彼女が氷のような女と呼ばれた理由 (久賀 ツバキ)
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プロローグ

時代背景に関して。
本編で言うと、丁度安藤がオメガに突入した時期のEP5の初めの方からEP6の始まりの前くらいまでです。

本編のネタバレはなしですが、注意点として以下の要素が含まれております。

・少々グロテスク
・全体通して暗めのお話
・初心者故の拙い文章
・ガールズラブ
・うちよそ

以上の点を気にしない方はゆっくり読んでいってね!






.


誰にだって過去はある、無論私にも。普通は掘り返さない、だって。

恥ずかしい過去、悲しい過去、思い出したくない過去、嬉しい過去、沢山あると思うもの。知られたくない秘密は誰にでもある、あるんだけど。

ーーーこの2人は簡単にそんなのぶち破ってくる。

 

「ツバキちゃんの過去ってどんな感じだったのかな?」

「…はぁ?」

「あっ、それあたしも気になる。」

 

この2人はデリカシーってものが無いのだろうか。私のマイルームにお茶しに来て、唐突に彼女たちは語りかけてきた。

片方の茶髪のお姉さんの華楠、まあ私の相棒なんだけど。元よりそういうのお構い無しって感じなのは知ってたから気にしなかったけど、こっちの銀髪のハルコタン帰りみたいなアークスの盞華。最近知り合ったんだけど…。類は友を呼ぶってこういう事なのね。

 

「あのね、普通こう言うのは聞かないでしょ。」

「えー、イイじゃんイイじゃん!知られざる氷の少女の秘密、お姉ちゃん気になるな〜。」

「そうそう。仲間の事はちゃんと知っておきたいし。」

 

調子のいい事言ってるけど…。好奇心に駆られてるのが丸見え、だけど仲間って響きが良かったのかな。少し、話してみようと思ってしまった。

 

「…はぁ。分かった。でも面白くもなんともないから、後で文句言うんじゃないわよ。」

 

はーい。学校の生徒みたいな返事をしてこっちを見る2人。調子がいいのかなんなのか…。自分の記憶を探りながら、私は話はじめた。

 

「そうね、どこから話そうかしら。」

 

 

ーーーこれは、私の始まりのお話。忘れられない、忘れてはいけない。私の空白の4年間のお話。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

私がまだ幼い頃、まだ親が存在していた頃。7か…8歳、それくらいだったと思う。

2人の顔も声も忘れてしまったが、これだけは覚えてた。2人は殺された、ダーカーによって。

 

その後、私は1人の男に引き取られた。なんでも父の友人だったそうだ。そいつの顔は今でも覚えてる。

笑顔のはずなのに、その目は私ではない何かを見ていた。幼い頃の私はそれがとても怖かった。

最初こそ普通の生活をしていた、ご飯を食べて勉強をして、色んなところに連れていってもらった。だから少し安心したのかな、最初にあった頃のあの目は間違いだったんだって。

 

だけど、ある日。私が10になろうと差し掛かった辺りで。

 

ーーーそろそろか。

 

そう一言呟いたアイツは、豹変した。

私を引っ張り、どこかの施設に連れていった。そこで何をされたと思う?

ガーディアンプログラム、アイツはそう言った。簡単に言うと、私は大型のカプセルに薬液体漬けにされ、毎日ダーカー因子の投与と私の適正率が高かったらしい氷のフォトンを交互に投与された。

要は無理やり人間兵器を、今で言うなら守護輝士を作ろうとしたわけ、その実験台に私が選ばれた。理由?そんなの知るわけないじゃない。

 

ただ、この時は毎日が地獄だった。そもそも時間すらわからなかった、ずっと液体に漬けられ、痛みと苦しみに藻掻く毎日。死のうと思っても死ねなかった。精神も摩耗していき、何も考えられなくなったある日。

 

ーーー事件は起きた。

ダーカーの襲撃、ダークファルスのうち一体が街を襲った。その時に私がいた研究施設も巻き添えをくらった。運が良かったのか、爆発でカプセルが壊れ、研究員はダーカーに殺されてしまった。私は混乱に乗じてヤツらの目を盗んで這いつくばって逃げた。逃げに逃げた、気が遠くなるくらい、動かないはずの脚なのに、逃げた。

無我夢中だった、ただそれだけのこと。だけど、動くには充分だった。

 

「…ぁっ」

 

体力が元々無かったせいか、力尽きて倒れてしまった。

倒れた獲物を仕留めんとばかりにダーカーは湧いて出てくる。

 

「ぁ…ぅあ…た…けて…」

 

だがもう声すら出なかった。

泣くことも、叫ぶことも許されなかった。ヤツらが私に向かって爪を振り下ろすのも待つことしか出来なかった。

 

だが、その爪は私には届かなかった。

 

「…ぁ…ぅ?」

 

そこにいたのは大きなソードを持ったーーー

 

「…こちらガレット、民間人を保護した。ひどい傷だ、メディックの用意を頼む。」

 

1人のキャストのアークスだった。

 

「君、安心したまえ。この辺りは我々アークスが安全を確保する。」

 

そう、これが私と私のもう1人の親、ガレットとの出会いだった。

 

 

 



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全ての始まりと復讐
1-0 居候


ダガンに殺されかけた所を見知らぬキャストに救われたツバキ。
保護されておしまい、ではなく…?


