アステロイドは揺るがない (夜なべ)
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番外編
何もかも吸い込まれそうな空の下で


放送日にこれを投稿したかった
捏造の鳩原さん注意です


 実は【スピードワゴン財団】は、三門市において独自の監視システムを構築している。近界民(ネイバー)関連以外で、何か『超常現象』が起こっていないかどうかを確認するためだ。和沙のように【スタンド】に関わるものが発生しないとも限らず、また、『超常現象』を見慣れた和沙や財団職員の予測する『土地柄』もあってのことだった。

 

 和沙自身も定期的に市内を見回っているし、迅にも何か見えたら教えてくれるよう頼んでもいる。また、護身用トリガーを借りた財団職員が警戒区域内を見回っていることもある。

 

 この時報告されたのは、『人が消えたように見える』という案件だった。とある人物が警戒区域内の路地に入っていくのを見かけ、それを追いかけたがさっぱり見当たらない。見間違いだったのかとしばらくほかの場所を見回って戻ってきたら、当の本人が目の前を歩いていった、というものである。1度だけならまだしも、2度、3度と同じことがあっては気のせいでは済まされない。それで、和沙がその日、報告されたのと同じ時間に、警戒区域内で待機することになったのである。雲ひとつない、晴れた日のことだった。

 

 結論から言えば、『人が消えたように見える』のは本当だった。というか、実際に消えている、のかもしれない。あとから改めて地図と照らし合わせたが、本来ならその路地は東三門付近にあったもので、第一次大規模侵攻で壊滅した結果すっかり地形が変わり、なくなってしまったはずの道なのだ。しかし現在、和沙と、隣にいる――『路地に入ったとある人物』たる鳩原未来の目の前に広がる景色は、壊滅する前に存在した普通の住宅街だった。

 

 

 

「弟の声がするんだ。でも応えたらいけないんだっていうのは、何となく理解してる」

 

 

 

彼女を追いかけて共に路地に入ってしまった和沙は、それを聞いて思わず顔を覆った。経験がある。どう考えても『ふり返ってはいけない小道』なのだが、それがどうして三門にも……。和沙が入り込めたのは【スタンド使い】だからだろうが、鳩原は……鈴美さんみたいな感じだろうか……幽霊じゃあないけど……。眉をひそめてウンウンと唸る和沙を見て、鳩原はゆるく微笑んだ。彼女とは同じクラスということもあり、話すことにも特に支障はない。だから、彼女の弟が近界民にさらわれていることも、そのために遠征を目指していたが『人が撃てない』という理由で選抜から外されたことも、和沙は知っていた。直後は本当に落ち込んでいた様子だったのだが、今はそんなそぶりもない。鳩原は和沙の隣を歩きながら、のんびりと告げた。

 

 

「別に、ここに私の家があったとかじゃないんだけど。声は聞こえても、弟の姿も見えないし。でもどうしても聞きたい時があって、そうするとこの道が現れる。そういう時、ぐるっと一周してから戻るんだ」

「何度も来といて毎回ちゃんと出口から帰ってきてんのかァ!? こう言っちゃあなんだが……タフだなお前」

「そうなの? ていうか、ここに気づいたの、周防くんだけだよ。何か知ってるんだね?」

「……まあな。故郷にも同じようなところがあった。妙な表現をするようだけど……『空間の幽霊』みたいなもん、じゃあないかと思ってる。こことは大分様子が違うけど」

「『空間の幽霊』か、そうなんだ……ここだけかと思った。世の中には案外、知らないだけってことが多いのかもね。近界民みたいに」

「あるぜ。本当にたくさん。じゃなきゃ【財団】が部門設立してまで研究しねーし」

「なるほど、それもそっか。……そういえば明日、犬飼くんの誕生日なんだ」

「ああ、そうだったっけ」

「隊のみんなで焼き肉に行くの」

「いつものとこか?」

「そう。たくさん食べようと思って。犬飼くんより。彼のお祝いなのに悪いけど」

「鳩原、そんなに食うやつだっけ」

「ううん、普通。でも、そうだな……元気つけないと、と思って。今後のために」

 

 

ゆったりと他愛もない会話をしながら、その言葉の裏に何かを感じて、和沙は思わず口を噤んだ。そんな中、そろそろ出口に差し掛かるのが、雰囲気で分かった。『ここ』にいるものは、杜王町にいるものよりも執着がないらしい。『引き留めよう』『ふり返らせよう』とする意思をさほど感じないのだ。

 

 

「いい天気だね、周防くん。吸い込まれそうな青空ってこういうことを言うのかな」

「お前そういうとこあるよなァ〜……」

「あ、ほら、聞こえて来た。弟の声。わかる?」

「ああ。弟さん、こういう声してたんだな。……念のためだけど、振り返るなよ」

「うん。いつもすぐ通り過ぎるよ。今日は本当に、ちょっと聞きにいこうと思ってただけだし」

「そうか…………お、抜けたな。出口だ」

「道も消えた。毎回不思議なんだけど、どうなってるんだろう」

「まあ多分、お前の気がかりが一旦なくなったからじゃあねえかと」

「そういうものかな。……じゃあ、そろそろ行くね。これから本部待機だから」

「おう。気ぃつけてな」

 

 

鳩原と会話したのは、それが最後だ。本部も把握していないだろう。あるはずのない小道など、本来は自分のような人間が見つけることができるものなのに。今となっては確認しようもないが、鳩原にもおそらく、『何らかの素質』があったのかもしれない。

 

 ボーダー本部に報告はしていない。鳩原との会話は和沙だけが。『警戒区域の振り返ってはいけない小道』は、和沙と【財団】だけが知る秘密だ。常に和沙が見回っているし、監視網も確認しているが、その後ぱったりと消え失せてしまったからだ。

 

 

 鳩原未来は一般の人間にトリガーを横流しし、さらにはその人物たちと無断で近界へと渡航したと見られている。

 

 所属していた組織であるボーダーにおいて、彼女の行動は重大な隊務規定違反である。それに付随して様々な根回し等が行われ、二宮隊は彼女の行動の責任を取ってB級へ降格した。上層部をはじめとして関係各所が奔走したのも知っている。この三門市を、そして隊員も含めた人を守るために、ボーダーという組織がどれだけ心を砕いているのかということも。和沙だけでなく、所属する隊員たちは皆、自分なりに理解しているつもりだった。

 

 それでも、それに背くと決断するほどに、きっと彼女の『覚悟』は生半可なものでなかった。たとえ唆されたからだとしても。批判され、もしかしたら裏切り者と呼ばれるかもしれないことも。途轍もなく危険で、もう戻れないかもしれないことも当然覚悟の上で、自分の『納得』のために行動することを彼女自身が選んだ。ボーダーにいては掴めない、弟がさらわれた一件の『真実』を求め、自らの意思でそれに近づこうとしたのだ。

 

 きっと誰も彼女を責めてはいないだろう。責任を直接負わされた二宮でさえ、真意を知りたいというだけのように感じられた。だから、和沙としても、決して彼女の選択を否定する気はない。否定したくは、ない。彼女が起こした行動は、きっと後に繋がるはずだ。『そうであるように動かされた』としても、だれかの導となったことには違いはない。自分たちにできるのは、彼女の導を先へと進めることだけだ。

 

 

 

 空を見上げて深呼吸をした。季節は違えど、今日もあの日と同じような、吸い込まれそうな青空だ。

 

 

 

 

 




アバッキオ……お前は立派にやったのだ……

※6/5:20巻カバー裏にて鳩原が当真たちと同じクラスだったことが発覚したため取り急ぎ部分的に修正しました……マジか……引かれあっているのか……? 『運命』というやつか……?


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本編
プロローグ:ホワット・ア・グレート・ワールド


ワールドトリガー連載再開&ジョジョ5部アニメ化おめでとうございます
※元の短編を大幅に分解・再構成・加筆修正しました


 『覚悟した者』は『幸福』である、と言った人がいる。

 無意識にでも自分がこれからどうなるのかを知っておけば覚悟ができる、絶望を吹き飛ばすことができるからだと。

 しかし、本当に『未来を視る』ことのできる迅悠一は、そう思ったことはない。たとえどのような未来であろうと、必ず犠牲にしなければならないものが存在する。そしてそれは、たったひとり未来を知り、そうなるように何かや誰かを動かした――もしくは動かさなかった自分が負うべき責任だと、そう考える人間だからだ。

 だからこそ、『彼』に出会った時、頭を鈍器で思い切り殴られたような衝撃を受けた。

 己の価値観すら塗り替えられてしまうような、それまで見ていた世界が一気に混ざり合って、違うものに構築されてしまったような。そんな、劇的な変化を目の当たりにした。とても『奇妙』な経緯でこの三門市にやってきた彼を見定めなければならなかったのに、一目見た瞬間に()()()()しまったのだ。瞬く間に脳裏に広がった『未来』を見て、彼がどういった人間であるのか、頭でも心でも理解したと思った。そして、ああもしも本当に、そんな未来がやってくるのだとしたら――心の底からそう思った。そんな彼は迅を前にして、何の屈託もなく手を差し出した。

 

「俺は周防和沙。よかったらだけど……あんたの名前を教えてくれよ」

「――迅。おれの名前は迅悠一だよ」

 

 それは、黄金のような夢と評されることもある。この人ならばと思ってしまう希望。何かを導く『星』のような輝き。もしくは、世界を変えてしまうきっかけ、『引き金』となり得るもの。これまで数多の未来を観測してきた迅にとって、その人は確かに、暗闇の荒野に切り開くべき道を示してくれる光明であったのだ。

 

 

***

 

 

