カリスマの無いガルマ【完結】 (ノイラーテム)
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第一部
プロローグ


●カリスマの無いガルマ

 ガルマに憑依したと自覚した時。

最初だけは、内心でガッツポーズを決めていた。

理解してくれる人も多いと思うが、転生なんてまずありえず、それがガンダム・ワールドなんて夢のまた夢だ。

これが無名の人物に転生だとか、赤ん坊のころからだと話は別なのだろうが、重要人物の一人に途中からお邪魔しますだなんて勝ち組以外あるまい。

 

 憑依当初はソレが勘違いであり、面倒の始まりなどとは思いもしなかった。

相応しい努力を行い、コネを総動員して関与すれば栄光が入るなどと信じていたのだ。

 

 しかし、読者が居るならば良く考えて欲しい。

憑依したとして貴方は特殊能力を持って居るだろうか? 経験の無い駆け引きは?

私の場合はノーだったと言っておこう。

持って居ると思っていた能力の内、二つ欠けているモノがあった。

 

「まさか……チートどころか、ガルマの基本能力すら所持して無いとは」

 チート能力が無いのは残念だったが、ガルマというだけで十分!

……そう思っていた時期もありました。しかしながら私に、ザビ家特有のカリスマもガルマだけが持つ爽やかさも存在しなかったのだ。

ああ、爽やかさも含めると欠けている能力は三つか。

「事故だったらしいが、操縦能力まで失われて居ないのは幸いだな。大怪我じゃなくて良かった」

 察するに事故で本来のガルマは精神的にかショック症状で死に、代わりに憑依したのだろう。

しかし脳死では無かったようで、肉体的能力や脳が記憶する知識に欠損は無く、モビルスーツや航空機の操縦技術はそのまま所持する事が出来た。

 

「エースには及ばないが腕前はそれなり……。いや、過信は禁物か」

 腕が立つといっても、豊富な訓練を積んだレベル。

それもザビ家であるという事を利用した、課題の少なさから来る空き時間や、優先的に割り振られる訓練時間の挿入に寄るモノである可能性がある。良くてどこかの世界にある神聖ブリタニアの王子様くらいだと思うべきだろう。

「仕方無い。原作知識とかコネの融合で何とかするしかないな」

 身分は偉大である。

流石にギレンやキリシアとは違い、確固たる地位を持って居ない。

しかしながら出世が約束され、名前も無いパイロットと違って色んな要請が通り易いのも大きい。

下の陳情なぞ無視して当たり前なことを考えれば、理由次第では通り易いのだから大違いである。

 

「……前向きに考えれば、これからは俺の人生だと言えなくもないし。想ったよりも悪く無いんじゃないか?」

 私はゲームとかでも最適解は好きではなく、ロマンと現実を折衷する方が好きだった。

MMO・TRPG・各種電源系ゲームでも、誰もが思い描く最短ルート・最強コンボよりも、むしろ素人が選びそうなモノを熟練者の眼で使いこなす方を好む。

ガンダムで言えば、ギャンはゲルググよりも早く生産できるし、操縦性が良いから学徒兵でも安心だよね。……というタイプだと言えば判り易いだろうか。

そう思えば原作知識以外に特殊能力が無い事は、新しい人生を愉しませる要因だと言えるだろう。

「なら欠けた能力を何で補うかだよな。後々に影響を与えることが可能な知識や技術……モビルスーツ開発か?」

 肉体的才能はスポーツマン以上では無い。

ニュータイプ能力など無く、交渉術もガルマが身に付けていた社交技術程度でしか無い。

学問の天才でも無く、所詮は努力して手に入る知識・技術止まりだ。

しかし諦める訳にはいかない。何しろ、他ならぬ私の人生なのだから。

 

●劇中作って知ってるかい?

 さて、ガルマに憑依した小ガルマとして頑張る気だった。

まあ名前なんてラベルなのだから、別にガルマ二世でも何でも良い。ここは非常に重大な事を書き記しておこう。

前述に置いて所持して居る能力の内、欠けている能力が二つあったと言ったと思う。

爽やかさも含めれば三つだが、まあカリスマにガルマの立ち位置から見れば、カリスマに含めても良いかもしれない。

 

「もう決まってる……だと」

 調べて行くと、恐ろしいことに原作知識と微妙に乖離して居た。

私の知っている一部の技術は計画例や先行テストケースであり、分岐では無かったのだ。

判り易い表現をすると、第二世代は最初からドムだし、第三世代は最初からゲルググになる予定らしい。

しかもドムまでは18m級で、ゲルググ以降は統合の為に20mと計画済み。

あまつさえその内容もジオニックが先行して内装装、ツイマッドが外装担当と分業が決まってさえいる(たぶんMIP社はサイズ無視で、ビーム兵器とエンジン担当だろう)。

「ガルマと言えばガウだけど、何故かガウが無いんだよなー。まあ配備数を考えれば、ファットアンクルだったのかもしれないけれど」

 前々からなんで半年以内にガウ攻撃空母があんなに量産できるんだと疑問に思っていたが、まさか存在し無いとは。

他にもガウやファットアンクルには、前面が開くと構造が脆弱になり更に減速が必要という欠点があった。

だがガウなんか最初から存在せず、ファットアンクルは、あくまで宇宙用の機材で組んだだけのテストモデル。本格生産予定は初めから、側面の開くファットアンクル改なのである。

 

「もしかして……08小隊だけでなく、一年戦争も劇中作なのか?」

 それとも私以外にも憑依者が居て、そいつが先に提案した?

あるいはギレンの野望系に来ただけなのだろうか……。

功績なんか渡すから、できれば他に憑依者が居て欲しいと切に祈る自分が居た。

そりゃそうだろう。原作知識まで使えないとあっては、自分が持つ優位性など何も無いのだ。本家ガルマの足を引っ張って居る、足手まとい以外の何者でも無い。

「いや、悪い方向にばかり考えたら駄目だ。良い面もあるんだから前向きに考えないと」

 逆に考えるんだ!

ほんとにガルマ本人なのかと不信感を得るほどに、最後まで延々と関与せずに済んだと。

モビルスーツ開発に興味を示したのは、そっち方面に知識を広め、整備や開発に必要なモノが何か明るくなる為だと思えば良いのだ。

 

「そうだな……そうだな。おかげで手に入ったモノもあるし、寄り道なんかじゃないさ」

 関わろうとした全てが無駄になった訳ではない。

忙しい時間を割いてそっち方面に関わったお陰で、そっち方面にコネが出来た。

憂い顔の似合う美しい少女とも悪くない感じで面識を得たし、将来の技術顧問を確保できるかもしれない(やらかす事を考えれば、居なくても良いが)。

何より秘密兵器を作れる人物と知り合いになれるのは、男のロマンから言っても、今後を生き抜く為にも重要だろう。

「整備とか必須物資に関する知識も得たしな。……もう直ぐ戦争が始まるって言うなら、これ以上は最初から無理だったさ」

 だから大丈夫。

私は自分にそう言い聞かせ、無駄に時間を過ごした訳ではないと心を落ちつかせる事にした。

 

 歴史の変化と言うのは面白いものだ。

この時の知識と心配りが、後に影響を与えるとは思ってもみなかった。

戦線にはまったく影響を与えないが、自分的にはコネ造り、そして相手にとっては大きな影響を与えることに成る。

これもガルマ・ザビというガワが持つ、影響力なのかもしれない。

 




 と言う訳で、転生・憑依の意味が薄いキャラ。
というネタを思い付いたので、早速書いてみました。
これがカリスマの無いギレンだとか、ニュータイプ能力の無いアムロだったら歴史が変わるかもしれませんが、まあガルマならばセーフと言う事で。

 突発的な思い付きネタなので、数話~十話で終わる予定です。
その為に細かい描写は避けており、一週間戦争前のガルマって相当に忙しいだろとか、実際に忙しくしている描写はカット。
どの道、原作知識が活かせるような時間が無かったと思われますし、コネ造って終わりでしょうから、詳しくは書きませんでした。
次回は一週間戦争からブリティッシュ作戦・ルウム戦役となりますが、これもサクサク行くと思います。
歴史がギレンの野望時空に変わって居るとしても、モビルスーツ戦とかまだなので、仕方無いっすね。

●MS開発計画
 モビルスーツの開発計画に関しては、形式上のコンペしかなかった。
最初からザク・ドム・ゲルググの順であったという説に近い状態に成って居ます。
後からMS統合計画が足されたのではなく、最初から組み込まれて板と言う設定です。
その為にザクとドムは18mで設計され、ジオニックが内装に専念、ツイマッドが外装に専念。
ゲルググに統合する段階で、20mで技術の集大成になる予定です。

●ガウ攻撃空母とファットアンクル
 原作が一年戦争最後の三カ月にあたるエピソードなのですが
降下作戦後に半年で生産ラインを造って、ガウ攻撃空母があんなに出来るとは思えないのと
ボロボロ落ちるのは微妙な気がしたので、できない・計画も無いとしました。
 代わりにファットアンクルの方に力が入っており、これが量産されたのでは?
扉が前面にある初期型は、テストモデルを分解して持ち込み、そのまま使ったから……と成る予定です。
ファットアンクルで爆撃しても、そりゃジャブロー落ちないし、航続距離の問題で入り口見つからないよね……と矛盾も無さそうなので。
後期モデルは現地の生産施設を接収して、大量生産。
それでも無理そうなら連邦製のモノを利用、ジオン製のパーツを組み込む感じでいきます。
(まあファットアンクルなので、落ちる時はバンバン落ちますが)

●人事
「どこかの技術将校が仲間になりたがっています」
勢力に加えますか?
 アッザム改良型が提案されます。
良い面もありますが、悪い面も出ます。

「仲間の部隊に、不足している補給物資や戦力の手配を行いますか?」
 色んな人と仲良くなれますが、泥臭いイメージが付きます
将校とは仲良くできるかもしれませんが、上級将校からは煙たい目で見られるかもしれません

 と言う感じですね。
まあ派生方向(仲良くなる人と運命)は斜め上のベクトルかもしれませんが


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第一話

●思ったよりも綺麗な一週間戦争

 連邦との戦線は双方の繰り出す核弾頭で幕を開けた。

何故か知らないが、お互い遠慮なしにぶっ放すので生きた心地がしない。

御曹司であるガルマだから、前線に志願こそしたが安全地帯かと思っていたが……。

 

 待機中に戦力の一部がいきなり消えたので、貴重な前線司令官の一人として絶賛期待されている。いきなり少佐待遇へ昇進したのは嬉しいが、所詮は戦時特例による野戦任官。更に言えば、それだけ上級将校が居ないのだから仕方無い。

 

「なあに少し持ちこたえれば直ぐに援軍がやって来る! それまで此処を維持するぞ!」

「了解です、少佐!」

 要するに、きっとドズル兄さんが助けてくれるよ。という言葉でしか無い。

情けないがザビ家という以外に頼るモノが無く、今後を考えると自分から逃げる訳にも行かない。

せめてシャアが居れば大いに頼るのだが、生憎と他の方面に割り振られているのでそれもできない。というか本来の予定では、戦わずに占領作戦の予定だったのだ。

(うーん。核や毒ガス作戦とかで一気に攻めると思ってたんだけどな)

 連邦がいきなり核弾頭を使ってくるとは思わなかったが……。

やはり私は甘いのかもしれない。

歴史が違うという以前に禁止条約などまだ結ばれておらず、有効な兵器であれば使わないという手は無いのだ。

こういう欠点だけ本物に似なくても良いと思うのだが、まあ戦争経験なんてないしな。

 

「このコロニーは連邦よりだと思ったが……遠慮なしに核を使うとは。何を考えて居るんだ」

「地球のエリートどもからすれば、スペースノイドは皆……潜在的な敵と考えて居るのでしょう」

「先月もどこかのバンチで暴動が起きたそうですしね」

 原作知識と違って、この一週間戦争では何故か他のコロニーが協力的だった。

全てではないが味方も居るし、そうでない場所でも中立を決め込んでくれている。

だからこそ毒ガスも使わないのかと思ったが、別の理由が影響しているのかもしれない。

「少佐! 援軍です!」

「シャアか?」

「いえ! 遊撃編成されていた一部の艦が、こちらと挟み討ちを申し出て居ます!」

 不安を紛らわせるために話を続けながら交戦して居ると、予想よりも早く援軍が到着。

こんなことならば男は黙って頷いて居れば、部下達の心象も違っていたのに……。

まあ過ぎた事なので、無事に終わって良しとする他あるまい。

それよりも友人であるシャアに頼っているなんて思われて居ないか、そっちの方が問題か。

 

「別部隊が? ならば指揮権はこのまま私が管理する。別名あるまで挟撃に専念!」

「了解です!」

 でしゃばりと思われたくないので上官が居れば指揮系統を返すべきだ。

しかしながら軍には命令系統と言う物があるので、直属の部隊司令部でなければそうもいかない。

責任を押し付けたいと思われて無いか内心でビクビクしながら、可能な限り笑顔を張りつけて士気を維持しておくことにした。

「しかし残念だな。こうも早く援軍が来るのであれば、私のザクを回すのでは無かった」

「ははっ。少佐はエースの地位もお望みですか?」

「色男にそこまで揃えられちゃあ自分らの顔が立ちません。そのまま座って居てください」

 モビルスーツの数が無いので席は持ち回りだ。

これがエースかそれに準ずる戦績をあげれば、自分用の機体を持つことが出来るらしい。

そうなれば晴れて専用のカラーリングに塗れるのだろうが、残念ながらそこまでの腕前は無いので、自分用にと回されたザクは一番操作が上手い部下へ回して居たのだ。

 

 いや、もしかして……。

スコアを稼ぐ、千載一遇のチャンスを逃したんじゃあるまいか?

エースとしての腕を持たず、今後は指揮官の道を進むのであれば、もう機会は回って来ないかも。

 

「それは君らの顔を立てておくとして……よくこっちに回ってくれたな」

「上からの要請かもしれませんが……。少佐が陳情した物資の礼じゃないですか?」

「今回は占領のみ予定で、戦闘に成ったのは急でしたからね。準備不足でしたらあちらも危険だったかもしれません。十分にありえる話でしょう」

 他へ回っても良かったが、縁がある方を選んだということだろうか?

ならば情けは他人の為ならず、回り巡って自分の為と誇ることにする。

後で聞いたら、やっぱり向こうの上官がザビ家に気を利かせたらしい。

しかしこの時点では知る由はないし、兵たちくらいはそう思ってくれていると思うので気にしないことにした。

 

 何しろ観戦モードで楽勝かと思ったら、いきなりの実戦。

それも直属の上官が死んだとあっては、気を抜いても仕方があるまい。

ちなみにシャアはこの戦いで優秀な戦績をあげ、士官学校出身者の通例を待たずに中尉に昇進を果たした。

専用機も手に入れたそうだが、私は嫉妬を覚えるよりも自分の命の無事を喜んでいたので、ついでとばかりにシャンパンを贈って贈られて共に祝い酒を愉しむことにした。

 

●意味と予定の違うブリティッシュ作戦

 景気良く核弾頭を撃ち合った結果、コロニーの態度が変わった。

当たり前だが容赦なく巻き込まれて嬉しい者は居ない。

ある程度は覚悟して居た憑依者の私でさえ、どうしようかと迷ったくらいなので仕方あるまい。

 

 さて、この時まで気が付かなかったのだが……。

コロニーがこちらに付き易い土壌があり、連邦が遠慮なくやった土壌というのが存在する。

理由なしにそんな事にはならないし、単に盲点なので私が調べそこなっただけである。

 

(まさかラプラス憲章が普通に発行されていたとはな。……しかもあんまり意味が無かったとか)

 またしても原作知識の役に立たない展開であった。

どうやら憲章の準備稿が早い段階であちこちに出回って居たらしい。

テロリズムの容疑者扱いはともかく、憲章の理念は受け継がれ、コロニーと連邦に微妙な空気を醸成したらしい。

(まあファンの間でも議論でも秘密にされたから問題であった。陰謀じゃなかったら、公表されても困らなかったとか良く言われるしな)

 たまたまサイド3の潜在的な味方が生じたから良いが……。

アースノイド至上主義者や、スペースノイド嫌いがいなければ変わって無い可能性もあった。

よくよく考えれば『そんな凄い新人類が出たら、任せても良い』程度の受け止められ方をする可能性だってあるのだ。

 

 ともあれ暴動は大きくなり、あるいは戦闘の前後でジオン軍に協力する者も出てきた。

これを避けて連邦軍はコロニーを離れ、主力はルナ2の防衛と、打ち上げ地点の確保に走る。

おそらくは地球からの援軍を待ち、一気に攻め立てる予定と思われた。

 

「コロニーの移動。最後まで見送られないのですか、大佐?」

「中佐のお気遣いはありがたいのですが……」

 上官が大きく欠けた為、少佐への昇進が確定したものの、そのまま中佐待遇ということになった。だから中佐扱いでも良いのだが、大佐に敬語混じりで話されても困る。

ちなみにこの人物はこの間に来てくれた援軍の指揮官なのだが……。

「記録には撮っていますし、問題ありませんとも」

「ならば構いませんが……周辺警戒ならばこちらでも可能です。いつでもおっしゃってください」

 どうにも部下の心が判っているとも思えない。

今回移動させるコロニーは、彼の部下たちの故郷なのだ。

 

 事の始まりは意味は原作と違うのだが……。

ブリティッシュ作戦の実行に当たり、コロニーが必要になったこと。

そして他のコロニーがジオンに付いたり中立化した手前、身を切る必要性が出てきた。

そこで老朽化し、連邦軍からのハラスメント攻撃で損壊したという、サイド3の3バンチであるマハルが選ばれたのだ。

しかしハラスメント攻撃で壊れたというのも怪しく、適当な理由で選ばれた可能性もある。

それを考えれば海兵隊の連中には最後まで、故郷の雄姿を見届けさせても良いと思うのだが……。

 

(まあいいか。今はシーマ様とお近付きになれただけマシだな。しかも綺麗なシーマ様)

 先立つ戦いの前、コロニー制圧作戦に先だって補給物資を都合した。

どうせ自分は参加するだけで昇進するし、自分の盾にするつもりだったので、先行してくれそうな連中に行き渡るように要請しておいたのだ。

どうやらその縁でアサクラ大佐は私に近づくことにし、部下であるシーマ様たちは多少なりとも恩義を感じてくれているらしい。

(ドズル兄さんには無茶をするなと言われたが、先行投資ということで勘弁してくれたし。ここまでは良い介入が出来たと思っておこう)

 横車を押して、無視される筈の陳情を強い要請に変えた。

その件で上から文句を付けられたらしいが、もう死んでいるので無問題だ。

キシリア姉さんとかに目を付けられたかもしれないが、ドズル兄さんと一緒で、良い成長だとか、自分を救うきっかけになったのだから良しとしてもらえると思う。

(あれ、あの二人に兄さんとか姉さんって呼んだっけ? まあいいや)

 憑依による影響がこちらにも出て来ているのかもしれない。

しかしこの程度ならば問題無いだろう。

それに自分の行動で良い影響が出て居るならば、ガルマ本体の精神が蘇っても悪い様にはすまい。

 

「それにしてもコロニーを要塞として利用しようとは。流石はギレン閣下です」

「……そうですね。マハル在住の方を思えば辛い決断だったと思いますが……。しかしこれで我軍の損害が減るのも確かです」

 驚いたことに、ブリティッシュ作戦の意味合いが変更されていた。

廃棄コロニーを盾に使用し、自衛用の砲塔を固定砲台として利用するのだ。

確かに設置初期のまま輸送用のノズルは付いているし、砲塔も増設が可能ではある。

加えて言えばソーラレイ程の火力は望めないが、現時点で大きく劣る戦力を補うには突貫工事でも十分可能だ。

(でもなあ……。作戦名が作戦名だし、これ絶対に落ちるだろ)

 作戦プランを読むと、スペインやフランスそしてナチス・ドイツすら封じ込めたイギリスをモデルにしているらしい。

ソロモンを動かすわけにもいかないし、ドロスやドロワも木星航路に使って居た資源運搬船から改修中。確かに意図は理解できるが、原作知識を考えれば落ちると思わざるを得ない。

 

 というか打ち上げポイントに入る戦力を蹴散らす為の簡易要塞である。

確実に近くまで持って行くし、場合によっては砲塔を活かす為に押し出す事もあるだろう。

そうなれば事故じゃなくても阻止限界点を越えてしまう可能性の方が高くなる。

 

(というかソレを目論んでる? もし核弾頭をバンバン使った挙げ句、コロニーが落下すれば自業自得ってことにできるからな)

 原作でアイランド・イフィッシュが壊れたのは連邦の中途半端な成果。

そして地球の防衛力低下で終わったのは、ジオンの中途半端な成果だ。

だが続くルウムでは最初から囮であり、コロニー落としは考えてなかった説があった。

(そう考えれば見えて来るな。マハルは攻撃を受け止める盾であり、連邦の士気を落とす為の仕掛けかもしれない)

 最初からコロニー落としを目指せば、ジオンの悪名だ。

しかし偶然そうなったのならば連邦のせいだし、落とすのを失敗しても公表して無いから名誉も傷付かない。

 

「シ……」

「……」

 既に決まった作戦であり、画面だけでも上層部が頭を下げた結果である。

もはや作戦を覆すことはできないし、せめてシーマ様に声を掛けようとして失敗した。

どの顔下げて顔を合わせるというのか。

そして今考えた事を伝えようもないし、証拠も無いのだ。

掛ける言葉もなく、敬礼する事すらできずに軽く目礼だけをしてその場を離れることにした。

 

 こうしてブリティッシュ作戦とルウム戦役を合わせたような、奇妙な戦いが待ち受ける。




 と言う訳で鉄は熱い内に打てということで、二話目です。
ラプラス憲章が普通に発行された影響で、コロニーの一部はジオン寄り。連邦の強硬派がバンバカ迷惑なことをやったので、他も中立よりに移ります。
そしてブリティッシュ作戦とルウム戦役に相当する戦闘が、地道に同じ場所で行われる予定。

●ガルマの闘い
 特に何もしてません。
上官が吹っ飛んだので、その場で一番地位のあるガルマが野戦任官しただけです。
しかも占領部隊としてMS数機の他は空挺部隊なので、椅子に座っていただけという。
ですがまあ、指揮官の役目は責任を取ること、各種手続きを行うことがメインなので、まあ評価されてはいます。

●援軍の海兵隊
 コロニー突入前にガルマの手配した物資を受け取り、縁が出来ていました。
物資不足だったことで多少は感謝していますが、アサクラ大佐が気を効かせて援軍なった感じ。
というか原作と違って占領とかやる前に部隊が吹っ飛び、かつコロニー側でも核にキレた一部が暴動を起こし混乱が起きたのも一因です。
(そのまま占領してもいいけど、自治に任せて向こうから声を掛けてもらう……ということで、ガルマを助ける為に上層部が援軍許可を出したのかもしれません)

 なのでアサクラ大佐がすり寄ってきており、シーマ様達の好感度は微妙に上昇。
原作通り毒ガスを押しつける予定だった場合は、後から計画が場合はもうちょっと上がるかもしれません。

●ブリティッシュ作戦
 ナポレオンやヒトラーすらも封じ込めたイギリスがモデル。
マハルを武装化して移動させ、要塞であり後方基地にする予定。
と言うことになって居ますが、実質コロニー落としですね。
ジャブローからの打ち上げポイントだし、偶然行ってもええやろ? という目論見です。
まあ出来なければそれで別に良いのですが、ただの要塞として置いた方が名目として楽。
もちろん落下軌道に陥ることなく、無事に済めばルナ2にでもぶつけるだけでしょうけれど。

 実際にそんな強度があるかは別にして、原作と乖離する為に補給基地にはなるとしております。
(連邦側も序盤から核を使っているので、あっちの戦力が残っており、何らかの戦闘補助が必要だというのも理由です)

●ガルマの地位
 最終的に、次回の戦いで出世と野戦任官が続きます。
そして中将待遇の大佐ということで折り合いをつける予定。
野戦任官なら上官が死なないと駄目だろ……という制限は、結局ガルマがその方面に回されるので問題無くなる予定。
(安全な場所で待機 = 遊撃隊として投入予定)


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第二話

●宇宙突撃艇ジッコ

 作戦ルームを待合室に使うと言う贅沢。

大きなスクリーンに映し出される詳細情報を見て、今更にガルマの立ち位置は恵まれていると思った。普通の士官はこんな物は見れないし、見れるとしたら後ろ暗い作戦を任せられる時だけだ。

 

「少数のジッコをこんな配置で……なるほど」

「ほう……。判るか、ガルマ」

 奇妙な情報を目に止めたのだが、口に出してしまったらしい。

野太い声に振り向きながら、頭の中で考えをまとめておく。

ガンダム系の資料や描写、そしてまったく関係ない漫画の似たような使い方を思い浮かべて、徐々に整理して行った。

「ドズル兄さん……聞こえてしまいましたか」

「構わん。それよりも続きを聞かせてくれないか? 俺もガルマの成長は知っておきたい」

 案の定、肉親に甘いドズルがそこに居た。

予想された言葉が返ってきたので、ゴホンと咳を入れながら感簡単に説明を始める。

 

「専門家である兄さんに言うのは恥ずかしい限りですが……ジッコはミサイルの運用を主体とした宇宙突撃艇です」

「そうだ。奇襲攻撃や強襲攻撃に使っている」

 私が運用と言ったのに対し、あえて攻撃に使っているとドズルは口にした。

思考誘導して居ると言うよりは、ストレートにヒントを出して居るのだろう。

「数が少ないのは別の場所へ配置して居るからです。しかし、残った数では艦隊の嵩増しにも特定ポイントの襲撃にも使用できません」

「ふむふむ。それで?」

 ニヤニヤしながら頷く姿は、よくできましたと褒めているのだろう。

まんざらでも無いので照れてみせながら、先に別目的の方を終わらせておく。

大凡の検討は付いたが確信が持てる訳ではないので、少しでも考える時間が欲しい。

 

「此処に存在しないのは本来の用途で使用し、ルナ2からの援軍へ遅滞攻撃をする為でしょう」

「その通りだ。宇宙突撃艇の戦力などたかがしれているが、奇襲攻撃ならば艦隊の足を止められる。少しでも戦力は欲しいが、時間の方が惜しい」

 戦力に劣るジオンにとって、時間は何より貴重なリソースだ。

ルナ2に振り分けられた艦隊が後ろから迫っても、サイド3を狙われても問題になる。

だがジッコ程度の戦力で足止めできるのであれば、願ったりかなったりだろう。

更に言えば補給艦を潰したり、セイバーフィッシュを積載して居る簡易空母を損傷させられれば理想的である。

 そういえば何処かの銀河英雄の世界で、独眼流女史がそんな使い方をして居たような気がする。

 

 では、此処に残った少数のジッコは何に使用するのか?

後方から強襲させようにもそこは地球である。

敵の方が数が多いのだし、打ち上げ中の艦を狙おうにも簡単に阻まれて、特攻すらできまい。

 

「では残りは何のために存在して居る?」

「ミサイルの運用はガトルよりも得手としております。ならば特殊な弾頭を使いこなす為でありましょう」

 もちろん核弾頭やガス弾ではない。

それならばモビルスーツで十分だし、実際に連邦よりも良い成績を上げているそうだ。

「最初はビーム撹乱膜かと疑いましたが、間にあっているならばマハルを出す必要は無いでしょう。おそらくはアンチミサイル散弾ではありませんか?」

「フハハハ! 言い当てられてしまったな。ガルマならば将来、オレをも使いこなす参謀……いや将軍に成ってくれるだろう!」

 相変わらずの身内贔屓で恥ずかしくなりそうだ。

だいたいあんたは中将で、私が出世するよりも先に最高位まで行くだろうと言いたい。

 

 ……しかし予想が当たって居て安心した。

核弾頭の脅威にビクビクしていたが、対ミサイル用の散弾で撃ち落とすならば安心できる。

それならばジッコを艦隊に薄く広く配置して、ミサイル攻撃の雨が来た時にだけ前に出せば良いのだ。同じ使い道でガトルを使えば射程の問題でもろともに散華するしかない。しかしジッコならば、もうちょっとマシな射程があるだろう。

 

「ビーム撹乱膜は一応使い物になるらしいが、マハルに塗る分だけで精一杯だそうだ」

「おお! ならば我方の損害は更に減ることに成るでしょう!」

 おそらくだが、素材しか完成してないのだろう。

それを程良い射程で放つことも、散布して一時的に留め置くこともできていない。

だから特定の領域に……ミラーだけかな? に塗って後に開発されるビームコートみたいな価値を持たせているのだろうか。

「そういえばドズル兄さん。今回お呼びに成った件は?」

「おお、そうだ! お前の成長が嬉し過ぎて忘れておった」

 口に出してしまった思い付きに始末を付けたところで、私は本来の用事を訪ねることにした。

一介の少佐……戦時特例を入れても中佐が、ワザワザ呼び出される筈も無いのだ。

 

「ガルマよ。お前に専用の船をやろうと姉貴と相談しておってな」

「私はまだ少佐に過ぎません。巡洋艦の艦長席ですらまだ早いと思っているのですが……」

 というか、この間にムサイを預かったばかりだ。

まあ不幸な前任者が受け取る予定だった艦を、繰り上げで借りているだけとも言えるが。

「お前もザビ家を背負って立つ身ならば、我儘はいかんぞ!」

「それを言うならば兄さんだってファルメルに載って居るじゃありませんか。……ですが陸上戦艦か何かであれば、ありがたくお受けしたいと思います」

 どこが我儘だよ、常識を口にして居るんだよ。

そうは言いつつも、男のロマンとして自分の専用艦が欲しくないという訳ではない。

いや、銀英伝ファンでもあるので、むしろ欲しい!

 

 そんな多愛の無い事を思っていると、ドズルは神妙な顔を浮かべた。

急に引き締まった表情に、こちらとしても不意をつかれてしまう。

 

「お前はそんなに地球に行きたいのか? ザビ家に属する者が前線に立つ必要など無いのだぞ?」

「だからこそです。血を浴びる位置に、誰も送らぬ臆病な支配者を誰が望みましょう。それに……ザビ家の誰かが前線に行く必要があるのであれば、私こそが適任であるはず」

 支配者階級の誰かが前に立ち、将兵と生死を共にする必要がある。

死にたくは無いが、絶好の立ち位置なのはガルマなのは間違いがない。ギレンは言わずもがなとして、ドズルやキシリアも既に無くては成らぬ身なのだ。

「もちろん死ぬ気などありませんよ。ですが、これは心構えと私なりのプライドの問題なのです」

「お前も言う様になりおったな。やはりザビ家の子はこうでなくてはならん」

 ドズル兄さん、これで28歳なんですよ?

諸説あるけど、紫ババア23歳説の場合は、もっと若いんですけれどね。

 

 それはともかく、理論的にも、自分の出世的にも死なない程度に前線に出るのは間違っていないと思う。

というか、原作では自分でホワイトベースを仕留めに行こうとしたのが問題と言える。

余計な事を考えないのであれば、地球方面軍の司令官とか、凄い出世ではないか。

 

「まあ……その希望は聞いていたからな。だからこそ姉貴と相談して決めたのだ」

「姉上まで……」

 基本、仲の悪いはずのザビ姉弟が団結している。

思わず感動するとともに、改めてガルマがジオンの鎹であったことを理解させられた。

他に仲を取り持つ者がおらず、むしろ対立を煽るのだから分裂は必至であろう。

「それでな。地上向きの艦をあつらえるなら、お前に自分で名前を決めさせてやろうと思ったんだ」

「ということはネームドシップでないにしても、公式の登録名ですか?! ありがとうございます!」

 この感動は説明するに困る。

銀英伝でいえばブリュンヒルトは名前も素敵な艦であったが、それでも自分で決めた訳でも無い。

ヴィルヘルミナの様な例を除いて、自分で名前を付ける事は稀なのだ(技術者が趣味でとか、監督者が形式で決めるしな)。

 

 おおっとつい興奮してしまった。

ガンダムの世界なのだから、ガンダムの世界らしく決めないとな。

 

「どんな名前にしたい?」

「では『ガウ』でお願いします。

 なんというか、結局、ガウにしてしまった。

この世界にはガウ攻撃空母が無いらしいし、せめて自分くらいは覚えていないと寂しいだろう。

それにガルマと言えばガウであるし、地上にガウがあるのは相応しい気がした。

 

 ジオン公国に栄光あれ!

 

●今更な定石戦闘

 そして作戦が始まり、艦列が陣形を整え始めた。

グワジンを始めとして戦艦・重巡が被害担当艦として、マハルよりも前面に出る。

核弾頭の撃ち合いを考えれば愚策だが、こちらにはアンチミサイルがあるので、一周回って定石展開になっていた。

 

 陣形は斜線陣。

斜めに相手の攻撃を受け流すと同時に、手持ちの戦力で相手の弱い場所を突く構えだろうか?

当然ながらザビ家の御曹司であるガルマは、戦略予備として温存されている。

暫くは安全地帯であるし、優勢になれば急所を突きに行くので手柄立て放題だ(予定)。

 

「エマニエルより伝達。グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、マリア・カラスを指揮して待機すべし」

「了解したと伝えろ」

 戦隊旗艦のファルメル型から予定通りの命令が来る。

三隻のパプア級輸送艦を率いて必要な場所を抑えるのが与えられた任務だ。

現在位置は斜線陣の後列にあたり、何処にでも駆け付けられると同時に、相手の突撃を受けない位置なので安心できる。

「ガルマ中佐。グレタ・ガルボより電信です」

「繋げ」

 ケーブルによる直接通信がパプアよりもたらされる。

すると不機嫌そうな顔が微妙に崩れたのが判る。

無理して笑おうとしたのか、それとも知った顔を見て緊張を崩しただけか。

 

「ギニアス・サハリン中佐以下三隻。ガルマ中佐の指揮に入ります」

「止めてください。私は臨時で任命されているだけですよ」

 まあ形式的な会話ではある。

技術系のギニアスは本来の命令系統には属して居ないし、戦時特例であろうとも階級が並んでいるならばこちらに従って見せるのが筋だ。

もちろん無理を言えば、逆に命令系統が違う事を理由に拒否されてしまうのだろうが。

「ふふ……。君のヒキでアレを持ってこれた。礼を言うくらいは構わないだろう」

「それならばマ・クベ中佐に言ってください。自分は間を取り持っただけですよ」

 以前に技術部に顔を出して、色々聞いて回った時があった。

あの時は既に開発予定だったり、取り止められた計画があったりして驚愕したものだが、お陰でコネを得られた。

面白兵器の提案もできたし、どうせ間に合わないのだから、時間潰しとしては有意義だったと今ならば言える。

 

 ちなみに自分で上に掛けあわず、マ・クベに丸投げした。

ギニアスの精神状態を知って居ればお近づきになるのは躊躇われたのと……。

そもそも要望がアプサラス計画であれば、アッザムを開発中である突撃機動軍の方が向いているというのもあるだろう。

 

「しかしアレと言うとルナタンクも持ってこられたのですか?」

「いや。それはマハルの強化用に提案させてもらった。機会があればお目に掛けるとしよう」

 言いながらギニアスが指をパチンと弾く。

するとケーブルを伝って機密情報が送られて来た。解凍した画像に描かれていたものは……。

「ビームランチャーの開発が間に合ったのですか!?」

「形ばかりだがね。しかし君のアイデアのお陰で色々と研究が進んだよ」

 ビームランチャーと言えば格好良いが、ぶっちゃけスキウレである。

拠点防衛用のビーム砲塔を引っこ抜き、エンジンとブースターを付けただけ。

最初からビームライフルの実用化なんぞ考えず、まずは振り回すことを考えずにビームランチャー。

小型化が可能ならば、ビームバズーカで良いじゃない。

 

 タンクに組み込もうとするから完成に時間が掛る。

だからビーム砲だけ先に実用化して、徐々に小型化・安定化を図れば良いのでは?

私が提案したのはそれだけだのだが……。

 

「そのアイデアを分割し、目的別に三種類に分けた。後は実用試験を経て、フィードバックに励むのみだ」

「流石はギニアス中佐ですね。私ではそこまで考えませんでした」

 そもそもスキウレが頭にあったし、ザグレロやビグロだって早い段階で完成して居る。

リックドムに装備されたというビームバズーカも、それほど差が無い時期に完成して居るらしい。

そう思っていたら、専門家は更にステップを上げてきた。

「性能重視と小型化重視は相反する物だが、それぞれ独立した技術では無いからな。完成してしまえば補い合うのは簡単だ」

 ギニアスが用意したのは、射程・威力・小型化の三つ。

前二つはパプアの直衛に回して、残り一つをフレキシブルに使うらしい。

成功しようが失敗しようが、その結果が次の開発に活かされるのは決定して居る。

ビームバズーカはともかく、スキウレとして完成するのはそう遠くないだろう。

 

 成功した新兵器を抱えての戦闘とは心が躍る。

失敗作を押しつけられたら目も当てられないが、今回は期待が出来そうだ。

試作品といえばヨルムンガンドだが、残念ながら試験はとっくに終わって研究用に成っているらしい。

もしこの戦いにヨーツンヘイムやムスペルヘイムが参加して居るとしても、おそらく別物が搭載されているはずだ。

 

(……しかし、ギニアスがランチャーを完成させたなら、ヨルムガントとシナジー効果で活躍できたんじゃないか?)

 ヨルムガンドが長大な射程で撃った後に、近寄る相手にランチャーで牽制するのだ。

あるいは長射程モードのランチャーを複数用意して、偏差射撃でも試せば良かったかもしれない。

それこそ専用の船を用意して、測距させても良かっただろう。

(あの時点で思い付いて、提案したら間に合ったのかなあ? ったく何が原作知識が活かせないだよ)

 要するに自分がそこまで思い付かなかった。

色々と派生して考えることができなかったということだ。

今更ながらに憑依した自分が、天才でも何でもない事を自覚させられた。

 

 そうして反省しながら事態の変化を待ち続ける。

そうして判ったのは巡洋艦よりも戦艦の射程が長大である様に、砲はサイズに寄るということ。

専用の要塞という訳でもないが、マハルの自衛用についてる砲台は戦艦よりも射程が長い。

旧式なので凄いと言うほどでもないが、それでも大戦艦であるグワジン並みだ。

数の上では劣勢であるものの、戦いはマハルのお陰で優位に進んでいるようであった……。




 と言う訳で三回目です。
一回が短いとやはりペースが早まりますね。
その分、山場とか伏線も入れ難いのですが、まあ相手にモビルスーツ出て来るまではピンチも少ないので、こんなものでしょうか。

●戦いの趨勢
 連邦側の核弾頭を散弾で処理しつつ、コロニーを盾に設置された大型砲で戦力が増強しています。
壊れても困らないモノなので、連邦が頑張って壊している間に少しずつ戦力を削いでいる感じ。
ルナ2からの援軍があると余裕こいているのですが、ジオン側も足止め戦法で時間差勝利を狙っております。
 なお、ジッコに関してはドズルがガルマを甘やかして居るだけ。
正解ならばそこに資料があったでしょうし、不正解ならば及第点なので黙って居るだけです。

●ガウ
 ガルマが中将待遇で降下するのは既定路線なので、専用艦が贈られます。
改ザンジバル級ガウ攻撃空母と後に呼ばれるかもしれません。
臙脂色と紫で塗られたザンジバルが地球に降下する事でしょう。
まあ声優的にベイオウルフでも良かったんですけどね。

●思い付きと、思い付かなかったこと
 スキウレが頭にあったので、ちょっとした提案で可能な事として提案してました。
これがコネ以外に入って居た成果のことです。
その時点でギニアスと仲良くなっていれば、アイナが婚約者にでもなっていたかもしれませんが……。
残念ながら原作を知って居るので、お兄様には近づきたくなかった模様。
「ルナタンク! あれは良い物だ! キシリア様に伝えてくれ!」
「チ~ン♪」

 と言う感じでスキウレもどきが完成。
まあ砲台をぶっこぬいて、ザクが先っぽを動かすだけの未完成品ですけれどね。
逆にその時点で思い付いていれば、長射程モード量産とか
試験を終えたヨルムガンドを引っ張って来れたのかもしれませんが、思い付いて無かったので存在しません。
(この世界では試験が既に終わって、役に立たたない。あるいは次の為の実験機になっているので)
ギニアスと仲良くなって居れば、彼が三分化を提案した時点で思い付いた可能性もありますが
残念ながらその選択肢も、仲良くなろうと思わなかった分だけ遅れて居ます。


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第三話

●ルナ2からの影

 この数日、打ち上げポイントでの戦いはジオン軍優位に進んで居た。

しかし増援が上がる予定だから守って居たのであり、次々に連邦軍の戦力は補充されて行く。

そして一進一退の攻防が続く中、事態は風運、急を告げる。

 

「哨戒機からの急報です。後方から敵艦!」

「何っ!? 回り込まれたのか? 何隻だ?」

 スクリーンを確認するが、モニターには何も映っていない。

ミノフスキー粒子を散布しているから当然レーダーなんか役に立たないが、望遠レンズと艦影照合のデータリンクも始まっていないのだ。

「いえ、位置は遥か後方……。おそらくはルナ2からの増援と思われます!」

「馬鹿な早過ぎる……」

 慌てて確認するんじゃなかった。

そう思いつつも、本当に増援が到着したのなら大ごとだ。

敵の数は増えるし、前後から挟撃されてしまう。

 

(しかしこれは本当に増援部隊なのか? 足止めに失敗したとしても……)

 実の所、足止めしない場合の予定よりもかなり早い到着だ。

先ほど迂回を心配したのもソレが一因だし、戸惑うのも勘弁して欲しい。

(可能性は何があり得る? 大規模な場迂回進撃か、それとも無理して足の早い艦だけを送り込んで来た?)

 何のために?

迂回して後方から攻撃というのは、漫画やアニメでも良く見る恰好良い作戦だ。

しかしガンダムの世界は艦数が少ないので、無理して艦を捻出してもそれほど効果がない。

数隻ならばモビルスーツが叩き潰して終わりだからだ。

 

(ならルナ2からの増援だが、無理して送り込む理由があるのか?)

 ギレンの野望でもやったし、銀英伝でも偶に見るが……。

足の早い部隊だけで編成して増援を送り込む、そして戦場をかき回す手は無くは無い。

ゲームならば進撃ルートの問題で最初に送りこめる制限数だったり、生産した戦力を間に合わせる為だ。

銀英伝ならば艦隊編成の不備を突くだとか、別の行動で弱点を造り出した後で一気に突いている。

「哨戒機からの続報です! 敵艦の数は十隻。ないし、それよりやや上とのこと!」

「最大限に見積もって十三というところか。その程度ならば恐れるに足りん!」

 数はいいんだ、数は。

そのくらいならエースを中心に頑張ってくれれば何とかなる。

足の遅い空母とか輸送艦を連れて来たら間に合って無いだろうし、直衛は少ないはず。

 

「エマニエルから発光信号! 迎撃ス、ワレニ続ケ」

「応答を返しておけ。戦隊を組む」

 しかし、何しに来たんだ?

普通に挟み討ちに来たんだとしたら、採算はあるのか?

例えばヨルムガンドがマハルの陰に隠れて、要塞砲の代わりに長距離射撃をしていたとか。

それならば後方から奇襲を掛けて、無理にでも潰す意味はあるだろう。

だがそんな事は無いし、こちらはマハルを使って前面の敵に耐えることが出来る以上は、挟撃も意味が薄いのだ。

「パプワに関してはこちらの陰に隠れて、嵩増しを……。いや、待てよ」

 大前提としてこちらは要塞代わりに使っているマハルがある。

盾に成って居るし、壊れても敵に理由を押しつけてジャブローに落とせば良いので困らない。

 

 だがしかし……。

もし、敵から見てもそれが大前提だったら?

 

(まさか、コロニー落としを知っている!?)

 だとすると説明が付く。

仮定に仮定を重ねることに成るが……。

以前にジオンに別の憑依者が居る事を疑ったが、連邦にも居たら?

意味は違えども、ブリティッシュ作戦と言う名前が同じである以上、そちらを本命に考えてもおかしくはない。

(対戦プレイヤー付きかよ。また面倒な事態に成ったな)

 あくまで可能性論だが、あり得ない訳ではない。

もし相手に憑依者が居て、コロニー落としを知って居たら是が非でも止めたいはずだ。

 

「平文で良い、ギニアス中佐に要請を送れ」

「はっ! 文面はいかがいたしましょう!」

 核弾頭で攻撃するのが現状では最大の火力だ。

ジッコに搭載して居るアンチミサイルも既に使い切って居るだろう。

間に合わない場合はランチャーで狙撃するしかないが、どこを狙っている?

「要請内容は長距離攻撃の準備。対象は核弾頭だと伝えろ。警戒すべき方面は……」

 我ながらウダウダと原因ばかりを考え過ぎた。

よく考えれば理由なんて後で良かったのだ。

どうせ最強の火力は核弾頭以外に無かったのだし、狙撃準備が整っていれば後の被害は抑えられたかもしれない。

所詮はアニメやゲームの中でしか、戦場を知らなかった者の言い訳好きだと言えた。

 

 間近で強烈な閃光が弾け、悩んで居た時間の分だけ致命的なタイムラグを生じさせた。

核弾頭がよりにもよって戦隊内に撃ち込まれ、運が悪ければ自分が吹っ飛んでいたかもしれない。

 

「エマニエル轟沈! 戦隊旗艦を引き継ぎます!」

「フォン・フォーグラーが別れを告げています。ワレ、操舵不能。ワレ、操舵不能!」

「なん……だと……」

 貴重な核弾頭をここで投入する? 意味が判らない。

コロニー落としを避けたいのであれば……。

核パルス・エンジンを壊した上で、横殴りに機動を反らせるべきだ。

なのに、なんでここで使用する? 確かにエマニエルは貴重なファルメル型だが……。

「いや、まさかファルメル型を狙ったということか!? ザクを使って中佐に直接伝達しろ、敵の狙いはドズル中将だとな!」

 ファルメル型はムサイの指揮系統強化を図ったモデルだ。

被害担当艦をグワジンに任せたことで、少し下がった位置から指揮する為にドズル兄さんも使っていた。

当然、貴重で数は限られているから、ファルメルを狙えば兄さんである可能性は高い。

 

 ファルメルとエマニエルを間違えるとは運が良かった。

あるいはザビ家は安全な後方に居ると思ったのかもしれない。

念の為に数発、残りの数発を他のファルメルに……。

いや、連邦の方が保有数が多いのだから、あちらにはまだ十分な在庫があると考えた方が良い。

 

「グレタ・ガルボからファルメルへの射線を空けろ! 戦隊はこのまま総旗艦への攻撃を遮断する!」

「各艦に伝達します!」

「モビルスーツ隊が敵増援に取りつきました!」

 これでもう、余計な手は打てまい。

予め発射したミサイルと、あったとして載せて居たミサイル艇の分だけだ。

足の早い艦だけで間に合わせた以上、高速戦艦と呼べるまでに強化した戦艦がそれほど搭載して居るとは思えない。

巡洋艦が主体である以上は、一応、安心できる筈だ。

「グレタ・ガルボより入電! 迎撃ミサイルを用意されたし。命中率を確保するとのこと」

「なるほど。誘爆させて迎撃範囲を広げる気か。判ったと伝えろ!」

 あるいは単純に、当たらなかった時の保険だろうか?

どちらにせよやって損はあるまい。というか、ミサイル迎撃なんだから、用意しておくべきだったな。

 

 結果として初動における判断の遅れが、後のちまで響く。

敵が足の早く隠匿性に優れたミサイル巡洋艦を用意して居たことで、かなりの被害が出た。

特殊な艦を設計しているなんて思わなかったが、憑依者が他に居ると仮定するならば、警戒しておくべきだったのだろう。

 

「護衛艦が盾に成って……」

「くっ……。以降、対象をジェノサイド型と呼称する。スペースノイドを虐殺しようとする邪悪を必ず見つけ出せ!」

「了解しました! ジェノサイド1から2と思しき対象を捜索します!」

 実際に虐殺用かどうかは別にして、この機会に宣伝用の文句を考えておく。

そうでもしないと自分のポカで死んだ人間に申し訳が立たない。

この期に及んで言い訳を考える自分に腹が立つが、今はそんな事を言って居られないだろう。

「総旗艦より伝達、マハル発進! マハルが敵艦隊に向けて発進します!」

「そうか……。ゆさぶりを掛けるつもりだな。連邦が正気ならば横槍を入れて来る筈だ、マハルに撃つならば構わん。だが決して逃がすな!」

「了解しました! 決して逃しません!」

 コロニーを地球に向けることで、ミサイル艦の選択肢は絞られた。

既にファルメルを沈めても意味がなく、司令官の一人を討ち取るだけにしかならない。

コロニー落としを狙うならば横撃で進路を反らせるしかないし、敵艦隊も修正用エンジンに攻撃を集中するだろう。

ならばマハルは予定通り盾として使い切り、連邦艦隊を叩くと同時にミサイル巡洋艦を確実に葬るほかは無い。

 

 こうしてブリティッシュ作戦とルウム戦役を足した様な、奇妙な戦いが終わりを告げた。




 と言う訳で序盤の山場が終了しました。
次回はブリティッシュ作戦の結果と、余裕があれば地球侵攻作戦回になります。
(戦勝パーティで美女と踊るとか、シャアの表彰式とかすれば二回に分ける感じ?)

●敵増援
 突撃機動軍の遅滞攻撃が成功し過ぎた結果、足の早い艦だけで増援。
残りはルナ2の防衛に戻った結果、挟み討ちとしては微妙、でも連邦の新兵器で苦労したという感じです。

●両軍のミサイル事情と、ミサイル巡洋艦
 国力が違うので、保有している核弾頭の数が違います。
ジオン軍は既に大半を使い切っており、温存して有効的な使い道を探って居る所。
たとえばジッコを利用した遅延作戦に付随させて、ルナ2方面で一発使って脅すとか。
コロニーも原作よりジオンよりなのですが、流石に迷惑なので核弾頭は提供してません。
逆シャアみたいに博物館行きの弾頭は、そのまま眠ったままでしょう。

 これに対して連邦はまだまだ豊富にあるのと、新兵器としてミサイル巡洋艦を用意して居ます。
若干ながらもステルス性が存在し、ミノフスキー粒子でそれを高める。
足が早く燃料も豊富で、コロニーの反乱分子であるとか、ジオンの戦艦を狙う為のモノです。
元ネタは超人ロックに出てきた、ジェノサイド・ワン。
ミサイルが次元潜航しない以外はまんまですが、連邦の現行技術と概念だけで十分なので開発されて居ます。

●両軍の憑依者・転生者疑惑
 まあガルマ一人であるよりも、数人居る方が面白いというのが理由です。
憑依者まずなんていない、居る方が珍しいという考え方。
憑依者が一人いるならば、複数居てもおかしくないという考え方。
どちらもありえるのですが、緊張感を演出する為に後者を取った感じですね。
真面目な話、モビルスーツ登場まではジオン無双というのも面白くないですし。
そして、原作と違う独自の流れに成って居るのは、彼らの影響でもあります。
よってモビルスーツ戦は早めになるかと。
(ガルマは開戦前ですが、もっと前に転生・憑依した人も居るので)


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第四話

●コロニーが落ちる時

 マハルが阻止臨界点を越えた時点で、ジオン軍は一時休戦を提示した。

落ちる決め手になったのは連邦の攻撃だが、要塞として持ち込んだのはこちらである。

地球へ質量爆弾を落とす気は無いと、ブ厚い面の皮で共同処理を申し出たのだ。

 

 もちろん現時点で有利なのはジオン軍であり、ここで時間稼ぎをして増援を待ちたいのは連邦軍である。結論を出す前にジリジリと時間が経つのは織り込み済み。

しかしながら放置すればコロニーはそのまま南米に落下と時間は無く、そして頼みの綱である援軍はというと……。

ルナ2方面軍は遅滞作戦と本拠への核攻撃ゆえに、これ以上は来ない可能性があり、ジャブローからの打ち上げはコロニーのせいでもう出来ないのだ。

 

逝け(征け)、マハル。誰かの思い出と誇りを載せて)

 グワジンで開かれる、簡易的な祝勝会に私は招待された招かれていた。

片手にワイン、片手でマハルの残骸に敬礼と気取って窓際に居たのだが……。

「おっ。本体が崩れ始めましたな……。被害は北海とオセアニアの海軍くらいですか? これならばもっと足元を見ても良かったですなぁ」

「無事でもユカタン半島だったようですし……まあジャブローでないならば停戦で良いでしょう」

(下種め……。だが、予想して止めなかった時点で、私も同罪か)

 いわゆる大人の会話を聞きながら顔を背けようとしたが……。

ザビ家が関わって居ないというアピールの為にそちらに歩みを進める。

 

「コロニーの落下で連邦の戦力を削ろうと、それは望んで得た戦果ではありません」

「それは……まあそうなのですがね」

「いやいや、流石はザビ家の御曹司。確かな覇気ですなあ」

 正論を口にすることで、私は知らないよ。とアピール。

実はそれが狙いだったんですよ。と口にしたい馬鹿は苦笑を浮かべ、もう少し頭の良い奴はおべっかを使ってきた。

「勝利と人類の革新の為に必要ならば、ルナ2でもフィフス・ルナでも落とす為に改めて挑めば良いではありませんか。今は我々の為に犠牲に成ってくれたマハルに感謝しておきましょう」

「老朽化したコロニー、最後の奉仕ですか。それはそうと昇進おめでとうございます」

 イエスマンばかりだったのか、それとも馬鹿を操るサクラが居たのか?

結局はそいつに追随する形で次も勝ちましょうとか、将来が楽しみだとか、こちらが苦笑したくなる話題に移り変わった。

 

そして無実アピールが無事に終了したかと思った時……。

同じ様に招待されていたらしい、シーマ様が目礼して去っていくのが見えた。

 

(あー。海兵隊も功労者だし、っていうか、マハル出身だから招かれるよな)

 物凄い居心地悪かったろうなー。とか思う。

アピールは適当に造った綺麗事でしか無かったが、せめて心労の一つでも消せた事を祈りたい。

(というか綺麗といえば、せっかく綺麗なシーマ様状態なんだ。恨みとか持ちませんように)

 そんな他愛ないことを想いつつ……。

シーマ様が軍服だったことを残念に思う。

この当時ならばドレス姿でも綺麗だと思うんだよねえ。

 

地球降下作戦(プロジェクト・パンゲア)

 一時休戦を受け入れたレビル将軍であったが、当然捕虜にはできてない。

そのまま適当な休戦期間を経て、史実とは異なる意味で地球降下作戦が開始される。

 

「ガルマよ。お前を中将待遇としパンゲア作戦の司令官に任ずる」

「はっ! 必ずや成し遂げて見せます」

 既定路線に従って地球方面軍を編成。

ガルマはあくまで横並びのメンツを従えて、序列の上で優先を付けただけだ。

「判って居るな?」

「はい。若輩者ゆえ先達の指導を仰ぎたいと思います。むろん、ザビ家に恥をかかせる様な事はしません」

 ギレンの言いたいことは単純だ、他は同様に待遇だけ上がった者が参謀役。

実質的な司令官には元から少将だった者が指導する形になる(はず)。

彼らがモメごとを起こした時にザビ家の名前を出し、まとめるのが自分の役目だ。

 

 そして、この戦いは地球占領作戦などではない。

ゆえに勝って名声を高めたり、ましてや支配領域を広げることに意味は無いのだ。

 

「スペースノイドの自治を制限し、地球圏にしがみつく連中に目に物見せてやりましょう!」

「それが判っているならば良い。お前には改ザンジバル級機動巡洋艦を与えよう」

 改ザンジバル級機動巡洋艦……いわゆるザンジバル改は搭載量を強化したモデルだ。

ガウ攻撃空母の代わりどころか、実質的に上位互換である。

そして編成する方面軍と、場所に関して原作よりも絞られていた。

(まあ狙って無い分だけ、コロニーの残骸で与えた被害も少ないから、相手の戦力も多いしな)

 ユーラシア大陸の東半分には最初から攻め込まない。

戦力の殆どはヨーロッパ戦線とアフリカに注ぎ込み、北アメリカは維持するだけだ。

そしてオーストラリア等は足止め部隊で牽制し、守備隊が必要だと思わせるに留めている。

何かやるにしても、ジオン水泳部ができてからだろう。

 

 その狙いは工業力と穀倉地帯の確保。

ジオン軍の継戦能力を高めつつ、コロニーで水耕栽培される食糧の価値を高める為。

要するに一年戦争の反省と、0083以降の事情を踏まえた上で、適当な所で手内の停戦と発言力向上狙いで持久戦を狙っているのだ。

 

(戦いは政治における手段の一つに過ぎない……か。とはいえ他にも居るのはこれで確定だな)

 ジオンの敗北も含めて計算し、確実に目的を果たす。

その為に余計な欲を切り捨て、ダーティーな手段も部分的に封印して居る。

さらに一年戦争を見て来たかの如き割り切りは、あきらかに異常だった。

(しかもそこに至るまでの道筋も、違和感がない様に誘導されてるからな。相当上に居るぞ……)

 まあ、それは良い。

他に憑依者・転生者が居て、ジオンの勝利……。

いやスペースノイドの自治を目指して居るならば安心だ。

協力を求められれば手を貸そうとは思う。

 

(問題はギレンの本音と……連邦側の介入者だよな)

 ギレンが建前だけ受け入れて、事実は絶対支配者を狙っている。

その場合はガルマとして殺される可能性が常に付きまとうし、正当化の為ならば手段を選ばないだろう。

そして一番厄介なのは連邦軍の方で、仮にギレンが転生者に協力的だったとしても、敵側の方が強ければ意味がない。

(ともあれ今は、ベルファスト攻略目指して頑張らないとな)

 そう、今回の目標はヨーロッパの確実な確保。

オデッサを中心に堅実に抑え、無理してジャブローなんか狙わない。

ゲームならば全ての資源が一括で入手でき、空いてる基地の施設で何でも生産できる。

 

 だが北米と西ヨーロッパを完全に落とせば工業力はガタ落ちする。

ジャブローのある南米はともかく、オーストラリアと東アジアだけで十分な生産が可能だとは思えないのだ。

あと、敵勢力はオセアニアとジャブローのラインに固めておけば、本当にコロニー落としを狙った時にやり易いからだろうな。

その意味では相手に利する事があろうと、敵地に味方は居ない方が良いということだろう。

 

(まっ、想像だけどな)

 実際にギレン聞かされた訳でもないので詳細は不明だ。

乏しい知識と編成表を眺めて、ヨーロッパ重視だからそう思ったに過ぎない。

(とりあえず呉越同舟な仲間達に挨拶して来ますか)

 無事に任命式やら作戦説明を終えたので、そのまま次の予定に移る。

グワジンでのささやかな祝勝会とは比べ物にならない、壮行会が開かれる予定なのだ。

もちろん主役はガルマである自分であり、参謀団や司令官達でもある。




 と言う訳で宇宙での戦いはサクっと終わりました。
次からモビルスーツ戦とか起きるので、今までのペースではない可能性があります。

 ルナ2や地球に戦力残ってるので、余計な場所には攻め込みません
余計な手を広げない理由、持久戦をしても原作よりも大丈夫な理由に成って居ます。
毒ガスやら使わなかったり、コロニーが原作よりもズレた上に、かなり壊れてるので連邦の被害が少ないのもあります。
その分だけジオンの側も手が綺麗なので、各サイドからの受けも良く志願兵も居る模様。

●現在の判明している編成
『地球方面軍総司令官』
ガルマ・ザビ中将待遇大佐

以下、各種参謀
マ・クベ少将待遇大佐
ギニアス・サハリン少将待遇大佐
ノリス・パッカード大佐
シーマ・ガラハウ大佐待遇少佐

『ヨーロッパ戦域司令官』
ユーリ・ケラーネ少将

『アフリカ戦域司令官』
ノイエン・ビッター少将

以下、ガルマの縁が薄い名前が続く。

/艦船:
改ザンジバル級『ガウ攻撃空母』
ザンジバル級x3『マダガスカル』、『ケルゲレン』、『リリーマルレーン』
陸上戦艦ダブデ(予定)
陸戦艇ギャロップx2
ファットアンクル初期型(前面扉型)x10
ファットアンクル改(早期に生産予定)
(ギャロップとファットアンクルは持ち込み、後は現地生産予定)

主要モビルスーツ
MS-06J陸戦ザクⅡ数機(十機未満)
MS-06S指揮官用ザクⅡカスタム『グフ』数機
その他、MS-05ザクやMS-06Cなどが多数
陸戦ザクの追加は、生産予定。
(グフは生産としては存在せず、データを元に指揮官用ザクのカスタムモデル)

 幾つかある資料の整合性を取りつつ、一部原作よりも地位が高い人・低い人が居ます。
●●待遇の人は同格の人より発言力が低いので、一応は普通の人が格上になります。
シーマ様の地位が高いのは、マハルを犠牲にしたとか、ガルマを守ったあたりの功績ですね。
とりあえずケラーネ隊・ビッター隊が主力で、ガルマ以下はヨーロッパに待機して占領工作をしつつ、火消しとかベルファスト攻略に向けて動く予定。


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第五話

●人狼ゲームに挑みますか?

 壮行会の会場で笑う人々を見て、思わず人狼が脳裏をよぎった。

銀英伝に出て来る戦艦の事では無く、隠れた相手を探す推理物のパーティーゲームだ。

そのゲームで隠れているのは人に化けた人狼だが、この場合は……憑依者や転生者を含む介入者探しである。

 

 当て物では証拠が揃うまで黙って居るのが鉄板だが、人狼では時間制限がある。

喰い殺されない様にさっさと見付けなければならないし、濡れ衣で殺されることもあり得るのだ。

協力するにしろしないにしろ、完全に放置しておくのは躊躇われる。せめて相手が疑わない程度に、人畜無害を装う必要があるからだ。

 

(作戦的にも技術的にも隠れた介入者が居るのは間違いがない)

 悪手だが勝利の為には必要とされたであろう、核やガスの使用中止。

そしてコロニー落としも原作とは違う方法で成し遂げ、まんまと連邦に原因を押しつけている。

更にモビルスーツと戦艦群の整理は、原作を詳細に知って居ないと無理だろう。

(私以上のガノタなのは間違いがないけど、地位か……コネもそれ以上だよな。まずザビ家。次にその幹部ってところか)

 ギレン総帥やデギン公王を始め、特権階級に居る者達。

あるいは秘書のセシリアや、参謀のマ・クベ達と言った……さりげなく口出しできる連中だろう。

一応は名家の出身とはいえシン・マツナガや、漫画によっては名家だったり普通だったりするジョニー・ライデンはギリギリ難しいか?

 

(サイアム・ビストは……ないか)

 彼の人生は劇中作ではないかと思えるほどに、幸運を重ね過ぎている。

その可能性は捨てきれないし、この世界であったように……修正された草案が出回っていない方が奇妙なのだ。

ラプラス憲章にしても、首相の一存で書き加えた文面にそれほど効力があるとも思えないし、各方面の有力者に根回しくらいはやっているだろう。

(ジンバ・ラルとか落ちぶれた連中もだな。……そういう意味でギニアスがシロってのが笑える)

 早い段階から介入で来ても、ラル家は権力外である。

才能のあるランバ・ラルを呼ぶことすら一苦労なので、現在の情勢的にありえない。

同じ様にサハリン家も没落しており、介入者である可能性とても低い。

 

(鶴の一声という意味で、一番怪しいのはギレンとその愉快な仲間達だよな。キシリア達はその次……)

 ギレンならば簡単で、情報機関を持ち月を拠点にするキシリアが次点だろう。

だが資料によってはモビルスーツ研究を推したのは、ギレンではなくドズルという説もある。

とはいえ家族の仲が多少でもマシになっているのであれば、デギン公王である可能性もゼロではないか。

(んー。まずはギニアス経由で技術的な会話から初めて、違和感を出さない様に聞くべきか)

 形式上は部下になっているからといって、迂闊にマ・クベに聞くと悲惨な事に成る。

キシリア一派に介入者が居ないとしても、疑っているというだけで、粛清対象になりかねない。

せっかくキシリアはガルマに甘い態度を取って居る……はずなので、藪蛇は避けるべきだろう。

 

(となると、話題はガウとグフだな)

 動く前に話題を整理しておこう。

技術的な疑問から初めて、誰がそのアイデアを思いついたのか、ギニアスの方から話させるのが理想的だろうか? その意味で旗艦として受け取ったザンジバル改が早過ぎる事と、開発ツリーのおかしいグフは丁度良い。

(まあ完成品を見て無いから、ザンジバル改の方は何とも言えないけどな)

 改ザンジバル級ガウ攻撃空母。

自分がそんな感じで欲しいと要望を出したので、とって付けた改造を施して居る可能性もある。

wikiなんか見れないので詳細なんか覚えていないので、どんな差があるのか判らないからだ。

(グフが指揮官ザクのバリエーションってのも奇妙だが、こっちはハードポイント制ってのが面倒じゃない? まあコレに関しては詳しく開けて、ゆっくり聞くか)

 指揮官用のMS-06Sを早期に開発。

エンジン出力やら強化しまくった機体に、色んな装備をくっつけて実験機を再現しているらしい。

腕部ハードポイントに、鞭とバルカン。

基本装備に剣と盾を用意して、モビルスーツに対抗しつつ、一般兵器に対抗する。

 

 それを可能にするのが武装のハードポイント制なのだが……。

この概念はガンダム放映時代に無かっただけで、その後は普通に二次元でも一般社会でも存在するのである。

設計したらこっちで試すのが普通で、無理に建造しなかった可能性もあるのだ。

 

●なぜなにギニアス先生

 さっそく話しかけるキッカケを探して居ると、都合の良いことにアイナを連れて居た。

しかもドレス姿がとても似合っており、魅力度をとてもUPしていた。

 

「おや、アイナさんを伴って来るとは珍しい。挨拶させてもらえますか?」

「構わないとも。地球に呼び寄せようかと思っているし、こちらから声を掛けようかと思ったところだ」

 ……なんという原作ルート。

しかし私もこいつもヨーロッパ戦線を本拠にするはずだ。

巻き込まれて死ぬ事は無いと信じたい。

「アイナ。会った事もあるだろうが、改めてガルマ司令官にご挨拶なさい」

「はい、お兄様」

 ユーリーにつれない兄妹だが、ガルマには愛想が良い。

スポンサーにはならなかったものの、キシリアに取り入れるキッカケを造ったのが私なので、まあ当然か。

それにアイナを妾にしようとか思っていないのも大きいのかもしれない。

 

 ……これほどの美人なんだから、興味ないと言ったら嘘だけどな!

