ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~特別編(HPTT編) (マーケン)
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ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~HAPPY PARTY TRAIN TOUR編

 それは夏にしては空が澄み、冬のように星が輝くある夜のこと。寝付けぬ暑さに私は開き直り、夜の散歩をしたあの日のことだ。

 私は空から大地に向けて伸びる光のレールを見た。

 エメラルドグリーンに輝くそれは曲線を描いて海辺に延び、私はその不思議な光景に誘われるようにその終着点を探し歩いた。

 星々がやかましいくらいに輝いているのとは裏腹に、町はこの不思議な光景など素知らぬ態度で静まりかえっていた。

 幼稚園児のいるお隣さんも、毎朝ランニングしている角のお家も、大きな犬を飼っている川岸のお家も全部だ。

 けれど心は浮き足だって、私は気付けば駆けていた。そこに行けばそれと出会える。そんな確かな予感に突き動かされて。

 海岸線に出ると光のレールはやっぱり海面まで降りていた。

 波は穏やかに星の輝きを揺らし、私は肩を揺らして道を急ぐ。乗り遅れたくないと、どこから浮かんだのか分からないそんな考えが私を突き動かしていた。

 海岸線を走ると、程なくして千歌先輩の家の前の船着き場までレールが延びているのが見えた。

 そして船着き場は駅のホームのようになっていて、その前には機関車が光の蒸気を立てながら鎮座していた。

 

「あ、最後のお客さんが来たよ。おーい!」

 

「千歌先輩!?その格好は?」

 

「いいからいいから、乗った乗った」

 

 見慣れぬ青と赤の駅員服をモチーフにした衣装に身を包む千歌先輩が私を手招きする。

 見ればAqoursメンバーがライブの時のように勢揃いして一番先頭の車両の窓から顔を出していた。

 

「これは一体?」

 

「HAPPY PARTY TRAINだよ」

 

「これからみんなでトラベルビィするんだよ」

 

「星は皆と一緒に後ろの車両ね」

 

 駅のホームと化した船着き場に着くと、私は2両目に案内される。

 他の皆、と言ったとおり2両目には学校の皆が、3両目には町の皆が乗っていた。お隣さんも、角のお家も、大きな犬のお家も皆だ。

 

「よーし。じゃあ、しゅっぱーつ!」

 

 私が列車に乗り込むのを確認すると、車掌の格好をした果南さんが汽笛を豪快に鳴らす。

 そして、この不思議な機関車“HAPPY PARTY TRAIN”はゆっくりと動き出した。

 

「本日はHAPPY PARTY TRAINにお越し頂きありがとうございます」

 

「これから皆を、みーんなを乗せて、全国、いや世界を旅するからね」

 

「着いてきてくれないとぶっぶーですわ」

 

「楽しい旅をどうぞ堪能するずら」

 

「Let's travel!」

 

「まずは、名古屋に向かって、全速前進ーーー」

 

「ヨーソロー!!」

 

 そのAqoursの社内アナウンスに後押しされるように列車は少しずつ加速する。

 あっという間に海岸線から離れ、どんどん千歌先輩の家も小さくなっていった。

 そして、浜辺から見たら水平線のその先で列車は緩やかに海面を離れ、空のレールを駆け上る。

 私は勘違いしていた。レールは空から海岸線に延びていたのではなく、海岸線から空へと延びていたのだ。あそこは終着点ではなく始発点。この旅の出発地だったのだ。

 空へと駆け上った列車はUターンすると私達の町の上を通過する。

 浦の星女学院も十千万旅館も松月もプラザヴェルデも、みんな寝静まった町を。

町を歩いているときは凄く広いのに、空から見ると本当にちっぽけな町。けれど、今はここが帰ってくる場所だと思える町だ。

 

「いってきまーす」

 

 誰かが元気にそう言うと、私達もつられていってきまーすと言う。当然町の皆がここにいるのだから返事はないけれど、私達の声が聞こえたかのように家々から“いってらっしゃい”と言うように光が点滅した。

 その景色に見送られながら私達を乗せた列車は雲を抜け、にっこり満月の空とご対面したしました。

 

「こんばんは。良い夜ですね」

 

 満月の挨拶に私達も挨拶を返します。

 

「夢のような夜です」

 

「ははっ。それでは眠っているじゃありませんか。勿体ないですよ。でも、月が眠りを連れてくるのなら私は少しお暇しましょう」

 