「君、大丈夫か。見たところはぐれた子供…という訳ではなさそうだな。」

 

私は何故かこの少女を放ってはおけなかった。

ほぼ裸、傷だらけの素足、顔の右半分と手足に浮き出ている謎の紋様。ひと目でわかる、異常だと。

 

「…アッ。」

 

緊張の糸が解けたのか、気絶したようだ。

このままメディカルセンターに預けるのもいいが、不思議と何故か放ってはおけなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シップにてーーー。

 

「なに?今なんて言ったよお師匠。」

「2度も言わせないでくれ。この娘を引き取る、と言ったのだ。」

 

シップに戻ってすぐ、飼い犬かのように近づいてきた自称弟子がそういった。

 

「たはーっ!こりゃ珍しい、冷酷無慈悲と言われたお師匠が人助けの上に面倒まで見るとは…。」

「…ディルク、君のの私への評価はよく分かった。今日は夕飯抜きだ。」

「うえっ!?そりゃないっすよお師匠ー!!」

 

やかましい自称弟子を尻目に、メディカルセンターへと向かう。

先程話にもでた少女を引き取る、その話を本人からの了承を得るためだ。

 

「てかさ、お師匠。なんでまた身元も分かんないやつを引き取ろうと思ったんだ?」

「…別に。意味は無いさ、あのまま放っておいたら危険だと。そう直感的に思っただけさ。」

「ふーん…。ま、賑やかになるなら俺は大歓迎っすよ。」

 

意味などない、と言ったが。私は身寄りのない者に弱い。自分がそうだったこと、寂しさは何よりもつらいという事を分かっているからだ。

そしてディルクもそうだ。彼も両親を失って保護施設に入りそうだったところを咄嗟に引き取ると言ったのだ。その時を思い出したのか、今回も1人の少女を引き取る事にした。

 

 

「ガレットだ。先程の件で伺ったのだが。」

「あぁ、お待ちしてましたよ。どうぞ、まだ目覚めてませんが…。」

 

主治医の案内を受け病室へ向かう。病室は驚くほどに静かだった。

まるで慰安室、耳をすませば微かに聞こえる寝息。

目覚めていれば返答を聞くところだが、これでは聞きようがない為日を改めようと思っていた、すると。

 

「…ん。」

「おぉ、目が覚めたようですな。」

 

物音がしたせいか、目が覚めたようだ。

 

「私を覚えてるかね」

 

少女はゆっくりと首を縦に振る。

 

「そうか。聞くが、君は帰るところはあるかね。」

 

ゆっくりと首を横に振る少女。、

 

「なら、私のところへ来ないか。五月蝿い輩が一人いるが…まあなに。気にするほどのものでは無い、君さえよければだがね。」

「…ツバキ」

「む…?」

「名前、帰る場所なんてない…だから…。」

 

ほそぼそとした声で語りかけるツバキという少女。

今にも折れそうなその声は決心させるには充分すぎた。

 

「決まりだな。ディルク。」

「はいっす!」

「使いを頼みたい。恐らく街に出れば揃うだろう。」

 

了解っす、という返事と共にダッシュで消える自称弟子。

こう言ったものに使えるとは思ってはいない、断じて。

 

「…さて、では我が家に案内しよう。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

自分よりもずっと大きい大人におんぶしてもらいながら街を行く。

知ってるような、だけど知らない景色を尻目に目の前の大きな背中と綺麗な銀の髪に目をやる。

 

「…ねえ。なんで助けてくれたの。」

 

あの時、道端の虫同然だった消えゆく運命にあった私を救ってくれた彼に問う。

 

「何故、か。アークスとして当然のことをした、それだけの事さ。」

「…ちがう。」

 

ほう、と彼は逆に私に問いかけた。それもそうだ、あの時の私の格好とこの髪の色。青色の髪の先の赤紫色の不気味な毛先。不自然な格好。

迷い子、とはとても言いきれなかった私を何故救ってくれたのかと。純粋に気になった。

 

「…そうだな。放ってはおけなかったとでも言おうか。奴、ディルクがいただろう。あいつは君ほどではなかったが、別な市街地で見つけたんだ。目の前で親を殺されていた、無残にもね。あの時私がもっと早く来ていれば…と自責の念に駆られたせいか、気づけば引き取っていたということさ。」

 

やれやれとため息をつく彼。実に単純な動機、だけど芯が通っててお人好しだ。

でも、どこか安心する。そんな背中だった。

 

「…私みたいなのといると後悔するわよ。」

「はははっ。やかましいのは嫌いではないさ。任せたまえ。」

 

談笑しながら、まるで親子のように夕方の市街地を流れ歩いた。

 

 

それから数分後、普通のマイルーム前までたどり着いた。

 

「ようこそ、我が家へ。ディルクももう戻ってるだろう。」

「…」

 

スっと扉が開く、そこにはーーー。

 

「おかえりっす、お師匠!そしてようこそ…えーっと名前なんだっけ。まあいいや、よろしくな!」

「君は人の名前くらい覚えたらどうだね…。まあいい。ようこそツバキ。ーーー我が家へ。」

 

暖かい空気と共に食べ物の香ばしい香り、偉くやかましい私より数歳年上の男の子の掛け声が一気に流れ込んできた。

2人が何かを言ってるが、それどころではなかった。とにかく情報量が多かった。目を回してると男の子、ディルクが声をかけてきた。

 

「ツバキ、で合ってるよな。俺、ディルクって言うんだ。兄貴と思ってくれていいぜ。」

「…よ、よろしく。」

 

さあさあ、と背中を押され席に座らせられる。席に座ると数々の見たことの無いような料理があった。

 

「君、栄養剤ばかりで過ごしていたそうだね。メディカルセンターのスタッフに聞いたよ。何があったとは今は聞くまい、まずはお腹いっぱいに食べるといい。」

「そーそー!腹が減っては…なんだっけかな。とりあえず食べようぜ。」

 

もう食べてる、なんてのは言うまい。お腹は空いてるつもりでは無かったが、目の前の光景と直接訴えかけるような香りを目の当たりにしたせいか。ぐーっと自然とお腹が鳴ってしまった。