 

「お久しぶりですガルマ様。サハリン家のアイナを覚えておいででしょうか」

「もちろんだとも。以前にギニアスの研究室で出逢った時は、大した話もできずに申し訳ない」

 まあ、そのころは一介の将校である。

話の弾みようもないし、忙しくて通い詰める程の時間が無かったのも大きいだろう。

それこそ一目惚れとか理由を付ければ別だったのだろうが。

「君の兄上にはこれからもお世話に成る。何かあったら言ってくれ、力になろう」

「それでしたら兄に声を掛けてあげてください」

 定番のセリフを交わしあって、本題に向けて話題を切り替えることにした。

 

「そういえばザンジバル級はようやく生産ラインが本格的に成ったと聞くんだが、もう改良型が造られたのですか?」

「自分の船は気になるかい? まあ、あれは手品のタネがあってね」

 目礼して去っていくアイナに頷き、ギニアスにザンジバルの件を切り出した。

もらったばかりだし、生産され始めた船がもう新型というのは不思議に思ってもおかしくはないだろう。

「タネ?」

「ああ。持ち込んだビームランチャーがあったろう? あれは私のアイデアというばかりではなくてね」

 都合の良い事にギニアスの方から核心に触れてくれた。

アイデアを出したのが誰かを聞くのは時間を開けるとして、どんなものか聞いておくことにしよう。

 

「確か三種類の傾向があったと思いますが」

「その通り。ザンジバルは最初から三姉妹で建造計画が立っているんだ。もちろんコスト削減以外にも理由がある」

 マッドであっても科学者であるギニアスは、話をするのが好きなタイプだ。

研究室に籠ってばかりではなく、元が上流階級出身者で、脚光を浴びたがっているのも影響して居るだろう。

「習熟を兼ねた船、技術検証の船、そして近代化を前提にした船と言う訳だよ」

「なるほど。私が受け取ったのはソレか」

 どんな不具合が出るか、どんな改造が必要かを調べる船。

技術開発室が抑え、様々な実験を施す船。

そして得られた技術を次の世代に持ち越す船。

この三隻が同時に造られ、ガウは近代化試験艦だったという訳だ。

 

「四番艦以降で新技術を導入し、それを用いて近代化を図った。私が預かるケルゲレンが大型炉と搭載量、マ・クベのマダガスカルが索敵と指揮統制機能。そして……。

「シーマのリリーマルレーンが戦闘用として、装甲・火砲を純粋に強化した仕様……ですか?」

 ギニアスの言葉を先読みすると、アッサリと頷かれた。

まあカーゴ・タイプと司令部タイプがあるならば、残りは戦闘用しかない。

私は原作知識で予想を立てれたが、判り易い誘導に乗ったと思わせておこう。

「それらの技術をフィードバックしてアップデートされたのが君の船ということさ」

「ということは地上での運用試験も兼ねているようですね。七番艦からまた似たような船が建造され、十番艦以降の技術を取り入れると」

 仮に七番艦から九番艦がザンジバルⅡと言う訳だ。

実際のザンジバル改やザンジバルⅡのスペックデータは劣るにせよ、早い段階で手に入るならば時間は何にも勝る宝だろう。

 

 そしてこの考えを聞いた時、軌道修正してザクの件に結び付けれる事に気が付いた。

予め近代化を予定された船だったということは、ハードポイントのような場所が用意荒れていたという事。

大型炉やカタパルトを導入するならば、その部分が取り外し易い必要があるからだ。

 

「もしかしてザクの設計も似たような概念なのですか? 新型装備を取り付け易いように」

「正確にはモビルスーツの設計が……というべきかな」

 こちらの思惑に気が付いたかは別にして、ギニアスはノリノリで話を続けた。

余計な話にまで飛び火したら止めるか逃げるかするべきだが、今は非常にありがたい。

「第二世代に採用する概念を設計した時。三つのアイデアがあったそうだ。対モビルスーツと既存兵器を想定した物、可能な限り性能を高めた物、そして重装を前提にした物」

「対策兵機が相性良くとも、ピーキーな機体が強くとも、全軍の強化にはつながらない。ゆえに重装型が採用された訳ですか」

 よくできましたと教師のように頷くギニアス。

悪いがこちらは原作知識なんだ、すまん。

しかし設計コンセプトを聞くと、ピーキーなイフリートはRザクに通じるものがあるな。

グフはどちらかといえば過渡期に当たるものだし、全体を向上させるならばやはり重装型で済ませた方が楽なのは確かだ。

ホバーが重要とは言われるが、イフリートにもあった筈なので、決め手になったのはその辺だろう。

 

「いや、君がこの手の話に付き合ってくれるとは嬉しい限りだ。回りには理解者が居なくてね」

「男ならば新兵器には弱い物ですよ」

 聞きたいことは聞けたし、ここで『誰が主導したの?』と聞くのも不自然だ。

少しずつ仲良くなったところで、可能ならばザビ家の手の届き難い地上で聞くべきだろう。

「おっと……呼ばれたので、この話はまた次の機会にでも聞かせてください」

「そうか、残念だ。また地上ででも話をしよう」

 適当な処で顔を上げて、呼んでいる人に気が付いた風を装っておく。

後から思えばとことん話し合って、仲良くなることでマッドの道を止めさせるべきだったと思わなくもない。

 

 こうして詳しい事こそ判らなかったものの、系統だった関与を確かめることが出来た。

地球に向けて降下する前に、良い検討材料が手に入ったと思っておこう。




 と言う訳で幕間的な話ですが、思いついたので入れておきます。
今回は介入者に突いて考察を入れつつ、伏線ポイもの。
そして技術的に早過ぎるモノに関して、実際は微妙な回収であるとの説明になります。
思い付きを入れただけなので、戦闘は次回へ繰り越し。

●ザンジバルの三姉妹設計
1:運用習熟用
2:技術試験用
3:近代化試験用:ザンジバル改として改修予定

4:大型炉・運搬量(カーゴ)
5:指揮・索敵(望遠と通信)
6:重戦闘用(装甲・火力・カタパルト)
 4~6のデータで3を再設計
7~9:ザンジバル改として再設計
10以降:実験と実戦が続き、ザンジバルⅡを目指す

 と言う感じで生産コストを下げると同時に、後に改修・再設計することが前提に成って居ます。
ガルマが受け取ったザンジバル改は、最初に建造された船の一つというオチです。
(再設計されたものより強くない)
キマイラ・バンパイア・ケルベロスとかが7~9だったりするんでしょうかね。

●Sザクカスタムとモビルスーツ開発ツリー
MS-06S:指揮官・エース用の高性能機。各種試験用

MS-06JS:地上用・対核装備抜きで再設計したS型
MS-06RS:宇宙用・対核装備抜きで再設計したS型
(MS-07~09のコンセプト等を導入)

MS-07:対MS・対既存。設計のみ
MS-08:ピーキーな高性能機。設計のみ
MS-09:重装機。第二世代に決定

 まず高性能な機体とハードポイントを使って、07~09に近い形で試します。
その結果、09が量産決定して他は造らない。
という感じで、開発リソース・製造リソースを集中しています。
多少は性能が下がるでしょうが、実機を造って実験する時間が大幅に省かれます。
またSザクの装備バリエーション化することで、グフとかイフリートに近い装備が前線に届けられます。
(再設計された物よりは弱いですが、生産ペースと整備性が大きく変わるので)
またコンパクト・カーが同じフレームで、微妙にサイズの違う車種が造られるように
できるだけメインフレーム・基本装甲は共通化するように申し渡されています(成功したとは言い難いですが)。


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第六話

●降下開始

 核・ガス・質量兵器を制限する条約だけは結んだ後で、地球上空に移動した。

これより地球降下作戦の始まりだ。

訓示なんてガラじゃないので、『死なない様に頑張ろう』で済ませたくなるがそうもいかない。

ズルをして何とかしておこう。

 

『勇敢なるジオンの将兵諸君、地球方面総司令官ガルマ・ザビである』

 北米上空からの全域通信が始まり、作戦の意義を唱え始める。

パンゲア作戦の第一目標は北米、およびオーストラリア。

コロニーの落下で海軍力・空軍力が低下している間に、一気に攻め立てるということに成っている。

(まあ、半分くらい嘘だけどな。全部は攻めないし、ジャブローは端から無視だし)

 しかし本命は北米であり、広大なオーストラリアはハラスメント攻撃のみだ。

北部から西部沿岸の街のみを確保し、それ以外は表向きは占領するフリで、鉱山資源・穀物・肉類などの生産資源を抑える刈田狼藉を行う。

もちろん統治したり南部を攻める仕草はするが……。

大戦力やモビルスーツがあれば順次縮小する予定に成っていた。

 

 場合によってはゲリラ戦の得意な将と入れ換えることもあるだろう。

その時は第三次目標の一つである北京攻略に偽装した部隊と共に、インドシナ南部にある香料諸島へ集結して、時間稼ぎをする事に成っている。

 

『……ここにパンゲア作戦を開始する! 降下開始!』

 勇ましい声と敬礼が終わると、HLVに自ら乗り込んだ『ガルマ』が降下して行く。

私は此処に居るので実のところ影武者だ。

恥ずかしい訓示を代わってもらうと共に、原作通り北米に居ると思わせる為。

そして本物である私は、介入者が防備を固めているかもしれないオデッサへ、ザンジバルと共に降下するのだ。

「よし。連中の目が北米に引きつけられている間に降下するぞ!」

 もし介入されているとしたらオデッサ。

北米とオーストラリアはコロニーが原作通りに落下する可能性もあった為、原作通りの配備である可能性は高い。

ジオンの第一手をくじく為に、介入された精鋭部隊が居れば、それ以上の精鋭で裏口から回り込むように叩き潰す。

 

「ユーリ。実際の指揮は任せます。シーマは自由に行動していい、かき回してくれ」

「おう!」

「ハッ!」

 ミノフスキー散布用を兼ねた無人のHLVが先行して突入。

次いで最も装甲のあるリリーマルレーンが、本隊の乗るHLV群と共に降下する。

「ギニアス、マ・クベの出す発光信号を見逃さないでくださいね? 我々も降下します!」

「「ハッ!」」

 探知力と発信能力の高いマダガスカルを中衛に置く。

後ろを固めたケルゲレンとガウは、相手の陣形が判った後で、温存した主力を一気に投入する予定だ。

 

 想定する戦力は最大でコジマ大隊。

流石にソレはないと思いたいが、無理やり間に合わせている可能性が無いと過信する訳にもいかない。

 

●脅威の新兵器!?

 強烈な振動を感じながら降下して行く。

その中で対空砲火が響きはするが、そもそも降下ポイントをずらして居るので当たる筈も無い。

 

「ノリス。調子はどうかな?」

グフ・モドキ(イージ-セブン)は十分な性能を持って居ます。相手が誰であれ負けるつもりはありません」

 MS-06S『グフカスタム』は指揮官ザクにグフの装備を付けた物だ。

性能を高めたSザクへ、ハードポイント接続で色々武装を試した結果なのだが……。

(これって要するに、ザクのガンダム化だよな。高価に成っても良いから可能な限り性能の高い機体を造って、そいつで実験する……)

 この事に気が付いた時。

こちら側の介入者の候補が少しだけ絞れた。

ハードポイント性があるから、こうなったそうなった可能性もあると少しは思っていた。

しかし、よく考えて見ればここまで統制されているのもおかしな話だ。ここまで介入されて居るならば、監視され易いデギン公王ではないだろう。

(ハードポイント付きのザクがあったら、次はハードポイント付きのグフやイフリート造るよな。効率的だからといって、設計者が聞いてくれるとも限らない)

 だが実際はSザク万歳である。

惜しげも無くリソースをつぎ込んだことで、諸説あったシャアのザクは本当にSザクだった。

そしてグフを造って試して、そこから更に検証して……。

というステップを踏まずに、ハードポイントへの追加武器や追加装甲板を試していた。

既にホバーの検証は始まって居るだろうし、空を飛ぼうとしないならば爆発する事も無いだろう。

 

「戦車隊が敵陣に突っ込みました。敵戦車はザクの砲撃で既に駆逐されて居ます!」

「油断はするな! 我方に切り札はあるが、敵に無い等と油断はするなよ!」

 希望的観測を悲観的観測で返しておく。

ピンチであれば鼓舞する事もあるが、優勢な間は臆病なくらいでいい。

楽観して死ぬのは遠慮しておきたいところである。

(しかし杞憂だったか。流石にコジマ大隊は無いにしろ、モビルスーツがあるかもとは思ってたんだが)

 こちらのペースが早まっているのだ。

あちらも早まって居てもおかしくは無い。

スパイを使うとか、三十倍の国力比に物を言わせた、ジオンの数倍はある予算を使う事も出来るからだ。

 

 どうやら連邦のトップは頑迷で旧態依然としているようだな。

……そう思った時期もありました。いやあ、フラグっていけませんね。

 

「司令! 前線からの発光信号! 思わぬ反撃があるとのことです」

「マ・クベのマダガスカルで捉えた画像を送らせろ! 通信筒を使え!」

 通信筒には二種類がある。

昔ながらに筒へ紙を入れるタイプもないではないが、この場合は指向性通信機を仕込んだ筒先を、ワイヤー付きで飛ばすという方法だ。

ミノフスキーの干渉が低くなるまで接近させて、指定した筒先同士で通信をさせる。

その場に居たら傍受ができなくもないが、そもそも暗号文を使うし、緊急を要する状態なので問題無い。

「敵の新型戦車だそうなのですが……」

「今更、新型だと? 巨大戦車か、それとも可変でもするのか?」

「少しお待ちください。解析して画像に出します!」

 一瞬、ヒルドルブを疑った。

あれならばモビルスーツに対抗できるし、連邦が旧態依存した兵器重視でも作れるかもしれない。

 

 だが、私の甘さは最悪の形で裏切られることになった。

 

「解析しました。画像に出します!」

「これは……」

「馬鹿……な」

 画像に映し出されたのはコンパクトな戦車だった。

丸みを帯びたフォルムで軽快に動き、前後に分割された無限軌道は、タイヤじゃないのかと疑いたくなるレベルだ。

「補助用の駆逐戦車じゃないのか? あるいは暴徒鎮圧用の転用とか」

「……いや。逆転の発想だろう。既存の技術を推し進め、一回り小さくまとめたのではないかな?」

「可能性はあります。……モビルスーツよりは連邦向きかもしれません」

 戦車砲として最低限機能する火器を持ち、命中率はセンサーと連射で何とかする。

そもそも大型戦車でも動きながら、一台だけだと命中率は微妙なのだ。

かといって動きを止めれば良い的なので、動きながらバンバン撃って苦戦させれば良いというアイデアなのだろう。

連邦の方が数は優勢なのだし、数で火力は補える。戦車砲が必要ならば61式と連動すればいいだけの話だ。

どうせ61式だって、一発じゃモビルスーツは落とせない。

 

「どうなさいますか? モビルスーツならではの優位地形へ先回りされてしまいます」

「ノリス大佐を呼び出せ。……それと腕の良い連中を何人か付けて、彼の腕を学ばせろ」

 こちらの手の内を見せるのはどうかと思うが、時間の方が惜しい。

それにSザクは万能の高性能機だが、どうしても対核・汎用装備の分だけ性能が制限される。

地上のJ型を設計し直す段階で、JS型を設計して居る筈なので、その内にバージョンアップできるだろう。

「良いのですか?」

「アレで我軍の懐を突かれることを想像してみろ。有効だと判断する前に叩き潰す」

 問題は占領作戦の主力は、あくまで通常兵器と言うことだ。

モビルスーツを倒すには奇襲や数機の連動が必要だとしても、マゼラアタックや通常車両はひとたまりもない。

いや正面から戦えばマゼラアタックならばなんとでもなるが、狭い場所に逃げ込みながら戦われたら手を出し難いのだ。

 

「ノリス大佐、聞いての通りだ。一戦して圧倒し、有効性を疑わせよ」

「確保はできれば……でよろしいですな?」

 お互いに頷きながら早急に作戦を開始する。

倒すのは確実だが、時間との戦いが重要だ。

目撃例が多く出れば出るほど、アレを有効と見なして量産しかねない。

逆にここで叩き潰せば発案した奴の思惑を外して、後方で警備用になってくれるだろう。

(後は連邦の派閥抗争に期待するか)

 相手の介入者もフリーハンドではあるまい。

もし自由に采配を振るえるならば、ザニーなり先行ジムが居てもおかしくは無い。

しかし宇宙で見たミサイル艦であるとか、今見たポケット戦車を見ても、旧型兵器を最新の概念でリニューアルした物だった。

上手くやれば相手の階段を外せるだろう。……というか、できれば窓際に行ってくれますように。

 

●ポケットタンクとの戦闘

 ここで視点はノリス達に移る。

臨時のMS参謀として格上げされているノリスは指揮官用のザクであるのは勿論の事。

彼のザクがグフ・スタイルであるのは前述した通りだが、残りの三機も多かれ少なかれ似通った武装をしていた。

一人は両腕のハードポイントにヒートロッドとワイヤーロッド、一人はダブルのハンドバルカン。そして最後は両手にシールドと中々に歌舞いている。

 

 そう……これが実験ならば良いのだが……。

ノリスに随伴する三人は、それぞれに好きな武装を許されたエースだった。

そして色々な組み合わせの中で、色んなスタイルを試す趣味人でもある。

 

「まさかてめえらまで、そーいう組み合わせだとはな」

「ま、お互い様って奴だ」

「それに……圧倒しろって命令だろ? 遊んでる連中にやられる方が屈辱ってもんさ」

 腕前の優れた三人をノリスに付ける意味はただ一つ。

圧倒的な手並みを見せつける事。そして、それ以上に軍人としての動きを見せる為だ。

自分の腕に自信を持つがゆえに、我が強い連中を従えるにはそれが一番の方法だろう。

「ククク……。戦場でアグレッサーを御望みとはガルマ様も御人が悪い」

 ノリスは笑いながらヒートソードを滑らせた。

自然な仕草でビルの隙間に剣を突き刺して行く。

 

 ギョっとする三人が声を上げるよりも早く、引き抜くとビルの向こうで爆発が起きた。

 

「相手は小形だ。戦車が隠れ潜む場所は建物が並ぶ場所……等という幻想は捨てろ」

「ひゅう♪」

「ちっ」

 口笛と舌打ちが同時に響く。

三人目の盾持ちは既に走り出しており、ノリスの言いたいことを実行して居た。

「こう言うことだろ、オッサン」

「大佐と呼べ」

 不意を付けぬと飛び出してきたポケットタンクに、ナックルシールドが見舞われる。

そのまま回転する様にカイトシールドを回し、踊りながら盾使いは連射を防いだ。

一発は回避し、一発は盾に。

そして回転し終わると同時に、もう一度ナックルシールドでトドメを刺す。

 

「やっぱり助走が少ないと駄目だな」

「次の獲物は俺に寄こせよ」

「冗談。早い物勝ちだろ?」

 無傷で倒した筈なのに、盾使いは不満げだ。

残り二人も動き出し、同時に何も無い場所へ振り向いた。

そこに居るのは伏せられた61式たち、ポケットタンクが奇襲した後で襲う予定だった車両だろう。

「右右! 左左! 上上ってか!」

 ハンドバルカン二丁流により、次々に戦車が葬られて行く。

駆け付けた爆撃機もアッサリ沈め、待ち伏せを簡単に迎撃する辺りは流石のエースだ。

 

「おっ。あいつは?」

「オッサンと一緒に工場に入ってったぞ。一機付いて来いってつったの、聞こえなかったのか?」

 見ればワイヤーロッドを駆使して、猿だかターザンだか飛び跳ねている。

正確にはバックパックを軽く吹かせて、ワイヤーで移動経路を修正して居るのだ。

戦車にしては隠れ易いポケットタンクも、隠れた場所を予想され上からみれば丸判りである。

「ヤベ。先行されたらスコア持って行かれちまうじゃん」

「それは諦めろ。どうせ本隊が持っていってるよ」

 慌てて二機が追うのだが、縦で移動する二機には追いつけない。

Sザクとノーマルの差こそあれ、先読みの優れたノリスに追いつくのは容易ではない。

追随した両手鞭の機体も含めて、大きな戦果の差があったという。

 

 こうしてオデッサ作戦は少々の差異があったものの、予定通りに終了した。




と言う訳で筆が乗ったので連日の投稿です。
一回が短めなのもありますが、陰謀とか考えないで良いのは気楽で良いですね。

●降下作戦
第一次:北米。オーストラリアはオマケ
第二次:オデッサ
第三次:アフリカ。北京はオマケ

収束:
 オーストラリアと北京は、東南アジア中心で集結予定で場合に寄り撤退。
香料諸島を拠点にして、生産資源の確保をひたすら邪魔する予定。
穀物は一年に一回、肉類は数年に一回なので、刈田狼藉の効果は非常に大きいと思われる。
(部隊が撃破されないことが前提なので、さっさと戦線収縮する予定)


●オデッサからヨーロッパへ
 影武者を使って北米に行き、原作通りと思わせてフェイント。
全力でヨーロッパを抑えに行きます。
アフリカ方面も中央までで、どちらかといえばオデッサ防衛の為。

●ポケットタンク
 連邦はどうしても既存兵器への介入の方が楽なようです。
代用品として小型戦車が導入されて居ます。
とはいえ通常兵器に対しては猛威を振るうことと、後ろから撃てば十分いけるので、むしろ占領作戦の時はこちらの方が脅威かも。
まあベルファストを目指す前の前座なので、倒す事よりもタイムアタックとイメージ戦略の方が重要として居ます。
 武装は主砲が一門、マシンガンが一門。
この主砲は戦車砲としては最低限のサイズですが、侮れる物ではありません。
小形で局面のある装甲を活かして当たり難くなって居るので、動き回って時間を稼ぎながら(または奇襲で)、連射で圧倒します。
溜弾やスモーク弾も焚けるマルチな武装です。まあ主力と言うよりは市街戦用ですが。

モデルは功殻のタチコマ……ではなく、TRPGのメタルヘッドの同名兵器より。
まあ元は同じ場所に辿りつくとは思いますが。

●ジオン側介入者とモビルスーツの発展
 さすがにデギン公王は暇ではないというか、監視され易いので違います。
普通なら新概念があっても色々したくなるのが人情と言う物。
それらを退けてリソース集中というのは、流石に難しいでしょうから。
もっとも集中の為には細かい管理と時間が必要なので、有効でも反対意見にまとめられ易い武装は全部まとめて却下に成って居る様です。
(イグルー系は使い道次第、発展次第で有効なのも含めてボツ。ヨーツンヘイムとか艦船は、別ルートで採用でしょうけれど)

●エース達
 この武装でずっといくかは別にして、面白そうな武装を試したい御年頃。
やんちゃなので、ノリスに付けて教育中です。


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第七話(前編)

●スカベンジャーハント

 ポケットタンクの脅威を取り除いてきたノリスを、みなで盛大に称えることにした。

想わぬ強敵を速攻で倒してくれた事もあるが、無茶を言ったし、様々なキーワードを蒔いておきたいのもある。

 

 ガウなんて名前を付けてしまった以上、自分が介入者であるのはバレバレだろう。

ならば憑依者・転生者にだけ判るキーワードをばらまき、かつ、無邪気にガルマを演じている様に見せておきたい。

ギレン閥でもキシリア閥でもそのうち伝われば良く、ネタのボールを返してくれば、そいつが怪しくなって来る。

 

「パーフェクトだノリス大佐。時間重視という制限がありながら、見事、奪取にも成功するとは」

「ありがとうございます」

 感謝の極みとは返さないか。

まあヘルシングネタじゃあ、知っている可能性も低いしな。

「いずれ陸戦用のJS型が回ってきたら君が使うと良い。私が持って居ても宝の持ち腐れだからな」

「そんな事は無いと思いますが、ありがたく使用させていただきます」

 Sザクは可能な限り高性能のはずだが、限界と言う物がある。

放射能汚染や電磁波攻撃を遮断するのはかなり面倒で、隔壁や電磁遮断に少なからぬ処理を施して居る。

条約で核を使わなくなった以上、その部分を削って新たに再設計すれば、もっと強くなるだろう。

 

 そうこうする内に、報告書を作成したマ・クベが手を挙げた。

 

「タンクはどうしますか? 対処するにしても回収するにしても厄介ですが」

「そうだな……。生産ラインを抑えるまでは、表面上のテストだけを『見せて』おいてくれ」

 バラして研究対象にするところまでは決定だ。

しかし奪ったタンクを運用するには数が少ないし、有効な兵器と思われても困る。

研究するまでも無く、後ろから撃たれたり、足回りを狙われるとモビルスーツが弱いことは判って居るのだ。

「正面から装甲を抜けない姿を見せて、無意味な兵器だと思わせるのですか?」

「ああ。使えないからという理由で、警備用にでも放置しておいてくれ。ただ……そうだな。『独自のルート』があったとしても、無理に報告させる必要は無い」

 無用の長物として扱ってくれれば恩の字だ。

どのみち生産ラインを奪えなければ、こちらで使い道を考える意味は無い。

あえて言うならば相手が隠す場所を想定する訓練用だが、別にソレはゲリラ兵サイズでも十分に想定できる。

 

 それに、独自のルート……エルランを使うのは早計だ。

もし奴が連邦側の介入者か、それに近い筋だとカウンタースパイとして嘘の情報をこちらに流される可能性がある。

あくまで情報源の一つとして利用しつつ、エルランの事を知って居るぞとマ・クベに思わせておけばいい。

……まだ近づいて居ない可能性もあるけどな。

 

「今後の方針だが君はオデッサの再稼働を頼みます。マダガスカルならば臨時の司令部に十分機能してくれるでしょう」

「はっ」

 望遠・通信機能に優れる艦である。

どのみち一隻残す必要があるならば、参謀としての能力込みで原作通りコイツが相応しい。

オデッサの要塞化が終われば、マダガスカルだけ別方面に動かす事もあるだろう。

「私とギニアスは宇宙港周辺の確保。地球用のカーゴベイが届き次第、本隊に合流します」

「調整の方は任せておいてくれ」

 ガウとケルゲレンの搭載量は、実のところ艦の方ではない。

カーゴ・ユニットを使うことで増量して居るのだが、これは降下には使用できず、当然ながら宇宙用と地球用では別物である。

本国から送ってもらった後で、ギニアスがミノフスキークラフトを調整しないと使い物にはならないのだ。

「では私はこのままケラーネ少将と共にでよろしいのですね?」

「勝利の女神が付いて居るならば心強いってもんだ。どうかな、この後で一杯?」

「その辺の交渉は後でしてください。強制さえしなければ止めはしませんから」

 本隊はユーリが率いて、そのままヨーロッパを西進する。

シーマと海兵隊はオデッサ攻略戦と同じく、相手の防備が薄い場所を突く予定になっていた。

二人は作戦の第三段階になっても、そのままベルファストを目指してもらう。

相手に多少の戦力があってもこの戦法で有れば突破し易いし、……対処の為に均等に配置してくれれば、増援として我々が駆け付けられる。

 

(……問題はポケタンみたいな戦力がどの程度まで影響を与えるかだな。場合によっては第三段階を捨てざるをえん)

 北京やキリマンジャロ以南は最初から諦めているが……。

相手の抵抗次第では、アフリカ方面そのものを捨てるのもアリだろう。

上層部が許可を出すかは別にして、針鼠のような武装があった場合は、無理に攻めると原作の二の舞になってしまう。

そのくらいならば戦線を最初から押し上げずに、ピッター隊にオデッサを任せてしまう方が良い。

(どの道、アフリカには穀倉地帯が無いしな。鉱山資源は惜しいが無理するとヨーロッパの確実な維持ができない)

 とはいえアフリカ大陸を完全に連邦の手に残すわけにもいかない。

ダカールやシエラレオネと言った大都市を落としておいて、港沿いに水泳部を動かす路線を本格的に検討すべきだろうか?

 

 作戦書を見ているとギレンの野望と言うよりは、シヴィライゼーションを思い浮かべてしまいそうだ。

もしそうならば、ジオンが目指して居るのは限定勝利か、文化的勝利というところだろうか。

 

●シュバルツシルトの戦い:前編

 結局のところ上層部は、マダガスカルを指揮管制用に送れと指示を出した。

中途半端な気もするが、その意味ではヨーロッパ制圧の方が重要なので間違いではない。

組み立てた通常兵器を載せて送ることで、せめてもの援護に回すということらしい。

 

 そしてユーリ達が西進する中、東欧を占拠した私達も増援に向かうことに成った。

ギニアスはノリスを私に預けて予備戦力となり、何も無い間は工業地帯の再始動を始めて通常兵器を生産を始める。

原作の様に反応炉を使って工場の機能を高めるのだろうが、研究熱心に成り過ぎないように釘は刺しておいた。

 

「では私は第二線として制圧に加わりますが、いざとなったら増援を頼みます」

「それまでにはマゼラアタックくらいは用意しておくよ。出来れば陸戦型も用意したい所だが」

 ザンジバルが半減するのは痛いが、兵器数も足りない。

彼が研究者であり、ケルゲレンの反応炉があれば、出力の足りない工場でも素材加工ができるというならば仕方無いだろう。

「そういえばアイナさんも呼び寄せるのですか?」

「ああ。イフリートモドキ(イージーエイト)のテストが終わったそうだから、丁度良いだろう」

 JS型や普通のJ型、そしてギャロップの建造パーツを持って降りて来るらしい。

彼女達が到着すれば、補充兵込みで戦力もかなり充実した物に成るだろう。

 

 こうして西進組に加わった私は、二度目の邪魔に出くわした。

暫くあんな面倒なことは無いと思ったのだが、そうは問屋が降ろさないということか。

ザンジバルを揺るがせるほどの衝撃が、空に木霊していくのが聞こえる。

 

「なんだ、何が起こった!」

「ザクが一撃で吹っ飛びました! 山の稜線からの砲撃です!」

 既に旧型になっているとはいえ、ザクが木っ端微塵であった。

要塞砲か何かが運悪く直撃したのかと思ったが、甘い考えの御代りというべきか。

実に嫌らしいモノがこちらを睨んで居るのが見える。

「61式よりも大型の戦車が曲射攻撃を行ったようです。二台ずつで連動し、諸源を割り出しながら測距射撃を行った模様」

「それにしても一撃とは、随分と火力が強いですな」

「……嫌な予感がする」

 ノリスの疑問に汗をかきながら応えた。

大型戦車といえばガンタンクだが、間に合わせたならば脱出機構はないだろう。

いや、それともモビルスーツへの過渡期として、ヒルドルブに近い形状かもしれない。

 

「映像出します!」

「あれは……」

「やはりミノフスキー核融合炉対応型の大型戦車か……」

 結論から言うと予想通りだった。

専用のキャノン砲が一門、副砲としてポケットタンクの砲が一門という絞った構成だが、低い重心の通常モードと高い重心の駆逐モードが存在する可変戦車だ。

強襲用ガンタンクとヒルドルブを参考に、最低限の機能を持たせたという所だろうか?

大型過ぎずキワモノでもなく、連邦製の兵器として相応しい形状をして居ると言えなくもない。

「ノリス大佐。今度は捕獲を前提に頼む。やつの融合炉を確かめ、モビルスーツ開発に転用できる物なのかを調べる必要がある」

「はっ! お任せください!」

 冗談はやめてよねと言いたい。

しかしこちらが技術の進化を早め、ルートを絞って促進している以上。

連邦が出来ないと考えるのは間違いだろう。

ガンタンクが完成してないだけ良かったと言うべきか、それとも量産向きの形状に絞られているのを厄介と言うべきだろうか。




 少し足りないのですが、1000字くらいの戦闘を足しても寂しいので分割。
毎日投稿の方を重視してみました。よって次回が戦闘回に成ります。
本日は忙しいので、二回投稿は無い筈。

●スカベンジャーハント
 文字通りゴミ拾いです。
相手の装備を拾い、情報を拾い……。
介入者が絞れて来たのと、派閥単位で考えれば同じなので
あえて特定せずに待ちの態勢。
あと疑惑で殺し合いに突入するよりは、先に和解を探る感じ
まあ他に介入者が居るとか考えずに、ガウとか名前を付けてしまいましたので。

 本編で書いていますが、エルランに関しては安心できません。
といういか相手にも介入者居るんだから、当然監視して居るよねという話。

●経済戦と文化勝利狙い
 相手がゲーム脳でギレンの野望をやるのに対し、こちらはシヴィライゼーションで対抗。
穀倉地帯・鉱山地帯・工業地帯を抑え、地球連邦にとっても持久戦はよろしく無い点を突いて居ます。
この作品では他のコロニーが友好的なので、志願兵も居るのでジオンも多少マシになっています。
(それでも勝てないので、要所だけ抑えてますが)

連邦に残るのは南米・オーストラリアの一部・アフリカ大陸の一部・東アジア。
頑張って人口を支えてくれ! という作戦になります。
もちろん食料を生産できない様に、いやがらせはしますけれどね。

●78式戦車。連邦での愛称は『100式戦車』、ジオンでは『ディアブロ』
 ミノフスキー核融合炉搭載型の戦車です。
簡易変形で背を高くして、戦車の上面装甲を撃ち抜く事も出来ます。
連邦の介入者はこの車両に関してはガンタンクを目指したというよりは
既存の技術に対して融合炉を組み込む事で、他者の反対を受けずに
小形融合炉を研究することを進めた模様。

 武装は主砲x1、副砲x1と非常にシンプル。
あまり大きくせずに61式よりも強く堅く、簡易変形とか凄い機能付き。
更に副砲はポケットタンクと共通化することで、量産に向きますよというコンセプト。
衛星砲撃リンクは存在せず、ケーブルで僚機とリンクして連動射撃を行います。

アイデアソースとしてはヒルドルブの正当進化と
TRPGのメタルヘッドに出てきたKKKロイヤル、バトルメックのデモリッシャー重戦車になります。


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第七話(後編)

●シュバルツシルトの戦い:後編

 そして視点はノリス達の元へ。

ブリーフィング・ルームに集められた者たちは、誰もが不敵な面構えをしていた。

 

「あのデカブツを黙らせれば良いんじゃないのか?」

「その程度の用事に貴様らを呼びつける必要はあるまい」

 簡単そうに言う男にノリスが不敵に笑って応える。

スクリーンに映るのは最大望遠で示された大型戦車が四両。

山の稜線に隠れて、二両一組で射撃を行っている。

「誰にでも出来る話に用は無いとさ」

「そりゃそうだ。こんな所で喋ってる間に、一人部屋が欲しい連中が必死で頑張ってるな」

 狭い艦内で個人部屋など夢のまた夢だ。

上級将校と一部の士官……エース達くらいのものだろう。

「なら伏兵でも居るのか?」

「その通りだ。三十点をやろう」

 呑み込みの早い男が尋ねると、ノリスは頷きながら指を三本立てる。

おもむろに指を一つ折り、残り二つを見せつけた。

 

「ってことは伏兵つーのが大前提で、あそこの四台は見え見えの罠つー事だよな」

「戦車は四両だろ。……ははーん、こないだの戦車やゲリラ兵も居るって事か」

「うむ。で、残り一つは?」

 スクリーンに仮定のマーカーが幾つか用意される。

地形的に伏せることが可能な場所が幾つもあり、同時に……あの大型戦車も穴を掘れば隠す事が可能だろうと記載されていた。

確かに言われてみれば、連邦軍の装備が充実して居る事を考えれば、工作車両どころか無数の新兵器があってもおかしくは無い。

「……残る一つは計算された要塞と言うことだ」

「大佐のおっしゃる通りだ。予め測量した場所ならば、諸源を入力するだけで必中できる」

 ノリスが最後の答を告げると、エース達の脇に居た黒人の士官が付け足した。

居並ぶエースに劣らぬ威圧感を持っているのは間違いがない。

 

「必中ってマジか?」

「教えてやれ、グレーデン」

「はっ!」

 グレーデンと呼ばれた黒人の男は、スクリーンをさらに変化させた。

そこにはチェス盤の様なグリッドマップが表示され、それぞれに番号か記載されている。

「マーカーに対応した角度・包囲を設定。数秒以内に射撃。誰にもできる簡単な作業だろう?」

「けっ。皮肉かよ」

 Aポイントに当てたい場合は、Aポイント用の諸源設定。

既定の時間以内ならば、ほぼ確実にその場に着弾すると画像が示されている。

ここに居るエース達ならばともかく、一般兵だと近づく前に全て吹き飛ばされるだろう。

 

「まあ佐官に成るころには嫌でも覚える」

「地雷原に対戦車ランチャー。おまけに小型戦車……」

「古風に落とし穴やワイヤーもありそうだ。確かにオレ達じゃなきゃ突破できねえよな」

 グレーデンと呼ばれた男は砲兵経験があるのだろう。

一方でエース達はその経験がないが、彼が言う様に指揮官になる過程で覚えこまされるだろう。

少なくとも行く先が無限ではない地上戦では、測量射撃やゲリラ戦は多発するのだから。

「そこまでならば作戦会議など開かん。問題はこれをどうやって突破するかだ」

「ウゲ。まだあるのかよ」

「大佐はおっしゃったはずだぞ。腕利きが必要なだけなら、貴様らで無くとも良い」

 単純に腕があると言うだけならば、ここに居る男達は必要ない。

何かの腕が一流以上の職人は、幾らでも居るのだ。

だが彼らほど飛び抜けては居ないし、無茶をやった経験が無いとも言えた。

 

「ガルマ様は以前、あの小型戦車を圧倒せよとおっしゃられた。ならばここでも同様に扱わねば、片手落ちだろう」

「このオッサン、無茶苦茶言いやがる」

「なかなかにロックじゃねえか」

 ノリスは一癖も二癖もあるエース達を圧倒する。

突き抜けた武人と言うモノは、時にパンクでありロックなのだろう。

あの髪形は伊達ではないのだ。

「んじゃあどうするんだ? 回り込んだりしねえんだろ?」

「兵法は詭道なり。相手の考えている事を逆手に取り、相手がまさかと思う事をやればよいのだ」

 だから何をするんだと聞かれれば……正攻法。

ノリスは笑って、『決まって居る』とスクリーンの上で直線的に指を動かしたのである。

 

●カーチャス・ディアボロ

 誰もが笑うお伽話。

もしその日の出来事を語る事があれば、きっと冗談だと思うに違いない。

 

「私が先行する。お前達は適当に散開しろ!」

「この、クソオヤジ!!」

 ノリスは指向性レーザー通信で有言実行。地雷原の中を駆け抜けた。

そこは測量射撃が絶対に来ない場所であり、最初以外はワイヤーも設置されて居ない。

伏兵も爆発で足を止めることが前提で横槍を狙っているので、明らかにワンテンポ遅れた攻撃を繰り返していた。

「何が絶対に直線的な動きは避けろ……だ!」

「最初は親衛隊上がりかと思ったが……ありゃ、教導団だな」

 モビルスーツの平均速度に調整された地雷原。

その上を決して立ち止まること無く、段差など無いかの如く着実に駆け抜ける。

どれほどの技量、どれほどの気力。それを身に付ける為の圧倒的な体力。

それら全てを身に付けた男が、エース達の前に存在した。

 

 しかし彼らも軍団内で反骨心すら見せるほどの腕前と心意気を持って居た。

目の前で超人的な腕前を見せられたとしても、臆する事等できはしまい。

 

「オレが伏兵の前に出る。戦車とトラップは任せたぜ」

 シールドを三枚所持したザクがノリスに続いた。

カイトシールドとショルダーシルドで我身を隠し、比断面積を小さくして突入する。

「あいよ。どいつもこいつも、丸裸にしてやんぜ!」

 続いて仲間の前方へ援護射撃。

ハンドバルカンを付けたザクが走り込みながら連続射撃。

仲間には一発も当てずに。自らも、やや後ろを占有したのだ。

それは前にのみ専念する仲間を守る行動でもあった。

「クソオヤジに負けては居られねえからな」

 そしてワイヤーロッドとヒートロッドを装備した機体が、ジグザグどころかバッタの様に飛び跳ねる。戦車が逃げたと思わしき場所へ飛び抜けて、ワイヤーを絡めて突入して行った。

 

 その頃にはノリス機が最初の大型戦車に辿りつき、大きなステップで横っ跳びするのが見えたのである。

 

「まずは一つ!」

 ヒートサーベルで戦車を貫くと、自重を掛けて強制ターン。

戦車をひっくり返すかのように力を掛けると、元に戻った反動で強烈な振動が中身に伝わった。

「二つ!」

「嘘付け、三台目じゃねえか! 一人で美味しい思いをしやがって!」

 近くに居る車両を無視して、三台目に突進。

上から下に抜ける刺突を浴びせつつ、四台目にワイヤーロッドで放電を浴びせていた。

そしてサーベルを刺したまま戦車を横倒しにして、隠れている他の戦車に対する盾としたのだ。

 

「先ほどな。ガルマ様から激励の言葉があった」

「なんだよ。クソオヤジ」

 他の三機がポケットタンクや装甲車を始末する間に、ノリスは姿勢を低くしてその場を離れた。

大型戦車を盾はしたが、決して立ち止まること無く常に移動を繰り返していたのだ。

「別に倒してしまっても構わんのだろう? と。きっとアレは、お前達が私に追い付くまで待たずとも良いと仰せなのだろう」

「多分……違うと思う」

 指向性レーザー通信を締めるのは、ジョークと苦笑が飛び交う内容だ。

そこには一々戦術や戦法を語る様な事は無く、訓示だとか御説教などありはしない。

エース達は思い描く、『自分ならばこう動く』『こう動きたい』という動作を、完璧なまでに体現している男の姿だ。

 

 やがてノリスが放置した二台目を、エース達が共同で撃破。

当然ながらポケットタンクも全て撃破しており、悪魔と呼ばれた戦車軍団はアッサリと半壊したのである。

その後に塹壕に隠れた戦車達に対し、彼らが苦戦すると思う者はいるだろうか?

悪魔殺し……カーチャス・ディアボロと呼ばれる男たちの、これが最初にして次なる目的が決まった瞬間でもあった。

 

●アフリカ戦線より出遭いを込めて

 戦車軍団を排除した私達の元に、オデッサのマ・クベから連絡が入った。

緊急を要するとのことで、大型戦車を後方で分解テストする命令書を書くと、急いで通信所に向かった。

 

「何があった。いや……察しはついているが、本当なのか?」

「はい。残念ながら……」

 電線によるアナクロな手段でオデッサと通信。

急電の心当たりは無いので、落ち付くまで待つ必要は無かった。

「キリマンジャロにモビルスーツが居たとのことです」

「……仮称はザニー? ザクのパーツでも使っていたのか?」

 同時に送られて来た暗号文を解読すると、見慣れた単語が載って居た。

納得すると同時に、まさかという考えが頭をよぎる。

幾つかのゲームで見られた、ザクとジムの中間の様な試作モビルスーツだ。

ザクに似たモノという意味かと適当な理由を付けて、マ・クベに詳細を確認しておく。

「ビッター司令が本国に指示を仰いだところ、ひとまずそう名前を付けられたとか。あるいはジオニック社が取引でもしたのかもしれませんな」

「そういえば電子部品を納入しているアナハイムは、連邦とも取引があったな」

 マ・クベが目礼を返して、それ以上の言葉を止めた。

大会社の政治的取引である以上は、本国の関与外だ。

それにジオンにとってもメリットのある取引であれば、本国の情報部があえて見逃した可能性もあるだろう。

 

「……腕が砲と盾か。微妙な所だな」

「おそらくは急造品でしょう。本国はまだ間に合うと判断。こちらに向かっている戦力の一部を急遽振り分けたそうです」

 キリマンジャロ攻略を捨てるかどうか。

結局のところ、マダガスカルに搭載した通常兵器のこともある。

こちらに向かうHLVの中で、部品を除いて戦力に成る部隊を割いたのだろう。

「今からオデッサに戻してもこちらのペースは変わらん。仕方無いな」

「はい。ピッター司令の戦力でも十分でしょうが、増援があれば確実なレベルですので」

 ということはアイナとの再会は延期か。

少しだけ残念に思いつつも、RX計画が間に合ってないことに安堵を覚える自分が居た。

 

「キャルフォルニアで手に入れたという潜水艦を動かせ。一部でいい」

「オセアニアですな? 既に向かわせております」

 マ・クベがやはり目礼して応える。

実際にはインドシナの南、香料諸島に基地を建設する為だ。

オーストラリアや北京に向かった部隊をそこに集結させ、オセアニア一帯でゲリラ作戦を行う事に成る。

「予定通りにする為とはいえ、ヨーロッパ戦線は厳しくなるな」

「仕方ありません。これもまたガルマ様に与えられた試練なのでしょう」

 計画の一部ではあるが、神妙な顔をして頷いておく。

キリマンジャロが陥ちた時、それが我々の戦力が集結する時なのだ。

 

 あえて分散した戦力が、再び一つに成る為に動き出す。




 と言う訳で大型戦車を撃破しました。
勝てるのは当然なので、無茶をして相手の友好な兵器を無駄飯食らいだと思わせる作戦です。

 とまあ理由を付けるのは簡単なのですが……。
みんな大好き。「ひとーつ!」が、したかっただけです。
本当の事を言えば、もうちょっとエース達にも個性を付けておきたかったところですね。
とはいえ前回が移動中だったので、酒場で不満を述べているとか、真面目な士官と口論とかやるのは不自然だったのでシーンを入れて居ません。

●形なき要塞
 大型戦車は囮です。
測量射撃のマーカーを設置し、伏兵を用意する事でまともに戦うと大変でした。
ちなみにノリスがやったことはエースの人達もするだけならできますが、どこに相手が何を隠して居るか?
それを理解しないと危険なので、実行は無理でしょう。
 なお、無駄と判って地雷原にワイヤーしかけるとか
ありえない速度で突っ込む敵へのマニュアル造ってるとノリスでも死にますが
そういう相手が居た場合、味方を犠牲にガルマ隊が通り過ぎてから襲うくらいの事はすると思われるので、問題無いとして実行して居ます。

●カーチャス・ディアボロ
 悪魔殺しとか鮫殺しという、船乗りの言葉らしいです。
昔の大航海時代のゲームから流用。

●ザニー
 とうとう登場した連邦モビルスーツです。
コロニーの影響が無く、確実に迎撃できる場所に配置されて居ました。
大型戦車の融合炉とか、このザニー込みで、RX計画に繋がっていく感じですね。
なお本来のザニーより未完成で、右手が砲、左手が大型シールドになっています。
 今回で再開する筈だったアイナ達は、キリマンジャロの援護に向かって不在。
次回以降にザンジバルかギャロップに乗って現れるかもしれません。


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第八話(前編)

前半、少しギャグが入ります


●戦力比の逆転

 デザイナーは『キュベレイの中身はザクっすよ』と言ったらしい。

言われてみれば、特徴のあるアーマーを外すとなるほどザクのスタイルだった。

ウイングを外したショルダーはザク独特の四角さで、フロントアーマーやファンネル・コンテナを外した腰も同様だ。

 

 何が言いたいかと言うと、目の前にガルマ専用ザクがある。

御丁寧にキシリア姉上が造らせたものらしい。

お陰でノリスに渡せなくなったので、彼へ渡す機体はギニアスの元に受け取りに行かせるしかない。

 

「ガルマ様に似せて調整しました、カルラと申します」

「東洋の鳥神だったかな? 返礼に姉上へ……そうだな。カリョーヴィンとでも名前を付けた機体でも贈ってくれ」

 そのモビルスーツには、やはり特徴的な装甲がある。

将校用のハーフコートに似たショルダーバインダー、クルクルできそうなヘッドホーン。

さすがにファンネル・コンテナはないが、足にホバーモドキ(回避ステップ専用)が付いている。

「ええと、東洋の詩鳥でしたっけ?」

「カーウイン嬢はその歳で物知りだな。外見は姉上に似せておいて欲しい」

 疲れた表情を隠すので手一杯。

凄腕の技術者……しかもロリだよー。が来た事を喜ぶ事もできなかった。

できればこんな物よりも、陸戦ザクがもっと欲しかったとです。

戦いは数ですよ姉上……。

 

「まあいい。君らが持って降りたパーツで建造出来る機体と、アフリカから合流する機体で戦力は揃うだろう」

「そうですね。キシリア様は精鋭である、ウルフ・ガー隊を送るとおっしゃられていました」

 ……たしか犯罪者中心の部隊じゃ無かったかな?

謀ったなキシリア! と言いたくなる気持ちが高まって行くのを感じた。

闇夜のフェンリル隊は来ねーのかよ。と言いたいが、居てもオーストラリアの足止めだろうな。

ビッター司令がロイ・グリンウッドかロンメル派遣してたらラッキーだと思おう。

「こちらが名簿と機体のリストになります」

イフリートモドキ(イージーエイト)と姉上の親衛隊はともかく……志願兵?」

 嫌な顔を見た。

イフリートに似せた陸戦ザクはまあ助かる。というか前に聞いた。

ショットガンとかホバーモドキがあるから、戦力としてはかなり強そうだ。

 

 問題はメンバー構成にある。

犯罪者の代わりに志願兵になっているが、腕前を前提にしたことで別の問題が発生したのだ。

隊長のヘンリー・ブーンはキシリア親衛隊だが反乱疑惑持ち。

一人は言うまでも無くアイナで、軍属から軍人決定。死ぬかもしれない任務なのに。

一人はトーマス・クルツで確かにエースなのだが、性格的に問題があり過ぎる。

そして副官役に任命されているのが、サイド2士官学校出の……色んな意味で重要人物であった。

 

「腕の立つ方ばかりですよ?」

「アイナは知っているし、この副官もサイド2で見たことはあるさ。しかし連中が名家の跡取りを良く手放したな」

 何故此処に来る、シロー・アマダ。

しかもアマダ家はサイド2の名家って……。

「ガルマ様もザビ家の出ではありませんか。ならなおかしなことはないかと」

「君もな。ふむ、サイド2も、いよいよジオンに……いや宇宙市民の為に立ちあがる気に成ってくれたか」

 しかし、言われてみれば納得できる。

設定では休暇中に家族とバカンスしててガスを撃ち込まれた筈だ。

それに劇中作補正を削った後でも処刑されないとしたら、名家の出で殺すわけにはいかないというのは理由に成るだろう。

 

 なるほど、宇宙世紀のロミオとジュリエットだったわけである。

 

(……くそっ。こんなことならギニアスと仲良くして、婚約とは言わんが前提に付き合っておくべきだった)

 いや、そうしたらNTRされていたというのか?

落ち付け。まだだ、まだ終わらんよ!

(まだ遅くない。というか下手に引いたら後押しになる。自分を信じるんだ……)

 そもそもアイナとシローが仲良くなっているとは限らん。

キリマンジャロの戦いで接近しているかもしれんが、私はもっと前から仲良くしているじゃないか。

(……この世に自分程信じられんモノがあるか!?)

 思わずヨコシマな気持ちが爆発しそうになったところで、まずは落ち付くことにした。

良く良く考えれば『いいなー。仲良くしたいなー』とは思っていても、アイナに惚れて居た訳じゃない。

 

 そんな言い訳をしながら、成り行きに任せることにした。

現実逃避したとも言う。

それになんだ、馬鹿話に振り分ける暇などなくなってしまう。

 

「ガルマ様! 前線から急電です!」

「ユーリからか!? それともシーマからか?」

 できれば片方からにして欲しい。

そうは思いつつも、モビルスーツが待ち受けていたのだろうなと予感した。

結果として、想像以上の被害が出て居たことを知ることになる。

「フランス・エリアに入城させまいと、モビルスーツ隊が展開。これを側面から叩こうとした所へ、ザンジバルが狙撃されたそうです!」

「なっ……! ザンジバルは、いや、シーマと海兵隊は無事なのか!?」

 装備も惜しいが人材はもっと惜しい。

ザンジバルはともかく、所詮、旧ザクと対核装甲を外して居ない旧バージョンだ。

 

 彼女たちが居れば、また海兵隊を再結成できる。

そういう意味では、綺麗なままのシーマ様と、熱烈な信者の揃う腕っこき達。

その無事が危ぶまれたと言っても良いだろう。

 

●孤立する戦場:前編

 各方面に伝達を飛ばし、急いで情報の精査を始めた。

通信室を確保できたところで、まずはユーリから話を聞くべきだろう。

 

「シーマが着いたら災難だったな。と言っておいてくれ。俺の方から全員にビールを奢るとも」

「私の方で半分持ちますよ。……ところで戦況は?」

 ユーリの表情は芳しくない。

その様子から相当な物だと理解はできた。

だが形式上で名ばかりとはいえ、総司令である以上は聞かざるを得ない。

「連中は性能を捨てたぞ。雑魚の数を揃えてテルシオを組みやがった」

「……簡易ファランクスですか? 新編を補う為でしょうね」

 テルシオというのは中世が終わり、銃を組み入れることが始まった時代の編成だ。

新時代の編成という意味であり、その中核は陣形を揃えた歩兵。そして銃に寄る援護を前提にして居る。

この場合はモビルスーツで陣形を組み、戦車……大型戦車の援護を指して居るのだろう。

 

「とてもまともには突破できん。そこで迂回をシーマに頼んだら、雪山で狙撃された様だな」

「……地元を雪崩に巻き込んでまで? 連中、正気なのか?」

 送られて来た資料を眺めると、反撃で倒したザニーのパーツが見つかったらしい。

まだ雪の残る山でドンパチやったお陰で、周囲の村では大ごとになっているのだとか。

「仕方ありません、直ぐに第二戦線を押し上げます。それで敵の一部を引きつけましょう」

「すまん……いや、申し訳ない。本来ならば総司令にやらせる仕事じゃないんだが……」

 間も無くドイツ・エリアの制圧が終わる。

見つかる事を前提に、奇襲だけは避ける道を通れば大丈夫だろう。

そうすれば敵も部隊を割かざるを得ず、密集する事で練度を高め、火力を集中させている連邦の戦力を削げる筈だ。

 

 とはいえ暫くザンジバルはガウ一隻。

改だからカーゴベイがあるといっても、ミノフスキークラフトの分だけ宇宙よりも少ない。

こんな時に頼りになるノリスは、JS型の受け取りと慣熟訓練で帰って来ない。当然、我儘なエースは言う事を聞かない。

心もとなくなった手持ちの戦力を確認し、溜息を吐かざるを得なかった。

 




 と言う訳で本格的にモビルスーツが出て来ます。
次回は戦闘ですが、大幅に減った戦力で何とかする必要が出て来ました。
あと一週間くらいは増援来ないのに、今、戦力が重要だから総司令が前面に出ると言う。
これも空気を読まずに専用機を送って来たキシリアが悪いんや。

●シロー・アマダの扱い
 サイド2士官学校に通っていたボンボンで、劇中では連邦軍に参加。
この作品ではサイド2がジオンに協力することになったので、彼はジオン軍の志願兵である。
何気に名家の出身であり、アイランド・イフィッシュに彼の家が管理する屋敷があるという設定にしてます。

●新ウルフ・ガー隊
 ゲームでは犯罪者中心ですが、本編で書いた通り志願兵中心です。
それも腕前があることを前提にしたので、みんな一癖も二癖もあると言う。
トーマス・クルツは亡命者であり、志願せざるを得なかったので、この部隊に参加して居ます。

●JS型
 対核隔壁・電磁波防護・宇宙用の装置などを取っ払い
代わりに装甲・出力・推力を全体的に強化したモデル。
ハードポイントに加えて、このモデルからバックパックの変更が可能になっている。
変更可能なのは通常のバランサー・ザック、キャノン・ザック
そして強化バーニアであるジャンプジェット・ザック。
イフリート・モドキはジャンプジェット・ザックを選択肢、足にボバーモドキ(ステップ回避)を設置し、ショットガンやサーベルで戦う駆逐仕様である。
 他にはイアン・グレーデンが使う対空用のラピッドタイプ、ガルマのカルラが存在する。
ジャコビアス・ノードが居るなら、やはりキャノンだろうか。

●カルラ
 ガルマにそっくりなザク。
キュベレイの肩が少し短く、空は飛べずにホバーモドキが付いている感じ。
武装はキャノンザックをベースに、マゼラトップ砲とハルバードのコンパチ。
色も茶色なので、パっと見には量産型キュベレイに見える。
 モデルはRPGガンダムだったか、そんな感じの雑誌に載って居た
キシリアに献上される予定だった、カリョーヴィンというモビルスーツ。

●ザニーのテルシオ
 性能向上なんか投げ捨てて、数を頼んで戦闘。
というよりも早期に建造、大量生産の為に、予め融合炉・武装・盾・装甲を別目的に量産して居たので、調整が追い付いていません。
これを補う為に、密集隊形で圧倒します。
(ジオン側に大型砲が無いので問題無い)
四方には大型戦車による援護を付けて、訓練期間中も生き残れるように配慮されて居ます。

●明らかに来ない人達
 闇夜のフェンリル隊、ヴィッシュ・ドナヒュー、ランバ・ラル隊。
彼らは北京 → インドネシア ←オーストラリア という足止め・戦線収縮の為に頑張ってるでしょう。
あとシャアは居ても方陣突破に向かないのと、下手に功績あがっても困るので来ません。
コードネームは鶏肋と言う感じで、厳重に管理されている模様。


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第八話(後編)

●孤立する戦場:後編

 手持ちの艦はザンジバル改と旧型のファットアンクル一機。

航空機はドップの他はテスト中のドダイが数機で、とても爆撃なんか出来ない状態だ。

というか騎乗できるYSの方が欲しい。早く開発されてくれないものか。

 

 モビルスーツに至っては合計で十三機、中隊程度しかない。

仕方が無いので総司令自ら戦場に立つというお寒い状況だった。

 

 どうしてこうなった!?

最大でサンジバルが四隻も居て、ザクは旧型ばかりとはいえ三十を越えて居たと言うのに……。

まあ言っても仕方あるまい。占領したら護衛とかに戦力が居るんだ。

 

「間も無くフランス・エリアに入城します。しかし……こっちに来ますかね?」

「来るさ。……連中には支持基盤という余計なモノがあるからな」

 ドイツ・エリアを陥した後、海が見えない程度の北部ルートで侵攻。

奇襲だけは避けながら、一路、パリを目指す。

出逢わないのが一番だが……『翼よ、あれがパリの灯』だ。なんて言うのは難しいに違いない。

「絶対に勝てないなら無理を言わんだろうが、モビルスーツがある以上は来る。でなければ派閥がスポンサーに文句を言われるからな」

「政治の為に生命を賭けるのは、お寒い戦争ですな」

 ジオンの正義を信じているのだろう。

苦笑したくなったが、兵には信じるモノが必要だ。

忠告するのも野暮なので、適当に頷いて頭痛のタネである敵味方の戦力差を考えておく。

 

 部下であるエースどもは言う事を聞かない。

ノリスに対する目が劇的に変わったが、あれは格上を認めたからに過ぎない。

彼を尊敬する事があっても、ガルマが御飾りという事実に変わりは無いのだ。

精々が話の判る上官くらいなもので、もしかしたら舐めている連中も居るかもしれない。

 

「先行するドップ部隊が会敵しました」

「無理はさせるな。ガウを微速前進させてパイロットは発進準備のまま待機」

 もう落とされて居るかもしれないが、貴重な人材を無駄に殺す事もあるまい。

今回は様子見の意味が強く、ザニーの一部を移動させられれば十分なのだ。

「敵の陣形が確認でき次第にカタパルトで優位地形へ展開する。総数によっては私も出るぞ」

「了解です! 即刻、発光信号を解読します!」

 その間にファットアンクルに連絡を入れておく。

相手の動きに合わせて牽制を入れる為で、敵の総数が不明ならば後衛としてガウを守らせなければならない。

 

 とはいえ相手がこちらを上回ることはあるまい。

まずは一戦して、戦力を確かめようと……この時だけは思っていた。

 

●予想外デス

 敵の総数を確認して、私がまず想ったのはジオニック社と情報部の連中は馬鹿だと言うことだ。

どこの世界に敵国へ、これだけの戦力を提供するアホが居るのかと言いたい。

それとも何か、見合うだけのナニカを提供してもらったというのか。

馬鹿とは鹿を馬と言いくるめられる独裁者の事で、阿呆とは壮大過ぎて付き合いきれない奴という冗談を思い出した。

 

「何故、こちらと同じだけの戦力があるのか理解に苦しみますな」

「半分寄こしてくれたお陰で、ユーリの主戦線が楽になったと思っておこう」

 敵は正面に十機と、大型戦車が二台。

これに加えて二機が大型戦車一台と共に高台に位置し、指揮車両が後方に控えている。

合計でこちらと同じ十二機居る上に、母艦が基地の方で荷降ろしを行っていた。

当然ながら、その護衛に通常サイズの戦車が多数付いている。規模としてはこちらと同レベルだ。

「しかし、モビルスーツ母艦まで完成させているとはな」

 白い馬と言うかスフィンクスというか、ペガサス型がそこに居た。

まあ、こっちにザンジバルがあるんだから、居てもおかしく無いよね。

そう言えたら良いのだが、自分の生死が関係するだけに笑い話にはしたくない所だ。

 

(どうする? 勝つのは簡単だが、同数の敵と戦って無傷と言うのは絶対に無理だ)

 無いとは思いたいが、ペガサスにまだ載って居る可能性があった。

よほど相手が弱ければ別だが、基地の占拠は難しいだろう。

無理して攻めても危険なだけ。ここはデータ収集に専念した方がクレバーな筈だ。

何しろ敵は防げばよいが、こちらはまだ次の戦場があるのだから。

「作戦の優先度を変更する。第一に敵モビルスーツの性能把握、次にMS母艦の構造を確認しろ。撃沈せずとも構わん」

「はっ! 可能な限り基地に接近して撮影します!」

 専用機に装備されたオマケのハルバードを眺めて溜息を吐いた。

場合によっては自ら接近し、これを叩き込んで装甲強度を上回る必要性があるだろう。

ガンダ……この時代はルナチタニウムか。

もしそうならコレくらいしか、圧倒出来る火力が無いのだから。

まさかバルバトスみたいなことをやらせるために、コイツを装備したんじゃないだろうな。

 

「いよう。司令!」

「無礼だぞ貴様!」

「……なんだ? 私は忙しい、用件を言え」

 お肌の接触回線を使わずとも通信に割り込める相手……。

指向性レーザー通信を使える、エースの一人が連絡を寄こしてきた。

いまだにノリス以外には懐かないが、話しかけて来るとは珍しい。

常識外の事態ではあるが、見えない所でやってくるのだ。何か提案があるならば聞くのも悪くないだろう。

「カッケー機体に乗ってんだろ? 俺らと勝負しようぜ」

「私はグレーデンに全部『投げる』から勝負には成らんぞ? アシストに徹して、確実に一機ずつ潰すからな」

 戦う前から雑魚だと侮るのはアホかと言いたい。

しかしながら、話を出来たことは大きいと想うことにした。

 

 コイツは問題児の中で一番の小物。

他の二人に対抗意識を燃やして居るのに加えて……。

一番常識を弁えているからだ(総司令に直接話しかけてるけどな)。

ここでルナチタニウムの事を念押ししておくのは悪くないだろう。

 

「小せえなあ。もし勝負に勝ったら、オヤジ以外でも話を聞いてやるってのはどうよ?」

「貴様ぁ!?」

「良い。奴らはザクマシンガンを基準に、装甲を盛って居る可能性があると伝えた筈だ。その上で……」

 舐められているのだから、まともに相手していても仕方が無い。

勝負に勝ったら言う事を聞くと言うのも怪しいが、話の通じる相手と思わせておくとしよう。

「お前たち三人をチームと見なして、私たち三人よりも戦果が上なら、一週間ほど呑み放題でも約束しよう。お前はサポート役でも指揮官役でも構わんぞ?」

「マジかよ!? 本当だろうな?」

 約束すると言いながら、コイツの武装に目を向けた。

コイツはハンドバルカン二丁流で、三人の中で一番火力が低いと言える。

だからこそ、実は不安に思っていたのではないだろうか?

小物だと自覚して居るから三人の中では常識があるし、ノリス経由で『仕事』を任せると大抵はサポートに回るし、爆撃機に関しては最も数を落として居た。

「良かったのですか?」

「あれでやる気を出してくれるならば……な。それに数で無く戦果、個人では無くチーム戦と誘導できたならば上々だ」

 いざとなったらジャコビアス・ノードを三人目と言うことにしよう。

集中攻撃を前提に、三人で頑張れば戦果の方は何とかなるだろう。

というかルナチタニウムで弾かれるなら、火力は集中しないと駄目だ。

 

「ひとまず連中は無視して高台のスナイパー気取り共を潰す。適当に擾乱しておいてくれ」

「司令自ら動か無くとも……」

 話を聞いてくれるお前は良い奴だよ、イアン・グレーデン。

苦笑いと感謝を伝えることが出来ればと思うが、そんな暇は無い。

「この機体が向いているだけの話だ。他にできる機体があるならば、ワザワザ私が行かんよ」

「しかし……」

「判りました。私とグレーデンで連中の足を止めます」

 二機目のS型がこちらに割り込んで来る。

IDからするとこいつがジャコビアス・ノードなのだが、コッソリ話を聞いていたのだろう。

私の突入を支援すると共に、向かってくる敵部隊を止めてくれるらしい。

分野は違えど二人とも教官クラスなので、その辺は安心できた。

「繰り返すが攻撃が通じない可能性がある。それに大型戦車も居るからな。前衛の連中の面倒も頼むぞ」

「やれやれ、これは難儀な仕事ですな。しかし、だからこそやり甲斐があるとでも言っておきましょうか」

「……判りました。私も気を付けておきます」

 そうして戦闘命令を下し、徐々に接近を始めることにした。

ザニーは腕が砲になった簡易量産型なので、接戦になれば向こうの方で引くだろう。

 

 それはそれとして、RPG系の雑誌でこんなコラムがあった。

指揮官というものは、自分の力量と声望を正しく把握せねばならない。

ヒロイックに『我に続け!』とか言うセリフを口にしても、部下が付いて来てくれるとは限らないのだ。

それに人には適性というものがあるので、出来ないしない事をやろうとしても駄目なのだとか。

 

「とはいえ、この状況だと動くのは私か」

 先行量産されたマゼラトップ砲の砲撃が始まり、私も移動を開始した。

手持ち火器はザク・マシンガンなので、装甲を抜ける自信は全くない。

あくまでも牽制用と割り切って、高台に向かって回り込みながらキャノンザックの砲門に火を吹かせた。

「ノリスの真似は不可能だが、今は専用機の性能に感謝しておくとしよう」

 何か埋まって居そうな場所にマシンガンをばらまきながら、徐々に接近。

案の定、地雷が埋まって居たのでその上をカっ飛んだ。

この機体に付いているホバーモドキの連続使用は、せいぜいが回避用で二歩か三歩。

イフリート・ステップとでも言うべき、ゲーム中に出てきたアレを再現する程度の性能しか無い。

だがそれでも十分に、地雷原を越える程度の事は出来る!

 

「まずはお前達だ!」

『宇宙ネズミが! 連邦にもモビルスーツはあるぞ!』

 オープンチャンネルで話し合う必要などまったくないので、何を言っているのか判らない。

だが言っているだろうなーという事は、だいたい予想できる。

ホバーモドキで段差を越えて、脇へ脇へと移動しながら牽制。

同じ様にこちらに向かって牽制して来るザニーを無視して、まずは横腹を晒す大型戦車を狙った。

スナイパーをやって居るのはこちらなので、当然の選択だろう。

「相変わらず堅いな。まあ、時間の問題だが」

 キャノンザックを遠慮なくぶっ放し、大型戦車に数発続けて撃ち込んだ。

正面から高台を攻撃して居る味方と合わせて、暫く後にようやく沈黙させる。

もしかしたら私が倒せるかと思ったが、公約通りグレーデンに戦果を献上してしまった。

 

「まあ良い。向こうが微妙だが……」

 主戦場では十、いや九機が陣を組んで盾をかざして居る。

これに高台や後方から援護が来るので、戦果が上がらないのは仕方あるまい。

当然ながら撃破しても精々が中破、たちまちの内に後走されてしまう。

「高台に陣取ったのが災いしたな! テルシオを抜けなくとも、お前達だけ潰せればいい!」

『うおおお!』

 あそこを落とせばサンプルを確保出来るだろう。

酒を奢る歯目に成らずに万々歳だ。

そう思って攻撃し続けるのだが、こちらも中々潰れてくれない。

一機が本陣からの援護を防ぎ、もう一機がこちらのキャノンを防ぎながら必死に耐えて居た。

 

「やれやれ。総司令が白兵戦とはな」

 仕方ないのでマシンガンをッポイっと捨てる。

エースならばジャンプしつつ武装変更が出来るのだろうが、私には無理だ。

ハルバードに持ち替えて徐々に近づき……。

ホバーモドキを吹かして、一気にジグザグに接近してする事にした。

「ぬうん!」

『来るな、来るな!』

 ハルバードを一閃して一機目の頭越しに振り降ろした。

移動し続けて居たのでこちらの被弾量は大したことは無い。

やはりビームライフルが一番の懸念材料なのと、モビルスーツは白兵戦が一番強力だと言う事を確認した。

「始末は任せる! 私は援護に徹する事にしよう!」

「了解! お任せください!」

 まずは目の前の一機を引きずり落とした。

そして残り一機に体当たりを掛け、高台を奪って高地を占領。

キャノンザックに物を言わせて、高台のスナイパー役を強奪する事に成功する。

 

 やがて戦況は優位になったところで、敵が戦闘を中断。

徐々に後退して、基地の中に戻って行った。

基地施設や通常サイズとは言え戦車隊を利用して、防御に徹する気だろう。

戦果で勝ったのは詐欺みたいなものだし、サンプル持ち帰ったお祝いに皆で祝宴でもするかと思っていたのだが……。

 

「司令。昨日の戦いで倒した筈の敵機が……」

「流石は連邦の工業力だな。予備パーツくらいは十分に用意してあったか」

 恐ろしいことに残り十機が再び陳列されていた。

あるいはペガサスに搭載して居た機体が、基地で組み上げられただけかもしれない。

だが米帝よろしく、倒しても倒しても増え続ける可能性が頭をよぎった。

「一進一退でこのままジリジリと時間を稼がれるのは巧くないな」

「はい。時間を掛ければベルファストからの援軍が到着するでしょう」

 接近してしまえば大したことは無かったが……。

時間を掛け過ぎればまた補充されるどころか、物量差で蹂躙されてしまうだろう。

それでなくとも戦車や航空機もあるのだし、戦線がここで止まってしまう。

 

 とはいえ突破し、基地を落とすには戦力が必要だ。

ノリスと合流し、アフリカから戻って居る筈のマダガスカルを加え、可能であれば損傷したリリーマルレーンも欲しい。

戦場で有利なだけでは無意味。

基地を潰し、少なくともパリまで進出せねば、ベルファスト攻略の目途も……。

 

(ん? 何か大きな勘違いをしてないか?)

