凄腕ハンターの転生先は最強リオレイアだったようです (まくら_)
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一話 死、転生、そしてピンチ

一話、よろしくお願いします。
初期から若干変更しました。


「ガアアアアアアァァ……ァ…………ァァっ」

 

 どんどんと弱まっていき、ついには消え去った咆哮。

 その主は、つい先程私がトドメを刺した『【紫炎竜】リオレウス』。

 そのリオレウスは、原種、亜種とも希少種とも違う。ギルドも見たことがない、突然変異した個体。

 

「は……ははっ」

 

 特殊な個体に勝ったことに、笑みが溢れる。

 

 突然変異しただけあって、普通のモンスターじゃ考えられないくらい強かった。具体的には、私が狩ったことのある古龍の何倍も強いくらい。

 

 だが当然、そんなモンスターと戦った私は軽い怪我じゃ済まない。

 そこらでは1番強いハンターだった私も、骨を折り、体の色々な箇所に深い傷を作り倒れていた。血は大量に流れ、意識は朦朧としている。

 

 ハンターとして、こんなに強いモンスターと相打ちの末死ねる程良い死に方はない。私はまだ18歳と若いが、遠い将来寿命で死ぬよりずっと誇らしい死に様だと思う。

 

 あと数分もすれば、私もリオレウスも死んでしまうだろう。

 悔いはない。

 

「なぁ、リオレウス」

「……グル」

 

 まだ息のある、だが瀕死。

 数時間の激闘を繰り広げた、そんなライバルに、呼びかける。

 

「私……お前に会えて……お前との戦闘で死ねて、良かったよ」

「グルル……」

 

 即座に来た返答が同意を意味している、と思ったのは、私の勝手な妄想だろうか。

 だが、モンスターの真意なんて私には分からないし、良い方に考えておこう。

 

 さて……本格的にヤバくなって来た。

 今まで感じていた激痛を感じなくなってきて、もう限界かな、なんて思う。

 

 最期の時まで出来ることもないし、目の前のリオレウスを見ていよう。

 濃い紫色の鱗。リオレイアより強力な毒を持った、牙と棘。原種にはあるはずが無い、禍々しい角。赤く光る眼。

 

 凶悪そうだがかっこいい、その体に手を伸ばす。

 リオレウスは拒否することも無く、硬い鱗の上に手を置かせた。それだけではなく、ボロボロの翼を私の肩から下にかぶせた。

 

 ……温かい。

 生物の持つぬくもりが、体にじんわりと伝わる。

 

 そして……そのまま、不思議な温かさに包まれたまま。

 私とリオレウスは___同じタイミングで、目を閉じた。

 

 私達___もっと違う出会い方だったら、もし種族が同じだったら。

 

 いい友達に、なれていたかもしれない___。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___目を覚ました。けど、真っ暗。

 

 生きてる?でも、あの状態で生きていられる訳がない。

 じゃあ、何なんだ。とりあえず周りの状況を確かめたくて、軽く体を動かす。

 

___いだっ!

 

 ゴツン、と何かに頭をぶつけた。相当硬いものにぶつけたのか、勢いは全然ついていなかったのにすごく痛い。

 

 が、その痛みのおかげで分かった。今、生きてる。

 あの後、意識を失ってすぐ誰かが来て救助されただとか。それなら納得がいく。

 

 だけど、それなら目を開いても真っ暗な視界は?少し動けば体を打つ程狭いこの場所は?

 

 分からないことだらけだ。言いようもない不安にかられて、声を上げたいが上げられない。泣くこともできず、ただ俯いたその時。

 

___ピキッ。

 

 頭上で何が音がして、顔を上げた。そこから、一筋の光が差していた。

 うーん……痛いけど、仕方ない。そこに思いっきり頭突きをする。

 すると、頭は簡単に貫通し、外の景色が見えた。

 

「え……洞窟……?」

 

 病院……ではなく、洞窟。しかも、足元を見れば、割れた卵の中。

 

 ふと自分の手を見ると、手というか、飛竜種の翼だ。

 

 「…………夢?」

 

 そう呟いたはずだった。だが、実際に聞こえた自分の声は「グル」というモンスター特有のもの。

 

 試しに、思いっきり頬を引っぱたいてみる。

 

「……グル」

 

 やはり痛い、と呟いたはずだが、やはりグル、としか聞こえない声と、ヒリヒリ痛む頬に確信した。

 

___これ、モンスターになってるんじゃね?

 

 

 

 

 

 まあ、うん。モンスターになったまでは理解した。納得はしてないけど。

 竜大戦以前の古代文明では、『輪廻転生』なんて概念もあった訳だし。転生、とやらをしたと考えるのが一番納得いく答えだ。

 

 今一番気になるのは、自分がどんな姿をしてるかだよ。近くに水場は……あった。

 

 卵の殻からひょいと跳び、覚束ない足取りでそこまで歩く。

……うん、二足歩行、普通の飛竜種だ。

 

 少し歩けば、小さな水たまりに辿り着いた。

 すぐに水たまりを覗き込み、モンスターになった自分の姿かたちを確認する。

 

……リオレウス?

 

 そう、その姿はリオレウスそっくり。

 

 いや、私は女(口調が男っぽいのは長いハンター生活のせい)だからリオレイアだ。

 でも、その割にはレイア特有の肩のもしゃもしゃ(正式名称は分からない)がないし、体色は黒。翼膜は赤く、レイアの模様ではなくレウスの模様がついている。目は原種同様に黄色い。

 

 んー……特殊個体ってことでいっか!

 

 思考すること3秒で納得し、くるりと踵を返す。

 

 そして、どうにも見覚えがある場所だと思えば、ここは森丘のエリア5らしい。過ごしやすい気候で良かった。砂漠とか火山とかだったら生き残れない自信あるもん。

 

 きゅるるる。唐突に耳に届いた音。

 

 あ……お腹空いた。

 

 鳴るお腹を押さえ、キョロキョロと辺りを見回す。

 確か……エリア1ならアプトノスがいた気がする。

 

 ハンターズギルドでは、分かりやすいようにフィールドを数字で区切っている。これがあるのとないのでは、ギルドへの報告のしやすさが完全に違う。

 

 それについて、今はどうでもいい。行くか。まずは腹ごしらえだ。

 

 エリア6、2経由で行くのが最短ルートなら、そこを通る以外の選択肢はない。

 ひょこひょこと擬音がつきそうな歩き方をして、何とかエリア6に辿り着いた。

 

「グルルル……」

 

 高い……。

 

 今思い出したが、エリア6は崖だらけの地形。幼体で飛び降りでもしたら、ハンターだったときよりすごい衝撃が来るかもしれない。

 

 何がここから降りる方法……うーん……閃いた!

 

 躊躇いなく崖の上から飛ぶ。そして、まだ上手く扱えない翼をいっぱいに広げ、翼膜で風を受け止めた。

 

 あ……飛べた!

 

「ガアアア!」

 

 嬉しさに、軽く咆哮を響かせる。

 

 このまま真下に着地しようと思っていたが、予想より上手く飛べる。翼をグライダーのように使い、エリア2まで行ってやろう。

 

 高い所からじゃないと飛べないのは、きっとまだ体が出来上がってないからだ。成体に近づいたら飛べるに違いない。ていうか飛べなかったらリオレイアじゃない。

 

 わーい、楽しい……ん?