 

「…いただき、ます。」

 

暖かい食事は何年ぶりだったか、なんの料理かも分からないが口に運んだ。

するとどうだろう、泣きたいなんて微塵も感じなかったのに。涙が溢れていた。

 

「うおっ!?ど、どうした!!腹でも痛いのか…。」

「何か苦手なものでもあったかね。」

 

首を横に振る、言い表せないけど、気持ちとしては安堵と喜びだと思う。ただ、この時はこの言葉しか出なかった。

 

「…おい、しい。(グスッ)」

 

ぽかーんと私を見たあと、笑い合う2人。

 

「そうか、それなら良かった。ゆっくり食べるといい、食事は逃げはしないさ。」

「ふぉーふぉー!ふぁふはぁんあっふぁら、ひっふぁいひゃべろよ!(そーそー!沢山あるんだから、いっぱい食べろよ!)」

 

口にものを入れて喋るんじゃないと叱られるディルクをよそ目にご飯を食べ進めることにした。

私の新しい家族は、とても暖かく、やかましいですが。安心する所のようだ。

 

 

 

続く。



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1-1 選択

ガレット宅にて引き取られたツバキ。
ここから始まる新たな生活とは…?


私がここに来て、もう1週間になる。

初めこそ慣れない場所での暮らしだった上に、やかましい同居人がいまから溜まったものじゃない。

だけど、ご飯は美味しいし、何より寝ることに安心したのはいつ以来だろうか…。

 

まだ家から出れない私は、今日もゆっくりと過ごすつもりだ。

何にせよ、まだ身体がだるいから静かにしていたい。

だがしかしーーー。

 

「おいツバキ!近くのショップにうめえもんあるんだ!行こうぜ!」

 

私の平穏は、一瞬にして崩れた。

 

「あのね…。あの人にも言われたでしょ。私はまだ非正規市民だから安易に出回るなって。」

「んだよー。つれないなぁ…。」

 

気持ちはわかる、だけどもう少し空気を読んで欲しいのと、これを言うのは3回目だという所である。

 

「はいはい…。今度行くから、今は寝かせて。」

「また寝るのかよ!?…寝てるし。よく寝るよなあ、食って寝て、太るぞー?」

 

何か聞こえた気がするが、それを尻目に私は再び横になる。

そしてアイツはいつかぶっ飛ばす。そう思いながら、私は睡魔に身を委ねた。

 

 

ーーーまた、夢を見る。

私のパパとママ、もう顔も出てこないくらいに記憶が薄れたけど、その温かさだけは覚えている。

3人で一緒に買い物に行った時だろうか、今の私からは想像出来ないくらいに笑顔で、無邪気な子だった。今日は何をするんだろう、何を見に行くんだろう。

 

だけど、つかの間の平和も長くはなかった。

アイツが、ダークラグネがパパとママを、私の目の前でーーー。

 

 

「っ…!?」

またこの夢だ、眠りにつく度に呪詛のように纒わり付く私のパパとママが殺された時の記憶の夢。眠りが浅いといつもこうだ。

そして決まって顔の右半分、縦に流れるラインが特に痛む。何故、と考えようとすると吐き気に襲われる。

 

「…(ひどい汗)」

滝汗をかいたようなレベルの濡れ具合だ。一先ず、喉を潤しに冷蔵庫へ向かう。

頭がぼーっとして思考がまとまらない。何にせよ、1度落ち着く為に水分をとってシャワーでも浴びよう。

 

 

ーーーー数十分後

 

 

「あぁ、シャワーを使っていたんだな。」

「…うん。」

 

シャワーから上がるとリビングにはガレットがいた。毎度思うが、耳の部分を見ない限りはヒューマンにも思える辺りキャストの完成度の高さを伺えた。

周りが静かなのは…。つまり、あのうるさいのは…大方寝たんだろう。

そして、手には何か資料があり、何やら誰かに関する資料のようだ。そう思ったのもつかの間、すると彼の口からーーー。

 

「さて、ツバキ。少しお話をしようか。なに、ただの質問だ。」

「はいはい、手短にしてよね。」

正面に腰掛け、頭を拭いていたタオルを首にかける。

 

「今君には2つの選択肢がある。まずは1つ、このまま我が家で平和に暮らす。私としてはこちらにして欲しいがね。」

「…2つ目は。」

「せっかちだな…。まあいい、2つ目だが…。」

 

ーーーここで私の運命が変わった。

 

「私の指導の元、アークスとして生きるか…だ。」

「えっ…。」

 

驚くより、まずは疑問が浮かんだ。

何故私なのか、そもそもアークスになるのには適正と数多くの過程を踏まないといけない…とあのうるさいのがそう言っていた。

そう顔に出ていたのか、彼は言葉を続けた。

 

「君は光と氷のフォトンの属性に異常に高い適正値を叩き出した。それが一部の研究機関に話に流れたようでね。あぁ、すまない。君にとってはトラウマだったな。」

「…いい。続けて。」

 

少し震える腕を無理やり押さえつけて、強がってみせた。

それを悲しい目で見るガレットは続ける。

 

「そうか…。君を拉致していた機関とは別で至極真っ当な機関だが。武器開発、フォトンに関する研究をしている機関等が君に興味を示したようでね。アークスとして迎え入れて更なる研究精度の恒常化を考えているそうだ。」

「……。」

 

やはり私はどこまで行ってもこうなる、少し前ならそう思って諦めて閉じこもってたかもしれない。

だけど、私の何かが語りかける。

 

ーーあの時力があれば

 

ーーーあの時パパとママを護れていたら

 

ーーーー私に、もっと力があれば…!