 戦力が無いと突破できない。

相手にペガサスが居り、こちらはザンジバルの数が居ないから、回り込む事も難しい。

時間を掛ければ相手は戦力を補充して、こちらは磨り減ってしまう。

だが、逆に言えば……。

(勘違いして居た! 戦力が増える? 圧倒される? 別に良いじゃないか!)

 根本から勘違いして居た。

その事に気が付いた私は、通信室に向かうことにした。

 

「ユーリを呼び出せ。パンゲア作戦を繰り上げる。アバドンの壁を破るぞ」

 金蝉脱殻と行こうじゃないか!

ニュータイプという言葉が、戦闘力を指すのでは無い事を連邦に判らせてやる!




 と言う訳で、戦場で苦労しました。
ノリスが居たら、簡単に高台を占拠。
一気に基地まで行けたかもしれませんね。ペガサス級は逃げたでしょうけれど。

 こんな話があります。
第二次世界大戦の時代に、エースを含む百機の部隊がありました。
敵国の百機を全部潰しましたが、八十機になりました。
次の月にまた百機が来たので、五十機が頑張って全部潰しました。
その次の月にまたまた百機来たので、必死に頑張って壊滅させましたが、こちらも壊滅してしまいました。
まあ、そんな状態です。

●ザニー軍団
 どの道、データ収集と足止めが目的なので遠慮なく使い潰す予定です。
その内に陸戦ガンダムが建造されて、コジマ大隊が組織されるでしょう。
もしかしたらテネス・A・ユングとか、ベアさんとかがダンス踊るかもしれませんね。

 武装は砲そのものの腕で、口径は強力なマシンガンくらい。
とはいえ戦い慣れて居ないのと、本体の性能が悪いので強くありません。
必要部分は堅いですが、構造上の問題で弱い部分もあるので、接近慣れると大変です。
そこで方陣を組んで正面に盾をかざして耐えるのが御役目。
ちなみに述べ三十機くらいあるので、初期のガルマさんの手持ちくらいはあります。
米帝……じゃなくて連邦凄いですね。ジオニック社もある程度を提供したと思いますが、それをモノにしたのは連邦ですので。

●ペガサス級
 ジオンにザンジバルも居るし、当然の様に存在します。
少なくとも五・六隻は居るんじゃないでしょうかね?
まあMS母艦ではなく、航空機・戦車を運ぶ強襲揚陸艦としてですけれど。
なので現在は改修中で、前線に出ているのはそれほど数は居ないと思われます。

●ガルマの能力
 前にも書きましたが、練習と実戦で強くなる上限くらいです。
エースにはとうてい及びませんし、こうやれば勝てる……という戦い以外ではまず勝てません。
このストーリーのコンセプトは、憑依で強くなるどころか、下がっていく傾向にありますので。

 なので今回は無理せずに、考え方を変えて、高台の敵だけを潰しに行っていました。
ちなみにガルマのスコアは無しで、イアン・グレーデンとかノードさんのスコア。
我儘なエース達の方が、航空機や戦車込みでスコアが上の筈ですが、前述した通り『戦果』としては戦線に影響を与えて居ません。
サンプルを手似れたガルマの勝ちですが、いまいちスッキリしない戦い無いので、認めてくれるかは微妙な所。
まあオフレコの日なら、酒宴を開いて馬鹿話できるくらいの仲には成ったかもしれませんね。


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第九話(前編)

●金蝉脱殻の計

 根本的な考え違いをして居た

モビルスーツはどこまで行っても歩兵でしかない。

昨日の時点で破壊すべきはペガサス級とミディア、その後は放置してユーリと対峙するもう一隊のザニーを包囲するべきだった。

 

 しかし時期は逸して居る。

会敵した時点で実行し、その日の内に移動するべきだった。

だが今更遅い。

基地に押し込めて居る以上は、母艦を中心に守りを固めてしまうだろう。

 

「一戦して捕獲にも成功したんだってな。どんな塩梅だ?」

「戦車を歩行させたような感じでしたね。足は遅く格闘には向きませんが、正面からの射撃戦闘では厄介です」

 だが作戦の根本その物を変えるという意味ではまだ遅くない。

此処で動きを止め、連邦の思惑通りにズルズルと戦う訳にはいかないのだ。

ユーリに説明しながら、どうすれば説明できるか考えを整理して行く。

「そいつは確かに厄介だな。しかし格闘戦に持ち込むとしても、だ。方陣を組まれたらどうしようもない」

「まともに戦うのであればヒートホークでは駄目です。ジャンプしたとしても、盾を掲げられたら終わりですからね」

 回り込もうにも大型戦車が睨みを利かせている。

ザクバズーカやマゼラトップ砲でも、それほど戦果は上がらなかった。

連続して直撃すれば別だが、堅い上に盾があるので被弾率が下がるからだ。

 

「ということはグフ・スタイルか。さすがに対MS用装備って売り込みは伊達じゃ……ん? まともに戦う場合?」

「ええ、そうです。真面目に消耗戦を勝ち抜くなら、マ・クベが好きそうな中世の騎士団でも率いる必要があるでしょう」

 オリジンのマ・クベはギャンに乗って、グフの集団を率いていた。

あれならば確かに、量産型ザニー軍団のテルシオに競り勝てるだろう。

今から大量にサーベルやヒートロッド用意できるなら……の話だが。

「基本的な対策案は斬撹で間違って居ないと思います。そして、連邦に想像させる戦略もです」

「あくまで対処療法。だからそう思わせるだけで、本命を別に作るのか?」

 概念は間違っていない。

だからこそ切り込み隊を組織しておくのは無駄にはならない。

しかしこちらが考えつく方法など、相手も想像できることだ。

戦車を増量するなり、爆撃機で頭を抑えるなりやって来るだろう。

 

「そちらと私のどちらかが、少し引いて戦線を立て直し、引きずり込まれた状態から仕切り直すと思わせます。あるいは側面を突くのでも良いでしょう」

「その程度だと増援を呼ばれて終わるぞ? 回り込めなきゃそれで終わりだ」

 もし私が下がった場合はどうだろうか?

あるいは補給をギャロップやファットアンクルに任せ、ザンジバルを下げたら?

そんな事をしても、ユーリの援護に向かう事に気付かれない訳は無い。

では、それを囮にして、ペガサス級を狙う?

それはそれで増援を呼ぶことで対処されてしまうだろう。

「良いではありませんか、援軍など幾ら呼ばれても。艦隊の飛び出る魔法の壺でもあるならば……ですが」

「あるじゃねえか。此処で時間を稼いで戦力を整え……まさか……」

 ユーリはこちらの言いたいことに気が付いて、考え始めた。

おそらくは採算について計算して居るのだろう。

こういう時は自分が説得力のある理論を立てられないことや、呑み込ませるカリスマ性が無いことが残念に思われる。

 

「……この案は一度持ち帰るぞ? 参謀どもが首を振ったらナシだ」

「それで構いません。博打でこれまでの勝利を捨てる気はありませんからね」

 防諜の問題でそれ以上の話はしなかった。

無いとは思いたいが、通信ケーブルを使っているだけに盗聴の可能性はゼロではない。

グフ・スタイルによるサーベル・ヒートロッドでのザニー対策は、速攻性のある対策案が必要だからだ。

その意味で盗聴されても構わない。

「まあ、俺個人としちゃあ嫌いじゃないがな。可能とする戦力が整うか次第だ」

「こちらの参謀も同じ言葉を言うと思います。気になさらず」

 それがユーリが告げる忠告であり、見せてくれた誠意なのだろう。

当然の事だと返しておき、自分のところの参謀を呼び出し、本国やアフリカ方面に要請を回す事にした。

 

●ヘル・ダイバー

 結果から言うと、Goサインが出た。

当然ながら十分な戦力が集められたことと、相手に気が付かれた場合の二次作戦案が出来たからだ。

我ながら迂闊だが、相手が気付く事もあるので、その場合に無理して集めた戦力をどうするかも問題だったのだ。

 

「ウルフ・ガー隊。これよりガルマ・ザビ中将の旗下に入ります」

「よくぞ来てくれた! 君たちの事は、姉上やビッター司令からも聞いている」

「光栄です。連邦軍にひと泡吹かせてやりましょう」

 予定通り到着したヘンリー・ブーン以下のウルフ・ガー隊とマダガスカル。

そして彼らをオデッサまで送った後で、物資を回収して引き返す筈だったロイ・グリンウッド。

そして慣熟訓練が終わったノリスらの、JS型とJ型。そしてケルゲレンが第一の戦力増強だった。

「それで……『彼ら』は?」

「此処には来ない事に成っておりますので、カラーリングを変えて後ほど。仮のコールサインは『パープル・メイデン』となります」

 第二の戦力増強は、突貫工事で修理中のリリーマルレーンと、秘匿戦力だ。

彼らは本来、此処に居て良い部隊では無く、キリマンジャロ攻略の戦力が足りないから、護衛だけではなく攻略に参加して居た。

乗って居る機体はS型だが、彼らの雷鳴は絶大。

それを借り受けることで、何とか参謀団が頷けるだけの戦力を捻出したのだ。

 

 これだけの戦力ならば作戦が博打ではなくなるし、気が付かれて防備を固められたら……。

改めて、ザニー軍団を『後ろ』から突けば良い。

 

「……正式に軍人に成ったそうだが、構わなかったのかね? なんなら私からサハリン少将に一言掛けるが」

「いえ。私もジオンの……宇宙市民独立の為に戦わせていただきます」

 公式の会話なので改まった口調で、順番通りに話すしかない。

本来ならば戦って欲しくなかったというか、せめてギニアス付きの軍属で居て欲しかった。

「そうか。ではこれ以上は君への無礼になるから止めておこう」

「ありがとうござます」

 アイナは堅い表情で敬礼を返し、そのままヘンリー・ブーンの後ろで直立不動の態勢をとった。

 

「それでは作戦までそれぞれの隊長の元で指示に従ってほしい。……ただ、アマダ中尉にはすまないが、少しだけ時間をもらおう」

「「はっ!」」

 個人的にでないと、声を掛けるのも不自然なので時間を取っておく。

といっても大したことでは無く、ちょっとした挨拶なのだが。

「楽にしてくれ。……アイナ嬢のフォローをしてくれて助かった。彼女はギニアスの妹でね。兄妹ともども助けられてばかりだ」

「いえ。自分は当然の事をしたまでです」

 シロー・アマダは原作通りの正義感だった。

サイド2が味方に成ったので、そこの士官学校出身であり、名家である彼はこちら側に志願したそうだが……。

持ち前の正義感で、戦場での危険の他、ウルフ・ガー隊の揉め事に首を突っ込んでくれたらしい。

 

「それでも君に感謝をしない理由にはならないよ。それと……」

「それもそうですが、自分としても当然の……どうされました?」

 謙遜する彼の表情からは、今のところアイナへの思いは窺えない。

もちろん可愛いことは理解して居るし、一緒に戦えば少しずつ親睦が深まるだろうが……。

ナンパする性格ではないし、死の危険ゆえの吊り橋効果が無いのも大きいのだろうか。

「いや。君もサイド2を背負って立つ身らしいじゃないか。身近にそういう人間は居なくてね。良かったら仲良くしてもらおうかと思ったのさ」

「そう言うことでしたら。不肖な身ですが、よろしくお願いします!」

 くだけた態度で良いと思うのだが、あくまで生真面目だった。

その姿に一計を思い付くが、そこまでするべきだろうか?

彼の為にもなるし、何より私の為に成るwin-win。シャアと違って、信用が置けるのが何よりも良い。

加えてアイナから心理的に引き離す事も出来るが……。

 

 問題なのは、私の気持ちだろうか?

ガンダム・ワールド全般を通して五指どころか三本の指に入るレベルで、好きなキャラなのだが。

真面目で兵のことを思いやり……いや、それは原作での姿だな。

やはり憑依してから、一番身近で接した女性と言うのもあるだろう。

誰かのために必死になれる人で、とか、色々理由を付けてしまうが……。駄目だな、今は結論が出ん。

 

「ではここまでにしておこうか。原隊に復帰して、ベルファスト攻略作戦に向けて備えて欲しい」

「了解っ! 全力を尽くします!」

 心に結論を出せないままに先送りにする事にした。

同じ隊のトーマス・クルツの性格を考えると、色々面倒になりそうでもある。

今は無理に引き抜くよりも、彼を緩衝材にしてアイナの安全を図っておこうと思う。




と言う訳で最終話である第十話に向けて動き出します。
これがシリーズ終了に向けてなのか、第一部の区切りなのかは判りませんが。
ザニー軍団とペガサス級をフランスに引きつけて、最終目的であるベルファスト攻略の方を先に行います。

●金蝉脱殻
 戦力を増強すると見せて、精鋭を引き抜きます。
そして前線を少し引き下げて、罠を掛ける……と見抜かせて戦線の膠着を図ります。
元から連邦はソレを望んでいる筈なので乗ってくる可能性が高いので、後方から増強された戦力と共に、一気にベルファストまで進出。
一気に最終目的地を攻略し、生産施設を抑えつつ、ヨーロッパ確保の最大の邪魔な拠点を落とす事に成ります。

まあそこまでやっておいて見抜かれ、増援が派遣されなかったら、ザニー軍団の後ろに回り込むだけの作戦になります。
周囲から包囲撃滅を図る……というやつですね。

●戦力的に可能なのか?
 初期に持って居た四隻を再び結集。
必要ならばファットアンクル等も使って、囮にしたり、兵員など地上戦力も連れて行きます。
基本的には一時的に増えたエース+新型で、トーチカやザニーや戦車が居ても圧倒出来るだろうと言う目論見ですね。
まあ参謀団は「無理だったら正面だけ攻略しても良いんじゃよ?」くらいの採算なのですが。

●シローくんへの計略?
 これは単純に、彼を引きぬいて副官・参謀の一人として迎えようかと言う物です。
そうすればアイナと引き離せるし、このストーリーでの彼は名家のボンボンなので話の通じる友人もできる。
ギレン閥でもキシリア閥でも無いので、そこそこに信用は置けるだろうという思い付きですね。
アイデア的にはアリなのでしょうが、主人公はアイナをどう思っているのか本気で考えて無かったので、結論が下せないで居ます。

ちなみに、モブ女性とキシリアを除くとガルマが親しい女性は
アイナ > シーマ様 >> メイ・カーウィン くらいに成るんじゃないですかね。
放っておけばシーマ様がアイナよりも出会うでしょうけれど。


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第九話(後編)

本日二本目の予定です


●発想の転換

 ブリーフィング・ルームに主だったメンツを集め、作戦の詰めを行っていく。

その前に基本的な考えを示しておくことにした。

 

「話し合う前に頭の体操をしておこうか。此処にチェスボードと袋があるとする」

「チェスはともかく、袋ですか?」

 前もってサクラを頼んでおいたジャコビアス・ノードがニヤニヤと応じる。

こちらも頷いて、仰々しく手を広げた。

「袋には何か一つ、一度だけ使える好きなイカサマを書き込んで良い。君たちならば、何を書いておく?」

「そうですなあ。一度に二回動かしてチェックメイトとか」

「周囲に居る駒を全て獲れるのでも良いでしょうな」

 突拍子もない話だが、まあ頭の体操というのものはそんなものだ。

それぞれに自分なりの思考、ドクトリンに応じたイカサマ案を考慮し始めた。

 

「司令ならばどんな手を打ちますか?」

「私ならばそうだな。チェックメイトが決まった時、白と黒の担当を入れ換えるとでもしておくよ」

「そいつは酷でえ」

 ハハハ……と周囲から笑いが巻き起こる。

他愛ない話をした後で、本題に入るとしよう。

「今回の作戦案は、相手の利点を逆用するという点にある。ベルファストの特徴を逆手に取り、地上戦力を分断するのだ」

「人数を連れて行けませんからね。納得です」

 陸戦隊や戦車を載せるにしても限界がある。

モビルスーツを減らすにしても、減らし過ぎると制圧戦で大負けしてしまう。

だからといって、モビルスーツ満載でも拠点制圧は無理だ。あくまで人間こそが基地の施設を閉鎖して行ける。

痛し痒し、適度な具合にする必要があった。

 

 海軍基地であったベルファストは、その構造上が分割構造になっている。

船のドックなどに利用し、同時に地上戦力を足止め出来るようになっているのだ。

逆に言えばこちらが上手く利用する事で、相手の陸戦隊や戦車を足止めできるだろう。

 

「ですがこちらの艦が足りません。また敵が大陸から戦力を戻したりした場合は?」

「未知の戦力が居る可能性があります。その対処は?」

「当然の懸念だな」

 容量の大きいガウやケルゲレンで、人数や戦力の多い場所を抑える。

そこまでは良いにしろ、全ての場所を封鎖する事は難しい。

少なくとも五か所程度抑える必要があるし、分断を前提とする以上は移動を繰り返す訳にも行かないのだ。

「ソレには五隻目のザンジバルを当てる。『パープル・メイデン』はギリギリまで参加せず、隠れて総予備となる」

「そいつが増援を足止めするなり、未知の戦力を抑えると?」

「ですが信用出来るのですか? こういってはなんですが、判らないからこそ危険なのです」

 五隻目……と驚きが拡がると同時に、それだけで可能なのかと首を傾げる者も居る。

当たり前だが懸念が杞憂である可能性があると同時に、未知の脅威は本当に想像以上である可能性もあるのだ。

 

 秘匿戦力はザンジバル。

それ以上でもないが、載って居るメンツが素晴らしい。

 

「実際に肩を並べて戦ったウルフ・ガー隊に詳細は確認してくれ。だがノリスが三人加わると思って間違いが無い」

「はっ!? オヤジが三人?」

「本当だ。お前達も顔を合わせれば一目で納得する」

 なんの冗談だよ……と呻くうちの問題児を、ヘンリー・ブーンが抑える。

そして同じ様な問題児であるトーマス・クルツに視線を向けると、「けっ」と舌打ちする姿が見られた。

「それほどの人材なのですか?」

「無論だ。だが彼らは此処には居ないことに成って居る。ザンジバルもだが、乗組員に関しても緘口令を敷かせてもらうぞ」

 教官であるイアン・グレーデンをして驚くほどの相手。

ノリスはそれだけの腕前を持って居るし、彼に匹敵する人間が三人も居るとは信じられなのだろう。

同時にそれだけの戦力で有れば、未知の脅威に対抗できると信じられるだろう。

 

「では割り振りを発表する。申し訳ないが、リリーマルレーンはトーチカの制圧。場合によっては艦を捨てても構わん。必ず生きて帰れ」

「はっ! 必ず艦と共に帰還いたします」

 最も装甲の厚いリリーマルレーンに対空砲座への対処を任せる。

海兵隊ならば揚陸作戦に慣れているし、そのまま周囲を制圧してくれるだろう。

それに損傷を突貫工事で直しているので、無事であっても近代化改修に回す必要があるだろう。

「ウルフ・ガー隊はドックの封鎖。他は討ち漏らしても構わないので、木馬を浮かせるな」

「はっ! 改修中のMS母艦を抑えます!」

 やっぱりペガサス級のコードは木馬に成った。

ガルマの事を考えると不安だが、誰もが考える事は同じなので仕方あるまい。

ただ直接戦闘は少ないと思われるので、アイナやシローを比較的に安全な場所に回すと言う意味でも此処にしておきたい。

 

「ケルゲレンは兵器工廠。中に新型が居る可能性がある。二機一組で確実に制圧せよ」

「はっ! 可能ならば動く前に叩き潰します」

 最悪、RXシリーズがが出てくる可能性がある。

手持ちの手札で最も強力なノリスを当てれないので、数が必要になる。

初期ジムの集団が居る可能性と、故障した場合に反応炉を利用するならばケルゲレンが妥当だろう。

「そしてガウは主要施設に乗り込む。留守はグレーデン、対空戦闘込みでお前に任せるぞ」

「はっ! 背後はお任せください!」

 四方にある小拠点や周囲に散った防衛隊は、各隊が持つマゼラトップ砲にでも任せるしかない。

内側に居る部隊だけでもかなりの物量が居ると思われるので、万全とは行かないのが残念だ。

五隻目のパープル・メイデンを最初から使えたらと思わなくもないが、それでは予備戦力として相手の予備に備える意味が無い。

 

 ちなみに本隊は最も危険な場所を抑えるので、手持ちはかなり豪華だ。

指揮小隊兼・制圧交渉用に私が率いるが、客将であるノリスとロイ・グリンウッドが花を添える。

第二小隊は捜索索敵小隊で、後にキマイラ隊に加入するジャコビアス・ノードが問題児達を率いる。

第三小隊は火力支援小隊で、イアン・グレーデンが率いて、マゼラトップ砲で援護する。

 

「あの……」

「なんだ? 手短に頼む」

 アイナが居るのはギニアスの代理でもあるのだが……。

ここで提案する様な事があっただろうか?

嫌な予感がしたので話を打ち切ろうと、手早く済ませようとした。

「連邦よりも先にビーム兵器を示すのはいかがでしょうか? また私は兄の元でテストパイロットを務めておりました。イザとなれば、出力の管理や代用の技術があります」

「それはそうだが……」

 確かに以前に頼んだ武装がケルゲレンには眠って居た筈だ。

宇宙で使ったビームランチャーの小型試作用を持って行き、敵司令部への扉を焼き払う。

そうすれば基幹技術でも遅れを取ってしまったと、モグラ供も恐れを為すかもしれない。

 

 ギニアスの事だからアプサラスに搭載する為に、改良を続けた可能性もある。

ルナチタニウムを貫く様な威力はともかく、少なくともサビついて動かせないとか、壊れていることは無いだろうから示威行為には十分な筈……。

しかしソレでは、アイナを危険な場所へワザワザ連れて行く事になりかねなかった。

 

「兄は常々言っておりました。病で戦場に立てない自分の技術を役立てたいと。そして私も無用な戦いは一刻も早くお終わらせたいと思います」

「しかし……」

 正論で言えばノーならばノーと言えた。

ただ技術を誇示したいだけならば、具申など切って捨てれば良い。

だがこの戦いを優位に進める手段であり、秘匿戦力であるパープル・メイデン隊を隠したまま使える切り札である。

戦局を確かにし、司令官が降伏を考えるような手段を捨てられる訳がない。

「だがそれでは君を危険に晒す事に……」

「戦場では何処でも危険だと聞き及びました。それに一介の兵士であれば躊躇う必要もないでしょう。……サハリン家のアイナとしては、一緒にお連れくださいと申し上げます」

 核が欲しい。

一発の核弾頭があれば、ゲームのOPで見たムービーの様に焼き払って済ませられるものを。

自分は少女の望みを止められない、死地に向かうのを不要だと言い切る気概も能力も無いのだ。

 

 愛して居るかはともかくとして、親戚だとか近所に可愛い子が居るな……程度の気持ちはあった。

もし愛であれば来るなと言えただろうし、知人だと割り切ることができれば戦力として見なす事も出来たろう。

結局は中途半端で済ませたことが、この事態を招いたと言える。

 

「司令。アイナ様は必ずや、このノリスがお守りいたします」

「ここでは駄目だと言うのもどうかと思いますよ。おい、お前らの誰か、マダガルカルに移れ」

「仕方ねえなぁ。勝率が上がるなら仕方ねえよなあ。終わったら酒でも奢ってくれるんだろうし、仕方ねえよなぁ」

 クソ問題児がこの時ばかりに、素直に頷きやがった。

ニヤニヤと笑いながら、何度も仕方無いと言っているのが憎らしい。

「判った。敵司令部の前を薙ぎ払う以上は対策される可能性がある。その事は忘れないで居て欲しい」

「はい! 絶対に足手まといにはなりません!」

 こうして押し切られる形で、アイナを伴って突入作戦を行うことにした。

キャノンザックを専用のビームキャノンザックに置き換え、電源を兼ねた予備のシールドをアイナと合わせて二枚用意する。

サイサリスのシールドに似ているが、本体が華奢なのが不安な所だ。

 

●ベルファスト攻略作戦の開始

 三々五々、バラバラに出発して現地集合。

ガウはこれ見よがしにユーリが陣を下げた場所まで移動しつつ、途中でUターン。

どのみち基地に他の隊が突入した所へ突っ込むので、多少遅れるのは構わない。

 

 ミノフスキー粒子の散布濃度を上げたおかげで、こちらの居場所が探知できないのはありがたい。

奇襲攻撃を掛けることは見透かされている筈だが、まずはパリを確実に守る為に、連中は戦線を動けないからだ。

まさか厳重に守られている筈のベルファストを目指すとは思いもよらないだろう。

 

(まあジャブローをマッドアングラー隊が攻めた時と比べて、かなり有利なんだけどな)

 ジオン水泳部があれば楽勝だったのにと思うが、無いモノは仕方が無い。

今回の作戦にしろ、北米を優先せずに原作通りオデッサを先にすれば、今頃はパリから直接ドーバーを渡った可能性すらあるだろう。

だがマスドライバーで対空砲火を潰すのを早めに止めたので、コロニー落下の影響が少ないと判った時点で迎撃されたかもしれない。

そうすれば北米が失陥して居ない可能すらあるので、過去に戻れたとしても、入れ換えることができない選択だと言えた。

(やれることはやった。後は運に任せず、仁慈を尽くして自ら奪いに行くだけだ)

 マイクを手に艦内放送をオン。

慣れないがこれで士気が上がるならばやるしかあるまい。

 

「かつて一つであったパンゲア大陸は、宇宙という一枚岩の新大陸によって再び一つと成る」

 今頃はユーリが担当して居る戦場でも戦闘が始まったころだろう。

残しておいたファットアンクルやギャロップも、ミノフスキー濃度を重戦闘散布で維持したままゲリラ戦に移行して居る筈だ。

「……各員の奮闘に期待する」

 ガウを副官や参謀に任せながら、信用できる相棒が必要だと感じる。

専用機が無い間は付けられた人事のままで良かったが、今思えば公私ともに相談できる相手は必要だろう。

アイナを秘書にするのは問題があるかもしれないが、シローを政治面込みの参謀役で呼ぶのは悪くないと思える。

 

 カタパルトに移動してそんな他愛の無い……今更ながらの事を考えていた。

やがてベルファストの空に砲火が飛ぶのを確認しながら、アイナ機やノリス機を眺めて心を落ち着かせていく。

大空を舞い着地の振動を感じ、やがて出てきた戦車隊やせり上がって来る砲塔を眺めてザクにステップを踏ませる準備だけはしておいた。

 

「全員居るな!? 総員、突入!」

「「おー!!」」

 品の良い連中も含めて怒号が飛び交った。

性格にはその筈だが、ミノフスキー粒子が散布されているのが聞こえはしない。

「グリンウッド。足止め部隊は任せる。グレーデンと一緒に適当に引っ掻きまわしてくれ」

「フハッハハハ! 地の利さえあれば何機でも任せてもらおうか!」

 脇道から出てきたザニーを先行するノリスが切り捨てた。

グリンウッド機は迷わず反対側に進路を変更し、時折にブースターザックを利用してビルを飛び越えて行く。

代わりにアイナ機が前に出ようとするが、片手で押し留めて斜めに構えた陣形を維持する事にした。

 

「どうしてですか? 心配ならば……」

「逆だ。ランチャーを守るには後方からの襲撃が一番困るからね」

 言い訳じみていたがアイナとしても理解はできたのだろう。

ビームキャノンザックにしがみつく様に、彼女としては、我身を盾にして後方からの視界を遮断する。

「ガルマ様。ビル陰に小形戦車とモビルスーツが居ますので、始末してまいります」

「任せる」

「ならば私も……」

 ノリスはアイナの声を無視して、一気に駆け抜けた。

途中でワイヤーをビルに引っ掛けて、急制動を掛けると待ち伏せをスルー。

改めてステップを賭けて、次々に葬って居るのだろう……。

敵にしなくて良かったと思う反面、気を効かせ過ぎなんだよ爺やと思わなくもない。

 

 多分、アイナも私の事は意識して居ないと思うぞ。

いいとこ親戚の御兄さんか、近所の御兄さんだろう。

まあサハリン家の没落が無くなって居るならば、ギニアスを迎え入れたキシリアの功績だしな。

……紫ババアが介入者でない限りは。

 

 ともあれ今はベルファストの攻略に専念するべきだろう。

彼方にペガサス級が着床して軽く爆発するのをみながら、作戦が第二段階に達したことを悟った。




 と言う訳で、何も無ければ本日二本目の予定です。
予約で来て居なければ、後で出し直します。

戦力の二つ目は、秘匿している五隻目のザンジバル。
もちろん新造艦が間に合う訳は無いので、修練用の一番艦。
ザンジバル級ザンジバルになります。
それに乗って、習熟旅行している人達が隠し玉になりますね。

 その上で見返して居てすっかり忘れていたビームランチャー。
長距離用は本国で研究しているにせよ、小型用は自分で研究するであろうことを思い出しました。
その上で真面目に運用を考えたら、「あれ。アイナが近くに居ないと駄目だよね」と気が付いたので、話題をでっちあげております。
まあビームバズーカに、専用のザックと電源シールドが必要になった劣化モデルですけれどね。
それでも一年戦争の序盤に出て来ると効果は大きいかと思います。
威力の方では無く、将校を驚かせると言う意味で。


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第十話:(前編)

●ハードラックと踊りたい

 最初の視点は連邦サイドより。

砲火の見え始めた基地を眺めて、頭を抱える男が居た。

 

「くそっ。地上に降りたばっかりだってのに、また俺のせいで……」

「ボヤくなサンダース。一方的に奇襲されるよりも、オレたちが居るだけ幸運だ」

 三機編成の小隊は、新型機と共に四機編成に改められていた。

サンダースたち四人は慣熟訓練、他の仲間に先駆け様々な訓練を行っていた。

それがジオンの襲撃から免れる事と成り、ミノフスキー粒子散布によって戻って来たのだ。

もし運だとしたら、強運というべきか凶運というべきか。

「少尉……」

「ビームライフルが間に合わなかったのは痛いが、予備武器も山ほどあるからな。十分にやれる」

「エイガーの言う通りだ。見ろ、絶好のロケーションじゃねえか。基地の救援に向かう」

 新型は二種二機の四機で、カラーリングは白青二機に黒灰が二機。

前衛である二機がコンテナを背負った同じ構成で、ロケットランチャーやバズーカといった予備武装を入れている。

後衛の二機は白青が火砲で長距離戦仕様、黒灰がミサイルランチャーで中距離支援という試験的な武装差を施して居た。

 

「向こうは強襲揚陸艦が四隻ですが、間に合いますかね?」

「オレ達は全員が砲戦が出来るのが大きい。戦車隊以外にも動かすのが間に合ったジムが居る筈だ。協力して当たろう」

「おーおー。エイガーは俺なんかより、よっぽど隊長してやがるなぁ。この調子で頼むぜ」

 演習場からの道を急ぎながら、別れ道に差しかかる。

そこには非常用の地下通路があり、此処を逃すと地上を通るしか無くなる。

だが一端地下に潜ると、上の様子が判らないままに目隠しで移動するしかないのだ。

「それでよ、何処に行くのが一番だと思う?」

「反撃の為の戦力確保が必須です。念の為に母艦からベルゲ・ジムを出した上で、兵器工廠へ救援に向かうべきです」

「本部へは向かわないんですか?」

 エイガーの説明にサンダースが疑念の声を上げる。

本拠地であり、最も戦力のある場所の筈なのだ。常識で言えば本隊をフリーハンドにして、全員で当たるべきなのだ。

 

「オレ達の利点は全員が砲戦出来ることだといったろ。本部は厚い防壁で囲まれているし、イザとなったら兵器工廠からでも撃ち込める」

「逆はマズイからなあ。それにザニーじゃ荷が重い、陥落が免れない場合もある。だから一応な」

 将校ではないサンダースは聞かされていないが……。

こういう場合に備えて、命令ではイザと言う時の順番が決められている。

最先端の試験小隊であるモルモット隊は、ジャブローに戦闘技術の蓄積を持ち帰る必要があった。

「悩むよりも急いだ方が良い。やれることを全力でやるべきだ」

「おっ。珍しくユウが喋りやがったな。まあコイツの言う通りだ。さっさと救出しに行くぞ!」

「「了解!」」

 今まで無言で従っていた残りの一人が口を開くと一同は地下に潜った。

大型のエスカレーターが斜めに下る中、間に合ってくれよと切に祈る。

 

 そして彼らの向かう先では、実に予想通りの展開が起きていた。

ここで視点は兵器工廠の側に移る。

 

「マサド大尉! 起動前に抑えるのに失敗しました。何機か出て来ます!」

「足止め班を置いて任務を続行せよ! 追加が出るのは避けねばならん!」

 量産型ザニーならば良い。

接近戦が不得意な機体ゆえ、地形を利用して飛び込めば楽勝だ。

だがこの場所にあるのは新型、彼らは名称を知らないがジムと呼ばれる機体であった事が大きい。

「互角……いや、格上として見よ。とおっしゃられたな。損害が出るのは避けられんか。一本目の狼煙を焚いておけ」

「はっ。状況レベルを引き上げます」

 格上であっても足止めならば問題無い。

やはり地形が味方をしてくれるし、稼働して居ない相手を潰す方が重要だ。

上司であるノリスが居れば別の選択肢もあったかもしれないが、彼は早期制圧の為に本部へ向かっていた。

 

 そして同じことを連邦側も弁えている。

無理に討って出ようとはせず、稼働準備に入った仲間を守る為に盾を構えて牽制していた。

 

「早く炉心に火を入れろ! 黒い死神が戻ってくるぞ!」

「ウワー、モウダメダー! 俺達は巻き込まれて全滅するんだー」

「HAHAHAHA!」

 笑えないジョークを口にしながら、整備兵たちは必死で手を動かして居た。

待機状態のジムに火が点き、動き出したのを見てから次の機体に移る。

時折りにマシンガンで掃射されたり、バズーカでハンガーごと吹き飛ぶもあるが、それでも棺桶に乗り込んだパイロットの為に動いていた。

「班長! 敵が紫色の発煙筒を焚き始めました!」

「ほっとけ! それよりも一機でも多く動かせ! 担当が終わった連中はくたばる前にとっとと逃げろよ!」

 動かせたのはようやく新編・一個小隊の四機。

元から警備に付いているザニーが旧編成・二個小隊六機で、合計しても十機しかない。

パイロットが逃げるか死ぬかした物はともかく、動かせる機体は全て動かす必要があった。

 

 そして彼ら整備兵が必死の作業を繰り広げられている間に、紫色の発煙筒は数を増して居たのである。ペガサス級を抑え終わったドックでは一本のまま、兵器工廠では二本目が……。

その意味の半分は、脅威度をミノフスキー粒子下でも現す為の物だ。

 

「マサド大尉! 隠し通路から敵の増援が! 此処で見て居ない機体もあります!」

「追加の狼煙を焚け! ケルゲレンには近づけさせるなよ!」

 隠された通路を二重に移動し、容易く発見されない場所からモルモットたちが現れる。

ただしこいつらは死神憑きのモルモット。

そこらの宇宙ネズミなどよりも、よほど恐ろしい相手である。

「少佐! 敵は予定通りに母艦のカバーに回りました」

「ようし! このまま味方の救援に向かう。ハードラックと踊るんじゃねえぞ!」

「了解!」

 エイガーの読み通りにケルゲレン隊は戦力を振り向けてしまう。

判断ミスかもしれないが、回り回ってこれが母艦を。そして味方の整備兵たちを守り切ったと言うべきか。

死神達からすれば、ケルゲレンを潰してからハンガに向かうと言う手もあっただろう。

まずは、お互いに大切なモノを守りつつ、時間だけが過ぎて行くことに成った。

 

●警告の一射

 その様子は本隊であるこちらからも見えた。

紫色の上がって居た場所はドックと工廠だが、後者の側で発煙量が大きくなっていく。

 

「ケルゲレンが……」

「未知の敵はあちらを優先したようですな」

「……放っておくわけにはいくまい。パープル・メイデンを向かわせろ」

 戦術からすればむしろ良いことだ。

敵司令部の直撃に成功しつつあるし、母艦を沈めた以上は運ばれる心配も無い。

連中が連れている母艦が向かっているとしても、それはそれで兵器工廠に居る戦力を回収する方が先だろう。

「良いのですか?」

「どのみち此処は陥落する。ならば無駄な犠牲を出す事もあるまい」

「ガルマ様……」

 更なる増援対策や、トドメに使うべきではないか?

ノリスは窮地にあるのが自分の部下と知ってなお、戦術目標を確実に確保すべきではないかと尋ねる。

 

 厳しい事を言うと思ったし、あるいは試す事でアイナとの仲を考慮したのかもしれない。

八方美人で決めたのに、ちょっぴり感動してくれてるのが、少しストレスを鎮めてくれた。

 

「いずれにせよ、ヨーロッパの戦いを終わらせる。半地下式の司令部を完全に露出させるぞ」

「はい、ガルマ様! 射程距離に入り次第、準備しますね!」

 戦車を叩いていたハルバードをアイナに渡し、ザニーは完全にノリスに任せる。

そして予備電源である盾を構え、ビームキャノンザックの砲門を前方に展開した。

やってることはザメルとサイサリスの中間だが、ビームバズーカにすら到達できていないので仕方あるまい。

油断しない様に少しずつ進みながら、片手でホバーのスイッチを、片手でレーザー通信機を操っていく。

「こちら地球方面総司令官、ガルマ・ザビである。基地司令に降伏を勧告する」

『何を馬鹿な。総司令自ら前線に出る筈が……。居たとしてもお飾りに過ぎん!』

 あちらからの返信は無いが、おそらく私の想像と大差あるまい。

最大射程に入った段階で、どこまで行けば確実に撃ち抜けるか、そして相手の迎撃システムに引っ掛らないか。

冷静に探りながら徐々に近づき、セッティングを始めた。

 

 いわばこの会話は単なるセレモニーであり、時間稼ぎだ。

降伏勧告はしたということ、それでも反撃して来た相手に脅しを与えると言うポーズに過ぎない。

 

「聞きいれられないと言うならば、これより警告射撃を行う。

 ……確認するが、隔壁はちゃんと降りて居るな?」

『はあっ? 何を馬鹿な事を……』

 ビームランチャーの砲身展開確認、ターゲットロック。

シールド内エネルギー・チャンバーとの接続良好。

アイナが確認して行く言葉を静かに聞きながら待つと、乱れていたグラフが安定して行くのが見える。そして私の恐怖心もだ。

「エネルギーの充填が完了しました。いつでも行けます。タイミングはそちらに、諸条件の調整はこちらに」

「判った。ありがとう。……願わくばこの一撃で終わりにしたい物だな」

 アイナに感謝を送ると、他の方面への言葉を考え始めた。

そしてトリガーを引き、司令部への砲撃を放ったのだ。

 

「これは警告だ。速やかに降伏なき場合は、第二射を行う! てえっー!」

『なんだ? この光はまさか、戦艦用のメガ粒子……』

 閃光が敵司令部を覆い隠す防壁を切り割き、近くにあった砲塔を誘爆させて行った……。

 




 と言う訳で、作戦は大詰めです。
実際にこんな風に奇襲できるかは別にして
ドムx2を伴ってジャブローに攻め入るサイサリスのムービーみたいな事をしたかったのでやってみました。
本当はガルマにまともな戦いをさせるつもりだったのですが、ビームランチャーの事を思い出したので、その辺もオマージュポク修正。

●モルモット部隊
 踊る黒い死神・死神サンダース、砲兵長・無口さんの四人。
何故か一年戦争時の旧編成三機態勢から、既に新編成の四機態勢に成っています。

●マサド大尉
 今日の死に番。
彼はノリスの代わりに犠牲に成ったのだ。

●ビームランチャー
 まあスキウレ砲レベルなので大したことはありません。
シャア専用リックドムやガトー用リックドムが持っている、ビームバズーカの劣化互換。
どっちかといえば脅し用というか、連邦よりも先にMSサイズのメガ粒子砲を使ってやったぜという脅し用です。
「装甲だけ溶解」になるので、「これは警告だ」と最初に行っている感じですね。


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第十話:(後編)

●まるで劇中作の様に

 司令部周辺を光の剣が切り裂いた。

半地下式になったビルが露出し、外壁どころか装甲板の一部が融解している。

 

「今のはワザと収束せずに撃った。降伏しない場合は貫通させる!」

 こちらも完成して居ない上に外壁があると知って、いきなり潰せるとは思っても居ない。

選択の猶予を与えると同時に、次射までのチャージタイムを稼ぐ。

「繰り返す。もはや司令部は陥落寸前である。私はガルマ・ザビ、速やかに降伏するならば南極条約に則って扱いを認めよう!」

 次席の権限者に期待して、問答無用で潰しても良いのだが……。

それだと時間が掛って敵味方の死傷者が増える上に、アピールにも何にも成らない。

演技過剰だし、甘いかもしれないがそれこそが目的の一つ。

 

 もし、他の介入者かその手先が居た場合。

私はガルマらしく演じているお気楽な相手で、ギレンあたりよりは話の通じる相手と見なしてくれるかもしれない。

 

『させん!』

()れ者めっ! 司令官同士の会話に口を挟むとは!」

 戦場を二つの神技が往来した。

一つは初撃命中、いきなりの遠距離砲撃。

一つはミサイル・パリィ、砲弾斬りの荒技だ。

見れば兵器工廠の方から長距離砲撃が行われており、それに対し、ノリスが割って入ったのだ。

『ヒュウ♪ 一発で当てた上に、相手はそれを叩き落としやがったぞ。どっちも人間じゃねえ』

『おそらく相手は五機の条件を、その場で満たすスーパーエースです。厄介な相手が護衛に付いてますね』

 その光景を見ていた軟派な男が居れば口笛を吹き、常識人は汗を拭うだろう。

エースの条件は五機とされるが、兵器の変遷で落とし難い時代は甘くみられる物だ。

短時間の戦闘ではなく、ある程度のサイクルを踏まえた一度の戦場でスコアを稼げばいい。

だがノリス・パッカードと言う男は、劇中でも屈指の人物。アムロなどと並んで、その場で五機以上倒せる屈強のエースだった。

 

「別の命令系統であれば口を挟むのを認めよう。あるいはこの司令官の元で、あくまで抗戦を希望する場合は、できれば止めて欲しいがそのまま狙うと良い」

「こちらは戦技研所属のブラック・プリンス中隊。直属の司令官の意向により、条件交渉を……」

「黙れ! ここの司令官は私だ! 預かった以上は全て私の命令が優先する!」

 外部音声で語りかけると、あちらも応じて来た。

おそらくは自分らだけでも安全に撤退しようとしたのだろうが、だんまりを決め込んで居た敵司令部も参戦して来る。

「とっと撃たんか馬鹿者!!」

(こいつ……判って居るのか? いや命令系統というか派閥が違うのか……)

 交渉相手が二つ以上あればこちらの脅威度は下がる。

司令部を潰しても、次の司令官が抗戦の指揮を即座に取れると言うことだ。

もちろん別の司令官が停戦を申し出ると抗戦が苦しくなるが、既に大勢は決して居る上に、司令部の命は風前の灯なのだ。

(本来ならば別口の司令官の名前なんか出さない。それなのに会話に応じたのは、目の前の連中がもうダメだと判ってるからだろう)

 それなのに外部音声で別口の介入を封じてしまったら……。

そちらの命令系統の順位が下がると言う事。

次の順番を巡り、誰が生き残って居るか判らない中で、次席司令官を決める混乱が起きるだろう。

 

 また面倒な作業になるし、このまま戦闘を続けるしかない。

そう思っていたのだが、ここの司令官は想像以上の愚か者だったようだ。

あるいは手柄を渡すまいと焦った結果なのか、だとしたら派閥抗争に感謝しておこう。

 

「わしは既にその場にはおらん! 全機で撃ち込み敵司令官を倒せ!」

「おや、ちゃんと認めてくれていたらしい。ならば話は早い、降伏をお願いしよう」

「……聞いていたのか? 司令官は抗戦を要求されている」

 聞いていたとも。戦場放棄の現行犯だ。

まあ実際には司令部を移したのかもしれないが、この時間で避難以上の事ができるとは思えない。

場合によっては早い段階で逃げ出して居た可能性すらある。外部音声で喋ってしまった以上は聞いている全員が証人と言えるだろう。

「部下を見捨てて逃げ出す様な司令官に付き合う気かね? まあ、彼が逃げ出す時間を稼いだように、私も援軍を待って居たのだがね」

「何っ!?」

 その場に居た他の機体の内、盾持ちが周辺警戒を強くする。

だがハズレだ。正解はそこではない。

 

 紫色の発煙筒は脅威度のレベルを現すサイン。

早い段階からレベルを上げていた兵器工廠には着目して居るだろうし、この状況で足を止めているとも思えない。

ゆえにパープル・メイデン。

……キシリア直属の精鋭が駆け付けて来るのを待って居たのだ!!

 

「オルテガ、マッシュ! ジェットストリームアタックを掛けるぞお!」

「「おう!」」

「上か!!」

 紫色に塗り直されたグフスタイルが三機、ブースターを吹かして落下速度を減速。

それも真っ直ぐ落ちて来るのでは無く、ホバーモドキを使ってビル壁を足場に奇妙な軌道を描く。

普通のビルならばパリパリとガラスが次々と砕けるのだろうが、既にシャッターを降ろして居るのか色彩が変わったくらいだ。

『当てて来た!? まさか!』

『エイガー下がれ! こいつらもエースだ!』

 バズーカによる牽制が牽制どころか至近弾。

流石に防ぎ易い軌道だが、だからこそ囮であり牽制なのだ。

ヒートロッドが長距離戦仕様のガンキャノン(?)に襲い掛り、間一髪でビームサーベルが割って入った。

 

 だがその危機はまだ終わらない。

ヒートサーベルは初期型のビームサーベルと十分に渡り合うことが出来る。

ヒートロッドの機体は最初から抜刀しており、もし長距離戦仕様が射撃位置を捨てなければ倒されていた可能性すらある。

 

『……っ』

「ほうっ! 機動力を上げる為にコンテナを捨てたか。良い判断だ」

 パンっと軽い音がして、火薬が白青の陸戦ガンダム(?)がコンテナを吹っ飛ばした。

紫色のグフスタイル……ガイアだかオルテガだか知らないが、踊る様に剣戟に移行して居る。

脇から不意打ちを掛けて来る、もう一機の黒灰の陸戦ガンダムを避け、下段切りを繰り出した。

片足を上げても、もう片足が。かといって防げば上に斬撃が跳ね上がる。

『……っ!』

「躊躇なく乗ったか! だがな、今時そんな曲芸が通じんぞ!」

 ヒートサーベルを踏みつけることで、陸戦ガンダムはかろうじて防御。

それを見越したかのように、ヒートロッドが迫った。

元々相手が対処する事が前提の技、ならばこちらにも躊躇いなどありはしない。

(ついていけん。こいつらニュータイプなのか? それとも読み切って先行入力でもしてるのか)

 次元が違い過ぎたせいで、返って冷静になれた。

どこか冷めた目で周囲の様子を確認しながら、指向性レーザー通信で敵司令部と極秘に会話。

外部音声で罵倒し続ける『元』司令官を放置して、交渉内容をまとめている。

 

「双方それまで! たった今、敵前逃亡した元司令官に変わり、次席指揮官と話が付いた」

「命拾いしたな。その気があるなら宇宙に来い」

『……命令次第だ』

 決着は付かなかったというか、二体一で優勢勝ちと言うか。

陸戦ガンダム二機でようやく逆転して居る間に、残り二機の紫色がガンキャノンを圧倒していた。

このまま行けばガンキャノンまあ黒い三連星ならぬ紫色の三羽ガラスの役目は十分に果たしているというべきだろう。

「今から二時間に限り、兵器工廠に居る連邦軍人は見逃す事にする。即座に降伏する者は、送り届けた上で治療を約束しよう」

『甘いねえ。だが助かったよ。実はこっちの整備兵で死に掛けてる連中が居るんだ』

 試合が終わればノーサイドという訳にはいかないが、それでも節度と言う物がある。

出来るだけ戦場倫理は守りたいし、死ななくても良い人間は可能な範囲で助かるべきだろう。

 

 ……それになんだ、その方が資料を処分される前に突入できるからな。

兵器工廠では重要機密を処分した後、薬品処分出来ない二次資料を少しずつ焼却処分している所だろう。停戦が伝わった以上、今から行けば幾らかは回収できるかもしれない。

とか理由を付けて見る。

 

 そして遥か彼方、フランス・エリアの戦線にて。

ここで視点は海を越え、連邦サイドに。

 

「ブラック・プリンスよりエドワード三世へ。ア・ドライグ・ゴッホは朽ち果てた。繰り返します、赤竜は朽ち果てた」

「ふむ。プリンセスの寄こした予定通りか」

 単純な暗号は伝達が速い。

まして予め予想された推移であれば。

赤竜は連邦、白竜はジオン。そして倒れたのであれば戦死、朽ち果てたという言葉は……。

「それにしても敵前逃亡とは。……これでコリニー閥は終わりだな」

「司令部を移して最後まで迎え討つ可能性もありました。その前に処分されたのかもしれません」

 どちらにせよ、同じことである。

本拠地を移さずに戦えばそのまま、移す様ならばと保険を掛けて居ただけの事。

 

「まあいい。ケラーネ少将に停戦を申し出ろ。欧州での戦いはこれまでだ」

「はっ!」

 男は指示を与えると、そのまま紅茶に口を付ける。

これから向かう先を思案しながら、女性陣に絶大な支持を受ける笑みを浮かべた。

「ナチス・ドイツよろしく南米に逃走と言うのはいただけないな。しかしアメリカの司令官はこう言っている。アイシャル・リターンとね」

 そういって酒の代わりに紅茶を掲げ、戦死者の為に少しの間だけ祈った。

 

●技術の系譜が見えないモノ

 ベルファスト基地の兵器工廠で、接収したモビルスーツの接見を始めた。

その時に思った感想はただ一つ。

 

(なんぞ、このオーパーツは……)

 ルナチタニウム製のメインフレーム。

それが標本の様に固定され、脇には融合炉や各種パーツが野晒しにされていた。

融合炉から出るエネルギーを各部に送り届けるエネルギーチューブ。

そして各種命令を伝えるコードや、冷却系のパイプなどが筋肉の様に添えつけられている。

「ガルマ様……このモビルスーツ……」

「ああ。一体、どうやってこの発想を採用しようとしたのか、思い付かん。いや、何故、許可を出そうとしたか…が判らない」

 モデルにしている筈のザクと比べて、あまりにもかけ離れた発想。

勿論、このあと何年もすればこうなる程度の乖離だ。

順調に発達したならば、人体を模してこうなることは自明の理である。

 

 だが、現状に発展を重ねて積みあげて行く技術が、一息にここまで発展するものだろうか?

ましてや連邦軍が、開発技術に劣っている側が、現状を無視して段階をすっ飛ばすだろうか?

だがその答えは、壊れた完成品の様子を見ることで容易く証明されたのである。

……それも、最悪の形で。

 

「ガルマ様! こちらをご覧ください!」

「今行く!」

 爆発で転がって居た陸戦ジムを起こして並べ直すと、その答が判明した。

隣に居るアイナは口元を抑えて驚愕を隠して居る有様だ。

自然とその肩に手が伸びるが、下心よりも、自分が冷静になりたいから近く居る誰かと触れあいたいと言うのが笑えて来る。

「そんな……。ジオンで決定されたばかりの技術なのに……」

「判って居たことだが、相当に深い場所にスパイが居る様だな……」

 そこにあったのは、改修中の機体。

それも『バックパックが交換可能』な様に改められた機体だった。

どうやら先ほどガンキャノンと陸戦ガンダムだと思っていた機体たちは、どちらも同じフレームだったらしい。

こちらのザックに加えて、武装の違うザック、降下用のパラシュートザックを加えているように思われた。

そういえば、コンテナザックもあったか。

 

 ヨーロッパでの戦いを終え、スペースノイドの勝利に一歩近づいた筈だった。

だがこの光景が、暗雲とした未来を見せつけられたかのように立ちはだかったのである。

 

「アマダ中尉……いや、大尉。話がある」

「なんでしょうか、総司令!」

 私はこの事態に、可能な限り急いで対処する事にした。

現在の地球方面軍は、所詮は仮物の部隊でしかない。

私自身が直接コントロール可能な権限も、所詮は一遊撃部隊の司令官くらいで、良くて地方一つを任される程度だろう。

「アイナと共に私の側近になってくれないか」

「俺が……いや、自分がでありますか?」

 薄々と思っていたことだが、私は相談する相手が居ない。

公私ともに相談する相手、軍務について相談する相手、これからは政務に付いてもそうだろう。

その点、アイナとシローは私に近い立場であり年齢であり、戸惑う事も似たようなことだ。

 

 ついでに言うと、二人を引き抜けばウルフ・ガー隊も解散同様にできる。

人事権をもらえるならば自分の元で編成し直すし、じゃあ引き上げるわと言われたら戻せばいい。

できるだけキシリアやギレン直属の部下は、管理し易い状態にしておいた方が良いだろう。

 

「宇宙の目の届かない地上で、ザビ家を監視する者も必要だろう。ジオンへ協力するサイド2の民に対してお願いする」

「悪行を行さないか見張れという事ですか?」

 そう言うことだと頷きながら、アイナの方を見る。

彼女は監視と言うよりは、ギニアスとの繋ぎと言う意味合いが強いと思っているだろう。

事実その通りだが、技術開発に関しての疑問が生じたばかりだ。

ギニアスもキシリアに恩義があれど疑うだろうし、同レベルならばこちらを取る可能性の方が高い。紹介したのは私だし、キリシア閥も彼を信じまい。

 

 それになんだ。可愛い子が近くに居てくれると嬉しいな……。

それが良く知らない相手よりは、見知った相手の方が何倍も嬉しい。

 

「もちろん全てを押しつける訳では無いさ。軍務であればグレーデンやジャコビアスが居るし、艦の運営に関しても同様だ」

「そう言うことでしたら、不肖の身ですが、よろしくお願いします!」

「私も協力させていただきます!」

「おお! ありがとう。私も未熟だ。共にスペースノイド独立の為に頑張ろう!」

 部隊に関しても少しずつ信用出来る相手を増やして行くべきだろう。

うちの問題児もだが、もし取り込まれて居なければ、シーマ様と海兵隊辺りはどうだろうか?

反乱を疑われない程度のペースで、だが、何かあった場合に新生ジオンに近い形で部隊を用意しておく必要があるだろう。

 

 なぜならば、あれほど技術を平然と連邦に引き渡す様な介入者がジオンに居る。

そいつらが何をするか、全くの未知数なのだ。

良い世界を築くのであれば協力するし、そうでないのであれば対抗せねばなるまい。




 という訳で終了なのですが、クリフハンガー的に終わってみました。
第一部終了ですが、やろうと思えば第二部が出来そうな感じで。

●パープル・メイデンと愉快な仲間達
 ザンジバル級ザンジバルと黒い三連星なのですが……。
彼らは此処に居てはならないので偽名で参加しています。

 元はキリマンジャロに連邦軍の精鋭が居たので、戦力増強が不可欠だったから。
なので習熟航行を兼ねて降下ポイントまで護衛していた中の彼らMS教導団が、援護に地上に降りて居た感じ。
終わって引き上げるかと、直ぐに使える宇宙港目指して北上して居ると、リリーマルレーンが狙撃された話を聞いた訳です。
いやー、偶然って怖いですね。

●ブラック・プリンス中隊
 戦技研所属の試験中隊で、モルモット小隊もその一つ。
派閥が違うのでベルファストからヨーロッパに派遣されることも、手元で射撃訓練とかしてませんでした。
お陰で基地を巡る攻防には巻き込まれず、なんとか無事に脱出した摸様です。フォルドとかテネスも居るかもしれませんね。別方面かもですが。
 ちなみにガルマとの交渉に出ようとしたのも、ガルマが見逃したのも厳密にはアウト。
しかし戦場では『お互いに見なかったことにしようや』と暗黙の了解でスレ違い、交戦が無かったことにになるのも良くある訳で。
命令系統が違うので『何としてでも生きて技術を継承しろ』という命令に従った形です。

●コールサイン、エドワード三世
 コリニー閥とは違う人だけど、微妙に近い人でもある。
ベルファスト基地でコリーニ閥の司令官がやらかしたので、息が掛った部隊とかを吸収して撤退したそうです。
何故、基地司令が司令部の移動を試みる時間があったのか、次席指揮官が『聞いてナイヨー?』だったのかは不明。
その正体は多分、紫ババアの事をプリンセスと言える紳士です。

●オーパーツ
 ガンダム・フレームもどき。
これへ別途注文で作られた、高性能パーツや、新しく実験されているRX-78系パーツで構築。
ジオンはバックパックだけだったが、頭もコンパッチブルで選択できる。
おかげで陸戦ガンダム、陸戦ジム、陸戦ガンキャノンもどき。
およびその量産型が、比較的簡単に組めるそうです。

●新生ジオン
 実際に反乱を起こす気はありませんが、正当ジオンとかティターンズが結成された場合。
ガルマは何もできないし、身内を信用できない状態が続きます。
そこで徐々に信用出来る人間を増やし、地球方面軍の主力にする予定です。
フレームの概念を使って、新しい物を作るかどうかは不明。

イアン・グレ-デンはin、ジャコビアスは後にキマイラ隊に参加するので躊躇。
ただ、ガルマを護れなかったかららしいので、じゃあ声を掛けて見るかーな感じ。
これは反乱疑惑のあるブーンさんも同様ですね。キシリアから遠ざけられているならば、声を掛けるか程度。
なお、トーマス・クルツはトーマス・クルツなので、問題児たちと同レベルの扱いです。

●問題児たち
 オリキャラなので放置してましたが、簡単に説明。
語る気はまるでなかったので、不用なくらい、かなり設定を盛っています。
そのまま記載して居るだけなので、第二部があったら、まともなレベルまで削るでしょう。

1:アーサー・P・キング。『ブラックタイガー』
 スラム出身の黒人で、スポーツだけなら究極超人。
バレーもバスケもベースボ-ルも、アメフトだろうが圧倒出来る。
スラム出身者のリーダー格でもあり、上司の言う事をまるで聞いていない自信家。
 載って居た機体は双鞭のS型で、前後左右・上下を問わずに行動出来る。
ノリス大佐は彼が想像する、『モビルスーツを完全に制御する未来の自分』ゆえに目標。

2:アレックス・フィラデルフィア。『韋駄(イスカンダル)
 混血児と混血児の息子としか判って居ない捨て児で、孤児院出身。
親はフィラデルフィア出身らしいので、苗字代わりに付けている。
赤毛のトレッドヘアでサングラスと髭面がトレードマークだが、女顔で童顔の反動である。
肉体的には並みだが、天性の直観とバネを兼ね備えており、短時間なら上述するキングより上。
なお頭の中身は非常に残念で、直観と共に行動し、脊髄反射の生物でもある。
 載って居た機体は盾三枚のS型で、何も考えずに突撃して居るとしたら彼である。
ノリス大佐は彼にとって、居たらいーなーという親の象徴でもあるようだ。

3:小田・波太郎『コナミさん』
 古い家柄ではあるが、特に名家ではない。
うるさいシキタリに囚われている割りに、特に力の無い実家が嫌で飛び出て来た。
職人タイプなのでのめり込んだ事に対しての才能はあるが、今は移り気で色々こなして居る。
三人の問題児の中では一番大したことが無い理由でグレているだけで、その分だけ能力も大したことが無い。
一番の小物であり、一番話が通じる相手。たぶんガルマとも話が合う。
なお、彼だけがニュータイプの才能が隠れているというオチ。


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外伝:一時の平和とその影で

●戦後処理と、再編成

 ヨーロッパ戦線は無事に収束を迎えた。

暫しの停戦の間に、ユーリ率いる主力をロシアの守りに向かわせる。

後はザンジバルさえ修理できれば……という状態なのだが。

どうしても介入者の存在による、新たな火種が不気味に感じられた。

 

「まさかとは思いますが、そういう事でしたら……。あの二人には早い段階で声を掛けるべきだと思います」

「私もそう思います。兄やシーマ様はむしろ本部の結束が固まってからの方が良いかと」

 シローとアイナを側近に迎えて、最初に懸念を話した。

勿論あくまで、内通者が居るか、議会ですら反対する大事を企んでいるというレベルだが。

そして二人からは、司令部改め統括本部に務める、直轄部隊の隊長達にも話すべきかどうか、率直な意見が提案された。

「兄には目標が、シーマ様には家族とも言える部隊を養う必要がありますから」

「確かに本部の意見が一つにまとまって居なければ、勢力にすらならないからな。それなのに協力してくれとは言えんか」

 私一人ではいつ話を切り出すか。

イアン・グレーデンはともかくジャコビアス・ノードはどうするか。

色々と不安でいつまでも話さない可能性があるし、考える切り口も増える。

二人を協力者に選んで相談したことは、何よりの成果だったかもしれない。

 

 そしてウジウジと悩まずにさっさと行動する事が、成果を発展させる可能性もあるだろう。

何しろ私が動かない間に、連邦と内通した連中は、自分達の勢力を広げられるのだから。

ギレン閥であればガトー達をドズルの元から引き抜くだろうし、キシリアであればキマイラ隊やNT部隊などを、だ。

 

(シャアに付いても話し合うべきか。しかしその場合は正体を告げざるを得ん)

 その正体であるキャスバル・レム・ダイクンはジオンにとって爆弾だ。

時期によっては有効なカードにも、致命的なカードにもなる。

伏せて置いたままにしたいが、他の介入者が公開する可能性もあるので時限爆弾と言えるだろう。

「ガルマ様。どうなされました?」

「いや、大したことでは……」

「問題無いのであれば話していただけませんか? 我々はもう、一蓮托生ではありませんか」

 先延ばしにしようとした所で、アイナが気が付きシローが攻めて来る。

できればアイナに一蓮托生と言って欲しかったなーとか思うのは贅沢だろうか。

 

 ふうと溜息を吐きながら、どこまで話すか整理する。

そして息を呑んで決意を固めると、一気に話し始めた。

 

「ダイクンの御曹司がジオンに居る可能性がある。できるだけ放っておいてやろうにも、気付いているのが私だけとは限らん」

「それは……。確かに判断に悩みますね」

「でしたら、さしあたっては匿うと約束するとして……その方の為になることに協力してはいかがでしょうか?」

 悩む事に同意するシローとは逆に、今度はアイナが攻めて来た。

難しい事を言ってくれる。私に殺されろとでも言うのだろうか。

「さすがにそれは……。っ!? いや、その通りだ。アイナ、よくぞ言ってくれた!」

「が、ガルマ様!?」

 発想の転換に至り、私は思わずアイナの手を握り締める。

その事にも気が付かず、彼女と手を繋いだことよりも想像した事に興奮してしまった。

 

 そうだ。シャアは思いつめて行動し、その後になって、むなしくなるタイプだ。

ならば介入者であると告げるかはともかくとして……。

事故で死に掛けた時、以前の自分は死んだとでも言っておこう。

言葉の綾ではあるが、精神的な死で価値観が一変し、宇宙市民のことはともかくザビ家などどうでも良い。

シャアが総帥になりたいなら後押しをするし、私を操りたいなら好きにしろと言うことにしよう。

 

(奴が嘘を見抜いたとしても、ガルマの中身が死んだことも、ザビ家がどうでも良いのも本当だしな。ドズルはともかく他の二人はアレだし)

 ギレンとキシリアはどちらかが介入者の可能性があり、そうでない方も極端な独裁者だ。

シャアが復讐するならばまあ、手を貸す事自体は悪くない。

少なくとも介入者を排除する段階で、どちらかとは戦わねばならない。

(問題なのは内通してるし、キシリアが介入者である可能性が高いことかな。その場合は奴を排除した時にシャアの正体がバレると、ギレンから一緒に始末されかねん)

 一番良いのはギレンが介入者で、キシリアと一緒に排除する事なんだけどな。

小説でもホワイトベース隊と手を組んでるし、話し合う余地があるだろう。

 

「いずれにせよコレは極秘事項だ。確証が取れるまでは誰にも内密……そうだな、協力してくれそうなランバ・ラルに会う事があればくらいか」

「了解しました。接触するとしても気を付けておきます」

 こうして内密の話を終えると、事務処理を行いながら今後の話を進めることにした。

 

●アプサラスの完成にも、発想の転換を

 ジャコビアス・ノードとイアン・グレーデンは、驚きつつも協力を約束してくれた。

やはりベルファストを落とした時に、明らかにありえない物を見た衝撃が大きかったこともあるだろうか。悩んで居た自分が馬鹿だと思えるほどだが、アイナ達の助言が大きかったと思おう。

 

 そして東欧から機材を回収したギニアスを迎えることで、流れは一気に加速する。

彼が仲間になれば、それなりの戦力になる。シーマ様も頷いてくれる可能性が高まる筈だ。

0083の時はスレているし未来への見通しが立たなかったが、今ならば綺麗なまま。

そして、こちらが正当派なのだから。

 

「連邦のフレームを見せてもらったが、面白いアイデアだ。君はどの程度を見込んで居る?」

「今の段階では数%。ですがこれは成果を積みあげるモノでしょうね」

 肝心の話をしたいのだが、まずは彼のネタに乗っておく。

不機嫌な状態よりもノリの良い時に話を持ち掛けるべきだし、私ならばアプサラスにGoサインを出すとすれば協力してくれる可能性は高い。

「機動性のみに絞れば相当な物でしょうが、全体では二割という所かな? しかし最大のポイントは開発力でしょう」

「その通り。フレームが自ら動くことで機動性が増すが、別個に開発して、幾らでも炉心やセンサーなどを搭載できる」

 まあ、一つ一つはその辺のモビルスーツでも可能だ。

無茶な機動ができるのは大きいが、黎明期の今は使いこなせるパイロットの方が居ない。

むしろ最初から入れ換え可能で、完成品を即座に組み付けられるのは大きいだろう。

 

「やはり面白いのは発想の転換でしょうね。これの流用を考えていたのですが、貴方に見せてもらったアプサラスでも応用できそうです」

「ほう……。それはどんな方法かな? 先にこのフレームを見た者の感想を聞きたい」

 やろうと思えば可変機も可能なのだが、絶対に脇道へそれるので黙っておく。

そしてアプサラスの話題に移すと、案の定、ギニアスはノって来た。

開発に関しては自分の方が専門家という自負はあるだろうが、発想の転換と言う言葉を出した後だ。実際にフレームという概念を見て、自分ならどう使うか考えているのだろう。

「そうですね。この計画にGoサインを出すならば、名目上はそのままアプサラス計画としてください。その上でアプサラス・ユニットをアイラーヴァタ、船体をインドラとでも名付けましょうか」

「船? それに、その名前は確か……」

 モビルアーマーの開発計画なのに、船の名前を出されてギニアスは面食らった。

だがインド神話から取ったコードネームを思い返す事で、少しずつ理解を強めて行く。

 

 そう。アプサラスは別に、モビルアーマーである必要はないのだ。

ジャブローに直行できる移動力、周囲を薙ぎ払えるメガ粒子砲以上の火力。

それを兼ね備えるのであれば、別に軍艦でも構うまい。

 

「ははは! なるほど、それならな今すぐにでも炉心と砲門を用意できる!」

「その通りです。そして少しずつ小型化してモビルアーマーに搭載しても、メガ粒子砲を越えるハイパーメガ粒子砲として『ザンジバルに接続』しても良いはずです」

 ザンジバル改にカーゴベイが接続された様に……。

別にメガ粒子砲を強化して搭載しても良いじゃない。

炉心・ミノフスキーユニット・砲門と最初から揃っているし、後は改良を重ねるだけだ。

(まあ、アーガマのハイパーメガ粒子砲がモデルなんだけどな)

 小型化に始まって、収束しての貫通攻撃、あえて収束させない拡散型。

その辺の制限を付けず、少しずつ改良を重ねて行けば良いだろう。

 

 全部を一遍に改良しようとするから開発が遅れるのだ。

まずは戦艦の追加砲台から初めて、砲門だけをひたすら改良すれば良い。

エネルギーの安定やら何やらで困って居ただけのギニアスだ、早期に何とかしてくれる可能性は高い。なにしろ、スキウレ砲レベルの技術は既に開発済みなのである。

 

「……では本題に入ろう。どうすればアプサラス計画を認めてくれる? いや、ザンジバルを解体する許可をもらえるかな?」

「アイナからある程度は聞いていると思います。私はジオンを立て直したい。反乱軍ではなく、私に付いていただけるなら、戦略目的と手段を入れ換えても良い」

 ニヤリと笑って私達は握手を固めた。

こういう時、マッドは話が早くて助かる。

勿論、期待を裏切らなくてもパトロンの掛け持ちくらいは平然としそうなので、注意が必要だが。

その意味で爺やであるノリスが居るのはありがたい。

「損傷して居るザンジバルの片方を二個一で、先に完全修理させるといのはいかがでしょうか? これで本国への名目が立ちます」

「それならば分解するのはケルゲレンの方が相応しいな。この際はカーゴ・ユニットもバラして、リリーマルレーンをザンジバルⅡに近い形にしてしまおう」

 カーゴベイからカタパルトを外し、リリーマルレーンへ設置する。

その際に大型ミサイルを外す必要があるが、ガウも必要として居ないし問題無いだろう。

そして分解したケルゲレンはドック入りということで、ベルファストの追加炉心とすればいい。

 

 ついでに言うと、どっちを先にするか皆で悩んで居る状態だ。

リリーマルレーンを推薦すれば、シーマ様に少しでも貸しができるかもしれない。

あとは新しいマハルを建設する可能性が出た時に、協力すると言っておくことにしよう。

 

「それで、残ったフレームの方はどうする? 本国にはもう送ってあるのだろう?」

「ええ。連邦に撃墜されない為と称して、複数ルートでドズル兄さん宛てに。……そうですね。一存では決められませんが、色々試してしまうとしましょうか」

 フレームと壊れた陸戦ジムを、もみ消されないようにして本国へ送った。

それでもまだ数機分はある。試せるだけ試しておけば、実験くらいは可能な筈。

ルナチタニウム製のフレームは増やせないにしても、いずれ超鋼スチール製のフレームなら生産出来る日も来るだろう。

 

 やはりここはドムやゲルググを前倒しにした設計を頼んでも良いが……。

モデルにするとしたら性能重視のザクⅢか、装備優先のゼク・アインやギラ・ドーガというのもアリだろう。

どうせ今はザクを基準に少しずつ進めて行くしかないのだ。

ヨーロッパの統治を混乱なく進めるだけでも手いっぱい。ゆっくりと、だが確実に進めて行くとしよう。

 




 という訳で戦後処理です。
ベルファストにあるビックトレーを接収、ダブデの生産中止。
ペガサス級は分解してデータ収集予定。この辺は陸戦ジムの残骸やなんかも同じ。
無事な機体やフレームの一部は、本国送りになっています。

 その辺を認める代わりに、ヨーロッパ戦線の戦力は無事にインド・中国へ。
一部はオーストラリアに渡ったり、連邦側の基地から宇宙へ上がっていることでしょう。
連邦側の介入者も状層に逆らう様子を見せて無いので、どこで戦力を集めるかは不明。
 とはいえギレンの野望風に何か起きるとしたら……。
オーストラリアと宇宙基地のどこかで反乱残すんでしょうね。
同じ様にジオン側も、グラナダとオデッサと……と言う感じだと思います。

●幕僚と軍団の編成開始
 アイナとシローが居るお陰で、早期に決断が出来ました。
イアン達もですが、もしシャアと会話する機会があれば協力を要請するかもしれません。
とはいえ第二部があるかは不明なので、あくまでその決断をしたくらいです。
どちらかといえば、アイナの手を握る方が目的。
凄い発想の転換でもしないと、握り締めるとかしないでしょうしね。

●アプサラス計画
 モビルアーマーではなく、ザンジバルで実現します。
改ザンジバル級『インドラ』と、砲撃ユニット『アイラーヴァタ』
と言う感じで改修が行われ、もし小型化したら改めてアプサラスと名前が付くかと。
あるいはガルマが夫であるガンダルヴァ、アイナが嫁であるアプサラス……とかいう合体マシンかもしれませんが。
 これは08小隊が劇中作だった場合、アプサラスの正体ってザンジバルだよね……。
だってⅢとケルゲレンはほぼ同時に落ちてるし……とか思ったのが発想の始まりです。

●フレームの使い道
 オーパーツ過ぎて何に使うか決まって居ません。
頭・バックパック・腕部の武器とか、色々入れ換える実験はすると思いますが
・ドムトローペン・Ⅱ
・ゲルググA・B・C
・ハイザック → マラサイ → サクⅢ
・ゼグアイン → ギラドーガ
この辺の知識を元に、ゆっくり話し合うんじゃないでしょうか?
テスト機ができても。間違いなくガルマは乗らないと思います。本人普通なので。
 ないとは思いますが提案がある場合は、感想では無く、メールや活動報告でお願いします。

 ちなみにジオン本国では
S型生産終了 → JS型・RS型設計終了 → ドムの骨格が組み上がるかどうか
(ホバーはまだ完成してないが、ハードポイント制なので何とかなる)
と言う感じで、フレームという概念に阿鼻叫喚中。
どの道、取り入れるとしてもゲルググからですね。
下手にドムに取り入れると、設計のやり直しになるんで。


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外伝:ガルマの野望?