 エリア2に着いたが、失念していた。

 

 ランポス……。

 

 そう、小型肉食モンスターのランポスが居るのだ。いくらランポスとはいえ、今の体じゃ1体相手取るのも厳しいかもしれない。

 

 エリア2の端にホバリングしながら着地し、姿勢を低めてランポスにバレないよう歩く。

 

 ちぇっ、体が緑じゃないから草に擬態するのが難しい。

 でもまだバレてないし、全力で走ればランポスに追いつかれないうちにエリア1に行けるくらいは進めている。

 

 よし、全力ダッシュだ。

 土を蹴り、なるべく一歩一歩を大きくして走る。

 ランポスがこちらに気づいて走ってくるが、残念、もうエリア1に着くんだわ。さすがは陸の女王の脚力と言うべきか、幼体でも半端ない。

 

「ガアアアア!」

 

 首だけで後ろを向き、「じゃあなお前ら、残念でしたぁ!」とランポスたちを煽りながら駆け抜ける。

 ランポスにはちゃんと伝わっているのだろうか。言葉じゃないからな。

 

「ギャアッ!ギャアアア!」

 

 ああ、理解はしてないっぽい。けど、なんか怒ってそうな声だし、馬鹿にしてることだけは通じてたんだろうか。

 

 そうこうしてるうちに、目的のエリア1に足を踏み入れた。

 

 走ったせいでさらにお腹が空いた。目の前で草を食むアプトノスが、すごいご馳走に見えるのは、モンスターの感性か。

 

 美味そう……。

 

 獲物が見つかれば、早速狩りだ。自分より小さいリオレイアを気にもしていないアプトノスたちは、呑気に草を食べ続けている。

 その余裕そうな姿は、幼体ながらも陸の女王である私のプライドを傷つけた。リオレイアになって、一日も経ってないけど。

 

 まあ、油断しているなら好都合だ。苛立ちを全てぶつけるように、一番近くのアプトノスに突進を仕掛ける。

 

「ギャアアッ⁉」

 

 ハンター達に嫌われる『ノーモーション突進』は、アプトノスにも有効だった。見事に突進が足に当たったアプトノスは、綺麗にすっ転ぶ。

 

 それで終わりだと思うな。首元に食いつき、皮と肉を喰いちぎる。

 ん、美味しい。生肉が美味しいとは、やっぱりモンスターの味覚だな。

 

「グギャアアッ‼」

 

 が、アプトノスが反撃しないわけがない。頭を振って私を吹っ飛ばし、立ち上がって突進してきた。

 

「……ガアッ!」

 

 自分より大きな体の突進を食らい、すごい衝撃が体を襲う。

 地面に体を打ち付ける前、冷静に一回転、そのまま着地。サマーソルトの要領だ。見よう見まねだが、出来てホッとする。

 

 すぐに攻撃再開だ。逃げようとしているアプトノスだが、首の出血で上手く走れていないし、獲物を逃がす程、私という肉食モンスターは甘くない。

 

 少し走ってアプトノスの前に回り込み、跳びながら尻尾をアプトノスの顔面に打ち付けた。棘が目に入ったようで、バタリと倒れて悶絶している。

 

 トドメに、翼の棘を使い、首の傷を引っ掻いた。

 しばらく痙攣していたアプトノスは、ぐったりと力尽きた。

 

「……ガアアアアアア!」

 

 初めての狩りが成功した嬉しさで、天に向かって咆哮する。やっぱ私、やればできる子。

 

 翼を合わせて合掌し、遠慮なくアプトノスの肉に食らいつく。

 美味しい。狩って良かった。

 

 アプトノスがきれいな骨になるまで、余すことなく肉を食べた後、満足気に仰向けに倒れる。

 

 あー、お腹いっぱい。

 

 森丘の中で危険が少ないのはエリア1だし、しばらくここの隅っこを住処にしよう。それがいい。

 

 元ハンター故に、気が付かなかった。

 エリア1で安全なのは、ハンターのみであることを。

 

 そう。

 

「……ん?モンスターの……幼体?」

 

 モンスターを狩る、『ハンター』という存在を、今の自分が狩られる側であることを、忘れていた。

 

 

 

 

 

 すぐに飛び起き、目の前の男を警戒する。

 着ている装備はおそらく下位のジャギィ装備、武器は店で売っているアイアンソード。

 大型モンスターを狩る実力がない新米ハンターのようだ。

 

「うっそ、リオレウスの幼体⁉幼体なら俺でも勝てそうだし、リオレウスの素材ゲットのチャンスじゃん!しかも特殊個体っぽいし!」

 

 なーんか腹立つなこいつ……。

 幼体だからって舐めんな、ていうかレウスじゃなくてレイアだよ。

 

 奴はスッと背中の剣鞘から大剣を抜き、こちらに向けてくる。

 おいおいやばいよ、新米ハンターって言っても幼体じゃ敵わないよ。

 

「……ッガアアアアアアア!!」

 

 精一杯の威嚇。幼体じゃあ迫力も何もないが、しないよりはいいだろう。

 

「お、向かってくるか?来いよ」

 

 つくづく腹立つ奴だな……!

 そんなに言うんなら言ってやるよ!ハンター歴はこっちの方が長いんだ、油断してんじゃねぇぞっ!

 

 男のところまで走り、体当たりをしようとしたが、逆に大剣を振られた。それをサイドステップで回避し、剣筋を冷静に分析する。

 

___素人だな。

 

 地を踏みしめ跳躍し、男の腕に牙を立てる。

 ジャギィ装備はそこまで硬くなく、腕はあっさりと血を滲ませた。

 

 口の中に充満する血の味。それが美味しいと感じる程度には、私は人間をやめているらしい。

 

 そんなこと、知ったこっちゃないけど……!

 

「ああああっ!腕が、腕がっ!!」

 

 大剣を落とし、腕を抑えて騒ぐ男。

 

 うるさいな……ハンターなら、殺される覚悟くらいしとけよ。

 まあ、私も元人間だし、私を狩りに来た人を殺す気はない。全員、ベースキャンプ送りで許してやる。

 

「このクソ野郎!殺してやるっ!!」

 

 あぁ、まだ逃げないのね。ホントにネコタクのお世話になるけどいいの?

 

 男は、再び大剣を持ち、袈裟斬りのようなものを繰り出す。

 振り方がめちゃくちゃで、見切るのがある意味難しい。バックステップで避けたが、腹が少し切り裂かれた。

 

 今度は男のターン。今度は大剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。腹の痛みのせいで上手く避けられない。鱗のある背中を見せ、腹よりは硬いそこを斬らせた。致命傷ではないが、動きは確実に鈍くなるだろう。

 

「ガァッ……」

 

 痛みに苦悶の声が漏れ、地面に翼の先をつく。

 

 それでも、攻撃を止める訳じゃない。

 火炎袋の中の炎を操り、振り向きざまに口から放出。威力も速度もそこまでないが、牽制として使うなら十分だろう。

 

「うわぁっ⁉」

 

 大袈裟動きで、男はそれを回避する。でもその避け方、隙だらけ。

 男の顔の正面まで跳び上がり、反転しながら尻尾を顔目掛けて振り抜く。

 バチィンッ!と派手な音が鳴り、男の頬に棘が刺さった。

___よし、成功。

 

 棘から分泌された毒が男を蝕み、彼は苦しそうに呼吸する。

 

「なっ……くっそ!覚えてやがれリオレウス!」

 

 いやだからリオレイアだっつの……。

 ベースキャンプに走り去って行く男に、ため息をつく。

 

 はぁ……こんな噛ませ犬にも苦戦するんだな、幼竜って。早く強くなりたい、成体になりたい。

 

 とりあえず、エリア1は危ない。エリア5のほうが、ハンターと鉢合わせないだろうか。

 

 とりあえず戻るか……。

 

 背中と腹の痛みに耐え、ふらふらとエリア2まで歩く。またハンターに会ったら溜まったもんじゃないからね。

 

 エリア2に入り、妙な感覚にゾクリとする。

 

 ランポス達がいないし、本能が『逃げろ』と警鐘を鳴らしている。

 理由が分からなかったが、少ししたらすぐに分かった。

 

「グギャアアアアアアアアアッ!!」

 

 大気を震わす咆哮。

 それと共に姿を現したモンスターは、凶暴竜イビルジョーだった。

 その体は、赤い。特殊個体だ。

 

 そしてイビルジョーは、傷のせいで上手く動けない体に、容赦なく牙を向け___。



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2話 逃走、そして戦闘

___やばい、死ぬ。

 

 真っ先に思い浮かんだのは、それだった。

 この傷で、イビルジョーから逃げられる訳がない。ていうか傷が無くても逃げられない。かといって反撃できる訳でもない。

 

 ようするに、どうしようもない。

 

 嫌だよ!何で転生した初日で死ななきゃいけないんだよ!お断りだこの野郎!

 

「ガアアア!ギャアッ!」

 

 せめてもの抵抗に、と吠えるが、何の意味もないようだ。

 嫌だ、死にたくない、死にたくない、殺されたくない。

 

 元ハンターとして、敵に一方的に殺されるなんて、あってはならない。でもどうにもならない。

 

 くそ……くそっっったれ!

