モンスターが掘ったとは思えない程に広いが、トンネルらしくうねりと高低差が若干生じている。

 太陽の届かない地下ではあるが、光蟲やヒカリダケ、それらによって光るライトクリスタルが密かに照らす。

 徐々に下へと向かっていく洞窟の先にあるのは、薄い岩盤から漏れた海水によって出来た地底湖。

 その水面下には不気味に光る魚影が幾つか映っているが……これはまた後ほどに紹介することになるだろう。

 

 この地下世界の生態系は、地上から切り離されたことで、独特の進化を遂げたモンスターが多数存在している。

 今回は、知られざる地底のモンスター達の一部をご紹介するとしよう。

 

 

 

 今、洞窟の至る箇所に生えている苔を齧っているモンスターが居た。

 そのモンスターの体は、奇妙なことに鱗も殻も無ければ、皮膚ですらない。

 ギギネブラやフルフルも硬い殻を持たないが、ブヨブヨとした柔らかな皮ぐらいはある。

 

 だが、このモンスターには体を守る物がこれっぽっちもない。

 白くて柔らかな、しかし蛍光物質によって薄っすらと紫色に輝いている不気味な生物。

 

 

 地上では滅多に見られないであろうモンスター……【軟体種(なんたいしゅ)】である。

 

 

 ここまでくれば解かると思うが、そのモンスターは巨大なナメクジのようなモンスターである。

 大きさはブルファンゴほどで、ぬるぬるとした粘液を引きずって壁や地面を渡り歩き、苔を食らっている。

 特徴的なのは、体の大きさに釣り合わない小さな角。とてもではないが攻撃や防御に使えない程に小さい。

 このモンスターの名は『ムール』。またの名を『巻角軟(カンカクナン)』。元は海に生息する貝の仲間で、角のような物は、かつて巻貝だった頃の名残だ。

 貝である故、柔らかな体はとても美味しいとされている。しかも毒性も無い。

 そんなモンスターは、地上で言う所のアプトノスポジション。よって彼も、彼らを食物とするモンスターに襲われる定めを背負っていた。

 

 

 

 今、ムールの後方の壁から何かが突き出てきた。柔らかな岩盤はたちどころに崩れていき、そこから一匹のモンスターが這い出てくる。

 

 もし明るみの下で姿を現したのなら、その姿はアオアシラに近い物を感じるだろう。

 確かにこのモンスターもアオアシラやウルクススと同じ牙獣種にあたるが、やはり生態系故の違いがはっきりとあった。

 太い腕の先には大きく太い爪が生えており、背にはハリネズミのように鋭い棘がびっしりと並んでいた。

 

 モグラとクマを合体したようなこのモンスターの名は『穴倉獣(アナグラジュウ)モゲラドス』。

 洞窟や地面の下を主な縄張りとした、地中を掘って暮らす能力に特化したモンスターである。

 

 スンスンと特徴的な鼻を嗅ぎ分ければ、すぐそこで逃げようとしているムールの存在を確認した。

 ムールは逃げようとするものの、見た目通りノロノロと地面をゆっくりと這うしかなかった。

 襲い掛かるモゲラドスの爪がムールの体に食い込み、ガッチリと掴んでから白い肉に齧り付く。

 すると、ムールの肉に食いついたモゲラドスの口周りが発光し、独特的な臭いが鼻に襲い掛かってきた。

 臭いが気になるものの、モゲラドスは食事を止めない。どうやらかなり腹ペコだったようだ。

 

 しかし、ただ食われるだけのムールではない。モゲラドスが食し、口周りに己の体液である発光液がついたことが反撃の合図だ。

 何せその体液は、モゲラドスにある目印を与える為のものなのだから。

 

 

 

 天井でキィキィという鳴き声が聞こえてくる。モゲラドスが食事に夢中なのをいい事に、それらは天井から飛び降りてくる。

 

 無数の白い鳥のような、シャギィほどの大きさを持つモンスター。

 白い鳥と聞くと平和のイメージを受けるだろうが、この鳥はそのイメージとは程遠い外見をしている。

 細かい鱗が並ぶ蛇のような皮、鋭い鉤爪が生えた蝙蝠のような皮膜の翼、大きな尾羽には翼爪と同じ爪がズラリと並んでいる。

 そんな鋭い印象を持つ小型モンスターが、十数匹の群を率いてモゲラドスの頭上を飛び回っている。

 

 このモンスターの名は『キュライア』。別名は『暗竜(アンリュウ)』。ランポスやジャギィといった、群を成して生活する鳥竜種の仲間だ。

 

 そんなキュライアがこぞってモゲラドスに襲い掛かるのは、ムールの体液が付着しているからだ。

 キュライアは超音波で暗い空間を探知して地下に適応しているが、嗅覚も鋭い。キュライア達はムールの体液を目印にして、より正確にモンスターを補足することができる。

 だからこそキュライア達は、主食である血を舐め取るべく、集団でモゲラドスの体に傷をつけに襲い掛かる。

 

 ちなみに半分ほど喰われてしまったムールだが、平然とこの場を逃げ出していた。

 軟体種は高い再生能力を持っている為、殻に守られた臓器と頭部さえあれば、一週間もしない内に全身を再生できる。

 高い再生能力と、脊髄動物には無い独特な生態こそが、軟体種の一番の特徴なのだ。

 

 

 もちろん、軟体種の力はそれだけに留まらない。

 

 

―コツコツ、コツコツ

 

 

 何か硬いものを叩くような小さい音がする。

 

 

―コツコツ、コツコツ

 

 

 その音は、着実にモゲラドスの元へと近づいてくる。

 音に敏感なはずのモゲラドスだが、キュライアの相手に夢中な為、まったく気づいていない

 しかもムールの体液は臭みが強く、モゲラドスの優れた嗅覚を鈍らせているのだ。

 

 しかしモゲラドスよりも感度の高い聴覚を持つキュライア達はそれに気付き、天井へと逃げる。

 モゲラドスが首を傾げて逃げたキュライア達を見送るが、既に遅かった。

 

 

 ここで唐突だが、冒頭にあった謎の鉱物について話そう。

 人々はあれを竜の上あごだの甲殻種の鋏だと騒いでいるが……実はどれも外れなのだ。

 火打ち石のような成分が含まれたあの物質は、ある生物が生み出した「殻」に過ぎない。

 

 その殻の持ち主こそが……モゲラドスの背後に存在している大型の軟体種である。

 かの潜口竜ハプルポッカの口並の大きさを持つ、黒くて大きな口のような殻。

 コツコツと地面や壁を叩くことで地形や障害物を理解する、センサーのように進化した棘。

 そしてムールと同じ白く柔らかな体。殻と棘が目立つがこれらは背中で、頭部は反対側にあるのが特徴。

 

 今、竜頭殻が開き、モゲラドスの頭上にヌルヌルしたものを吐き出す。

 モゲラドスがそれに気づいて振り向こうとするが、そのヌルヌスした液によって足を滑らせ転倒してしまった。

 その隙にムールが逃げ出し、火打石の塊のような殻が大きく口を開き……。

 

 

―ガキン、ボウッ!!

 

 

 勢いよく閉じたと同時に発火。

 

 さきほど吐かれた、引火性が非常に強い体液を伝ってモゲラドスと自身を高熱の炎に包み込む。

 モゲラドスは苦しみもがくが、耐熱性の高い肉質を持つこのモンスターは炎を纏っても平然としている。

 逃げ出そうとするモゲラドスを前に、ゆっくりと持ち上げていた殻を振り落とす。

 重く硬い一撃は、高熱を帯びて苦しんでいたモゲラドスにトドメを刺す形となって絶命。

 

 炎を纏う軟体種……『炎殻軟(エンカクナン)ボルヌゥ』。

 ボルヌゥはその身を炎に包んだまま、ゆっくりと焼けた肉を消化しつつ、それを食すのだった。

 

 

 

 未だ誰もその生態を確かめたことが無い地下の世界……そこには、地上に暮らす人間が予想もできない、未知なるモンスター達が潜んでいるのである。

 

 

 

―ゴオオオオォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 例えば……そう、ボルヌゥも逃げ出す程の、洞窟全てを揺るがす大咆哮を放つモンスターとか。

 

 

 

―完―




 軟体種
 自ら骨を除して柔らかさによる防衛や遁走に特化したモンスター。
 肉質が極端に柔らかい上に足がとても遅いが、異常なタフネスと再生能力を誇る。
 地上では殆ど姿を見せず、独特的な生態系を築く為とても珍しいとされている。

 巻角軟ムール(ムール貝から)
 楽土の地下世界に生息している軟体種。モチーフはカタツムリ。
 元々は貝の仲間で、海水の地底湖から這い出て進化したものと考えられている。
 唯一の武器は尖った貝だが、真価はどんな狭い隙間にでも潜り込んで逃げる術。

 炎殻軟ボルヌウ(擬音のボウボウヌルヌルから)
 楽土の地下世界に生息している大型の軟体種。モチーフはカタツムリ。
 竜頭のような巨大殻とセンサー代わりの棘が目立つが、実は全て背に当たる部分である。
 柔らかな体からは常に油が流れており、爪を鳴らすことで発火、火炎攻撃を繰り出す。

 穴倉獣モゲラドス(モグラっぽい名前にしてみた)
 楽土の地下世界に生息している大型の牙獣種。モチーフはハリモグラ。
 アオアシラに近い骨格を持ち、全身を針のような棘で覆われ、鋭い爪が生えている。
 地中を掘って生活している為に聴覚と嗅覚が発達しており、急な音や刺激臭に弱い。

 暗竜キュライア(ドラ「キュラ」とヴァンパ「イア」の組合せ)
 楽土の地下世界に生息している、群を成す鳥竜種。モチーフはオウム+コウモリ。
 ランポスと同じく群れる習性があるが、彼らは血液を主な食料としている。
 超音波で獲物を探し出す能力を持ち、大型のリーダー格は脳を揺らし気絶させる怪音波を発する。

 大声の主は内緒です(コラ)


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part11:「氷竜と氷鎧竜の生態」

今回のテーマは「雪山に生息する岩竜と鎧竜」です。氷を纏う竜…って現実で考えるとできないですよね。体温冷えるのに。

11/25:バサルモスの食性を忘れていたので、ポポからドスギアノスに変更。


―美しいという感性は、物に宿る。つまりは生き物も美しい

 

 これは、私が雪山のとある村に専属ハンターとして住まうようになる前に、何かの本で読んで覚えた名言だ。

 荒っぽい戦い方をするから勘違いされがちだが、私はこう見えても芸術……特に彫刻が好きだ。

 だからこそ、モンスターの氷像を魔除けとして置くあの村が気に入って、専属のハンターとなった。

 ポッケ村から離れた位置にあるとはいえ交流も深く、氷結晶がよく採れるこの村は恵まれていると私は思う。

 

 そんな私がハンターを勤めて5年たった頃。雪山の奥でドドブランゴを狩り終えた私は、あるモンスターに遭遇した。

 

 それは、氷の鎧を纏った岩竜……水に近い青色をしたバサルモスだった。

 もちろん私は自分の目を疑った。何せバサルモスとは、本来は火山に住まう飛竜種だからだ。

 それでも私は自分の目で見ているのが本物だと信じ……幻でないことを祈っていた。

 雲から漏れる僅かな太陽光を受けて輝くその巨体は、とても美しかった。ポッケクォーツに勝るとも劣らない。

 

 その青いバサルモスは全身を透明度の高い氷で包まれている。

 岩の竜というよりは、氷の竜……『氷竜(ひょうりゅう)』の二つ名が相応しい姿をしていた。

 分厚い氷で包まれた内側には、恐らく身を守るべき本来の鎧なのであろう、マカライト色の鎧が見える。

 まるで鑑賞用の硝子の置物にも見えるそのモンスターは、私に気づくことなくのんびりと歩いていた。

 好機とばかりに私はその後姿を追った。もっとその姿を見続けていたいと思ったからだ。

 

 通常のバサルモスは、その重量感に似合う、ドシドシという音を立てて歩く。

 だがこの青いバサルモスは違う。金属ではなく氷だからか、見た目に反して重々しい音はしない。

 しかし、その大きさに加え、薄い雲から漏れる太陽光によって淡く輝くのだから、まるで黄金の塊のような印象を受ける。

 同じ重量感溢れる姿でも、美しさが違うだけでここまで違えるものなのだろうか。

 

 そしてエリア8にて、バサルモスが一匹のドスギアノスを見つける。ギアノスの群れから逸れたのか、あるいは縄張りを追い出された敗者だろう。

 美しいバサルモスだが、ドスギアノスから見れば強敵らしく、逃げようと背を向ける。

 しかしどういうわけか、ドスギアノスを見てバサルモスが動き出した。前へ向けて歩き出したかと思えば、其の場で転がり出したのである。

 ゴロゴロと転がるものだから雪が体に纏い、一回りほど大きくなった身体がドスギアノスを押しつぶす。

 やがて巨大な雪玉からドスギアノスが這い出てくるが、同時にバサルモスも姿を現した。身体が雪に埋もれていて動きづらいが、それでも逃げようと必死で走っている。

 そんなドスギアノスの背に向け、バサルモスは何かを吐き出し、その液体が直撃。ドスギアノが動くに雪まみれになっていくではないか。あれはドスギアノスの氷液に近い物質なのだろうか?

 

 やがて纏わりついた雪の重さに耐え切れなくなったのか、ドスギアノスの動きは鈍り、動かなくなる。追い出された際に傷ついていたのだろうか?

 敵を倒したことにより、バサルモスは勝利の雄たけびを上げる。

 

 

 雲から僅かに漏れた光が、バサルモスの氷結晶の身体を照らし、淡く輝かせる。私はその姿を、とても美しいと思った……。

 

 

――――

 

 

「……ってのが、ハンターを引退して彫刻家になった男の話なんだけどよ?」

 

「そんなの居るわけねーじゃん。ハンターなんて儲かる仕事をほっぽるなんて、アホだぜそいつ」

 

―時はしばらくして。

 

 雪山には2人のハンターが笑いながら歩いていた。ランポスSシリーズとゲネポスSシリーズを着こなす男達は、ある依頼を受けてここまで登ってきた。

 目標が見えるまで暇だというのである話に盛り上がっていたのだが……その話というのが、冒頭にあった雪山のハンターの話だ。

 

 彼は氷のバサルモスに魅了されてからというものの、様々な事を考えるようになり、ハンター家業がおろそかになってしまったのだ。

 以来、彼は自らハンターを辞めて信頼できるハンターに村を任せ、彫刻家となって過ごしている。

 

 歳だったこともあって納得する者は多かったが、その男の変化に皆が戸惑っていた。

 まるで憑かれたかのように日々モンスターの氷像作りに力を入れ、氷のバサルモスの話に熱を入れているからだ。

 もちろん姿を滅多に見せないため、それは世迷言だと皆が諦めた。それでも男は語るのだ。氷のバサルモスを。

 

「大体、そんなモンスターがいるのなら目撃者が増えて、ギルドに知れ渡るもんだよな?」

 

「てーことはよ?そいつは大嘘つきってことか!ギャハハハハ!」

 

 いつにだっているのだ、浪漫や誇りを蔑ろにして、金と名誉に目が眩んだ愚かなハンターが。

 この世界は広い。ハンターズギルドですらその全てを把握しきれていないほどに。それを知るハンターもいれば、未だに井の中に留まる蛙のようなハンターもいる。

 だからこそ、彼らには夢が無い。浪漫が無い。世界を知らない。危機感がない。

 

 だからこそ……彼らは油断していた。

 ドスギアノスを狩る簡単な依頼だったはずが、別のモンスターに襲われると知らずに。

 

―ズゴゴゴゴ

 

「な、なんだ、地震か!?」

 

 突然の揺れに戸惑う男。雪崩が来ると思って即座に逃げようとするが、隣の男に止められる。

 

「いや違う……足元に何かいるぞ!」

 

 ゆっくりと、しかし大きな揺れを起こして膨らんでいく白い地面。

 男2人はその膨らみに対して左右に散ると、膨らんでいた白が一気に爆ぜ、その正体が姿を現した。

 

 

―氷結晶とマカライト鉱石を二重に重ねた装甲を持つ竜……氷のグラビモスだった。

 

 

 体を揺すってこびり付いた新雪を払いのけ、翼を大きく広げて威嚇の咆哮を上げる。

 透明度の高い氷結晶と、そこに閉じ込められたマカライト鉱石が、暗雲に漏れる太陽光により二重の輝きを見せる。

 そんな姿だからこそ、男2人はつい見とれてしまったのだ。宝石のような輝きを持つグラビモスに。

 

「な、なんて綺麗なんだ……」

 

「あ、ああ……まるで宝石みたいな……」

 

 ぽかんと口を空け、呆けた表情でグラビモスを見上げるハンター2人。

 しかしだからこそ……彼らは欲に目が眩んでしまった。

 

「ドスギアノスなんかどうでもいい!こいつ狩るぞ!」

 

「ああ!売ればいくらになるんだろうな!?」

 

 透明度の高い氷結晶と純度の高いマカライト鉱石。金に執着心のあるハンターから見れば、モンスターであろうとも宝石の塊でしかなかった。

 本来の目的を忘れ、このモンスターを狩ることに精神を注いでしまった。

 

 だが、氷のグラビモスはそんなことはどうでもよかった。

 獲物だから狩るのではない。二人のあまりの騒がしさに目が覚めてしまったからだ。

 つまりは苛立ち。苛立っていたからこそ、グラビモスは即座に行動を移した。

 

 

 

 氷を纏っているから、火属性武器を持っている自分達は勝てる。そんな油断が、彼らを死に追い詰めた。

 武器を振るおうとする前にグラビモスがガス攻撃を仕掛けてくると知ったときには、全てが遅かった。

 それは毒ガスでも睡眠ガスでもなく、雪だるま状態にさせてしまう氷属性のガスだったのだ。逃げようにも全身を硬い雪で包まれてしまい、身動き一つ取れないでいる。

 

(ば、馬鹿な!?こんなの聞いてねぇぞ!?)

 

 当然である。彼らが知っているのは、火山に住むグラビモスの攻撃方法なのだから。

 しかし、雪山にいる時点で攻撃方法が違っているということを、傲慢な彼らは気づかなかった。

 そんなハンター達の思考が恐怖に染まるよりも先に、力を込めるグラビモスの姿を見た。

 

 

 

―う、美しい……。

 

 

 

 それが、太陽の光によって輝くグラビモスの姿を見た、三流ハンターの最後だった。

 

 

 

 侵入者を亡き者にし、壁の奥深くまで押しつぶしたグラビモスは、再び地中に潜る。

 大昔より雪山に潜むようになった彼らは、静かな世界での平穏を望んでいた。

 

 雪の世界はいい。火山のように騒がしくないし、噴火のような轟音も無い。

 吹雪が姿を晦ませ、深く柔らかな雪の層で身を隠し、寒気が静けさを作る。

 そんな世界だからこそ、体力を温存する為に睡眠を多く取り、あえて氷結晶を身に纏い低温に保つのも手だ。

 

 

 氷の鎧竜……『氷鎧竜(ひょうがいりゅう)』は今日も眠りにつく。

 

 

 静かに雪積もる、この山の下で。

 

 

 

―完―

 




 初の二匹同時公開(笑)

 ウラガンキン変異種もそうでしたが、重量感のあるモンスターって好きです(笑)
 宝石とか黄金とかそうですが、やっぱり大きいものほどいいものだと思いますのでこうなりました。
 最初はアイシスメタルで覆うと思っていたのですが、ポッケ地域に生息することにしたので氷結晶になりました。

 こらそこ、アクラ・ヴァジュラと被っているなんて言わないで下さい(滝汗)


 ○本日の防具と素材一覧

 ●グラビIシリーズのスキル一覧 (共通)
 ・氷耐性【大】
 ・ガード性能+1
 ・泥&雪無効
 ・火耐性弱化

 ●主に剥ぎ取れる素材
 ・氷竜の甲殻
  マカライト鉱石が高密度に圧縮された氷竜の甲殻。美しい青色の輝きを持つ。
 ・氷鎧竜の甲殻
  氷鎧竜の甲殻。長い年月を掛けて圧縮し育った甲殻の輝きは宝石にも勝る。


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part12:「盲目の迅竜」

今回のテーマは「盲目のナルガクルガ」です。
MHP2Gでは「傷ついたイャンガルルガ」や「錆びたクシャルダオラ」が居るのに、それ以降は傷ついたりするモンスターってあまり見かけないですよね。
読者の応募もあったのですが、盲目のモンスターを書いて見ました。手負いの獣はよく吼えるともいいますし(笑)

後、今回は「ニャ」が多いです。


 傷を負っているからといって勝てると思い、挑むハンターは未熟者だ。

 むしろモンスターにとって、傷を多く負っているほど強い固体である証拠となる。なぜならそのモンスターは、歴戦を勝ち抜いてきた強敵に他ならないからだ。

 

 代表的な例として「傷ついたイャンガルルガ」を挙げよう。

 イャンガルルガは好戦的なモンスターとして知られ、多くの傷を負った固体の発見数が多いほど。

 それらは最低でも上位クラスの実力を持ち、熟練ハンターでも度々返り討ちに合う。

 

 これらを踏まえて忠告しよう――決して侮るな。絶命を確認するまでが狩猟。弱まっているからといって油断すると死にも繋ぎかねない。

 

 

 

―例え、目が潰れているモンスターが居たとしても。

 

 

 

 ニャニャ、まーたあのナルガクルガに挑むハンターさんが出てきたのかニャ?

 どれどれ、どんなハンターさんかニャ……4人とも凄い装備だニャー。飛竜は軽く倒せそうだニャ。

 このハンターさん達なら勝てるかニャ……あいつに。

 

 ここは樹海だニャ。けど最近はやけに静かなんだニャ。それもこれも、全てはとあるナルガクルガが出没したのが原因なんだニャ。

 『盲目のナグルガクルガ』……僕達の間ではそう呼ばれているニャ。

 なんでも、僕のお爺ちゃんが若かった頃から生き続けている迅竜で、中々姿を現さないらしいニャ。

 昔ハンターさんに討伐されかけたんだけど、なんとか生き延びて今に至るらしいニャ。

 その代わりに目が失ったけど……ニャ、ハンターさんが襲われたニャ。

 

 目が潰れて盲目になったナルガクルガだけど、むしろ前より強くなったんだニャ。

 元々からその強さは尋常ではなくて、そのおかげで目を失っても現役のままなんだニャ。

 けど目が潰れて盲目になった分、加減できなくなって……あ。

 

 さっそく一人のハンターさんにナルガクルガが跳びかかって、逆に吹っ飛んだニャ。

 あの、一瞬で振り向いて即座に飛びつく攻撃は、初見殺し間違いなしの鬼畜技ニャ。

 出会いがしらに吹っ飛ばされるだなんて、ハンターさんは予想だにもしていないだろうニャー。

 しかも、ハンターさん達はナルガクルガが盲目だってことを知らずに来たらしいニャ。可哀相に……。

 

 あのナルガクルガは視力を失った分、その他の感覚が優れているんだニャ。

 反射神経もピカイチで、音と気配ですぐに探知するどころか居場所ですら丸わかりなんだニャ。

 

 ちなみに僕らは木陰に隠れて観戦しているニャ。こんがり魚うめぇニャ。

 今回、皆はどっちに賭けるニャ?僕はナル……満場一致でナルガかニャ。それじゃー賭けは無しだニャ……ニャニャッ!?目が、目がぁーっ!?

 

 だ、誰だニャ、閃光玉投げたの!?あのナルガクルガは目が潰れているって解かっていないのかニャ!?

 盲目だから閃光玉は無意味……ニャ?叫び声が……ああ、攻撃されたのかニャ。教えてくれてありがとニャ。

 

 ……ふー、だいぶ目が落ち着いたニャ。酷い目にあったニャ。

 さーてと、現状は……ふむ、尻尾を狙う為に2人ほど後ろへ回るかニャ。まぁセオリーニャ。

 しかし甘いニャ。ナルガクルガは音に敏感だから、後ろに近づいても見えているかのように丸解かりだニャ。

 案の定、一人ハンターが尻尾で薙ぎ払われて吹っ飛ばされたニャ。もう一人は大剣だったから防げたニャ。双剣ってこういう時不便だニャー……。

 

 前方2人のハンターさんも負けていないニャ。一人は太刀で慎重に立ち回り、もう一人はランスで正面からコツコツと攻めているニャ。

 流石にあんな至近距離での攻撃は避けようがないから、チマチマと傷が出来ていくニャ。

 

 けどいつまでも攻撃を受けているナルガクルガじゃないニャ。

 前方にも敵がいると解かったナルガクルガは、其の場で回転して尻尾薙ぎ払い、ハンターさんをまとめて吹っ飛ばしたニャ。

 ランスのハンターさんだけは無事だったみたいで、隙をついて突撃していったニャ。勇敢だニャ~。

 

 だがしかし、ナルガクルガを前に走るだなんて間違いニャ!

 ドタドタと足音がするから、ナルガクルガは音を聞いて、跳ねて距離を取るニャ。

 時には大胆に攻めるけど、基本的に盲目のナルガクルガは慎重なんだニャ。

 

 こうして長引けば長引くほど、ハンターさん達は盲目のナルガクルガの情報を整理していくんだろうニャ。

 けどそれは盲目のナルガクルガも同じだニャ。ナルガクルガは戦うにつれて嗅覚・触覚・聴覚を駆使し、獲物がどんな奴なのか判断していくニャ。

 目が悪いからと、こちらを侮っていて手を抜いていると思ったら大間違いだニャ。

 

 するとハンターさんは、散開してナルガクルガを四方から……ニャニャ!?出た!盲目のナルガクルガの全方位針飛ばしだニャ!

 盲目のナルガクルガだけが持つこの技は、全方位に針を飛ばすという荒技だニャ。

 足音を頼りにハンターさん達が囲みつつあると解かったから、あの攻撃を仕掛けたんだニャ~。

 

 もちろんハンターさん達はモロに受けて気絶状態……ニャニャ、ランスのハンターさんも粘るニャア。

 けど、ナルガクルガは音を感知して攻撃が弾かれたと知った途端、跳びかかったニャ。

 

 まずは一名脱落か……ニャ?ランスのハンターさんが何か投げたニャ。あれは……こやし玉かニャ。的確な判断だニャ。

 嗅覚が鋭くなったナルガクルガにとってこやし玉は天敵。当たって匂いが広がった途端に大暴れだニャ。

 特に音爆弾なら怯んで隙が生まれるんだけど……まぁ流石に持ってはいないだろうニャ。

 

 こやし玉の臭いに参ったナルガクルガは、其の場を飛び去って一時離脱。

 目の覚めたハンターさん達も回復に専念した後、盲目のナルガクルガについて作戦会議を始めたニャ。

 油断していたとか、あんなナルガクルガいんのかとか、あんなのいるとか聞いていないとか暴言が飛び交っているニャ。

 

 傍から聞くと、どうやらハンターさん達は盲目のナルガクルガを討伐しにきたんじゃないようだニャ。

 当初の目的は……ヒプノックだったのかニャ。それならとっくの昔に盲目のナルガクルガの朝飯になっちゃったニャ。

 珍しくギルドの対応が遅かったようで、情報に誤りが生じてしまったようだニャ。可哀相にニャ~。

 

 あ~あ、とうとうハンターさん達が諦めて帰っちゃったニャ……まぁ仕方ないニャ。

 あのナルガクルガを盲目にしたのはG級ハンター、それも大ベテランの方ニャ。

 随分昔の話だから、今となってはG級ハンターさんですら撃退がやっとなんだニャ。

 そんなナルガクルガを相手に生きて帰れるだけでも良い方だニャ。頑張るニャ。

 

 

 

 さてと、僕らも盲目のナルガクルガに気をつけつつ、さっさと巣に帰るとするかニャ。

 抜け足差し足忍び足、ここ最近の樹海では足音ですら立てられないから困るんだニャ~。

 

 

 

―完―




今回は素材データ無し。出るとしたらG級ですよ。
ちなみにこのナルガクルガを書いたのは、ナルガクルガ希少種の存在を知る前でした。


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part13:「古狗竜の生態」

今回のテーマは「長生きして経験豊富になったドスジャギィ」です。
モンスターって生き延びれば生き延びるほど高い順位に立つそうですね。剛種とか。
このドスジャギィは長生きしてより賢くなったという設定のモンスターです。

ちなみに、ヤオザミ成長期の最初の頃に出てきたドスジャギィだったりします(笑)


 鳥竜種は賢い。これは事実だ。

 ゲリョスやクルペッコなど癖の多いモンスターは多々あるが、それ以上に知恵を垣間見る種が存在している。

 

 それが社会性を築く鳥竜種……ランポスやジャギィといった群れをなすモンスター達。

 彼らは多くの群れで行動する。これだけでも繁栄が約束され、自然界に生き残る可能性が飛躍的に上がる手段なのだ。

 中でもドスジャギィを始めとする狗竜は鳴き声で指示を下し、専用の逃げ道でハンターを撒く知恵を持つ。

 群れを守る為に働く防衛本能も高い為、より生存率が上がるというもの。

 

 幸いなのが、彼らは他の種族に比べて力が弱い事と、攻撃性が低く臆病な種が多い事か。

 もし彼らがより多く、より強く、より攻撃的な種であれば危険度は増していただろう。

 それに狗竜は群れで行動する程度だ。ゲリョスやクルペッコに比べれば小賢しい程度である。

 

 

 

―ではもし、より多く、より強く、より攻撃的な狗竜の上位が現れたとしたら?

 

 

 

 ここで、あるモンスターを紹介しよう。

 

 最初は何の変哲も無い、孤島を主な縄張りにするドスジャギィであった。

 だが彼は多くの苦難を乗り切り、あのオニムシャザザミの幼少期を相手に苦戦を強いられてきた。

 永きに渡って身についた苦労と経験。それこそが、このドスジャギィの力である。

 

 彼はオニムシャザザミの幼少期……ブシザミと悪戦苦闘を繰り広げた。

 ブシザミはジャギィ達の巣に生えているキノコが目当てなのだが、それを許すドスジャギィではない。

 幼少の頃から重く硬いブシザミをどうにか追い払えた彼は、子分達の信頼を手にした。

 その苦労の経験があったからこそ、ドスジャギィは賢く生きることが出来た。

 

 リオレウスを相手に喧嘩や獲物の奪い合いをするのは得策ではない。

 獲物を自分達の巣へ追い込めば、自分達の領域でのんびり食事を取ることができる。

 アオアシラやロアルドロスなど飛べないモンスター相手なら、必ず数を揃えて戦う。

 ジンオウガに至っては、近づくことですらやめるようにした。触らぬ神に祟り無しだ。

 

 だからといって、戦わないわけにはいかない状況もあるはず。

 

 飛竜種なら洞窟へ誘い込んで狭い場所で戦えば有利になる。

 段差を利用して岩を落とすことも有効であると知った。

 群れをより効率よく従えるために別の群れを取り入れ、そのリーダーを副リーダーとして群れに加えた。

 時には1対1でアオアシラに挑み、力を磨き、力強いリーダーとしてアピールした。

 

 何事もコツコツと物事を習得していくことが肝心。ドスジャギィは過去の苦労を知ったからこそ、今の苦労を飲み込むことができた。

 彼は徐々に力を付け、知恵をつけ、徐々に自分の群れを大きくしていく。

 その狡賢さは凄まじく、自分よりもハンターを前に不可侵領域に逃げ込むという知恵を見せ付けた。

 強敵から身を守る術を多く手に入れた彼と彼の群れは、急激に力を身につけることとなる。

 

 

 

 そして彼は、トライジャギィ……通称「古狗竜(こくりゅう)」と呼ばれる変異種に進化を遂げたのである。

 

 

 古狗竜とは。その二つ名の通り、古くから生きながらえてきた狗竜を指している。

 古狗竜事体の特徴としてまず挙げられるのは、二つ名のもう一つの由来となった、その黒い体色。

 かつて群れで倒したというイビルジョーを喰らった時から、その体は徐々に黒くなっていった。

 歳故に鱗が古くなってきた事も起因だと思われるが、サンプルが無い以上はハッキリとは解からない。

 続いての特色は、首を覆うほどに大きなエリマキ。あまりにも大きくなり過ぎた為に威嚇用として広げられないが、それでも群れのボスとしての証になっている。

 

 そして古狗竜の最大の特徴は……その群れの規模の大きさである。

 

 まず、群れには最低でもジャギィが100匹ほどいる。これだけでも驚異的な数字だろうが、これだけではない。

 巣を守るジャギィノスが75匹。それを従える普通のドスギャギィが5匹。単純計算でも、ドスジャギィ一匹に対してジャギィが20匹、ジャギィノスが15匹いる計算となる。

 そんな群れを5つ全て統一しているのが、黒いドスジャギィこと、トライジャギィ一匹だ。

 

 彼らは大規模な群れを率いて、一つの地域を転々とまわり、陣取っている。

 もちろん、彼ら全てがその地域全てを支配するわけではない。獲物を取りすぎて生態系を狂わすこともしない。

 トライジャギィに従わず勝手にやっているわけではなく、彼らは本能的に、上には上がいるということを理解しているからだ。

 無理に戦わない。無理に争わない。無理に命を散らせない。これを徹底しているのだ。トライジャギィは群れの繁栄と安泰を主に指揮し、子分達はそれに従っている。

 

 それに、トライジャギィは金冠サイズのドスジャギィよりも一回り大きい程度。大きければ大きいほど強くなるとはいえ、彼一匹ではリオレイアにも勝てない。

 彼の最大の特徴は、その鳴き声の音量と、パターンの多さによる複数の指令。これにより狗竜独特のネットワークを持ち、遠くからでも群れに届き、集合させることができる。

 それだけではない。目撃例によれば彼らは地形を利用し、他の小型モンスターですら利用したと聞く。

 

 そして終結する、総勢180匹以上のジャギィの大群。ただでさえ多い彼らが一つのエリアに密集すれば、4人ハンターが揃っていても全て相手するのは難しい。

 そこへトライジャギィの巧みな指令によって円滑な動きを見せるとなれば……恐ろしいものである。

 

 何よりも厄介なのは、一度でも命の危機を感じれば群れを全て引き下がらせ、フィールドから逃げ出すことだ。

 G級ハンターですら、後一歩というところでトライジャギィと小さな群れを逃がし、再び大群へと繁栄させてしまった記録がある。

 それほどまでに彼らは賢く、生きることに執着している。人間への被害も最小限で、別段目立った動きもない。

 

 だが、我々学者は彼らを危惧している。大規模な鳥竜種の群れが効率よく生き延びることで、我々人類の敵に成りえないかを。

 その危険性はギルドも理解しており、ハンター達に討伐を依頼している。

 しかし寄せられるのは、失敗の報告と情報提供ぐらい。たかが狗竜の親玉だと侮っていた、というのが大半の言い訳だ。

 

 

 

 忘れないで欲しい。トライジャギィは確かに危険なモンスターだ。強者としてではなく、賢者としての危険性を、奴は孕んでいる。

 彼らはいずれ、どんなモンスターよりも厄介なモンスターになるであろう。トライジャギィという賢者が、人間の目を掻い潜って攻めてくるようになると。

 強大な力とは違った、狡猾な知恵。それもまたモンスターが身につくと厄介な所ともいえよう。

 

 

 

―完―

 




 群れるって大切ですよね。弱者の知恵。その上で大事なのはリーダーの能力。いかに群れを生き残らせることができるか。
 そんな能力に秀でたドスジャギィが出てきたらこんなことになるかなぁと(笑)

 そんなわけでドスジャギィの変異種、トライジャギィの登場です。
 実はヤオザミ成長期を書く前から、こんな風にドスジャギィを強くしようと考えていたんです。
 それが変異種編を作成するにつれて、こんな形で登場する形となりました(笑)

 どうです皆さん、ドスジャギィだって進化すればやりますでしょう?(笑)ちなみに黒龍との関連性はありません。

○本日の防具と素材一覧

●ジャギィOシリーズのスキル一覧(剣士)
・攻撃UP【大】
・斬れ味レベル+1
・砥石高速化
・心配性

●ジャギィOシリーズのスキル一覧(ガンナー)
・攻撃UP【大】
・連発数+1
・装填速度+1
・心配性

●主に剥ぎ取れる素材
・古狗竜の尖爪
 古狗竜の鋭い爪。殺傷力が強まっただけでなく、物を程好く掴めるほどに湾曲している。
・賢者のエリマキ
 大きすぎる襟巻。これをローブとして身につけた男はたちまち賢者の如き知恵を身につけたと云う。


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part14:「黒熊獣と王暴竜の生態」

今回のテーマは「人を食らうアオアシラ」と「鉱石をも食べるイビルジョー」です。
食性が変わるだけでこんなにも危険度が跳ね上がる、ということを示したかった。

1/15:誤字修正
2014/11/20:誤字修正


 食事はとても大切だ。誰しも食べなければ成長しないし、酷い時には死に至る。人間もモンスターもそれは同じで、皆が食べるということで生きることを実感していく。

 そしてこれも同じことだが、モンスターにもグルメという言葉の意味が当てはまる。宝石類ばかり食べて体が宝石になったウラガンキン変異種がその良い例だろう。

 

 

 人間を食べるのが好きになったモンスターなどもいるから、困ったものである。

 

 

 さらっと言ってしまったが、モンスターも時には人間を喰らう。だが大型の肉食モンスターのほとんどはおつまみ程度でしか感じていない事だろう。

 何せいくら大柄な人間が居たとしても、アプトノスやリノプスよりは小さい。大きな体の食欲を満たすなら大きい肉の方がいい、ということだ。

 

 だがしかし、ここでもモンスターのグルメ精神が一役買ってしまう。

 同じ種族でも好みが違う以上、好みなのがあったらそれを主に食べたくなるのは当然のこと。

 特に雑食性のアオアシラなどに至っては食の幅が広い為、通に走ってしまう者も多くは無い。

 

 そんなアオアシラの中には、人間を主に食べたがるという恐ろしい者もいる。

 こういったアオアシラは、獲物の返り血や栄養素によって毛が赤黒く染まり、凶暴性が高まる。

 これをアオアシラの変異種、「黒熊獣(クロユウジュウ)」というのだが、これがまた厄介なモンスターだ。

 

 すなわち、人のみならず村や住宅を襲う確率が格段に上がる。

 

 通常のアオアシラよりも少し強い程度だが、この黒熊獣の恐ろしい所は、積極的に人の住処を襲うことだ。

 人を見かけたら即座に襲い掛かるだけでなく、人の臭いを嗅ぎ分けて集落を見つけ、人を襲う。

 このような習性があることから、ユクモ地方では黒熊獣の討伐を最優先とし、緊急クエストとして召集をかけることがある。

 

 また、ハンターとして対峙するとしても、充分な注意が必要だ。アオアシラだからと油断するハンターもいるだろうから、念のために忠告しておこう。

 アオアシラ変異種の攻撃を受けるのは問題ない。ただ、絶対に捕まってはいけない。

 

―食べられるから。

 

 人間を好んで食べるアオアシラに捕まったら、まず美味しく頂かれてしまう。その発達した顎と牙は通常種より強く、ひとたびでも噛まれれば致命傷を負ってしまう。

 通常種以上に警戒すべきは、積極的に捕らえて食べようとするアオアシラ変異種の食欲。もしガンナーが居るのなら、彼らの食欲が成せるスピードに注意しておいて欲しい。即座に狙われるので。

 そんな危険性もあるからか、ハンター達は一切の容赦なく討伐し、黒熊獣の数を減らしつつある。

 

 

 強さではなく、別の意味での危険性の高さを持つ、人を主な食料とする狂暴な牙獣種。人を積極的に襲い、喰らおうとするその姿は、まさに食欲の権化。

 噂に名高い覇喰のパリアプリアに劣るとはいえ、これも脅威の一つであろう。

 

 

 だが、モンスターの食に対するこだわりはこんな所で終わらない。

 

 

 あるイビルジョーがウラガンキンを主に捕食していたとしよう。

 ウラガンキンの体内にはバクテリアがあり、そのバクテリアの働きで鉱物から栄養を得ている。

 ではもし、このバクテリアがイビルジョーの体内での活動を可能にしたら?

 そんなことがあったとしたら、貴重な鉱石やお守りを片っ端から喰らいつくす最悪のイビルジョーが誕生するだろう。

 

―実際にいるのだが。ウラガンキンを主食としたことで進化した、イビルジョーの変異種が。

 

 そう、食による進化は、時に恐ろしい者を生み出す。

 鉱石を主な食料とすることで異常な硬度を手に入れたオニムシャザザミ。

 ブナハブラやバギィを食してきたことで様々な毒を操るギギネブラ変異種。

 宝石ばかり食べて体が宝石となったウラガンキン変異種がそれに当てはまる。

 

 そして、イビルジョーの変異種という凶悪な存在までも生み出す要因にもなる。

 このイビルジョーは、グラビモスやウラガンキン同様にバクテリアを体内に宿し、鉱石を喰らう術を持つ。

 食料とするだけでなく、その巨体に鋼鉄の皮膚を施すことができ、鋼色の巨体は圧巻の一言に尽きよう。

 

 このイビルジョー変異種を「王暴竜(オウボウリュウ)」と名づけるとしよう。

 

 この王暴竜の恐ろしい所は、生態系どころか自然ですら破壊しかねない食の広さにある。食欲に飢えているイビルジョーの食の幅が広がり、より被害が増える結果となったのだ。

 もちろん生物という生物をも喰らいつくすため、自然が崩壊するのも無理はないだろう。

 

 戦闘能力においても、通常種とは比べ物にならない力を秘めている。

 鋼鉄を含んだ巨体の為にスピードは下がっているが、その分パワーは桁外れで、あのウラガンキンですら一撃で吹っ飛ぶという高性能タックルを備えている。

 さらに全ての鉱石は牙となって集結する為、その歯は鋭く硬い為、噛み砕く力も凄まじい。ウラガンキンを背中からバリバリ食べられる程の顎、と考えてもらえれば想像できるだろうか?

 

 この恐ろしい王暴竜が居て大丈夫なのかと言うだろうが、安心して欲しい。とっくに滅されている。

 一つの小さな火山地帯を滅ぼした王暴竜が別の火山地帯へと足を運んで……斬り殺されたのだ。その縄張りの主に。

 

 そこらを支配していたのは、かのオニムシャザザミに並ぶ三大甲殻種が一匹……刀蟹ことツジギリギザミ。

 縄張り意識が強く好戦的なツジギリギザミは、例え暴食の上位種が相手だろうとも戦う事を選ぶ。

 王暴竜も、大抵は自身から逃げ出すはずの獲物が自ら寄って来たとなれば戦いざるを得ない。

 

 こうして両者が争ったわけなのだが……結果は王暴竜の惨敗で終わった。

 パワーはあれど機動力の無い獣竜種に、天井に地中にと縦横無尽の機動力を持つ甲殻種相手に苦戦するのは至極当然。

 とはいえ、仮に相手が通常種であったのなら己のパワーと鋼鉄の甲殻を前に平伏し、食事となっていたことだろう。

 だが相手はツジギリギザミ。油と火炎攻撃で熱した鋼鉄の体は、切れ味抜群の刃前には無力だった。

 割合しているようだが、両者の戦いは凄まじいものであった。甲殻種とはいえ百戦錬磨の強者。変異種に成り立てのイビルジョーにとって分が悪かったのだろう。

 

 

 このように、食の力とは凄まじい。環境の変化や突然変異に等しい力を得るほどに。長年の月日や偏食、未知なる食に挑む勇気という苦難はあれど、その価値は充分にある。

 ハンター諸君も好き嫌いなどしていたら、逞しい体にはなれないぞ?

 

 

 

―完―

 




本当に食べる力って便利です。変異種化の理由の一つとして(笑)
モンスターハンターの世界では常識ですよね。食性の違いによる変化というものは。
……ただの亜種じゃないかって?その通りですとも(コラ)
それでも、人を食べたり、ハンターにとって宝と言えるお守りですら食べたりしたらたまりませんよね。

今回はそんな回です。採掘ポイントを減らすモンスターとか出たら採掘ツアーの天敵になりかねませんね(笑)
え?オニムシャザザミとかもそうじゃないのかって?その通りですとも(コラ)

○本日の防具と素材一覧

●アシラBシリーズのスキル一覧 (共通)
・拾い食い
・ハンター生活
・攻撃UP【中】
・腹減り増加【小】

●バンキンGシリーズのスキル一覧(共通)
・火事場力+2
・力の解放+2
・体術-2
・腹減り増加【大】

●主に剥ぎ取れる素材
・黒熊獣の剛毛
アオアシラ変異種の体を覆う剛毛。餌食となった人間の怨念が聞こえる……気がする。
・血まみれの牙
これまで多くの犠牲が出たためか、染み込んだ血によってどす黒く染まった紅い牙。
・王暴竜の鉄鱗
薄くも硬い鋼鉄の鱗。バクテリアによって分解され吸収された鉱石がにじみ出ている。
・王暴竜の硝酸
鉱石を液状に変えるほどに強力な酸。ほとんどを溶かすので採取が難しい為、かなり貴重。


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part15:「紫影の生態」

今回のテーマは「姿を消す能力を有したフルフル」です。
フルフルベビーの生態を題材に考えてみた妄想成長の結果です。色々と無理設定ですが(汗
そういえばフルフルって別名で呼ばれることないですよねぇ……勿体無い。


 洞窟などといった、暗く狭い場所を好む特殊な飛竜種―フルフル。

 他には無い独特的な見た目に恐れ慄くハンターは数多く、逆にそれが良いと絶賛するハンターもいるほど。

 そんなフルフルには、未だミステリアスな面が多々存在している。

 

 ある程度の生態の解析ができているとはいえ、謎が多いという事実に代わりは無い。

 フルフルベビーという容態が採掘で見つかることがあっても、彼らの成長過程全てを見た者は居ないからだ。

 また、生息地が同じフルフルの亜種が何故あのような赤い色に変貌したのかも、未だ解明されていない。

 

 

 しかし近年になって、ある研究者がとある仮説を立てた。

 「フルフルは、幼生期にどのモンスターに寄生したかによって成長が変わるのではないか?」

 そのような仮説が生まれた理由はほかでもない―――フルフルの変異種の噂が広まっていたからだ

 

 

 目撃者は意外にも多いが、その大半は「偶然見かけた」という言葉が付け加えられている。

 目撃情報によると、主に旧大陸の沼地に現れるらしく、メゼルポルタ広場やポッケ村を問わず様々なクエストで姿を現すらしい。

 それでも発見は稀で、神出鬼没なモンスター故に、探そうと思っても見つけられないものだそうだ。

 数多くの沼地クエストを受注した者でも未だ発見できない時もあれば、初めて沼地に向かった者が目撃したこともあるという。

 

 このように数多くの目撃情報がありながら、調査団やギルドナイトが探索しても見つけることが無い。

 下手をすれば古龍種並の発見難易度を誇るかもしれないそのモンスターは、目撃情報を頼りに仮設を立てるしかなかった。

 目撃情報を受けたギルドや学者達がまとめた結果、以下のような特徴を持っているらしい。

 

 

1・突如として現れた

 

 何も無い空間から突如として姿を現した……こう報告するハンターが大半であった。

 相手がフルフルであるなら、上から突然降ってきたというのが適切だとお思いであろうが、この場合は違う。

 目撃者の報告では、気配こそしていたが見渡してもおらず、ふと振り向けばそこに居たという発言が多々あるのだ。

 しかも自動マーキング持ちのハンターによれば、そのエリアにいるはずなのに、実際にはそのモンスターの姿は見えないという。

 まるで幽霊を相手しているようだが、大抵は当初の目的…狩猟すべきモンスターに目を向ける為、相手にはしない。

 

 さらにそのフルフルは、突如として姿を現すと同様に、突如として姿を消す能力も備わっているらしい。

 しかし姿を消すと言ってもその空間から居なくなるわけではないらしく、そのフルフルらしき攻撃を受けたのが証だという。

 姿を消したのにどうしてそのフルフルの攻撃だと解かるのかというと、受け止めた感触がブヨブヨしていたからだそうだ。

 確かにフルフルの外皮には独特の質感がある為、一度触ってみれば忘れられないほどの感触なので、触れることで理解したのであろう。

 

 以上からして、フルフル変異種には周囲に溶け込める擬態能力を持っているのではないかと推測される。

 だが、沼地といえば紫と灰色というイメージがあるとはいえ、全ての背景に溶け込むことなど不可能だろう。

 それほど超越した擬態能力あるいは隠密能力があると仮説を立てておくとして、次の特徴をまとめるとしよう。

 

 

2・色が薄い紫色だった

 

 フルフル変異種の姿を目撃したハンターによると、そのフルフルの外皮は薄い紫色で覆われていたという。

 通常種のフルフルは白、亜種は赤というのが定番だが、この色のフルフルは現在ギルドでは確認されていない。

 そもそも何故、外皮の色が変色するのか理由がはっきりと解かっていない以上、この理由を解き明かすのは難しいだろう。

 

 ともかく、フルフル変異種の色は薄紫色だということは理解できる。

 姿形こそは亜種同様に原種とほとんど変わり無い為、色だけで判断しても構わないだろう。

 

 とはいえ、その力は、かの有名な特異個体に負けず劣らずの強さを持っているだという。

 幸いなのは、突如として姿を現す能力故、目撃したらまず逃げるという選択を取ったハンターが多いことか。

 実力者が挑むこともあったが、首伸ばし攻撃だけでも強い力を感じた為、サブターゲットとして倒すのは不可能だと考え諦める者も多かった。

 

 とにかく、紫色のフルフルを目撃した場合、狩猟すべきモンスターが別に居るのなら逃げることをオススメする。

 力が強いこともそうだが、次に上げる特徴が、初対面のハンターが挑むには厳しいものだからだ。

 詳しくは次項を見ることをオススメする。

 

 

3・疲労するガスを放つ

 

 ここからが、この変異種と原種との最大の違いがハッキリと分かる。

 フルフルといえば、外見や行動に加え、強力な電撃と咆哮を持つことでも知られている。

 亜種になれば首を伸ばして噛み付き攻撃を行うこともあるのだから、恐ろしいものだ。

 

 だが、このフルフル変異種―外皮の色から「紫影(シカゲ)」と呼ぼう―は両種にはない最大の特徴がある

 原種と亜種は天井にぶらさがっていると強酸のヨダレを垂らすことがあり、それを浴びると痛い思いを受ける。

 この紫影の唾液は強酸ではないが―――驚くべきことに、ハンターの気力を奪い尽くす力を持っている。

 たった一滴浴びただけでも防具から皮膚、そして体内へと浸透していき、筋肉疲労を起こし疲労状態にさせる。

 そんな恐ろしい唾液を垂らすどころか、首を縦横無尽に伸ばして振り回すことで唾液をばら撒くのだから性質が悪い。

 そんな疲労状態で、特異個体の如く電撃を多方面に発射したり、電気を帯びた突進をかましてくるのだから余計に恐ろしい。

 

 ちなみに戦闘を試みることでその性質を知ったハンター達は、全員が大怪我を負ったという。

 しかし死亡者がゼロという所からして、全員がかなりの実力者だということを物語らせるだろう。

 

 とにかく、この疲労唾液と電撃が地味に厄介だから、万が一にも紫影に見つかった場合は逃げる事。

 しかし、逃げ切ったからといって安心してはいけない。なにせ奴は姿を消す能力がある故、どこから出てくるか解からないからだ。

 もしメインターゲットが大型モンスターの場合、慎重に慎重を重ね、確実に体力を温存して狩猟しよう。

 でなければいつ不意討ちで襲ってくるのか解からず、死に繋ぎかねない。あのフルフルに食べられたくないと思うのなら、慎重に、しかし早急に当初の獲物を狩ろう。

 

 

 以上の三点が、目撃情報を元にまとめた、原種との違いを表したものである。

 だが、これは明くまで目撃情報。「そんなモンスターいるわけないだろ」と蹴る者も当然ながら多数いる。

 それを否定させる要素が、紫影の外皮色と特殊なガス、そして透明化を持つ性質である。

 この性質や色素に、古龍討伐あるいは撃退を経験したことのあるハンターなら心当たりがあるだろう。

 

 その古龍種が何かといえば……霞龍オオナズチのことだ。

 景色に溶け込み透明となり、疲労するガスを放つ特殊的な古龍種。紫影の性質とまったく似ているではないか。

 

 これにより学者達は、この紫影の変異進化のヒントをつかんだのである。

 何らかの理由で霞龍にフルフルベビーを取り付け、その体内を食すにつれて霞龍と同じような性質を持って成長。

 これが紫影というモンスターを創り上げた理由なのではないか?と賛否論が繰り広げられている。

 霞龍の研究によると外皮に微弱な電流を流すことで変色する能力を持つとされており、これもヒントに繋がる。

 フルフルは発電機関を備えたモンスターである上、特徴的な外皮を持っている。

 微弱な電流を出力することで外皮の色を変え、背景に溶け込む能力を備えるようになったと考えれば納得もできる。

 

 こうして、フルフルの成長過程にある程度の仮説を立てることができた。

 ある意味でフルフル変異種の存在があってこそだが…本当の脅威はこれからだ。

 

 ご存知だろうが、フルフルは単為生殖が可能……つまり、紫影は未だ増える可能性がある。

 むしろ、増え続けているのかもしれない。目撃情報が今も尚多発しているのがその証拠。

 

 

 

 沼地へ行くハンターに告げる…神出鬼没な影には気をつけるように。

 フルフルの捕食方法を知っているあなたなら、その脅威が解かるはずだから。

 

 

 

―完―

 




 というわけで、リクエストが一つ「ステルス能力をもつフルフル」です。
 変異種になった経緯はあくまで個人設定ですが、古龍にフルフルベビーを宿すってメチャクチャ大変そうですね!
 というか、あんな捕食方法でありながら姿が消せるって、ある意味でかなり怖いモンスターになっちゃいましたね(汗)

○本日の防具と素材一覧

●シリーズのスキル一覧 (共通)
・超高級耳栓
・声帯麻痺毒無効
・隠密
・体力-1

●主に剥ぎ取れる素材
・妖艶色の柔皮
 紫影の柔らかな外皮。なんとも言えない妖しい色合いをしており、見つめ続けると危険。
・妖艶色の翼膜
 紫影の柔らかな翼膜。その翼膜を纏った踊り子は数多くの人々を虜にしたと云われている。

●紫影の素材で出来る武器
・バイオレットホルン(狩猟笛)
 緑・黄・ピンクの三色。そのおぞましい音色は聞く者をバイオレンスな気持ちにさせるという。


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Extra3:「秘境」

いよいよ年末だってのに本編を書ききれず投稿が遅れてしまった始末(汗)
年が明ける前に投稿できたのが幸いです。

今回はエキストラということで、ピクシブで応募した読者オリジナルモンスターが登場します。
テーマは「高低差の激しい樹海」です。オリジナルモンスターの数は3体。
読者様のアイディア溢れるモンスターを見て、モンハン世界の妄想が広がってくれたらなと思います。


 人々が足を踏み入れる事のできる世界は、世界から見ればとても小さいものだ。誰かがそんなことを呟いたが、それは紛れもない事実でしかない。

 人の目では届かず、人の足では辿り着けず、人の技術を持ってしても容易に見つかることのない領域は多々ある。

 

 例えば、危険渦巻く大海のど真ん中。例えば、地下深くに眠る暗闇の地底洞窟。

 

 例えば―――高山に取り囲まれた大地。

 

 古龍観測隊の熱気球ですら、山頂どころか山腹にも届かない高大な雪山。

 旧大陸に聳える山脈地帯「フラヒヤ山脈」よりも高い白の山々は、猛烈な吹雪に覆われている為に人の手が届かない。

 年中吹雪に覆われたこの山脈は、飛竜種ですら飛び越えることは不可能だと考えられている。

 

 そんな壁のように聳え立つ白銀の山脈の先には、未知なる世界の一部が広がっている。

 雪山からの雪解け水は大地を潤し、木々が芽生え、自然の恵みを育んでいく。

 白い世界を抜けた先には、雪解け水と太陽によって育てられた高大な緑が聳え立っているのだ。

 

 仮に、この山々に囲まれた大地を「秘境」と名づけるとして、紹介していこう。

 まるで外の世界から守っているかのように山脈が囲んでいるが、その中央の天候は驚くほどに穏やかだった。

 雪解け水が集った巨大な湖が広がり、その水を吸収して育ったかのような大樹が何本も聳えている。

 豊富な栄養が含まれた雪解け水は植物を育てるのにうってつけで、長年の月日をかけて育てられてきた。

 背丈を競うかのように伸びる大樹が集い、太く長い枝と根を交差させた複雑な地形を生み出していく。

 高所は太い枝が並ぶジャングルジムとなり、地面は湖から流れる河を縫うようにして太い根っこが建物のように絡み合う。

 

 まさに木と自然が生み出した構築物といっても過言でない、複雑かつ高大な緑の世界。

 大樹から生える枝や根が縦横無尽に駆け巡り、植物による多種多様な地形が日々新たに生まれていく。

 バテュバトム樹海に生える大樹に劣るものの、こういった地形は逆に広い範囲の足場となる為、樹海とは違った生態系が見られる。

 ここからは、人の手が伸びていない「秘境」の生態系の一部をご覧に入れよう。

 

――――

 

 秘境の主な構築物は三つある。湖から流れる河、その河を水源に育つ大樹、そしてその大樹を中心に育つ枝や根・木の実や葉だ。

 これだけ巨大にも関わらず……いや、巨大だからこそ、大樹から落ちる種子の量は半端無い。

 元々この地に生える大樹は繁殖性の高い植物だったらしく、枝には若い木の実が生り、大地には至る所に若い木々が芽吹いている。

 枝に生える大量の葉はやがて地へと落ちて腐葉土となり、河から漏れる水が別の植物や菌類を育てる。

 そんな菌類や草木を食料または寝床とする為に昆虫が集い、それらの死骸も植物の栄養となる。

 雪山と大樹が育ててきた膨大かつ無駄の無い恵みは、数多くの草食性モンスターの虜にしてきた。

 

 絡み合う根っこは、小柄なケルビやブルファンゴにとって絶好の隠れ家となるだけでない。

 太く伸びて湾曲した根が河を跨ぐことでオルタロスにとっての橋となり、朽ちてボロボロになった根元はランゴスタの巣になる。

 若木や落ちてきた木の実はアプトノスの栄養源として食べられ、喉の潤いは河から得られると、食料にも問題は無い。

 唯一この地形を良しとしないのはドスファンゴ。猪突猛進な彼らは大樹の根にぶつかる事が多いからだ。

 

 また、そういった草食性モンスターが豊富になれば、必然的に肉食性モンスターも多くなる。

 しかしこの根っこは数多くの大型モンスターの行く手を阻み、彼らの追跡から逃げ延びられた小型モンスターも多い。

 鈍重な巨体を持つドボルベルグや地上では走るだけのリオレウスには適さない地形であろう。

 

 こういった地上で必要なのは、単なるゴリ押しなだけの力や追い抜く為の走力ではない。

 地形を瞬時に判断する機敏性と根を潜り抜けることのできる小回りの良さ……そして一撃で仕留める確実な一手だ。

 ランポスを率いるドスランポスは複雑に絡む根を逆に利用し、群による統率力と機動性で獲物を多方面から追い詰める。

 元々から俊敏性の高いナルガクルガは、地形の影に隠れ、得意の奇襲で一気に獲物を仕留める。

 

 複雑な地形だからこそ安全でもあり、危険でもある。それは地上だけでなく、高所でも同じ事だ。

 

 大樹はとにかく高く、細身でありながらまるで塔のように聳え、視界を木と葉で埋め尽くす。

 枝と葉が密集する為か、まるで階層のように幾つもの足場が広がっており、その上をオルタロスが歩き回っている。

 葉と葉の間から僅かに漏れる太陽が周囲を照らす為に暗くはないが、それでも油断はできない。

 何しろ太く長い枝や密集した葉が互いに絡み合うことで地形となるとはいえ、所詮は草木。重いモンスターは葉が密集した地点で間違いなく足を踏み抜き、落ちる可能性が高い。

 もしハンターがこの地へ運んだのなら枝を歩くことをオススメする。葉の足場は天然の落とし穴になるからだ。

 

 このような高所にもモンスターは生息する。ただしここでは、空を飛べるモンスターが主導権を握ることができる。

 太い枝に足を乗せ、その辺に生えていた木の実を啄ばんでゆっくりと食すイャンクック。

 木陰に身を隠すようにして枝を掴んで眠りにヒプノック、枝の上で求愛のダンスを踊る二匹のクルペッコ。

 そして縄張りを追い出され移動するランポスの群。彼らは身軽な為、枝と枝を飛び越えることなど大差ない。

 

 まるで鳥の楽園のように見えるが……ここでも一悶着ありそうだ。

 枝を縫うようにして飛ぶ一つの影を前に、身を隠しているヒプノック以外の全員が其の場を飛び立つ。

 飛んできたのは、空の王者リオレウス。このような地形であろうとも優雅に飛ぶ姿は圧巻ともいえよう。

 どうやら地上へと降りて行く最中のようだ。このような高所だと主な獲物は居ないため、仕方ないだろう。

 高低差が激しいにも関わらず獲物を狩りに出かけるのは、空を縄張りにできるリオレウスにとって大した問題ではないからだ。

 

 地上と高所によって分かれる自然の姿。

 両者の共通点はといえば、自然の豊かさと、機動力が物を言う油断なら無い地形だということ。

 そして外の世界とは違う、この大地独自の生態を持つモンスターもここには生息している。

 

 

―そのモンスター達の生態を、一部ご紹介しよう。

 

 

 今、地上では面倒な奴が姿を現していた。ケルビやアノトプスだけでなく、ランポスやナルガクルガまで逃げ出す始末。

 それらを追いかけるようにして走る一匹の姿があった……乱暴者で知られる黒狼鳥イャンガルルガである。

 体の至る所に火傷がある所を見ると、どうやらリオレウスと争って敗北し、地上へ降りる他なかったようだ。

 傷だらけの彼は非常に苛立っており、所構わず攻撃を加える迷惑極まりない行動を取っている。

 狩猟など関係ないとばかりに派手に暴れまわる彼を前に、面倒事を避けようとほぼ全てのモンスターが背を向けて走っていた。

 それを良い事にイャンガルルガは咆哮を上げる。ここは俺の縄張りだと、調子に乗って名乗りを上げているかのように。

 

―その行いが、後に自らの命を絶つ自殺行為だと知らずに。

 

 今、イャンガルルガが吹っ飛んで倒れこんだ。

 何かにぶつかったようだが、彼自身、どうして唐突に衝撃を受けたのかはわからない。

 何者かの攻撃には違い無いがどこから?その正体を探るべく、周囲を取り囲む根を見渡す。二度三度振り向いて見て……その姿を目撃した。

 

 自身よりも高い位置にある大樹の幹に、こちらを睨む、ワイバーンレックスの骨格を持つモンスターの姿があった。

 前脚だけでなく後ろ脚までもが発達した強靭な四肢で幹にしがみ付くことで、垂直でありながら安定した姿勢を見せている。

 この環境に適応した木の皮のような堅殻で全身を覆った身体は、ティガレックスに比べると少し小柄だった。

 特徴的なのは、周囲を聞き分けることができる長い耳と、充血して真っ赤に染まった凶悪な目である。

 

 『敏狙竜(ビンソリュウ)カナルディア』と呼ばれるこの飛竜種は、神経質な体質と敏感すぎる聴覚を持っている。

 しかしそれが災いして、騒ぐイャンガルルガの咆哮で浅い眠りから目覚めてしまったのだ。

 その為、今のカナルディアは極度の怒り状態。彼の眠りを妨げた代償はあまりにも大きい。

 

 降りてこいと騒ぐイャンガルルガを前に、すうっと深く空気を吸い込み、大咆哮を上げる。

 その咆哮は凄まじく、衝撃波となって遥か下にいるイャンガルルガの身体を押し倒すほど。

 そしてすかさず、先ほどとは比べ物にならないほどの空気を内部に吸収していく。

 イャンガルルガは高い所に居る彼を攻撃しようと、この土地だからこそ発達した大き目の翼で空を飛ぼうとする。

 

 だがカナルディアは逃さない。大量の空気を口内で圧縮、高気圧の空気を砲弾状にして一気に吐き出す。

 これが先ほどと今回イャンガルルガを吹っ飛ばしたものの正体……クシャルダオラも放つ風ブレスである。

 

 これを受けてたまらんとばかりにイャンガルルガは尻尾を巻いて逃げ出す羽目に。

 本来なら逃さずしつこく攻撃するカナルディアであろうが、さすがに眠気が勝り、さっさと眠るべく巣へ戻るのだった。

 

 敏狙竜は高感度の聴覚と神経を持ち、強靭な四肢による脚力を生かした跳躍力で跳びまわり、風ブレスで仕留める。

 根が絡み合い複雑な迷路となっているこの地形では、その跳躍力と遠距離攻撃は脅威となりうる。

木の皮のような殻により多少のカモフラージュもできるため、縦横無尽の攻撃を可能としている。

 

 

 風ブレスの衝撃で弱った身体に鞭をいれ、ゆっくりと歩くイャンガルルガ。だが無情にもその時を逃さぬと別のモンスターが狙いを定めていた。

 

 若木の木陰をイャンガルルガが通り過ぎた後、密かにその陰が動き、後をつける。

 連なった葉による光と影により黒と緑の二色に分かれたその風景に、そいつは溶け込んでいた。

 景色に溶け込み、静かに足音を殺し、ゆっくりと、それでいて確実にイャンガルルガの背後をつける影。

 

 その影の気配に気づいてイャンガルルガが振り向くも、既に遅かった。

 

 鋭い刃がイャンガルルガを貫かんと振り下ろされ、ガルルガは咄嗟に右へと倒れこむ。

 刃は腐葉土の地面に突き刺さるも、もう一つの刃が倒れこんだガルルガに向けられる。

 それを尾で振り払おうとすると、攻撃を加えたものは刺さった刃を視点に飛び退き、抜き取ってさらに後方へと跳んだ。

 

 ガルルガは立ち上がり、弱々しく威嚇をしつつ敵を見据える。

 黒い斑点が浮かぶ緑色の滑らかな鱗を持った、全身が棘と刃で包まれたような獣竜種だった。

 丸みを帯びた顔には鋭い犬歯が一対並び、発達した細身の前脚には鋭く長い爪がずらりと並んでいる。

 前脚だけでなく後脚にも鋭い爪が生えていた。そして両肘と両膝には、皮膚を貫くようにして骨の棘が生えている。

 そして先端に骨の棘を生やした尻尾を振り回しながら、獣竜種は咆哮を挙げ威嚇する。

 

 

 砕竜を髣髴とさせるも細身の身体を持つこのモンスターの名は、『牙爪竜(ガソウリュウ)ロドムラプタ』。

 保護色で姿を隠し獲物の死角から襲い掛かる、奇襲に特化した狡猾な獣竜種である。

 

 奇襲が失敗するとわかるや否や、ロドムラプタはアッサリと手を引き、背を向けた。

 彼は賢く、手負いとはいえ強力とされる黒狼鳥を正面から相手にするのは無謀だと考えた結果である。

 その鋭い爪と至る所に生えた棘を使って幹に食い込ませ、そのまま素早く上へと登っていく。

 脚力に優れている獣竜種が木登りまで得意と知れば、ハンターは驚くことであろう。

 

 とにかく脅威が去った事を喜ぶべきであろうが、このイャンガルルガはそうではない。

 背を向けて逃げた事をいい事に、牙爪竜に向けてギャアギャアと吼えるばかり。

 手負いの獣はよく吼えるというが、鳥竜種でも同じ事かもしれない。

 

 

 だがしかし、彼に襲い掛かる敵は彼らだけではない。

 腐葉土の地面が膨れ上がり、それが蛇行しながら大樹の幹に向けて延びていく。

 その長さは凄まじく、15mに届くような細長い黒光りする姿が腐葉土から出てきた。

 

 ガチガチと打ち鳴らすギロチンのような大顎。ヌルリと光沢を帯びた油が塗られた光沢ある甲殻を持つ長い身体。

 その長い身体の至る所に、三つの関節を持った長い脚がズラリと並んでいる。

 

 薄暗い幹の洞窟や腐葉土に姿を現す長大な甲虫種……『長伸虫(チョウシンチュウ)ギガンティピード』。

 恐らくこの広い世界の中でも最大級ともいえる甲虫種が、この大樹の世界に潜んでいたのだ。

 

 先ほどの奇襲もあってか、イャンガルルガは周囲を見渡している。

 だが大樹の陰に隠れ上へと登っていくギガンティピードには気づいてはいなかった。

 やっと警戒を諦めたのか、ほっとしているかのように伸ばしていた首を下ろす。いくら暴君のような彼とはいえ、立て続けに襲われるようではたまらないからだ。

 さて翼を広げて空を飛ぼうとした―――その時。

 

 上からギガンティピードの大顎が、イャンガルルガにむけて落ちてきた。

 

 後に彼は絶命するのだが……彼がどんな姿で息絶えたのかはご想像にお任せしよう。

 少なくとも言えることは、ギガンティピードは獲物を仕留め、食事にありつけたということだ。

 大樹の枝からギガンティピードが落ちてくることは、彼の最大の攻撃手段としてよくあること。

 彼は遠い未来にやってくるハンター達から「密林の処刑台」と呼ばれるようになるのだが……これで納得できるだろうか。

 

 とにもかくにも、暴れん坊のイャンガルルガは息絶えた。

 攻撃的な彼が一向に戦いを挑むことができないのは、相手が悪かったとしかいえない。

 

 優れた神経と強靭な四肢を持つ、多方面からの風ブレス攻撃を得意とするカナルディア。

 保護色で身を隠しながら奇襲を放つ、木登りもできる狡猾な狩人ロドムラプタ。

 甲虫種最大の身体と大顎だけでなく、毒も放つ悪夢のようなモンスター・ギガンティピード。

 

 地上でも高所でも生き延びられるようなモンスターは、ただ力があればいいというわけではない。

 彼らのような、高所を登ることができ、独自の能力で木々を利用し、そして一撃でしとめられる術を持つようなモンスターだ。

 

 

 いつどこで命が奪われるか解からない。それがここ「秘境」の全てである。

 

 

―完―




●名称:カナルディア
●別名:敏狙竜(ビンソリュウ)
●種族:飛竜種

●名称:ロドムラプタ
●別名:牙爪竜(ガソウリュウ)
●種族:獣竜種

●名称:ギガンティピード
●別名:長伸虫(チョウシンチュウ)
●種族:甲虫種

本来はもっと詳しい情報があるのですが、多すぎるので省略させていただきますスミマセン(汗)
希望などありましたら後日追記する予定ではあります。

とにもかくにも、モンハンデルシオンのエキストラ、楽しんでいただけましたか?
来年もどうかよろしくお願いします!


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part16:「白轟竜の生態」

今回のテーマは「雪山に完全に適応し白くなったティガレックス」です。
音爆弾を吐き出すような攻撃や龍属性を纏う兇悪な轟龍です。

今回の話は、作者の偏見が多く含まれます。
読めば作者に嫌悪感を抱く可能性が高く、賛否論や批判が出ても仕方ないと思っています。
ですがテンプレ小説そのものが嫌いでないことをご理解ください。お願いします。

もう一つのテーマは「自然の猛威と現実」です。

2014/11/20:誤字修正


 世界に決まりなどない。自然界において絶対などない。

 常に世界は変化している。善悪も無く、区別も無く、進化と変化を繰り返して明日を生きる。

 自然界におけるルールは「弱肉強食」。しかし、誰が弱く誰が強いかなど、日どころか刻単為で変化している。

 

 それを理解しているのは他でもない―――この世界に生きる全ての生物だ。

 この世界の自然に生きる全ての生物は、己の持つ全てを生かし、全力を持ってこの世界で生き抜く。

 故に人々は生き続ける。故にハンターは戦い続ける。故にモンスターは進化し続けている。

 

 

 

 故に―――この世には、人間では到底適わない強さを秘めたモンスターも存在する。

 

 

 

 オレの名はタロウ。信じられないだろうが、俗に言う転生者ってやつだ。

 糞神のおかげで、ありえねーぐらいにテンプレな死に方しちまったんだよ。大学入ったばっかの20歳で、だぜ?

 そんな神にはお詫び(という名の責任逃れ)として、オレを「ある世界」にチート持ちで転生させてもらったんだ。

 

 それがこの「モンスターハンター」の世界!

 オレはモンハンが大好きだ。装備がカッケーし、モンスターを狩り終えた時の征服感がたまらねーっての。

 フロンティアでのネット中毒はもちろん、神おまゲットの為に徹夜で鉱山夫、なんて当たり前だったぜ。

 

 そこに転生させてもらったオレのチート能力は「全スキル持ち」と「攻撃力・防御力の異常強化」。

 神から譲り受けたこの「神のピアス」で、全ての良スキルが付加され、攻撃力と防御力が強化されるという優れものだ。

 装備の都合上ヘルムを装備できないが、転生後の顔はイケメンなのでなんの問題も無い。むしろ顔みせは重要だ。

 

 もう一つのチート能力としてオトモアイルーがいるんだが……そいつはなんと「悪魔アイルー」であるという。

 見た目は黒っぽいアイルーでしかないし、転生後の幼少時から一緒にいたが、攻撃力と防御力は異常。まさに悪魔だ。

 ま、オレより弱いには違いないからいいけど。楽をしたいときはこいつに狩猟任せれば充分だ。

 

 この力と美男子フェイスのおかげで、HRは鰻登り、美女ハンター達と毎日ラブラブハーレムだぜ!

 ただし男とブサイク、てめーらは駄目だ。俺のクエスト参加者は美女だって決まってんだよ。アイルーは同行可。

 こんなことしていいのかって?いいんだよ、俺は前世では神に間違えて殺されたんだぜ?むしろ当然だっての。

 

 さて、そんな最強なオレの元に、ハンターギルドのお偉いさんから手紙が届いた。なんでも秘密裏に受注して欲しいクエストがあるらしい。

 報酬は今までのクエストとは比べ物にならないが、注目すべきは討伐するモンスター。

 内容によると、そのモンスターは人間では太刀打ちできない程に強く凶暴らしい。

 今まで機種に関わらず沢山のモンスターと相手をしてきたが、変種や特異個体は居ても覇種クラスは狩ったことがない。

 もしかして、フロンティアでいう「UNKNOWN」みたいなレアモンか?ならこの世界ではオレが先駆けになるか……歴史にオレの名が刻まれるだろうな……!

 さっそくお偉いさんに会いに行くとする。1人でって話だがオトモアイルーは許可されたので、悪魔アイルーのデビを連れて行く。

 

 ま、チートのオレ様に掛かれば楽勝だがな!まさに俺TUEEEE!

 

 

 

 そのティガレックスは、人里離れた雪山に生息していた。

 それまでは、その辺にいるような、普通に強いだけのモンスターだった。力を振り回し、赴くままに生きていた。

 しかしそれは、ある日を境目に一変するようになった……1人のハンターに敗れたことによって。

 

 G級の二つ名を持つ1人のハンターと、その雪山の頂点に立つティガレックス。一方は討伐依頼の為に、一方は侵入者を排する為に。

 彼らの戦いは激戦だった。常に全力で挑み、生傷が絶えず、全ての攻撃が一撃必殺の大技だった。

 だが、決着には至らなかった。トドメまで後僅かでありながら、命欲しさにハンターが逃げ出したのだ。

 ハンターにとって打ち勝つばかりが生きる道ではない。時には誇りと名誉を捨て、命と大事な者の為に逃げるという選択肢もある。

 

 だが、ティガレックスはそうではなかった。

 弱肉強食の世界の下で、命の炎が途切れようとしているのに生き延びている。これは生物にとって最大の侮辱でしかなかった。

 放っておいても死ぬかもしれないが、癒す術はあるし、獲物を狩るだけの力が微かにある。つまり生かされたのだ。

 自分は絶対強者の地位から転落した。ティガレックスは朦朧とした意識の中でそう気づく。野性の世界にも「強弱」の区別がつくのだ。

 だからこそ彼は、この時からハンターに勝ち続けなければならない―――全ては、己が「絶対強者」であった頃を取り戻す為に。

 

 

 

 始めに違和感を抱いていたのは、タロウのオトモアイルーであるデビであった。

 彼とは幼少の頃からの付き合い故にある程度の信頼感があるが、それでも彼に対して抱く不信感は少なからずある。

 

 デビは生まれつき怪力を身につけたアイルーとして、将来的にはハンターと共に狩猟する気もあってか、強くなろうと努力し続けた。

 そんな矢先だ。タロウがハンターになると聞き、自分に彼のオトモをしろと命令されたのは。

そんなこんなで彼のオトモをしているが、色々な所で適当でいい加減な彼とは未だに折り合いが悪く、付き合いも悪くなった。

 デビは強さに反して慎重な性格をしており、何事に対しても気配りや警戒を怠らない。幼少の頃からの勉学が物を言う結果だ。

 だからこそ、いい加減なタロウを苦手としていた。少なくともデビ自身はそう思っているし、自覚している。タロウがどう考えているかはサッパリ解からないが。

 

 だからこそデビは常に警告してきた。

 ハンターギルドから届いた手紙に記されていた、自分達だけの極秘裏な依頼に対しても。

 自分達を呼び止めたハンターギルドのお偉いさんの、品定めするような鋭い目つきにも。

 護送人と名乗る武装していた二人組みにも。行き先である地図に無い雪山にも。入り口が巨大な鉄格子で覆われていることにも。

 依頼達成条件が「白轟竜(はくごうりゅう)」なる特別なティガレックスの討伐だということにも。

 そして、護送人が「討伐の証を持ってくるまでは帰還は許さん」と言って分厚い鉄格子を閉じた事にも。

 

 しかし、タロウは。

 

「何ビビってんだよデビ。オレが負けるとでも思っているのか?」

 

 なんていう始末。

 

 頭部以外をアカムト装備で覆い、ガンランス「テオ=ブラスト」を背負っているタロウは、吹雪をモノともせず平然としている。

 後ろでは重々しい鉄格子が、まるで自分達を逃さないでいるかのように立ちふさがっている為、デビは少ながらず恐怖している。

 妖しさの中でも平然と歩いているタロウの背を見ると……まるで緊張感を漂わせていない。

 まるで舐めきっている。これから挑むのは、ティガレックスとはいえ、未知なるモンスターに違いないのに。

 

 デビが頭の中でモヤモヤと考えていた時――自分達と雪山を轟音と振動が襲った。

 デビは獣人種故に持つ野生の勘を感じた。これはヤバイ。凄くヤバいと。

 

「だ、旦那さ」「こっちだな!ついてこいデビ!」

 

 忠告しようと思った所で走り出すタロウ。その表情にはまるで危機感を醸し出しておらず、むしろ狩る気満々だった。

 こうなったタロウはとめられない。諦めたデビは、彼の後を追う。

 

 

 

 白いティガレックス――白轟竜は歓喜した。この地にハンターが到来してきたを。

 ティガレックスは感じ取っていた。強大な力を秘めたハンターの気配を。

 この雪山は人間によって人が出る所を阻まれており、餌はあれどハンターがやって来ることは滅多に無い。

 古龍種ですら破壊できないような鉄のバリゲードをふんだんに使う辺り、このティガレックスに抱いている恐怖心を感じる。

 だがそんなことは白轟竜にとってどうでもいい。ハンターが来るのなら、倒し、殺し、喰らう。

 雪山に完全に適応して白くなり、ラージャンを尽く殺してきた力を持つティガレックスは咆哮を上げる。

 

 

 

 まるで、宣戦布告のように。

 

 

 

 チートで主人公している自分が、特異個体相手でも余裕で勝てたのに、ティガレックスごときに負けるはずがない。

 そう思っていた……少なくともギルドのお偉いさんから話を聞いた時点では。

 

(なんでだよ……!)