 

私の中を恐怖ではない感情で、真っ黒な感情で埋め尽くされた。

 

「私としては君には平和に過ごして欲しい、それに…。」

「ねえ。」

「…なんだね。」

「アークスになれば、アイツらを…倒せるのよね。」

「…あぁ。フォトンにはダーカー因子を浄化する力がある。」

 

あぁ、なら話は簡単だ。

 

「なる、例えそれが研究機関の奴らの好都合だとしても…。上等よ、それすらも私が利用してやる…。」

「…そうか。」

 

ガレットはそれ以上は何も言わなかった。

 

「分かった。ならばこれからは君をアークス候補生として受け入れよう。1教官として、君を育て上げよう。」

「……。」

 

パパ、ママ。

見てて、必ず仇を取ってみせるから。

 

私はアークスとしての道を歩む。

強くなって、必ずパパとママを殺したヤツを殺す。

そう強く想いを込めた。

 

しかし、私はまだ気づかない。

私に隠れている力がもたらす災厄を。

 

 

続く。




アークスとして歩み始めるツバキ。
平和を捨てて、戦いの渦へ巻き込まれていく彼女の運命や如何に。




次回から少し話は飛び飛びになります。
回想的な感じでアークスになる手前までかな…?
お楽しみに!


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1-2 過去との再会、そして復讐

一般人として平和に暮らすか、力を手にするためにアークスとしての選択を迫られ、ツバキはアークスを選択。
それは、自分の家族を奪い取った憎き相手に復讐する為に。

そして、ツバキは過去と再び向き合うのであった。


時は現代に戻る。

 

カフェのテーブル席で私の過去の話を聞いていた二人は思わずコメントに困ってしまっていた。

・・・変わらず手は止まってないけど。

 

「アタシは前々からざっくりとは知ってたけど・・・ツバキちゃん壮絶だよね。ほんとに20歳・・・?」

「うんうん。あたしじゃ到底考えられない人生送ってるよね。」

 

上から順に相棒の華楠、そしてそのフレンドの盞華。

・・・自分で言うのもなんだけど。こんな話しててもお茶を続けられる二人はほんと肝が据わってるというか何というか・・・。

まあ、全部は話すと後が面倒だから話さないとして・・・。

 

「・・・まあ。そんなこんなで私はアークスを目指したってワケ。それより、そろそろ時間じゃない?」

「あっ、そうだった。アタシ独極訓練しないとだった・・・。盞華ちゃーーん。手伝ってよーー。」

「独極なんだから駄目でしょう・・・。頑張って。」

 

子供のように駄々をこねる相棒とそれを宥める盞華を余所に、私は思い返す。そういえば、ディルクは、彼は元気なのだろうか・・・と。

思えば彼とはしばらく会ってない。いや、会えないが正しいだろうか。

嫌われていても仕方がない、だって私は彼のーーー。

 

「ーーーちゃん。ツバキちゃん?」

「ん。あ、あぁ。ごめん、考え事してたわ。」

 

相棒の呼びかけでふと現実に呼び戻される。

ぼーっと明後日の方向を見てたと思うと少し恥ずかしい。顔をぶんぶんと振り意識を相棒に向ける。

 

「それで、なんだったかしら。」

「ツバキちゃんこれからどうするの?アタシはこれから独極訓練だし、盞華ちゃんはしばらく自室にって言って行っちゃったからどうするのかなって。」

 

あぁ、そう言えばそんな事言ってたような気がする。

とはいえ、私ができることもないのでおとなしくクエストにでも行って時間でも潰そうと思った。

 

「私は適当にクエストでも受注してクライアントオーダーでも消化するわ。そっちが終わったら連絡お願い。」

 

はーいと気の抜ける返答を最後にお互いに自分の作業に集中することにした。

 

 

ーークエストカウンター前にて

「・・・(丁度いいクエストが無いわね。まあいいわ、適当に受けて時間潰しましょうか。)」

「あぁ、すいません。ただいま他クエストが人数を超過しておりちょっと難易度が高いこちらのクエストしか残ってなくて・・・。」

 

見てみると、それは仮想空間を利用してタイムアタックを行うクエストだった。

 

【闇の痕跡】

ちょっと私にとってはきつい過去のある場所をベースにしているクエストだ。何の因果か、神のいたずらか。

ともあれ、これは仮想空間でのクエスト。何も心配することはない。

 

「分かった、これを受けるわ。」

「かしこまりました。あ、ただ既に1名受注してますね。そちらの方と相席という形でも問題ないでしょうか。」

「そう、まあいいわ。(ささっと終わらせて帰りましょうか。)」

 

この時はさっさと終わらせて帰還するに限る。それくらいの軽い気持ちで受けた私に大きな壁が待っているとは思わずにーーー。

 

 

 

クエストを受注し、キャンプシップを得てテレポータの設置されている場所にまで移動した。

 

「ん。あぁ、カウンターの人が言ってた人ってアンタ・・・。」

「え・・・。」

 

テレポーターを起動した同席のアークスに軽く挨拶をしておこうと、そう思って顔を見た瞬間、文字通り言葉を失った。

それは無論、向こうもだった。

 

「・・・ディルク?」

「・・・アンタか。」

 

そう、もう会うことのないと思っていた。義理の弟のディルクだった。

彼から感じるのは強い憎しみ、殺意だった。それもただの殺意ではない、確実な殺意。それが私に向けられる。

理由が分かる私にとって、それは必然の事だった。

私は言葉が出なかった。

 

「・・・このシップにいたんだな。」

「・・・。」

 

やっと見つけたと言わんばかりに彼は続ける。

 

「久しぶりだな、姉さん。何年振りだ?俺は覚えてるぞ、あの時・・・そう師匠が死んでから、いや殺されてから6年だ。何故アンタは師匠を・・・。」

 