 

「ギャアアアア!」

 

 分かってる、叫んでも何も変わらない。でも、叫ぶ。

 

「アアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 瞬間___世界がスローに見えた。

 迫り来るイビルジョーが、驚いて逃げる鳥が、揺れる草花や木々が。その全てが、ゆっくりと流れている。

 

 これが、ゾーンってやつか。初めての体験だが、世界がゆっくり流れたってこの実力差は覆せないし、思考速度に体がついてくることも無い。

 

 そしてついに、イビルジョーの牙が目の前に見えて___

 

 

___イビルジョーにとてつもない大きさの火球が当たり、倒れた。

 

「……⁉」

 

 突然のことに、私は言葉を失う。

 

「ガアアアアアアアアアアッ!!」

「グルアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 そして耳に届く、私のものでもイビルジョーのものでもない、2つの咆哮。それと共に、私とイビルジョーの間に2体の飛竜が着地した。

 

 黒いリオレウスと、赤いリオレイア。番であろう、特殊個体の飛竜種だった。

 2体とも、激しい怒りを瞳に燃やし、リオレウスは口元に炎を燻らせている。

 誰だ、何故私を助ける。

 同族に情けをかけたか?それとも、ただ単にイビルジョーが気に入らなかったのか?

 

 悩む私に、リオレウスは吠える。

 

「グル……ガアッ!」

 

 何だよ、何言ってんだよ。分かんないよ、どんな意味を込めてんだよ……!教えろよ!

 

「ガアア!」

 

 訳が分からなくなって、リオレウスに向かって叫んだ。

 

「……。ッガアアアア!!」

 

 そして突然、リオレウスの咆哮が大きくなる。

 

 威圧的なその態度に、足がすくむが、同時にこんな考えが湧き上がってきた。

 

___この二体を囮にして逃げたら、死ななくて済むんじゃない?

 

 そうだ。こんなリオレウスとリオレイアは知らない。知らないモンスターを犠牲に逃げて、何が悪い?

 

 何かに押しつぶされそうになりながら、私は走り出した。

 傷は痛むが、それどころじゃない。逃げなきゃ死ぬんだ。

 エリア1を抜け、前世も入ったこともない森に入る。

 

 逃げなきゃ、死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___どれくらい、走っただろうか。

 

 傷口から大量に血が流れて、酷い姿になっても数時間走り続け、着いたのは見知らぬ海岸だった。

 

 後ろを振り向けば、辿れば森丘に戻れそうな程の血痕が残っている。

 

「はぁ……はぁっ」

 

 痛い、体中が痛い。息が苦しい。

 でも、それも気にならない程、2体の飛竜のことが心に引っかかっていた。

 

……関係ない。今は、傷を癒やすことに専念しよう。

 

 近くにあった草が薬草であることを確認し、口に咥えた。

 丁度いい、私しか入れない大きさの洞穴に入り、薬草を敷き詰め、余った薬草を食べた。

 

 苦い、体に良さそうな味がする。とりあえず敷き詰めた以外の薬草を全部食べ終え、薬草のカーペットの上に寝転んだ。

 

「グギャアアアアアアアアアアッ!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 薬草から滲み出た汁が傷口に染みる。だけど、それこそ薬の主成分だと、ハンター生活で理解している。我慢しなきゃ。

 

 蜂蜜があれば、回復薬グレートが作れるんだけど。回復力が高いし、普通に蜂蜜入りの方が美味しい。

 

……余計なことを考えるのはやめにして、大人しく寝るとしよう。

 睡眠をとって、早く怪我を治すのが、一番賢い選択だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___森丘、エリア2にて。

 

 飢餓状態に陥った『暴竜王』イビルジョー、先程逃げた子の親、『黒火竜』リオレウス、『雌赤竜』リオレイア。

 3体の古龍にも匹敵する特殊個体が睨み合う。

 

「ヴヴヴ……」

「グルルル……」

 

 リオレウスは口元に炎を噛み締め、リオレイアは大量に毒を含ませた尻尾を左右に揺らす。それは隠しきれない興奮と怒りを体現すると同時に、「いつでも攻撃できる」という意志の表れでもあった。

 

___一度も自分たちを見たことのない我が子は、きっと自分の話した意味が分からなかっただろう。

 でも、それでいい。両親のことを知らないままでも、一人で逞しく生きてくれるだけでいい。

 

 リオレウスとリオレイアは、そう考える。

 

「フゥゥ……ヴヴヴヴ」

 

 対するイビルジョーは、目の前の獲物への興奮に目を血走らせ、黒い龍属性のオーラを全身に纏い、酸性の唾を垂らしている。2体の飛竜種は、暴竜王イビルジョーを『強敵』として見ているのに対し、イビルジョーは相対する彼らを『獲物』としか見ていない。

 

 動き出したのは、一刻も早く飢えを癒やしたい、その一心のイビルジョー。リオレイアより僅かに近かったリオレウスに飛びかかり、首元に喰らいつこうとする。

 

 が、それが上手く行くほど『黒火竜』の名を冠するリオレウスは甘くない。垂直に跳び上がりそれを回避すると、右足の鋭い爪でイビルジョーの目元を切り裂いた。

 そのうちにリオレイアがイビルジョーの背後に回り込み、突進と同時に尻尾の根本に噛み付く。

 番による完璧なまでの連携だが、硬い鱗と皮膚に阻まれ、リオレイアの強力なアギトを持ってしても、イビルジョーの赤い皮膚に血を流しただけで、尻尾を斬り落とすことはできなかった。

 

 イビルジョーは尻尾を振ってリオレイアを空へと吹き飛ばす。

 リオレイアは翼を広げ体制を立て直したが、その選択はまずかったとすぐに後悔する。

 

 隆起した全身の筋肉を使いリオレイアの元まで跳躍、半回転しながら尻尾を叩きつけた。それにより、リオレイアは背中から地に落下し、半径20メートル程のクレーターを作る。

 

 更に追撃に移るイビルジョー。ズンッと足を土に沈めながら着地し、リオレイアの肉を食い千切ろうと牙を剥く。

 

「ガアアアアアアアアアッ!!」

 

 それを阻止しようと、リオレウスは黒炎王顔負けの火炎ブレスを吐いた。リオレイアにも当たったが、火属性耐性の違いによりイビルジョーのみにダメージが入る。

 

 それだけでは終わらない。ブレスは連鎖爆発を繰り返しながら草を焼き、エリア2の半分を焼け野原に変化させた。

 

「グガアアアアアアア!!」

 

 身を焼かれる熱さに、イビルジョーは絶叫しながら倒れる。

 そして、立ち上がりざまにリオレイアのサマーソルトを顎に受け、大きく仰け反った。

 

___自分達が押している、行ける。

 

 リオレイアとリオレウスは、油断はせずとも勝利を確信した。

 普通、この戦況をひっくり返すことのできるモンスターはいないだろう。そう、普通。

 

「ギャアアアアアアアアアアッ!!」

 

 イビルジョーは咆哮を上げ、サマーソルト直後のリオレイアの尻尾を噛み切った。

 尻尾を失ったリオレイアは地面に倒れ、イビルジョーは尻尾を飲み下しながら龍属性ブレスをリオレウスに命中させる。

 

「……!?」

 

 突然のことに回避が間に合わなかったリオレウスは、頭から地面に激突。軽いスタン状態になったリオレウスの肉を、イビルジョーは貪る。首、腹、尻尾と順番に。

 

 ほぼ同時に尻尾を食われ、窮地に立たされたリオレウスとリオレイア。

 この傷では、2体とも失血死まで時間の問題だろう。

 

 諦めかけた番の頭に浮かんだのは___生まれて間もない、自分たちが逃したリオレイア。

 

___そう、諦められない。守るべきもの、子の為に……。

 

 暗くなっていった4つの瞳に、再び炎が灯る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『___観測隊より、ギルドへ報告です。

森丘のモンスターをほぼ全滅へと追いやった暴竜王イビルジョー、番と見られていた黒火竜リオレウス、雌赤竜リオレイアが交戦、3体の相討ちが確認されました。

この戦闘の余波で、森丘のエリア2、3全体、そしてエリア1の一部は焼け野原となっています。

念の為、上位〜G級ハンターに向け、迅速に調査クエストの発注を願います。

 

……そして、観測隊の隊員が、森丘から逃走するリオス種の幼体を目撃。黒火竜、雌赤竜の子供と見られます。

今後の動きに、十分注意してください』



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3話 後悔、成長、そして引っ越し

 薬草だけを食べ、薬草カーペットの上で眠る生活が3日続いた。

 体はジャギィノスと同じくらいに大きくなり、洞穴が窮屈でもう外に出ている。

 傷は癒えたが、囮にしたリオレウスとリオレイアが気になって仕方がない。

 