●状況のビリヤード

 もう一人の介入者は内通者でもあった。

出し抜かれている事を理解するにつれ胃が痛くなるが、同時に面白さも感じていた。

地球連邦と戦いながら、根を上げるまで何とか戦い抜く。

そんな地味な作業はつまらないし、本当に講和が可能かも判らないからだ。

 

(だが内通者達が一騒動してくれれば状況が変わる可能性がある。……何より変わったイベントって楽しいもんな)

 SLG系のゲームで一番楽しいのは群雄割拠だ。

いわば、ガルマの野望と言うところだろうか?

もちろん信長ならぬ連邦相手の、圧倒的な相手を何とか迎撃するのもアリだが、ワクワク感の点において大きく劣る。

「考え方を変えるんだ。出し抜かれて追いつけない事を嘆くべきじゃない。むしろ悲劇が起きたり、取り返しのつかない大失敗になることを未然に防ぐべきだ」

 そう思えるならば覚悟が決まって来る。

今の状況を最大限に楽しめばいい。二度目の人生だ、短く太く後悔の無いように生きたいしな。

ゆえに悲劇が起き得るならば、それを回避し、大失敗を防ぐべきなのだ。

「悲劇を防ぐ……ですか?」

「口に出してしまったか、すまないアイナ。……単なる考え方の問題無いんだけどね」

 トントンと机を叩きながら考えをまとめる。

さすがに現状を愉しむとか不謹慎だし、言い方を考えないと正しい理論でも悪になるものだ。

 

 それこそシャアの正体なんて、ジオンにおけるラプラスの箱だしな。

反乱予備罪みたいなもんだから黙って居ることが罪になるが、ダイクンの子が英雄として帰って来るなら大したことでも無い。

誰が公表するかで大義名分にも、反乱容疑の証拠にもなってしまう。

 

「例えば内通者が権力闘争しか考えていない場合。放置して連邦に負けるのは困る。しかし功績争い程度ならば別だ」

「それはそうですけど、その程度にしては規模が大き過ぎます……よね」

 放置しても良いレベルでありえない例を出してみるが、当然ながら頷く筈も無い。

ワザとお出したと判って居るからこそ、アイナも否定として返したりはしなかった。

「逆に総帥閣下自らが一時的な優位の為に企画されたとしても……。目的がルナツー落としやソロモン落としならば、かなり条件が変わってくる」

「隕石落しですか!? 総帥閣下自ら内通などあり得ませんが、確かにソレが目的ならば……」

 ブルリとアイナが顔を青ざめる姿を見て、我ながら意地悪を言ったと反省する。

大虐殺どころの話ではないし、総帥自ら内通する筈が無い……という理屈を根底から覆す案でもあるからだ。

逆シャアやギレンの野望を見ている介入者ならまだしも、普通の人間であれば驚くどころではないだろう。

 

「もっとも、そこまで総帥閣下……いや兄上が地球人類に絶望していないと思うし、ジオンの理想を追い掛けては居ないと信じたいところさ」

「脅かさないでくださいガルマ様……」

 まあ介入者の話抜きで、シャアを説得する時の理論だからな。

キシリア以外にもギレン自ら内通して居る理論としては、他に考えられなかった。

同時にギレンがジオン・ズム・ダイクンの理想に準じる狂信者だと言えば、少しは恨みも下がるかと思っただけの話だ。

「でも、もし、もしです。その時があった場合はガルマ様はどうされるのですか?」

「私は私の大切なモノの為に戦うさ。全てを守り切れるほど私の手は広くない。……これでいいかな?」

 発見できてない盗聴器があるかもしれないので、余計なことは言わないでおく。

ここまでは聞かれても、ギレンがジオンの理想に共感して居るかもしれない。と言う程度の推論だし……。

 

 あれ、なんでアイナが顔を赤らめて居るんだろう。

……まさか。アイナ(達)を護れる方に付くと聞こえたんじゃあるまいな。

いや、あながち間違いでも無いが。聞くのは躊躇われる。

 

「ゴホン。次に他の誰か……キシリア姉上や、他の将軍である場合だな」

「……は、はい。他の将軍閣下達ですね」

 少しだけ見つめ合った後、くだらない話をしたとでも言う様にワザとらしく咳をしてしまう。

返って恥ずかしくなるが、無視しておこう。

それになんだ。その気は無いと確信されて、シローに走られるよりは良い。

アイナと添い遂げる! なんて劇中のシローほど素直になれそうにない自分が恨めしい。

「一番まずいのは、焦って我々自身が反乱軍にされること。内通者と違って、その準備もないからね」

「……では準備があれば、その可能性もあり得ると?」

 無いという結論の為に、アイナは聞いてきた。

もちろん首を振って否定しつつも、可能性がゼロではないことは示しておく。

尼子の新宮党ほか、忠義があるのに反乱分子にされた例は割とある。

いや、讒言によって内部対立を利用されるというのは、良くある話だと行っても良いだろう。

「事前に総帥閣下へ申し送りして、反乱分子に対してカウンター・クーデターという意味では可能性も無くは無い程度かな」

「現状では総帥閣下と連絡を取るのも不自然ですものね」

 まあ、その意味であり得ない方向だろう。

キシリアの可能性が高いとは言え、強行してギレンを速攻で討たない限り無い選択肢だ。

 

「では、ガルマ様が考えられておられる本命はどのような可能性なのでしょう?」

「内通者が連邦側の内通者と手に手を取って、第三勢力を作ることかな? この場合に避けるべきは、消耗して連邦に負けることだと思う」

 ZやZZに始まって、ギレンの野望におけるIFルート。

それらでは第三勢力、第四勢力などが群雄割拠する可能性がある。

こういってはなんだが、キシリア……と推測される内通者が考えているのはコレだろう。

「第三勢力……その様な可能性があるのですか?」

「可能性としては……ね。だけれど、流石に何を目的にするかはサッパリ考えつかないんだけど」

 連邦側の介入者があちらの内通者であれば、実現する可能性が高い。

もちろん純粋な反乱ではなく、ティターンズやエウーゴのような、命令系統からの離脱である可能性の方が高いのだが。

アニメやゲームで見たから可能性がある……と信じているかは別にして、連邦が倒せる目が出て来るからだ。

 

「連邦がジャブロー以外で掌握して居る重要な基地を拠点にしたらどうだい?」

「……っ!? 確かにルナツーが連邦政府から離れれば、状況は一変します。そう都合良くは行かないと思いますが、インド亜大陸であればこちらが有利になる事も……」

 キシリアがグラナダとオデッサのみだと仮定しても……。

例えばルナツーを連邦側の内通者が奪ったら?

あるいはインド……いや、オーストラリアの方が怪しいだろうか?

あそこには刈田狼藉を行うハラスメント部隊が居る筈だが、キシリア閥である。

アデレードなり今回は生き残ったシドニーを拠点にするティターンズもどきが出来上がった場合。

連邦の食糧生産は、ジャブローに大きく依存する事になるのだ。

 

 そうなれば連邦政府も命令系統を離れた部隊を黙認せざるを得なくなる。

すくなくともその場合は、北京・インドからの部隊がヨーロッパ・アフリカを奪還するまで続くだろう。

そしてオデッサにマ・クベが居るならば、オーストラリア方面軍は動かない可能性すらあった。

 

「オーストラリア方面軍の内情が知りたい所だな。もしそこの司令官が協力者であれば、マ・クベの処分は考えた方が良い」

「確かヨーロッパ方面の敗残兵をまとめられた方の筈です。ケラーネ少将がお会いしたかと」

 そういえばベルファスト陥落後に速攻で交渉をまとめたんだっけ?

こうなって来ると怪しくなってくるな。

ユーリもキシリア側なら少し話も変わってくるが……どうだろ?

流石にそこまでキシリア閥が浸透しているとも思いたくない。

むしろギレンが本当に隕石落としを目論んで居て、殉教者を買って出ている方があり得ると思う。

「ユーリにはそれとなく聞いてみて欲しい。それと同時に、今言った可能性をこちらに付いた将校たちにも検討してもらってくれ」

「了解いたしました! 目立たぬよう、早急に連絡を取り合います」

 お互いに頷き合いながら、スケジュールの確認をする。

この後で例のフレームに関して、ギニアスと話をする筈だ。

たしか陸戦ジムをバラす前に、シローやノリスに乗らせてみるという話だったはず。

「ギニアス達にはこの後で私が話をする。残りのメンバーを頼んだぞ」

 こうして渡した予定を繰り上げ、アイナと二人っきりで事務を片付ける作業を早急に切り上げた。

 

 もし私が迂闊だったとするならば、アイデアというものは思い付いた段階が終了ではないということだ。

料理漫画で良くある様に、そのアイデアを踏み台にして更なる改良をせねばならない。

もし、この時に発展するアイデアに気が付き、キシリアに出し抜かれない様にしておけば……。

随分と話は違った物になっただろう。マ・クベの件を思いつけたように、判断材料はゼロではなかったのだから。

 

●ビーム脳

 もしこれがSLGであれば、軍師が提案して来るシーンだろうか。

知力90を越えているが知謀はそこそこのギニアスのことである。

内通者の件は頷くだけ頷いておいて、さっさと技術開発の話を始めてしまった。

 

「この間のフレームなのだけれどね。載せれるだけ強力な炉心を載せて、ビームキャノンを試そうかと思うんだが」

(そんなにアプサラスが好きかー!?)

 このアホはせっかくの戦利品を使って、全力で自分の実験がしたいらしい。

いや、まあビームキャノンならばゲルググのキャノンザックとかあるから、言いたい事も判るけどな!

「構造ごと決定してしまうのはまだ早いでしょう。ですが……そうですね、キャリフォルニアから水冷式の提案があったと思います。水中用モビルスーツのデータを回してもらいましょう」

「ああ……。確かに水冷式の方が早いか。確かに水中用ならばフレームは必要ないし……であれば……」

 駄目だこいつ、早く何とかしないと。

ギニアスを味方に付けたものの、自分本位な性格は全く治って居ない。

もし宇宙に居た頃から地道に話し合っていれば、もう少しまともな性格をして居ると思うのだが。

いかんせん、時既に遅しである。

 

「水冷式エンジンを使った機体で、陸戦を考慮するもの。水際で砲支援を行う物など考えて居るはずだ。こちらで砲支援型の担当を申し出るのはどうかな?」

「ああ、良いですね。それならば得られた成果を他に回せると思います」

 こう言う感じで誘導すると乗って来るし、即座に提案できる辺りは流石ではある。

できるならば最初にそっちを思い浮かべてほしい所だが、まあジオン水泳部を知らなきゃ難しいか。

ただ、こちらでも開発しておけば、キシリアが独占する事は無いだろう。

こちらの情報欲しさに、反乱前ならばあちらで開発するモノと交換出来る可能性は高い。

「それとフレームに関しては三案をまとめました。今まで通り、可能な限り高性能機を組み上げてから、ハードポイントで研究をしましょう」

「ふむ。それに異存は無いが、どのような案かな?」

 かなり疲れた気がするが、ここで黙ったら次の時には勝手に決まっている可能性がある。

仕方無くアナログ用紙を用意して、簡単な説明付きで話す事にした。

 

「一つ目は可能な限り機動性を高め、エース用にしつつ、一般兵の時はオートバランサー強化型のザックを取り付けます」

「完全な性能重視型か。まあノリスならば使いこなせるだろうし、バランサー以外のザックを取り付ければ色々と試せるな」

「はっ! 鋭意努力いたします!」

 ノリス!

いや、お坊ちゃんを助けるのが爺やの仕事なんだろうけどな。

仕方無いので隣で直立不動して居る、シロー君の方に目を向けて見よう。

「あの……。連邦の新型が使っていたビームサーベルを使える程度を基準にしてはいかがでしょうか?」

「それだ! ノリスならばビームサーベルでも良し、あるいはジェットパックでも良しだ。うん、良い感じだな」

 シロー裏切ったな……。

というか、お前の意見をくれ……じゃなくて、ギニアスを止めて欲しかったんだが。

まー。ノリスにビームサーベルなら鬼に金棒だから基準としてはいいか。

本家グフカスこと、B3グフのやや上くらい?

あるいはギャンの高機動型ってとこかな。……ケンプファーの試作型でもいいけど。

 

「次はビームキャノンまたは、ビームバズーカが使える出力を前提にした物。そこを基準に余裕が出来るごとに、他のビーム兵器を試しましょう」

「そういえば連邦は既にビームライフルの試作を始めているそうだからな。無理に片手持ちを目指すよりも、その方が堅実だろう」

 既にモノがあるだけに、これは安定化・確実化だけですむ。

アプサラス計画で得られるデータとも共有できるし、ギニアスも乗り気の筈だ。

現状は延長砲身・追加ジェネレーター・専用ザックの三つが必要だが、せめて二つにしたい。

こちらはゲルググやハイザック……といきたいが、むしろ路線的にはゲルググ・キャノンや、ゲルググ・イェーガーの試作型というところか。

何故いきなり砲戦型を目指すのか意味不明だが、ギニアスの興味の延長線なので仕方あるまい。

「三つ目は?」

「今までの技術の集大成で、生存性を高める装甲を前提に、様々な武装が使える機体を目指しましょう。低出力化が実現すれば、ビーム兵器も使えるのが理想的ですが」

 こちらはドム・トローペンから、いずれはゲルググ・マリーネや、ゼク・アインだ。

マシンガンやバズーカを使い分けながら、ビームライフルは可能だったらで済ませる。

最も現実的な姿であり、もし炉心の開発が上手く行けば、これが基本的なラインになるだろう。

そうなった場合は、最終的にギラ・ドーガに繋がるコンセプトと言えよう。

 

「あまり面白味は無いが仕方無いな。まあ現在のJSよりは高性能になるはずだ。キャノンザック次第でビーム兵器も撃てるだろう」

(あくまで第二案は砲戦用のテスト機にするつもりかよ……。第三案は小型化にしとけ)

 とはいえ連邦が高性能機体を出してくるのは確実だ。

ドムの設計もそろそろ終わる筈だし、ビーム兵器を前提にしても良いのかもしれない。

とはいえ本家ゲルググみたいに、生産が間に合わないってのは避けたいけどな。

「いずれにせよ、残ったフレームの数はそうありません。陸戦ジムを分解するにしても、同じ機体を使い回せるようにしておいてください」

「そうだな。ノリスに一機、アイナ……いやアマダに一機としておこうか」

 そこはグレーデンにでもしておいてください。

そうは思いつつも、イアン・グレーデンにするとやはりビームキャノンを前提にされてしまう。

やはり一般人に近いレベルで、シローが良いのだろうか。

 

 一通りの話が終わった後で、慌てて反乱軍の可能性を伝えたかどうかを思い返して行く。

そして三人に伝えた事をちゃんと思い出し、安堵したのであった。

 




 と言う訳で、状況整理回です。
無理に勝たなくていいんだ。
悪化を避けながら、勝利条件を探して妥協できる結末を探そう!
とガルマが理解した感じです。
第一部で言うと「ベルファスト攻略すれば優位に立てるよ
ね」と指示されたことを
自分で理解したと言う感じでしょうか?
もっとも反乱がまだ起きて無いので、何をすれば良いのかはまだ未定なのですが。

 なお、内通してる人やその協力者に関しては
反乱を起こして、状況を利用する。他のメンツにはそれで黙認させる。
とうのは既定路線。そこから何を思い付くか……が重要な状態です。
ガルマは料理漫画でアイデアを思い付いただけであり、この面で劣っている感じになりますね。

 あとはアイナってやっぱ好きだなー。
でも告白って難しいよなーと学生レベルでは自覚した感じです。
でもザビ家なんだし、声掛ければかなり可能性高いとか気が付いても
家の名前と地位で押すなんて外道だよなー。と自分で自分を縛っている感じですね。

●新型開発
 第一部でギニアスとの会話を適当に済ませてしまった事と、妙な妥協をした為に
押せ押せで行けば、ガルマはその内に折れる。
というのを学習されてしまっています。
アイナを差し出して居るというか、妹婿だからこのくらい聞くよね?
くらいに割り切っている感じですね。

現状はMS-09の設計が終了。
設計図と、先行生産ガワを送って来始めているので、それをフレームに被せる予定。
もちろん、それまでにザクのガワを被せて、B3グフに近い形状でテストはしてると思いますけど。
今のところ、シャア専用リックドム・ガトー専用リックドムみたいな感じです。
(B3グフに近いモデルは、エース以外操れないし、ビームバズを目指した方が早いので)
さっさとビーム対応の、ジェネレーター強化型ドムを試作する。
小型化が進めば良し、無理ならそのまま大型砲を使うよ……という時間を重視した路線とも言えるでしょうか。
まともに作り始めると、設計もまだなゲルググとか、ビームライフルって絶対に無理ですしね。


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第二部
第二部プロローグ


●決起の日

 物事と言う物は予想外になる事もあれば、予想の内にしか行かない事もある。

技術の進歩は後者にあたり、政治的な驚きは前者にあたるのだから歯がゆいばかりだ。

フレーム採用型のテストに立ち会って居る時に、その衝撃は訪れる事になる。

 

「同じモビルスーツを見ている気がしませんね」

「私には同じ様に感じられるが……。君らからするとそうなのだろうな」

 当たり前だが、進歩のペースが速まってもドムは最初の実機が完成もして居ない。

ガワと炉心だけ送ってもらうにせよ、まだ輸送中とのことだ。

仕方無いので先行して機動力にガン振りした試験機に、ザクのガワを被せた機体を眺めている。

「森での戦いで、連邦軍は木々や傾斜を含めて地雷の速度を計算して居ました。平原と同じ様に設定して居ては、いかにパッカード大佐でも怪しかったと思います」

「ああ、シローの言う事が何と無く判って来た。今のノリスであれば、平原設定でも地雷の爆発を置き去りに出来ると言うことか」

 もっとも、それも見越して即座の爆発だったら駄目なんだろうが……。

その場合はノリス以外の機体に対して、前面で爆発する可能性もあるからな。

08小隊でノリスが高速道の上で見せた、あの走行速度で走って居ると言えば判り易いだろう。

頭悪い表現だが、足音がズシンズシン! からズシズシズシ……と、言うくらいの差が出ている。

 

「ビームサーベルも外部ユニットに頼って居るし、流石に一朝一夕には行かんな」

「その辺の技術では連邦に劣って居ますからね」

 腕部のハードポイントに、ワイヤーアンカーの代わりにケーブルがある。

これが手持ちにしたビームサーベルへと延びているのだが、それでも陸戦ジムの未完成ビームサーベルと同じレベルだ。

まだ始まったばかりだとお互いに苦笑して居ると、アイナが血相を変えて飛び込んで来る。

「ガルマ様! 大変です! キシリア様が!」

「とうとう起きてしまったか! 試験はここで中止する!」

「了解です!」

 先ほどのどこか和やかな空気を置き去りにして、緊張が私達を押し包んだ。

事情が呑み込めない一般将校や兵士たちの間に、キョトンとした表情が見える。

何をそんなに驚いているのだと言う新人に近い連中も居れば、連邦が来たのかと僅かな間にスクランブルを整える熟練兵まで様々だ。

 

 いずれにせよ、連邦軍とだけ戦って居れば良い時間は脆くも過ぎ去った。

そして私は、自らの甘さと見当違いを呪うことになる。

こんなことならば、さっさと行動しておけば良かったと後悔する事になるのだ。

 

●行く先の差

 駆け付けた時に垣間見た映像。

そこにはゲームの中で見慣れた機体が映って居た。

もちろん細部は違うし、技術的には未完成だろう。だがその異様は忘れ難いものがある。

 

「あのモビルスーツは……まさか……」

「ガルマ様。『彼』がダイクンの遺児だったのですね……意外でしたが正直、納得もできます」

 電波ジャックによる放送の中で、キシリアは鬼札を切って来た。

己の反乱に正当性を与える為に、シャアをキャスバル・レム・ダイクンとして擁立したのだ。

それは良い、出遅れたが私も考えたことだからだ。

問題なのは……。

「ガンダム……。さしずめキャスバル専用機というところかな……しかし、何故」

「本国送りにした鹵獲品の陸戦ガンダムを改造したと思いたいですが、大いに怪しいかと」

「やはり連邦製力と繋がっているのでしょうか。これではギレン総帥も迂闊に動けないのでは?」

 まさか連邦側とのパイプを、これほど露骨に示して来るとは思わなかった。

確かに以外で驚きもしたが、これでは相手側も動き難くなるのではと疑うほどだ。

 

 とはいえ驚いてばかりはいられない。

さっさと現状把握を務めて、ダメージを最低限まで抑える必要があるだろう。

 

「キシリア派に付いたのは何処の基地だ? オデッサのマ・クベは軍を動かして居るのか?」

「いえ。それが……意外なことに地上軍にはありません。アクシズが同調したのには驚きですが」

「案外、総帥の派遣した調査隊に追い詰められてのことかもしれませんね」

 グラナダとアクシズを除き、大した拠点は無い?

追い詰められての暴発ならば、条件交渉での降伏で最低限の混乱で済むかもしれない。

そんな甘い事を考えていられたのは、連邦側の協力者の事を思い出すまでだった。

「……やられた! まさか木星航路を抑えるとは……。キシリア派の政治主張は何だい? 教えてくれないかアイナ?」

「あの、ガルマ様? 追い詰められての事では無いのですか? ……少々お待ち下さい」

 ホっとした表情に変わったアイナが、私の剣幕に押されて元の緊張感を取り戻す。

本当であれば、彼女の方が正しい。

ギレンは無能どころか恐ろしい相手だ。大規模な内通を働いておいてバレない筈は無い。

 

 だが、その時に備えてもう一枚手を打っていたらどうだろう?

連邦の監査部次第だが、内通者同士でそのまま独立後に合流する気なのだ。

表向きは敵対しないだけ、他のジオンとは戦う程度の緩い表明だろうが。

 

「要約しますと、人類同士の内輪もめを止め、本腰を入れて宇宙開発を行うべきである。人類はみなニュータイプとなって、戦争ではなく新天地の開発競争にこそ力を割くべきだと」

「後は御定まりの独裁政権や権力腐敗について。だそうですよ。民主受けしますが……」

「違う。それはジオン国民に向けた言葉じゃない。……連邦側の内通者が同調し易い話題にしただけだ」

 私はプリントアウトされた資料を手にしたまま、地図を指差した。

最初はルナツーに指を置いていたが、暫くしてゆっくりとグラナダ方面に動かして行く。

正確には、月面へ……だ。

「ルナツーで反乱を起こすのが上策だが、無理だった場合は何処に行く? 連中の宇宙軍はどこを落としてキシリア派と合流すればいい?」

「まさか……フォン=ブラウン!?」

「馬鹿な。大義名分がありません! フォン=ブラウンは中立都市の筈です」

 私は首を振って、今度は先ほどのプリントアウトした資料を掲げる。

その大義がコレだ。

良くある民衆に向けてのプロパガンダ。

コレを鵜呑みにして、敬うべき大義であると堂々と行動するのだ。

 

「あるじゃないか。一部の商社と繋がる権力の腐敗から始まって、やはり一部の名家を中心とした連邦政権」

「……その粛清に乗り出すと言うのですか!? 無茶ですっ」

 流石に腐敗した連中ばかりではないが、言い訳くらいには成る。

本部が商人どもと手を組んで、戦争を金の道具にして居るから従えない。

「だからこそさ。腐敗が無くなれば再び命令に服しても良いと、適当に妥協しておけば良い。そして同調が出易い状態で、弁護人も用意しておくんだ」

 もちろんその時は政治取引で、反乱ではないという扱いにする必要があるだろう。

後は自分達よりの政治家や軍人の一部を連邦内に留めたまま、後で弁護させれば良いだけの事。

無茶かもしれないが、エウーゴの様な前例があるのだから不可能性は無い。

他の連中には思いつかないが、介入者であれば十分に考えつく裏工作だ。

 

「それに……。連邦側の基地にはオーストラリアがある。食料と鉱山資源をジャブローだけに依存する訳にはいかない」

「あ……そうなれば連邦に残るのは、中国エリアとインドエリアです。鉱山資源はともかく……」

「もしかすると木星航路における連邦側の基地でも、同様の動きがあるかもしれません」

 つまり介入者達の連合は、月面から木星まで。

そして鉱山資源と食料生産力の高いオーストラリアを、効率良く所持して居ると言う訳だ。

宇宙でも地上でも主戦力は集中して居るし、場合に寄ったら序盤の核弾頭で被害を受けなかった連中を率いているのかもしれない。

「少なくとも、これで連邦政府の本部は我々と同じ土俵に立たされることになる。そうなれば戦局は一変する可能性は高い」

 厳密に考えれば基地周辺以外もあるのだから、そこまで国力は落ちて居ないかもしれない。

だが与えるインパクトは強烈だ。

特に政治家にとって汚職は爆弾であり、フォン=ブラウン占拠と共に出て来る資料次第ではかなり変わってくる。

 

「では連邦側にその推測を流さず、こちらも利用すると言うことですか?」

「隕石落としでも無い限り、敵を利する意味は無いな。それよりもマ・クベを呼び出してくれ。場合によっては奴と取引が必要だ」

「はっ!」

 こんなことならばマ・クベを放置するんじゃなかった。

連邦側の内通者と慣れ合いの戦いで、足止めしてくれるなんて勝手に思っていた自分を殴ってやりたい。場合によっては連邦政府の本軍が、オデッサ目がけて戦力を集中するかもしれないのだ。




 という訳で、第二部の開始です。
キシリアはギレンに尻尾を掴まれる前に、用意して居た第二プランで決起。
自分の正当性を高める為に、ジオンの遺児を担ぎあげる形でシャアを政治面での当主に。
戦力はグラナダに集中させつつ、連邦側の内通者と手に取る形で反乱を目論んだ感じです。

 まあそれがスムーズに入ったキッカケも、連邦側で内通者が上手く主流派になれなかったこと。
ルナツーとかインドとかでも司令官人事を奪えたら話は別だったのでしょうが、こちらはこちらで万全ではないので、第二プランと言う感じ。
まあ政治家や軍内の同調者が居た、エウーゴという実例があったので思いつけたのですが。

 オマケですが、シャアは早めに説得してればガルマに付いた可能性はあります。
しかしながらガルマの視点と立ち位置ではあ、匿う以外に使いようが無い。
ギレンにキャスバル探してきてから、キシリアにぶつけるとでも提案すれば別なのでしょうが、そんな時間も無いのでこうなりました。

●エリア
連邦本部:
南米、東アジア、インド、インドシナの一部、アフリカの南部、ルナツー

ジオン公国:
サイド3、ソロモン、ア・バオア・クー、パックス・ローマナ(ヨーロッパ全域・ロシア・北部アフリカ含む)、北米

連邦別派:オーストラリア、フォン=ブラウン、火星・木星方面
キシリア派:グラナダ、火星・木星方面
(アクシズは移動させてません。というか、イザとなれば逃げ込む候補)

各サイド:ジオンよりというよりは、アンチ連邦に傾きつつある
(心情的には、キシリア派の掲げた大義名分を信じたいが……というところ)

●主力
連邦:ザニー、先行量産ジム、陸戦ガンダム・ジム(最大数に限りあり)

ジオン:ザクJ型、ザクR型(F型が無いので、原作ほどエース寄りではない)

連邦別派:先行量産ジム、陸戦ガンダム・ジム(少数だが、フレーム採用)
キシリア派:ザクR型、ザクR型改(少数だが、フレーム採用)

●技術
連邦:
 ガンダムの開発に成功の目途が経つ、大量に作ったガワを使ってデータ収集中
ジムの開発そのものは、早期開発に成功する目途がたった

ジオン:
 ドムの早期開発に成功。今から組み上げて試験、上手く行ったら量産する所
ゲルググの開発は、原作と違う意味で間に合うか不明

連邦別派:
 独自開発はフレームのみ。後はコレを既存技術に使って応用予定
余計な事をする余裕は無いし、する必要も無い

キシリア派:
 フレームの概念を手に入れた所。割り切ってドムにフレームで妥協予定

こんな感じですね。
細かい所は色々あるでしょうが、あくまでガルマの把握できる範囲でということで


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第二部・第一話

●マ・クベという男

 通信でマ・クベを呼び出した。

まずは彼が信用出来るのかを確かめなければならない。

もちろん真っ黒に違いないのだが、計算に基いてこちらに協力してくれるかが重要だった。

 

 地上に拠点を設けず全てをグラナダに集中。

マ・クベの役目はこちらとのパイプ役であり、同時に情報その他の収拾役ではないだろうか?

そしてオデッサでちょろまかした資材や、ジオンの技術などを連邦側の内通者経由で送るのだ。

そのコネクションを活かす為には、ガルマ率いる地上軍が簡単に潰れては困る筈。

 

『私は知らなかったのです……』

「そうだとも。長年の付き合いがある私ですら、もしかしたらと思う程度だったからな。眼力やメンツに関して、君が気にする事は無い」

 複雑な表情は嘘とは思えない。

もしシャアの事を知らなかったら、その演技に騙されたかもしれない。

「それよりも、だ。オーストラリア方面で足止めさせている部隊の回収を急げ」

『……私を信じてくださるのですか?』

 私は肩をすくめるしかない。

信じるも何も、最初から既定路線だと思う他ない流れなのだ。

キシリアが私を都合良く利用し、上手くコントロールする為にこいつが居る……と。

 

「信じているさ、姉上の先を見る力を……ね。私を支える為に君を残してくれたのだろう?」

『ガルマ様……』

 何とも言えない表情をマ・クベは浮かべている。

まあ、そうだろう。

私は相手を信用させるカリスマなど持っておらず、だからといって無知とも思えない。

何を持って自分を説得しようとしているか、頭が良いからこそ判らないのだろう。

「君が私を支える限り、ドズル兄さんは姉上よりも連邦を優先するだろう。ほら、君の献身を疑う余地など無いさ」

『確かにドズル閣下には、その様な所がおありになります』

 ドズルは身内に甘い所があり、特にガルマには相当甘い。

キシリアが反乱を起こしても、最初の通信は秘密裏に投降を促すだろう。

もしそこでキシリアが、今ならばガルマと戦わずに済む。

マ・クベは補佐として残した。……とでも言えば、信じる可能性はあった。

どのみちドズルの手持ち戦力で、ルナツーとグラナダの両方とは戦えないのだから。

 

 自分の中の甘さを断ち切る為とかあながち嘘でも無い事を言いつつ……。

前述した様に、連絡役を置いておきたい、情報収集をさせたい。私をコントロールしたいという目論見である可能性は高いのだが。

 

「真面目な話。それを期待するかは別にして、君を切っても軍の経営が厳しくなるだけだ。役に立ってくれるならば、総帥閣下から君の安全を買おう」

『……おできになるので?』

 ここにきてマ・クベは挑戦的な目を向けて来る。

こいつの目論見を見抜いているからでは無く、命運を託せる器であるか確認している訳でも無い。

ギレンと渡りあうことになるのだが、大言壮語ではないか、ちゃんと計算があるのかを確認して居るのだろう。

「連邦は内部の意見次第でオデッサへ攻め入る可能性がある。しかし連邦司令部とて馬鹿ではあるまい。部隊の数が整うまでは待つ筈だ」

『防備が万全であればもう数カ月は問題無い。だが私を切れば、好機と見る者も居るでしょうね』

 これは単純に答え合わせでしかない。

原作でオデッサの戦いが遅れたのは、単純に小出しにして負けたくないからだ。

時間を掛けて戦力を整え、大戦力を投入するのが負けない戦いの第一歩なのだから。

だがマ・クベを切り捨てて、防備を整える時間が無くなれば話は変わってくると言う訳だ。

 

 ……そして、こいつの態度で核心が持てた。

やはり連邦側内通者の蜂起はあり得るのだと。連邦の内部対立に核心を持って居るのがその証拠だろう。まあ単純に、エルラン辺りを利用するだけかもしれんけどな。

 

「ああ、そうだ。君が何発所有して居るのかしらんが、最低でも三発は回収させてもらうぞ? でなければ方々を説得できん」

『っ!? ……わ、判りました。準備しておきます』

 初めてマ・クベが本当の意味で顔色を変えた。

まさか水爆を一発どころか、数発以上所有する事を知られているとは思わなかったのだろう。

『しかし……どこでその情報を? 万全を期して居たと思ったのですが』

「機密に万全は無いよ。まあ単純な算数の問題だけれどね。連邦を思い留まらせるのに一発、他の誰かに殿軍を任せるのに一発、もう一度戻って来る時の為に一発というところか」

 と適当な理論を述べておく。

実際には原作・08小隊・ゲームか何かのネタで知ったんだけどな。

 

 本当のところを言えば、人の良いガルマを演じるべきなのだろう。

しかし偽物である自分には、信じ続けさせるだけのカリスマを持って居ない。

それなりに頭が切れる、くせ者であると思わせておかねばなるまい。

 

『……御命令の復唱ですが、オーストラリア方面の順次撤収で良かったでしょうか?』

「ああ。こちらの混乱に乗じてゲリラ討伐の可能性が増える。今後は潜水艦隊に期待するとして、装備と戦力はインドシナの足止めに使いたいからね」

 内通者が本当にオーストラリアで蜂起するか、しないかにせよ。

連邦の戦力は拡充して行くだろう。ならば戦力を無駄にする必要は無い。

そして遠方でゲリラ戦を行う者達に、即座の命令を出すのは難しい。今の内から用意しておいた方が良いだろう。

「北米司令部がハワイを攻略するのに前後して、アゾレス基地から香料諸島のラインを完成させる。当面の攻勢計画はそれで打ち止めだな」

『承知いたしました。手配しておきます』

 アゾレス・ユカタン半島・ハワイ諸島・インドシナの香料諸島。

これを繋ぐ潜水ラインができあがれば、大規模な海上輸送は封鎖できる。

航空機はどうしようもないが、空母を通過させないだけでもかなり変わってくるだろう。

 

占領地と戦力を絞った分だけ潰してない連邦基地も多いが……。

海上戦力を徹底して叩き潰せた効果は大きい筈だ。

まあ、だといいなーでは済ませられないので、オデッサを護る為の準備は必要なのだが。

その意味でもマ・クベを処断する訳にはいかなかった。

 

●落とし所の策定

 連邦政府に殴り勝つのは難しい。

生産地を抑え、逆に人口の多い場所は占領しないでおく。

そうすることで消耗戦で有利に立とうとはしているが、計算通りに行ったら苦労はしない。

 

「何処を落とせば決着がつくって目安が、ジャブロー以外に無いんですよね」

「ベルファストみたいな次点の目標があれば良いのですが」

「まあ、そう都合良くはいくまい」

 ベルファストを落とした意味は大きかった。

ヨーロッパ戦線はさっさと諦めてくれたし、海上封鎖も始めたことで、同じ様に孤立したカナダも降伏して居る。

「とはいえ中国やインドは罠だ。あの広さを維持するには相当な戦力が必要になる」

「こちらが戦力を分散しないと維持できず、連邦が戦力を充実させているのに逆行してしまうと言う訳ですね」

 何か上手い手を思い付いて、戦局を逆転しないとマズイ。

内通者が蜂起するかもしれないというのは、あくまで予想にしか過ぎない。

それこそ最後まで反乱はせず、ティターンズがやったように戦後の行動かもしれないのだ。

(ボヤボヤしてるとV作戦とオデッサも始まるしな……。そうなると手が出せなくなる)

 史実通りにエースがバンバン落とされることは無いだろうが、大戦力はそのままだろう。

そうなれば物量で押し潰されるだけの話である。

例えマ・クベから取り上げた水爆を全て使っても、せいぜいが足止め。かわりに各サイドが反発するのでは割に合わない。

 

(こんな状態で連邦の反攻……オデッサの戦いが始まったら、ジリジリと消耗戦で……ん?)

 予想される進路、予想される戦力を眺めて青くなる。

だがその予想表を眺めて、とある事に気が付いた。

「待てよ。連中が長駆どこかへ……例えばオデッサ作戦に投入する戦力そのものを叩けば良いのではないか?」

「迎撃ではなく、積極的な反撃策ですか? 確かに基地に籠った敵よりはやり易いですが……」

「逆にこちらも籠って戦うことができなくなります」

 オデッサ作戦が始まる前で、囲もうとした一部の戦力を徹底的に叩くのだ。

場合によっては動きが予想できた所で、横合いから殴り付けるのも良いだろう。

例えば五倍の戦力差だとして、第一段階で三倍差までに落とし、その後に重要な部隊を集中的に叩くのだ。

 

「完全に包囲戦が始まる前。たとえば表向きはロシア戦線かキリマンジャロに送って居ることにして、後ろから叩かせるのはどうだ?」

「ワザと手薄にするのは問題だと思いますが、隠した機動戦力で叩くのは悪い手ではないと思います」

「インドシナで足止めする戦力を増強する案。ロシア戦線にザンジバルを派遣して、早期に戻る案が考えられますね」

 あくまで思い付いただけなので、穴は大きいだろう。

だが何もせずに待つよりは良いし、他の作戦と比較して良い方を採用するのもアリだ。

鹿の角を抑えて足を払うとか、何かの計略を思い出す。あくまで籠城以外での戦闘法にしか過ぎない。

参謀たちも口では否定しつつ、止まって居た議論が活発に動き出すのに乗って来て居た。

「この作戦を予備案として、もっと良い作戦を探せばいい。例えば敵がインド大陸に差し掛ったところで、分断を図る手もある」

「オデッサで待つよりは良いと思います。スレ違う可能性もありますが、時間を区切ればなんとかなるでしょう」

「いずれにせよ、全面的に攻められる状況では旨くありません。いずれかの戦線を、軽く押し上げて見るのはいかがでしょうか?」

 攻められることを前提にする場合、作戦は途中で止まらない可能性はある。

ましては相手は五倍どころか、七倍、十倍以上の可能性もあるのだ。

だが何も思い付かないよりは良い。新たな作戦を見出したことで、希望を見出す事が出来た。

 

「ハワイの攻略が間も無くです。北米に送ったマダガスカルとリリーマルレーンも戻って来るでしょう」

「では両艦の復帰と合わせ、何れかの戦線で押し上げることを次の目標に定める」

「どこを落とせば安定するか、あるいは硬直状態を作り出せるか、策定に入ります!」

 こうして愚にもつかない案から始まった、第二案が策定され始めた。

私が考えたオデッサで迎え討つなど最低限の策だ。

活性化を始めた参謀団と共に、新たな局面が動き出したのである。




 と言う訳で第二部の一話になります。
マ・クベを味方につけつつ、どこを落とせば有利になるかを考え始めた所。
今までの計画は上層部の誘導もあったのですが、キシリアの独立でオジャンになりましたので。
もっともガルマの地上軍は宇宙にいるキシリアとは関係ないので、あくまで全部自分で考えないといけなくなっただけですが……。
その辺を担当する参謀団の数が足りて無いとか、上層部に任せて正面だけを担当すれば良いとかで、頭が硬直して居た状態です。
今回の『次の目的』を決めることで、彼らの頭も回転し始めた感じですね。

 とりあえず戦局的には、ハワイの攻略とカナダが降伏して終了。
これ以上の戦線拡大は行わず、あくまで一時的な優位を造り出す為の進出になります。
船の方はU型を改装してユーコン、二個一でリリーマルレーンの改修が終了。
モビルスーツは水泳部の創設と、ドムのガワ・炉心が届いた程度。
ハワイでの戦いで水泳部の実験を行いつつ、ドム・ベースの試作品を地上でも組み上げているところです。
あんまり企画とか設計ばりやっても楽しくないので、サクサクと次の戦いに移行する予定です。


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第二部・第二話

●真田丸の設置

 都合の良い戦略目標など存在しない。

そんなモノが存在すれば苦労して居ないが、このまま待つだけではジリ貧だ。

かといって全面攻勢に出ても、制圧だけはできても維持できないのだから嫌がらせ以上の事は出来ない。

 

 ではどうするか?

着眼点を変えて大西洋やインド亜大陸が持つ広さその物を、防衛用の空間要塞にするのだ。

同時に進行で重要拠点の防御を向上させる。

天下の名城である大阪城にも利便性ゆえの穴があり、そこを真田丸が守った様に。

有力な前線基地と根拠地をセットにして構築し、逆に連邦側の基地からは連携が取り難い様にしておくのだ。

 

「第一目標はジブラルタル、ジブチ、バンダレ=アッバースの要塞化。これにより海上ルートを完全にシャットアウトします」

「イベリア半島・スカンディナヴィア半島の制圧は終了しておりますので、残りはアラビア半島の完全確保が目標です」

「やはりベルファストの援護が無いと脆いな」

 原作では北海・地中海は連邦の領域だったが、今ではジオンの物だ。

こちらの主力がロシア戦線を構築した影響もあり、オスロなどのスカンディナヴィア半島が孤立。

ザンジバルを呼び寄せながら少しずつ圧迫すると、条件の良い間に降伏して撤兵して居る。

「これで裏口から航空攻撃を受ける事はないでしょう。ヒマラヤ級空母は厄介ですが、サイズもありますから」

「一応はペガサス級も警戒しておけよ? そうすることでようやくアラビア半島に専念できる」

 反対に困難なのが南東方向だ。

キリマンジャロを攻略する間も無く、フェルファストにエースを送ってしまったし……。

そもそも連邦のヨーロッパ方面軍は、停戦後にインド・オセアニアへと脱出して居る。

当然ながら敵戦力はそのラインに結集して居るし、こちらを行かせまいと時間稼ぎの為に陣取って居るのだ。

 

 ……もっとも、今回はソレを逆用させてもらうんだがな。

 

「民族紛争には原則不介入だ。連邦の圧政に対しては力を貸すが……、仲間相手に抗争を行う輩にはモビルスーツも食料も渡さんと言っておけ」

 北アフリカで起きている民族問題には手を出さないでおく。

彼らが故郷を護ると言うなら喜んで手を貸すし、余計な場所に立ち入る気も無い。

血で血を洗う相手に協力しても後でしっぺ返しを食らうだけだ。

それならば安価にゲリラ兵を募集するよりは、誠心誠意付き合える範囲で情報交換だけしておけば良いだろう。

「工事目的などであれば如何いたしますか? 他所者ではなく自分達ならば良い場合など」

「彼らの文化に問題無いなら構わんだろうが……。いや、他の民族にとっては問題かもしれん。御互いに良く知りあってからで良い。急ぐな」

 この手の紛争には限りが無い。

同じ宗派の中でも抗争が起きるくらいなので、他所者なんか邪魔でしかないだろう。

ガンダム・ファイトか何かで紳士的に話し合いが出来るまでは、ノータッチでいこう。

連邦よりもマシというだけで、それなりに協力してもらえる筈だ。

 

「それではジブチ攻略作戦を開始する。最終目標がバンダレ=アッバースであることを忘れるな!」

「「了解!」」

 ギレンの野望と言うよりは、まるで大航海時代かジンギスカンでもプレイしているようだ。

そんな馬鹿馬鹿しい思いを抱きながら作戦の初動を開始した。

 

 視点はモビルスーツ隊へ。

前線指揮官である、シロー周辺へと移る。

 

「いよう。アマダちゃんよお。そっちの新型は調子どうだい?」

「そっちと同じでこれから試す所さ。扱い易いと言うか素直なのがいいな」

 比較試験用に同じ設計で導入された、試作型ドムが疾走する。

共に装甲厚を高めに設定したマリーネ仕様で、装備も片手にシールドという点までは同じだった。

差があるとすれば、シローの機体は仕様書通りに普通の組み立てをされ、彼の腕前も上の方という程度。

もう一人はフレーム採用型であることと、乗って居るのがエースという事だろうか。

「素直っていうとアイナちゃんみたいな? おんなじ船で降りて来たんだろ? 付き合ってんのか?」

「彼女とはそういう仲じゃない。素敵な女性だとは思うが……」

 シローは言いながら気が付いた。

煽るような口調だが、不思議と下卑た様な気がしない。

以前に似た様なネタで聞かれた時は、抱いたのかとか付き合ってないなら譲れとか、下世話な話になったものだ。

 

「言っておくが当て馬にならないからな。賭けは別口で頼む」

「ちっ。つまらねーの。だったらどっちが沢山倒すかで賭けようぜ。モビルスーツ以外なら二機ほどハンデにやるよ!」

 アイナとガルマの間に放り込んで、三角関係でも演出しようと言うのだろう。

本気で賭けでもするつもりなのか、いつまでたっても煮え切らないガルマを焦らせる為なのか。

いずれにせよ、常識人のシローには良い迷惑だった。だが撃破数の賭けごと自体は、戦意を煽ると言う意味では悪くない。

「乗った。……これで俺は三機ってことでいいんだよな?」

「ずっけー! 勝手に始めるなよ」

 シローは笑ってマシンガンを連射。

新型の130mmザクマシンガンが咆哮を上げ、110mmでは撃ち抜けなかった61式の装甲を貫く。

 

 これに対してもう一機の試作ドムは、ホバーモドキを点火。

ジグザグのステップを掛けて、ザニーと戦車の間に飛び込んで行く。

 

「一つ、二つ、三つ! こんなのオヤジでもやったことねえぜ!」

「試作品にあまり無理をさせるな。それと俺も二機追加で、仮に五機目だ」

 回転しながら試作ビームサーベルを振り回し、エースに相応しい動きを見せた。

とはいえ固まって陣形を作って居た所に飛び込み、近過ぎて撃てない所を狙っただけだ。

しかもシローが抜け目なく、少し離れた位置に居る別の戦車小隊を潰したことも大きいだろう。

「それにしても……ザニーってやつがもう旧型か。ドムの装甲は凄いな」

「ザクマシンガンを基準にしてやがるからな。それよりも、隊長機のお出ましだぜ」

 量産性を重視したこともあり、ザニーはマシンガンより上程度の火力しか無い。

それでも連射したり当たり所次第では危険なのだが、二機のドムは前述の通り装甲の厚いマリーネ仕様だ。

盾を用意して居る事もあって、直撃さえせねば言うほどの脅威ではない。

 

「金星、いただくぜ!」

「任せる! ……全機、突入!」

 装甲の厚い二機が先行し、一番強い隊長機の陸戦ジムを相手する。

その間に今では旧型になったザクCを含む集団が、一気に制圧を開始した。

ここで雄姿を見せつけ旧型の出番は終了。

この後はJ型に出番を託し、民族解放戦線に供給される予定だ。

「本当なら確実に行くべきなんだけどな」

「いーじゃねえかよ、勇者が王様って地域なんだろ? 強い奴が一番ってのは判り易くてサイコーだぜ」

 味方には圧倒的な強さを、敵には旧型混じりで機動力が遅いと見せておく。

後方で支援して居たファットアンクルも呼び寄せ、全体としてはそれほどでもないと見せておく作戦だ。

 

 本命は紅海を渡ってから。

敵味方の援軍を呼び寄せながら、アラビア半島を縦断する予定である。

 

「いまごろは大将もヨロシクやってんのかねえ」

「その筈だよ。まあバンダレ=アッバースが見える頃には、合流できる筈さ」

 ヨロシクという意味がどういう意味かは別にして、ここまでは順調であろうとシロ-は頷いておく。




 と言う訳でアラビア半島の要塞化が目的。
維持は極力せず、地元民に丸投げ。要所だけ抑えて対空陣地・大型砲台だけ置く感じになりますが。
そのままイラン周辺を確保して、今更のように、インド方面へ出る準備です。
ただ、原作と違って長距離の航空爆撃とかがやり難い分だけ、オデッサも守り易いかもしれませんね。

 基本構想的には連邦軍が通れるルートは、カザフスタン方面だけ、ロシアとアラビアに挟まれる感じ。
あるいは馬鹿正直に、ジオンの守るルートを地道に制圧しながら進むのか?
というジレンマを強要するのが目的です。
もちろんガルマ達は相手の動きに合わせて、動きを止めたルートに襲い掛る予定ですが。
(地元民との協力関係は、無理に戦力にするのではなく、アンチ連邦で仲良くなって、情報をもらう感じ)

●試作型ドム
 ザクよりも強力な炉心と、厚いガワで組んだ試作型です。
余った出力で積層型の装甲を追加し、対マシンガン・副砲レベルの防御を強化。
大型砲だけ注意しながら、味方に先駆けて突っ込むのが戦い方です。
なお、ホバーはまだ完成して居ないので、やはりステップが出来る程度の代物になります。
(だからこそ、爆発しないとも言える)

●アマダ隊
・試作型ドムx2
・J型サクx4
・C型と旧ザクの混成x5
・ファットアンクルx2
・ファットアンクル(前面扉の旧型)x2

C型・旧型を現地に置いて、順次J型にチェンジ予定。
ファットアンクルは何時も居る訳では無く、後方に置いて居ます。


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第二部・第三話

●幕間はそのうちアッサリと

 シロー達が悪目立ちしながら進む影で、本隊は後方から徐々に侵攻を掛けていた。

というよりもポイント毎に資材や設置する為の砲塔を降ろすので、タイミング的には跳び跳びになる。

 

「ガルマ様。何をご覧になっていらっしゃるのですか?」

「姉上はプロパガンダで主張して居るのかと思ったが、随分と本気だと思ってね」

 荷降ろしの間に、まとめてプリントアウトしてもらった資料を眺めていると、アイナがコーヒーを淹れてくれた。

こればかりはザビ家と言えど宇宙では中々手に入らず、悪くない気分だ。

「一通り目を通しましたが、何かお気になる点でも?」

「これだが……。木星圏内での生活を豊かにするために、アクシズを改造するプランだよ」

 原作を知って居れば笑える筈も無い。

何しろジオン公国が敗北した後に、アクシズへ逃げ込む事になるのだ。

ハマーンは寒いとか言っていたし、居住区であるモウサの拡充や、要塞施設の追加は今の内から計画して損はないということだろう。

 

「まあイザとなれば逃げ込む事になるだろうし……。仮に戦争責任をザビ家が取る場合は、処刑ではなく追放刑なら受けると言う妥協を選択しても良い」

「捲土重来を期す……あるいは新時代の宇宙開発に未来を賭けるということでしょうか」

 アイナの答に私は頷いた。

今から準備すれば、Zの時代にアクシズで地球圏へ戻ってくることはやり易くなるだろう。

要塞を二つ分に増やしたりする事も可能だろうし、場合によっては0083の時代に戻ることも可能かもしれない。

もっとも地球圏が平和になって、火星で地道な惑星開拓や、木星で気楽に資源を採集する生活でも良いのだが。

「その時は私も姉上たちと仲良く行くことも成るかもしれないな。アイナも付いて来てくれるかい?」

「……考慮させていただきます」

 ジオンが敗北したら逃げ込むし、アイナは秘書役だし……。

と思って気軽に口にしたのだが、良く考えたらプロポーズみたいに聞こえなくもないよな。

かといって結婚を申し出ている訳でも無く、思わせぶりに行っている様にも、字義通り他愛ない言葉にも取れる。

 

 ……なんというか今更訂正するのも、どっちに受け取ったのか聞くのも恥ずかしいな。

それにOKだったら望む所だし、訂正したい訳でも無い。

 

「ゴホン。そろそろ次の作戦に付いて周知しておきたい」

「承知いたしました。みなを集めて来ます……」

 気まずいのを誤魔化す様に作戦の説明会を始めることにした。

とはいえこのまま宙ぶらりんでもマズイし、どこかで決断する必要があるだろう。

だがフラグを立てるのも嫌だ。いい機会とは言わずに、適当なタイミングで一気に終わらせるべきか。

 

 そんな馬鹿な事を考えながら、長引く迷いに決断を付ける。

 

●アラビア半島攻略戦

 士官たちが集うといつもより会議室が狭くなった気がする。

民族解放戦線のメンツが加わり、パイロット以外にも屈強な漢たちが増えたからだろうか。

もっとも、その内の何人かは立場が変わるのだが。

 

「いよいよバンダレ=アッバースを攻略し、この半島を連邦の手から斬り取ることになる」

「「おお!」」

 説明の序盤で太い胴間声が響くのは、やはり地元民の方からだった。

ロイ・グリンウッドやイアン・グレーデン、そして問題児の一人は黒人系だが……。

こうして眺めて見ると、民族解放戦線の連中と並べて遜色は無い。

意外と親和性を発揮しているのかもと思いながら、ラカン・ダカランやヨンム・カークスでも補充兵に呼ぼうかと、くだらない考えが頭をかすめる。

「次の戦いでは戦いに勝つのは当然として、今後の為にも諸君らとの団結で勝ち取りたい」

「異存は無い。俺達は選ばれた戦士だ!」

「そうだ! 臆する者など一人も居ない!」

 ザワめく一同を制するのに、しばらく時間が掛る。

説明の途中なので、できれば次の言葉を待ってほしかったのだが……。

 

「勝つのは当然と言ったよ。重要なのは集めた情報を、休む為の塒を、戦う為の牙を共に共有するのだ。もちろん私も前線に立つ」

「総司令が共に戦うと言うのか?」

「俺達と一緒に?」

 頷きながら本来は不用な駆動キーを持ってこさせる。

これはモビルスーツを始動させるのに使うと言うか、用途は逆で使わせないようにする為の鍵だ。

「それだけではない。モビルスーツも渡そう。必死に訓練している若者たちに、これを渡して欲しい」

「おお! あの巨人をくれるのか!」

「素晴らしい!」

「功績を立てたら、俺達にも巨人をくれ!」

 鍵はそのまま印章みたいなものだ。

ジオンが協力すると言う証であり、鍵の数が限られているということは全ての部族に行き渡らないと一目で判る。

務めて協力的である必要はないが、できるだけ穏健に物事を解決できる部族へ優先して渡す事になって居た。

功績争いとかはともかく、血で血を洗う抗争にならないでいて欲しいものだ。

 

 ガウは艦長に任せ、イザという時の指示はアイナに伝える段取りで戦いに赴く。

ペルシャ湾を渡り、一度迂回しながらバンダレ=アッバースへ辿り付くと、アマダ隊に砲列を向ける敵部隊が居た。

簡単に図解すると……。

 

アマダ隊(10) → ←連邦(40~) ←ガルマ隊(12)

 

 と言うところだろうか?

「数が多いですね」

「予定通りだ」

 そこに居たのは陸戦ジムを隊長機に、ジムを主力とした大部隊だ。

数を重視したのだろう、大型戦車は少なく61式が主体だが四十を越えている。

まあシロー達に目を引きつけさせ、そのまま北上させたのだから当然と言えた。

「グレーデン、援護射撃は任せる」

「直ぐにグリンウッド少佐の隊が駆けつける筈です。お気を付けて」

 判っているさとポーズを付けて出撃するのだが……。

実のところ、三方から囲むので問題無い。

敵の主力はシロー側に向いているし、どちらかといえば味方を傷付けさせない為の戦いだ。

 

 特に解放戦線の連中を落とす訳にはいかないし、突っ込むタイミングや距離の方が難しい。

そこで射撃の上手いグレーデンを後方に置いて、その援護の及ぶ範囲で攻勢に出る。

同じ様にジャコビアス・ノードをグリンウッドに付けて、こちらに近い位置でイザとなれば援護させる予定だ。

 

(陸戦ジムじゃない方の先行量産……ならばやれるはずだ)

 既にザニーは旧式化しており、ジムが配備され始めたようだ。

とはいえ装甲はルナチタニウムではなく、武装もビームスプレーガンじゃなくてマシンガンとバズーカ。

ビームサーベルは良く判らないが、まだ火力が上がって居るほどの時間は経ってないだろう。

頭では理解できるが実際に戦った訳じゃない。

操縦桿に伝わる震えを握り締めることで隠しながら、マイクをオンにして声を張り上げる。

「行くぞ諸君! 栄光は地球でもジオンでもなく、いま我ら達と共にある!」

「「おおー!!」」

 ハルバードを指揮杖代わりに振り降ろし、進軍を命じた。

慣れない解放戦線の若者たちは、移動中よりもちゃんと止まらせられるかが問題だ。

迂闊に飛び出て蜂の巣なんて、宇宙世紀でも新兵ならよくある話だ。

彼らを殺しては面倒な手間が無駄になるので、慎重に距離感と心理状態を見極めながら移動する。

 

 指揮官率先という訳ではないが、引率の問題で先頭に。

適当な所で足を止めキャノンザックを展開して砲撃準備を整える。

 

「戦友の残弾に気を配ってやれよ? 打方よーうい! 撃て!」

「構え、撃て!」

「「わー!」」

 少し近いかもとは思いつつ、大型戦車は居ないので問題無いだろう。

それでも威力の問題でジムではなく61式を狙いつつ、射撃戦を始める。

戦い慣れない新兵がそうであるように、歩兵としては熟練して居る筈の解放戦線の有志たちすら無駄弾を盛大にバラまいていた。

「ここでは当たらない! もっと前に!」

「駄目だ! ……それに直ぐにこっちに向かってくるさ。罠に掛るのを大人しく待って居ると良い」

「本当なのか!?」

 こっちは二十ちょっとで向こうは四十。

よく前に出る気になるなあとか思うが、モビルスーツを与えられて強気になって居るならそんなもんか。

 

「別動隊の出動により囲まれた事を理解したら、どこかの突破を図るだろう。ならば総大将である私に向かってくるに違いない」

「おお! そこまで判って居て迎え討つと言うのか!」

 そんな訳は無い。

こちらがインド方面であり、彼ら素人に毛の生えた連中が居るからこそ、突破しようとするのだ。

まあ最後まで撃ち続けて射耗して行くと言う可能性も無いではないが。

(まあ奴らにとって問題なのはモラルが持つかの方だな)

 何しろシロー達を援軍ともども叩き潰すつもりで来たのである。

更なる援軍込みで三方から囲まれて士気を保てるだろうか?

まだ囲まれる前、練度が低そうなこちらに向けて戦力を集中させれば、急げば来れる距離に居る援軍と合流できるかもしれない。

 

 その場合はドップとマゼラ・アタックの隊で足止めを掛ける手筈だから、来ないけどな。

できれば来てくれた方が、近くの基地ともども制圧できるのだが……。

 

「ガルマ様! 予定より早く敵が脱出を開始しました!」

「ふむ。グリンウッドが見つかったかな? まあ良い、二機一組で迎え討て! それと逃げたい奴は逃がしても構わん!」

 困った……が逆に考えれば好機だ。

どうせこの戦いは解放戦線に向けてのパフォーマンスだし、撤退戦が一番倒し易いのはこの時代でも同じだ。

逃げながらこちらを積極的に葬れるような奴が居れば、今の内に遠距離から潰してしまおう。

「砲門は邪魔だな。君達はここで待って居てくれ」

「おおっ! 跳ねたぞ!」

「あの数に向かっていくとは何と言う勇気!」

 実際には戦車の正面に居るよりも、回り込んで突入した方が安全だ。

ホバーモドキでステップを入れ、右から左に近接戦の準備をして居ない奴の脇を駆けて行く。

倒す必要など無い。驚かして足を止め、相手の陣形をくずせれば勝ちなのだ。

 

「総大将に続けー! 連邦の連中を生かして返すな!」

「「おー!!」

(あっ……)

 厳命しておけば良かった。

気が付けば解放戦線の連中が飛び出しており、突出させない為に連動して突撃してしまっている。

仕方無いので慌てて踵を返し、ビームサーベルを持ったジムや大型戦車を特定する。

「シロー! 居るならグリンウッドも手伝え。火力のある連中を掃討する」

「了解! 今行きます!」

「はっはっはっ! まさかこうなるとは思いませんでしたな」

 同じ様にホバーモドキを付けた機体が駆け付けて来る。

グフスタイルのザクはともかく、ドムはシロー達以外には無い。

急いでジムの部隊に追いついて、殿軍に残った陸戦ジムを迂回しながら再突入して行く。

 

 いささか妙な方向に進んだ物の、こうしてアラビア半島を巡る戦いは終了した。

顔を真っ赤にして怒るアイナはレアだったので、良しとしておこう。




と言う訳でアラビア半島を確保。
ここの両脇を要塞化しつつ、半島全体に監視網と小規模な陣地を。
現地民と友好関係を築きながら、オデッサの南ルート・キリマンジャロの東ルートに当たる位置を強化します。
もちろんキリマンジャロ基地周辺は見える形で大幅強化するので、あえてこのルートの上へ誘導する感じですね。
今から落としに行くイラク~インドルートも似たような感じです。
問題は……原作だと複数のルートから四倍(?)の戦力が個別に来るのに対し、このままだと五倍以上の敵が来そうなくらいですかね。

●アイナ関連
 いいかげん長いので、そろそろケリを付けないとなぁ。
という感じなのと、キシリア様が微妙な事をなさってる報告。
そのうち火星のテラ・フォーミングでもしようと言い出すんじゃないですかね。

●連邦のMS
 量産型ザニーは終了。
次に出て来るとしても、腕部とかを改良したというか、本来のザニーでしょう。
まあジムが生産され始めたので、もう必要ないかもですが。
そろそろ数が出そろうので、温めの戦いは終了します。


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外伝:フラグブレイカー

●強襲作戦

 イラクに入って暫くは、快進撃が続いていた。

誘き出し作戦に懲りた連邦軍は、陣地戦を行いつつ徐々に後退。

最大の被害は砂塵で起きる電子回路の不調、最大の功績は防塵フィルターの開発とまで言われた。

 

 それが劇的に変わったのは、月を越えてからの事。

半壊したザクと砕けたシールドが、何よりの証拠を見せつけてくれた。

 

「アレにやられたのか?」

「丘陵に掘った塹壕へ籠っての砲撃戦です。思えば緒戦でも苦労したと聞きます」

 双眼鏡を降ろすのと舌打ちと、どっちが早かっただろうか。

舌打ちは自分自身に向けての事か、それとも苦戦し始めたことにだろうか。

「あの……」

「違うよシロー。勝ち戦に慣れ過ぎたなと思って。私もだがジオン軍は本来、劣勢の筈なのにな」

 忠告しようとするシローを制して、怒ってはいないと告げた。

聞けば損害だけで死んでは居ないそうじゃないか。ならば叱りつける必要などどこにもない。

 

 ……まあ連戦連勝を傷付けられた御曹司であれば叱責の一つもするだろうが。

ジオンがいつか負けると知っている私にとっては、楽勝ムードを終わらせる幕開けに過ぎない。

 

「ザクはまた作ればいいが、人間はそうもいかない。全軍への教訓になるならむしろ安いものさ」

「そうですね。しかし、教訓ですか?」

 ホっとした表情のシローに頷いて、丘陵の周囲を指差す。

そこにはモビルスーツは居ても少数で、主力の全てが戦車や砲座であることを教えてくれる。

「我々がやろうとしている陣地防御を、連邦が教えてくれたわけだ。意図して試してみたのなら、パイロットには勲章を申請しても良い」

「ははっ。そこまで都合良くは行きませんけれどね。無茶をしないように言い含めておきます」

 ……無理やり良い話にしたが、どうしよう。

現実問題としてザクは良いんだ。少しずつ更新するし、半壊でも残っているなら再利用できる。

ザクタンクは優秀だな……じゃなくて、ここをどうやって突破するかだ。

 

 丘を無視して迂回する?