 

 タロウは逃げていた。武器を捨て、デビを見捨て、ひたすら入り口を目指して。

 最初に抱いていた勝利の確信は完全に崩れ去り、顔には焦燥と恐怖、そして現実から背ける濁った目が映っていた。

 

(なんでだよ……!)

 

 相手はただのティガレックスではなかった。

 こちらを見た途端に怒り状態になったティガレックスは、全身から龍属性のオーラを滲み出していた。

 全身に溢れ出てくるオーラのようなゴウゴウと燃える黒い炎は、まるで怒り喰らうイビルジョーのような姿に酷似している。

 それだけならよかった。見るだけなら、最初から覚悟を持たないタロウなら何てこともないからだ。

 

 白轟竜が息を吸い上げる動作を見て、ガードの姿勢に入った。その時から事体は一転した。

 咆哮かと思いきや、空気の塊のようなものを吐き出し、それがタロウの後方へと飛んでいく。

 その直後、ガードしていた背面から、音爆弾の音量と振動を数十倍にしたような大爆発が襲い掛かった。

 タロウは驚く暇も無くそのまま前方へと吹き飛ばされ、着地したと同時に驚愕が走った。

 ありえない。こんな攻撃、ティガレックスには無いはすだ。黒轟竜ですらこんな攻撃は無い。クシャルダオラですらあんな空気の暴発があるかどうか怪しい。

 というかあんな攻撃見た事も感じた事もない。フロンティアでも似たような攻撃を知らない。現世でも前世でも。

 

 その後は流石のタロウも観察だの様子見だのといわず、本気で挑みに掛かった。

 掛かったのだが……先ほどの咆哮玉を合図に、事体は逆転していくこととなった。

 

 絶大な攻撃力を誇るはずのタロウの砲撃は、鎧竜の甲殻ですら一発で粉砕する威力がある。それを受けても傷は負うが致命傷にはならない。

 龍属性のオーラを纏った爪攻撃は、ガード強化&ガード性能+2を持つガードごと吹き飛ばし、直撃でないのに全身に衝撃と痛みが走る。

 動きはティガレックスに近いが、素早さと小回り、そして攻撃力が段違い。先読みできたとしてもガンランスの機動性だと追いつけない。

 当たったとしても、筋肉質な甲殻がタロウの攻撃を防ぐ。今までの相手なら一発で致命傷になれたのに、まるで通用しない。

 何よりも恐ろしいのは咆哮だ。黒轟竜を凌駕する咆哮は、風圧ブレスのように圧縮し、先ほどの咆哮玉を放つこともある。

 今まで舐めて掛かってきたからか、デビの力がありながら、未だにタロウは不利を覆すことができない。

 前世でのティガレックスの攻略知識が当てにならず、並の大型モンスターを悠々と殺した確かな力がさほど通じない。

 通じないわけではない。確かに傷はついた……しかしこの攻撃力を持ってしても、まるでナイフで肉を裂くような感覚しか残らかった。

 

 

 

―そして今、事態はタロウの予想を大きく裏切ることとなる。

 

 

 

(なんで、武器が、ぶっ壊れるんだよぉ……!!?)

 

 見えない恐怖に怯えつつも必死に逃げるタロウは、先ほどまで握っていたはずの、今は投げ捨てた武器の姿を思い出す。

 優れた武器であるはずのテオ=ブラストは、ティガレックスの牙によって粉砕された。それも粉々になって。

 噛みつき攻撃をガードした時に盾を、呆然としていた時に砲塔を破壊され、タロウはついに顔を蒼白に染めた。

 その後の対応は早かった。デビに「任せた」と言って閃光玉を投げ、怯んだ隙に背を向けて全力疾走した。

 

 そして彼は今に至る―――ありえない、ありえない、ありえないと頭の中を恐怖と葛藤が渦巻きながら。

 咆哮玉に吹き飛ばされた時……いや白轟竜と対面したその時から、勝利のイメージは掻き消え、敗北の道しかなかったのだ。

 

 しかし彼は現実をゆがめていた。

 きっと逃げ切れる、デビが倒してくれる、あの轟竜も転生者だ、倒れてもネコタクで帰れる、ご都合展開でオレの恋人達が助けてくれる、そもそも逃げ切れれば生き残れる……様々な妄想を思いつくことで、現実から逃れようとしている。

 だってここは、モンスターハンターの世界―――つまりゲームの世界なのだから。ゲームの世界だからこそ、いくらでも逃げ道はある。

 

 

 

―だが、彼にとってゲームであっても、ここは現実でしかない。

 

 

 

 鉄格子の先に、人は居なかった。

 護送人と名乗っていた二人組の姿どころか影も、そして待機してあったはずの気球ですらない。

 開けろ開けろと叫んで鉄格子を掴んで動かそうにもビクともせず、声は吹雪の先に消えていくだけ。

 それでもタロウは叫びながら鉄格子を壊そうとするが、岩をも砕く拳を前にしても、対古龍用に開発した特注の鉄格子を破壊することはできなかった。

 彼は忘れていた。狩猟時間の事を。それを過ぎても何の警告もなかったことを。自分を置いていくとは思わなかったのだ。

 やがてかじかむ手を降ろし、呆然と鉄格子の先に映る灰色の光景を眺める。その目に光はなかった。

 

 

―そして、絶望はやって来る。

 

 

 爆発のような咆哮が背後から轟き、強振動が耳と全身を包み込む。

 その咆哮に怯みつつ咄嗟に後ろを向くと、そこには、猛烈な勢いで走ってくる白轟竜がいた。

 口元に、デビが纏っていたはずのマフモフコートの破片を引っ掛けて。

 

 タロウは、今度こそ絶望の淵に精神を追い込まれた。信じられない光景を、嫌というほど目の当たりにするしかなかった。

 雪を掻き分け、龍属性のオーラを揺らめかせ、怒りに血走る白轟龍の姿を見た。

 そこで初めてタロウは現実を目の当たりにし、死への恐怖と実感を全身に受けることとなる。

 

「あ、あ……」

 

 走る。

 

「お、お前も転生者なんだろ!?は、話を聞いてくれよ!」

 

 白い絶望が走ってくる。

 

「これはゲームなんだ!オレは死なない!だからやっても無駄なんだぜ!?」

 

 猛烈な怒りと闘争心を滾らせながら、白い死が迫ってくる。

 

「オレはオリ主なんだぞ!?神が死んだお詫びにと転生させてもらったんだぞ!?だから殺すのは世界の理に反して

 

―ゴガオオオオオォォォォォォ!!!!

 

 白い死は、それを理解しない。現実から逃げて叫ぶだけのハンターに構うはずがない。

 

「………助けて」

 

 

 

―母さん

 

 

 

 それは、前世と今世、どちらの母を指したのだろうか?

 自分でも曖昧だと思う助けを求めた、自然の理を理解しようとしなかった愚かなハンターは。

 

 

 

 

 白い死に、呑まれた。

 

 

 

 

「……そうか。ついに帰ってこなかったか」

 

 暗闇の中で、蝋燭の炎が舞う。今にも消えそうな弱い光だけが、薄暗くも周囲を照らす。

 

「はい。狩猟時間を過ぎても白轟竜の轟きが響いていたので、もう終わったかと」

 

 その光に照らされる影二つ。しかし見えづらく、人影から人物を特定するのは難しい。

 

「それなら良い。……結局、彼も人だった、ということか」

 

 蝋燭が照らすのは人影だけでない。卓の上に置かれた物―×印が押された青年の似顔絵―も照らされる。

 

「ギルドナイトを派遣する手間が省けましたね」

 

 二つの影はハンターズギルドに繋がる者だ。そして彼―――タロウに秘密の依頼を申し込んだ発端でもある。

 

「彼は不自然に強かった。それだけならまだいい。問題は彼の性格にあったのだから」

 

 影は思い出す。タロウと呼ばれる若きハンターの伝説と―――その裏にある恐ろしさを。

 

「ええ。死を恐れず、まるで遊びのようにモンスターを狩る。そんな彼には、まるで夢でも見ているかのように魅了された人々が集まってくる」

 

 誘蛾灯に集まる蛾のように盲目になった人々が集い、常に女遊びをしていたとも。

 物が欲しいからと草食モンスターですら無遠慮に殺しまわり、それをなんとも思わない残酷さを見たとも。

 圧倒的な力を持っているからと強大なモンスターを前に優雅っぽく戦う、自作自演といいようがない戦い方をしたとも。

 

「行き過ぎた力と半端な覚悟は、ハンターではなく殺人鬼を、自然を無遠慮に殺すだけの生き物を生み出す要因になりかねん」

 

 まるで自分を見せびらかすかのように力を振るう彼は、自分の優秀さを自慢する子供のよう。

 子供故に残酷。過剰故に凶悪。無自覚故に危険。だからこそ芽を摘むべきだと、ギルドが判断した。

 

「ですが、彼は白轟竜の前に敗れた」

 

 そして芽は詰まれた。少しの疑いも持たず、彼は白い死に摘まれに行った。

 

「奴は何年も前から生き永らえ、ラージャンにも、古龍種にも打ち勝ってきた強者だ。故に我々は、あの雪山を地図から消し、入り口を塞いだ」

 

 激昂のラージャンですら食い殺したとされる『金獅子喰らい』。

 クシャルダオラの無残な死骸が目撃されたから付けられた『古龍殺し』。

 まるでイビルジョーのように恐怖と暴力を振舞う様は『恐暴竜の生まれ変わり』。

 

 全ては亡きハンターが逃したティガレックスから成る、人間に伝えられる禁忌。

 

「だが、そんな奴でも自然には違い無い」

 

 そんな白轟竜でもモンスターには違い無い。世間が知らないだけで、彼のような『化物』は各所に居るのだから。

 

「だからこそ、彼を奴に向かわせた。どちらに転んでも人間側にとって有利になりえたから」

 

 白轟竜が倒れてもタロウが倒れても、人間の脅威が一つ減る。数多ある最悪の一つに過ぎないが、それで救える物がある。

 

「しかし、自然の前に敗れた時点で、彼も人だった。それだけだ」

 

 どんなに強力でも、どんなに奇怪でも、ただの人間だったことが解った。

 生死の有無など今は知る由もないが、人間界(ココ)に戻ってこない以上は死んだ事にしている。

 もちろん秘密裏故に彼の生存は確認されず、別のクエストで死んだことになっている。多少の噂は出るだろうが、いずれ消えるだろう。

 

「しかし彼は何者だったのでしょうか……訳のわからない言葉を並べ、この世界を遊技場のように例える彼は……まるで神にでもなったかのように」

 

 自分は負けない・死なないと豪語し、弱肉強食を知らないかのような甘い思考をしていた彼。

 絶対強者とも謡われていた彼だが、一人の影がフッと笑う―――あんなのは、絶対強者とはいえない。

 必死に生き延び、全力で敵を狩るティガレックスの方がまだその名が相応しい。それだけ、彼に「必死さ」がなかったのだから。

 

「神……か」

 

 

―そんなものは、幻想でしかない。

 

 

―そんなものは、この世界から見たら、生物とさほど変わりない。

 

 

―見ているか、神よ。

 

 

―我々は、この世界で生き延びている。

 

 

―進化し続ける自然を前に、あなた方は見続けることができるかな?

 

 

 

 

―少なくとも、白き轟竜に打ち勝てぬようでは……我々がまだ見ぬ脅威に勝てるはずがないのだから。

 

 

 

 

―完―




―オマケ「とある三匹のアイルーの愚痴話」―

「デビ久しぶりだニャ~。元気にしていたかニャ?」

「皆お久ニャ~。元気もなにもないニャ。逃げるので必死だったニャよ……」

「ニャアニャア、あの噂は本当かニャ?お前さんの旦那さん……」

「あー、タロウかニャ?白いティガレックスに喰われたんじゃニャいか?ボクは知らんニャ」

「随分淡白ニャね……」

「淡白にもなるニャよ!あんな警戒心も遠慮も気配りも優しさも生活感も無いダメハンターなら当然だニャ!お礼の一言も言わない傍若無人っぷりニャ!」

「間違いじゃないからなんとも言えないニャー……」

「あ、けどうちの旦那さんがようやく目覚めたニャ。なんであんな奴に惚れてたんだろうって」

「あのタロウといると頭がおかしくなるからニャ……」

「で、デビは今どうしてるんだニャ?」

「それが聞いて欲しいニャ!新しい旦那さんに雇われたんだけど、その人がとってもいい人なんだニャ!」

「ああ、あのぽやんとした感じの女の子かニャ?」

「もー最高ニャっ!優しいし、忠告は聞いてくれるし、撫で撫でが気持ちいいし、猫まんまが最高に美味いんだニャ!もう彼女の為ニャら命預けれるぐらいだニャ!これから一狩り行ってくるニャ!それじゃあニャ!」

「す、凄い褒めっぷりだニャ……」

「よっぽど前の旦那さんの待遇がイヤだったんニャね……」

―完―

 そんなわけで「白轟竜」でした。
 当初は「音爆弾のように咆哮を遠くに飛ばし爆発させる」「龍属性を持つ」というアイディアを頂き、こうなりました。
 丁度近日になって「ティガレックスに属性持たせたら……」という感想を頂いていたのですが、どうでしたか?満足できましたか?
 生き延びる≠勝ち続けるではありません。勝ち続けるというのは生きる以上に難しいものだと私は考えてます。
 オリ主(笑)はUNKNOWNと戦ったことがないので表現できませんが

 白轟竜<越えられない壁<UNKNOWN……とだけ書きましょう。

 狩猟される云々はともかく、白轟竜の装備を作るとしたらスキルはこんな感じ。

●レックスWシリーズ(剣士・ガンナー両用)
・力の解放+2
・挑戦者+2
・災難

見つけ次第戦う白轟竜の特性をスキルに生かしてみました。完全に戦闘用です。
ではでは。また次回お会いしましょう。

以下、テンプレ転生に対する偏見があります。不愉快だと感想が一つでもあれば消します。




作者はテンプレ転生が嫌いです。閻魔大王様に裁かれず楽な道へ行くことが許せません。
「なんとかなるさ」と楽観的になってご都合で良くなっていく展開が好ましくありません。
自分の世界とは全く違う異なる世界を現実として受け入れ、真摯に生きる人間は素晴らしいです。
そんな奴は世界の理の前に敗れるといい。一度でも現実をその身に体感するといい。

……そんな作者の捻くれ思想が詰まった作品でもあります。自分って世間知らず……(溜息)


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part17:「尾氷竜と採竜の生態」

日曜に更新する予定だったのに予約投稿ですら忘れていました(汗)
三連休だからって油断していました・・・定期更新って難しい(←ウッカリ作者なだけ)

今回は二匹同時公開。テーマは「尾に氷をつけるドボルベルグ」「キノコを食すブラキディオス」です。
両方とも共通したテーマとしては「食料の確保」です。食べるのも大事ですが、いかに食を維持できるか、が課題。




 この本では何度も記していることだし、生物の進化における基本でもあるのだから、言わなくてもいいのではと考えてはいる。

 だがあえて言おう―――生物において、食の力は偉大である、と。

 世界には様々なモンスターが存在しており、種によって様々な食性を持っている。

 草食、肉食、雑食、食虫、バクテリアによる鉱石食など様々で、同じ種族でも食物の違いは生じてくる。

 

 特に多くの食性を有しているのが、逞しい脚力で大地を闊歩する獣竜種だ。

 枯木を食すドボルベルク、虫を食べるボルボロス、鉱石を食らうウラガンキン、そして多くの肉食種。

 モンスターの中で最も種類が多いとされる飛竜種でも、彼ら獣竜種の幅広い食性には遠く及ばない。

 

 そんな獣竜種の中でも、食の力によって変異した変異種――ウラガンキン変異種とイビルジョー変異種がそれに当たる。

 宝石ばかりを食した故に体が宝石になった、ウラガンキンばかり食した故にバクテリアを宿したなど、食べ続けた故に進化したものだ。

 しかし今回紹介する獣竜種二匹は、そういった偏食タイプの進化ではない、独特の進化の形がある。

 

 

 まずご紹介すべきは、尾槌竜ドボルベルク。

 最たる特徴は別名の由来にもなっている巨大な尾だが、注目すべきは背中に生えている二つのコブだ。

 この二つのコブには脂肪が詰め込まれており、有事の際にこれを燃焼させエネルギーを補給する。

 このエネルギーは興奮時にも使われる他、苦手とする寒さを凌ぐ為の冬眠時にも使用されている。

 

 この脂肪の塊があるからこそ、乾燥地帯である砂原に出没する亜種が誕生したとも考えられる。

 つまり、エネルギーを蓄えることさえできれば、あらゆる地方に足を運ぶことができるのではないか?

 学者達がそのような疑問を投げかける中、それに答えるようにしてドボルベルクは答えを出す。

 

 なんと、ドボルベルクが凍土に出没したのである。

 この凍土のドボルベルクを最初に発見は、凍土関連のクエストを受注した女ハンター(ネブラUシリーズ)である。

 目撃時は大きな雪山が聳えており、モンスターの死体でも埋まっているのかと近づいた所、そこから青白いドボルベルクが出現した。

 そいつは眠りを妨げられたのか、酷く興奮した様子で雄叫びを上げ、全身を地面から引きずりだしてきた。

 その際に目撃したのだが、特徴的であった尾が氷に包まれており、原種や亜種のよりも巨大な尾だったという。

 さらに特徴的なのは背中のコブ。原種や亜種よりもひときわ高く、背の高い山が生えているかのようだった。

 

 幸いな事に女ハンターは唐突の出会いでありながら冷静を保ち、しばし逃げながら観測した後、モドリ玉で退却しクエストを脱退。

 即座にハンターギルドに詳しい情報を報告してくれたことにより、すぐさま調査隊を出すことに成功した。

 

 この後は、調査隊やハンター達の情報をまとめたものを挙げるとしよう。

 ギルドは凍土に出現したという青白いドボルベルグの別名を「尾氷竜(びひょうりゅう)」と命名。

 別名の由来は女ハンターの証言にもあった、氷で包まれた尾の事を指している。

 

 ただでさえ異常にまで発達し巨大を誇っていた尾を、凍土の水辺にてつけることで氷を纏い、さらに巨大化させたものと考えられる。

 何度か地面を叩くだけで纏っていた氷が自然に破壊されるものの、その大きさ故に一撃は重い。

 重すぎて動きが鈍重になる他、振り上げにも力を有して時間が掛かり、逆に大きな隙を生んでしまう。

 しかしそれ以上にパワーは凄まじく、周囲を雪煙で多い、周囲の地面を盛り上げる程の力を秘めている。

 

 コレほどまでのパワーを誇れるのは、原種よりも大きなコブに起因しているものと考えられる。

 4人のハンター達が対峙して解かったことなのだが、この尾氷竜は非常に高い体力を誇っている。

 食性は定かではないが、このコブに蓄えているエネルギーは通常よりも遥かに硬く大きいとされている。

 この膨大なエネルギーと、日頃は雪に紛れて眠っていることから、節約と貯蓄の繰り返しにより寒冷地の適応が可能になったものだと推測される。

 惜しむべきは尾氷竜の食性がはっきりと解かっていないことか……。

 

 凄まじいパワーとタフネスを繰り出す豊富なエネルギーを有した獣竜種。

 厳しい環境の一つである凍土でこれだけの脂肪を維持するのに、一体どのような食生活を送っているのか?

 普段寝ていることもあるが、その生態はまだまだ謎が多い。出没する時期も安定しない上に実質的な被害もない為、しばらく放っておこう。

 

 

 続いては、ブラキディオスの変異種について説明しよう。

 近年発見されたこのブラキディオス変異種は、火山を筆頭に水没林などにも姿を現しているという。

 細かい説明は後ほどするとして、このブラキディオス変異種の特徴は「菌類を食す」ことにある。

 

 菌類……つまりブラキディオス特有の粘菌はキノコ類にも含まれ、キノコは食料に分類される。

 ドスファンゴもこのキノコ類を好みとしているが、肉食種であるブラキディオスが何故キノコ類を食すのか?

 それはブラキディオス本来の特性である「爆発性粘菌との共生」に繋がる。

 

 ブラキディオスの最たる特徴でもある爆発性粘菌を活性化する機能を、攻撃とは別の活用方法として編み出した。

 それが食性としての活用……キノコ類を延々と増やし、纏い、それを食べることで上を凌ぐのだ。

 

 なぜ肉食であるのに、攻撃に用いるのではなく、食用として活用するようになったのか。

 これも暴食の悪魔ことイビルジョーが齎した、食物連鎖の一時的な崩壊に繋がっている。

 主に肉食であるイビルジョーが草食種を平らげてしまったことで食料危機に陥り、その際に編み出したのではないかと考えられている。

 どんな時でも食料を調達できなければ死に至るのが生命。飢餓を凌ぐ為に食性を変えることもまた定めといえよう。

 

 さて、気になるキノコの栽培方法と食事方法だが、割と大胆なものだ。

 腕に当たる箇所に唾液を塗りつけ、そこにキノコ類を付着させると、短時間で爆発的に増殖していく。

 唾液まみれの前脚は数十分と立たずにキノコで覆いつくされ、まるでボクサーグローブのように膨れ上がる。

 そしてその前脚についたキノコの塊を、マンガ肉に齧り付くかのようにして食べるのだ。

 

 ちなみにこの食事の際、薬草も一緒に食しておけば自然治癒能力が数段に跳ね上がり、回復効果が見込める。

 モンスターも食物の特性、つまりは薬草やアオキノコの特性を理解しているからこそ出来る技といえよう。

 

 回復効果もさながら、ニトロダケを用いた高熱攻撃も凄まじい。

 キノコの採取ポイントにニトロダケが生えていた場合、ブラキディオス変異種はそれらを前脚と頭の突起に付着させる。

 こうすることで高熱作用を引き出すニトロダケを増殖させ、炎にも勝る高熱攻撃を繰り出すのだ。

 また、毒テングダケなら毒攻撃、マヒダケなら麻痺攻撃など、キノコによって攻撃方法が変わってくる。

 キノコの採取ポイントによっては変幻自在に攻撃方法を変えてくるので、対峙する際には充分な警戒が必要である。

 

 また、ニトロダケによる高熱の殴打によって溶かした鉄鉱石を身体に付着させ、己の甲殻にすることもできる。

 これによってブラキディオス変異種は黒に近い鉄を帯び、原種並みの硬さを誇る。

 

 このように、キノコ類を食料にするだけでなく、攻撃にも回復にも用いる高性能な獣竜種が誕生した。

 我々はこのブラキディオス変異種の別名を、原種の別名に合わせて「採竜(サイリュウ)」と呼んでいる。

 キノコによって攻撃方法や回復手段が変わるが、ニトロダケを主な攻撃手段としているのが目撃例によって解かっている。

 採竜と戦う時は、火属性の耐性をつけておくことをオススメする。

 

 

 エネルギーの確保と、新たな食性への活路を見出す術。この二匹は、食性の幅が広い獣竜種ならではの進化の道といえよう。

 

 

 

―完―




常々、この作品は食をテーマに魔改造を繰り返しているなぁと思います。宝石ガンキンといい人食い熊といい……。
もともと読者様のアイディアは断片的なものだったのですが、いつの間にか食性の話も追加されてましたし。
いやぁ、食べるって大事ですよね。

ところで余談ですが、尾氷竜をpixivで公開した際、「氷」ではなく武器の名前にして欲しかったというコメがありました。
自分ももうちょっと別名を捻ればよかったかなぁと軽く公開してます。だってこっちの方がピッタリなんだもん。

○本日の防具と素材一覧

●ドボルYシリーズのスキル一覧 (共通)
・腹減り無効
・スタミナ急速回復
・破壊王
・回避性能DOWN

●ブラキYシリーズのスキル一覧 (共通)
・食王(拾い食い・早食い+2・アイテム使用強化の複合スキル)
・体力回復量UP
・腹減り倍化【大】

●主に剥ぎ取れる素材
・尾氷竜の蒼氷甲
 尾氷竜のアイシスメタルが張り付いた甲殻。美しい青色の氷は重苔甲より硬い。
・尾氷竜の高仙骨
 原種以上に大きく見事な仙骨。より固く大きい為、剝ぎ取りは困難を極める。
・採竜の頭殻
 主にニトロダケが塗りこまれた採竜の頭殻。活性粘菌を塗ると非常に高い熱を放つ。
・オオニトロダケ
 活性粘菌が塗られたニトロダケが束になって固まった物。超高温を発することができる。

さぁ堕天使ハンターよ、見事珍味中の珍味「ドボルの霜降り肉」と「ブラキノコ」を手に入れてみせよ!


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part18:「蒼彩鳥の生態」

今回のテーマは「不快音を発し催眠液を吐くクルペッコ」です。
ボルボロス変異種みたいな子が主役です。


 ある孤島に、喉のイカれた若いクルペッコが居た。

 

 このクルペッコは生まれた時から喉の調子が悪いらしく、成体まで後少しという時期になっても治りはしなかった。

 幼生の頃から声マネの練習を続け、踊りの技は磨きが掛かったが、声帯を生かした技術だけは一向に上手くいかない。

 それどころか、このクルペッコの声はとんでもなく酷い。とにかく酷い。例えようはあるがそれでも酷い。

 読者にわかるように伝えるとすれば、音痴なガキ大将の歌ぐらいに酷い、といった感じか。

 

 そんなクルペッコは、暖かな日差しの元、海岸付近で魚を漁って腹を膨らませたところだ。

 食後の運動と言わんばかりに体を動かし、見事なステップを披露。見せる相手はそこらに居たルドロスぐらいだが。

 ダンスだけは幼生の頃より磨いてきた為、その動きは軽快で華やかだ。膨れた尻尾をフリフリ振ってアピールすることも忘れない。

 

 だが、ここで拡声器のようなクチバシを広げ音を出すのだが……これがまた酷い。

 モンスターの咆哮は甲高いものから重く響くものまで様々あるが……このクルペッコの声マネはどれでもない。

 

 ドスジャギィのような号令の声でもなく。

 ロアルドロスのような甲高い鳴き声でもなく。

 ラギアクルスのような鋭い咆哮でもない。

 むしろこれでは声とはいえない。ガラガラと異質な音を混ぜながら金属同士をかき鳴らしているような騒音だった。

 

 フリフリと尾羽を振りながら音を立てるクルペッコ自身は調子に乗っているらしいが、周りはそうではない。

 水中にいるはずの魚やエピオスが逃げ惑い、そこらへんに居たルドロス達がダメージを受けているかのように頭を振ってもがき苦しむ。

 その不快音たるや、獲物を追いかけている途中だったロアルドロスが水中から姿を現し、クルペッコを威嚇し始めるほどであった。

 それでもクルペッコは気づかなし止めない。だって踊りと歌に夢中なんだもん。

 

―夢中なんだもんで済ませられるかワレェー!

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 ゴロゴロと転がるようにしてぶつかってくるロアルドロスは若いクルペッコにはキツく、吹っ飛ぶしかない。

 歌うのに夢中だったからか大層驚き、ロアルドロスに背を向けて無我夢中で走り出して逃げていった。

 

 しかし、なんとも不運なことか。空からリオレイアとリオレウスが空からクルペッコの前に現れたではないか。

 陸の女王は地面に着地すると足元を蹴って威嚇し、リオレウスは滞空したまま炎を口から漏らし短く吼える。

 どうやらクルペッコの破滅の音色は夫婦の巣にすら届いたらしく、それを聞いた二匹は不機嫌の極みに達している様子。

 射殺さんばかりの視線と、捕食どころか殺意のようなオーラを目の当たりにして、クルペッコはダラダラと脂汗を垂らして後退り。

 

―ウルセーんだよ音痴!

 

―おちおち旦那と巣作りも出来ないじゃないの!

 

―ひーごめんなさい許してー!

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 竜夫婦がクルペッコに向けて咆哮を上げた途端、放たれた怨霊と殺気に怯むと同時に一目散に逃げ出す。主に空に向かって。

 それでも許すつもりはないのか、滞空していたリオレウスは翼を羽ばたかせて空を舞い、クルペッコの後を追う。

 まるでシューティングゲームのようにクルペッコの後方から火の玉を吐き続け、空の上で追いかけ続ける。なんと器用な。

 

 こうしてクルペッコは(強制的に)孤島から離脱。新たな地(主に温かな気候)へ足を運ぼうとした……のだが。

 

 砂原ではハプルポッカやディアブロスに襲われて。

 

 水没林ではドボルベルクやナルガクルガ亜種に襲われて。

 

 火山ではウラガンキンや(孤島とは別の)リオレウスに襲われて。

 

 残る選択肢である凍土ですら、自身より強いモンスターが居ないとはいえ、ウルクススに雪玉をぶつけられる始末。

 

 ああ、コレも全て音痴が悪いのだ。

 クルペッコという生態だからこそ、幼い頃から声が親兄弟との違いや、自身の音の脅威を理解していた。

 ちらほらと降る雪景色の中、暢気に歩いているポポを横目に、トボトボとした様子でクルペッコは歩く。

 

 

 ここで人間なら挫折を覚え、無理だと知って諦めてしまう事だろう。

 しかしモンスターは違う。挫折程度で諦めては弱肉強食の下で暮らすモンスターはやってけれない。

 欠点を治すどころか、その欠点を抱えたまま生きるか、欠点を利点にすら変えてしまうことだってある。

 だからこそ、このクルペッコは鳥竜種ならではの頭脳の高さを生かし、必死に考え、生きていく。

 自分の声をどう生かすのか。新たな出発点である凍土でどう生き延びるか。どのような生態にすべきか。

 見て、感じて、聞いて、食べて、そして学ぶ。鳥竜種は賢いのだ。

 

 幸いなことに、ここにはバギィという同じ鳥竜種のモンスターがいる。

 さらにその親玉であるドスバギィがいることで、その食性や生態をマネすることが出来るかもしれない。

 まずは魚を食べること。腹が減っては生きることは不可能だ。

 

 続いて音をどう生かすか。

 踊りはともかくとして、自身の放つ音は異質にして騒音。モンスターを怒らせるのが関の山だ。

 しかし怒らせるということは、どんなモンスターでも怒り状態にさせ、不協和音による体の不備ともいえる。

 これを上手く利用すれば、怒りで我を忘れさせ、自身以外のモンスターに危害を加えるかもしれない。

 さらにその活用方法を見いだせるかもしれないと、クルペッコはさらに踊りを極め、音の使い道を見出す。周りとしては迷惑だが。

 

 

 こうしてクルペッコもまた、新たな道を歩み出す。

 己自身で新たな可能性を見出し進化する「変異種」として。

 

 

 やがて時は経ち……ハンター達が世界を横断し始めた頃。

 若きクルペッコは苦難を越え、凍土にて新たな生態を得ることに成功したのだ。

 

 

 このクルペッコ変異種―食性の変化故か蒼い体となったので『蒼彩鳥(そうさいちょう)』と呼ぶ―の特徴は大きく変化している。

 暖かな気候を好むはずのクルペッコがよくもまぁ寒気渦巻く凍土に適応できたなと思うだろうが、だからこその変化ともいえる。

 今回はそんな蒼彩鳥の生態の一部をご紹介するとしよう。

 

 

 まずはクルペッコお馴染みの体液吐き。

 蒼彩鳥の場合は、眠魚を主な餌としていた為か、催眠液を吐き出すことができるようになった。

 強大な敵が襲い掛かってきた場合、この催眠液を広範囲に振りまくことで難を逃れ、逃げ出すのである。

 ちなみにこの催眠液攻撃を知ったのは、音痴な音がウルクススに届いて襲われ、咄嗟に吐き出した時だった。

 

 続いては翼爪。原種は火打ち石、亜種は電気石ときて、変異種は氷結晶と化していた。

 これは体内に蓄積した余分な水分や冷気を翼爪に集中したという説が強いが、ハッキリと解かっていない。

 とにかくこの氷結晶を打ち合わせることで破片が散らばり、獲物を氷やられ状態にするという特徴を持つ。

 ただし回りは冷気に強いモンスターばかりなので、この効果を発揮するのは、ハンターなどといった余所者ぐらいだろう。

 これも地方特有の特徴なので、詳しいことは考えないでおこう。

 

 最後にお待たせしました、あの音痴がどのように進化したのかというと。

 

 

―ただいま、凍土全域においてジャイ●ンリサイタルが開催されております。

 

 

 なんということでしょう。あの音痴はより酷い音痴へと進化を遂げたのです。

 音量アップはもちろん不協和音にも程がある、鼓膜どころか脳みそを破滅に導き兼ねない、恐ろしい歌と化したのだ。

 その音量は凄まじく、遠く離れたエリアでもその音は耳を塞がざるを得なくなり、洞窟内の天井から氷柱が舞い落ちる。

 小型モンスターは逃げ惑い、大型モンスターはあまりの不快に怒りをぶつけようと、その音がした方角へと走り出す。

 

 だがこの音ですら序の口。音量が大きくなっただけの「呼ぶ寄せる為の音」でしか過ぎない。

 本領が発揮されるのは、自身以外の大型モンスターが二体以上そろったときである。

 蒼彩鳥がこの音を出せば、必ずといっていい程に大型モンスターが聞きつけ、こちらへやってくる。

 ボルボロス亜種だろうがベリオロスだろうが、怒りを覚えたまま蒼彩鳥を止める為に走り出し、集い出す。

 

 ここで蒼彩鳥は高い所へ避難し、身を隠す。(蒼い体は保護色にも役立っている)

 するとベリオロスとボルボロス亜種が鉢合わせ、喧嘩となる。肝心のクルペッコを忘れたまま。

 怒りで我を忘れている彼らは、目の前の敵に怒りをぶつけたくて仕方なくなっている。

 そんな二頭の喧嘩を高い所から眺めながら、計画通り、と言わんばかりにクツクツと笑う蒼彩鳥。

 わざと怒らせて二頭を鉢合わせさせることで相打ちを狙い、悪くても弱った方を漁夫の利で倒す。

 もしもこちらへ気づいたとしても睡眠液で寝かしつけられるので、そしたら全速力で逃げる。

 こうすることで強者を1人でも減らし、自分の弱肉強食における地位を守ろうという狡猾な手段なのだ。

 

 この騒音はハンターを相手にしても効果を発揮する。

 何せ大抵のモンスターが嫌がり怒るほどの不協和音。人間が聞けば耳を塞ぎたくなる事は請け合いだろう。

 彼を発見したハンターの大半は、あまりの不協和音に体調を崩したという報告もあったほどだ。

 おまけに睡眠液で眠らせ、スタミナと熱を奪う氷属性やられにもさせるものだから余計に性質が悪い。

 こんな状態で怒り状態の大型モンスターに遭遇した時には、ネコタク送りになっても仕方ないというもの。

 

 こうして蒼彩鳥は、己の能力を最大限に生かし、新たな道のりを歩むことに成功した。

 最も音痴なのには違いないので、好きな時に踊り歌う度に怒られるのが難点らしいが……それでも生きている。

 鳥竜種ならではの高い知能を用いて、今日も彼は好きなように歌うのだが……。

 

 

 今日は雪崩が起きて巻き込まれた。頑張れ蒼彩鳥。

 

 

 まさかこんなクルペッコが、元は喉が壊れていて不調だったと誰が思うだろうか。

 生命は生きてさえいれば儲かり者。一部失ったとしても、それを補う生命力が新たな道を見出すことだってある。

 目を失い盲目となった迅竜だって、代わりに驚異的な感知能力を得て凄まじい力を見せ付けているのだから。

 

 

 

 生命の神秘の内の一つ・・・・・・それは「決して諦めない」ということなのかもしれない。

 

 

 

―完―




○本日の防具と素材一覧

●ペッコOシリーズのスキル一覧 (共通)
・耳栓
・笛吹き名人
・回避性能+1
・挑発

●主に剥ぎ取れる素材
・氷石
 蒼彩鳥の翼爪に取り付けられた、グラシスメタルに近い物質。生成方法は謎である。
・衝撃のクチバシ
 蒼彩鳥の独特的なクチバシ。そのクチバシの詳しい構造を見た者は衝撃を覚えたという。

ここで重大なお知らせです。
モンスターハンターデルシオンの貯蓄が切れた為、しばらく変異種編の更新をお休みします。
期待していた方には大変申し訳なく思います。しばらくはオリモン企画の公開を不定期に更新致します。


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Extra4:「イャンクック成長記録」

思い出してそのまま投稿してみました。
今回のテーマは「イャンクックの誕生から巣立ちまでの記録」です。
とある冒険家がイャンクックの巣を見つけ、観察するというものです。
モチロン全て作者の妄想ですが、楽しんでいただければ幸いです。


序章:「我輩について」

 

我輩は探検家である。名は秘密だ。その方がカッコいいと信じて。

 

我輩はモンスターの探求者でもある。モンスターの生態を観察し、記すのが我輩の趣味だ。

そしてこの観察日記を誰かに見てもらい、知って欲しいのである。

モンスターが如何にして生き、育ち、どのような力を持ってこの自然界に住まうのかを。

 

今回もまた、我輩の努力と忍耐の結晶を披露しようと思う。

読者の皆様よ、モンスターの生態と我輩の勇姿を、じっくりと読んでくれたまえ。

 

 

――――

 

 

第一章:「発見!怪鳥の巣!」

 

 我輩は密林にいる。理由は秘密だ。決して厳選キノコを探しに行って迷った訳はない。

 我輩はエリア8……天井に穴が空いた薄暗い洞窟にて、ある物を発見した。

 なんと、イャンクックの卵が乗っかった巣を発見したのである!長く探検家をしている我輩でも、これは奇跡的な発見をしたと思ったのである。

 まぁ、今はモンスターの繁殖期だからこそ、こうして見つかったのであろうが。

 

 以前イャンガルルガの巣を目撃したことがあるが、イャンクックは卵を6個ほど産むらしい。

 イャンガルルガの場合は3つであった。最も、一匹一匹が生まれてから既に好戦的かつ割と強いで問題なかろう。

 ちなみに我輩、子供のイャンガルルガに追いかけられたことがあったが……幼少だが人間でも厳しいだろう。

 

 まぁ、それは置いておくとしよう。

 ハンターならご存知の方も多いだろうが、イャンクックは大変臆病な鳥竜種で有名。

 その警戒心は中々に優れており、滅多に巣を作らず、作ったとしても見つけづらい場所に巣があるという。

 人間の目ではまず巣は見つけられないというが……これは非常に幸運であるな!さすが我輩!

 

 天井の穴からイャンクックの姿が見えたので、我輩は骨の山に埋もれて隠れるとする。

 フフフ……我輩の隠蔽術は、臆病で警戒心の強いイャンクックの目も誤魔化せるほどに完璧なのだ!

 

 そして親を待っていたかのように卵にヒビが入り、一斉に生まれたではないか。

 いやぁ~、あの時の雛達は可愛らしかったぞ。そんな光景を独占できた我輩はいつだって幸せ者よ。ワッハッハ。

 

 さて、せっかくの発見だ。我輩はいつものように、このイャンクックの雛達の成長を見守るとしよう。

 

 

――――

 

 

第二章:「雛の初日」

 

 生まれたての雛は体が弱く、よちよちと歩こうとして自分から転ぶほどに危なっかしい。

 そんな雛を巣の外に出さないよう、親のイャンクックが嘴で行く先を遮り、巣に押し返す。それを六匹もやらなければいけないのだから、親は大変であるなぁ。

 

 すると今度は空から別のイャンクックが飛来してきた。大きさからして雄だと思われる。

 雄は着地すると大きな嘴を開き、中にある磨り潰した餌を雛に与える。雛の餌は磨り潰して与えるのだな。

 そして今度は雌が飛び立ち、空へと昇って行った。どうやら交代制らしい。

 

 ここで我輩は、餌を与えるイャンクックの嘴から何かが落ちるのを見た。それは千切れた火炎草であった。

 これを見て我輩は、仮説とはいえ、あることを理解したのだ。

 イャンクックは餌であるミミズに火炎草を加え、それを磨り潰して混ぜた物を雛に与える。

 幼少の頃からそうして火炎草を与えることで火炎液が蓄積され、炎を吐けるようになるわけであるな。

 なるほど、こうして火炎草の味も覚えさせれば、大人になった頃に火炎草を蓄える習性を見につけるわけか。中々に賢い。

 

 イャンガルルガも同じ方法で生まれたての雛に餌をやっていたし、この説は強いであるな。

 そういえばイャンガルルガの餌には火炎草とニトロダケを加えておったな。確かあれらは……なるほど、あんなブレスを吐けるのは爆薬が入っているからであるか。

 鳥竜種とは実に賢い生き物よ……さて、我輩もこっそり抜け出してから昼食にしよう。

 

 

――――

 

 

第三章:「雛の成長」

 

 つい先ほど、我輩はピンチを迎えた。

 いや、親が襲い掛かってきたとか、雛を狙うランポスの群れに襲われたというわけではない。

 大きくなって歩けるようになったイャンクックの雛達に囲まれ突かれまくったのだ。

 

 初日から随分と立ったが、子供とはいえ、今の雛はランポス並の大きさになった。

 それに加えて嘴も立派で、軽く突かれるだけでも殴られたような痛みが生ずるのだ……。

 モンスターに限らず、生物の幼少期ほど手加減を知らぬ者は無いと、我輩は常々思う。

 

 だが、可愛い物を許すのが我輩だ!

 このやんちゃっぷりと、適度な大きさがたまらなく可愛いのだ。クック先生愛好家が見たら涎モノ間違いなし。

 モンスターの幼少期を幾度と無く拝んだ我輩ならではの特権という奴だ。羨ましかろう。

 

 さて、そんな雛達を振り切り、帰ってきた親を前にして身を隠す。親は雛が成長するにつれて、餌を上げた後で遊ぶことが多くなる。

 追いかけっこや親対子の喧嘩ごっこをすることで、足腰や嘴を鍛えるようであるな。

 

 また好奇心も旺盛になり、小さな羽虫を追いかけたり、骨の山を漁るなどして遊ぶ。

 この時はなるべく親が居てやり、危険なものと大丈夫なものを区別させてやるのだ。

 雛がランポスに近づけばそれを阻んで守ったり、毒キノコを食べようとした雛を止めるなど、中々に面倒見が良い。

 

 イャンガルルガの場合は……なんというか、喧嘩ばかりなのである。

 わざと親がランポスを誘導させてそれを子と戦わせ、戦闘意欲を高めるようなのだ。

 しかも親が直々に喧嘩をすれば子は必ず眼を狙うし……恐ろしいものである。

 それでいて一応手加減をしたり、戦い方を直に教えるなど、ただ狂暴なだけではないことを物語っていた。

 

 同じ鳥竜種、それもイャンの名を冠する者同士とはいえ、随分と違うものだと感じさせる。

 

 

――――

 

 

第四章:「雛の食事」

 

 ここで我輩が見て来て興味が沸いたのは、親クックの餌の与え方である。

 生き物にとって食事は大切である。そこでクック達は、餌の与え方にある工夫を施しているのだ。

 雛のときは、ミミズを細かく磨り潰し、そこに火炎草も混ぜて食べる。そして大きくなるとミミズをそのまま与え、火炎草を与えればそのまま食べるようになる。

 

 ここからが食事の与え方に面白みがある。どう面白いのかといえば、大きくなるにつれて餌が変わり、意図が違ってくるのだ。

 まずはその顎で掘った土。土といっても中にミミズが入っているのだがな、雛達はその土の中からミミズを取り出す為に懸命に顎で掘るのである。

 こうすることで土を顎で掘ってミミズを見つけ出す訓練をするのだ。中々に大変そうだ。

 

 次に生きた光蟲。これは飛んでいた物を嘴に閉じ込めたようであるな。

 これを雛の前でばら撒くことで、それを捕まえて食べる為に雛が走り回るのだ。足腰を鍛える訓練に繋がり、また飛ぶ虫を捕らえる練習にもなる。

 さすがはイャンクック先生。無駄の無い教え方であるな。先生の二つ名は伊達や酔狂ではない……なんか違うような気がするが、まぁ良いとしよう。

 

 イャンガルルガも同じようなものなのだが……餌がカンタロスと厳しいのだ。

 カンタロスといえば飛んで跳ねて突き刺してくる甲虫種。雛の相手にはキツいはずだが……。

 しかし実戦もかねているので、雛は全力で戦って食に有り付くのだ。逞しいものである。

 

 ちなみに我輩は食えないぞ?だからクックもガルルガも雛のうちから我輩を喰らおうとするでない。

 あ、いや、大きくなっても喰わないで欲しいんだけどね……。

 

 

――――

 

 

第五章:「雛と逃走」

 

 恐らく今回の観察記録の中で最も危険な日だっただろう。

 何せ空の王者ことリオレオスが巣に襲ってきたのだから。しかも気が立っていたし。

 我輩は隠れていたので何とか難を逃れたが、イャンクックとその雛達が目をつけられてしまった。

 眼前には威嚇するリオレウス、背後には巣と雛達……絶体絶命のピンチである。

 

 それでもイャンクックは逃げるのだ。雛達を連れて。

 連れて行く際、なんと嘴に雛をギュウギュウに詰め込むという荒業を披露したのだ。

 大きな嘴がこんな所でも役に立つとは。おかげでリオレウスから逃げ出すことに成功した。

 

 ちなみに我輩、この時はひたすら骨の山の下で息を潜めていたのである。

 この時は凄く怖かったぞ……我輩の真上でイライラしているリオレウスがおったのだから。

 我輩の隠蔽術が無ければ即刻お食事にされるところであったわ……けどやっぱりチョー怖かった!こんな我輩を褒め称えてもいいのだぞ?あて先はいつもの通りにな。

 

 リオレオスが去っていった後、イャンクック達が帰ってきた。さてさて、あの火竜が現れた以上、どうすることやら……。

 

 イャンガルルガの場合だったら、問答無用で攻撃し、逆に追い返す。恐るべし黒狼鳥。

 この時の雛達は親と火竜の戦いをガン見して学んでおったぞ……やっぱり逞しい奴らであったな。

 

 

――――

 

 

第六章:「雛の巣立ち」

 

 さて、リオレウスが現れ、日々怯える生活を送ることになってしまったイャンクック達。

 しかし雛達も、親よりも一回り小さい程度に成長し、外を元気よく走れるようになった。

 

 そして……頃合だったらしく、今日で巣立ちの時を迎えたのだ。

 

 晴れ渡る青空の下、イャンクックとその雛達が歩いている。

 我輩は草むらに変装していて後をつけている。慎重に慎重を重ねたので無問題だ。

 

 まずは親が空を飛ぶ。この時、雛達はまだ飛べず、親を見送る形となる。

 しかし親は空の上から雛達を呼びかけ、飛ぶよう促している。雛達は戸惑っているが……。

 

 この時、我輩の第六感が囁いたのである。危機が迫っていると。我輩は咄嗟に地面に潜り、潜った直後に地面が揺れたのであった。

 揺れが収まった後、何事かと地面から顔を出せば……あのリオレウスが走っていたのである。

 雛達を狙って走るリオレウスに対し、雛達は散り散りになって逃げ惑っていた。

 空を見上げればイャンクックが心配そうに空を周回しているが、やはりリオレウスに立ち向かう勇気は無い様子。

 

 すると、走っている内に理解したのか、次々と雛達が空へ飛んでいったではないか!

 流石に強敵が追いかけてきたりしたら、必死になって飛んで逃げたくもなるだろうな。

 リオレウスも後を追うが、散開して逃げた連中を追いかけるのは面倒だったらしく、諦めて降下。

 

 こうして雛達は、親の後を追わず、各々の行きたい所へと飛んでいった。

 その姿を見上げていた我輩は、どことなく寂しさを覚えたのだった……元気でな、未来の怪鳥達よ。

 この後、我輩は苛立っていたリオレウスの矛先を向けられてしまい、逃げる羽目に。

 くそう、なにも我輩に八つ当たりすることないではないか!おかげで我輩の自慢の毛が焦げしまったわ!

 

 

――――

 

 

最終章:「怪鳥観察記を振り返って」

 

 偶然にもイャンクックの巣を見つけ、雛達の成長を見守った我輩。

 よちよちと歩く姿やはしゃぐ姿など可愛らしい所を多々目撃できて、我輩感激である。

 

 しかしそれだけではない。賢き鳥竜種の知恵をまた一つ見つけることができた。

 弱肉強食の世の中において、鳥竜種は下位に留まっている。飛竜種や牙獣種に比べると弱いからだ。

 だが、イャンガルルガもそうであったが、生き残る為の工夫を幼少の頃から授ける知恵が、彼らにはある。

 

 全てに言えることだと思うが、親にとって子とは可愛いいもの。逞しく育って欲しいと願うのは当然だろう。イャンクックの子育てはそんな愛情と願いで満ち溢れていた。

 それもただ優しくするだけではなく、幼少の頃からしっかりと育てる……母性を感じたのである。

 ちなみに、我輩は絶賛お嫁さん募集中なのである。まずは文通から初めてもよいのだぞ?

 

 さてさて、今回も我輩は良いものを拝めることができた。

 我輩的「ためになったモンスター成長期ベスト3」に入ること必須である。

 もし次もモンスターの巣を見つけたら、よほどの危険が無い限りは観察したいと思う。

 まぁ、我輩に掛かればどんな危険な状況下に置かれても観察できる自信はあるがな!

 

 では諸君、また会おう!

 

 

 

―怪鳥成長記・完―

 

 

 

・著者及び翻訳:アルハス=ヴィレンツ

・原作:ムツゴロー

 

 

――――

 

 

オマケ「我輩の真実」

 

「……とまぁ、こんな所である」

 

「ほぉほぉ、今回も実に興味深い話ですのぉ」

 

 いやはや、ムツゴロー殿の観察記録は、我々研究者によって興味深いモノばかりですじゃ。

 言語を翻訳するのが大変とはいえ、我々にとっては大変貴重な文献となる上、暇つぶしにもなる。流石じゃな。

 

「ではムツゴロー殿、今回も書籍化してもよろしいでしょうか?」

 

「うむ。よろしく頼むのである、アルハス殿」

 

 むしろ当然、と言わんばかりに胸を張るムツゴロー殿。

 さすがは現役の探検家。自信に満ち溢れていますなぁ。年寄りから見れば羨ましい限り。

 

 こうしてムツゴロー殿が観察記を記した後、それを我々学者や小説家が本として発行する。

 最初は学者向けの図鑑に記そうと思ったのですが、ムツゴロー殿がそうして欲しいと頼んできた。

 以来、小説家の手助けもあって売れ行きは上々。特にハンターに大人気ですじゃ。

 こうして「ムツゴローの観察記」は、世界中の人々に愛されるシリーズとなったのです。

 ちなみに売上の半分はワシら研究班に、半分はムツゴロー殿と仲間のアイルー達となっています。

 

「それでは我輩、これにて失礼するのである」

 

「なんと、もう行かれるのですか?少しぐらいゆっくりされては?」

 

「我輩は探検家である。ゆっくりするのも良いが、我輩は探検の方が良いのである」

 

「……そうですか。では、またいずれ」

 

「うむ。お主もお元気でな、アルハス殿」

 

 そういって大きなリュックサックを背負い、ワシに一礼してから去っていくムツゴロー殿。

 本当に探検がお好きなのですのぉ。今回も、ワシらに沢山のお土産を持ってきてくれましたし。

 

 それにしても……やはり種族を明かした方が良いと伝えておくべきかの?

 いくら格好付けの為とはいえ、ファンの大半がお主を人だと見ているようなのですよ?

 それでも変えないあたり、大層な頑固もんじゃの。お嫁さんが欲しい癖に。

 

 

 

 

 まったく、本当に変わったアイルーですのぉ。

 

 

 

 

―完―




人間だと思った?残念アイルーだよ!

wikiを参考にしてると思った?残念ほとんどが作者の妄想だよ!

後悔していないと思った?残念後悔と不安と恐怖でビクビクだよ!

長ったらしい後書きはやめようと思って勢いで書いたらこれだよ!すみませんでしたー!


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Extra5-1:「海域の始まり」

本編のストックはありませんが、オリジナルモンスターが登場する番外編があったのを忘れてました。

今回の妄想モンハンのテーマは「海」です。MH3の世界観は結構好きです。やったのはMH3Gだけですが。
この小説はMHFGのPVを見て、大型帆船があったら世界観が広がらないかなぁと思って書いたものです。

これを読んで妄想を広げたりして楽しんでいただければ幸いです。



 旧大陸と新大陸…これらとの距離は遠く、繋ぐために渡る海域はとても広いとされている。

 これらの大陸の交流に最も欠かせない存在として、交易船が上げられるだろう。

 時には特産品、時にはハンター、時には新技術など、様々な交流や交易が船によって運ばれてくる。

 

 そんな交易船も、二つの大陸を繋ぐ為、これまでに色々なことがあった。

 新たな大陸に挑む為、数多くの苦難や苦行を乗り越え、やっと今の形が生まれたということ。

 海を渡る男達が語る歴史や伝説は多々あれど、それらは全て、偉業を成し遂げた者達への賛美だ。

 

そしてもちろん、語るべきでない物語もある。

 

 実は、交易船は旧大陸から新大陸までの海域をまっすぐ進んでいるわけではない。

 旧大陸から新大陸までを、緩やかな弧を描くようにして船を進め、直線に進むのを避けて移動しているのである。

 この理由に対し、潮の流れや風向きなど自然科学に乗っ取った訳がある為、誰もが気にしなかった。

 

 しかし、理由はこれだけではない。少なくとも船乗り達は暗黙のルールとして知っている。

 かつて広大な海を直進し、最短ルートの海道を見つけ出そうと行く船も何隻かあり、全て帰らぬ者となった。

 新大陸・旧大陸ともに辿り着くことが出来ず、船どころか船員の安否も解からぬまま。

 

 

―そこには、踏み込めば快晴であろうとも一瞬で深い霧に包まれてしまう、魔の海域があるから……。

 

 

―――

 

 

「いやぁ、潮風が気持ちいいゼヨ!」

 

 特徴的な語尾を持つ交易船の船長は、広大な青空に浮かぶ太陽を見上げ、風邪を浴びながら歓喜する。

 海鳥の群れが飛び交う青い空、太陽の光を反射して輝く海、そして心地よい潮風…船長にとって満点以上の良い天気だった。

 もちろん、背後で慌しくも元気に動き回る船員達がいる甲板の光景も良いものだと船長は実感していた。

 

 ただ、油断はならない。そう思っていた矢先に、それを言葉として伝えてきたのは、別の男だった。

 

「気を抜かんでくれ交易船船長殿。もうすぐ例の海域だぞ」

 

 掛って来た声は野太い声。しかし振り向いて見た姿はとても小さい。

 交易船長の半分も無い背丈でありながら、その顔に刻まれた皺と傷は、海の漢を体言している。

 ハンターの武器としても製造されているイカリハンマーを背負っており、小柄でありながら、かつてそのハンマーをぶん回し多くのモンスターを撃退したと云われている。

 

「解かっているゼヨ!相変わらず堅いのぉカリィ船長!」

 

「ふん。海で怖ぇ事の一つのは、お前さんみたいな能天気が船長やってることだよ」

 

 どうやらこのカリィ船長と呼ばれた小柄な男は、交易船長とは古い付き合いらしい。

 ギロリと猛獣のような睨みで見上げるカリィ船長に対し、交易船長はケラケラと笑って流すだけ。

 この2人が昔ながらの付き合いをしているおかげで、カリィにビビっている船員が穏やかな時間を過ごせているといっても過言ではない。

 

 なぜ同じ船に2人の船長が乗っているのか。それは彼らが乗っている船に理由があった。

 

「だとしてものぉカリィ、こんな大型帆船、それも二隻連なって一つといえる船に乗るなんぞ始めてだゼヨ!」

 

 隠し切れない好奇心と喜びを言葉と身体で体言しながら、ゴツゴツと足元の看板を踵で小突きつつ船の全容を眺める。

 交易船長の言葉に同意しているのか、カリィ船長は無言で、操舵手の傍らから船を見下ろす。

 

 

 彼らが乗っている船は、これまでの船とは次元がまったく違う品物だ。

 大きさはもちろんの事、外装や内部、そしてそれらを構成する全ての要素に、最先端の技術が詰め込まれていた。

 船を網状に覆う鉄製の装甲は、障害物だけでなくモンスターの魔の手から守るようにして作られ。

 複雑な仕組みを搭載した巨大な帆は船員や航海士の腕が問われつつも、逆に言えばあらゆる状況に対応できるよう作られ。

 万が一の事態を想定した職人達が、航海に必要な機能を損なう事無く、折りたたみ式小型飛行艇を組み込んで作られた。

 もちろん大量の荷物を搭載することができ、船員達の生活を快適にする為の設備も整えられている。

 

 これだけ多機能かつ豪華な船でありながら、それを二隻、横並びに連結させている。

 二隻を繋ぐ頑丈かつ大きな板は、モンスターに遭遇した場合を想定して備えられたフィールドだ。

 既に護衛であるハンターは数名派遣されており、モンスターの対処もある程度は整っているといえる。

 

 近年の技術革新は、空に大型の飛行船を飛ばす事に成功することが出来た。その技術革新は更なる発明として、「連結式大型帆船」を生み出したのだ。

 だが豊富な機能を持つとはいえ、大型帆船を操作する為の人数は半端無く、初めての機能故に戸惑う者も多い。

 さらに試験的に作られた名目上、最低限の成果を遂げなければならない―――例え失敗の確率が高いとしても。

 故に、名高き交易船長と実力派のカリィ船長が呼ばれたのは、この二隻の船のまとめ役を任された。

 

 

―この先にある、「魔の海域」と呼ばれる領域を見て、それを伝える為に。

 

 

 そう頭の中で理解しつつも…逆に理解しているからこそ、交易船長は景色を見て首を傾げる。

 

「しかしカリィ船長、この先で本当にあっているんゼヨな?」

 

「なんでい藪から棒に」

 

「ワシが聞いた話では、濃霧に包まれた白い世界、だったはずゼヨ…なのになんだゼヨ?この穏やかな海は」

 

 若干不機嫌気味なカリィ船長の心情は知らずといわんばかりに、交易船長は背後の光景を指差した。

 なにせ、その光景を一度見れば、魔の海域と呼ぶにはあまりにも不自然に思えるからだ。

 

 静かに波打つ青い景色の中には、とても小さな孤島が点々と広がっている。

 孤島付近の岩礁ではエピオスがのんびりと日向ぼっこをしており、浅瀬の砂浜ではルドロスが集まってこちらを見つめている。

 海を見れば、大型の魚影や魚群が見える。恐らくは鮫やマンボウ、ハリマグロなども生息しているのだろう。

 孤島の林にはアプトノスの群もいる。ギャアギャアと鳴き声が聞こえ、小型の鳥竜種がいると予測される。

 

 小さな島々が連なり、それが一種のネットワークを構築し、狩猟場となるような海域。

 海が大半を占めるこの光景を目の当たりにして、交易船長は可笑しなぐらいに平和を感じていた。

 

 しかしそんな交易船長を、だからこそだ、と重く語るカリィ船長。

 

「考えてみろ。確かに海のど真ん中でありながら、島がいくつも見える。なのに――どうしてこんなに静かだと思う?」

 

 カリィ船長の言葉に、交易船長はふと周囲を見て気づく。

 

 そうだ、確かにモンスターの姿は見える……だが、大きな姿はどこにもいない。

 ルドロスですらこっちを見るだけに留まっている。群がいながらロアルドロスがいないのは、一体どういうことか。

 まるで、連中はこちらではなく、別の何かを警戒しているかのよう――そう思った矢先。

 

 

―周囲を霧が覆い始めた。

 

 

 先ほどまで快晴だったにも関わらず、まるで雲のように濃厚な霧に包まれ、周囲を白に染めていく。

 海上ではルドロスやエピナスが水中に潜り、陸地ではアプトノスの群が島の奥へと逃げ込んでいく。

 彼らだけでなく、自然と交易船長やカリィ船長にも、一種の悪寒のようなものが走る。

 

 

―何かが居る。二人の船長とハンター達は、それを直感的に理解していた。

 

 

 やがて周りの全てが白に染まる頃、灯りを照らせとカリィの怒号が船員に伝えられ、カンテラに火をつける。

 まるで雲の中にいるような暗闇と湿気に包まれる中、障害物の接触を避けるよう、注意深く周囲を警戒する。

 この時ばかりは交易船長も目を光らせ、ハンター達も戦闘態勢を整える。

 

 やがて船の前方に黒い影が幾つか浮かび、それを確認すると船長2人が船を止めるよう指示。

 帆を閉じてゆっくりと速度を落としていく中、徐々に黒い影の輪郭がはっきりとしていき、やがて全貌が明らかになる。

 

「こ、これは…!?」

 

 流石の交易船長も、一瞬とはいえ目を見開いた。白い霧の中でもはっきりと見えるそれらを見て、船員達はざわめきを隠せなかった。

 

 目の前に見える光景は、まるで船で出来た孤島。数多くの廃船が岩礁を支えに積み上げられ、小さな島にも見える塊に変貌している。

 まるで船の墓標にも見えかねないそれらを見て、船員達が、ハンター達が、そして船長2人の顔が驚愕に染まる。

 

 特に驚いていたのはカリィ船長だ。船の残骸の山々の中に、見覚えのある船首が見えたからである。

 

―なにせ、その船首とは……。

 

「ありゃあ……親父の船じゃねぇか!」

 

 かつて幼少の頃に見た、海の漢として憧れた父が乗っていた帆船。

 リオレウスの頭を模して作られた雄雄しい船首が堂々と天を向けど、そこから下は無残な姿を遂げていた。

 痛々しいその姿を視線から逸らしたくても、カリィ船長には出来なかった。

 

「それだけじゃあないゼヨ……どれもこれも、新大陸に辿り着けず、行方不明となった船ばかりゼヨ!」

 

 決して老人とはいえぬ交易船長ではあるが、書物や船員仲間から引き出した情報がある。

 ボロボロとはいえ面影を残す船達は、全て交易船長が記憶している、海に出たきり戻ってこなかった船ばかり。まさに船の墓場そのものではないか。

 交易船長の台詞も相まって、勇敢だったはずの船員達の顔は驚愕から恐怖へと染まっていく。

 

 

 ここでふと、一人のハンターが背負っていた武器を手に取り、続いて仲間達も各々の武器を手に取り始める。

 その行為を目撃した船長2人だったが―――すぐに理由がわかった。

 さきほどまで薄っすらとしか感じ取れなかったが……今ならハッキリと解かる。

 

 黒い影がスウッと現れたと思ったらすぐに霧の奥へ消え、一瞬にして別方向から影が浮かぶ。

 それも一つだけではない。細長い何かは二本あるようで、しかも緩やかに蠢いている。

 

 船員達は見えているようで見えない恐怖に怯えているが、ハンター達と船長2人は違う。

 圧倒的なプレッシャーと敵意……それらが船の周囲を取り囲むような感覚を覚え、緊張感が走る。

 カンテラの灯りでなんとか見えていた影だったが、突如として霧が薄れていき、徐々に影の姿が照らされていく。

 

 その存在は、まるで挑戦を待っているかのように、二隻を繋ぐ板の上に鎮座していた。

 照らされた姿を前にして、初めて連結式大型帆船を目撃した時よりも、交易船長は驚愕した。

 

 その姿は大きくも長く、海竜種を彷彿とさせる。目だった突起は少なく、無駄の無いほっそりとした流線型を描いている。

 濡れているはずの長い身体は、ジュウジュウと音を立てて水分を蒸発させ、水蒸気となって白い湯気を上げる。

 濃い蒸気が立ち込めるせいで正確な姿を捉えることが出来ないが……最たる特徴がハッキリとわかる。

 

 

 その長い身体の先……緩やかに伸びる首と頭が、二つあった。

 

 

「そ、双頭の龍、ゼヨ!?」

 

 

―ギエエエェェェェェェェェェェ!!!

 

 

 二つの頭から放つ咆哮が共鳴し、鼓膜どころか体中を振るわせる。

 そう、交易船長の言うとおり、このモンスターは二つの頭を持っていた。

 未だ曇る霧のおかげではっきりとは見えないが、明らかに二つの首がこちらを見据えている。

 

 双頭という、見たことも聞いたことも無い、下手をすれば古龍種よりも危険と判断しかねない特徴を前に、ハンターですら怯みを見せる。

 船員達にいたっては、怪物だ、古龍だ、海神様の祟りだとよからぬことで慌てふためくばかり。

 交易船長はその様を見てどう指示すべきか一瞬戸惑うが―――。

 

「静まれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 カリィの怒号が、謎のモンスターに対する恐怖心を塗りつぶし、驚愕の余り放心する。

 

「全員、交易船長の指示に従ってこの場を脱出しろ!熱気球の用意だ!急げ!」

 

 放心させる暇も与えぬと言わんばかりに怒号は途絶えず、船員達は一瞬怯んだ後、急ぎつつも冷静に行動を開始。

 そんな船員達を余所に、交易船長は我に帰り、ハンター達は急いで船の中間へ足を運ぶ。

 

「残りの板を広げろ!ハンター達の領域を増やすんだ!」

 

「待つゼヨ、カリィ船長!お前さんはどうするゼヨ!?」

 

 中間点である板の他に収納している足場を力自慢の船員達が展開させる中、交易船長は慌ててカリィの元に駆け寄る。

 だがそれをカリィの手の平が語っていた―――来るんじゃない、と。

 

「ここは俺に任せな。ハンター達が残ってくれる以上、見届けてやるのが俺の務めよ」

 

「だが…」

 

「いいから行け!そして伝えろ!この海域の化物を!」

 

 何度も聞きなれた怒号ではあるが、正論故に交易船長はそれ以上口出しできなかった。

 船尾に展開された熱気球から船員達の呼ぶ声が聞こえてくる。同時に、ハンター達に向けて咆哮するモンスターの叫びも。

 船員達の命、自分達の使命、そしてカリィ船長の意思が頭の中で渦巻き、止む終えず熱気球の元へ向かう。

 

 

 そして深い霧の中、緊急脱出用の飛行艇が飛んでいき、白の世界へと消えていく。

 それを見届けたカリィ船長は、再び船と船の間に視線を向ける。

 

 

 未知なる双頭のモンスター―――『霧双龍(ムソウリュウ)』と、それに挑む、勇敢なハンター達を見守る為に。

 

 

 

―――

 

 

 

 この会合から一ヵ月後、ハンター達は無事生還した。それは成功を意味したのではなく、命がけで逃げ出したという結果だった。

 それでもハンターギルドや船団から見れば大収穫だ。かつて誰も帰ってこなかったという海域から脱出できたのだから。

 さらには未知なるモンスターの情報も得ることが出来た。伝説ですら記されているか妖しい双頭の龍という疑いの要素が強い物だが……。

 しかし一人のハンターが手に持っていた鱗を採取したことにより、様子見の予知ありと考えた。命知らずと名高いハンターが言うのだから間違いないだろうと。

 

 ただ、カリィ船長の安否は、彼らハンターにも解からない。

 カリィ船長は重傷を負って動けないハンター達の為に帆船を出し、双頭の龍の気を逸らす為の囮になって姿を消したという。

 

 

 

知らせを聞いたその日、交易船長は静かに涙を流したという。

 

 

 

―完―




●名称:ミスティロン
●別名:霧双龍(ムソウリュウ)
●種族:古龍種
●特徴:
大きさはクアルセプスほど。色調はメタリックブルー。モチーフは首長竜。
無駄の無い流線型の身体をしており、翼の名残である背びれや、鮫のような尾びれを持つ尻尾を持つ。
殻といえる部分は矢じりの如く鋭い頭殻のみで、それ以外は非常に硬く鋭い鱗で覆われている。
双頭のように見えるが、共生関係にある魚竜種『双魚竜(ソウギョリュウ)ムガロガス』がミスティロンの背に張り付いているだけである。
このムガロガスはミスティロンの姿に酷似しているものの微妙に違い、口内は鋭い歯が並んでいる。
●説明:
「魔の海域」と呼ばれる海域に姿を現すという古龍種らしきモンスター。姿を現すと辺りが霧に染まるという。
その縄張りは広大で、普段は海底火山で眠っているが、海面を進む大型船ですら敵と認識し上昇する。逆に小型の船は敵と見なさない。
高温のマグマと海水を圧縮し保管する器官を持ち、これより熱光線や水ブレスを吐く他、高温の水蒸気を噴出す。
背には共生関係にある双魚竜が張り付いており、外敵をミスティロンが追い払う代わりに身の回りの世話を双魚竜がする。
別離も可能で、時には息のあった連携プレイで狩りや攻撃を行うこともある。

次回はピクシブにて読者様が応募してくださった『海域』のオリジナルモンスターが登場します。

待て次回!(←言ってみたかった)


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Extra5-2:「海域の生態」

今回のテーマは「海を中心としたフィールドに生息するモンスター」です。
モンハン3でいう孤島よりも海の割合が多いという設定のフィールドでの生態系を記します。
もちろん妄想設定バリバリに詰め込んでいます。ご了承ください。


 

―プロローグ「海域の生態系」―

 

 旧大陸と新大陸――二大大陸の丁度真ん中に位置する海域がある。

 ここらは深い霧で包まれている為、交易船などはこの海域を避けるようにして移動している。

 しかし人々は気づいていない。その海域の霧は、大型モンスターよりも大きな船が通る時「だけ」発生しているということに。

 

 大きな船が通らなければ、その海域(以後、【海域】に統一)の天候は通常の海と変わらない。

 晴れれば穏やかな海だが、ひとたび荒れるものなら、大波小波となって周囲を蹂躙するだろう。

 そんな海はただ広大なだけではなく、島々が連なるフィールドも存在している。

 

 ここらはかつて大きな島が浮かんでいたらしいが、今は海に沈んだらしく、いくつかの小島があるだけ。

 美しい珊瑚礁と陸地だったはずの岩礁が密かに島同士を繋げているが、陸地よりも水域が多い事に変わりは無い。

 故に、この島々が浮かんでいる海域では、大陸ほどではないがフィールドとしての自然系は成り立っているのだ。

 

 小島一つとなれば僅かな陸地しかないが、それでも大地である以上は森があり、水辺がある。

 椰子の木が揺れる砂浜では、ルドロスが練り歩き、ヤオザミが餌を啄ばんでいる姿が見られる。

 島の中央へ行けば森林が広がり、アプトノスの小さな群とそれを狙うジャギィ達の群が見られる。

 沖で行こうものなら、水面に飛び出している岩礁の上で日向ぼっこをしているエピオスを目撃することができる。

 

 今はまだ平和に見えるだろうが、陸地は陸地で時には危険が伴う。

 何せここいらは大陸の中間。大陸を渡る飛竜種にとっては絶好の休憩場、現代的に言えばサービスエリアも当然。

 リオレウスやリオレイアが餌を求めて島に襲い掛かってくるなんてことは当たり前なのだから、陸地も大変だ。

 

 だが忘れてはならない。ここはあくまで海域が主体であると。

 ひとたび水中へ潜れば、広大な青の世界と、美しい珊瑚礁による色取り取りの景色が見えることだろう。

 色彩豊かなその空間は岩と珊瑚礁で砂底を覆っている為、砂の白が見えることはなく、魚達の隠れ家となる。

 魚が繁栄すればそれを餌とするモンスターも栄える他、豊富な栄養を含む海草を好んで食べるエピオスを狙うモンスターも多い。

 それはルドロスの群でもあれば、ガノトトスでもあり、海中における食物連鎖の頂点であるラギアクルスでもある。

 

 

 海のど真ん中に浮かぶ小さな島々は、充分な自然系を営み、多くのモンスターの糧となる。

 また、陸地が少ない分、大陸にはない独特の進化を遂げたモンスターも数多く存在している。

 

 

 今回は、広大なる海のど真ん中に浮かぶ島々と「海域」の生態系を紹介しよう。

 

 

―第1章:「渡泳蟹(トエイガニ)の生態」―

 

 とある小さな、エリア一つ分にも満たないほど小さい島の砂浜に、大きな姿が二つ。

 緩やかな小波に揉まれた白い砂浜と青い海、そしてそれらを照らす太陽のおかげで、そこはまるでリゾート地のよう。

 軽く風が吹くだけでヤシの木が揺れ、ランゴスタ達が餌は無いかと周囲を穏やかに飛び回っている。

 

 そんな砂浜では、二匹の甲殻種が戦いを繰り広げていた。

 ヤオザミよりも大きなそれはダイミョウザザミ。それらが鋏を広げ体の大きさをアピールし合っている。

 戦いとはいっても、これは縄張り争い。甲殻種同士の戦いは身体の大きさで決まるのだ。

 

 ここで一つ二つ告げるとすれば、このダイミョウザザミは大陸のに比べ違いがある。

 小島で育ったダイミョウザザミは、食性の違いか通常種よりも小さく、色が鮮やかなのだ。

 陸地での恵みよりも海中での恵みが多いからだろう。背負う殻も龍頭などではなく、巨大な巻貝となっている。

 

 そして注目すべきは、敵対しているダイミョウザザミ―――らしき甲殻種。

 一回り大きいそれはダイミョウザザミに似ているのだが、その姿は随分と違う。

 細かい詳細は後ほど伝えるとして、最たる特徴が―――背負っている物の違いだろう。

 

 何せその甲殻種が背負っているのは、自身以上に大きなイソギンチャクなのだから。

 

 鮮やかな紫色の体(?)の上にはウネウネと太く長い触手が数本動いており、それが生きていることを証明している。

 そんなイソギンチャクは、幼少から甲殻種の背で育ってきたのか、彼の弱点をすっぽりと覆っている。

 それでいて宿主である甲殻種を攻撃することはなく、しかし獲物を求めているかのように動き続けている。

 

 巨大なイソギンチャクこと「ドスイソギンチャク」を殻の代わりに背負うこの甲殻種。

 ダイミョウザザミと同じ祖先の、海を泳ぎ渡る甲殻種―――「渡泳蟹(トエイガニ)サキモリザザミ」である。

 彼はダイミョウザザミの近縁でもあるが、その違いは身体の作りで表されている。

 それを証明するかのように―――事体は動き出した。

 

 縄張り争いに勝利したサキモリザザミの前に、ロアルドロスとルドロス数匹が現れたのである。

 海中から這い出てきたロアルドロスは、オレの縄張りだ、と言わんばかりに咆哮を上げてサキモリザザミを威嚇。

 しかし、縄張り争いに勝ったばかりのサキモリザザミは、ロアルドロスを前に下がることはない。お互いに争う気満々のようだ。

 

 まずはロアルドロスが先制。サキモリザザミへ向かって走り、そのまま飛び込むようにして体当たりを繰り出す。

 それをサキモリザザミは両の鋏で受け止める。厚みは通常種より薄いが、硬度はそれ以上のようだ。

 そのままロアルドロスはサキモリザザミに圧し掛かり、前脚による攻撃を繰り出す。中々に力強い。

 

 ロアルドロスを受け止め戦うサキモリザザミの後方では、ルドロス達が群がっている。

 寄って集って戦うのが悪いというわけではない。群を率いる水獣ならではの戦いといえよう。

 しかしルドロス達は、サキモリザザミの後方へと近づくことを躊躇していた。

 何故なら、サキモリザザミが背負っているドスイソギンチャクが、近寄るなと言わんばかりに触手をうねらせているからだ。

 イソギンチャクの触手に毒があるように、このドスイソギンチャクの触手にも毒がある。

 それをルドロス達が理解している為、サキモリザザミの後を攻めたくても攻められないでいるのだ。

 

 このドスイソギンチャクとサキモリザザミは共生関係にある。

 防衛本能により触手で攻撃するドスイソギンチャクは、硬い殻や頭骨といった物とは別の防御力の高さを発揮する。

 では何故、ダイミョウザザミのように頭骨を纏わないのか?その理由はこれから明らかになる。

 

 突如、サキモリザザミはロアルドロスを押し出し、海の方へと走っていった。

 ドスイソギンチャクは乾燥に弱い為、水辺付近でしか活動できず、必要とあらば水中へ赴く必要がある。

 ここらの海中も彼の縄張りとしているロアルドロスは黙ってない。ルドロスを連れてサキモリザザミを追いかける。

 

 ここで、サキモリザザミの別名「渡泳蟹」の由来を知ることになる。

 なんとこのザザミ、ゆっくりとだが海中を泳ぐことができるのだ。

 甲殻が薄いのも脚が少々平たいのも、ザザミが海を渡る為、泳げるよう進化したもの。

 ダイミョウザザミのように龍頭を背負わないのも、広い海で殻を探すのが困難だからだろう。

 その為、幼少の頃よりイソギンチャクを背負い、共に成長することであのような巨大イソギンチャクに変貌するのだ。

 

 そんなサキモリザザミとドスイソギンチャクのコンビは、水中でこそ真価を発揮する。

 海中で元気になったドスイソギンチャクの触手の暴れっぷりときたら、まるで蛇が乱舞しているかのよう。

 しっかりと岩礁に脚を固定したサキモリザザミの、軽くも硬い鋏がルドロスを捉え、触手の餌食となって毒を与える。

 ロアルドロスの体当たりも鋏で受け止められ、その際にドスイソギンチャクの触手が攻撃を加える。

 

 サキモリザザミの硬い甲殻で防御しながら、ドスイソギンチャクの毒でじわじわと弱らせていく。

 攻防隙の無い攻撃を繰り出す二匹の前に、弱ったロアルドロスは仕方ないとばかりに逃げ出すのだった。

 それを見送ってから、サキモリザザミは魚を鋏で捕まえ、ドスイソギンチャクに振舞う。

 

 

 ダイミョウザザミとは違った防衛手段を持つ、共生関係を持つ甲殻種。

 それこそがサキモリザザミの特徴であり、世にも珍しい、巨大イソギンチャクを背負った泳ぐ蟹の生態なのだ。

 今日もサキモリザザミは、食料を確保する為、ドスイソギンチャクを背負ったまま海を泳ぐのだった。

 

 

―第2章「粘鰻竜(ネンマンリュウ)の生態」

 

 今、幾つかある島の内の一つがパニックに陥っていた。

 アプトノスの群が懸命に逃げ、それに続くようにしてジャギィ達が追いかけ―――もとい逃げ回っている。

 その逃げ足の速さは、獲物であるはずのアプトノスを通り過ぎ、我先にと走り去るほどだ。

 彼らの親分であるドスジャギィですらアプトノスを無視している。一体何が起こっているというのか?