___どうでもいい。見知らぬ飛竜なんて、どうでもいい。

 

 いくら自分にそう言い聞かせても、することが無いこの3日間は彼らのことが頭から離れなかった。

 あの出来事が衝撃的だったが故か、同族を見捨てたことへの罪悪感故か。

 

 おそらく、そのどちらも正解だろう。

 おかしいな、ハンターになったときから、情けなんて捨てたはずだったのに。ハンターとして戦うことが楽しくて、他のことは考えられないくらいだったのに。

 

 そんな私が、罪悪感を感じている。あの飛竜達には、何かがある。

 けどその『何か』がやっぱり分からなくて、考えるのを諦める。

 

 思考を止め、私は食糧を探しに森に入った。

 

 

 

 

 

___何もいない。

 

 草食モンスターどころか、肉食モンスターすらいない。

 とりあえずその辺の草を食んでおくけど、3日間薬草生活の後で草しか食べられないのは相当キツイよ。私だって、幼体と言えど肉食モンスターだ。

 

……何かいないかな。

 

 モンスターを探して歩いていると、見覚えのある場所に辿り着いた。

 

 森丘だ。

 半分程度草花や土が焼けているが、ここは確かにエリア1。

 私が逃げた後、三体で交戦したんだろう。

 

 ぞくり、と背筋を伝う恐怖。あのイビルジョーがトラウマになってしまったか。

 でもこのあたりにモンスターはいないし、小型モンスター1体食べるくらいなら……。

 

 焼けた地面を歩き、エリア2に入る。

 

___酷いな。

 

 大量の血が飛び散った跡、鼻腔を刺激する鉄の臭い。

 元々荒野だったと言われても疑わないであろう程に変わってしまったこの場所に、倒れている三体のモンスターがいた。

 

……赤いイビルジョー、黒いリオレウス、赤いリオレイア。

 

 相討ちか___など分析していると、またあの日のことが思い浮かんだ。

 怒りを剥き出しにして、イビルジョーの前に立つリオレウスとリオレイア。

 

 そう、その姿は見覚えがあった。

 確か……子連れのリオレイアを狩ったとき。

 

 ここまで思考して、やっと気付く。

 私の体色、翼膜の模様___あの二体にそっくりだった。

 

 つまり、そういうことだろう。

 あの二体は、子である私が捕食されそうになったことに怒り、私を守る為に戦っていたのだ。

 

___私、どうして逃げたんだろう。

 少し考えれば分かるようなことに気付かないで、自分の利だけを追求して一人で逃げて。

 ただの弱虫、意気地なし、自己中心的。

 

 私のことを思ってくれた両親を見捨てた。見殺しにした。

 意地でもここに残っていればよかった。

 

 後悔と自責の念、そして怒りが渦巻き___その時。

 

「グ……グアアアアアアアアッ!!」

 

 咆哮が聞こえた。

 

 振り返ると、死体だと思っていたイビルジョーが立っている。

 右腕と尻尾を失い、傷口から血を流した瀕死の状態で、赤く光る目でこちらを見た。

 

 あぁもう、うるさいな。私は今_____

 

「……ッガアアアアアアアアア!!」

 

___苛立ってんだよ。

 

 

 

 大口を開けて迫るイビルジョーを避け、赤く光る目にサマーソルトを叩き込む。

 イビルジョーは少しよろけたが、倒れはしない。だけど、そんなことは想定済みだ。これの目的は、体内に毒を仕込むことと片目を潰すこと。案の定、片目を失ったイビルジョーの動きはふらついている。

 

 もう一度噛みつきを繰り出したイビルジョーの口を狙い、三連ブレスを吐いた。

 成体ではないといえ、口内に火が入れば大ダメージを受けるはず。

 悶えるイビルジョーを見て、軽くほくそ笑んだ。

 

 これが、両親の苦しみなんだ____早く死ね、死にぞこない。

 

 私は右腕に噛みつき、脆くなったそれを喰いちぎる。3日ぶりの肉は硬くて、あまり美味しくない。

 

「……ガ……グァ……ァァ」

 

 毒が効いてきたか、イビルジョーは苦しげな声を漏らす。

 元々、放っておけば死ぬ程の傷だ。毒が入ればすぐに死ぬだろう。

 が、ダメ押しとばかりに、右腕に向け変則的なサマーソルトを繰り出した。

 前転のような動きで、より尻尾の棘が刺さるようにした動きだ。

 このまま畳み掛けよう、さらに追撃に____

 

「…………ッグギャアアアアアアアアアアアア!!」

「グ……!?」

 

____両親を殺したイビルジョーが、この程度でくたばるとは思えない。

 今の私は、そんな基本的な考えすらも抜けているくらい腹が立っていた。

 

 イビルジョーは龍属性を口に含ませ、目にも止まらぬスピードで私の左翼の付け根に噛みついた。

 肉が引きちぎられる熱さにも似た痛みに、目の前が点滅するような錯覚を覚える。

 痛い、痛い、痛い____!

 

 私は血を吐き、左翼から血を吹き出しながら地に伏した。

 赤い水を出す噴水のようだ。

 だが、瀕死のイビルジョーもこんな技を繰り出しておいて無事では済まない。

 吐血し、傷口は開いて血を垂れ流している。脚はガクガクと震え、もう立っているのもやっとなようだった。

 

 ____こいつは、私が殺さなきゃいけない。

 

 そう思った私は、今にも気を失いそうな痛みに耐え、左翼を引きずりながらイビルジョーに向かって走った。

 

「ハッ……ハァッ……ガアアァァァァアア!」

 

 掠れた、覇気も何もない咆哮と共に突進。

 赤黒い巨体がぐらつき、焼け爛れた地面を揺らして倒れ込む。

 

「ガ……ァ」

 

 そして、イビルジョーは息絶えた。

 

 勝った。

 手負いとはいえ、幼体であの怒り喰らうイビルジョーに勝ったのだ。

 

 ねぇ、父さん、母さん____仇は討ったよ。

 

 勝利の咆哮をひとつ、私はイビルジョーに喰らいついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イビルジョーがいなくなり1週間後、平和になった森丘のエリア5に私は住んでいた。

 

 イビルジョーの巨体を全て食べたことが理由か、体は一気にイャンクックくらいまで大きくなり、鱗も硬くなったし、動きだって素早い。もちろん、攻撃力は以前と段違いだ。

 そして、左翼の傷は完治している。

 3日間薬草生活のおかげで、肉や皮に薬草の成分が溶け込み、再生能力が上がったらしい。

 そのせいか、ブレスが3連ではなく10連まで続けられるようになった。

 元々リオス種は、高温のブレスを吐いたときに喉を火傷している。それを高い治癒能力ですぐに治し、また新しいブレスを吐いているのだ。リオレイアの治癒能力では3連が限界だったが、私は治癒能力が高いため10連まで出来る。薬草最高。

 

「グル……♪」

 

 いつもより高い声(人間には違いが分からないだろうが)で鳴き、スキップでも始めそうな軽い足取りでエリア6に向かう。

 そう、やっと空を飛べるようになったのだ。

 せっかく転生先が飛竜なんだからと、ずっと飛びたくてうずうずしていた。

 

 エリア6に着き、すぐに翼を広げて羽ばたく。羽ばたき続けるうちに高度100mに到達、前に向かって進み出した。

 

 両親とイビルジョーの激闘後、住みにくくなった森丘ではモンスターが減った。小型モンスターは勿論、強力な大型モンスターすらも寄り付かなくなったのだ。

 

……そう、やってくるのは食糧難。

 体が小さかった頃ならまだ草でなんとかなったが、今は流石にそれだけじゃ生きていけない。

 

 つまり何が言いたいかというと、引っ越しする、ということ。

 引っ越し先は渓流だ。砂漠や雪山より過ごしやすく、水も食糧になるモンスターも多い。つまり快適。

 

 元ハンター故に、森丘からどのルートを通れば渓流に到着するかは知っている。

 道筋が分かれば、人間、主にハンターに気付かれないよう注意するだけだ。

 

 翼を大気に打ち付け、風と一体化したような感覚を楽しみながら渓流に向かう。地上を見て、人間に発見されないようにするのも忘れない。

 

 錐揉み、急上昇、急降下、宙返り……と様々な技を出しながら飛んだ。

 これにもちゃんと意味がある。戦闘中相手を撹乱したり、攻撃を回避したりする練習。あとなにより楽しい。

 