 そうしてぼんやりと出会った頃のことを思い返しつつ、迅はモニターを見つめた。ボーダー本部のラウンジは現在、休憩をとっている者、迅と同じようにモニターを見ている者などで賑わっていた。会いにきた『彼』は現在、あの村上鋼と個人戦を行っているようだった。確か同い年で、クラスは違うけど仲良いんだっけな、と以前に聞いた記憶を思い起こした。村上は鈴鳴支部所属であり、本部にいること自体は珍しくはあるが、時折、個人戦を行うためにこちらにやってくることもあるというのは知っている。

 モニターの表示を見ると、10本勝負のうちの最後の1試合らしい。勝敗はある程度拮抗している。村上が4勝、そしてその相手の『彼』――周防和沙(すおうかずさ)が5勝と表示されていた。

 村上が【旋空】を撃とうとして【弧月】を構えた瞬間、和沙は、いっそ美しいとも思えるほどの光の雨――決して途切れぬ【アステロイド】の弾幕で以て牽制し、決して間合いに踏み込ませない。村上が【レイガスト】で上手く弾丸を防ぎつつ、弾幕の隙を縫って突破しようとすれば、和沙は【アステロイド】のフルアタックから片手分を瞬時に【バイパー】に切り替え、盾を迂回し本体を狙う軌道で放つことで村上の行動を阻害する。

 和沙はトリオンキューブを細かく分割し、それを精緻に並べて操ることを好んだ。弾幕シューティングが好きで、射手(シューター)をやるからには、その弾幕の再現を一度はやってみたかったのだといつぞやに話していたことがあった。自分の理想の弾道を引くからと、同じ射手である那須の戦闘ログを度々見返していたこともある。

 ここで、村上の方に変化があった。防戦一方であったと見せかけ、わずかに途切れた弾幕の隙をついて、【スラスター】で加速させた【レイガスト】を放ったのである。相手が盾を手放したことに一瞬虚を突かれた和沙は、回避したことにより村上の接近を許した。辛うじてではあるが、【旋空】が届く間合いである。すかさず撃たれたそれを――和沙はしかし、()()()()()()()()()()()()()()バックステップで即座に間合いから離脱した。体勢を立て直したものの、かすかに切れ目は入ったようで、白い煙のように見える【トリオン】が漏れている。

 互いに一瞬でも隙を見せれば、そこにすかさず付け込んでくるため、下手には動けない――。一進一退の攻防が続く中、お互いの表情には笑みすら浮かんでおり、双方が充実した戦いをしているのが分かる。楽しそうで何よりだと、なんとなく安心した気持ちになった。

 それにしても、と。戦う和沙を見ていた迅は思わず、軽く引きつった笑みを浮かべた。

 

「相変わらずすごいな〜……あの改造学ラン」

 

 

 

 

 周防和沙という人間が、当初からかなり『目立つ』人間であったことは確かだった。まず何より目を引いたのは、その風貌である。

 ボーダーにおいては「市民に威圧感を与えない」ことを理由に、ジャージスタイルの隊服が一般的である。しかし彼は、生身だけでなくトリオン体ですら、それに真っ向から反発するような様相をしていたのだ。

 決して地毛ではないだろう明るい茶髪に、両耳に付けられたピアス。そして――実に様々に装飾をあしらった改造学ラン。背は高い上に、顔かたちなどの容姿自体は悪いわけでもなく、髪型もリーゼントでこそなかったが、しかし、既にこの外見から導き出される印象は決定的だった。どこからどう見ても、典型的な『不良』と呼ばれる存在だったのである。和沙に言わせれば、「これで動くの慣れちまってるから」というだけの理由であったのだが。

 さらに、初めて本部にやってきた時、後ろに黒スーツにサングラスの人間を引き連れてきてしまえば、彼の印象が固定されてしまうのは太陽が東から昇ることのように当然だった。そしてこの黒スーツの人間というのが、大口のスポンサーである【スピードワゴン財団】に所属する職員であり、和沙がボーダーに所属することになった大本の理由である。

 2年ほど前、ボーダーは財団からひとつの依頼を受けた。『ある少年にトリオン能力検査を受けさせたい』という、内容自体は平凡なものである。しかしスポンサー側から依頼されることは滅多になく、本部側も首を傾げながら依頼を受け入れた。少年は財団職員に付き添われ本部を訪問し、検査を受けた。結果として、彼は既に在籍していたボーダー隊員の誰よりも『トリオン能力』が高く、さらには【サイドエフェクト】も所持していることが発覚した。ランクこそCの『強化動体視力』であったものの、その精度は抜群に高いものだった。こうなってはボーダー側として彼を逃がす理由もなく、上層部と面談を行い勧誘し、少年もそれを受け入れた。こうして少年……和沙は周囲に『不良かつスポンサー側の肝入り』という印象を与えてしまい、良くも悪くも話題をかっさらいやすい存在となってしまった。

 当然、当初は彼を見る目は良いものばかりではなかった。しかし、和沙はそれを物ともせず、すぐにその実力を示した。

 奇妙なことだが――どうにも慣れているような動きで、選んだ射手トリガーもすぐに使いこなし、トリオン兵を次から次へと屠っていった。対人戦においても、初めから怯えることもなく立ち向かい、きちっと成果を積み重ねた。驚くほどのスピードで個人ポイントを稼ぎ、結果的にボーダー内でも指折りの射手(シューター)に数えられるまでになり。そうして、彼は次第に周囲の者たちから相応の高い評価を得ていった。一時はA級部隊に所属していたこともあったのだ。

 

 

(まあ、経緯自体は『表向き』というやつでもあるんだけど……さて、終わったか)

 

 

既に試合には決着がついていた。

 迅はブースから出てきた2人を見つけると、そちらへ歩き出した。モニターには6対4──休憩を挟み前半3本、後半3本で周防和沙の勝利という結果が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 迅が近づいてきたことに最初に気づいたのは村上の方だった。先ほどの個人戦について、互いに感想戦のようなものを行っていたらしい。

 

「村上、まーた俺の弾幕パターン覚えたろ。やり難いったらありゃしない。最後の不意打ちバイパーも絶対決まったと思ったのになァ〜〜」

「はは、休憩挟んでまで覚えたのに、まったく勝率変わらないお前が言うことじゃないな。大体あんなに早い弾丸の切り替えなんか、覚えてなきゃ追いつけなかったよ。……あれ、迅さん」

「迅さん??」

 

突然の話題の転換に、和沙から呆けたような声が出る。その発言でようやくこちらに気づき納得したような表情を見せたのに、くくっと笑って手を挙げた。

 

「よう、お二人さん。いい勝負だったな」

「見てたんですか」

「和沙にちょっと用があってさ。いや〜、こいつ目立つから見つけやすくて助かるわ」

「ああ、分かります」

「分かりますって……いや目立つのは分かるけどよォ〜。でも俺の地元の高校生みんなこんなんだったって……俺だけじゃあないって……」

 

ぶつぶつと訴える和沙の背をぽんと叩いて、「借りてくな」と声をかけつつ歩くのを促す。頷いて見送る村上は本当に良い奴だな、と呑気に思った。個人戦ブースを離れ、人気のある場所から遠ざかるようにしばらく歩いていると、「……それで」と隣から声が発せられた。

 

「メールや電話じゃあなくて直接ってことは、結構重要なことですよね。迅さん、そういうところ律儀ですね」

「いやあそれほどでも。……頼みがあってさ。それ自体は、身構えるほどのことじゃないんだ」

 

立ち止まって自然と向かい合う。同じくらいの高さにある少年の目から決して視線をそらさずに、迅はそれを告げた。

 

「今夜の防衛任務に一緒に来てほしい。お前がいることで『未来』が良い方向に変わる可能性が高いんだ。それも、今後のボーダーの未来を左右するくらい。――おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

数秒の沈黙。のち、和沙は「わかりました」と表情を変えぬまま頷いた。それを受けてふ、と無意識のうちに詰めていたらしい息を吐く。彼の前ではどことなく、感情を表に出してしまいやすくなっているなと内心で苦笑した。「だけど、迅さん」和沙は目を合わせたまま、何でもないように言葉を続けた。その目の奥にはきらりと光るものがあるように迅には思えた。

 

「いつも言ってるけど、もっかい言わせてください。――俺が信頼してるのは『未来視』じゃあなくて『迅さん』っつー人で、あなたについて行くのも『俺がそう決めた』だけの事ですから。『巻き込んだ』とか、思わんでくださいよ」

「……うん。和沙なら、そう言ってくれると思ったよ」

 

それを聞いた和沙が肩をすくめたことがきっかけとなって、空気が緩んだ。仕方ないと言いたげな視線を向けてくる彼に「何か埋め合わせ……ああいや、お礼するからさ」と迅が告げると、途端にぱっと顔を輝かせた。

 

「じゃあ今から近接戦闘の実践に付き合ってくださいよ」

「えっ、……ああ、アレ?」

「そうです、定期的にやってるあれ」

 

和沙が入隊した経緯においてひとつだけ、噂にすらならなかったものがある。上層部と迅、当事者である和沙、そして──スポンサーである財団の間で完全に秘匿された『重要機密』。

 

「【キラークイーン】の操作訓練。相手に不足なし、ということで」

「参ったな……けどいいよ、久しぶりだしな」

 

心なしかひくりと迅の口元が引き攣った。さすがにあれを相手にするのは骨が折れるのだ。手持ちがノーマルトリガーである時なら尚更だった。決まりですねと『それ』が保管してある開発室方向へ歩き出す和沙の後を、しかし結局は微笑みながら半歩ほど遅れて続く。

 【キラークイーン】。財団と和沙がそう呼ぶので、おのずと名前は決まっていた。その能力は『触れたものを爆弾にする』──当時、それを財団職員はこう説明した。

 