 

―島の砂浜では、大型モンスター同士が争っている真っ最中だった。

 

 その内の一体はリオレウス。どうやら大陸を渡る途中、餌を求めて飛来してきたようだ。

 地面を蹴り上げ、身を低くして威嚇の唸り声を上げるリオレオス。かなりお怒りらしい。

 彼が敵対しているモンスターは、とても奇妙かつ特異的なモンスターであった。

 

―ずばり、ピンク色のフルフル―――ではない。

 

 そのモンスターはフルフルやギギネブラのような、ブヨブヨしたピンク色の皮を持った、不気味な姿を持っている。

 目も無く、耳も無く、鼻も無い。ぬるりとした光沢に包まれた顔らしき箇所には、筒状の口が空いているだけ。

 身体はとても長く、脚は短い。その短さは尋常ではなく、腹で身体を支えているようなものだ。

 べたり、べたりと短い脚で砂浜を進むその姿は、海竜種らしい特徴が一応はあるようだ。

 

 そのモンスターの最大の特徴は、全身や口らしき穴から溢れ出ている、透明度が高く粘り気のある液体――粘液だろう。

 全身を覆いつくすその粘液の粘度は凄まじく、偶然くっ付いたランゴスタが粘液に絡まれたまま絶命している。

 

 身体に粘液を纏う海竜種――「粘鰻竜(ネンマンリュウ)ゼパルイール」。

 ピンク色の筒状のような生物という、特徴が少ないようで特徴がありすぎるモンスターだ。

 ちなみにこの姿を見て卑猥な物だと想像したあなたは、もう手遅れかもしれません。

 

 さて、話はそこまでにして、現状がどうなっているかを見てみよう。

 たまたま砂浜を歩いていたゼパルイールだったが、不運な事に、空腹でお怒りなリオレウスに目をつけられた。

 食事よりも縄張りから追い出そうと目論むリオレウスは、数度翼を羽ばたかせ低空を飛び、ゼパルイールを見下ろす。

 ゼパルイールとしては水中戦を得意としているが、決して陸上でも活動できないわけではない。

 これでも縄張り意識を持っているのか、低空移動しながらこちらを見下ろすリオレオスに敵意を持っているようだ。

 

 リオレオスが咆哮を上げようとしたが、それよりも先にゼパルイールの咆哮が響き渡る。

 その咆哮は凄まじく、音と同時に周囲の木々を振動させ、大音量に怯んだリオレウスが一時着地せざるを得ないほど。

 ちなみに叫び方としてはギギネブラに似ているが、咆哮音はフルフルに酷似している。

 

 着地したリオレウスだが、黙っているわけには行かない。息を軽く吸い込み、火球を繰り出そうとする。

 それを逃すゼパルイールではない。突如として喉元を膨らませ、その膨らみが首を伝っていき……頭へと登っていく。

 そして火球を放とうと口を開きかけた瞬間、ゼパルイールの筒状の口から大量の粘液が放出される。

 火球が口から放たれるも、それは大量の粘液を多少蒸発させるだけに終わり、残りは全てリオレウスの頭部に降りかかる。

 

 粘度の高い液体はもはや接着剤のようで、リオレウスは口を開けず、首を振って剥がそうと試みる。

 視界もろくに見えないリオレウスの前に、ゼパルイールは全身をくねらせ前進する。

 全身から滲ませている粘液は濃度が低く、砂の上でありながら、まるで潤滑油を垂らしたかのように滑らかに滑ることが出来る。

 

 粘液を滴らせるゼパルイールはそのままリオレウスに巻きつき、動きを封じようと試みる。

 全長はリオレオスを大きく凌駕する為にたちどころに全身を締め付けられ、身動きですらとれなくなる。

 オマケに身体に滴る粘液のおかげで足元が滑り、火竜はなすすべなく地面に平伏すしかなかった。

 

 やがて空の王者は、粘液による呼吸困難と締め付けによる圧迫により、呆気なく絶命。

 ゼパルイールにとってリオレウスは餌として大きすぎるらしく、粘液を残して海へと消えていくのだった。

 まさにゼパルイールは、海のフルフル、水中のギギネブラと言っても過言ではないだろう。

 

 

 余談だが、フルフルとギギネブラは飛竜種、ゼパルイールは海竜種なので、血の繋がりは全く無い事を記しておく。

 

 

―第3章:「音海獣(オンカイジュウ)の生態」-

 

 同じ群を成すモンスターといえども、その生態は種によって違ってくる。

 例えば同じ鳥竜種でも、ランポスとジャギィとでは、似通っているようで随分と違う。

ジャギィの場合は雄と雌とで役割が違う他、体格も違ってくる。ランポスはリーダーを除けば大きさは同じだ。

 ルドロスの群は完全なハーレムとなっており、ロアルドロスを筆頭に群れ全体で狩りを行う。

 

 いずれも、群のリーダーは別格の大きさと強さを誇る、という共通点を持ってはいる。

 しかしこの海域に生息している、あるモンスターの群は少しばかり違うようだ。

 

 今、サキモリザザミの撃退を諦め、海中の縄張りを周るルドロスとロアルドロスが泳いでいる。

 クネクネと蛇のように泳ぐ中、ロアルドロスはあるモンスターの群を目撃する。

 

 そのモンスターは、白と黒というシンプルな色調をしていた。ロアルドロスと同じ海竜種ではあるが、形状はむしろ魚類のそれに近い。

 身体を支えられるほどに大きな前鰭、頭部と胸部には背鰭のような突起物が生えている。

 身体には鱗も毛もなく、ツルリとしている。色は全体的に黒だが、下顎や腹部は白い。

 

 まるでシャチを大きくしたようなモンスターの群が悠々と泳いでいる。

 前述でも言ったが、これでも立派な海竜種だ。名はオルカマーダ。別名「音海獣(オンカイジュウ)」。

 このオルカマーダの別名の由来が難なのかは、後ほど紹介するとしよう。

 

 オルカマーダはロアルドロスと同じ、群を成して行動する海竜種だ。

 しかしロアルドロスのような個体差は無く、雄雌関係なく大きさが一致している。

 ロアルドロス並の巨体が5~6匹の群を成し、それぞれが同じ能力を備えているのだ。

 

 そんなオルカマーダの群は、獲物であるエピオスを追い詰めている最中であった。

 エピオスは我武者羅になって捕食者(オルカマーダ)から逃れようとするが、別のオルカマーダに遮られてしまう。

 それでも逃げようと方向転換するも、また別のオルカマーダが道を遮り、反対を向かわざるを得ない。

 円というよりは球を描くようにしてオルカマーダ達が泳ぎまわることで、確実にエピオスを逃がさない策のようだ。

 

 音海獣の群に囲まれ逃げ道を塞がれたエピオスだが、それでも泳ぎ方はメチャクチャだ。

 そんなエピオスを仕留めんと、泳ぎ回る仲間とは別のオルカマーダがエピオスに急接近。

 短くも鋭い歯が並ぶ口を大きく広げ、勢いをつけたままエピオスの喉元に喰らいつく。

 あれだけ暴れまわっていたエピオスの喉元を正確に狙えるとは流石なものだ。絶命するのも時間の問題だ。

 

 だがそこへ邪魔者が入ろうとしていた。ロアルドロスとその取り巻き達である。

 己の縄張りを侵した上に、そこで獲物を獲ろうとしているオルカマーダ達を許せなかったのだろう。

 許さんぞゴルァ!と言わんばかりに果敢に突撃。ルドロス達は遅れてその後を追う。

 

 しかしオルカマーダ達は、ロアルドロスが接近していることを知っているにも関わらず、狩りに専念していた。

 肉食性ではあるがオルカマーダは温厚な性格をしており、好奇心旺盛で何にでも興味を示す習性がある。

 ここがロアルドロスの縄張りであるということを知らない為、オルカマーダは何故こっちに来るのか不思議に思っているようだ。

 

 しかし、その温厚さも攻撃されなければの話。

 ロアルドロスがエピオスを加えていたオルカマーダに体当たりをし、ルドロス達が邪魔をしに来たのなら対応は変わる。

 体当たりを食らった衝撃でエピオスを離してしまい、弱ったままではあるがエピオスを逃してしまった。

 

 これには流石のオルカマーダも激怒。咆哮を上げて仲間に敵意を伝えるが、仲間達もルドロス相手に怒っているようだ。

 こうしてオルカマーダ対ロアルドロスの水中戦は幕を上げたのだった。

 

 数でこそロアルドロスたちが上回っている。何せ8匹もいるのだから。

 しかし能力はオルカマーダが上だ。数は5匹とはいえ、大きさはロアルドロス並にあるのだから。

 オマケにチームワークも良い。オルカマーダの群の総力をかけ、確実にルドロスを仕留めていく。

 

 ここで、オルカマーダが「音海獣(オンカイジュウ)」と呼ばれる由来を紹介するとしよう。

 オルカマーダ達のチームワークが良い理由も、ここからきているのだから。

 彼らはシャチに近い習性と性質を持っている。つまりは彼らもエコーロケーション……超音波を持っているのだ。

 だがただの超音波ではない。陸上では振動を伴う咆哮として、水中戦では衝撃波としても扱うことができる優れもの。

 もちろん調整が可能で、超音波による指示で互いを動かし、効率的な狩りと戦闘を行うことができるのだ。

 つまり、音を放つ海獣だから「音海獣(オンカイジュウ)」……納得いただけただろうか?

 

 さて、説明を終えた頃には、取り巻きのルドロス達の数は減っていた。

 ほとんどはオルカマーダの放つ衝撃波による脳震盪の気絶なので、時期に目が覚めると思われる。

 残るは孤軍奮闘のロアルドロスだけ。殆ど無傷なオルカマーダ達を見渡して若干焦っているようだ。

 しかしオルカマーダ達は容赦しない。ロアルドロスを取り囲み、超音波の一斉攻撃を仕掛ける!

 

 かくして、衝撃波による全身打撲を受けたロアルドロスは、負けを認めたのか逃げ去っていく。

 待ってくださいよ~、と言っているかのように目覚めたルドロス達が、彼の後を追う。

 オルカマーダはそれらを追わない。去る者は追わずが彼らのモットーなのだ。

 こうしてオルカマーダの群は、新たな獲物を探そうと行動に移す為に、悠々と海を泳ぐのだった。

 

 

 オルカマーダ達の群から逃れたロアルドロス達。生き残ったと聞けば幸運に思えるだろうが、それはとんだ間違いだった。

 オルカマーダに若干噛まれたらしく、ロアルドロス他数匹の体からは少量の血が流れている。

 

 

 この僅かな血が海へと流れ、その血が災厄を呼び止めてしまうのだから……。

 

 

―第4章:「猛魚竜(モウギョリュウ)の生態」―

 

 ゼパルイールにオルカマーダ、ロアルドロス、そしてこの海域を支配しているラギアクルスが生息している。

 いずれも海竜種という共通点があり、彼らは強さと群を成す能力により、繁栄を約束されていた。

 つまり、水中における最強の種とは海竜種を指すのか?――否、断じて否である。

 この世に最強の種族など居ない。古龍種ですら、他の種に敗れるという可能性が僅かとはいえあるのだから。

 最「強」は存在しないが―――最「凶」は存在している。少なくとも、この海域では。

 

 今、海中にて不思議な光景が広がっていた。

 陸上ではリオレオスとゼパルイールの縄張り争いが起こり、島中の小型モンスター達が逃げ惑っていた。

 それと似たような出来事が、海中でも起こっているのである。

 エピオス達が我武者羅に逃げ、オルカマーダ達が砂浜へと避難し、魚の群ですら岩陰に隠れようと必死に泳いでいる。

 先ほどオルカマーダ達にやられたロアルドロス達も、苦手なはずの陸地へと逃げるようにして上陸していく。

 滴るのは海水の他に血が混ざっている。その血は逃げてきた道を沿うようにして漂い、霧散していく。

 どうやら殆どの生物は、海中に残っている血の道から逃げ惑っているようだ。

 

 そんな中、海竜ラギアクルスまでもが勢いをつけて泳いでいる。

 彼の辺りは、殆どのモンスターや魚類が逃げ延びた後のようで、珊瑚や海草以外の生物は見えない。

 どうやら逃げ遅れたようだが、それでもラギアクルスの勢いは止まらず、とにかく前へ進んでいる。

 

 

 海の王者が逃げている原因は、彼の後方を泳ぐモンスターにあった。

 

 

 ほんの僅かにしか残っていない血の道を辿ってくる、一匹のモンスター。

 一見すると魚竜種であるヴォルガノスにも似ているが、一見であって、その姿に大きな違いがある。

 ラギアクルスのより荒々しい鱗は、硬質的な白によって海の色に染まっており、淡く光る青色をしていた。

 尾鰭は横にではなく縦に長い為にマンボウにも見えるが、泳ぐスピードはかなりのものだ。

 何よりも恐怖をそそるのはその口。鋸のような歯や牙がビッシリと並んでおり、その凶暴性を醸し出している。

 

 このモンスターの名は「ピラニアノス」。別名「猛魚竜(モウギョリュウ)」と呼ばれる魚竜種だ。

 

 今、血の臭いを辿っていたピラニアノスの視線に、背を向けて泳ぐラギアクルスを目撃。

 獲物だと判断したのか、血の道から外れ、先ほどとは比べ物にならないぐらいのスピードで泳ぎ出す。

 いかにラギアクルスといえどもピラニアノスの力強い泳ぎから逃れられないと察したのか、反転して威嚇の咆哮を轟かせる。

 ピラニアノスは咆哮を上げず、ラギアクルスの周囲をグルグルと円を描くようにして泳ぎ出す。

 周るにつれて速度を上げていくピラニアノスを前に、ラギアクルスは帯電を行い、電撃を放とうとする。

 しかしピラニアノスの最高速度に達したのはその直後で、尖った鱗を微調整することで急カーブを描き、突進する。

 口から放たれる電撃を微妙に横へずらすことで回避し、そのままラギアクルスを横切るように身を当てる。

 その鱗は非常に硬い為、すれ違いザマといえどもラギアクルスの甲殻に傷をつけるほどで、すれ違いの水流が身を揺らす。

 

 ピラニアノスは方向転換しようとするが、それよりも先にラギアクルスが旋回し、尾鰭に噛みついてくる。

 荒々しく尾鰭を振ったり身をよじったりするものの、ラギアクルスの顎も相当なもので、中々離そうとしない。

 これに参ったピラニアノスは、大きく口を開き、あるものを吐き出す。

 

 それは脚が無いピラニアノスを小型化したようなもので、ギィギほどの大きさを持つ。

 「ピラニー」と呼ばれるピラニアノスの幼生だ。孵化した稚魚を口に入れる習性があり、このように口から吐き出すこともできる。

 小柄でありながら獰猛らしく、自分より遥かに大きい、下手をすれば捕食者になりかねないラギアクルスに猛然と挑みにかかる。

 柔らかな腹部や喉元に噛み付いてきたピラニー達に参ったのか、ラギアクルスは思わず口を離してしまう。

 

 それを待っていたかのように、ピラニアノスは一気にラギアクルスの喉元に喰らいついた。

 いや、喉元に喰らいついたに飽き足らず、噛み付いたままラギアクルスを振り回し、喉を食いちぎったではないか。

 もがき苦しむラギアクルスだが、連中はそれだけに留まらず、次々に攻撃を仕掛けてくる。

 ピラニー達が傷から侵入して血肉を喰らい、動きが鈍っているラギアクルスに次々と噛み付いてくる。

 

 

 十数分も経たず、ラギアクルスは食べ残しという名の、無残な姿に成り果ててしまった。

 残すは骨と甲殻と僅かな血肉のみとなったが、それですらピラニアノス達は喰らいつき、噛み砕いていく。

 獰猛かつ食欲旺盛な彼らは、仕留めた獲物を骨まで喰らいつくす凶悪な魚竜種だったのだ。

 

 

 これで、海の生物達が逃げ惑っていた理由がお分かりになっただろうか?

 彼らは血が漂うことで恐れていたのだ。獰猛な魚竜種ピラニアノスの餌食になることを。

 海の王者ですら挑む獰猛さと、骨まで残さず食べる悪食。これを恐れずして何とするか?

 

 

 後に、ピラニアノスは人々からこう呼ばれるようになる―――「海のハイエナ」「海中のイビルジョー」と。

 

 

―最終章:「海域とは」―

 

 ここで伝えておくが、この海域はあくまで広大な海の一部分でしかないことを伝えておく。

 海はとてつもなく広い。こんな島々が浮かんでいること事体が一種の奇跡なぐらいに。

 

―海を渡る蟹もいれば、粘液を滴らせる海竜もいる。

 

―ロアルドロスとは違った群を構成する海竜種もいれば、海竜種よりも恐ろしい魚竜種もいる。

 

―もしかしたらこの海のどこかに、巨大な口を持つ海竜種がいれば、海中に特化した飛竜種もいるかもしれない。

 

―古代の言い伝えでは、島一つを海に還す大津波を起こす巨大な古龍種もいたというが、その真意は定かではない。

 

 海は広い。船で大陸間を渡ることが人間にとって精一杯の努力でしかないように。そして、海は深くもある。

 

 

―海域の海底火山に眠る一匹の古龍と、それを世話する魚竜種がいることも知らせないほどに。

 

 

―深い深い海の底にも、生物は存在している。

 

 

―広大かつ深い海は、果てしない浪漫と脅威、そして陸上とは違った自然が広がっているのだから。

 

 

―完―

 




●名称:サキモリ・ザザミ
●別名:渡泳蟹 (とえいがに)
●種族:甲殻種
●特徴:巨大なイソギンチャクを背負った渡り蟹。基本的には盾蟹によく似ている。水中を泳ぐために足が幅広で、平たく見える。

●名称:ゼパルイール
●別名:粘鰻竜(ねんまんりゅう)
●種族:海竜種
●特徴:海にすむフルフルやギギネブラみたいな感じ。全身ほのかに淡いピンクのブヨブヨの皮に覆われている

●名称:オルカマーダ
●別名:音海獣(おんかいじゅう)
●種族:海竜種
●特徴:シャチの様なモンスター。見た目はMHFGにて登場したポカラドンに近いが、大きさはそれに少し劣る。

●名称:ピラニアノス
●別名:猛魚竜(もうぎょりゅう)
●種族:魚竜種
●特徴:ヴォルガノスのような体躯をもつ。ヴォルガノスより大きな頭、短い胴、幅の広い縦長な尾鰭をもつ。


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Extra?:「遠い未来の一部」

最初に言っておく!別に最終回って訳じゃないんです!

というわけで今回のテーマは「モンスターハンターの未来という名の妄想」です。
本編「ヤオザミ成長記」の一種のパラレル未来でもあります。
作者が目指す蟹の進化の最終地点です。そしてその道筋を記すのが成長記です。
……まぁその道筋自体曖昧なもので、モンハンが増える度に追加してしまうのですが(汗)

急ぎすぎたとは思いますし楽しみが減るかもしれませんが、作者は満足してます。
今回もハンターが中心になりますが、ご容赦ください。

2014/11/20:誤字修正


 人間にとって、100年という月日は長い。

 人の寿命がどれほどか明確に解っていないにしろ、100年もあれば子が生まれ、子から孫が生まれる事もあるだろう。

 変わるのは人だけではない。次第によっては人が関わる生活の場も大きく変わる。建物、道具、習慣など、様々な進化が人類の歴史に刻まれていく。

 

 ではモンスターはどうだと言われたら、それこそ多種多様な進化が予想される。

 寿命が長いもの、短いもの、生き延びたもの、食われたもの、滅んだもの……弱肉強食の世界は短時間でも大きく変化していく。

 中には一匹のモンスターが生態を大いに狂わし、多くの生命を危機に追い詰めた事実もあるのだから、自然界の変化の広さを物語らせる。

 仮にモンスターが100年生き延びる事ができたのなら、それは驚異の存在へと変貌する。

 

 

 その存在は―――人々から『伝説』として称えられるのだから。

 

 

 

―――

 

 

 

「ついにこの日がやって来たわ!」

 

 一人の小さな女性(ロリにあらず)が身を乗り出し、地面に両足を乗せて目の前の気色を眺めていた。

 金色のストレートの長髪を持つ女性は、広いデコを光らせながら広大な山脈を見下ろし、頂きから出る太陽の光を受けて輝く高山を見上げている。

 自分の背丈よりも大きな鉄の筒を背負っているものの、山を見上げる彼女の顔には疲労の「ひ」の字も見当たらない。

 

「お、お嬢様、気持ちは解りますが、急いてはなりません」

 

 やけに言葉が途切れている声が後ろから響く。

 女性が後ろを振り向けば、そこには少女より背丈が高い、グレーの髪をした青年が肩で息をしていた。

 「お嬢様」と呼ばれた女性は女子としては小さい方に分類されるが、この青年は中々の高身長らしい。

 しかし女性は疲れのあまり深呼吸している青年を不満げに見上げ、とすとすと人差し指で青年の胸板を突く。

 

「こんな事でへばるなんて情けないわよニコル。後ろのお二人を見習いなさいな」

 

 冷静そうに見えて実は困っている青年・ニコルを睨みながら、「お嬢様」はニコルの後ろを指差す。

 指先には二人の男と4匹のアプトノスがおり、二人はモンスターの世話をしているようだ。

 どちらも初老の男性ではあるが、白い地毛以外は老いを感じさせない、逞しい身体を持っていた。それでいて目つきも若々しくて力強い。

 そんな彼らも少女同様に疲労を見せておらず、荷物持ち兼移動手段であるアプトノスを手馴れた様子で世話をしている。

 

「いえ、彼ら二人は顔に出さないだけで」

 

「ならあなたも顔に出さなければいいじゃないの」

 

 「お嬢さま」の無茶言いには馴れてはいるが、ニコルは苦笑いするしかなかった。

 彼ら二人はプロだからこそ、無闇に疲れを助長するようなことをしないだけだ。経験が為す習慣という奴である。

 その点、40代の彼ら二人と同じ境遇を持つとはいえ、30代になったばかりの自分達は経験が浅い。

 元気が売りのお嬢様とは違い、彼女に無理やり連れてこられた自分は肉体的にも精神的にもキツいものがあるのだ。

 

 精神的な疲れを吐き出す為に溜息を零した後、ニコルは顔を上げて「お嬢様」の顔を見る。

 遠く彼方を見つめている蒼い瞳はキラキラと輝いており、純粋な熱意を物語っていた。

 

「この先にいるのね―――『奴』は」

 

 そう「お嬢様」が紡ぐと、ニコルは彼女の隣に立ち、共に景色を眺めながら頷いた。

 

「昔から居着いているという特殊なチャチャブーの集落も確認できましたし、間違いありません」

 

 ニコルは思い出す。これまでの道中、「チャチャブー」と呼ばれる危険な獣人族との戦闘を。

 奇面族としては異常と言える程の大規模な群れを成す、甲殻種の殻で出来た硬い仮面を被ったチャチャブー。

 それを指揮するのは、選ばれたチャチャブーのみが被るという、祖先より伝わる鳥兜のような高硬度の仮面をつけたキングチャチャブー。

 この特徴的なチャチャブーの群れは、彼女ら四人がいる「この地域」にしか存在しない―――いわば証拠のようなものだ。

 

 彼女達はとある王家の専属ハンター……それもかなりの信頼を得ている精鋭部隊として名高い地位を得ている。

 100年ほど前から存在しているという伝統的な職業―――「狩人(ハンター)」。その人気は今でも変わってはいない。

 モンスターは世界中に蔓延っており、100年成長した技術力をもってしても、様々な形で人間に影響を与えている。

 それらを狩猟するのがハンターであり、多くの国家が生まれ文明が栄えた現代において、ハンターは必要な存在として認められている。

 

 そんな昔から存在しているハンターも大きく進化してきた。

 100年の間に多くのモンスターが発見されてきた事を除いたとしても、武器と防具の技術力は郡を抜いている。

 しかし昔のように様々な武器を作れる工房は少なくなり、防具専門、武器専門、中にはガンランス開発に金と技術と浪漫を注いでいる大企業などもある。

 その他にも、同じ素材でも国家や企業のイメージによっては見た目が大きく変わる、安物から高級品までと幅が広い、獣人族専門店までもある。

 

 そんな数多の工房の中で生み出された技術の一つが……「お嬢様」が背負っている鉄の筒「バズーカ」である。

 この100年間の中で作られた新たな武器の一つであり、大きさと重さもある為に近接武器としても使える変わった物だ。

 これは弾にロケット爆弾を使うもので、遠くの敵に大ダメージを与えられるというものだ。爆発範囲も広く、一発の威力は竜撃砲に匹敵する。

 しかし、装填数が2~3発と少ない、連射できない、重くて移動に不便、弾薬費も掛かると欠点も多い。

 何よりも重大な欠点として、爆発範囲の広さ故にフレンドリーファイアの確率が非常に高い。故に使いづらさは武器で一番だ。

 

 それでも「お嬢様」は、若くして見習いハンターとなった頃からこの武器を愛用してきた。

 かつてハンターをしていたという彼女の祖母が使いこなし、バズーカを愛していたのが起因だ。

 祖母の本来の職業柄、短期間でしかハンターになれなかったが、それでもこの武器を乱射し多くのモンスターを撃退した記録を持つ。

 そしてその孫たる彼女は祖父によく似ていると言われていることもあり、祖母のようになりたいと言い出し実現した豪の者だ。

 

 全ては、祖母が叶えられなかった―――否、「倒せなかった」アイツを倒す為に。

 

 休憩を終えて歩き出す彼女達四人のハンターが向かっている先には強大なモンスターが居る。

 過去100年もの間に生き延びている長生きモンスターで、今では世界中に仰々しい伝説が記されているほどだ。

 しかも多くのハンターが挑んだが、誰一人としてそのモンスターの息の根を止めた者は居ない。

 

 そもそもそのモンスターを狩る理由が出来たのは、この山脈の先に行く為である。

 その先には巨大な山に続くがあり、霧のおかげで微かにしか見えない頂上には雲を貫く謎の塔が聳えている。

 飛行技術が発達してやっと目撃された山頂の塔は、大昔に記された伝承によれば天空へ続く道だという。

 

 現代では、技術の発展に伴い、様々な移動手段が開発された。

 頑丈で巨大な飛行船、帆が無くても進める外輪船、紅蓮石を燃料にした蒸気機関車など等。

 これらによって大陸の殆ど―凶悪な古龍種の縄張りや超大型モンスターの縄張りを除く―を網羅することに成功した。

 そんな人々が新たに目指している場所は二つある。その内の一つは海底。潜水技術が発達すればいずれ行けるだろう。

 

 

 そしてもう一つが……気球や飛行船を持ってしてもなお辿り着けない領域【天空】へ誘うとされる「空の柱」だ。

 

 

 その塔に辿り着く為の道を切り開いた者は、人類の進化に携わる偉業を成し遂げた者として歴史に記される事になる。

 数多くの考古学者やハンター達が目指そうとした。しかし発見から50年もの間、誰一人として辿り着くことはなかった。

 50年前に山頂へと続く道を塞いだ存在……それが100年生きているというモンスターにして、お嬢様の言う「奴」である。

 

 そして進むこと数刻……彼女らはそこに辿り着いた。

 

 そこには、天に向けて一対の牙を伸ばすジエン・モーランの頭蓋骨が山頂へ続く道を防ぐようにして立っていた。

 まるで門番のように聳えるその頭蓋骨は、今現代でも生存している既存の峯山龍と比べ物にならない程に大きい。

 天空へと飛ばんとする峯山龍……そう思わせる程に神秘的かつ壮大な光景が、彼女らの目の前にあった。

 

 彼女らは武器を持って身構える。それと同時に地面が……否、山脈そのものが揺れ動く。

 地震の中心かのように峯山龍の頭蓋骨が大きく揺れ……やがてゆっくりと動き出す。

 

 

 

(曾お祖母様……ニコルは今、感動しております)

 

 揺れる大地の上で、カラクリが仕組まれたハンマーを両手に握りながらニコルは思う。

 ハンターとなり「お嬢様」に付き従い、彼女が持つ幸運の加護を得た事により、ようやくめぐり合えた伝説。

 「お嬢様」がこの瞬間を待っていたように、ニコルもこの瞬間を待ちわびていた。故に感動している。

 

 ニコルの家系は、国家の資産の一端を支える大貴族でありながら、先祖代々よりハンターを稼業としている。

 そんな歴代の中でも出世頭として成長し、今のニコルの家系を大貴族として栄えさせたのが、彼の曾祖母と曾祖父である。

 曾祖母と曾祖父を敬愛していたニコルは、幼馴染のように仲良くなった「お嬢様」同様、二人の冒険談を楽しみにしていた。

 

 そんな冒険談の中でも、曾祖母と曾祖父が未練だと思っているのが……「世界最硬」のモンスターを討伐できなかったこと。

 このモンスターは「お嬢様」の祖母からも聞いている。ニコルの曾祖母と「お嬢様」の祖母とは友人で、二人もその縁で知り合った。

 そしてニコルと「お嬢様」は、様々な困難を乗り越え、ハンターとなった。

 

 

 

―全ては、子孫を残しつつも100年間生き延びているという、伝説級のモンスターに出会う為に、

 

 

 

 かつて、死す直前まで挑み続けた、ユクモ国を中心に伝説となったハンター夫婦が居た。

 

 かつて、一国の姫でありながらハンターを務め、『狩人姫』の二つ名を得た我侭な王女が居た。

 

 かつて、世界最硬と名高い防具を、長年の苦労と努力を重ね編み出した元ハンターの鍛冶師が居た。

 

 全ては100年ほど前、このモンスターと出会った事で始まった……偉業のキッカケとなった原因にして原点。

 

 

 

―――天守蟹(テンシュカニ)テンノウザザミ。

 

 

 

 天へと続く「空の柱」を守るようにして阻み続けた、大巌龍の頭部並の巨体を持つ、世界最大の甲殻種。

 峯山龍の頭蓋骨を背負い、月日を物語る赤銅色の甲殻を纏い、重さを無視する筋力を持って鋏を打ち鳴らす怪物。

 50年以上前より誰からも討ち取られること無くこの場に聳え立つ、文字通り「天」を「守」る「蟹」。

 このモンスターを討ち取った時、人々は新天地への足がかりを掴めるとされ、後の世に英雄として崇められる。

 

 しかし、二人の若者には関係なかった。全ては天を守る蟹に挑む為にある。

 未だ誰も討ち取れなかった者達には二種類ある。大怪我を負って帰還できた者と、死して帰還できなかった者だ。

 それでも二人は挑む。挑まずにはいられない。幼い頃からの夢でもあり、ハンターとしての矜持だ。

 巨大な鋏を打ち鳴らして鈍い金属音を響かせるテンノウザザミを前に、四人は走り出す。

 

 

 

―ハンターよ、永遠なれ!

 

 

 

―完―




ニコル「まぁ、負けたんですけどね。おかげで入院中です」

お嬢様「くやし~!いつかまたリベンジいたしますわ!」

初老ズ「「あれ?俺らの名前は?」」

というわけで、作者の書きたい書きたいと念じてきた妄想を具現化したパラレル未来です。

まとめると

1:新武器「バズーカ」。破壊力と爆発力はあっても誤爆と鈍重さで使用度ワースト1位確定な武器。

2:「企業」。某装甲核の如く鍛冶屋によって取り扱う武器や防具が違ってくる。ガンランスは浪漫!

3:「テンノウザザミ」。大名、将軍、大君、武者、辻斬ときたら皇としか浮かばなくなりまして……。

4:「ヤドはジエン」。ダレンがいいかなーと思ったんですが、やはりジエンにしました。ラヴィは流石にデカすぎかなーと。

5:「それぞれの未来」。モンスターハンターとはモンスターと人間がなす物語です。この作品はモンスター主体にしたいのですが(苦笑)

そんな当作品における未来IFでした。拝読ありがとうございました。


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Extra6-1:「地下世界の支配者」

今回のテーマは「ボスクラスモンスター」です。アカムトルムやアルバトリオンのような存在です。
まずは作者オリジナルモンスターからスタートします。姿はまんまティガレックスですが(笑)


 

 かつてオニムシャザザミが支配していた豊穣の島・楽土。

 そのオニムシャザザミが旧大陸に渡ってくれたおかげか、楽土の調査が捗っていて大助かりだった。

 代わりとして大型モンスターが次々と楽土に上陸してくるが、そこは依頼を請け負ったハンター達に任せれば問題は無かった。

 とはいえ、ラギアクルスやガノトトスが襲ってくるかもしれない状況下の中、研究・調査は慎重に行われている。

 

 つい先日になって、遺跡調査隊のグループがあるものを発見した。

 それは大昔の地層や近隣の海底遺跡に眠っていた、古くなってボロボロとなった大剣や片手剣などであった。

 数多くの武器が太古の状態で発見され、鎧だったものや鎧を着た人骨までもが出てくるほど。

 研究者の考察によると、かつてこの島には人が闘技をもって競いあっていたのではないかと云われている。

 出て来た武器は対人戦用に作られた物だと推測でき、海底には闘技場らしき遺跡も眠っている。

 

 太古の昔より、モンスターだけではなく人間ですら、群雄割拠の時代を練り歩いていたのかもしれない。

 誰もが覇者であり勝利者を目指すものなのだろうと、この楽土の文明を調査するごとに解かってくる。

 そして負けたものは、この無様に砕け散った骨達が物語ってくれる。勝敗とは光と影そのものともいえよう。

 

 

―――

 

 

 ところ変わって、ここは楽土の地下深くに広がる地下洞窟。

 かつて強大な地上の支配者から逃げてきたモンスター達が生息している未知のフィールドだ。

 そんな未知なるフィールドに、さらなる世界が広がることとなった。

 

 今、一匹のモゲラドス(地下洞窟に生息する牙獣種)が地中から姿を現した。

 現したのはいいのだが、自分の居場所を把握する為か、スンスンと鼻を鳴らして周囲を見渡す。

 モゲラドスは光の届かないこの地下洞窟では嗅覚と音を頼りとしており、状況を把握しようとするのだが……首を傾げる。

 

 何せモゲラドスが姿を現したその空間は、洞窟にしてはとても広い場所であった。

 それもそのはず。ここは自然にできた洞窟ではなく、人の手が加わった人工物であったからだ。

 円柱形に削られたその空間はすり鉢上となっており、明らかに人の手が加えられた階段状の段差が並べられている。

 モゲラドスが地中より現れたのはその舞台の中央。丁度地上にある闘技場と似たような雰囲気を醸し出している。

 

 古代の人達は地下に闘技場を作り、そこで武を競い合っていたのかもしれない。

 そしてその舞台の広さからして、争っていたのは人間同士だけではなかったのだろう。

 中央に佇んでいるモゲラドスですら小さく見える闘技場。その舞台に相応しいのは、もっと大きなモンスターだった。

 

 

 

―ゴガアアアァァァァァ!!

 

 

 

 今、闘技場が震えた。

 闘技場ばかりではない。天井も、モゲラドスも、そして足元の大地もビリビリと振動している。

 とてつもない咆哮が周囲に轟く中、モゲラドスは盛んに動くようになり、警戒しているかのように周囲を見渡す。

 

 

 そして、その声の主は天井から姿を現し、闘技場の舞台に向かって着地した。

 

 

 大きな音を立てて着陸したその姿は、暗闇の中で淡く白く輝いていた。

 うっすらと輝く体表は甲殻のような硬いもので覆われては居ないが、硬い皮膚で身を包んでいた。

 骨格はティガレックスのようなワイバーンレックスの骨格を持つが、特徴的なのはその前脚であった。

 掘ることに特化したかのようなその太く強靭な足には、鑢のような甲殻と、鋭く太い爪が三本並んでいる。

 この強靭な前脚で掘り進んだのであろう、体は土汚れでまみれていたが、本人はどこ吹く風とばかりに周囲を見渡す。

 

 

 白く輝く身体を持つこのモンスターの名は「ディブライトス」。別名は「削竜(サクリュウ)」。

 その巨体はアカムトルムには劣るものの、明らかにティガレックスの体躯を越え、モゲラドスですら小さく見せるほどであった。

 

 

 どうやらこのディブライトスがこの地下洞窟における強者らしい。モゲラドスはその存在に気づくとすぐさま地中へと潜ろうとする。

 ディブライトスはそれを逃すまいと、口からあるものを吐き出す。それは蛍光色に輝く唾液であった。

 潜ろうとするモゲラドスの体の一部にそれが付着し、モゲラドスはそれに気づかぬまま潜行。ディブライトスから逃げ出す。

 ディブライトスはモゲラドスにつけた自分の唾液を優れた嗅覚で割り出し、後を追うようにして地中へ潜行する。

 その潜行速度はモゲラドスの比ではなく、強靭な前脚を駆使して素早く地中へ潜行していくのだった。

 

 ディブライトスは執拗に獲物を追いかける。

 モゲラドスがどこへ掘り進もうとも、ディブライトスに見つかるのは時間の問題だろう。

 現に、長く潜り続けていたモゲラドスが闘技場の階段に姿を現した途端、ディブライトスが目の前に出没。

 威嚇の為にディブライトスが吼えると、穴倉獣は再び其の場から逃げ出そうとする。

 

 だがいつまでも逃がすようなディブライトスではない。

 潜ろうと壁に爪を振り向けたモゲラドスに向かってディブライトスが跳躍、その強靭な前脚を振り下ろす。

 その強烈な一撃にモゲラドスは一撃で倒れる他無く、地面に身体をめり込ませて絶命。

 

 遭遇してしまった時から勝負はついていたらしい。

 ディブライトスは勝利の咆哮をあげることもなく、倒れ付しているモゲラドスを喰らおうとする。

 その顎の力は凄まじく、棘まみれの甲殻だろうとも平然と噛み砕き、中の肉を貪り食う。

 

 

 暗闇の地下世界における、ディブライトスの為の領域――地下闘技場。

 人間が築いたこの地底の空間を、ディブライトスは己の縄張りとして主張し続ける。

 かつて己が掘り進んだことによって、新たな生態系を築くほどに広がった地下洞窟を跡にして。

 

 

―今もなお、地下世界に己の咆哮を轟かせ、獲物を探し続ける太古の敗者が前進する。

 

 

 

―完―




●名称:ディブライトス
●別名:削竜(サクリュウ)
●異名:削りし竜
●種族:飛竜種
●生息地:地下闘技場
●特徴:
大きさは金冠サイズのティガレックスほど・目は無い・ワイバーンレックス骨格・強靭な前脚・長い爪・鑢のような甲殻(前脚のみ)・太く長い尻尾・後ろ脚は並。
体内で発光バクテリアを飼育しており、これを表面に纏うことで身体が薄く発光する。
バクテリアを【発光ブレス】として吐き出し獲物に付着することで、匂いと光を元にマーキングする。
また轟竜の血筋を思わせる大咆哮を持って地底内をソナーのように探索し、獲物を探り当てることができる。
視覚が無い代わりに、嗅覚・聴覚・触覚に優れており、これら全てが阻害されると「大暴走モード」に突入し見境なく暴れまわる。

モンハンデルシオンの沢山の応募、ありがとうございます!全て採用できるかは不安ですが、妄想が引き立てられました(笑)
誰が当っても当らなくても恨みっこ無しでお願いします(汗)ではでは。


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Extra6-2:「強豪達」

今回のテーマは「ボス的存在のモンスター達」です。読者様が投稿したオリジナルモンスターが登場します。
個性豊かな「ボスモンスター」をお楽しみください。作者の「削竜」とは比べ物にならないぐらい個性的です(笑)

4/3:誤字修正 エルピリウス→エルピウス。誤字報告ありがとうございました!


―序章「強者達partA」

 

 この世には、強大な力を持つ者が少なからず存在している。

 それが人であれ動物であれ、普通とは違う存在感を醸し出し、他者を圧倒する事を許されている。

 モンスターが蔓延る世界で言うなら、まず挙げられるとすれば古龍種だろう。

 彼らは人間には理解しづらい、未知なる力と圧倒的な覇気を秘めた強大なモンスターとして名高い。

 とはいえ、時代が進むごとに彼らは狩猟不可と言い切れない相手となり、続々とギルドから撃退もしくは討伐の依頼が発注される。

 強大には違いないが決して倒せない相手ではない。人間も日々力を増し、強大な敵と渡り合える実力を得ているのだ。

 

 だがしかし。この世には居るのだ。越えることが困難とされる「壁」という奴が。

 それは筋力や殻の硬さだけではない。規格外な大きさ、地異を起こす力、恐れ崇められる伝承……数多くの要因がそれを成すのだ。

 覇竜アカムトルム然り、崩竜ウカムルバス然り、嵐龍アマツカグツチ然り、鬼鉄蟹オニムシャザザミ然り。

 中には存在そのものが伝説となっているはずのモンスターもいるが……これが何なのかは、登り詰めた者のみが知る、とだけ記そう。

 

 

 これらの共通点として挙げられるのは―――地を支配しているということ。

 

 

 強大な敵とは各地を行き渡る者ではなく、どっしりと身構え挑戦者を待つ者だ、と誰かが言っていたように。

 実力ある者は自らが動かずとも名が世間へと広まっていき、誰かから誰かへと伝えられていくのだ。

 

 

 「その者はそこで待っている」―――と。

 

 

―第1章「凶なる竜」

 

 かつて、都と呼ばれていた場所があった。

 

 「かつて」や「あった」と言う様に、昔と違い今は都とは呼べない場所となっている。

 見る影も無いが、無残に散らばった残骸のおかげで、見る者に「かつて都市があったんだな」と思わせる事が出来るだろう。

 特に酷いのは、中央広場と呼ばれていた広い空間。

 多くの残骸が無差別に並んでいる他とは違いとても広く感じるが、それは建物が全て倒壊し、細かく砕かれ散らばっているからだ。

 見るも無残なこの古の地を、仮称として「廃都」と呼ぶことにしよう。

 

 ここで話を変えるが……この廃都は自然に崩壊したものではないことが見て伺われる。

 自然崩壊という言葉だけでは片付けられないほどに無秩序な倒壊っぷり。これは見て解る通り「破壊活動の後」である。

 では誰が破壊したのか?……人間の仕業でないことは明らか故に、モンスターであることに間違いは無い。

 

 

 そして、人間には成すことが出来ない程の破壊を齎した原因は、奥からゆっくりと歩いてきた。

 

 

 地鳴りを起こすほどの足音の主は、大きさでは老山龍には劣るとはいえ、相当の総重量を物語る巨躯を誇っていた。

 黒に近い茶色の甲殻を持つそのモンスターは獣竜種の骨格を持つが、巨体を支える為に発達した為か短く太い足を持つ。

 しかし前脚も負けてはおらず、鋭い鉤爪を生やした前脚は巨体に見合う大きさにまで発達していた。

 

 しかし何よりも印象的なのは、先端と末端、頭部と尻尾だ。

 尾は船の錨のような形状をしており、ドボルベルグのように異常な大きさと形状に進化したものと考えられる。

 頭部もまた特徴的であり、上顎の前部には巨大な牙が七本生えている。容易に獲物をかみ殺せるだろう。

 

 この獣竜種は未だハンターズギルドから発見されていない大型モンスターの内の一体だ。

 しかし近い将来、確実に見つかるだろう。荒れた廃墟という遺跡を求める者は、必ず現れるはずだから。

 そしてその時が来れば、いずれこの獣竜種の存在に気づき、伝えられるだろう。圧倒的な力の全貌を。

 その時に付けられる名は……ティランギガス。通称「凶竜(キョウリュウ)」である。

 

 そんなティランギガスだが、何が不満なのか、吐く息を荒げている。

 彼の目の前には、彫刻らしきものが未だ真っ直ぐに建っていた。苔まみれかつヒビだらけなので、原型を留めていないが。

 もはや苔の生えただけの岩に等しいが、それでも気に入らない要素があるらしく、ティランギガスは石柱に向けて威嚇する。

 

 まずは足を踏みしめ、巨体を生かした体当たり。巨体を支えるだけの筋力が込められた重撃は、石柱を真ん中から崩していく。

 続いて尾の筋力だけで錨状の末端を振り上げ、そのまま薙ぎ払う。大きめの残骸がその薙ぎ払いに耐え切れず、細かな石屑となっていく。

 深呼吸してからの、体内に備えた烈火袋から成す火炎ブレス。己の胴体ほどもある巨大な火柱は周囲を焼き払い、石屑を炭に変える。

 最後には、より膨大な空気を吸い込んでからの咆哮。アカムトルムに匹敵する大音量の衝撃波は、消し炭を霧散させるには充分だった。

 

 言っておくが、石柱はティランギガスよりも大きな物だった。それを消し炭ですら残さず破壊した。

 そこにあるだけで……破壊されていないというだけで気に入らないかのように、徹底的に。

 しかしティランギガスはそこまでしてやっと満足したらしく、フシュー、と鼻息を漏らす。

 

 ふと、ティランギガスは後ろを振り向いた。しきりに鼻を鳴らし、周囲を見渡している。

 ティランギガスは非常に嗅覚が鋭いとされている為、獲物の存在を嗅ぎつけたのだろう。

 するとティランギガスは前脚に生えている鉤爪を互いに打ち合せ、敵意を表しているかのように喉を鳴らす。

 

 ティランギガスの獲物にして敵は、縄張りに侵入してきた全てだ。

 ただあるだけの石柱を完膚なきに粉砕した残酷さは狩りにも影響しており、生かすものかと意気込んでいる。

 鋭い嗅覚を頼りにティランギガスは歩き出す。獲物を狩るために。獲物を完膚なきまでに叩き潰す為に。

 

 

 こうして、凶悪な竜の二つ名に相応しい獣竜種は、廃墟の都にやってきた愚か者に目掛けて走り出す。

 

 

―第2章「破壊者」

 

 今、不動であるはずの大地と空気が大きく揺さぶられ、轟音が周囲に響き渡る。

 地震では説明のつかないほどの大振動。その衝撃は地面に長大な亀裂を多数あけるほど。

 それを感じ取る者はごく僅か。その地域には生物が殆ど存在していない為、当然だろう。

 

 何せ暗雲立ち込めるこの地域は、凹凸の激しい地面はあれ、それ以外の地形が何も無いのだから。

 木も無い。水も無い。地平線の彼方になら火山がある。あるのは暗雲広がる空と、灰色の大地だけ。

 ここらの大地は火山地帯だからか鉱石が多く含まれており、灰色なのは鉄鉱石を主とした鉱石が混ざっているからだ。

 

 そんな大地は今、穴だらけになっている。それもただの穴ではなく、クレーターと言う名の巨大な穴だ。

 凄まじい衝撃の跡を物語らせるそのクレーターは、膨大な質量が超高速でぶつけない限り成しえないと考えさせる程に大きい。

 すり鉢状に陥没したクレーターの周囲は、その衝撃に耐え切れず断層が盛り上がったり、亀裂が走ったりとメチャクチャだった。

 そんなクレーターが大小あわせて複数も、しかも広大に広がっているというのだから恐ろしい。

 

 この惨状を見れば、空から隕石郡が降ってきたのではないかと考えるだろうが……違う。

 全てのクレーターには、最下部から地上へと上がる際の足跡がある。それはつまり、このクレーターは生物が引き起こしたということに繋がる。

 

 

 では誰がそんなことをしたのかといえば―――蟹である。

 

 

 今、一つのクレーターの中心に、巨大な甲殻種モンスターが鎮座していた。

 長い四つの脚は金属質に近い甲殻を纏う体をしっかりと支えており、同じく長い腕のような鋏はひび割れた岩を挟み、口に運んでいる。

 そのモンスターの外見的特徴から見ればシェンガオレンにしか見えないが、しかし違いはある。

 殻に当たる部分が半球状になっているのだ。金属の塊かのような殻は、シェンガオレンの弱点を覆っており、ヤドカリというよりはタカアシガニに見える。

 

 シェンガオレンに酷似している、しかしそれ以上に硬そうなイメージを与えるこの甲殻種モンスター。

 未だ詳しい生態が解明されていないこのモンスターの将来の名は、「隕石蟹(インセキガニ)」テェンシェンレン。

 通称「天降人」とも呼ばれるようになるのだが・・・どうしてそのような名が通るようになったのかは、これから明らかになる。

 

 今、テェンシェンレンがゆっくりと立ち上がった。

 鉱石食故に甲殻に宿った鉄分の量は凄まじく多く、そして重いはず。それでも四つの脚は難なくその巨体を持ち上げる。

 長い触角を揺らしながら、ゆっくりとクレーターから這い出るテェンシェンレン。地上に立つと、周囲を見渡す。

 そして目星が付いたのか、そこへ向かって歩いていき、やがて立ち止まる。平らな地面が広がっているだけの場所だ。

 

 すると徐に四つの脚と両の鋏をくの字に曲げ、力を溜めているかのように巨体を地へ下ろす。

 ゆっくりと、ゆっくりと巨体を下ろし、六つの脚が力を溜め込み―――――跳ぶ。

 

 六つの脚が力を溜め込んだバネのように伸びると同時に、その巨体を空高くにまで跳ばしたのだ。

 あれだけの質量と巨体が、まるで大砲の弾のように勢いよく、そして高く跳んで行く。

 とはいえ重力には敵わず、やがて空へ向かう勢いは殺されていき、下へと落ちていく。

 もちろんだがその落下速度は跳ぶ勢いとは段違いで、しかも重力の問題上、最も重い殻が下となって落ちていく。

 

 

―ドガアアァァァァァァン!!

 

 

 やがて鋼鉄の巨体は、地面に着弾。冒頭にあったような轟音と強震が大地を襲う。

 高高度からの落下によって大地に巨大なクレーターを生み出したにも関わらず、テェンシェンレンは平然と起き上がる。

 脚を使って器用に逆さ状態から起き上がると、先ほどの衝撃で砕かれた鉱石を鋏で銜え、口に含む。

 

 この光景を見てお分かりいただけただろうか?隕石蟹と天降人という名の由来と、この数多のクレーターが出来た理由が。

 その長い脚には強靭な筋肉が詰められており、コレにより高く跳躍、隕石にように落下して地面を砕いて鉱石を食べるのだ。

 その絶大な破壊力は、彼から外敵という名のモンスターを遠ざけ、広大な大地に点々と穴を空ける日々を暮らすようになった程。

 故にシェンガオレンのように縄張り意識は薄いが、間違いなく危険度はシェンガオレンより上だろう。

 

 今は人の居ない地域に生息しているのだから良い。だがもし、人の前に現れようものなら・・・想像するだけでも恐ろしい事になる。

 天災に匹敵する古龍種とはまた別の脅威とも言えよう。何せ見れば解かるほどの破壊を齎すのだから。

 しかしいずれはやってくるだろう。人の前に。ハンターズギルドの前に。そしてハンター達の前に。

 

 

 そんな事は知らぬと言わんばかりに、破壊者テェンシェンレンは、今日も餌の為に大地を破壊するのだった。

 

 

―第3章「抉りし竜」

 

 巨大な湖があった。

 極寒の地のどこかにあるというその湖は、冬だからか、常に分厚い氷で覆い尽くされていた。

 一見だけでは、雪で覆われただけの白い大地と勘違いしてしまうだろう。それほどまでに白く、広い。

 その湖は果てが見えず、冷気による霧が地平線を包み込み、かろうじて山と森の影が見えるだけだ。

 

 白と灰色の世界。それがここ「凍結大湖」と呼ばれる凍土の秘境。

 

 そんな分厚い氷で閉ざされた湖面の下には、実は大量の魚が泳いでいる。

 冬の間は氷という名の防壁に守られ続ける為、この湖は豊富な数の魚が生息しているのだ。

 

 だからといって氷の下に眠る魚を狙う獲物が現れないかといえば、そうでもない。

 冬の湖に張り付く氷は非常に分厚く硬い。大型モンスターでもそう簡単には空けられないほどに。

 しかし空けられないことはないのだ。分厚いとはいえ所詮は氷。岩に匹敵するとしても上というものがある。

 

 そんな湖の魚を狙う捕食者の一匹が……アグナコトルの亜種だ。

 海竜種でありながら地上―それも凍土―で活動している彼は、硬い嘴で岩盤を砕き、長い身体を捻り地中を掘る。

 それは分厚い氷が相手だとしても同じ事で、難なくとは言えないが氷を掘り進み、水中へと移動できるのだ。

 

 今、湖面の氷が砕かれ、アグナコトル亜種が姿を現した。

 上半分を突き出した彼の嘴の間には、イキの良い魚がビチビチと跳ねており、それを喉へと滑らせる。

 幼生期は腐肉を食べ成体期はモンスターの肉を食べるが、食料に困ると湖の魚を狙ってやってくるのだ。

 今の魚でアグナコトル亜種は満腹になったのか、急いで残り半分を氷から抜け出し、氷でない地上へと向けて走り出す。

 

 何故アグナコトル亜種が急いで湖から脱出しようとしているのか。それも氷に潜らずに。

 それはこの湖が、今は出かけている「あるモンスター」の縄張りだと理解しているからである。

 

 

 冷たく白い霧を歩く中、アグナコトル亜種はある影を目撃した。

 気温が特に低いとされる冬だからか冷気の霧は深く、その影が徐々に近づいてくるということしかアグナコトル亜種は理解できなかった。

 しかしそれだけで充分、と言わんばかりにアグナコトル亜種は嘴を足元の氷に突き刺し、そのまま体を捻らせて地中に潜ろうとする。

 

 アグナコトル亜種が完全に湖の中へと掘り進んだ後、その影の正体が露になった。

 その影の正体は、霧と氷に溶け込む程に白いモンスターだった。骨格的に見ればアグナコトル亜種と同じ海竜種に見える。

 ランスを思わせる円錐状の頭角を持つ頭部、アグナコトルよりもスマートだが太く長い身体、横に広く発達した二股の尾。

 その中でも特徴的なのは二つ。前脚を納める事ができる凹みと、右回りに生やしているスパイク。それらが体についているのだ。

 一見するとメゼポルタで確認されているという海竜種クアルセプスに似ているが、これも海竜種共有の特徴ということだろうか。

 

 

この海竜種の名は「ドーレ・ゲイラス」。別名「掘撃竜(クツゲキリュウ)」。この湖の主だ。

 

 

 湖の主というだけあって、水中へと潜っていった侵入者に対して怒っているようだ。

 なら何故、縄張りのこの地を留守にしていたのか。それはいくら氷で閉ざされていると言っても、冬になれば魚の数が減少する事もある。

 体温維持の為に大量の食料を確保しなければならないドーレ・ゲイラスにとってそれは死活問題な為、出稼ぎとして湖から離れることもある。

 そんな時を狙って数少ない魚を狙うモンスターもいるのだから、ドーレ・ゲイラスは侵入者の迎撃にも忙しい。

 

 そんなことでアグナコトル亜種を追いかけようと、その騎士槍のように尖った頭角を地面に突き刺す。

 錐で砕かれたかのように氷にヒビが入り、体を捻り込ませることで、スパイク状の鱗がガリガリと氷を削り、侵入する。

 動作としてはアグナコトルと同じだが、より氷中仕様に特化したのか、潜る速度は段違いだった。

 

 氷中のアチコチでガリゴリという音が響き渡る。氷の中で二匹が追いかけっこでもしているのだろう。

 やがて二匹が氷の中から出てくるが……状況は一変した。

 浅い箇所を潜行していたのだろう。アグナコトル亜種が吹き飛ぶようにして現れ、その横腹にドーレ・ゲイラスの頭角が突き刺さっていた。

 横からの体当たり……いや突撃。それに吹き飛ばされ宙に舞うアグナコトル亜種の横腹を、これでもかと回転して抉ろうとしている。

 

 そして……アグナコトル亜種の腹に穴が空いた。

 鋭利な頭角により突き刺し、スパイク状の体が螺旋を描くことで得た推進力で突き進み、スパイク状の甲殻が肉を抉る。

 分厚い氷ですら貫けるとはいえ、アグナコトル亜種の氷の鎧を貫き、甲殻を貫き、肉を抉る。

 アグナコトル亜種はそのまま氷上に落ち、急所を抉られたことで絶命。ドーレ・ゲイラスは綺麗に着地。

 

 これでドーレ・ゲイラスの特徴がはっきりとわかるだろう。彼はまさにドリルそのものである、と。

 陸上での活動を不得意とする代わりに、地中での活動や拘束回転による突撃を得意とする風変わりなモンスターだ。

 それでもドーレ・ゲイラスはこの凍結大湖の主として君臨した。分厚い氷を砕くほどの白く鋭い身体を得たことによって。

 

 

 氷の上で咆哮を轟かせる白い姿は、かの伝説―――崩す竜に酷似していた。

 

 

―第4章「鳥の帝」

 

「鳥神様、鳥神様、どうかお納めください」

 

 そう言って少女は両手を合わせ、頭を深く下げる。

 彼女の前には、村人全員で収穫した果物や野菜、茸類に新鮮な魚肉がドッサリ乗った籠があり、祭壇がある。

 それなりに育った少女の背丈よりも高い階段のような祭壇の上には、奇妙な石像が聳え立っていた。

 それは王冠を載せ両の翼を広げた鳥の石像だ。少女はそれを見る度に、心が温かくなるのを自覚している。

 

 樹海の奥地にひっそりと暮らしている隠れ里のような村。そこで彼女は暮らしている。

 小さいながらも樹海の奥地という危険地帯に生き延びられているのは、村人の努力と、この鳥神様と崇める石像と、祭壇の奥底に聳える巨大なコロニーにあった。

 樹海の最高層に位置している巨大な物体。それがコロニーと呼ばれている―――巣だ。

 

 彼らの村はあの巨大な巣を崇めている。正確には、その巣の主であるが。

 ハンターズギルドが設立されていなかった程の大昔に一度だけ村の初代長老が目撃したという「主」。

 その主こそが、彼らが大切に奉っているという「鳥神様」と呼ばれているモンスターであった。

 

 伝承とは古来より人々が伝えるもの。強大な力を持つモンスターを神と崇めるのは不思議ではない。

 今の村長が10代目と聞けば、初代村長の頃より伝えられし「鳥神様」がいかに古くから存在しているかが解かるだろう。

 

 では、「鳥神様」と呼ばれているモンスターは一体どんなものなのだろうか?

 そのモンスターは、未だハンターズギルドが発見できていないという、いわば幻の存在とも言われているからだ。

 幻同然のモンスターが今もなお神として崇められている理由―――それは確かに「鳥神様」が村びとに目撃されているからである。

 

 

 今もなおこの樹海の最高層に潜んでいるという「鳥神様」。その正体に迫りたいと思う。

 

 

 一匹のエスピナスが「鳥神様」の巣とされるコロニーに侵入していた。

 古龍級生物と称される彼はふてぶてしくもこの巣で寝ようと考えているらしく、身を丸め始めた。

 彼もこのコロニーが他のモンスターの巣であることは知っている。しかし彼は「鳥神様」を理解していなかった。

 強者故の余裕と彼本来の性質。それ故に堂々と巣の真ん中で眠るという大それた事を仕出かしたのだ。

 

 しかし、それを許す「鳥神様」ではなかった。

 

 このコロニーには沢山の止まり木があり、中でも一番大きいとされているのは中央の高台だろう。エスピナスはその高台の前で眠っている。

 その高台も止まり木であり―――その頂上に一匹のモンスターが枝に止まっていた。

 

 それは巨大な鷲にも似た、鳥竜種に近い外見を持つモンスターだった。

 赤と橙で構成された体毛により鮮やかな見た目を持ち、その中でもトサカと尾羽に映える飾り羽は立派なものであった。

 翼を閉じているとはいえ、大きさはリオレウスに匹敵し、翼を広げればそれ以上はあるだろうと推測される。

 

 そのモンスターは今もなお眠っているエスピナスに向けて咆哮し、翼を広げる。

 鮮やかな色合いをした羽で構成された翼だが見た目以上に大きく見え、見栄えも良い。王者の風格とも言うべきだろうか。

 

 このモンスターこそが、樹海の村から崇め奉られている「鳥神様」。

 将来に人々が彼を見つけ、付けられる名はエルピウス。通称「帝王鳥(テイオウチョウ)」。

 その二つ名こそ、彼が「鳥神様」と崇められている原因でもあった。

 

 エルピウスが忠告という名の咆哮を轟かせているにも関わらず、エスピナスは眠っているまま。

 まぁこれは仕方の無いこと。エルピウス自身もわかりきっていたようだが、怒っているには違い無い。

 エルピウスは大人しい分類に入るが、己の縄張りを侵されたとなれば話は別。全力をかけて追い出す。

 

 ここで先の話をするが、このエルピウス、将来は鳥竜種でなく古龍種として分類される。

 古龍種として扱われる要因はいくつかあるが、その中でも最たる理由が「天災にも匹敵するほどの力を有している」ということだろう。

 ならばこれまで紹介してきた「凶竜」「隕石蟹」「掘撃」にも当てはまるだろう。

 特に隕石蟹テェンシェンレンは、食事をしようとするだけで大地を穴だらけにする驚異的なモンスターだ。

 「よくわからない生物」という理由も古龍種に分類される理由ではあるが、何故エルピウスはそれに該当するのか。

 

 それはエルピウスの持つ特性と生態にある。これからご覧にいれよう。

 

 今、エルピウスが天を仰ぎ、喉を鳴らして声を上げる。

 甲高い鳴き声にエスピナスはゆっくりと瞼を明け、若干怒りつつも面倒くさそうに起き上がる。

 するとエスピナスが周囲を見渡し出した。何かを探しているような、それでいて警戒しているのか、全身の棘を見せ付けるように屈み出す。

 続けざまに周囲から聞こえてくる鳴き声。エスピナスの警戒は正しかったようだ。

 

 そしたら出るわ出るわ、ドスランポスの群れ、ヒプノック、この辺りには居ないはずのイャンクック、クルペッコ、ゲリョス、そして普通の鳥がウジャウジャと。

 数多の鳥と数種類の鳥竜種が高台の周辺にある止まり木に止まり、じっとエスピナスを睨みつけている。ランポス達は地面の上で威嚇。

 ものの数分と掛からずに、鳥達によるエスピナスの包囲網が完成したのだった。

 睨みつける鳥達。その頂点たるエルピウスが高台に佇む姿は、まるでいつでも出軍指令を放てる将軍のよう。

 大人しいとされるエスピナスでも、これを前にすれば本気を出さずにはいられない。強いとはいえ、この数を凌げるかといえばそうでないから。

 

 やがてエルピウスが翼を広げ、吼える。それを合図にまずはヒプノックが睡眠液をエスピナスに向けて放つ。

 多角から攻められる事に対する対処が難しいのは当然のことで、エスピナスは呆気なく後ろから睡眠液を被り、睡魔に襲われる。

 今だといわんばかりにまずはランポス達が走り出し、遅れてイャンクックとヒプノック・ゲリョス達が走り出す。

 そして最後にエルピウスが羽ばたきながらゆっくりと降下していく、寝ている事を良いことに包囲網を縮めるつもりだ。

 やがてエルピウスがエスピナスを踏みつける。鋭い棘を平然と踏みつけ、棘を折っていく。

 その衝撃に目覚めるエスピナスだが、既に鳥竜種達は嘴や爪で棘の合間を突き付け始めた。

 もがき暴れるエスピナス。それを上行く鳥竜種達の数による暴行。これではまるで戦いというよりはリンチ、またはイジメである。

 

 ボカスカという効果音が出るほどに蹴られ続けた結果、エスピナスはたまらん、とばかり背を向けて走り出す。

 コロニーから脱出するかのように逃げ出したエスピナスの後姿を見て、勝利の咆哮を挙げる鳥達。エルピウスも満足そうに翼を畳む。

 

 本来なら古龍種ですら打ち勝てるはずのエスピナス。それを、数で勝っていたとはいえ、鳥竜種が制した。

 このコロニーは帝王鳥の巣であると同時に他の鳥竜種達の巣でもあり、ランポス達ですら他の鳥に危害を加えようとしない特殊な生態を持つ。

 そしてエルピウスは鳥竜種を纏めることができる。クルペッコのような鳴き真似も必要とせずに、だ。

 いわばこの鳥竜種達はエルピウスの支配下も当然。だからこその「帝王鳥」の異名を得る権利があるのだ。

 

 これはエルピウスのほんの一部を知ったに過ぎない。

 彼が古龍種と呼ばれる由来は、数多の鳥を従えること。その生態は謎が多く、どこまで従えられるかは解かっていない。

 少なくとも、数の暴力という、ある種の圧倒的な力をこのエルピウスは発揮することができるということは解かる。

 幸いなのはこの帝王鳥はコロニーに侵入した物しか攻撃しないことだが、飛竜種ですら倒せるという実力もある。

 

 

 村から「鳥神様」と崇められる鳥竜種の帝王エルピウス。

 鳥の帝は今日もコロニーを守護し、鳥達の支配者として君臨し続けている。

 

 

―終章「強者達partB」

 

 忘れてはならないが、この世界は広い。この自然には数多のモンスターが生息しており、人間が把握している数は少ない。

 ハンターズギルドは様々なモンスターを知り、解明してきた。小型モンスターから、伝説級とも呼べるモンスターまで。

 しかしいかにハンターズギルドが広くその手を伸ばしてきても、伸ばした手の先に広がる世界はまだまだ広い。

 古くから伝えられた伝説だって、人々は全てを理解しきれてはいない。そこに眠る正体も知らずに。

 

 それでも強者達は待ち続けている。気づく存在がいるかいないかなど知らぬとばかりに。

 彼らはただそこにいるだけだ。そこにいるだけで生きている。生きているだけでモンスターは輝いている。

 時に脅威となり恐れられるだろう。時に偉大と崇められ伝説となるだろう。時に狩人達に挑まれるだろう。

 強き者はそこにいる。確かにそこにいるのだ。その理由は自信か、本質か、生態か……いや、人間が知るには及ばないだろう。

 

 いずれハンターズギルドが彼らを嗅ぎつけ、ハンター達が送り込まれていく。

 自分達の知らない世界を知る為に。自分達の生活を守る為に。自分達の脅威を自然に伝える為に。

 

 

 

―待っていろ、強き者達よ。

 

 

 

―我々はいずれそこに立ち、挑みに行く。

 

 

 

―完―




●名前:ティランギガス
●別名:凶竜
●種族:獣竜種
●特徴:
全体的な姿勢のイメージはウラガンキンとほぼ同じ。アカムトルムに匹敵する巨体を誇り、2足歩行だが脚は体を支えられるようにかなり太く、短め。
前脚は体に見合った大きさで指は2本で巨大な鍵爪が生えている。尾の先端は船の錨状になっている。
頭部はアカムトルムよりも長めになっており、目の上に突起物があり、上顎の前部から巨大な牙が7本ほど生えている。この配置は先端に一本、左右に均等に3本と言う配置になっている。
背中には背骨の一部が発達し生まれた棘が一列に生えている。体色は茶色で背中にかけて黒色になっている。
●生息地例:廃都
何らかのモンスター(古竜種か黒竜の類と思われる)の襲撃により滅びた都市。


●名称:テェンシェンレン(天降人)
●別名:隕石蟹
●種族:甲殻種
●特徴:
脚が長く異常に発達した蟹(脚は細いが甲殻はそこそこ堅く、その下は筋繊維でぎっしりしているためかなり強靭。
基本はザトウムシのような姿で歩く。殻となるものは半球状で金属のような光沢を帯びている。鋏はシェンガオレンと似た感じ。
●生息地例:陥没大地
クレーターがいくつも点在する荒野。クレーター内には時折鉱石が露出している。その中の一番巨大なクレーターで決戦。


●名称:ドーレ・ゲイラス
●別名:掘撃竜
●種族:海竜種
●特徴:
全身は白色。体の形は特異で、頭部は巨大な騎士槍の如き形と化し、体部も筒状になっている。体は割と長く、体長に対する太さはウカムルバスと比較すると細め。
また、ウカムルバスの腹に生えているような、ブレード状のスパイクが全身に、それも右巻きに生えている。
体の側面には、前足がぴったり嵌る凹があり、そこに前足を納める事ができる。
後足は横に広く発達しており、余り強力な印象を受けない前足とは対照的に大きい。
尾は二股になっており、これも横に広く発達している。大きさはアカムよりも二回り〜三回りほど小さい。
●生息地例:凍結大湖
冬の間は永久凍土と変わらない程の極寒となり、巨大な湖に分厚い氷が張っている。


●名称:エルピウス
●別名:帝王鳥
●種族:古龍種
●特徴:
翼を広げた全長はリオレウス・リオレイアといった大型種の金冠サイズに匹敵する、鷲に近い体躯の大鳥。
赤と橙で構成された体毛に鮮やかな飾り羽がトサカと尻尾についている。
その体格と悠然とした態度に帝王と呼ぶに相応しい風格を持つ。怒ると飾り羽が広がり、風系攻撃の範囲が広がる。
●生息地例:コロニー
樹海の最高層に位置する帝王鳥が治めるコロニーの巣。配下の大型の鳥竜種や小型の鳥によって造り固められた巨大な巣で、かなりの広さを持つ。


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part19:「白翼蛇の生態」

今回のテーマは「ペット扱いの白いガブラス」です。プーギーというよりホルク的な扱いかな?
ちなみに今回の話はペット扱いとは程遠いですが。
それと、今回のテーマはにじファン時代のリクエストです。にじファン世代のは次回で打ち止めにしなるかと。


 ガブラスと呼ばれるモンスターがいる。

 飛竜種の仲間と考えられていたが、後にバルバレギルドが発見し新たな種族名となった「蛇竜種」に分類された小型モンスターだ。

 彼らは蛇のような身体に大きな翼を持ち、高い環境適応力と独特的なコミュニケーションを持って各地で群れを展開している。

 

 彼らは狡猾な知能も併せ持っており、大型モンスターの食べ残しである死肉や腐肉を狙うこともある。

 故に強大なモンスターの動向を観察し、その行き先にガブラスの群れが集結する習性があるのだ。

 現に記録では古龍種が襲来する前触れとして無数のガブラスの群れが目撃されており、この事から「災厄の使者」とも呼ばれることとなった。

 

 

 そんなガブラスを古くから飼い馴らしている民族がいるという。

 これは、その民族がどのようなものなのかを調べる為に旅立たった、ある研究者の手記である。

 

 

―――

 

 

●月×日・晴れ

 

 私はこの日、ある民族を訪れる為に寒冷地帯に赴くことになった。

 草原が広がっているが地平線には白銀の山々が見えており、顔に当たる風がとても冷たい。

 日差しは眩しいぐらいなのだが、やはり北風が厳しく、マフモフ装備でなければ凍死しそうだ。

 

 私がこの地域の付近にある村の人と一緒に赴くようになったのは、ある民族に会う為だ。

 私は近年になって確認された「蛇竜種」に関する研究をしており、主にガブラスを対象にしている。

 そんなガブラスを飼い馴らす民族が居ると友人のハンターから聞き入れ、是非とも見てみたいと思い、調査隊を組んで図書館を出た。

 

 そして伝手があるという村を訪れ、その民族を捜しているのだが……本当にこんな広大な草原に住んでいるのだろうか?

 聞けば遊牧民族で、狩りと移動を繰り返しながら生活していると聞いたが……む?