 これ、私が人間だったら「ヒャッホゥ!」って叫んでるくらい楽しいんだよ、いやマジで。

 しかも空は陸より敵が少ないし、警戒はするはするけどそこまで必要でもない……と、思っていたのだけど。

 

「グルギイイイイイイイイイイ!!」

 

 突如聞こえてきた咆哮_____そして

 

「グエェエ!?」

 

 凄まじいスピードで、真正面からバルファルクが突進してきた____。



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4話 追う者、逃げる者、そして闘う者

「元ハンターのリオレイア」から「凄腕ハンターの転生先は最強リオレイアだったようです」にタイトルを変更しました。


「グエェエ!?」

 

 バルファルクの尖った顔が成体より柔らかい腹に突き刺さり、私は間抜けな声を出す。

 今にも全身がバラバラになりそうな衝撃を受け、腹から血を流し、私は回転しながら後ろに飛ばされた。

 そんな私を見据えて、バルファルクが叫ぶ。

 

「キイイィィィィイイイ!」

 

 あー、待って。このバルファルクの目、ちょっと見覚えある。獲物を見る肉食モンスターの目だ。

 

 ____古龍には勝てない。

 

 そうとなれば、逃げるのみ。まだ小さい翼を広げて吹っ飛んだままの体を止め、すぐに身を翻して羽ばたいた。腹を怪我してる割に、今までで一番速い。

 

 だが、音速にも到達する天慧龍にスピードで叶うわけがない。それは分かってる。

 そう……さっき遊びに使っていた、曲芸飛行を使うのだ。

 

 バルファルクの突進を急降下で回避、その間私はスピードを一切落とさず逃走を続けるが、バルファルクは失速した。……計画通り。

 次にバルファルクは翼をこちらに向け、龍気を放出する。私は羽ばたくのを止め、バルファルクのいる方へ急旋回。バルファルクはそれに驚いたのか、一度静止した。

 

 ____動き、止めたな? 残念、それ判断ミス。

 

「ガアアアッ!」

 

 私は短く吼えながら、急旋回の勢いを利用して、尻尾を水平に振り抜いた。狙うは、バルファルクの小さい顔。

 バシィッ!と乾いた音がして、バルファルクの顔は横を向く。

 更にダメ押しとばかりに、その顔面に急ごしらえの火球を数発。

 古龍相手だとダメージは無いに等しいが、逃げられる隙くらいはは作れたと信じたい。

 

 一気に高度を上げ、凄まじいスピードで雲の中に飛び込む。大きな雲に半径数メートル程の穴が空き、すぐに閉じた。

 

 これでバルファルクは私を捉えられない。少しだけ速度を緩め、方向感覚を失いそうな雲の中を進む。

 

 ____そして。

 

 バスッバスッ!と複数回音がしたと思うと、雲が霧散した。

 バルファルクが龍気を放出し、雲を蹴散らしたらしい。くっそ、なんだよその出力。あの雲、結構デカかったぞ!?

 

「ギイイイイイイイイイ!!」

 

 驚きながら振り返れば、もう逃さないとばかりに目を見開いたバルファルクの姿。そりゃあ、古龍サマが飛竜のガキに逃げられそうになるなんて、怒り狂うに足る条件だろうし。

 

 ____あれ、古龍の怒りを買ったって……ヤバくね?

 

 絶望的な状況に生き残れる道を探していると、バルファルクは赤い彗星になって遙か上空へ。姿が見えなくなりそうなくらい高度を上げ……私を狙って隕石のように落下してきた。

 

 かろうじて目で追えるそれを回避するため、私は必死に翼を動かす。こんなところで死ぬなんて冗談じゃない。

 私がバルファルクから逃げるのが早いか、バルファルクが私に激突するのが早いか____本当に命を賭けたデスレース。絶対に負けられない。

 

 が、赤い彗星は私の予想以上に速く____

____吹き飛ばされた私は、海に落下していった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「グ……ゥゥ……」

 

 目を覚ましたのは、小さな島の砂浜。波に流され、ここに流れ着いたらしい。空はオレンジ色に染まっている___もう夕方か。

 血塗れの体は痛むし動かないけど、確かに生きている。

 

 はぁ……良かった。

 

 実はあの時、バルファルクの身体は私に当たっていなかった。私は、数十メートル離れたバルファルクの風圧にダメージを受けて気絶し、海に落下したのだ。

 

 風圧を食らって血塗れで気絶……古龍が強すぎるのか、私がまだ弱いのか。どちらにせよ、もっと強くならなくちゃいけないのは間違いないな、と改めて認識。

 

 私の回復力だと明日には少し動けるようになるだろうが、問題はそれまでどうするか。

 こんなボロボロの身体じゃ、小型モンスター勝てるかも怪しい。ましてや大型モンスターに遭遇した時なんて、もう考えたくもないくらいだ。

 

 首だけを動かしあたりを見回したが、今のところ脅威となるモンスターはいない。

 今のうちにどこかに隠れたいけど、近くに隠れられる場所は…………あった。数メートル先の大きな葉の下。あそこなら伏せれば入れるし、私の黒さなら影と同化できそうだ。

 

 砂の上を這って、5分くらいかけて葉の影に入る。

 とりあえず回復には睡眠が一番だ、と私は目を閉じ____ズンッ、という大きな音と舞い上がる大量の砂に目を開いた。

 

 目の前にいるのは……バルファルク。

 もしかして、私を追いかけて来た……?古龍の執念深さって怖い。

 

「グルルル……ヴヴ……」

 

 唸り、眼光を青く光らせながら私を探すバルファルクに、思わず身が竦む。

 物音を立てぬよう慎重に頭上の葉を咥え、ブラインドを下ろすようにして身を隠す。これで、バルファルクから私は完全に見えない。

 

 どうだろう……このまま見つからなければいいけど。

 苛立ったバルファルクは荒々しく砂を踏み、歩くたびに地面を震わせた。

 

 耳元に心臓があるような錯覚を抱く程、自分の物じゃないみたいに煩く心臓が拍動する。

 速くて大きいそれに伴い、私の不安感も高まっていく。

 見つからないだろうか、もし見つかれば____今度こそ命はない。

 今の身体に発汗機能はないが、人間であれば、冷や汗が絶え間なく頬を伝っていることだろう。

 

 荒くなりそうな呼吸を落ち着かせ、役に立たない視覚以外の感覚を鋭く鋭く研ぎ澄ます。

 これは…………今日一日、眠れなさそうだ。

 

◇◆◇◆

 

 一睡もせず迎えた翌日。島を一周したバルファルクは、この島の私がいる場所の正反対で休息を取っているらしい。

 というのも、半径100メートルくらいの小さなこの島では、対角にいてもバルファルクから発せられる音が微かに耳に届くのだ。

 そして今、私の五感でバルファルクの行動を知らせる音や匂いは捉えていないし、睡眠はとっていなくても傷は少し回復した。

 

 つまり____逃げる絶好のチャンスは、今。っていうか、逃げなきゃいつか見つかる。

 

 細心の注意を払い、必要最低限の動きで葉の下から這い出て、翼を広げ高度を上げながら振り返る。

 バルファルクは____起きて……る!?

 

 まずい、これは逃げられない。

 バルファルク鼻息を荒くし、胸に龍気を溜め込み始める。……私を攻撃する準備だ。

 

 逃げられない、でも生き残りたい。

 それなら……勝つ見込みが限りなく薄くても、絶対的な力を持つ災厄を、古龍を迎え撃つしかない。

 

 ……覚悟を決めろ、自分。

 『陸の女王』たるリオレイアは、例え古龍が相手でも逃げないだろ?『成体じゃないから』なんて、モンスターは言い訳しないだろ?