「そちらの形式で言えば。【黒トリガー】だというこの腕時計の作成者の名は『吉良吉影』。和沙くんの故郷、杜王町の平和と誇りを脅かした、殺人鬼です」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その『黒い腕時計』は、前もって財団からボーダーへ調査依頼が来ていたものだった。財団は最初期からボーダーのスポンサーを担っており、【トリオン】の存在も知っていた。『黒い腕時計』がどうやらトリオンで出来ているらしいと財団側の調査で判明し、詳しく調べてほしいとの依頼だった。

 そして、その『黒い腕時計』を解析したボーダー側は驚愕した──それが紛れもない【黒トリガー】であるとの結果が出たからだ。空気は途端に緊迫したものになった……【黒トリガー】は、人間の命と全てのトリオンを【トリガー】に注ぎ込んで生成されるものであり、つまりそもそも【トリガー】自体が無ければ作られない。そんなものが、ボーダーも把握していない全くの無関係なところから出て来たとなれば、様々な可能性……それこそ危険性とも言えるものを考慮しなくてはならない。ボーダーはすぐに、厳密な情報統制のもと、重要機密として財団側に調査結果を報告し、入手経路を尋ねた。それに対し財団側は実際に会って説明したいと述べ、加えて、ひとりの少年のトリオン能力検査を依頼した。その少年こそ周防和沙であり、『黒い腕時計』の持ち主だった。彼は難なくその【黒トリガー】を起動してみせた。そこでボーダー側は、未知なる【スタンド】という概念を初めて知ることとなった。

 

「まずお話ししなくてはならないのは、【スタンド】という概念についてです」

 

会議室。和沙を椅子に座らせてから、司令である城戸を筆頭とした上層部と迅を前に、黒スーツにサングラスの財団職員──花京院典明(かきょういんのりあき)は話を始めた。失礼、と断ってからサングラスを外す。その両の瞼にはうっすらと傷跡が残っているのが確認できた。彼曰く、【スタンド】とは生命エネルギーが作り出す力ある(ヴィジョン)。人間の精神の発露。そばに現れ立つというところから名付けられた。分かりやすく表現すれば『適性のある者に発現する超能力のようなもの』であり『能力は発現した者の精神性による』のだという。自分も、そして和沙も、その能力を宿す【スタンド使い】と呼ばれる者だ、と名乗った。財団職員というだけでは物足りない、修羅場を戦い抜いてきた戦士のような風格はそのためか、と思い――それを聞いた上層部の面々と迅は顔を強張らせた。その特性から考えてみれば、【スタンド】は【黒トリガー】と大きな変わりのないものではないか。

 

「では、その【スタンド】とやらと【トリガー】に一体何の関係があるんだね」

 

冷や汗を滲ませつつ、鬼怒田が花京院に尋ねた。花京院は頷き、話を続けた。

 

「端的に申し上げれば、この和沙くんの【スタンド能力】によって、死ぬ寸前だったとある男から『黒い腕時計』が生成されたのではないかということです。我々はその男の【スタンド】から、これを暫定的に【キラークイーン】と呼んでいます」

 

 その男の名を吉良吉影という。花京院自身も殺人鬼であった彼が死んだその場に居合わせたが、【トリガー】は当然そこには存在しなかったし、何らおかしなことはなかった……()()()()()()()()()()()()()()()()()。それならば和沙の【スタンド】が【トリガー】の代わりをしたとしか考えられないと花京院は告げた。これまで本人すら正確な能力を把握していなかったというその【スタンド能力】こそ、『トリオンを操る』ものであると仮定すれば、和沙のトリオン能力検査の結果が非常に優れていることもその証拠となり得る。トリオン器官は使わなければ成長しないものだからだ。そして彼が現在【スタンド】の発現が出来ないことも関係しているだろうということだった。こんなことは初めてで、様々な可能性が考えられるが、おそらく【黒トリガー】に閉じ込められているような状態ではないか、と説明した。そして最後に、『黒い腕時計』を財団とボーダーとの共同研究対象として監視下に置き、これを究明することと、和沙の保護を要請したのである。

 

「これから何が起こるのか予想もつかない。【スタンド】とは、それほどの可能性を秘めた力なのです。その上こちらにほぼ知識のない【トリオン】に関するものとあっては、周囲だけでなく和沙くん自身に危害が及んでも対処できないかもしれない。我々【スピードワゴン財団】の超常現象対策部門として、この一件は決して見過ごせるものではありません。【トリオン】の専門研究機関ともいえるあなた方にお力添えをいただきたい」

 

見過ごすことができないのは、当然、ボーダー側も一緒だった。和沙のトリオン能力はボーダーとして決して無視できるものではなかった。幸いにして、こちらには危機を事前に察知することのできる者がいる。上層部の面々は全員で素早く顔を見合わせた後、迅を見た。『未来』は大丈夫なのか。未知の能力が関わる謎の【黒トリガー】が適合者と共にボーダーの監視下に入る。これはボーダーに、三門市に、何をもたらすものなのか。その中で迅の答えは既に決まっていた。

 

「大丈夫だよ」

 

きっぱりと言い切った彼に、一瞬意外そうな目を各々が向けた。それを受けても、迅はただ静かに相手を見つめるだけだ。忍田が改めて花京院と和沙に向き直り、一言も発さずじっとボーダー側の面々を見つめていた和沙に対し、「我々も戦力が必要だ。君さえ良ければ、力を貸してほしい」といった旨を伝えた。和沙は静かに立ち上がり、深々と頭を下げた。そして顔を上げ、毅然とした態度でこう告げた。

 

「俺が――いや、『俺も』この三門市(まち)を守ります。あなた方と一緒に……どんなことが起ころうと」

 

ああ、と迅は唇をかみしめた。花京院は心なしか眉を下げ、眩しいものでも見るように目を細めていた。迅はもちろん知る由もなかったのだが、その場にいた者はその時同じ『輝き』を目にしていた。

 それは、かつて星の一族から代々その血統に受け継がれ、いつしかその血統を超え、和沙の故郷たる杜王町の若者たちに根付いた【黄金の精神】が、三門市において新たに伝わり始めた瞬間だった。

 そして同時に、『数奇な運命』が動き出したはじまりの瞬間でもあったのだ。

 

 

『未来』とは、『結果』であり『運命』。

これは、ボーダー隊員たちと、M県S市杜王町からやってきた少年の【近界民】にまつわる数奇な運命を追う物語である!

 

 

 

 

***

 

 

そしてその夜、新たな『未来』が切り開かれる。

 

 

 

 

「よう、無事か? メガネくん」

 

 

 

 

三雲修は、あの夜をいつまでも忘れない。

 

 

 一刀のもとに両断された近界民の上からこちらを見下ろし、声をかけてきた青年の姿を。

 そして、近界民に襲われる寸前に目の前に立ちはだかり、ずっと庇ってくれていた学生服の青年の背を。

 奇しくもそれは、和沙の『幼馴染』が『憧れの人』に抱いた感情とよく似て。

 

 

 三雲修は絶対に、それを忘れることはない。

 




5部アニメ化お祝いなのに要素は4部
テーマ的にはどちらかというとワートリは5部では? という気もします


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周防和沙の新しい事情

元の短編を分解・再構成・加筆修正して2話分にしました
今月のワートリ発売前に投稿したという事実が欲しかった


 ウィンターシーズン到来!

 とは言えど、三門市にはさして雪は降らないし、降ったとしても積もらない。そこそこ空気が冷えてくる程度で、和沙は出身地が三門市より北の地ということもあり、「まだ薄手の防寒着でも十分なくらいだな」と思っていた。実際、この町の学生たちはこの季節でも屋上で昼食を食べる者も多い。しかし暦の上では12月、街中を歩けばクリスマス商戦仕様の店が並び、目や耳を楽しませてくれる。自分の故郷ほど観光に力を入れた町ではないけれども、お楽しみはそれなりにいっぱい、なのである。

 例えば、そう。こうして学校帰りに友人たちとコンビニに寄って、肉まんやらを買い食いするなんていうことも、冬の学生の日常らしくて乙なものと言えるのではなかろうか。

 自分を含めた4人でやって来て、そのうち2人はコンビニ内を物色して。自分ともう1人はそう断ってから漫画雑誌を立ち読みする。友人と並んで有名少年誌のページをめくっていると、見慣れた名前と絵柄が目に飛び込んできた。岸辺露伴。ピンクダークの少年。ちょうど2年前の今の時期に始まった第4部であるが、そろそろ物語の核心に迫って来たところだろうか。かの人の顔が思い浮かぶ。故郷の幼馴染や友人とはわりと定期的に連絡をとっているのだが、彼とは帰省した時に挨拶をして少し会話する程度になってしまった。そろそろ年の瀬の帰省になるが、三門土産でも持っていこうか。ああ、そういえば故郷はもう初雪が降ったのだろうか――――そこまで考えたところで「お待たせ〜」とのんびりした声が聞こえて、和沙の意識は引き戻された。つい思考が飛んでしまったらしい。隣に並んで同じく漫画雑誌を見ていた友人……影浦が「おっせーぞ! 何分かかってやがる」と相手に軽くつっかかっている。顔を上げれば、店内を物色しに行っていた友人2人……北添と村上が戻ってきていた。村上に「和沙も悪いな」と声をかけられたので、「そんなに待ってねえから平気だぜ」と軽く雑誌を持ち上げて応える。

 

「この時期、限定もの多くて迷っちゃうんだよね〜。あ、『ピンクダークの少年』読んでる」

 

開いていた紙面を見て北添が目を輝かせた。村上もああ、と頷いて微笑んだ。

 

「面白いよな、これ。うちの隊もみんな読んでる」

「うちの作戦室にも既刊は全部あるしね、揃えたのカゲだっけ?」

「いや、半分くらいは光のやつ。あいつ、この作者の短編集も全部持ってるくらいファンだからな。ユズルもこれは好きらしい……おい、なんか刺さってきてるぞ和沙、痒いんだよ」