 そう言って月は満月から半月、三日月から新月へと変わっていき、姿が見えなくなりました。

 

「それではまたお日柄の良い日に」

 

 けれど、月は見えずともそこには確かにいるのでホッとしました。

 私達は感謝と別れを告げて、列車は進み続けます。

 時折地上に降りて停車してはお客さんが乗り込んで、

 

「こんにちは。ライブ楽しみですね」

 

「こんにちは。私、Aqoursのライブは初めてなんです」

 

「こんばんは。私、鞠莉推しなんです」

 

「おはようございます。Aqoursは衣装のクオリティが高いんです」

 

 と一人増え、百人増え、千人増え、一万人を越えて増えて行く度に思い思いのAqoursを口にしていました。

 私は友達が褒められて嬉しくて、見知らぬ誰かの言葉に

 

「最高のライブになりますよ」

 

「初めてのライブがAqoursで間違いないです」

 

「私は箱推しです」

 

「衣装はルビィちゃんが筆頭になって丹精込めてますから」

 

 と鼻を高くしてしまいます。

 そして辿り着いたのは名古屋。

 空から見えたお城のてっぺんにシャチホコさんが居たので挨拶をした。

 

「こんにちは、シャチホコさん」

 

「こんにちは。素敵な電車ですね。これからどちらに?」

 

「全国を回ってライブをするんです」

 

「それは楽しそうですね。でも疲れを溜めたらいけませんよ」

 

 そう言ってシャチホコさんはストレッチのコツを教えてくれたので、私達は並んでストレッチをして最後はシャチホコポーズを一緒にして記念撮影をしました。

 

「ありがとうシャチホコさん。凄く体が軽くなりました」

 

「それは良かった。また名古屋にお越し下さい」

 

「絶対に来るよ!それじゃあ行くよ!」

 

「次は神戸に向かって、全速前進ーーー」

 

「「ヨーソロー!!」」

 

 シャチホコさんに挨拶し、愛知県体育館でアイスショーをする可憐な真央スマイルに目を奪われながら列車はまた次の場所へと向かいます。

 時折地上に降りて停車してはお客さんが乗り込んで、

 

「素敵な出逢いをありがとう」

 

「もう一度頑張る力を貰いました」

 

「今を変えようと、そう思いました」

 

 と一人増え、百人増え、千人増え、一万人を越えて増えて行く度に思い思いの感謝を口にしていた。

 私はそんな感謝の言葉が嬉しくて、見知らぬ誰かの言葉に

 

「私も皆と出逢えて凄く嬉しいです」

 

「貴方の諦めない姿がきっと誰かの勇気になりますよ」

 

「私もそうしたいです」

 

 と鼻を高くしてしまいました。

 そして辿り着いたのは神戸。

 空の雲を抜くような力強いポーズを決める鉄人28号さんが居たので挨拶しました。

 

「こんにちは鉄人さん」

 

「こんにちは。ようこそ神戸へ。歓迎するよ」

 

「ありがとう。鉄人さんの下を潜ってもいいですか?」

 

「もちろん。こんなに大勢の人が潜ってくれるのは大歓迎だよ」

 

 鉄人さんはとても大らかに笑いました。

 

「神戸はね、一度人が減ってしまったんだ。でも今こうして多くの人が訪れてくれる街に戻って、私は嬉しいんだ」

 

「そうなんですね。私達は二日間、泊まらせて頂くのでお世話になります」

 

「どうぞごゆっくり。そうだ、喉が渇いたら缶コーヒーがお勧めだよ。UCCがあるからね」

 

「ありがとう」

 

 私達は鉄人さんの足下に列車を止めて、二日間、神戸牛を食べたり、自動販売機のUCCの缶コーヒーを買い占めるとまた旅に出ました。

 

「次は埼玉に向かって、全速前進ーーー」

 

「「ヨーソロー!!」」

 

 鉄人さんに別れを告げて空に上がると、慌てて鉄人さんの横にイングラムさんが駆け付けてきてくれて誘導棒で埼玉方向を案内してくれました。

 私達も手に持ったキラキラでありがとうと返して列車はまた次の場所へと向かいます。

 時折地上に降りて停車してはお客さんが乗り込んで、

 

「ラブライブと出逢って明日が楽しみになりました」

 

「ラブライブを知って、人を信じたいと思えました」

 

「ラブライブを見て自分を見つめ直せました」

 