彼は言葉を続けながら武器の柄を握る。

私はこの時悟った、殺す気だと。

 

「何故だ!!」

「なっ・・・!?」

 

信じられない速度で突進してきた彼を咄嗟にかわす。

避けた後も連撃は止まらない。

 

「拾われた恩を・・・アンタは・・・!」

「ま、待って・・・!私は・・・!」

 

私の静止も意味を持たず、むしろ私が言葉を発することで逆に刺激をしてしまっている。攻撃の威力は更に増し、捌きれずに徐々に切り傷ができていく。

それでも、話さなければならない。私は懲りずに口を開く。

 

「あの時私は・・・!」

「うるさい!!」

「あぐっ・・・!?」

 

隙ができた私に蹴りが諸に入った・・・。

一瞬意識が飛びかけたがどうにか持ち直した私は着地と同時に顔を上げる。

光が見える、太陽のような強い光。

靄が晴れて明瞭になった視界に飛び込んだのは気弾をチャージしている彼の姿だった。

 

「消えろ。そして向こうで師匠に詫びを入れてこい。」

「・・・っ!?」

 

 

視界が白に染まる。

真正面からフルチャージの仮想空間の壁にまで飛ばされ、壁に激突し苦鳴と共に崩れ落ちる。

 

「あ・・・がっ・・・。」

 

息ができない、視界もぼやけて何も見えない。

身体強く悲鳴を上げる、動かそうとしても身体は一向に言うことを聞かない。

そこに歩み寄る足音と彼の声だけが聞こえる。

 

「・・・まだ生きてるのか。まあいい、トドメだ。」

 

殺される・・・。そう思った瞬間に。

 

【違法な戦闘を確認。ただちに戦闘を中止してください。繰り返します。ただちに戦闘を中止してください。繰り返します・・・。】

 

警報が鳴り響く、それに救われたのか。

 

「・・・命拾いしたな。次はないぞ。」

 

気配が消える、警備が来るのを察知したのか、彼は既に去っていた。

よく聞こえないが、人の声が聞こえる。最早何を言っているのかを理解するのに疲れてしまった私は意識を放棄した。

 

 

 

 

ーーー声が聞こえる。

 

(ツバキ・・・。ツバキ・・・。)

 

お母さんと・・・お父さん・・・?

 

ただなんとなく安心できる声だ。

もうこのまま眠ってもいいんじゃないか、そう思うくらいに安心できる声だ。

だが、それと同時に聞こえてくる声がする。

 

(ツバキ。)

 

酷く掠れた声、聞き覚えがある。紛れもない、私を拾ってくれた彼の声だ。

そちらに振り向こうとしたとき、もう一つ声が聞こえた。

 

(アンタだけは殺す。何があってもだ・・・!)

 

はっとしたのもつかの間、胸に鈍い痛みが広がる。

胸を貫く大剣、辺りに鮮血がほとばしる。

胸元を見下すと自分の血に染まった大剣の切っ先が見える。

 

「ぁ・・・ガッ・・・!?」

 

悲鳴を上げる間もなく、急所を貫かれ命の炎は一瞬で沈下していった。

 

「何故だ・・・。」

 

彼は私を見下し呪詛のように同じことを言い続けていた。

そして、私の意識は更に深淵に崩れ落ちるーーー。

 

 

「ツバキ!!」

「・・・!?」

 

目が覚めた、強く華楠が呼びかけた事で闇の底に沈みかけた私は引き上げられた。

全く知らない天井、酷い不安を感じさせる相棒の顔。どうやら、私は一命だけは取り留めたようだ。

 

「ここ・・・は・・・?」

「よかった・・・。ツバキちゃんが大けがをして運ばれたって聞いたから。何があったの・・・?」

 

酷く全身が痛む。そして私の中にある何か、何かはわからないが、ヒビでも入ったかのように痛む。何となくだが、自分の何を指しているのかは分かる。

だが、それより話さなければいけないことがある。

 

「・・・弟に・・・会ったの。」

 

肩で息をしながら続ける。

 

「ちょっと・・・。昔色々あってね。それで・・・いっつ・・・。」

「む、無理しないで・・・。ただ会っただけでそうなるわけが無いでしょ。」

「・・・。後で・・・。しっかり話・・・すか・・・ら。」

「・・・わかった。」

 

ここで体力に限界が来ていたのか、再び私の意識は落ちる。

混乱と不安と、悲しみを抱えて。

 

 

 

 

 

一方、市街地の裏路地にてーーー。

 

「・・・くそっ!」

 

壁に強く拳を振りかぶる、壁にはヒビが入り、破片が飛び散る。

声には明らかに苛立ちが籠っていた。

 

「仕留めきれなかった・・・。師匠の仇を・・・。」

 

殺意の籠った瞳で空を見上げ、一言呟く。

 

「次は・・・殺す・・・。」

 

 

そう呟き、ディルクは路地裏の闇に消えていった。

 

 

 




大けがをおったツバキ、その彼女に強い殺意を抱く、義理の弟ディルク。

ツバキが隠しもつ過去とは・・・。
次回、再び過去に戻る。


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嘆きの雨
2-1 彼女の過ちの始まり


ツバキが隠していた過去、ディルクとの再会。
しかし、その再開は喜びではなく、強大な殺意であった。

怒涛の連撃にツバキは大けがを負ってしまう。
なんとか一命をとりとめたツバキ、彼女の口から語られる真実とは。


私が入院して、約3日目。

昏睡状態が続いた状態もようやく改善の兆しが見えてきた。

しばらくのアークス活動を休止し、療養を命じられた。

華楠に肩を借りながら一度彼女のマイルームに移動することになった。彼女の部屋に移動の後、ゆったりとソファに腰をかけた。

 