そうしたら大部隊が狭い道で待ち受けているとか、普通にありそうだ。

ではザンジバルやファットアンクルに格納して、戦場を移す?

それをオデッサ戦の前哨戦でやる気なのだから却下。ここで教える必要は無い。

解放戦線の連中を使うのも同様の理由で却下。故郷と尊厳を守る戦い以外で、無駄死させる気は無い。

 

「第一案は曲射攻撃。しかし対策くらいはしていそうだな」

「待つ側ですからね。塹壕の傾斜やベトン・セメントによる防護くらいはしていそうです」

 現地民の感情とか考えて無いのだろうか?

考えて無いからできるのか、それとも私達と同じ様に問題の無い場所でも選んでいるのか。

「第二案は爆撃。ないし質量兵器」

「搭載型を優先した為、爆撃型のドダイは配備が遅れてます。それに時間を掛けると危険です」

 斜めでは駄目なら直上からの攻撃は?

できなくはないが、時間を掛け過ぎると敵の航空戦力が飛んでくる。

ドダイYSを注文したのは自分なので、無い物強請りは厳禁だそうだ。

 

「仕方無いな。やりたくはないがカタパルトで直接降下しよう。ホバーモドキを付けた機体を至急、集めてくれ」

「はっ! ……ところで司令も降下されますか?」

 アイナに怒られるのでやりたくなかったが、他に速攻で抑える手段が無い。

シローに頷いて見せながら、誰が居たかを思い出し始める。

三馬鹿のうち一人はあのザマなので(だから生き残ったとも言うが)、残り二人。あとはシローくらいか。

砲兵屋のグレーデンは付けて無いし、グリンウッドは別方面に行ってるからな。

ノリスをヨーロッパの備えに残して居るのが、非常に残念だ(だからこそグリンウッドを借りているのだが)。

「命がけでやれと言うのに、指揮官が後方では付いて来んよ。無意味に前に出る気は無いがね」

「今回は対空砲座が無いから大丈夫だと判って居ますが、あまり無茶はしないでください。俺も怒られるんですから」

 すまないが一緒に怒られてもらおう。

なんて思っていたのだが……。アイナさんは無茶苦茶御立腹だった。

 

 現時点で四機しかないと思ってたのに、なんで五機目があるんでしょうかね。

 

「アイナ……。君まで参加する必要は無いと思うのだが」

「これでもパイロットです。御下がりになるとしたら、ガルマ様の方ではないでしょうか?」

 非常に正論です。

しまったな。使って無かったアイナ機を忘れていた。

普段は予備に回してるんだが、三馬鹿の一人がやられたんで補充の時に用意したんだろう。

まあギニアスが用意したもんで、他人に渡して無かったから、直ぐに持って来れるからな。

「大将の負けだぜ。とっとと始末すりゃあ良いじゃねえか」

「そうそう。四機と五機じゃ掛ける時間が違うもんな」

「……くっ。仕方あるまい。アイナ……あとで少し時間をくれ」

 他の連中はみんなアイナの味方だった。

女神さまには逆らえませんよと言った風情で、肩をすくめるばかりだ。

 

「なんでしょうか?」

「できるだけ怪我はしないでくれ」

 なお、この後、無茶苦茶怒られた。

……と続けても良かったのだが、長引くのは良くないのでここで終わらせよう。

フラグを立てるのは嫌なので、強敵の居ない今の内に押し切ってしまおう。

「他人を我儘に付き合わせるのは好きではない。……こんな時に言うのはなんだが、地獄じゃなくて未来に付き合ってくれないか? 君と一緒に歩いて行きたい」

「……ガルマ様。それって……私の勘違いではありませんよね?」

 惚れた女の為になら命を賭ける……じゃなくて。

自分の女でも無い相手に命を賭けさせるのは嫌だというか、まあ、なんだ。

話が繋がらないな。

駄目だ、パニクって来た。出撃前にやるんじゃなかった。

 

「好きだ。一緒になって欲しい。兄さん達は説得する。……ああ! これじゃあ伝わらない。愛して居る!」

「ガルマさま……私でよろしいのですか?」

 よろしいも何も他人間では嫌だ。

というか、今更北米に行ってイセリナも何も無いもんだ。

それにずっと一緒に居てくれたのはアイナだし、吊り橋降下かもしれないが……。

アイナが満更ではないのも知っていたしな。もしその気が見えなかったら一生言えなかったかもしれん。

「私は他の誰よりもアイナが良い。もし、愛ではなく隣人として好きなのならば時間を掛けて、私の事を知って欲しい」

「私もお慕いしております……」

 お互いになんだか陳腐な気がするが、それもまた良しと言うほかあるまい。

もしかしたらギニアスの指し金で、婚活に引掛っただけかもしれないが、今更後には引け無い。

あとはギレン達に政略結婚を押し付けられない様に、何とかするだけだ!

 

「ではみんなが待って居る。行こうか」

「はいっ。ガルマ様」

 できれば呼び捨てにして欲しい気もしたが、仕方無い。

憑依した以上は名前なんか記号みたいなもんだ。

今はOKもらえて良かったと思っておこう。

「……司令、おめでとうございます!」

「貴様ら……」

「貴方達……」

 なんというか私の行動は読まれていたらしい。

シロー以下全員がそこに待機しており、花束と酒を用意して居た。

というかこの花束、経年対策処置がしてあるじゃないか。

何年掛ると思ってたんだよ!!

 

●フラグとの戦い

 祝砲が盛大に上がり始めた。

イアン・グレーデン他、キャノンザックやマゼラトップ砲を持つ機体によって援護の砲撃が始まる。そしてマゼラアタックからは五分しか飛べないというのに、マゼラトップが飛行して牽制を始めた。

 

「アマダ大尉たちのマリーネ・タイプが先行します。ドム試験型発進!」

「私達も続くぞ!」

 カタパルト発進でドム二機が先行する。

ホバーモドキで減速しながら降下し、黒い三連星がやったことを再現する。

続いて我々も降下して、敵が待機する丘の直上を奪った。

「ガルマ様! ジムです!」

「やはり居たか! シローとアイナは掃射を続けろ!」

「はい!」

 これを予想して居た訳ではないだろうが、歩いて登って来た時に備えていたのだろう。

ジム二機が起動し、長距離砲を投げ捨てながらビームサーベルに持ち替える!

 

 そして問題児達が迎え討ちに行った時……。

アイナとシロー目がけて動き出す影があった。

 

『宇宙ネズミが!』

「陸戦ガンダム!? やらせん!」

 ザクマシンガンで射撃しながら、体当たりを掛ける。

厚い装甲は本家RX-78ほどではないが、それでも130mm程度では焼け石に水だ。

だがこいつはフレ-ム対応型ではないし、エースでも無かった。

「なんとか行けるな! アイナから離れろ!」

「いけませんガルマ様!」

 頭のバルカンを警戒しては居たが、良く考えたら胸にランチャーがあるんだった。

だがそれでも右手への注意は反らして居ない。

咄嗟に二の腕へザクマシンガンを叩きつけ、こちらもシールドから抜刀態勢に入る。

 

 ガンガンと装甲を削る弾に焦りもするが、幸いにもその挙動は思ったよりも鈍い。

後から思えば、リミッターが掛けられていたのだろう。

先行ジムより早い程度、ザニーと比べれば遥かに早い程度だ。

 

『効かんぞ!』

「ガンダム倒せぬは、先刻承知!」

 時折に御肌の接触回線で聞こえた様な気がする。

だが戦場で相手に通信等すまい。ただの勘違いだと思いながらヒートサーベルを振るう。

ビームでこちらの刃が削れるが、それでもまだ、サーベルが斬られるほどの威力ではない。

「私が刻むのはお前ではない! 時間だ!」

『なに!?』

 サーベルはあくまで相手の胴へ、余計な事を考えずに当たり易い場所を選ぶ。

打撃兵器を兼ねたシールドを強打しつつ、丘の上に居るという優位を活かして押し込んで行く。

時間を掛ければ内のエースが駆け付けるのだ。

重要なのは倒す事じゃない、自分にもアイナにもビームサーベルを向けさせないことだ。

 

 やろうと思えば勝てるのに、後ろ向きだと笑いたくば笑え!

今は名誉よりも、女の無事(アイナ)が欲しい!

 

「ちゃお! お・ま・た・せ!」

「酒でもたらふく呑ませてもらおうか」

「酒保ごと買ってやる。ビールしかないが呑み切るまで文句は言うなよ」

 冗談めかして駆け付ける二人にガンダムの相手を任せ、私は周囲の確認を行った。

倒したつもりのジムがロケット弾を向けているだとか、サーベルを投げるとかやられたらたまらない(投げたら機能止まるが)。

「アイナ、君は無事か!?」

「モビルスーツ隊が麓を攻略しました。その……私は、私も無事です……」

 抱きしめたかったが、かえってフラグが立ちそうな気がする。

拳銃で撃たれるとか、実は融解し始めていた融合炉に巻き込まれるとかは嫌だ。

せっかく両想いになったのだし、今日はさっさと引き上げてラブラブしたいが……。

兵士たちの手前、ローテーションでの休日まで待つか。

 

 せっかくフラグも折ったし、時間のある時にイチャイチャしよう。

そう思った時、今更ながらにユニコーンのトリントン戦を思い出した。

良く考えればファットアンクルのハッチを開けて、ビームランチャーで撃てば良かったな。

先行量産の前面ハッチ型なら、無理な態勢にしなくても撃てるのだから。




 と言う訳で、アイナに告白回。
長くなったので、ここで決着を付けておきます。
戦争なので日常回以外では、表面上は自粛するんじゃないでしょうかね。

 本当は予約に失敗して昨晩のうちに出してしまったので、今朝は出さない筈でした。
しかしアイナに告白回を書きたいなあとか、ネタとして長くなったので中学生みたいなのはさっさと終わらせたくなったので、書いてしまいました。
まあ恋愛物は書いたことなかったので、寒かったらすみません。

 思い付きもあって、今回は純粋に戦術上の事以外は特に何もありません。
インド方面に進行し、オデッサ対策を始めるのは次回になります。


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第二部・第四話

●突入! インド戦線

 とあるアニメにこんな表現がある

此処には今まで見たのと同じ数だけの敵が居るのか? と。

少なくともモビルスーツに関してはそうだった。

 

 インドが近くなって本拠地の一つが近くなったのもあるだろうが、改めて連邦のチートぶりを知る思いだ。

 

「ジムだけで三十は居ますね」

「断言しても良いが、陣地を奪わない限り明日また同じ数が出て来るぞ」

 最初にザニーの集団と戦った時を思い出す。

あの時は十機ほどの小集団を釣り出したこともあり、簡単に修復された。

今回はそれよりも多いので壊滅させれば、流石に無理だろうが……。

逆に言えば小競り合いで消耗させても意味が無い。

遭遇戦で小隊ごと殲滅するか、大規模な戦いなら二割以上を潰さねばならないだろう。

「司令は余裕ですね。アイナ……様のお陰ですか?」

「本人は呼び捨てで良いと言っていたぞ? ……まあ実際、今回は余裕だからな」

 シローも毒されて来たな。とか思いつつ適当に言い返しておく。

事後現場で二人きりになって丸三日とかやられない限りは、NTRされないはずだ。

 

「余裕……ですか?」

「此処は主要街道ではあるが母艦のある我々には関係ない。それに、もうインド付近になったからな」

 まだオデッサ作戦は始まっても居ないが、遅延作戦用の案は使い始めても良い。

それに民族解放戦線のツテもあるので、現地民からの情報が得易いのも助かる。

「もし迂回しても拠点確保を優先したと思うだろう。まあ、ここでは別の手段を使うが」

「ニューデリーやアフマダバードの占拠を目的と思わせても良いですしね。それで、どの手を使われますか?」

 原作ではさっさと突破してインドを占拠しているが、歴史が変わって居るのでまだだ。

目の前に居る連中の一員として、シローが向こうに居た可能性もある。

面白い物だと思いながら、報告書の一つを取り出した。

「天候予測では数日後に見え難くなるらしい。もし外れたら、ありったけのスモークで代用だな」

「切り込みますか? 相当な被害が出る可能性もありますが」

 場合によってはそうなるが、まだ早い。

被害を出す事を許容せねばならないのが司令官の役目だが、それはもっと後だ。

 

「いや、母艦潰しを仕掛けて見せる。艦が落ちなくとも、移動力か補給能力を落とせればいい」

「ガッチリ固めさせてから移動ですか? 連中、乗って来ますかね?」

 ザニー部隊に出逢った次の日に思い付いた作戦だ。

相手に装甲や弾薬の予備があり、移動力があるから困るのだ。

落とせれば良し、無理なら叩くだけ叩いて相手の動きを拘束する。

「……その時は改めて切り込みだな。どちらにせよ後方のマダガスカルも呼び寄せておいてくれ」

「陣形の不備でも見つかれば良いんですけれどね」

 この間の戦いで判ったことだが、ジムはまだ弱い。

RX計画が進んでコンピューターや出力が向上すればともかく、まだ普通に戦える。

 

 兵士の操縦技術もさることながら、何処を攻めるか? というポイントを選べればこちらが有利に立てるだろう。

さすがにガップリ四つの正面戦闘では難しいが、相手が陣形を組んで持ち場を離れないならば何とでもなる。

問題なのは有利であっても、こちらに被害が出るのを避けられないと言うことだ。

 

「ともあれ、今言った案をベースに修正を頼む」

「了解しました!」

 司令官の思い付きはあくまでベース案に過ぎない。

もっと良い案が出ればそちらを採る事は普通にあるし、修正案で優先度が前後する事もあるだろう。

 

 ちなみに今回の場合は、同時に行うことになった。

当たり前だが、天候の変化を相手が完全に知らない訳でもないらしい。

あるいは敵の司令官が、思ったよりも臆病だからだろうか?

陣形を縮小して、街道全体の守りよりも母艦の守りを固めたのである。

 

●砲戦と、接近戦と

 砂塵が吹き荒れるが、見え難いと言うほどでもない。

仕方無いのでスモークを焚きつつ、接近戦を挑む事になる。

しかも相手の陣形に不備など無いので、有利な点と言えば、攻めるポイントとタイミングをこちらが選べるということだけ。

 

 ……に見える。

馬鹿正直にまともに戦えばそうなるし、相当な被害が出るだろう。

実際にはそこまで攻め込まず、相手が固めた防御を逆用させてもらうだけだ。

陣を狭めた分だけ、こちらも無理すれば色々できるようになった。

 

「予定通りです。連中の陣形に変化はありません!」

「罠では無い様だなっ。では突撃を開始! スモーク弾と支援砲撃の弾着と共に切り込むぞ!」

 歩兵での潜入偵察を行い、左右の陣形の内で大型戦車が少ない方を選ぶ。

そして煙で視界を遮った後、古式ゆかしく砲兵支援の後に突っ込む形となる。

これが第一段階で、相手次第で二択になる予定だ。

「グリンウッド、万が一の場合は頼むぞ」

「はっ! 相手が陣形を動かした場合はお任せください!」

 仮に攻め込むのが相手の右翼として……。

こちらは相手の右翼だけに、二十機以上を振り分けるという単純な作戦だ。

 

 左翼が回り込んで来たらグリンウッド隊が止めるのか?

それは違う。彼は左翼が空いた隙に、空き巣狙いで左翼側から母艦に迫る予定だった。

動か無い場合は大人しくして、撤退時に相手が動かなくさせるための支援になる。

 

「総員突入! グレーデンの隊が所定ポイントに辿りつくまで、引きつけて見せろ!」

「了解です!」

「おう!」

 今回の本命はイアン・グレーデン以下、砲撃戦が得意なメンツとマゼラアタック隊。

彼らはスモーク弾と支援砲撃を行った後、煙に紛れてポイントを変更。

可能な限り近づいて、母艦周辺を洗いざらい吹っ飛ばす予定だ。

本来であれば貴重な砲撃支援可能な連中を前には出せないので、その間は我々本体が囮になる。

「着弾! 今!」

「それでは後ほど! 御武運を!」

「そちらも油断するなよ!」

 ポイントに辿り付きさえすれば、相手の姿が見えなくとも砲撃というものは当てることが出来る。

指定した諸源に撃ち込めば、突風でも不可ない限り必中なのが面白い所だ。

もちろん機動目標には当てることが難しいが、動か無い母艦と陣地なので問題は無い。

 

「ガルマ様! ジムが迎撃に出ます!」

「総員、ここで奮起せよ! たが先は長い、命だけは無駄にするなよ!」

 シロー達のマリーネスタイルのドムを先頭に一気に距離を詰める。

そこには右翼だけで十機近いジム、そして隊長機である陸戦ジムが見受けられた。

もう見ないかと思ったがザニーの在庫がジムとの中間まで改良されているので、実に十五機近い数が居ることになる。

グエーデン達を除いても、これで二十対十五。

(やれやれ。まるで近藤和久版のガンダム漫画だな。次々、敵が現れる)

 ジムの接近戦が弱いと言う訳ではないが、戦い慣れて無い連中が多いので練度が異なる。

それにマシンガンは当て易いが決定打に掛けるので、どうしてもヒートサーベルやヒートロッドの方が火力が高いのだ。

これがグフを正式採用して居ればこれほどの数は無いが、選択武装をハードポイントに付ける制度なので余裕がある。

最初の砲撃支援のダメージと数の差も含めて、一時的ではあるが戦力比二倍を確保できた。

 

「二機一組なのを忘れるな! 左右の戦友に気を配れ! スコアの事は忘れて、いまは確実に葬れよ」

「そんな訳にはいくかっての! 次ぃ!」

「勝手なことをするな! 確実に倒せ!」

 問題児は問題児のままだが、シローがフォロー出来ているようだ。

数を削るのはそれで問題は無い。問題なのはこちらの損害が出ること。

「司令! 何機か喰われました!」

「無理はさせるな! ペアの片方がやられた組は、そのまま後送させろ! 場合によっては機体を捨てても構わん!」

 流石に余裕が無いと無理だが、何機かこちらも倒して居る。

二機一組で確実に潰している分だけ、同レベルの推移であってもこちらの方が被害が少ない。

だが戦死だけはさせる訳にはいかない。

今は推して居る時だけに機体の補充は間に合うが、熟練のパイロットは簡単に補充できないのだ。

 

「手持ちが半数を割りました。後送に割り当てた中で、無事な機体をもう一度前に出しますか?」

「戦闘中に編成し直しというのは難度が高いな。グレーデンが取りつくまで保たせるだけでいいっ」

 損害は中破が何機かだが、一緒に下げているのでペースが早い。

相手の数が多くなければ、占拠の為に残すのだろうが、戦死を避けるためなので仕方が無かった。

まあこれだけやっても死ぬ時は死ぬので、どこかで割り切るしかないのだが。

「ガルマ様! 発光信号! 時間です!」

「撤収準備! 前に出て来る機体だけを叩け!」

 薄くなって来たスモークを切り裂く様に、発光弾が打ち上げられる。

敵母艦群の周囲に砲撃が着弾し始め、誘爆こそしていないようだが、それなりのダメージを与えたのが判った。

もちろんこれがビックトレーやペガサス級相手では物足りないだろうが……。

狙っているのは輸送機であるミデアなのだ。十分以上のダメージを与えられたと思う。

 

 それに、狙っているのは心理的なダメージと動きを硬直化させることだしな。

そう思っていた所に、ジムが突っ込んで来た。

どうやら中央か左翼の援軍が、陣形内部を通って合流したらしい。

その影響もあって、今まで守って居たジムが出てきたのだろう。

 

「撤収! このまま後退するぞ!」

「了解!」

「ちぇっ良い所なのにさ!」

 飛び込んで来たジムを切り捨てながら、態勢を崩したところで腰のハードポイントに手をやる。

クラッカーを放りながら下がり続け、可能な限り破損させるようにしておいた。

それだけで倒せるとは思わないが、他の機体も同じことをやっているので幾らかは損害を与えられたと思う。

「ガルマ様! グレーデンたちも撤収に成功したようです!」

「砲戦の準備を行いながら順次後退! 全員、揃っているな!?」

「潰れた機体がある以外は問題ありません!」

 見れば陣の反対側でも多少の火が上がっている。

こちらの撤退を支援する為、グリンウッド達が仕掛けたようだ。

戦果を確認すると言うよりは、次のポイントに移動する為に急いで母艦の方へ引き上げることにした。

 

 次に日になって確認すると、敵は陣形を襲撃に備える形で再編。

破壊したミデアの修理や、モビルスーツの修理の為に堅く守りを固めたのが判る。

なお、こちらも相当数がやられ、避けては居たが負傷者も続出。

とはいえマダガスカルやファットアンクルで後方に送れる範囲だったので、再編して前進する事にした。




 という訳で、とうとう大量のジムが出て来ました。
とはいえままだ運用とか、熟練度が低いので一般兵相手では困ることは無いです。
問題なのは相手の母艦とか基地を放置すると、壊した数だけ復活する事でしょうか。
なので煙に紛れて、ミデア潰しに行った感じになります。

 今回の作戦は、最大射程だと狙えないよね。
なら接近して砲撃すればいいじゃない。
それでも撃沈は無理だけど、ダメージが出ても損害出ないなんてゲームの中だけ。
荷降ろしした母艦の周辺に撃ち込めば、それで十分な損害と心理ダメージ狙いと成ります。

 次回は拠点を避けて、占領の為に移動……と印章付けたので逆用。
という展開になります。というかそうしないと、相手の数が多過ぎてガッツリ戦闘でき無いので。


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第二部・第五話

●偶には執務のことを

 旧パキスタンからインド西部へ。

そこからファットアンクルを母艦に、複数ルートで小隊を出す。

戦力分散は避けたいが、二十対三十では激戦になる。

遭遇戦に持ち込んで各個撃破の構えで序盤を抑える予定だ。

 

 というのもあるが、準備が整っていないフリをしてこのコース迎撃に連邦を集中させたい。

北米とキリマンジャロは多重要塞化計画を進めているし、ロシア戦線は安価に戦線を停滞させる切り札を建設中だからだ。

 

「マ・クベにインドシナの足止め部隊を休ませろと伝えてくれ。適当な所でインド東部を叩いてもらう」

「インド全域の占拠を狙ったと思わせるのですね?」

 アイナの質問に頷きながら、ユーコンの手配を行っておく。

用途は二種類。一つは先ほど行ったの、インドシナ戦線組の転戦手配。

もう一つは南部~西部沿岸の町へ、ようやく開発に成功した水泳部を向かわせる為だ。

「既定の通りインドは通り過ぎるが、占拠はしない。だからといって略奪を行う者には、相手が誰であれ銃殺刑もありえると伝達しておいてくれ」

「ノリスが居ないので不安ですが、厳しく当たると伝えます」

 所構わずイチャつく高校生カップルの気持ちが判る。

しかし兵士達に綱紀粛正をさせる手前、ガッつく訳にもいかない。

それになんだ。アイナは愛情こそ欲しいとは思っても、エロイことはまだだろう。

とか言う言い訳をしながら、もう一つ手配をしておくことにする。

「まあそれだけでは問題を起こす者も出よう。金銭や物資で購える者に関しては、業者の斡旋を軍の方で面倒を見た方が良いだろうな。グリンウッドとシローにそっちの手配は任せる」

「了解であります!」

「りょ、了解しました……」

 グリンウッドはともかくシローにはすまん事をした。

アイナの目線が痛いが重要なことなんだ。

シモの関係もあるが、……主にララァ発掘関連イベントとかな。

 

 御大の趣味なのか、そういう場所に偶然いたのか。

ララァはシャアが飛ばされてこっち方面で流離った時に、出逢った女性スタッフとのことだ。

まあ小説版とかオリジン版とかでも違うけどね!

……都合良く見つかるとは思えないが、この方面には以前、オーストラリアに撤退した司令官が寄って居る。

もし奴が介入者であれば、ララァを捜索した可能性もあるだろう。

キシリアもサイド6辺りを探して居るだろうが、可能性は少しでも多い方が良いと考える筈だ。

 

(追い詰められない限り、現状で動くとは思えない。動くなら……オデッサでこちらが迎撃に成功してからだな)

 もし介入者であるならば、ララァを探して居る可能性がある。

そして自分が群雄割拠を愉しみ、歴史を動かす事を愉しんでいる様に行動する可能性は高い。

妙に品行方正なキシリアの動きも気になるが、ここは様子を見るしかないだろう。

(しかし……ここからは戦死者や損害を抑え続けるのは難しいだろうな)

 これまで海兵隊やギニアス隊はともかく、本隊の損害は少なかった。

総予備であり戦局に合わせて選べる立場にあった。

それに相手のモビルスーツは居ても雑魚ばかりだ。よほど無茶をしなければ問題は無かった。

だがベルファスト戦でケルゲレンを守った連中がアッサリ倒された様に、相手も同レベルならそうもいかない。

 

「ガルマ様は精いっぱい、兵士の事を思いやっておられます」

「アイナには誤魔化せないな。だが、可能な限り努力するのは司令官の務めだ。でなければ死を命じることはできん」

 これまで覚悟が出来て居なかったと言える。

憑依だか転生だかで気楽にゲーム感覚な面もあった。

だがこれからは、本当の意味で兵士に死ねと言わねばならない。

しかも彼らは勝てるつもりで戦いに挑むが、我々上層部は無理な事を知って居るのだ。

可能な限り敗北を先延ばしにして、耐え続ける連邦官僚どもの足元を蹴り付けねばならない。

「古代は温かい飯を食わせ、できるだけ殺さないのが仁君らしいが今の世の中では普通の事だ。可能な限りの事はしてやりたい」

「承知しております。私もガルマ様と共に生き、共に地獄に落ちるつもりです。……例の件だけは釈然としないものがありますが」

 ああ、『あの件』か。それに関しては苦笑するしかない。

新婚数日目にいきなり申し込まれたからな。驚いたし、アイナが微妙な顔をするのも無理は無い。

 

 ちなみにさっきの娼館の話じゃないよ?

山羊を五十頭と羊を百頭を持参金に、嫁候補が数人送られて来たんだ。

政治取引みたいなもんだから第二夫人でも良いと言われたが、候補の中には十歳未満も居るし、流石に新婚なのでノーサンキューである。

 

●苦い勝利

 そして分散進撃作戦が始まった。

もちろん港町襲撃も同時に実行しており、連邦側が判断に迷うことを確信してから仕掛けた。

現地民の協力者経由で情報も集めながら、可能な限り相手の戦力が居ない町を落としながら進んで行く。

 

「ガルマ様! ジムが三機と指揮車両です」

「通常編成だな。よしっ、増援を呼ばれないうちに片を付けるぞ!」

 私自身、小隊を率いて小さな町を落としに向かった。

もちろん比較的に安全な場所を優先させてもらってはいるが、絶対は無い。

相手にエースがいれば、いつでもひっくり返る状態だ。

「まずは全機で指揮車両ないし、信号灯を持って居そうな敵を叩く!」

「了解です!」

 相手の機体だけではなく、動きを見てエースが居ないと判ってホっとする。

だが時間を掛けては次が来るし、もし罠であるならば速攻で倒して撤収しなければならない。

油断などできるはずもないだろう。

 

 そしてマゼラトップ砲を持った機体と、専用機のキャノン砲で後方に居る指揮車両を狙い討ち。

走り込みながらだったので普通に外したが、次の射撃で直撃した。

 

「反応が遅い! 先頭の腕効きは無視しろ!」

「はっ!」

 この状況で仲間を護る為に突っ込める奴とまともに戦う気は無い。

シールドで我身を守りながら、他の二機と共に後方の機体を射撃。

今度は止まって居ることと、先ほどは牽制していた二機も居るので難なく命中。

一機を大破させ、もう一機のシールドを砕くことに成功した。

『お前は下がれ! 仲間を呼ぶんだ!』

「後退などさせんよ!」

 この状況で指示する事など一つだろう。

ミノフスキー粒子で通信など判らないが、適当に合わせて後退しようとするジムに砲火を集中させる。

 

 このまま行けるかと思った時、部下から切羽詰まった通信が来た。

 

「ガルマ様!」

「どうした!?」

「あちらをご覧ください!」

 お肌の触れ合い回線で伝えられたのは、彼方に上がる信号灯だった。

連邦が使うモノもあるが、我軍のモノもある。

こちらのモノは『敵部隊発見』、あちらは『集結』だ。

これが意味するのは明白……。

「ちっ。こいつらは先遣隊だったか。さっさと倒して合流するぞ!」

「了解!」

 先ほどまでは安全に倒そうとしていたが、時間を掛けては居られない。

三方に散ってシールドを迂回しつつ、速攻で沈めることにした。

『クソっ、クソクソッ!』

「判断は良いが……無駄に往生際の悪い!」

 そいつは一縷の望みを掛けて身を翻す。

そして背中を見せる危険も構わずに、必死でブースターを吹かせていた。

 

 どうせシールドがないから、いずれやられるとの判断だろう。

だがこちらとしては良い迷惑だ。

焦る気持ちを抑えながら、キャノンザックの照準を合わせた。

 

「時間を取らせおって! 友軍と合流するぞ!」

「はっ!」

 マゼラトップ砲の機体と共に砲撃し、何度目かの射撃で成功。

相手が逃走に専念して居たこともあり、こちらを確認できない背中越しと相殺してようやくといったところだ。

そして信号灯が上がった場所に辿り着いた時。

掛った時間に相応する、気分のよろしく無い状況だった。

「申し訳ありませんガルマ様。一人死なせました」

「……その状況ならば褒めてやる。合流して叩き潰すぞ!」

 相手は九機中、二機撃墜。

こちらはシローの隊の他にもう一隊が駆け付けており、六機中の同じく二機がやられていた。

九対六で同等とは褒めてしかるべきだが、本部中隊初の戦死者とあって気分は最悪だった。

もちろん先ほどの小隊込みで考えれば大戦果だが、そんなことは慰めにもならない。

 

 七体七でこちらは残り三機が来る。

どちらが有利に戦えるかは言うまでも無いだろう。

戦いに関しては、割愛しておこう。

 

「俺が殺したんだ……。俺が無茶なツッコミを掛けなけりゃ」

「貴様を任命したのは私だ」

 成長を期待して、小隊長を任せた問題児……。

例の一番の小物が反省して居た。だが反省だけなら猿でも出来るとCMであったな。

辛いが事実を元に反省会を終えてしまおう。

「大将……」

「全ての責任は任命者にある。だがら貴様がすべきことは、残った部下を生かして帰す事だ!」

 結局、悪いのは私だ。

だが、嘆いても仕方が無い。

どうせ死ぬ、運が悪ければ奇襲されて今夜にでも死ぬだろう。

だからコレはケジメの問題であり、少しでも次の成功率を上げる為の反省会だ。

 

 それでこの問題児が少しでも成長し、部隊の役に立つならば何でもするべきだ。

死にはなれないが、私自身が割り切る訓練も必要だろう。

そして……リスクのある作戦を判って居て立てた、自分自身を修正する覚悟もだ。




 と言う訳でインドに突入。有利な時にだけ戦っていた本部中隊にも戦死者が発生。
ニューデリーから放埓な進軍を行い、連邦軍の目を引きつける為に数隊に別れて移動。
途中で合流・分散を繰り返しながら、大都市や複数の小町を次々に陥落させています。
でないと三十機が固まったままですからね。
もっとも……今回倒した十二機も、直ぐに補充されてしまいますが。

 ちなみに東部から侵入した闇夜のフェンリル隊はというと……。
発見しても交戦せずに戦死者・大破なしで荒らし回っています。
陽動部隊で町を落とす必要が無いとか、最初から戦う気が無いとかもあります。
ガルマに経験が無いから判断が付かなかったのもありますが、方針そのものが違うからですね。

●ドムの開発
 スタイルとしては高機動・ビームキャノン・マリーネの三つ。
高機動型は開発に難航し、宇宙用専用のバリエーションに成りそうな予感。
ホバーが開発に成功すれば、ジャンプジェットパックに入れ換えて高速移動が出来る程度でしょうか?もちろんホバーの開発はまだまだ遠い状態です。
 ビームキャノン型は対象的に成功して居るのですが、今の戦況で出す理由が無いのでお蔵入り。
結果的に装甲重視で通常兵装で戦うマリーネ・スタイルが活躍して居ます。
本格生産はまだですが、先行量産されるときはこのタイプが回されてくるでしょう。
なおキシリアに派は儀仗兵スタイルというのがあり、ギャンやガルバルディみたいな恰好良いスタイルのガワが開発されるでしょう。
ちなみにビームサーベルはハードポイントに追加しないと使えませんが、これが必要ない様に開発するよりも、大型化してビームランスを作る方が遥かに簡単だと言うオチが……。

●ララァ
 まったく、発見、できませんでした!
と某調査隊みたいな状態です。
なにしろサイド6説、インド説、東南アジア説などなど。
いろいろな発見場所の説がありますので。
ただ、何処かの司令官も探していたと言うのは判明できたようです。


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第二部・第六話:前編

●補充兵

 時計の針を止め、二階級特進した部下の荷物に掛けた。

死体ごと後送し、時間があればサイド3に送れるだけまったく恵まれている。

キリがないので後ろ向きな考えはそこで止めておいた。

 

 司令官の立ち場として残念なネタとしては、良い話題と悪い話題のネタが使えないことだ。

基本的には両方判るように成って居るものだし、部下に聞いても面白くもなんともない。

 

「先日の部隊は新編だったそうだぞ。道理で不慣れな連中も混じって居る筈だ」

「ということは旧パキスタンで出逢った連中はそのままですか? 良いん話なんだか悪いんだが」

 あれ全部御代りかよ。

相変わらず連邦の国力は頭おかしい。

まあガンダムの世界は銀英伝以上に国力差が酷いからな。仕方無い。

「それでこちらの補充は?」

「ロシア戦線の停滞が決まった。海兵隊の機種転換訓練に合わせて、連中のザクがこっちに来る」

 その話題をしたとき、ハッキリとシローの顔色が変わった。

それもそうだろう、我軍の主力が将来的にフリーになるということだ。

ユーリ達の戦力を引き抜いておくれば、キリマンジャロと北米は安泰になるだろう。

「おめでとうございます! これで懸念の一つが晴れましたね。……しかしアレを使ってしまって良かったのですか?」

「騙し打ちで核を使う様な戦術に頼るのは好かん。どうしても必要になれば、貯金箱を逆さまに振るだけの事さ」

 マ・クベ貯金と言うべきか。

奴が確保して居た水爆二発を送って、連邦の交換立会いの元で封印施設を作ることになった。

昔から色んなストーリーで出て来る、シベリアに核貯蔵庫を作って永久に封印しようと言うアレだ。

地上にたまりきった各プラントの燃えカスも、ついでに仕舞っておくことになっている。

 

 完全に戦線が止まるとは言わんが、余波を与えない為に場所が限られてくるだろう。

冬場の間に陣地を構築しておいたこともあり、かなり停滞する筈だ。

 

「パイロットの方も喜んでいいぞ。ブーンの査問が終わって復帰する」

「ブーン隊長が!? それは朗報です。キシリア派には腕を買われていただけでしょう」

 それなら良いなと心から思う。

政治取引で前線で死んで来いとか、そういうのもあるので油断はできない。

だが腕の確かなブーンと、彼の選んだパイロット数名は重要な補充要員だ。

しかも本国の兵力だから、アフリカやヨーロッパの防衛力低下を嘆かなくても良い。

「ともあれこれで一安心ですね。連邦とは比べ物にはなりませんが……本当にオデッサに向かいますかね?」

「来るさ。戦争には流れと言うモノが存在する。歴史と一緒で一つ二つの差では大戦略は覆らん」

 真面目な話、キリマンジャロ辺りを落とされても直ぐには困らない。

これはロシアも同様で、確かに痛いが……。

オデッサを中心とした鉱山・工業エリア、および欧州の裏口から続く穀倉地帯を取られる程の痛みではない。

それこそ戦線を縮小し、ヨーロッパに籠ってしまえば同じことだ。

 

 もう一つ北米という考え方もあるが、水泳部が完成した以上は、やったら自殺行為である。

ユカタン半島だか南部の海岸線が、血とオイルで濡れるだけだろう。

 

「と言う訳だ。しばらくこのインド亜大陸の上で陣地戦を行うぞ」

「はっ!」

 ちなみにヘンリー・ブーンの他に、トーマス・クルツほか数人の補充が来る。

政治上の問題でこっちに違和感ないメンバーを頼んだら、本当にラカン・ダカランが来た。

もっともこの時代は筋は良いが、それほどの腕では無いらしい。

新生ウルフ・ガー隊のコア・メンバーに育ってほしい物だ。

 

●二度あることは三度ある

 連邦の重要基地を避けつつ、インド中央部へ進出。

東部と沿岸部への侵攻は始まっているので、これで亜大陸制覇に見えなくもない。

ゆえに勝利する必要があり、連邦も必死で防衛して来るのは当然の帰結だった。

 

「グリンウッドも出逢った? ということはこいつらも新編か」

「まったく、どのくらい此処に投入したんでしょうね」

 もっとも事情を知らない連邦からしてみると、インドを失う手前なのだから仕方が無い。

実は逆進したら簡単に取り戻せるなんて思う筈も無いから、今はとにかく数を投入して居るのだろう。

とはいえここで付き合ったらスリ傷では済まない。

本格的な戦いはもう一ヶ月くらい、先延ばしにしてドムの先行量産を待ちたい所だ。

「よし、撤兵する。速やかに撤収して、ジャコビアスの部隊の元へ急ぐぞ」

「挟み討ちですか? しかしあの連中はどうしましょう?」

 当然の追い掛けて来るよね。

後方に十分な数のミデアがいれば、こっちがファットアンクル数機を呼んでも追いつくだろうし。

それに兵士たちの指揮も問題だ。

 

「罠に嵌めたと思わせるしかないな。……ファットアンクルと一緒に直衛に残したグレーデンの隊も呼んでおけ」

「撤収準備を行いながら、曲射攻撃ですか?」

 頷きながら地形を選定する。

ファットアンクルが着陸出来て、かつ視界もそれなりに遮られた場所が良いだろう。

そう思った時、原作に似た様なシチュエーションがあるのを思い出した。

(ホワイトベース隊にガルマがやられたシーンが良く似てるな。……よし、流用させてもらうか)

 ガルマが死んだシーンを流用するというのも不謹慎な気がするが、忘れよう。

立った者は親でも使えと言うが、役に立つ作戦は自分のキャラでも利用する。

 

「あそこの丘を利用しよう、小さな林のある場所だ。必要数ギリギリのファットアンクルを呼んでグレーデンを伏せさせる。乗って逃げると思わせておいて伏撃」

「頭数が合って居れば安心しますからね。了解です」

 それはそれとして、作戦が上手く行くかは別だ。

球場跡地を利用したホワイトベース隊のネタに近い形になるように考えただけで、細部は違う。

相手もミデアを呼ぶとは思えないし、そのまま突っ込んで来るにしても、速攻を掛ける可能性がある。

「急襲に備えて殿軍を編成する。私とシローと……」

「俺も参加するぜ!」

 問題児が随分と素直になったもんだ。

よほど部下の戦死が応えたというか、何かやらないと気が済まないのだろう。

「判った。私達三人だけならば、イザとなればホバーモドキを利用できる。場合によっては飛び移ると思わせるぞ」

「了解!」

「任せとけ!」

 ホバーモドキでショートカットしながら移動すれば、相手も逃走だと思い易いだろう。

それに装甲厚からいっても、試作型ドムx2と専用ザクというのは悪くない。

腕前の問題でもグレーデンと合わせてかなりの密度だ。

相手が全機で追いすがって来ても、まあなんとかなるだろう。

 

「では全期行動開始! 一足先に私の班からだ」

「アマダ大尉、お先に失礼します!」

 撤退信号を上げて、隊を二つに割って後退を始める。

二頭の蛇が片方の頭を下げもう片方を下げる様に、徐々に下がっていく。

その間はもう片方が援護射撃を行い、ダメージの強力な白兵攻撃へ対処だ。

(あまりやり過ぎると警戒して追って来ないか……。いや、そんな余裕は無いな)

 少しずつ下がりながらキャノンザックとマシンガンで迎撃。

こういう時に限って、いきなり直撃して判断を迷わせてくれる。

これが急いで倒さねばならない時に出来るなら苦労はしないのだが、世のままならないものだ。

「シローの班が戻って来るまでここで待機! 後ろを取らせるな!」

「了解です!」

 私はザクマシンガンとシールドを僚機に渡すと、バックパックに取りつけたマゼラトップ砲を展開。

キャノンザックと一緒に連射して、弾幕を張ることにした。

その間にシローの隊が徐々に下がり、一定の距離を開けたところで、一気に走り始めた。

 

「ファットアンクルが見え始めました!」

「よし。第二段階に入る。私達三人を残して先に行け!」

「御無事で!」

 丘陵の陰に隠れる為に、ファットアンクルが旋回して着陸態勢に入る。

先行して物陰に入り込むのは、おそらくグレーデン機が搭載されたやつだろう。

その場所が目立たない様に、そしてその位置から曲射攻撃できる場所を今の内から選定しておく。

「では二人とも、準備はいいな? にげ……いや、後ろに向かって突撃する!」

「ははっ。後ろに突撃かよ。こいつはいいや!」

 すまんがパクリだ。

私にギャグのセンスはない。

 

 タイミングを図って一気に加速。

ホバーモドキを吹かして、三機は一度直進してUターンを掛ける。

追い掛けようと前に出てきた相手に集中砲火を掛け、今度こそ下がることにした。

 

「構わん、準備の出来た機から上げろ!」

「せめて上空から援護します!」

 先行した機体がファットアンクルから身を乗り出し、散発的にクラッカーをまいている。

こちらは二歩ステップ移動して一回射撃、次は全力走行してまたホバー。

発熱が収まったところでまたホバーステップと、苦労して居ることを演出して下がり続けた。

「こういう時は旧型がありがたいな」

「まさかこんな使い道で役に立つとは思いませんでした」

 最後に残った一機に、私とシローの機体が先に載る。

そして残ったあいつが滑るようにホバーを掛け、丘を利用して飛び上がるのを両手を掲げて迎え入れるかの態勢を作りあげた。

まあ本当にソレをやっても良いんだけどな。

 

 森の影でグレーデンが他の二機と共にマゼラトップ砲を構えている。

キャノンザックも展開済みで、いつでも撃つことが出来る態勢だ。

 

「三、二、一!」

「撃て!」

 ファットアンクルが動き出した段階で、私は降下し直し。

シローも段階を追って降下予定だ。

そのころにはグレーデン隊は曲射砲撃を行っており、前段命中とはいかないがシールドを掲げて無い分だけ上手くダメージを与えていた。

「成功です! 追撃を掛けますか?」

「無用だ! グリンウッド達が気になる! もう二・三発撃ったら本当に撤収するぞ!」

 逃走中の追撃がもっとも損害を出すのだが、たまに逆もあり得る。

今まさに追ってくるお調子者を倒したばかりで、名残惜しいがここまでだ。

倒した機体に弾丸とクラッカーを放り込み、睨みあっているもう一隊の援護に向かった。

 

 先日と違って戦闘には発達して居ないが……。

だからこそ先ほど追撃しなかったことで時間という貴重な代価を得ることが出来たと言っても良い。

 

「残弾を分配しろ! もう一戦してインド亜大陸を獲る!」

「了解です!」

 こうしてインド中部を巡る戦いが、そのままインド亜大陸を巡る戦いに移行する。

ここで連邦の派遣して来た大規模な部隊を有利な間に潰せば、表面上であろうとも占拠できるのだから。




 と言う訳でサクサクとインドを攻略。
焦った連邦が逐次投入して居る間に、一気に制圧する事になります。
次回でインド制圧! 連邦が本腰いれてインド奪還!
という流れになる予定ですね。
まあ連邦が動かずに、ドムの生産が間に合ってもそれはそれで良いのですが。
ともあれ次回を終えれば、第二部の主目的である『ジオン主導のオデッサ戦』へと移行して行くことになるでしょう。

●現在の情勢
ロシア戦線:
 核処理施設で連邦の官僚と取引。
戦力の一部をキリマンジャロと北米に振り分けて、要塞化の完了。
シーマ隊は先行量産されたドムを受け取り、訓練中(南下予定)。

北米・キリマンジャロ:
 そろそろ要塞化終了。戦力も送られてくる予定。

ベルファスト・欧州:
 通常戦力の生産中。モビルスーツ工場の設置完了。
おや、ルナタンクの様子が……。

闇夜のフェンリル隊:
 インド中央へ?

新生ウルフ・ガー隊
 旧パキスタンで連邦の部隊とお見合い
包囲態勢と思わせつつ、インド入り

マ・クベ
 豚さん貯金箱状態。
水爆三発をボッシュート。
代わりに東欧司令に格上げ(執務を押しつけられたとも言う)

●ガルマの手持ち(精鋭一個大隊の機動戦力と、疑似的に存在して居る……額面上は数個大隊)
右翼中隊:
 シローが副隊長。エースのうち最も小者もこちらに。
イアン・グレーデン他、火力小隊もこちらに。中隊だけど少し多め。

左翼中隊:
 ロイ・グリンウッドが隊長、ジャコビアス・ノードが副隊長。
問題児の怪我して無い方もこちらに。捜索力は高めだが、火力はやや低め。中隊だけど少し多め。

増強中隊
 闇夜のフェンリル隊、新生ウルフ・ガー隊、水泳部の一部。
現在は到着して居ないが、腕効きが多いので、三個小隊でも中隊と呼ばれている。

母艦はすべてファットアンクルとギャロップ。
ガウはニューデリーで、アイナ以下残存部隊と共に、ジオンがインド経営して居るフリを実行中。
(ロシア戦線から引き抜かれた部隊が一時的に通ったり、逆の輸送も此処を通るので大部隊に見える)


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第二部・第六話:後編

●連戦、また連戦

 まだ敵の残りは状況を把握はして居ない筈だ。

補給や修理も惜しく、一番損傷した三機を追撃された場合の備えに残す。

手持ちの弾薬を融通し合って、交戦しているもう一隊を連戦で潰す事にした。

 

「この戦い如何によっては、インドでの戦いも一気にケリを付けることができる。諸君らの奮戦に期待する!」

「おおー!」

 いくら連邦の国力が強大でも、毎日十機の補充などは無理だ。

いや、オデッサに向けて投入予定の戦力をスリ潰してくれるならば、それもアリだが。

(ともあれインド中部の戦いを制すれば、当初の目的を体面上だけでも成功させることが出来る)

 そうなれば連邦はオデッサ作戦を前倒しで実行するか……。

それとも当初の予定のまま、インドシナやオーストラリアまで下がるかの二択だ。

 

 前者であれば五倍の戦力と戦う事を避けられるし、後者であればオデッサに至るまでの道に出丸を築ける。

いずれにせよ、原作よりも勝算のある戦いを挑むことが可能。

なおかつ一年戦争という単語を越えることが出来る。

総合力では連邦の方が上でも、経済・工業・農業の主要地帯を抑えている事もあり、来年以降の戦いはガラリと変わることになるだろう。

 

 

「司令! 左翼のグリンウッド隊が見えました!」

「押されて……いや。あいつらも戦力を隠して引きつけたのか。挟み討ちにするぞ!」

「了解!」

 ようやく追加された試作型ドムを中心に前衛を築き、地形を利用して臨時の防壁にして居る。

損傷した機体を後ろに下げて防戦しているように見えるが、上から見れば時間稼ぎなのが丸判りだ。

時々中衛を交代しながら、手持ちのシールドを前衛に渡してやるほどの余裕があった。

「場合によっては三連戦もありえる! 無理をするんじゃないぞ!」

「無理を言ってるのは大将じゃねえか! んじゃ降下するぜ!!」

「言った端から……。申し訳ありません、自分も参ります!」

 怪我してないもう一人の問題児が苦戦していると見て、良い恰好を付けようと馬鹿が降下する。

そのままでは孤立するので、仕方無くシローもホバーモドキを吹かして降下した。

 

 通信をファットアンクルの操縦士に入れつつ、近くの整備用ケーブルを機体に設置。

そして改めて部下に命令を伝達する。

 

「お前達は確実に降りろ。私はこのまま空中から援護する!」

「了解です!」

「流石にアレはできませんや」

 カークスの真似をしてマゼラトップ砲で砲撃。

前面扉なので横倒しにはせずに、艦砲代わりに攻撃するだけだ。

まずはシロー達に砲火を集中させようとする連中の鼻先に向かって、目立つように撃ち込む事にした。

「グレーデン隊は位置の占有を優先! 合流後は臨時にグリンウッド隊の指揮下に入れ!」

「了解っ。暫くお任せします!」

 いきなりの曲芸飛行しながらでは正確な指揮が取れないし、援護も驚かせる程度だ。

本格的な攻勢はイアン・グレーデンが砲撃位置を取り、グリンウッド隊が挟み討ちの為に前へ出てからだろう。

今更ながらにこの状態から直撃させたり、仲間に指示を出せるカークスすげーなーと思う。

 

 しかし、ファットアンクルの前面扉はジオンの地上知らずを示す一端だったが……。

こんな時に妙な活躍ができるのが面白い。

前にも思ったことだが、こういう特徴を活かせれば面白い装備もできそうだ。

 

(というかアプサラスの試作って、ファットアンクルに乗っけられる三機の融合炉で良いよな)

 ルナタンクから無理に発展させなくても、融合炉の機体、砲撃の機体、管制の機体。

この三つに分散させてテストしつつ、複数の融合炉を試すのは後で良かったんじゃなかろうか。

(あるいは劇中作だからモビルアーマーで、正史ではファットアンクルがアプサラスⅡであり、ケルゲレンでやったのがアプサラスⅢって可能性もあり得るよな)

 その段階で段々と融合炉の出力、そして搭載量が上がるのだ。

確かめようがないが、その方法でビームキャノンと砲撃システムを試せば何とかなりそうではある。

もちろん装甲の問題はあるし、高速飛行は難しいので、ジャブローを攻めるのは難しいかもしれない。

だが重要拠点を護る為の戦力としては、十分に可能性があるだろう。

 

 そんな事を思いながら援護砲撃を掛けていたら大変な事になった。

当たり前のことだが自分達が考えることを敵が考えない筈は無い。

流石にミデアでもう一隊が来るとかは無いが、急遽編成されたらしき航空機部隊が彼方に見えたのだ。

 

「やれやれ。楽には勝たせてもらえんらしい。お前達は下がるか着陸して難を避けておけ。私はグレーデン隊と共に対空迎撃を行う」

「申し訳ありません」

 これまでは序盤以外は見なかったんだがなあ……。

ドップ部隊とザンジバルで退けた筈の航空機部隊がアッサリと再編成されている。

その事に脅威を感じつつも、相手の拠点が近い事を思い出した。

(こっちが連戦で基地も行けるかもって思ったけど、同じことを向こうも警戒したって事かな。今ならば地上部隊と連携して守れるとか)

 これまでは一定の数が居ないと効果がないので、下がって居ただけなのだろう。

数を重視し、確実な戦いを行う連邦なのだからある種当然のことだ。

それに機種転換訓練を行って、モビルスーツ乗りに成る者は一年戦争の序盤に多かった筈だ。

これからは十分に人数が達したと見なして、無理には後方に下げないつもりなのかもしれない。

 

「タイミングは専門家に任せる。やつらの鼻先に叩き込んでやれ」

「了解です。マーカーを送ります」

 元々キャノンザックは砲撃よりも、対空攻撃に備えられていたらしい。

それが援護にも使える事に気が付いて、ザクキャノンの役目が変わったのだとか。

火力小隊を任せているイアン・グレーデンも、元はと言えば対空任務で名前を馳せていたらしい。

手元に居るのがとてもありがたい存在だった。……我儘も言わないしな。

「護衛の戦闘機隊は隊列を乱すだけで構いません。爆撃機をやりますよ!」

「了解した!」

 ファットアンクルは低空飛行に切り替えて、TINゴットから逃れようとしている。

ここで隊列を乱せば逃げ切る可能性の方が高いだろう。

それに危険性はフライマンタの方が……。

 

 っ!?

私はここで原作知識を思い出して居た。

馬鹿だ……。ホワイトベース隊のことを覚えているならば、当然思い付ける筈なのに!

 

「ジャンプジェットザックを付けた機体があれば跳べ! 当てる必要は無い! 隊列を乱せばこちらの被害は激減する!」

「その手があったか! 付いて来い!」

「無茶を言うなよ。ドムは重いんだぜ」

 グリンウッド達の機体が空を舞う。

ガンダムがやった様に高度はないが、強襲作戦やホバー実験を兼ねて強化したジャンプジェットザックだ。

機体を空に飛ばし、マシンガンやバルカンを放つ程度の余裕はある。

そして爆撃の為に高度を下げた機体へ、ワイヤーロッドを引っ掛けるのは流石の腕前だろう。

「私としたことがこの程度の事を思い付かないとはな。これまでは不要だったが、戦術の一つとして考えるのも良いかもしれん」

「勘弁してください。この状態じゃまともにゃ当たらんでしょう」

 私はニヤリとしてグリンウッドに笑い返す。

アムロはガンダムだから出来た話で、ザクでは無理だ。

そんな事は先刻承知の上。飛行試験型グフの二の舞をする気は無い。

「ファットアンクルから降下する時ならどうだ? もちろん下からの対空砲火が無い場合に限るがな」

「まあそのくらいなら可能ですか。オプションとしちゃあ、できないより出来た方が良い」

 私が思い浮かべたのは、パラシュートを背負って降下中に射撃して居るシーンだ。

ジャンプジェットのザックは飛べるほどじゃないが、降下時に落着を和らげる効果がある。

ホバーモドキも使えばかなりの高度からでも可能で、無理に飛ぶよりもそっちの方が確実だろう。

 

 そんな話題を終えて敵部隊を掃討し、すごすごと引き返す航空機部隊を見送りながら合流を果たした。

 

「よくぞ無事だった。その上でまだ動ける機体と弾薬量を教えてくれ。無理ならば引く、可能ならばこのまま基地を叩く!」

「グレーデン達を中心に十機ってとこですかね? まあ相手の規模に寄るとだけ言わせてください」

 砲撃屋のグレーデン達は当然損傷が少ないが、残りはそうもいかない。

景気良くバラまいて援護射撃を行ったり、相手の突撃を止めたことで弾薬も残り少ない。

結局のところ前面に十機、残りは後衛に立たせるだけで圧迫すると言うことになった。

 

 相手の司令官が戦力の払底を嫌ったこと。そして闇夜のフェンリル隊の接近を確認して居た事。

そして連邦内の作戦もあり、早期に後退を決めたようだ。

表面上だけはインド亜大陸を制したが、……とうとうオデッサ作戦の弾き金を引いてしまったようである。




 と言う訳で、サクサクとインドを占領?
次回からオデッサ作戦に至る連続作戦、キャンペーンの開幕です。
相手の数をジオン側が把握して居るのもおかしいので、次回の冒頭は連邦側からになると思います。
久しぶりに死神部隊の出番ですが、向こうも新兵を加えて頑張ってるんじゃないでしょうか。

●量産型アプサラス
 ファットアンクルにビームキャノンを搭載した機体を乗っければいいんじゃね?
と思い付きましたが……。残念ながら時間が無いので間に合いません。
もしインドを来月に攻略して、その次の月くらいにオデッサ作戦だったら可能だったかもしれませんが。
思い付いたのが遅すぎるんや。せめてザンジバルでアプサラスⅢというアイデアを思い付いた時に、思い付いて居れば……。と言う感じですね。

●対空作戦
 半分くらいは味方を鼓舞する為のジョークです。
ザンジバルの砲撃で蹴散らし、ドップで制空権を取る方が確実ですし
攻め込まれている時は、普通に対空砲座で守った方が安全ですから。
アムロみたいに出先で母艦が襲われない限り、やることは無いでしょう。

●ガルマの新専用機
 設計だけは開始。
非匿名はガンダルヴァ、表向きのコードネームはギャン・La・ハットになる予定。
まあ設計だけで、実際にオデッサまで攻め込まれるまでは、完成どころか素材もありませんけどね。
アイナ専用機は最初からアプサラス。アンダルヴァが音楽家の旦那さま、アプサラスは女性の天女なので。


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第二部・第七話:前編

●インド奪還作戦、そして……

 視点は一時、連邦側へ。

発表された大規模作戦に、士官食堂も騒然となる。

 

「変なの。なんで今更出動命令なんだろ。僕らが動けばインドだって最初から問題無かったのに」

「そりゃあ……おめえ。軍にも事情があるって奴だよ」

 テリー・サンダースはこの少年が苦手だった。

曹長に昇進し、先任として士官食堂にも入れるサンダースだが……。

肉弾戦を除いて何一つ、この少年に敵う所が無い。

士官学校の候補生の中でも、アカデミィと仇名される特別コースで鍛えられている内の一人とは言え、立つ瀬が無い。

「そういう言い方、嫌いだな。何でもいいから教えてよ」

「戦いは数だよ。お前さんみたいな例外を除いて……基本的にはな」

 いや、部隊内でも勝てる奴がどれほど居るのだろう。

まだ候補生だと言うのに、自分どころか部隊内で一番の、ユウに匹敵する腕を持っている。

あとは読み込み合い込みで、機動戦闘のフォルド、砲撃戦でエイガーくらいだろうか?

まあ、そうでなければ、繰り上げで戦場へ……などと呼ばれはしないだろうが。

 

「隊長、あとは頼んます。俺じゃあこれが限界で」

「はん? そんなのエイガーに投げるに決まってるだろ。って訳で頼むわ」

「……はあ」

 サンダースに話題を振られたリド・ヴォルフは頼れる部下へ丸投げした。

立った者は親でも使えと言うが、役に立つならば、座って居ても使ってよろしい。

それが軍隊というやつである。

「腕前が左右するのは十機くらいまで。二十、三十と増えるに従って勝率は平均化して来る。

 これは判るな?」

「ええ。ガンダムや僕らのような例外はまず存在しませんからね」

 エイガーはそこで再び溜息をついた。

彼自身は砲兵出身なので、絶対に当たる攻撃で少年を追いこむ事は出来る。

だが読み合いが通じない状況で有れば、一方的に翻弄されるのは彼の方だ。

エースに成りきれない腕前であるのは自覚して居るし、少年が別格なのも理解して居る。

だが、それを認められても、社会秩序の問題で、放置できるかは別の事だ。

 

「上官からの言葉にはハイだ。命令じゃないから、厳しくは言わないが。……話が反れた。上層部はできるだけ数を揃えて挑みたかったんだ」

「じゃあ、なんで今更なんですか? インドを救うなら僕らで援軍に行けば良かったし、確実に勝ちたいならもっと待てば良いじゃないですか」

 ここで話題は最初に戻る。

ジオンが一気に投入出来る戦力は、多くて三十機程とされる(通常戦力や守備隊を除く)。

それに対して連邦は、毎月の生産数だけで同じくらいはある。

では、何故今までは駄目だったか? どうして今回は良いのか?

「大人の事情があってな。ジムを欲しがる場所はインドだけでなく一杯あった。それが今回は妥協したんだ」

「それでみんな黙ってたんですね。……大人って汚いや」

 結局のところ、政治取引だというダーティな言葉を使わざるを得ない。

少年は子供である自分が守られている事、そしてつまらない事情で他人の生死をやり取りする大人たちに呆れて居た。

 

「オレが聞いた所に寄ると、ジムだけで百機は揃うって事になったらしいな」

「百っ……」

「でも、良く許可出しましたね、うちの司令官」

 ここでリドが内緒だと口にするのだが……。

サンダースも流石に百機とまでは想像して居なかったらしい。

いきなりそれだけの戦力が揃う事になった事態に、少年は理由を悟る。

反転攻勢に必要なだけの戦力が揃ったということは、反対して居た誰かが納得下に他ならない。

「あの人、人類が殺し合うのは良くない。戦うならその気も起きないほどの戦力でって、何時も言ってたじゃないですか」

「それはね、アムロ。負けて勝つということもあると、気が付いたからだよ」

「司令官閣下!? 失礼しました!」

 士官食堂に顔を出した司令官に、一同は話を中断して立ち上がる。

それを制して、彼はこう続けた。

 

「他方の意見を認めることで、こちらの意見も認めてもらうということさ。他人の上に立とうとする傲慢な勝者よりも、謙虚に失敗を認められる敗者になりたいものだ」

「気持ちは判りますがね。敗者は止めてくださいよ、縁起でも無い」

 直属ゆえにこうしたやり取りを何度もやって居るのか、リドは混ぜっ返す。

司令官の演技過剰な部分は仲間達も知っているので、和やかな雰囲気が流れた。

「もちろん、十分な戦力が揃うと判り、戦友が死ななくて済むと判ったからでもあるがね」

「それなんですが、なんでまた急に百機も?」

「差支えなければ自分も教えていただければ……。もちろん、軍機であれば不用です」

 本来ならば秘密にすることだ。

だが此処に居るメンバーは、誰もが秘密にすべき戦技研の秘密プロジェクトに所属して居る。

そして、百機も集まる様な事など、そのうち公表されるか、暗黙の了解になるだろう。

 

「ここだけの話、ロシア戦線の停滞が決まったからだ。なら私の手持ちも加えれば百機が揃う」

「ジオンとも何らかの取引があったって訳ですかい。まあシベリアで殴り合ってもなんも良いこと無いですからね」

「それで戦力がこちらに来るというなら、皮肉なもんですね。うちは助かりますが」

 身近な大人達の会話を聞きながら、少年は僅かに首を傾げた。

それは当然の疑問であるが、圧倒的な大戦力の前には無視されることもある可能性だ。

「でも相手も知って居る事ですよね? 偶然の出来事じゃなかったら予想されてるんじゃ」

「幾らなんでも問題無いだろ。ジムだけで百機って全部で三百は超えるぞ?」

 それまで上官同士の話題に口を挟まなかったサンダースも、候補生のアムロには口出して来た。

あるいは緩くなって来た雰囲気に触発されたのかもしれない。

 

「……アムロは賢いな」

「っ!? まさかワイアット司令!」

 ワイアットと呼ばれた司令官は、あえて言葉を選んだ様子だった。

芝居掛った事を口にする男だが、それでも軍全体の事に冗談を入れるとは思えない。

「当然、予想して居るだろうね。他の将軍たちの反応は、『今直ぐ攻めれば準備も出来まい』という程度なのが、もどかしくはある」

「連邦が負ける可能性も?」

 ワイアットは憂いを帯びた表情で首を振る。

大戦力に負けは無く、大戦略に敗北は無い。

その事自体に間違いは無いし、まともな方法で負けるとも思えないのだ。

「それ以上の用意をするつもりだし、これからも口を酸っぱくして対処を求めるつもりだよ。当然ながら、引き分けや敗北に持ち込まれた場合もね」

「犠牲が出るのは止むを得ないと言うことですかい」

「そんな……」

 リドは肩をすくめておどけて見せるが、サンダースは唖然としてしまった。

それで死ぬのは自分たちなのだ。

だからこそ、司令官であるワイアットの顔は憂いを帯び、可能な限り死者を出すまいとしている。

 

「しかし、これだけの戦力差をどうやって……まさか戦略核じゃあ」

「ですが中尉。南極条約で禁止されているのを使ったんじゃあ、絶対非難されますよ?」

 エイガーの懸念にゾっとしつつも、もう挟むまいと思っていたのに口を挟んでしまう。

核や毒ガスだけはないと信じたい。

だが百機のジムを何とかする方法が、他にあるのだろうか?

その懸念を打ち払ったのは、他でも無いワイアットである。

「いや、それだけはない。

 ガルマ・ザビは水爆や欧州中にある核廃棄物をシベリアに送り、こう伝えたそうだ」

「敵の司令官が……?」

「あの甘ちゃんか」

 敵の司令官が水爆を送って寄こした?

それは意外な出来事であり、核を使わないというのも意外だった。

だからこそ、ワイアットが紡ぐ予定の言葉を待つ。

 

「これで二十世紀から続く、人類の宿題が一つ片付きますね。……と。私は地球人類の一人として、それを信じたい」

「味方の大人よりも、敵の大人の方を信じれる社会ですか……。嫌な世の中です」

 そうだね、寒い時代じゃないか。

そう語るワイアットの言葉は芝居掛って居ても真実だった。

だからこそ洞察力に優れたアムロも、幾つかの事を見逃す事になった。

「とはいえこれも戦争だからね。発言力を確保して最大限の対策はする。だからこそ負けるが勝ち、謙虚さが重要だと言ったのだよ」

 そう、ワイアットという男が……。

最後の最後まで、舞台の上で心からの演技をしているということを。




 と言う訳で、インド奪還からオデッサに向けての話です。
それを連邦視点で語りつつ、伏線の消化になります。
本当はガルマが色々と手配するのも書こうと思いましたが、一日経っても迷っていたので中断。
分割してしまうことにしました。

●連邦側の介入者
 その正体はグリーン・ワイアットで、憑依者は重度のガノタ(ただし宇宙世紀に限らない)。
士官学校に色々と才能ある子を放り込み、アカデミィと呼ばれるエリートコースを創設。
おかげでアムロの腕前は既に上がって居ます。
『オメガであり、ツエットである最終解決部隊。特殊部隊オズ』を目指して居る。
なおプロレスのファンではなかったので、女子プロレスにオズ・アカデミーという集団が合ったのは知らない摸様。
自分専用の決闘用モビルスーツを用意して居る可能性は高い。
当初はトレーズ様をファン対象の一つにはしていても染まって居なかったが……。
アムロ達に受けが良いので浸食されつつあるというか、洞察力で見抜かれても困らない様にしている内に、止めることが出来なくなったと言うか。
それはそれとして、彼もまた現代からの介入者なので、核問題でガルマと同意見なのは本当。
(だからこそ、アムロも気が付き難い)

●スーパー死神戦隊RX
 とうとう完成したRX77とRX78数機で主力が構成されている。
サブは陸戦ガンダムと陸戦ジムという豪華な部隊。
一番の新兵は、腕の良い候補生が繰り上げで入ったアムロという頭のおかしい戦力をもつ。
一個中隊で一個大隊分の戦力だとワイアットは語るのだが、周囲はソレを冗談だとか、ふかしだと思っているらしい。

母艦はペガサス級六番艦スタリオンで、コードネームはブラックプリンス。
原作と違ってホワイトベースの修復素材にはならず、例の事件のように核で沈む事もないはず。
「ジャーンジャーンジャン♪」
「アフロだ、逃げろ!?」


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第二部・第七話:後編

●二階にあげて、階段を外せ

 連邦軍の大部隊、胎動す。

その方を掴んだジオン軍も、にわかに動き出した。

 

「諸君! 連邦の総数は三百を越える大軍らしいぞ。大したものだな」

「これを百に満たぬ数で迎え討つとは、物語の主人公にでもなった気分ですなぁ」

「司令! 如何いたしますか?」

 サクラを頼まずとも、グリンウッドはニヤリと笑いグリンウッドは生真面目に確認する。

既にそういう役割ができており、兵士達もいつものように受け止めている。

「来ることは判って居た。ならば対処する手順が多少変わるくらいだな。シロー、目標の地図を」

「はっ! これが最初に攻める敵拠点と、相手の戦力です」

「攻める……? しかも総数が既に判っているのか?」

 迎撃作戦の伝達をする筈なのに、なぜ真逆の言葉が出て来るのか?