 と一人増え、百人増え、千人増え、一万人を越えて増えて行く度に思い思いのラブライブを口にしていた。

 私はそんなラブライブ愛が嬉しくて、見知らぬ誰かの言葉に

 

「明日も明後日も明明後日も、もっと先も、私も楽しみです」

 

「ラブライブを信じる皆さんのこと、私も信じています」

 

「ラブライブは自分を映す鏡みたいな気がします」

 

 と鼻を高くしてしまいました。

 そして辿り着いたのは埼玉。

 海から離れ、草の香る懐かしの街。私の生まれ育った街だ。

 おや、と眼下を見下ろすと、とても大きなお祭りがあるようでさいたまスーパーアリーナには沢山の人が集まっていました。

 そして驚いたことに、私達の目にSOSの文字が見えました。

 

「大変!?助けに行かなくちゃ!」

 

 みんなは大慌てで列車を方向転換し、私達はさいたまスーパーアリーナに駆け付けました。

 スーパーアリーナの中は真っ赤に燃え盛って熱気が渦巻いています。けれど、それは火事ではありませんでした。

 

「凄いずら!」

 

「Oh、今日はアニサマの日なのね」

 

 その熱も、光も私達に馴染みのあるものでした。

 私達の目に見えたSOSには団と続く文字があることをすっかり見落としていてちょっぴり恥ずかしかったですが、この際だと私達もアニサマに参加させて貰うことになりました。

 SOS団から始まり、沢山のフレンズ、仮面を付けた二人組、顕現するピンク色の王国、紫色の薔薇の制圧、沢山の驚きと既知と未知の感動、そして魂を揺さぶられる音を楽しみました。

 Aqoursが出ることも皆受け入れてくれて、HAPPY PARTY TRAINの時はエメラルドグリーンの輝きを、恋になりたいAQUARIUMの時は青色に会場を染めてくれました。

 

「皆ありがとー」

 

「斉藤Pもありがとー」

 

 ここでも列車に乗り込む人を受け入れて、私達はまた旅に出ました。

 さいたま新都心から沼津行きの列車があるのを見ると少し沼津が恋しくなりましたが、今はこの旅を楽しみたい。この列車に乗る約10万人の人と共に。

 

「そろそろ準備しようかな」

 

「何の準備です?」

 

「未来に行く準備です」

 

 そう言ってみんなは10両目で待ってるね、と言って移動しました。

 なんだろうと、皆で話します。

 

「きっと皆でお食事会をするんだよ」

 

 なるほど、確かに沢山の食べ物をこの列車は乗せています。串カツ、神戸牛、やきとりという名の焼き豚。

 

「きっと思い出を振り返るんだよ」

 

 なるほど、確かに沢山の写真を取っていました。Aqoursの写真、土地の写真、乗客皆の写真。

 

「きっと皆でキャンプファイヤーをやるんだよ。列車の中だけどさ」

 

 なるほど、確かにキャンプファイヤーを囲んで皆で踊れたらとても素敵な光景だろう。

 そんな風に、あれやこれやと話していると、駅のホームで列車接近の知らせのようなルルルルルル、という音が列車内に木霊した。

 

「全国から乗車してくれた皆、ごきげんいかがかなん?」

 

「これから10両目でライブを致します」

 

「と言うわけで皆。10両目に向かって、全速前進ーーーーー」

 

「「「ヨーソロー!」」」

 

 私達は一緒に声を出し、車両を移動して行きます。

 2両目、3両目・・・9両目と車両を移動していくと、各車両ナンバーに該当するメンバーの特色が凝らされた内装をしていました。

 果南さんならエメラルドグリーンの海、イルカやクラゲと言ったモチーフが飾られていたし、花丸ちゃんの部屋は配色が五月蠅くないように工夫された黄色の図書館風の内装だった。

 一両移動するたびに足を止めてはそれらを見学し、私は遂に9両目の最後尾、つまり10両目の入口に辿り着きました。

 どうもゆっくりし過ぎたようで、もう車両には私ともう一人の大人の女性しかいませんでした。

 

「あ、星ちゃん。久し振り」

 

 女性は入口前で誰かを待っていた様子だったけど、私の姿を見て私の名を呼びました。

 ここではない、遠い何処かで見たことあるようなないような、他人とは思えないその三十路前後の冴えない女性は私に笑いかけます。それがあまりにも自然で、そしてその姿を見られたことが何故だか嬉しくて、私も手を振りました。

