フォーリナー・ジョーンズ (後藤陸将)
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カルデア調査中

仕事前に缶コーヒーを口にすると、仕事と向き合える気力を得た気がした。
仕事中に缶コーヒーをグイっと呷ると、何か切り替わったような気がした。
仕事終わりに缶コーヒーをゆっくりと呷ると何か染み入るような気がした。

そして、缶コーヒー飲みながらFGOやってたら、何故かこんなネタが浮かんだ。


 人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 

 翌日に人類史を修復するミッションに挑むマスターの一人、マスター候補の中の上位七名であるAチームに属するカドック・ゼムルプスは、同じくAチームに属するスカンジナビア・ペペロンチーノと共に施設内の食堂で出立前の最後の夕食を食べていた。

 彼らは向かい合う席に座っているが、同じAチームに所属しているからといって彼らが特に親しいというわけではない。コミュニケーションを取らないわけではないが、常日頃から他愛のない話を喜々としてするような仲でもない。

 先に席についたカドックの対面が空いていたので、後からペペロンチーノがその席に座っただけである。

 職場上の同僚以上であり、友人未満というのがカドックの思うAチームの関係性というものだった。一癖も二癖もある人物が半数以上を占めているからか、通常の職場の同僚といった価値観からは少しズレている感じもしなくはないが。

 

 ペペロンチーノは、パスタをフォークに巻き付けながらカドックに話しかける。

「ねぇカドック。フォーリナー(降臨者)がさ、カルデアのスタッフに紛れて普通に生活しているって話知ってる?」

フォーリナー(降臨者)?エクストラクラスの中でも特殊すぎるクラスのサーヴァントが何でカルデアに?」

 ペペロンチーノの突拍子もない話に、カドックは呆れた表情を隠さなかった。

「地球の調査してるんだって」

「しかも、映画見て人間に化けたらしくて、アメリカの俳優そっくりなんだって」

「馬鹿らしい……創作だとしても酷い出来の話だな」

 カドックはため息をつき、空になったトレーをもって席を立った。人理修復という難行を前に緊張している自分を気遣ってペペロンチーノが他愛のない話をふってくれているのは分かったが、このような法螺話で気遣われるのは年ごろの少年にとってはこそばゆいものだったからだ。

「それじゃあ、俺は先にいくよ」

 態々気遣ってくれたことには感謝している。しかし、これ以上絡まれるのもどこか気恥ずかしさがある。故にカドックはそそくさとその場を離れることを選択した。

 ペペロンチーノは、空になったトレーを返却口へともっていくカドックの後ろ姿を見ながら、ポツリと呟く。

「噂があるのは、事実なのよねぇ……。この世界の外から来訪したとされる“異存在”なんていう話が一体どこからきたのかしら」

 

 

 

 カドックが返却したトレーを洗う一人の男。

 風貌はどこにでもいそうな中年から老人への階段を昇る途中の白人男性である。

 その男は、夕食時になって活気づく食堂の中、大量の洗い物と格闘しているにも関わらずカドックとペペロンチーノの会話を一句も余すことなく把握していた。しかし、そのことに気づいているものは誰もいなかった。

 

 

 

――この惑星の住人は、どこか抜けている。

 

 

 

 夕食の時間が終わり、食卓や食堂の床掃除を終えた男は、だれもいなくなった夜の食堂で一人佇んでいる。

 やがて後片付けの確認を終えた男は、明かりに釣られる蛾のように照明の落ちた食堂の中で唯一明かりが灯っている自動販売機コーナーへと足を向けた。

 栄養ドリンクやジュースなどここの自動販売機が取り揃えている飲料は無数にあるが、男の指は吸い込まれるようにいつもと同じ購入ボタンを押した。それと同時に自動販売機の下部の取り出し口に何かが落下したような音がする。

 男は取り出し口に手を突っ込むと、そこから一本の缶コーヒーを取り出した。

 左手で缶コーヒーを持ち、右手の親指をプルタブにひっかける。

 親指に持ち上げられたプルタブは、開け口を覆う金属の蓋を缶の内部に押し込む。それと同時に、開口部からは香ばしい香りが漂ってきた。

 男は、しばし香りを楽しむと、静かに缶コーヒーを呷った。

 