しかも相手の総戦力が、事細かに表示されて行くのだ。

 

「あれ? これって……?」

「そうだ。迎撃作戦に先だち、動かせる全力を持って、旧パキスタンで踏ん張る連中を掃討する」

 表示された地図は以前に戦った拠点。

そして籠る戦力は、陸戦ジムを隊長機とするジムの軍団が二十機ほどだ。

あれから半放置して拘束だけして置き、飛んで移動しようとすることだけを避けて居た。

内部に籠って邪魔をする事に意味があるので、相手も無理に付き合わずにズルズルと長引いていたのだ。

「理屈は判ります。……ですが、それでは前線への到着が遅れてしまうのでは?」

「そうなればせっかく確保したインドを、易々と取り返されてしまう可能性が……」

「判って居るとも。だが無視しえない条件が三つあるのだ」

 一つ目は言うまでも無く、後方を突かれること。

二つ目は連中を囲んで居る戦力で、これからの戦いには重要な力になる。

地上戦力主体でザクも損傷したものも多いが、それでも連邦との戦力比を改善するには必要だ。

 

 ということにしておく。

これから話す三つ目もだが、実のところそれほど意味は無い。

連邦から真意を隠す為に、味方からも隠しているに過ぎない。

 

「攻略したばかりの前線で万全の防御などできまい。私は無駄に君達の命を散らす気など無い。既に遅延作戦は不用と伝え、無防備都市宣言も準備させている」

「ということは、防衛はインド中央部からということですか?」

「それなら迎撃できる可能性も上がりますね」

 これこそ仕込んでおいたサクラによる発言だった。

一番困るのは『放棄するなら、なぜ攻めたのか?』とか、『我々の血で購ったモノを捨てるな』と言われることだ。

最前線は連邦が捨てたり、後方撹乱のついでに回収した場所が多いので大丈夫だと信じたいが、それでも理想論を言われるのが困る。

「仮に連邦が百機のモビルスーツを計算するとしよう。だが先に後方の二十を叩き、占領に二十から三十を使用させれば互角に持ち込める」

「それなら勝てるか?」

「納得です。ですが……」

 そんな訳は無い。

連邦の国力ならば、旧パキスタンの連中無しで百揃えられるだろう。

というかそもそも、新型やザニー込みで百を越えている可能性すらあるのだ。

 

 だがここでは士気を上げるため。

上層部の努力次第で、何とかなると思えるならば最後まで戦いぬけるだろう。

どうせ誰も彼もが死地に赴くのだ、そのくらいの安心感くらいは与えてやりたい。

 

「仮に相手が全てのモビルスーツを移動させたら?」

「当然の疑問だな。その為にフェンリル隊は合流しなかった。そしてロシア戦線に残した海兵隊を投入する」

 それでも疑問に思い、後から後から不安に思う物だ。

だから此処もまた、最初から仕込んで居るサクラとの答弁で乗りきっておく。

まあこれが続いて、大本営みたいな官僚答弁になっても困るけどな。

「そういえばゲラート少佐はモビルスーツと補給物資を受け取ると、そのまま移動したな」

「確か海兵隊は一足先に新型に乗り変えている筈だ」

「おお……」

 後方の連邦戦力が二十消滅し、質の高い戦力が相手の背後に潜む。

イメージ的にも判り易く、そして前後から挟み討ちされるのは、自分達では無く敵だと言う認識は強い。

仮にスパイがこちらの情報を流したとしても、それなりに信じてくれる筈だ。

 

 基本的にはこれが建前、あくまで表向きの理由だ。

本当の所は……。

(チェスや将棋でもあるまいに真面目に戦って居られるか!)

 なんでジムが百機も居るんだよ。連邦チート過ぎじゃね?

これに陸戦ガンダムまで居るし、もしかしたらガンダムだって間に合っているかもしれない。

そいつらに付き合って正面から打撃戦とか、頭おかしいだろう。

(どうせ全部の局面で勝つのは無理なんだ。最初の一手は安全に後方を綺麗にしつつ、捨てた前線で相手の布陣を確認してやる)

 予め撤退せよと伝えてあるので、無駄に損耗する必要が無い。

同時にこちらの偵察要員や機材を残す事ができるので、丸判りとはいわないが、数と構成くらいは判る。

無防備宣言した町や拠点を破壊するとも思えないし、本当に戦力を残してくれたら儲けものだ。

 

 構成を把握したら勝てる場所にだけ挑みに行けばいい。

数が足りなければ、拠点を捨ててそこに置いた戦力も回収するまでだ。

それこそホワイトベース隊が結成されて居たら、マグマに水を注ぎに行くようなもんだ。

 

 勝てない相手には挑まない。

勝てない相手がやってくるなら、モビルスーツ以外の戦力で足止めするまでだ。

だからこそ、フェンリル隊以外の後方撹乱要員には、新型や戦艦なんて大物よりもディッシュのような偵察機を潰せと伝えてある。

後は……補給部隊を叩ければ最高なんだけど、流石に三国志や銀英伝見たいにはいかんよね。

 

●専用機再び?

 そうこうして攻撃の準備を整えていると、ギニアスから連絡があった。

補給物資やドムの件は終わらせているが、世間話をするつもりでもあるまい。

 

「そちらも順調なようだね。今日は君へ渡す持参金代わりの品を見せようと思ってね」

「こちらが用意できる引き出物としては、分解した木馬の使用許可くらいですか」

 ペガサス級は分解して技術検証に回しているが、パーツは幾らか残っている筈だ。

アプサラス計画の為に使って良いか、確認しにきたのだろうか?

この時はその程度に考えていたのだが……。

「それはありがたい。さっそく使わせてもらうよ。君へ渡すのは、新しい専用機の設計図だ」

「ガルマ様。こちらです。兄からこの場でお渡しせよと預かって居ました」

「ありがとうアイナ、見せてもらうよ」

 この野郎、勝手に使用して居たな……。

腹は立つが、そうでもしないと間に合わないなら仕方無い。

できればインド戦線に持ってこれれば良いが、それは贅沢というものだろう。

とはいえオデッサ戦までには完成してくれないと、地味な勝負の連続になる。

胃が痛くなるし、もし相手に隠された切り札を持って居た時に対処が不可能になるからだ。

 

 そう思って設計図を確認すると、どこかで見た『キット』の図面がある。

何と言うかビルドファイターズ・トライで見た、アレとアレの合いの子と言う感じだ。

 

「これはギャン……スロット? いや、Rギャギャ……」

「うん? ああ、ギャンのイメージにランスロットを見たのか。確かにリファインしたギャンをベースに考えているが……君も随分とロマンチストだな」

 ロマンチストなのはお前の頭だよ。

そう言いたくなる気持ちを抑え、ギャンスロットとRギャギャの中間というしかない設計図を眺めた。

肩のバインダーは可動式で前面展開するのは、こちらの要望通りだから構わない。

現在の専用機にあるショルダーバインダーは、制御できないので飾りだからな。

「手持ちが槍なので、以前にみたギャンの高機動プランを思い出しましてね。結局、ゲルググのコンセプトを採用と知って忘れていましたが」

「キシリア様の所で見た資料だね? 私も参考にはして居るよ。ビームサーベルの実用化を図るより、大型化の方が簡単だしね」

 それも良い。

無理に小型化を目指して本当に間に合わなかったから問題だ。

それにルナチタニウム合金の装甲を考えれば、効率良いサーベルよりも大型武器の方が助かる。

 

 しかし……。

完全にキリシアのイメージがギャン子のイメージになってしまったな。

紫ババアの頬がこけた姿から、ふっくら柔らかなボディになってしまう。

 

「それはそれとして、この頭上にある円盤は? 片方がレドームなのは判りますが」

「そう! それこそがこの機体の肝さ。指揮官機に必要なのは戦場の把握、そして防御力だ」

 これは良い盾だ……と言うべきなのか?

だがサカザキ家のアレほど、強固な盾を作れるとも思えんのだが。

「この機構は通常はビームランスと同時には使用できまい。しかし! ひとたび稼働すれば、その辺りの粒子を遮る力があるのだ!」

「……まさかっ。I・フィールドを完成させたのですか!?」

 そういえばアプサラスはビグザムっぽいけど、I・フィールド付いて無いんだよな。

ということはこいつ、アプサラスを護る為に私の機体に無理やりくっつけたのか。

 

 そういえば正式名称は『ガンダルヴァ』になってるんだが、これってアプサラスの旦那様なんだよね。確か音楽の神であり、香りが好きなんだったかな?

言われてみれば試験型とはいえI・フィールドと、レドーム型レーダーあるならそれっぽいか。

ビームランスに接続されたコードの群れも、楽器に見えない事も無い。

 

「その通りだ! まだ未完成で試験機では動かす事もままならんがね。だがオデッサ戦までには間に合わせて見せよう」

「ということは……やはり計画は最終段階ということですか。それはありがたいっ」

 ギニアスがこんな手間を掛けると言うことは、アプサラスが完成間近ということだろう。

でなければオプションに過ぎない……それも完成するか怪しい技術に手を出すわけがない。

そういう意味では、やはり技術的に優れた連邦の技術を流用した結果かもしれない。

「そうですね。秘匿名はこのままとして、表向きはギャン・La・ハットとでもしておきましょう」

「かの騎士が持つ、聖なる盾、聖槍、そして……聖杯と船か。良いだろう」

 半分くらいはパーシヴァルの伝承らしいけどな。

まあこの場合はガンダルヴァという本来の名前、ワンセットであることを隠す程度だ。

丁度良い名前なので利用させてもらおう。

 

「しかしガルマ様。兄の事です。完成そのものはさせるでしょう。……ですが本当に、連邦軍の大軍を薙ぎ払えるのでしょうか?」

「陸戦ガンダムとか言ったか。アレに使用されているルナチタニウム合金を考えれば、不安なのは判る。……切り札の使い道を考えないとね」

 実際の話、ビグザムは強力だったが戦局は覆らなかった。

アプサラス計画が完成したとしても、ザンジバルを利用した間に合わせであって、大軍を打ち破るのは難しいだろう。

だが何とかなる筈だ……持久戦で勝つ為の一環という作戦が、これで勝負できるかもしれない。

その意味では勝利の切り札になるかもしれないし、相手の切り札に対抗できるかもしれない。

完成するのがオデッサの本戦だとしても、それがあるのとないのとでは大きな違いがあった。




 と言う訳で、ジオン側の逆襲計画です。
ジム100が120になる前に、先に潰してしまおう。
それを100を80にしたと言うことで、味方へのプロパガンダに使用しつつ、連邦に対しては前線に兵を送れなかった理由の作成です。

●ガルマの目論見
 手持ち30弱、現地の防衛隊10程度
場合によってシーマの海兵隊6と、フェンリル隊(機数不明)も合流。
これで相手の戦力が薄い場所を叩くと言うのが、表向きの作戦になります。

 これを支えるのが、前線を捨てて相手の戦力を把握する事。
感覚的には、ギレンの野望とか後衛ゲームの白紙地形をNPCに提供して、戦力分散を図るアレ。
まあコンピューターみたいに無意味な占拠はしないはずですが、何処に何機のジムが居るのかが判って居れば、話が違ってきます。
更にインドは広いので、運が良ければ繰り返せるかもしれない、あるいは連邦の方が、司令官の判断や派閥の指示で分散するかもしれない。
という計画になって居ます。

 勿論、これが上手く行くとは限りませんし、連邦は普通に補充するでしょう。
仮に月生産30、これが今まではバラバラに配備だったとしても、この戦いの間は20ずつ送られてくるでしょう。
この為に勝つのは難しい。全てはオデッサ周囲の準備が整い、色々な開発が終わるまで待つ為。
そして原作では不可能だった、持久戦そのものが、連邦政府へボディーブローの様に効く筈だと言うどちらかといえば後ろ向きな計画になって居ます。

●ガルマ専用機『ガンダルヴァ』 = 『ギャン・LA・ハット』
 ビルファイターズ・トライに出てきた、ギャンスロットとRギャギャの中間みたいな外見。
実際にはドムとかゲルググのガワを弄るので、完成時にこうなっているのかは不明。
主兵装はビームランスで、射撃は既存兵器。肩のバインダーは回転して射撃戦時の盾になる。
オマケに付いている日傘・帽子の様な存在は、レドーム状のレーダーとI・フィールドになる?
しかしながら現状では完成の目途も立っておらず、まともな方法では動かす事も出来ない。
最低でもアプサラスと合体し、メガ粒子砲を撃たない時に展開できる……かもしれないロマン防具。

●アイナ専用モビルアーマー『アプサラス』
 原作のアレと違って、センサーその他をガルマのガンダルヴァに丸投げして居る。
更に大型火器としての性能はザンジバルであるケルゲレンが行うので、小型化・実用の為の検証機に過ぎない。
感覚的に言えばアプサラスよりは、ZZのメガライダーとか、ZのGディフェンサーを大きくした感じだろうか?
いずれにせよ未完成であり、やはり完成してもオデッサ戦の予定。

●アプサラス計画
 ハイメガ粒子砲として、成功仕掛けて居ます。
しかしながら、完成してギニアスの思い通りに役立つかは別。
I・フィールドのあるビグザムで無理だったんだから、アプサラスも無理だよねという結論。
とはいえ戦略兵器であることには限りなく、戦局を変える為に使用するか、連邦の切り札対策には成る予定。
(ガルマが思い付くのは前者予定で、連邦の切り札はそのカウンターに使ってくるだろうと言う目論見で妥協)

●MS-09ドム
 先行量産が配備され始め、本格的な生産も始まるとか。
原作と違ってバックパック式で、かつハードポイントに追加装甲や様々な装備が付けられる。
その代わりにホバーが未完成のままで、このままでも強力だし、いつでもホバーしないから良いんじゃない? ということになった。
なお今更の話だが、ホバーがいつまでたっても完成しないのは、ハードポイント式にした悪影響と思われる。
そりゃ本体全部使って、莫大な搭載量で実験しないと浮かせられないよね。
ただしグフなどの実験をハードポイントで済ませた為、配備は原作よりも圧倒的に早く、J型の次がいきなりドムである。
逆に言えば原作のドムが遅くなった理由は、ホバーにあるという説。(これはゲルググも同様)

各種ザック
1:ノーマル:バランサーやハードポイントの追加
2:ジャンプジェットザック:一瞬だけ高速ホバー、降下作戦用など
3:キャノンザック:いわゆるドムキャノン用。ザクと違ってS型やJS型意外にも可能。
4:ビームザック:ビームバズーカを使用する場合に、使う為の物。
  なおビームバズーカの完成そのものは未定で、設置兵器のビームランチャーを使うしかない


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第二部・第八話:前編

●思考の再修正

 一晩寝てスッキリしたところで、頭の中で色々な物を再修正して行く。

起きるまでに行う頭の体操みたいなものだが、トイレや風呂での妄想と同じで割りと捗る。

 

(まずは専用機とアプサラスが本当に使えるかと、まともな使い道だな)

 ギニアスから色々聞いたものの、直接見て無い上に理論先行なので困る。

止める人間がノリスしかおらず、彼も気の良い爺やなので難しい所があるだろう。

精々がザンジバルから母艦機能を外そうと言ったら止めるくらいだろうしな。

(とりあえずI・フィールドは止めさせよう。どう考えてもオーバースペックだし、普通に使えないんじゃ意味が無い)

 なんというかゲルググのビームライフルと同じ臭いがする。

理論では出来る筈だ! と言うものの、モビルスーツに搭載ってのは直ぐには無理だろ。

原作でもビグザムからだし、モビルスーツに搭載って天…アレ、やっぱり無理な気がする。

合体で補るという発想は悪くないけど、良くてデンドロビウムだしな。

 

 これを取っ払うか、オプションに変更させてAWACギャンで十分じゃない?

でも、その場合に何か代用案を出さないと、意地でも目指しそうだ。

原作を順に思い出して適当にアイデアまとめて送ることで、何とか採用してもらおう。

強行偵察ドムとかある作れるなら、今直ぐにでも欲しい。

というか有能なの知ってるのに、なんで提案して無かったんだろうな。

 

(ひとまず後でメモするとして、次はアプサラスだよな。08小隊レベルではまず無理として……)

 モビルアーマーではなく、ザンジバルをベースとしたことで実現性は上がった。

おそらくハイ・メガ粒子砲の先駆けくらいには成って居る筈だ。

成功すれば今度こそモビルアーマー版を作るだろうが、現時点では完成までは難しい筈。

これを実用するには、アイデアが重要というか、根本的な発想の変更が必要だろう。

(速射は当然できないとして、連発も無理だろう。なら優先させるのは威力か、それとも範囲か)

 ガンダムを範囲攻撃で焼けるなら、狭い範囲でもOKだ。

逆に広範囲限定と考えてジムともども耐久力を下げておくとか……。

射程型でアッザムリーダーの長い版くらいに思っておくか?

 

 いずれにせよギニアスがOkするか、そもそも運用可能かどうか、使い道にも寄って来る。

 

(威力重視すると要塞の装甲でも抜けるけど、アムロなら回避してしまういそうだ。

 あのエスパーめっ)

 というか近寄る前に撃沈されそうだ。

ということはジャブロー潰しを狙わない以上、威力重視はリスクが大きい。

かといって射程だけ長くても、母艦を潰すのも難しそうだ。

なぜならば砲門の火力・射程はサイズに寄るって、宇宙で実感したからな。

 

(なら重要視するべきは範囲型で汎用性高く使用する。迎撃や攻勢時のフォロー……でもジムさえ焼けなかったらどうしよう)

 実戦で戦って見て、ルナチタニウム合金採用型の恐ろしさは身にしみた。

キャノン砲とかハルバードくらいだと、一発・二発で沈まないんだよな。

超鋼スチールのジムなら可能かもしれないが、陸戦ガンダム以上は難しいと思うべきだ。

しかしその程度の武装を、何に使えと言うのか。

(スパロボの威力弱めなMAP兵器だなコリャ……。

 通常兵器にしか効かないレベルでも、あるだけマシか)

 ゲームに登場する無改造の範囲兵器を思い出し、私は苦笑いを浮かべた。

損傷した二隻のザンジバルを、速攻で復活させるアイデアだから二個一そのものは悪くなかったと思う。確か連邦も似た様な事をしたはずだ。

それはそれで、ケルゲレンを後回しにするだけで良かったんじゃなかろうかと、今更ながらに思えてきた。

 

 思い付かないので仕方無く、ガンダムを最初から思い出し、専用機の装備を修正する為に、アイデアをまとめて居た。

ガルマの取った戦法、オデッサでの敗北、そしてソロモンやア・バオア・クーでの戦い。

 

「っ!?」

 そんな時だ。雷光の様に幾つかの戦場を組み合わせて発想が閃いた。

「ガルマ様?」

「起こしてしまったね。ちょっとギニアスに送るアイデアを閃いただけさ」

 驚いて目覚めたアイナを宥めつつ、考えついたアイデアが可能かどうかを検証し始める。

今回の連邦軍は三百を越える編成だ。

百のジムを中心に、母艦や航空機、そして戦車。

(考えろ。今のは使えるアイデアだと思う。だが、本当に戦局を左右できる方法なのか?)

 答は、そのままでは無理。

自分自身の頭脳がギレンほど回転が良くないのは理解して居る。

だが、発想が宇宙世紀のモノではないこと。

そしてガンダムのモノに収まらないことで、色々な修正案を思い付ける筈だ。

それを元に、参謀たちに検証してもらうとしよう。

 

●初動の綱渡り

 晴れやかな笑顔から問題児どもに色々と突っ込まれた。

何を言われたかは割愛するとして、ともあれ作戦を始めるとしようじゃないか。

連邦の大軍を何とか出来る方法が見つかったので、久しぶりに気分が良い。

 

「まずは諸君らに朗報がある。

 連邦軍は我軍を各地で揺さぶる為、それぞれの方面軍をそれなりに動かした」

「あん? やられ始めたって事だろ。何が嬉しいんだよ」

「司令に対して口の効き方がなっておらんな。だが……喜んでいいと言うのは本当の話だ」

 私がもったいをつけた説明しても駄目だが、グリンウッドが笑うだけで静まった。

まったく差を付けてくれると思うが、出来る部下に嫉妬する訳にもいかない。

問題児がまるで心服しないのは問題だが、命令に間違いが無いなら聞くだけマシだ。

それにグリンウッドや歴戦の猛者だしな。

 

「ユカタン半島やアフリカ南部は損耗を覚悟で、こちらの方面軍を止めに来ている。当然ながら、こちらが向かう旧パキスタンでも連動する気だろうな」

「そうか! 今から向かう相手がワザワザ自分から出て来来るってことか」

「その通り!」

 まあ実際にはこちらの後方を脅かす為の行動なんだけどな。

しかしこちらは前線を捨て、先に連中を叩くつもりだった。

となれば戦いが楽になったと言い換えても良いだろう。

 

「我軍は既に出撃準備が整っております!

 穴倉から出てきたモグラを叩けと、お命じください!」

「よろしい! 速やかに作戦を実行せよ! 功績争いでの損傷は返って名声を損なうと知れ!」

「大将! そういうのは言わなくて良いんだぜ!」

 最後まで締まらないブリーフィングだが、一同の総意が一つになったことは良いことだ。

パーフェクト狙いで叩き潰……おおっと。フラグが立ちそうなので止めておこう。

「全部隊、出撃!」

「「おお!」」

 こうして一路、旧パキスタンとの国境を目指す。

 

 連邦軍の部隊が移動した場合は、飛び立たない場合は下がれと命じている。

ガウとマダガスカルが先行し、残りはファットアンクルで移動。

現地で包囲網を築く足止め部隊のザクを含め、三十を僅かに増強した形で戦闘に火蓋を切った。

 

「司令、お先に失礼します!」

「気を付けろよ、シロー! グレーデン隊は砲兵を潰せ!

 それに合わせてマゼラアタックを前に出す!」

「了解です!」

 以前に此処で行った戦法を、システマチックにまとめてみた。

先行量産ドムで突破口を開き、キャノンザックやマゼラトップ砲持ちが移動。

相手の砲兵役を先に叩いた後で、こちらの戦車隊がゆっくりと前進する。

微妙に違うのだが感覚的には、昔の三兵戦術を参考にしたと言えば良いだろうか。

「やはりドムは堅いな。オデッサ戦を前に量産開始出来たことは大きい」

「それだけにホバーの開発が遅れていることが悔やまれます。ですが……っ!」

 ドムの装甲が分厚い上に、原作では持たなかったシールドで固めている。

マシンガンくらいならば何とかなるし、ホバーモドキも接近や回避には使えるから実用範囲だろう。

それになんだ、原作だとまだグフも怪しいからな。

 

 だからこそ、連邦がガンダムを完成させている可能性を忘れてはいけない。

ビーム兵器はまだ見ていないが、陸戦ガンダムも使える筈だ。

お披露目を兼ねて使うとしたら、この戦いからである可能性が高い。

だからこそシールドを持たせることで、少しでも直撃の可能性を下げ、ビームスプレーガンだけでも防ごうとしているのだ。

……お陰で長距離移動させると、かなり移動力が落ちるんだけどな。

 

「グレーデンが取りついたな。マゼラアタック部隊も前進。

 相手が頭を上げられ無くなったところで、斉射三連!」

「了解です!」

 相手の砲塔がこちらを向く前に、グレーデン隊が砲撃を開始。

それに合わせて封鎖に使っていた戦車隊を前進させ、そのまま砲撃戦を敢行した。

「大将! そろそろ良いだろ。この戦いからあいつが返って来てるんだ」

「まったく仕方の無い奴だな。だが時間も惜しいし構わんか。……総員突撃!」

 うちの問題児は怪我して居た仲間が復帰したことでヤンチャ心を取り戻したようだ。

せっかく部下の死を教訓にして成長したと思っていたというのに……。

 

 まあ士気を削ぐタイミングでも無いのと、時間が惜しいのも本当だ。

崩れた敵軍に突撃し、一機に斬攪戦闘を行うことにした。やはりモビルスーツは乱戦での白兵攻撃が一番の火力を有する。

ビームライフルが出て来るまでは、この調子で良いのだが……。

そんな事は長く続かないと知りながら、その時が少しでも遠くなることを祈って居た。




 と言う訳で戦闘開始です。
序盤なので新戦法を軽く試しつつ、次回以降に引く感じですね。
八話の間でサクサクとインドの攻防は終わる予定ですが、流石に短い場合は前・中・後の三分割になるかもしれません。

●計画の修正
 まずは軽く、前回の終わりにもらった設計図に駄目出し。
実用範囲に絞ることで、オデッサ戦よりも早く完成する様にせっつきます。
次にアプサラス計画の使い道を思い付いた感じですね。
もっと良いアイデアが無い場合は
「モビルスーツを倒せないなら、通常兵器を削れば良いじゃない」
と言う感じで雑魚専の掃射兵器になります。
というかモビルスーツ戦闘したいののでこう成りました。
まあ、ジオンが圧倒的に負けましたという展開は避けたいけれど、ご都合主義で何とかなるのも避けたい感じです。

●ガルマ専用機
 真面目に考えて、I・フィールドを付けると間に合わない。
使ったとしても他の武器が使えない。なら使わなければ良いじゃない。と言う展開。
ドムをベースに実験して、ゲルググのガワが到着したら、ギャンのコンセプトで先行試作。
オプションはビームランスと、レドーム型の頭で完成予定。
これならドムでも可能そうなのと、間に合わないとガルマが活躍できないのでこうなりました。
 とはいえギニアスに舐められているフシがあるので、I・フィールドの代わりに別のオプションを提案。
ビーム撹乱膜の放射装置を代用提案する事にします。
アイデアとしては一年戦争で可能かつ、銀河英雄伝説のゼッフル粒子の逆パターンと
ガンダム知識だけでは思い付かない物にして居ます。

●新三兵戦術
1:装甲の厚い切り込み隊が前進防御
2:その後ろにキャノン型の集団が移動、砲撃
3:相手が砲撃中止した所でマゼラアタックが追随。
 これで行う砲撃戦闘で相手の動きを制限した後で、本隊が突っ込みます。
連携とか腕前も必要なので、今の連邦にはできず、その場で試しながら練習できるガルマ用の戦術になるでしょうか。
前線で地道に戦うには不用のコンビネーションですが、速攻で叩かないとマズイ時用に以前思い付いたことを研ぎ澄ませた感じです。

●初期の動向
 ユカタン半島を北上し、キャルフォルニアに迫った連邦軍。
そしてアフリカを北上し、キリマンジャロに迫った連邦軍が阻止戦闘中。
当然のように待ち構えているのですが、連邦軍はそれを前提に足止め中。
北米とアフリカの戦力が迎えない様にした感じですね。
(なお損耗は今月の生産で全部補充できるレベルな摸様)
 本来ならば旧パキスタンの部隊も行動するはずだったのですが……。
本文にあるように、インドの前線を捨ててまでガルマが来たので計算外で撃滅されて居ます。
連邦軍は当然反撃がある物と思って進軍してますが、相手が抵抗しなかったのでアッサリと前線を奪還しております。


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第二部・第八話:中編

●凄いあいつがやって来た!

 アプサラス計画の運用に際し、自分なりに練り直してから参謀団に渡してみた。

その結果は『ハンニバルですか?』とか『古典ですね』と言われてしまった。

パクリ疑惑を受けてしまったが、別方面のパクリそのものなので仕方あるまい。

 

 作戦その物は古典の流用であること。

そして今やって居る航空機の牽制とあまり差が無いので何とか認められた。

実際の成果はギニアス次第なので何とも言えないが、五倍の戦力差から三倍に、そして二倍を目指す程度の策にはなるだろう。

既に原作よりも攻められる方角や戦力は減って居るのだ。何を恐れることがあろう。

 

「なん……だと?」

 これで何とかなる。

そう思った矢先に、楽観論を覆す出来事が耳に入った。

「間違いありません。南部方面を抜かれました」

「馬鹿な……。前線を下げた分、こちらが救援に行くまで十分な戦力があったはずだろう」

「それが……」

 目を反らせたいが、とうとうその日がやって来た。

提出された望遠画像には、見慣れたロボットが表示されている。

白をベースに赤青黄。いわゆるガンダムカラーだ。

「連邦はビーム兵器を投入しました。凄まじい攻撃力でザクの装甲を一撃で融解させます」

「信じられないでしょうが本当の出来事です。J型は旧型よりも装甲が厚い筈なのに……」

「新型に加えてこちらを上回る新兵器か」

 いや、知ってたけどね。

しかし、コレどーすんだよ。

詳細な資料を確認したら、頭おかしいほどの戦力だった。

ガンダムが四機、ガンキャノンが二機、んで補助は全部陸戦ガンダムと陸戦ジムとか。

 

 こんなの絶対おかしいよ!

そう叫べたらどんなに楽だろう。

だが、司令官がそれをやったらおしまいである。

私は初めてガルマに憑依したことを後悔しそうになった。もうちょっと責任の無い一部隊の司令官だったならば。

せめてギレンかドズルに相談できる場所なら。

 

「ショックなのは判りますが落ち付いてください。まずは対処案を……」

「それよりも本国に報告しなくては……」

 現実逃避しかかった自分の前に居たのは、冷静な様で居て、微妙に冷静ではない参謀団だ。

「先にする事があるだろう! 敗残した部隊のメンバーは無事か!? 基地も兵器もどうでも良い!」

「これは戦争なのです。犠牲者が出るのは止むをえません」

「少なくない戦死者が出たのは確かですが、我々はまだ連邦よりも勝っているのです」

 そういえば原作でも崩れ始めるとこんなもんだったなーとか思いつつ。

自分よりも慌てているメンツを見ると、なんだか冷静になれる。

溜息をついて抑えるべきところを抑えることにした。

 

「ビーム兵器ごときにうろたえるな! 我軍が先に使っていただろう! それよりも怪我人を後送し、無事な者を呼び寄せて詳細な情報を集めよ!」

 私が今更に戦死者にショックを受けて居ると思っているのか?

そりゃまあ人を数字をして見れないから、いちいち衝撃を受けて居たけどな。

それだって慣れることはできる。別に慣れたくもなかったが。

だが現代日本人の感覚と、戦乱の宇宙世紀の感覚の差くらいは自覚してしまった。

 

「南部方面はもう一つラインを下げることを前提に組み直す! それに合わせて長射程砲とビーム撹乱膜の用意を急げ!」

「撹乱膜を? それですとビームが……いえ実弾タイプの用意を急ぎます!」

「キャノンザックやマゼラトップ砲が通じたかどうかを、急ぎ確認してまいります!」

 私の指示で一気に状況が動き出した。

なんだかMMOやTRPGで想定外の動きや、独断行動的なプレイヤーが出た時のことを思い出す。

大きなショックを受け固る人間と、一回転して落ち付く人間がいるが、私は幸いにも後者だった。

「専用機の問題でギニアスにコントロール装置を頼んで居た筈だ。その一環で小型化や長距離放射タイプがあるかもしれん」

「そういえば、開発は三系統から用意してましたよね。問い合わせてみます!」

 ただ失敗したのは専用機の話題を出したことだ。

適当に誰かが思い付いて探しに行くのと、私が声を掛けた事で変わる運命もある。

 

「また、防御力も生半可な攻撃は効かんように設定してあるだろう。どうしてもの場合は、大型武器や体当たりに寄る衝撃を行え」

「行う前に撃たれるでしょうが……。それでも対処できないよりはマシですか」

「対策が用意できるまで戦わないべきですが、現われた時の為に通達しておきます!」

 とはいえこのままでは突貫作業で作りあげられた専用機に乗って、私が相手することになりかねない。

相手はアフロかもしれない。どうしよう?

倒そうにもガンダムがこれだけ居たら倒せない可能性があり、足止めに専念しても経験値を献上するだけだ。

まあこの時は思い付きもしなかったんだけどな。

 

●対決か、それとも交渉か。あるいは……

 南部の詳細を確認する段階でおかしいことに気が付いた。

この時期、連邦はまだ三機編成で指揮車両や援護車両を加えて四機編成なのだ。

それが既にモビルスーツだけで四機、隊内援護はキャノン型で、完全な援護専用部隊は別個に存在して居る。

 

(こいつは介入者の部隊か。……後に連邦が四機編成でこちらの三機編成に打ち勝つことを知って居ないと今、決断する事はできん)

 ベルファストの時は生き残りが合流しただけの可能性もあったが……。

今回ばかりは確定的だろう。似た様なカラーリングのガンダムやガンキャノンも居るしな。

(少し慌ててしまったが、早々に特定できたなら少し対処が変わってくるか? ……いや、先ほどの指示自体は問題無い筈だ)

 そもそも介入者を倒すべきなのか?

それとも反乱を促す為に行動するべきなのか?

確実に居るとは判らないことから、結論を先延ばしにして居た。

そのツケが出たと言えるだろう。

 

 キリシアは穏健派ポイのと宇宙で無関係だし、今はいいやと放置して居たのが仇になったか。

いいや、逆に考えるんだ。今ここで断定が出来た事に意味があると!

今は時間稼ぎで間を置きつつ、対抗手段を模索。対等に話し合える状態で、交渉するなり利用するなり、無理なら倒せばいい。

ここは情報収集に徹するべきだな。

 

「ガルマ様、どうかなされました?」

「何でもないよ、アイナ。……ただ別件と絡めて、南部方面の指揮官が気になったんだ」

 アイナやシローはともかく他の参謀の前でこの結論は出せない。

適当な理屈を考えつつ、不自然でないように情報収集を命じる必要があるだろう。

「この司令官は装備や編成の更新に対して理解があるようだね。今後を考えれば、危険な相手だ。背景や可能な限り考え方の癖を調べておきたい」

「……背景ですか? そうですね。補給や認可も考えればコネクションも重要ですし、可能な範囲で調べてもらいましょう」

「性能に任せてゴリ押しするタイプなのか、確実性を期す為に使うのかでも違ってきますからね」

 アイナは質問の段階で気にして居た様なので、何となく納得してくれたようだった。

参謀たちの言葉も聞きながら、今後の為に一つの指針を立てておく。

倒すか交渉するかはべつにして、いずれくる対決の為に用意が必要だと言う事だ。

 

 悪逆非道で後ろ指されないことはもちろん、舐められない様にしておく必要があるだろう。

その意味では長距離砲撃で牽制し、ビーム撹乱膜で抑え込むのは悪い手段ではないだろう。

そうすれば相手の動きを止めつつ、こちらは次の準備ができるのだから。

 

「ビームライフルとでも呼ぶべき兵器は避けるか、シールドをその都度に捨てて行く必要があるだろう。その上で使いこなせるのは、まだこの部隊だけとはいえ、今後も注目しておいてほしい」

「はい。転戦する可能性やビームを使いこなせる機体の増強に注意いたします!」

「本国に対ビームコートを塗ったシールドの要請を行います。上手くすればオデッサ戦までには間に合うかと」

 派閥の論理を越えて動かすだろうか?

それとも自分の元で確保し、発言力の向上を狙うか?

今はその点から性格を読み解きつつ、対処手段を探ることにしよう。

そしてもう一つ、やっておかねばならない事とがある。

「本命がオデッサを勝ち抜くことだと悟られる訳にはいかん。消極策だけでは限界がある。早急に攻める場所を策定せよ」

「はっ! 海兵隊やフェンリル隊との共同も視野に入れます!」

 インドそのものは効率的に良い訳ではない。

だがこの広さを利用して陣地戦を挑む事には変わりなく、時間を稼ぐ為の戦いが必要だ。

でなければこちらの糸が丸判りになり、消耗戦を避けるなり、次の戦いに重要な場所を積極的に抑えられてしまうだろう。

 

 守りの為の積極性。

この矛盾する目的のために、インド北部を奪還する事にした。

アフロが怖いと笑いたければ笑え! 今はジオンの勝利のために名誉など捨てて見せるとも。




 と言う訳で中継ぎ回です。
前・中・後になるかもしれないと言いましたが、早速。
ビームライフル対応機に驚かない筈もないし、かといって原作で知って居るのだから、立ち直るのも早い感じ。
その辺のバランスを出すのと、かといって消極的に行くとバレバレなので、予定通りに狙い易い場所を探した感じです。

●対ビ-ム兵器
 先に対策の伏線を張って無いと唐突で不自然なので、此処でお湯制しておきます。
序盤の段階で未完成ながらも制作されているとしたビーム撹乱膜。
そこから派生しようとして、なかなか開発されないビームコート付き盾(ゲルググのアレ)。
他に何かないかと探した挙げ句、結局は長距離砲撃で牽制し続けるしか無い感じですね。
一般兵相手ならまだ避けられるのですが、相手がエースだと普通に当てて来るでしょうし。
もっともソレをやると、普通はありえないほどの砲門を集める必要があるので、奇襲にもならないし、他が薄くなるだけの話です。
その意味もあって、北部の再制圧に向かって居ます。

●介入者
 対等に話せない雑魚と交渉しますか?
しませんよね。では対決だ。
と言う事です。
どこかでガルマの実力と、そこから来る発言力を見せつけないと話もできないわけで。
仮に相手が真面目に人類の将来を見てる人でも、ギレンの言うことに右往左往する人間ですと意味は無いので。

 と言う感じで決断はしたものの、まだ準備が足らないので足止めだけしておきます。
ガルマの腕ではガンキャノン用の長距離ライフルで狙撃されて一撃かもしれませんんしね。
なおここまで考えておいて、ワイアットさんがどう出るかは全くの不明。
その意味でも対決が必要だと認めたのは良いことであり、早期に倒し切るべきか悩んでいるのは悪い選択かもしれません。

 次回はインド北部の部隊と戦闘予定。
中央部に攻め行ってもアムロが来たり、囲まれても困るからという普通の理由から始まります。


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第二部・第八話:後編

●伏せ札

 硬軟を使い分ける戦略で、ガンダムの居る南部は足止め、北部は攻めるということになった。

もっとも建て前としてはちゃんと意味があり、中央を叩くよりは意味がある。

囲まれ難い相手だし、ロシア戦線から回された為に海兵隊の奇襲に慣れているから正面から倒すしかない……程度の物だが。

 

 しかし他愛ない意味から始まったとしても、参謀団はアイデアを肉付けし、推敲してくれる。

気が付いたら頼んだ事とまるで違う場合も多いのだが、足を向けて寝る訳にはいかんだろう。

 

「全機を出して来ませんね? こちらと違ってそんな必要は無い筈なのですが」

 足止め部隊と合わせて、こちらのモビルスーツは四十近いが、出して居るのは三十機。

敵も大隊の三十六機は存在して居る筈だが、シローの言う通り、三十前後が参加して居た。

これらが平面で様々な地形を挟んで睨みあい、時々前に出ては叩き、叩かれ合っている。

「戦略予備を早期に出すべきではない。という鉄則のほかに、海兵隊を警戒して居るんだろう」

「シーマ様たちをですか?」

 手元に戦力が無いと、イザという時に対処が出来ない。

フリードリヒ大王の時代から一部の例外を除いて、軍学上の基本概念として知られる……らしい。

 

 まあ前世は日本人だったので、越後の軍神さまみたいな例外の方が好きなんだけどな。

しかしガンダムといいギアスといい……。一部の突出した相手のお陰で戦略が狂うのも良くある話だ。趣味には少し控えてもらって、予備は多めに持っておきたいと言う理論には納得しておく。

 

「ここはロシア戦線から直ぐだからね。連中から見れば警戒してしかるべき相手なんだろう。実際、此処に居ないだけでそうして居る訳だし」

「それはそうなのですが、あれほど重戦車が居るのであれば、十分なのではありませんか?」

 奇襲対策になら、本部付きの重戦車で十分ではないか?

そうかもしれない。だが、連中がそれで満足出来るだろうか?

ビームライフルを持つ精鋭部隊があれば戦線が簡単に突破できるのは、連中が証明してしまった。

それを防ぐには遠距離砲の数しかないと、ジオンが証明して居る。その状態で戦力を迂闊に手放したいとも思えない。

「第一条件は情勢の対処なのは間違いないよ。その上で、第二条件があるんだろう。もしかしたら、私たちと同じ使い道かもしれないな」

「ということはまさか……」

 予備はあくまで使うから予備だ。

自分の護衛に使うだけならば戦車でも十分かもしれない。

だが向こうの参謀がソレを許容するだろうか? 自分のプライドは?

ならば、何かしらの使い道があると考えるべきだろう。

 

 たとえばジオンが、戦局の第二局面を見据えている様に。

 

「大将! 出番はまだかよ! こうしてる間にも……」

「貴様は変わらんな。しかし覚えておいた方が良い。スコアの数が同レベルならば、質や状況の方が重要だとな」

 近くで控えている問題児が不満を唱えるが、その時に備えて抑えておく。

此処でこいつを動かしても戦力が一機前に出るだけだ。

戦線を構築した以上はいかにエースと言えど、それ以上でもそれ以下でも無い。

弾丸をばらまきあって動きを止める地味な戦いに忙殺されるだけだ。その効率が多少良いとしても意味はあるまい。

「もっと楽しんで行こうぜ! 好き勝手とはいわねーが、自分で面白くしなくてどうするよ!」

「その楽しい時間はもう直ぐだ。……間も無く敵の方から勝手にやって来る。……だが、自分で面白く、か」

 北部方面に私直下の部隊が来たということは、他には行けないと言うことだ。

ということは足止め部隊だけを相手にして居る中央はどうするだろう?

 

 そのまま全部隊で中央部を突破する?

それとも……。もっと大きな獲物を求めて行動するのでないだろうか?

 

「ガルマ様! 予定通りに中央部の敵が出て来ました! ですが北部方面の予備隊が……」

「判って居る。こちらも予定通りに計画を進めよ! まずは出てきた連中を迎え討つ!」

「おっしゃ!」

 中央の敵部隊から抽出された連中が、こちらの側面に回り込んで来た。

同時に北部方面軍が取り置きしていた機体も出撃を始める。

当然ながら戦線全体が攻勢を強めるので、こちらの各機も身動きが取れない状態だ。

まあこうなるだろうなと判って居るので、特に慌てる事も無い。

「暫くはシロー達に任せる。グレーデンの援護も回すから持ちこたえろ!」

「「了解!!」

 そちら側にはドムを中心とした部隊が盾を構えて待ち受けている。

これに本部に残して居るグレーデン隊の砲支援で先制攻撃を行えば、十分に戦線を保つことは可能だろう。

 

●カード・オープン!

 先に手札を晒したのは連邦の方だった。

側面に回った中央部からの援軍に合わせて、手持ちの予備隊を投入。

これに対してこちらも予備隊を投入。数の上では負けているが、質と射程の問題で足を止めることに成功した。

 

「さて。相手にもう一枚札があっても手間だ。先にこちらが動くことで様子を見ようか、アイナ」

「御供します。ガルマ様」

 当然のことながら、連邦の方が戦力は多い。

モビルスーツの数が同レベルであっても、戦車の数で負けているのだ。

押し込んで来るのはあちらだし、もしこの戦いで引き分けようとも、補充速度の面であちらが圧勝するだろう。

「接続完了。第一射、いつでも行けます」

「それでは一撃食らわせるとしようか。だが二射撃目は不用。おそらく敵が遮二無二に突っ込んで来るぞ」

 危険なのでガウに居て欲しいのだが、止めても聞かないのと、戦力が欲しいのは確かなのでどうしようもない。

ビームライフル対策で久々に持ち出したビームランチャーの相方を頼み、予め調べておいた場所で砲撃態勢。

高台のスナイパーを気取って、戦車めがけてビームを食らわせる。

 

「目標。敵戦車群の先頭! 設定終了次第、放て!」

「3、2、1。砲撃開始!」

 メガ粒子が放出され、敵戦車を焼いて行った。

敵がビームライフルを開発した以上は、それほど強力と言うほどでもないだろう。

だが、それでも射程と範囲は元固定兵器だ。相手が61式やジムくらいならば問題は無い。

「ガルマ様! そちらに更なる増援が!」

「……やはり出てきたか。思い通りではあるが、これは面倒だな」

「砲撃態勢を解除。迎撃に移行します」

 連邦の方が数が多いのに、こちらと同程度の予備隊とおかしいとは思っていたのだ。

こちらのビームランチャーに対し、敵は隠しておいた数機を、本部の重戦車と共に投入して来た。

グレーデンからの砲撃が横槍を入れるが、それでも止まりはしない。

そしてシロー達を放っておくこともできず、もし優先順位を定めていなければ、散発的に砲撃先を振り分けるしかなかったろう。

 

「せっかく敵本陣がガラ空きですのに、突け無いのは残念ですね」

「突けても予備隊を戻せる位置に固定しているさ。だからまあ……ここは一度下がろう。ジムはともかく、重戦車に吹っ飛ばされたくはない」

 予め探した場所ゆえに、幾つか迎撃ポイントは想定してある。

敵に重戦車が居る場合、陸戦ガンダム居る場合。

そして……考えたくないが、ガンダムその物が居る場合もだ。

相手が三機と思ったよりもジムの数が多いが、それでもガンダムよりはマシだと思えるくらいの余裕があった。

「牽制します!」

「思い通りだが当然の展開過ぎてつまらんな。確かに面白い流れを自分で作ってみたいものだ」

 着地と同時に迎撃態勢を展開。

アイナがマシンガンで追いつこうとする敵を薙ぎ払い、私がヒートサーベルで白兵戦を挑んだ。

 

 盾の影響もあって撃破とはいかぬものの、大きく態勢を崩す事に成功する。

そのまま軽くステップを掛けて、射線を空けて回避と同時に道を譲る。

そこへアイナの二射目が直撃。私は仲間を助けようと向かってくる新手を引き受けて、ヒートサーベルでビームサーベルを受け止める。

 

「もう少しで一機目を落とせます。もう少しで……」

「あまり気を使わずとも構わないよ。このまま時間稼ぎでも良いくらいだ」

 実際のところ、そこまで余裕がある訳ではない。

だが、我々には有利なポイントが二つある。

一つはこの連中の役目は砲撃システムを黙らせることだ。

こちらに直撃させるよりも、ビームランチャーを破壊する事を最優先にして居る。

ランチャーは肩に設置して居るし、本体を狙う突きならまだしも、袈裟斬りで両方を狙うのは防御もし易いのだ。

「ソレは惜しいがアイナとは比較にならんのでな! もらった!」

 ガンダムとかビームライフル持った機体だったら、一目散に逃げていただろう。

最初にそう言う算段だったが、今のレベルのビームサーベルならまだ大丈夫だ。

それにグレーデンが一発当ててくれている分だけこちらに有利。これが二つ目のポイントだ。

 

 しかし、有利な流れを造っているとはいえ、先に何かを放棄して得た物だ。

面白くは無いし、自分がシャアやアムロとはいかなくとも、エースとしての腕前があればもっと話は違っていただろう。

今頃はさっさと一機撃破するか、ビームランチャーを当てるから良いと言っていたかもしれない。

 

「もう直ぐ『こちらの第二段階』が始まる。総員突撃準備!」

「了解です! 来援が到着次第、そちらに向かいます!」

 そう、今回の真の目的は北部方面を叩くことでは無い。

北部方面画持つ予備隊を潰す事も含めて、こちらを狙う為に突出して来た部隊を潰す事だ。

だからこそ、予め相手の動きを計算して居るし、予め迎撃ポイントを定めているのである。

「来ました! リリーマルレーンです!」

「待たせたな諸君! 総反撃だ!」

 損傷したザンジバルを元に、ザンジバルⅡに近い艤装を施したリリーマルレーンが空を切り裂いた。大型ミサイルの代わりに設置したカタパルトを使って、海兵隊の機体が次々に降下を始める。

そしてシーマ専用機であるドムは唯一、マリーネタイプではない。

 

「当たると痛いよ! 死にたくないなら、とっとと逃げちまいな!」

『め、メガ粒子砲がもう一つ!?』

 シーマ機だけはカタパルトを使用せず、ザンジバルに乗ったままビームランチャーを放つ。

ドムをベースにした事もあり、もう一機のサポートは不用。

とはいえ嵩張るので移動攻撃には向かないので、カークス戦術を踏襲し、船の上から射撃である。

「気が反れているぞ! 本部が気になったか! それが命取りだ!」

『くそっ!』

 二対二で戦っていたこちらに、大きなアドバンテージが出来た。

これでポイントは三つ目。士気が崩れ、逃げ出そうとした相手を討つのは難しくも無い。

サーベルをへし折る程の強度で斬りつけ、二機目を倒す事に成功した。

その後に駆け付けた援護のお陰で三機目も無事に撃破だ。

 

「よくぞ来てくれた。お陰で助かった」

「いえ。これも御役目ですから」

 結果的に、作戦の失敗を悟った連邦が引いて勝利をもぎ取った。

最終的に十機以上のジムを撃破し、それ以上の機体を小破以上に追い込んだ勘定になる。

中央部が援軍を寄こさなかったら、海兵隊と合わせて北部方面軍を叩いただけなので、確実な撃破は稼げなかったかもしれない。

連邦ならば即座に回復する数だとは言え、『作戦が見抜かれて失敗した』という心理ダメージの方が大きいだろう。

相手の積極性を奪い、時間という最も貴重な代価を得たことになる。

加えてこちらが積極性の強い行動に出たことで、よもやインドを捨てる覚悟があるとは思うまい。

 

「シ-マ大佐は以降、フェンリル隊と協力して後方を扼してくれ。海兵隊の動向が不明というだけで、相当数を拘束できる」

「了解です! ビームランチャーは置いていきますので、ご利用ください!」

 ザンジバルからの砲撃は、牽制攻撃以上に宣伝もある。

カタパルトでの緊急展開に加えて、ビームでの砲撃もあるとすれば油断できまい。

例え精鋭六機を使用できないとしても、相手が各方面で備えを残し、合計で十機以上を残すならば十分に元は取れる。

それは結果的に相手が地道な戦線を維持するということで、こちらも負け難いが勝ち難くなる。

最終的にインドは陥るだろうが、こちらも被害を抑えながら下がることが出来るだろう。




 と言う訳でインド戦線での勝利と成ります。
まあこの戦いの後、地味な戦闘の連続で勝てなくなるのですが。
まあ被害出さずに下がってるから、仕方無いですね。

●作戦の流れ
0:シーマ隊は敵の後ろでは無く、ガルマの後方に待機
1:シーマ隊のイメージを利用したり、南部のガンダムが援護に来ない北部狙い
2:北部と地味な戦闘しつつ、中央が来るのを待ち。来なければ海兵隊込みでフルボッコ作戦
3:中央部の援軍・北部の予備が出てきたので、こちらも予備を出す
4:ガルマが長距離砲撃で囮になる
5:北部の隠していた最後の予備でガルマのランチャー狙い
6:判っている流れなので足止め。シーマ隊が動き始める
7:中央部の増援と、北部の予備隊を狙って真フルボッコ作戦

 その後はシーマ隊を隠し、いつ奇襲してくるか判らないイメージ作戦を続行。
フェンリル隊が連邦の後ろで邪魔して居るので、そちらの援護に向かいつつ
海兵隊がやって来る!? というイメージで相手の全力を抑える
後はお互いに地味な戦いで、少しずつ下がって戦線縮小。と言う感じです。
まあ、連邦軍が戦力補充しないならば勝てるのですが、月に十機二十機は楽勝なので。
(連邦にとっても意味があるからこそ、予備を残して全力で戦わない戦術を取ったということです)

 思惑通りとはいえ、かなり地味でストレスのたまる作戦。
主人公もそろそろ、爽快感溢れる作戦を取りたくなってくる御年頃でしょう。
まあその前に動く連中が居るのですけれどね。

●モビルスーツの変遷
ドム:
 インドを失う頃には、ガルマの本隊に増えて行く感じ
ガルマの専用機も、急遽ドムでテスト中。
これで私も無双できるぜ! → そろそろ陸戦ガンダムも……。というオチ。

水泳部:
 南部は危険なので北京・オーストラリアの牽制。
インド失陥後に、再びインドへカムバック。
フェンリル隊やシーマ隊と共に、地味に相手を披露させ補給を寸断するMVP。
やっぱりジオン水泳部は無敵です!


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第二部・第九話:前編

●陥落するインド戦線

 連邦に快勝したものの、翌月には当然の様に数が元に戻って居た。

判って居たことだが連中の物量はどこかおかしい。

とはいえ、小破や中破で後退した機体はともかく、完全に撃破した個体分はその月の間だけでも変化は無かった。

やはり安全に損耗した機体を一から補充し、捕虜ないし死亡したパイロットを補充するのはいかに連邦でも難しいのだろう。

 

 そういう意味では連中に下がらせるくらいに勝てて良かったと言うか、追いかけて撃滅出来ずに残念だったと言うか。いずれによ、後に繋がる感触を得ることはできた。

どうにかしてオデッサで同様の勝利をもぎ取れれば、ジオンにも勝利の目はある。

 

(問題はそこに至るまでの道だな。それすらも容易ではない上に、ちっとも面白くない)

 もちろん遊び半分で戦争をする気は無い。

だが、必然の上に立った作業では面白味が無いのだ。

よく考えれば二度目の人生であり、もっと色々試しても良かった筈だ。

(こないだの戦いでもドダイYSに乗った援軍を用意するとか、もっと前ならマッドアングラーで北京を電撃占拠とか。やろうと思えば色々出来た筈なんだよな)

 当然、そんな事をすれば幾らか博打要素が出て来る。

ドダイYSでの空間戦闘や強襲戦はオデッサ戦に備えて温存して居るし、潜水艦隊は沿岸部の占領や補給分断で忙しい。

特にヒマラヤ級空母を沈めて、相手の航空艦隊を減らせた事は大きいのだ。

北京強襲を行って居れば、その分だけ成果が無かった事は十分に理解できる。

 

 だが、繰り返すようだが楽しくは無い。

自分なりの積極的なアイデアを盛り込み、自分が何かを成し遂げたと言う成果を上げて見たい。

もしかしたら本家ガルマに取りこまれつつあるのか判らないが、現状のズルズルと負けて行く戦いが愉快では無いのは確かだろう。

 

「あれから大きな動きはありませんね」

「インドの攻略を優先したのでしょう」

「勝っている側が博打をする必要は無いからな」

 連邦は数を回復した後、予備戦力を十分に確保して積極性を控えると言う戦術を繰り返した。

そして大きな拠点は輪を縮めるように、複数の方面軍が共同で当たると言う無理せぬ戦いを行っている。

「一応は……予定通りですが不安も残ります」

「仕方無いな。必要以上に味方の士気を下げぬよう、何らかの手を撃たねばならん」

 こちらも前線が後退する折りに援軍として赴き、一閃して打撃を与え、一緒に下がると言う方法で損害を抑えている。

局地的には勝利をもぎ取れているが、それでも拠点は奪われているという状態だった。

大本営発表ではなく、ちゃんと撃破数などは本当だ。

しかし拠点を奪い返されていると言うのは、目に見えて負けていると言うことでもある。

 

 何らかの明るいニュースがなければ士気は下がるし……。

今は協力を約束してくれている民族解放戦線なども、いつ掌を返すか判らないだろう。

 

「ではやはり連中と戦うのですか?」

「それしかないだろう。逃げ回ってばかりでは士気に関わる」

 なんのかんのといって南部方面軍だけは極力避けているところだった。

正確にはガンダムチームを避けており、連中が派閥の壁を越えて移動した時は、そちらを避けて他に行って居る。

だが十字砲火だけで抑え込むのは限界があるし、障害物を使ってガンダムが突出できる戦場では大きく下がらざるをえなかった。

せめて一撃で吹っ飛ぶような火力じゃなければ何とか成るんだが……。

「それに……そろそろ他の連中にもビームライフルが出回るころだ」

「しかし、総司令が自らと言うのは危険ではありませんか?」

 できれば出たくは無い。

しかし他の部隊にもビームライフルが伝わる様になれば、部下に戦うなとは言えない。

一撃で落とされない様な工夫をして、動き回りながら戦えと命じるしかないのだ。

 

 ならば指揮官が率先するしかないし……。

対策手段を用意できたのは、私の機体を除けば数機だけだしな。

 

「だからこそ天候不順を狙うさ。そうすればアレの存在を隠せるかもしれん」

「ビーム撹乱膜ですか……。ビームコート付きの盾がもっと用意できれば良かったのですが」

 流石に無策でガンダムと戦うような馬鹿はしない。

戦う時点で馬鹿な気もするが、それでも今ならば反撃の目はある。

宇宙では無く空気中、更に天候不順の日、そして虎の子である撹乱膜。

これだけ揃えばビーム兵器の威力は削減されるはずだ。

 

 後の時代であればバズーカを重視するだろうが、今の状態ならばビームを信じる可能性は高い。

いや、最初からバズーカだったとしても、実弾ならばそれこそシールドで何とかなるはずだ!

そう自分を励まして南部方面軍と戦うことにする。

 

●闇夜の決闘!

 少しでも装備の露呈を避けるため、夜間戦闘を敢行。

夕方まで睨みあって、相手の気が緩む時間を狙った。

 

「敵の前衛は私達で抑える。お前達は他の連中を叩いてくれ」

「了解です!」

 新しい専用機にはレドーム状の頭部がある為、夜間でもデータが得られる。

もちろん霧雨ということもあって、無いよりマシであるが、相手の能力が著しく下がる状況とあっては十分というべきだろう。

「撃って来る前に少し散らすぞ。クラッカー!」

「ほいさっ!」

 ホバーモドキを吹かして左右にステップを掛けつつ、手溜弾を放り投げる。

光源をなるべく控え、後方からの遠距離射撃を待った。

 

「援護します。測距射撃開始!」

「着弾データを取得。誤差修正、弾道補正を開始するぞ」

 グレーデンからの遠距離砲撃で、火点であるあちらに灯る。

連邦からの反撃でビームが飛ぶが、その距離で当たる筈が無い。

「大将! こいつらエースどもじゃねえな」

「ちっ。できればガンダムと睨めっこがしたかったが、そうもいかんか」

 連邦は本格的にビーム兵器を導入したようだ。

どうやら目の前の敵はガンダムではなく、サポートの陸戦ガンダムらしい。

心に安堵が訪れると同時に、他が大変な事になって居るだろうなという気持ちも強くなる。

 

「ガルマ様! こいつらエースです! うわああ!?」

「今行く! ……言っている傍からこれか!」

 これが天候不順の夜に夜間戦闘を仕掛けた反動と言うやつか。

足止めするつもりの主力はこちらにおらず、逆にこちらの主力を喰いかねない勢いだ。

それともこちらの意図を即座に見抜いて、逆襲に出たとでも言うのか?

「出逢ったら無理せずに後退しろとは伝えてあるが、そうもいかんだろうな。目の前の敵を三位一体で潰して行くぞ」

「ジェットストリームアタック! ってやつだよな。一度やって見たかったんだ」

「調子にのるな。……ガルマ様、お先に行きます」

 新しい専用機は一応、ドム・ベースなので間違っては居ない。

いや、アレは黒い三連星がやるからなので、間違っているのか?

そんな馬鹿な事を言うくらいに、此処にガンダムが居ないという幸せを満喫しておく。

どうせ今から足止めに行かなくてはならないのだ。

 

 そしてシローがビームコートを塗った盾を構えて突進しつつ、マシンガンを連射。

そこへ私がジャンプジェットザックを吹かして強襲すると、三連装に増強したワイヤーロッドを絡めに掛った。

ビームランス? あいつは置いてきた。

夜間で目立つ上に霧雨と来ては、むしろ足手纏いでしか無い。

 

「仕留めろ」

「おーらいっ!」

 シールド越しに浴びせたワイヤーを、一瞬だけ通電。

軽いスパークで怯ませると、後ろからやって来た問題児がヒートサーベルで串刺しにする。

「次に行こうぜ!!」

「止せ。エースと出逢った隊を優先する! 行け、シロー!」

「了解っ!」

 シローのドムがホバーモドキを吹かして、去り際に数発マシンガンを叩き込む。

それに合わせてこちらもクラッカーを放り投げ、マーカーの存在するエリアに向かった。

流石に問題児も一人で残り三機を相手する気は無い様で、同じ様にクラッカーを放ってウサを晴らして居た。

 

 行けるか?

ホワイトベース隊並みの相手にそんな事を思った時のこと。

更なる不運が我が隊を訪れた。

 

「司令! ご覧ください、天佑です!」

「雨だ! これは豪雨になるぞ。助かった!」

「……いかん! 撤収準備に入れ!」

 やったか!? これで有利に立てる。

そんな思いが自分の心を走り抜けた。

だが、それを上回る嫌な予感も同時に感じていた。

「何故です? 今ならばビーム兵器も……」

「だからこそだ。我軍は慢心し、敵は更なる増援で穴埋めしようとする。そして……私ならば一部のエースには、この雨でも使える武器を配備するに違いない!」

 というか、原作で見たから知っている。

ガンダムだと水中で十分に戦えるからな。

流石に射程とか威力は激減してるが、こちらが油断して近づいて行ったら地獄行きなのは間違いが無い。

 

 それに……。今回の目標は少雨までで持久戦闘。

お互いに痛み分けで、こちらはビーム兵機に立ち向かって見せた。と言うだけで良かったのだ。

僅かばかりの戦略目標が失せれば、こんな小さな戦闘で死ぬのは馬鹿らしい。

せめて重要基地を巡る攻防戦であれば、雨天を推しての攻防戦に意味はあっただろうが。

 

「そんな小せえこと言うなって! このまま勝て……」

「ガルマ様! 敵軍、照明弾を上げました!」

「ちっ! 言わんことではない! 撤収を急がせろ!」

 今までは不利になるので、どちらの軍も照明弾を上げて居なかった。

我軍は地形情報がある上に、私の専用機で情報を送れるのだが……。

連邦は連邦で随伴して居る指揮車両にそれなりの索敵機能を有して居るからだ。

これまでは準備した機材と情報の質でこちらが上回って居たが、互角の戦闘で消耗を覚悟するならば向こうの方が上になる。

『自分からやって来て、行かせないってーの!』

「この距離で当てて来る? 頭が悪いが腕は良いな。こいつもエースか」

 照明弾が上がってクリアになった視界に、長距離ビームライフルの砲撃が横切る。

幸いにも雨で減衰して居る事と、ビームコート付きの盾があるのでカスリ傷で済んだ。

こんなにエースが居るとか、絶対におかしいぞ。この部隊!

 

「この状況で相手をして居られるか。二人とも、私の後を付いて来い」

「了解!」

「ちぇっ。御荷物抱えてちゃ、あいつらは分が悪そうだ」

 自分の司令官を御荷物とは凄い事を言うが、本当の事なので黙っておこう。

ビーム撹乱膜の散布濃度を低レベルに絞って、自分が居た場所に垂れ流しておく。

雨と距離を合わせれば、シールド以外で受け止めても、まあ大丈夫だろう。

『そこのレア物! 逃がすか!』

『援護しますよ、フォルドさん!』

「くそ。まだ来る。グレーデン、指定したポイントに曲射で撃ち込め。見て当てる必要は無い」

 シロー達の張ったフラッシャービームでよく確認できないが、二機のガンダムタイプが追撃して来る。

それも移動しながらビームライフルを当てて来るとかいう頭のおかしい連中だ。

雨と撹乱膜がなければどうなって居たか判らない。もし最初からバーズカを選んで出撃して居たら、危なかったろう。

 

 そこで相手にこちらの意図が判らない様に、時間と場所を指定して爆雷代わりに撃ち込ませた。

牽制なので直撃させる必要は無いし、マシンガンでの掃射込みで距離を離せれば良いだろう。

……とか軽く思っていたんだ。

 

『くそっ、何処から撃って来るんだ。このおぉ!』

「うおっ。キャノンが直撃してるのに。よくも当て……。あの色はまさか……」

 自分がいかに恐ろしい場所に居たかを理解してしまった。

白地に赤青黄のガンダムカラーがこっちを狙っている。

(アムロか? アムロなのか!? いや、それならさっきの曲射攻撃なんか当たらないよな。……危なかった~)

 間一髪でガンダムの魔の手を逃れたが、もしかしたらアムロで合った可能性すらあり得る。

おそらくは単に同じ色なだけだろうが、迷惑な奴だ。

カスリ傷ですら寿命が三年は縮んだぞ!

 

「司令、ご無事ですか?」

「なんとかな。全体の状況はどうだ? 何機か喰われている様だが」

「司令の判断が早かったので、パイロットは何とか無事の筈です! 捕虜交換に期待しましょう」

 マーカーが消えているのでやられた様だが、幸いにも被害は少ないらしい。

もちろん回収できなかったパイロット全員が無事とは限らない。

加えて拷問される可能性もあるので、連邦側に回収されたからと言って安全とも言えないのだ。

「無様だな。しかも状況に突き動かされるままにこれか……。まったく気に入らない」

 ガンダムに挑んで無事だったんだからラッキーとは言える。

しかし無理にでも挑まなきゃならない状況に追い込まれ、安全を確保して仕方無く挑んだら、大雨で挑んだ意味が無くなった。

これなら誰でも出来るだろうと言われてしまう可能性の方が高い。

しかもザクとはいえ手持ちの精鋭がやられて、何人かは未帰還の可能性があるというのだからたまらない。

 

 スコア的には高級機の多い相手の方が大きい筈だが、前回の戦いとは違って向こうは引いて無いから直ぐに補充されるだろう。

残念ながら、こちらの実質的敗北と言う他あるまい。

 

「この借りは次の戦いで返しましょう。オデッサに向けての戦いは、順調に進んでいるのです」

「それに、今回の戦いでガンダムとやらの性能は判りました。恐るべき性能ですが、僥倖といえるでしょう」

「判っているさ。できるならば、この手で戦局を動かしたいと。そんな贅沢を思っただけの事だ」

 しかしどうすれば連邦にひと泡吹かせてやれるのだろうか?