 

 ふと地面を見ると一瞬だけ影が通ったのを見たので、上を見上げてみる。

 そこには太陽の光に照らされた影が幾つも飛んでおり、ゆっくりと翼を広げて空を駆けている。

 

 その影の正体は……白いガブラスだった。

 

 白いガブラスの群れを走って追えば、その先にはガウシカに乗った人が数組あった。

 口元に添えられた笛らしき物でシャーシャーという音を鳴らし、白いガブラス達を誘導している。

 ガブラス達を持っていた止まり木らしき棒に留まらせた後、私達に近づいてきた。ここからは遠いはずだが、良い視力を持っている様子。

 

 彼らがガブラスを飼い馴らしている民族なのだろう。村から聞いた「白地に翼蛇竜の模様が描かれた民族衣装」を羽織っていた。

 凍て付く風が吹く草原に適応したのか、白い息を吐く彼らの衣装は暖かさそうで、身体の作りは女ですら丈夫そうだ。

 ガタイの良い彼らだが、遠くから来た我々が珍しいのか、直に打ち解け歓迎の言葉を頂いた。ありがたい。

 

 しかし恥ずかしい事に腹の音とクシャミを同時に放ってしまい、私は寒空の下で赤くなった。

 それでも村人は笑うことなく、歓迎するといって村へと案内してもらった。優しい人達だなぁと感慨深く思う。

 

 その日の夜、寒さを吹き飛ばす程の暖かなガウシカ肉の鍋と強い火酒を頂き、全身がポカポカになった。

 宴会の流れになったからか仲間も直に酔っ払ってしまったので、白いガブラスの調査は明日にするとしよう。

 

 

―――

 

 

△月□日・晴れ

 

 テントの入り口から漏れる光と風が私達を目覚めさせ、朝を告げる。

 昨夜は結構な量の酒を飲んだはずだが、多少の頭痛程度で済んでいる。私だけでなく、他の隊員もそうだった。

 朝早くから織物を縫う世話係から聞いた話では、寒い夜が酒で火照った身体を覚まし適温を保つことで安眠できるのだとか。

 流石は長きに渡り寒い地域に暮らしてきただけのことはある。

 

 さて、今日からは白いガブラスの生態と、彼らと共に暮らす民族について記していくとしよう。

 私は最初「飼い馴らす」と書いてあったのだが、観察の許可を頂く際、彼らの長はそれを訂正して欲しいと頼まれた。

 彼らにとって白いガブラス―ここからは普通にガブラスと呼ぼう―は長年を共にしてきた【仲間】なのだという。

 先ほどガブラスを入念に世話していた子供達といい、よほどガブラスに思いいれがあるようだ。

何はともあれ、まずは彼らとガブラスの成り立ちについて記そう。この話だけで朝から昼まで時間を潰してしまった。

 

 彼らの祖先は、かつて古龍種の襲撃を受け、故郷であった山を追い出された。

 本来なら自然の猛威そのものである古龍種を前にすれば滅びる可能性が高いが、彼らは生き延びることが出来た。

 その理由はガブラスにある。ガブラスは古来より災厄を告げる存在として恐れられているが、事前に災いを伝えてくれると考えることもできる。

 祖先はガブラスの特性を生かし、様々な事を調べることができた。

 群れがやってきた方角は古龍種襲来の方角を教え、群れの規模は地域に与える被害の規模を現す。

 半信半疑とはいえ、命あってこそ。全ての村人は予想される災害から逃れるべく、村から旅立った。

 そしてこの選択に間違いは無かった。驚異的な嵐が村を含めた山々を襲い、遠い彼方から見ても解るほどの被害が生じたのだ。

 

 そして逃げ出した村人の下に、数匹のガブラスが訪れていた。

 どうやらあの災害から逃れ、旅の途中で亡くなったアプトノスの子供の死骸の匂いを辿ってやって来たのだろう。

 この時、村長は提案した。彼らのおかげで我々は助かったのだ、我らは彼らと共に暮らせるのではないか?と。

 

 こうして村は新たな道……ガブラスを猟犬のように飼い馴らす遊牧民族の道を歩んだのだという。

 時には雪が降るこの寒冷地帯をガウシカに乗りながら移動を繰り返す内に、黒かったガブラスが白く染まったのだとか。

 そこで彼らは白くなったガブラス達を「白翼蛇(はくよくじゃ)」と名づけ、今もなおその血筋を絶やさずにいる。

 

 さて、彼らと白翼蛇の成り立ちは記した。次は狩りについて記そう。

 昼食を食べた後、私達は彼らの狩りを見る為にご一緒させてもらうことになった。

 ガウシカに乗った狩人達、そして狩人達の笛の音に従って飛び交うガブラス。これらが6組となって狩りを行う。

 

 彼らの主な獲物は、草原に生息するアプトノス。その中でも群から一番離れているアプトノスだけを狙うらしい。

 まずはなるべく大きな音を立てぬようガウシカに乗った狩人達が動き、三組が三角形を描くように群を囲む。

 残る三組は群から一番離れているアプトノスを狙いつつ、6匹のガブラス達を遠くの空へ置いておく。

 ちなみに我々は狩りの邪魔にならぬよう、さらに遠い所から観察している。ここからなら望遠鏡も要らないだろう。

 

 まずは三組が走りだし、ガブラスのような音が鳴る笛でアプトノス達を脅し、群をパニックにさせる。

 一方、群から一番離れていたアプトノスは別の三組に取り囲まれ、群から引き離すようにして走らせる。

 

 この時、群を追い回す三組が笛を鳴らしたことでガブラス達が誘導され、狩人達の下へと飛来する。

 飛来する際、大勢の群が逃げる様子と一匹だけ別方向へ行くアプトノスを見極め、ガブラス達は一匹だけの方へと向かっていく。

 そしてガブラス達は三組のガウシカ乗りと動きを合わせ、四方八方から毒液をお見舞いする。

 こうして執拗に追いかけ続けるだけでなく、ガウシカ乗りが前へ出ることでアプトノスを反転させ、集落の方へと走らせることも。

 

 やがてアプトノスはガブラスの毒と長距離の疾走により弱まり、地に伏せる。これにて狩りは終了だそうだ。

 この大きさならガブラス6匹が喰らいついても、集落の人々全員に配ることもできるだろう。

 ちなみにアプトノスの血肉に染み込んだ毒はどうするのかというと、毒抜きする技術があるので問題ないのだとか。

 

 こうして我々は、集落の人々と共に夕飯に与り、アプトノス肉の煮込み料理をありたがく頂くのだった。

 ガブラス達の世話は子供達が担当しており、夕食前に餌をやり終えているから大丈夫だとか。

 今宵も身体を温めるべく、暖かな料理と強い火酒を頂く。これが大変美味しく、フォークと酒が進むのだ。

 はぁ、明日もまた二日酔いに悩まされるのだろうか……止めないけど。

 

 

―――

 

 

◎月■日・曇り

 

 今日は大変だった。二日酔いを治して帰宅しようとした夕方頃になってリオレイアに襲われたのだ。

 それでも集落から見ればたまにあることなので、緊急事態とはいえ対応が手馴れている。

 子供達と老人は軽い素材で出来ているテントをたたみ、力のある女は赤子や動けない老人を抱えて避難し、男達は重いものをガウシカに積む。

 そして集落全員の狩人とガウシカ、そしてガブラス達がリオレイアを引きつけ、嫌がらせをするのだ。

 この嫌がらせというのがミソで、付かず離れずの距離を保ちつつ笛とガブラスの喉から放つ不快音でリオレイアを苦しめる。

 リオレイアが攻撃しようものなら離れ、散開し、それでもシューシューという不快音がリオレイアの鼓膜を刺激する。

 こうすることで集落と私達からリオレイアを遠ざけ、嫌がらせを続けることで追い払うのだ。

 

 やがてリオレイアは集落から遠ざかっていき、安全が確認される。

 そうすると人々は再びテントを建て直し、何事もなかったかのように集落が再建される。

 ガブラスを連れて狩人達が戻り、無事でよかったと互いに喜び合い、夕食の支度をする。逞しいものだと私は思った。

 

 本当は彼らと白翼蛇の暮しをもっと見ていたいのだが、彼らは四日毎にテントを畳み、草原を掛けるのだという。

 つまり明日になると民族の大移動が始まるのだ。私がついていくわけにもいかないので、さっさと自分の居場所に帰る事に。

 

 翌朝、人々から暖かく見送られ、我ら調査隊は帰還する。

 ガブラスの亡骸で作ったという、彼らが愛飲する強い火酒を土産にして。

 結局、白いガブラスについては通常種よりも賢く、人に慣れているということでしか解らなかった。

 なので、またの機会があれば、彼らの暮らしを再び見守りつつ、白いガブラスの生態について記そうと思う。

 

 

 

 モンスターは人間と敵対するだけではない。上手くすれば共存だってできる。

 それはアプトノスを原初に、様々な形で目撃することになるだろう。

 

 

 

 ……あれ?蛇竜種と関係ないことを書いているような?

 

 

 

―完―




ハーメルンのリクエスト消化はもう少し先になります。申し訳ありません。

ところで、モンスターハンターの醍醐味は大自然の弱肉強食ですが、人間が混ざってもいいかなとも思ってます。
……モンスターハンターデルシオンに踏み台転生者要素を入れようか悩んでたり(コラ)すみません無視しちゃってください。


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part20:「破る竜と砲なる竜」

今回のテーマは「アカムとウカムの生息地が逆だったら」です。
これもにじファン期のです、すみません(汗)唐突に頭の中で妄想が渦巻いたので……。
次回こそは、次回こそはハーメルン期のリクエストを消化します!

4/28:後書きにて防具スキル追加


 古龍級生物、という物をご存知だろうか?

 モンスターが跋扈するこの世界には、それらの中で頂点に君臨する古龍種と呼ばれるモンスターが存在している。

 そんな古龍種に匹敵する力を持ちながら、古龍種に属せずハッキリと種族が判明しているモンスターを指すのが、古龍級生物だ。

 

 その代表格ともいえる存在が、覇たる竜アカムトルムと崩す竜ウカムルバスの二頭。

 これらは双璧を成す神々として、黒き神アカムトルム、白き神ウカムルバスという異名古くから人々に伝えられている。

 もちろん、神の異名を持つ二頭もモンスターであることには違いなく、彼らを討ち取ったハンターも多数いるが……絶滅したという報告は噂ですらない。

 むしろ討ち取ったハンターの人数の数十倍もの人数が戦死や行方不明になっており、恐怖のあまり断念・脱走した数は数百倍にも上る。

 

 この二頭は古龍級生物として、大自然の権化とも思わせるほどの災害級パワーを秘めている。

 黒き神は咆哮一つで大地を揺るがし溶岩を逆流させ、白き神はあらゆる物を粉砕し叩き潰す。

 その力強さ故に、環境が彼らを変えたのか、彼らが環境を変えたのか、という二つの一説が学者達を騒がす程だ。

 

―――最も、この二頭ですら霞む存在などそこらじゅうにいるのだが……それは置いておこう。

 

 これから記すのは、その双璧の神々の新たな姿だ。

 環境説に乗っ取って進化した存在……亜種または希少種、もしくは変異種と呼ばれる別の姿。

 

 ここから記すのは、今までの常識を打ち破る力だ。

 同じ存在故に似通った点は多数あるが、それ以上に多いのは原種には無い性質や習慣、そして力。

 

 黒き神と白き神の別の姿……アカムトルムとウカムルバスの亜種を、これから記そう。

 

 

―――

 

 

 アカムトルムといえば灼熱の地・溶岩を思い浮かべる。

 

 しかし舞台は北の最果て……北の極地と云われている【氷山】。

 絶対零度のブリザードが吹き荒れる極寒の伊吹は海域を海深くにまで凍らせ、文字通り「氷山の一角」としてその地が作られた。

 天空は濃厚な灰色の雪雲に覆われ、見渡す限りの白い大地は全て氷で出来ており、到底生き物が住めそうにない。

 氷の塊を貫けば深い海中に住む水棲生物が居るだろうが、何百年もの月日によって凝縮された氷の大地は鉄に匹敵する硬さを誇る。

 

 そんな極寒の地に生息するアカムトルムは……白かった。

 

 まるで凍て付いたかのような、しかし白い雪と氷の世界に溶け込む事のない、僅かな光ですら反射する硬質的な白。

 鋼の如き硬度を物語る金属質な甲殻は鋭く尖り、まるで全身から氷柱を伸ばしているかのような鋭い印象を与える。

 四肢は強硬な氷の大地を踏み締めるどころか易々と表層を踏み抜き、新雪かのようにハッキリと爪跡を残す。

 鋭い眼光はブリザードを物ともせずに前を見つめ続け、巨大な尻尾は歩く度に大地を叩き付け、大地にひび割れを作る。

 

 攻撃という文字を具現化したかのような鋭い外見と、歩くだけで発揮する身に余った破壊力。

 寒冷地帯に適応するだけでなく、氷の山を容易く粉砕する為、原種の姿を保ったまま進化した結果だ。

 

―そんな白いアカムトルムの前に、挑戦者が現れた。

 

 凍海獣(トウカイジュウ)ポカラドン。『G級の世界』の一つ【極海】にも生息する大型の海竜種。

 極寒の海域に生息する、身体を覆う体毛と鋭く尖った牙が特徴的な厳つい面をしたモンスターだ。

 単体でも充分な戦闘力を持ちながら、彼よりも小柄なポカラと呼ばれる雌達を率いて活動しており、群で狩りを行う。

 

 ポカラドンを筆頭とした総勢21匹の凍海獣達は、自身よりも巨大な白いアカムトルムを前に威嚇の声を上げていた。

 狩りの為に遠征しに来た彼らは若干の空腹もあって腹立っている。ポカラドンはともかくポカラですら猛然と睨みつけている。

 悠々と餌に在りつき、この地域を己の縄張りとすべく、この白いアカムトルムを追い払う結論に至ったようだ。

 

―そんな挑戦者を前に、アカムトルムは排除に掛かる。

 

 四肢……特に両前脚に力を込め、脚そのものがアンカーであるかのように氷の大地に鋭い爪が突き刺さる。

 がっちりと身体を固定したアカムトルムは通常種よりも長い牙を生やす口を大きく開き、息を吸う。

 

 ポカラドン達は動き出した。筆頭が身を屈めて氷上を滑り、その後ろにポカラ達が続く。

 重い身体だが摩擦力の少ない氷上を滑ることで高速移動を可能とし、その身体だけで武器となる。

 さらに大柄のポカラドンが先頭に出ることでポカラ達の盾となり、後続の攻撃としても生き残りとしても選択できる。

 

 巨大な敵に挑むなど無謀かもしれない。しかし彼らもまた『Gの世界』の猛者なのだ。

 

 それでもアカムトルムは息を吸う―――吸う。吸う。吸う。吸う。吸う。吸う。吸う。吸う。吸う。

 

 

 

 少し息を止めてから――――全てを破る咆哮が轟く。

 

 

 

 轟音が直線状に放たれ、余波で地に積もった新雪が派手に散り、衝撃波に揺られ氷の大地を抉る。

 ポカラドンもその後ろを滑走するポカラ達も、まるで重さなど無かったかのように容易く吹き飛ばし、遠い彼方へと押しやる。

 吸った分だけ吐き出される空気は音速を持って衝撃波を生み出し、その振動で音の道を作るかのように地中から氷柱が突き出る。

 

 ありったけの空気を咆哮という形で吐き出したアカムトルムは、冷気が漏れる口を閉じ、眼前を眺める。

 咆哮の道を現すかのように地面は抉れ、谷間を造るように抉れた氷の分だけ氷柱が突き出ていた。

 ポカラドンとその軍勢は遥か彼方に聳える氷山の壁に埋まり、命こそあれどめり込んだまま動く気配が無い。

 

 そんな光景を前に、アカムトルムは後ろ両足に力を込めて両前脚を持ち上げ―――大地に叩きつける。

 それだけで氷柱の道が大地ごと粉砕され、彼方の氷壁にめり込んだポカラドン達が氷山と共に崩れ落ちた。

 

 

―そして白きアカムトルムは吼える。敗者に捧げる激励の如く。

 

 

 この白いアカムトルムの別名は「破竜(ハリュウ)」。すなわち「(やぶ)る竜」。

 あらゆる点において型破りな覇者。あらゆる物を破壊しかねない破壊者。

 

 

 

―かの竜は、絶対零度の地にて強者を待つ。

 

 

 

 

―――

 

 

 ウカムルバスといえば極寒の地・凍土を思い浮かべる。

 

 しかし舞台は南の最果て……火山活動が頻発に起こる【大火山】。

 その名の通り巨大な活火山が聳え、巨大な噴火口からは信じられない量の噴煙とマグマを噴出し、今もなお火山活動が続いている。

 噴煙は雲のように天を黒く覆い、溶岩は滝のように流れ大地をマグマという名の赤い海に変える。地獄絵図とはまさにこのことだろう。

 赤き大地が太陽となって周囲を照らし、灼熱に適応できない生物を業火に包み込み、より強き者のみが生き残れる過酷な地となった。

 

 そんな灼熱の地に生息するウカムルバスは……黒かった。

 

 太陽に浮かぶ黒点のような漆黒の身体は、あらゆる光を吸収するかのような不気味さをも持つ甲殻で覆われている。

 原種同様に目立った突起は無いが、逆に前進を分厚い装甲で固め、あらゆる物を踏み潰すかのような重厚さを醸し出す。

 ただ厚いだけではない。溶岩の海を難なく泳ぐ耐熱性、溶けきれず流されてきた岩を次々と弾く硬度と重量。それだけの強度があった。

 そんな甲殻で覆われながら重さを全く感じていないかのように悠々と泳いでおり、甲殻では隠しきれないほどの筋力と威圧感が全身から溢れ出ている。

 

 防御性と攻撃性を遺憾なく見せ付ける重装甲戦車。この世界を照らす太陽に浮かぶ黒点の如き存在。

 この極熱の世界に適応しあらゆる物を弾く強度を得る為、防御性に優れる原種の姿を保った結果だ。

 

―そんなウカムルバスの前に、侵入者が現れた。

 

 爆狼(バクロウ)ミドガロン。『G級の世界』の一つ【火山】にも生息する牙獣種。

 本来なら夫婦で狩りを行う雄の響狼が伴侶を失った事で変異し、真紅に染まった亜種とされている。

 その強さは原種以上とされており、より大きく、より強く、より早く進化した高い戦闘能力を誇る。

 

 溶岩の海に漂う岩盤の上で周囲を見渡すミドガロン。どうやら彼は知らぬ内にこの地へ迷い込んだようだ。

 こんな餌らしき餌が見当たらない『だけ』の地など、ミドガロンにとってはどうでもよかったのだが……事情が変わった。

 獰猛な彼は、眼前に写る敵を排除すべく、俊足を生み出す四肢に力を込めて身構える。その後で悠々とココを出ればいいのだ。

 

―そんな侵入者を前に、ウカムルバスは破滅を与える。

 

 ゆっくりと溶岩の海から身を乗り出し、その漆黒に染まる全身を残り僅かな大地に上がらせる。

 溶岩に浸っていた箇所が真っ赤に染まるが気に留めず、ドリルのように尖る下顎を開き、より赤く熱する口内を晒す。

 

 ミドガロンは動き出した。敵の斜線上に入らないよう、溶岩の濁流に流れる岩々をジグザグに跳んで渡る。

 その脚力から放たれる跳躍は渡りに使った岩を粉砕し、勢いを殺すことなく徐々にウカムルバスに近づいて行く。

 これだけで素早ければ、見るからに鈍重そうな相手の懐に跳び込めば勝機は自ずと見えてくるだろう。

 

 『Gの世界』で生きる一匹狼にとって、巨大な敵に立ち向かうなど日常茶飯事なのだ。

 

 それでもウカムルバスは熱を込める―――込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。

 

 

 

 蓄積した熱を解き放ち―――全てを払う熱線が放たれる。

 

 

 

 溜めに溜めた膨大な熱量が口という一点から抜け出そうと、水鉄砲の原理の如く高圧力の熱線となって射出される。

 その熱量たるや、解放された熱波が溶岩の海を割り、熱線の中心は溶岩ですら吹き飛ばし、速度は音速に匹敵する。

 直撃こそせずとも、ミドガロンは熱波だけでも吹き跳び、熱線が届く遥か彼方では爆発が起こる。

 

 濛々と黒煙と残り火が漏れる口を閉じ、ウカムルバスは反動で崩れた岩場から降り、溶岩の水面から眼前を眺める。

 その熱量がいかに膨大であったかを物語らせるかのように、彼方では轟音の余韻が響き、キノコ雲が浮かぶ。

 ミドガロンの姿は無い。恐らくは熱線の余波という名の衝撃波で吹き飛び、溶岩に沈んだのだろう。

 

 それを確かめるべく、溶岩から身を乗り出し、両前脚を振り上げ―――水面に叩きつける。

 その衝撃は溶岩の海に波を作らせ、大津波となってウカムルバスを中心に波紋を広げる。

 

 

―そして黒きウカムルバスは吼える。亡者に捧げる鎮魂歌の如く。

 

 

 この黒いウカムルバスの別名は「砲竜(ホウリュウ)」。すなわち「(つつ)なる竜」。

 体内に蓄積された膨大な熱量を熱線として吐き出すその姿は、まさに生きた巨砲。

 

 

 

―かの竜は、灼熱地獄の地にて強者を待つ。

 

 

 

 

―完―

 




別名:アカムタンク&ウカムタンク。どちらも巨砲をイメージしました。
この2匹の素材なら、きっと最強のガンランスができると思うんだ!そんな感じです。

追記でアカム変異種とウカム変異種の防具を紹介します。

●アカムIシリーズのスキル一覧
・攻撃力UP【超】
・破壊神(弱点特攻・破壊王の複合スキル)
・見切り-2

●ウカムFシリーズのスキル一覧
・攻撃力UP【超】
・砲撃神(砲術マスター・破壊王の複合スキル)
・見切り-2

狩猟できたかどうかは秘密ですが。


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part21:「鎧蜘蛛の生態」

今回のテーマは「グラビモスを捕食し、その皮を身に纏ったネルスキュラ」です。
ようやっとハーメルン版リクエストに手が掛かりました。お待たせしてすみません。

今回のもう一つのテーマは「二次元と本物の違い」です。
踏み台転生要素がありますので、苦手な方はご注意ください。

4/28:後書きにて防具スキル追記


 現実は非情であるというが、それは現実を多く直視していないからではないだろうか。

 俺は二度目の人生を送るようになってからそう理解した。

 

 平凡な自分は平凡で退屈な毎日を強いられ。

 かと思えば長い階段から転落して死んで。

 そして神と名乗る厳つい男から転生を約束された。

 

 あの転落は手違いによる事故だったから転生させてやろうと聞いて、心から舞い上がった。

 記憶だけでなく特典として好きな力をやろうと言われ、「リリカルなのは」のような強大な魔力とデバイスを発注した。

 これで俺は晴れてテンプレ転生者となり、生まれながらにして勝ち組人生を歩めると思い込んでいた。

 

 

―――そう、モンスターハンターの世界に転生するまでは。

 

 

 生まれて間もない頃は、ソロで狩猟すれば魔法もデバイスも使い放題だと考えていた。

 ハンターの両親と暮らしていた頃は、魔法の才能があるからと高を括り、父の特訓から逃げ続けていた。

 誰にも見つからない所に隠れて魔法の練習をしていた頃は、確実に強大な魔法を操れるようになり確かな手応えを感じた。

 

 このまま行けならモンスター相手に無双できる。主人公のような生活を送れる。そう思っていた。

 しかし後になって、それは現実的ではなく、自分勝手なただの妄想でしかないと知った。

 

 

―――

 

 影蜘蛛ネルスキュラ。その生態は独特的なものだ。

 蜘蛛らしく粘着力のある糸を操り、毒で弱らせ、狭い場所を縦横無尽に行き来する厄介なモンスターだ。

 しかしネルスキュラの最大の特徴は、補食した獲物の皮を自分の体に纏う習性だろう。

 頭蓋骨をヤドにするザザミ類もいるが、仕留めたばかりの獲物の皮を剥ぎ、それを纏うモンスターはこのネルスキュラぐらいだろう。

 今のところゲリョスの皮を被るネルスキュラしか確認されていないのが幸いか。

 

 だが未知の樹海となればそうはいかない。

 

 未知の樹海とは、一言で言えば混沌だ。何せ東西南北の大型モンスターが闇鍋の如く入り乱れているのだから。

 それらがなんの前触れもなく乱入してくるのだから、自然が時節見せる狂いっぷりを感じさせる。

 

 そんな未知の樹海に生息するネルスキュラがある日、グラビモスを補食することに成功した。

 重厚な鎧を持つグラビモスだが、鈍重な獲物などネルスキュラにかかれは造作も無い事。

 四方八方から糸で絡み付けて動きを封じれば、後は楽に狩れる。必殺のグラビームも当らなければどうということはないのだ。

 

 さて、グラビモスを補食した事により、ネルスキュラの世界は広がった。

 ネルスキュラ自身が眠りかける程の濃厚な睡眠毒が血肉から得て。

 鎧竜の甲殻は耐久性だけでなく耐火性にも優れていると、イャンクックとの戦いで学び。

 鈍重となった体を活かす為に、糸をより粘り強くする必要があると理解した。

 

 

―そしてネルスキュラは、新たな進化の道を歩む。

 

 

―――

 

 ディバインバスター。「エースオブエース」高町なのはが得意とする一撃必殺の砲撃魔法。

 

 エクスカリバー。約束された勝利の剣をモチーフにした、俺オリジナルの大剣型デバイス。

 

 Sクラスの魔力量。「リリカルなのは」の世界にとって、その魔力量は尋常では無い。

 

 しかし、10歳で初めてランポスの群れに遭遇した時、それらが全て覆された。

 

 

―初めて生のランポスを見た時、俺は吐いた。

 

 

 始めは俺TUEEEを実感したいが為に意気揚々と村外れを探索したのだが、そんな気は疾うに失せた。

 鱗の肌にギョロリとした目、細身の身体が気持ち悪い。それが数匹群がるだけで気を失いそうな程の悪寒と嗚咽が湧き出る。

 恐怖やら嫌悪感やらが頭の中を真っ白に染め、デバイスの声も届かず、バリアジャケットで身を守ろうとですら考えられなかった。

 むしろランポス達の爪や牙で傷つけられた痛みで、目の前の現実から目を逸らすのに必死だった気がする。

 ハンターである父が助けてくれたが、俺は完治するまでの1ヶ月間、見えない何かに怯えっぱなしだった。

 

 とにかく、俺は肉食モンスターが総じて怖くなった。ランポスよりも小柄なジャギィですら見かけるだけで震えて動けなくなるほどに。

 

 ゲームでない本物の怪物(モンスター)の姿と、奴らが持つ『殺意』を前にして完全にビビってしまったのである。

 チートを持ちながらテンプレ主人公になれず負け犬になるという葛藤より、モンスターに襲われる恐怖が勝るのだから。

 

 そんな俺はどうにかしてハンターに成れたのだが、未だに採取クエストしかこなせていない。

 見た目が気持ち悪いブナハブラや小柄なジャギィですら目にするだけで吐きそうになるのだから当然だろう。

 魔法もデバイスも使う気になれない。むしろ使おうとする度、突然現れた大型モンスターに狙われるから使うに使えない。

 生き物を殺す感覚に慣れないというのも致命的だ。前世は何も知らない学生だったのだから当たり前か。

 

 

―そんな俺が未知の樹海に迷い込んだあの日―――俺のハンター人生は終わりを告げることになった。

 

 

―――

 

 鎧蜘蛛(よろいぐも)ネルスキュラ。

 

 バルバレギルドが近年になって発見した、未知の樹海と地底火山を行き来する影蜘蛛の変異種である。

 鎧蜘蛛の名の通り、このネルスキュラは鎧竜グラビモスの甲殻を身に纏っており、食性の違いか水色の水晶棘を持つ。

 腹や脚にも細かく砕かれた甲殻を貼り付けているが、頭部に鎧竜の頭蓋骨を被っているのが特徴だ。

 

 最初は地底火山で目撃情報があった為、ネルスキュラを知る者がその話を聞いた時は半信半疑だった。

 なにせ同じ地底洞窟でも、火山活動が活発化すれば地底火山となり、高熱を苦手とするネルスキュラは生息できなくなるはずなのだ。

 よって、このネルスキュラは未知の樹海でグラビモスを捕食した可能性があると学者は推測している。

 その証拠に、水色の水晶棘から零れた液を分析した結果、スプーン1杯でアプトノスを眠らせるほどの強力な睡眠毒であることが判明。

 グラビモスを捕食し睡眠毒を摂取することによって、水晶棘は猛毒の紫色から睡眠毒の水色に変色したものと考えられる。

 

 そして熱伝導率の低いグラビモスの甲殻を纏ったことで熱に強くなり、火山にも適応が可能となったと考えるべきだろう。

 元々火山活動が活発化してもネルスキュラの巣は残っている為、高熱に適応さえできれば火山に潜むことも珍しくは無い。

 しかし出生が未知の樹海である事もあるのか、あちらの方が軽快な動きを見せる為、未知の樹海に姿を現す事が多いそうだ。

 

 

 では鎧蜘蛛となったネルスキュラ変異種はどのような狩猟光景を見せてくれるのか。

 

 

 今日の鎧蜘蛛の敵は、未知の樹海に迷い込んできた若人ハンター。

 巨大な柱と柱の間を網のように蔓が蔓延って空を遮るこの場所を歩いていた所、突如としてハンターが眼前に姿を現したのだ。

 最初はそこらの小型モンスター同様、軽く威嚇して追い出そうとした鎧蜘蛛だが、この若人ハンターはそうでないらしい。

 

「ネ、ネルスキュラがなんだぁ!す、姿が変わってるからって俺ぁ、俺ぁ怖くねぇぞぉぉ!」

 

 などと素っ頓狂な声を上げながら、奇妙な形状をした大剣を振り回しながら襲ってきたのである。

 本来なら多脚ならではの機動力で避けられるのだが、重い甲殻を纏っている鎧蜘蛛の動きは若干鈍い。

 まぁ、その分防御力にまわした為、我武者羅に振り回しただけの大剣は簡単に弾かれるが。

 

 手に持った大剣を呆然と見つめるハンターを余所に、ネルスキュラは起き上がって腹部から糸を発射。

 呆然としていたハンターは咄嗟に後方へ跳び……そのまま空中を浮遊したではないか。

 彼の足元には丸い絵のようなものが浮いており、まるで絵に支えられているかのよう。ネルスキュラはその様子を地面から見上げていた。

 

「は、はは、ざまぁねぇな蜘蛛野郎!空が飛べねぇモンスターなんざ怖くねぇ!怖くねぇんだ―――!?」

 

 どのような原理で浮遊しているかはわからないが、飛べない蜘蛛を見下して歓喜するハンターだったが、その表情は瞬時に消え失せた。

 正確に言えば、全身に水色の糸が巻きつけられて顔が見えなくなった。糸の発信源はネルスキュラの口。

 糸で顔面どころか全身を巻きつけられたハンターはバリアタイプの魔法を施すんだったと己の失態に怒るが、直に眠気が襲う。

 

 この鎧蜘蛛が放つ水色の糸は睡眠毒を練り込ませており、それが地肌に染み込むことで眠気を誘ったのだ。

 瞬く間に睡眠毒に置かされ深い眠りについたことにより展開していた魔法が解かれ、空から地面へと落ちる。

 

 ベチョリと水色の塊が地面に引っ付く中、鎧蜘蛛ネルスキュラはせっかくなので仕留めた獲物を喰らおうと動き出す。

 水色の繭へと近づく中、唐突にネルスキュラは脚を止め、横へと視線を移した。

 

 そこには陸の女王リオレイアの亜種、桜火竜ことリオレイア亜種が歩んでくるではないか。

 どうやら漁夫の利を得ようとしているらしく、さっさと去れ、と言わんばかりに鎧蜘蛛に咆哮を上げる。

 

 ここで普通のネルスキュラならワンランク上の捕食者に道を譲るだろうが、鎧蜘蛛はそうではない。

 通常種よりも鈍いとはいえ軽快な動きで横移動を見せつけ、敵を視界に捉えつつ隙を伺う。

 

 敵対の意思を感じ取ったリオレイア亜種は火の粉を散らしながら鎧蜘蛛に吼え掛け、大きな翼を広げて宙を舞う。

 しかし上部には蔓が蔓延っている為、思うように高度が取れず、ホバリングしているだけに留まる。

 それでも桜火竜はフワリとネルスキュラの側面へと舞い、自慢の尾で強烈なサマーソルトをお見舞いする。

 

 いくらグラビモスの甲殻を得て防御力と重さが増したとはいえ、その一撃はネルスキュラを吹っ飛ばした。

 とはいえさほどダメージは入っていないようで、吹っ飛んだ状態で糸を射出、柱に命中させ重い身体をそちらへと引き寄せる。

 重さと粘着力が合わさることでパチンコ玉のように跳んで行くネルスキュラを、目でしか追えずに佇む桜火竜。

 柱に着地するかと思えば僅かに身をよじることで柱を越えていき、慣性が合わさり糸は限界近くまで引き伸ばされる。

 

 

 狙いは、大地に脚を乗せ、炎を溜め込んでいる口をこちらへと向ける桜火竜。

 

 

「ぶっはぁ!あーちくしょ、窒息しするかと思った!ていうかこの糸まだ破けねーのかよゲーム以上にネバネバじゃんこれ!

こんなことなら攻撃魔法だけじゃなくて色んな補助魔法やら防御魔法やら覚えとくんだったぜ!

まぁ今はどうでもいい、あのクソ蜘蛛をさっさとぶっ潰して、最強オリ主大活躍の足がかりを―――」

 

 

 

 桜火竜の背後で独り言を言っていた若人ハンターは、桜火竜共々、鉄砲玉となった鎧蜘蛛の突進に巻き込まれて死亡した。

 

 

 

――――

 

 俺と同じ転生者らしきハンターと鎧竜の甲殻を纏ったネルスキュラとの立会いを目撃した俺は、腰が抜けて動けぬまま一部始終を見送った。

 彼の最後の末路は、桜色のリオレイアと共に崖に激突し、真っ赤な水飛沫となって終わった。惨すぎる最期に、俺はまた吐いた。

 一緒に突っ込んだはずのネルスキュラらしきモンスターは平然としており、リオレイアの亡骸を貪ってからどこかへ去って行った。

 

 

 俺は命がけで逃げ出し―――ハンターを辞めた。

 

 

 流石の親父も、未知の樹海から帰還した俺を見て諦めがついたらしい。(その時の俺は親父曰く「死んだ魚のような目だった」そうだ)

 元々お袋が賛同していたこともあり、俺がハンターを辞職することに対し、親父は反対しなかった。

 

 あんなイレギュラーが当たり前に居て、転生者でもあんな無残な死に方をして、あんな殺伐とした日常が世界中に広がっている。

 それを知った時、俺の心の底に最後の最後まで残っていた、転生者だから諦めないっていう変なプライドも打ち砕かれた。

 

 そして現在―――俺はお袋の故郷で小さな雑貨店を切り盛りしている。

 実家の祖父母から商売を学び、アイルー達に癒されながら共に働き、村人達と会話を交わす。

 のどかで、平和で、穏やかで、暖かくて……肉食モンスターが滅多にやってこない静かな村。

 

 最高だ。俺の第二の人生は、ここで静かに暮らす事なんだ。

 

 デバイス?俺の部屋に飾ってありますが。(元々無口だったし)

 魔法?全く使っていませんが。(今になっても使う必要が全く無い)

 オリ主?そんな目標とっくに捨てましたが。(ランポスを見て吐いた時点で諦めた)

 前世?今後を生き抜く上での反省点ですね。(退屈な日々とか言ってスミマセン)

 

 殺意と敵意の塊であるあいつらに殺されたくない。

 これはモンハンの世界だけじゃない。殺したり殺されたりする二次元の世界に転生したらゼッタイに思う。

 所詮は妄想の世界。本物の殺意と敵意を知らない俺とって、本物となった世界は地獄だったんだ。

 

 

 

 とりあえずモンハンの世界に転生してよかったと思えることは―――モモちゃん(アイルー♀)をモフモフ出来たことぐらいか。

 

 

 

―完―

 




作者が考える転生者の課題:本物の野生を目の当たりにできるか否か。

今回より踏み台転生要素を加えてみました。

転生モノで有名なのは、リリカルなのは系だと聞いたのでやってみましたが……
やっぱりちゃんと解っていないと全然ダメですね、活躍の仕方も解らないし漠然としすぎて執筆が遅れてしまいました(汗)
次からは自分でも知っている能力などを選びたいと思います。雑学増やさないとなぁ。

本物の野生動物に触れたことも間近で見たこともないなら、普通はモンスターに対峙したらこうなるのでは?
そう思って書いたのが今回の転生者君です。本物の殺意にブルっちゃうのが基本かなぁと。
試験的に書いたので、次回以降転生者要素を書くかは読者の皆様の反応次第です。

さて鎧蜘蛛ですが、これは活動報告にあった睡眠毒特化ネルスキュラも反映してみました。
地底火山には居ないネルスキュラをどうやって……と考えていた所、未知の樹海にもグラビ居るじゃん!と思いつき、後はスラスラと書けました。
未知の樹海ってモンハンデルシオンには打って付けの環境ですね~。ビバ闇鍋(笑)
イメージはパチンコ玉です。遠心力を使ってガンダムハンマーみたく攻撃します。超痛いこと間違いなし。

ご満足いただけたでしょうか?次回のモンハンデルシオンをお楽しみ!
以下、鎧蜘蛛の素材です。(一部のみ)また、追記で防具スキルも表示します。

・鎧蜘蛛の蒼棘
睡眠毒が含まれたネルスキュラの水色の棘。鎧竜の甲殻を貫けるほどに硬い。
・鎧蜘蛛の堅鋏角
 ネルスキュラの伸縮自在のキバ。鎧竜の甲殻を噛み砕けるほどに硬い。

●スキュラGシリーズのスキル一覧
・罠師
・破壊王
・睡眠無効
・鈍足

ではでは。いつも応援と応募ありがとうございます!


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part22:「翔狼竜の生態」

今回のテーマは「無属性のジンオウガ」です。強靭な足腰が自慢のモンスターです。

もう一つのテーマは「特別であること」。

前partの要素が割りと好評だったので続けて出してみました。無害な転生者です。

4/28:後書きにて防具スキル追記
4/29:誤字修正
2016/2/3:誤字修正


 世の中は平等ではない。それは生まれた時から生じてくる。

 生まれつき人とか一線を越えた何かを備えている者もおり、それらを見れば不平等だと思うだろう。

 しかしそれは些細な問題。全てと見比べたら切りが無いし、それが必ず活かせれるかといえば当人次第だ。

 

 逆に、生まれつき何かが欠如している者も存在している。

 生まれつき脚が欠けている者、生まれつき病を携える者、生まれつき身体の機能に異常を持つ者などなど。

 才能を持たないことより、必ずあるはずの物が無いことや、必ず無いはずの物がある事に劣等感を抱く者が多いはずだ。

 それこそ差別の原因となり、不幸の理由に繋げようとし、自分という存在を落とす切欠に繋がる。

 

 しかし敢えて言おう。それがなんだと。

 生まれがどうであれ、生きていれば光も闇も背負って生きて行くものだ。生きてこそ意味がある。

 そもそも何かを失っている事や何かを背負っている事全てが不利になるとは限らない。

 

 足が欠けているからこそ出来ることもある。

 

 病を背負っているからこそ解ることもある。

 

 身体に異常があるからこそ治すこともある。

 

 才能も劣等も、活かせなければ、そして死んでしまったら意味がない。

 自分という存在を活かしてこそ生きる価値があり、それを見つけ出す事も生きる意味の一つだ。

 それは人間も動物も、そしてモンスターも同じ。

 

 

 

―――

 

 かつて、蓄電機能を持たない変わったジンオウガが天空山に居た。

 ジンオウガの特徴である発電機能を好きで持たなかったわけではないし、龍属性エネルギーを纏う亜種になるつもりもない。

 

 彼(一応性別は雄だ)は、生まれつき発電機能が未発達で、独り立ちする頃になっても未だに雷を纏う事が出来ずにいた。

 甲殻は電気を発生する特殊な脂質を持たず、発電できないから電気を増幅する体毛も無意味で、電光虫に分けられず共生関係を得ることができずにいる。

 

 強力な電撃を撃てぬジンオウガなど恐れるに足らずとばかりに、若き頃の彼は他の大型モンスターにしょっちゅう襲われていた。

 リオレウスやゲネル・セルタス、格下であるはずのババコンガですら彼を追い出すのに充分な強敵となり、天空山を追いやられた。

 無双の狩人と呼ばれているジンオウガでも、時には格下相手に倒されることもある。しかし今の彼は、狩人とは程遠い存在だった。

 

 やがてこの若きジンオウガは、天空山の辺境に辿り着く。

 天空山の奥地にあるここは、人間どころか並大抵のモンスターですら足を運ぶ事を躊躇するほどに険しい崖だった。

 高低差と段差が激しく、跳躍力のあるケルビ、そして飛行能力を持つガブラスとアルセルタスが生息している。

 捕食できるモンスターに限りがある以上、大型モンスターであるジンオウガには厳しい環境だった。

 

 だが、それでも若きジンオウガは諦めない。諦めるという概念が無い。

 獲物がいる以上は狩りをして捕食しなければならない。逆に言えば、苦労はするだろうが狩りをしようと思えば出来るのだ。

 邪魔者であるガブラスやアルセルタスだって、地形が不利ではあるが、特質に囚われず純粋な戦闘能力だけでも倒せる。

 この地で行き抜く為に必要なのは、崖を駆け上がれるだけの脚力と体力だ。上り下りを繰り返せば自然と鍛えられるだろう。

 

 

 

 こうして、若きジンオウガの新たな狩猟生活が始まるのだった。

 

 

 

―――

 

 ある所に、この世界をゲームとして知っている異世界のハンターが居た。

 彼は気まぐれな神により転生された人間だと記憶しているが、彼自身は普通の人間として健康的に、そしてハンターとして静かに暮らしたかった。

 彼は健康な身体を持つだけの普通の人間だった。父に身体を鍛えてもらい、母に知識を学び、友人らと共に遊んできた。

 

 しかし彼は、ハンターとして旅立って知った。自分以外にも転生者が居て、そのほとんどが特別な力を持って生まれてきたことを。

 彼らの大抵は、力を持たない自分を愚かだと罵った。せっかく転生したのに特別な力を得なかった自分が信じられないと言って。

 彼は悩んだ。転生するだけでも感謝すべきなのに、なぜ力を欲するのか。特別な力を得ようとしなかった自分は、本当に愚かなのか。

 

 確かに、ハンターになってからは苦楽の連続だった。

 喜びもあれば苦労もあった。時には死の淵に立つこともあった。騙されたりもした。励まされたりもした。一夜を過ごしたりもした。

 友と分かち合ったり、仲間と笑い合ったり、仲間と別れたり、一人悲しんだりした。時には裏切られたり、助けたりもした。

 苦労をかけた分だけ喜びを得られ、今は最も信頼できる仲間が二人もできた。それだけで充分なはずなのに、何かが足りない気がする。

 瞬く間に凄腕ハンターと呼ばれるようになった彼らのように、ゲームの世界だからもっと楽をしたりもっと良い目に合いたいと思っているのだろうか?

 そう思うようになった彼は、心にポッカリと穴が空いた日々を過ごしていた。埋めたくても仲間に話すことができず、悩み続けていた。

 

 

 そしてハンターとして成長してしばらくした頃。

 天空山の麓に居を敷くシナト村からの依頼を受けた彼と二人のハンターは、あるモンスターと遭遇する。

 当初は天空山で暴れているというジンオウガを討伐しに来た彼らにとって、そのモンスターは衝撃的だった。

 

 

 

 彼らが遭遇したモンスターとは―――白銀のジンオウガだったのである。

 

 

 

―――

 

 この白銀のジンオウガ(モンスターに詳しい片手剣使いのラスターによると亜種ではないらしい)、とにかく素早い。

 

「そっち行ったよミリス!」

 

「解った、って、そっちに戻ったわよー!」

 

「急旋回Uターンとか勘弁してぇー!」

 

「なぜじゃあ!なぜまた小生を狙うんじゃぁぁぁ!」

 

 上から順に、転生者であるタケシ、タケシと同郷の女ハンターのミリス、タケシとミリスの仲間である物知りラスター、たまたま同行した(妙に運が悪い)大男ロクカン。

 白銀のジンオウガは遠くからライトボウガンでチマチマと撃ってくるミリスに狙いを定め走ったかと思えば、急に旋回して三人の男達に突進。

 回避して突進後の隙を狙うハンター達だが、白銀のジンオウガは右足を軸に強引に旋回、長い尾を振り回して逆に吹き飛ばす。

 太い尾による一撃は大柄なロクカンですら軽々と吹き飛ばすほど凄まじいが、それを可能とした強靭な脚力にも驚いた。

 吹っ飛ぶ中、タケシは地面に着地し態勢を立て直しながらも白銀のジンオウガから視線を離さず、観察する。

 

 中背のタケシが双剣、小柄なミリスがライトボウガン、長身細身なラスターは片手剣、そして大柄のロクカンはハンマー。

 小回りが利く彼らは、初めて見るタイプのジンオウガを前に遠巻きながらも戦いを挑んでいるが、ジンオウガはそれを上回っていた。

 

 まず見た目以外で解ったのは、このジンオウガは電撃も龍属性も持たず、純粋な身体能力を見せ付けていること。

 白に近い体毛にはなんのエネルギーも確認されていないが、その四肢に宿る筋力は体毛越しでもはっきり解るほどに逞しい。

 恐らくは高所の上り下りを繰り返したと思われる、高い崖ですら楽々と跳び越せる脚力も凄かった。

 

 その結果、巨体に似合わぬ小回りの効く動きを実現することに成功していた。

 強靭な脚力を活かし強引に隙を埋める行為は、ハンター達に反撃のチャンスを与えず、ずっと俺のターン状態。

 逆に言えば、隙を見せる行動は強力な一撃を宿しており、力を込めてからの突進は一発で壁を粉砕するほど。もし当れば命はないだろう。

 防御力も高く、ライトボウガンから放つ通常弾では決定打を与えられず、むしろ平然としていた。こればかりは張り切り屋なミリスも涙目。

 

 己の筋力のみを生かしたパワー溢れるアクロバティックな動き。それが、四人が感じた白銀のジンオウガの印象だった。

 幸いなのは、避けられる技量と無闇に攻めないという日頃のスタイルが身に付いていたということか。

 ハンターの間では防具があっても避けられる方が良いからと回避テクニックを磨く者が多いと、タケシはハンター生活を送ってから知ったのだ。

 

 だがしかし。

 

「なぜじゃああぁぁぁ!!」

 

 ロクカンがジンオウガの右肩タックルを受けて吹っ飛んだ。

 

「ロクカンが死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

「何を言ってるの二人とも!?」

 

 そもそも死んでないし。そう思っていたタケシだが、電波な台詞を放つミリスとラスターに突っ込みせざるを得ない。

 そのまま気絶してネコタク送りになったロクカンを余所に、白銀のジンオウガは新しい獲物を狙わんとこちらへと振り向く。

 

 今は品定めのつもりかゆったりとした足取りをしているが、迂闊に襲おうものなら跳躍して避けられるのがオチだ。

 戦闘を通してそれを理解している三人は、バラバラに散開しつつ、走りながらジンオウガの様子を伺う。

 

 小走りでジンオウガの背後を見張るタケシは、ある想いが湧き出てきた―――このジンオウガは、どれほどの辛い日々を送ってきたのだろうか、と。

 その筋骨隆々な身体には、数多くの傷が浮かんでいる。鋭い物に裂かれた痕、幾多もの噛み痕、中には身体の反対側にまで貫通したかのような傷跡まで。

 ジンオウガのセオリーである「虫との共生」が無くなった事で迫害を受け、それでもなお生き延び、強靭な肉体を得てこの天空山に帰還したのだろうか。

 タケルは歴戦を知った恐怖と共に、この白銀のジンオウガが持つ「生への執着と誇り」を感じ取った気がしてならないのだ。

 

―特別な力を無くしたとしても、こうして新たな道を歩むことができるんだ。

 

 タケシはこちらへと振り向いて突進してくるジンオウガを前に笑みを浮かべ、双剣を掲げ鬼人化する。

 恐らくはこの白銀のジンオウガは上位、いやそれ以上の実力を持っている。未だ下位である自分達では歯が立たないだろう。

 しかし、このジンオウガに背を向けることはできない。背を向ければロクカンのような目に合うのが解っているからだ。

 

 なら、自分は鬼人化ですり抜けながら霍乱する。これまで磨いてきた勘と体術は、それを可能にすることができる。

 霍乱する間にミリスとラスターを逃がせれば、後はなんとか隙を伺って逃げればいい。自休戦になるだろうが、悪い手ではないはず。

 何より、この白銀のジンオウガを持ってみていたいという想いが、転生者でありながら現実を受け入れているはずのタケシに宿っていたのだ。

 

 

 

 今、若きハンターと白銀のジンオウガの攻防の幕があがる。

 

 

 

 その結果、タケシは全治半年の大怪我を負って帰還。ネコタクからの輸送でした。

 ミリスとラスターは逃げ延び、より酷い怪我を負ったロクカンと共に病院生活を送ることになったタケシに代わってギルドに報告。

 あの白銀のジンオウガが度々目撃され「翔狼竜(ショウロウリュウ)」の二つ名を持つ変異種と認定した事が決まった。

 しかしその目撃は半年が経ち退院した今でも数が少なく、今や幻の存在と囁かれており、今もなお再会できていない。

 

 なお、半年が経った頃になって、タケシは風の噂で知った。自分が知る特別な力を持った転生者は、この半年間に大半が亡くなったと。

 特別な力があろうとも無かろうとも、死ぬ時は死ぬ。この世界の弱肉強食を肌で感じたタケシはそう理解した。

 そして、あの翔狼竜に会って知った。特別な力があろうとも無かろうとも、生き残ればそれでいいのだと。

 あの大怪我を負って死にそうな目にあったが、こうして生きている。生きる喜びを噛み締めることができた。

 ミリスとラスターと再会でき、退院祝いで盛り上がったりもした。生きていればこんな目にも会うのだ。

 

 

 だから自分は、ハンターを続け、この世界で生き続けたい。

 ハンターは、この世界で生きる喜びと苦しさを誰よりも理解できる狩人なのだ。

 より広い世界を見て、より喜びと苦しみを味わい、生きる意味を噛み締めたい。

 それが、ゲーム感覚が抜け、現実と受け止めるようになったタケシの願いだった。

 

 

 

 タケシの耳には今もなお、あの轟竜にも勝る咆哮を放つ白銀のジンオウガの轟きが聞こえる気がするとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜじゃぁ!なぜ小生が退院しても祝ってくれんのじゃあぁぁぁ!」

 

 所詮は通りすがりだからさ。

 

 

 

―完―




今回の登場ハンター

タケシ:転生者。望んだのは健康な身体。厳しく育てられ早い段階で現実を知った。双剣。
ラスター:モンスターの生態に詳しい友人。都会生まれで親が研究者。片手剣。
ミリス:この世界における転生者と同郷の友人。恋愛要素無し。張り切りや。ライトボウガン。
ロクカン:偶然クエストに同行することになった通りすがり。妙に運が悪い。ハンマー。

何気にクロスがあります。批判されなければチョコチョコ出してみようかなぁと検討しています。
新しくタグを増やすべきかも悩んでます。ご意見などあればお願いします。

電撃や龍属性をなくしたジンオウガは、アクロバティックな動きに磨きが懸かりました。
やっぱり純粋なパワーっていいですよね!ティガレックスみたいですが。
この翔狼竜は隙が少なく、それでいて動きが激しいのが特徴的です。動きが早くなったとも言う。
それ以外の追加点として

・ティガレックスみたく大咆哮が放てる
・ナルガクルガ亜種みたく連続尻尾バターンができる
・ティガやナルガみたくUターン突撃ができる

……やはりティガやナルガって凄いですよね。属性とか無くても充分に強いんですから。

・翔狼竜の剛爪
鋭く太い翔狼竜の爪。絶壁の環境で育った為、より硬くより長く伸びている。
・翔狼竜の靭尾
翔狼竜の太い尻尾。強硬な鱗で覆われ、見た目以上の筋肉が詰め込まれている。

●ジンオウガPシリーズのスキル一覧
・体術+2
・回避性能+1
・ランナー
・属性攻撃弱化
・状態異常攻撃弱化

ではでは。また次回をお楽しみに!


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part23:「熱鮫の生態」

今日のテーマは「火山地域に適応したザボアザギル」です。
モンハン4Gで砂漠に出現する亜種が出たので不安ですが……まぁ大丈夫だと思いたいです。
個人的にザボアザギル大好きですし!モンハン4Gで新種の両生種出して欲しいなぁ。

もう一つのテーマは「自然の猛威」です。
これを考えた後、クエストクリア後にドリンク効果が切れてもちゃんとドリンクを飲ませるようになりました。
そう考えるとナグリ村って凄いですよねー、溶鉄に溶岩を使うとはいえ、火山地帯に住んでいるんですから。暑さ対策とかしているんだろうか?

5/11:作者の活動報告内とんぷー様記載「化燃鮫」と被っていることが解りました。誠に申し訳ありません(汗)
   今後はリクエストに似たものがあった場合、活動報告内の製作者の許可を得て書いていきたいと思います。


 進化とは果ての無い競争だ。果てが無いと解っておきながら、それでも生きる為に長い年月を掛けて姿を変え、性質を変える。

 そんな進化の道を切り開くのは、いつだって祖先と言う名の(たね)からだ。その祖先も大昔の何かから派生したものだろうが、祖先には区切りというものがある。

 例えば、大昔に絶滅したという鳥竜種の祖先「イグルエイビス」。全ての鳥竜種はこのイグルエイビスの子孫だと言われているほどだ。

 例えば、ティガレックスを始めとした四足歩行型飛竜種の祖先である「ワイバーンレックス」。絶滅したこのモンスターは、後の強者達を生み出す結果となる。

 

 そう、モンスターにとっての「祖先」とは進化の分岐点に等しく、そこから原型を留めつつも様々な適応を可能とする。

 火山に生息するアグナコトル原種と凍土に生息するアグナコトル亜種が現れたのも、アグナコトルの祖先に関わりがあるのではと考えられるほどだ。

 最も、近年では突然変異や環境変化で原種から進化した変異種が注目されているが……急激な変化もまた進化の一つだろう。

 

 最も、そんな激しい形状変化や生態の変質を現すのは、多種多様な種族を持つモンスターぐらい。環境を自身に適した物に変化させ、同種同士でしか交じり合わないことで種を保ち続けた人間には不可能だろう。

 少なくとも、人間は薬に頼らなければ極端な寒冷地や熱帯地に足を運ぶことなど不可能なのだから。

 

 

 

―――

 

「熱い。熱すぎる。熱くて死にそう。ていうか本気で死ねる」

 

 それが、転生者サカモトが己のゲーム知識を呪いながら呟いた言葉だ。

 

 彼は地底火山にいる。活性化した火山は溶岩を遠慮なく流し、空気ではなく炎が充満しているかと錯覚するほどに待機を熱してくる。

 高温に晒されていながら溶ける気配の無いクモの巣の下ではイーオス達が元気いっぱいにサカモトを威嚇し続けている。暑さなど気にしていないように。

 サカモトはそれがムカついて仕方なかった。殺してやりたいぐらいにムカついたのだが、それ以上に暑さによる怠惰感が勝り、無視することにした。

 熱で真っ赤に染まったサカモトの身体は先ほどまでビッショリと汗で濡れていたのに、火山の奥地へ行くほどその汗が蒸発し、今では汗で濡れる暇も無い。

 

 バカだ。支給品のクーラードリンクを忘れてきた自分は大バカだ。初の火山入りだから採掘しまくろうと浮かれていた自分は超のつくバカだ。

 誰だチートな転生者だから暑さぐらいなんとかなるだろうと言った奴は……俺だ。甘くみていた。なんだこの暑さは。暑いどころか熱い。肌が焼けているかのようだ。サウナだってこんな熱くねーよ。

 こんなことなら転生特典を「グラグラの実(カナヅチ無し)」じゃなくて「マグマグの実(カナヅチ無し)」にすりゃよかった。咄嗟に浮かんで提案した俺が憎いぜ畜生。

 

 そんな事をブツブツと呟きながら、フラフラとした足取りで討伐対象のグラビモスを探そうとするが……その足取りは重い。

 ゲーム知識では、グラビモスは火山の池があるエリア2か、クンチュウやリノプロスが闊歩するエリア8、休眠場所としても有名なエリア9にいるはず。

 しかし彼は未だに地底火山の中腹であるエリア4に留まっている。いや、エリア2に通じる崖に行こうとしては戻り、行こうとして戻りを繰り返しており……行きたくないというオーラが全身から溢れ出ていた。

 

 何せマグマが流れていないエリア4だけでこの暑さだ。下へ行けばこれ以上の熱が待っていると思うと……地獄を味わうようで行く気になれないのだ。

 しかし自分は(自称)一流ハンター。これまで数多のクエストをこなしてきた自分が熱いから逃げたとなれば今までの名声に傷が付く。それは避けたい。

 今から支給品を取りにいくとなると体力が持つかどうか不安だ。傷の問題ではなく疲労的な意味で。熱さでダルくて取りに行く気にもなれないし。

 かといってグラグラの実の能力を広範囲に使おうものなら大噴火を引き起こす可能性も考えられる。今までは狭い範囲でしか使わなかった為、上手く発動できるかですら妖しい。

 

「……あー、チキショー!瞬殺すればいいんだ瞬殺してぇぇぇぇ!」

 

 悩みに悩んだサカモトは自棄になって決意を固め、エリア2へと続く崖から飛び降りる。

 いや、自棄になったというのは語弊があるかもしれない。彼はこれまで自身の能力を使って即座に狩りを決めれる為、今回もさっさと瞬殺して帰ればいいと思ったのだ。

 

 

―その先に地獄が待っているとも知らずに。

 

 

 

―――

 

 エリア2では、サカモトの予想通り、大型のグラビモスが闊歩していた。

 ギャアギャアと騒いで威嚇するイーオス達を余所に、グラビモスは散歩でもしているのか、ブラブラと尻尾を振りながらその辺を歩く。

 お目当ての鉱石が無い為に腹を空かせ苛立っていたグラビモスだが、ある気配を察知してそちらへと振り向く。

 

 そこに先にあったのは転生者サカモトの姿―――ではなく、マグマの池に立つ一枚の背鰭だった。

 

 すいすいとマグマを泳ぐそれはどう見ても魚類などが持つ背鰭でしかなく、しかしグラビモスは何なのかと首を傾げる。イーオス達もなんだなんだと騒ぎ出した。

 しかしすぐにどうでもよくなったグラビモスは、マグマの池に立つ背鰭に狙いを定め、溜まった苛立ちを吐き出すかのように熱線を発射。

 熱線が届くその前に、マグマの池に変化が現れた。背鰭の主がマグマの水面から大きく跳び上がりし、グラビームを回避したのである。

 

 

―マグマを泳いでいた背鰭の正体は……オレンジ色のザボアザギルだった。

 

 

 このオレンジ色のザボアザギルは、ザボアザギルの祖先(・・)が火山地帯に適応した熱鮫(ねつざめ)と呼ばれる変異種だ。

 このザボアザギル変異種の鮮やかなオレンジ色は溶岩に適応する為に皮膚が変化したものだと思われるが、形状そのものはザボアザギル原種と同じである。

 火山地域に適応した経緯は解っていない。アグナコトル原種が凍土に適応し進化したアグナコトル亜種のように、具体的な理由は解っていない。だからこそ可能性の一つとして、ザボアザギルの祖先が絡んでいるのではないかと考えらている。

 噂になっている新たなフィールドに目撃されたという砂色のザボアザギルもこの祖先が派生して進化したものだとも考えられているが、詳しい詳細は解っていない。あくまで噂なのだから。

 

 さて、マグマから跳躍した熱鮫はそのままグラビモスに向けて落下。硬く重いグラビモスとはいえ、同じぐらい大きな熱鮫が上から圧し掛かってきたら倒れざるを得ない。

 重心を崩し倒れたグラビモスの上でさらに跳躍して距離を取った熱鮫は、グラビモスが起き上がる前に挑発の意を込めて吼える。

 そして熱鮫は身体に力を込め、ある変化を生じさせる。

 

 両生類は変温動物に属しており、周囲の環境や季節によって温度が変わってくる。故に寒い季節になると体温が低下するので冬眠をするのだが……両生種はそんなことはしない。むしろ寒い地域だってへっちゃらなスーパーフロッグなのである。

 だがこの熱鮫は火山地帯に適応するに当って驚くことに、周囲の温度に関係なく、体内の血液や特殊な体液により、体温を変化させるといった独自の身体の作りを編み出したのだ。

 体内の温度を捕食によって保つ一方、熱を通しにくい内層の皮と熱を通しやすい表層の皮で身体を覆い、二層の間に熱を操作する体液を流し調節する仕組みとなっている。

 この皮の間に流れる体液を冷たい物に変換させることで、表面にこびりついたマグマや溶けた鉱石に込められていた熱が冷えて固まり、火山石の鎧へと変貌させるのだ。

 原種のザボアザギルのように尖ったフォルムではなく、どちらかといえば黒鎧竜グラビモス亜種のように黒く丸みのある甲冑のようなフォルムとなっている。

 殻というよりは蛇の鱗のように冷えて固まった溶岩がこびりついているだけな為にかなり歪だが……防御性があがったのには違い無い。

 

 やっと起き上がり、なにすんじゃわれー、と言わんばかりに咆哮するグラビモス。熱鮫よりも大きな音を出すため、熱鮫は怯んでしまう。

 グラビモスはそのまま腰を落とし、熱鮫に向かって突進。怒っているからか、その速度は通常よりも速めだ。

 しかし火山石の鎧を纏ったからといって大幅に機動力が落ちたわけではない熱鮫にとって問題は無い。縦へ跳べなくなった代わりに横へ跳ぶことで突進を回避、グラビモスはブレーキを掛けるも壁に激突。

 壁に激突したからといって気絶するグラビモスではなく、大きな尻尾を振って身を守りつつ後退。すぐさま振り向き、熱鮫の位置を確認する。

 その間に攻めようとする熱鮫は原種にもあるような構えでグラビモスを見据え、突進。強靭な後ろ脚はグラビモス以上の速度で襲い掛かってくる。

 そのままグラビモスの首根っこをガブリ。しかし鋭い歯がずらりと並ぶ大口とはいえ鉱石の甲殻を持つラビモスの首を圧し折ることはならず、噛み付く程度だ。

 

 大きな口で首を噛みつかれているにも関わらず、鬱陶しいとばかりに大きく体を揺らし、熱鮫を振り払おうとするグラビモス。

 大きさはほぼ互角とはいえ、パワーと重量はグラビモスが上。しっかり噛み付いている上に火山石の鎧で重さが増しているとはいえ、呆気なく振り回されてしまう。

 しかし食欲旺盛な両生種の血筋は伊達ではない。強靭な顎でしっかりとグラビモスの首に噛み付き、決して離そうとしない。未だに噛み切る気配が無いのが悲しい所か。

 

 逆に噛み切られる心配が無いと感じ取ったグラビモスはそのまま力の限りを尽くして暴れ、ザボアザギル変異種を振り払おうとする。

 やがて暴れるだけでは駄目だと悟ったグラビモスは、壁に向かって突進。壁に自身ごとぶち当たるもよし、諦めて首を離せば尚良し。

 

 そして壁に激突する直前―――風船のように膨れ上がったザボアザギル変異種がクッションとなり、グラビモス共々弾け飛んだ。

 あの重量級の、それも加速が掛かっていた身体が呆気なく跳ね返す事を可能としたのは、ザボアザギル特有の風船のように急激に膨らむ能力にある。

 この熱鮫は激突の直前に身体を膨らませ、風船の如き弾力で激突の衝撃を跳ね返した。マグマの高温にも耐えられる程の厚さを誇る皮は、グラビモスの巨体をも耐え切れる優れ物だ。

 吹き飛ぶ最中にザボアザギル変異種は首を放し、ゴロゴロと転がって倒れるグラビモスから離れ、ボヨンボヨンと跳ねて着地する。

 ちなみに熱鮫の身体を膨らませているのは、なんと高温の硫黄ガスであり、これをブレスとして放つこともできるという。たまったものではない。

 

 

 膨らんだままのザボアザギル変異種と起き上がったグラビモスが向きって睨み合う中、そいつ―転生者サカモトは落ちてきた。

 

 

 

―――

 

 エリア2に近づく度に肌に感じる温度が高まっていき、地面に身を転げ落ちた頃には全身に火傷という名の激痛に襲われ、苦しみ出した。

 

「熱い熱い熱い熱いぎぃぃぃぃあづいぃぃぃ!イデぇよぉ溶けちまうよぉぉぉっ!」

 

 彼の纏うガララシリーズは鉄製ではないが、堅い甲殻を素材に使われた防具ですら高温の大気と地面を通じて熱を帯びるようになり、それを伝って肌を焼く。

 暑さに慣れているわけではない人間であるサカモトの身体にとっては火傷となり、もはや立っていることですらままならぬほどの激痛に苦しむ。

 しかし熱せられた地を転がれば余計に熱が伝わり、それがさらなる激痛となって身を襲い、それから逃れようとして横転に勢いを増し、同時に熱も増す悪循環を繰り返す。

 

 そんな苦しんで転がっているだけの小物(・・)をチラリと見て、再びグラビモスとザボアザギル変異種は互いに向き合う。彼らは今、縄張り争いに勝つことに執着しているからだ。

 グラビモスは熱線を横薙ぎに放つが、そんなものは膨らんだザボアザギル変異種の跳躍によって難なく避けられる。

 

 

 この薙ぎ払い熱線を受けたのは一部のイーオスと、未だにその辺を転がって苦しんでいたサカモトぐらいだった。

 

 

 どんなハンターにも言えることだが、火山地域に関するクエストを受注できるようになるのはHR3以上というのが決まっている。これは何故だか考えたことはあるだろうか?

 同じ高温地帯である砂漠は水辺が幾つか存在している他、洞窟といった日陰が存在しており、熱を逃がす為の場所が点在している。また適度な水分補給と温度調整を行えば人体でも活動できない訳ではない。

 逆に凍土や氷海といった極寒の地域ではホットドリンクはもちろんの事、防具により若干の防寒も施せる。寒い地域に村を作る者もいる為、寒さならなんとか対処できる、ということだ

 

 しかし火山地帯は人間が一度も足を運んだ事の無い場所だ。何せあそこは岩をも溶かす高温のマグマが渦巻いている為、クーラードリンク無しで足を運べば命に関わりかねない。

 灼熱の地は時として人間を焼きかねない高温を宿し、常に湧き出なければ時間が経つほど水が蒸発していく。吹き出る溶岩や火山ガスに当ったりしたら火傷は必須だろう。

 そう、火山地帯とは行くだけでも危険な場所なのだ。そんな危険地域を住みかとするモンスターがいる為、彼らはここで食い止める必要が出てくる。

 よってハンター達は、火山地域はもちろんのこと、高温地帯に向かう際はクーラードリンクだけは決して忘れてはならないというジンクスがある。

 ゲーム知識で「体力が少しずつ減っていく」だけしか認識していない転生者にとって、「ドリンク必須ジンクス」は軽視されていたのだ。

 

 どんなに強い力があったとしても、所詮は人間だ。防具を纏っているからといって、自然の猛威に生身のままで勝てるはずがないのだ。

 

 

 

 余談だが、グラビモスVSザボアザギル変異種の縄張り争いはグラビモスが勝利して終わる。

 流石のザボアザギル変異種も堅牢なグラビモスを突破することは不可能だったようで、死にはしないものの背を向けて退散する結果となった。

 しかし跳躍による高機動とトリッキーな攻撃はグラビモスと相性が悪かっただけで、それ以外なら勝てる可能性は高かっただろう。古龍種相手は逃げるしかないが。

 

 とにかくザボアザギル変異種は、今日もマグマの海を泳ぎながら獲物を探すのだった。

 

 

―完―

 




ほとんどザボアザギルと一緒。しかし変温動物だからって温度を変えてマグマの鎧を纏うという設定は強引でした(汗)
こんなザボアザギルでしたが、いかがだったでしょうか?因みに悪臭はウラガンキンを参考にしてみました。火山ガスって大抵臭いはずなので。

今回の転生者は自然の猛威を思い知らしめてやりました。普通人間は火山に足を運べないっちゅーに。
それでも足を運ばなければならないハンターは鍛えているから……なのかは解りません。ナグリ村の皆(特に娘さん)を見習え!
皆もクーラードリンク、ホットドリンクの持参は忘れるなよ!妄想うp主のお約束だ!

それでは、防具スキルを公開して終わらせてもらいます。また次回をお楽しみに!

○本日の防具と素材一覧

●ザボアFシリーズのスキル一覧
・火耐性【大】
・暑さ無効
・回復速度+1
・氷耐性弱化

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・熱鮫の上皮
 伸縮性だけでなく耐熱性にも優れた熱鮫の皮。熱を通しにくい為、加工次第で防寒具にもなる。
・熱鮫の刃尾
 熱鮫のノコギリのような尻尾。冷えた溶岩を纏う事もある為か、分厚くて重い肉質を持つ。


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part24:「角獣と赤毛獣の生態」

今回のテーマは二つあります。「強いケルビ」と「ニトロダケに偏ったババコンガ」です。
ババコンガは活動報告のアイディアを採用させていただきました。ありがとうございます!

今回から転生者要素は極力話数を少なくします。感想板でのご指摘のおかげです。
今回は野性100%でお送りします。楽しんでもらえれば幸いです。


 この世は弱肉強食。弱者は強者の血肉となるのが定め―――とは言うが、実はこの世界は驚くほどに効率的で、弱者と強者に差は無い。

 無尽蔵に蔓延る草木は弱者である草食動物の餌となり、草食動物が繁殖すれば肉食動物の餌になる。そして草食だろうが肉食だろうが朽ちれば草木の栄養となり、また草木が蔓延る。

 そして強者でも隙さえ突かれれば弱者に命を奪われる事など、広いこの世界ではしょっちゅうある出来事だ。追い詰められたケルビはリオレオスですら突き殺すのだ。

 

 

―そう……例えば鋭く立派な角が生えた角獣(かくじゅう)ドスケルビのように。

 

 

 ケルビといえば温暖な気候を好む草食種で、小柄な身体でありながら跳躍力があり、食べて良し薬にして良しの癒し系として有名な小型モンスターだ。

 雄雌とで違いがあるが、共通しているのは各地にその姿を確認できる程の繁殖性と大抵の肉食モンスターの餌食になるという所。

 しかしケルビは環境条件が恵まれていれば身体が大きく育ち、大きく立派な蒼い角を持つようになることもある。この蒼角はロックラックではインテリアとしても有名な為、高値で取引されるという。

 

 ケルビは長生きすればするほど大きく強く育ち、群のリーダーとして長年の経験を積んで強敵となる。それがギルド内で密かに呼ばれているドスケルビだ。

 草食モンスター、それも小柄なケルビがここまで成長することは滅多に無く希少価値が高い為、ギルドはこのモンスターを公表せず当然ながら狩猟を命じることもない。

 「角獣」の二つ名に相応しい剣のように鋭い角は脅威ではあるが、こちらから害を与えなければ攻撃することはないので危険度も低く、わざわざ狩るほどの相手ではないとギルドは考えているからだ。

 

 では今回は、地底洞窟のとある時期に出現した角獣に加え、「赤毛獣(せきげじゅう)」の生態を紹介しよう。

 

 

 

―――

 

 鬼蛙テツカブラ。両生種に区分されているこのモンスターは、動く物ならなんでも餌と見て食らう大食漢だ。

 そんなテツカブラは、今あちこちを跳びまわって逃げ惑うケルビ達を餌と定め、食らい付かんと追い掛け回していた。

 とはいえテツカブラの動きは直線的なものが多く、ジグザグに跳んで逃げるケルビ達を捉え切れずにいる。ちょこまかと数匹が逃げ惑っていることもあり、狙いが上手く定まって稲いようだ。

 

 そんな時、一匹の勇姿が現れた。地底洞窟のケルビ達を纏める群のリーダー・ドスケルビだ。長くて鋭い蒼い角は、まるで三つ叉の槍のようだ。

 逃げ惑うケルビ達が横切ってもドスケルビは雄雄しく立ち止まり、あっちへ跳びそっちへ跳んで捕まえようとするテツカブラを目の当たりにしていた。

 

 とはいえ、正面から挑むようなドスケルビではない。得意の後ろ脚キックも角による刺突も大柄なテツカブラを前にすれば効果が薄いということが解っているからだ。

 なのでドスケルビは周囲に群が居ないことを確認した後、テツカブラに背を向けてジグザグに跳ぶ。当然、テツカブラは獲物だと認識してドスケルビを追う。

 しかしドスケルビのステップは広く素早い為、体格差で勝っているはずのテツカブラですら追いつけずにいる。そもそも動きが単調な為、ドスケルビの動きについていけない。

 

 それでもドスケルビが一定の方角に向かっていることは確かなので、テツカブラはドスケルビを追いかけ続けている。

 しかしドスケルビの狙いはそれにあった。ドスケルビはこのテツカブラを誘導し、あるモンスターの元へ送らせようとしているのだ。

 その為にも、しっかりとジグザグに逃げなければ。後ろを振り向くという知恵が無い以上、鍛えた足腰で逃げるしかドスケルビにはない。

 

 

 光蟲や鉱石が乱反射を繰り返し淡い光を放つ、地底洞窟のエリア2。

 ゲネポスといった肉食の小型モンスターはおらず、クンチュウやオルトロスがウロウロしている程度だ。

 そんな洞窟エリアに、一匹の大型モンスターが仰向けになって寝転がっていた。

 

 鮮やかな赤い毛色。焦げたような黒い肌が目立つ腹。黒と赤のコントラストが光るババコンガ変異種・「赤毛獣」である。

 このババコンガは味に偏りを覚えたグルメであり、偏った食性に変化したことで変異種となったモンスターだ。亜種とも言えなくはないが、ここは変異種ということで通してもらいたい。

 ではこのババコンガの大好物が何になったのだろうか。それは赤い体毛を見れば解ると思うが、この後の戦闘を見て予測してもらうとしよう。

 

 そんなババコンガ変異種がグースカと眠っている中、洞窟の奥地から何かがやってくる。角獣ドスケルビだった。

 ドスケルビは一度立ち止まって周囲を確認し、仰向けで眠っている赤毛のモンスターを見た途端にそちらへと跳ぶ。どうやらドスケルビはこのババコンガ変異種を探していたようだ。

 

 そしてドスケルビはその分厚い皮で覆われたババコンガ変異種の腹を踏みつけ、トランポリンのように飛び跳ねて崖へと落ちる。

 ドスケルビは高い所から落ちても着地できるほどの技量を持っている為に平気だし、小柄なドスケルビに踏まれた程度ではババコンガ変異種は驚くことはない。

 

 しかし、遅れて登場したテツカブラに踏まれたのなら別だ。

 ぐぎゃーっと悲鳴を上げて起き上がったババコンガ変異種は、「どこへ行った?」と周囲を見渡すテツカブラの下で暴れ出した。

 テツカブラは遅れて足元に居るババコンガ変異種の存在に気づくが、それより先にババコンガ変異種の口から火炎ブレスが吐き出される。

 高温に驚いたテツカブラは後ろ脚に力を込めて跳びあがるが、余計にババコンガの腹に負担が掛かったらしく、ボッと赤い粉塵が屁と共に放たれた。

 

 着地して振り向くテツカブラを前に、態勢を立て直し起き上がったババコンガ変異種は怒りのあまり立ち上がり、威嚇。当然といえば当然か。

 テツカブラとしては動く物であれば餌に違いないので、今度はこのババコンガ変異種を獲物と定め狩りをすることに決めた。単純なものである。

 咆哮を上げるが、ババコンガ変異種は動じなかった上に大きく跳躍し、自慢のデカい腹を突き出してフライングボディプレスを繰り出す……が、テツカブラはひょいと跳躍して回避。

 そのまま地面に腹からダイブ。口と尻から赤いガスが漏れ、ババコンガ変異種の周りで爆発が起こったではないか。この爆発に流石のテツカブラも気づかず巻き込まれ、顔をやられてしまう。

 

 このババコンガ変異種が何を好んでいるかといえば、火炎草とニトロダケである。

 食べた物をガスとして放出する胃袋を持つババコンガだが、偏った食性により体内が変化、好物を食してさえ居れば体内から可燃ガスとして放出する特性を持つ。

 こうしてボディプレスが外れたとしてもガスが漏れ、それが即座に爆発するのだから油断は禁物だ。でないとテツカブラのようにやれてしまうぞ★

 

 まぁとにかく、顔をやられたことで不意討ちを食らい混乱していることを良い事にババコンガは大きく息を吸い、口から赤いガスを放つ。

 テオ・テスカトルのような、一定時間が経過すると爆破するガスはテツカブラの全身に満遍なく降り注がれ、加えて強烈な悪臭も混ざるのだから辛い。

 嗅覚が敏感でないのは幸いだが混乱しているところへさらに悪臭が混ざることで、今度は悶え苦しみ出したテツカブラ。その暴れ具合はババコンガ変異種を巻き込むほどだ。

 ドッカーンと突き飛ばされギャグ漫画のように壁に激突したババコンガ変異種だが、すぐさま復帰。タフな奴だ。

 

 正気に戻ったテツカブラは激おこぷんぷん状態に陥り、怒りのままにババコンガに向けて突進する。

 しかしババコンガ変異種はこれを跳躍して回避。今度はテツカブラが壁にぶつかるものの、すぐに復帰……するつもりだったが、牙が上手い具合に刺さって動けなくなってしまった。なんてこったい。

 幸運なババコンガ変異種はテツカブラが壁に刺さって動けない事を良い事に最後っ屁をお見舞いしてやろうと、尻を向けて力む。下品さは亜種並のようだ。

 

 しかし忘れているようだが、テツカブラの身体には先ほどの赤いガス……ニトロダケを分解して出来た爆破ガスが降りかかったまんまだ。

 今まさに爆発しようとしたところへ、ババコンガ変異種特有の着火放屁による爆発が加われば……。

 

 

―粉★塵★爆★発

 

 

 狭い洞窟で起こった爆発はその威力を押し潰すようにして圧迫し、ババコンガ変異種はその爆発の勢いでエリア8に続く崖へ一直線。

 まるで漫画のように飛んで行くババコンガ変異種は頭から地面に突っ込み、地面に上半身を埋めて気絶してしまった。

 ……まぁ、埋まらなかった下半身がピクついている所からして生きているようだが。やはりこのババコンガ変異種は幸運……なのだろうか?

 

 そして不運だったのはテツカブラだ。爆発に巻き込まれておきながら生き永らえているとはいえ、今もなお牙が壁から抜けないのだから。

 今の爆発の衝撃をマトモに受けたことで相当のダメージを負ったらしく、抜こうものならしばし休んで体力を回復させる必要がある。腹は減るだろうが。

 

 

―だがしかし、現実は非情である!

 

 

―そのタマ獲ったらぁぁ!

 

―ぐぎゃーっ!?

 

 なお、上記の台詞はイメージです。ドスケルビがテツカブラの弱点である白い尾を突き刺した時に浮かんだ雰囲気です。

 

 今の爆発で戻ってきたドスケルビはこのチャンスを逃しはしない。槍のような角でテツカブラの尾を突き刺した!

 肉質が柔らかくなったテツカブラの尾は大きな弱点であり、ここを突き刺されたテツカブラは強烈な痛覚を負い、そのまま気絶。

 刺された箇所からは止め処なく血が流れていき、このままでは失血量を超えて絶命するだろう。

 

―ドスケルビはその様子を見て、ドヤァ、と胸を張った……ように見える。

 

 小癪な手段だとお思いだろう。リーダーの身分でありながら逃げ惑い、別の大型モンスターに押し付けたのだから。

 しかしそんな知能があるからこそ生き延びたモンスターだっているのだ。ゲリョス然り、古狗竜トライジャギィ然り。

 逃げる事も、他に押し付ける事も、トドメはしっかり刺す事も、この角獣ドスケルビは長生きして学んだから知りえた事だ。

 

 

 

 こうしてドスケルビは、ケルビの群の平和を守ったのだった。

 しかし侮るなドスケルビ!敵はまだまだ沢山いるぞ!ネルスキュラとか、ネルスキュラとか、ネルスキュラとか!

 頑張れドスケルビ!負けるなドスケルビ!ケルビの明日は君に掛かっているのだ!

 

 

 ちゃんちゃん★

 

 

―完―




・赤毛獣ババコンガ
 鮮やかな赤い体毛が特徴のババコンガの希少種。火薬草やニトロダケばかり食したため体毛が赤く変色しており、皮膚は焦げたように黒い。
 炎ブレスや火薬ブレス(爆破やられ)など放ち、またフライングプレスやボディプレスをした際、爆風が体の周りから発生する。
 さらにフン投げのフンが爆弾となっており、また爆発せずそのまま燃え続けるフンも存在している。放屁をした際には尻に引火し、不規則に2足歩行で走り回る。

上記のデータは活動報告にあったものを転載したものです。アイディア提出ありがとうございました!

それにしても、今回もまた「粉★塵★爆★発」が出るとは思いませんでした(苦笑)
ドスケルビは活動報告では飛竜種並みに強いとありましたが、限度を考えてしまいこのような結果となりました(汗)

それではまた次回にお会いしましょう!