 

 

――ただ、この惑星の仕事終わりのコーヒーは、止められない。

 

 

 

 

 

 

 このろくでもない、すばらしき世界。

 

 缶コーヒーの 13 0 5 5 Mountains Of Antarctic




Fateを久々に執筆してみたいと思うようになり、感覚を失ってるように感じたのでリハビリがてら執筆してみました。
そんなに長くは続かない予定ですので、ちょっと余った時間にチラっと見てクスリとできる作品にしていければいいなぁと思っております。


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オルレアン調査中1

プレミアムって、味の違いが分かる舌を持っていなくても飲みたくなりますよね。


――この惑星では、食物を育てることを営みとしている人々のことを農民というらしい。

 

 

 

 農民の朝は早い。

 彼らは社会の底辺に近い階級に置かれており、基本的には搾取を受ける側の人間である。搾取を受けてもなお暮らせるだけの糧を得るためには、毎日身を粉にするまで働かなくてはならない。

 女子供だって労働力として水汲み、洗濯等といった作業に従事する。そうしないと、彼らの家族を養ってはいけないからだ。

 とはいえ、男が額に汗して働き、女子供も毎日必死に働いても、彼らの生活は豊かなものとは程遠い。辛うじて生きていけるほどの糧しか得ることができず、蓄えなどというものはまずほとんどの農家はもっていなかった。

 

 

 

――農民の生活は日々重労働だ。加えて、汗水垂らしてようやく手にした収穫も搾取されるばかりか、時には戦場にまで駆り出される。

 

 

 

「そなたも中々面妖な男であるなぁ」

 大麦の収穫をする男たちの中に、周囲と比べて明らかに浮いている男が二人いた。

 一人は、医療技術の未発達から平均寿命が短いこの時代には珍しい白髪の初老の男。

 そして、もう一人はこの時代のヨーロッパでは絶対にありえない和装をした、明らかに東洋系の顔立ちをした侍だった。紺の陣羽織を纏う耽美な伊達男は時代的にも地理的にも初老の男に輪をかけて浮いていた。

 二人はその手に鎌を持ち刈り取った小麦を積み上げていく。見渡す限り小麦畑というほどではないが、この麦畑も中々広い。しかし、この金色に揺れる海の中にいる人間はこの二人だけだった。

「しかし、このような地の果てまで続く平原に広がる畑というのも悪くないな。田畑を平野に作れるのはよいことだ」

 先ほども少し触れたように、この時代の農作業は重労働だ。重労働をしなければ生きていけないことと同義であるのだが、にも関わらずこの畑にはこの奇妙な二人の男以外の姿は誰一人として見えない。

 二人の男が働いたぐらいでどうにかなる作業ではないことは明白だ。

 この村に農作業ができる人間がいないわけではない。現に、近くの家の窓やドアの隙間からは多数の眼が彼らを見据えていた。

 しかし、誰一人として彼らを手伝おうとするものはおらず、彼らは音を立てることなく家に立てこもっていた。

「……麦の収穫なぞ、いつ以来であろうなぁ。幼き頃を思い出さずにはいられぬよ。麦の収穫は古今東西、基本は変わらぬか」

 長時間前かがみになって作業をしていたからだろうか、侍は鎌を握ったまま大きく背伸びした、さらに彼は腰の動きを確認するように大きく左右に腰を回した。

 

「これで、燕でも飛んでいれば中々風流な光景なのだがなぁ」

 