 そうだ、自然に生きる、というのはそういうこと。

 

「……ガアアアアアアアアァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 私は咆哮で大気と木々を揺らし、口に焔を燻らせ威嚇する。

 決して万全とは言えないコンディションだが、闘えない程でもない。

 

「キイイイイイイイイイイイイン!!」

 

 返ってきた、耳を塞ぎたくなるバルファルクの咆哮も恐れない。

 

 先手必勝だ、と思いっ切り息を吸い込んで火球を10発。今の再生能力じゃあこれ以上撃つと喉を壊すから、一旦そこでブレスを止める。

 バルファルクはそれを容易く避けて見せたが、元人間の知能を舐めないでほしい。古龍といえ、知恵は人間に叶わない。

 

 そう。私が選んだのは、唯一圧倒的有利にある『知恵』を使う戦法。

 バルファルクの攻撃を予測しながらいくつものモーションを思い浮かべ、一番隙の出来ない組み合わせを選択しすぐに行動に移す、それだけだ。

 

 バルファルクはまだ余裕そうだ。その態度が癪に障るが、悔しいけど油断しているくらいが今の私には丁度いい。

 予想通り凄まじい速さで上昇し、突進してきたバルファルクを右への移動で避け、横薙ぎのサマーソルト。頭より硬い背中に当たってしまったのは惜しいけど、確かに少しだけダメージが入った。

 

 驚愕に、振り返って一度動きを止めるバルファルク。驚けば止まるのが、このバルファルクの特徴だ。

 私はすぐにバルファルクの顔の左半分に噛み付き、炎を吐き出した。バルファルクの弱点属性は、龍属性以外。この至近距離から弱点属性の一つである火を当てられれば、流石に耐えられないだろう。

 

 高熱に少し柔らかくなった鱗に歯が突き刺さり、少しだけ抉り取れた肉を嚥下する。

 顔の半分を失ったバルファルクは、その痛みに冷静さを忘れ私に飛びついた。が、伸ばされたバルファルクの腕は空を切る。

 それもそのはず、片目だけじゃ物を上手く捉えられない……私の狙いはそれだ。

 大きくなったバルファルクの死角に入り込むよう、素早く移動し突進、そして間髪入れずにサマーソルト。

 

 ……なぜだろう。この数分で、攻撃の威力がとてつもなく上がっている気がする…………流石に気のせいだよな?

 いや、今はそんなことどうでもいい。重要なのは、バルファルクに勝つことだ。

 私でも、バルファルクに大ダメージを与えられた。勝機は十分にあることは証明されている。

 それに、再生能力が上がったのか、バルファルクから逃げた際の傷は完治に近い状況だ。

 

 低いところから最高にまで跳ね上がったコンディションに内心ほくそ笑んだが、バルファルクが片目を失った不利をそのままに戦う訳が無い。

 

「キイイイイイイイイイッ!!」

 

 バルファルクは体内の龍気を全て出すように、狙いも付けずに龍気を放出。何十発という数になるそれの内、10発が当たって私は地上に落下した。

 衝撃に立ち上がれない私に、バルファルクは上空から再び龍気を溜め込んで放出。急ごしらえのため少ししか龍気は溜まらなかったようだが、それでも5発はあった。

 そのうち3つが私に命中し、仰向けに倒れた私の身体は地面にめり込む。

 

 なるほど。正確な私の位置が分からないなら、龍気を弾幕のようにばら撒いてしまえばいいのか。モンスターといえ古龍クラスなら、それを考えられる知能はあるようだ。

 本気になったバルファルク相手に、私はどう勝てばいいんだ?

 

 思考しているうちに、血が足りず視界がぼんやりとしてくる。やっぱり、普通じゃ古龍には勝てないみたいだ……と、私は目を閉じた。

 

 バルファルクが私のすぐ横に着地し、ゆっくりと歩いてくる気配だけは感じ取る。やがて、バルファルクは口を開き____

 

「ガァッ!」

 

____私はバルファルクの開いた口に、小さな、しかし今までで一番熱い火球を放り込んだ。

 そして、素早く跳ねるように起き上がる。

 

「グゥッ!?」

 

 仰け反るバルファルクの胸___その龍気を溜め込む穴___を、私は尻尾で殴りつけた。そこに、今私が作れる最高濃度の毒を流し込む。

 実は、目を閉じたときに死んだふりをしながら炎と毒を作っていた。普通じゃ勝てないなら、普通じゃない手を使えばいいだけだ。

 心臓に近い位置から毒を流したから、即効性があると言っていいほど死に至るまでの時間は短い。

 

「……ゴフッ!?」

 

 大量の血を吐き出し、倒れ込むバルファルク。

 今が最大のチャンス……これで、私の勝ちだ!

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアア!!」

 

 火のブレスをバルファルクに喰らわせ、私も地面に伏せた。力を使い切り、体中を傷だらけにしたおかげか、立っていられない。

 

 ……バルファルクの目は、開かない。私、本当に古龍に勝った。

 

 喜びが湧き上がってくると同時に意識が遠のき、視界が狭まっていく。

 瞼の重みを素直に受け入れ、私は眠りについた。

 

 ……目が覚めたら、バルファルクを食べて傷を治そう。

 そんなことを思っていた私は、こちらを見下ろす気球に気がついていなかった。



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5話 ハンター、そして狩猟

ハンターのギルベルトさんは黒髪イケメンの設定。


「……強力な特殊個体リオレイア、ねぇ」

 

 俺___ハンターである、ギルベルト・ラウレンツ___は、クエストボードに貼られた新しいクエストを見つめる。

 

 一週間前、生まれて一ヶ月程度のリオレイアがバルファルクを打ち倒したという、ハンターの間であっという間に広がった噂。どうもそれは本当らしく、黒い鱗と赤い翼膜をもった特殊個体リオレイアを調査してほしい、というクエストが慌ただしく追加された。

 

 もしかすると、そいつは___俺が探しているモンスターかもしれない。

 紙をクエストボードから剥がし、受注条件の欄を見る。対象のHR(ハンターランク)は……13。このG級クエスト扱いも、古龍級モンスターのクエストなら妥当だろう。

 俺のHRは、ハンター生活約一ヶ月にして20。受注できるなら、このクエストを受けない理由がない。

 

「……受付嬢、このクエストを受ける」

 

 ほぼ即決で、受付に依頼書を持っていく。

 

「はい、特殊個体リオレイアの調査ですね。お気を付けて」

 

 テンプレであろう返しとともに、依頼書にスタンプが押された。もちろん、貼り付けられた営業スマイルも添えられて。

 親しいハンターとはもっと話をしているところも見たが、そこまで興味もない。

 

 受付嬢のことは置いておいて、リオレイアが本当に探し求めるモンスターか、確かめようじゃないか___と、特殊個体リオレウスの素材を使った愛刀「飛竜刀【紫炎(しえん)】」を背負ってギルドの飛行船乗り場に向かう。

 飛行船に乗り込む前から、緊張やら高揚感やらで心臓がうるさい。

 

 ……待ってろ、リオレイア。

 

◇◆◇◆

 

 バルファルク戦が終わり、大体一週間が経った。

 

 ようやく傷が治った私は、バルファルクの肉を食べている。

 

 うん、バルファルクが意外と美味い。

 肉は硬いけど、なんかバルファルク撃破後に咬合力も上がったみたいだし程よい硬さだ。

 

 バルファルクの肉を食べながら、今までの事を整理しよう。

 

 まず、特殊個体リオレウスと相討ち、そしてどういう訳かリオレイアに転生。これは、竜大戦前の考え方「輪廻転生」とやらだろう。

 そして、両親の犠牲もあり特殊個体イビルジョーを討伐。

 食糧を求めて渓流に引っ越そうとしたところバルファルクに出くわし、苦戦の末勝利、そしてバルファルクを捕食。この戦いの途中でから、異常なパワーアップした気がする。

 

 とまぁ、こんなところだろう。1番気になるのは、「異常なパワーアップ」。その原因は……ん?

 確か私、戦闘中にバルファルクの肉を食いちぎったな……それと一緒に、当たり前ながら血を飲み込んで…………あ、それじゃん。

 

 私の身体は古龍の血を吸収していて……ってことは____私、古龍の仲間入りってことか?

 古龍の定義は、「体内に古龍の血、または浄血が流れていること」だった気がする……あぁ、私、古龍だ。

 古龍種のリオレイアとか聞いたことないけど……まぁ、何とかなる。

 

 考えている間もしっかりと味わって食べていたバルファルクが骨のみになったので、「ごちそうさまでした」の意を込めて翼の先を合わせながら頭を下げる。

 

 ____そこで、こちらを見る人影に気が付いた。

 

「……ヴヴヴ」

 

 「誰だ」と問いかけようと唸ったが、当然伝わらないだろう。

 

「……よぉ、リオレイア。俺はハンターのギルベルト・ラウレンツだ」

 

 答えた……?言葉が伝わったのか?