「ああ〜〜ッつい……悪ィ。やっぱり露伴先生はスゲェ漫画家なんだと思ってさ」

「はは、知り合いみたいに言うんだな」

「おっと、そう聞こえたかァ? ま、とりあえず帰ろうぜ」

 

 大変に高評価だ。さすがは露伴先生と言うべきだろう。あの人の漫画にかける情熱は本物だし、尊敬すべき部分だとはっきり言える――程度が行き過ぎなければ、だが。彼との最初の邂逅を思い出せば、何とも複雑な思いを抱かざるを得ない(それが影浦に刺さってしまったようだ、申し訳ないと思った)。こうして純粋に彼の作品を好きだと言っている読者も、作者本人に実際に会ったら印象が変わってしまうかもしれないな、と思う。けれど彼はあれでいて読者に対しては寛容だ、サインくらいスペシャルサンクスと言ってのけるほどに。……経験上、異世界の怪物と戦う防衛隊員の経験たる『リアリティ』を欲して【スタンド】を使いかねないので、やっぱり直接は会わせない方が良いのだろうけれども。

 コンビニを出て歩くうち、村上たちは既に別の話題に移っていた。明日影浦と村上のクラスは小テストで、その範囲がちょうど任務と重なり授業を受けていない時のものらしい。ボーダー隊員はなかなかに任務が不規則なので、こうして学校生活に穴を開けてしまうこともしばしば起こり得る。

 

「当真くんたちもしばらくいないし、帰ってきてから大変だろうね」

「こいつにノートとか頼んでんじゃねーの」

「おう、まあいつものことだしなァ〜〜。それにこっちには今先生という強〜い味方がいるもんで」

「今のノートすごく分かりやすいよな、俺もよく見せてもらうよ」

「はぁ!? 俺にも貸せよ!」

 

 わいわいと騒ぎながら家路を辿る。和沙は当真や国近、今とは同じクラスのため、わりと授業に関するやり取りも多くなる。当真という人間を思い出すと、そのヘアースタイルからまたも少々郷愁に駆られたりもするのだが――。今日はどうにも感傷的になりやすいなとぼんやり考えた。

 その時、それなりに大きな破壊音が響いてきた。もちろん警戒区域の方角だ。周囲の人々はちらりとその方角に視線を向けた後、何事もなかったかのように歩き出した。三門市がこうして戦場になってから数年経つが、市民はすっかり警戒区域から届く閃光や爆音に慣れてしまっていた。自分たちを襲いかねないトリオン兵やボーダー隊員の戦闘に興味を持ち、望遠で動画を撮っては話題にする者も少なからず存在する。しかし。

 

「……わりと近ぇな。大量の【メテオラ】でも使ったか?」

「この分じゃ警戒区域との境界ギリギリじゃないかな? 珍しいね」

「誘導誤差、結構ありそうだな」

 

影浦たちが会話をしている横で、和沙はしばらく、じっとその方向を見つめていた。

 

 

***

 

 

 杜王町。東北地方にあるその町の人口は国勢調査によると5万8千713人。町の花はフクジュソウで、特産品は牛タンのみそづけ。縄文時代の遺跡も残る、古い歴史を持つ町。

 和沙の故郷であるこの町で、2年前の春から夏にかけて事件が起こった。【弓と矢】、そして【スタンド】を巡る事件だ。和沙は同じ【スタンド使い】である幼馴染やその親族、友人とともに、解決のために奔走した。

 最終的な犯人は町民として暮らしていた連続殺人鬼だった。初めて殺人を犯した15年ほど前から証拠を残さず潜み続け、その間も何人も殺害していたという男。町の『誇り』と『平和』を、誰も気づかぬうちに奪い続けていた人間だ。杜王町は随分と前から行方不明者数が不自然に多かったのだが、その被害もそいつによるものだと後からわかった。さらに事件を追う中でも何人も犠牲者が出てしまい、杜王町はとても深く傷ついた……。その傷は数年経った今でも癒えてはいない。完全に癒えることはこれからもないだろう。

 吉良吉影は結局、逮捕されはしなかった。その前に車に轢かれて亡くなったからだ。『事故死』として片づけられ、その魂は町の守護聖霊曰く『安心なんてない所』に連れていかれた。そのはずだ。だって男が死ぬところをこの目で見たのだから。

 

 ――――では、この『黒いもの』は何なのだろう? 自分の手の中にあるこの『黒い腕時計』は? あの男が吹っ飛ばされる間際に触れてしまった、この手に残った『これ』は一体? たった今目の前に現れた、死んだはずの男の【スタンド】のヴィジョンは?

 

 それこそが【キラークイーン】――和沙の【スタンド】により吉良吉影から生み出された【黒トリガー】だった。

 

 和沙はその事実を理解した時、確かに恐怖した。

「まさか、まだ終わっていないのか?」

そう思った。あの男の何としても生き延びるという執念が、死んでからもなお自分に付き纏っているのではないか──そんな想像が頭を離れなかった。

 和沙は触れてしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その男に、『トリオンを操る』そのスタンドを発現したままで。

 全くの偶然だった。いや、それもまた『運命』であったのかもしれない。あの男は『命を運んでくると書いて運命』と評した。『運は自分の味方だ』とも。【黒トリガー】は、考えようによっては死者そのものであるともいえる。

 和沙が生み出してしまったものは、町の平和を脅かした『殺人鬼』の【黒トリガー】なのだ。

 

 ()()()()()、『覚悟』を決めた。三門市を故郷の二の舞にはしない。異世界からの侵略者である【近界民】には、この町の『誇り』と『平和』を奪わせてはならない。そして、自分のスタンド能力も、そしてトリオン能力も、町を守るための力だと示すべきだと思った。請われて力を貸すのならなおさらだ。だから、こう伝えた。ボーダーに所属するという意思を。

 

「俺が――いや、『俺も』この三門市(まち)を守ります。あなた方と一緒に……どんなことが起ころうと」

 

幼馴染は、警官だった祖父を一連の事件で亡くした。何十年も町を守った立派な正義の人だった。その時、彼は『代わりに』自分が町を守ると宣言した。正義の心を『受け継いだ』のだ。和沙がその言葉を借りたのは、自分の意思も『正義の心』であることの証明だった。星の一族や故郷の友人たちに恥じぬ行いをするための、固い決意だった。

 そして、町を深く傷つけた力で、町を傷から守ることができたなら。その時こそ、この事件から、その殺人鬼の執念から、解放される時だと思った。いや、絶対に解放しなくてはならない。この力ごと昇華しなければならない。その役目は他ならぬ自分が、その力を『受け継いで』しまった自分が果たすべきなのだ――。

 

 こうして和沙は、住み慣れた杜王町を離れ、新たに三門市でボーダー隊員として活動することになったのだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 和沙は彼らと別れてからボーダー本部に連絡を取った。先ほどの破壊音について把握しておきたかったからだ。話によれば、防衛任務の担当だった三輪隊が現着した時には既に、バムスターが粉々になっていたらしい。ボーダー隊員ではない誰かがやったとしか思えないという。まあ大方そんなところだろう、とは思っていた。

ちょっと考えて、オペレーターに頼んで開発室に繋いでもらった途端、鬼怒田に「勝手にあれを持ち出してはおらんだろうな!?」と騒がれたので、苦笑しつつ「まさかでしょ」と返した。しかし彼も気がかりだったのはその事である。そのために開発室に繋げてもらったのだ。すると電話越しに「持ち出した形跡はありませんよ」と若い男の声がした。チーフの寺島だ。

 

「それに見事にバラバラだったとはいえ、『あれ』の爆破とは随分違ったよ。今、検出されたトリガー反応を解析してるから、それで確実になるけど。ほぼ違うから安心して」

 

続けられた言葉に分かりましたと頷いた。【キラークイーン】は存在すら公にはされておらず、厳重に保管され持ち出すのも許可がいる上、適合者すら自分以外は未確認だ。それを使用するのは不可能だろうということは分かっていたが、聞いたところによると出力自体は結構なものだそうなので、念の為に確認しておきたかったのだ。

 ──この土地は多分、杜王町と似たような性質を持っている。

 【スタンド使い】が生み出されやすい……つまりスタンド適性のある人間が多い土地と、異世界からの侵略者が出現しやすい土地。それはまるで、その土地が持つ何かに惹かれるように。オカルトなどを信じているわけじゃあないけれど、きっと()()()()ものなのだと、和沙は思う。『スタンド使いは引かれ合う』と言われたように、重力が作用するように。きっと近界民と三門市も、互いに引き寄せ合っている。だから、そのバムスターの一件も――。

 何かが始まろうとしているのかもしれない。この空気が、あの日と似ているから。幼馴染の甥が町へやってきて、危険を告げたあの日の空気と。これは予感だが、おそらく本当になるだろう。迅ならばもう見えていてもおかしくないのだが、さて。

 礼を告げて通話を終える。そして顔を上げ──人だかりを目にした。

 ビルの間の路地を前にしてざわざわと顔を見合わせたり話したりしている人々の後ろからひょいと覗き込む。すると、まず白い髪の少年がひとり立っており、そしてその周りには、見事に意識を刈り取られたらしいガラの悪そうな成人男性4人が転がっていた。……あの少年がやったとしか思えない状況だが、しかし。和沙は逡巡した。

 

 

(カツアゲでもしようとして返り討ち、といったところか……救急車呼んだ方がいいのか? けど大きな怪我はなさそうだし)

 

 

 眉をひそめていると、不意に少年の視線がこちらを向いた。確実に目があったな、と思った。これは、もしかすると──

 

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

 

 