 大空を見上げる侍。雲一つないその青空には、小鳥か何かだろうか、小さな黒い影が一つ浮かんでいる。

 いつのまにか、上のみを見つめていた侍の手からは鎌が失われていた。

 鎌の代わりに侍の手に握られていたのは、侍の身の丈を超える長刀。

 陽の光を浴びた刀身には匂口(においくち)が締まった直刃(すぐは)の刃文がうっすらと浮かび上がった。

 空に浮かんでいた小鳥と見間違うような大きな影は、次第にその大きさを増している。

 そして、その影が近づくとともに、その正体が明らかになった。

 大きさは小鳥とは比べ物にならない。それどころか、大きさだけで言うのであればこの侍をも優に超えるだろう。

 その口には小鳥ならば絶対に持ちえない巨大な牙、鱗に覆われた巨大な体躯。そして、蝙蝠を思わせるような皮膜をはった巨大な翼と鷹を思わせる鋭い爪を擁した頑強な足。

 中世のフランスに存在するはずのない怪物――ワイバーンがそこにいた。

 村人たちも、このワイバーンの襲撃を恐れて屋外に出ることを控えていたのだ。

 ワイバーンの眼にとまったのは、屋外で作業をしていた二人の男のみ。この村に流れ着いた彼らは、衣食住の対価としてこのワイバーンの襲撃と隣り合わせの農作業を請け負っていたのである。

 

「うむ……やはり、揺れる秋の実りとワイバーンは合わぬ」

 

 侍は、巨木を軽々と切り裂くであろう鋭い爪を構えて己に向けて突撃してくるワイバーンに対して、刀を構えた。

 

「秘剣―――燕返し」

 

 円弧を描く斬撃。

 全く同時に放たれた三つの斬撃がワイバーンを襲った。

 一の太刀がワイバーンを頭から股にかけて両断し、二の太刀が両翼を斬りとばす。そして、三の太刀がワイバーンの上半身と下半身を別つ。

 

 多重次元屈折現象。

 次元の垣根を越えて斬撃を呼び出す、魔法に匹敵する奇跡をこの侍は己の技術のみで実現したのである。

 

 一瞬でワイバーンは切り落とされた肉塊へと姿を変えた。

 侍は、ワイバーンの成れの果てを一瞥すると、血の一滴もついていない刀身を一度だけ振るった。

 

「うむ……期待外れだ。やはりあの日の燕ほどではないな」

 

 男はいつのまにか長刀をしまうと、何事もなかったかのように鎌を持ち直し、麦の収穫を再開した。

 

 

 

 

 

 

 夕陽が沈むころ、実りに溢れた一面の金色の海は消え、地面は赤みを帯びた土の色に戻っていた。

 刈り取った麦を集めた二人は、近くの土手に腰を下ろす。

 そして二人は、何を言うこともなく沈みゆく夕陽を眺めながら缶コーヒーを呷った。

 

 

 

 

 

――ただ、この惑星の農民は、とてもたくましい。

 

 

 

 

 このろくでもない、すばらしき世界。

 

 缶コーヒーの 13055 Mont Blanc



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オルレアン調査中2

サングラスかけた家康と缶コーヒーとチンパンジーと肥満ライオン


 ――この惑星ではかつて、百年戦争と呼ばれる戦いがあったらしい。

 

 

 

 フランスの農村生まれのふくよかな青年タッカーは、同じ村に生まれた猿顔の青年トゥーシと共に兵士として駆り出されて戦場に送り込まれた。

 どこか抜けているところのあるタッカーにとって、トゥーシはストッパーであり、よき理解者であった。二人は幼馴染であり、それぞれ家庭をもってからも家族ぐるみの付き合いをしていた。

 そんな二人だからこそ、戦場でも行動を共にしたのは当然のことであった。

 しかし、戦場で彼らを待っていたのは同じように徴兵されたイギリスの農民兵でも、王との契約で参戦する騎士でも、戦慣れした傭兵でもなかった。

 