○本日のスキルと素材一覧

●コンガBシリーズのスキル一覧
・強運
・ボマー
・腹減り倍化【小】

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・赤毛獣の剛毛
 ババコンガ変異種の毛。ニトロダケと火薬草の成分が滲み出ており、着火すると弾ける。
・赤毛獣の尖爪
 ババコンガ変異種の鋭い爪。この爪は火打ち石のように火を起こす性質を持つ。

なお、ドスケルビは通常のケルビと同じ素材しか剝ぎ取れません。強いて言えば「蒼角」ぐらい。


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part25:「弾甲虫と爆甲虫の生態」

今回は作者オリジナルテーマ「爆破属性を持つゲネル・セルタスとそれをフォローするアルセルタス」です。
前作に引き続き、今回も爆破属性がメインになっちゃってますね(汗)

今回の変異種には読者様のアイディアも一部流用させてもらっています。ありがとうございました!

久々にあのコンビが登場します(笑)


 ギルドクエスト、というものがある。

 これは未知の樹海を対象にした特別なクエストであり、ハンター毎にその依頼内容は変わってくるという奇妙なクエストだ。

 何せ未知の樹海というだけあってその全貌は未だハッキリと解っておらず、生態系も謎のまま。むしろ生態系が解き明かされることは無いと思われるぐらい、謎に包まれている。

 

 そんな未知の樹海にハンター達が足を踏み入れる理由は生態調査だけではない。古代の遺産、すなわち「発掘装備」がお目当てなのだ。

 未知の樹海の各地には遺跡らしき痕跡があり、時にはその深部に隠された財宝を手にすることができる。その財宝こそが「発掘装備」である。

 これらは古代のハンター達が使われていた武器や防具が眠っていたもので、見た目は現代のものと同じに見えても性能は多種多様といった謎使用となっている。

 しかし発掘当初は錆びておりとても使える品物ではないが、ナグリ村に住む土竜族の技術により研磨されることで初めて使用する事ができる。

 その性能はピンからキリまであり、時には強大な力を宿すこともある。古代のハンターもまた性能美を追求していた、ということだろうか?

 

 

 そしてその「発掘武具」があるからこそ多くのハンター……特に俗に言う「炭鉱夫」達が未知の樹海に挑むのだ。

 

 

 

―――

 

「発掘ーの為ーなーらエーンヤコーラ」

 

「お宝ーの為ーなーらエーンヤコーラ」

 

 ふー、今日もツルハシの良い音が耳に響くぜ。どらどら、何か掘り出し物は……。

 

「見ろよカタアイ、天空の結晶獲ったどー」

 

「マジかアイボー。俺なんか鉄鉱石だぜ?」

 

 結構レアな鉱石だよな、天空の結晶って。鉄鉱石も鉄鉱石で重要だ。発掘した武具って大量の鉄鉱石がいるからなぁ。

 

 俺ことカタアイとアイボーはツルハシを振るっているが、これでも立派なハンターだ。所謂炭鉱夫ハンターってやつだが。

 俺達は二人で未知の樹海を訪れており、俺の下で発注されたギルドクエストに挑んでいる最中だ。狩猟対象はバサルモス亜種。

 ギルドクエストは何が起こるか、そして何が出てくるのか解らないので、とりあえずフル装備。俺が操虫昆とフルフルUで、アイボーはハンマーとスキュラS。

 

 けど未知の樹海はたまーに発掘武具や研磨剤がザクザク取れるお宝エリアが発見されるし、樹海でないと取れない結晶とかも多いのでツルハシは持参。

 俺達にとって武器の次に手にしっくりと来るのは、やっぱツルハシだよなぁ。こっちに来てからも採掘が多かったし。

 

 採掘も終えて次のエリアに足を運ぼうとしたら羽音と足音が聞こえてきた。

 ブハナブラにしては大きい音に警戒した俺らは手のサインだけで交わし、その辺のクンチュウを避けながら物陰に潜む。

 

 何が出てくるかと二人して物陰から顔を出して見たら―――。

 

「おいカタアイ、ゲネル・セルタスって知っているか?」

 

「知っているぜアイボー。緑色(・・)のデカい甲虫種だろ?」

 

「だよな。ゲネル・セルタスってあんな(・・・)真っ赤な(・・・・)()していないよな?」

 

 そうだぜアイボー、お前は間違っていない。ついでに俺も見間違いじゃないって解った。

 何せ俺達の見ているゲネル・セルタスは、身体が驚く程に真っ赤なんだからな。

 

 こちらに気づいていないようなのでよーっく観察してみるが、見た目はゲネル・セルタスとほぼ変わりない。

 尻尾の先についた鋏が肉厚で蟹の鋏みたいになっていて、甲殻の表面は滑りを帯びてテカっていた。あれは……油かなんかか?

 とにかくあれはゲネル・セルタスの亜種かなんかに違い無いだろう。これってかなりレアじゃね?

 

「なぁアイボー、なんとか落し物を採取してみっか?」

 

「そうだな、様子を見ながら戦えば最悪死にはしないだろ」

 

 ギルドクエストに乱入してきた敵は倒さなくていいんだが、こんな初めましてなモンスターを目の当たりにしては調べざるを得ない。

 落し物か何かを拾って、ギルドに貢献できるかもしれないと思った俺らは、武器を持ってゲネル・セルタスの背後を取ろうとする―――が。

 

―ブウン、と羽音を響かせながら、赤くて螺旋状の角を持ったアルセルタスが目の前に下りてきた。

 

 えーっと……。

 

「「ど、どうも」」

 

 と挨拶したら赤いアルセルタスが声をあげ、その音を聞いてゲネル・セルタスがこっちに気づいちゃったよ。

 まぁ俺らもハンターだから、物事は上手くいかないってのは解っていたんだが……仕方ないからやるだけやるとしますか!

 

「行くぜアイボー!」

 

「おうよカタアイ!」

 

 

 

―――

 

 未知の樹海で発見された赤いゲネル・セルタスとアルセルタス。

 この2匹は後に、前者が「爆甲虫(バクコウチュウ)」、後者が「弾甲虫(ダンコウチュウ)」と呼ばれるようになる。

 この2匹の二つ名の由来は戦い方にあるので、この2人のハンターとの戦いを見て知ってもらおう。

 

「あ、足が、足が引っかかった!」

 

「ああもう俺が囮になるから焦るなアイボー!」

 

 ハンマーを構えたまま歩いていたアイボーが足元の粘着液に引っかかり慌てるが、自ら囮になることで落ち着かせようとするカタアイ。

 白い弾のようなものを無造作に発射するアルセルタス変異種を背負ったまま歩くゲネル変異種の前を横切り、注意をこちらに向ける。

 案の定カタアイに狙いをつけたゲネル変異種は尾の鋏を打ち鳴らし突進を仕掛け、その間にアルセルタス変異種がカタアイに向けて燃え盛る弾を三方向に発射。

 しっかり視界に捕らえていたカタアイなら突進も燃える弾も避けられたが、地面に着弾してもそのまま燃えていた。

 

 このアルセルタス変異種は草食性となっており、主食はネンチャク草と火薬草だ。

 なので、原種のように腐食液を放つことはなくなったが、ネルスキュラのような粘着液や先ほどの燃える弾を発射するようになった。

 これらが地味に厄介で、粘着液で足を引っ掛ければゲネルの突進の餌食になり、火炎弾に当れば火傷状態になる。しかも広範囲かつ無造作にばら撒くのだから性質が悪い。

 ゲネルとアルセルタスだけでなく足元にも注意しなければ、アイボーのように粘着液を踏んでしまい、足を取られてしまう。

 

 そして当然ながら、ゲネル・セルタス変異種も厄介な点が増えている。

 ゲネル・セルタスは自身の足を狙っているカタアイを薙ぎ払おうと、緩慢ではあるが全身を使って尾を振り回す。

 この時、普通のゲネル・セルタスとは違う箇所がある。それは尾を振り回した際に鋏から漏れる液体にあった。

 

「まったく、爆破液とかどこのリーゼントさんだよ……!」

 

 カタアイが地面にばら撒かれたそれを見ながら愚痴を言いつつ、振り回し攻撃を前転することでスレスレながらも回避する。

 

 このゲネル・セルタス変異種の主食は、のりこねバッタ、ボンバッタ、そして非常食としてアルセルタス変異種。

 振り回しによりばら撒かれたオレンジ色の液体は、粘着液と爆薬が合わさった、ブラキディオスと同じ爆破液なのだ。

 しかも何を食したのかは解らないが油のようなものを蓄えているようで、これを高圧ブレスの水代わりにし、直前で引火させ巨大な火球として発射する。

 高いパワーだけでなく、油を使った火炎に粘着性のある爆破液と絡めても充実。動きが遅いとはいえこれは面倒極まりない。

 とはいえ甲殻の表面に滲んでいる油は自身の足回りにも影響が出ているらしく、突進の勢いで滑ることも多々あるが。

 

 とにかくこのゲネル・セルタスとアスセルタスは、動きだけでなく足元にも注意しなければならないという、厄介と厄介の二乗で性質の悪い連中となっている。

 もちろん合体時の連携攻撃(足から粘着液を滲ませゲネルの油を無効化している)も強力だが、何よりもアルセルタスが個別に動く方が厄介だ。

 

「よし、アルセルタスが崖に刺さった!」

 

「集中攻撃して倒すぞ……って何ぃっ!?」

 

 カタアイがアルセルタス変異種の突進を引きつけ崖に誘導し、まんまと角が突き刺さってラッキー、と思った所へアイボーが叫ぶ。

 アルセルタス変異種は身体を横に回転させ、螺旋状の角で崖へと掘り進んだではないか。2人はそのまま奥へと潜っていく様子を呆然と眺めるかなかった。

 

 アルセルタス変異種が食す火薬草の根は長い。変異種であるアルセルタスはこれを根ごと食す為、前脚の鎌と角を変形させるほどに掘り進む術を手に入れたのだ。

 その結果が先の掘削機能。火薬草が多めに生える火山地帯へ適応し熱で変形した角を生かし弱点を克服し、さらなる攻撃への伏線を可能とした。

 

「下から来るぞ、気をつけろ!」

 

「え、もぎゃーっ!」

 

 ボコリと盛り上がった地面を目撃した頃には遅く、地中からアルセルタス変異種が角を突き出し、カタアイを吹き飛ばした。

 そのまま前脚の鎌を上手につかって地中から這い出てきた。縦横無尽とはまさにこの事だろうか。

 

 持ってきてよかった生命の粉塵……そう安心していたのも束の間。

 

―シュゴッ!

 

「あぢゃーーーっ!?」

 

 気をとられていたアイボーはゲネル・セルタス変異種の口から放たれた火炎玉をモロに食らう。

 彼の装備しているスキュラSシリーズは火に弱いこともあり大ダメージを負う羽目に。それでも鎮火させようとゴロゴロと転がる。

 

 吹っ飛んで倒れるカタアイ。火達磨になってゴロゴロ転がるアイボー。

 恐らくは合体の為に動きを止めたのだろうが、そんな2人の前で動きを止める様は、まるでもがく姿を見下しているかのよう。

 ゲネル・セルタスの上にアルセルタスが乗っかるとすぐに攻撃態勢に入るが。

 

 

 ようやく態勢を立て直した2人がとった行動は……。

 

 

「逃げるぞカタアイ!」

 

「おうさアイボー!」

 

「「別エリアに向けて全速前進だ!」」

 

 まぁ賢い判断ではある。戦いと焦りで忘れかけていたが、2人が受けているのはあくまでギルドクエスト。この2匹は討伐の目的ではない。

 バサルモス亜種を探し出す為にも、まずは2匹から逃げる必要がある。幸いな事にこの先のエリアは入り組んだ細い道である為、あの巨体が入る余地は無い。

 さらに幸いな事に、背を向けて逃げても2匹が追う様子は無く、このまま逃がしてくれるようなので2人は全速力で走りだす。

 

 

 不運だったのは、バサルモス亜種を見つけた時に再び爆甲虫と弾甲虫の2匹に出会ってしまったことか。

 とりあえずギルドクエストは達成できた、つまり生還した事だけは言っておこう。

 生き残った2人がどうなったのかは、読者のご想像にお任せする。少なくとも、先ほどの戦いで大怪我を負ったのには違いないが。

 

 

 

―――

 

 発掘武具は確かに強力なものが多い。しかしそれを探すまでの道のりは長く、厳しいものになる。

 そもそも未知の樹海の何が怖いかといえば、どんな大型モンスターが出てくるか解らない事だ。

 ギルドクエストを発注する側であるギルドですら、生態系を正確に把握することは難しいとされている。

 しかし今回のようにまだ見ぬ変異種を見つけ出すことはかなり稀で、地底火山に出没するようになった鎧蜘蛛(よろいぐも)もまた、未知の樹海での発見報告は少ない。

 あるいは、発見しても逆に狩られてしまった者が多いからなのかは……誰も知らない。樹海で無くなるハンターは増える一方なのだから。

 

 

 炭鉱夫コンビが出会った「重厚の爆弾魔」及び「鉄砲玉の兵士」は、あれ以降に姿を現していない。

 もしかしたら地底火山に移ったのかもしれないし、ハンターか大型モンスターに狩られたのかもしれない。

 

 

 

―ただ、彼らの痕跡である爆破痕が点々と残っている以上、生き残っている可能性が高いだろうが。

 

 

 

―完―




一週間延ばしてまで練りに練って戦闘描写をよくしたかったのに、結局ダメでした(涙)
もっと伝えたいことがいっぱいあったのですが、作者の文章力ではここまでです。悔しい!

そんなわけで爆甲虫と弾甲虫です。ちなみに一つ目の文字をあわせると「爆弾」となります(笑)
元々作者1人で妄想していたのですが、アルセルタスやゲネル・セルタスに関する読者様のアイディアも摘発され、せっかくなので合わせてみました。
全て採用できず申し訳ありませんが、いかがだったでしょうか?不満なら別のpartで新しく書こうと思います。

せっかくなので変異種2匹の簡単な紹介と、スキル及び素材の一覧を書いておきました。
ではまた次回をお楽しみに!もしかしたら更新が今日から二週間後になるかもしれないです(汗)

●変異種紹介

弾甲虫アルセルタス変異種
ネンチャク草や火薬草を主食とした草食性のアルセルタス。熱により変形した角を持つ。
空気に触れると高温を発する液と粘着性のある液とを使い分けて戦闘に応じる。
また螺旋状に変形した角による突進も驚異的で、時には地中潜行を行う事もできる。

爆甲虫アルセルタス変異種
のりこねバッタやボンバッタ、弾甲虫を主食としたゲネル・セルタスの変異種。
特殊な油を体内で循環させており、高熱の冷却やフェロモンガスの調合に使われている。
油と粘着液と爆破成分を織り交ぜることで、爆破液をばら撒いたり火炎玉を発射したりと、様々な搦め手を使いこなす。

○本日の防具と素材一覧

●セルタスBシリーズのスキル一覧(共通)
・砲術師
・ボマー
・罠師
・鈍足

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・弾甲虫の螺旋角
 弾甲虫の特徴的な角。鋭い上に硬度が非常に高く、捻れば岩盤をも貫ける程。
・弾甲虫の堅殻
 弾甲虫の外殻。表面はザラついていりるが、代わりに軽くて丈夫な素材になっている。
・爆甲虫の堅殻
 爆甲虫の分厚い外殻。衝撃に強いだけでなく耐熱性にも優れており、防御力抜群。
・濃縮重油エキス
 爆甲虫の体内で循環する油のようなエキス。空気に触れると引火し悪臭を放つ。


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part26:「雷牙竜の生態」

今回のテーマは「雷属性を纏ったベリオロス」です。
活動報告に記載されていた読者アイディアを参考にさせていただきました。ありがとうございます!

―お願い―

どうか6/19にあった記載ミスについて触れないでください(土下座)


 今、世間ではある絵師が名を馳せている。とはいっても著名というわけではなく、静かなブームという程度だが。

 その絵師は若き頃にハンターを務めていたが、あるクエストで大怪我を負った日を境目に絵を描き始めたという。脚が悪くなっただけなので生活に支障は無い。

 絵師の名はクーカ。今年で齢60歳を迎えるご老公で、彼が20年間書き続けた絵画は素晴らしい出来栄えとなっている。

 

 例えば、草原の中1匹だけ佇んでいるケルビの絵。

 

 例えば、崖から飛び降りるリオレウスとリオレイアの絵。

 

 例えば、溶岩から這い出るグラビモスの絵。

 

 アイルー達がワイワイと踊っているイラストは子供達に大人気で、「踊る獣人」というシリーズが流行しているほどである。

 

 そんな絵画の中でクーカがもっとも力を込めたのがユクモ風に描かれた「風と雷のベリオロス」だった。

 風のベリオロスは亜種である風牙竜を指すから解るが、この雷のベリオロスを知る者は居ない。知るのは、偶然この雷のベリオロスに遭遇し、致命傷を負わされたというクーカのみ。

 かつてクーカが大怪我を負って療養中に描いたというこの絵には独特の作風と力強い印象が秘められており、クーカは芸術家達の間で名の知れた絵師となったのだ。

 

 

 そしてある日、クーカにとって転機が訪れた―――雷を放つベリオロスがユクモ地域の砂漠で目撃されたというのだ。

 

 

 

―――

 

「爺さん、本気で付いていくつもりか?」

 

「当たり前じゃ。雷牙竜(ライガリュウ)を再びこの目で見るまで帰らんぞ」

 

 確かに雷を操るベリオロスなら「雷牙竜」の二つ名があっても可笑しくないが、グラビSシリーズにガンランスを持つハンター・ライーザは困ったように頭を掻く。

 依頼主であるこの老人が噂のクーカであることに驚いたが、「疾風迅雷」と名づけられたクエストは高い難易度を誇る。

 何せベリオロスの亜種とその変異種らしきモンスター2匹が同時に出現したというのだ。放っておいたら近隣の村に被害が及ぶこともあり、ギルドは精鋭のハンターを呼び集めた。

 

 それがライーザを含めた4人のハンターがメンバーを務める、ロックラックが本拠地のギルド「砂漠の鮫」である。

 砂原といった狩猟フィールドでの活動を得意とする彼らは特性のキャラバンに乗って各地を移動しているという。

 ロックラックのギルドからの評価も高く、彼らにベリオロス2匹の狩猟を依頼したのだ……依頼主であるクーカをオマケにして。

 

 始めはメンバーも含めて足手まといになると渋っていたが、元ハンターに加え日頃から筋肉トレーニングを怠らないという彼は、歳に似合わぬ強さを持っていた。

 護身用に持ってきた片手剣も上等なもので、ジャギィぐらいなら簡単に撃退できる力もある。力自慢のメンバーに腕相撲で勝てたこともあり、付いて来るだけの資格はある。

 

 とにかく目標であるベリオロスを探すべく、灼熱の日差しの中歩き出す。ちなみにクーカはオトモアイルー4匹が担ぐ輿に腰掛けていた。

 目的は討伐または捕獲と条件は緩いものの、果たして無事に達成し帰還できるのか、そもそも雷牙竜を発見できるのか。それが気がかりな4人であった。

 

 

 

――

 

 雷牙竜ベリオロス変異種。その名の通り、雷を操るベリオロスの変異種である。

 とはいっても原種の氷牙竜からの派生ではなく、その亜種である風牙竜から派生したものなのだという。ややこしい。

 何故風牙竜が雷属性を纏うようになったかといえば、甲殻に変異を生じたことから始まる。

 帯電しやすい性質となった青白い甲殻は、砂漠地帯特有の乾燥した空気と摩擦によって静電気を蓄積し、一定の電力が蓄電されると放電する性質を持つようになったのだ。

 これにより風牙竜にはない雷撃を繰り出すようになったものの、電力を消費すると疲労するという致命的な弱点も持ち合わせる、いわば諸刃の剣。ジンオウガのようにシビレ罠の電力を吸収できないし。

 

 そんな雷牙竜はどういうわけか風牙竜をライバル視し、風牙竜もまた自身の派生種である雷牙竜をライバル視している。

 お互いに別種ではなく同種だと捉えているのか、雄同士だと激しい縄張り争いを引き起こし、竜巻と雷が入り乱れる大決戦と化するのだ。

 竜巻が舞い雷が入り乱れ、2匹の牙竜(正しく飛竜種だが)は牙を剥き出しにし取っ組み合って戦う。

 

 

 

―――

 

 凄い光景だった。そうライーザは目の前の光景を目の当たりにして思った。

  砂原の砂を巻き込む竜巻が塔のように聳え、そこからバリバリと電撃が流れている。

 竜巻と雷撃が消えたと思ったらそこにはライーザ達が知る風牙竜と取っ組み合っている青白いベリオロスが目に入る。激しい戦いには違いなかった。

 恐らくあの青白いベリオロスこそが、クーカ老人が言っていたベリオロスの変異種「雷牙竜」だろう。全身から雷光を走らせる姿はまるでジンオウガのようだった。

 

「おおぉぉぉ……数十年ぶりじゃ……っ!」

 

 後ろの岩陰では双眼鏡を持って観戦しているクーカ老人とビビって輿の後ろに隠れるアイルー達。まぁあの場所なら見つかりにくいだろうと、ライーザは放っておくことにした。

 

 ここで仲間と相談したのだが、縄張り争いをしているし放っておけばいいのでは?という意見が挙がったが、それは脚下となった。

 何せあの2匹の争いは広範囲に竜巻と雷撃が入り乱れる為、もし人の住んでいる場所に近づいたらとんでもないことになる。

 せめて片方だけでも討伐すべきではないかと提案したライーザに他3名が同意し、では狩猟しなれている風牙竜に3人が集中攻撃、ライーザが雷牙竜の気をひきつけることで意見を纏めた。

 

 

 

―では、狩猟開始!

 

 

 

―――

 

 風牙竜と雷牙竜。この2匹の争いには執着に似たようなものがあった。

 排他というよりは決着を求めているかのようなガチンコ勝負。時には牙を見せあい、時には身体をぶつけ合うなど、時間が経つにつれて激しさを増していく。

 だからだろうか。こやし玉などで隔離し囮で気を牽き付けようとハンター達が奮闘するも、それらは殆ど無駄に終わっていた。

 何せ片方が悪臭でエリアを移動すればそれを追いかけ、背を向けようものならハンターごとまとめて襲いかかる。けむり玉で視界を隠しても、第六感でもあるかのように的確に攻撃してくる。

 分離しても再び合流し、ハンターというよりはベリオロス同士の戦いに発展させ、その二次災害としてハンター達に被害が及ぶのだ。

 

 しかも近づいて解ったのだが、この2匹の攻撃範囲は広く、そして意外な事に連携攻撃にも発展しやすい。

 風牙竜が砂塵竜巻を起こせばそれに合わせて雷牙竜が電撃ブレスを発射し、雷を入り混ぜた竜巻となって周囲に襲いかかり。

 剣で争う騎士のように尾を右へ左へと振ってぶつけあい、それが風圧と電撃を生じ周囲を荒す。

 間に割り込もうものなら両者がタックルを繰り出して押し潰し、閃光玉で目くらまし状態になれば竜巻と電撃を生じ、それに乗って飛び上から雷と砂塵を降り注ぐ。

 

 

 なんていうか、まるで災害のような連中だった。古龍種に劣るだろうが、広範囲の巻き添えは面倒の一言に尽きる。

 そんな2匹と4人の乱戦(?)を双眼鏡越しで見て「あの時と同じじゃ……」と感涙の涙を浮かべて観戦するクーカ老人は暢気で羨ましい限りだろう。

 

 

 

 これ以上は詳しく語らないが、とりあえず風牙竜の討伐には成功した。

 雷牙竜は風牙竜が倒れるのを見た後、どこかへ飛んで行ったという。追うにもハンター達は気力を使い果たしてしまい、とても走れるようには見えなかった。

 依頼主であるクーカ老は満足したようだし、撃退したという証拠でもある雷牙竜の爪も採取済みな為、ギルドも了承はするだろう。納得はできないだろうが。

 

 

 

 クーカ絵師の新作「疾風迅雷」と共に世間に広まった「雷牙竜」なるベリオロス変異種の噂。

 風牙竜が現れし所に雷牙竜ありきと伝えられたその存在は、ごく僅かなハンターの目に留まっていると聞く。

 

 

 

―完―




中途半端になってしまい申し訳ありません。たまにはサッパリさせようと思ったのですが(汗)
2匹揃った姿はまさに「風神雷神」!それに痺れて今回の変異種を書かせていただきました。

それでは皆さん、変異種紹介とスキル・素材一覧を記しますが、また次回にお会いしましょう。

●変異種紹介
雷牙竜ベリオロス変異種
甲殻が変異し、乾燥した空気と摩擦により静電気を発生できるようになったベリオロス亜種の変異種。
行動の度に電気が蓄積され、ある一定の蓄電により雷を纏うようになる。また雷攻撃を受けるとダメージは受けるものの微量だが給電される。
一番空気が乾燥する砂漠の日中などに行動する他、風牙竜を積極的に攻撃する。

○本日の防具と素材一覧

●ベリオDシリーズのスキル一覧(共通)
・雷属性攻撃強化+2
・逆境
・スタミナ回復遅延

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・雷牙竜の重殻
 雷牙竜の背面を覆う外殻。強度が高く蓄電機能も高いが、同時に発電量も多い。
・翡翠色の重牙
 雷牙竜の美しい翡翠色の牙。これで作られた片手剣は上質な雷属性を宿すという。


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part27:「凍角竜の生態」

今回のテーマは「凍土に適応したモノブロス」です。実際は氷海なんですがね(汗)
今回もモンハン4Gの設定をお借りしています。現在は調査段階、といった設定です。

それと、今回は密漁者のようなものが登場します。これも読者様のアイディアです。ありがとうございます。


 ハンターズギルド―――それはモンスターから人類への被害を最小限に抑え、かつモンスターの絶滅を回避する為に設けられた組織である。

 時に災害クラスの脅威が襲い掛かる弱肉強食の世界ではあるが、それら全てが合わさってこそ自然が成り立つ。

 そんな世界に上手く適応し生き残る為、人は知恵と力を用いて中立を保とうとする。故にモンスターの殲滅は在りえないし、人類が頂点に立つ事も在りえない。

 その為にはハンターのようなモンスターと戦える人材を集め、時には支援し、時には罰して自然界のバランスと人類を守るのだ。

 

 しかし悲しき事かな。ルールを遵守する者あればルールに違反する者あり。

 世の中には、ハンターでありながらハンターズギルドの決まりを尽く破り、裏で暗躍する密漁ハンターも存在しているのである。

 

 密漁ハンターとはその名の通り、密にモンスターを漁り、本来自然に帰すべきモンスターの肉片を根こそぎ奪う連中の事である。

 ルール無用の極悪装備や異常な量のアイテムはもちろん、クエストなど関係ないとばかりにモンスターを大量に殺し、膨大な量の素材を闇市場で売りさばく。

 ハンターズギルドが派遣したギルドナイトの暗躍により駆逐されているものの、莫大な利益に目が眩み堕落したハンターは増加の傾向にある。

 

 そんな密漁ハンターの新しいビジネスが、近年発見例が増えているという「変異種」だ。

 変異種とは成り立ての亜種や希少種のようなもので、言い換えれば極僅かな個体数でしか確認されていない、下手をすれば希少種以上にレアな存在である。

 特に近年は「自分だけの防具が欲しい」と変異種の素材で作られた特別な防具を求め、禁止されている闇市場に赴く若きハンターが急増し需要が高まっている。

 一攫千金を狙うなら変異種狩り。それが密漁ハンター達の話題である。

 

 

―――もっとも、それは成功すればの話だが。

 

 

 

―――

 

 近年、ハンターズギルドの拠点が1つ・バルバレは新たな管轄地域を定め出した。それが砂漠地域である。

 ハンター達にはまだ知れ渡っていないし立ち入りを禁止している中、ハンターズギルドはギルドナイトや最新装備を持つ調査団を派遣して探索を続けている。

 現在確認されているのはガレオスやダイミョウザザミ、そしてディアブロスとモノブロスが確認され、徐々にデータが集まりつつあるとか。

 

 そんな中、ハンターズギルドは意外な地域で変異種を目撃することになった―――青白いモノブロスが氷海に現れたのである。

 

 発見したのはフルフルを討伐しに訪れたハンター4人組。彼らの報告を元に調査団を派遣し、その全貌が明らかになった。

 どうやら砂漠地域でディアブロスとの縄張り争いに敗北したモノブロスが氷海に逃げ込み、そのまま環境に適応してしまったらしい。

 雪と氷に溶け込むような青白い甲殻に真っ青な角を生やしたモノブロス変異種を、ギルドは「凍角竜(トウカクリュウ)」と命名した。

 この凍角竜はHR10以上のハンター4人を撃退するほどの実力者であることがわかり、現在の氷海の支配者として君臨。一時氷海への立ち入りを禁止した。

 

 

 

 しかし、ハンターズギルドが議論を重ねる最中、密猟者ハンターが目を付けたのである。

 

 

 

―――

 

 密漁ハンターのベベッサは、氷海へと向かう船の上でケラケラと笑う。

 

「おいおいベベッサ、これから狩りだっつーのに笑っているんじゃねーよ」

 

 そんなベベッサに寄り添い、隙あらばその乳房を揉んでやろうと肩に腕を回す男・ロイネイは忠告する。もっとも、彼も笑っていたが。

 ベベッサはそれでも笑いを止めず、女体だからとセクハラしようとするロイネイを止めることもしなかった。

 

「だってよ、久々の変異種狩りなんだ。それにあのガキンチョの顔を思い出しただけで……ブハハハ!何が『俺は特別なハンターなんだ』よ!」

 

 せっかくの美人面が台無しになるほどの大爆笑。それに釣られて三人の仲間がゲラゲラと笑い出した。

 思い返すのは少年の情けない面。変異種に遭遇したと自慢する奴を色香で路地裏に誘い込み、男達の凶悪面で脅した時のあの顔は彼らにとって笑いものだった。

 そしてベベッサ・ロイネイ・ゴロ・ワンラダンの4人が率いる密漁団「闇烏(ヤミガラス)」の準備は万全。古龍種はともかく大抵のモンスターを狩れる自信がある。

 

 これで笑わない方が可笑しい。やっと転がり込んできた大金が目の前にあると思うと、4人はゲラゲラと笑い出す。

 

 

 

 彼女らの目標は凍角竜(とうかくりゅう)モノブロス変異種。

 ハンターズギルドが仕掛けた網を潜り抜けるだけの技量は当然持ち合わせていた。

 

 

 

―――

 

 かつて、ディアブロスに敗北し砂漠地域から追い出されたモノブロスが居た。

 夜間になると寒冷地帯になる地域に適応する彼にとって、氷海への適応は割とすんなりしたものであった。

 弱点である雷攻撃を放つフルフルや強大な龍属性を持つジンオウガ亜種などが生息する激戦区故に生存競争への適応は厳しいものではあるが……モノブロスはそれらを駆逐するほどの強さを持っていた。

 

 そして彼は、青白い甲殻と蒼い角を持つ変異種へと進化を遂げたのである。

 

 ここでモノブロス変異種の特徴を述べるとすれば……はっきり言えば身体能力の強化である。

氷や雪は砂とは違い、時には岩の如く固く、時には水となって滑りやすくなると、下手をすれば砂地よりも不安定な足場となる。

 モノブロス変異種はそれを克服する為、足腰を鍛える事から始まった。自慢の突進も足を滑らせて転んでしまい、かなりの痛手を負ったからだ。

 

 そして雪や氷を活用するという事。これは原種にもある「突進後の尻尾薙ぎ払い」やバインドボイスを活用したものだ。

 薙ぎ払い攻撃は地味に厄介なスクアギル対策として、バインドボイスによる氷柱攻撃も洞窟内での戦いで便利だと理解した。

 

 ちなみに甲殻が青白くなったのは保護色によるものだが、角が蒼い理由は不明。食性が変ったからだと思われる。

 

 

 

 そんなモノブロス変異種に、密漁ハンターの魔の手が迫ろうとしていた。

 

 

 

―――

 

 ベベッサ達の武器は、全て闇市場の鍛冶屋で作られた違法武器となっている。防具はカモフラージュも兼ねて表でも作られるようなものだ。

 特徴はなんと言っても、武器から滲み出る高濃度の毒物。毒、麻痺毒、睡眠毒の濃度は定められている濃度の数倍を越える。

 一滴でアプトノスを黙らせるほどの毒を供えたこの武装と、大量の罠で確実に仕留めるのが彼女らのスタンスだ。リーダー格のベベッサが毒の弓、ロイネイが麻痺の双剣、ゴロが麻痺毒の狩猟笛、ワンラダンが睡眠毒のハンマー。

 

 

 一撃でも食らえば悶絶するこの状態異常を持って戦えば勝機は高い……そう思われていた。

 

 

 4人はモノブロス変異種に圧倒されていた。

 

「ロイネイがやられたでぇ!」

 

「ほっときな!ワンラダン、早く罠を……そっちっ!」

 

「うごばっ!?」

 

 モノブロスだと事前に聞いていたから、バインドボイスによる氷柱よりも突進からの激突を期待して洞窟へ誘い込んだのだが……その予想は無駄に終わった。

 

 ディアブロスにもいえることなのだが、角竜は勢い余ってブレーキが利きにくいという特性もある。

 しかしモノブロス変異種はそれがない。発達した足腰と氷雪の大地に適応した鋭い爪は雪原だろうが氷上だろうがピタリと止まれるのだ。

 さらにガリガリと氷を削りながら強引にUターンし、隙を見せることなく再度突進するという荒業も披露。突進後のブレーキと薙ぎ払いを狙って側面へ回りこもうとしたロイネイの期待を裏切り、吹き飛ばす結果となった。

 

 一回でもベベッサ達の攻撃が通ればいいのだが、それを許さないほどにモノブロス変異種の猛攻は激しい。

 バインドボイスは黒轟竜のように衝撃波を帯びてハンター達を吹き飛ばし、尾を薙ぎ払って雪玉を三方向に飛ばし、角を突き刺して巨大な氷をぶつけるなど多彩な攻撃を見せ付ける。

 しかも元々の身体能力が高いからか動きの1つ1つが早く、隙も少ない。下手に剣士が近づけばロイネイのようにやられてしまう。

 近づくことすら難しく、オマケに甲殻が硬い為にベベッサの毒矢が貫けないという最悪の事態にまで陥っている。

 

 罠を張ろうものなら突進の餌食となり、閃光玉を使えば地面に潜ってエリア移動。

 大型モンスターにある隙がほとんどなく、当らなければ状態異常攻撃も通用しない。素のステータスが並のモンスターを上回っている。

 

「まさかG級だったなんてね……!」

 

 仕方ないとロイネイを置き去りにして逃げようとするベベッサは、残る手下2人を連れて愚痴る。

 密漁ハンターはその所業故にG級ハンターとなりえる逸材はいない。道具に頼り切った彼らは技と身体を鍛えようとする努力が無いからだ。

 G級となれば幾ら違法武具を持ったとしても相手にするのは厳しい。懸念していたとはいえ、そうと解ればずらかるのが一番。

 幸いな事にペイントの臭気からしてモノブロス変異種は追って来ないと解り、ベベッサは安堵の息を零す。

 

 

―そう思ったのも束の間。

 

 

「が」

 

「ぺ」

 

 後ろで手下2人の声がした。悲鳴とも叫びとも言えない声が。

 そして仮にもハンターであるベベッサは、その僅かな間に感じ取っていた。自分達以外の人物の存在に。

 彼女が振り向いた直後に見えたのは4人の人物と、それぞれの防具につけられたエンブレム。

 

 

 

―ギルドナイトと呼ばれる一団の紋章だと気づいた時、彼女の意識は途絶えた。

 

 

 

―――

 

「ち、ちくしょうあいつら、俺を置き去りにしやがって……!」

 

 ずり、ずりと無残な足を引きずってロイネイは物陰に隠れながら歩く。

 スクアギルに感づかれないようしっかりと止血したとはいえ、いつモンスターが襲ってこないかと考えると、怒りよりも恐怖が勝ってしまう。

 

 実力ではベベッサに劣るとはいえ、豊富な経験を持つロイネイは薄々気づいていた。変異種狩りは一攫千金でしかないと。

 その実は成功例が極端に少なく、変異種狩りを行おうとして失敗し、命を落とした密猟ハンターが大半を占めている。いわば博打のようなものだ。

 密漁が上手くいっているからといって調子に乗っていたツケだとロイネイは思った。ベベッサは理論より感情で行動するタイプだからいつも引っ張られるんだと愚痴を零して。

 

「と、とにかく逃げ……っ!?」

 

 

 さて、ここで問うとしよう。

 

 

 逃げ出した直後にギルドナイトと遭遇したベベッサが不運なのか。

 

 

―ギオオォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 それとも怪我を負って逃げている所へ凍角竜と遭遇したロイネイが不運なのか。

 

 

 

 少なくとも、法を犯した者が露見すれば碌な事にならないのは、どの世界でも言えることだろう。

 

 

 

―完―




脅されたハンターが誰かって?誰でしょうねぇ(コラ)

今回の変異種は久々のモノブロスです。ディアより好きなんですが、2Gでどれだけ苦戦したことか(涙)
純粋な身体能力の高さに加え、このモノブロスは隙が少ないのが特徴です。ブレーキが凄いです。
オマケに雪玉も飛ばせる優れもの。そんなモノブロスでしたが、いかがだったでしょうか。

今回もアッサリしてしまいましたが、また次回を楽しみにしてくれたら幸いです!

○本日の防具と素材一覧

●モノブロFシリーズのスキル一覧(共通)
・回避性能+2
・スタミナ急速回復
・ランナー
・なまくら
・見切り-1

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・凍角竜の硬甲殻
 凍角竜の青白い甲殻。表面は鑢のようにザラザラとしており、これで分厚い氷を削る。
・蒼穹の角
 モノブロス変異種の角。恐ろしいまでに青いそれは別名「蒼の力」とも呼ばれているとか。


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Extra7-1:「未知なるG級」

PV3を見たら妄想が止まらなくなったんです。乱雑でしょうが即座にかけました(笑)

これが私なりの、そして読者なりのモンスターハンターの新しい楽しみ方だと思いたいです(笑)

後書きにて発表があります。



―またG級が出た。

 

―今度は原生林に現れたらしい。

 

―物凄く強いガララ・アジャラが出たそうだ。

 

 バルバレギルド管轄の集会所に顔を出すハンター達の間で囁かれている噂だ。

 動く集会所バルバレとはいえ、新たな地域への調査は徹底しており、新たな地域はもちろん新たなモンスターの生態への調査は欠かさない。

 そんなバルバレギルドが当初から実施されているのが「G級ハンターの養育とG級モンスターの調査」。

 養育とはいってもこちらが支援するわけではなく、バルバレで登録されているハンターがG級になれる素質がある場合、緊急クエストと言う名の試練を設ける。時が経たなければならないのがネックだが。

 もう1つの調査が本腰。世の中は常に強弱の差が生じており、強いモンスターが出没したとなれば抑制をかける必要があるからだ。

 何せ迂闊にハンターを投入しようものなら死亡者が増えるのは必然。そして当然ながら行商やキャラバンも被害に合うだろうから、一時ギルドが立ち入りを禁止させる。

 

 そしてそのG級モンスターの調査を行うのが―――ハンターズギルドの精鋭部隊「ギルドナイト」の出番である。

 

 

 

―――

 

(霧が濃いな)

 

 早朝の原生林に立ち込める寒気が霧の水分と合わさることで寒気を覚えるが、青年アークザットにとっては大した事ではない。

 むしろ問題なのは視界だ。周囲を白く染める霧は少し距離を置くだけで影りが生じ、はっきりとした色彩を移すことができない。

 しかしアークザット……彼を含めたギルドナイトにとって濃霧とは大きな障害になりえない。

 

 ギルドナイトとはギルド専属のハンターだ。依頼主との交渉はもちろんの事、密猟者の取り締まりや未確認モンスターの調査も行っている。

 それと同時に黒い噂も絶えない存在ではあるが、その多くは謎に包まれている。噂では違反するハンターを狩ったとも言われているが、それが明らかになることはないだろう。

 そんなギルドナイトでハッキリと解っていることは、いずれもハンターでありながら超越者であるかのような強さを誇っていることぐらいだ。

 

 そんなバルバレギルド直属のギルドナイトであるアークザット他3名の任務は「原生林に出没したG級モンスター及び未確認モンスターの調査」だ。

 12名の中でも特に勘が鋭いとされるアークザットを含め、残る3名も一団と優れた能力を保持しており、この任務の重要性がわかるだろう。

 何せG級はともかく未確認モンスターが、既に一般ハンターにも知られているフィールドに出没したとなれば調査せざるを得なくなる。

 責任感の強いアークザットは事の重大さを改めて感じ、より注意深く周囲へと気を配り、気配を探しながら行動を再開する。

 

 そしてアークザットは発見した。霧の中で佇むガララ・アジャラの姿を。

 距離にして5m。柱の物影に隠れて伺っているとはいえ下手をすれば発見されかねないが、ギルドナイトの視力ですらこの距離でないと見えないからだ。

 しかしアークザットの目には明確な色彩が混ざり、ガララ・アジャラの風貌が一目瞭然だった。金冠サイズに届きそうな巨体を持つ蛇竜種を見上げながら、アークザットは観察する。

 大きな傷は歴戦の証、傷の数が少ないのは治癒能力が高くなった証、そしてアークザットの感じる強者の印象はギルドナイトですら脅威を覚えさせるほどの強さを秘めている証。

 アークザットは冷静に見た目だけで判断する中、いかに仲間と連絡を取るかを考え……思考を停止した。

 

 霧の中に紛れて新たな影が現れたからだが―――影のみとはいえ、その姿は奇妙の一言に尽きる。

 地上から細長く伸びる影。この影の形状からガララ・アジャラと同様の蛇竜種と推測されるが……ガララ・アジャラにしては随分と細い。

 そして細く伸びる影の先は、菱形に鬣のような6本の棘が生えた形をした影。これはなんだろうか。

 

 やがてその影はガララ・アジャラに発見され、視線と体の向きがそちらへと向けられる。幸い、バインドボイスを上げるほどには至らなかったようだ。

 しかし影は身体を揺らしており、まるでガララ・アジャラをからかっているかのよう。陽動か何かだろうか?そうアークザットは推測する。

 

 やがてガララ・アジャラはバインドボイスで攻撃の意を示した。アークザットは咄嗟に耳を塞ぎこれを対処。

 対して影は急に姿を消した。恐らくは蛇竜種らしく身体を地面に這わせ移動しているのだろうか。

 姿を晦ましたことで周囲を見渡すガララ・アジャラ。下手をすればこちらの存在に気づく恐れがある為、アークザットはすぐさま距離を取ろうと後退る。

 

 

 その時、アークザットは目撃した。

 

 

 霧で白みがかっているとはいえ、ガララ・アジャラの身体に細長い何かが這って昇るものが見えた。

 菱形の左右に棘のような物を生やしたもの……先ほどの影の正体であろう赤黒い蛇竜種が自身の倍は太いガララ・アジャラの身体に巻きつきながら昇ってくる。

 そのスピードは尋常ではなく、甲殻やトサカでデコボコしているはずのガララ・アジャラの身体に遠慮なく巻き突き、するすると首元へ向けて登っていくではないか。

 振り払おうとするガララ・アジャラだがその前に赤黒い存在がトサカの部分まで辿り着き、その間を通ってガララ・アジャラの首を絞める。

 締め付けられて苦しむガララ・アジャラが暴れるが、胴体であろう菱形の部分はガララ・アジャラの頭、ひいては目に紫色の何かを霧状に噴出し続けている。

 

―ゴキリ

 

 嫌な音を立てた直後、ガララ・アジャラは僅かな間だけ硬直し、やがて持ち上げていた身体が地面に伏す。

 首を折られたとはいえ、G級と思われる狡蛇竜を一瞬で倒す。これはギルドナイトとしての経験と直感が物語る。このモンスターは危険だと。

 この事はすぐに報告すべきだと浮かんだ直後、アークザットはかすかに感じる気配を頼りに、先ほどの蛇竜種に見つからないよう行動を開始する。

 

 

 

 しかし、この時アークザットは懸念していた。報告と逃走を優先すべきだと思考していたとはいえ、気配が()()あったことに気づかなかったことを。

 

 

 

 そしてガララ・アジャラを殺したこの蛇竜種が2体1組となって狩りをする番いだということを、彼は知らなかった。

 

 

 

 

 

――アークザットは振り向いた直後、1対の巨大な目玉模様が描かれた菱形の胴体を揺らし、チロチロと舌を出す蛇竜種の姿をハッキリと見ることになる。

 

 

 

 

―――

 

 アークザットの生存の有無は明らかになっていない。

 しかし原生林での発見は他のギルドナイトに伝えられ、新たな脅威があることが発覚される。

 さらに謎のモンスターの確認はバルバレ管轄だけでも多数寄せられており、これらの調査はいずれハンターに協力を仰ぐことになるだろう。

 いずれにしろ、G級に生息する新たなモンスターの生態明らかにすべく、ギルドナイト達は今日も駆けつける。

 

 

―バルバレが管理するGの世界。それは果てしなく広く、多彩なモンスターがあることを知らしめることとなる。

 

 

 

―完―




 名称:アサラ・シジャラ
 別名:酷蛇竜(コクジャリュウ)
 種族:蛇竜種
 硬質でありながらゴムのような柔軟性を持つ赤黒い皮と、巨大な目玉模様が描かれた菱形の胴体、そこから鬣のように広げた爪が特徴的な蛇竜種。モチーフはキングコブラ。
 湿地を好んで生息している。体内の水分や毒素を噴霧させ霧を生じさせ、それに紛れて忍び寄り、即座に獲物に巻き付いて絞め殺す。非常に残忍かつ警戒心が強い。
 番で狩りを行う習性を持っており、蛇特有の独特的な声でコミュニケーションを取りながら陽動役と攻撃役に分かれて行動する。決まった役は無く、臨機応変に対応する。

 モンスターハンター4Gの最新PVを見て妄想が止まらなくなりました。
 なので此度は久々に、pixivでしかやっていなかった(と思われる)、「例の企画」を再開します。

 詳しくは作者の活動報告「デルシオン4G」をご覧ください。

 短い上に乱雑でしたが、どうか勘弁してください。楽しんでもらえたのなら幸いです。
 ではでは!来るべきGの世界にときめきつつ、妄想で楽しみましょう!


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Extra7-2:「鉈尾竜の生態」(※挿絵あり)

皆様、お待たせいたしました!
今回より活動報告で募集した「モンスターハンターデルシオン4G」の投稿モンスターが登場いたします!
短いかもしれませんが一話につき一体ずつオリジナルモンスターが登場します。苦手な方はご注意ください。
また投稿者が納得できない箇所も多数あると思います。過度なご期待はご遠慮ください。

また、今回からギルドナイト(オリキャラ)が多数登場します。

8/4:タイトル修正。×「鉈蛇竜」→○「鉈尾竜」でした(汗
8/17:勝手ながら文章を元に作者が描いたアイコンを挿絵に追加しました。


 バルバレギルドがギルドナイトにG級モンスターの調査を依頼してから二日目。

 初日からバルバレに所属するギルドナイトの1人が行方不明になったこともあって、二日目のギルドナイトは緊迫した空気に包まれていた。

 そんな中でもギルドナイトの皆は調査を続行する。それが自身たちギルドナイトの義務であり、行方不明になった者への誠意でもあるから。

 

 だからといって、行方不明となったアークザットと同時期に任命された友人が感情的にならない訳がなかった。

 

 

 

―――

 

「ナフィック、そっちはどうだ?」

 

「そっちと同じよ、クイード。それらしい影はないわ」

 

 太陽が天の頂点に昇り、明るい日差しが原生林に降り注ぐ頃。

 ギルドナイトの青年クイードと女性ナフィックが合流し、情報交換を行おうとしたが……無駄骨だったらしい。

 赤毛のクイードが大剣を、金髪のナフィックがライトボウガンを所持しており、両者の防具は歴戦の傷が多く刻まれていた。

 傷が多い防具を持つギルドナイトは若輩者でもあり、アークザットと同じく若いギルドナイトであることが解る。

 

「アイルー達に聞いたが、番いの蛇に心当たりは無いらしい」

 

「ダイダロさんも、ガララ・アジャラの死骸があるってこと以外は大した情報が無いって言っていたわ」

 

 先輩であるスキンヘッドの大男・ダイダロの用心深さは2人も心得ており、これらを合わせると彼らが探しているターゲットは原生林から姿を消していると予測される。

 「番いの蛇」……ガララ・アジャラの死骸があったエリアの石に血文字で記されたそれはアークザットの遺言であり、新たなモンスターの情報となりえるものだ。

 ギルドナイトは何よりも冷静さを必要とする故に表立って感情的になることはなかったが、同期であるクイードとナフィックは心の中で敵討ちを近い、原生林の調査に踏み込み今に至る。

 

 ガララ・アジャラを仕留めるほどの強者である可能性が高い為、念入りに探索していたのだが……。

 

 

 

 風に運ばれてきた、ある臭いに不意に気づく。

 

「……っ!?ペイントの臭気!」

 

「この方角……ダイダロさんがいる方角よ!」

 

 咄嗟に判断し走りだす二人。目指す先は風の向きから考えて……エリア6。

 クールに、そして危機感に思考を走らせながら、若きギルドナイトは臭気を辿って目的地へと向かっていった。

 

 

 

―――

 

(な、なんなんだアイツは!?)

 

 それは、ギルドナイトとして長年ハンターズギルドに仕え様々な任務をこなしてきたダイダロにとって衝撃的な出会いだった。

 接近している故に鼻につくほどに濃いペイントの臭気が漂う中、ダイダロは走りつつ……否、逃げ惑いつつ後ろを振り向いてそいつ(・・・)を見る。

 

 エリア6故に天井の蔓草が邪魔なのか、蛇竜種特有の長大な身体を地面に這わせ、しかし角の生えた頭は確実に獲物(ダイダロ)を狙っている。

 元は砂漠地帯に生息しているのか、黄土色の体を砂に近い黄色の甲殻で覆われ、砂地であれば保護色として役立てたことだろう。

 

 そしてギルドナイトであるダイダロに危機感を覚えさせたのは、この蛇竜種の特徴的な尻尾にある。

 

 蛇竜種は這うのを止め、尾を持ち上げ、ダイダロに向けて振り回した。それだけで地面が切り裂かれた(・・・・・・・・・)

 この蛇竜種の尾の先端は、まるで鉈のようになっているからである。オマケに尾につれて筋肉が発達しているのか、地面に難なく刃が食い込み、易々と引き抜ける。

 切れ味と振り回す力に優れたこの攻撃は人間が食らえば簡単に両断することができる一撃。ギルドナイトが恐れる理由には充分だった。

 

 

 鉈のような尾を持つこの蛇竜種の後につけられる名は「グローディウス」。別名「鉈尾竜」。文字通り鉈のような尾を持つ竜のモンスターだ。

 

 

 グローディウスの這うスピードと鋭い鉈を軽々と振り回す攻撃を前に、ランスでは相性が悪いと判断したダイダロは逃げる一方。

 しかも恐ろしい事に、先ほど毒キノコを摂取したからか、尾の鉈からは毒液が滲んでいる。仮にガードできたとしても、振り撒かれた毒にあたれば危機的状況に堕ちかねない。

 故に仲間であるクイードとナフィックに来てもらうようペイントボールを投げつけたのだが……まさかこれで怒られるとは思いもしなかった。

 

「ダイダロさん!」

 

 カン、と甲高い音と同時に響く声にダイダロは安堵感を覚え、しかし油断することなくグローディウスを見ながら走り続けた。

 グローディウスの頭部に何かが直撃し、注意がダイダロから声のした方へと向けられる。その隙にダイダロ自身も声のした方へと走りだす。

 

 後は言葉など不要。駆けつけてくれたクイードとナフィックと共に並び、グローディウスの様子を身構えながら見る。

 敵が増えたことで咆哮を轟かせるグローディウスを前に、ダイダロはハンドサインで2人に情報を伝える。

 

(動き、素早い。一撃、鋭い。大剣、ランス、相性、悪い。注意されたし)

 

((了解))

 

 受け取ったクイードとナフィックは頷き、ナフィックだけがライトボウガンを構える。

 グローディウスが地に伏せたまま鉈を振り回して威嚇の意を示す中、三人は調査を含め、戦闘を開始するのだった。

 

 

 

―――

 

 グローディウスの特徴は何も鉈だけではない。それを理解したのは、エリア6の天井……蔓草の足場ではっきりと解った。

 

 跳ぶのである。とぐろを巻き、バネのように勢いをつけて。

 

 2人が牽き付けている間に頭上から攻撃しようとしたナフィックを仰天させ、すぐさま冷静に逃げなければならなかったほど。

 確かに鉈のような尾を軽々と振り回せるほどだ。尾の力はもちろん、長い身体全てに結構な筋肉が詰められているのかもしれない。だからこそなせる技なのだろう。

 ババコンガやリオレイアも支えられる蔓草ではあるが、まさかガララ・アジャラと似たような大きさと長さを誇るグローディウスを支えられるという事実にも驚いたが。

 

 攻撃の要にして有効な属性や状態異常を確認できるナフィックを援護すべくすぐさま登り、グローディウスを牽き付けるクイードとダイダロ。

 だがグローディウスの尾を使った攻撃は器用なもので、広範囲のものから、範囲は狭くも連続で斬り付けるという強力な攻撃など様々な使い方で追い詰めていく。怒りが治まった途端に毒が薄まったが。

 そして何も尾による攻撃だけでなく、ガララ・アジャラにもあるような突進、グローディウス独自の絞めつけによる拘束攻撃などもある。

 いずれも持ち前の警戒心や身体能力を用いて回避できたものの、当れば優れた防具を持つ彼らでも致命傷になりかねない。

 

 加えてグローディウスは独自の方法で獲物を感知しているのか、閃光玉は効果が薄いことが判明。

 一時的に眩暈を起こすものの、復活するまでが早いのだ。そして怒り状態になりと、尾に毒液が滲み出るようになった。

 

 有効な属性は……今のところ判明できていない。

 これはあらゆる属性に強いというわけでなく、ギルドナイトが所持するライトボウガンでは決定打にならなかったからだ。

 旧大陸やロックラックほどではないとはいえ、バルバレにおける最新武器がここまで通用しないとなれば、相手はG級であることがわかる。

 アークザットの言っていた「番いの蛇」ではないだろうが……これだけの実力を蛇竜種がいると解っただけでも充分な成果だ。

 

 

 

 その結果、ギルドナイト三人組は特殊なアイテム「モドリ玉」によって戦線を離脱。

 グローディウスに関する情報を多く収集した彼らは、目的である「G級モンスターの調査」を達成できたからだ。

 

 

 

 この後、クイードの卓越な描写力によってバルバレギルドに新種の蛇竜種を報告。

 この特殊な蛇竜種を「グローディウス」と名づけたのだが……三人が出会った後、グローディウスを目撃したという情報は少なくなった。

 目撃情報の大概は砂漠地帯で発見されており、グローディウスの更なる生態調査が必要になっていくだろう。

 

 

 

―さらなるG級モンスターを捜し求めながら。

 

 

 

―完―




作者の描いた「鉈尾蛇」はいかがだったでしょうか?
詳しいデータは活動報告「モンスターハンターデルシオン4G」をご覧ください。

さ~て次回はどんなG級モンスターが出るのかな?二週間後(予定)をお楽しみに!

鉈尾竜アイコン(作者描写)

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Extra7-3:「吸血虫の生態」(※挿絵あり)

今回のオリジナルモンスターは、作者が選んだにしては珍しいタイプです。
ですが確実にいえます。このモンスターはある意味大型モンスターよりも厄介な奴です。

そんなモンスターハンターデルシオン4G第2弾。(虫嫌い以外は)お楽しみあれ。

9/13:勝手ながら文章を元に作者が描いたアイコンを挿絵に追加しました。


 近日、見た事のないモンスターが遺跡平原にて大量に出没している。甲虫種と思われるが数が多過ぎるため、ギルドナイトに討伐を依頼。

 

 先日になって原生林にて未知のモンスター「グローディウス」を発見したばかりだというのに新たなモンスターが出てくるとは……バルバレギルドも大変である。

 とはいえ油断は出来ない。目撃情報によると小型の甲虫種との事だが、新種のモンスターが大量に出たとなれば一般のハンターには負担となりかねない。

 未知のモンスターの調査も兼ねている為、さっそくギルドナイトを派遣するよう決定するバルバレギルドであった。

 

 

 

―――

 

 遺跡平原にて謎の甲虫種モンスターが大量発生している。直ちに調査せよ。

 そう命じられたのが、片手剣使いのキキ、ヘヴィボウガン使いのファナ、太刀使いのポードロード、狩猟笛使いのエレイゼの四名だ。

 彼らは今、目の前の光景を目の当たりにして息を呑む。G級のリオレウスと対峙したときとは違った緊迫感を感じているからだ。

 

 そのモンスターは、甲虫種ランゴスタに酷似している。違いはストロー状の口があることか。

 ランゴスタよりも小柄なそのモンスターは小回りが利いており、ブナハブラのように緩急をつけて飛び回っている。

 このモンスターの見た目を一言で言えば「巨大な蚊のようなモンスター」に尽きる。

 

 吸血虫(キュウケツチュウ)カブラキートと呼ばれるようになるこのモンスターが、1エリアだけで数十匹も漂っていたのだ。

 

 大小様々な吸血虫が羽音を出しながら縦横無尽に飛び交う姿を目の当たりにすれば、歴戦を貫いてきたギルドナイトと言え一種の恐怖を感じてしまう。

 特に若い女性であるファナは実力こそあれど経験が浅い為、このような空飛ぶ甲虫種が大量にいる場面を目の当たりにして脂汗を書いているほどだ。

 

 しかもこの吸血虫、厄介な所がある。

 

「こいつらを野放しにしたら生態系が滅びかねん」

 

 長い髭を生やした老人ポードロードが緊張感を走らせつつ呟き、それに同調したファナを除く2人が同意するかのように頷く。

 このカブラキート、ランゴスタやブハナブラ以上の脅威があった。それは吸血虫の2つ名を得るが故の特徴にある。

 

 恐らくはカブラキート達に吸血されたであろう、干乾びた死体がそこらじゅうに転がっているからだ。

 あの大柄なアプトノスですら干物となって息絶え、ケルビに至っては骨と皮しか残っていないように見える。

 さらにはその死骸を目当てにやって来たであろうジャギィの死体までもが転がっており、無事なのは腐食した死体を貪るクンチュウとアルセルタスぐらいだ。

 硬い甲殻で身を守られた甲虫種は餌食にならないようだが、それ以外は問答無用で吸い取る性質を持つ様子。

 

 もしこの甲虫種が大繁殖しているとなれば、弱い獲物から片っ端に血を吸い、食物連鎖のバランスが崩れかねない。

 さらに人が大勢住まう集落や町に流れ込んでしまったら阿鼻叫喚の地獄絵図になりかけない。積極的に血を吸う習性がここまで厄介になるとは。

 

 そんな風に警戒していると、カブラキート達は既にギルドナイト4名を取り囲み、隙有らば飛び掛かろうと言わんばかりに狙いを定め出した。

 包囲されたとはいえ、相手は甲虫種。甲虫種嫌いなファナを除けば冷静に構えを取って戦闘準備に入る。

 リーダー格であろうポードロードがハンドサインで三人に指示を送り、特にファナに至っては「しっかりせんか」と激励を送り意識を取り戻させる。

 甲虫嫌いなファナだが、嫌いだからこそ甲虫種への対処は徹底したものだ。必ずや活躍してくれることだろう。

 

 

―さぁ、カブラキート退治だ!

 

 

 

―――

 

 カブラキート自体はランゴスタやブナハブラ同様に脆く、数匹程度では問題は無い。

 しかし厄介なのは吸血行為と、ギィギのように血液から毒液を分泌して吐き出すこと、何よりも数だ。

 ブナハブラも時には大発生することはあるが、このカブラキートはそれを上回るだけの繁殖性を有しているらしい。

 

 滑り出し自体は順調。エリア各地を漂うカブラキートの数を減らさんと移動しつつ駆逐を再開するギルドナイト達。

 そうやって討伐を繰り返す内に、分析や観察を得意とする片手剣使いの青年キキは徐々にカブラキートの特徴を見抜いていった。

 

 戦闘中に何人か吸血され、道中で他の生物に吸血されていくが、一匹程度なら大した量でないことが解った。

 どうやら吸血量は獲物の大きさによって変るらしく、摂取量の比率は変らない。ケルビだろうがアプトノスだろうが、1匹なら多少で済む。……干乾びたのは相手が大量発生したからだろうが。

 安心したものの、カブラキートは摂取した血液によって身体の作りが若干変化し、動きに差異があるようだ。

 人が吸えば生命力が足され、ケチャワチャの死体から吸えば攻撃力が足されと、吸血した対象によって能力が変動するらしい。

 微量ならば脆いものの、多種多様かつ大量に血液を摂取したカブラキートは異常なほどに大きくなり、下手をすると人間よりも大きい飛行虫という驚愕な姿に変貌するのだから怖い。

 

 だがそんな相手も、キキが片手剣で切り裂いて終わる。

 少々能力が変動した程度の甲虫種など、ギルドナイトの敵ではなかったからだ。

 まぁ血液を摂取されたり毒液を食らったりとこちら側の体力もスタミナも削られたので、割とギリギリな戦いでもあったが。

 

 大量発生したカブラキートの危険性。

 

 今回の狩猟で学んだ事を、ギルドナイトはバルバレギルドに報告するのだった。

 

 

 

 

 

 だが、彼らは知らない。

 

 カブラキートの群れは倒せても、カブラキートの爆発的な繁殖力により発した卵は隠されていたことに。

 

 

 

―完―




作者の描いた「吸血虫」はいかがだったでしょうか?
詳しいデータは活動報告「モンスターハンターデルシオン4G」をご覧ください。

吸血虫アイコン(作者描写)

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Extra7-3:「獣骨鳥の生態」(※挿絵あり)

今回は珍しい事に、当選予定の4匹とは別にモンスターを参加させています。言っては失礼ですが噛ませ犬です(滝汗)
なるべく戦闘描写を良い感じに書くのと、読者の案である「当選モンスター同士の戦い」を書いて見たかったんです。
贔屓するようで申し訳ありませんが、当選とは別として扱わせて頂いております。ご了承ください。

今回もグダグダになりますが、久々にモンスターのみです。楽しんでくれると嬉しいです。

9/13:勝手ながら文章を元に作者が描いたアイコンを挿絵に追加しました。




 未知の樹海。それは未だ正確な広さや地形を理解しきれていない領域。

 数多くのモンスターが生息するこの樹海では、樹海にしか生息しないモンスターも多く、ギルドの悩みの種とされている。

 そして未知の樹海でしか採取できない物も多く、ハンター達はこぞって古代の遺品を発掘せんとギルドクエストを受注するのだ。

 しかし仮にも「未知の樹海」と名の付いた地域だ。旨味が発掘装備だけとは限らない。

 

 例えば―――。

 

 

 

―――

 

「あったニャ~、あったニャ~♪」

 

 両の小さな肉球で挟んで持ち上げた石をキラリと輝かせ、灰色の毛並みを持つアイルーは嬉しそうに小躍りする。

 その石は「幸運のかけら」と呼ばれる売り物で、いわゆる精算アイテムと呼ばれる物。ハンター達にとっては、貴重な素材が袋一杯にあれば捨ててしまうようなものだ。

 それでもこの灰色のアイルー(名はグレ。安直だが飼い主である老商人からつけてくれた大事な名だ)にとっては何よりのお宝。売れば小遣いに、持っていれば幸運を宿すお守りなのだから。

 

 グレは老商人の真似事として、未知の樹海に立ち入っては欠片を集め、それを子供相手にお手ごろな価格で売る商売をしている。

 ハンターとは違ってアイルーは好きな時に好きな場所に立ち入ることが出来る為、こうして探索ごっこをしに行く事もできるのだ。暢気な連中である。

 

 しかし、荷物を先端に括り付けた棒を担いで、意気揚々と帰宅しようとした頃。

 

 

 

―――謎の二体の大型モンスターがバッタリと出会い、グレを恐怖のどん底へと陥れたのである。

 

 

 

―――

 

 未知の樹海にはとても広いエリアがある。その広さ故にズワロポスやアプトノス、ガーグァなどの群れが集う事が多い。

 そんな草食性モンスター達は、各々の命が助かるようにと懸命に走り、散開して逃げ惑っていた。大小関わらず、小型の肉食モンスターであるジャギィやランポスですら逃げて。

 

 

 広いエリアを陣取り、2匹の見知らぬモンスターが大暴れしているからだった。

 

 

 片方は獣竜種。特徴たる強靭な後ろ足と小さな前脚を持ち、前傾姿勢で身構えている。

 見た目は灰色のドスジャギィと言った感じで、一般の獣竜種と比べると小柄な体を持つが、見た目で侮ってはいけない。

 何せこのモンスターが口に銜えているのは鉄鉱石の塊であり、それを容易く噛み砕いてしまったのだから。

 この獣竜種は、後に凍土で目撃されるようになり「コルバルス」という名称が与えられるのだが―――ここでは別名を省き、後ほど紹介するとしよう。

 

 そんなコルバルスと対峙しているモンスターは、奇妙な姿をした鳥竜種である。

 

 一般的に鳥竜種と聞くと空を飛ぶ印象が与えられる。『鳥』竜種と言うのだから、飛べると思い込む人は多いだろう。ランポスやジャギィといった例外も居るが。

 無論、イャンクックやゲリョスといったモンスターは空を飛べる。それに加えて脚力もある為、たかが鳥と侮れない連中でもある。

 

 しかしこの鳥竜種は羽毛こそあれど、翼が小さく後ろ脚が強靭と、まるで獣竜種のような外見をしていた。

 赤茶色の羽毛で体を覆っているが、強靭さを物語らせる後ろ脚は羽毛が変質して出来た硬い鱗で覆われており、いかにこの脚が重要視されているかが物語られる。

 さらに特徴的なのは尾だ。3本ある尾の内の中央の細長い尾は鞭のようにしなり、骨が浮き出て出来た太く頑丈な2本の尾はそれを守るようにして伸びている。

 

 ドシンドシンと地団駄を踏むその姿は、走ることに特化した鳥。しなやかな尾を振るう姿は飾りでは無い事を外敵に知らせている。

 鳥竜種から獣竜種に進化したかのようなこのモンスターの名は「フルジィラソル」。別名「獣骨鳥(ジュウコツチョウ)」。

 

 この2匹もまた、未だ知らされていない「未知のG級モンスター」である。

 

 

 

――

 

 グレはニャーニャー言いながら逃げ惑っていた。地中に潜る暇が無い程に危険が間近に迫っているからだ。

 心は恐怖で満ち溢れ、頭の中は生き延びる為の最善の手を瞬時に思い浮かべ、体は獣ならではの俊敏さを生かして走り続け、獣人族の第六感が的確に敵の攻撃を避けようと体を動かす。

 アイルーの底力ここにあり!逃げろグレ!子供達の夢である幸運の欠片をその身に抱いて!

 

 

 フルジィラソルとコルバルスの戦闘は、お互いの独自の戦法を惜しみなく発揮させ、混沌とした戦いを見せ付けている。

 片方は獣竜種で片方は鳥竜種。しかし骨格はどちらも獣竜種に近い為に動きは似ており、しかし性質が違うからか動きが特徴的だった。

 

 本来は凍土で活動している為か、コルバルスの後ろ脚には鋭い爪を持っており、強靭な足腰を用いることでしっかりと地を踏み締めて走れる。

 鉄鉱石をも砕く顎を武器にフルジィラソルに迫り来るが、この鳥竜種の動きが厄介で、大きさに似合わぬ軽やかな動きで避ける。

 

 

 

 傍から見れば2匹の竜がグルグルとエリアで競争しているように見え、その前方に不運にもグレが混ざっており、2匹の攻防から逃れる為に必死で走るのだった。

 

 

 

 フルジィラソルは丈夫で軽い骨をしており、これに強靭な筋力が加わることで獣竜種にはない俊敏な動きを発揮することができるのだ。

 その骨は尾にも受け継がれており、皮を被った細長くしなやか骨の尾を、まるで鞭のようにして振り回して攻撃することもできる。

 早速とばかりに動きを止め、首だけを後ろを振り向き、敵であるコルバルスに向けて尾の鞭をしならせる。

 

 だがコルバルスも獣竜種の端くれ。サイドステップで尾の鞭を避けようとするも、異常に伸びる尾がそれを逃さず、驚異的に伸びてコルバルスに一撃をお見舞いする。

 頑丈な骨はコルバルスに相当のダメージを与えたらしく、側面に大きな傷が走る。だが動きを止めている隙をコルバルスは逃さない。

 

 そこでコルバルスは口から何かを吐き出し、フルジィラソルの足元に命中。

 何事かと足を上げて確認しようとするフルジィラソルが、地面から太い糸を引いて伸びる液体に足を獲られ、思うように動けない。

 コルバルスの体内には粘着性の液体を溜める器官があり、これを吐き出し獲物の動きを鈍らせる習性がある。

 故に後につけられる2つ名は「粘着竜(ネンチャクリュウ)」。粘着液で動きを止め、頑強な顎で一気に仕留める狡猾なハンター。

 

 だが動きを止めただけではフルジィソルは狩れない。何故ならフルジィラソルには尾の鞭があるからだ!

 近づかせてたまるものか!とばかりに尾を振って振って振りまくり、コルバルスを近づけないようにする。

 だがコルバルスも隙有らば噛み付こうと身を引きながらも口を開いて威嚇し、尾の鞭を避けつつ前へ後ろへと身を乗り出し機会を伺う。

 

 

 

 ちなみに粘着液を受けてしまったグレは、頭上で繰り広げられる鞭乱舞がこっちに当らないでくれと、幸運の欠片を抱いて必死に祈っているのだった。

 

 

 

 やがて粘着液の効き目が切れ、脚が自由になったことで後方へと跳び下がるフルジィラソル。

 よくもやってくれたな!とばかりに短い翼を広げ、威嚇の咆哮をあげる。どうやらお怒りの様子。

 すると背骨と後ろ脚の骨が浮き上がり、全体的に見て刺々しい姿に変貌。怒り状態になると体内の骨に変化が生じるようだ。

 

 しかしコルバルスも負けじと威嚇の咆哮を轟かせ、身を屈めたと思えば走りだし、今度は一気に接近する。

 怒っておきながらフルジィラソルはコルバルスに対し後方へステップして避ける。コルバルスはこれを尻込みしていると思い込み遠慮無しに攻め寄っていく。

 

 だがフルジィラソルは毒怪鳥並の狡猾さを持つ鳥竜種。敢えて回避に専念し、敵が調子に乗った所を狙うのだ。

 ガチガチと噛み付き攻撃を連続で繰り返していた所で横へステップ移動すると、案の定コルバルスは勢い余って前へ出すぎてしまう。

 すかさず強靭な足腰を活かし強引に旋回し、至近距離からの骨尾攻撃がコルバルスの顔面に命中!

 

 強靭な顎とはいえ頑強な骨を打たれた以上、強烈な振動がコルバルスの脳を直撃して思考が麻痺し、フラフラと体が揺れ動く。

 しかしフルジィラソルは容赦しない。鳥竜種ならではの軽さを生かし、ヒプノックの如き蹴りをお見舞い。横っ腹を蹴りつける!

 脳震盪を起こしてフラついていたところへ強靭な足腰を活かしたキックを食らったことで、コルバルスは吹っ飛んで倒れ込む。これだと気絶するのは当然だろう。

 

 

 未知の樹海における『未知のG』同士の戦いはフルジィラソルが制した。

 勝利の雄叫びを上げ、邪魔者が居なくなった所でガーグァ……同類でありながら捕食対象である鳥竜種を狙う為に大地を蹴る。

 

 

 

 

 ちなみにグレは無事に生還。飼い主である老商人に抱きつき、猫の癖にワンワン泣いたのだとか。

 翌日は夢見る子供達に欠片を売るのだが、未知の樹海での体験談が子供達にとっての何よりのお土産になったそうだ。

 

 今まで大したモンスターに会わなかった幸運と、強大な2匹のモンスターに遭遇しながら生き永らえた幸運。

 やはり幸運の欠片は偉大だと、あの日から慎重に未知の樹海に乗り込むようになったグレは再認識するのだった。

 

 

―完―

 




獣竜種に近い鳥竜種とは珍しいと思い、しかしダチョウとかに似ているなぁと感心して採用しました。キックは作者が勝手に追加しました、すみません。
そしてそんな獣骨鳥の相手は生粋の獣竜種。粘着液を吐いて強靭な顎で攻撃するとか獣竜種にしては斬新な……ん?ボルボが似たような(ry

詳しいデータは活動報告の「モンスターハンターデルシオン4G」を見てください。

とにかく応募ありがとうございました。採用させていただきました。

次回でモンハンデルシオンGのラストです!
どれにするか未だ悩んでいる上、ラストに相応しい文章が書ければいいんですが(汗)

獣骨鳥アイコン(作者描写)

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Extra7-4:「激震竜の生態」(※挿絵あり)

ゲストモンスターをたっぷり出しました。モンハンのPV動画を聞きながら書いて見ました。
そしたら遅くなっちゃった上に荒削りでした(汗)

9/15:誤字修正
11/14:後書きにて挿絵追加
11/20:誤字修正


 今、バルバレギルドに緊急事態が発生している―――4つの地域で未知のモンスターが出没したという情報が入ったからだ。

 未知のモンスターが各地で猛威を振っていると解っただけでも非常事態なのに、それが四箇所同時発生しているというのだからたまらない。

 近日だけでも4種類もの新モンスターの存在を確認できたというのにこの追い込みよう。まるで仕込まれているかのようだ。

 

 とはいえ、新種のモンスター……それもG級の可能性があると知ればギルドナイトを派遣せざるを得ない。

 ギルドナイトも連日連夜の調査で響いているだろうが、ここで躊躇してしまって被害が拡大してからでは遅いのだ。

 バルバレギルドは、『番いの蛇事件』以来から行方が解らなくなった1名を除くギルドナイト全員を出動させ、調査及び撃退を依頼する。

 特に被害が大きいとされている天空山、『鉈蛇竜』が未だ潜んでいる可能性がある為に警戒区域と化している原生林へは細心の注意を払うべく、熟練者を呼び出す。

 残る二箇所は砂漠と地底洞窟だが、地底洞窟は地形が把握されている為に3名を出すのだとか。

 

 

 そしてギルドナイトが旅立った日の夜―――死亡していたと思われていたアークザットがボロボロの姿で帰還した。

 

 

―――「古龍種の影有り」と報告して。

 

 

 

―――

 

 天空山に赴くギルドナイトは、太刀使いのポートロード・ランスのダイダロ・片手剣使いのキキ・ヘヴィボウガン使いのファナ。

 ポートロードとダイダロの熟練者二名を連れたこのメンバーが赴く理由は、現在の天空山の惨状にあった。

 

 4人のギルドナイトが駆けつけた頃には、天空山は大きく変わっていた。

 報告にあったモンスターによるものなのか、大きく陥没した地面が各所にあったからだ。

 炎や雷などによる焦げ痕は無く、まるでラージャンが豪腕によって地面を叩きつけたかのような跡。

 シナト村の大僧正によると目撃したモンスターは細身であったというが、細身のモンスターがこんなことをするだろうか?

 

 陥没跡を見つめながら考え込むギルドナイト達だが、狼の遠吠えのような叫びを聞いて我に返る。

 エリア6は天空山の中でも一段と雷雲渦巻き雷鳴が響く場所。しかしこの遠吠えは明らかにここから聞こえてくるが……周囲を見渡しても影ですらない。

 

 

 違う―――上にいる!

 

 

 1人が見上げた先には、まるで重力を無視するかのように崖にしがみ付くモンスターの姿があり、こちらを睨みつけていた。

 岩場に溶け込むような灰色の体、小さな耳、縦に平べったい尾、鋭角で細いシルエットを持つ牙竜種……大僧正の言っていた通りの姿だ。

 その牙竜種は高い所から再び咆哮を轟かせ、密集していたからか、四肢に力を込めギルドナイト達の下へ跳び降りる。

 

 咄嗟にギルドナイト達は散り散りに跳んだことで直撃こそ回避できたものの、牙竜種は空中でくるりと回転し、その勢いを持って前脚を振り落とす。

 するとどうだ、細身だったにも関わらず、野太く鋭い爪が食い込んだ地面が陥没し、周囲の地面が隆起したではないか。

 もう少し距離が短かったら、今頃は隆起した岩に体をぶつけていた頃だろう。四方で武器を身構えるギルドナイト達に戦慄が走る。

 

 地面に食い込んだ前脚を引っこ抜き、再び咆哮。ジンオウガのような獣じみた声だがディアブロス並の音量を持つ為、4人は必死で耳を塞ぐ。

 耳を塞ぐ中、キキは目敏く牙竜種の様子を見る。赤いオーラのようなものが灰色の全身に溢れ出ていたからだ。

 何かあると睨んだキキは咆哮の余韻が止むと同時にギルドナイト全員に伝わるようなサインを送る―――「急いで離れて」と。

 

 その挙動ゆえに狙いを定められたのか、牙竜種は正面を向き、僅かな距離だというのに其の場で跳躍。

 その跳躍と同時に右へ跳ぶ中、牙竜種はクルリと回転しながら前脚を振り下ろし、地面に叩きつける。

 

―ドゴォンっ!