 …………聞き覚えのある声だった。それは最近のものではなく、しかしとても印象的だったので覚えていた声だ。その声につられて白い髪の少年の視線が外れだ。声の主を認めたようだ。おうおかえり、と話しかけている。聞き覚えのある声の主は、白い髪の少年と何事か話した後、2人でその場からそそくさと退散していった。

 和沙は思わず空を仰いでため息をつきたくなった。故郷にいる友人の兄曰く、人の出会いもまた『重力』であるという。声の主は、紛れもなくあの時迅と共に助けたメガネの少年だった。彼と関わりのある少年となればそれは──。思ったよりも早く予感が的中してしまった。これからはきっと怒涛の日々が始まる。迅は既に忙しいだろう。無理をしないよう、手伝えることがあれば良いのだが。

 三門市も、杜王町に負けず劣らず奇妙な出来事のある町だが──自分のやることは変わらない。改めて気を引き締め、家路に着く。

 いつのまにかすっかり日の落ちた空には、未来を暗示するかのように数多の星が瞬いていた。

 




今更ですが、この世界はジョジョ世界観的にはもちろん並行世界なので、正確な原作時間軸ではないです。そのため原作と違った結末になったりしています。
「ジョジョリオン」世界線とは「岸辺露伴は動かない」世界線を挟んで反対側くらいの世界線のイメージです。


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有名漫画家がやってくる! その①

現時点だとちょっと長くなりそうだったので一旦投稿します
次が短くなったら後でまとめるかもしれません(無計画)
5部アニメ28話の放送前に投稿したかったんです……


 二宮匡貴がその男を呼び止めたのは、ただ単に見過ごすことができなかったからだった。太陽が中天を過ぎて、寒さが最も緩む時間帯。大学の講義が終わってボーダー本部に向かう途中だったのだが、そこは放棄区画のそばで、その男が向かおうとしている方向には警戒区域とボーダー本部しかなかった。

 

「おい、その先は警戒区域だ。一般人は立入禁止になっている」

 

男はすぐに振り向いた。よく見れば、首からカメラを提げ、スケッチブックらしきものを抱えている。記者か? それとも観光客か。ボーダー本部が物珍しく、一目見たいと三門市外からやってくる人間は、少なくはなったが未だ後を絶たない。観光名所扱いともいえたが、それは二宮の関知するところではなかった。それでもスケッチブックまで抱えている者はあまり見たことはなかったが。すると、その男が口を開いた。

 

「――一般人、とぼくを呼ぶからには、きみはボーダー隊員ってやつか? そうだな、確かサイトの名簿にも載っていた。見たことがある」

「……だったら言いたいことはわかるだろう。警戒区域に立ち入らせるわけにはいかない。観光か何か知らないが、早く去るんだな」

「いや、去らない。好都合だからな。異世界の怪物と戦ってる人間の『リアリティ』が欲しかったんだ」

 

――異様だ、と二宮は本能で察知した。思わず身を引こうとした瞬間、それよりも早く目の前で男の指が躍った。

 

 

***

 

 

 和沙は全速力で街中を駆け抜けていた。それはもう陸上競技の世界記録保持者もびっくりな速度である――トリオン体に換装しているから当然ではあったが。しかし、こうまでして急ぐ理由が彼にはあった。

 事の発端は、ボーダー用端末と私用のスマートフォンに1通ずつ届いたメッセージだった。その時和沙は学校にいて、担当教諭が指示した自習課題を既に終えていた。昼過ぎに三門市立第一中学で突如(ゲート)が開き、トリオン兵に襲われ危うく大惨事という事件が起きたので、三門市内の全ての学校教師陣は緊急の職員会議やら対応やらに追われていたのだ。そのための自習時間である。事件自体の詳細はボーダーの正隊員にも通達が来ていた。非日常にどことなく浮足立った雰囲気の中で、端末をいじりつつ友人と会話をしていると、同タイミングで2つの端末がメッセージを通知した。まず、ボーダー用端末に届いたメッセージの送り主は「迅さん」。この時点で微妙に嫌な予感はしていた。『危険もないし、そこまでややこしくもならなさそうだけど、一応知らせておこうと思って。相手が二宮さんだったから』。そして私用の端末に届いたメッセージの送り主は、なんと。その名前と、内容を認めた瞬間に、和沙は脇目もふらず学校を飛び出していた。

 

『三門市に来た。近界民が見たいので警戒区域に向かっている。案内してくれ』

 

よりにもよって!!!! 和沙は走りながら大声で叫びだしたいのを堪えていた。この際、自分が学校にいるのを考慮していないのはもういい。せめて相手が温厚で初対面でも会話のしやすい相手であれば!! いや、問題はそこではない。あの人は誰であろうと構いもせず『読み』出すだろうから。()()()()()問題なのだ! あの機密の宝庫! ボーダー全体に関わるとある事件の当事者! 情報漏洩の心配ではない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を心配している!

 彼らの位置は既に迅から伝えられている。彼には助けられてばかりだ……と内心頭を抱え、差し入れか何かの礼をする算段をしつつ、やっとそれを視界に捉えた。

 

「露伴先生!! 二宮さん!!」

 

大声で名前を呼ぶと――――()()()()()()()()()()()様子のふたりの男がこちらを向いた。ひとりは二宮で、決してここにいてもおかしくはない。もう1人は――どうして今日ここにいるんだ、と言いたくなる人物だった。その人こそ岸辺露伴(きしべろはん)。大人気漫画『ピンクダークの少年』を描いた漫画家である。

 

「周防? なんだ、この人の知り合いの隊員というのはお前か。学校はどうした」

「早かったな」

 

何でもないように声をかけてくる2人の前で体勢を整えながら、和沙は二宮に対しては申し訳なさそうに、そして露伴にはじとりともの言いたげな視線を向けた。

 

「いや、えっとォ~~……連絡貰って、抜けてきちまったんですよ。二宮さん、そのォ……この人結構物言いがきつくて……何か言われませんでしたか」

「いや。しかし警戒区域に入ろうとしていた、知り合いだと言うならしっかり話しておけ」

「はい、ほんとすんません……」

 

二宮は露伴に軽く会釈をしてからそのまま立ち去った。彼の姿が見えなくなると、和沙はぐったりとその場に座り込んでしまった。トリオン体ではもちろん体力消費はないが、短時間のうちにかかるストレスが尋常ではなかったためである。人通りの少ない放棄区画で良かったと思った。そうでなければ、この人もわざわざ声をかけるなんてことはしなかっただろうが。

 

「あのですねェ~~露伴先生、俺が普通に学校なのに案内させようとしたのはいいんですよ。慣れましたよ。以前、康一と一緒に散々つき合わされましたからね……それはいいんです。……あの人のこと『読み』ましたね?」

「フン、このぼくがネタを逃すと思うか? なかなかに面白かった。自分たちを置いて【近界(ネイバーフッド)】に行った元隊員の情報を今でも集めているとかな。あんなクールな顔しておいて部下思い、ストレートすぎる気もするが、そこは工夫次第だろうな」

「ああ~~~~ッやっぱり遅かった……ごめんなさい二宮さん……」

「『ページ』は破ってないし、記憶は消しておいたから安心しろ。さて、近界民(ネイバー)とやらを間近でスケッチしたいんだが」

「…………本当に、こういうことに関しての嗅覚がすごい。露伴先生くらいになるとそんなもんなのかなあ」

「何?」

「まあ、色々あるんです。市内を案内しながら話しますよ……というわけで」

 

ゆっくりと立ち上がり、露伴の方を向く。昨日の今日で、噂をすれば影とはよく言ったものだ。自分の幼馴染とはチコッと折り合いが悪いし、露伴が親友と呼んで憚らないある少年とは扱いが違えど、そこそこ普通に接してくれるその人。問題行動は多いが、漫画に対しては本当に真摯な、尊敬すべき漫画家である。

 こちらを不審そうに見ている露伴に、にやりと笑いかけてやった。

 

「ようこそ三門市へ。つっても、歓迎しますよなんて、2年そこら住んでるだけの俺が言えたもんでもないですけど」

 

現状とても平和とは言い難い町だが、知己との再会くらい、喜んでみてもいいだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「結論から言ってしまうとですねェ、今この町は警戒区域外でも近界民が出るんすよ。つまり警戒区域に近づかなくても見られる可能性はあるってわけです」

「そうなのか? 市民がやたら騒いでいたのはそういうわけか。原因もわかってないんだろ」

 

午後の商店街付近を歩きながら、和沙は露伴にぶっちゃけた。この人は漫画のネタになる情報は何でも知りたがるが、その管理は徹底しているので、その点において信頼が出来るのだ。それに彼は三門市民ではない。緊急時に備えて避難訓練を行っている市民と違って、情報を知っているのとそうでないのとでは命を守る対応に大きな差が出てしまう。

 

「今のところ、大きな被害は出てませんからね。多分調査中なんだと思いますけど、ボーダー本部も公表してないのに、遭遇した市民に箝口令敷いてるわけでもなし。近界民見たいのはわかりますけど、一応気を付けてくださいよォ~。いつも出てくるやつなら俺が何とかできますけど」

 

そう前置きをしてから、三門市の地図を片手に、様々に説明をはじめた。位置や方角を説明するのにボーダー本部を中心として見るようになったこと、地下シェルターの構造と入り口。警戒区域からかかる時間。支部の存在。あとは有名な建造物やら名店やら。ついでに土産には『鹿のや』の和菓子を勧めておいた。

 