「この野郎~!!」

 タッカーは恐怖を紛らわすためか、野太い雄たけびをあげながら突撃する。しかし、彼と共に戦いに加わっていたトゥーシは慌ててタッカーを呼び止めた。

「どこいくんだ、敵はあっちだよ!!」

 タッカーは、何故か自軍が突撃している方向から槍を抱えたまま華麗に回れ右して、そのまま自軍の陣へと逆走していたのだ。

 呼び止められたタッカーは、緊張した面持ちでトゥーシに問いかけた。

「敵ってどっちだっけ」

 トゥーシは思わずタカの被る兜を平手打ちする。

「イギリスだよ!!」

「そっか」

 タッカーは改めて槍を構え、周囲を震わす絶叫と悲鳴の発信源である前方へと向き直った。

 しかし、敵に向かって一歩を踏み出そうとしてタッカーは何故か踏みとどまる。

 前方にいるのは巨大な黒い龍と、それに付き従うかのように空に侍る無数の翼竜の姿。

 そしてタッカーは首を傾げながら前方を指さし、再びトゥーシに尋ねた。

「イギリス人って翼生えてたっけ?」

「あれはワイバーンだよ!!」

 タッカーの兜から鈍い音が響く。トゥーシの平手打ちがタッカーの質問の直後に炸裂したためであった。

「じゃあ、敵じゃないの?」

「いや、襲われてるから!!イギリスじゃなくても敵だから!!」

 戦場とは思えない気の抜けたやりとり。しかし、それも長くは続かなかった。

 突如、彼らの頭上に影がさしたのである。

 頭上が突然暗くなったことに気づいたタッカーが訝しげに頭上を見上げたのと、()()()が突っ込んできたのはほぼ同時だった。

「き、きた!?」

 戦場の真っ只中で槍を構えたまま突っ立っていた彼らを次の獲物と判断したのだろう、ワイバーンの強襲である。慌てて二人は槍を構えるが。時すでに遅し。

 ワイバーンは彼らの構えた槍を尾で蹴り飛ばし、その両足の鋭い爪を振り上げた。

 槍を吹き飛ばされて無防備になった彼らを守るものは何もない。一瞬の後に襲い来るであろうその爪に怯えた二人は、目を見開き、ただ震えながらその瞬間を待つことしかできなかった。

 しかし、その瞬間は訪れなかった。

 突然背後から現れた男が、ワイバーンの喉を手に持つ大きな槍で貫いたのだ。

 喉を貫かれたワイバーンは、断末魔の叫び声をあげながら男の突き出した槍の勢いに押されて吹き飛ばされていった。

「た、助かったぁ~」

 トゥーシは胸をなでおろす。そして、命の恩人となった男に感謝の言葉をかけようとして再度目を見開いた。

 男の背中はワイバーンの放つ火炎のせいか、炎に包まれていたのだ。

「服燃えてるぞ!?」

 タッカーが叫んだ。しかし、背中が燃えているとうの本人は何も気にした様子がない。

「平気デス」

 眉一つ動かすことなくそう言い切った男の前で、タッカーとトゥーシは茫然とするほかなかった。

 

 

 

 

 

「これより、我らはあの龍の軍勢に対し、総攻撃を実施する!!」

 素人同然の拙い槍を振り回し続けたタッカーとトゥーシだったが、運がいいのか結局ワイバーンの餌になることはなかった。

 ところが、ようやく生き延びることができたとほっと一息ついていた二人の前に現れた騎士が告げた言葉が、彼らの一時の平穏を奪い去った。

「恐れるな!!嘆くな!!退くな!!」

「フランス人であるのならば、ここ以外のどこに命を捨てる場所があろうか!!突撃するのだ!!続けぇ!!」

 背後で督戦している騎士の命令で、彼らは再びわけもわからないまま戦闘へと突入することになったのだ。

「ええ!?」

「無茶苦茶だな~」

 

 

 

 

「フランスの勝利だ!!」

ヴィヴ・ラ・フランス(フランス万歳)!!」

 タッカーとトゥーシの二人は、生きていた。ただ槍を構えて突撃していただけだが、ワイバーンの爪に裂かれることも、牙に肉を削がれることも、尾で叩きつけられることもなく五体満足で生き延びていた。