 そこまで考えて、おめでたい自分の頭を否定する。

 前世の知り合いに、わざわざモンスターに名乗ってから戦闘を始めるハンターがいた。こいつも、恐らくその類だ。

 

 意識を、ギルベルトの言葉からその佇まいに移す。

 

 人間だった頃は見たことがない、特殊個体の素材を利用したであろう黒に近い紫色のパーカーを羽織り、銀色の膝当てだけをつけた黒いズボンという装備。

 そして、これまた特殊個体の素材であろう、背中に背負った見たことが無い、パーカーと同じ色の太刀。

 飛竜刀と見た目は同じだし、リオス種の特殊個体だろうか。

 

 例外なく強力な特殊個体を狩る実力に、何よりもその威圧感。

 太刀を抜いたハンターを見て、警戒を露わにする。こいつ、只者ではない……と。

 

 姿勢を低めながら翼を広げ、目前の強者をしっかりと見据えた。

 これは、もしかして……バルファルク戦よりも苦戦するかもしれない。

 

◇◆◇◆

 

 ギルベルトは太刀を下段に構え、すり足でリオレイアに歩み寄る。

 それに対してリオレイアは、金色の眼光と神経を鋭く研ぎ澄まし、ギルベルトの一撃を迎え撃たんと通常のリオレイアより長い尾を身体の前で揺らした。

 

 ギルベルトとリオレイア、どちらの顔にも油断を表す表情は浮かんでいない。

 共に、目の前の敵が強者であると理解しているが故だ。

 

 やがて、ギルベルトが走り出す。それに普通じゃ考えられない反射神経で反応し、リオレイアも地を踏み砕くような勢いで走り始めた。

 その距離が十分に縮まったところで、リオレイアが飛び上がり前転のサマーソルトを放った。

 ギルベルトは冷静に、しかし力強く太刀を逆袈裟の動きで振るう。

 尾と太刀、その硬さとスピードは常識離れしており、一人と一体の間に火花が散る。

 

(……この人、予想通り____いや、予想の何倍も強い。一歩間違えたら死ぬな。この闘い、やばい____)

(このリオレイア、古龍クラスだ。バルファルクを捕食して古龍化したのか?まぁ、それはどうでもいいか。とにかく、気は抜けない。この狩り____)

 

((楽しいッ!))

 

 互いに相手の危険性を再認識し、一瞬にして戦闘狂二人の本能が騒ぎ出す____血が沸き立つようなこの感覚、久々だ、と。

 

 ギルベルトは刀を引き、同時にリオレイアは後転で尾を引く。

 次に仕掛けたのはリオレイア。着地と共に牙に毒と炎を仕込み、一歩踏み出すと同時にギルベルトの首元に噛み付こうとした。

 口から漏れ出る毒が混じった炎は、禍々しい紫色をしている。

 

 ギルベルトは、被弾直前まで引きつけた噛みつきを危なげなくバックステップで回避。反撃に移ろうとして____慌てて太刀を垂直に構えた。

 追撃しようとリオレイアが使ったのは、尻尾の横薙ぎだ。

 原種よりも攻撃モーションに隙がない。それもそのはず、このリオレイアには人間の知能にハンターとしての知識が備わっているのだ。

 

 生まれて一ヶ月の割には戦闘慣れしているリオレイアの重い攻撃を受け止めながら、ギルベルトは口を開く。

 

「なぁ…………『フォルティス・エーベルト』って知ってるか?」

「……ッ!?」

 

 突然力が抜けたように、リオレイアの尾が弾き飛ばされる。

 その様に、「ビンゴ」とばかりにギルベルトは笑みに口元を歪めた。

 だって、その名は____。

 

「……隙ありぃっ!」

 

 動揺を隠せないリオレイア。そのがら空きの腹部に、ギルベルトは斬撃を叩き込んだ。一撃ではない。二撃、三撃と重ね、四撃目でようやくリオレイアから離れた。

 

 鱗に覆われていない腹はあっさりと切れ、ギルベルトは大量の返り血を浴びる。

 

 してやられた、と悔しがるリオレイアは、ギルベルトにも音が聞こえる程、奥歯が砕けんばかりに歯ぎしりをする。

 

「なぁに、そんな怒るなよ。まだまだ楽しもうぜ、フォルティス?」

 

◇◆◇◆

 

 ____何でだ……何で、何で、何でッ!?

 コイツは、ギルベルトは……何故、私の前世の名前(・・・・・)を知ってる…………ッ!!?

 

 以前の知り合いに、こんな奴はいなかった。

 それに、腕利きだった私を向こうが一方的に知っていたことはあったとしても、モンスターになった私に気付くことはない。

 

 だったら、何故…………!

 

 思考回路が焼き切れそうなほどの頭の回転は、避けざるを得ないギルベルトの攻撃によって中断された。

 

「戦闘中だぞ?考え事なんかしてる余裕あるのか?」

 

 太刀筋を見るに、ギルベルトというハンターは片手間に相手を出来るようなヤツではない。

 知りたいことは色々あるが、今は闘いに集中しよう。

 

「…………フウゥ……」

 

 深く息を吐き、失っていた冷静さを取り戻す。

 見開いていた目が鋭いものに戻った頃、私はギルベルトに突進した。

 横に移動することで容易く回避され、反撃として背中に横一閃を食らう……が、それは罠だ。まさしく、肉を切らせて骨を断つ、と言えるような。

 想像より大分深く斬られ、決して少ないとは言えない血は流れたが……罠を発動しないわけには行かないだろう。それこそ斬られ損だ。

 

「ガア……ッ」

 

 がくりと膝から崩れ落ちた____ふりをして、長い首を後ろに回し、彼の右腕に噛み付いた。共に、本当に少量だが肉を喰い千切る。

 だが、咥えた肉はぺっと吐き出した。

 流石に、人肉は餓死直前まで食べたくないわ……。

 

 それはいいとして、傷は痛いし、そろそろ決めに行こう。 

 

 傷口から血が溢れるのも我慢し、砂を撒き散らして上空へ飛び上がった。

 

 酸素を取り入れるため大きく息を吸い込み、火球を吐き出した___はずだが、ギルベルトの近くに着弾したそれは、6本程度の炎の渦に変わった。

 雲を貫くその渦は、彼を閉じ込める牢獄となる。

 

 自分でも始めて見た攻撃だが、このチャンスを無駄にすることはできない。

 ギルベルトに向かって滑空し、尻尾に毒と炎を纏わせた前転のサマーソルト。

 全力のそれを避けられることはなく、ギルベルトの右肩に直撃して炎の牢獄もろとも彼を吹っ飛ばした。

 

 砂浜で闘っていたものだから、ギルベルトは太刀を取り落としてバシャンと海に落下する。

 

「ぐっ……はぁ……はっ…………」

 

 火傷や打撲、切り傷で血塗れの右肩を抑え、ギルベルトは身を起こす。

 怪我の痛みか毒の苦しさか、はたまた両方か。どれかは分からないが、随分と苦しそうな呼吸音が聞こえた。

 それから血を吐き出す。これは、完全に毒の影響だ。

 とりあえず立ち止まり、ギルベルトを見据えた。

 逃げるなら早く逃げろ。

 

「……殺、さない……のか…………?」

「…………グル」

 

 私にとって害になったり食糧にしなくてはいけないモンスターは別だが、私だって元人間。それ以外の生物、特に人間は無闇に殺したくないさ。

 というか、この戦闘は楽しいけどこれ以上やったら死にそう。

 お互いにもっとレベルアップしてから闘いたい。

 

「……お前の言葉は、分からないけどなっ……好意的、な……もの、として…………受け取っておく」

 

 そう受け取っておけ、実際そうだから。

 

「……また、挑みに来るからな…………フォルティス」

「……グル」

 

 また来いよ、楽しみにしてる。

 そう伝えたくて、通じないと分かっているが小さく唸る。

 

 そろそろ、上空で待機している飛行船からネコタクが来るだろう。

 無駄に警戒させてネコタクの到着が遅れないよう、さっさと立ち去っておくか。

 

 踵を返し、砂浜を後にして森に入る。

 明日には傷も塞がるだろうし、そうしたら今度こそ渓流を目指すか。




かなーり分かりやすい伏線はってみました。すぐバレそうです。


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6話 禁忌、そして不穏な動き

「…………とまあ、例のリオレイアの調査結果はこんな感じだ」

 

 俺が報告書を読み終えると、ガタイのいいギルドマスターが頷く。

 調査クエストでは、調査結果をギルドマスターに報告してクエスト完了だ。

 ……リオレイアには完敗したし、クエスト達成とは言い切れないが。

 

 トン、とギルドマスターが報告書に指を置いた。

 