「シェルターがあるんで、三門市の大きな建物は基本的に地下空間の方が広かったりします。まあ特徴ってほどでもないか。あと郊外はみかん畑だし」

「基本事項はある程度調べてきた。特産品なんだろ? みかん。まあ一般的な地方都市って感じだな。雰囲気はS市に似てはいるか」

「ですかね~。米育ててるかみかん育ててるかの違いって感じかも」

「なるほどな。お、これ、きみのとこのポスターじゃあないか。入隊募集ねェ~」

「あ、そうですね。嵐山隊の……」

「ああ、聞いたことあるぞ。広報部隊ってやつか。それにしても、ボーダーってのは曲がりなりにも民間軍事組織だろォ〜〜? まるで日曜朝の特撮ヒーローみたいな扱いじゃあないか。ご当地ヒーローと言った方がそれらしいか? 市民の会話を聞いていたが、まるで『危なくなったらボーダー隊員がどこからともなく現れて、必ず助けてくれる!』と信じこんでる感じだ」

「間違っちゃあいませんね、変身みたいなことするし……実際助けるためにいるんですし……。近界民って普段はもちろん警戒区域内でしか出ませんから、そういう考えにもなるかも。それにメディア担当の人がやり手なんですよねェ。そういう路線なら世間的にも受け入れやすいと思ったのか……筆頭の嵐山隊も本当にいい人たちで、市民からの人気も高いし」

「ふうん……ああ、それもボーダー側の戦略なのか、なるほどな」

「そうそう、市民が危機感を持たなくていいようにやってんですよォ〜、色々と。出て行く人が多くても困るから。上層部もなかなかやり手っしょ」

「上層部が使い物になるタイプの組織か。なかなか珍しいな」

 

雑談と言えるのか何なのか。和沙はボーダー隊員らしく、この町で身の安全を守る方法と、あとは土地勘や三門市ならではの町の構造など、なるべく『ネタ』として扱えそうな話を中心に説明した。露伴も相槌を打ちながら写真をとったり超スピードでスケッチしたりしていたので、退屈させずには済んだようだ。「近界民っていうのはさあ」と露伴が話し始めたのは、日も少しずつ暮れてきたころだ。

 

「ニュースやらで見たあの……メカっぽいとか、虫みたいな外見のやつだけなのか? 実は人型がいて、見た目はこちら側の人間と区別がつかない、とかあるんじゃあないのか? だとしたら、それこそ吉良吉影(きらよしかげ)のようにずっと昔から町に潜んでいたって全く不思議じゃあない。隣に住んでいる奴が近界民でしたってこともあり得る」

「……いや本当にね、仰る通りです……」

「……きみ、隠し事ができないタイプってわけじゃあなかったと思うんだが」

「そうですけどォ〜、そこまで核心つかれちゃあ何も言えませんよ。それに露伴先生は別に口外しないでしょ」

「これで得たインスピレーションを漫画に使わせてもらうくらいだな」

 

玉狛支部のエンジニアにはその通り近界民がいるのだ。露伴の思考力や勘の良さには相変わらず舌を巻く。そもそも異世界の怪物だなんて、花京院さんならファンタジーやメルヘンじゃあないんですからって言うところだぞ、と露伴は口の端を吊り上げた。

 

「まあ妖怪も神も存在するんだがなァ」

「【スタンド】もありますしねェ。承太郎さんや花京院さんは昔吸血鬼と戦ったって言うし。最近は鏡の中の世界を作るスタンドだっていたらしいから、その認識改めたって言ってましたよ。ここまで来たら、異世界くらいあってもおかしくないかなとは思いますよね」

 

そんなことを話していると、手持ちのスケッチブックや資料を見返しながら、ふと露伴がこちらを見て思い出したように問いかけた。

 

「……ああ、そういえば知ってるか、この町の行方不明者数」

「……いえ、そういえばその辺りはすっかり頭から抜けてて」

「杜王町ほどじゃあないんだが……随分と不審死やら行方不明者が多い。第一次大規模侵攻が起きるよりも前からだぜ。不審死を遂げた遺体のうち、胸に穴が空いていたって例もいくつもある。けどここには【弓と矢】は無いんだろう?」

「はい、財団が隅から隅までギッチリ調べたらしいですけど。本当に何もないんです。今の俺は【スタンド】は使えないけど見えはするのに、注意しつつ暮らしても【弓と矢】もなければ【スタンド使い】もひとりも見ない」

「じゃ、原因は別ということが確定しているわけだな。胸に穴が空いていたってのは、第一次大規模侵攻での被害者の何割かにも共通している特徴だから」

「……昔からこの町は近界民に狙われていたってことか……。はあ、本当になんつーか……【スタンド】関連の代わりに近界民の危険、奇妙な謎は付きまとう……つくづく思いますよ」

「そういう噂のある取材に行く度に考えるが、世界にはわりと多いのかもな、こういう場所は」

 

気が付けば、大きな川沿いの地区まで歩いて来ていた。学校や会社帰りの人も多くなってきて、ざわざわと喧騒も聞こえてくる。周囲を見回して露伴が眉を顰めた。チッ、という舌打ちのおまけつきだ。

 

「人が多くなってきた。というか、近界民、結局出ないじゃあないか。ぼくはあれを間近で見るために来たんだぞッ」

「いやさっき危ないって話をしたじゃあないですかァ~~。見たいなら俺がいるうちに警戒区域近くまで案内しますから。今なら市街地で見られる可能性はあるって確かに言ったけど、出たら出たで困るんですよ。警報ビービー鳴ってさあ」

 

『緊急警報。緊急警報。(ゲート)が市街地に発生します。市民の皆様は――』

 

「なるほどな、こんな感じか。なんだあれ、『魚』か?」

「もう露伴先生と噂話はしないことにします……」

「……待て、近界民ってのは地上で活動する型しかいないんじゃあなかったのか?」

「……先生って本当に…………お察しの通り、新型だと思いますよ」

 

解除していたトリオン体に再換装。露伴はちゃっかりその様子をスケッチしているが、正直和沙は冷や汗をかいていた。

 上空を泳ぐ魚のような巨体のトリオン兵。今までに見たことのない型だ。ボーダーのデータベースにもないだろう。いや、あるのかもしれないが、訓練などで使用されたのかどうか把握していない。少なくとも自分がボーダーに所属してからは見ていない。杜王町で何を学んだ、【スタンド】なんて新型どころではなかったじゃあないか――和沙は内心で自分を責めた。もちろん露伴に伝えた通り、『いつも出てくるトリオン兵』なら即座に片付けられる自信はあった――しかし、完全に不意を突かれた形になってしまった。はっきり言って、目視した『あれ』は想定外だったのだ。それはトリオン兵を見上げていた露伴も同じだったらしい。

 

「おい……あれはなんだ? あの『魚』の腹にあるものは……」

 

巨体のトリオン兵の影が上空に差し掛かる。ここはマンションやアパートの多い住宅地だ。つまりはそれだけ人が集まる地帯でもある。事実、付近の住民たちは、圧倒されているのかぽかんと空を見上げたまま立ち止まり、密集地帯が出来てしまっていた。ゴグン、と音を立てて、トリオン兵が腹部を開く。そこから出てくるものは、投下に適しているだろう落下傘付きの――――

 

「あれ、あれはまさかッ! あの『魚』、『爆撃』をしかけるつもりかァーーーーッ!!」

 

 

 

 

To Be Continued…

 

 




ああ! 空が! 空が!


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有名漫画家がやってくる! その②

大ッ変遅くなりました
待っててくださった方(もしいましたら)申し訳ありません……
いつにもまして文章がぐだぐだなので、いつも通り何かしらの修正はそのうち入ると思います
「深く考えると頭痛おきるけどよォ~~」といった感じでぜひゆるく読んでください。

また、「人に読んでもらう」用の小説をあまり書いたことのない文字書き初心者です
例えば改行・誤字など、見づらい部分があれば工夫していきますので、ご報告ください

長くなってしまいすみません、では本編をどうぞ~


 刹那。露伴は既に、その眼に『空に向かって飛翔するいくつもの流星』をとらえていた。

 住民が唖然と眺める中、街へと降り注いだ爆弾のうち最初の一つが着弾する――直前だった。

 それは、地上より放たれた星――トリオンの弾丸によって全てがあっけなく打ち砕かれた。爆風と衝撃が周囲に広がっていったが、それは街にほぼ被害を与えずに終わった。それを見届けた和沙の表情が、苦虫を噛み潰したように歪められる。

 

「あーーもう、因縁つーのか宿命なのか……爆弾にいい思い出はないってのによォ〜〜……あ、露伴先生、俺の傍から離れないでくださいよ、逆に危ねーっスからね」

 

この時、露伴は一瞬、『彼はスタンド能力を取り戻したのではないか?』と考えてしまっていた。それはあり得ないのだと聞いたばかりだったというのに、である。それほどに、杜王町で幾度も見た、『スタンドで操ったトリオンでの攻撃方法』と『今の弾丸での攻撃』が似通っていたのだ。

 

 何かの節目に連絡を取ったり、会話をした折に、ボーダーについて興味を示す自分に「マスタークラスっていうのになったんスよ~」やら「A級になったんスよ~」やら近況報告がてらに伝えられ、階級らしきものが異例のスピードで上がっていくことにさすがに疑問を覚えていた――もしくはボーダーとやらがそんなに甘いのかと考えていた――が、ようやく答えの一端にたどり着いた感覚だった。

 

「……なるほどな、道理で【トリガー】とやらを使いこなすのが早かったわけだ」

 

 

露伴のその言葉が何を意味するところなのか、和沙は思い当たらず首を傾げ、しかしすぐに、あ、と目を瞬かせた。この人の前でトリガーを使って攻撃をしてみせたのは初めてだったのだ。

 

 

「ああ~、そっスね。だからこそ『射手(シューター)用』を選んだわけだし……って、嘘だろ、まだあいつ残弾が――」

 