「心配かけてごめん・・・。」

「いいの、それより身体は大丈夫?」

 

少し自分の身体の中に意識を集中させて確かめてみる。

大方な異常はない、こればかりはアークスの医療技術に感謝すべきだろう。

だがしかし、1つだけ治っていない箇所があった。だが、それは今話すべきではないだろう。

それよりも、今は話さなければならないことがある。

 

「ん。取りあえずは大丈夫。それよりもこの前の件、話さないとね。」

「・・・そうだね。いったい何があったの?」

 

ほんの少しの静寂の後にゆっくりと口を開く。

そのツバキから出る声は普段のからっとした声ではなく。後悔、不安、悲しみが織り交ぜられた子供のような震えた声だった。

 

「私がアークスを目指してから半年くらいだったかな。私の能力は知ってるでしょ。それに関する事なんだけど。」

 

そう、私には身体にあるものが埋め込まれている。

魔法の液体のようなものが瓶に詰められた武器、詳細はさっぱり分からないが私は奥の手で水流を形成してそれを武器にすることができる。

これは体力の消耗が激しく、使うごとに何かが削られている感覚に襲われる。ただ、今はというと・・・。

 

いや、この話は後にしよう。

 

「まあ、その時に今こうなってる理由というのが始まったの。あれはそう-----」

 

 

 

 

 

時はまた戻り、ツバキがアークスを志してから少しした後の時間に戻る。

 

アークスとしての教育が始まり早4か月あまりが経っていた。

元々記憶力や情報処理能力に長けていたのか、勉学は割とすんなりできている。ディルクは・・・まあ御察しの通りである。

ざまあみろとかは思っていない、思っていませんとも。

 

ただ、運動方面が難儀だった。私自身運動が大の苦手だったのだが、身体に何かをされてからというもの。まるで自分の身体じゃないように感じるくらいには違和感が強い。

それ故にまずは身体を慣らしていくのが課題となっていた、正直物凄くしんどい。呼吸は乱れる、体力はすぐにぶっ飛ぶ。

身体的な問題で言えば私はディルクより劣っている。

正直これがかなり参っている。体力をつけないという気持ちと負けず嫌いな部分が混ざって無茶をしてしまう。

それもあって、何度かメディカルセンターにお世話になったのは言うまでもない。実際今も実戦訓練にて少し身体に負荷が溜まり、しゃがみこんでうごけないでいる。

 

「ツバキ、強くなりたいという君の気持ちはよく分かる。だがそうやって無理をし続けるのは感心しないぞ。」

「はぁ…はぁ…。そんな事…分かってる…。」

 

肩で息をしつつ答えるが、心の底では歯を食いしばっていた。

それを見かねたのか、ガレットはダミー武器を置き私に近寄ってくる。

 

「なら、休むのも君の仕事だ。」

「あっ、ちょっと…!?」

 

大きな樽でも持つような姿勢で片手で俵持ちをされる。

恥ずかしい、異様に恥ずかしい。無理やり逃げたいくらいだが、体力が限界だったのか、ぐでーっとしたまま動けない。

 

「やはりな。既に限界だったようだな。」

「……。」

 

図星故に何も言えない。担がれるままに引き連れられ、自宅へと帰る事になった。そう、抱えられたまま。

 

「ふ、ふへ…あっはっはっは!何だよその格好!?やっべ…笑える…!」

「あとで殺す…。」

 

寄りによって帰ったタイミングでディルクとも鉢合わせた。担がれたまま。

屈辱だが事実でもあるから、とても悔しいのと恥ずかしいのが混ざりあっている。

 

「二人とも、喧嘩はそこまでだ。夕飯…と行きたいが、まず話して置かないといけないことがある。」

「「…?」」

 

ようやく降ろされた私と半笑いなくそったれディルクを前に眉間にシワをよせつつガレットは話をし始めた。

 

「二人の実技の評価が非常に高いのは知っていると思う。そこで、実地での訓練にという判断が上から降りてきた。」

「おおぉぉ!?遂にですか師匠!資料では知ってましたよ…!確かゼノって言う先輩のレポートか何かで…。俺も遂にかぁ…!」

「…それで。実地でとは言うけど何をするのかしら。」

 

やかましいのを後目に話を続けさせることにした。向こうはお構い無しに祝いの言葉を言い続ける。確かに嬉しいといえば嬉しいが、私にとってはこんなのは通過点に過ぎなかった。

 

「実地と言ってもすることはほぼ変わらない。仮想が現実になるだけだ。無論、現役のアークスと教官である私の同行は前提だがね。2人が構わないのなら明日にでも可能だ。どうだね?」

 

なるほど、理には叶う。実地での経験が積めるのならそれに越したことはない。むしろ願ったり叶ったりではある。

 

「わかった。それが強くなれる1歩になるのなら。」

「勿論っすよ!楽しみだなぁ…!」

 

二人の顔を交互に見比べ、ガレットは頷いた。

 

「いいだろう。ならば明日から実地訓練を開始する。まずは身体を休めておくように、特にツバキ。」

 

一言余計だが、言い返せる札もないので素直に従うことにする。

 

ご飯も食べ終わり、寝ようとしたタイミングでガレットに声をかけられる。

 

「いいかツバキ。前にも話したが、君の底に隠された能力は出すな。あの氷のフォトンとは違う水の力は今の君には扱えない。それに、どうやら君には恐ろしい者が眠っているかもしれない。」

「…えぇ。」

 

何かと思えば、いつも言われている事だった。

候補生になる前、隅々までチェックされた私は担当医に呼びだされた。曰く、私の身体の中心には特殊なコアの様なものがあると。そして底知れぬ何かがあると。それ以上はとても調べる気にはなれなかったと語っていたのを今でも覚えている。

 