 

 軽く跳躍しただけで先ほどのような衝撃が地面に襲い掛かり、再び地面が隆起し大振動を起こす。

 跳んで正解だったが、獣竜種は間髪いれずに脚を引っこ抜き、構える。あの構えは―――ジンオウガの物と酷似していた。

 跳んだ勢いを活かしそのまま前転。着地地点に牙竜種の前脚がめり込む。ハンター達の間で「ダイナミックお手」と呼ばれるものだ。

 流石に連続で、というわけには行かず地面から脚を抜くのに時間がかかり、その間にヘヴィボウガンの弾丸が襲い掛かる。どうやら防御面は高くないようだ。

 

 しかし剣士は違う。圧倒的なパワーにより繰り出される振動は近づけば隙を生じてしまい、比較的隙の少ない牙竜種に狙われかねないからだ。

 キキもそれを理解したらしく、深く追求せず、攻撃が止めば即座に走って距離を取る。

 

 

―掛かって来い、ハンターども。

 

 

 そう言っているかのように灰色の牙竜種――激震竜(ゲキシンリュウ)エアトアルベは咆哮を轟かせるた。

 

 

 

―――

 

―地底洞窟のエリア8。

 

「どわっはぁぁぁぁ!?」

 

 大剣を背負ったままクイードは横へ身を乗り出し、残る2名も各々の武器をしまって緊急回避を繰り出す。

 

 直後、彼らが避けた事で壁に黄色い巨体が激突するが、身を捻ることで壁に吸い込まれるようにして潜っていく。

 大きな穴を残して壁の奥へ消えたとはいえ、3人のギルドナイト達は警戒を怠らない。

 何故なら、それは逃走ではなく、先ほどの(モンスター)の新たな攻撃への糸口だと知っているのだから。

 

「あ、あの距離をひとっとびって、どんな脚してんのよアイツ!?」

 

 とはいえ、先ほど信じられない光景を目の当たりにしたナフィックは荒々しく言う。冷静な彼女がここまで憤慨するのも珍しい。

 だが無理も無いだろう。あのブラキディオスですら跳び越せないような距離を、先のモンスターは難なく飛び越えて壁に激突したのだから。

 それを可能としたのは、先のモンスターの種にも関連していると思われる。

 

「来るよ!」

 

 狩猟笛使いのエレイゼが叫ぶ。

 

 地面が揺れ、ボコリと隆起する。揺れで一瞬動きが制限されるものの、解かれたと同時に各自前転して回避。

 地面から這い出てきた巨大な鏃のような物が貫通し、やがて全身を引っ張り出す。

 

 

 黄色い鱗で覆われた巨体。大きくて長い脚。毒液で紫色に染まった鏃のように鋭い先端。

 一見すると氷を纏った時のザボアザギルにも似ているが、毒の煙が微量に漏れている、背中に生えた二対のイボが禍々しさを醸し出している。

 

 

 G級にして新種と考えられる両生種は地面に四肢を落ち着かせた後、高らかに咆哮する。

 ディアブロスのように鋭い大音量を前に、若きギルドナイト3名は耳を塞ぐしかなかった。

 

 

 

―――

 

―原生林のエリア10、すなわちアイルーの巣。

 

―キチキチ、キチキチ

 

「ダメだ!追ってきている!」

 

 それまでは己の心音以外は吐息ですら聞こえない程に静かにしていたが、その音が聞こえた途端に1人の若きギルドナイトが声を荒げる。

 腕の中でアイルー達を抑えていた3人のハンターは信じたくなかった音、そして見張り役を買ってくれた若者の言葉を聞いて力を抜き、アイルー達を手放した。

 

「くそ、アイルーの巣なら安全だと思ったのに!」

 

 表面が軽く溶けている防具を纏ったギルドナイトが苛立ちをぶつけるように地面へ拳を叩きつける。

 EXアーティアと呼ばれる、現在では最高クラスのはずの防具。それが酸によって溶けられ、篭手で包まれていた手が露出されていた。

 

―キチキチ、キチキチ

 

「す、すぐそこまで来ている!どうするんだ!?」

 

 解毒したとはいえ猛毒の残滓に呻いていたギルドナイトの男が、近づいてくる音を耳にして慌て出す。

 そんな彼の横では、つい先ほど麻痺が解かれたことで身を乗り出した女性のギルドナイトの姿が。

 

「逃げ道が無い以上は戦うしかないでしょ!?」

 

 女性は身丈よりも大きなハンマーを担ぎ、脂汗の滲んだ額を拭ってからヘルムを被りなおす。その表情に冷静さは無く、焦りが浮かんでいた。

 

―ギチギチ、ギチギチ

 

 近づいてくる音。女性のヤケクソのような宣言。これを前にして、3名のギルドナイトは黙って頷いた。

 アイルー達は雰囲気に当てられ、安全でないと悟ったのか地中へと逃げ出す。彼らにとってはいい迷惑かもしれない。

 そして狭くて通れないはずの穴を潜って、そのモンスターは姿を現した。

 

 

 6本の重厚な脚。縦に広い胴体とそれに繋がった、触覚を生やす小さな頭。蟹に似た、しかし凶悪な形状を持つ鋏。

 そして目を引くのが本体よりも長い尻尾。そこから伸びる丸っこい先端からは、ギルドナイト達を様々な症状で苦しめた毒が滲み出ている。

 

 

 決して小さくないといえる身体をしておきながら、平たい形状を活かして入り込んできた蜘蛛のような大型モンスター。

 こんな狭い場所でこのモンスターと遭遇したギルドナイトは武器を構えるも、表情には怯えが映っていた。

 

 

 

―――

 

―砂漠。

 

「ひ、引き寄せられる……っ!」

 

「手をのばして!さぁ!」

 

「早く粘菌を取るんだ!」

 

「出来れば苦労はしねぇ!とにかく何かにしがみ付け!」

 

 4人のギルドナイトは灼熱の日差しの下、必死に岩や木にしがみ付いていた。

 原因は防具にこびり付いている粘液だろう。砂に混じった砂鉄が吸い寄せられ、そして体―正確には粘菌がついた防具―が意図せず引っ張られていく。

 砂に脚をめり込ませ引き寄せる力を抑えるも動けずに居る青年に腕を伸ばし、腕にしがみ付いた彼を持ち前の腕力で引き寄せ、同じ岩にしがみ付かせた。

 彼女は無事にしがみついた青年を見てホッとしてから、これらの原因である、広い砂地の中央を陣取っているモンスターを睨みつける。

 

 

 見た目や性質は砕竜ブラキディオスに酷似しているものの、そのモンスターは全くの別種に進化したのだと、長時間に渡って戦ったことでわかった。

 ハンマーのように変形した頭部と腕部をこちらに向け、砂という砂から砂鉄と鉱石を、そして自分達に纏わりつく粘菌を引き寄せている。

 

 

「しかしなんてこった、これじゃまるで……!」

 

―旧大陸に姿を現すという極龍のようではないか。

 

 そう言おうとしたギルドナイトだが、体に纏わりついていた引力が消えたことで、再び目の前に視線を向ける。

 そこには砂鉄を固めたことで倍以上に大きくなった、ハンマーそのものとなった腕部を振り回す獣竜種の姿があった。

 

 

 

―――

 

 雷鳴轟き、いつしか嵐が舞い込んだのか、天空山に激しい暴風と雷雨が襲い掛かる。

 しかし、それでもギルドナイト達とエアトアルベの戦いは続いている。形勢は―――エアトアルベが優勢。

 

 怪力の実を食して得たパワー、牙竜種特有の機動性、そしてパワーを活かした壁張りからの突進……ヒットアンドアウェイにパワーが加わることで強敵となる。

 強敵であるという事もさながら、未知のG級、それも新種となっては冷静にかつ確実に戦うことになり、タフで冷静なギルドナイト達も手を拱いていた。

 しかしギルドナイトによって着実に追い詰められている事も事実で、エアトアルベも徐々に息切れやスタミナ切れ、そして怪力の実による効果は消えつつある。

 

 

 それを危惧したか、このまま仕留めてやろう、と意気込み四肢に力を込め―――停止する。

 

 

 ゴウゴウと吹き荒れる風故に聞こえづらかったが、ギルドナイト達の耳にある音が聞こえてくる。

 それは走っている音だ。雨脚に混ざって四足のモンスターが地面を蹴り、大地を駆ける音。

 その音が近づくに連れて、エアトアルベは急に慌て出し、周囲を見渡し出した。何かに怯えているようだが、彼より強い強者が出ると解ったギルドナイトも当りを見渡す。

 

 

 それは、風に乗って地を走るクシャルダオラ―――らしきモンスターだった。

 鋼鉄の鱗ではなくリオレウスのようにザラザラした灰色の甲殻を身に纏い、翼があるのに地を蹴って走っている。

 

 

 その古龍種は真っ先にエアトアルベに突っ込んだ。距離があったと思ったが、なんというスピードか。

 跳躍して逃げようにも一気に首元を噛み付かれ、それどころか噛みついたまま巨体を引きずり走るという暴挙に出た。

 あまりの事態に硬直したギルドナイト達を余所に、古龍種はエアトアルベを銜えたまま走り、崖へと飛ぶ。

 大きな翼を広げ滑空するように飛び、そのままエアトアルベを離して落とす。翼を持たない牙竜種は呆気なく崖の底へと落ちていく―――もしかしたら崖にしがみ付いて助かるかもしれないが。

 

 そのままUターンし、古龍種は地面に着地。雄雄しく翼を広げ、ゆっくりとした足取りでハンター達を見据える。

 ギルドナイト達は先の戦いに加えこの嵐に晒されてさらに疲労しているのだ。足の速さもあって、もしかしたら逃げることですら難しいかもしれない。

 

 

 

 しかし風を纏いて走る龍は、そんな事知ったことではない、と言っているかのように咆哮を轟かせる。

 

 

 

 未知のG級の頂点―――Gの古龍種はギルドナイトの想像を上回る力を秘めているのだから。

 

 

 

―完―




ギルドナイトが弱いんやない!G級の新種が予想外に強かったからや!
未知のモンスターに挑むことは多くの失敗や犠牲が付き物だと私は思います(言い訳っぽくて残念)

そんなこんなで、モンハンデルシオンGはこれにて終了。贔屓が多いようですがお許しください。
楽しんでもらえたでしょうか?当選された方でなくても楽しめるよう、色々と描写を工夫してみましたが。
次も投稿してみたい!次こそは主役に!と願う方が多ければまた挑むかもしれません。
それまでは10月に発売予定の新作「モンスターハンター4G」を楽しみにしておきましょう(笑)

さぁ皆様、Gの世界はすぐそこです!楽しみに待っていましょう!

ではでは。

激震竜アイコン(作者描写)

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part28:「雷鎧竜と爆狼竜の決闘」

実に一ヶ月以上経過してしまいました(汗)というわけで久々の更新です。予定日が大幅に狂いました(汗)

今回のテーマは「雷を纏ったグラビモス」と「ボンバッタを扱うジンオウガ」です。活動報告のアイディアを参考にさせてもらいました。
そしてモンスター同士の戦いが結構好評だったので今回も書いてみることにしてみました。

内容は薄いでしょうが勘弁してください(汗)



音と光は時に人を恐怖と驚愕に陥れることがある。

 

殆どの感覚を視覚で捉える人にとって閃光は驚愕を誘い、視覚で捉えられず聴覚で頼らざるを得なければ恐怖を抱く。

人は観て考え判断する知恵ある生物だ。しかし知恵は時に枷となり、感覚を何らかの形で刺激されると敏感になり、直感に頼ることが出来なくなる。

人の祖先は火を克服したというが、火が恐怖を与える存在であることには変りは無い。それは身を焦がすからではなく、突如として光と熱が灯した瞬間に恐怖を抱くからだ。

 

しかし人が最も解り易い恐怖の対象といえば……やはり雷だろう。

 

閃光が走り、あらゆる物を強大な電気で焦がし、落ちた瞬間に爆音が響く。光と音の恐怖、自然の驚異、神の怒りと表現するには充分な威力だろう。

故に大抵のモンスターは雷に弱いが、そんな雷を日常茶飯事に起こすモンスターがいるのがこの世の中だ。フルフル然り、ジンオウガ然り。

最近では爆破属性という特殊な状態異常のこともあり、爆発というもう1つの解り易い恐怖が増えている。過去にあったテオ・テスカトル、現在はブラキディオスがその筆頭となっている。

 

 

 

―これは、そんな爆音と閃光を操る希少種級モンスター同士の大決戦である。

 

 

 

―――

 

 辺境の地に聳える塔の頂に、二頭の見慣れぬモンスターが陣取り、争い合っている。

 遠くの空から望遠鏡で観測していた古龍観測隊の隊員がそう告げると、隊長格らしき男が別の望遠鏡でその光景を目の当たりにする。

 望遠鏡を覗き込んだ直後、観測船にまで届く閃光と爆音が轟き、望遠鏡で拡大して見ていた隊長がムスカってしまった。

 

 その閃光と爆音の正体は2つ。1つは雷で、1つは爆発。これらは2匹の大型モンスターが繰り出したものだ。

 

 片方は、巨重を誇る飛竜種モンスター・グラビモス。

 しかしその甲殻は青白いものとなっており、大きさはグラビモスの金冠サイズに届きかねないほどに大きい。

 何よりも驚愕すべきは、その青白い甲殻からは幾多もの稲光が走っており、グラビモスの口からは熱の代わりに電撃が漏れていることだ。

 先ほどの閃光と爆音の正体は、このグラビモスが口からビーム状に放った雷光だったのだ。

 

 片方は、強靭な四肢でグラビモスの前に立ち塞がる牙竜種モンスター・ジンオウガ。

 体毛は赤く、甲殻は橙色に染まっており、どこからやってきたのか赤い光が次々とジンオウガに集っていく。

 その赤い光の正体は、絶命すると爆発する虫・ボンバッタ。この赤いジンオウガが募らせているのはその上位種である「爆雷虫」である。

 閃光と爆音のもう1つの正体。それはこの赤いジンオウガが放った爆雷虫がグラビモスを覆い、爆発で包み込んだのだ。

 

 しかし、両者の一撃は無意味に終わっていた。グラビモスは爆発を物ともしないほどの防御力で、ジンオウガは雷光ビームを易々と避ける程の跳躍力で凌いだのだ。

 両者の放った一撃は隊員達が感じ取ったように強大無比な物。間違いなくG級か、もしくは希少種と呼ぶに相応しい実力を得ている。

 

 

―後日、青白いグラビモスは「雷鎧竜(ライガイリュウ)」、赤いジンオウガは「爆狼竜(バクロウリュウ)」という名称で報告されることになる。

 

 

 古龍観測隊の者達は先の閃光と爆音に恐れているが、それでも逃げ出そうとしない。

 観測隊の役割は、古龍種に匹敵する脅威をギルドなどに報告すること。その責務を果たすべく、彼らは2匹の戦いを見続ける事にしたのだ。

 

 まず動き出したのはジンオウガ。原種同様に脚力に優れているらしく、颯爽と駆け抜ける。

 対してグラビモスはゆったりとした動きで、受け止める自信でもあるのか、両足に力を込めて重心を低くして身構えていた。

 ジンオウガはそのまま大きく跳躍し、重心を低くしたグラビモスの背に己の前脚を叩きつけ―――爆発を起こした。

 先端に引っ付いていた爆雷虫を潰したことで起こした爆発だが、グラビモスの甲殻にはスス汚れしかつけられていない。

 しかしジンオウガは前脚からの爆発を利用して後方へ跳躍、四肢を地面に着地させたかと思えば今度は四肢の先端で爆発が起こり、その勢いに乗じてさらに高く跳ぶ。

 

 グラビモスはといえば、先ほどの衝撃を受けてからというものの、体に走る稲光の本数が増えたような気がする。

 このグラビモスの甲殻は圧力が加わると電気を生じるという電圧岩と呼ばれる鉱石で覆われている為、攻撃を受けるなどして圧力を加え電力を溜めるのだ。

 それだけジンオウガのダイナマイトお手が強かったということなのだが、グラビモスの分厚い甲殻は物ともせず、むしろ電量を高める結果となった。

 高く跳躍したジンオウガに向けて口を開き、先ほどのよりは細いとはいえ、それなりの太さを持つ雷光ビームを発射する。

 

 ジンオウガは空中で身を捻ることでなんとか回避、そのままグラビモスの背に向けて己の背を向け、空中から身体全体を叩きつける。

 流石のグラビモスもジンオウガの巨体を高高度から叩きつけられたことで岩盤ごと沈むが、ここでジンオウガは更なる一撃をお見舞いする。

 

 背中を叩き付けた直後、背中の爆雷虫が大量に押し潰されたことで、グラビモスとジンオウガの間に大きな爆発が生じた。

 

 流石のグラビモスもこの一撃は堪えたらしく、背中に大きな皹が生じ、思わず体が倒れこんでしまう。

 だが大きな爆発故にジンオウガもただでは済まず、爆発の勢いで跳んで再び地面に着地するも、硬く重い甲殻に体をぶつけたこともあってフラついてしまう。

 

 しかし両者に「諦める」という辞書は無い。そもそも辞書ですら無いが。

 グラビモスは割れた背中を誤魔化すかのように胸を張って咆哮を轟かせ、ジンオウガはそれに応えるかのように咆哮を飛ばす。

 いずれも先ほどの雷撃と爆音に負けないほどの音量を誇っていた。

 

 

 その咆哮を聞いた観察隊の皆は震え上がった。

 それは生物が持つ本能。雷といった大自然の驚異だけではない、強大なモンスターだと知ったが故の危機感だ。

 雷鎧竜と爆狼竜の決着を最後まで見る事なく、観察隊は逃げるようにしてギルドへ船を飛ばす。

 ギルドが駆けつけた頃には、2匹の姿が塔から消え去ったなどと知らずに。

 

 

 

―完―




●変異種紹介
雷鎧竜グラビモス希少種
電圧岩と呼ばれる石英のような鉱石で身を覆い、雷属性を身につけたグラビモス変異種。
衝撃を受ける度に蓄積された電力を用いて強力な雷ビームを口から放つことが出来る。
また、周囲に微弱な電気を生じて獲物を麻痺させたりするなど、絡め手も多くなった。

爆狼竜ジンオウガ希少種
爆破液を体毛に滲ませ呼び寄せたボンバッタを「爆雷虫」に強化させ使役する牙竜種。
爆破攻撃はもちろん、行動一つ一つに爆発を加え、よりアグレッシブな動きを見せる。


○本日の防具と素材一覧

●グラビドLシリーズのスキル一覧
・雷電(雷属性攻撃強化+3・雷耐性【大】の複合スキル)
・砲撃王
・麻痺無効
・水耐性弱化

●ジンオウBシリーズのスキル一覧
・異端者(状態異常攻撃+2・会心撃【特殊】の複合スキル)
・体術+1
・ボマー
・悪霊の加護

●ジンオウBシリーズのスキル一覧(ガンナー)
・爆雷(爆破瓶追加+爆破弾追加の複合スキル)
・体術+1
・ボマー
・悪霊の加護

素材は後日記載予定(滅)

ではでは。遅くなると思いますが、モンハンデルシオンもよろしくお願いします。


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part29:「虚龍の生態」

今回のテーマは「性格が変わったオオナズチ」です。読者様のアイディアを参考にしました。
見た目だけじゃなくて中身、特に性格が変わっていても可笑しくないかなーと思い、大胆にアレンジしました。

要約すると「こんなオオナズチだったら相手にしたくない」ですね(笑)

注意:今回はホラー風かつ残酷な描写、流血表現などがあります。苦手な方はお下がりください。

それとモンハンデルシオンに関するリクエストを活動報告に上げる予定なので、よろしければ見ていってください。


 生物とはまず見た目から分析される。大きさ、鋭い牙と爪、筋肉のつき方……水陸空に応じて生物は形を変えて適応するからだ。

 しかし見た目では解らないのが生物の本質。人も似たようで見た目も性格も違う以上、モンスターにも性格や個性が変わってくる。

 これまで記してきた多くのモンスターの対処法も、見た目から始まり本質を見抜いた、過去の人々の智慧と勇気が募った結果だ。

 

 だからこそ想像して欲しい。

 普段は眠り危険が無い限りは大人しい棘竜エスピナスが最初から好戦的であったなら、危険度と討伐難易度はグッと跳ね上がっていたことだろう。

 暴食の限りを尽くし見境無く食う恐暴竜イビルジョーが集落の家畜を狙うような知能があったならば、今頃は多くの人類が絶滅していたかもしれない。

 人間に友好的なアイルーやメラルーがチャチャブーのように害をなすモンスターばかりだったなら、モンハン界のアイドルにはならなかっただろう。

 

 そして本質とは、理由さえあれば唐突に変化する事が出来る。

 それは生命の危機であったり、誰かに害されたからであったり、効率を知ったからでありと、理由は様々。

 

 

 

 これは、あるモンスターの性格が変異した、1匹の変異種の話である。

 

 

 

―――

 

 原生林にて霞龍と思われる影あり―――ドンドルマの大老殿へ伝えられた情報だ。

 

 霞龍オオナズチ。姿を消し毒を吐く神出鬼没の、故に未知数とされている古龍種。

 しかもこの時期の原生林といえばG級と思われるラージャンが生息していたはずだが、情報が届けられた数日前、そのラージャンが姿を消したとも伝えられている。

 時に古龍種をも恐れさせるというラージャンが消え、その直後にオオナズチが居るとなれば危険度は高い。よって早急にG級ハンターへ依頼を発注した。

 

 

 だが彼らは知らない―――このクエストによって恐怖のずんd、どん底に落とされようとは。

 

 

 

 最初に異変に気づいたのは、大剣を背負ったドボルX装備の男だった。

 

 原生林に生息しているというオオナズチを探し出すために各自が散開したのはいいが、未だにペイントボールの臭気は漂ってこない。

 古龍種が居る為か不気味すぎるほどに静かなのを良い事に、大丈夫だろうかと不安になったドボルXの男は耳を澄ましている。

 すると微かに聞こえてきたのは滝の音に混じる女の悲鳴……ガルルガXシリーズを身に纏った弓使いの声だ。ドボルX装備の男はすぐさま駆けつける。

 

 バシャバシャと水辺を走るドボルX装備の男が目にしたのは、ガルルガXをつけた右腕と、水溜りに転げ落ちているペイントボールだった。

 呆然とそれを見下ろしているとセルタスX装備のガンランス使いが駆けつけ、二の腕の先が無くなった右腕を見て驚愕する。

 用心深いレギオスX装備のハンマー使いは事前に千里眼の薬を飲んでいた為、この狩猟フィールドにはオオナズチらしき影しか居ないと全員に伝えてある。

 

―――つまり、ガルルガX女はオオナズチにやられたと見て相違ないだろう。

 

 だが彼女もG級を生き抜いた強者にして熟練者だ。まさかペイントボールを投げる暇も無く殺されたのだというのか――――そんな恐怖が2人を襲う。

 故に2人は固まって行動することに決め、レギオスX男が最後に感知できたと言っていたエリア3―――滝の麓へと足を運ぶ。

 

 

 

 続いて気づいたのは、盾があるからとドボルX男よりは若干余裕があるセルタスX男。

 

 2人は互いの背中を預けあうようにして固まり各々の正面を見ながらゆっくりと前進していたのだが、セルタスX男は盾を構えつつ四方を見渡していた。

 だからか、真っ先に空間の歪みのような物を目撃する事が出来、即座にドボルX男に伝えることで警戒を深める事に成功した。

 彼もセルタスX男の言う事は正しいと判断できた。何せここは水辺。バシャバシャと自分達以外の足音―それも四足歩行ならではの足音が聞こえたからだ。

 

 まずオオナズチが居るのは違い無いのだが……一向に姿を見せようとしない。

 バシャバシャと音が聞こえ、時節思い出したかのように音が止み、また水音が響く。

 2人はいつ攻めて来るのかと恐れつつ、武器を身構えたまま周囲を見渡す。

 

 するとセルタスX男が途端に尻餅をついて倒れ出した。攻撃を受けたのかとドボルX男が振り向いて声をかけるが、彼は健在だった。

 セルタスX男は震える手で指差し、ドボルX男はその先を見る―――そこには、左足だけのレギオスXグリーヴが夥しい量の血で濡れた水辺にあった。

 真っ赤な血で染まった水辺に金色に光る装備が目立ち、故にその切れ目からとめどなく流れる鮮血にも目が行ってしまい、2人を恐怖に駆り立てた。

 

 セルタスX男は思い出す―――確かレギオスXの男と別れたのは、ガルルガXの女の右腕が見つかる数分前の事だったと。

 だからこそ解った。こんな短時間に2人のG級を遺体も無く殺したというオオナズチは、桁が違うと。

 

 2人は逃げ出した。

 仲間を失った悲しみや怒り、古龍種に対する恐怖や復讐心、己の保身などではない。

 彼女らのような被害を1人でも減らすべく、一刻も早くこの情報を大老殿に伝えなくてはならないというG級ハンターとしての責務だ。

 

 

 

 そして最後に気づいたのはドボルX男―――いや、気づいたのではない。気づかざるを得なかったのだ。

 何せ自分とセルタスX男の体に、まるで感電したかのような強烈な麻痺が襲ってきたのだから。

 

 ドボルX男は声も出なかった。出そうにも痺れて喉ですら動かせなかったからだ。ビクビクと痙攣して浅い水辺に倒れるしかなかった。

 首は事前に横へ向けていたから、隣のセルタスX男も痺れて倒れているところを目撃することが出来たが―――不幸はさらに続いた。

 

 

 大柄なはずのセルタスX男が頭から全身を飲み込まれていく様―――それを瞬きですら許されない目で見てしまったのだから。

 

 

 文字通り何もない空間から突如として現れたのは、毒々しい濃い紫色の表皮を持ったオオナズチ。

 そのオオナズチが不自然な程に縦へ避けた口でセルタスX男を丸ごと銜え込んだのだ。その後、ゆっくりと上へ持ち上げられ、ドボルX男の視界から見えなくなる。

 代わりに、頭上からビチャビチャと液体のような物が次々と零れていく。麻痺毒らしい黄色い液体と、真っ赤な鮮血。咀嚼する音が嫌でも耳に響き、容易に頭上での光景が脳裏に映ってしまう。

 

 

 やがてドボルX男に流れた麻痺毒が消え、動けると解った瞬間、這いずってでも逃げようと力を込めた。

 

 

 

 

 しかしオオナズチ変異種―――狡猾かつ残忍な性格となった『虚龍(ウツロリュウ)』は、逃げる獲物を逃しはしなかった。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 4人の狩人が狩りに出かけた―――1人が右手になって3人になった。

 

 3人の狩人が滝へ向かった―――1人が左足になって2人になった。

 

 2人の狩人が逃げ出そうとした―――1人が血貯まりになって1人になった。

 

 残った1人が古龍に食われ―――後は誰もいなくなった。

 

~とある村に伝わる数え歌より~

 

 

 

 

―続く―




●変異種紹介
虚龍オオナズチ変異種
温厚な性格が一変し、狡猾かつ残忍な性格となったオオナズチの変異種。
古龍種に狂竜化はありえないということもあり、性格変化の理由は未だ解明されていない。
解っているのは、麻痺毒を所有する事、透明化の時間が長い事、獲物を丸呑みにする習性を持つ、ということぐらいだ。

○本日の防具と素材一覧

●ミヅハ恐シリーズのスキル一覧
・暗殺術(隠密・抜刀術【会心】・特殊会心の複合スキル)
・早食い+2
・体力回復量DOWN

●素材一覧
・現在不明

こんなオオナズチいやだぁ(汗)ちなみに私は未だに4Gのオオナズチに会っていません。
まぁけどザボア亜種を倒せるようになったから、今後頑張れる気がします!(ぉ)


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part30:「痺れ怪鳥の生態」

今回のテーマは「猛毒の代わりに麻痺毒を吐くゲリョス」です。読者様のアイディアを参考にしました。
毒の変わりに麻痺ってのがゲリョス変異種らしくて気に入りました。強さじゃなくて嫌らしさが強化された所がまた良い(笑)
ていうか、前回の虚龍といい、嫌な面で強化されたのが続いちゃいましたね(笑)

それにしてもpart30か……変異種もこれで30種超えることになったんですよねぇ(しみじみ)

11/20:サブタイトル修正+誤字修正




 この世に善も悪もない。あるのは人間だけだ。

 何故なら正義も悪も人が定めた物であり、本来なら世界に善悪など存在しない為である。

 モンスターもそうであり、人から見れば肉食モンスターは残虐極まりない存在に思えるが、肉食も草食も日々を生き抜くのに必死なだけだ。

 アイルーだって良い悪しがあるしメラルーに至っては悪戯三昧ではあるが、彼らは知能こそあれど、善悪の判断が低いのだろう。

 

 しかしハンターなら誰しも思わざるを得ない事がある。

 

 

 それは―――なにこれウゼェェェ!―――である。

 

 

 ハンターなら一度は経験しただろう。モンスターに悪意は無いはずなのに、明らかに悪意を込めてやっていないか?と思うことが。

 例えば、ランポスといった小型の鳥竜種。飛び跳ねてすばしっこい彼らは片付けようと思うと逆に面倒になる。特にイーオスは厄介極まりない。

 例えば、ガブラスやブナハブラといった飛行モンスター。大型モンスターとの戦闘中ブナハブラに刺され麻痺したときの危機感は半端無いだろう。

 例えば、クンチュウとリノプロス。大型モンスターが居ても怯むことなく、なぜかハンターへ一直線に突進してくる。お前ら絶対ワザとやっているだろ。

 

 上記はまだ悪意は無いが、そうしたことで狩りの効率が上がると理解した賢いモンスターも多々存在している。

 近年になって数が増したとされる蛇竜種がその筆頭とされており、ガブラスはもちろん、音で動きを止める狡蛇竜、水ブレスを反射させ翻弄する水蛇竜など様々だ。

 

 だが長年狩人をやって来たハンターなら解るだろう……元祖「嫌らしい系」モンスターは誰かを。

 

 

 

―――

 

 ゲリョス―――別名「毒怪鳥」。

 

 毒を吐き、クリスタル系統の成分が入ったトサカで閃光を放ち、突く際に道具を奪うといった狡猾な鳥竜種として有名。

 ゴムのような皮は帯電性に優れるだけでなく打撃系の武器を弾き、場合によっては壁を垂直に走る程の驚異的なスタミナを持っている。

 若きハンターにとって登竜門的存在であるイャンクックを討伐した後の難問と言っても過言ではないだろう。大抵は鳥竜種だからと侮って嫌な目に合うからだ。

 

 今回、上位になったばかりのハンター2名に与えられたクエストの狩猟対象がそいつとなる。

 ただし依頼主の情報では「盗まれたと気づいて振り向いたらピカっと光ったから、多分ゲリョス」としか解っていない為、亜種である可能性も高い。

 まぁ亜種との違いといえば「突く際に閃光を放つ」事ぐらいで、事前知識さえあれば大丈夫だろうと高を括った2人は、充分な装備とアイテムを整えて原生林へと向かった。

 

 

 ところがドッコイ。世の中、特に大自然は物事が上手く行かないのが常である。

 2人は確かにゲリョスを発見することが出来たのだが―――黄色が混じったゲリョスだったのである。

 ゲリョス原種なら青紫、ゲリョス亜種なら濃い紫。ならこの黄土色のゲリョスはなんなのかといえば―――最近話題の変異種であった。

 

 変異種とは未知数であることが多い。無論2人は全く知らないし、下手をすれば上位でなくG級である可能性もありえた。

 しかし2人は上位に上がったばかりでテンションが高まっていた事、未知数とはいえゲリョスみたく嘔吐物と閃光に気をつければ良いだろうと判断した事もあり狩猟を開始。

 下位装備とはいえ、片方は炎属性の刀とレウス装備、片方は氷属性の双剣とジンオウガ装備。護石と装飾品で毒対策もしている。いけない事もないだろう。

 

 

―そう思っていた時期が俺達にもありましたby体はベテラン頭脳は新米なハンター2人

 

 

 この黄土色のゲリョス、毒は毒でも麻痺毒を撒き散らすのだ。

 一体何を食べればこうなるのか、上位以上の実力があるのか口から吐く麻痺毒の量は下位のゲリョスとは比べ物にならない程に多い。

 泥のように黄色い毒液が地面に広がり、当然ながら走りながら麻痺毒を撒き散らす為にアチコチに黄色い毒液が目立ち、走る際にかなり邪魔ったらしい。

 

 ここまではゲリョスと変らないし動きも事前に聞いた上位ゲリョスのものと変らないが……毒の使い方が絶妙だった。

 

 どうやらこの麻痺毒は気化しやすいものらしく、翼を羽ばたかせて風を起こせば霧となって周囲に広がり、モヤの塊となって飛んでくる。

 さらに麻痺毒の特性を理解しているのか、跳びかかって嘴で突く際、わざと地面に食い込ませて麻痺毒を注入、簡易的なシビレ罠を作るという巧妙な手口を編み出す。

 しかも穴が空いているだけなので戦闘中だと解りづらく、2人はしょっちゅう簡易シビレ罠に引っかかり麻痺することに。

 麻痺して倒れれば狙うかのように黄土色のゲリョスは跳びかかり、嘴で体を突いてアイテムを盗む。

 

 アイテム盗みはもちろん閃光も放つのだが……ここでもこの黄土色のゲリョスならではの狡猾な手段が潜んでいた。

 

 さぁ閃光を放ってやるぞ、と言わんばかりにトサカを打ち鳴らそうとして―――急に止めて突進してくる。

 さぁ閃光を放ってやるぞ、と言わんばかりにトサカを打ち鳴らそうとして―――麻痺毒を吐いて飛ばす。

 さぁ閃光を放ってやるぞ、と言わんばかりにトサカを打ち鳴らそうとして―――普通に閃光を放つ。

 

 恐らくはトサカを鳴らす直前までに放つ放たないを決めることが出来るらしく、その時次第で発光するかしないかが決まる。

 その気まぐれが逆に新米ハンター2人には相当イラついたらしく、何度下手を出したことか。

 猛毒が麻痺毒に変っただけでも苦戦しているというのに、毒を巧みに使うだけでなく閃光のタイミングを決められるとなると、コレでもないぐらいに厄介だった。

 2人の知識が通用しないことや想像以上の苦戦を強いられているにも関わらず挑んだのは、彼らの頭に大量の血液が上っていたからだろう。

 

 

 結局3回ほど倒れてネコタク送られ、報酬金が底を尽きてクエストリタイア。

 相方が倒れて3乙目と知った時のジンオウガ男は、目の前でドタバタ走る黄土色のゲリョスに唾を吐きたい気持ちで一杯だったという。

 

 

 この後、2人はバルバレギルドにクエスト失敗を伝え、黄土色のゲリョスの詳細を報告。

 ここ最近になって目撃されていたらしく、黄土色のゲリョスと実際に戦闘を行ったのは2人が初めてだという。

 

 このゲリョス変異種を、麻痺毒を吐く特性から「痺怪鳥(シビレカイチョウ)」と命名。

 これまでのゲリョスの対抗策を真っ向から否定するような、厭らしさ満点の鳥竜種の名と生態が記されたそうな。

 

 

 

―完―




●変異種紹介
痺怪鳥ゲリョス変異種
食性が変化した為か猛毒の代わりに麻痺毒を吐くようになったゲリョスの変異種。
地面に撒き散らした麻痺毒を翼や嘴で巧みに利用し、閃光のタイミングを自在に操る。
手癖も相当悪く、原種以上に嫌らしいだけでなく、商人などへの被害も多くなっている。

○本日の防具と素材一覧

●ゲリョスMシリーズのスキル一覧
・麻痺無効
・気絶無効
・盗み無効
・寒さ倍増
・暑さ倍増

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・ゴム質の黄柔皮
痺怪鳥のゴムのような皮。毒素を通しにくい素材で出来ており、とりわけ麻痺毒に強い。
・痺怪鳥の黄翼
ゲリョス変異種から取れた質の良い翼。伸縮性に優れ、特に皮膜は分厚く強度も高い。


そういえば本編「ヤオザミ成記」がアクセス総数30万を超えました!
本編でも言うつもりですが、皆さん本当にありがとうございます!
本日中にモンハンデルシオンの最新企画を活動報告にて記載する予定なのでお楽しみに!


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ExtraBoss-1:「命吹き消す者」

エキストラステージ:ボスモードがついに始まりました。
さぁ読者の皆様、投稿者によって生み出された、妄想モンハンのラスボス達を見よ!

第一弾はこちら!

イメージBGM(作者独断):錆びたクシャルダオラ(MH4G)

12/1:誤字修正


 息吹よ、世界に季節を巡らせよ

 

 息吹よ、世界に命を巡らせよ

 

 されど、息吹は禍を呼び起こさん

 

 されど、息吹は命を消し去らん

 

 息吹に意思は無く

 

 息吹に智慧は無い

 

 ただただ世界を巡り

 

 ただただ世界を包み

 

 風よ、息吹け。嵐よ、息吹け

 

 命よ、息吹に吹かれよ。禍よ、息吹に吹かれよ

 

 世界は、息吹によりて動かんとす。

 

 

~とある遺跡の石碑に記されていた文章より~

 

 

 

―――

 

 その地域は、常に豪雨と台風によって支配されていた。

 海から来る季節風が山脈を登るようにして吹くことで積乱雲を所持させ、それが山を包む嵐となっているのだと考えられる。

 しかし、人が立つことですら困難なほどに強い風は、未だかつて誰も足を運んだことが無い秘境とされている。

 また、その風はまるで生きているかのように、弱くなったり強くなったりを繰り返している。弱でも台風並み、強なら人を容易く吹き飛ばすほどの豪風には違いないが。

 かろうじてその山が霞んで見える場所ですら、人が暮らすに適しないほどに風が吹き、人どころかロクなモンスターが生息しない荒野と化しているのだ。

 

 かつて冒険家がその先にある山を見るために荒野へ訪れた事があり、その冒険家の書にはこう記してある。

 

「あれは山であって山ではない。まるで天が、嵐で山を崩して遊んでいるかのような凄まじい場所だ。私は不躾にも、あの神の遊び場を【荒天山】と名づけよう」

 

 人が行くには余りにも危険な、暴風と豪雨で包まれし危険区域―――荒天山(コウテンザン)

 遠く離れた場所で一目見るだけでも解る程の大災害が留まり続けるその山に、果たして生物が存在するのだろうか?

 

 

 

―誰も思うまい。その山に生息する生物は、クシャルダオラですら起こせないような嵐を引き起こし続けた張本人だということを。

 

 

 

―――

 

 その山の頂上で眠っているモンスターは、穏やかな眠りについているのか、ゆっくりとした呼吸を繰り返している。

 大昔のこの山には人が暮らしていたのか、今は風と雨によってボロボロに朽ち果てた祭壇のような遺跡を陣取り眠っていた。

 息を吸って、吐く。生物が当たり前のように行っている生理現象を「呼吸」または「息吹」と言う。

 

 空気中の酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すだけの行為だけで嵐を起こす事など普通はできない―――普通なら、だ。

 

 そのモンスターが息を吸えば、驚くほどの量の空気が周囲から根こそぎ奪っていき、岩ですら岩肌を削られるほどの風を生じる。

 そのモンスターが息を吐けば、溜め込んだ膨大な量の空気が一点の穴から抜け出そうとし、まるで嵐のように周囲を駆け巡っていく。

 

 この世界には、驚異的な肺活量を持って周囲を揺るがす大咆哮を放つ黒轟竜、その上を行く大轟竜という飛竜種が存在している。

 その2匹ですら小さく思えるような規模を睡眠時の呼吸だけで行っているのだ、このモンスターは。いや、無意識故にその恐ろしさは計り知れない。

 今でこそ山に包まれた暗雲は海から来る気流によって渦を巻いているものの、このモンスターの寝息への影響を受けている。

 

 そのモンスターは黒い鱗を全身に纏い、額に小さな角を生やし、逆に後頭部には太く長い角が4本ほど生えている。

体は蛇竜種のように太く長いが、体を支える為か、後ろ脚は大きく発達している。背中 には翼らしいものがあるが退化しており、飾りにしか見えない。

 全体的に見れば蛇竜種というよりは……ユクモに伝わる伝説「嵐龍」に酷似している。最も、飛べないし鰭のようなものも無いが。

 

―モンスターの瞼が開いた。

 

 天空を渦巻く暗雲によって周囲は夜のように暗くなってはいるが、一応は朝を迎えたらしい。

 豪雨に打たれて濡れた長い身体体を起こし、太く発達した後ろ脚で踏ん張って上半身を持ち上げ、太く長い尾を支えに立ち上がる。

 

 降り止む気配の無い雨脚と吹き荒れる風―気流によって生じた天然の嵐だ―を受けておきながら、そのモンスターは立ち上がってから微動ですらしていない。

 雨も風も軽んじて受け止める中、そのモンスターは大きく口を開き、ゆっくりと息を吸う。

 

 

 吸っているだけで―――周囲の空気が渦を描くようにそのモンスターの口に収束していく。

 

 

 まるで渦潮のように収束していく空気は全てモンスターの肺と腹の中へ溜め込まれていくが……腹と喉が膨れている様子は無い。

 いや微妙に膨らみつつあるものの、まるでこの山全ての大気を吸い込むかのような勢いからすると比例には満たないはず。

 

 

 やがて息を吸うのを止め――吐き出す。

 

 

 唐突ではあるが、覇竜アカムトルムという飛竜種をご存知だろうか?

 彼は強靭な肺活量を持ってして物凄い咆哮を放つことが出来、「ソニックブラスト」と呼ばれる荒業を使うことだって出来る。

 

 

 

 このモンスター……未だなお確認されていない古龍種は、その上を行く。

 

 

 

 体内で圧縮し吐き出した空気は、淡く輝く後頭部の角から供給された余剰エネルギーを得て物凄い風圧となって周囲を乱す。

 それはアカムトルムの放つものとは比べ物にならない程に太く、そして天に渦巻く暗雲を乱すほどの射程を誇っていた。

 最初は天に向けて放っていたが、頭をぐるりと薙ぎ払うように振り、自身の周囲を口から放つ風によって粉々にしていく。

 人によって作られた過去の遺産は尽く崩れ落ち、ようやく自然に打ち勝ち芽吹いた木々を尽く薙ぎ倒す。

 

 その息吹が周囲の全てを吹き消したのは10分後……その時間は、吹き始めてから吹き終えるまでの時間と同じ。

 つまりは10分間もあの強烈な風ブレスを放ち続けた、ということ。たかが10分でこのような惨事になると誰が思うだろうか?

 

 

 

 そして―――「息吹龍(イブキリュウ)」ブレアルスの深呼吸(・・・)は、まだまだ続く。

 そう……これはただの(・・・)深呼吸。ブレアルスの寝起きは決まってこの深呼吸を行う。ただそれだけの習慣。

 その習慣によって、この山が「天荒れる山」と由来される原因になっていることを、この古龍種は知らない。

 

 

 

―――

 

 息吹龍ブレアルス。息を吹けば天地が荒れると言われている伝説の古龍種。

 唯一にして最大の救いは、縄張り意識が非常に強く、己が定めた縄張りから動こうとしないことか。

 されど、この世に絶対など存在しない。もし奴が縄張りを拡大しようと動き出そうものなら……。

 

 

 

 彼の息吹は、いつしか今いる(・・・)人々へ届くかもしれない。

 かつて彼の息吹の餌食になった先人達は、僅かな生き残りを残し、殆どの命が吹き消した。

 

 

 

 息吹龍。(いき)()く龍。

 

 

 

 かの龍の息吹は、容易く世界を廻り、容易く命を吹き消す。

 

 

 

―完―




というわけで「息吹龍」でした。いかがでしたか?
短い場面でスミマセン、ほかのもこんな感じにシンプルになる予定です(汗)

このモンスターの採用ポイントは、強靭な肺活量によるブレスとシンプルな設定です。

モンハンのような自然に近く、しかし角に溜め込んだ液体が関連しているのでは?という推測が逆に古龍種らしくて良い設定でした。
しかも角を破壊すれば一部ブレスが使えなくなる、という親切設定なのもらしくて良し!
このモンスターの設定を見ていると、神の息吹という名の自然の驚異を物語るようでした。
「ソニックブラスト」の王者に君臨できそうです(笑)

残るモンスターは12月中に投稿できるよう頑張ります。選出未だに悩んでますし(汗

ではでは。


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ExtraBoss-2:「元始の使者」

エキストラボスモード第二弾!今回も描写短めですスミマセン(汗

イメージBGM「燃ゆる溟海(グラン・ミラオス)」


 お山の怒りは島の始まり

 

 お山の赤き血が地を流れ、新たな大地となる

 

 お山の赤い涙は天を昇り、黒き雲より降り注ぐ

 

 お山が泣き止めば新たな島が生まれ、また眠る

 

 お山が起きれば島が生まれ、お山は新たな居場所を探す

 

 お山の眠りは火山の始まり

 

 元始の使者はお山の……お、やっと寝たかへぐなちゃごめ

 

 にしても……可愛いじゃねぇかぁ……娘よ……娘よぉぉぉぉ!

 

 

~とある土竜族に伝わる唄(一部感涙有)~

 

 

 

―――

 

 かつてその地には人が栄えていた。

 大きく聳える山からの恵みは命の営みを築き、それを分けてもらいながら慎ましく暮らす街だった。

 しかし今はそうでない。山で暮らしていた人々の繁栄はおろか、その山の自然ですら大昔に滅んでいるからだ。

 

 

―あるのは、人と自然を滅ぼした大地震と共に変わり果てた活火山だけだ。

 

 

 かつては山全てが緑に覆われ、多種多様な生物が暮らす大自然の地でもあった。

 活火山となった今では常に噴火と噴煙が絶えず、地表の土色と火山から流れる溶岩の赤、そして空を覆う噴煙による黒の三色でしかない。

 幸いなのは海が近い為に僅かながらの自然が残されており、火山帯のような自然系を築いているということか。

 

 しかし火山に近づけば近づくほど、生物を寄せ付けない高温と熱気で満ち溢れていく。

 そもそもここは活火山である故、火山の中腹からは常に溶岩が流れている。淵からではなく各所に空いた穴からドロドロと。

 中腹付近から溶岩が溢れ出ているからか山そのものは空洞が多く、丁度地底火山のような地形を築いていると考えてもよい。

 ただ水などは一切なく、排煙筒の如く高温の空気が渦巻くので生物は滅多に存在しない。しているのは鎧竜・岩竜ぐらいか。

 

 

 だがそんな火口の最深部……太陽の如く輝く溶岩の海が広がる【火口深奥】には猛者がいた。

 

 

 溶岩竜ヴォルガノス……生物の常識を投げ捨てた、溶岩の中を平然と泳ぐ大型の魚竜種。

 この溶岩の海は相当深い上、巨大な活火山故にマグマの温度が尋常ではない。鎧竜なら間違いなく溺れるだろう。

 しかしヴォルガノスはこの灼熱の海を平然と泳いでいる。溶岩竜の2つ名は伊達ではない、ということか。

 それでも溶岩しかないココでは餌となるものはない。ヴォルガノスは肉食性故、この溶岩の海から這い上がり、獲物を探す必要がある。

 なのでヴォルガノスは上へと続く岸へ行こうと、勢い良く跳びあがった。

 

 

―その瞬間、ヴォルガノスは腹からガブリと行かれた。

 

 

 溶岩を泳ぐのはヴォルガノスの特権ではない。そしてヴォルガノスが食物連鎖の頂点ではない。

 飛び出たヴォルガノスを腹から噛み付いたのは……覇竜アカムトルム。それもヴォルガノスの倍はあろう大きさを持っていた。

 鋭い牙が参列と並ぶアカムトルムに腹から噛み付かれてはヴォルガノスもたまない。飛び出たアカムトルムと共に再び溶岩の海へと落ちる前に絶命―――

 

 

 

―――したのは、さらにアカムトルムが巨大な口に噛み付かれた後であった。

 

 

 

 誰もこのアカムトルムが火口深奥における食物連鎖の頂点だとは言っていない。

 ヴォルガノスの倍はあるアカムトルムを腹から銜えたモンスターの正体は……巨大な古龍種であった。

 

 後ろ向きに生えた巨大な角を携える、全長70mを越す巨体は大海龍ナバルデウスに酷似し。

 覇竜をも銜えこむことのできる巨大な嘴は、炎戈竜アグナコトルのように鋭く堅く。

 その嘴の両脇には太く長い牙が、まるで峯山龍ジエン・モーランの如く伸びており。

 全身と前脚らしき鰭を包む鱗は、老山龍ラオシャンロンが持つ厚く鋭い鱗のよう。

 それらはマグマの熱で燦々と、赤を越えて黄色く輝いており、まるでマグマの化身にも思えられる。

 

 そんな巨大な古龍種の嘴に潰され、鋭い牙に指されたアカムトルムであったが、なお抵抗の意を示さんともがき苦しむ。

 だがその巨重……それに2匹の大型モンスターを加えたことにより、もがく暇もなく3匹まとめて溶岩に落下。

 マグマの海で巨大な水柱が立ち、溶岩が大きく波打つ。巨大な古龍種が溶岩の水面で暴れている為、その波はなおも衰えない。

 

……とはいえ、既にアカムトルムの息も絶えた為、短い時間ではあったが。

 

 巨大な嘴から繰り出す顎の力は凄まじく、両端から伸びる牙は鋭く太い。かの覇竜もひとたまりもないだろう。

 穴が空いた箇所から溶岩により焦げ臭さが漂う中、古龍種は溶岩の海の岸へ向けてアカムトルムを放り投げ、咆哮を轟かせる。

 

 

 

 そして悠々と、周りのヴォルガノス達が逃げ惑う中で覇竜と溶岩竜を食すのだった。

 

 

 

 溶岩の海を泳ぐ古龍種。その2つ名は「ヨウガンリュウ」と呼ばれるようになる。

 ただし「溶岩」ではなく「熔原」……つまり溶岩の源から現れし古龍種、故に「熔原龍(ようがんりゅう)」という意味合いがあるのだが。

 この熔原龍は自身の住処を火山とするのだが、その住処とする為の過程が、大規模な大災害を引き起こすものとなる。

 熔原龍は地下深くの熔岩流を伝って泳ぎ別の火山へ移動し、移動する際に大規模な地震を引き起こす。

 そして餌を探しに海へ出て、休眠する為に別の火山へ移動し、その火山を活性化させ大噴火を起こす。

 

 

 

 そう、この熔原龍(ようがんりゅう)アルファヴァルクこそが、かつて静かな山に暮らす街を滅ぼした古龍種なのだ。

 

 

 

 しかしアルファヴァルグに悪気はなく、一種の生態として熔岩流を伝って移動し、活性化した火山を住処にしているだけに過ぎない。

 悪意なく、移動の為に大地震を、住処作りの為に大噴火を起こす。これもまた強大な古龍種ならではの無自覚な大災害。

 

 

 

 アルファヴァルグが次の餌場を求めて移動するがいつなのか……それは誰にも解らない。

 

 

 

―完―




というわけで「熔源龍」でした。いかがでしたか?
一応は他のモンスターを用いることでその脅威を伝えられたかと思われます(汗)

このモンスターは「元始の使者」と言われておりますが、生態を見て納得しました。
島の始まりは海底火山から始まり、噴火により発生した熔岩が冷えて地形を作る。
休眠する為に火山を活性化し、移動の際に地震を起こす。誕生と破壊の繰り返し。破壊と創造は表裏一体。
故に「元始の使者」なのだろうと。そんな深い意味合いを物語らせてくれた古龍種です。

ナバルデウスといったモンスターの祖先のイメージもつきやすく、とても魅力的でした。

残り2体ですが、既に決まったので、後は書くだけです!間に合うかな(汗

ではでは!


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ExtraBoss-3:「大地に咲く塩花」

エキストラステージ第3弾!今回のボスは風変わりな、しかし危険な能力の持ち主です。

イメージBGM「殷々たる煌鐘の音(アルバトリオン)」


 昔ある所に、塩を求めた国があった。

 

 その国は貧しく、せめて塩を手に入れようと僅かな食糧を他国に譲るしかなかった。

 

 神はその国の貧しさに嘆き、国に塩を送った。

 

 塩に恵まれたその国は、他国に塩を送る事でたちまち豊かになった。

 

 しかし今度は塩を求めた他国が、塩が豊かな国に戦争を仕掛けてきた。

 

 神は人々の欲するが故に奪おうとする罪深さに嘆き、こう言った。

 

 「そんなに塩が欲しいならもっとやろう」

 

 神は国々に塩の化物を送り、塩の化物は国々の全てを塩で包み込んだ。

 

 国は滅んだ。塩を欲した貧しい国も一緒に。

 

 欲して奪うのは良くないことだと、生き残りは知った。

 

 塩の化物は、国の間違いを象徴する神の使いなのである。

 

 

~とある国の末裔が記した御伽話~

 

 

 

―――

 

―塩、塩、塩。

 

 この地―――【塩原】は、かつて大国1つを潤すほどの巨大な塩湖であった。

 しかし今は水分が抜かれ、巨大な塩の塊が大地となって広がる原となっている。

 その塩害は凄まじく、塩湖の恩恵を受けていた大国の建物が全て塩に包まれ、風が届く範囲内の自然はとうに枯れ果てたほど。

 

 生命活動に必要とされる塩分。しかし過剰な塩分は自然を滅ぼす。

 水をも枯らした塩は大国を、そしてその近隣国ですら古代に滅ぼしたのだ。たかが塩でも、これほどの大災害を起こすのだ。

 

 この塩原……否、塩湖の誕生には伝承がある。

 大国が小国であった頃、塩が無く困り果てた所へ、神が恵みとして塩を与えたと。

 これは飽くまで伝承であり、真実は大きく違っていた。それを知る者は小国だった頃、つまり古代より前の者だけだ。

 

 

 しかし敢えてここで語ろう―――この塩は、生物が生み出したのである。

 

 

 かつて、塩湖と呼ばれる場所は湖だった。ただ広いだけの、塩気のまるでない、清らかな水が漂う巨大な水溜り。

 その湖を、たった1匹の生物が飛来してきたことで、大国どころか近隣国ですら賄えるほどの塩湖に変えた。……嘘のような話だが、全て本当である。

 

 

 ここで浮かぶものがあるだろう……その生物が何者であるかを。

 

 

―――

 

 その日、塩原に侵入者が訪れていた。

 こんな塩しかない場所だが、逆に言えば塩しか存在しないような地域だからこそ、長距離飛行を可能とする大型モンスターの羽休めには丁度良いのかもしれない。

 白い大地に足をめり込ませ着地するのは、空の王者と名高き飛竜種、火竜リオレウスである。

 

 分厚く硬い鱗には幾多の歴戦の傷跡があり、王者の風格を漂わせる目つきは、強者ならではのギラギラしたものを感じさせる。

 体も人が知る火竜の金冠サイズに届きかねぬほどに大きく、人が見ればG級と判断しても可笑しくない。事実、このリオレウスは幾多もの縄張り争いに勝利してきた猛者だった。

 そんなリオレウスがこの地を羽休めの場所に選んだのは偶然だ。腹が減ったわけでもなく、その日は風が強く飛び辛かったからこの地に足を止めただけに過ぎない。

 

 白い大地と言っても平らではなく、風化や何かしらの隆起によって生じた結果、小さな岩山のようなものが沢山ある。

 リオレウスは高く聳える塩の岩山に着地し、その上に着地し、翼を折りたたんで眠ろうとしている。

 

 

―しかし、リオレウスは何者かの存在に気付き、即座に起き上がる。

 

 

 高い岩山の上から見下ろした先には―――クシャルダオラのような、四足歩行し背に翼を携えた大型モンスターが歩いていた。

 しかしそのモンスターが歩くというだけにも関わらず、異常といえる箇所は多々存在している。

 

 一歩踏み出すごとに白い大地が隆起して刺々しい花が咲き、脚が離れると霧散する。

 足から塩の花が咲き、粉となって風に散る。それを繰り返しながら、そのモンスターはリオレウスが立つ岩山へと足を運んでいた。

 

 風によって舞う塩が吹雪のようにモンスターの姿を隠している為、リオレウスからは影としてしか見えていない。

 しかしリオレウスは長らく生き延びてきたからこそ、その影から放つプレッシャーが只者でないことを理解していた。

 リオレウスは翼を広げた。大きさをアピールしつつ咆哮を轟かせることで自分の力を見せ付ける、いわば威嚇だ。

 

 その咆哮だけでも衝撃波として周囲を揺るがし、黒い影にもその余波は襲い掛かる。並大抵の大型モンスターなら怯む程度はしていただろう。

 しかし黒い影は微動だにせず、その轟きに対応する。

 

 

 バキバキと音が鳴り、黒かった姿が徐々に白くなっていく。分厚く鋭く膨れ上がるそれは、まるで鎧を生成しているかのよう。

 その白い鎧は足元の塩原にすら及び、バキバキと音を立てながら鋭い棘を幾重にも生やしていく。

 

 刺々しい巨大な塩の花を咲かせた後―――この【塩原】の支配者たる古龍種は戦闘態勢に移った。

 その龍は塩を操るという、言葉だけで聞けばなんだそれはと思い兼ねない程の呆気ない能力を持つが……その力は間違いなく大災害級に匹敵するものだ。

 

 

 

 なにせこの古龍種――「塩曹龍(エンソウリュウ)」ソルトリウムこそが、この巨大な湖を塩の塊に変えた張本人なのだから。

 

 

 

 塩とは命の源。そして命を脅かす毒でもある。

 それは塩害として大自然に襲い掛かり、あらゆる物を枯らす猛毒にもなる。

 故にソルトリウムと対峙したリオレウスは、強さとは別の恐怖を思い知った。あの白い鎧は、自身を殺す毒でもあると。

 

 されどリオレウスは戦わなければならない。

 逃げようと背を向ければ殺されると解っているから。ならば戦って一矢報いようではないかと。

 傲慢ではない。生き残る為の僅かな道筋を本能で悟ったからだ。

 

 ソルトリウムはリオレウスの決死の咆哮を前に、咆哮で返す。

 地を揺るがす咆哮で塩の花は霧散し、代わりにソルトリウムの周りを、巨大な棘が連鎖しつつ隆起していく。

 咆哮に呼応するかのように聳えた塩の棘は波のように広がっていく。ただそれだけとはいえ、この古龍種の特性を物語らせる恐ろしいものだ。

 

 そして両者は息を深く吸い上げる―――己の最大の一撃を放つために。

 

 リオレウスの口からは紅蓮の業火が、ソルトリウムの口からは鋭く尖る塩の結晶が放たれる。

 

 

 

 その後の2匹の決着は―――言うまでも無かろう。

 

 

 

―――

 

 塩曹龍ソルトリウム。塩を生み出し、塩を操り、塩で命を脅かす古龍種。

 

 たかが塩と思って侮るなかれ。高濃度かつ大量の塩は大自然を、そして命を殺す、塩害という名の毒となる。

 湖を塩に変えるほどの力を秘めたこの古龍種が動こうものなら、抗う術もなく全てが塩で包まれていくことだろう。

 

 風とも炎とも水とも雷とも違う、命の源で害を成すという風変わりな、しかし間違いなく危険な古龍種。

 嵐でも炎でも洪水でも雷雨でも与えられない、大自然を覆し破壊するダメージを、塩害という形で与える滅びの力。

 

 

 

 彼の者を人が見つけた場合、時と場所によっては、遅くもあり早くもある。

 人の営みに届く範囲であるかないか。それ次第では、既にソルトリウムの塩に侵略されている可能性があるからだ。

 

 

 

 人がソルトリウムを見つけるのが先か、ソルトリウムが人の集落を見つけるのが先か。

 

 

 

 塩に脅かされる運命は、古龍種の気まぐれで決まる。

 

 

 

―完―




というわけで「塩曹龍」でした。これも恐ろしいですよね~。
これまでのエキストラボスの中でも、別種の恐怖というものを物語りたかった回でした。

このソルトリウムがコレまでのボスモンスターで群を抜いたのは「塩」です。

古龍種とは大自然の驚異そのものです。嵐を起こすクシャル、炎の権化テスカトル、竜巻を起こすアマツなどがそれですね。
しかしソルトリウムはそれら自然の力とは違う、命の根源たる塩で、大自然を容易く破壊する力を秘めているのです。
この破壊力はシャガルやゴアこと「マガラ」に通じるものがあります。命同士を殺しあうことで自然を破壊するからです。

人は必ずこのモンスターを討伐しなければならない。それほどまでの恐怖をこの古龍種は秘めている。
そんなソルトリウムこそラスボス級に選ばれてもいいんじゃないかという妄想が浮かび、採用しました!

さて、色々と語ってきましたが、早いもので次がラストです。
今年も残すところ僅か。年末を飾れるようなラスボスの様子を書けるよう頑張ります!
作者の妄想を存分にぶち込みたいと思いますので、ご了承ください。

ではでは!


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ExtraBoss-4:「災厄の流れ星」

なんとか完成したエキストラステージ最終回!やりたい事をありったけ詰め込みました。
ある意味超越していることを証明し、ある意味で内容が薄いです。ごめんなさい(汗

イメージBGM「光と闇の転生(シャガルマガラ)」


 星よ降れ。天より降りて意を示せ。

 

 願いを叶える希望であれ。凶報を告げる絶望であれ。

 

 全てを破滅する災いであれ。天から齎す恵みであれ。

 

 暗闇に輝く幾多の光よ、先導であれ。数多から堕ちし光よ、鉄槌であれ。

 

 星よ降れ。迷える人に意を示す為に。

 

 希望と絶望の流転であり。

 

 災いと恵みの星であり。

 

 先導と鉄槌の教えである。

 

 星よ降れ。彗星と成りて世界へ降り注げ。

 

 人よ。暗闇より来たりし光を見よ。

 

 人よ。黒き天より舞い降りし星に導かれよ。

 

 人よ――――

 

 

 

~大昔に滅んだ民族が残した唄(一部破損あり)~

 

 

 

―――

 

「やめておけ。俺達はこの世界と釣り合わない」

 

 小さな田舎で雑貨屋を営んでいる12人目の転生者(どうるい)にそう言われ、俺ことアキラは怒りを通り越して呆れ果てた。

 特典の1つである転生者レーダーに反応があったから態々出向いてやったというのに、これまでの転生者(どうるい)と違ってなんたる腑抜けっぷりか。

 

「阿呆が……これを見ろ」

 

 そんな腑抜けだからこそ踏み外して負け犬人生を送ることになったんだ。俺は光り輝くギルドカードを腑抜けに見せ付ける。

 

「これが解るか?解らないだろうな……G級ハンターの証だ。俺は幾多ものモンスターを狩り続けたんだ。これを見ても、()は世界に釣り合わないと言い切れるのか?」

 

 居るんだよ。チート能力を持つ転生者だからと浮かれて、HR2ですら上れない下種が。

 これまで俺が出会った11人の内8人がそうだった。2人は最初から腰抜け、もう1人は無能力者だったが。

 まぁ生存者がいるだけありがたいか。腑抜けと無能を含めた12人以外の転生者は尽く死んでいる。過ぎた力に溺れて死んだか、油断して死んだかのどちらかだろう。

 

 その点、俺は違う。思いつく限りのチートを転生ミスの代償として神に要求し、それを操る努力を怠らず、常に全力で挑んできた。

 全ては俺が為すべき宿命―――神を気取るモンスターを尽く討ち取り、人類の栄光を勝ち取る為に。

 

「モンスターを倒すのはいつだって人間だ。モンスターが支配面しているこの世界を、俺達が救うべきだ。そして俺は英雄に……いや、英雄王になって見せる。人類の為に」

 

「……お前さ、本気で狩人になった気でいるの?」

 

 俺は腑抜けを殴り飛ばした。周りの遠巻き共がどよめくが、所詮コイツらは田舎の世間知らず共。なんの痛みも無い。

 腑抜けではなくて阿呆だったか、コイツは。吹っ飛んで棚に激突し、起き上がって反撃もしない弱虫を放って店を出て行こうとし―――行き先を竜人族の老婆が塞ぐ。

 

「そこどけ。俺は今機嫌が悪い」

 

「にょほほほ、血気盛んじゃのぉ。若くて結構、結構」

 

 ダボダボの紫ローブの裾を口元に当てて隠しながら笑う。俺の腰より小さい癖に、妙に貫禄がある。この竜人族独特の見下した姿勢が俺は嫌いだ。

 

「そんなにモンスターが許せないのかぇ?」

 

「無論。悪意無く無力な人類を追い込んでいる事に変わりは無い」

 

「無力な人類……のぉ」

 

 にょほほほ、と老婆は笑う。いっそ突き飛ばしたと見せかけて殺してやろうか?

 

「……【大雪山】」

 

「何?」

 

「わしゃあこう見えてもギルドに顔見知りが多くてのぉ。そこへお前さんを送る事ぐらいは出来るわい」

 

「そこに何があるというんだ」

 

「人類が恐れるべき凶暴なモンスターを隔離した狩猟地じゃ。解き放ってはならぬと禁じた程の猛者……いや『絶対覇者』じゃよ」

 

「ほぉ……なら案内しろ。俺がそいつを刈り取り、人類にささやかな安寧を届けてやろう」

 

 解き放ってはいけない程に凶悪なモンスターか……殺すべきターゲットだな。

 クシャル、テスカトル、アカムといった古龍級をも駆逐してきた俺に不可能などない。

 

 数多ある脅威を1つ1つ確実に潰せば、いずれは人類が平和に暮らせる。俺達転生者にはそれが出来るはずだ。

 そして俺はその為に戦い抜いてきた。英雄王に憧れた俺が、この異世界で英雄王となる為に。

 

 

 

「……アイツ()おかしい、絶対におかしいよ。なんで怪物相手に怯えもしない?なんで怪物相手に慢心になれる?なんで怪物の本性を知ろうとしない?狂っている、狂っているよアイツら……」

 

 

 

―――

 

 その日の雪山は、様々な異常気象が起こっていた。

 

 まず、空が快晴だった。猛吹雪を起こす暗雲は見事に晴れ渡り、澄み渡った星空が地平線にまで広がっている。

 

 続いて、昼になっても太陽が昇らず、うっすらとした夜空のままだった。その日は太陽が沈んだ状態が続く現象【極夜】であった。

 

 そして、夜空からは無数の流れ星が落ちていた。澄んだ空気によって綺麗に映え、まるで雨のように降り注ぐ流星群は「美しい」の一言に尽きる。

 

 

 

 最も、その流れ星の大半は、この雪山に降り注いでいるなどと誰が思うだろうか。

 黒い空から青白い炎に包まれた星―――所謂「隕石」が絶え間なく雪原へと落ちていき、轟音を鳴らし大地を揺るがしていた。

 雪崩が起こらないのは雪山に降り積もった雪が厚く重過ぎるからなのだが、それでも白い大地を隕石が抉り、幾多ものクレーターを生じている。

 この青白い隕石―かの千の剣の山に姿を現すという『蛇王龍』が降り注ぐ物と酷似している―を起こしているのは、一匹の古龍種である。

 

 漆黒の鱗は巨体の全てを余すことなく包み込み。

 

 漆黒の甲殻は頭角を筆頭に鎧の如く隆起して覆いつくし。

 

 後頭部から伸びる1対の白い角は空から落ちる隕石に呼応するかのように淡く輝き。

 

 背から伸びる翼は己の巨体を簡単に包め込めるほどに広大で。

 

 漆黒の甲殻と漆黒の翼に混ざる白光の甲殻は、まるで夜空に浮かぶ星の如く美しい輝きを放っている。

 

 その姿は、語るべきでない伝説に記されているという伝説の龍に酷似しているが……それを知る者は限りなく零に近いだろう。

 

 

―星空を具現化したかのような古龍種の前で逃げ惑っている男が、その1人だろう。

 

 

 男はハンターだった。

 灼熱を司る古龍種―炎王龍テオ・テスカトルの素材を大量に用いた「帝王(カイザー)」の為の防具……カイザーXシリーズを着装している。

 手に持つチャージアックスは、チャージアックスの中でも上位に君臨する、G級の砕竜を討ち取った物が得られる「砕光の盾斧」であった。

 

 男は奇怪な能力を持っていた。

 雲が晴れて雪ですらないはずの空間が水面の如く揺れ動いたかと思えば、そこから多種多様……否、千差万別の武装が弓矢の如く射出していく。

 質素から豪華絢爛、極小から極大まで様々な武具が高速で飛び交うも、それらの殆どは空から降る隕石によって遮られてしまう。

 仮に古龍種に当ったとしても、漆黒の鱗の硬度と質量、そして己の速度に耐え切れず拉げる始末。1mもある捻れた槍ですら呆気なく潰れる程だ。

 

 男は戸惑っていた。

 先ほどから立ち止まっては隕石を避け、古龍種に近づいたり離れたりと奇妙な行動を繰り返している。

 武器を射出する行為とは別の何かをしているらしいが、それは当人にしか解らないし、当人が何故戸惑っているのかなど他人が見ても解らないだろう。

 

 当の古龍種といえば、角を光らせながら立ち往生しているだけで、特に何もしてはいない。

 空間から射出される数多の武器を拉げ、角の光に呼応するかのように隕石を降らせ、そして目の前の男を見下ろしている。

 

 

―ふと、逃げ惑う男を見ていた古龍種の顔が別の方角を向いた。

 

 

 ザクザクと雪を掻き分けながらこちらへ向かって走ってくる一匹の生物。

 その生物から放つプレッシャーと殺意は、古龍種というカテゴリから見ても脅威と感じられるものだった。

 モノクロの古龍種も、こちらへとやってくる生物の気配に気圧され、ゆっくりと背中の翼を広げる。

 隕石郡を抜き出た僅かな武具達が刺し貫かんと縦横無尽から迫るも、薄いはずの翼膜を貫くことはなく、星空のように美しい黒い翼は健在だ。

 

 黒い翼に混ざる白い鱗が、2本の角と同じような淡い光を輝かせ、古龍種は啼いた。

 古龍種は、ハンターにすら向けなかった明らかな「敵意」を間近に迫ってきた生物―――大型モンスターに向けていた。

 向けられた敵意は隕石郡という形となって、猛烈なスピードで迫るモンスターに向け、雨霰のように次々と降り注いでいく。

 

 

 

 その隕石の雨を潜り抜け――――この【大雪山】の支配者たる「白轟竜(ハクゴウリュウ)」ティガレックス変異種が飛び上がり。

 

 

 

 その支配者に挑むは偶然(・・)この地の【極夜】に訪れた古龍種―――『災厄の流れ星』の2つ名を持つ「彗星龍(スイセイリュウ)」ディザ・メテオラ。

 

 

 

 2匹の『超越者』の縄張り争いが始まった。

 

 

 

―――

 

 転生者アキラは、二次創作小説でありがちな「チート能力」の保持者だ。

 漫画やアニメに出てくる強大な能力。それを持って転生し、今までを生きてきた。

 彼が考えうる最強の能力。それを数多く所有し、それを使いこなしてきたという自負が彼にはあった。

 

 例えば『王の財宝(ゲートオブバビロン)』。

 Fateシリーズで最も有名な、有象無象の伝説の宝具を自由自在に取り出せる最強の宝具。

 神に頼んで思いつく限りの宝具や伝説上の武器を詰め込み、使用後は復活し元に戻るよう設定した。

 

 例えば『世界(ザ・ワールド)

 ジョジョの奇妙な物語に登場する能力「スタンド」の中でも最も有名なスタンド。

 世界の時を止めるというシンプルかつ強力無比な、文字通り「世界を支配する能力」。

 

 例えば『一方通行(アクセラレータ)

 これまた有名な能力の1つで、「とある魔術の禁書目録」に登場する超能力者が仕様する。

 触れたものの向き(ベクトル)を変換する能力で、その影響力は大抵の現象を覆すほど。

 

 しかし考えてみて欲しい。

 王の財宝は、世界中の武具を構成しているモンスターの防御を容易く貫けるか?

 世界を支配する能力は、本当にあらゆる現象を支配することができるのだろうか?

 あらゆる物の向きを変える能力は、モンスターが起こす現象の全てを計測し変えられるのか?

 

 

 答えは―――否だ。

 

 

 そのモンスターが成長すればするほど、王の財宝を防ぎ、世界を支配する能力に抗い、あらゆる物の向きを変える能力を無視できる。

 有象無象関係なく、異世界の神が設定した「力の基準」を容易く飛び越せる。その世界の常識が異なる世界に通ずるわけがないのだ。

 アキラがこれまで生き抜いてきたのは、彼が最も地味だと考えつつも保険として考慮した『幸運EX』が、手負い又は病弱な個体と鉢合わせしただけに過ぎない。

 

 

 故にアキラは、目の前の事実に呆然としていた。

 

 

 圧倒的なパワーを、前脚、後ろ脚、尻尾、牙とあらゆる身体機能を生かして戦う白いティガレックス。

 その圧倒的なパワーを難なくいなし、翼を広げ滑空しながら飛び交い、青白い炎を吐きながら隕石を落とし続けるディザ・メテオラ。

 

 低空を舞うように高速で飛び交い、ティガレックスの攻撃を避けながらもブレスと隕石で攻撃するディザ・メテオラ。

 それを追いかけるように、しかし一歩違えれば容易く骨を圧し折れるほどの威力を持った爪と牙で襲い掛かるティガレックス。

 

 いずれも、アキラの存在を無視していた。

 王の財宝も、世界を支配する力も、ベクトルを操作する能力も……全ての『異世界の能力』を無視して争いあっている。

 干渉はしている。しかしそれは打ち破られる。『世界(ザ・ワールド)』はガラスを割るかのように現象を打ち砕き、『一方通行(アクセラレータ)』は膨大すぎる力の前に変換を及ばせない。

 轟音が響く。隕石が降り注ぐ。それらですら優しさを感じるほどの殺意と敵意が2匹から漂ってくる。

 

 アキラの体を震わせているものは―――怒りだった。

 

「……すんなよ……」

 

 英雄王に憧れ、英雄王となるべく転生した自分を。

 

「無視すんなよ……」

 

 役立たずだった前世の自分を捨て去り、過酷なこの世界にささやかな安寧を与える存在である自分を。

 

「俺を……!」

 

 弱き人間を救う―――この世界で唯一の「オリ主」になるはずの自分を。

 

「無視してんじゃ―――

 

 

 

 空より落ちてくるのは、今までの隕石とは比べ物にならない程に巨大な彗星(メテオ)

 

 

 

 今は危険を察知して離れて行った白轟竜にお見舞いしてやるはずのソレは。

 

 

 

 この世界を弱いと思い込んでいる(・・・・・・・)異世界の人間の真上へ。

 

 

 

 

 落ちた。

 

 

 

 

―――

 

 彗星龍ディザ・メテオラ。災厄の流れ星。

 漆黒の体に混ざる白い鱗がまるで星のようであり、空を飛ぶ姿が流星に見えることから名づけられた名前だ。

 夜が明けない地に訪れる古龍種は転々と住処を変えている。今頃は白轟竜を退き(・・)、別の地へと旅立っていったことだろう。

 だが白轟竜は死んではいない。負傷こそしたが、生への執着が彼を生かしたのだ。これを境にさらなる成長を遂げる事になるが、それは別の話。

 

 この世に、世界を超越した存在など幾らでもいる。

 

 ディザ・メテオラは隕石を降り注がせる謎の力を秘めた、古龍種の中でも脅威に値する強力なモンスターだ。

 彼も超越者であり―――白いティガレックスはさらに上を行く存在、ということなのだ。

 生きれば生きるほど、そして育てば育つほど強くなる。それが生物の基本。モンスターの常識。

 たかが(・・・)異世界の能力でどうにかなる相手ではない。古龍種であろうがなかろうが、純粋な強さと自然摂理が相手では容易く塗りつぶされる。

 

 

 この世は弱肉強食。この世界はそれが全てであり、それ故に強い。

 

 

 それは人も同じ事―――超越せしハンターが邁進し、世界を渡るのは、この世界の常なのだから。

 

 

 

―――

 

 人よ、災厄を乗り越えよ。

 

 

 人よ、導かれて強くなれ。

 

 

 この世に絶対は無く。

 

 

 この世に限界は無い。

 

 

 無限の天の如く。無数の星の如く。

 

 

 

 人よ―――生きてこの世界に挑み続けよ。

 

 

 

―完―




「彗星龍」。ダラ・アマデュラの親戚のようで全く違う恐ろしいモンスターです。

古龍種とは謎が多いです。そもそも嵐を纏うクシャルも、何も無い所から爆発オーラを放つテオも、狂竜ウィルスを持つマガラもデタラメなのです。
この彗星龍はそんな古龍種のデタラメ性能を「星」をテーマにして再現しているようなものでした。
流れ星をイメージしたが故の格好良さ、隕石を降らせるという超越した力。ラスボスらしい「摩訶不思議な力」に分類できます!

故にこのモンハンデルシオン内で古龍種を除く最強級モンスター「白いティガレックス」を返り討ちにし。
異世界の能力を携えた転生者を呆気なく倒す。そんな力を当たり前に秘めているんです、ラスボス達は。


まぁ、その上ですらモンハン世界……特に「F(フロンティア)」には確実にいるんですがね(笑)


そんなわけで、読者の皆様が妄想したラスボス達の恐怖、堪能できましたか?
活動報告に記された強大なモンスター達も見て、様々な妄想を膨らませて楽しんでくれれば幸いです。

今回はデルシオンを優先に書きましたが、年末までに「ヤオザミ成長記」を更新する予定です。
ポケモンライフも本編、オマケともにアップさせる予定なのでちょっと粗いと思いますが、ご了承ください(汗)

ではでは!