 慌てて駆け出す和沙たちであったが、時すでに遅く。未だ住宅地の空を離れていなかった魚型巨大トリオン兵が再度投下した爆弾によって、建物が崩壊するのが遠目に見えた。向かう足を止めぬままなんとか様子を窺うと、落下した瓦礫によって入り口が塞がれ、何人かの住民が取り残されてしまったようだった。混迷を極める現場に近づくにつれ、子供の泣く声が大きくなってくる。親と離れまいとしているらしい。――そして、さらに響く大きな崩壊音。瓦礫が降ってくる。不運にも、その位置は子供の頭上だった。

 

「! まずいぞッ! あの子供が巻き込まれるッ!」

「見えてますよッ! この距離なら瓦礫を破壊でき――――」

「「は?」」

 

 ふたりは思わず足を止め、気の抜けた声をあげてしまった。和沙にはどこからどう見ても覚えのあるメガネの少年が、子供をかばって瓦礫に打たれたのだ。露伴も隣で不意をつかれた表情をしている。よく見れば少年が白い訓練服を着ていたので、和沙は彼がトリオン体であることを理解していたが、露伴には突然走りこんできた少年が自らの身を犠牲にして子供を救った図にでも見えたのかもしれない。――それはともかく。どうしてこういう時に()()()()が関わってくるのか――いや、『こういう時だからこそ』なのだろう。

 

 そのうち、少年は瓦礫をどかして住民を救出していた。怪我を心配されているような様子の少年に、止めてしまっていた足を再度動かして近寄った。気づいた少年が「あっ」とこちらを見て声を上げた。

 

「あなたは……! じゃなくて、ええとこれは、違反なのは分かっていて……!」

「きみ、よくやった! えーっと三雲くん、だったか? 緊急事態だ俺が許す! 実際この状況じゃ生身のほうが危険だ。あ、爆弾には当たらないようにしろよ」

「えっ……!?」

「ぼくは生身なんだが?」

「先生はいざとなったら自分に書き込んで瓦礫くらい避けるでしょ、てかその分俺が気をつけてますよッ」

 

 

書き込むって何だろう……と修は考えていたのだが、和沙たちはそんなことはつゆ知らず、住民の誘導と救助を再開した。修も慌ててそれに続く。

 

 和沙はまたも瓦礫で入口を塞がれた建物の前で、助けを求める住民に声をかけた。原因の大きな柱を検分しながら、聞こえやすいようなるべく声を張り上げる。

 

 

「あーー聞こえます? 今からこれ砕くんで、内部に空間があればここから離れててください! 無ければ……えー信頼して任せてください! そっちが危なくなるようにはしないので!」

 

 

何ともアバウトな注意ではあったが、幸いにして空間に余裕があったのか、閉じ込められている住民は素直に従った。和沙が柱を砕くと言ったのは、戦闘体なので柱を動かせる可能性は高いが、半分にでも割ってしまった方が動かすにしてもまだ楽だろうと考えたからだ。

 

 しかし、住民に被害が及んでは元も子もなく、上手く削って折らなくてはならない。剣トリガーであればあっさり斬って捨てることが可能だが、弾丸ではもちろん難しい。そばにいる露伴に建築知識とか持ってます? と聞くも、すげなく「いや、今役立ちそうなものはわからん」と首を振られてしまった。

 

 

「今度本でも探しておこう。今後活かせるかもしれないからな」

「必要なのは今なんスけどねえーーっ」

「──あの! えっと、ぼく……がわかります!」

 

 

響いた声に、おや、とふたりは振り向いた。修が冷や汗をかきつつこちらを見つめている。

 

 

「きみが? 中学生くらいだろ、親が建築士か何かなのか? …………しかしどうにも親しみの持てる声をしているな……」

「声……?? いえ、父が橋の建築に携わってますけどぼくは……いや、はい! 父に教えてもらいました!」

 

 

露伴の疑問に、体は子供頭脳は大人などこぞの名探偵のような答えをしどろもどろに返しつつ、修は2人に告げた。彼の耳元でちらりと黒い何かが動いているのを和沙も露伴も見逃さなかったが──今は見なかったことにするのが賢明な判断だとは理解していた。重要なのはそこではない。和沙はにっと笑うと、酷く緊張している様子の三雲少年に告げた。

 

 

「わかった。教えてくれ」

 

 

()()の協力により、必要なポイントを判断し、またその部分をわずかも過たず射撃した和沙によって、柱は無事破壊され、救助された住民は礼を言いながら避難していった。未だ人は多いが、こちらの手を貸して救助すべき対象は見当たらない。

 

 さて、と和沙はぐるりと首を回しながら空を見上げた。

 

「どうやらあの『魚』は周回軌道で爆撃をしかけてて、幸いにも標的になってる市街地は川のこちら側だけみてーだが……そろそろ何とかしねーとな」

「きみ、撃ち落とせないのか?」

 

露伴がさも当然のように尋ねてきた。きみにとってそんなことは簡単ではないのか、とでも言いたげな口ぶりに苦笑する。

 

「どうですかね、出来なくはない……かもしれないけど、装甲がわりと厚そうだったから……【飛行するシアーハートアタック】って言ってもいいかもわかりませんぜ。うわっ嫌な例え方しちまったァ……。ああ、シアーハートアタックついでに言えば、『下手に攻撃すると人間を探知して自爆する』とかいう機能が付いてたら面倒ッスね。考えられる方法としては、川の上で動かないよう捕まえてから攻撃するとか……まあ俺の手持ちじゃキツいけど」

「えっ、人間を探知して自爆する……!?」

「ああいや、そういう機能が付いてたら面倒だなって話で……………………なあ、三雲くん、もしかして俺以外に正隊員、もう来てたりする?」

「あの……A級の木虎が来ていて、さっきまで一緒だったんですが……既に【イルガー】……あの『魚』を倒しに向かってて……」

「「………………」」

 

 

ここで問題である。あの【魚】はこれからどうなるか?

①たとえシアーハートアタックレベルでも、精鋭であるA級隊員の木虎がひとりで撃破する。

②ほかの隊員が居合わせたので、協力して撃破する。

③降ってきて地上で爆発する。現実は非情である。

 

 

「……まあ、うん、③はないから。俺もいるし、ほかの隊員も近くにいるかもしれないし、ボーダーが何か手を打つだろうし。うん、それにそうそう自爆機能なんてのはついてないだろうから」

 

 

大きなフラグをたててしまったことに気付いているのかいないのか。木虎に連絡とってみるから、と通信をつなぐ和沙である。

 

 

「あー、木虎? 聞こえるか? 周防だが」

『──周防先輩? やっぱりさっきのハウンド、あなただったんですね』

「まあな。てなわけで、今ちょうど市街地にいる。なるべく被害を抑えるようフォローするから」

『……了解。でももう終わりますよ。背面の装甲は切り飛ばせたので、このまま【アステロイド】を撃ち込んで、川の上で落とすつもりです』

「お、そうか。あ、1つ忠告なんだが……そいつが『人間を探知して自爆する』機能がないか注意しといたほうがいい。爆撃だけならカバーできるが、市街地まで突っ込んできて自爆されたら目も当てられねーからな」

『! で、でも自爆なんて機能があるようには……』

「いや、万が一の話だからよォ、もう撃破できるならいいんだ」

『もちろんです。ほら、もう墜とし……、……!? 何!?』

 

 

木虎の声に反応するより先に、空を見上げた和沙につられ、露伴と修も同様にする。

 確かに木虎の言う通り、撃墜寸前といった雰囲気でもうもうと黒煙を上げている、修曰く【イルガー】というトリオン兵。しかし確実に、その巨体はこちらへ向かって落下していた。先ほどまでは見られなかった、柱とも角のようにも見える黒いものが背面部に何本も飛び出し、急所である目を守るためか、口部分も閉じられていた。

 

 

「オイオイオイオイ、本当に自爆機能付きだっていうのか? しかもわざわざこっちに向かっているということはッ!」

「人を巻き込もうとしているってことなのか……!?」

 

 

露伴と修が思わず出してしまった言葉に、避難が済んでいなかった周囲の住民が悲鳴を上げた。は、と周囲の状況を確認した修がシェルターへの移動を大声で促すと、慌てて走り出していたが、状況はまさに切迫している。しかし和沙は周囲には目もくれず、耳元で混乱している様子の木虎の通信を聴きながらも、じっと何かを思案している。

 

 

『こいつ、本当に街を巻き込んで自爆を……!? 全然止まらな……っ』

「いや、()()()()()ッ! そのままダメージを与え続けろ!」

 

 

その指示に、修と木虎は目を見開いた。対して露伴はくいと片眉をあげただけだ。どうするつもりかと思えば、和沙は両の手にトリオンキューブを発現し、そのまま重ね合わせた。完成するものは、そう、『合成弾』である。

 

 

「答えは②だからな。俺が、今からそっちに加勢する」

『!? どうやって、遠すぎます! 弾丸の威力も落ちるし、先輩は移動補助系のトリガーは何も……』

「平気だぜ、それよりもっと『手っ取り早い方法』があるからな」

 

 

和沙は【グラスホッパー】や【テレポーター】などのオプショントリガーを装備していない。その他の現在装備しているトリガーや、戦闘体自体の能力を加味しても、絶対に間に合わない――本来ならば。

 だが、()()()()。それを覆すことのできる『一手』が、今この場には存在している。

 

 

「先生! 俺に『書き込んで』! 『今すぐ【魚】の直上まで吹っ飛ぶ』!」

「――フン、一つ『貸し』にしておくぞッ!」

 

 

そうして露伴は自らのスタンドを発現させた。

 漫画家・岸辺露伴のスタンド。知性ある対象を本にして、記憶を読むことや、命令を書き込むことができる能力。書き込むことのできる内容は実に幅広く、また、書き込まれた人物が命令に逆らうことはできない。さらに彼は、驚くほどの速筆である。『ヘブンズ・ドアー』と自身のスタンドの名を呼ぶと同時に、すでに和沙の体は本と化し、命令は書き終えられていた。