しかも連中の中には個人で戦術を、戦術で戦略を覆せるような化け物まで居る。

原作でもその暴力に抗えたのは成長してない序盤くらいだ。

 

 どうにかして逆襲する術を探さねばならない。

逃げ出すようにして立ち去るインドを後に、私達はそう誓うのだった。




 と言う訳でガルマの敗北回です。
可能な限りの準備をして痛み分け = 敗北と言う感じですね。
まあオーストラリア方面軍からすれば、初の大ダメージでもあるのですが。
被害としては回復力の低いジオンの方が分が悪いと言うか……。
最初はそれでも良いと持って居たけれど、大雨が降ったお陰で、プロパガンダも出来なくなった感じですね。
まあ雨の日を狙ったのが悪いと言うか、インドの雨を舐めていたとも言いますが。

 九回後編(または中)はインドから敗退、オデッサに引き込みつつ罠に掛ける話になります。
憑依者なんだから、思い切りやっても良いじゃん。とか考えていた筈のガルマが、ようやくそのことを思い出して好き勝手を始める感じですね。
まあアプサラス計画とか出丸に当たる要塞化とか、いろいろ準備はしてますが、あくまで既存の計画の上なので。

●ガルマ専用機(暫定新型)
 間に合わないので色々オミットして参陣。
ゲルググのガワと炉を使う予定であったが、ドムのガワと炉によるテスト状態のまま。
レドーム状の索敵機能・通信強化機能やビーム撹乱膜などを持ち、ショルダーバインダーは回転式で追加盾になる。
これに手持ちでビームコート付きの盾(ゲルググ用の試作品)を持ち、様々な武装を使用する。
今回はワイヤーアンカーを三連にして絡め易くした物を持ち、腰にクラッカーなどを下げている。
MMPマシンガンは配備の注文をしているが、おそらく届けられるのはオデッサ戦と思われる。
なお、この機体はビームランチャーを撃つ頃は想定してないので、ジャンプジェットザックやオプション追加用のノーマルザックが基本。

●ドダイYSとドダイYS改
 モビルスーツを載せて移動できるサポートフライングシステム。
改はドムの重量でも可能な様に強化された物だが、基本的にドムを載せる予定は無いので試験的な物だとか。
(要するにガルマとか一部の指揮官・エース用ですね)

インド戦線ではザンジバルやファットアンクルを多用して居たのと、オデッサ戦で使用する方が効率的なので温存して居た模様。


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第二部・第九話:中編

●全てが台無しになった日

 あの日から連邦はビームライフルの使用を控えるように成った。

こちらにビーム撹乱膜があることが悟られた? いや、見られてはいない筈だ。

ではフェンリル隊の後方撹乱が上手く行った? 残念ながらそこまでの影響は無い。

 

 理由は簡単、雨期に突入した為、土砂降りの天気が多いのにビームを使う馬鹿は居ない。

もちろんガンダムならば使える筈だし、エース用に強化すれば陸戦ジムでもできるだろう。

しかしバズーカで十分勝てるんだから無理をする必要が無い。

 

(まさかこんなに雨期が強烈だなんてな。道理で連邦の他の部隊は使って無かった筈だよ)

 ウッキーと頭をかきむしりたい気分だ。

雨期の事を忘れていたというか、これほど酷いと思って居なかったのは、我々宇宙市民や乾いた土地の出身者。民族解放戦線の連中なんか、私の勇気が雨を呼んだのだから神の加護がある。

だから攻めようと言うくらいに妙な事を言っている。カリスマは無い筈なのに、妙な信仰が芽生えてしまった。

(もっと早く知ってたら、戦略に利用できたのか? いや、連邦は気が付いていたし……ウチの参謀団も一人二人は知ってても、無視したんだろうな)

 準備が台無しになった半面、判ったことも一つだけある。

駄目な時は何をやっても駄目なのだ。

スッパリと色々な物を切り捨て、自分の目的のために全てを引き連れて行く位のつもりが良いのだろう。こないだの戦いだって、ガンダム相手のチキンレースだとか、新型機を試すつもりだったのならば十分に成功じゃないか。

 

 そんな後ろ向きな事を考えながら、私は覚悟を決めて捨拾選択をすることにした。

憑依してから第二の人生なんだ、もっと気楽でいいじゃないか。

アイナを手放すとかは無理だが、名声だとか功績だとかその辺は捨てても構わない。

キシリアを見ろ。好き勝手に生きているじゃないか。

ザンジバルや新型モビルスーツだって、私用じゃなくてその名目で自分の軍を用意する一環だったに違いない。

 

(そう思えば見えて来るモノがあるな。結果的にジオンが連邦と原作よりも有利に講和できるならば、勝利の必要も無い)

 オデッサだって無理に勝利をもぎ取る必要なんかないんだ。

つまり……オデッサなど要らーぬ。

フフフ、連邦め目に物見せてやろう。

もちろん核兵器なんか使わないぞ、オデッサの中に引きずり込んでフルボッコにしてやる。

(となると今からその準備だな。まだ間に合うと言うか、今からなら丁度良いか)

 連邦はオデッサの中枢部に入り込めば、ソレでこちらは終わりだと思っている。

だが、どうせ戦闘中は鉱山として使えないし、負けたら使い続けるなんて無理だ。

もちろん核兵器で吹っ飛べば何も残らないし、名声どころか悪名でその後も苦しくなるだろう。

 

 しかし、相手が勝利条件だと思っている事を、あくまで戦いの入り口にしてしまえば判断は変わって来る。

オデッサ戦における戦闘法は幾つか考えられているが、その内の一つをこのアイデアに沿って修正して提案してみよう。

例えばドダイYSは空から攻撃するだけじゃなく、連邦がこじ開けた防備の穴を、もう一度遮断する為に使うのだ。

ここを突破すれば戦いが終了すると思っている連中の横顔を、思いっきり殴りつけてやる。

例えばビックトレーやペガサス級を座礁させてでも、その穴を確保したとしよう。

その上に爆雷を落とし、拠点として使おうと思っている連中の前で、補給を断って日干しにしてやるのも良い。

 

「フェンリル隊と海兵隊に指示を出す。これから送るアイデアを元に、オデッサで取り得る選択肢を増やす為に修正案を考えて欲しい」

「了解しました。ひとまず作戦室でお待ちしております」

 もしかしたら意味は無いかもしれない。

作戦案が甲乙ある内の、乙に関わり、甲へ多少修正する程度かもしれない。

だが、自分の手で戦局を動かした。

そして、これからも関わり続けることで、微妙に変化させることが出来るだろう。

それは流されるより良いことだと思うし、得意な方法として磨く事も出来るだろう。

間違っているならアイナやシロー達が忠告してくれる。

その言葉に耳を傾ける度量を忘れない限り。

(となると、アプサラスで排除しておく敵戦力も考慮が必要になるな。通常兵器のついでにジムを潰すよりも……)

 思えば原作のガルマはモビルスーツの有用性を認めつつも、通常兵器も重視していた。

これこそ本道に帰るというやつか。

 

 ガンダムやアムロに正面から勝とうと思うからいかんのだ。

名誉を捨てて、航空爆撃で叩き潰せばいい。

原作ではジャンプで潰されたが、あくまで短期的な包囲網を抜ける為。

爆撃戦略そのものを単騎で叩き潰す様な性能は無い。あったとしても、網なりアッザムリーダーで足止めすればいいんだ。

モビルスーツで挑むよりも、ビームライフルの餌食には成り難いだろう。

 

(ジムを削る必要なんてない、航空機だけをアプサラスで叩き潰す。それなら無理に地上に降りる必要なんてない)

 その上で連射は無理、またはガンダムがジャンプしてビームライフルを使ってくると考えよう。

ビーム撹乱膜を用意して、ハイ=メガ粒子砲を一発撃ったら防御に徹して逃げれば良いのだ。

(となると無理に航空機の数を狙うよりも、対空戦闘機をまとめて薙ぎ払えればそれでいいな。無茶をせずともザンジバルとドップで落とせる)

 面白いことに意志を固めて布石を考えると、その後に続くアイデアが次々と湧いてきた。

布石を一つ石を置いて考えを決めると、連続して石が決まって来るのだ。

例えばアプサラスでセイバーフィッシュ等を薙ぎ払った後は、ガンダムへの囮として動かさない。

無理せずに後退すればハイ=メガ粒子砲の修復(?)も早まるだろうし、ガンダムの推力ならば可能と知っている向こうの介入者を引っかけることも可能な筈。

 

 また、アプサラスが未完成で威力が無かったとしても、戦闘機の装甲ならば問題ないだろう。

これは範囲も同様で、無理してジムを含めた戦車群を狙ったり、航空艦隊全てを狙えば危険かもしれない。だが戦闘機のみならばレンジに入り次第に撃てばいいし、相手の空母を水泳部に見張らせれば何度も御代りは無いだろう。

 

(参謀たちが認めてくれたアイデアの範疇だからGOサインは出せるだろう。……あとは連中がこの襲撃に気が付くかな?)

 こっちがガルマだから、航空機を重視するのは判るかもしれない。

だがアプサラスほどの力を、ガンダムではなく戦闘機に使うとは思うまい。

ならば後は、露骨に誘導せずに、向こうの選択肢を奪う程度の手を打てばよいだろう。

その為のフェンリル隊であり、海兵隊、そして民族解放戦線の情報網だと言えた。

(これでジム百機と戦車隊、こちらはザクを中心に五十機と戦車隊ってとこか? 砲台やドダイの爆撃を考えれば十分に採算は立つな)

 オデッサの地形で分断出来るだろうし、爆撃と砲撃で耐久力を削ることもできるだろう。

籠城戦はそもそも防御側が有利だし、突破すれば勝てると思っている所に、逆包囲を掛ければ心理的なダメージも大きい筈。

こうすれば後期型のジムが、陸戦ザクやグフ……仮にドムより強いとしても、何とかなる範囲だ。

 

「ということはその路線に向けて推測されない。それで居て影響を与える手を打つべきだな」

「「……ガルマ様?」」

 考えをまとめる間は喋らなかったが、落ち付いてきた事でつい言葉に出してしまったのだろう。

シローとアイナが同時に疑問の声を上げた。

私は苦笑しながら、どこまで話すべきか話さないでおくべきかを考える。

「いや。最終目的に向けて算段がたった。二人にはその相談をしたいと思ってね」

「是非ともお聞かせください」

「不足があれば我々で補います」

 彼女達には詳細を伝えるにしろ、スパイや捕虜になった場合を考えれば参謀たち全員に伝えるのはどうだろうか?

それとも、最重要な部分以外は全て話してしまう方が、ガルマらしくて良いのかもしれない。

そこを含めて、最初から順序立てて相談する事にした。

 

 こうしてジオンは連邦に対する最終局面に向けて走り始める。




 と言う訳で、最終作戦に向けて準備が始まります。
これまではギレン(?)の用意した筋道に従って、参謀団が考えた範囲での戦いでした。
その為の準備そのものは行っていますが、ここからガルマ主導で微調整していくことになります。

 雨期の話題はあんまり必要ないですが、ガルマが切れて、一周回って平静に戻るのに必要でしたので
前回の成果を何もかも無かったことにしました。
大失敗しないと成長出来ない人間も居る感じです。

●二階に上げて階段を外し、アシバースト作戦
 今回、ガルマが思い付いたと言うか、既存の作戦を調整した物です。

1:連邦の攻めて来るルートを固定する
2:航空艦隊の一部をアプサラス計画で薙ぎ払う。無茶はしないこと前提
3:オデッサの一部が落とされることも前提に、奥へ引き入れて地形を利用して分断
4:更に原作で連邦がやった航空爆撃を、ジオンが実行する
5:砲台や爆撃で耐久力の減ったジムを各個撃破し、場合によっては正面からは戦わない
6:戦闘が必要な場合、相手の精神的支柱に対して仕掛ける(おそらくはレビルの本隊か、護りに来たガンダムになると思われる)

7:上記の戦いが、最終戦闘になる?

 と言う感じですね。
コードギアスのアシバースト作戦よりはクリーンで、原作に沿った内容
かつ航空機を潰して、地上に専念するとか元の作戦に近い
となっております。

 まあそのままやっても上手く行かない可能性もあるので、場合によってはオデッサ前衛も放棄。
探索戦闘や持久戦に成った場合に備えて、次回からその為の準備に入ります。


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第二部・第九話:後編

●海と目と

 アイナやシローと相談し、段階を経て皆と話し合うことにした。

まずは参謀団の意見で修正してもらい、おおよそ決まったところで将校たちとも話し合う。

前線に出るシローからは全部聞かされると困ると言っていたが、彼が捕虜になる時は一蓮托生な気もするので放っておこう。

 

「今回の作戦に置いて、目的は二つある。一つ目はコレを周知することだ」

「水中用モビルスーツですか? 今まで通り隠しておいた方が良いのでは?」

 まずはサクラとしてイアン・グレーデンが尋ねて来る。

水泳部の活躍は地味ながら強力で、戦果としてはかなりの物だ。

それも秘匿戦力であることが重要であったという面もあり、グレーデンの意見には賛成する者も多いようだ。

「これまで通り、持久戦で凌ぎ続けることを狙うならばそうだろうな。しかし、いずれ逆転の手を打つには隠し続けていては無理だろう」

「逆転ですか?」

「ほう、あの大軍に勝つ手があると?」

 これまでの会議で、役回りと言うのが決まって来た。

シローが頷き役だとするならば、グレーデンは常識を述べる役。

そしてロイ・グリンウッドは採算さえあれば、博打もまた良しというバランス役だ。

 

 ここでアイナに視線を向け、今回用意するモビルスーツを移してもらった。

ペンギンのような不格好な姿を持つ、重モビルスーツだ。

 

「MSM-10ゾックの限定実現型。兄が用意した水中用モビルスーツで、砲撃戦用になります」

「砲撃戦……ということは奇襲攻撃には向かないと? しかしオデッサ戦で海側を防ぐのに使っても良いのでは?」

「このサイズでは水陸両用とはいえ、歩くこともままならないのでは?」

 うん、私もそう思う。

真面目な話、ギレンの視点で計画していいなら100%建造しないからな。

問題なのはギニアスが喜んで研究し、改造までしてくれるのは、このタイプだけなんだ。

「諸君らの意見も当然だな。しかし、ソレでは連邦軍の頭の固さは変わるまい。常に虎の子をそちらに張り付ける必要が出て来る」

「ということは、あえて連邦にこちらの手を見せると?」

「確かに潜水艦隊の神出鬼没ぶりを考えるに、見せておけば海上輸送を諦めるやもしれませんね」

 水中用モビルスーツの脅威は隠して居ても伝わる物だ。

当然ながら上層部は把握するし、画像や音紋なども知れ渡って居る可能性すらある。

つまり秘匿兵器と言っても、たかが知れるのだ。

 

 逆に目に見えた脅威として利用し、何度も使って見せれば相手もまた警戒して選択肢を減らすだろう。迂回して陸上にするか、単に空中を進めば問題無いのに、海上輸送でオデッサに乗り込むなど愚策と判断する可能性は高い。

もちろん隠しておき、何度か襲撃しても問題は無い。

だが連邦がその物量を前提に、四方八方から延々と海上輸送を試みられたら、こちらとすれば全てを遮断することはできない。

そして、いつかはこちらの疲弊と損耗が限界を越え、相手の探査技術と戦術が上回るだろう。

 

「そういう訳だ。加えて現在の戦局に用いることで、時間稼ぎや足止めにも使えるからな」

「そう考えると大型反応炉と水冷式エンジンの組み合わせは良いですね。連邦のビームライフルを越えるモノがあります」

「全身に九門の予定を前面四門にのみ……ですか。たしかにこの方が割り切って運用できますね」

 他と並行した為、ゾックの開発もどちらかといえば実験の一環だった。

全部で九門のメガ粒子砲なんてやる余裕は無く、むしろ安定した水冷式砲台として実現させた。

四門とは言え射程は長く威力も高い、対空砲としても十分に機能する。

あくまでビームライフルと比較しての話だが、ゾックの限定実現型……改ゾックが複数機あればガンダムとて躊躇するだろう。

「これを使って水辺が近い拠点で迎え討つ。改ゾックたちがガンダムを止めている間に、他の部隊を叩く」

「了解です!」

「目に物見せてやりましょうぞ!」

 これが今回の作戦における、重要な目的の一つだ。

将来に置いて相手は海上輸送と言う自ら選択肢を一つ捨て、今に置いて時間と言う最も貴重なモノを稼ぐことが出来る。

そしてビーム兵器を使用するエース部隊を叩けると言う、一石三鳥の策なのだ。

 

 もちろんガンダムならば平気でソレを乗り越えて来るだろう。

一石三鳥が一つも取れず、二兎追う者として一つも獲れないことになりかねない。

だからこそ、こちらはその何倍もの努力を支払うべきなのだ。

そして、より良い策にするべく手は惜しむべきではない。

 

「それで、二つ目の目標は?」

「奴らの目を潰す。今回の目的そのものは、全軍を陽動に使って探索役を除去しておく」

 遭遇戦のプロフェショナルは居られると困る。

暫くゲリラ戦が続くし、奴らが居るかどうかでスムーズさが変わってくる。

だがそれ以上に、オデッサで罠に嵌める時の難易度が大きく違うだろう。

いきなり必殺の罠を掛けようとしても見抜かれるだけだが、今の段階から熟練の探知屋を潰せば可能性が増える筈だ。

 

 もちろん補充は可能だろう。だが有限ゆえに万全でない。

相手が後方から引き抜けば補給部隊を狙うし、他の部隊から回せばそちらを優先するまでだ。

 

●運河の戦闘

 インド北西部を抜けようとした南方軍へ待ったを掛ける。

敵は数日分の天候を予測した上で、当然のように雨期ながら晴れの続く日を選んで来た。

此処を越えられれば後が無いと言う訳ではないが、入り江や水路を使えるのが大きい。

 

 それはゾックの性能を最大限に活かせる場所であると同時に、水に寄って場所の分断がし易いということだ。

奇襲性と安全策の両方を堅持する為に、それほどの戦果は出せまい。

だが、むしろそれで良い。こちらの脅威を持ち帰らせ、作戦を変更させねばならないのだから。

 

『海や運河の方向より感アリ! 何かが浮上してきます!』

『水陸両用という奴か?』

『はっ。ヴォジャノーイだか河童だか知らないが、いいぜ。ここで狩ってやる!!』

 歴戦のエースであり、RX計画機を主力とする彼らは躊躇なく行動に出た。

危険地帯を進むとしたら彼らの役目であるし、それだけの性能と実績ゆえに怯える事も無い。

 

 だが、それも敵が迫ってくればの話である。

 

『なんだ? あのクチバシ野郎動かねえぞ?』

『こけおどしかよ。どういう算段だ?」

『この音は……。メガ粒子砲のチャージ音! 撃って来ます!』

 ゾックの砲門は計画の半分に減らされたことで、増幅器を設置され、十分な射程と威力を秘めている。ガンキャノン用の狙撃ライフルよりも長く、四門まとめてであれば、遠距離でも十分な威力を発揮する。

『くそっ! 陸戦ジムを下げろ。まともにやり合うとヤベエ!』

『ここは僕らで行くべきですね』

『ん~。じゃあフォルド達の小隊で海側に行ってくれる? 俺らは運河に回るからよ』

 ブラック・プリンス中隊の判断と動き早い。

即座に割り振りを完了し、対応を開始した。

もしゾックが撃ち合いを行ったとしても、数分もすれば叩き潰して居ただろう。

 

 だが我々ジオン側が、ニュータイプ(?)相手にまともに戦う訳が無い。

 

「ガルマ様。敵は罠に掛りました!」

「よろしい! 水辺を迂回して残りの連中を叩くぞ」

 ガンダムが動き始めた段階で、ゾックには少しづつ下がれと伝えてある。

二機一組八門で一体の対象を狙う様に伝えてあるし、移動しながらでもそれなりに当たるだろう。

とはいえ倒せるとも思えないので、それに合わせて戦線を押し上げる。

撤退支援用に予備機は控えた上で、一機に動き始めた。

「やはり何機かビームライフルを持って居る機体が……」

「ちっ! やはり配備が始まって居るか。構わん、無理はするな!」

 とはいえ、どうなるものでもない。

もしビームコート付きの盾が増えず、出力の低い陸戦ガンダムでなければ損害はもっと増えて居ただろう。

 

「外見から識別できるならそいつの頭を上げさせるな! 本命以外は、擾乱攻撃で牽制しつつ狙い易い相手に攻撃を集中しろ!」

「了解です!」

「やってみます!」

 今回の本命は探知役への攻撃だ。

全体へ弾幕を張って牽制したと見せつつ可能な限り葬り去る。

それさえ終われば倒せずとも、後は下がっても構わない。

行き掛けの駄賃に集中攻撃で何機か狙うが、倒せれば良いというレベルに過ぎない。

「ガルマ様! 連中も回りこんできました!」

「ええい!」

 ホバーモドキを吹かして制圧に掛る。

カメラが拾った画像でライフル持ちを把握しつつ、そいつにビームランスをぶちかました。

陸戦ガンダム用のバックラー越しに胴を薙ぐが、残念ながらビームライフルを切り裂くことはできない。だが跳ね飛ばして姿勢を崩し、シロー達の砲撃で沈黙させた。

 

「ガルマ様、危険です! 撹乱膜を!」

「まだ早い! まだ悟られる訳にはいかん。いや、使うとしても撤退まで保たせねば!」

 雨期の合間であり、運河の近くとあって増水による水気で溢れては居る。

だがその程度でビームを防げるはずも無く、撹乱膜を使えばバレバレだ。

今使うくらいならば、最初から戦闘に参加して居ない。

(直撃さえ受けねば、まだこの時期のライフルは問題無い。主に弾数の問題だけどな)

 エネルギーCAPの技術はまだ開発されたばかりだ。連邦と言えど弾倉までは開発して居ない。

あくまでチャージ式のライフルを使い回すか、本体のエネルギーでチャージするしかない。

もちろん最初から当てて来る奴も居るが、そうでない場合は牽制で数発使ってしまう。

後は残った数発に当たらない様に、当たるとしてもビームコート付きの盾を使えば何とかなる。

 

「何%だ!?」

「目標の四割に留まって居ます! しかし相当数がガンダムの近くや後方です!」

 上体を可能な限り下げたまま、突撃体制でランスを振るう。

倒れたまま放つ陸戦ガンダムの近くを離れ、シロー達に射線を譲った。

マシンガンの何発かは当たるに任せ、ライフルを優先し、バズーカやミサイルランチャーの機体を次点の目標に振り回して行く。

「五割を確保。これ以上は危険です! ゾック達は既に後退を始めました!」

「止むをえんか! 撤退!」

 粘れば戦えるが、そこまでやって甚大な被害を出しても意味が無い。

オデッサ戦あっての作戦ゆえに、固執する訳にもいかない。

あくまで通常の損耗のレベルに抑えた上で、相手の余力を削らねばならないだろう。

 

 予定としては無事にクリアしたが、奇襲作戦としては失敗なレベルだ。

今後の戦いで少しずつ削って行くしかないだろう。

これに対し連邦は後方から探知屋を引き抜き、代わりに増援の一部を補給基地の守備に当てることで解決。

結果として、開戦当初と同じジム百機のままオデッサ戦が始まる。




 と言う訳でインドから完全撤退。割愛しますがパキスタンでも似たような戦闘。
今後の戦いに向けて、連邦の攻めるルートを減らしつつ、持久戦より上を狙いに行きます。

目標1:海上封鎖を自覚させる
 インド洋にヒマラヤ級空母を数隻とかやられても、面倒なので。
これにより、数方向あるオデッサへの道のりを二ルートくらいまで絞る。
目標2:指揮車両や万能型の戦車の排除
 後の奇襲作戦や、罠設置に向けて探知役の排除。
要するにエレドアさん狙い。
引き抜いて補充しなければゲリラ戦、補充すればフェンリル隊が後方撹乱の予定

 なお連邦も馬鹿では無いので
補充した上で、連邦が増援分で補給基地を護るというオプションを選択して居ます。
そのお陰で百機以上のジムになる予定が、開戦当初とあまり変わらない感じです。
(ジオンは減っているので、十分に脅威ですが)

 とりあえず、今後も似たような作戦を続けて、海上の脅威を周知。
可能な範囲で探知役を削って行きます。


●改ゾック
 以前にギニアスに提案してた、水泳部の砲撃戦機体をヨーロッパで開発する話。
あの時の伏線ですが、ゾックの前後の砲台は乱戦しないなら割りと無駄なので
ビームライフルよりも長い射程もった砲台・対空砲台として割り切り量産の限定実現化。
これでオデッサの水辺側を護ることになります。
イメージ的には銀英伝のイゼルローン要塞の浮遊砲台でしょうか。
大型反応炉と水冷式エンジンの併用で、水辺限定ですが、長大な射程とガンダム並みの火力を有してる感じです。


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第二部・第十話:前編

●オデッサ戦は既視感と共に

 それから一カ月、連邦はオデッサまで順調とは言い難いものの確実に歩を進め続けた。

こちらも抵抗しながら迎撃を繰り返し、戦果は上げたが押し込まれたと言う状況だ。

 

 連邦は後方撹乱やゲリラ戦対策に、補給拠点にそれなりの兵力を置きながらも、オデッサにジムを百機揃えた。ずっと戦ってきたにもかかわらず、戦車や航空機など通常兵器に関しては開戦初期すら上回って居る。

これらは減った分を上乗せしたというか、各地に配備されていた航空機を補給拠点に移動させながら持ってきたのではないだろうか?

何とかできると判って居なければ、軽く絶望して居た所である。

 

「かき集めた戦力を使っている分。これを叩き潰せば連邦の余力が一気に減ると言うことだ」

「この戦いでの勝利が文字通り、天下の分け目と言う事ですね!」

 予定ずくめの撤退戦だったとはいえ、落ち込んだ士気を鼓舞する為にシローが間の手を入れる。

既に航空機対策があると伝えているために、後は実行するだけで士気が上昇する筈だ。

我ながらセコイがカリスマとか欠片もないので、こういった宣伝工作は多様せざるを得ない。

「敵は我軍の誘導で規定のルートでやって来ている。これを支援する航空艦隊も同様だ」

「ではいよいよアプサラス計画を実行に移す時ですね!」

「兄は既に上空で待機。連邦が動くと共に実行する段階です」

 画像として表示されるのは、撤退時に残しておいた情報網からのモノだ。

とはいえ相手に見つからない場所から撮影して居るので、どこまでいっても不鮮明な望遠画像でしかないが。

それでもガンダムであれば背中にビームライフル、両手にバズーカと重武装などなど……。

だいたいの数や、大物であれば簡単な形状くらいは判る。

 

 微妙に違和感というか、逆に既視感を感じるのだが……。

原作のオデッサ戦と比べて、ジムが多いくらいだし、それでミデアもついでに増えてるんだろな。

という程度の物、見慣れた光景に何となくという違和感を指摘しろと言うのは難い。

 

「ユニット・アイラーヴァタは恙無く完成して居るよ。計画に従い艦名をこれよりケルゲレンよりインドラと改める」

「インドラの矢、あるいはインドラの槍を今ここに! というやつですね」

 通信で送って来るギニアスに、私は返答を返しながらふと懐かしい言葉を思い出した。

fateだかFGOで何度も聞いた言葉だ。

しかし私としては、ラピュタの雷というのも捨てがたい。

「上空からの入電です。最新の画像を転写いたします」

「地上と空中を含めたファランクスか。流石に壮観だが……航空艦隊を焼き払えれば逆転できる」

 ……と私は浮かれていた。

ハッキリ言って、これがかの有名な『やったか!?』と同じフラグなどと微塵も思って居なかった。

これまでの戦いで入念な牽制と足止め、隠れた誘導を行いながら転戦して来たのだ。

このルートに導いたことはバレて居ても、精々が罠くらいのはず。

 

 まさか移動して全てを焼き払える事を、相手が想像して居るとは思ってもみなかった。

いや、相手も想像しておらず……単純に別の策が、偶然こちらの策にぶつかっただけなのかもしれないが。

 

「大型対空ミサイルや地上用の大型炸裂弾も用意している様だが、120秒の差で我軍の勝利だ」

(あれ……? オデッサ戦にあんな大型ミサイルあったっけ)

 ギマダガスカルの望遠レンズで撮影した画像を送られて、ようやく怪しいことに気が付いた。

ジェット・コアブースターならぬ、セイバーフィッシュ・ブースターが爆装して居るのは、まあいいさ。

でも何でミデアがコンテナを開放してまで、大型ミサイルを腹に抱えて居るんだ?

あれじゃあまるで後に建造されるガルダか、今だと宇宙用のパブリ……。

「ギニアス! 可能な限り即座に発射を! 連邦は撹乱膜を大量に用意して居る!」

「なっ!? 急速チャージだ! 変換機が焼けついても構わん!」

 馬鹿だ、私は馬鹿だった!

さっきのガンダム、おもいっきり実弾仕様じゃないか!

戦い続けるならライフル複数で良いのに、あんな装備をして居るのは一つしかない。

ビーム撹乱膜でこちらのメガ粒子砲を防ぐからに決まって居る!

 

(何がどうしてこうなった!?)

 こちらの秘策に対してドンピシャの対策を打たれた。

そのことで、混乱が全軍に拡がる中、私は妙に思考が後ろ向きにクリアになって行くのを感じる。

(砲門は大型で有ればある程良く、兄達はグワジンやコロニーの設置砲台で牽制した。ベルファストではビームランチャーを使って私が決着を付けた。ついこの間、ゾックの集団でビームライフルを上回った)

 良く考えたら、原作はともかくビーム兵器で圧倒し続けたのは、連邦じゃ無くジオンだ!

なんで相手がこちらのビーム兵器を脅威に思わないなどと、甘えた考えをして居たのか?!

それはもちろん原作で凄まじかったから。今回の戦いでも陸戦ザクを一撃でふっとばしたから……。そんな風に、言い訳を考える為に、次から次へと状況証拠が脳裏に積み上がっていくのだ。

 

「間も無く第一射が放たれます! 如何いたしましょう!?」

「このまま戦闘しても問題無いでしょうか? ギニアス閣下であれば、何とかしてくださるかもしれませんが……」

「第二線に緊急連絡! 実砲を持つ長射程武器をかき集めろ! 第一線はその時間を稼げ! 当たらない位置であっても可能な限り大型ミサイルは着弾前に落とせ」

 ビーム撹乱膜でソロモンがどんな目にあったか良く知っている。

だからこそ、妙にクリアな思考が次々と指令を出して居た。

良く考えればギニアスの動きを見てからとか、連邦が本当に撹乱膜を使っているか見てからでも良かった筈なのに……。

 

 我ながら怯えたような行動であるが、結果として、これが全軍を救ったかもしれない。

ベストではなくベターであったとしても、何も考えないよりは上が率先して動く方が良いのだから。

 

「斜め上空へ前進! 撹乱膜を持った相手の上に出ろ! 航空艦隊の前衛が射程に入り次第、即座に発射!」

「射程を合わせる為、ケルゲレン出ます!」

 ギニアスはこちらに送って居る通信を切り忘れているようだ。

通信間接している通信機が切れたため、ミノフスキー粒子の影響で飛び跳びにしか聞こえない。

相手はどう出るだろうか?

当然ながら何もしない訳が無い。こちらの手を全て読んで居る訳では無いにしろ、その場で下せる判断を下すだろう。

いや、そもそも下したからこそ相手も撹乱膜の弾頭を発射。

ギニアスはソレを回避する為に上空に出たのかもしれない。

 

 痛いほどの沈黙の後、振り下ろされる手と号令が聞こえた。

 

「コード解放。コード・ヴァサヴィ・シャクティ入力! カウントダウン省略!」

「ハイ=メガ粒子砲! 放て!」

 灼熱の光が空を焼き、斜め上から下に向けて光の帯が拡がっていく。

ソレは航空艦隊の前衛を消し去り、中衛以降は、奇妙な斑模様で穴が拡がって居た。

「……敵前衛消滅! しかし、敵爆撃機隊の過半は無事です」

「ザンジバルの砲撃が効きません!」

「地上からの対空砲撃。半ばが無力化されました!」

「……」

 思わず絶句する事実だった。

対空使用の戦闘機隊は消滅させた。

最低限の仕事をギニアスはしたと言っても良いだろう。

だが急速チャージをやった以上は、砲身がまともに使えるとも思えない。

 

 なら、どうすべきか?

咄嗟には思い付かない。とりあえず優先順位の上から動くしか無い。

あるいは得た情報に飛び付いて、そこそこの精査で妥協し指示を出すしか無なかった。

 

「……待て。対空砲座は使えるのか? なら中途半端な位置で展開して居るのか……。そのまま撃ち続けろ! 一発も落とすな!」

「ふ、不幸中の幸いですね。撹乱膜が消えればまだ戦えます」

「ですが地上に合わせたモノのはず。消えるのでしょ……。いえ! 消えずとも良い方法を探ります!」

 私が可能な事を一つずつ喋り始めたことで、司令部も動き始めた。

効果が薄い可能性もあるが、ミサイルでミサイルを迎撃、爆発で吹き払おうとする試みも行われている。

「待機して居るドップ部隊を突っ込ませろ! この際、突入援護ができないのは諦める! ……戦闘機を潰した分だけマシなはずだ」

「了解です。対空銃座の被害ならば問題無い筈です」

 そんな筈は無い。

ミデアはまだしも、相手にはペガサス級も居るのだ。

だが、司令部としては可能な限り危険は下げた。だから行けとしか言いようがない。

損害がゼロになるはずはないし、可能な手は全て打ったのだから。

 

 だが、敵司令部はもっと果断で……。

強引なほどに効率的な対策を打ってきたのである。

 

『爆装を捨てる!? そんな事をしたら味方に当たってしまいます!』

『落とされたら同じことだ! このまま飛び込まれたら我軍は壊滅するぞ!』

 なんと連邦の航空指令は、爆装しているセイバーフィッシュ・ブースターの対地ミサイルや、爆雷を捨てさせたのだ。

身軽になった機体の内、対空銃座を残して居る機体は戦闘に参加させ、バルカンしかない機は全て後方に下げさせた。

流石に純爆撃機であるフライマンタは逃げ帰るしかないが、セイバーフィッシュ・ブースターは万能機である為に戦うことが出来る。

『た、隊長!? 上から爆弾が!』

『ちくしょう! 何を考えてやがる! この味方殺しが!』

『突撃しろ! このまま味方に殺されるよりはいい!』

 連邦軍の頭上に爆弾が降り注ぎ、設定されてこそ居ないが、それで被害がゼロになる筈も無い。

爆発し始める前線から逃げ出す様に、戦車隊は猛進!

ジムも後を追い掛けて、死に物狂いで我方の前線に飛び込んで来る。

 

 そこから先は地獄だ。

本来ならばあり得ない速度で突っ込んで来る敵に、こちらは効くかも判らないメガ粒子砲を発射。

予備兵器のミサイルを乱れ打ち、あるいはマゼラトップやキャノンザックが撃ち込まれる。

本来であればそこまで攻撃を受ければ止まる相手も、下がれば死ぬのみ。

前方こそが生地と九死に一生を得るために飛び込み続ける。

 

「各ザンジバルは撹乱膜の無いエリアに移動、生き残りと敵ペガサス級を圧迫させろ。それと……シーマ隊に判断の自由を許可」

「海兵隊……いえ、独立降下戦隊宛てですね。了解しました!」

 リリーマルレーンとフェンリル隊は、相手の動きを牽制する為に動かして無い。

後方撹乱し補給を寸断する部隊あってこそ、連邦は残りの基地の戦力を動かして居ないのだ。

航空機がこちらに残らず出払っている以上、動かないだろう。

 

 しかし、それはそれとして、歴戦の海兵隊を捨てるのは惜しい。

特に判断力は腕前以上の価値があり、独立部隊としてシ-マ隊の名前と装備を与えて予備戦力として置いて居る。

その主力は色を塗り替えたドム・マリーネであり、ドダイYSのエンジン改良型だった。

本来は相手がこちらの前陣に乗りこんで来た時に、空爆と共に封鎖する予定だった部隊である。

しかし既に相手が狂乱状態で突撃して居た。

指示を出すならば、今しかないだろう。

 

「場合によっては本隊も出す。それで前衛が下がり、第二線で投入する隊を再編成する時間を稼ぐぞ」

「了解しました!」

 オデッサの前線は、三連の連携によって成り立っている。

一線は防壁と銃座。それを支える部隊より。

二線は移動経路。即座に部隊を移動させ、同時に入り込んだ敵を前後から挟み討ちにする場所。

三線は最も堅く、位置が高い。遠方に居る敵を大型砲の長距離で狙いつつ、入り込んだ敵を第二線で沈める役だ。

その後方にもう一ラインあるが、これは後方で編成・修理する為の場所なので、最後の砦と言える。

 

 その頃、……連邦視点でも混乱と対策が行われていた。

 

『あんな連中に従うんですか!? こっちの被害は上からですよ!?』

『あのまま攻撃を喰らったらヤバイのはこっちだぞ? それに撹乱膜のお陰でデカブツを喰らって無い』

 味方殺しには従えない……そう抗弁する層もあれば……。

果断な判断で味方の損害が減っているという者も居る。

あのまま航空艦隊が完全に撃滅されれば、ジオン側の爆撃でもっと被害が出たのは確かだ。

『そもそも、なんでジオン相手にこれだけ苦戦してるんですか。最初の話だと、とっくに降伏させてるって』

『スパイでもいるんじゃねえか? まあ相手が強いだけって話もあるけどな』

『勝っているとはいえ、被害の大きさと遅れてるスケジュールでレビル将軍の地位も怪しいって話だしな……』

 とはいえこれらは無駄話だ。

現在進行形で勝っているのは連邦だし、混乱が消えれば、最終的に勝つのも大軍である連邦だ。

 

 だが、死ぬのは前線で戦う彼ら兵士達。

仮に勝っても損害を出したレビル閥が突き上げをくらうのは必至。

どうして自分達が、味方殺しの為に戦わなくてはいけないのだろう?

撹乱膜や爆撃隊を組織した航空指令が別派閥であり、地上部隊がレビル閥を中心にして居ると言う事実がギクシャクさせている。

 

『今の事態は作戦を読まれた我々上層部全ての責任だ。我軍にスパイなど居ない。居たとしても汚職官僚の方がよほど怪しいだろう』

『……ワイアット司令』

 綺麗事を口にする司令官の言葉に、一同は苦い顔を浮かべた。

自分達の司令官が後方からの指令に振り回され、同じ様に苦心するレビル総司令官に可能な限り協力して居るのを知って居たからだ。

『この戦いに勝たねば全てが始まらない。汚職対策は後でなんとでもなる。今だけで良い、我々に協力してくれまいか』

『水臭いじゃないですか。俺達は兵士です。勝利の為に死ねと言われたら死ぬのが仕事ですぜ』

『そういうことだ。皆もいいな?』

『勝ち戦で我儘言って負けるのは性に合いませんからね』

『我儘って、僕のことですか? 別に、ちゃんとした指示があるならいいですけれどね』




 と言う訳で、最終話であるオデッサ戦の始まりです。
まずは予告通り、ハイメガ粒子砲で航空戦力の一掃。
連邦が別件で使う予定だったビーム撹乱膜の影響で、全滅はさせられず双方酷い目に。
空はジオン有利になりましたが、地上は酷い有様です。

●ユニット・アイラーヴァタとケルゲレン改めインドラ
 以前に提案した、ザンジバルでアプサラス計画すれば良いじゃない。
という案を元に、ハイメガ粒子砲を完成。撃ち込んでみました。
しかしながら、主人公のガルマは重要な事を忘れていたのです。
ビームの匠を頼り過ぎたために、ジオンの方がビーム職人が多くなってしまった事。
当然の様に警戒されて、ビーム撹乱膜を切り札として用意されて居ました。

「ふはっははは! これが世界を滅ぼした、インドラの矢だ!」
「ビームなんて!」

●セイバーフィッシュ・ブースター
 連邦が用意した航空戦力の一つ。
ティンゴットやトリアーエズでは弱い、かといってコアファイターの量産は間に合わない。
せや、セイバーフィッシュの量産してるんだから、こいつをマルチな万能機にすれば良いんじゃね?
ということで、小型ビーム砲に加えて、各種ミサイルを設置出来るユニットを設計。
頭数は開戦当初から少し増えただけですが、順次、こういうのに変わって居ます。
戦線が長引けば、再設計されたジェット・コアブースターに切り替わる予定。

●シーマ隊
 リリーマルレーンを使って後方襲撃を繰り返し、フェンリル隊と共同で暴れ回って居ました。
時に十機を越える集団で一つの後方基地に襲い掛り、食料は民衆に分け与え、機械は破壊。
次の拠点潰しに行くと言う事をやっていたのですが……。
連邦が後方基地にジムや戦車、それなりの航空機で安全を確保。
じゃあ中断して帰還する……と言う訳にもいかず、フェンリル隊の母艦にザンジバルをレンタル。
自分達だけイラク入りして、ドダイYSのエンジン強化型を受け取り、色を変えて参加して居ます。
まあ、これはザンジバルと降下作戦が目立つから、ソレを逆手に取っただけの話ですが。

●戦後とか、連邦の態勢
 地上で指揮を取って居るのはレビル閥。
開戦初期からジオンを徹底的に叩くべきとか、モビルスーツ開発を! と言っていたワイアットさんは別派閥だけど、原作知識でレビル閥に協力。
連邦政府としては、とりあえずレビルに任せてみっか。
そんな感じに派閥の論理で決まったものの、色々な思惑で連邦は連邦で苦労して居ます。
なお、各地から航空機をかき集め、強力な航空艦隊を結成したのは別派閥です。
トロイホースを旗艦としたビーム撹乱膜散布隊。前衛の対空部隊、爆撃機の部隊とか色々。
まあレビル閥だけに功績を上げさせる訳にはいかない! と言う感じで頑張った結果。
(レビルとワッケインは地上軍なので、ペガサスもあるけど普通にビックトレーに載ってます)


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第二部・第十話:中編

●終局の予感

 遥か地球上空、ユーラシア大陸への突入ポイント。

そこに戦いの終焉を告げる、最後の鍵があった。

 

「どうして降下させてはならんのだ兄貴! 今、ガルマは少しでも増援が欲しい状況なんだぞ!」

「今は止せと言っている」

 宇宙軍と親衛隊から抽出した精鋭部隊。

その使い道に置いてジオンの首脳陣では荒れていた。

正確には宇宙軍が捻出した戦力で降下ポイント周辺をこじ開けた後、即座に降ろそうとしたドズルをギレンが止めたのである。

「増えた所で当たり前の戦略に組み込まれるだけだ」

 常識的な戦闘では増援など大した意味は無い。

50対100が、60対100になっても差は縮まらない。

仮に包囲すれば、背を突くことで攻撃力は上がるかもしれない。

だが数の前に戦果は平均化し、防壁を頼れぬ増援は即座に攻め潰されるだろう。

 

「だが戦闘が膠着した後であれば、例え十機でも戦局を分ける。それが判らぬお前でもあるまい」

 仮に戦線が膠着し、痛み分けになったとしよう。

この時に増援が挟撃を行えば、連邦は下がって立て直す事が出来なくなる。

あるいは全ての戦力を投入するという強引な策が使えなくなる。自分達の司令部が危うくなるからだ。

 

 仮に辛勝で連邦が勝利したとしても、ヨーロッパを攻めることが出来なくなるし……停戦が可能かもしれない。

逆にジオンが勝てば、包囲殲滅を仄めかし、降伏勧告すら可能な場合がある。

そうなればどちらの場合であっても、ここで戦いは終了だ。

 

「そんな事は判って居る! だが戦いは数だよ兄貴! 十機がなければ敗北するやもしれん!」

 ランチェスターの法則は文明誤差もあるが、基本的には今でも十分に通用する。

正面決戦なら大軍相手に少々の増援は意味が無いが、戦場分割が可能な要塞戦では意味が大きい。

特に今から降ろす予定の部隊は先行量産機ではなく、最新鋭の機体と慣熟訓練を終えた精鋭部隊。

それこそ後ろを突くことが出来れば、一個中隊であっても司令部を粉砕する事が出来る可能性すらあった。

「これで戦いが終われば戦争は終わる。そう思えばこそ、闘い抜けると言うものだ。少しはガルマの事を信用してやれ」

「それはそうだが……」

 ここでギレンはドズルの性格を利用する事にした。

そもそも事前の作戦段階では、十分に勝てるだけの切り札を用意して居ると豪語したのだ。

どちらかといえば自分の才能を誇示せず、消極的な物の見方をするガルマが……である。

 

「それにな。停戦となれば連邦は父上と私の引責辞任を求めて来る。……未来の総帥となるには試練が必要だろう」

「本気か? いや……本当なのか、兄貴?」

 ギレンは最後の切り札を切ることにした。

連邦官僚……正確にはそのスポンサーである企業群からの提示を告げたのだ。

ジオンが本気で守る場合、彼らの基盤であるヨーロッパと北米は、このままいけば来年以降も確保できる。

ハービック社やヴィック・ウェリントン社のような大規模軍需産業はともかく……いや、彼らのCEOですら今の地位が怪しくなってくる。

ゆえに彼ら経由で停戦条件を確認し合っており、オデッサ戦の経緯如何で妥協の可能性が出ていたのだ。

「無論だとも。財政的な問題もあるが、これで勝てるならば権力に固執する必要も無い。業腹だがキシリアのでっちあげた宇宙政策もあるしな」

「……判った。兄貴がそこまで言うならば信じよう」

 ギレンはようやく受け入れたドズルとの通信を切り、待機していた者たちに声を掛ける。

今告げた、表向きの話ではない……本来の話をする為だ。

 

「オデッサは核で吹き飛んで居ないのだな?」

「はっ。連邦は卑劣にも核弾頭を用意して居た様ですが、中断した模様です」

 イザとなれば核で連邦主力ともども消し去る。

それがギレンが用意しておいた保険であった。

「ならばガルマの追悼演説は止めておこう。……勝利する算段も出来上がったようだしな」

「勝利なさいますか? そうであれば良いのですが」

ガルマはシベリアに核封印施設を作る交渉をすると言った時、ここまで見据えて許可を出したのだ。今吹き飛んでも、ガルマがやるとは思えない。やるとしたら連邦の強硬派だと宣伝できる状況になるからだ。

「インド以降の戦いでガルマの部隊が連邦に対し、キルレシオで上回ったのは奴らが狙う拠点を捨てたからだ。オデッサを捨てて罠を仕掛けるつもりがあるならば、今回も勝てるだろうよ」

「……そういえば核は地下の廃抗でしたか。なるほど、足元から崩すのであれば勝てましょう」

 地下を掘り進めて、侵入して来たところを足場崩し。

その作戦ならば勝てる可能性は高い。いや、味方の被害を考えず囮に使用し、適当な所で実行すれば確実に勝てる。

 

 そこまで話が進んだところで、新たな話題に移った。

 

「しかし、本当にガルマ様を総帥になさるおつもりで?」

「お前達は天下三分の一という策略を知って居るか?」

「確か……東洋の政略家が唱えた政策だとか」

 ギレンは部下達が首を傾げた所で、ニヤリと笑って温めていた考えを披露することにした。

ソレは今までの価値観をひっくり返し、連邦からの譲歩案を意味の無い物にする方策である。

「ギレン王国の国王として、ジオン公国やコロニー群の盟主と成る。ならば総帥という地位にいかほどの価値が残ろう」

「っ!? 確かに総帥職による執権制度はジオン公国としてのもの。新たな王国に意味などありません」

「国王親政の前には、首相よりマシという程度に過ぎますまい。場合によっては……キシリア派に公王位を譲っても構いませぬな」

 ギレンは片手をあげて部下達を制した。

あくまで案の一つであり、交渉次第では別の見方もあるだろう。

それに……。

 

「キシリアに関しては奴の抱えている策次第だ。本当に宇宙の新時代のみを考えている訳でもあるまい」

「月に建設中の施設があるそうですが、ニュータイプ研究所の拡充や、モビルスーツなど様々な実験施設を更新とのみ伝えられているそうです」

「当人達も何をするのか知らされていないようです。目下の所、エンジェル=ハイロウという計画名のみ判明しております」

 そこまで聞いたギレンはどんな天使が眠っているのやらと苦笑したと言う。

 

●混迷するオデッサ

 連邦の航空艦隊は壊滅し、航空指令は爆装を捨てさせてでも立て直しを図った。

その影響で空中は予定通りの制圧が出来ず、地上は爆発から逃れるために特攻じみた攻撃がなされている。

お陰で作戦の推移が早回しで行われており、数日は保たせるはずの作戦が一気に加速した。

 

「撃破数は既にバッケンレコードの連続です!」

「それに伴い、我方の損害も拡大! 連邦の突入ペースが早過ぎます!」

「このままでは数日も保ちません!」

 次々と投入して来る戦車とモビルスーツ。

その勢いは猛威というレベルを越えており、こちらの迎撃速度を越えて居た。

「やはりビーム撹乱膜で迎撃不能な時間があったのが致命的です。今もまだ残っている区画がありますし……」

「連邦もこの機に突入を決意したようです。なし崩し的な突撃を援護する為に、援護が始まって居ます」

「仕方あるまい。第二線での移動が完了し次第、作戦を第二段階に移す」

 メガ粒子砲による砲座が、ビーム撹乱膜によって遮断されてしまっていた。

ソレは一度空中でハイ=メガ粒子砲を遮断した後、一部が地上に降り注いでいたのだ。

ミサイルで敵もろとも吹き飛ばそうにも、誘爆を避けるために予備兵器にしてしまって居る。

ビーム兵器に頼り過ぎたということだろう。

 

「移動は完全ではありませんが、許容範囲内です。損傷機は全て第三線へ」

「後はおっつけ移動可能な範囲です。これ以上は危険水域を越えます」

「よろしい。人造湖から水を引き込め! 時間を稼げるだけ稼ぎ、ついでに撹乱膜の残りも洗い流す!」

 時間稼ぎの策として移動用の第二線に、工業用の人造湖から大量の水を引き込む用意をしていた。どうせ穴を掘って道路として固めるのだ、掘りとして有効活用すべきだろう。

そして、この水にはもう一つ意味がある。

「ゾック・ヴァサーゴ隊を出せ! 第二線に引き込んだ連中を殲滅せよ!」

「了解です! ゾック隊出ます! 砲戦態勢へ移行次第、順次砲撃開始!」

 ガンダム・ヴァサーゴをモデルにした、射撃特化型モデル。

それがゾック・ヴァサーゴであり、水冷式エンジンに放熱ウイング、そして手足は最初から固定用のアイゼン代わりだ。

四つん這いで態勢を低くして、水中に半部以上体を沈めて砲撃を行う。

もちろん予め測量した場所に撃ち込む事を前提にして居るので、ほぼ必中。

……まあ相手の数が多い上に、水で動きを取られて居るから避けられることも無いけどな。

 

 しかし水が無いと無理だけど、一機で中隊規模の砲撃力って本当だな。

あれだけ火力が大きいと、連続は無理でも休ませながら他でも使いたくなる。

その場合は空冷だけど大型エンジンを搭載した、専用ドダイかファットアンクルに載せた方が早いかもな。

名前は間違いなく、ドダイ・アシュタロンかファットアンクル・アシュタロンだ。

 

「ガルマ様! 連邦が第二線に砲火を集中! 底を破って排水を試みているようです!」

「廃抗を利用したと見抜かれたか。まあ定番だからな」

「予定通りですが保ちますかね?」

 掘り尽くした鉱山を貫く形で穴を掘り、空掘りにしていた。

そこを通って通路にしつつ、今は水を引き込んで文字通りの堀にして居るんだが…。

実のところ、コレは連邦の作戦を誘導する為だった。

「それは連邦の運に期待しよう。……全体の補強工事なんかする暇なかったからな」

「こっちまで崩れたら笑えませんけどね」

 第二線は上を通る為の補強した上で、そして下に罠としての穴を掘っておいた。

だが、大規模な地下空洞が構築できた段階で地下通路にも利用するか? と言うアイデアで止まってしまった。

そのまま罠として利用するか、それとも二重三重に使うか悩んだところで、敵が来襲してそのままになっているのだ。

 

 ……まあそこで四つ目の水爆が見つかって、安全に移動させる為の手配で時間が取られたのも影響しているんだけどな。

マ・クベは否定しているが、奴と腹を割って話していないので審議は不明だ。

とりあえず勝てたらシベリアに送るとしよう。

 

「ガルマ様! 損傷して居るペガサスが降下して来ます! 支援砲台として着底を狙う模様!」

「ちっ。こう言う時の悪い予想と言うのは、当たらない方が良かったのだがな」

「言っても仕方ありますまい。如何いたしますか?」

 本来であれば、この形で戦うまでに航空艦隊は叩き潰して居る筈だった。

こちらの爆撃機で悠々と叩きつつ、少しずつ削って勝利する筈だったのだ。

それがあの狂乱突撃で御破算になってしまったのだが、放置する訳にもいかん。

「ゾック隊は人造湖まで下げろ。久しぶりにノリスの力を借りるとしよう」

「はっ! 存分に御覧に入れて参りましょう!」

 損傷して居るからと言ってペガサス級でこちらの戦線に穴をあける必要は無い。

おそらくは空中での戦いがシフトしており、連邦からすれば急ぐ必要が出たのだろう。

航空指令の果断な決断で空中戦が続いているが、その神通力にも限度があると言うことだ。

 

「目標はペガサス級の抱える砲座だけで良い。アレを利用して連中が駒を進めると言うならば、精々利用させてもらうまでだ」

「承知いたしました!」

「久々にオヤジの活躍が見られるって訳だな! こいつは負けて居られねえ!」

 敵はペガサス級を砲座であり、盾代わりにして戦線突破を狙ってくる。

こちらは砲座を潰してその意図を半減させつつ、敵戦力を一か所に集める予定だ。

砲座さえなければノーマルのドダイで爆撃が出来るし、そろそろ撹乱膜が消えてこちらの砲座の全力が出せる筈だ。

 

 戦線が一か所に傾寄れば、潜んでいるシーマ隊が動く筈。

本隊もそれに合わせて連動し、敵司令部を狙うなり、固まった戦線を横合いから殴りつけるだけの事だ。

 

 だが一つの誤算が生じる事になった。

敵ペガサス級はビーム撹乱膜の残りを保有しており、ゾック隊や砲座などこちらのビーム兵器を無力化し始めた事。

そしてこちらがもっとも恐れていたガンダムもまた、ソレに巻き込まれたことである。

戦いは次第に混迷の度合いを強めつつあった。




 と言う訳で状況の説明であり、戦線の推移回でもあります。
とりあえずこのオデッサ戦が終了すると停戦、状況に合わせて有利な方にポイント。
その状況を造るために、ジオンは援軍をまだ降ろして居ません。
ちなみに宇宙軍と親衛隊の共同なので、どっちに所属して居てもガトーさんが指揮官です。
完全編成で疲労無し慣熟訓練済み、ホバーとビームバズーカ込みで完成したドム十二機。+@。
まともに降りてもガンダムが一瞬にして潰す戦力ですが、状況によっては一瞬でレビル閣下が降伏する戦力でもあります。

●ギレン王国
 小説版から流用。
どう考えてもギレンの引退が状件に出そうなのですが、王様になるから良いよね。
これで権力者の総統じゃないよー。と言い訳しつつ、ガルマを名目の総帥に。
場合によってはジオン公国の名前は、キシリア派を分裂させる為にプレゼン予定です。
総帥が全ての権力を握ると言うのは、あくまでデギン公王から権力を取り上げる方便でもありますしね。
なお、ガルマがシベリアに核封印施設を造って、連邦の高官と取引するって話を許したのは、イザとなったらガルマごと吹っ飛ばすため。
別に殺したいわけではなく、単純に効率良いからですね。

●ゾック・ヴァサーゴ
 手のクロ―を捨て、堀の中で四つん這いになって砲撃態勢。
さらに背中の砲座が必要ないと理解したので、改めて放熱板を追加。
ゾックの段階でビームライフルの射程・威力20%増しx4だとするならば、30%増し以上x4と言う感じですね。
これをミノフスキーで飛ばすとアプサラスやビグラングの小型化な感じですが、時間が無いと思われるのでドダイ・ファットアンクルで飛ばすのが流用方法。
そっち側に空冷式の大型反応炉を搭載して、合体用のアシュタロンにする感じです。
(なお、インドで六機居たのですが、逃げに徹してなお二機やられたため、今四機です。それでも四個中隊並みの火力ですが)

●戦線の推移
 航空艦隊は前衛のファイター(対空)が全滅。
中衛のエスコート(護衛・撹乱膜)が半壊、ボンバー(爆撃機)が逃げたり対空戦闘中。
徐々に敗退して居ますが地上部隊がジオンの戦線突破を図る時間を稼いでいる感じです。
 この為、本来であれば数日は時間を稼げたり、ドダイの爆撃で有利に立てる作戦が崩壊。
ジオン側は第二案を動かして居ます。
これは作中に在る通り、水を引き込んで時間を稼ぎつつ水中用モビルスーツで砲撃。
そして、連邦自身の手で廃抗に穴を開け、責任を押し付ける作戦ですね。
大穴が空いてトラップというのは、あまり外聞が良くないので。
 とはいえそのトラップは規模が不明なのと、あくまで時間稼ぎ用。
本命は戦線が止まったところで、一番弱い部分をガルマの本隊とシーマ隊が突く為の物になります。
これが第三案の最終作戦案というところでしょうか。
と言う訳でガルマはオデッサを護るべき拠点では無く、敵主力を引きつけ固定し、司令部をガラ空きにする為の道具にしております。


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第二部・第十話:後編

●落城のトロイホース

 攻め寄る連邦軍を次々と炎上させていた十字砲火。

それがイルミネーションの灯を落とす様に、次々に消えて行った。

ザクより強い筈のジムを容易く消し去って居た砲台が沈黙して行くことで、連邦軍の士気は上がり進軍速度は限り無く早まる。

 

「撹乱膜がまだあるか」

「砲座よりミサイル発射筒が先でしたか。読み間違えましたね」

 ノリス・パッカードは死に掛けた部下に首を振って答えた。

機体を支えていることで、お肌の接触回線がレーザー通信以上にデータを送ってくれる。

ここまで戦い抜いた相手に、真実がどうあれ、功績が否とは口にするつもりは無い。

「いや、優先度はアレで良かった。専用のミサイル艦を用意する。それだけ効果が短いということだ。次までに潰せば良いだけの事」

「あれは……ドダイが間に合ったのか。ならば後は大佐にお任せします」

 ヒートサーベルで天を指し示すと、ドダイによる爆撃部隊が上空に見え始めていた。

ペガサス級の対空砲座を潰したことで、爆撃隊がサポートできるということだ。

ここから先は、ガルマや参謀団が思い描いた図に載ることが出来る。

「ジオン公国の……、いえ宇宙市民全ての為に!」

「スペースノイド独立の為に!」

 死に掛けた部下の機体はノリス機の支えを振り切ると、囮になるべく突出。

同じ様に半壊した機体の中で、サーベル持ちは避けることなく突撃を、マシンガンやバズーカを持った機体はそのままの位置で制止砲撃を掛ける。

捨て身のマニューバーは恐ろしいほどの命中率を叩き出す反動として、応射であっけないほど簡単に壊されて行く。

 

「落城の木馬……さしずめトロイホースか。だが、此処をトロイにする訳にはいかん。いくぞ!」

「「応!!」」

 まだ無事に戦える機体は囮が死んでいくのを眺めることなく四方に散った。

ある機体はノリス達が行く道を空ける為に援護を、ある機体はゲリラ戦を担当して時間稼ぐ為に。

そしてノリスもまた死地へと赴いて行く。

 

「後は任せる」

「大佐も御武運を」

 目指すは鉱山の一つに着底し、周囲を制するペガサス級。

そこから各メガ粒子砲の砲台を沈黙させ、ゾック隊が出ても良い様に準備を行なっている。

これまで倍する連邦を押し留めて居たのは、四方の砲座が同時に一隊に集中出来る配置ゆえ。

砲台が沈黙したことで、訪れるジムの数は既に二十を越えている。

明らかに死地でありながら、ノリスの顔はあくまでも晴れやかであった。

「ペースを除けば作戦通り。アイナ様、ガルマ様と末長くお幸せに」

 対空戦闘で抗しえなくなったと知って、航空指令は着底を決めた。

だが仮にも司令官が愚かなはずもなく、味方の支援が可能で、かつ無数の味方に守られる位置を占めたのだ。

例え山上にあろうとも、目の前に無数のジムが並べば突破できる筈も無い。

戦いにおいて数は力なのだ。

 

 だが、幾つかの例外がある。

挑むモノがエースの中のエース、後に教科書に載るほどのネームドであったならば?

あるいは用意された罠……地下の大穴が機能し始めたならば?

ノリスは崩れ始めた山肌にあえて踏み入り、地面が崩れ去るよりも早く機体を疾走させ始めた。

 

『穴の上をだと? ありえん!?』

『オレは見たことがある。シュバルツシルトで地雷原を走って来た奴が居た……』

『まさか……、あれは”震える山”のノリス・パッカードか!』

 もしこの会話が聞こえて居たら、ノリスは良く御存じだ。と笑っただろうか?

それとも無言で走り抜けただろうか? だが聞こえる筈も無い。

崩れゆく大地を走りながら、邪魔なジムを切り捨て、あるいはワイヤーロッドをまだ足元が無事な機体に絡ませてその場を脱出する。

「死にたくなければ立ち去るがいい。下で融合炉が爆発するやもしれんぞ!」

 とはいえ、廃抗に落ちたくらいで簡単に爆発する訳が無い。

別に火薬で吹き飛ばすようなことはして居ないのだ。あくまで連邦が排水の為に地面に穴をあけ、ジオンは崩れ易い様に細工して居たに過ぎない。

だが、足元が崩れる中で平然と戦う機体を見て、相手がエースだと理解するのは簡単だろう。

 

 戦えば死、そして今は勝ち戦に移行しつつある。

その事実が、連邦から無理してまで戦おうと言う気持ちを削り取って居た。

それが……ガルマの用意した、精神上の罠であることも知らず。

 

●奇襲vs奇襲

 戦いは数で決まる。前衛に続いて中衛までが投入されては既に終わった様な物だ。

五十機近いジムが列を為して進軍し、司令部を護る後衛だけでも三十機居る。

もはや連邦の勝利。誰もがそう思い込むのも無理は無い。

 

 ここまで来れば逆転する余地など無い。そう思わせるのが用意した最後の策だ。

堅固な隊伍を組み、強敵もまた組み込まれ身動き取れない。心理的にも戦い終わって勝ち戦を祝うことが出来るタイミング。

この時が最後の攻撃命令を下す時である。

 

「敵は中衛まで乗り込み、既に軍を返す時間は無し。残り三十余機、我らの前に在るのは勝利のみだ!」

 その場に集った最後の戦力に私は声を掛ける。

大隊と言ってもノリスに付けた者や、時間稼ぎに派遣した指揮官らを除けば定数を割って居る。

今から挑む連邦司令部には、定数が完全に揃った大隊が詰めていた。

まともに考えるならば、突破など不可能だろう。ましてやビックトレーの砲戦支援が可能なのだ。

「大隊戦友諸君。よくぞここまで付き従ってくれた。もはや多くを語るまい。この戦いに勝とう」

「……」

 普通ならば勝てる筈の無い戦いに対し、ニヤニヤとした笑いが返って来る。

ここに居るメンバーは最低でも古参兵、殆どがエースという有様だった。

士気が違う、練度が違う、そして何よりこの戦いに掛ける想定が違った。

 

 相手が常識的な運用を行う以上、相手するのは最大で大隊。

中衛を戻さずに戦い抜けば普通なら勝利なので、間に合うかは判らないのに戻す馬鹿は居ない。

やって来ているはずのシーマ隊、そしてもう一枚の切り札を合わせれば十分以上に勝算はある。

何よりガンダム居ないし戻って来れないのは確認済み。これが一番重要。

 

「全機搭乗! 出撃するぞ!」

「「了解!」

 真面目な話、歩いて行ったら無理である。

だが、これまで温存しておいたドダイYSの集団投入を切り札に使用する。

これならばこっちが二十機ちょっといっても、最初に戦うのはせいぜいが直衛の十機程度だ。

二機で一機を落とし、その後に駆け付ける度に少しずつ落としていけばいい。

「敵後方を突破後、残りは第三中隊に任せる。来援があった場合は第二中隊がこれに当たれ」

「「はっ!」」

 私はドムを載せられるようにエンジンを強化した、ドダイⅡに当たる機に専用機を載せた。

同じ様に強化した数機へドムを駆るエース達を載せ、全て主力の第一中隊に集めてある。

原作で言うとキマイラ隊もどきというか、ガルマである私が指揮するので声優的にベイオウルフ隊と仮に呼称して居た。

 

 二十機以上のドダイのうち、ドムを載せるドダイⅡには対地ミサイルが無い。

だが残りの機にはそれなりに残っているので、YSに成った段階で減らしたが戦力に成る。

今回はマゼラアタックは連れて行けないので、コレを利用した新三兵戦術で最初に出逢う中隊を粉砕する予定だ。

仮に今後も戦いが続くとしても、連邦にサポートフライト・システムが無い以上は、この戦術は有効だろうと……思っていた。

 

「クラッカーを落とした後に総員突入! 時間との勝負だぞ!」

「任せてください!」

「オレ達が時間なんざ掛けるかよ!」

 砲撃担当のグレーデン達は先行して降下、残る全員でクラッカーを一斉に投下。

混乱した所へ降下しつつ、一斉に突撃を掛けた。

走り寄る前にキャノンが次々と着弾し、生き残った相手の両側に回り込みながら仕留めて行く。

一人で圧倒出来るエース達が、時間の為だけに連携攻撃を仕掛けてくれる……。

何気に問題児達が私の言う事を聞くのは、これが初めてかもしれない。

「総司令に歓呼三唱!」

「ウラー!」

「ラー、ラー、ラー♪」

 恰好良いセリフなんか一言も言って居ないのに、何故か歓声が上がって来た。

良く考えたら彼らもまた恐怖を吹き飛ばし、自分を奮起させる何かが必要なのだろう。

 

「お前達……。この戦い、勝つぞ!」

「「おお!」」

 次々と建てられて行くフラグに対し、私が文句を言うべき立場に無い。

彼らをこの戦場に連れて来たのは私なのだ。

ならば少しでも早くレビルを倒すか降伏させ、一機でも損害を無くすのが司令官の仕事だろう。

「司令! 予定通り増援が来ました」

「よし、抑えろ! 援護に一斉射していく!」

 最初の増援に第三中隊を残し、残りで援護攻撃しながら走行。

当たる筈も無いがそれでも怯ませる程度の効果はあったろう、残った連中が足止めするくらいは訳も無い。

 

 そして敵司令部周囲に陣取る直衛と、ビックトレーの砲座に向けて一斉に攻撃を掛ける。

ドダイYSの爆撃や、マゼラトップ砲にキャノンザックでの砲撃が集中した。

 

「次の連中が来ます。おさらば!」

「全員に二階級特進を約束しよう。生き残ったら酒でも奢ってもらおうか」

 回り込んで来るジムや戦車を足止めする為、第二中隊とグレーデン達がここで別れる。

残りの手持ちは九機。心もとないがビックトレーを潰すだけならば十分だろう。

そう思っていた私の前に、フラグと共に新手がやって来る。

『そこに見えるはガルマ・ザビ総司令と見た!』

「弾着へ割り込み!? 無茶な増援の仕方をする」

 もう一両……いや、一隻のビックトレーが小癪にも割り込んで来た。

上にジム数機を載せ、レビルの艦を護る様に横入りして来る。

残念ながらここで一番重要な時間を稼がれてしまった格好だ。

潰すだけならば潰せるが、レビル以外を倒しても意味が無い……。

 

「ガルマ様! 後はお任せします!」

「止せ! お前達! お前達が此処で死ぬ必要は無い! ……くそっ」

 見ればレビルの艦を足止めする為に、ドダイYSが特攻を掛けている。

流石に脱出装置を使っている筈だが、奇妙な程の命中率に私の背に戦慄が走った。

こんなところで無駄にする事もあるまいに……。

「用が無いならばそこをどけ!」

『我が道遮るならば、死あるのみ……かい? ソロモンの悪夢は素晴らしいね』

 新手のビックトレーを避けるため、ホバーもどきを吹かしながら私は自分の目を疑った。

こちらも時間が惜しいのだ。ホバーモドキの稼働時間に注意しながら、ステップを掛けて回り込んだ。

そこで見たのは、同じ様に回り込んだ数機とジムが殴り合っている状態。

 

 そしてこの戦い見たことも無い……しかし前世で見たことのある機体がそこに在った。

大型で肩から背中に奇妙な盛り上がり……無数のミサイル発射筒。

そして手には巨大なビームサーベル……。とんでもないオーパーツと出逢ってしまった。

 

「GP02のMLRS……連邦側の介入者か」

『私とGPゼロこと、ガンダム・バーニンガムが相手になろう!』

 不意にミサイルが彼方に撃ち込まれる。

そこには別方向から突入して居たシーマ隊が疾走しており、レビルを逆方向から追い詰めようとしていた。

戦いたくはないが、私が抑えねばレビルを倒すのは無理だろう。

「シロー。後は任せた。シーマと共にレビルを倒してくれ」

「きけ……いえ、判りました。御武運を」

 そのままでは止められるし、相手の砲撃に間に合わない。

ジャンプジェットザックをホバーモドキと一緒に吹かし、ランスチャージの態勢に入った。

シローのドムはジムを倒してから、ビックトレーの方に向かう。

 

『指揮官同士の一騎打ち、良いね! この戦いこそ無駄な戦闘を終わらせる、ガンダム・ファイトの始まりだ!』

「こんな所で……死んでたまるか!」

 ミサイルランチャーの中で、短距離用のSRMが火を噴いた。

右でも左でも無く、更なる加速でこれを避ける。

「その武装ならば! これで正解の……いや、違う!」

『ははは! この機体はA型ではない。決闘用のガンダムなのだよ!』

 GP02はミサイル発射筒を捨て、身軽になってビームサーベルを振るってきた。

やはり加速を始めると、直線だけならば凄まじい勢いだ。

殺人的な加速が襲っている筈だが、連邦の技術だと対Gも凄いんだろうか?