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part31:「最小の角竜」

久々のデルシオン更新(笑)

今回のテーマは「最小サイズを維持したディアブロス」です。

さっそく「インハーメルン2」で頂いたアイディアを採用いたしました。
設定ではモノブロスとありましたが都合によりディアブロスということにさせて頂きました(汗)

それと今回から活動報告で掲載したハンターが出てくる予定です。

1/25:一部文章変更


 生きることは戦いだというが、自然界はまさにその通りだ。

 縄張り争いや生存競争、恋の争いなど、何事にも争い事は付き物。植物からモンスターまで、様々な争いを繰り広げている。

 

 そんなモンスター達にとって一番の戦いは何かといえば……食うことである。

 生物が持つ三大欲求の1つである食欲を満たす為、草食だろうと肉食だろうと争う事がある。

 草木が少なければ草食動物同士の縄張り争いが起こるし、弱者を喰らおうとして2匹の強者が争う事もある。

 

 そう、例え縄張り争いと生存競争に勝てたとしても、食が得られなければ意味が無い。

 沢山食べなければ大きくならない。縄張り争いより餌の競争に負けないことが重要だったりする。

 とはいえ生きていれば儲けものと言う様に、生き延びてさえいればどうにかなることもある。

 

 

 

 今回はその事例をお伝えしてみよう。

 

 

 

―――

 

 旧砂漠でディアブロスの繁殖期を迎えた。

 

 どこからやってきたか解らないが大量のディアブロスが旧砂漠に詰め込まれ、各所で恋のバトルを繰り広げているという。

 このままでは人々が行き交えない所か、生態系のバランスが大きく崩れてしまう可能性もある。何事も偏ってはいけないのだ。

 おこがましいかもしれないが、自然の調律を保つべく、ギルドはディアブロスの連続狩猟をいくつも発注する事を決意。

 恐らく亜種を始め下位からG級と様々なディアブロスが混ざりこんでいると予想される為、様々なハンターに呼びかけるのだ。

 

 そんなディアブロス連続狩猟のクエストを受けようと、2人のハンターが受付に行くのだが……。

 

「このクエストを受注したい」

 

「か、かひこまりました」

 

 恐らく成り立てであろう若い受付嬢が怯える余り噛んでしまったが、2人は気にする事なく受注の判を押された依頼書を受け取る。

 ガチャガチャとスキュラXシリーズとグラビドXシリーズを纏った体を歩かせ、一言二言交わしてから目的地へと向かう。

 

 1人は、色黒にスキンヘッドのボディービルダーのような大男。

 1人は、厳つい強面の男。相方より低いとはいえ背丈は高い方だ。

 

 そんな2人がヘルムを被らずギルドを歩けば人々の不安と怯えを買い、様々な噂が勝手に広まっていく。

 ヤの付く自営業だとか密猟ハンターじゃないかとかギルドナイトより怖いとか散々な事を言われるが、2人は諦めていた。

 

「俺達って損しているよな」

 

「理解者がいるだけありがたいと思えよ」

 

 スキンヘッドのブローブが溜息混じりに吐いた言葉に、強面のガルドが同情して言う。

 ブローブもガルドも、強面ではあるが気は優しい、顔で損をしているハンターなのだ。

 彼らを理解してくれる知人がいるとはいえ、初見の人は大抵が悪者だ怖い人だと見た目で判断するが。

 

 

 周囲の視線に慣れてしまった2人は気にする事なく、ディアブロスが募っているであろう旧砂漠へと向かうのだった。

 

 

 

―――

 

 夜の旧砂漠。昼間は灼熱地獄と化していたが、夜は凍土のような寒冷地帯へと変貌する。

 この日は風が止んでいるからか、月明かりの神秘さと無風故の静寂が合わさり、見慣れた景色が幻想的な印象を与える。

 ディアブロスが各地をうろついているからかは解らないが、いつもはギャアギャアと騒がしい鳥竜種も獣人種も見当たらない。

 

 その静寂を打ち消すのが―――何かと何かがぶつかり合うような轟音だ。

 

 恐らくは各エリアのディアブロスが縄張り争いを繰り広げているのだろう。

 時間差があるとはいえ耳を澄ませば右からも左からも、ドーン、ドーンと微かに聞こえてくる。

 角をぶつけ合って争うというディアブロスの習性から成る解りやすい証拠だ。間違いなく4匹以上はいるだろう。

 

「待たせたな。準備完了だ」

 

 ガシャン、と念入りに整備したガンランスを背に持ったガルドがブローブに声をかける。

 

「別に急かす必要はないんだぞ?」

 

 ブローブはガルドがガンランスのチェックに余念がないことを理解している為、念のために確認する。

 気配りの利くブローブに親指でサムズアップし、お互いに頷いた後にヘルムを被って出発する。

 

 砂丘が広がるエリア1へ踏み出し―――ターゲットはすぐに発見された。

 

「小さいな」

 

「小せぇな」

 

 同時に2人は思わず声に出した。それだけ驚愕の光景が広がっていたからだ。

 

 物陰に隠れて見る先には2匹のディアブロスが縄張り争いを繰り広げていた。

 しかし2匹の大きさが一目で解るほどに違っていた。何せ片方が大きすぎるのだから。

 

 

―いや違う。片方のディアブロスが小さすぎるのだ。

 

 

 角竜ディアブロス。厳しい環境を生き抜いたその巨体は砂地を疾走し、あらゆる障害物を突進で粉砕する。

 飛竜種とはいえ草食……それもサボテンという希少な植物を食べているとは思えぬ程の巨体を持ち、時にはリオレウスを優に超える事もある。

 

 だがそのディアブロスの大きさは、相対するディアブロスの二分の一ほどだった。

 傍から見れば親子が喧嘩しているようにしか見えないが、ハンターとしての知識が両者とも成熟した個体だと知らしめる。

 恐らくは生き永らえこそしたものの、食糧が不足して成長する為の栄養が足りずに大きさを維持してしまったのだろう、

 

 体の大きさはモンスターにとって最大の武器だと理解しているブローブとガルドは小さい方が負けると思っていたが……結果は違っていた。

 大きなディアブロスが小さなディアブロスの突進を角で受け止めた直後、大きなディアブロスの角が圧し折れたではないか。

 ディアブロスの縄張り争いで角を圧し折られた場合、問答無用で負けとなる。小さい方の威嚇を前に、大きい方は背を向けて立ち去っていく。

 

「マジかよ……」

 

「あんな小さい癖に」

 

 日頃から「怖い顔している癖に」と言われている自分達を棚に上げ、小さなディアブロスの勝利に驚くブローブとガルド。

 そのディアブロスは2人の存在に気付いたらしく、敵の居場所を確認しようと歩き出した。見つかるのも時間の問題だろう。

 

「音爆弾と罠は俺に任せろ。ガルドは気にせずガンランスで攻めてくれ」

 

「おう」

 

 素早く納刀と抜刀が出来る太刀を持つブローブが補佐に周り、ガルドがガンランスの砲撃とガードで攻める。

 相手は最小クラスとはいえ、倍も大きなディアブロスを返り討ちにした猛者だ。それに別の角竜が乱入する可能性も考慮しなければならない。

 

 こちらを見つけたディアブロスが放つ咆哮を手と盾でしっかりガードし、2人の狩猟は始まった。

 

 

 

―――

 

 食糧不足は自然の摂理では良くあることだ。特定の生物が繁殖すれば餌が不足し、飢餓で死ぬ事は道理だろう。

 成長するには食べなければならない。だが時には少ないエネルギーを維持する為、大きくなる為のエネルギーを割く事もある。

 エネルギーを節約するのも生物が持つ知恵であり、モンスターに最大サイズと最小サイズがある理由にもなる。

 

 では小さいからといって弱くなるかといえば……否だ。

 

 最大サイズの下位モンスターが最小サイズのG級モンスターに勝てはずがなく。

 体も体重も桁違いなドボルベルグが自分よりも小さく軽いジンオウガに負けることだってある。

 決定するのは見た目だけではなく、中身も大事だ。ティガレックスが力で制覇するように。ジンオウガが動きで制覇するように。

 

 

 この小さなディアブロス―別名『最小の角竜』―もまた、小ささを活かした戦いを見出す。

 

 

 2人は小さな角竜の動きに翻弄され続けていた。

 

「せい、やぁ!」

 

 ガルドが突進し、その勢いに乗じてガンランスの切っ先を突き上げるも、走って避けられる。

 

「ぬん!」

 

 避けた先で待ち構えていたブローブが素早く太刀を突くも、ピョンと軽く跳んで避け、そのまま走っていく。

 そのまま角竜はUターンし、再び2人に向け突進。通常種とは比べ物にならない速度だった。

 

「ぬお……っ!」

 

 盾だけで角を防げるほどに小さな一撃だが、そのパワーは今で受け止めた角竜らと変わりない。

 グラビドXシリーズが持つガードに関連したスキルのおかげで吹っ飛びこそしないものの、砂に線を引くように押し出されてしまった。

 

「おおぉぉぉ!」

 

 ガルドを突き飛ばして生じた隙を逃さずブローブが太刀を振り下ろすが、運悪く背甲に遮られて弾かれてしまう。

 それを逃すまいと角竜はグルリと身を回転して尾を振り回し、ブローブを横から吹き飛ばす。

 

 動きも早ければ小回りも良い。リーチは下がっているものの、パワーと防御力は通常種と変らず。

 こんな体でも幾多の縄張り争いに勝利してきたらしい熟練された動きは、G級ハンター2人の度肝を抜いた。

 小さな体を活かしつつ、ディアブロスの名に恥じぬパワーと突進力を持つ。小さな角竜は小さいなりの戦いを編み出したのだ。

 

 数多のモンスターを狩猟してきた2人だが、この意外なまでの速度についていけず戸惑っていた。

 普通のディアブロスとの戦闘経験が邪魔をしているのだろう。普段なら避ける防ぐなりできた攻撃も、この最小の角竜の速度が狂わせる。

 もちろん潜行直後の音爆弾には弱いし、罠は普通に利く。とはいえアイテムは有限なのに対し、ディアブロスのスタミナは未だ尽きない。

 

 確かに攻撃は通っている。このまま続ければ討伐はできるだろう……しかし。

 

「無理に攻める必要は無い!モドリ玉で退くぞ!」

 

「解った!」

 

 ディアブロスが潜り出した直後を見計らってブローブが告げる。

 ガンランスをしまったガルドはそれに合わせてブローブに駆け寄り、緑の煙が二人を包み込む。

 

 

 2人の目的は連続狩猟……繁殖したディアブロスを2匹以上狩ることにある。

 今後を考えれば小さなディアブロスという意外な難敵を相手にして体力とアイテムを消費するわけにはいかない。

 割に合わない狩猟をせず、引き際を見極める。気配りが上手なブローブの判断力は流石と言えよう。

 

 この後の2人は、出来る限り小さな角竜を避け、自分らが経験してきた通常のディアブロスと亜種を計3匹狩猟。

 目的の討伐数を超えた2人は身の安全を考え、妙に遭遇する最小の角竜から逃げるように旧砂漠を脱出するのだった。

 

 

 

 旧砂漠に出没するという最小の角竜―――その小さな体に騙されて吹っ飛ばされたハンターが後を絶たないという。

 

 

 

―完―

 




最小の角竜
複数の角竜が生息したことで餌が不足し、成熟個体でありながら最小サイズを維持した角竜。
縄張り争いに勝ち抜いてきたからか、小柄でありながら通常種以上の防御力とスピードを誇る。

本日のハンターさん(投稿感謝!)

ブローブさん(男・28歳・スキュラXシリーズの太刀使い)
ガルドさん(男・33歳・グラビドXシリーズのガンランス使い)

皆!見た目だけで判断しちゃダメだぞ!後、連続投稿はやめよう!(ぇ)
もう少し戦闘描写が増えるよう、コツコツ頑張りたいです……いつも言ってるじゃないか?御尤もです(汗)

ではでは。


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part32:「氷帝龍の生態」

久々に更新できましたが、内容が日記風なので短いですスミマセン(汗)

今回のテーマは活動報告より「氷属性のテオ=テスカトル」です。
ありそうでなかった、炎以外の帝王の姿。カッコイイのにカッコよくかけなくてすみません(汗

5/7:誤字修正。報告ありがとうございました!
×炎帝龍→○炎王龍


・○月×日―調査隊結成当日

 

 私はルミス=ライナラン。ドンドルマの古龍観測隊の女性隊員だ。階級は割と上の方。

 この度、近日バルバレギルド管轄の氷海で起こっている異常気象の正体を探る調査隊の隊長を務めさせてもらうことになった。

 これまで幾度と補佐官を務めたことはあるが、隊長として指揮を執るのは今回が初めてだ。

 正直言って未だ若輩者だと自覚しているので恐縮なのだが、命を預かる立場になった以上、しっかりとせねば。

 なので、新しい日記を付けることにする。現在は信頼できる隊員達を選び終え、ギルドに正式に派遣調査を依頼された後だ。

 

 しかし面倒な事がある。大老殿が寄越した護衛ハンター・カツヤと呼ばれる男だ。

 G級ハンターの称号を持っている為に実力は確かだろうが、大長老や補佐官が言っていた通り、この男は癖が多すぎる。

 

 黒髪黒目の整った容姿はどこか作り物めいており、穏やかな口調や人当たりの良さも一方的な物としか感じられない。

 何よりも、私達観測隊のように目聡い者で無ければ解らないほどの、無意識に見下した視線や態度が一番苦手だ。

 まるで住む世界そのものが違っていると思い込んでいるかのような、そんな無自覚な感覚。それが不気味で仕方ない。

 

 まぁ、仮にもしもの事があったとしても、私達は死ぬ覚悟はできている。後世へ継ぐ記録さえ残っていれば。

 この日記も観測日記とは別にとってあるもので、いつ私が死んでも、この日記だけはどんな手を使ってでも守り抜くつもりだ。

 

 今回は長くなってしまったが、明日から忙しくなるので短くなるだろう。就寝するとする。

 

 

 

・○月▽日―探索前日

 

 早朝、私を含めた8名の観測隊と護衛ハンター殿を乗せた砕氷船が氷海に到着。

 話に聞いていた通り、恐ろしいまでに氷雪の多い吹雪が氷海と雪山を包み込んでいた。

 強い風と大量の降雪が視界を遮り、吹き抜ける風でそれ以外の音が聞こえづらい。

 

 しかし、寒いと騒ぐカツヤ殿の声が聞こえるのに、風を除けば氷海はとても静かである。

 生物の気配も感じられない以上、古龍種級モンスターが生息しているということに他ならない。

 我々観測隊は脅威に備えるべく、まずはベースキャンプを張る。カツヤ殿には待機をお願いしてもらう。

 

 

 

・○月■日―探索初日

 

 氷海周辺を一丸となって探索。山頂付近には上らず、遠回りするように洞窟から見て回る。

 

 そして初日でありながら最大の発見をした。氷の道が幾つも見つかったのだ。

 まるで生物が歩いた端から、道を開くようにして凍っていったかのような跡。まるで足跡のようだった。

 情報を聞いた当初はクシャルダオラだと思われていたが、氷の道の多さからすると、飛翔を主とする生態を考えれば断定するのは早い。

 

 ドンドルマですら噂でしか聞いたことのない幻獣の亜種か、或はそれ以外か。

 我々はこれまで以上の―かの『炎王龍』を超えるような―存在だと思い行動しなければならない。

 

 余談だが、カツヤ殿が寒いからさっさと鋼龍を討伐すれば良いと甘いことを言っている。

 我々古龍観測隊は古龍種に限らず、周辺の地形や生態系を調査する事も考慮している。長期的な滞在になるのは当たり前だ。なので諦めてもらう。

 陰ではフラグがどうのイベントがどうのと独り言をブツブツ言うし、面倒な男だ。

 

 

 

・○月▲日―探索3日目

 

 吹雪が一層強いエリア4・3・9を除くエリアを探索したが、クンチュウどころか獣人族ですら見当たらない。

 これは当たりと考えていいだろう。万が一を考え、逃走ルートの確保及び食料の調達に勤しむ。ハチミツは貴重なエネルギー源だ。

 

 それでも心の準備と遺書を残すよう指示したが、カツヤ殿は心配いらないと豪語し、我々を安心させようと一方的に話しかけてくる。

 鋼龍を討伐した時の事を、いかに自分が優勢であることを物語っていたが……所詮は1度きりの話だ。

 

 いかに千差万別の世界とはいえ、古龍種は生態系の頂点に君臨していることには違いなく、個数が少ないのは当然の話。

 遭遇し生き延びた経験談だけでも貴重な機会であり、いかような天才または熟練者でも、古龍種の討伐は1度きりというケースが大半だ。

 古龍種を3匹以上討ち取ったとされるハンターは伝説以前に流布を呼び、ギルドのお墨付きがあっても眉唾物でしか感じられない。

 

 故に、カツヤ殿の話す鋼龍との激戦は、まるでおとぎ話のようにしか感じられない。

 むしろ彼の精神的な弛みと危機感の無さが心配になってくる。無意識なのが余計に。

 

 ……これはあくまで日記ではあるが、つい愚痴を書き込んでしまったことが恥ずかしい。

 明日はいよいよ吹雪の中心であるエリアを探索する。私は船に遺書を置いておくが、この日記だけは持っていく。

 

 この猛吹雪の正体を後の者に託すことができるよう願いつつ、私は就寝する。

 

 

 

・○月■日―探索4日目

 

 エリア9でクシャルダオラの死骸を発見した。恐ろしくも素晴らしい発見である。

 

 カツヤ殿が死骸だからと剥ぎ取ろうとして触れた瞬間、籠手越しに凍傷を起こした。

 冷気に強いはずの鋼龍の死骸は霜が降りており、触れずともその異常なまでの冷気が伝わってくる。

 鋼龍を凍死させる程の実力者。各エリアに転々とある氷の道を作り上げたのなら納得できる。

 

 エリア3に突入。まるで我々を拒むかのように吹雪が荒れるが、覚悟を決めて突入する。

 

 

 (以後、走り書き)

 

 

 なんということだ。素晴らしい。恐ろしい。美しい。

 

 足を滑らせ怪我をして遅れて来た私を除く観察隊の皆は氷の塊となっていた。恐らく絶命しているだろう。

 仲間を分厚い氷に閉ざした張本人は、怒鳴り声をあげながらも雪で身動きが取れないカツヤを置いて、静かに歩んでいる。

 

 1歩踏み込んだだけで周囲が凍って小さな氷柱を幾本も伸ばす。あれが絶対零度というものか。

 その堂々たる歩みと全てを凍結させる姿を仮に名づけるとするなら「絶対零度の君主」が相応しいだろう。

 

 私が目の当たりにしているのは、白い体毛を持つテオ=テスカトルであった。

 幾度か炎王龍の姿を見たことがある為、この白いテオ=テスカトルは亜種か変異種なのだろう。素晴らしい発見だ。

 まるで冬の化身のように全身を白く染め、吹雪の中心であるかのように冷気と風が奴を包み込んでいる。

 

 私はこのテオ=テスカトルを「氷帝龍(ヒョウテイリュウ)」と記す。炎の王に対なる氷の帝の名が相応しいからだ。

 

 堂々と歩く中、体の雪を振り払ったカツヤが双剣を手に持って走った。俺はてんせいしゃなんだ、とほざきながら。

 カツヤの動きは確かに早い。走るというよりは跳ぶといった速度で氷帝龍に接近していった。

 

 氷帝龍が接近してくるカツヤに視線を映し、口から何かを吐き出してカツヤを氷漬けにした。

 一瞬だった。白く丸い何かがカツヤに着弾しただけでカツヤは氷塊に包まれ、雪が積もった地面に落ちた。双剣を振りかざし、怒りに歪んだ顔のままで。

 

 鋼龍を凍死させたぐらいだから納得は行く。しかしこの力は凄まじいものがあった。

 私はここで終わるだろう。だが後世に残す為に、この日記は隠しておく。

 もっと記したかったが、氷帝龍が私の存在に気づいた以上、情報を聞き出すのは厳しいだろう。

 

 

 

 願わくば、この氷の帝王の強さと脅威を託せるよう祈りつつ、ここで終える。

 

 

 

―著者:ルミス=ライナラン




●変異種紹介
氷帝龍テオ=テスカトル変異種
氷海に姿を現した白いテスカトル。絶対零度の冷気を纏い、歩くだけで周囲を凍らせるという。
現在はとある観測隊の日誌でしか情報源がなく、詳しい生態は謎に包まれている。

今回も出てきました転生者。確かに穏やかだけど神様に望んだ作り物の人格です。

今回の反省点:
1.日記風はせっかくのモンスターの風格があらわにできない
2.もっとコツコツと書いていればよかった。

お詫びも兼ねて、近いうちに皆さんお待ちかねの企画を立てようと思います。
ではでは。お粗末様でした。


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part33:「爆睡鳥の生態」

今回のテーマは「アロワナ類を大量に摂取したヒプノック」です。



 眠鳥ヒプノックはよく食べる。

 

 丸呑みにして胃袋の胃石で細かくすり潰して消化する性質もあって、その食の範囲は広い。

 時には小動物や腐肉ですら食すことがあるが、基本的には魚類や植物が主食である。

 

 この世界では、たかが魚や植物といって侮ってはいけない。ハンターの生活に役立つ物が沢山あるからである。

 ガンナーの弾にもなるアロワナ類にネムリ草、大型タル爆弾G作成に必須な火薬草やカクサンデメキンなど様々。

 そしてヒプノックは、眠魚とネムリ草を多く食べて来たからこそ、催眠ブレスを吐く事で有名となった。

 

 

 故に―――ある魚類が樹海で大量発生するようになった頃、ヒプノックは変異種の道へ歩事となる。

 

 

―――

 

 世界中の転生者が次々と殺されている……ある日、唐突にそんな声がユージの頭の中に響いた。

 声の主は、誤って殺してしまったからと自分を「モンスターハンター」の世界に転生させた、神を名乗る人影のものだ。

 しかし神を名乗る癖に多くの人間を殺めており、自分以外にも大勢の転生者がいると聞いている。

 

 正直、奴は神ではない何かではないかと疑っている為、基本的には無視している。

 そもそも転生者は自分を含めてロクデナシばかり。そもそもチート(ズル)をしている時点で碌でもないし、それを碌に使いこなせていない。

 爽やかな青年もいつしか傲慢となり、弱小相手にしか発揮しないチート能力を最強と思い込んで研鑽しなくなる。

 

 ユージもそのチート能力持ちの1人で、『スタープラチナ』を所持しているが……結果は惨敗。

 効果範囲2mや己の精神力、そしてモンスターの激しい動きも合わさって、パワーと精密性に優れるはずのスタープラチナを上手く発揮できない。

 しかもジャギィいった小型モンスターには勝てても、イャンクックどころかアプトノスですら力負けするという現実が襲い掛かったのだ。

 

 所詮は異世界。空想は空想。そしてここは異世界にして現実。

 異世界に自分達の世界の空想が通じるべきでなかったし、空想の中の力を現実で使いこなせるはずがない。

 その結果、自分は齢40歳を迎えても能力を駆使して狩猟したことはなく、結局は己の身体のみで狩りをするしかなかった。

 世界中で殺されているという転生者は、そんな茨の道から逃避し、現実を見ずに圧倒的強者に挑んで死んだ馬鹿なのだろう。だから気にしない。

 

 だが、タクトという青年は別だ。健康的な身体というある意味のチート(ズル)を得た転生者だが、彼は稀有な人間だった。

 現実を受け止め、モンスターの持つ生命力に感動して世界を見たいという志のあるハンター。そういう若者は応援したくなる。

 そんな彼が、初めてのメゼルポルタでの狩猟なので協力して欲しいと、加工屋にして助っ人ハンターである自分に助力を乞うたら無視できない。

 

 愛用の狩猟笛を持ち、ユージは再び狩猟地へ赴くのだった。

 

 

 

―――

 

 タクトが受注したクエストの内容は、樹海でバクレツアロワナ20匹を吊り上げ納品すること。

 樹海の水辺ではアロワナ類が大量発生しており、商売っ気を起こした商人が依頼したのだという。

 一見すると簡単そうだが、ヒプノックの影があるという話も聞いている為に油断はできない。

 共に来てくれた仲間達は長い船旅で酔って動けない為、タクトは偶然知り合ったユージに助力を頼み、樹海に挑戦。

 

 そして案の定ヒプノックが現れたのだが……随分と派手な色をしていた。

 

―ギョエェェェッ!

 

 純の赤と青という目に痛い色合いをしたヒプノックが、凄まじい跳躍力をもってタクトとユージに蹴りをお見舞いする。

 逞しい脚力による強引な跳躍はスピードが速いが、タクトもユージも左右それぞれに跳ぶことで回避。ギリギリだった。

 起き上がろうとした処へ急旋回したヒプノックが再び跳躍。笛という巨大な目印を持っているユージに再び蹴りを―――。

 

「シっ!」

 

 ここで双剣という軽い武器を持つタクトの有利性が発揮。起き上がるというより跳ぶような勢いでヒプノックの脇を突く。

 双剣は確かにヒプノックに刺さったが……体毛の硬さと跳躍力の凄さからか、そう簡単に方向は失わない。

 間に合わないと思ったユージの横スレスレにヒプノックが地を踏みつけ、横に張り付いたタクトを振り払おうと身を捻る。

 

 肝が冷える思いで体制を立ちなおしたユージと、ヒプノックの捻りで吹き飛ばされたタクトが並ぶ。

 そんな2人を威嚇するつもりなのか、派手な色合いを見せつけるかのようにピョンピョンと踊るようにヒプノックが跳ねる。

 

「……初めてみましたけど、ヒプノックってこんなに派手な色をしていたんですね」

 

 強敵であるが故に緊張を解すことはしていないようだが、タクトの目には煌めきがあった。

 それは違う、と言いたいユージだったが、再びヒプノックの蹴りが飛んできた事で中断する。

 

 このヒプノックはおかしい。タクトは新大陸出身故に図鑑でしか知らないのも無理もないが、ユージは違う。

 

 ヒプノックは繁殖期になると色合いが変わるというが、あそこまで派手な色合いはこれまで見た事がない。

 加えて非常に攻撃的だ。繁殖期だとしても、優れた跳躍力を用いた蹴りを主体とする連撃はいささか過剰すぎる。

 慎重に行動したいが、直線状とはいえ素早い動きに加え、踏み殺そうと言わんばかりに地を踏みしめる姿は恐ろしく感じる。

 

 だが、タクトは果敢にも挑み続けた。

 無謀ではない。受けの姿勢でいたら押されると悟ったのか、鬼人化で積極的に懐を、特に着地の隙に乗じて背後に回る。

 ヒプノックは振り向きざまに長い尾で攻撃したり、踊るようなステップで逆に踏みつけようとアクロバティックに動くが、タクトはすり抜けるように躱す。

 

 前世が日本に暮らす学生であれば、無謀といえない突撃。

 しかしハンターとして、自分の力だけで生き続けたユージから見たタクトは、とても活き活きしているように見える。

 

 正真正銘の初めての相手だというのに恐れず、むしろ情報を引き出そうと間近に接近を続ける青年。

 これまで数多くのヒプノックを狩ってきた経験が、初と感じてしまい恐れを抱き距離を取る老人(じぶん)

 

 健康と身体能力という、人間として当たり前の天才(ズル)を得た転生者。

 スタンド能力という、人間として不可能なはずのチート(ズル)を得た転生者。

 

(なんて……なんて羨ましい)

 

 同類でありながらハンターらしく生きるタクトに嫉妬を抱きだした頃。

 

―ギュイイィィィッ!

 

 限界まで付き纏ったタクトに限界を感じ、ついにヒプノックが怒りを露わにした。

 赤い吐息を吐き、先ほどよりも体毛の色合いが濃くなったことでタクトも後ろへ下がる。

 限界まで近づいた緊張感と体力切れからか、息が上がるだけで言葉が出ない。

 だが動きが鈍くなっているユージに向かわせまいとヒプノックとの距離をなるべく広げないよう心掛けた。

 

 赤い吐息を漏らしたヒプノックが背を逸らして息を吸う。

 睡眠ガスかと身構えるタクトだが、狙いは彼よりも遠い位置にいるユージだった。

 

―ベッ!

 

 口から吐いたのは、体内で消化した眠魚から抽出した白い催眠ガス―――ではなかった。

 赤く粘度の低い液体がユージに向けて広範囲に跳んでいくが、その赤い液体に仰天して動きを止めてしまい、直撃してしまう。

 ユージに襲うのは強烈な眠気。しかし赤い液体の正体が気になるユージは必死に抗おうとする。

 動きがさらに鈍くなったユージに狙いを定めたヒプノックは、そうはさせまいと接近してきたタクトをあしらうように空へ跳ぶ。

 

 そのまま翼を広げて空高く飛び、狙いをユージに定め……身体こと強靭な足を地に向けて急降下。

 ヒプノックの高度と速度、何よりもスタミナギリギリで動いていた身体では対応できず、タクトはユージに向けて叫ぶ。

 

「ユージさん!」

 

 睡魔に襲われ微かに残る自我の中、ユージは声と霞む光景を目の当たりにし―――死を悟って動いた。

 

 

 せめて衝撃を減らしてくれと願いを込めて『スタープラチナ』を召喚し。

 

 

 ヒプノックの爪先は難なく(・・・)スタンドを踏み潰し。

 

 

 僅かですら和らげていない推進力と威力が拉げたスタンドと共にユージに向かい――――。

 

 

―グシャリ

 

 

―ドカン!!

 

 

 踏み潰された血肉と共に、赤い液体が発光して爆破。

 周囲に飛び散る火種と血肉の一部を体で受け止めながら、ヒプノックは狩った(・・・)と言わんばかりに嘶く。

 死を目の当たりにした経験がありながら、同族(・・)の死を初めて目の当たりにして呆然とするタクトを他所に。

 

 

 

―――

 

 同じ転生者の死と、強靭な脚力と爆破液を持つヒプノックを脅威と悟り、タクトは退却。

 どういうわけかヒプノックはタクトを追うことはなく、気が済んだかのように空へ飛んでいったのだとか。

 タクトはギルドとユージが通う加工屋に報告。ユージの世話になった人々は深く嘆き、ギルドは重く事態を受け止めた。

 

 睡眠液と爆破液を操ることから「爆睡鳥(バクスイチョウ)」と命名。

 恐らくは異常発生したアロワナ類を大量に摂取したことで進化した変異種だと判断し、しばし樹海の立ち入りを禁止した。

 だが相次ぐ爆破音に近隣の村々は恐れを抱くようになり、再びギルドが使いを回したのだが……爆睡鳥の姿はなかった。

 

 

 

 ……爆睡鳥ヒプノック変異種の消失は、丁度タクトとその仲間達が村を出た時期と重なっているが……気のせいだろう。

 

 

 

 そのタクトの脳内に、あの声が響く。

 

 

 

 『転生者がまた殺された』―――と。

 

 

 

―完―




爆破と睡眠を操るから「爆睡鳥」。笑っちゃやーよ?(笑←ダウト)
しかし食性による変化は私の描くモンスターハンターの世界観に似合っており、とても書きやすかったです。
久々のバトル描写も楽しかった♪いいよね、蹴りが強靭なモンスターって(笑)


●変異種紹介
爆睡鳥ヒプノック変異種
ハレツアロワナやバウレツアロワナを大量に摂取したヒプノックの変異種。
偏食による体毛の偏食に加え、睡眠液に加えて爆破液をも吐き出すようになった。
食欲が増した分スタミナと体力も上昇しており、性格も攻撃的になっている。

○本日の防具と素材一覧

●ヒプノBシリーズのスキル一覧
・状態異常攻撃+2
・軽業師
・見切-2

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・爆睡鳥の剛爪
爆睡鳥の剛強な爪。切り裂くというより踏み潰すことに特化しており、とても太く重い。
・紅蒼尾羽根
色鮮やかな赤と蒼のハッキリとした色合いが美しい爆睡鳥の尾羽根。その対価は重い。


次回は新企画の応募内容を投稿する予定です。
そしてこの作品における異世界転生の扱いが明らかに。

ではまた。


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Extra8-0a「愚者と純白」

モンスターハンターX(クロス)、冬発売!!!!!!!

ポッケ村ァァァ!ユクモ村ァァァ!森丘!雪山!渓流!新フィールド!
続々登場する新モンスター!個人的にはマンモスっぽい奴が一番気になる!

そんなモヤモヤをようやく解消できた気がします(苦笑)

注意:異世界転生への偏見的な妄想があります。

6/4:誤字脱字修正


 白と黒の二色しかない四角い空間の中、黒い人影が白い光を放つモノクロの画面を眺めていた。

 

『チキショォォォこのイレギュラーめぇぇぇ!呪ってやる!恨んでやる!死んでもまた転生して―――』

 

「つまらない」

 

 ひたすら白い世界にひたすら白い轟竜に呪言を吐きながら死んでいった人間。

 そいつに言っているかのように黒い人影が呟くと、白黒の画面が別の映像に切り替わる。

 

『あんな、化け物、ゲームにゃ、いなかった―――』

 

「コイツも」

 

 ボロボロのまま逃げ惑っていた人間を、キラキラと輝く爆鎚竜が驚異的な跳躍力を持って飛び越え、踏み潰す。

 先ほどの人間よりも呆気ない最後を見送った黒い人影はつまらなさそうに言って、また画面を切り替える。

 

『ヤダ……モウイヤダ……モウ斬ラナイデ…オ願イシマス神様仏様蟹様―――』

 

「コイツも」

 

『目玉が潰れている癖に生意気なんだよ!死ね!さっさと死ね!し――――』

 

「コイツも」

 

『ウワァァァ!来るな来るな来るな!雪で動けないってのに反則だ――――』

 

「コイツも」

 

『落ち着け落ち着け俺は大丈夫だきっと逃げられるアイツはどっかに行ったはずだ姿が見えないだけだそうだそうに決まっ――――』

 

「コイツも!」

 

 刀のような鋏に延々と刻まれる人間。盲目の飛竜種に斬り殺された人間。蒼い角に突き刺され息絶えた人間。物陰で怯えていた処を丸呑みにされた人間。

 次々と息絶えていく人間達を見て、とうとう黒い人影は癇癪を起して画面を蹴っ飛ばした。画面は微動もしないので、意味はない。

 

「人間って僕らに近い知能を持っているけど、てんでダメだな~」

 

 人影も蹴っておきながら痛みを生じず、しかし画面内の無慚な光景を見ながら溜め息を零す。

 

 影は転生を司る神―――などではない。とある名もなき異世界では在り来りな高等魔術師の1人だ。

 この異世界の魔術は異常にまで優れており、異世界に干渉する術は勿論のこと、輪廻転生や空想実現にまで手を伸ばしている。

 

 そんな異世界の低俗な魔術師達が秘密裏に話題となっているが―――地球と呼ばれる異世界の人間を使った転生。

 地球では「異世界転生」という物が流行っており、それを利用して地球の魂を呼び集め、その世界のゲームに限りなく近い異世界に転生させ、波乱盤上な人生を送らせ楽しむのだ。

 もちろん、別世界の魂を勝手に転生させ能力を付与させるのは法律で厳しく禁じられているが、破る者は案外多い。

 

 この魔術師もその1人。オタクや引きこもりといった魂を使って転生させ、異世界の秩序を掻き乱す事を娯楽としていた。

 だが大半の魔術師がそうであるように、この魔術師も思惑通りの展開に行った試しがない。

 

「下級人もそうだけど、この下等生物どもが厄介だな」

 

 楽したいが為に努力を怠る転生者にも起因しているが、一番の原因は「モンスターハンター」の世界にあると人影は考えていた。

 

 モンスターが出てくるゲームに近い異世界は確かに厳しい。ゲームにはない動きや生態、そして実物という現実が転生者を恐怖に追い詰める。

 だがこの異世界は異質だ。転生者の知識に当て嵌めて選んだ世界なのに、イレギュラーと呼べるモンスター……変異種が数多存在していた。

 確かに平行世界(パラレルワールド)も数多存在しているが、それにしたって強すぎるし、進化しすぎる。不審に思った人影はあることを思いつく。

 

「そうか、僕と同じ魔術師が関与しているんだ。異世界転生にはモンスターに憑依する系統もあるみたいだし。

 ならその邪魔な無能魔術師を司法魔術師に突き出せば、僕の序列も上がって邪魔者も居なって、僕の天才性が評価される!まさに一石三鳥!」

 

 人影―どうやら男性らしい―はありがちな出世妄想を描きながら満悦している。

 

「そうと決まれば、転生者どもには雑魚モンスのみに集中してもらおう!いかにチート転生モンスターでも餓死には耐えられないし、やっぱり経験値稼ぎは基本だよね」

 

 すっかり目的が変わってしまった人影は、今後の新たな方針を決定づける。

 弱者を抹消すれば生態系を狂わせるのは容易い。安易にそのような手に乗るのは、彼ら魔術師が絶対優位であると信じて疑わないからだ。

 

「じゃあまず関与できる転生者どもの精神を操作しないと。せっかく空想世界の能力を実現化してやったのに、使うだけで鍛えるっていう概念がないからな~」

 

 人影は嬉々として画面に手を伸ばし、高度にして複雑な術式を操作していく。

 

 これもまた数多ある「異世界転生」の内の1つ。

 

 異質なまでに発達した魔法文明を持つ異世界による無責任かつ身勝手な干渉。

 神が娯楽として人を殺し転生させる平行世界があるように、神に近い魔術師が平然と神を装って騙す平行世界もある。

 

 そして転生される側の人間も、どんな事情や精神力を持ったとしても、特別な能力を得てしまった以上はマトモでは無くなるのだ。

 踏み台的な思考を持つようになったのは人影が原因ではない。有り余る力を持ってしまったら咎が外れてしまうのが人間の性だからだ。

 

 

 しかし。そんな世界にも秩序というものはある。

 

 

「さて、後は適当に転生者を増やして……」

 

―バリィンッ!

 

 画面内に移る人魂のような物をスライドさせていた所へ聞こえた破砕音。

 ガラスが砕けるような音を聞いて即座に人影が振り返ると、警官と魔法使いを足して2で割ったような男達が次々とモノクロの世界に侵入していくではないか。

 

「ば、バカな!?」

 

「司法魔術師だ!貴様を異世界干渉法及び輪廻干渉法違反の容疑で逮捕する!」

 

 上官であろう男が術式を施された手帳のようなものをかざすと、モノクロの世界が急激に変化し、元の空間へと戻っていく。

 殺風景だった世界は機械や術式でゴチャゴチャした個室に、曖昧だった人影は眼鏡をかけた青年魔術師へと変貌……いや再編していく。

 

「そんな!?僕の術式が……っ!」

 

「捕えろ!」

 

 余程自信があったのかショックを受けているようだが、その隙を逃すものかと複数の魔術師が押し寄せる。

 逃走または攻撃の術式を展開する暇もなく青年は魔術師によって捕縛され、身動きどころか口ですら封じられてしまう。

 

「ターゲット捕縛完了。続いて干渉修正に入れ」

 

「ハッ!」

 

 部下は上官の命令に従って、青年が弄っていたであろう画面に己の術式を展開し、干渉していく。

 これによって異世界への干渉及び異世界転生を修正するのだが……部下の表情に戦慄が走った。

 

「……マズイです上官!この異世界は―――危険レベルSS級に指定された平行世界です!」

 

「なんだと!?」

 

 部下の報告に上官ですら驚愕し、すぐさま画面に近づいて術式で干渉し……舌うちする。

 

「くそっ!あのガキめ、よりにもよってこの世界(・・・・)にアクセスしやがって!」

 

「干渉レベル増大!34、65……102!?急激に増えていきます!」

 

「修正中止!切断しろ!」

 

「……ダメです!既に吸着レベルにまで達して……世界が繋がってしまいます!」

 

「本部へ緊急連絡!危険レベルSS級異世界『MHD』に接触!至急―――!?」

 

 

 上官の言葉はそこで途切れる。

 

 

 

 彼の目の前では―――画面からありえない程の質量を誇る、真っ白な怪物が這い出てくるのだから。

 

 

 

―――

 

 異世界の空間と魂に干渉するまでに発達した魔法文明。

 そんな魔法文明にも弱点が存在している―――目測の不安定さだ。

 

 1つの異世界に干渉したとして、その異世界には数多の平行世界が存在している。

 レベルを1とした異世界を基準にして、レベル0.5の平行世界もあれば、レベル100の平行世界もあるのだ。

 

 だが魔法世界が異世界に干渉し映像で測定した場合、全ての平行世界がレベル1でしか見る事が出来ない。

 故にもしも異世界への干渉が接合にまで至った場合……その異世界が実は魔法世界を圧倒する程であったと気づく事もあるのだ。

 

 そして同じ「モンスターハンター」の世界であっても、多数の平行世界が存在している。

 転生者が存在しない世界。転生者が生き延びている世界。モンスターに憑依する転生者がいる世界。

 

 そして―――転生者を決して許さない、千差万別の進化を続ける世界。危険レベルSS級異世界『MHD』。

 捕えられた魔術師の青年が選んでしまった「モンスターハンター」の世界が、まさにそれであった。

 

 

 

 さぁ、蹂躙の時だ。

 

 

 

 そして思い知れ。弱肉強食の理を。

 

 

 

―Extra8-0b「純白のクシャルダオラ」に続く―

 




これが作者流「異世界転生」です。あくまで作者内の妄想ですので、あしからず。

そして申し訳ありませんルヴァンシュ様、本格的な登場は大分先になります。しかも蹂躙もの(汗)

最後に……活動報告「MHD4G「弱肉強食」」にて新企画を発表しております。
興味のある方はご覧ください。そして関心があれば是非ご参加ください。豪華ですよ(謎

ではでは!



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Extra8-1「未知の樹海」

ようやく第一回目を投稿できました。この調子だと全部終わるのに3か月はかかりそうです(汗)
そうならないようにだけは気を付けつつ、妄想モンスター第一打が登場します!

踏み台転生者も登場しますが、完全に空気です。


 

「弱者を殲滅せよ」

 

 

 神を名乗りし者の声は、モンスターハンターの世界に飛ばされた転生者全ての脳に届いた。

 

 この世に飛ばされた転生者達の正確な数は解らないが、それでも多くの転生者達はその言葉に従い、行動に移す。

 強さを身につけ既存のゲーム知識を持つ彼らは、神の逆鱗に触れ、それら全てを没収されることを恐れているのだ。

 

 加えて、これまでの有頂天っぷりが嘘のように彼らは沈静し、「まずは経験値稼ぎだ」とばかりに強者へ挑むことを止めた。

 これは転生者自身知らない事だが、神を名乗りし者が施した精神操作により、短絡的な思考をしないようにしたからである。

 

 しかし、精神操作を施すとことは大きな欠点を生む要因にも繋がっていた。

 神を名乗りし者の号令に合わせ、世界各地で違反を起こすハンターが続出するようになったからである。

 

 ある者は鬼気迫る表情でアプトノスの群れを大量に殺し。

 ある者はリーダーが居ないが故に個体数の少ないジャギィやランポスを徹底的に殺し。

 ある者は「気持ち悪いから」という理由で狩猟地1帯の甲虫種を絶滅に追い込んだ。

 自然との共生を基本とするギルドは当然の如く処罰を与えたが、彼らはこぞって逃走。以後は犯罪者として追われる身となっている。

 

 自身に宿る恩恵の没収される事を恐れ、神を名乗る者からの精神操作によって助長され、形振り構っていられなくなる。

 しかしながら力を振るいたいという欲求は根本的には変わらず、弱者殲滅によりその欲求を満たし、己の身と力を愛していく。

 その悪循環によって変わってしまった彼らは、世間一般的にこう呼ばれるようになる―――【自己中】と。

 

 

 

―――

 

 未知の樹海。広大な大地に蔓延する樹木と大小様々な遺跡により複雑な地形と化している狩猟地。

 数多く発注したギルドクエストに比例するように多くのハンター達が挑んだが、未だ正確な地図という物は存在していない。

 故に、未知の樹海を隠れ蓑に違法を犯すハンターが多い。安全地帯からの狙撃や、お守りを大量に使った異常な護石の改造など。

 

 そして近年、未知の樹海で大量のモンスターを虐殺するハンターが急激に増加してきた。

 入り組んだ地形故に隠れ場所が豊富で、ギルドナイトですら逃げ切れる可能性が高いからだ。

 広い場所でノンビリしていたアプトノスの群れを虐殺している青年ハンターも、その1人であった。

 

「……ごめんよ。これも俺が生き延びる為だ」

 

 血塗られた双剣と、その刀身に纏わりつくように息吹く風を払うように振り下ろし、青年はボソリと呟いた。

 彼の背後にはアプトノスの死骸で満ち溢れているが、青年の顔に疲労も罪悪感もなく、怯えによって全身を細かく震わせている。

 

 彼の名はヒュウ。転生者にして、草食種虐殺の罪に問われ放浪の身となった()ハンターだ。

 疲労を感じない体と嵐龍のように風を纏う双剣を転生特典として得ており、かつてはこの能力を持って様々なモンスターと対峙してきた。

 

 しかし彼は、この世界がゲームではなく現実であるということを知ってしまった。

 予想外な展開など日常茶飯事で、見た目以上に強いモンスターに悪戦苦闘の日々を強いられてきた。

 もし特典を失ってしまったら今まで以上に無残な人生になると恐れ、神の命に従い弱者を狩る日々を送っている。

 

 今日もこうして1つのアプトノスの群れを殲滅した時―――地鳴りが響いてきた。

 ビクリと震えてからヒュウが震えると、そこにはアプトノス―――に似たモンスターの群れがやってくるではないか。

 

 規模は8頭ほど。大きさも見た目もアプトノスに非常に似ており、「針を纏ったアプトノス」と言うに相応しい。

 外敵から身を守る為の術として体表に鋭い針を並べたその身体は、突進を受けたら大ダメージ間違いなしだ。

 この草食種の名は「アルケロス」。草反竜《ソウハンリュウ》と呼ばれる、未だギルドが確認していないアプトノスの近縁種である。

 

 身を守る術を持っているアルケロスが慌ただしく走ってくるが、弱者殲滅を命じられたヒュウにとっては好都合。双剣に風を纏わせ突っ込んでいく。

 向かってくる自分の事など気にしていないのが不服だが、針に注意しながらいざ斬り裂こうとした時――――そいつらは現れた。

 

 大きなアルケロスの群れを軽々と飛び越えてきたのは、雷狼竜ジンオウガ。既に傷だらけにも拘らず着地と同時に地を駆ける。

 突如として頭上を飛び越えたジンオウガに驚いている中、もう一体の影がアルケロスの群れとヒュウを飛び越していき、その姿を目撃する。

 

 

―虎だ。違う事無き巨大な虎である。

 

 

 太くガッシリとした体と四肢に細めの尻尾。雷狼竜に匹敵する巨体が驚く程の高さを跳んでいる。

 その虎のようなモンスターはジンオウガが着地した地面に落下し、プロテクターのような物が付いた前足を叩きつけ、地面を震わす。

 見た事もないモンスターによって思考が停止し、そこへ虎が起こした地鳴りがヒュウを怯ませる。

 

―ブゥン

 

「うわっぷっ!?」

 

 続いてヒュウの視界を遮ったのは雷光虫だ。多数の光が視界を塞いだら驚きもする。

 

 

 そして光に遮られ戸惑っていても、鋭い棘を伸ばしたアルケノスの群れは止まることなく―――。

 

 

 

―――

 

 紅い花が咲いてアルケノスの群れが脇を通るのを他所に、二匹のモンスターが対峙していた。

 片方は雷狼竜ジンオウガ。片方は虎のような牙竜種―――命虎竜《メイコリュウ》ジオタイガ。

 

 唸っていたジンオウガが大きく吠え、それに対してジオタイガは野太い咆哮を轟かせる。

 ジンオウガが姿勢を低くしていつでも飛び出せる姿勢に対し、ジオタイガはドッシリと身構える。

 動のジンオウガに静のジオタイガ。見た目は牙竜種に共通したものを感じさせるが、生態系や狩りの仕方は極端に違っているようだ。

 

 今、ジンオウガが地を蹴ってジオタイガに向けて跳びかかる。ジオタイガは避ける気もなく、すっと右前足を前に出して重心をそこへ傾ける。

 電流が迸る左前脚を、その前に突き出した右肩に向けて突き付けた!

 身軽なジンオウガとはいえ相当な重量があるのだが、ジオタイガは微動だにせず、しかしプロテクターのような甲殻に電流が走る度に苦痛で顔を歪ませる。

 

 今度はこちらの番だ、と言わんばかりに溜めこんでいた力を解放するが如く、全ての重心と脚力をタックルへ変換させる。

 飛びかかって来た勢いを押し殺すどころか跳ね返すかのようなジオタイガのタックルは、ジンオウガを遠くへとふっ飛ばした。

 しかしぶっ飛んだとはいえジンオウガは負けていない。くるりと身を翻して着地し、もう一度大きく跳躍する。

 

 先ほどよりも大きく跳ぶジンオウガを見て大きな一撃が来ると理解したのか、ジオタイガは敢えて地に四肢を踏んで身構える。

 いい度胸だ!と言わんばかりにジンオウガが吠え、そのまま身体を上下反対に―――雷光が走る背をジオタイガに向けて落下していく。

 

 体格差があるとはいえジンオウガの巨体、それも高高度からの落下を受け―――ジオタイガは耐えた。

 四股を踏んだ巨体はまるで岩のように微動だにせず、しかしジンオウガの背から走る紫電が容赦なくジオタイガの身体を蝕んでいく。

 バチバチと痛む背中を持ち上げてジンオウガをどかし、着地する彼をジオタイガの太い前足が叩きつけた。

 

 着地と同時に太い前脚で殴られたジンオウガは相当のダメージを負ってバランスを崩すが、牙竜種ならではの脚力ですぐさま態勢を立て直す。

 それでもジオタイガは立て続けに前脚で殴りにかかるが、ジンオウガは背を向けて走り出し、距離を置こうとする。

 逃すまいとジオタイガは再び四肢に力を籠め、自身の倍以上はあるはずの距離を一気に埋めるように跳んでジンオウガに飛び込む。

 

 しかしスピードではジンオウガが上回っている為、ジオタイガの飛び込みは地面を陥没させる程度に終わってしまった。当然か。

 さほど悔しくなさそうに、しかし逃すまいと鋭い目を向け、距離を空けて反転したジンオウガと対峙する。

 相反するようになったジンオウガもまたジオタイガを睨んでおり、互いに敵意以上の殺意を抱いているのが解るだろう。

 

 

 

 強烈な殺意を剥き出しにする二対の牙竜種の周りには―――光り輝く二種類の虫の群れが漂っていた。

 

 

 

―――

 

「……間違いない。違反ハンターのヒュウだ。リストと一致している」

 

 乾燥しドス黒く染まった血溜まりの中心には、1人の男性らしき死体がある。その顔を見たギルドナイトの男が確認し、頷く。

 「そうか」と軽く囁くのは相方である女性ギルドナイト。既に死骸となった男に向けられる目は、恐ろしい程に冷やかであった。

 

 バルバレギルドより派遣された彼らの役目は「未知の樹海に出現したとされる牙竜種の調査及び潜伏中の違反者の排除」だ。

 本来ならモンスターの調査には慎重に慎重を重ねて行動すべきだろうが、近年の樹海では違反者が潜んでいる事も多い。

 一度見つかると隠蔽に専念して発見率が余計に下がってしまう為、ギルドは「サーチアンドデストロイ」を基本にギルドナイトを派遣している。

 

「それにしても……虫が多いな」

 

「ああ。だが今は隠れるぞ」

 

 黄色と白の2種の光―虫の輝きを鬱陶しく思いながらも、自然に帰るであろう死体を放って物陰に隠れだす2人。

 何はともあれ違反者の1人を発見できたのは大きい。何せ―――目の前では、2匹の牙竜種の激戦が繰り広げられているのだから。

 

 地を削るほどの取っ組み合いを行っている牙竜種の片方は、ギルドナイトらも熟知している雷狼竜。長期に渡る激戦だったのか、角と爪は荒々しく削られていた。

 体格はジンオウガと同じでも巨重を物語らせる骨格を持つ牙竜種が、最近になって未知の樹海で目撃されているという新種の牙竜種だろう。

 ドッタンバッタンと牙と体重を押し付け合い、上へ下へと代わる代わる。熟練のギルドナイトと言えど、下手に入ったらペシャンコになりそうだ。

 

 ジンオウガがマウントポジションを手に入れた直後、もう我慢の限界だとばかりにジオタイガから離れだし、再び距離を取る。

 爪や角、雷撃による火傷など数多くの傷を負っているジオタイガだが、平然とした様子で立ち上がった。

 角と爪が削れ、甲殻などもボロボロになっている疲労状態のジンオウガと比べると随分 と損傷が少ない。ギルドナイト達が不自然に思う程には。

 

 口から涎を垂らすほどにヘバっているジンオウガを前に、ジオタイガは改めて四股を踏む。

 するとそれに呼応するかのように白い光がジオタイガに集結していき、唸り声を上げる度にその発光は強まっていく。

 

「これは……」

 

「不死虫がジオタイガに集まって……!?」

 

 自身らの周りを浮遊していた白い光―不死虫が次々とジオタイガに集い、輝きを増していく。

 ジオタイガの体に張り付いた不死虫の輝きで見え辛いが、体表にあったはずの傷がみるみる内に治っていき―――。

 

―グオオォォォ!

 

 咆哮を轟かせ、全身の傷を回復させたばかりでなく、先ほどよりも凄まじい気迫を見せたではないか。

 これにはジンオウガもタジタジである。何せ自分はヘトヘトなのに相手は全快と来たのだから、身の危険を考えざるを得ない。

 だがジンオウガは逃げるという選択をしない。ジオタイガも逃がすつもりはない。

 スタミナ切れを起こしているにも関わらずジンオウガは走り、ジオタイガは迎え撃たんと四股を踏む。

 

 

 

―かくして、対を為す牙竜種の決闘は夜更けまで続くのだった。

 

 

 

―――

 

 ギルドナイト2名による調査(という名の観戦)を報告したところ、命虎竜ジオタイガは絶滅寸前に追い込まれていたモンスターだと判明した。

 研究者によるとジオタイガとジンオウガは古来より縄張り争いを繰り広げていたライバル関係で、大昔は頻繁に争っていたのだという。

 ジンオウガが今の生態を築くようになってからジオタイガは徐々に数を減らしており、今ではめっきり姿を現さなくなった。

 

 そのジオタイガが、不死虫と共生し回復能力を得たことで復活した。

 調査を重ねれば重ねる程に解る、始種であった頃のジオタイガとは違った生態。

 強靭な体に再生能力を持つ、パワーとタフネスに飛んだ牙竜種。

 

 

 

 これは新たな脅威の誕生になりそうだと、ギルドはジオタイガに関するG級クエストの発注を決めるのだった。

 

 

 

―完―




●簡易的紹介

名称:アルケロス
別名:草反竜
種族:草食種
体表に針を生やした、アプトノスに酷似した草食種。アプトノスの近縁種ではないかと考えられる。
保護色にもなる黒と深い緑の体色を持ち、外敵に襲われると針を立たせ群れ総出で突進する。

名称:ジオタイガ
別名:命虎竜(めいこりゅう)
種族:牙竜種
別名:不屈の闘士
巨大な虎のような姿を持つ牙竜種。前脚にプロテクターのような硬い甲殻を持つ。
ジンオウガのように不死虫との共生関係を持ち、不死虫のエキスにより傷を癒すことができる。
大昔よりジンオウガと縄張り争いを繰り広げ、現在の生態系になるまで数が衰退していた。

ポイントは何と言っても不死虫を生かした体力回復!特別な属性攻撃とはいえ、これは反則に近い(苦笑)
ジンオウガと対を為す存在、どっしりとしたバトルスタイルと、カッコイイ生態系にほれ込みました。
きっとセルレギオスみたいに新しい状態異常を武器かスキルに宿すことでしょう(笑)

では、第二弾を気長にお待ちください。また後ほど。


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Battle1「鬼蛙VS雌火竜」

すみません企画が全然進んでいません……おのれ転生者!(←つまり作者のせい)
ヤオザミ成長記が更新できたのを切っ掛けに気分転換ということで書いてみました。


 地底にだって飛竜種は生息する。

 

 飛ぶ竜と書いて飛竜種の癖になんで地底に住むんだよーとか思うだろうが、それは進化のルーツに繋がっている。

 例えば鎧竜グラビモスは飛行能力を犠牲に溶岩でも溶けない重殻を得ることで、高温渦まく火山の洞窟でも平然と活動できる。

 グラビモスほどではないがある程度の飛行能力を失ったティガレックスは地上走破能力に優れる他、あらゆる地域に脚を運べる適応能力を得た。

 

 それとは別に、地底と言っても地底火山という、高低差が非常に激しい地域があるのだが。

 

 幾多もの崖がある狩猟地であるが故に飛行能力を邪魔されず、リオレウスですら悠々と飛ぶ事ができる。

 また、火山活動が沈静化することでアルセルタスやゲリョスといった熱に弱いモンスターも生息できるようになる。

 狭い場所や隠れる場所が多いとはいえ、激しい高低差故に飛行能力が働くのは嬉しい所。ネルスキュラの巣には注意。

 

 そんな地底洞窟は、雌火竜リオレイアが子育てをするには打って付けの時期なのだ。

 

 

―――

 

 まだ高温に耐えられない程に小さな雛達が巣の中でキィキィ鳴き、母に餌をねだる。

 一眠りしていたリオレイアは声を聞いてゆっくりと首を持ち上げ、アゴで軽く子供達を小突いてから起き上がる。

 羽ばたきの風で雛達を飛ばさないよう少し距離を取り、そのまま飛翔。「早く帰ってきてねー」と言っているかのように雛達は鳴いて見送った。

 

 地底洞窟には意外にも獲物が多く、リオレイアは空を飛ぶ中ですぐさま獲物を発見。ターゲットはリノプロスだ。

 少々肉質は硬いものの、比較的広い場所を好む彼らはリオレイアの狩猟ターゲットとしては容易い方だ。ちなみにアプトノスは今の時期は居ない。

 

 高所から見下ろしていると、リオレイアに気付かないはずのリノプロス達がいきなり威嚇しだした。

 尻尾を振り上げ声を上げるリノプロス達の視線は地上に向けられており、その岩盤を抉って地中から巨大な物体が現れる。

 

 現れたのは鬼蛙テツカブラ。食欲旺盛な両生種の代表格である。

 

 鬼蛙は狭い地中から出た開放感を表すかのように背筋を伸ばし、小刻みに頭を動かして状況を把握する。

 そんな鬼蛙に1匹の雄のリノプロスが果敢に突進してきたものだから、巨大な口にパクーリされてしまった。

 動く物は何でも食べるテツカブラにとって、雄のリノプロスは自ら食べられにくる「ロケット生肉」そのものなのだ。

 

 ガリゴリと嫌な音と流血を出しながら咀嚼し、ゴクリと飲み込み汚いゲップを吐いてご満悦なテツカブラ。

 「次の獲物はどいつだー」と言わんばかりにゆっくりと歩く中、背中に火球が直撃。炎には強いので割と平気だ。

 反射的に振り向けば低空を羽ばたいてテツカブラに向き合うリオレイアの姿が。悠々と餌を頬張っている様子が気に入らなかったらしい。

 

 互いにテリトリーを侵す敵として認識し、威嚇も兼ねた二種類の咆哮が轟く。

 

 それを合図にリオレイアが着地して突進。テツカブラは顔を地面にめり込ませ、巨大な岩を咥えた顔を上げた。

 そのまま発達した後ろ脚を用いて岩を持ち上げるが、それを見たリオレイアは翼を羽ばたかせブレーキも兼ねた低空飛行を開始。

 テツカブラが岩を噛み砕いたのはその直後。破片の幾つかがリオレイアに当り不意を着くことには成功した。

 

 甲殻に覆われていない腹部などに礫が当って痛むものの空中制御を乱すことなく、翼を大きく広げて低空飛行を続行。

 そこへ追い討ちを仕掛けるようにテツカブラが跳躍するが、リオレイアは難なく回避して側面に移動。尻尾サマーソルトをお見舞いする。

 肉厚な体を持つテツカブラにとっては軽い物だが、側面でしかも下から上へと叩き付けられたので横転してしまう。

 

 下り坂だったこともあってゴロンゴロンと転がり落ち、リオレイアはそれを追いかけるように地面スレスレを滑空する。

 止まった頃にはテツカブラは仰向けに倒れ、その眼前でリオレアが大きく翼を広げて止まり、後ろ脚の毒爪を突きつけた!

 

 柔らかな腹部に爪を突きつけられてはたまらないが、テツカブラはタフさが売りだ。

 毒で苦しい体を酷使して跳び上がり、その跳躍力に巨重を合わせてリオレイアに叩き付ける。

 下から叩きつけられて不意を突かれたリオレイアはそのまま墜落。リオレイアと地面がテツカブラをサンドイッチ!

 

 ここでテツカブラは強靭な後ろ脚を駆使してリオレイアを退けようと跳ねるように暴れまくる。

 パワーでも体重でも劣るリオレイアはテツカブラの暴れっぷりによって跳ね除けられてしまう。

 体勢を崩したことでもがくリオレイア。ようやく地面に脚を付けて落ち着くものの毒で苦しい目に合うテツカブラ。

 

 それでもテツカブラは口を開けながら、後ろ脚の存在感を忘れるような猪突猛進っぷりを発揮。リオレイアが起き上がる頃には翼にガブーリ!

 飛行するタイプの飛竜種にとって翼は命。しかし振り払いたくもテツカブラの強靭な顎と巨大を振り払う力はリオレイアにはなかった。

 

―ここでいきなり「ロケット生肉」が参上!

 

 上下左右に激しく移動するので尽く外れていたリノプロスの突進が今になって命中。

 偶然にもテツカブラの横っ腹に頭突きをかましたおかげで、驚いて口から翼を離してしまう。

 

 その隙にリオレイアは脱出。勢いよく走り、フラつきつつも空を飛ぶことに成功した。

 テツカブラが発達した後ろ脚で跳躍しようとしたがココでまさかの連続突進。別のリノプロスが反対側の横っ腹を頭突く。

 こうしてリオレイアは背後からの強襲を受けることもなく上昇、テツカブラのジャンプを持ってしても届かない高空へと逃げ出した。

 

 とはいえ片翼を噛まれたことで飛行能力に支障をきたし、これ以上の追撃は不可能だと本能で察知。

 覚えているよバーカと言っているように吠え声を残してリオレイアはテツカブラから去っていく。

 しかしテツカブラは突進してきたリノプロスをムシャムシャしてやったので気付いていないが。

 

―あ、忘れてた。

 

 突如としてリオレイアは空中旋回。ムシャムシャしているテツカブラとは別の方向へと高度を落としていく。

 そこには聴覚が届かないのか呑気に草を食べているリノプロスがおり、それを後ろ足でガッチリキャッチ。

 当初の目的だった雛の餌を忘れずに捕まえておく。縄張り争いばかりが母の仕事ではないのだ。

 

 

 

―どなどなど~な~ど~な~♪リノプロ()~れ~て♪

 

 

 

―終―




短いですが書いていた楽しかったです。
やはり私にとってモンスターの生態を書くってのは楽しみの1つみたいです。
こんなことなら転生者要素とか書かなきゃよかったなーと後悔。
ですが企画はなんとしても書き終えてみせます。どうか気長にお待ちください。

オリジナル変異種とは別にモンスター同士の争いは気まぐれで投稿する予定です。
今後も妄想モンハンをよろしくお願いします。


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Extra8-2「水没林」

や、やっとモンハンデルシオン投稿……徐々にモンハン熱が冷めてきている(汗

はよ、はよぉモンハンクロスを……!


 弱者とはなんだろうか?

 

 弱き者と言うが種類は多岐に渡り、基準を定め、その基準より弱ければそれは弱者に違いない。では何を基準に強弱が決まるのだろうか。

 動植物、特に人間に置いてはその基準は曖昧だ。年齢差や武器の有無など、その強弱の基準というものを定める事は困難を極める。

 その中でも人が必要と考えられる要素の内の1つは経験則。豊富な経験と誠実な記録はその者への信頼を得ることができる。

 

―――まぁいずれにしても、基準を作っているのは人間ぐらいなのだが。

 

 

 

―――

 

「あ~腹立つ!」

 

―ドッパァン!

 

 水没林の水面下で起こる爆発。大きな水の柱を起こす程の爆発は、この赤毛の青年が繰り出した物だった。

 

 爆発によって生じた雨に打たれるこの赤毛の青年は、他所の世界から来た転生者の1人だ。現世の名はリュガンという。

 彼は以前から問題行動を多発しており、ハンターに就職して早々ギルドから多数の忠告を受け、最終的には異端者として扱われる始末。

 まぁ武器を通じて爆発を起こす能力を持つ転生者である以上、文字通りの異端者なのだが。

 

―ドパァンッ!

 

「何が殲滅せよだ!指名手配されて困っているってのに助けもしない駄目神の癖に命令しやがって!」

 

 自分の行いの性だと言うのに、行いの原因である神を名乗る存在にケチをつける。完全に八つ当たりだ。

 その八つ当たりをぶつけるように、しかし本人は気付かずに、魚という名の弱者を殲滅している。

 水面下に放たれた竜撃砲のショックで大量の魚がショック死して浮かんでいるが、それですら不愉快とばかりにガンランスが火を吹く。

 

「くそっ!くそっ!ちょっと能力がバレたからって、人助けしたハンターに対してこんな仕打ちかよ!ざけんなチキショウ!」

 

 確かに通り掛けの商人を助けるべく、襲い掛かって来たジンオウガを目の前で爆殺してしまった。

 商人はリュガンを恐れ噂となってギルドに届き、ギルドが秘密裏に送り付けた監視役に気付かずモンスターを爆殺。

 異能は恐れられ遠ざけられるのが世の常。異能を求めておきながら責任を自覚しなかったツケが帰って来た。それだけだ。

 

―ザバァッ!

 

「―ッ!?」

 

 突如、水面から何かが跳び上がって来た。

 リュガンは思わず武器を身構えるが、その影はリュガンを大きく跳び越え、轟音を立てて背面を着地する。

 リュガンが振り向く先には―――鰐と鮫を足して2で割ったようなモンスターであった。

 

 種別では獣竜種に入るのであろう体躯と、バランスを保つかのように長くしなやかな尻尾を伸ばしている。

 背中には巨大な背びれが聳え、顔には鰐のように長く大きな口を持ち、発達した前脚と後ろ足には小さな鰭を生やしていた。

 指先に生えた長い鉤爪を擦りながら唸り声を上げている様子から、どうやらお怒りの様子。

 

 水鰐竜スピラニムス。それがこの獣竜種モンスターの名前である。

 

 このスピラニムスは今でこそ陸上に立っているが、尾鰭や水かきがある事から水中での活動にも秀でている。

 スピラニムスは発達した聴覚で水中の獲物を探す為、先ほどから水面を爆破していたリュガンに苛立っていたのだ。

 

「はっ!わざわざ俺に狩られに来るとはバカな奴だ!」

 

 だがリュガンは恐れを抱くどころか、八つ当たりには丁度良いと優越感にすら浸っている。

 スピラニムスは咆哮を轟かせリュガンに向けて歩き出し、リュガンは武器を持って身構えた。

 

 

 

―――

 

 スピラニムスは、陸地での活動から水中でも適応するよう進化した獣竜種である。

 獣竜種特有の発達した後脚は巨躯を支える処か悠々と地を走り、長い尻尾は武器にもなる。

 その巨体を水中でも活動できるよう背鰭や水かき、そして新たな狩猟スタイルを得るよう進化した。

 その1つが獲物を捕らえる為の聴覚であり、性質上爆音などに非常に弱く、感覚器官に混乱を生じるという欠点を持つ。

 

 だが、スピラニムスを怒らす切っ掛けにもなり、現にスピラニムスは激情のままにハンターを追い詰めている。

 

 水陸で鍛えられた筋肉で包まれたスピラニムスにとってリュガンの放つ爆発など屁でもなく、平然と突っ込む。

 鰐のように長い口を使っての噛み付き、発達した前脚に生えた長い爪で切り裂き、尾鰭が突いたしなやかな尻尾で薙ぎ払う。

 いかにも水中で発揮するような見た目に反する激しい動きにリュガンは翻弄され、攻撃と防御を兼ねつつ引くがそれでも押されていた。

 

 スピラニムスの猛攻もそうだが、何よりも足場の悪さにてこずっていた。

 弱者を相手にしてばかりだった彼は単調な動きしか体に染み込んでおらず、ぬかるんだ地面で転ばないようにするのが精一杯。

 スピムラスを視界に納めながら後退。これが難しく、しかしスピラニムスは平然と木々や泥沼を踏み抜いて接近してくる。

 

「くそ……くそっ!」

 

 泥まみれの顔を拭う暇も無く、逃げられると踏んで複雑な地形へ足を運んだ己を悔やむ。

 ふと足音が止んだ事に気付いたリュガンが後ろを振り向くと、スピラニムスは足を止めて胸を逸らしていた。

 それがなにを意味するのか察知したが、なにが飛ぶか解らぬからと横へ飛ぶ。

 

 スピラニムスの口から放たれる圧縮した水を、右から左へと薙ぎ払うように放つ。

 大きな口に似合わず細い線となって射出するが、それは遺跡の残骸を粉砕するほどの威力だ。

 上を掠ったことで肝を冷やしたリュガンだが隙を逃さない。すぐさま走り、足の裏で爆発を起こして跳ぶ!

 

「こ、ここならどうだ!?」

 

 跳んだリュガンが狙うのは背鰭。体温調整を行っている背鰭はスピラニムスの弱点の1つだ。

 空中でガンランスを展開し、そこを突く。するとスピラニムスは痛そうに怯み、そのまま後退。

 

「へっへ、ザマァみろってんだ!」

 

 攻撃が通ったと解っただけでこの喜び様。地面に着地しガンランスを構えたリュガンは怯んで背を丸めるスピラニムスを睨む。

 しかしスピラニムスは直後に筋肉を強張らせ、先ほどよりも凄まじい怒気を宿した咆哮を轟かせた。

 

「……は?」

 

 鼓膜を破り兼ねないほどの衝撃波が全身に伝わり、目を丸くした。眼前には筋肉を膨らませ巨大な口を開くスピラニムスの姿。

 まさか今になって怒ったのか?今までのは怒りですらなかったのか?そんな疑問が頭の中で交差し……。

 

「こ、このやろぉぉぉっ!」

 

 もう重い武器など要らぬとガンランスを捨て、両手両足の爆破を活かして再び跳躍する。

 もうハンターなんてやってられない。今から俺は狩人として全力を持ってこいつを殺すと、恐怖を隠すかのように殺気を沸かす。

 ダイナマイトに匹敵する爆発を起こしながらリュガンは空を舞い、スピラニムスへと突っ込んでいく。この爆破攻撃を眼前にあてさえすれば―――!

 

―そんな青年の強がりですら嘲笑うかのように、スピラニムスは巨大な尾鰭を振り回す。

 

 考えなしの突進、それも空中移動であるが故に簡単に尾ひれに直撃し、リュガンを吹き飛ばした。

 木々と蔦によってスピードは軽減するも遠くへ吹き飛ばされたリュガンだが、水辺で警戒していたルドロス達の前に落ちる。

 器官に入った泥水を吐き出すリュガンだが、ルドロス達が水中へと逃げ出す程の怒気と足音が近づくのを察知し、顔を青くした。

 

―冗談じゃない!こんな所で死んでたまるか!

 

 咳き込んでいるので声ですら上げられないリュガンは、思い切って水中へと飛び込む。

 獣竜種は陸上に特化している生物だ。それにイビルジョーみたいな体型をしているあいつはきっと水中の方が鈍いに決まっていると考えたが故に。

 逃げる魚やルドロス達を差し置いて泳いで逃げるリュガンだが、直後に伝わる水飛沫と水流に怯えを隠せない。

 

 せめて洞窟へ逃げ込もうと必死に足をバタつかせて泳ぐ中―――巨大な何かが横切った。

 

 その巨大な何か―スピラニムスは、しなやかな動きを描いてリュガンの目の前を泳ぐ。

 ルドロス達が逃げ惑う中、リュガンだけは呆然と、あたりの水を吸い込んでいるスピラニムスを目の当たりにしていた。

 

 

 

―――

 

 スピラニムスはリュガンを餌としてみていない。縄張りを侵す侵入者としても見ていない。

 ただ五月蝿くて邪魔な存在。それ故に排除しようとした。そしたら意外な痛手を負ったので怒った。

 

 スピラニムスの水ブレスがリュガンを襲い、そこには巻き込まれ粉々になった水草や流木の残骸が漂うだけになった。

 自慢の聴力を持って聞いても、聞こえるのは逃げ惑うルドロスが泳ぐ音ぐらい。

 スピラニムスは満足したように怒りを納め、そのまま悠々と水中を泳ぎ出す。そろそろ餌を食べようと重いながら。

 

 

 

 

 

 

(早く、早く余所へ行ってくれ……!)

 

 僅かな気泡ですら出すまいと口を手で塞ぎながら、リュガンは流木の陰で祈り続けた。

 すぐそこにはリュガンのいる流木を通り過ぎようとするスピラニムスがいるのだろうが、顔を少しでも覗かせたら見つかりかねない。

 録に呼吸もできない水中に苦しみを覚えながら、それでもリュガンは必死で祈る。アイツさえ行ってくれれば、後はなんとでもなると信じて。

 

(……っ!?)

 

 いつのまにか目の前に居た巨大なアロワナに気付き、息を吐きそうになった。

 それを必死に抑えるが、目の前を横切っている、自身や鮫よりも遥かに大きいアロワナに驚きを隠せない。

 

 彼は知らないだろうが、これは大アロワナと呼ばれる激レアな魚だ。巨大黒魚(キョダイコクギョ)なんて仰々しい名前がある。

 

(あっちいけ!見つかるだろうが!)

 

 しっし、と手を振って追い払おうとするが、大アロワナはむしろリュガンに近づいていく。

 大アロワナはルドロスより小さなリュガンを獲物か何かと思ったのか、ゆっくりと近づき、その体に噛み付こうと瞬時に飛び掛る。

 

(やめ、やめろっ……!)

 

 咄嗟に噛み付きを避けるが、それでもしつこく迫ってくる大アロワナから逃げるしかない。

 武器も無いし、爆破は目立つ。だから手を振り払うしかリュガンには許されなかった。

 

 

 

 

 そんな1人と1匹の弱者を、強者(スピラニムス)が音をも立てずに見つめていた。

 

 

 

 

―巨大な口を開いて。

 

 

 

 

―完―




●簡易的紹介

名称:大アロワナ
別名:巨大黒魚
種族:魚種
鮫や大鯰なみに大きなアロワナ。

名称:スピラニムス
別名:水鰐竜
種族:獣竜種
元は陸上で活動していたが、長い歴史を重ね水中での活動を可能とした獣竜種。
巨大な背びれと尾鰭、鉤爪に水かき、水中でも聞こえる聴覚など水生生物らしい進化を辿った。
一方で水陸で鍛えられた強靭な後ろ足と巨大な口を持ち、機敏かつ激しい動きを見せつける

水中から陸上で活動できるよう進化した獣竜種がフロンティアに出たので、逆もありかなぁと。
まんまイビルジョーとザボアを足して二で足したような容姿しか浮かびませんが、カッコイイので良し!(ぇ

毎度遅くなって申し訳ありません(汗


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Extra8-3「雪原」

正直転生者要素が邪魔に感じてきました。募集しておいてすみません(汗
なので心機一転、転生者要素を完全に排除して書かせてもらいます。
作者の嫌悪や自慰的な欲求を露出させてしまい、本当に申し訳ありません。

読書前の(どうでもいい)お願い:ガムート戦闘BGMを聴きながらお読みください。



 この日、全てを白く染める雪の世界「雪原」では猛吹雪が舞っていた。

 ポッケ村に近い雪山の反対側に位置する麓には針葉樹の森がまばらに広がっており、大半が雪原となっている。

 雪で埋もれたこの地には寒冷地に強い植物が多く眠っており、意外にもガウシカやポポ、ケルビといった草食種が多い。

 

 しかし雪原地帯というものは何処もが過酷な土地。食性を保てず低温で命を落とすなどザラにある。

 加えて針葉樹により降り積もった雪が落ちて群れが全滅する事も多いので油断ならない。

 そして木々が少なく平地が広いこの地では、吹雪の中でも互いの姿を認識しやすく、縄張り意識の高いモンスターにとっては神経を尖らせ易い。

 

 

 今まさに、その縄張り意識の高いモンスターの群れ同士が争おうとしていた。

 

 

―――

 

 吹雪荒れる雪原にて、二組の群れが対峙している。どちらも白いに近い体色故に見つかりにくいが、互いはしっかりと見据え睨み合っている。

 

 一方は雪獅子ドドブランゴ率いるブランゴの群れ。

 背後で子分達がいきり立って跳ねる中、ボスのドドブランゴは両手を地面につけて唸っている。

 

 もう一方もドドブランゴらと同じ牙獣種……【雪狼(セツロウ)】ガルゥと、その上位種【大雪狼(ダイセツロウ)】ドスガルゥである。

 見た通り狼を大きくしたようなモンスターで、灰色の体毛を持つガルゥと、ガルゥの二倍以上の大きさを持つ白銀のドスガルゥに分かれている。

 もっとも、このドスガルゥも本来はガルゥと同じ灰色なのだが、雪を体に纏う習性によって白銀に見えるだけだ。

 

 そんなドスガルゥはガルゥ達を置いて素早い跳躍で先陣を切り、ドドブランゴに飛びかかる。

 ドドブランゴはバックステップでこれを回避。勢いを殺す程の跳躍を持って、その逞しい剛腕で攻撃を仕掛けた。

 ドスガルゥは敢えて前方へ走る事でドドブランゴを潜り抜け、さらに一斉に飛びかかって来たブランゴ達ですら軽々と振り切る。

 

 ブランゴ達から距離を取ったドスガルゥは急転換し、軽い衝撃波を伴う程の咆哮を轟かせ、ブランゴ達を怯ませる。

 だがドドブランゴは別だ。ボスの風格に似合う肝っ玉はドスガルゥの咆哮に怯む事なく突き進む。

 

 ふと、ドドブランゴと並列する影が2つあった。ガルゥらである。

 二匹のガルゥらは甲高い吠えでを威嚇、ブッ潰してやんよ!と言わんばかりにドドブランゴは急停止して横殴りを噛ます。

 フットワークでは負けるが速度ならガルゥに采配が下るらしく拳を潜り抜け、もう片側のガルゥが隙を突いて背中に噛みつく!