それが何かは私もよく分からない、前者は1度使ったから分かるが、確かに今の私には扱えない。

だが後者が分からない。深い闇のようなもの、ダーカー因子に近いものがある。そう小声で話していたのを覚えている。あの憎いやつの力が身体にあると思うと寒気がするが、いつかこれも自分の力にしてみせる。そう思っていた。

 

「一先ず以上だ。止めてすまない。それじゃあ、おやすみ。」

「おやすみ。」

 

ガレットと別れて部屋のベッドに横になる。

また強くなる為への1歩が踏み出せた。そう確信しながら、目にどす黒い炎を宿しながら眠りにつく。

 

その時まだ誰も予想はしていなかった。

段々と近づく悲劇と終幕の始まりをーーー。

 




実技でのひょうかをみとめられ、実地訓練に移行することになった二人。
片や追いかける目標に近づくため、片や己の復讐の糧にする為に。
想いが交差する日は、そう遠くない。

次回、物語が大きく動く。


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2-2 復讐の連鎖1

なんとか入院から脱したツバキ。暫くは安静を保つ為に華楠のマイルームに厄介になる。そしてツバキは恐る恐る過去の話をするのであった。

そして過去。
実技の評価が良く、新しいステップへと踏み出したツバキとディルク。
しかし、その背後には大きな闇が迫っていた。

3人の運命や如何に。









前日の話から半日、太陽も真上を通りそうな時間帯。

私たちは惑星リリーパに降り立っていた。

 

「うぇっ。ぺっぺっ…。砂が口に入った。」

「相変わらず馬鹿ね。ほら、マスクでも付けときなさい。」

 

そう言って私はディルクに簡易マスクを手渡す。

ジェスチャーで感謝の意を示しながらマスクを付けるディルクを余所に私は自分用の黒いマスクを装着する。

そのタイミングでガレットがテレポーターから出てきた。

 

「流石に早いな二人共。その行動力は賞賛に値するが、君たちは待つということを覚えたまえ…。候補生が引率無しで行動するというのは本来厳しく禁止されているからな。そもそも、ディルクもツバキも忙しない。年相応なのはーーー。」

 

相変わらず説教が長い。

聞いてるふりして聞き流しつつ初めて来る場所の観察をする。

辺り一面砂だらけ、所々文明があったのを彷彿とさせる瓦礫の数々。

…どうやらとうの昔に滅んだようだ。そんな場所も今では原生種やダーカーの巣窟だと思うと何故かイラつきが溜まっていく。

そんなことを言ってても仕方が無いので、大人しくガレットの支持に従うことにした。

 

「つまりだ。今回のクエストは単純。このエリアの奥地にある、原生種の1種であるリリーパの建造物への到達だ。道中は二人共に行動するように。ほらツバキ。露骨に嫌そうな顔をするのではない。」

「了解っす!頑張ろうぜツバキ!」

「あー…はいはい。」

 

ここで嫌というのも子供過ぎる、まあ仕方が無い。

やることは仮想空間での訓練とはそう大差はないだろう。砂があること以外は。

何はともあれ、まずはディルクと行動を共にする。

 

動き始めてはや数分。出てくるものといえば錆び付いた原生種、一瞬だけ見え隠れするリリーパ族、そして砂、砂、砂。

イラつきが加速していくが、体力の減り方が仮想空間とは訳が違った。そういう点では実地での訓練というのも悪くは無い。

…となりの誰かさんはお構い無しとグングン進んでいくけれど。

 

「おーい!遅いぞツバキー!」

「うっさい。あんたみたいにタフじゃないのっ…よっ…!」

 

襲いかかってくる原生種を蹴り飛ばしながら私も後を追っていく。

あいつのどこにそんな体力があるのか不思議でならない。

 

「…ん?」

 

微かだが何かを感じた。どこか懐かしいような、だけど不快に感じるこの感覚。

だが、本当に一瞬だけだったせいかそれが真かは分からなかった。

 

「…(気のせいかしら。)」

「何してんだー!置いてくぞー!」

「分かってる。すぐ行くわよ。」

 

気のせいという事にしといて、あいつのあとに続く。

何かに見つめられているとは露知らず。

 

 

その時誰も気づかなかったがーーー。

人のような形をした闇が、私たちを見つめていた。

声なのかどうかも分からない、吐息のような音を発しながらーーー。

 

それは影の中に消えていた。

 


 

歩き続けて更に時が過ぎる。

砂地を抜け、砂の下にあるトンネルのような場所に到着した。

ここも何かに使われた通路なのだうか、明らかな人工物を眺めつつ先を急ぐ。

洞窟のような形状のおかげが、砂が中まで入り込んでこない。

そう感じ、マスクを外す。

 

「ここならマスクはいらなさそうね。」

「だな!いやあ…息苦しかったぜ…。」

 

その割には呼吸も安定しているようだ。

身体だけは本当に丈夫なやつだと、少し羨ましくも感じた。

それはさておき、正直さっさと終わらせて帰りたい。砂に脚を取られてたせいか、披露が予想以上に溜まっていた。

心做しか早歩きで先へと進んで行く。あの時の妙な違和感に引きずられながらも歩みを止めることは無かった。

 

隅にある武器と血溜まりに一切気づかずに

 


 

「………。」

 

妙だ、ゴール地点付近のアークスと通信が取れない。

機器の故障…。それは無いだろう、ものの15分前まで通信は生きていた。現に問題児達(ツバキとディルク)の会話はとめどなく聞き取れている。

だとすると何か起きた可能性もある。

この不気味な程静かな採掘基地上、酷くなり始めている砂嵐。

そして異様でまとわりつく気持ち悪さのある空気。

 

「嫌な予感がするな。」

 