だがここで負けるわけにはいかない。

ビームサーベルにビームランスを浴びせながら、推力の重心を変えて距離を空ける。

 

「隠し腕!? A型というより羅刹との中間か? しかし、トランザムはあるまい!」

 再びランスとサーベルが組み合ったところで、小さなサーベルが肩から飛び出してくる。

ホバーモドキで回り込みながら、盾を斜めにかろうじて受け流した。

隠し腕だから良かったものの、本来の出力だったら盾ごと切られて居た所だ。

『甘いな! リミッターカットは存在するのだよ!』

 だが、強大な出力に押し込まれ始めた。

圧倒的なパワーで先に行くこちらに追いつき、受け止めたランスごと押し込んで来る。

「何と言うパワー。ビームランスに頼っていては勝てないか……。しかし、その機体、見切った!」

 冷静に考えてGP-02な訳が無い。

要するにアレは必要に合わせてガンダムを重装甲に組み上げたら、最終的にサイサリスっぽくなっただけだ。

直進しか速度は早くないし、出力を上げるごとに煙を出して居るのは、陸戦ガンダムにあったリミッター解除みたいなもんだろう。

 

 それが判ると頭に冷静さが戻ってくる。

相手にミサイルがもうないので、チラリとレビルの方を窺う余裕があった。

更に増え続ける増援をシーマ隊が制し、シロー達がビックトレーの砲座を潰している状態だ。

ドラゴンフライで逃げ出すとか、通信で他の司令官に引き継ぐとか無ければ大丈夫だろう。

 

「ならばここでケリを付ける! 悪いがもらったぞ!!」

『大振り? だがそれではボディががら空きだよ。隠し腕を忘れた訳でもあるまい!』

 ワザと動きを止めて、ホバー等は吹かさずに走行して攻撃を掛ける。

途中で加速を掛けて振り被る攻撃を、相手はサーベルで受けながら隠し腕を動かした。

だが、こいつはエースじゃない。私と同じで訓練している様だが、所詮は古参兵止まりだ。

ガンダムの性能で私を圧倒していたが、扱い切れずに機体に振り回されてこちらを倒せない。

『なに!? 効かないだと、どういうことだ?』

「まさか撹乱膜を格闘戦中に使うことになろうとはな!」

 隠し腕の小形サーベルを無効化し、相手のサーベルを肩に受けつつも、こちらの片腕を強引に空ける。

そしてシールドの裏に設置してあるヒートサーベルを引き抜き、相手の体に押し当てるポーズ。

ゼロ距離から強引に振り抜く為に、ここでジャンプジェットパックを吹かし、ホバーモドキで位置調整を行った。

 

「この勝負は預けた! 狙うはレビル将軍、唯一人!」

『しまった! 抜かれただと』

 移動しながらガンダムの脇を抜け、集め直したデータを再集計する。

そして可能な介入をレーザー通信で指示し、グレーデンからの砲撃や、手の空いた機体を誘導して行った。

「私の名前は地球方面軍総司令官ガルマ・ザビ! レビル将軍には降伏していただきたい。返答なき場合は艦橋を攻撃させていただこう!」

 オープン・チャンネルで呼び掛けると、やがて残って居た砲座が沈黙する。

発光信号があがり、周囲のジムも動きを止めた。

 

『駄目です将軍! オデッサは陥落しました。このまま行けば……』

『いや。この配置では無理だな。まさかオデッサほどの重要拠点を捨て、司令部を移して居るとは思わなかった。それにアレを見たまえ』

『いまさら降下部隊? あの位置は退路が……』

 少し待つ間に、連邦からもチャンネル合わせの通信が来る。

お互いに回線を合わせ、ハッチを開けたり、艦橋の一番目立つ場所に移動する事で顔を合わせる。

「ガルマ司令! こちらはアナベル・ガト-以下、追撃隊であります!」

「そうか。君達の来援もまたレビル将軍に決断を促したのだね。感謝しよう」

 コムサイ数機に分乗し、ドムの集団がやってくるのが見えた。

見ればスカートやレッグウオーマーみたいな装甲を付けており……ドムの完成品だけで構成された部隊だ。

ホバーの方も完成品の様で、一個中隊しかしないが、こいつらだけで大隊を突破できそうな雰囲気がある。

 

「オデッサに乗り込んだところで納得がいただけるか判りませんが、問題ありませんか?」

『納得するしか無いでしょうな。こちらの司令部がグルリと込まれた上で、そちらの司令部も此処にあるのですから』

 連邦の後衛は瞬く間に半減し、逆にこちらの部隊が完全に取り囲んで居る。

まあ無事な機体も少ないが、ガトー達込みで優勢なのは明らかにこちらだ。

要塞戦で動きを固定化された連邦軍は、中衛を戻す事は出来ても、前衛は損害込みでもう無理だろう。

遊兵が大量に出た上に、司令部なしで戦い抜けるとも思えない。

「それは助かります。ハイ=メガ粒子砲はできればもう使いたく無かったので」

『くそっ。あれさえなければ……爆撃で押せたのはこちらだったのに』

 こちらのハッタリに幕僚の誰かが悔しそうな声を返すが、気持ちは判らなくもない。

ドダイが頭を抑えた状況で、連邦がずっと数の優位を保てるとは限らないのだ。

逆にあちらが制空権を奪えば、爆撃機や撹乱膜の乱れ打ちがこちらを襲った筈である。

 

 こうしてオデッサの戦いは、鉱山機能こそ激減したものの、勝負には勝てた。

一年戦争はジオンの判定勝ちで、幕を閉じるという方向で調整に入ったのである。




 と言う訳でオデッサ戦に勝利し、第二部終了です。
数で押されましたが、地形を使って遊兵化。
相手の前衛中衛を固め、後衛だけ精鋭で襲撃するという方法で勝利をもぎ取りました。
イメージ的には10・20・ガンダムチーム・20・10、30と司令部。
(なお簡単な計算であり、既に十機以上が倒されているので詳細は違う)

 この状況を作るために航空艦隊を先に潰し、爆撃しつつ継戦。
その間にこれまで温存して使って居なかったドダイYSによる司令部強襲と言う戦術です。

 オデッサ落ちたし連邦の勝ちでしょ? という意見も無くは無いでしょうが、ガルマが司令官でレビルを降伏させています。
主力も無事に見えるし、最初から罠だった……と言い張れる状況を作ったので、ジオンの限定的勝利と言う感じです。

●トロイホース
 航空艦隊司令部であり、ビーム撹乱膜発射用の船です。
強襲揚陸艦であすが、半分くらいはミサイル巡洋艦みたいな感じ。
相手の拠点に乗り込んで、撹乱膜を使いつつ、砲座で支援します。
こいつが居なければオデッサも落ちない可能性はありましたし、ノリスが無謀な特攻をする必要も無かったかと思われます。

●GPゼロ、ガンダム・バーニンガム?
 ワイアット指令専用の決闘用モビルスーツ。
……と言う訳ではなく、フレーム対応、強化ジェネレーター、大推力のバックパック、各種ザックなどなど。
いろんな技術を検証し、次世代のモビルスーツを作る為の素体。
ジオンが使っていたビームランチャーを、ビームバズーカとして現実な範囲で実用化。
大型ビームサーベルを予備の兵装、隠し腕も同様。
今回はビーム撹乱膜を前提として居た作戦なので、予備機ではあるものの、この機体もミサイル装備に変更されていた。

●ドダイYSとドダイⅡ
 爆撃機であるドダイをモビルスーツ運搬用に改良した物。普通のドダイよりミサイルが少ない。
これまで完成していたが、時期が悪かったので、オデッサ戦に使う為に温存。
ドムは乗らないので、ミサイルを全部取りはらって強化したのが便宜上のドダイⅡ。
爆撃強化用のドダイは計画だけあったが、途中でポシャった摸様。

●シーマ隊
 ドム六機とドダイⅡ六機で編成され、近くに隠れて襲撃の機会を窺っていました。
ガルマ隊の襲撃に前後して攻撃しており、彼女達の活躍もまたレビル将軍を追い詰める要員で会ったと思われます。

●今後
 ジオン優勢で交渉開始。
色々文句付けつつ、限定勝利的な感じで勝負は決まります。
ワイアットさんは一度だけ連邦を信じて見よう、その時は最後までレビル将軍を護ろう。
それが原作知識を一番行かせる方法だからね……。という状態でした。
その上で、ガンダム使って決闘って恰好良くない? みたいなノリで我慢してたらガルマが襲撃して来たので
「私が出る!」とか言いながら出撃。まあレビル将軍狙われたら困るので、周囲も渋々と出撃を見守った感じですね。

●アプサラス計画
 ギニアスのケルゲレン=インドラは健在。
しかし急速チャージの為にユニットの方が故障。時間さえあれば直せるのですが……今回は時間のせいで無理でした。
その意味では連邦の航空艦隊司令の判断は間違っておらず、稼いだ時間で連邦軍は突入。
ビーム撹乱膜を連射して、オデッサは陥落寸前でした。最初から罠でなければ、ジオンの敗北だったでしょう。
 なお、アイナが操る予定だった小型ユニットとしてのアプサラスですが……。
サポートフライングシステムとしては完成したものの、ビーム撃つ機能の方で未調整。
出れなくは無いのですが、ビーム撹乱膜を使われたのでお蔵入りになっています。
おそらくはノリスが発射装置を排除するのを待ちわびながら、ゾック隊と一緒に待機して出撃待ちだったと思われます。
(そう言う言い訳で安全地帯に送られたとも言いますが)

●残りの話題
 第三部できそうな終わり方ですが、本来は第一部までで第二部を無理やり続けたので
ここで終了。あとは外伝2本くらいで終了予定です。
ガルマ視点で一本、キシリア様視点でネタ話で一本。
要望があれば、メカニックがどういう提案で成り立って居たか……で一本くらいでしょうか?

 何れにせよ、ここまで読んでいただきありがとうございました。


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外伝:新しき時代

●金と地図上の戦争

 長いので結論から述べよう。

停戦交渉そのものはスムーズにまとまった。

 

 もしあそこで停戦を受け入れず、決着がついた場合……。

ジオンは残った戦力をまとめてユーラシア大陸を落としに向かっただろう。

だからこそレビル将軍は戦力を維持したまま停戦し、こちらにも妥協が必要だと思わせたのだ。

逆にこちらが無理に勝ちに行った場合、実際にはハイ=メガ粒子砲は使えないので、ドダイの援護だけでは部下が死んで人手が足りなくなる。

だからこそ双方は妥協を受け入れなければならなかったのだ。

 

「明らかに後に禍根を残すタイプの停戦だが……。できれば平和になって欲しい物だ」

「可能であれば次の世代にも……ですね」

 アイナと微笑みながら暮らす日々。

苦労はするだろうがそんな日々が続けば良いのにと思う。

同じ苦労ならば子育てや平和の維持の方が何十倍もマシだろう。

日本では従姉弟同士の結婚はアリだが、欧米スタイルではないそうなので、ミネバとの仲とか余計な事を考えなくても良いのが楽だ。

 

 独裁者のギレンは政治上の地位なんて寄こさないだろうし、任された軍管区辺りを無難に納めておけば良いかなー。なんて甘い事を考えていた。

それがまさか、官僚たちによる本格的な講和交渉の中で大きく変更されるなんて思ってもみなかったのだ。

 

「なんですと?」

「ですからそちらの要望である、公王位や総帥位に関して認めても良いとおっしゃられて居ます」

「なん……だと」

 戦争責任を追い、デギン公王とギレン総帥の引退。

連邦が講和の条件に上げた……『これを呑めないだろ? だから他の条件を呑めよ』という無理難題を受け入れたのだ。

代わりにジオン側も、『地球による実質的な植民地政策が、戦いの遠因であると認めよ』……と付きつけることになっている。

お互いに無理難題だからこそ牽制パンチとして成り立っているのだ。

まさかジオン側が受け入れるとは思わず、連邦側の官僚は絶句して居た。

 

「か、仮にです。こちらが植民地政策であると認めると仮定して。その場合、二十世紀の独立事例が例と成りましょう。その場合は膨大な弁済金が必要になりますが」

「当然でしょう。連邦が支払ったインフラ代金の精算無しに、真の独立もまた無いと仰せです」

(「支配された方が支配した方に払うって奇妙だけど……。これが正論なんだよね」)

 支配の為に支払ったのだから、独立に際して払わない。ということはできない。

二十世紀においても、それはそれとして独立した側が支払うのは当然なのだ。

事実、多くの国が支払っている。

そして事例があるならば、ソレを前提に進むのが法律や交渉事である。

精算せねば、いつまでも禍根として残ることになるだろう。

(「無理難題のはずなのに……よくもまあ、これだけ立て続けに呑む気になったな」)

 それもやや有利にあるジオン側が、若干ではあるが不利な状態に在る連邦の要求を受け入れるのだ。弱腰を通り越して不気味ですらあった。

普通ならばジオンに大きな問題があるのだろうと、つけこまれるのが常なのだから。

 

「その代わりですが。占領地域の返還には応じられない可能性があります」

「なんですと!? それでは筋が通らないではないですか。コロニーならばまだしも、北米やヨーロッパは地球連邦政府の物なのですぞ!」

 当然と言えば当然のことだが、連邦政府の高官は色めき立った。

彼らから見ればどうでも良いことが受け入れられても、スポンサーからせっつかれている事を認められなければ意味は無い。

いや、それでなくとも領土問題は重要だ。

このまま穀倉地帯や工業地帯が抑えられたままでは、数年後に連邦政府は崩壊するのだから。

「はて。土地は人民のもの。土地の人々が良いと言うならば、ジオンに属する事もあるのでは?」

「そっ。そんな事はありませんぞ! 占領下にあるからそう口にする事もあるやもしれません。ですが、本来の……」

(「動揺してる動揺してる。そりゃ受け入れられんよな」)

 百戦錬磨の筈の高官たちが面白い様にビビっている。

せっかく交渉にこぎつけたのに、また一から戦争というのは難しいだろう。

ましてや実質的な敗北をしたばかりで、戦力こそあれど次こそ勝てるかどうか怪しいのだ。勝てても何年後になるのか?

その意味では無理難題を受け入れるなどといったギレンの策は、見事に当たって居ると言えた。

彼らにとってそんな事はどうでも良い。だから占領地域を返してくれと、譲歩する態勢に入るのだから。

 

 結果として連邦の言い分を認めつつも、安全保障の問題で地上に土地は残す事になった。

その上で幾つかの占領地域を順次返還する為に、双方で納得のいく条件を出し合う。

例えば連邦政府に旨味が少ない地域……シベリアの封印施設や、アフリカの民族多発地域などは安値で計算。

逆にヨーロッパや北米などの重要地域は高値で計算し、弁済金から差し引くと言うことになった。

住んで居る人間達からすれば激怒物だが、政治上の取り引きとは誠に非情である。

 

「ではシベリアの件は確定するとして、後は案を持ち帰ると言うことでよろしいでしょうか?」

「今はそうせざるを得ませんな。全権大使とはいえ、全てを許されている訳でもありませんから」

「お互いに紐付きというのは笑えませんな。しかし政治とはそう言うものです」

 長い話し合いのすえ、ジオンの土地と言うことにした方が良いとシベリアの封印施設に関して決まった。

ただし管理は連邦側が基準で、こちらにとっての旨味は少ない。

 

 なぜこんなことになったかと言えば、核封印に関してはジオンが勝手にやったこと。

だから仕方ないと今の内に過去からの案件を流してしまおうと言う事に成ったのだ。

ジオンがやったことだから仕方ないが、武装として流用されると危険だから管理権は渡さない。

その代わりに……連邦政府は核物質を持ち込む毎にジオンへ金を払うこと(弁済金と相殺)で決着が付いたのだ。

 

「ではガルマ閣下。今は失礼しますが、今後ともよろしくお願いしますぞ」

「こちらこそ。しかし兄が本気で譲るとは限りません。次もオブザーバーかもしれませんよ」

「それそれとして、誼を通じるのは悪いことではありませんよ」

 今回で唯一決まったことに関して、主導したのは私だ。

そうしていまいち信用のけない上に、頭の切れるギレンよりはこちらを窓口にしたいと言うことだろう。私としては遠慮したいが、胃の痛くなることが続出しそうだ。

「しかし、連邦はどこまで信用おけますかね」

「同じことを向こうも口にして居るでしょうな。まずは接収して居る各社の施設を返せと言ってきそうですが」

 こちらの官僚はむしろ交渉が決裂して欲しい。

そんな口ぶりが窺えた。

だがジオンとて限界は近い。戦うだけでは経済が冷える。

占領下においた待ちは対して税収を上げる訳でも無い。

寄り良いニュースでコロニー間の資金を引き出し、ジオンの国債や関連企業へ投資させなければならないのだ。

適当な所まで妥協しないと成らないだろう。

 

 ジャブローの喉元にナイフを突きつける北米。

支配の歴史があり総合力で言えば国力も大きなヨーロッパ。

少なくともその二つの返還要求は大きな物になるだろうし、こちらとしても返さねば弁済金を支払えない仕組みになる筈だ。

かといって簡単に引き渡せば、再び戦争に成った時にジオンが詰みかねない。

何処か良い妥協点が無いのだろうか。

 

●新たな火種

 全占領地域から核廃棄物質をシベリアに送りつつ、同時にロシアを先行して返還。

そんなお題目でロシア戦線の戦力を東欧に引き上げた。

連邦政府側から全コロニーが独立した場合の弁済金の試算額が送られ、核物質の受け入れとロシア返還分だけ差し引かれている。

 

 この試算を元にまずはジオンが負債を一括管理、盟主としての地位を確立ということになった。

そして各コロニーから送られてくる資金を元手に、まずは経済を回すということになる。

その折に協力した志願兵や武装・物資の分だけ問う資金は増えた扱いになるし、逆に彼らに渡すモビルスーツなどの技術分だけ投資は減った扱いになる。

ここまでは順調に進んで居たし、もしかしたら……平和になるのではないかと言う目もあったのだ。

 

「まさか本当に連邦で内乱が起きるとは」

「以前言ったようにある程度の予想は立って居たが、まさか強硬派が立つとは思わなかったよ」

 最初に予想して居たのは、介入者が自分の野望の為に独立軍を起こすというものだった。

だが融和路線を良しとせず、穏健派の高官やレビル将軍を拘束しての反乱が起きるとまでは思わなかった。

いや、介入者が権力の腐敗を材料に正義を謳う所までは思い付いたので、その追及への先制パンチだったのかもしれない。

「交渉相手はレビル将軍を応援している派閥でもありました。今度はどうなるのでしょうか……」

「あくまでその派閥を正当政府として見なすべきなのかもね。問題は本当に『彼』がそうならば……だ」

「対抗策と宣伝して居ますが……。ガルマ様がおっしゃっていた通り、フォン=ブラウンへ電撃侵攻しましたしね」

 レビル将軍が拘束され、その後継者を名乗るグリーン・ワイアットはオーストラリアで旗揚げ。

そしてルナツーからの照会後に追い出されていた宇宙軍は、かねてからの懸念通りフォン=ブラウンへ進駐。

そこでアナハイム社ほか軍需産業を制圧し、様々な汚職を告発したのだ。

 

 そして宇宙開発に本腰を入れ、戦争などすべきではないと言うキシリア派に賛同。

月面を新たな地球連邦政府の本拠にすべしとまで言い切ったのである。

これがアースノイド至上主義者の反発を買い、強硬派に少なからず人員を走らせることになる。

大人しくオーストラリアを本拠地にして居れば良いものを……と思わなくも無かった。

 

「ある程度は兄上の策でもあるのだろうな。……ワイアット将軍の所に証拠が都合良く集まり過ぎている」

「そうですね。和平案が上手くまとまった場合でも、北米とヨーロッパは返さざるを得なかったでしょうし」

 おそらくギレンは連邦高官や軍需産業から裏取引を受けていた。

そいつらを見放す形でワイアットに情報を提供。連邦の共倒れを狙ったのだろう。

そして連邦の正当政府を手伝う、あるいは根拠地として返還するという名目で弁済金を大幅に減額させるという交渉もして居る筈だ。

実際に返還するかは別として、その交渉を発表するだけでジオンの経済は上を向く。

自分の懐に一切の痛みを与えることなく、連邦の強硬派も穏健派も手玉に取ったのである。

「それはそれとして、我軍は如何いたしますか?」

「強硬派が何処を攻めるかだな。さしあたってユカタン半島やオデッサへの再駐留させる」

 連中はレビル将軍を拘束し、形の上では多数派として君臨して居る。

そこに正式な手続きは無いとは言え、北京やロシア方面の軍を動かすのは問題無い。

それを前回の戦いでの生き残りを合わせれば、ヨーロッパへ雪崩れ込んで攻略するのは難しくないだろう。

 

 電撃的にそれをやられたら防ぎようが無いし、和平と言うことで下げておいた戦力を再集結させるしかない。

こうなると知って居れば即座に戦力を動かしたのだが……。

ギレンはあえて知らせないことで、ジオンは何も知らなかった、むしろ被害者であると言い張るつもりだろう。

 

「第一優先は生命線である北米の維持。次にベルファスト基地とアフリカの維持だ。場合によってはヨーロッパを明け渡しても構わん」

「よろしいのですか?」

 そんな訳は無い。

だが真面目な話、百機のジムをぶつけられたらどうしようもない。

ハイ=メガ粒子砲を使うにしても、それで守れるのは一か所だけだ。

こちらがインドの空間を利用した様に、複数の部隊でヨーロッパに雪崩れ込まれたら全てを護るのは無理だろう。

「再び戦乱となったが、逆に考えれば地球連邦政府と対等な立場に慣れたと言うことだ。ノリスがくれた可能性、護るために戦い抜こう」

「はい……」

 懸念材料としては、何もせずに独り勝ちしたキシリア派。

そして巧妙に泳ぎ回り、宇宙の盟主と成ったギレンだ。

 

 二人がどう出るか判らない。

まともな考えならば協力出来るが、もし支配の為に人類の過半を粛清せねばならんと言い出したら困るどころではない。

場合によっては……やりたくないが新生ジオンを立ち上げる必要があるのかもしれない。

 

 まるでギレンの野望と化した情勢の中で、私は新たな岐路に立った。

だがアイナと一緒ならば戦い抜ける。そう決意したのである。




 と言う訳で、事後の話になります。
基本的にはギレンの狙い通り進み、汚職官僚や強硬派が証拠が詰み上がる前に決起。
それに対してワイアットさんが正統連邦政府を立ち上げるという感じですね。
ガルマは一応ギレンの下で奔走しつつ、ギレンが虐殺する気だったらどうしよー。と悩んでる感じになります。

●独立条件とインフラ弁済金
 第二次世界大戦後にインフラへの弁済金を支払って独立。
そういう国がかなりあるので、このストーリーでもそうしました。
他所のストーリーであったので書かないでおこうか悩んだのですが、実質的な資金の流れに絡めて使いました。

●弁済金の流れ
 一括でジオンが引き受けて、代わりにコロニー間の盟主に。
各コロニーから自治権の代わりに出資金を受け、それをまずは経済回復に。
良好になったところで連邦に返済する流れで、真の独立は弁済最後。
それまでは一応、連邦に従う……という流れです。
 各コロニーは人員や資金・物資をジオン提供して、資金の出資・同時に自治権・発言権を確保。
ザクなどの技術を提供したり地球からの資材を渡す事で、その出資金を小さくする感じですね。
 基本的にはこんな感じで、相殺する事で実際に動くお金が小さくなっています。
同じ様に連邦にも土地を返したり、シベリアで廃棄物を引き受けることで予算を確保。
実際にはその予算は返済に使われ、双方に資金の流れは起きません。
まあ数十年後に完全独立、経済がV字回復すれば、ユニコーンや閃光のハサウェイの時代くらいには独立できるかもです。
 なお、怖いのでハイメガ技術とかガンダム技術の交流は無し。
お互いに相手の技術を盗みながら地道に技術革新に励んで居ると思われます。

●勢力分布。
『連邦強硬派』仮称:ティターンズ
・ジャブロー
・ルナツー
・北京、インド、インドシナ
 ヨーロッパに進行?

『連邦改革派』仮称:プロメテウス
・オーストラリア
・フォン=ブラウン

『正統ジオン』
・グラナダ
(プロメテウスとの同盟で実質、月面全て)

『ジオン公国』
・宇宙要塞x2(ドズル直下)
・一部を除くコロニー
・北米とハワイ、ベルファストとヨーロッパの一部(ギレン影響下)
・北アフリカとオデッサ(ガルマ直下)

●モビルスーツの開発段階
連邦:
 ジムとガンダムの改良型を開発中
ビーム撹乱膜の普遍化を優先

ジオン:
 ゲルググとビグロの開発中
ビームライフルと代用技術(撹乱膜前提)の開発優先

月面政府:
 永野式ガンダム・フレームの開発中
ビームシールドとショットランサーの開発中
(基本的に少数精鋭な貴族主義というかロマン主義)


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外伝:ジオンに転生したら、悪役令嬢だった件について

 なお、このストーリーはキシリアの中の人視点です。
実験的に作風も変えています。
更に彼女は省みる事も、後から調べる事もしませんので、成功不成功を気にして居ません。
よって、どちらかとえばギャグより、中の人に寄る逆ハーレム願望や、BL視点ポイが混ざるのでご注意ください。
(BLは出て来ません。BL視点だと笑えるなあ……くらいです)
 また、後から思い出したように日記に付けたりするので、時系列も正しいとは限りませんのでご注意ください。
また、言葉使いなどは中の人視点であり、キシリアの元人格が翻訳して居る可能性があるので、ご注意ください。

 かなりネタ臭に溢れていますが、それでも良ければご覧ください。


●転生したらキシリア様

 他愛ない事故で死んでしまった私は、運良く転生する事が出来た。

生前は十人並みの容姿でスタイルは褒められたものではなかったが、いまではキツメの美人でスラリとしたモデル体型。

ユニコーンのミネバをヅカ風に仕立て上げた感じ問えば判り易いだろうか?

最初の内はとても満足して居たのだ。

 

 だけど! 良く考えたら最悪な事態が一つだけあった。

苗字がザビ! 錆でも詐欺でもなくザビなのだ! そりゃミネバに似てるわ!

問題なのはガンダムってウイングのノインXゼクス推しでガッツり入信したが、基本はそれ以降。

宇宙世紀に関してはザビーネ様が素敵と言われて91を見たくらい、ユニコーン見るまでは殆ど見たことが無い。

だからこそ、ザビという名前に気が付か……無いフリで知らないフリをしていたのである。

 

 しかし時は無情。なミゼラブル。

連邦との仲は悪化するし、戦争する気はなくてもストレス掛けて来るし大変なのよ。

おまけに眉毛無しは受けて立つ気マンマンで、密かに軍備を整えたり、駐留軍を味方に付けたりしていた。挙げ句に果てには『使える奴が居ないから、お前も何とかしろ』と言う感じで地位を押しつけて来る。

このままでは掴まって銃殺されてしまうのも確定だろう。

 

(「マズイわ。非常にマズイ。何とかしてこの運命から脱出しないと」)

 詳しくないがジオンが負けて、ザビ家はミネバしか残らないのは知っている。

ということは何処かで掴まって処刑されるか、戦艦ごと吹っ飛ぶに違いない。

後で仲良くなった他の転生者さんに、『君はバズーカで首が千切れるね』なんて言われてしまった。バズーカで首が飛ぶって、どんな死に方なんだろ……見たくも無いし、見ることもできないけどさ。

 

●開発って何さ?

 転生当初は日記を付けていたのだが、書くことないのですっかり忘れてしまった。

最初はスムーズでお嬢様生活なのと、国内には攻略対象になる美少年も美青年も居ないからだ。

今思えばキャスバルくんが一番の美少年だったなあとか思いつつ、次が弟のガルマ、大きく下がって参謀のマ・クベや兄のギレンとかいうのだから笑うしかない。

あ、そう言えば何処かの市長の息子さんが割りと美形だったわね。出逢った日とか特徴をメモに付けとかないと。

 

 ……おっとっと。いけないいけない。

書くこと無いと忘れそうなので、とりあえずレポート気味にまとめてしまうとするわ。

実際には同じ日じゃない筈だけど、うろ覚えなので勘弁してほしい。というか日記は自分で見返す用だから関係ないもんねっ。

 

「キシリア閣下に充てられる予定の戦艦ですが、ひとまず名前をズワメルと……」

「戦艦なんてナンセンスね。地球に行ったり、火星と往復できるような船じゃないと」

「はっ?」

 この日は私宛ての案件で呼ばれて、早速、責任が負わせられるような事を言われた……はず。

戦艦なんてとんでもない!

乗って居たら安全かもしれないが、逆に言えば乗って居るだけで責任が負わせられるということ。

そのくらいだったら、ジオンを脱出して地球に亡命するとか、火星に逃げ出せるような船でないと!

「ですが、この計画は戦力増強の点からも……」

「いや。キシリアの提案は案外悪くないやもしれん。機動力重視で場所を選ばぬ……か」

「長期化した場合……月は勿論のこと、いずれ地上を攻略せねばなりませんしな」

 良く判らないが通ったらしい。

眉無しなんて言って悪かったわ。ちゃんとギレン兄様って呼ばないといけないかしら。

 

「しかし姉貴。戦艦というのは戦闘では重要なんだぞ? 砲も装甲も段違いだ。チベが旧式化しつつある今、何とかせんといかん」

「それならモビルスーツで良いじゃない」

 厳つい顔に育ってしまった弟、ドズル。

こっちの方が年上なのに、私よりも老けてる。

しかし私の方も人の事は言えなくなって来たので、アンチエイジングは欠かせない。

もし良い成果が出たら教えてあげるからね……と思いつつ、その場を誤魔化す事にした。

「流石に耳が早いですな。既にモビルスーツの話に目を付けられるとは」

「え、あー。そうそう。確か第二次大戦でも戦艦は時代遅れ、空母の時代って話だったわよ。宇宙世紀も同じなんじゃない?」

 ナイスミドルなアルベルト伯父さまが感心して居たので、私はとりあえず頷いておくことにした。そういえばまだモビルスーツって、重機みたいな不格好なんだっけ。

聞きかじった第二次大戦の話で流してしまうことにする。

 

「モビルスーツか。確かに連邦と同じことをして居ては勝てん。うむむ……」

「機動力のザク、推進力のズダ。となれば正式採用はザクに軍配が上がりますかな」

 良く判らないが、空母に搭載する様なモビルスーツはザクらしい。

そういえばザクって有名だものね。

私的にはボルジャーノンでも良いのだが。

そうね……ジオンを脱出して引退の暁には、ロランみたいな燕執事と護衛用のモビルスーツが必須かも。

「思うんだけど、ソレって両方入れたら駄目なの? すっごい機体を作って、全部試せば良いじゃない。紙ない、紙?」

「技術と言うのはそう言う訳には参りませんぞ。紙ならばこちらに」

 私は生前に活かしたオタク力を発揮する事にした。

戦闘指揮とかは難しいが、絵を描いたり、コスプレで変身するのは得意中の得意だ。

とりあえずスペースシャトルをババンと描いて、脇にロボットの絵を描いていく。

ガンダムっぽいフレームを最初に描いて、手足に矢印、ここに武装を付けます! ってね。

 

「確かに地上を視野に入れるならばリフティングボディの方が理に叶っておりますな。それに……これはハードポイントですか」

「フレーム? さすがに無理だろう。可能ならば素晴らしい動きになるだろうが、現状を知らぬ者の言葉だ」

 スペースシャトルは何か判らないけど、技術が一周回って好評らしい。

逆にガンダムフレームの方は現場を知らぬ女子供の発想だとか無茶苦茶言われた。

その割にハードなんちゃら? の発想は良いとか褒めるのだから、こいつら首尾一貫して居ないんじゃなかろうか。

「取り合えずなんだけど、どうせ一つしか採用しないし、政治で最初から決まってるならこっちの方が良いと思うのよ。その上でF1みたいに予算タップリ掛けて、どっちも試せる方が良いと思うの」

「まあ予算を分配するかまとめるかの差だからな。しかし発展性を止めはしないか?」

「いえ、ハードポイントで試すというのは悪くありません。しかしフォーミュラーレース用のマシンですか……懐かしい」

「中途半端な物を作るより、試験用で一点物を作るのは悪くは無いか」

 そんなこんなで何とか私の意見が採用されそうな雰囲気だ。

なんといっても夢はでっかくガンダムである。

特性の違う五機作って美少年を載せてジャーニーズガンダムだ。

 

 ……ちなみにこの件はまったく駄目駄目だったわね。

この頃のザクは重機みたいだし、良くなったヤツも日本で言うと鬼みたい。

おまけに乗ってるパイロットは厳ついオッサンばかりで、及第点を出しても良いのはリーダーのガイアくらいな物だ。

このっまじゃロランやヒイロ達は遠いわ……。

(中世の騎士団みたいにして、見習いの従騎士の中から自分で選んだ方が良いのかしら。それを思い通りに育てる……いいわね)

 騎士団ってのは良いアイデアかも。

脳内キシリア会議の総力を持って、逆光源氏計画を採用するわ。いつも文句を言ってる委員長キシリア(本来の?)も珍しくOK出してるしね。

夜の如き悪の……はまずいから燻し銀の黒の騎士団に、赤いテスタロッツアな騎士団、あとは白いガンダム円卓騎士団。

実用本位のガイア達は黒騎士団で、シャアって赤い彗星だっけ。良い感じじゃない。

白騎士団はガンダムないから当面無理だけど、外交で出逢った連邦に転生した人。

あの人にもらえば良いわよね。どうせ向こうでも開発してるんだし、お互いに技術提携すればwin-winってなもんよ。

 

●政治ってなんだ?

 ええと中断前に日記へ書いたのって、連邦の人だっけ。

これでもジオンのお姫様な訳で、外交出されることはあったのよね。

そこで知り合ったというか、当時は中々にイケメンの将校だったから注目してたわけ。

そこで何かの話題でアニメの例えを出して、向こうが気が付いたって感じだったと思う。

 

「段々とギレンの考え方が判って来た気がするわ。あいつって、大きな目的にさえ向かってれば、細かいこと気にしてないのよね」

「そこにつけ込む余地があると? ……私はむしろ逆だなぁ。過程の方が重要と言うか、せっかくガンダム世界に転生したんだし恰好良く戦いたい」

 もう一人の転生者であるグリーン・ワイアット卿。

最初は澄ましていたが、なんどか顔を合わせて居ると地が出てきた。

私は日常生活をエンジョイしたい派だが、彼は苦労するのも好きらしい。奇妙な人だと思わないでも無い。

まあ鼻息荒くメカとか語らないだけ良しとしておこう。

(と、この時は思ってたのよね。まさかシロッコくんが中二病入ってて、それに影響されて陶酔キャラになるとは思わなかったけど)

 初めのころは攻略対象の上位だったが、その辺が判って来ると一気にランク外。

許せ、私は第二の人生を楽しく生きたいのだ。

ハンターxハンターやファイブスター物語がどうなったか知るまでは、死ぬわけにはいかない。

 

 というかうちのマ・クベと足して二で割れば良いキャラなのにと思わなくもない。

なんというか参謀のマ・クベ君はイケメンの才能があるのに、なんとなく隠キャで損して居るのだ。

もっと自信に満ち溢れて頑張って居たら好感度が上がったのだが、いまいち薄暗いので残念だ。

せっかく良い声してるのに、もったいないよね。

 

「そういえばギレンの最終目標って何なの? それで戦争とか変わってくると思うんだけど」

「……地球の人口管理。いや、地球圏に限界が来たのと、宇宙に出た革新的な人類とは自分達だ、凄い。お前ら言うこと聞けってとこかな」

 なにそれ?『せっかく減った人口です』とか、意味が判らない。

人口が増えたから殺そうとか、マジ怖い。

というか他に方法が無いから、じゃあ殺しましょう。ってどんな頭の中味をしてるんだろう。

そんなだからこそ、私達ザビ家も一緒に見られて殺されるんじゃないかしら。

早く何とかしないと……。

「とりあえずジオン凄いってのはコーディネイターでも例に出せば、まだまだだと自覚してはくれるんじゃない? 問題は前半よねえ」

「遺伝子管理された超人に比べたらまだまだだよね。まあうちのキラとフリーダムなら、ガンダムに乗ったアムロに勝てますとか言う気は無いけど」

 ちなみにこの会話は、外の連中と交渉しに行く……。

という形で戦争までの時間稼ぎや、情報収集の一環で会うことにして居る。

秘密の会談だから二人にしろとか、仕方無い時は既に廃れたらしい日本語で会話してるわけ。

とはいえ全員を置いてくることもできないし、だからといって顔で選ぶと、頭はいいマ・クベが少しずつ日本語を覚えてやり難くなっている。

 

 ……でもなんか引いてるわね。

そりゃ、ギレンが人口を半分以下にしようとか狙っているって聞いたら、青ざめるわよね。

 

「ただ、人口問題の大半は、宇宙移民したくないって人が多いことが問題みたいだね。だからその辺を何とかすれば……思い直してくれるかも」

「へっ? なんだ。それで良いの? そんなんだったら簡単よ。宇宙の方が凄いって状態にすればいいんじゃない」

 真面目な話、自覚と程度の問題だと思うのだ。

生前は2LDKに棲むのにも苦労するし、自分の部屋を良くするだけでも大変だった。

広い部屋は妙にスースーするし、エアコンをガンガン点ければ電気代の馬鹿にならない。

それに対して今の生活は段違いだ。流石に点けっぱなしは問題だけど、部屋の広さとかテレビの大きさとか無駄なレベルだものね。

「戦争なんかしなくなればもっと良い場所にできるでしょ? 戦艦の開発費用とか知ってる? アホみたいな金額なんだから。それで何軒もお屋敷が買えるっての」

「いやー。技術開発にはお金かかるもんだよ。それに護るべきものを護るためには……」

 そのくらいは私だって判ってる。

サンクキングダムの恒久平和は理想だけど、それでも自衛戦力を隠していた。

戦力が無ければ攻めて良いも同義語……何て連中が近くに居れば戦力が必要なくらいは判る。

それでも程度というものがある気がするのだ。

だって世界征服なんてしなくても、手が届く距離の幸せを確実に維持できればソレで問題無い気がする。

 

「とりあえず、目の前の目標は食糧問題ね。人口維持の為には増産も必要だけど、美味しくないのは論外だもの」

 生前のコスプレ趣味を活かして、印象を変えてお忍びに出ることはある。

その時に気が付いたのだけれど、ザビ家は比較的に恵まれて美味しい物だけを食べることが出来る。

それでもサイズは微妙だったり、質を誤魔化す為に調理法がワンパターンなのだが……。

庶民の料理はアレなのだ。これを何とかしないと宇宙移民なんかしたいとは思わないだろう。

それに戦争が止められなくて、火星とかアクシズ……だっけ? に夜逃げする羽目に成った場合、寒いとか料理マズイのは勘弁である。

「いつでも火星や木星に物を遅れる方法と、あとは帰って来る方法も何とかしないと」

「そうだね。ソレの態勢が整えば、テラ・フォーミングもし易くなるし……というか、そっち方面では比較的簡単に手が組めそうだ。連邦でも予算が無くてね」

 やっぱり、戦争が一番の問題じゃないだろうか?

遠く離れて海賊倒せるだけの軍備整えて、残りの予算を生活スペースや美味しい物の開発に当てればそれで人は幸せだと思う。

 

 ここで一度案を持ち帰って、次の機会で出しあったのかな?

ジオンと連邦が火星や木星開拓で協力するというのは良い名目になるし、実際に宇宙移民対策になるのでギレンも文句は言わない。

思ったんだけれど、ギレンって広義のツンデレの気があるんじゃないかしら?

良い方法があるなら、意見を採用してあげても良いんだからね……なんちゃって。

 

「思い付く範囲では可能な限り大きなマス・ドライバー、ブースターと慣性制御装置の開発ってところかな」

「かんせい……感性? 完成? そっちは良く判らないけど、マス・ドライバーってあの隕石飛ばすやつでしょ? 良いアイデアがあるの。これで後は半分ね」

 事前に色々聞いて来たので、マス・ドライバーくらいは判る。

というか、軍事応用できるから覚えておけと言われちゃったもんね。

ここで用意して来た紙に向かってペンを握り、得意満々で披露する事にした。

「とにかく大きな発射台と、軽いブレーキ、そんでそれを振り切る速度があれば良いのよね?」

「まあそうなんだけど……地球? いや、これは月か」

 私が思い浮かべたのはリオ・オリンピックで、当時の首相が東京オリンピックのCMでやったやつだ。

土管に入って、穴を伝ってピュー!

最初は「一直線に月の内部を通ったら、移動が早くならない?」と言ったら、アルベルト伯父さまは笑って首を振ったのだ。

巨大なマス・ドライバーになるでしょうが、穴を掘るコストや重力をコントロールするコストに合わないとか。

 

 でも、逆に考えたら特大のマス・ドライバーとしての利点があると言うことだ。

ソレだけじゃなく、月の内部をショートカットしたり、火星や木星に物を届ける役目があればどうだろう?

コストだって十分に釣り合うように成るし、いつでも火星に物資を届けられるならば移民する人も多くなるだろう。

すくなくとも、三日月たちの生活よりは楽になるし、テラなんちゃらが上手く行けば、肉牛とかも育てられるはず!

 

(……でもなんでマ・クベが顔を青くしてるのかしらね。そんなに予算を使うのかしら)

 その為にも戦争なんてやってる暇は無いだろう。

もしドズルがソロモンもらったように、私がどこかの基地をもらう時が合ったら……。

月の基地にして、そこから始めるのも良いかもしれない。

そうすればコッソリ何かやっても怒られないだろうし、生活改善計画が上手く行って、宮殿みたいな都市になったら理想的だ。

目指せディアナ様ってなもんよ。

 

 この件はこれで終わりだったと思うけど、木星関連で重要な人材がいるとか聞いたので付け加えとくね。

さっきのプランの一環で、帰還を早くする為に色々実験することになった。

長距離を早く移動できる船のほか、ブースターなんちゃらとか……。その辺に合わせてこっちの便で有能な人材をコッソリ戻す事にしたのだ。

ギレンに見つからない態勢が整ったところで、ジオンだとシャリアブルだかファーブルだかの伯父さまを、連邦だとシロッコ君を呼び戻す事にした。

 

●戦争ってなんだ?

 そんなこんなで色々準備して、特に殺されない為に外交は頑張った。

コロニーを回って中立を呼び掛けたり、ギレン対策で宇宙移民推進とか色々。

ジオンで開発して居る食料の技術を上げたら喜んでくれたので、私としては自分の先見の目を褒めてあげたい。

今は無理でもいずれはファーストフードに肉料理が出せるように成るだろう。

 

「姉貴! そろそろ自分の部隊について考えちゃくれないか? 地球制圧作戦に向けて……」

「要らないわよ! だいたい、ガルマにソックリあげるつもりだもん。私は情報部とか特殊部隊だけでいいわ」

 考えてもみなかったという感じで、ドズルが目をパチクリしている。

ふふっふ。考えもつかなかったに違いない。

ダブルオーなエージェントや、秘密の潜入工作員……選ばれしエリート部隊。なんて恰好良い響きかしら。

それに比べて部隊の管理なんて面倒臭過ぎる。ただでさえ書類が多くて遊びに……ゲフンゲフン。御忍びで調査に行けないのに。

(そうそう。秘密部隊があるなら、そこに私の偽者を用意させたり、私がそいつの代わりに隠れて移動しても良いわよね)

 影武者計画……我ながらなんて完璧なんだろう!

ディアナ様だって、偶然ソレルが現れるまで独自行動なんて無理だったじゃない。

ずっと女王生活が大変で、その後に引退した時が凄い疲かれていた。まあ冷凍睡眠で御歳だったのもあるけれど。

 

「そうか! ガルマに地球制圧部隊を任せるか。それは良いな! あいつも喜ぶだろう。戦艦も用意してやらんと……」

「ええと、ザンジバルだっけ? 私の提案で作ったやつ。アレをあげちゃいなさいよ。結構便利だもん」

 戦争責任を負うと処刑されかねないので、司令官は勘弁してほしい。

男の子はそういうの好きだって勉強したので、ガルマも満更じゃない筈だ。

それに、ザンジバルが沢山地上に飛んでたら、私のマイ・カーならぬマイ・ザンジバルも目立たないに違いない。

そしたら大手を振ってバカンスに行けるって寸法よ。

あ、そうだハワイは絶対に攻略してもらわないとね!

(亡命する事も難しくなったら困るし、秘密基地も作っておかないと。男子ほど作るのが愉しいとは思わないけど、別荘って事なら話は別よ)

 ということはやっぱり、情報部もらったり秘密組織作って正解だったんじゃない。

私、自分の才能が怖いわ……。まあ大抵の作業は脳内会議で委員長キシリアが担当するんだけど。

まあここまで自分で建てた脱出計画が図に当たるとは思いもしなかったわ。

 

 

 そんなこんなで戦争が始まってしまったのだが、功労者の中に何人か懐かしの顔を見付けた。

特殊部隊創設ということで、個人面談の時間を取ることにする。

もちろん美青年になった彼らとの再会だし、余計な奴らはあっちむいてほい。

武装解除はさせるとかいってたけど、あの子達がこんな目立つ場所で余計なことするわけ無いじゃない。

 

「十年と三カ月ぶりくらいかしら。ジョニー」

「覚えて居てくださったのですか!?」

 目を付けていたイケメン男子、どっかのコロニー市長の息子のジョニー君だ。

結構なエリートの筈なのだが、どうやらコネは使わなかったらしい。

松永さんちのシン君も似たような感じだが、男子のプライドって不思議である。

「貴方ほどの相手ならば、ね。これからに期待しても良いのかしら?」

「非才の身ゆえ、最大限の努力を惜しみません」

 片膝ついて儀礼を取るジョニー君……。

うん、やっぱり逆光源氏計画はやっておくべきだったわね

狙った訳でもないのにこうして忠誠を誓ってくれるんだから、騎士団構想は正解だろう。

彼も赤いカラーらしいので、テスタロッツアな騎士団に入ってもらうのも良いかもしれない。

 

 逆に緊張した顔を見せたのは、もう一人の子だ。

笑顔で語りかけると、物凄く緊張していた。仕方無いので最近思い付いたネタを披露する事にしよう。

彼がその手の話題に受けてくれるかは別にして、今から洗脳しておくのは悪くない。

 

「全ての災いは、ジオン伯父さまが政治家ではなく宗教家だったということね。具体的な手段を見付けられない状態が続いた時、父さまは失望し、兄さまは絶望したわ」

「公王陛下とギレン閣下がですか……?」

 幼馴染のはずなんだけど、なんか他人行儀くさい。

まあ他人のフリしてまで、心配になったジオン公国の為に戻って来たんだからキャスバル君として話せないんだろうけど。

「父さまはジオン伯父さまのことを、何のかんのと言って愛して居たわ。兄さまに至っては崇拝すらして居た」

「だから失望したと?」

 おや、今度は即答だ。

ジオンxデギンのネターに食いついて来るとは思わなかった。

いや、ね。ギレンは何を考えているか、何時から今のように成ったか、それを調べてたら、どうもこの辺みたいなのよね。

 

「頼まれたことを実行するのが愉しい。そのことに気が付いた父さまは急激にやる気を失って、その姿を見た兄さまは怒ったってわけね。……勝手に失望された方はたまったものじゃないでしょうけれど」

「結果的に……政権を奪われた訳ですからね。一説によると、暗殺も」

 結局のところ、デギンはダメンズの気があったということだ。

ジオンの無茶振りに答えて、なんとか案を見付けるのが愉しい。それで自分の方が優れていると確認出来るタイプだ。

だからこそ、ジオンが疲労で倒れ、事故で大変な目にあってダブルショックである。

ギレンはそのカップルを推しが崩れた、実はBLではなくノーマル宣言を受けた腐女史に近い反応を覚えたらしい。

要するにそこで発狂し、見なかったことにしたのだ。自分なりのやり方で二人のやりたかった道を、どこまでも推し進める気になったようだ。

だからこそ、ジオンが目標とした宇宙移民やら、人類の革新とか異常にこだわっているのである。

 

 ……あ、BLだったらこんな視点もアリってことで。

別に私が腐女史のケがあるとか、それを越えた貴腐人ってわけでもないから。

そりゃ、脳内会議で委員長キシリアが文句を言い始めたら、脳内フォルダのBL見せたら黙るけどね。

 

「しかし人間は権力を欲する生き物です。貴女も独裁者になってみたいのではありませんか?」

「はっ? 馬鹿なこと言わないでよ。そんなのが欲しいなら誰にでもあげるわ。兄さまでもガルマでも、もちろん貴方でも別に構わないわ」

 むしろ処刑される立場はノーサンキューである。

せっかく作ったコネを活かして、どこかのコロニーなり、今から攻略する地球に秘密基地を作って引退したい。

その生活は豊かな方が良いし、できればイケメンに囲まれた逆ハーレムであれば、言うことは無いけれど。

まあ、そこまでの贅沢は言うまい。

再会したジョーニー君や、そのうち帰って来るシロッコ君がいれば十分だ。

なんだったら、今から作る秘密組織のリーダーもキャスバル君にあげてしまっても良いくらいである。

 

「私がですか?」

「そうそう。なんだったら正統ジオンとか名乗って首相でもやってみる? 必要ならプロモーターくらいはやってあげるわよ」

 脱出手段に逃げ込む先は確保できそうだ。

あとはギレンが大虐殺なんかしないように誘導しつつ、今まで作って来た組織やら何やらを渡す相手が居た方が都合が良いかもしれない。

ここで会えたのも運命の御導きということで、スカウトするつもりのドズルには悪いが、ニューエイジのリーダー候補に挙げておこう。

(「あっ。ギレンが馬鹿なことしないようしても、連邦が悪だくみしてたら同じよね。どうせ開発するなら平和になる機械とか作ればいいのに」)

 なんかあったような気がするなーと、ガンダム知識を掘り起こす。

しかし、あんまりピンと来ないので、ウイングより前の知識なのだろう。

というか成功して居たらウイングの完全平和主義とかに取り入れれそうなので、失敗したのかもしれない。

どうせ月でいろいろ研究するならば、物凄い大きさの装置でも作れば良いんじゃなかろうか。

大きなマス・ドライバーと一緒に研究しながら、サイコミュとか合わせて頑張っても良いかもね。

 

 こうして私は月の女王様になる第一歩を踏み出したのである。

目指せディアナ様、目指せ夢の隠居生活だ!

 




 と言う訳でキシリア視点でのストーリーです。
作風をガラリと変えたと言うか、思い付いたネタをやって見たかったのでやりました。
基本的には、キシリア様何考えてやってんの? というのを解説するレベルです。

 なお、中の人視点で破ありますが……。
ガルマと違って完全憑依ではありません。
実際には元のキシリアが何割りか含まれて居ますし、本体に影響されて悪い事もやっているかも。
セリフも実際には、悪役令嬢に相応しい口調でしゃべって居て、ここまでノーテンキではないはず。
あくまでノーテンキなのは、日記の上という設定になります。
なので、ガルマとか身内に迷惑掛ることやってるでしょうし、本体の悪だくみもあったりするかもしれません。

 今後に関して。
今回はネタでしたが、どの技術を早めたか、むしろ無視したかなどの技術まとめただけの物を一本かくかもレベル?
あとは第三部出来そうな終わり方なので、その辺を投げ出した感じにしないため
何年か後の視点で一本書くかもしれません。その時はガルマ視点でしょう。

 取り合えず反省はしていますが、一切の整合性を無視して書いたのは面白かったです。
つい1万字くらい。放っておけば細かいところとか、白騎子……シロッコとかも出て来たでしょう。
永くなるので止めましたが。


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外伝:新しき宇宙移民の時代

●新時代の幕開け

 停戦から一年ちょっと、開戦から長く見積もっても二年というところだろうか?

不満と妥協を繰り返しながらも、ようやく和平交渉が完了した。

限定勝利とはいえジオンであり、連邦がクーデター側と正統政府側に割れているというのが決定的だったといえる。

ジオンと連邦正統政府どちらの陣営も、強硬派であるクーデター側を勝たせたくないと言う意味では一致していた

 

 その間に起きたことは色々あるが、影響を与えたのはプライベートで一つ、技術開発で一つ。

 

「ガルマ様。そろそろお時間です」

「もうそんな時間か。行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ。……お父様にご挨拶を」

 プライベートに関しては、時間の経過で当然のことながら子供が生まれた。

ついでのように二人目をIN。アイナは美人でスタイルも良いからな仕方無い。

先に入っておくが、爆発しろという言葉は聞けない。

「帰って来る頃にはデイルもお兄ちゃんだな」

「まあ気の早い。名前を付けるのにも一苦労だったではございませんか」

 確かに名前を付けるのは苦労した。

ザビ家の男子はデギン、ギレン、サスロ、ドズル、ガルマ、グレミー。女子はキシリアとミネバ。

なんかキシリアだけ四文字というのが浮いているが、三文字にしようというのだけは頭に在った。

悩んでる最中に目元の黒子がディルムットみたいだなとか言ったのがマズかった。気が着いたらデイルという名前になって居た。

 

 なお込まって居たのは跡を継ぐとか問題の出そうな男の子だけで、女の子の場合は既に決めていた。

アイナっぽく……そして戦死したノリスにあやかって「n」を取り、ノンナかナンナという感じで提案したのだ。

そしたら泣かれたので別の意味で困ったが、それも良い思い出である。

 

「それで、新型の軽巡は直接降下してきたのか?」

「はい。下賜される三隻とも問題ありません。ザンジバルの生産が打ち切られる筈ですな」

 技術開発で大幅な影響を与えたのは、軽巡洋艦の性能向上だ。

たかが戦闘艦の技術革新一つと言うが、説明一つで意味が変わってくる技術革新が起きたのである。

ベルファスト攻略時に分解して解析に回した、ペガサス級の技術がここにきてようやく実を結んだのだ。

 

 ムサイは元々抱えていた構造上の欠陥で、後期型や最終生産型の設計が始まる予定だったのも大きい。

砲門の改良や構造の修正のみならず、コムサイを基本装備から撤廃。

シンプルな本体だけの乙巡と、降下用または重戦闘用の増設ユニットを加えることを前提にした甲巡の、新型ムサイに切り替わった。

 

「それが平和条約に盛り込む妥協案に繋がったのだから、見方と言うモノは不思議な物だ」

「ハイ=メガ粒子砲の影響もありますが、大型艦の生産は当面停止しますからね」

 そこでジオンは条約の中に戦艦・重巡、そして地球侵攻作戦で活躍した機動巡洋艦の生産停止を盛り込んだ。

まるで連邦が勝利し、独立前の基準に逆行した様な条件だろう。

あちらの官僚たちが同僚を説得し易くなったと喜んだが、当然ながら負けたからではない。

 逆に、こちらが要求して居る独立に関する文章だとか、ベルファストを除く欧州や北米を引き渡す代わりに弁済金を大幅に減らす事に成功して居る。

こちらの官僚たち、特にコロニーサイドが納得する要件は全て抑えさせてもらった。

トランプの大富豪やモノポリーなど一部のボードゲームだと、相手とこちらの欲しい手札が違うので、一見高いカードを渡しても、こちらが欲しいカードをもらえば交渉が成立する様な物だ。

 

「増設ユニット……フライングアーマーで安定した飛行が可能ならば、当面の主力で決定だな。戦闘用のユニットもあるのだろう?」

「はい。何も追加しないパトロールタイプは既に大量生産が決定。各コロニーからの発注が止まらないそうです」

 技術ツリーで言えば、降下・飛行ユニットを付けたのがZZのエンドラに近く。

逆に重戦闘用ユニットを付けたのが、逆シャアのムサカに近いと言う感じだろうか?

まったく増設しないシンプルな本体だけだと安価なので、各コロニーなどのパトロール用に使うことが出来る。

とはいえ製造段階でエンジンを決める必要があるので、都合良くユニット一つで変更とはいかないのだが。

「しかし降下ユニット・打ち上げユニットがないと大気圏移動が出来ないのは、不便だと思うのですが……」

「それは考え様の問題だよ。逆に考えて見るんだ。……下賜したとしても、全て我々でコントロールできる」

「なるほど。航路設定こみで伝えておけば、事故や勝手な出動も起きなくなりますね」

 もちろん双方共にZZや逆シャアのソレには遠く及ばない。あくまで私の知識として近いと言う程度だ。

だが、それでも便利なのは間違いが無い。

特に降下作戦に関して、条件付きとはいえ、十隻でも二十隻でも降ろせるようになったのは大きい。

 

 そして、ここで重要なのが地球方面に送られた新型艦が配備ではなく、下賜されると言う点だ。

 

「しかし兄上の知略には驚かされるな。新型艦を地上軍にではなく、彼らに下賜するとは」

「最初は見向きもしなかったコロニー権益の管理どころか、実際の移住も視野に入れているようです」

 新型は解放戦線の中で、総合貢献度の高い連中に渡されることになった。

元から権益として幾つかのバンチの管理権を与えると言う話があったが、自由意思での大気圏脱出・降下が出来る用になれば話が変わってくる。

宇宙に移住して楽な生活を送り、時々、祖先の地として故郷に降りてくれば良いのだ。

当初は机上の空論であったが、こうして劣化ザンジバルと言える軽巡が生産されると大幅に前提が変わる。

「ということは難民たちの目も変わるな」

「はい。自在に戻れることで、宇宙への移住に弾みがつくでしょう。先に手を上げれば好きなコロニーに住め、緊急避難の場合はその権利が無いと言うのでは尚更です」

 ギレンは宇宙移民問題を、完全に権益化することで解決してしまった。

自分から移住を宣言すれば、様々な権利が付いてくる。

流石に高級住宅地とはいわないが、好きなコロニーの好きなバンチの空きを待てるし、仕事も優先的に回してもらえる。

逆に戦闘に巻き込まれて避難する場合は、あくまで難民として扱われるのだ。

もちろんそこでも自由意思で宇宙移民になるといえば、それなりの便宜を図ってもらえる。

最後まで地上に残る場合、ジオンは必要以上の協力をしない。そのまま連邦政府に投げて終わりだ。

 

 移民同士の問題?

そんなのはガンダム・ファイトで勝った方が、一時的な決定権でも握れば良いのではないだろうか。

以前に連邦の介入者であるグリーン・ワイアットがそんな事を口にして居たが、ギレンは本気で検討しているというから笑えない。

しかしどちらにも良い顔をして決まらないよりは、戦闘で勝った方が決めるのはそれはそれでアリなのだろうか?

とりあえず将来に丸投げして、今は宇宙移民を推進。地球の限界が来る前に対処するとのことである。

 

「おお! ガルマ様! お待ちしておりましたぞ!」

「ガルマ様!」

「みなも息災な様で何より。着席してくれ、コーヒーでも飲みながら話そう」

 解放戦線の連中が一斉に立ちあがって挨拶を送って来た。

部下の問題児は相変わらず問題児なのに、この連中からの神聖化が激しい。

戦術的に勝っても戦略で負けて撤退して居るのに……。

(「問題児と違って話を聞いてくれるのはありがたいけど、この連中はこの連中で過信や戦闘中毒があるからな」)

 場所を捨ててでも勝ちに行っている訳で、ゲリラ基本の彼らの基準では仕方無いのかもしれない。

加えて事前準備を聞いて無い彼らからすれば、インドでは雨が味方し、オデッサへ攻め行ったら大地が崩れるとか……。

見た目だけだと私に天が味方してるように見えるしな。

 

 しかし、一部の目が異様に輝いて居るのが判る。

もらえると判ってる部族のメンツはともかく、ボーダーラインの連中は焦りもするだろう。

だがここで将来の供給を安易に保障するのも、煽って功績を競わせるのも良くない。

ティターンズの連中のみならず、和平相手にまで馬鹿な突撃をしかねないからだ。

 

「既に聞いている者も居ると思うが、陛下より新型艦を下賜される事と成った」

「おおっ……」

「地上を自在に移動する事も、宇宙に上がる事も出来るのですな」

 まずは権利としての面をあげ、これまでの功績を説明して行く。

最初の一番艦を誰がもらうのか、何故、その部族がもらえたのかを説明しておく。

命だけで民族独立の為に活動したのは皆同じだとした上で、流した血の量ではなく、求める情報や工作の方が重要だったと説いておく。

(まあ、実際に突撃バカで困る連中も居たからな。引きずられて大変だった時もあったし)

 命を捨てて守らねばならないモノがあると認めた上で、やたらに戦おうとして足手まといになった例を上げておく。

そして一通り説明して、何処の部族がもらえるのか基準が判った段階で、以前の様に駆動させる為のキーを渡した。

 

「本国に掛けあっておくが、私の権限を持ってしても全ての部族への早期配備は難しい。そのことは理解してもらいたい」

「まあ新型艦ですからな。格別の恩賞と言うことで」

「ガルマ様の指揮下にも無い様ですし……仕方ありますまい」

 予め頼んでおいたサクラ役の連中が頷く。

ここで我も我もと手を上げられは無しが中断しても困るので、手持ちとして配備される予定の艦で交渉しておいた。

重要なのは此処からなのだ。

「次の二つを順守する限り、諸君らの名誉の証だ。一度引き渡せば滅多なことでは取り上げられることは無い」

「それは……いかなる条件なのでしょうか?」

「我らならば直ぐにでも乗りこなして見せますぞ。腕前であれば直ぐに」

 サクラを用意して居ても湧き上がる問題に苦笑するしかない。

まあ一時の興奮状態だと思えば問題児に比べれば可愛いものだ。

 

「宇宙は自由に見えて危険も多い。連邦内の同盟勢力、敵対勢力がある以上、迂闊に戦うと問題が起きるのだ。勝つのは難しくないだろうがな」

「それは確かに……。味方を撃って褒められる事ではありませんからな」

 危険だと言えば自分ならば問題ないと言うだろうが、勝っても意味が無いと伝えておけば話が変わってくる。

無謀に精鋭に挑んで負けるのは構うまい、問題が起きるのは味方との争いなのだ。

「ゆえに航路を守る事、申請などの手順を守ることだ。その二つを守らない場合は、海賊として私であっても周囲から袋叩きになる可能性もある」

「ははは。ガルマ様のガウを知らぬ者などありますまい」

「ガルマ様ならば囲まれても片付けなさろう。冗談がうまいですなあ」

 何、その無用な信仰。

そのノリで無謀な戦いを挑まされるのは困るんですけれど。

 

 ……冗談はさておいて、重要視せねばならないのは海賊行為だ。

略奪などしなくても、自由に航行するのは危険行為になる。

それこそ味方識別信号を出さずに航行して居れば、警告の必要はあるが、誰でも撃って良いと言いのは確かなのだ。

また、好き勝手に商売しにコロニーに行ったり、勝てるからと本当に海賊に成られても困るからな。

 

 色々と問題が起きそうだったが、宇宙移民そのものは推進されるだろう。

地球連邦も二つに別れたが、スペースノイドよりの月面政府に少しずつ、勝ち過ぎない程度に協力することになっている。

時間は掛るがゆっくりと平和になって行くのではないだろうか?

 




 と言う訳で、このシリーズも無事に終わりました。
最後に新世紀ガンダムっぽく、テロな大事件でも起こして、ガルマが解決とか考えましたが、長くなり過ぎそうなので止めておきました。

●子供達
 男の子がデイル・ザビ、女の子がノンナ・ザビ。
FE聖戦の系譜に登場する、カリスマ兄妹のデルム・ナンナから取って居ます。
理由としては古代英雄のディルムットとか、ノリスから一字とってとか適当に言っていますが。

●土地の引き渡しと弁済金問題
 連邦側は早く引き渡して欲しい、だが弁済金を差し引くとした以上は、直ぐに独立されても困る。
そこで問題が起きそうな地域を中心に、引き渡しは後日。
ベルファスト・ハワイ・アフリカをジオンが確保したまま、残りを引き渡すとしています。
(資材・工場の一部を利用することを許可、その分だけ弁済金が残るので独立は過ぎに起きない)
その状態で欧州はティターンズが攻め入っているので、ジオンも責任もって協力しろ、いや余計なことはするなという状態。
とりあえずは主導した月面政府の交渉成功と唄いつつ、ジオンは実利を一通り持って行く形になります。

●接収工場の技術問題
 次に勝手に改造した工場にある技術問題。
ドムの工場はベルファストにしかないので、ザク他の技術を月面政府に付いた企業に提供。
代わりに接収した技術の料金の相殺、ならびに進んだ小形ビーム・炉心の技術を追加購入。
この代金をジオン側のカスタム技術などで差し引きとかして、月面政府のジムに、様々なバリエーションが可能な様にして居ます。
まあゲルググのビームライフルと専用機・現地改修のノウハウとか交換しただけですが。

●ムサイⅡ
 ベルファストで接収したペガサス級を使うか悩んだものの、分解して解析して居ました。
そこで得た技術で炉心を改良。
ペガサスに近い高性能炉心と、大型なのに低出力だけど凄く安価な炉心を開発。
パトロール用の低コスト型は後者の炉心を使用し、降下用・重戦闘用のは前者をしています。

1:船殻・竜骨・砲門、その他の共通パーツを量産
2:高性能炉心、低出力炉心をほぼ同じサイズで製作
3:需要と供給+@で炉心を製作しておき、ガワに放り込んでいく
4A:高性能炉は甲巡とし、各種増設ユニットで用途に合わせた強化
4B:低出力の炉心は乙巡とし、増設不可能だけど安価
(乙巡を甲巡に変える為には、サイド3・月面などの大型設備でなければ不可能)

 と言う感じです。
ハイ=メガ粒子砲・ビームライフルの登場で、大型艦でも落ちる時は一瞬と判ってしまったので
グワジン・チベの生産は打ち切り、甲巡を偵察・砲撃・体ビームミサイル艦として使い分け
小戦隊を流動的に使った方が安全では?
大型艦は技術と戦略が安定してから、改めて設計し直す。と言う感じになって居ます。

●モビルスーツ
 ゲルググが停戦後に完成し、ザクに代わる新しい主戦力に。
とはいえ原作とは違った進化で、高機動のB型スタイル・重装甲のマリーネ・スタイルが多い感じです。
(余計な設計・製造はせずに、頭・バックパック、各種ハードポイントで再現というのは変わらず。
実弾キャノンザックやビームバズーカとかのオプションが充実したくらい)
その後はゲルググのハードポイントを使って、アクトザク・ケンプファー・ガルバルディとかの技術を検証。
本体構造を弄れてないのでアクトザクが上手くいかないのものの、ガルバルディをベースとした機体の設計が決まって居ます。

●没になったテロ『パイドバイパー事件』
 人知れず町や基地を襲撃し、速やかに片付く場合は拘束して人買いに売り飛ばし、そうでない場合は虐殺。
あらゆる勢力を敵に回したテロ事件で、ティターンズだとバスクを拷問したり、ジオンだとシーマ様が負傷したりガルマの子供が拉致されたり。
モビルスーツはルナチタニウム製のザクで、パイロットは現地調達した傭兵や恨みつらみの多い連中、主義者等が主力。

 その後にギレンとジャミトフが裏でこっそり手を組んだ、地球から人間を駆逐する計画だと予想。
現段階は恐怖をまきちらす段階だが、次の段階は、大規模な問題を引き起こし、地球脱出を目論ませるものだと推測。
ガルマが対処できる範囲だと、シベリアの核貯蔵庫が怪しい。
とはいえ宇宙も隕石落としの可能性があるので、ワイアットさんとかはそっちの対処で出られない。
 僅かな増援はテネス・A・ユングとヤザンのチーム大塚で胃が痛い。
せめてブラン・ブルタークとか居ないの? という状況で戦うことになります。
「この星の明日の為に、この星の未来の為に!
 一人は皆のために、皆で勝利のために!」
とか言いながら戦い、途中から逆シャアで出て来た名もなき歌を唄いながら戦闘。

 というかんじで考えていました。
明らかに長いので割愛しましたが。

 ともあれ長々と乱文をお読みいただき、ありがとうございました。


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