 

 だが剛毛で身を包んだドドブランゴには効果が薄い。すぐさま引っぺがそうと手を伸ばすも、ガルゥは力不足と悟ったか直ぐに離して退散。

 牙を剥き出しにして怒りの姿勢を見せる中、ドドブランゴは周囲からの声を聞いて改めて状況を確認する。

 

 ドスガルゥが1匹のブランゴを噛み殺した直後で、その周りではツーマンセルとなったガルゥ達がブランゴ達を追い詰めていた。

 ガルゥらは狗竜のように鳴き声でチームワークを構成する習性がある他、ドスガルゥは獲物を観察する高い知能を持っている。

 二匹のガルゥで一瞬でもドドブランゴを引きつけ、その隙にスピードを持ってブランゴを一匹ずつ噛み殺す。それがガルゥらの作戦なのだろう。

 

 だが力と数ならドドブランゴらが上だ。子分を殺され怒りの吠えを轟かせたドドブランゴは素早いステップでドスガルゥらに挑む!

 そして子分達も負けじと雪の中へ潜り、ガルゥ達の包囲網を抜け出そうとしている。

 ガルゥらにはない雪中移動に戸惑う中、ドドブランゴの剛腕が一匹のガルゥを殴りつけ、遠くへとぶっ飛ばした。

 

 ドドブランゴをガルゥらが取り囲み、ドスガルゥはドドブランゴの前で唸り声を上げながら姿勢を低くし飛びかかる態勢に入る。

 怯える気配の無いドドブランゴは大声で吠え、それを合図にガルゥの包囲網外の地面からボコボコとブランゴ達が出てくる。

 流石のガルゥも背後からの出没には驚いたらしく統率を見出し、牙と拳をぶつけ合う大乱闘に発展。ドドブランゴはそれに乗じてドスガルゥに飛びかかるが―――。

 

―ウオォォォンッ!

 

 まるで小さな爆発が起こったかのような轟音。至近距離、それも正面から聞いては流石のドドブランゴも怯んで立ち止まる。

 ドスガルゥの咆哮に混乱していたガルゥ達はドスガルゥに視線が向き、続いてドスガルゥがバリエーション豊かな吠えを織り交ぜる事で動きが変化。

 今度はブランゴ達を攪乱するかのように入り乱れ、今度はブランゴ達を翻弄する作戦に変更。

 その攪乱っぷりはドドブランゴですら「どこから来るんだ?」と言わんばかりに周囲を慌ただしく見渡す程。

 

 ドスガルゥはドドブランゴを挑発するかのように牙を向けて唸り声を上げる。

 ドドブランゴは混乱を通り越して苛立ちを覚えたのか、怒りを叩きつけるかのように腕を振り落とし、咆哮を轟かす。

 

 

 二種の群れのリーダー……それこそ犬猿の仲である二匹が激突しようとした―――その時。

 

 

―――

 

―キュイィィィィィィ……!

 

 吹雪の中ですらはっきりと聞こえる鳥が上げるような鳴き声に、ドスガルゥとドドブランゴは立ち止まり、しきりに空を見渡した。

 攪乱していたガルゥや飛びかかっていたブランゴ達ですら一時停戦とばかりに動きを止め、不安げに空を見上げている。

 

 そしてゴウゴウと、吹雪とは別の暴風が吹き荒れる音を静かに響かせ、その音が徐々に牙獣種達に近づいていき―――その姿が見えて来た。

 

 巨大な翼。鋭い鉤爪と蹴爪。白が混ざった茶色い毛色に覆われた鳥のようなフォルム。

 しかし鳥竜種では無いと物語らせるのは、翼を伸ばした身体に屈強な四肢が生えているからだ。

 リオレウスの骨格に強靭な前脚が生えたような姿を持つこのモンスターは、吹雪が荒れ狂う空を悠々と飛び、牙獣種達に近付きつつあった。

 

 そして狙いを定めたのか翼を降り畳み急降下。真上から落ちてくると悟ったドスガルゥとドドブランゴは慌ててその場から逃げ出す。

 四足の鳥は直前で翼を広げ一気に減速、積もった雪を吹き飛ばしながら鉤爪の四肢で着地し、翼を広げて大きく見せ威嚇する。

 

 鷲のような頭部と翼を持ち、鳥のような蹴爪と鉤爪が生えた足と鳥の面影がある一方、獅子のような逞しい前脚と後ろ足を持つモンスター。

 伝説の魔獣グリフォンのような姿を持つこのモンスターは、ギルドや古龍観測所ですら未発見とされている伝説の存在。

 

 その名は「バルネイド」。別名「天翼鳥(テンヨクチョウ)」。世にも珍しい種「鳥獣種」にカテゴライズされことになるモンスターだ。

 

 どうやらバルネイドもまた縄張り意識が強いらしく、ドスガルゥとドドブランゴの縄張り争いを空から見て我慢できなくなったのだろう。

 言ってみれば「俺も混ぜろよ」状態で、身を低くして翼を広げながら完全に二匹を敵と認識している様子。

 

 その高い飛翔能力で雪山に降り立ちドスガルゥとドドブランゴの群れを追いやった存在を前に、二匹の牙獣種は唸り声をバルネイドに向ける。

 ブランゴやガルゥも追い出された恨みを忘れていないらしく、犬猿の仲であることを置いても見事な連携で即座に包囲網を敷き詰めた。

 

 バルネイドはそんな彼らを前に差を見せつけるべく翼を畳み、前脚を伸ばして頭を天に向けて咆哮。

 鳴き声は鳥そのものだが、姿はまるで獅子の如く。ブランゴとガルゥは怯むが、それを掻き消すように牙獣種の咆哮が律を正す。

 

 まず先手を取ったのはスピードのあるガルゥ。今の咆哮は足を崩せという指示らしく、バルネイドの足元にガルゥ達が駆け寄る。

 地に足を付けたまま翼を広げ、そのまま強く振り下ろす。それだけで吹雪と思えるような暴風が周囲に伝わり、小柄なガルゥ達を吹き飛ばしていく。

 

 次はブランゴ達。ガルゥ達に無い跳躍力で上から攻撃を仕掛けるらしい。

 暴風の勢いも借りて四肢を伸ばしてバルネイドが跳躍。次々とブランゴ達が地に着く中、鋭い鉤爪と蹴爪で踏みつける。

 何匹か難を逃れたが数匹のブランゴが鉤爪の餌食となり、深く食い込まれ掴まれる。バルネイドは前脚に力を籠めて踏み潰す。

 

だがそこへドドブランゴが殴りつけ、横から頭部を殴りつける事に成功。飛竜種のような防御力は無いらしく横転してしまう。

そこを逃すドスガルゥではない。横転したのを良い事にガルゥ達と共に密集、翼をもぎ取らんとばかりに噛みつく!

 

だが暴風を生み出す程の翼力は伊達ではない。数匹でも小柄なガルゥごと翼を広げて起き上がり、ドスガルゥに対し鋭い嘴を向けて応戦する。

後ろからドドブランゴの雪玉ストレートがぶつけられるものの、今度は翼を何度も羽ばたかせて起こした暴風によって小柄な連中を吹き飛ばした。

 

そのまま飛翔、鉤爪を見せつけるように滞空しながらバルネイドは咆哮を轟かせた。

空を飛び鋭い爪を見せつけられても怯むような二頭ではないらしく、子分らと合わせて甲高い咆哮を轟かせる。

 

 

弱者を率いる強者が上か。一匹で生き抜く強者が上か。

片や雪山を追い出された恨みを晴らさんと意気投合し、片や雪原ですら縄張りに戦と数の暴力を前に挑む。

厳しい環境下に置いてはよりシビアな弱肉強食を強いられ、そして数多の勝敗が決せられる。

 

 

 

鋭い爪を振り下ろさんとバルネイドが滑空。二匹の牙獣種は腕と牙を武器に鳥獣種に挑む。

 

 

 

―完―

 




●簡易的紹介

名称:ガルゥ
別名:雪狼
種族:牙獣種
名前の通り降雪地帯に生息する狼のような牙獣種モンスター。大きさはジャギィ程。
大雪狼ドスガルゥをリーダーに3~4匹の群れで行動し、仲間で狩りを行う。
縄張り意識と仲間意識が強く、群れ全体で素早く動いて翻弄し、敵を弱らせて仕留める。

名称:ドスガルゥ
別名:大雪狼
種族:牙獣種
雪狼ガルゥのリーダー格。雪を体に纏う習性を持つ。大きさはドドブランゴ程。
狗竜のように複数の遠吠えでガルゥ達を大まかに指示、仲間意識を持って強敵にも挑む。
鋭く大きな牙を用いて喉笛に噛みついて獲物を仕留める。素早くて勇ましい雪原の猛者。

名称:バルネイド
別名:天翼鳥
種族:鳥獣種(オリジナル)
鷲の体に獅子のような体躯を持つ鳥と獣が合わさった新種のモンスター。
大きな翼からは龍風圧に匹敵する暴風を生み出し、鋭い嘴と鉤爪、蹴爪で攻撃する。
甲殻が無いので竜種では無いが、姿から見て古龍種を遠い祖先を持つ説が浮上している。

犬猿の仲を再現したかったこともありますが、そう言えば狼のようなモンスターってジンオウガぐらいで少ないなぁと思って妄想しちゃいました。
天翼鳥は新ジャンル開発という偉業を成し遂げ、そのカッコイイ姿を妄想して登場させたくなりました。風で吹き飛ばしながら戦うってオーソドックスで良い!

そして悟りました。人間要素ゼロの方がすっごい書きやすい!
このスムーズな書き速度。これ今日一日で書いた作品なんですけど(汗)

やっぱり私の小説は他所の知識を入れるべきでなく、モンハン100%で挑むべきでした。
今年中に最後のモンハンデルシオンを投稿できるよう頑張りますので、生暖かい目で見守ってください。

ではでは。


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Extra8-4「孤島」

なんとか年末までに投稿できました!今回でデルシオン最後です。皆さんお待たせしました。

ネズミやGの何が怖いかって、増えて群れる事ですね。
そしてどこからともなく現れ狭い所へ隠れていく恐怖(ガクブル)


 ベルナ村の龍歴院は、モガ村の報告もあって、近日になって起こった孤島の異変を察知した。

 なんでも孤島の至る箇所に、ブナハブラともオルトロスとも違う、謎の甲虫種が大量発生しているのだという。

 その数は少なくても数十匹、多い所では百を優に越える数の甲虫種が犇き合っているというのだから恐ろしい。

 

 さらにはモガ村の村長ですら一度でしか見た事がないという、ギルドでは未発見の飛竜種まで発見されている。

 大量発生に便乗したのであろうその飛竜種は甲虫種を餌にしているが、その捕食が追いつかない程に甲虫種は増え続けている。

 

 未発見の飛竜種の生態調査と甲虫種大量発生の阻止を目的としたクエストを龍歴院が発注。

 持てる限りの知識と書物によって僅かながらに確認した「大甲虫(ダイコウチュウ)」なる存在が気になるが……置いておくとしよう。

 たかが甲虫種と侮り数で負けないよう、上位以上のハンター4人で構成するよう言いつけたのだが……。

 

 

 

―――

 

 孤島の夜。普段は大概のモンスターが寝静まっている時間なのだが、ここ最近はそうではない。

 孤島中に響き渡るのは、キィキィという奇怪な音。それらが全て一種類のモンスターが発生しているものだ。

 

 そのモンスターこそ、大量発生と同時に姿を見せた新種の甲虫種―「黒虫(コクチュウ)」アントスである。

 

 その姿は言ってしまえばオルタロスより大きな蟻そのもので、黒い甲殻に大きく発達した顎が特徴的だ。

 アントスはオルタロスに漏れず複数の固体で行動する甲虫種で、しかし肉類を得る為に他のモンスターを襲う事もある。

 

―そして獲物は草食種に限らず、時には襲い掛かってきたハンターですら相手にする。

 

 依頼の1つである謎の甲虫種を数多く討伐する為、リノプロスに群がるアントスに戦いを挑んだ4人のハンター。

 しかしながら彼らは問題があった―――彼らは「自分こそが世界の中心」と考えている転生者であった。

 たかが虫程度と安易に考え、それよりも自分以外の邪魔者が鬱陶しいからと喧嘩してばかり。

 

 そんなチームワークのチの字も思い浮かばない彼らにとって、アントスの大群は予想以上に苦戦を強いられた。

 何せオルトロスとは比較的にすらならない、それこそ島中に犇く程の数を引き連れているのだ。

 重い武器を延々と振り回す怪力と莫大なスタミナがあろうとも、全てを凪払う暴風の魔法を唱えようとも、永遠に撃てるボウガンがあろうとも。

 次から次へと沸いてくる大量の甲虫達は、上下左右あらゆる所からハンターに襲い掛かってくる。

 

 ほんの僅かな隙と隙間に噛み付き、そこから生じた隙で別方向から噛み付き、さらに別の死角から……。

 全員が共通して強靭な肉体を得ていても、発達した顎に噛まれれば痛みを生じ、それが連鎖していき……。

 

 気付けばあっと言う間に体中をアントスの顎で噛まれ、身動きですら取れなくなっていた。

 武器を振るいたくても腕にしがみ付いた十数匹のアントスの重さに耐え切れず、吹き飛ばしたくても己にしがみ付くアントス達には当らない。

 

 ゲーム知識として考えている転生者ならこうは浮かんだかもしれない……「こいつらを産む女王を探し出せ」と。

 しかし、彼らを転生させた者が植えた潜在思考「弱者殲滅」がそれを許さず、群がるアントス達に苛立ちを覚え不毛な戦いを挑むことになった。

 彼らが油断さえ……いや「ゲーム知識」さえなければ、悪夢のような大増殖を繰り返し進撃する大群に恐れ、計画的になっていただろう。

 

 

 

 画して、転生者ハンター達は巨大な黒い群れに呑まれていく―――己の転生を呪いながら。

 

 

 

―――

 

 そんなハンター達とは違い、たった1匹でありながらアントス達の大群を前に生き延びているモンスターが居た。

 依頼書にもあった「新種の飛竜種の調査」に記されたモンスター……モガ村の村長が一度だけ見たという飛竜種である。

 

 その飛竜種は、所謂レウス骨格と呼ばれるオーソドックスな飛竜種としての姿を保っている。

 月光を反射する白い甲殻で身を包み、リオレウスやライゼクスと比べて長い首を持つ。

 特徴的なのは頭頂部に生えた白い角。光を蓄積する材質で出来ているのか、月明かりに負けないほどの光を放っていた。

 

 大きな翼を畳み、長い首を天に向けて伸ばす姿はまるで灯台―――故に二つ名は「灯竜(トウリュウ)」。名はクラソラス。

 

 クラソラスは孤島周辺を越えて海を渡ろうとしていたのだが偶然にもアントス達の大量発生を嗅ぎ付けたらしく、渡海の休憩も兼ねて餌を漁っていたのだ。

 夜行性である彼は夜に姿を現し、その独特的な生態によって甲虫種などを餌にしている。その様子を見てみよう。

 

 クラソラスは高い知能を持ち、餌としている甲虫種を侮ることは無い。

 アントス達の群れ具合を空から観察し、最も数が少ない群れに近づく為に静かに着地する。

 そしてクラソラスは発光性の頭角の光を強めて獲物を待つ。この時は翼を畳み、まるで灯台のように佇む。

 

 アントス達は光そのものだけでなく、光によって照らされたキノコを見つけることで自然とそちらへと足を運ぶ。

 餌や照らされた場所ばかり見てクラソラスそのものに注目することは少なく、アントス達は捕食者が居ると知らずに近づいていく。

 

 さぁさっそくキノコを頂戴しよう……とした直後、強烈な閃光がアントス達を包み込む。

 

 角の発光を強めたことで発生した閃光はアントス達を混乱させ、その隙に素早く首を動かして捕食。

 フルフルのようにとは行かないが、次々と混乱しているアントス達を喰らっていく。

 己に近づいたアントス達は瞬く間にクラソラスの胃の中に納まっていき、クラソラスは満足そうにゲップを1つ。

 

 他のエリアにいるであろうアントス達に気付かれない内に退散すべくクラソラスは後ろ脚に力を込め……地面が陥没。

 どうやらアントス達の巣穴の真上だったらしく、クラソラスはガラガラと崩れていく足場ごと飲み込まれていった。

 

 

 

―そして誰もいなくなった。

 

 

 

―――

 

 クラソラスが落ちた先は、運悪く巣の最深部へと続く巣穴だった。

 かなり深くまで撃墜したクラソラスは大怪我を負ってしまった。命が続くかですら怪しい程に。

 地上の光が届かないほどに深く暗いこの場所で、クラソラスはせめて周囲を見ようと角の光を頼る。

 

 

 彼の周囲には、地を敷くようにして蠢くアントスの大群。

 

 

 

 そして彼の眼前には崩竜に匹敵しかねない巨体を持つ――――超巨大な甲虫種の姿が。

 

 

 

―――

 

 結果的に、孤島の甲虫大量発生による被害は食い止められた。

 新たに派遣された別のハンター達によって甲虫種を毒攻撃や毒煙玉で確実に仕留め、徐々に数を減らしたのだ。

 もう1つの目的であった新種の飛竜種の発見は出来なかったが、飛竜種は行動範囲が広いので仕方ないだろう。

 

 ここで1つ妙なことがある―――あれだけ増殖していたアントス達の減りが早かったのだ。

 

 一時は島中を敷き詰めたように増えていたアントスが、毒属性持ちの武器を持っていたとはいえ、たった4人のハンターで減らせたのだ。

 先日派遣され死亡が確認したハンター達は、アントスの増殖元を絶ったのだろうか?という説があるが……謎のままである。

 

 

 他にも、アントス大量発生の前にはモガ村に響く程の大地震が起こり、討伐前にも一度同じ現象が起こっていたという。

 龍歴院では、記録に僅かに残された「大甲虫」が地中深くで移動しているのではないかと言われているが……全ては謎に終わる。

 

 

 

―そしてそれに合わせ、超常現象を引き起こす謎のハンターがパッタリと減ったという。

 

 

 

―完―

 




●簡易的紹介

名称:クラソラス
別名:灯竜
種族:飛竜種
レウス系統の骨格と光を蓄積し発光する頭角を持つ、首が長くて白い飛竜種。
夜行性で、昼間は太陽光が当る高台などで眠り、夜は発光した角に集まる甲虫種を発達した顎で食べる。
普段は大人しく、運が良ければ角の光を利用する様々なモンスター集まる幻想的な光景を見る事もできる。

名前:アントス
別名:黒甲虫
種族:甲虫種
近年になって大量発生した甲虫種。見た目は顎が発達した、オルタロスより大きめの蟻。
雑食性でキノコから腐肉と何でも食べるが、時には数十匹の群れで大きなモンスターを狩る事もある。
地底に巣穴を作り徐々に大きくしていく習性があり、その最深部には彼らの女王いるのではいかと学者が力説している。

名前:ラグアラントス
別名:大甲虫
種族:甲虫種
黒甲虫アントスの女王。甲虫種でありながら、かの崩竜に匹敵するのではないと思えるほどの巨躯を持つ。
長大な足を持って俊敏に動き、壁や天井を上るだけでなく弱点である腹と頭を遠ざけている。
最深部に居座り1日に何百といったアントスの卵を産む。実は大昔に一度発見されたのだが今では廃れている。

クラソラスは習性が面白かったです!光を利用した大人しい習性ってのが、弱者にも優しめのモンスターで魅力的で。
アントスとラグアラントスは前回のバルネイド同様、オーソドックスな昆虫系モンスターとしてビビっときました。

これでデルシオン「弱肉強食」は終了。
次回からは別の変異種やモンスター異種対決を書いていきたいですね。
またリクエスト募集などしてみますが、ひとまずは募集は控えてもらいます。

ではでは!来年もモンスターハンターを楽しみましょう!よろしくお願いします!


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Battle2「巨獣VS轟竜VS金獅子」

キリンさんが好きです。けどガムートさんの方がもっと好きです。

というわけで、モンハンクロスで見てから書きたくて仕方なかった夢の対決。
前回の三つ巴の戦いが人気だったので、今度は乱闘風にしてみました。


―名は体を表す。

 

 名付けとは人間が勝手にやっている事だが、名は個別を差す単語として非常に解りやすく、そして後世の為に役立っている。

 特にモンスターに関していえば見た目や特徴を表す事で、初心者から熟練者まで解りやすく伝えられる。

 

 例えば轟竜ティガレックス。咆哮轟かせる竜。

 例えば雷狼竜ジンオウガ。雷を宿す狼が如き竜。

 例えば重甲虫ゲネル・セルタス。最も重い甲虫種。

 

 

 例えば……巨獣ガムート。老山龍ラオシャオロンに匹敵しかねない巨体を持つ獣。

 

 

 ガムート。ポッケ村に聳える雪山を主な生息地としている牙獣種。

 ティガレックスの歯牙ですら及ばないとされるガムートは、「不動の山神」の別名に相応しい圧倒的重量感を宿していた。

 重量感といえば「重量級の女帝」とも呼ばれている重甲虫ゲネル・セルタスも居るが、彼は別の意味で重い。

 

 即ち、圧倒的な巨体。これこそ解りやすいステータスは無いだろう。

 

 

 

―かといって巨体だからといって敵が居ないかと言えば……そうではないのだが。

 

 

 

―――

 

 ガムートは気が立っていた。

 

 現在の雪山ではガウシカやポポを始めとした草食種の繁殖期を迎えており、草食にとっての食糧不足が生じている。

 同じ草食であるガムートもその被害を受けており、鼻息と足音を荒くして苛立ち、そんなガムートを目の当たりにしたギアノスやブランゴは我先にと逃げ出す。

 

 その巨体から見て解るように大食漢で、食物連鎖において最も下層にして大量の草木とはいえ、彼にかかればゴッソリ減ってしまうのは致し方ない。

 しかも降雪地帯と言う厳しい環境下の為、草木の食糧難とは多く多発しているものだ。普段は大人しいガムートとはいえ、空腹で苛立つ機会は多かったりする。

 

 

 その苛立ちを助長するのが、草食種の繁殖期だからと我が物顔で食らいつく肉食モンスター達の存在だ。

 

 

 ガムートの歩く先には、死骸となったポポに貪りつくティガレックスの姿があった。

 体中にある傷の数からして相当の場数を踏んだのだろう。ガムートを見た途端に威嚇ついでの咆哮を轟かせる程に威勢も良い。

 

 だが、ガムートには関係ないとばかりに鼻息を荒くし、ドゴンドゴンと足踏みを鳴らす。

 眼前のティガレックスはこれまで居たティガレックスとは別物だが、幾多も強敵を返り討ちにしてきた彼には退くと言う選択肢は無い。

 空腹で気が立っていて、眼前に己の命を脅かす肉食モンスターが居て、何より向こうがヤル気満々。迎え撃たずにはいられない。

 

 ティガレックスも上等だと言わんばかりに姿勢を低くしようとし……不意に周囲を見渡しだした。ガムートも一緒に。

 

 2匹は自分達以外の存在―それもかなり高等の存在―を野性の勘が察知していた。

 何かが居る。それが何かを自ら示すかのように―――山全体に響き渡るような咆哮が轟いた。

 

 音量は轟竜の咆哮よりも小さいが―――2匹の聴覚に届いた途端、体が震え出した。

 

 「絶対強者」たるティガレックスと「不動の山神」たるガムートを震わす程の存在。

 この危機感は2匹の戦闘意欲を中断させ、その脅威の存在に全神経を向けさせた。

 

 

 

 そして2匹が地に足を付けて身構える中……その【脅威】がやってきた。

 

 

 

 漆黒の体毛。側頭部に伸びる一対の角。剛腕を垂らす屈強な肉体。

 

 

 世界広くモンスター多しと言えど、世間一般的に「超攻撃的生物」と呼ばれている唯一無二の存在。

 

 

 

 

―――金獅子ラージャン。金の獅子という、解りやすい強者の証を名に持った牙獣種。

 

 

 

 

 ラージャンはガムートとティガレックスの姿を見る以前に存在を確認していたんだろう。

 既に息は荒く、2匹を見た途端嬉しそうに剛腕を振り上げ、歓喜の咆哮を轟かせる。

 

 最初に応じたのはティガレックス。恐怖による錯乱ではなく、強者だと明確に悟ったが上の迎撃である。

 隣にガムートが居る事など気にしないとばかりにラージャンへ突っ込んでいき、大きく跳躍して飛びかかった。

 

 対してラージャンは避けるまでもなく……しかし剛腕でティガレックスに逆に掴みかかった。

 だが体格差ではティガレックスに分があり、突進の勢いも助けてぶっ飛ぶ……かと思ったが。

 

 

―パゥワァァボムゥゥゥ!

 

 

―アイエェェェェ!?

 

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 突進の勢いをそのまま活かしたパワーボムが炸裂!背を逸らしただけでティガレックスを地面に陥没させてしまう。

 降り積もった雪の上なのが幸いなのだが……ティガレックスは見事なぐらいに頭が地面にぶっ刺さったおかげで動きが取れなくなった。

 

 バタバタともがくティガレックスを「とりあえず置いておくか」と言わんばかりに後ろ目で見た後、次の敵を目の当たりにし――――

 

 

―ガムートの巨体が持ち上がり、前脚を自分に踏みつけようとしたのを目撃した。

 

 

 轟音からの地鳴り。ガムートのボディプレスはラージャンを確実に範囲内に収めていた。

 ガムート自体も手応えならぬ足応えを感じたが油断はせず―――だからこそ驚愕した。

 ラージャンは両腕をガムートの両前足に添え、地面に陥没しつつも受け止めていたのだから。

 

 圧倒的な巨体による踏みつけで雪が吹き飛んだのか、ラージャンの足元にはひび割れた地面がむき出しになっている。

 巨体を受け止めたラージャンだが、踏ん張りを入れ、両腕と両足の筋肉を膨張させてガムートを持ち上げようとしていた。

 受け止めただけでなく、ガムートが全体重を前に傾けているにも関わらず押し戻す。驚くべきパワーだ。

 

 両手と両足を真っ直ぐにして押し出す中、ラージャンは支えていた片腕を離して握り拳を作り―――振り上げる。

 

―ドッゴンッ!

 

 轟音からの打撃音。前脚から襲い掛かる反発力により、ガムートの体が持ち上がったではないか。

 ほんの少しの浮遊感がガムートを襲い、続けざまに側面から痛撃が襲い掛かってくる。何が何やら解らない。

 なんてことはない。ラージャンが下から殴り、その隙に右へ跳び、さらに跳んでガムートの右側から殴っただけだ。

 

 それでも巨獣の名は伊達ではなく、天すら割るとされるラージャンのパンチですらよろめく程度に留まり、むしろ長い鼻でラージャンを捕えてやった。

 流石のラージャンも空中では身動きが取れず、瞬時に巻き付かれるしかない。それでも離せと言わんばかりに暴れるが。

 

 自慢の鼻を殴られたら溜まったものじゃないと、ガムートは即座にラージャンを放り投げる。

 その蛮力は凄まじくラージャンを遠くへと投げ飛ばすが、ラージャンは宙でクルクルと回転、雪上でも難なく着地することに成功した。

 

 

―隙有じゃワレェ!

 

 

―アイエェェェ!?ティガ!?ティガレックスナンデ!?

 

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 忘れてはならないが、ティガレックスは死んだわけではない。

 着地したラージャンに横からティガレックスが突っ込み、今度は不意を突いたことでラージャンを巻き込んで乱闘に持ち込む。

 殴る。噛みつく。前脚で押さえつける。前脚を掴む。マウントポジションはティガレックスが有利!

 

 そうやってドッタンバッタンと2匹が取っ組み合っている最中でも、ガムートは容赦しない。

 

 

―おい、俺も混ぜろよ。

 

 

 なお、上記はイメージです。

 

 ここで踏みつけなりすれば2匹まとめて倒せるだろうが、先ほどの事もあってそれは止める事にしたようだ。

 だから今度は、平たく太い牙を地面に押し付け、そのまま頭と鼻を加えた薙ぎ払い攻撃をしてみる!

 

 今度は綺麗に決まったらしく、ラージャンとティガレックスを纏めてぶっ飛ばした。今回ぶっ飛んでばっかやな。

 あ~れ~と言わんばかりに空中でもがく2匹だが、ティガレックスは飛竜種らしく翼を広げて僅かに滑空、ラージャンはクルクル回って着地!

 

 遠くへふっ飛ばしたので、ガムートはラージャンに狙いを定めて鼻から雪玉を発射。

 この程度なんてことないわ!と言わんばかりに腕を振り、正面から飛んできた雪玉を拳で粉砕する。

 その隙を逃すまいと着地したティガレックスが再びラージャンに突進。どうやらティガはラージャンにご執心の様子。

 

 雪玉に気を取られていたかと思っていたが、同じ手は2度も食わないらしい。

 ラージャンは斜め後ろから突進してくるティガレックスの頭を掴み。そのまま剛腕を使ってガムートに投げつける!

 首をへし折られる事はなかったにしても、ティガレックスは玉投げでもするような剛速球でガムートに向かい、そのまま激突。

 不幸にも盾のように硬い甲殻にぶつかってしまって大打撃。ガムートは怯んで下がり、ティガレックスはそのままズレ落ちてぐでり。

 

 流石に2匹同時に相手するのは厳しかったのだろう。怒髪天となったラージャンの体毛が黒から金に染まり、咆哮を轟かせた。

 ガムートとティガレックスにない圧倒的な気配に、今度は本気を出してやると言わんばかりにガムートも咆哮。

 

 そんな咆哮合戦に「負けてられねぇ!」と言っているかのように体制を瞬時に整え、体中に血管を滲ませて大声を轟かせる。

 轟竜の別称に相応しい大咆哮はラージャンもガムートも怯ませたが、それだけだ。3匹の戦闘意欲をより沸かす原動力になってしまった。

 

 

 

 

―いざ、第2ラウンド!

 

 

 

 

―完―




敢えて途中で終わらせることで読者様の妄想を掻き立てるという策(嘘
やっぱりパワーVSパワー、それも別種のパワーファイターがぶつかり合うのって良い(笑

本日の午後、作者の活動報告にしてモンハン関連の投稿小説についてのアンケートを実施します。
今後のモンハン小説活動に関わる事なので、できれば閲覧とコメントをお願いします。

MHFの最新情報(あんなの)を見ちゃったら……ねぇ(汗


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Second Name1「斧槍角―オノヤリヅノ―」

久々の変異種編。妄想が沸いたので新たな要素「2つ名」を用いさせてもらいました。
今回のテーマは「角の形状が変化したディアブロス」です。本来は変異種でした。

1/31:誤字修正。正しい2つ名名は「斧槍角(オノヤリヅノ)」です。


 この生態観測記には、未知の樹海と呼ばれるフィールドで独自の進化を遂げたモンスターを幾つか紹介してきた。

 

 鎧蜘蛛ネルスキュラ。グラビモスの甲殻を纏い、睡眠毒と重い一撃を持つ鋏角種。

 

 弾甲虫アルセルタス。螺旋状の角を持ち、粘着液と火炎液で攻撃する甲虫種。

 

 爆甲虫ゲネル・セルタス。粘着性のある重油で爆破と爆炎を操る型破りな甲虫種。

 

 様々なモンスターが一箇所に集まった事で混沌とした生態系を築き、それに適応した変異種達。

 原種のまま生き延びた者や適応しようとして息絶えた者が大半であり、このように進化するのは極めて稀だ。

 バルバレギルドは発掘武具を目当てに潜るハンターの監視も兼ね、モンスターの生態調査を徹底している。

 

 しかし未知の樹海は広大な迷宮も同然。気球船からの監視という手段があっても鬱蒼とした森がそれを遮る。

 イビルジョーやゴア・マガラという目立つ存在に雲隠れする事も多く、見逃しというものはどうしても出てしまう。

 仮に発見できたとしても気球からの目視であり、ギルドに報告した頃には見えなくなったという事例も多い。

 

 

 故に―――未知の樹海で変異を遂げたモンスターは、新天地で悠々と生きていることだってある。

 

 

 

―新たな名を得て。

 

 

 

―――

 

―ガリョン、ガショ、ガシャンガシャンッ

 

 不協和音が轟く。硬い物にさらに硬い物を擦り付けるような高音だ。

 その正体は岩肌の地面に鉄を擦り付ける音で、擦り付けている鉄は摩擦により火花と熱を生じている。

 砂漠地帯で熱せられた地面がより高い熱を発するようになった頃、真っ赤になった鉄が振り上げられ……勢いよく振り落とす。

 

 

―斬竜ディノバルドの斬撃は、岩肌の壁を難なく斬り裂いた。

 

 

 このディノバルドは旧砂漠に適応したらしく、今日も巨大な尾の手入れを欠かさない。

 摩擦熱と太陽光の熱が合わさって高温を宿す尻尾は、火山地帯に及ばないものの古代林に比べれば研ぎ易い。

 その成果はディノバルド自身がしっかり理解しており、「今日も絶好調だぜー」と言わんばかりに吠えた。

 赤熱化した尾を引っ提げ、餌であるアプケロスを探そうと、彼らが居るであろう洞窟前に向かって歩き出す。

 

―ゴリゴリ、ゴリョ、ガリョリョッ

 

 ふとディノバルドは聴覚に響く不協和音を察知する。

 この音は聞き覚えがある。何せ己が先ほどやっていた行為で発する音と似ているのだから。

 音の正体を確かめるべく、普段はガレオスが泳ぐ砂地が広がるエリアへと足を運ぶ。

 

 

 

―――

 

―ガリョリョ、ガリョン、ゴリッ

 

 その正体は、飛竜種が体の一部を、剥き出しになった鉱石で研ぐ音だった。

 様々な鉱石が一緒くたにされている地層に向け、一心不乱に頭を突き出して角を擦らせる。

 角の強度は非常に硬いらしく、ドラグライト、下手をすればカブレライト鉱石ですら押しのける程。

 

 

 その角の持ち主はディアブロスであり―――ディアブロスと呼ぶには奇妙な(ナリ)をしていた。

 

 

 まずは大きさだが、イビルジョーに次ぐ図体を持つディノバルドより一回りほど大きい。

 次に角と尾の形状。大きくなったのは勿論の事、角と尾の先端は盾のように幅広くなっており、両刃の斧のような鋭さも併せ持つ。

 そして角と尾を始めとした体中に、鉱石で磨いたのであろう鉄粉がアチコチに散布されている。

 傷痕も多く、鉄粉と合わせて歪な印象を持つが、同時にこの個体の荒々しさを物語っている。

 

 背後から襲わず佇むディノバルドも、ディアブロスの厄介さ、内に秘める狂暴性を甲殻越しから感じ取ったのだろう。

 敢えて意識をコチラに向けさせようとディノバルドは軽く吠え、ディアブロスは音に反応して其方を向く。

 ディアブロスはディノバルドの存在に気付いた途端、一瞬にして怒りの黒煙を吐きながら咆哮を轟かせる。

 

―ギィオオオォォォォォォ!

 

 音に遅れてやってくる爆音。爆発するような高音を前に、ディノバルドは後ろ脚をしかと踏みしめて身を固める。

 ここはひたすらに広い。なのでディノバルドは深く考えず跳び、特大の尾刃を叩きつける!

 

 しかしディアブロスは両後ろ脚をしかと固定し、身を屈めることでディノバルドの尻尾を、なんと幅広くなった角で受け止めた。

 赤熱化していなかったこともあるだろうが、巨大な尻尾を角だけで受け止めるのだから、その硬度が知れる。

 

 ディアブロスは角竜らしい膂力を持って尻尾を押し出し、ディノバルドはそれに合わせて尾を引く。

 それだけでは終わらず、引いた勢いをそのまま回転力に転じ、発火性の高い尾を砂地に擦り付け、摩擦熱で赤熱化した尾を振り上げる!

 

 熱を帯びて攻撃力を帯びたディノバルドの尾を、ディアブロスは尾の先端で弾き飛ばした。

 ハンマーのようなコブではなく、分厚いバトルアックスのような形状の尾はディノバルドの斬撃を逸らす事に成功。

 そのまま遠心力も加わってディノバルドの態勢が崩れたのを切っ掛けに、今度はディアブロスが叩きつけるように頭を振りかぶる。

 

 右から左、左から右と頭を振り、尾と同じく刃のように鋭くなった角がディノバルドの胴体に傷をつける。

 荒々しく硬い甲殻に傷をつけるとは大したものだ。しかしディノバルドを倒すには物足りず、翼の付け根に噛みついた!

 分厚い尾を研ぐほどの咬力は伊達ではなく、噛みつかれたディアブロスはあまりの痛覚にもがき苦しむ。

 

 ここでディアブロスは角だけでなく尾の攻撃も加えようと、身を「の」の字に曲げて尻尾攻撃も加える。

 ディノバルドの尾と違ってこちらは両刃故に横への攻撃判定が大きいので、ガシガシと斧のような尻尾がディノバルドの横っ腹に食い込む。

 ディノバルド程ではないが重い一撃には違いなく、ディノバルドはあっさりとディアブロスを手放し、バックステップで距離を取った。

 

 ディアブロスが確かめるように翼を羽ばたかせながら威嚇する中、ディノバルドは高炉のような喉に火をつける。

 口内に溜まった煤が高温によって融かされマグマとなり、ディノバルドの攻撃準備は完了した。

 

 対するディアブロスも準備は万端だとばかりに後ろ足で砂を蹴り、徐に身体を丸めだす。

 先ほどの攻撃よりも「の」に近い、尾を自らの頭にくっつけるような体制は、まるでディノバルドのあの一撃(・・・・)の構えのよう。

 

 その動きを誰よりも理解しているディノバルドだからこそ、彼もまた動きを見せる。

 マグマを溜めた口で己の尾を噛み、口と尾で互いに引き合って力を溜める。

 

 

 

 二者が己の尾に力を溜めこむ中――――ディアブロスが先に動く!

 

 

 

 頭を右に尾を左に回すことで独楽のように高速で回転し、遠心力を持ってディノバルドに叩きつける。

 原種よりも大きく太くなった斧尾はディノバルドの顔の側面に直撃、溜め行為であったこともあって思わず怯んでしまう。

 

 怯んで口を離したことでバランスを崩すディノバルドだが、ディアブロスは勢いに乗じて角で斬り裂き、また尾をぶつける。

 こうして連続攻撃が決まり、ディノバルドに多大な傷とダメージを負わせるのだ。

 

 角と斧が容赦なくディノバルドに襲い掛かり、側面から滅多打ちにされて大小様々な傷を負っていく。

 ディアブロスの回転の勢いが収まると同時にディノバルドは立ち上がり、連続で叩きつけられた衝撃で立ち眩んでしまう。

 

 

 

 ここでディノバルドの取る行動は―――後ろへ全速前進DA☆

 

 

 

 こりゃたまらんと思ったのだろうか、獲物には執念深い事でも有名なディノバルドはあっさり退散。

 それに対してディアブロスは「一昨日来やがれ!」と言わんばかりに背を向けて逃げるディノバルドに吠える。

 

 どうやら先ほどのは小競り合い感覚の争いだったらしい。

 攻撃的なモンスターが向き合うと小競り合いでも重い一撃を軽んじて放つもの……なのだろうか?

 現にディアブロスは先ほどの戦いなど無かったかのように平然とサボテンを食らっている。それでいいのか角竜。

 

 

 兎にも角にも、このディアブロスの戦闘能力の高さは斬竜をも退ける程だと言うことが解った。

 角と尾が発達し、それを鉱石で【研ぐ】事で分厚さと鋭さを両立させ、それを武器に戦う。

 斧のように斬り裂き槍のように突く角竜。原種のパワーに鋭さと防御力、そして技の豊富さが併せ持った。

 

 

 

―まさに【斧槍角(オノヤリヅノ)】の2つ名に相応しいモンスターと言えよう。

 

 

 

―――

 

 近年、旧大陸でいう「特異個体」なる個体が、龍歴院の調査により各地で発見されるようになった。

 このモンスターは原種の特性を異常なまでに伸ばし、身体能力を始めに驚異的な力を秘めている。

 これらのモンスターは通称「2つ名持ち」と呼ばれ、いずれも特性に見合った名を持つ。

 

 例えば、アオアシラに圧倒的なパワーと巨体を併せ持った【紅兜】。

 

 例えば、鋏が巨大化し異常な防御力を得たダイミョウザザミ【矛砕】。

 

 例えば、猛毒を上回る「劇毒」なる毒を内蔵するリオレイア【紫毒姫】。

 

 いずれも特別な許可証を発注しなければならない程に強く、そして難易度が高い。

 決して軽んじたりしてはならず、装備と道具の用意は念入りにしなければ命にかかわる。

 もちろん討伐できれば見返りは大きい。2つ名持ちと呼ばれしモンスターの素材は強く、強力な武器や防具に転ずることができるからだ。

 

 

 

 そんな2つ名モンスターは、今後増える可能性がある。

 少なくとも、未知の樹海で育った【斧槍角】という存在がいる以上、可能性は低いとは言い切れない。

 

 

 

―モンスターの進化に、新たな道筋が誕生した瞬間でもあった。

 

 

 

―完―




更新優先なのでいつも半端ですが、いつか決着まで書いてみたいなぁ。
そんなわけでディアブロス変異種でした。変異種っていうより2つ名が似合うなーと思って書きました。

私はまだ2つ名モンスターと対峙したことがありませんが、いいですねぇ2つ名って。
亜種とは違った、そのモンスターの個性を更に引き延ばすような進化って素敵です。
この斧槍竜も個性を引き延ばした存在なので、2つ名モンスターにさせてもらいました。

おかげで斬竜との対決の妄想で執筆が捗る捗る(詳細になるとは言っていない)

簡易的ですが、作者風「斧槍角」の紹介を。
本来の設定は活動報告「Monster Hunter Delusion in Hameln 2」にあります。

●変異種紹介

2つ名:【斧槍角(オノヤリヅノ)】
角と尻尾の形状が変化したディアブロス。未知の樹海で育ったが旧砂漠に移動した。
斧のように平たく鋭くなった角と尻尾で斬り裂いたり防御したりとかなり応用が効く。
この角と尻尾の形状と硬度を維持する為、採掘ポイントで「研ぐ」習性を持つ。
その研ぎの際に鉄粉などが体に付着する為に防御力が高く、見た目が鉄っぽくなる。

○本日の防具一覧

●斧槍角シリーズのスキル一覧
・斧槍角(攻撃力UP【大】・防御力UP【大】・連撃の複合スキル)
・体術+2
・研磨術

活動報告にて新しい募集内容を足す予定。妄想が出たら寄ってらっしゃい見てらっしゃい(笑)
ではでは!今後も読者様のアイディアを中心に好きなようにモンハン妄想書いちゃいます!


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Second Name2「鳴刀―ナキガタナ―」

ヤオザミ成長記で緊急ガロア悩んでたら皆さんが相談に乗ってくれたり
結局オンラインで野良ハンターの皆さんが緊急ガロア討伐手伝ってくれたり
長い間ほったらかしにしていたモンハンデルシオン復活を望んでくれたり……。

世の中良い人ばかりです(涙)

というわけでモンハンデルシオンもコツコツ続けていきます。
今回のテーマは活動報告に記載していた「ドスランポスの二つ名個体」です。


 先日、龍歴院はハンターズギルドに新たな特殊個体モンスター……別名「二つ名持ち」の情報を提供した。そのモンスターは、これまでの二つ名持ちモンスターを考えると意外な候補であった。

 されど龍歴院の情報は確かなものだ。若くして龍識船の船長を任された少年の丁寧な報告書も合わせ、確かな情報だと判明する。

 

 

 対峙したハンターの実体験を元にした証言によると……そのモンスターはドスランポスだと言う。

 

 

 ドスランポス。ランポスのリーダーであり、群れを率いる鳥竜種の中でも古くからハンターに知られている中型モンスター。同じく圧倒的知名度を誇るイャンクック先生と比べてしまうと、どちらかといえば弱い方だと見られがちである。

 されど侮るなかれ。二つ名持ちモンスターは歴戦を勝ち取り、短期間で特化した進化を得し覇者だ。事実、そのドスランポスの情報は報告される以前よりハンター達の間で囁かれていたが、聞いた側は「たかがドスランポス」と軽んじる方が多かった。

 この噂を含め、龍識船及び龍歴院、そして情報を提供したハンターが確かな実績と実歴を持っているからこそ有益と判断したのだ。

 

 

 話は逸れてしまったが、ドスランポスの特殊個体……噂で広まっている「鳴刀(ナキガタナ)」の情報を見てみよう。

 

 

 まずは鳴刀の外見的特徴。

 

 ハンターは金冠サイズのドスランポスに遭遇した経験があり、鳴刀はその倍はあったったという。確かにそれはデカい。

 大きくなっても細身ではあるが、そのままの寸法で大きくなったとなれば恐ろしいだろう。しかも衰えず逆に鍛えられた脚力は、後述にもあるように凄まじいものだ。

 

 さらに特徴的なのは、まるで刀のように鋭く長い爪である。地面スレスレにまで伸びた爪は通常種の二倍はあり、ドスランポスにはない恐怖を感じさせたという―――ハンターによると、黒炎王ほどではないとの話だが。

 大きな体に鋭い爪は怖い外見を持つモンスターの基礎のようなものだが、通常のドスランポスを知っていれば驚く姿である。まぁ二つ名持ちモンスターはいずれも見た目が大きく変化していて逆に恐怖を誘うのがお約束だが……。

 

次は身体的な特徴。

 

 どうやら鳴刀は体内の鳴き袋が発達しているらしく、人間の聴覚では耐えられない咆哮をあげられるとのこと。思わず耳を塞いでしまう「バインドボイス」と呼ばれる咆哮を頻繁に上げ、耳栓を持たないハンターの動きを悉く封じてきた。

 ランポスを呼ぶときは勿論、ちょっとした威嚇ですらバインドボイスが織り交ぜられることから、相当な肺活量を誇るらしい。

 

 さらには脚力にも自信があるらしく、ちょこまかと跳ねる。とにかく跳ねる。

 通常のドスランポスもしょっちゅう跳ねるが、この鳴刀は変幻自在の跳躍力を持ち、幅も速度も思いのまま。

 横に前に跳びまくり、不得意だった旋回ですら跳躍中に調節し、常にハンターと正面を向いて隙を減らしているのだそう。

 

 咆哮と跳躍でハンターを翻弄するだけでなく、そこを突いた爪攻撃も強烈だったらしい。

 この爪の切れ味は相当な物らしく、アプトノスの肉を難なく切り裂き、浅いとはいえ上位の防具にも切り傷を負わせた程。普段から使うことのない故に筋力の無い細い腕だが、あの切れ具合からして相当切れ味が良いと見える。

 

 通常のドスランポスに見られる動きにも変化があり、小刻みにステップを踏んだり跳躍を取り止めたりと、トリッキーな動きが多い。

 飛びかかり攻撃前のステップも無くなり、全体的に隙の無い動きとなっていたとのこと。

 

 飛び跳ね、こまめに咆哮を轟かせ、隙を見て一気に飛びかかり爪で攻撃。

 これだけ見れば簡単そうに見えるが、この鳴刀の小回りの良さと狡猾さは二つ名を持つに値する脅威と認識できる。

 少なくとも対峙したハンターにとって、ランポスという取り巻きを退けつつ鳴刀を相手にするのは相当しんどかったそうだ。

 

 いずれにしても、ハンターとオトモアイルー、そして龍識船船長の証言もあり、ギルドは新たな二つ名モンスターの情報掲載を決意。

 同時に特別許可証の発行も視野に入れつつ、各地の狩猟地域に手配し鳴刀の行方を追うことに。

 

 

 

―――まだまだ求む!特殊個体モンスター情報!

 

 

 

―完―




考えすぎる、報告という形でスッキリ書いてみました。

●二つ名紹介
【鳴刀(ナキガタナ)】ドスランポス
金冠サイズの倍はある体躯と刀のように伸びた鋭い爪が特徴的なドスランポス。
大きさに似合わぬ跳躍力、見た目通りの鋭い爪、そして強化された鳴袋が武器。
とにかく跳ねまくり、バインドボイスで動きを封じつつ爪で攻撃する。

〇本日の防具一覧

・鳴刀(乗り名人・飛燕の複合スキル)
・回避距離UP

誤字報告・誤字修正などありましたら宜しくお願いします。
活動報告【Monster Hunter Delusion in Hameln 4】もよろしくお願いします。


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part34:「霞蜘蛛の生態」

今回のテーマは「オオナズチを食らったネルスキュラ」です。
これは以前活動報告に乗せられたものを参照しました。ありがとうございます。

かなりヤッツケですが、モチベーション強化の為にもシンプルに行きました。


 古龍種とは謎が多い。モンスターに関わる者としては当たり前の事を言うようだが、本当に謎が多い。

 強さと生息地に関しては大まかに解っているが、詳しい生態は謎に包まれている。

 

 これまで幾度か討伐こそできれど、その討伐数は希少であり、ましては捕獲に成功した例は一つもない。

 食性・寿命・性質と、古龍種独自の強さを解明するには死骸だけでは足りないのだ。

 そして古龍種とは嵐のように現れ嵐のように去るもの。自然現象の権化といっていい希少性が解明の難しさに拍車を掛ける。

 

 そんな古龍種の中でも特に珍しく、目撃例ですら稀とされているのが2つ。

 1つは文字通りの幻獣・キリン。特にキリンの亜種に至っては片手で数える程の討伐数しか確認されていない。

 もう一つが霞龍オオナズチ。姿を消し煙で晦ませる隠密性は見つけたとしても探し出すまでが一苦労。

 

 そんなオオナズチの生き様を最期まで見届けた生物が居る事を、我々人間は知らない。

 

 

 

―――

 

 原生林のとある時期に、突然変異として誕生したネルスキュラが存在していた。

 それは生まれながらにして原種の物とは違い、非常に臆病で用心深い性格をしている。根気強く隠れ続け、見つからない為に知恵を巡らせ、見つかれば全力で逃げる。そんなネルスキュラだ。

 元々ネルスキュラとは用心深いが、それは捕食に対するものだ。粘着糸で罠を張り、縦横無尽に動き回り、毒で仕留める。執拗にして執念深いこの意識を、狩りではなく守りに徹した結果かもしれない。

 

 

 そんなネルスキュラだからだろうか―――古龍種の死を目の当たりにしたのは。

 

 

 原生林にして姿を現したものの、誰一人として発見されなかった霞龍オオナズチ。

 身体を透明にする能力だけでなく、他の古龍種とは違い広大な被害を出さないこともあって目立つ事が無いので発見しにくさは古龍種トップクラスとされている。

 そんなオオナズチではあるが、大きな力を持つ古龍種には違いなく、敏感に察知した大型モンスターが姿を消すことも多い。

 

 だがこのネルスキュラは、強大な存在でありながら自分に害をなさない事もあってか、密かに隠れながら生き延びてきた。

 そんな臆病なネルスキュラ故にオオナズチも気にすることなく生息し続け……原生林にて死を迎えた。

 

 ネルスキュラはオオナズチの生き様を見てきた。古龍種という生態系の頂点でありながら、姿を晦まし、盗賊の如き舌捌きで獲物を捕らえる。

 拙い動きを見せると思えば猛烈な勢いで走り出し、キョロキョロと目で周囲を見渡すだけかと思えば瞬時に舌で獲物を攻撃する。

 強大な力を宿していると本能的に理解できるが、ネルスキュラが身に付いた観察力によって得られたのは奇妙な、しかし確かな「生きる技能」。

 

 そんなオオナズチの最期を見届けたネルスキュラだからか、ネルスキュラはオオナズチの亡骸を食らった。

 いくら古龍種といえども死に絶えれば只の屍。死肉をも食らうネルスキュラにとっては餌に過ぎない。

 

 

 

 しかし屍と言えど古龍種。その体に秘められた力は、死骸を再活用することに定評のあるネルスキュラを大きく変貌させるに十分だった。

 

 

 

―――

 

 こうして生まれたのが、オオナズチの外皮を纏ったネルスキュラの変異種【霞蜘蛛(カスミグモ)】である。

 

 元々が性格の変わった変異体ということもあって、高い知恵と適応力により体質も大きく変わっていた。

 霞龍の亡骸を食らったことで体質にも大きな変化を生じたのか、白を中心とした体色は無くなり、毒々しい薄紫色に変色。

 霞龍の毒素を含んだ事で毒性が勝り、背部にあった水色の棘も濃い紫色に変色、通常種以上の猛毒を撒き散らすようになった。

 

 粘着液は何故か透明度が大きく増し、腹部から直接弾として発射する事以外は目視しづらくなっている。

 この透明な糸は粘着性と強度も優れたもので、ネルスキュラ特有の糸タックルの威力もスピードも向上。何よりもより高所への移動が楽になった。

 

 そして何よりも特徴的なのは、霞蜘蛛の身体をすっぽりと覆うオオナズチの分厚い外皮である。

 古龍種の外皮ということあって非常に堅く、ゲリョスには及ばないが収縮性もピカイチ。火属性には若干弱いものの防御力はお墨付きだ。

 しかもこの外皮を纏っているからかは解らないが……この霞蜘蛛、なんと姿を消すことができる。

 オオナズチの透明化は体内の特殊な金属や微弱な電気を使用して行われているらしいが、このネルスキュラ変異種はどうしてか透明化(それ)ができる。

 外皮だけとはいえ周囲に溶け込めるのは大きな利点であり、この擬態性により元々高かった隠密性が更に高まる事に。

 

 極めつけは霞蜘蛛の性質。ひたすら隠れ、欺き、忍び、見つかれば全力で逃げる。変異体として非常に賢い事や元来の生態、そしてオオナズチの透明化が合わさる事で非常に見つけづらい。

 残念ながら常に透明化することはできないが、それでも卓越した隠蔽能力によりモンスターからもハンターからも逃れられる。

 捕食に関しては小柄な甲虫種や中型モンスターが主体であり、透明な糸による罠や猛毒により仕留め、獲物ごと外皮で包んでゆっくりと捕食する。

 

 

 

 さて、こんな臆病で隠れる事に定評のあるネルスキュラ変異種の情報をどのように入手したかというと―――。

 

 

 

「ニャ、霞蜘蛛だニャ」

 

「若い衆、あのネルスキュラだけには手をだすニャよ~」

 

 原生林を根城にしているアイルーの皆さんである。

 

 害をなさず害にもならないであろうと霞蜘蛛の判断されたのか、彼らに見つかっても姿を晦ませる気はないらしい。

 アイルー達も手を出しさえしなければ襲ってくる事はないと解っている為、若いアイルーに刺激しないよう注意すればオーケーだ。

 周囲に脅威が居ない事を確認し、ゆっくりとグロテスクな捕食を続ける霞蜘蛛。その捕食の光景ですらアイルー達は観察し、龍歴院に情報を売り渡そうと目論むのだった。

 

 

 

 モンスターの情報を教えてくれるのは、ハンターだけではないのだ。

 

 

 

―完―




●変異種紹介
霞蜘蛛ネルスキュラ変異種
オオナズチの死骸を被った影蜘蛛の変異種。死肉を食らって体質が大きく変化した。
薄い紫色の甲殻は皮ごと周囲の景色に溶け込み姿を消し、粘着糸は透明度が高くなった。
元々突然変異として性格が臆病だった事もあり、その隠密性と擬態性はずば抜けている。


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part35:「蛇竜種の章:棘蛇竜」

今回は活動報告に記載していた蛇竜種を採用させてもらいました。
特出している点は「水分補給を独自の方法で行う蛇竜種」です。
幾つか作者独自の設定や攻撃手段もあります。ご了承ください。


依頼名:水を枯らす蛇

 

 近日、旧砂漠の水辺の水位が減っているという報告を受けている。

 本格的な調査に向かったんだが、トゲだらけの蛇竜種に襲われて断念したんだ。

 原因はあの新種の蛇竜種かもしれない。ハンター殿に調査及び討伐をお願いしたい。

 

以来主:龍歴院の調査員

 

 

 

―――

 

 旧砂漠に足を運んだ龍歴院の男性ハンターから言えば、枯渇の原因は新種のモンスターだと解った。

 何せハンターの目の前で、トゲまみれの巨大な蛇が湖に突っ込んだ途端、湖の嵩が見て解る程に減り始めたのだから。

 

 幸いにもコチラの存在には気づいていないようなので、龍歴院ハンターは石柱に身を潜める。

 いくらG級とはいえガレオスX装備に片手剣のサージュソード9、そして調査対象は竜歴院ですら記録にない未知のモンスターだ。警戒することに越したことはない。

 ハンターは慎重に物陰から蛇竜種の様子を伺い、その巨大な姿や僅かな生態を少しでも観察せんと目を光らせる。

 

 この蛇竜種は依頼書にも書いていたように、その長く大きな身体の背には大小様々な棘が生えている。蛇竜種らしくウネリのある動きだが、棘は動きを阻害しないようある程度の折り畳みや角度の調整が可能のようだ。

 顔つきは同じ蛇竜種で言えば、ガララ・アジャラよりガブラスに似通っている。頭頂部には後ろに向けて伸びる大きく太い棘があり、あのモンスターの象徴のように聳え立っている。

 全身の色は水を染みこませている故か黒ずんでいるが、どうやら元は地面に溶け込むような砂色となっているらしい。

 

 しかし口から直接水を飲み込んでいるわけでもなく体を湖に浸しているだけだというのに、少しずつだが湖の嵩が減っていく。

 じっくりと観察したところ、どうやらこの蛇竜種―仮に『棘蛇竜(キョクジャリュウ)』と呼ぼう―は身体から直接水を吸っているように見えた。

 背面が棘まみれでよく解らなかったが、棘と棘との隙間には細かい管のように割れ目があり、そこから水を吸っては蓄えているようだ。

 しかしまあ吸う吸う。表面だけでなく中身に蓄えているのだろうか?と思うほど水を吸う。いつしか湖の嵩は半分程にまで減っていた。

 

 ようやく満足したのか、棘蛇竜は湖から砂地へと上がっていく。表面にもかなりの水分量を蓄えているのか、這いずった痕は水で濡れて黒ずんでいた。

 石柱に近づいてきたので棘蛇竜に見つからない位置に隠れようとしたのだが、思っていたより這うスピードが速いのか、それとも蛇特有の感知能力があるのか、棘蛇竜はハンターの存在に気づきつつあるようだ。

 しきりに石柱を見ては陰に誰かいるのかと覗きこむ棘蛇竜に対し、それから逃れようと更に死角へと隠れるハンター。そうしてグルリと蛇竜種特有の長大な体が石柱を取り囲む。

 

 囲まれていることに今更気づいたハンターは急遽助走をかけて飛び上がろうとし、棘蛇竜は異物の存在にやっと気づいて咆哮を上げる。

 そのまま囲っていた石柱に巻き付こうとするが、ハンターは何とかジャンプして脱出、石柱は棘蛇竜の棘に抱かれて粉砕されていった。痛そうである。

 

 ハンターは距離を取ってからサージュソードを構え、棘蛇竜は改めて敵を眼前に捕らえ、先ほどよりも大音量の咆哮を轟かせる。

 

 とはいえ、ハンターが取るべき行動は観察と回避が主体だ。討伐を依頼されているとはいえ、まずは動きを見極める事が肝心だと彼は考えているからだ。

 片手剣を選んだのも、他の武器と違って咄嗟にアイテムを使用しやすいからだ。盾を常に前方に構え、鎌首を擡げる棘蛇竜の動きに備える。

 棘蛇竜は頭を右から左へ振り回すと、弾丸のように水飛沫が広範囲に散り、不運にもハンターの顔面に直撃!吹っ飛ぶことなかったものの顔面を打ち付ける衝撃と水気は相当なものだった。

 

 頭を振って気を取り戻すも、水は装備の内側に沁み込んでいく。それが重みと不快を招いていつも以上に体力を消費するからだ。

 スタミナ温存を考え無闇やたらと走らず、ぶんぶんと振っている房状に棘が纏まっている尾を避ける。大雑把な動きなので避けやすかった。

 しかし棘蛇竜の動作一つ一つに水しぶきが入り混じっている。あれだけ大量の水分が表面に付着していれば当然だろう。

 その他にも、ガララ・アジャラのように長い身体で体当たりを仕掛けたり、トゲを畳んで地中を潜り奇襲を仕掛けるなど、ガララ・アジャラに近い動作を棘蛇竜は行ってくる。

 いずれも体を揺するか振るう度に水飛沫が発生するが、トゲが飛び交うことはない。あれはあくまでも防御の為に生やしているのだろうか?

 トゲが邪魔ったらしいが、適度に反撃を伺い土色の甲殻に斬りかかる。重い手応えだが片手剣でも斬撃は有効のようだ。

 

 やがて棘蛇竜に変化が生じ、土色の甲殻から水蒸気が溢れ出てきた。かなりお怒りのようで、先程の咆哮よりも甲高い音が周囲に響き渡る。

 咄嗟に耳を塞いだからよかったものの、棘蛇竜の身体から溢れ出る水蒸気は範囲と密度を増していき、砂漠地帯でありながら深い霧に包まれた。

 棘蛇竜の影は見えているが次の行動が解りづらい。影を視界に捉えつつ盾を向けていると、すぐ横を太い水柱が通り過ぎる。

 当たり所が悪ければ致命傷を負った可能性に驚愕しつつ、視界に移る影から距離を取る。どうやら棘蛇竜はガノトトスのような水ブレスを吐く事ができるようだ。

 

 棘蛇竜の鳴き声や地を這う音、地中潜行などで邪魔しているが、棘蛇竜から発する音からして怒り状態になると常に水蒸気を起こすらしい。

 霧に紛れて様々な攻撃を行ってくるが、流石に乾燥地帯とだけあって、すぐに水蒸気の霧が晴れていき棘蛇竜の全貌が明らかになる。

 すると土色から砂地に溶け込むような砂色となっていた。表面の水分が乾いて本来の甲殻の色に戻った様子。

 しかも棘蛇竜が息切れしている。水蒸気が発生してから止まるまで随分と時間があったが、水分量が減って疲れてきているのだろうか。

 

 好機と捕らえたハンターは接近して片手剣を的確に打ち付ける。棘蛇竜はトゲを逆立ててはいるものの動きは緩慢で避ける気配もない。

 人の腕ほどもある棘を避け、後ろ足付近の甲殻に打ち付けた片手剣から伝わるのは、斬撃の手応え―――ではなく衝撃。

 カラッカラに乾燥した砂色の甲殻は先ほどよりも硬度が増している。先程は水分が含まれてふやけていたのだろうか?

 

 やがて棘蛇竜は地中潜行を開始。奇襲攻撃に備えて装備をしまうハンターだが、地響きは全くの別方向へと向かっている。エリア移動のようだ。

 先程見た棘蛇竜の特性を考えれば、ハンターの居ない別の水辺で水分を補給する算段だろうか。怒りや疲れに任せず安全に確保する警戒性もある様子。

 そうしてハンターは、地響きのする方向へと走り出す―――行き先の候補は二カ所。そう探す手間はかからないだろう。

 

 

 

 かくして龍歴院のハンターは、無事に龍歴院に帰還し、新種の蛇竜種「棘蛇竜」の生態と枯渇の正体を伝える事となる。名は「ガイグイズ」に決定した。

 棘蛇竜は逃してしまったが、新たなモンスターの情報を収集し、手傷を負わせられただけでも大成功と言える。

 しかし水辺が枯渇している以上、砂漠の環境破壊にもなりかねない。龍歴院は新たにハンターの強力を仰ぐのだった。

 

 

 

―完―




このガイグイズは、実際する爬虫類「モロクトカゲ」をモチーフにしているそうです。蛇なのにトカゲ(笑)

●新種紹介
棘蛇竜ガイグイズ
砂漠地域に生息する新種の蛇竜種。無数の鋭い棘が生えた土色の甲殻で覆われている。昆虫食。
甲殻には細い溝が張り巡らされており、そこから水分を効率よく吸収、生命維持や攻撃に転じる。
長大な体とトゲを武器に戦う他、興奮すると水蒸気が発生して霧を起こし、水ビームを吐く。

○本日の防具と素材一覧

●グイズシリーズのスキル一覧
・貯水(水属性やられを受けている間、攻撃と防御が大幅にアップする)
・弱点特効
・心配性

●素材一覧
・棘蛇竜の重棘
 棘蛇竜の中でも特に大きくて重いトゲ。鋭さより硬さを重視しているらしい。
・棘蛇竜の重殻
 棘蛇竜の甲殻。網目のように細かい線があり、そこから水を吸う。


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part36:「鋏角種の章:巨蜘蛛」

モンハンデルシオン4の採用案、鋏角種編です。
今回のテーマは「巨大な蜘蛛」です。どうやら私は蜘蛛好きらしく、楽しく書けました(笑)


依頼名:巨大な蜘蛛の気配!

 

 原生林に狩りへ出かけたんだけど……ある気配を察知して諦めたわ。

 これは私の経験と直感なんだけど、あそこにはとんでもない蜘蛛がいるはずよ!

 申し訳ないんだけど、私の代わりに原生林に潜む鋏角種を討伐して頂戴!

 

依頼主:クモ嫌いな女ハンター

 

 

 

―――

 

 この日、とある女ハンターは友人である女ハンターの依頼を受けたことを激しく後悔した。

 

「蜘蛛は蜘蛛でもさぁ……!」

 

 ボーンXシリーズに堅骨槌9と、全身を骨で固めた女ハンターは武器を背負って走る。

 ゲリョスXシリーズを纏った男は、大枚叩いて作成したという怪鳥幣弓6を大事そうに抱えて並走していた。

 

 原生林の中でも大きな蜘蛛の巣が張り巡らされているエリア7から逃げ出そうとする2人のハンターを一匹の大型モンスターが追いかけていた。

 それはネルスキュラが相手なら自動で千里眼が発動する程のクモ嫌いなハンターが言う鋏角種である―――しかしながら。

 

「なんなのよこの蜘蛛ぉぉぉ!」

 

「俺が知るか!」

 

 ボーンX女が叫び、ゲリョスX男の野太い声が相槌を打つ―――それほどまでに追いかけてくる鋏角種が恐ろしいのだ。

 2人が対峙した大型の鋏角種とは、2人が今まで見たこともないモンスターであり、ネルスキュラと同じ蜘蛛のモンスターであった。

 

 姿こそ蜘蛛だが特徴はネルスキュラのソレとはだいぶ違う。

 まず、全身が黒っぽい。どうやら腹部以外は黒い長毛で覆われており、造形を気にしなければフッカフカである。可愛くないが。

 続いてネルスキュラのように体が地面から離れてはおらず、むしろ地面スレスレの低姿勢を維持している。太く長い2対の脚が広げられているおかげか、見た目が大きく見える。

 大きな腹部は鎧竜の如き鉛色の甲殻で覆われ、1対の前脚は鈍器のように太く長い。いかにも打撃力に優れて良そうだ。

 何よりデカい。ネルスキュラよりも一回り以上も大きく、決して遅くないスピードなのに歩く度に重々しい足音を立てていた。

 

 黒っぽい大きな身体に逞しい3対の脚、そして不気味に光る赤い目が、初見であることを除いても2人のハンターに恐怖を植え付ける。

 名づけるとするなら『巨蜘蛛(キョグモ)』。ネルスキュラよりも大きいが故の、名前の通り巨大な蜘蛛のモンスターだ。

 

 幸いな事に巨蜘蛛はネルスキュラのように糸を吐く習性はないが、代わりに脚力が優れているのか、必死に逃げる2人から距離を離さない。

 だが巨蜘蛛は突如として立ち止まり……足に力を込めて跳躍。走行よりも早いスピードで2人を追い抜き、2人の眼前で着地して大きな地鳴りを起こした。

 

「どわっふ!」

 

「くそがっ!」

 

 耐震を持たない2人は突如として目の前に着地した巨蜘蛛の登場と地鳴りに体が硬直してしまい、悪態をつく。

 巨蜘蛛は再び軽く跳躍すると同時に方向転換、再び着地した頃には2人は即座に左右へと跳び、巨蜘蛛の棍棒のような前脚が地面を穿つ。

 ドンッ!と音と共に凹む地面。2人の跳躍が遅ければ地面諸共お陀仏だったろう。起き上がった2人はそのまま左右に展開、巨蜘蛛の狙いを分断させる。

 

「こうなったらやるぞ!腹ぁ括れ!」

 

「うわーん、もう!生きて帰ったら絶対にタカってやるー!」

 

 ゲリョスX男は激励しながら弓を構え、ボーンX女は泣き言を喚きつつもハンマーを手に持って巨蜘蛛に向けて歩を進める。

 巨蜘蛛は自らに向かってくるボーンX女に狙いを定めたのか、ネルスキュラに比べれば遅いスピードで旋回、大きな腹部と1対の脚で体を持ち上げ、前脚を伸ばしたままボディプレスをかます。

 大雑把な動作に対し、ボーンX女は教官より学んだ狩猟スタイルが1つ【ブシドー】を用いて隙間を抜け、ボディプレスの共振を僅かな空中浮遊により回避しつつ巨蜘蛛の右側面に回り込む。

 まずは脚を狙わんとハンマーを振り上げ、痛々しい音が後ろ前脚に響く。甲殻種同様、脚はさほど防御力に割り振られてないらしく、巨蜘蛛は悲鳴を上げる。

 

 脅威である事を示しつつ生き残るべく、ボーンX女はハンマーを持ったまま後退、直後に巨蜘蛛は跳躍して旋回、再びボーンX女に狙いを定める。

 そうは問屋が卸さないとゲリョスX男の弓から矢が放たれる。若干の炎と熱を纏った矢が巨蜘蛛に命中すれば嫌そうに身を縮こませる。どうやらネルスキュラ同様、火に弱いらしい。

 その隙にボーンX女は反対側に回り込む、脚に向けてハンマーを叩きつける。1回、2回と叩きつけ、最後に振り上げホームラン!折れはしなかったが確実にダメージは蓄積していく。

 すると巨蜘蛛は左側面を持ち上げ、そのまま四股を踏む。ハンマーの振り上げた硬直がギリギリ解けていたので緊急回避。体重を乗せた踏みつけで地面が揺れるも、【ブシドー】の回避テクニックのおかげで無事だ。

 

 その間にもゲリョスX男は黙々と弓で射続けるが、巨蜘蛛は熱い弓を放つゲリョスXに狙いを定めたらしく視線が合い、一気に跳躍して接近。

 ゲリョスX男は跳び上がる挙動を察知してすぐさま移動を開始するが、すぐ横に巨蜘蛛の巨体が地面に叩きつけられ、激しい振動で体が硬直してしまう。

 

「くそったれ!」

 

「今行く!」

 

 常に文句ばかり言う彼らしいが、ボーンX女は駆け付けるべくハンマーを背負い、走り出す。

 そのまま巨蜘蛛の腹部を狙おうとしたが、巨蜘蛛は事前に察知していたのか、大きく硬い腹部を持ち上げ地面に叩きつける。

 

「がっふっ!?」

 

 直撃ギリギリの距離であったからか、暴力的な風圧と衝撃がボーンX女に襲い掛かり、そのまま吹っ飛んでしまう。

 それほどの体重とパワーを秘めているお尻ということだろう。擬人化したらねじりこみたいような巨尻に違いなゲフゲフ。

 

「いだだ……っ!?」

 

 地面に背をぶつけるも起き上がろうとするが、小さな地鳴りに気づいて顔を上げれば、そこには既に正面を向いた巨蜘蛛の姿。

 不味いと思った頃には巨蜘蛛の棍棒のような前脚が横薙ぎに振われ、真横からの打撲を受けたと共に大きく吹っ飛んでいく。

 

「が……っ!」

 

「しっかりしろ!」

 

 ふきとばされつつもゴロゴロと受け身を取りつつダメージを殺す。しかし真横から受けた一撃は相当に重く、意識を保つので精一杯であった。

 吹き飛んだ先にゲリョスX男が居たのが幸いで、倒れていた彼女の肩を持ち上げる。硬い骨の防具である程度は軽減できただろうが、脇腹には酷い打撲痕が残っている。

 

「ごめ……」

 

「無理して喋るな!」

 

 口から血を滴らせるボーンX女を案じてゲリョスX男は何とか彼女を起き上がらせるが、それを巨蜘蛛が許すはずもない。

 激しい動きが取れないと解った巨蜘蛛は徐に顔を上にあげ、緑色の液体を滴らせながら何かを口内から生やしていく―――鋏角種の特徴たる「鋏角」だった。

 

「どわっと!」

 

 直撃は拙いとボーンX女を抱きいて地面に転がるゲリョスX男。地面に身を投じた直後、巨蜘蛛の鋏角が空を切った。

 そのままゴロゴロと転がって距離を取った後、ゲリョスX男は地面から、そして己の防具から嫌な臭いと煙が立ち込める事に気づく。

 

「強酸……っ!」

 

 ゲリョスX男は驚愕する。地面と己の防具の一部が溶けていたのだ。恐らくは鋏角から滴る緑色の液体がそうなのだろう。

 ただでさえパワーがあるのに強酸まで蓄積しているとなれば、強酸によって防御力が低下した防具に、あの棍棒のような前足で殴られたと思うと……顔から血の気が引いていく。

 鋏角を口内に納めた巨蜘蛛は前脚を地面に叩きつけながら、そのまま前脚を上げて大きく見せて威嚇。どうやら勝利を確信しているらしい。

 

 

 そして襲い掛かろうと身を屈めたのを見た、呻くボーンXを抱きかかえるゲリョスX男の取る行動は―――。

 

 

「ていっ!」

 

 撤退。いつの間にか手に持っていた閃光玉を巨蜘蛛の眼前に放り投げ、激しい閃光が周囲を包み込む。

 ボーンX女は抱かれている事で視界が遮られ、投げた本人であるゲリョスXは目を塞いで防いだが、巨蜘蛛は目を焼かれて悶絶食らう。

 所かまわず太い前脚で周囲を薙ぎ払ったり叩きつけたりするのを節目に、ゲリョスX男は煙玉を使用。そのままボーンX女と肩を合わせて歩き出す。

 

 巨蜘蛛の視界が復活した頃には煙に巻かれ、煙が晴れた頃には2人のハンターの姿が無い。

 まんまと逃げられたのだと気づいた巨蜘蛛は、悔しいのかドタバタと小刻みに跳躍し始める。

 

 

 

―――

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「素直に撤退しとけばよかったなぁ」

 

 ベースキャンプの寝室で手当てを受けたボーンX女が呟き、ゲリョスX男は兜を脱いで頬杖をついて溜息をついた。

 既にニャン次郎やギルドの管轄者に連絡を済ませ、ボーンX女の治療も終え、後は迎えが来るのを待つばかりとなった。

 少しでも脅威を見せて逃げる隙を……と思ったが、巨蜘蛛の一撃が重かったのが不運だった。生きて帰ってこられただけでも良かったが、閃光玉が無ければ……と思った所へ。

 

「ていうか、閃光玉があったんなら使ってよー!さっさと逃げれたじゃん!」

 

「G級装備だし、あんなに強ぇとは思わなかったんだ!ケチろうとも思うだろ普通!」

 

「新種相手に何を言いますかなーこのドケチハンター!私の秘薬返せ!」

 

「そもそもお前があの女の依頼を引き受けたからこんな事に!」

 

「うっさいスカポンタン!」

 

「傷に触るから騒ぐなアホンダラ!」

 

 ギャアギャアと騒ぐ元気があるならそれでよし……報告を済ませ戻ってきたニャン次郎は怒鳴り合う2人を見て安堵の溜息を零した。

 

 こうして、ギルドの調査と龍歴院の情報収集の元、2人が出会ったモンスターは『巨蜘蛛(キョグモ)タランギュラス』と命名。

 非常に獰猛でパワーのある新種の鋏角種として世間に知らしめる事となった―――未だに討伐されたという報告は無いが。

 とりあえずクモ嫌いの女ハンターが2人のハンターにより糾弾を受ける羽目になったことを、ここに追記するとしよう。

 

 

 

―完―




蜘蛛と言えば絡め手をイメージしますが、この蜘蛛はパワーにあふれた良いモンスです。
イメージはイビルジョーかテツカブラに近いですね。機動力のあるパワーモンスって感じで。

●新種紹介
巨蜘蛛タランギュラス
原生林などに生息する大型の鋏角種。黒っぽく、長毛で覆われた太い脚と背部の甲殻が特徴。
俊敏性は劣るがパワーがあり、棍棒のような前脚と強酸が滴る鋏角でパワフルに攻める。
草食種や小型モンスターをメインに食らうが、時には大型モンスターに挑む程に獰猛。

○本日の防具と素材一覧

●タランシリーズのスキル一覧
・鈍器使い
・KO術
・火耐性弱点

●素材一覧
・巨蜘蛛の重背殻
 巨蜘蛛の腹部を覆う重厚な甲殻。硬さもそうだが、何より非常に重い。
・巨蜘蛛の剛打爪
 巨蜘蛛が攻撃に用いる前脚。棍棒のように太く長い。


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