「なるほど……特に引っかかるのはこの『炎の渦』ってやつだが……こんな規模の攻撃、出来るのは古龍くらいではないか?」

「それなんだけどな、奴は倒したバルファルクを捕食していた」

 

 そう。俺の目の前で食っていたんだから、それは間違いない。

 それから導かれる、異常な強さの原因。その最も有力な仮説は、

 

「それによって、体内に古龍の血が流れているとしたら?……前例はないが、他のモンスターに影響を受けやすいモンスターだとありえるかもしれない」

 

 これだ。それについては、研究者が俺の防具についた返り血を調べてもらっている。

 

「ううむ……だとすると、下手に討伐クエストを出すのも、犠牲を生んで終わりだな……」

「……確かに奴は強力だが、草食モンスターと変わらないくらい友好的だ。今すぐにクエストを出す必要はない」

 

 大人しく研究結果を待って、行動はそれからだ。

 

「ギルドマスター!リオレイアの血の研究結果が出ましたッ!」

 

 ジャストタイミング、と言いたくなるちょうど良さで、ドタバタと慌ただしく部屋に入ってきた白衣の研究者。

 研究者が差し出してきた紙を、ギルドマスターと共に覗き込む。

 

「これは……」

「…………あぁ」

 

 ……予想通りだ。飛竜種の血の中に、バルファルクのものと似た古龍の血が流れている、と。そう、少し汚れた紙に書いてあった。

 

「……古龍の血が検出されたなら、あれはもうリオレイアではない。すぐに情報を更新しなければな」

「それは……奴に古龍としての名前をつけるという事ですか?」

 

 あぁ、とギルドマスターは短く返事をする。

 新種モンスターの名前は、そのモンスターを調査したギルドに名付ける権利が与えられるのだ。

 あの強さに見合った名前……か。

 炎の牢獄を思い出す。

 

「…………名前、獄炎龍フラングニスなんてのはどうだ」

「……別に構わんが、なぜだ?」

 

 ……由来ねぇ。

 ただ単純にかっこよさげな外国語使っただけだけどな。

 

「異国の言葉で『炎』を表すフランメと『牢獄』を表すフェングニスを合わせただけだよ……単純な思考だ」

「ん……?言語は竜大戦後に統一されたのではないですか?」

「……ああ、そうだな。異なる言葉なんて、生まれてこの方聞いたこともない」

 

 研究者が指摘する。

 えっそうなの?知らなかった。

 

「……あー、えっとその。俺、辺境の小さい集落から来たからな。そこではまだ昔の言葉を使ってるんだよ。」

「……そう、か」

 

 イマイチ腑に落ちない様子のギルドマスターと研究者だが、仕方ない。本来の出身地が地球だなんて、言えるわけないしな。

 ……それと、俺が世界を騒がせた紫炎竜リオレウスだったってことも。

 

 我ながら秘密が多すぎるな、と誰にもバレないよう苦笑を零した。

 

◇◆◇◆

 

 同日、塔の頂上にて。

 白いローブの女性と、黒いローブの青年が向かい合っていた。

 二人とも、ローブのフードは被っている。

 

 やがて、白いローブの女性が口を開いた。

 その落ち着いた声は決して低くはないが、畏怖すら感じる重みのあるものだ。

 

「……紫炎竜リオレウスとフォルティス・エーベルトの死と転生についてだけど。……ミラボレアス、どう思う?」

 

 ミラボレアスと呼ばれた黒いローブの青年は答える。

 

「……また地球の神が何かしたんだろうに。『禁忌』たる我らが気にすることでも無いだろう、ミラルーツ」

 

 ミラボレアスによると、白いローブの女性はミラルーツというらしい。

 

「だけど、実際バルファルクが倒された訳だしね。あのリオレイア、見る限りこれより成長すると思うし……私達の敵にはならないにせよ、監視は続けたほうが良いと思わない?」

「……とりあえず、偵察に行ったミラバルカンの帰りを待つしかないか。話はそれからだな」

 

 彼がそう言い終えると同時____上空から(・・・・)人が降りてきた。紅いローブを着た青年。ミラボレアスが言っていたミラバルカンとは、彼のことだ。

 当たり前のように音も立てず着地し、他二人もそれが当然のであるかのように何の反応も返さない。

 ……それもそのはず、彼らはモンスター、いや、世界の頂点に君臨する『禁忌』モンスターの三体。

 伝説の中の存在とされる、祖龍、黒龍、紅龍なのだ。

 今は人の姿をしているが、本来の姿は立派な龍である。

 

「ん……遅かったね、ミラバルカン。で、フォルティスとギルベルトはどうしてた?」

「あぁ、そのことなんだが。

昨日、奴らは小島で衝突、今回は古龍となったフォルティスが勝利した。アイツ、俺達でも見たことのない技を使っていたよ」

 

 ほら、こんなやつ。とミラバルカンは数本の炎の渦を作り出し、それでミラボレアスを囲む。獄炎龍の炎の牢獄そっくりだ。

 ミラボレアスは「鬱陶しい」と軽く腕を振るい、炎を呆気なく霧散させた。

 

「そして、ギルドの研究によって奴が古龍化していた事が発覚し、『獄炎龍フラングニス』の名が与えられた……とまぁ、こんなところだな」

 

 淡々と、見てきたことを説明するミラバルカン。

 ミラルーツとミラボレアスはふむ、と考える素振りを見せ、やがて身をもって攻撃を受けたミラボレアスが話し始めた。

 

「……確かに、脅威にはなり得る。もうしばらく監視し、必要があれば接触しよう」

「……そうだね、じゃあ、今日は解散にしよう。監視は私がしておくから」

 

 その言葉を聞くと、塔が住処ではない二体は人の形をしたまま翼を展開した。

 大きく跳躍すると翼をはためかせ、それぞれの住処……シュレイド城と火山の奥深くに向かって行った。

 

◇◆◇◆

 

「……今日は、集まってくれてありがとう。俺はハンターのグロル・ヴェンデッタだ」

 

 グロルと名乗った俺は、目の前の数百人に向けて静かに声を発する。

 ここは酒場。だが、ギルドや村で運営しているところではない。

 故に、このような大規模な集まりが許可されている。

 

「ここに集まった者は、全員モンスターに恨みを持つ者で間違いないな?……違うのなら、今のうちにここから出て行くといい」

 

 この場にいるのは、性別や年齢などはバラついているものの、全員ハンターである。

 ……それも、全員モンスターを恨んでいるハンターだ。

 

「故郷を、愛する人を……大切なものを奪っていくモンスターが、俺は許せない。それは、お前らもそうだろう」

 

 俺の言葉に、ハンター達は力強く頷く。

 俺は忌々しいモンスターのせいで、故郷を失った。

 彼らだって、同じような体験をしたのだ。

 

「過去に起きた『竜大戦』は、モンスターを絶滅寸前に追い込んだものの……人へのダメージも大きく、決着がつくことなく終戦を迎えた」

 

 ハンター達の顔が、苦しみに歪んだ。

 そりゃあそうだ。竜大戦でモンスターが滅びれば、彼らは、俺は、何も奪われずに済んだのだから。

 愛する人と、愛する場所で幸せな日々が送れたかもしれない。

 モンスターに対する憎しみ、悲しみ、怒り、恨み……どんな言葉を使っても表せないこの負の感情を、抱かずに要られたのに。

 

 怒りに囚われて冷静さを欠く前に、本題に入ろう。

 

「俺は、俺達から全てを奪ったモンスターに復讐したい」

 

 ひと呼吸おいて、続ける。

 

「____『第二次竜大戦』を起こす、という方法で。

人とモンスターの共存なんて馬鹿げた理想を掲げるギルドも、俺達の最大の敵であるモンスターすらも影から操り、人とモンスターの全面戦争に持ち込む」

 

 ざわめきが広がる。

 そりゃあそうだ。『竜大戦』を再び引き起こしたら、人間が滅亡する可能性だって大きい。

 

「…………後日、改めて計画を話す。馬鹿らしいと思うなら、その時は来なければいい」

 

 さっきまで困惑が浮かんでいたハンター達の瞳には、明確な復讐心が宿り始めていた。

 こいつらとなら、上手く行くかもしれない。

 

 そのときの俺は、気付いていなかった。

 

「おー……これは、私達もまずいかもね。獄炎龍と並行して調査していかなきゃ」

 

 そう呟いた、俺達最大の敵、『禁忌』に。



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