 

「1stぶりだね。私の方は半年ぶりくらいになるのかな」

 

 1stが何の事を刺すのか思い出せません。けれど、何ででしょう。一緒に冒険をしたような、そんな仲間意識が湧いてくるのです。

 

「もしかして何を言っているのか、私が誰なのか分からない?」

 

「すみません。なんだかもうちょっとで思い出せそうなんですけど」

 

 女性は少しだけ残念そうな顔をしました。

 私はそれを見て、やっぱりこういう形で顔を合わせるのは初めてなんだと思いました。

 顔に見覚えはある。けれど、直接会った記憶は無いし、SNS上で写真が載せられたのを見たって訳でも無い。もっと、そう、当事者であったような気がするのです。

 

「いいよ。元々有り得ないことだったし、もしかしたら今の星ちゃんはまだあの時の星ちゃんじゃないのかも知れない」

 

 この人は私の思い出せないことをはっきりと覚えているみたいです。そして、それはまるで夢のような出来事であったのだと私にも分かります。分かるけれど、思い出せない。だからもどかしいのです。

 

「私にとってはだけど、もう一度会えて嬉しかったよ」

 

 それは本当に、この女性のイメージからは想像も出来なかった笑顔でした。だって漠然とあるイメージではこの人は枯れている、そんな人だったからです。

 

「思い出せないのが非常に残念なんですけど、ただーーーーあなたのその笑顔が見られたこと。それが凄く嬉しいと感じるのは確かです」

 

「少しは前向きになれたからかな。ラブライブと、あなたと出逢えたから」

 

「なら、今日は素敵な思い出を作りましょう」

 

「うん」

 

 私達は姉妹のように、或いは戦友のように手を繋ぎ、10両目へと入りました。

 全国、いや、全世界から集まった人達が一同に会した10両目は当然ながら満員御礼。

 流石に誰かが言っていたキャンプファイヤーはないけれど、皆はそれに負けない輝きを手に会場を照らしています。

 

「あれ?」

 

 ふと、繋いでいた手が無いことに気付き、私は隣をみましたが、そこに誰も居ません。前後左右見回しても、あの女性は忽然と姿を消してしまいました。

 

「ぉーぃ・・・」

 

 ふと、喧騒に紛れて微かに届いた声の方を探します。それは私の反対側、メインステージの向こう側にあの人は居ました。

 いえ、良く見るとメインステージの奥には大きな鏡があって、そこから会場が映っているのです。なら、何故あの人は私の隣に居ないのでしょう?何故鏡の中には私が映っていないのでしょう?

 

「ま、そうだよね」

 

 不思議と私は納得し、あの人に手を振り返すと、自分の席へと移動します。

 ここは誰かと物語を共有する場所。こちらとあちらを薄皮一枚で隔てながら、ただ一つ、音楽だけは共有する場所。

 だからあちらとこちらに私がいても何の不思議でもないのです。そしてそれはみんなも同じ。

 

「わぁ!?」

 

 メインモニターにAqoursメンバーの紹介が映し出されると間もなく、メインステージを突き抜けて、汽車が踊り出します。そこから降りるあちらとこちらのAqoursはそれぞれのステージでパフォーマンスをはじめます。

 曲は“HAPPY PARTY TRAIN”、それは新しいみんなで叶える物語ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汽車は皆の心を溶かし、それを力に変えてゆっくりと走っています。

 

「ばいばい。また今度」

 

 全世界の人を送り届け、一人、また一人と乗客が降りていきます。

 

「次はハロウィンを楽しもうよ」

 

 降りていく乗客は寂しそうだけれども、けれど、皆笑顔でした。

 

「また僕たちを乗せて全国を廻ろうね」

 

 だってAqoursの旅はまだ終わりではないのですから。

 

「本日はご乗車」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 けれど、一端この物語は幕を閉じます。だって、やっぱり沼津が大好きだから。

 山から響く虫の囁き、海から香る潮の匂い、温かな人達との繋がり。それが私達を待っているのですから、私達は一度沼津へ帰ります。

 けれど、私達は皆と一つの言葉を交わして約束をしています。

 その言葉とはーーーー

 

「Landing actionーーーー」

 

「「「「yeahーーーーー!!」」」」

 

 

 




これまでとはかなり毛色の違う書き方になりました。
雑記にてあとがきを書こうと思っています。


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