 その瞬間、地上の露伴と修の視界から、和沙の姿は消え失せた。

 

 

「う、おおお…………ッ、さすが、この飛距離はしんどいな! トリオン体だけど!」

 

 

瞬間速度は、時速70キロを優に超えていただろう。鮮やかな夕焼けに染まる空を、学ランの裾をはためかせながら和沙が舞う。まさにミサイルのごとく空中に放り出されながら、しかしなんとか体勢を整えた。

 さすがというべきか、目標には寸分のずれもない。『ヘブンズ・ドアー』は正確に、彼を『(イルガー)』の直上に吹っ飛ばしてくれていた。その証拠に、町全体を見下ろしたその視界の中で、イルガーの背で銃撃を続けていたはずの木虎が、ぽかんとこちらを見上げていたのである。

 最大高度まで飛び上がった和沙は、今度は重力に従いイルガーの背目掛けて落下しながら、にやりと笑みを返してやった。すると木虎が和沙の持つキューブに気付いたのか、目に見えて慌て始める。

 

 

「よし、ダメージ十分、ありがとな! 木虎は降りてろッ! 巻き込まれんぞッ!」

「周防先輩、どうやって、ていうかまさかそのキューブ――――」

「早くしろッ! 爆発で緊急脱出(ベイルアウト)したくなけりゃあなあーーっ」

 

 

木虎はその言葉で何が起こるのかを大体予測できたのか、まさか、という表情を隠さなかった。しかし最後は「任せました」とつぶやき、唇を引き結んでイルガーから飛び降りていった。応、と言葉には出さず。代わりに木虎が空けた、イルガーの背の穴にきっちり照準を合わせる。

 

 対応が早かったおかげで高度は余裕といえる。互いに落下を続けてはいたが、和沙にとっては『動くものを見極めて照準を定める』ということはそう難しいことではない。『強化動体視力』たるサイドエフェクト自体の精度と、その恩恵を受けた攻撃の正確さ……スタンドの能力値で言うなら『精密動作性』は、かの『スタープラチナ』には及ばずとも、Aランクに値するものであったので。

 

 

「『射程』は詰めたし『弾速』もそんなにいらねえ。おかげで十分『威力』にトリオン振れたからなァ~~~~ッ」

 

 

右手に掲げたその巨大なトリオンキューブを、さながらダンクシュートを決めるバスケットボール選手のように、背の穴に思いきり叩き込む。

 

 

「――――【ギムレット】ッ!!」

 

 

無分割、さらにトリオンは『威力』に極振り。木虎によるダメージが蓄積され、さらにその部分に【ギムレット】を撃ち込まれ――背から胸にあたる部分まで、綺麗に弾丸が貫通したイルガーは、ぴしり、とだけ音をたてた後、空中で見事に爆発四散したのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「随分な力技だが…………まあ、トリオン量とやらの規格なら、あいつは十分『パワー型』だからな」

あんぐりと空を見上げる住民たちや、冷や汗をかく修の隣で、露伴はぽつりと呟いた。和沙のトリオンを表すその数値は、実に『21』。現時点でボーダーにおけるトップのトリオン量は伊達ではない──もちろんスタンドが関わっているからなのは言うまでもないが──ともかく、トリオンで戦闘を行うボーダーにおいて、これは十分なアドバンテージであった。

 

 

「……分かってたんですか? あの……先輩、がやろうとしていたこと」

「ン! ……まあな。それなりに付き合いはある。あいつにはクソッタレの幼馴染がいるんだが……そいつよりも礼儀はあるし。ぼくの親友ほどじゃあないがね」

 

 

露伴は手をポケットに突っ込んで、こちらに問いかける修をちらと横目で見てから、再度何かを探すように空に視線を走らせた。

 

 

「しかし、あいつすっかり巻き込まれたんじゃあないか? 木虎とかいうのは退避できていたようだが……。んん? あれは……紐……じゃあないな、鎖か? その先に……お、いるじゃあないか。また吹っ飛んでるな。こっちに来るか?」

「(鎖……? あ、ああなるほど……)ということは、無事、みたいですね。良かったです」

「まあな。これで一件落着、というやつかな? さてじゃあきみ、ずっと気になっていたんだが、先ほどきみの耳元で動いてた小さくて黒いのはなんだ? 柱の構造解析はあれだろう? 【トリガー】の一種か? きみだけが持ってるのか?」

「えっ!! いや、あ、あれは……! それはまた後ほどということで、あの、周防先輩や木虎を迎えに行かないと!」

「……まあ、いいだろう。無理に聞き出してもいいが、それはするべきじゃあない。ぼくたちはいい友達になれそうだしな。きみもそう思うだろう?」

(この人本当になんなんだ……)

 

 

 

「あ~~~~~、緊急脱出(ベイルアウト)覚悟したけどなんか助かったな。背後から引っ張られた気がしたが……木虎か?」

「……違いますよ。飛び降りた後、そんな余裕ありませんでしたから。……その、ありがとうございました。……私ひとりじゃ……」

「あ? いや、あれは木虎のおかげでもあるからよォ~、礼はいいよ。ま、なんにせよ、【シアーハートアタック】でも見知らぬトリオン兵でも、『注意深く観察すべし』ってことだな。木虎もありがとな」

「【シアーハートアタック】って何ですか……」

 

 

川べりでぽたぽたと水を滴らせながら会話しているうちに、修や露伴がやって来たので、手を振ってこたえた。また、そこで、住居を破壊されてしまった住民や、修と木虎、さらに白い髪の少年(やっぱりいたのか……と和沙は目元を抑えた)の間でひと悶着あったのだが、広報部隊の面目躍如たる堂々さで木虎が住民をなだめて話をおさめ、修たちの間でも一段落したようであった。修は露伴に絡まれかけていたが、和沙がうまいこと救出し、木虎たちと本部に出頭しにいくというのでその場で別れ。その露伴も帰路につくということで、駅まで見送りに立った。

 

 道中、案内しきれなかった部分などを解説していると、あっという間に駅に到着してしまった。物寂しさを感じていると、改札前までやってきたところで、露伴がこちらをまっすぐに見据えて「善意から言っておいてやるが」と前置きをしたうえで話し出した。このような時、念のため周囲を気にして声を落とすという配慮をしてくれる彼に対して、ありがたいことだな、と思うのだが、さておいて。

 

 

「気をつけろよ。身近で体験して改めてわかったが……あれはもはや災害と呼ぶべきもの。まあ君達のような対抗手段があるだけ良いとは思うが……おそらく、これで駄目ならより強力なものを送り込んでくるだろうな。近いうち、その……『人型』でも来るんじゃあないか」

「…………本当に、敵いませんね。仰る通り、しばらく危ないので、俺が連絡するまでこの町には近寄らんでくださいね。まあ起これば全国ニュースにでもなるでしょうが」

「……康一くんやクソッタレ仗助には」

「言う必要もないでしょ。あとクソッタレってつけなくていいから……。じゃあなくて。『もしも』はもちろんあるけど、確率はとても低いらしいっスから。そのくらいの危険は承知でやってるし、実際……その……2年前の杜王町の危険度くらいだと思うし…………」

「……そう言われるとこのぼくでも何とも反応に困るが……きみがそう言うのなら、ま、平気なんだろう。きみもまた、この『超常現象』に対する『プロ』と言えるんだからな」

 

 

露伴は『プロの漫画家』としての誇りを持っているし、和沙ももちろん尊敬している。扱っているものは違えど、そんな彼に同じように『プロ』の存在として認められていると思う時、『誇り高い』気持ちになれる。それは、故郷にいる幼馴染や友人たちとともにいる時と何ら変わりはない。そして、その心配と信頼を心から嬉しいと感じるのだ。だから、混じり気のない笑顔を浮かべてしまう。露伴は思いきり顔をしかめるが。

 

 

「ありがとうございます、露伴先生。じゃあまた。あ、でも年末年始は帰りますんで、そこは仗助たちにもよろしくお願いします」

「そのくらい自分で言えよな。土産は『みかどみかん』でいいぞ」

「箱ごと送れってことかなァ……」

 

 

改札を抜けて人混みに消えていく露伴を見送る。年末年始の帰省は今のところ予定通りで、それはいい。自分が故郷に帰る分には。しかし、もし故郷の彼らがこちらに来るときは、なるべく安全な時に来てほしい。迅曰く、忙しくなるのは年明けらしいので、それが解決したあとは、自分もまた、彼らに並び立てる『誇り』を胸に会えればいい。

 

 ボーダー用の携帯端末が震える。メッセージの受信だ。露伴の見送りに立つ前に、今回の状況報告と三雲修についての嘆願を忍田本部長に。【イレギュラー(ゲート)】における『超常現象』の観点から見た見解を鬼怒田開発室長に送っておいたのだが、はてさて。

 

 

「って、また迅さんからじゃあねーか……明日ァ?」

 

 

これは招集というのか、なんなのか。また暗躍をしているのだろうか。まあ、手伝えることがあるのならもちろん協力は惜しまないのだが。案の定の怒涛の日々、しかし自分の『覚悟』と、この町の『誇りと平和』のために。決めたことだけは揺らがないように。その決意だけは新たに、学ランを翻して、和沙はその場を立ち去った。

 




遅れてしまったので今後の予定というか展望みたいなものを少し

とりあえず本編は第二次大規模侵攻編で一区切りとして構成を考えています
B級ランク戦以降は「The Asteroid 〜world trigger another day〜(適当)」とか「猫かぶりのキラークイーン(仮)」とかそんな感じで後日談的に書いていきたいな、と現時点では思っております

あと主人公のトリガーセットやプロフィールなんかは、BBF風として後々1話分使って紹介したいと思っていますので、もう少々お待ちください


ではまた次回!(話が……話が進まない……!!)


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