そう呟き、愛刀のデイジーチェインを背負い、全速力で2人の元へと向かった。

二人の会話はまだ聞こえる。

手遅れにならないでくれ、そう切に願っていた。

 


 

足りない。

足りない。

 

そう思わせんとばかりに人だったものをなぶる。

 

ソレにあるのは破壊の衝動のみ、動くものが無くならない限り止まることを知らない殺戮兵器。

 

その見た目は四肢こそあるが人のそれではない。

歪で、その面影はどちらかというと野獣に近い。

ソレに色は無く、影のような瘴気で出来ている。

 

どこから来たのか、どこで生まれたのか、分からない。

そして生まれ持ったモノは破壊の衝動のみ。

宛もなく放浪し、動くもの全てを破壊していた。

 

そして先程向かってきたヤツは既に壊した。

するとどうだろう、壊したヤツの死に間際の顔。

苦痛に歪む顔、絶望に染まる顔色。

 

ソレには新しい感情が芽生えていた。

 

破壊による【快感】だ。

この上ない気持ち良さ、ソレは思わず咆哮を上げる。

 

だけどもう動かない、1突きしただけで息絶えてしまった。

 

故に暇で暇で仕方がない。

 

だがそこに

 

また獲物がやってきた

 

 


 

 

 

 

奥地までもうすぐ、他愛のない話をしながら進んできたがもうすぐそれも終わりだ。

結局のところ疲れがたまる以外は仮想空間での訓練とそう大差はなかった…と落胆していたところ。

 

『オォオオォオオオォォオオ!』

 

獣のような咆哮を聞いた。

ここはナベリウスではない。惑星リリーパだ、

獣のような機甲種はいたが、今聞こえたのは明らかに生物のソレだ。

 

「今の…聞いたか。」

「…えぇ。はっきりと。」

 

しかもそれは目的地の方向だ。

未知の生物の出現、それも考えたがそれよりも先に違和感を強く感じた。

 

血の匂いだ。

吐き気を催す程の血の匂い。

 

ずっと感じてた違和感はこれだ。

強い殺意を感じた、喉を掴まれているかのような強い殺意。

 

そして、目に入ってしまった。

いや、気づいてしまった。

奥にいる化け物(ソレ)に。

 

「なに…あれ…。」

「…っ!?」

 

何かが奥にいる。

急な寒気が全身を襲う、

人のような形をしている、してはいるが。

 

ーそれは漆黒に等しい影であった。

 

ーーそれは死神とも汲み取れるモノであった。

 

手には武器とは言い難い鋭利な何か。

足元には人だったもの、見覚えはある。

 

それは、出発前にガレットと話していたアークスだった。

 

「あっ…あぁ…。」

「はぁ…はぁ…っ!?」

 

ヤバイ、間違いなくヤバイ。

その現状に直面し思わず思考が止まってしまった。

幸い意識はしっかりしていた。

だが、彼はそうとは限らなかった。

金縛りにあったかのように硬直してしまっているディルク。

そして、目の前の現状を目の当たりにしたせいか、思わず吐き出してしまっていた。

 

「…っ。ディルク…!逃げるのよ、あれは今の私たちじゃ到底かなわない…!」

「わか…ってる。でも、脚が…動かねえんだ…。」

「ばか…!意地でも動かして…!死ぬわよ。」

 

そのやり取りを察知したのか、そいつ(死神)はこちらを見ていた。

 

ディルクは動けない、私は動ける。

 

抱えて逃げる?

ー無理だ。追いつかれるのが関の山。

 

ならどうする?

ーここでやるしかない。護るしか、方法はない。

 

『ォ…オォ…』

 

微かにうめき声を上げたソレはゆらりと獲物をこちらに向けた。

瞬間、それは音も発せずこちらに飛び込んできていた。

 

「くっ…そぉ…!」

 

武器を構える、ただ普通の武器ではなく。

水の水流のようなモノ。

今はまだ扱えない、そう断言された私の力。

でも、普通ではソレには太刀打ち出来ない。

そう瞬時に察知し、力を発現させた。

 

「せあぁぁぁっ!」

 

真正面から叩きつける。

向こうもただの武器ではなく水のようなものに一瞬だけ戸惑ったのか、私の力でも弾き返せた。

弾き返し着地する敵、着地時の砂煙で見にくいが体制を崩しているようだ。

 

「(攻めろ…。攻めろ…!攻めろ…!止めたら終わり、違う。アレはそんな相手じゃない…!)」

 

好機。

そう思った私は疲労なんて気にせずに突貫する。

アレを沈めて逃げなければ、あの馬鹿を護る。

 

しかし、思えばおかしかった。

現役のアークスを殺せるくらいの実力があるやつが何故私の力で押しかえせたのか。

そんな疑問がふと頭に過ぎった。

だが既にその疑問よりも倒さなければならないという意志が動きを決めていた。

 

それが致命的なミスだった。

 

左下腹部に熱いものを感じる。

 

砂煙が晴れる。

 

そこには、獲物を突き出した死神とー。

 

その獲物が深々と左下腹部に刺さった(ツバキ)がいた

 

「えっ…?」

 

疑問と同時に獲物が引き抜かれる。

傷口からとめどなく溢れる鮮血、同時に痛みが追いついてきた。

 

「うっ…あっ…ああぁぁああぁぁ!?」

 

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

生まれて初めての痛みに悲鳴が上がる。

完全に油断していた。罠だった。

 

だが、悔しさや後悔よりも痛みがそれを全てかき消していた。

 

『ク…クク…』

 

死神は嘲笑うかのように見下し、獲物を振り上げた。

確実に獲物を仕留めるために。

動けずに藻掻く私を、あのアークスと同じようにする為に。

 

大きな風切り音と共に、死神の得物が振り下ろされた。



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