 つい先ほどまで戦場だった草原の一角で精も根も尽き果て腰を下ろしていた二人は、遠くから聞こえてくる騎士たちの勝ち鬨の声を聴きながら悪態をついた。

「いい気なもんだな~」

「実際に命はって働いたのは俺たちだぞ」

 そこに、先ほど彼らをワイバーンから救った命の恩人が現れる。そして、見たこともない鮮やかな絵が描かれた筒を彼らに差し出した。

 訳も分からずその筒を受け取った二人は、いつのまにか隣に腰を下ろした男の見様見真似でその筒の上部についていたタブを引き上げ、その筒の内部の黒い液体を呷る。

 すると、農村で生きていた人生では一度として味わったことのない、芳醇でどこか爽快感のある苦みが彼らの口内に満ちた。

 美味い。以前に飲んだ茶なぞとは比べ物にならないぐらいに。

 この味を、なんと表現すればいいか学のない彼らには分からない。

 ただ、一つだけ何故か彼らにも理解できることがあった。

 

「何かぴったりだな……」

 

 トゥーシは首を傾げながらも、労働の後のすばらしい一杯を楽しんだ。

 

 

 

 

 

――この惑星では、本当に働いている人が、一番疲れる。

 

 

 

 

 

 

 このろくでもない、すばらしき世界。

 

 缶コーヒーの 13 0 5 5  Mont Blanc



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フォーリナー・ジョーンズ 人類史調査中

とりあえず、これでフォーリナー・ジョーンズシリーズは完結します。
リハビリがてら執筆をしていましたが、大分感覚が鈍っていることを自覚させられましたね。
サボりの代償は大きい……。
できれば平成のうちに他の作品も更新しておきたいですね。


「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……!!『 吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

 

 彼女の怨念が具現化した呪いの炎が無防備な藤丸立香へと放たれる。

 彼と契約したサーヴァントは皆、敵の黒いジャンヌ・ダルクの召喚したサーヴァントに動きを封じられているため、助けに入ろうにも間に合わない。

 魔術師としての技量は下の下。特別な力など何もない少年を骨も残さず焼き尽くすには十分な熱量が秘められた炎が迫る光景を見たマシュの顔は絶望に染まった。

 しかし、呪いの炎が彼を焼くことはなかった。彼の前に、一人の男が立ちふさがったからである。

「フォーリナーさん!?」

 男は、その背中で呪いの炎を全て受け止めた。その背を覆う色あせたジャンパーには、焦げ目一つない。

「私の吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)を受けきって無傷ですって!?あんた、何ものよ!?」

 自身の宝具を受けてなお傷一つつけられない存在に、恐れを抱いた黒いジャンヌ。

 そして、少年の無事を確認した男は黒いジャンヌに振り返り、堂々と名乗りをあげた。

 

 

「かるであノすたっふデス」

 

 

 この惑星の未来は、人理継続保障機関フィニス・カルデアに所属する一人の少年の献身によって取り戻された。

 彼は時に、神話に語られる大英雄と相対し、創生の神に挑み、人類悪に立ち向かう。

 迫りくる脅威に時に怯え、竦みながらも決して逃げることなく、堂々と向き合って打ち破っていった。

 何故、こんな平凡な少年が世界を救えたのだろうか。

 

 

 

「――――そうだ。私は本当に、美しいものを見た」

 

 虚無の空間に、少女の意思だけが残されていた。目の前には、少女が知っているようで知らないような、親しいようで親しくないような何かがいた

 その何かは少女に語りかける。

 それは、告白であり、離別の寂しさを漏らすものであり、心からの感謝を告げる言葉だった。

 

「刃を交えずとも倒せる悪はあり、血を流さなかったからこそ、辿り着ける答えがあった」

「おめでとう、カルデアの善き人々。第四の獣は、君たちによって倒された」

 

 意思だけだった少女は、獣の温かな言葉に送り出され、少女の帰りを待っている人たちがいる世界へと旅立っていく。

 

 そして、少女を見送った獣は、いつのまにか差し出されていた一本の缶コーヒーに気づき、何故か普段どおりのジャンパーを背負った格好で突っ立っていた男に視線を向けた。

 

「何でここにいるの……空気読もうよ、フォーリナー」

 

 器用に前足を使いながら獣は缶コーヒーを呷った。

 

 

 

 ただ、少年と少女が命がけで救おうとした世界は、悪くない。

 

 

 

 

 

 

 このろくでもない、すばらしき世界

 

 缶コーヒーの13055 Mountains Of Antarctic



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